生徒会長「男くん、あなたも『能力者』だったのね」 (176)

男「あの、急にこんなところに僕を呼び出して何のつもりですか?」

生徒会長「失礼承知で逆にあなたへ質問したいのだけれど、さっきからなぜ私へ期待の眼差しを向けているの」

男「そりゃあ女の人から校舎裏に呼び出されたら嫌でも期待してしまうというか…え、えへへ」

男「にしてもまさか生徒会長とこうして話をする機会ができたなんて驚きです。ずっと自分とは違う世界にいる人だと思ってたから!」

生徒会長「どうして?」

男「いや、そこを説明しろと言われると恥ずかしいですけど…そ、それより早く本題へ移りましょう!?」

生徒会長「そうね。横道逸れて時間を無駄にしてしまうところだったわ」

生徒会長「男くん、私たちの間に話なんて不要よね」

男「いきなり積極的ですね生徒会長!でもやっぱり段階を踏んで行った方が…!」

生徒会長「『力』を持つ者同士が出会ったとき、やる事はたった一つ」

生徒会長「どちらかの息の根が止まるまで殺し合う。そうでしょう」

男「え?」


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男「ちょっと待って下さいよ。用って生徒会長の冗談に付き合えってことですか?」

男「面白いとは思いますけど、ほぼ初対面の相手に『殺し合い』だなんて物騒すぎますよ!」

生徒会長「私は初対面の人へ冗談を言ってあげる趣味は持ち合わせてないわ。本気よ」

生徒会長「惚けているふりなのだろうけれど、私には通用しないわ男くん。あなたも『能力者』なら覚悟して」ハラパン

男「ぐうっ……!?」

生徒会長「戦う気がないの?だったら一方的に嬲るわよ」

男「こ、告白されると思って喜んでいたら『能力』とか言われて腹パンされたぁ…っ」

男「悪いけど僕は女の人に酷いことなんてできません!やめてください!」

生徒会長「嫌よ。さぁ、あなたも能力を使ったら?」

男「もって、物理じゃないですか今の…」

男(どうにか生徒会長を止めようと説得し続けたが、彼女は僕を一方的に痛めつける)

生徒会長「どうしたの。能力で対抗しなければこのまま私に殺されてしまうわ」

男「せ、生徒会長がその『能力』とやらを見せてくれれば僕も出すかもしれませんよ…!」

男「あるんだろう!?ほら、見せて下さいよ、能力!!」

生徒会長「……」

男「どうしたんです?早く火でも氷でも出して僕を殺せばいいじゃないですか。それとも出せないんですか?『能力』?」

生徒会長「……わざわざ使う必要がない場面で自分の手の内を見せるほど私は愚かではないわ」

男「嘘吐き!本当はそんなもん使えないんでしょう!ほら、そろそろ止めましょうよ。くだらない!」

生徒会長「あなたが私へ『能力』を使ってきたとき、私も対抗するため使うから」

男「僕は最初からそんなことできませんから。それじゃあ僕はこれで―――」

生徒会長「どこまで惚けるつもりかしら、男くん」

男「あーもう!じゃあ証拠見せてくださいよ、『能力』!それで付き合ってあげますよ!」

生徒会長「……わかったわ。じゃあ、はいこれ」

男「こより…ですか?」

生徒会長「それで私の鼻を蹂躙して。あなたの好きなように」

男「ひょっとしてまだふざけ通そうとしてる?」

生徒会長「証拠を見せてあげようというのよ。それできっとわかって貰えると信じているわ」

男「……じゃ、じゃあやりますよ。鼻の中へ突っ込んでくすぐればいいんですか?」

生徒会長「そうよ。早くして」グイ

男(あの才色兼備の化身と言われ崇められた美少女生徒会長の鼻をいいものだろうか。ちょっと興奮…するかも)

男「では、しつれいします…」ズボ

生徒会長「ん゛…ふが、遠慮しないでうごかひて」フガフガ

男「か、かわいい…お望み通り滅茶苦茶に動かしますよ生徒会長」ズボズボ

生徒会長「ん゛っん゛、ん゛ー」ピク

男「我慢してないでそろそろ楽になったらどうですか?ほらほら」

生徒会長「ん゛ぅ……ふわ…はうっ…!は、は、はぁ~~~……ッ!」カッ

生徒会長「どう?しっかり見ていたかしら。今のが私の『能力』よ…ちょっと、もうやめて、あ」

生徒会長「ッ! …無駄よ、男くん。私に何をしようとくしゃみを出すことはないわ」

男「あんた何言ってるんですか?」

生徒会長「敵へ自分の『能力』を見せるなんて大サービス、初めてよ。正直屈辱だわ」

男「それにしては全然冷静な感じなんですけど。流石にそれを『能力』と呼ぶのはどうかと思います」

生徒会長「そんな事言われてもしょうがないじゃない。与えられたものが偶然これだったのだから」

生徒会長「『能力』の見せ合いなんて趣味ではないけれど、これではフェアじゃないわ。男くんのも教えて」

男「ですから、僕はそんな大層なもの持ってませんよ」

生徒会長「男くん…ずるいわ…」

男「うっ……そ、そうだなぁ、僕は舌を伸ばして鼻に届くって『能力』なんですよ!地味に凄いでしょう!」

生徒会長「何そのふざけた『能力』は。私をばかにしているの、男くん」

男「目くそ鼻くそを笑うって言葉知ってますか、くしゃみの生徒会長」

男「ないもんはないんです!あなたがこんなシュールな人だと思ってませんでしたよ、案外面白いんですね。それじゃあさようなら」

生徒会長「待って。あなたは慎重なのね、少し見誤っていたわ」

生徒会長「どうかしら。私と手を組み、この『能力者バトルロイヤル』を勝ち抜くというのは」

男「どこでそんな面白そうなことやってんですか?」

生徒会長「この町全体よ。あなたも参加者の一人でしょ、この能力者探知機が反応してるわ」

男「そんなおもちゃまで用意しちゃって……してませんよ。そんな胡散臭いのに構ってるほど僕暇じゃないんで」

生徒会長「しぶといわね、男くん…」ジッ

男「そ、そんな見つめられても…!」

生徒会長「正直言うとこの大会、先に仲間を多く作った方が有利だと思っていたの。戦いは数が物を言うわ」

生徒会長「あなたの実力は未知数。ここまで惚け続けるということは、あなたは恐らく闇討ちに特化した『能力』を保持していると予想できる」

男「ないんだってば…」

生徒会長「そして私のこの『能力』、実は私が指定した相手にも同様の効果を発揮させられるの。試す?」クイ

男「こより向けて真面目な顔しないでください、生徒会長」

生徒会長「この私の『能力』を使えば、あなたをカバーできる。後ろから突然襲いかかる時にくしゃみなんて出したら、奇襲にならないでしょ」

男「僕の『能力』が不意打ち前提で考えられても困るんですけど」

男「生徒会長、あなたと会話できて僕は嬉しかったですよ。浮かれてました。でも、そろそろ面倒になってきたので…」

生徒会長「釣れないのね、男くん。どうしても私と敵対し合っていたいの」

男「敵も何も戦うつもりなんて始めからありませんから!僕の話難しくて理解できませんか!」

生徒会長「わかったわ。私にも考えがある。勝利というメリット以外に何かプラスが欲しいというのなら」

生徒会長「男くん、私は今日からあなたの従僕になるわ」

男「……ん?」

生徒会長「わかって貰えないかしら。言葉通りよ、あなたが望む事何一つ嫌な顔せずにやるの」

男「生徒会長が?どんなことも?」

生徒会長「ええ、どんなことでもよ。私は嘘は言わないわ。あなたに尽くしてみせる、かならず」

男「ひょっとしてあなたバカか!?」

生徒会長「成績も優秀だし、武道にも自信があるわ。ついでにピアノも上手に弾ける」

生徒会長「そして『くしゃみを好きな時に何が起ころうと耐える』」ド ン

男「すごい、最後が全て持って行きましたね…」

男(彼女はまだふざけるつもりだろうか。僕には理解できない人間だったらしい)

男(でも、この誘いを断る理由があるか?あるわけがない。相手は憧れの生徒会長だ)

男「いいですよ。僕と手を組みましょう、生徒会長!僕たち二人ならどんな『能力者』が来ようと恐れることはないです!」

男「そして……生徒会長、あなたを今日から僕に忠実な従僕とします」

生徒会長「ええ。ああ、敬語で話しかけた方がいいかしら。呼び方はこれからどうしたらいい?」

男「あ、いや、今まで通りが嬉しいです…えへへ」

生徒会長「笑顔が素敵ね、男くん。あとは、ええっと…」

男「無理矢理誉めようとしなくていいですからね?」

男(その日から、僕と生徒会長の奇妙な日々は始まった。家に帰っても邪な考えや妄想がこれでもかと浮かんでどうしようもなかった)

妹「お兄ちゃん。お兄ちゃんってば。おーい、朝だぞー?」ユサユサ

男「ま、待てよぉ…昨日遅くに寝たからまだ眠くて仕方ないんだ…」

妹「ふーん。じゃあ可愛い彼女が迎えに来てくれてるって言ったらどうする?」

男「彼女?彼女なんてこんな僕にいるわけ……待って、その人本当にいるの?」

妹「うん、家に上がって待って貰ってる。綺麗な人だよね。お兄ちゃんには勿体ない美人だよー!」

妹「ああっ!って、お兄ちゃん行くなら制服着てから!」

男「わかってる!! ――――――……とりあえず訊きたいんだけどさ、どうしたんですか生徒会長」

生徒会長「私はあなたの従僕よ。これからは朝一緒に登校しましょう、男くん。ああ、お母様、お茶は結構ですので」

母「あらそぉーお? ちょっと、どうしたのあんた。あの可愛い女の子! じゅーぼくとか言ってるけど」

男「生徒会長、みんなには僕たちの関係は内緒にしましょう。ね?」

生徒会長「男くんがそれを望むなら」コクリ

生徒会長「男くん、敵はどのタイミングで私たちを狙ってくるのかわからないわ。注意しましょう」

男「もしかして他の『能力者』も生徒会長が持ってた探知機みたいなの持ってるんですか?」

生徒会長「ええ、参加者全員に配られているわ。だから正直闇討ち系の『能力者』にはつらい戦いになるでしょうね」

生徒会長「あなたも『能力者探知機』を持っている筈でしょう。肌身離さず、どんな時でも持ち歩いた方がいいわ」

男(どうしよう。昨日限りの作り話だと思ってたのにまだ続いてる。もしかして生徒会長って子どもっぽいところあるのかな?)

男「ち、ちなみにその大会で優勝した人はどうなるの!?何か賞品とか貰えたり!?」

生徒会長「何でも願いが叶えられるのよ。たった一つだけど」

生徒会長「一生困らないお金も手に入るし、名声だってわけなく得られる。死者を蘇らせるなんてことだって」

男「へ、へー……よくある設定ですね。生徒会長なら何を望むんですか?」

生徒会長「それは教えろという命令かしら」

男「いや、無理にとは言わないですけど…」

生徒会長「それにしても男くん。あなたはこの大会についてよく知らされていないの?参加者なのに」

男「まぁ、わけありで…ね」

生徒会長「へー、そういうのカッコいいかもしれないわ。さすが男くん。カッコいい」

男「だから無理矢理誉めようとするのやめません…?」

生徒会長「男くん、敵はどのタイミングで私たちを狙ってくるのかわからないわ。注意しましょう」

男「もしかして他の『能力者』も生徒会長が持ってた探知機みたいなの持ってるんですか?」

生徒会長「ええ、参加者全員に配られているわ。だから正直闇討ち系の『能力者』にはつらい戦いになるでしょうね」

生徒会長「あなたも『能力者探知機』を持っている筈でしょう。肌身離さず、どんな時でも持ち歩いた方がいいわ」

男(どうしよう。昨日限りの作り話だと思ってたのにまだ続いてる。もしかして生徒会長って子どもっぽいところあるのかな?)

男「ち、ちなみにその大会で優勝した人はどうなるの!?何か賞品とか貰えたり!?」

生徒会長「何でも願いが叶えられるのよ。たった一つだけど」

生徒会長「一生困らないお金も手に入るし、名声だってわけなく得られる。死者を蘇らせるなんてことだって」

男「へ、へー……よくある設定ですね。生徒会長なら何を望むんですか?」

生徒会長「それは教えろという命令かしら」

男「いや、無理にとは言わないですけど…」

生徒会長「それにしても男くん。あなたはこの大会についてよく知らされていないの?参加者なのに」

男「まぁ、わけありで…ね」

生徒会長「へー、そういうのカッコいいかもしれないわ。さすが男くん。カッコいい」

男「だから無理矢理誉めようとするのやめません…?」

男「あー、えっと『能力者』の数ってもうわかってるんですか?」

生徒会長「わからないわ。でも『能力者』はこの町にいる人々のみ。年齢も職業も全員がバラバラ」

生徒会長「私たちの学校にも潜んでいるかもしれない。男くんと私がそうであったように」

男「ふーん……」

男(そろそろお約束みたいな設定話を聴くのにも飽きてきた。どうだろう、ここで一つ従僕としての彼女にお願いをしてみるのは)

男「生徒会長は僕の言う事を何でも聞いてくれるんですよね?」

生徒会長「ええ、あるのなら遠慮なく言ってみて」

男「ごくり……じゃ、じゃあ」

男「学校に着いたら、校内放送を使って能力者は出て来いって声かけてみてください」

生徒会長「……それは正気?」

男「はい。『能力者探知機』なんて物があるんだし、どっちみち見つかるのは時間の問題でしょう」

男「だったら先にこちらからアピールしておくんですよ。バカならすぐに焙り出せるし、冷静な人なら何か考えがあるんじゃないかと遠くから様子を窺ってきます」

生徒会長「その通りだと思うわ。でも、わざわざ自分から名乗り出る必要があるかしら」

生徒会長「注意が向けられれば、こちらから敵を探す手間も省けるかもしれない。でもこれから先落ち着ける時間も減ると思うわ」

男「やるだけやってみましょうよ。それとも僕のお願いは聞けないと?」

生徒会長「……わかったわ。あなたがそれを望むなら」

男(これでもし本当に彼女がやり遂げれば、従僕ごっこが真面目かどうか判断できる)

男(普通の人なら『能力者』なんて言葉があの生徒会長から出てくればお笑いだ。一気に今までの彼女の像が崩れる)

男(度胸無しの僕にいやらしいお願いなんて無理だ。だったら、早くこの冗談みたいなごっこ遊びを終わらせてしまおう)

生徒会長「男くん、放送室の使用許可が下りたから入って平気よ」

男「あの……僕も立ち会うんですか」

生徒会長「男くんは考えがあって提案したのでしょう。私にはそれが何か予想できない」

生徒会長「だから傍にいて貰えれば助かるの。従僕とは言ったけれど、自分を危険に晒すリスクがあれば相応の準備は欲しいわ」

男「僕ならその危険をどうにかしてくれると…?」

生徒会長「ええ。勘違いしないで、疑っているわけではないの。むしろあなたの活躍に期待してるから」

男「は、はぁ……病気もここまで来ると感心させられちゃうな」

生徒会長「何か言った?そろそろ放送始めるわよ」

男「えっ!?ほ、本当に!?無理しなくて全然大丈夫なんですよ!?」

生徒会長「……あなたがやれというのなら私はやるわ。かならず」カチッ

生徒会長「全校生徒、あるいは教師の方々へお話があります。……隠れた能力者、出てこいやー」

男「あ、あ」

「出てこいやー、こいやー、やー……」ピー

生徒会長「ふぅ……これで満足かしら。あなたの言う通りにしたわよ」

男「マジですか…いまのマジでスイッチ入ってましたか…!?」

生徒会長「マジの大マジよ。これで私が能力者かもしれないという疑いが校舎内の人間に持たれるわね」

生徒会長「この部屋を出て行く時はお互いに注意が必要よ、男くん。あなたも私と一緒に動けば疑いがかかるから」

男「あ、あのですね……あなたは僕に一体何がしたいんですか!?何を企んでるんだよ!?」

生徒会長「あなたへ期待してるのは私たちがこの戦いを勝ち抜けること。企みも何も全て明らかだわ、包み隠さず今まで話している」

男「そうじゃないですよ!『能力』とか『能力者』とか、からかうのもいい加減にして下さいよ!僕疲れましたから!」

生徒会長「……」

男「な、なんですか。僕本気で言ってるんですからね?今まで付き合ってきたけどそろそろ―――」

生徒会長「静かに」グイ

男「もが!?」

男「ちょ、ちょっと…胸顔に当たってますって…!」

生徒会長「大きな声を上げないで男くん。そこの扉の先から微かだけど音がしたわ」

生徒会長「恐らく扉に耳を当てて中を探っている。もしくは、外へ出た瞬間を狙って待ち伏せ」

男「まだ続ける気なんですか!これ!」

生徒会長「男くん、私まだ死にたくないの。男くんもそうでしょ?」

男「はぁ!?」

生徒会長「これは生死がかかった戦いだってことを忘れないで。慎重さを忘れたとき、すぐに命なんて落とすわ」

男「それはあなたが妄想してる世界での話でしょ!どうかしてるよ、生徒会長は……!」バッ

生徒会長「待ちなさい。どこへ」

男「教室ですよ!……ほら、扉の先で待ち伏せしてる奴なんていない。全部あなたのデマカセだ」

男「僕はもう行くんで。命令しますよ、生徒会長。今後僕に変な話目的で近づこうとしないでください!」

生徒会長「……わかったわ、あなたが望むなら」

男「ふん、それじゃあさようなら!」

男「まったく、最初はあの人を自分の物にできたって喜んでたけど、流石にもう付き合いきれないよ」

男「やっぱり頭がいい人ってどこかおかしい所あるんだろうな…あれが残念美人ってやつか」

委員長「男くん、おはよう。どうしたの?疲れた顔しちゃって」

男「ああ、おはよう…別に何でもないよ…」

委員長「そう?そういえば男くんさっきの放送聞いた?あれ生徒会長さまの声で間違いなかったよね」

男「そうなんじゃないかな。僕は興味ないよ、あんな人!」

男「少し眠いからちょっと放って置いてもらえないかな。先生来るまでちょっとだけ…」

委員長「あたし男くんが放送室から出てきたとこ見たんだけど、男くんもあそこにさっきまでいたのかなぁ」

男「え!?い、いたわけないじゃん…ほら、僕なんか凡人が生徒会長と一緒にいられるわけないし…」

委員長「その凡人が突然あの人に近づける機会を得たなら?」

委員長「例えば……共通の目的があって向こうから呼び出されたとか」

男「……ねぇ、なんで怖い顔して訊いてるの?」

委員長「男くん、ちょっとあたしに殺されない?一生のお願いっ」

男「えっ」

男「まったく、最初はあの人を自分の物にできたって喜んでたけど、流石にもう付き合いきれないよ」

男「やっぱり頭がいい人ってどこかおかしい所あるんだろうな…あれが残念美人ってやつか」

委員長「男くん、おはよう。どうしたの?疲れた顔しちゃって」

男「ああ、おはよう…別に何でもないよ…」

委員長「そう?そういえば男くんさっきの放送聞いた?あれ生徒会長さまの声で間違いなかったよね」

男「そうなんじゃないかな。僕は興味ないよ、あんな人!」

男「少し眠いからちょっと放って置いてもらえないかな。先生来るまでちょっとだけ…」

委員長「あたし男くんが放送室から出てきたとこ見たんだけど、男くんもあそこにさっきまでいたのかなぁ」

男「え!?い、いたわけないじゃん…ほら、僕なんか凡人が生徒会長と一緒にいられるわけないし…」

委員長「その凡人が突然あの人に近づける機会を得たなら?」

委員長「例えば……共通の目的があって向こうから呼び出されたとか」

男「……ねぇ、なんで怖い顔して訊いてるの?」

委員長「男くん、ちょっとあたしに殺されない?一生のお願いっ」

男「えっ」

男「まさか委員長までごっこ遊び!?生徒会長に付き合わされてるの!?」

委員長「遊び?そっか、やっぱり生徒会長さまは『能力者』で間違いなかったんだね」

委員長「そして事情を知ってそうな君もその可能性があるわけだよ」

委員長「ね、殺されよう?死ぬ前に最後男くんの言う事何でも聞いてあげるよ?」

男「またそういう感じの……僕は付き合わないよ。懲りごりしてんだ!」

男「君たちの遊びに無関係の僕まで巻き込まないでくれ。そういうのだいぶ前に卒業したから」

委員長「あたし、真面目だよ?男くん『能力者』でしょ?戦わないの?」

男「僕はあいにく『能力者』じゃないの。って、そのおもちゃは…」

委員長「『能力者探知機』。すごい反応してるじゃない、男くん嘘は感心しないなぁ!」

男「……ちなみに委員長の『能力』って何さ」

委員長「……あたし、敵にそれを正直にバラすほど人良くないの」

男「当ててやろうか?指の関節を無限に鳴らせるとかだろ。それか欠伸を自由に止められるとか!」

男「ほら『能力』使って僕を殺してみろよ!早く!」

委員長「くっ……」

男「どうせしょーもないことしてお茶濁すだけだろ。知ってるんだからな、もう経験済みなんだ」

男「ちなみに僕の『能力』はねぇ、右ひじを顎につけられ―――!」

委員長「きゃるるん☆」クイッ

男「な、何その上目遣い…か、かわいい!!」

男「圧倒的、絶望的にかわいすぎる!凄いあざといけど、反則級だろ!?」

委員長「もういっちょ……えへ、きゃるるん☆」クイッ

男「ぐはぁっ!?」

委員長「あたしが可愛いよね、男くん。そうでしょ?ほら、涎垂れてきちゃってるよ」

男「はぁー、はぁー……かわいい…かわいい、です…とっても…!」

委員長「それじゃあぁー……あたしのお・ね・が・い、一つ聞いてもらえるぅ?」

男「は、はい…」

委員長「死んでくれる?」

男(踏み止まる間もなく、僕は教室の窓を開き、身を乗り出していた)

委員長「なんだ、自信満々で使えとか挑発してきたくせにこの程度だったんだ」

委員長「まさかちょっと『能力』使っただけで自滅してくれるなんて思ってもみなかったけど」

男「し、死ぬ前にもう一度あの表情を!!」

委員長「はぁーい♪ せーのっ――――――ぶぅっっっ!!」

男(視界の中にいた可愛い顔して見せた委員長へ拳が入り、横へ大きく吹っ飛んでいった。唖然として、倒れる彼女から拳の主へ視線を向ければそこには)

生徒会長「自分がいきなり直接狙われることは想定していなかったの、男くん」

男「せ、生徒会長!!あなたですか、いま委員長を殴り飛ばしたのは!?」

生徒会長「そうよ」

男「そうよ、じゃなくて!!よくもまぁ女の子の顔面を平気で…」

生徒会長「私の主をどうこうしようとしていたのですもの、慈悲なんてないわ」

委員長「ぐえ、げぇ……ちくしょう……!」

生徒会長「あら、まだ意識を保っていられるの。全力で叩き込んだつもりだったのだけれど。あなたも『能力者』の一人だったのね、知った顔を[ピーーー]ことになるなんて悲しい」

委員長「へ、へへへへ!そんなこと言いながら全然平然としてるじゃないっ…ぎゃっ!?」グシャ

生徒会長「陰から見ていたけれど、あなたの能力は洗脳系に近いのかしら。先手必勝ね。顔から潰すわ。男くんも手伝って」

男「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!?」

男「あなたたちの遊びが本格的だってのは理解しました!だけど僕は関わりたくないです!」

男「それに…あんなに可愛い顔を向けられた後となっちゃ、僕は彼女をどうこうする気が起きない!」

生徒会長「まだ影響が残っているみたいね、男くん。術者を叩けば解除されるものだと勝手に思い込んでいたわ」

生徒会長「ねぇ、委員長さん。これからあなたの指を一切躊躇なく一本一本踏みつぶしていくつもりだけれど、『能力』を解除しないかしら」

委員長「はぁ!?」

生徒会長「そうして貰えれば片手だけで済ませるつもりよ」ズンッ

委員長「いっ、きゃあぁぁぁ~~~!?」グシャ

男「もうやめて!他の人に見られてるだろ!先生が来ちゃいますよ、生徒会長!」

生徒会長「そうかもしれない。でも、その前にあなたにかかった『能力』を払っておかないと」

委員長「……油断してるね!!その一瞬が命取りよ!!」クイッ

生徒会長「!」

委員長「あたしの上目遣い、どうですかぁ?生徒会長さまもあたしが可愛いって思いません?」

生徒会長「……」ポー

男「せ、生徒会長?」

生徒会長「おとこ、くん。あ、かわいい…男くん、彼女をこうそくし、すごくかわいい上目遣い」

委員長「無駄よ!あたしの魅力に囚われたら最後、もうどうすることもできな…くちゅっ」

委員長「へくちゅん!くちゅん!くちゅん! はぇ…ふえ…はくしょーん!」

男「何でこのタイミングにくしゃみ?なんだか僕まで鼻がムズムズしてきた…これって」

生徒会長「コショウよ。さっき彼女を殴る時に手の中にありったけ握っておいたのを解放したの」

生徒会長「私と男くんは鼻がむずつく程度で済むわ」

男「の、能力でですか…でも本当に僕もくしゃみ出ないや…!」

委員長「うぇぇよくも…へーくちっ!!」

生徒会長「集中が途切れて『能力』が上手く発揮できてないようね。痛みには耐えられても、たかがくしゃみの前ではあなたは丸裸同然」

生徒会長「それじゃあ遠慮なく―――」

男「だ、だから暴力は良くないってば!!」がしっ

生徒会長「……危ないから男くんはさがっていて」

男「悪いけど言う通りにできませんよ!同級生が殴られるのを黙って見てられる人間がいますか!?」

生徒会長「そうね、普通ならそう思うわ。でも委員長さんはただの同級生じゃない。私たちの『敵』よ」

生徒会長「このまま放っておけばいつ襲われるかわかったものじゃないの。お願い、わかって」

男「わかりたくないっていうか、もう止めましょうよ!『能力』なんてないでしょ!僕ら普通の学生ですから!」

生徒会長「ちょっぴり、面白い冗談ね。クスッとしてしまったわ」

男「これが冗談言ってる顔に見えますか!?」

生徒会長「悪いけれど男くん。そろそろ話は止めてケリをつけてしまわないと。彼女が自由になってしまう」

委員長「ふぇぇ~……くちっ! この、くそぉ……ぶっ殺してや、くしゅん!」

生徒会長「いいえ、『ぶっ殺される』のはあなたの方よ」グッ

男「くうぅ……生徒会長!命令です、そこまでにしてください」

生徒会長「……え?」ピタ

男「ぼ、僕の言う事は何でも従ってくれるんでしょう。だったら聞いて下さい、お願い」

男「いいえ、お願いします。『能力』とかよくまだ分かんないけど、知り合いで殺し合いなんて止しましょうよ…」

委員長「はっ!なに調子良いこと言っちゃってんのバカみた―――いだだだっ!?」ギリギリギリ

生徒会長「黙って。今は男くんが話をしてるの」

男「それにわざわざ[ピーーー]ことないですよ、生徒会長。冷静に考えてみて下さい」

男「委員長の『能力』は洗脳系とかなんでしょう?味方に付ければかなり心強いと思うんだ」

生徒会長「そう思うわ。だからこそ今の内に叩いておくべきとも思う」

男「だ、だから味方につけて!」

生徒会長「仮にそうしたとしましょう。でももし裏切られた場合はどうする?洗脳系なら内側から好きに攻撃できるわ」

生徒会長「味方にすれば、彼女と行動する機会も多くなるわ。でもそれは裏を返せば、彼女が好きな時に私たちを攻撃する機会を与えることと同じよ」

男「それは洗脳能力とか関係なしにでしょう?ぼ、僕だってあなたをいつ裏切るかわかりませんよ!」

生徒会長「その言葉を聞けて安心したわ。少なくとも今この場でそれを言い切れる人なら、まだ安心できるもの」

男「……ぼ、僕に関してはかなり楽観的すぎじゃないですか?」

生徒会長「男くん。味方は数が多いほど心強い。けれど、その分警戒を怠ってはいけなくなるの」

生徒会長「私は彼女の性格をよく知っているつもりよ。あまり私のことをよく思っていないことも」

委員長「そ、そんなことありませんよぅ…くちっ…ここは手を組むって形で終わりにしませんか?ね?ね?」

生徒会長「残念だけど、私は男くんだけでお腹いっぱいよ」

男「そのつらい当たり方してるからよく思われてないんだと思うけれど…」

委員長「うう、待って下さいよ…あたしまだ死にたくないですから…お願い、殺すのだけは」

生徒会長「殺さないわ。主の命令だもの。これ以上あなたへ手出しする気はない」

男「生徒会長ぉ……よかった」

生徒会長「でも勘違いしないで。これからも私たちを狙うつもりでいたら、今度こそ首の骨を折らせてもらう」

委員長「首……あっ、ちょっと何人のポケット漁って……げっ」

生徒会長「あなたの『能力者探知機』は私が預かっておくわ。返して欲しければ今後私が男くんの傍にいれない時、代わりに護衛しなさい」

男「護衛って…僕、女の子から守られる気は。それになんだか僕ばっかり心配されて申し訳ないですよ」

生徒会長「遠慮なんていらないわよ、男くん。私はあなたの従僕だから」

委員長「……あたしがもし男くんに手を出すような真似をしたら?」

生徒会長「あなたの『能力』は、かかってからがとてもわかり易い。すぐに今日みたいなことになる。もし、彼が殺された時は容赦なく、どこまでも追いかけてかならず殺すわ」

委員長「はいはいはい…言われた通りにしますよ、すればいいんでしょ…」

男「……ちなみに委員長の能力は?」

委員長「はぁ? どうして教える必要―――あ、はい。言います全部」

生徒会長「上出来ね、さすが男くん。あなたのお陰よ」

男「僕…聞いただけなんですけど…」

男「ふぇ…うっ…」ムズムズ

生徒会長「どう?これで私の『能力』をしっかりわかって貰えた?」コショコショ

男「はぁ……本当に何されてもくしゃみが出てこない。まさか、嘘じゃない?」

生徒会長「もしかしてまだ信じてくれてなかったの。少しショックかもしれないわ」

男「ごめんなさい。ただの特技か何かだと思ってたんですよ。でもこれが『能力』っていうのも」

生徒会長「『能力』なんて結局は使い手に左右されるものよ。どんなくだらない力でも使い方次第で大きく化けさせられる」

男「生徒会長の場合『能力』なんておまけでしたけれどね…『特殊能力者同士の戦い』だなんてビックリ人間の集いかと思ってましたけど、生徒会長はその期待を裏切りませんよほんと」

生徒会長「喜んでもらえたのなら嬉しいわ。その意味はわかりかねるけれど」

生徒会長「ところで男くん、無理に私へ敬語を使う必要なんてないわよ。私はあなたの従僕なのだから」

男「でもあなたの方が年上だし…」

生徒会長「……そう。男くんがそうしたいのなら好きにして」

男(あれ?ちょっと残念がってる?)

生徒会長「さて、それじゃあ私はそろそろ行くけどくれぐれも注意してね。いざという時はそこの委員長より先に私を頼って」

委員長「あたしじゃ不満ってことですかそれー……あ、何でもないです」

男「わかった。じゃあね、生徒会長――――――ちょっと訊きたいんだけどさ、君たちって本当に殺し合いしてるわけ?」

委員長「…男くんって、さっきからあたしたちバカにしてんの?止めろとか言ったりして」

男「もうバカにしてない。信じられないんだよ、『能力者』とかその『能力』とか」

委員長「何よそれ。まるで何も知らないまま巻き込まれたみたいなこと言っちゃって」

男「うん、事実そうなんだけどなぁ…」

委員長「え?ちょっと待ちなさいよ。この戦いは参加者が同意した上でエントリーされるんだよ?知らないなんて、まずありえないし」

男(なんだろう、ちょっぴり嫌な予感がした。委員長に僕の現状を詳しく知られてはいけない気がしてならない)

男「で、でも『能力』はしっかり使えるんだ。さっきはちょっと出し惜しみしちゃって!」

委員長「へー…そんなにあたしが弱そうに見えたんだ?『能力』使うまでもねーやって?」

男「だ、誰だって慎重になるだろ?先手を打てれば有利だけど、失敗すればただ手の内を明かすだけになるんだから」

委員長「その良い例がここにいるもんねぇー、くそーぅ!」

委員長「あのね、先に言っとくけどあたしはかならず生き残って願いを叶えるわ。あんたにはわかんないかもしれないけど、マジよ」

男「その願い叶えられるのってさ、何人までなの?」

委員長「はぁ?一人に決まってるでしょ。優勝できるのはたった一人なの。そう何人もいてたまるかっ」

男「…………そ、それって」

男(生徒会長、一体何を考えているんだ?)

男「……あの、この異様に大きなお弁当箱は」

生徒会長「一緒に食べましょう、男くん。二人分お昼を作ってきておいたの」

生徒会長「勝手だったかしら。でも男くん菓子パン一つで済まそうとしていたし、丁度いいと思うのだけれど」

男「あ、ありがたいよ!ありがたいけど……お昼作ってきてくれるなんて、まるで恋人じゃ」

生徒会長「恋人なんて生易しい。私はあなたの従僕でしょう?これぐらいして当然だと思うわ」

生徒会長「食べましょう?味に自信はないけれど、それでもお腹を満たすぐらいにはなるわ」

男「うん、それじゃあ遠慮なく……あっ、おいしい!これ美味しいね、生徒会長!」

生徒会長「そう。喜んでもらえて良かったわ、早起きして作った甲斐があった」

男「あはは。……ねぇ、生徒会長はどうしてこの戦いに参加しちゃったの?こんな物騒な大会なんかに」

生徒会長「その必要があったからよ。男くんはなぜ?あっ、私如きが主へ質問なんておこがましかったかしら」

男「そ、そんなことは。僕はよくわかんないんだ。でも、どうせマシな理由じゃないとは想像つく」

生徒会長「謙遜しないで。男くんなら、きっと私の想像もできないような素晴らしい目的を持って挑んだ筈よ」

男「どうだろうね…」

生徒会長「っ……」

男「ん?どうしたの、さっきから落ち着かない感じだけど。もしかして近くに敵が?」

生徒会長「いいえ、違う。そうじゃないの……男くんが、敬語をいつのまにか止めていて。それで」

男「え? あっ、ごめんなさい!ちょっと油断しちゃってたみたいだ!」

生徒会長「気にしないで。ううん、それでいいの。男くんは私の主なのだから敬語なんて必要ない。必要ないわ」

男「どうして2回言ってるの? はぁ、わかった。それじゃあこれからはこの調子で話すよ」

男(表情に変化は見られないけど、どこか仕草が弾んでるように感じる。もしかしてずっとこうして欲しかったのかな)

男「ねぇ、『能力』ってどういう風に使うのかな」

生徒会長「相手を殺すためか、そのためのカバーに」

男「そ、そうじゃなくて!使い方だよ、使い方!たとえば手の先に意識を集中させるとか」

生徒会長「……どうしてそれを訊いたの」

男「えっ、あ!?」

男「や、やっぱり今の質問はなかったことにしよう!何でもないんだ、気にしないで!」

生徒会長「……そう、わかったわ」

男(生徒会長がかならずしもこの先僕の味方で有り続けるとは限らない。余計な質問は身を滅ぼすはめになるぞ)

男(それに、僕が『能力』を出せないとわかったとき、彼女が僕と手を組む理由はなくなってしまうから)

男「ふぅ、満腹だよ。本当にありがとう、わざわざこんなにお昼もらっちゃって」

生徒会長「望むなら明日も明後日も、これからずっと作るわ。質も向上させるため努力する」

男「嬉しいけどあんまり無理はしないでね? はぁ、お腹いっぱいになったら少し眠くなったな」

生徒会長「……膝、空いてるわよ。枕にしてくれていいわ」グイグイ

男「えっ!?い、いいよ、そんな!!って、無理矢理!?」

男「……やわらかい」

生徒会長「男くんまだ私にどこか遠慮しているように見えるけれど、大丈夫よ、私は何をされても怒らないわ」

男「怒るとかの問題じゃなくて、倫理的なことで遠慮してるんだけど…」

生徒会長「私を女と思わなくていいのよ。あなたに都合のいい従僕なのだから」

生徒会長「気軽に何でも頼んでみて。さぁ、早く」

男「何でいま急かされてんの…いまは大丈夫だから、必要になったらお願いするよ」

生徒会長「…わかったわ、男くん」

男(時間は進み放課後へ。この通り僕は生徒会長から呼び出され、現在に至っている)

生徒会長「来てもらって早々で悪いのだけれど、見て貰いたい物があるのよ」

男「わぁ、可愛い便箋だね。まさか?」

生徒会長「ええ、果たし状を下駄箱の中へ入れてくるなんて古風なことしてくる人がまたいるものね」

男「ラブレターとか思わない?普通…」

生徒会長「思わないわ。ラブレターならわざわざこんな胡散臭い名前を裏に書いて寄越すかしら。ほら」

男「『放課後のジョーカーより』…生徒会長、この歳の男子って結構バカが多いと思うんだ僕」

生徒会長「そうね、さっそくバカが釣れたみたい」

生徒会長「校庭にある大きな松の木の下で待つと書かれているけれど、男くんは怪しいと思わない?」

男「それって相手が『能力者』であることを仮定として考えていいんだよね。隙をついて攻撃されるかもしれない」

生徒会長「いえ、それよりも確実に相手を安全圏から一方的に攻撃してくることがあるかもしれないわ」

生徒会長「遠距離狙撃攻撃が可能な『能力者』であれば私がポイントへ到達したところを。もしくはあえて囮を一人置いて、油断しているところを、というケース」

男「もしかしたら真面目にタイマンで勝負を挑んできているとしたら?」

生徒会長「だとすれば近距離特化型かしら。見たところ差し出し人は男みたいだし、そうでなくとも女の私に格闘戦を挑んで勝つ自信を持っているのかも」

男「……色々考えられるけどさ、キリなくない?」

生徒会長「そうね。だから先に委員長さんを待ち合わせの場所へ向かわせたわ、そこに『探知機』を置いたからと」

男「ちょっと、冗談でしょ!危ないかもしれないのに!?」

生徒会長「危険よ。だからこそ囮役として彼女を使わせてもらったの」

男「シレっと怖いこと言わないで生徒会長!それでもし彼女が殺されちゃったらどうするのさ!?」

生徒会長「残念だけど、運が足りなかったのかもしれない」

男「その言葉で済まそうとする神経が僕にはわからないよ!!…とにかくすぐに呼び戻さなきゃ委員長が危ない。間に合えばいいけど」ピッピ

生徒会長「今さら電話をかけても遅いと思うわ、男くん」

生徒会長「私がどうしてあなたをわざわざこんな空き教室へ呼び出したか、今までの会話からよく考えてみて」

男「……まさか」

生徒会長「これでもアーチェリーには自信があるの。ここは丁度松の木から直線状の位置、今日は風も大人しいわ」

男「あ、現われたところをこっちから先に倒そうって…あ、あれ。そういえば待ち合わせ場所にまだ誰も来てない」

男「ということは、隠れているか、この校舎内から見張ってるってこと?」

生徒会長「便利な『探知機』を見てみましょうか。ここに今表示されている二つの点は私と男くん」

男「随分雑なレーダーなんだね…どの範囲まで探れるのこれ?」

生徒会長「探知できる距離はあまり広くないわ、さて、よく点を確認してみてここ男くんの点がブレているの」

男「ブレてるっていうか……重なってる見える?」

生徒会長「男くんの言う通りこれはかなり雑な作りしてるわ。上下の情報を上手く処理できていない」

生徒会長「敵が透明になれるような『隠密能力』でも持っていない限り、おそらくこの男くんに重なった点の奴は」

男「上……屋上に立ってる!? でもこれって相手にも同じ情報がいってる筈だよね、だとしたら」

生徒会長「私の予想だと敵は動けずにいると思ってるわ。屋上の出口はたった一つしかないもの」

男「逃げるのも、迂闊に仕掛けることもできなくなっちゃったんだ…もしそいつが遠距離特化なら、苦手な距離で攻撃されるかもしれないから」

生徒会長「どうする?もう少し様子を見てもいいのだけれど、このまま互いに硬直状態が続くと何が起こるかわからない」

男「で、でもまだ『能力』の正体も掴めてないのに僕らから向かうのも良くない、よね?」

男「そうだ、とりあえず委員長に電話――――――うわっ、噂したら向こうからかかってきた」

男「……も、もしも」

委員長「ちょっとたぶん隣にいるだろう性悪女に言ってよ!あたしの探知機どこにもないって!」

男(生徒会長の言葉信じて行ってたのか)

生徒会長「そこに誰か他の人間はいるか彼女に訊いて」

男「ねぇ、いま松の木のところに委員長以外誰かいないかな?」

委員長「はぁ?いないわよ、そんなの」

生徒会長「いないなら、そこから屋上の上に何か見えるかを」

男「お、屋上に誰か立ってるかとか見えない?」

委員長「屋上……見えないけど。ちょっと待って、あんたたちあたしで何しようっての?」

生徒会長「どうやら伏せてるみたいね。この上に隠れられるところなんてないわ」

男「透明人間の線は?」

生徒会長「『二つ持ち』の可能性を疑っているの、男くん?」

男「『二つ持ち』……って、まさか『能力』を?」

生徒会長「ええ、稀にいるのよ。便利なことは確かだけれど、上手く使いこなせる人は少ないわ」

生徒会長「『能力』が二つもあると性能が分散されてしまうし、様々なところで枷が付いて回るから」

男「色々な『能力者』がいるんだ……そんなことより本当に上の奴はどうすれば?」

生徒会長「囮の委員長さんを使いましょうか。彼女、かなり便利な『能力』持ちだし」

委員長「ちょっとさっきからあたしの話聞いてる!? 無視かおい!おーい!」ワーワー

放課後のジョーカー「お利口さんのレディ、そしてもう一人の『能力者』……おそらく下の階で俺を迎え撃とうと企んでいるだろう」

放課後のジョーカー「俺の能力は『他人の筆跡を自在に真似できるもの』。戦闘には向かない情報戦か撹乱向きの力だ、おまけに俺は格闘も自信がないッ!」

放課後のジョーカー「だからこんな事頼まれるは嫌だったんだよ。俺は始めからこの大会に興味がない、ただ『能力』に興味を持って軽い気持ちで参加しただけなのに…」

放課後のジョーカー「『ボス』、一体何の企みがあって俺を動かした…あんな形で彼女を呼び出させておいて、仲間一人も寄越さないなんて…」

ガチャリ

放課後のジョーカー「くっ!探知機に目を配るのを忘れちまってた、ついに向こうから仕掛けてきやが――――――」

一般生徒「かわいい。うわめづかいかわいい」ハァハァ

放課後のジョーカー「……せ、生徒会長じゃない。もう一人の方か!? い、いや、こいつは…『能力者』じゃないぞ!?」

一般生徒「あぁ、かわいすぎて言う通りに体が勝手に動いてしまうよぉ…」

放課後のジョーカー「来るんじゃねぇぞ!!一歩でも、俺に近づいてみろ…お前の首をぶっ飛ばすぜ!!」

一般生徒「」ふらふら

放課後のジョーカー「バカ止まれっていってるだろ!?こ、こいつ何故『能力者』でもないくせに…触るな―――あっ」

生徒会長「……」グッ

放課後のジョーカー「せいとかいちょ、うぎっっっ!!」

男(生徒会長の華麗な飛び蹴りが『敵能力者』の体へ決まった。攻撃はまだ終わらない、頭を床へ打ち付けふらついている彼の体を掴むと)

男「ま、待って!!」

生徒会長「ごめんなさい。もう遅かったわ」

放課後ジョーカー「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……」ボトッ

男「そんなぁ……遂に人殺しちゃったよこの人」

生徒会長「別にこれが一人目ではないわ。言った筈よ、これは命をかけた戦いだって。皆容赦ないの」

生徒会長「結局あれの『能力』はわからず仕舞いで終わってしまったけれど……怪我はない?男くん」

男「僕は大丈夫だよ…それより早く救急車を!――――って、あれ?落ちた生徒の姿が見当たらない」

生徒会長「何ですって?」

男「ほら、本当にいないでしょ?もしかして彼の『能力』って瞬間移動みたいな…うわっ、い、痛いよ。どうしたの?」

生徒会長「すぐにここから離れましょう、男くん。どうやら私たちは『見えない敵』の掌の上で踊らされていたみたいよ」がしっ

男「さっきの彼はただの囮だったってこと!?」

生徒会長「迂闊だったわ。裏の裏を掻かれてしまっていた。……出口が閉まってる」

男「ど、どうする?ここには僕たち以外にも委員長の『能力』にかけた第三者も残ってるのに」

生徒会長「他人の心配をしている暇ではないわ、男くん。辺りに注意して、私からけして離れないようにして」

生徒会長「…誰かそこにいるみたいだから」

男「えっ!?」

?「『飛んで火に入る虫』。うーん、この状況ってつまりソレなんですよねぇ、生徒会長…と誰かな」

生徒会長「虫の前に『夏の』が抜けているわよ」

?「……国語の教師かお前は?」

男「あなたは確か上級生のサッカー部で女子からの人気も高い…トゥーリオ先輩」

闘莉王「君の方は俺をよく知っているみたいだね。やっぱり有名人ってスゲー」

闘莉王「でも、隣にいる生徒会長さまにはその足元にも及ばないんだがな」

生徒会長「トゥーリオくん、同年代の相手に『さま』付けなんて必要ないわよ。その呼び方あまり好きじゃないの」

闘莉王「おっと!そいつは失礼したよ……まぁ、今さら呼び方とかどーでもいいよな」

闘莉王「それにこれから『死に逝く相手』には最大限の敬意を払わないと。なぁ、生徒会長さまよ」

男「生徒会長……先輩はかなりの使い手なんじゃ。自信があるからわざわざ僕たちの前にこうして」

生徒会長「そうかもしれないし、彼すらもまた囮という可能性があるわ」

生徒会長「どのみち、『能力者』であるのなら戦って倒す道しか私は選択するつもりはないけれど。男くんは下っていて」

男「う、うん……ごめん」

生徒会長「気にしなくていいのよ、男くんは私にとっての最後の秘密兵器。主を守るのは従僕の役目でしょ」

闘莉王「俺の前でイチャつかないで欲しいなぁ」

生徒会長「…あなた、去年より前髪のラインが後退しているわ」

闘莉王「……決めたぜ。この世に欠片も残さずあんたを消し去ろうッ!!」

闘莉王「出て来いよ、相棒。相手はあの生徒会長さまだ!遠慮なんていらん!」

中澤「……日が暮れてきたな。やろうか、今日も俺たち二人で」

男「中澤先輩まで…二対一はさすがに不利だ、僕も一緒にやるよ。生徒会長」

男(とはいうものの、『能力』がわからなく発動すら叶わない僕にできることは精々ブラフを張って相手へ自分を強くみせるぐらいだ)

男(でも、いざとなれば力づくで抑えつければ……どうだろう、あまり腕っ節に自信はない)

生徒会長「男くん。平気よ、あなたが私を見て応援してくれるだけで負ける気なんて一切しないのだから」

中澤「大きく出たな、女王さま」

闘莉王「見せてやれ、相棒。お前の『能力』で奴の戦意を削いでやろうぜ。余裕すら見せられなくなってしまうほどに!」

中澤「了解した」

中澤「しっかり見ておけ、こいつで動揺しなかった奴は今まで一人もいなかった。トゥーリオ、例の物を」

闘莉王「ああ、用意しておいたよ。今日の昼の残りの焼きそばパンだ」ス

男「……えっ。生徒会長、あれって」

生徒会長「少し距離を取った方が良さそうね。あのパンを生贄に魔人を召喚するとかだと厄介だわ」

男「『能力』のバリエーション幅広い…!」

闘莉王「いけ、やれ中澤ァーッ!!センターバックの意地の見せどころだ!!」

中澤「はああぁぁぁ~~~……っっあぁ!」カッ

男(中澤先輩が焼きそばパンを片手に力を入れて何かを念じると、パンは突然ドロリと形を崩し、見るみるうちに先輩の手の中で茶系のリキッドへ変化した)

中澤「成功だな、今日は少し下痢気味だぞ?」

男「……いまあの人『下痢』とか言ってなかったかな」

生徒会長「男くん避けてっ」どんっ

ぶん・・・びちゃあっ

男「うわ臭っ!? これもしかしなくても!!」

生徒会長「…随分下品な『能力』が存在したものね。確かに動揺せざるをえないわ」

中澤「次だ、相棒。弾をもっと俺に!次は確実に狙い当ててみせよう!」

中澤「俺の『能力』の正体を教えてやろう。『一度でも俺が口にした食べ物をウンコにできる』」ブンッ

中澤「最初はこの力に困惑してしまったが、これほど使い勝手のいいものはそうはない」ブンッ、ビチャ

中澤「食らってみやがれ。死にたくなるほどお前たちは絶望することだろう…破ッ!」

生徒会長「液状から固形の物へ変わっているわね。おまけにコーンが混じっている」

男「そんなの言わなくていいよぉ!!酷過ぎるこんなの!!」

生徒会長「男くんは回避にだけ専念して。ただ、隙をついて奴を叩きたいところだけれど、トゥーリオくんの『能力』が気になるわ」

男「……わ、わかった。僕がトゥーリオ先輩の注意を引き付ける!ここは一気に二人で接近しよう!」

生徒会長「そう……わかったわ。男くん気をつけて。なるだけ時間を稼いで」

男(僕たちは中澤先輩とトゥーリオ先輩の蹴る糞をジグザグに動いて回避しつつ、接近を試みた)

男(それでも怯まず二人は糞を蹴り出してくる。一発の被弾で相当堪えそうだ…死ぬ気で避けなきゃいけない)

闘莉王「あぁ!? お前が俺の相手をするつもりかっ、来いよぉぉぉ!!」

男「う、うわあああぁぁぁ!――――――ぐえっ…け、蹴りが…腹に…かは」

生徒会長「男くん!?」

中澤「お前はお前の心配をしたらどうだ? 直は素早いぞ」

生徒会長「っ、手の中にいつのまに――――」

生徒会長「……っあ」びちゃあ!

男「せ、せいとかいちょ……うわあああ、生徒会長の顔に…なんてことを」

男(彼女の白い頬が茶色の汚物で穢された。さすがにあの生徒会長でも堪えたらしい、涙を目に浮かべて中澤先輩の前でひるんでしまっている)

中澤「あのお美しい生徒会長さまを汚してしまった。だが、罪悪感なんて欠片も感じない」

中澤「お前も『能力者』ならばこうなる覚悟は持っていた筈だ…光栄に思え、お前の最後は」

生徒会長「……」

中澤「『糞山の墓の下に眠る』だッ!!」ゴゴゴゴゴ

男「な、中澤先輩の手の中で大きな糞の固まりが形成されていってる…生徒会長それだけは避けるんだ!!ぐうっ!?」

闘莉王「こっちは俺でかたをつけよう、相棒。こんなモヤシ程度に『能力』を使うまでもないぜ」

中澤「フン、今回も俺たちが星を取って終わりらしいな。じゃあな、ゲームセット――――」

生徒会長「……男くん、いまのは命令よね。守るわ かならず。そして」

生徒会長「私へこいつを『ぶちのめせ』と命令して。かならず八つ裂きするから」

男「生徒会長…中澤先輩を倒して!!」

生徒会長「わかったわ」

中澤「なにを……あ、あぁ?」ピク

男(糞の山を上に掲げていた中澤先輩の動きが止まり、声にもならない嗚咽が突然漏れ出した)

闘莉王「相棒どうし―――――そんな、相棒、お前の目ぇ…」

中澤「うあ、うああぁぁ~…痛ぇ…痛ぇよぉぉお……こんな、こんな」

中澤「俺の目がアアアァァァァァァーーーーーーッ!?」ポタ、ポタ

生徒会長「武器を使って悪いなんてルールにはなかったわ。その大技、もう少し考えて繰り出すべきだったわね」

男「あ、アーチェリーの矢だ…矢を中澤先輩の目に躊躇なく突き刺した……うっ、惨すぎる」

闘莉王「相棒!相棒しっかりしろ、たかが目をやられた程度なんだ!俺たちにはまだ『黄金の足』が残っている!」

中澤「あああぁぁぁぁー……だれか抜いてくれよぉ…痛いんだよ…」ふらふら」

中澤「く、糞が―――――――あっ」どさ、ブチッ

男「自分が作った糞の山に押し潰された…こ、こんなあっさりと。死んじゃったのか?」

生徒会長「たぶんそうでしょうね。自分の『誇りある能力』で倒れたのだもの、彼も本望でしょう」

闘莉王「うおぉぉぉぉ!!相棒!?」

闘莉王「て……てめぇ、もう容赦ないぜ。俺はかなり頭に来てんだ…」

生徒会長「最初の余裕はどこへ行ってしまったのかしら、トゥーリオくん」

生徒会長「それと、奇遇ね。私もいまかなり頭に来てるわ。よくも男くんをボールみたいに弄んでくれて」

男「ぼ、僕は平気なんだ。それより生徒会長の顔が」

生徒会長「本当に男くんは優しいわ。従僕の顔の汚れ程度なんかを気にしてくれるなんて」

生徒会長「こんな汚いものより、男くんを傷つけられた方が……許せない」

闘莉王「おい…ちょっと待てよ、生徒会長さま。ここからは勝負の方法を変更するぜ!」

闘莉王「ここに俺があらかじめ用意しておいたサイコロと丼がある。『チンチロリン』でケリを」

生徒会長「サッカー部員なら……サッカーで文字通り蹴りをつけなさい」グッ

闘莉王「まっ、がぁっっっ!?」

生徒会長「あなたは何度男くんに暴力を振ったかしら。その数の倍は痛めつけないと私の気が済みそうに…男くん?」

男「もう止めておこう。十分彼は中澤先輩を失ったことで傷ついてる」

生徒会長「でも、ここで止めたらあとが怖いかもしれないわ」

男「じゃあ……両足を折る、って形で終わろう。彼の魂の『黄金の両足』を」

闘莉王「何!?おい、それだけは、うわっ、ギッ……あ゛ぁぁ!?」

男「トゥーリオ先輩ごめんなさい。でもこうでもしなきゃ生徒会長の気も済みそうになかったから」

男「…ところで、武器を使っていいなんてルールがあるなら『能力』に頼る必要ないんじゃ」

生徒会長「敵の『能力』が明らかならそれで問題ないと思うわ。でも怖いのが自動防御タイプやカウンター系の『能力者』よ」

生徒会長「たとえ遠距離から銃で倒そうとしても、弾丸を跳ね返される場合もあるの」

生徒会長「正直あの時アーチェリーを使おうとしたら、委員長さんが敵の『能力』を見せて死んでくれた瞬間だったわ。奥の手よ」

男「その捨て駒みたいな考え方止そうよ…あ、ちょっと動かないでいまハンカチしかないけど拭かせて」

生徒会長「ダメよ。あなたの物でこの汚物を拭うことはないわ、水道で洗い流せば大丈夫」

男「それでも拭かせてよ。僕本当は生徒会長を守りたかったんだ。でも、結局最後はいつもみたい生徒会長一人に頑張らせちゃったから」

男「これは…その償いにというか…」

生徒会長「……お願い、してもいいかしら。男くん」

男「うん!」


?『守護神とまで呼ばれた二人がああも容易く落とされてしまうとは。すぐにボスへ報告しなければ…えげつない女があらわれたと…』

生徒会長「本当はあなたの家まで送り届けたいところなのだけれど」

男「大丈夫だよ。生徒会長こそ、帰りに襲われちゃうかもしれないってこと肝に命じておいて」

生徒会長「……男くんは私のこと軽蔑してしまったかしら。残虐な女だって」

男「え?」

生徒会長「急にごめんなさい。でも私とあなたの敵に対する考えが一致することってあまりなかったから。よくトドメを止めようとするし」

男「それは…まぁ。そりゃあそうだよ、僕正直戦いとか言われてもまだ納得できない。結局これって自分の私利私欲のための殺し合いだもん」

男「怖いよ、すごく。冗談みたいな『能力者』しか見てないけどさ、みんな本気で殺しにかかってきて」

生徒会長「どうしてそんな平和主義の塊のような男くんがこの戦いへ身を投げたの。前から疑問で仕方がなかった。あなたはこういう事に向いていないわ」

男「わ…わからないよ…」

生徒会長「……そう、ごめんなさい戸惑わせてしまって。帰り道気をつけて」

生徒会長「それから教えてくれたメールアドレスにさっそく今日送ってみるわ。というか、いま送ってみたの」

男「いま? えっ、ああ……」

生徒会長『本文:こんばんは、男くん( ^ω^)』

生徒会長「……」ソワソワ

男「センスいいと思うよ」

男(結局生徒会長と僕が別れるのは、あれからかなり時間がかかった。問題が無ければ今日泊まりに来ないかと彼女はしつこい)

男「今日出会った『能力者』は4人。たぶん氷山の一角みたいなもんなんだろうな、生徒会長がいれば百人力だけど、この先二人だけで大丈夫かな」

男「委員長は…敵か味方かラインがあやふやだし。僕も早く自分が手に入れた『能力』を思い出さなきゃ。生徒会長だけに苦労をかけさせるわけにはいかない!」

男「…ていうか、どうして僕身に覚えのないことでいっぱいなんだろ。参加に同意なんてした覚え一度もない」

男「はぁ、どうしたものかだよ。あっ――――――妹!」

妹「お兄ちゃん?どったの、こんな遅い時間に外出歩いて」

男「それは兄さんの僕の台詞だろ。お前こそ何してたんだよ、部活なんて入ってもないのに」

妹「友達とカラオケ~……お兄ちゃんは?」

男「僕は…えっと、友達とボーリングに」

妹「ふーん、運動神経ゼロでモヤシのお兄ちゃんが珍しい。それより小腹空きませんかっ、そこにぐーぜんコンビニがあります!」

妹「私は肉まん二つを所望する!ねっ!」

男「…わかった。夕飯前にそんなの食べて太っても知らないんだからな……あっ、ネコだぁ」

妹「うわ…ねこって……ちょっとお兄ちゃん、それ近づけないで」

男「そういえばお前は猫アレルギーだったなぁ。僕はこんなに猫好きなのに。可哀想に」

妹「うん、ちょっと触るだけで酷くなるの。毛もダメ!くしゃみと鼻水止まんなくなるし!」

男「くしゃみ……まぁ、とりあえずコンビニの中入ろう?肉まん買ってあげるから」

妹「やりぃー♪」

リーマン「ちょっとそこの学生さん、いいかな」

男「え? 僕ですか」

リーマン「そうそう、君だ君!」

妹「……お兄ちゃんこの人だれ」

男「いや、知らない人だよ。初対面だと思うけど」

リーマン「初対面か……惚けるのは止めにしないかね、少年」

男「え?」

男(スーツ姿のサラリーマン風の男は僕へ近づき、腰を屈めると、これでもかと額にできた大きな痣を見せつけてきた)

リーマン「これぇ、君につけられたんだよなぁ!? 覚えてないわけないよなぁ、私はしっかり覚えているぞ!!」

男「あなたが何の事を言ってるのかわかりませんよ、僕はそんな痣をつけるような真似は」

リーマン「したんだよ。不意打ちみたいな形だったから、私にはどうすることもできなかった。…ようやく見つけたぞ、少年」

リーマン「お前にこの顔の傷の怨みを晴らしてやりたかったよ!毎日探した!」

男「……『能力者』」

リーマン「お前もだよなぁぁぁ~~~同じなんだよな、私と!最近のガキは酷いとは聞いていたが教育が全くなっていないようだ!」

リーマン「そんなガキ、大人の私が修正してやる!」

男「あ、あ。妹!早く逃げて、家に帰るんだ!」

妹「でもお兄ちゃんは…」

男「いいから僕に構うな!お前まで巻き込むなんて僕はご免なんだよ!」

妹「う、うん…」タタタタ

男(妹へは注意がいっていない。始めから僕『能力者』だけを狙っていたのはわかる。しかし)

男(僕一人で戦うなんて、いまは無理すぎる!!)

男「にげ、あぐっっっ!!」ガシィ

リーマン「今さら良い子ぶるなよ、少年。どうなろうと私はこれから君を潰す!修正なんて生易し過ぎた、『殺す』、だ!」

男「せ、せいとかいちょ…ぐ、ううぅ」

男(首にかかった手が僕を絞め殺そうと力を入れられていくのがわかる。爪を痛いぐらい刺しても力が緩む事はなかった)

男(こんなところで殺されたら、生徒会長へ合わす顔がない。僕だって死線を乗り越えられたんだ。一人だって何とかできるはず)

男「『能力者』ならっ……えい!」ゴン

リーマン「あっっっ!? こ、このガキ顔だけじゃなく、股間にまで!」パッ

男(今は奴から逃げなければ。戦う必要はない。ここは逃げ切ってしまえば僕の勝ちだ…本当かな、今日が無事に済んだって明日また同じ目に合わないとは限らない)

男(生徒会長ならこんな時どうする? もちろん、迎撃一択しかない)

男「あ、あいつはどうして僕へ直接攻撃をしてきたんだ。もしかして持ってる『能力』は戦闘向きじゃないんじゃないか!?」

男「じゃあ武器さえ手に入れば『能力』で対抗できなくても……あ、あれ。何だこの道?逃げるのに夢中でおかしなところに入ってるっ」

男「どっちから来たんだっけ…確か左の角を曲がって…えっと」

リーマン「やぁ、見つけたよ。あまり大人に手間をかけさせないでくれ。もう夜も遅いし、私は仕事で疲れてるんだ」

男「うっ!? きょ、距離をはなさなきゃ」

リーマン「おーっと! 知らないのか。そっちは行き止まりなんだぜ」

リーマン「ついでに……この辺りはいま工事であちこちが穴だらけ、歩行者も通れないところが多い」

男「あ、あわ」
リーマン「ここは通勤ルートから外れるんだがね…私の趣味を教えてあげよう、休日は町のあちこちを探検家気分で散歩するんだ」

リーマン「健康的だと思わないかい?テレビゲームとかで遊ぶより誇れる趣味だよ。見習いたまえ」

男「…僕があなたに襲いかかってできた痣なんですよね、それ」

男「いつの話ですか?本当に冗談抜きで覚えなんてないんです。闇討ちなんて物騒な真似した事ない」

リーマン「足掻いても君は言い逃れできないよ。証拠はこの私自身だ。なぜこの痣がついたか、その時の全ての状況を詳しく教えようか!」

男(どうにかして奴の『能力』を会話で暴くことはできないものか。『能力』を出し惜しみしているようには見えない、彼はいま僕を殺すことで頭がいっぱいだ)

男(それでも、冷静さは残したままかもしれないけど。サディストでもない限り、相手は『能力者』なんだ。即効でケリをつける方が安心できると思う。わざわざ声をかけるまでもなく、後ろからドンって)

男「……」

リーマン「鞄、コンビニの前で落としていってしまったようだね。残念だがここにはしっかり武器になりそうな物なんて転がっちゃいないぜ」

男「武器なんて探してる風に見えますか?こんな僕があなたに立ち向かう勇気があるとでも!?」

リーマン「……どれだけ私をコケにしてくれたら気が済むんだい?えぇ?」

男「こんなガキに傷つけられたぐらいで何故そこまで必死に追ってくるんです!?」

リーマン「私の『能力』の都合じょうなぁ、あの時の屈辱と怒りがいつまでも晴れてくれないんだよぉぉぉ!!」

リーマン「ムカついてムカついて、それでも晴らす場所がなく耐えてきた私の気持ちなど貴様にわかって堪るものか!」

男「それじゃあ、今日僕を取り逃したら、そのイライラも残ったままになるんですか」

リーマン「その心配はないだろう?だって君は今日私に始末される」

男「どうですかね…」

リーマン「君の妹の顔は覚えた、名前も、制服も」

男「あいつは関係ないだろ!?」

リーマン「いーや、君をもし逃がしたら妹ちゃんをどうかしてしまうかもしれないよ」

男「う、うぐ、うわああああぁぁぁ~~~!!」

男(僕は頭が真っ白になり、怒りのままリーマンへ向かって拳を振るいにかかった。だけど、彼は涼しい顔してそれを避けてみせる)

男「!」

リーマン「その攻撃は既に『記憶』していたッ! 同じことを何度繰り返せば気が済むね?私の前では無駄だよ!」グッ

男「ぎゃっっっ!?」ドサー

リーマン「ハハハハハハ、君の『能力』を拝見できずに殺してしまうのは少し残念だったかな」グググ

男「ぐうぅぅ~っ……あんた、ひょっとしたら間抜けですよ!」

リーマン「あん?」

男「そう何度も記憶した記憶した、記憶に関する話をベラベラ自慢気に話して」

男「ちょっと分かりかけてきましたよ!ヒントは全部あんたが言ってる、あんたの『能力は記憶に関するもの』!!」

男「道も、落ちている物も、攻撃すらも全部一度見ただけで『記憶』することができる。だからその時生まれた感情もいつまでも忘れられずにいるんです!」

リーマン「……ああ、そうだが?」グシャ

男「あっつ!?」

リーマン「むしろ分からなきゃそれこそ間抜けだな。もしかして『能力』を暴いただけで勝った気になってるのかい」

リーマン「間抜けめ! こんな『能力』だ、始めからバレることを恐れていたらもっと他に正しい襲い方はあるだろう」

男「……ですよね、あはははは―――げぇ!?」

リーマン「カッコつかないなぁ、少年。所詮大人の前じゃ君は井の中の蛙さ」

リーマン「これは私を舐めた罰だよ……死を持って君はつぐな、っう」

妹「……はぁはぁ、えいっ!えいっ!」ガンガンッ

男「妹?」

男(妹は僕が呆然としている中、息が止まっただろうリーマンをそれでも金属バットで殴り続けていた)

男「や、やめて。どうしてお前戻ってきちゃったんだよ…何だ、そのバットどこで…」

妹「お兄ちゃん」ギュウ

妹「無事でよかった。本当はね、警察に行こうと思ったんだけどやっぱり心配で」

男「お前の方が心配だよ!僕はどうなたっていい、お前にもしも怪我なんてさせちゃったら…」

妹「ううん、お兄ちゃんが死んじゃう方がいやだもん。ね…もう家に帰ろう…ねっ」

男「ああ…そうだな…」

男(こうして血まみれの僕と金属バットを地面へ引き摺った酷い絵図の僕たちはようやく帰路へ立った)

男「か、帰ったらお母さんに何て言い訳しよう?ケンカしたって言ったら怒られちゃうかなぁ」

妹「……」

男「どうしたの、もうそんな顔するなよ!無事にこうして家に帰れるんだからさ!」

妹「お兄ちゃんあとで私の部屋来てもらっていいかな?」

妹「大事な話があるんだよ」

男「え?」

男(帰宅してすぐに汚れを落とすために風呂へ入って、そのまま妹の部屋へ向かえば彼女の姿がない。トイレかな?)

男「僕は最低な兄だ、妹に人殺しをさせちゃったんだ。生徒会長や妹ばかりに僕は手を汚させてしまった」

男「後でちゃんと謝ろう……あれ」

男(タンスに服が挟まって戸がきちんと閉まっていない。こういう中途半端な状態はどうしても許せない性分だ)

男(勝手にで申し訳ないけど直させて貰おう…と、一度戸を開いたとき足元に何かが転がり落ちて来た)

男「なっ…これ、嘘だろ!?そんなバカな!!」

男「『能力者探知機』じゃんか!今日見たのと形がそのまんまだ……スイッチは入るのか」カチッ

男「うん、生徒会長のと同じように点でこの部屋が表示され――――――えっ、もう一つ」

男「もう一つ……ぼ、僕のすぐ後ろ……そんな!?」くる

妹「どうして開けちゃったの?お兄ちゃん」

男「ひっ!」

妹「ねぇ、せっかく隠してたんだよ。勝手に部屋物色しちゃったの?」

男「妹…お前まさか……この探知機が正しいなら、お前は」

妹「お兄ちゃん私の質問無視しないで。酷いよ」

男「これお前の物か!?どこかで落ちてたの拾ってきちゃっただけなんだよね!?」

妹「それお兄ちゃんの奴だから。私が要らないと思って預かってた。ううん、隠してたの。お兄ちゃん要らないよね?だって危ないことするの嫌いでしょ」

男「…お前知ってるのか?僕が参加してたことも、その理由も、『能力』も全部!?」

男「何か知ってるんでしょ!?」がしっ

妹「お兄ちゃん――――――もういいぞ、やれ」クイ

番長「おう、『ボス』の言う通りに」

男(突然後ろから大男に僕は羽交い絞めにされる。逃れようと暴れても、がっしりホールドされて動きようがなかった)

男「離せ!うっ、離してくれよ―――――――あっ」ガクリ

番長「成功だ。俺の『記憶改竄』は絶対。あんたの兄さんはこれまで通り普通の学生に戻れる」

妹「いつも世話かけてしまってごめん。お前がいたから私は助かってるんだよ、番長、ううん、私に忠実な僕」

番長「フッ、いつかはあんたも兄を手にかける必要があるのに。お人好しにも程がある」

妹「まだ…その時はまだ来ないから……お兄ちゃんごめんね。でも仕方がないんだ」

生徒会長「少し残念なことが今朝あったのだけれど、男くんの妹さんに挨拶したら無視されてしまったわ」

男「え?」

男(ひょんな事から僕の従僕になった生徒会長。今日も彼女は僕の家までわざわざ迎えに来てくれた)

男「どうしてだろ。あいつ誰にでも懐くような子犬みたいな奴なんだよ、そんなこと今までなかったのに」

生徒会長「年頃の女の子って難しいのかもしれないわね。私も気にしないことにしておくわ」

男「なんかごめんね、生徒会長。…っていうか朝起きてあのメールの量!驚いたよ!」

生徒会長「もしかして迷惑だったかしら。少し調子に乗ってしまったと反省しているわ」

生徒会長「さぁ、今日も『能力者』に気をつけながら登校しましょう。登校時間ぐらい平和に済めばいいのだけれど」

男「のうりょくしゃ?」

生徒会長「どうしたの?目が点になってるわ、男くん」

男「いやだって、いきなり生徒会長の口から聞き覚えない言葉出てきたから」

生徒会長「え?」

生徒会長「本当にどうしたの。あまり笑えない冗談なのだけど」

男「そう言われたって知らないものは知らないよ」

生徒会長「…そう、とりあえず歩きましょう。少し寝惚けているのかもしれないわ」

男「生徒会長こそでしょー?漫画の話してるなら今度僕にも貸してよ、興味ある」

生徒会長「男くん」がしっ

男「え、え、な、なにっ!?」

生徒会長「……」じー

男「かお…近いよ、生徒会長ぉ…!」

男「本当にどうしたんだよ?今日はちょっと変だ!!」どん

生徒会長「っ……嘘をついている感じはしないわね」

男「だからそうだって最初から言ってるじゃないか!こんな人前で…もう」

男(彼女、生徒会長は僕の頼みを何でも聞いてくれる従僕。みんなの憧れの生徒会長がこんな冴えない僕の物なんだ)

男(でも、蓋を開けてみれば彼女は個性的すぎた。行動も言動も全て僕の予想斜めをいつも行ってしまう)

男(今日もいつもの生徒会長なんだ。いまさら変に思う必要なんてないか)

男「―――その『能力者』ってのは結局出てこなかったね、生徒会長!」

生徒会長「ええ……ねぇ、男くん?」

生徒会長「しつこいようで申し訳ないけれど、いいえ、質問を変えるわ」

生徒会長「私の『能力』は男くんも知っているわよね。言ってみてくれないかしら」

男「……ちょっとしつこくないかな?」

男「確かに生徒会長は勉強も運動もできる超人だよ。お、おまけにすごい美人だし…」

男「でも、それでも特殊能力みたいな漫画やアニメの中の話の力を使うようには見えないよ」

生徒会長「昨日の戦いを忘れてしまったの?私と一緒に『能力者たち』を倒していったことも」

生徒会長「男くんがこの『能力者バトルロイヤル』に参加していることも?」

男「うーん…ごめん、そろそろ教室に行くね」

生徒会長「男くん、昨日私と別れたあとすぐ家に真っ直ぐ帰った?」

男「ああ帰ったよ。途中で妹と会って一緒にさ」

生徒会長「……委員長さんに会ったりは?そして彼女から何かおかしなことをされたとか」

男「あのさ、話聞いてたかな。まっすぐ妹と一緒に帰ったんだってば…」

男「あんまり変な話が続くなら、『やめて』って僕も命令するしかなくなるよ。生徒会長」

生徒会長「……わかったわ。あなたが嫌がっているならもうここまでにする」

生徒会長「おかしな質問をしてしまってごめんなさい。このお詫びはこれまで通り男くんの頼みを何でも聞くという形で償う」

男「あ、相変わらず極端だなぁ…ははは。うん、それじゃあこれで。また昼休みに会おう」

生徒会長「そうね、一緒にお弁当食べましょう。今日は自信があるの――――――」

委員長「はぁ…今日こそあの性悪女からあたしの探知機返してもらわないと……あぎっ!?」ドテ

委員長「だ、だれよ!いきなり足掛けて転ばせてきたの……は……ど、どうも~」

生徒会長「あなたに尋ねたいことが山ほどあるのだけれど、どうしたら正直に答えるかしら」グシャ

委員長「いっ!?」

生徒会長「もう分かっていることだけれど、あなたの『能力』は洗脳系。上目遣いで自分をかわいいと思わせる、とかだったかしら」

委員長「は、はいぃ…っあう!?」

生徒会長「それで忠実な僕を自由に作ることもできれば、好きなように相手を動かすことも可能」

生徒会長「単刀直入に訊くわ。あなた、私が見ていない所で男くんに『能力』を使ったんじゃない?」

委員長「してませんしてませんしてませんっっっ!!」

委員長「誓いますっ、本当に何もしてないんです!生徒会長さまに言われてから男くんに変なこと何一つしてません!」

生徒会長「……わかった。ありがとう」

委員長「あのぅ…男くんどうかしちゃったんですかぁ…?」

生徒会長「あなたには関係のないことよ。気にしないで」

生徒会長(今日までの男くんの様子から、彼はあまりにもこの戦いについて知らなすぎていたとは思う)

生徒会長(手にした『能力』すら一度も見せようともしなかったし、正直言えば彼が本当に『能力者』なのかすら怪しく思えたときもあった)

生徒会長「だけど、今日の男くんは異常だわ」

生徒会長「昨日は確かに理解していた筈の『能力』についての記憶がまるで残っていなかったもの。一日で忘れるほどどうでもいい話ではないのに」

生徒会長「この異常から推測されるのは、敵の攻撃を男くんが受けてしまった。それによって現在に至る」

生徒会長「男くん……どうにかして術者を探しだして始末しなければ。対抗手段のない今の彼が襲われたら危ない」

生徒会長「HRに出る余裕はないわね、今日は緊急事た―――」

生徒たち「……いた、カイチョー…カイチョーだぞ…」ゾロゾロ

生徒会長「あまり喜べそうにない展開が来てしまったのかもしれない」

生徒たち「……」

生徒会長(殺気立っている。手には武器、私に向かって来ている。彼らは『能力者』?……ではない、探知機に反応がないわ)

生徒会長「どうした、と尋ねてもそれに対する返答はかえってきそうにないわね」

生徒「生徒会長!あたしの家のペットのチロルちゃんを殺したのはあんたでしょ…知ってるわよ、あたし見てるんだから」

生徒「うちの店でしょっちゅう万引きして困らせてるのは生徒会長。あなただ!警察に突き出す前に、オヤジの怨みは俺が代理で晴らす!」

生徒会長「…どれもこれも身に覚えのない罪だわ。私は『能力者』は殺すけれど、それ以外の悪事にはけして手を出したことないの」

生徒会長「仮にも『生徒会長』という立派な席に座らせていただいているんですもの。きっとあなたたちの勘違いね」

生徒たち「見苦しい言い訳を!!」

生徒会長(この集団の中に彼らを攻撃した『能力者』が紛れているとは考えられないわ。委員長と似たような洗脳系能力者か)

生徒会長(もし私が敵と同様の『能力』を持ったとしたら、彼らを操り、自分はどこか安全な場所でその様子を見守るでしょうね)

生徒会長(自分の手を汚すことなく、正体がバレにくい。十分この戦いにおいて『最強』を誇っていい力だわ)

闘莉王「お前ら奴を囲め!!逃げ道を全て塞ぐんだ、絶対に逃がすなよ!!」ガラガラガラ…

生徒たち「わあぁーッ!!!!」

闘莉王「あの女は特殊な『能力』を持っている……だけどな、流石にこの人数を一度に相手できるわけねーだろ」

闘莉王「生徒会長さまッ!こいつらに使っちまえよ、手前の『能力』を…」

闘莉王「そうでもしなきゃ勝ち目なんてないよな。ほら、『能力者』でもないこいつらを殺してしまえ!中澤のときのように容赦なく!」

生徒会長「…やっぱりあの時息の根を止めた方がよかったのかもしれないわね。まるで悪党の台詞だわ今のって」ス

生徒たち「会長が懐から袋のようなものを出したぞ。なんだあれは…?」

闘莉王「袋ぉ? ……それがお前の『能力』かぁぁぁ!!」

生徒会長「そう思ってくれて結構よ」バァン

ふわ・・・ふわ・・・

生徒たち「おい何だあの粉みたいな…くしゅ、はっくしゅん!げほ、くしゅ!」

闘莉王「おい!バカ逃がすな、奴を追え…へ、へ、へ……へーちっ」クシュン

生徒たち「くしゃみが…ふぇぇ……くしょーん!!」

生徒たち「どこ行った……」ワラワラ

生徒会長(今回の敵は洗脳系。それもかなり応用の効くものを持っている)

生徒会長(あの数の生徒を一度に動かせられるなんて、かなりの使い手と見て間違いはなさそうね)

生徒会長(男くんの『能力』に関する記憶の忘却、そしてあれらが私を狙うように記憶の改竄。この二つの問題は偶然ではなさそう)

生徒会長「…記憶の改竄を行うことで、男くんを何も知らない普通の一男子生徒へ戻すことも可能ならば」

生徒会長「私の考えがあっているのならば、向こうから正体をバラしていることと同然かしら。その実態はまだ分からないけれど」

生徒会長「さて、犯人へどう辿り着けばいいかしら。こういうとき男くんが傍にいてくれたら心強いのだけれど」

生徒会長「男くん、きっと救ってみせるわ。あなたの従僕が――――――――」

男「―――――――委員長、その顔どうかしたの」

委員長「あぁ!?あんたの女についさっきやられたんですけど!?」

男「そ、それってまさか生徒会長のこと言ってるんじゃ…」

委員長「そうよ。それ以外に誰か当てはまる奴いるっけ!?あーもう、昨日から全然ついてないっ」

委員長「全部男くんが原因なんだからね!男くんの『能力』ってひょっとして周りに人間を不幸に突き落とすとかぁ?」

男「また『能力』か…僕は不思議な力も、平均的男子学生の力も持ってない。ノー力者だと思うよ」

委員長「は?」

男「ごめん、いまのはなかったことにしないかな」

男「ていうかだよ。もしかして今この学校病気流行ってたりするかな…」

男「もうみんな登校とっくに終えてて良い時間だよね?教室に全然人いないと思うの僕だけ?」

委員長「…ああ、確かに言われてみれば、まぁ。何かあったんじゃないの」

男「じゃないのって全然関心ないんだね…こんなこと普通じゃないよ…」

「いたぞー!!気をつけろ、その女はコショウを撒いてくる!!」

「コショウだって?……ふぇ…へーちょ、へーーーちょ」

男「……今日は生徒会長といい、みんなといい、どうかしてるんじゃないかな。って、急に顔青ざめたけど、どうしたの?」

委員長「世界で一番『嫌い』な女がすぐそこまで来てるみたいで…あたし、ちょっとトイレ―――」

ドン、ガシャーン!!

男(委員長が教室の戸へ手を掛けた瞬間だ。戸が倒れ、彼女を潰した。そして『何か』が転がり込んでくる)

男(『何か』は人間離れした素早さで僕のもとまで一気に近づいてくると、声をかける間もなく、僕の体を背負ったんだ)

男「うわああああぁぁぁぁ~~~!?」

男「ちょっと、こ、これ お姫様だっこってやつ……あっ」

生徒会長「騒がしくてごめんなさい、男くん。お昼前にまた会う事ができたわね」

男「生徒会長!?」

生徒会長「本当はもっと落ち着いたときに、ゆっくりあなたと過ごしたかったけれど」

男「何言ってるの―――――ていうか、後ろの人の群れは!?」

生徒会長「説明している余裕がないわ。これでも私結構いま精一杯の状態だから、少し待って」

男(そう言った生徒会長の表情はいつもと同じ仏頂面だ。彼女はいつも表情をここから崩すことがなかった)

男(それでも、僕へ飛んで跳ねるほど、彼女の頬から次々と汗の雫が垂れているのを見れば、今がただ事じゃないと判断できる)

男「後ろの人たち…みんなバットとか持ってて物騒なんだけど、襲われたり、するかな」

生徒会長「流石男くん状況の判断能力に長けているわね。見ての通りよ」

生徒会長「私一人がいま追われているの。みんな殺しにかかっているらしいわ」

男「それ平然と言えるかな普通!?」

生徒会長「巻き込んでしまってごめんなさい。でも、私たちはこのまま学校にいれば危険なだけよ」

生徒会長「今日は二人で早退ね」

男「どうかしてるよぉぉ~……え、わっ!?」

男(突然、生徒会長の腕から僕は転げ落ち、階段の踊り場に叩きつけられてしまった。痛みに悶えながら、必死に生徒会長の姿を探せば…いた)

生徒会長「っあ……」ピク、ピク

男「生徒会長!!あ、足に矢が……!」

生徒会長「男くん、この程度の怪我なんともないわ。すぐに立って…玄関を出たら後ろを見ずにどこか遠くまで」

男「何ともないわけないじゃないか!凄い深く刺さってる…病院…早くどうにかしないと…あっ」ガシ

生徒会長「私はいいから、行って。男くんは直接彼らに狙われることはない。だから」

闘莉王「いいザマだな生徒会長さまよ。本当は目を狙って撃ったつもりだったんだが、まぁ結果オーライだ」

闘莉王「次こそその綺麗な目にヒットさせてやる……覚悟しろ」ギリギリギリ

男「あいつか、あいつが…どうしてこんな酷いことするんだよ!?本気で殺そうとしてるの!?」

闘莉王「はぁ?なんだお前もいたのか。待ってろよ、次はお前の番だぜ…すぐになッ!」

男「うっ…」

生徒会長「何を愚かな真似をしているの男くん。退きなさい、そこにいてはあなたに矢が」

男「退くわけないでしょ!!理由はわかんないというか、頭が理解拒んでるけど…」

男「生徒会長を見捨てて行くなんて僕にはできないよ!」

生徒会長「いいから退いてっ、あなたが私の盾になる必要はないのっ」

男「断るッ!! あなたは僕だけの大切な『従僕』だ、絶対に嫌だね!!」

闘莉王「俺の目の前でイチャイチャラブコメ初めてるんじゃあねぇよぉぉぉ!!」ギッ

男「っ―――――――あ、あれ?」

闘莉王「  」ガクガク

番長「俺はあの女だけを仕留めろと言った筈だが、どうしてこうなっているんだ?」

男(瞼を上げると、階上にはトゥーリオ先輩を片手で持ち上げる大男の姿があった)

男(大男はトゥーリオ先輩の車椅子を蹴り飛ばすと一緒に彼も放り投げ、僕たちへ凶悪な顔を向ける)

番長「少し予定が狂ってしまったがな、まだ修正可能な範囲だろう。おい、男くん」

男「……え?僕?」

番長「流石はボスが認めただけの男だ。惚れ甲斐もあるってもんだぜ。漢を見せたな」

生徒会長「冗談じゃないわ。男くんを誉め讃えて良いのは私だけよ、許せない」

男「いや、そういう問題じゃなくてさ……もしかしてあなたが生徒会長をこんな目に合わせてるんですか」

男「言いましたよね、『あの女』って。どういうつもりだよ!!」

番長「君がそれを知る必要はない、らしいぜ。このまま大人しく教室へ帰るんだ」

男「……『能力者』ですか!」

番長「ん」ピク

生徒会長「ひょっとするとあなたが校内の生徒を『能力』でおかしくしたのかしら」

生徒会長「そして、男くんの記憶を狂わせた私が八つ裂きにしなければならない畜生」

男「僕の記憶を狂わせたって、何?」

生徒会長「そのままの意味よ、男くん。あいつが男くんから『能力』に関する記憶を奪った」

生徒会長「どういうつもりか知らないけれど、随分と厄介なことをしてくれたわね」

番長「決めつけるのが早いんじゃないか。お前の勝手で俺を悪者にされては敵わねぇ」

番長「まぁ、大当たりだぜ」

男「結局合ってるんじゃないかっ!?」

生徒会長「少し調子に乗り過ぎているんじゃないかしら。いくら優勢とはいえ、自分から姿を現してしまうなんて」

生徒会長「でも、感謝するわ。あなたを探し出す手段をとても考えていたのだけれど、上手く思いつきそうになかったの」

番長「想像より面白い女だよお前は。冥土の土産にってやつだぜ、『能力』を教えてやる」

番長「俺のは『自分の思い通りに対象の記憶を改竄』できる。こんなナリで女々しい力であまり気にいってはいない」

男「あの…生徒会長?あんまり突っ込みたくないけどさ、何の会話がされてるの。二人の間で」

生徒会長「少なくとも奴のは『死亡フラグ』を自分で立ててますという内容よ、男くん」

番長「違う。死ぬのは俺ではなく、貴様の方だぜ。生徒会長さん」

生徒会長「いいえ、あなたよ」

番長「貴様だろう。認めろ」

生徒会長・番長「……」

男「実は二人は仲良かったり…しないよね、ハイ…」

男「僕の記憶を狂わせたって、何?」

生徒会長「そのままの意味よ、男くん。あいつが男くんから『能力』に関する記憶を奪った」

生徒会長「どういうつもりか知らないけれど、随分と厄介なことをしてくれたわね」

番長「決めつけるのが早いんじゃないか。お前の勝手で俺を悪者にされては敵わねぇ」

番長「まぁ、大当たりだぜ」

男「結局合ってるんじゃないかっ!?」

生徒会長「少し調子に乗り過ぎているんじゃないかしら。いくら優勢とはいえ、自分から姿を現してしまうなんて」

生徒会長「でも、感謝するわ。あなたを探し出す手段をとても考えていたのだけれど、上手く思いつきそうになかったの」

番長「想像より面白い女だよお前は。冥土の土産にってやつだぜ、『能力』を教えてやる」

番長「俺のは『自分の思い通りに対象の記憶を改竄』できる。こんなナリで女々しい力であまり気にいってはいない」

男「あの…生徒会長?あんまり突っ込みたくないけどさ、何の会話がされてるの。二人の間で」

生徒会長「少なくとも奴のは『死亡フラグ』を自分で立ててますという内容よ、男くん」

番長「違う。死ぬのは俺ではなく、貴様の方だぜ。生徒会長さん」

生徒会長「いいえ、あなたよ」

番長「貴様だろう。認めろ」

生徒会長・番長「……」

男「実は二人は仲良かったり…しないよね、ハイ…」

ここまでが2回もスレ立て直しておきながらまた落とした無様な俺くんのSSだよ
前スレのURL張って続きからとも考えたけど、再放送した。ちなみに下のがそれ

ちなみに能力と会長へのお願いだけ安価で決めてもらってたから、ここだけ見た人だとわかりづらいかも
エロシーンがあったがあまりにお粗末すぎてカットした

出てきた能力まとめ
生徒会長『くしゃみを我慢できる能力』
委員長『上目遣いの表情が可愛い能力』
放課後のジョーカー『他人の筆跡を真似できる能力』
トゥーリオ『サイコロで狙って1の目を出せる能力』
中澤『食べた物をウンコに変える能力』
リーマン『完全記憶の能力』
番長『記憶改竄の能力』

あと最後に男と妹の能力をまた安価で決定できたらうれしい。無理ならしゃーない
妹能力>>68、男能力>>72

続きは二人の能力決まり次第明日から書く

追ってきちゃったわ
安価なら妹(自分含めた)を爆発させる能力

時間を巻き戻す能力

追ってきちゃったわ
安価なら妹(自分含めた)を爆発させる能力

鼻くそを飛ばす能力

そういえば能力2つ持ちの話があったが結局出す気ないのかな?

男(会話は止まり、僕たちは緊張で張り詰めた空気に包まれる。あの大男こそが生徒会長をみんなに襲わせた張本人なんだ)

男(本気で殺しにきているのは一目瞭然、僕が「やめろ」と懇願しても折れるとは思えない)

生徒会長「……」サスリ

男(平気とは強がっているけど、いまだに立ち上がることもままならないじゃないか。このままじゃ本当に彼女は…)

男(僕が生徒会長を担いで逃げたところですぐに捕まるのは見えてる。二人揃ってなんて今は無理だ。それなら……)

男「あなたはどうして彼女を狙うんですか…怨みがあるとか…」

番長「むぅ、俺に訊いてるのか?別に俺個人はそいつに拘ってないぜ」

男「それじゃあどうして?二人が言ってる『能力』とか『能力者』関係?」

番長「答えてやる義理はないぜ。男くん、君は俺たちの『世界』から見て部外者になった。要らん知識を持つ必要ない」

生徒会長「あなたの勝手で男くんを仲間はずれにしないで。男くん聞いて、男くんは私たちと同じ『能力者』」

生徒会長「あの男はその『記憶』を改竄して普通のカッコいい男の子へ戻してしまったの」

番長「悪いが俺の『能力』は顔までは」

生徒会長「自分が容姿で劣っているからって横槍を入れてこないで欲しいわね」

男「僕も自分の顔に自信持ってないんだけど…そんなことより」

男「本当に僕が二人と同じような人間だったとするよ。それって生まれた時から『能力』を持っていたとか―――」

番長「男くん、君がいつまでも会話を引き延ばしてそいつの回復時間を稼ごうとしていたら随分せこい考えだな」

男「うっ…」

番長「やれやれって感じだな。君にとってそいつが大切な彼女だとしても俺は躊躇いなく殺さなけりゃあならん」

番長「俺も血の通った人間だ。人情もある。だが、今は自分の意思なんぞ関係ねえ」

男「そんなに言うんだったらこんな事始めからしようと思うな!『能力者』は殺し合わなきゃいけないのか!?」

生徒会長「ええ、そうよ」

男「せ、生徒会長……」ピク

生徒会長「私たちの『能力』は殺し合いのために与えられた力。皆、お互いが抱えた事情なんて知る余地はないの」

男「じゃあ、僕だって『能力者』なんだ。いつかは生徒会長と殺し合わなきゃいけないじゃないか!」

生徒会長「そうかもしれないわね。あなたが『望む』なら」

男「……」

生徒会長「でも男くん勘違いしないでね。私は――――――男くん?」

番長「ほう?」

男(僕は生徒会長へ背中を向けて、階段を上がり、大男の隣へ並んで彼女を見下ろした)

男「僕にあの人を始末させてください。他の誰かにやられるのを黙って見てることしかできないなら」

男「僕があなたの代わりに!」

生徒会長「……」

番長「やっぱり『漢』だぜ、君。根性座った野郎でもなければ、その考えには中々至らん」

番長「了解した。ここは男くんへ譲ろう…ただ、俺はその様子を見守る。構わねえだろう?」

男(気を失って伸びたトゥーリオ先輩の傍に転がるアーチェリー一式を手に持ち、僕は彼の問いに首を縦に振って答える)

男(弓道を体育の授業で何度かやった経験がある程度だけど、やり方は大体同じだろう。矢を持って弦を引き絞った)

生徒会長「男くん、本気なのかしら、それ」

男「そうだよ。今の生徒会長なら僕のヘナチョコ攻撃でも当てられる。動かない的になら、確実にいつか当てられるんだ」

男「矢は残り4本、一発で落ちてくれた方が僕も助かるけど」ギリギリギリ

生徒会長「男くん…」

番長「よく狙って撃てよ。君があいつを楽にしてやるんだ。躊躇うな、撃て!」

男「ああ、そのつもりだ!!」くるっ、ドシュウッ

番長「うぬぅ!?」ズンッ

男(生徒会長へ狙いをつけて振り絞った弓を隣の大男へ向け、溜めた力を一気に解放。ヒット。彼はわき腹を抱えて膝をつく)

番長「お前……!!」

生徒会長「男くん、なぜ」

男「ここに武器が転がっていたのを覚えてたんだ!そして、そのすぐ横にはそいつがいた!」

男「生徒会長、僕だってやる時はやるよ!あなたに守られてばっかの僕じゃない! 僕だって戦える!!」

生徒会長「…敵を欺くにはまず味方から、かしら。本気で私あなたに見捨てられてしまったのかとてっきり」

男「見捨てないよ。だって生徒会長は僕の大切な『従僕』だから……」

男(貫き開かれた穴から矢を伝って血がぽたぽたと床へ滴っている。大男は壁に手を着いて無理矢理立ち上がって僕と対峙した)

番長「や、やれやれ……少々君を侮っていたらしい。どこまで俺に見上げさせれば気が済む?」

男「こ、来いよ…! お前の相手は僕だ。生徒会長に手を出すつもりなら、僕を倒してからにしろ!」

生徒会長「何を言っているの男くん。もう十分よ、降りてきてっ」

男「僕は『能力者』だ!!『能力者』同士は戦わなければならないッ、人の戦いは黙ってみていろ口出しするなッ!!」

生徒会長「っ…」ビク

男(最後になるか分かんないけど、命令だよ生徒会長。この隙にここから逃げて。あの男の注意はいま僕へ向いた)

男(逃げるんだ。口に出して言うわけにはいかない、どうか伝わって。察してくれ)

男「……次も外さない!狙い撃つッ!」

番長「全く、汚れ仕事に『トラブル』はついて回るもんだな」

男(こいつが持っている『能力』でみんなを生徒会長に襲わせるように仕組んだ。『能力』ってのはまだ上手く理解できないけど)

男(相場なら、その『能力者』を討てば『能力』は強制解除される!…と思って行動するしかない)

番長「男くんに俺を倒せるのか。君はまだ『能力者』同士の戦闘になれちゃあいないんだぜ」

番長「俺たちの戦いっていうのは、いつも想定外ばかり起きる。誰も勝負の行く末を予想できる奴はいねえ」

男(ゆっくり近づいてくる大男へ次の矢を放った。外れる。矢は彼の背後にあった窓ガラスを突き破っただけだ)

番長「焦るなよ、トーシロー。矢の数には限りがある筈だぜ」

男「っー……!」

男(どうして武器を持った相手に動じることなく堂々と近寄って来れるんだ?さっきのは避けようとする素振りも見せなかったぞ?)

男(僕が次の矢は当てられないと自信があったのか?それも『能力』で…いや、彼の『能力』は…なぜ向かってこれるんだ!?)

男「はぁはぁ……」スス

番長「そうだ、逃げちまえ。教室へ帰るんだ男くん。君に俺は殺せん」

番長「痛い目に合いたくないだろ。俺はどうしても君が邪魔をするというなら、ここで絞めて寝かせるぐらい造作もねぇぜ」

男「うあ…」

男(遂には引き絞った矢のすぐ前に立った。何をするわけでもなく、構えた弓の前で僕を見下ろした)

生徒会長「男くん距離を…っ」

番長「どうした?この距離ならその矢も外れないぜ。撃てば確実に俺を貫く、おそらくそれで殺せる」

番長「やる気があるのなら……撃てばいい」ズ ン

男「あ、うぁ……!?」カタカタカタ

男(あれだけ強気でいれたのに、さっきは倒すつもりでいたのに)

男(今はこの大男の前で僕はみるみる小さく縮こまってしまっている)

男(とてつもないプレッシャー、まるで心臓を鷲掴みにされているみたいだ。弓を今すぐ放り投げてしまいたい)

番長「撃ってみろって俺は言ってるんだぜ。君には俺をぶっ殺してまであの女を守ろうとする信念がある」

番長「それへ『敬意』を払って、ここまで俺は歩いて来た。君は俺をいま生かすも殺すも自由な状態だ。その時間を与えたんだ」

男「マゾヒストかよ、あなたは……どうかしてる……」

番長「もうしばらくすれば、あの女に撹乱されて彷徨い歩いてた生徒どもがここへ来るかもしれん」

男「!!」

番長「俺を倒せば『能力』を解除できるという魂胆があっただろ。大当たりだぜ」

番長「どうした?早くしないと俺ではないが、奴らに大事な彼女をリンチにかけられちまう。そして―――」

男「っ、ち、ちくしょおおおおおぉぉぉ~~~~~~ッッ!!」グッ

番長「―――『時間切れ』だぜ」がしっ、ぐい

男「ひっ、がはぁっ!?」バンッ

男(弓矢を手で横へ払われたと同時に、大男は僕の胸ぐらを掴んで床へ叩きつける)

男(全身が痛い。でも、この程度で弱音を吐くわけには…生徒会長に比べたらこれぐらい…)

番長「君は大した漢になる素質がある。まだ発展途上だったらしい、これでもかなり気に入ったんだ俺は」

男「……ぁ」

番長「痛むか?だが安心しろ。君の戦いは終わった、これから俺の『能力』で君は解放される。大人しくしていろ」ス

男「ふ、ふざけるなよ…僕はまだ」

番長「気持ちでは男くんの勝ちだぜ。だが、狙いだった生徒会長さんから自分へ注意を向けて逃がすという『賭け』は失敗に終わった」

番長「床に転がっているから君には見えんだろうがな、あの女 逃走どころか…」

番長「俺から君を救うために這って階段を昇ってきてるぜ。誤算だったな、奴は自分の身より君を選んだらしい」

男「せいと、かいちょ……きちゃ…だめだぁ…」

生徒会長「……」ズリ、ズリ、ヨロ

男「こないでよぉぉ……!」

生徒会長「男くん、私もあなたと同じなのよ。私にはあなたを置いて逃げることはできない」

生徒会長「これだけは『命令』されても引き受けられないわ。私の我儘を許して」ガシ、ズリズリ

男「うああぁぁぁー…!!」

番長「泣けるぜ」ス

男(大男は僕へ伸ばしていた手を引っ込めると、階段へ、生徒会長へ再び向かって行く)

男(『敗北』。その言葉が僕の頭を支配して全部を真っ白に塗り替えた)

番長「貴様にはとことん驚かされる。いや、貴様らと言っておこうか」

生徒会長「私にも、男くんにも『意地』があるわ」

番長「熱いじゃあねぇか。俺も久しぶりに心が震えてるぜ」

番長「これから俺はお前を始末しなければならん。本当に惜しいな」ス

生徒会長「さっきから気になっていたけれど、私を狙うのは私が『能力者』であるからではないんじゃないかしら」

生徒会長「あなたの後ろにいる何者かが命じたとか。あなたの動きは不審に思わせられる事ばかりよ」

番長「そいつは気のせいだな。何にしても厄介な敵を減らすことができるなら、誰の命令関係無しに俺は実行するぜ」

番長「貴様もそれは同じだろう?」

生徒会長「……」

番長「こうして生徒会長さんと話をするのは初めてだが、悪くなかった。あんたとは気が合ったかもしれん」

番長「俺とあんたはよく似ていると思った。だが、どうやら違ったみたいだな」

番長「俺は『お人好し』すぎた――――――っうううぅぅ~~~!?」ズドンッ

生徒会長「!」

生徒会長(突然、私の首へ手をかけようとした男の顔が苦痛に歪み、大きく吹っ飛ぶ)

生徒会長(階下でうつ伏せになり体を痙攣させていた彼から、振り向き、何かが『起きた』場所を見れば――)

男「……僕の、『勝ち』だ!!」

生徒会長「男くん?」

男「生徒会長、無事だった!?」

生徒会長「見ての通りよ。それよりも今のは男くんがやったことなの?」

男「そうだよ。僕が彼をやったんだよ、生徒会長」

生徒会長(男くんの手にはアーチェリーの弓のような武器も持たれていない。敵の背にも矢は見つからない)

生徒会長(私には何が起きたのか見えなかった。あの男は突然後方へ飛ばされた。それも男くんによって)

生徒会長(男くんは私の安否を確認して弱々しく笑みを浮かべると、倒れた男の元へ近寄る)

生徒会長「危ないわ。まだ息があるかもしれない」

男「いいんだ。僕の好きにさせて、そこでじっと見てて貰えるかな」

男「……どうしてこんな事を?」ス

番長「―――男くん、聞いてくれ」

番長「あの人に出会うまで俺はただ暴力にあけくれた日々を送っていた。ただの屑だ」

番長「だが、あの人はそんな俺を救ってくれた!恐れることなく、俺に近寄ってくれたんだよ…」

番長「俺はあの人のためなら命だっていつでも投げられる。その『覚悟』を持って『能力者』へなったんだぜ」

男「それが、なぜ僕に…?」

番長「言っただろ、男くん。俺はお前たちが気に入っただけだって。俺の行動に始めから理屈なんてありゃしねえ」

番長「それに今の君なら俺の命を奪う気はないと確信してた。君を信じた結果だぜ」

男「なんて人だ、あんたは…!」

番長「男くん、俺には夢はない。だが『あの人の夢』を守ってやりたい」

番長「その意思を自分から裏切った俺はやっぱり屑のままなのかもしれん。男くん、俺は君という漢に惚れた」

男「う、うん」

番長「ふん。人の恋路を邪魔するのは趣味じゃねぇぜ、俺ァ――――――」

男「…気を失ったみたいだ。生徒会長、肩貸すよ!」

生徒会長「待って、その前にそいつへトドメを刺しておかなればいけないわ」

男「いいんだ。このままにしておこう? 彼はこのままでいい!」

男「それが僕が彼へ行う最大限の『敬意』。見逃す…」

生徒会長「次にまた彼が襲ってこないとは限らないわ。それに目的を達成できずに仲間の元へ生きて帰れば、それこそ『屈辱』になる」

男「いや…今日だけは彼が信じたままの僕でいるよ。もし次に僕たちを、生徒会長を傷つけることがあれば」

男「その時こそ本当に『殺る』。ね?」

生徒会長「見違えたわね、男くん。まるで私の知る男くんではなくなってしまったみたい」

生徒会長「それは……『記憶』を取り戻したからかしら。奪われた全てがあなたに返ってきたから」

生徒会長「さっきあの男を倒したのはあなたの『能力』でしょう。ということは、倒す前に改竄された『記憶』を修正された」

生徒会長「それとも奇跡が起きて偶然…という様子には見えないわ」

男「そうだよ、彼が生徒会長の元へ行く前に僕を戻したんだ……」

生徒会長「なぜかしらね。私には理解できないわ、戻したという事は故意ででしょう」

生徒会長「あれ程の使い手がミスを起こして能力解除を起こしたとは考えられない。なぜ?」

男「今回彼は自分の意思で行動してなかったんだよね。命令だったんだ、生徒会長を倒せって」

男「彼は、僕に自分を止めさせたんだと思う。それもこういう形で終わる事を全部予想した上で」

男「えへへ…試合に勝って勝負に負けちゃったってこれかな? とにかく……良かったよぉ、生徒会長ぉ…!!」ギュウ

生徒会長「!」ビクゥ

男「生徒会長の足に矢が刺さったときは僕、本当にどうなることかと思って…死んじゃうのかもって…!」

男「ううっ…」ポロポロ

生徒会長「男くん。大丈夫よ、私はこうして無事だわ。全部男くんが頑張ってくれたお陰よ」ナデナデ

生徒会長(男くんの記憶は自身が『能力者』ということに気づけた。その『能力』も、自分の『目的』も。おそらく)

生徒会長(彼は何を思ってこの戦いへ身を投じたのだろう)

生徒会長「男くん。訊いていいかしら、あなたの『能力』を」

男「ダメダメ!!ぜ、絶対言いたくない!!」

生徒会長「えっ」

男「い、いいからまずは保健室に行こう!?」

生徒会長「それならあなたの『目的』は。あなたがなぜ『能力者』へなったのか理由を」

男「え…えっと……それも、言えないかな。というか―――」

生徒会長「ごめんなさい。今のは無理は承知での質問だったわ」

生徒会長「そうよね、いくら仲間とはいえ……その」

男「生徒会長。僕はこれからは君の為に戦いたいんだ」

生徒会長「?」

男「僕はこれからは生徒会長の夢を叶えるために『能力者』一緒に倒す。一緒にならどんな敵が来たって―――」

生徒会長「嬉しい話だけれど男くん、その理由だけは絶対に訊かせて欲しいわ」

生徒会長「従僕になったとはいえ、いつかは男くんとも戦わなければならない時が来ると私は覚悟していた」

男「僕が『僕の為に死んでくれ』って頼んでも?」

生徒会長「……」

男「大丈夫だよ、生徒会長。僕はあなたにそんな酷いお願いする気ない。むしろ…!」

男「……もういいんだ。僕はいい。諦めとかじゃないんだよ!?それにカッコつけてるわけでもないんだ!」

男「是非、僕に生徒会長の願いを叶える手伝いをさせて)

生徒会長「むぅ……考えて、おくわ」

男「うん!僕きっと力になってみせるから!」

男(僕は生徒会長のために自分の望みを仕方がなく捨てたわけじゃない。本当にもう必要がなくなった)

男(彼女との奇妙な巡り合わせから、それはもう既に『叶ってしまった』。僕の『欲』は満たされたんだ)

男(だから、この『能力者バトルロイヤル』の優勝は僕には要らない)

男「じゃあ保健室…より、病院の方が良さそうだよね? 傷も深いと思うし」

生徒会長「平気――」

男「平気なら立ち上がってみてよ。できないでしょ?本当は救急車呼びたいぐらいなんだからね!?」

男「二人で早退しちゃおうよ、始めからそのつもりだったんだ。僕も病院まで付き添うから…」

生徒会長(腕を持って、男くんは私を肩へ担いでくれる。彼が命じるのなら、私はそれへ従うまで)

生徒会長(……男くんと戦う覚悟がある。そんな覚悟は、彼と出会ったあの日から少しずつ私の中で薄れていった)

生徒会長(私は男くんのために戦い続けたい。彼の願いを叶える手伝いをしたい)

生徒会長(だから、この『能力者バトルロイヤル』の優勝は私には要らない)

男「もう二人ともボロボロになっちゃったね、生徒会長…他の人に見られたらまずいかなぁ」

生徒会長「人目を避けて行きたいのなら、向こうから行くのがおすすめよ。それより重くないかしら」

男「重い?あっ、ううん!全然重くないから平気だよ!」

生徒会長「そう、少し安心したわ。私は体重がある方だと思っていたから男くんの負担になっているかと思って」

生徒会長「男くんが望むならダイエットも厭わないから」

男「大丈夫だよ。別に負担にもなってないし、それに僕のために無理して欲しくない」

生徒会長「今のままの私で気に入ってもらえる?」

男「うん、生徒会長は今のままで素敵だから!急にそんなこと訊いてどうし―――ん?」ピタ

生徒会長「感情が気薄で、表情筋なんて無いんじゃないかと言われるほど無愛想な私のままでも気に入ってもらえる?」

男「もしかしてそれずっと気にしてたこと?」

生徒会長「私は昔から周りによくできたロボットみたいだと言われていたわ。何を考えているか分からなくて気味が悪いみたい」

生徒会長「私だって少しぐらい、嬉しいときには嬉しいと思うし、悲しいときは悲しい。怒ったりもするの」

男「あははは、そうだね…」

生徒会長「みんな表面だけで判断しようとする。それが辛く思ったときがあったわ。悩みだった。くだらないと思うけれど」

男「くだらなくなんてないと思うな。何があってもその人にしか分からない辛さはあるんだから!」

男「……表情が豊かで愛想が良い女の子になりたい。たぶん、それが生徒会長の叶えたい願い?」

生徒会長「男くん、可能なら私はこれから先もあなたの従僕で居続けたい。ずっとよ」

生徒会長「……ロボット人間の私であなたが気に入ってくれているのなら、私は――――」

妹「どうしてお前まだ生きてるの?」

男・生徒会長「!」


妹もう一つの能力>>107

安価埋まり次第明日に続き書く

兄の死亡シーンCG集を閲覧する能力(コンプ済)

男「妹…学校は…どうしてここに…」

妹「お兄ちゃんごめん、学校は抜けてきちゃった。そんなのより大事なことがあるから」

妹「お兄ちゃんの彼女さん―――生徒会長だっけ。どうでもいいけど」

生徒会長「ええ、あなたはまだ中学生のようだし、私がそこの生徒会長だろうと関係は」

妹「違う。あんたがどんな人かなんて今は問題じゃない!」

生徒会長「『生きていた』のが問題なのかしら」

男「え!?ちょっと二人とも何を」

生徒会長「私の聴き間違えでなければ、さっきの物騒な言葉は私へ向けられていた」

生徒会長「この子もひょっとして『能力者』ではないかしら。男くんは知らない?」

男「……」

妹「番長がお前如きにやられたわけない…信じたくない事実だよッ!!」

男「いや、あの人を倒したのは僕なんだよ。改竄された記憶は全部元に戻った」

男「妹、お前はどうして僕を―――」

妹「生徒会長さん。私のお兄ちゃんから離れてくれないかなぁ……二度と近寄らないで」

妹「あんたといるとッ!!お兄ちゃんが……お兄ちゃんがっ……!!」

生徒会長「ごめんなさい。私は彼の従僕なの、離れる気はないわ」

男「生徒会長…」

生徒会長「男くん、あなたが命じない限り私はあなたの傍に居続ける」

妹「お兄ちゃんそいつから早く離れて!そいつはお兄ちゃんを殺す気なの!」

男「もし仮にそうだとしても、僕は彼女を手放す気なんて毛頭ないよ!」

男「なぁ、お前はどうしてそんなに生徒会長に拘ってるんだ…確かに同じ『能力者』だけどさ」

妹「そいつといるとお兄ちゃんが危ないから言ってるの!!」

妹「私にはわかるんだ……お兄ちゃんの『運命』が」

生徒会長「探知機に反応している。あなたはやっぱり『能力者』、そして私を狙う刺客の一人かしら」

生徒会長「それとも始めから男くんへ着いた悪い虫を払いたがっているところを見るに、あなたこそが」

男「そんな!?」

妹「…お兄ちゃん、妹の私とそんな得体の知れない女、比べてどっちが信用できるかな?」

妹「私はお兄ちゃんを守りたいよ。あんなことをしたのも全部お兄ちゃんを守りたかったからなの!仕方なかった!」

生徒会長「あちこちに餓えた『能力者』が徘徊しているのに、そこへ無防備で放り出したと同然だわ。あなたがしたことはね」

妹「それでもお兄ちゃんが自分から戦おうとしないだけ良かった!お兄ちゃんへ振り掛かる火の粉は全部私が払った!」

妹「…なのに、少し目を離した隙にお前と出会ってしまった。お前と出会わなければ問題なんて何一つ起こらなかった筈なのに」

生徒会長「お兄さんがこの戦いへ参加することは予想できなかったのね。この大会が始まった時点であなたにとって規格外が起こってしまった」

男「……僕が悪かった?生徒会長を傷つけてしまったのは、僕が原因だった?」

生徒会長「あなたが男くんを大切に想っているのはわかったわ。けれど、最終的にどうするつもりなの」

生徒会長「『能力者』である以上、最後の一人になるまで戦いは終わらない。タイムリミットだって存在する」

妹「っぐ…!」

生徒会長「たとえ最後まであなたたち兄妹が生き残ったとして、戦いを放棄して元の生活へ戻ることはできない」

生徒会長「その時が来たら宿った『能力』が『毒』と化し、どちらも息絶えてしまう。それでいいの?」

妹「その前にお兄ちゃんだけは助けるつもりだもん!!あんたには関係ないでしょ!?」

男(そうだ、僕たち『能力者』の戦いは永遠じゃない。生き残るはたった一人、優勝者もたった一人だけ)

男(僕たちはその覚悟を持って、『能力者』へなった。半端な気持ちの奴は途中でいつか死んでしまうだろう)

妹「私が優勝してお兄ちゃんを生き返らせればいい!それで何もかも元通りになる!」

妹「……もし、私が先に死ぬのを選んだときは、お兄ちゃんが……頼んでくれる?」

男「そ、そんないきなりすぎるだろっ!!」

妹「ごめんね、でもお兄ちゃん。でも私 心中なんてご免だよ。生きてお兄ちゃんと今まで通り暮らしたい!」

妹「ねぇ、私と一緒にいてお兄ちゃん…最後までお兄ちゃんは私が守る…最後までね…」

男「うあぁ…」

妹「お兄ちゃんとの話はこれでお終い。ここからは、お前がどうしてくれるかを聞かせて欲しい」

妹「もし黙って自分からお兄ちゃんの傍を離れて行くのなら、今日のところは見逃す」

生徒会長「難しい相談ね、私には兄妹はいないからあなたが抱えた気持ちなんて理解できる気はしないわ」

生徒会長「それでも、あなたが必死に男くんを守りたかったという事だけは分かる。私も同じだもの」

妹「嘘つきッ!!お前はお兄ちゃんをかならず殺す!今は何もしなくても、いつか自分の為に絶対!」

男(二人の会話を僕はただ茫然と立ちつくして見ているだけだった)

男(僕だって妹が参加するなんて思いもしなかった。もし僕がそれに早く気づき、生徒会長と出会わなければ彼女と同じことをした筈だ)

男(だって、大切な家族なんだから。ずっと昔から仲良く暮らしてきた世界でたった一人の妹だ。戦いたくない…)

男(僕の『願い』は『能力者』となり、大会へ参加したことにより、皮肉にもすぐ叶えられてしまった)

男(だけど、参加してしまったことで…何てことだ。委員長が今朝僕へ言った通りだ、僕は周りの人間を『不幸』にさせている)

男「疫病神だ……僕は、どうしたらいいんだよぉぉぉ!?」

生徒会長「何も心配しないで、男くん。妹さん、私は考えを改める気はないの」

生徒会長「だけれど、あなたたち兄妹のために協力することは―――」

妹「―――『巻き戻れ時よ』、私のために!」

『09:15.39』

『09:15.35』

妹(頭上を飛行する鳥が、吹いた風が、経過した全ての出来事が逆再生されていく。私一人だけを残して)

「のなりもつるすうどに的終最、どれけ。わたっかわはのるいてっ想に切大をんく男がたなあ―――」長会徒生

「さどけだ『者力能』じ同にか確…だんるてっ拘に長会徒生になんそてしうどは前お、ぁな―――」男

妹「はぁはぁ……息、もう少し、がまんっ」

妹(私の『能力』は自分以外の全ての時間を巻き戻す。巻き戻されている間、好きに移動できるのは嬉しい)

妹(でも、この時は空気が、息を吸うことができない。おまけに逆再生されている途中の物や人間に干渉することも)

妹(私が息を吸うことを我慢できる間だけ、時間は巻き戻せる。長くて精々2分が限界かもしれない…)

妹「っー……っあ、ぐ!」

妹(せっかくこの女に最後のチャンスを与えてやったのに。結局は自分で手にかけなきゃいけなくなっちゃった)

妹(人間が人生において進む道は一つじゃない。お兄ちゃんは『生徒会長』と一緒にいる道を選択してしまった)

妹(そのせいで、お兄ちゃんが行きついてしまうのは『死』。私にはお兄ちゃんがその女の前で息絶え、倒れた場面が見えている)

妹(『能力』は一つじゃない。私は『二つ持ち(ダブルホルダー)』という稀なタイプらしい)

妹(時間を巻き戻す、お兄ちゃんの死の瞬間を全て閲覧できる。偶然にしても酷過ぎるよ、こんなの)

妹「っぷはぁ!!――――――」


妹「これでいい、これで……きっとお兄ちゃんも分かってくれるから」

妹(もっと早く気づけていたら良かった。もっと早く。『能力者バトルロイヤル』参加前まで時間を巻き戻すことができたら、助けられるのに)

妹(頭がおかしくなっちゃいそうになるぐらい頑張ったのに…大会開始以降には絶対『戻れなかった』!)

妹(どうやっても私がこの『能力』を手に入れる瞬間までにしか『戻れない』)

妹(長い時間を巻き戻すには精神的にかなり負担が大きくて、その気があってもつらすぎた。二度とやれる気はしない)

妹「あの女……あの女にだってもっと早く『能力者』だって気づいていれば!私がもっと賢い『能力』の使い方ができれば!」

妹「ごめん殺す、怨まないでよ生徒会長さん」

妹(隠し持っていた包丁を取り出してお兄ちゃんに肩を貸され、歩く生徒会長さんの背中を一突き)

生徒会長「っ!?」ドサ

男「え……せいとかいちょ、う、うわあああぁぁぁー!?」

妹「はぁー、はぁー……ごめんね、本当に」

男「妹!?どうして!?せ、生徒会長、ち…血がまた出てる…」

生徒会長「おとこくん…」ドクドク

妹「まだ浅かったか、致命傷かどうかわからないけど、一発じゃ終わりそうにないみたいだね」ス

男「待ってて、いま出血を抑えるからね!まだ死なせいから!」

妹「お兄ちゃんどいて!!そいつ殺せないッ!!」

男「黙れよッ!!お前が『能力者』だってことは思い出してる…でも、絶対に生徒会長はやらせない!」バッ

妹「な、なんで……はっ」

妹(お兄ちゃんの後ろで倒れた生徒会長さんが少しずつ起き上がろうとしている。人を殺すのに躊躇なんてしてる場合じゃなかったんだ)

生徒会長「……」グググ

男「生徒会長無理にいま体動かそうとしないで!」

妹「っー…お兄ちゃんこっち来て!早く!」がしっ

男「え、ちょっ――――!?」

妹(あいつは足に矢をこの前に受けてる。その後にナイフで背中をだ、出血も激しいし、放っておけば倒れる)

妹(それなら、今はお兄ちゃんとあいつを分けるために距離を置こう。詳しい話は安全なところまで逃げてからで十分だ)

妹「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ…きっと私がお兄ちゃん守るからっ…!」



男「離せ、離してくれよ!生徒会長の元に行かせてくれ!」

妹「あの女に近づいちゃダメだって言ってるでしょ!?」

男「は…そ、そんなのお前の口から初めて聞いた!」

妹「いいから私の言う通りにしてよ!お兄ちゃんはあの女に殺されるの、『危険』なんだ!」

男「おい!てきと―――」

妹「適当言ってるように見える!?私がお兄ちゃんを守るんだ…守らなきゃ…」

妹(何度も繋いだ手を振り払われそうになるけど、この手は絶対に離さない。とにかくお兄ちゃんを遠くまで連れて行かなきゃ)

妹「こ、ここまで…はぁ……ここまで来ればたぶん撒けたよね?」

妹「お兄ちゃんそこの路地に入ろう?少しの間、隠れるの」

男「お前は僕に何がしたいんだよ!?」ばっ

妹「っつ…何もするわけないでしょ!私はお兄ちゃんと戦う気はないよ、この先もずっと!」

妹「お願いだから私を信じて一緒に来て。それからあの女と縁を切って、二度と近づかないようにして!」

男「だから……何なんだよ、何がしたいんだよ…」ガクッ

妹「とにかく隠れて。今ちょっと探知機で周り見てみ――――あっ、あ!?」

妹(『探知機』に表示された点は3つ。私とお兄ちゃんと、すぐ目の前に…!)

妹「どうして、あぁっっっ!?」バンッ

生徒会長「……どこへ行こうとしているの、妹さん」

妹「その傷でどうやって、何でここまで追って来れちゃうの…!?」

生徒会長「男くんがいる所になら、たとえ足を捥がれようと身を焦がされたとしても、追いかけるわ。地の果てまでだろうと」

生徒会長「私は男くんへ忠実な『従僕』なのだから」

妹(その様子から全くの無傷じゃないかと疑いたくもなったけど、彼女は血を流したまま、時折体をふらつかせている)

妹(確かにダメージは残っている。だけど、そんな事お構いなしでここへ来た)

妹「ば、ばけものかよ……!」

生徒会長「『意地』があるの。それに、まだくたばる準備もできていないから」

男「生徒会長…よかった―――って、安心できるわけないだろ!?」

男「妹、ここは僕に免じて彼女を見逃してくれ。このままじゃ本当に死んじゃう!」

妹「うん、『死ねば』いいんだよ……死ねば助かるから……」

生徒会長「どうやらまた私目的の刺客みたいね。今回はあなた、妹さん」

生徒会長「男くん、どうして欲しいか先に教えて。あなたの大切な妹さんでしょ」

生徒会長「今ここで殺すか、手足を折って死を伸ばしてあげるか」

男「!?」

生徒会長「流石に私も危険は払って安全を確保しておきたいわ。たとえあなたの妹さんが相手といえども」

生徒会長「『能力者』なら」ド ン

妹「この女……何なの?」

男「まずはそいつと僕で話をさせてもらえないかな、生徒会長」

生徒会長「わかった。でも少しでも変な動きを見せたら妹さんの足を踏ませてもらうわ、逃げられては困るから」

男「手荒なのは、はぁ―――妹、さっきお前が僕にした話ってどういう意味?僕が彼女に殺されるって」

妹「……私の『能力』はね、お兄ちゃんが死ぬ場面を全部見ることができるものなんだよ」

男「僕、のみ?」

妹「うん、お兄ちゃんだけ。あのね、お兄ちゃんがこれから死んじゃう可能性をゼロに変えられるのは私だけだと思う」

妹「お兄ちゃんを守れるのは私だよ。……生徒会長さんとお兄ちゃんがずっと一緒にいてしまったら」

生徒会長「私に男くんが殺されてしまう。どうかしら、あなたのその『能力』暴露を信じていいのかわからない」

生徒会長「その場稼ぎの出鱈目という疑いがあるわ」

男「こいつは僕に対して嘘はついたことないよ、生徒会長」

生徒会長「そうなの。でも、『騙す』ことはしていたんじゃないかしら?」

生徒会長「妹さんはきっと男くんを守ろうと、さっきの大男の『能力』を使わせた。倒すなら早い段階でやれるしね」

妹(お兄ちゃんに目が向いた、今!! 『時間巻き戻れ』!!――――――)

生徒会長「     」

男「    」

妹「っぷはぁ――――――はぁはぁ! っぐ、こっちの道じゃダメだ。もっと遠くまで……そうだ」

男「は…そ、そんなのお前の口から初めて聞いた!」

妹「お兄ちゃんこっち!!この先に駅がある筈だから!!」

男「僕の話聞いてるのかよ!?大体、そっちまで行ったら家から遠く」

妹「お願いだからこのまま私と一緒にあいつから逃げてよ、追ってきてるんだから…探知機は!?」バッ

妹(まだあいつの反応が現われてない。このままバスでも電車でもいい、追跡が無理な範囲まで逃げなきゃ)

妹「バスだ、良いタイミングで停まってる!お兄ちゃんこれに乗るよ!」ぐいっ

男「待ってくれよ!僕には何がなんだか…お前がしたいこと何にもわからない!」

妹「説明は後でするから―――き、来てる……もう追い付いてきた!?」

生徒会長「……」ヨロ、ヨロ

妹(に、逃げ切るのは無理だ。あんな人間じゃない奴からなんて……戦って確実に『倒す』必要がある)

妹「くそッ!!」ダンッ、ピタァ

男「妹?……あっ、生徒会長!!無事だったんだ!!」

生徒会長「待たせてしまってごめんなさい、男くん。今そっちへ…」

妹「お兄ちゃん、次はこっちに走るよ!もう少しだけ我慢しててね!」

男「うっ!?」

妹(一般人を戦いに巻き込むのは趣味じゃないけど、構ってる場合じゃない。あの女のことだ、たとえ人目があっても私へ躊躇なく攻撃を仕掛けて来る)

妹(私の『能力』は絶対にバレない自信がある。時間を戻してしまえるのだから)

妹(たとえ時を巻き戻してあいつの目の前へ今回ったとしても、きっと『瞬間移動』か何かに思われる)

妹(この『能力』の前では、敵なんていない。よくあいつが取った行動を覚えて、隙ができた瞬間まで時間を巻き戻し…)

妹(そこへ次こそは『致命』を与えてやるんだっ!!)

男「止まってくれよ妹、あんな状態の生徒会長を放っておけない!無理してるんだ彼女!」

妹「無理……?はぁはぁ、無理であれだけ動けるならどこまで頑張れるか、試してみようか!?」

妹「あいつは完全に『死ぬ』まで私たちを追ってくるに決まってるッ!」

妹(曲がり角を経過した。あの女も今。その後、あいつの後ろを車が走って行く。もう少し、もう少し……『ここ』で―――)

「!女彼だんるてし理無!いなけおてっ放を長会徒生の態状なんあ、妹よれくてっま止―――」男

妹(お兄ちゃんが通った道を一人でに戻って行く。そして今、あいつが角を曲がる瞬間まで、戻った!)

妹(角からあの女が現われた瞬間、思いっきり私があいつを道路へ突き飛ばす。そうすれば後は……やるしかない)

妹「『解除』―――――っわあああぁぁぁ~~~!!」ドンッ

生徒会長「!」バタ

妹(狙い通り生徒会長さんを道路のど真ん中へ転倒させられた。左から車…気づいてない、携帯見ながら運転してることに感謝だよ)

妹「やっぱり『無理』はよくないよね、生徒会長さん。少し転んだだけで上手く体を起こせそうにないみたい」

生徒会長「っ…」

妹(車の運転手がようやく道に倒れた彼女の姿に気づいたらしい。急ブレーキをかけたけど、車ってすぐには止まれないよね)

妹(生徒会長さんも遂には目を強く閉じて、諦めを見せた。『化物』はやっぱりただの『人間』だったんだ)

妹(あなたの『能力』はコショウが関係しているかもしれないって番長が報告してきたけど、コショウじゃ車は止められない)

妹「私の『勝ち』だよ。バイバイ――――――」

男「生徒会長おおおぉぉぉぉーーーーーーッッ!!」

妹「!?」

キイイィーーーーーー、バンッ

妹「……いまのは車があいつを撥ねた『音』?」

妹「そ、そうに決まってる…でも思ったより人が車に撥ねられても大きな音しないんだ……ぁ!?」

生徒会長「いえ、怪我はありません。大丈夫です。心配しないで行ってください…」

妹「どうして!?何で!?じ、時間よ巻き戻って――――」

妹(さっきの場面が私の目の前でゆっくり逆再生されていく。何が起こったの!?確実に仕留められるはずだったのに!?)

妹「何が……」

妹「!!」

生徒会長「   」グイー

妹「生徒会長の体が一人でに車線から外れてる!し、しかも座ったままの状態で…まるで何かに動かされてるみたいに」

妹「動かされた?ううん、こいつの『能力』でおそらく……はぁ!?」

妹「何か『小さな塊』みたいなのが、生徒会長の体についてる…これがこいつの体を動かした…そんなありえないよぉ!!」

妹「『塊』が体が離れていった…どこからか飛ばされてきたんだ……どこから―――」くるっ

男「   」スォォ、シュポ

妹「お兄ちゃんの『鼻の中』からあああぁぁぁ!?つ、つまり『塊』の正体って……『鼻くそ』」

妹「『鼻くそ』が人間一人をふっ飛ばしたっていうの!?どうやって、そんなの信じられ……る」

妹「これが、これこそがお兄ちゃんの『能力』だったんだ…『鼻くそを飛ばす』」ペタン

妹「『能力』の前で『ありえない』なんてことはない。たかが『鼻くそ』程度でも…」

妹「……そんなことより、お兄ちゃんがあいつを助けるなんて。私の考えが甘かった」

妹「っう!い、息…いまどれぐらい『戻されてる』!?あいつは――――ぷは、はぁはぁ……あ、あぁ?」

生徒会長「どういうことかしら。あなた、確かに男くんを連れて私の前を走っていたわよね」

生徒会長「それがどうして今、私の目の前に一人で地べたに座っているの?」

妹「しまっ、あうっっっ!?」どさぁっ

生徒会長「その様子、あなたまさか『能力』を発動して失敗してしまったのかしら」

生徒会長「何にしてもこのまま逃がすわけにはいかない」ギリギリギリ

妹「っああ!!」

男「……あれ、妹!?う、後ろ!?」

中途半端だな。でも明後日ぐらいに続く
たぶん次で終わりまでいけるかな?

生徒会長「男くんを生かしたまま私から逃げようとしていたわね。安全地帯で彼をゆっくり『始末』するつもりでいた?」

生徒会長「それとも、私から男くんを引き離すことこそがあなたの目的かしら」

妹「おにいちゃん助けて!こいつに殺されちゃう!」

男「せ、生徒会長…妹は…」

生徒会長「分かってるわ。あなたの大切な妹さんだもの、あなたの許可が下りるまで殺したりしない」

生徒会長「でも男くん。彼女を『無傷』で解放させるのは難しい話かもしれないわ」

男「……うん、覚悟はしてる。少しそいつと僕で話がしたいんだけど、いい?」

生徒会長「構わないわ。お茶を飲みながら落ち着いてという形にはさせてあげられないけれど」グイッ

妹「いっ!?痛い…痛いよ、お兄ちゃん…こいつに私を解放してとお願いして」

妹「こいつ、私に容赦ないの…っううぅ~……あぅ…肩、外されちゃ、うぅ…っ!」

生徒会長「心配しなくても拘束以上のことをするつもりはないわ。『今は』だけれど」

妹(こうも体の自由を奪われちゃったら、『能力』を発動できる余裕がない)

妹(少しでもこいつが力を緩めてくれたら時間を巻き戻して、もう一度こいつに攻撃を仕掛けられるのに)

妹(この女、『能力者』の扱いに慣れすぎっ…!!)

妹「うあぅっ!?」ギシッ

男「生徒会長、少しだけ力を抜いてくれても…」

生徒会長「ごめんなさい。彼女の『能力』が明らかではない限り、油断はできない」

妹「こいつっ……」

妹(お兄ちゃんはどう足掻いてもあいつの『味方』。当然か、妹とはいえ、取った行動は不審すぎるもんね)

妹(それでも私に対して『哀れみ』と『優しさ』は持ってくれている。どうにかしてお兄ちゃんに私を助けさせる事ができれば…)

男「妹、ごめんよ。でもお前がおかしな真似したのにも問題があったんだ」

男「何故僕を連れて生徒会長から逃げようとした?彼女が『能力者』だから?」

妹「あはは、私はあと『何回』この説明したらいいんだろ」

男「え?」

妹「…お兄ちゃん、生徒会長さんといるといつか死んじゃうよ。『もしも』を言ってるんじゃないの」

妹「『確実』にお兄ちゃんはその人から殺されちゃう。私の『能力』でお兄ちゃんのこれからを見れるから、嘘じゃない。信じて!」

男「信じるよ。お前が僕に嘘をついたことが一度でもあったか?だから」

男「僕の『能力者としての記憶』を奪ったのは、そうしなきゃいけない理由があったからなんだろ。今回のことだって」

生徒会長「男くんが私に殺されてしまうから。本当は私の息の根を止めて男くんの安全を守りたかった?」

生徒会長「殺すつもりがないのなら、包丁でいきなり背中から刺しに来ることもない筈だろうし」

妹「全部私がお兄ちゃんを助けたいと思ってした事だよ!お兄ちゃんはたとえ生徒会長さんと一緒じゃなかったとしても」

妹「この『能力者バトルロイヤル』で、何度だって命を落とす危険があるの。でもね、私はその可能性を先に全部潰して回ってるよ」

妹「私になら、お兄ちゃんへ訪れる『死の運命』を捻じ曲げられるんだ」

生徒会長「『未来予知』の力を持っているのなら、不可能ではないかもしれないわね」

妹「お兄ちゃんがこの戦いへ参加するのを止めることはもう無理だけど、終わるまで私がかならず守ってあげる!」

妹「だから、お兄ちゃんは戦わないで。その女とも一緒にいないで。私がずっと傍にいるから!」

男「妹……」

妹「約束するっ……おねがいだよぉ……」ポロポロ

男「妹、僕はお前の言うことを信じる。信じるけど、言う通りにはできそうにない」

妹「っー…どうしてよ…死にたいのお兄ちゃん!?本当に死んじゃうんだよ!?」

男「僕は始めからその『覚悟』を持って『能力者』になったんだ。お前だってそうなんだろ?命を賭けてまで叶えたい願いがある筈だ」

男「生半可な気持ちで戦おうなんて思っちゃいないさ。確かに死ぬのは怖いよ、怖いけど今さら我儘言ってられないよ」

妹「ばかぁっ!!お兄ちゃんのばか!ばか!」

男「カッコつけておいて言っちゃうけど、僕はお前と戦いたくない。死んで欲しくない。その気持ちは僕も同じだよ」

男「だから、これからは僕と生徒会長と妹の三人でいよう。その間、僕ら全員が無事に済ませられる方法か願いを考えるんだ」

男「ごめん、生徒会長。生徒会長にも夢はあるのに。こんな勝手で甘えたこと言い出す僕を許してくれないかなぁ…あはは…」

生徒会長(男くんは力のない笑顔を私へ向けた。全員が助かる方法なんて無いことを知って、彼は言っているのだと思う)

生徒会長(おそらく男くんは、自分の命よりも私と妹さんを取るだろう)

生徒会長(妹さんの気持ちを裏切ることがつらいのか、自分の死を恐れるのか。乾いた笑いは何かを必死に掻き消そうと続いていた)

生徒会長「男くんの命令ならば、私はそれを拒まないわ――――――」

妹「まだ分かってないの?そいつが生きてる限りお兄ちゃんは殺されちゃうんだよ…」

男「いつも三人でいたら、その『運命』も変わるかもしれないだろ。それでもダメならお前が生徒会長を止めたらいい」

男(僕は、僕は生徒会長から殺されるかもしれない。それで構わない。僕たちは『能力者』だ、始めから殺し合いを課せられていた)

男(彼女が僕の死を望むなら、その時は進んでこの身を捧げよう。十分いい思いはしてきた。戦いばかりの毎日だったけど)

男(それでも『幸せ』だったんだ。なら、もう僕は彼女の『幸せ』のための犠牲になろう。彼女のためなら、命はもう惜しくない)

男「生徒会長、そろそろ妹を離してあげて」

生徒会長「ええ」

妹「ばっかじゃないの?」

妹「お……お兄ちゃんはバカだよ、そんなにその女が大切?つい最近まで赤の他人だったのに?」

妹「どうしてそいつも助けようとしちゃってるの!?」

男「言わなくても分かってるでしょ。僕は彼女が―――」

妹「うるさいうるさい!!黙ってよもうっ!!」

妹「私たち兄妹だけが生き残ればいいの、他の人間なんて知らないよ。邪魔するなら死んじゃえばいい」

妹「お兄ちゃん…また一緒に、平和な頃と同じように、二人で仲良くしよ…ね…?」

男「……」

妹「っ、お兄ちゃんの分からず屋!もういい!」

妹(生徒会長は私から離れた。十分安全に『能力』を発動できる距離、間合いも足りてる。ここなら発動までの微妙なラグも気にならない!)

生徒会長(彼女の『能力は未来予知、男くんの死を見ることができる』。だけど、それだけかしら)

生徒会長(始めに妹さんを見たとき、彼女は無傷だったはず。それが今では所々に擦り傷も見られるし、打撲でできた青痣までも)

生徒会長(あれらは全て私が彼女を攻撃する前にはあった。男くんの様子から逃げる最中に敵と遭遇したとも思えない。転んでできたものとしてはありえない)

生徒会長(妹さんは、確実にどこかのタイミングで何者かから攻撃を受けたに違いない)

生徒会長「男くん、私から逃げている最中に彼女に変わったことはなかった?」

男「変わったこと?いいや、僕と妹はずっと生徒会長から走って逃げてただけだよ。あいつは変な事言ってたけど」

生徒会長「変?」

男「うん。僕が聞き覚えのない話を、まるでさっきも言ったのかみたいに急に切り出してきて……ただあいつが間違えただけだと思うけど」

生徒会長「…突然現われた全身の傷、以前同じことを話したかのような言動」

生徒会長「そして彼女はさっき私の前でいきなり現われ、座って呆然としていた。男くんと一緒に手まで繋いで、私から必死に逃げようとしていたのに」

生徒会長「男くん、私の勘違いでもなければ妹さんはもう一つ『能力』を持っているかもしれない」

男「何だって?」

生徒会長「『瞬間移動』にしては少し不自然なことが多いわ。可能なら、始めから足を使うことなく男くんと一緒に『能力』でどこかへ飛べばいいもの」

生徒会長「それと個人的にさっきの会話で気になったことがあるの。男くんは今回の不審な行動の理由を彼女へ尋ねたわよね」

男「う、うん。まずは話を聞かなきゃと思って」

生徒会長「その質問へ彼女が何と始めに答えたか聞いたかしら。聴き違いでもなければ、自分はあと『何回』この説明したらいいのか…と」

男「そんなこと言ってたっけ…ちょっとあんまり自信ないや」

生徒会長「男くん。つまり、彼女は以前にも私たちへ同じ話をしてくれたんじゃないかしら」

生徒会長「同じ話、突然現われた彼女とその傷。彼女はどこかの時間で今と同じような状況を体験していた、とか」

男「え?どういうこと、それ」

生徒会長「『時間』よ、男くん。彼女は私たちには知覚できない『時間』を自由に行き来できるのかもしれないわ」

生徒会長「予想が当たっているのならまずいわ。彼女の拘束を解くべきではなか―――」ダッ

妹「くっ、今さら動いたってもう遅いんだから!!次こそはお前を倒すんだ!!」

妹(『能力』に気付き始めている。なんて出鱈目な女!でも、遅い。この距離ならもしあの女が攻撃を仕掛けて来ても、私が勝つ)

妹(お兄ちゃんは『能力』で私を攻撃してくる気はない。『時間』を操るこの私に勝てる『能力者』なんて存在するものか)

妹「時よ――――――え?」

猫「ゴロゴロゴロゴロ」すりすり

妹(足元に一匹の野良猫がいた。猫は普段から餌を貰っていたのか人に慣れているらしい、これも私に餌を求めて)

妹「きゃっ…!?」

生徒会長「止まって」ガシッ

妹「い、いやぁ!!離して…ちょっ、こ、来ないでよ…そいつを私から離してッ!?」

生徒会長「あなた今『能力』を使って逃れようとしていたわね。悪いけれど、逃がすわけにはいかないの」

妹「やだあああぁ!!やだ、そいつっ…くちゅん」

妹「くちゅ、はくちゅ!! か、痒い……鼻水まで…何でこういう時に限ってすぐ体が反応しちゃ…くちゅ!」

生徒会長「どうしたの。まるで予想外なことが起きてしまったみたいな様子ね」

生徒会長「そこであなたへ懐いている『猫』が原因かしら」

妹「くちゅん!!痒い…痒いよっ…」ガリガリ

男「妹!おい、あっちいけ!餌なんて持ってない!!」

猫「」ダッ

生徒会長「男くん。これは一体」

男「……生徒会長、こいつは昔から酷い『猫アレルギー』持ちなんだ。少しでも触ったり、近寄るとこうなってしまう」

男「息が上手くできなくなるほどくしゃみと鼻水が止まらなくなっちゃうし、顔も腫れる。目や体も痒くなるみたい…」

妹「うぅっ…くちゅ、ぐううッ…ズズー……くちゅんっ!!」ガリガリ

男「喘息になって悪化する前に早く病院行くか家まで帰って薬飲ませないと」

生徒会長「そう、分かったわ。家まで送りましょう。偶然だったとはいえ まさか猫に助けられるとは思わなかったわね」

男「い、言ってる場合じゃないよ。妹大丈夫か?すぐに家まで連れて行くからな…もう少しだけ我慢して…」

妹「くちゅっ、おにいちゃあ…くちゅん!うぇ…くちゅ――――――はぁ、はぁはぁ……あれ」

生徒会長「少しは息がしやすくなったかしら」

妹「くしゃみ、止まった?」

男「生徒会長、まさか…」

生徒会長「気にしないで。これぐらいの事でしか役に立てないわ」

男「これに懲りたら危ない真似なんて二度としないでくれよ…っていっても仕方ないか」

生徒会長「他人事のように言わせてもらうけれどアレルギーがあると大変ね。それも猫だなんて」

妹「……」

男「そうだよね。あんなに可愛いのに撫でることもできないなんて。僕、こいつがこんなだけど猫大好きなんだ」

男「えへへ、昔は母さんに猫買ってくれってよく無理言ってたっけ?今思うとお前にはいい迷惑だよな」

妹「そんなことないよ…私が悪いんだから…」

男「お前は何も悪くないよ。それより、さっきより少し楽になれたかな?生徒会長にお礼言っとけよ」

妹「もしかして『くしゃみを止める』のが生徒会長さんの『能力』だったの」

生徒会長「今となってはバレてもどうにもならないわね。そうよ、どうしようもないけれどそれが私に与えられた力」

生徒会長「あなたの物と比較すると月とすっぽんも良い所ね」

男「やっぱり自分でもしょーもないって思ってたんじゃないか!ふふっ」

生徒会長「思わない方がおかしいわ。この『能力』を手に入れて素直に喜べる人の方が少ないもの」

男「そうかもね。僕も――――――ううん、何でもない!」

男(これから僕らはどうしたらいいんだろう。妹はまだ生徒会長を認めてくれちゃいない)

男(彼女が僕へ害を齎すことが絶対な限り、今日が無事で済んでも……その時は僕が妹を倒すしかないのか?)

男(それだけは嫌だ。妹は曲がりなりにも僕を助けようとしてくれている。優し過ぎた結果が、いいや、僕がこの大会へ参加しなければ良かった)

男(全てを巻き込み、嫌な目に合わせているのは僕なんだろう。たとえその意図がなかったとしても、僕が悪い)

男「妹、本当につらい思いさせちゃってごめんよ……僕はなんて言っていいのか……」

妹「……だいじょうぶ、だよ。私はお兄ちゃんのこと大好きだから」

妹「こんなこと、つらいなんて思わない。だから――――――」

男「!」

男(妹が懐から出したカッターを僕は見逃さなかった。でも生徒会長はそれへ気づいてない)

男(ゆっくりと、だけど確実に妹は手元を隠して生徒会長へ近寄って行く。走ってそれを止めに行くにはもう遅すぎた)

男(だから、咄嗟に僕は『能力』を使ってしまった。その瞬間、力の加減とか何だかんだと気にしている余裕なんて一切ない)

男(ただ、妹を『ぶっとばしてしまった』んだ)

妹「    」ド ン

生徒会長「!」

男「妹ッ!?」

妹「っうううぅ~~~……い、いたっ……」

妹(油断した今こそが仕留める最後のチャンスだった。なのに、どうしてこうなるの)

妹(あの攻撃は生徒会長が放ったものじゃない。わかってはいるけれど、それを認めたくはなかった)

妹(不意撃ちすぎて反応できないよ。頭地面に思いっきり打ち付けちゃったじゃん…くらくらするなぁ)

妹(お兄ちゃんが凄い顔してこっちに走ってきてる。結構私飛ばされてたんだ?)

妹(あれ、なんか聴こえる。お兄ちゃんの声じゃない。もっと別の……あ、車。こっち走ってきてるんだ。お兄ちゃんから見えないのかな、近寄ると危ないのに)

妹「にげなきゃあ…いてて…おにいちゃん…」ふら

妹(お兄ちゃんごめんね。私お兄ちゃんが本当に猫大好きだったの知ってるよ)

妹(本当はね、お兄ちゃん。私この大会で優勝して『猫アレルギー治してもらう』つもりだったんだ)

妹(そしたらさ、私もこれから猫好きになる努力するし、ウチで猫飼ってお兄ちゃんと一緒に可愛がれるでしょ?)

妹(くだらない願いだけど、それが私の『夢』だから許してね。お兄ちゃんの喜ぶ顔が好きだったんだよ)

妹「で、でもさぁー…もう……見れないかもね……」

妹「ごめんね、ほんとにごめんねぇ…守れるって、『嘘』ついちゃってたかもよ―――――」

キイイィーーーーーー、ガンッ

男「えっ!? あ……えぇ……?」

男「え……何あれ……?」

生徒会長「男くん、落ち着いて」

男「は?いや、あれ……嘘でしょ……」

生徒会長「男くん」

男「あ、あれれ……いもうとぉ…?」

男「妹、妹。どうしたんだよ?ああ、生徒会長おかしいよ。こいつ返事しないんだ…」

男「ほら、早く帰って薬飲まなきゃ大変でしょ。寝転がってる場合じゃないってば。それに制服も汚れちゃう」

生徒会長「男くんしっかりして。つらいのは分かるけれど、妹さんはおそらく」

男「生徒会長、こいつどうも居眠りしちゃったみたい。あれだけ頑張って長い距離走ったから疲れたんだね」

男「しかたないな、おぶって家まで連れてくよ。こんなこと久しぶりにしてあげるかなぁ…えへへ」

運転手「ご、ごめんなさい!!あ、あの救急車すぐに……警察もっ……こうなるなんて思わなかったんです、わたし」

運転手「その子が倒れてたなんて思ってもなくて、ブレーキ踏んだ時にはもう――――――げっ」

男「……」

生徒会長(車から降りてきた女が男くんへ何度も泣いて頭を下げていた、いたというのは、既に彼女はそうできない状態にある)

生徒会長(目にも止まらない速さで彼女は大きく吹っ飛び、車のフロントガラスを突き破って動きを止めた)

生徒会長「男くん、彼女へ『能力』を使ったわね。今のは一般人よ。たとえ妹さんを撥ねた人だとしても」

男「僕が妹を殺しちゃったんだ」

男「僕が、『能力』で妹をここまでぶっ飛ばした。そんなことしなければ、こうはならなかった」

生徒会長「……私を彼女の攻撃から守るためにかしら」

男「そうだよ?気づいたらもう手が届きそうになかったからさ、仕方がなく使ったんだ」

男「結果的に生徒会長は助かったね。でも妹がこれだよ…」

男「どうしたら良かったんだろ。何が正しかったんだろ。こんなの僕ごめんだよぉ…」ガクガクガク

生徒会長「男くんは悪くないわ。偶然が重なってしまったのよ、何も悪くない」

生徒会長「だから、私たちでこの大会を生き抜いて妹さんを――――――」

男「……せ、生徒会長ぉ…『命令』するよ、従僕のあなたに」

男「今から僕と戦って。どちらかが『死ぬ』まで戦おうよ、生徒会長」

生徒会長「男くん…?」

今回で終わるとか書いたけど次回になる。明日来るわ

男「妹をこんな形で殺しちゃったのは僕のせいだ。償う責任がある」

男「それよりも『理屈』で考えるより先に、僕は『妹を助けたい』。それが今の僕が持ってしまった『願い』だよ!生徒会長!」

生徒会長「だから、私もそれを叶える手伝いをと言いたいわ」

生徒会長「私の叶えたい願いはもう必要なくなった。私はあなたが喜んで貰えるのなら、今の私のままで十分だと気づけた」

生徒会長「男くん、私はこれから先もあなたの味方であり続けたいの。私たちが戦う事は永遠に―――」

男「違う。違うんだよ、生徒会長」

男「もし僕たちが最後に生き残った『能力者』になれたとして、願いを叶えるのは僕らの内どちらかだ」

男「生徒会長はたぶん……僕を『優勝』させようとするよね。自分を犠牲にしてまで」

生徒会長「…私が生き残れば、かならず『男くんを蘇らせる』。妹さんには悪いけれど」

男「同じなんだよ……僕もそうなれば妹よりも生徒会長の命を選んでしまうかもしれない」

生徒会長「……なぜ?」

男「どっちも僕にとって大切な人なんだ。大好きなんだ!」

男「きっと『迷う』!それでも僕は絶対に『生徒会長』を選んでしまう!分かるんだ、他でも無い自分のことだから」

男「僕は生徒会長のことが好きなんだよぉ…どうにもならないぐらい、大好きになっちゃったんだ…!」

男「だから今ッ!!『妹』の為に頭がどうかしてしまった僕が、やらなきゃいけないんだよッ!!」

男「そうじゃなきゃ……今生徒会長を失わなきゃ、僕は揺らいでしまう」

生徒会長「男くん、他に方法はないの?自分を騙してまで戦わなければならないの?」

男「生徒会長言ったじゃないか!いつかは僕と戦う『覚悟』があるんだって!」

男「僕もその『覚悟』を持った!やるなら『本気』だ、手加減なんて要らない。容赦なく、死ぬまで…」

男「自分の『命を賭けた戦い』をしよう……それが『最後』の命令だよッ!!」

生徒会長「……不思議だわ。最初にあなたと出会った時は、私本当に倒すつもりだったのに」

男「こんな事になるなら、僕たちは出会わなきゃよかった。僕はあなたと敵のままでいるべきだった」

男・生徒会長(殺したくない)

男「やれよぉぉぉ!!僕たちは『能力者』なんだよ、最初からこうなる運命だったんだぁッ!!」

生徒会長「……」

男「『わかった』って言えよ!?いつもみたいに殺すつもりで来いよ、僕はあなたの『敵』になったぞ!!」

男「だからもう……『主』とかじゃないよ……」

生徒会長「男くん聞いて。私はあなたに殺されても構わない。それであなたが救われるのなら」

生徒会長「『幸せ』には程遠いかもしれないけれど、男くんの為なら私は――――――!」

生徒会長(頬を『何か小さな塊』が掠めていった。通過して数秒も経たなければ気づくこともできない速さ)

生徒会長(男くんが『能力』で私を攻撃したのだろう)ツー

男「僕の『能力』を教えるよ、生徒会長。僕だけそっちのことを知っているなんてフェアじゃない」

男「生徒会長も僕にそう言ったよね?」

生徒会長「……男くん、私は」

男「僕の『能力は鼻くそを飛ばす』。驚いたよね?僕も初めて知った時は軽く絶望できたよ」

男「こんな『面白い能力』でどう生き残れるんだって。だけど、あなたと出会ったことで僕は今日まで無事でいられた」

男「同じ様にどうしようもない力なくせにさ、凄いよ。本当に凄い。『能力』が全てじゃないのかもしれないって思わせられた」

男「だから、こんな僕でも戦えるかもしれないって……!」

生徒会長「戦わなくていいの。好きに攻撃して。望むなら包丁で刺すなり、屋上から突き落としてくれても構わない」

生徒会長「あなたの手で死ねるのなら、私は何一つ拒まないわ」

男「っ……いい加減にしろよ、舐めるなよ…!」

生徒会長「私はね、男くん。あなたとは戦えないわ。もう『覚悟』なんて欠片も残ってはいないから」

生徒会長「男くんが私へ好意を持ってくれたと同じように、私も―――――」

バァンッ

生徒会長「かはっ…!」ドサ

男「生徒会長はさっきまでの戦いでかなりダメージを負った筈だよね。立つのだってかなり我慢してると思う」

男「傷ついた相手を一方的に嬲るほど僕は悪趣味じゃないよ」

生徒会長「……そんな余裕を見せていて大丈夫なのかしら」

男「戦えよ、僕と。意地でも僕を倒して、勝ち残ってみろよ…」

男「あなたはそういう人だった…情けない姿をこれ以上見せるな…」

生徒会長「ええ、ハンデはここまでにしておくわ」ブンッ

男「うぎっっっ!?」

男(尻餅をついて塞ぎこんでいた彼女の前へ、顔を近づければ…久しぶりだな食らったの。迷いなく顎を殴られた)

男「へ、へへへ……うげぇ……えへへっ…!」

生徒会長「今ので落ちないなんて、結構本気で殴らせてもらったのだけれど」サッサ

生徒会長(拳が痛む。これまでの誰を殴った時よりも、とても。彼から血を流させてしまったのは私)

生徒会長(お願いだから男くん、もう止めてと私へ言って。涙を流しながら向かってくるあなたをこれ以上殴りたくない)

男「僕を舐めないでよッ!!」ビュウンッ

男(躊躇いなく生徒会長へ『能力』を撃てる。本気だ)

男(一発目は避けられた。でもそんなの予想通りだよ、僕が何度生徒会長の戦い方を見てきたと思ってる?)

男(二発目、三発目、放たれた『鼻くそ』は彼女の体ではなく、地面を抉った)

男(たかが『鼻くそ』にこれだけの破壊力があるのは信じられない。人一人を大きく吹き飛ばせる事もできれば、穴を開ける事だって)

生徒会長「あれが男くんの『能力』……まるで弾丸だわ」

生徒会長「『飛ばす』だけでも、単純に恐ろしい速度がある。妹さんを飛ばした時のものとは桁違いの威力…」

生徒会長(道路に止まった車を盾に男くんの『鼻くそ弾丸』を防ぐことで今は精一杯。長くこうしている暇はないでしょうね)

生徒会長(彼は本気で私を『獲り』に来ている。もう私の声が届くことはないかもしれない)

生徒会長(戦いたくない。できることなら、逃げて彼から離れたい。でもそれからどうしたらいい?)

生徒会長「……何も考えられないわ。その後なんて」

ズドォンッッ

生徒会長「!!」

男「今のはありったけ僕の『鼻くそ』を固めて撃った一撃だ。聴こえたでしょ?物凄く大きな音」

男「そうやって『弾切れ』を待っているのかもしれないけど、残念ながら僕にそれはないよ。ストックは次々と補充されていくらしい」

男「この車さ……どれだけの攻撃を耐えられるかな……ちょっと試してみようか」

生徒会長「まずい…逃げ――――」

男「ふんんんんッッッ!!」ズドドドドドドド

男(『鼻くそ』のガトリング砲だ。連発されたところで弾切れはおきない。何度だって撃ち込める最強の『銃』)

男(僕の両穴から数秒間に何百発の鼻くそが飛び出ていっているのだろう。車は既に穴だらけになって、向こうの壁まで貫通し始めている)

生徒会長「   」バッ

男「ようやく出てきた……逃がさないよ、まずはその『足』から撃ち抜くッ!!」ダダダダ

生徒会長「私の『能力』を忘れたのかしら、男くん?」ポイ、ファサ…

男「は?あ、コショ―――――――――へっくしゅん!!」ブシュッ

男「へぶ、くしゅん!!はっ……くしゅ!!く、くしゃみで…鼻水が……!?」

生徒会長「あなたの『能力』はかなり厄介。だけど、発射できる個所が限定されているわ」

生徒会長「それならまず、そこを叩き潰してしまえばいい」グッ

男「くうっ―――――――がぶう゛ぅっっっ~~~ッ!!」

男(慢心していた。生徒会長渾身のハイキックが僕の鼻骨を捉える)

男「あう、ぎ、ぎゃあ゛あ゛ぁあああああああぁぁぁぁぁぁーーーっ!?」ドクドクドク

生徒会長「これであなたの『能力』は発動が難しくなったでしょ。呆気ないわね、男くん」

生徒会長「それでも続けるというのなら、私へ格闘戦で挑む?次は腕と足を使えなくしてあげるから」

男「っー……!!」

生徒会長「私が手負いだからどうしたの。勘違いしないで、勝手に弱っていると決めつけられたら困るわよ」

男(敵対して初めてわかった。彼女は『おかしい』)

生徒会長「それで私へ勝とうとするなんて10年早いわ」

生徒会長「あなた、もしかして私へ自分を殺させるつもりだったのかしら」

生徒会長「『嫌よ』。私は男くんを殺すつもりはないから、絶対に」

男「……」

生徒会長「だから妹さんが見た未来は出鱈目に決まっている。予想は外れるの」

生徒会長「きっと……男くんと私が手を組まなければ、いずれ…だったのかもしれない」

生徒会長「……二人でこれから病院へ行きましょう。もう十分――――――」

男「生徒会長、あなたは僕を侮り過ぎた。いや、『能力』を侮っている!!」

生徒会長「えっ」

男「いつもの生徒会長らしくもないね、僕以上に『対能力者』の時は慎重でいたのにさ」

男「舐めてたんだよ、僕を……自分を殺させるつもりだって?」

男「ふざけるなよッ!!」

生徒会長「男く――――――――!?」ズドンッ

生徒会長(体へ訪れた鋭い痛み。鉛弾を撃たれてしまったのかのような……『弾』?)

生徒会長「あぐっ!」ズドンッ、ズドンッ

生徒会長(四方八方から、まただ。あらゆる方向から弾丸が私へぶつけられている。これは、男くんの『鼻くそ』?)

男「……はぁはぁ、距離を…いまのうちに」よろよろ

生徒会長「まっ、ああっ!!」ズドンッ

生徒会長「っ…」

生徒会長(『鼻くそ弾丸』が飛ばされているのは間違いない。でも、固さも鋭さも全てがバラバラ)

生徒会長(男くんの鼻骨は確かに潰した。あの状態で次の攻撃を仕掛けるのは無理がある。現に私の前で一度もそんな素振りを見せていない)

生徒会長「『鼻くそ』……まさか」くるっ

小学生「急いで帰らなきゃ7時からのドラえもんスペシャル見れなくなっちまうぞー!」ヒュ

小学生「ま、待ってよぉーう!」ビュン

主婦「でねぇ、ウチの旦那ときたら」ズズズ

主婦「あらぁ、お宅も苦労してるのね」シュン

生徒会長「くっ……早合点していたわ。男くんの『鼻』を叩けば『能力』は発動できない」

生徒会長「そうではなかった。男くんの『能力は鼻くそを飛ばすことができる』、それは自分の物だけに限定されるわけではない」

生徒会長「誰だろうと関係はなかった…出せる者全ての『鼻くそ』を操り、自在に撃つことができる」

生徒会長(また車の影へ逆戻りになってしまった。周囲に人が残っている限り、迂闊に顔を出す事ができないわ)

生徒会長「そして、男くんの姿を見失ってしまったわね……攻撃しつつ、敵から逃げることも可能だなんて十分過ぎるほどの力だわ」

ズドンッ

生徒会長「!」

生徒会長(すぐ近くの壁へ『鼻くそ弾丸』が埋まった。男くんが直接視覚で姿を捉えていなくとも、弾丸が敵を追えるとでもいうの?)

生徒会長「……ダメよ、落ち着かなければ。彼は私の動きなんて見るように取れているに違いない」

生徒会長「それだけ一緒に、隣に彼がいたんですものね…男くん…」

男「はぁはぁ……生徒会長、まだ動こうとしない。この距離からまだ攻撃できる!」

男「それとも既に『鼻くそ』は彼女を貫いた後か?…いや、まだなんだろうな」

男「ううっ、頭がくらくらするよ…だけど妹が受けた痛みに比べれば、この程度はッ!!」

男(僕の『能力』はかなり応用が効く方だと思う。範囲こそ広い方ではないけど)

男(発射された『鼻くそ弾丸』の飛距離はバカにはできない。速度を落とさずに目標を追うその威力も)

男(あの完全無敵を誇る生徒会長といえど、どこから飛ばされてくるか分からない遠距離攻撃にはそう簡単に対応できないだろう)

男(僕は本気だよ、生徒会長。あなたが今どう動こうとしてくるか僕には分かる。絶対ではないかもしれないけど)

男「おそらく『コショウ』で周りの人間を止めてくる。彼女がどれだけコショウを持ってるかわかんないけど、唯一の防衛手段だ」

男「鞄一杯は……そのまま僕まで向かってくるだろ。本体を叩けば『鼻くそ弾丸』は自由に撃たせられないから」

男「僕自身、もう『鼻くそ』を撃てる気がしない……近づかれたらアウトなんだ」

男「『能力』に頼りすぎて倒れた『能力者たち』を僕は知ってる!早い内に新しい攻撃手段を見つけなきゃ」

男「この『攻撃』も…完全に生徒会長を撃てているのか自信はないからな…僕が目視しないと、確実には…」

男「確実に……殺せない……ううっ」

生徒会長「攻撃はけして正確ではない。確かに『鼻くそ弾丸』は私へ向けて飛ばされているけれど」

ズドンッ

生徒会長「……やっぱり本体が相手の場所を完全に把握していないといけないみたいね、男くん」

生徒会長(おそらく『能力者探知機』を使って私の位置を確認している。でも男くん、上下の情報が上手く処理できてないと前に教えた筈よ)

生徒会長(今のあなたには、私が壁の上にいるか、伏せているかも分からない。だから『弾丸』が狙う位置は一定じゃない)

生徒会長「探知機で見るに…男くんはそう遠くない場所で身を隠しているみたい…」ピッ

生徒会長(どうする?コショウを使ってそこの人たちを黙らせ、一気に男くんへ向かう?……おそらく読まれているわ)

生徒会長(私の『くしゃみを止める能力』は使い勝手が悪い。コショウをバラ撒いて自分だけが耐えられる、とか)

生徒会長(『対能力』では無能といって良いほどのものだわ。『最弱の能力』でしょうね)

生徒会長「……もし男くんを逃して、人通りの多い道へ入られたらまずい」

生徒会長「今からあそこの人たちを振り切って、男くんの元へ走る。だけど、彼は私の接近に気付き、すぐに距離を置くはず」

生徒会長「難しいわね。今の私の足で彼を追いかけられるかしら…そろそろ言う事を聞かなくなってきたみたいだし」ス

ピク、ピクピク・・・

生徒会長「彼を『殺さずに、どうにか再起不能へさせる』。どうにかして」

男「まだ生徒会長が動こうとしない……彼女なら、そろそろ行動に移ってもいい頃なのに」

男「まさかこのまま時間を稼ごうって魂胆か?あそこの人たちもいつまでも居座っているわけじゃない」

男「ぼ、僕が動きだすべきなのか!?まだ何も思いついて――――――メール? しかも、生徒会長だって……何か添付されてる」ピッ

男「!?」

男(画面に表示された画像は、僕の妹を真上から見下ろすように撮影されたものだった)

男(それだけで腸が煮えくり返りそうになる。だけど、今は冷静に考えるんだ……なぜ同じ場所から、妹から離れた距離にいる彼女が)

男(この画像を撮影できている?)

男「っ……!」

生徒会長『本文:こちらに戻って来なさい。さもなければ、妹さんの遺体がどうにかなってしまうわ』

男「こんなの、こんなやり方って……くそッ!!」

男(ふらつく頭を抱えて僕は彼女の元へゆっくり歩き始めた。甘く見ていたのは僕の方だ、彼女は相手が『能力者』なら)

男(どんな汚い手段だろうと、躊躇なく実行しようとする。知っていたはずなのに、僕は…)

男「考えてる暇なんてない!バカだろうと何だろうと、僕はこんなの…許せないよ、生徒会長っ…!!」

男「妹…妹ぉっ……!!」

男「どこにいるんだ生徒会長!!僕は来たぞ、姿を現したらどうなんだよ!!」

男(ここへ到達するまで『探知機』を確認するなんて余裕がなかった。頭の中はただあいつの遺体の無事だけを願っていた)

男(これは妹が持ってた『探知機』だ。生徒会長と戦うために借りた。大切な、大切な形見なんだ)

男(それへ表示された画面を再度ここで確認する。いない。生徒会長の姿はもうそこにはなかった)

男「どうだっていい、どうなったって……はぁはぁ、どこだ――――――あっ」

妹「   」

男「妹!!ああ、妹……無事だった……ううん、無事じゃないのか」

男「お前は僕を守る為に今まで戦ってきてくれたんだね。それを疑うなんて僕はお兄ちゃん失格だよ…」

男「待ってて、僕がかならずお前を助けるから……たすける、から……」

男「生徒会長を……大好きな彼女を、殺して……また、僕は好きな人を殺すのか」

男「だ、だめだ…余計なこと考えるなよ…ここまでやっておいて、止めるなんて…!!」

生徒会長「ごめんなさい、男くん」

男「!?」

男(彼女の声が背後から聴こえた。焦って振り向いた時、そこには―――)

委員長「きゃ~るるんっ☆」クイ

男「っああぁーーーっ!? か、かわいい……くそ……はぁ、なんてうわめづかいなんだろぉ…」

生徒会長「本当にごめんなさい男くん。一対一の勝負でケリをつけたかったでしょうけれど」

生徒会長「『これ』が一番あなたを安全に止められる方法だったの。妹さんと同じ手を使うことになるとは思いもしなかった」

委員長「生徒会長さまー?さっさと言う事言っちゃわないとまた暴れ出すかもしんないですよー?」

生徒会長「そうね。あなたにも悪かったわね、急に呼びつけたりして」

委員長「来なきゃ家焼くなんて言ったの誰だっつーの―――あっ、何にも言ってませんよぉーう♪」

生徒会長「そう、なら男くんへ言ってあげて。『生徒会長という人間を忘れなさい』と」

生徒会長(こんなやり方、卑怯だと言われたって仕方がないとは思う。だけど、これしか思いつかなかった)

生徒会長(今後、私は男くん。あなたを陰から助けるわ。そして『優勝』させてあげる)

生徒会長「妹さんを蘇らせてあげて。あなたの中から『私』という存在を消せば、迷いなんて生まれないでしょ?」

男「きゃわいい……」

委員長「なんか色々気になるんですけど、まぁいっか。男くんあたしが可愛いなら言う事きちんと守ってねぇ?」

委員長「男くんはこれから先、生徒会長を忘れ――――――げっ」

生徒会長「……なにを、しているの?男くん」

男「っぐ…ぁつ……」ポタ、ポタ

生徒会長(男くんは手に持ったカッターで自分の太股を深く突き刺していた。私たちが声をかけると、何度もそこを突き刺すのを止めない)

男「あああぁぁぁー…!」ザックザック

委員長「ちょっと!あたしはそんな事しろって頼んでない!生徒会長さまも聞いてたでしょ!?」

生徒会長「男くんやめなさいっ、お願いだからやめてっ」

男「うる…さい……僕は…僕は……!」

男「『あなた(生徒会長)を忘れる』なんて絶対に嫌だぁぁぁ…!!」

生徒会長「え?」

男「もう誰かが僕の為に戦って傷つくなんてご免なんだよぉ…大きなお世話なんだよっ!!」

男「そうやって自分を押しつけて、僕を最後まで助けてくれようとして…いい迷惑だぁ…!」

男「ねぇ!何でこんなに傷つけたのに、まだ『助ける』んだよ!?どうして殺さないんだよぉぉぉ!?」

生徒会長「言った筈よ、男くん。私は男くんを殺さないと」

生徒会長「たとえ何があろうと私はあなたの『従僕』なのだから……」

男「あ、あ……ははは……そっか、じゃあどうしようもないじゃんね……」

生徒会長「ごめんなさい」

男「いいよ、もう……それじゃあさ、最後って言ったけどあれ取り消し。今度こそ最後の命令だ」

男「僕の傍にきて、生徒会長!」

生徒会長「ええ―――――――」

生徒会長(その瞬間だった。私の鼻の奥が少し動く、感じたときには遅かった)

生徒会長(私の中から放たれた『弾丸』は男くんの左胸を貫いてしまった)

男「ぎっ!?」

生徒会長「男くん!?」

男「え、えへへ…ちょっと場所ずれちゃったな…」

生徒会長「喋らないで男くん!あなた、どうしてこんな愚かな真似を!待っていて、いま―――」

がしっ

男「いいんだ。これで……これでいいよ……僕の『負け』だ」

男「やっぱり生徒会長は強いなぁー!本当に誰にも負けたりする所、想像つかないよー!」

生徒会長「ふざけないでよ…」

男「ごめん。でも正直な話だよ、生徒会長はこの先も生き残れると思う」

男「僕はあいつの後を追うよ。一人ぼっちにさせたら可哀想だ。母さんには悪いけどさぁ」

男「…僕ね、この戦いに参加したのって『憧れだった生徒会長と親しくなりたかった』からなんだよ」

男「ただそれだけ。それだけの為に『能力者』になった。それでさ、突然大人の男の人に殴りかかったりもして…自分勝手な願いだよねぇ」

男「でも、優勝するまでもなく僕たちはこうして出会えて、話もできたし、おかしいよ。本当に!」

生徒会長「お、男くん」

男「僕の願いってさ、もう叶ってたんだよ」

男「あんまり長い期間とは言えないけど、それでも充実してたかもしれない。物騒な毎日だったけどね!」

男「本当は……我儘言わせてもらえたら、もっと一緒にいたかった……くやしい、くやしいよぉぉ…」

男「生徒会長が大好きって気持ちずっと変わらない。だから、もう僕はここでリタイアさせて?」

男「身勝手だけど…」

生徒会長「男くん」

男「……なんだ、さっき聞いた話と全然違うじゃないか。生徒会長は」

男「感情のないロボット人間なんかじゃないよ、それとも今僕の顔に落ちてきてるのってオイル?えへへ…」

生徒会長「男くん」

男「やっぱりあなたのことずっと好きだなぁ、僕…!」

男「ごめんね、ありがとう生徒会長―――――――」

生徒会長「男くん…男くん…」

委員長「生徒会長……あの、その、もう男くん」

生徒会長「うるさいっ!!男くん、男くんっ!!」

生徒会長「っー……!」

生徒会長(男くんは死んでしまった。私の腕の中で最後まで安心させるよう、痛みに耐えて、笑顔のまま)

生徒会長(悔しさも悲しさも、様々な感情が私の中で渦巻いて爆発した。何にも構う事なく、溢れる涙も声も止めずに)

生徒会長「……このままで終わるわけにはいかない。私が彼の代わりに戦わなきゃだめ!」

生徒会長(皮肉にも私が感情を露わにして、表情をよく変えるようになったのはこの時が切っ掛け)

生徒会長(男くんが残してくれたものは大きかった。だけど、今の私にはそんな物は必要ない)

生徒会長(『男くん』がいなければ、私は私を保てそうにない。いつの日壊れてしまう。だから、そうなってしまう前に―――)

教師「うぎ、ぎぎぎ……ぐぇ……」ガクッ

生徒会長「あと何人『能力者』を殺せばいい。あと何人!?」

生徒会長「どれだけ私は殺したらいいのよっ……!!」



生徒会長(数え切れないほど『能力者』を倒した。何度だって危機に陥ったし、こちらが殺されもかけた気がする)

生徒会長(戦える限り、私は一日だって休まず殺していたと思う。こんな『能力』で何ができるか?)

生徒会長(限度はあるけれど、『能力』が全てではないわ。その辺に落ちている物だって、敵だって利用できるもの)

生徒会長(使える物は全て使う。そうしたら自然と活路は開けて行くの。『絶望』してしまわなければ)

生徒会長「……男くん、男くんあと少しだから」

生徒会長「次は――――――えっ」パリン

生徒会長(手の中にあった『能力者探知機』が砕けて落ちた。欠片を焦って拾おうとすれば、その中に一枚紙を見つける)

生徒会長「『Congratulation!!』……で?」

主催者「そのまんま『おめでとう』の意味なんだが、君は頭が良いという設定ではなかったかな?」

主催者「おめでとう、君で『最後の能力者』だよ。最初に言っておこう、君は頭がどうかしている~」

生徒会長「……」

主催者「一体何を必死になったのか、君だけ殺害数がずば抜けている。一日で何人だ?計算するのも面倒だね」

主催者「よくもまぁ、やり遂げたもんだ。誰も君が持つ『くしゃみを止める能力』へ賭けた人はいなかったのが残念だが」

生徒会長「私の願いを早く叶えて。それ以外あなたと話す気はないわ」

主催者「そう?じゃあ言ってごらんなさいよ?」

生徒会長「私たち『能力者』が」

主催者「そいつはダメだよ。大会が始まる前の時間まで戻せって言うつもりだったんだろ?」

主催者「『無理』な話もあるんだよ、願いと言われてもね。こっちの都合もあるんだ」

主催者「それじゃあ……そんな君が次にしてくれる『お願い』はなんぞ?」

生徒会長「男く―――――いいえ」

生徒会長「さっきと似たような内容になるけれど、大会が始まったその時まで時間を戻すというのはどうかしら」

生徒会長「『参加者』も決まり、スタートした時まで」

主催者「ほう、そいつは予想していない願いだよ!」

主催者「君なら『男くん』を蘇らせることを頼むと思っていたんだけどね、さっきといい、他の人間のことも気にかけているのか?」

生徒会長「……あなたには関係ないでしょ。やれるか、やれないか。どっちよ?」

主催者「うん、それならOKだよ。むしろ大歓迎だよ。でも、やり直したところでまた同じ事を繰り返すかもしれないんじゃない?」

主催者「あまり利口な願いだとは思わないね、僕ならもっと自分の為になることを」

生徒会長「男くんを助けたい」

主催者「わかった。じゃあそうしてもらえばいいよ。またよろしくね、生徒会長ちゃ~ん―――――――」

男「おっ、猫がいる!」

男「野良じゃないな、首輪付いてるし飼われてる?よしよし」

猫「ゴロゴロゴロゴロ」

男「学校の中にいると危ないぞ。すぐ出て行かないと……はぁ、猫かぁ」

男「妹が『猫アレルギー』でもなければ、お前みたいな可愛いのと暮らせたかもしれないね」

男「まぁ、無理言っても仕方ないよね――――――」

理系女子「ちょっと、あなた男くん?まさかあなたに探知機が反応してるなんてねっ!」

男「え?あれ、君は確か隣のクラスの……初対面だよね?僕に何か用ですか?」

理系女子「ふん、何惚けてんのよ。あなたも私と同じ『能力者』でしょ?『能力者』同士が出会ったその時は…」

男「の、能力者?いきなり何言っちゃってんだこの人……」

理系女子「殺し合わなきゃいけないのよッ!!」

男「はぁ!?わけわかんな――――――」

生徒会長「退いて、邪魔よ。あなたは早く逃げなさい」

男「……せせせせ、生徒会長ぉ~~~っ!?え、あの、これは」

生徒会長「『邪魔』と言ったのが聴こえなかった?いいからさっさと逃げなさい!」

男「は、はいぃぃぃ!!」

理系女子「ああっ……ちぇ、まぁいいわ。相手が誰だろうと関係ないもんね」

生徒会長(男くん、私はあなたを守り続けるわ。たとえ傍にいられなくても、触れ合えなくても、従僕でなくても)

生徒会長「私はあなたが『好き』なままだから!戦える!」


おわり

不完全燃焼な終わり方したかな?とにかく終わり
安価能力考えてくれた人たち、ふざけた能力どうもありがとうだよ

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