池袋晶葉「ふふふ……耳を掃除してやろう」 (24)




モバマス


地の文


晶葉が発明した装置でPの耳かきをするだけのSS




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395234471


池袋晶葉(14)
http://i.imgur.com/PcCCWRe.jpg
http://i.imgur.com/mR3SxO5.jpg


仕事もやっとこさ一段落ついたので空き時間にしばらく休もうと

事務所に帰ってくるなり、天才少女にそう言われた。

あまりにも意外な発言で慌てる。


「えっ、あっ、今、なんと?」

「だから、私が発明した装置でPの耳を綺麗にしてあげようと言ったのだ」


聞き違いではなかったようだ。なぜ耳掃除?


「やっと耳かき機が完成したんだ。そこでぜひともPに試して欲しい」

「つまり実験台になれってことか。ああ、哀れなるマウスかな!」

「人聞きの悪い。失禁するくらい気持ちいいはずだぞ」

「そもそも、なんで耳かき用の装置なんて作ったんだ?」


晶葉は答えなかった。顔をよく見ると赤くなっている。


「…………だ」


なにやらぼそぼそと言っているが、小さくて聞こえない。


「えっ、何? 何だって?」

「ここ最近ずっとPは忙しかっただろ?

 だからせめてもの癒しを提供したかったんだ!!」


晶葉は耳まで真っ赤になっている。両目もすこし潤んでいるようだ。

悪いことをした気がする。そこでなぜ耳かきをチョイスしたか気になるが、

これ以上問い詰めるのもかわいそうだ。


「そ、そうか……ありがとうな」

「ふんっ、じゃあラボへ行くぞ!」


晶葉のラボはなぜか事務所と同じビルにある。

耳かきというとちょっとした恐怖感があるけど、行くのを断る口実は見つからなかった。


「というわけでやって参りました、池袋博士のラボラトリー。それはいいのですが

 なぜ俺は両手・両足・胴体・頭を拘束され、あおむけに寝かされるような体勢に

 されたのでしょうか?」


晶葉のラボに入ったときである。すぐ目の付く位置にそれは置いてあった。

大き目のマッサージチェアといったところか、見た目はとくに何の変哲も無い。

「早速始めるから座ってくれ」と言われて座った瞬間にこれである。

まったく身動きがとれなくなってしまった。


「なにしろ、デリケートな部分をいじるからな。

 これくらいきっちり拘束しないと危険なんだ」


晶葉は当然のことのように答えた。かえって恐怖感が増幅して危険な気がするのだが。

眼鏡の奧の瞳には狂気がひそんでいる。あんな晶葉は久しぶりに見た。


「具合はどうだ? 痛くないか?」

「動けないのがちょっとつらいけど、特に痛いということは無いな」

「ふっふっふ、では早速始めるぞ、Pよ。快感に打ち震えるがいい!」


あらぬ妄想を掻き立てるような発言である。本人は意識していないだろうが。

頭が動かないなか、目をぎりぎりまで晶葉の方に向けると、

PCでなにやら操作しているのが視界の隅に見えた。


「うひゃっ!?」


突如、耳に異物感を覚えた俺は、つい妙な声を上げてしまった。

冷たくて硬いものが耳に侵入してきたのだ。ぞわぞわと寒気が背筋を走った。


「おっと、済まない。驚かせてしまった」


晶葉が淡々と謝る。打鍵音がラボに響き渡っている。


「い、いきなりは止めてくれよ。びっくりしたなあ」

「それよりも天井のディスプレイに注目してくれ」


いままで気づかなかったが、天井には高そうな薄型のディスプレイが取り付けられていた。

見ると、なにやら黒くて長いものが大量に。これって毛か……?


「Pの耳の中だ。ライトを当てて、極細高感度カメラを入れた。シャープペンシルの芯程度の

 細さだから耳掃除の邪魔になることはない。しかし思ったよりも毛が多いな」


俺の耳の中がまじまじと観察されている。なんでこんなに解像度がいいんだよ。

想像以上に恥ずかしい。


「よし、まずは耳毛を剃ろう」


そういうと晶葉はまたPCを操作しだした。

ディスプレイの隅から、床屋で顔剃りに使う刃のミニチュア版が見えた。

それで毛を剃るようだ。


「完全自動制御だから人間にはできない絶妙な強さで剃毛できる。危険は無いはずだ」

「そこは危険は無いと断言してくれないか?」

「なにしろこの装置で毛を剃るのは初めてだからな。しかし問題は恐らくきっと無い」


そういう不安になるようなことをわざわざ言わないでほしい。

かといって逃げられる状況ではない。まな板の上の鯉の気持ちになるですよ。


  ちりちり

  すーっすーっ


「うわっ!?」


またしても想定外の感触にやられた。

映像を見ると、刃が穴の形に沿って滑らかに回っている。

同時に剃った毛を吸い出しているようだ。刃が当たるとき、一瞬冷たい感覚が走り、

そのまま絶妙な圧力で滑ることで、えも言われぬ感触が生み出されている。

しばしの快感とかゆみ。



  じょりじょりじょりじょり

  ちりっちりっ


するすると耳を流れる刃は、本当に気持ちよかった。

耳から背筋にゾクゾクと快感が走る。ところが同時に満ち足りない気持ちも強くなっている。

剃り終わる頃にはかゆみの方がずっとまさっていた。ああっ、なんというむずかゆさ!

早く、一刻も早く耳かきを。


「ふふふ、もう我慢できないとでも言いたげな表情だぞ、Pよ。

 だが、映像を見るといい」


晶葉に言われるがまま、ディスプレイに映された我が耳を見つめる。

な、無い!? 鼓膜に到るまで耳垢が一切無いきれいな状態である。


「細かい耳垢なんかは毛と一緒に吸い出されたようだな。見たところ問題無い」

「そ、それじゃあこの痒みを抱えたまま終了ってことか!?」

「まあ、慌てるな、P」


そう言うと晶葉はまたキーボードを打ち始めた。


画面の隅に銀色の細くて薄いへらが見える。大きさから考えて、

ピンセットの先くらいの太さのものだろう。

えっ、これで?


「安心したまえ。このへらは刃物じゃないから切れることも刺さることも無い」

「結構怖いぞ、これ。鼓膜とか大丈夫なのか?」

「大丈夫、安全だ。私を信用しなさい」


晶葉が自信満々にそういうのなら、信じよう。

それよりも耳のかゆみが耐え難いものになってきた。

何も触れていないにもかかわらず、絶望的な刺激がたまらない。


「分かったから、頼む」


もはや懇願していた。

晶葉はまたもキーボードを叩く。画面を見るとへらがおもむろに動いている。

そして、ついにかゆい部分に接した。その瞬間……。


「うひいいいいい!!」


思った以上の快感だった。生まれて初めての悦楽が脳内に染み渡り、そして暴れている。

ぶーんというちょっと低い音が響き渡る。これは、へらが振動している?


「想定よりも激しい反応だな。大の大人がうひうひ騒ぐのは正直ひく」

「はあはあ。うっ、うるさい。何なんだこれは!?」

「毎分3万回の振動で耳に刺激を与えるへらだ。つまり500Hzの振動だ」

「こ、これ、すごすぎる。正直、とろけそう……」

「ひびきがねと言って、音叉で耳に微細な振動を伝える器具が中国にはある。

 安全かつ気持ちよく再現するのに苦労したよ。さて、ディスプレイに注目したまえ」


※ひびきがねの参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=ba22B7SDfbM#t=6m16s


言われるがままに画面に集中する。

へらが当たっている部分が少しずつ盛り上がってきているのが見えた。

痛みは全く無い。それどころがその対極にある感覚が耳を支配している。

まさかこれは? 


  ぴりぴりぴりぴり 


皮膚が剥がれていく光景が目に入る。と同時に耳から伝わるかすかな清涼感。

いや、皮じゃない。耳垢だ。

穴の内側の皮膚に見えていたのは、耳垢だったのか!?


「Pも耳垢が乾燥しているタイプか。もっとも、日本人はそちらの方が多数派のようだが。

 そういうタイプの場合、耳垢の正体は老廃化した皮膚か、耳に入ったごみなんだ」


晶葉が冷静に解説する。なるほど、剥がれる前の耳垢、すなわち古くなった皮膚を

振動するへらで刺激し、浮かせたわけか。


  がさがさがさ


再び画面に集中すると、小さなマジックハンドが剥がれた耳垢を掴んでいる光景。

自動制御だからか、かなり精確に捉え、


  ずぼっ


最高の爽快感とともに耳が軽くなった。

朝、それも夏の高原の早朝のような清々しい気持ち。

ああ、耳どころか体までも軽くなったようだ。


「消毒もしておこう」

晶葉がまたキーボードを打つ。

画面には細い綿棒が映っている。おそらく消毒液が染みこませてあるのだろう。


  すーっすーっ

  きゅっきゅっきゅっ

  すーっすーっ


耳の中をまんべんなく拭きあげていく。これもすこぶる気持ちいい。

アルコールの気化熱だろうか、耳じゅうがひやりとするのも面白い感覚だ。

メインディッシュの後のデザートとして、申し分の無いすばらしさだった。

そして最後に


  ふっ


「ひええっ!?」


完全に油断していた。耳の中を駆け抜ける一瞬の迅風。


「耳かきが終わった後に、息を吹き込む人がいるだろ?

 ばっちり再現しておいた。しかしかわいい声だったぞ、P」

「なんでそんな機能までつけてるんだよ……」


「いるだろ?」と言われても、他人(?)に耳かきをしてもらうこと自体が初めてである。

しかしながら小気味よい刺激である。気持ちいい夢の国から現実世界に帰ってきたのを感じた。


「さて、次は反対側の掃除を始めよう」


快感の余韻醒めやらぬうちに、晶葉が言う。そうだ、もう片方あるんだ。

もう一回、あの快感を楽しめるんだ。知らず知らずにやにやしていたらしい。


「ふふふ、耳かきの愉しさに目覚めたようだな、P」


晶葉が意地悪く話しかけてきた。否定できない。がっちり頭を固められているので

うなずくことも、首を振ることもできないから、ただ単に黙っておくことにした。

ディスプレイには逆の穴の、耳毛でむさくるしい光景が映っている。

そこにさっきの刃が近づいてきて……。


――――――――――――

――――――――

――――


「ん、ああー」


いつの間にか眠ってしまったらしい。

体の拘束は解かれていた。そのままのびをする。


「よく眠れたようだな。あまりにも気持ちよさそうな睡眠だったから

 起こさずにおいたぞ」


晶葉が話しかけてきた。その気遣いはありがたい。

ふと気づくと、ウサちゃんロボがお盆をこちらに差し出している。

どうやらコーヒーを持ってきてくれたようだ。


「ありがとう。でも、変な物が入ってたりしないだろうな?」

「失敬な。普通のインスタントコーヒーだ。私も徹夜するときによくお世話になる」

「晶葉もアイドルなんだから、そういう生活は避けてもらいたいのだがな」


少しだけ苦言を呈すると、晶葉は頭をぽりぽりとかきながら話題をそらした。


「それはそうと、耳かき機の具合はすこぶる良好だったみたいだな」

「ああ、とても気持ちよかったよ。でも……」


晶葉の顔色が変わる。不安になったのだろう。


「こんどは機械じゃなくて晶葉自身に耳かきしてもらいたいな」

「なっ、何を言いだすんだ、急に!? もしかして耳かき機に不備でもあったか?」

「いや、とても気持ちよくて完璧だったよ。だけど今度は人のぬくもりが欲しいんだ」

「だったら別に私じゃなくてもいいだろう」


真っ赤な顔で戸惑ったように言い捨てる。

こうしてみると歳相応だよな、と思いつつ自分の気持ちを告げた。


「晶葉だからこそ、お願いしたいんだ」

「なっ」


またしても赤面。流石の天才少女も言葉につまってしまったようだ。


「そ、そこまで言うのなら仕方ない。だが、今は掃除したばかりで

 あまり刺激しすぎるのは耳によくない。だから、しばらく間を空けてからだな」

「その日を楽しみにしてるよ」

「ああ、私も……練習しておくから……」


最後はすっきりした耳でも何を言っているか聞こえないくらいに小さな声になったが

晶葉の気持ちは十分に伝わった。


おしまい


以上です。ありがとうございました。

相葉ちゃんの耳かきSSを読んで
またアイドルに耳かきされたくなったので書きました。


よかったら美優さんの耳かきSSもどうぞ(このSSとのつながりはありません)

三船美優「耳かきはいかがですか?」
三船美優「耳かきはいかがですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379340618/)

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