盗賊「とある盗賊のお話」 (36)


勇者「とうとう着いたぞ。魔王城に」

魔法使い「思えば長い旅でしたね……でもそれももうここで最後……」

勇者「……よし、そろそろ突入するぞ。皆、準備はいいかい?」

魔法使い「勿論ですわ、勇者様」

僧侶「……」コクッ



勇者「……君は? 大丈夫かい? ――盗賊くん」

盗賊「……へ? あ、ああ……おっけーおっけー! いつでもばっちこいですよ、勇者さん!」


勇者「そうか、それじゃ……行くぞ! いざ、魔王城へ!」

 

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盗賊「……」タッタッタッ


……はぁ、やっとラストのダンジョンまで来れたか。

さっさと勇者に魔王とかいうの倒してもらって帰りたいぜ。


勇者「みんな……ここまでついてきてくれて本当にありがとう。君たち仲間がいなければ僕は魔王の所までたどり着く事は出来なかったと思う」

何言ってやがるこのチート野郎。

そりゃ補助的な役割で多少旅を楽に進めた自信はあるが……本当に本気で俺達が必要だった場面なんかなかっただろ。

はっきり言って勇者一人でもこの場所まで平気でたどり着いた筈だ。断言できるね。

 



魔法使い「そんな……勇者様が平和の為に戦い続けた結果ですよ……戦闘の際の勇者様の迫力と言ったら、とても勇ましく、惚れ惚れするような……」

この女はこの女で終始勇者に媚売りやがって。

まぁ気持ちは分かるがな。

この冒険が無事終われば勇者は確実に英雄だ。出世街道まっしぐら。そんな明るい未来の待つ男に今の内から気にいられれば将来いい事あるだろう。



僧侶「……」ジー

盗賊「……ん? ジッと俺の方見て……どうかしましたか僧侶さん?」

僧侶「……別に」

盗賊「そ、そうですか……」

この僧侶は最後までよく分かんねえ奴だったな。

全然喋らねえし。

たまに何かを見透かしたような目でこっち見てくるしな。
 




勇者「ふぅ、大広間まで来たぞ……ここからは恐らく次々と上級の魔物が出てくる。一層気を引き締めよう」

……っと。考え事してる間にもうこんな所まで進んできたか。

そろそろ俺も行動開始としようかね。



盗賊「ちょ、ちょっと待ってください勇者さん」

勇者「どうしたの? 盗賊くん」

盗賊「いえ、申し上げにくいんですが、その……ここからは俺だけ別行動でもよろしいですか?」

勇者「別行動? どうして急に」

盗賊「実はさっきから感じていたんですが……この魔王城の地下に、人質らしき気配があるんです」
 


勇者「なんだって!? それは本当かい!?」

盗賊「ええ、間違いありません」

勇者「ふむ、確かに……盗賊くんの、盗賊としての“はな”はかなり信用できるからなぁ。君がそこまで断言するなら間違いないんだろう」

勇者「それで別行動って……まさか、君一人で救出に向かうつもりかい!?」

盗賊「そのつもりです」

勇者「そんな、危険だ! ましてや地下だぞ? 囲まれたら逃げ道もない! もしもそれが罠だったら……」

盗賊「危険だからこそ……です。万が一にも俺達パーティが全滅する事などあってはいけないでしょう?」

勇者「盗賊くん……」

魔法使い「盗賊さん……」


 




魔法使い「その話……本当ですの?」


ギクッ。

盗賊「な、何を言い出すんですか魔法使いさん。こんな大事な時に嘘なんかついてどうするっていうんですかー?」

魔法使い「だってあなた元々はただの……」

勇者「そうだよ魔法使い。仲間を疑うような事は言ってはダメだ」

魔法使い「ですが……いえ、すみませんでした」ペコッ


勇者「……盗賊くん。君の決意は分かった。ここからは別行動にしよう」

ほっ。

お人好し勇者で助かったぜ。

 




勇者「本当にそっちは君一人で大丈夫かい?」

盗賊「任せてください。きっと人質を連れて戻りますから」

勇者「うん、僕達も必ず魔王を討ちとるよ。絶対にお互い無事で会おう!」

僧侶「……ねぇ」

勇者「ん? どうしたんだい僧侶? 君も盗賊くんに何か一言……」

僧侶「魔物…………きた」


魔物「キシャアアアアアアアア!!」




勇者「……ちっ」

勇者「ゴミどもが……邪魔しにきやがって!」


盗賊「う……」ゾクッ

 



勇者「ぶっ殺してやる! うおおおおおおおおおお!」

ザシュッ

魔物「ギャアアアアアアアア」



で、出た。

対魔物時の勇者の顔。

普段の温厚そうな勇者からは想像もつかない顔。

勇者はいつも圧倒的な力で敵を一方的に殲滅する。

それは最早戦闘というよりは虐殺と呼んだ方がいいのではと思える程で……


……って、いかんいかん。

あいつ等の戦いを見てる暇はないんだった。

まぁあの様子ならきっと普通に魔王を倒しちまうんだろうな……魔王側に奥の手でもない限りは……
 





魔王城地下―


盗賊「地下に着いたぞ……」

さてと。

それじゃ早速……



盗賊「お宝を探すとしますかねー!」


ふふふ。

確かに俺には勇者の言う通り、盗賊としての自慢の“はな”がある。

これまでのダンジョンでもその“はな”で数々のお宝を嗅ぎつけてきた実績があるしな。

そのはなが言ってるぜ。この地下には……

とんでもないお宝が眠ってると!

 


え? 人質? ナンノコトカナー。

大体、俺のはなは何となくこの辺りに大事なものがありますよ、って知らせてくれるだけで、その種類まで判別できる訳じゃないし?

もしかしたら大事な人質が本当にいるかも知れないし?

……なんてなー。



まあ……いいだろ? これで最後だし。

どうせこの旅が終わったら俺はまた元の生活に戻るんだ。

どっちにせよ魔王との戦闘じゃ俺はからっきし役に立ちそうにもないし……な。



盗賊「……」スタスタ


……む、近いぞ。

だいぶお宝の気配が近づいてきた。


にしても。

俺のはなが正しければここはお宝のすぐそばの筈……

それにしては魔物の警備が薄い……どころか、今の所一匹たりとも見てないのだが。


……あーそうか。今頃勇者達が上で暴れてる頃だろうから、そっちに集まってるのか。

全く、勇者さまさまだな。

 
 





盗賊「ここだ……」


このドアの向こうに……とんでもないお宝がある……気がする!

扉も随分厳重な鍵をかけられて……これは期待大だ。

ええと、鍵の作りは……ふむふむ、なるほど。

おっと、魔力も込められてるのか。こりゃよっぽど大事なもんがこの中にあるな。

だがこんな扉開けるのなんざ、俺にとっちゃ……


盗賊「朝飯前だぜっ」ガチャッ

 



バンッ

盗賊「お待たせ、お宝ちゃーん!」

盗賊「って、ん……?」


なんだ、この部屋の……雰囲気……

ここって、もしかしなくても……

盗賊「牢屋……?」


「……だれ?」

盗賊「……っ!」ビクッ


声がした方を驚いて振り向くと。


幼女「あなた……だれ?」


子どもが一人、牢屋の中から俺を見ていた。

 

今日はこんだけ更新
頑張って完結させます






王の間―


魔法使い「す、すご……やはり勇者様……あの人は魔王を滅ぼすために生まれたお方……」

僧侶「……強い」


ザンッ

魔王「くっ!」

勇者「ふん……魔王といっても大した事ないな……大人しくくたばれ」

魔王「ま、まさか……ここまで強い人間がいるとは……この私が……負ける……?」

勇者「何を驚いている。僕が勝つのは当たり前じゃないか。僕は正義で……貴様は悪。正義は必ず勝つんだ。子どもでも知ってるぞ」

魔王「ふん、勝手な事を言いおって……どちらが正義かなど……そんなものお前達のものさしで決めつけたものでしかないだろうが!」

勇者「黙れ。悪の権化が。貴様の言い分など微塵も興味……ないわ!」ザッ

魔王「ぐうううっ!」

 



魔王「はぁ、はぁ……くぅ、ここまでか……こ、こうなったら……アレを使うしか……ない……!」


魔王「おい、使い魔! いるかっ!」

使い魔「は、はい! おります! 魔王様、大丈夫ですか!?」

魔王「アレを……解放しろ……」

使い魔「えっ!? ア、アレって……魔王様、まさか! ほ、本気ですか!?」

魔王「ああ……どの道このまま行けば私は勇者に倒される。ただでやられるくらいなら一波乱起こしてやりたいだろう?」

使い魔「ま、魔王様……」

魔王「さぁ、行け!」

使い魔「は、はいっ!」ビュンッ

 


勇者「何をするつもりか知らんが……好きにはさせん……」ダッ

魔王「おっと! お前の相手は私だろう?」ガキンッ

勇者「……! ふん、アレというのが何だか知らんが……それが貴様の奥の手か? 魔王」

魔王「ああ……アレは……私の手にすら負えん程の強大な魔力を持った……化け物だ」

勇者「何? お前以上?」

魔王「ふふ……この城は荒れるぞ……ふふふふ」

勇者「何がこようと、それが悪であればぶっ殺す! それだけだ!」

 






魔王城地下 牢屋―


盗賊「う……」

幼女「……?」キョトン


ま、まさか……

マジでこの城の地下に人質がいやがるとは……!

おいおい、嘘から出た真ってやつですか……?



幼女「……どうしたの?」

盗賊「えっ? あ、ああ……いや、なんでもないよ」

幼女「あなた……まものじゃない……よね」

盗賊「ん? ああ、そうさ。俺は人間だ。魔物じゃないよ」

 


幼女「どうしてにんげんがこんなところに……?」

盗賊「もちろん魔王を倒すためだ! 俺は勇者パーティの一人、盗賊ってんだ」

幼女「まおーはうえだよ。どうしてちかにきたの」

盗賊「えっ!? そ、それは……当然、君を助けに来たに決まってるだろ!?」

幼女「え……? わたしをたすけに? ほんと?」

盗賊「ああ、本当さ! 待ってな、今開けてやるから」

幼女「あ……うれしいけど……たぶん、むりだよ。そのおりね、たじゅーけっかいとかいうのがはられてるらしくてどんなにがんばっても……」

ガチャリ


盗賊「ほい、開いた。いいぞ、出てきて」

幼女「……あれー!?」

 



幼女「すごいね、おじさん。わたしがどれだけがんばってもあかなかったのに」

盗賊「お、おじ……」

ま、まあ、これくらいのガキからしたらおじさんか……くっ。


それにしても……まいったな。

てっきりここに凄いお宝があると思ってきたのに……あったのは捕まっていたガキ一人とは……

見つけちまったもんはしょうがないから、放っておく訳にもいかないしな。

だが、一緒に連れて歩くとなると足でまといになるから、これ以上お宝探索を続けるのも難しいな……

ちっ……面倒くせえ……なんでよりによってこんな地下にガキ一人捕まってるんだ……ついてねえ。

 



…………ん? ちょっと待てよ。


よく考えてみりゃ、なんでもないガキがたった一人、こんな魔王の城の地下に捕まってるなんて変だ。

もしかしたらコイツ、とんでもなく大事な人質なのか……!?




盗賊「な、なぁお嬢ちゃん! 君ってもしかして……」クルッ

幼女「それじゃーばいばい。ありがとね、おじさん」テクテクテク

盗賊「ちょちょちょ、ちょっと待った! 君、一体どこ行くつもりなの!?」



幼女「どこって……まおーのとこだけど」

盗賊「な、なんで!?」

 
 





幼女「きまってるじゃん。ぶっころしにいくんだよ」ニコッ


盗賊「ぶっ、殺……!?」


こ、この子、笑顔で何を……!

幼女「ながいこと、こんなくらいとこにとじこめられて……ぜったいゆるしてあげない」

どんだけ勝ち気なんだコイツ!

盗賊「いやいや、一回落ち着いて! 普通に危険だから!」グイッ

幼女「……ちょっと、はなして! たすけてくれたからみのがすつもりだったけど、おじさんもぶっころすよ?」

盗賊「ええー?」

どうでもいいけどむちゃくちゃ口悪いなこのガキ! 親からどんな教育受けてんだ。

 


盗賊「ま、待った待った。魔王に恨みがあるのはよく分かるけど! 大丈夫だから!」

盗賊「今頃俺の仲間の勇者さんがきっと魔王を退治してくれてるから! 勇者さんはとっても強い人なんだ。だから安心して……」

幼女「そんなのしらない!」

め、面倒くせー!

はぁ、こりゃ最悪力づくで抑えるしかないのか……?




盗賊「お、お嬢ちゃんの名前はなんていうのかなー?」

幼女「よーじょ!」

盗賊「幼女ちゃんか……幼女ちゃんはとっても可愛いねー」

幼女「……っ!」ピクッ


幼女「……か……かわいい? わ……わたしが……?」


……お? この反応は……

 


盗賊「うんうん! 幼女ちゃんはちっちゃくてとても可愛らしいと思うぞ!」

幼女「……う、うそ」

盗賊「なんで? 嘘なんかつかないさー」

幼女「うそだもん! はなしてー!」

盗賊「離したら幼女ちゃんが怪我しに行っちゃうから、離さなーい」

幼女「わたしつよいからだいじょーぶなの!」

盗賊「そうだねー。幼女ちゃんは強くて可愛いねー」ナデナデ

幼女「……んにゃっ!?」


盗賊「ん? どーした?」

幼女「……なに、いまの」

盗賊「えっと……頭を撫でた事を言ってるのか? あーごめん、いきなり撫でられて気分悪くしちゃったか?」

幼女「う、ううん……どっちかっていうと……よかった……かも」

盗賊「お……そう?」

幼女「うん……ね、もっかいやってみて」

盗賊「え? もう一回って……頭撫でるやつ?」

幼女「ん!」コクッ

盗賊「んー……あー、どうしよっかなー」

幼女「えー!? なんでー!? もっかいやってよー!」

 



盗賊「そうだなー、やってあげてもいいけど……俺の言う事聞ける?」

幼女「……え?」

盗賊「もう魔王の所行くとか危ない事考えないんだったら、撫でてあげてもいいかなー」

幼女「え、えー! そんなのずるいよー!」

盗賊「ずるくないですー」

幼女「む、むうう……」

盗賊「ん? どうする?」


幼女「うー……わ、わかったよー……いかない」


幼女「まおーのとこいかないから! だからさっきのやって!」

盗賊「よし! 偉い偉い」ナデナデ


幼女「ふわ…………えへ……これきもちいい……」

 



盗賊「……お母さんとかに撫でてもらった事ないのか?」ナデナデ

幼女「うぇへへ……」

聞いてねえし。だらしない笑い方しやがって。



……ったく、色々と変なガキだな。

大体魔王に喧嘩を売りに行こうと思うその常識のなさはなんなんだ。



……いや、だがそれは見方を変えると、これまで箱入りで大事に育てられてきた故の世間知らずとも考えられる訳だ。

確認しておく必要があるな……

 



盗賊「幼女ちゃん、一つ聞いておきたいんだけど……」

幼女「……ふぇ?」

盗賊「幼女ちゃんのおウチって結構お金持ち……いや、えっと、なんか大きかったりしなかった? 例えばお城だったり……」



幼女「うん、おしろだよ。だって……」

よっしゃああああ、きたあああああああああ!!


やはりな!

このガキ、おそらくかなり身分の高い王族か何かの娘だ!

魔王サイドにとってもかなり重要な人質! だからこんなラストダンジョンの地下にたった一人で捕らえられていたんだ!

そんな大事な人質を俺が無事救い出したとなったら……こりゃ、もの凄い報酬が期待できるぞ!

ふふ……なんだ。俺の“はな”はやはり間違っていなかった。

このガキは……とんでもないお宝だ!

 



幼女「……おーい、おはなしきいてるー?」

盗賊「幼女ちゃん!」ガシッ

幼女「うわっ! ……な、なに」

盗賊「君は、俺が必ず助け出すよ!」

幼女「え……?」


盗賊「何があっても君に傷一つつけないと約束する! 絶対に俺が君を守るから!」

幼女「まもって……くれるの? わたしを……?」ポー

盗賊「当然だ!」


だって君は、大事なお宝だからね!



盗賊「さぁ行こう幼女ちゃん! まずはここから脱出だ! 俺の手をしっかり握ってついてきて!」

幼女「う……うん!」ギュッ

 
 

今回はこんだけ更新
乙ありがとうございます

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