美希「ハニーの日記」(100)

■記念すべき1ページ目

春もうららかなこの季節。
一人目の担当アイドルである天海春香のプロデュースが一段落した。

結局Bランクという惜しいところで任期が来てしまったのが悔やまれる。

俺が担当じゃなくなってしまうが、当の春香はアイドルを続けていくらしい。

一年という長いようで短かった時間を思い返すと、いろいろと思うことも多々あった。

ありがたいことに、社長は俺との契約を続行してくれるとのことだったので、次の担当アイドルからはこのノートに観察日記を付けていこうと思う。

次の次のアイドルやそれ以降のアイドル、はたまた関係者各位の趣味趣向を漏れなく記載すれば、今後の役に立つだろうとおもったからだ。

じゃあ、明日の新しいアイドル(候補生)との会合に備えて、今日は寝るか。

明日からが楽しみだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365786616

本作は、
美希「ハニーの日記」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365786616/)
こちらのSSと紐づいた作品となります。

URLが誤っていました。
?春香「天海春香の日記」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365787115/)
こちらです。

■新人アイドル(候補生)
星井美希 15歳
この子が俺の新しい担当アイドル(候補生)だ。

ウェーブがかった背中まである長い金髪に、歳相応のかわいらしい顔と不相応のボディがとても魅力的な女の子だ。

ただ、どうも礼儀を知らないようで、 会って早々に、そこの人呼ばわりされてしまった。

何とも前途多難なことだ。
というか社長が話してるときに寝てんじゃねーよ。
社長も怒れよ。

あぁ、おとなしかった春香が恋しい。

俺の星井美希の第一印象は、礼儀知らずな生意気ボディだった。

■初めてのレッスン
星井美希のプロデュースを頑張ろうと、今日は気合を入れて出社した。

だが待てど暮らせど、美希が来ない。
当初予定していた時間から1時間程過ぎていた。

もしかして事故か?  何て一人焦っていたら、美希がひょっこりと顔を出してきた。

何かあったのかを聞くと、
「寝坊したの」だそうだ。

胃がキリキリと痛んだ。気がする。


この小娘……!
なんて思ったが、まぁいい。初日だし今回は見逃してやろう。

美希に今度から遅刻するときは連絡しろと、注意だけですませた。

「はーい。わかったの。そこの人」
あくびの後の気の抜けた返事だった。
ていうかそこの人じゃねーよ。プロデューサーと呼べ、とこれまた注意した。

どうも先行きが不安で、俺は自分の教育方針がすでに通用しないんじゃないかと、不安になった。

これを見返す、何年後かの俺へ。
そっちの美希が迷惑をかけてたらスマン。

ともかく気を取り直してレッスン場へ。
アイドルたるもの歌えることが大前提、というのが俺の持論なので、美希の歌唱力を確認するという理由でボーカルレッスンをやらせようとした。

するとどうだ。美希のやつ言うに事欠いて
「や」と一蹴しやがった。

どうやら、今日はダンスがしたい気分らしい。候補生のくせに。

今日は怒らない日と決めてしまっていたので、仕方なく美希にダンスをやらせてみる。

曲は春香の「I Want」

あれ、ダンスうまくね?
というか歌ってるし、それに春香より歌上手く(線で消されている)

今日のレッスンの収穫は、美希は踊るのが好きみたいということだった。


会話の時の声を聞いていて、声質はかわいらしいものかと思っていたが、どうもカッコいいのもイケるらしい。

これも今日の収穫。

社長が、あの子は素晴らしい原石だと言ってたな。
磨けば光りそうなのは確かみたいだが、いかんせんなめられている気がしてならない。

明日からはびしっと決めてやろう。

今日は寝る。

■初めての営業
今日は営業に行ってきた。
音楽家や音響のお得意さんに、星井美希の売り込み挨拶をするつもりだったのだが、
案の定、美希は遅刻した。

しかも2時間。

さすがにこれはダメだろと、美希を少しつよくしかりつけたら、少し泣きそうになりながらも、謝ってくれた。

さすがに謝れないほどゆとりではないらしい。
よかった。

今日の収穫。

泣き目で客先に出すわけにもいかないので、美希に顔を洗ってこさせにいってる間に、社長に呼び出されて注意された。
何故だ。

春香をプロデュースしていた時に、ずっとお世話になっていた音響会社へ挨拶回りに行ってきた。

数ある会社の中からここを選んだ理由は、設備や技術はもちろんなのだが、なによりスタッフの親しみやすさが気に入っていたからだった。

馴れ馴れしくなく、いい意味で砕けていてフランクなところが取っ付きやすくて、やりやすい。

春香も初めてここに挨拶しに来たとき、備品のマイクのスタンドを曲げてしまったが、スタッフ達は怒るどころか、面白い娘だね、と笑って春香のことを気に入ってくれた。
(春香は未だにそのことでイジられてるらしい)


美希に顔見知りが多いから緊張しなくていいぞ、って緊張をほぐすつもりで言ってみたら、
「緊張なんかしないよ」
と、何で緊張しなきゃいけないの、って心底不思議そうな顔をしていたのが印象的だった。

見栄を張ってるわけでもなさそうだったし、これは大物なのか大バカなのか。

美希の将来が不安でたまらない。

その後、音響家さんたちとの挨拶はつつがなく終了。
する訳もなく。

美希のやつ、どでかいミキサーに興味を持ったと思ったら、ミキサーのつまみをグリグリこねくり回して遊んだあげく、そのままつまみを引っこ抜きやがった。

それだけでは飽き足らず、最近テレビでよく見る、新幹線少女(だっけ?)がレコーディングしているのを発見すると、
「生で聴きたい!」といって、ブースに突撃しにいく始末。

俺は、関係各位に謝り倒して腰が痛くなった。
腰痛になったら美希に慰謝料請求してやる……!

ミキサーのつまみに関しては、大丈夫だよと笑って許してもらえた。
(やっぱり心が広いなぁ。あそこの人)

それに、君のとこのアイドルはホント面白いねーと、美希のことも覚えてもらえそうだった。
怪我の功名だよ。ほんと。

美希を注意すると、
「うるさいのー。別に美希悪くないもん」と悪びれた様子がない。
こいつは……。

事務所でお説教すると、また社長の過保護で怒られそうなので、車の中でお説教してたら、いつのまにか寝てやがった。

そういえば新幹線少女がいる事務所、こだまプロに美希が目を付けられてしまったみたいだ(そりゃそうだよ)。

事務所に帰ってから調べてみたんだが、ここの事務所は業界では中堅どころでそこそこ幅が利くらしい。

これはやってしまったなー。
うちみたいなまだまだ弱小事務所だと、潰されかねないんじゃないのか。

まぁ、くよくよしたって仕方ないしな。
今日はもう寝る。

■星井美希という可能性
遅刻にサボりに世間知らず故の騒動。
これまでの星井美希の失態を数え始めるとと憂鬱になる。

本当にやっていけるのか不安になってくる。

ただ、そんな傍若無人な美希にも心の底から尊敬できるものがあることを最近知った。

天海春香
俺が担当した、はじめてのアイドル。
俺がこうしてプロデュース業を続けられているのも、春香の頑張りが大きいと思う。

話がそれちゃったな。

どうやら美希は春香に強い憧れを抱いているみたいだ(確かに思い返せば、春香の曲ばかりやっていた気がする)。

美希に、俺が春香のプロデュースをしていたことを教えてやると、俺へのまなざしにちょっとだけ尊敬が込められた、ような気がする。

それと、その日を境に俺への呼称が「そこの人」から「プロデューサー」に変わった。

だけど、基本的に面倒くさがりなのは変わらず、やっぱり寝坊はするわ、レッスンを途中でサボるわ、とマイペースを貫いている。

うーむ。
これは、春香に協力してもらって、美希を更正させるしかないな。

こっそり春香に相談してみるか。

あぁ、そうそう。
この間トレーナーさんと2人で相談して、美希に春香以外の曲をやらせてみようと画策している。

これも最近知ったことなんだが、美希はイチゴのババロアとおにぎりが大好物みたいなので、それをエサにして美希を釣ってやろうと思う。

春香の真似をするだけじゃ、アイドルとしては大成できないだろうしな。
美希の今後の指針を探るという意味でやらせてみようと思う。

それと近々、アイドル活動の登竜門とも言える歌番組「The Debut」のオーディションが開催される。

美希をどうにかしてこのオーディションに出させてやりたいと考えている。

美希の潜在能力の高さから、オーディション合格も無理じゃないだろうなって考えてるからだ。

それに美希も、いつまでもアイドル候補生じゃモチベーションが上がらないだろうしな。

このオーディションで華やかなデビューをさせてやりたいもんだ。

さて、長くなったし今日は寝るか。

■星井美希の可能性(2)
この間書いた、美希に他の曲をやらせてみようという計画を、今日実行に移してみた。

美希のモチベーションが高いダンスで「星井美希」という可能性を見てやるつもりだったのだが。

結果だけで言うと、度肝を抜かれた。
開いた口がふさがらないっていうのはこういう時の言葉なんだなって痛感した。

まさかここまで出来るとはって感じに、驚かされた。

ひとまず、順に書いていくことにする。

今日は、営業などはなしで1日レッスンに費やせるとうことで、美希には朝からレッスンスタジオに来させていた。

相変わらずやる気が少し足りなかったのだが、今日のレッスンを頑張ったらイチゴババロアの入ったおにぎりをくれてやろうと言うと、美希の目の色が変わった。獲物を見つけた猛獣のそれだった。
(というかおにぎりにババロアってどうなんだろうか)

まぁ、本人のやる気が出ただけ良しとしよう。

美希には我が765プロの楽曲である「THE IDOLM@STER」を躍せてみた。

この曲はBPMの速いダンスナンバーで、慣れないうちは曲に引っ張られて、何もできないまま終わってしまうくらいだ。

今はそうでもないが、春香もこの曲には苦労していた。

トレーナーが美希の前で、一通りの流れを教えるためにダンスを踊る。

流れを再確認するために、もう一度最初からレクチャーし直そうとしたときに、美希が、「もういいよ。ミキ覚えたの」と言い、すぐさま踊り始めた。

美希はところどころつまりはしたが、荒削りながらも「THE IDOLM@STER」を一回で踊りきった。

これには俺もトレーナーも開いた口がふさがらない。
当の美希は「結構簡単だね。あはっ☆」と笑っていた。

おいおい。これはひょっとするとものすごい子なんじゃないのか。
社長の眼は枯れてなかっ(線で消されている)

レッスン終了後、美希に 「The Debut」 に参加しないかと持ちかけてみた。

すると美希は「めんどくさいから、や」と拒否。

「そんなことより、約束のおにぎり! ちょうだい!」と。

ここで機嫌を損ねるのもアレなので、言われたとおりにおにぎりとババロアを買ってやった。

俺の財布から一葉が消えた。

これが今日の出来事。

うーむ。
美希をその気にさせるにはどうしたらいいだろうか。
毎回エサで釣るのもあんまり現実的じゃないよなぁ。

ま、いいか。
そんなことは明日から考えよう。

今日は美希の可能性を見ることが出来たし、やる気が出てきたぞ!

当日にやらせるのも最終手段として考えておくか。
そのためにオーディションの参加は、ひとまず進めておこうと思う。

よし寝るか!

ひとまず本日はここまで。
お疲れ様でした。

■デビュー曲
美希のオーディション参加の意欲を向上させるために、デビュー曲を作ることにした(真の目的は逃げ道を塞ぐことなんだが)。

これで美希もやる気を出してくれることだろう!

そんなこんなで美希に、もし自分が歌うならどんな感じの曲が良いかと聞いてみた。

すると間髪入れずに、春香の持ち歌である「太陽のジェラシー!」と返してきた。

ダメに決まってんだろ。

美希にケチと言われながらも、デビュー曲は可愛らしいものにするということで落とした。

ちなみにこれからの美希のアイドル像は俺の中で決まっていたりする。

それはまた追々書くことにする。

そういえば、美希が春香に会わせろって言ってきた。

この間春香に相談した、美希のモチベーションアップ作戦を実行に移すか。
あとで春香に予定を聞いてみるか。

■ふるふるフューチャー
美希のデビュー曲のデモが完成した。

タイトルは「ふるふるフューチャー」
男が読むには少し恥ずかしい名前の、ラブソングナンバーだ。

歌詞を見ても、口から砂糖を吐いてしまいそうなくらい甘ったるい。

まぁ、俺の考えてる美希の将来像に当てはめると、始めのうちは可愛らしければ可愛らしいほど良い。

これを美希に聴かせてみると、
「カワイイの! ミキこの曲気に入っちゃたな。あはっ☆」とご満悦の様子。

ただ、そんな中でも気に食わない箇所があるようで「ここの歌詞はミキ的にはちょっとなしかな」と言ってきた。

どうやら曲中のサビにあたる「教えてダーリン 未来は何色?」の「ダーリン」が気に入らなかったらしい。

「ここ、ぜーったい【ハニー】の方がカワイイと思うの。プロデューサーもそう思うよね?」と聞かれた。

正直、ハニーとダーリンの違いがわからなかったから、いいんじゃないかって答えておいた。

■美希のアイドル像(これは日記ではなくメモ書きのようだ)

美希のアイドル像
・デビュー曲をカワイイのにする
・アイドルとしてそこそこ知名度が出たら、カッコいい曲に方向転換
・カッコいい美希を定着させる
⇒バカ売れ

■美希、春香と出会う
俺が春香のプロデュースをしていたと教えた時から、美希に春香と会わせろとたびたびお願いされていた。

春香のスケジュールを見て、今日の午前中だけ折り合いがついたので、美希と春香を会わせてみた。

美希がどんな粗相を起こすのか不安だったが、思いのほか美希と春香は意気投合していて、アドレスや携帯電話の番号なんかも交換していた。

歳も近いしこんなもんなのだろう。
最近の若い娘の交流風景に感心した。

しばらくしてから、たくさんしゃべって喉が渇くだろうと気を利かせて、美希と春香のジュースを買いに行った。

無難にお茶を買って帰ってきたら、先ほどの和気あいあいとした空気が無くなっていた。

どうなってるんだ、と1人困惑してると、春香が仕事だからと俺からジュースを受け取って部屋を出ていった。

睨むようにその姿を見つめる美希と、それに少しだけ冷たい目で返す春香に、1人戸惑う情けない大人の図。

春香に聞いても美希に聞いても、事情を教えてくれなかった。

なんだったんだ?
年頃の娘さんはよくわからん。

■美希の変化
ここ最近の美希に変化が出てきた。
それもいい方向にだ。

デビュー曲の練習を始めてから……、いや、厳密に言うと春香と会ってからだな。
今までの美希からは想像できないくらいの頑張りを見せてくれている。

遅刻はかなり減ったし、レッスンにもきちんと取り組むようになってきた(というかそれが普通なんだよな) 。

何より大きな変化は、美希が自分からオーディションを受けたいと言い出したことだろうか。

この間まで、どんな手を使っても「や」の一点張りだった美希がどういった心境の変化だろうか。

いや、俺としても事務所としても嬉しいことに変わりは無いんだけど。

まぁ、美希がやる気を出してくれたんだったらそれでいいか。

そういえば春香が、なんで最近メールくれないんですかって怒ってたな。
可愛いやつめ。

■学校のテスト
春も終わりに差し掛かって、空気がすこしじめっとしてきた。

学生諸君は新学年になってから初めての大きな試験があるみたいだ。

我が765プロの学生アイドル諸君も例に漏れず、ここ最近は事務所でテスト勉強に躍起になっている姿をよく見る。

今日は美希がオフだったから、うーうー、うなってるやよいの勉強をみてやった。

そういえば美希はテスト、大丈夫なんだろうか。

■テストの結果
ほとんどのアイドルたちのテスト結果が返ってきた。

やよいは、教えたかいもあって大体の教科で良い点数が取れたみたいだ。

伊織に頭をなでてもらってるやよいがとても可愛くて(線で消されている)

美希は当然のように、赤点をもらってきやがった。

そのことで、姉にこっぴどくしかられたらしく、珍しく落ち込んでいた。

今度から暇なときにテスト勉強を見てやると言ったら、「うん……。ありがと」って照れながら言った。

なんだこれ可愛い。


そういえば、春香もテストで赤点を何個かもらったみたいだ。

春香に勉強を教えてくれと頼まれたので、暇なときに教えてやることになった。

なんでか美希が不機嫌になってた。

■ボーカルレッスン
今日から「The Debut」のオーデションに向けて、本格的なレッスンを開始した。

本日はボーカルレッスンで、美希の声を調整することに。

美希のセンスの良さは、前のダンスの時で知っていたし、歌唱力も春香の歌で聴いていたから、大きく心配はしていなかった。

のだが。

自身のデビュー曲の「ふるふるフューチャー」を歌わせてみるも、どうもぎこちない。

というよりも、なんだかロボットみたいに抑揚のない状態だった。

なんでだ。

急遽予定を変更して、歌詞レッスンに切り替えた。

■ロボット歌唱
今日の美希のロボット歌唱について、レッスンが終わったあとに、トレーナーさんとうんうん言いながら考えた結果、ひとつの仮定が生まれた。

・美希は春香の曲しか歌っていない(というか聴いていない)
・春香への強い憧れから、曲に感情を込めて歌えていた
・今回の「ふるふるフューチャー」に春香はかかわっていない

つまり、美希の表現力はそこまで優れていない状態だということだった。

あながち的外れでもない気がする。

予定を変更して、明日から表現力のレッスンをすることにしようと思う。

■表現力レッスン
今日から、美希の表現力を補うために、表現力レッスンと歌詞レッスンを並行して行うことに。

表現力レッスンで美希の演出の引き出しを増やし、歌詞レッスンでこの歌詞が伝えたいことは何かを考えさせ、最終的にはしっかりと何を表現すればいいのかを分かるように、なればいいなぁ……。

美希自身、退屈な歌詞レッスンよりもダンスレッスンをしたいみたいだが、ここは我慢してもらう。

そうそう。最近気づいたんだけど、美希がわがままを言ってるときに、春香の名前を出すと言うことを聞くようになった。

美希にとって尊敬する人に幻滅されるのは嫌なのだろう。

これはいざという時に使えそうだ。



それと美希に足りないものは何か、を伝えるときに渾身の一撃を放ってみた。

「お前に足りないものは、それは~ 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてェなによりも、表現力が足りない!!」

「なにそれ」

通じなかった。
うぅむ。
ジェネレーションギャップ……。

■歌詞レッスン
今日は美希と二人で歌詞レッスンをしていた。

首をかしげながら、歌詞に自分なりの注釈を入れていく美希が、娘の(線で消されている)
妹のように感じた。

分からないところは素直に聞いてくるあたり、ちゃんとやれば出来る子なんだろうなぁ、って思った。

「ねぇ、ここってどういう意味なの?」
美希が指差したところには「いっぱい ねぇ たくさんしてあげる」と書かれていた。

なんでこんなピンポイントの箇所を聞いて来るんだよ。

わざとか。
と思っていたら違うみたいで。

美希は純粋だなぁ。

■ボーカルレッスン
今日は予定を変更してから、初めてのボーカルレッスンをさせてみた。

前の結果から、美希が歌うことに怯えてないかと少し不安だったが、それも杞憂に終わった。

準備運動中の美希に、歌詞の意味を一言一言考えて歌ってみろ、と専門家ぶって言ってやると、美希は素直に「はいなの」と返事をして、歌うことに前向きな姿勢を見せてくれた。

最近、美希と良好な関係が築けている気がする。

発声練習の後に、ピアノの伴奏に乗せて「ふるふるフューチャー」を歌わせてみる。

そしてまた、俺とトレーナーはまた驚かされた。

歌詞だけを見て、ただただ甘いだけだと思っていた「ふるふるフューチャー」が、少しだけ切なく聴こえたんだ。

しっかりと歌えばこうも変わるものなのか、って分からされた。

歌い終わった後の美希は、俺達の中で一番驚いていた。

美希自身、以前の自分の「ふるふるフューチャー」の出来に悩まされていたようだった。

それにどうすれば春香みたいに楽しそうに歌えるのか、と相談を受けたりもした。

そして今日、歌に感情を乗せることが、どれだけ歌を変化させるのかを知ることができたみたいだ。

(春香のプロデュースをしている時、あまりそういったことを意識してなかったが、今日のことで色々と勉強になった)

レッスン終了後に美希が駆け寄ってきて、「ありがとプロデューサー! 実はすごい人なんだね!」と褒めてくれた。

そんな美希の笑顔がまぶしくて、不覚にも少しだけドキッとしたのはここだけの秘密。

■美希の恋愛事情
最近の美希は、歌うことが楽しくて仕方ないみたいで、一層、表現力レッスンに打ち込んでいる。

近頃は「ふるふるフューチャー」をいろんな解釈でアレンジしていくのがマイブームだとか。

今日の「ふるふるフューチャー」は、少し思い込みの激しい女の子が勘違いから男の子に迫るという内容、らしい。

……ヤンデレ?

今まで、結構な数のアレンジを聞いてきて、美希は経験豊富で恋愛上手だと思っていた。
のだが、実際はそうでもないらしい。

休憩中の美希曰く「だって学校の男の子ってソーショクケーばっかりだもん」とのこと。

「それに……」と続けた後に、さっさとレッスンに戻りやがった。

それに、なんだよ気になるじゃないか。

■レコーディング
「ふるふるフューチャー」もだいぶ形になってきたので、今日はレコーディングをしに行った(前回美希が粗相を起こしたところだ)。

この前の美希の破天荒な行動を、大半のスタッフが覚えていてくれたみたいで、イジられながらも歓迎してもらえた。

美希ははじめてのレコーディングに少し戸惑っていた。

奴も人の子か、とか思ってほくそえんでいたら、途中から要領を得たみたいで普通にこなしていた。


美希のレコーディングが佳境に入ったときにひょっこりと春香が顔を出した。

どうやら隣のブースでレコーディングしていたらしい。

美希がいることを聞いて、応援に駆けつけてくれたそうだ。

やっぱり春香はいい子だなぁ。

春香が来ていることに気づいた美希は、鬼気せまる勢いでレコーディングを着々とこなしていった。
(そんな曲じゃないのに)

それのおかげか、当初予定していた時間よりも早くに収録が完了した。

そのことに、他のスタッフは驚きながらも美希のことを褒めてくれていた。

当の美希は、ブースから出てくると「春香は?」と聞いてきた。

お前の歌を聞いて満足そうに帰ったぞ、って伝えると、美希はどこか悔しそうにしていた。

春香からアドバイスが欲しかったのかな?

■オーディション 前日
いよいよ明日は「The Debut」のオーディションだ。

あのレコーディング以来、美希はいつにも増してレッスンに取り組んでいた。

憧れの春香に認めてもらいたいのだろう。

みるみる完成度が上がっていく美希に、ずっと傍らで見ていた俺としては感慨深いものがある。

いや、それは明日のオーディションに合格してからにしよう。

それに、このオーディションに合格して初めて、アイドルとしてのスタートラインに立つんだからな。

まだまだ先は長い。


美希にはさんざん振り回されたが、明日どういう形であれ、一区切りが付くんだ。

今までの成果を出し切ればきっといける。
なんでだろう。根拠はないのにオーディションに成功するビジョンがありありと見える。

そこまで心配しなくても良いって、神様も言ってくれてるのかもな。

さて、明日に備えて今日は寝るか!

■「The Debut」オーディション当日
今日はオーディションに行ってきた。
美希の状態とか、オーディションの雰囲気なんかをメモに残してるので、それを書いていこうと思う。


オーディション当日の朝。
さすがの美希でも今日は寝坊しなかった。
美希はいつも通りの平常運転で、緊張もあまりしていないようで一安心だ。


春香とともに何度もお世話になったTV局へ到着すると、例のごとく突風が吹き、美希のスカートを捲り上げた。

思わぬ眼福にまじまじと美希のライムグリーン(線で消されている)

美希に「突風アイドルー。なんちて」というと、ごみでも見るような目で見られた。
素直に謝ると、ぷりぷり怒りながらも許してくれた。

オーディション参加者の控え室に入ると、すでに参加予定のアイドル候補生たちが顔をそろえていた。

初めてのオーディション受験者も多いのだろう、室内はとてもぴりぴりしていた。

美希はまわりを気にしないまま、余裕の表情を浮かべて更衣室に向かっていった。

ジャージに着替えた美希が、控え室に姿を現した頃に、ちょうど審査員が入ってきた。

その人は俺の知っている審査員で、春香のデビュー時、彼女はボーカルの審査員をしていたはずだ。


審査員がオーディションの流れとルールを事細かに説明していく。

美希も真剣な表情で審査員を見つめていた。
ここ一番でしっかりできる子なんだなと少し感心。

最後に審査員は恒例の一言を、美希にお願いした(俺と目が合ったからかもしれない)。

余計なこと言うなよー。と心の中で強く念じていたのが美希に届いたみたいで、
「ミキ、余裕で合格するって思うな」
と、自信満々に余計なことを言い放った。

審査員は顔を引きつらさせ、控え室の時間が止まった。気がした。

まさかのフライングした上で転倒。
おいおい。雲行きが怪しくなってきたぞ。

「あれ? ミキなんか変なこと言った?」
本人は気づいていないようで、仕方なく美希のビックマウスっぷりを教えてやった。

すると「ミキ、ウソついてないよ。この中だったらミキ負けないもん」と、まさかの第二波が放たれる。

周りからの刺すような視線が痛い。
馬鹿やろー! 余計なことを言うんじゃない!

空気の悪くなった控え室で、針のむしろ状態で出番を待つこと数十分。

ついに美希の番が回ってきた。

ステージの舞台袖で軽くストレッチする美希に、俺たちは一心同体だ! と声をかけるも「イッシンドータイってなに?」と返された。

今度から国語の勉強も教えようと思う。

美希の名前が読み上げられ、薄暗いステージに上がっていく。

ステージ上の美希のスタンバイが終わった頃に、ゆっくりと照明の光が強くなって、美希の姿が浮かび上がる。

自己紹介をどうぞ、と審査員に促されると、一拍おいて自己紹介をしていた。

その声はいつもより少し上ずっていた。
なんだ、やっぱり緊張してるんじゃないか。

音楽が流れはじめると、美希はいつものように歌えていた。

歌いだしたら緊張がなくなったんだろうか。

美希の歌に、ダンス以外の審査員は首を縦に振っていた(そんなダンサブルなナンバーじゃないしな)。

それは、美希の表現力が万人に受け入れられる可能性があるということだ。
これは誇ってもいい。

曲が終わり、美希は審査員たちに頭を下げて、舞台袖にすこし足早に戻ってくると俺に詰め掛けた。

「何で春香がいるの?」と。

どうやら春香が来ているらしい。
(舞台袖からは死角になる位置に座ってたみたいだ)

だから美希は歌う前に緊張していたのか。

ただ美希にとっても、春香にパフォーマンスを見てもらえることは嬉しい事だろう。

(これはあとから春香に聞いたことだが、このオーディションの特別審査員として招待されていたそうだ)

どうも腑に落ちていない美希に、上出来だったぞと声をかけるも、「そんなんじゃないの」と冷たく返された。


控え室に戻って、他の参加者のパフォーマンスが終わるのを待つ。

その間、美希は何度もあくびをして周りから呪うような視線を向けられていた。
(気づいてないのか、気にしてないのか)

控えめなノックとともに、控え室に春香が入ってきた。

春香が今回の合格発表者らしい。

控え室のアイドル候補生たちから黄色い歓声が漏れるのを見て、春香も有名アイドルなんだよなぁ、と改めて実感した。

春香は俺の視線に気づくと、いたずらっ子のようにウインクしてきた。

可愛いやつめ。

合格者の発表が行われる。
合格枠は3つ。

1人が呼ばれる。
声を上げて飛び跳ねていた。

また1人。
彼女は涙を流して、喜びをあらわにしていた。
春香もつられて笑みをこぼしていた。


最後の1人。
美希は……。

……合格した!

詳しい点数はわからないが、少なくとも1位ではあるらしい!

そのままの流れで、合格者たちは撮影に向かう。

不合格者はお帰りを。
そう告げる春香の顔は、今まで俺が見た中で、一番辛そうだった気がする。


春香は美希と他の合格者を連れて、控え室を出ていった。

俺は、合格者のプロデューサー方と名刺交換をしていたから、遅れて美希と春香の後を追うことになった。

■テレビ初出演
俺がスタジオについた頃、美希たち合格者は、併設されている更衣室で持参している衣装に着替えているところみたいだった。

春香は、スタッフと何か打ち合わせをしている。

美希が衣装に着替えて更衣室から出てきた時、俺は息を呑んだ。

レッスンや営業で見慣れていたはずの美希が、いつも以上に眩しく見えた。
正直なところ、見惚れてしまっていた。
(恥ずかしいから本人の前では言わないけどな)

が、当の美希はなんだかご機嫌斜め。

何かあったのか? って聞いてみたが、教えてくれなかった。

いよいよ「The Debut」の収録が始まった。

「The Debut」では、1位合格のアイドルはトリで出演することになっている。

トリと言うことは、もちろん他の出演者からも期待の目で見られるし、業界関係者からも注目してもらえる。

美希の出番が来た。
セットの階段から、美希はスモークに包まれて、堂々とした笑顔で登場した。

さっきまでの不機嫌はどこへ行ったのやら。

舞台で司会の質問を受けている美希。

素っ頓狂なことを言わないか少しハラハラしたけど、なんとか乗り切れた。

曲の紹介に入り、ステージへ誘導される。
見ただけで高いとわかるスピーカーから「ふるふるフューチャー」が流れ出す。

オーディション時よりも、歌に力が入っているのがうかがえた。

俺が今まで見た中で1番の出来だったと思う。
100点満点! と言いたいところだが、何回か音を外してたから、花丸は次回以降にお預けだな。

終わってみれば、大反響!
華々しいアイドル人生のスタート!

とまでとはいかないものの、お客さんの反応は上々で、俺の考えていた以上のスタートを切れたと思う。

今日この日から、美希はアイドルとしてのスタートラインに立つことが出来た。

今日の美希を見て俺は実感した。
美希はもっともっと上に行ける。

美希とだったらトップアイドルにだってなれる。
そんな根拠のない自信が湧いてくるくらいの、強い輝きを見れた。

俺の手で、美希をトップアイドルの座まで連れて行ってやりたい。

いや、トップアイドルにしてみせる!

これだからプロデュースはやめられない。

明日からは、もっとビシバシしごいていこう。

今日はもう寝る!

本日はここまで。
お疲れ様でした。

■アイドルとしての始まり
美希がオーディションに合格してから1週間が経った。

オーディションに合格してデビューしたとはいえ、美希はまだまだ無名アイドルなので、こちらから営業をかけないと仕事なんかない。

これから美希のためにバリバリ仕事を取ってきてやるぜー!!
と意気込んでいたんだが、当の美希がしぼんだ風船みたいにやる気が無い。

「ミキは五月病なの。前のオーディションで燃え尽きたの……」と元気がない。
あまりにもぐたっとしていたので、今日は帰らせた。

あんなに楽しそうに歌ってたくせに、まさか一回で燃え尽きてしまうとは……。
しかたない。明日はババロアとおにぎりで釣ることにしよう。

そういえば、最近事務所が慌しい。
事務所というよりも主に律子が、だが。

何か新しい企画を考えているみたいだが、詳しくは教えてくれなかった。
いけずなやつだ。

■ミーティング
今日は美希とこれからの仕事の方向性についてミーティングをした。

美希にこれからどういった方向性でやっていきたいかと聞いたら、
「春香と同じ、アイドルとしてやっていきたいの!」と言っていた。

どうも春香を強く意識しすぎているみたいだ。

ほかの人のマネばっかりするのはよくないぞ、と忠告したら
「プロデューサーは何にもわかってないの……」と言われた。

うーむ。若い女の子はよくわからん。

今後の方針としては、ライブ活動を軸に据えつつ、美希のビジュアルを活かしてテレビ出演やCMを中心に営業をする方針にした。

■初めてのライブ
今日は美希がデビューしてから初めてのライブに挑戦してきた。
社長がそこそこ大きいライブの空き枠に美希をねじ込んでくれたのだ。

美希はやっぱりというか、本番前でも緊張はしてなかった。
のだが、いざステージに上がると目に見えて動きが固くなっていた。

観客は美希のことなんかほとんど知らない完全にアウェーな会場。

美希が困惑するのも無理もないと思う。

結果としては、観客の盛り上がりはまずまずといったところ。
だがライブの内容は可もなく不可もなくという、いつもの美希にしては残念な結果だった。

美希自身、ライブ結果に満足していないみたいだった。
これをばねにもう一回り成長して欲しいと思う。

■春香の差し入れ
今日は美希のこれからのために、ダンスのレッスンをしていた。
やっぱり美希はダンスが好きみたいで、生き生きとしていた。

とそこに春香がレッスンスタジオに顔を出した。
今度の番組で新曲を歌うから、その練習をしていたらしく、美希がいることを聞いて、おやつで持ってきたらしいクッキーを差し入れしてくれた。

美希のレッスンはトレーナーさんに任せて、春香としばらく世間話に花を咲かせた。

春香を帰らせた後に、レッスンスタジオに戻ると、さっきまで楽しそうにしていた美希は、
「ミキのプロデューサーなのに春香とばっかりお話してたね」とご機嫌斜めなご様子。

今回は俺が悪かったから、イチゴババロアを献上した。

ここだけの話、美希のふくれ面はかなりきゅんと来た。

■CDリリース
今日はかねてより予定していた、星井美希の1stシングル「ふるふるフューチャー」が発売された。

営業先に出向いているときに、CDショップに寄って美希のCDを探してみた。
残念ながら平積みはされておらず、棚の中にジャケットが見えるように3枚置かれているだけだった。

デモ版はもらっていたが、プロデューサーとして星井美希の1ファンとして、1枚買っていくことにした。
するとレジでちょうど会計を済ませている美希本人と出くわした。

美希は慌てて買ったものを隠したが、まぁ想像に難くない。

「The Debut」やこないだのライブでそこそこの宣伝は出来たはしたが、春香をプロデュースした時の経験上、無名の今はもっともっと売り出さないといけない。
これからはプロモーションに力を入れよう。

次は美希に恥ずかしい思いをさせないようにしたい。

■新ユニット結成
今日は事務所で重大な報告があった。

春香や他のアイドルたちの頑張りで、事務所も軌道に乗ってきたとのことで、大きなプロジェクトを始動させるらしい。

なんと、律子をメインプロデューサーに据えたトリオユニットで、ユニット名は「竜宮小町」。

メンバーには、水瀬伊織と双海亜美、三浦あずさというなかなかバランスのとれた構成。

社長は律子や伊織に大きな期待を寄せているようで、もうこれからの展望を語っていた。

新しい風に美希がどんな反応をするか見てみたら、あまり興味がなさそうだった。

これは後で社長からこっそりと聞いた話だが、このユニットがこけると事務所に大ダメージを与えるらしい。

余計なプレッシャーになるからと、この事は律子や竜宮小町のメンバーには伝えていないそうだ。

だが、そうしなければいけない程に事務所は追い込まれている。

くすぶっているアイドルをずっと囲うことはできない。こうでもして、少し強引にでも花を咲かせてやらないと。
と社長は弱々しく笑っていた。

自分の力の無さを痛感した。

社長はこれが成功したら、俺に他の新しいアイドルを担当させてやると笑っていた。
前向きな社長だ。

■デパート屋上でライブ
今日は事務所に近いデパートの屋上でライブをした。

ステージも機材もしょぼいが、こうした地道な下積みが重要だということは経験上、痛感しているので、積極的に取り入れようと思っている。

それに美希にライブ慣れさせる必要があるからちょうどいい。

ただ、美希自身はこの仕事に納得してないらしく、
「ミキ、この仕事、や!」とリハーサルぎりぎりまで駄々をこねていた

わがままを言った時には、春香の名前を出すと効果的なのはわかってたので今回も使うと、わがままは取り下げてくれたが、機嫌を損ねてしまったみたいだ。

ライブが終わった後に美希は
「ミキの前で、そんな風に春香の名前出さないで欲しいな……」と寂しそうに言った。

ううん。これからは使うのを控えていこう。

■アイドルデビュー1ヶ月記念
今日は美希がアイドルとしてデビューしてからちょうど1ヶ月の節目の日だった。

春香の時もそうだったが、俺は割と記念日を大切にする人間だ。

美希に今日のレッスンが終わった後に、1ヶ月記念を口実にご飯に誘ってみた。

するとどうだ
「プロデューサーって思ってたより、ロマンチックなんだね。ミキ、そんなの気にしない人だと思ってたの」とか抜かしやがる。

無償に腹が立ったので、
「じゃあ、無しにするか」と言うと、
「わわ! ウソウソ! プロデューサーはとってもステキなナイスガイ? なの!」

あまり褒められた気がしなかったが、許してやった。

そういえば春香にも似たようなことを言われた気がする。
……そんなに無頓着に見えるんだろうか。

ご飯を食べ終り、美希を駅まで送っていたとき、美希は少しイタズラな顔をして
「来月の2ヶ月記念も楽しみにしてるの。あはっ☆」と笑っていた。

ちゃっかりしてるよ。ほんと。
次はどこに連れてってやるかな。

■合同レッスン
今日は思いつきで美希のボーカルレッスンに、同じ765プロのアイドルの千早を参加させてみた。

千早の歌を聴いて美希に何か良い変化があればと思ったからだ。

千早の歌を間近で聴いた美希は、その迫力に感激して千早にまとわり着いていた。

初めはかなりうっとうしそうにしていた千早だったが、レッスンが終わる頃には美希と歌い方について話し合う仲になっていた。

美希の誰にも物怖じしないところは、素直にすごいと思う。

■美希に変化?
今日は竜宮小町が始めて歌番組に出演した。
ゴールデンタイムの歌番組で、春香もついこの間出演していた。
(事務所が全面的にバックアップしてるとここまでできるのか……)

事務所には竜宮小町を含むめた全アイドルが集まって番組を鑑賞していた。

竜宮小町の3人は自分たちのMCになるまでとてもそわそわしていて、それを見た美希は
「でこちゃん、そわそわしすぎなの」と伊織を茶化していた。

番組が始まって、竜宮小町の番になって、伊織の噛み噛みのMCで皆が笑った。
竜宮小町のデビュー曲「SMOKY THRILL」
俺も今日初めて聴いたが、かなり完成度が高くて、竜宮小町の3人がうまくかみ合っていた。

これは律子にやられたな。

番組が終わった後に美希は俺のところに来て
「ミキもでこちゃん達みたいに、あんな風にキラキラできる?」と聞かれた。
俺は当然だろと返した。

それを聞いた美希の嬉しそうな顔がめちゃくちゃ可愛かった!

■2曲目
1曲目のふるふるフューチャーをリリースしてから、早いもので2ヶ月が経った。
そろそろアイドル活動に動きを出していかないとな、ということで美希に新曲を出すかーと持ちかけてみると
「ホント!? 美希新しいの歌いたいの!」とかなり乗り気な様子で驚いた。

竜宮小町の活動が良い影響を与えているんだろうか。
俺としてはやる気があるのは嬉しい限りだ。

前回同様に美希にどんな感じの曲が良いかと聞いたら、
「ミキ的には、次は可愛いけど少しカッコいい感じが良いと思うな!」と可愛く無理難題をおっしゃる。
頭ごなしに突っぱねて、美希のやる気をそぐのもアレなので、この条件で音楽家さん発注してみた。

電話口の音楽家さんの困った声に、今の俺は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。

■きゅんっ!ヴァンパイアガール
美希の新曲のデモが上がってきた。
タイトルは「きゅんっ!ヴァンパイアガール」というタイトルからもわかるように、いかにもアイドルソングのようなもの。
少し古めかしい独特な曲調と、刺激的な歌詞が相成った一曲。

さすが音楽家さんだ。
最近恋人ができて浮かれ気味で作ってくれたものだが、いいじゃないか。

デモを美希に聴かせてやると
「わ! この曲良いね! 可愛くてカッコいいの! イイ感じ」と100点スマイル。
ご満悦のようで、事務所備品のCDウォークマンにデモCDを入れて何度も聴き返していた。

ソファに座り目を閉じて、リズムに合わせて床を踏む美希も絵になっていた。
ところどころで口が動いていて、鼻歌気味に歌っているみたいだった。
気に入ってもらえて何よりだ。


そんな美希がバッと目を開けたかと思うと急に立ち上がり、自席でエクセルで関数を入力していた俺に勢いよく詰め掛けてきた。

「ミキ、この曲を聴いてひらいめいたの! この曲には吸血鬼の衣装がバッチリ会うって思うな!」と力強く言う。
まぁ、ヴァンパイアガールだもんな。

わがままな吸血鬼もどきめ。新しい衣装を用意するつもりはなかったんだが、
こんなモチベーションが高い美希もいつまで続くかわからないから、デザイナーさんにお願いした。

あれ? 最近、俺、美希に甘いような気がするぞ

■レコーディングで一悶着
今日は「きゅんっ!ヴァンパイアガール」のレコーディングに行ってきた。

2回目のレコーディングということもあり、作業自体は問題なく進んでいった。
のだが、美希の今日のレコーディングが終わるのを見計らって、新幹少女(最近正式名称を知った)が美希に絡んできた。

どうやら、前回の美希の粗相をかなり根に持っているみたいで(当然だが)、そのことで謝罪させようとしていた。
のだが、彼女達の怒りの原因である美希が、そのことを覚えていないのだった。

さすがにこれは俺もフォローができないので、当人達に任せていたら、なぜかオーディションで勝負することになっていた。

美希をなだめても、
「ミキ、ぜっっったい! 負けないって思うな!」
と、興奮状態で取り合ってくれなかった。

どうやら勝負は避けられそうに無いらしい。

■新幹少女の実力
美希が大きく啖呵を切ったものの、今の美希の実力では新幹少女に勝つのは厳しいかもしれない。

なぜなら彼女達はアイドルランクがCで、美希はまだEだからだ。単純明快だね!
とおふざけはここまでにしておいて、ランクが実力に直接影響を与えるものではないが、相手は腐ってもCランクアイドル。
それ相応の実力は持っているんだろう。

ただ、やるとなった以上簡単に負けるなんて俺のプライドが許さない。

ということで、敵情視察を兼ねて今日は美希と一緒に新幹少女のライブ映像を見た。
春香をずっと見ていた俺から言わせてもらえば、正直「こんなもんか」って印象だった。
これなら竜宮小町の方がすごいかもしれないなとも。

当の美希はそうでもないらしく
「ふ、ふーん。ま、まぁまぁって感じだね」と弱腰。
一応実力差は見えてるみたいでよかった。

これはどうにかしないといけないな。

■新幹少女からの挑戦状
今日、新幹少女が所属するこだまプロダクションから正式な挑戦状(オーディションの情報が書いた紙)が届いた。

開催日は来月で、全国放送の歌番組のオーディションだった。
ご丁寧に逃げるなよとも書いてある。

これは本格的に美希を潰しにきたな。

美希の実力を全部出し切れば、いい勝負はすると思うし、それに美希がやる気を出せば互角以上の勝負ができると思うんだが、いかんせん美希が弱腰になってる。

どうにかしてやる気を出させるしかないか。
春香に相談してみるか。

■美希のやる気
いろいろ考えてみたが、どうすれば美希のやる気がでるのか見当もつかなかったので、直接美希に聞いてみた。

すると美希から思わぬ言葉が聞けた。
「ミキなりにいろいろ考えたんだけど、ミキ、こんなところで止まっちゃうようなら、これ以上、上にいけないって思うな」
「だからこんなところで立ち止まってられないの」と。
美希の向上心が窺えた。

「それと春香がオーディションに見に来てくれたら、ミキ、もっと頑張れるよ」と。
何で春香なんだと気になって聞いてみたら、
「ミキだってデビューしてから今まで遊んできたわけじゃないの。春香にミキの実力を思い知らせてやるの!」と。

今まで結構遊んでたじゃないか(線で消されている)

どうも新幹少女は眼中にないみたいで、もっと先を見据えているみたいだった。

けど、それでやる気が出るなら安いもんなので、終電を逃して家まで春香を自宅まで送り届けているときに春香にお願いしてみたら
「ふーん。美希がそう言ったんですか。へぇ」とちょっと怖かった。

あれ? 美希と春香ってそんなに仲良くないのか?

けど結果的に、春香も見に来てくれるみたいなので、オーディションはひとまず大丈夫だろう。

■ヴァンパイアガール
今日は「きゅんっ!ヴァンパイアガール」のダンスレッスンをした。
「ふるふるフューチャー」とは違って、とってもダンサブルなナンバーだからダンスの練習は不可欠だ。

トレーナーとマンツーマンでレッスンにいそしむ姿を見た後に、美希の過去のはちゃめちゃぶりを思い出すと涙が出てきた。
よくぞここまで。

そういえば、美希はこのヴァンパイアガールの中で「パッと舞ってガッとやって チュッと吸って han」というフレーズがかなり気に入っているみたいで、
今日なんかも「プロデューサー! 今日のミキはきゅーけつきなの! プロデューサーの血、吸ってあげるよ。あはっ☆」とじゃれてきた。

ぜひ吸ってください! なんて言えるわけも無いので、適当にあしらっていたら
「むー。プロデューサー、ノリが悪いの。せっかく可愛いきゅーけつきが血をすってあげるのに」とジト目でほっぺたを膨らませていた。

うるせぇ! ちくしょー! 最近のお前可愛いんだよ!

■春香との2回目の会談
今日は美希と春香と3人でご飯を食べた。
なぜか、春香から美希に合わせてくれと言われたからだ。

会って早々、険悪なムードになったわけだが、前回と違うところは美希に余裕が出てきてるところか。
表面上、他愛のない会話をしていたが、俺には火花が飛び散ってるように見えた。

「美希、ずいぶん自信付いたみたいだね。これもプロデューサーさんのおかげかな」
「とーぜんなの。ミキ、もっともっとキラキラするんだから。プロデューサーのおかげは、ちょ、ちょっとはあるかな」
少し傷ついた。

どうやら美希と春香は、仲が悪いわけじゃなくてライバル関係にあるみたいだ。
正直、あれだけ春香春香って言ってた美希からは、考え付かなかったんだが、
女の子にも負けられないことがあるんだろうなー。

今日はケンカとかもなくてよかった。仲良しが一番だな。うん。

そういえば春香から、アイドルランクって高いほうがいいのかと聞かれた。
そりゃもちろん高いほうがアイドルとしてはいいので、いいだろうと答えておいた。
そしたら、私がAランクアイドルになったらどうしますかと聞かれた。

どうなんだろうか。最近は美希で手一杯だから春香の活動を把握していなかったから、適当に何でもしてやると言ってしまった。

■オーディションに向けて
来週に迫ったオーディションに向けて、美希のコンディションを整えるために今日のレッスンはオフにした。
そして、それを美希に伝えるのを忘れてしまっていた。

もちろんそのことを知らない美希は事務所に来るわけで、
「えー!? 今日レッスン無いの? ひどいの。せっかく早起きしてきたのに」とすねられてしまった。

なんとか機嫌を戻してもらおうと、何でもするからと言ってしまったら
「ホント!? じゃ、じゃあね、今からミキとデー、お買い物に行こ?」
さすがに今からは無理だったので、またオーディション前に買い物に行くことへなった。

ババロアとか買わされると思ってたが、これは当日にバッグとかアクセサリーを買わされるんだろうか。

今月は塩パスタだな。
いや、やよいにもやし料理を教えてもらおう。

■美希と買い物
今日は前に約束していた買い物に行ってきた。

美希との買い物は、いろいろと勉強になった。
最近の流行とかブランドとか、勉強不足なところを美希に教えてもらったのだが、その後のしたり顔が印象に残っている。

美希は買い物中に一度も何か買ってと言ってこなかった。
本当にただ、街中を二人で散策しただけだ。

何かいらないのかって美希に聞いたら
「えっ、いいよ。悪いから」と生意気にも遠慮していた。

なんだか腑に落ちなかったので、記念日を適当にでっち上げて、欲しいものを選ばせたら、ペンダントトップに少し大きなリングをつけたネックレスをもってきた。

それを買って渡してやるときに
「えへへ。ありがとうプロデューサー。ミキこれ大事に使うね」と照れくさそうに笑っていた。

これはやばいだろ。
今なら性犯罪者の気持ちが少しだけわかるかもしれない。

■オーディション前日
明日にオーディションを控えていたので、今日はレッスンをオフにしておいた。
今日一日、美希とは話をしていないから、本当は日記をつける必要はないがメールが来ていたから書くことにする。

仕事が終わってからの風呂上りに、美希から「明日ミキが勝ったらごほうび欲しいなー」というメールが届いた。

ここ最近のレッスンで、美希も再び自分に自信を持つようになってきていたし、これで美希のモチベーションが上がるなら安いもんだ。

そう判断して美希には「いいぞ。今から何がほしいか考えとけ」とメールを返した。

ここ最近、美希がずいぶんと近い存在になってきた気がする。
良い傾向だ。

さて明日のオーディションに備えて今日は寝るか。

本日はここまでにします。
お疲れ様でした。

次回は来週末に。

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