27歳にして私は、ファンタジーRPGの世界へと飛ばされた (43)

酷い疲労感と共に、私のレベルは2へと上がった。
にこやかな笑みを浮かべる、チュートリアルキャラクターと
別れた私は、手持ち少ないゴールドお構いなしに、宿屋へと駆け込む。

「どう考えたっておかしい」
子供の頃、ゲームやファンタジー世界で生きることに憧れたことは
ない訳ではなかった。
その頃の私であるなら、この状況をポジティブに受け入れ、おおいに楽しむ
ことも出来たのかもしれない。

しかし、今の私は27歳。
現実世界から逃げ出したくなることは希にあるけれども、
そんな憧れなんて抱きはしない。

そもそも私の置かれた現状が、いわゆる現実というやつかどうかは分からないけれども、
顔を埋める枕の柔らかさは、ただの夢ではないとほくそ笑んでいた。

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「……、んぅ……」
昨日はあのまま寝入ってしまったらしい。
忌々しい柔らかさの枕から顔を起こして、呆然と窓からの景色を眺める。
広大な草原の先に、別の町らしき影と、広大な森。
さらにその先には、これまた壮大な山々が連なっている。

あまりに王道な、ロケーションに苦笑いだ。
それから拍車を欠けるような悲しみを襲ったのは私の顔だ。
あまりにリアルの顔に忠実すぎる。
飾り気のない、肩越しまでの黒髪に、意識してなかったが
部屋用の赤渕眼鏡。
「この世界に、コンタクトは期待できないだろうなぁ……」

……、ひとまず現状を整理しようか。
懇切丁寧なチュートリアルを受けたおかげで、ステータス画面の開き方はバッチリだ。
しばらくRPGゲームに触れさえしていなかった私でも、低レベルの貧弱なパラメーター
がそこに羅列されていることくらいは理解出来る。
一つ腑に落ちないのは、たぶん名前欄であろう場所が空白となっていた。
そこへタッチすると、文字が打ち込めるようだ。

「……、名前」
自分の名前に、少しコンプレックスがあったのは子どもの頃の話だが、
私は現実のそれとは違う名前を打ち込むことにした。
“リナ”
しばらくは、名前を呼ばれてもすぐに振り向けないかもしれないなぁ……。


別に、私はこの世界の主人公という訳ではないらしい。
気づいた時にはこの町の通りに立ち尽くしていて、どこか
異国から来た冒険者(笑)といった立場が妥当だろうか。
役場のようなところがないか聞き、今の場所や私の状況を
確認しようとしたのだが。
チュートリアルの嵐に付き合わされることになってしまったとこまでが、
昨日の私のハイライトだ。

朝起きてから、しばらく悠長に構えていた私だけれども、
厄介な出来事がやって来た。
「お腹、空いた……」
ウィンド表示や、パラメーターがあるから、ゲーム世界だと
決め付けていたが、例えゲーム世界だったとして、お腹が減らない保証がどこに
あったというのだろうか。
思えば、昨日から訪れた役場(ギルド)で出してもらったお茶
以外口にしてなかったことに気がつく。
「……、まずは何か食べないと……」

「ありがとうございましたぁっ!」
元気の良い店員さんに見送られて、カフェらしき
お店を後にした私はの表情は、空腹のときのそれよりも酷いかもしれない。
「残りの手持ちが、3ゴールド……」
宿屋で、10ゴールド、朝食が3ゴールド……。
このままだと今日は野宿だし、何よりご飯が食べられない。
かと言って……
「外で、また戦うの……?」
快晴の青空の下、私の心境は憂鬱だ。

ログ・ホライズンかな?

昨日はチュートリアルのキャラクターがついていてくれたから
なんとか戦闘出来てたものの、一人で町外でなんて絶対無理だ。
「……、それでも、餓死するくらいなら……」
覚悟を決めて、私は町に門を後にした。

外へ出て、3分も経っていないだろうか。
私のすぐ近くにポップアップしたエネミーは、
猪程度の大きさのウサギだ、……目つき怖っ!
「昨日教えてもらったっけ……」
このエネミー(敵)は直線上にしか突進してこないから、
よく動きさえ見てればダメージも受けないだろうって。

恐る恐る構えた剣は普段持っていた仕事カバンと、重さ的に大差なく感じる。
じっと、まずはエネミーが突進してくるのを待つ。
……、来たっ!
スピードは早いけど、それでも横に逸れるくらいなら、私にだって出来た。
「やぁっ!」
剣を振り下ろすと、エネミーのHPバーが少々減少する。
そこからすぐに距離をとって、また突進を待つ。
戦闘とは名ばかりの、地味な作業だ。

「これで、終わりっ!」
最後の一太刀を引き抜くと、エネミーのHPゲージは0に到達した。
いくつかのホログラムの欠片になったかと思えば、消えてなくなってしまった。

表示されるウィンドのゴールドは9……。
6ゴールドだからあと、一体は倒さなくっちゃ。

》4
ログ・ホライズンはMMORPGだから違うと思う

ご覧になっていただいてありがとうございます

>>4 さん
ごめんなさい。
ログホライズンはタイトルしか分からないです。

>>6 さん
そうですね。
えっと、これはリナがファンタジーRPGの世界でどうにか
こうにかするお話なので、現実世界の人間はほとんど出ない予定ですね。

ロープレワールド?

恐怖心が強かったのは最初の一体目だけ。
二体目以降は注意さえしてればダメージを受けない単純作業を
こなすだけなのは、何も難しいことではなかった。
探して、倒しての繰り返し……。
疲労を感じる頃には、7体目との戦闘を終えて、
レベルは3へと上がっていた。

その日の夜。
宿屋の同じ部屋を借り、木製カップに入ったコーンスープのようなものを口にしていた。
少し塩気が強いけど、暖かいそれに、少し安堵する。
「……、明日からどうしよう……」
当面の目標は、生活費を稼ぎながら、街での情報収集だろうか。
おそらくここにいても、ある日起きたら現実の家のベッドの上という訳にはいかないのだろう。
……、ただの感だけど……。
でも、ここよりももう少し人の集まりそうな街へ行けば、
もしかしたら同じ境遇のような人に合うことが出来るかもしれない。

この世界の人物は、ただのゲームキャラクターという訳ではないようだ。
現実の話を振ったところで、呆れるか笑われるだけだけれども。
日常会話でコミュニケーションを取ることは出来たし、この世界のことで
あれば、ある程度ならギルドのキャラクターが協力もしてくれるようだ。
とにかくこの世界で生きながら、元の現実へと戻る。

それが、私の攻略(クリア)条件だ。

ご覧になっていただいてありがとうございます。

>>8 さん
そうですね。
リナがロールプレイングゲームの世界に迷い込んでしまったお話です。
MMOではないですね。

楽しみに見てるよ!

おぉ…これは期待

なんだろうな
批判とかじゃないんだけどこれはなろうあたりにでも行ったほうがいいんじゃね

27歳の俺が乙します

なろうに似たようなのが腐るほどあるよ

翌日。
軽めの朝食を済ませた私は、街中で情報収集にあたった。
立地から察するに、この町はそれほど都会ではないのだろう。
もう少し人が集まる街に向かった方が、何らかしらの
手がかりが掴める可能性は高い。
……、少なくとも、ここにいるよりはね。

午前中を使って集めた情報は以下の通りだ。
1、ここから一番近い城下町“ミネルヴァ”は山脈を越えた
向こう側にあるということ。
1、この街から、より山脈に近い街へは、歩きで約半日かかる距離だということ。

「それから……」
それから、これは情報収集しながら個人的にまとめた考えなんだけど。
いくらこの地域が低レベルに指定されているエリアだとしても、おそらく
エネミーはあのウサギだけじゃないはずだ。
新種エネミーと戦うというのは正直とても怖い。
あのウサギと違って、ダメージ0で戦闘を終えるという訳にもいかないだろう。
「次の街を目指しながら、新種のモンスターとやりあうのは得策じゃない、か……」
今日の残りの時間は、出来る限りこの街周辺の
エネミー調査に当てたいところだ。

「そういえば……」
私はステータス画面を開き、スキル一覧を覗き込んだ。
レベルが3になったのと同時に一つスキルを覚えたことを思い出したんだ。
“ワイドスラッシュ”
このゲームは熟練度システムらしく、スキルの横にはレベルが。
下にはEXPゲージが割り当てられている。
おそらくは使用回数に応じて、EXPが蓄積されていくといった具合だろうか。

ご覧になっていただいてありがとうございます。

>>11 さん
少しでも楽しんでいただけるよう
一生懸命考えて頑張ります。
RPGゲームが好きな人が、にやりとできるような描写を入れていきたいなと。

>>12 さん
ありがとうございます。
期待に答えられるように頑張ります。

>>13 さん
拙い作品ですいません。
ご迷惑だという声が少なければ、こちらで続けさせていただければと思います。

>>16 さん
27歳は色々あると思いますが頑張ってください。
作品の中で精一杯リナも頑張ります。

>>19 さん
勉強不足ですいません。
なるべく文章感や、リナの行動でオリジナリティを出していけるように努力します。

女主人公か…
期待していいんだな?

町を出てからしばらくは、
猪ウサギの“ボーラビット”との戦いが続いた。
しかし、町を出て1時間経たない程度だろうか。
小さな泉へとたどり着いた私を、とあるハプニングが襲った。

すぐ近場という訳ではないが、距離にして約10mほどだろうか。
新たにポップアップしたエネミーはボーラビットではなく、鷹程の
大きさを持った蜂型のエネミーだ。
そう、私が世の中で一番大嫌いな、あの“蜂”の……。

小さい頃にスズメバチの大群に襲われたことのある私は
ナノコレプシー持ちで。
かつ、その頃のトラウマで蜂を見かけただけで、体に身動きがとれなくなってしまう……。
「逃げたい……、けど……」
冷静に考えて、蜂は昆虫型エネミー。
それなら山脈へ通じる森の中で嫌という程遭遇する可能性は高いだろう、残念ながら。
それなら、ここで動きを把握して対策を練っておくのが普通、だけど……。

「……ぅう、やっぱり……、むり……」
我ながら情けない声を出してしまったと思いながらも、
なんとかそのエネミーにターゲットを取られないようにその場を私は後にした。

ご覧になっていただいてありがとうございます

>>23 さん
そうですね、リナは女主人公ですよ。
ご期待に答えられるように頑張ります

ナノコレプシーってナルコレプシーかな。それは突然眠っちゃう奴だから多分アナフィラキシーが正しいと思うます

ご覧いただいてありがとうございます。

>>皆さんへ
>>24のナノコレプシーはアナフィラキシーの間違いです。
申し訳ありませんでした、以後気をつけます。

>>26 さん
ご指摘感謝します、失礼しました。

おうえんしてるよ!

武器は、片手剣?


結局この日に調査出来た新種エネミーは3種類。
「あー……、ちょいとそこのお嬢さん」
コウモリの羽を持ったトカゲ“バッドフライ”
鷹ほどの大きさを持つ蜂“キラービー”
あと、なんとも説明が難しいけど、魚のようなモグラ“クック”
「……、ちょいと、無視は酷いんじゃないですかね?」
……、ギリギリでレベルは4に到達したけれども。
「、おーい、ちょっとちょっと――」

――っ!
「……いいですか? まず第一に、私はお嬢さんなんて言われる年齢じゃないです 」
……、嫌味に聞こえる、失礼よ、し・つ・れ・いっ!
それ以前にNPCなのにナンパって……
「おっと、こいつは失礼した、いえね、お嬢さんにはちょっと――」
「――、食事の誘いならお断り――」
「――、そうでしたか、それはそれは失礼を……」
鬱陶しいこの男を一瞥する。
灰色のターバンから覗く赤い髪に、蒼い瞳は値定めをする商人のそれだ。
NPC名は“ウラド”
「ただ、お嬢さんは、少し何かが他と違うような」
一々言葉が鼻につく、何が他と違うといううのだろうか。
「……、はっきり物を言ったらどうですか?」
正直言って、蜂の件もあって今の私は相当に疲れが溜まっていた。
NPCと言葉遊びなんかで時間を潰している余裕もないくらいには。
「んー、タイミングが悪かったようですね、……、また別の機会で」
人混みの中へ姿を消していくウラド。
……、これって、何かのイベントだったのだろうか?

ご覧いただいてありがとうございます。

>>28
ありがとうございます。
間が空いてしましたが、今後も頑張ります。

>>29
リナの武器は今のところ片手剣ですね。


全レス返しは無理にしなくてもいいと思う
返したいものにだけ返せば

翌朝の目覚めは唐突だった。
何か夢の途中だった気がする。
具体的な内容は靄がかかっていて思い出せないが、酷く不快な夢だった。
……、そんな気がする。

昨日、詮索を兼ねたエネミー戦によって得たゴールドで、いくつかの買い物を済ませる。
初心者御用達、RPGゲームに欠かせないHPポーション。
値段的には高価なものではないため、買える限り購入しようと思った私を、
予期せぬ事態が襲った。
「……、所持上限、3つ……っ?」
ポーションのテキストを確認すると、以下のようにある。
“対象のHPを約30%回復させる、所持上限3”

私のスキル欄には魔術的な記述はなく、回復魔法に似た類は今のところ確認出来ていない。
仮に、敵との遭遇(エンカウント)を最小に抑えられたとして。
それでもこの所持上限では安全マージンを取れているとは到底言えないだろう。
「……、どうする?」
安全マージンが取れるレベルまで、周囲でレベル上げを重ねるか?
いや、昨日初ダメージを受けたけど、一撃で約1/7を持って行かれてる。
これをせめて1/15程度まで持っていくのには、時間がかかりすぎる。
かと言って、昨日の段階で全ての周囲エネミーを網羅出来たとは思っていない。
それに、蜂型エネミーには私は多分、最善対応をすることが出来ないだろう。
「ここで立ち止まっていてもしょうがない、か……」
HPポーション、そして万が一に備えて毒消しを購入する。
どうやらこの町で装備品を購入することは出来ないようだ。
「とにかく、最小エンカウントで、次の町を目指すしかないよね、うん……」

ご覧いただいてありがとうございます。

>>32
応援や、質問などには極力返していきたいなと考えています。
これからもよろしくお願いします

なんで主人公がリナを名乗るのかちょいと気になる。
27歳という年齢なら某ドラまたから名前を拝借した可能性も有り得るかな?

まだか

ゆっくりでいいから続きを…

町を出て6時間程経過しただろうか。
太陽が一番高いところに上がった頃,ステータス状況と手持ちアイテムを確認する。
回避に徹する先頭が続いているため、時間自体はかかっているが、
致命的な一撃はもらわずに、工程の約4割を消費したはずだ。
手持ちのアイテムもまだポーションは二つ、Hpも9割程を維持出来ている。

「暗くなる前につきたいけど……」
木陰に腰を落とし、サンドイッチにぱくつく。
Hp回復効果のないただの食事だけれども、普通にお腹は空く。
リアル同等ではなく、私にとって、これが今の現実なのだろうと。
そういうところでは、少し受け入れ始めていたところだ。

「気のせいじゃ、ないな……」
どこからか、剣と何かがぶつかり合う戦いの音が聞こえる。
フィールドマップでここ二日、私以外の冒険者を見たことはない。
「……、私以外の“人間”……?」
ありえない話ではないけれども、期待はしないでおく。
……、私は期待を裏切られることが、何よりも嫌いだ。
手早く荷物をまとめ、剣を手に持ち、辺りを警戒しながら音のする方へと進む。

バッドフライにやや苦戦している様子のその冒険者は、いわゆるエルフの女性だ。
多分、NPCの。

ご覧いただいてありがとうございます。

>>35
後々お話で出すかもしれません。
現段階でお話出来るのは、リナは現実世界の自分の名前にややコンプレックスがあります。

>>36
>>37
お待たせして申し訳ありませんでした。
ペースゆっくりになると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

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