勇者「停戦協定?」 (908)



※長編注意




宰相「国王陛下!先ほど勇者様一行が魔王軍の本拠地近くまで迫ったという報告が入りました」

宰相「既に魔王軍の本隊は劣勢を極め、幹部クラスの魔族もほぼ全て討ち取っているそうです!」

国王「そうかそうか。それはよい知らせじゃな」




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宰相「はい。国民も魔王軍討伐の知らせに歓喜しております」

宰相「かの『百年戦争』も、ついに我らの勝利に終わるでしょう!」

宰相「勇者様への禄はどうなされますか?」

国王「まあ待て。まだ勇者が魔王を討つと決まったわけではない」

国王「いや、討たせるわけにはいかぬ」

宰相「はて、どういう意味です」

国王「分からぬか? これまでの人類の歴史を振り返ってみろ」

国王「長い戦争の末勇者が魔王を討ち、そして100年もすれば再び次の魔王が立ち、それをまた勇者が討つ」

国王「そんな全く同じ流れを我らは古くから続けてきたのだ」

国王「ここで一度断ち切っておかねばならぬ」

宰相「しかし……どうやってですか?」

国王「魔王軍と『停戦協定』を結ぶ」

国王「人間と魔族の平和。それを約束するのだ」


宰相「……こんな突然で大丈夫なのですか」

宰相「人間族は古くから魔族を嫌悪しています」

宰相「そう簡単に国民が受け入れるとは思いません」

宰相「勇者様についても一体どう説明していいのやら」

国王「ハハハ。問題ない。さっきのはただの建前だ」

宰相「はぁ」

国王「魔王軍も壊滅寸前。不平等に条約でも結んで苦しめてやればよい」

国王「下手に駆逐するよりはいくらかは役に立とう」

国王「もちろん、魔族への差別中傷も文書では禁止するが、実際は咎めなどせぬ」

国王「魔族などという汚れた者達と人間が協調するなど、初めから不可能な話なのだよ」ハハハ

国王「そして、この戦いが終われば再び諸侯国は分裂し、新たな戦争がすぐに始まるだろう」

国王「そこでだ。然るのちに人間族の諸侯国を『人間族連合王国』として統合する」



国王→幸の国王「さすれば、後々は南の大国『幸の国』国王である余が人間族全てを治め、平和な世を築くことができようて」

宰相「なるほど……あの西の『奇術国連合』と東の『魔術国連合』を相討ちさせ
   両者が疲弊した隙に陛下が北の魔国も含めて諸侯国すべてを統一する、ということですね」


幸の国王「その通りだ」

幸の国王「勇者についても考えてある」

幸の国王「北部の荒れ地でも開拓してもらうつもりだ」

宰相「事実上の左遷ですか……」

幸の国王「まあな。奴も優秀な政治手腕を持つという話だろう?」

宰相「はい。かつて花の国戦線の城にて、城下町に道路や水道、法律を見事に発達させました。
   今では大都市にまでなっていますね」


幸の国王「脅威以外の何者でもないな。この国に置いておくわけにはいかん」

幸の国王「さらに左遷したのちも監視を怠ってはいかんぞ」

宰相「では、協定交渉はいつ行いなさるのですか?」



幸の国王「ん。それならもう済んでおる」

幸の国王「先方魔王軍の第二権力者である側近との合意を得た」

幸の国王「今すぐにも勇者を呼び戻し、協定調印式の準備を始めねばな。卿にも手伝ってもらうぞ」

宰相「御意」


宰相「陛下、そういえばそのペンダントは一体どうなされたのですか?初めて見ましたが……」

幸の国王「ん?ああ、これのことか」チャリ

幸の国王「『知恵のペンダント』と言うそうだ。交渉の時に側近が友好の証だとかで渡してきたものでな」

幸の国王「これをつけていると頗る頭が冴えるのだ。一体どんな魔法をかけているのかは見当もつかん」

宰相「もしや、陛下への呪いだったりするやもしれませんね」

幸の国王「がははは! お前も悪い冗談が上手くなったものだ」

宰相「はっ。これはとんだお耳汚しを……」


宰相は確かにこの国王に対して違和感を感じたはずであった。しかし、彼の性格では
それに言及するには到底及ぶことが無かったのである。



―――魔王城 玉座―――


側近「ですからですね……」

魔王「ですからじゃないわよ!」ムキー

魔王「何勝手に変なこと約束してるのよ!」

魔王「もうちょっとで人間なんてけちょんけちょんにしてやれるのにぃっ!」

側近「もう不可能ですよ魔王様」

側近「幹部は私を残して全て戦死し、魔王軍はほぼ壊滅しました。忌まわしき勇者の一行もすぐ近くまで迫っているそうです」



魔王「やかましいっ! そんなの私が直接出れば楽勝よ!」ムキー

魔王「くらえ!」バリバリバリ


魔王は雷魔法を放った!


側近「おやめくださいこんなところで」ヒラリ


かわされてしまった!


魔王「うるさいうるさい! もうアンタなんか知らない!」バタン

魔王は寝室に入ってしまった。

側近「協定の調印式には出席していただきますからね」

側近「……すべては我らが繁栄のためです……」ボソッ



―――…


グスッ


魔王「また負けちゃった……」グスッ

魔王「どうして私は負けてばっかりなの?」

魔王「お父様…どうして……」

魔王「うううぅぅ……」

魔王「人間と一緒になんて……」

魔王「こんな私ができるわけないよ……お父様……」




―――魔王城付近 勇者キャンプ―――


勇者「今更国に帰れだって?」

使者「そうです。もうじき戦争は終わるのです」

使者「幸の国王様が『停戦協定』を魔王軍と結びなさると……」

勇者「停戦協定?」

戦士「おいこら! ここまできてノコノコ帰れってのか!」

魔法使い「それは少し理不尽なのでは」

僧侶「そうですそうです! 私たちは平和のために命を懸けてここまで辛い道をたどってきたんですよ!」

使者「ですが、決まったものはどうしようもなくてですね……」

使者「かの『死の谷』でさえ、ここまで私が無事で来れるほど魔王軍は弱体化しているんです」

使者「もう十分平和は訪れますよ」



勇者「そうだな……少しでも平和に解決してくれるならそれ以上のことは無い……」

戦士「おい! 怖気づいたのか勇者さんよぉ!?」

魔法使い「まあ抑えなさい戦士」シュパー


魔法使いはお口チャック魔法をかけた。

戦士は話せなくなった。


戦士「むぐぅ……」モゴモゴ

勇者「でも、それで国民は満足するのか?」

勇者「家族や親友を魔族に殺されたような人々もいるだろう」

勇者「僕らはともかく、協調するなんて難しいんじゃないのか」



使者「はい……その点も国王様の御考えのうちです」

使者「つきましては、勇者様に協定調印式の招待状が来ております」

使者「必ず出席せよとのことです」

勇者「分かった。詳しい話は直接聞こう」

勇者「今夜はこのパーティ最後の夜に、祝杯でも挙げておこうか」

魔法使い「そうね」

僧侶「こんな突然なんて……まだ信じられないです」

戦士「モゴモゴ」

使者「では、私はこれにて」


今日はここまでに

固有名詞多くてすみません……


再開します



―――夜 魔族領から最も近い国花の国 最寄りの町の酒場―――


勇者「それじゃあ、乾杯」

戦士「乾杯!」

僧侶「……乾杯」

魔法使い「乾杯」


カチン


勇者「みんな今までありがとう」

勇者「これからは皆で平和な世を生きていくんだ」

勇者「これほど嬉しいことは無い」

僧侶「そうですけども……」



勇者「そんな悲しそうな顔をしないでくれ」

勇者「僕らは元々平和のために戦っていたんだ」

勇者「どんな形であれ、平和が訪れることは僕らの本望なんだから」

戦士「勇者の言うとおりだ。ここで旅を終えるということは逆に喜ぶべきことなのかもしれんぞ」

魔法使い「まあ、戦士にしては珍しくまともなことをいうのね」

戦士「珍しくは余計だ」

僧侶「そうですね……」

僧侶「いつかはこの旅も終わりが訪れるものですもんね……」

勇者「まあ仕方ないさ。僕達は4人で1人みたいなものだ」

勇者「僕だって名残惜しいところはある」



魔法使い「ところで、これからはどうするつもりなの?」

勇者「そうだな……」

勇者「あの幸の国王のことだ。僕が帰れば、僕の政治手腕を恐れて左遷でもするつもりだろう」

戦士「昔から戦闘の才能はヘボのくせに、戦術の才能はピカイチなんだもんな」

戦士「ま、それも名参謀僧侶閣下がいてのことだが」

勇者「しーっ!」

勇者「そうなったら、新しい国を作ろうと思う」

僧侶「新しい国?」

魔法使い「もう13もあるみたいだけど」

戦士「そいつはでかい夢だな」ハハハ

勇者「まあね。でも本気さ」



勇者「停戦協定を結んで、魔族と人間が協調し合おうとしても、なかなか難しい部分はあると思うんだ」

勇者「だから、僕はその先駆けとして魔族と人間がともに平等に暮らせる国を作る」

勇者「本当の永遠なる平和を実現するためにね」

戦士「……全く。お前が言うと本当にできそうな気がしちまうよ」

僧侶「そうですね!そこまで考えているなんてやっぱり素敵です!」

魔法使い「やるじゃないの。でも、最大国幸の国と、大国奇術の国、魔術の国がそれを許すかしらね」

勇者「まあ問題はそこだろうね。でも、ちゃんと考えてある」

勇者「戦士はこのままついてきてほしいんだ」

戦士「俺は親友と夢のあるところへ歩んでいくつもりだぜ」

戦士「そのかわり、ガッカリさせようものならこの手で叩き切ってやるからな」

勇者「ありがとう」



勇者「そして、他の2人は一旦故郷へ戻った方がいいだろう」

勇者「可能ならば再び合流してほしい」

僧侶「そうですね……私は奇術の国に家族もいますし……」シュン

僧侶「これ以上心配をかけるわけにはいきませんね」

魔法使い「ま、あの魔術国国王のことだし……戻るのに時間はかからないわね」

勇者「うん。それじゃあ必ずまた会おう」

僧侶「はい!また必ず!」

勇者「僧侶にはわざわざ奇術の国出身なのに魔術を学んでもらって苦労を掛けさせてしまったな」

僧侶「いえいえとんでもない!奇術は『エネルギー』がないと何にも役に立ちませんから……」



勇者「それに、僕の戦術も補佐兼参謀役の君があってこそだった」

勇者「戦術、魔術、そして奇術。是非帰っても、僕らの下へ戻ってきてもその才能を生かしてほしい」

僧侶「そんな……大したものでは……」

魔法使い「あら、あの町づくりの時のあなたの顔ったら見たこともないくらい生き生きしてたじゃない」

僧侶「それはですね……」

戦士「ふん。別れ言葉ってのは似合わねーんでな。そろそろお暇にしようじゃねーか」

勇者「そうだね。それじゃあ皆。しばし平和を楽しもう!」



―――しばらく後 幸の国 王城前広場 停戦協定調印式―――


魔王軍は戦闘を一切放棄し、人間と魔族との戦争は終結した。
そしてその後、調印式にはあらゆる国の人間と、魔族が集った。

彼らはお互いに睨み合っていたが、中には握手を求める商人などもちらほら見られた。

世界中の皆が、この新しい時代への扉に興味津々であったのだ。


ワーワー!
ヘイワバンザイ!


幸の国王「皆の衆!」

幸の国王「我らはこれより新たな時代の幕を引く!」

幸の国王「魔族と人間の戦いはここを持って永遠に廃されるのである!」


ワーワー!



幸の国王「それではまず、我と魔族の第二権力者である側近殿により、停戦協定条項への調印を行う」

幸の国王「側近殿、前へ」

側近「はい」スクッ


テクテク


幸の国王「今一度協定条項へのお目通しを願う」





第一条、『百年戦争』の終結を誓い、人間族と魔族は未来永劫戦いを廃する

第二条、人間族諸侯国は元魔王軍領地を『魔国』として承認する

第三条、両族は協調を旨とする。いかなる場合であっても両族を差別、中傷しない

第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する

第五条、両族は経済において提携する

第六条、魔国復興のため、復興省を設置し、人間族が魔国を保護する。



側近「……」

側近「よろしいでしょう」ガシッ

幸の国王「うむ」ガシッ


ワーワー!


幸の国王「理解、感謝する」

幸の国王「では次に、両族対立の象徴である『勇者と魔王』両者による和睦を誓っていただく」

幸の国王「勇者殿、魔王殿、共に前で握手を!」



魔王「……」スクッ

魔王「……」スタスタ

勇者「……」テクテク

勇者「よろしく」ニコッ


サッ


魔王「……」チラッ


ガシッ


ワーワー!



幸の国王「これにて人間族と魔族の争いの壁は完全に消え失せた!」

幸の国王「両族の永遠なる繁栄を祈ろうではないか!」


ワーワー!
ワーワー!


魔国万歳!

平和万歳!!!!


―――――――
―――――
―――

魔族と人間に平和が訪れた!

時は陰謀渦巻く時代へ。

伝説は再び訪れる。

人間族と魔族と、そしてもう一族の新たな物語!


てなわけでここまでです

期待していただけて本当にうれしいです!まだもう少し設定説明みたいなプロローグが続きます


昨日は風邪で寝込んでましたw

では今日は元気に行きましょー



―――調印式後 幸の国城 玉座―――


勇者「国王陛下! 度重なる御恩と援助にこの上ない感謝を申し上げます」

幸の国王「ガハハ! そうかたくなるな勇者殿。崩してよいぞ」

勇者「ありがとうございます」

幸の国王「長旅による魔王軍討伐、実にご苦労だった」

幸の国王「この平和の訪れも、卿あってのことである。誠に感謝いたすぞ」

勇者「いえいえ私などは……」


幸の国王「ついてだが……勇者殿の禄について諸臣と討議した結果、北部の手つかずの土地を勇者殿に差し上げることに決定した」

勇者(ほら来た! しかし『手つかずの土地』とはまたおしゃれな修飾だな……)

勇者(『公式な』人口は皆無。土地もボロボロのただの荒れ地だというのに)

勇者(しかし、それがまた好都合だね)

勇者「ははっ。ありがたき幸せに存じます」

幸の国王「うむ。それでは、近いうちにこの国を発ち、その土地を開拓してほしい」

幸の国王「勇者殿の政治手腕には我らも期待しておる」

幸の国王「頼んだぞ」

勇者「御意」



―――…

戦士「はははは。で、予想通り飛ばされたってわけか」

勇者「そういうことだね」

勇者「特に条件も付けてこなかったし、僕にとってはかなりの好都合だろう」

勇者「明日にはここを発とうと思う」

戦士「あいよ。準備ならいつでもできてるぜ」

戦士「俺も幸の国憲兵総官とやらを断ってやったんだからな」

戦士「感謝しろよエリートさんよー」

勇者「ははは。そんな暇そうな仕事は戦士には似合わないだろ」



勇者「居眠りですぐにクビになるのがオチさ」

戦士「お、言ってくれるじゃないか」

戦士「どうだ久々に一太刀やろうじゃねえか」ジャキン

勇者「よしてくれよこんな城の中で」

勇者「あっちにいったら十二分に仕事も増えるんだから」

戦士「チッ。ここのところはお預けにしといてやる」チン

戦士「ところで仕事が増えるってのは、ある程度やることが決まっているってことのようだが?」

勇者「まあね。まああまりここだと大きな声で言えないから、近くなったら話すことにしよう」

戦士「いいだろう。あーあ全く暇だな。一眠りでもしてくるか」スタスタ

勇者「はいはい」クスクス



―――魔術の国 首都―――


魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。魔法使い殿、貴女には是非魔法大学校の校長を務めていただきたい」

魔術国王「前任の校長が老衰してしもうてのぅ。そろそろ引退したいと申しておるのじゃ」

魔術国王「魔術国王、魔法省長官、魔法大学校校長、魔術連合軍総司令官の『四賢人』であっても、老いにはどうしても勝てぬのでな」

魔術国王「少々お若いが、魔法学の権威として貴方に最先端を担って頂きたいのじゃ」

魔法使い「それは大変名誉な位ですわ。私には勿体ないほどのね」



魔法使い「是非お受けしたい、と申し上げたいけれど」

魔法使い「もう少し私にはやることがありますので、その話は保留にしておいてくださらないかしら」

魔法使い「心配しなくても私は100年や200年じゃ老いぼれませんからね」

魔術国王「ほう……そうか。それは残念じゃな」

魔術国王「奇術の国との戦争がまたすぐに始まるじゃろう」

魔術国王「貴方にはその司令官としても活躍してもらいたかったのじゃが……」

魔法使い「お言葉ですが陛下。私たちは人間族の平和のために戦う身ですの」

魔法使い「人間同士の戦いに加わる気は、さらさらないことをここで申し上げておきますわね」



魔術国王「ふぉっふぉっふぉ。それでこそ勇者一行様じゃのう」

魔術国王「それはよいのじゃが、このあと貴方はどうするおつもりかな」

魔法使い「そうね。陛下は、先日勇者が北の荒れ地に飛ばされたことをご存知ですかしら」

魔術国王「んむ。それは知っておるぞ」

魔術国王「勇者殿も御足労なことじゃ」

魔法使い「彼は、きっと我ら魔術国連合の助けを必要とされるでしょう」



魔法使い「私を外務省の使者としてその土地へ派遣していただきたいのです」

魔術国王「ふむ……よいじゃろう」

魔術国王「あの土地は『百年戦争』中も、我が連合と奇術国連合が幾度となく取り合ってきた土地じゃ」

魔術国王「奇術の国に手出しをさせるわけにもいかんじゃろう」

魔術国王「ぜひその魔の手から勇者殿をお救いするのじゃ」

魔法使い「ありがとうございます陛下」



ここから文字数が激増します
いわゆる設定説明というやつです



―――魔術国中央大図書館―――


魔法使い「ここも久しぶりに来たわね……」

魔法使い「遠視魔法で旅の途中も欠かさず本を読んでいたものだけど、暇を利用してもうちょっと歴史のことでも学んでおこうかしら」

魔法使い「有効な戦略のヒントも見つかるかもしれないわね」

スタスタスタ

魔法使い「これがいいかしら」



『魔法大歴史時勢全集』


パラ


『この歴史時勢全集は、著作者の魔力により自動的に歴史や時勢が記録更新される全集である。

著作に当たって私第29代魔法大学校校長は大賢者殿より魂を移す魔法を……』


魔法使い「能書きは良いわね」パラパラ



【魔術の国は、その名の通り、古来から魔法によって栄えた王国である。

そして、魔術の国は、5つの中小国を傘下に置き、『魔術国連合』を形成している。

魔術の国各最高機関の長官である『四賢人』は、その中でも卓越した魔力を有する実力者であり、かつて魔族の大軍をたった四人で薙ぎ払ったとも言われている。

それについて、数多くの魔法の作成を手がけたかの大賢者はこう記している

大賢者「やっぱり、下からより上からの方が怖いよね。いや割とマジで」】



魔法使い「相変わらず適当な爺ね。奇術の国や幸の国はどうかしら。何か有益なことが書いてあるといいけど」パラパラ



【奇術の国、とは魔術の国と対比して付けられた俗称である。実際は『科学の国』と言った方が正しい。

こちらも傘下に5つの中小国を置き、奇術国連合を形成している。

国家のシステムも他の勢力とはかなり異なっている。

まず、その本体は、政治から産業、市場までを担う巨大な企業の集合体『企業連合』であり、それを理事長以下で構成される理事会が支配している。】


魔法使い「どうしてここまで別次元のような国家が同時に成立しているのかしらね。そこを書くべきじゃないかしら」パラパラ



【幸の国は魔術奇術両連合とは独立した、人間族諸侯国の中で最大の国家である。

ひとたび魔族が勢いをつけたときには、人間族を統括したり、勇者を輩出して魔王討伐に当てたりなど、
割と重要な役目を担ってきた由緒正しい国である。

『幸の国』という名称はその充実した社会福祉制度に由来するとも言われている。】


魔法使い「全く、どれもこれもありきたりなことばかりね」パラパラ

魔法使い「これは、『百年戦争』かしら」


【『百年戦争』とは、100年前に勃発した魔族と人間族の戦争である。先代魔王は政治的工作に特に優れており、戦わずして勝利を勝ち取る戦法を得意としていた。

勇者に対しても、仲間割れによって自殺に追い込む等して6人もの勇者を撃退している。

しかし、7人目の勇者が魔国に入った二年後先代魔王は突然死去。その後百年戦争は実質的に魔王軍の敗北をもって終結を迎えることになった。

だが、先sbふぇvvんbヴぃびvぶああscをえtgfぅdgbvるいbvglwりbふ】



魔法使い「なにかしら……更新中ってやつなのかしら?」

魔法使い「誰かのいたずらかもしれないわね」ハァ

魔法使い「まあいいわ。あんまり大したことも書かれてなかったわね」ボスッ

魔法使い「これくらいにしておきましょうか」

スタスタ


てなわけで文字数がかさんだのでここまでにします。設定説明は必要最小限にまで
削ったので少々不足気味かもしれません。

最後におまけで地図を載せておきます。紙クオリティーなので参考までに。
火とかは首都の位置を示しているイメージです。連合内国境は省略してあります。

\                                     /

  \             魔   国              /  
    \___________________/    
\                                     /

  \           北 部  荒 地            /  
    \___________________/    
・・・                 ┃                 ・・・

奇・             電   ┃       花        ・魔
  ・                 ┃                 ・
術・   奇 術          ┃   火         森  ・術
  ・              光 ┃                 ・  
国・                 ┃                 ・国
  ・     銅          ┃  水        魔 術 ・  
連・                 ┃                 ・連
  ・   金            ┃                 ・  
合・          │ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄│          ・合 
・・・          │             │          ・・・ 
        銀   │  幸 の 国    │             
            │             │      風     


あ、言い忘れていましたが

奇術国連合は電気の国、光の国、銅の国、銀の国、金の国

魔術国連合は花の国 、火の国、水の国、森の国、風の国 で構成されています

いちいち説明多くて申し訳ないです。てかぶっちゃけ一切出てこない国とかあります


文明レベルはどのくらいですかい?
これから説明あるならスルーでいいけど


>>58 基本的な文明レベルは現代~近未来とします。

本文言及がないので説明しておくと戦闘機などの飛び道具は条約で生産禁止されているということになっています。
あまり兵器に詳しくないということもあってそういう系はなるたけカットしましたので悪しからず。


そして、魔法でできることは粗方違う形で科学でもできる。逆もまた然りということで。
大体これが文明の基準と言ってもいいです。かなりあやふやですが……追々説明していきます。
例えば、蘇生魔法はなしです。転移魔法はグレーゾーンなので後述します。


この辺は矛盾やらなんやらが非常に起きやすいのでなるべく慎重にこの世界観に合わせて噛み砕いていきますが、
もしやらかしていたら指摘、質問してくださると嬉しいです。
そして細かいところは大目に見て頂けるとありがたいです。


長レス失礼しました



―――奇術の国 首都 企業連合本社ビル 理事長室―――


僧侶「私に一体何のご用でしょうか理事長」

僧侶「私なぞには功績も何もありませんが……」

理事長「まあそう卑下なさらないでください」

理事長「貴女には十分な功績と実力があるんですからね。この国で唯一魔法まで使えるお方だ。
    もっと自信を持った方がいいですよ」

理事長「折角の容貌がそれではもったいありません」

僧侶「はぁ……」

理事長「無駄話はこのくらいにして、単刀直入に言いますと」

理事長「貴女を光の国軍の大隊参謀長に任命し、准将の位を与えます」



理事長「一度家族の下へでも赴いたら、然る後に光の国へ行ってください」

僧侶「なな!? 参謀長にですか!?」

理事長「不満足ですか? 貴女の参謀としての功績は重々承知していますが、さすがにいきなりこれ以上の位を与えるとなると……」

理事長「しかし、貴女の功績は大々的に報じられていますし、軍の方々に白い目で見られることも、あまりないでしょう」

僧侶「そんな! 私には過大すぎます!」

僧侶「それに、戦争に、人殺しに参加するなど私には……」

僧侶「辞退させてください!」



理事長「何を言うのですか。貴女はあくまで戦術をもって司令官に助言するだけでいいのです」

理事長「決して貴女が直接手を下すわけではありません」

理事長「犠牲の出ない作戦を作るのも貴女の自由なのですよ」

僧侶「そういう問題ではありません!」

僧侶「それに、私はまた勇者様のところへ戻るつもりです」

理事長「ほう? あの荒れ地にですか」

理事長「それなら余計辞退させるわけにはいきませんね」

僧侶「えっ? どういうことですか?」


理事長「戦術の秀才である貴女なら分かるでしょう?」

理事長「魔術の国は確実に勇者様への援助を口実にして、北部の荒れ地を手に入れることでしょう」

理事長「そうなれば多大な資源を失った上に、私たちは重要な拠点を無条件で失うことになるのです」

僧侶「それは確かに……そうですが……」

僧侶「あの北部の荒れ地は戦略的要所ですからね……」

理事長「そういうことです。ここで貴女が残らなければ、奇術の国は滅び、貴方の家族は死に絶え、
    貴女も国を捨てた売国奴として死後も呪われることになるかもしれません」

理事長「その方が結果的に犠牲は多くなってしまいます」

僧侶「しかし……」



理事長「それに、人殺しには参加しないということでしたが、魔族との戦いはどうだったのですか?」

僧侶「う、それは……」

理事長「魔族は長年我らと対峙してきた敵であるとはいえ、彼らにも感情や正義という物がなかったわけではないでしょう」

理事長「実際に魔国へと赴いた貴女なら分かるはずです」

理事長「そんな彼らを討つのと人を殺すのとで一体何の違いがあるのでしょうか」

理事長「貴方はもうとっくに覚悟したはずです。魔族のことを身近で見たときに、彼らは人と何も変わりはしないと」

僧侶「……」



理事長「それでも承諾していただけないというならば、私も貴女の家族の安全は保障しかねてしまいますね」

僧侶「……!」

僧侶「そんな……」

理事長「それに、こう考えてみてはどうですか?」

理事長「貴女が軍の中で勢力を拡大し、私達から権力を奪ってしまえばよいのです」

理事長「貴女への支持は十二分に集中していますからね」



理事長「さすれば、平和も協調も勇者への援助も貴女の自由です」

僧侶「理事長!?一体何を……?」

理事長「ここまでできる方なら、私も心置きなく理事長の座など譲って差し上げますよ」

理事長「人の心なんてものはすぐに移り変わっていくものです」

理事長「いつでもお待ちしておりますよ」ニコッ

僧侶「……失礼します」


バタン



―――…

僧侶「折角人を救うために僧侶になったというのに……」

僧侶「結局は逆の立場になってしまうなんて……皮肉なものです……」

僧侶「でも、どうしようもありませんね」ハァ

僧侶「こうなったら、理事長の言う通り、精一杯犠牲を減らして、血を流さない作戦を作らなければ」

僧侶「神は私に新たな使命を授けなさったのでしょうか……」

僧侶「私は私の道で勇者様をお助けしなければ!」グッ


タタタッ



―――…


ガチャ バタン


軍務理事「あちゃー。聞いてましたよ今の会話」

軍務理事「理事長も過激な発言が過ぎますぜ」

理事長「あれくらい言わないと彼女は動きませんよ」

理事長「わざわざ聖職者の道を選ぶ方なんですからね」

軍務理事「それにしても理事長もお人が悪い方だ」

軍務理事「そう分かっているなら、自由にさせてあげればいいんじゃないですかい」

理事長「そうはいきません。彼女は必ずこの危機を救う光となるでしょうからね」



理事長「いわば私の先行投資というやつです」

軍務理事「危機ねぇ……無い頭なんぞ持つもんじゃありませんなぁ」

軍務理事「本当に彼女は我々を倒しに来るんでしょうかねえ」

理事長「必ず来ますよ」

理事長「彼女にその気がなくても私がそうさせますから」フフフ

軍務理事「なんと、つくづく恐ろしいお方だ」ハハハ


その後、僧侶は還俗し、軍人として新たな人生を開くことを決意した。



――――――


こうして、勇者一行の新たな物語は始まった。

彼らの運命が一体どうなっていくのか。そして、歴史はどう動いていくのか。
知り得る者は、どこにも存在していないのだった。


プロローグ END


ということでプロローグ終わりです

物語の都合上役職がコロコロ変わることがあるので、その時はその時で対応します。
この場合僧侶は還俗しましたがこの後も名前は僧侶として読んだり左端に書いたりします。


キリがいいので今日はここまでで


それではようやく本編です



―――翌日 幸の国首都中央駅―――


勇者「特急の蒸気機関車なんて初めて乗るなぁ」

戦士「そりゃあそうだろう。切符は高すぎて、貧しかった俺達にゃあ手が出せなかったんだからな」

勇者「そうだね。今回は幸の国王のお陰でタダだし、このまま国境まで行ってしまおう」

勇者「その後は馬で行くしかないね」

戦士「魔術国連合はまだ鉄道の開通を拒否しているのか? まったく頭の堅い奴らだ」

勇者「まあ彼らには空飛ぶ箒もあるし、わざわざ敵国の技術を取り入れるまでもないんだろう」

戦士「『彼ら』にはあるかもしれんが、『俺ら』には無いんだからな。全く不便なものだよ」プンスカ


ポッポー


勇者「お、来た来た」

戦士「さーて、出発だな!」



―――1か月後 花の国 王城―――


奇術国連合と魔術国連合の開戦が勇者に伝わったのは、北の荒れ地に入る直前、花の国王に謁見し、挨拶をした時であった。

もちろん勇者はこのことを予期していたため、特に驚きはなかった。


花の国王「勇者殿、戦士殿、長旅真に御足労でありましたねはい」

花の国王「魔族との戦時中に、この国が救われたのも勇者殿とその御一行のおかげなんですねはい」

花の国王「重ねてお礼を申し上げるんですねはい」

勇者「ありがとうございます」

花の国王「勇者殿が発展させてくださったあの大都市もですね、勇者殿を称えて『勇者市』と新たに名付けたいと申しているんですねはい」



戦士「(こいつはセンスのねぇ名前だな。傑作だ)」クスクス

勇者「(こら。聞こえてるよ)」ツン

勇者「ははっ。誠にありがたきことであります」

花の国王「ところでですね。再び奇術の国との戦争が始まりましたのでですね、護衛の者を派遣したいと思っているんですがねはい」

勇者「もう始まりましたか。戦地は何処でしょうか」

花の国王「火の国と光の国の国境付近と聞いているんですねはい」



勇者「ありがとうございます。護衛については、後々こちらから要請させていただきますので」

花の国王「分かったんですねはい」

花の国王「北の荒れ地と言えば、ここいら一帯を騒がせているあの『半魔盗賊団』の本拠地が存在しているということですからねはい」

花の国王「そちらも十分注意していただきたいんですねはい」

勇者「大丈夫ですよ。私たちは魔王軍を圧倒した『勇者一行』ですからね」

花の国王「これは失礼したんですねはい」

花の国王「心配はご無用のようですねはい」

勇者「それでは失礼いたします」



―――3日後 花の国=北部荒れ地国境付近の村―――


パカラッパカラッ


戦士「さーて、そろそろ馬の旅も終わりだな勇者」

戦士「一休みでもして、これからの予定をお聞かせ願おうじゃないか」

勇者「そうだね。ここまでくれば変な監視もうかつには近づけないだろう」



―――…


戦士「ふう。それにしても、荒れ地との国境という割には、やけに賑わっているような気がするが」

勇者「そりゃあそうさ。あらかじめ僕がこれから、この荒れ地を三角貿易の拠点にするという噂を流しておいたんだ」

勇者「この前の帰り際に、勇者市の市長に協力をお願いしたら快く承諾してくれたよ」

戦士「なるほど、それで人を集めようってのか。手の込んだ奴だな」チッ

勇者「誉め言葉として受けとっておくよ」

勇者「まあ、これで町作りの基礎は何とかなるだろうね」


勇者「商人や銀行はすぐにでも進出してくるだろう」

勇者「それじゃあこれからの仕事を説明しよう」

戦士「おう」

勇者「僕らはこれから『半魔盗賊団』のアジトへと直接出向くことにする」

戦士「おぉっ、これは久々の戦闘の予感!?」

勇者「残念だけど今回はお預けだね」

勇者「僕らは『半魔盗賊団』と和睦を結ぶのさ」

勇者「そして、これからの国作りに協力してもらうんだ」



戦士「和睦ゥー?」

戦士「そんなの可能なのかよ」

勇者「魔族と人間とが和睦を結べたんだ。いわんや魔族と人間の混血である半魔をや、だよ」

戦士「なーるほど……」

戦士「勇者がその口と舌で上手くちょろまかすって寸法だな?」クスクス

勇者「ちょろまかすとはまた失礼な言いようだね」プンスカ

勇者「僕の目標は、人間と魔族が共に暮らす国を作ることだよ」

勇者「その先駆けとして、半人半魔の彼らと手を結ぶのは当然のことさ」



勇者「後々は、人間族魔族間協調の象徴となってくれるだろう」

戦士「ふむ。確かにそうだな」

勇者「それに、少し調べてみたんだけど……」

勇者「その『半魔盗賊団』の首領はかなり頭のキレる半魔らしいんだ」

勇者「少なくとも物分りはいいはずだよ」

戦士「ははっ、勇者と半魔の知恵比べとは必見だな」



戦士「こりゃあおつまみでも持っていくかな」

勇者「勝手にどうぞ。せいぜい戦士がおつまみにならないようにね」

戦士「そりゃこっちのセリフだ」ハハハ

勇者「さて、じゃあ今日はこの村で一泊していこうか」

勇者「用意するものは用意してしまおう」

戦士「はいよ」


今日はここまで


書き溜めを足してたらすっかり遅くなってしまいましたww

続きです



―――翌日 北部荒れ地―――


戦士「やっぱり中に入ってみると、酷くさびれているもんだな」

勇者「そうだね。魔族領、奇術国連合、魔術国連合の間にあって幾度とない戦火にさらされ、多くの血が流れてきた場所だ」

勇者「こんなところに住もうなんて、普通の人間なら到底思わないだろう。魔族ですらそうなんだから」

戦士「恐ろしや恐ろしや。そんな土地で国を作るなんて、ひどくばちあたりなもんだな勇者さんよ」

勇者「そんなことはないさ」

勇者「僕はこの土地こそが国作りに最適だと思っているよ」



勇者「ここから本当の平和と協調が始まっていけば、ここで流れた全ての血に対して慰霊の意にもなる」

勇者「流したくて流した血なんて一滴もありやしないんだから」

戦士「ほう。勇者にはロマンチストの精神も備わっていると見える」

戦士「じゃあ俺は、ここで自滅救済魔法でも唱えてみるかな」

戦士「そうすれば化けて出る権利がもらえるんだろう?」

勇者「君は魔法を使えないだろうに」

戦士「ぐ、流石鋭いな……」



勇者「しかし最近、屁理屈の腕が上がってきてるんじゃないかい?」

戦士「さあな。剣術の鍛錬が不足気味で、暇だからかもな」

勇者「君にもひねくれ者の素質がありそうだね」

戦士「魔法使いと一緒にするなよ。俺はあくまで剣と戦いを愛する男。ただそれだけだぜ」

勇者「君の方がよっぽどロマンチストじゃないか……」

勇者「お、あれは……?」

戦士「建物らしきものが見えるな」

勇者「盗賊団の基地かも知れない。いってみよう」



―――半魔盗賊団 小規模拠点の村 出入り口の門―――


監視役1「おい、聞いたか?勇者がこの荒れ地にやってくるらしいぜ」

監視役2「聞いた聞いた。どうも国作りをするんだってな」

監視役1「どうするんだよ……このままじゃあ盗賊団が壊滅させられちまうんじゃねえのか?」

監視役2「どうもこうも、戦って勇者を倒すしかないだろ」

監視役2「勇者とは言えど所詮は人間だ。半魔の俺達に勝てるわけがない」

監視役1「そりゃあそうだな。もし俺たちが倒しちまったら、団長にたんまりと褒美を頂けるだろうよ!」


監視役2「そうなれば、幹部昇進支部長就任!」

監視役1・2「イイカンジー!」



監視役1「ん?誰かいるぞ」

監視役2「本当だ。西部支部のやつらかな?」

監視役2「あいつら、一昨日電気の国へ盗みを働きに行ったんだが、そこで軍にコテンパンにされたらしいしな」

監視役1「ハハハハハ! あの奇術国軍とやりあったとはな! こいつは傑作だ」

監視役1「でもおかしいぞ。どうも人間っぽい姿をしているようだが」

監視役2「あたりまえだろ! ここは『半魔盗賊団』の基地だぜ。多少人間っぽいやつくらいいくらでもいるわ、この間抜けめ」

監視役1「そりゃそうか! ハハハハハ」



勇者「おーい。そこのやぐらの上にいるお2人さん」

監視役2「なんだ? お前ら、西部支部のやつらか?」

勇者(西部支部?)

戦士「(俺達、半魔盗賊団の一員だと思われているみたいだぜ)」

勇者「(当然さ。半人半魔の集まりなんだ。人間っぽい姿をしている半魔がいてもおかしくは無いさ)」

勇者(しかしここは敢えて堂々と行こう)

勇者「いや、僕は勇者だ。彼は戦士。ここは半魔盗賊団のアジトか?」

監視役1・2「!!!」



監視役1「ゆ、勇者だと!!??」

監視役2「おい、まずいぞ、早く基地長と南部支部長へ報告しに行け!」

監視役2「ここは俺に任せろ! 手柄は俺のものだ!」

監視役1「ふざけるな! お前こそ報告に行け!」

ボカスカ

勇者(『基地長』、『西部支部』、『南部支部長』……これはかなり組織の統制が上手くなされているようだね。予想以上だ)

勇者「なんだか喧嘩が始まったみたいだ……」



戦士「おいおいおいおい!俺達も舐められたもんだなぁ」

戦士「その中途半端な身なり、叩き切ってくれr」

勇者「戦士、抑えて」シュパー


勇者は、戦士にお口チャック魔法をかけた。


戦士「モゴモゴ」

勇者「おーい、僕らに君たちと争う気はない!」

勇者「僕達は半魔盗賊団のボスに用があるんだ」



監視役1「なんだと!?」

監視役2「そんなことを言って、俺達を騙して皆殺しにしようっていうんだろう!」

勇者「これは大分勘違いをされているみたいだね」

戦士「モゴモゴ」

勇者「僕についてどういう噂が流れているのか知らないけれど、僕はここに人間と魔族の共に暮らせる国を作ろうと思うんだ!」

勇者「だから、君たちとは戦わない!」

監視役1「嘘だ嘘だ!惑わされるな!」

監視役2「ええい、こうなったら手柄はいただくぜ」

監視役2「氷結まほ……」



ガチャ


?「お止めなさい!話は聞いていました」


門横の小さい扉から、ほとんど人間の女性のような容姿をした半魔が現れた。


監視役1「はっ!基地長!」

基地長「これだから下級団員は……」

基地長「失礼しました勇者様。団長から、勇者様がいらっしゃった場合は本部に案内せよ、との命令がでております」

基地長「一度南部支部を経由してから、本部へと案内します」



基地長「こちらへどうぞ。乗り物もありますので」

勇者(さすがに末端構成員までの統率は困難か……)

勇者(とはいえ、一盗賊団にしては見事な統率システムだ)

勇者(『団長』の知略は侮れないな)

勇者「ありがとう」

戦士「モゴモゴモゴ」


ザッザッザッ


その後勇者は、数時間かけて南部支部へと案内された。


今日はここまでで


おお、やっぱり休みは人が多いですねw

それではいきましょう



―――北部荒れ地 半魔盗賊団南部支部―――


基地長「支部長、ただ今勇者様をお連れしました」


南部支部は小さな町のようになっていて、機能こそ基地であったが、商店や宿なども多少存在しているようだった。

そして、奇術国連合や魔術国連合領から奪ってきた品物をそこかしこに見ることができた。

南部支部長も人間に近い容姿をしていた。しかし、基地長ほどでもなく、一目見ただけでもさすがに人間でないことは判別が可能だった。



南部支部長「ごくろうだった基地長。一度休息をとっていいぞ。この後も本部への案内を頼む」



基地長「はっ」


ササゥ


南部支部長「これは勇者様。こんなさびれた地へよくいらっしゃいました」

南部支部長「団長からは篤く遇せよとの仰せをいただいております」

南部支部長「先刻は下級の団員が無礼を働いたことをお詫び申し上げます」

勇者(なるほど……やはり団長は僕らと戦っても無益だということを承知して歓迎するように命令していたんだろう)

勇者(とはいえ、安々と本拠地を売り渡すわけもないだろうな……)

勇者(何か企んでいるかな?)



戦士「ったく。俺達をめぐって手柄争いとは、歓迎も甚だしいもんだな」

戦士「勇者の首に100万、俺の首に1億の金でもかかってるのか?」

勇者(100倍はないだろ100倍は)ツン

戦士(100倍はあるだろ100倍は)チク

南部支部長「いえいえ、まったくそんなことはございません」

南部支部長「下級団員の間の噂が誇張された結果に他なりますまい」

南部支部長「どうか気を害されないでいただきたいのです」



勇者「わかった、こちらもそこまで気にしていないよ」

南部支部長「それはよかった」

南部支部長「それでは勇者様、今日はここで休んでいってください」

南部支部長「本部まではもう少しかかりますので」

勇者「ありがとう」

戦士「(寝こみを襲ったりしないだろうな)」

勇者「(はは。君の寝相なら、寝こみを襲われても刺客の一人や二人、バッサリ斬り倒しちゃうんだろ)」

戦士「(お、お前が素直に誉めるなんて珍しいな)」

勇者「(誉めてない誉めてない)」



その後、勇者は半魔盗賊団についていろいろと南部支部長に質問した。
結果、分かったことと言えば


・盗賊団は本部を中心に、東西南北各支部を置き、それぞれ支部長が統括している

・少し前に団長が荒れ地を統一するまでは半魔たち同士の派閥争いが絶えなかった

・戦時中は特に干渉せず、身をひそめていた

・戦争が終わり、勢力を拡大しつつある

・半魔は人間の知能と魔族の力を同時に備えており、そのバランスの良いものほど幹部になりやすい

・上位に行くほど、人間と魔族の比を調整できる。基地長や南部支部長が人間のような姿だったのは、戦闘時以外は知恵の方に重点を置くため。

・半魔は致命的なダメージを受けると、自己防衛本能が働き、魔族の部分に体を支配され、暴走してしまうことが多々ある。

くらいであった。



―――その頃 半魔盗賊団本部―――


ジリリリリン ジリリリリン

ガチャ

フムフムワカッタ

ガチャ


副団長「団長、先ほど勇者が南部支部へと到着したということです」



団長「ほう。やはり来たか。あの噂は誠だったようじゃな」

副団長「はい。しかしよろしいのですか? 篤く遇せよという命令ですが……」

副団長「確かに直接やりあっても勝機は少ないでしょうが、あの噂の通りなら、勇者はこの半魔盗賊団を殲滅しようとするのではないですか?」

団長「そうじゃな。儂のところへ直接出向いて、儂を謀殺せんとするやもしれん」

副団長「それならば団長!」

団長「まあ待て。じゃが、その噂にはもう少し詳細があっての」

団長「勇者は、この土地に魔族と人間が共に暮らせる国を作る、と言っていたというのじゃ」



団長「これは情報隊長が確かめたことじゃから、まず間違いないじゃろう」

団長「勇者は恐らく儂らと協力して、建国をしようというのじゃろうな」

副団長「ニャるほど……」

団長「もちろんタダで協力してやるわけにもいかん」

団長「勇者も優れた知力を持つという話じゃ」

団長「彼を試す意味もかねて、儂も一つ知恵比べをしてみようと思ったのじゃ」

副団長「知恵比べですか?」



団長「そうじゃ。まあ、詳しいことは後に話すとしよう。楽しみに待っておれ」

副団長「はい。分かりました」

団長「もしかしたら、長い間魔族にも人間にも拒絶されてきた我らの歴史が変わるかもしれん……」

副団長「それも、勇者次第ということですね」

団長「うむ」



―――翌日 半魔盗賊団本部付近―――


翌日、勇者たちは南部支部を発って本部へと向かっていた。


基地長「どうですか? この『セグウェイ』という乗り物の乗り心地は」

基地長「少し前に奇術の国で開発された乗り物なのですが、平地でしか使えないため、あまり流行らなかったようです」

基地長「荒れ地は割と平地と丘が多い平らな土地ですから、多大なエネルギーを必要とする自動車よりもこちらのほうが効率的なんです」

基地長「座れないのが玉に傷ですが」



勇者「名前は聞いたことがあったけれど悪くは無いね。慣れるのが難しいけど、慣れてしまえば大分楽だよ」

戦士「そ、そうか? 俺はどうも苦手だな……おわっと」クルクルクル

勇者「なんだ、最初のうちは前にも進まなかったんだから、大分上手くなったじゃないか」ケラケラ

戦士「せ、戦士としてバランス感覚は必要不可欠だっ!」プルプル

勇者(それにしても)

勇者(ちょっとシュールだな)


今日はここまで



―――半魔盗賊団 本部―――


本部は、大都市とまでは行かないがそれなりの規模の町として機能していた。
市場には恐らく他国から盗んできたであろう品物が並び、銀行や宿、役場までもが設けられていた。


勇者「結構賑わってるんだね」

戦士「おおおっ。さすが盗賊団だ。古今東西の名剣が揃っていやがる!」ダダッ

勇者「待て待て、それはまた後にしよう」ギュッ

戦士「なんだよ!ちょっとくらいいいだろ!」

基地長「盗賊団の目利きは一流ですからね」



基地長「偽物なぞは一品も置いてありませんよ。全て本物で格安になっています」

基地長「ときどき魔族領……今は魔国ですか、そこや人間族領からも買いに来る者がいるほどです」

勇者「まあ、闇市みたいなものかな」

戦士「ここもいいところじゃないか。来てよかったなぁ」ウットリ

基地長「それでは、あちらが本部基地の入口になります」

戦士「なんだ?ありゃあ普通の酒場じゃねえか」

基地長「あの奥が地下に繋がっているのです」



基地長「ほとんどの基地を作ったのは副団長ですが……
団長はお洒落好きなので、あまり華美な基地などは作らせたがらないのですよ」

勇者「お洒落好きねえ」

勇者「君は団長に会ったことがあるのかい?」

基地長「そうですね、基地の視察の際に一度だけです」

基地長「口調がなんとも特徴的で……」

戦士「一体どんな奴なんだ?」

基地長「そうですねぇ……剣の腕が達者で、魔法も強力なものを軽々と唱えると」

勇者「それだけかい?」



基地長「はぁ、何しろ幾分も前の話なので……」

戦士「なんだぁ情報不足だな」

戦士「相手がどんな奴か分からねぇと、こちらも態度を決められねぇぜ」

基地長「不甲斐ない次第です」

勇者「それじゃあ行こうか」

勇者「長い道のり、わざわざありがとう」

基地長「いえいえ。勇者様の国が、我らを悲しき歴史から解き放ってくれることを願っています」

勇者(悲しき歴史、ね……)

基地長「それでは」

戦士「またな」



―――半魔盗賊団 本部基地入口の酒場―――


カランカラン


店員「いらっしゃい!」

店員「お、人間のお客とは珍しい」

勇者「どうも、僕は勇者です。半魔盗賊団の団長に用があってきました」

戦士(う、腕が四本もある……)

店員「おお、アンタがあの勇者かい!?」

店員「ちょっとまってな、今案内役を呼んでくるよ」タタッ



しばらくして、店員は黒髪に白装束の幼い女の子を連れてきた。
魔族らしいところは無く、完全に人間にしか見えない。
強いて言えば八重歯が少し目立つくらいだ。


店員「あとは頼んだよ、アタシは店番に戻らせてもらうからね」

案内役「こんにちは! 勇者様、団長がお待ちですよ!」

戦士「なんだ?半魔盗賊団にはこんな小さい女の子までいるのか」

勇者「誘拐されてきた娘でもないだろうし、幼くて成長が止まった半魔ってとこかな」



案内役「ご明察です! でも、人間の部分が強すぎて魔法も剣もろくに使えないので、こうして案内役をやらせていただいてるんです」

勇者「なるほどね」

戦士「半魔にもいろいろいるってことか」

案内役「はい! それではどうぞ」


テクテク



―――半魔盗賊団 本部基地 地下応接室―――

本部の中は石造りになっていたが、意外と雰囲気は明るかった。
恐らく魔法で装飾してあるのだろう。団長のお洒落ぶりがうかがえる様相であった


ガチャ


案内役「どうぞどうぞ! 普段は誘拐した人質を監禁しておく部屋なので、少し汚れていますが」

案内役「長旅で疲れていらっしゃると思うので、少しくつろいでください」

戦士「ふー」ギシッ

戦士「監禁部屋にしては、大分お洒落な部屋だな」

案内役「はい! ここに来るような方は領主や貴族クラスの御子息ですから」



勇者「それはまた身代金も高くつきそうだね」

勇者「ところで、君は普段何をしているんだい?」

案内役「そうですね……掃除洗濯に料理、大体は雑用ですね」

案内役「さすがに強盗のために遠征することはないです」

勇者「なるほど。それは大変だね」

戦士「半魔の家事仕事とは、量がまた凄そうだな」ハハハ

勇者「君が言えたことじゃないだろう?」

勇者「4人パーティの時はどれだけ僧侶に迷惑をかけたと思って」

戦士「何を言う。俺は量だけじゃなくて質にもこだわるタチなんでね」

勇者「どうりでこれはタチが悪いわけだ」


ハハハハハハ……



―――……


勇者「さて、十分くつろいだし、団長にお目にかかろうかな。あまり待たせるわけにもいかないし」

戦士「剣術が達者だとは……これは一戦交えたいな!」

勇者「用事が終わってからにしてくれよ」

勇者「間違っても入った途端に切りかかったりしないようにね」

戦士「保証しかねちまうな。俺の戦士としての血が熱く燃え上がっちまうかもしれん」

案内役「いつも賑やかなんですね」クスクス

案内役「それではご案内しますよ」


ガチャ


ここまでで


もうSSが衰退期に入っているのが残念ですね



―――半魔盗賊団 本部基地 団長の間―――


案内役「ここが団長の間です。どうぞ」


ギィィ  

バタン


大きな扉を開くと、広くて彩色豊かな部屋が広がっていた。
その様子は人間族諸侯国王城の玉座にも似ており、部屋の両側には幹部と思われる半魔が数人列をなしていた。
そして正面に据えられた装飾付きの椅子に、団長は腰を下ろしていた。


団長は人間の10代後半の女性のような容姿を基本に、猫耳、猫目、尻尾とどうやら猫型の魔族の血を引いているようだった。
そして、今まで見た中でも最も魔族の要素と人間の要素がバランスがとれた半魔であった。




団長「おお、キミが勇者か! 待っていたよ」

勇者「初めまして、半魔盗賊団団長。ここまでの厚遇感謝いたします」

戦士「(なんだ?妙に華奢だな)」

勇者「(半魔は見た目によらないって言うだろ)」

勇者「今日は団長にお願いがあってきたのです」

団長「ほう。この付近で盗みを繰り返す悪党どもに、神聖なる勇者は一体どんなお願いがあるのかな?」ニヤリ

勇者「はい。噂にも流れていることをご存知だと思いますが、魔族人間族間の同盟と平等の先駆けとして、この地に新たな国を建国したいと思っているのです」


ザワザワ……



勇者「魔族と人間族の戦争は先日終結し、停戦協定と称して、魔族と人間族の平等が約束されました」

勇者「しかし、互いの中には、長い対立に起因する根強い偏見が残っているはずです」

勇者「それでは、平等も協調もなしえません」

勇者「しかしここで、半魔である貴方がたが協力していただければ、魔族と人間両方の側面を持つ者として、両者をつなぐ仲介役となり、協調と平等はよりスムーズに進みうるでしょう」

勇者「是非、新国の建国に協力していただきたいのです」

団長「ニャるほど……」


団長「キミがやろうとしていることは確かに立派なことだね」

団長「でも、ボクたち半魔には魔族と人間による禁断の恋や、猥褻の果てといった忌まわしい成り立ちと、
   両族から嫌悪され、忌避され続けてきた悲しき歴史がある」

団長「そんなボクたちに、そのような役が務まると思うのかい?」

勇者「新しい世界には新しい歴史というものが作られていくものです」

勇者「古い歴史などというものは、古文書として、その影に埋もれていくだけでしょう」

勇者「それに、ちょうど盗人から足を洗い、聖職者となった者が同じ神の像を見たときのように、
   価値観はその世界によって常々変わっていくのです」

勇者「今こそ新旧の境目に来ているのです」


勇者「ここで古い歴史に捕らわれるか、新しい価値観と共に歴史を創生するか。どちらに利があるかは自明ではありませんか」

団長「そうだね……」

団長「でも、ボクたちは悪党だよ。今ここでキミたちを殺すことだってできるんだ!」ニヤァ

戦士「なんだと!?」

勇者「それならそれで結構です団長」ニヤリ

団長「…………何?」

勇者「僕も貴方に先手を打つだけですから」バチバチ

勇者「雷魔法(小)!」ズバッ

団長「なっ!?」ガタッ




バァン




案内役「きゃぁっ!?」




勇者の放った雷魔法は、入口付近にいた案内役の足元に命中した。


団長「なんだ!?」

戦士「おい、どこ狙ってんだ勇者!」

勇者「まあまあ。僕はちゃんと『団長』に先手を打ったのさ」

勇者「そうでしょう?案内役改めまして団長」


部屋の中には緊張が立ち込めた。突然のことに側近たちも目を丸くして、棒立ちしていた。
それは団長(?)も例外ではない


案内役「…………」



案内役「クク…………」

案内役「アハハハハハハ!!」

案内役「ご明察じゃ」

戦士「」ポカーン


案内役→団長「いかにも。儂が半魔盗賊団の団長じゃよ」

団長「しかしよくわかったのう」

団長「儂の仕草も剣術、魔法の痕跡も、全てごまかしたつもりじゃったのじゃが」

勇者「やはりそうでしたか。確かに、団長の誤魔化しも、団長の身代わりも全て完璧でした」

勇者「しかし、完璧すぎたのです」

団長「ほぅ」



勇者「恐らく団長は僕があの基地長から団長の情報を聞くのも、南部支部長から半魔の特徴を聞くのも読んでいたのでしょう」

勇者「それによれば、団長は剣術に優れ、魔法に優れ、しかも人間と魔族が最もバランスよく混ざった半魔だということになる」

勇者「そして、その身代わりはその鏡ともいえる方でした」

勇者「恐らく副団長クラスの最上位幹部でしょうね」

勇者「そして、ここで身代わりを置くとなると、団長もその容姿を最高に生かした雑用につくのが最も手っ取り早く有効だ」

勇者「そこで、掃除や洗濯、料理の雑用を熟していると言ったわけです」

勇者「しかし、ここには止むを得ない欠点が存在した」

勇者「もちろん相手は剣術の手練れ、下手に動きや手を見せては自分が剣術に長けているとばれてしまう」



勇者「そこで、団長は魔法を使ってそれを完璧に隠してしまった」

勇者「だから、手はかなり綺麗で、まさか剣術を使うなんてことは想像がつかない様子だ」

勇者「だけど、掃除や洗濯、料理の雑用を熟している形跡もなかったんです」

戦士「なるほど。消さないと剣術がばれるが、消せば雑用でないことがばれちまうわけだな」

勇者「そういうこと。それだと最下級の身分のはずなのに身なりがやたらと綺麗なのも説明がつくのさ」

戦士「はっ、確かに言われてみれば……」

団長「ほう……じゃがそれだけで儂が団長だと決めつけることもできまい」

団長「新米で入ったばかりの団員じゃったかもしれんじゃろ」


勇者「まあそうですね。実際推測の域は出ていませんでした」

勇者「でも、僕はあらかじめ、団長はかなり人間よりの半魔なのだろうと予測していたんです。基地長以上にね」

団長「ほう、なぜじゃ?」

勇者「団長は相当頭のキレる半魔だと聞いていたからです」

勇者「そこまで頭が良いのなら、普段は人間のバランスを大きくしてその知恵の部分を最大限に生かせる半魔なのだろうとイメージしていたのです」

勇者「基地長はしかも、団長が変わった口調の持ち主で、お洒落だとも漏らしていました」

勇者「入口の酒場も、外見をもって欺くという点で共通しています」


勇者「そして僕があの真面目な身代わり団長と話した時に、案内役の矛盾と合わせてこれは挑戦だと確信したんです」

勇者「なんせ身代わり団長が完璧すぎたので」

勇者「まあ他にも細かいところはありますが、大筋はこんなところでしょう」

団長「ははは。知恵比べは完全に儂の負けのようじゃな」

団長「よいじゃろう。喜んで勇者の下についてやろう」


ザワザワ
アノダンチョウガ……
マジカヨ……


ちょっと半端ですが切ります

最近私のモチベーションも衰退期に入ったようで書きダメが全然たまりません
新学期に入れば更新速度も遅れるので詰まってエタることはないと思いますが……


わざわざレスありがとうございます

これからもぼちぼち小言挟んでいくと思うので聞き流してくれると幸いです



団長「半魔盗賊団の全員が、今この場の音声を無線で聞いておると思う!」

団長「皆の者、よく聞け!」

団長「今を持って、儂は半魔盗賊団の解散を宣言する」

団長「そして、勇者に全力を持って協力することを誓うのじゃ!」


ワァァァァァァ
ユウシャスゲー
ユウシャバンバンザーイ


北部の荒れ地は全土を持って興奮の渦に包まれた。
ついに忌まわしい過去から解き放たれる時が来たのだ!



身代わり団長→副団長「やれやれ、まさかあの団長に勝るとは……見事だね」

副団長「ボクも、副団長として、団長の意とあらば喜んで忠誠を誓うことにするよ」

戦士「」ポカポカーン

勇者「あ、ありがとうございます」

団長「さて、これからはどうするつもりなのじゃ?」

団長「勇者ともあろう者じゃ、もう次の一手も考えてあるんじゃろう?」

勇者「ええ、まあ」

勇者「まずは、この盗賊団の解散と僕による平定を宣言しなければなりません」



勇者「そして、その後に都市の整備と、国境付近でくすぶっている商人等人口の呼び込みを行うのです」

勇者「先行投資が何よりも大好きな彼等ですから、新たな、そしていかにも上手そうな商業地ができたとあらばすぐにでも飛び込んでくるでしょう」

団長「ほほう。まさに国作りじゃな」

団長「あ、それと、もう敬語なんて取るがよい。儂は勇者の臣下なのじゃからな」

勇者「分かった。僕らも、役割分担してそれぞれ仕事を進めようと思うんだ」

勇者「勝手ながら半魔盗賊団の幹部も当てさせてもらうけれど、構わないかな? 今一番不足しているのは人手だからね」

団長「ははは。さっきの宣言をもう忘れたか?」

団長「もう半魔盗賊団は儂よりも手腕の勝る勇者のものじゃ。好きにするがよい」



勇者「ありがとう」

勇者「じゃあ、いま決まっている分だけで行くと……」

勇者「戦士は盗賊団の戦闘部隊を率いて警察の代表に、副団長は都市建設やインフラ整備の総指揮を、団長は立法、外交及び新しくなる組織の役職や人事整備を担当してほしい」

勇者「ここまで見事な統制システムを敷けるということは、団長には十分な教養もあるようだしね」

勇者「この基地の構造といいデザインといい、副団長は建設に向いていそうだ」

団長「ふふ、そこまでお見通しじゃとはな」



勇者「それぞれの支部長はそのまま支部長として残って分権を図ることにしよう」

勇者「どうだろうか?」

団長「うむ。特に口出しするところもないようじゃ」

団長「よし、善は急げじゃ。早速取り掛かることにしようかの」

戦士「なんだ、こっちに来てもやっぱり憲兵隊なのか」

副団長「街づくり~♪街づくり~♪」ニュフフフ



―――後日 元・半魔盗賊団本部 地上中央広場―――


勇者『これより、私勇者は宣言します!』

勇者『私は団長との平和的な談話の結果、半魔盗賊団を解散させることに成功しました』

勇者『盗んだ品物は全てもとの国に返還することを約束します』

勇者『そして、元半魔盗賊団も、人間及び魔族にもこれから一切の危害を加えることはありません』

勇者『これから、この地を【北部不干渉区】と命名して開拓し、都市や交通、法を整備しようと思います』



勇者『魔術国連合、奇術国連合、魔国全ての勢力からの移民を歓迎いたします』

勇者『そして、魔族、人間、そして半魔全ての種族が平等に、平和に暮らせることを、全力を持って保証します』

勇者『それでは、元・半魔盗賊団の団長からも一言を……』


この宣言は、ラジオ放送と伝聞魔法で大陸全土に伝えられ、この新たな時代に一つの旋風を巻き起こすこととなった。
魔族と人間との戦いが終わったこの世界は、さらなる平和の歴史を創生していくことになるのだろうか。



―――しばらくして 幸の国 玉座―――


ドタバタ


顔を真っ青にした宰相が、あわてて玉座に駆けてきた。


宰相「大変です国王陛下!」

宰相「勇者がかくかくしかじかでセグウェイで半魔でのじゃロリの猫娘だと!」

幸の国王「なんだと?」ガタッ

幸の国王「まさかこんなに早く……」

幸の国王「監視を置く暇もなかっただと!?」

宰相「はっ。何せ荒れ地に入って2日後の高速占領だったもので……」



幸の国王「ちぃっ。侮りすぎたか」

幸の国王「宰相、奴との連絡はとれておるか?」

宰相「は、御心配なく。既にあの不干渉区に潜入したとのことです」

幸の国王「よろしい。なんとしても奴を葬らなければ」

幸の国王「全ては我らが計画のため……」ボソリ

宰相「……?」


のじゃロリ=ロリババアということを後から知ってなんかショックでした



それでは今日はここまで


現在引越しなどでパソコンが使えなくて更新ができない状況です

来週には再開します


やっぱり来週はきつそうです…

GW明けまでお待ちを




      復活



今日から更新開始します。ブランクが開いてしまって申し訳ない……



―――3か月後 北部荒れ地→北部不干渉区 半魔盗賊団本部→中央行政区 仮行政府―――


団長はあの後すぐに新たな政治体制を構築し、見事に統制した。

執政は行政、外務、財務、警務、建設、の5つの部門に分けられ、それぞれに部門長がつくこととなった。

そのほかにも、東西南北各支部や支部長にはより強い権限が与えられ、分権体制も整えられた。


建設部門長となった副団長の活躍により、1か月のうちに、中央行政区の行政府新設を軸とした大型都市構想が完成し、各支部、交通の要所への新たな都市建設も決定した。



勇者「商人以外はいるね、それじゃあ部門長会議を始めようか」

代表である勇者の下、各部門長は

行政、外務部門長に元半魔盗賊団長
建設部門長に副団長
警務部門長に戦士
財務部門長に商人 

が就いていた。


商人とは、宣言後に真っ先に荒れ地へ駆け込み、貿易網及び経済基盤の確立を誓った大商人である。



ちなみに、元盗賊団メンバーの呼び名はしばらくのうちは括弧書きで新役職を示しておきます。

勇者、戦士はそのままです。



勇者「団長、魔術奇術両国との和平は図れそうかい?」

団長(行政外交部門長)「うーむ。魔術国連合は割と友好的な姿勢を見せておる。すぐにでも同盟を誓ってくれるじゃろう」

団長(行政外交部門長)「魔法があれば、副団長の都市構想も上手く捗りそうじゃな」ニコッ

副団長(建設部門長)「あ、ありがとうございます!」ニュフフ

団長(行政外交部門長)「一方なんじゃが……奇術の国はどうもあまり都合がよくないようじゃ」

団長(行政外交部門長)「世論もこの不干渉区に対して後ろ向きらしい」

団長(行政外交部門長)「最大限努力はするが、期待はせん方が良いじゃろう」



戦士「なんだなんだ? 奇術連合の理事長め、勇者にビビッているんじゃないのか?」

副団長(建設部門長)「そこは団長にも、だろう」

戦士「うむ。そうとも言う」

勇者「ははは。あの冷静沈着と噂の理事長のことだ、何か企んでいるのかもしれないね」

団長(行政外交部門長)「儂もそれを心配しておったのじゃ。十分用心せねばな」

団長(行政外交部門長)「それと、もう2つ知らせがある」



団長(行政外交部門長)「元勇者パーティーの魔法使いが、魔術国外務省の大使として不干渉区に滞在することになったそうじゃ」

団長(行政外交部門長)「明日にでも到着するとの連絡じゃ」

戦士「魔法使いだと!? まじかよ……」

勇者「屁理屈のセンスを磨くチャンスじゃないのかい?」クスクス

戦士「いや、今の俺なら魔法使いの屁理屈になど負けはしない……はず」

副団長(建設部門長)「魔法使いとはどんな人なんだい?」

戦士「どんなもこんなもない! 1ミリ足を上げたら360度大回転の揚げ足を食らうような奴だ」



戦士「俺も一体何度メンタルをつかれたことか……」

勇者「それじゃあ一回転してるじゃないか」ハハハ

副団長(建設部門長)「ニャるほど、それは危険人物だね」

副団長(建設部門長)「魔法使いの前では摺り足を心掛けておこう」

勇者「しかし、いくらなんでも誇張が過ぎるよ」

勇者「彼女は使う魔法は超一流の魔法使いさ。歴史と魔法学にも長けているインテリだよ」

戦士「そういや、奴を仲間にしたときはまだまだ未熟な魔法使いだったよな」



戦士「一体旅路のいつどこで勉強なんかしたんだか」

勇者「まあ、それはみんなに言えたことではあったさ」

勇者「魔王軍との過酷な戦いを通してここまでレベルを上げられたんだ。前代魔王が最後まで生きていたら、今ここにいられるかもわからないくらいだったしね」

副団長(建設部門長)「前代魔王っていうのはそんなに凄かったのか!?」

団長(行政外交部門長)「はいはい。雑談は一旦お休みじゃ」


団長(行政外交部門長)「もう一つの報告じゃが、また元勇者パーティの者についての情報じゃ」

戦士「なんだ、僧侶もここへ来るのか?」

団長(行政外交部門長)「こちらはそうではない。連合同士の戦局自体はかなり拡大しておるが、先日勃発した水の国による光の国侵攻については、なんと光の国の勝利でもう終結したのじゃ」

団長(行政外交部門長)「初戦光の国は水の国に大敗を喫していたはずだったのじゃが……」

団長(行政外交部門長)「光の国に配属されていた、大隊参謀長『僧侶』准将が考案した作戦が功を得たというということじゃと……」

勇者「えっ?あの僧侶が軍人に!?」

戦士「嘘だろ……血どころかトマトジュースを見ることすらできなかったあの僧侶がだぞ!」



団長(行政外交部門長)「連合はそれを大々的に報じ、軍は僧侶の少将への昇格を決定したそうじゃ」

団長(行政外交部門長)「間違いはないぞ」

勇者「これは予想外だったな。確かに才能を生かしてほしいとは言ったけれど、そこまで存分に奮ってくるなんてね」

戦士「不思議なことは尽きるものじゃないな」

副団長(建設部門長)(ニャるほど……僧侶も戦闘が苦手なのか……)

団長(行政外交部門長)「まあ、外交面での報告はこれで終わりじゃ」

勇者「うん。ありがとう。団長の情報網の広さにはこれからも頼ることになりそうだよ」

団長(行政外交部門長)「任せておくがよい」フフン


勇者「それじゃあ、全員持ち場に着こう。これからも忙しくなるぞ!」

副団長(建設部門長)「団長と一緒にいられないのが残念だけど……我慢するよ」

副団長(建設部門長)「でも、もし手を出そうものなら勇者、キミを許さないからね」ジロッ

勇者「も、もちろん大丈夫さ(これは怖い)」

戦士「ははは。勇者は年上か年下か分からない半端な女には興味が……」

副団長(建設部門長)「何か言ったかな?」ギロッ

戦士「……さーて俺は警務に戻ることにしよう」スタスタ

勇者(戦士を視線で圧倒するとは……見事だ)



ということで建国編始めていきます。

今更なのですが、()のセリフは心の中、「()」のセリフはつぶやきという風に分けています。
必ずしも分別できているというわけではないので細部は読者の解釈にお任せします。

ところで名前の件なのですがこのままでも大丈夫ですか?それとも

幼女「」

猫娘「」

のように容姿で分けたほうがいいですか?レス次第で修正かけますのでよろしくお願いします。



今日はここまでで


レスありがとうございます

登場人物紹介ですか、確かに登場人物は普通のSSよりかなり多くなりそうなので用意しておこうと思います
ちょうど経歴紹介パートもこのあと続きますので、情報が出次第更新という形にします

()についてはこのまま続けます



―――同 行政部門長の執務室――― 


団長(行政外交部門長)「うーむ……独学で学んだとはいえ、法律というのはいざ作るとなると難しいものじゃのう……」

団長(行政外交部門長)「……ブツブツ…………ブツブツ……」カリカリ

ガチャ

勇者「ちょっといいかい?」

団長(行政外交部門長)「なんじゃ勇者」

勇者「ちょっと質問があってね」

団長(行政外交部門長)「ふむ。まあかけるがよい」

ギィッ




勇者「机、高すぎじゃないか」クスクス

団長(行政外交部門長)「うるさいのう。手ごろな台はこれしかなかったんじゃ」

団長(行政外交部門長)「副団長に注文しておかねばな」

勇者「それをおススメするよ」

勇者「で、団長は生まれたときからここにいたのか?」

団長(行政外交部門長)「唐突じゃな」

勇者「少し気になってさ」


団長(外交副部門長)「はぁ。まあよい。この際だから話すことにするのじゃ」

団長(行政外交部門長)「……儂は元は花の国で生まれたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「そして儂の母は儂を人間として育ててくれたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「父親はもともといなかった。まさか上級魔族だったとは、想像もできんかったがの」

勇者「やはり人間領出身だったか……それでその十分な教養も説明がつく」

団長(行政外交部門長)「うむ。儂は初等魔法学校へも普通に通っていたし、中等学校へも進学した。こんな身なりじゃからな、誰も儂が半魔だとは疑っていなかったのじゃ」

勇者「すると、それは生まれつき人間にほど近い姿だったと」

団長(行政外交部門長)「そうじゃな。儂は魔力こそ上級魔族並ではあるが、今でも人間と魔族の割合を変えることができん」


団長(行政外交部門長)「魔法で表面くらいは誤魔化せるが、形から変えるのは無理じゃ。例えば羽をはやしたりな」

勇者「ふーむ。さすがにそこまでは予測していなかったなぁ」


フワッ


団長(行政外交部門長)「それに、姿なんて変えなくても、十分成りすましはできるんですよ! 勇者様っ」ニコッ


一瞬にして雰囲気が変わった。体にかけている魔法を少しいじったらしい。


勇者「お、久しぶりの案内役だね」

勇者「潜入捜査にも使えそうだ」

団長(行政外交部門長)「はい! これからもよろしくお願いしますね!」ニコッ


シュン


団長(行政外交部門長)「…………やっぱりこれは疲れるのじゃ」ハァ

勇者「お疲れ様」クスクス

団長(行政外交部門長)「ふう。話を戻すが、儂の周りの者たちはいつまでたっても成長もしない、強すぎる魔力を持った儂を次第に遠ざけ始めたのじゃ」

団長(行政外交部門長)「そしてある日、家は焼打ちに遭い、母は殺され、儂は魔術国の軍に捕まりそうになったのじゃ」

団長(行政外交部門長)「儂はそこで初めて自分の正体を知ったのじゃよ。今までずっと真実を写していたと思っていた鏡が、一瞬にして砕け散るようにな」

団長(行政外交部門長)「儂は死に物狂いで魔術国から逃亡し、荒れ地に逃げ込んだ」

団長(行政外交部門長)「その頃はまだ荒れ地の中も勢力争いが絶えておらんかった頃じゃからな。そこでも何度も人間に間違えられて命の危機が迫ったものじゃ」

団長(行政外交部門長)「副団長に出会ったのもその頃じゃったか。大型の半魔に襲われているところを、儂が火炎魔法で助けてやったのじゃ」



団長(行政外交部門長)「以来副団長は儂に過剰なまでの忠誠を誓っておる」

団長(行政外交部門長)「そして、儂は魔族由来の魔力と、人間由来の知力を使って、荒れ地を統一したのじゃ」

団長(行政外交部門長)「剣はその頃に護身のため練習したものじゃが、結局は魔法に頼る『魔法剣士』といったところじゃな。素の実力は大したことは無い」

団長(行政外交部門長)「じゃが儂は『繊細な』魔法が得意でな。いくつもの細かい魔法をセットで唱えておいて、剣の軌道、速度、バランス、重量、体制などに張り巡らすことができる」

団長(行政外交部門長)「こうやって『幻視魔法』と『屈折魔法』を組み合わせて、体の表面を覆い隠すのを応用してな」

団長(行政外交部門長)「本気を出せば、五分五分の勝負にはなると思うぞ」ニコッ

勇者「なるほど、通りでいつも身なりが清潔なわけだ」

勇者「成りすましの時限定で魔法で誤魔化しているんだと思ったら、常にそうなんだものね」


団長(行政外交部門長)「まあ、あまり堂々と見せたいものでもないからのう」

団長(行政外交部門長)「ちなみに魔法なしだとこうじゃな」シュン


団長は右腕だけ魔法を解いた。


勇者「うっ、これは……!」


右腕は刃物の傷跡から魔法による裂傷まで大小さまざまな、いくつもの傷で覆われていた。


団長(行政外交部門長)「このほとんどは亡命して間もないころか、荒れ地統一の最終決戦の時にできたものじゃ」

団長(行政外交部門長)「回復魔法というものはあまり回復速度を上げすぎたり、魔力が強すぎたりすると再生が雑になって傷跡がひどく残ってしまうものでな」

団長(行政外交部門長)「今のところ完全に消す方法は魔法学の最先端でも見つけ出されておらんとのことじゃ。幻影、屈折魔法」シュン


元の腕に戻った。



勇者「またまた予想以上だな……まさか荒れ地がそこまでひどい状況だったとは」

団長(行政外交部門長)「まあ、その状況もここまで良くなったのじゃ。今更振り返ることもない。勇者もこの前言っておったようにな」

勇者「そうだね。団長がそう言ってくれるなら何よりだよ」

団長(行政外交部門長)「しかし、勇者こそよく魔族と手を結ぼうと思い立ったものじゃな」

団長(行政外交部門長)「勇者や人間は魔族を憎むものとばかり思っていたが」

勇者「まあね。確かに僕も最初のうちはそうだったよ」

勇者「幸の国の勇者選別方法は、今思っても本当によくできているんだ」

団長(行政外交部門長)「ほう」



勇者「表向きには神の御加護だとか発表してはいるけれど、実際は僕や戦士のように両親を魔族に殺された孤児を集め、教育、訓練し、最も優秀な者を選ぶというものだったのさ」

団長(行政外交部門長)「な、なんと……じゃが確かに効率はよいな……」

勇者「そう。そうやって裏切られる心配もなく、同情させることもなく魔族を虐殺させることができたんだ。少なくとも百年戦争まではね」

勇者「百年戦争で6人もの勇者を失った幸の国は流石に焦ったんだろう。幸の国は戦闘に対する優秀さはともかく『先代魔王』に対応できるほどの知力を持った僕を7人目として選んだんだ」

勇者「でも僕は前の6人とは違った感情を持った。人間族と何も変わらずに文化を、生活を築いている彼らの姿に、僕の憎しみは次第に消えて行ったのさ」

団長(行政外交部門長)「なるほどのう。結局は騙されていたんじゃもんな」

団長(行政外交部門長)「まあ、必然ではあるがな」

勇者「まあ、勇者の宿命ってやつさ」


勇者「今となっては、僕は彼らの文化を守りたいとも思っているよ」

勇者「確かに『先代魔王』は悪の権化だったかもしれないけれど、もう彼自身もその周りの上級魔族も死んだんだ」

勇者「もう戦う理由は無いと思うね」

団長(行政外交部門長)「うむ。勇者の言うことはどれをとっても正しい物じゃ」

団長(行政外交部門長)「しかし、そこまで魔族を好いているのもまだ少し腑に落ちんのう」

団長(行政外交部門長)「いくら文化や生活が同じと言えども積年の恨みがそれだけできれいさっぱり消え去るものじゃろうか?」

団長(行政外交部門長)「仮に勇者がそうであったとしても他の仲間について説明がつかん」

勇者「まあね」

勇者「まあきれいさっぱりという訳にはいかないけど……僕らの感情を大きく変えてしまった要因は主に2つあるんだ」



勇者「1つ目は言語。団長もそうであるように、この大陸に生きる人間族、半魔、魔族全てが全く同じ言語を話している」

勇者「お陰で、敵であるはずの魔族と十分以上のコミュニケーションをとれた訳だけど」

勇者「それがもし良い方向に働けば、さっきのような効果をもたらすことは言うまでもないだろう」

団長(行政外交部門長)「確かに……もし人間を好む魔族でも存在していたとしたらありえることじゃ……」

勇者「ま、それだけではなかったけれどね」



勇者「そして2つ目は魔族の起源さ」

勇者「今魔族についてわかっていることと言えば、魔物を従え、人間と同程度の知能を持つ生物ということくらい……」

勇者「だけど、ここで団長、君の存在が大きな意味を持つことになるのさ」

団長(行政外交部門長)「儂がじゃと?」

勇者「ああ。君をはじめとする『半魔』が存在するということは、人間族と魔族で子を残すことが可能ということになる」

団長(行政外交部門長)「まあな。じゃがそれがなんだというのじゃ?」

勇者「僕らが以前奇術国に赴いた時に知ったんだけれど、どうやら彼らの定義における『同種の生物』というものは、『子孫を残すことができる生物同士』らしいんだ」

団長(行政外交部門長)「……まさかそれは……!」

勇者「少なくとも、魔族と人間族が同じ起源をもっているということを意味するだろうね」



団長(行政外交部門長)「なんということじゃ! そんなことが……」

勇者「僕らも初めは信じられなかったさ」

勇者「でもさっきの件といい、僕らは少しづつ確信へと近づいて行った」

勇者「それに、考えてみれば現在奇術国と魔術国という全く異質な国家が同時に成立しているわけだ」

勇者「早期に隔てられた人間族と魔族が全く異質に姿形を変えていったとしても不自然なことではないだろう」

団長(行政外交部門長)「うーむ。言われてみれば……」

団長(行政外交部門長)「しかし憶測には過ぎないのじゃろう?」

勇者「まあね。まだまだ矛盾も多いとは思う」

勇者「とはいえ全くの見当違いでもないだろうし、またこれからぼちぼち調べていくことにでもするよ」



勇者「ま、今は過去のことより現在のこと、未来のことの方が大事だ」

勇者「半魔の未来のために全身全霊をかけて行かなくちゃね」

団長(行政外交部門長)「確かにその通りじゃ」

団長(行政外交部門長)「まあよい。儂もようやく希望の光が現れたのじゃ。感謝が尽きんものじゃのう」

勇者「ははは。そこまでのものでもないよ。僕こそ団長の力あってこその『勇者の国』だと思うし」

団長(行政外交部門長)「もうちょっとカッコいい名前が良いのじゃ」クスクス

勇者「うるさいなもう。折角の良いとこだったのに」

勇者「それじゃあ、僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」

団長(行政外交部門長)「またのう」




今日はここまでで


さて再開します。

ファンタジーのガチ考察はあまりウケが良くないみたいですね。まあ当然ですけど


―――翌日 中央行政区街 建設部門作業現場―――

カンカンカンカン
ギイーッ

「浮遊魔法っ!」ブワッ


副団長(建設部門長)「商人、この通りのそばにはやっぱり宿を設置した方がいいかな」

商人「そうですねぇ。ここは武器屋や防具屋が集まる場所なので、このまま銀行の予定地でいった方がいいかと」

副団長(建設部門長)「ニャるほど……それならこっちは―――で……の:::じゃないかい?」

商人「やはり:::は^^^ですので“”“が得策かと」


―――…

副団長(建設部門長)「ふぅー。一通り終わったね、キミの商売のノウハウは本当に役に立つよ」

商人「いえいえ、まさかこんなところでお役にたてるとは思ってもいませんでした」

商人「これも商売に使えそうです」

副団長(建設部門長)「キミは本当に金欲が尽きないものだね」

副団長(建設部門長)「いったいどこから湧いてくるんだい?」

商人「いえいえ滅相もない。欲こそ人の原理たる要素なのです」

商人「私はそれを有用な形に変換して合理的に使っているだけなのですよ」



商人「それに、建設部門長も大層な物欲をお持ちだと聞きましたが」

副団長(建設部門長)「ニャハハハ、まあね。収集だけは団長にいくら怒られてもやめられないんだよねぇ」

商人「それならば、いくつか穴場をお教えしますが」

商人「良い品物も手に入ったら格安でお譲りしますよ。十分利益は頂いていますので、特別割引です!」

副団長(建設部門長)「ニャにぃっ!? それはありがたいことこの上ない!」

商人「それではそろそろ私は財務の方へ戻りますので」

副団長(建設部門長)「あ、そうだ、魔法石もそろそろ無くなりそうなんだけど……今あるかな」


この世界には、魔力の回復などに使用が可能な『魔法石』という特殊な石が存在している。



商人「おお、これはタイミングがよろしいこと限りないですね」ピーン

商人「ちょうど先日手に入れた純度99.99999999%の超高級魔法石が手元にあるのです!」

商人「これさえあれば1年は平気で魔法を使い放題の優れもの!」

商人「さらに今回は樹齢1200年物の杖とマントをつけてお値段!!」

副団長(建設部門長)「」

商人「……って、ついついいつもの癖が出てしまいました」

商人「代金は結構ですよ、どうぞ貰ってください」

副団長(建設部門長)「おお、流石商人!」

商人「これからもよろしくお願いいたしますね」

商人「それでは」

副団長(建設部門長)「またニャー」ムフフフ



副団長(建設部門長)「そうだ、行政府にコレクションルームも追加しておかなきゃ!」

副団長(建設部門長)「えーっと確かこの辺に空き部屋が……」


ソローリ

ヒュッ


副団長(建設部門長)「敵襲ッ!?」キィン

副団長は、背後から振り下ろされた剣を素手で受け止めた。



戦士「おわっ、俺の剣を素手で受けるとは……相変わらず見事だな!」バッ

副団長(建設部門長)「なんだキミか。邪魔しないでくれるかな」プイッ

戦士「全く、お前の趣味部屋造りの邪魔をして何が悪いんだか」チン

戦士「人が公務で忙しいときに、一体何をしていたのかな猫女?」

副団長(建設部門長)「なっ!ボクは猫じゃない!そういうキミこそどうせ暇だからぶらぶら遊びに来ただけなんだろう?」

戦士「うぐ……ま、まあつまるところ仲間同士ってことだ。仲良くしようじゃねーか」

副団長(建設部門長)「仲間だって? 冗談も甚だしいね」

副団長(建設部門長)「ボクはボク自身が認めた人にしか絶対に従わない。仲間にもしたりしないのさ」ツーン



戦士(さすが猫だな。なかなかの気まぐれ野郎だぜ)

戦士「自分で言うか……まあいい。ならば、剣術で認めさせてやろうじゃないか!」

副団長(建設部門長)「言うじゃないか。でも、ボクは剣は使わないよ」

副団長(建設部門長)「素手で返り討ちにしてやる!」ザッ

戦士「ほう、良いだろう」

戦士「さあ、いつでも来い!」スラリ

副団長(建設部門長)「よーし…………!!?」



副団長(建設部門長)「ギニャッ!?そ、その剣は!!!」

戦士「なんだ?この剣の価値が分かるのか」

戦士「確か魔族領の牢獄跡で手に入れたんだが、どうも出所が分からなくてな」

戦士「切れ味が頗るよくて重用したんだ」

副団長(建設部門長)「分かるも何も、それは密かに伝説として存在を語られていた、『第十三代勇者の剣』じゃないか!!」

戦士「」



副団長(建設部門長)「かの伝説の名工によって生み出され、出征に向かう勇者に渡されたという最高傑作!」

副団長(建設部門長)「何でも十三代勇者が戦死してしまって行方が分からなくなっていたと聞いていたけど……まさかこんなところでお目にかかれるとは!!」

副団長(建設部門長)「あわわわわわわ、興奮が鳴りやまないいいいいい!!」

戦士「これ、ほしいのか?」

副団長(建設部門長)「ほしい!喉から手が出るほどほしい!!!」キラキラ

戦士「じゃああーげないっ!」

副団長(建設部門長)「」



戦士「おいおい、冗談だっつの。そんな怖い顔をしないでくれ」

戦士「剣を大事にするやつは良い奴だ。そうだな、俺を仲間に入れて守ってくれるんだったらいいぞ」

戦士「俺が万が一死んだときにでもくれてやる!」

副団長(建設部門長)「するするする仲間でも王様にでもしますしちゃいますニャー!!」バッ 

戦士「うわわっ、抱きつくなよ!」ギュー

戦士「しかし。途中で暗殺しようなんて企んでくれるなよな」

副団長(建設部門長)「大丈夫。ボクは仲間が傷つくことがいっちばん嫌いなんだ」




副団長(建設部門長)「まあ仲間といっても上から団長>>>>>>戦士>勇者だけだけどね。その他のみんなは死んじゃった」

戦士(勇者に勝った!!)グッ

戦士「そいつは安心したよ。じゃあ……」

戦士「そろそろ離してくれ」ギュー

副団長(建設部門長)「うわっごめん! ついやっちゃった」バッ

副団長(建設部門長)「でも、キミとボクは気が合いそうだ。今まで誤解していたみたいだね」

戦士(道具で釣れるとは……意外とチョロい奴)

戦士「やっぱり素直だな。まあ動機不純なのは目をつぶることにしよう。よろしく頼むよ」

副団長(建設部門長)「こちらこそ!」



戦士「ところで、これいくらになるんだ?」

副団長(建設部門長)「ふーむ。場合によっては国が買えるかもよ」

戦士「」

戦士「そんなにすごいのか……俺としたことが全く知らなかった」

副団長(建設部門長)「まあ……価値には似合わないけど、かなりのレベルの収集家じゃないと知らないようなマイナー品でもあるし」

戦士「今日は暇だろ?ちょっと剣についてでも語らねぇか」

戦士「勇者はそういうのにはめっきりのつまらん男なんだ」

副団長(建設部門長)「じゃあ、仕事が終わったらボクのコレクションを紹介しよう!」

戦士「お、そうこなくっちゃ」


ここまでで


とりあえずwikiに主な登場人物まとめてみました。
もうしばらく日常パートでグダりますがご勘弁を。


http://ss.vip2ch.com/ss/%E5%8B%87%E8%80%85%E3%80%8C%E5%81%9C%E6%88%A6%E5%8D%94%E5%AE%9A%EF%BC%9F%E3%80%8D#.E4.B8.BB.E3.81.AA.E7.99.BB.E5.A0.B4.E4.BA.BA.E7.89.A9


今日は続きません


続きます



―――その頃 代表執務室―――


ガチャ

ヒョコ


突然、団長が扉から顔を出した。


団長(行政外交部門長)「勇者、魔法使いが到着したぞ!」

勇者「おっ、通して通して」

団長(行政外交部門長)「ちょっと待っておれ」


バタン



―――…


ガチャ


魔法使い「失礼するわ」

スタスタ


魔法使い「お久しぶりね勇者」

勇者「お久しぶり!わざわざ戻ってきてくれて本当にうれしいよ!まあ、まだ4か月くらいしか経っていないけどね」

魔法使い「あらそうだったかしら。貴方が出世するのは50を超えてからだと思っていたものだけどね。ちょっと老けたんじゃない?」クスクス

勇者「まーた相も変わらず痛いことを言う。僕はまだ20代だよ。そんな魔法使いは『四賢人』昇進を断ったそうじゃないか」



勇者「一体何時の間に魔法学の勉強をしていたんだ? 戦士が嫌に不思議がっていたよ」

魔法使い「そうね……でも、努力というのは人前に見せるものじゃないわよ?」

魔法使い「ある人は隠れて剣術を、ある人は薬草学を、そしてある人は魔法学を学んでいただけに過ぎないわ」

勇者「なるほどね、あれ?それだと一人足りないような……」

魔法使い「気にしたら負けね」

勇者「ま、いいか。それより、魔術国連合から労働者を派遣してほしいという旨は伝わっているかな?」

勇者「人手不足はやっぱり一番の問題だよ。人は石垣、人は城、なんても言うしね」

魔法使い「もちろん伝わっているわよ。花の国王が鼻を真っ赤にして勇者に協力することを誓っていたわ」



勇者「それはよかった。これからも魔法使いには魔法学校の創設などを頼みたい」

魔法使い「お安い御用ね」

勇者「それと、まだ大使事務所が完成していないから、しばらくはこの仮行政本部の空き部屋で我慢してほしいんだ」

魔法使い「それはちょっとお安くないわね。まあいいわ。無いよりはましということにしておきましょう」

魔法使い「それじゃあ、書物の整理をしなくてはいけないから、また後でね」

勇者「あ、今日は歓迎会を開くから、後で食堂に来てくれよ!」

魔法使い「心得たわ」


スタスタ



―――夜 行政本部食堂 歓迎会―――


歓迎会とはいえ、それは小規模であった。食堂には、商人以外の不干渉区部門長が集まり、魔法使いを迎えることとなった。


勇者「それじゃあ紹介しよう。彼女が元僕のパーティーの一員にして、現魔術国外務省のお役人さんである魔法使いだ!」

魔法使い「よろしくお願いするわ。魔法使いでいいわよ」

団長「わざわざご苦労じゃな」

副団長「……」スリアシ

戦士「……」スリアシ

魔法使い「フフフ。それにしても、可愛いお友達が増えたものね」



魔法使い「幼女に猫なんて、勇者の右腕にはまず見えないわね」クスクス

団長「なっ。儂は一応勇者と似たり寄ったりの歳じゃ!」←幼女

副団長「ギニャッ!? ボボボボボボクは猫じゃないし!」←猫

魔法使い「これは失敬したわね」

団長「それにしても、魔法だけでなく歴史にも通じているとは、大層なものじゃな」

魔法使い「あら、大したことは無いわよ。故事の中になにか面白いことがないか探していただけに過ぎないわ」

魔法使い「旅中も『遠視魔法』を使って本を読んでいたものよ」



戦士「いつの間に勉強なんかしたのかと思ったらそういうことだったのか」

魔法使い「そうよ。寝る間も惜しんでね。誰かさんとは違って」

戦士「うぐ……俺はだな、昼行性の健康的な生活を送っていただけだぜ」

魔法使い「さあどうかしら。町に着くたびに酒場に入り浸ったのは貴方じゃなかったかしらね」

魔法使い「お陰でいつも予算不足で僧侶が泣いていたわよ?」

戦士「うぐぐ……」

魔法使い「まだまだ口じゃ負けないわね」

団長「そうじゃ、その僧侶というのはどんな人間だったのじゃ?」



団長「どうも詳しく聞いたことはなかったのう」

勇者「お、確かにそうだね」

勇者「僧侶はパーティの中で一番の『縁の下の力持ち』だったんだ」

魔法使い「そうね。身の回りのことは食事から予算の勘定までまかせっきりだったわ」

魔法使い「いつもだらしない男二人が叱られていたわ」クスクス

戦士「おいおい、俺を勇者と一緒くたにしてくれるなよ!俺は時々僧侶の手伝いもしてやッたんだぜ」

魔法使い「ごく稀にね」


勇者「僕だって手伝っていたさ。でも彼女の本領は戦術の方にもあっただろうね」

魔法使い「ええ。勇者の作戦も素晴らしい物ばかりだったけれど、それを応用して改良するセンスは、私や戦士には持ち合わせていなかったわ」

魔法使い「かの魔王軍最強にして最終の防衛ラインだった『死の谷』を攻略できたのもそのお陰だったしね」

戦士「俺たちはあくまで実行部隊だろ!」

魔法使い「良く言えばそうね」

団長「なるほどのう。それであの光水戦線のスピード決着も説明がつくということじゃな」

副団長「それは是非敵に回したくはないものだね」


魔法使い「猫ちゃんの言うとおりよ」

副団長「なっ!ボボボボボボクは猫じゃないし!半魔だし!!」カァー

魔法使い「まあ照れちゃって。かわいらしいわね」クスクス

団長(初対面の相手に副団長が翻弄されるとは……珍しいこともあるもんじゃな)クスクス

勇者(戦士<副団長<魔法使い か)

副団長「あーっ!団長まで笑わないでください」

団長「悪かったのう」


店員「おー!みんな盛り上がってるじゃないか!」

店員「待たせたね、ほら、今日はごちそうだよ!」

テーブルに様々な料理が並べられた。

戦士「酒場の店員なのに料理ができたのか……」

店員「おうよ。昼は店員、夜はシェフ、それがアタシさ!」

魔法使い「台本形式のセリフがややこしくなりそうな肩書きね」

団長「店員、デザートは何かの」

店員「お、デザートは団長の大好物のイチゴショートケーキだよ!」



団長「ケーキ!? やったぁっ」

勇者「えっ」

戦士「えっ」

団長「はっ!?」

団長「いや……これはじゃな……成りすましの練習でな……」カァー

副団長(照れてる団長も可愛いなぁ……)ニュフフフ

店員「そういう所だけはまだまだ子供っぽいんだよなー団長は」

団長「こら!余計なことを言うな!」

魔法使い「いいじゃないの。私も甘いものは大好きよ」


戦士「そういう問題なのか……?」

団長「まったく、そろそろ食べんと料理が冷めてしまうぞ」

副団長「いっただっきまーす!」

戦士「あっ!抜け駆けするなっ」

勇者「そう慌てない慌てない」

魔法使い「慌てないと水しか残りそうにないわね」

勇者「それは困るっ!」


ワイワイガヤガヤ



団長「賑やかでなによりじゃな」

店員「ははは。団長も幸せそうじゃないか」

店員「付き合いは長いつもりだけど、団長がそんなに幸せそうにしてるのは初めて見るかもしれないよ」

団長「そうじゃな」

団長「ようやく、解放されたのじゃろうか……」

団長「儂は、未だに『人間であった頃』のことを覚えておる」

団長「あの時奪われた幸せを、儂は取り戻すことができたじゃろうか」



店員「さあね。団長が幸せなら幸せでいいんじゃないのか?」

団長「最もなことじゃな」クスクス

団長「平和な世界……か……」

副団長「団長!ぼーっとしてるとイチゴ貰っちゃいますよ!」

団長「ああああっ!ダメっ!それだけはダメっ!!」

魔法使い「キャラが崩れてるわよ」クスクス


ハハハハ
ワイワイガヤガヤ……


こんなところで今日は切ります

wikiの方ですが何かしらまとめたほうがよい情報などありましたらいつでも編集しますのでご意見ください

というか自分でも結構いっぱいいっぱいなこの世界観、皆さんついてきていただけてますか?
なるべく皆さんが飲み込めるよう努力いたしますので助力を頂けると幸いです。


了解です それでは続きをば



―――歓迎会後 副団長の部屋前廊下―――


スタスタ


副団長「いやー食べた食べた。やっぱり店員の料理は最高だなぁ」

戦士「全くだ。あんな美味い料理は宮廷料理でも珍しいぞ」

戦士「しかし、イチゴをとられそうになった時の団長の慌てっぷりといったらなかったな」

副団長「団長は昔から甘い物にだけは目がなくてね」

副団長「一度団長のプリンを食べちゃったときは、3日間口を聞いてくれなかったんだ」

戦士「そこまでするか……」


副団長「まあ、ボクも大切な剣を折られた時に、3日間この部屋に籠っちゃったんだけどね」

戦士「お前も大概だな」

副団長「おあいこさまということで」

戦士「なーにがおあいこさまだ」

副団長「それにしても、ボクの部屋に入れるのなんて団長以外はキミだけだよ」

副団長「それ以下は絶対にドアノブも触らせないからね」

戦士(今『以下』って言ったよな……)

戦士「そうだったのか。そいつはありがたいことだな」


戦士「早く元盗賊団副団長閣下のお手並みを拝見したいものだ。戦闘も含めてな」

戦士「憲兵隊じゃ上級隊長くらいしか物足りる奴がいなくてな」

副団長「お、そうだね。そういえばまだ決着がついてなかったっけ」

副団長「といってもボクにはその剣を傷つけることは到底できないから、適当なのを貸してあげることにするよ」

戦士「そいつは助かる」

戦士「細工は無いだろうな」ジトー

副団長「ご心配なく」ニュフフフ



―――コレクションルーム―――

ガチャ

パチッ


戦士「こ、これはっ!」


コレクションルームには壁中に剣から鎧、珍植物に至るまでがびっしりと並んでいた。


副団長「これがコレクションルーム1さ。まだ4つ奥に部屋があるよ」

戦士「これは凄いな……町の商店で売っていたものも中々の名品ぞろいだったが、比べ物にならないぞ」

戦士「これなんてあの『大魔王の剣』じゃないか!まさかこんなところに本物があるとは……」



副団長「お、キミは随分目利きのようだね。ボクの最高のコレクションを一瞬で見抜くなんて」

副団長「でも『13代勇者の剣』はそれに次ぐ名品と言っても過言じゃないね」

戦士「なるほど……ようやくその価値が分かった気がするぜ」

副団長「他にもこれ!……の^^^さ!」

戦士「これは&&&の“”じゃないのか!?」



戦士「かぁー! これは何時までもいても居たりないな!」

戦士「ここに住めたらどんなに幸せだろうか……」

副団長「おいおい、ボクの部屋に住むのはやめてくれよ」

戦士「その点だけは安心していいぞ」

戦士「しかし、お前がいつも着ているそのブレザーも気になるな」

戦士「何かのアンティークなのか?」

副団長「ああこれ? これはボクが気に入ってる服装ってだけさ」



副団長「特に意味は無いね」

戦士「ないのかよ。変なところで無頓着だな」

戦士「ま、いいや。そろそろ一太刀やろうじゃねえか」

副団長「ん、そうだね」

副団長「んーと、はいっ」ヒュッ

戦士「ありがとよ」パシ

副団長「それは『戦士の剣』って言うんだ。あれ……戦士?」

戦士「って俺のじゃねえか!」

戦士「荒れ地で失くしたと思っていたらこんな奴に盗られていたのかよ!」


副団長「な、こんな奴とは失礼な!」プンスカ

副団長「この上ない丁重なもてなしをしてあげたというのにひどい言いようだね!」

戦士「わ、悪い悪い。ともかく、これは俺が師匠から譲り受けた大切な剣だったんだ」

戦士「戻ってきてよかったよ」

副団長「そらみたことか」フン

副団長「さて、表に出よう。こんなところでやりあったらボクのコレクションが台無しだからね」

戦士「おう。そうだな」



―――地上 新行政府庭園予定地―――


副団長「うーむ、この芝生はもうちょっと茂らせた方がいいかな……」

戦士「こらこらこら。仕事をしに来たんじゃないんだぞ」

副団長「あ、ごめんごめん。つい気になっちゃってね」

副団長「いろんな美しいものを集めるのは好きだけど、自分の手で何かを作るのもたまには楽しいものだよ」

戦士「面白い小説を読むと自分も書きたくなっちゃうっていうあれか」

副団長「キミは小説なんて読まないだろうに」

戦士「大当たり!」


副団長「なんだそりゃ……とにかく、ボクは本気で行くからね」

副団長「あまりボクに回復魔法を使わせないでよね」

戦士「おいおいそりゃあどっちの意味で言ってるんだ?」

戦士「俺だって手加減は無しだ」

副団長「身体強化魔法!」ブワッ


ダッ


戦士(速いっ!?)


ギィィィン


副団長が助走をつけて放った拳の一撃を、戦士は咄嗟に剣で受け止めた。



戦士「魔法とはちょっと反則じゃないのか?」ギリギリ

副団長「剣のハンデということで」

戦士「言ってくれるぜ!」バッ


戦士は一度距離をとる。


戦士(それにしても、華奢なくせになんて重い攻撃だ。まだ手がしびれてやがる)ビリビリ


ダッ

キィン
カキィン
バキッ


副団長「ボクの速さについてくるとは中々やるじゃないか!」



戦士「チッ、褒められても嬉しくはねえな」

戦士「全く。鎧も着ていないくせにやけに堅いったらありゃしない」

副団長「当然さ、防御力増強魔法を一点に集中すれば剣なんて簡単に防げる!攻撃もまた然り!」

戦士「防いでもらっちゃ困るってな!」


カァン
キィン
ガンッ



―――…


戦士「そらっ!」ブン

副団長「まだまだ遅いねっ!」ヒラリ

副団長「そろそろ決着をつけさせてもらうよ!」


副団長は戦士の真上に高くジャンプした。


副団長「……ブツブツ……ブツブツ……」

戦士「自分から攻撃を避けられない体制に入るとはご苦労なこったな!」


戦士もそれめがけてジャンプした。



副団長「かかったね! 石柱魔法!」


ズズズズズズズ


戦士「はっ。 下か!」

副団長「これで挟み撃ちだ!」

戦士「ぐっ!」ダッ


戦士は迫る石柱を逆に足場に利用した。


副団長「いけええええええ!」

戦士「うおおおおおおお!」






ズババッ






―――……


副団長「回復魔法」パァー

戦士「悪いな」

戦士「結局引き分けか……」

副団長「そのようだね」

副団長「やっぱり勇者一行だ。咄嗟の判断力は群を抜いているよ」

戦士「そいつはどうも」



戦士「お前こそ、猫譲りの反射神経だな」ハハハ

副団長「だから猫じゃないっ!」

副団長「しかし、ここまで本気を出せたのも久しぶりだったよ」

戦士「俺も同様にだ。これからもまた相手を頼むぞ」

副団長「喜んで!」

副団長「それにしても、ボクと石柱魔法の挟み撃ちをかわしてくるなんて……ん?」



副団長「ギニャアアアアアアッ!!!」

副団長「ぼ、ボクの芝生がっ! 庭園がぁっ!」


庭園には、先ほどの石柱魔法によって生成された石の柱が芝生を貫いてそびえていた。


戦士「あーあ。熱くなるからだ」

副団長「一様に芝を張るのに2か月もかけたのに……またやり直しじゃないかあああああ」

戦士「そこまでするか」

戦士「ま、俺も同罪だ。手伝ってやるよ」

副団長「うわあああっさすが戦士! ありがとうニャーッ!」ギュー

戦士「のわああっ!だから抱き着くなぁっ!!」


こうして勇者一行にはしばらくの間平穏の日々が流れて行った。


ということで切ります


SSの戦闘シーンとか難しすぎてシャレになんないですね……


珍しく連日投稿です。



―――…


ソローリ


団長「むふふ……この日のために隠しておいた秘蔵のケーキ……」

団長「さすがの副団長でも見つけ出せはせんかったじゃろう……」パカッ


スカッ


団長「」

副団長「まーたこんな夜中に何をやっているんですか?」

団長「はっ!? 貴様!」


副団長「健康に悪いですよ。罰としてケーキはボクが成敗しておきました」

副団長「さあさあ早く寝てくださーい」

団長「むぅぅ……副団長のばかぁっ!」


ダッ


副団長(涙目の団長もいいなぁ……)ニュフフ

副団長「はっ!? これでまた3日も口がきけないじゃないか!」

副団長「しまったああああああああああああ」


しかし、それも長くは続くものではない。



―――……


魔法使い「あの魔法は『究極破壊魔法』というのね……」パラパラ

魔法使い「しかし、名前だけ大層な割に記録がほとんどないわね」ポム

魔法使い「でも、あの大賢者の最高傑作に対しての反魔法なんて……柄にも合わず熱くなってきたわ」

魔法使い「必ず完成させてやるわよ」カリカリカリ



―――……


勇者「ナイトをここに。チェックメイトだね」

戦士「何っ!? 待った待った待った!」

勇者「もう何回待たせてあげたと思ってるのさ。いい加減勝たせてくれたっていいんじゃないのかい?」

戦士「ま、まだだ。 まだ……キングをこうすれば……」

勇者「ふっふっふ。こうすればそこもチェックメイトだよ」

戦士「ぬああああああ!」

戦士「駄目だ! 俺は頭脳より肉体派なんだよ!」

勇者「はいはい」



戦士「ところで、行政府を新設した後は、あの地下基地をどうするつもりなんだ?」

戦士「どうも迷路じみていて使う気にはなれんのだが……」

勇者「ああ、あれは商人の助言で貯蔵庫にでもするつもりだよ」

勇者「玉座は魔法石、台所は石油、コレクションルームは……何だったかな」

戦士「おいおいまじかよ」

戦士「それじゃあ資源を取りに行ったっきり帰ってこなくなる奴が続出しそうだぜ」

勇者「はは。まあそうなったらまた新しく倉庫でも作ることにしよう」



―――…


団長「どうかの……」

魔法使い「なるほど、回復魔法による再生失敗ね」

団長「治せるか?」

魔法使い「もちろんよ。私は新しい魔法を作り出すのが生業なんだから」

魔法使い「努力するわ」

団長「か、感謝するのじゃ!幻影、屈折魔法」パッ

魔法使い「それにしても、そこまで酷く跡が残るなんて、相当無理したわね」


魔法使い「常に強力な回復魔法をかけながら、敵中に突入でもしたのかしら?」

団長「ご明察じゃ。しかし、そのお陰で平和が訪れたというのなら、儂は後悔などしておらんよ」

魔法使い「あら。じゃあなぜ私にその治療をお願いしに来たのかしらね」

団長「そ、それはじゃな……いつも魔力を保っておくのが面倒でな……」

魔法使い「ま、いいわ。そういうことにしておいてあげるわね」

団長「頼むぞ魔法使い」

魔法使い「お任せあれ」



―――…魔国 魔王城


魔王「今日は星がきれいだなぁ」

魔王「平和、か」

魔王「綺麗ごとだけ並べておいて、結局は自分たち同士で戦争を始める」

魔王「人間っていうのは理解に苦しむ生き物ね……滅ぼしてしまいたいほど」

魔王「はぁ。復興省が来てからろくに外も出歩けないし。つまんないなぁ」

魔王「あれ? 南の丘の向こうが明るい……?」

魔王「あの方角は奇術国連合でもないし……確か勇者が建てた不干渉区、だったっけな」

魔王「…………行ってみようかな」



―――…


『火炎魔法っ!』ボォッ

『相手は強力な魔力を持つ半魔だ!心してかかれい!』

『絶対に逃がすな! 母親もろとも処分するのだ!』



『お母さん。どうして外が騒がしいの?』

『早く逃げなさい! ここは私が食い止めます』

『あなたは絶対に生き延びるのです。幻影魔法をかけておきますから、とにかく森の中を進みなさい』



『そうすれば必ず道は開けます』

『え、嫌だよお母さん! お母さんも一緒に来てよ!』

『それはできません。私はしてはいけないことをしてしまったんですよ』

『私の罪はあくまでも私の罪であって、貴方の罪ではありません』

『あの父親を持つ貴方ならわかるはずです』

『どうして? どうして私だけ……』

『どうして……』


ゴォォォォォ




――…――


「はっ!ここは……」

『…………』

「誰?」

『……………』

「何を言っているの……?」

『…………』

「何を……」

『…………』


――――――
―――――
―――



―――建設中新行政府 外交行政部門長執務室―――


団長「はっ!? つい寝てしまっておったか」

団長「またあの夢か。新行政府に移ってから回数が増えたようじゃな……」ゴシゴシ

団長「父親か……まだ生きておるのじゃろうか……」

団長「……まさかな」

団長「はぁ。もう夜か」

団長「あそこにでも行ってみるかな」



てなわけでここまで
投稿スピード加速します。


三日目です



―――塔最上階展望台―――


ヒュオオオ


団長「うぅっ……さすがにこの季節では肌寒いなぁ……炎魔法(極小)」ボォッ

勇者「おっ。団長じゃないか。どうしたんだいこんな時間に?」

団長「勇者こそよくこんなところに毎日いられるものじゃ」

団長「こちらが聞きたいものじゃな」

勇者「いやあ。こうして夜の街を見下ろすのもいいものだよ」

勇者「一日一日ごとに光が増えていくんだ。この光が増えれば増えるほど平和に近づいてているんだと思うとなんだか自分のやっていることに自信を持てる」

勇者「僕は間違っていなかったんだってね」


団長「はは。勇者がそんな小心な部分を持ち合わせている覚えはなかったのじゃ」

勇者「僕だって自分のやる事成す事全てが正しいと思ったことは無いさ」

勇者「もしかしたらここに国を作るせいで犠牲になる者も出てしまうかもしれない」

勇者「いや、必ずでてしまうだろう」

勇者「平和のためにまた血を流すことが本当に正義なのだろうか。本当にここで流れた多くの血の償いとなり得るんだろうか」

勇者「どうしてもそんなことばかり引っかかってしまうんだよな」


団長「そうじゃな。儂もそれはわからんでもないことじゃ」

団長「しかし、現に儂は多くの半魔の骸の上に半魔盗賊団の旗を掲げていたのじゃ」

団長「勇者が間違いだというなら、それ以前に儂が間違っていたことになるじゃろう」

団長「そうなれば……一体儂は何をしてきたのかわからなくなってしまうのう」

勇者「そうだね。その通りだ」

勇者「団長の為にも頑張ることにするよ」ニコッ


団長「そうしてくれるとありがたいのじゃ」

団長「……最近夢の中で誰かが儂に話しかけてくるのじゃ」

団長「何もない意識だけが存在する世界で……何を言っているかも聞き取れん」

勇者「夢か……」

勇者「確か魔法使いが言っていたんだけど、どうやら他人の夢に何らかのメッセージを残す魔法もあるらしいんだ」

勇者「僕も一度先代魔王の策略で『夢』に干渉されたことがある」

勇者「その時は戦士の気合の一発で目を覚ますことができたんだけどね」



勇者「あと一歩で僧侶に切りかかっているところだったよ」

勇者「だから、もしかしたら何らかの支障をきたすかもしれない」

勇者「十分用心した方がいいかもしれないよ。夢の力はかなり強力だからね」

団長「そうじゃな……心に留めておくことにするのじゃ」

団長「すまんな。いきなり変な相談を持ち掛けてしまって」

勇者「相談位だったらいくらでも乗るさ」

勇者「折角だから酒場にでも行ってゆっくり語らないかい?」

勇者「ケーキもおごるよ」



団長「ほ、本当かっ!?」

団長「行こう! 飲もう! ゆっくり語ろう!」

勇者「団長は未成年だろう」

団長「うるさいのう。未成年なのは外見だけなのじゃ」

勇者「ははは。この身長じゃあまだまだ育ちざかりなんじゃないのかい?」

団長「うっ。頭をぽんぽんするのはやめんか。身長が縮む」

勇者「伸びはしなくても縮むことはあるんだね」

団長「まあ……万が一じゃ」

団長「さて、早く行こう! ケーキが儂を待っているのじゃ!」グイッ

勇者「わわっ。ひっぱるなって」


―――…


着実に、背後に影は忍び寄っているのだった。

商人「……はい……はい。そうですね………そのようです」

商人「……もちろんです……はい………分かりました。ありがとうございます」

商人「はい……それでは」


ガチャ


商人「ふう。あのお方もどうして突然活発に動き出したんだか……」

商人「まあ、平和が来てしまっては私も困ります」

商人「これも利益の為です。勇者様には悪いですが、仕方ありませんね」ニヤリ


事件が起こったのは、不干渉区発足から3年が経とうとした頃であった。


ということでオムニバスな追想は終わりです

短いですがここまでで


すっかり遅くなってしまいました。
続きです。



―――不干渉区発足から3年後 中央行政区 新中央行政府 代表執務室―――


不干渉区発足から約3年が経ち、不干渉区内にはいくつもの都市が完成していた。
中央行政区も例外ではなく、諸侯国の王城をモチーフにした新行政府を中心に首都機能を備えた大規模都市が発達していった。


各部門も次々と体制の整備が進み、副部門長もほとんどの部門で配置されるに至っていた。



団長「今月だけで銀行が13件、魔法薬局が21件、企業連合の支社が10件、魔法学校が7件この不干渉区に進出してきたのじゃ」

団長「貿易額も月を経るごとに上向いておる。景気がいいものじゃな」

勇者「まあね。ここは魔国、奇術連合、魔術連合三勢力の中間にあたる三角地帯だ」

勇者「三角貿易には最適な場所ということさ」

勇者「それに、どうしてあの両連合が幾度となくこの土地を取り合ってきたか分かるかい?」

団長「まあ、ここが戦略的要所であることは自明の理じゃろうが……」

勇者「まあそれもある。でも、もっと重要なのはこの土地が、偏在性の強い『魔法石』と『天然資源』が同時に眠る資源のクロスポイントだということなのさ」



勇者「商人にお願いして開発を進めてもらっているけど、その埋蔵量は相当な物らしい」

勇者「僕がここに国を作ろうと思ったのもそれが結構大きかったんだ」

勇者「幸の国王に直接左遷されなくてもいずれはここに来る予定だったしね」

団長「そういえば商人も同じことを言っておったのぅ」

勇者「ははは。彼のお陰で経済基盤が完成したようなものさ」

勇者「ありがたいかぎりだね」



団長「しかし、あまり彼一人に経済の大部分を任せすぎるのも問題じゃな」

団長「商人はあくまで利益のために動く男じゃ。いつ儂らを裏切ってもおかしくは無いぞ」

勇者「そうだね。考えておこう……」


ドタドタ

バタン


戦士が扉をはねのけて入ってきた。


戦士「おい、大変だ! 西部支部周辺で反乱が起こったそうだ!」

戦士「なんでも昨日西部支部を襲撃し、今は近くの洞窟を本拠地にして立て籠っているそうだぞ」

団長「なんじゃと!?」

勇者「反乱だって?」

戦士「ああ。さっき憲兵隊を派遣したが、俺達も行った方がいいんじゃないのか?」

戦士「どうも反乱の首謀者並びにメンバーは元半魔盗賊団のメンバーらしい」

戦士「この不干渉区に不満があった奴らが潜伏して集まったんだろう」

団長「な、なんということじゃ……」

団長「ぐ……避けられるものでは無かったか……」

団長「儂が甘かったようじゃな」

勇者「団長……」

勇者「よし、部門長を急きょ招集しよう」



―――会議室―――


勇者「……ということだ」

商人「それは一大事ですね」

商人「下手に武力で押さえつければ、平等を謳うこの不干渉区の政策に反します」

商人「そうなれば今までの苦労が水の泡ですよ」

勇者「その通りだ商人」

勇者「僕らはこれをできるだけ平穏な形で収めなくてはならない」

魔法使い「しかし、話し合いで解決できるとも限らないわね」



副団長「一体誰が反乱なんて……」

団長「元情報隊長だそうじゃ。最近顔を見んと思っていたら……」

団長「盗賊団の時は最も信頼のおける部下じゃったというのに」

団長「どうしてなのじゃ……」

戦士「しかし、現に反乱を起こしているわけだ。昔のよしみじゃどうにもならんぞ」

勇者「うむ。そこで、部門長の中から4人ほどが出て反乱の解決にあたろうと思う」

勇者「1人は僕として、後3人はどうしようか」

団長「元はと言えば儂のせいなのじゃ。儂が行こう」

副団長「団長が行くならボクも行かなくちゃね!」



勇者「そうだね。それじゃあ……あとは戦士、君は西部支部で憲兵隊の統率に当たってくれ」

勇者「僕らに何かあったらいつでも出動できるようにね」

戦士「いいだろう」

勇者「それじゃあ、一時この行政区に部門長が4人もいなくなる」

勇者「商人、ゲストではあるけど魔法使い。あとはお願いするよ」

商人「どうぞお任せを」

魔法使い「仕方ないわね」

勇者「それじゃあ明日には出発しようか」

戦士「おうよ!」

商人「……」ニヤ



―――2日後 北部不干渉区 西部支部―――


ざわざわ……


西部支部には、中央行政区から派遣された憲兵隊が集結していた。
西部支部は奇術国よりに存在していることもあって魔法都市の面影は薄く、むしろ車が通りを走るような科学都市の影響を強く受けていた。


上級隊長「警務部門長殿、各隊集合を完了したでござる!」ザッ

上級隊長「このまま待機するでござる」

戦士「おう。ご苦労だったな上級隊長」


上級隊長とは、半魔盗賊団時代に警備隊長を務めていた犬型魔族の血を引く半魔である。
その剣の腕前は戦士とほぼ互角であり、部下の統制力も高い。



戦士「さて、こっちの方は準備万端だぜ勇者」

勇者「ありがとう戦士、こっちの方もそろそろ行くことにするよ」

団長「わざわざすまんのう」

副団長「ま、キミの出番は今回はお預けだろうけどね~」

勇者「まあ、それが一番いいことではあるさ」

団長「その通りじゃな……」

戦士「ま、無事に帰ってくるこったな」

戦士「ちょうどいいからかい仲間と武器オタクがいなくなっては俺も少し寂しいからな」

副団長「まったく、誰の心配をしてるんだか」

団長「それじゃあ行くぞ。戦士、上級隊長、後衛は任せたのじゃ」

戦士「おうよ!」

上級隊長「お受け奉るでござる!」

ここまで。投稿スピード加速とは何だったのか


ちなみに西部支部の実際の文明レベルは幸の国とほぼ同等な20世紀初頭レベルです。
あと西部支部は通常は都市の名前です。

不干渉区と半魔盗賊団の組織図はそのうちまた詳細が出てきますのでそのあたりでいちど整理します。




―――西部支部付近 洞窟―――


団長「さて、ここのようじゃな」


小高い山の麓に大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。


団長「ここは元々盗賊団情報隊の本拠地だった場所じゃ」

団長「おそらく、反乱のメンバーは情報隊だった面々がメインなのじゃろう」

副団長「彼らは特に戦闘能力に長けた連中じゃなかったけれど、もしかしたら罠を張って待ち構えているかもしれないよ」

勇者「そうだね。反乱軍の本拠地にしては静かすぎる」

勇者「警備の1人や2人くらいおいていてもおかしくは無いのに……」

団長「しかし、ここで帰るわけにもいかんじゃろう」

団長「罠と分かっていても飛び込まねばならんことはあるものじゃ」

勇者「確かにそうだね。しかし、罠に嵌める最も効率的な方法は、罠に飛び込まざるを得ない状況に追い込むことだ」

副団長「十分用心した方がいいねぇ」



―――…内部


コツ……コツ……


団長「誰もおらんな……」

勇者「本当に静かだね」

副団長「もうそろそろ広場に出るはずだよ」

勇者「あれ? 何か向こうが明るい……?」

団長「広場じゃな。遂にお出ましのようじゃ」



―――…広場


勇者「これは……!」


ザワザワ……


広場には大勢の半魔たちが待ち構えていた。そして、正面にはかなり人間に近い容姿の半魔が一人。どうも猿型の魔族の血を引いているようだ。


情報隊長「ようこそいらっしゃいました北部不干渉区の大幹部様方」

情報隊長「私は新半魔盗賊団の情報隊長です」


彼は紳士的な振る舞いで3人を迎えた。



団長「『新』、じゃと?」

団長「どうして反乱など起こしたのじゃ情報隊長!」

団長「今すぐにこんなくだらないことを止めて儂の下に帰ってくるのじゃ!」

副団長「そうだそうだ! 戦ってこの3人に勝とうとなんて思わないでよ!」

勇者「僕達は戦いを望んではいないんだ。今すぐに反乱を止めるなら今後の身分も保証する」

勇者「不干渉区のメンバーとして、いや、幹部として尽力してはくれないかな」


情報隊長「……」

情報隊長「やれやれ。くだらないとは物言いが悪いものですね」



情報隊長「私はがっかりしたんですよ」

情報隊長「なあ団長。お前はもう忘れたのか」

情報隊長「俺達は長い間人間と魔族、両方に迫害され、こんな惨めな何もない土地へと強制的に追いやられてきた」

情報隊長「そしてその中でも争いは絶えず、いつ死ぬかもわからない状況で生き延びてきたんだ」

情報隊長「俺はある日お前に出会い、お前なら争いを収め、半魔が安住できる『半魔の国』を作ってくれるものだと確信した」

情報隊長「そして、俺はお前に仕え、情報隊長という幹部職を持ってそれに尽力し、遂にその目標の寸前まで達成したんだ」



情報隊長「それがなんだ? 勇者?不干渉区?」

情報隊長「ふざけるな! どうしてここまで来て人間に支配されなくてはならんのだ!」

情報隊長「ついに『半魔の国』が建ち、平和が訪れるはずだったのに!」

団長「それはじゃな……」

情報隊長「人間は必ずまた俺達半魔を迫害し始めるだろうよ」

情報隊長「これでもう半魔の平和は永く失われてしまったのだ」

情報隊長「ならば、俺は自分で再び平和を勝ち取ってやるまでさ」



団長「そ、そんなことは無い!」

団長「お前も聞いたはずじゃ……勇者が半魔だけでなく、魔族、人間三族間の平和を誓った『三族平和宣言』を!」

団長「儂が半魔の国を建てれば、それこそまた迫害の時代への始まりに違いはなかったのじゃ!」

団長「だから儂は盗賊団を解散せずに勇者が……儂よりもふさわしい『王』が現れるのをずっと待ち望んでいたのじゃ」

団長「彼さえいれば必ず平和は訪れる。儂は彼と会った時点でそれを確信したのじゃ。お前が儂と出会った時と同じようにな!」

情報隊長「そんなことがあってたまるものか! 俺は、俺達は自らの手で平和を手に入れなければならんのだ!」

情報隊長「迫害され、争い、命がけで戦ってきたあの日々を忘れたお前に何が分かる!」

団長「忘れてなんかおらん! 儂は『人間』としての生を奪われたあの日から、これまでの日々を一日たりとも忘れたことは無い。いや、忘れられるはずがない!」


シュン


団長は体の表面を覆う魔法を全て解いた。


ザワザワ……


情報隊長「ぐ……!」


体の傷は顔にまで及んでいた。大きな石をぶつけられた様な跡が生々しく残っている。


副団長「団長……ああ悲しいことよ……」ハラリ

勇者(あの時は右腕だけだったけれど……やはり全身となると……)

団長「これは全て迫害と争いによってできた傷に他ならん」

団長「儂はこの記憶をこの身に刻んで残りの一生を過ごしてゆかねばならないのじゃ」

団長「これで気は済んでくれんものか情報隊長」

団長「儂はお前を失いたくはないのじゃ。幻影、屈折魔法」


元に戻った。


情報隊長「うるさいうるさい!!」

情報隊長「お前などに邪魔はさせん! かかれっ!この半魔の裏切り者を殺せええええっ!!」


ウオオオオオオオオ!!


団長「情報隊長!!」

副団長「駄目だったようですね」

副団長「うぐぐ。ちょっと数が多いかな……」

勇者(ここで派手に戦う訳にはいかないね……)

勇者「団長、ちょっといいかい?」



団長「なんじゃ!」

勇者「……ゴニョ……ゴニョゴニョ……」

団長「……分かった。それが最善じゃろう」

団長「副団長。20秒だけ時間を稼いでくれんか」

副団長「お安い御用です!」


ウオオオオオオオオ!!


副団長「数が多けりゃいいってもんじゃないよ!身体強化魔法!」ダッ


バキッ
ドガッ



半魔1「ぐわああああああっ!」

半魔2「ええい! 回り込んで団長を狙えっ!」

勇者「……ブツブツ……」

団長「……ブツブツ……ブツブツ……」

半魔3「グオオオオオオオッ!」ダッ

副団長「しまった! 回り込まれたっ!?」

副団長「団長っ!!」

団長「……詠唱完了じゃ」

勇者「こっちも完了したよ」ガシッ


2人は手をつなぎ、逆の手をそれぞれ高く掲げた。


勇者「せーのっ」

団長・勇者「「雷魔法(大)!!」」バリバリバリバリ


ズバババババッ

グワアアアアアアアッ


広場内にいた半魔は、情報隊長を除いて全員が雷魔法によって失神した。

情報隊長「……なんだとっ!!?」

情報隊長「ば、馬鹿なっ! 全滅したというのか!?」

団長「ふう。久しぶりの上級魔法じゃったな。コントロールが上手く出来てよかったのじゃ」



勇者「全員失神でとどめてあるね。さすが団長の魔法コントロールだ」

団長「分かったかのう情報隊長。このように人間と半魔が手を取ってゆくことも十分に可能なのじゃよ」

団長「人間はもう二度と半魔を迫害することは無い。魔族も同様にじゃ。必ず平和は訪れる!それは儂が誓ってやろう」

団長「儂はお前を責めたりはせん情報隊長」

団長「もう一度儂の下で任を全うしてはくれんかの」

団長「ちょうど行政部門長の席を空けようと思っておるのじゃ」

情報隊長「ぐぐ……」ガクッ

情報隊長「俺は……俺は……」

情報隊長「俺は…………」







情報隊長「俺は人間の下になどつきはしないいッッ!!!」チャキッ


勇者「なっ! 銃だと!?」


銃とは、魔術国でいう『魔法の杖』にあたる武器である。ちなみに、不干渉区では徹底的な禁輸政策がとられていた。


団長「いかん!!」

副団長「動体視力、反射神経向上魔法!」

情報隊長「死ねえええええええええ!!」




>>>>>>スロー>>>>>>


バ゙ァァァァァァァン


長い銃声の中、副団長の周りの世界は減速していく。
反射神経向上魔法により、その元から並はずれている反応速度は更に10倍以上に上がっているのである。


副団長(よし、見える! このままいけば十分間に合う!)

副団長(よーしこのままこのまま……左腕で庇って、防御魔法を集中すれば……)

副団長(これで防いだ……!!?)


<<<<<<<常速<<<<<<



ビシィッ


弾は、勇者と団長を庇った副団長の左腕に命中した。


副団長「ぐああああああっ!!」

団長「副団長!」

勇者「防御魔法を貫通した!?」

副団長「っつう……一体どんな小細工を……」ポタポタ

情報隊長「はははははは!! この銃は『ある男』が俺に渡した、奇術国の最新の武器なのさ!」

情報隊長「この銃には、魔法を打ち消す『反魔法弾』が込められているのだ!」



情報隊長「この弾で撃たれれば防御は不可能、回復もできん!」

情報隊長「さあどうする? お得意の魔法は使えんぞ! それとも俺を殺すか?」

情報隊長「はははははは!! 半魔の平和を犯すお前たちはここで皆死ぬのだ!!」チャキ

勇者「団長! 危ない!」

団長「そんな……」

副団長「くっ、岩壁魔法!」ポタポタ


ズドドドドド


情報隊長「何ッ!?」


情報隊長と勇者たちの間に岩の壁が高くせりあがった。壁は情報隊長を取り囲んでしまった。



副団長「ぐっ……これで手出しはできないだろう」ポタポタ

団長「すまん副団長。儂のせいで……」

団長「今止血してやるのじゃ」ビリッ

副団長「あ、ありがとうございます!」ギュッ

副団長「でも大丈夫ですよこれくらい! 団長が傷つくことに比べたら安いものです!」

勇者「西部支部ですぐに手当てしよう。奇術連合出身の医者も増えているし、『奇術式』の治療なら対応できるはずだよ」

勇者「しかし、魔法を無効化する間接武器とは……奇術の国も厄介なものを発明したものだ」

団長「そうじゃな。じゃが問題は……!?」ハッ


ゴゴゴゴゴ


団長「この魔力は!?」

勇者「しまった、まだ罠が……?」



てなわけでここまで


ちなみに、この世界の魔法はその威力に応じて5ランクに分かれています。用語の参考までに


5 最上級魔法 魔法陣だけでなく、魔法の実力者複数人の同時詠唱がなければコントロールできないほどの威力。
4 超上級魔法 発動に魔法陣と多大な魔力を必要とする。基本、移動ができないため罠として使われることが多い。
3 上級魔法  どんな熟練者であってもそれなりの時間を詠唱に費やさねばならない。
2 中級魔法  熟練すれば下級魔法と同様に扱える
1 下級魔法  ほとんど詠唱なしで唱えることが可能


サボりすぎた



―――……洞窟 上空


バサッバサッ


偵察係1「まーだ帰ってこないな勇者」

偵察係2「ほんとだよなー。あの3人のことだからパパッと行ってパパッと帰ってくるものだと思っていたんだけどな」ハハハ

偵察係1「まったくだよな。あのメンツじゃあ魔王軍の1つや2つ簡単につぶれちまうぜ」


ゴゴゴゴ


偵察係2「!? なんだこの魔力は!?」

偵察係1「こ、ここまで魔力が漏れ出てくるとは……『超上級魔法』か!?」

偵察係2「まずい、警務部門長に伝聞魔法を送れっ、早く!!」



―――洞窟付近 憲兵隊待機場所―――


ダダダッ



隊長A「大変です部門長!!」

隊長A「洞窟上空の偵察係から伝聞魔法が入ったのですが……」

上級隊長「何やら騒がしいでござるな」

戦士「なんだ? なにかあったのか」

隊長A「『偵察隊より 洞窟上空にて強力な魔力の漏洩を確認 超上級魔法が内部にて発動した疑いあり 応援を要請する』 だそうです!」

戦士「超上級魔法だぁっ!?」

上級隊長「な、反乱軍にそのような魔法の使い手がおったというのでござるか!」


隊長A「分かりませんが……ここは出動すべきだと」

戦士「チッ。交渉は決裂したようだな」

戦士「全員! 直ちに出動だ!」

戦士「この不干渉区のリーダーを救い出せ!」


オーッ

ダダダダッ


戦士(勇者……団長……そして副団長……)

戦士(死ぬなよ!)


―――…洞窟内部 広場


ゴゴゴゴゴ


情報隊長「ははははは! 発動せよ、『風化魔法』!」

広場全体に、隠されていた魔法陣が浮かび上がった。

情報隊長「最早反乱など不要! 命などくれてやる!」

情報隊長「半魔に永遠なる平和あれっ!!」

情報隊長「ははははははははははは・・・・・・……」


ガラガラガラ



団長「『超上級魔法』じゃと!?」

団長「まずい、崩れるぞ!」

副団長「急いでここを離れないと!」

勇者「仕方ない、ここは退却だ」

勇者「団長、僕の背中に乗って!」

団長「なっ、儂は自分で走れるのじゃ!」

団長「それに気絶している者達を助けなければ」

副団長「そんな暇はありません! 急いで!」


勇者「彼らは……諦めざるを得ない。それに、僕に考えがあるんだ、頼む」

団長「うっ……」

団長「分かったのじゃ……」


ガシッ


団長「ちょっと剣が邪魔じゃな……」

勇者「しっかり捕まっててくれよ!」

団長「お、落とさんで欲しいのじゃ」


ダダッ


――――…洞窟 通路


ガラガラガラ

ダダダダダッ


勇者「これは間に合うかな」

団長「はっ勇者、危ない!」

団長「爆発魔法(中)」


ドカーン


団長「うっ」ビシッ

勇者「うおっと」



副団長「大丈夫ですか団長!」

団長「大丈夫、破片がかすっただけじゃ」タラー


魔法で傷跡は見えないが、出血までは消せないようだ。


団長「よっぽど左腕を撃たれた副団長の方が重傷じゃろ」

勇者「よくそれで走っていられるね」

副団長「ちゃんと念のため血管も神経も外してあったからね」

副団長「そこまで大きなダメージではないさ」

勇者「なんという技術……」


ダダダッ
ガラガラガラッッ


団長「勇者、入口が見えてきたぞ!」

副団長「でも、もう崩壊に追い付かれますっ!」

勇者「よしっ、団長……ゴニョ………ゴニョゴニョ……」

団長「うむ、分かったのじゃ」

勇者「…ブツブツ……」

団長「……ブツブツ」


ガラガラガラ
ダダダッ


副団長「くっ、もうすぐなのに……出口が崩れてきている……」

副団長「間に合わないっ!?」

勇者「いくぞっ、もう一度共同魔法だ!」

団長「詠唱完了じゃ!」


クルッ


2人は洞窟の奥側に向き直り、剣を構えた。


勇者・団長「「暴風魔法(大)!」」


ビュオオオオオオオオオオオ


副団長「ギニャッ!? 体がっ」フワッ

副団長(そうか! 暴風魔法を『洞窟』という限られた空間の中で使うことで、その威力を格段に押し上げたのか!)



勇者「しっかり捕まってろ!」フワッ

団長「ううう……」ギュウウ


ビュオオオオオオオオオオオ

ガラガラガラ……


副団長「間に合うかっ!?」

勇者「いっけえええええええええええっ!!」


ビュオオオオオオオオオオオ





洞窟の崩壊が3人を飲み込むより一瞬先に、出口の光が3人を飲み込んだ。


副団長「出たっ!」


ドササッ


団長「うわわっ」

勇者「はあ……はぁ……」


ガラガラガラドドドドド……


勇者「間一髪か……」


勇者たちは間一髪で脱出に成功した。


副団長「ギリギリセーフだったね」

団長「危なかった……」


団長「ありがとう勇者。勇者のお陰で助かったのじゃ」

勇者「いやいや礼には及ばないよ」

勇者「それよりそろそろ僕の上からどいてもらえるかな……」ムギュー

団長「はわわっ、すまん!」バッ


ダダダダダダッ


戦士「おい勇者! 無事か?」

上級隊長「洞窟が……奴らはどうなったでござるか!」

勇者「大丈夫、怪我人はいるけれどこっちは無事だ」

勇者「反乱軍は……恐らく全滅したよ」


勇者「反乱の首謀者情報隊長が僕らを道連れにしようと『風化魔法』を発動したんだ」

勇者「今回の事件には不審な点もいくつか残っているからね……これから憲兵隊の仕事が増えるかもしれない」

上級隊長「なぬっ。あの情報隊長殿が反乱を!?」

上級隊長「『三隊長』ともあろう者が……愚かな……」ギリッ


三隊長とは、元半魔盗賊団団長直属三部隊の隊長であった情報隊長、警備隊長、実行隊長を指す。



―――…しばらくして


戦士「そうか……分かった。つまりその武器の出所を探れってことだな?」

勇者「これだけ禁輸政策をとっているのに持ち込まれたということは……内通者がいる可能性がある」

勇者「十分注意してくれよ」

戦士「おうよ。俺とこの上級隊長にかかれば犯人の一人や二人、滅多切りの刑に処してやるぜ」

上級隊長「でござる!」

勇者「ははは。それは頼もしい限りだ」

団長「とにかく、副団長の治療を済ませたら一旦行政府に戻るのじゃ」

団長「作戦会議が必要のようじゃな……」


キリ


―――西部支部 病院―――

医師「はぁ……弾の摘出だけでいいのですね?」

副団長「うん。あとは回復魔法で大丈夫さ」

戦士「お前ともあろう者が、間抜けなもんだな」ハハハ

副団長「仕方ないだろ! 団長を守るためならボクは命だって差し出すつもりなんだから」ドヤ
戦士「そいつは大層な御意志だ」

戦士「ま、緊急事態だ。なるべく早く出発するぞ」

副団長「心配には及ばないよ」

医師「今麻酔をしますね。少し痛みますが我慢してください」


副団長「ギニャッ!? なんだその針は!!」バッ

医師「何って、注射ですよ。腕が痛まないように麻酔薬を注入するんです」

戦士「お前注射も知らないのかよ」ケラケラ

戦士「奇術式の医療じゃ欠かせないもんだぞ」

副団長「し、知らないね! ボクはめったに怪我なんてしないのさ!」

副団長「それに魔法があれば奇術式の医療なんて必要ないし」


戦士「魔法じゃどうにもならんからここに来てるんだろ」

副団長「うっ……まあそうだけど……」

医師「まあ座ってください。すぐ終わりますから」

副団長「分かった」

医師「さあ、ちょっとだけ我慢してくださいね~」

副団長「……」ギュッ


パキッ


医師「」

副団長「あっ」

戦士「おいおい、何防御魔法をかけてんだよ」

戦士「針が折れちまったじゃねえか」

副団長「ごめんごめん。つい……」

戦士「なーにがついだ」

戦士「医師、もっと傷口の近くなら魔法が効かないから、そこを狙ってやれ」



医師「はぁ……分かりました」

副団長「うぅ……」ギュウッ

チクッ

副団長「っつぅ……」

医師「はい。これで20分後には効いてきますから、少し待っててくださいね」

副団長「ふう……死ぬかと思った……」

戦士「子供かよ」ブフッ

副団長「な、なんだとっ!?ボクは子供じゃない!!」

戦士「あ、子猫の間違いだったな」

副団長「だからちっがあああああう!」

医師「あの……安静に……」



―――西部支部からの帰途 馬車―――


あの後すぐ、勇者一行は馬車で中央行政区への帰途についた。


ガタン……ガタン


団長「……」ハァ

勇者「どうしたんだこんな夜中に。眠れないのかい?」

団長「まあな……」

団長「勇者、儂は半魔たちを裏切ったことになるのじゃろうか……」

団長「あの時はこれが最善の選択じゃと思っていた」


団長「半魔の長として、半魔の恒久的な安泰を実現するためにはな……」

勇者「団長は何も間違ってはいないさ。そして、反乱を起こした『情報隊長』もまた、ね」

勇者「正義と敵対するものは悪じゃない。また別の正義なんだ」

勇者「情報隊長もまた半魔の平和を望んでいたのさ。まあ、プライドも多少はあったようだけれどもね」

勇者「悪なんて言う物は正義からすれば、取るに足らない汚れに過ぎないんだ」

勇者「かつての『魔王軍』だって例外ではないはずだ」

勇者「僕は旅の途中でそう思ったのさ」


勇者「だから彼らはあんなに強かった。命をかけてでも守るべき正義を持っていたからだ」

勇者「正義を実現するには別の正義を倒さねばならないときもある」

勇者「僕は人間代表として、できることをするつもりさ」

勇者「だから、団長も半魔代表として、もっと胸を張ってもいいんじゃないかな」

勇者「あの北部荒れ地を統一した救世主だ。一度半魔に平和をもたらした団長がさらなる平和をもたらそうとしているというのに、どうして半魔を裏切ることになるのさ」

団長「ははは。相変わらず口だけは達者じゃな」

団長「ありがとう勇者。お陰で楽になったのじゃ」


勇者「口だけとはちょっと酷いんじゃないのかい」

勇者「ま、団長もいつも偉そうな態度と口調だから、悩みなんてないものだと思っていたけれどね」

団長「そうじゃな……儂はあれ以来人に頼るということをしてこなかったからのう」

団長「ずっと一人じゃったから……頼るべき人間を見つけて、少し安心しているのかもしれんのじゃ」

勇者「僕を頼ってくれるのは嬉しいことだね。じゃあ僕も団長を頼らせてもらうよ」

勇者「一緒に平和な世界を作るんだ!」


勇者は手を差し出した。


団長「ああ、もちろんじゃ!」


ガシッ


勇者「さて、そろそろ寝ようかな……」

団長「勇者……ちょっと近くに寄ってもいいかな……」

勇者「えっ。構わないよ」

団長「わぁっ。ありがとう」


キーリキリ


副団長「(あああああああっ!勇者が団長をたぶらかしてるウウウウウウ)」ジタバタ

戦士「(おいこら、折角いいところなのに邪魔してやるなよ)」

副団長「(あのロリコン野郎めっ!ボクの目の黒いうちは決して団長には手を出させないよ)」

戦士「(いいじゃないか、俺もあいつのことを馬鹿にできるネタが増える)」

副団長「(そういう問題じゃないっ)」

副団長「(ぐぬぬう……あんなに近くに……羨ましい……)」



戦士「(動機が不純だぞ)」

副団長「(やかましいっ)」

副団長「(ボクはもう何年も団長の側に仕えてきたんだ、それくらいの権利はあるはずだろう)」

戦士「(なんでだよ。じゃあ俺が代わりに隣に行ってやるから……)」

副団長「(冗談じゃないっ)」ゲシッ

戦士「(いててっ。冗談だよ……誰がきまぐれ猫娘の隣になんか行くか)」

戦士「(顔がメロンパンになっちまうぜ)」



副団長「(だから猫じゃない)」

戦士「(いつまでたっても認めないのな……)」

副団長「(認めないも何も、事実じゃないものはどうしようもないね)」ニュフフ

戦士「(どのツラ下げて言ってんだか)」

戦士「(それにしても、団長の剣は一体どんな剣なんだ?)」

戦士「(釣り合わない大きさの割に軽そうに持っているみたいだが)」

副団長「(ああ、あれは『魔法剣士の剣』さ。特に値打ちは無いけど、魔法剣士には持って来いの剣だよ。杖の代わりとしても使えるしね)」



戦士「(なんだ。そこは普通の剣なのか)」

副団長「(団長は華美なものがあまり好きじゃないからね。盗んだものもほとんど売るか倉庫にしまいっぱなしだったし)」

副団長「(『盗賊団』を名乗ったのも、人間族の貴族から奪った品々で半魔の生計を立てるために他ならなかったんだよね)」

副団長「(行政府も、王城をモチーフにしてはあるけど極力贅沢さは抑えておいたんだ)」

副団長「(それに、何度ボクのコレクションを捨てられそうになったことか……)」

戦士「(なるほど、お互い理解に乏しい上司をお持ちということか)」

副団長「(やっぱりボクらは仲間みたいだね)」ニャハハ

戦士「(お前から言ってくるのも奇妙なもんだな)」


―――少し前 中央行政府 財務部門庁舎―――


コンコン


魔法使い「商人、ちょっといいかしら? 魔法学校の予算のことでお願いがあるんだけど……」

魔法使い「商人? 入るわよ」


ガチャ


魔法使い「誰もいないわね」

魔法使い「全く、仕事をすっぽかしてどこへ行っているのかしら」

魔法使い「ん? あれは……」



コト


魔法使い「魔法陣形成用のチョーク?」

魔法使い「しかも使用済み」

魔法使い「でも、彼が魔法を使えたような覚えはないわね」

魔法使い「一体何なのかしら……」



―――西部支部付近 洞窟跡―――


ガラガラ


商人「お、いましたいました」

商人「大丈夫ですか?随分と派手にやりましたね」

情報隊長「う……うう……」

商人「先日手に入った高級薬草です。どうぞ」パァッ

情報隊長「うぅ……ハッ!?」

情報隊長「お前は!」



情報隊長「俺は……生き残ったのか?」

商人「そのようです。その岩壁魔法の残骸が崩壊の際にスペースを作ったのでしょう」

商人「まあ、生きていなければかなり困ってしまったんですがね」

情報隊長「あいつらは?」

商人「全員健在のようですよ。さきほど伝聞魔法が届きました」

情報隊長「チッ。悪運の強い奴らめ……」

情報隊長「それで、お前はどうして俺を助けたんだ?」

情報隊長「恩でも売るつもりか?俺は人間には決して従わんぞ」



情報隊長「お前の情報を信じたのも、お前が俺に武器を与えて手助けしたからにすぎん」

情報隊長「くそっ。俺はただ誰にも邪魔されない、半魔だけの平和を願っていただけなのに……」

商人「それは『半魔の』平和ではなく『貴方の』平和ですよ」

商人「『半魔の』平和を願うなら人間や魔族との協調こそ最も近道だと言えるでしょう」

商人「しかし、貴方は協調を一蹴してしまったではありませんか。自分のプライドのために」

情報隊長「なっ、その平和を目指せと言ったのはお前ではないか!」



情報隊長「矛盾も甚だしいぞ。それに、俺は自分の信念を変えたりはしない。お説教なんかはよそでやれ!」

商人「これは失礼しました。まあしかし、その信念を私は買っているんです」

商人「貴方にはまだやってもらわねばならない仕事があるんです。こちらで隠れ家を用意しますから、そこで潜伏していてください」

情報隊長「チッ。相も変わらず手の内が読めん男だ」

商人「いえいえいえ、私と貴方の利害が一致している。ただそれだけではありませんか」

商人「その他には義理も人情もありませんよ」

情報隊長「そうかい。なら俺もお前を信用はせんぞ」

商人「ご自由に」ニコッ


というわけで霧



―――後日 中央行政府 部門長会議室―――

勇者「商人はどうしたんだい?」

財務副部門長「はい。2日前に、南部支部付近にある魔法石採掘所の視察へ行かれました」

財副長「今日中にはお帰りになると思われます」

戦士「なんだなんだ? この緊急事態に何ほっつき歩いてやがるんだ」

魔法使い「私にも一言報告を入れてほしかったわね」

財副長「申し訳ありません」

勇者「まあまあ、商人の努力のお陰でここまで不干渉区が栄えてきているんだ」



勇者「下手に責めてもどうしようもないだろう?」

団長「そうじゃ。それに彼はこの不干渉区の流通のほぼ全てを掌握しているのじゃ」

団長「どちらにせよ偉そうに振る舞うことはできんのじゃ」

副団長「偉そうな態度しかできない誰かさんには死活問題だね」チラッ

戦士「なんだよ。それじゃあ団長はどうなるんだ」

副団長「団長はかわいいから問題ないのさ」フン

戦士「な、なんじゃそりゃ……」

勇者「とにかく、今回の問題は情報隊長が持っていた『銃』と、それを与えた『ある方』についてだ」



勇者「周知のように、銃に関しては奇術の国との軋轢もあって徹底的に禁輸をしている」

勇者「それを持ち込めたということは内通者か憲兵隊のミスか2つに1つだろう」

戦士「おいおい、奇術連合との国境は特に警備を強化してあるんだ」

戦士「持ち込まれる荷物は全て検査してあるんだぞ、まさか持ち込めるはずがない!」

勇者「その通りだ。だからタチが悪いのさ」

勇者「僕はこれを内通者の仕業だとみている。しかも、憲兵隊に根を回せるということはそれなりの幹部だろう」

勇者「改めて戦士、上級隊長と協力して幹部を中心に調査を行ってくれ。いざとなったら部門長も疑ってくれて構わない」



勇者「まあ、あの場にいなかったのは戦士と商人だけになるけどね」

戦士「冗談はよせよ。どうして俺がお前を殺すために根回しをしないといけないんだ」

戦士「お前みたいな雑魚は直接剣で叩き切ってやるよ!」

勇者「幼馴染だからってひどい扱いだね……」

戦士「お前が先に言ったんだろ」

勇者「まあともかく、それくらい事態は深刻ということだ」

勇者「もしかしたら『暗殺者』というものも入り込んでいるかもしれない。十分注意してくれ」



―――会議終了後 代表執務室―――


コンコン


勇者「どうぞ」


ガチャ


魔法使い「ちょっといいかしら」

勇者「お、魔法使い。留守番してくれて本当にありがとう」

魔法使い「お安い御用よ。それより……ちょっと気になったことがあってね」

魔法使いは商人の部屋のことを話した。

勇者「商人が魔法陣を……?」



魔法使い「ええ。まだ確定ではないけど、その疑いが強いわ」

勇者「しかし彼は奇術国連合の出身だ。まさか魔法なんて使えるだろうか」

魔法使い「そうね。私もそう思ったわ。でも彼は利益の為なら何をしてもおかしくないわよ」

魔法使い「特に魔法陣を使った超上級魔法なんていうものは大した魔法の教養がなくても発動が可能だったりするわけだし」

魔法使い「威力に対して矛盾しているのよね……」ハァ

勇者「なるほど……戦士にも伝えておくことにするよ」



勇者「魔法使い自身も十分用心してほしい」

魔法使い「勇者に言われると皮肉にしか聞こえないわね」

魔法使い「ま、私は魔法学の研究で部屋に籠りっぱなしだから、その心配はあまり必要ではないでしょう」

魔法使い「助手も控えているしね」

勇者「それなら安心だね」

勇者「またそのうち魔法学の最高権威の講義を聴きに行くことにするよ」



魔法使い「あら、学校じゃあ全員を眠らせる『魔法の授業』と言われる私の講義を聞きたいなんて、良い好奇心ね」

勇者「それは君が話に熱くなりすぎるからだろう?」

勇者「中等部の学生に大学校レベルの講義なんて理解できるはずがないじゃないか」

魔法使い「私は基本自由放任主義なのよ」

魔法使い「おかげで助手のような逸材も手に入ったしね」

魔法使い「彼女は鍛えれば私以上の魔法の使い手になるわよ」

勇者「まったく無責任な校長だなぁ……」




―――――
―――





お久しぶりでしたまた来週


ここから場面が少し変わります。



―――数か月後 北部不干渉区 中央行政区付近―――


テクテク


フードを被った何者かが、行政区に足を踏み入れようとしていた。

?「ふーん……ここが首都か。意外と栄えているわね」

?「半魔の癖にやるじゃない。それに比べて私ときたら……」

?「復興省の頭でっかちにも逆らえないなんて、お父様に知られたら高らかに笑われてしまうわ!」

?「ぐぬぬ……こうなったら何が何でも得るもの得てやるわよ!」

?「待ってなさい勇者!」



―――行政区 街―――


ワイワイガヤガヤ


?「うーん……勇者は何処にいるのかしら……」

?「それにしても活気にあふれているわね」

?「半魔も人間も魔族も入り乱れてお互いに関わりあっている……」

?「これが勇者の理想の世界なのね……」

?「はぁ。私たるものが一体何を考えているのかしら」

?「これじゃあお父様に叱責されてしまうわね……」

?「ああ、お父様が生きていればなぁ」



八百屋「いよっ、そこのアンタ!1個どうだい?」

八百屋「森の国産のリンゴが安いよっ」

?「ひゃっ!? ……何? 私は今勇者を探しているんだけど」

八百屋「お、探しているなんて面白いことを言うね。勇者ならこの町で一番でかい建物にいるよ!」

八百屋「ま、一国の代表者なら当然だけどね!」

?「なるほど……私たるものが盲点だったわ……」

?「て、なんでこっちから城にいる勇者を訪問しなきゃいけないのよ!」



?「ふつう逆じゃない……」ブツブツ

八百屋「ん? アンタ魔族かい? ここは不干渉区だよ、そんなフード必要ないない!」バッ

?「きゃっ! 何するのよ!!」

八百屋「おー。姉ちゃん綺麗な顔してるじゃないか」

八百屋「角が無かったらほとんど俺達人間みたいだな!」

?「ぶ、無礼な!私を人間ごときと一緒にしないでくれる?」

八百屋「ハハハ。冗談が上手だな姉ちゃん。最近はやりの『魔王語』ってやつかい?ハハハハ」



?「魔王語……? まあいいわ、勇者の居場所を教えてくれたことに免じて許してやるわ」

?「命拾いしたわね」

八百屋「おやおや、これはなり切ってらっしゃる」

八百屋「ははーっ。魔王様ばんざーいってな」ハハハ

?「分かればいいのよ!」フフン

?「それじゃあ、先を急ぐことにするわね」


テクテク


八百屋「変わった姉ちゃんだったなぁ」

八百屋「もしかして本物の魔王だったりして……まさかな」ハハハ


―――中央行政府前―――


?「なかなか大きなお城ね……」

?「でも、私の城に比べたらこんなもの毛虫みたいなものよ」


テクテク


門番「こらっ、そこのお前。今は特別警戒中だ。通行許可書がないと中には入れんぞ」

?「お前とは失礼ね! 私は勇者に用があるの。ちょっと通しなさい!」

門番「ならんならん! 怪しいやつめ。お前がまさか暗殺者というやつか!?」

?「暗殺者? 何のことかしら……とにかく通しなさい!」

?「半魔の分際で魔族に逆らえると思っているの!?」



門番「魔族だと? ここは不干渉区だぞ。ここでは魔族も人間も半魔も関係ない!」

門番「対等に扱うのがルールなのだ」

?「むむ……私に楯突くとは身の程知らずめ」

?「こうなったら力ずくでも通ってやる!」バッ


フードを投げ捨てた。


?「爆発魔法(中)!」

門番「ッ!?」


ドカーン


ここまで


夏休みですねぇ


―――代表執務室―――


ドカーン
ボカーン

ワーワー
キンキュウジタイダー


勇者「なんだなんだ?外が騒がしいな」

団長「また魔法使いの魔法実験が失敗でもしたんじゃろう」

団長「この前は洪水魔法が暴発して行政府中が水浸しになってしまったからな」


バタン



上級隊長「曲者でござる! 2人とも逃げ給うでござる!」

勇者「曲者?」

上級隊長「はっ。自らを『魔王』と名乗っているでござる」

上級隊長「どうやら勇者殿を狙っているようで……」

「爆発魔法(中)!!」


ドガアアアアアアアアン


上級隊長「ぐわあっ」ドシャ


爆破魔法によって執務室の扉が吹き飛ばされ、上級隊長もそれに巻き込まれた。


団長「上級隊長!?」



勇者「魔王だって?それじゃあ……」

魔王「あはははは! 半魔の軍隊の実力はこの程度なの?」

魔王「私の魔王軍に比べたらひどく軟弱なものね!」

魔王「ん、この部屋は?」



勇者「あっ」

魔王「あっ」



団長「あれが魔王か!」


魔王「ああああっ! ついに見つけたわよ!」

勇者「君は調印式の時の……」

魔王「相変わらずパッとしない顔ね! そこにいるのは……娘っ!?」

団長「そんなわけあるかっ! 儂は行政外交部門長の『団長』じゃ!」

勇者「彼女は僕とほとんど同じ年の半魔さ。幼くして成長が止まってしまったらしいけどね」

魔王「へぇ……不便なものね。それじゃあ棚の上の本もろくに取れないじゃない」

団長「余計なお世話じゃ」

勇者「それで、一体君は何をしに来たんだい?」



勇者「まさか僕を倒しに来たわけじゃないだろうね」

魔王「あははは!それもありだけど、今日は違うわ!」

魔王「ただただ暇だから来ただけよっ」ビシィッ

勇者「」




団長「暇つぶしに行政府を荒らしてもらっては困るのう……」

魔王「まったく。ここの半魔たちは何なの? この魔王に向かって無礼が過ぎるわ!」

勇者「それは悪かったよ。この不干渉区では『三族平等』が基本理念だからね」

勇者「まさかそんなVIPが乗り込んでくるとは思っていなかったんだろうよ」

団長「思うやつなんかおるかっ」

魔王「ふん、まあいいわ。勇者! 私の暇をつぶしなさいっ」

勇者「」


勇者「ま、まあ君を厚待遇でもてなすことは約束するよ」

勇者「君は魔族のトップだ。下手には扱えないしね」

魔王「へぇ。随分と物分りが良いじゃない」

魔王「気に入ったわ。勇者が魔族だったら側近にしてあげるところよ!」

勇者「そ、それはどうも」

ダダダダダッ

戦士「おい、侵入者とはそいつのことか!?」

戦士「かかれっ。しかし手ごわいぞ!」

魔王「ふーん。私には刃向おうなんていい度胸ね!」

魔王「さあ、私の腕の中で息絶えるがよい!」



勇者「うわ、めっちゃ魔王っぽいこと言ってる……じゃなくて!」

勇者「待った待った待った! 戦闘はやめだ!」

戦士「おい、どうしたんだ勇者!」

戦士「そいつは勇者を狙っているんだぞ」

勇者「とにかくやめだ。彼女(?)は魔族のリーダー『魔王』だ!」

勇者「正真正銘の来賓だよ」


ザワザワ……


魔王「ふふん。名前を聞いただけで恐れかえっているわね」

団長「なんか取り違えておるな……」

戦士「なんだと? そいつがあの魔王か!」

戦士「チッ。勇者の指示だ。全員戦闘止め!怪我人の搬送にあたれっ」


ダダダダダッ


戦士「大丈夫か上級隊長?」

上級隊長「かたじけないでござる……」ズルズル

団長「まったく。随分と暴れてくれたものじゃな」

団長「そろそろ遠くから奴の叫びが聞こえてくるぞ」




副団長「ギニャアアアアアアアアアアアアアッ!! ボクの城がっ!!庭がっ!! コレクションがあああああああっ!!」





勇者「副団長には気の毒だね……」

魔王「思ったより魔力を使ってしまったわね」

魔王「勇者、今日は休んでもいいかしら。私の部屋は何処?」

団長「来賓用の部屋があいておる。そこを使うのじゃ」

魔王「あら、気が利くのね。あなたも侍女に召してあげるわっ」

団長「ほ、本当ですかっ!? まおうさまにお使いできるなんて!」ぱぁっ

団長は幻影魔法を強めた。



勇者「おいこら」

魔王「あら、可愛いところもあるじゃないの」

魔王「それじゃあ案内なさい!」

団長「はいっ!」キラキラ

勇者「なんだかお転婆なのが増えたな……」

勇者「それにしてもなんで団長はあんなに乗り気なんだろう」



これこそ人間族、魔族、半魔3族の代表が初めて一堂に会した瞬間であった。


ここまで

恐らく書きだめも前進するので投稿ペースも増えると思われます



―――後 応接室―――


魔王「あちゃー……ついやっちゃった」

魔王「普通に仲良くしに来ただけだったのに……」

魔王「ごめんなさいお父様……私、つい寂しくて……」

魔王「はぁ……これじゃあ魔王失格ね……」


コンコン



魔王「誰?」


ガチャ


勇者「やあ。応接室は気に入ってくれたかな」

団長「儂もいるぞ」

魔王「何よ親子2人して……そうね、少し地味ね」

団長「親子じゃない」

魔王「もうちょっと髑髏とか呪術道具だとかが飾ってあってもいいものじゃない?」


勇者「そんな部屋いやだ」

団長「そうか……儂があまり華美な物が好きじゃないのでな」

団長「もう少し考えてみることにするのじゃ」

勇者「ところで、今夜この行政区の街並みでも紹介して回ろうかなと思っているんだけど、どうかな」

勇者「行政府は今日の騒ぎで忙しくなりそうだし、歓迎会を開けそうな状況にもならないだろうしね」

団長「儂と勇者がガイドするのじゃ」

魔王「うーん。そうねぇ……確かにどうしてここがこんなに活気があるのかにも興味があるし……行かせてもらうわ」

魔王「さっきは悪いことをしたわね」



団長「まあ、幸い死者も出ず軽傷者だけで済んだのじゃ。精神的に重傷な奴はおったかもしれんが……」

団長「無礼を働いたこちらにも非があるのじゃ。あまり気にせんで欲しいのじゃ」

団長「まあ、物は壊れてもすぐ直るしの」

勇者(案外素直に謝るんだな……ただのお転婆ではなさそうだ)

勇者「君はここまでどうやって来たんだい?」

勇者「まさか魔王城から徒歩なんてかなりかかると思うけど……」

魔王「まあね。でも徒歩も退屈しのぎにはちょうどよかったわ」



魔王「あの『復興省』とかいう人間たち、魔国の復興なんていうことを名目にしてはいるけれど、実際は不平等な法律を定めて魔族を弾圧しているのよ」

魔王「お陰で私は部屋に閉じ込められてしまったし。本当につまらなかったわ」

団長「なるほどのう。どうりで最近魔族の移住が多いと思ったら……」

勇者「やはり幸の国王は本気で平和をもたらそうとなんて思っていなかったようだね」

魔王「私も魔族を背負うものとして責任は果たしたいからね……実力は無いけれど……」

魔王「魔族が弾圧されるのを黙って見てはいられないわ」

勇者「さっきとはまるっきり態度が逆だね。あの高いプライドは何処へ行ったんだい」ハハハ

魔王「う、うるさいわね! 私だってたまにはしんみりしたっていいじゃないの」



団長「たまにも何も、まだ会ってから数時間じゃぞ……」

魔王「細かいことは気にしないでちょうだい」

魔王「ところで、どうしてこの町はこんなに栄えているの?」

魔王「確か私の記憶ではこの辺りは『荒れ地』だったはずだけど」

勇者「まあね。3年ほど前まではそうだったさ」

団長「人間、魔族、半魔が皆で協力して町を作ったのじゃ」

団長「この町、この不干渉区はまさに3族協調の象徴という訳なのじゃよ」

勇者「それに、この土地はいくつもの勢力の間にあるだろう?」

勇者「それぞれの国間の貿易を中継すれば人もおのずと集まるということさ」

勇者「しかも両側の国が戦争中となればなおさらだ」



魔王「なるほど。さすがお父様の策を幾度となく破った勇者ね」

魔王「戦術にはぬかりがない……」

魔王「よかったらもっと教えてくれない? 魔国でも役立たせたいんだけれど……」

勇者「いいとも! そういうことなら大歓迎さ」

勇者「……をEEEするとWWだろう?」

団長「さらに$$は&&にもなるんじゃ」

魔王「本当だわ! そんな方法があったなんて……」



――――…


魔王「はぁ。私ともあろう者が、勇者に助けを求めることになるなんてね」

魔王「お父様に知られたらどうなることやら……」

勇者「先代魔王か……彼があと1年長く生きていたら僕は今頃生きていないだろうね」

魔王「ええ。その通りね。でもそうばっかりは言っていられないわ」

魔王「戦争が終わってしばらくのうちは……いや、今でもお父様が生きていたらって思うことはある」

魔王「でも、もうこの世にいないことは変わらない現実なわけだし、受け止めなくてはって魔族の弾圧を目の当たりにして思ったの」



魔王「今回ここに来たのもそんな気持ちの表れなのかもしれないわ」

団長「なんじゃ、お転婆なだけじゃなくて芯も通っているようじゃな」

勇者「ま、中身が脆いと、どうしても虚勢を張りたがってしまうものだよ」

魔王「虚勢を張るとは無礼ね! 私は本当に強いんだからっ」バチバチ

勇者「わああ! 悪かった悪かった! 今のは無しにしてくれ」

魔王「分かればいいのよ」フフン

団長「しかし、いつまでここにいるつもりなのじゃ」


団長「今までの言い分では正式に使者としてやってきたとも思えんが……」

魔王「そうね……黙って出てきちゃったし、側近たちに迷惑がかかるかもしれないから、1週間程度で帰ることにするわ」

勇者「1週間も居ていいのか?」

魔王「大丈夫よ、どうせ部屋で引き籠っていただけだし。もしかしたらまだ気づかれていないかもしれないわよ」

団長「どんだけザル警備なんじゃ……」

勇者「分かった。ならそういう風に皆にも紹介しておくよ」

勇者「またそのうち部門長会議にでも顔を出してもらうことにしよう」



魔王「部門長? ああ、さっきその半魔が言っていた『大臣』みたいな地位のことね」

勇者「そうそう。それじゃあまた後で迎えに上がることにするよ」

魔王「楽しみね……生まれてこの方魔王城からほとんど出たことがなかったから……」ムフフ

魔王「さっきもちょっとだけ町を歩いたけれど、あんなにたくさんの魔族と人間が互いに混ざり合っているなんて、未だに信じられない光景だったわ」

団長「まあ、まだ両族には深い溝が隔たっているからのう」

団長「この不干渉区をもってその溝を平和という足場で埋めていくのが勇者の望みなのじゃよ」

魔王「なるほどね……お父様は間違っていたのかな……」



魔王「魔族の平和なんて、結局戦争に負けて無くなってしまったわけだし」

勇者「まだ無くなったとは限らないさ」

勇者「3族が協調して築く平和だって、『魔族の平和』の一部として認められてもいいと思わないかい?」

魔王「そうね……」


コンコン


勇者「ん、誰かな?」


ガチャ


外交副部門長(元実行隊長)「大変でさあ団長! 奇術の国からの緊急の便りが届きやした。しかも他にもいろいろとありやして……」



実行隊長とは、元半魔盗賊団実行隊の隊長で、鳥人型の魔族の血を引いた半魔である。
実行隊とは、団長直属3部隊の中でも主に誘拐、人質の交換、物品の売買の際の交渉や実行などを主に担当していた部隊である。



団長「なんじゃと!?奇術の国から?」

外副長「ええ。詳しいことは向こうで話しやす。とにかく来て下せえ!」

団長「むむ……すまんな2人とも。今夜は欠席のようじゃ」

勇者「まあ仕方ないよ。それにしても今になって奇術の国から干渉してくるとは……」

勇者「何かあるかもしれないね」

魔王「あら、半魔の娘の方は来てくれないの」

魔王「また今度に期待するわ」



団長「いい加減誤解を解いてくれんかの……」

魔王「いいじゃない。あだ名みたいなものと思っておきなさいっ」

団長「気分のいいあだ名ではないのう」スタスタ


バタン


勇者「ははは。団長も大変だな」

魔王「うーん。なんでかな……」

勇者「どうかしたのか?」



魔王「いや、気のせいだとは思うんだけど……私あの半魔にどうしても会ったことがあるような気がするの」

魔王「半魔にすら最近初めて会ったばかりなのにね」

勇者「ふーむ。それは不思議だね」

勇者「もしかしたら前世ででも知り合いだったんじゃないのかい?」

魔王「なるほど。そうかもしれないわね!」

勇者「納得しちゃうんだ」

魔王「そう……だといいわね……」


今日はおしまい



―――夜 行政府前―――


勇者「さて、まずは何処へ行こうかな」

魔王「デートコースは男が決めるものだって、何かの本に書いてあったわ」

魔王「さあ早く案内なさい!」

勇者(デート?)

勇者「まあまあ。大体のコースは決めてあるんだ」

勇者「そうだな……じゃあ酒場から行ってみようか」

魔王「酒場?」

勇者「そうそう。店員っていう腕のいい料理人がいるのさ」

勇者「歓迎会が開けない分、そこで御馳走を振る舞ってもらうことにしよう」



―――酒場―――


ワイワイガヤガヤ


店員「お、勇者じゃないか!いらっしゃい」

店員「隣にいるのは……見慣れない顔だね、彼女かい?」

勇者「まさか。彼女は魔王さ。正真正銘極悪非道のね」

魔王「ふん! ちょっと狭苦しい店ね!」

魔王「私がちょっと広げてあげようかしら」バチバチ


勇者「わー! いきなり何をしだすんだ!」

店員「ははは。賑やかな女の子じゃないか」

店員「魔王ってのはもっとこう禍々しくて得体のしれない姿をしてるもんだと思っていたけどね」

魔王「あら。やろうと思えばできるけど?」

勇者「遠慮しておこう」


勇者「ま、そういうわけだ。一つ歓迎料理を頼みたいんだけど」

店員「お安い御用さ!」

店員「今からじゃちょっと時間はかかるけど……魔王スペシャルを振る舞ってあげるよ!」

勇者「うわ。グロそう」

魔王「どういう意味よ!」



―――…


店員「おまたせっ。ゆっくり食べて行ってくれよな!」

勇者「わざわざありがとう」

魔王「ふーむ……魔王城じゃあ見たこともない食材ばかりね……」

魔王「とくにこれは……何のスープかしら」ズズ

魔王「!?」

勇者「どうだい?口に合うものかな」

魔王「おいしい……」ズズズズ

勇者「いきなり静かになったな……」

勇者はその後、魔王をカジノや商店街へと連れて行った。



―――カジノ―――


魔王「よしっ!入れっ入れっ!」


コトン


ディーラー「ああ。残念ですね。はずれです」

魔王「あああああっ!また外れたああああっ」

魔王「ちょっと勇者!これインチキなんじゃないの!?」

魔王「こうなったら……」バチバチ

勇者「わーっ! だから壊すのはだめだってば!!」

ディーラー「はははは……」



―――商店街―――


ワイワイガヤガヤ


魔王「もう夜なのにまだ賑わっているのね」

勇者「まあね。この商店街には武器屋や防具屋、宿もあるし」

勇者「商店や銀行を集めることによって買い物しやすくもなっている」

勇者「さらに、奇術国からの電灯を使えば夜も明るさを保てるんだ」

魔王「なるほど……そうやって町を活気づけていたのね……」

魔王「参考にするわ」

勇者「どうも」

魔王「あっ!あの店は何!?」

勇者「え、あれは呪術道具の店かな」

魔王「行ってみましょ!」グイッ

勇者「わわっ。ちょっと待ってくれよ!」



―――…商店街出口


魔王「ついつい買ってしまったわねこの『聖水』……」

勇者「なんで魔王が聖水なんか買ってるんだよ」

魔王「いいじゃない。この気持ち悪さが何とも言えないわ」

勇者「わけがわからないよ……」

魔王「はぁー!でも楽しかったわ」

魔王「ありがとう勇者。お陰で魔族だけの平和が魔族の平和じゃないことが分かった気がする」


魔王「こんなふうに魔族と人間が手を取り合っていくからこそ、この町は栄えているんだもの」

魔王「お父様はやっぱり間違っていたのね」

勇者「そう思ってくれたなら嬉しい限りさ」

勇者「それじゃあ最後に、とっておきの場所に案内するよ!」

魔王「とっておき? 一体どこなの!?」

勇者「ま、来てからのお楽しみさ」



―――行政府 塔最上階展望台―――


ヒュウウウ


勇者「どうだい、良い眺めだろう?」

魔王「わぁー! これがあの魔王城で見た明かりの正体だったのね!?」

魔王「あの光の色はわざと付けているの?」

勇者「そうさ。建設部門長が考えたんだ」

勇者「いつも僕がここで夜景を見ているものだから、どうせなら魔法で電灯に色を付けて模様を作ってしまおうってね」

勇者「季節によって変わるのさ」



魔王「凄いわね……たった3年でここまで町を発展させてしまったなんて」

魔王「4年前までここで戦争が行われていたなんて想像もつかないわ」

勇者「でも、もう魔族と人間の戦争は終わったんだ」

勇者「まだまだ乗り越えなくてはならない壁は多いけれど、きっと平和は訪れるさ」

勇者「僕はその先駆けとしてここに国を建てる」



勇者「そうだな、もう少し安定したら正式な独立宣言も行わなくちゃね」

魔王「そうね……勇者、何かここのために私にできることは無いかな」

魔王「あくまで魔族のためにだけど、少しでも平和に貢献したいのよ」

勇者「おお、それは心強い」

勇者「そうだな……できることか……!」ピーン

勇者「適役がいたよ」

魔王「?」

ということで魔王と勇者のデートも終わりに近づいたようです
それでは



―――そのころ 中央行政区 行政府から少し離れた建物の屋上―――


狙撃手「ケケケッ。きやがったきやがった」

狙撃手「商人が言ってたことは本当だったな」

狙撃手「それにしても、屋上に女なんか連れて何をやってんだか」

狙撃手「一国の長たるものがデートとは、こいつは傑作だ!」

狙撃手「ケケケッ。デート中のところ悪いが、こいつも仕事なんだ」

狙撃手「とっとと勇者を消してでかい報酬をもらわねーとな。ケケケッ」


謎の男は構えたライフルを再びのぞき込む。


ジィーッ


狙撃手「しかし冴えねえ面してんな」

狙撃手「こんな奴が本当に奇術国を脅かす黒幕なんだか……」

狙撃手「ま、オレにはかんけーねぇことだがな」

ジィーッ

狙撃手「さて、そろそろ……」グッ

魔王「……」チラッ

狙撃手「!?」バッ

狙撃手「気づかれた……?」

狙撃手「まさか、な」

狙撃手「しかしなんだあの女……妙に恐ろしい赤い目をしてやがったな」

狙撃手「な、奇術国一の腕前を持つオレ様が一体何をビビッてやがんだ!」

狙撃手「あんな冴えねえ面さっさと仕留めて……」ジィーッ

ドシュッ


勇者「……!?」ズァッ

バタッ

狙撃手「はっ!チョロイもんだぜ」

バサッバサッ

魔王「誰がチョロイのかしら?」

勇者「魔王!!落ちる!落ちるから!!」ギュー

魔王「ちょっと!じっとしてないと蹴り落とすわよ!」バサッ

狙撃手「はっ!? な、何故お前らが!?」

狙撃手「馬鹿な!どこから湧いてきやがった!!」

魔王「ははは!ちょっとその面白そうな道具に幻影魔法をかけさせてもらったわ!」


魔王「どうも私たちのことをジロジロ見ているみたいだったしね」

狙撃手「なんだと……そんなことが可能なはずは……」

魔王「私は魔王よ! 不可能なことなんてありはしないわ!」

勇者「嘘つけ!」

魔王「黙ってなさい!」ゲシッ

勇者「うわわっ!」ドサッ

勇者「つつつ……」

勇者「さあ、おとなしく捕まるんだ」


勇者「その武器はどこから運んできた?どうやってここに?」

魔王「私を狙おうなんて100年早いわ! 拷問に処せられたくなければ素直に吐くことね!」バサッ

狙撃手「ぐ、ぐぬぬ……」

狙撃手「おのれっ!」チャキ

勇者「銃かっ! まずい!」

魔王「氷結魔法!」

ドーン

狙撃手「」カチーン

魔王「そんな武器で私に勝つつもり? ははは!1000年間皿洗いでもして出直してきなさい!」バサッ

スタッ


勇者「どんな文句だよ……」

勇者「まあ、助かったよ。ありがとう。君は命の恩人だね」

魔王「ふふん、勇者にお礼を言われる筋合いはないわね」

魔王「私は私に勝負を挑んできた愚か者をひねりつぶしただけよ」

魔王「魔王なら当然の行いだわ!」

勇者「ははは……」

コロコロコロ

シュー

勇者「ん?これは……爆弾だ!!」

勇者「伏せろっ」バッ

魔王「きゃっ!?」ドサッ

ドガアアアアアン


勇者「ううう……はっ!?」

勇者「狙撃手は!?」

勇者「やられた……木端微塵だ」

魔王「いててて……いきなり何をするのよ!」

勇者「ごめんごめん。しかし参ったな、狙撃手が粉々になってしまった……」

魔王「あら、今のは私じゃないわよ」

勇者「分かってるさ。事情を詳しく聞こうと思ったんだけど、できなくなってしまったな」

勇者「すぐに緊急の部門長会議を開くことにしよう。魔王、君も事件の証人として出席してくれ」

魔王「任せなさい!」


―――緊急部門長会議―――

勇者「さてと……」

勇者「あれ、副団長は?」

団長「すまんが欠席のようじゃ」

団長「さっきのショックがよほどこたえたようじゃ」

団長「少しの間そっとしてやってほしい」

戦士「ケッ。なんだなんだ城の一つや二つケチケチすんなってな」

勇者「分かった」

勇者「こんなタイミングで申し訳ないけど、まずは彼女の正式な紹介から行こう」


勇者「彼女は魔王、正真正銘の魔国の王だ」

魔王「よろしく」

勇者「さっきは魔王のお陰で僕は無事だったんだ」

勇者「今日の昼のことはあるけど……悪者ではないから安心してほしい」

戦士「チッ。勇者の言うことなら従うっきゃねーってやつか」

魔王「ふん。魔王に助けられる勇者何て前代未聞ね!」

戦士「ダサッ」

勇者「ダサくない」

勇者「次に、さっき起こった暗殺未遂についての報告だ」


―――…


勇者「・・・・・・・ということだ」

勇者「敵はおそらく奇術国出身。彼がいた近くにも何者かが潜んでいたんだろう」

勇者「気配は全く感じなかったから、魔法でもかけて隠れていたんだと思う」

魔王「私でも気づかなかったなんて、かなり上級の魔法の使い手みたいよ」

勇者「そうだ。そして爆弾で失敗した狙撃手を処分してしまった」

勇者「武器も破壊されていたし、証拠は完全に隠滅されてしまったよ」

戦士「チッ!いったいどこから湧いてきやがったんだ!」

上級隊長「行政区の警備は万全を期していたはずでござるが……」

勇者「万全と言っても馬車の中の荷物一つ一つまで調べたわけじゃないんだろう?」

商人「なるほど、貿易商人に化けて、ということもあり得ますか」


団長「もしかしたらあの『転移魔法』を使った可能性もあるのじゃ」

魔法使い「残念ながらそれはないわね」

魔法使い「あの魔法は非常に精密なコントロールと複雑な魔導方程式が必要な魔法よ」

魔法使い「団長のコントロールをもってしても無事に、しかも誰にも見つからずに転移するなんて不可能に近いでしょうね。100歩譲って、できたとしても数メートルが限界よ」

魔法使い「失敗すれば即死は免れない危険な魔法をあえて使おうとするものかしら」

団長「奴らのことじゃ、大した知識もなく魔法を使ってしまうことだってありえるじゃろう」

勇者「しかし、魔法学の権威が言うなら間違いないだろうね」

勇者「ともかく、これに関しては戦士と上級隊長に調査をお願いするよ」

戦士「ああ。こんどはさらに警備を強化させてもらうぜ」

上級隊長「貿易商人まですみずみに検閲致すでござる」

団長「さて、次は儂からの報告じゃ」

団長「まずはよい知らせからじゃ。少し前、奇術連合内で大規模な反乱が起こったのは知っておるかな」

戦士「それについては聞いてるぞ。確か銅の国が奇術の国の強引な要求に耐えかねたんだったよな」

商人「こちらの商業連盟の方でも話題に上っています」


商人「おかげで銅の値段が急上昇してかなり混乱しておりました」

団長「そうじゃ。そして、奇術の国はその討伐に僧侶を当てたのじゃが……」

団長「あの百年戦争中、最盛期の魔王軍ですら陥落できなかったあの要塞国家を無血で占領してしまったそうじゃ」


ザワザワ


勇者「無血で占領とはまた僧侶らしいね」

戦士「嘘だろ?あの分厚い銅の壁をいったいどう越えたっていうんだ」

商人「砲撃、対空、要塞の三枚壁から成り、防御力ならば死の谷にも勝るとも言われていましたが……」

魔法使い「『無血』、ときたらもう魔法しか考えられないわね」

魔法使い「奇術連合には魔法という概念がないから、それと僧侶の戦術が加わったらもう負けなしよ」

魔王「それでも、お父様でもできなかったことを犠牲なしでなんて……」


団長「奇術連合はその功績を称えて僧侶をさらに大将にまで昇進」

団長「奇術の国は反乱を起こした銅の国と、共謀を図った金、銀の国三国を統一して新しく『白金の国』の建国を宣言し、そこの軍務責任者に僧侶を当てたそうじゃ」

団長「僧侶への民衆の支持もかなり高まっておる」

戦士「なんつー出世話だ。四賢人就任を断る奴が小さく見えてくら」

魔法使い「あら、それなら幸の国の憲兵総官なんてさぞや小さい役職だったんでしょうね」

戦士「ぐぬぬ」

商人「なんと! それはまた経済情勢が変わってきそうですね」

商人「銅は売り……金と銀は買い……と」パチパチ

勇者「なるほど、それなら奇術連合は親魔族に傾いてくれるんじゃないのかい?」

団長「その通りじゃろうな。じゃがな……」


団長「もう一つの方なんじゃが、奇術の国の理事長が2週間後に行われるその白金の国建国記念の式に儂ら不干渉区の幹部を招待してきよったのじゃ」

団長「儂らとの親善を図るため、などと言っておるが……」

戦士「なんだなんだ、僧侶を祝うためなら行ってやってもいいんじゃないのか?」

魔法使い「待ちなさい。あの奇術の国のことよ、何か企んでいるかもしれないわ」

勇者「確かに、この前の反乱事件といい、奇術の国が何らかの関与をしている可能性は極めて高い」

勇者「最悪、奇術連合領内に僕らをおびき出して、まとめて謀殺するということもあり得るだろうね」

魔王「罠、ということかしら?」

団長「まあ、まだ決まったわけではないがな。ここで断るわけにもいかんじゃろうし」

勇者「断れば親善の最後の機会を踏みにじったとして、侵攻の口実を与えることにもなりかねないだろうね」

勇者「こいつは参ったな」

戦士「あの奇術連合の軍と戦うには、こちとら少し役者が不足しているようだぜ」

魔法使い「相手が僧侶とあっちゃなおさらね」


団長「一応、儂らには僧侶配下の軍を護衛に回すと明言してはおるが……」

戦士「んなもん本気で言っているとは限らんだろう!」

団長「言ってしまえばそうかもしれん」

団長「しかし、僧侶はもう政治的にも軍事的にも十分な影響力を得ているのじゃ。まさか式のことも招待のことも知らないとは思えんのじゃ」

勇者「とは言っても警戒は怠れないだろうね」

勇者「罠に嵌めるには、罠に飛び込まなければならない状況に相手を追い込むのが最も有効だ」

魔王「あっ、お父様も同じようなことを言っていたわよ」

魔王「前の勇者6人もそうやって葬ったんだって高笑いしていたわ」

団長「どうするのじゃ勇者」


団長「あの反乱事件があってからというものの、この不干渉区内でも不審の念が揺らいでおる」

団長「どうも勇者が暴力を持って反乱勢力を皆殺しにしたという極端な噂まで広まっているということじゃ」

団長「そのせいで半魔と魔族の一部が魔術国連合に移住を始めているのじゃが……」

団長「それが魔術連合での魔族排斥の動きを促進し始めているということなのじゃ」

商人「それはまずいですね」

商人「このままでは花の国をはじめとした親魔族国家で革命すら起きかねませんよ」

団長「うむ。状況はかなり悪い方向に向かっておる」

団長「このまま勇者にまで死なれてしまえば、今までの全ては水の泡じゃぞ」

勇者「そうだね……」


戦士「しかし、行くしかないもんはどうにもならんだろう」

戦士「くよくよしてても始まらねーぜ」

魔法使い「そうね、こちらには優秀な戦力も少なからずいるわけだし、そう簡単にやられることもないと思うけど」

商人「私も賛同します」

上級隊長「そうでござる!某ら憲兵隊もついていくでござる!」

勇者「分かった」

勇者「やはり国家戦略的に見ても、ここで出席しないのはまずいだろう」

勇者「僕と団長、外交副部門長、上級隊長、そして憲兵隊の一部と共に奇術連合に向かうことにするよ」

戦士「なんだぁまたお留守番かよ!」

魔法使い「あなたが行ったら国際的スキャンダルは免れないわよ」

勇者「すまない戦士。今度は国境付近での調査の続行と混乱の鎮静化をお願いするよ」

団長「ついてなのじゃが、儂は一足先に外交副部門長と共に奇術連合へと向かうことにするのじゃ」

団長「理事長に直接会って少しでも状況を変えるために努力しようと思う」

勇者「分かった。そうしてくれ」

魔王「はいはいはいっ!私も勇者と一緒につれて行きなさい!」


勇者「えっ。君は1週間で帰るんじゃなかったのか?」

魔王「いいじゃない!どうせ暇なんだから」

魔王「それに、一度奇術の国に行ってみたかったところなのよ!」

団長「困ったのう。まだ魔国と直接連絡を取ったわけじゃなかったのじゃが……」

勇者「うーん。まあいいんじゃないのか?」

勇者「魔王の実力は知ってのとおりだ。もし僕が死んだとしても魔王だけでケロッと帰ってこれるだろうさ」

戦士「なんつー情けねえ勇者だ」

団長「分かったのじゃ、一応魔国には報告せんでおくことにしよう」

団長「大体の要件は済んだようじゃな」



団長「ところで勇者、勇者はいつ独立宣言を行うつもりなのじゃ?」

商人「確かに、先ほどの状況を打破するならば、まずはこの国を独立国として他国に認めさせてしまうことが第一歩になる思います」

商人「そうすれば不干渉区内だけでも不安を取り除くことができるでしょう」

団長「商人の言う通りじゃ。法ならある程度完成しておる」

団長「勇者が帰還した後すぐにでも行うべきではないのか?」

勇者「そうだね。僕も少し思っていたところなんだ」

勇者「本当はもう少し情勢が安定してからにしようと考えていたんだけど……そうだな」

勇者「1か月後に確か百年戦争の終戦記念日があっただろう」


勇者「その日に行うことにしよう」

戦士「平和ってワードがやけに似合う日なこったな」

魔法使い「記念すべき日になるといいわね」

団長「いや、絶対にせねばならんな」

商人「そうですね」

商人「三族の平和が一層近づくことを祈りたいものです……」ニヤ

ここまでです

乙、勇者魔王もので商人のイメージは『まおゆう』が強かったから、こういう普通の商人な商人も面白いね。
ちょっと個人的に気になったのは、戦術とか知識を語る場面を
>勇者「……をEEEするとWWだろう?」
>団長「さらに$$は&&にもなるんじゃ」
とかぼかしてる所かな、こういう部分をちゃんと説明出来るなら説得力やキャラクターの知識の高さや考え方を表現出来ると思うし説得力を出せると思う。


アドバイスありがとうございます。
ぜひ参考にさせていただきます


―――会議後 図書室―――


団長「えーと……」パラパラ

団長「お、あったあった」


『転移魔法 中級魔法 
 
光の賢者によって開発された魔法。魔法のランク自体は中級だが、移動先の指定を始めとした多くの問題を抱えており、壁の中に転移して死亡するなどの事故が相次いだために使用が禁止された。

現在は幸の国でこの魔法を才能によって使いこなせる者のみが勇者として選ばれており、それ以外の使用者は皆無であると思われる。

魔導方程式は』




団長「うわっ、なんという複雑な式じゃ……さすがにこれは気軽には扱えんな」

団長「しかしこの辺は理解できるか……」

団長「うーむ。とはいえ素人に使いこなすのは不可能か」

団長「そういえば勇者は転移魔法を使えないんじゃったな」

団長「どこまで才能に恵まれない勇者なんだかわからんのう」クスクス

団長「まあよい。少しだけ見ておくか。何か役に立つかもしれん」

スタスタ



―――後 中央行政府 魔術国大使事務室―――


魔法使い「はぁ……これもダメね。すぐに腐り落ちてダメになってしまうわ」クシャクシャポイ

助手「師匠~、お願いしますからこれ以上部屋を荒らさないでくださいよ~」

魔法使い「あら御免あそばせ。意外とこの皮膚交換魔法の魔導方程式が上手くたてられなくてね」

魔法使い「直接回復魔法の失敗跡を消すのは不可能に近いから、視点を変えてみたんだけど……」

助手「『大賢者の定理』を使ってもダメなんですか?」

魔法使い「お話にならないわね。あれは飛躍的に魔力消費の効率を上げただけのものだから、攻撃系の魔法には有効だけど、回復系魔法にはあまり意味がないのよ」



魔法使い「それより、貴方の方は水彩魔法の自作はできたのかしら」

助手「はい! さっき魔導方程式をたて直しました!あとは詠唱を乗せれば……」


コンコン


魔法使い「何かしら?」


ガチャ


勇者「やあ魔法使い」

魔王「なんだか本ばっかりで胡散臭い部屋ね……」

魔法使い「あら、今日はまた可愛いお友達まで連れてどうしたのかしら」


勇者「ははは。ちょっとお願いがあるのさ」

勇者「この魔王に魔法学について学ばせてやってほしいんだ」

魔王「あくまで魔族の平和のために貢献したいだけよ!」

助手「え、あれがかの残虐非道極悪愚劣の【魔王】なんですか!?」

魔王「あれとは何よ!失礼ね!」

助手「そっちですか!?」

魔王「ふん。私はこう見えてももう16なのよ!」デデン

助手「偉そうに言う割には私と同い年じゃないですか」



魔王「あら、背が小さくてわからなかったわ!」

助手「ぐっ。気にしてることを……」

魔法使い「魔法学ね……いいわよ。お安い御用というやつね」

魔法使い「魔王というだけあってセンスは抜群でしょうから、あとは知識さえつけてしまえば四賢人にも劣らない魔法の使い手になるでしょうよ」

助手「えー。私を差し置いてそんなぁ」

魔法使い「あなたも十分優等生よ。安心しなさい」

助手「やったぁ」

勇者「それじゃあ、僕は出発の用意があるから失礼するよ」



ガチャ

―――…



魔法使い「それじゃあ、何からいきましょうかね」

魔王「手っ取り早く凄い魔法を教えてくれない?」

魔王「もうそれはド派手でヤバくて……」

魔法使い「まあお待ちなさい」

魔法使い「強力な魔法には強力な魔法なりに『基礎』というものが重要になってくるものよ」

魔法使い「まず、『魔法学』には、主に2つの部門があるの」


魔法使い「1つ目は、『精神魔法学』といってね。魔法と精神、心理、感情及び才能との関わりについて主に追究する部門よ」

魔法使い「魔法というものは気分や感情によって大きく左右されるもの。例えば、強い怒りを感じれば通常をはるかに超えた威力の魔法を発動できてしまうものよ」

魔法使い「魔法を扱うセンスだってそうね。細かいコントロールや詠唱時間なんてものは先天的な才能の部分がかなり大きい部分を占めてしまうのよ」

魔法使い「これが、魔族の中でも序列を決める最たるものとなりうるわけね」

魔王「確かに。悲しいときはどうしても魔法も弱弱しくなってしまうわ」

魔法使い「あら、魔王の目にも涙ってことかしら?」

魔王「べ、別にいいじゃない! 魔王が泣いて何が悪いのよ!」

魔法使い「わざわざ認めなくてもいいのに」クスクス

魔王「あっ」


魔法使い「そして、もう一つの部門こそ、私が主に携わっている『理論魔法学』ね」

魔法使い「上級の魔法を使うには詠唱が必要よね。それは、魔法を発動させるために、詠唱によって自分の持つ魔力を効率よく制御しなければならないからなの」

魔法使い「魔族なんかでは本能的に見出してしまうのが普通らしいけど、人間族ではそうはなかなかいかないわ」

魔法使い「そこで、理論魔法学では『魔導方程式』という、魔法石のエネルギーの作用、流れ、向き、変換等を示したものを表すの」

魔法使い「それをもとにして自作の詠唱をその上に乗せるということね」

魔法使い「既に先人の知恵によって多くの定理や作用法則などが見出されているから、私たちはそれをつかって新たな魔導方程式を作っているのよ」

魔法使い「そうすれば、魔力の消費を抑えつつ、強力な魔法をより強力に唱えることが可能になるの」

魔法使い「この理論魔法学のお陰で上級魔法以上のほとんどの魔法が生み出されたと言っても過言ではないわ」

魔法使い「さらに、完全にオリジナルの魔法を作り出すことだってできるのよ」


魔王「へぇー」

魔王「そんなものがあるなんて全く知らなかったわ!」

魔法使い「まあ、魔王ちゃんは最高クラスの魔法のセンスがあるでしょうから、ぜひこの理論魔法学を学んでほしいわね」

魔王「ちょっとだけ興味がわいてきたわ!」

魔王「でも難しそう……」

魔法使い「まあ、最初のうちは苦労するでしょうけど、魔王ちゃんならすぐに慣れてしまうでしょう」

魔法使い「魔法だって魔族の部分と人間の部分を持ち合わせたような側面があるのよ」


魔法使い「それをかの魔王が両方を支配したとあったら、これは両族にとって重要な意味を持つことになるわ」

魔法使い「うーん、ついワクワクしてしまうわね」

魔法使い「じゃあ早速魔導方程式の書き方からいくわよ」

魔王「よーっし! いつでもきなさい!」

助手(師匠が珍しく熱くなっている……私も負けていられませんね!)


そういえば魔法学って専ら文系科目みたいに扱われること多いですよね。

この魔法世界には文理分けがあるという噂です。
それでは


―――奇術の国 企業連合本社ビル 理事長室―――

プルルルル

ガチャ


理事長「はい」

外務理事『理事長、かの北部不干渉区の外務代表から直接の電話が来ております』

外務理事『セレモニー前に一度理事長と面会がしたいと……許可しますか?』

理事長「そうですか。構いません。許可しておいてください」

外務理事『大丈夫なんですか?もしかしたら魔法なんかを使って理事長を暗殺しようなんて企みはしないでしょうか』

理事長「大丈夫ですよ。もしそんなことになればこの世界から平和の芽が一つ紡がれるだけです」


理事長「それに、……」

理事長「まあそういう訳です。許可をお願いします」

外務理事『分かりました』


ガチャ


理事長「外務代表ですか」

理事長「特に何も変わることは無いというのに、ご苦労なことですね」

理事長「全ては私の思惑通りに進んでいます……誠に合理的です」


―――勇者出発の3日前の夜 行政府 塔最上階展望台―――


ヒュウウウ


団長「やはりここにおったか」

勇者「やあ団長。もう良い子は寝る時間じゃないのかい?」

勇者「身長が伸びなくなるよ」

団長「あからさまな嫌味はやめるのじゃ。笑えんぞ」ムスッ

勇者「ははは。まあまあそう怒らずに」

勇者「コーヒーゼリー一つでどうだい」

団長「む……ま、まあそういうことなら許してやらんこともない」フン

団長「……ミルクは多めでな」


勇者「はいはい」クスクス


ヒュウウ


団長「なあ勇者。勇者はどう思うのじゃ?」

勇者「何がだい?」

団長「今回の奇術国の動きについてじゃ」

団長「儂は戦略的な方面には疎くての。正直奇術の国が何を思っているのか見当もつかんのじゃ」

団長「本当に勇者を狙う必要があるのか?」

勇者「うーん。まあ僕も考えてはいたさ」


勇者「まあ、第一にあるのはやはりこの土地の戦略的価値じゃないかと思う」

勇者「実際、僕らは魔術の国から大きな援助を受けているし、魔術の国に利用されている部分は少なからずある」

勇者「敵国である奇術の国としては迷惑千万だろうね」

勇者「そこで、そのリーダーである僕を消して不干渉区を混乱させてしまえば、治安維持を名目にいくらでも外交官を派遣するなり条約を結ばせるなりして支配することができる」

勇者「資源も軍事も欲しいままということさ」

団長「うむ……じゃがそれにしてもわざわざ小細工を使って勇者を殺そうとする理由が分からんのじゃ」

団長「奇術連合は魔術連合と既に戦争中じゃ。別に直接軍を進駐させてもいい気がするのじゃが……」


勇者「確かにね、でもそんなことをすれば親魔族派からも幸の国からもクレームが来るかもしれない」

勇者「下手に孤立しても利益がないととらえているんだろう」

勇者「まあそれにしても奇妙な部分はあるんだけどね」

団長「ほう」

勇者「それが今回のセレモニーさ」

勇者「本当に僕を殺すだけならこのまま干渉区内に刺客を送り込めばそれで済むことだ」

勇者「それなのに、わざわざ僧侶の影響が強まった連合内におびき寄せるというのは危険が大きい」


勇者「僧侶陣営は親魔族に傾いているだろうし、もし派手にやってしまえば内戦にも陥りかねない」

団長「確かにな。その通りじゃ」

団長「親魔族派の連中に反抗の口実を与えることにもなりかねんわけじゃな」

勇者「そうそう。そんなもの、実質的にわざわざ僧侶に自分を倒してくださいなんて言っているようなものさ」

勇者「それに、経済的制裁をしてこないのも不自然だ」

勇者「わざわざ僕を狙い撃ちする必要性がどうしてあるのか……」

団長「そういえばそうじゃな」

勇者「更にもっと根本的な問題に行くとだね」

勇者「どうして奇術国は不干渉区に反対の姿勢を示したかということだね」

勇者「現に企業連合の支社はこの不干渉区に進出しているわけだし、ある程度貿易もしている」

勇者「あわよくばこの土地を使って魔術連合と平和条約を結ぶことだって可能だったろう」


勇者「逆に言えば、平和を望まない者がそれを妨げた可能性があるということさ」

勇者「もしそうだとすれば、ことは親魔族反魔族や奇術魔術の対立をも巻き込んでさらに複雑に絡み合っているだろうね」

団長「うーむ。やはり一筋縄ではいかんということか」

勇者「仕方ないことさ。それくらいは覚悟して僕もここに来ているよ」

勇者「まあ、『容疑者』の大体の見当もついているつもりだし」

団長「容疑者?」

勇者「そう。団長、このまま奇術連合と魔術連合が戦争を続けて、両者が共倒れになったとしよう」

勇者「一番得をするのは誰だと思う?」

団長「そうじゃな……戦争をしていない儂らにとっては悪い意味で安全が確保されてよいことじゃ」

勇者「まあ一理ある。でももっと得をするのはより力を持った第三勢力だろう」

団長「もっと力を……?」


団長「幸の国か!」

勇者「その通り。我らが母国幸の国だ」

勇者「大勢力である魔術連合と奇術連合が共倒れすれば、その後に幸の国が大陸全てを総べるのはたやすいだろう」

勇者「なんせもう敵は弱った連合諸国と条約で弱体化させた魔国ぐらいだからね」

団長「確かにのう。もともと、遠くてあまり動きのない国じゃったからな」

団長「あまり気にしたことはなかったが……」

勇者「幸の国にとっては平和を実現しようとする僕らは邪魔な存在だ」

勇者「奇術の国の利害を捻じ曲げてまでいたとすれば、今までの暗殺計画にも何らかの関わりがあるかもしれない」

勇者「ま、証拠はないけどね」

団長「そうじゃな。まだまだ憶測にはすぎんじゃろう」

団長「しかし、やはり今回のセレモニーも以前の反乱軍鎮圧と似たようなシナリオを描いておるような気がするのじゃ」

団長「儂も努力はするが、くれぐれも慎重にな」

勇者「もちろんさ。死ぬには少し早すぎるからね」


勇者「せめて結婚でもしてからでないと、あの世で独り身は寂しいよ」

団長「そんな冴えない面構えでよく言うものじゃな」

勇者「まったく、冴えなくて悪かったね」

勇者「さーて、今日は寝ることにしよう」

勇者「明日も用意で忙しくなりそうじゃな。ハハハ」

団長「真似のつもりか……? 勇者は大道芸の才能も皆無と見えるのじゃ」

勇者「ちぇ。どうせ戦術以外の取り柄がない男ですよ」スタスタ

団長「この頃はそれすらも発揮できておらんようじゃな」クスクス

勇者「う。また痛いところを……」


団長「勇者が魔王と……か」

団長「不思議な気分じゃな」

団長「どうして儂は魔王と会うと生来から知り合っていたような気分になるのじゃろうか……」

団長「ふ、まあよい」

団長「余計なことは……平和が訪れてから考えればよいのじゃ」

団長「きっと……きっとみんなで楽しく暮らせる時が来るはずだから……」


こうして、勇者一行は出発の日を迎えた。

これがまた反乱軍の鎮圧と同じシナリオを描くことになるのか。
それともさらに悲惨な結末を招くことになるのか。それは誰にもわからなかった。


こんなところです。
こんな亀進行にも関わらずコメント残してくれる方には本当に感謝しております。

では


―――勇者出発当日 昼 奇術連合との国境付近―――

ザッザッザッ

企業連合不干渉区支社長「いやはや、奇術国の代表として、私がこれから案内をさせていただきますね」

支社長「よろしくお願いします」

勇者「ああ。よろしく」

支社長「準備はよろしいですね。それでは早速参ることにしましょう」

勇者「よし! それじゃあいってくるよ」

戦士「おう! 隊長A、隊長B、そして上級隊長。このヘボ勇者を頼んだぜ!」

隊長A「承知」

隊長B「ラジャーッ」


上級隊長「お任せあれでござる」

勇者「ははは。頼もしい限りだよ」

魔王「ふん!魔法使いのお陰でさらに強くなった私の力を見せてあげるわ!」

魔王「覚悟なさい!」ビリビリッ

勇者「君は誰と戦うつもりなのさ……」


ザッザッザッ


PARTY1
勇者
上級隊長
隊長A 
隊長B
魔王


PARTY2
団長
外副長



―――…

支社長「いやはや、これからの日程を確認させていただきますとですね」

支社長「まずは、この森を抜けたところに自動車を用意してありますから、それに乗って『ヤマダ市』を経由し、電気の国の首都へと向かいます」

支社長「そこからは鉄道で一気に奇術の国の首都まで行きますので、到着は3日もかからないでしょう」

勇者「たった3日も!? 奇術の国の交通網はそこまで発達していたのかい?」

勇者「何度か行ったことはあったはずなのに……知らなかったな」

魔王「私でさえ徒歩で勇者の城へ行くのに3週間もかかったというのに……」

勇者「それは当たり前だろ。てか君は飛べたんじゃなかったっけ?」

魔王「あっ」


勇者「そういや魔術国を通って北部の荒れ地まで行ったときは1カ月はかかったな」

支社長「当然です。あのような非科学的な国々と一緒にされては困りますよ」

勇者「奇術国連合の国民はそこまで魔術連合を嫌っているのかい?」

支社長「ええ、まあ。この世界には科学で証明できないことなんてありえないんです」

支社長「もしそんなことがあればエントロピーは増大し、世界は滅びてしまう」

支社長「そんなことも知らずに魔法などという非科学的な現象を扱うというのは、脅威以外の何物でもないと思いませんか」

勇者「なるほど……それも面白い見方だね」

勇者「まあ僕も魔法を使わないわけじゃないけど……そこまで考えたことは無かったなぁ」

支社長「いやはや失礼しました。勇者様やこの不干渉区の皆様は科学のことも理解していただいているようなので恨む理由もありません」



支社長「あまり気になさらないでください」

魔王「でも、魔法もなしに一体どうやって暮らすつもりなのよ」

支社長「そのために科学があるんですよ。既に様々な物理法則や定理が先人の手によって発見されていますから、それを使って私たちは新たな技術を生みだしているのです」

魔王「ど、どこかで聞いたことがあるようなセリフね……」

支社長「?」

支社長「まあともかく、魔術と科学の対立は今に始まったことでもありませんし、今でも魔族と人間同様深い溝が隔たっているのです」

支社長「それはなかなか消えるものでもないでしょう」

勇者「なるほどね。対立は人の常ということかな」

支社長「そういうことです」



―――…3時間ほど後 森を抜けた先 ロードサイド


支社長「それではどうぞお乗りください」

勇者「実際に自動車に乗るのは生まれて初めてだなぁ」

魔王「何この四角くて黒い乗り物は? 爆発したりしないでしょうね!」

支社長「ははは……」

勇者「なんつーぶっそうな」

勇者「大丈夫、これは自動車と言ってね。人を運ぶ乗り物なのさ」

魔王「ふーん。まあいいわ。じゃあさっさと乗せなさい!」グイッ


勇者「わっ!押し込むなって!」ゴン

バタム

勇者「頭を打ったじゃないか……イテテテ」ヒリヒリ

魔王「あら御免あそばせ」

勇者「なんだか言葉遣いが魔法使いに似てきたよな」

魔王「ま、まさか!気のせいよ!」

支社長「それでは、ここからヤマダ市は15分ほどですので」

勇者「意外と近いんだね」


支社長「この自動車は馬車の10倍はスピードが出ますからね」

勇者「うお……そいつは目が回りそうだ」

支社長「おい、出してくれ」

運転手「はっ」

ブロロロロ

こうして、勇者一行は無事にヤマダ市へと至るのであった。



ここまでです



―――勇者出発の少し前 奇術連合上空―――


団長は勇者より先に、奇術の国の理事長に面会するため奇術の国の首都へと向かっていた。


バサッバサッ


団長「しかし、実行隊長の背中に乗って飛ぶのはずいぶん久しぶりじゃな」

団長「少しは重くなったじゃろ」

外副長「へへっ。団長はいつ乗せても同じ重さですぜ」

外副長「それは初めて団長をのせて敵の基地へ突撃した時から何も変わっていやせんよ」

団長「なんじゃ。もうちょっとお世辞くらい混ぜてはくれんのか」シュン

外副長「世の中のレディーはむしろ若いことを好むもんだって聞いていやしたがね」

団長「若いと幼いは別問題じゃろ」



外副長「そんなん似たようなもんじゃねえですか」

団長「似ておるものか。儂だっていつかあの魔王や副団長のようなナイススタイルを手に入れてじゃな……」

外副長「あれじゃあ団長の御顔に似合いやせんぜ」

団長「そういう問題じゃないじゃろ」

外副長「それより、団長はそのババ臭い喋り方を何とかした方がいいんじゃねえですかい?」

団長「あ、今ババ臭いって言ったな? 傷つくぞ。儂かなり傷つくぞ」

外副長「そんな怒らねえでくださいよ。冗談です冗談」

団長「冗談でも言ってもいいことといけないことはあるものじゃ」

団長「全く。昔からお前もそういう所だけは変わっておらんな」

外副長「お説教はやめてくださいよ。余計にババ……若さが廃れやすぜ」

団長「ふん。もう廃れてもらって結構じゃ」



団長「もともとこの喋り方を始めたのだって、こんな姿に少しでも威厳をもたせたかったからにすぎん」

団長「むしろその方が目的にあっているともいえる」

外副長「なあんだ。開き直っちまいましたか」

外副長「そういや確かに、あっしが団長に会った初めのころは普通の喋り方でいやしたような」

団長「うむ。そうじゃな。あの頃はまだ弱くて皆に迷惑ばかりかけておった」

団長「なんせ魔力だけが頼りじゃったからな。魔法石が切れたらただのか弱い少女じゃ」

団長「そんなものを守るために一体どれだけの半魔が犠牲になってくれたことか……」

外副長「そうですかねえ。あっしも含めて、死にかかったり戦いに負けて逃げてきた半魔を片っ端から救ったのは団長に他なりやせんからね」

外副長「もうあっしらの命はハナっから団長の命と同じようなもんだったってー訳でありやすよ」



団長「そうか。そう言ってくれると嬉しいな」

外副長「この実行隊長、命に代えても団長をお守りいたしやす。どうぞご安心を」

団長「な、なんじゃ、そういう時だけ格好つけおって」

団長「そんなことをしてもケーキはやらんぞ!」

外副長「あ、団長ったら照れていやすね!? いやあ可愛らしい」

団長「や、やめろ。そういうのにはあまり慣れておらんのじゃ」

外副長「団長はまだまだお子様でいやすねぇ。それじゃあ伸びるもんも伸びやせんぜ」

団長「ふん。悪かったな」

外副長「あ、いつもの団長に戻っちまいましたか。残念」

団長「何が残念じゃ」


団長「さて、そろそろ奇術の国本国に入るころかのう」

外副長「そのようですね。目下の景色も大分変わってきやしたし」

外副長「日暮れには着きそうですぜ」

団長「うむ。奇術の国の首都か……まだ行ったことは無いな」

団長「どんな町が広がっているんじゃろうか」

外副長「そうですねぇ。商人の話だと魔術連合とは全く異次元のような世界が広がっているそうでありやすが」

外副長「にわかには信じがたい話でありやすね」

団長「まあ、百聞は一見に若かずじゃ。行けばおのずとわかることじゃろう」

団長「理事長の考えも含めてな」

外副長「理事長ですか。やっぱり何か絡んでいるんですかね」


団長「分からんな。勇者もいくつか推測は出しておったが、まだ証拠はない」

団長「儂には戦略的な考え方の知識は備わっておらんし、どうとも言えんな」

外副長「そうでありやすか」

外副長「もし、絡んでいるんだとしたら……」

外副長「……殺しやすか?」

団長「馬鹿言え、そんなことをしたらそれこそ奴の思うつぼじゃ」

団長「あちらはあちらでリスクも負っておるわけだし、わざわざ儂らが首を突っ込むこともないじゃろう」

団長「まあ、もし暗殺計画が実在しているとしたら、急いで儂らは勇者の元へ戻らねばならん」

団長「全力で勇者を守り、帰還するのじゃ」

外副長「そうですねぇ。しかし、ここから恐らく勇者がいるあたりへ向かうにはまた4,5時間はかかりやす」

外副長「あっしが先に過労で倒れちまいますぜ」

団長「嘘つけ、実行隊の時は無休で諸侯国貴族の屋敷へ交渉しに飛び回っていたじゃろうに」


団長「そのガラの悪い口調で貴族の親どもを震え上がらせていたと聞いたぞ」

外副長「へへへ。そんなのは嘘偽りばかりですよ。あっしはあくまで優しく小金をくすねてやっただけでありやす」

外副長「あいつらもどうせ金が有り余ってたんだから、ばちは当たりやせんぜ」

団長「そうかのう……まあ、直属三部隊の中で唯一1人として死者を出したことがなかったのが実行隊の美点ではあるか」

外副長「まあ、とくに戦闘することもありやせんでしたからね」

外副長「他の隊からは楽なもんだってよく冷やかしを受けたもんです」

外副長「とくにあの情報隊長なんかは……おっとこれは失礼しやした」

団長「いや、いい。気にせんで欲しいのじゃ」

団長「勇者にも言われたが、情報隊長は情報隊長で正しいことをしたまでにすぎんのじゃよ」

団長「奴は儂に命の借りがあったわけでもないしな」

外副長「そうでありやすけどねぇ……」


団長「もう終わったことじゃ。今からどうこう言おうと何も変わるものでもないのじゃ」

団長「儂らは前を見続けねばならん。こんなご時世じゃ。そうでないと時代の波にさらわれかねんぞ」

外副長「それならあっしは飛べるんで心配も無いでありやすね」

団長「逃げてどうする」

外副長「時にはヒット&アウェイというものも必要ですぜ」

団長「それはちょっと意味が違うんじゃないのか?」

外副長「細かいことは気にしないもんです」


―――夕方 奇術国首都上空―――

奇術の国の首都は高層ビルが立ち並ぶ巨大都市であった。
そして、その中でも一際存在感を放つビルこそ、奇術国企業連合の本社である。

もとは王政であったこの国は、自然資源と流通資本の拡大による企業の台頭により政治制度を改革。
王政と民主制を半ば組み合わせたようなシステムを構築している。


バサッ


団長「うわぁーっ! これは凄いな!」

外副長「思った以上に異次元でありやしたね……」

団長「儂らが飛んでいる高さのすぐ下まで建物が届いておるぞ……いったいどんな材料が使われておるんじゃ」

外副長「副団長に見せたら失神しそうですね」

団長「うーむ。逆に目を輝かせて行政府の近くにこれくらい高い塔を建設しそうな気がするのじゃ」

外副長「ああ確かに。それも可能性がありやすねえ」


団長「しかし、ここまで形も整って継ぎ目すら見られんとは……奇術の国の『科学』とは侮れんものじゃな」

外副長「企業連合の本社とはどれでありやしょうかねえ」

団長「多分あれじゃろう。ほら、あの1番高いやつじゃ」

外副長「お、たしかにあれっぽいでありやすね」

外副長「屋上に止まってみやすか」

団長「頼む」


―――企業連合本社ビル 屋上―――


団長「お、誰かが待っておるぞ」

外副長「ここで間違いないようですね」


バサッ

シュタッ


外務理事「お待ちしておりました、北部不干渉区の外務代表……様?」

団長「儂が元半魔盗賊団の団長じゃ。ぼちぼち聞いておるじゃろう」

外務理事「おお。これは失礼いたしました。私は奇術の国『外務理事』を務める者です」

外務理事「理事長がお待ちです。案内しますのでどうぞ」

団長「うむ。よろしく頼むぞ」

外務理事「あ、もう一方のほうはここでお待ちください。外務代表以外の方は入れるなとの命令が出ておりますので」

外副長「なあんだ。あっしは門前払いですかい」

団長「すまんな。すぐ戻ってくるのじゃ」

外副長「分かりやした」


ガチャ


―――本社ビル最上階 廊下―――


コツコツ
スタスタ


外務理事「しかし、まさかこんな幼い方があの不干渉区の幹部をなさっているとは」

外務理事「この世は科学では説明できない不思議なものが絶えないものです」

団長「幼いとは少し違うな。儂は成長が止まっているだけで生まれてからの月日は20余年程経っておる」

団長「まさに頭脳は大人、見た目は子供というやつじゃ」

外務理事「なるほど。これは少し誤解がありましたね」

外務理事「それでは、ここが理事長室になります」

団長「ありがとう。次はお主とは平和会議で顔を合わせたいものじゃな」

外務理事「ごもっともです」ニコッ


ガチャ


―――理事長室―――


バタン


団長「お主が理事長か?」


そこにいたのは背もそこまで高くないやせ形の男。
スーツに身を包み、黒縁メガネを一拭きしていた。

デスクの後ろには、ガラス越しに夕焼けに包まれた大都市が寝そべっていた。


理事長「お、これはこれは」カチャ

理事長「その通りです。私が奇術の国企業連合理事会の代表『理事長』です」

理事長「どうぞよろしくお願いします」

団長「儂がここに来た理由は大体わかっておるな」

理事長「そうですね。勇者様の安全の確保と言ったところでしょうか」

理事長「先に申し上げましたように電気の国の首都には僧侶さんの配下の軍を配置しています」

理事長「そこから先は彼女らが護衛の任務に就くことになっていますから、ご安心ください」

団長「なんじゃ。それならよかったのじゃ」

団長「儂の心配は杞憂だったようじゃな」


団長(しかしこの男……武器も取り上げなかったし、一体何を企んでいるのやらわからんな)

理事長「そうかもしれませんね」

団長「『かも』じゃと?」

理事長「ええ。何事においても不測の事態という物は起こりえるものです」

団長「な、何を……」

理事長「まあいいでしょう。もう用件は済みましたね?」

理事長「私も忙しいので、そろそろ仕事に戻らねばなりません」

団長「……まあいい。勇者の安全が確保されるならそれでいいのじゃ」

理事長「そうでしょうか。誰も勇者様の安全が確保されたとは言っていませんよ?」

団長「何?」


理事長「確かに電気の国の首都到着以降は安全かもしれませんが、それまではどうです」

理事長「現在勇者様は国境付近のヤマダ市にて泊していらっしゃるそうですが……」

理事長「軍務理事によると、今夜その付近で大規模な軍事演習を行うということです」

理事長「どうです?タイミングが良すぎると思いませんか?」

団長「なっ!よすぎるも何も、お主が合わせたんじゃろう!」

理事長「ええ。その通りです」

理事長「勇者様には申し訳ないですが、ここで亡くなってもらわねばなりません」

理事長「全ては我が奇術連合の利益の為です」

団長「きっ貴様やはりっ!」シャキン


団長は剣を構えた。



理事長「私を斬りますか?おすすめはできませんね」

理事長「折角ここまで平和の道を開いてきたというのに、わざわざ閉ざす必要もないでしょう」

団長「ぐっ……」

理事長「貴女ならきっと分かるはずです。これから迫る危機と、それを打開する方法が」

理事長「もしそうでないなら……私の合理主義が完全性に欠けていたというだけです」サッ


バタン
タタタッ


理事長が手を挙げると、扉から銃を持った警備兵が数人入り込み、団長を取り囲んだ


チャキッ


団長「うっ……やはり初めから待機させておったか」

理事長「父親を……」

団長「ん?なんじゃ」

理事長「元上級魔族の父親を探してみてください」

団長「儂の父親を?」

理事長「ええ。魔国におそらく資料があるでしょう。あの魔王にでも頼んでみてください」

団長「な、どうして魔王のことを……!?」


理事長「そうすればこの危機の一部が見えてきます」

団長「な、何を言っておるのじゃ!」

理事長「……それでは、貴方には大人しくしていてもらいます」

理事長「反魔法錠をつけて拘束しておいてください」

警備兵「はっ」

団長(まずい……このまま捕まるわけにはいかん……)

団長(かといって理事長を殺せば半魔は暗殺者の汚名を着せられ今までの苦労は水の泡……)

団長(派手に暴れるわけにもいかん……)


団長(なにかここから脱出できる方法は……)

団長(!)

団長(そうかあれがあったか!)

団長(しかし……もし失敗でもすれば即死か)

団長(一か八かやってみるしかあるまい……)

団長(確かあの部分はこうで……あれをこうして……)

警備兵「大人しくしていろ」

団長「よし!」

警備兵「ん?」

理事長「……」

団長「転移魔法!!」

シュバッ



―――本社ビル外 理事長室の外側―――


シュバッ


団長「はっ!? せ、成功か!!」


ヒュウウウ


団長「実行隊長!!どこじゃ!」

外副長「ここにいやすぜ」


バサッ
ドテッ


団長「いたたた……なんじゃもうちょっとソフトに受け取れんかったのか」

外副長「団長こそもうちょっとスタイリッシュな着地をしてくだせえよ」

外副長「腰を痛めちまうじゃねえですか」

外副長「それに、突然外に現れた団長に上手く反応したあっしを誉めてもらいたいものですね」


団長「ふう……そうじゃな。ありがとう実行隊長」

外副長「しっかし、あんなとっから御退場ということは……」

団長「ああ。最悪のケースじゃ」

団長「やはり奴は暗殺を企んでおった」

団長「急げ!全速力で勇者を救いに戻るのじゃ!」

外副長「あいあいっさー!」


バササッ



―――理事長室―――


ザワザワ……
オイッキエタゾ!?
ソトダ!ソトニデタゾ!


理事長「なるほど……あれは転移魔法というものですか」

理事長「合理的ではありませんが、非常に興味深いですね」


スタスタ


軍務理事「おやおや、どうやら取り逃がしたようですねえ」

軍務理事「追いますかい?」

理事長「結構です」

理事長「彼女は純粋に保護をしておくつもりでしたが、わざわざ捕まえてまでする必要もありません」


軍務理事「そうですか……ところで、本当にこれでよかったんですかい?」

軍務理事「わざわざ自分を犠牲にしなくてもよかったのでは……」

理事長「それが一番合理的なのです」

理事長「私の役目はここまでで結構なのですよ」

理事長「軍務理事、あとは任せました」

理事長「これで彼らはかなり動きづらくなることでしょう」

理事長「しかし、まだ完全に危機が消え去ったわけではありません」

理事長「後のことは、僧侶様や勇者様にお任せせねばなりません」

軍務理事「さっき殺すと言っておいてちゃっかり勇者様がはいってますぜ……」

軍務理事「本当に死んだらどうするつもりなんだか」

理事長「そうなったらそうなったでプランはありますよ」

軍務理事「無責任な……」


軍務理事「ま、それもどうせ最も合理的なんでしょう」

理事長「その通りです」

理事長「と、言いたいところですが、最後の最後は勇気や感情、運というものに任せなければならない部分もあります」

理事長「古くから、計略に勇気が勝ることは幾度となくあったことです」

理事長「むしろ、そちらの方が強力なのかもしれません」

軍務理事「ガラに合っていませんな」ハハハ

軍務理事「最後の最後に合理主義の敗北を認めるとは」

理事長「認めたわけではありませんよ。ただ、そういう場合も少なからずあるという話をしただけです」

理事長「次は、貴方がた若者の番です」

理事長「期待していますよ」

軍務理事「ええ。お任せあれ」

ここまででしゅ

もう少々お待ちを・・・


―――同日夜 ヤマダ市ホテル テラス―――

勇者たちは夕食の後、それぞれ自由行動をとっていた。
もちろん憲兵隊の面々は警備に向かっていた。

勇者「ふーん。するともう一週間で魔王は魔導方程式の基礎をマスターしてしまったわけだ」

魔王「ま、私にかかればあれくらい容易いものよ!」エッヘン

魔王「でも、苦手だった炎系魔法や地面系魔法まで使えるようになったのはありがたいことね」

勇者「ははは。魔王も炎と地面が苦手だったのか。僕と同じだね」

魔王「ふん!雷系魔法しか使えない勇者と同じにされたくはないわね!」

勇者「げ、なんでそれを知ってるのさ」

魔王「魔法使いが嬉しそうに教えてくれたのよ」

勇者「あいつめ……」

勇者「それはともかく、どうだいこの奇術国連合の様子は」

勇者「新しい物が多すぎて目が回るんじゃないのかい?」


魔王「その通りね。もうはしゃぐ気力も失せてしまったわ」ハァ

勇者「そいつは何より」

勇者「相手と仲良くしようと思ったらまずその相手の中身を知らないといけない」

勇者「それは文化や伝統にだってあてはまる事さ」

魔王「本当に勇者の言うとおりね」

魔王「私もお父様も、何も人間のことを知らなかったからこそ敵対できたんだわ」

魔王「こんなに素晴らしい文化があるのに。こんなに美しいものであふれているのに。それに見向きもせずに滅ぼしてしまおうとしていた」

勇者「でももう魔王は僕と同じようにそれを知っているじゃないか。それもまた素晴らしいことだよ」

魔王「そうね。だったら次は人間が、私たちのことを知ってくれなければならない番ね!」

勇者「そういう面では人間は未発達な部分が多いからなあ」

勇者「でも大丈夫さ。時間をかけさえすればきっとそれは叶う。少なくとも敵対していた時よりはましだよ」

魔王「そう信じたいものね」


タッタッタッ


上級隊長「勇者殿、ちょっとよろしいでござるか」

勇者「ん?どうした上級隊長」

上級隊長「何やら奇術国の警備兵たちの様子がおかしいでござる」

上級隊長「隊長Aによれば、正面玄関を塞ぐようにして集まっているということでござる」

上級隊長「嫌な予感がするでござる。ここはひとまず隊長Bが見つけた裏口から抜け出した方がよろしいかと」

勇者「なんだって……?」

魔王「なんで私がコソコソ逃げ出さないといけないのよ!」

魔王「あっちからかかってくるなら上等よ!返り討ちにしてくれるわ!」


勇者「ははは。そう言ってくれると頼もしいんだけど、状況はそう単純じゃない」

勇者「ここは一般国民も多いし、派手に半魔や魔族と人間が争ったことになれば、各地で盛り上がっている親魔族思想と反魔族思想の形勢が一気に逆転することになりかねない」

勇者「彼らもそれを狙っている可能性が高いんだ」

勇者「いったん国境の森へ逃げ込む。しかしもしそこまで追ってくるようならば、多少の自己防衛はできるだろう」

勇者「その時は攻撃を許可するよ」

魔王「……ふん!仕方ないわね。そこまで言うなら従ってあげようじゃないの」

勇者「ありがとう」


ドタバタ


隊長A「大変です上級隊長!さきほど団長から伝聞魔法が届きました!」

隊長A「『今夜ヤマダ市周辺にて奇術国軍の軍事演習予定 勇者を狙う意思あり 直ちに逃れたし』だそうです!」


勇者「軍事演習か。個人の暗殺に軍を仕向けるとは、どうやら本気のようだね」

上級隊長「奇術国の軍とは……恐ろしい兵力を持つと聞いていたでござるが……」

魔王「ふん!私にかかれば軍だろうが国だろうが打倒してやるわよ!」

勇者「本当にできそうだから困る」

勇者「とはいえ彼らも大規模な動きにならざるを得ないか」

勇者「森まで行ったらこちら側も派手に応戦しなくてはならなくなるかもしれないな」

魔王「腕が鳴るわね!」

勇者「できれば鳴らしてほしくないけどね」

上級隊長「とにかく、裏口はこっちでござる!急ぐでござる!」ダダッ

タッタッタッタッ

勇者(しかしどうしてここまで派手にやる必要があるんだ?)

勇者(奇術国では最早僧侶率いる親魔族派が優勢のはず。やりすぎれば窮地に陥るのは自分たちだ)

勇者(一体理事長は何を企んで……)

勇者(これは思った以上に事情は複雑かも知れないな)


―――裏口―――

タタタッ

支社長「勇者様! まだここまで軍は来ておりません。急いでください!」

勇者「支社長!迎えに来てくれたのかい」

支社長「ええ、私は勇者様に恩も多くありますからね」

支社長「それより早く!行きと同じく憲兵隊の方々はもう一台の方に乗ってください!」

上級隊長「かたじけないでござる!」

バタム

ダダダッ

奇術軍兵1「おい!勇者がいるぞっ!」

奇術軍兵2「撃て撃てっ」ジャキ

運転手「軍がもうここまで来たようです!」

支社長「ええい!急いでだせっ」


ブロロロ

ドカッ


奇術軍兵1「ぐわあああっ!」


ブロロロロ……


―――電気の国 北部不干渉区方面への国道 国境の森付近―――


勇者「ふう。このまま森まで戻れそうだね」

魔王「まったく、とんだ歓迎だったわね!」

魔王「もう少しぐらい丁重にもてなすべきなんじゃないの?!」

支社長「はい、どうやら軍は追ってきていないようですので……」

支社長「ん?あれは……」

支社長「空が赤い?」

魔王「まさか、夕焼けはもうとうに済んだはずよ」

勇者「あれは……森に火が!?」


支社長「そのようですね。どうやら先回りをされたかもしれません」

運転手「支社長!前方に軍のバリケードが!」

支社長「やはり……」

勇者「参ったな、何とか越えないと帰還できない……」

ブロロロ

奇術軍『前方の車両に告ぐ! 停止せよ! さもなくば攻撃する!』

勇者「止まれば地獄、行くも地獄、かな」

魔王「ええい!私に任せなさいっ!」バチバチ

魔王は窓から身を乗り出した。

勇者「わっ!待つんだ!」

魔王「くらえっ! 爆破魔法!」バシュッ


チュドーン

ウワアアアアアッ
ナンダナンダッ

ブロロロ

奇術国兵「まずい!避けろ!」

ドカカッ

ブワッ

魔王「よしっ!超えたわね!」

運転手「うっ!爆風で視界が!?」

支社長「持ちこたえろ! もう少しのはず……はっ!?」

勇者「危ない!!」

キキーッ

グシャアンッ

勇者の乗った車は森の木に激突した。


魔王「きゃああっ!?」ドタタッ

勇者「ぐあっ!」

プシュー

勇者「いつつつ……支社長!無事か」

支社長「がはっ!」ビシャ

運転手「」ガクッ

支社長「ぐ……は、はやく……お行きください……」ダラー

勇者「大丈夫だ!今回復する!」パァー

魔王「無駄よ!傷が深すぎるわ!」

支社長「げほっ」ビシャ

勇者「くっ……駄目か……」

支社長「軍が……来ます……私のことはいいですから……」ハァハァ

勇者「すまない……」

支社長「商人様に……」

勇者「何?」

支社長「商人様に……お気をつけて……」ガクッ

勇者「支社長!!」

ダダダッ


上級隊長「勇者殿!無事でござったか!」

勇者「上級隊長! そっちは大丈夫だったかい?」

上級隊長「もちろんでござる! しかし軍が真後ろにせまっているでござる!」

上級隊長「急ぐでござる!」

奇術国兵「いたぞ!!殺せ殺せっ!」ダダダダッ

魔王「勇者、急ぐわよ!」

勇者「ああ!」

ダダダッ


―――少し前 北部不干渉区電気国との国境付近の町 酒場―――

カラン

戦士「あーあ、一人の酒ってのはどーも寂しいもんだな」

戦士「せめてあの猫女でもいれば手合せでもできるんだが……」

副団長「お呼びかな?」ニュッ

戦士「うわぁっ!」ガタッ

戦士「どっから湧いてきやがった!」

副団長「いやあ、ボクもさっきようやくこの町に着いたんでね」

副団長「キミがいそうな場所に寄ってみただけさ」

副団長「そしたら案の定だったよ」


戦士「なんだ、いつの間に絶望の淵から蘇ってやがったんだ?」

副団長「ニュフフフ。団長の危機と聞いたらボクだっていつまでも落ち込んではいられないよ」

副団長「団長はこのボクがどんな敵からも守り抜いてみせるのさ!」

戦士「とか言って出遅れてるじゃねえか寝ぼすけめ」

副団長「なっ!ボクは寝坊したわけじゃないぞ!」

戦士「そういう意味じゃねえよ」

戦士「ははは。しかしこのノリも久しぶりだな」

副団長「な、何がおかしいのさ!」

戦士「いや、すまない。ついな」

戦士「一週間も会っていないとまた少し新鮮に感じるもんだよ」

副団長「ニャるほど……さてはこのボクが恋しかったんだね?」

戦士「なんでそうなる」

戦士「……とは言ったものの、全否定はできんな」

副団長「ほらみたことか」

戦士「お前がいないと毎晩手合せができる奴がいないからな。剣の腕が鈍ってしょうがない」

副団長「剣の手合せなら上級隊長がいるんじゃないのかい?」


戦士「あいつはクソがつく真面目でな。夕飯から2時間で必ず寝床に入っちまうからお前みたいに夜通しで付き合ってはくれんのだ」

副団長「ああ。そういえばそうだった」

副団長「上級隊長の生活リズムは多分5年くらいは全く変わっていないね」

戦士「よくぞまああそこまで合わせられるもんなんだか……」

副団長「キミもよく出仕に遅れて上級隊長に怒られるそうじゃないか」

副団長「部門長たるものが情けない」

戦士「う、それはお前と毎晩毎晩決闘しているからだろ」

戦士「お前だってよく遅刻するんじゃないのか?」

副団長「まさか。ボクがそんなくだらない失敗を犯すはずがないじゃないか」

戦士「何!?じゃあいつ寝てやがるんだ?」

副団長「さあね。他のみんなが疲れて居眠りをしている時かな」

戦士「な、それでよくもつな……」

副団長「半魔なんで」

戦士「それで片づけるなよ。じゃあもし寝ていやがったらそのうっとうしい尻尾を切り取ってやるからな」

副団長「ギニャッ!?な、なんてことを!」バッ


戦士「ははは。冗談に決まってるだろ。いちいち本気にするとは心底までピュアな奴だな」ケラケラ

副団長「な、ピュアじゃないし!半魔だし!」

戦士「ピュアをなんだと思ってやがるんだ」

副団長「そうだ、前の暗殺未遂事件の調査は進んだのかい?」

戦士「ん?それがさっぱりでな……」

戦士「いくら商人や入国者をチェックしても怪しい奴の1人もでてきやしない」

戦士「本当に転移魔法でも使ったんじゃないのか?」

副団長「うーん。もしそうなら調査のしようもないね」

副団長「魔術連合との国境の方もチェックしているのかな?」

戦士「何言ってんだ。どうやったら奇術国連合の刺客が敵国である魔術国連合に入り込めるんだよ」

副団長「ニャハハ。それもそうだね」

戦士「まさか戦争中の国境を越えてくるわけでもあるまいし……」

戦士「ん?まてよ?」


戦士「いや、ある! 奇術国連合から魔術国連合へと容易に入れる方法があるじゃねえか!」

副団長「ニャにっ!?一体どうやって?」

戦士「あの国だよ。俺達の故郷『幸の国』を通ればいい」

戦士「確かにあの国は検閲も厳しいが、もし内部に協力者がいるとすれば別だ」

副団長「ニャるほど……」

戦士「まずいことになったな……奇術国連合側の検問を厳しくした分、魔術国連合方面の検問はかなり甘めだったんだ」

戦士「もし刺客が幸の国を通って魔術国連合からここへ侵入しているとしたら、行政区にまで潜伏しているかもしれん……」

副団長「な、それはかなり危険なんじゃないのか!?」

戦士「ああ。その通りだ。今すぐにでも魔術国連合方面の検問を強化してみることにしよう」

戦士「このことはあまり広めるなよ。内通者に知られるかも知れんからな」


副団長「なんだ、やっぱりキミは内通者じゃなかったんだね」

戦士「馬鹿言え」

戦士「さて、久しぶりに手合せ願うことにしようか。体は鈍っちゃいねえだろうな」

副団長「もちろん。久しぶりに爆裂パンチをお見舞いしてあげるよ」

戦士「ああ、あの猫パンチか。それもちと久しぶりだな」

副団長「なっ!だから猫じゃない!」

戦士「ははは。一週間経ってもやっぱりお前はお前だな。安心したよ」

戦士「はぁ……俺としたことがどうしたんだろうな」

戦士「どうも俺にはどうしてもお前が必要らしい」

戦士「平和な時代が来るまで……いや、その後も、ずっとそのままで俺の側にいてくれよな」

テクテク

副団長「……!」

戦士(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてな)

副団長(……強い者はまた強い者に惹かれる……なんてね)

戦士「おい、いつまで座ってやがんだ。もう足腰が弱っちまったのか?」ハハハ

副団長「なっ!言ったな!?」

ダダッ

副団長(いつもいつも求めてばかりいたボクが求められることがあるなんて……)

副団長(不思議な気分だなあ)


―――外―――

ダダッ

隊長C「あっ、部門長!副団長!ちょうどよかった」

戦士「お、どうしたんだ隊長C?」

隊長C「それが、この国境の森に火が放たれたようなのです!」

隊長C「現在電気の国方面を中心に火の手は拡大していっています」

隊長C「これは出動すべきなのでは……」

副団長「な、なんだって!? 団長が危ない!」

戦士「どうやら手合せをしている場合じゃなさそうだな」

戦士「ぶっつけで悪いが実戦になりそうだ」

戦士「隊長C、憲兵隊を招集しろ」

戦士「準備ができ次第森を進むぞ!」

隊長C「はっ!」


―――国境付近の森―――

ガサッガサッ

勇者「ふう。まだ追ってはこないようだね」

上級隊長「しかし火の手が迫っているでござる!」

魔王「……」

勇者「どうした魔王? 顔色が悪いよ」

魔王「さっきは悪かったわね……私が先走ったせいで彼らを死なせてしまって」

魔王「爆破魔法に腐食魔法を混ぜたのが失敗だったわ……予想以上に粉じんが舞って視界を阻んでしまった……」

勇者「君は魔王の癖に優しい心を持っているようだね」

魔王「そうなのかしらね……でも、その『優しい心』とやらのせいで私はあの戦争でも多くの犠牲を出してしまったのよ」

魔王「優しい魔王っていうのも考えものね」ハァ

勇者「ははは。君はもう少し平和な時代に生まれるべきだったのかもしれないな」

勇者「まあ、過ぎたことはもうどうしようもないんだ。今は前を見続けるしかないのさ」

タッタッタッタ……


上級隊長「ん……後ろから足音が!?」

奇術国兵A「いたぞ!追えーっ!」

奇術国兵B「逃がすなっ」

パンパンパン
ダダダダダ

勇者「しまった!追いつかれたか」

魔王「ええい!浮遊魔法!」ボコッ

魔王は近くの岩を持ち上げ、盾にした。

ダダダダダ
ビシッビシビシビシッ

奇術国兵A「な、なんだあいつは!?」

奇術国兵B「岩が浮いてるぞ! これでは反魔法弾が弾かれて……!」

勇者「雷魔法(中)!」ズバババッ

奇術国兵A「ぐわああああっ!」

奇術国兵B「ぎゃあああっ」

ドサドサッ

上級隊長「さあ、また追っ手が来る前に急ぐでござる!」

勇者「ああ!」

ダダッ


―――…

ダダッ

奇術国兵C「……」ジャキ

上級隊長「そこかっ!?」ダッ

ズバッ

奇術国兵C「ぎゃあああっ」ドサッ

勇者「上級隊長!助かったよ」

上級隊長「このままではまずいでござるな……」

上級隊長「勇者殿、某はここに残り奇術国軍を足止めするでござる」

上級隊長「どうか先に不干渉区へ参られよ!」

勇者「なっ、それじゃあ上級隊長はどうするんだ!?」

魔王「まさか、死ぬつもりじゃないでしょうね」

上級隊長「安心されよ。必ず後から追いつくでござる」

上級隊長「隊長B、隊長A!あとの護衛は任せたでござる」


隊長A「いえ、私は最後まで上級隊長に仕えさせていただきます!!」

隊長B「私も同様です!」

上級隊長「な、何を……」

勇者「こっちは魔王もいるし、あまり心配はいらないよ」

魔王「こんな冴えない人間一人守れない魔王なんて魔王失格よ!」

魔王「勇者の安全は私が保証するわ!」

上級隊長「分かったでござる」

上級隊長「無事に帰られよ勇者殿」

勇者「ああ、君たちもだ上級隊長」

ガシッ

勇者「それじゃあ必ずまた後で会おう!」

上級隊長「もちろんでござる!」

タッタッタッタ……

上級隊長(勇者殿……団長を頼んだでござる……)


―――…

タッタッタッタ……

勇者「この辺りまでくればさすがに大丈夫かな」ハァハァ

魔王「大分火の手も収まってきたわね」

魔王「でもまだ不干渉区まであと半分はあるわよ」

勇者「まだそんなにあるのか……ふぅ」

勇者は木陰に座り込んだ。

勇者「まったく。こういう肝心な時にいつも僕の身体は言うことをきかなくなるんだ」

魔王「勇者の癖に情けないわね! 休む暇なんてない……」

勇者「! 静かに!」


シュバババババ

飛行兵1「その辺はどうだ!」

飛行兵2「いねーよ!ったくあのクソ中将め!」

飛行兵1「やめとけやめとけ、聞かれたら強制労働行きだぞ!」ハハハ

シュバババババ……

勇者「ふう。危ない危ない」

魔王「あれのお陰でろくに飛べもしないじゃない!」

勇者「まったくだね。『中将』っていうのは相当念入りに準備を固めていたようだ」

勇者「まあ、僕も休むのは少しだけにするさ。体力を回復できる魔法があったならどれだけ楽なことかといつも思うよ」ハハハ

魔王「傷を回復する魔法ならいくらでもあるのに、どうしてなのかしらね」

魔王「帰ったら魔法使いに聞いてみるわ」

勇者「お、どうだい?魔法使いとは上手くやってるかい?」


魔王「そうね、まあまあってところかしら」

魔王「『大賢者の定理』もほとんど理解したし、お陰で魔力の節約が本当に捗っているわよ」

勇者「あの複雑な定理ももうマスターしたのか!?さ、さすが化け物」

魔王「あら、褒めたって何も出ないわよ」

勇者「はは。まーたそういうところまで魔法使いに似てくる」

勇者「もともと口調も似てるからどっちが喋っているのかわからなくなるじゃないか」

魔王「別にそういうのじゃないって言ってるでしょ!」

魔王「あの変な助手とかいう女にも同じことをよく言われたわ!なんて生意気な小娘なのかしら!」

勇者「まあまあそう怒らずに……」

勇者「さて、疲れも癒えたしそろそろ行くことにしようか」ガサッ

魔王「おかげでまた火の手が追ってきたじゃない。このままじゃ自慢の服がすすで台無しよ!」

勇者「はは、それも自慢の魔法で綺麗にすればいいじゃないか」

ヒュルルルル ドカーン
ボガァァァン ドガァァン


魔王「何の音かしら?」

勇者「これは……奇術国軍が砲撃を始めたんだ!」

勇者「敵も味方も見境なしか……」

魔王「な、味方をなんだと思っているの!?」

魔王「どうしてそんなに平気で犠牲にできるのよ!」

勇者「はは、これじゃあ君の方が正義の味方に向いているみたいだよ」

勇者「人間はそういう面に関しては魔族より未熟なところがあるのさ」

勇者「つまり自分以外の視点に立つっていうことが少し苦手ってことだね」

魔王「……お父様が人間を滅ぼそうとしたのもこれが原因なのかもしれないわね」

魔王「人間がこんなことばかりしているから、皆と協力しようとしないから」

魔王「お父様は侵攻を『救済』と呼んだのよ……」

勇者「なるほどね。救済か。いい迷惑ではあるけど、もしかしたらあながち間違ってはいないのかもね」

勇者「まあ、僕達のやり方はそれとは違う訳だ。もちろん苦労こそ多いが、その分得る物は多いはず……」


ヒュルルルル

勇者「ん?まさか……」

魔王「直撃よ!! 防御ま……」

魔王(間に合わない!)

勇者「危ない!」ドンッ

魔王「きゃあっ!?」

ドガアアアアアアアアン

勇者「ぐわああああっ!」

ドカッ
ガ゙サッ

勇者「ぐ……まお……う……」

ガクッ

――――――
――――
――


ちょっと長めの更新でした


パラパラパラ

ゴオオオ


勇者「ぐ……はっ!」ズキッ


勇者は済んでのところで砲撃の直撃を免れていた。
とはいえ、爆風で近くの木に衝突し、しばらく気を失っていた。


勇者(さっきよりも火が迫っている……どれくらい経ったんだろうか……)

勇者(魔王は……自力で帰ったかな)

勇者(頭が……割れそうだ……骨も何本かやられているな……)

勇者(なんとか不干渉区に戻らなくては……)


ズルズル


勇者(ははは……歴代の勇者でも、ここまで無様な勇者は他に例がないだろうね……)

勇者(魔族以外に勇者が殺されるとなれば……やはり最も恐ろしい生き物は人間なのかもしれないな)

勇者(皮肉な話だよ……)

勇者(戦士たちはもうこっちに向かっているんだろうか……)

勇者(う、さっきので魔法石まで落としたかな……これでは回復ができない……)

勇者(つくづく自分の身体能力と運のなさに呆れるね……)

勇者(もう……限界かな……)

勇者は倒れこむように近くの木の根元に座り込んだ。

勇者(参ったな……勇者として十数年、どんな先代魔王の卑劣な策略にも屈しなかった僕が……こんなところでとんだ計算違いでも犯したかな……)

勇者(せめて、陰謀の全てを明らかにしてから……団長ともう一度冗談をかわしてから……この世を離れたかった)

勇者(残念だな……)

ガサッ

勇者「!」


奇術国兵「お、お前は……!?」ガクガク

奇術国兵「ゆ、勇者か!?」

勇者「いかにも……僕が勇者さ……」

勇者「こんな姿からは想像がつかないかもしれないけどね……」

奇術国兵「ひぃっ!!」ビクッ

奇術国兵「ごめんなさいごめんなさい!!僕はただここを通りかかっただけで……」

勇者「はは……そこまで怖がる必要もないよ」

勇者「僕は見た目通り、死にかけた人間さ」

奇術国兵「へ……?」

奇術国兵「さっきの化け物とは違うのか……?」

勇者(化け物……上級隊長のことかな……)

勇者「化け物?」


奇術国兵「ああそうさ……僕は怖くて逃げてきたんだ……仲間が何人も目の前でアイツに切られていったよ……」

奇術国兵「撃っても撃っても死なないなんて……!」

奇術国兵「僕は仲間を見捨てたんだ! うわあああああっ!」

奇術国兵「帰ったらきっと中将閣下に殺されるんだ!」ガクガク

勇者「そうか……」

奇術国兵「いや、まてよ……!」

奇術国兵「目の前にいるのは死にかけた勇者じゃないか!」

奇術国兵「ここで殺して帰れば賞金も地位も欲しいまま!?」

奇術国兵「やった!やったぞ!! これで味方の仇が討てる!」

勇者(完全に混乱しているな……)

勇者(しかし上級隊長もおそらく……)

勇者「僕を殺すつもりかい?」

奇術国兵「ああそうさ!お前には1億の賞金と准将への昇格がかかっているんだ!」

勇者「そうか……なら殺すがいいとも」

奇術国兵「何? 抵抗しないのか!」


勇者「はは。見ての通り、僕は重傷だ。もはや歩くこともできない」

勇者「それに、勇者とは元来人々に幸をもたらす存在としてあり続けてきたんだ」

勇者「僕もまたそんな存在の一つとして消えていくだけさ」

勇者「君にも家族がいるんだろう?」

勇者「僕は生まれたときから両親もいない、兄弟もいない……孤児だった」

勇者「死んで悲しむ者もない」

勇者「僕が築いた平和の礎は必ず芽を出すはずさ」

勇者「もう十分役割は終えたとも」

奇術国兵「くくくくく……やったぞ!ははははははっ!!」ジャキ

勇者(次はまたあの世で先代魔王と知恵比べかな……)





パァン









ドシュッ




奇術国兵「がはっ!?」


ドサッ


勇者「!」

勇者「誰だ?」

?「死んで悲しむ者なら……少なくとも1人は知ってますよ」

勇者「奇術国兵?」

大佐「ええ、私は奇術国軍で、かの僧侶さんの副官を務めている『大佐』といいます」

大佐「この度は僧侶さんの密命で勇者様を保護しに来ました」

大佐「どうぞご安心を」

勇者「僧侶が? そうか……」

勇者「間一髪で命拾いをしたようだね」

大佐「申し訳ありません、敵の数が予想以上に多く、ここまで来るのに時間がかかってしまいました」

大佐「それじゃあ肩を……」

勇者「ありがとう」


ズルズル……



―――国境の森手前 上空―――


バサッバサッ


団長「ようやくここまで来たのはいいが、森がすごいことになっておるな……」

外副長「ええ、火が広がって空が真っ赤ですぜ団長」

団長「急ぐのじゃ、手遅れになってからではいかん」

外副長「へへ、言われなくても!」


バサッ


―――森付近 上空―――


外副長「森の手前にあんなに奇術国兵が待機していやすぜ……」

団長「ああ、奴らめ本気で勇者を狙ってきたとはな」

団長「もうすぐ森の上空じゃ、煙を避けて人影を探しながら行くぞ」

外副長「あいよ」


ナンダアレハ!
エエイウチオトセッ!


外副長「下もあっしたちに気付いたようでありやすな」

団長「大丈夫じゃ、あそこからでは攻撃は届かん」

団長「とにかく今は前へ進むのじゃ!」

団長(勇者……死んではならんぞ!)



―――森上空―――


外副長「ようやく火の手が収まってきやしたね」

団長「ああ、恐らくこの辺にいるはずじゃ、何とかして探し出すぞ!」


ズダダダ
パンパンッパン


団長「なんじゃ、まだ儂らを狙っておるのか」

外副長「やつらの通信技術は伝聞魔法なんかよりずっと発達していやすからね」

外副長「これではあまり高度を下げられやせんぜ」

団長「くっ……」

団長「じゃが、当たることも無かろう」

団長「なんとか地上兵がいないところを狙えば……ん?」

外副長「木の陰に何か……!?」



ガサッ

シュバババババ


飛行兵1「来たぞ!」

飛行兵2「へへ、中将の言うとおりだ!」

飛行兵2「撃ち落とせっ」ズダダダダダ

団長「な、なんじゃと!?」

外副長「団長、あぶねぇっ」ガバッ


ビシッビシビシッ


外副長「がはっ!」

団長「外副長!!」

飛行兵1「よしっ当たったぜ……なっ!?」

団長「火球魔法(中)!」ボッボッ

飛行兵1、2「ぐわああああっ!」ボカ‐ン

団長「おい、大丈夫か!」

外副長「へへっ……なんの」ダラダラ


外副長「団長が無事なら問題ないですぜ」

団長「今回復する!回復魔法(上)」


パァァァ


団長「な、効果がないじゃと……!?」

外副長「反魔法弾……ってやつですかい」

団長「くそっ馬鹿な、そんなはずは!」

外副長「いいんですよ団長、あっしはここでお別れってやつのようです」

外副長「団長は勇者たちと合流して下せえ」

団長「う……すまない……」

団長「儂が魔法しか能がないばかりに……」

外副長「そんなことはありやせんぜ団長」

外副長「団長は荒れきっていた荒れ地を統一して『国』を作り上げたではありやせんか」

外副長「きっと団長ならこのまま勇者と新しい平和な世界を作っていけやすよ」

外副長「あっしは信じていやす……がはっ」ハァハァ

団長「外副長!」


外副長「さあ、この辺りは敵がいないようですぜ」

外副長「今のうちに飛び降りて下せえ」

団長「飛び降りる……?お前はどうするのじゃ外副長!?」

外副長「へへ、あっしにはもう一つだけ仕事がありやすので、ここで失礼しやすぜ」

外副長「そろそろ理性ってやつが飛びそうなんで、一緒に行っても足手まといにしかなりやせん」

外副長「後は頼みやす団長!半魔の夢を叶えて下せえ!」

団長「……わかった、必ず、必ずやってみせるよ、外副長」

団長「いままでありがとう」ニコッ

外副長「こちらこそ」


バッ


外副長(へへへ……最期に『あの娘』の笑顔をまた見られてよかったぜ……)

外副長(もう二度とみられないもんだと思っていたが……)

外副長(へへ、やっぱりあれに勝る笑顔はそうそうねぇなぁ……)

外副長(そういや、あの笑顔に惚れてあっしも団長の下についたんだっけか)

外副長(随分懐かしいこった……これも……さいごの……あがきって……やつ……か……)


間もなく、外副長の身体は魔族の部分に完全に支配された。


―――森の中―――


ヒュウウウ ガサッ ドテッ


団長「いてててて……やはりあの高さでは重力軽減魔法もあまり役に立たんか……」

団長「しかし、今はとにかく勇者を……?」


ガサッ


団長「む、敵か!?」ジャキ

魔王「あーもう!勇者は一体どこへ行ったのかしら」

団長「あ」

魔王「あら?あなたは勇者の娘の……」

団長「娘ではない」

魔王「あらそうだったかしら……まあいいわ、勇者を知らないかしら」

団長「儂も今探しておるところじゃ。お主こそ勇者と一緒だったのではないのか?」

魔王「それが、さっきの砲撃ではぐれちゃってね」

魔王「勇者が私を突き飛ばしてくれたからなんとか直撃は免れたけど、勇者は……」


団長「なんじゃと……!」

団長「なんということじゃ……手遅れだったか」

魔王「でも、まだ死んだと決まったわけじゃないわよ」

団長「どういうことじゃ」

魔王「あの後敵に見つかってしまってね、そいつらを倒してから何とかもとのはぐれた場所に戻ったんだけど、勇者の姿が見当たらなかったのよ」

魔王「血痕を見つけたからその後を追っていったんだけど、それも途中で途絶えていたわ」

団長「と、いうことは……」

魔王「ええ、勇者は誰か味方に遭遇したようね」

団長「よかった……」

魔王「でも、まだ安心するのは早いわよ。急いで勇者を見つけないと……」


ガサリ


団長「今度は何じゃ!」ジャキ

奇術国兵「……」ニュッ

魔王「奇術国兵!……と」

勇者「おーい、無事だったかー」

団長「勇者!?」



―――……


勇者「……と、いう訳なんだ」

大佐「驚かせてしまって申し訳ありません」

団長「いや、我らが勇者を救ってくれたのならこれ以上のことはないのじゃ」

魔王「なによ、てっきり死体ごと敵に運ばれてるのかと思ったじゃない」

勇者「ははは、まあほとんど死にかけだったけどね」

大佐「それでは、そろそろ私は僧侶さんのところへ戻りますね」

大佐「勇者さん生存の一報を彼女にお伝えせねば」

勇者「あ、大佐、僧侶の様子はどうだい?」

勇者「元気にしているかな」

大佐「ええ、この上なく。しかし明日は忙しくなりそうです」

勇者「明日?」

大佐「ええ、まあそのうち知らせが届くでしょう。詳細はそれにて」

勇者「分かった。じゃあまた」

勇者「僧侶によろしく伝えておいてくれ」


大佐「はっ。ではこれにて失礼いたします」タタタッ

魔王「さて、私たちも帰路につきましょう」

団長「そうじゃ、戦士や副団長が待ちに待っておるじゃろうからな」

勇者「……!」

勇者「待ってもいられなかったみたいだね」

団長「?」


ドドドドドド


戦士「勇者ぁー!どこにいる!?」

戦士「まさかもうのたれ死んでるんじゃないだろうな!」

副団長「団長―!今すぐお迎えに上がりますよ!!」

勇者「ね」

魔王「何が『ね』、よ!」

団長「まあまあ、まさかもうこんなところまで来るとはな」

団長「さて、これで無事に帰れそうじゃ」

団長(外副長……)


こうして、勇者一行は無事に帰路に着いた。


――― 一方、森付近 奇術国軍本陣―――


中将「ええい!何をしておる!もっと火をつけて奴らを焼き殺さんか!」

中将「空中兵隊はまだ奴らを見つけられんのか!」

奇術国兵「報告!空中兵隊が先ほど上空を飛行していた半魔と接触、相討ちに終わったそうです!」

中将「そうか……よし」

中将「勇者はまだ死んでおらんのか!?」

奇術国兵「はっ、まだ報告はありません!」

中将「何が何でもここで撃ち殺すのだ!」

中将「そうすればワシの大将昇格も目の前じゃな……ハハハ」


バサッバサッ

ザワザワ
ナンダアレハッ


中将「ん?騒がしいな、どうした?」

奇術国兵「は、何やら上空に不審な飛行物体が……」

奇術国兵「あ、あれは!」


外副長「キシャァァァァァァッ!!」バサッ

奇術国兵「先ほどの半魔です!」

中将「何?ノコノコ戻ってきおったか」

中将「さっさと撃ち落とせ」

外副長「キシャァァァァァァッ!!」カッ


ドガァァァァァッ


奇術国兵「駄目です!一瞬にして第七、第八小隊が全滅しました!!」

中将「な、なんだと!?そんな馬鹿な!」

中将「ええい!集中砲火だ!戦車でも大砲でも何でもいい、とにかく撃ち落とすのだ!!」


ズダダダダダ
ズドォォォン


外副長「ガガッキシャァァァァァァッ!!」ボタボタ

中将「いいぞっ、着実にダメージを受けている!」

中将「このまま押し切れい!」


ズドドドドドド


奇術国兵「第七、第八小隊に続き、第四、五、六小隊も壊滅!」

奇術国兵「閣下、危険です!ここは退却を!」

中将「くっ、バケモノめ……」

中将「急げ、距離をとりつつ迎撃を……!」

外副長「キシャァァァァァァッ!!」ズアッ

奇術国兵「閣下!!危ない!」

中将「な……」


ドガァァァァァァ……


突然の半魔の奇襲により軍事演習本隊は壊滅。
なんとか半魔は撃破したものの、中将をはじめ多くの隊長が死亡した。

連合はこれを演習中の事故と発表。半魔の仕業であることは完全に隠ぺいされた。



―――数日後 帰還路中―――


魔王「それじゃあ勇者、私はこの辺りでお別れにするわね」

勇者「えっ、じゃあ何人か護衛をつけておくよ」

団長「そうじゃ。流石に一国の当主を丸投げで返すのはまずいのじゃ」

魔王「いや、必要ないわ」

魔王「これはあくまでお忍びよ。護衛なんかつけて帰ったら私の面目にも傷がついてしまうわ」

魔王「でもありがとう勇者。勇者のお陰で本当にたくさんの新しいことを学ぶことができたわ!」

勇者「かの魔王が勇者に感謝なんてね」ハハハ

団長「奇妙なもんじゃな」

魔王「たまにはいいじゃない」

魔王「魔法学も奇術国も人間族の文化も素晴らしいものばかりだったわ」

魔王「魔国に帰ってもきっと忘れない。そして、これから人間族と協調できる魔国を作り上げてみせるわ」

勇者「そう言ってくれると嬉しいね」


団長「そうじゃな、復興省なんかには負けてはならんぞ」

魔王「もちろんよ」

魔王「勇者に教えてもらった戦略さえあればあんな奴ら一捻りにしてやれるわ!」

勇者「まあ、くれぐれも悪用はしないようにね」

魔王「分かってるわよ!」

魔王「それじゃあまた会いましょう」

勇者「ああ。次は平和会議か独立宣言式でね」

魔王「そうね」

団長「あっ! 最後にちょっとだけお願いが……いいかのう?」

魔王「何かしら勇者娘?」

団長「まだその認識は変わらんのか……まあいい」

団長「耳を貸してほしいのじゃ」

魔王「ん、いいわよ」

団長「……ゴニョゴニョゴニョノゴニョナノジャ」

魔王「ふーん……分かったわ」


魔王「任せなさい」

団長「わぁっ!ありがとうなのじゃ!」

魔王「あれ?でもあなたの父親は勇者じゃ……」

勇者「え、僕?」

団長「わーっ! なるべく秘密にしてほしいのじゃ」

団長「個人的なことじゃからな。プライバシーというやつじゃ」

魔王「ふーん。じゃあそういうことにしておいてあげるわね!」

魔王「それじゃあ今度こそ」

勇者「ああ、また」

団長「よろしくなのじゃ!」


奇術国編はこれにて



―――数日後 北部不干渉区 中央行政区行政府―――


その後、勇者一行はすぐに被害の整理をしながら帰還。
外副長のみならず、上級隊長、隊長A、Bの死は更に団長に衝撃を与えることとなった。
実質的に元半魔盗賊団の最高幹部がほぼ全滅してしまったのである。

勇者「……ということだ」

勇者「結局、奇術国へ向かったメンバーで生き残ったのは僕と団長、そして魔王だけだった」

戦士「あの上級隊長がやられたなんて……そんな馬鹿なことがあるか!!」バン

戦士「あいつは俺に劣らない超一流の剣士だったんだ!」

戦士「それが……それが……あんな卑怯な待ち伏せ野郎どもにやられるはずがない!」

副団長「し、しかし、あのあとこっそり向かわせた偵察隊は、確かに上級隊長の死亡を確認したと言っていたじゃないか」

副団長「無数の銃創を残した上級隊長の死体と、その周りに横たわるこれまた無数の奇術国兵の死体を軍は搬送していたと」

戦士「んなこたぁ分かってる!分かってるんだよ……」


戦士「クソッ!こんなことだったら俺が行くべきだった!」

戦士「そうすれば誰も死ななくて済んだはずだ!そうだろ勇者!?」

勇者「いや、そうとも言い切れない状況だったからこそ僕は君をここへ残した」

勇者「君は暫定でこの不干渉区で最強の人間だ」

勇者「君はこの先もずっとこの不干渉区に必要な人間なのさ」

勇者「上級隊長よりも……はてまた僕なんかよりもね」

魔法使い「それは言いすぎなんじゃないかしら」

商人「そうです。もし勇者様が亡くなられれば、すぐさまこの不干渉区は崩壊の一途をたどるでしょう」



勇者「まあ、この不干渉区もここまで成長したんだ。もう僕の役割は終わったも同然だよ」

戦士「納得いかねぇ! こうなったら奇術国の理事長を直接切り殺して……」

団長「その必要はもうないぞ」スタスタ

団長が会議室へと入ってきた。

戦士「何!?」

勇者「どういうことだい?団長」

団長「うむ。あの夜の次の日、奇術の国首都で大変な事件が起こったそうじゃ」

魔法使い「事件ですって?」

勇者「僧侶のセレモニー当日にかい?」

団長「ああそうじゃ。どうやら僧侶も関連しているらしい」

戦士「あの僧侶がだと!?」

団長「まあまあ質問は後にしてほしいのじゃ」


団長「情報によると、その日奇術国企業連合本部ビル会食場や理事長室周辺等数か所において大規模な爆発が起こったそうじゃ」

団長「それによってビルは炎上」

団長「セレモニー前の会食で本部ビルに集結していた、理事長をはじめとした理事の多くが死亡したということじゃ」

団長「じゃが幸い、爆発時理事以外の者は、ちょうど僧侶のセレモニーのために屋外へ出ていたため難を逃れておる」

団長「そして、その僧侶自身も無事だったようじゃ」

団長「これは僧侶との関わりがないとは到底思えん。推測には過ぎんがな」

勇者「なんだって……!?」

戦士「ということは……」

副団長「……明らかに理事らを狙った『爆破テロ』ということですね、団長」

団長「うむ。事件の後、残った理事たちは素早く理事会を立て直し、元軍務理事が理事長に、僧侶が軍務理事に就いたそうじゃ」

団長「そして新理事会はこのテロの実行犯は、現場で魔力の消費が確認されたことから魔術国連合のスパイだと断定」

団長「挙国一致で魔術国連合との更なる対立を約束したと」

勇者「な!? 僧侶が戦争の先導を?」

団長「まあ、そうなるな」

戦士「あの僧侶が自ら戦いを選ぶとはな……」

魔法使い「最早別人にでもなってしまったのかもしれないわね」


商人「これはまた経済情勢が荒れに荒れそうですね」

勇者「僧侶が奇術国連合の最上層に立ったのはいいことだけれど……あまりスッキリとはいかないようだね」

団長「ああ。じゃが、奇術国連合は今までとは打って変わって、儂らに友好的な姿勢を見せ始めたのじゃ」

団長「これも僧侶の意志と無関係では無かろう」

勇者「そうか……しかし必ず参戦要求を出してくるだろう」

勇者「これは、遂に不干渉区存続の境目に来ているのかもしれないな」

勇者「僕らも、こうなったらまずは独立を果たしてしまうべきだ」

勇者「そうすればこの不安定な状況も少しは改善するはずさ」

魔法使い「そうね。急いで準備を進めましょう」

団長「うむ。外交交渉はその後じゃな」

勇者「今回の被害で欠員がでた部門は部門ごとに補充を行ってほしい」

勇者「副団長は警務部門を少し手伝ってくれないか」

副団長「分かった」

戦士「なんで俺が!」ガタッ

戦士「……チッ。苦労を掛けさせて悪いな」

副団長「ニャハハハ。お安い御用さ」

勇者「それでは解散!」



―――時は遡ってテロ当日 奇術の国首都 本部ビル上層階会食場―――


ハハハハハ
ガヤガヤガヤ


財務理事「それにしても、あのどこの出身かも知れぬ小娘が一国の軍務を掌握するとは」

政務理事「理事長も一体何を考えていらっしゃるのか分かりませんな」

警務理事「全くだ!何か余計なことでも起こす前に処分してしまった方がよいのではないか?」

財務理事「これこれ、ここはその小娘を祝う場だぞ。軽率な発言は慎め」

警務理事「ふん!この傾国の危機に黙ってなどいられるか!」

政務理事「まあまあ落ち着いてくださいな。どうせ後々『あの方』から指示が出るでしょう」

政務理事「その時にもまた全権を持って潰しに行けばよいだけのことです」

財務理事「政務理事の言う通りだ。少し軍務理事に妬き過ぎではないのか?警務理事よ」

警務理事「ふん。奴もどうせあの小娘に肩入れをしていやがるんだ」

警務理事「わざわざ寿命を縮めるとは、感謝したいぐらいだとも」

財務理事「まあまあそう強がるな」


政務理事「そうです警務理事。お前はまだまだ若いんだから機会などこれからいくらでもありますとも」

政務理事「なくても私らが作ることになりますしね」

警務理事「ふん。まあそれもそうだな」

警務理事「ハハハ。今はあの小娘の短い栄華を祝ってやる事にするか」

財務理事「それでは乾杯といこうか」

政務理事「我らの未来に」

財務理事「奇術の国の未来に」

警務理事「そして、『幸の国』の未来に!」

「「「乾杯!!!」」」


ドガァァァァァァァン

ズン ズズズン


財務理事「何だ!? 何が起こっている!」

警務理事「爆発!?馬鹿な、ここの警備は万全だったはずだ!」

政務理事「あれは……」


キュウウウン


政務理事「空間が歪んで……?」


ドッガァァァァァァァァァン


テロによって本部ビルは会食場をはじめ数か所が爆破された。

その後の火は丸一日をかけて鎮火された。理事の中で生き残ったのは、
たまたま外に出ていた外務理事と、下層階で僧侶と共にいた軍務理事のみであった。



―――時は戻って、不干渉区警務部門本部―――


副団長「大丈夫かい?戦士」

戦士「ああ。悪いなさっきは取り乱しちまって」

戦士「上級隊長が勇者を守るために死んでいったのは仕方のないことだ」

戦士「もう仇も討てないんじゃあ、憤っていたって空しいだけってやつだ」

副団長「確かに」

副団長「なんだ、意外と物分りが良いんだね」ニャハハ

戦士「抜かせ。こんなこと魔国や戦場で幾度となく経験してきたことだ」

戦士「今更無駄に喚き散らすのも馬鹿馬鹿しいだろ」

副団長「ニャハハ。せっかく慰めてあげようと思ったのに、逆に自分語りなんかされちゃあその心配もなさそうだ」

副団長「その様子だと、もう要員補充のめどもついているんだろう?」

戦士「まあな。上級隊長には現在の隊長Cを当てる。ただそれだけだ」

副団長「ニャンとシンプルな……これじゃあボクの助けなんていらなかったようだね」


戦士「ああ、悪いなわざわざ来てもらってよ」

戦士「……ハハ。どうせ奴のことだ。俺とお前を一緒にしておけば自然となんとかなるのを見越していたんだろうよ」

戦士「全く小賢しい奴だ」

副団長「自然と、ねえ」

戦士「まあ、深い意味はねえよ」

戦士「さあて、この前お預けになったっきりの手合せをいっちょ願おうじゃねえか」

副団長「よし、いつでも来い!」

ガチャ

隊長C「大変です部門長!」

戦士「何だまたお前か!!」

隊長C「はっ!?これはまたいい雰囲気を邪魔してしまって……」

隊長C「なんて言ってる場合じゃないんです!」

隊長C「部門長の支持で強化していた魔術国側の検問で不審な馬車が捕縛され、その中から銃をはじめとした武器が大量に押収されました!」

隊長C「既に検挙数は6件にのぼっているそうです!」


戦士「な、なんだと!?」

副団長「この数日で6件だって!?」

副団長「これは予想以上の数だね」

戦士「ああ。まずいな……」

戦士「急いで捕まえた商人共を尋問しろ!」

戦士「なんとしてでも内通者を特定するんだ!」

隊長C「はっ!」


―――翌日 代表執務室―――

勇者「魔術国との国境で大量の武器が押収されただって!?」

団長「ああ。これはかなりまずいことになったぞ」

魔法使い「恐らく、既にそれをはるかに上回る量の武器が持ち込まれている可能性があるわね」

団長「そうじゃ。これではいつ大規模な反乱が起こってもおかしくないぞ!」

勇者「参ったな……もう独立宣言式へ向けて本格的な準備が始まっている」

勇者「恐らく彼らが狙うとしたらその式当日だろう」

勇者「早く内通者を特定してしまわないと厄介だね」

魔法使い「それなら、早めに『商人』をマークしておいた方がいいんじゃないかしら?」

勇者「そうだね。僕も支部長に気がかりなことを言われたんだ」

勇者「商人に気を付けてってね」


団長「やはりあやつが……?」

魔法使い「北部不干渉区成立と同時に不干渉区に入り、経済を握る」

魔法使い「そして魔法使用の疑いありとくれば、任意同行には十分すぎる理由になるんじゃないかしら」

勇者「確かに。しかしまだ確固とした証拠が……」

ガチャ

戦士「よう勇者」

勇者「やあ戦士、どうかしたのかい?」

戦士「どうしたもこうしたもねえ」

戦士「捕縛した商人が自白しやがったのさ」

戦士「『私を先導したのは紛れもなく財務部門長商人様だ』ってな」

団長「これは!」

魔法使い「急ぎましょう勇者」

勇者「ああ」

勇者「戦士、商人を逮捕するんだ」

戦士「言われなくても!」


ダダダッ


しかし……


―――財務部門庁舎 商人の部屋―――

財副長「商人様。勘付かれたようです」

財副長「現在憲兵隊がここへ向かっているそうです」

商人「ほう。あのカラクリに気付きましたか」

商人「警務部門長様もただの剣振り屋ではないようですね」

商人「しかし、少し遅かったようです」

商人「財副長、行きますよ」

財副長「はっ」

スタスタ……


―――……

ダダダダダッ

バタン

隊長C「商人!お前を逮捕す……!?」

憲兵「隊長!誰もいません!」

隊長C「馬鹿な、庁舎は完全に包囲しているはず……」

隊長C「まだ近くにいるはずだ!捜せ!」

ダダダダッ

結局、憲兵隊の決死の捜索にもかかわらず、商人は最後まで発見されなかった。



ここまでで
やっぱり最近は魔王勇者仲良しモノが多いんですねぇ



―――翌日 行政府 会議室―――

戦士「取り逃がしただと!?」

隊長C「申し訳ありません……私たちが到着したころには既にもぬけの殻でした」

勇者「そうか……やはり入念に準備をしていたようだね」

団長「どうするのじゃ勇者、このままでは……」

勇者「まあ、商人が黒幕ということは、逆に言えば反乱は必ず独立宣言当日に起こるってことだ」

魔法使い「確かに。商人はしきりに独立宣言をさせたがっていたみたいだしね」

団長「とはいえ、もう独立宣言は取りやめることはできんぞ」

勇者「ああそうだ。もうここまで公言してしまったからにはやるしかない」

勇者「もし中止にでもすれば、不干渉区内の不安は高まるばかり……」

勇者「下手をすれば反魔族派の動きを加速させかねないだろうね」


副団長「反乱が起こる日が分かっているなら警備もしやすいんじゃないのかい?」

戦士「まあな。しかしこのヘボ勇者のことだ」

戦士「分かっていても死にかねん。この前の奇術国連合での暗殺未遂のようにな」

勇者「まあ、あえて否定はしないよ」

勇者「とはいえ、黙って見ているわけにもいかないさ」

勇者「総員、全力を挙げて独立宣言を成功させるんだ!」

団長「儂は不干渉区内の各地と、他国に独立宣言を宣伝して回ることにするのじゃ。戦士は警備と商人の追跡、副団長は装飾と広報、魔法使いは魔法での追跡をそれぞれ頼みたいのじゃ」

戦士「おうよ!」

副団長「はいっ!全力でやらせていただきます!」

魔法使い「任せなさい」

勇者「それでは全員。無事と成功を祈るよ」

戦士「無事はお前だけで充分だろ」

勇者「まーた空気を壊す」

勇者「それじゃあ解散!」


――――……

こうしてそれぞれ、間近に迫った独立宣言式に向けて準備を進めていくのだった。

隊長C「おい、1班、2班、どうだ?」

1班長「だめです!」

2班長「こちらも気配すらありません!」

隊長C「これで北ブロックはすべて調査しましたが……駄目のようです」

戦士「チッ。それじゃあ次は東だ!いくぞ!!」

オーッ


――――……

副団長「それはそっちであれは看板の上ね」

副団長「あっ!これはやっぱもうちょっと右の方がいいや」

副団長(戦士も忙しそうだし、手合せはだいぶ先になりそうだなぁ)

副団長(はぁ……なんだか物足りないなぁ)


――――――……


魔法使い「うーん……」

助手「だめなんですか?」

魔法使い「ええ。分析魔法によると、この中央行政区中に隠蔽魔法がかかっているわ」

魔法使い「しかも何重にもね」

助手「な、何重にもですか……!?」

魔法使い「これでは魔法で足掛かりをつかむのは難しそうね……」

魔法使い(とはいえここまで高度な魔法を何重にも張り巡らせるなんて……)

魔法使い(あのチョークといい……まさか彼は……)

助手「えいっ!反隠蔽魔法!」シュパー

バリィン

シュウウン


助手「あぁやっぱりすぐ戻っちゃいました……」

魔法使い「さすが優等生ね、もうアンチスペルを唱えられるなんて」

助手「いえいえ、さっき師匠がやっていたのをまねただけですよ」

助手「自己再生魔法ですぐ戻っちゃいましたし」

助手「でも、魔法痕の隠蔽魔法まであるのは変ですね」

助手「あれって魔法陣を隠すのくらいしか役に立たないんじゃないでしたっけ?」

魔法使い「魔法痕の隠蔽魔法……?」

魔法使い「やはりね、浅はかだったわね商人」

助手「?」

魔法使い「見てなさい、目にもの見せてあげるわ」

魔法使い「助手、もう帰っていいわよ」

助手「は、はいっ!?」

魔法使い「あとは私がやるわ。私のことは私でケリをつけなきゃね」


スタスタ


助手「あっ!師匠~!」

助手「いっちゃった……」


――――……

商人「それでは、この手筈通りにお願いしますよ」

情報隊長「なるほどな……これなら奴らを確実に狙えるな」

情報隊長「ふん。ずる賢さだけは一流と見える」

商人「いえいえ、それこそ商人には必須の条件というやつですよ」

情報隊長「まあいい」

情報隊長「それにしても、今更ながらお前が魔法を使えるのも不思議なもんだな」

商人「いえいえ、使えるのなんて魔法陣だけです」

商人「この前と同じように、発動のタイミングはお任せしますので」

情報隊長「言われなくてもそうするつもりだ!いちいち言うな!」

商人「これはこれはお厳しい……」


商人「あと、くれぐれも注意しておきますが、狙うのはあくまで勇者様ですよ」

商人「よろしいですね」

情報隊長「だから指図をするなと言っているだろう!」

情報隊長「それ以外は狙わん。これでいいだろ!」

商人「流石物分りがよろしくて……」


―――独立宣言前夜 塔最上階展望台―――

団長「やっぱりここにおったか」

勇者「やあ団長」

勇者「経済情勢の調整お疲れ様」

団長「まったく、商人の失踪で大混乱だったのじゃ」

団長「念のため元盗賊団の会計係を忍ばせておいて正解だったのじゃ」

勇者「さすが団長、ぬかりないね」

団長「初めから商人に頼り切るのはまずいと注意しておいたじゃろうに」

勇者「ははは。まあね」

勇者「でもあらかじめ財務部門は信用できる人間を集めておいたから、そこまで心配する必要は無かったのさ」

勇者「大体は旅の途中で知り合った人だよ」

勇者「まあ、あの商人に敵う手腕の持ち主もいなかったから彼を財務部門長にせざるを得なかったんだけどね」

団長「なんじゃ、どうりで儂の助言など気にも留めなかったわけじゃな」


勇者「ごめんごめん。言わない方が団長が頑張ってくれると思ってさ」

団長「まったく。人をなんだと思っておるのじゃ」

勇者「悪かったってば。お詫びにショートケーキ食べ放題を奢るよ」

勇者「僕が明後日まで生きていたらの話だけどね」

団長「ほ、本当か!?」

団長「……ゴホン。ま、せいぜい自衛に徹することじゃな」

勇者「なんだ、守ってくれないのかい?」

団長「勇者なんだから自分の身くらいは自分で守らんか」

勇者「はいはい、努力しますよ」

団長「……本当に大丈夫なのじゃろうな」

勇者「まあ、五分五分ってところかな。何が起こるかなんて結局は明日になってみないとわからないわけだし」

勇者「伝聞魔法で情報共有だけは万全にしておこう」

団長「そうじゃな。妨害されるといかんからな、チャンネルも5つ用意しておいたぞ」


勇者「お、さっすが団長」

団長「誉めてないで明日の対策を考えんか」

勇者「大丈夫さ、できる手は尽くしてある」

勇者「あとは相手の腕次第さ」

団長「そうか……」

団長「なあ勇者」

勇者「なんだい?」

団長「もし、もし明日上手くいったら……」

団長「一緒に、あの夢の秘密を解いてはくれんか?」

勇者「あの夢……この前言ってたあれかい?」

団長「ああそうじゃ。結局何もわからんままなんじゃ……」

団長「あの後魔法使いにも相談してみたんじゃが、魔法による呪いの類では無いそうなんじゃ」

勇者「そうか……分かった。団長の頼みとあらば僕もしっかり答えないとね」


団長「やった!ありがとうなのじゃ!」

勇者「ところで、魔王にはいったい何をお願いしたんだい?」

団長「それは……また話すことになるじゃろう。それまで待ってほしい」

勇者「明日失敗しても知らないよ」

団長「な、そんな縁起の悪いことを言うな!」

勇者「ごめんごめん」

団長「まったく、冗談に聞こえんぞ」

勇者「それはちょっと失礼だね」

勇者「ま、僕もまだ死ねない理由はあるにはあるし、お互い頑張ろうか」

団長「ああ。そうじゃな……」


結局、そのまま商人らが見つからないまま式当日を迎えることとなった。

この辺で

これが完結したらもしかしたら別の場所でリメイクして再投稿することがあるかもしれないです。
まあ、まだ気が早いですね。


―――北部不干渉区独立宣言当日 朝 市街地―――


ワイワイガヤガヤ


独立宣言当日、行政区は朝から各支部や不干渉区全土から詰めかけた半魔や人間そして魔族であふれかえっていた。
団長の広報活動により、不干渉区外からも多くの人々が集い、まさにお祭り騒ぎとなっていた。

その中で戦士率いる警務部門の面々は厳重な警戒態勢を崩していなかった。


隊長C「部門長、第1班から10班まで全員配置完了しました。東西南北全てのブロック異常なしということです」

戦士「よし、このまま警戒を続けるぞ!」

隊長C「はっ!」

戦士「しっかしよくもまあここまで人が集まったもんだな」

戦士「勇者め、これなら相手も派手な動きができないと予想しやがったんだな……?」

戦士「相変わらず小賢しい奴だ」

副団長「でも、これだとこっちも身動きがとりづらい」

副団長「この人ごみに潜られたら少し厄介だね」

戦士「大丈夫だ、そのために飛行部隊を……」


戦士「ってお前どっから湧いてきやがった!?」

戦士「隊長Cは!?」

副団長「さっきから近くにいたじゃないか……」

副団長「そんな視野の狭さで本当に大丈夫なのかい?」

戦士「大丈夫だ、視野は広いがちと障害物が多かっただけだからな」

副団長「また変な言い訳を……」

副団長「今日はボクも仕事がないから、元上級隊長の代わりとまではいかないけど、手伝わせてもらうよ」

戦士「おお、そいつは助かる!」

戦士「それじゃあお前は南ブロック方面へ回ってくれないか?」

戦士「俺と隊長Cだけでは南ブロックまで回りきれなくてな」

副団長「お安い御用さ」

副団長「ところで、やっぱり商人の足取りは……?」

戦士「さっぱりだ。あの魔法使いが両手を上げちまったらしいからな、相当巧妙に身を隠しているらしいぜ」


副団長「魔法じゃダメだったのか……」

戦士「まあ仕方ねえ。こうなった以上後手後手で回らざるを得ない」

戦士「その分迅速に対応してやらんとな」

副団長「そうだね。努力することにしよう」

副団長「十分気を付けてよ。相手は奇術国製の武器を使ってくる」

副団長「もし重傷でも負えば魔法では治せないからね」

戦士「おいおい誰の心配をしてやがんだ?」

戦士「俺様は暫定で最強の人間らしいからな、他の人間には負けるはずがない!」

副団長「だけど半魔や魔族には負ける可能性はあるわけだ」



戦士「な、そこまで真面目に帰されると俺も困っちまうぜ……」

戦士「ま、心配すんな。しばらく手合せができていなかった程度で腕が鈍ったりはせんだろうよ」

副団長「ならいいんだけどね」

戦士「なんだなんだ?お前は俺が死んでくれた方があの剣が手に入って得するんじゃなかったのか?」

副団長「な!そんなことは!」キッ

戦士「お、おいおいそんな目をすんなよ……」

戦士「俺が悪かった」

副団長「いや、謝ることは無いよ。初めは確かにそう考えていたしね」

副団長「でも今となっては……どうだろう」

副団長「天秤が反対側に傾いてしまったのかもしれない」

戦士「お、お前……」


副団長「なーんてね。そんなことあるわけないだろ!」

戦士「」

副団長「なんたってあの剣があれば一国の城主だって夢じゃないんだ」

副団長「その価値は万人の命なんかより価値があるのさ」

戦士「はは、まあそりゃそうだな」

ダダダッ

隊長C「部門長!大変です!!」

戦士「なんだまたまたお前か!!」

隊長C「はっ!これはまたいい雰囲気……」

隊長C「って何回やらせるんですか!緊急事態です!」

戦士「何!?」

副団長「ニャンだって!?」

隊長C「行政区郊外の石油貯蔵基地をはじめ、東西南部各ブロックにおいて不審な動きが次々と報告されています!」

隊長C「今すぐ部隊を四散して対応すべきかと!」

副団長「戦士、ボクも向かうことにするよ」

戦士「ああ、苦労をかけるな」

戦士「総員報告に準じて対応に当たれ!」

戦士「攻撃の意志があるなら斬殺もやむを得ん!」

戦士「解散だ!」


オーッ!



―――行政区 中央広場特設ステージ裏 勇者控え場兼情報統制所―――


団長「さて、あと一時間ってとこじゃな」

勇者「ああ。情報通信は上手くいっているかい?」

団長「もちろんじゃ。伝聞魔法東西南北各チャンネルに加え、非常用チャンネルも異常なしじゃ」

勇者「よし。式中は流石に僕は指揮をとれないから、団長に任せるよ」

団長「任せるのじゃ」

団長「ところで、魔法使いの姿が見えんようじゃが……」

助手「はい。魔術国からの来賓は、助手である私が代理人を務めるように命じられました」

助手「ししょ……大使は昨夜から行方をくらませていまして……」


勇者「魔法使いが?」

助手「はい。なんでも商人を探しに行ったようです」

団長「な、単独行動は危険じゃぞ!今すぐ探さんと……」

勇者「いや、その必要は無いだろう」

団長「なぜじゃ!?」

勇者「彼女は魔法のプロだよ。心配はいらないさ」

勇者「しかも、彼女が本気になるときはどっちにしろ誰も止められないのさ」

助手「はい!勇者様は師……大使をよく御存じですね!」

助手「この前も魔王に魔法を教えるとかなんとか言って、一週間も部屋に籠りっきりで授業していたんですよ!」

助手「そのせいでどれだけスケジュール調整に困ったことか……」ブツブツ

勇者「ま、こういう感じなんだ」


団長「な、なるほどのう……」

団長「いいじゃろう。長年の御仲間への信頼を信用することにするのじゃ」

勇者「悪いね。心配かけさせてしまって」

団長「いや、儂の情報不足の方が悪いのじゃ。気にするでないぞ」

団長「ん? 伝聞魔法じゃ」

勇者「誰からだい?」

団長「『ふいfhfほうwhっふゅえ』」

団長「な、なんじゃこれは……」

勇者「まさか……団長!ダメだ!」

団長「なっ!?」


キィィィィン シュバッ


団長「伝聞魔法が勝手に……?」

勇者「やられた……恐らくこちら側の情報を盗まれたんだ」

団長「なんじゃと!?それでは……」

勇者「ああ。伝聞魔法のチャンネル情報も盗られただろうね」

助手「ハッ!どうなさいましたかお2人とも!?」

勇者「恐らく伝聞魔法に見せかけた情報窃盗魔法にやられたんだ」

助手「それは……まずいですね」

助手「でも、今のその伝聞魔法の差出人を逆探知すればいいんじゃないですか?」

勇者(うーむ……団長へ伝聞魔法を送信できたということは恐らく送り主は情報隊長か……)

勇者「しかし、そんなことが可能なのかい?」

助手「もちろんです! お任せください」


助手は行政区の地図を取り出した。


助手「逆探知魔法!」


すると、地図に赤い点が浮かび上がる。
その場所は中央広場から南に逸れた市街地周辺であった。


助手「さっき偽伝聞魔法を送信したのがこの場所です」

勇者「さすが魔法使いの一番弟子だね」

勇者「今すぐ警務部門の面々を向かわせよう」

団長「じゃが、伝聞魔法は筒抜けじゃろうし最早使えるかも怪しいぞ」

勇者「それなら僕の警備兵を向かわせればいい」

勇者「僕の警備は団長がいれば十分さ」

助手「いざとなったら私も援護します!」

団長「うーむ……分かった。今は緊急事態じゃ。ことは急がなければな」

団長「情報伝達もなるべく伝達兵を走らせることにしよう」

団長「警備兵に伝えてくるのじゃ」スタスタ

勇者「よろしく」


助手「本当に大丈夫なんでしょうか」

勇者「多分ね」

勇者「とにかく僕の仕事は最後までやり遂げさせてもらうつもりだよ」

助手「そうですね、さすが勇者様です!」

勇者「そこまで言われるようなタチじゃないさ」

助手「勇者様ってどうしてそこまで謙遜なさるんですか?」

助手「魔術国の貴族たちみたいに威張ったりしないんですね」

勇者「ま、こんな作戦を立てるくらいしか能がないんだから仕方ないよ」

勇者「それに今回みたいに後手に回る勝負はめっぽう苦手だしね」

勇者「魔王軍との戦いは事前に戦場や相手の情報を事細かに収集していたから勝てたものを」

勇者「その分臨機応変な対応力なんてものは育ちづらかったのさ」

勇者「参ったもんだよ」

助手「そうなんですか……」

助手「でも私は魔法使い師匠と勇者様を信じます!」

勇者「それはどうもありがとう」

勇者「そういや君は魔術国の平民育ちなんだっけな」

勇者「貴族の名門育ちの魔法使いとはずいぶんかけ離れた経歴のようだけれど」

助手「ええ。でも師匠はそういうことに関係なく人を見てくださる方なので」

勇者「ははは。まあ、本人も権力闘争の邪魔になったから追い出されたようなもんだったしなぁ」

助手「そうだったんですか!?」


勇者「そうさ。そうでもなきゃ貴族の名門の娘がそんな死地に送らされるわけないだろう?」

勇者「今では彼女の妹がその家門の当主を継いでいるらしいしね」

勇者「ま、魔法大学校の校長になんてなっていたら大逆転の出世話だったろうけどね」ハハハ

助手「そうだったんですか……そこまでは知りませんでした」

勇者「そりゃ彼女だって進んで言いたいことじゃないだろうさ」

勇者「さて、僕も情報が入るまで準備でもしようかな」

助手「あ、私も何かお手伝いすることがあれば!」

勇者「そうだな……魔術国の独立容認についてはもう決定しているのかい?」

助手「もちろんです! 式で発表もしますし」

勇者「なら心配はなさそうだね。それじゃ原稿のチェックを……」


―――しばらく後 式開始20分前―――


ダダダッ


憲兵「報告します!」

憲兵「団長!勇者様!現在行政区校外石油基地など各ブロックより不審な動きが報告され始めました!」

憲兵「それを受けて、部門長以下全兵を持ってそれを調査しに散開しました!」

団長「なんじゃと!?」

勇者「憲兵、報告があった位置を地図に示せるかい?」

憲兵「え、はい。できますが……」

勇者「じゃあこれによろしく」ペラリ

憲兵「分かりました!」


―――…


地図上の点は行政区の郊外から市街地まで、中央市街地を囲んでドーナツ型に広がっていた。

団長「これは……!」

勇者「まずいな……これは揺動だ!」


ドガァァァァァァ……


遠方で爆音が鳴った。それに合わせて黒煙が立ち上る。


ザワザワ……


勇者「あの方角は?」

団長「石油貯蔵基地じゃな……」

勇者「攻撃を開始したか」

勇者「憲兵!急いで憲兵隊を、暴動鎮圧し次第中央に呼び戻してくれ!」

勇者「敵の狙いはこの中央広場だ!」

憲兵「はっ!」タタタ

団長「これでは式開始には間に合わんぞ!」


勇者「仕方ないさ。それに中央にこれだけ人やらが集まっていれば派手な動きもできない」

団長「じゃが……」

勇者「流石にこの場の全員を抹殺するなんて不可能さ」

勇者「中には半魔だって魔族だって魔法使いだっている」

勇者「言い方は悪いが……言わば皆が盾になってくれているのさ」

団長「なるほどのう。やけに人集めをやらせると思ったらそういうことじゃったか」

勇者「まあね。一応彼らも僕のやる事に賛同してくれた人々だ」

勇者「申し訳ないが多少の協力をしてもらうのは許されるだろう?」

団長「ギリギリのラインじゃな」ハァ

団長「まあ、緊急事態となったら仕方は無いか」

勇者「そういうこと」


勇者「それじゃあもうすぐ開式だ。用意しよう」

団長「そうじゃな」


スタスタ


勇者(確かにここの人々を全滅させる手段がないわけではない……)

勇者(しかしそうならば……)

勇者(仲間を信じるしかない、か……)


こうして、独立宣言式は開式を迎えた。



ここまでで

>>231
ウィキに少し項目を追加しました



―――中央広場 特設ステージ―――


ザワザワ


式の開始時刻が迫り、いよいよ中央広場はざわつき始めた。
そして、その一角に特設されたステージ上に、ついに勇者が姿を現した。


ワーワー‼
ユウシャバンザイ‼


それと同時に、歓声が沸き起こった。


勇者『えーと……どうも、本日はこの不干渉区の独立宣言式にお集まりいただき、ありがとうございます』

勇者『僕は勇者、この不干渉区の代表を務めさせていただいております。よろしく』

勇者『それではさっそく本題に移ります』

勇者『人間族と魔族が100年間の間争い続けたかの百年戦争……』

勇者『その戦争が終結してはや4年が経過しました』

勇者『しかしどうでしょうか。戦争は終結したものの、100年かけて人間族と魔族の間に建てられた壁は、一向にその巨影をもって僕たちを飲み込んだままであります』


勇者『このままでは魔族と人間族の共和は実現せず、人間同士の争いののち、再び魔族と人間族の争いが始まることでしょう』

勇者『そこで僕は幸の国王より受けた命を完遂し、しかる後にここに人間族と魔族が共に暮らせる理想の国家を新たに建国することを目標として掲げました』

勇者『しかし、昨今の状況は緊張を極めています。各地における反魔族勢力が我々の存在を敵視し始めたのです』

勇者『両連合内の情勢も悪い方向に向かいつつあります』

勇者『よって、平和と協調を志す者として、ここは新たに不干渉区を独立させ、国家としての権威を高めることが第一に必要であると判断しました』

勇者『この状況ではまだ武力を持って自衛に徹することもやむをえません』

勇者『それだけは僕の不本意の残るところです』

勇者『しかし、僕は必ずや冬の後には春が訪れるということを信じています』

勇者『それでは、ここを持って不干渉区の『勇者の国』としての独立を宣言します!』



ワーワー‼
ユウシャバンザーイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼


コツ……コツ……


歓声はしばらくの間鳴り止むことを知らなかった。
しかし、そんな中で1つだけ、冷たい足音がステージの方へと向かっていることに気付く者は誰一人としていなかった。
ただ勇者のみを除いては。


勇者(? あれは……まさか)

勇者(やっぱりそう来たか)

勇者(やれやれ……また最悪の想定ばかりが当たる)

勇者(最近の僕は先代魔王の背後霊にでも憑かれているのかもしれないな)

勇者(さてどうしたものか……)ハァ


―――行政区郊外 暴動勃発地周辺―――


財副長「な、もう全滅したのですか!?」

財副長「ええい、こうなったら魔法陣を……」

戦士「遅いっ!」


ザンッ


財副長「ぐはっ!」バタッ

戦士「よし、鎮圧は完了したな!」

戦士「怪我人の搬送を急げ!奴らの武器の傷は魔法じゃ治らん、今すぐ奇術式の病院に搬送しろ!」


タタッ


憲兵「部門長!先ほど勇者殿から伝達兵が参りました」

戦士「伝達兵?なんで魔法を使わないんだ?」


憲兵「それが、どうやら魔法は傍受される危険があるらしく……」

戦士「なんだと?それで用件は何だ」

憲兵「この暴動は中央広場から注意をそらすための揺動であり、今すぐ憲兵隊を中央に呼び戻してほしいということです!」

戦士「な、揺動だと!?」

戦士「確かに、やけに中央広場周辺だけが狙われなかった……普通ならば狙うべきはそこのはずだ……」

戦士「分かった。伝令ご苦労だったな」

戦士「余力のあるやつは俺に続け!中央広場に急ぐぞ!」

戦士「俺たちのリーダーが危険だ!」


オーッ‼

ダダダダッ


―――同じく郊外―――

副団長「ニャンだって!?」

憲兵「はっ。今すぐ中央広場に戻るべきかと」

副団長「ボクたちはまんまとはめられたってわけだね……」

副団長「しかし、団長に手を出させるわけにはいかない!」

副団長「何としても団長をお守りするよ!」

オーッ‼

ダダダダッ



―――同刻 中央広場 特設ステージ付近―――


歓声がまだ鳴り止まぬ中、1人の黒いフードを纏った男が群衆の最前列に現れた。
そしておもむろに、黒く光る銃を勇者に向けたのだった。次の瞬間には、歓声は悲鳴へと変わった。


男「全員動くな!動けばすぐさま勇者を撃つ!」


キャァァァァ

ナンダッ‼
アレハジュウヨ‼


群衆は男から後ずさり、男の周りを半円状に囲った。


勇者「君は誰だい? いったい僕に何の用があるのかな?」

男「……」

男「ククク……」

男「何の用だと?今更聞くこともあるまい」

団長「その声は!?」

男「ああ、そうさ。地獄の淵から這い戻ってやったよ」

男「貴様らを葬ってやるためにな!」バサッ


そう言うと男はフードを脱いだ。そこにいたのは、かつて団長の配下であった情報隊長だった。


勇者「葬る……ねぇ」

勇者(まさか彼が還ってくるとは……これは益々まずいことになったな)

勇者(彼がわざわざ1人でここまで来たということは、1人で十分この広場の全員を抹殺する手段を整えてきたということ……)

勇者(そんなことが可能なのは最早魔法陣を使った最上級クラスの魔法しかありえない……)

勇者(そしてその魔法陣の発動条件はまず発動者が魔法陣の中にいることだ)

勇者(さらにかつて僕らを道連れにまでしようとした情報隊長がここに来たということは、最悪また同じことをやるために他ならないだろう……)

勇者(しかし魔法の傷は魔法で回復できる……)

勇者(僕や団長は強力な防御魔法を使える上、真っ先に回復魔法をかけられる対象となり、生存の確率は高い)

勇者(そこで今僕に向けている銃を使って予め致命傷を負わせておく……)


勇者(まあざっとこんなところだろう)

勇者(どっちが考えたのか知らないが、大層な策略だな……先代魔王もびっくりだよ)

勇者(しかし、その策略は僕の計算に狂いがなければ必ず2つの点で折れる)

勇者(間に合うかな……?)

情報隊長「もう一度同じことを説明してやることもあるまい」

情報隊長「俺は今ここでお前を自らの手で葬り、最後にはこの広場ごと真の平和の礎となってもらう」

情報隊長「3族の協調など夢想に過ぎない」

情報隊長「いづれは人間も魔族も半魔を敵視し、阻害し始めるのだ」

情報隊長「半魔の平和は半魔によってしかもたらされることはあり得ない!」

情報隊長「貴様の行動などただの自己利益のための偽善行為に過ぎることはないのだ!」

情報隊長「そんなものに簡単に騙される馬鹿はここで死ぬがいい!」

情報隊長「この土地にはまだわが同胞が存在している」

情報隊長「彼らは暗い地下で暮らし、半魔の平和という夜明けを今か今かと待ち望んでいるのだ」

情報隊長「さあ勇者、いや、ただの幻想を喚き皆をたぶらかす最大の悪党よ、わが同胞のためにここで散るがいい!!」ジャキ


勇者「まあいいさ、それなら殺すがいい」

情報隊長「何?」

勇者「残念ながら僕がいなくなったところで何も変わりはしないよ」

勇者「今この世界は歴史の境目に来ているんだ」

勇者「僕が死んだところで誰かがこの役目を新たに引き受けてくれる」

勇者「協調の種はをもうその芽を出してしまったんだ」

勇者「いづれは必ず3族の平等は成立するだろうよ」

勇者「君が僕を殺すのは結構だが、それはただ歴史はテロによって動くことはあり得ないという事実を証明するための確固たる証拠になるだけのことだろう」

情報隊長「ふん!今更負け惜しみなど片腹痛いわ!」

勇者(負け惜しみとはまた散々な言われようだな……)


―――広場周辺―――

ダダダダダッ

戦士「あれは……!?」

戦士「勇者が銃を向けられているだと!?」

戦士「くそっこれでは間に合わん!!」

戦士「勇者あああああぁぁぁぁっ!!」



―――同―――

ダダダダダッ

副団長「あれは、情報隊長!?」

副団長「団長が危ない!」

副団長「しかしこれでは間に合わない……」

副団長「いったいどうしたら……」

副団長「団長は絶対に守らなくてはいけないのに……!!」ギリ



―――特設ステージ―――


団長「勇者!!」

情報隊長「ハハハハハハッ!!」グッ

勇者「大丈夫さ」

団長「なんじゃと?」



勇者「どうやら間に合ったようだよ」



情報隊長「ん?」


ヒュオッ


突如情報隊長の背後に飛びかかる影があった。
情報隊長の敏感な危機察知能力をかいくぐって近づいたその影は、一見したらただの人間の少女にしか見えない、
しかしその角と赤い目によってようやく魔族だと判別できる容姿であった。


ズバァァァァァッ

パァン


勇者「うっ」ビッ


ドテッ


情報隊長「がはぁっ!!??」ドバッ


ドサッ

情報隊長の放った弾丸は、斬撃に一瞬遅れたため、辛うじて勇者の左ほほをかすめただけであった。


情報隊長「ば……馬鹿な……全く気付かなかっただ……と……」ゼェゼェ

勇者「ふう。随分遅かったじゃないか、魔王」

魔王「悪かったわね、そこのちっこいのの頼みで手間取ったのよ」

団長「ち、ちっこいの言うな! ……なのじゃ!」

魔王「それにしても、この困った目立ちたがり屋は何なの?」

魔王「勇者を本気で殺そうとしていたわよ。まあ思わず斬撃魔法で切っちゃったけどね」

勇者「思わずだなんて、素直じゃないな」

魔王「さあ何のことかしら」

魔王「この魔王がかの勇者を助けたなんてなっちゃ一族の恥だわ!」

勇者「分かった分かった」

情報隊長「く……おの……れ……」

団長「残念じゃったな情報隊長。お主の負けじゃ」


団長「お主の策略など、先代魔王の策略をかわし切った勇者に通じるはずがなかったのじゃよ」

勇者「ま、ギリギリだったけどね」

情報隊長「フ……フフ……」

情報隊長「何を勘違いしている……」

情報隊長「さっきも言ったはずだ……この広場ごと平和の礎になってもらうと……」

情報隊長「この広場には商人の仕掛けた爆破魔法陣が展開されている……」

情報隊長「死ぬのは貴様らも同じことだ……発動せよ!爆破魔法陣!」

魔王「少し黙りなさい!斬撃魔法!」ザンッ

情報隊長「がぁっ!」バタッ

情報隊長「」


ゴゴゴゴゴゴゴ

突然広場全体に地響きが鳴り始めた。かと思うと広場に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


団長「いつの間にこんな巨大な魔法陣を……!?」



勇者「僕らが遠征に行ったりしている間ってとこかな。深夜にも商人が外出していることはよくあったし、すべて合わせれば時間は十分にあったろう」

魔王「どうするのよ勇者!このままじゃあ……」

勇者「ああそうだね。あとは彼女に任せることにしよう」

団長「彼女?」

勇者「ああ。貴族出身の小探偵が犯人のところまでたどり着いていることを祈るのさ」

魔王「?」

つづく



―――少し前 半魔盗賊団旧地下基地 最深部 元玉座 現魔法石貯蔵室―――


商人「さて、そろそろでしょうか」

商人「私もこの転移魔法陣でここを離れることにしましょう」

商人「次にここへ戻ったときは、この地は『陣術の国』となることでしょう」

商人「あの魔術の国の貴族どもに思い知らせてやらねば……陣術師の、世代をも超える真の恐ろしさを!」

?「貴方、やはり陣術師の一族だったのね」


すっかり放置されて淀んでしまった暗闇から現れたのは、魔法使いであった。


商人「ほう?まさかここまで来るとは」

魔法使い「まず貴方は、自らの痕跡を断つために、魔法痕の隠蔽魔法をかけていた」

魔法使い「あれは魔法陣を隠すことにしか使えない魔法よ」



魔法使い「あの魔法陣形成チョークといい、あれだけの上級な魔法を魔法陣のみで発動させる手腕といい、貴方が相当手練れの魔法陣の使い手であることは確定するわ」

魔法使い「そして、魔法陣はその強力さゆえに消費する魔力も莫大なもの」

魔法使い「それだけの魔力を供給するには大量の魔法石が必要になるものよ」

魔法使い「となれば、いくら魔法陣を隠しても、魔法石が大量に存在する所に魔法陣が存在すると推理できる」

魔法使い「となれば、そんなところはこの魔法石貯蔵室しかありえないのよ」

魔法使い「この場所は以前行方不明者がでて使用禁止になり、更に中央広場の真下にもあたるわ」

魔法使い「独立宣言式で中央広場に大勢の人が集まることも考えると、魔法陣の場所も貴方が潜んでいる場所も見えてくるというわけよ」

商人「ほう……」


ゴゴゴゴゴゴ


魔法使い「あら、魔法陣が発動したようね」



―――地上 中央広場―――


ゴゴゴゴゴ

ザワザワ


中央広場は緊張に包まれ、大いにざわつき始めた。勇者もこれを止めることもできず、ただ見守るだけであった。


カッ


勇者「!」


突然閃光が日中の広場をさらに明るく照らした。


ドドーン  ドドドン


団長「こ、これは……」


閃光の源は空高く昇り、青空一面に花火を咲かせた。
そして、その無数の花火は勇者の国の独立を祝うかのように広場を明るく照らすのであった。





オオオオーッ‼‼
コンナサプライズヲヨウイスルナンテ‼
サスガユウシャサマダ‼‼


群衆も一連の騒動がショーであったと解釈したのか、歓声を上げ始める。


魔王「綺麗ね……」

勇者「ね、言っただろう?」


ワーワーッ‼
ユウシャバンザイ‼
ユウシャノクニバンザイッ‼‼


花火はさまざまに色を変え形を変え、1時間以上も花を咲かせ続けたという。



―――地下 魔法石貯蔵室―――


ドン……ドドドン……


魔法使い「どう?ただ魔法陣を消すだけじゃもったいないから、ちょっとだけいじらせてもらったわ」

商人「フフ……名推理お見事でした」

商人「それにしても、貴族出身のご令嬢がこんな汚い場所へよくもずかずかと入れたものですね」

魔法使い「あいにく私はそういう建前とか礼儀とかいう下らないものが苦手でね」

魔法使い「かつては、あんな家を継ぐくらいなら死んでやろうと決心したものよ」

魔法使い「まあ、そこに運よく勇者一行の知らせを聞いたわけだったけれど」

商人「ほほう。それでは私と貴方は似通ったところがおありのご様子で」

魔法使い「そうかもしれないわね。でも、貴方と私は敵よ。それは変わらないわ」


魔法使い「貴方の野望のために平和の象徴を失うわけにはいかないのよ」

商人「そうですか……まあ、私も貴方は後々消さねばならないと思っていましたよ」

商人「いつの時代も、我々商人に最も大きな利益を与えるのは戦争……」

商人「私もそのうちの一人として純粋に利益を求めるのは必然」

商人「しかしそれだけではない」

商人「そう。我が『陣術師の一族』を滅ぼしたのはまさに貴方の家門の貴族なのですからね」

魔法使い「今から50年ほど前まで……魔術連合に存在した『陣術の国』」

魔法使い「魔法陣を扱うことに特化した陣術師はかつて強力な魔術師の一派だった……」

魔法使い「しかし50年前に魔王軍への内通と反逆の策謀が発覚し、当時魔術軍の全権を支配していた我が家門が全軍を挙げて討伐した……」

魔法使い「その歴史が偽りであったというの?」


商人「そうです。貴方の家門はただ我らの力を恐れたがゆえに我らを滅ぼしたのです」

商人「結局陣術の国から王族を含めた極少数の者が幸の国に亡命」

商人「今では王族の子孫である私と、その一家は奇術の国まで至って細々と暮らしています」

商人「そして私は先代の敵を討つため、魔法の存在しない奇術の国で魔法を使って実績を挙げ、『あの方』に見初められてここまで辿り着きました」

商人「今少しは失敗しましたが……幸の国へ戻った後、いずれはここに陣術の国を再興するのです」

商人「最後には必ずあの憎き魔術の国を滅ぼして差し上げましょう」

魔法使い「そんなにうまくいくものかしら」

魔法使い「背後には奇術の国だっているのよ?」

商人「もちろん対策は練ってあります」

商人「さて、そろそろお喋りは終わりにしましょう」

商人「貴方には消えてもらいます」


魔法使い「あら、転移魔法で消えるつもりの貴方がよく言うわね」

商人「どこまでも口の減らないお方ですね!」バッ

商人は、背負っている鞄からホワイトボードのようなものを取り出した。

商人「火炎陣!」ボォォォッ

そして一瞬のうちに魔法陣を描くと、強力な炎が魔法使いに向かって放たれた。

魔法使い「炎には水ね。水彩魔法……!?」スカッ

魔法使い「く……封魔魔法!?」バッ

魔法使いは済んでのところで襲い掛かる炎をかわした。

商人「残念、避けられましたか。念のために魔法封じの魔法をかけておいたんです」

商人「これでこの部屋の中では魔法陣しか使用できませんよ?」

魔法使い「……ここがダメなら……ここをこうして……これを代入して……よし」

魔法使い「さあどうかしら? 氷柱魔法!」ドシュッ

商人「!?」

商人「ちっ、防御陣!」カキィィィィン


商人「馬鹿な!魔法陣はまだ崩壊していないはず……」

魔法使い「甘かったわね商人」

魔法使い「封魔魔法というものも、所詮は魔導方程式に依存するもの」

魔法使い「その仕組みは魔導方程式の一部を遮断して、魔法を使用不可にするというのが普通よ」

魔法使い「それならその遮断された部分を避けて方程式を書き直せばいいだけのこと」

魔法使い「私にかかればそんなことはお安い御用というわけね」

商人「ぐぬぬ……やはり一筋縄ではいきませんか」

商人「それなら、これはどうです!」

商人「発動せよ!『無重力魔法』!」ヴン


突如部屋一面に魔法陣が現れた。
そして、商人の周りを除いた、部屋中のあらゆるものがふわふわと浮かびだした。


魔法使い「しまっ!? まさかこんな最上級魔法を用意しているなんて……」フワフワ

魔法使い(身動きが取れない!?)

商人「何日も前から準備していたんです。これくらいの襲撃は想定の範囲内でしたよ」

商人「さあ、これで攻撃の回避はできませんよ?」

商人「いつまで魔法の相殺だけで持ちますかね!」

商人「水龍陣!」ザパァァッ

商人が唱えると、龍を象った大量の水が魔法使いに襲い掛かる!

魔法使い「くっ、水ならば氷ね」

魔法使い「氷結魔法!」ズババッ


カチーン


水は瞬時にして凍り付き、氷の粒が魔法使いの周りを浮遊した。

魔法使い「……しまった!」

商人「鋭いですね」

商人「氷弾陣!」バリィィィン

ヒュンッビュンッ

商人の魔法陣で、今凍ったばかりの氷が弾け、一斉に魔法使いの方へと向かっていく!

魔法使い「それなら、爆破魔法!」ボガーン

魔法使いは小規模な爆発を起こすと、その反動で天井の方へと飛び去り、辛うじて氷弾のクロスポイントから逃れた。

商人「逃がしませんよ!追いなさい!」

無数の氷弾は軌道を変え、魔法使い1人を執拗に追ってゆく。


魔法使い「一気に行くわよ!」クルッ

魔法使い「それっ、爆破魔法」ボガーン


魔法使いは天井まで達すると、思いっきりそれを蹴った。
と同時に爆破魔法で勢いを増したまま側壁まで達し、再びその壁を爆破魔法付きで蹴る。


ビュンッ


商人「まさか!」

商人「無重力を逆手に取られたか!」

魔法使い「もう遅いわよ! 斬撃魔法!」

商人「まずい!」バッ


無重力を利用して魔法使いは商人との距離を一気に縮めた。
しかし、商人はギリギリのところで攻撃をかわした……と思われた。



ズバァッ



商人「何!?陣製ボードが!」


魔法使いは初めから商人を狙ってはいなかった。
商人の攻撃の要であるホワイトボードを狙っていたのである。そして……


商人「……しまった!」


商人の目の前に現れたのは、コントロール不能になり、商人の方へと向かう無数の氷柱であった。


商人「うわぁぁぁぁっ!魔法陣解除っ!!」


バリバリバリィンッ


無重力状態が消え、無数の氷柱は地面へと墜落し、砕け散っていった。


ドテッ


魔法使い「いたたた……いきなり解除しないでほしいわね」

魔法使い「重力の下だとあまり運動神経がいいほうじゃないのよ」

魔法使い「ふふふ。無重力だからって油断したようね」

商人「はぁ……はぁ……」

魔法使い「あらどうしたの?顔色が真青よ」

商人「クッ……」


商人「貴族の娘風情がなぜそこまで平和にこだわる!」

商人「勇者であれ戦士であれ、貴様らこそ戦うために生まれてきた存在であろう!」

商人「人の争いなど消えることはあるまい!」

商人「そんな永遠ならざる平和のためにどうして自らの存在意義を投げ捨てようとするのだ!」

魔法使い「永遠ならざる平和、ね。まあそうかもしれないわね」

魔法使い「でも、争いは当事者のうちで片づけてもらうのが筋ってものよ」

魔法使い「私たちも乗りかかった船を最後まで港に返したい。ただそれだけのこと」

魔法使い「また後世で争いが起こったならその当時の勇者に委ねることにするわ」

魔法使い「私たちには関係のないことよ」

商人「ぐぬう……」

商人「あまり遊んでいるわけにもいきませんね」

商人「今日のところは退かせていただきます」

商人「次こそはこの国を乗っ取ろうなどと甘いことは考えずに、本気で瓦解へと追い込むことにしましょう」

商人「それでは、貴族出身の大層お上品なお嬢さん」サッ

商人「発動せよ、転移魔法陣!」ヴン


商人が合図すると、再び部屋中に魔法陣が浮かび上がった。
今度のものは先ほどの魔法陣よりもかなり複雑に描かれている。


ゴゴゴゴゴゴ


商人「さあ、早くここから逃げたほうがいいですよ!」

商人「何せこの魔法陣は繊細なもの。中心以外にある物体がどこに転移するかは私にもわかりません!」

商人「中心には間に合わないでしょうが、まだ部屋の入り口なら間に合うのではないですか?」

商人「まあ、貴方の運動神経では保証しかねますがね!ハハハハハ!」

魔法使い「いちいち高笑いしなくても分かってるわよ!」タタタッ

魔法使いは部屋の入り口に向かって全力疾走した。

魔法使い(確かに、入り口までは間に合いそうね……)

魔法使い(彼を生かしておくのも危険だけど、ここは諦めることに……!?)ガッ


ドテッ


魔法使い「あいたたた……やっぱりこのローブの丈は短くしておくべきだった……」

魔法使い「!」

商人「ハハハ!転んでいる暇なんてありませんよ!?」

商人「さあ、あと5秒です!」

魔法使い「くっ!」ダダダダダッ

魔法使い(ギリギリ間に合うかしら……?)



ゴゴゴゴゴ


ついに魔法陣が作動し始めた。


商人「ハハハハハハ……」

魔法使い「えいっ!」ダッ


ズザザザッ


魔法使いは部屋の入り口に差し掛かったところで廊下へと飛び込んだ。


シュバッ


そして、そのすぐ後に、商人は忽然と消え去ってしまった。


魔法使い「間に合った……!?」ズキッ

魔法使い「うぐぁっ……まさか……」

魔法使いは、突然襲ってきた激痛に顔をゆがめた。恐る恐る足の方を見やると、右足の踝から下が消え去っていた。

魔法使い「あ……ぐぅぅ……」ドクドク

魔法使い「ま、間に合わなかったようね……回復魔法」ポウッ



魔法使いはあくまで冷静に処理をこなした。回復魔法で傷は塞がったものの、もはや歩ける状態では無くなってしまった。


魔法使い「はぁ……はぁ……再生魔法はまだ研究段階……まあ、いい実験体ができたということにでもしておきましょうか」

魔法使い「でも、もう戦闘に出るのは無理、かな」

魔法使い「……私の意思は次の世代へってとこかしら」

魔法使い「それにしても、ズッコケたところが転移魔法陣の出力座標指定部位だったなんて」

魔法使い「彼も不運なものね」

魔法使い「今頃は、空中浮遊でも楽しんでくれている頃かしら」

魔法使い「……悪く思わないでほしいわね。これも、あくまで平和のためよ……」

700記念に切り


―――少し後 幸の国王城 玉座―――

宰相「国王様!大変です!」

ドタバタ

玉座に、青い顔をした宰相がまた駆けてきた。

幸の国王「なんだ宰相。やけに城内が騒がしいが、どうかしたのか?」

宰相「それが……あの商人が空から降ってきたのです!」

幸の国王「何?」

宰相「そのままの意味でございます。恐らく、しくじったのかと」

幸の国王「なぜ分かる」

宰相「先ほどラジオ放送にて一時中断した独立宣言式ですが、再開した模様です」

宰相「さらに、落下地点周辺にいた多くの者が、彼の叫びを聞いていたことから、生きたまま上空に転移したようです。もちろん、彼は即死でした」


宰相「極め付けに、商人のものではない踝より下のみの足が一緒に落ちていたということです」

幸の国王「チッ。役立たずめが!」

幸の国王「まあよい。奴もいずれは消すつもりだったのだ。手間が省けたというものだ」

幸の国王「だが勇者を消し損ねるとは……余の目が甘かったとでもいうのか」

幸の国王「やはりまだ本来の力が……」ボソ

宰相「?」

幸の国王「いや、何でもない」

幸の国王「こうなればそろそろ本格的に動くことにしよう」

幸の国王「あの理事長とかいう青二才め。よくも計画を狂わせよって」

幸の国王「宰相。準備はできておるな?」

宰相「はっ。ひと月ほどで実行に移せるかと」

幸の国王「よし。頼んだぞ」

宰相「御意」


―――その夜 新生勇者の国 首都 行政府宴会場―――

ワイワイガヤガヤ

独立宣言式当日の夜、行政府では、魔術の国や奇術の国からも来賓を招いたパーティーが行われた。

団長「まったく。一時はどうなることかと思ったのじゃ!」

戦士「そうだそうだ!結局俺たちも間に合わなかったじゃねえか!」

副団長「団長に何かあったらどう責任を取るつもりだったのさ!」

勇者「まあまあ、結局は一件落着したんだから、それで無罪放免ということで……」

勇者「それに、今回は本当にギリギリの戦いだった。少しでも隙を見せたら被害はさらに大きくなっていたんだ」

勇者「魔法使いについては悪いと思っているけど、まあそれだけで済んでよかったと思っているよ」

魔法使い「それだけだなんて、ひどい言いぐさね」

魔法使いが車椅子で現れた。


魔法使い「優秀な魔法戦士を失ったくせに随分と余裕そうじゃない?」

助手「せめて私をお付きにしてくださればこうはならなかったじゃないですか~」

助手「そんなに勇者様を責めないで下さいよ師匠」

魔法使い「貴方は自分の仕事があったでしょ?それに彼とはちょっとした因縁があってね、そんなことに他人を巻き込むわけにはいかなかったのよ」

助手「まあそうかもしれないですけど……」

戦士「ったく。商人も足じゃなくて口を狙えばよかったのにな」

魔法使い「まあ、自分ができないからって人にやってもらおうなんて、弱い人間がすることじゃないかしら?」

戦士「ぐぬぬ……」

副団長「さ、流石魔法使い様……!」

勇者「魔法使いの副団長内ランクがどんどん上昇していくね」ケラケラ

団長「まあ、獣は自分より強いものには忠誠を誓うというものじゃしのう」


団長「しかし猫はどうじゃったかな……」

副団長「でもボクの本当の主人は団長ただ一人ですよ!」

団長「ま、儂には遠く及ばんがな」フン

魔王「あ、ここにいたのね勇者娘」


そこに、魔王が現れた。


団長「なんじゃ魔王か。どうじゃ、部屋の整理は終わったか?」

魔王「まあ大体ね」

勇者「いきなり自分用の部屋がほしいなんて、随分大胆な要求じゃないかい?」

魔王「そんなこともないわよ。本当はこの国にもう一つ城でも欲しかったんだけれど、よさそうなところが無いみたいだったし」

魔王「当分はここを別荘代わりとしてでも使わせてもらうわ」

勇者「そんなにここの居心地を気に入ってくれたのかい?」

魔王「な、そんなんじゃないわよ!あくまで視察のためよ!」

団長「なんで赤くなってるんじゃ……」

団長「そうじゃ、あの件はどうじゃったかのう?」


魔王「ああ、結構難航したけど、禁書の中にいくつか資料を見つけたわ。後で話すわね」

団長「すまんな……」

勇者「さて、そろそろ乾杯と行こうかな」

勇者「役者も全員揃っただろう?」

団長「いや、ちょっと待ってほしいのじゃ」

団長「奇術の国からの来賓の姿がまだ見えておらん」

団長「どうも国内の情勢がまだ不安定で式には来られんかったそうじゃが、この祝宴には出席するといっておったのじゃ」

勇者「なんだ、そうだったのか」

勇者「誰が来るんだい?」

団長「恐らく外務理事じゃろう。彼は生き残ったと聞いておるしな」


スタスタ


?「お久しぶりです勇者様」

勇者「!」

魔法使い「!」

戦士「お前は!!」


僧侶「お元気そうで何よりです」ニコッ

勇者「僧侶!?……とあの時の」

大佐「御無事そうで」ペコリ

魔法使い「まさか貴方が直接出向くなんてね」

副団長(これがあの僧侶か……)

僧侶は、奇術の国の正装を纏い(言わば男物のスーツ)、大佐を引き連れて現れた。

僧侶「ええ。少し我がままを通させてもらいました」

僧侶「久しぶりに皆さんの顔が見たくなりましたしね」

戦士「なんか雰囲気が変わってねえか?」

勇者「確かに、以前はもっと若々しかったような……」

僧侶「人というものは時間を経て変わっていくものです」

僧侶「私だってその流れから抜け出せるわけではありませんよ」

大佐「僧侶さん」


僧侶「……そうでしたね」

僧侶「今日ここに来たのは他でもありません。あることを伝えに来たのです」

僧侶「奇術の国は勇者の国の独立を正式に認めます」

勇者「なんだって!?」

団長「と、唐突じゃな」

僧侶「すみません……こちらでも大分揉めまして」

僧侶「しかし条件があります」

僧侶「魔術の国との同盟を破棄して、奇術の国と新たに同盟を結んでほしいのです」

助手「そんな!」

魔法使い「まあ、そうなるわよね」

助手「師匠!」

勇者「うーむ。その回答はすぐには出しかねるな」

勇者「確かに、魔術連合の情勢はかなり不安定だ。場合によってはそのことも検討しようとは思っていたところさ」

魔法使い「私もそれをお勧めするわね」

助手「な、なんでですか師匠!」

魔法使い「ちょっと静かになさい」


僧侶「流石は勇者様です! そこまで考えが及んでいらっしゃるなら話が早いですね」

僧侶「まあ、詳しい話は後々させていただきますね」

勇者「よろしく頼むよ。それじゃあ今日は祝宴を楽しんでくれ!」

僧侶「ええ。そうさせてもらいます!」キラキラ

戦士「やっぱり雰囲気が変わっても僧侶は僧侶だったな……」

魔法使い「ま、彼女にも事情というものはあるものよ戦士」

魔王「これがお父様の策略を凌駕した勇者パーティーなのね……」

勇者『それでは皆さん、本日は独立記念の式及び祝宴に参加していただきありがとうございます!』

勇者『それでは勇者の国の建国を祝って』

魔法使い「建国を祝って」

戦士「建国を祝って!」

僧侶「建国を祝って」

団長「建国を祝って」

副団長「建国を祝って!!」

魔王「ふん……祝ってやるわよ」

隊長C「建国を祝って」

助手「建国を祝って」

大佐「建国を祝いまして」


カンパーイ!!

ワイワイガヤガヤ


――――――
―――――
―――


―――そのころ 幸の国 王城 バルコニー―――

幸の国王「今頃奴らも祝宴に酔いし頃か」

幸の国王「謀略とはやはり一筋縄では達成できぬある種の芸術……」

幸の国王「元の体を失った余にその資格はないとでも言うのか……?」

宰相「国王陛下。よろしいでしょうか」

幸の国王「なんじゃ宰相。そこにおったのか」

宰相「失礼を承知で参上いたしました。一つだけお聞き申し上げたいことがありまして……」

幸の国王「何だ」

宰相「いえ、非常に馬鹿馬鹿しいことではあるのですが……」

宰相「国王陛下は、本当に陛下自身であらせらるるのありましょうか」

宰相「失礼ながら、以前の温厚な国王陛下とは随分とお変わりになってしまったと思い申し上げまして」

宰相「何かお悩みでもございますなら私に何なりとお申し付けいただければ幸いかと……」

幸の国王「なんだそんなことか」

幸の国王「……フフ。お前は観察眼の鋭い奴だな」

宰相「はは、何とぞ御恐縮なお言葉を……」


幸の国王「だが、そんなことを城内の者に耳打ちされても困る」

幸の国王「もう少し役立ってもらいたかったが……まあよいだろう」

宰相「へ?」

幸の国王「やれ」

?「はっ!」


ザシュッ

幸の国王が合図すると、暗闇から何者かが飛び出し、宰相が悲鳴を上げる間もなく切り捨ててしまった。


宰相「がはっ……馬鹿……な……」ガクッ

幸の国王「準備はできておるか?側近」

側近「はっ。すべては手筈通りに」

幸の国王「うむ。しばらくは宰相に化けて行動せよ」

幸の国王「大分予定は狂ったが……まあよい。想定の範囲内だ」

幸の国王「あの小娘め、勝手なことを好きにやりおる」

側近「恐れながら、それもお父上である『先代魔王』様。貴方に似なさったものであると」

幸の国王(先代魔王)「フフ……お前も言うようになったな」

側近「ははっ。これはとんだお耳汚しを」

幸の国王(先代魔王)「娘といえど容赦はせぬ」

幸の国王(先代魔王)「卿もそれを忘れるなよ」

側近「ははっ。我が忠誠は先代魔王様、貴方様ただお一人に」

国王の『知恵のペンダント』が、赤黒く淡い光を放っていた。





建国編 END


ということで、次回更新は少し遅めになるかもです。


―――独立記念祝宴パーティー後 魔王の部屋―――


魔王の部屋は、その刺々しい口調に似あわずピンク色基調な彩で飾られていた。

団長「ほう……意外とかわいらしい部屋じゃな」

魔王「ほ、ほっときなさい!」

魔王「あ、あの猫がやったのよ!? 私がこんな……」

団長「分かった分かった。そういうことにしておくのじゃ」

団長「ところであの件についてじゃが」

魔王「そうね、分かったことを話すことにするわ」

魔王「まあ、これでも書物の中の情報だから正確性も完全性も欠くと思うけど……いいわね」

団長「そんなことは今更気にはせん。無いよりはましじゃ」

魔王「そうね」


魔王「まず、半魔の成り立ちから調べてみたんだけど」

魔王「やはりその多くは、魔族の人間族領への侵攻ないしはその逆に伴った暴行によるものみたいね」

魔王「でも、思ったより『駆け落ち』というものが多くあったみたいよ」

団長「駆け落ち?」

魔王「ええ。魔族と人間が禁断の恋に……ってやつね」

魔王「基本的に、魔王軍ではその行為は魔王への反乱として重罪とされていたわ」

魔王「侵攻先の行いは見て見ぬふりだったみたいだけど」

魔王「ま、それについては逐一資料に残されていたから、調査は割と楽だったわ」

団長「なるほどのう。それで、儂は結局どっちの生まれだったのじゃ?」

魔王「さっきも言った通り正確性には欠けるけど、恐らく後者ね」

魔王「その処刑リストの中に気になる名前を見つけたのよ」

団長「気になる名前とな」

魔王「そう。その中で唯一上級魔族……それも『王』の称号を持つ魔王軍最高幹部の名がね」


団長「『王』とは、確か『右王』、『左王』や『剣王』といったあれか?」

魔王「そう。彼の名は『賢王』。かつて父上の参謀を務めていた魔族よ。確か、人間族をもはるかに凌駕した知恵を持っていて、6人の勇者を陥れた策のほとんどに関与していたとか」

団長「!」

団長「なんと……」

魔王「彼が処刑されたのは約二十数年前……年齢とも辻褄が合うんじゃない?」

団長「確かにのう」

団長「しかしそんな大幹部がなぜ命を捨ててまで駆け落ちを?」

魔王「そこまではわからないわよ!」

魔王「父上への忠誠が足りなかったんじゃないの!?」

魔王「あ、でも一つだけ変なところがあってね」

魔王「その賢王はどうも戦闘能力が皆無だったらしいのよ」

魔王「もちろん魔力もほとんどなかったみたいね」

団長「そうなのか?それでは儂の魔力は説明がつかんのではないかのう」


魔王「まあそうね。でもそれ以上は分からなかったわ。悪いわね」

団長「うーむ……ありがとうなのじゃ。もう少し自分で考えてみることにしよう」

魔王「ところで、あの猫娘についても調べてみたんだけど……」

団長「ん?」

魔王「あの異常な戦闘能力は『獣王』の血による可能性が高いわね」

団長「獣王じゃと!?」

団長「獣王といえば、あの魔王軍侵攻部隊の将軍じゃった魔族ではないのか?」

魔王「ええそうね。しかしこちらは勇者娘のように綺麗な育ちではなさそうよ」

団長「ということは……?」


魔王「ええ。獣王には、娯楽目的に人間族をさらい、弄ぶ癖があったみたいでね」

魔王「彼の元住居にはそれ用の施設まであったという話だったわ」

団長「なんと……」

魔王「まあ、もちろん淫行だって行われていたでしょうね」

魔王「施設といってもさらわれる人間の数が数だったから、逃げ出したとしてもあまり気に留めていなかったみたいでね」

魔王「獣王ないしその一族の子を宿した人間が荒地まで辿り着いていたとしても不思議じゃないわ」

魔王「まあ、その施設の中には、敗北した勇者パーティーの一部だって入っていたらしいから、もし優秀な女格闘家がその逃げ出した人間の一人だったとしたら、あの戦闘力も説明がつくわね」

魔王「さらに、獣王は獅子型の魔族よ。猫型魔族は近縁中の近縁」

魔王「この疑いはほぼ確定といったところでしょうね」

団長「なるほどな……分かったのじゃ。ありがとう」

団長「しかし、お主に筋道立てて説明する能力があったとは……」


団長「もしや魔法使いの真似じゃな!?」

魔王「だからそういうのじゃないって言ってるでしょ!!」

魔王「いい加減にしないとこの城ごと吹き飛ばして……」

団長「わあああああっ!悪かった悪かった!」

団長「落ち着いてほしいのじゃ!」

魔王「分かればいいのよ」

団長「ふぅ」

団長(こやつ、ひょっとして楽しんでやっているのではないのか……?)

魔王「ふふふ」ニヤニヤ


団長「で、この後はどうするのじゃ?」

団長「どうせお主のことじゃ、また無断で抜け出してきたんじゃろう」

魔王「まあね、でも今回はすぐに帰らせてもらうわ」

団長「どうかしたのか?」

魔王「最近側近がどっかに出かけっきりでね、お蔭で私が復興省の会議に出さされているのよ」

魔王「本当は物凄く行きたくないんだけど、行かないとまた魔族に不利な取り決めができちゃうし……」

魔王「はぁ、いつの間に魔王はこんな残念な役職になってしまったのかしらね」

魔王「いっそのことこの国の大使にでもなってしまいたいわ」

団長「お主も魔族のために努力しておるんじゃな……」

団長「ま、一族の長の運命というものじゃ、真の平等が得られるまで耐え忍ぶしかないじゃろうよ」

団長「儂もその気持ちは痛いほどわかる」

魔王「あなたとは分かり合えそうね」

魔王「まあいいわ、また帰ったら調査も続けてみることにするわ」

魔王「首を洗って待ってなさいよ!」

団長「何か使い方を間違っておらんか?」

こうして数日後魔王は再び帰路についた。

ちょっとした閑話でした

>>720訂正

魔王「彼が処刑されたのは約十数年前……年齢とも辻褄が合うんじゃない?」

団長「確かにのう」



―――同刻 代表執務室―――


代表執務室では、勇者はじめ元パーティーのメンバーが集まって、パーティー解散から
今までのことを語り合っていた。


勇者「……とまあ、こんな感じさ」

勇者「いろいろあったけど、ついにここまで辿りつけたよ」

副団長「おぉ~!」パチパチパチ

戦士「おいおい、ちょっとばかし美化しすぎなんじゃねえか?」

戦士「ってかなんで猫がここにいるんだ」

副団長「べ、別にいいじゃないか、ボクも勇者パーティーの冒険譚には興味があるんだから!」

戦士「ったくしょうがねぇなぁ……ってあれ? 今猫を否定しなかったよな」

副団長「あっ、いや、それは……いや、ボクは猫じゃない!」カァー

戦士「自慢の反射神経が聞いてあきれるぜ」

僧侶(お2人は仲が良いんですね)ヒソヒソ

魔法使い(ま、類は友を呼ぶってところかしら?)ヒソヒソ


僧侶「しかし、流石ですね。あの時の言葉をたった数年で成し遂げてしまうなんて……」

魔法使い「あら、貴女だって今や奇術の国の軍務理事にまでなり遂せたじゃない」

僧侶「いえ……私はあくまでレールの上をただ歩いてきただけに過ぎません」

勇者「と、言うと、君が軍務理事になることは初めから決まっていたってことなのかい?」

僧侶「そうですね……極端に言えばそうなります」

魔法使い「是非その一部始終を聞かせてもらいたいものね」

勇者「光の国戦線防衛に銅の国無血占領……よっぽどこっちの方が英雄譚に相応しそうだね」

戦士「どっかのナマクラ勇者とは大違いだな」

副団長「……」ワクワク

僧侶「そんな大したことはありませんよ。私はただ私の成すべきこと成しただけに過ぎません」

僧侶「まずは、私が故郷の里へと帰郷したところからお話ししましょう」

そう言って、僧侶はそれから今までの一部始終を話し始めた。



―――パーティー解散後 奇術の国の片田舎 僧侶の故郷の最寄り駅―――


プシュー
ゴロゴロゴロ


僧侶「はぁー!遂に帰って来れたなぁ……何年振りだろう」

僧侶「出ていくときはもう帰ってこないものだと固く志したものだったけど……」

僧侶「まさかまたこの無人駅で降りる日が来るなんて」

僧侶「変わってないなぁ……」

誰もいない改札を抜けると、駅の入り口では僧侶の母が迎えのためにやってきていた。

僧侶「お母さん!!」

僧侶母「僧侶~! 待ってたわよ!」

僧侶「元気にしてた? 病気になってない?」

僧侶母「見ての通り、元気そのものよ。あなたこそ心配したのよ?」

僧侶「大丈夫。またすぐに行かないといけないけれど……勇者様と一緒に旅をして、私、とっても強くなったんだよ」

僧侶母「よかった……本当に良かった……」ギュー

僧侶母「あなたは私の自慢の娘よ」

僧侶「ありがとうお母さん……」


こうして、僧侶は旅の思い出を語らいながら、自宅へと帰っていった。


―――夜 僧侶宅 居間―――

僧侶「それでね、私最後には勇者様の作戦を修正して、もっと犠牲が少なく済むようにしたんだ!敵も味方もね」

僧侶「それで、あの難攻不落ともいわれた死の谷も攻略できたんだ」

僧侶「まあでも、魔王城にたどり着く直前で戦争は終わっちゃったんだけどね」

僧侶「あれ以上犠牲が増えなくてよかったよ」

僧侶母「そう……それは凄いわね」

僧侶母「見ないうちに本当に成長したのね。旅に出る前はあんなに泣き虫だったのに」

僧侶「や、やめてよお母さん!あれはもう10年も前の話なんだから……!」カァー

僧侶母「背も伸びて顔立ちも綺麗になって……見違えるようだわ」

僧侶母「でも、その絹みたいに鮮やかで真っ直ぐな金色の髪は変わってないわね」

僧侶「そんな……私なんて大したことないよ……」

僧侶母「で、その後はどうしたの?」

僧侶「その後は、理事長に会って、光の国の大隊参謀長として光の国へ赴けって命令を受けちゃった」

理事長というワードを口にした瞬間、僧侶母の表情が一瞬引き攣った気がした。

僧侶「お母さん?」

僧侶母「……理事長に会ったの?」

僧侶「うん。それがどうかしたの?

僧侶母「いや、何でもないわ」


僧侶母「また、戦争に行くの?」

僧侶「うん……でも、今までも人間族の平和のために戦ってきたし、光の国でも犠牲をできるだけでない作戦を使って……」

僧侶母「もう休んでもいいのよ。貴方は十分戦った。それだけでもう私は十分よ」

僧侶「でも……」

僧侶母「でも?」

僧侶「……」

僧侶「わから……ないよ……」

僧侶「勇者様も魔法使いさんもみんな目標があって、それに向かって努力してるのに……」

僧侶「私だけ……」

僧侶「でも……私、自信がない……」

僧侶「本当にこのまま光の国軍に行って一人でも多くの人の命を救えるのか……」

僧侶「またこれまでみたいに……いや、これまで以上に犠牲を増やしてしまうかもしれない……」

僧侶母「……まったく。そういうところだけは昔っから変わってないわね」

僧侶母「10年前だって、最後には決意してこの里を出ていったものじゃない」

僧侶母『僧侶には僧侶にしかできないことがある……だからいつかその時が来るまで僧侶を頼んだ』

僧侶母「これはもう20年前に貴方の父が残した言葉よ」

僧侶「父さんが……?」


僧侶母「ええ、といっても、彼はそれっきりここを出ていって連絡が全くつかなくなってしまったんだけどね」

僧侶母「そういえばあなたに父のことを話したことはほとんどなかったわね」

僧侶「うん。私もまだ物心がつく前にいなくなっちゃったから……」

僧侶母「彼は本当に頭のいい人だったわ。子供のころからね。終いには変わった事まで言い出すし……私には到底理解できない人だった」

僧侶母「でもそんな彼に惹かれたのは運命とでもいうべきなのかしらね」

僧侶「……ふふ。私たちって、やっぱり親子」

僧侶母「ん、どうかしたの?」

僧侶「ううん……何でもない」

僧侶「ありがとうお母さん。おかげで気持ちがすっきりした」

僧侶「やっぱり私は私にしかできないことをやるべきだと思う」

僧侶「精一杯戦争の犠牲を減らして、平和な世界を作るためにね」

僧侶母「その意気ね」

僧侶母「じゃあ、今日はもう疲れたでしょう? あなたの部屋もそのまま残してあるから、ゆっくりお休みなさい」

僧侶「ありがとうお母さん」

僧侶「また明日ね」

僧侶母「お休み」

トテテテ……

僧侶母「あの娘は、ついに父親にも会ってしまったみたいね……」

僧侶母「あの娘は貴方にはどう映ったのかしらね」

僧侶母「どうせ今も見えているんでしょう?」


―――寝室―――

ボフッ

僧侶「この匂い、雰囲気……」

僧侶「あの旅立ちの日の前日と何も変わってない」

僧侶「でもちょっとだけベッドが小さくなったかな?」

僧侶「旅の途中はいつも即席テントで寝泊まりしたっけ」

僧侶「あれももう懐かしいなぁ……」

僧侶「たまに勇者様が隣にいて、緊張して眠れない日もあったっけ……」

僧侶「勇者様……元気にしていらっしゃるのでしょうか……」

僧侶「結局最後まで伝えられなかったけど……私……やっぱり……勇者様のこと……が……」

僧侶「……すー……すー……」

こうして、僧侶の故郷での一夜は更けていった。
不気味な影を覆い隠して。


―――深夜―――

ズダダダダ
ゴオォォォォ
キャアアアアアアア
ドォォォォォン


僧侶「……ん?」

僧侶「なんだろう……」

僧侶「!?」

僧侶が窓の外を見やると、さきほどまで静まり返っていた里が赤く燃え上がっていた。

僧侶「え……嘘……?」

僧侶「はっ、お母さん!!」

ヒュルルルルル

僧侶「!?」

ズガァァァアアアアアアアン
ガラガラガラ……
僧侶が自室の扉に手をかけた瞬間、砲弾が家に命中し、家は炎と共に破壊された。

僧侶「ぐ……」

僧侶はそれより一瞬早く自身に防御魔法をかけ、難を逃れた。

僧侶「お母さんっ!! お母さん!!!」

ゴォォォォ

火に包まれ、今にも倒壊しそうな家の中を、防火魔法を使ってくぐりぬけていくが、中々母の姿が見当たらない。

僧侶「お母さん!」

そして、間もなく瓦礫と化した家の倒壊部分の下敷きとなった母を発見した。

僧侶母「がはっ……逃げな……さい……」

僧侶「そんな!お母さん!」

僧侶母「貴方は……生きて……世界を………ぐふっ」

僧侶「嫌だ、嫌だよ!そんな……!」

僧侶母「最期に……会えて……よか……た……」

ガラガラガラ

遂に限界を迎えた家屋が倒壊を始める。


???「危ない!僧侶さん!!」

バッ

突如現れた奇術国軍の軍服の青年に抱えられ、僧侶は倒壊から逃げ延びた。
しかし、目の前の悪夢に正常な意識は失われ、茫然と燃え盛る旧家屋を見つめていた。

僧侶「そ……んな……」

???「お怪我はありませんか?」

バシィ

僧侶「貴方が……あなたが殺したのね……?」

???「なっ!?」

僧侶「許さない……あなたも、理事長も……」グワッ

僧侶の放った強力な殺気の混じった魔力は、魔法を使えないはずの奇術国民にまではっきりと感じ取れるほどであった。明確な生命の危機として。

???「違うんです! 私は理事長に命じられて僧侶准将閣下、あなたを助けに来たのです!」

僧侶「理事長に……?」

ふっと殺気が止んだ。

???「ええ……私は理事長直属の特務部隊所属、特務大佐の『大佐』と申します」

大佐「それよりも閣下、早くここを脱出しましょう」

大佐「裏の森に私の部下が待機しております」

大佐「詳しくはそこでお話しいたします」

僧侶「わ、分かりました……」

燃え盛る故郷を背に、僧侶は青年に支えられながら森へと落ち延びていった。


―――光の国へと向かう高速道路 軍用車内―――

大佐「お怪我がなくて何よりです。閣下」

僧侶「そ、その呼び名はやめてください。それより、いったい何が……」

大佐「はい。あれは理事長に敵対する『政務理事』の部下、『奇術国軍第2師団長』の軍です」

大佐「名目上は脱獄した凶悪犯を匿った疑いだそうですが、実態は閣下、貴女の命を狙ったものに間違いありません」

大佐「母君のことは本当に悔いが残るものでありました……どうかお許しを」

僧侶「な……私の命を……?どうして……」

大佐「閣下は魔族討伐の英雄として国民の支持を十二分に受けております」

大佐「おそらく、自らの権力が脅かされるのを恐れたのではないかと……」

僧侶「そんなことのために……母が……里のみんなが……」

僧侶「そう……ですか……」

僧侶「なるほど……理事長が言っていたことの意味をようやく理解できた気がします」

僧侶「無力では犠牲を減らすことなど到底できないのですね……」

大佐「これからは私も閣下専属の秘書として護衛に努めさせていただきます」

大佐「どうかご安心を」

僧侶「ありがとうございます。あと、呼び方は僧侶で結構ですよ」

大佐「承知しました。僧侶さん」

僧侶(私の故郷もここまで汚れきっていたなんて……勇者様がどうしてあのようなことを言い出したのかも真に理解できた気がします……)

僧侶(私は……私のやり方で私だけにしかできないことを……)

ブロロロロ……

僧侶の、ほんの昨日まで純粋な眼差しで満ちていた目に、初めて濁りが混じった瞬間であった。


そしてその後、僧侶は数々の功績を挙げ、銅の国無血占領後には新しく建国された『白金の国』の総督に任じられ、実質的に白金の国の実権を掌握するに至った。


僧侶外伝そのⅠでした


―――数年後 白金の国建国記念式典数日前 白金の国総督府―――

記念式典の数日前、突如新設総督府に複数の急報が寄せられた。

僧侶「なんですって!? 勇者様が危ない?」

大佐「はっ。特務部隊員からの報告です。どうやら勇者様が電気の国へ入国するのに合わせて、国境付近での大規模な軍事演習が行われる予定だと……」

大佐「指揮官はあの第2師団長の『中将』だということです。間違いなく謀殺の計画でしょう」

僧侶「なるほど、やはり裏で糸を引いているのは政務理事ですか」

大佐「そのようです」

僧侶「……私の軍も電気の国首都まではカバーできますがそれ以降は厳しいですね」

僧侶「大佐、特務部隊を率いて国境付近都市まで赴いてください」

僧侶「勇者様を、絶対にお守りするのです!」

大佐「はっ!」

大佐「それと、もう一つ知らせが入っております」

僧侶「もう一つ?」

大佐「最近、不干渉区の活発化に合わせて、魔術国民が奇術国に少しづつ往来し始めているのをご存知ですね」

僧侶「はい。それが何か?」

大佐「どうやらその中に魔術国軍のスパイが紛れ込んでいる疑いが強いらしく、何やら最近奇術国の首都付近で怪しげな動きを見せているとのことです」

僧侶「魔術国軍も陰湿な手を使うものですね。まあ、それも奇術国軍が言えたことではありませんが……」

大佐「それが、先日理事長からの直接の連絡がありまして……白金の国建国記念式典を狙ったテロの疑いがあると……」


僧侶「想定される中で最悪のケースでしたか……」

大佐「私だけでも僧侶さんの護衛につくべきかと思われるのですが」

僧侶「いえ、結構です。向こうには軍務理事と外務理事がいますから。彼らは私たちの数少ない味方です」

僧侶「それに、これは良い機会とも取れるでしょう?」

僧侶「この機に乗じて政権を奪取し、母の敵を討つのです」

大佐「ついにこの時が来ましたね」

僧侶「ええ……あなたに助けられてから数年……思ったより短かったものです」

大佐「僧侶さんには十分な才能がおありでしたからね」

僧侶「いえ、大体は運に過ぎませんよ」

僧侶「それじゃあ、私は行きます」

僧侶「勇者様のこと、くれぐれも頼みました」

大佐「はっ!」

大佐(この数年で彼女もすっかり変わってしまわれたものだ……)

大佐(これが本当に良かったことなのか……)



―――数日後 記念式典当日 企業連合本部ビル エレベーター―――

僧侶は事前の調査で、テロが本部ビル内数か所で起こることを完全に特定していた。そして、口実を用いて外務理事をはじめとした味方幹部及び職員を全員屋外に出し、政務理事をはじめとした敵対勢力は特に通知もせず屋内に残したまま放置していた。
と言っても、彼らが僧侶の地位就任を祝うはずなどなく、もし僧侶が通知をしていたとしても無駄だったであろうということは皮肉ともいえる。

軍務理事「本当に、これでよかったんですかい?」

僧侶「ええ。もう私は数年前の私とは違うんです」

僧侶「無駄な感情は無駄な犠牲を生むだけ……そう教えてくれたのは死んでいった愛しき人々でした」

僧侶「それに、こうでもしないと彼らや理事長は私を認めてはくれないでしょう?」ニコッ

軍務理事「わかりました。それなら、仰せの通りにいたしましょ」

軍務理事(まさか本当にここまで来るとは……)

軍務理事(理事長も本当にお人が悪いねぇ……)


―――理事長室―――

ガチャ

僧侶「お久しぶりです。理事長」

理事長「久しぶりです。しかし来ることは分かっていましたよ。ずいぶん見違えたものですねぇ」

理事長「目つきも変わって……いろいろな経験をなさってきたのでしょう。しかし……」

僧侶「単刀直入に聞きます」

理事長「ほう……何でしょう」

僧侶「貴方はいったい何者なのですか?理事長」

僧侶「返答次第では貴方の命はすぐさまこのビルと共に散ることになります」

理事長「なんと……あの純真だったあなたが私を脅迫するほどまでになるとは……驚きです」

理事長「いいでしょう。お答えします。最後の置き土産を貴女に託すことにしましょう」

僧侶「置き土産……?」

理事長「ええ。……貴女は魔法を使えるんでしたよね」

僧侶「今更何を……」

理事長「それなら話も早いでしょう」

理事長「魔法とは先天的センスと後天的教養。この二つが密接に関わって成立する、なんとも合理性に欠ける能力です」

理事長「半魔族でもない限り、人間は教養によってしか魔法を習得できず、先天的に魔法を使いこなすセンスを持つことは滅多にありません」

理事長「しかし、それも確率が0%なわけではありません。これまでの歴史から見ても、奇術の国で英雄として名高い者の多くが魔法を先天的に使えたという例があります」

僧侶「まさか」

理事長「ええ。私も使えるのですよ。魔法が。それも炎魔法や筋力増強魔法などというコモンな魔法ではなく、『千里眼魔法』という珍しい魔法をね」

僧侶「千里眼魔法……!? 歴史上かの大賢者だけが使えたといわれる伝説の!?」

理事長「ええ。これに気付いたのは10代の頃でしたか」

理事長「ある日眠りにつくと見えたのですよ……世界中の風景に会話に場面に戦争に……」

理事長「世界中で起こるあらゆる物事がすべて見えたのです」

理事長「はじめは夢かとも疑いましたが、私の見たことは直後に事実としてニュースで伝わっていく……それを見て、確信したんですよ」


理事長「コントロールするまでには時間がかかりましたが……今ではこの眼鏡を外している時のみ、物事が見えるようになっています」

理事長「言うなれば、世界の観察者……それが、私の正体です」

僧侶「そんな……それなら、私の母も助けられたのではないのですか!?」

僧侶「死んでいった仲間たちだって……敵でさえも……」

僧侶「皆見殺しにしたんですか!!」

理事長「考えてもみてください。私もこれまで他人の何万倍も人が死に、殺され、殺していく様を見てきたのです。人ひとりの死にはもはや執着する意味をなくしているのですよ」

理事長「それは、貴方の母……いや、私の妻だとて変わりはしません」

僧侶「えっ……?」

理事長「おや、まだ知らなかったようですね」

理事長「私こそ貴女の正真正銘の父親というものです」

理事長「よくここまで辿りつきましたね、わが娘よ」ニコッ

僧侶「そんな……ことって……」

理事長「さて、ほかに何か言いたいことがあるのではないのですか?」

僧侶「……そうですね。理事長が秘密裏に開発していると噂されている兵器のことです」

僧侶「条約によって使用が禁止された兵器を開発するなんて、糾弾は避けられません」

僧侶「以前の反魔法弾のこともあります」

僧侶「その真意を聞かせていただきたいですね」

理事長「……使用は禁止されていても、開発が禁止されているわけではありませんよ」

理事長「それに、あれは後日必ず貴女の役に立つはずです」

理事長「何もなければ解体するなり自由にしてかまいません。データもすべてお渡ししましょう」

僧侶「分かりました。それなら結構です」

理事長「さて、爆破が行われるまであと5分余りです」

理事長「どうするのですか?私を殺すつもりですか?」

僧侶「……いえ、貴方の正体はよくわかりました」

僧侶「私は貴方を殺しはしません。しかし、助けることもしません」

僧侶「即座に理事長の職を辞任する……ただこれだけが私の要求です」

理事長「そうですか……いいでしょう」

理事長「先ほども言いましたが、これからのことは貴女の好きになさるといい」

理事長「ただ……」ヒュッ

パシッ

僧侶「これは……?」

理事長は僧侶に向かって小型記憶装置を投げ渡した。

理事長「私の伝えたいことはそこに全てまとめてあります。もちろん、嘘偽りはありません」

理事長「それを見て貴女がどう動くかも自由です」

僧侶「……」

僧侶「それでは、さようなら。父さん……」

ガチャ


理事長「……合格、ですか」

理事長「これならあながち最悪の結果は免れそうですね」

理事長「さあ、私の親子の奇妙な絆か、貴方の魔族への愛か、貴方の娘への愛か……どれが最も素晴らしいか、見ものですね……」

理事長「そういえば、最高級の紅茶が偶然手に入ったんでした」

コポポポポ……

理事長室には、ガラス張りの外壁から、赤い夕日の光が差し込んでいた。

理事長「やはり、この景色だけは、自分の目で見ないと気がすみませんねぇ」

理事長「最後に見た景色が、自分の目で見た娘と美しい夕日とは」

理事長「なんと合理的で美しい人生の終わりなのでしょうか……」

理事長は一人夕日にティーカップを捧げ、夕日のような赤い紅茶を口元へとそっと滑らせていった。

こうして、1人の合理家の時は、彼の最も愛したものたちと共に停止した。



――――戻って 現在 代表執務室――――

勇者「……なるほど」

勇者「それで、その小型記憶装置の中にはどんな事が入っていたんだい?」

僧侶「そうですね……初めは私も遺書か何かだとでも思っていたのですが……」

僧侶「今起こっていることに関する驚くべき事実が含まれていました」

僧侶「これを聞けば、恐らく私のあの行動にも納得していただけると思います」

勇者「つまり、どういうことだい?」

僧侶「まず初めに……間もなく魔術国連合は崩壊します」

勇者「なんだって!?」

魔法使い「どういうことかしら?」

僧侶「崩壊するといっても、奇術国連合との戦争によってではなく、内部の反乱によって、ですが」

勇者「反魔族派の、かな?」

僧侶「その通りです。前理事長によると、まず全ての黒幕は幸の国である、ということです」

戦士「幸の国が?」

勇者「なるほど、以前の件から怪しいとは思っていたけれど……」

僧侶「はい。もとは幸の国が、魔族との戦争の間に各国に浸透させた幸の国派の官僚を用いて、奇術国と魔術国を争わせ、最後に疲弊した両連合を統一する計画だったそうです」

僧侶「しかし、前理事長がその千里眼魔法を使ってその野望を看破し、諸反乱や今回のテロをもって幸の国派の一党を奇術国連合から完全に排除しました」

僧侶「その上、私が奇術国内で権力を持ったおかげで奇術国連合は以前よりも強固な国力を持ったため、魔術国連合との国力のバランスが崩壊」

僧侶「そこで、幸の国はまずは魔術国連合だけでも手中に収めるため、工作を用いて各地で反乱を起こし、その実権を握るつもりの模様です」


勇者「なるほどね……僕も以前からあの国は怪しいとは思っていたが、まさかそこまで根を張っていたとは」

勇者「幸の国王も末恐ろしい限りだよ」

勇者「それで、その策略に対する対応策は、反乱に乗じて魔術国連合各地を制圧し、幸の国の支配が及ぶ前に奇術国がそれを抑えてしまうこと」

僧侶「その通りです」

勇者「確かに合理的ではあるけれど、魔法使いとしてはどうなんだい?」

魔法使い「私は一向に構わないわ。あいにく私には望郷の念というものが欠けているみたいでね。どっちかというと祖国が悪の黒幕だと誹謗されたあなた方のほうが心配されるべきなんじゃないかしら?」

僧侶「いえ、そんなつもりでは……」

勇者「僕だって一向に構わないさ?なあ戦士」

戦士「ああその通りだ。確かに飯を食わせてもらった恩はあるが、それも死地へと放り投げるためだけにすぎないんじゃあ、感謝のしようがないぜ」

戦士「奴らも死人の口から礼を言われるのは御免だろうさ」

勇者「ま、そういうことだね」

勇者「これからは奇術国方面の国交を重視することにするよ。最も、勇者の国にいる魔術国民への配慮も欠かせないけどね」

勇者「それと、すぐに同盟を結びなおして、奇術国側の人間に仰ぐ旗をすぐ変えるような恩知らずな国だと思われるわけにはいかないから、少し時間をかけつつ同盟にこぎつけることにしよう」

魔法使い「文句のつけようは特になさそうね」

僧侶「そうですね」

僧侶「あと、もう一つ妙な文章がありまして……」

戦士「まだあんのか?」

僧侶「ええ……どうもあの先代魔王がまだ生きている、というのです」

勇者「先代魔王が? そんな馬鹿な」

戦士「あのチンチクリン魔王だってもう死んだって言ってたじゃねえか」

魔法使い「にわかには信じがたいわね」


僧侶「そうなんですが……実は何か秘術のようなものを用いて現幸の国王に取り憑いている、だとか」

勇者「ふむ……実態はよくわからないが、あながち嘘ということでもないんだろう」

戦士「そんなこと可能なのかよ、魔法の大権威さんよ」

魔法使い「秘術……ね。その情報だけじゃあさすがに判別しかねるから、少し調査してみることにするわ」

魔法使い「流石に、魔法で死者を蘇生するのは不可能よ。まあ、ゾンビとして操ることくらいなら可能でしょうけど……」

魔法使い「生き物が持つ『魂』というものは、身体の崩壊とともに一瞬にして壊れてしまうもの」

魔法使い「でも、それがなくては自我を持つことはできないし……」

戦士「魂、ねぇ」

僧侶「そうですよね。私も同じことを考えてどうしても納得がいかなかったんです」

勇者「まあとにかく、この件に関しては魔法使いに一任しよう」
魔法使い「一応魔王ちゃんにも伝えておいたらどうかしら」

魔法使い「魔国に何か資料があるかもしれないし」

勇者「そうだね。後で伝聞魔法を送っておこう」

勇者「それと魔法使い、よければ一旦魔術国へ帰国してほしい」

勇者「そして、魔術国内の動きをこちらに知らせてくれ」

魔法使い「任せておきなさい」

勇者「それでは、これからは正式な国家として他国に接していくことになる」

勇者「外が物騒な分、当分は内政に力を入れておこう。それと、以後幸の国と魔術国連合内の動きには特に注視しておくように」

勇者「あと、念のため魔術国方面の憲兵部隊を増員しておくことにしよう」

戦士「おう」

勇者「最後に、ここで話したことはくれぐれも内密に。頼んだよ」

戦士「だってよ猫」

副団長「な、ボクだってそれぐらいは……」

副団長「でもそれって団長にもってこと?」

勇者「団長には僕が後で話しておくよ」

魔法使い「それじゃあ、これぐらいにしておきましょう」

勇者「そうだね、今日は客人も来てくれてるしね」

僧侶「そんな、私に配慮は不要です……」

勇者「元パーティーとはいえ、今では僕より偉くなっちゃったわけだから、礼儀は払っておかないとね」

勇者「では、解散」


―――数日後 僧侶帰還の日 代表執務室―――

この日、僧侶は帰りのあいさつ代わりに代表執務室に立ち寄った。

僧侶「それでは、少し挨拶だけしてきますね」

大佐「それならば私も……」

僧侶「いえ、少しだけ、二人にさせてもらってもいいですか?」

大佐「二人に、ですか?」

大佐「……分かりました。では、外で待機しております」

僧侶「ありがとう」

僧侶(今日こそ、あの事をお伝えせねば……)

僧侶(まだ勇者様のパーティにいた頃からずっと心に溜め込んでいた事……)

僧侶(次に会えるのは恐らく遠い未来になる……それなら、けじめをつけておかなければいけませんね)

ガチャ

僧侶「失礼します」

勇者「お、やあ僧侶、もう帰っちゃうんだね」

僧侶「はい。本当に数日間お世話になりました」

勇者「いやいや、またいつでも来てくれるとうれしいよ」

勇者「次は是非奇術国の方にも行かせてもらいたいな」

僧侶「そうですね、ぜひ歓迎させていただきます」

勇者「それじゃあまた」

僧侶「ええ。それでは」

スタスタ

僧侶(……じゃなくて、あの事をお伝えしないと!)

ピタッ


勇者「ん、僧侶……?」

勇者「どうかしたのかい?」

僧侶「勇者様、私、勇者様にお伝えしないといけないことがあるんです……」

勇者「え、僕に?」

僧侶「あの、ええと……」

僧侶(どうしよう……うまく言葉が……)

僧侶「ゆ、勇者様は……お、幼い女の娘が好みなんですか?」

僧侶(って、私何を言って……)

勇者「幼いって……団長のことかい?」

勇者「まさか、僕にそんな趣味はないさ」

勇者「ま、好みも何も、僕なんかに選択権があればこそだけどね」

僧侶「あ、あります!勇者様にだって女性を選ぶ権利は十分にあると思います!」

勇者「え、そ、そうかなぁ」

勇者「まあもし僕を選んでくれるって人がいたら、その時はその時で受け入れると思うよ」

勇者「せめて死ぬ前には結婚ぐらいしておきたいとは思うしね」

勇者「って、なんでこんな話をしてるんだか」

僧侶「そうですか……それなら……!」

僧侶「もし、世界が平和になったら……その……私を、私なんかでよければ、そのお相手に選んでは貰えませんか?」

僧侶「私、パーティーの時から勇者様に憧れていて……それで……」カァー

勇者「えっ? 君を?」

僧侶「やっぱり、私なんかでは務まりませんか……?」

勇者「……」

勇者「……いやいや、さっきも言った通りさ」

勇者「やっぱり僕に選択権は無かったようだね」

僧侶「えっ……?」

勇者「僕は一生に一度だけ、君の申し出を受けて君のことを選ぶ。ただそれだけみたいだからさ」

僧侶「勇者様……!あ、ありがとうございます!」

勇者「久しぶりに会ったときは変わってしまったなぁと思ったものだけど、やっぱり僧侶は僧侶だったみたいだね」

勇者「君にはそのきらきらした眼差しが似合っているみたいだ」

僧侶「そんな……大したことは……」

勇者「それなら僕は一層平和を目指す動機ができてしまったね」

勇者「一緒に平和な世界を目指そう。よろしく」

勇者は握手を求めた。

僧侶「はい!」

ガシッ

こうして、僧侶は奇術の国へと帰っていった。

ここまで
突然のラブコメでした

小説版リメイクひっそりと始めました。


―――数日後、魔法使い帰還の日 魔術国大使事務室―――

ガチャ

勇者「やあ、準備の方は終わったかい?魔法使い」

助手「勇者様!」

魔法使い「あら、もうほとんど終わったところよ」

魔法使い「何か御用かしら」

勇者「あの先代魔王の件なんだけど、何か分かったことはあるかい?」

魔法使い「そうねぇ……いくつかそれと思しき資料は見つかったんだけど、どうしても腑に落ちないことがあるのよ」

勇者「腑に落ちないこと?」

魔法使い「ええ。自らの魂を道具などに移すというのは割と容易に可能なんだけど、それをさらに別の生き物に憑依させるとなると一気に難しくなるのよ」

魔法使い「まず、憑依させるほどの魔力を道具に宿すのにもかなりの高度な魔法技術が必要だし、実際それだけの魔力を移すとなると相当魔力耐性がある道具じゃないと魔力に耐えられないはずなのよね」

魔法使い「さらに魂だけを移したとしたら先代魔王の強大な魔力が暴走してしまうだろうし……」

勇者「ふむ、つまり?」

魔法使い「魔法技術はともかく、魔王の魂を移すとなったらそれに付随する強大な魔力が邪魔をして上手くいかないはず、ということね」

勇者「うーむ、僕ははその分野に関しては詳しくはないからいまいち分からないけど、かなり難しいということだね?」

魔法使い「ま、それだけでもわかれば合格点ね」

勇者「どうも」

勇者「でも、僧侶が言っていることが本当だったなら、一体どうやって……」

魔法使い「それに関しては今調べているところよ」

魔法使い「魔術国に帰った時に全力で調べてみるわ」

助手「私もお手伝いしますよ!」

勇者「ありがとう」

勇者「それじゃ、しばしのお別れだね」

魔法使い「あら、その言い草だとまたすぐ会えるみたいな言い方ね」

勇者「まあ、実際長くはないんじゃないかな。今の奇術国軍の強さならあっという間に魔術国本国も落としてしまいそうだしね」

魔法使い「ま、否定はできないわね」

魔法使い「せいぜい本国の貴族たちが逃げられないよう結界でもはっておくことにするわ」

こうして魔王、僧侶、そして魔法使いはそれぞれの祖国へと帰っていった。

そして、勇者の国にはしばしの平和が訪れた。
正式な国家として独立したことにより、動揺した国内は安定し、三族の平和は再びよりを戻した。

一方、奇術国連合はその政変からの体制をすぐに建て直し、魔術国連合との戦闘も膠着を保った。新政権の内政政策は見事に成功し、奇術国の国力は着実に強まっていった。
しかし他方魔術国連合では、親魔族思想と反魔族思想の衝突は激化してゆき、魔術国本国の統制も限界点を迎えようとしていた。

そして、事は起こるべくして起こることとなった。


―――数か月後 花の国王都 中央広場―――

花の国国王は、百年戦争終結直後から親魔族派を表明し、人間族と魔族の調和に尽力してきた
人物であった。
しかし、今日ではその花の国国内でも反魔族の思想は盛り上がりを見せ、反魔族組織なるものが政府の要所を攻撃するほどまでに力を持ち始めていた。
よって、この日は国民の意思を統一すべく、花の国国王自身が演説台に立って演説を行うこととなっていた。

花の国王『愛すべき我が臣民たちよ。よく聞いてほしい』

花の国王『百年戦争はもう過去の遺物となり、今我らは新しい時代の到来を見ているのだ』

花の国王『だから我々は新しい時代なりの価値観というものを持たねばならない』

花の国王『確かに我々人間族と魔族は長い間争ってきた仇敵である。しかし、今はどうか』

花の国王『戦争は終わり、停戦協定も結ばれた。我らはもう敵ではないのだ』

花の国王『ならば我々は友好をもって彼らと接すべきではないか』

花の国王『先日新たに独立した勇者の国を見よ』

花の国王『その地では人間族と魔族だけではなく、その間の半魔までもが平和に共存しあっているというではないか!』

花の国王『我らもそれに則り、魔族との友好の道を開こうではないか!』

花の国王『最近、それをよしとせず、魔族に与するは悪であると見なして攻撃を加える輩がおるが』

花の国王『それこそ新しい時代においての悪であり、旧き時代の怨念を呼び覚ます行為に他ならないのである』

花の国王『さあ、我が臣民よ、今こそ一致団結して魔族に反する者たちを打倒するのだ』

花の国王『もちろん、暴力によってではなく、新しい時代にふさわしい、言葉という武器を持ってだ!』

ワーワー‼
ソウダソウダー‼

会場が湧き上がる中、最前列にいた男が、不意に杖を国王に向けた。

男「……即死魔法」シュバッ

花の国王「ぐ!?」

ドサッ

キャー
ナンダナンダ‼
ナニガオコッタ‼

その一瞬の出来事に会場は大混乱となった。
実行犯の男はすぐ行方をくらませ、発見されることはなかった。
そして、その後の調査から反魔族組織の犯行であることが断定された。

そして、この花の国王暗殺事件をきっかけに、魔術国連合各地で反魔族派の大反乱が勃発した!


―――幸の国 王城 玉座―――

幸の国王(先代魔王)「始まったか」

宰相(側近)「はっ」

宰相「我が部下の流言によって花の国をはじめ、魔術国全土で大反乱が勃発しました」

宰相「魔術国本国はともかく、その他中小国はすべて反魔族派の手に落ちるでしょう」

宰相「そうなれば魔術国連合は崩壊し、我が幸の国も反魔族派に味方する形で反乱に干渉すれば、魔術国連合はすべて我が幸の国が配下となるでしょう」

幸の国王「ふむ。ここまでは予定通りか」

宰相「はい。しかし……」

幸の国王「どうした」

宰相「奇術国連合はすでに反乱に乗じて侵攻を開始しました」

宰相「いくら状況が状況だったとはいえ、早すぎる上に準備が万端すぎます」

宰相「どこからか情報が漏れていたのではないでしょうか……」

宰相「それに、このままでは奇術国連合に先を越され、我ら幸の国が介入する前に魔術国連合は平定されてしまいます」

宰相「どうなさいましょうか魔王様」

幸の国王「ふむ……やはりあの青二才の正体は……」

幸の国王「そうか。それならそれでよい。好きに攻めさせてやれ」

宰相「しかしこのままでは」

幸の国王「任せておけ。策はある。まだ誰にも話していない最後の策が、な」

幸の国王「あの青二才亡き今、卿に話しても問題はなかろう」

幸の国王「よいか?」

~~~~
~~~~

宰相「なるほど……それはまた大層壮大な策であらせられますな。流石魔王様であります」

幸の国王「褒めずともよい。まあ、これでどうして余があの勇者を消そうとしていたか納得がいったであろう」

宰相「はっ。お恥ずかしながら、智に乏しい私めには理解しかねておりました」

宰相「しかし、この策があれば奴も手は出せないのではないのでしょうか」

幸の国王「そうとも限らん。やつは余の策を尽く看破したあの七番目の勇者だ。油断はできん」

宰相「はっ」

幸の国王「それでは、手筈通り然る後に魔術国へ向かうぞ。それまでに卿は少しでも戦闘が激化するよう工作を続けておけ」

宰相「御意に」

幸の国王「これでもうすぐ人間族は全て滅び去るのだ……!」

幸の国王「フフフ……ハハハハハハ!!」


―――勇者の国 首都 代表執務室―――

ドタドタドタ

団長「勇者、大変じゃ! 先日花の国王が親魔族派への演説中に暗殺され、それをきっかけに魔術国連合全土で反乱が起こったということじゃ!」

勇者「ついにきたか。奇術国軍の動きは?」

団長「ああ。それを受けて既に光の国方面から水、火の国両国方面へ向けて侵攻を開始したということじゃ」

勇者「なるほど、流石に動きが速いね」

勇者「それじゃあ僕らも行動を起こすことにしようか」

勇者「全部門長を緊急招集してくれ」

団長「分かったのじゃ!」


―――同 会議室―――

勇者「さてみんな、かの預言者様の言う通り、魔術の国全土で反乱が始まった」

勇者「僕らもすばやく行動を開始しないといけないだろう」

勇者「まず団長、直ちに魔術国連合との同盟を解消してくれ。その後、経過を見て奇術国と同盟を結びなおすんだ」

団長「任せるのじゃ」

勇者「あと、戦士。くれぐれも、魔術国連合側の国境は気を付けてね。亡命者を受け入れるのはいいが、反魔族派のスパイに入られちゃあたまったものじゃない」

勇者「魔術国側の検問をしばらく強化してくれ」

戦士「おうよ」

勇者「とりあえずはこんなところかな、団長、幸の国に何か動きはあるかい?」

団長「いや、今のところは静寂極まりないな」

団長「正直気味が悪いくらいじゃ」

団長「しかし、魔術国連合を乗っ取る算段の幸の国としては、この奇術の国の動きを見てどう反応するつもりなんじゃろうな」

団長「このままだと奇術国連合が魔術国連合を取り込んで終わるだけじゃろう」

勇者「そうだね、とはいえ、幸の国も今の奇術国連合と戦ったところで敵うものでもないだろう」

勇者「このままいつまでも静かにしていてくれたら、僕らもありがたいんだけどね」

戦士「ケッ、あの幸のクソジジイがあのまま終わったりするもんかねぇ」

副団長「戦士は幸の国王のことを知っているのかい?」

戦士「知っているも何も、俺たちのケツを叩いて戦場へ放り出した張本人だぜ。忘れもしねぇ」

戦士「たしかに表面上はへらへらと愛想の良い国王だが、裏では俺たちのことを奴隷、いやそれ以下だと見下してやがった野郎さ」

勇者「仕方ないさ、戦争孤児でろくに働けもしない僕らを養ってくれたんだ。それだけで十分だろう?」

戦士「あーあ。お前のその前向き精神にはつくづく憧れるぜ」

副団長「ニャルほど、君たちも苦労してきたんだね」

勇者「まあ、君たち半魔ほどじゃないだろうけどね」

勇者「とにかく、平和の実現はもう目の前だ」

勇者「何事も起こらずに戦争が完全に終結するのを願おうじゃないか」

勇者「そうすれば僕らの目標は達成されるんだ」

団長「そうじゃな。ついに、平和が訪れるのか……」

戦士「意外とあっけねえもんじゃねえか」

副団長「平和……かぁ……」


―――会議後 行政府 塔最上階展望台―――

ヒュオオオ

団長「ふぅ。ここまで登るのも毎回毎回疲れるものじゃな」

勇者「やあ団長。今日はどうしたんだい」

勇者「成長はしないのに老化はするみたいだね」

団長「別に毎回疲れてるのじゃ。たまたま今回口に出しただけじゃろうに」

勇者「そうかい、まあ、そのほうが口調にはあってるよ」

団長「まったく。外副長にも同じようなことを言われたのじゃ。そんなに儂の口調は婆臭いのかのう」

勇者「少なくとも、見た目とのギャップは想像以上だね」

団長「勇者の名前と実力のギャップに比べたら大したことはないのじゃ」

勇者「こいつは手厳しい。で、何か僕に用でもあるのかい?」

団長「うむ。勇者……勇者は本当にこのまま平和が訪れると本当に思っておるのか?」

勇者「うーん。まあ、そうなってくれるとありがたいね」

勇者「これ以上犠牲を出さなくてもいいし、何より、楽でいい」

勇者「ま、平和こそが僕の当初の目標であり、この勇者の国に住む全員の望みでもある訳だ」

勇者「訪れるに越したことはないよ。ただ……」

団長「何か、不安なことでもあるのか?」

勇者「まあね」

勇者「あの、僧侶が言っていた『先代魔王が生きている』ということがどうしても頭に引っかかってね」

勇者「もし彼が幸の国王に乗り移って陰謀を張り巡らしているのだとしたら……」

勇者「どうしてもこのまま終わるとも思えないんだ」

団長「なるほど……やはり先代魔王というのは恐ろしい存在なのか」

勇者「そうだね。僕も一体何度命を落としかけたか……もう数えも切れないね」

勇者「そんな彼のことだ。まだ何か手を残していてもおかしくはない」

勇者「まだ情報が足りなさすぎるけど、何か胸騒ぎがするんだ」

団長「そうか……儂には到底理解できそうではないが、もし手伝えることがあったらいつでも言ってほしいのじゃ」


団長「情報収集と外交なら儂も自身があるのじゃ」

勇者「お、不干渉区発足から数年経って、団長も手に板がついたみたいだね」

団長「何を言っておる。情報収集は儂の得意分野じゃ、舐めてもらっては困るぞ」

勇者「ごめんごめん。まあ、そこまで言ってくれると頼もしいよ」

団長「う、また頭をぽんぽんしおって……儂は勇者とほとんど同い年だといっておるじゃろうに」

勇者「はは。つい良いところに頭があったものでね」

団長「く、覚えておれよ……儂だっていつか副団長や魔王のようなナイスバディを手に入れてじゃな……」

勇者「当分無理じゃないかい?」

団長「む、まあ、しばらくの間は見逃してやろう」

勇者「せいぜい楽しみにしておくよ、それまで僕が生きていればね」

団長「嫌でも見せてやるのじゃ」

勇者「そうだ、で、結局魔王に頼んでいた事って何だったんだい?」

団長「ああ、そういえばまだ話しておらんかったな」

団長「儂が理事長に会ったとき、去り際に気になることを言われてな」

勇者「気になること?」

団長「ああ。父親を探せ……とな」

団長「それで、魔王に儂の父親について何か手がかりが魔国にないか探してもらったんじゃ」

勇者「なるほど、団長も相当な魔力を持つ半魔だから、父親も相当な力を持った元魔王軍幹部の可能性は高い……か。それなら確かに手がかりくらいはありそうだね」

団長「うむ。すると、今から20数年前に反逆罪で処刑された魔王軍幹部の資料が見つかったということじゃ。それも『王』の称号を持つ、な」

勇者「『王』だって!?ということは魔王軍の最高幹部じゃないか!」

団長「その幹部は賢王といってじゃな。どうも、人間族との密愛が発覚して処刑されたということなのじゃ」

勇者「なるほど、それでその子供が北部の荒れ地に落ち延びた結果が君だということなのか」

団長「そのようじゃ。しかし、それでも奇妙な点があってじゃな」

勇者「奇妙な点?」

団長「うむ。どうもその賢王は知恵に長けた魔族で、その代わり実質的な戦闘力を持っていなかったらしくてな」



団長「魔力もほとんど持ち合わせていなかったそうなのじゃ」

勇者「なるほど、それは確かに変だね。魔族の魔力や戦闘力は大半が遺伝によって継承されるもの……」

勇者「団長が卓越した知恵を持っているのは説明できても、その強大な魔力は説明できない」

団長「そうなのじゃ、それでどうも納得がいかなくてな。また魔王に調査をお願いしてはおいたものの、これ以上何か分かるものなんじゃろうか……」

勇者「なるほどな……もしかしたら、前に団長が言っていた夢にも少し関係があるのかもしれないね」

団長「夢? あのよく分からない変な夢か?」

勇者「うん。最近もまだ見ているのかい?」

団長「ああ。相変わらずじゃ。心なしかだんだん頻度が増しているようにも感じるのじゃ」

団長「最近では情景もはっきりしてきたのじゃ。でも、何を言っておるのかは残念ながら覚えておらん」

団長「ただ何か大きな影のようなものが儂に話しかけてきているということしか……」

勇者「ふむ」

勇者「何か大きな影……か」

勇者「ま、それだけじゃあどうにも分からないね」

団長「そうじゃな、儂も次あの夢を見たらそやつをひっ捕まえられるよう努力してみるのじゃ」

勇者「そいつはたまったもんじゃないだろうね」

ヒュウウウウウ

団長「この町も随分発展した物じゃなぁ」

団長「電燈の色彩も日に日に美しさを増している気がするのじゃ」

勇者「そうだね、各国からの移住者も年々増えているし、このままだと地平線までこの町が広がってしまうんじゃないかと冷や冷やしているよ」

団長「それもそれで見てみたいもんじゃな」

団長「ほんの数年前まで争いの耐えなかったこの土地がここまで平和と調和にあふれた国になるなんて……」

団長「これこそ夢でも見ているんじゃないかと時々不安になるのじゃ」

勇者「僕もまさかここまでうまく発展してくれるとは予想外だったよ」

勇者「これで戦争が終わってくれればそれこそ万々歳なんだけどね」

団長「ああ。その通りじゃ……」

こうしてこの一年もたたぬうちに、奇術国と魔術国の戦争は終止符を打つこととなるのであった。


――――数か月後 魔国 魔王城――――

使い魔「魔王様、復興省が再び魔王様のご出頭を求めております」

魔王「また復興省? 最近ほんっと多いわね……」

魔王「側近は?側近はどこにいるの?」

使い魔「はっ、今はお出かけの模様です」

魔王「またぁ?最近そればっかりじゃない!」

使い魔「と、おっしゃられましても……私方も何処へ行かれたのかさっぱりで……」

魔王「もういいわ!後で行くと言っておきなさい」

使い魔「分かりました」

魔王「はぁ……復興省の連中もねちねちしつこいし……調査も進まないし……」

魔王「ほんと嫌になっちゃう……」

魔王「はぁ……勇者の国に遊びに行きたいなぁ……」

魔王「って、魔王たる私が勇者に会いに行きたいなんて!」

魔王「……でもたまにはいいわよね」

魔王「そうだ、側近がいないならちょっと部屋に悪戯してやろうかしら」

魔王「これも側近がいないせいで私自ら復興省なんかに行かないといけなくなっているわけだし」

魔王「当然の報いね!」

ズカズカ


―――魔王城 側近の部屋―――

魔王「うーん、何から悪戯してやろうかしら」

魔王「あの本棚には何があるんだろう」

パラパラ

魔王「『人間族による洗脳魔法の人体実験の報告』……『死亡した魔族の蘇生実験』……」

魔王「これは……彼がまだ『冥王』と呼ばれていた時代のものみたいね」

魔王「あ……こんなことも……これは……ひゃっ!? びっくりした……」

魔王「これはかなり酷い事までやっていたみたいね……これは下手に復興省に見られるわけにはいかないわ……」

魔王「そっと戻しておこうっと……」

カチッ
ゴゴゴゴゴゴ

本を戻すと、何かスイッチが入るような音と共に壁が開き、通路が現れた。

魔王「!?」

魔王「これは……隠し部屋?」

魔王「いったい何が……」

通路を進むと、何やら本などが積まれた書斎のような部屋に出た。

魔王「これは……」

魔王は一番近くにあるノートを手に取った。

魔王「『魂を他の生物に憑依させる秘術について』」

魔王「魂を他の生物に?そんなの不可能のはずじゃないの?」

魔王「一体どうやって……」

パラパラ

魔王「こ……これは……!」

魔王「復興省なんかに構っている暇はないわ! 今すぐ勇者に知らせないと……!」

ダダダッ

魔王は勇者の国へ向かった。




―――同じ頃 魔術国 王城 大講堂―――

魔術国連合は既に魔術国本国を残して奇術国軍に制圧され、本国も首都付近まで軍の侵攻を受けて最早占領寸前であった。

魔術国王「こ、このままではまずいぞ……もう奇術国軍がもうそこまで迫っておる」

魔法省長官「総司令官!どうにかならんのか!」

魔術連合軍総司令官「も、もう無理だ……我が方の兵力は多くて1万……対して他方は10倍をゆうに超えている……」

魔法大学校長「最早これまで、ですな。潔く降伏を受け入れてはどうです」

長官「そ、そんなことは問題外だ!何百年も栄えてきたこの国がそう簡単に滅びるものか!」

魔術国王「なんとしても儂の代でこの国を滅ぼすわけにはいかん……」

総司令官「しかし、最早……」

校長「その通りじゃ。人がいつかは命絶えるように、国家もまたいつかは滅びていくものなのじゃよ」

校長「それを我らごときがとやかく言おうなど、おこがましいものだとは思わんかね」

長官「貴様、それでも国を愛すべき四賢人の一員か!」

長官「我らは最後までこの国とあるが運命! 我ら滅びぬ限り国もまた滅びぬのだ!」

魔術国王「そ、その通りじゃ長官。ほれ、校長も少し諦めるのが早いというものではないかね」

魔術国王「それに我らには『あれ』がまだ残っておる」

ザワッ

総司令官「まさか……」

校長「お主、本気で言っておるのか……!?」

校長「あれはもう使わないと偉大なる先代四賢人様はお誓いになったのじゃぞ……」

校長「それを忘れたのか!」

魔術国王「し、しかし、この危機にあっては先代方もお認めになるはずじゃ!」

長官「そうだそうだ! 折角この国の危機のために残された最後の手段を今使わずしていつ使うのだ!」

長官「今こそ敵を薙ぎ払って、我らを裏切った愚民どもに我らの崇高な愛国心を示すべきなのだ!」


パチパチパチ

突然、講堂に何者かが現れた。四賢人をもってしても感付けないほどに、彼らは魔力を隠ぺいしていた。

総司令官「だ、誰だ!」

??「いやぁ、卿らの愛国心には心底感動させていただいた」

魔術国王「貴様らは……幸の国王と幸の宰相ではないか!」

魔術国王「一体どうしてここに……」

幸の国王「我ら幸の国は魔術国連合に協力したく思っておりましてな」

幸の国王「余直々に今一度幸の国への亡命を提案しに来たのだ」

長官「ぼ、亡命だと!? ふざけているのか!」

長官「逃げるなどできるわけがなかろう!」

魔術国王「そ、そうじゃ……その通りじゃ」

校長「……」

幸の国王「逃げろといっているわけではない」

幸の国王「一度幸の国へ退避し、そこで奇術国軍の崩壊を狙い、その後帰還すればよいのだ」

幸の国王「卿らには『あの魔法』があろう……それを使って奇術国軍を打倒するのだ」

魔術国王「な、貴様なぜそれを……」

幸の国王「今はそんなことより決断を急ぐべきであろう!」

幸の国王「どうするのだ?卿らは国が惜しくはないのか?」

魔術国王「ぐぬぬ……」

長官「これとない機会ではないか国王! 幸の国王の助力をお借りするべきであろう!」

総司令官「私もそう思います」

長官「よもやためらうのではあるまいな!」

魔術国王「分かった。幸の国王の力をお借りしよう」

魔術国王「校長もそれでよいな」

校長(魔術の国も終わり……か……)

校長(それなら……せいぜい華麗に散るがよいのじゃ……)

校長「私に抗う力などありはせんよ」

校長「好きにするがよい」

幸の国王「そうと決まれば急がねばな……」

幸の国王「宰相、足止めは任せたぞ」ボソッ

宰相「はっ」

その後、四賢人は幸の国王の手引きによって素早く、そして内密に幸の国王城へと亡命した。
その途中に、校長がひそかに伝聞魔法を送信したことに気付いた者はいなかった。


―――同刻 魔術国中央大図書館―――

魔法使い「うーん……ないわね」

魔法使い「助手、そっちはどう?」

助手「全然だめです~」

助手「魂を扱う魔法なんて私も聞いたことがありませんよ~」

魔法使い「まったくね」

魔法使い「魂を移す魔法自体資料が少ないのに、一体どうやって調査しろっていうのかしら」

魔法使い「これは終戦までに何とかなるのかしらね」

魔法使い「ま、先に戦争が終わってくれた方がありがたいんだけど」

ピピッ

魔法使い「ん、これは伝聞魔法? 誰からかしら」

助手「師匠―、どうかしたんですか?」

魔法使い「魔術大学校校長からの伝聞魔法みたいよ。一体どうしたのかしら」

魔法使い「校長を譲りたいってことならもう断ったはずなんだけど……」

魔法使い「……なっ」

魔法使い「四賢人が……幸の国へ亡命した!?」


助手「四賢人がですか!?」

助手「国を見捨てたって言うんですか!?」

魔法使い「待って、まだ続きがあるわ」

魔法使い「そしてその幸の国で『あの魔法』を使って奇術国軍を一掃する由有り」

魔法使い「まさか……『あの魔法』って……超究極魔法を使うつもりなの!?」

助手「え、超究極魔法って、あの……」

魔法使い「ええそうよ、かの大賢者の最高傑作であり集大成」

魔法使い「かつて魔術国が魔王軍の侵攻を受けて危機に陥った際使用され、数十万の魔王軍を薙ぎ払ったといわれる超破壊魔法……」

魔法使い「まさか人間族に対して使うなんて大賢者もびっくりでしょうよ」

助手「そんなことって……」

魔法使い「急いで勇者の国に戻って報告しましょう」

魔法使い「その前に伝聞魔法で伝えておきましょうか」

魔法使い「四賢人無き今、もう魔術国軍に戦わせても無益よ」

魔法使い「すぐに降伏を受け入れさせましょう!」

助手「らじゃーです!」

こうして、魔術国内の戦闘も数日後には終結。残された魔術国本国の軍も各政務機関も奇術国への降伏を受け入れた。

そして、魔王と魔法使いは勇者の国へと再び出発した。


ここに勇者の最後の戦いが始まろうとしていた。



物語は最終局面へ……!


―――数日後 魔術国内 奇術国軍のキャンプ―――

奇術国兵1「はぁ、意外とあっけなかったですね伍長」

奇術国兵2「そうだな。軍務理事様自ら作戦を考案して下さっていたが、どれもこれも成功ばかり」

奇術国兵2「流石軍務理事様は違うねぇ」

奇術国兵1「少なくとも前の上司よりはよっぽど有能ですよね」

奇術国兵1「それになにより、めちゃくちゃ可愛いですし」

奇術国兵2「そうだな、俺もあんな娘がほしかったなぁ」

奇術国兵1「伍長はそれよりも結婚を先に済ましてしまうべきでしょう?」

奇術国兵1「順序が逆ですよ順序が」

奇術国兵2「うるせぇなぁ。既婚だからって調子に乗りやがって」

奇術国兵1「ええ、この戦争が終わったら田舎に移って平凡に暮らすって約束したんです」

奇術国兵2「けっ、羨ましいもんだな。もう戦争も終わっちまったし、実現も間近じゃねえか」

奇術国兵1「どうも……ん?あれはなんです?」

奇術国兵2「あれ? あれってお前……あれは味方の兵だろ」

奇術国兵1「え、魔術国軍の兵もいるみたいですが……」

奇術国兵2「馬鹿いえ、なんで敵軍の兵士と仲良く歩いてるっていうんだ。そんなわけないだろ」

奇術国兵1「あれは……」

奇術国兵2「そんなに気になんのか……!?」

彼がもう一度振り返ると、そこには奇術国軍のキャンプに向かって夥しい数のゾンビ兵が行進していた。更に、歩く先でも死体が起き上がり、その列に加わっている。

ゾンビ兵「グォォォォォォ……」

奇術国兵2「き、緊急事態!緊急事態!!」

ドガァァァァン

奇術国兵1「な、なんてこった……」

その直後、背後の死体埋葬地周辺で爆発が起こった。
この戦争で死んだ全戦死兵がゾンビとなって奇術国兵に襲い掛かったのだ!

この騒動によって奇術国軍は鎮圧に相当な犠牲と時間を割くこととなった。


―――数週間後 勇者の国中央行政府 会議室―――

勇者の国では、魔法使いの報告により大きな動揺が走っていた。そして魔法使い、魔王両者の到着を待って緊急会議が開かれることとなった。

勇者「さて……話すことが多すぎて何から話せばいいのやら……」

勇者「とりあえず魔法使い、先日の伝聞魔法の詳細を」

魔法使い「分かったわ」

魔法使い「数週間前、魔術国の中枢である『四賢人』が幸の国へと亡命したわ」

魔法使い「それによって魔術国本国での戦闘は終結、各機関、軍ともに降伏した」

魔法使い「しかし、四賢人は亡命先の幸の国で『超究極魔法』を用いて奇術国軍を一掃する計画を立てているそうよ」

魔法使い「四賢人亡命の途中に魔法大学校校長が私に伝聞魔法を使って告発してきたわ」

魔法使い「まあ、彼も愛国者ではあっても、狂信者ではなかったようね」

勇者「超究極魔法か……」

魔王「そんな魔法が……?」

戦士「無駄に豪勢な名前だが、本当に破壊力は一軍を一掃するほどもあるのか?」

団長「そうじゃな。今の四賢人がかつての四賢人ほどの魔力を持ち合わせているとは限らん」

副団長「そうだそうだ!」

魔法使い「確かにそれは正しいわ。でも、あの魔法の本質は魔力にはないのよ」

魔法使い「超究極魔法……その正体は私たちの頭上はるか高くに浮かぶ物体を、想像も絶する速度で地面にたたきつけるというもの」

魔法使い「よってその攻撃力は叩きつける物体に依存し、魔力には依存しないというわけよ」

戦士「頭上に浮かぶ物体だぁ?」

副団長「そんなものが、一体どこに……」

魔王「聞いたこともないわ!」

団長「……星、か」

勇者「奇術の国で聞いたことがある。空の向こう側には重力のない真っ暗な世界が広がっていて、そこに奇術の国は機械を打ち上げて天気などを見ているのだとか」

勇者「更に、奇術の国ではその『宇宙』と呼ばれる空間に一度打ち上げて投下するという破壊兵器も開発していたらしい」

勇者「今は条約で使用は禁止されているけどね」


勇者「で、宇宙には巨大な岩石なども浮かんでいるから、それを操って地面に落とすってとこだろう」

魔法使い「その通り」

魔法使い「大賢者も大層なスケールで物が見えていたみたいね」

魔法使い「この魔法による被害の影響範囲は小さくて十数キロ、最大ではこの大陸の大半を焼け野原にできるわ」

戦士「大陸の大半をだと……!?」

副団長「ニャンと……」

団長「すさまじい破壊力じゃな……」

魔王「かつての魔王軍もそれによって大損害を受けていた、ということなのね」

魔法使い「ま、そういうことね」

魔法使い「まあ、このままいけば四賢人は奇術国連合が再起不能になる程度の損害を与えることができるでしょうね」

勇者「これはまずいことになったな……」

勇者「このことは僧侶には伝わっているのかい?」

魔法使い「ええ。でも奇術国軍もこの前から続いているゾンビ騒動のせいで身動きが取れなくなっているようでね」

勇者「ああ、そのことはこちらも聞いているよ」

団長「戦死した全兵士がゾンビとなって襲い掛かるなど、前代未聞のことじゃ」

戦士「ついに長引く戦争に耐えかねて、死者まで抗議を始めたか?」

魔法使い「ま、そうだったらまだましな方よ」

魔法使い「実際は死者蘇生魔法による強制的なゾンビ化ととらえる方が現実的でしょうね」


勇者「しかし、こんな大規模にそんな魔法を展開できるなんて……」

魔王「それなら、心当たりがあるわ」

団長「心当たりじゃと?」

魔王「ええ。あんなことができるのは、今のところは『側近』しか思い浮かばないわ」

魔王「彼はかつて魔王軍で『冥王』と呼ばれていた上級魔族」

魔王「その由縁は死者の身体を操ったり、魂を扱った魔法に極端に長けていたからよ」

魔王「側近の魔力なら今までの戦闘で戦死した十数万の死体を操るなんて容易いことでしょうね」

勇者「側近、か。確かに、彼はまだ生きているんだったね」

団長「数十万の死体をとは……」

魔法使い「それは魔族にしか不可能ね」

勇者「なるほど、ということは側近が十数万の屍兵を使って奇術国軍の足止めをしているということか」

勇者「そいつはいささかタイミングが良すぎるね」

団長「ということは、側近が四賢人の亡命を唆したということではないのか?」

魔王「最近姿を見ないと思っていたら幸の国に遊びに行っていたってこと!?」

勇者「遊びに行っていたわけでもなさそうだよ」

勇者「四賢人が幸の国に亡命したということは幸の国王が何かしらのかかわりがあることは間違いない……」

勇者「となると、側近と幸の国王は繋がっているということは確実だ」

勇者「すると僧侶が言っていた幸の国王に先代魔王が取り憑いているという情報は真実に限りなく近づくだろうね」

魔王「お、お父様が!?」

魔王「お父様が、生きているの!?」

勇者「まあ、まだ憶測だけどね」

勇者「結局、魂を移す具体的な方法は見つからなかったみたいだけど……」

魔法使い「魔術国に資料はなかったわ」

魔王「あ、そういえば言い忘れていたことがあったわ!」

勇者「何だい?魔王」

魔王「この前側近の部屋に行ったときに隠し部屋を見つけてね」

魔王「そこで側近の記録帳を見つけたんだけど……それによると側近は魂を他の生物に移す魔法を完成させていたみたいよ」

勇者「なんだって!?」

魔法使い「完成していたですって……」

戦士「先を越されたようだな魔法使い」

副団長(魔法使い様が先を越されただって……!?)


魔王「ええ。どうやら側近は魂と魔力を別々に分離して移すという方法をとったみたいでね」

魔王「更に魂は旧魔王軍の技術で作成した魔法器具に移し替え、それを移す先の生き物に接触させて、そこからその生き物をコントロールするということらしいわ」

魔法使い「なるほど……確かにそれなら……!」

魔法使い「魔法器具に必要な魔力耐性はこのくらいで……これをこうして……いや、こうかしら……」ブツブツ

勇者「なるほど……つまり、先代魔王の魂と魔力は別々の場所にあり、少なくとも魂は幸の国王に乗り移っているということか」

勇者「それで究極破壊魔法を使わせて魔術国のついでに奇術国も滅ぼし、その後に魔族だけの帝国を再興する……」

勇者「大分この騒動の全貌が見えてきたね」

戦士「つまりは、やっぱり黒幕は先代魔王だってことだろう!?」

戦士「じゃあこんな奴をここに野放しにしておいていいのかよ!」ジャキ

戦士は魔王を指さした。

魔王「こんな奴とは失礼ね!」バチッ

会議場に緊張が走った。

勇者「まあまあ2人とも」

勇者「魔王もここ数年でいろんな経験をしてきたんだ。先代魔王が生きていたからといって、すぐに僕らを攻撃してくるとは限らないだろう?」

団長「どうなのじゃ?魔王」

魔王「そうね。勇者の言う通りよ」

魔王「私は確かにお父様を今でも愛しているわ。でも、もう依存するのは止めることにしたの」

魔王「恐らくお父様もこんな私を味方として計算してはいないと思うわ」

魔王「それに、私には協調に満ちた平和な世界のほうが性に合っているみたいでね」

魔王「今のお父様が人間族を排して、魔族だけの繁栄を望んでいる以上、もし敵対することになっても、私は私の思う平和を実現するために努力するまでよ」

魔王「ま、ここの私の部屋の家賃も溜まっちゃってるしね」

勇者「君から家賃をとろうなんて思った覚えはないけどね」

魔王「た、例えよ例え!そんなことも分からないの!?」

団長「なるほど、魔王の気持ちはよくわかったのじゃ」

勇者「これなら、戦士も文句はないんじゃないのかい?」

戦士「ふん。俺はどうしても納得がいかんがな」

戦士「裏切る意思がないってんなら拒絶する理由もない」


副団長「戦士だって幸の国と戦うってんなら一緒なことだしね」

戦士「猫にしては珍しく正論を言う」

副団長「な、だからボクは猫じゃない!!」

団長「それで、どうするんじゃ勇者」

団長「僧侶にこのことを通達して奇術国軍に幸の国を制圧してもらうのか?」

勇者「いや、それでは時間がかかりすぎる」

勇者「だろう?魔法使い」

魔法使い「そうね、超究極魔法の始動にかかるのは約2カ月。残り約3週間ってところかしら」

勇者「ということだ」

勇者「僧侶によると、奇術国軍がゾンビ兵を制圧するまでには少なくとも半年はかかるということだ」

勇者「これでは間に合わないだろう」

勇者「それに、これはあくまで僕と先代魔王の戦いの延長戦だ」

勇者「僕が最後までけじめをつけなくちゃね」

戦士「そうだな、仕留めそこなった借りを返してやるぜ!」

魔法使い「私も行けるところまで行かせてもらうわ」

勇者「団長たちも、手伝ってくれるかい?」

団長「もちろんじゃ!3族の平和のためならこの命だって惜しむものではないのじゃ」

副団長「そうだそうだ!」

魔王「私も同じ意見よ」

魔王「お父様の考える平和は余りにも狭すぎる平和なのよ……それを教えてあげなきゃね」

勇者「みんな、ありがとう」

勇者「それじゃあ、急いで幸の国へ向かおう」

勇者「各自準備をよろしく。あと団長、移動には空を飛べる半魔や魔族に乗せてもらうようにするから、急いで集めてもらってもいいかな」

団長「ああ、任せるのじゃ!」

魔王「私は自力で飛んでいくわよ!」

戦士「憲兵隊もつれていくか?」

勇者「そうだね、側近のゾンビ兵が控えているかもしれない」

勇者「できる限りの兵力で臨もう」

戦士「おうよ!最初で最後の大遠征だぜ!」

こうして数日間の準備ののち、勇者一行は出発の準備を整えた。


―――数日後 勇者の国 首都 中央広場―――

中央広場には、勇者の国各地から集められた飛行型半魔及び魔族、そして憲兵が総勢約2000名集められた。その内訳は、補給や運搬を担う兵が約半数を占め、残りが戦闘要員という割合である。

勇者「よし、それじゃあ出発しようか」

戦士「おうよ!全員、最初で最後の戦いになるかもしれねえが、気合入れていくぞ!!」

オオー‼

団長「戦士の気合の入りようは十分を通り越して異常じゃな」

魔法使い「まあ、彼は戦うために生まれてきたような男だからね」

魔法使い「死の谷の決戦以来まともな戦いもしてこなかったし、張り切るのも無理はないわ」

団長「なるほどな……ところで、お主は結局ついてくるのか?」

魔法使い「ええ、この車椅子にちょっと改造を加えてね」

魔法使い「魔力で飛行や移動ができるようにしたから、機動性も申し分ないわよ」

魔法使い「それに……」

団長「なんじゃ?」

魔法使い「いや、何でもないわ」

魔法使い「個人的なことよ」

団長「そう言われるときになるのじゃ」

魔法使い「それより、あっちで2人ほど血の気が多いのがいるみたいだけど」

副団長「今回こそは思う存分暴れてやるよ! ほらほら気合が足りないぞ!」

魔王「貴方たちは本気で平和を望んでいるんでしょう!それならお父様に本当の平和というのを教えてやるのよ!!!」

オオオオ―!

団長「そういえばあやつらも武闘派じゃったな……」

魔法使い「楽しそうでいいじゃない」

団長「まったく、これはピクニックじゃないんじゃぞ」

魔法使い「分かってるわよ。さあ、私たちもそろそろ準備しましょう」

団長「ああ。それじゃ、また後でな」

魔法使い「ええ、空中でお会いしましょう」

バサッ
バサバサッ


こうして、勇者一行は出発した。

勇者一行は、こまめな休憩と補給を取りつつ、2週間余りをかけて順調に幸の国国境付近へと到達した。
しかし、間もなく幸の国首都上空に到達しようとした時、事は起こった。

ここまで


―――幸の国首都近郊 夕方 上空―――

先頭を行くのは勇者と団長を載せた鳶型半魔である。彼は半魔盗賊団時代に実行隊に所属し、外副長と共に各国を飛び回った半魔であった。

ヒュオオオオ……

勇者「……」

団長「うう……流石にこの高さでは寒さも厳しいのぅ……」

団長「どうしたのじゃ勇者、顔色が優れんぞ」

勇者「うーん……どうも違和感が拭えなくてね」

勇者「何か忘れているような……何か大事な事を……」

団長「しかし、今回の勇者の作戦は失敗しようがないじゃろ」

団長「高高度で幸の国首都まで接近し、王城付近に降下して一気に王城を制圧する」

団長「屈折魔法もかけておるし、相手にここまで高く飛ぶ手段もないはずじゃろう」

勇者「ああ。その通りさ」

勇者「確かに相手が本当に人間族の騎士団だとしたらそうだろう。幸の国は奇術の国のような技術は持ち合わせていないしね」

勇者「だが、相手が先代魔王となってくるとまた別だ」

勇者「死者蘇生魔法であれだけの大軍を混乱に陥れるような策士となれば、何かしら策を打ってきてもおかしくはない……」


団長「なるほど、じゃがそれは杞憂というものじゃろう」

団長「先代魔王自身も魔力を分離して失っているはずじゃし、側近も死者蘇生魔法で魔力を大きく消費しているとなれば障害となりうるのは幸の国の騎士団くらいじゃないのか?」

勇者(僕の思い過ごしかな……?)

勇者(団長の言う通り敵には十分な戦力はない)

勇者(もしこの遠征がばれていたとしても止める手段は……)

団長「お、首都までもう少しじゃな。日も沈んだし、今日はこの辺で停泊して明日の決戦に備えるか?」

勇者「そうしよう、全員に通達をしてくれ」

団長「分かったのじゃ」

勇者「停戦協定の調印式以来か、意外とすぐに帰って来れたね」

勇者(……まてよ?)

勇者は、4年前、幸の国での停戦協定調印式のことを思い出した。
そして、そこで交わされたあの条約のことも。



―――……

第一条、『百年戦争』の終結を誓い、人間族と魔族は未来永劫戦いを廃する

第二条、人間族諸侯国は元魔王軍領地を『魔国』として承認する

第三条、両族は協調を旨とする。いかなる場合であっても両族を差別、中傷しない

第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する

第五条、両族は経済において提携する

第六条、魔国復興のため、復興省を設置し、人間族が魔国を保護する

―――……


勇者(第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する……)

勇者(そういえばこの条項はいったい何のために定められたんだ……?)

勇者(他の条項に比べて明らかに違和感が……)

勇者(まさか!?)

バサッ

魔法使い「勇者!大変よ!」

別の半魔に乗った魔法使いが珍しく性急な顔をして勇者と団長の半魔に近づいた。

勇者「どうした魔法使い?」

魔法使い「首都から強力な魔力の波動を観測したわ」

勇者「なんだって!?」

団長「なんじゃと!」

魔法使い「どうやら詠唱が始まったみたいよ。急がないと……」

ズガァァァァァン
ウワァァァァァ
ニゲロニゲロッ

団長「こんどはなんじゃ!」

半魔「大変です、後方から、魔族が襲撃してきました!」

全ては同時に起こった。
首都において超究極魔法の詠唱が始まると同時に、突如現れた飛行型魔族の集団により勇者一行は襲撃を受けたのである。


団長「まずい、後方部隊は大半が補給専門の非戦闘員じゃ!」

勇者「くっ、遅かったか……」

勇者「全員に降下指示を出してくれ、このまま首都に直行する!」

この指示により、勇者一行は全員目下の首都にめがけて急降下を開始した。

魔族団隊長「逃がすな!追えっ!!」

魔法使い「ええい、暴風魔法!」

魔族団隊長「ぎぇああああああっ!?」

魔法使いは咄嗟に暴風魔法を用いて、勇者一行と魔族集団の間に一瞬の亀裂が生じた瞬間に乱気流を発生させ、その追跡を阻むことに成功した。
それに釣られてその他の憲兵や魔王らもありったけの魔法を用いて魔族集団に攻撃を打ち込み、それによって魔族集団の動きが止まったため、奇襲の犠牲者は最小限に抑えられていた。とはいえ、咄嗟の勇者の指示は一行全員には伝わりきらず、戦闘員約半数はそのまま上空での戦いに残されることとなった。


―――幸の国首都―――

ヒュオオオオ

勇者「全員、あの川辺に着陸するんだ!」

バサバサッ

勇者一行は王城と城下町を隔てる河川の王城側のほとりに降り立った。
この河川は100メートルほどの幅を持ち、実質幸の国王城の堀の役割を果たしていた。
勇者はこれを見越して陸上部隊での進撃を避けたのであったが、結果それが裏目に出たといえる。
しかし、王城の目と鼻の先に降下できたのは不幸中の幸いと呼ぶべきであろう。
あとは王城の庭園代わりの平原を超えれば王城の城壁まで一気にたどり着くことができるのである。

勇者「ふう、この辺までくれば大丈夫かな?」

団長「ああ。しかし戦闘部隊約半数は上空に残ってしまったようじゃ」

団長「とはいえ、そのお蔭で非戦闘員の被害は最小限で済んだようじゃが……」

勇者「半数か……参ったな」

団長「それにしても、どこからあんな数の魔族が……」

勇者「あれは幸の国に居住していた魔族だ」

団長「幸の国に……?」

勇者「ああ」

勇者「停戦協定第四条、幸の国は国内に魔族の居住区を建設する」

勇者「これは、事実上先代魔王軍の伏兵を幸の国内に潜伏させる条項だったのさ」

勇者「どうやら、先代魔王は力による侵略を諦め、陰謀を持って人間族を滅ぼすつもりだったようだね」

勇者「いや、むしろ初めから力による侵略なんてする気がなかったのかもしれないな」

団長「どういうことじゃ」

勇者「魔王軍による人間族侵攻はあくまで陽動で、本質は人間族諸侯国が内部から朽ちていくのを待っていただけなのかもしれない」

団長「つまり、この幸の国こそがその要だったということか?」

勇者「ああそうさ。幸の国王は奇術魔術両連合内にも魔手を伸ばしていたようだったからね。そして、この幸の国が新しく魔国として生まれ変わる予定だったんだろう」

勇者「あの荒廃した街並み……僕が幸の国を去った時の面影が全くない……」

勇者「僕らが勇者の国を作っている間、先代魔王は幸の国を内部から破壊していたようだ」

勇者「先代魔王は幸の国の充実した社会福祉制度に着目し、それを反乱が起こらないようにしながら撤廃していったんだろう」

勇者「幻想魔法か何かを使ってね」

団長「なんたることじゃ……」

ダダダッ
ガラガラガラ

戦士「おい勇者!?大丈夫か!」
副団長「団長!?ご無事ですか!」


魔法使い「なんとか無事だったようね」

そこに、魔法使いと戦士、副団長が合流した。
それと同時に魔王が上空から遅れて降下してきた。

バサッ
トッ

魔王「ふぅ、いきなり襲ってくるなんて礼儀がなってないわね!」

勇者「皆無事だったか!」

団長「儂は大丈夫じゃ、被害の方はどうなっておる?」

副団長「はい、非戦闘員の約半数が四散して行方不明になりました。戦闘員もここにいるのは元の4割ほどです」

勇者「割と削られたな……」

団長「ぐぬぬ……」

魔王「流石お父様ね、たった数分でここまで兵を削いでしまうなんて……」

戦士「おい勇者!今は急いだほうがいいんじゃねえのか?」

魔法使い「そうね、超究極魔法の発動まで恐らくあと3時間余り……」

魔法使い「もしそれを過ぎてしまったら夜明けと同時刻に奇術国軍は壊滅ね」

勇者「今は一刻を争うみたいだ」

勇者「戦闘員の半数は非戦闘員を護衛して首都から逃げてもらおう」

勇者「残り半数と僕らで、急いで王城を目指そう!」

戦士「おうよ!」

団長「なのじゃ!」

副団長「あいあいっさー!!」

魔王(お父様……今こそお父様の目を覚まさせてあげなくては……!)


ここまでです


―――幸の国首都 王城周辺 草原―――

ヒュオオオ……

戦士「どういうことだ?誰もいねえじゃねえか」

魔王「私の威厳に恐れをなして逃げてしまったのかしら?」

勇者「さすがにそれはないんじゃないかな」

勇者「向こうも魔王がここにいることは知らないかもしれないし、知っていたとしても何か考えがあるんだろう」

魔王「し、失礼ね!そんなことぐらい分かってるわよ!」

団長「なんでまた赤くなっとるんじゃ……」

王城城壁付近には誰一人の姿も見えなかった。
城壁の門は開け放たれ、まるで勇者の到着を待っていたかのようであった。

団長「やはり罠か?」

勇者「その可能性が高いね」

魔法使い「でも、行くしかないんじゃないかしら」

勇者「そうだね。罠と分かっていても踏み込むしかなさそうだ」

勇者「そういや、こんな足場なのに君の車椅子はほとんどガタついていないな」

勇者「一体どんな魔法で味付けしてあるんだい?」

魔法使い「大したものじゃないわ。浮遊魔法で少しだけ浮かしてあるってだけよ」

魔法使い「少しだったら空も飛べるから、機動性は抜群よ」

副団長(空も飛べるなんて……あの車椅子もコレクションにしたいなぁ……)

戦士「だが車椅子を壊されたら終わりだな」

魔法使い「あら、私の防御魔法をもってすれば、貴方の馬鹿頑丈な体なんかよりも優れた耐久性は持たせられてよ」

戦士「ば、馬鹿頑丈……」

勇者「まあ、それならよかったよ」

勇者「それじゃあ、行くとしようか」

魔王「ついに、お父様に会えるのね」

勇者「そうだな。でも、寝返ったりしないでくれよ?」

魔王「ふん!私は一度決めたことは最後まで突き通す主義なのよ」

勇者「そう言って何時ぞやは人間族に敵対していたんじゃなかったのかい?」

魔王「それはもう昔の話よ」


魔王「もう人間族に敵対する時代は終わったのよ。今回は、それをお父様に伝えるためにもここまで来たんだから」

魔王「お父様にもし見限られたとしても後悔はないわ」

勇者「そこまで言えるようになったらもう大丈夫だね」

勇者「改めて、最後までよろしく頼むよ」

勇者は手を差し出した。

魔王「ふん、別にこれは魔族の平和のためにやってることなんだから、勘違いしないでよね」

魔王「でも……」

魔王はその手を握った。

魔王「人間族との協調も一つの平和の形。そうでしょ?」

勇者「ああ、その通りさ」

団長「半魔も忘れちゃいかんぞ」

魔王「もちろんよ」

勇者たちは歩みを進めた。

ザッザッ

勇者「念のため、警戒は忘れずにね」

団長「任せるのじゃ」

戦士「お前に言われたくはねえな」

魔法使い「あなたこそそんな油断しきった顔で大丈夫なのかしら」

こうして、勇者たちは城壁内へと足を踏み入れた。


―――幸の国 王城城壁内 中庭―――

王城の中も、町と同じように寂れ、うっそうとした雰囲気に包まれていた。
中庭は荒れ、城門も錆びてボロボロになっている。

勇者「いくらなんでも寂れすぎだね」

戦士「こんなにぼろかったか?この城は」

ザッザッ

そして、城門に差し掛かった辺りで、戦士の危険感知レーダーに何かが引っ掛かった。

戦士「待て!何かいるぞ」

全員に緊張が走った。

勇者「敵か!?」

魔族集団「グオオオオオッ」

突然どこからともなく魔族の集団が現れた。集団は城壁の上下や中庭の陰から飛び出し、勇者一行を包囲した。
その数はこちら側の兵の数倍に達している。

戦士「チッ……多いな……」

戦士「おい副団長!」

副団長「なんだい?」

戦士「ここは俺たちで食い止めるぞ」

副団長「おうよ!」

戦士「勇者は先に行け! 中にいる奴らなんぞたかが知れている!お前らだけでも大丈夫だろうよ!」

勇者「分かった。団長、魔王、魔法使い、先を急ごう!」

団長「分かったのじゃ!」

魔法使い「任せたわよ戦士!」

戦士「お前が頼み事とは、珍しいこともあるもんだな!」

魔王「また奇襲ね……」

副団長「団長!」

団長「どうした副団長?」

副団長「お達者で」

団長「お主こそ、無事でな!」


ダダッ


勇者達が城内へ無事に通り抜けたのを見計らい、戦士ら残った兵たちは魔族集団の食い止めに尽力した。
戦士と副団長は背中合わせにお互いの背後を庇い合った。

戦士「おい副団長」

副団長「どうしたんだい戦士」

戦士「くたばんなよ?」

副団長「もちろん!」

バッ

こうして2人は久々の戦闘に身を投じた。


―――城内 エントランス―――

勇者「なんて数だ……まだ先代魔王にあんなに兵がいたとは……」

団長「しかし、城内には誰もおらんようじゃな」

城内に入ると、広いエントランスが勇者達を出迎えた。エントランスも例に違わず寂れており、そこら中に蜘蛛の巣が張っていた。エントランスの中央奥には横幅が広い階段がついており、その奥には玉座へと続く扉と階段が鎮座している。どれもこれも以前の栄光をどことなく感じさせるものばかりであった。

魔法使い「これじゃあまるで廃墟ね」

魔王「不潔な城ねぇ……ちゃんと掃除していたのかしら」

??「すみませんねぇ。せっかくのゲストの方々なのに、お手入れの暇がなかったのですよ」

勇者「誰だ?」

宰相「お久しぶりです勇者様。まだお元気でいらっしゃいましたか」

勇者「宰相?こんなところで何を……」

魔王(この魔力……まさか!?)

魔王「勇者、危ない!!」

宰相「即死魔法!!」

シュバッ
ギュッ

勇者「うわっ」ドテ

団長「なんじゃ!?」

魔法使い「即死魔法ですって……?」

魔王は一瞬早く勇者を引っ張り、即死魔法の命中から勇者を救った。

魔王「あなた、『側近』ね」

宰相「これはこれは魔王様が勇者を守るなんて、前代未聞のことですな」


宰相は元の姿に戻った。

宰相→側近「その通りです。お久しぶりです魔王様」

魔法使い「即死魔法みたいな高度な魔法を使うなんて、流石『冥王』といったところね」

魔法使い「直接魂を粉砕して敵を死に追いやるってところかしら」

魔法使い「なかなか物騒な魔法じゃない」

側近「おやおや、そちらの車椅子の方もどうやら魔法に長けているようですね」

側近「貴女が噂の魔法使いさんですか」

側近「そしてそちらは半魔盗賊団の団長ですね」

側近「相手に不足はなさそうですね……」

側近「とはいえ、私はあまり剣術は得意ではありません」

側近「是非とも魔法使いのお2人に相手をしていただきたいところですね」

魔法使い「ですってよ勇者」

魔法使い「勇者と団長は早く先に行って魔法陣の発動を止めて頂戴」

勇者「分かった。行こう、団長」

団長「ここは頼んだぞ2人とも」

魔王「本当だったら私1人で十分よ!」

魔法使い「それなら私は横でお茶でもしてましょうかね」

ダダダッ
ガチャ

バタン

団長と勇者は階段をかけ上がり、玉座への扉をくぐった。

魔王「私たち2人に勝負を挑むなんて、命知らずね!」

魔王「私を以前のままだと思ったら大違いよ!」

魔法使い「ま、せいぜい手助けに講じましょうかね」

側近「ふふふ……先代魔王様からは魔王様であろうとも容赦はするなとの仰せを頂いております」

側近「がっかりさせないでくださいね?」


―――エントランス奥 玉座へ続く階段―――

タッタッタッタッ

勇者「はぁはぁ……おかしいな、この階段、こんなに長かったかな……?」

団長「だらしないぞ勇者、そんなことでどうする」

勇者「団長は身軽でいいね」

勇者「僕も体重が軽くなる魔法でも使えれば、奇術国でも死にかけずに済んだかもしれないな」

団長「結局魔力の消費でへこたれるのが落ちじゃろ」

勇者「それを言われると返す言葉もないね」

団長「勇者……こんな時に言うのも何なんじゃが……」

勇者「なんだい?」

団長「僧侶の求婚を受け入れたというのは本当なのか?」

勇者「えっ!?なぜそれを」

団長「儂の情報網をなめてもらっては困る」

勇者「まあ、否定はしないよ」

勇者「あくまで、平和な世界が実現してからの話さ」

団長「そうか……それは盛大に祝ってやらんといかんな」

勇者「どうしたんだいそんな寂しそうな顔をして」

勇者「まさか団長までこんな冴えない最弱勇者を狙っていたのかい?」

団長「まさか!そんなわけないじゃろ」

団長「じゃが……勇者は儂の兄弟のような存在じゃ」

団長「儂が持っていないものもたくさん持っておるし、それを儂に教えてくれた」

団長「家族がいない儂にここまで親しくしてくれたのじゃ。そんな兄がいなくなっては儂も寂しくなると思ってな」

勇者「兄だなんて、僕も団長はいい妹だと思っているよ」

勇者「ま、見た目だけだと娘だけどね」

団長「だ、だから儂は……! まあよい、妹と認めてもらえて嬉しいぞ」

勇者「そいつはどうも」

勇者「まあ、僧侶とそうなっても僕は団長と離れたりはしないさ」

勇者「団長は僕の頼もしい補佐役の妹だからね」

団長「ほ、本当か!? ありがとうなのじゃ!」ギュー

勇者「わわ、こんなところで抱きついたら危ないじゃないか!」フラフラ

団長「すまん、つい……」

勇者「この続きはこの戦いが終わってからにしようか」

団長「ああ、そうじゃな」

2人は先を急いだ。

タッタッタッ

勇者「流石におかしい……玉座前の階段はせいぜい数十段のはずだ……」

勇者「団長もおかしいとは……!?」

振り向くと、団長の姿はそこにはなかった。

勇者「団長!? く、もしや僕らはもう罠に……?」

ギギッ

突然周りの空間がゆがみ始めた。

勇者「……何だ!?」

と思うと、歩んでもいないのに階段が独りでに下へ下へと滑っていく。
そのスピードは徐々に速くなり、ついには目で追えない速度まで達した。

勇者「うわああっ!?」

そして、最終的には階段の最上段の部屋へと放り出された。

ドサッ

勇者「ぐ……ここは……!?」

そこで勇者の目に飛び込んできたのは……


ここまでです。
一気読みしてくれる方までいて非常に嬉しいです。
完結近しですね。


―――その頃 城門前―――

大型魔族「グオオッ!!」

戦士「せいっ!」

ザシュッ

副団長「とうやっ!!」

バキッ

大型魔族「グアアアアッ」

ドサッ

戦士ら憲兵と魔族集団の戦いは戦士側の有利に推移していった。
魔族集団は既にその7割近くを失い、初めは城の城門付近であった主な戦場が城壁の門周辺まで押し返されていた。
 
戦士「なかなか手ごわいが……」ヒュッ

ズバッ

小型魔族「ギャッ」

ドサ

戦士「そろそろお開きってとこか?」

副団長「そうだね、初めはあんなに大勢いた魔族も残り半分をゆうに切っている」

副団長「それに比べてこっちの犠牲もちょうど半分ってとこかな」

戦士「上出来だな」

副団長「魔族も平和ボケでなまってるんじゃないのかい?」

戦士「そうだな。と言いたいが、こいつら俺が魔王軍と戦っていた時の魔族より一回り強い」

戦士「もしかしたら以前は魔王城に親衛隊として使えていた奴らも交じっているのかもしれんな」

戦士「だが」

ズバァッ
ドサッ

戦士「それでも俺らに敵うはずはないがな」

副団長「ま、君の腕力とその十三代勇者の剣の退魔の能力をもってすれば無敵だろうね」

戦士「ほう、こいつにはそんな力もあったのか」

副団長「一度切られると魔族ならば傷が塞がらなくなるっていう、魔族からしたら恐ろしい剣だね」

副団長「さらには魔族の魔力も一緒に奪うんだとか」

戦士「そいつはたまったもんじゃねえな。魔力はもらっても無駄だが……」

副団長「奪うだけでも十分じゃないかい?」

戦士「まあ、その通りか」

ジャキッジャキッ
ズンズン



戦士「ん、なんだあいつらは」

副団長「……!? あいつら、唯者じゃなさそうだよ」

魔族集団の残りもわずかになったところで、隊長クラスと思しき魔族が2人姿を現した。
1人は全身に漆黒の鎧をまとい、もう1人は巨大な体を持ったトロル族であった。

黒騎士「全く、先代魔王様からせっかく勇者討伐の仰せを頂いたというのに、こんな2人に邪魔されるとは、我が軍も不甲斐なくなったものです」

トロル「がはははは!!まあそう言うな!こいつらが強者なのもまた正しいだろう!」

黒騎士「無駄に敵の名誉を高めてどうするんですか」

トロル「がはははは!!あの死の谷を越えて右王と左王を討ち取ったやつらだ!それくらいの名誉はくれてやろうではないか!」

黒騎士「はぁ、貴方はどうしていつもそう楽観的なんだか……」

黒騎士「まあいいでしょう。ここは我ら魔王城親衛隊長の実力を持ってこいつらを排除すればよいのですから」

トロル「がははは!!今は幸の王城の、だがな!!」

黒騎士「どっちでもよろしい!」

ドドドド

副団長「くるよ!」

戦士「おうよ!」

トロルを前にし、黒騎士とトロルは突進を開始した。
それに合わせ、戦士と副団長も臨戦態勢に入る。

副団長「トロルは攻撃は強力だが動きは遅い。ボクらが常に動き回ればまず当たることはないね」

戦士「ああ。だが黒騎士は動きが早く厄介だ。常に両方に気を配れよ」

副団長「あいさっ!」

バッ


突進するトロルを2人は逆方向に迂回し、まずは黒騎士を左右から狙いにかかった。

トロル「うおうお!? こりゃどっちを追えばいいんだ?」

戦士(こいつめ俺らの動きに早速ついていけないと見える)

戦士「!?」

だが、トロルの後ろを走っていたはずの黒騎士はもうそこにはいなかった。

黒騎士「そこだっ!」

すると、戦士は突然背後から急襲を受けた。

戦士「何っ!?」

キィィィン

戦士「くそっ」

ドカッ

一度黒騎士を突き飛ばすと、黒騎士はトロルの陰へと消えた。

戦士(チッ、あのデカブツを障害物に使われちゃあ中々やりづれえな)

副団長「戦士!危ない!!」

戦士「ん……!?」

戦士の頭上には大きな石の塊が落下してきていた。それをトロルの棍棒だと認識するのと、戦士にそれが命中するのは恐らくほぼ同時だっただろう。

副団長「せいっ!」バキッ

トロル「ぐおっ!?」

ズズン

済んでのところで副団長がトロルの右腕に蹴りをかまし、その軌道をずらしたため、なんとか命中は逃れた。

戦士「くっ」

バッ

一度2人とも距離を取る。

戦士「助かったぜ副団長!」

副団長「どうってことないさ!」

黒騎士「……ほう、中々やりますね」

黒騎士「ならば……」

副団長「石柱魔法!」

ズドドド

黒騎士「!」


トロル「うおおおお!!?」

ズズン

副団長の石柱魔法によって、トロルは足を取られて転倒した。

副団長「今だ!」

戦士「おうよ!」

ダダッ

2人は一気に距離を詰める。

黒騎士「よい戦法ですね……しかし」

トロル「うわあ!来るな来るな!!」ブンブン

トロルは両手両足をがむしゃらに動かして2人の動きを抑えようとした。

副団長「せいっ!」ドゴッ

副団長はその間を縫ってトロルの右足に蹴りを加えた。
身体強化魔法によって威力が強化され、しかも的確な角度でくわえられたその一撃は、トロルの太く頑丈な骨を砕くに充分であった。

トロル「ぐあああああ!!いてぇええええ!!」ドタバタ

戦士「これで止めだ!」

黒騎士「そうはさせません」ヒュッ

黒騎士は戦士の背後から切りかかった。

戦士「なんちゃってな」クルッ

黒騎士「!?」

戦士は初めから黒騎士が背後から襲い掛かるのを予測していたため、体制を素早く立て直した。

戦士「そらっ」キン

ドスツ

戦士は黒騎士の剣を払うと、その首元にできた鎧の微かな隙間に剣を突き刺した。

戦士(この手ごたえは……!?)

黒騎士「残念」

戦士「空だと!?」

ドカッ

戦士「ぐはっ」

戦士は黒騎士に突き飛ばされた。

戦士(チッ、仕留めそこなったか)

副団長「大丈夫かい!?戦士!」

戦士「いちいち騒ぐなよ、張り飛ばされただけだ」

副団長「黒騎士はいったい何者なんだい?」

戦士「わからん。もしかしたらあの鎧はフェイクなのかもしれんな」

副団長「フェイク……?」


―――…

トロル「ぐおおおおお!!!!いてえよお!!」

黒騎士「まったく。落ち着きなさい。回復魔法」パァァァァ

トロルの砕けた骨は応急処置程度には治癒した。

トロル「すまねえ」

黒騎士「構いません。しかし、貴方の骨を一撃で砕くとは、中々の攻撃力ですね」

黒騎士「攻撃力は貴方に匹敵するかもしれません」

トロル「思ってたより手ごわいじゃねえか!こいつは愉快だ!!」

黒騎士「どこが愉快なんですかまったく」

黒騎士「しかし、我らに負けはありませんよ。この体の秘密さえ守り切ればね」

黒騎士「先ほどは少し危なかったですが……」

トロル「がははは!!なんせ無敵だからな!!!」

黒騎士「声が大きいですよ」

トロル「すまん!!!!!」

―――…

副団長「次はどう攻めるべきかな」

戦士「そうだな、まずはお前がトロルを動けなくしてから俺が止めを刺す。これに尽きるだろう」

副団長「だけど黒騎士はどうする?」

戦士「そうだな、奴はトロルの陰に隠れて背後を狙ってくる」

戦士「なるべく離れないようにして行動することにしよう。トロルの防御力はあなどれんからな。各個撃破されかねん」

副団長「おうよ!」

バッ

また2人はなるべく互いに距離を取らないようにしながらトロルに向かって突進した。

副団長「石柱魔法!」

トロル「同じ手には二度は乗らんわ!!」

ズズズズ

トロルは石柱魔法をかわした。

副団長「さすがにそこまで馬鹿じゃないか」

トロル「むん!!」

トロルは2人にむかって棍棒を振り下ろした。

ズズン

戦士「当たるかよ!」

副団長「同じく!」

ズザザッ

2人はそれをひらりとかわし、股の下をくぐった。

トロル「うお!!!!どこにいった!!!!???」


黒騎士「いらっしゃいませ」

副団長「!?」

戦士「避けろ!」

ヒュオッ
ザクッ

2人は左右にそれぞれ黒騎士の剣をかわした。

黒騎士「まだまだ!!」バッ

戦士「チッしつこいぜ!」

キン

黒騎士は戦士を追い、切りかかったが、戦士もすぐに切り替えし、応戦した。

戦士「さっきから俺ばっかり贔屓しすぎなんじゃねえのか?」

黒騎士「そんなことはありませんよ」バッ

2人は一度距離を取った。

副団長「よそ見をしてる場合じゃないよ!!」ヒュオッ

バキィッ
バリィン

黒騎士の背後から副団長が渾身の正拳突きをかまし、黒騎士の鎧を貫通した。

戦士「やりい!」

トロル「余所見厳禁!!」

ヒュッ

戦士「おっと」

ズゥゥン

戦士はトロルの一撃を軽くかわした。

トロル「うおおおお!!黒騎士!!」

黒騎士「ぐ……」

黒騎士は一瞬よろめき、体制を崩した。

黒騎士「なんちゃって」

ヒュッ
ドスッ

副団長「ぐああああっ!?」

タタッ

戦士「副団長!?」

黒騎士はそのまま剣を背後に突き立てた。その剣は副団長の脇腹近くに突き刺さり、副団長はすぐ距離を取るもそれなりのダメージを受けた。防御魔法を体全体にかけてはいたものの、死角からの攻撃に反応が追い付かず、防御魔法を一点集中できなかった結果剣の貫通を許していたのだ。


副団長「く……回復魔法」

回復魔法で再生するも、傷が深すぎたため、魔力不足で完全には塞がらなかった。

副団長「魔力が足りない……それなら魔法石を……?」

副団長「あれれ、一体どこに」

黒騎士「貴女が探しているのはこれですかね?」

副団長「!!」

黒騎士の手には魔法石入れの袋が握られていた。さっき組み付いたときに奪われたようだ。
そして、さきほど貫通したはずの鎧もいつのまにか完全に修復されていた。

戦士「大丈夫か副団長!!」

副団長「ああ、大丈夫さ。傷はある程度塞がった……うぐっ」ズキッ

戦士「ち、少し下がってろ」

副団長「すまない……」

戦士「しかし、やつめ不死身か!?」

―――…

トロル「おおおお!黒騎士、流石の強さだな!流石不死身なだけある!!」

トロルは先ほどまで状況に全くついていけていなかったが、ようやく復帰したようだ。

黒騎士「こら、余計なことを言うな」バリィッ

黒騎士は魔法石を全て破壊した。

トロル「がははは!!よいではないか!ばれたとて何ら変わりはないだろう!!」

黒騎士「ふふ。まあそうだな」

黒騎士「どうした!もう終わりか!」

黒騎士「分かっただろう!? 不死身である我に負けはないのだよ!!」


―――…

戦士「チッ……言わせておけば……」

副団長「あいつの鎧の中は空っぽだ」

副団長「となると、外部からあれを操っている可能性が高いよ」

戦士「そうだな……しかし、いったいどこから……」

戦士「ん?」

戦士は黒騎士の右足の部分が微妙に割れていることに気が付いた。

戦士(おかしいな……さっき胸を貫通した傷は完全に修復されているというのに……)

戦士(なぜあそこだけ割れたままなんだ……?)

戦士(確かに初めは割れてなんかいなかったし……)

戦士(いやまてよ?右足といえばさっき副団長が……)

戦士(そしてあの時も確か……)

戦士「まさか!」

副団長「どうした戦士!?」

戦士「もしかしたら分かったかもしれん。奴らの秘密がな」

副団長「ニャンだって!?」

戦士「ああ。そもそも親衛隊長が2人もいた時点から違和感はあったんだ」

戦士「いや、正確にはやはり一人しかいない」

副団長「どういうことだい?」

ここで、戦士は推理の内容と作戦を副団長に話した。

副団長「ニャルほど……そういうことだったのか」

戦士「まだ憶測だがな」

戦士「だがこの作戦、やってみる価値はある」

副団長「そうだね」

副団長「ま、これが作戦と言えればの話だけど」

戦士「俺は勇者みたいな細かい作戦を立てるのは苦手なんでな」

戦士「せいぜい動きを遅らせんなよ」

副団長「誰にいってるんだい?」


―――…

トロル「あいつらまだ喋ってやがるぜ!!」

黒騎士「ふん、今更無駄なことを……」

黒騎士「そろそろ終わらせてやりましょうか」

トロル「おうおう!!!」

ドドドドド

トロルと黒騎士が突撃を始めた。
始めと同じ、トロルが前を行き、黒騎士が背後に隠れて様子をうかがっている。

戦士「よしきたぞ!」

副団長「おうよ!!」

バッ

2人はそれに向かって正面から突進した。

トロル「むん!!」

戦士「当たるかよ!」

ドズゥゥン

戦士は左、副団長は右にかわし、戦士はトロルの股下を潜り抜けた。

黒騎士「またお会いしましたね!」

戦士「そうだな」

ヒュッ
キィィィィン

戦士は半ば仰向けの状態で黒騎士の剣を受けた。

黒騎士「そのままではトロルに押しつぶされてしまいますよ……!?」

戦士「さあどうかな」

副団長「せいっ!」

バキィッ

トロル「ぐおおおおおおおおっ!!」

副団長は股下へかわすふりをして、トロルの右足に再び蹴りを入れた。
先ほどの一撃が完全に回復していたわけではなかったため、身体強化魔法なしでもその骨をへし折るには十分であった。

副団長「どうだい!」

ズズウン

黒騎士「何ぃっ!?」

トロルが右に倒れる。と同時に、黒騎士の右足部分の鎧が折れ、一瞬体制を崩した。


戦士「そらっ!」

バキッ

黒騎士「ぬおっ!」

戦士は黒騎士を思いっきり蹴飛ばすと、倒れたトロルに一撃を加えるべく、反転した。

トロル「ぐおおおおおお!!いてえええええええ!!」

トロルは再びがむしゃらに棍棒を振り回している。

戦士「そらよっ!!」ヒュッ

ザシュッ
ドズウン

それをひらりとかわし、戦士は渾身の一撃でその右手首付近に一斬り入れた。
トロルの右手は正確に腱を切断され、棍棒は地面に落下した。

トロル「ぐああああああああ!!」

副団長「やったね戦士!!」

黒騎士「ぐ、そんな……馬鹿な……」

黒騎士は右手のコントロールを失い、右足が折れた姿でトロルの近くへと舞い戻ってきた。
剣は左手に持ち替えている。片足を失ってもさほど動きには問題ないようだ。

黒騎士「許さん!!」

バッ

戦士「ぬるい!」

キィィン

だが、利き手を失った以上その剣の腕は戦士には遠く及ばないものになっていた。
黒騎士の剣は遠くに跳ね飛ばされてしまった。

黒騎士「ぐ……」

戦士「悪いな」グッ

戦士はトロルの首元に剣を宛がった。

トロル「ひっ……」

トロルはさっきまでの元気はどこへやら、急におとなしくなってしまった。

戦士「どうやら俺たちの勝ちのようだ」

黒騎士「く……どうして分かったのだ……」


戦士「全ては偶然のうちさ」

戦士「副団長がトロルの右足を粉砕していなかったら、今頃負けているのは俺たちだったろうよ」

戦士「あと、側近が魂を扱うことに慣れた魔族って言うこともヒントだったな」

戦士「黒騎士、お前とトロルの魂を一体化してトロルの体内に入れ込み、お前は不死身な体で自由に敵を切り刻むってわけだ」

戦士「だからトロルの傷は一方的に黒騎士にも反映されていた」

戦士「トロルの防御力と黒騎士のサポート力なら、普通はああも簡単に攻撃が通ることはないからな。確かに強い」

戦士「だが、相手が悪かったな」

副団長「そうだそうだ!!」

黒騎士「ふふふ……どうやら我らの負けのようです」

黒騎士「ですが……全体としてはどうでしょう……」

黒騎士「我らが負けても先代魔王様は必ずや勇者を打倒し、人間族を滅ぼすでしょう」

黒騎士「その世界を拝めなかったのは残念ですが、十分足止めの役割は果たしました」

黒騎士「悔いはありませんね」

戦士「さらばだ黒き鎧の騎士」グッ

ズバッ

トロル「」

トロルが絶命するのと同時に、黒騎士もガラガラと崩れ去った。

副団長「終わったね」

戦士「ふん。あんな見た目だましに俺たちが負けるはずがないだろ」

副団長「うん。そうだね」

副団長「君とのチームワークはばっちりだったよ」

戦士「当然だ。何度も手合せしたんだからな。お前の動きなんてすべてお見通しなんだよ」

副団長「それは敵に言うべきじゃあ……うぐっ」ズキッ

副団長の脇腹には血がにじんでいた。副団長は思わずそこを抑えてしゃがみこむ。
それに合わせて、戦士も副団長を介抱した。

戦士「おい、大丈夫か?」

副団長「ああ、大丈夫さ。いつの間にか戦闘も終わっているみたいだし」

周りも戦闘は終結していた。とはいえ、残った憲兵は30人を切っており、けが人の搬送に気を取られていた。
こちらも魔法石を使い果たしているようである。


後半へ続く。


何回読み直してもトロルが何にもしてなくてアレ


副団長「あとは団長たちにお任せするだけだね」

戦士「ああそうだな。俺はともかく中へ向かう。お前はここで待機してろ」

副団長「……」

副団長「……もう少しだけ、一緒にいてくれないかな?」

戦士「えっ」

戦士「……いいだろう」

戦士「少しだけだからな」

副団長「……ありがとう」

2人に、短い休息が与えられた。

だが、すぐにそれは終わりを告げることになる。

憲兵「な、なんだあれは!!」

1人の憲兵が空を指さした。すると、曇った空からはさっきの飛行魔族部隊の残党がこちらへ降下していた。その数はかなり減ったとはいえ100を超えている。
さらには王城前の河川の向こうからも魔族の一群がこちらへ向かっているのが見えた。

戦士「チッ。まだいやがったか……」

戦士「お前はもう下がって休んでろ。俺が片づける」

副団長「いや、ボクも戦うよ。傷はもう大丈夫さ」

戦士「だが……」

副団長「ボクは平和な世界が来るまで、そしてその後も君と一緒にいたいんだ」

副団長「だから……いいだろう?」

副団長「それに、さっきの傷でボクの魔族の部分が自己防衛本能を起こしつつあるんだ」

副団長「もしボクが魔族の部分に支配されたら……君以外には止められないかもしれない」

戦士「な、なんだと!?それならなおさら……」

副団長「このまま後ろに下がってもし魔族に襲われたらどうせ一緒なことだ」

副団長「それならいっそ魔族の部分に支配されそうになったら、君の手でボクを斬ってほしいんだ」

戦士「そ、そんなこと……」

副団長「お願いだよ」

戦士「……」


戦士「魔族に支配された半魔をもとに戻す方法はあるんだろうな」

副団長「えっ?……まだ例は聞いたことはないけど……」

戦士「お前がもし魔族に支配されたら全力でお前を呼び戻す。それで無理だったら切り倒す。それでいいだろ」

副団長「だけどそれじゃあ君の命が……」

戦士「俺もお前に死なれるわけにはいかないんだ」

戦士「これは俺からのお願いってやつだ。いいな」

戦士は副団長の目を見つめて言った。

副団長「……」

副団長(そんなふうに言われたら断れないじゃないか……)

副団長「……馬鹿」ボソリ

戦士「そろそろくるぞ」

戦士「足手まといにはなんなよな」

副団長「あ、当たり前だろ!」

副団長「最後の魔力を使い切るつもりさ」

ドドドドド
バサッバサッ


魔族軍団は目の前まで迫っていた。

戦士「行くぞ!」

副団長「よっしゃ!!」

2人はしばらくの間奮闘に奮闘を重ねた。
しかし、負傷した副団長を戦士も庇いながら戦ったため、予想以上に消耗は激しかった。
1時間もすると、魔族集団も半分以上が2人に倒されたが、それでも2人の消耗の方が魔族の数の消耗よりも圧倒的に早く限界点を迎えようとしていた。

戦士「はぁ……はぁ……ていやっ!」

ザシュ

副団長「く……ふぅ……そりゃっ!」

バキッ


魔族集団「グオォォ」

既に2人は孤立状態となり、魔族集団がそれを円状に取り囲むという状況になっていた。

戦士「くそ……こいつらきりがねぇ……」

副団長「ぐぅ……これは流石にまずいかもね……?」

中型魔族「グオォォォッ」

副団長「そんな攻撃当たるわけ……!?」フラッ

バキィッ

副団長「ぐあああっ!」

ドサッ

副団長は出血のせいで一瞬麻痺し、魔族のその強力な一撃を諸に受けてしまった。

戦士「副団長!!」

戦士「このっ!」ズバッ

中型魔族「グアアアッ」ドパッ

ドシャ

戦士「おい、副団長!!しっかりしろ!」

副団長「だ、大丈夫さ……これくらい……!?」

副団長は身体に異変を感じた。今まで患っていたはずの腹部の痛みが一気に引いていったのだ。
それと同時に、意識も朦朧とし始めた。

戦士「おい、どうした!!」

副団長「ふ、ふふ……もう……限界みたいだ……」

副団長「お願いだ……逃げ……て……」

副団長「ぐああああああああああああああっ!!ああああああああああっ!」ビキビキ

戦士「おい!副団長!!副団長!!!」


バキッ

戦士「ぐわっ!!」

ドサッ

突然、戦士は横からの一発を受けて弾き飛ばされた。それは敵からのものではなかった。
見やると、副団長が虚ろな目をして立っている。その姿は明らかに今までの半魔の副団長ではなかった。
その体の周りにはどこからか発生した膨大な魔力が渦巻いている。

戦士「ふ、副団長……」

副団長「ニ゙ャ゙ハハハハハハハハ!!!」

バッ

バキィッ

副団長は高らかに不気味な笑い声をあげると、周りを取り巻く魔族へと攻撃を開始した。
その動きは今までにないほど俊敏であり、攻撃力も一撃で魔族の身体に穴をあけるほど強力になっていた。
しかし、防御もしないため、身体には次々と傷跡が増えていく。

超小型魔族「な、なんだこいつは……!?」

超中型魔族「か、数でおすんだ!」

超大型魔族「狂ってやがる……」

バキッ
ドゴッ
グシャッ

副団長「ニ゙ャ゙ハハハハハハハハ!!!」

副団長は躍動を続ける。一つ副団長が飛び上がるたび、魔族の死体が一つ増えていった。
流石の魔族も少し後ずさりし、戦士も傍観する以外手はなかった。

副団長「ニ゙ャ゙ハハハハハハハハ!!!」バッ

超小型魔族「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」

超中型魔族「くそ、食らえっ!!斬撃魔法!」

バキッ
ドスッ

副団長が超小型魔族を狙い一瞬のスキができた瞬間、超中型魔族は斬撃魔法で切りかかった。その魔法は副団長の胴体に諸に命中し、副団長は一瞬よろめいた。

副団長「ニ゙ャ゙ガ、ニ゙ャ゙ハハハハハハハハ!!!」ブン

バキッ

次の瞬間には超中型魔族はその首より上をなくしていた。

戦士「な、なんてことだ……」

副団長「ガ、ガガッ、ガァァァァッ!!」

副団長は先ほどの一撃を受けひどく苦しんでいる様子だった。どうやら致命傷に近い傷を負ったらしい。

戦士「副団長!」

副団長「グアアアアアッ」

バオッ

突然、副団長の周りにある魔力が一気に放出され始めた。


戦士「なんだ!?」

超大型魔族「これは自爆魔法だ!!全員退避!全員退避ぃ!!」

戦士「なんだと……!?」

魔族たちは大混乱に陥り、空へ川へと退避を開始した。

副団長「アアアアアアッ!!」

戦士「おい、副団長!!もうやめろ!」

ガシッ

副団長「グアアアアアアアッ!!アアアアアアアアッ!!!」

戦士は副団長に後ろから組み付いた。しかし、その声も届かず副団長はひどく暴れ続ける。
しかし、先ほどほどの力はなく、戦士の組突きを振りほどくには至らなかった。

戦士「もういいんだ!目を覚ませ!!副団長オオォォッ!!」

副団長「グアアアアアアッ!!アグアアアアアアッ!!!」

戦士「くそ、どうしたら……!」

戦士には一つの案が浮かんだ。それが成功するかは分からなかったが、この状況では、一か八かでもやる選択しか彼には与えられていなかった。

戦士「目を覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

ドスッ

戦士はそのまま剣を抜くと、自分ごと副団長を剣で貫いた。

副団長「ギャアアアアアアアアッ!!」

戦士「ぐはっ……目を覚ませ副団長!!」

ズシャッ

戦士と副団長の血が混ざりあって地面へと垂れていく。
戦士が剣を抜いて必死に叫ぶと、ふと副団長が大人しくなった。
戦士はそんな副団長を抱き上げる。

戦士「ふ、副団長!?」

副団長「ア…………アア……」

副団長「…………」




副団長「……ぐ……まったく……無茶をするじゃないか……」

戦士「副団長!!戻ったのか!?」

副団長「……ああ……死神はボクに少しだけ時間をくれたみたいだよ……」

戦士「少しだけだと……?どういうことだ」

副団長「……君自身も大分致命傷を負っているはずだろう?」

副団長「……どうしてそんなに元気なのか呆れるね」

戦士「当たり前だ、俺が死ぬはずないだろう!!」

副団長「……そうか……ならいい……」

副団長「さっき発動した自爆魔法……」

副団長「ボクには最早止めることはできないんだ……」

副団長「悪いがボクの寿命はもってあと3分ってとこかな……」

副団長「その後はあの魔族たちと一緒に粉々さ」

戦士「な、なんだと!?」

戦士「話が違うじゃねえか!!」

副団長「ボクもまさかこんなことになるとは予想していなかったのさ……」

副団長「第十三代勇者の剣を使ってボクの魔族の部分を無理矢理封じ込めた……か……」

副団長「よくそんな機転を思いついたものだね……」

副団長「ボクもその剣で死ねたとなれば本望かな……」

戦士「おい!待て!勝手に行くな!」

戦士「お前とはまだ手合せをしてもらわにゃならんのだぞ!!」

副団長は黙って首を振った。


副団長「はやく……逃げてくれ……」

副団長「君はまだ助かる……」

副団長「ボクはなるべく城側への爆発の影響をなるべく抑えるから……そっちの方に……」

戦士「出来るわけねえだろ!!」

副団長「……!?」

戦士「俺はお前とずっと一緒にいると約束したんだ」

戦士「だから俺はこれからも永遠にお前と一緒にいる」

戦士「勇者が平和な世界をもたらした後もずっと、な」






戦士「それに……俺はお前のことが好きだ」





副団長「……な!?」

突然のことに瀕死の副団長も動揺を隠せない。

戦士「俺だってお前と死ねるなら本望なんだよ。お前がこの剣と共に死ねるのと同じようにな」

戦士「お前も、1人で死ぬのは寂しいだろう?」

副団長「……」

副団長「なんでこんな時にそんなことを言うんだよぉ……」

副団長「せっかく安心して死のうとしたのに……死ねなくなるじゃないかぁ……」

副団長は戦士に初めての涙を見せた。

戦士「最後に、返事だけ聞かせてくれ」

戦士「俺はもうそれだけでいい」

副団長「……ボクも……」

副団長「ボクも戦士のことが……」

そこまで言ったところで、戦士は小さくうなずき、ゆっくりと自らの唇を副団長のそれへと近づけていった。



2人の目に、一瞬閃光が走った気がした。



激しい爆発によって、城外の魔族は全滅した。
そして、その爆発の中心部には、そこで散った2人の墓標を模すかのように、
第十三代勇者の剣が真っ直ぐに突き刺さっていたという。


―――時は戻って 城内 エントランス―――

側近「さて、2対1では少々分が悪いですが、仕方ないですね」

側近「魔王様の実力がどれだけ向上なさったのか、見ものです」

魔王「ふん!そんな余裕な口を叩けるのも今のうちよ!」

魔王「火球魔法(大)!!」ゴォッ

側近「火球魔法(大)!!」ゴォッ

ドガァァァン

2つの上級魔法がぶつかり合い、大爆発を起こす。

側近「ほう……魔王様は炎系魔法が苦手だったと存じますが……」

魔王「私もいつまでも同じ私だと思っては困るわね」

魔法使い「もう上級魔法まで使いこなせるなんて、大したものね」

魔法使い「本当に私は見てるだけで十分かもしれないわね」

魔王「だからさっきもそう言ったでしょ!」

魔王「それじゃあ側近!!覚悟なさい!」

側近「お受けしましょう」


―――…

それから魔王と側近はエントランス内を縦横無尽に飛び回り、上級魔法を駆使してぶつかりあった。
その衝突は1時間をゆうに超えたが、互いに傷一つ与えられないまま時間がたった。魔法使いはあくまで補助魔法や防御魔法で手助けするにとどめていた。互いに消耗戦になれば、魔法使いが無傷な分こちらが有利なことを察していたからである。

側近「ほう……まさここまでとは」

側近「驚かされましたよ」

魔王「はぁ……はぁ……」

魔王「またちょこまかと動き回って……」

魔王「これじゃあ当たるものも当らないわね」

魔法使い「大丈夫魔王ちゃん?」

魔法使い「大分体力を使ってるみたいだけど」

魔王「これくらい大したことはないわ!」

魔王「復興省の頭でっかちに無駄話を聞かされる方がよっぽど辛いわよ!」

魔法使い「あら、そこまで元気なら何よりね」

魔法使い(しかし……魔王ちゃんがここまで消耗しているのに、側近の方はほとんど体力を消耗していないみたいね……)

魔法使い(何かおかしいわ……)

魔王「そろそろ決めてやらないとね……」

魔王「爆破魔法(大)!」

ドガァァァン

側近「当たりはしませんよ!」サッ

側近は爆発に合わせて飛び上がり、軽く爆破魔法をかわした。

側近「……これは!?」

しかし、爆破魔法による煙が思ったより濃く、視界が狭まってしまった。

側近「ちっ、暴風魔法(大)!」

側近はその煙を払うべく、暴風魔法を発動しようとした。

魔王「かかったわね!」

魔王「即死魔法!!」シュバッ

側近「何っ!?」

魔法使い「即死魔法……!?」

魔王はその隙に側近に急接近しており、至近距離で即死魔法を放った。
側近は防御魔法を使う間もなく、その即死魔法の餌食となった。

側近「ぐっ……!?」

ドサッ

バサッ
トッ

側近が力なく地面に叩きつけられるのと同時に、魔王もゆっくりと地面に降り立つ。


側近「馬鹿……な……」

魔法使い「一体どうやって即死魔法を……?」

魔王「簡単な事よ。さっきから側近が使っていた即死魔法の魔導方程式を頭の中で書き上げて、それを詠唱に乗せた」

魔王「ただそれだけのことよ」

魔法使い「ただそれだけって……」

魔法使い(あんな高度な魔法を、見ただけで魔導方程式を導き出してコピーしてしまうなんて……)

魔法使い(さすが魔術の才能は人間の域をはるかに超えているわね……)

魔王「魔法使いが言ってたことを応用させてもらったわ」

魔王「本当に魔導方程式って便利ね」

魔王「応用次第でいろんなことができるし、本当に教えてもらって感謝してるわ」

魔法使い「ええ、私もそこまで存分に使ってもらえると嬉しいわ」

側近「ぐ……魔導方程式……だと……」

側近「下賤な……」

魔王「あら失礼ね!人間族の魔術だって捨てたものじゃないわよ?」

魔王「その証拠に貴方は今こうして地面に這いつくばっているんだからね!」

側近「……」

側近「それはどうかな?」

魔王「え?」

側近「即死魔法!」シュバッ

魔法使い「魔王ちゃん!」

魔王「防御魔法!!」キィィィン

魔王は間一髪でその即死魔法を防御魔法で防いだ。
魔法に対する防御魔法はその魔法に対するアンチスペルが必要となるため、実質魔王は即死魔法のアンチスペルをも会得していたことになる。


側近「仕留めそこなったか」バッ

側近は再び距離を取る。
それに合わせて魔王も魔法使いの近くに後退した。

魔法使い「ほっ……即死魔法のアンチスペルまで構成しきっていたなんて、大したものね」

魔王「さすがの私も少しヒヤッとしたわよ!」

魔王「でもどうして即死魔法で死なないの……?」

魔法使い「そうね……」

魔法使い「魔王ちゃんの魔法が不完全だったか、あの体に魂がないかの二者択一でしょうね」

魔王「私の魔法が不完全ですって!?」

魔法使い「私もそっちが正しいとは考えていないわ」

魔法使い「恐らく後者が正しいでしょうね……」

側近「ばれてしまいましたか……」

側近「しかし、それでどうなるとも思えませんがね!」

側近「雷撃魔法(中)!」バリバリッ

バッ

2人は雷撃魔法を別々の方向にかわした。

魔法使い(となると……いったい本体はどこにいるのかしら……)

魔法使い(もし近くにいるとしたら……!)

真側近「即死魔法」シュバッ

魔法使い「しまっ!?」

魔法使いが懸念した通り、側近の本体は魔法使いの背後に忍び寄っていた。
魔法使いはそれを避ける術もなく、防御魔法も展開できないため、即死魔法の命中を許した。
そして、側近の本体は再び闇に溶けてしまった。

魔法使い「ぐぅっ……」フラッ

ドサッ

魔王「魔法使い!!」ダッ

魔法使いは力なく車椅子から崩れ落ちた。それと同時に彼女の杖も、埃に満ちた絨毯の上に転がった。
魔王はすぐに駆け寄るも、魔法使いは既に生気を失っていた。


魔王「く……」

側近「ははははは!!」

側近「有利な状況が一変してしまいましたね」

側近「どうします、私の本体を見つけられなければ魔王様に勝利はありませんよ!」

魔王「……許さない……」ゴゴゴゴゴ

魔王「本体が見つからないならこの城ごと吹き飛ばすまでよ!!」

魔王「塵と消えなさい!! 爆破魔法(特大)!!」ズズズズズ

魔王の魔力の大半が一点に集中していく。この魔力量ならば城はおろか幸の国の王都が丸ごと吹き飛ぶレベルの爆発が起きたであろう。

側近「な……なんと……」

真側近「……それならその前に死んでもらいましょうか」ボソッ

魔王「!!!」

真側近は魔王のすぐ背後に忍び寄っていた。
魔王はその怒りによって側近の接近を予知しえていなかったのである。

魔王「しまっ!防御ま……」

真側近「即死魔法!」

魔王(間に合わない! こ、こんなところで……!)

魔王は思わず両腕で自分の身体を庇った。そうすれば即死魔法が通らないというごく小さな可能性にかけたのである。そして実際、魔王が死ぬことはなかった。

魔王「……え?」

真側近「が……ぐ……」

魔王が真側近を見やると、側近の腹部から巨大な氷柱が生え、その根元は赤く染まっていた。
そしてその後ろにはさっき死んだはずの魔法使いが杖を構えていた。

魔王「魔法使い!?」

魔法使い「ま、まだくたばるには早かったみたいでね……」ハァハァ

真側近「ば、馬鹿な……」ドシャ

真側近が倒れるのと同時に、操り人形の側近の身体も生気を失って倒れこんだ。
その姿は、元の幸の宰相の姿に戻っている。


真側近「どうして生きている……」

魔法使い「貴方と同じ方法を使ったまでよ」

魔法使い「最近、貴方のおかげで魂を操る魔法について興味を持ってね」

魔法使い「この車椅子には私の魂を一時的に預ける機能を試作していたのよ」

魔法使い「それで、即死魔法が命中する寸前に魂を車椅子に移動し、その命中を避けたってところね」

魔法使い「まあ、大分無理をしたせいで魂が半分以上四散してしまったけど、即死は何とか免れたわ」

魔王「その車椅子、そんな機能までつけていたのね」

魔王「さすが魔法使い!」

魔法使い「まだ試作段階だけどね」

側近「ぐ……そうか……」

側近「だがその様子では寿命が半分は縮んだようだな……」

側近「私が50年かけて研究してきた操魂魔法をこうもあっさり看破されるとは……」

側近「恐るべき魔法の才能……」

側近「お見事……」ガクッ

魔王「終わった……わね」

魔法使い「いや、まだよ……」

魔法使い「超究極魔法を止めなければ……」フラッ

ドサッ

魔王「魔法使い!?」

魔法使い「く……さっきので予想以上に無理してしまったわ……」

魔法使い「少し休ませてもらっていいかしら……」

魔王「分かったわ。先に行ってるわね」

魔法使い「勇者たちを頼んだわよ」

魔王「任せなさい!」

タタタッ

魔法使い「ふう……」

魔法使い「外の二人は大丈夫かしら……」

魔法使い「大丈夫じゃなかったら私もただでは済まなさそうね……」

魔法使い「!?」

魔法使い「この魔力は……自爆魔法?」

魔法使い「まさか……」

魔法使い「戦士……」

魔法使い「生きて……帰ってきなさいよね……」


城外編及びエントランス編終わりです。あとは玉座編に続く。


―――幸の国王城 玉座の間―――

勇者「これは……」

勇者の目に飛び込んできたのは、床一面だけでなく壁いっぱいにまで刻印された魔法陣であった。
その魔法陣の上では莫大な量の魔力が複雑に蠢いているのが分かった。
その魔法陣は幸の国王の鎮座する玉座の後方に中心を構え、その付近では四賢人たちが詠唱を続けている。
四賢人たちはそれぞれ柱状の魔法壁に囲まれていた。

幸の国王「おお、これはよく戻った勇者!待っておったぞ」

幸の国王「北部荒地開拓、実にご苦労だったな」

勇者「……待っていたも何も、君が僕をここに引きずり込んだんだろう?」

勇者「幸の国王ならぬ先代魔王」

幸の国王「ハハハ。やはりばれておったか。さすがは7番目の勇者だ」

幸の国王「どうかね7番目の勇者よ、この光景は」

幸の国王「我が軍最高の洗脳魔法で四賢人はもう詠唱をやめることはできないのだ。人間族が滅びるその瞬間まではな」

幸の国王「まさか自らの力で国を救うどころか、人間族を滅ぼすことになろうとはゆめゆめ思っておらんだろう」 

勇者「先代魔王……どうして君はそこまで人間族を滅ぼそうとするんだい?」

勇者「君の娘は人間族の文化を知り、美しさを知り、そして、両族の協調と平和を望んでいる」

勇者「つまり、魔族と人間族がどうしても争う必要はないということだ。そうだろう?」

幸の国王「協調と平和……か」


幸の国王「何とも美しい言葉だ。それが相対的なものであるという点を除いてな」

幸の国王「余にもそれを望んだ時代は確かに存在した……だが、そんなものは幻想にしか過ぎないということを余はしたたかに知ったのだ」

幸の国王「魔族と人間族は似すぎているのだよ。似過ぎた双子はその容姿や能力や精神の僅かな違いを意識せざるを得ん」

幸の国王「そしてそれはやがて卑下や軽蔑となり、いずれ怨恨へと成長し、最後には争いとなる」

幸の国王「結局はそれを延々と繰り返すだけなのだ」

幸の国王「おこがましいとは思わんか。それならば、ここで一度けじめをつけねばならんのだよ」

幸の国王「余以前の魔王は人間族を滅ぼすことはできなかった。奴らはただ戦争ごっこと勇者ごっこを繰り返していただけに過ぎんのだ」

幸の国王「だが余は違う。余は壮大な謀略を持って人間族をこんどこそ滅ぼし、新たな帝国をここに築くのだ」

勇者「似過ぎた双子ね……」

勇者「確かに、その考え方は正しい」

勇者「だけど、僅かな違いが全てマイナスの感情に変わるということはありえない」

勇者「尊敬や羨望といったプラスの感情を生み出すことだって多々あるはずだ」

勇者「それに、僕の『勇者の国』では事実魔族、人間族、半魔の三族が協力し合って国を支えている」

勇者「これこそ君の言うことの矛盾を裏付ける確固たる証拠となるはずだよ」

幸の国王「そんなものは短い時間における話だ。余が論じているのは更に長い時間単位で見たことなのだよ」

幸の国王「まあよい。こんなところで話したところで何も変わりはせん」

幸の国王「余の策はこれをもって遂に完成するのだからな」

勇者「なっ!? 団長!!?」

先代魔王が合図をすると、球状の防御魔法の中を浮遊魔法で浮かぶ団長が勇者の背後の扉から現れた。


勇者「団長に何をした!?」

幸の国王「何もしておらんよ。ただ深く眠ってもらっているだけだ」

幸の国王「このくらいの魔法ならこの身体でも軽く扱えるわ。魔力も背後の老人どもが無尽蔵に与えてくれるしな。だが……」

幸の国王「これを持って余、先代魔王は完全に復活するのだよ」

勇者「……まさか……君が魔力を分離して収めた受け皿は……」

幸の国王「そうだ。この汚らわしい反逆者の娘だ!」

キュイイイイ

団長「ぐああああああああっ!!」

勇者「団長!!」

先代魔王が団長に手をかざすと、膨大な量の魔力が団長の身体から分離した。
それは小さな光球となり、先代魔王のもとへと向かっていく。

勇者「くそ、させるか!!」ダッ

幸の国王「甘いわ」 ブワッ

勇者「ぐわぁぁっ!」

先代魔王は暴風魔法で軽く勇者を吹き飛ばしてしまった。勇者は盛大に背中から床に叩きつけられた。

勇者「ぐ、げほっげほっ」

勇者「はっ」

幸の国王「フフフ……ハハハハハハハハ!!」ギュッ

先代魔王は光球を握りつぶした。すると、膨大な量の魔力は全て先代魔王に吸収され、ここに先代魔王が復活した。

幸の国王「おおお……魔力が溢れてくる……!!」

幸の国王「久々だなこの感覚は……!」クルッ

幸の国王は転がる勇者には目もくれず、四賢人の方へ振り返った。

幸の国王「超究極魔法!!」ヴン

ゴゴゴゴゴゴ


勇者「な、何だ!?」

幸の国王「ハハハハハハ。この魔力を使って超究極魔法を一気に始動したのだよ。そしてその主導権を握らせてもらった」

幸の国王「分かるな?これで『星』をどこにどれだけ落とすかは余の思うままなのだよ!」

勇者「なっ!?」

幸の国王「手始めに貴様の建てた勇者の国とやらを消し去ってやろう。その後には魔術国も奇術国もすべて消え去るのだ!」

幸の国王「余の力が戻った記念だ。貴様を余の最初の餌食にしてやろう」

幸の国王「ありがたく思うがいい!!氷柱魔法!!」ビュン

勇者「く、防御魔法!!」


バリィン


勇者「なっ!?」

先代魔王の放った氷柱はいとも簡単に勇者の防御魔法を粉砕した。

勇者「しまっ…………」

勇者は咄嗟に剣で防御する体制に入った。勇者の二級品の剣では氷柱の威力を相殺するには及ばないことは既に計算できていたが。


シュンッ

ドッ


勇者「……!?」

幸の国王「何!?」



勇者が目を開くと、そこには勇者の前に立ちふさがる魔王の姿があった。
氷柱は彼女の身体を貫通し、傷口からは血が染み出している。


勇者「魔王!!」

魔王「がはっ……流石お父様。この私でもかなり痛いわね……」

勇者「大丈夫かい!?」

魔王「ええ、大丈夫よ。そんなことより……」フラッ


バタッ


勇者「魔王!」

勇者はすぐに魔王を抱き上げた。

魔王「はぁ……はぁ……さっきの戦いで思った以上に魔力を使ってしまっていたみたいね……」

魔王「回復魔法」パァッ

勇者「回復魔法」パァッ

幸の国王「この余に逆らうとは、貴様もただの臆病者ではなくなったか」


二人分の回復魔法で魔王の傷はかなり塞がった。だが、もはやまともに戦える状態でもなかった。


魔王「私は……お父様のことをいまでも敬愛しています……」

魔王「でも、お父様がしようとしていることはその限りではありません……」

魔王「例え、この身を犠牲にしてでも私は私の信念を貫かせていただくまでです!」


幸の国王「そうか……残念だ」

幸の国王「だが貴様の代わりなどいくらでもいる。余の子でなくても余の意思を継ぐ者はな」

幸の国王「その冴えない勇者と共に散るがよい。それが貴様の望みなのだろう?」

ゴゴゴゴ

再び先代魔王は魔法を打ち出す構えにでた。今度は容赦なく止めを刺すであろうことが、二人には容易に想像できた。

魔王「まったく……貴方みたいな残念な勇者と共倒れなんてまっぴらごめんね」

勇者「それにしては、いつもの毒気がないんじゃないのかい?」

魔王「ほっときなさい!」

魔王「…………勇者」

勇者「どうしたんだい?」

魔王「……い……いままで……ありがとね。楽しかったわ」

勇者「……おいおい、まだ遺言には早いよ」

勇者「まだ僕らには希望がある」

勇者「最後の希望がね」

勇者(どうか……目を覚ましてくれ……!)



――――――
――――
―――

団長「ここは……どこじゃ?」

団長「儂はさっきまで勇者と……」

団長はログハウスのダイニングのような部屋で、テーブルに向かって腰かけていた。テーブルにはこれ以上ない豪華な料理が並んでいる。

ガチャ

?「あら?帰ってたの?」

団長「お主は……お母さん!?」

団長母「どうしたのですかそんなに驚いて。そんなに寂しかったのかしら」

団長母「ふふ……今日はパパが帰ってくる日ですから、夕ご飯は特製の御馳走ですよ。沢山食べてくださいね」

団長「わぁっ!やったぁ!!」

ドガァァァァン

団長が料理に手を付けようとしたその瞬間、近くで爆音が鳴り響いた。

「火炎魔法っ!」ボォッ

「相手は強力な魔力を持つ半魔だ!心してかかれい!」

「絶対に逃がすな! 母親もろとも処分するのだ!」

木製の家屋に容赦なく火炎魔法と爆破魔法が浴びせられた。防御魔法で幾分か防いではいるが、それも長く持ちそうにはない。

団長「お母さん。どうして外が騒がしいの?」

団長母「早く逃げなさい!ここは私が食い止めます」

団長母「あなたは絶対に生き延びるのです。幻影魔法をかけておきますから、とにかく森の中を進みなさい」

団長母「そうすれば必ず道は開けます」

団長「え、嫌だよお母さん!お母さんも一緒に来てよ!」

団長母「それはできません。私はしてはいけないことをしてしまったんですよ」

団長母「私の罪はあくまで私の罪であって、貴方の罪ではありません」

団長母「あの父親を持つ貴方ならわかるはずです」

団長「どうして?どうして私だけ……」

団長「どうして……」

ゴォォォォォ

団長母「さあ早く! 浮遊魔法!」ブワッ

団長「やだっ……お母さん!! お母さあああぁぁぁぁ……」

団長母は団長を浮遊魔法で持ち上げ、窓から精一杯外へ放り投げた。

団長母「もしかしたらもうあの人も……」

団長母「……分かってはいたことですが、あの子まで巻き込んでしまったのは最大の悔い……ですか……」

団長母「でも……あの子ならきっと…………」

団長母は炎と瓦礫の下に埋もれていった。


――…――

団長「はっ!ここは……あの場所か……?」

「どうしましょうか、この娘……」

団長「誰じゃ……?」

「大逆犯の娘で半魔となれば生かしておく理由はありませんが……」

団長「あれは……側近か?」

「いや、待つがよい冥王よ。余に良い考えがある」

団長「あれは……」

「良い考えですか……?魔王様」

団長「!! あれが先代魔王……」

「そうだ。このまま殺すよりももっとむごい運命を与えてやろう」

「……と、申しますと?」

「余の身体はいずれ寿命を迎える。だから、その前に余の魂と魔力を分離し、移し替えるのだ」

「な、なんと……!?それは危険すぎますぞ!」

「冥王の称号を持つ貴様に出来ぬというのか?」

「いえ……出来ないということではありませんが……」

「ならよい。そしてその一方……余の魔力全てをこの娘に移すのだ」

「な、なんと……たしかに魔法器具では魔王様の魔力全てを移しきることは不可能ですが、この半魔の娘なら……」

「そしてもう一方、余の魂は人間族諸侯の中で最も扱いやすい『幸の国王』にでも移す」

「さすれば幸の国王の姿を用いて人間族を瓦解させ、最後にはこの娘の魔力を吸収して再び余は復活する」

「どうだ?これで魔族と人間族の長い戦いに終止符を打つのだ」

「な、なるほど……流石は魔王様。策の規模が小官の想像を絶しておりました……」

「褒めずともよい。ともかく、このことは極秘かつ迅速に進めよ。魔王が魔力を持たないと知れればどこぞの獣王なぞが反旗を翻すやもしれん」

「御意」

団長「な、なんと……儂の魔力の正体はこれだったのか……」

「それでは余の魔力を全てこの娘に移すぞ」

「はっ。準備はできております」

ギュイィィィィ

先代魔王が手をかざすと、手のひらからは膨大な量の魔力がつまった小さな光球が浮かびあがった。
それを団長の身体へと押し入れていく。

団長「ぐああああああああっ!!」

それと同時に意識が遠ざかり、やがて団長は再び意識を失っていた。


――…――

「…………」

団長「……ん?」

「……き……い」

団長「だれじゃ?」

「お起きなさい……」

団長「お、お主は……お母さん……」

団長母「貴女には……まだやることが残っています……」

団長「……もう、わたしは疲れたよ……」

団長「もう半魔の平和も人間の平和もどうでもいい……」

団長「そんなの……幻想にしか過ぎないんだから……」

?「そんなことはないぞ?」

団長「貴方は……お父さん?」

団長父(賢王)「現にお前は平和と協調の第一歩を踏み出しているじゃないか」

団長「そう……かもしれないけど……」

団長父「お前は私たちの子だ。魔族と、人間と、争いと怨恨の中に伸びる細い協調の糸……それがお前なんだ」

団長父「お前は魔族と人間族の間の愛によって生まれた。お前なら魔族と人間族の平和を築くことがきっとできるだろう」

団長父「私たちがずっとついているさ」

団長母「ええ」

団長「お父さん……お母さん……」

団長「分かった……わたし……まだ頑張ってみる」

団長「大好きなみんなのためにきっと平和を実現させてやるんだ!」

団長父「それでこそわが娘だ」

団長母「立派になりましたね」

団長「待っててね。もうちょっとだけかかりそうだけど、わたしに出来ることは全部やってからまた来るから」

団長「きっと……わたしにできることを……」


玉座編前篇終わり


――――――
――――
―――

幸の国王「火球魔法(大)!!」

ゴォッ

先代魔王は巨大な火球を勇者と魔王に向かって放った。

ドガァァァァン

幸の国王「何っ!?」

勇者「!」

だが、その火球魔法は突然相殺された。横から飛び出した別の火球魔法によって。

団長「待たせたのじゃ、勇者」

勇者「団長!」

魔王「生きてたのね……!」

幸の国王「馬鹿な、貴様の魔力は全て余が吸収したはず……」

幸の国王「それなのになぜ上級魔法を発動できるのだ!?」

団長「さあな、儂にもよくは分からん」

団長「じゃが、儂も魔法使いを母に持つ半魔じゃ。魔力を持っていたとしてもおかしくはないじゃろう?」

幸の国王「ふん。まあよい。1人小賢しい者が増えたぐらいで何も変わりはせんわ!」

幸の国王「雷魔法(大)!」

団長「雷魔法(大)!」

バリバリバリ

再び二つの魔法は互いに相殺しあった。

この後も団長と先代魔王は上級魔法同士でぶつかり合った。
その激突は長きにわたったが、決着は一向につきそうになかった。

魔王「お、お父様とまともにやりあうなんて……なんて化け物なの……」

勇者「以前の魔力が魔王の分離体由来だったとしたら今の魔力はいったいどこからきているんだ……?」

勇者「一度巨大な魔力を詰め込んだら、本来の魔力の最大値も広がるということなんだろうか」

ピリリ


勇者「伝聞魔法?」

魔王「誰から?」

勇者「団長からみたいだ……」

魔王「なんですって!? あの戦いの最中から伝聞魔法を……?」

勇者「内容は……『先代魔王の注意は完全に儂が引きつけた。 勇者はその隙をついて弱点を破壊せよ』」

勇者「弱点?」

魔王「ほら、あのペンダントのことじゃないの?」

勇者「あの赤いやつかい?」

魔王「ええ。さっきからあそこから魔力が供給されているわ」

魔王「恐らくあそこにお父様の本体が込められているのよ」

勇者「いいのかい?そんなこと教えてしまって」

魔王「いいのよ。何回も言わせないでちょうだい」

勇者「分かった分かった。それじゃあ君にも協力してもらうよ」

魔王「構わないわ」


―――……

ギン
ガン
キィン

先代魔王と団長は依然として激しいぶつかり合いを続けていた。

幸の国王「ぐ……炎魔法(大)!!」ゴォッ

団長「炎魔法(大)!!」ゴォッ

ドガァァァン

2つの炎魔法がぶつかり合い、激しい爆発が起こった。

ドシュッ

幸の国王「何っ!?」

ギィィン

その濃い煙の中から団長が先代魔王本体へと切り込んだ。が、先代魔王はそれをぎりぎりで抑えた。

団長「ぐぬぬ……」ギリギリギリ

幸の国王「ぐ……貴様……どこからそんな力が……!」ギリギリギリ

団長「ふん……お主が用意してくれた大量の魔力のおかげで魔力切れを気にしないで済むのじゃ……!」

幸の国王「く……だが……!」

勇者「てやぁぁぁっ!!」

幸の国王「後ろか!」

ガギィィィン

団長と先代魔王が剣と防御魔法で押し合う背後から、勇者が胸のペンダントへ向かって剣を立てた。しかし、それももう片腕の防御魔法によって防がれた。

幸の国王「ハハハ!残念だったな7番目の勇者よ!」

幸の国王「貴様の策などお見通し……」

幸の国王「!?」

バッ

その直後、勇者の背後から飛び出したのは全く同じ背格好の、勇者であった。


勇者「うおおおおっ!!」

幸の国王「馬鹿な、貴様……まさか!」

勇者→魔王「そうよ、私はただの囮よ!」

先ほどまで勇者だったはずの男が、魔法がはがれて魔王へと早変わりした。

魔王「勇者!両手はつぶしたわ!」

団長「いっけええええええええ!!!」

勇者「先代魔王!覚悟っ!!」

幸の国王「ぐうう!!防御魔法!!!」

ギィィィン

先代魔王はペンダントに刃が及ぶ数ミリ前で防御魔法を張り、何とか刃を防いだ。

勇者「何っ!?」ギリギリギリ

団長「なんじゃと!?」

魔王「まだ耐えた!?」

幸の国王「き、貴様らぁぁぁぁっ!!!」ギリギリギリ

幸の国王「余を舐めるなぁぁぁ!!」グググ

3人同時に攻撃を受けているにもかかわらず、防御魔法が少しずつ3人を押し始めた。

勇者「まずいっ!」

団長「勇者、押し切るのじゃ!」

魔王「ぐ……さっきの傷さえなければ……!」

幸の国王「ハハハハハ!!」

幸の国王「余の策にここで死ぬなどという文字はないのだよ!」

幸の国王「余はここで貴様らを始末し、新世界を構築し、帝王とならねばならんのだ!!」

幸の国王「さあ、その手をどけろ!余の邪魔をするなあああああぁぁぁぁぁっ!!」



魔法使い「それはお断りね」


バリィッ


勇者「!」

団長「!!」

魔王「えっ!?」

幸の国王「!!?」


突如階段のところに魔法使いが現れた。
彼女は足を引きずりつつも、ペンダントを守る防御魔法の反魔法をぶつけた。
いままで3人分の攻撃を受け切ってきた防御魔法の結界に大きなひびが入る。


幸の国王「馬鹿な、反魔法だと!?」

魔法使い「悪いわね、私も貴方の考えには反対なのよ」

団長「今じゃ!」

魔王「勇者ぁぁぁっ!!」

勇者「うおおおおおおおっ!!」

バリッバリバリッ

そのヒビは少しずつ確実に蜘蛛の巣状に広がっていく。
これが破られるのも時間の問題と思われた。

幸の国王「ぐおおおおおおおおぉっ!!何故だ、何故受け切れぬ!!回復が追い付かん!!!」

幸の国王「貴様、何故そこまで平和にこだわる!」

幸の国王「ただの平和や平等はいずれ精神を腐敗させ、さらに巨大な争いを招くだけのこと……!」

幸の国王「貴様に何故それが分からぬ! 恐怖と支配と独占こそが唯一の安寧の道なのだ!」

幸の国王「何故だ、何故だ、何故だ……! 貴様はなぜそこまでして余に刃向うのだ!!」

勇者「うおおおおおお!」

団長「勇者ああああっ!!」

魔王「いっけええええええっ!!」

魔法使い「頼んだわよ!」

バリバリバリッ
パッキィィィィン
ズァァァァッ

勇者「!!」

魔王「きゃっ!」

団長「!!」

魔法使い「!?」


知恵のペンダントが砕ける音がした。
それと共に断末魔が辺りに充満し、膨大な量の魔力が爆発的に放出された。

4人はその中で気を失った。



―――……

勇者「ん……ここは……」

勇者は何もない真っ白な空間に浮かんでいた。ここが現実世界でないことはすぐに見抜いたが、妙に現実的な気がした。

???「今宵は、敗れる、か……?」

勇者「君は……先代魔王か」

目の前には魔族と思わしき男性が勇者の方を向いて立っていた。

先代魔王「6人もの勇者を手を下さずとも滅した余がついに7番目の勇者に敗れる……か」

勇者「君は……本当は恐怖や支配が本当の安寧につながるなんて思っていなかったんじゃないか?」

先代魔王「ほう。なぜ分かる」

勇者「人間族を滅ぼすまではともかくとして、当初はその後の邪魔者がいなくなった世界はあの心優しい魔王に譲るつもりだったんだろう?」

勇者「彼女が恐怖や支配を徹底しうるような人格に僕には見えなくてね」

先代魔王「ハハハ。何を言い出すかと思えば」

勇者「さっき自分で魔王を攻撃した時かなり動揺していたじゃないか。そしてその後の止めもかなり躊躇っていた」

勇者「魔王が不干渉区に来たことを止めようとしなかったこともそうだし、そこまでの状況証拠があれば君があの魔王を……娘を愛していたことは容易に想像がつく」

勇者「もし人間族や僕が滅びてもその後魔王に君を倒させれば、どっちにせよ愛する魔族も魔王も平和になってハッピーエンドってわけさ」

勇者「もちろん、君が倒れれば言わずもがな、だけどね」

先代魔王「……」


先代魔王「ふ、そこまで見抜かれておったとはな」

先代魔王「さすがは7番目の勇者だ。余が選んだだけはある」

勇者「聡明な魔王たる君のことだ。本当は3族の平和も魔族の平和につながることぐらいは理解できていたんだろう?」

先代魔王「ふ、愚問だな」

先代魔王「だが余はそれでは足りないと判断したまでだ」

先代魔王「より強い絆の創生にはより強い敵が必要になるもの」

先代魔王「余が敗れようが勝とうが魔族の平和が実現するよう保証させてもらった」

先代魔王「ただそれだけだ」

勇者「少々過激すぎたと思うけどね」

勇者「で、わざわざ僕をここに呼んだ理由はなんだい?」

先代魔王「魔族を、娘を頼んだ。ただそれを伝えたかっただけだ」

勇者「……ふふ。もちろんさ」

勇者「君も疲れただろう?わざわざ体まで入れ替えたんだ」

勇者「安らかに眠ってくれ、偉大なる先代魔王……」

先代魔王「ふん、さらばだ……」

先代魔王「と、言いたいところだが、実は我が策はまだ終わっておらぬ」

勇者「なんだって!?」

先代魔王「詳しくは自らの目で確かめよ。余の最後の置き土産、とくと堪能するがよいわ」

勇者「く、いいだろう。君の最後の一手、僕が打ち砕いてやる」

先代魔王「ハハハハ。最後に勝利するのは余か? それとも卿か? 余は高みの見物とさせてもらおうか……」

先代魔王の笑い声が響き渡る。その声も、少しづつ遠ざかっていった。


―――……

「……じょ……」

「だい…………勇者……」

魔王「勇者!大丈夫!?」

勇者「わっ!?」

団長「勇者!!よかったのじゃ!」ギュー

勇者「うわわっ、だ、団長!?」

魔法使い「やっと起きたわね」

勇者が目を覚ますと、目の前には自分を心配する魔王、団長、魔法使いの姿があった。

団長「勇者ぁ~」スリスリ

勇者「……僕は、どれくらい眠っていたんだい?」

魔法使い「さあね。私たちが起きたのも今さっきだから何とも……」

魔王「とにかく、お父様は撃破したわ」

勇者「そうか……」

勇者「はっ! そういえば超究極魔法は!?」

玉座の後ろでは、まだ四賢人が詠唱を続けている。

魔法使い「まだ終わっていないわね……」

魔王「そんな、やっとお父様を倒したのに!」

団長「そうじゃ! こうなったらあの四賢人も抹殺して……」

魔法使い「無駄よ。最早あの四賢人は傀儡にしか過ぎない」

魔法使い「超究極魔法を止めるには……アンチスペルしかないわ」

勇者「アンチスペル……?」


団長「し、しかし、超究極魔法のアンチスペルなど、大賢者ほどの天才魔法使いでないと作れないのではないか……?」

魔王「もしかして、貴女……」

魔法使い「ええ。私を誰だと思っているの?」

魔法使い「奇遇にもこの数年超究極魔法についてのアンチスペルを研究していてね」

魔法使い「ほんの数か月前、遂に完成したわ」

団長「……なんと!?」

魔王「やっぱり……」

勇者「はは、流石魔法使いだ」

勇者「遂にあの大賢者にも勝ったかな?」

魔法使い「私なんてまだまだよ。でも、もう喋っている時間はないわ。早速かからせてもらうわね」

魔法使いは、部屋にかかれた魔法陣の所々を修正した。そしてそれを終えたのち、魔法陣の中心で詠唱を始める。
同時に、玉座の間の壁に、巨大な映像が映し出された。
巨大な黒い岩石、それが、青く輝く丸い光源に向かって一直線で向かっている。

勇者「この岩石が、その星か……」

魔王「思ったより不細工じゃない」

団長「ああ、しかし奥の青くて丸いのは何じゃ?」

勇者「あれが僕らの住んでいる星さ」

勇者「あの中の緑色のところがこの大陸で、僕らはその中のちっぽけな一員として生きているんだ」

魔王「あっちの方は綺麗ね……」

団長「なんだか、戦争やらをしているのが馬鹿らしくなるのう……」

魔法使い「……!! これは……!?」

突然、詠唱中の魔法使いが不穏な声を上げた。

勇者「どうした魔法使い!?」

魔法使い「まずいわね……このままでは間に合わないわ」

団長「なんじゃと!?」

魔王「そんな……それじゃあ……」

魔法使い「少しアンチスペルを発動するのが遅すぎたのよ……」

魔法使い「このままでは、あの星を破壊する寸前に勇者の国に落下するわ」

魔法使い「あと一押し何か衝撃を加えられれば……」


勇者「く、ここまでか……?」

団長「勇者。儂は、なんとか勇者の国に伝聞魔法を送って避難するよう勧告するのじゃ」

勇者「ああ、頼む」

魔王「お父様……どうしてそこまで3族の平和を否定するの……?」

魔王「死してまでそれを貫くなんて……」

勇者「まあ魔王、彼は本当に3族の平和を否定していたわけではなかったみたいだよ?」

魔王「えっ……? どうしてわかるの?」

勇者「君の父に直接聞いた、ということにしておこうか」

魔王「?」

勇者「まあとにかく、君の父ならまだ何か策を考えているんじゃないかと思うんだ」

勇者「最後の策の更に最後の策をね……」



バラバラバラバラ

その時だった。穴の開いた玉座の天井に、奇術の国の飛行輸送機が現れたのだ。


団長「あれは……?」

魔王「空を飛んでる……」

勇者「僧侶の軍か!?」

シュルシュルシュル

大佐「勇者様! お久しぶりです」

真っ先に姿を現したのは、僧侶の秘書の大佐であった。

勇者「大佐! どうしてここに」

大佐「僧侶さんから指示があったのです。詳しくはこちらをご覧ください」

そう言って、彼は奇術国製のいわゆるパソコンを開いた。
そのモニターには、僧侶の顔が。どうやらリアルタイムでつながっているようだ。

僧侶「勇者様! ご無事でしたか!?」

勇者「僧侶! おかげさまで黒幕の先代魔王は倒したよ。だけど……」

僧侶「ええ、小惑星の墜落に関してはこちらでも掴んでいます」

僧侶「それに関して……魔法使いさんはいますか?」

魔法使い「ええ、いるわよ?」

僧侶「今、宇宙局のデータではその小惑星の速度が著しく下がっているのですが、魔法使いさんの力ですよね」

魔法使い「ええそうね。私が開発した超究極魔法のアンチスペルを発動したところよ」

魔法使い「……でも、アンチスペルを発動するのが遅すぎたせいで、恐らく破壊の寸前に墜落してしまうわ」


魔法使い「あと何か一撃大きなダメージを与えられれば、粉々に出来そうなんだけど……」

僧侶「やはり……」

僧侶「あの大きさの小惑星が墜落した場合、宇宙局の試算では大陸の北半分が焦土と化し、南半分も生物がすめる状態ではなくなります」

僧侶「言葉通り、世界滅亡ですね」

勇者「なんだって!? 勇者の国だけでは済まないのか……!?」

勇者(なるほど、先代魔王は大した置き土産を残していってくれたみたいだな……)

僧侶「はい、残念ながら……しかし、私に考えがあります」

魔法使い「考え?」

僧侶「ええ、魔法使いさん、魔法で小惑星に巨大な亀裂を入れることはできますか?」

魔法使い「亀裂……? まあ、出来なくはないと思うけど……」

僧侶「その中で大きな爆発を起こせれば、小惑星を砕くことができますよね」

魔法使い「なるほど……でも、そんな爆発どうやって起こすのかしら」

僧侶「見てください」

僧侶が言うと、モニターには細長い金属の筒のようなものが現れた。その横には、『飛翔型核兵器、別名核ミサイル』と書かれている。

魔法使い「これは……?」

僧侶「これは前理事長、いや私の父が秘密裏に開発していた兵器です」

僧侶「この兵器はもともと、一度宇宙まで飛んでいき、そこから降下して激しい爆発で多くの人命を奪うという恐るべき強力爆弾でした」

僧侶「ですが、これをその小惑星の中に打ち込めば……」

魔法使い「なるほど……! 威力はどれくらいかしら?」

僧侶「貴女方がいる幸の国首都を、跡形もなく消し去るくらいには……」

勇者「なんだって……!?」

団長「なんという威力じゃ……」

魔王「私が全魔力を解放しても恐らく敵わないわね」


魔法使い「なるほど。十分ね」

魔法使い「分かったわ。やりましょう」

僧侶「ありがとうございます! こちらはもう準備はできています!」

魔法使い「じゃあ私も上手く亀裂を入れられそうになったら合図するから、頼んだわよ!」

僧侶「はい!」

勇者「科学と魔法の合わせ技か……」

団長「想像もしなかったことじゃな」

魔王「これが協調の力、ということね……」

玉座の間の壁には、相変わらずその小惑星の映像が流れている。しかし、心なしかそれは減速しているようにも見える。

そしてしばらくして、ついにその小惑星が勇者らの星へと到達しようとした。
小惑星が一気に赤く染まっていく。同時に、空にも紅い彗星のような星が見え始めた。

団長「ま、まだか!? このままでは衝突してしまうぞ!」

魔王「あ、もう空にも見えてるわよ! あそこ!」

勇者「本当だ……魔法使い、まだなのかい!?」

魔法使い「もうちょっと待ちなさい。十分引きつけないと意味がないわ」

少しの間、全員を沈黙が包み込む。

魔法使い「今よ! 僧侶!」

僧侶「はい! 今です、発射!!」

魔法使いが言うのと同時に、映像内の小惑星にも大きなひびが入った。
同時に、僧侶が部下に指示を飛ばす。

ゴォォォォォォォ

すると、先ほどの小惑星の映像の横に、奇術国軍兵がミサイルの映像を投影した。
それは膨大な量の煙を上げ、少しずつ空へ昇っていく。


勇者「凄い量の煙だね……」

団長「しかし、思ったより小さいのう」

魔王「あ、あれを見て!」

しばらくすると、奇術の国方面の地平線から、何やら白い線が立ち上った。

団長「なるほど、ここからでも見えるのか」

勇者「僧侶、魔法使い、上手くいく確率はどれくらいだい?」

魔法使い「上手く誘爆して、粉々に砕けるかどうかで半々ってところでしょうね」

魔法使い「下手をすれば中途半端な大きさではじけて結局世界滅亡なんてこともあり得るわね」

僧侶「こちらも亀裂の最深部に上手く命中する確率はほぼ50%です」

勇者「そうか……となると、4回に1回は世界は滅亡するんだね」

団長「し、しかしまだわからんのじゃ!」

魔王「そうよ、少しでも可能性があるなら諦めるべきではないわよ!」

勇者「ああ、もちろんさ。諦める気はないよ」

勇者「だけどあとは2人に任せるしかない。僕らは少しでも魔力を魔法使いに渡すことにしよう」

魔法使い「それは助かるわね」

魔法使い「それじゃあ、命中直前に一斉に魔力を供給してちょうだい」

魔法使い「魔力を一点に集中してあの星を砕く効率とパワーを上げるのよ」

魔法使い「最後の本気を出させてもらうわ!」

団長「承知なのじゃ!」

魔王「任せなさい!」

モニター上で、小惑星と核ミサイルが反対方向に進んでいく。


僧侶「着弾まであと10秒、9、8、7……!」

魔法使い「頼むわ……!」

僧侶「6!」

勇者「頼む……!」

僧侶「5!」

団長「頼むのじゃ……!」

僧侶「4!」

魔王「お願い……!」

僧侶「3!」

魔法使い「よし、みんなお願い!」

全員が魔法使いに向けて魔力を集中する!

団長「うおおおおおおおおっ!!」

僧侶「2!」

魔王「いっけえええええええええええっ!!」

僧侶「1!」

勇者「お願いだ! 勇者の国を、世界を救ってくれえええええっ!!」

僧侶「0!!」

カッ

勇者「うわっ!」

魔法使い「なっ!?」

団長「なんじゃ!」

魔王「きゃっ!?」

僧侶「……!」

僧侶のカウントと同時に、玉座の間は閃光で満たされた。
小惑星に核ミサイルが命中し、大爆発を起こしたのだ。
その閃光は、しばらく玉座の間を満たし続けた。




勇者「……ど、どうなった?」

しばらくして、閃光は収まった。

団長「そうじゃ、あの星は?」

魔王「誰でもいいから答えなさいよ!」

魔法使い「僧侶、どうかしら?」

僧侶「……目標……」

僧侶「目標……消滅」

僧侶「小惑星は、数万の破片に粉砕されました」

僧侶「成功です!!!」



ワッ



その場にいた全員が、一斉に喝采を上げた。
勇者の国は、世界は魔法と科学の融合技により救われたのだ!





魔王「見て!」

団長「あれはっ!?」

勇者「綺麗だ……」

魔法使い「ええ……」


朝焼けの空。橙に染まり始めた空に、膨大な数の流れ星が流れていく。


団長「ついに、終わったんじゃな……」

勇者「ああ、これからは新しい世界が初まっていくんだ」

勇者(そうか……先代魔王の最後の策はこれだったのか……)

勇者(魔法と科学の融合、そして新しい世界を告げる流星群……)

勇者(先代魔王、君の意思、しかと受け止めよう)

勇者(そして、これからは僕が必ず、平和な世界を作る)

勇者(僕がそっちへ行くまで、のんびりと見ていてくれよ……)



全ての人が、全ての魔族が、全ての半魔が、その流星群を見たという。
新しい世界の始まりを告げる数多の流れ星。
ある者はため息をつき、ある者は涙し、ある者は歓喜に叫びを上げた。
そして、その全ての人々を、大いなる朝日が平等に包み込んでいくのであった。





これまでの魔族、奇術国連合、魔術国連合、そして幸の国の4大勢力の均衡は崩壊し、新しい世界が創生されていった。

奇術国連合は僧侶の先導により、本来の自由と平等の志を取り戻した大陸最強の国家としてその権威を高めていった。

魔術国連合は魔法使いと助手の活躍、そして奇術の国連合の援助により一大復興を遂げ、古来よりの伝統を保持した国家を存続させていった。

幸の国は荒廃が激しく、当分の間奇術の国管理下の不干渉地域となった。


そして勇者の国は、これまでの3族そして科学と魔法の融合した理想郷を長い間残していくのである。


伝説は終わり、歴史が始まっていく……


あの冴えない勇者の伝説は、これにて完結する。
彼は永い平和と安定の創生者として、長い間その名を語りつがれてゆくのであった。




これにて完結です。
最後はかなり尻すぼみ感がありましたが、後日談などは特に要望でもない限り書く予定はないです。


皆さん1年半あまり、最後まで読んでいただいてありがとうございました。


あ、それとまとめサイトへの転載なのですが、盗作やなんやと疑われるのはまずいので、
リメイク小説版への誘導を条件に可能ということでお願いします。

URL:http://ncode.syosetu.com/n6491cq/
サイト:小説家になろう 様

むこうは文字数が増えた代わりにかなり世界観を掘り下げてます。
このSSでは名だけで語られなかった死の谷攻略戦や、僧侶外伝などのオリジナルストーリー、オリジナルキャラクター増し増しで描いていってますです。
基本当SSのストーリーで進行しますが、終盤の結末などはガラリと変わる予定です。
ポイントも一桁の最底辺で連載中なので、よければブクマや感想などをいただけると狂ったように喜びます。


完全に宣伝になって申し訳ないです。また気が向いたら読んでみてください。それでは。


そういや、先代魔王は超究極魔法に対するアンチスペルの開発すら予見してたのだろうか。
それとも他にバックアップを用意してたのかな?
連レスすまぬ。

>>877
そうですね、終盤に関しては設定の甘さが際立った感じですね……
超究極魔法に関しては先代魔王の純粋な挑戦みたいなところがあったと解釈していただけたらと思います。

そして要望ありがとうございます。レス数も余っているので現在後日談営為作成中です。少々お待ちを……

ごめんなさい今月中には投下できると思います。
遅くなってしまって本当にすみません


エピローグ



―最後の戦いから数年後 満月の夜 勇者の国行政府 塔最上階展望台―

ヒュウウウウ……

勇者(あれからもう数年、か……)

勇者(この勇者の国は相変わらず著しい発展を続け、奇術国連合は僧侶の指導力により大国としての地位を確固たるものとし、
魔術国連合は魔法使いと助手のお陰で劇的な復興を遂げた……)

勇者(以前まで盛んだった反魔族運動も下火を迎え、今では人間族と魔族が平然と挨拶を交す光景が溢れるよう
になった)

勇者(あの戦い以来、この世界は最も理想的な方向へと向かおうとしている……)

勇者(僕の成したことは遂に身を結ぼうとしているんだ)

勇者(これほどありがたいことは無いな)

相変わらず、彼の目の前には魔法灯によって装飾された勇者の国首都の街並みが広がっていた。
その灯りは形を変え色を変え、勇者の国の中心を彩り続けている。まるで今は亡き副団長と戦士を悼むかのように。


勇者(副団長、戦士……君たちのことはきっと忘れない。この勇者の国建国の最大の功労者にして、僕の最愛の友だ)

勇者(きっと、いつまでもいつまでも、君たちのことは語り継いでいく)

勇者(英雄として、偉大なる偉人として、後世でも語られていくんだ)

勇者(もう少しだけ待っていてくれ。もう少し僕はやることをやったら、そっちへ行くから……)

団長「勇者!! なんじゃやっぱりここにおったのか」ゼェゼェ

勇者「わっ! どうしたんだい団長?」

団長「どうしたもこうしたもないわ! 今夜は勇者の国の建国記念式典と、戦士と副団長の追悼式じゃろうに!」

団長「もう奇術国連合と魔術国連合の各連合からも来賓が来ておる! 急いで中央広場に来るのじゃ!」

勇者「えっ、もうそんな時間なのかい!? しまった、のんびりしすぎた」

団長「全く、いい加減スケジュール管理位自分でやってほしいのじゃ。儂もそんな暇じゃないんじゃぞ」

勇者「ごめんごめん、すぐ行くよ」


団長「はぁ……相変わらずこの夜景が好きなんじゃな」

勇者「まあね。ここにいるとこの勇者の国が発展していく様子をリアルタイムで感じることができるんだ」

勇者「なんというか、自分の子供が育っていくというか、そんな感覚だよ」

団長「……まだお主には子供なんぞおらんじゃろうに」

勇者「う、相変わらず鋭いところを突いてくる」

団長「ふん。それどころか、まだあの僧侶とも婚約を交えていないという話じゃが、本当なのか?」

団長「告白は受けたのじゃろう? ここらで一度けじめをつけてみたらどうじゃ」

団長「勇者の妹として、儂は大賛成じゃぞ」

勇者「よしてくれよ。僕も僧侶もまだ一国を預かる身だ。そんな暇はないよ」

団長「そうかのう……」

勇者「そんな団長こそ、王子様はまだ現れないのかい?」

団長「残念ながらな。儂も忙しくてそれどころではないのじゃ」

団長「それに……」


団長「儂には勇者がいるからな!」ギュー

団長は、突然勇者に抱き付いた。勇者は反応しきれず、思わず体制を崩す。

勇者「わわっ! まったく、相変わらずその抱き癖は治らないんだね」

言いながら、彼は団長の頭をなでる。さらさらとして黒髪が、彼の指の間を通り抜けていった。

団長「ふふふ。好きなものはしょうがないのじゃ」

勇者「それじゃあいつまでたっても大人にはなれなさそうだね」

団長「もう成長するのは諦めたのじゃ。数年たっても1ミリたりとも身長が延びんのじゃあもうどうしようもないじゃろ」

団長「でも、こうしていつでも勇者とハグができるのならこれでもいいのじゃ」ニコッ

勇者「そうかい。それならよかった」

しばらく、勇者は団長と二人で夜景を眺めた。しかし、夜景に連想されたのはあの副団長の姿である。彼らはすぐに、今から行くべき場所のことを思い出すのだった。

団長「……って! こんなことをしている場合じゃないのじゃ! 勇者、式典に急ぐのじゃ!」

勇者「ああっ! しまった! 行こう、団長!」

そして、勇者は団長の手を取り、塔を下り、一路中央広場へと向かっていくのだった。




――― 勇者の国首都中央広場 勇者の国建国記念式典、兼副団長と戦士の追悼式 ―――

ワイワイガヤガヤ……

団長「それじゃあ儂は向こうで来賓の対応をしてくるのじゃ」タタタ

勇者「分かった! また後で」ダダダ

勇者「はぁ……はぁ……何とか間に合ったかな?」

中央広場は勇者の国だけでなく、奇術魔術両連合、更には魔国からも集った人々、半魔、魔族によって埋め尽くされていた。いくつもの丸いテーブルの上には豪華な料理が乗せられ、明るい魔法灯が添えられて夜の広場を明るく照らしている。何となく暗い雰囲気も漂っていたのは、死した副団長と戦士を悼んでのことなのだろう。

僧侶「あ、勇者様! お久しぶりです!」

魔法使い「遅かったじゃない。一体どこで寄り道してたのかしら?」

そして現れたのは、喪服に身を包んだ僧侶と魔法使いであった。魔法使いは相変わらず車椅子に座ったままだ。

勇者「僧侶に魔法使い! 久しぶり!」

魔法使い「ごきげんよう。相変わらず冴えない顔ね」

勇者「一言余計だよ魔法使い」

魔法使い「あら、失礼したわね」


僧侶「ふふふ……」

僧侶「……もう、あれから数年も経つんですね……」

勇者「……ああ。まさか、あの戦士に先を越されるなんてね。僕も予想していなかったよ」

魔法使い「そうね。一番最初に抜けるのは勇者なものだとてっきり思っていたものだけど」

魔法使い「いなくなってみるとあの減らず口も恋しくなるものね」

僧侶「そうですね……やっぱり、仲間が減ると途端に寂しくなります……」

勇者「ああ……まあ、その話はまた追悼式ですることにしよう」

勇者「取りあえずは勇者の国の独立記念日を盛り上げないとね」

勇者「奇術国連合の軍務理事閣下と魔術国連合の国王首席顧問官様に来てもらってるんだ。情けないところは見せられないよ」

僧侶「そんな、閣下何て呼び方はやめてください!」

魔法使い「そうよ。魔術国の実質は魔法大学校新校長の助手も含めた新しい四賢人に任せているし、私もただのアドバイザーに過ぎないんだから、大したことはないわよ」


魔王「あ! 勇者!!」

勇者「あ、君は、魔王じゃないか!」

そこで、人ごみの中から魔王が顔を出した。

魔王「相変わらず冴えない顔ね。元気にしてたかしら?」

勇者「ああ、お陰様でね。君こそ、魔国の方はどうなんだい?」

魔王「勇者のおかげで発展する一方よ。やっぱりまだ少しだけ人間族に対する抵抗もあるみたいだけど、でもすぐに収まると思うわ」

魔王「それもこれも勇者が差別の無い世界を作ってくれたからよ。これも、お父様の望んだ世界だったのかしら……」

勇者「ああ、きっとそうだと思うよ」

団長「勇者! 準備ができたのじゃ! ほらほら早く壇上に登ってスピーチじゃぞ!」

勇者「うわっ、団長! 分かった分かった今行くから!」

こうして、勇者は奇術国魔術国魔国の三大国の代表に見守られながら、勇者の国の独立を祝い、戦士と副団長の死を悼むのだった。


勇者『皆さん。今日はわざわざここまで集っていただいてありがとうございます』

勇者『この勇者の国が建ってから、はや数年』

勇者『世界からは争いが消え、魔族、人間族、そして半魔の間の隔たりも、今やその溝を埋めようとしています』

勇者『平和な世界は、今目の前に広がっているのです』

勇者『私は今日、その象徴として勇者の国の独立記念日を祝えることを誇りに思います』

勇者『そして、この国のために散って行った同胞のことも、忘れてはいけません』

勇者は後ろを振り返った。そこには無数の花に彩られた副団長と戦士の肖像が、寄り添うように置かれていた。

勇者『副団長、及び戦士は団長、そして僕の親友として、この国の建国に深く貢献してくれた建国の師です』

勇者『彼らの存在を忘れず、感謝し続け、その名を後世に伝えるため、今日は追悼式典も共同開催にさせてもらいました』

勇者『とはいえ、あまり暗い雰囲気にしてしまうのも、彼らは喜ばないことでしょう』

勇者『今日はどの国から来たどの種族の方々も、みんなこの新しい平和な世界を祝って、楽しんでいってください』

勇者『それでは、勇者の国独立記念日に、乾杯!!』

カンパーイ!!

こうして、独立記念式典及び追悼式は、あくまで和気藹々とした雰囲気で進んでいくのであった。



―――独立記念式典も中ごろ 人気の無くなった勇者の国首都の街はずれ―――

テクテクテク……

勇者「ふう、ここまで来ればもう誰もいないかな」

僧侶「そう、ですね……」

勇者は記念式典をこっそりと抜け出し、僧侶と二人で街はずれまでやってきていた。久々、いや、初めてといっていい二人だけの時間である。二人とも一国を支える重役同士、このような時間を持つことは滅多にできなかったのである。

勇者「……」

僧侶「……」

二人の間には長い沈黙が流れていた。二人とも、奥手な性格同士。手を繋ぐどころか、言葉を交わすことすらできなかったのだ。

勇者「あの、さ、あっちの方におススメの酒屋があるんだ。よかったら、あの……そこで食事でもどうかな」

僧侶「え、あ、はい。是非!」


勇者「……」テクテク

僧侶「……」スタスタ

勇者「あ、あの!」

僧侶「えっ!? な、何ですか?」

勇者「良かったら、敬語、外してくれないかな。僕のことも勇者様なんて呼ばずに、名前の呼び捨てで構わないから、さ」

僧侶「えっ、あ、はい! 分かりました」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「あ、あの!」

僧侶「えっ!? な、何ですか? ……じゃなくて、何? 勇者……さん」

勇者「良かったら、手を……」サッ

僧侶「……! は、はい……」ギュッ

勇者「……」

僧侶「……」

二人はぎこちなく手を繋いだまま、酒屋の方へと歩んでいくのだった。


――― その2人の背後 物陰にて ―――


団長「およよ……中々良い雰囲気じゃのう……のう魔王?」

魔王「そうね……でもまだまだ物足りないわ!」

魔王「キスはどうしたのよ! 熱い抱擁とキス! それこそが恋人の証じゃないの!……って何かの本で読んだわ」

団長「なんでお主が熱くなっておるんじゃ……」

魔王「む……貴方こそ、よくそんな冷静でいられるわね。いいの? あんなに親しかった男性が他の異性にとられちゃうのよ?」

団長「構わん。儂は勇者の妹じゃぞ? 恋愛感情とはまた別の愛情で十分なのじゃ。お主こそ、勇者にそう言う感情を抱いておるもんじゃと思っておったが……」

魔王「そうね……あながち間違っちゃいないかもしれないわね……」

魔王「でも私も魔王という立場がある以上人間族と……なんて無理な話よ」

団長「まあ、そうじゃな」

魔王「だからせめて彼の《ピー》だけでも貰って子供を産ませてもらおうかと思ってるのよね」


団長「ひぇ!?」

団長「だ、大胆すぎるじゃろ……しかも、それじゃああんまり変わってないんじゃないのか……?」

魔王「もちろん内密によ。それに魔族の夫との跡取りも作るつもりだし、それなら問題ないでしょ?」

団長「お主の行動力には相変わらず感心させられるのじゃ……まあ、せいぜい頑張るのじゃ」

魔王「どうも」

団長「はぁ……それにしても、やっぱりあの二人は見てて心配じゃのう……」

魔王「そうね……!」

魔王「良い考えがあるわ、ちょっと協力なさい!」

団長「へっ!? ちょ、ちょっとまて!」

魔王は団長の袖を引いて、物陰を駆けていくのだった。


――――……

僧侶「……」

勇者「……」

相変わらず二人は手を繋いだまま、黙って人気のない通りを歩んでいく。すると、その前に何やら怪しい占い師が現れた。長いローブを羽織った細身の女が丸いテーブルの奥についている。

占い師「ちょっとそこのお2人さん!」

勇者「えっ……? 僕たちのことかい?」

占い師「そうじゃそうじゃ……ちょっと占っていくとよいのじゃ。何やら面白いものが見えるでのう……ひぇっひぇっひぇ」

勇者「?」

僧侶「取りあえず座ってみましょうか……?」

勇者と僧侶は一度顔を見合わせ、占い師の前に座った。目の前の机には大きな水晶玉が置かれている。

占い師「おぉ……見える見える……お主ら面白い相が出ておるのじゃ」

占い師「何々……? ほうほう……なんと!」

僧侶「……?」

占い師「お主ら、今すぐここでキスをするのじゃ」


勇者「へ!?」

僧侶「な、き……キス!?」

占い師「そうじゃ。さもなくば凄まじい災いがお主らの身にじゃな……」

勇者「……で、これは何の真似何だい? 団長」

占い師「ギクゥッ!!」

占い師「団長? はてなんのことやら……」

占い師?「ちょっと……ちゃんと演技なさいよ……」

占い師「しょうがないじゃろ……まさかばれたかと……」

勇者「いやもうばれてるからね? 口調も声も明らかに団長じゃないか。あと腹話術をするならもっと訓練しなきゃ駄目でしょ」

僧侶「ふふふ……そこに座っているのは、魔王さんですよね?」

そこまで言われると、目の前の占い師はフードを脱いだ。そこにいたのは僧侶の言う通り魔王であった。
そして机の下からは、もぞもぞと団長がはい出してくる。


団長「ほらやっぱり……邪魔するべきじゃないと言ったじゃろうに」

魔王「しょうがないじゃない! いつまでたってもイチャイチャもヌチャヌチャもしない2人を見てたらじれったくもなるでしょう!?」

勇者「ヌチャヌチャって何だよ……まあともかく、2人が僕らのことを思ってくれていたのは分かったよ」

団長「す、すまないのじゃ……儂はただ二人に喜んでもらいたくて……」

勇者「いいさ、気にしないでくれ。そうだ、折角だし2人も一緒に酒屋で食事なんてどうだい?」

勇者「僕と僧侶だけじゃあどうにも会話が進まなさそうでね。僕たちも賑やかなほうがいいし」

団長「ほ、本当か!? ……でも、僧侶はどうなんじゃ? 儂らがいたって邪魔なだけじゃろうに……」

僧侶「いえいえ、是非ご一緒させてください。私も賑やかなのは嫌いじゃないので」ニコ

団長「わぁっ! ありがとうなのじゃ!」ギュー


そう言って、団長は僧侶の方に抱き付いた。


僧侶「ひゃっ! ……団長ちゃんって本当に可愛いんですね。こんな妹がいたらと思うと、羨ましいです」

勇者「何を言うのさ、もし僕と君が結婚でもしたら、団長は自動的に君の義妹になるじゃないか……まあそもそも僕だって団長と血がつながっているわけでもないしね」

僧侶「えっ!? それって……」

魔王「ほら、そうと決まったらさっさと行くわよ! ぐずぐずしてると私が食べ物を全部かっさらっていっちゃうんだから!」ダダッ

団長「ああっ! 待つのじゃ! そんなことは許さんぞ!」タタタ

勇者「ははは……」

勇者「さあ、行こう僧侶。まだ時間はかかるかもしれないけど、いつか、二人で一緒に暮らそう」

僧侶「ううん……二人だけじゃありませんよ。団長ちゃんも、魔王ちゃんも、魔法使いちゃんも……みんなで一緒で暮らそう、ね?」

勇者「……! ……ああ、そうだね……」

こうして、4人は一同揃って歩んでいった。
星降る夜空の下、その背中はどれも未来への希望に満ち、明るい世界へと歩んでいくようにも見えるのだった。


短いですが後日談でした。
遅くなってごめんなさい

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira095555.png


おまけ:キャラメイクファクトリーで副団長を作ってみました。
    小説版の方には描写もいれましたが、大体こんな感じのイメージでした。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年07月14日 (金) 03:47:48   ID: PGbvDSit

設定わりとかんがえてるみたいだけど、肝心の中身がすっかすかなのが残念チェスも端折って書いてるのにも関わらず間違えてるし、考察すべき点はほぼ時間飛ばしたりごまかしたり。

その影響で、あまりにも悠長に過ごしてるように感じるし、キャラクターの思考も曖昧で何も考えてないように見える。

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