真「父さんと可愛さレッスン」 (21)


真一「おい真。昼飯が出来たから呼んでこいって母さんが‥‥」ガチャ

真「きゅるるるりーん♪ まこと姫はお菓子の家に住んでてぇ~、夜にはプリンのベッドで、生クリームのお布団に包まっておやすみするのぉ~」

真一「」

真「朝は雛鳥さんたちが起こしにきてくれてぇ~、一緒にお歌を‥‥あっ! おはようパピー!」

真一「パピー?‥‥パピー!?」

真「うん!」

真一「‥‥‥‥」

真「どうしたのパピー。顔面が土気色なりよ?」

真一「‥‥母さん! 母さーん! 真がおかしくなった! 医者を! 救急車を呼んでくれえ!」

真「わーっ! 待って待って! 違うんだって! これには理由が!」

真一「理由? お前、どんな理由があっても、世の中にはやっちゃいけない事ってのがあるんだぞ」

真「人を犯罪者みたいに言わないでくれる? 実は昨日さ‥‥」






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律子「悪いわね。デスクの整理なんて手伝わせちゃって」

真「別に構わないよ。ちょうど体力余ってたし。‥‥あれ、何これ」

律子「ああ、それ? 今度撮影する、特番用の資料よ」

真「ええと‥‥アイドル数名をメインMCとして起用。人選はそちらにお任せしますが、今回は正統派の可愛らしさを重視して‥‥へえ! ねえねえ。これ、もう誰を出すか決まってるの?」

律子「まだ決定ではないけれど、春香と雪歩、伊織にやよいって線でプロデューサーと話を進めてるわ」

真「僕は?」

律子「え?」

真「僕。菊地真」

律子「え?‥‥え?」

真「律子!」

律子「冗談だってば。でも‥‥そうねえ。真は今回、あの‥‥ねえ?」

真「そんなにわかりやすく返事に窮してる人、初めて見たよ」

律子「ほら、今回は正統派の可愛さを求めてるって書いてあるじゃない? アイドルとして正統派って事は、要するに、女の子らしさを前面に打ち出してる子って事だと思うのよ」

真「そうかも知れないけどさ‥‥ん? っていう事は、逆に考えると、その番組に出られるくらいになれば、それって女の子としての可愛らしさを、万人に認められるって事だよね?」

律子「え? そう、ねえ。まあ、そういう捉え方も、出来なくはないのかしら」

真「そうかぁ‥‥これって、いつまでに返事出せばいいの?」

律子「下の方に書いてあるでしょ? たしか、今週一杯だったと思うけど」

真「あ、本当だ。ねえ律子。これの締切日までに、もしも僕が今より女の子らしくなったら‥‥僕も出られるかな?」

律子「うーん、そうねえ‥‥相手方の判断が重要だから、何とも言えないけど、もし春香や伊織くらいにわかりやすく女の子っぽくなれば、可能性は出てくるのかしらねえ」

真「そっか‥‥さ、律子! 残りの片付け、ちゃっちゃと終わらせちゃおうよ!」





真「っていう事があったんだ」

真一「なるほどなぁ。しかし真よ。お前最近、随分とテレビに出てるじゃないか。父さんの仲間にも、結構お前のファンがいるぞ」

真「そうなの? へへっ、ちょっと嬉しいな」

真一「今更、そんなに必死に番組の1本や2本出なくても」

真「ちゃんと話聞いてた? これは単に番組に出たいってだけじゃなくて、僕の女の子らしさを証明する大切な一歩なんだよ!」

真一「女の子らしさなぁ‥‥」

真「だから‥‥そのためにも、まこと姫は頑張るぴょん! 全国の男の子を、ぴゅぴゅぴゅのぴゅーにしてやるなり!」

真一「わかった。わかったから、それはやめろ。‥‥正直、お前がそんなに真剣に悩んでるなんて、父さん知らなかったよ」

真「え?」

真一「責任は、お前の気持ちも考えずに男の子のように育てた俺にあるのかも知れんな‥‥」

真「責任だなんて‥‥たしかに、困る事とか嫌な事も多いけど、僕はそれでも楽しくやってるし、なんだかんだあったけど、最終的にはアイドルをやるのも認めてくれたし‥‥あ! そうだ! それじゃあさ、僕が女の子らしくなれるように、特訓に付き合ってよ!」

真一「特訓?」

真「うん! 今までは、僕を男の子みたいに育ててきた。これからは、僕が女の子らしくなれるように協力してくれる。どう? これで、プラスマイナスゼロでしょ?」

真一「真‥‥お前、男前だな」

真「やめて。さて! そうと決まれば、まずは‥‥」

母「ご飯だって言ってるでしょ! いつまで遊んでるの!」

真一「まずい。母さんがブチ切れピクピク丸だ。この話は飯を済ませてからにしよう」

真「うん。あと、僕の性格、父さんのせいだけじゃない気がしてきたよ」





真一「あっ! お前、女の子らしくなりたいんだろう!? 父さんの好物を横取りする奴があるか!」

真「へへーん。それとこれとは別の話だもーん。ああっ! ちょっと! 大人気ないなあ!」

母「ご飯くらい静かに食べなさい!」

真「あっ」

真一「はい」




真一「あー、食った食った」

真「それじゃ、早速特訓始めよっか」

真一「特訓って言ったって、何をするつもりなんだ? 鉄球吊るしたクレーン車でも用意すればいいのか?」

真「なんでそんな仮面ライダーみたいな事しなきゃいけないのさ。さっきみたいに可愛い話し方の練習するから、見ててよ」

真一「何!? お前、あれを続けるつもりか? しかも、それをずっと見てなきゃいけないんだなんて‥‥俺を[ピーーー]気か!」

真「そこまで言う事ないだろ! でもたしかに、我流じゃ限界があるし‥‥ここは、事務所のみんなの可愛いところをマネしてみようかな」

真一「ほう」

真「ちなみに、父さんは765プロのアイドルだと、誰が1番可愛いと思う?」

真一「‥‥お前も入れてって事でいいのか?」

真「え? そ、それは‥‥じゃあ、僕も入れてで」

真一「春香ちゃんに決まってんだろ」

真「春香を選ぶのはいいとして、なんでわざわざ確認したのさ!‥‥じゃあ、とりあえず、春香の可愛いところから‥‥えーと、春香の可愛いところは、いつも一所懸命なところとか、少しおっちょこちょいなところかな‥‥」

真一「あと、周りに気配りが出来るところとかな」

真「父さんは春香のなんなのさ。まあいいや。ええと‥‥僕、今日お菓子作ってきたんです! よかったら食べてください!」

真一「お前、お菓子なんて作れるのか?」

真「こ、こういうのは形から入るものでしょ! いいから見ててよ!」

真一「うん」

真「テーブルに置いておきま‥‥うわっ! っとっと‥‥あいたーっ!」ズシャー

真一「」

真「あいたたた‥‥また転んじゃいましたぁ‥‥どうかな?」

真一「真よ。なあ、真よ」

真「何?」

真一「なめとんのか」

真「なんでだよ!」

真一「あんなの、転んでるって言わないだろ! 滑空してたじゃないか!」

真「うぐぐ‥‥」

真一「大体、おっちょこちょいだなんてのは、練習して手に入るもんじゃないだろ」

真「やる前に言ってよ」

真一「春香ちゃん路線は無しだな」


真「うーん‥‥それじゃあ、次は雪歩かな。雪歩の可愛いところは、やっぱりちょっと気弱なところとか、儚げなところだよね。守ってあげたくなるっていうか」

真一「お前とは正反対だな。はははは」

真「うるさいよ。それじゃあ‥‥僕なんて、貧相で貧乳でちんちくりんの、ダメダメなんですぅ‥‥」

真一「言われてみりゃ、そうだな」

真「うぐっ‥‥!」

真一「お前、アイドルだろ? 水着の仕事とか出来んの?」

真「つありゃああ!」ドスッ

真一「いたっ! 何するんだ!」

真「うるさいよ! 元はと言えば父さんが‥‥!」

真一「流石に胸のサイズは父さんのせいじゃないだろ! やつあたりするな!」


真「うぐぐ‥‥じゃ、じゃあ次! 伊織! 伊織の可愛いところは、素直じゃないところとか他に色々!」

真一「なんかお前、ヤケクソになってきてないか?」

真「何? この真ちゃんに、気安く話しかけないでもらえる?」

真一「おっ、今までの中ではしっくり来る方だな」

真「それにしても、喉が渇いてきたなあ。‥‥ちょっと、何か飲み物持ってきてよ。気が利かないなあ」

真一「‥‥‥‥」

真「あ、変な飲み物は持ってこないでね。ちゃんと、僕にふさわしい物を‥‥」

真一「とりゃあああ!」バシッ

真「いたっ! な、何するんだよ! せっかくいい感じだったのに!」

真一「うるさい! 無性に腹が立ったんだ!」


真「伊織もダメか‥‥次はやよいで行こうか。やよいは、とにかく元気で明るいところが可愛いよね」

真一「ふむ」

真「じゃあ‥‥おはようございまーす! 今日も1日、元気にがんばりましょー!」

真一「ん?」

真「僕、最近調子いいんです! 気合入れていきますよー!」

真一「なあ、真」

真「何?」

真一「いつものお前じゃんか」

真「僕も、そう思いながらやってた」

真一「違和感、全然なかったもんな」


真「って事は、可愛さアップにはならないなあ。‥‥いっそ、混ぜてみよっかな」

真一「え?」

真「あの! 気安く話しかけないでくださーい! って、うわわわ! くすん、転んじゃいました‥‥こんなダメダメな私は、穴掘って埋まってまーっす! いぇい!」

真一「わははははは!」

真「あはははは!」

真真一「‥‥‥‥」

真一「誰がギャグを生み出せと言ったんだ」

真「ごめん」

真一「あんな奴が実際にいたら、警察とかに保護されるぞ」

真「可愛いアイドルどころじゃないよね。‥‥はあ、結局ダメだったなぁ」

真一「生まれ付いての性格や癖なんかを、見よう見真似でやろうってのには、やっぱり無理があるんだろう」

真「諦めるしかないのかなぁ‥‥せっかくのチャンスだったのに」


真一「‥‥なあ、真。1ついいか?」

真「何?」

真一「世の中には、色んなアイドルや女優、モデルなんかがいるよな。みんな、ちょっとやそっとじゃ真似の出来ないくらい、可愛かったり綺麗だったりする人ばっかりだ」

真「‥‥うん」

真一「でもな、親にとって‥‥特に父親にとっては、1番可愛いのは、自分の娘なんだよ」

真「え‥‥?」

真「俺にとっては、どんなトップアイドルも、どんなスーパースターも、お前には敵わないんだよ」

真「父さん‥‥」

真一「‥‥なんてな。こんな事言っても、何にもならんのかも知れんが。お前、バカだしな」

真「ホントだよ。もっと役に立つ事を言ってよ」

真一「ははははは!」

真「あははははは!」

真一「‥‥上等だこの野郎! 表ぇ出ろい!」

真「望むところだ! 特大のタンコブを1ダースくらいプレゼントしてあげるよ!」







真「はあ、はあ、はあ‥‥」

真一「はあ、はあ‥‥お、お前、なかなか、やるように、なったじゃ、ないか‥‥」

真「と、父さんこそ、また腕を上げたね‥‥」

真一「‥‥なあ、真。アイドルは楽しいか?」

真「うん。楽しいよ」

真一「空手よりもか?」

真「そんなの‥‥比べるようなものじゃないだろ」

真一「そうか‥‥」

真「空手も、父さんに教えてもらった他の色々な事も、全部楽しいけどさ。僕は、765プロも、仲間達のいるステージも、ファンの声援も、最高に気に入ってるんだ」

真一「ははっ、お前は欲張りだな」

真「へへっ、父さんの娘だもん」

真一「‥‥頑張れよ」

真「‥‥うん」





1週間後


真「ただいまー」

真一「おう、今日は早いな」

真「軽めにレッスンしただけだったからね。あ、そういえば」

真一「うん?」

真「この前言ってた仕事、僕も出られる事になったよ」

真一「え、嘘」

真「なんでそんな反応なんだよ!」

真一「だ、だってお前。特訓したけど、何の役にも立たなかったじゃんか」

真「うん、そうなんだけどさ。開き直って、普段通りの僕を番組の人に見てもらったんだ」

真一「ほう」

真「そしたらさ、メインMCとしてはイメージが違うけど、ちょうどキャンセルされて空きが出たコーナーの司会が、僕にピッタリって話になって。そのまま採用になったわけ」

真一「よかったじゃないか」

真「うん! あのまま、他の子のマネなんかしてたら、番組も不採用になる上に、僕のいいところを出せないで終わるところだったよ」

真一「しかしなあ‥‥」

真「何?」


真一「要はタナボタみたいなもんだろ? 補欠っていうか」

真「うぐっ‥‥」ピクッ

真一「ちゃんと実力で、相手から出てくれって言われるようにならんとな。ま、頑張れよ」

真「そ、そうだね。父さんも、来月のレース、補欠で出られる事になったんでしょ? 恥をかかないように、頑張ってよね」

真一「面白い事を言うじゃないか! ははははは!」

真「あははははは!」

真一「‥‥いい度胸だ! 久し振りにピーピー泣かしてやるぜ!」

真「そっちこそ! クシャクシャに折り畳んで、レースカーに乗りやすくしてやる!」

真一「あと、ついでに言っとくとな!」

真「なんだよ!」

真一「可愛い女の子は、普通特訓とかしないぞ」

真「‥‥えっ?」




終わりだよ~

真は、女の子らしくなるためなのに特訓とかしちゃうような、ずれたところも可愛いんだよな~、とか思う。

もっと可愛い真が書けるようになりたいです。

ありがとうございました。

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