エルフ「わたしって意外と義理堅いのよ」(94)


※エルフものです。もう見飽きたわって方もいると思いますが申し訳ない。

※青年=10代後半、エルフ=20代前半くらいのイメージで書いてます。

※まったり書いてまいります。

※二度めのスレ立てです。先日立てたスレに関してはHTML化依頼済みです。ミスを指摘してくれたみなさんありがとうございました!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370961498


エルフ「あなた、その年でエルフを買えるなんて何者なのかしら」


エルフ「わたしたちを買えるのは基本的には王族か貴族くらいなものだって聞いてるけど」


青年「元貴族です。お金は家から持ち逃げしました」


エルフ「あら、そう。おぼっちゃまってわけね」


エルフ「で、持ち逃げしたってことは家出かしら」


青年「そうです。あそこに戻る気はありません」

>>1
義理深いの新スレだよね?


>>4 そうです!


エルフ「見かけによらず大胆なことをしたものね。で、その家出の軍資金は私を買うためにすべて使ってしまったというわけだけれど」


青年「はい。後先考えずに使ってしまいました」


エルフ「とんだ見切り発車ね。これからどうするつもりなのかしら」


青年「どうしましょう。正直、何も考えてません」


エルフ「とんでもなく間抜けなご主人様にあたってしまったようね」


青年「すいません。どうしたら良いと思いますか」


エルフ「これでは主従関係が逆転しているような気がするけれど」


エルフ「とりあえず、その身に付けている宝石を換金するというのはどうかしら」


青年「これですか?」キラリ


エルフ「ええ、そうよ。宿無しはいやでしょう?」


青年「わかりました。まずはこれを売ってお金を作りますね」


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青年「宿が取れて良かったですね」


エルフ「で、これからどうするつもりなのかしら」


青年「何も考えていません。ただ、あの家にはいたくない。それだけです」


エルフ「まぁ、あなたの過去に興味はないし、詮索するつもりもないけれど」


エルフ「私を買った理由くらいは教えてくれるかしら?」


青年「うーん。誰かにそばにいてほしかったからですかね。」


エルフ「女々しい理由ね。それにその理由だったらわたしである必要はないんじゃないかしら。 もっと安い・・・人間の奴隷だってよかったはずでしょ?」


青年「それと、あなたがとても綺麗だったから。だから選びました」


エルフ「あらそう。情けない顔してる割に口は達者ね」


エルフ「ところで、私はこれから何をすれば良いのかしら?」


青年「別に特にしてほしいことはないですよ」


エルフ「契約上、あなたは私のご主人様ということになっているのよ。わかってる?」


青年「わかってますよ。でも、別に普通にしててくれれば良いです」


エルフ「私が言うのも変だけれど、本当になにもしなくていいの?」


青年「はい、そばにいてくれればそれでいいです」


エルフ「まぁそれならそれで好きにさせてもらおうかしら」


青年「そうしてください。逆にエルフさんは何をしたいですか?」


エルフ「わたし?・・・まずは、そうね。夕食を食べたいのだけれど」


青年「わかりました。宿の者に手配させます」


エルフ「本当に好きにさせてくれるのね」


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青年「おいしかったですね」


エルフ「奴隷商に飼われていたころではとても味わえない食事だったわ」


青年「それは良かったです」


エルフ「ところで、あなた、奴隷を買うという意味がちゃんと分かっているのかしら?」


青年「はい、おもに労働力の補填としてですよね。僕の家にも何人かいました」


エルフ「そうね。まぁエルフが奴隷として売りに出される場合は愛玩具としての 意味合いが強いのだけれど」


青年「・・・」


エルフ「もし、そんな辱めを受けるような命令をされてしまったら、舌を噛み切って 死んでしまいたいところだけれど」


エルフ「契約が結ばれている以上、逆らうことはおろか自ら死ぬこともできない」


エルフ「わたしったら、なんてかわいそうな身の上なのかしら・・・」チラッ


青年「・・・」


エルフ「・・・あなたすごく悲痛な面持ちになってるわよ」


エルフ「とりあえず、今日は疲れたわ。もう寝てもいいのかしらご主人様?」


青年「ど、どうぞ」


エルフ「お休みなさい」


青年「お休みなさい」


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-次の日の朝-


エルフ「おはよう」ファーッ


青年「おはようございます」


エルフ「今日もわたしへの命令はないままかしら」


青年「はい、ないです」


エルフ「そう。ところで、いつまでもこんな生活は続けられないと思うのだけれど」


青年「そうですね。作ったお金もそのうち底を尽きますものね」


エルフ「これからどうやって日銭を稼ぐおつもりかしら」


青年「どうしましょう?」


エルフ「ご主人様の意のままに」


青年「それじゃぁ仕事を探してきます」


エルフ「どんなお仕事をわたしに与えてもらえるのか楽しみでしょうがないわね」


青年「いや、自分の仕事を探してくるつもりです」


エルフ「え、じゃぁわたしは?」


青年「別に何もしなくて良いですよ。部屋で休んでてください」


エルフ「あなた、本当にわたしをどうしたいの?」


青年「別に何も考えていませんけど」


エルフ「あらそう。まぁそれならそれでいいわ。」


エルフ「しっかり頑張ってくださいね。ご主人様」


青年「任せてください」


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-その日の夜-


エルフ(暇ね・・・)


青年「遅くなりました」


エルフ「あら、お帰りなさいませご主人様。それで、お仕事は見つかったのかしら」


青年「見つかりましたよ。商館でのお仕事なのですが、代書を引き受ける仕事です」


エルフ「代書人ね。かなり実入りの良い仕事だと聞いたことがあるわ」


青年「はい。この町には字の読み書きができる人間は少ないということでしたので、重宝がられました」


青年「それで、早速今日から発注書の代筆を頼まれたので、その分のお給料を頂きました」チャリッ


エルフ「一日でそれだけ稼ぐことが出来れば、このままこの生活を続けることが出来そうね」


青年「よかったです。まさか字を書くだけでお金になるとは知りませんでした」


エルフ「誰しも何か一つくらい取柄はあるものなのね、ちなみにこれはほめ言葉として受け取ってくれて構わないわ」


青年「ありがとうございます」


エルフ「それはそうとご主人様。さすがにこのままだと退屈すぎて死んでしまいそうなのだけれど」


青年「それは困りましたね」


エルフ「ええ、とても困っているの」


青年「僕が出かけている間に町を出歩いてみてはいかがですか?」


エルフ「エルフが独りで歩いてたって何も愉快なことなんてないのよ。 人間たちから白い目でじろじろ見られるだけでしょうね」


青年「そういうものなんですか」


エルフ「そういうものよ。温室育ちのお坊ちゃまにはわからないかもしれないけれど」


青年「すいません。不勉強なもので」


エルフ「別にあなたの不学を責めているわけではないのだけれど」


青年「どうしたら良いのでしょうか」


エルフ「そうね、あなたの仕事を手伝わされる憐れなエルフとして」


エルフ「明日から、あなたが働く商館に同行させてもらいたいのだけれど。それで良いかしら?」


青年「そんなことは出来ません。僕はあなたに苦労をかけさせたくないのです」


エルフ「あら、でないと暇すぎて舌を噛み切って死んでしまうかもしれないわよ」


青年「契約で結ばれている以上、自殺はできないのですよね?」


エルフ「孤独は死に至る病、という言葉を知っているかしら。このままでは自殺ではなく病死してしまうかもしれないわ」


青年「それは大変です。それでは明日から僕についてきてください」


エルフ「はい喜んで、ご主人様」


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-次の日 漁港- 


ガヤガヤ


青年「磯の香りがします」


エルフ「ここも人間だらけね。どうして神様は彼らをもう少し間引いてくれないのかしら」


青年「時々辛辣なことを言いますね」


エルフ「気にしないでちょうだい。あまり深く考えて発言してるわけではないの」


青年「わかりました。あまり気にしないようにします」


エルフ「それはそうと、船から荷揚げをするときってまるでお祭りみたいなのね。騒がしいわ」


ワーワー ソレハコッチダ! コレハソッチダ! ワーワー


青年「とても賑やかですね。僕が以前住んでいた町には港などなかったので新鮮です」


エルフ「エルフであるわたしのことなんか、目に入らないくらいみんな忙しそうね。結構なことだわ」


青年「目立ちたいのですか?」


エルフ「そういうことを言っているのではないのだけれど。むしろ、目立ちたくないのよ。路傍の石と同じ扱いが良いの」


青年「そうなのですか。こんなにきれいな方なのにもったいない気がします」


エルフ「あら、ほめてくれてるの?やさしいご主人様に仕えるわたしは果報者ね。なんて幸せ者なのかしら」


青年「照れてしまいますね」


エルフ「あからさまなリップサービスのつもりだったのだけれど。まぁいいわ。ところで、商館はまだなのかしら」


青年「あの荷馬車がとまっている建物が例の商館です」


エルフ「あら、なかなか立派な建物。さぞ儲けていらっしゃるのでしょうね」


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-商館の中-


ガヤガヤ ガヤガヤ


エルフ「人が入り乱れて活気に溢れているわね。目が回りそうだわ」


青年「この町でも一番大きい商館らしいです」


エルフ「人間の世界ってどうしてこんなにもせわしないのかしら。理解に苦しむわ。まぁ別に理解できなくても良いのだけれど」


商人「お、あなた様は!」スタスタ


商人「今日も一つよろしくお願いします」


青年「こちらこそよろしくお願います」


商人「それで、そこの・・・エルフはあなた様の奴隷で?」


青年「僕のお手伝いとして連れてきました」


エルフ「」ペコッ


商人「左様でございますか・・・もちろん奴隷に対して給与は発生しませんがよろしいですかな?」


エルフ「存じております。ご主人様早速お仕事に取り掛かりましょう」グイグイ


青年「・・・」


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-書室-


青年「僕は不思議に思いました」


エルフ「世間知らずのあなたにとって世の中には不思議が満ち満ちているのでしょうけれど、今回は何が不思議だったのかしら」


青年「あの商人にとってエルフ=奴隷という図式が成り立っているようだったので」


エルフ「あら、あなた本当に何も知らないの。まさか知らないふりをしてからかっているのかしら」


青年「本当に知らないのです」


エルフ「エルフと人間は昔から互いに忌み嫌い合う存在だった・・・歴史で習わなかったのかしら」


青年「すいません。エルフとの歴史に関しては教わっていないもので」


エルフ「まぁいいわ。良い機会だから教えてあげる。私たちが生まれるはるか前のことになるのだけれど」


エルフ「再三の忠告を無視して自然を汚し続ける人間に対して、エルフたちが一斉に武器をとったことがあったの」


青年「なるほど。戦争ですね」


エルフ「そう。その戦争に負けたエルフはほとんどが殺されてしまったか、奴隷として人間にこき使われるようになったの。」


エルフ「だから歴史を学んでいる人間にとってエルフは奴隷以外の何ものでもない、というのも無理からぬ話ね」


青年「それはひどい話ですね」


エルフ「ええ、本当にひどいわ。ひどすぎて言葉にならないくらい」


エルフ「まぁ、わたしの祖先のようにその戦争から生き延びたエルフたちもいるのだけれど」


青年「あなたにも家族がいるのですか」


エルフ「ええ、いるわよ。もちろん。ここから遠く離れた森の奥にエルフの集落があってそこにみんないるの」


青年「それならなぜ、あなたは家族とはぐれてしまったのですか?」


エルフ「あれは一生の不覚だったわ」


青年「聞かせてください」


エルフ「あまり面白い話ではないのだけれど」


青年「非常に気になります。」


エルフ「あらそう。いいわ、話してあげる。ある日、薬草を探しに遠出をしたときに運悪く道行く奴隷商に見つかってしまったの」


青年「・・・」


エルフ「想像してみて。無抵抗の可憐な女性が大勢の醜男たちに襲い掛かられる様を」


青年「むごいですね」


エルフ「そう。とてもむごかったわ。多勢に無勢とはあのことをいうのかしら」


青年「そして、そのまま奴隷としてさらわれてしまったのですね」


エルフ「ええ。それからあなたに買われて今に至るというわけ。お分かりいただけましたかご主人様」


青年「はい。あの、ご愁傷様です」


エルフ「あなた、もう少しやさしい言葉を選んでくれてもバチはあたらないと思うわよ」


青年「すいません」


エルフ「まぁいいわ。お仕事、さっさと片付けてしまいましょう」


青年「そうですね。ではお手伝いよろしくお願いします。ところでエルフさんは字を読めますか?」


エルフ「それなりに読めるわ。書くことはできないのだけれど」


青年「十分です。それでは、まずは書類の整理からお願いしても良いですか」


エルフ「ご主人様なのだから、ここはお願いではなくて命令ではないのかしら」


青年「そうでした。では改めて。書類の整理をして下さい」


エルフ「はい、ご主人様」


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青年「あらかた今日の作業は終わりましたね」


エルフ「ええ、やはり一人で過ごしているときよりも時間の経過が何倍も速く感じられたわ」


青年「労働とは尊いものであると神もおっしゃっています」


トントン


青年「どうぞ」


キー


商人「失礼します、今日もお疲れ様でした。こちらが本日の給料となります」チャラン


青年「少し多いような気がするのですが」


商人「お連れ様の働きぶりに少しばかり感謝の念を込めさせていただきました。その分、貨幣も重くなったのでしょう」


エルフ「え」キョトン


青年「なるほど。それではありがたく頂戴いたします」


エルフ「あ」ペコッ


商人「それでは、また明日もよろしくお願いします」


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-宿-


エルフ「たまには良いことがあるものね、人間の世界、見限るにはまだ早いということかしら」


青年「そうですね。まさかその勢いでブドウ酒まで買ってしまうことになるとは思いませんでしたが」


エルフ「あなたがわたしの好きにさせてくれるのだから仕方がないわね」グビグビ


青年「エルフさんはお酒が好きなのですか?僕はまだ少し苦手ですなのですが」


エルフ「とても好きよ。でも、このブドウ酒。わたしの故郷のお酒と比べたらまだまだ劣るかしら」


青年「次はもっと上等なものを買いましょう」


エルフ「いえ、別にこれで十分よ。そこまで気を使われると少し申し訳なくなってしまうわね」


青年「遠慮など無用ですよ。僕が好きで申し出ていることですから」


エルフ「あなたって人間の癖にとてもお人好しなのね。このままでは恋に落ちてしまいそうだわ。冗談だけど」


青年「冗談ですか。残念です」


エルフ「ごめんなさい。お酒が回っているから少しばかり気分が良くなってしまっているの」


青年「それは何よりです。エルフさんは僕のことが嫌いですか」


エルフ「あら、ストレートな質問ね。正直に言ってもいいのかしら」


青年「はい。あなたの正直な気持ちを聞かせてください」


エルフ「わかったわ。わたしはあなたのことが嫌いよ。これがわたしの本音。傷つけてしまったかしら?」


青年「少しだけ。一応、理由を伺ってもよろしいですか」


エルフ「そうね。強いて言うならあなたが人間だから。人間はみんな怖いわ。だからあなたのことが特別嫌いというわけではないのよ」


青年「なるほど。ほんの少し安心しました」


エルフ「むしろ、あなたは人間の中では好きなほうよ。とても優しいし。人間にしておくのはもったいくらい」


青年「またリップサービスですか」


エルフ「いえ、これは本音よ。ある意味恩人であるとも思っているわ。あなたでなければどんな目に逢わされていたか分からないもの」


エルフ「わたしを買ったのがあなたで心の底からよかったと思っているのよ」


青年「そうですか。今、僕は非常にうれしい気持ちでいっぱいになっています」


エルフ「素直なことは何よりの美徳よ。これからも大事にしてくれるかしら」


青年「任せてください。」


エルフ「本当に素直ね。逆にあなたはわたしの様な生意気な奴隷をどう思っているのかしら」


青年「とても素敵な女性だと思っています。今まであなたのような綺麗な方に出会ったことはありません」


エルフ「あら、まるで口説かれているような気分ね」


青年「すいません。そういうつもりで言ったわけではないのです」


エルフ「別に謝る必要はないと思うのだけれど。誉められていやな気分になることはないわ」

みてくれてる人ありがとうございます!もう少し書き溜めたらまた投下します

そうですよね・・・さーせん


青年「もっとエルフさんに気に入ってもらえるように努力します」


エルフ「どう考えても主人が奴隷に対してかける言葉ではない気がするのだけれど」


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-次の日の朝 宿-


青年「おはようございます」


エルフ「おはよう。昨日は少し飲みすぎたかしら。お酒なんて久しぶりだったものだから」ムニャムニャ


青年「仕事なら僕一人でもやれますので今日は休んでいてはどうですか」


エルフ「この程度でまいってしまうわたしではないわ。今日もお供したいのですけれど、ご主人様」


青年「そうですか。嬉しい限りです」


エルフ「宿に引きこもっていても、往来をぼんやり眺めることくらいしかすることがないのよ」


青年「確かにそれは退屈以外のなにものでもありませんね」


エルフ「そう。もともと勤勉な性格のわたしにとって、暇を持て余すことほど辛いことはないのよ」


青年「肝に銘じておきます。それでは商館に向かうとしましょう」


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-露店通り-


青年「見たことのない品物がいろいろとあります」


エルフ「あなた、もともとお金持ちだったのでしょう? そういった諸々に関しては詳しくてもおかしくないと思うのだけれど」


青年「ずっと屋敷の中で生活を送っていたもので、あまり詳しくないのです」


エルフ「あら、筋金入りの箱入り息子というわけね」


青年「お恥ずかしながら。ところでこの宝石は珍しい色艶をしていますね」


エルフ「それは琥珀よ。木の蜜が地中で固まったものね」


青年「そうなのですか。とても綺麗です」


エルフ「ところで、あなたは家の中でどんなことをしていたの? まさか天井のシミを眺めていただけなんていうことはないのでしょう?」


青年「僕は教会法学を学んでいました」


エルフ「ずいぶんと立派なのね。まぁ今はお金を持ち逃げして家を飛び出すドラ息子なわけなのだけれど」


青年「言い返す言葉もありません。とんだ親不孝者であることは自覚しています」


エルフ「別に責めているわけではないから気にしないで。さっさと商館に向かいましょう」


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-商館-


商人「おお、お待ちしておりましたぞ」


青年「今日もよろしくお願いします」


商人「ええ、こちらこそ。早速なのですが筆をとって頂きたいことがございまして。というのも仕入れた商品の中に発注したものとは違う品がありましてね」


青年「それではどのような旨の文面にしましょうか」


商人「はい、取引先に仕入戻しを依頼する文書をお願いいたします」


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-宿-


エルフ「今日も商館では大忙しだったわね。わたしも奴隷としての本分を尽くせた気がするわ」


青年「お疲れ様でした。文字が書けるとはいえ、慣れない内容となるとくたびれます」


エルフ「あまり無理はしないことね。はたから見ていて心配になってしまうわ」


青年「ありがとうございます。エルフさん、やはり優しいお方ですね」


エルフ「この程度のことで感謝をされても対応に困ってしまうのだけれど」


青年「素直に喜んでください。素直さは美徳でも謙虚さは決して美徳ではないと思います」


エルフ「あなたも言い返すようになったのね。わたしは少し寂しいわ」


青年「すみません。調子に乗ってしまいました」


エルフ「ふふっ、冗談よ。まだわたしの方が主導権を握れているようね」


青年「そうですね。まだまだ敵いません。精進します」


エルフ「期待しているわ」


青年「ありがとうございます」


エルフ「いえいえ。それはそうとあなた、だいぶくたびれた顔になっているのだけれど」


青年「確かに自分でもこのところ疲れが溜まっいるような気がします。今日は先に休みますね」


エルフ「ええ、おやすみなさい。ご主人様」


青年「おやすみなさい」


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-次の日朝-


エルフ「おはよう。今日はわたしのほうが早く起きた様ね」


青年「おはようございます。すみません。少し体が怠くて」


エルフ「あなた、顔色が悪いわよ。今日の勤務は無理ではないかしら」


青年「いえ、この程度ならば問題ありません。ご心配ありがとうございます」


エルフ「おでこ、失礼するわよ」


青年「あ、はい」


ピトッ


エルフ「かなり熱があるみたいだけれど。やはり今日は安静にしていたほうが良さそうね」


青年「これくらい、別に大丈夫だと思いますが」


エルフ「駄目よ。わたしが許さないわ」


青年「一応、僕ってあなたの主人でしたよね」


エルフ「身分の違いを超えて、奴隷が主人の身を案じて申し出ているのよ。なんて感動的なお話なのかしら。そう思わない?」


青年「そうですね。そこまで言ってくださるのならば、お言葉に甘えようと思います」


エルフ「聞き分けの良いご主人様で助かるわ。とりあえず、わたしは商館に行ってあなたが欠勤することを伝えてこようと思うのだけれど」


エルフ「あら、わたしが迷子になるとでも言いたいのかしら。それとも誰かにかどわかされるのが心配なのかしら」


青年「いえ、そういうことではなく」


エルフ「まぁ、確かに良い思いをすることはないでしょうけれど、わがままばかりも言っていられないわ。だから任せてちょうだい」


青年「わかりました。それではお願いします。くれぐれも気を付けてください」


エルフ「そんなに心配しなくても大丈夫よ。安心してちょうだい。それでは行ってくるわね、ご主人様」


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-数十分後-


エルフ「ただいま戻りました。ご主人様」


青年「お帰りなさい。何事もありませんでしたか」


エルフ「たかがおつかい程度のことでこれだけ心配されるのも心外なのだけれど」


青年「すみません。以前、エルフさんから人間とエルフの仲がとても悪いという話を聞いたので、つい」


エルフ「そう。少しばかり大袈裟に言い過ぎてしまったのかしら。とにかく問題はなかったわよ」


青年「お疲れ様です。ありがとうございました」


エルフ「お誉めにあずかり光栄ですわ、ご主人さま。ただ、あの商人はかなり慌てていたようだったけれど」


青年「それは申し訳ないことをしてしまいました。今度会うときは誠心誠意謝罪します」


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-その日の夜-


青年「あっという間に夜ですね。体調のほうもだいぶ良くなってきました」


エルフ「わたしの献身的な看病のおかげかしら」


青年「そうですね。エルフさんが作ってくれた料理、とてもおいしかったです。体の芯から温まった気がします」


エルフ「それは良かったわ。あの料理、わたしの故郷では誰かが体調を崩した時に良く振る舞われるものなのよ」


青年「なるほど。滋養に効果があるのですね。感謝感激です。とはいえ」


エルフ「とはいえ、どうしたのかしら」


青年「あの時の宿の者たちの態度には腹が立ちました」


エルフ「宿の調理場を借りようとした時のことかしら。別にわたしは気にならなかったけれど」


青年「本来、所定の時間に所定の代金を支払えば誰にでも貸し出すはずです。ところが、エルフというだけであそこまで渋られるとは驚きでした」


エルフ「まぁ、結局は貸してくれたのだからそれで良いと思うのだけれど」


青年「差別を良しとするのはどうかと思います」


エルフ「エルフが人間に怯えているように、人間もエルフのことが怖いのではないかしら。悲惨な過去があるもの。ある意味では差別も仕方のないことだと思っているわ」


青年「果たして本当にそうでしょうか・・・・・・」


エルフ「今日はやけに噛みついてくるわね。もしかして反抗期なのかしら」


青年「すいません。やはりまだ少し熱があるのかもしれないです」


エルフ「そうね。もう少し愉快な話題はないものかしら」


青年「そうですね・・・・・・明日の晩酌について話しましょうか」


エルフ「あなたもわたしの扱い方がわかってきたようね」


青年「じっくり語り合いましょう」


エルフ「ええ。もちろんよ。ブドウ酒、バタービール、それに蜂蜜酒なんてのも捨てがたいわね」


青年「今から明日が楽しみです」


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-


~一週間後~


-宿への帰り道-


エルフ「今日もこれ以上ないくらい働いたわね。すっかり夜も更けてしまったわ」


青年「そうですね。でも、だいぶ仕事にも慣れてきました。さて、今日は何のお酒を買って帰りましょう」


エルフ「そうね・・・・・・」


ガヤガヤ


女行商人「だって、ここにちゃんと公の印があるじゃないですか!」


衛兵「だから、それは偽物だと言っているだろう!そんなもの認められん!」


青年「どうしたのでしょうか。何か言い争っているようですが」


エルフ「さぁ、面倒事のようだけれど」


青年「少し、話を聞いてみませんか」


エルフ「あなたって本当にお人好しね。あなたの好きにしたら良いのではないかしら」


ワーワー


青年「どうしたのですか。こんな時間に」


女行商人「聞いてください!このわからずやがわたしの話を聞いてくれないんです!」


衛兵「このアマ!いい加減にしないとこちらにも考えがあるぞ!」


青年「二人とも落ち着いてください。何が原因で争っているのですか」


女行商人「これです!」ピラッ


青年「これは・・・・・・」


女行商人「免税特権の勅許状ですよ!」


エルフ「・・・・・・残念だけど偽物ね」


女行商人「え?だってここにちゃんと印だって」


青年「僕たちは商館で仕事をしているのですが、最近こういった偽の証書を掴まされる行商人に出くわすことが多いのです」


エルフ「あなた、もしかして、片腕のない旅の行商人からこれを買ったのではないかしら」


女行商人「どうしてそれを・・・・・・?」


エルフ「こんなセリフだったのかしら?『この腕を見てくれ。こんな危険を冒して手に入れたがわたしはもうこの先長くない。だからこれは安く君に譲ろう』」


女行商人「確かにそんな売り文句だった気がしますけど」


青年「最近、このあたりで詐欺を働く者の手口です」


女行商人「・・・・・・そ、そんな」ガクッ


衛兵「だから最初から言っているんだ。荷馬車に積んである品物をいくらか関税として納めてもらうぞ」


-----------
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女行商人「はぁ・・・・・・大損しちゃった・・・・・・」


青年「お気の毒です」


エルフ「世の中、そうそうそんなに美味しい話は転がっていないものよ。それどころかいきなり奴隷になってしまうこともあるのだから。あなたはまだマシよ」


女行商人「・・・・・・いい勉強になりました」


青年「これからどうするつもりなのですか」


女行商人「とりあえず、今からわたしが所属している商業組合に行って相談してみます」


青年「それはもしかして港の近くにある商館のことでしょうか?」


女行商人「そうですけど」


エルフ「わたしたち、ついさっきまでそこで働いていたのだけれど、今日はもう閉まっているわ」


女行商人「そうなんですか・・・・・・今日は踏んだり蹴ったりの一日になっちゃったな・・・・・・」


青年「今晩の宿は大丈夫ですか」


女行商人「今日は荷馬車の荷台の上で寝ようと思います」


青年「もしよければ今晩だけ、僕たちの宿泊している宿にいらっしゃいませんか」


エルフ「・・・・・・」ハァ


女行商人「え、いえ!そんなお気遣いしていただかなくても大丈夫ですよ!行商の旅路では荷台で寝ることなんてざらにありますから」


エルフ「大丈夫、わたしのご主人様はとんだお人好しなの。だから、まったく遠慮する必要などないのよ」


女行商人「いえ、やっぱりご迷惑をおかけしてしまうのは気が引けます」


エルフ「最近は何かと物騒よ。あなたの様な可愛いらしい人が野宿なんて危ないわ。それにもしご主人様があなたに襲い掛かるようなことがあればわたしが・・・・・・」


青年「そんなことしませんよ!」


女行商人「ふふっ、お二人はとっても仲が良いんですね!」


青年・エルフ「・・・・・・」


女行商人「それじゃぁ、今晩だけお世話になります!」ペコッ

コメありがとうございました。
また、書き溜めに励みます。もうちょいで終わる予定です。

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