男「俺は壁と話してるらしいな」少女「………」(226)


………



男「……あと、どの位ですか」

白衣「もうすぐだよ」

男「随分、山奥なんですね」

白衣「………」


男「前いた施設より、環境が良くなるって聞いてるんですけど」

白衣「…自然豊かで、いい所じゃないか」

男「どうせ部屋から出られる訳じゃないんでしょう」

白衣「外の空気を吸う位はできるさ、それに自然というのは眺めるだけでも癒しのあるものだよ」

男「そんなの、人によりますよ」


白衣「…着いたね。少し揺れる、気をつけたまえ」


………



男(随分厳重な事だな…。何人も入りそうな大きな守衛室、高い壁…)


白衣「待たせてすまない、入ろうか」

男「入りたいわけじゃないんですけどね」

白衣「……悪いが」

男「解ってますよ、決まった事…なんでしょう」


白衣「君のためだよ」

男「それで結構です」


白衣「あれが、君の入る棟だ」


男「……冗談でしょう?」

白衣「意外かもしれないが、本当の事だよ」


男(嘘だろ……あんな厳重な壁に囲まれた中に)

男(造りは新しい、小綺麗ではあるけど)

男(外から見るに、よくある平屋のLDK……賃貸住宅じゃないか)


白衣「少なくとも狭い独房のようだった前の施設よりはマシじゃないかね?」

男「……狭くとも、どうせ一人だったから関係ありませんでしたけど」


白衣「今度の施設にはモニターやTVゲーム機、簡素だが音響設備などもある。前ほど退屈じゃないはずだ」

男「テレビ…じゃなく、モニターですか」

白衣「まあ、そういう事だね」

男(映画ソフトなんかは貸し出されるかもしれないが、外界の情報は得られない…か)


男「このたった一軒の平屋のために、あんな厳重な外壁や見張り小屋を?」

白衣「ここからは見えないが、同じように壁に仕切られた施設は碁盤の目状に幾つもあるよ」

男「でも壁に相互に行き来できるドアはありませんね」

白衣「すまないが、それは禁ずる事になる」


男「……結局、また一人ですか」

白衣「それはどうかな」


…ガチャッ


白衣「入ってくれ」

男(玄関の土間、廊下…おそらく奥の引き戸は脱衣所と風呂場。本当に普通の住宅じゃないか)


白衣「このドアの向こうがリビングだ。ただ、そこへ入る前に幾つか言っておく事がある」

男「…どうぞ」

白衣「まず、申し訳ないがこの建物はトイレと風呂場を除き、あらゆる角度からモニターで監視されている」

男「プライバシーもへったくれも無いですね」


白衣「更にその例外のトイレと風呂場も、サーモグラフィでは監視されているのでそのつもりで」

男「裸だけは見られないようになってる…と」

白衣「そうだ。更に君達が室内にいる時は、玄関の前に係員を配置している。室外に出る際には守衛室まで引っ込む事も可能だがね」


男「君『達』…?」


白衣「…このリビングの中にはこれから生活を共にしてもらうパートナーがいる。まずは会う前に以上の事を知っておいて欲しかった」

男「パートナーって、そんなの聞いてない」

白衣「心配は要らない、歳も近いしすぐに慣れるだろう。…では、入ろうか」

男「え、ちょっと待って…!」


…ガチャッ


男(どうせ俺と同じで訳ありなんだろ、そんなのと相部屋なんて何があるか解ったもんじゃ──)

白衣「どうした? 入りたまえ」

男「……くそっ」


…パタン


白衣「やあ、連れてきたよ。君のパートナーだ」

男(……えっ…!?)


少女「………」


男(女の子…!? 嘘だろ…!)

白衣「おや、どちらも名乗らないのか」


少女「…男の人だなんて…聞いてない…です」

白衣「そうだね、言っていない」


男「ちょっと待ってくれ、そりゃこの娘だって抵抗を覚えて当たり前でしょう。こんなの大問題だ」

白衣「問題となるかは、君達次第だよ。特に男性である君の方が、そのウエイトは大きいかもしれないね」


男「…常識外れです。こんな事、許されるものじゃない」

白衣「悪いが、この処置の許可は下りている。許されているんだよ」

男「そんなバカな…」


男(それから白衣の人は更に幾つかの注意事項を説明し、ここを後にした)


男(建物からは出ても良い、ただし出る前と戻った後はインターホンで連絡をする事)

男(食事は基本的には定時に差し入れられるが、希望があれば食材を貰い自分で調理する事も許される)


男(一日のタイムスケジュールはかなり自由だが、多少は強制的な指示があるらしい)

男(ただそれも健康維持のための運動命令であったり、歳相応の勉学の課題など…決して強制労働のような事ではない)


男(そして、この施設で過ごす期間に明確な設定は無い)

男(つまり俺は、そしてこの娘は互いに知らない異性と共に、終わりの見えない生活を送る…という事だ)


男「……変な事になったね」

少女「………」


男「名前は? …俺は男だ」

少女「………」


男「いくつだ? 見たところ15~17ってところか」

少女「………」


男「俺は今、18だ。…どこに住んでた?」

少女「………」


男「…俺は壁と話してるらしいな」

少女「………」


男「せめて名前だけでも答えないか? いろいろ困る事が──」

少女「…少女」ボソッ


男「………」

少女「………」

男(本当にそれだけかよ)


男(…参ったね、どうコミュニケーションをとればいいんだ)

男(まあ警戒するのは当たり前だろうけど)

男(恨むぜ…白衣の人)


男「……今日は移動で疲れた、悪いけど一眠りするよ」

少女「………」スッ


男「…どこへ行くつもりだ?」

少女「違う部屋」

男「違う部屋って…あとはダイニングしかないぞ」

少女「そこでいい…です」


男「あっちはフローリングで冷たいだろ」

少女「………」

男「……いいよ…俺がそっちに行く、君がこっちを使えよ」


…ダイニング


男(……くっそ、すっげえ居心地が悪い)

男(結局モニターやゲーム機があるのはリビングの方だし……)

男(これならあの独房みたいな部屋の方がまだマシだ)


男(本当に床、冷てえし……こんなじゃぐっすりは……)

男(あ…だめだ、本当に疲れて…る──)


………



《──今日は男の好きなおかずだからね》


《あらー、テストよく出来てるじゃないの! お父さんにも見せてあげなきゃね!》


《大丈夫、お母さんはずっと男の味方よ》


《学校はどう? 楽しい? そう、お友達ができたの…よかったわねえ》


《男は優しいわねえ、きっといいお兄ちゃんになるわ…》


《ほら、赤ちゃん…男の弟よ。ふふ…可愛がってあげてね?》


《大丈夫、赤ちゃんがいたってお母さんは男のお母さんでもあるんだから、いつだって甘えたらいいのよ》


………



男「………」

男(…変な夢みちゃったな)


男(時間は……まだ15時か)

男(あの娘はどうしてるんだろう……でも部屋に行かない方がいいかな)


男(いっその事、あの娘に悪戯でもしてしまえば、隔離されるだろうか)

男(……いや、でもそんなのどういう形での隔離になるか解ったもんじゃない)

男(今度こそ鉄格子のついた部屋もありうる)


男(そのくらいなら、いっそ……)

男(…未成年には適用できないか)


プルルルル…プルルルル…


男(インターホン…? たしかリビングに…)

男(まあいいか、あの娘が出るだろ)

男(無口だけど、喋れないわけじゃないんだし)


ガチャッ…パタン…


少女「……起きてたんですね」

男「ああ、さっきね。……インターホン、何だった?」

少女「外に出るように…って」


………



白衣「どうだい、少しは仲良くなれたかね」

男「名前だけ、交換しましたよ」

少女「………」


白衣「外に来てもらったのは他でもない、建物の中の事はあらかた説明したが外の事を伝えていなかったからだ」

男「……はあ」


白衣「役割分担なども必要だろうから、少し二人にコミュニケーションをとる時間を用意したつもりだったが……」

男「そんなにすぐに仲良しこよしになるわけないでしょう」

白衣「まあ、君達の境遇を鑑みれば…そうだろうね」

男「いいから、説明なら早くして下さい」


白衣「まず、この壁に囲まれた範囲は自由に使っていい。スポーツをしようと、菜園をつくろうと構わない」

少女「………」

白衣「そうは言っても200坪もないが、野球やサッカーがしたいというのでなければ問題ないだろう?」


男「一人でどうやって野球やサッカーをやるんです」

白衣「一人…? 二人だろう、君達は」

男「二人でも無理ですよ」

白衣「キャッチボールくらいはできるんじゃないかね? 道具なら数日くれれば用意できる」

男「……しないと思いますけど」


白衣「まあいい、ただし自由にして良いかわりに管理するのも君達の仕事だ」

男「管理…ですか」

白衣「放っておいても草が生えるくらいの事だがね。目障りなら自分で処理してくれ、その道具も用意はできる」


少女「あの…」

白衣「…何だね?」

少女「菜園や花壇を作るなら、その材料や道具も…?」

白衣「ああ、確保された予算の中で収まる程度なら、準備しよう」


少女「…じゃあ、花壇を造りたいです」

白衣「解った、後で改めて職員を行かせるから必要なものをピックアップして伝えてくれ」

少女「………」コクン


白衣「君は? 何か望むものは無いかね」

男「………」

白衣「……では外まわりの設備だけ案内しておこう。水道と電源の位置を教えるくらいのものだが」


………



白衣「──以上だ。では部屋に入るなり運動をするなり、今日は好きに過ごしてくれ」


男「……あの」

白衣「何だね?」

男「やっぱり、俺も欲しいものが」

白衣「…聞こう」


男「花壇を造るために必要な道具を、俺の分も用意して下さい」


少女「………」

白衣「なるほど、それはいいな。用意しよう、少し時間をくれ」

男「はい」


………


…夕方


ガチャッ…


職員「おーい、食事だ。玄関まで取りにきてくれー」

男「あ、はい」


男(あの娘は…出て来ないな)

男「…どうも」

職員「食べ終わったら玄関の前にいる職員に返すようにね。トレイふたつとも持てるかい?」

男「はい」


男(とりあえずダイニングのテーブルへ…)カチャッ、コトン…

男(……呼びに行ってやるか)


…コン、コン

男「入っていいか」


男(…返答無しかよ、勝手に開けるのもな)

男「聞こえてるものとして言うぞ? 食事が届いてる。ダイニングのテーブルにあるから、来いよ」


男(……俺はちゃんと言ったからな)


男(結構ふつうの食事だな)モグモグ

男(でもさすがに話し相手もテレビも無いから、静か過ぎて…なあ)ゴクン

男(……慣れっこだけどさ)フゥ


………



男(結局、出て来ないのか…食べさせないわけにもいかないな)

男(もう一回、呼んでみるか)


コン、コン…
……ドン、ドンッ

男「聞こえてないわけじゃないんだろ? メシがあるんだって、トレイ返さなきゃいけないから早く食えよ」


…ガチャッ


少女「………」

男「寝てたのか?」

少女「…いえ」


男「どうする? 食べてる間は俺がこっちの部屋にいようか?」

少女「…お願いします」

男「はぁ…先が思いやられるな」

少女「ご…ごめんなさい」


男「いいよ、そりゃ知らないオトコなんて怖いだろ」

少女「………」スッ


…パタン


男(ごめんなさい…か)

男(謝るって事は、俺に迷惑をかけたって意識はあるんだな)


男(見た目は結構、可愛いんだけど)

男(…果たして彼女はどこが『訳あり』なんだろう)

男(警戒するにしても、少しリアクションが無さすぎる…そこに何か理由があるのかな)


男(そんな事、とてもまだ訊けないし)

男(……訊かれても、俺も答えられないしな)


………



…ガチャッ


少女「あの…」


男「ああ、食べたか。トレイ返さなきゃな」

少女「返しました」

男「俺の分も?」

少女「………」コクン

男「そうか、悪い」

少女「…いえ」


男「じゃあ、部屋…戻そうか」

少女「いいんですか」

男「…何が?」

少女「その…この部屋を私が使って」

男「いいよ、向こうも空調はあるし。どうしても退屈してゲームでもしたくなったら、その間だけ交代してくれ」

少女「………」コクン


男「じゃあ…ほら」スッ

少女「……?」ビクッ

男「握手だよ、不本意かもしれないけど暫くは生活を共にしなきゃいけない」


少女「…あ…あの…」

男「約束する。俺は絶対に危害を加えたりしない、悪口を言うような事もしない。だから握手だ」

少女「………」ビクビク

男「握るぞ」ギュッ

少女「……っ…」


男「…そんなにビビらないでくれよ、そう強面じゃないつもりなんだが」

少女「ごめん…なさい…」


男「幸いこの部屋からもダイニングからも、それぞれを通らなくても風呂やトイレには行ける。ノックだけ忘れないようにしよう」

少女「………」コクン

男「俺は19時頃に風呂に入るよ、そのつもりでいてくれ。じゃ、また明日……おやすみ」

少女「…はい」

まずはここまで



……………
………


…翌朝


男(……何も無くても、6時半起床が染みついちゃったな)

男(前の施設ではこのあとすぐにラジオ体操、それから食事だった)

男(ここではそれも義務じゃないんだろうけど…少し身体を動かしたい気もする)

男(でもインターホンはあの娘の部屋か…外に出る時は連絡しなきゃいけないんだよな)


男(……あの娘が起きるのを待つしかないか)

男(確か朝食は7時半って言ってたな、まだ1時間もあるし…)


…ガチャッ


男「お…?」

少女「…あ……」

男(もう起きてたのか…)


男「…おはよう」

少女「………」ペコリ

男「ちょっと外に出たいんだ、インターホン使っていいか」

少女「…私もそのつもりで…さっき連絡しました」

男「そうか、そりゃちょうど良かった」


職員「…ん? 連絡では一人だけと聞いていたが」

男「彼女が外出すると聞いて、便乗しようと思いました」

職員「ああ、それは構わんよ。今日は最初の外出になるから一応、様子を見させてもらう」


男「…今後は?」

職員「問題無さそうなら、次からは邪魔者はいないよ」

男「カメラでの監視はされてるんでしょう」

職員「……それは仕方ないと思ってくれ」

男「解ってます」


男(さて……ちょっと走るか)


………



男(外周をぐるっと周るのに、軽く走っても1分とかからない)

男(見える景色はずっとグレーの壁だけ)

男(反対側でも見れば、山の尾根は見えるけど…)

男(こりゃ、つまんねえな…)


男(あの娘は……)


少女「………」

男(何をしてんだろう? ゆっくり歩いたり、しゃがみこんだり)


男「地面に面白いものでもあるか」

少女「……いえ」

男「もしかして、土…か?」

少女「………」コクン


男「…で、ここの土は花壇造りにはどうなんだ?」

少女「……全然…だめです」

男「昨日、欲しいものを伝えた時に肥料とかは?」

少女「欲しいって…言いました」

男「それを混ぜれば何とかなるのか」

少女「…耕して、石をよく取り除いて…それから肥料を攪拌すれば」


男「耕して石を取り除くところまでは、道具さえあれば今でもできそうだな」

少女「……?」


男「すみません、職員さん」

職員「なんだい?」

男「スコップとか鍬は、すぐにでもありませんか」

職員「スコップくらいはあると思うが……ただ、それを使う時は監視をつけさせてもらう事になるよ」

男(凶器に使えるから…か)


少女「……使いたいです」



男「監視の手間をおかけしますが、二本貸してもらえませんか」

少女「………」

職員「解った、朝食の後で持ってこよう」

男「お願いします」


男「土を耕す作業…軽い運動としてはちょうどいいかもな」

少女「…貴方も花壇を?」

男「いけないか?」

少女「………」フルフル

男「知識は何にも無いけどな」


少女「…だったら、この辺りを…どうぞ」


男「そうなのか、どうしてだ?」

少女「お昼過ぎまで日光がよく当たるから…」

男「その後は?」

少女「…西日は当たらなくていい…です」

男「なるほど」

少女「………」

男「じゃあ…ここを俺達の花壇にしようか」

少女「……え…?」


男「あれ…? だめか?」

少女「…俺『達』…って…」


男「そうだよ、一緒に造ろうと思ったんだけど」

少女「………」

男「…部屋と同じで、別々の方がいいか?」

少女「………」

男「…無言は了承と捉えるよ?」

少女「…は…ぃ」

男「どっちの『はい』だ? 別々の方がいい?」

少女「………」フルフル


男「じゃあ、一緒に造ろう。でも俺は何も知らないから、教えてくれよな」

少女「………」コクン


男(…少しだけ、コミュニケーションがとれたのかな)

男(まあ別に好きで同室になったわけじゃない)

男(無理に馴染む必要は無いのかもしれないけど)

男(期間が定められていない以上、お互い少しは言いたい事を言えないとやってられないしな)


男(この土地を好きに使っていい…代わりに管理はしなきゃいけない)

男(その事から察すれば、そう短い期間じゃ無さそうだ)

男(だからコミュニケーションをとる、それだけ……それだけだよ)

短くてすみません、また明日


男(結局、朝食はまた別々か…)


男(嫌なら嫌で、喋らなきゃいいだけだと思うけどね)

男(顔も見ていたく無い…って?)

男(……ちょっと凹むな)


…ガチャッ


職員「スコップ、用意できてるからねー」

男「はい、ありがとうございます」


職員「外出前に必ず連絡をね……まあ、遠隔操作で鍵がかかっているけど」

男「……火事になったら死ねそうですね」

職員「一応、報知器と連動して鍵は開くようになっているから、そこは心配しないでくれ」


…コン、コン


男「スコップ、届いたよ」


ガチャッ…


男「早速、始めるか?」

少女「………」コクン

男「服、着替えないと。風呂場の脱衣所以外はカメラで丸見えだぞ」

少女「…はい」

男「俺はもう着替え終わってるから、インターホンで連絡しとくよ」


………



職員「悪いが言った通り、こういった道具を使う際は近くに居させてもらうよ」

男「はい」

少女「………」


男「まずは? とことん掘り返していけばいいのか?」

少女「あの…掘り取った土を別の場所に置いて、そこで石を選別して堆肥を混ぜます」

男「うん、どの位の深さまで掘ればいい?」

少女「20センチ…できれば30センチくらい」


ザクッ、ボコッ…


男「固ってえな…掘れるか?」

少女「……んっ…」ガツンッ

男(やっぱり体重が軽いから、刃が入ってないな…)


少女「………」フゥ

男「よし、掘り返して土を別の場所に運ぶのは俺がやるよ。少女はそれを崩して、石を選り出してくれ」

少女「…でも」

男「でも…?」

少女「その…掘り返す作業の方が大変…」

男「いいんだよ、俺はオトコなんだから。適材適所って奴だ」


………



男「ふぅ…だいぶ進んだな、もう昼が近い」

少女「………」コクン


男「どの位の範囲を花壇にしようか?」

少女「最初は…この位で」

男「2×3m…6m2くらいかな。だいたい深さも30センチはあるだろ」

少女「………」コクン

男「そっちも、石の選り出しはできてるっぽいな」

少女「…今度は、この石を花壇の底に敷きます」


男「選り出した石だけを?」

少女「…排水層になります。土が少し粘土質だから、水はけを良くしないと…」

男「結構、詳しいんだな」

少女「………」フルフル


男「それに、園芸の事なら割と喋るんだ」

少女「……っ…」

男「いいと思うよ、恥ずかしがる事ない」

少女「………」


男「崩した土を見て、改めてどうだ? 肥料を混ぜればいけそうか」

少女「少しだけ還元色がかってるから…本当は黒曜石のパーライトを混ぜたいです」


男「全然、解らねえ…」

少女「ご、ごめんなさい」

男「いいって、そういう方面は任せるよ。そのナントカ石のナントカってやつも、貰えるようにしなきゃな」

少女「…はい」…サスサス

男(ん…? 手をさすって…)


男「手、どうかしたのか? 見せてみ…」ギュ

少女「やっ…!」バッ

男「……ごめん…」

少女「あ、あの…ごめん…なさい」


男(…手首を握ろうとしただけなんだけどな)

男(よほど嫌われてる……いや、怖がられてる…?)


男「…手、痛いのか?」

少女「久しぶりの作業だったから…少し…」

男「手袋も無いもんな」

職員「悪いね、昼には用意するよ」

男「はい、お願いします」


……………
………


…施設館内


白衣「D棟の二人、直接見ていてどうかね」

職員「今のところ問題はありません。どちらかというと男…D-1の方が自発的にコミュニケーションをとろうとしていると思います」

白衣「うむ……まあ、そうなるだろうな」


職員「D-2にはまだ歩み寄りの姿勢はありません。一度D-1がD-2に触れた時、かなりの抵抗感をもったようでした」

白衣「ほう…D-1が接触した理由は?」

職員「単に気遣っての事だと思います。しかしD-2は強く反応し、一瞬手にしていたスコップを持ち上げようとしました。私も制止に入りかけましたよ」


白衣「……まだ一日しか経っていない、進展が無いのも当然だろうな。貴重なサンプル、ゆっくりと様子をみよう──」


……………
………


…三日後


男「排水層はこんなもんか?」

少女「…このくらい厚みがあれば、大丈夫だと思います」

男「敷地内の石ころもレーキで集めて、だいぶ足したな」


少女「……ごめんなさい」

男「何が?」

少女「疲れる仕事ばかりさせて…」

男「いいんだって、役割分担だろ」


男「それで? これからは?」

少女「残った土に堆肥を混ぜてあるから…敷いていきます」


男「堆肥って、全然臭くはないんだな」

少女「発酵には牛糞なんかも使ってると思うけど…完熟してる、微生物に全て分解されてますから」

男「………」

少女「…未熟な堆肥だと、土の中で残りの発酵が進んで窒素分を奪うから…だめです」

男「この堆肥は良いやつなんだ?」

少女「………」コクン


男「こっちに除けてる大き目な石は?」

少女「…花壇の縁に積みます」

男「じゃあ、土を入れながら石積みも同時進行だな。石の方は任せるよ、重すぎるやつがあったら言ってくれ」

少女「……は、はい…」


…サクッ、サクッ
コロコロ……ドサーッ


男(手押しの一輪車なんて、久しぶりに使ったな)

男(中学校の時の農業実習以来か…?)


男(……しかしあの娘、ほんと園芸の事ならちゃんと喋るんだな)

男(その時には俺に対する抵抗も余り無さそうだし)

男(嫌われてるわけじゃない…のかな?)


少女「あ…あの…」

男「どうした?」

少女「…石、大きいのを」

男「ああ、行こうか」


男「中にはかなり大きいのもあるな」

少女「花壇の周囲にランダムな配置で、置いて貰えたら…」

男「ランダムでいいの?」

少女「………」コクン


男「ふう…こんなもんか?」

少女「はい」

男「じゃあ、土入れの続きやってるわ」


少女「……あの」

男「ん…?」

少女「あ…ありがとう…」

男「……どういたしまして」


コロコロ……ドサーッ


男(…違う)

男(彼女にはできない力仕事を、代わりにやってあげたんだ)


…サクッ、サクッ


男(だから、お礼を言われるのも当たり前)

男(決して彼女が心を開いてるわけじゃない)


…ドサーッ


男(俺だって、そうだ)

男(特別な繋がりなんか、望んでない──)

また夜に投下したい


……………
………


…更に二日後


男「できたんだな」

少女「………」コクン


男「なんか…肥料以外はこの場にあった土と石だってのに、できあがってみると……」

少女「……?」

男「意外と……うん、ちゃんとした花壇だよな。感心したよ」


少女「………」クスッ

男(……今、笑った?)


職員「………」


男「しかし堆肥の分もあるとはいえ、土ってほぐすと増えるもんだな」

少女「…それだけ元は締め固まってました」

男「そういう事だな。…で、何を植えるんだ?」


少女「え…と、種を…撒きます」

男「種からか、じゃあ何とは訊かずに楽しみにしておこうかな」

少女「……あの、これ…」

男「ん? これが種? ……あ…」

少女「………」コクン


男「ははっ…こりゃ、誰でも種で解っちまうな…向日葵だ」

少女「…はい」ニコッ

男(やっぱり、笑った…)


男「どうやって撒いたらいい?」

少女「…まず、一輪車に一杯の土をとって…」

男「了解」


…サクッ、サクッ


少女「それから…指で花壇の土に穴を穿けて」

男「じゃあ、手本を見せてもらおうか」

少女「………」コクン


…プスッ、コロッ
プスッ、コロンッ…


男「第二関節くらいの深さでいいのかな」

少女「はい……あっ…」

男「ん?」

少女「……真ん中から始めないと、出られなくなり…ます…」

男「ああ、そうか。馬鹿だな…俺」

少女「………」クスクス


職員「………」


男「あとは一輪車にとっておいた土を撒けばいいんだな」

少女「はい、やさしく…うっすらと」

男「難しい事を…」


少女「…これでお水をあげれば、終わりです」

男「うん、水遣りは毎日?」

少女「芽が出るまでは…」

男「…楽しみだな」

少女「………」コクン


………


…同日、夕方


職員「おーい、食事を取りに来てくれー」

男「はーい」


…ガチャッ


男(……お?)

少女「…ありがとう…ございます」ビクビク

職員「震えてる…? 零さないようにね」

少女「………」コクン


男(同じタイミングでトレイをダイニングに運ぶって事は…)


少女「……あの、いいです…か…?」カチャッ

男「一緒に食べる…って事?」

少女「…はい」

男「もちろん」


少女「……頂き…ます」

男(…少し、慣れたって事か?)


男「しかし、花壇造りが終わると明日からちょっと暇だな」モグモグ

少女「…はい」パクッ

男「けっこう楽しかったよ」

少女「………」コクン


男「昔から園芸を?」

少女「………」

男(…顔が曇った、まずかったか)


男「ごめん、いいんだ…色々詳しかったなって思っただけだよ」

少女「………」


少女「…増やします…か?」

男「うん…?」モグモグ

少女「花壇…もっと」


男「ああ…いいね、広げようか」

少女「今度は…種じゃなく、苗を植える花壇を…」

男「それなら最初から賑やかだな」

少女「向日葵の花壇より一段低く…隣りに繋げて」


男「そうだな。向日葵は背が高くなるから、バランスもいいんじゃないか?」

少女「…はい」ニコッ


男「……笑ってくれるようになったよな」

少女「えっ」アセッ

男「いいよ、その方が」

少女「……はい」


男(──でも、他意は無い)

男(共同生活を送る上で、やりやすくなったってだけだ)

男(どうせいつか、この生活は終わる…)

男(ある程度、意思の疎通がとれさえすれば)

男(それ以上の関係なんて…要らない)


……………
………


…四日後


ガチャッ…


男「ああ、おはよう」

少女「おはよう…ございます」

男「今朝はよく眠れたよ、やっぱり連日ちゃんと労働してれば眠りも深いね」

少女「…そうですね」

男「もうじきに食事じゃないかな」


職員「朝食、持ってきたよー」


男「…だな、取りに行こう」

少女「はい」


………



男「ふたつ目の花壇もできたね」モグモグ

少女「はい」モグモグ


男「今日、苗が届くんだろ?」

少女「そう…聞いてます」コトッ

男「どんなの、頼んだの?」パクッ

少女「…色々、春咲きのものを」


男「楽しみだな」

少女「…はいっ」ニコッ


男(……随分、普通に話せるようになった)

男(これならあまり困ることも無いだろう)

男(ただ……)


少女「………」カシャッ…コトン

男「重いだろ、お茶のポットは俺が持つよ」ヒョイ

少女「……っ…!」ビクッ


男(手を伸ばすと、やっぱり怖がってるみたいだな……)



………



男「へえ…色とりどりだな」

少女「はい」


男「これは?」

少女「アネモネ…」

男「こっちは?」

少女「ガザニアです」

男「この背の低いのは?」

少女「シバザクラ…縁に使います」


男「色分けして植えるのか?」

少女「はい…でも、分け過ぎると鮮やかさが無くなるから…」

男「混ぜた方が?」

少女「アネモネは色分けして…ガザニアとマリーゴールドは種類は分けるけど、色は混ぜた方が綺麗だと思います」

男「じゃあ配置は任せるよ、置いてくれたら植えるから」

少女「…はい」


男(背の高いのはこんなもんかな)

男(あとは周囲のシバザクラと、ダイアンサス…だったかな)

男(端っこから後ろへ、バックしながら植えるか…)

男(ダイアンサスの茎って柔らかいな、折れてしまいそうだ)

男(この辺はシバザクラだけを纏めて……)ジャリッ


…ドンッ

少女「きゃ…!」ドテッ


男「あ…悪い、後ろ向いて退がってたから…! ほら、手を──」


──ギュッ

少女「あ……」ビクッ


男「立てる?」グイッ

少女「…う……」


男「ごめんな、よく見れば良かった」

少女「い、いえ……あの…起こしてくれて、ありがとう…」

男「足挫いたりしてない?」

少女「大丈夫…です」


職員「………」


男「花も植えて、ふたつ目の花壇も完成だね」

少女「はい」

男「さすがに咲き誇ってると、綺麗だな…」

少女「…上手に植えられてると…思います」

男「そうか、よかった」

少女「………」


男「さあ…みっつ目の花壇、どうする?」

少女「…まだ、造ってもいいですか…?」

男「俺は構わない……造りたいよ」

少女「……はいっ」


……………
………


…数日後、朝


男「…う……」

男(よく寝た…)

男(さっき、少女は外へ出てたような気がするな…)


…ガチャッ、バタンッ


男(ああ、やっぱり…外から帰って──)

少女「…男さんっ」

男「──えっ…」


少女「あの、ちょっと…外に…」

男「あ、ああ…」

少女「職員さんには、男さんを連れて出るって言ってあります」

男「解った、すぐ着替えるよ」


男(……初めて、名前を呼ばれたな)

男(なんかいつもと声の張りも違うような…)


少女「………」ソワソワ

男「あの…少女?」

少女「はい…?」

男「そこにいたら、着替えられないんだけど」


少女「!! ご、ごめんなさい…脱衣所に行くかと…」

男「うん、下着まで替えるわけじゃないから…」

少女「あ、あの…先に外にいますっ」パタパタパタ…


男(可愛いな…)


男(……いけない、何を考えてる)

男(駄目だ、意識するな…しちゃいけない)

男(彼女は……他人だ…)


………



少女「男さん、こっち…最初の花壇です」

男「向日葵の…?」

少女「ほらっ」

男「…あっ……これって…?」


少女「芽が出ました…!」


男「そっか…けっこう早いんだ、嬉しいな…こういうの」

少女「はいっ」ニコッ


男「すごい、たくさん芽吹いてる」

少女「はい」

男「ちょっと感動したよ。自分で造った花壇で、自分が蒔いた種から芽が出るなんて」

少女「…はい」

男「園芸って、楽しいもんだね」

少女「……は…ぃ…」ポロッ


男「……え?」

少女「……っ…」ポロポロ…


男「ど、どうしたんだ? なんで泣いて…」

少女「すみません…何でも…ない…」グスッ


男(何でも無い事はないだろ…)

男(…今は道具を使ってないから、職員さんは先に引っ込んだ)

男(この様子をカメラで見られたら、なんか変に思われそうだな)


少女「………」グスン

男「部屋、入ろう? …とりあえず顔を洗おうよ」

少女「は…ぃ…」


………



男「…落ち着いた?」

少女「はい…ごめんなさい」

男「びっくりしたよ」

少女「もう大丈夫…です」


男「もうすぐ食事だと思うよ」

少女「………」コクン

男「部屋に戻ってる?」

少女「ここが…いいです」

男「…そうか」


男(……涙の理由は解らない)

男(でも、少なくとも何かが嫌で泣いたわけじゃないんだろう)


男(泣いてるところを見せる…なんて、ある程度気を許してないとできないんじゃないか)


男(……違う、考えるな)

男(自分に都合良く考えちゃだめだ──)

ここまでっす


………


…その夜


男「トレイ、返した?」

少女「はい」

男「風呂の用意はできてるから、順番に入ろう。俺は後でいいから」

少女「じゃあ…私、入ります」

男「うん、なんか今夜は冷えるから、ゆっくりでいいよ。上がったら知らせてくれ」

少女「はい」


………



少女「あの、お風呂…どうぞ」

男「ああ、ありがとう」


少女「それから…その…」

男「ん…?」

少女「今夜は…冷えるから」

男「うん、俺もゆっくり入るよ」

少女「その…あと」

男「……?」


少女「こ、この部屋…寒くないです…か…?」モジモジ

男「ああ…まあ、ちょっとな」

少女「…寝るの…リビングにしたら、いい…です」

男「うん…ありがたいけど、少女に寒い方の部屋を使わせるわけにも…」


少女「そうじゃ…なくって…あの」

男「…大丈夫だから、気を遣わないでくれ。俺はこっちで平気だよ」

少女「そう…ですか」


男「じゃ、風呂行ってくるよ。…おやすみ」

少女「…あのっ」

男「………」

少女「もう一回…」

男「何?」


少女「握手…してくれませんか」


男「そりゃ…いいけど」スッ

少女「………」ソーッ


…ギュッ


少女「…ぅ……」

男(少し震えてるな…)


男「…もういいか?」

少女「もう少し…」

男「………」

少女「………」

男(ちょっとずつ、震えが引いてきたか…?)


少女「私…怖いんです、人が…」

男「そうみたいだな」

少女「でも…」ギュウッ

男(強く握って…震えが止まった)


少女「貴方を怖がるのは…嫌」


男「少女…」

少女「花壇造り…男さんと出来て良かった…です」

男「…うん」

少女「もっと、たくさん…造りたい」

男「そうだな」


少女「ありがとう…ございます」パッ…

男「…こちらこそ」


少女「おやすみなさい、男さん」ペコッ

男「…おやすみ」


………



…チャプン


男「…はぁ」

男(解ってる…部屋を『替わろう』と言ったんじゃない事くらい)

男(…認めまいとしてたけど、彼女は他人への恐怖感をもちながらも、歩み寄ろうとしてくれてる)


男(俺は…どうだ?)


男(自ら進んで花壇造りを一緒にしてみたり)

男(最初の握手を求めたのだって、俺の方だ)

男(…やっぱり俺も、彼女に近づこうとしてる)



バシャッ…ゴシゴシ…


男「ぷはっ…」


『私…怖いんです、人が……でも』

『貴方を怖がるのは…嫌』

『花壇造り…男さんと出来て良かった…です』


男(…くそっ、やっぱり狭くても一人部屋の方が良かったんじゃないか)

男(俺の症状が解ってて、なんでこんな…)

男(……早く上がって寝よう、気持ちを切り替えなきゃ──)


……………
………



《──格好いいわよ、男》

《もう貴方も高校生なのねえ…》

《弟も再来年には中学生だし、どんどんお米が無くなるわ》

《ふふ…いいのよ、しっかり食べてお父さんみたいなオトコ前にならなきゃね》


《本当、二人とも自慢の息子だわ》

《幸せな家庭って、我が家みたいな事を指して言うのよ、きっと》

《あはは…大袈裟じゃないつもりよ、お母さんは──》

… … …

《──え?》

《事故? お父さんと…弟が…? え…?》

また明日


……………
………



「今度は今までの花壇の背景になるような、木を植えたいです」

「また男さんに力仕事ばかりさせてしまいますけど…」

「木陰をつくる常緑の少し大きい木……ミモザアカシアやイレックスとか」


「大丈夫ですか? 重い…ですよね」

「一緒に…持ちます」


「すごく感じが良くなりました」

「あとは周りに低木を……きゃっ」

「ごめんなさい、びっくりしただけ…ごめんなさい」

「……大丈夫、男さんは…怖くないです」


「あの、アセビは日が当たらないところへ…」

「えっと…もう少し…」

「ミモザの枝が邪魔ですよね…私、持っておきます」


「男さん、顔に土が」

「ちょっと動かないで……ほら、ここ」

「…綺麗になりました」


「男さん、向日葵が伸びてますよ、ほら」


「男さん、今度は…」


「男さん」


「男さん」


「男さん──」


……………
………


…二ヶ月後


ガチャッ…


職員「食材、持ってきたよー」


少女「はい」

職員「ジャガイモとかが入ってるから、ちょっと重いよ。大丈夫?」

少女「…は、はい」ビクビク


職員「………」


男「どうしたんだ、それ」

少女「…あの、カレーを作ろうと思って」

男「カレーか、そういえば施設の食事はバランスを重視してるのか、そういうのはあまり出ないな」


少女「ジャガイモ…もう少し大きく切ってあればいいのに」

男「…そうか、包丁なんかは貸し出されないんだな」

少女「………」


男「俺も食べていいの?」

少女「えっ」

男「……カレー、俺も食べていいのかな…って」

少女「あ…当たり前…ですよ?」



………



男「じゃあ、頂きます」…パクッ

少女「………」

男「……美味い、すごく」

少女「よ、よかった…」ホッ…


男「少量を鍋で作ったカレーなんて、久しぶりに食べるな」

少女「明日のお昼の分くらいはあると思います」

男「懐かしい…な」ボソッ

少女「……男さん」


少女「あの、食べ終わってお風呂入ったら…」

男「うん?」

少女「…こっちの部屋、来ませんか」

男「何か映画でも借し出してもらうか?」


少女「……そうじゃなくって、その…これから…こっちの部屋で寝ましょう」

男「同じ部屋でって事か?」

少女「………」コクン


男「ありがとう」

少女「い、いえ…今までごめんなさ──」

男「でも、それは遠慮しとくよ」


少女「え…」

男「もうすっかりこの部屋で寝るのに慣れたし、寒い時期も過ぎたし」

少女「で、でも…ダイニングは本当は寝る部屋じゃ…」


男「…施設の方針としてどうなのかは解らないけど、本当は異性が二人で同じ棟
に入居してる事自体おかしいんだ」

少女「………」

男「できるだけ棟内での生活スペースは、区切った方がいい」

少女「男さん…」


男「信頼してくれるのは嬉しいけど、俺だってオトコだぞ」

少女「!!」ビクッ

男「…だから、今まで通りがいいよ」


少女「でも、監視カメラもあります」

男「そうだな、間違いをおこすような事は無いつもりだけど」

少女「だったら…」

男「…ごちそうさま。カレー美味しかった、ありがとう。…先に風呂行ってくるよ」


少女「…男さん」

男「ゆっくり食べたらいい──」
少女「男さんっ」ガタッ


男「………」

少女「前も言いました…私、人が怖いです」



少女「でも、男さんは怖くない……まだ不意に近くに寄ると、少しびっくりする事もあるけど」

男「少女…」

少女「きっと私達が同じ棟に割り当てられたのは、お互いの何かを克服するため…だと思います」


男(……違う)


少女「私、前の施設では本当に誰ともコミュニケーションがとれなくて…男さんみたいに接する事ができる人はいなかった」

男「………」


少女「きっと、男さんがいい人だから…他人を怖がる私と組ませたんだと──」

男「──それは違う」


少女「……え…」

男「いや…もしかしたら君の側はそうなのかもしれない」

少女「私の側…は?」

男「俺にとって、この環境は自分の問題を克服するに向いたものじゃ…ないんだ」


少女「…どういう事ですか」

男「言えるわけないだろ」

少女「……っ…」

男「君は言えるのか? 俺達の関係は…この生活はいつか終わる。その時、君の過去を知る人間が目の届かないところにいるなんて、嫌だろ?」

少女「私…は…男さん…なら」フルフル

男「聞かないよ、俺は。そして俺の過去も話さない」


少女「…わかりました」

男「ごめん、せっかく君が怖いのを我慢してまで歩み寄ってくれたのに」

少女「でも、納得はできません」

男「……少女」

少女「過去は聞きません、私も言いません。…でも教えて下さい」



少女「私が他人への恐怖を抱えているように…男さんは何に苛まれているんですか」



男「………」

少女「それが何であっても、私…平気です」


男「前の施設で、君の担当カウンセラーは何度か交代したか」

少女「…いいえ、一人でした」

男「俺の担当は四回…替わったよ、施設にいた一年の間でな」

少女「………」

男「最初と二番目は女性のカウンセラーだった、その後は男性だ」

少女「…どうして」


男「決して疚しい感情じゃないとは言っておく、でも…俺は彼らに依存しすぎた」


男「言われたよ…『君は他者への依存願望が強い』って」

少女「依存…」

男「言い換えれば『愛情に飢えている』『絶対的な味方を欲してる』…そういう事らしい」

少女「………」

男「ごめん、これ以上は言わない。でも、もう解るだろ?」

少女「はい…」


男「今より君が距離を詰めたら、俺は……君に依存してしまう──」

また夜に投下したい


……………
………


…翌日、昼前


ババババババ…
……プスンッ


男「…ふう」


男(花壇の手入ればっかりで草を放置してたけど、伸びるもんだな)

男(痛てて…草刈機なんて初めて使ったから、肩が痛い)

男(ようやく半分くらいか…)


男(少女は向日葵の花壇を手入れしてるな)

男(…今日はほとんど話してない)

男(当たり前か…)


男「……どう? 向日葵の調子は」

少女「………」チョキン…パサッ

男(…あれ?)

少女「………」プチプチ


男「…少女?」

少女「え? …あ、は…はいっ」アセッ

男「なんだ、気付いてなかったのか」

少女「ご…ごめんなさい、考え事してました」


男「向日葵、生育の具合はどうだ?」

少女「…いい具合です。でも向日葵は養分の吸い上げが強いから、そろそろ肥料を足さないと」

男「そうか、だいぶ大きくなったもんな」

少女「はい」

男「少し、休もうか」


職員「じゃあ道具を預かって、僕は詰所に引っ込むよ」

男「すみません、お願いします」

職員「午後からもまた使うか?」

男「できるだけ草を刈ってしまいたいから、お願いすると思います」


………



少女「……男さん、昨日はごめんなさい」

男「俺の方だよ…それは」

少女「ううん、男さんがどんな症状に悩んでるかも知らずに…私、自分の事しか考えてませんでした」


男「また俺が怖くなったんじゃないか?」

少女「いいえ」

男「……そっか」

少女「男さん…だから、私は──」


男「やめろ、俺につけいる隙を見せないでくれ」

少女「…言っちゃ、だめですか」

男「だめだ」


少女「……考えてたんです、どうして私達はペアに選ばれたんだろうって」

男「………」

少女「私の症状は、男さんと一緒にいる事で少しずつでも改善してると思います。白衣の人は、それを狙ってたかもしれない」

男「どうかな…」

少女「でも、男さんの症状は? …誰かに依存しちゃいけないんだとしたら、この処置は…有効とは思えません」

男「………」

少女「それでも私達をペアにした……それにはきっと理由があります」


男「…様子を見てるんだよ。俺が君に依存しないかどうか…たぶん重度の依存が生じたと判断されたら、隔離される」

少女「それは…ないと思います」

男「どうして?」

少女「それじゃ、この処置において男さんは私のための犠牲にしかなり得ないから」


少女「ここは国立の施設と聞いてます。性格を考えれば、公共の医療機関の内でしょう?」

男「まあ…そうだな」

少女「現代のこの国のそういった施設で、誰か個人のために別の誰かを犠牲にするなんて、さすがに無いと思います」


男「……社会は君が思うより汚いかもしれないよ」

少女「でも、それなら男さんを犠牲にしてまで私を優遇する理由は?」

男「さあ…なんだろう、くじ引きかな」

少女「ありませんよ、そんなの。だからきっと、この組み合わせには男さんにとっての利点だってあるはずです」


男「…最初会った時には想像もしなかったよ」

少女「何を…ですか?」

男「こんなに口が達者だとはな」

少女「……失礼ですね」クスッ


少女「じゃあ…口論には勝ったという事で、やっぱり言わせて貰います」

男「やめろ、妙な事を言うんじゃ──」



少女「男さん…私に、依存して下さい」


.


男(……なんで、こうなる)

男(結局、俺は誰かに依存してしまうのか? そんな資格、俺には無いのに)


少女「大丈夫…逃げないで」ギュッ


男(なのになんで、俺はこの娘に抱きしめられてるんだ)

男(離れようと思えば簡単なのに、俺は…)


少女「…もし震えてたらごめんなさい…でも、じっとしてて」


男(…なんでこんなに嬉しいんだ)

男(なんで…泣いてるんだよ…)


少女「男さん、根拠は何も無いです……でも、きっと男さんは私に依存すればいいんですよ」ナデナデ

男「………」


少女「カウンセラーの方は異動になったりする事もあります」

少女「だから強く依存していたら、男さんはその時つらい想いをする…」


少女「でも私は施設の人達の判断次第では、ずっと一緒にいられます」

少女「いつか二人とも普通の毎日に戻る事ができたら、その時だって」


少女「私達がペアになったのは私の恐怖心を取り除くため」

少女「そして男さんが安心して依存できる相手をつくるため」


少女「…きっとそうです、そう思ってましょうよ。……ね?」

今夜中にもうちょい追加予定
あくまで予定


………


…その夜、リビング


男「絶対、何もしないから」ドキドキ

少女「し…信じてます」オドオド


男「いびきが煩かったら、叩き起こしていいから」

少女「私がそうだったら…男さんもそうして下さい」


男「布団は部屋の端っこと端っこだから、絶対に手も届かないから」

少女「解ってます、でもちょっと離し過ぎじゃないですか…」

男「いや、丁度いい。このくらいでいいからっ」


少女「え…と、電気…消しますよ?」

男「たぶん監視カメラは暗視機能もついてるから」

少女「解りましたから」

男「絶対、何も──」
少女「解りましたってば!」


…パチン


男(おお…暗い……当たり前か)

少女「男さん…?」

男「はいっ」

少女「なんで『はい』なんですか……おやすみなさい」クスクス

男「お…おやすみ…なさい」


………



男(ちっとも寝付けない)

男(少女は…小さく寝息が聞こえる気がする。緊張してるのは俺だけか)


『私に、依存して下さい』


男(……情けない、でも…嬉しかった)

男(全部カメラで見られてたんだろうな…ちくしょう)


男(もしこれで…俺が彼女に依存するのが『望ましくない事』だとしたら、近い内に俺達は隔離されるんだろう)

男(それを思えば、深入りしない方が……)

男(……解ってる、そんなの…無理なんだ──)


……………
………



《──男、もうお母さんには貴方しかいないの》


《お父さんも弟も…天国から見守ってくれてるはず…よね…》


《でも…ごめんね…お母さん、どうしても悲しくなるの…》


《だって…あんなに幸せだったのよ──》


………



男『母さん…また飲んでるの』

母『………』


男『もうやめなよ』

母『うるさいわね…お酒は悲しい事を忘れさせてくれるのよ』

男『……母さん』

母『うるさいって言ってるでしょう!?』


ガシャーンッ…!


………



母『男、ごめんね…酔ってたの。お母さんが悪かったわ…貴方に怪我をさせるなんて』

男『もういいよ、大した事ないから』

母『貴方は私にとって残された唯一の宝物なのよ──』


… … …


男『母さん…! お酒はやめるって…』

母『あんたは部屋に行ってなさい!』

男『だめだよ、母さんの身体が…』

母『うるさいっ!』


………



母『男…ごめん、ごめんね…大事な息子に私は──』

母『放しなさいよ! 子供に何が解るの!?』

母『お母さんが悪いの…もう二度とお酒は飲まないから──』

母『あんたは何のために生きてるのよ! 私の邪魔をするしかできないなら、あんたなんか…!』

母『男…もしまたお酒を飲んだ私が貴方を傷つけようとしたら、殴ってでも──』

母『二人の代わりにあんたが死ねば良かったのよ! 生意気な顔してるんじゃないわ!』

母『もういい…出ていけ!』

母『死ねっ! 帰ってくるな!』

母『なんでそんな目で見るのよ! 私はもうあんたの母親なんかじゃない──!』


母『そんなに気にくわないなら…! この私が憎いなら』

母『殺してよ…あの人のところに行かせてよ!』

母『そう……できないの…そうよね、貴方は優しい子だったわ』

母『じゃあ一緒に死にましょ』

母『天国で、また家族みんなで暮らせばいいわよね?』

母『せめて私が、貴方を殺してあげる…!』


グサッ
…ポタッ、ポタッ


母『…ごめん…ね……男…』

母『どうし…て…こうなったん…だろう…ね──』

続き、キリのいいところまで行かなかった
また明日ー


……………
………



男(──そして自分でも予想した通り、俺は確実に少女に依存していった)

男(決して疚しい感情ではない)

男(でもそれ以上に根が深く、捨て去り難い)


男(日々を生きる意味として、目覚めた朝を喜べる理由として)

男(俺にとって少女は文字通り、かけがえのない存在になっていった)


男(日々は流れる、向日葵は次第にその背丈を延べてゆく)

男(今のところ、俺と彼女を隔離しようとする動きは無い)

男(きっとそんな事はありえないのに、俺はこの日々が永遠に続く事を望まずにはいられなかった)


……………
………



少女「痛ったあぃ…!」

男「下手くそだなー」


少女「キャッチボールなんかした事ないんだから、しょうがないじゃないですか…」

男「ボールが近づく前に、もうグローブ構えとくんだよ」

少女「柔らかくて軽いボールにしましょうよー」

男「これも軟球だって、軽いボールは余計に捕り難いぞ」


少女「もうやめたいです…」

男「せっかく貸し出してもらってるんだから、もうちょい上達しろ。ほら、よく狙えよ」

少女「うぅ……いきますよ? …てーい!」

男「うわっ、どこ投げてんだ!」


… … …


職員「もう隣りの区画にまで投げちゃだめだよ、僕がすごく怒られるんだからね?」

男&少女「すみません…」


………



男「映画、貸し出してもらったよ」

少女「楽しみですねー」

男「ちなみによく知らない洋画だけど」


男「おお…」

少女「すごいアクションです」

男「…ん?」

少女「……あ…」

男(…ラブシーン、超気まずいんですけど…全年齢だからエロじゃないだけマシか)

少女「………」フンスフンス


………



少女「今日はオムライスを作ります」

男「手伝おうか」

少女「…と言っても、材料は相変わらず切ってありますね」

男「する事ないな」

少女「卵でも混ぜて下さい」

男「卵は『溶く』じゃない?」

少女「………」

男「………」


少女「普通に貸してくれましたけど、フライパンも凶器になりそうですよね」ニッコリ

男「ごめんなさい」


………



少女「今日は雨ですね」

男「よく降るな」

少女「梅雨ですから」


男「雨音って、結構好きだな」

少女「ああ、解ります」

男「こういう建物の中とか、バスの中とかから見る雨の景色も好きだ」

少女「うんうん。全然急いでない時に雨宿りして、ボーッと眺めるのとかもいいですよね」


男「要するに」

少女「自分が絶対濡れない安全圏にいる時の雨が好きです」

男「…だよね」



………



少女「これは?」

男「……マリーゴールド」

少女「全然違います、日々草です。じゃあ、これは?」

男「…ラベンダー?」

少女「色は近いですけど、ブルーサルビアです」


男「サルビアって、あの蜜を吸うやつか? 青いのもあるんだ」

少女「そういえば、ブルーサルビアの蜜は吸った事ありませんね」

男「吸ってみる」プチッ

少女「あっ、だめです! 千切っちゃ…」

男「…あ、結構甘い」チューチュー

少女「えっ……じゃ、じゃあ…私も」プチッ


………



男「暑くなったね」

少女「ここに来た時は、夜は寒いくらいだったんですけどね」

男「…もうそれだけ一緒にいるんだな」

少女「四ヶ月になろうとしてますから」

男「そりゃ、向日葵も随分大きくなるわけだ」


少女「……最初の花壇を造る時は、緊張しました」

男「園芸の事以外、全然喋らないんだもんな」

少女「…今は、うるさいですか?」

男「退屈しなくていいよ」

少女「あ、『うるさい』ってところ否定はしないんですね」

男「賑やかでいいよ」


……………
………


…八月はじめ


少女「向日葵…満開です」

男「感無量だね」

少女「写真に撮れたらいいのに」

男「施設内は撮影禁止、カメラの貸し出しなんてもってのほかだろうな」


少女「…男さん、もう一回お願いできますか」

男「何を…?」

少女「握手、今…もう一度して下さい」スッ


…ギュッ


少女「……震えてない…でしょ?」

男「うん」

少女「男さんは、怖くないです。もう不意に傍に来たって、びっくりする事はあっても怖くなんかない」

男「……うん」

少女「男さんの事を、心から信用してるからです」


少女「だから、話します」

男「………」

少女「私の過去を知る人がいたって、その人を信じられるなら平気です」

男「…うん」

少女「でも、手を離して…後ろを向いてでもいいですか」


…スッ


少女「…私、男さん以外の人が怖いです」

少女「本当は…怖いのは、自分の方なのに」



少女「男さん、私……人殺しなんです──」



.

夜に投下したい
できれば今日、完結したい


………



男(…それから少女は、途切れ途切れに過去を語った)


男(幼い頃の地元が○○県の△△市だという事、両親が離婚した後は若い母親と共に□□市に移り住んだ事)

男(決して裕福ではない家庭、数少ない楽しみの最たるものは、アパートの庭で母親と一緒にする花壇造りだった事)


男(中学の終わり頃に母親が再婚した事)

男(しかし再婚相手の男性はすぐに職を辞め、やがて母親は水商売をするようになった事)


男(少女は後ろ向きのまま、表情こそ知れないが肩を震わせていた)


男(次第に母親はやつれ、娘である少女を気にかける事もしなくなっていったという)

男(そして高校一年の夏の夜、母親が家にいない時)

男(再婚相手の男性は部屋に忍び込み、寝ている彼女を乱暴しようとした)


男(彼女は必死に抵抗し逃げようとしたが、男性の力に敵うはずもなく)

男(再びベッドに倒され絶望した彼女は、覆い被さろうとする相手の頭を枕元にあったガラスの花瓶で殴った)


男(気を失い、伏せた男性)

男(…そこで逃げれば良かったのかもしれない)

男(しかし心の内で男性を憎んでいたであろう彼女は──)


少女「──我を取り戻した時には、血でベタベタになった花瓶を握って部屋に立ってました」

少女「最初、救急車を呼ぼうと思ったけど…あの人の頭部はもうまともな形をとどめてなかった」

少女「だから呼ぶのは、警察にしました」


少女「パトカーが来るまでの間、私…返り血を浴びたままで、もうすぐ咲く向日葵の手入れをしてたんです」

少女「きっと、花に触れるのは最後になると思って」


少女「男さん…ごめんなさい、さすがに怖いですよね。殺人犯と同室だったなんて」

男「同じだよ」


少女「…え……」

男「俺も人殺しだ、実の母親を…この手で刺した」


………



男「──母さんが殺してくれと願った時に、俺は包丁を渡されてたんだ」

男「できない…って断ると、母さんは心中するつもりで俺にかかってきた」

男「俺は無意識にも抵抗して……母さんを刺した」


男「母さんは何も手にしていなかった…包丁なんか使わなくても、抵抗はできたはずなのにだ」

男「もしかしたら心中する…俺を殺すつもりなんか、無かったのかもしれない」

男「ただ俺に殺されるために、そう装った…それもあり得る」

男「正当防衛が成り立つ状況じゃなかった、事故とも呼べなかった」


男「俺は…君と同じ、人殺しだ」


少女「違います、男さんはお母さんを殺したくなんかなかったはずでしょう?」

男「それなら少女だってそうだ。その人に襲われるなんてきっかけが無かったら、殺したりはしなかった」

少女「でも私は自分が危機を脱してから、あの人を殺した…とどめを刺したんです」


男「君は俺の口から『お前は人殺しの犯罪者だ』と言って欲しいのか?」

少女「…事実…ですから」

男「違うだろ、そんな言葉…誰よりも自分が自身を責める時に、何度となく心で呟いたはずだ」

少女「………」


男「俺は君に言われるまま、君に依存した。カウンセラーの言った『絶対的な味方』を手に入れた」

少女「男…さん…」

男「だから俺は、君の絶対的な味方になる」


男「例え誰が君を責めようと、法が罪を定めようと…俺は認めない」


ギュッ…

男「君は犯罪者なんかじゃない」

少女「…うっ…うぅ…っ…」グスンッ


男「俺は…解るよ」

少女「…は…ぃ」

男「誰かに、そう言って欲しかったろ」

少女「……ぅ…」コクン


男「…何回でも、いつでも言うから」

少女「ありが…と…ぅ…」グスッ


男(少女は俺の腕の中で、ずっと泣いていた)

男(監視カメラで見られているのは分かっていたが、それを理由に腕を解く気にはならなかった)


男(二人ともが本意でなくとも人を殺めた過去をもち、その記憶を共有している)

男(それは俺の依存願望を強く満たしていると思う)

男(きっとそのレベルは一線を超えているだろう)


男(だから、この生活は終わる。施設は俺達を一緒にしておかない)

男(華奢な肩を抱き締めながら、俺はそんな事を考えていた)


……………
………


…半月後、施設館内


白衣「昼食の後で眠たいかもしれないが、まあ…座ってくれ」

男「……初めてですね、二人揃って呼び出されるのは」

少女「………」


白衣「少女くん」

少女「!!」ビクッ

白衣「……その様子だと、私が怖いようだね」

男「変な味利きはやめてくれませんか」

白衣「すまない、だが少し確かめたくてな」


白衣「四ヶ月ちょっと…か、この施設での君達を見てきた。随分と変わったね」

男「………」


白衣「それぞれの症状の事、そして過去の事は…話しているのか?」

男「…ええ」

少女「………」コクン


白衣「そうか、それなら話す内容をぼかす必要は無いな」

男「彼女に不躾な事は言わないで下さい」

白衣「……気をつけよう」


白衣「まず…男くん。君は我々の予想通り、彼女に依存している」

男「…否定はしません」

白衣「君自身の意識の中で、その関係が恋人のそれか兄妹のそれに近いかは解らないが…はっきり言おう」

男(……離れろ…って?)


白衣「…正直、安堵している。君の依存のレベルは、我々が理想とした程度に留まっていると思う」

男「えっ…」


白衣「君が前の施設で数名のカウンセラーに心的依存の症状を見せた時、それは相手に『頼りたい』『護って欲しい』という願望が強かったと診断している」

男「はい、そう聞いています」


白衣「だが今の君の依存の方向性は、相手に頼り頼られる…相互の関係を築いていると見た」

男「………」

白衣「君がその種の依存関係を築くためには、自分と同年代…できれば少し年下の相手が必要だと我々は判断したが、正解だったようだ」

男「…はい」


白衣「…次に、少女くん。君は他者に対する恐怖心を強く抱いていたね。前の施設では、それはとても顕著なものだった」

少女「………」

白衣「だがこの数ヶ月で、少なくとも相部屋の彼に対する恐怖心は拭えた。しかも相手は男性だ、これは大きな進歩だよ」

男(まさか、施設から出られるのか…?)


白衣「しかし…さっきの様子から察しても、まだ彼以外の者への恐怖心は払拭できていないようだね」

少女「…はい」

白衣「明らかな進展は認められるが、もう少し様子を見る必要がありそうだな」

男(どうなる…このまま、現状維持なら御の字だが…)


白衣「総合的に見て、近々…次の段階に移りたいと思うのだ」

男「次の段階…」


白衣「ああ、二人とも『別の人物に対しても同じ関係を築けるか』を判断する」


男「!!」

少女「……えっ…」


白衣「二週間後、君達は棟を変わってもらう事になるね」

男(つまり、それは…)

少女「あ、あの…っ」


白衣「そう、二人とも『新しいパートナー』との生活に入ってもらう」

.


男(ふざけやがって……外に出られるわけでも、現状維持でも個室に戻されるでもなく)

男(よりにもよって、新しいパートナーだと?)


白衣「…せっかく馴染んだのに寂しいだろうとは思うが、どうか理解して欲しい」


男(少女のパートナーがまたオトコである可能性もある……いや、その可能性の方が高いだろ)


白衣「少女くんが、男くんにしか気を許せないというのでは…とても社会復帰は不可能だ」


男(さんざん依存させておいて取り上げるだけじゃなく)


白衣「男くんの経過は、まずまず良好だ。どちらかと言うと特に少女くんの為の措置である…そう考えて欲しい」


男(他の誰かの下へ去る彼女を、笑顔で見送れってのか──)


白衣「男くんには辛いかもしれんが…解ってくれるね?」


男「……解り…ました」

少女「えっ…?」


男「よろしく…お願いします」ググッ…

少女「え…あの…男さんっ…?」

男「少女の新しいパートナーはできるだけ優しい、可能なら…花の好きな人にしてあげて下さい」


白衣「難しい注文だが、心にとめておくよ」

男「…お願いします」

少女「男さんっ!」


白衣「…今後の予定は追って伝えさせてもらおう」

男「はい」


少女「………」


白衣「では、部屋に戻りたまえ」

男「…行こう、少女」


少女「………」


白衣「どうした、少女くん」

男「……?」


少女「…ふざ…けないで…よっ」


少女「この施設にいる限り…私達は必要な治療を受ける義務があります…」

男「少女…」

少女「解ってる…そんな事、解ってます…私達は税金を使って治療を受けてる」

白衣「…その通りだ」


少女「それでも…嫌です」ポロッ

男「よせ…少女…」

少女「男さん以外の新しいパートナーなんか、私は欲しくないっ!」ボロボロッ


男「やめろ! 余計に悪い診断が下される──」

少女「構わない! 今のまま…そうでないなら独りぼっちでいい! 元の施設に帰して下さい!」


白衣「……おめでとう、合格だ」

少女「……っ…?」

男「え…?」


白衣「謝ろう、本当にすまなかった。今の話こそが、最後の診断だったんだよ」

男「どういう…事ですか」

白衣「相互の信頼関係を築いた男くんが、その相手のためを考えて自らの理性を保てるか。また少女くんが、どこまで深く人を信頼できるようになったか…試させてもらった」


少女「…じゃあ、今の話は」

白衣「不合格であれば、本当にその処置をとる可能性もあったがね。その必要は無いようだ」

男「合格なら、どうなるんです」

白衣「おめでとう…と言ったはずだ」


白衣「君達は間違いなく、人を殺めた」

白衣「しかしその経緯は大きく情状酌量の余地があるものだ。限りなく不幸な事故に近いと言っていい」

白衣「そんな若者が、長く施設に隔離される程に社会復帰の道を掴み難くなってゆく…それは悲しい事だ」


白衣「しかしながら君達のようなケースでは、自身が大きな心の傷を負っている事が多い」


白衣「そしてそれは思わぬ形で現れる事がある」

白衣「男くんの依存症状も少女くんの他者への恐怖心も、それ自体は社会復帰が不可能なレベルではない」


白衣「だが社会に出た男くんが誰かに強く依存し、不意にその対象を失いそうになった時」

白衣「そして少女くんが目の前の誰かに強過ぎる恐怖心をもった時」

白衣「その心の傷が自己を過剰に防衛しようとするかもしれない」

白衣「つまり不幸な事故が再現される可能性がある…という事だ」


白衣「君達がそうなるとは限らないが、そういった事例は決して少なくはない」

白衣「だから長く施設に、保護の名を借りた隔離をせざるを得なかった」


白衣「…この施設はその期間を少しでも短縮するためのもの」

白衣「少し荒療治かもしれないが、君達が受けたような治療を施すために作られたんだ」

白衣「まあ…まだまだ、実験段階だがね」


男「期間を短縮する…じゃあ」

白衣「そうだ、君達には社会に戻ってもらう」

少女「男さんっ…」

男「少女…よかった…」


白衣「ただし、今しばらくは監察の下に置く事となる…つまり一般の児童保護施設、いわば孤児院に入ってもらう」

男「孤児院…」

白衣「残念ながら二人とも、あまり頼りにできる身内はいないと聞いてもいる。それは仕方ないと思ってくれ」


少女「お…男さんとは? 同じ施設に入れるんですか…?」

白衣「それも…すまない、君達がそれぞれ住んでいた自治体の管轄する施設に入ってもらう事となる」

少女「そん…な…」


白衣「…まあ、そう気を落とさないでくれ。二人の地元はひとつ県を挟むだけと聞いている。男くんの歳なら通えない事もあるまい?」

男「そう…ですね」

白衣「失った期間の分、勉学にも励まねばなるまいが…今よりはずっと自由になるはずだ」

少女「…はい」


白衣「この施設が君達のような若者にとって救いとなれるか…それは今後の君達にかかっているといっていい。…期待しているよ──」


……………
………


…二週間後


男「向日葵…ほとんど枯れちゃったな」

少女「………」コクン

男「午後には退所…か、孤児院ってどんなだろうな」

少女「…どうでも…いいです」


男「元気出せって、名前のイメージだけだけど子供とかもいっぱいいるんじゃないか。確か小さな子供は怖くないんだろ?」

少女「でも…男さんがいません」


男「会えないわけじゃないよ」

少女「…会いに来てくれますか?」

男「個人情報保護の観点だとかで、お互いの入る施設の名前や詳しい情報は教えられてないけどな」


少女「答えて下さい、会いに来て…くれる?」

男「…うん」


少女「約束ですよ…? この情報社会ですもん、きっとインターネットとかで施設は調べられます」

男「そうだな。孤児院なんて、そんなにたくさんあるわけじゃないだろうし、およその目星はつくんじゃないか」

少女「だから、会いに来て下さい」

男「…きっと行くよ」


少女「どうして『きっと』なんですか、絶対って言って下さいよ」

男「うん、絶対」

少女「…これじゃ、どっちが依存してるのか解らないです」

男「相互の関係…そう言ってたよ」


少女「離れてても男さんは、私の味方ですよね?」

男「それはもちろん、絶対的な味方だよ」

少女「…待ってますから」

男「うん…」


………



男「お世話になりました」


白衣「元気で、何かあったら連絡をくれて構わない」

職員「施設の土地をあんなに綺麗な庭にしたのは、君達が初めてだよ。次に入る人には、できるだけ管理してもらうようにするからね」

少女「お願い…します」ペコッ


白衣「じゃあ、名残惜しいだろうが……それぞれのワゴン車に乗ってくれ」

男「はい」

少女「………」


…バタンッ


少女「あの…窓は…」

運転手「うん?」

少女「窓、開けたいんですっ」

運転手「ああ、悪いが運転席からしか──」
少女「早くっ! お願いします!」


ウイィーーン…

少女「男さんっ!!」


男「…少女!」

少女「待ってるから…私、ずっと待ってるからっ!」

男「さよなら、少女…!」

少女「さよなら、ちょっとだけ…さよなら──!」

ちょっと間が空くけど、今夜中に完結させます


……………
………


…数日後、男の入所する施設


男(…やっと落ち着いたな)

男(この施設、悪い所じゃない…子供もいっぱいいるし)

男(きっと所員の人は知ってるんだろうけど、俺の過去に触れる人もいない…)

男(少女の施設も、こんなならいいな)


スポ刈「あ、兄ちゃん! キャッチボールやろうぜ!」

男「えー、昨日もしただろがよ」


メガネ「新入りにせっかく馴染むチャンスを与えてあげようとしてるのに…」

男「お前らが俺につきまとってるだけだろ、生意気言うな餓鬼共」


スポ刈「ちぇーっ、行こうぜメガネ」

メガネ「兄ちゃんのばーか!」

男「うっせえ、また相手してやんよ」


男(さて…何か施設の手伝いでも──)

男(…ん? ロビーのPCの前にいるのは)


ポニテ「………」

男「どうかしたの?」

ポニテ「あ、新入りのお兄ちゃん。えっと…ケンサクってどうやるのかなーって」

男「検索…? ああ、それならこのマークをダブルクリックして、出てきた窓に言葉を入力するんだよ」


ポニテ「ええと…」

男「ふたつ以上のキーワードで検索したい時は、間に空白を入れるんだ」

ポニテ「え…い…が……スペース? えっと……ぷ…り……『きゅ』ってどう打つの?」

男「はいはい『映画 プリキュア』ね」カタカタッ…ターンッ

ポニテ「わぁ! すごい!」


………



ポニテ「ありがとう、お兄ちゃん! こんどプリキュアのこと教えてあげるねっ!」フリフリ

男「お、おぅ」

ポニテ「じゃあね! パソコン、使っていいよー!」


男(PCか…インターネットねぇ…)


…カチカチッ
カタタッ…カタタタッ


男「………」


男(…本当に会いに行くつもりか?)


男(きっと彼女の施設の人も、過去に触れるような事はしないだろう)

男(でも俺が会いに行ったら、どうなる…?)

男(素直に会わせるだろうか)

男(彼女の過去を知り、そして同じ過去をもつ俺を…)


男(その施設にとって、そんな訪問者は招かれざる者なんじゃないか)

男(…彼女がそれを呼び寄せる元凶だとでも捉えられたら)


男(……ずっとじゃない)

男(俺も彼女も大人になって、施設を出る時が来たら…いくらでも会えるはずだろ)

男(それまでは──)


……………
………


…翌春


ポニテ「お兄ちゃん、何するの?」

男「うん、施設長さんには許可をとったから…」

スポ刈「何のだよー」

男「いいから、ほら…スコップ持て。メガネもだ、ポニテちゃんは後であんまり力の要らない仕事をしてもらうからな?」


メガネ「スコップ大きいー、重いー」

男「それでも男か、しゃんとしろ」

スポ刈「いぇーい! メガネ、チャンバラやろーぜ!」

男「危ねえ! スコップ振り回すな!」


ポニテ「それで、本当に何をするの…?」

男「よし、準備ができたところで教えてやろう……これからここに、花壇を造るぞ!」


ポニテ「花壇…お花植えるところ?」

メガネ「材料もないのに」

男「あるんだなー、これが。目の前にいっぱい」

ポニテ「?」


スポ刈「…なんか面白くなさそうだなー」

男「いやいや、意外と楽しいもんだぞ? よっし…じゃあこの範囲を30cmの深さで掘って、土を移動だ!」


ポニテ「30cmってどのくらい?」

メガネ「大人の靴の長さくらいだよ」

スポ刈「まじかよー!? ここ、土が固いから花壇なんて無理だって…石ころだらけなんだぞー」


男「ふっふっ…その石ころが重要なのだよ」

メガネ「意味わかんない」

スポ刈「俺、パス。サッカーやるわ」

ポニテ「えぇー、一緒にやろうよ…ねっ?」ウルウル

スポ刈「しょ…しょうがねえなぁ…」テレッ


……………
………


…数日後


スポ刈「この位のはどーする?」

男「おう、それ石積み用な。あっちに置いといて」

メガネ「掘った土、崩し終わったよー」

男「うん、ポニテちゃん熊手で石ころを選り出してくれ」

ポニテ「はーい」


スポ刈「ちょっと俺、トイレなー」

メガネ「サボんないでよー?」


男「じゃあ、俺はあっちで石積みの続きやってるから、怪我すんなよ」


男(──少女、今…俺は子供達と一緒に花壇を造ってるんだよ)

男(去年の春、君が教えてくれた方法で…同じように)


男(ある意味、今…俺はあの子達に依存してるのかもしれない)

男(子供達も俺を小馬鹿にしつつも慕ってくれてる、相互の関係が築けてると思うんだ)

男(君とはまた違う存在として、絶対に護ってやりたい…味方になってあげたい)


男(…怒らないよな?)


男(寂しくない…会いたくないって言えば、嘘になるけど)

男(いつか君を迎えに行ける日まで、俺は俺で頑張るから)

男(きっと…待っててくれ──)


………



スポ刈「ふうっ、スッキリスッキリ! これで力が入るぞー! …って、忘れるとこだった。施設長が兄ちゃんを呼んでくれって」

男「俺を? …何だろ」


メガネ「早く行かないと、施設長怖いよー?」ニヤリ

スポ刈「なんか悪い事してて、もう怒ってるかもよ?」ニヤニヤ

ポニテ「もーう、お兄ちゃんは怒られるような事しないよー」


男「うん…まあ行ってくるわ、本当に怪我だけは気をつけてやってろよ?」

三人「はーい」


………



…ガチャッ


男「…失礼します」

白衣「おお、久しいな。元気にしているようだね」


男「お久しぶりです、どうしたんですか?」

白衣「いや、ちょっと君の様子をね……どうだい、彼女には会いには行ったのか?」

男「…いいえ」



白衣「ほう…どうして行かない」

男「この施設で、僕の過去に触れる方はいませんでした。…きっと彼女の所でも一緒じゃないかと思います」

白衣「…うむ」

男「そこへ過去を知る俺が行くのは、施設にとって…そして彼女にとっても脅威にしかならないと思いました」


白衣「もし彼女が新しい環境に悩んでいたら、力になってあげたくはないかね…?」

男「それは…そうですけど、でも逆に新しい環境に適応し始めているとしたら、それを壊したくもありません」


白衣「素晴らしい、完璧だよ」

男「…はい?」


白衣「…また謝らねばならんな、君が彼女の下を訪ねなかった事は知っていたんだ」

男「相変わらず、人が悪いですよ」

白衣「まあ、責めてくれるな……それからこの施設のPCで、彼女の施設に関する情報を検索した形跡も全く無いと聞いている」

男「…はい」


白衣「重ねて、すまない。今日、ここを訪れたのは紛れもない…君の症状についての最終判断をするためだ」

男「最終って、前も聞きましたよ」

白衣「だから謝っているんだよ。だがまあ…監察下に置かれるというのは、そういうものだ。どうか、許してくれ」


男「いつか、彼女の事は調べます。…会いに行きますよ、お互いに施設を出られるくらい大人になったら」

白衣「今は通信制の高校に再入学しているそうだね」

男「はい、できれば将来は保育士になりたいです。…園芸や造園の方面も興味はあるんですけど」

白衣「なるほど、頑張っているんだな」


男「あの…ところで…」

白衣「なんだね?」


男「格好つけた事を言っておいてアレなんですけど……彼女の事、話だけなら聞きたいです。どうしてるか、知りませんか」


白衣「ああ、彼女は…あまり状態は変わっていないね」

男「そう…ですか」


白衣「君と同じように通信制の高校には入学したが、どうしても他者への恐怖は拭いきれないようだ」

男「………」

白衣「やはり、君のような心を許せる相手が傍にいて、他者との橋渡しをしてやる方がいいのかもしれんな…」

男「…会いたくなっちゃいますね」


白衣「うむ…君はさっき、大人になってから会いに行く…と言ったね」

男「…ええ、それが?」

白衣「ちょっと…また、謝らねばならんかもしれんな──」


………



スポ刈「おりゃーっ! こんなもんだろっ!」


メガネ「まだ深さが足りないんじゃない?」

スポ刈「いいんだよ、サボってる兄ちゃんが悪いんだ」

ポニテ「もう、お兄ちゃんはサボってるんじゃないでしょ?」


スポ刈「…あれ? あの人、誰だろう…」

メガネ「こっちにくるぞ」



「…こんにちは」

三人「こんにちはー」


ポニテ「あの、お姉ちゃん…誰?」

「うん、今日からここの施設に入る事になった新入りなんだ。…よろしくね」


メガネ「お、早くも兄ちゃんの子分ができたな」

スポ刈「よっし…新入り、花壇造りを手伝わせてやろう」

ポニテ「だめだよ、無理矢理させたらお兄ちゃんに怒られるよ?」


「あはは…大丈夫だよ、きっと。…ところで、この花壇には何の花を植える予定なの?」

スポ刈「決まってない」

メガネ「…ってか、兄ちゃん花の苗を買うお金無いって言ってた」


ポニテ「じゃあ種からかぁ、時間かかりそう」

スポ刈「種も買えないんじゃね?」

メガネ「こないだ『喉が渇いたー』って言いながら、自販機の横の水道の水飲んでたもん」


「あらあら…じゃあ、お姉ちゃんがいいものをあげようかな」

ポニテ「いいものって?」

「ほら、これだよ」ガサッ


メガネ「あ、種だ!」

スポ刈「これ、リスが食うやつだ」

ポニテ「もしかして向日葵? 私、大好き! この種、どうしたの?」


「この種は、去年の向日葵から収穫したんだよ」

ポニテ「自分で育てた向日葵の?」


「うん…とっても大切な人と一緒に、手造りの花壇でね──」


.

おしまい

過去作置場、よかったら覗いてやって下さい
http://garakutasyobunjo.blog.fc2.com/

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月24日 (日) 16:13:32   ID: LBHDkEFT

素晴らしい物語をありがとう。

番外編とでもいいましょうか・・・この後の二人の辿る物語を是非とも拝見したいです!

2 :  名無しのサイヤ人   2014年10月08日 (水) 20:51:32   ID: ng3b_SUs

とても感動しました!

何時までも2人を応援したいです。
素敵な作品をありがとうございます!m(_ _)m

3 :  SS好きの774さん   2014年12月24日 (水) 10:43:57   ID: eNGjyDf8

言いたい事はいっぱいあるけど、やっぱりこの一言にします。
作者に最大級の『ありがとう』

4 :  SS好きの774さん   2015年03月24日 (火) 18:49:11   ID: iqk4btUf

泣けた。
出来れば続きが欲しいけど充分感動した
有り難う

5 :  SS好きの774さん   2015年09月12日 (土) 12:38:28   ID: cqDJYu7n

久しぶりに良作SSを見つけた…!
話の運びから終わり方まで素晴らしい

6 :  SS好きの774さん   2015年10月14日 (水) 19:54:45   ID: ZiYeTd2r

話が飲み込まやすくて良かった

7 :  SS好きの774さん   2016年01月31日 (日) 08:23:31   ID: 3qKQETIN

めちゃくちゃ良かったです。久しぶりにこういう作品に出会えました。過去作品も見てきます

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