咲「バスケって楽しいよね。いっしょに楽しもうよ!」(271)

優希「昼休みに部室に来る様にとメールに書いてたけど、一体何の用事なんだろうな?」モグモグ

和「歩きながらタコスを食べるのははしたないですよ」

まこ「多分あれじゃろうの。今日、夏の大会のルールが発表されるはずじゃからそれについてじゃろ」

咲「それって毎年変わるものなんですか?」

優希「去年は赤ドラカンドラ無しの地味~な競技ルールだったじぇ」

和「私はそちらの方が得意ですけどね。運の要素が強すぎるのはどうかと思います」

          ガチャッ

咲「あ、部長」

久「………皆、心して聞いて頂戴」

久「今年の夏の大会はバスケで行う事になったわ」

4人「!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361976666

麻雀とバスケって意外と似てるなぁと思って書いてみました
かなり前にvipで途中まで書いたものですが、こっちでリメイクしながら完結させようと思います。途中レス歓迎

では宜しくお願いします

まこ「い、今なんて言ったんじゃ…?」

咲「バ、バスケってもしかしてバスケットボールの事ですか?」

和「はぁ。そんな事ある訳が無いでしょう。部長もつまらない冗談は止めて…

久「私もそう思ったんだけどね。これを見て」ピラッ

和「!協会の印が入った通知書…!?そ、それじゃあ本当に!?」

久「えぇ。今年から会長に座った協会のお偉いさんが」

久「『毎年毎年麻雀とかワンパターンでおもんなくね?たまにはバスケとかやらせようぜwww』」

久「と言い出して、その場のノリで多数決も勝って可決されたそうよ」

咲「ワンパターンも何も、私達は麻雀部なんじゃ…」アセ

和「狂ってますね…」

久「…決まってしまった事は仕方ないわ。それでも私は、大会に出場したいと思う」じっ

久「清澄に入って初めて掴んだチャンス。絶対モノにして、私は全国に行きたい!」

和「い、いえあの部長。大会って言ってもバスケットボールの大会ですよね?それに私達が出た所で…」

優希「違うじぇのどちゃん。これはあくまで全国高校生麻雀大会のルールが麻雀からバスケットボールに変わっただけだから」

優希「大会の出場権があるのは麻雀部だけ。私達が出るのはおかしな事じゃないじょ」

咲「バスケ部の人達はバスケ部の人達で普通に大会やってるだろうしね…」アハハ…

和「なんで麻雀部の私達がバスケットボールで優劣を競わなくちゃいけないんですかっ!!!」

久「和、弁えなさい。そこにツッコんでいては話が進まないわ」

優希「でもそれはそれで何か面白そうな気もするじぇ!咲ちゃんはどう思う?」

咲「どう思うって言われても…。私運動音痴だし」アセ

久「咲。貴方には全国に行って会わなければならない人が居るんでしょう?」

久「たかが大会のルールが自分に不得意なものに変わった位の事で薄れてしまう程、その気持ちは弱いものだったのかしら?」

咲「!………そんな事ありません。私は全国に行きます。全国に行ってお姉ちゃんと麻雀を通してお話するんですから!」

久「フッよく言ったわ、咲」

和「い、いえあの咲さん。仮に全国に行った所でやる事は麻雀では無くバスケなんじゃ…」

久「そうと決まれば善は急げ!今から合宿を開いて、バスケの実力をアップさせるわよ~!」

優希・咲「おー!」

和「え、えぇ…?」

~そして大会当日!~

久「とうとうこの日が訪れたわね。皆、覚悟は良い?」

優希「バッチリだじぇ!元々の運動神経に地獄の特訓が合わさった私に隙は無いじょ!」

咲「…はい。早く強い人と戦いたくてうずうずしています」

和「常に思考を回転させ、最善の手段を選び続けるだけです」

まこ「一回戦でワシらとあたるチームが気の毒じゃのう」ククク

久(フフフ。地獄の合宿のおかげで、皆大体麻雀の実力と同じ位のバスケの実力を得る事が出来たわね)

久(麻雀とバスケが意外と共通点がある事に気付けてからの成長は早かった)

久(もっとも、強豪校はどこもそれは気付いてるでしょうから厳しい戦いになるのは変わらないだろうけど…燃えるわっ!)

久「さ、初陣に出向くわよ!」ザッ

~龍門渕高校・車内~

純「ルールが麻雀からバスケに変わった時はどーなるかと思ったけど」

純「今日の一回戦二回戦見る限り、俺らの敵になりそうなチームは居なかったな」ふわぁ

透華「そうですわね。わたくし達の二回戦の相手校も衣抜きで後半の東一局でトばしてしまいましたし」オーホッホ

一「歩ちゃんはミス連発だったけどね」アハハ

歩「も、申し訳ありません…」

純「良いさ。逆にそれで少しは良い運動になったしな」ハハハ

純「何だったら明日の準決と決勝も衣抜きで丁度良いんじゃねーの?」

一「流石にそれは油断し過ぎだよ。風越のポイントガードの福路さんはやっぱりズバ抜けたプレーしてたし、それに…」

透華「清澄…ですわね」

一「うん。一回戦、二回戦両方とも後半に回る前にトばしてる」

一「それも実力の底を見せては居ない感じだったし、相当手ごわいチームだと思うよ」

透華「噂の原村和がどんなものかと思って試しに見に行って正解でしたわね」

純「ふーん。そういや原村の正体はどうだったんだ?」

透華「まず間違いありませんわ。あのプレースタイルは間違い無くネットバスケの神と謳われている『のどっち』!」

透華「フフフあのドライブを最初に止めた選手になれるかと思うと、今から体の疼きが止まりませんわ!」ジュルリ

智紀「原村だけでなく、スピードタイプのPGの片岡とセンターの竹井の得点能力の高さは県でもトップクラス」

一「SGの染谷さんも地味に良いディフェンスしてたよ。でもボクが一番底が知れないと感じたのは…」

純「その辺でストップ。あんまり試合前にネタバレされたら面白くねえしな」

純「ウチには天江衣が居る。それだけで負ける要素は一切無くなるんだから、精々楽しもうぜ」ハハハ


~龍門渕家・別邸~

衣「…競技が麻雀から籠球に変わった程度の事、何の仔細も無し」

       「―――――衣に勝てるのは、衣だけだ」
 

~ラーメン屋台~

久「清澄高校のベスト4進出を祝って!カンパーイ!」

5人「カンパーイ!」

まこ「いや~でもこう言っては何じゃが、思ったよりチョロかったのう」

和「そうですね。殆どのチームが『アホか』の一言で出場辞退した結果」

和「この長野県予選に出場したチーム数自体がかなり少なかったですし」ハフハフ

久「それでも龍門渕・風越と言った強豪はキッチリ出て来てるんだから、ここからは大変よ?」

久「風越とは一度練習試合をしたけれど、あの時とは比べ物にならない位レベルアップしていたし…」

優希「あれは苦しい試合だったじぇ…」

和「ゆーきは福路さんに殆ど完封されていましたもんね」

まこ「途中から寝坊して遅れて来た池田も加入して…ホントよく勝てたもんじゃ」

咲「最後のダブルクラッチを池田さんが外してなければ…でしたもんね。今から思うと情けない話です」ズルズル

久「もう一度確認するわよ」

久「私達が準決勝で対戦する相手は私達と同じ無名校の『鶴賀学園』」

久「そしてもう一つの準決勝は風越対龍門渕。この勝った方が決勝の相手よ」

咲「去年の王者龍門渕高校…。どれ位強いんですか?」

まこ「化け物としか言えんの。選手は全員同学年なんじゃが、五人中四人が四天王と呼ばれとって」

まこ「全員が超ハイレベルなプレーヤー。攻守に隙無しと言って良い」

咲「四人?じゃあ残りの一人はそんなに強く…」

久「逆、よ。残りの一人はその四人すら可愛くに見えてしまう程の圧倒的な魔物」

久「名前は天江衣。去年のMVPにしてインハイ最多獲得点数記録保持者よ」

咲「インハイ最多獲得点数記録保持者…?という事は」

久「そう。あなたのお姉さん、全国二連覇を成した白糸台高校の中心プレーヤーの宮永照よりも多く点を稼いでいる」

咲「お姉ちゃんよりも…」ゴクリ

和「部長。試合前にあまり相手を大きく見せる事は…「楽しみだね」

和「え?」


咲「そんな強い人と勝負が出来るなんて……私、とっても楽しみだよ」ブルッ


久(…それを聞いて笑うのよね、この子は)フフッ

久(見てなさい龍門渕。貴方達が玉座に座ってられるのは今日で最後)

久(その首、私達清澄が貰い受けるわ!)

~大会二日目~

久「さ、運命の日がやって来たわね」

咲「昨日より随分観客が多いですね」

久「そりゃあ準決勝と決勝の日だしね。尤も、準決勝は私達の方は殆ど注目されてないでしょうけ…おっと、噂をすれば、ね」ピタッ

和「?どうしたんで…!」

優希「風越と龍門渕が廊下で睨み合ってるじぇ!ここはこっそり盗み聞きするじょ!」コソコソ


池田「よぉ。こうやって顔を合わせるのは久しぶりだな。去年の借りはキッチリ返させて貰うし」

純「俺らは別にアンタらの事なんて眼中に無えんだけどな」

池田「なにぃ!」

一「いきなり煽る様な事言っちゃ駄目だよ、純君」

福路「試合前から熱くなっては駄目よ、華菜」

池田「キャプテン!でもっ…」

福路「…そうね。折角の機会だし、宣戦布告位はさせてもらいましょうか」 ザッ

福路「天江さんは今どちらに?」

透華「さっきまで居たのですけど、また何処かへ遊びに行ってしまいましたわ」

福路「そうですか。…でしたら、伝えておいて下さい」

福路「長野No1プレーヤーの看板は今日限りで下して貰います、と」

4人「!」ゾクッ!

透華「あ、貴方の実力は良く知っているつもりですけど、それは流石に大言壮語が過ぎるのではありません?」

福路「私じゃありません」

福路「――――ウチの華菜がやります」

池田「やるしっ!!」

4人(もっと無理だろ)

透華「ま、一応楽しみにしておくと言っておきますわ。それでは卓で相見えるとしましょう」

スタスタスタスタ

福路「……………」

久「や、美穂子。凄い緊張感だったわね」

福路「上埜さん!これはお恥ずかしい所を見せてしまいましたね」

久「いえいえ格好良かったわよ。美穂子の啖呵。惚れ直しちゃったわ」

福路「…………///」

池田「清澄。龍門渕を倒したら次はお前達だからな」

池田「華麗にリベンジを決めて風越が優勝を決めるつもりだから、ちゃんと勝ち上がって来いし!」ニャハハハ

優希「そっちの方がよっぽど心配だじぇ」

和「私達の準決勝の相手は無名校ですからね」

福路「…………」

福路「上埜さん。上埜さんの事だから十分御承知だと思いますし、私も昨日の試合を少し見ただけなので確かな事は言えないのですが」

福路「鶴賀学園はただのラッキーで上がって来た無名校ではありません。ご注意を」

久「…やっぱり美穂子も気付いてたのね。あの『違和感』に」

久「ご忠告感謝するわ。大丈夫、私達は負けない」

久「――――決勝で、待ってるわ」

アナ「これから全国高校生麻雀大会・長野県予選準決勝」

アナ「清澄高校対鶴賀学園の試合が開始されます。実況は私、そして解説はプロ雀士の藤田プロでお送り致します」

藤田「私はバスケの解説は専門じゃないんだがな…」

藤田「まぁバスケと麻雀は似ている所があるし、勉強合宿もしたから何とかするつもりだが」

アナ「この準決勝はどちらもここ数年県予選にすら出場していなかった二校の対決となりましたね」

藤田「第二試合の、去年の覇者龍門渕とそれまで六連覇していた風越の因縁の対決と比べれば」

藤田「注目度の劣る試合だろうが、私の見立てではこの両校の実力もそれに決して引けを取らない」

藤田「面白い戦いになると期待しているよ」

審判「丁か半か!」スッ

久「丁でお願いするわ」

かじゅ「ではこちらは半だ」

審判「一・三の丁!親決め選択権は清澄高校!」

久「東場でお願いします。幸先良くスタートダッシュを決めたいからね」

かじゅ「…………」ニヤリ

久「!」

かじゅ「それじゃあ清澄さん。お互い正々堂々頑張ろう」スッ

久「えぇ。悔いが残らない様にね」ギュッ

    スタスタスタスタ

久(あの笑顔は何……?)

全国高校生麻雀選手権・長野県予選準決勝
清澄高校 対 鶴賀学園

清澄高校スタメン
PG片岡優希(7) SG染谷まこ(5) PF宮永咲(10) SF原村和(9) C竹井久(4)

鶴賀学園スタメン
PG加治木ゆみ(4) SG妹尾佳織(8) PF津山睦月(6) SF東横桃子(7) C蒲原智美(5)

()内は背番号


審判「TiP OFF!」スッ

ジャンプボールの代表は清澄・竹井、鶴賀・加治木
審判がボールを空中へと投げ上げ、準決勝第一試合が開始された

今日はここまで
少年漫画の連載風に「引き」を意識した感じの更新をして、三月中完結を目指すので応援宜しくお願いします
基本ツッコミ待ちなのでその辺りも是非にー

おぉ意外と知ってくれてる人居るみたいですね
vipでやってた所に追いつくまでは、多少それに肉付けする程度のつもりなので
こっちだけ追ってくれれば問題無いかと思います
vipのを読んでくれてた人は、その内追い越すので待っててくれると嬉しいっす

かじゅ「ふんっ!」バチッ

久「!」

まこ「久がジャンプボールで負けた!?」

和「珍しいですね…」キュッ

久(高さは互角だったけど、パワーで持っていかれたわ)

かじゅ「蒲原。私に戻せ」

ワハハ「あいよ~」シュッ

かじゅ「まずは落ち着いて一本決めるぞ!皆慌てずに練習通りに動いてくれ!」ダムダム

4人「はいっ!」

久(そしてこのキャップテンシー。統率も取れてる様だし、彼女がこのチームの中心人物と言う訳ね)

かじゅ「ふっ!」ザッ!

優希「じぇっ!?」

和「簡単に抜かれ過ぎですよ。私がヘルプを…」サッ

かじゅ「津山!」シュッ

津山「はい!」バシッ ダンッ! 

     パサッ(清澄 0 - 1000 鶴賀)

アナ「決まったー!先制点は鶴賀!」

アナ「加治木選手が切り込んだ後に、津山選手への絶妙のパス!そしてそのままレイアップで決めました!」

藤田「地味だが基本の詰まった良いプレーだ。これだけで相当な練習量が伺えるな」

咲「…たしかに、一回戦二回戦の相手とはちょっとレベルが違う感じですね」フム

久「そうね。PGはかなりのパスセンスを感じるわ」

優希「フン。たかが1000点でビビる必要は無いじぇ。今度はこっちの火力を見せつけるじょ!」

かじゅ(清澄のPG片岡優希。一・二回戦では驚異的な火力を見せていたが)

かじゅ(どれ程のものかお手並み拝見と行こうか)グッ

優希「行くじぇ!リーチ!」

        ダムッ!!

かじゅ「!」

津山「速いっ!」

ワハハ「ゆみちんが一歩も動けずに抜かれるとはー」ワハハ

優希「貰ったじぇ!」シュッ! バスッ

清澄 12000-1000 鶴賀

「そしてそのままもう一人抜いた!」「凄え!一人で点入れやがった!」「やるぜあのチビ!」

優希「騒ぐな騒ぐな。東場の私はこんなもんじゃないじぇ」フフフ

藤田「両チームのPGは対象的だな」

藤田「攻守ともにハイレベルでまとまっていて、味方を使う事に長ける加治木」

藤田「守備はてんでザルだがスピードは随一で、自ら決める得点力に長ける片岡」

藤田「どちらが良いと一概には言えないが、東場において片岡を止めるのは難しいだろうな」

優希「まだまだいくじぇ~!」 グッ クルッ シュッ!

      パサッ(清澄 30000-1000 鶴賀)

「また決めたー!」「しかも六翻プレイだぜ!」「何であのスピードで決められるんだ!?」


かじゅ「親っパネで一気に三万点差か」フゥ

ワハハ「分かっていたつもりだったけどとんでも無いスピードだなー」ワハハ

かじゅ「あのペースで最後まで持つとは思えないが、好き放題させ続ける訳にもいかない。津山!」

かじゅ「ふっ!」 バスッ!

久「上手いわね。ドラ2を入れての7700」

優希「安い安い。点の獲り合いなら望む所…む!」


かじゅ「そう簡単に大物手を和了らせる訳にはいかないな」

津山「私の方向からは絶対に抜かせない!」


久(Wチーム…!東場の優希のスピードを見て、もう手を打って来たか)

和(距離を多めに取ったディフェンス。優希に外のシュートが無い事も見抜かれてますね)

まこ「優希。ここは一旦ワシにパスを…」

優希「たかだか二人で私を止めれると思ったら大間違いだじぇ。隙ありだじょ!」ダムッ!

アナ「抜いた!」

藤田「違うな、抜かせたんだ」

       バチッ

優希「!?」

ワハハ「来ると思ってたぞー」ワハハ 

藤田「抜かせるコースを限定して、そこを狙ってカット。見事にハマったな」

久「カウンターになるわ!皆戻って!」

ワハハ「佳織!」ビシュッ!!

佳織「ひゃ、ひゃい!」パシッ! 

       スッ

まこ「シュートモーションに入った!?」

和「3000ポイントラインの遥か手前ですよ!?入る訳…」

佳織「えーい!」シュッ!!!

そのボールはとても大きな放物線を描いて―――

池田「文堂。ちょっとそこのジュースとぐにゃあっ!?」 ボカッ!! 

観客席の池田の後頭部に命中した

優希「な、なんだじぇ?今の大ホームランは」

咲「どんな役を狙ってたんだろう?」

久「いやいや。シュートフォームもめちゃくちゃだったし、あれはどう見ても…」

アナ「素人…?」

藤田「としか思えないな。さっきから一人だけ動きがたどたどしいから気になっていたんだが…」

優希「準決勝まで来るチームに素人が混じってるなんて驚きだじぇ」

和「私達も合宿をする前はあんな感じでしたけどね」


佳織「ごごごごごめんなさいっ!つい力が入り過ぎてしまって!」ペコッ

ワハハ「相変わらず佳織は下手っぴいだなー」ワハハ

かじゅ「失敗があるのは折り込み済みだ。皆でフォローするから気にせずにどんどん打て」

津山「ウチのシューターは佳織だ。自信を持って行こう」

??「ファイトっす!かおりん先輩」

佳織「皆…!はい!私頑張ります!」

咲「原村さん」ピッ

和「ナイスパスです!」シュッ! パスッ

「原村も速いな…」「流石はインターミドルチャンピオン」「胸が揺れ過ぎてどれがボールか分かんないぜ…」

かじゅ「一本返すぞ!」ダムダム

まこ(…ワシのマークはあの素人じゃが、どうせボールは来んじゃろうし)

まこ(離れて優希のヘルプに回っておくか)ススス…


かじゅ(―――舐めたな)ニヤリ

 

かじゅ「妹尾っ!」シュッ!

まこ(な!)

佳織「はい!打ちますっ!」ビシュッ!!!

和「またあんな遠くから…気持ちは分かりますが焦り過ぎです。部長!ポジションしっかり!」

久「オーケー!」バッ!

久「…あれ?いやでもこれひょっとして……」タラリッ

           パサッ

まこ「なああああああっ!?」

「は、入ったああああああっ!!!」「嘘マジっ!?しかも今どっから打った!?」
「跳満ライン越えてるっ!!12000だ!!!」「スゲーーーーーッ!!!!」

まこ「あ、あんな無茶苦茶なシュートフォームで何で入るんじゃ…?」

和「ビギナーズラックです。たまたまです」

久(…ま、バスケには運の要素があるからそれも無くは無いだろうけど)

久(周りの反応を見ると恐らくは…)


ワハハ「やったな佳織!」

津山「これで一気に差が詰まった」

佳織「加治木先輩のパスのお陰です!」

かじゅ「あからさまな隙があったからな」

かじゅ「私は一番確率が高い攻めを選んだだけだ。次も頼むぞ、妹尾」

佳織「はいっ!」

かじゅ(ルール変更を聞いた時は、ふざけるなと思う反面)

かじゅ(それなら現時点迄の戦力差はチャラになるから、努力すれば私達でも勝ち上がる事が出来るのではという希望も持った)

かじゅ(しかしそう甘くは無かった。合宿中に、麻雀とバスケが意外と似ている事に気付いて)

かじゅ(私達は急速に実力を伸ばす事が出来たが、妹尾の場合はそもそも麻雀も素人)

かじゅ(運動も苦手と落ち込む妹尾に、私は何か与えられる武器は無いかと考え、シューターになる道を提案した)

かじゅ(そして、それがハマった)

かじゅ(妹尾のシュートフォームはお世辞にも綺麗と言えるものでは無く、滅茶苦茶な方向に行く事も多々あったが)

かじゅ(それでもその打点は十分武器と言えるものだった)

かじゅ(そしてその日から妹尾は一日1000本のシュート練習を欠かした事は無い)


かじゅ「妹尾は立派なウチの戦力だ。舐めていると痛い目を見るぞ?」

まこ「ぐっ…」

アナ「お、驚きましたね。素人だと思われていた妹尾選手にあんな文字通り飛び道具があるとは…」

藤田「バスケには運の要素があるからな。こういう事も起きる」

アナ「でもこれは思った以上白熱した展開になってますね!」

アナ「オーラスに入るまでどちらが勝つか分からない勝負になりそうです」

藤田「…それはどうかな」


純「鶴賀もたしかに良いチームだが、やっぱり勝つのは清澄だろうな」

一「そうだね。チームプレイは鶴賀の方が上手だけど、一人一人のスキルは殆ど清澄が上回ってる」

透華「得点力の差はやはり大きいですわね。清澄はどこからでも点を獲れるのに対し」

透華「鶴賀の攻撃パターンは決まっている。後半になれば読まれて得点は止まりますわ」

智紀「前半で5万点以上の差がつく確率93%…」カタカタ

純「勿体無えな、鶴賀の4番。チームメイトに恵まれてりゃもっと早くに名を轟かせてただろうに」


龍門渕の面々の予想通り、ここから鶴賀と清澄の点差はジリジリと広がり続けた

かじゅ「残り8秒!ここは耐えるぞ!」

久「凄い気迫ね。でも…」シュッ

まこ「ナイスパスじゃ」パシッ

ワハハ「外!佳織止めろー」ワハハ

佳織「う、打たせません!」ブンブンッ!

まこ「打たんよ」シュッ

咲「嶺上開花」トンッ バシュウウウ!

かじゅ(内―外―内か…)くっ

「また嶺上開花だーーー!!」「高い!!何だあの一年」「清澄の一年は化け物かよ!!」

    ビーーーーーッ! 

前半戦終了 清澄 186300 - 134000 鶴賀

審判「インターバル20分!」


久「ふー。一時はどうなるかと思ったけど、後半は良い感じで進められたわね」

まこ「そうじゃのう。向こうが親の南場で稼ぎ負けせんかったのは大きいけえ」

和「でももっと失点を抑える事は出来たはずです。ゆーきはディフェンス要特訓ですね」

優希「99点取られても100点獲ればバスケは勝てるんだじぇ!タコス力フルチャージしてまた飛ばしていくじょ!」バクバク

京太郎「すぐ動くってのにそんなに食って大丈夫なのか?」

久「向こうの得点は、8割を加治木さんと妹尾さんが占めている」

久「陣形はこのままマンツーで行くから、まこと優希はディフェンスしっかりね」

優希「やれるだけ頑張るじぇ!」

まこ「ワシはあの初心者とは相性が悪い気がするんじゃがのう…」

和「私達も油断は禁物です。しっかり守りましょうね、咲さん」

咲「うん、リバウンドは任せてよ。…そうえば和ちゃんがマークしてる相手ってどんな人だっけ?」

和「?あの方ですよ。今ベンチに座っている黒髪の…」

咲「………あぁ、そうえばあんな人だったっけ。おかしいな、何でド忘れしちゃってたんだろ…?」ウーム

ワハハ「5万点差か~かなり離されてしまったなー」ワハハ

かじゅ「我々の調子が悪かった訳では無く、必死に食らいついた結果がこれだからな」フゥ

かじゅ「風越や龍門渕と当たらなかった事を喜んでいたが、清澄は或いはそれ以上に厄介なチームかもしれない」

津山「スミマセン…私がリバウンドを全然抑えられないから…」シュン

ワハハ「気にするなむっきー。私も向こうの部長に殆ど完封されてるぞー」ワハハ

かじゅ「いやそれは少しは気にしろ…」

ワハハ「いやーだってあの人のスキルゆみちん並みだぞ?パスも上手くて得点力も高いとか手が付けらんないよ」

佳織「難しい体勢から何本もシュート入れてたもんね」

かじゅ「津山、あの10番のジャンプ力はたしかに脅威だがリバウンドで最も重要なのはポジションだ」

かじゅ「スクリーンアウトをきっちりやれば必ず勝機はある。集中を切らさずにな」

津山「はい。私なりに精一杯…!」

かじゅ「妹尾は後半もこのまま頼む。見た所向こうの5番はお前の動きに全くタイミングを掴めて居ない」

かじゅ「隙を見つければパスを回すから私の動きに注意していてくれ」

佳織「はいっ!頑張ります!」

ワハハ「頼りにしてるぞー」ワハハ

かじゅ「片岡の単独でのペネトレイトは私が止める」

かじゅ「インサイドのプレーは止める事より打点を抑える事を重視してくれ。3900以下なら上々だ」

ワハハ「りょーかい」ワハハ

かじゅ「後は…」クルッ

??「…もう少し。もう少しで消えられるっす」

??「もうちょっとだけ耐えて下さい、先輩。そしたら私が、絶対に引っくり返してみせるっすから」

かじゅ「あぁ、信じてるよ」


             「――――モモ」

 

今日はここまで。基本的に読者の多大なる想像力に支えられてこのSSは進行して行きます
鶴賀の主人公力は異常
鶴賀主人公で書いた方が書き易かったかなぁとは思わなくもなかったり

~後半戦・東一局~

優希「行っくじぇ~!」ダダダッ!

かじゅ(スピードが戻っている…!)キュキュッ

優希(相変わらず厳しいディフェンスだじぇ。でも!)グイッ シュッ

かじゅ「な!」

「フェイダウェイ!」「そんな技も持ってたのか!」「入れば満貫だ!」

       ガンッ

優希「ありっ!?」

優希のシュートは惜しくもリングに当たり、宙へ浮かぶ。それを

咲「ナイスパス」パシッ ズバン!!!

「取ってそのまま押しこんだーーー!!」「またダンクかよっ!」「どんだけ跳ぶんだあの10番!」

純「ヒュー。嶺上は全て支配領域ってか」

一「身長はそれ程じゃないのに、あの高さは驚異的という他無いね。止められそう?ともきー」

智紀「自信薄…」

純「ま、これで点差は7万、清澄の勝ちは確定したな。アップしに行こうぜ~」

透華「そうですわね。…それにしても衣はまだ現れませんの!?一体どこをほっつき歩いているのかしら」ぷんぷん

一「試合までには来てくれると良いけどね…」アハハ…


池田「!キャプテン、龍門渕が」

福路「…それじゃあ私達もそろそろアップに向かいましょうか」スクッ

福路(ゲームの分岐点を目前にして席を離れるのは心苦しいけど…)

福路(気を付けて下さい上埜さん。鶴が真の姿を現すのは、これからです)

その変化に最初に気付いたのは誰だったのか

「こりゃ清澄圧勝だな。トビはしないにしても10万点差は軽くつくぜ」

「あれ?」

「ん、どした?」

「いや、何か卓に居る人数が足りない気がして…」

それは分からないが、直ぐに唯1人を除く全ての人間が認識する事となる
鶴賀の幻の5人目。その恐ろしさを


優希(今は東三局か。ちょっとバテて来たからパスを出していくじょ)

優希「のどちゃん!」ピッ

            パシッ

優希「!?」

モモ「ナイスパスっす」ユラッ

かじゅ「!!!」

モモ「先輩っ!」シュッ

かじゅ「あぁ!」ダダダダッ! ダッ! ズバアアアアンッ!!!

清澄 264200 - 192600 鶴賀


アナ「鶴賀がパスカットからのカウンターワンマン速攻!パスを受けた加治木がそのまま持ち込んでダンクを決めました!」

アナ「いやーしかしあまりにも不用意なパスでしたね。まるで味方と勘違いしたかの様な…」

藤田「勘違いした訳では無いだろうさ。パスコースの先には原村が居たからな」

アナ「え?し、しかしその間に敵が居たのでは…」

藤田(その『間の敵』が全く見えていなかったかの様な片岡の反応…。鶴賀の魔法が始まったか?)

「な、なぁ…」「うん…俺もそう思った。あの鶴賀の7番…」


         『どこから出て来たんだ?』


和「何をしてるんですかゆーき!気の抜けたプレーにも程がありますよ!」ぷんぷん

優希「ご、ごめんだじぇ…。自分でも何であの人が見えなかったのか…」

久「!」

久(『見えなかった』………?)

久(鶴賀の二回戦の牌譜を見て思った違和感。強豪裾花相手に前半は押され気味だったのに)

久(あるタイミングで一気に攻守が冴えて、逆転勝ちしている)

久(その違和感の正体は……)ゴクリ

モモ「先輩すっごいダンクだったっす!ちょーカッコ良かったっす!」ギューーッ!

かじゅ「あ、ありがとうモモ…///」

かじゅ「って今はそれ所じゃなくてだな!」

津山「桃子!」

佳織「桃子さんっ」

ワハハ「モモ。今のスティールもしかして…」

かじゅ「消えた、のか?」

モモ「はい。随分時間が掛かってしまったっすけど、もう大丈夫」

 
        「ここからはステルスモモの独壇場っすよ!!」

 

アナ「おっとここで鶴賀はポジションを交換して来ましたね」

アナ「PGだった4番加治木がSFの位置に。SFだった東横がPGをやる様です」

アナ「ここに来ての司令塔の入れ替え。これはどう言った狙いがあるのでしょう?」

藤田「もう後半東三局なのに点差は7万弱ある」

藤田「得点力が最も高い加治木がフォワードでガンガン攻めて行くつもりだろう」

アナ「しかしボール運びとボール回しが東横選手に出来るのでしょうか?どうもここまでは印象が薄い選手ですが…」

藤田「…だからこそ、条件が整ったのかもな」ガツガツ


モモ「…………」ダムダム

久「点差は7万!ディフェンスをしっかりやれば楽に逃げ切れるわ。皆マーク集中してね!」

優希「オッケーだじぇ!」ぐっ

モモ(点差は7万か…。ホント、これまで随分と好き放題やってくれたもんっすよね)

モモ(今からそれを倍にしてお返しするっす!)

モモ「…………」ダムダム

優希(ディフェンスの基本は腰を落として、相手の目をしっかり見て…)

            パッ

優希(!?消えた!?)キョロキョロ

モモ(むっきー先輩!)ジッ

津山(うむ!)


優希「な、7番は?ボールはどこへ…?」

           パサッ

優希「!?」

「ゴ、ゴールだ!6番が決めた!」「やべっ俺見失っちまってた!」「い、いつの間にボールがあんなトコに!?」

モモ「鶴賀の快進撃はこんなもんじゃないっすよ~」フフフ

ワハハ「いきなり決まったな~」

ワハハ「モモの必殺『消える(バニシング)ドライブ』」

かじゅ「あぁ。初めて見せられた時は本当に驚いたな」

ワハハ「見せられたっていうか、見れてはないんだけどなー」ワハハ

かじゅ「フフッそうだな。…しっかりとこの目で捉えていたハズのモモが、一瞬の内に視界を外れて自分を抜いている」

かじゅ「まさに消えるドライブ。どんなディフェンスの名手であろうとも止め様が無い!」フフフ


優希「有り得ないじぇ…。アンビリーバブルだじぇ」ずーん…

まこ「どうなっとるんじゃ。今のはワシもいつ優希が抜かれたのか全く分からんかったぞ」

久「私もね。気付いた時には既に6番がシュート体勢に入っていた感じだったわ」

優希「魔法だじぇ…。あの子は透明人間になれるんだじぇ…」

和「そんなオカルト有り得ません。ほら、私達の攻撃ですよ」スッ

優希(うぅ…いつどこから出て来るのか怖くて仕方ないじぇ)ダムダム

優希(あんまり長くボールを持ってたくない…ここは)

優希「染谷先輩!」シュッ

まこ「おう!」パシッ

まこ「訳の分からんカットされる前にこのままシュートを… 

           バチッ

まこ「あれ!?」

久「またスティール!皆戻るわ…咲っ!」

咲「止めます!」

かじゅ(モモのスティールを警戒して既に下がっていたか。良い読みだ)

かじゅ(バニシングドライブのタネを掴もうって所だろうが、生憎モモの武器はそれだけじゃない!)

咲(ボールに集中!)ぐぐっ

モモ「蒲原先輩」シュッ

ワハハ「あいよ~」パシッ ダムッ!

咲(!抜きに来なかった。でもこの人のシュートなら止められる!)キュッ ダンッ!

咲が跳躍し、蒲原のシュートコースを完全消した

ワハハ「やっぱ私じゃ無理か~それなら!」ピッ!

蒲原が空中で転換し、走り込んでいた加治木に向かってパスを出す

咲(大丈夫。加治木さんには和ちゃんが付いて――!?)

            ピッ!

会場中の誰もが目を見開く
蒲原が加治木に向かって出したパスは空中で軌道を急変させ、その届く先は…

佳織「あわわっ!」パシッ シュッ!!!

ノーマークだった妹尾佳織
最も取り易い位置へ完璧にコントロールされたそれを受け取り、その勢いのままにリングに沈めた

清澄 264200 - 210100 鶴賀

「な、なんだ今のパスーーー!!」「空中で曲がった!カーブだカーブ!」「鶴賀のセンターそんなの使えたのか!?」

 ざわざわざわざわ どよどよどよどよ

咲「…………」ポカン

かじゅ(面食らう気持ちは分かるが、何の事は無い。今のもモモの仕業だ)

かじゅ(蒲原と私の間に入りこんで、一瞬だけボールに触れてパスコースを変える事で)

かじゅ(傍目にはまるでボールが勝手に軌道を変えた様に見える)

かじゅ(ドライブよりもむしろこっちがモモの基本スタイル。パサーとしての真骨頂だ)

モモ「先輩。ディフェンスとパス回しは私に全部お任せして頂いて大丈夫っす」

モモ「だから先輩は…」

かじゅ「あぁ…」コクリ

かじゅ「―――――点を獲りに行ってやる」ザッ

今日はここまでっす。WBC日本緒戦勝利万歳~!

鶴賀学園7番東横桃子
彼女の特性は、影の薄さ金メダル級とも称される(称したのは加治木ゆみ)その圧倒的な『存在感の無さ』
生まれついてのその才能に加え、意図的に自らの存在を消そうとする事で発動する『ステルスモード』によって、彼女の存在は視認する事すら困難となり
相手がどれだけ注意深く警戒していても、容易にその意識から自らを外す事が出来る

麻雀ではこの能力を自分の捨て牌に応用する事で、振り込みの消滅。相手の警戒心の削減。フリテン、チョンボの誘発等を可能にしていたが
この能力のバスケットボールにおける有用性は、その比では無い
ステルスモード発動中の彼女は全国屈指。超一流のプレイヤーと言えるだろう

モモ(と言っても私はロクに運動はやってこなかったっすからね)

モモ(私の能力がこんなにバスケに応用出来ると教えてくれたのは先輩のおかげっす)

モモ(あぁ。目を閉じるだけで先輩との沢山の思い出が…)ポワワー

~鶴賀・合宿中~

モモ「ミスディレクション?」

かじゅ「あぁ。手品師が使う、視線誘導のテクニックだ」

かじゅ「これを使ってボールや他のプレイヤーに相手の意識を誘導して、自分『以外』を見る様に仕向けられれば」

かじゅ「モモなら或いは試合中に『消える』事も出来るのではないかと思ったんだ」

モモ「ふむふむ。たしかにステルスモードに入る時と、要領は似てるっすね」

かじゅ「もしそんな事が可能になれば、私達はどんな強豪が相手だろうと負けはしない」

かじゅ「鶴賀の命運はモモに掛かってる。期待してるぞ」じっ

モモ「先輩…」じーん…


モモ(誰からも認識して貰えなくて、そこに居ないはずの私をこんなに必要としてくれる人が居る)

モモ(他の誰も私のプレーに気付かなくても、たった一人私を見てくれる人が居る)

モモ(だから…私、がんばるっすよ!)ユラッ

影は光が強い程濃くなり、光の強さを際立たせる
加治木ゆみと東横桃子の関係は、まさにその言葉通りのものだった

和(止めます!)ぐっ

かじゅ「はあっ!」 ダムッ クルルッ ダンッ!

   ビシュッ! バスッ

「来た来た来たぁっ!」「これで三連続ポイント!」「鶴賀の4番ヤベー!」

和(ターンアラウンドからのクイックシュート…!)

和(今迄とは技のキレが全然違う。このギアをここまで隠していたんでしょうか?)アセ

ワハハ(PGの、司令塔としてのゆみちんは常にクールである事を心掛けて)

ワハハ(全体を見て、自分で攻めるよりもパスコースを探す事を優先している)

ワハハ(自ら攻める時も慎重に、リスクを極力避けたプレーを選ぶ事が多い)

ワハハ(何故ならゆみちんは鶴賀の精神的支柱。ゆみちんのミスや負けがチームにどういう影響を及ぼすか知っているから)

ワハハ「とりゃっ!」ビッ!

         ピッ

久(っ!またパスミスのハズが勝手に軌道を変えて、最高のパスに…!)

かじゅ「リーチ!」ダムダムダム ビッ!

       バスッ

「一発ーーーっ!」「七対子決まったああああ!」「もうこれどうなるか分かんねーぞ!」


ワハハ(だけど、モモがステルスモードに入った時、ゆみちんは重荷から解放されて)

ワハハ(バリバリの点獲り屋へ、本来の姿へ戻る事が出来る)

ワハハ「フォワードとしてのゆみちんはクールとは程遠いぞ」ワハハ

津山「蒲原先輩!」ピッ

ワハハ「あいよーリターン!」ピッ

久「くっ…」キュッ

津山「加治木先輩!」ピッ

かじゅ「よし!」ダンッ! 

和「させません!」バッ!

かじゅ「…蒲原、頼む」スッ ビッ

咲(!フェイク…!)

ワハハ「任されたぞー」ワハハ シュッ パサッ


藤田「高速パスワークから加治木に繋げて、そこからシュートフェイクを入れて蒲原へパスか。良い攻撃だな」

アナ「後半に入ってから、鶴賀の攻めにバリエーションが出て来ましたね」

藤田「出せる様になったという事だろう。さっきのプレーにしても、清澄の面子ならどこかでパスカット出来ていても良いのに」

藤田「『急に軌道が変わるかもしれない』という考えがチラつき、思い切った守備が出来ない。どうしても対応が後手になる」

ワハハ(だから今のもモモの隠れた好プレイだ)ワハハ

津山(モモに使われる事で、私達は真価を発揮する事が出来る)

かじゅ(モモが消えていない時の鶴賀学園は、せいぜい長野の中堅校止まり)

かじゅ(しかし、たった一人の選手がガードに入るだけで我々は全国クラスのチームになる事が出来るんだ!)

東横桃子がステルスモードに入り、真の力を見せた鶴賀の猛攻は凄まじいものだった
フォワードに移り、スコアラーとしての実力を存分に発揮する加治木
東横がパスの中継役を担う事で攻めのパターンは増え、他のメンバーもプレーが冴える
清澄も⑨原村の個人技等で何とか点を返すものの、二校の間にあった得点差はどんどん縮まり続け

          バスッ

久「――――っ!」タラリ

「入ったーーーー!」「鶴賀の8番これで何本目だよ!」「満貫?満貫だ!12000!!」

南二局終了時、二校の点差は僅か2800となっていた

清澄 281600 - 278800 鶴賀

アナ「それにしても物凄い追い上げですね」

藤田「あぁ。ここから見たのでは原理は分からないが、鶴賀の7番。東横がこの流れを形成している事は間違いない」ガツガツ

藤田「点差は僅か。鶴賀が南親である事を考えれば、清澄は崖っぷちに立たされていると言える」

藤田「このまま何の手も打たず逆転されれば、この試合はそこで終わりだな」ペロリ

アナ「あ、清澄がタイムアウトを取りましたね」

藤田(そんな事は久も承知、か。さて、どんな答えを見せてくれるかな)


審判「チャージドタイムアウト!清澄!」ピーーッ


久「ふー…参ったわね。鶴賀が後半型なのは知っていたけど、まさかここまで化けるだなんて…」

優希「前半とは全く別のチームみたいだじぇ…」

優希「ビックリして思わず手を出しちゃうからファールも嵩むし、このままじゃ…」ゼェゼェ

久(実際、マズいわね。その場しのぎの対応手ならいくつか思い付くけど、鶴賀の4番ならすぐに逆手に取って来るだろうし…)

咲「…………」ゴクゴク

久(決勝の事を思うと気は進まないけど、こうなったら…)

久「さ――

和「大丈夫です」

久「!」

優希「のどちゃん?」

和「たしかにポジションを変えてからの4番のプレーは驚異的ですが、流石にスタミナには大分陰りが見えています」

和「ここからは私が絶対に抑えてみせますから、皆も集中してミスを無くして下さい。ちょっと凡ミスが多過ぎです」

まこ「ミスを無くすのは当然じゃが、それだけじゃ鶴賀の攻撃は止めれんじゃろ」

和「何を言ってるんですか。前半であれだけ点差を付ける事が出来たんですから、それを思い出してきっちりとマークをすれば問題ありません」

優希「いやだって前半はまだ「待って」

久「和。私達は…『いつ頃から凡ミスが増えた?』」

和「?そうですね…後半の東三局あたりでしょうか」

和「まるでボールを見失ってるかの様な凡ミスが増えて、点差が付いたからといって油断しては駄目だとあれほど」クドクド

久「へぇ…」ニヤリ

アナ「おっとここで清澄もポジションを移動させましたね」

アナ「原村選手と片岡選手が交換した形で、PGを原村選手が担当する様です」

藤田「SFとPGの交代…。東三局の鶴賀と同じだな」

アナ「片岡選手は明らかにスタミナ切れの様子でしたから、ボール運び役を交代するという事でしょうか」

藤田「…それだけでは無い様な気もするがな」ガツガツ


和「ここ一本集中です!絶対に逆転は許しませんよ」ダムダム

咲「うん!」

優希「ガッテンだじぇ!」

久(さっきの和の言葉が本当なら、解く事が出来るかもしれない。…鶴賀の魔法を!)

モモ(PGを代えたって、私達の勢いは止まらないっすよ)キュキュッ

和「…………」ダムダム

モモ(そんなにゆっくりドリブルして良いんすかね?まるで取ってくれと言わんばかりな…)

モモ(なら!遠慮せずに奪わせて貰うっすよおっぱいさん!これで逆転っす!)バッ!

完全に『消えた』桃子がボールを奪わんと手を伸ばす
はじくのでは無く『奪る』必殺のスティールが無防備な和を襲う

          スカッ

が、その魔手は空を切った

モモ「!?」

ワハハ(ステルスモードのモモのスティールが……!)

かじゅ(かわされただと………!?)

和(隙だらけのディフェンスでしたね)ダムダム ダダダダッ!

かじゅ(くっまずい!反応が遅れ…)

和「咲さん!」ビッ

咲「オッケー」パシッ

咲(和ちゃんが折角作ってくれた完全フリー。ここはただのシュートじゃ済まさない!)

 ダンッ! ズバアアアアンッ!!!

かじゅ「ぐっ…」

「久々10番の嶺上開花ぉっ!!」「今の三暗刻も入ってるぜ!」「地味にタンヤオも混ぜてた!倍満プレイだ!!」

清澄 297600 - 278800 鶴賀

モモ(今のは…?)

かじゅ「気にするな、モモ。たまたま読みが合ってかわせただけだ」ポンッ

ワハハ「そーそー。私達が親なんだし、倍満位どーってことないって」ワハハ

モモ「………そう、っすね。抜かれてゴメンなさいっす!次で取り返すっすよ!」


南三局 親:鶴賀

モモ(…でも、どうにも不気味っすね。このおっぱいさんの機械みたいな目…)ダムダム

和「…………」キュキュッ

モモ(…………今っす!)ズバッ!

和「行かせません!」バッ!

モモ「なっ!」

かじゅ(なんだと!?モモの消える(バニシング)ドライブに反応した…!?)

モモ「くっ…!」ダダムッ

ワハハ(ステルスモードのモモが攻めあぐねてる姿なんて初めて見たぞ)アセ

モモ(タ、タイミングを間違えたんすか?こ、今度こそ…)ズバッ!

和(ハンドリングが甘いですよ)チッ!

モモ「!?あっ…」

はじいたこぼれ球を抑えたのは、それを予期して備えていた竹井久

久「ナイス、和」パシッ

「カウンターだ!!」「清澄の4番がそのまま持って行って決めたー!」「清澄突き放すー!」

かじゅ(抜かれるだけならまだしも、モモがボールを奪われるなんて…)アゼン

和「ふぅ。フリーだったから逆に外すんじゃ無いかと冷や冷やしました」ホッ

モモ「…貴方、私の姿が見えるんすか?見えないんじゃ…」

和「?」

和「見えるとか見えないとか…」


         「そんなオカルトありえません」


モモ「!!」

和「私からはハッキリ見えますよ…」


久(フフフ…どっちがオカルトなんだか)

久(以前の和は他者の存在を気にするあまり、本来の実力を出せずにいたけど)

久(合宿で化けた――覚醒すると咲が相手でも気にせずにプレー出来るようになった)

久(リアルのバスケをあたかもデジタルのゲーム画面として知覚しているかのように!)

久(さっきのタイムアウト中の和の言葉…)


久「和、貴方には見えてるみたいね。鶴賀の7番、東横さんの事」

優希「えぇっ!?」

和「?当たり前じゃないですか。どんなに速く動いても人間が人間の動体視力から逃れるのは不可能です」

優希「い、いやそういう事じゃなくて…」

和「たしかに彼女がガードに移ってからの何分かは、死角を突くのが上手いのか少し位置を把握しづらかったですけど」

和「今はハッキリ見えてますよ。だからそれ程動きが速い訳でも無いのにゆーきは抜かれ過ぎだと…」 ガミガミ

優希「ううぅ…」

咲「和ちゃん。また顔が赤くなってるけど大丈夫?」

まこ「おっ発熱モード発動か」ハハハ

久「……………」

久「和。貴方、ガードは出来る?」


久(動揺を突いた事もあって、思った以上の成果を得る事が出来たわね)フフフ

モモ「…………」アセ

モモ(相手の気配があろうがなかろうが…関係ないってことっすか?)

モモ(あ~~じゃあこの人とはガチのバスケっすか)

かじゅ「モモ」

モモ「先輩。…参ったっすね。どーもおっぱいさんにはステルスモードが通用しないみたいっす」

かじゅ「信じがたいが、その様だな」

かじゅ「これ迄も原村はモモがカバーして居ない方向に切り込んだりしていたから」

かじゅ「違和感の様なものは感じていたが…」

モモ「世の中には色んな人が居るものっすね」

ワハハ「それをモモが言うのかー」ワハハ

津山「でもどうしましょう…」

佳織「桃子ちゃんが止められると、攻撃のパターンが…」

かじゅ「動揺する必要は無い。モモを見つけれる選手が居ると分かれば、それに対応するだけだ」

かじゅ「まだ二局弱ある。積極的に攻めて流れを奪い返すぞ」キリッ

4人「はいっ(おー)!」


モモ「面倒をおかけしてしまって申し訳無いっす。先輩」

かじゅ「台詞の割に顔は楽しそうだな、モモ」フフッ

モモ「!…そうっすね。前半はステルスモードに入る為に目立つプレーは出来ないっすし」

モモ「ステルスに入ったらガチの勝負なんて望むべくも無いっすから…ちょっと楽しみなのはあるかもしれないっす」ウズッ

かじゅ「折角の機会だ。全力で原村と相手をしてみると良い」

かじゅ「元々私は、能力なんて関係無い。お前の打ち筋に惚れこんで探しに来たんだ」

かじゅ「モモが決して能力頼りのプレイヤーなんかじゃ無い事を…見せつけてやれ」ニコッ

モモ「~~~~っはい!!!」ボッ!

モモ(やっぱり先輩は最高にカッコ良いっす!)

モモ(清澄さん。ちょっと私を止めた位で勝った気になってもらっちゃ困るっすよ)

モモ(先輩はよく私の事をエースだと言ってくれるけど、鶴賀の真のエースは紛れも無く加治木先輩っす!)

モモ(先輩が指示をくれる限り、私達は諦めない。何だってやってやるっす!)ダッ!


しかし、モモの想いとは裏腹にこの2プレイで産まれた二万点差は鶴賀にとってあまりにも大きなものだった。

和「…………」キュキュッ

モモ(振り切れないっ!インターミドルチャンピオンの本領発揮って所っすか…)

和の徹底したマークにより、モモの力は半減され鶴賀のパス回しが止まりがちになる
モモのスクリーンプレイや加治木の個人技で何とか得点を入れるものの、気合いを入れ直した清澄のディフェンスは高打点のプレイを許さない
ディフェンスでも、和がボール回しをする事でカットやスティールは殆ど狙えなくなり

殆ど点差に変化が無いまま、試合時間は刻々と過ぎて行った

かなり間が開いてしまってスミマセンでした。以後気を付けます

「咲さん」「和ちゃん」の部分を修正し忘れていた事に今頃気づくという
仕方無いので、このSS内では合宿中あたりに色々あって名前呼びになったという事で一つ。>>39?知らん

今日の試合終わったら更新して、鶴賀編終わらせる予定

かじゅ(くそっ!点差が縮まらない!)

かじゅ(もうとっくにオーラスに入って、時間は2分を切ってるというのに…!)

かじゅ「オールコートで当たるぞ!皆最後の力を振り絞るんだ!」ダダダッ キュキュッ

久(多分一番動いてるっていうのに何てスタミナ…)ダムダム

かじゅ「貰った!」バッ!

久「とぉっ!危なっ…」ダムッ

      バチッ

久(っ!かわした所を…!)

モモ「私と先輩のコンビは無敵っす!」ダムッ ダダダッ

ボールが奪われたのを見て、和がモモを止めに動く

和(パスコースは咲さんと染谷先輩が防いでる。問題ありません)キュッ

モモ「たああああっ!」ダンッ!

和「!」

      パサッ

清澄 325800 - 308000 鶴賀

「そのまま行ったあっ!」「これで17800点差!」「親っパネ一発で引っくり返るぜ!」


久(和をかわして決めた…。あの子、やっぱり素の実力も相当なものね)フゥ

モモ「誰も自分で打てないなんて言ってないっすよ」グイッ

和「…そうですね。でも次はありません」タッタッタ

モモ(…あんまり得意ではないっすけど)ホッ

久(残り1分30秒。楽に勝たせてはくれないわね)

久(でも警戒していれば跳満なんてそうそう決められるものじゃない。この点差を守り切るわ)ビッ

和(ここで離せれば勝負は決まる。ここは…)パシッ

和「染谷先輩!」ビッ

まこ「よっしゃ」パシッ

まこ(ここまで一本しか決められて無い。それもこれも…)チラッ

佳織「う、打たせません!」ぶんぶんっ

まこ(なんじゃあその訳の分からんディフェンスはっ!)

まこ「ふっ」スッ

佳織「!」ビクッ ピョンッ

まこ(楽に抜け過ぎて張り合いが無いけえ!今度こそ…)ぐっ

     「ボール下げちゃ駄目っすよ」バチッ

まこ「なっ!?」

モモ「加治木先輩!」ビシュッ!

「鶴賀がボールを奪った!」「ロングパスだ!」「シュートの役によっては逆転あるぞ!」


かじゅ(このコースならリータンピン三色。ドラ1も狙える!)

加治木が走りながら逆転手の成就を確信し、モモからのロングパスを捕球する体勢に入る

しかし

かじゅ「!?」


      ダンッ!!!   パシィッ!!


咲「おっとっと」キュキュッ

それは宮永咲の驚異的な跳躍力によるパスカットで闇に帰す事となった

「うおおおおおおっ!!!」「たっけえええええ!!!」「何であれが届くんだ!?」

モモ「な…」ボーゼン

咲「7番さんには何度もパスカットされちゃいましたからね。お返しです」ダムダム


アナ「し、信じられないプレイが出ましたね。あの位置から跳んで、触れるどころか捕球するなんて」

藤田「その事もそうだが、染谷がシュートフェイクを入れた時には宮永は既に動き初めていたからな」

藤田「その展開予測力は評価するべきだろう」ガツガツ


このパスカットは鶴賀にとってあまりにも大きな致命傷だった

理由は複数存在する。残り時間と点差、通っていれば逆転の可能性があった事
しかし最も大きいのは『加治木ゆみと東横桃子』間のパスだった事だ
比喩では無く絶対無敵の、今迄一度も破られた事の無いこのホットラインが断絶された事は鶴賀の5人に大きな衝撃を与えた

―――そしてその隙を、宮永咲は見逃さない

咲「…………」ダム…ダム

   ズバッ!

モモ(速っ…!)

チェンジオブペース。緩いドリブルからの一瞬のスピードアップで東横桃子を置き去りにする

咲(相手が透明だろうと、動かさずに抜けばカットの心配は無い)

ワハハ(ヤバいっ!今度は逆にウチがカウンターを食らった形だ!)アセ

津山(前を走ってた加治木先輩は間に合わない。私達だけで止めないと!)

ワハハ(ここで離されたら試合が終わる!)

ワハハ「むっきー!佳織!パスコースを塞ぐんだ!ゆみちんが戻るまで耐え…

咲「…………」キュッ 

     スッ

ワハハ(何を……してるんだ?)

蒲原智美の時間がスローモーションで流れる

両手を広げて腰を落として、突っ込んで来る宮永咲に備えていたのに

宮永咲はその1メートル手前で急停止し、滑らかな動きで次のモーションへ移る

ワハハ(3000P…!?こいつ、外もあったのか…?)

驚愕に目を見開くも、体は動かない。
その自信に満ちた表情を見て、止めなければ入れられると思っても、成す術も無くその様を見るしかない


          「させないっす!!!」

 
 

宮永咲がボールを胸の位置まで上げた時に、声が聞こえた
その声の主はモモで、一度抜かれたモモが必死で切り返して追いかけて来て
ギリギリの所で宮永咲のシュートを止めた、とその瞬間は思った

ワハハ「止めろっ!モモ!」

しかし、現実は残酷だという事を

宮永咲の悪魔的としか形容の仕様が無い笑みと、ボソリと呟いた「カン」という言葉で思い知らされる

      ビッ ビシュッ!!!

東横桃子に右腕を触れられてなお、宮永咲の両腕はブレる事無くシュートを放つ

滞空時間中に審判が黒7番のファウルを告げ

       パスッ

ノータッチでリングを通ったその音が、この試合の勝者を宣言した

佳織「てーーいっ!!」 ビシュッ!!!

      ガンッ

    ビーーーー!!!

実質の試合終了から遅れる事50秒。試合終了を告げるブザーが鳴り響いた

優希「やったああああ!!!勝ったじぇー!!!」

和「やりましたねっ!!」

咲「うんっ」

ワアアアアアアッ! ヤッタヤッター! コレデケッショウダジェー!


かじゅ「…………負け、か」

歓喜の輪を作る清澄を眺めながら、加治木ゆみは深く溜息をついた

モモ「……………」プルプル

かじゅ「モモ。………整列だ、行くぞ」

モモ「っく…ゴメンなさいっす……せんぱい。ゴメンなさい…」グスッ

かじゅ「モモが謝ることは一つも無い」ポンッ

モモ「でもわだしがっ!あそこでインテンショナルファウルなんて取られなげれば…」

かじゅ「止めに行かなければそれこそそこで終わってたよ」

かじゅ「モモの『勝ちたい!』という気迫が全身から溢れた最高のプレーだった」ナデナデ

モモ「…私はっ!もっと……い、一緒に……っ!」

かじゅ「っ!」ジワッ

       ギュッ!!!

かじゅ「謝るのは私の方だ!もっとモモの力を活かしてやりたかった!」

かじゅ「済まない……ありがとう、モモ」

モモ「う、ううっ……うわあああああ!!!」

佳織「…終わっちゃったね」グスッ

津山「うむ…」グスッ

ワハハ「泣くな泣くなー」

ワハハ「みんな全力を出した結果だし、そもそもここまでこれただけでも十分なんだから私は全然悔しくなんかないぞ」ワハハ

佳織「なら…どうして智美ちゃんは泣いてるの?」

ワハハ「へ?」


佳織『あぅ…また上に飛んで行っちゃった』

ワハハ『相変わらず佳織は下手っぴいだなー』ワハハ

かじゅ『だがシュート成功率は上がり続けている。これでモモの奥の手が完成すれば全国も夢では無い』

モモ『順調に来てるっすよ~。最終目標はボールをも消してしまう事っす!』フフフ

津山『完成した時の為に、私達もしっかりパス回しの練習をしないとですね!』

ワハハ『全く。最初はエントリー出来るだけで十分だって言ってたのに、この欲張りさん共がー』ワハハ

かじゅ『人間、先が見えると欲が出るものだよ。それにな、蒲原』

ワハハ『ん?』


ワハハ「…ゆみちんの言う通りだなー」

ワハハ「私ももっと…皆と『チーム』で居たかったぞ」ポロポロ

審判「343800対320000で清澄高校の勝ち!互いに礼っ!!」

10人「「ありがとうございました!!」」

かじゅ「負けた事は本当に悔しいが、良い試合だった」

かじゅ「ありがとう、竹井さん」スッ

久「えぇ、こちらこそ感謝してるわ」ギュッ

ワハハ「君達ならあの龍門渕にも勝てると思うぞ。決勝も頑張ってくれー」ワハハ

モモ「私達に勝っておいて負けたら承知しないっすからね!」

和「勿論です。私達は全国に行くって皆で決めてますから」

こうして、全国高校生麻雀大会・長野県準決勝第一試合は清澄高校に軍配が上がり
4時間後の決勝戦に駒を進める事となった

「いや~あんま期待してなかったけど、スゲー試合だったな」

「だな。全国大会の試合って言われても信じる位だぜ」

「あの10番。インテンショナル受けながらシュート決めるとか有り得ねーよなww」

「責任払い自体滅多に見れるもんじゃないからな~。難易度的には倍満でも安いくらいだぜ」

「10番以外も清澄ヤベーよ。あのチビのPGの東場スピードは化けモンだったし」

「センターのお下げも攻守に良いプレーしてたぜ。ありゃ相当レベル高いわ」

「鶴賀の猛攻の流れを止めたのは原村和だしな。スキルも高けえし、流石はインターミドル王者って感じだったぜ」


「…でもさ、優勝すんのは無理だろうな」

「そりゃあなぁ」

「いくら強いつっても、次の風越対龍門渕が事実上の決勝って事は変わんねーと思うぜ」


先の熱戦の興奮が冷めやらぬまま、観客の興味は次へと移る

全国高校生麻雀大会・長野県準決勝第二試合。風越女子の一年越しのリベンジマッチへと

今日はここまでー。ではまた

       ザッ

「おっ出て来たぞ!風越女子だ!!伝統の風越が帰って来た!!」

「去年は県2位!!部員80名を越える強豪……!!」

「二回戦では去年3位の城山商業を後半東一局で飛ばして来てるぜ!!」

「今年はベストメンバー!歴代最強の5人かもしれないって呼び声だ!!」

「今年は龍門渕も危ねーぞ!!」


池田「にゅっふふふ。もっと言えもっと」

文堂「うぅ…こうも下馬評が高いと緊張が…」ドキドキ

福路「自分を信じて、いつも通りプレーすればきっと大丈夫よ」

福路「観客の皆さんに、龍門渕に見せてあげましょう」

福路「私達が最強だという事を――」

未春「343800対320000…。あれから随分追い上げられたみたいですね、清澄」

池田「大差が付いたからって油断するとはまだまだ甘いし!」ニャハハハ

福路(…鶴賀の『魔法』相手に逃げ切った。流石です、上埜さん)

池田「ま、でも一応勝ち上がったんだから決勝の舞台は整った」

池田「後は私達が龍門渕をぶちのめして勝ち上がるだけですね!」

久保「油断すんなよ池田アアアアッ!!!お前去年天江衣に何点毟られたか忘れてねーだろうな!?」

池田「コ、コーチ…」

池田「勿論忘れてないしっ!そして今日それを百倍にしてお返ししてやるし!」

久保「フッ。言うじゃねえか池田ア…」

          ザッ

「おっ龍門渕も来たぞ!去年の優勝校っ!エースの天江衣は…ってあれ?」

福路「………!」

「井上純!」

「沢村智紀!」

「国広一!」

「龍門渕透華!昨年の四天王は2年になっても健在だッ………!!けど」

ざわざわざわざわ どよどよどよどよ…

池田「天江衣が…居ない?」

透華「全く……やっと居場所が分かったと思ったら」

透華「『寝起きでやる気がしないから、前半はとーか達に任せる』とは何事ですのっ!」

智紀「しかもまだハギヨシさんの車で移動中…」

純「ははっ。まーそんだけ信頼されてるって事で良いんじゃねーの?」コキコキ

歩「ううぅ…まさか準決勝まで私が試合に出ないといけないなんて…」ガクガク

一「あはは。まぁ昨日同様皆でフォローするから頑張って」ぽんっ


未春「…どうやら龍門渕は天江抜きで試合に臨むみたいですね」

池田「なんって奴だし!有り得ないし!舐めるのも大概にしろし!」プンスカ

池田「こうなったら天江が来る前にトばして、アイツを世界一の間抜けにしてやりましょう!ねぇキャプ…!?」

福路「………………」ゴゴゴゴ

池田(キャプテンが…怒ってる!?)ゾクッ

久保「福路ぃ……分かってんな?」

福路「はい。私達の想いを……決意を踏み躙った罪」

福路「その報いを存分に受けて頂きます…!」ザッ

~観客席~

かじゅ「親決め選択権を取った風越は、東場を選択したか」

ワハハ「天江が来る前に出来るだけ差を広げとこーってハラかな?」

かじゅ「天江の恐ろしさはディフェンスよりもオフェンスにある」

かじゅ「それを思えばここは南場を選択して、天江の親の時間を極力減らすべきだと私は思うがな」

かじゅ(まぁ…それでも私も東場を選んでいただろうが)

モモ「まぁ天江がいつ来るのか、どころか来るのかどうかすら定かではないっすけどね」

津山「でも昨日の龍門渕も、天江抜きで杏花相手に後半の東一局でトばしてるんですよね?」

津山「それを思うと、風越も楽に勝てるとは言えないんじゃ…」

かじゅ「…分からないが、天江抜きの龍門渕相手に差を広げられない様では」

かじゅ「風越に勝ち目は無いだろうな」

アナ「さぁただいまより準決勝第二試合。風越女子高校対龍門渕高校の試合が始まります」

アナ「去年の優勝校と準優勝校の因縁の対決という訳ですが、藤田プロはこの闘いどうみられます?」

藤田「衣が居ない…」グデー

アナ「えぇっ!?し、しっかりして下さいよ!」

藤田「はぁ……。そうだな、今年の風越は確かにベストメンバーで、実力はかなりアップしている」

藤田「しかしそれは去年全員が一年だった龍門渕の四天王も同じ事」

藤田「実力差が変わっていなければ…天江抜きでも去年の再現となる事も有り得るだろうな」

アナ「去年は麻雀の試合でしたけどね」

全国高校生麻雀選手権・長野県予選準決勝第二試合
龍門渕高校 対 風越女子高校

龍門渕高校スタメン
PG井上純(6) SG国広一(8) PF沢村智紀(9) SF杉乃歩(15) C龍門渕透華(4)

風越女子高校スタメン
PG福路美穂子(4) SG吉留未春(6) PF文堂星夏(13) SF池田華菜(7) C深掘純代(5)

()内は背番号


審判「TiP OFF!」スッ

ジャンプボールの代表は風越・文堂。龍門渕・井上
審判がボールを空中へと投げ上げ、準決勝第二試合が開始された

福路「…………」じっ

文堂(高い!近くで見ると余計高く見える…!)ぐっ

純「ふーん。風越も都合良く背ぇ高い一年入ったんだな。ま…」ぐっ

         バチッ!

純「俺には遠く及ばねぇがな」スタッ

「高い!ジャンプボールはやっぱり龍門渕だ!!」「180越えの大型PG井上純!女とは思えねえ!」

一「もうっ。勝つのは良いけど誰も居ない所に…」ダダダッ パシッ

           ビッ!

一「えぇっ!?」

一(な、なんで福路さんがもうこんな所に?)

福路「…………」パシッ ダムダムダムダム

福路「華菜っ!」ピシュッ

池田「オッケーだしっ!!!」 パシッ ズバアアアアン!!!!

龍門渕 0 - 18000 風越

透華「な………」

「お…お……」「おおおおおおおおおおおっ!!!風越スゲエ!!!開幕アリウープだあああっ!!!」


藤田「アリウープの事より、特筆すべきは福路のスティールだな」

藤田「井上がボールに触れる直前に既に落下点へと走り出していた。恐るべき動体視力だ」


透華「な、な、なんて目立つプレーを決めてくれやがりましたの…!」グヌヌヌヌ…

池田「フン、これ位ウチにとっては大したプレーじゃないし。これからたっぷりそれを教えてやるよ」ニヤリ

福路「精々天江さんが早く到着する事を願う事ですね」スタスタスタ

純「おもしれえ…!」

~清澄高校控室~

優希「あーもうホントつっかれたじぇ~~~。4時間後に決勝とか考えらんないじょー」

まこ「第二試合の方は3時間後に試合じゃから、まだマシな方じゃけどな」

優希「次は楽な相手とマッチアップする事になるのを祈るじょ…」

咲「あはは。まぁあの4番の人、加治木さんよりも辛い相手なんてそうは居ないと思うけどね」

咲「私も一度槍槓されちゃったりしたし…」

まこ「でも風越の福路さんは決してそれに負けずとも劣らずってトコじゃと思うがの」

優希「むーたしかに…。こうなったら龍門渕の健闘を祈るしかないじぇ。あわよくば共倒れを!」

和「咲さん、私蜂蜜レモンを作って来たんですけど…」スッ

咲「ありがとう和ちゃん。うん、美味しいよ」

優希「私にも寄こすんだじぇ~!タコスの蜂蜜漬けを!」

和「そんなのありません!」

咲「でも、スポーツの試合を夜にするっていうのも珍しいですよね」

久「スポーツじゃなくてあくまでルールが変わった麻雀だけどね」

久「ほらほら、体のケアが終わったら皆で観客席へ行くわよ」

久「もうとっくに第一試合は始まってるんだから」

優希「じぇ~」

咲「風越と龍門渕。どんな試合展開になってるだろうね」

和「福路さんの実力を思えば、そう大差が付くとは思えませんが…」

まこ「去年はボロ負けも良い所じゃったからのう。バスケに競技が変わった事がどう影響するんか…」

久「どうなってるか楽しみね。じゃ、行くわよ~」


~観客席~

ワアアアアアアアアアッ!!! オオオオオオオッ!!!

久「お~凄い盛り上がりね。流石は注目の二校」

久「点数は………えっ!?」

更新乙です~
鶴賀戦遂に決着!とっても手に汗握る熱い展開でしたね!
ルールは未だにさっぱりですがwwww
正直鶴賀応援してたので、敗退にはちょっと残念な気持ちもあったり(笑)咲さんマジぱないっす!
風越vs龍門渕戦も期待してますー。頑張れ池田ァ!

 龍門渕 99800- 156400 風越 ドン!!

久「風越の5万点リード…?」

まこ「どういう事じゃ?」


透華「前半残り5秒ですわよ!早くわたくしにボールを回しなさい!」

純「ちっ!分かってるけどよおっ!」

福路「…………」キュキュキュッ!

純(何てディフェンスだ…!抜くどころかパス出すのもままならねえ!)

純「ちくしょうっ!」シュッ!

追い込まれた純は、仕方なく苦し紛れのシュートを放つ

      ガンッ!

ドム「ポジションは取らせない…!」

透華「くっ!こ、このぉっ!」グググ…

ドム「…………」ピョンッ バシィッ!

      ビーーーー!!!

「風越スゲエエエエエ!!!圧倒的リードで折り返しだ!!」「伝統の風越が覇権奪回かー?」

審判「インターバル20分!」


優希「ビックリだじぇ。龍門渕って意外と大した事無かったのか?」

久「…麻雀技術の適合に失敗したのなら有り得なくは無いけど、そんな事が…」

かじゅ「あ、清澄の皆さんじゃないか」

久「!加治木さん」

ワハハ「数十分ぶりだなー」ワハハ

かじゅ「ここの席が空いているし、良かったら一緒に観戦しないか?」

久「ありがたいわ。それじゃあお言葉に甘えて…」スッ

和「では、どういう試合展開だったのか教えて頂けますか?」

モモ「構わないっすよ~。と言ってもそんなに喋る事は無いっすけどね」

ワハハ「そうだなー。風越が最初に親っパネを和了って、そこからずーっとジワジワと点差が広がった感じだ」ワハハ

モモ「一個一個の打点は龍門渕の方が上だけど、和了数は風越が倍多いっすね」

和「和了数が倍…」フム

かじゅ「それを可能にしているのは風越のディフェンス力だ」

かじゅ「PGの福路を筆頭に、インサイドの深掘、外の吉留が龍門渕に自分のプレーをさせていない」

久「元々ディフェンス力に定評があるチームだったけど、龍門渕を前半10万点以下に抑えるとはね」

咲「たしかにさっきの1プレイを見ても、私達と戦った時より遥かに鍛えられてるのが分かりますね」

咲「それで、天江衣っていう人はどの人なんですか?」

ワハハ「天江ならまだ来てないぞー」

咲「来てない?」

かじゅ「あぁ。詳しい事は分からないが、試合開始から未だ卓に現れていない。全く舐めた話だ」

和「なるほどそれで…。でも、一人選手が変わった程度でこの点差が逆転するという事は無いでしょうから」

和「どちらにせよ、決勝の相手は風越になっていたでしょうね」

久(…それはどうかしらね)

純「くは~。つえーなオイ。正直舐めてたわアイツらのコト」ゴクゴク

一「だね。試合開始からずっと厳しいディフェンスを続けられて嫌になるよ。あれで最後まで持つのかな?」

純「そんなの俺の方がもっとだぜ。後半国広君変わってくんねー?」

一「謹んでお断りするよ。あの人と延々マッチアップとか勘弁だね」

歩「も、申し訳ありません!私の所為でこんなに差を開けられてしまって…」ペコッ

純「歩の所為じゃねーよ。いやまぁ責任がゼロとは言わねーけど」

歩「うぅっ………」

純「仮に歩の代わりに平均的な強さの選手が入ってたとしても」

純「前半で2~3万点はリードされてたと思うしな」

一「警戒してたのに、あんまりその隙を突いて来ようとはしなかったもんね。風越」

純「フェアプレイ精神って事かね。もしくは意地か」

一「それもあるだろうけど、衣と代わった時のギャップを恐れたんじゃないかな?」

純「あー。たしかに落差が異次元過ぎて余計に止められなくなりそうだしな」ハハハ

透華「笑い事じゃありませんの!!!!!」

透華「前半でこのわたくしが僅か32600点しか入れられてませんのよ!」

透華「このままではわたくしが全く目立てずに終わってしまいますわ!」

一「あ、負けてる事じゃなくてそこが重要なんだ」

純「透華は特にキツいマーク受けてたからなぁ。それでもムキになってパワー勝負挑まなきゃもっと取れてたと思うけどさ」

智紀「…このまま衣が来なければ敗北確率74%」

智紀「透華、衣の様子は?」

透華「渋滞に捕まって、もう少しだけ掛かるという事でしたの。ハーフタイム中に間に合えば良いのですけど…」

久保「よーし前半はよくやった」パチパチ

福路「ありがとうございます。コーチ」

福路「皆、とっても良かったわ。これだけのリードがあれば、後半天江さんが来ても大丈夫」

福路「このまま私達の麻雀をしっかりやれば、必ず勝利を掴む事が出来ます。頑張りましょうね」

4人「はいっ!!!」


池田「いや~楽勝でしたねキャプテン。これだと歯応えが無さ過ぎてつまんな…」

池田「っ!」

福路「ふーーー……」ダラダラ

池田(キャプテン…すっごく消耗してる…!)

ドム「…………」ゴクゴク

未春「大丈夫…いける…」グッグッ

文堂「……………」ゼェゼェ

池田(みはるんと純代と文堂も…!)

池田(そうだ…相手は龍門渕の四天王。マークの疲労度は普通の相手の比じゃない)ゴクリ

福路「大丈夫よ華菜。後半荘一回…例えこの足が折れても私は最後まで走り切るわ」

池田「キャプテン…」

池田(私は相手が素人だったから、まだ体力には全然余裕がある)

池田(後半の鍵を握るのは私!私が風越を勝たせてみせるし…!)

          ブーーー!!!

審判「ハーフタイム終了!これより後半戦を開始します!」


透華「早く来なさい衣――――っ!!!!!」

ハーフタイム終了と同時刻。一台の車が試合会場に到着した

ハギヨシ「到着しました、衣様」

衣「うむ」ピョンッ

ハギヨシ「透華お嬢様は大変お待ちかねですよ。あれからも何度も着信が入っていましたし」

衣「透華は短気すぎる」ハァ

衣「半荘どころか南場が残っていれば、衣が勝つには十分だというのに」

ハギヨシ「衣様のご活躍を期待しておられるのですよ」

衣「当然…っ!!」

衣「有象無象の下等生物が…衣に勝てる訳無いんだからっ!!」ピシャーン!!! ドン!


咲「!!!」ゾクッ

久「!どうしたの?咲」

咲「あ、いえ…」

審判「TiP OFF!」

       バチッ!

「後半戦開始!」「ジャンプボールを取ったのはやっぱり龍門渕だ!」

一「今度はちゃんとコントロールしたね。純君っ」パシッ ビッ

純「おうっ」パシッ ダムダム

福路「…………」キュキュッ

純(前半を戦って思い知った。こいつらは強え)

純(特にこのキャプテンの福路は、衣を除けば俺が知ってる中でも一番のプレーヤーだ)

純(雰囲気は小者だが、スコアラーの池田の得点力は透華とタメ張る位だし)

純(他の三人も素質は並だが、相当鍛え上げられてやがる)

純(それに面食らってかなり点差を広げられちまったから、このまま衣抜きで逆転すんのは厳しい…が)

純「終わった後に衣のワンマンチームって言われんのは我慢ならねえよなぁっ!」ビッ!

まこ「あの位置からバックパス?」

和「何の意味があるのでしょう…」

久「流れを変えるとかじゃないの?彼女は麻雀においては変な鳴きを入れるのが特徴だったし」

和「非科学的です…」

未春(まさかこっちにパスしてくるなんて…)

一(お、ちょっと緩んだ。これならっ!)

 ひょいっ ズバッ! パシッ

未春「えっ?」

優希「おぉっ!何か今凄い事したじぇ!」

咲「先に背中越しにボールを前に通して、そこから抜いて自らキャッチ。器用ですね…」

池田「みはるん!フォローするし」バッ

一「じゃあされる前にっと。透華!」ビッ

透華「いらっしゃいまし!」ピョンッ バシッ

優希「ジャンプして取った!そのまま入れる気かっ?」

ドム「………させない」バッ

和「駄目ですね。風越のセンターが完全にコースを塞いでます。ジャンプした意味が…」

透華「その程度でわたくしを止めたと思ったら大間違いですわよっ!」

           スッ ひょいっ

久「!空中でボールを下げて掬い投げた。ダブルクラッチ!」

透華「お入りなさいっ!」

  コロコロコロコロ

透華が投げたボールはリングの渕に乗り、数回転して

福路(これは落ちる!)

福路「文堂さん深掘さん!リバウンドをおさ…

    ダンッ! チョイッ ポスッ

智紀「ふぅ…」スタッ

「最後は沢村が押し込んだーー!!」「龍門渕四天王の連携プレーだ!」「やっぱこの4人もスゲーーー!!」

龍門渕 107800- 156400 風越

透華「ともきー!なんて余計な事をしてくれましたの!」

透華「触らなければわたくしの跳満プレイでしたのに!」ぷんすか

一「いや、多分さっきの外れてたと思うよ」アハハ…

純「ナイスワンタッチ。ともきー」

智紀「うん。…透華が肝心の時にやらかす確率は100%だから」

透華「なあんですってえ!!!」


久「…凄いプレーだったわね。さっきの一連の流れ…」

かじゅ「あぁ。国広のボールハンドリング技術に、龍門渕の空中でのボディバランス、沢村の高さとプレーの先を読むデータバスケ」

かじゅ「そしてこの展開の起点となるパスを出した井上…」

久「オールラウンダーでは無いけど、得意分野では誰にも負けないスキルを持っている四人。…やっぱり厄介よね」

池田「ちっ上手いことやられてしまったし」

未春「スミマセンっ。私が国広さんを抜かせてしまったから…」

福路「気にしないで。井上さんはたまにあぁいう不可解なパスを出して霍乱を狙って来るから」

福路「皆も集中力を切らさず、ボールに集中しておいてね」

福路「次の攻撃は―――!!!」ゾクリ バッ!

池田「?キャプテン?どうして急に入口なんか見て…」

咲「!」バッ

かじゅ「!」バッ

藤田(!遅いご登場だな)


―――実力者がその気配に一早く気付き、発信源に視線を送る。その正体は――

??「におうね…この会場」

            ギイイイイッ


         「美味そうなにおいがする」


――――龍門渕高校二年、天江衣

今日はここまでー

扉が開かれた瞬間。その圧倒的な存在感に会場の誰もが気付き、数秒の間を置いて爆発的な歓声が上がる


ワアアアアアアアアッ!!!  オオオオオオオオオオオッ!!!

「天江だーーーっ!!!」「天江衣が来たぞーーー!!!」「俺はお前を見る為に仕事サボって来たんだ!!」
「前年度MVPにしてインハイ最多獲得点数記録保持者っ!!」「さあさあさあ龍門渕の逆襲が始まるぞ!!」「衣ちゃんこっち向いてーーー!!」


和「す、凄い人気ですね…」

久「そりゃあこれだけ焦らされればねぇ。ボルテージもすぐにMAXになるでしょ」

まこ「あの見た目だから単純にファンも多いしのう」

咲(あれが…天江衣)

咲(去年のインハイでお姉ちゃんより多く点を稼いだ人…!)ゴクリ

衣「五月蠅い…。全く、これだから人の犇めく場所は嫌いなのだ」ハァ

透華「衣!!!来るのが遅過ぎですわっ!わたくし首を長くして待ち過ぎてキリンになってしまう所でしたわ!!」ガミガミ

衣「と思ったらとーか一人の声の方が倍大きかった…」キーン

一「アハハ。でも透華の気持ちも分かってあげてよ」

純「もしかしたら試合が終わるまで帰って来ねーんじゃねえかって俺達も心配してたからな」

衣「それも考えたがな。決勝ならまだしもたかが準決勝で…あれ?」

衣「107800対156400…?衣達が負けているのか?」

純「恥ずかしながらな。これから追い上げるトコだったんだけど…」ポリポリ

衣「――――面白い」ニヤリ

衣「去年の決勝で斃した高校が相手だと聞いた時は、退屈凌ぎにもならないと残念に思ったものだが」

衣「お前達と前半を戦って、この優位を保つとはなかなかだ」

衣「これなら衣も少しは楽しむ事が出来るかもしれないな!」ボッ!

4人「…………」ゾクリ

透華「楽しみたいなら、急いでアップをして来なさいな。遅刻の罰として衣にはそれなりの点を獲って貰いますわよ?」

衣「言われるまでも無い。そして準備運動なら卓の中でするから問題無いよ」

透華「全く…」

衣「歩、代役大儀であった。後は衣に任せておけ」パンッ!

歩「は、はい!健闘をお祈りしています衣様!」

衣「それは風越に向けてやっておくと良い」ザッ

天江衣、出陣

アナ「天江衣選手がSFの杉乃選手との交代で卓に入ります」

藤田「漸く主役の登場という所だな。天江衣相手に風越がどの様なプレーを見せるか…」

アナ「しかし藤田プロ。天江選手は見ての通り両チームの中でも圧倒的に身長が低い」

アナ「バスケットボールという身長が大きな要因を占めるスポーツでこれは…」

藤田「関係無いよ」

藤田「天江衣の持つ底知れない悪魔的雀力を持ってすれば、そんな事は些事でしかない」

藤田「『牌に愛された子』の力を、私達はこれからとくと見せられる事になるだろう」わくわく

アナ「…何かご機嫌ですね」


池田「天江衣…」ゴクリ

福路「天江さん…」

久保(福路!分かってんなァ!)じっ

福路(ハイ、コーチ。天江さん相手に、このリードを守ろうなんて考えてはいけない)

福路(先手先手で攻め続けて稼ぎ勝つ!)

審判「ピーーーッ!」

ホイッスルが鳴り響き試合の再開を。否、風越と天江衣の戦いの開始を告げた

文堂(ゴール下。落ち着いて…!)

    バスッ

龍門渕 107800- 159300 風越

池田「文堂!よくやったし!」

ざわざわざわざわ どよどよどよどよ

久「風越が和了ったってのに、何でしょうねこの空気は」

かじゅ「空気と言うものは正直で無責任なものだからな」

かじゅ「会場中が期待しているのさ、天江衣による龍門渕の大逆転劇を…」


福路(嫌な雰囲気ね…。まるで私達が敵役をやらされているみたい)

福路(たしかに物語なら、貴方達が勝つのが良く出来たシナリオなのかもしれないけど)

福路(生憎それに付き合ってあげる程、私達は優しくないわ)

純「ちっ上手い事高さの利を活かされたな」

一「衣が入って更にミスマッチが増えちゃってるしね」アハハ

衣「はじめも他人の事は言えないだろっ!」ぷんすか

衣「フン。まぁいいさ」

衣「衣の前にはそんなもの全く意味が無いという事を教えてやる」ボッ!

アナ「さぁ現在東一局から東二局へ移ろうという所。龍門渕ボールで試合再開です」

純「衣!」

衣「あぁ」パシッ ダムッ

「天江にボールが渡った!」「さあどんなプレーを魅せてくれんだ?」「まばたき厳禁だなっ!」

和「ボールが渡っただけでこの歓声…」

     ススス…

モモ「?何だか随分片面に選手が偏ってるっすね」

かじゅ「…あれは龍門渕が寄せてるんだろうな」

久「アイソレーションって奴ね。使う理由はいくつかあるけどこの場合は…」

咲「天江さんのプレーするスペースを開ける為…ですね」ゴクリ

池田「よぉ天江」

衣「?」きょとん

池田「私は今嬉しくて仕方無いし。ようやくお前に去年のリベンジをかませると思うとな」フフフ… キュキュッ

衣「去年の衣と戦ったのか?忘れてくれ」

衣「去年は本調子では無かった」

池田「なっ……」

衣「あの時はまだ…お前達と同じヒトの土俵に立っていたよ」

衣(と言っても、今も『まだ』万全では無いがな)

池田「…ヒトじゃなきゃなんなんだ」

衣「その目で確かめよ」ダムッ…

      ズバッ!!!

咲「!」

未春(レッグスルーからクロスオーバー!)

文堂(速い…けど、それだけで池田先輩がチギられるなんて!)

福路「通しません」キュッ!

池田が抜かれるのを見て、福路がヘルプに入る
  
  ギュワワワッ!

が、スピードに乗った勢いのまま、ロールで天江が福路をかわした

文堂(キャプテンまで…!人間ってあんなに速く動けるんですか!?)

衣「他愛無い…」フッ ビシュッ

池田「甘過ぎだし!」 バンッ!

衣「!」

「お、おおおおおおおっ!!!」「池田が天江衣を止めたあああああ!!」

衣(あの一瞬のロール中に追いついたのか…)ホウ…

衣(そしてその前に遠回りさせる様にあの女に誘導された…?)


未春「華菜ちゃんやったね!」

文堂「最初に棒立ちで抜かれた時は駄目かと思いましたよ!」

池田「はんっわざと抜かせて油断させたに決まってるし!キャプテンとのコンビプレイって所だな!」ニャハハハ

福路「えぇ。よくやってくれたわ、華菜。この調子で行きましょう」ニコッ

「でも天江衣やっぱ化け物だな」「あぁ素人目にも凄さが分かるぜ…」「めちゃくちゃ速くね!?」

和「東場のゆーき並みのドライブ…。たしかに凄いスピードの持ち主ですね」

久「たしかに速かったけど…」

久(あの天江衣がこの程度…?)


透華「こ~ろ~も~。何いきなりブロックされてますのっ!」

一「まぁまぁ。衣は今日初プレイだったんだしさ」

純「にしてもノロ過ぎだったけどな。流石にアイツ達はそれじゃ抜けねーぞ?」

衣「その様だな。準備運動がてらに軽く一本決めるつもりだったが…」

衣「どうやら少しは力を入れても構わない様だ」ニヤリ

東四局

かじゅ「後50秒で東場が終わる。天江衣投入から5分程度経過したが…」

龍門渕 152600 - 171300 風越

久「投入時に5万以上あった差がもう2万無くなっている…!」

ワハハ「鉄壁に見えた風越のディフェンスも、天江が入ると綻びが見えてくるなー…」

福路「…………」ダムダムダム シュッ!!

純「うおっ!」

「また出たーー!!福路のノールックパス!!」「『鷹の目(ホークアイ)』を持って卓を俯瞰で見れるから出来る技だぜっ!!」

池田(最高のパスだしっ!!これなら跳満は狙え…)ダムッ

衣「…………」ゴッ!!!!!

池田「ぐっ……!」キュッ ビッ! パサッ

かじゅ「入ったが、あれではタンヤオもピンフも三色も消えて2900止まり」

久「ディフェンスは殆どやる気ない感じなのに、天江が入ってから風越の得点が伸びていかないわね…」

久保「ビビってんじゃねえぞ池田アアアアアッ!!!お前の長所は火力だろうがッ!!!」

池田「は、ハイッ!スミマセンコーチ!」

久保(…つってもタンピンを入れてたら決めれなかっただろうがな…)チッ


衣「野性の勘が働いたか。凡夫にしてはなかなか味な真似をする…」ククク

透華「取られたら倍にして取り返しますわよ!衣ばかりに目立たせませんわっ!」ビシュッ!!

         ガインッ!

透華「!」ピシィッ

一「透華は本当入らない時は入んないね…」

純「てかセンターがアウトサイドから打つなっつの」 バシッ! 

ドム「ぐっ………」

純「国広君、良いトコ見せてくれよ~」シュッ

一「何その無茶振り…」シュッ!!  バスッ

「端を切り裂いたーー!チャンタ白發!」「いよいよ龍門渕が止まらなくなって来たぞー!!」

藤田「風越は苦しいな…。天江が入った事で他の4人も活き活きとプレーを始めた」

藤田「天江にマークを割かないといけない分守備が薄くなるから当然と言えば当然だが、精神的な面も大きいだろうな」


一(ウチのエースはあの天江衣なんだ…)

智紀(負ける訳が…)

純(無えっ!)シュッ

衣「…………ほう」パシッ

池田「行くぞみはるんっ!」グッ 未春「任せて華菜ちゃん!」グッ

ワハハ「ダブルチーム!」

かじゅ「今の天江は投入時とはケタ違いのスピードだ。当然だろう」

衣(…大分体は温まったな。少し戯れてみるか…)ダムダム

       ヒュンッ

池田・未春「!?」

咲「!!!」ガタッ


衣「リーチ」シュバババッ ビシュッ!! 

   バンッ ガシュッ!!


「う、う、うおおおおおっ!!!」「何だ今のスピードはあああ!!!」「Wチームの僅かな隙間を通り抜けたぞーー!!」「風越棒立ちーーー!!!」
「てか何だよ今のシュート!!」「動きながら超スピードで打ったぞ!!」「何であれが入るんだーー!?」

皆「……………」アゼン

かじゅ「モモのバニシングドライブの様に消えている訳でなく、フェイクすら入れていない…」

久「ただ『速さ』の一点でWチームを全く反応させなかった…!」

和「そして一瞬で内へ切り込んで、その勢いを止めずにシュート…何であの速度で動きながら打って入るんですか…」

咲「しかもシュートの速さも尋常じゃ無い。ここしか無いって角度で片手で投げ入れたよ…」


藤田「単純な足の速さ。ドリブルのスピード、超クイックリリース、シュート自体の速さ」

藤田「そしてどんな体勢でそれを放とうともリングに捻じ込む強運…!」


          (これが天江衣―――――っ!!!)

 

透華「久々に見ましたわね。衣の型の無い(フォームレス)シュート」

衣「衣から言わせれば、打牌に型を作っている方がおかしな話だと思うんだがな」フフフ

純「これで点差はたった2000。ホントに南場丸々残して追いつかせるとは流石だぜ」

衣「…衣が籠球をすると、相手は皆世界の終焉を見る様な顔をして、戦意を喪失する」

衣「興が乗って、つい本気を出してしまったのでそれを心配したが…」クルッ

福路「…………」キッ!

衣「それは杞憂だったな。まだまだこの試合、楽しむ事が出来そうだ」

衣(風越の4番。衣が試合に入ってからずっと衣の事を『観察』している)

衣(それで何の効果があるのか分からないが…衣の動きを見ても微塵も揺れないその精神は驚嘆に値するぞ)

優希「強いじぇ!龍門渕…!完全に流れを持って行ったじょ」

まこ「もはや二翻シュート一発で逆転圏内。しかも龍門渕は南親」

かじゅ「前半で必死に作ったリードを東場だけで消し去られたんだ、風越のショックは相当なものだろう」

ワハハ「もう殆ど決ま「まだよ」

久「まだ風越の目は…美穂子の目は死んでいない」


福路「皆大丈夫。浮き足立つ必要は無いわ」

文堂「で、でもキャプテン!天江衣をどうすれば…」

福路「天江さんが魔物である事は分かっていた事。そして私達はそれに勝つ為に一年間頑張って来た」

福路「努力の量なら絶対に私達風越女子がNo1です。それは決して嘘を吐かない」

福路「私達が勝つ」

福路「皆自分を…そして、私を信じて」じっ

4人「―――っ!!」

4人「はいっ!信じてますキャプテン!」

福路「ありがとう。それじゃあ南場の作戦を説明するわね。まず、天江さんは…」

福路「――――私が止めます」

今日はここまでー。まぁ自演だったんですけどね

準決勝第二試合後半戦の南場の開始時の得点は

龍門渕 169400 - 171300 風越

僅か1900。麻雀においては無いも同然の得点差

東場における龍門渕の圧倒的な火力を思えば、南一局早々に逆転され、差はそこから広がる一方だと誰もが思っていた

審判「ファール!オフェンスチャージング!白10番!」

衣(10番)(コイツ…今のを故意にやってのけたと言うのか!)

福路「ふふふ…」

しかし風越は健闘した。全員がクラッチタイムまで隠していた奥の手を披露して

長野No1ポイントガードの福路美穂子がそれを存分に活かす

個人の技量で劣っていようとも、チーム力で、練習量でそれを覆す事が出来る。そう言わんばかりの気迫溢れるプレーだった

文堂(校内ランキングを78位から5位まで上げる間――どんな打ち方をして来た!?)

文堂(この状況で退く様な打ち方はしていない!)ガバッ! ビッ!

「突っ込んで行ったーー!!」「風越一年文堂!!」「外しはしたものの気合い入ってるぜ!」


池田「スクリーンだしっ!」ガッ

未春(華菜ちゃんはずっと私の居残り練習に付き合ってくれた…)

未春(私に才能なんか無いけど、シューターに一番大事なものはちゃんと持ってる!) パサッ!


ドム(インサイドは戦場…!私が体を張って風越のゴールを守る!)

ドム(このデカい体はその為にあるんだ!)ガッ ガッ バシィッ!!

久保(そうだお前達ぁ!私がコーチに就任してからこのチームが一番練習した。一番キツかったハズだぁ)

久保(それは全てこの為!龍門渕をぶっ倒す為だあっ!!!)


福路(ドリブルのクセと視線移動から考えると…)

福路「ここっ!」ビッ!

透華「なぁっ!?」

「おおおおっ!!福路のインターセプトっ!!」「拾った池田がそのままダンクぶちこんだ!」「風越逆転許さずーーーーっ!!!」

取って取られてを繰り返しながら、風越は南二局が終了してもその僅かな点差を死守し続けた

一「南場に入ってからの風越はリスクの高いプレーを選択し続けてるのに、それが悉くハマってるね」

透華「想いの強さ故ですわね」

透華「それ程わたくし達に勝つ事を渇望してるんですのよ。フフッ燃えますわ!」ボッ!

衣「行くぞ!」

 ダムッ! ギュルルルルッ ビッ!

福路「はあああああっ!」チッ

衣「なっ!」

        クルクルクルクル ポトッ

ドム「らあっ!!」 バシッ!

「天江のシュートが落ちたーー!!」「リバウンドは風越!!」「福路無双ーーーっ!!」


衣「まさか触れるとはな…」

衣「だが良いのか?体はもう随分悲鳴をあげている様だが…」

福路「はぁっはぁっ…負けません。私には伝統ある風越女子高校のキャプテンの責務と」

福路「80人の部員全員の想いが乗っている!」

福路「こんな私に着いて来てくれる仲間の為になら、限界なんていくらでも越えてみせます」キッ!

衣「―――っ!」

衣「仲間……」ボソッ

衣「…………」ウツムキ

透華(衣…?)


池田(やっぱりキャプテンは凄いし!最高だし!キャプテンさえ居ればウチが負ける訳無い!)ニュフフ

衣「そこの。何をニヤついている。まさかまだ衣達に勝てるとでも思ってるのか?」

池田「あん?何言ってんだ?」

池田「今勝ってるのはウチだ。それに今ブロックされた奴が舐めた口利くんじゃないし!」

衣「一人に多大なる負担を背負わせる事を代償に、な」

池田「!」

衣「たしかにお前達の主将は人の子にしてはなかなかのものを持っている。が、それだけだ」

衣「後の4人。残りのお前達は全くの問題外。足手纏いだ」

池田「な………!!」

衣「それはお前が一番良く分かっているだろう?さっきまで衣のマッチアップはお前だった」

衣「しかし全く止める事が出来ず、仕方なく主将が疲れた体に鞭を打って衣の相手をする羽目となった」

池田「止めろ…」

衣「それである程度衣に対抗している事は称賛に値するが、あの様子ではいつまで持つか…」

衣「同情するよ。本来はもっと高みへ行く事が出来るのに、烏合の衆に足を掴まれて羽ばたく事が叶わない」

池田「止めろ…!」

衣「尤も、自業自得だがな。その程度の兵しか集まらず、作れなかったのは将の器が足りないという事だ」

     ブチッ

衣「あえて孤軍奮闘を見せ、相対的に自分の評価を高めようという作戦なら分からなくもな――


池田「止めろしっ!!!!!」


衣「…………」フン

福路(華菜…?)クルッ

池田「それ以上キャプテンの…風越の事を馬鹿にしたら……」

池田「ブチ殺す……!」ギラリッ

衣「少しはマシな顔になった様だな。だが、吠えるなら言葉でなくプレーで見せてみろ」

衣「一度でもお前が衣からボールを奪う事が出来れば、前言は間違いだったといくらでも頭を垂れてやるさ」

池田「……絶対だぞ」


純「…何だ?あの猫娘。試合中にいきなり怒鳴り出すなんてよ」

智紀「位置的に衣が何か怒らせる様な事を言った可能性大…」

純「何でまた。さっきまで珍しく上機嫌で打ってたってのに」

透華「……………」


福路「華菜?大丈夫?ここは落ち着いて冷静に…」

池田「大丈夫ですよキャプテン。私は冷静です」

池田「見てて下さいね。キャプテンばかりに重荷は背負わせはしませんから…!」グッ

福路「…………!」

福路(何だか嫌な流れを感じる…)

福路(華菜は熱くなっている時の方が大胆な良いプレーをするから、あの表情は悪いコトじゃないハズなのに…)

福路(………どうして?)

福路(どうして天江さんはわざわざ華菜を怒らせる様な真似を…)


天江衣の一見不可解な行動の意味。その狙いは直後、これ以上無く明確な形で示される事となった


      「テクニカルファウル!!風越(あお)7番!!」


池田「なっ………」


「わあああああああっ!!」「テクニカルとられたっ!!」「池田退場だあーーーーっ!!!!」

ざわざわざわざわ… どよどよどよどよ…

優希「イケダの奴やっちまったじぇ」

和「審判とケンカして退場なんて愚の骨頂です」

まこ「焦ってしまったんかのう?」

咲(……………)


池田『舐めるんじゃないしっ!!!』バッ

福路『華菜!駄目!!!』

衣『…………』ニヤッ


咲の脳裏に残るのは、先の一瞬に見た天江衣の悪魔の様な笑顔。

咲(…絶妙なスピードコントロール。池田さんにギリギリ届くと思わせる位置から)

咲(急加速と急停止で、自らの腕に『触れさせた』)

咲(審判の位置を考えれば、池田さんのファウルと取られても仕方ない)

咲(当然狙ってやったんだろうけど…神技としか言い様が無いよ)ゾクッ

池田「違う……違うし………」ウツロ

久保「池田アアアアアアッ!!!ボケっと突っ立ってねえでさっさとベンチに帰って来やがれ!!」

池田「コーチ………はい」ヨロヨロ…

福路「華菜………」


純「流石にあの人も掛ける言葉が見つかんねえみたいだな」

一「まぁそりゃあねぇ…」

透華「相手に同情してる余裕なんてございませんわよ」

透華「死に物狂いで最後の抵抗をする獣をしっかりと仕留めて、勝利の華を飾りますわ!」

一「OK、透華」

智紀「…了解。たしかに油断は禁物」

純「退場した7番の分まで~ってヤツか。一応代えの選手も警戒しとかねえとな」

透華(…とは言ってみたものの、実質はここで勝負は決まった様なものですわね)

衣「見ろ透華。風越の士気は明らかに落ちた。衣の狙い通りだ」

衣「ただ誘って退場にさせるだけでは芸が無いと思って趣向を凝らしてみたが、面白い様に嵌まってくれたよ」ニヤリ

衣「―――後は絶望を見せつけるだけだ」ザッ

透華(…狙い通り。本当にこれが狙い通りなんですの?衣)


透華「…そんな沈んだ顔で言ったって、説得力ありませんわ」ボソッ


       パサッ 

「フリースローも二本とも決めた!!」「これで遂に龍門渕が逆転したぞっ!」「残り4分半!池田抜きで戦えんのか風越っ!?」

風越最大のスコアラーである池田を失った意味はあまりにも大きく

士気が落ちた隙を突いて、龍門渕が一気に突き離しにかかる

透華「会場中の視線を釘付けですわっ!」 ビシュッ

         バスッ!!

「龍門渕透華のスリィが遂に決まったー!!」「12000!これは痛過ぎる!」「これで勝負は決まったか――!?」

福路「はぁっはぁっ……」ゼェゼェ 

福路「諦めない…風越は貴方達に勝つ為に……」

久「…………」ギュッ!

既に後半様に残していたタネも出し尽くし、全員体力も限界を越えている

完全に風越の勝機は潰えたと誰もが思う状況で、風越の部員は福路に視線を送る

(それでもキャプテンなら…キャプテンならきっとなんとかしてくれる!)

その期待を肌で感じ、それに応えんと福路が最後の力を振り絞る。が

         バシッ!

福路「!!!」

福路(あの位置から届くなんて…!)ガクゼン

衣「悪いな」ダムダムダムダム  ビシュッ!!

       バシュッ!

「決まったああああ!!」「天江のパスカットからの速攻!」「福路のパスが奪われるトコ始めて見たぜ!」

天江衣はその上を行き、淡い希望を絶対的な強さで押し潰した

南四局 残り時間11秒

池田「まだ終わって無い!!!声出せお前達ーー!!」ボロボロ

「ディーフェンス!!」「ディーフェンス!!」「キャプテンーーッ!!」

福路「はぁっ…まだ時間は……諦めない…」ゼェゼェ キュッキュッ

衣「…衣と戦って、最後までそんな目をしていたヒトの子は初めてだ」ダムダム

衣「それに敬意を表して、衣のとっておきを見せてやろう」ダダムッ スッ

咲「!天江さんが後ろに下がった!」

和「何をする気でしょう…?」 

衣「リーチ」ぐぐぐぐぐっ

          ビシュッ!!!

天江衣の全身が、天井に届かんばかりの高さのシュートを放つ

そのシュートはゆっくりと大きな弧を描き、その間に針は時を刻み続ける


衣「――――海底撈月」


         ビーーーーー!!! ザシュッ!!!


試合終了を示すブザーが鳴り響くと同時に、その月は円環の中心を潜り抜けた

           龍門渕 238400 - 201800 風越

人生初社畜に苦しんでる間に随分間が空いてしまいスミマセンでした
これからは出来るだけコンスタントに更新しようと思うので、まだ追ってくれている人が居ればお付き合い頂けると嬉しいです

 
       ザシュッ!!!

福路(――ごめんなさい、上埜さん)

福路(約束…果たす事が出来ませんでした)ポロポロ


「ブザービーターだあああっ!!!」「龍門渕強えええええっ!!」「こりゃ今年は全国制覇も有り得るぜええ!!」

大熱戦の勝者の決定に湧く観客席の中で、静まりかえる一角があった。

優希「3時間後にはコイツ達と戦わなきゃいけないのか…」ずーん

久「強い強いと聞いてはいたけど、ここまでとはね…」

まこ「麻雀で勝負しといた方が実力差は無かったかもしれんのう」アセ

ワハハ「でも清澄も練習試合で風越に勝った事あるんだろ?どうやって勝ったんだ?」ワハハ

久「私達が勝ったのとは全く別物よ。あの時この風越と戦ってればオーラスまで戦えたのかも怪しいわ」

まこ「今じゃって勝てる自信は無いがのう…」

和「…でも、私達が全国に行くにはその風越に勝った龍門渕を倒さなければいけません」

和「臆してる場合じゃありませんよ。ね、宮永さん!…あれ?宮永さんは?」キョロキョロ

優希「風に当たりたいって行ってさっき外に行ってたじぇ~」

咲「…………」ジッ

和「宮永さんっ」タタタッ

咲「!原村さん」

和「…何をしていたんですか?こんな所で」

咲「ん…ちょっと空を見ながら、気持ちを落ち着かせてたんだ」

和「気持ちを落ち着かせる?」

咲「天江衣さん。あと3時間したらあの人と戦う事になると思ったら…」

和(まさか宮永さんも龍門渕の強さに怯えて…)


咲「―――ワクワクが止まらなくて」ゴッ!!!!!


和「!」ビクッ

咲「見てて思ったんだよね。あの人の強さはどこかお姉ちゃんに通じる所がある」

咲「それに勝つ事が出来れば…近付けるかもしれない。お姉ちゃんの事が解かるかもしれない」

咲「単純に自分の力を試してみたいっていうのもあるけどね」アハハ

和(……やっぱり、宮永さんは凄いです)

和(この人と一緒なら、私は―――)

和「勝つ事が出来れば、じゃないですよ。私達は絶対に勝って全国へ行くんですから」

咲「ふふっそうだね。頑張ろ、原村さん!」ギュッ


衣「………?」

透華「どうしましたの?衣」

衣「何か強大な気配が……。いや、何でも無い」


全国高校生麻雀大会・長野地区予選決勝戦
二人の魔物が邂逅を果たした、後世に語り継がれる激戦まで――後3時間。

そして、その時は訪れた。

審判「それでは!ただいまより全国高校生麻雀大会・長野県予選決勝戦」

審判「清澄高校対龍門渕高校の試合を始めます!互いに礼!」

皆「よろしくお願いします!!」


清澄高校スタメン
PG片岡優希(7) SG染谷まこ(5) PF宮永咲(10) SF原村和(9) C竹井久(4)

龍門渕高校スタメン
PG井上純(6) SG国広一(8) PF沢村智紀(9) SF天江衣(10) C龍門渕透華(4)

()内は背番号

東親:清澄 南親:龍門渕


審判「両者ジャンパーは前に出て」

咲「はい」

純「うっす」

審判「TiP OFF!」バッ!

 
      バチッ!

純「ちぃっ!」

咲「…………」スタッ

一「うっわ。あの身長差で純君が競り負けるなんて…」

優希「流石だじぇ咲ちゃん!」パシッ ダムッ!

智紀(!速っ…)

優希「挨拶代わりだじょ!」シュッ バスッ!

清澄 12000 ― 0 龍門渕


「先制は清澄――!!」「いきなり親満プレイだ!」「やっぱ片岡のスピードは凄えよ!」

純「フン。取られたら取り返しゃ良いんだよ」ダムダム ビッ!

一「そういう事だね。衣っ」シュッ!

衣「あぁ」ダムッ! 

       クルッ ビシュッ!

和(速い!本当に全ての動きの敏捷性がこの人は並外れてる!)

衣「!」

         バンッ!

咲「けど、低いですよ」スタッ

「うおおおおっ!!」「天江のシュートを上から叩き落とした!」「清澄の10番!!相変わらず何て高さだ!」

一「こぼれ球貰いっ!」シュッ!

咲が叩き落としたボールを一が拾い、そのままシュートを打つ。が、リングに嫌われボールは跳ね上がる

智紀(リバウンド…)ダンッ!

久「させないわ!」ダンッ!

インサイドの二人が跳躍し、ボールを奪い合う

        ガシッ!

智紀「な…っ!」

「取ったのはまた10番だ!!」「何か無理矢理もぎ取ったぞ!」「頭一つ分は高さが違え!」

咲「速攻っ!」ビュッ!

まこ「オーケーじゃ!」シュッ! パサッ

清澄 15000 - 0 龍門渕

久「ナイスまこっ!」

和「宮永さんも凄いです!」

咲「うん…」フー

和(!何て集中力…これが宮永さんの本気!)

「お、おい。これもしかして清澄行けるんじゃね?」

「いやいや、それは早計過ぎんだろ。さっきの龍門渕と風越の試合見たろ?」

「天江が後半しか出て無いのにアレだったんだから、フルで出たらもっと…」

「分かるけどさ。あの清澄の10番見てたら何か…」

咲「…………」じっ

  タタタッ

衣「…………ほう」ニヤリ

~試合開始二時間前・龍門渕~

透華「なぁっ!?決勝も後半しか出ない!?」

衣「あぁ。出来れば後半も出たくない位だ」

衣「折角骨のあるヒトの子と戦えて興が乗ったのに、萎えたくは無い。ではな」タタタタッ

透華「お、お待ちなさいっ!」タタタッ!

一「あーあ。行っちゃった」

純「相変わらずウチのお姫様は我が儘だねぇ」

一「でも決勝も後半だけかぁ。大丈夫かな?清澄の実力が風越に劣るとは思えないし」

純「心配無いだろ。試合が始まる頃には完全に夜になってるし…それに、今日は満月だ」

一「!…そうだね。それを思えば後半だけでも清澄が気の毒になってくるよ」アハハ

透華「全く…なんてすばしっこいんですの…」ゼーゼー

智紀「お疲れ様」

衣「…………」

ハギヨシ「こんな所に居られましたか、衣様」

衣「ハギヨシ…」

ハギヨシ「…何を考えておられたんですか?」

衣「なに、さっきの試合の事を少しな」

衣「久しぶりに…少しだけ楽しいと思える試合だった」

衣「衣の力を見ても諦めず、最後まで食らい付く気概を持った女だった。…しかし」

福路『こんな私に着いて来てくれる仲間の為になら、限界なんていくらでも越えてみせます』

衣「……………」

衣「衣はその想いを叩き潰した。最後にはあの女も絶望を…世界の終焉を見る様な顔をしていた」

衣「衣と麻雀を打った者はいつもそうだ。誰も衣と楽しさを共有する事は出来ない」

衣「衣に勝てるのは、衣だけだ」

ハギヨシ「…………」

衣「決勝の相手は無名校なのだろう?そんなものきっと退屈しのぎにもならないよ」

       「いえ…そうでもないかもしれません」

衣「!」ピクン

衣「本気で言ってるのか?」

ハギヨシ「恐れながら…。清澄には、或いは衣様でも苦戦を強いられるかもしれない素質を持つ者が一人居ます」

衣「そうか…居るのか。妖異幻怪の気形が…!」ニヤリ

衣「よし!戻るぞハギヨシ!其を玩弄して打ち毀す!」ゴォッ!!!!!

衣(そう言って戻って、開始から出る事にしたものの)

衣(正直半分も信じては居なかったが…清澄の10番。これはなかなかどうして…)

咲「はぁっ!!」 ズバアアアアン!!!

アナ「清澄の宮永選手が止まらない!嶺上開花で差を更に引き離しにかかります!」

藤田「準決勝で手を抜いていたという事でも無いだろうが…ここまでの素質を持っていたとはな」

藤田(それでも、天江衣には到底及ばないだろうが…)

衣「純。衣にボールを渡せ」

純「おぉ」シュッ

衣「…………」ダム…ダム

和(?隙だらけじゃ…)スッ!

衣「おっと」ヒョイッ クルッ ダムッ

和「くっ!………?」

和(攻めて…来ない?今の隙があればこの人なら軽く…)

衣「フフフ……」ダムダム

久(全く攻め気が見られない。…何を考えているの?)

その後も衣はボールを奪われこそしないものの、抜きにも行かず、ただその場でドリブルを続けた

かじゅ(何のつもりだ…もう少しで※24秒経つぞ?)

※麻雀はボールをフロントコートに運んでから24秒以内に和了らなければボールが相手に移る

優希「あと3秒!のどちゃんナイスディフェンスだじぇ!」

和(違う…。天江さんはただ時間稼ぎをしていただけ。一体何の為に?)

衣「そろそろだな」バッ!

かじゅ「!天江がバックステップ!」

福路「まさかこれは…!」

衣「…………」ぐぐぐぐっ ビシュッ!!!


咲(!高いループシュート…!これは準決勝の最後で見せた…!)


          ザシュッ!!!


衣「――――海底撈月」

「き、決まったーー!!」「時間はっ!?」「ギリギリ間に合ってる!」「まさか海底を狙ってたってのか!?」


透華「ファイナルスローでゴールを決めると役が付く」

一「衣の得意技だね」

えぇと…お待たせしてスミマセンデシタ。
書きたい場面もあって、待ってくれている人も居るので、後は頑張るだけですよね。頑張ります。

かじゅ「海底撈月…。やはり風越戦のラストで見せたあのシュートはマグレでは無かったんだな」ゴクリ

津山「よくあんな軌道でコントロール出来ますよね…」

かじゅ「あの滞空時間の長さは、相手に点数以上の精神的ダメージを与える。…厄介な技だ」


咲「…今回は随分早く見せてくれましたね」

衣「なに、お前の嶺上の礼だよ。清澄の嶺上使い」フフッ

衣「お前の様に高く跳ねる事は出来ないが…衣にはそんなもの必要無い」

衣「これが衣の『翼』だ。止められるものなら止めてみるが良い」ニヤッ

咲「…………」

和「させません!」バッ!

衣「残念。まだ刻は在る」ダダムッ ぐぐぐぐっ ビシュッ!!!

         ザシュッ!!!

「また海底だーーー!!!」「これで二連続!風越戦含めて三連続っ!!」「一気に龍門渕が差を詰めて来たぁー!!」


透華「流石は満月の衣。一切のブレ無く完璧に決めてみせましたわね」

一「別に満月の時しか使えない訳じゃないけど、満月の時に比べると精度は多少落ちちゃうもんね」

智紀「昼間でも十分全国トップレベルの選手だけど、満月の衣は更に桁が違う…」

純「でもそれにおんぶにだっこじゃつまらねえ」

純「そろそろ俺達も存在感出していくとすっか」ザッ

咲「…………」じっ

久「咲、どう?」

咲「…かなり難易度は高いですけど、止めるイメージは出来ました。でも…」チラッ

衣「…………」フフフ

咲「でも、それを試すのはちょっと先になりそうですね。必殺技だけあって、そう多用するつもりは無いみたいです」

咲「恐らくは、プレー自体もここからは仲間主体に一旦切り変えてくると思います」

久「…それは朗報なのかどうか何とも微妙な所ね」フゥ

久「でもトーンダウンしてくれるっていうならこっちも乗っておきましょ。咲も後半に備えて体力を温存しておく事」

咲「了解です」

久「この場は―――私達が引き受けるわ」

アナ「これで両校の点数はほぼ横並びになりましたね」

藤田「このまま龍門渕が一気に逆転…とはならんだろうがな。とりあえずは」

アナ「と言うと?」

藤田「この試合では珍しく最初から飛ばしていたが、基本的には天江はスロースターターだ」

藤田「それに、センスが圧倒的に図抜けてるとはいえあの体格。体力的な不安もあるだろうしな」

アナ「なるほど。天江選手がスタメンで試合に出るのはこの試合が初めてですしね」


かじゅ「清澄としては、天江が遊んでる内に少しでも点差を広げておきたい所だろうが…」

ワハハ「天江を抜いたって、龍門渕の四天王は十二分に強い。めんどくさい話だなー」ワハハ

モモ「風越の前半戦と違って、天江さんが卓に居るのは居るんすから余計に難易度高いっすよね」

かじゅ「…元々、風越の時とは全く違う試合展開になるだろうけどな」

久(ウチも龍門渕も完全に攻撃特化のチーム)

久(故にこれから行われるのは矛と矛のぶつかり合い)

久(より多く点を奪い合う。そういう勝負になるわね…!燃えるわっ!)ダムッ


純「風越の4番に比べりゃチョロ過ぎんぜっ!」ダムッ! シュッ バスッ

清澄 21900 - 23200 龍門渕

優希「その台詞そのままお見舞いするじょ!」ダダムッ! バッ! パサッ

清澄 29700 - 23200 龍門渕

まこ「キレーに和了らせて貰えんのなら、無理矢理ねじこむまでじゃ!」 フッ ビッ!

清澄 31700 - 23200 龍門渕

一「変則があるから、正攻法が生きるんだよね」タンッ シュッ! 

清澄 31700 - 31200 龍門渕

  
「点の取り合いになって来たぞ!」「どっちもラン&ガンでガンガン行ってる!殴り合いだ!」「この均衡はいつ崩れるんだ!?」


透華「原村和!どちらが真のアイドルかここでくっきりはっきりさせてみせましてよ!」ダムダム

和(なんでセンターがこんな位置に来て、私に迫って来るんでしょう…?)

透華「はっ!」ヒュッ ダダダムッ! ズバッ!!

和(!上手いっ…)

透華がフェイントを入れてからの、センターらしからぬ切れ味の鋭いドリブルで和の横を抜く

透華「どうですっ!」フフッ  バッ!(バックステップ) シュッ!

和(え?)

         ガンッ!

透華「ちっ!」

久「いただきっ♪」パシッ

が、抜いた後に何故かバックステップをしながら放ったシュートは枠に嫌われ、リバウンドを久が抑える事となった


純「なんで抜いてんのにわざわざ元に戻って打ってハズしてんだよ!それで点が上がる訳でもねーし!」

透華「う、うるさいですわね!意外性があって目立てると思ったんですわよ!」

和(…変な人ですけど、技術は確か。気を引き締めていけなければいけませんね)

アナ「原村選手の七対子が決まりました!清澄逆転!」

藤田「点が入る度にそれ(逆転)言ってる気がするな」ガツガツ


ワハハ「別にどちらも守備がザルという程では無いのに、よく一本も落とさずラリーが続くもんだなー」ワハハ

かじゅ「攻撃に秀でたチーム同士が、互いに攻撃に比重を傾けているからな。こうなるのは道理だ」

モモ「宮永さんと天江さんは互いに牽制しあってるのか、あんまりボールに絡もうとして来ないっすね」

睦月「こんなハイペースがいつまでも続くとは思えないけど…」

佳織「うーん麻雀ってホントに難しいです…。向こうの風越の人達はどう見てるんでしょう?」

かじゅ「!」

かじゅ(気付かなかったが、風越も観戦していたのか…。私が言うのも何だが、まだ傷も癒えて無いだろうに)フム

かじゅ(風越は練習試合で清澄と対戦経験もあると聞くし、戦力をどう分析しているのかはたしかに気になるな)

池田「止められないなら止めようとしない、か。また思い切った作戦に出たもんだし」

未春「こう割りきって来られると、私達でも止めるのはかなり苦労しそうだよね」

文堂「天江さんと宮永さんが消え気味とはいえ、どっちも他で十分得点を獲れる選手が揃ってますからね…」

池田「火力もトータルで見れば大体同じ程度で、マッチアップも拮抗してるとなると」

池田「この均衡はまだ当分は続きそうですね。キャプテン」

福路「…それは違うわ、華菜」

池田「え?」

福路「たしかに清澄と龍門渕の力は拮抗してるけど…ひとつ」


            「圧倒的に清澄が優っているポジションがあるわ」

 

福路「それは…「あ、分かるので別に言わなくていいです」


透華「いらっしゃいまし!」バッ

和(だからどうしてセンターが私のマークを…)

和「部長!」シュッ

久「オーケー!」パシッ


アナ「原村選手から竹井選手にパスが通りました!清澄はこのラインからの得点率が高いですね」

藤田「天江や宮永に比べれば派手さは無いが、安定感は高いな」ガツガツ


久「このまま一気にっ…。む!」

智紀(そう何本も決めさせる訳にはいかない…!)ババッ


未春「良いディフェンスですね。圧力で角度も消している」

ドム「…データによる読みがハマった時の彼女は厄介」

福路「―――でもそれは、上埜さんには通用しないわ」


久(このまま撃っても止められる。なら…)ぐっ

智紀(空中で体勢を変えた…。けど、角度は無い)

久「ていっ!」ピシュッ

智紀(そんな悪い体勢で無理矢理撃っても入る訳…)

体勢を崩しながら、右手一本で掬い投げる様にして放った久のシュートは

     ガッ! ガッガッガッ……パサッ

智紀「~~~!」

リング上を数回跳ねた後、転がる様にして輪を潜り抜けた

「おおおおおっ!」「ボードの裏から何か無理矢理入れたぞ!」「マグレだとしてもスゲー!!」


久「ふ~ラッキー。撃ってみるものね」

智紀(まさか今のを狙って…?衣じゃあるまいし…)

優希「ナイスシュート!さっすが部長だじぇ!」

和「あれで入るのが本当に不思議です」

久「ふふっありがとう」

久「今私、調子良いみたいだからガンガンボール回して頂戴ね」

まこ「ほう。言うた以上は責任は取ってもらうぞ?」ニヤリ

久「任せときなさいって。伊達にこの舞台をずっと待ち望んでやしないわ」ボッ!

和「…………」


~回想・県予選一回戦終了後~


和「部長、どういう事ですか?」

久「何の事かしら?」

和「さっきの試合、もっと楽に行ける場面でわざわざ難しい攻めを選択した場面が多く見られました」

和「それで打点が上がるという訳でも無いプレーでしたし…」

和「わざわざ悪い体勢からシュートを撃つなんて理解出来ません」

久「あれがおかしい撃ち方だっていうのは分かってるのよ?」

久「私も普段の練習では基本に忠実なプレーをしてるでしょ。和ほどじゃないけど」

和「じゃ、じゃあアレはなんなんですか。次の試合でもあんなプレーをされたら私も困りますよ」

久「私はなぜか大会だと楽なシュートを外しちゃう事が多くてね。悪い体勢の方が入れられる感じがするのよ」

和「大会って…。今回のルールの大会に出るのは部長も初めてなのでは?」

久「それはまぁ置いといて。麻雀でもそうだったからバスケでも似た様なものよ」フフッ

和「何にせよ、それはただの偶然です。一時的な調子のランダムの偏りを、流れとかジンクスだと思い込んで心縛られてるだけですっ!」

久「世の中色々な考え方の人間がいるわ」

久「あなたみたいに完全理論派で、運に頼らず何千球というスパンでのシュート成功率を上げようとする人も居れば」

久「『流れ』があると信じたり、来たボールに意味があると考える人もいる」

久「はたまた超能力めいた不思議なシュートを連発する怪物もいるわ」

和「そんなオカルトありえません」

久「私もホントは基本通りに攻めたいんだけど、和ほどフォームも綺麗じゃないし」

久「ここ一番って時には悪い攻めを選んじゃうのよ」

和「大事な試合だからこそ、その1球のシュート成功率を上げる為の、論理的な撃ち方をするべきなのでは…」

久「じゃああなたは…」


         「たった1回の人生も論理と計算ずくで生きていくの?」


和「そ、それとこれとは話が違いますし…」

和「小学校の先生とかお嫁さんとか色々なってはみたいですけど…じゃなくって!」

和「麻雀は一回きりじゃないですよ」

久「そうね…でも私にとって」

久「――インターハイは今年の夏一回きりなのよ」

和「っ!」

和(たしか、部長が清澄に入った時は麻雀部は廃部状態で)

和(部長が再建してからも人数は思うように増えず、大会に出場するのは部長も染谷先輩も今年が初めてだと聞きました)

和(高校三年目にして初めて迎える夏…。部長の心中はどの様なものなのでしょう)ゴクリ

久「だから今は、本当に楽しくて仕方無いわ」

久「ずっと待ち望んでいた舞台に、最高の仲間と一緒に挑む事が出来ている」

和「…………」

久「私は寝る前にいつも想像していたわ」

久「清澄が…県予選の決勝で、インターハイ出場を懸けて戦うところを。毎晩思い描いていた」


         「一年のときから、ずっとよ」


和「っ!部長…」

久「…ま、そんな訳で」コホン

久「納得してくれたかしら?」ニコッ

和「…やっぱり納得は出来ませんけど、部長の考えとお気持ちは分かりました」

久「ありがとう。…それにねぇ」

久「悪い体勢でシュートを撃って外す事があったら正統派にもなれるけど」

         久「いつも、決めちゃうのよね」


~回想終了~

和(未だに納得はしていませんが、結果を見れば部長の言ってる事は正しかったという他ありません)

和(全く、ホント厄介な人ですね)フゥ


久「カウンター行くわよ!」ダダダダダッ! キュッ! 

一「行かせない!」

     スッ バチッ

一(しまっ…手が当たっちゃった!)

ボールを支える久の右腕に一の手が当たり、審判がディフェンスファウルの笛を吹く

久「っ!とぉっ!」 ピシュッ

一(ブレた手でそのまま撃った?流石にこれは入る訳――)

       バンッ バスッ!

一「うそっ!?」

 
「うおおおお――っ!!」「ファウルもらいながらシュートも決めたぁっ!」「バスケットカウントワンスロー!!」

久「よっし!」グッ

一(なんだこの人―…。あんな雑なフォームで、しかも手をブレさせながら捻じ込むなんて…)

一(というかそれ以前に、あそこは普通仲間の到着を待つべき場面だし)

一(バカなのか。それとも――衣に近い生き物なのか――)

衣「…ほう」ニヤリ



審判「フリースロー!」

久「ここは慎重に…」ダムダム ビッ!

      ガンッ

久「ありゃ」アセ

和「なにやってるんですか!」ぷんすか

一(…やっぱりバカなのかな?)

藤田「…均衡が崩れて来たな」

アナ「フリースローを外しはしたものの、竹井選手がここに来てめざましい活躍を見せてますね」

アナ「これまでも高い実力を見せてはいましたが、正直な所ここまでの選手だとは…」

藤田「他の主将。福路や加治木に比べれば、清澄には他にエースが居る分、劣った印象を持たれていたかもしれないが」

藤田「竹井の実力はその二人に決して引けを取らない。特に―――」


久「ナーイスパスッ!!」パシッ

           ズバンッ!!!

「ダ、ダンクキターーーー!!!」「4番が原村のパスからのアリウーープゥゥゥ!!!」「なんであんなパスが取れるんだーー!?」


藤田「―――得点能力。ボールをゴールへ捻じ込む力は、図抜けている」

藤田「パスセンスやディフェンス能力。シュートエリアであの二人に劣っていたとしても」

藤田「それを補って余りある、アイツだけの武器だよ。あの意地汚さは」ニヤリ

アナ「鶴賀の部長は加治木ではなく蒲原ですけどね」

藤田「え…部長…マジで!?」


優希「ホント今の部長は神がかり的だじぇ!ノリにノってるじょ!」

久「フフッやーねえ実力よ実力」フフッ

原村「…私がパスミスをした様に思われてしまうのが気に入りませんが」ムゥ

咲「シュートが決まれば全部ナイスパスだよ。和ちゃん」ポンッ

久「さっこの調子で鬼が寝ている間にガンガンリードを広げていくわよ!」タタタッ

まこ「…………」

まこ(…なんじゃ、この胸騒ぎは)

まこ(今はたしかに、全てが上手くいっとる。咲を温存しながらリードを広げられとるし)

まこ(特にマッチアップで劣る所がある訳でも無い)

まこ(特に久は、ずっと待ち望んでいた、『全国への切符を懸けた決勝戦』だけあって)

まこ(ワシでも見た事の無い程、技がキレとる。正直あのメガネじゃ相手にならんじゃろ)


久(簡単には打たせない!)ババッ!

智紀「くっ……ゴメン、戻す」ビッ


まこ(今の久が居れば、天江が本気を出して来たとしても十分戦える筈)

まこ(不安要素は何も無いハズじゃのに…どうしてこうも)

まこ「―――危うい。と思うんじゃ…?」


まこの胸中に巣食うのは、全てが上手く行っている時特有の、黒くざわざわとした不安。そして、予感。

往々にしてこの世界は、その類の予感を杞憂で終わらせる事を許さない。


           「上埜さんッッッ!!!!」


顔面を蒼白にした福路の声が会場に轟いたのは

会場中を沸かせた久のアリウープから、僅か3分後の事だった。

つづく

久(体が軽い。視野も広がって、相手の動きがよく見える)

久(こんなに調子が良いのは初めてね。これが所謂ゾーンに入ったって状態なのかしら?)フフッ

久(多少強引だろうと―――外す気がしない!)ダダムッ!! バッ!

純「今度は直接体入れてきたか!舐められてんぞ智紀、ふっ飛ばしてやれ!」

智紀「うん…!」バッ!

         ドッ

二人の体が空中で接触し、審判の笛の音が鳴る。

和(ファウルで止めて来ましたか。あのフリースローを見られては当然でしょうね)ハァ

久(――とか和は思ってるんだろうけど、それならここから撃てば良いだけの話よ!)クッ…ビッ!!

久(よし、入っ――!?しまっ…)


      
       バスッ  ズン!

 
  

和(また体勢崩しながら無理矢理…。どれだけフリースロー撃つの嫌なんですか)

和(どちらにしても一本はありますけ――

           「上埜さんッッッ!!!!」

和「っ!?」クルッ

和「部長!?」


 ざわざわざわざわ…  どよどよどよどよ…

 「どうしたんだ?誰か倒れてるぞ?」「清澄の4番だ!足でも捻ったか?」「そういや着地がおかしかった気も…」


未春「ケガ…でしょうか?」

池田「どうだろ…。あれっキャプテンは?」キョロキョロ

アナ「リプレイを見てみましょう」

アナ「竹井選手と沢村選手が跳躍して…。あーこれは……」

藤田「竹井が着地した時に、沢村の足を踏んでしまっているな。この角度はマズい」

藤田「シュートに集中して、着地まで気が回らなかったんだろうが…皮肉なものだな」


優希「うわっ!すっごい腫れてるじょ部長!」アタフタ

久「あたた…。調子に乗り過ぎちゃったわね。調子が良かっただけに」アハハ…

まこ「そがあなこと言うとる場合か。とにかく一旦ベンチへ下がるぞ」スッ(肩を貸す)

和「手伝ます」スッ

久「…悪いわね」


一「ネンザかな…」

智紀「…………」

純「ともきーの所為じゃねえって。事故だ事故」ポンッ

  
   ピーーーーーーッ!!  「交代です!」
 
「ああーーーっ竹井交代だ!」「なんてことだ!!」「4番が居なけりゃ…」


モモ「…マズいっすね」

かじゅ「あぁ。他が抜けるのと竹井が抜けるのでは訳が違う」

ワハハ「あの人のリーダーシップはかなりのものだったからなー」

睦月「特にこの試合ではここまで大活躍でしたからね。精神的支柱の大黒柱が抜ける…清澄にとっては正に致命傷でしょう」

佳織「このざわめき…。会場中の誰もがそう思ってるんだろうね」

かじゅ「それともう一つ問題なのが…清澄に控えは居るのか?」


まこ「今戻ったけえ」

咲「早かったですね」

まこ「医務室に行く途中で、風越のキャプテンに会うたから任せて来た。あの人なら上手く処置してくれるじゃろ」

和「…………」

咲「和ちゃん、大丈夫?」

和「…ええ、大丈夫です。何でもありません」

優希「ふー。でもこれはなかなか厳しい状況になってしまったじぇ」

優希「まだ前半南二局なのに、4対5の戦いを強いられてしまうことになるとは…」

まこ「あぁ、そのことなんじゃが…

     「4対5?オイオイ、誰か忘れちゃいないか?」

優希「!」

声を発したのは、清澄高校麻雀部六人目の部員。

後に『幻の六人目(シックスマン)』と別に呼ばれる事の無い彼の、否。

彼女の名は、須賀京子。


京子「部長の抜けた穴は…この俺が埋めてみせる!!」


永遠に秘密の筈だった秘密兵器が、戦いの舞台へと上がる。

つづくのです。

京子「がふっ」

智紀(…この子は全く問題にならない)グイッ シュッ

       バスッ (清澄 124600-104400 龍門渕)

「龍門渕も10万に乗せて来たぞ!」「清澄の控えは全然駄目だ!ちょっとデカいだけのでくの棒!」「やはり竹井の抜けた穴はデカ過ぎる!!」

 
咲「ドンマイ、京ちゃん」

京子「ち、ちくしょう…俺中学の時バスケ部だったのに、手も足も出ねえ」ゼェゼェ

優希「京太…京子の雀力じゃ当然だじょ。気にすんな!」ぽんっ

和「しっかりと麻雀の練習をしないと、バスケの腕は上がらないという事ですよ」

京子(…釈然としねえ)ずーん

衣「全く、興の冷める事だな」ハァ

和「!」

衣「折角、味を見てやろうと思える相手が見つかったかと思ったら」

衣「触れるより前に勝手に崩れ、代わりに入ったのはただの木偶。天運に見放されたかの様に感じるよ」

咲「私じゃ満足して貰えませんか?」

衣「全く足りぬ。怯えを隠して虚勢を張る心意気は買うが、な」フフッ

咲「…………」

衣「何なら、ここで衣も下がってやろうか?歩が代わりに入れば少しは勝機が――「冗談でも」

和「冗談でもそんな事言わないで下さい!」キッ!

衣「…………」むっ

久『ヘマしちゃった。ゴメン、和』

久『私の留守中は、貴方に任せるわ。…お願い』

和(あんなに真剣で…辛そうな表情の部長は初めて見ました)

和(最後の大会に懸ける必死な想い。後輩の私が応えない訳にはいきません)

和「京子さん。…エトペンをお願いします」

透華(エトペン?)

京子「!おうっ」タタタッ


「ん…?なんだ、原村が何か持ってるぞ?」「あれは―――ペンギンの、ぬいぐるみ?」「なんでそんなもんを…」

和「…………」ポワワワワー

久『ヘマしちゃった。ゴメン、和』

久『私の留守中は、貴方に任せるわ。…お願い』

和(あんなに真剣で…辛そうな表情の部長は初めて見ました)

和(最後の大会に懸ける必死な想い。後輩の私が応えない訳にはいきません)

和「京子さん。…エトペンをお願いします」

透華(エトペン?)

京子「!おうっ」タタタッ


「ん?なんだあれ?」「どうした?」「いや原村が何か持ってて…。あれは―――」

         「――ペンギンの、ぬいぐるみ?」


和「…………」ポワワワワー

透華「っ!」ゾクッ!!

ミス
>>249は無かったことに

~清澄高校控室~

久「さ、美穂子。悪いけどここでテーピングしてくれる?もうガッチガチにお願いするわ」

福路「な、何を言ってるんですか上埜さん!まずは早く医務室に行って検査をしないと…」

久「…テーピングをお願い」

福路「上埜さん!ムチャですよこんなに腫れてるのにっ!さっきよりもどんどん腫れていってるのに試合なんて…」

久「美穂子」

福路「何と言われても駄目です!立てもしないのに何を言ってるんですか!」

福路「骨に異常があるかもしれないんですよ!?」


     「いいからテーピングよっ!!!」


福路「―――っ!」ビクッ

久「…ゴメンなさい。大声出したりして……」

久「貴方が心から心配してくれてるのは分かってるのに」ウツムキ

福路「い、いえ…」

久「でもね、美穂子。骨が折れてようが、二度と歩けなくなろうが、私は試合に出るわ」

福路「そんな…」ウルッ

久「だってこの試合は…私にとって最初で最後の」

久「やっと掴んだチャンスだから…!!」

福路「……………分かりました」

福路「上埜さんは頑固ですから、どうせ私が何を言っても聞いてくれないんでしょうし」プゥ

久「フフッ。拗ねない拗ねない。ゴメンね、美穂子」

福路「いいんです。上埜さんがそういうつもりなら…私は私で、全力を尽くしますから」ギュッ!

久「え」

福路「これでも少しはトレーナーの心得があるんです」

福路「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢して下さいね。いきますよ…」スッ

久「え、あ、いや。テ、テーピングだけで良かったんだけど……ひゃあああああああっ!!」

つづく

第46話(適当)「覚醒」
会場から聞こえる歓声を聞いて、久は腰砕けになりながら焦りの色を浮かべる。
しかしその歓声の発生源は原村和だった。
エトペンを持つ事によって覚醒した和は、スピードとキレの増したドライブと
ボールとエトペンを交互に、或いは同時につく変幻自在のドリブルを武器に、龍門渕を圧倒する。
(リードを保ったまま部長の帰りを待つ―!)強い決意の下に懸命のプレーを見せる和。
それを見て、天江衣が不気味に笑う。


第47話「惨劇」
残り時間1分を切った南四局。悲劇は起こる。
和のドリブルを完全に見切った衣が、ボールを奪うと同時にエトペンの片翼を引き千切った。
友人の、内臓を撒き散らした無惨な姿に大きなショックを受ける和。
その事に激昂した咲が、麻雀を再開して初めて本気のプレーを見せる。
しかし同じく全力を解放した天江衣は、それすらも圧倒する。
衝撃と戦慄。そして絶望に咲が打ち震える中、前半戦を終了するブザーが鳴り響く。
スコアボードはまだ僅かに清澄がリードしていたが、何の慰めにもならなかった。

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