上条「異常だよ。この街は」(192)

前に落としちゃったやつです。支援してくれた方、すいませんでした

投下します

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以前落とした、文章も誤字脱字なおして貼ります




「ひぃっ、やめてくれぇぇぇぇえ」

「やめるわけねえだろーが。屑野郎」

日も落ち、街灯も切れかかった裏路地に二人の少年がいる。
一人は顔をくしゃくしゃに歪めながら懇願する少年、もう一人はまるで悪魔のような笑みを浮かべながら
今に目の前の敵を殺そうとしている少年。

「わ、悪かったっ!! もうしないから見逃してくれぇぇ!!」

「おいおいおい、今まで散々やってきた奴がそんなこと言うのかよ。
 ハッ、笑えねーな」

「い、いやだっぁぁぁぁ!!」

悲痛な叫び声を上げながら逃げようとする少年を、慣れた手つきで捕まえ
首を強い力で掴む。

「……がっ……ぐがぁ……」

メキメキメキと鈍い音がする。首が締まっている音だ。
少年はその手を引き離そうともがくが、全て無意味に終わる。

「アハハハハッ、いい気味じゃねえーかッ!!」

「た…す……け……」

「今更、命乞いってか!? バカじゃねぇの!?」

「い………」

「ア゛ハハハハハッ!! じゃあな。化け物」

先ほどの音とは全く違う残虐な音が裏路地に響いた。



「早くスーパーに行かないとヤバイぞ!、特売が終わっちまうっ!!」

上条当麻は走っていた。普段の場合は特売などは事前にチェックして
遅れることのないようにしている上条であったが、今日は担任の小萌先生から
『上条ちゃんは休みばっかりなので補修でーす』と突然、学校が終わって帰宅しようと
するちょうど間際に言われ、遅くまで居残っていた為である。

「ちくしょう。これで間に合わなかったら小萌先生恨むぞ……」


苦学生の上条にとってはタイムセールを逃すのは致命的なのだ。
それもこれも暴飲暴食シスターの食費と度重なる入院でもともと少ない奨学金の
大半をもってかれ、いろいろと節約しないと生活が危うくなるという状態であるためだ。

「はぁ…はぁ……タイムセール終了まであと二十分だ。これなら間に合うか!?」

(頼む!! 間に合ってくれ!!)

お買い得商品はほとんど売り切れだろうが、他のものは少しぐらい残っているだろうと
上条は僅かな希望を抱きつつ大通りを駆け抜ける。

「あれは……」

しばらく進むと交差点に差し掛かると人だかりができていた。野次馬の向こう側には
大勢のアンチスキルやらジャッジメントが忙しなく動いているのが見える。金属臭い匂いが辺りを漂っている。

(何が起きたんだ?)

上条は足を止め、最後尾にいた野次馬の少年に尋ねる。










「何が起きたんだ?」

「また無能力者狩りさ。これで何件目だか……」

「嘘だろ……まだ日も落ちていないのに!?」

「……うん」

野次馬の少年は苦しそうにそう伝える。おそらくこの少年も
無能力者なのだろう。

「犯人は?」

残念そうに首を横に振った。その顔には悲痛が見て取れるほどだった。

「……そっか」

ここ最近、高位能力者による殺人事件が多発している。
被害者は無能力者や低能力者など低レベルの能力者ばかりだ。
手口も『大人数で奇襲』といった卑劣なもので多くの学生は殺されており
女学生に至っては強姦されてから殺されている。

被害は甚大。何人もの生徒が犠牲になっており、余りの酷さに
後処理をするアンチスキルやジャッジメントの中にも、気が触れてしまう者も多い。

そのため学園都市は完全下校時間を早め、夜間は外に出歩かないように注意を呼びかけ
アンチスキルを巡回させるなどの対策をとっている。
しかし、いつもきまって目撃者がいないので、捜査は難航。犯人の一人も捕まってはいない。





「現場みた?」

野次馬の少年が苦痛な声のまま質問する

「いや……」

「現場を見てみなよ。本当に非道いから……何でこんなことできるんだろうって思うよ」

上条は目を向ける。さっきの野次馬がまだ群がっているが誰ひとり声を上げていない。
無音の空間の中にアンチスキルたちの指示しか響いていない。

「……っ」

上条は群れを掻き分け先頭に出る。その光景は最悪なものだった。

「何だよ……これ…」

交差点の中心は爆弾で吹き飛ばされたかのように抉れ、信号機は針金のようにグニャグニャに変形しており
地面にはバラバラになった看板やアスファルトで覆われている。車数台が何かの能力だろうか、不自然にペシャンコに潰れている。

それだけならまだいい、時間をかければ元に戻せる。しかしこの羅列したもの全部に塗り固められている赤黒いものや
ピンク色のモノは元に戻せない。

上条は地獄を見ている。耳に響くのは呻き声や泣き叫ぶ声。鉄の匂いが鼻に嫌というほど鼻につき、取れない。
地面にはすごく濃い赤い影や虫がたかっている腕、細長い腸のようなモノがブツ切れに散らばっている。
そして首や体やらがありえない方向に曲がっているモノが横たわっている。

視覚からの衝撃が余りにも強く、瞳を強く刺激する。






「うっ……」

胃が逆流するのを感じ、力強く口を抑える。顔は青ざめ、目の焦点が合わない。筋肉が不自然に振動し、体全体が震える。
目からは涙が自然と溢れてしまい、体を支えられず膝をつく。


野次馬の生徒もそうだった。泣き崩れている者もいれば、呆然と立ち尽くす者
この場にいる全員が、この地獄の光景に戦慄し恐怖している。
言葉を発することも体を動かすこともできない。

アンチスキルやジャッジメントが生徒だったモノの隣で生き残った生徒たちを懸命に治療している。
被っている生徒の顔は皆、痛みと恐怖に支配されボロボロになっている。

(どうしてこんなことができんだよ…なんで……なんで……)

理解できない。地に膝を着き、口を抑えながらそう思う。
なぜこんなことができるのか、どんなに考えても理解できない。




(異常だ……異常すぎる……)



(どうして……どうして…どうして、どうしてッ!!)




          「あっ」




上条は僅かながら理解した。どうして奴らがこんなことできるのか。




  




そうか   








       奴らは――――――――









          化け物なんだ







日は落ちかけて夜はもう近い。上条は帰路に就いていた。その足取りは弱々しく遅い、俯きながら帰るその様子は
同情を買うだろう。

「……」

先ほどの光景を思い出す。未だにあの圧倒的な赤が目にこびり着いて消えない。

あの鉄の匂いが鼻を掠める。
他のもっと楽しいことを考えようとするが、その度にあの地獄が頭をちらつく。
それぐらい衝撃が大きかった。

「もうダメだ、ダメだ。こんな姿インデックスに見せられねーよ
 こういうのは上条さんらしくないですのことよ!!」

頭を強く振って、威勢良く言ってみる。あの悪夢を振り払うがごとく。
周りにいる学生たちがチラリと怪訝そうに見る。

「……っ」

また頭を過ぎる。あのピンク色のモノや悲鳴が。
あの空気が。あの状況が。ハンマーで後頭部を殴られたかのような感覚が走る。

衝撃的だった。

「……しばらく飯は食えないな」

乾いた声でハハッと笑う。心の中で『タイムセールにも行けなかったし』と自虐を付け加える。





「……」

笑えない。むしろ虚しくなる。あの人たちは行きたい所にも行けずに死んだのだろう。
まだ碌に人生も過ごしていないのに。やりたいことだってたくさん有ったはずだ。
もっと遊びたかったはずだ。もっと勉強したかったはずだ。もっと寝たかったはずだ。
もっと……もっと……

「……くそッ」

小さい声で呟く。誰にも聞こえない声で、自分だけにしか聞こえない声で。
上条の心の中にはいろんな感情が渦を巻いている。怒りや悲しみや恐怖や苦しみや嫌悪。
たくさんの感情が行き場をなくして上条の体を巡っている。

(化け物)

あの時浮かんだ言葉。あの惨劇を起こした奴らは化け物だと上条は思う。
人の皮をかぶった化け物なんだとそう思った。あれを見て何も思わない奴らだと。
最低な奴等なんだと。

それに相応しい能力も持っているし――――――――

ゾクッゾクッゾクッと上条の背筋に悪寒が走った。
バッと身を翻して上条は辺りを見渡す。





「にゃ、にゃあ?!」

素っ頓狂な声を上げながら少女が尻餅をついた。
後ろを振り向いた先にいたのは綺麗な茶髪で常盤台中学校のブレザーを着た少女だった。

「み、御坂!? どうしたんだ?」

結構、派手についていたので痛そうだなと思いながらも
上条は手を差し出し、少女を立たせながら聞く。

「いたたた……」

「大丈夫か? 御坂」

「うん……大丈夫よ、ありがと」

若干、顔を赤くしながら礼を言う常盤台の超電磁砲こと御坂美琴に
微熱でもあるのかと思いながら上条は尋ねる。

「もう一度言うけど、御坂はどうしたんだ?こんな時間に
 あと顔赤いけど熱でもあるのか?」

そう言いながら上条は自分の額を御坂の額に合わせる。





「ね、ねつなんてないわよぉ///」」

「本当か?更に上がった感じしたんだか?」

「ほほほほんとうにないからぁ/// だ、だいじょーぶよぉ///」

「そっか、ならいいんだが」

顔から湯気が出ている御坂の言葉に従いとりあえず上条は額を離す。
御坂はというと深呼吸して呼吸を整えている。その様子を上条は
本当は病気じゃないのかと有らぬ心配をしている。

「とりあえず御坂がここにいる理由を聞きたいんだが……
 帰り道は逆だろ」

深呼吸が終わったのを見計らって上条は聞いてみる。

「アンタのせいよ!!」

「上条さんのせい……?」

上条は自分の行動を思い返す。

(あれ? 俺、今日なんか御坂にしたっけ?
 いや、してないだろ。今、初めて会ったんだし……)





「とぼけんなっ!!いくら呼んでも反応ないし仕方ないから
 気づかせようと近づいたらアンタが私を脅かしたんじゃないのよ!!」

御坂が大声を上げながら攻め立てるが、当然上条には、
そんな怒られるような覚えが無い。が自分を呼んでいたらしいので
聞き返す。

「へっ…? じゃあ、後ろにいた?」

「『へっ…』じゃないわよ!!馬鹿にしてんのアンタ、いたわよ」

どうやらいたらしいが、全く覚えが無い。

「馬鹿にはしてないけど、えっーと…御坂サンはその…いつからいたんでしょーか……?」

右手で頬を掻きながら上条は聞いてみる。歩きながら結構独り言を言っていたので
他人ならまだしも知り合いに聞かれていたら恥ずかしいのだ。

「アンタが『もうダメだ、ダメだ――――』って一人で言っている時からいたわよ
 インデックスって何?人?」

「え……?」

(は、恥ずかしすぎる。やっちまったぁぁああ!!)

上条は恥ずかしさにワナワナと震える。顔が真っ赤になりそうだったので俯いて隠す。

「どうしたの?プルプル震えて?」

(よりにもよってコイツの前でぇぇぇぇぇぇぇえええ!!)

「どうしたのよ? アンタ、大丈夫?}

御坂が心配そうに聞く。その問に上条は答えない。
ただ思いっきり深呼吸して















「不幸だぁぁっぁあああぁぁああああ!!」









上条の嘆きとも叫びともいえる声が道路に響き渡った。
















「ほらっこれ飲みなさい。私のお気に入りだから」

「さんきゅ」

ポイと渡されたアルミ缶を上条は慌てて取る。ヤシの実サイダーというものらしい。
一口飲んで口から離す。

「やっぱおいしーわ、これ」

「悪いな。なんか、奢ってもらっちゃって」

「良いわよ。貧乏人から金せびる趣味ないし」

「言い返せねぇ……」

上条たちは公園に来ていた。なんでも御坂が話をしたいらしく立ち話もナンだということで
ここに来たのだ。しかし完全下校時刻が近いので長居は出来ない。

「で、御坂は俺になんの用だよ」

上条は御坂に聞く。言葉は悪いが何度無視(気づかなかっただけだが)されても話したい
理由があるらしい。

上条はどうせまたろくでもないことだろと思って聞いたのだが
御坂の態度がそういうものではない気づく。
 
「……」

「どうした? 御坂」

「アンタさ。体調悪い?」

突然の内容に若干うろたえながらも上条は答える。

「い、いや、ぜんぜん」

「ウソでしょ」

真剣な眼差しでそう聞かれて上条はたじろぐ。
いつものフザけた感じはない。とても真剣だった。







「さっき、足フラフラだったわよ。顔色もすごく悪かった。それも体調不良とか
 そういうのじゃなくて何か悪いものでも見てそうなったって感じだった」

「どうしたの?」

「……」

別に御坂にいうことはダメということじゃない。別に上条自身はあの事件に関わっていないし
野次馬として見たというだけだから。あのことに関して言えない秘密なんかないし、存在しない。
勝手に事件現場をみて、勝手に衝撃を受けただけだ。

ただあの光景を思い出すのが嫌なのだ。
口に出せば、あの現場を鮮明に、嫌でも脳に浮かぶからだ。

「御坂と話したら少し楽になったから言うよ」

しかし上条が言ったことも事実だ。御坂と話していたら気分が良くなった。
このまま言わなかったら、御坂はずっと心配するだろうしいったほうが良い。


「無能力者狩りの現場を見ちゃったんだよ
 発見者とかじゃなく野次馬として」

御坂は一瞬目を見開き、そして目を伏せた。

「……そう」

「黒子も今、そんな感じよ。ジャッジメントで沢山の死を見てグロッキーになっちゃって
 今も病院で療養中だわ……」

「白井が……?」

白井がそんな風になっているところなんて想像できないが、
そうなってしまうのも仕方が無いと上条は思う。

「……うん」

目を伏せながら御坂は言う。
その顔は泣き顔とも取れるような見てるほうも辛くなるような表情だった。

白井と御坂は仲が良かった。友達が精神をおかしくしてしまったなんてことは
そう簡単に割り切れるものではないし、物凄く悲しいことだろう。






「私も見ちゃったわ、今日のもだけど他の日のも
 最低だけど慣れちゃったわ」

御坂が沈痛な表情をする。唇を噛み締め拳を握っている。
悪魔のようなあの実験の中心いた御坂は許せないのだろう。
残虐性、理不尽さの点において似ているところが多いから。

お互いに沈黙する。公園には二人以外誰もいないので
風の音しか響かない。

交差点の惨劇が上条の頭を掠める。

「……もし……もしも能力がなかったらどうなってたんだろうな?
 起こらなかったのか?」

沈黙を上条が壊す。その質問は絶対に叶わない仮定の質問。

「関係ないわ。能力があってもなくても、やる奴はやるわよ。
 ただ被害の程度の違いだけ。なかったらもっと減ってた」

「そう……だよな。
 ……能力が悪いわけじゃないよな」

「そんなこと、アンタが一番良く知っているじゃないの」

「結局……使う人次第よ」

その言葉を聞いて前に感じた悪寒が薄まっていくのを上条は感じた。
結局使う人次第だ。悪用する奴はするし、しない奴はしない。
能力が悪い訳じゃない、使う人間が悪いのだ。

上条が黙っていると御坂が橙色の雲を見ながら呟いた。


















「どうしてあんな非道い事できるんだろう」













キリが良いのでひとまず終わりで。
あと若干加筆、修正を加えています。






「……もうすぐ完全下校時間だし帰るか」

時計を見て上条が提案する。太陽も既に落ちて
薄暗くなった公園を外灯と自販機の光が照らしている。

冷たい風が体を軽く舞い上げ、体を振るわせる。

「そうね」

御坂も了承しこのまま解散することになった。
上条と御坂の帰り道は逆方向のため自然と上条は一人で帰ることになる。
……のだが

「……」

「……」

無言のまま、上条は横の人物をチラリと見る。
しばらく歩みを進め、口を開く。

「あの……」

「何よ?」

「どうして御坂さんはついてくるのでしょーか…?」

「別にいいじゃない。ダメなの?」

なんてことない風に御坂は聞き返す。

「ダメ!!」

ジト目で見ながらそんなことを言ってくる御坂に
上条は強い口調で拒否を突きつける。








「何、私と帰るのがイヤって訳!!」

御坂がどうして自分と帰るのが嫌なのかと感情を
声に込め、反論する。

「違う」

上条は御坂の肩に両手を添えながら顔を近づけ。
まるで諭すように、真っ直ぐ彼女の目を見る。


「違う。御坂が心配だから言ってるんだ。最近は物騒なんだから
 下校時刻は守らないとダメだ。だからもう帰れ」
 
「ちょ、ちょちょっとぉお///」

突然、顔を近づけられた御坂はボンと音が出そうなくらい赤くなり
バリバリと頭から漏電する。

「あっ」

頭が沸騰して平衡感覚を失っていた御坂は足がもつれて上条に
寄りかかる形になってしまう。

「おいちょっと御坂?!大丈夫か?おいしっかりしろ!!」

突然、倒れかかってきた御坂を添えていた両手で支える上条。
支え方がちょうど御坂を囲むように、つまり抱きしめる形になっていた。

「ふ、ふにゃああぁぁっぁあああぁぁぁぁああああ///」

「えっ?」

ボンっと御坂の頭から爆発音が聞こえ、煙のようなものが
噴き出る。

「御坂ぁぁぁあ!!しっかりしろぉぉぉおおお!!」

御坂美琴の意識はそこで途切れた。










「はぁ…疲れた。結構きついな…」

上条は帰宅していた。帰宅といっても寮の階段を上がっている最中である。
部屋が七階なので階段で昇降するのは結構きつい。ならエレベーター使えという話なのだろうが
なぜかボタンが全く反応しなかったのだ。十分ほど粘ってみたのだが意味はなかった。

「御坂のせいでなんかいつもの倍は疲れた気がする。
 あいつこそ体調大丈夫かよ…パトロール務まんのか」

パトロール。これが先ほど御坂が付いてきた理由。アンチスキルと一緒に
巡回をするらしく、その集合場所が上条の寮と方向が一緒だったからついてきたらしい。
なんですぐ言わないのかと上条が聞いたら「別にいいじゃない」と顔を赤くして言っていた。

その答えに不服であるが顔が赤くなったり、気絶したりと体調が良くなさそうだなと上条は推測して
それ以上何も言わず黙っていたのだ。

「パトロールねぇ……」











御坂はこれをアンチスキルのお偉いさんに直接頼まれたと言っていた。
レベル5が一緒に巡回していれば犯人たちも迂闊に動けないからという理由らしい。
確かに効果的な手だ。御坂は強いし、遭遇すれば全員捕まえることだってできるだろう。
しかし、それだけじゃ犯行は収まらないだろう。

(そもそも何で捕まらないんだ)

上条は疑問に思う。今日のように相当派手にやっているのになぜ捕まえられないのか?


(一人ぐらい捕まえててもおかしくないはずなのに……)

(どんな能力を使っているのかすら詳しく絞り込めていないとか何やってんだよ……)


この事件。通称、無能力者狩りはに三週間ほど前から始まった。
それから今日までに決して少なくはない人々が犠牲になったが、それでも犯人は誰一人捕まってはいない。
目撃者すらいないのだ。分かっていることは犯人の中にはパイロキネシス系統の能力者がいるだとか
多人数で行われているだとかの大まかな事だけで、捜査は難航している。

連日、マスコミやら新聞社などのマスメディアはアンチスキルの不手際を批判している有様だ。
事件解決に至るような証拠も目処も立ってはいない。

「……とりあえず家に入ろう」

部屋の前まで行きドアノブを上条は回す。
キィィと甲高い金属音を響かせながらドアをあける
そしてただいまーと上条が言う前に白いシスターが頭めがけて突っ込んできた。

「とぉぉぉうぅぅぅぅぅまぁぁっぁっぁぁ!!!」

「痛い痛い痛い痛い痛い!!頭が砕けるぅぅぅうううう!!!」

「おそいんだよっぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォおおおお!!!」

「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!!」

ガリっと言う余り気持ちの良くない音が上条の耳に直接届く。
めちゃくちゃ痛いが上条はとりあえず胸いっぱい空気を吸い込んで
恒例の口癖を叫ぶ。


「不幸だぁっぁぁっぁあああああああ」












「……はぁっ……はぁ…」

息を切らした少女が埃の溜まった地面に倒れこむ。
その足や背中には服を突き破った火傷の痕があり、その痛々さを強烈に物語っている。

「誰かぁ……助けてぇ……」

暗い路地に細く弱々しい少女の声が虚しく木霊する。
その涙混じりの声に反応するものは無く、少女自身の乱れた吐息音しか聞こえない。

「どうして……」

この道を使ってしまったのだろう。少女はそう痛感せずにはいられない。
人気のない道を使うことはダメだということは嫌というほど言われていたのに。
どうしてそれを守らなかったのだろう、ともう意味の無い後悔が脳全体を支配する。
そして、その後悔を恐怖で塗りつぶす背後から声が響き渡る。

「おーい、どこ行ったぁ。悪いようにしねぇから出ておいでぇ」

「激しくあそぼぉぜぇぇ」

「待ちきれねーからさぁぁ」

ゲラゲラと汚い笑い声と共にそんな声が複数聞こえてくる。
とても楽しそうに、とても愉快そうに。







「いやぁぁあああっ」

少女は一心不乱に走り出していた。足が地に着くたびに鈍痛とも鋭痛とも分からない痛みが少女を襲うが
それでも少女は走ることをやめない。その痛みを忘れさせるほどの恐怖が今迫っているからだ。

「おい、逃げるぞ。さっさと追え」

「リーダー、逃げるといったって誰も助けには来ないんだぜ?
 別に急がなくても良くねぇか?」

「それじゃ緊張感ねぇだろうが、さっさと追え」

「まあ、それもそうだな」

「ほら、行くぞ。早くしろ」

リーダー格と思われる男が冷淡な声で仲間の少年達に命令する。
もちろんと言わんばかりに他の少年たちは少女を追って駆け出す。

「……」

自ら追うことはせず、その後ろ姿をリーダーの少年は見送る。
そして歪んだ笑いをしながら呟いた。

「アハハハハハッ、アハハッハハハハッ!!」


汚い笑い声が辺り一面に響き、壁に当たって反響する。













「どんなに逃げようたって逃げれねぇよ。無能力者のクズが」












「っ……」

目を極限まで見開き、額から尋常じゃない量の汗が滴っている。
少女の顔色は蒼白でまるで幽霊のようだ。

追いつかれたら死ぬ。少女はそう実感していた。
だからこそ足の痛みも気にせず、迫り来る死から逃走している。

背後からは、嫌な笑い声がガンガンと聞こえ、それが少女を更に加速させる。

「あっ!!」

少女が突如、大声を出す。その視線の先には腕に緑の、ジャッジメントの腕章をつけた少女。
それを見て、追われていた少女の顔が安堵の表情に包まれていく。

「た、助けてっ!!能力者がっ!!」

頻りに後ろを確認しながら必死の形相で訴える。
大声を上げながら背後の危険を伝える。







「仕留めろ」

低く抑揚のない声が背後から聞こえ、複数の少年が迫ってきている。
その喜々とした表情に背筋がゾッとする。

「ひっ、奴らが来る。助けてっお願い!!」

少女は泣きながらジャッジメントに縋り付く。
死にたくないという感情が一気に溢れ出ている。

「……」

少女のその問にジャッジメントは黙る。
そして微かに笑う。

「何してんの!!早く助けてよ!!」

少女が怒声を上げる。しかし涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながらなので
普通の人間は恐怖より同情を感じるだろう。

そんな顔した少女にそのジャッジメントは手を頬に当て
優しい音色で囁いた。

「分かった」






ピーピーと目覚まし時計が鳴り響く。それを上条は目を擦りながら手探りで止める。
まだ寝足りないと上条は欠伸をしながら伸びをする。半開きの目で時計をヌッと見る。

「ん……」

しばらく時計を凝視する上条。目を深く閉じて深呼吸をする。
もう一度目を擦って見る。しっかりと見る。

「……」

時計の時刻を先ほどより何倍も注意深く凝視する。
長針と短針が表す時刻を見て上条は『あれ、まだ寝ぼけているのか俺?』と考え
目の前にあるハンドルを回し、顔を洗う。

「……」

完全に目が覚めサッパリとした上条は再び時計を見る。
そして上条の顔がどんどん青ざめていく。体が小刻みに小さく震え始める。

「ちっ……」

上条が今にも叫びだそうという時、浴室の扉が勢いよく開かれ銀髪の修道女、
インデックスの澄んだ声が響き渡る。




「とうまー、お腹へったんだよ。早く朝ごはん作って欲し――」

「ちこくだぁあああああああああ」

上条の突然のシャウトに驚いたのか、インデックスの小さな驚声を上げて盛大にコケる。
インデックスが来たことも気づかないまま、上条はいつもの三割増で息を吸い上げる。


「ふこ――――――」

「とうま」

いつもの、恒例の口癖を叫ぼうとすると突然、ドスの効いた声で遮られる。
上条が後ろを恐る恐る振り返ると、そこには背後に闇のオーラ的なものを身にまとった
インデックスが顔を伏せながら立っている。その様子を見て上条は内心ビビる。

「い、インデックスさん……?どうしたんでしょーか…?」

あまりの威圧感に上条の背中から汗が滲み出る。







インデックスは答えない。無言のまま顔をゆっくりと上げる。
ひっと今度は上条が悲鳴を上げる。インデックスの可愛らしい顔は般若のようで
心なしか犬歯がドラキュラの牙のように長くなっている感じがする。
とりあえず、なんか言わなきゃヤバイと結論に至った上条は思ったことを口に出す。

「お、おはよう。き、今日も元気だなインデックスは」

沈黙。上条の声が虚しく、拡散する。

「とぉぉぉぉぉおおまぁぁぁぁぁああああッッ!!!!」

「いやだぁぁああああぁぁぁぁぁぁっぁぁあ」

情けない声を上げながら、上条は朝を迎えた。
しかしこれは不幸でもなんでもない、自業自得である。

「ぎゃぁぁっぁぁああああ!!!!」

「ゆるさないんだよぉぉぉぉお」

頭から変な音がミシミシ聞こえる。
昨日の噛み付きの三倍ぐらいの力だろう。

ガリっと頭の何か大事な部分が噛み切られたような感じがした上条。
貧血のように目の前がだんだんと暗くなっていく。

最後に聞こえたのはインデックスの猛獣のような唸り声だった。






「はあ……」

上条は皿洗いをしながらため息をつく。テレビを点けっぱなしにしてインデックスはスフィンクスと
戯れている。それを目の当たりにして更に深いため息をつく。

上条がなぜこんなにのんびりしているかと言うと、学校に遅れるという旨の連絡を入れたためである。
連絡を入れたからゆっくりして良いというものではないが、どうせ間に合わないし急がなくてもいいだろという怠惰心と
朝から結構な激痛をくらったので上条は早く行く気分じゃなくなってしまったのである。

だからといって、あまり学校に遅れて行くのは良くないので上条は、皿洗いを早々に終わらせ
慣れた動きで登校の準備をする。

学校を休んでしまうというのも一つの手かもしれないが
上条はもともと出席日数が危ないのでそれはできないのである。

上条は学生服に手早く着替え、弁当を学生鞄に詰める。教科書はというと学校に一式置いているので
これで登校準備は完了である。廊下から玄関へと向かう。
インデックスはスフィンクスと遊ぶのをやめ、上条を見送る。






「昼飯は冷蔵庫に有るから、レンジで温めてから食べるんだぞ。あと
 最近危ないから外には出ないんだぞ。分かったか、インデックス」

靴を履きながら、インデックスにそう伝える。
頷きながら、インデックスが少しだけ切なげな表情をする。

「今日も遅くなるの……?」

上条は言葉を失う。声は揺らいでおり、か細く弱々しい。
インデックスは同じ声質のまま続けて言う。

「最近危ないんでしょ…?だから、とうまも早く帰ってきて欲しいかも……」

『昨日、また新たに無能力者殺人事件が起きました。被害者は中学生の女生徒で
 焼死体で発見されたようです』

点けっぱなしのテレビからニュースの報道が聞こえ、インデックスの
顔の影が更に深くなる。上条の顔も険しくなる。






「分かった……約束するよ」

力強く宣言して上条は小指を差し出す。こんな顔はもうさせられない。


「約束かも」

スッとインデックスが小指を差し出す。指先が少し震えている。
それを上条は強く掴む。心配すんなとでも言いたげに。


「行ってらっしゃい。とうま」

上条はインデックスの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
それを見て、今日はインデックスの好きなものでも作ってやろうと心に誓う。

「ああ、行ってくる」

バタンとドアが閉まる。その光景をインデックスは最後まで見つめる。
廊下は静まり、テレビの音だけがリビングを占めている。それが微かに廊下に漏れてくる。


『――――であるようです。また、アンチスキルは被害者の女生徒が
 殺される寸前まで抵抗がなかったことに対して、何らかの能力で動きを
 封じられた可能性があるという推測をしているようです』







「……」

上条は俯きながら歩いていた。この時間帯は学生は授業を受けている時間帯で
通りは人気が少ない。肌寒い風が強く吹いている。

上条のその歩幅は非常に狭く、遅い。
足を動かしながら頭に浮かぶのは、先ほどのインデックスの表情。
そして小さいが明確に聞こえた報道の声。

「また……っ」

昨日の惨劇がまた起きたという事実に上条は苛立ちを隠せない。
上条の胸にフツフツと純粋な怒りが込み上げる。

色んなことに巻き込まれ沢山の心配をかけたが
インデックスのあんな表情を見たのは久しぶりだった。

病院で目を醒ますたびにああいう表情をしていた。

今にも泣き出しそうに目が揺れていて、声は掠れていた。
そんな表情をさせたことを悔やむ。





ここ最近で街全体の活気が減った。多くの人が最近の事件で
出歩かなくなった為だ。いつ自分も被害者になるかわからない状況では
無理もない。

『罪のない人々を大勢殺し、周りを恐怖に陥れた』

この事実に上条は怒りの炎を燃やす。インデックスのように
多くの人を悲しませる原因を作った能力者たちが許せない。

この感情をどう処理すればいいのか上条は分からない。
体全身を拭えきれない苛立ちで小刻みに震える。

(ふざけんな……)

ただ、ただこの一言が心に浮かぶ。
こんな惨劇は起こっていいはずがない、起こらせていいはずがない。
このまま自分が見過ごしていいわけがない。



「……そんな最悪な幻想はぶち殺してやる」

上条はそう宣言する。もう二度とこんなことを起こさせないと誓う。
上条の目つきが変わる。







上条は一般人だ。アンチスキルやジャッジメントではない。
唯の高校生だ。犯人を見つける方法も知らないし、分からない。

(俺に何ができるなんて分からない)

アンチスキルやジャッジメントが厳重に現場を検証し尽くしているはずだ。
もしかしたら犯人の痕跡やら、もしくは犯人特定まで進んでいるかもしれない。

(意味ないかもしれない)

自分ができることなんて無いかもしれない。だからといって見て見ぬ振りはできない。
あの惨劇を、悲しい顔をもう見たくない。

(協力なんて大逸れた事はできないかもしれない)

そう考えたら上条の足は自然と学校から遠ざかって行く。
動き出した足は昨日の地獄へと向かっていった。

(でも俺の出来る限りのことはしたい)

純粋な想い。たったこれだけで行動する。
上条はそういう人間なのだ。








「これは……」

上条は息を飲んだ。その顔には焦りと驚きが混じっている。
自分は惨劇現場へと向かっていたはずだ。場所も間違えてない。間違えるはずがないのだが

「直ってる……」

そう直っていた。完璧に元通りになっていた。
まるで何もなかったかのように。

あれだけいたアンチスキルが一人だけになっている。
抉れていた地面は綺麗に修復されており、傷一つない。
グニャグニャに折曲っていた信号は新品に取り替えられている。
バラバラになっていた看板や標識はも同様だ。

あれだけ朱に染まっていたのにその痕跡すらなく、鉄の匂いもない。
普通にトラックやらバスが走っている。

学園都市は科学が進んでいる。それは上条もここの常識として分かっていたが
まさかここまでとは実感が沸かなかった。






しかしそのことは今はどうでも良い。ここで何か手掛かりを探すことが重要だ。
上条はただ一人現場にいたアンチスキルの男性に尋ねる。

「昨日、ここで無能力者狩りが起きたんですけど、犯人に関する
 痕跡とか手掛かりとかってありませんでしたか?」

「またか……残念だけど守秘義務で答えられないよ」

「また……?」

上条は聞き返す。自分の他にも協力しようという人がいるのだろうか。

「おっと、すまない。マスコミやら新聞記者やらがたくさん来て
 君と同じようなことを言うからつい……」

アンチスキルは心底疲れたという声色で続ける。








「一人だと対応するのも疲れてしまって……って
 また愚痴ってしまった、すまない。ところで君は何しに来たの?
 新聞部とかの取材とか?」

「いや、違います。ただ俺に何かできることがあったらなって思って……」

上条がそう言うとアンチスキルの男性は一瞬、目を丸くし、
機嫌よく笑い始めた。

「いい青年だな。こういう子が増えれば
 オジサンの仕事も楽になるのにな、一人でここに居ることもない」

「そういえば、どうして一人なんですか?
 昨日ほどの事件ならもっといても良いと思いますけど?」

上条は質問する。現場は綺麗さっぱり直っていても
昨日、あんな事件が起きたのだからアンチスキルがもっと居てもいいんじゃないかと上条は思う。










「アンチスキルというのは教師と兼任だろ?だから、生徒が学校の間は
 少なくなってしまうんだ。それと同じ理由でジャッジメントもいないだろ?
 彼らは生徒だからね」

「……」

アンチスキルはそう答える。上条はその答えに違和感を感じる。
とても小さな、小さな違和感を感じる。
頭に『何かが引っかかる』という感じがする。

アンチスキルは『教師と兼任』であり『ボランティア』だ。
給料は出ないし、体を張ることもする。時には命にも関わる。その代わり様々な特権がある。
アンチスキルとはそういうシステムなのだ。ジャッジメントも同様にそうだ。

この街では当たり前の常識。
しかし何かが引っかかる。謎の違和感が微かにする。

「どうしたんだ?君」

アンチスキルが怪訝そうに上条の反応を見る。
上条は慌てて取り繕う。






「い、いや。なんでもないです」

「そうか。じゃもう学校に行ったほうがいいんじゃないか?
 私は事件については何も喋れないし、ここにいても手がかりはつかめないぞ
 それに学校サボるのは教師として見逃せないしな」

「……そうですね」

上条は低い声で返答し、アンチスキルに背中を向け歩き出す。

「もし、良かったらジャッジメントに入りな。君みたいな正義感の強い子は
 大歓迎だからな」

背中からそんな声が聞こえる。上条は歩きながら顔を後ろに向ける。
そして手をフラフラと振る。

「一応、考えておきますよ」

そう、言って上条は学校へ向かった。







上条は廊下を歩いていた。階段を上がってすぐに自分のクラスに向かう。
この時間帯は二時間目の時間帯で、授業がある程度進んでいる時間帯だ。
上条は『ノート写すのめんどくせぇ……』と溜息をつきながら、クラスのドアを開ける。

「すいません、遅れました」

上条が大きくも小さくもない声でそう伝える。
どうやら今は政治・経済の時間帯らしい。
クラスの皆が『あれ、休みじゃないの?』というような態度をとっており
上条は若干、気まずい気分になって顔を引きつらせる。

この状況は不登校児が突然学校に来たという感じである。

先生も上条のそんな顔を見て呆れ顔になる。
上条はもともと自分の度重なる入退院により、教師の評価が地の底なのだ。それに単位も危うい。
不真面目というか、学校に来ることが珍しいと思われているらしい。





「……上条君、コレ」

先生の顔がもう呆れ顔を通り越して疲れているようなモノに変わり
上条に大量のプリント類を手渡す。表紙は白紙で題名を隠すように覆われている。

「……なんですか?これ……?」

政経の時間はプリント類で授業はしない、基本板書だ。
つまり授業で使うものではないということだ。

「大丈夫。ちょうど学園都市の単元だし、そんなに難しくないから」

「いや、そんこと聞いてないんですが……
 これは、何ですか……?」


「……」

無言。無言だが教師が『もう分かっているんだろ』という目を上条に向けてくる。
クラスの皆がクスクスと笑っている。そんな中、悪友の青髪ピアスが『上やん、頑張ってな』と
ニタニタしながら声をかける。生真面目な吹寄制理は先程から仏頂面をしている。






上条自身にとっては笑い事ではない。これは上条の大嫌いなアレかもしれないのだ。
と言うよりもう、アレなのだが上条はまだ希望を捨てない。

(これはアレだ。でも、俺は諦めねぇ!!この謎のプリントが俺を
 ビビらせるためのドッキリ的なものの可能性を諦めないっ!!)

上条は自分の手の上にあるプリントをジッと見つめる。その眼差しは真剣そのものである。
まるで戦争に行く前の兵士のような覚悟を決めた顔をしている。そして白紙をどけるように手を伸ばす。

この上条の様子を見て周りのクスクス笑いが唯の笑い声になる。先生ももう笑っている。

(俺は諦めねぇ!!これがアレなんて言うフザけた幻想は全部まとめてブチ殺――――)

白紙がヒラヒラと床に落ちる。そしてプリントの表紙が露出する。

『上条君専用☆宿題プリント☆』

それを見てしまった瞬間、脊髄反射的に上条は叫ぶ。

「不幸だァァっァァァァァああああ」

その後、授業中に大声出すなと吹寄に鉄拳制裁をくらった上条であった。



ここで終わりで






「上やん、ほんま大変やったなぁ」

「本当だよ……」

先ほどの騒ぎも落ち着き、授業が始まって暫くした後、
青髪がコソコソとそんなことを言う。

「本当、朝から大変でしたよ上条さんは……
 インデックスの奴め……本気で噛みやがって……」

「インデックス……?
 あのシスターのこと? 噛む?」

「そうだけど……? 何だよ」

「……シスター……噛む………幼女……外人……」

突然、青髪が神妙な表情になってブツブツと唱え始める。
なんだコイツ?などと思いながら上条は余裕でスルーする。

「いってぇ……深く噛みすぎだろ…はぁ……」

溜息を着きながら後頭部を掻く。インデックスに噛まれたところがチクリと痛む。
朝に比べて痛みは引いてきたが、それでもまだ痛い。

「カミやん……」

「ん、何?」

先程からブツブツと気持ち悪い感じだった青髪が
彼に似合わない怒りの篭った声で上条を呼ぶ。

「……また、またかカミやん……」

青髪の声にドスが混じる。目つきが鋭くなる。

「はっ……?」

突然の豹変に上条は驚く。上条はなぜ怒っているか分からない。

「また、あの銀髪碧眼まな板シスターとイチャついてたちゃうんの……?」

『学園都市は50年以上前に作られました。能力開発はその頃から
 行われており、約20年前には超能力者を生み出せ―――』

授業が続いているが関係なしに青髪は話を続ける。









「そうなんちゃうん……?」

「どうした? 青髪」

「違うか、違わないか聞いてんだよ」

青髪が物凄い形相になっている。

「ち、ちげーよ…… 起きたらアイツが風呂場に来て
 なんやかんやで噛み付かれたんだよ……思い返すだけで不幸だ……」

「なっ……風呂場……だと…?」

上条からしたら自分は風呂場に寝ているので別に如何わしい事じゃない。普通のことだ。
しかし、それを知らない人は男子寮で少女と同棲している男が『風呂場に来た』なんて発言したら
誰もが関係を疑うだろう。

女の子に飢えまくりの青髪からしたら如何わしいとかそんなレベルじゃなく
もっと上の変態的な想像をするだろう。てかもう、してる。


「はっ!!」

「ちょっと、青が――――」

「クソリア充が」

口調が突然変わり、ギロリと青髪に上条は睨まれる。先程から額に青筋を浮かべていたが今では
顔全体に浮かべている。上条は青髪のただならぬ様子にかなり怯える。

『――のとおり、能力の開発方法は薬や電極での刺激での開発が主流ですね。何故かと言うと
 首筋や脳などに直接それらを打ち込むため、一番能力を発現しやすいからです。また――』

青髪は今まで板書していたノートを千切り、高速で何かを書いて
それを後ろの男子に回す。









「青髪さんっ?今なにを……」

一人で黙々と何かを呟いている青髪に上条は恐る恐る聞く。

「……ちっ」

質問の答えは帰ってこない。青髪が親の敵を目前にしたのかのような顔をしながら睨んでくるだけだ。
周りを見渡すと、このクラスの男子生徒全員が青髪のような表情になっている。

「ひっ!!」

小さい悲鳴を上条は上げる。今の上条は狼の群れに放り込まれた哀れな子羊だ。
飢えに飢えた狼によって丸呑みされるだろう。

『皆さんも知っていると思いますが能力開発の存在意義は『SYSTEM』、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』を
 作り上げるためにあるものです。そのために多くのカリキュラムや薬剤投与などをして――――』

上条の耳には先生の声と女子の声しか聞こえなかった。上条と同じように男子は先程まで喋っていて少し騒がしかったのだが
青髪があの紙切れを回した途端、急に静かになった。男子は皆、しっかりと前を向き授業を受けている







その状況に上条は震え上がる。普段、このクラスは休憩時間、授業時間問わず騒がしい。特に男子なんかはそうで
静かになるなんて滅多にない。だから今の状況はとてもおかしいのだ。

青髪、青髪と上条は焦りと恐怖を肌で感じながら呼びかけてみるのだが一向に反応してくれない。
まるで上条が存在してないかのような見事なスルーである。心の中で上条は『どうか、頼む!!』と
一生のお願いと言わんばかりに願う。

そんな願いが通じたのか青髪が指を使って反応を示した。親指を突きたてGOODのジェスチャーをしたのだ。
上条はそれを見て安堵した。何故怒っているのか知らないが取り敢えず許してくれるのだと上条が呑気に考えていると

青髪は親指を突き立てたまま首を跨るように直線を掻いた。つまり、首切りのジェスチャーである。
それと同時にチャイムが鳴った。本来このチャイムは授業が終わったのを告げるものだ。
しかし、今の状況は違う。狼の餌の時間を告げるものだ。

上条の顔がどんどん青ざめていく。逃げ出そうと足を動かすが青髪に手を掴まれる。
ギリギリとかなり強い力で抑えられているため逃げ出せない。

「上やん?覚悟しいや」








青髪がニコニコとした表情でそう宣言する。
周りには続々と男子が集まっている。ちょうど上条を囲むように。
絶対に逃げられないように陣形を作っている。

もう上条は抵抗することを諦め覚悟を決める。

「ちょっと、一つ言わせてもらてもいいか?」

「……遺言なら聞くで」

上条はその言葉を聞いて安心する。いや、安心するということは可笑しいのだが
どうせなら言いたいことを言って死んだほうがいい。
上条は胸いっぱいに息を吸い込む。




「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



「まったく。ゴミはゴミ箱に入れなさいよ。もう……」

吹寄は居室の片隅に落ちていた紙切れを拾う。
その紙には今さっきの板書の内容が描かれており、
その上から塗りつぶすように濃く、深い筆圧で言葉が書いてある。

『上やん処刑』

教室の真ん中で男子たちが乱闘をしている。
それを見て呆れながら呟いた。

「バカばっかりね……このクラス……」






四時間目終了のチャイムが学校内に鳴り響く。
青髪を筆頭とした男子たちが『飯の時間だぁぁぁ野郎どもォォォォォ!!』『購買を襲撃だァァァァァ!!』などと
世紀末的なセリフを吐きながら教室から出ていく。

このクラスでは毎日見られるものであり、日常風景である。
始めは煩い教室も購買の学生がいなくなれば、だんだんと落ち着く。

弁当やあらかじめ昼飯を買っていた人達は談笑しながらランチタイムを
過ごす。このクラスでは何の変哲もない光景だ。

それを羨ましげに指をくわえて見ることしかできない生徒がいる。
彼の手にはシャーペンが握られており、机は弁当箱ではなくプリントで覆われている。
体は猛獣とでも戦ったのだろうか?と思われるほどボロボロで、鼻には血がかなり染み込んでいるティッシュを詰めている。
その様子は目を背けたくなるほどの容貌である。

この人間はいったい誰なのか?この楽しいランチタイム、同級生たちが高校生らしく部活や恋愛やその他諸々の話を
まったりとしている中、ボコボコにされた体で、机には頭が痛くなる程のプリントを広げて、一心不乱に勉強をしているは誰なのか?

上条当麻である。

「泣きたい……」

皆が楽しそうに食事している中、クソつまらない宿題をやっているという
実感を痛いほど受けて上条は目を少し赤くする。






家に帰ってからやればいいのだが、提出期限が近いので暇な時間を
この宿題に費やさないと終わらないのだ。

「貴様のは全部、自業自得じゃない」

隣の席で姫神秋沙と昼食を食べていた吹寄が、平坦にそう言う。
非の打ち所がないほど、至極真っ当な正論を上条は更に涙目になる。

「でも、この量は無いだろ!?」

「休みまくっている貴様には適当な量じゃない」

「でもぉ……」

「『でもぉ……』じゃない!!」

吹寄が勢い良く立ち上がる。その反動で
推定100枚はあろう大量のプリント一瞬宙を浮く。

「ですよね……」

ガックリと上条は首を落とす。結局、自業自得なのだ。
やるしかないので上条はペンを握り直す。

「上条君。ガンバ」

「ああ……」






ゲッソリとしている上条に姫神が声援を送り
黙々と上条は勉強もとい宿題を始める。

十分ほど真面目にやってみたが、3枚ほどしか上条は終わらなかった。

宿題の内容は先生の告知どうり、学園都市の単元だ。
物凄く簡単というか、当たり前のことが問題なのだが
それゆえ、上条の作業スピードは遅くなる。

食べる、動く。といった感じに頭を使うまでもないようなことが
問題であるため、上条は『俺、こんなに馬鹿だと思われていたのか……』
『宿題じゃなくて作業じゃん……』などの思いが浮かんで
さらにヤル気が下がる。

「カミやーん、がんばりやー」

購買から戻ってきていた青髪が上条の宿題風景を見ながら
励ますが、その声は全くの棒読みである。

「ちくしょう……」

ニタニタしている青髪に悪態をつきながら上条は宿題を続ける。
問題は『能力開発は何年前から行われていたか?』という学園都市では常識中の常識で
あり、先程も先生が言っていたことだ。上条は50と答えを書き込む。






「いつも思うねんけど、能力開発が50年前なんて大昔からやってるなんて信じられへんなぁ」
 
それを見ていた青髪がしみじみと感想をもらす。
それに上条は相槌を打つ。

「そうか?俺は別にそう思わないけど」

「なにいってん上やん。そんな昔から能力開発ができるほどの
 科学技術が有ったってことやろ?ごっつすごいやん。
 なんちゅー科学力って話や」

「……言われてみればすごいな」

学園都市は外とは科学技術が20年、30年違うと言われている。
その技術によって莫大な利益を貿易で得て、日本政府に圧力をかけ
実質上の自治権を勝ち取るほどだ。

「作られた当初は学生が人口の九割ぐらいだったらしいで。 
 やっぱ当時としても最先端の都市やから入学の倍率が凄かったらしい」

「へぇー、そうなんだ……ってなんで青髪はそんなこと知ってんだよ!?」

「カミやん……これは習ったことやで……」

「え゛……マジですか?」

「カミやん……」






青髪が上条を見る。その目は上条を物凄く憐れむ様な
同情するような目だった。

「で、でも青髪がこんな真面目なこと言うなんて
 珍しいな。どうしたんだ?」

「酷いなカミやん!?ボクだって真面目なこと言えるんよ」
 たまにはこういう事も話したくなるんよ」

政治の話をする中学生みたいな心境か、とか
いつも変なこと言ってる自覚があるのか、と上条は思いながら
青髪の話を聞く。
 
「20年前に今のアンチスキルとかジャッジメントとかの今の
 学園都市の制度が作られたらしいから、驚きやね」

「それも、勉強したところナノデスカ?」

上条は焦りながらも青髪に尋ねるが、青髪は首を横に振る。

「その時には超能力者がもういたってんやから
 すごいわー」

「すごいけど何か……」






「ん? カミやん?」

「20年前に超能力者が作れるんだから、今の時代、
 高位能力者だけ作れるようにできなかったのかな?」

「どういうことや? カミやん?」

「今の学園都市って無能力者、低能力者が多いだろ?
 10年もあれば、学園都市の科学技術で安定して高位能力者を作れそうなものだけどなぁ」

上条の頭に疑問が浮かぶ。これだけの圧倒的な科学力を持ったこの街なら
無能力者と低能力者が人口の大半を占めているのはおかしいのだ。
50年も研究すれば強能力者とか超能力者を何人も作れそうなものだからだ。

「それは、能力がパーソナルリアリティーに因るものだからちゃう?
 想像力とか思いこみが強い人は強い能力を得るけど、逆にそういうのが弱い人や
 現実的な人は弱い能力やし」

「良くも悪くも普通の人が多いやね。この街」

「まあ、そうだよな。それに演算能力も高くないといけないし……
 それに俺じゃ絶対無能力者のままだし」

上条は自分の右手を見る。『幻想殺し』ありとあらゆる異能を打ち消す力。
この力がある限り、もし上条が能力を発現しても使えないだろう。






青髪は上条を励ますように声をかける。

「将来、レベルを人工的に、簡単に上げられるようになるかもしれんし、
 上やんもボクも能力を使えるようになるかもしれんよ?
 それほどこの街の科学力はすごいんやし」

「科学力か……」

上条はあの惨劇現場が綺麗に直っていたことを思い出す。
普段、あまり気を配ってないとこの街の凄さには気づかないというか
当たり前になってしまうんだなと上条は実感する。

「20年前で超能力者が作れたやから後、5年、10年したら
 あっという間やろ」

「……そうだよな。そんな前から能力者いたんだから――――――」

言って違和感を感じる。50年ほど前、この街と共に始まった能力開発。
20年前から存在した超能力者。


















その能力者達は何処に消えたのか?















「……」

50年前に能力開発が行われていた。それなら現在にも50歳の能力者、49歳の能力者……が何処かにいるはずだ。
20年前には超能力者が作ることができた。それなら超能力者が大勢いなきゃ可笑しい
7人しかいないなんていうことは有り得ない。


今、学園都市の能力者は皆、子供だ。『大人の能力者』なんて見たことない。
でも『大人の能力者』は確かに存在していたはずだ。50年前から能力開発が行われていて
20年前には超能力者がいたのだから。

「痛……」

一瞬、上条の脳内に小さな痛みが走る。鋭い痛みではないが確かな痛みがする。
脳に極小の針を刺されたような。そんな痛み。

「上やん、どうしたんや?」

青髪が怪訝な顔をして上条の顔を覗き込む。

「別になんでもない」

痛みはすぐに消え、上条はそう答える。
青髪が頭に?マークを浮かべたが、すぐに気を取り直して話を続けた。






「一番最初の能力者ってやっぱサイコキネシスやろなぁ…… カミやんもそう思わん?」

「いや、パイロキネシスじゃないか?」

青髪の問いに学園都市のメジャーな能力を上条は言う。
そんな上条を呆れた目で見る青髪。

「サイコキネシスやろ……」

青髪の馬鹿にした態度にムッとして上条は言い返す。

「はっ?パイロキネシスに決まってんだろ」

青髪の眉がピクっと動き、言い返す。

「こういうのはサイコキネシスって相場が決まってんや。
 上やんは何も分かってないやね」

「お前こそっ……はぁ……もういい。それだよ……それ…サイコキネシスだよ…」

上条は反論しかけたが、途中で諦めて青髪の意見にヤレヤレとばかりに賛成する。

「ムカァ!!なんやその態度!!その『コイツ分かってないな』的な態度は!!」

「そんな怒んなって。お前がそう思うんならそうなんだろ……
 お前の中ではな」






「一番最初の能力者ってやっぱサイコキネシスやろなぁ…… カミやんもそう思わん?」

「いや、パイロキネシスじゃないか?」

青髪の問いに学園都市のメジャーな能力を上条は言う。
そんな上条を呆れた目で見る青髪。

「サイコキネシスやろ……」

青髪の馬鹿にした態度にムッとして上条は言い返す。

「はっ?パイロキネシスに決まってんだろ」

青髪の眉がピクっと動き、言い返す。

「こういうのはサイコキネシスって相場が決まってんや。
 上やんは何も分かってないやね」

「お前こそっ……はぁ……もういい。それだよ……それ…サイコキネシスだよ…」

上条は反論しかけたが、途中で諦めて青髪の意見にヤレヤレとばかりに賛成する。

「ムカァ!!なんやその態度!!その『コイツ分かってないな』的な態度は!!」

「そんな怒んなって。お前がそう思うんならそうなんだろ……
 お前の中ではな」






青髪は答えない。無言である。上条もそうだ。両者の間には上条の机を挟んでいるだけで
他には何もないが、無関係の人から見たらゴゴゴゴゴゴと暗雲立ち込める的なモノが見えるだろう。

「カミやん」

「青髪」

両者がお互いの名前を呼ぶ。
特に意味はないようにも思えるその行為もしっかりと意味がある。

戦いの合図。

「カミやぁぁぁぁぁぁん!!くたばれぇぇぇぇぇええ!!!!」

「上等だぁぁっぁぁぁああ!!!!青髪ぃぃぃぃぃぃいいいいいぃ!!!!」

お互いに意識を奪うほどの渾身の力を込めた右ストレートが顔面に突き刺さり、
吹寄と姫神によって保健室に運ばれた上条と青髪であった。






街灯の光も殆ど届かない、汚い裏路地。タバコの吸殻が突風によって宙を舞い、
微かな煙の匂いが香る。

地面には黒い染みや、飲み捨てられたアルミ缶が転がっている。

隣接している建物の壁には、アルファベットやら記号が落書きされている。
それは何重にも落書きが重ね塗りされ、元の色が分からなくなっている。

科学力が数十年進んでいる都市とは思えないその風景は
先進都市であり、国をも凌ぐ言われる学園都市の事実と大幅に乖離している。

貧困街を連想させるようなそんな場所に御坂美琴はいた。
この場所、普通の人なら恐怖や焦りを感じるだろうが、御坂は
怯える素振りもみせない。むしろ疲労や倦怠といったものが見て取れる。

「はぁ……あと何ブロックですか?これ……」

「次のGブロックを回ったら終わりじゃん」

「そうですか……」

完全下校時刻からもう3時間が経過しており、その間休憩も一切していない。
軍隊にも匹敵する超能力者の御坂といえど、体は普通の中学生のものと一緒だ。
流石に三時間も休憩もなしに、夕食も取らずに働きっぱなしというのは体力の消耗が激しい。






「ん~~ まあ、あともうちょいだから頑張るじゃん?」

「なんで疑問形なんですか?」

「だって確証がないじゃん。すぐ終わる」

「はぁ……」

「……本当はこんなこと頼んで申し訳ないじゃん
 アンチスキルの絶対数が少ないばかりに……」

「いや、別にそれは気にしてませんよ。自分で決めたことですから
 ただ、言ってみただけです」

「……ありがとうじゃん」

「そんな!! やめてくださいよ!!」

黄泉川が頭を下げる。それを御坂が慌てて静止する。

(こんなことで疲れてちゃダメだ!!もっと頑張らないと)

御坂は強く決心する。ボロボロになった白井黒子。今日に見た、公園での上条の顔が
御坂の頭の中を高速で駆け巡る。






スピードを上げて御坂達はパトロールを続ける。
暗い裏路地を臆さずに進んでいく。

パトロールの方法は各学区を1ブロック、2ブロックと分けて
裏路地や、あまり使われていない道など事件が起こりそうな所を推測して巡回し、
また時間を決めて、7時~8時はDブロック、8時~9時まではEブロックのように巡回する。
なぜかといえば全学区を隅々まで駆け巡らす人員がないためである。

この街は所詮学生の街であり、大人の数が圧倒的に少ない。このことが原因である。

(ここも大丈夫か……)

特に何もなかったのを確認し大通りに出る。
街灯の光が眩しく感じる。

(やっぱり、警備が強化された夜の時間帯は現れないか……)

統括理事会が完全下校時刻を早めたことと、パトロールの強化によって夜の時間帯に無能力者狩りが起きることは減った。
しかし逆に昼の時間帯に起こることが増加した。
また犯行も徐々に過激になってきており、少数単位での襲撃だったのが大人数単位に変わってきている。

「これは……」

御坂は大通りに捨てられていた新聞をそっと手に持つ。今日の日付で速報と書かれたソレには
交差点で起きた惨劇の写真が生々しく色鮮やかに載せられている。







「っ……」

御坂の手が自然と強く握られる。あの惨劇現場を思い出すたびに悔しく思う。

どうして助けられなかったのか?
どうして救えなかったのか?

御坂は思う。

御坂は一度救われた。絶対能力進化実験。あの地獄は上条当麻によってブチ壊された。
しかし無能力者狩りに有った人は助けも呼べず、絶望しながら殺されたのだろう。
なんの意味もなく、身勝手な理由によって。

御坂は上条のことを思い出す。
酷い顔をしていた。いつもの元気な調子が全く見られなかった。
何か酷く思いつめていて、見たこともないような悲しい表情をしていた。

御坂は白井の事を思い出す。
無能力者狩りの犯人を捕まえると執念を燃やしていた。
しかし事件が起きるに連れて、日に日に弱っていった。
目も当てられないほど衰弱し、ボロボロになっていった。
そして壊れてしまった。

いろんな思いが波となって御坂の心を覆い尽くしていく。
怒り、憎しみ、苛立ち、苦しさなど様々な感情の中で御坂は一番に怒りと悲しみを感じた。






「どうしてこんな非道い事できるんでしょうね…………
 こんな奴ら死ねばいいのに」

御坂が悲しみと同時に憎しみを表に出す。
普段はあまり出さない感情を出す。

「それは私にわからないじゃん。でも……そんな死ねなんて良くないじゃん」

「どうしてですか?」

御坂がポツリと小さい声で言い放つ。
同行していたアンチスキルの面々は、悲しい顔やら困惑した顔をしながら目を伏せる。
その中で黄泉川がただ一人答える。

「私は一つ確信していることがあるじゃんよ」

「確信していることですか?」

黄泉川の顔つきは真剣そのもので、『子供を守る』というアンチスキル
そのものの威厳がある。

「大きな力は二つのモノを生むじゃん。
 一つは英雄。もう一つは――――――――


















「化け物」
















黄泉川の声が綺麗に、明白に御坂の耳に届く。
静かな学園都市に広がる。

「強大な力を人のために使えば英雄になるじゃん。
 逆にその力を自分のためだけに使い、溺れれば化け物になるじゃん」

それを聞いて、誰もが押し黙る。皆、その言葉を噛み締めるように
聞いている。

「この街には『能力』なんてモノがある。この力は
 とても便利で、素晴らしいものじゃん。だからこそ
 化け物も英雄も生まれやすい」

「英雄だけ生まれてくれれば世話ないじゃん。でもそうはいかない、
 英雄が存在すれば、化け物も存在するじゃんよ」

風が御坂たちの合間を縫っていく。
その音が全身に当たる。

「私たちには子供を守り、導く義務があるじゃん。
 それは英雄でも化物でも関係ない」

「皆、子供じゃん」













御坂は心を打たれた。今までアンチスキルのことを正直『弱い』と
勘違いしていた。ジャッジメントで十分じゃないかと考えていた。
しかし、考えが変わった。アンチスキルは自分たちを見守って
導いてくれる大人なんだと実感した。

「だから化け物になってしまった子供を英雄に戻してあげなければならないじゃん。
 それがアンチスキルとしての、大人のしての義務じゃん」

御坂はアンチスキル達の顔を見る。皆、前を向いて毅然としている。
大人としての態度を見て、自分が子供だったと反省する。

「……そうですよね。私が間違ってました。すいません」

「いやいやいや、そんな私の持論を言っただけじゃん
 そんな押し付けみたいなのじゃないじゃんよ」

「いや、でも本当にそう思ったんです」

御坂がまっすぐ凛とした目つきでそう言う。
それを見て黄泉川がニカッと笑う。











「ありがたいじゃん。じゃ、次の――――――」

黄泉川が言いかけた時、すぐ脇からジャッジメントの腕章をつけた一組の男女が現れる。

「定期連絡です。黄泉川さん、何か以上は有りましたか?」

「いや、ないじゃん。異常なし」

「そうですか。分かりました」

腕章をつけた少女が笑いながら黄泉川の手を触れる。男子のジャッジメントも軽い会釈して
一瞬にしてその場から消える。

「あれ、ジャッジメントも一緒にパトロールしてるんですか?
 ダメなんじゃないんですか?」

御坂が黄泉川に尋ねる。完全下校時刻をすぎて活動できるのはアンチスキル上層部のの許可を得た
人しか活動できない。御坂みたいな特例はともかく、普通、ジャッジメントは貰えない。

「ああ、人数が足りないんで手伝ってもらってるじゃんよ。 
 もし、犯人たちに遭遇しても大丈夫な高能力者限定で」

「そうなんですか……あとさっきのは何ですか?
 何か定期連絡とか言ってましたけど、連絡なら無線使う方が早いんじゃないんですか?」

御坂が再び質問する。連絡なら無線の方が早いし現実的だと御坂は思う。












「あの子はテレパスのレベル4じゃん。素早く、広範囲に念話できるから
 情報の伝達がスムーズにいくじゃん。だから活動してもらってるじゃん
 無線の場合だと一気に情報を送れないから」

「私以外にも頼まれた人がいるって訳ですね」

「そうじゃん。情けないことに」

黄泉川が申し訳なさそうにする。
他のアンチスキルも眉を下げて頭を下げている。
なんかドジ踏んでしまったと御坂は考え、調子を上げて言う。

「あ、あははは~~ も、もう行きましょうか。次のGブロックへ
 早く行かないと遅くなっちゃうし」

「ん?次はBブロックじゃん?」

「あ、あれ~~ そうでしたっけっ!?
 じゃあ、早く行きましょう」

御坂によって半ば強引にアンチスキル達は連れられていく。
Bブロックにも別段異常はなく、御坂が帰ったのはすぐのことだった。









ピピピピッという目覚まし時計の音で御坂は目を覚ました。
昨日のパトロールの疲れでまだ眠いが、起きないと鬼寮監によって
しばき倒されるのでノソノソと起きる。

半分眠りながら洗面所へ行き顔を洗う。
コップの中に入れてある可愛らしいカエルの歯ブラシを手にとって歯を磨く。

「……」

そのコップの中にあるもう一つの歯ブラシを手に取る。上品なデザインで紫色の大人っぽい歯ブラシ。
御坂のソレとは全く逆のものである。

『お姉さま!!またそんな子供っぽい歯ブラシ使って!!』

『いいじゃない。それにカワイイでしょ、これ』

『そんなガキっぽ―――――ギブギブギブぅぅぅぅ!! お姉さまギブですの!!
 そんな真顔で首絞めないでくださいましぃぃぃぃい!! カワイイですわぁぁぁぁあ!!』

『やっぱ黒子もそう思う!! 良かったー!!』
 
『く、黒木のはどう思いますの?』

『え? 良いと思うわよ。黒子に似合ってる』

『ぐすっ……コレは家宝にさせていただきますわ』

『おおげさじゃない!?」

歯ブラシを見ながら、そんな何気ないバカみたいなやり取りが御坂の脳に思い出される。
目を自分のベッドの隣に目をやる。











空っぽのベッド。本来は白井黒子のベットだが今は布団が取り除かれ枠組みだけになっている。
それが御坂の心を揺さぶる。

「黒子……」

返事はない。『お姉さま!!』という元気な聞きなれた声はしない。
寂しいという唯それだけの感情が噴出する。

寂しさを紛らわすように御坂は床に放り投げられていたリモコンを拾って
口を濯ぎながらテレビを点ける。

「えっ……何で?」

画面にはニュースが流れていた。それを見て御坂は間の抜けた声を出してしまう。

『昨日、また新たに無能力者殺人事件が起きました。被害者は中学生の女生徒で
 焼死体で発見されたようです』

『事件が発生したのは夜と思われており、統括理事会によってパトロールが
 強化されてから初めての初めての犯行になります』

『場所については7学区の――――』

御坂の手からリモコンが落ち、その拍子によって電源が切れる。
御坂はの額には汗がしっとりと湿っている。

「7学区? どうして……?」

目を見開きながら御坂は尋ねる。
その疑問に解消してくれる人はこの部屋には誰もいない。






今日はこれで終わりで。

今日はこれで終わりで。

待たせてすいません 投下します











肉の焼けた臭いと、聴覚を狂わすような鉄の臭いがこの狭い空間に充満する。
脚にはピンク色の筋肉が鮮やかに、そして真っ白いものがその存在を強烈に主張している。

体はまるで包丁で刻まれたかのように何度も切りつけられ、皮膚が引き裂かれ
纏っていた思われるセーラー服は皮膚、肉と癒着するほど焼き付いている。

顔は元の顔が判別できないほど血によって覆われており、
全体的に血の色とは対照的な青黒い痣が浮かんでいる。

片目は半開きで焦点が合っておらず、もう片方の目からは止めど無く血が溢れ出ており
その本来の機能を果たしていない。

髪の毛から発する強烈な異臭が灼熱を連想させ、その毛先は強引に引き千切られボロボロになっている。
伸ばしている片腕も元の肌の色が分からないぐらいに黒々と染まっており、
爪は所々剥がれ落ち、指も位置が揃っていない。
















そんな状態の少女を見つけた時、憎しみとか怒りという感情よりも
衝撃のようなモノが心に突き刺さった。

言葉になんかできなかった。

体液がありとあらゆる所から滲み出る感覚がした。

反射的に拳を握った。無意識だった。

原始的な、暴力的な、本能的な誰にも説明できないような
漠然としたモノが自分の全身に強く現れる。

「……」

手が、腕が、足が、肩が……自分の体を制御することができなかった。
まるで他人のように自分の意思とは関係なくただ震えていた。
体の中にある真っ赤な血が雷のように全身を荒々しく駆け巡る。

目が眩み、視界が暗闇に閉ざされていく。何も考えることができなくなる。

全身が一定のリズムを刻む。、歯がギリギリと音を上げる。
真っ白い、汚れのない紙に黒のペンキをぶちまけるが如く、心を染めていく。

黒色が止めど無くぶちまけられ、氾濫を起こす。















「……」

黒いドロドロとした憎しみという感情が瞬く間に燃え上がり
憎悪といったものに変わる。

少年達が何かを叫びながら能力を放つ。


「……」

向かってきた炎弾を右手で叩くように払いのける。
触れた瞬間、一瞬にして消える。


視線を目の前の少年たちに向ける。
その顔には焦りと困惑の色が浮かべているが
彼らの顔ではなく手や靴に注目する。

血が付いている。真っ赤に染め上げるほど覆われている。
しかし彼ら少年自身には怪我や傷は見られない。

拳から血が滴る。爪の隙間からポタポタと垂れていく。
そんな体の変化に気づかないまま彼らを睨みつける。鋭く血走った目で。
怒り狂う獣のように。

恐ろしく低い声で敵に宣言する。

「テメェら、許さねぇぞ」













楽しい。心底、楽しいと思った。
地に伏せている少女を腹を思いっきり蹴り上げながら少年は思う。
靴の先がぶつかると同時に少女がか細い、声とも言えない声を出す。
口から決して少なくない量の血を吐き出し、もがき、苦しむ。
そんな様子が面白くて堪らなかった。

「いいねぇ!! イイネぇぇぇええ!!」

どうやらもうひとりの仲間もそう思っているらしく、
楽しそうに笑っている。

人を傷つける快感というより、『人を傷つけるのことはしてはいけない』というのを
破るような快感。やってはいけないのにやってしまう。

(やべぇよ!! これッ!!!!)

突き抜けるような開放感を感じ、口が思わず釣り上がってしまう。

少年は地に伏せている少女の髪の毛を強引に引き上げその顔を見る。
鼻は無残にも曲がっており、片目は潰れているのか血が覆っている。
歯は殆どが折れており、口内は真っ赤に染まっている。













(最ッ高だ!!)

思いっきり真正面から拳を入れる。
骨と骨の織り成す音楽が楽しい。

少女の様子は一般人なら目も当てられ無い程の痛々しい。
しかし少年は何も思わない。可哀想だとかそんなマイナスな感情は全く抱かない。
逆に悪い意味でのプラスの感情が湧き上がってくる。

髪の毛を掴んだまま、少年は少女の顔をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
少女の体は地面を転がろうとするが髪を掴まれているため強引にその場に留まり続ける。
その状態のまま何度も何度も少年は足の感触を味わう。

少女の顔をどんどん血が覆っていく。顔の判別が難しくなっていくほどに覆っていく。
その様子は少年の体を悦びで満たしていく。夢中になっている間に相当力強く蹴っていたのか髪の毛が引きちぎられ
ようやく少女の体が通路の端の方に転がる。頭皮が黒と赤に煌々と光っている。
少女の呼吸が不規則になり体の震えが大きくなっている。
このまま放置しても死ぬだろう。

いたぶるのを止め少年は呼吸を荒くしながら転がっていく少女を見つめる。

「……」

この少女をこんな状態にしたのは誰だ?
こんなことをして許されるのか?

少年は心に問う。その答えは嫌というほど分かっている。

こんな状態にしたのは俺だ。
許されるわけない。











分かっているが止められない。心地よい背徳感が全身を麻痺させ
脳内麻薬が体の芯から溢れ出てくるような感覚が確かにする。

(この女を支配しているのは俺なんだッ!!)

(コイツの命は俺のモノなんだッ!!)

命を支配する感覚。そんな感覚に少年は酔いしれる。
自分次第で人の命運が決まる。まるで神サマにでもなったかのような気分だ。
端に転がった少女を引きずり戻し、再び、先ほどよりもっと過激に暴行を加える。

肉の音がいっぱいに広がる。

(もっと聞かせろ!! もっと!! もっ―――)

暴行を止め振り返って、構える。真っ暗闇の通路から足音が聞こえたのだ。
気のせいではない。確かに音がする。

(あ? なんだ? 獲物が来たなんて合図はもらってねえぞ?)

(くそッ!! いいところだったのを邪魔しやがって……
 今は新しい獲物なんて要らねぇんだよッ!!)

もう一人の少年同じようには困惑と怒りが混ざったような顔をしながら
声を上げる。









「おい」

殺せ。そんな命令が声に含まれている。どうやら、盛り下げられて気分を害したのは
自分だけじゃないらしい。

「あぁ。誰だか知らねえが、死ね」

自分の手の平に炎弾を作り上げ、暗闇の中に放り込む。
触れたら溶けてしまうほどに高温。人体に当たったら瞬く間に死に至る。

(クズの無能力者が、くたばりやがれっ!!)

バチバチと火花を散らしながら暗闇に炎弾が吸い込まれていく。

炎弾が薄暗いところから不意打ちのように現れたら
多くの人間が避けられないはずだ。

「誰だか知らんが残念だったな
 邪魔しなければもう少しだけ長く生きれたのに」

「だな。じゃ、早く続きやろうぜ」

「ああ」

着弾したのかも確認しないまま少年たちは向き直す。
そして倒れている少女を虐めるために
足早に歩き出す。













「ん?」

「何だ?」

一瞬、ピキっと何かを砕くような音が響きわたったので
少年たちは振り向く。風音がこの一本道の通路を通り抜ける。

「なッ!?」

「な、なんで死なねぇ……っ」

驚愕する。どうして生きているのか分からない。
怒りの表情をした男が暗闇から現れる。
少年たちは恐怖した。
学生のようだが雰囲気が一般のソレとは違う。

「そんなことはどうでも良い……」

「っ……!?」

息を呑む。恐怖と困惑で心臓が縮み上がる。
恐ろしく冷たい声。感情を敢えて抑えているような低音。
射殺すような鋭い目つき。

少年達は心の底から恐怖した。そして焦燥する。













「ど、どうやって……っ まさか高位能力者か!?」

「そ、それはねえだろ!? 無能力者や低能力者しか
 誘い込まねぇ手筈のはずだろぉが!?」

「じゃ、じゃあアイツがしくじったのかよ!?
 そしたらアンチスキルが――――」

「あっ、アンチスキルは直接やってるから大丈夫だろ!!」

「じゃ、じゃあ何で!?」

「……もしかしたら誘導がコイツには効かなかったのかもしれない
 効いてたらもっと人が集まってくるはずだし、アイツだって連絡ぐらい寄越すはずだ」

「誘導が効かないなんてあるのかよ!? そんなこと今まで一度もなかっただろ!?」

「知らねぇよ!! ただ、コイツを殺せば――――」

そこまで言って声を遮られる。何も発せなかった。
聞いたこともないドス黒い声を聞いた。

「テメェら、許さねぇぞ」










地面を強く蹴り、上条は前方の敵との距離を詰める。 
敵との距離はそう遠くない。距離はどんどん縮まっていく。

上条の動きに予想外だったのか敵は慌てて迎撃を行う。

「なっ……!!」

狼狽えながら、1メートル程の風の刃を生成し、それを放つ。
刃は轟音を響かせながら上条の体を切り裂こうと直進する。

「くっ、なんなんだよ。テメェはぁぁぁぁっぁぁあッ!!!
 なにしやがったぁぁァっァ」

「俺らはレベル4なんだぁぁっぁぁぁあ!! テメェみてぇな
 ゴミクズなんかにぃぃぃぃぃいいいいッツ!!!!」

敵の掌から炎弾が次々と放たれる。どれも先ほどの弾よりも
大きく速い。熱風が狭い通路に吹き荒れる

「死にやがれェェェェえええええええ!!!」

高速回転する風の刃が壁や地面を抉りながら
上条に襲いかかる。
当たれば体が真っ二つにされるだろう。それに普通の人間が避けられるスピードではない。











炎弾と風の刃が真っ直ぐ向かってくる。しかし
上条は前進するのをやめない。目の前の敵を
視界から外さない。

(こんなもの……)

効くわけない。こんな何の目的もない人殺しをやっている奴の攻撃なんか効くわけない。
魔術のように体の芯が悲鳴を上げてしまう程の力があるわけない。

なんの理由も、信条もなく集団で弱者を殺すような奴なんかに自らの理由のため、信条のために
戦いを挑んできた魔術師や能力者達程の力があるわけない。

重みがあるわけない。

「効くかよッ!!」

上条が右手を突き出し、横に薙ぎ払う。たったそれだけで、
瞬間的に崩れ消え去る。

「く、そっ!!」

「まだ――――」














言い終わらないうちに能力を使用する。
先ほどよりも数、規模、速度、全てが優っている暴力の塊が上条に
襲いかかる。しかし

「無駄だッ!!」

走るのを緩めないまま右手でそれらを殴り抜ける。暴力の塊はあっけなく、その痕跡も残さず消える。
敵の顔がさらに絶望に染まっていく。

「うあぁあぁああああああ!!」

「ちくしょぉぉぉぉおぉおおお!!!!」

精神崩壊を起こしたかのように一心不乱に能力を放ち続ける。が
上条に届くことはなく、すべて無に消えていく。

(許さねぇッ……)

敵が上条の射程距離内に入る。悲鳴のような、弱々しい叫びが耳に聞こえるが
それを人が発したものだとは上条が思うことはない。
力のない、弱者の声。上条にはケダモノや化け物といった殺すのに一瞥もしないような
モノが喚いているようにしか考えられなかった。

「許さねぇぇ!!!!」

相手は今の状況をうまく飲み込めてないのか困惑した様子である。
そんな敵の顔面を引き裂くかのように血が滴っている右手を上条は大きく振りかぶる。
敵の一人が腰を抜かして地面倒れる。もう一人はもう逃げられないと踏んだのか膝を着いて嘆願しようとする。

「ま、待てっ。俺が悪かったっ。だから――――」

敵のその言葉を聞いたとき上条は頭の中が真っ白になった。
敵が何を言っているんだか分からなくなった。



























「は……?」



























「は……?」



















上条の頭の中に激痛が駆け巡る。脳内の血管が全て縦に裂けたような激痛が駆け巡る。

「アァァァぁあああァああああああ!!!!!」

プチッと何かが切れるような音がした。
あんな最低な、人間とは思えないような残虐な行為をしておいて
今更、どの口が『悪かった』など言うのか。

ある一線を保ってきた上条の理性が
この瞬間、崩壊を起こした。

「アアああああああああッツああッ!!!」

上条の絶叫が響く。

「うガぁぁ、ぁぁッ」

上条の右ストレートが敵の顔面に突き刺さり、少年が喚声を上げる。
何か弾けるような、砕けるような効果音が鳴り響き、程なくして
鈍い重々しい物音が分散する。

敵が仰向けに転がると同時に、上条はマウントを取る。少年が態勢を立て直そうと足掻くが
上条はもう一度渾身の力を顔面に打ち込む。

ゴホゴホと口から血が弾け飛び上条の学生服を真っ赤に染める。地面には白とピンク色のカルシウムの塊が
転がっていく。それでも上条の手は緩まない。少年の力がグッと弱まる。



















「ア゛ッッアアアァアアアァァっぁぁぁぁぁぁあっァァ!!!!」

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。
無残な音が炸裂し、場を蹂躙する。そして音が反復する。

急速に少年の体が壊されていく。上条の拳が直撃するたびに肉と骨の不協和音が
奏でられる。皮膚に血だまりを創り、骨を変形させる。

「アハハハハはははああああああハハハハ!!!!」

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。

「アハハハハッぁぁぁッハッハッハッハハハハッツ!!!!! ア゛ハハハハア゛ハハハッア゛ア゛ァァ!!!!」

「ぁ……っ…ぅ……」

「アヒャヒャッヒャッハハハア゛アアアアアア!!!!!」

殴打の手は緩まない。少年の顔面に自分の体重を乗せた拳を何度も何度も
放つ。少年の抵抗はなくなっており、もはや意識を失いかけている。真っ赤に、ボロボロになった口内から
だらしなく泡と涎が垂れ流れている。能力を使用できる状態ではない。
そんな様子の相手にも上条は力を抜くことはない。
笑いながら相手を傷つけていく。

悪魔のような叫び声を上条は上げながら徹底的に敵に苦痛を絶えず与えていく。
一度殴る毎に、血が辺りを汚し、肉が裂け、骨を砕き、原型を崩していく。
鼻を砕き、歯を折り、髪の毛を引きちぎり、目を潰す。
一心不乱に痛めつける。














「ひっ…!」

上条の耳に小さく声が聞こえた。恐怖し怯えている声。抑えていたのに耐え切れず出してしまったような声。上条はゆっくりとその声のした方

向に
顔を向ける。

そこには腰を地に落とし、涙目で恐怖で顔を引きつらせているもう一人の少年。
目と鼻の先に居たのに上条はその少年の存在に気づかなかった。

上条は自分の下にいるボロボロの少年を蹴飛ばし、立ち上がる。
怯えている少年は伏せた態勢をまま、匍匐前進の態勢で、上条から必死に逃げようとをする。
しかし、あまりにも遅いその行為は意味がない。上条に片足を掴まれる。

「あぁ……」

少年は実感した。もう自分は終わりなのだと。
そして少年は後悔する。

どうして逃げなかったのか?この男が暴行に夢中になっている間に逃げれたはずだ。
なぜ、逃げなかったのか?隙だらけだったし、倒すことはできなくてもその場から消えることぐらいはできたはずだ。

















「うぁ…ぁ…ぁ…」

体が震える。これからどうなるかハッキリ分かる。
少年は分かっていた。どうして逃げれなかったのか。
体を仰向けにさせられ馬乗りされる。抵抗しようとしても力が入らない。
目と目がしっかりと合った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ、いやだぁぁぁぁあああああ!!!!」

怖かった。逃げようとしてもあまりの恐怖で体が動かなかった。
仲間を見捨てて逃げるのが忍びなかったとかそういうわけではない。
ただ、怖かった。

異常だと思った。

「やめてくれぇぇぇぇぇぇええええええ!!」

涙混じりの叫びを少年は放つ。上条はその様子を見て

「アヒャヒャヒャヒャヒャァァあああああああああ」

笑った。


















「アハハハハハハハハハハハ八ハハァァァァァァァア゛ア゛ア゛ァァア゛ァァァァァァァ!!」

怒りに染まった表情のまま絶叫する。その場をキリキリと震えさせる。
肉と肉が重なり合う度、血が噴き出し飛沫が宙を舞う。紅色の水玉が夜の闇を映し出す。
そして地に落ち、壁や地面を穢らわしく塗りつぶす。
その血はやがて少年達にも降り注ぐ。

鉄の塊で土を叩いたかのような重低音と、沼地の泥のような水の混じった音。
二つの音が混ざり合い、この場を振動させる。その音が不規則なリズムで繰り返される。
全身の力を込めた打撃を上条は何度も打ち放つ。もはや何回目なのかわからない。
何度も何度も唸り声を放ちながら相手の顔面を殴打する。

「アハッ、アハハッハアハハッハハハハ、ア゛ハハハハハハァァァァハハハハハ!!!!」

「アヒャヒャッ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッァ、アアアアアアアアアアアアアア゛ァァア゛ハアハ゛ア゛アァァァァァハァッ!!!!」

「ア゛アアああああああああァァァァああッァァぁァアァアああ!!!!」

上条によって少年の顔は見るに耐えないものに成っている。抵抗もなく、
小刻みに体を震わせ、ヒューヒューと小さく呼吸している。下半身には血とは異なる別の液体が
染み出ている。

「アハハハハハハハははっはハハハハあああああああああああぁぁァァァァァァァァァァァ、ああぁぁァっァ???!!!」

ぐったりとしている少年の髪を乱雑に引き上げ、困惑の色を見せながら上条は力任せに頭をぶつける。
点々と血の雫が上条の額に付着し、それらは顔をゆっくりと線を描くように滴っていく。

少年は真っ赤に染まった頭を力なく地に落とす。

腐乱死体のように強烈な匂いを発生させ、あまりにも衝撃的な容貌に成っている。
ハイエナが食い散らかした後のように粗雑で乱れている状態。ピンク色でプルプルした真肉が
右頬の辺り一面に露出しており、その中の純白が存在感を十分に醸し出している。



















鼻筋の軟骨は皮膚を突き破って鋭利な刃物のように突き出ている。目玉は眼底の辺りから変形しており
歪な形をしている。歯はノコギリの刃のように欠けているところもあれば、中心から真っ二つに折れているのもある。
丸ごと抜け落ちているのもあり、赤黒い歯肉から糸のように肉のヒダが垂れ下がっている。

『酷い』なんて言葉では表せない程の状態。その状態に違和感が並在している。

首から上はまるでこの世のものとは思えないほど凄惨な有様。しかし首から下は
傷一つない。

顔面だけを徹底的に破壊されている。

「ウ゛アァァァぁあぁああああああああァぁぁっぁぁぁッ……!!!」

常人なら見ただけで吐いてしまうような状態。それでも上条は、その無残な死にかけている少年をさらに惨たらしい状態にしていく。
涎を飛ばしながら笑う。目に透明な涙を染み出しながら、基地外じみた笑い声を上げる。

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。

響き、少年の中の紅い体液が流れ出る。

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。

手は止まらない。

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。

我を忘れて半狂乱に、獣のように暴力を振るう。

ゴンガンドンバンガンギンドンガングジャ。

相手の存在を消そうと、無くそうと人間の一番印象的な部分を
荒々しく抉っていく。

「ア゛ァァァアァぁぁぁぁあああああああああ!!!」

目を見開き瞳孔を開かせながら、上条は咆哮する。
腰を捻り相手をグチャグチャにしようと右腕を大きく振りかぶり――――――――――――



瞬間。























「あ?」













上条は聞こえた。声というより息遣いのような音が聞こえた。
自分が今、馬乗りになっているこの少年が発したものじゃない。
壁側に仰向けで倒れている少年が発したものじゃない。

上条は視線を声のした方向へと定める。

「ぅ…………」


「え」


上条には少女が見えた。体の隅々まで朱色をしている少女が上条の瞳に映った。
その瞬間、上条は頭から急速に血が引いていく感覚を覚えた。

「あ……」

脳内のアドレナリンが落ち着いていくのを感じた。夢から覚め
現実にだんだん引き戻されるような感覚。そんな感覚に襲われた。
体が震える。

「俺は……」

上条は体温が下がっていくのを感じた。そして冷却されつつある脳を回転させ、
心に自問する。

何のためにここに来たんだ。

上条は少女を見つめる。ボロボロだ。一目で重症だと、早く病院に連れて行かないと
危険だという事が即効で理解できる。
それなのに

















「俺はっ……」

何をしていたのか。

上条は自分の下に倒れている少年を見る。
ボロボロなんてレベルじゃない。もう『死にかけている』というのが
文字どうり当てはまるようなそんな状態だった。
それを

「…俺が……」

上条はヨロヨロと立ち上がり、倒れている少女のところに足早に向かう。
制服を脱ぎ捨て、自分のワイシャツの腕の部分を引き裂き、少女の応急手当のために使う。

白いワイシャツが一瞬で赤に染まっていき、浸ってしまう。
上条は強引に性急に傷口を強く縛る。

血が滴る速度が遅くなったのを確認すると、携帯電話を落としそうになりながらもポケットから出し
震える真っ赤な手でアンチスキルの番号を入力する。




――――――――――――――――――――――――



アンチスキルに通報し終わるとすぐに倒れている少女を上条はそっと背負う。
血がベタベタと張り付いてくる気持ち悪さがするが上条は無視する。

普通ならばアンチスキルが来るまで待機していたほうが良いが、
少女は重症で一刻を争う状況にある。

アンチスキルが到着するまで待っているより、背負って運ぶほうが良いだろう。
幸い病院はすぐ近くにある。

上条は逃げるように走り出した。少年たちが倒れているのをあえて見ないようにして
通路を走り抜けた。震える脚で出せる全速力で駆け抜けた。

「お、俺は……」

酷く弱々しい声で、そう呟いた。















長椅子に上条は座っていた。祈るように手を絡ませ、下を向いている。
背中には病院の事務員が使っているジャージを羽織っている。
医師や看護師の慌ただしい声や足音が耳に入る。

ブーっとサイレンが鳴り響き、手術中と書かれた光が赤から青に変わる。
そこから現れた手術着のカエル顔の医師が優しく伝える。
それに上条は低い小さな声で答える。

「もう大丈夫だね、命は取り留めたよ」

「そうですか……」

「……」

上条の様子を見てカエル顔の医師は無言になる。
そして優しく気遣うように上条に言う。

「後で私のところに来なさい。君も怪我しているようだしね
 必ず来るんだよ? いいね」

「……はい」

少しだけ悲しそうな顔をしながらカエル顔の医師は上条の頭に手を置く。
そして優しく撫でながら言う。
















「……気にしないほうがいい。
 結局命は助かったんだ。あまり、自分を責めないほうがいいよ」

「……はい」

カエル顔の医師は一瞬だけ辛そうな表情を見せたあと、病室へと向かっていた。
上条は座ったままその後ろ姿をいなくなるまでぼんやりと眺めていた。

「今……何時だ……?」

ふと思いつきポケットから血が付いている携帯電話を取り出す。時刻は
8時52分を示していた。完全下校時刻を大幅に過ぎている。

そしてよく見ると着信履歴が何件も入っていた。
番号を確認してみると全部、家の電話番号だった。
誰が掛けたのか考えるまでもない。

そのままぼんやりと画面を見つめる。

「インデックス……」

今朝の悲しい表情が思い起こされた。またあの表情をさせてしまったのだろう。
約束したのに守れなかった。何やってるんだ。

(約束、守れなかったなぁ……)










そんな思いが上条の頭の中をグルグルと回っていく。
画面から目を離し、携帯電話の番号キーのところを上条は見る。

血が付いている。真っ赤なドス黒い血で染まっている。
冷や汗が背中から噴き出す。

「お…俺の方が……」

考えたくない。でも思ってしまった。
あの少年たちの見るも無残な顔が頭を貫く。

自分が助けた少女はボロボロだった。酷い状態だった。
そんな状態にした奴は許せないし、許したくない。敵だ。
制裁くらって然るべき連中だと思う。

でも

あの少年たちの方がボロボロだった。『酷い状態』なんて
そんな甘いものじゃなかった。『半殺し』であった。









あの時、アンチスキルの到着を待たなかった。
理由は、『少女を助けたいから』だった。心の内で思ったこと。
だがそれは上辺だけだった。

本当に心の中で、心の奥底で思ったことは違った。
ただ『あの場所にいるのが辛かった』というだけだ。

自分がやったことに恐怖を感じた。自分が導いた結果を見たくなかった。
だから少女だけ背負って、少年たちを見捨てた。

同じく重症。もしくはそれより酷い状況であったのに、アンチスキルに押し付けた。
自分がしたことだと理解したくなかったから。

あの時、上条は気づいた。

少年たちが少女にしたことは最低な行いだ。
あんなことを喜んでするなんて化物だと思う。

しかし

自分が少年たちに行ったことは彼らが少女に行ったコトよりも酷かった。
彼らより同等以上の行いをやってしまった。化物である彼ら以上に残虐な行為をしてしまった。
つまり自分の方が――――――――――――――

「化物じゃねぇか」

















「……失礼、します」

低く、掠れた声で呟きながら、上条は診察室と機械的なフォントが掛けられている戸をそっと引く。
蛍光灯の光が炸裂し、上条は視力を失う。そしてぼんやりとそれが回復していく。
カエル顔の医師が、困惑したような憐憫のような気配を見せながら、高級そうな椅子に座っている。
上条に患者用の丸椅子に座るように手で示す。

「遅くなって申し訳ない、待たせてしまったね」

「……いや、別に、平気です」

「そうかい? ならいいんだがね」

「……はい」


返答はするものの顔は真っ白の床を向いている。
そのまま会話が途切れる。部屋一面を静寂が支配する。
重々しい空気が上条から生み出される。

「手を出しなさい」

「……」

















医師はボロボロに擦り切れている上条の手を
包帯でやさしく巻いていく。

「痛くはないかい?」

「……大丈夫です」

上条は問いに答える。床のタイルに目を固定したまま。
医師はそんな上条の様子に眉をひそめる。

そしてゆっくりと口を開いた。

「先程も言ったけどね、考えすぎないほうがいい。
 あの女の子は助かったんだから」

「……」

「確かに酷い状態だったよ? 私も最初見たときは目を背けたくなるほどの重症だった。
 まさに『瀕死』の状態だったけど、命は取り留めた」

「命がある以上、私は救える。完璧にね
 あの傷だって元のように、何も無かったかのように治せる。
 私の腕は何度もここに入院している君なら知っているだろう?」

「だから気にしちゃいけないよ。私は医者だから人を救える。
 でも、それは病院の中の患者だけだ
 君があの子を運んでこなかったら確実に死んでた。
 ここに来るのがもっと遅かったら救うことはできなかった」

「私の言いたいこと、分かるね? 君があの子を救ったんだよ」

「……」

上条は何も答えない。答えたくないからだ。目線をそのまま変えない。

















「命を救うこと。褒められることはあっても、責められることなんて絶対にない。
 だからクヨクヨと考えるのはやめなさい。いいね?」

上条の顔をしっかりと見ながら
医師が包帯を鋏で切り、解けないようにしっかりと結んでいく。

「……はい」

抑揚の乏しい声質で上条は返事をする。目線を上げることは無く。
まったく変わらない上条のその態度が医師に、微妙なため息をつかせる。

「はぁ……しばらく学校は休みなさい。しばらく調子じゃ勉強なんてできないだろうからね
 あと、今日はもう遅いから泊まっていきなさい。部屋は手配してあるし
 君が一緒に住んでいるあの子にも事情は伝えたから」

「……」

両者に一瞬、間が空く。重苦しい空気が充満する。

「……ありがとうございました」

低い声で礼を述べ、すばやい動作で上条は再び戸に手をかける。
歩き方がどこと無くぎこちない上条のその後姿を見て医師は呟く。

「……君はどこまでも英雄なんだね。本当に」

小さく、はっきりとしていない声、その声は確かに上条の元に届いた。
















「…………」

月明かりが窓から微かに漏れている。碧のカーテンに隔てられたその光は、何ともいえない情緒を醸し出している。
幻想的な光景は心を高ぶらせるものだが、ベッドの上の上条の心は沈んで、冷え切っている。

医師の声がエコーがかかったかのように頭の中に何回も再生される。
何度も、何度も…… 頭から離れようとしない。
声が楔となって心に突き刺さる。

おそらくあの医師は自分が悔やんでいると思っているのだろう。
『あの少女をもっと早く助けていれば……』
『自分が早く見つけていれば、あのような悲惨な状態にはならなかった』

そうように考えているのだろう。その思い込みを否定したかった。でも、できなかった。できるはずも無かった。
否定してしまえば自分の今までの行いが醜いモノだということを認めなくてはいけなかったから。
医師の純粋な思い込みが自分には痛かった。

「っ……俺は、クズだ」

今まで自分は人助けをしてきた。相手の弱みに付け込もうとか、恩を売って利用しようとかじゃなく
善、悪とか関係なく純粋に助けたいと思って行ってきた。そう、思っていた。
動機なんか無い。そう、思っていた。

「おれは……最低なんだぁ……っ」

小さな雫が点々と手の平を汚す。


















あの時、ボロボロの少女を見た時、早く助けようなんて
思いは浮かばなかった。犯人たちへの怒りしか浮かばなかった。

そして、自分は思うがままに暴力を振るった。はっきりと覚えている。
自分が彼らの眼球を潰したこと、鼻を打ち砕いたこと、歯をへし折ったこと、
肉や皮膚を引き裂いたこと、全て覚えている。

そして、その全てに対して微かに楽しみを感じたことも。

「…ぅぅ……っ……ぁあぁぁぁ……」

薄暗闇に啜るような音が空間を伝わっていく。
無音を壊す。

気づいてしまった。自分が人を助けるのは最低な動機に基づいていたのだということを。

自分は人を救おうとして、救っていたんじゃない。人を傷つけるために、救っていた。
『守る』『助ける』なんて綺麗事の大義名分を掲げて、堂々と人を傷つけていた。

自分は無意識下のうちに欲していた。合法的に、人道的に人を傷つける理由を捜していたんだと気づいた。



















「ぅ…っ………っ……」

これが自分の本性だと思うと、並々ならぬ嫌気が差した。押さえきれない悲しみ、自分に対する失望感がジリジリと侵食する。
自分がやってしまったことについて。自分の人を助ける真の目的。
全て、最低だ。けど一番最低なのは、皆を騙していたということだ。

周りの人間は自分がこんなに汚いということなんて知らないだろう。
自分が人を壊すために助けていたことを夢にも思っていないのだろう。
皆、カエル顔の医師のように自分のことを思っているのかもしれない。

「み、んな…… ごめんなぁ……っ………」

滴る瞳の中に今まで関わった近しい人の顔が浮かぶ。

インデックス、子萌先生、青髪、土御門、吹寄、姫神、御坂、御坂妹、風切、ステイル、神裂、闇咲、
オルソラ、アニェーゼなど……たくさんの人の顔が思い起こされる。

信頼してくれている全ての人を騙している。自分がそんな狡猾な人間だという事実は
心を締め上げるのには十分だった。

涙を流しながら、おもむろに上条は力の抜けた右手で携帯を取り出す。
血は布でしっかりと拭いた。それでもまだ血痕が携帯電話の画面に点々と残っている。

着信履歴と言う文字が目に入る。
インデックスの顔が頭に浮かんだ。

(インデックスとの約束さえ守ることができなかった)


「俺はぁっ……」

「俺はぁぁぁあぁぁっ……」

上条は強引に掛け布団を引き上げ全身を包んで丸くなる。
泣き声を押し殺すように布団を噛む。

しかし、嗚咽は止まらない。
上条は殻に篭り、子供のように泣き続けた。






「俺は、化け物なんだ」
















学園都市には窓の無いビルというものがある。文字どおり、窓も無く、入り口さえない。
その建物の中にはゴミひとつ落ちていない殺風景で閉鎖的な空間が広がっている。
その中心に場に液体に満たされたビーカーに似た無機質な設備の中に男がいる。
学園都市統括理事長。アレイスタークロウリー。

「まさか、この様なことが起こるとは……」

機械的な肉声で男は静かに笑う。その声が部屋一面に
不自然に行き渡る。

「まだ制御は機能するようだが、自力で外すなど……
 おそらく異能に触れすぎたのが原因か。 まあいい」

「君はすばらしい検体だ。科学の支配をオカルトで外すなど
 聞いたことない」

浮かび上がってくるたくさんのスクリーンを眺めながら
無機質に呟く。脇には捩れた銀の杖が不自然に真っ直ぐ、浮かんでいる。

「やはり君は『アンドロイド』たちとは違うな。
 私を退屈させない」


「私の掌の外ではどう踊るのか。見させてもらおうか」

アレイスターは笑う。見世物小屋を鑑賞しているかのように。
残酷な笑い。



「本当に君は私を楽しませてくれるよ」







『本当に、楽しい』












「あれ? ここは……」

目覚めるといつもの部屋ではないことを上条は確認し
寝ぼけ眼でベッドから上体を起こす。

「あれ? 何で俺ここにいるんだっけ?」

周りを見渡すと、いつもの病室にいることは上条は理解した。
そして、この場にいる理由を思い出す。

(えっーと? 昨日確か、能力者に襲われていた女の子を助けて、
 それから病院に連れてきて……それから……何だっけ?)

(女の子は助かって……それから……?)

(その後は……ああ、そうだ。学校をしばらく休めって言うことと、もう遅いから泊まってけって
 言われたんだっけか?)

一応、ここに居る理由は思い出せたけれども
釈然としないところがあるので再び思考を巡らす。

(なんか、記憶が飛び飛びだなぁ……
 何だっけ?)

しばらく思考する。朝から頭をフル回転させる。
結論が出る。










「……ダメだ。思いだせん。疲れてたからかな?」

「まあ、たいしたことないだろ」

そんな答えを出しながら掛け布団を畳みベッドから降りる。

「うわ!! なんか濡れてるし!!」

確かに濡れている。掛け布団がしっとりと濡れているのだ。
それを手で確認して最悪の光景が目に浮かぶ。

「ま、まさか……上条さんはこの年になって聖水を漏らしてしまったんでしょうーか!?」

「嘘だろ?」

顔が険しくなる。この年でおねしょはヤバイ。
上条の手が震える。












「色はないけど、そういう時もあるだろうし……
 取り合えず匂いを……」

上条はゴクリと唾を飲む。心なしか上条の体が震えているように見える。
武者震いであろうか?鼻を恐る恐る近づける。
そして匂いをかぐ。

「アブネェェええェぇぇ!! セーフ!! 上条さんは聖水を
 放出していませんでしたぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

取り合えず社会的地位を剥奪されることは避けた上条だが、
ここである一つの疑問が浮かぶ。

「じゃあ、どうして濡れてるんだ?」

疑問。上条はその答えを知ることはできない。
上条は必死で考察する。数秒考えた後、結論を下す。

















「まあ、いっか」



















終了。待たせてごめんなさい。これからも更新頻度はこんな感じだとおもいます
すいません

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月01日 (日) 20:36:08   ID: GqFrIzSA

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