青年「俺の帰る場所」(526)



魔者と赤国の戦争は、魔者側の勝利で幕を閉じた。


戦後、武器、技術は失われ、全ての者達に新たな時が訪れた。


赤国の研究所によって造られた種族を含めた


人間・魔者・獣人・エルフ・ドワーフ。


これら五つの種族は、悲劇を繰り返さぬ為、


罪から目を逸らさず、互いを知り、共に歩み出した。


しかし七十年後、大陸全土を未曾有の大災害が襲う。


大陸に住む者の半数以上が、大災害によって命を落とした。


生き残った者達の中には、


それは穢れを浄化するべく起こった。


これは神の意思なのだと、そう信じる者も居た。



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こうして……


それまでの諸々が消え去り、本当の意味で、新たな時が動き出したのだ。


大災害によって荒廃した土地で、生きる事を余儀無くされた者達。


彼等は種族関係無く、生きる為、今日を生き残る為、手を取り合った。


だが二十年、四十年……徐々に生活が安定して行き、


少しずつ人口は増え、遂に一つの集落では収まりが付かなくなる。


百数十年が経つ頃、人間と他四種族は居住地域を分けた。


この頃の種族関係は良好、


交易も盛んで、多くの者が互いの地域を行き来していた。



………それから数百年………


人は国を造り、繁栄と発展を目指し、


四種族は自然との共存を望んだ。


すれ違い、道を違え、己が望むまま……


それから長い長い時を経て


犯した罪を忘れ、


先人が築き上げた絆を忘れ、


気高く戦い、人として生きた彼等の意志も忘れ去られた。


そして今、過ちは再び繰り返されようとしていた。



【魔者と魔物】


「あと何匹斬りゃあ良いんだ」


コイツ等は殺しても食えないし、食いたくない。


名は魔物、大災害後に現れた罪の証し。


俺達にとっちゃあ本当に迷惑な奴等。口に出したら区別が付かないからだ。


ご先祖様は人の為に戦って、人として戦って戦争に勝った。


なのに、何で未だに蔑称で呼ばれなきゃなれねえんだよ。


魔人って呼ぶ奴も少しは居る……でも、元は人間だ。


まあ、そこら辺はいい。


周りから見れば確かにヒトじゃねえだろう。瞳は紅く、力も何もかもがヒトのそれじゃない。


でも、それだけだ。それしか違わない。



何が、我々よりも貴方達は優れている、魔物討伐は頼みます……だ。


ふざけんなボケが、それは自分の手を汚したく無いからだろう? 殺したく無いからだろう?


そりゃそうだ。


首を斬られて血を流してる魔物も、腹を斬られて呻き声を上げるこの魔物も結局の所、


生きているんだから。


ヒトは変わらねえ、優位に在る者に取り入って利用する。


身分なんて物が出来れば、上位の者は下位の者を使うだけ。


ジジイに聞いた昔話じゃ、多くの『人間』は魔者に協力したらしい。



「退屈だな……そろそろ髪切るか。結構伸びたし」


それより早く帰って寝たい。


でも最近は魔物殺しばかりで気が高ぶって眠れやしねえ。


帰るか。ん? あれは誰だ?


初めて見る奴だ。ヒトか? 人間か?


此処に魔物が出る事ぐらい知ってる筈。しかも武器も持たずに来やがった。


「……っ、おい!! 逃げろ馬鹿!!」



【恥と希望】


「はぁ…」


ヒトは本当に情けない。


人間には力が無いからと、魔人に魔物を押し付けて、


たかが数百年でヒトの罪が消えたとでも思っているのだろうか?


僕が思っている以上に、ヒトは都合の良い考え方が出来る様だ。


現在、大災害前の歴史は伝説やお伽話の様に扱われている。


まるで過去など存在しなかったかの様に。


人間は時の流れと共に、過去の過ちから目を背けた。


今や人間と四種族の絆など形だけで、交流も少ない。



大陸は大災害で隆起した山脈により、南北に分断されている。


南側に人間を含めた五つの種族が暮らしているのだが、近頃は北側に移住する案も出始ている。


人間は他種族の意思を無視して開拓、発展を目指している。


発展を目指す、それは良いだろう。


でも、四種族に断りもなく開拓を始めるのは無礼にも程がある。


彼等は自然を愛し、自然と共に生きている。


そんな彼等の思いを無視して、自分達の未来だけを考えるだなんて、


同じ人間として恥ずかしい。



現在の王はとてもじゃないが支持できる人物では無い。


人間第一に考える者にとっては良い指導者なのだろう。


だが僕は嫌いだ。


だから変えたい、証明したい。


別段、腕が立つ訳でも何でも無い。それでも、どうにかしたい。


「種族は違っても共に歩めると、彼の英雄は証明した。なのに今はこの有り様……」


いや、諦めるな。祖父も父も、種族は違えど共に歩めると説いてきた。


その為か僕は変わり者扱いされているけど、そんなのは一切気にしない。


一人の人間として、現在を変えたい。



【不注意】


「まずは同志を……あっ」


考え事をしている内に森に着いてしまったようだ。


「……? 誰か、居る」


赤い制服。


大戦の最中、魔の者達が着用していたと言われる物に良く似ている。


随分着崩してはいるけど間違い無い、彼は魔人だ。


この森の魔物は彼が一人刈っているのか? ならば魔人の中でもかなりの強者に違いないだろう。


何やらだらけているけど、あんな長物を振り回したのだから疲れて当然か。


あれは嘗て英雄が使っていた剣。


伝説の鍛冶職人イザークが作り出した『刀』と呼ばれる物。


英雄は二刀所持していたらしいが、彼は一振りだ。



彼が所持しているのは、英雄の妹が使っていたと伝えられている物に似ている。


英雄・ロイの話しは、祖父に沢山聞かされた。


数百年前の話しだ。


勿論、祖父も直に見た訳では無いから、多少の脚色も混じっているだろう。


けれどロイを含め魔の者達と呼ばれた彼等の、


人として生き、人を守る為に生きた物語は、僕の中で生き続けている。


その子孫である魔人の彼も、理由はどうあれ、人間の為にしてくれている筈だ。


此処に来て彼と出会ったのも何かの縁、人間としてきちんと御礼を言わないと


『おい!!  逃げろ馬鹿!!』


彼は振り向き様に叫んだ。


明らかに僕に向けた言葉、正確には僕の背後を見てから発した言葉だった。


瞬時に状況を理解し、僕は身を屈めて前に跳んだ。




「ぅっ…はっ…はぁっ」


鋭い何かが、首もとを掠めた。


冷や汗が止まらない。この独特の重圧、背筋が凍る様な感覚、これは間違い無く、


「「 ググッ…ヴルル 」」


「……魔物」


どの生物にも該当しない異形の獣、怪物。


「「 ハッハッ…グッグルゥ 」」


大口を開け、涎を垂らし、眼はぎらついている。


狂気の獣、人間を喰らう魔の獣。


……ダメだ。


動けない、足が竦む、彼はたった一人でこんな怪物と戦い続けていたのか。



魔物は凶悪な爪を掲げ、振り下ろす


「「……あグッ?」」


「残念だったな。もう少しで喰えたのに」


が、僕の脇を目に追えぬ速度ですり抜けた彼の一振りで首を跳ねられ


何が起きたか理解する間も無く絶命した。


「馬鹿野郎。何で此処に来た? 近付くなって言われてんだろう」


案外若い。歳は僕と同じ位か?


うなじまで伸びた癖の無い黒髪、そして赤い瞳、


端正な顔立ちだが気怠げで、目の下には隈がある。


見るからに不健康そうだ。きちんと食べているのだろうか?


「おい、聞いてんのか? あ?」


「えっ? ああ、ごめん。少し考え事をしてた」


まるでチンピラの様な話し方だ。でも、悪い人では無い。



【名を継ぐ者】


「ブラッドリーよ、お主は最近、頻繁にヒトと会っているそうだな?」


「俺が会ってんのは人間だ。人間と会って何か問題あんのか?」


「いや、儂とて人間は皆愚かな者だとは思っておらんよ。じゃが、次代の英雄と呼ばれるお主には少し考えて貰わねば困る」


「英雄か。そりゃあ俺だって尊敬してる」


「うむ、我々魔の者の中で白髪なのはお主だけ。そして一族の中で最も優れた力を持っている」


「それだけで英雄の名を押し付けられるのは、確かに気持ちの良いものでは無いだろう」


「だからお主は髪を染めた。じゃがな、皆は信じて止まぬのだ。 英雄の再来を」



「よく俺みてえな奴に期待出来るな。まして英雄……なろうと思ってなれるもんじゃねえだろう」


「幾らお主が愚か者を演じようと、分かる者には分かる」


「そう思いたきゃ思ってりゃいい。でも俺はロイじゃない」


「いずれ問われる時が来る……儂もそう長くない。出来るなら、 全ての者が幸せに生きて欲しい」


「じゃが儂は、お主の祖父として、一族の希望などと言う荷を背 負わせたのは、済まないと思っとるよ」


「いいさ、ジジイは良くやっ


「馬鹿者!! お爺ちゃんと呼べ!! 孫に蔑ろにされる爺や婆の気持ちを少しは考えんか!!」


「……悪かったよ、爺ちゃん」


「良し。ならば行くが良い。友が待っておるのだろう?」


「ありがとな、爺ちゃん。じゃあ行ってくる」



「奴が気に入る人間が居るとはな。何れは儂も会うてみたい」


儂等は大戦の遺物、人間の中に嫌う者が居るのは事実。


彼等にとって我々が存在している事自体、犯した罪を突き付けられている様で目障りなんじゃろう。


身勝手極まりない理屈。


魔獣を刈り、平和を齎した我等が祖に武器を向けた赤国。それと何ら変わらんではないか。


だが未来は在る。


新しい世代、新しい時代、新しい絆。


この鬱々とした今を変える者は、必ず現れる。


まだ書き終えてはいませんが、時間かかっても最後まで書きます。ありがとうございました。


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と言うのを書きました。一番下は今書いている物の過去の話しです。



赤国ってあったしあれの続編か



【自己紹介】


「なる程、考え事か。あのなぁ、この森には魔物が出るって知ってんだろうが、馬鹿じゃねえのか?」


「それは……ごめん。でも助かったよ。ありがとう」


悪態に反論する事も無く、人懐こそうな童顔の青年は柔和に微笑み右手を差し出した。


その所作に違和感は全く無く、馴れ馴れしさや厭らしさも無い、 純粋なものだった。


「いいのか? 怖い魔者に手を握り潰されちまうぞ?」


と、魔者の青年は脅かすが


「魔人だから…何てのは怖れる理由にはならないし、それを理由にしてはならない。エルフ、ドワーフ、獣人だって姿は違えど人間なんだから」


間を置かずに告げられたその言葉を聞いた彼は、頭をがしがしと掻き、気付けば笑っていた。


「お前、名前は? オレはブラッズだ」


「僕はリナト。よろしく、ブラッズ」


差し出された右手は、握られている。


こうして、種族の違う二人の青年は出会った。



【名を継ぐ者】


「ブラッドリーよ、お主は最近、頻繁にヒトと会っているそうだな?」


「俺が会ってんのは人間だ。人間と会って何か問題あんのか?」


「いや、儂とて人間は皆愚かな者だとは思っておらんよ。じゃが、次代の英雄と呼ばれるお主には、少し考えて貰わねば困る」


「英雄・ロイ。そりゃあ俺だって尊敬してる」


「うむ、我々魔の者の中で白髪なのはお主だけ。そして一族の中で最も優れた力を持っている」


「それだけで英雄の名を押し付けられるのは、確かに気持ちの良いものでは無いだろう」


「だからお主は髪を染めた。じゃがな、皆は信じて止まぬのだ。 英雄の再来を」



「よく俺みてえな奴に期待出来るな。まして英雄……なろうと思ってなれるもんじゃねえだろう」


「幾らお主が愚か者を演じようと、分かる者には分かる」


「そう思いたきゃ思ってりゃいい。でも俺はロイじゃない」


「いずれ問われる時が来る……儂もそう長くない。出来るなら、 全ての者が幸せに生きて欲しい」


「じゃが、儂はお主の祖父として、一族の希望などと言う重荷を背負わせたのは済まないと思っとる」


「いいさ、ジジイは良くやっ


「馬鹿者!! お爺ちゃんと呼べ!! 孫に蔑ろにされる爺や婆の気持ちを少しは考えんか!!」


「悪かったよ、爺ちゃん」


「良し。ならば行くが良い。友が待っておるのだろう?」


「ありがとな、爺ちゃん。じゃあ行ってくる」



「奴が気に入る人間が居るとはな。儂も何れは会うてみたい……」


儂等を含めた四種族は大戦の遺物、人間の中に嫌う者が居るのは事実。


彼等にとって我々が存在している事自体、犯した罪を突き付けられている様で目障りなんじゃろう。


身勝手極まりない理屈。


魔獣を刈り、平和を齎した我等が祖に武器を向けた赤国。それと何ら変わらんではないか。


だが未来は在る。


新しい世代、新しい時代、新しい絆。


この鬱々とした今を変える者は、必ず現れる。



【同い年】


「なんだリネット、また来たのか。アタシ以外に友達いないのか?」

そう言ったのはドワーフの女性。


すらりとした長身で健康的な褐色肌、


背中に届く赤茶の長髪を後ろで結び、袖無しの作業着を着用、手には鉄槌。


男勝りで気の強い感が顔に出ていて、溌剌とした女性だ。


「むっ、カティアだって私以外に友達居ないくせに」


此方は白いローブを着たエルフの女性。


白い肌、肩にかかるさらりとした金髪、背は標準なのだろうが、一部は標準以上に発達している。


可愛らしく人懐っこい顔立ち、男女問わず否応無く庇護欲をそそられるだろう。



「うっ…まあ、そうだな。だがそれより、何人かの女性には友達と言うか、それ以上の感情を持たれている気がするんだが」


どうやら、女性には人気らしい。


「鍛冶してて背が高くて格好いいもん。仕方ないよ」


「男がしっかりしないから、こんな事になるんだ……」


何やらぶつぶつと言っている。時折、友人の一部を見ながら。


「大丈夫だよ!! カティアだってまだ、あれだよ。ほら!! 成長期だから!!」


「もうすぐ二十歳だ……諦めてるよ。何故なんだ? お前も同い年なのに」


その言葉は、ある一点に向けられている。


「し、仕方ないでしょ? それに私はそんなに大きい方じゃ


「なら私はどうなるんだよ!!」



「それはえっと……祈る、とか?」


「お前をか!! お前の胸を拝めばいいのか!?」


「あうっ、ち、ちょっと、そんなに揺、らさ、な、いでよぉ」


肩を掴んで揺さぶれば、それは弾むように揺れた。


「はぁ…アタシだって、少しは女性らしく、可愛らしくありたいのに」


「えぇー、格好いい女の子がいても良いと思うけど」


「……ありがとう。で? 今日は何があったんだ?」



【唯一】


「今日、近所のお婆さんが熱を出して、いつもの感じで治したの。そしたら」


『神様が遣わした天使様じゃあ!!』


「なんて言われて、何だかいずらくなっちゃって」


「巫女に救世主、今度は天使様か。直に見たら、そう思うかも知れないな」


リネットには不思議な力が在る。


傷を治したり、枯れた樹を元に戻したり、まあ色々だ。


拾われた子だと言うこともあって、神の子、何て言われてた。



「気味悪がられるよりは良いんじゃないか? みんな慕っているみたいだし」


「慕われてると言うより、なんか皆の目が怖くて。その、上手く……言えないけど」


アタシは女で鍛冶をやっているから変わり者扱いされて、人付き合いも良い方じゃない。


仲良くなったのは、互いに共通する部分があったからだと思う。


でも、こいつが独りになった理由はアタシとは違う。


今、人間との関係がぎくしゃくしていて、四種族はぴりぴりした感じになっている。


戦の可能性も視野に入れているらしい。


その所為か、こいつは救世主などと崇められる存在になってしまった。



だから、皆がそういう『目』で見る。リネットはそれが怖くて……そして寂しいんだろう。


「大丈夫だ。アタシがいる」


「やっぱり、カティアは格好いいよ。ありがとう」


アタシは、こいつが居ればそれでいい。こうして共に笑って居られればいい、力なんて関係無い。


こんな優しい奴を、誰よりも優しい力を持つ奴を、


何かを奪う為……まして戦になんか利用させてたまるか。


リネットは救世主でも天使でもない、アタシの大事な友達なんだ。



【色々】


「悪い、遅れた。ちょっと爺ちゃんと話しててな」


「いいよ。僕もさっき着いたばかりだし平気」


あれから俺達は、森の入り口付近にある大岩に座りながら話す様になった。


リナトと話すのは楽しい。


人を惹き付ける力みたいなもんがあるんだろう。何度も話す内に、こいつは何かをやり遂げる、そう感じた。


「僕は今を変えたいんだ」


開拓やら何やらで人間と四種族の間はピリピリしてんのに、こんな事を真っ直ぐに言える奴だ。


「やっぱ変わってんな。そんな事続けてたら国に目を付けられて殺されるぞ?」


「戦わなければならないのなら、戦う。事実、種族なんて関係無しに互いを尊重した時代があったんだ……今は、間違ってる」


「……そうか」


そう言や爺ちゃんも前に似たような事言ってたな。


『一方が間違えたなら、もう一方が正してやれば良い。じゃが、二つ共に間違っていたのなら、世界はどうなるんじゃろうな?』


もしそうなら、面倒な事になりそうだ。そもそも英雄が必要とされる事自体が間違ってんだからな。



「でもよ、一人じゃ無理だろう。どうする気だ」


「伝えるんだよ」


「はあぁ…随分気の長い話しだな」


「いや、中々馬鹿には出来ないよ? 確かに最初は無視したり、馬鹿にする人も居たけど、今は僕の考えに共感してくれる人間も居る」


「そりゃあ大したもんだな、俺にゃ無理だ」


「あははっ、いや、そんな事は無いよ。ブラッズ、君は剣術を使えるよね?」


「それだって地道な鍛錬の繰り返し、僕がしている事もそれと変わらない」


地道な鍛錬か。確かに、地道で過酷でつまんねぇ鍛錬だった……何処に逃げても爺ちゃんに捕まったのは覚えてる。


「まっ、頑張れ。それと、何があっても死ぬな」


「ははっ、うん。ありがとう」



リナトに、協力してくれ、なんて言われた事は一度も無い。


『考え、悩み、決断し、自分の意志で行動するんだ』


『大衆の意見に流される者は信用出来ない』


『だから僕は、一人一人と向き合って話すんだ』


リナトは決して楽な方には流れない、糞真面目で言った事は曲げない頑固者だ。


大抵、理想を口に出す奴は何も行動しないが、こいつならやるだろう。


どんな困難に直面しても、必ず。


だから俺みたいな面倒臭がりで、ずぼらな奴と付き合ってるのが不思議だったが……


『僕は同志では無く、友達が欲しかったのかもしれないね』


……友達、か。



【気になる】


……数週間後


「ねえカティア、最近ブラッズ見ないね?」


「なんだ? アイツの爺様に聞いてないのか?」


「え、うん。この前も三人でご飯食べたけど何も聞いてない」


「そうなのか? アタシも知ってるくらいだから、お前も知ってるかと思ってたよ。ブラッズは最近人間と会ってるらしい」


「えっ? 人間って、ヒト…だよね。ヒトは、怖いよ?」


私は、ヒトに乱暴されそうになった事がある。随分前の事だけど、あのヒト達の目は未だに忘れられない。


その時助けてくれたのも人間だった。人間が皆悪いヒトな訳じゃないとは思うけど、怖いのは変わらない。


「……だから言わなかったのかも知れないな。それに、アイツも元々は人間が嫌いだった。何かがあったんだろうな」


「可愛い女の人間を助けた、とか?」



「そうかもな」


まずい、これはまずい。


「ねえ、どうしたらいいかな?」


好きになった理由は些細な事だけど、私は彼が好きだ。


ぶっきらぼうで、だらしないけど本当は優しくて、本当は格好いい。


「私に聞くな、少しは自分で考えろ。試しに誘惑でもしてみたらどうだ? あいつ免疫無いだろう」


誘惑。誘い、惑わすと書いて誘惑。いや、今はそんな事はどうでもいい。


でも一応後で調べてみよう…上手な誘い方、とか?


それより、同い年なのに年下扱い、妹扱いされている私にそんな事が出来るのだろうか?


ううん。出来る出来ないじゃない、やるんだ!!



「妄……想像してみたけど、ダメだった」


「なら諦めるんだな。初恋は実らないらしいぞ?」


「いじわる」


「なあ、リネット」


「……なに?」


「ふてくされた顔をするな。安心しろ、相手は男だ」


私は、いつもからかわれる。こうして狼狽える私の姿を見て笑う彼女の顔は、正に外道。


私には、復讐する権利がある。


「ぺったん


「今日は泊めてやろうかと思ってたが気が変わった。今すぐ帰れ」


「ごめんなさい」



【意外】


「それで、同志はどれくらい集まったんだ?」


「結構集まりはしたんだけど、 でもちょっと……」


「何だよ? なんかあったのか?」


「えっ? いやっ、別に迷惑とか、決してそう言う訳じゃないんだ」


なんだよ急にあたふたしやがって、らしくねえな。


ろくでもない連中でも仲間に…いや、それはありえねえな。


殴られようが何されようが、こいつに限ってそんな奴を仲間にするとは思えない。


少し気になるな……ん?


「「 随分捜したぜ? リナト様 」」


なんだあいつ等? チンピラじゃねえか。


しかも、斧、槍、剣。お話しに来た訳じゃあねえだろうな。



「奴等は? 絶対知り合いじゃあねえだろ」


「最近になって方々から目を付けられ始めたんだ。僕を邪魔に思うヒトの手下か何かだと思う」


なるほど。こいつは弱い、力で来るのは間違ってない。


「貴方達は何故こんな事を?」


「「 ギャハハ!! 金と女と酒の為に決まってんだろうが!! 」」


「「 テメエをやればたんまり貰えるぜ!! 」」


奴等、欲に素直に生きてんなぁ…リナト、これは話しじゃ済みそうにねえぞ?


「「 あだッ!? 痛っ!! な、何だ!? 」」


膝、膝、脛、鎖骨、そりゃあ痛いだろうな……石だし。


投擲が止み、茂みから颯爽と出て来たのは一人。それも女だった。



「あの方を殺すと言うなら容赦はしない。どうだ? まだやるか?」


「「 わ、分かった。もう、いい 」」


隣に魔者が居るの分かってて喧嘩売る馬鹿でも死にたくは無いんだな。


気付いて無かっただけかも知れねえが。


「リナト殿、ご無事ですか?」


それにしても驚いたな。


「ありがとう。でも、着いて来ないでって言った筈だよ?」


「……それは、申し訳有りません」


同志なんて言うから学者みてえな連中ばかりを想像してたんだが、どうやらそうでも無いらしい。


「分かっているだろうけど君が見つかると……その、色々拙い。だから先に戻ってて、僕も直ぐに戻るから」


「はっ!!」



【秘密】


「意外な奴だな? 言い辛かったのはあの女が原因か?」


「他にも同志は居るんだけど彼女が異例と言うか、かなり特殊で」


あの動き、隠密の類だろう。


「国に、捨てられたのか?」


「……追っ手を撒いて疲弊していた所を獣人族の人に助けて貰って、暫くの間世話になったらしい」


「僕が彼女と出会ったのはその後なんだ。今は僕が色々と世話……と言うか、何と言うか」


思った事を最後まで通す奴だと思ってたが、助けると決めたら手段を選ばねえ質だな、こいつ。


「彼女は、国を変える事がその人への恩返しになる。そう言っていた」


「それに僕の、今はまだ理想だけど……彼女はそれに賛同してくれた。だから共に居てくれる」


理想を理想で終わらせる男じゃあ無い、こいつのそういう所に、赤髪姉ちゃんは惚れたんだろうな。



それより獣人だ? あんな頭の堅い連中が助けたのかよ。そっちの方が気になるな。


「リナト、その獣人の名は分かるか?」


「ああ、彼女が教えてくれたからね。偽名かも知れないと言っていたけど」


「構わねえ、教えてくれ」


「確か名前は……」


ーーーーーー


「ゼノ、お前はどう見る?」


「此方が歩み寄る案も出ているそうですが、そんな必要はありません」


「身勝手に新たな種を生み出し、挙げ句物として扱う非道な種。歩み寄ったとしても間違い無く裏切られるでしょう」


「ふむ、そうだな。下がって良いぞ、誇り高き狼よ」



望まれた言葉を言っただけだ。


幾らオレが人間に歩み寄れと言った所で、獣人の誇りだ何だと言うに決まってる。


「では、失礼します」


「ああ、待て」


「何でしょう?」


「夕刻、人間の探索隊が北側へ向かう。いいな?」


これで三度目か、懲りない連中だ。


「承知しました」


「うむ、頼むぞ」



誇り高い狼は魔物を装って暗殺などしない。


オレは、物心付いた頃からそういう類の訓練を受けてきた。


特殊な体質も含まれるだろうが、随分と大事にされた……道具として。


オレには確固たる意志、信念なんて物は無い。だから、あんな爺様に従って居るんだろう。


獣人族の長。


歳を取れば長になれるのか? オレが幾ら考えた所で何も変わりはしないだろうが。


もし、これから何かが起こるとしてオレは何を求める?


自由か? 友か?


無理だ。オレは何かを求める事が許される立場じゃない、死ぬまで此のままだ。


殺して、殺し続けて、用が済めば殺される。


「……案外、近いのかも知れないな」



そう言えばあの女、今頃どうしているだろうか?


族長や自分に疑問を持ち始めたのは、あの女と出会い、経緯を聞いてからだ。


国に追われた暗殺者、役目を終えた道具。


あれが、あの姿が、オレの未来。


痩せ細り、目が霞んで、音に怯え……身を寄せる場所も、頼れる者も居ない。


同情したのか、女に自分を重ねたのかも知れない。


暫く匿ったが流石に不審に思った族長はオレに監視を付けた。


事を伝えると女は礼を言い、直ぐに其処から離れた。


生きているかは分からないし、殺されていても何ら可笑しい話しでは無い。


だが、もし生きているのなら……自由を手にする事は出来たのだろうか?



【爺ちゃん】


「もう夕刻。奴め、飯の時間だと言うのに何をしておるんじゃ」


孫を案じぬ爺婆など居らん。例え二十、三十になっても孫は孫。


……ん? 来たか。いや待て、戸を開ける音が違う。


最近、獣人族の長が何やら不穏な動きを見せておる……見せている、と言うより最早隠す気が無いのかも知れん。


何せ根っからの人間嫌いで気の荒い奴じゃ、例の案を出した儂に何をしてきても可笑しくは無い。


「……誰じゃ!!」


「うわっ!? あ、お爺ちゃんか。はあぁ…びっくりしたぁ」


其処に居たのは刺客でも何でも無く、儂の孫同様に特殊な立場に置かれる者。



成長と共に周囲から距離を置かれる中、幼い頃から付き合いが途切れぬ数少ない人物。


まして族長たる儂の家にふらりと立ち寄れる者など、この子以外には居らんじゃろう。


「まだ帰って来てないんだ……うーん…よしっ、お爺ちゃんお腹空いたでしょ? 今からご飯作るから少し待っててね」


皆はこの子を救世主と呼ぶが、


「度々済まんなリネット。儂は料理出来んし、奴の料理は大ざっぱで味が濃い」


「男の人だし仕方無いよ。私だってそんなに作れる物多くないし……」


「いや、助かっとるよ。毎日が奴の料理では胃がやられてしまうわ」


「あぁ…ブラッズは濃いのが好きだから、お爺ちゃんには辛いよね」


儂にとっては、もう一人の孫みたいなもの。


出来れば家に嫁いで欲しい……ぬぅ、あの阿呆、何処をほっつき歩いとるんじゃ。

>>19 ありがとうございます。

今日はこの辺で終わります、ありがとうございました。



【夕刻・逢魔が刻】


「よぉ、相変わらず目つき悪いな」


此の道を知っているのは、情報を掴んだ同族。それと調査隊の人間だけ。


奴は最近、頻繁に人間と会っている。まさか人間側に付いたのか?


「ブラッドリー。何故、此処に居る」


返答次第によっては戦闘も避けられない、まず勝ち目は無いだろうが。


「お前が行く必要はねぇ、それを伝えに来た」


「どういう事だ」


「北側への探索は中止になるからな」


出鱈目だ……そんな情報は掴んでいない。



「ふざけるな、オレは行く」


「探索隊を止めるのは、お前が助けた女と……俺の友達だ。その女から、お前に伝言だ」


『ゼノ殿、貴方が手を汚す必要は在りません』


『人間の問題は人間が解決します。貴方の心を縛っているのは貴方自身。自由に生きて下さい』


『私は、あの時受けた恩を決して忘れはしません。有り難う御座います』


「ゼノ、お前になら分かるな?」


「ああ分かる」


そうか、生きていたのか、まさかこんな所で再会するとは……間接的にだが。


「その言葉は、有り難く受け取ろう」


「だがオレに選択の自由など無い。やれと言われれば、やらねばならない。それはあの女も同じだった」



「どうするつもりだ?」


「言わずとも分かるだろう。オレは行く」


「なら、女を助けたのは何故だ?」


「オレと同じ暗殺、隠密を生業とする者。自由への憧れ、情が湧いたのも事実」


「……お前が助けた女だけどな、国と人間を変えようと本気で思ってる馬鹿と共に居る」


「勿論、自分の意志でな。今お前が為そうとしている事に、お前の意志は在るのか?」


「黙れ、幼い頃からそうやって育てられた。オレの意志など初めから無い」


英雄として扱われたお前とは、違う。



【狼】


「やんのか?」


「命令だからな。それに…」


逆立った銀髪、体毛、尻尾がざわざわと奮い、


身体は、ごきごきっと気味の悪い音を鳴らしている。


「なんだよ?」


徐々に変貌していく。最早、目つきが悪いなどと言う表現では済まない。


その瞳は正に野獣、猛獣の眼光。


犬歯が目立つ痩せぎすの青年は、筋骨隆々、巨躯の人狼へと変貌した。


「以前から、お前が気に入らなかった」


「安心しろ、俺もだ」


「……参る」



発した言葉は人狼の後方へ置き去りにされ、距離は一瞬で縮まる。


風を切り裂く。


叩きつけるのでは無く、切断する様に振るわれた豪腕を、魔者は容易く受け止めた。


「抜け」


「剣ってのは簡単に抜いて良いもんじゃねえんだよ」


「……ブラッドリー、一つ聞きたい。お前はオレが暗殺していた事を知っていたのか?」


「いや、お前が助けた女から聞いた」


返答と共に拳を突き出す。鉛を落とした様な鈍い音、腹に拳がめり込む。


「ぐっ……」


「随分動きが鈍いな、考え事か? 答えは出たか?」



「……それだ、そう言う所が気に入らない。お前は自由、オレは


「ゼノ、お前は自由になりたいんだろ」


人狼の言葉を遮る魔者の声は穏やかで、夕暮れの森に静かに響いた。


言葉は、心を揺さぶる。


「…ッ黙れ!! オレには選べる自由など無かった!! お前とは違う!!」


迷いを断ち切る様な、自身の心を隠す様な、


そんな叫びと共に突き出された手刀は腹を貫き、背に抜けた。


魔者は激痛に顔色を変える事無く、腹に突き刺さる腕を掴み、ぐいと引き寄せる。



「お前等獣人は誇りとか何とか言ってるけどな、今となれば……」


「ぐっ、離せっ…」


この間、何度となく殴られ、蹴れてはいるが、魔は離さない。


「言い逃れにしか、聞こえねえよ」


「ぐァッ!!」


至近距離から真っ直ぐに放たれた拳は顎を捉え、その巨体を跳ね上げた。


「いってぇ……暫く寝てろ。お前が行かなくても、あいつが何とかする」


そう言って塞がった腹をさすりながら、気を失い徐々にヒト型に戻っていく彼の側で


「悪かったな、何も知らねえ癖に大口叩いちまって」


「それに、間違ってんのは一つじゃねえらしい。これから面倒な事に………なるんだろうな」


強く拳を握り、そう呟いた。



【探索隊の話し】


「隊長、本当に良いのですか!? この事が王に知れれば!!」


「安心しろ、失うのはオレの首だけだ!! まあ、バレたらだけどな」


顎髭を伸ばした熊のような大男、豪快に笑う彼が探索隊の隊長。


「しかし、あんな青臭い理想を聞いて引き下がるなんて……」


恐らく隊内で最年少であろう隊員は、納得出来ない様だ。


「そんな事は無いぞ? あの小僧は面を外したな?」


「ええ、外しました。まして名を名乗るなど馬鹿としか、我々が王に告げればどうなるか分からない筈は無いのに」


当然、捕まる。だが、その青年はそれを承知で面を外した。


「其処だ。あの小僧は理想の為に命を張れる男。我々探索隊に顔を晒し、名を名乗る。こんな事、並みの奴には出来ん」



「それは腕の立つ者が側に居たからでは?」


その青年には供が居た。面で顔を隠していたが、何か独特の雰囲気を纏っていた。


彼、もしくは彼女がその気であれば、戦闘になっていても可笑しくは無かった。


「だったらオレが小僧の腕を刺した時点で、隣に居た奴にやられてるよ。全員な」


隊長と話す彼以外の隊員は理解し、認めている様だ。一切口を開かず、隊長の言葉に耳を傾けている。


「と言うか、本来なら生かす筈がない。お前の言う通り王に告げれば奴は終いだからな」


「それは、確かに」


隊の誰かが告げれば即座に捕らわれ、行く末は死罪。呆気なく、終わる。



「あれは虚勢ではない、理想を語るだけの愚か者でもない」


「なら、隊長はどう見たのですか?」


「導く者。欲や争い、それらを正当化する為の大義名分など、あの小僧には無い」


「そんな馬鹿な。あんな青臭い理想で人心を掴み、まして国を変えられる訳が無いですよ」


鼻で笑っているが、顔には焦りや困惑が見て取れる。


「認めたくはないだろうな。だがな、お前も見ただろう? 奴の覚悟と意志を、奴は本気だ」


「随分、高く評価しますね」


彼は先程出会った童顔の青年を思い出していた。



腕を刺され血を流しても一切敵意を見せず、供の力も借りず、


己の言葉のみで隊を説得し、退かせた青年の姿。


「遣える身で言いたくはないが、国の在り方は間違ってる」


彼は、遂に黙ってしまった。


「否定しないのか? でもな、求めてるのさ」


「オレもお前も、あの場で奴を見た隊員全員、きっと民衆も、心の底で変化を求めてる」


彼等が真実を語る事は無いだろう。


彼等は見たのだ。


青年の言葉と行動に未来と希望を、そして決して揺るがないであろう信念を。



【気持ち】


戦闘は何とか避ける事が出来た。


探索隊の人達はそれ程忠義がある風でも無かったし、今の国に疑問を持っているのも見て取れた。


彼等の心は揺れている筈。


「……いっ!? 痛い痛い!!」


「我慢して下さい。消毒と止血をきちんとしなければ後に酷い事になります」


「怒ってる」


「当たり前です。貴方は甘過ぎます、今からでも遅くはありません、彼等は始末すべきです」


本来ならそうすべきだろう。でも、それでは駄目なんだ。


「大丈夫。彼等は僕の名を出したりはしない」


「何故、言い切れるのですか?」


呆れてる。これから言う言葉を聞けば、怒るかも知れないな。



「彼等の目を見て、そう思ったから」


「分かりました」


意外だ……凄く怒るかと思っていたのに。


「では、戦闘を避けた理由を聞いても宜しいですか?」


「それは簡単な話だよ。過去二回の探索隊は魔物によって殺害された事になっている」


「でも実際は君の恩人、ゼノさんが魔物を装って殺害していた。彼は敢えて姿を晒し何人か逃がす事で、魔物の仕業だと認識させた」


「もし君が戦っていたら、それは成り立たない」


「人間と他種族の間はとても不安定だし、他種族の妨害だとでっち上げる事も有り得ない話しじゃない」


「考え過ぎでは?」


「可能性が在る以上、考慮すべきだよ」


「それは、確かに」



「それにゼノさんは此処に来なかった。君の願いは叶ったんだよ?」


「はい。ブラッズ殿には感謝しています」


……ブラッズ、済まない。


友達だなんて言いながら、利用する様な真似をしてしまった。


「彼が心配ですか?」


「心配と言うより申し訳無いんだ。結局、彼の力を借りてし まったから」


「彼が何と言っていたか、お忘れですか?」


『お前が出来る事だけ考えろ。俺は俺が出来る事をやる』


「覚えているよ。でも


「彼が考え、悩み、決断した事では?」



「ああ、そうだね。彼には彼の想いがある。君の言う通りだよ」


「……あっ、申し訳有りません。出過ぎた事を」


別に部下とかでは無いのだから気にする事ないのに、


知り合って……と言うか出会って日も浅いから仕方の無い事だけど彼女は堅い。


「リナト殿」


「どうしたの?」


「私は暗殺者……でした。穢れていると、お思いですか?」


「……!? 穢れているのは国だ!! 君の心は決して穢れてなど無い!!」


「…っ、有り難う、御座いますっ」


人が人を殺す。そんな事をさせるのは、考えるまでも無い、間違ってる。



彼女に出会えた事で、国を変え、間違いを正すと言う想いは更に強くなった。


変化するには何かを失わなければならない、のかも知れない。


けれど失うそれが、命であっていいと言うことにはならない。


「さあ、戻ろう?」


「はっ!!」


国の暗部に育てられた暗殺者、彼女は利用され捨てられた。


何だそれは? 人間のする事か? ふざけるな。


そんな事は決して許す訳には行かない。


何より、こんな辛い思いをする人を、流す必要の無い涙を流す人を、これ以上増やす訳には行かない。



【夜・考え事】


今日一日で色々知った気がする。俺は自分が思っていたよりも物を知らなかった。


隠していたから仕方無い、とは思えねえ。


爺ちゃんに聞いた話しじゃ、獣人族の長老はかなり人間嫌いで長老会議でも過激な発言が目立ってたらしい。


人間嫌いなのは知っていた。


人間に造り出れた事を未だに恨んでる奴も居るし、人間を見下してる奴も居る。


俺も、ヒトは嫌いだ。


だから獣人族の長老みたいなのが居ても不思議じゃない。



とは言っても、暗殺までしてるとは誰も考えはしなかっただろう。


開拓や何やらで頭に来てる奴が居るのは事実。


けど皆が皆、人間と事を構えたい訳じゃない。


俺は俺の意志で、変えなければ、変わらなければならないと感じた。


アイツの影響が無いと言えば嘘になる。だが実際、今の俺達は間違ってる。


そうだ……変わるべきは、人間だけじゃない。


「何か、らしくねえな」



【久しぶり】


あの後、お爺ちゃんとご飯食べて暫くしたらブラッズが帰って来た。獣人族の人を抱えて…


それを見たお爺ちゃんの和やかな雰囲気は一変、私はすぐにカティアの家に戻った。


本当はお話ししたりしたかったけど、それどころじゃない感じだった。


ダメだ……何だか眠れない。少し、歩いてこよう。


「あっ、満月だ」


月明かりのお陰で周りが良く見える。


もう夜中だし誰も居ないけど、蛙の鳴き声とかするし、そんなに寂しい感じしないや。


川の方に行ってみよう……



「何か、らしくねえな」


「なにが?」


「……っ!? んだよ…びっくりさせんな、アホ」


酷い、確かに驚かせたのは悪いけどアホは無いと思う。


「おやすみ。私、帰る」


「ああ、おやすみ」


「……止めてよ」


「ははっ、なら最初から隣に来いよ。ほらっ、座れ」


その笑顔は反則……いや、笑えば許されると思うな。



「じゃあ、座る」


「おう、それよりどうした? 怖くて眠れなかったのか?」


……これだ。いっつもいっつも、こんな感じ。


カティアとは普通に話すクセに、私は子供扱いする。


「私、そんなに子供っぽい?」


「いや? そんな事ねえよ」


ん? なんか顔が赤くなった。


「ねえ、なんで目を逸らすの?」


「帰って寝


「待って、聞いて欲しいことがあるの」



月が凄く綺麗で、今は二人きり。きっと、こんな機会は二度と来ない。


だから、今言わなきゃ駄目な気がする。


「なんだよ」


「私は、あなたが好き」


言えた……駄目かも知れないけど、それでもいい。


「ああ、そう」


なんか呆れてる? なんで? 頑張って言ったのに……



「なんでそんな言い方するの? 酷いよ」


「あぁ泣くな。つーか前に言ったろ?」


「う? なにを?」


なんだろ? 全く覚えてない。それに好きとか言われてたら絶対に忘れる筈が無い。


「俺が守るって」


「それって、小さい頃のこと?」


「まあ、そうかもな」



…………純情過ぎだよ!! あと、照れ笑いが可愛い…



でもそれじゃあ片思いだと思ってのは……いやちょっと待って、そう言えば


『リネット、少し考えた方が良い。見てると何だか…こう……むず痒くなる』


「じゃあ、子供扱いは照れ隠し?」


「帰って寝る。じゃあな」


「ち、ちょっと待って!!」


「袖引っ張んな、大声出すな」


「だって、そんな風には見えなかったし」


「……悪かったな」


「ううん。へへっ、でも…そっか、そうだったんだ」



「なあ、リネット」


「うん?」


何だろ、急に真面目な顔して。


「これから色々起きる、見たくない事とか辛い事とかな」


「今は言ってる事が分かんねえだろうが、俺は俺なりにやってみる」


「それは、危ないこと?」


あなたが傷つくのは、見たくない。


「そうならねえ為に頑張ってみる……つもりだ」


頑張るって、確かにらしくない。


数える位しか聞いたこと無いし、頑張るって言う時は大体嘘吐く時だし。主に小さい頃、稽古抜け出す時とか…


でも嘘吐いてる風じゃない、何があったんだろう?



「それは、人間の友達が関係してるの?」


「かもな……あいつと居て、少し毒されたのかも知れねえ。だけど俺が考えて、俺が決めた事だ」


短い間に凄く変わった気がする、何だかその人が羨ましい。


「そっか。私には、よく分かんないけど……無理はしないでね?」


「ああ、面倒臭くなったら直ぐ止める」


「えぇ…」


「出来るとこまではやる。必ずな」


ブラッズを変えた人間はどんな人なんだろう? きっと、とっても強くて凄い人なんだろうな。


なんだかとっても怖そうな感じがする。私の勝手な想像だけど……



【お休み】


「腕の痛みはどうですか?」


「熱っぽいけど大丈夫。もう平気だよ」


「無理はいけません。暫くの間、身体を休める事に専念して下さい」


「いや…着実に民には伝わっているし、明日の朝は


「熱が元手で不覚を取ったらどうするつもりですか?」


「貴方が居なくなれば理想のまま終わります。何より、リナト殿の代わりが務まる者など居りません」


「……そうだね、少し焦っていたみたいだ。目的を果たすまで死ぬわけには行かないし」


「目的を果たした後も、生きて貰わねば困ります」


「ははっ、そうだね。ありがとう」



「ですから、暫くはお休み下さい」


「分かった。じゃあ、おやすみ」


「はい、お休みなさい」


僕がやろうとしているのは反乱……なんだろう。戦になり血を流すのは民と兵で、王では無い。


もしそうなっても負ける訳には行かない。戦わずに勝てれば一番良いけれど、それはきっと叶わないだろう。


何せ暗殺者を使っていたくらいだ、他にも何かあるかも知れない。


戦いたくはない、殺したくも殺されたくもない。


でも、僕がしようとしているのは、そう言うことなんだろう。

今日はこの辺で終わります、ありがとうございました。

乙です
先が楽しみです♪( ´▽`)
熱い日が続いているので熱中症には気をつけてくだされ



【色々な優しさ】


『シャズネイ、正義とは何だ?』


『国に尽くす事、今から私が為す事が正義』


『それは私が教えた正義だ。お前の正義とは何だ?』


『正義に私の意志は必要在りません』


『そうだな。そう教えたのも私だ』


『師よ、手が震えます』


『何故だ?』


『分かりません』


『恐怖か?』


『違います』



『怯えか?』


『違います』


『迷いか?』


『迷い……』


『何故迷う?』


『分かりません』


『何故、涙を流す?』


『涙は悲しい時に流れます』


『お前は悲しんでいるのか』


『………はい』


『そうか……さあ、任務を果たせ』



「……ッ!! はぁっ、はぁっ…何故今更…今だからこそ、見たのか?」


私の務めは王の意に添わぬ者や不正を働く者、それらを消し去る事だった。


王と直接会った事は無いが国に忠誠を誓い、尽くした。


身寄りの無い私を引き取り教育したのは国の暗部、同じ境遇の者は私の他にも数人居た。


幼さ故に疑問を持たず、教わる全てが当たり前の事、正しい事なのだと信じていた。


暗部の長であり、私を育てた師を、殺すまでは……


親姉妹と言うものを知らない私にとって想像でしかないが、彼女は母の様で、姉の様な存在だった。


……その後、標的を殺す時決まって手が震える様になった。


国に疑問を持ち感情らしい物が芽生えたのもその頃、


それから数年経ち、膨れ上がる疑念、湧き上がる感情は遂に抑えきれなくなる。


そして、私は脱走し追われる身となった。



傷を負った私を介抱してくれたのは獣人族の暗殺者・ゼノ殿。


『もし自由になれるのなら……オレは…』


彼が呟いた言葉。


居場所をくれたのは、リナト殿。


『穢れているのは国だ!! 君の心は決して穢れてなどない!!』


彼が私に叫んだ言葉。


『死が、人を成長させる事もある。此で、お前を人に出来ると、信じている……』


師が最期に紡いだ言葉。






『シャズネイ、正義とは何だ?』





「優しさ……なのかも知れません」




【生きて】


……一ヶ月後


オレはブラッドリーの祖父、魔族長に生かされた。


魔族長は曲者揃いの族長達を黙らせ、強引に事を運んだ。本来なら土の中だ。


獣人族長がどうなったかは分からないが……もう、会うことは無いだろう。


奴の祖父はオレの人権を尊重し、同時に獣人族を激しく非難した。


生まれて初めて、自分の為に怒り、悲しむ者を見た。


『生きるんじゃ、生を投げ出すな』


『ゼノよ、今の今まで……本当に済まなかった』


嬉し涙、そんな物を自分が流す事になるとは、夢にも思わなかった。



処遇は奴の従者と言うことになったのだが、オレは満足している。


「お供します、リネット様」


課せられたのはたった一つの任務だけ……奴は、オレに自由をくれた。


「一人で大丈夫だよ。カティアの所に行くだけだから」


「これは奴…ブラッドリーの頼みです」


「うっ…分かった。でも、様なんて付けないで? 私の方が歳上だけど三つしか違わないし、くすぐったいよ」


恋人・リネット、及びその友人カティアの護衛。


「恩人の恋人を呼び捨てには出来ません」


「な、なんで知ってるの!?」



あれだけくっ付いて居るのを見せられて、気付かない筈が無い


オレでさえ気付いたのだから。


「二人の顔を見れば誰でも分かります」


「えっ、そんなに分かり易かった?」


主に貴女が分かり易い。


顔は綻び、声は甘くなり、他の者と接する時とは態度がまるで違う。


「ええ、生まれて初めて、恥ずかしいと言う気持ちが分かりました」


「私が恥ずかしいよ!!」


「ふぅっ、全く……あのね、聞きたい事があるの」


「何でしょう?」



「ゼノはブラッズが嫌いなの?」


この方は本当に清い心を持っている。


言葉は澄んでいて、厭らしさなど感じた事は無い。単純に気になるから聞いている、それだけだ。


「当初は憎いとすら感じていました。中には羨望や嫉妬も……」


「だが今は違う、奴はオレに詫びた。まさか聞かれていたとは思っていないでしょうが」


「えっ意外……謝る所なんてあんまり見たことないや。あれ? なんだか嬉しそうだね」


反論したいが、そう微笑まれると何も言えなくなる。


奴とは違う意味で厄介だ。周囲に救世主だ何だと言われているのも分かる気がする。



【呼び出し】


俺達が住む所から一番近い町。


近いと言ってもかなり歩くが……その町の外れ、周囲を木々で覆われた屋敷。

俺は今、そこに居る。


「お前、良い所に住んでんだな。父ちゃんと母ちゃんは一緒に居ねえのか?」


「父さんと母さんは町で暮らしてる。僕も町で暮らしてたけど、此処の方が色々都合が良いんだ」


「なる程な。でもよ、流石に一人で住むには広過ぎねえか?」


「今は彼女…シャズネイも居るし、楽しいよ」


「ああ、赤髪の姉ちゃんか……それより、本当に良い家だな」


家は木造、材料にかなり拘ってる。爺ちゃんが気に入りそうな家だな……年数も相当経っているんだろうが、修繕した所は殆ど無い。


「曾祖父がドワーフに建てて貰ったらしい。経緯は分からないけど…」


「通りで……あぁ悪い、話しがあるんだったな。何かあったのか?」





「………王が、僕に会いたいそうだ」



>>76 ありがとうございます。

今日は此処で終了します、ありがとうございました。


書き足したり穴埋めたりする所があるので、少し時間掛かると思います。

読んでくれてる方、ありがとうございます。

後、今更ですがタイトル変えてすいません。

皆さんも熱中症には気を付けて下さい。



【信じて頼って】


「随分急な話しだな、発つのは何時だ? お前に会いたい理由は?」


「迎えが来るのは一週間後、城に滞在するのは二日間。僕の思想を直に聞いてみたい、と言うような話しだった」


「胡散臭いな……でも行くんだろ、お前は」


「ああ、行く。行かなければ志気が下がる……けれど、これは僕の覚悟が本物だと証明する機会でもある」


「罠だったらどうする? 良くて幽閉、最悪殺される」


「それは無い……と思う。他種族との溝が深まってる今、内輪揉めは避けたい筈だから」


「普通に考えりゃあそうだな。だがよ、相手は暗殺者を育てるくらい頭が切れてる王様だ。何してくるか分かったもんじゃねえ」


「皆には伝えてあるし備えはある。けれど予想以上の何かが起きた時……その時は頼めるかい?」


「その時は、何が何でもどうにかしてやる」


赤い瞳は輝きを増し、炎が灯っている様にも見えた。


あらゆる苦境を覆し、不可能を可能にする、そんな意志を放っている。


英雄とは、こんな瞳の持ち主なのかも知れない。



「でも、万が一の話しだよ。君と僕が会っているのを知らない筈が無いし」


「まっ、先の事考えたって仕方ねえか。お前は行くと決めたんだから」


「ありがとう、ブラッズ」


「なあリナト、俺はいいけどよ、赤髪の姉ちゃんは納得してねえんだろ? 此処に居ないって事は」


「……部屋に籠もって口も聞いてくれないよ。女性は難しいね」


「難しい? 女なんて面倒臭いだけじゃ


彼が言い終える前に、何処からか破壊的な音が聞こえた。


彼女はとても耳が良いらしい。


それは兎も角、此処が僕の家なのを一刻も早く思い出して欲しかった。



「……どうすんだ?」


「此処からの方が厄介なんだが、僕が城へ居る間、彼女を匿ってくれないか?」


「匿うのは良いが、気絶させて連れ出した方が楽じゃねえか?」


彼は声を潜め、座卓から身を乗り出し顔を近付けた。


勿論僕も、これ以上物を壊されたら堪ったものじゃない。


「気を失わせるのはちょっと……何とか説得する」


「そうか……頑張れよ」


遠い目をしている……彼にも色々あるのだろう。


何時だったか、左頬に小さい紅葉の葉を付けて来た事がある。


そこら辺の話しはしたことは無いけれど、お互い女性への接し方には苦労している様だ。


「先ずは扉越しに話す事から始めてみる」


「それ、間に合うんだろうな?」


「……多分」



【刀の話しと、此処には居ない人】


……暇です。


今はカティアの鍛冶場に居るけど、カティアはゼノとのお喋りに夢中だし。


ブラッズは早くから友達のお家に行っちゃったし。


「どうだ?」


「オレは刃物を扱った事があまり無い。だから何とも言えないが、ブラッドリーが持っている剣と良く似ている」


「そう、正に同じ物だ。これは刀と言う」


「アタシの尊敬する鍛冶職人イザークが、英雄ロイに渡した物だ」


いつに無く満足げな顔、あんな顔、私がお菓子作った時くらいしか見たことないよ。


「そんなに凄い人物なのか?」


「ああ、彼が造り出した武器は一万の魔獣と戦っても壊れない……そう言われていた」


「それは流石に誇張だろう」


「そうかも知れないが、私が目指すのはそれなんだ」



「だが何故刀を? 奴の他にも使い手が居るのか?」


「一人居る……が、行方知れずだ。あいつの剣術の師であり、兄の様な存在だった。彼は二刀を所持していたよ」


「その者の名は?」


「クレイズ……単独で北へに行ったきり、もう十数年になる」


「ならば何故」


「爺様に頼まれたのさ、あいつの為の二刀を造って欲しいと」


「なる程、英雄か」


「そうだ。でもアタシは英雄だ何だは関係無しに、職人として最高の物を造りたい。それにブラッズになら安心して任せられる」


『剣ってのは簡単に抜いていいもんじゃねえんだよ』


「……そうだな」


クレイズさんは、みんなのお兄ちゃんみたいな人だった。


いつも笑顔で、優しくて……そっか、あれから十年以上経つんだ。

>>88 ありがとうございます、嬉しいです。

とても短いですが今日は此処で終了します、見てくれている方、ありがとうございました。

これって以前途中まで書いてたものだよね?
今回は完結期待してる。頑張って



【2】


「はぁ……カティア、お前は女なんだから槌なんて持たずにお飯事でもしていなさい」


「やだ、アタシはイザークみたいな『かじしょくにん』になる。おままごとよりこっちのが楽しい」


「なら槌を返しておくれ、お前にはまだ振れまい。本気で鍛冶職人になりたいのなら今は見ていろ、槌を振る私の姿から学べ」


「うん、わかった」


息子は生まれなかった。弟子を取ろうかとも考えたが最近の若者は飽きっぽくていかん……


しかし寄りによって娘が鍛冶に興味を持つとは思いもしなかった。嬉しくもあるが複雑なものだ。


未だ女の職人など見たことは無し、何より女が造った剣を使う者など……いや、途中で飽きるに違いない。


いずれは嫁に行き家庭を築く、それが女のあるべき姿。私の代で鍛冶屋は終わるのだ。


何代も続いたが終わりは必ずやってくる、先祖様には申し訳無いが……


それに私も妻も若くない、子をなす事は出来ないだろう。



「おい、聞いとるか?」


「は? ああ!! これはこれは魔族の……申し訳無い。何か御用ですか?」


「ブラッズがおけいこからにげたんだって、でもここにはいないよ?」


「む、そうか……ならば何処に」


「また、ですか。男の子も大変ですな」


「ああ……またじゃ、全く情けない。今はクレイズが全ての集落を捜しとる」


「ブラッズはおとこらしくないな」


お前には少し女らしくあって欲しい。


だがまあ、どうやら女も男も変わらず手は掛かるらしい。男の子か、心から羨ましく思う。


だがあの子に……いや、よそう。



【3】


「よし、ここまで来ればあんしんだ。兄ちゃんはキビシイ、じいちゃんはもっとキビシイけどな」


少年は森に居た。


少年の住む集落から程近い……未だに集落と呼ばれているだけで実際の人口は違うが、


其処から逃げ出した理由は、隠れる場所を全て網羅されているからだ。


鍛冶屋しかり、馬小屋しかり……そして今日、勇気を振り絞り、初めて集落の外へと逃げ出したのだった。


「なんか、くらいな」


小さな身体に似合わぬ大きな木刀を抱き締めながら、日の差さぬ暗がりの森の中で立ち止まる。


「……とりあえず、もう少しおくに行こう」


不安の表れか、少年は木々がざわめく度に振り返り、辺りを見渡しながら森の奥へと歩き出した。



【4】


「族長、心当たりがある場所を捜しましたが見つかりません。最悪、外に出た可能性も」


「なに!? あの馬鹿者め、どれほど心配と迷惑を掛ければ……クレイズ、此処から近い場所と言えば『森』しかない、頼めるか?」


「ええ勿論。俺の弟子ですから」


「……ブラッドリー、どうか、どうか無事で居てくれ」


「族長、大丈夫です。すぐに見つけ帰って来ます、帰って来たら皆で夕飯を食べましょう」


「クレイズ……うむ、そうじゃな。そうしよう」


「では、行って参ります」


少しばかり厳しくし過ぎだのかも知れんな……


ブラッドリーには親が居ない、故に本来知っている筈の母の優しさ、父の厳しさを知らぬ。


同じ厳しさでも祖父と父では随分と違うのだ。



リネット……儂の一人娘であの子の母は、出産後暫くして病に罹り呆気なく逝ってしまった。


その後、婿のヴェンデルも同じ病で……不幸は続くと言うが、神に恨み言を言いたくなる。


ヴェンデルは穏やかで聡明、剣の腕も申し分ない良い男じゃった。


生きれ居れば族長を継いでいた筈、そして親子三人幸せに暮らす……儂はそれを眺めているだけで良かった。


じゃが儂にはもうあの子しかおらん。逃げ出したのは厳しくした儂の所為でもある、


此からは考えを改めねばなるまい、この歳で考えを変えると言うのは少々難儀だが仕方無し。





……神よ、あの子だけは……儂から奪わんでくれ。



【5】


「けっこうおくまで来たな……ん、なんだありゃ?」


何かが光っていた。


この暗い森の中で唯一の光。一人きりの不安は好奇心に掻き消され、少年は光の下へと進んで行った。


「うわっ!? びっくりしたぁ、なんでこんなトコにゃッ!!」


其処に居たのは少年と同じ年頃のエルフの少女、見つけた直後、光は少女の身体に溶けた。


少女は気を失い、倒れ伏している。光の正体より少年が気になったのは


「……な、なんでなんにも着てないんだよ」


少女は何も着ていない、つまり全裸だと言うこと。



少年はあたふたしながら着ている上着を脱ぎ、すぐさま少女の身体に被せた。


「おーい、だいじょうぶか?」


返事は無く少女はぐったりとしたまま動かない……身体を揺すったりしてみるが、起きない。


すると先程まで何処かへ行っていた不安が一気に押し寄せ、限界を超えた。


「おいおきろ!! 生きてるよな!? 死んでねえよな!? なあ!!」


脈や呼吸を確認する事など知る筈もなく、少年はありったけの声量で叫んだ。叩こうともしたが流石に気が引けたらしい。


「ぅん……ん? あなたはだれ?」


「よ、良かった……!? そ、その前に、早くふく着ろ」


「ん? うあっ!?」


少年は、目覚めた少女に目を奪われた。青い瞳は美しく、金色の髪は眩しく見えた。


>>95 ありがとうございます、頑張ります。

短いですが今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。



【6】


「そっか、なんもおぼえてねえのか」

「うん、でもあんまりこわい気持ちにはならないんだ。ブラッズはなんでここに来たの?」


日が傾き始め暗がりの森は更に冷え、二人はいつの間にか寄り添いながら互いの事情を話していた。


少女は不安ではないと言っていたが明らかに表情は硬く、戸惑っている様だった。


目覚めた場所がこんな暗い森の中、記憶も無いとなれば当然の事だろう。


少年は何とかしようと稽古から逃げ出して来た理由を出来るだけ面白可笑しく話した。


すると少女は初めて笑顔を見せ、少年はそれが嬉しくて笑った。


「名前もわすれたのか?」


「え、うん。わかんない」


「なら、おれが名前付けてやるよ」


「ヘンなのじゃないなら、いいよ?」


「わかってるって、じゃあ……」



少年が真剣に悩んでいる姿を見て、少女は一体どんな名前をくれるのだろうと期待しながら待っている。


暗がりの森で出会った二人の距離は、歳の所為もあるが急速に縮まっていた。


「リネット、かわいくていいだろ?」


「うん!! ねえ、それは今考えたの?」


「おれの母ちゃんの名前……おまえにやるよ」


「なんで? 名前なくなったらお母さんこまるよ?」


「……母ちゃんはやさしいからだいじょうぶだ」


「そっかぁ、じゃあもらいます」


「おう、だいじにしろよ」


「ありがとう、ブラッズ」


「どういたしまして、リネット」



……二人は何度も名前を呼び合い、何度も笑い合った。


読んでる方ありがとうございます。次回は早めにします。



【7】


「こいつで十七か……」


彼は魔物の骸を見下ろしながら、森の異様な空気を感じていた。


本来ならこうも簡単に魔物と出会す事は無いのだが、森に入り捜索を開始して僅かな間に十七の魔物と戦闘になった。


単体では無く、二体、三体同時に襲いかかって来る事もあった。


現在この森の魔物を刈っているのは彼……だからこそ不穏な空気をいち早く感じ取る事が出来たのだろう。


「足止めをされているのか? いつになく気味が悪い」


進もうとした先で魔物が現れ、戦闘を避けて捜索を開始しようとするも複数の魔物に囲まれ戦闘に、と言う流れが続いていた。


正に足を止められている状態。


魔物に知性は無い。勿論完全にではない、だが複数で襲い掛かるとか逃げ道を塞ぐ様に誘導すると言った行動はしなかった。


少なくとも、彼がこの森の魔物討伐を任されてから今日までは……



「またか……全く、一体何匹斬れば良いんだ」


前方に二体、猿型と犬型の魔物……特に猿の方は規格外に大きい、見てくれは鈍重そうだが実際はそうでも無い。魔物は総じて


「どうした? 来ないのか?」


両手を広げて不敵に笑う彼の挑発が効いたかは別として、魔物はかなり素早い。


猿は一直線に彼に向かって行く、犬は後続し猿の背後にぴたりと付く。


「いつからそんな頭使う様になったんだ? だがまあ、いつもの方が予測不能で面倒だったからな……この方が」


自ら間合いを詰め、すり抜け様に抜刀し猿型の脇腹を切断、勢い余って猿型の背に衝突した犬型は背後から首を斬り落とされ、


奇襲のつもりで樹上から飛び降りてきた魔物は掲げた刀に串刺し、もう一刀で首を撥ねられた。


「……俺にしてみれば楽なわけだ。さて、捜索再開だ」


まだ息のある猿型の首を撥ねると二刀を鞘に納め、彼は弟子を見つけるべく走り出した。



【8】


拙い、そろそろ日も傾き始めた。これ以上時間は掛けられない。


夜になれば見つけるのは不可能、それに魔物が放って置く訳がない。


早く見つけて尻の二・三発ぶっ叩いてやりたいのは山々だが、


「またかよ……」


魔物が多過ぎる。ブラッズ、頼むから無事で居てくれ。


実はもう家に帰っていて俺の苦労は無駄に終わる……または誰かが俺を呼びに来て、


集落の何処かに潜んでいたのを誰かが発見したと言われた方が随分楽だ。


だが大量の魔物に異様な空気、嫌な予感がしてならない。


「俺は急いでるんだ。邪魔をするな」


もう何匹切っただろうか、心なしか刀の切れが増している気がする。


修行のつもりで森に入った訳では無いのだが、確実に鋭さを増していく自分の剣術に怖ろしさを感じる。


俺が教えているのは殺人剣では無い、だが刀を振るい魔物を斬る度思い知らされる。


これは命を奪う為の物なのだと……



「いや待て、それは違うだろ。俺が刀を扱っているんだ、刀が俺を扱っている訳じゃあない」


「まあ、どちらにせよ斬る為の物だが……どうせなら守る為に……じゃあないだろ」


剣術の事になるとつい考えてしまうな、悪い癖だ。


もし俺に魔物が集中しているなら好都合、斬って進めばいい。


「後はブラッズを無事に連れっ……


意気込み新たに進もうとした俺を阻んだのは猿や犬、大蛇なんて可愛いものでは無く、


幼い頃に聞かされた物語の中、もしくは想像上・伝説の生き物だと思っていた


『獅子』本当に居たのか……出来る事なら一生会いたくなかった。


鋭い眼光と威圧感に鳥肌が立つ、今までの魔物とは格が違う。


どう考えても奴からは逃げられそうに無い、樹を軽々とへし折りながら追って来る様が目に浮かぶ。



「……おいおい、勘弁してくれよ」



俺は取り敢えず二刀を構え、そう呟いた。

書き方変えたり色々読み辛いかも知れませんが宜しくお願いします。

今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。

見てるよ

頑張れ

>>112 >>113 見てくれてる方がいて本当に良かった…ありがとうございます、最後まで頑張ります。

短いですが、とうかします。



【10】


「本当にいいの?」


「だいじょうぶだって、心配すんな」


二人は四種族の里に向かう為、手を繋ぎ森を歩いていた。


少女はエルフ、ならば当然エルフの集落に少女を知る者が居る筈、


そう考えた少年は稽古から逃げ出した罰を覚悟で帰る事を決意したのだった。


「ねえブラッズ……あの人、だれ?」


少女の指差す先に居たのは遠目に見ても人には違い無かった。


初めは自分を捜しに来た者ではないかとも思ったがそうでは無い、


明らかに挙動がおかしい、何かを踏みつける動作を執拗に繰り返している。


その『何か』を踏みつける度に、果物が潰れるような音が暗がりの森に響いた。



「急ごう。あいつは、なんかへんだ」


「うん……ぁっ!?」


「な、なんだよ、あれ」


視線が、重なった。


すると人影はゆっくりと何かを持ち上げ口に運ぶ……じっと此方を見つめながら。


そしてゆっくりと、『それ』を持ったままゆらゆらと二人に近付いて行く、


一歩、二歩、そして徐々に明らかになる姿を見た途端、少年は少女の手を強く握り叫んだ。


「リネット、にげるぞ!!」


少年は少女の手を引き懸命に走りだす、それと同時に人影も走り出し二人を追った。


「ねえ!! おいかけてきてるよ!!」



人影が鳴らす草の音が、凄まじい速度で追って来ているのを少年に伝える……


このまま逃げても数分と掛からず追い付かれてしまう、


そう悟った少年は迷わず告げた


「おれはアイツとたたかう!! お前はにげろ!!」


「いやだよ!! あんなのに


「うるせえ!! このままじゃ二人ともつかまっちまう!! 早く行け!!」


少年は少女の手を放し迫り来る人影と相対し、少女は……


「やっぱりいやだ!! わたしもいっしょにいる!!」


一度は背を向け走り出したが、そう叫び少年の下に駆け寄った。


「このバカ!! いいか!! おれの後ろにいろよ!! ぜったいぜったいだからな!!」



【11 創造】


それは人でも魔者でもエルフでもドワーフでも獣人でも無い、どれにも属さぬ異形。


皮膚は爛れ身体には蛆が這い、衣服は破れ全裸に近く、所々骨が露出している。


それを見た者が真っ先に想像するのは、


死人……そう、死人が歩いているとしか言いようが無かった。


右手に持っているのは砕けた魔物の頭蓋、


先程の異常行動は頭蓋を踏み砕き中身を啜る為のものだったのだろう。


死人は魔物を喰らっていたのだ。


「おいどうした? こねえのかよ?」


両手を広げての挑発、兄と慕う師の真似事。


挑発が通用するかは分からないが、間合いに入った瞬間木刀で思い切り頭をかち割る、


それが少年の作戦だった。



死人は魔物の頭蓋を捨てがくんと上体を倒し、低い体勢から両腕を突き出し少年に迫る。


「くっ…」


頭の位置は申し分ない


が、突き出された腕が邪魔で打撃を与えるのは非常に困難な状態。


かと言って避けてしまえば、死人はそのまま真っ直ぐに少女へ……


瞬間の閃き、


少年は死人より更に体勢を低くし腕の下に潜り込み、柄頭で顎を思い切り突き上げた。


「はぁ、はぁっ、小せえからってなめんッ!? ガふッ…!!」


死人の首は見事に捻曲がり、地面に突っ伏している、


にも拘わらず突如あらぬ角度から腕が振るわれ、少年の腹部に叩きつけられた。



少年は吹き飛ばされ樹に背を強打、咳と共に血を吐き出し、地面にずるりと崩れ落ちた……


「ブラッズ!!」


少女はすぐさま少年へ駆け寄り呼び掛けるが応答は無い、その間死人は立ち上がり、獲物に近付いて行く。


「こないで!!」


気を失って尚手放さない少年の木刀を手に取り、その切っ先を死人へ向けるが歩みは止まらない。


この時、少女は心から願った。


今この手の中にある木剣が、魔を打ち払い闇を切り裂く、


そんな剣になってくれれば、


そんな都合の良い、夢物語のような奇跡が起きたなら目の前の化け物から少年を救えるのに、と……


「うっ…!! はッ、うぅ……」


……だが、そんな奇跡は起きる筈も無く、少女はいとも簡単に首を締め上げられてしまう。



「ブ………ラ…ズ、……」


何とか名を呼ぶがやはり応答は無い、少女は途端に怖くなった。


目の前の悼しい化け物にでは無い、


身を案じ、手を握り優しく微笑む少年、彼が消えてしまう事を何よりも怖れていた……


その間にも白く細い首は軋み、


持ち上げられた身体の痺れは増し、徐々に意識が遠退いて往く。


朦朧とする中、少女が目にしたのは



「リネットをはなせ、化け物」



光輝く大太刀を翳し、


殺意と狂気に満ちた眼前の化け物、


その忌まわしい両腕を断ち切らんとする雄々しい少年の姿だった。

此処で終了します、ありがとうございました。



【12 ありがとう】


此処は何処だ?


私は仲間と共に北の地を目指していた……いや、北の地には辿り着いた。


しかし北の地へ辿り着いた後、そこからが思い出せない、


魔物に襲われ仲間を失い、遂に山脈を越え、目の前に広がるのは豊穣の大地だと信じていた。


そうだ、そうだった……何も無かったのだ。


荒廃した大地が広がるだけで草木の一つも無い、死んだ大地、夢を砕かれ愕然とする私に何かが語りかけた。


何かを問われ、私は……駄目だ思い出せない。


なぜ私はこんな事を。する?


からだに力が入らない、音も無い、ただ目の前の出来事をながめているだけ。


少女の顔が苦痛にゆがむ、だれかをよんでいる、早く手をはなさなければ死んでしまう。


だめだ動かない、これは夢か? ひどいゆめだ。



『リネットをはなせ、化け物』


なんだこの少年は? 今まで気付かなかった。


それより、化け物呼ばわりは酷いだろう、ん?


動く、身体が動く、意識もはっきりしてきたぞ、直ぐに手を放さなければ!!


『くっ、外した!!』


『けほっ…けほっけほっ!!』


『リネット、大丈夫か?』


よし、何とか間に合った。だが何故私は少女を……それより


「何だこの身体は……まして、まして魔物を…うっ、おえぇっ!!」


『し、喋った!!』


人間なのだから話すのは当たり前の事、しかし子供達から見れば私は最早人間では無い……化け物だ。



何故こうも冷静で居られるか自分でも不思議でならないが、


兎に角、子供を殺さずに済んで良かった。


「少年、私を救ってくれ」


『なに言ってんだ!? いきなり襲って来て今度は助けてくれ!? なんだそれ!!』


「それは最もな意見だが、見ての通り私は化け物になったらしい。私はそうまでして生き長らえたくは……無、い」


いや違う、帰りたい、生きたい、そう願ったんだ。


何に願った? くそっ、そこだけ思い出せない。


『……助けるって、どうすりゃいいんだ?』


「その太刀で私を斬るだけだ。私は本来なら死んでいる身、気に病む事は無い」


『俺には出来ねえ……人間は殺せねえよ』



「こうして話せるのも何時まで続くか分からない」


「出来る事なら人として死にたい……意地悪な言い方だが、また化け物に襲われたくは無いだろう」


『リネット、後ろ向いて目瞑って耳を塞げ』


『ブラッズ、逃げよう? こんな事しなくて


『いいから!! 言った通りにしてくれ!!』


『……っ!!』


「少年、済まない。君のような子供に頼むべき事で無いのは分かっているが、私にはもう堪えられそうにない」


『泣いてるもんな』


「ははっ、恥ずかしい限りだ……少年、先程私を『人間』と言ってくれたね」



「 ありがとう 」


乙だ

>>127 ありがとうございます!! 短いですが投下します。



【13 足掻き】


流石は伝説になるだけはある。


腕を振るえば、いや前脚か……


それはどっちでも良い、腕を振るえば木々は薙ぎ倒され、歩く度に地が揺れる。


その堂々たる巨体は威圧感を、眼光は恐怖を、鬣は王者の風格を感じさせる。


しかし魔物は魔物、倒せぬ筈が無い。


「……おっと、今のも危なかったな」


とは言え、


殴ると言うより押し潰す、そんな攻撃を掻い潜り、ちまちま斬り続けても倒せはしない。


「眼、潰すか」


長物でもあれば腹をかっ捌く事も出来るだろうが、俺の刀では臓物には届きはしない、


なら目に見える急所、眼か股間か……




「……眼だな」




噛み付きを避け、獅子の懐に潜り込み跳躍し二刀を交互に突き刺し背に登る。


当然暴れるが大した事は無い、鬣を掻き分け頭部に到着、


鼻に着地し其処から跳躍、そして


「眼を斬り、裂く」


雄叫びか悲鳴かは分からないが、途轍もない叫びだ…耳がいかれる。


痛みに狂う今なら多少強引でも押し切れる筈、獅子から飛び降り懐に入り再び跳躍、


腹に二刀を突き刺し、一刀で身体を支え一刀で腹を斬り続ける。


血塗れになるが気にしている時では無い、臓物を引き摺出すまで斬り続ける。


絶叫し、木々を薙ぎ倒し走る獅子、俺の背にその破片がぶつかり突き刺さる。


「……痛、おいっ!! いい加減観念しろ!! 見苦しいぞ!!」



俺の叫びが届いたかは分からないが遂に臓物がずるりと流出し、獅子はぐらりと揺れた後、地に伏した。


「ふぅ、何とかなったな」


少しばかり手間取ったが捜索再開だ。

ブラッズの奴、血塗れの俺を見て逃げ出さなきゃいいが、ん? 


何か暑いな……いや、熱い。


「……それは、流石に狡くないか?」


獅子は大口を開け此方に向けている、その喉奥には炎が見えた。


一体どういう構造なのか知らないし知りたくも無いが、確かに炎が見える。


「ちょっと待て」


観念しろ、見苦しいぞ……そう言われた気がした。


「これは、拙


直後、俺は炎に呑み込まれた。


本当に短いですがここで終了します。

言い訳と言うか何と言うか、以前は早く書こうとかそう言う事を考えていたので、今回はお話しが長くなっても更新が遅くなっても、書きたいように書こうと思いました。

見て下さっている方、ありがとうございます。

乙。
やりたいようにやって貰えた方がこちらも楽しめそうな気がする。


気長に待ってるから納得のいくものを投下していってくれ

がんぱれ



【14 抱擁】


死人は少年に微笑んだ。


以前は紳士的で心優しい人物だったのかも知れない、そう思わせるような柔らかな微笑み。


死人……彼が涙を流しながら伝えたのは、少年への感謝の言葉であり最期の言葉、


少年は目を逸らさず、その姿を心に刻み込む……


そして瞳を閉じ呼吸を整えた後、彼の願いを叶えたのだった。


「……少し、休もう?」


「だめだ、早くっ、げほっ…行かねえと」


少年は彼を埋葬した後、


再び少女と歩き出したが何度も立ち止まり、嘔吐した。



少女は何故そうする必要があったのか、何故苦しむ道を選んだのかを少年に問う


「どうして? にげたってよかったのに……」


「おれだって、そうしたかった。でも、じいちゃんに聞いた」


「おじいちゃん? なにを聞いたの?」


『其処に苦しみ悲しむ者が居たのなら、手を差し伸べるか否か、それは自分で判断しなさい』


『但し、その場だけでは駄目だ。それでは何の解決にもならん』


『最後まで責任を持たなければならない』


『その結果、どうなろうとも……』


『良いかブラッドリー、誰かを救うと決めたなら、悲しみを背負い、傷付く事も覚悟しなさい』



「むずかしくて、よく分かんねえけどよ……おれがしたのは『そういう事』なんだ」


「でもっ…きってくれっなんて、おかしい、よ」


「なんでっ、お前が、泣くんだよ」


「ブラッズだって、泣いてるっ…よ?」


「これは、あれだっ……おっさんの…泣き虫がうつったんだよ……っ!?」


少女は何も言わず、そっと抱き寄せた。


自分に大した事は出来無い、


悲しみを取り除く、まして消し去る事など……


けれど共に涙を流し、『今』を共有する事なら出来る。

>>133 >>134 >>135 ありがとうございます!! そう言って貰えると本当にありがたいです。



【15 怪我】


一頻り泣いた後、二人は魔物に遭遇する事無く森を進んでいた。


日が沈むのも時間の問題、しかし二人は闇を怖れてはいなかった。


共に居る、それだけで心は安らぎ、寒さは手を繋ぐ事で耐えられた。


「ねえ、その剣はひろったの?」


「ん? これか、気が付いたら目の前にあったんだ。木刀は無くしちまったけどな」


「ふーん、だれか落としたのかな?」


「分かんねえけど、とりあえず森を出るまでは持っとく。またへんなのが出たらたいへんだしな」


「ケガ、しないでね?」


「おうっ……ん? リネット、そこら辺にかくれろ」


「えっ?」


「なんか来る、よく分かんねえけど分かるんだ。いいから早く」


少年の顔は本気で有無を言わさぬ物言い、


少女は不思議に思いながらも少年の言葉に従い、茂みに身を潜めた。



「(ブラッズ、こわいかおしてた。どうしたんだろう……)」


身を潜めながら少年を見ていると、それは突然樹上から降りて来た。


熊のような体躯だが猿の魔物。


比べるまでも無く、少年より遥かに大きい、


荒い息、長く伸びた爪、太い腕、獰猛さが滲み出ている。


しかし少年は臆する事無くゆったりとと太刀を構え、魔物と相対している。


「(うぅっ…だめだ、こわくて見てられない)」


少女は茂みの中で息を殺し、ぎゅっと目を閉じる、


単純に少年が傷付く所を見たくないと言う気持ち、そして血を見るのが嫌なのだろう。



「ふっ!!」


決着は一瞬、距離を保ち振るわれた長い爪を斬り落とし、


振り下ろした直後手首を返し斬り上げ、喉を斬り裂いた。


「……化け物って分かってても気分のいいもんじゃねえな。よしっ、リネット行こう」


呼び掛けると少女は勢い良く茂みから現れ少年に駆け寄る、


魔物を倒した事などどうでも良い、


少年が傷を負っていないか、それだけが気掛かりなのだ。


「うわっ!! もう少しゆっくり出てこいよ……分かっててもびっくりすんだろ」


「ブラッズ、つめが……」


左腕に魔物の爪の破片が刺さっている、


少女はそれを見て青ざめた表情をしているが少年は気にしていない。



「だいじょうぶだって、ほらな?」


破片を引き抜くと忽ち傷が塞がる、


少女はその様を見て驚いたが、直後に表情を曇らせた。


「治るのが早いからケガしたっていいやって思っちゃだめだよ?」


「ブラッズがケガするのは、いやだ」


「……!! そっか、うん。そうだな」


「(じいちゃんも兄ちゃんも、前にそんな事言ってたな)」



『誰かを守りたいのなら、先ずは自分の身を守れるようになれ』


『傷付く事を怖れぬ者は人では無い、それでは化け物や魔物と同じ』



「『誰か』を守りたいなら……」



「ん? どうしたの?」


「もっと強くならなきゃなあ……って思っただけだ」


「……?? でも、かいぶつたおしたんでしょ?」


「うーん、そう言うんじゃなくて、こう……まあいいや、行こう」



【16 濁流】


少年は戦っていた。


猿型の魔物を倒し暫く歩くと遠方から炎が立ち上り、瞬く間に燃え広がる。


進む道は閉ざされた。


何とか迂回して進もうとしたが森の奥、後方から魔物が続々と現れたのだ。


前方には炎、後方からは魔物、


逃げる事も叶わず、少年は少女を守りながら戦う事を余儀無くされた。


「(何でだ? さっき森の奥にいた時は出てこなかったのに)」


見計らったような魔物の行動、


そして不気味なのは其処だけでは無い、確実に少女だけを狙って来ている。



少年からすれば、こうして一方に集中して攻撃された方が対処は楽なのだが、


何か例えようの無い、薄ら寒さを感じていた。


「数が、多すぎる……リネット、だいじょうぶッガッ!!」


魔物の腕が腹を貫く、


本来なら即死だろうが少年は魔者、死にはしない。


「ガッ…!! うァアアア!!」


しかし、痛みはある。


確実に死に至るであろう痛みを、傷を負って尚死ねない。


身体が、死ぬ事を良しとしない。


「ブラッズ!!」


背に隠れていろと指示されたが知った事では無かった


少女は苦痛に喘ぐ少年に覆い被さる。


自分を守ろうと必死に戦った少年を守る為に……



「ブラッズ、ありがとう。なんにも出来なくてごめんね?」


この僅かな間に異変が起きた。


文字通り腹に穴が空いたのだから治癒に時間が掛かる筈……なのだが、


それが一瞬で治癒したのだ。


「(あったけぇ……なんだ? ねむく)」


「きゃっ!?」


魔物は少女を捕らえ、来た道を引き返して行く。


「(なんでリネットを連れてくんだ? ころしにきたんじゃねえのか? くそ、ねむ……い)」



『強いって何か? そうだな』


『何があっても、どんな状況でも……』



 
「……『それ』に負けない事、だっけか」




傷は癒えた、痛みも無い、なら今するべきは一つ、


少年は立ち上がり走り出す、それは何故かと自身に問いながら。


「いっしょに……リネットといっしょにいたいからだ」


短くも濃密な時、


それが思い出になるのは我慢ならない。


何より、出逢い手にした大切な『それ』を訳も分からぬ内に奪われるなど、


少年には堪えられなかった。


「どけッ!! 何が何だか分かんねえけど、そんなのはもう知ったこっちゃねえ!!」


「ジャマすんなら斬る!!」


最早少年に魔物を斬る事、それに迷いは無い、どうあろうと殺める事は悪だろう。


しかし守る為、誰かを救う為なら、それは……




「リネット!! 今行くからな!!」

終了します。見て下さってる方、ありがとうございました。

乙!



【17 怖がり】


「いそがなくちゃ……」


少女は少年を背負い、燃え盛る森から脱出するべく懸命に歩いていた。


足の裏は擦り切れ、歩く度に刺すような痛みが走るが歩みは止めない。


今、足を止めて休んでしまえば、


其処から踏み出す事は出来ないだろうと感じていた。


「今度は、わたしが守るんだ」


目覚めると、直ぐ其処まで炎が迫り、辺りには夥しい数の骸……


吐き気を抑えながら目を凝らすと、その中に倒れ伏す少年の姿が在った。


魔物の血に塗れ倒れ伏す少年の姿を見れば、


自分が気を失っている最中、


此処で何が起きたのか容易に想像する事が出来た。



少年は戦ったのだ。


出逢って間もない自分を取り戻す為に、


満身創痍のその身体を奮い立たせ、あれ程の魔物を相手に……


少年の身体に傷は無い、だが無傷では済まなかった筈だ。


一体どれだけの傷を負い、何度膝を突いたのだろうか?


想像を絶する痛みに堪えながら太刀を振るう少年の姿、


それを想うと涙が止まらなかった。


「はぁ…はぁっ…うんっしょ……」


「ブラッズは、もっと痛かったんだ。こんなの、痛くない」


少女も疲れ果てているが、そう身体に言い聞かせ進む。



しかし無情にも現れる。


ぞろぞろ、ぞろぞろと……もう、逃げ場は無い。


「うぅっ…なんで……」


少年と共に居たい、笑い合いたい、手を繋ぎたい、


それだけなのに……


何故邪魔をする? 何故道を阻む?


この時、少女は初めて怒りを覚えた。


「どいて!! わたしはブラッズと森から出るの!! ジャマしないでよ!!」


そう叫んだ瞬間、


置いてきた筈の太刀が突如現れ次々と魔物を斬り刻み、


道を阻んでいた炎は意志を持ったかの如く魔物を覆い、焼き尽くして往く。



「えっ……」


少女には、目の前で起きている現象を理解する事は出来なかったが、


自分に害を為す事は無いと直感した。


怖れでは無く安堵、何かが守護してくれているのかとも思った。


「本当に、そうなのかな……」


だが思い出す。


死人に襲われた時、木剣がそうであったらと願った事。


少年に覆い被さった時、傷を癒やしたいと願った事。


そして今、道を遮る炎が怪物を焼き尽くした。



しかし少女が何より怖れているのは



「ブラッズにきらわれたら、どうしよう……」


>>150 ありがとうございます!!

終了します。見て下さってる方、ありがとうございました。

乙!



【18 対峙】


炎に包まれた直後、割捌いた獅子の腹の中に潜り込み、


何とか消火には成功したが生涯一度も嗅いだ事の無い、


まあ、あれだ……


とんでもない悪臭を身に纏う羽目になった。


悪臭もかなり辛いが、今置かれている状況の方が辛い。


「来ないで!!」


「ちょっと待て、俺はその子……ブラッズを捜しに来ただけだ」


「真っ赤で臭い怪物の言うことなんて信じない」


「それは流石に酷くないか? と言うか其処まで臭うのか……」


その後、見覚えの無いエルフの少女がブラッズを背負い歩いているのを発見、


どう言った経緯が在ったのかは分からないが取り敢えず声を掛けた。



すると俺を見るなり突然襲い掛かってきた……のだが、


「こんな戦いは初めてだ」


全く理解出来ない。


血塗れの男が二刀を所持しているのだ……


不審に思うのも当然だろう、


攻撃するのも分からないでもない。


しかし襲って来たのは少女自身では無い、


襲い来る『それ』は二つ。


一つは宙に浮かぶ長刀、


持ち手が居ないにも拘わらず一撃一撃が重い。


「太刀筋が粗いな、まるでブラッズを相手にしてる気分だ」


これはまだ防げる、然したる問題は無い。



厄介なのは、


「まるで御伽噺の魔法使いだな」


どういう理屈で動いているか分からない、


それは長刀にも言える事だが此方の方が不可思議だ。


炎が矢に、鞭に、槍の様に形状を変えて迫って来る。


こればかりは防ぎようが無い。


「流石に炎は斬れないな……ん?」


炎が集束して往く、見た所少女はかなり疲弊している……


「次で決める気か」


ブラッズが起きてくれれば一瞬で解決するんだがな、


奴め、お師匠様が何度も呼び掛けているのに全く起きやしない。



全く、呑気に寝やがって……


「今日は驚かされてばかりだな」


炎が集束する、但し先程までとは桁が違う。


この森に広がる全ての炎、


それが一つに纏まり巨大な球体を作り出す。


「コレに構っている暇は無いな」


長刀を弾き、少女に向かって走り出す。


「今度は、私がブラッズを守るんだ」


いやはや、見た目も性格も将来有望、


こんな女の子に此処まで想って貰えるとは幸せな奴だ。


どうやって口説いたのかは後で聞くとして、


今は火球を避ける事に集中しよう。



「……凄まじいな」


撃ち出された火球を避け少女に向かう僅かな間、


後方で炸裂した光が森全体を照らした。


「俺の名はクレイズ、ブラッズの兄だ。怪物じゃない」


「後、この酷い臭いと身体が真っ赤なのは魔…怪物を倒したからなんだ」


「本当? 嘘じゃない?」


「本当の本当だ。だから俺の背後にある刀をどうにかしてくれるかな」


「……!? なんで、分かるの?」


「君の目に映ってる。それより疲れただろう? ブラッズは俺が背負うよ」


「……分かった」


どうやら俺の瞳の色を見て本当の兄弟だと信じたようだ。


まあ、実の兄弟では無いのだが


兄弟のようなものだから先程言った事は嘘では無い。


【19 経緯】


少女の名はリネットと言った。


森の奥でブラッズと出逢い、


共に里に向かう途中で様々な出来事があったらしい。


リネットと言う名もブラッズに貰ったようだ。


少女には記憶が無く当然四種族の事など知らない、


だから兄弟だと言った事に疑問を持たずに信じたのだろう。


魔者は皆瞳が紅い、里で暮らす者なら信じなかった筈だ。


それより気になったのは魔法……のような力。


少女の言葉を信じるなら、長刀を創造し炎を操っていた事になる……


有り得ない、とは思うが自分の目で見た事を否定は出来ない。



「すぅ…ぅん」


現在、二人を担ぎ歩いている訳だが、


「刀も付いて来るんだな……」


抜き身の刀がふわふわ漂いながら追従している、


監視されている様な気分だ。


「『魔法』か、最早信じざるを得ないな」


少女との会話の中、


『出逢った場所が燃えてしまうのは寂しくないか?』


と、煽る様な事を言ったのだが


「まさか本当に元通りにしてしまうとはな」


我ながら意地の悪い事を言ってしまった。


その直後に少女が気を失ってしまった為、二人を担いでいる訳だ。



「すっかり夜だな……」


「…んぅ……ん、兄ちゃんか?」


「起きたか……経緯はリネットから聞いたよ」


「ごめんなさい」


「なんだ、随分素直だな?」


「色々、分かったから」


「……そうか」


「おこんないのか?」


「怒るのは明日の朝にするよ」



「そっか、それより兄ちゃん」


「ん?」


「すっげえクサいな」


「やっぱり帰ったら怒る」


「じゃあ明日は?」


「明日も怒る」


「……どっちかにしてください」


「ははっ、取り敢えず帰ったら風呂入ってご飯食べような?」


「うん、リネットもいっしょでいいか?」


「ああ、勿論」

>>156 ありがとうございます!!

ここで終了します。読んでくれてる方、ありがとうございました。

乙!
リネットすげえ

>>167 ありがとうございます!!



【20 保護者】


「以上です。数々の異常、理解不能な点はありましたが」


「単なる『稽古さぼり』がこんな大事になるとはな……森から火の手が上がったと聞いた時、恥ずかしながら卒倒してしまった。

 無事に帰って来た……それだけで十分じゃ。孫を救ってくれた事、心から礼を言う、ありがとう」


「……!! 頭を上げて下さい、族長は何も」


「いや儂の責任じゃ、稽古にしても何にしても、もっと考えるべきじゃった。

 祖父として、あの子の想いや寂しさを……」


「族長、ブラッズは思っていた以上に強い子です。
 
 あの子、リネットを守る為に戦い傷付き疲弊して尚諦めなかったのですから」


「……そうか…そうじゃな」




【21 その子の名前】


ーリネットー


ブラッズが森で出逢った名も無きエルフの少女、名はブラッズが付けたそうだ。


母の名を授けるとはな、だが、最早この世に存在しない者……


名に縛られとるのは儂の方か、


先程少女から名を聞いた時は心臓が飛び出るかと思った。


「娘ではない、あの少女の名はリネット。『これから』を生きて往く者」


と、口に出してみたものの、娘と重ねてしまう儂が居る。


うむ、やはり幾ら考えてもどうにもならんな。


時間は何も解決しない、儂自身が何とかしなくてはならん。



「思わぬ出逢い、孫の成長……案外、今日は良き日なのかも知れんな」

短いですが終了します。見て下さってる方、ありがとうございました。



【22 友達】


その後、リネットはブラッズの祖父であり魔族長の紹介で、エルフ集落の夫婦に引き取られる事になった。


当初ブラッズの家に世話になっていたのだが、


エルフが魔族の集落に住むというのは不自然な為、魔族長がエルフ集落への移住を勧めたのだった。


引き取った夫婦に子供は居らず、もう若くは無かった為、彼女は暖かく迎えられ大事に育てられた。


家庭は良かったのだが、エルフ集落でリネットは孤立していた。


数年後には救世主などと呼ばれるのだが、


当時、彼女の力を見た者は皆離れて行った。


炎や水を操ったわけでは無く、


彼女にとって単純に怪我を治しただけ、なのだが、他者には『だけ』に見えなかった。


明確に何かをされたわけでは無い、


だが昨日まで共に笑っていた者が、次の日には他人の様な態度をとる……


ブラッズと離れて暮らし、『友達』と言うものを知っただけに、それは酷く辛いものだった。



「……ット、リネット!!」


「えっ? あ、おはよう。カティア」


「おはよう。それより、料理焦げてるぞ」


「あっ!! あぁ…やっちゃった」


「またブラッズに弁当か?」


「うん、クレイズさんとお爺ちゃんにも作るんだ」


「焦げたのクレイズにやって、成功したのブラッズにやれば?」


「……バレないかな?」


「いや、分からんけど」


そんな辛い時期に出逢ったのが、同い年のドワーフの少女・カティアだった。


女の身でありながら、父の跡を継ぎ鍛冶職人を目指す彼女も、また違う理由で周囲から距離を置かれていた。


カティア自身、リネットの噂は度々耳にしていたが、


彼女にとってその力は、只単に美しい物にしか見えなかった。



彼女の両親も特にリネットとの付き合いに口を出す事は無く、


寧ろ女友達が出来たと大いに喜んでいた。


その想いはリネットの両親も同じで、両家族は親睦を深めた。


「ところで、アタシの朝ご飯は?」


「…………」


「アタシの、朝ご飯は?」


「そこに、おにぎりが……」


「人ん家の台所使って、アタシにはおにぎりだけか」


「大きめに作りました」


「確かに大きいな、おかずは?」


「あっ、これ


「それ失敗したヤツだろ!!」


自宅よりカティアの家の方がブラッズの家に近い、


その為こうして台所を借りている(おかずの材料は持参、カティアの両親に承諾を得た上で)


こんな事が許される程に。

>>172 ありがとうございます!!

ここで終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。

なんだこいつら、かわいいな

>>177 ありがとうございます、登場人物の事言って貰えると凄く嬉しいです。

短いですが投下します。


【23 兄弟】


「兄ちゃん、疲れた」


「此処で休んだ所為で、ブラッズ君は魔物に襲われたリネットちゃんを守れず


「嘘、嘘。実は全然疲れてない」


「……ま、逃げなくなっただけマシか。前に比べてだけどな」


「あれは戦略的な撤退で逃げじゃない」


「分かった分かった。じゃあ続きだ……ほら、掛かって来い」


「……すぅ…はあぁ……うっし、行くぜ」


肩の力を抜き、だらりとした構え、足の爪先に力を入れ土を噛み、


自身の出せる最高速度でクレイズの間合いに……


その直前でぴたりと止まり、胸に目掛けて突きを放つ。


が、事もなさげに叩き落とされ、


もう一刀は既にブラッズの脇腹に迫っていた。



先手を取ろうと突っ込めば防御され、もう一刀で反撃、


かと言って前に出なければ、凄まじい連撃を食らう羽目になる。


その連撃を防ぐ事は、ブラッズにとって『雨を避けて歩く』事と同じ。


つまりは無理。


だからこうして突撃と見せ掛け、
ぎりぎり攻撃が届く距離から突きを放ったわけだが、容易く防がれ反撃されてしまう。


「っぶねえ……」


弾かれた竹刀を素早く引き戻し防御、次が来る前に飛び退く。


しかし打つ手が無い。


クレイズは幼い頃からブラッズの祖父(現役)に剣術を叩き込まれ、


その後短い期間ではあるが、同じくヴェンデルにも剣術を習った。


当時、両者共に最高位の剣士と呼ばれ、


その剣術を直に受けたのは唯一、クレイズのみである。



「こんなの勝てるわけねえよ」


「勝てる勝てないなんて考えるな、ヴェンデルさんはそう言ってたぞ? ちなみに


「そっか、父さんが……よし」


意を決して突撃するが、考え無しに突っ込めば迎撃に遭うのが当たり前。


容易く避けられ、脳天に竹刀が振り下ろされた。


「いってえ!!」


「当たり前だ馬鹿、考え無しに突っ込めばそうなる」


「何も考えるなって言ったじゃねえか!!」


「あのなぁ、さっきのは『動きの妨げになるような事は考えるな』って事で、

 頭を空にして敵に突っ込めって事じゃあ無いんだよ」


「なら最初っからそう言えよ!!」


「お前が最後まで話しを聞かないからだろうが!!」

終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。

間違いましたすいません。一応変えておきます。



【25 約束】


少し遅めの朝食後、カティアは鍛冶場へ向かい、リネットはブラッズの家へ向かった。


敷地内の稽古場へ着く頃には昼近くで、二人は口喧嘩の真っ最中。


彼女が声を掛けると、


クレイズは、はにかむブラッズを冷やかすと弁当を受け取り、その場を後にした。


その後、見てくれは良くないが気持ちの籠もった弁当を食べ終え、暫し雑談。


「今日は勝てた?」


「無理無理、だって二刀扱えるんだぜ? ただでさえ強いのに」


「うーん、じゃあブラッズも二つ使えば?」


「あさはかだな、そして馬鹿だな……」


「馬鹿じゃないもん」


「いいか? 剣二本使ってる奴に剣一本で勝つとか、すっげーカッコいいだろ?」


「ブラッズって馬鹿だね」


「うっせえ……でも、そのくらい強くならなきゃダメなんだ」



「え? でもこの前クレイズさん褒めてたよ? ブラッズは強くなったって」


「……いや、今のままじゃ全っ然だ」


「なんで?」


「あの時と同じ状況になったら、お前を守れるか分かんねえ」


「……あんな事、もう起きないよ」


「そうかもな。だけど、絶対じゃない」


ブラッズは悔いている。


あの時、魔物を倒した直後気を失ってしまった事、


魔物とは言え、リネットに命を奪わせてしまった事を……


あれから一年半程経つが、
兄の背で目覚め、彼女の寝顔を見た時の安堵感は忘れられない。


その時、彼は決意した。


如何なる状況であろうと彼女を守る、


つまり他者の命を背負える程に強くなろうと……



「なあ、リネット」


「うん?」


「 お前は俺が守る 」


「うっ? あっ…うんっ」


「いつでもは無理かも知れねえけど」


「ええぇ……(それ言わなきゃ格好良かったのに)」


「……あっ、兄ちゃん帰って来た。じゃあ、またな」


「そっか、じゃあお爺ちゃんの分、此処に置いとくから」


「おうっ、ありがとな」


礼を言うと、竹刀を手に走り出す。
彼女は振り返ってくれる事を期待していたが、それは叶わない。


結局、その後言葉を交わす事無く稽古再開。


稽古を始めるとは言え少々冷たいのではないか? そんな事を考えながら彼女は稽古場を後にする。


この時彼の頬が朱くなっている事に、彼女は遂に気付く事が出来なかった。



これを見逃した事により、両想いな片想いの幕が開けた。

終了します。見て下さってる方、ありがとうございました。


【混乱】


一面花畑、リネットは喜びそうだな。


何処まで行っても同じ景色、


何がどうなってんだ? つーか、何で俺はこんな所に居る?


くそっ、駄目だ。頭が薄ぼんやりしてる……


「ブラッズ」


「あ? リナト、お前も此処に?」


「……聞いて欲しい事があるんだ」


「おう、どうした?」


「僕は彼の真意を知ったんだ。彼は気付いていないけれど」


「は? なに言ってんだ?」


「だから、僕は決めたよ」


「待て、さっぱり分かんねえ」



「ブラッズは美しく気高い魂の持ち主だ。英雄視されるのも良く分かる」


何だ? リナトの奴、少しずつ薄くなってねえか?


これから消えちまうみてえな……そんな感じだ。


「ちょっと待て、急に何だよ? 俺にはさっぱりだ。何があった?」


「ブラッズになら、任せられる」


「おい、聞いてんのか?」


急に現れたと思ったら、訳の分からねえ事言いやがって。


しかも、その悟ったような顔は何だ?


悟ったって言うより諦め……いや、少し違う。


何なんだ? 頭は回らねえし、状況も理解出来ねえ。


「覚悟は出来たよ」


「……ッ、待てリナト!! 行くな!!」


【混合】


ある程度は覚悟していたつもりだったが、予想以上だ。


シャズネイを説得する事は出来なかったが、手紙を口実に四種族の里へ向かわせる事は出来た。


後はブラッズが上手くやってくれるだろう……


全く、僕は彼に頼ってばかりだな。


『未だ他者を気に掛けるのか』


「……また貴方か、一体何者なんだ。随分と王に信頼されているようだけれど」


『ん? 俺は、ただの預言者だ』


『ありもしない未来と、起こり得る未来、それと多少の毒を混ぜて騙しているだけだが』


「……それで? 自称・預言者が明日処刑される反逆者になんの用?」


『次代の王はお前だった。本来ならな』


「それこそ、ありもしない未来だ」



『お前が王になれば、次の次の世代で世は滅ぶ。俺は未来を変えに来た』


「何度も言うけど、馬鹿げてる」


『何度も言うが、俺になれば分かる』


「存在している者に『なる』なんて可笑しな話しだ」


『ん……確かに、そりゃそうだな』


「貴方がどんな存在なのかは分からないけれど、確かに人では無さそうだ。

 でも、僕は人を変えると決めた」


『母は資産目当てで近付いた』


「……!?」


『お前が八つになる頃、父は病に倒れ、帰らぬ人となる』


『実際は病では無い、母に毒を盛られていたのだ』


『母は再婚し、遺産を元手に新居を構えたが、其処にお前の居場所は無かった』


『お前は母の……人間の醜さから目を逸らし、祖父と父の思想に逃避』



『しかし、城へ来て再認識する』


『人間は変わらない。人間はどうしようも無く、醜いのだと』


「…………」


『牢に入れられ、狂った人間に拷問された事実からも目を逸らすのか』


『未だ人間に希望を抱くのか』


『その眼で、ブラッズの記憶を見た筈だ。どう見えた』


「ブラッズは、美しく気高い魂の持ち主だよ。英雄視されるのも良く分かる」


『………そうか、これが最後だ。どうする』


「ブラッズになら、任せられる」


『それは受け入れるという事か?』


「覚悟は出来たよ」

終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。

おいおいおい不吉過ぎるよ


【辿る】


城へ着き王と対面したのは覚えている。


でも、顔が思い出せない。


王の印象が薄いわけでは無い、


それを塗り潰す程に、側近の醸し出す雰囲気が異質だった。


黒いローブを纏っており、顔は見えないが体格からして男、


まるで、影か闇が形を為しているような……


何故、こんな得体の知れない者を側に置くのだろうか?


会話は他愛の無いものだったが、


側近が王に耳打ちすると王の表情が一変し、僕は地下牢へ連行された。


椅子に座らされ、目隠し、手錠、足枷。


それから直ぐに誰かがやって来て……様々な器具で痛めつけられた。


その『人は』、痛みに耐えようとする僕の様子を見て、嬉しそうに笑っていた。



笑い声を聞いて初めて、


僕を痛めつける存在が人間で、性別は男だと分かった。


相手を知れた事、それが少しだけ痛みと恐怖を和らげた。


絶えず与えられる苦痛、牢に響く笑い声、


一体、どれくらいの時が経ったのだろう?


時間の経過が分からない……


それだけで気が狂いそうになったが、何とか正気を保つ事が出来た。


何故こんな事が出来るのだろう?


人を傷付けて快感を得ているのか?



『ひっ、ははははっ!! アンタ最高だよ!!』


善人か、悪人か、


極端に言えば二つに分類出来る、のかも知れない。


だが、この男は……


『楽しいなぁ、なあっ!!

 楽しいって、満ち足りてるって事なんだぜ? 知ってる? ん?』


『アンタも嬉しいだろ!? 生きてるって感じるだろ!?』


『痛みが生を実感させるんだよ……なあ、分かる? 分かんない?』


『アンタに痛みを与えるとさあ、あぁオレって生きてるんだなぁ……って感じるよ』


この男は、どちらでも無い。


あぁそうか……この男は、人じゃないのか。



『酷い……やはり人間は醜いな』


……ああ、そうだった。


拷問と拷問の合間、又は拷問後に彼はやって来た。


その時に限り目隠しを外されるが、地下牢には一切の灯りが無い。


拷問後の無音無明の地下牢は、


此処は人を壊す為に造られた場所なのだと、


僕に伝えているようだった。


『リナト、そんな醜いモノの為に命を張るのか』


「拷問するよう指示したのは、貴方だろう」


『実行して楽しんでいるのは、俺じゃない』



唯一の灯りは彼が持つ松明、その灯りで随分救われたのを覚えている。


彼も灯りに照らされているが、それでもローブの中は見えず、暗闇が在るだけ。


しかしこの時の僕は、そんな事まで気が回らなかった。


「屁理屈だ」


『ああ屁理屈だ。それより、良く耐えられるな』


「僕は……あんな、人とも呼べない奴に…負けたくないだけだ」


『なる程、お前と言う人間を過小評価していたよ』


『流石は理想を現実にした男』


「……馬鹿にしているのか?」


『いや? そんな事より、お前に見せたい物がある』



「……一応聞くよ、それは?」


『見ての通り、眼球だ』


「貴方もそういう質なのか」


『それは誤解だ。それに、見て欲しいのはコレじゃあない』


彼は僕の右目に手を伸ばし、


眼球にぬるり指を這わせ、指先に力を込めると


躊躇い無く、引き摺出した。


『悪いな。だが、すぐ終わる』


何と言っているのか聞こえなかった。


それは僕の絶叫が、彼の言葉を掻き消したからだ……


焼ける、燃える、熱い、頭が、痛い。



このまま気を失えれば、どれだけ楽だろう?


そこに心臓が在るように脈打ち、


脈打つ度に激痛が走る。


「ぎッ…うぅっあああああアァッ!!!」


爪を剥がされるとか、針で刺されるとか、


熱した何かを押し付けられるとか、歯を抜かれるとか、


そんな痛みじゃ、無い。


『ゆっくり見るといい。お前の友・ブラッズの記憶だ』


在るべき物が無くなり、


只の空洞になったその場所に、何かを詰め込まれる。


そう、この時、この僅かな間、僕は彼の記憶を辿ったんだ……

>>194 レスありがとうございます。本当に嬉しいです。

終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。

乙です。



【1】


「俺が行きます」


それは新しい人間の王が決まってから直ぐの事。


『四種族は我々人間が造り出した生物だ。何故対等である必要がある』


『未来は、人間が創るのだ……』


これが、新王・ルーファスの言葉。


過去を引き摺るのはよせ、前を見よ。


そう受け取れば良い言葉だが、


この発言を聞いて真っ当だと思う者は、四種族の中には一人として居ないだろう。


我々四種族は、今更人間に数百年前の罪を問うつもりは無い、


しかし、この発言により、人間との関係を見直さざるを得なくなった。


人間との関係が悪化し、衝突する事を避けたかった我々が出した答えは、


北の地への移住。



移住するに当たって、まずは調査隊を編成しなければならない。


調査に行くのは、我々魔者。


万一に備え、多数の人員を割く訳には行かず、少数での調査になる。


大災害から数百年、北の地へ向かった者は過去にも居る。


問題は、帰って来た者が一人として居ない事だ。


魔物で溢れていると考えるのが妥当……


事実、魔物は北の地から山脈を越えてやって来る。


そんな所に好き好んで行く者は居ない、生に執着するのも当然。


魔者の中には、身体の一部が破損して尚治癒する者も、極僅かだが存在する。


だが高い治癒力と戦闘力を持つ我々魔者と言えど、


死への恐怖が麻痺している訳ではない。


我々も、元は人間なのだから。



化け物だなんだと言う者も居るが、初めから『こう』だった訳では無い。


遡ること数百年、赤国と黒国との戦時中


人間に造り出された『人を超えた人』、それが英雄・ロイであり、


その血を色濃く受け継いでいるのが、ブラッズ。


その他、半数以上の魔者は魔獣討伐隊の子孫だとされている。


「他に往く者は?」


皆が顔を伏せ、目を逸らす。


俺と同世代、その中には結婚を控えている者、子供が居る者……


こうなっても仕方無い。


だが、もう迷っては居られなかった。


俺は一人で北の地へ向かう事を決め、魔族長にその旨を伝えた。



『確かに新王は危険な人物かも知れん、じゃが北の地への移住なんぞ性急過ぎる』


『皆が動揺し、混乱しとる。こんな時、安易に行動してはならん』


『お主はまだ若い……考え直すんじゃ』


族長はそう言ってくれたが


何か胸騒ぎがする、あの時聞いた言葉が引っ掛かる。


もしかすると、俺自身が一番混乱しているのかも知れない。


しかしそれ以上に、


先送り、結果次世代が背負う……そうなるのだけは避けたかった。


調査を終えた後、故郷を捨て北の地へ移住する事になろうと、


あの子達が笑っていられるのなら、それで良い。


その為なら……



俺は、何だってするだろう。

>>203 ありがとうございます。

終了します。見て下さってる方、ありがとうございました。



【景色】


初めに見たのは彼の記憶、その断片。


その後は、ブラッズの記憶を見た……


と言うより、『入ってくる』ような感覚。


友が大事にしている想い、


絆を盗み見ているようで、とても申し訳無い気持ちになった。


いや、実際盗み見ているのと変わらない。


『綺麗な所だ……出来れば直に見たいなあ』


しかし、何時の間にか見入っていた。


草花、川、田畑は、日を浴びると輝いて見えた。


何処にでもある景色だけど、


僕が見たどの景色よりも『生きている』感じがする。


僕は場面が移り変わる度に、息を飲んだり、叫んだりした。


リネットさんとの出逢い、魔物との戦い、ブラッズの決意、


その全てが、美しかった。



【整理】


その後、その後は……


そうだ、目を覚ますと、まず痛みが無くなっているのに気付いた。


痛覚がおかしくなったのかと思ったけれど、どうやら違う。


目隠しされていた為、足先を擦り合わせて確認すると、爪が生えていた。


治ったのか? だとしたら、かなりの日数が経過している筈だ。


同志はどうなった? 無事だろうか?


……いや待て、


それ程の日数が経過していたとしたら、何も起きていないのはおかしい。


『その時は、何が何でもどうにかしてやる』


断言出来る、二日も経っていない。


しかし、傷は癒えている。


「………………」


それより、あれは本当にブラッズの記憶なのだろうか?



『僕の見た全て』が本当だとしたら、


王の側近、僕の右目を抉り出した男は、


ブラッズの師・クレイズさん……と言う事になる。


一番最初に見た記憶の断片は、間違い無く彼の物だ。


結局、北の地へは向かったのだろうか?


……あの意思の強さからして、大人しく族長の言葉に従ったとは思えない。


『次世代に背負わせるのは避けたかった』


次世代……これはブラッズ達の事だろう。


ブラッズの記憶を通して見たクレイズと言う人物は、


他者を思いやる心、


そして強靭な肉体と精神を併せ持った素晴らしい人物だった。



一体何が彼を変えたのだろう?


「………っ、やっぱり、在る」


考えないようにしていたが、失った筈の右目が在る。


ああ、分かってる


この右目は、きっと僕のじゃない……


恐らく、彼が所持していた眼球だ。


コレを『入れられる瞬間』クレイズさんの記憶の断片を……


コレを『入れられた直後』ブラッズの記憶を見た。


だとしたら、この右目は……



『目は、覚めたか?』

終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。
時系列がばらばらで申し訳ありません。
分かり難い所があれば質問してくれるとありがたいです。

書き忘れました。
拷問の場面で気分を害された方が居たら、申し訳ありませんでした。

乙乙

>>215 ありがとうございます。


【明日】


『覚悟は出来た』


この言葉を彼に伝えるまで、様々な事を問い、答えを聞く度に考えた。


目を覚ました後、彼は何かを確認し、語り始めた。


けれど、彼の語る全てが荒唐無稽で、


到底信じられるものでは無かったし、本当だとしても理解が追い付かない。


しかし、馬鹿げていると思いながら、彼の言葉を信じ始めている自分が居た。


それはきっと、彼が放つ、一つ一つの言葉に強い意志が込められていたからだと思う。


『俺になれば、分かる』


僕はその方法を聞いたけれど、明日になれば分かる、それだけだった。


明日になれば分かると言われても、


僕は明日、処刑される。


「……………」 


本当に僕が彼になるとしたら、僕は消えてしまうのだろうか?




……でも、もういい。


僕は考えが甘かった……変えられない人間も居るのだ。


僕の望む物、それは万人が望む物では無いだろう。


今を変えよう、


手を取り合い、皆が平穏に暮らせるように……そう考えていた。


「………無理だ」


僕を拷問した男、


アレは、人間を人間と思わない『化け物』だ。


化け物には何も伝わらない、まして変えられるわけがない。



「………ブラッズ、済まない」


短いですが終了します。ありがとうございました。



【憔悴】


遡る事八日……


帰りが遅いと心配したブラッズの祖父が、獣人族の青年ゼノに迎えを依頼。


ゼノは、狼の姿で帰って来た。


右目を失い、


身体には無数の刀傷、


自身の血に塗れた彼を背負って……


何があったにせよ、自宅に戻る頃には傷は塞がるだろう。


そう思っていたゼノだったが、一向に回復する気配が無い。


危険だと判断し、我が身を狼に変化させ里へ走り、ブラッズの自宅へ直行、


その後、リネットに治癒され傷は塞がったものの、


何故か右目だけは戻らず、昏睡状態が続いた。


エルフの医師を呼んだ所、後少し発見が遅れていたら……との事だった。


そして、後は彼の頑張りに掛かっている、と。


更に、彼が戻る前にも一つの事件が起きていた。


此方は盗難事件なのだが、


その盗品と、ブラッズ襲撃に関連性が浮かび上がった。


盗難されたのは、カティアが造り終えたばかりの二本の刀。


その二刀を以て、ブラッズは襲撃され、敗れたのではないか?


それが、魔族長の推測。


魔族の中で、刀を所持すると言うのは特別な意味を持つ、


嘗ての英雄が扱っていた事もあり、


言わば、選ばれた者のみが所持する事を許されている。



現在所持している者はブラッズと、その祖父である魔族長のみ。


何より、刀傷から推測するに、襲撃者の技量はかなりの物だと言えた。


考え得る中で、


二刀を扱える者、


ブラッズを倒せる力量を持つ者は、たった一人。



『クレイズ』



だが、今や存在しない人物。


しかし、それが元で『呪い』『亡霊』など様々な憶測が飛び交い、一時、恐慌状態に陥った。


それを収めたのは四種族長では無く、


ある意味では、彼の祖父以上に強い絆を持つ、リネットだった。



目が腫れるまで涙を流し、声が枯れ果てるまで彼の名を呼び続け、


一睡もせずに看病し続けた彼女は、


祖父から騒ぎの様子を聞くと、無言のまま立ち上がり、


正常な判断を失い、暴動寸前の民の前に立ち、


この里へ来てから初めて、



『力』を行使した。



水は龍に、土は堅牢な壁に、炎は鳥となり、


枯れた樹木は再生し、天高く聳え立った。


それを見た全ての者が、その圧倒的な力に、『呑まれた』。


彼女は『それ』を確認すると、未だ眠り続ける彼の下へ戻って行った。


人は、心は、脆い。


この時、力を行使した事により、


彼女は依存され、崇拝され、求められる事になる。

終了します、もう少しで回想も終わります。ありがとうございました。



【目覚め】


「……そうか、そうだったな」


彼は目を覚まし、右の瞼を指でなぞりながら呟いた。


身体を起こし辺りを見渡す、どうやら自分の部屋らしい。


既に日は落ち、月明かりが射し込んでいる。


「……落ち着け。今は、考えろ」


どれほどの時が経ったのか、リナトは無事なのかが気掛かりだった。


もしかしたら既に、と……最悪の事態が頭を過ぎるが、


混乱し、ざわめく心を何とか静め、


彼は瞳を閉じ、ゆっくりと記憶を辿り始めた。


薄ぼんやりしていた思考は徐々に晴れ、


自身に降りかかった出来事、それが鮮明に浮かび上がる。



『久しぶりだな。ブラッズ』


『まだ否定するのか?』


『戦えば分かる』


『どうした? 来ないのか?』


『ほら、掛かって来い』


『……強くなったな』


『守る事は、背負う事だ』


『コレは貰って行く』


『姿形が変わろうと』


『話した所で理解出来ないだろうし、今のお前じゃ、何も出来ない』


『何で、こんなに面倒臭い事になったんだろうな』


『生きろ』



一つ消えて、一つ蘇る。


彼が放った言葉が、その時の情景が、


許容量を超える凄まじい勢いで、心に蓄積して往く。


「……っ、はぁっ…」


呼吸が乱れ、汗が噴き出す。


身体の中の何かが爆発し、動き出そうとするのを必死に抑えながら、


夢の中で友に告げられた言葉の意味を理解する為、再び辿る。


『僕は彼の真意を理解したんだ。彼は気付いていないだろうけど』


『ブラッズになら、任せられる』


『覚悟は出来たよ』


『ブラッズ、済まない』



ばらばらな言葉が意味を持ち、少しずつ形を為して往く。


が、奥底にある物には辿り着けない。


「兄ちゃん、リナト、くそっ……何が何だが分かんねえ」


理解出来ずとも、事実は変えられない。


友人の家から帰宅途中、何者かに出会い、


その何者かはクレイズと名乗った。


否定しようにも、


物言い、身のこなし、幼い頃から見続け、受け続けた太刀筋が、


それを許さない。


「くそっ……何で、何でこんな面倒臭い事になるんだよ」


左目から、涙が零れ落ちる。


悔しさか、怒りか、悲しみか……


幾つもの想いが混ざり合い、溢れ出す。



「こんなに、弱かったのか……届きもしなかったな」


手のひらを見つめると、所々肉刺になり硬くなっている。


こうなるまで何度も潰れ、また肉刺になり、それでも剣を振り続けた。


兄が居なくなってからも、


『誰か』を守れる程に強くなりたい。その一心で……


その時、襖が静かに開いた。


「……リネッ


彼女は一瞬の間を置き、彼の胸に飛び込み、抱き締めた。


「ブラッズ、お帰りなさい……」



上目がちにそう言った彼女の顔はやつれ、隈が出来ていた。


泣き腫らした目を見られたくないのか、彼の胸に顔を埋める。


「ただいま。ありがとな」


「うん。身体はどう? 痛くない?」


「ちょっと怠いけど大丈夫だ。なあ、俺はどれくらい寝てた?」


「八日間眠りっぱなし。その間、色々あったんだよ?」


八日も眠っていた事に驚きつつ、


明日はリナトが城から戻って来る日だという事を思い出す。


全てが繋がっているような不気味な感覚がしたが、


現状を把握する為、隅に追いやった。


「何があった? 俺以外にも誰かやられたのか?」


「ううん。里に住む皆がおかしくなっちゃって、お爺ちゃんは今日も会議に行ってる」



「おかしく、ってのは?」


「クレイズさんの亡霊だとか騒ぎ出して……」


「何で兄ちゃんが出てくんだよ?」


「カティアの造った刀が盗まれて、ブラッズの傷を見たお爺ちゃんが……

 それに、ブラッズに勝てる人なんて、クレイズさんしかいないだろうって」


「そうか、まあ合ってんだけどな」


「『それ』は本当にクレイズさんだったの?」


「ああ、何するつもりかは分かんねえけどな」


「……あのね? 傷を治した時、凄く嫌な感じがしたの」


「右目も治ってねえしな。確かに変な感じはするよ」


「右目は奪われた……と思う」



「奪われた?」


「其処の命を吸い取られたみたいな……そんな感じ」


分からないでも無かった。


右目を失ったというより、右目その物、その存在を奪われたような感覚。


「『奪う』か、今は考えても分かんねえな。

 それより赤髪の女……シャズネイだったか? そいつは来たのか?」


「うん。シャズネイさんはゼノのお家に居るよ。

 ちょっと大変だったけど、何とか落ち着いてくれた」


「そうか……」


見るからに堅物そうな女性だっただけに、


素直に従うとは思えなかったが、リナトは上手くやったらしい。



「リネット、その女から聞いてるかも知れねえが、明日は俺の友達が帰って来る」


「リナトさん、だよね? シャズネイさん凄く心配してた」


女性として、どこか共感出来る部分があるのだろう。


少しだけ声が震え、抱き締める腕に力が籠もる。


「……明日、城へ行くよ。凄く嫌な予感がする。何となくだけど、兄ちゃんも絡んでる筈だ」


「帰って、くるよね?」


「おう、絶対帰ってくる」


「……うん、待ってる。ねえブラッズ、あのっ、えぇと」


「どうした?」


「一緒に、寝ても良い?」


「そういうの一々聞くなよ……ほら、さっさと入れ。疲れてんだろ」


「うん……ありがとう」

終了します。ありがとうございました。



【心配と女性】


ー同日・夜ー


傷だらけのブラッズを家に運び込んだ後、


ゼノは、彼の家の近くに在る空き家を与えられ、有事の際は直ぐに駆け付けられるよう待機している。


現在、その空き家には二人居る。


一人はゼノ。もう一人は、人間の女性


「ゼノ殿、ブラッズ殿はまだ……」


「医師が言うには、奴の身体は既に回復しているそうだ」


「何故意識が戻らないのかが気になりますね」


彼女はシャズネイ。


リナトからブラッズ宛てにと手紙を預かり、里に届けに来たのだが、


それは彼女を里に匿って貰う為に書かれた物だった。



そんな事は聞いていないと憤慨し、すぐさま戻ろうとしたのだが、


エルフの女性に宥められ落ち着きを取り戻し、


リナトが帰って来るまで、恩人であるゼノの家に身を寄せる事になった。


「その事なんだが……奴を見つけた時、僅かに残っていた」


「それは襲撃した人物の?」


「多分な。上手く説明は出来ないが、これだけは言える。

 あれは、生きている者全てに害を為す」


「……それを、見たのですか?」


「いや、見てはいない。

 だが、奴の身体に刻まれた多くの刀傷に、その得体の知れない何かが纏わりついていた」



「ならば、ゼノ殿も『それ』に触れたのですか?」


「オレの身体には何の問題も無い。

 しかし、奴を背負っている間に感じた疲労は普通では無かったな」


「存在、なのでしょうか」


「もしそうなら、人間とも四種族とも違う異質の……いや、魔族長には話してある、オレが考えても答えは出ない。

 それよりシャズネイ、奴の友・リナトは明日だったな」


「ええ、明日帰って来る筈です。何も無ければ、ですが」


「オレなら殺す。お前の話しを聞く限り、人を惹き付ける何かを持っている男だ。

 これ以上厄介な存在になる前に、始末する。何れ害を為すと分かっている者を、生かしておく必要は無い」


「……そう、でしょうね」



「それに、如何に暴力に屈しないとしても限度がある。殺さずとも、『壊す』ことは出来る」


「そうなっていたとしても、あの方が悩み、決断した事です」


彼女自身が一番怖れている事を列挙され、案ずる気持ちが膨らむばかりだったが、


彼自身が決断した事なのだからと、無理矢理に納得させた。


最早願う事しか出来ないが、


無事に帰って来た時は、ビンタの三つでもくれてやろうと心に決めて。


「痛みを伴うのも覚悟の上、と言う事か。

 しかし、ブラッドリーが友と呼ぶ人間。興味があるな」


「ゼノ殿はブラッズ殿をどう思っているのですか?」


「少し前にも同じような事を聞かれたな……まあ、感謝はしている」



表情はぶすっとしているが、顔を背けながら話す所を見ると照れているようだ。


「ふふっ」


「何が可笑しい」


「いえ、珍しく年相応な表情だったもので、つい」


物腰や言動は大人びているが、ゼノはシャズネイより年下で、まだ少年とも言える歳。


本来なら青春真っ只中なのだが、


幼い頃から受けていた『教育』の所為で、友人や恋人などとは縁遠い。


「オレは、お前が羨ましい」


「えっ? 急に何を」


「笑みを自然の内に出せている。オレには、未だ染み付いているらしい」


「すぐに笑えますよ」


「何故そう言える?」



「現に、ゼノ殿は悲しそうです。それはブラッズ殿が心配だからでしょう?

 ならばブラッズ殿が目覚めた時、その時はきっと笑っている筈です」


「笑えるかどうかは別として、心配しているのは事実だ。

 リネット様も憔悴しているからな、早く目覚めて欲しい」


リネットは、ブラッズが担ぎ込まれてからの二・三日、寝ずに看病(汗を拭いたり、着替えさせたりしていた)


祖父が、やつれていく彼女を気に掛け休むように言った為、


二・三時間の仮眠を取るようになったのだが、それで疲れがとれる筈も無い。


「その、失礼ですがリネットさんは一体何者なのですか?」


「お前が手紙を持って来た時、話しただろう」


「はい。自身が憔悴しているにも拘わらず、親身になってくれた事は感謝しています。心優しい方である事も分かりました。

 私が聞きたいのは、あの力の事です。まるで、全てを司っているような……」


「お前がそう思えばそうだろう。あの力は魅力的だったか?」



「いえ、私の理解を超える現象だったもので……答えが欲しかったのかも知れません」


「リネット様は、救世主と呼ばれている。今回の件で、更にそれが強まっただろう。

 本人が望まなくとも、民は望んでいる。それに、事態を収束させる為に使った……のなら、まだ理解出来るんだが」


「ならば何の為に?」


「ブラッドリーが静かに休めないから……だそうだ」


以前より人と触れ合う事が増え、


少しは心の機微が理解出来るようになったと感じていたが、


リネットに力を行使した理由を聞いた時、彼は絶句した。


「なる程」


「分かるのか? そんな理由で力を使うのは、些かやり過ぎかと思うぞ」


「女性として色々話しましたから。

 私がリナト殿の話しをした時、共感する部分が多々あるらしく、

 涙ぐんだり、怒ったり、まるで自分の事のように……なので、少し分かる気がします」



「女性は怖いな」


「『そう』出来ているのかも知れませんよ?」


「………お前もか?」


「もしも、もしもの話しですが、

 リナト殿に何かあれば、そうなるでしょうね」


「ブラッドリーの様子を見てくる。リネット様もろくに寝ていない、また無理をしているかも知れん。

 それに……」


「何です?」


「お前が少し怖い」


「えっ!?」


「すぐに戻る」


「はい、分かりました……あっ」


彼女の右手には、いつの間にか、短刀が握られていた。



「女性は怖いな」


「『そう』出来ているのかも知れませんよ?」


「………お前もか?」


「もしも、もしもの話しですが、

 リナト殿に何かあれば、そうなるでしょうね」


彼女は、改めて何かを決意したように、強く握り締めた。


「……ブラッドリーの様子を見てくる。

 リネット様もろくに寝ていない、また無理をしているかも知れん」


「それに」


「何です?」


「お前が少し怖い」


「えっ!?」


「すぐに戻る」


「あ、はい、分かりました……あっ」


彼女の右手には、いつの間にか、短刀が握られていた。

変更って書いたんですが、何か変なのになりました。

出来るだけじっくり書こうとしてるんですが、時間が進んで無いです、申し訳ないです。

後、前のお話しから続いて見て下さってる方、

最後まで書いてから……と、言っておきながら書き終わるどころか殆ど書き上げていなかったです。

本当にごめんなさい。

今日は終了します。ありがとうございました。


十分楽しんでるしゆっくり待つさ

変わりましたが、>>1です。
正直見ている方は居るんだろうか、とか色々不安だった部分もあるので、とてもありがたいです。
明日明後日あたりに更新します。

がっちり見てるぜ

嬉しいです、ありがとうございます。投下します。



【消えた刀と父と娘】


ー同日・夜ー


彼女は悩んでいた。


無二の親友・リネット


その親友が愛する男を瀕死に追いやったのが、自分の造り上げた刀かも知れないのだ。


確定はしていないが可能性は高い。


現在、刀を造っているのは彼女だけなのだから……


「盗まれたのは間抜けとしか言えないな。

 アタシがきちんと保管していれば、こんな事にはならなかったのに」


暗い鍛冶場で一人、完成した刀が在った場所を見つめながら、


そう、呟いた。



「カティア、どうにもならない事を考えても、もっと辛くなるだけだ。

 さあ、家に戻ろう。母さんも心配しているから」


「あ、父さん……でも、アタシの刀でブラッズが


「それは、まだ分からないだろう?

 そんな事より……いや、この言い方はブラッズ君に悪いな、済まない。

 鍛冶職人として聞くが、お前は何を想い槌を振った?」


父は娘の側に座り、優しく手を握り問い掛ける。


「笑わない?」


この里で唯一の女性鍛冶職人となり、


魔族長から直々に依頼を受ける程まで大成したものの、まだ若く繊細。


鍛冶について相談出来る者など父以外に居らず、


他の鍛冶職人には疎まれる事もある。


溌剌としていて男勝りな印象が強いが、女性には違い無いのだ。



「ああ勿論だ。私は、作品に込めた想いを嘲るような真似はしない」


「アタシは、繋ぐ為に造ったんだ」


「何を繋ぐ?」


「想いが繋がって、何て言うか……

 斬るんじゃなくて……ごめん、上手く言えない」


「斬るのに、繋がると?」


「そうじゃないんだ。例えば、

 アタシの刀を持つ奴が誰かを助けたら、助けられた人は、刀は守る為の物だと思う。

 その場限りかも知れないけど、そう思ってくれると信じたい」


「続けておくれ」


まだ考えが纏まらず、上手く言葉に出来ていない。


父は待つ


職人として、弟子である娘がこれから何を告げるのかを……



「うーん、何だろうな。

 そう……斬るだけじゃない。何かを終わらせる為だけに在るんじゃないって、

 そう想いながら、そんな刀があっても良いだろって……」


「カティア、本気で『それ』を込めて槌を振ったのかい?」


考えを否定するようなものでなく、


純粋に、混じり気の無い気持ちで槌を振ったのかを確かめる。


「本気だよ。傷付けるだけなら、切れ味が良いだけの物なら、誰でも造れる。

 でも、アタシはその中に何かが入ってなくちゃ意味が無いと思う。

 例えそれが恨み辛みでも、希望でも……なんでも良いんだ。

 『ただ』造るだけなら、そいつは職人じゃない」


「父さん、どうしたの? 大丈夫?」


自身がどのようにして、


何を想い槌を振り、造り上げたのかをやっと伝える事が出来たのだが、


父は俯き、身を震わせている



「いや、嬉しいんだ。

 昔、お前が鍛冶職人を目指すと言ってくれたね?

 私は、すぐに飽きるだろうと、いずれは普通の女の子と同じように、嫁いで行くのだと思っていた」


辿り着けない場所、


もう助言など出来る立場ではないのかも知れない。


同じ鍛冶職人としての悔しさと、弟子が自身を超えた喜び、


そして何より、娘が真に望んで鍛冶職人になった事を噛み締めながら、


本心を打ち明ける。



「父さんは、その方が良かった?」


男にも負けまいと、無意識の内に職人として振る舞っているが


今この時、


悪戯っぽく微笑み問い掛ける、自然体な彼女の姿を見れば


里の男達はこぞって嫁に欲しがるであろう。


「いや、今の会話でそんな想いは無くなったよ。

 お前のやりたいように、濁り無い物を造りなさい。

 それはきっと、何よりも美しいだろうから」


父は娘を抱き締める。


娘は誰にもやらんと、心に決めて。



「……父さん、ありがとう」



【頼み事】


「もう寝たのか。よほど疲れてたんだろうな」


寝息をたてる彼女を見つめ、さらりとした金色の髪を撫でる。


僅かに頬がこけ、目元には隈が出来ている。


「……稽古場にでも行くか」


起こさぬよう、枕代わりになった左腕をゆっくりと引き抜き、立ち上がる。


一瞬くらりとしたが何とか持ちこたえ、静かに襖を開け稽古場へと向かう。 


廊下を曲がる際、


柱に右肩をぶつけ、想像していた以上に視界が狭まっている事を実感しながら


「随分疲れたな。思ってたより辛い」


稽古場に着く頃には、寝巻きには汗が染み込んでいた。


見えない、それだけで警戒心が強まり、身体に余計な力が入る。




見えないという恐怖。


それに囚われれば、満足に戦う事は難しいだろう。


「最近は竹刀振ってなかったな。うっし、少しやるか」


彼が空腹をどうにかするより、


身体を動かす事を優先させたのには理由が在る。


それは、先程リネットに告げられた『奪われた』という言葉、


もし、自身の積み重ねてきた物も奪われていたら……


そう考えると、空腹など掻き消された。


「……流石に考え過ぎたか」


教えられた剣技の全てが、彼の思うままに繰り出された。



何度も何度も、繰り返し動作を確認し、安堵する。


「此処に居たのか、捜したぞ」


「あ? おお、ゼノか」


「族長はまだ帰って居られないようだし、あまり動き回るな。

 リネット様もカティアも……皆が心配する」


以前からは考えられないゼノの発言に面を喰らったが、ブラッズは嬉しかった。


しかし、世辞にも素直とは言えない性格な為


「なんか、気持ち悪ぃな」


素直に『変わったな』等と言えば良いものを、こんな言い方しか出来ない。


「死にたいのか?」


「ははっ、その方が『らしい』な」


「黙れ。それより襲撃者の正体は分かるのか」


「ああ、俺の兄ちゃんだ。名前はクレイズ」



「その男は『何だ?』 お前は見た筈だ。教えてくれ」


「真っ暗闇が集まって出来たような、そんな感じだったな。

 でも兄ちゃんなんだよ……全く訳が分からねえ」


「(やはり人ではないのか……しかし、相当参っているな。

 兄であり師でもある男が、人ならざる者となり現れたとなれば、仕方無い………のか?

 オレには、何も言えない)」


「……明日はどうする。城には行くのか?」


「ああ、行く。嫌な予感っつうか、まあ、勘だ。

 これは、リネットにも伝えてある」


「そうか……その男・クレイズは城に居ると?」


「いや、そんな感じがするだけだ。俺の目玉を奪ったのも気になるしな」


「右目は、戻りそうに無いのか」


「リネットが言うには、右目っていう存在を奪われたらしい。此処には命が無いんだってよ」


右瞼をつつきながら、淡々と告げる。


右目を奪われた事自体は、あまり気にしてはいないらしい。



「奪う、か……なる程」


「なんか分かんのか?」


「お前を背負った時の疲労、あの時感じたのは正にそうだ。

 精気を吸い取られるような……リネット様の言う通り、奪うという表現が適している」


「ああ……そういや斬られた所から力が抜けてく感じがしたな。

 それよりゼノ、お前に頼みがある」


「何だ」


「明日、共に来い」


「それは頼みではなく、命令だろうが。まあいい、それは良いが何故だ?」


「リナトが無事に出てくるのを確認して、それを赤髪の女・シャズネイに伝えるのがお前の役目だ。

 一度しか見た事は無いが、リナト絡みなら何するか分かんねえ女だ」


「了解した。しかし『それ以外』、お前の勘が当たった場合はどうする?」




「その時は何とかしてみせる……約束だからな」

此処で終了します。ありがとうございました。

おつ



【それぞれの】

ー同日・夜ー


里の中核を担う、四種族の族長が一堂に会していた。


その訳は、先日突如として差し出された『書状』


現在、その書状について一つの提案が出され、それが元で衝突が起きている。


衝突しているのは二人。


残る二人の族長は静観している。


「ふざけるな!! 儂は認めんぞ!!」


一人は歴代最長・今尚魔族の長として一族を率いる男。


彼の後任となる者は過去に二人居たが、一人は他界、一人は行方知れず。


その為、継続して族長を務めているが


七十を超えて尚、一族の者からは絶対的な信頼と尊敬を得ている。


「しかし、ご覧になったでしょう?

 あの力があれば、例え北の地が魔物で溢れていようと問題無い」


もう一人は獣人族長。


先代の一件の後に族長になったのだが、


事件の混乱、そのどさくさに紛れて座に着いた人物である。



「それが気に入らんのじゃ!!

 貴様等はたった一人の、それも二十になったばかりの娘に全てを背負わせると言うのか!?」


「とは言っても、今や彼女は民に崇拝される存在。

 我々族長の言葉に従うとは、とてもとても……」


「ぐっ……」


「彼女・リネットは、亡くなられた貴方の娘と同じ名前。

 しかも何れは御孫様の嫁になるやも知れぬのですから、ご心配する気持ちも分かりますがね」


「……貴様、儂を侮辱するか。亡き娘の事まで持ち出すとは思わなんだ。

 余程、命が惜しくないと見える」


「ひっ!? な、なにを…!!」


抜刀したと認識した時、刃は既に首筋に触れていた。


気迫、眼光、殺気


その全てが、七十を越えた老人が出せる物では無い。



強者揃いの魔族。


その一族が、現役を退いた七十過ぎの老人を未だに尊敬しているのには、勿論理由が在る。


それは彼の性格・誠実で、間違いを間違いだと言える事……


そして最大の理由は、


それを正す『力』を持っている事だろう。


「我が身可愛さに、一人の娘の人生を狂わせるのが愚かだと、何故気付かん。

 儂等が生きる事を考えてどうする? 儂等は、死んでも守らねばならん。次に託さねばならんのだ。

 『これから』を生きる者の為にな」


「なっ、ならば他に術があると!? 書状には『一週間後、戦を仕掛ける』とあった!!

 貴方の孫は何者かに襲撃され!! それにより民は混乱!!

 それが元で未だに戦の事を民に伝えられず!! しかも!! あと三日しかない!! どうするつもりだ!!」


「吠えるな!! ともかく、儂等魔族は残る!! 貴様等は好きにするがいい。

 じゃが、リネットは儂が預かる。

 若い女子を先頭に立たせ北の地を目指すなど、断じて認めん!!!」

つまんないからもう書かなくていいよ


ーーーーーー

ーー

「起きて早々にこんな話しを聞かせて済まん」


「いいって、今更何言われても驚きゃしない。

 それに獣人族長はともかく、他の二種族は賛成って訳じゃあないんだろ?」


「正直、どう転ぶか分からん。

 戦となれば、魔族だけで食い止める事は可能。じゃが、ちと厳しい」


「取り敢えず、明日は城へ行くよ。

 リナトと合流して現状を伝え、その後同志達も加われば何とか出来るかも知れねえ」


「それは、王の首を取る、と言う事か?」


「双方共に何千何万死ぬのを防ぐには、それしかねえだろうな。

 何より『人間』であるリナト達によって王が倒されれば、納得する奴も出てくる。今の王に何かしらの不満を持つ奴は大勢居る。

 利用する形になっちまうが仕方無い。それに、心から戦を望む奴なんて居る筈がねえ」


「そうじゃな……」


「………爺ちゃん。俺、疲れたからもう寝るよ」

つまんないからもう書かなくていいよ



「ああ、ゆっくり休め。婚前に共に寝るのは許せんが、今は仕方無い。

 取り敢えずは、リネットの両親ともそろそろ話しをせねばならんな……」


「気が早ぇし、んな事しねえよ!! ったく……じゃあ、お休み」


「待て、ブラッドリー」


「ん?」


「襲撃者の正体は、分からんのか?」


「さっきも言ったろ?

 目深にローブ被ってたから、誰だか分かんなかったってよ」


「……そうか、そうじゃったな」


「まさか、ボケが来たんじゃねえだろうな?」


「まだボケとらんわ!! さっさと休め」


「呼び止めたのは爺ちゃんだろうが……んじゃ、お休み。

 爺ちゃんも疲れたろ? 早く寝ろよ?」


「……そうじゃな。儂もそろそろ休むとしよう」

短いですが此処で終了します。ありがとうございました。

もう書かなくていいよ?気持ち悪いから

ブラッドリーwwwリネットwww

お前の書くssはつまらない、誰も言わないから俺が教えてやるよ

なんでここまで叩かれてるのか今から見てくる

依頼出しといたからありがたく思えよ

>>274
叩いてるのは一人だぞ
スルーしとけ

>>1
見てるぞ

無理して書かなくていからね?つまんないから、

叩いてないから、助言だからwww

>>1いい加減気付け、お前の書くssはつまらないんだよ

ちゃんと依頼だせよ?あと妄想は頭の中で終わらせた方がいいよwww痛いからwwwお前のssは特に痛いwww

夏ですねwww夏が来ましたねwww

乙だってよwww>>1よかったねwwレスしてもらえてよかったねwwwお前の[田島「チ○コ破裂するっ!」]おもしろいってよwww

>>1オナニーwwwおもしろいってよwww

荒しじゃないよ!助言だよ!>>1よ、見てんだろ?助言してやってんだからありがとうくらい言えよwww

確かにつまらんな

早く依頼だせよ。誰もみちゃいないんだから

末尾でここまでバレバレの自演も珍しい
そろそろ規制対象になるぞ

自演です。すいませんwww

誰か依頼出して下さい

これは酷い

終わったな

乙。荒らしにかまわんと続けてくれ。

なぜこのスレを叩くのか、それは>>1が気持ち悪いから。このスレは速やかに依頼を出すべきだ。>>1 は無職のおっさんです

自分は好きだよ、>>1のSS
無理しない程度でいいから続けて欲しい


色々とかわいそうだな
楽しみにしてるから荒らしに負けず続けてくれ

見てきた
お前だったのか過去作も見たことあるそ

ただ読みにくい
時系列はいきなり変わる、前後する、レス毎に視点が変わる、変わったことに対するアナウンスもない
主語が分からない時があるから誰が何をしたのかわかりにくい

嵐さん必死ですね^^
何か嫌なことでもあったんですか^^

読みにくいからもう書かなくてくださいってことだな、やはりお前の書くssはつまらないんだよ。>>1よ分かるよな?

縺斐a繧薙?√≠縺偵■繧?▲縺毆ww

なるほど

反応ないとつまらんな、元々見てる奴なんていないから当たり前かwww

荒らしは自分のSSが人気無いから嫉妬してんのか?

何にせよ俺はこのSSは面白いと思うぞ

続き気になるし最後まで頑張って欲しい

夏だなぁ
読みにくいは読みにくいが、物語は嫌いじゃない
だから続きはよ

変にやる気出すなよ?皆さん気を使って言ってるだけだから、勘違いはよくない


【暗躍】


魔族長が帰宅し、邪魔をしてはならんと思い『家』に戻る所だが、面倒だな……


明日は城へ行く。それはいい、問題はシャズネイだ


やはり伏せた方が良いのだろうか?


いや、オレがどれだけ取り繕った所で感づかれるのがオチだろう。


共に行ったとして、もしリナトに何かあれば……


ブラッドリーの言う通り何をしでかすか分からん。


身を捧げる覚悟、それは先程、家を出る前に見て取れた。


………参ったな



「ゼノだな。待っていた」


「誰だ? 此処は獣人の集落ではないぞ」


「貴様に任務を言い渡す」


「……ああ、お前が新しい族長か。噂には聞いていた

 その弛みきった身体、臆病者の瞳、お前には誰も付いて来ないだろう?」


「前族長の飼い犬めが……随分口が回るようになったな。

 要らぬ知恵も付いたようだが?」


「前族長と違い、魔族長は色々と教えてくれた。感謝している」


「ほう……そうか。

 だが貴様は獣人族だ。私に従え、『誇り高き狼』ならな」



「回りくどいのは抜きに、さっさと用件を話したらどうだ?」


「いいだろう。まず、これから三日後、人間が里に攻め込んで来る。

 そしてこれが王の書状、これは写しだがな。見てみろ

 どうだ? その紋様には見覚えがあるだろう? 貴様が殺した調査隊の衣服に縫い付けてあった筈だ」


「偽造では、無さそうだな」


「正真正銘、王の書状だ。これは人間からの宣戦布告

 魔族長の御孫様が無様にやられた所為で民は混乱、其処に追い討ちを掛けるようにその書状が届いた……

 私は戦を避ける為、北の地への移住を提案したが魔族長に反対されてな」


「魔族長を殺せと?」


「まさか、そんな野蛮な真似はさせない。連れて来て欲しい者が居る」


「その者の名は?」



「分かっているだろう? 救世主・リネット様だよ」


「力に目が眩んだか……悪いが断る。お前は


「私を殺すか?」


「ああ、オレの意思で殺す。生かしておくと後々が面倒になる。

 それに、リネット様を護衛するのがオレの任務だ」


「残念だ。そうなれば、ドワーフの娘には死んで貰わなければならないな。

 ん? 確か部下に聞いた所、中々に良い女だと聞いたな……さて、どうしたものか」


「……外道め」


「外道? 人殺しに言われたくはないな。

 良いか? リネットが居れば皆が安全に北の地へ往ける。それが分からんのか?」


「反吐が出る。お前は、前族長以上の屑だ」


「何を言おうが、貴様に拒否権など無い。分かるな?」


「……そうだな。オレには、初めから一つしか無い」

クズss



「その通りだ。分かったのな早く行


「 死ね 」


「あがッ…!?」


「優位に立つと良く喋ると言うが、本当らしい」


「なでだぁッ!? だでっ、こんま真似を…!!」


「今、カティアは救われた」


「ぐ、ぐるってる…ぎさまは、狂って


「あまり言いたくは無いが、随分優秀な暗殺者『だった』らしい」


「だにを言っでる……?」


「まだ事も分からないのか?

 まして戦う事すら出来ないとは……掛ける言葉が見つからないな」


「……!! がふっ…ぞ、うか……あのあのッおん、な、のろ、てやるのろ、てや……る




「………そうか、好きにしろ」

短いですが終了します。次は書きためてから投下しようと思います。

上げちゃったごめんwwwうーん、やはり君のssはつまらない

クズss、その通りだ。>>1は分かってるな自覚あるなら書くなってwwww

おつー

おつ

ラノベ作家でも目指してんの?キモいわ

荒らしてんの一人じゃん。

面白いと思うよ。

自演荒らしとかどんだけ暇人なのかと…
>>1は気にせず面白い作品を書き続けて

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    クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
         (1946~1992 イタリア)
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         (1946~1992 イタリア)
              -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

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       ,|   il,    , :: ,    liiiiiill
       l   iil,    ` '      ,|iiiiiiii|
      /     l、  ー- -,ー   イiiiiiiiiill
      /      iゝ、  ̄  /|iiiiiiiiiiiil
     /      i| `ー- ' " ,liiiiiiiiiiii|


    クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
         (1946~1992 イタリア)
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         (1946~1992 イタリア)
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          , r '"        ヽ,

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    クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
         (1946~1992 イタリア)
              -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

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       ,l   |,r=-;.,_   _,、-=-、|iiiiil
       l  .il .,rェェ、_" :;"ェェ j  |iiiiiil

荒れても仕方ない

確かに読み辛い所もあるけど俺は好きだぞこのSS
>>1、荒らしは気にせずに続けてくれ

更新きたかと思ったらが、何だ荒らしか

         -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

          l             ' ,
         /   三ニ=ー-'`=ニiiiiiiiiiiil
        /  ニ'"       `ヾiiiiiiii|
        /  ニ'           'liiiiii|
       ,l   |,r=-;.,_   _,、-=-、|iiiiil
       l  .il .,rェェ、_" :;"ェェ j  |iiiiiil

       | . i| ,,     :;   ,,  iiiiiiil
       ,|   il,    , :: ,    liiiiiill
       l   iil,    ` '      ,|iiiiiiii|
      /     l、  ー- -,ー   イiiiiiiiiill
      /      iゝ、  ̄  /|iiiiiiiiiiiil
     /      i| `ー- ' " ,liiiiiiiiiiii|


    クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
         (1946~1992 イタリア)
              -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

          l             ' ,
         /   三ニ=ー-'`=ニiiiiiiiiiiil
        /  ニ'"       `ヾiiiiiiii|
        /  ニ'           'liiiiii|
       ,l   |,r=-;.,_   _,、-=-、|iiiiil
       l  .il .,rェェ、_" :;"ェェ j  |iiiiiil

       | . i| ,,     :;   ,,  iiiiiiil
       ,|   il,    , :: ,    liiiiiill
       l   iil,    ` '      ,|iiiiiiii|
      /     l、  ー- -,ー   イiiiiiiiiill
      /      iゝ、  ̄  /|iiiiiiiiiiiil
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         (1946~1992 イタリア)
              -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

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         /   三ニ=ー-'`=ニiiiiiiiiiiil
        /  ニ'"       `ヾiiiiiiii|
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         (1946~1992 イタリア)
              -ー=-‐ 、__
          , r '"        ヽ,

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          , r '"        ヽ,

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    クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
         (1946~1992 イタリア)
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いやこいつが他スレで宣伝してるから荒れた
夏だな

>>1が宣伝したのか?
荒らしが批判を呼ぶために意図的にURLを置いた訳じゃなく

どこのスレで?

>>1が宣伝してた
自分が見たのは咲スレで

ハニー・ポッターのスレでも見かけたな

咲スレ多すぎて全部見てないけど、ここの宣伝してるのはいなかったぞ?
強引な宣伝がどうとかってのはここじゃないし

>>342
正しくは京太郎スレ

見つけた
そいつ別人だぞ
最初の酉と今の酉は違う

見っけた
ID:pD02oBx10
ここの>>320やな

バレバレのマッチポンプ荒らしとかゴミだわー

そうか、酉バレでもしてたのか
すまない

つーか完璧にこの荒らし餓鬼だろ
友達がいないからってこんな事するとかwwww

見返してみたら酉バレしてたね
変なのに絡まれて>>1も可哀想に…

ここに荒らしを誘導する為に荒らしが常駐しているスレに目を付けてここのURLを貼ったか、陰湿陰険な奴だ
で結局、誘導に誰も乗ってこなかったからID変えて自分でAA連投か
惨めだな

というかここのURL貼ってID変えてコテ外して別人のフリして「荒れても仕方ない」とか書き込みしてたけどその後ID変えないままここ荒らして自演バレるとかやってるからね
アホ過ぎるからね

99: ◆B/NHzKmv/c [] ex14.vip2ch.com

2013/08/16(金) 13:09:54.13 ID:pD02oBx10

100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] >>99 なんで貼ったの?

2013/08/16(金) 13:20:20.17 ID:1Clqfpzh0

2013/08/16(金) 13:25:05.77 ID:1Clqfpzh0


328:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 荒れても仕方ない

2013/08/16(金) 13:28:10.86 ID:BjajfuhX0

バレてるとかがどうでもいいからwww荒らすの頑張ったのはオレだけじゃないからね?もう>>1の自演って事でいいじゃんwwwだからさっさと依頼出せクズ

誰が見ても同一人物なんだよなぁ

>>354全て末尾0の時点でねぇ…。

この人の言う通りだと思った。

919 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします sage 2013/08/16(金) 14:16:59.29 ID:yNIY337Wo
>>918
君はまず自分の自演が他人から見てバレバレだってのに気づいた方がいい

>>354
顔真っ赤だけどどうしたの?^^

馬鹿に触ると馬鹿が移るからその辺でやめとけ


【信じて待つ】


ー翌日・早朝ー


「リネットは、まだ寝てるのか?」


「はい。ブラッズ殿に付きっきりだったので、お疲れだったのでしょう。

 貴方も休んだ方が良いですよ。お疲れでしょう?」


「それはシャズネイも同じだろ」


「いえ、この程度で疲れたなどど言ってられません。

 リナト殿の無事を聞き届けるまで、眠るわけにもいきませんから」


「……一緒に行かなくて良かったのか? 心配なんだろ?」


「大丈夫です。ブラッズ殿は、リナト殿が信頼しておられる方ですから」


「そっか……あのさ」


「何でしょう?」


「昨日は『ありがとう』」


「……!! はいっ」



昨夜、里の皆に素性が明らかになり、不審を抱く者も当然の事ながら存在した。


だが、彼女は里に居る。


完全に信用されたわけでは無いにしろ、許されたのだ。


何より彼女が驚いたのは、


『人間』である自分を受け入れてくれる人物も少なからず居たという事


今、目の前に居るドワーフの彼女もその一人


『人間』でありながら、長らく人間としての居場所が無かった彼女には、それが嬉しかった。


人間としての居場所をくれた彼の無事を思いながら、彼女は思う。


彼の理想は、そう遠くないのかも知れない……


時間は掛かれど、決して不可能ではないだろうと


【不眠】


ー翌日・早朝ー


「……なあ」


「何だ? 随分疲れた顔をしているが」


「お前の所為だろうが!!」


「ならば愚かな命令従い、リネット様を攫えば良かったのか?」


「うっせえ!! 眠いんだよ!!」


「五月蝿いのはお前だ。それに眠いのは皆も同じだろう。

 昨夜の件で全種族会議になったのだからな」


「ああそうだな、大変だったな。リネットは寝てたな」


「『深夜』にも拘わらず、会議を開くよう魔族長に申し出たのは、他ならぬお前だろう。

 リネット様に全てを背負わせるのは間違っている、そう言って」


「一々細かい野郎だな。

 つーかよ、何で面倒臭い事ばっかり起きんだよ」



「オレが知るか。それに、本当に面倒なのはこれからだ」


「……そうだな。何も起きない方が可笑しいくらいだしな」


「昨夜も言っていたが、王の首を取り、リナトを据えれば良いのだろう?」


「嫌な言い方しやがって……」


「遠回しに言った所でやる事は同じ。

 人間との戦を避け、里を守る為にはそれしかない……そう言ったのもお前だ。

 この言葉で、皆は一応の落ち着きを取り戻したのだからな」


「多少はな。だがよ、心ん中ではリネットを頼りにしてる」


「そのようだな。しかし、未然に戦を防げれば良いだけだ」



「そうなれば良いんだがな……おっ、見えてきたな」


「ブラッドリー」


「あ?」


「今更だが、その身体で大丈夫か?

 例の男・クレイズが現れ戦闘になれば、隻眼のお前は


「やらなきゃ分かんねえだろ?」


「何か策が在るのか?」


「ある」


「……嘘だろう」




「ああ、嘘だ」



【死刑】


悲鳴を上げ逃げ惑う人々、城下町に溢れかえる魔物。


無惨に引き千切られた死体に集り、肉を食い散らかす。


城壁に囲まれた城下町、出入り口である正面の門以外に逃げ場は無い。


しかし、その門すら閉じられ、今や死を待つのみ。


大多数の人々が門に押し寄せ、懸命に門を叩くものの、びくともしない。


現状から推測するに、魔物は『内側』から現れたとしか言い様が無い。


皆は思う。


何故、どの居住地区より安全であるこの城下町が、魔物に襲撃されているのか……と。


不自然な点はもう一つ


子供は襲われていない、襲われないどころか……


「退けっ!!」


「あぅっ!!」


子供を突き飛ばした男は、


『醜いな。子供を見殺しにしてまで助かりたいか』


「は? ヒぎゃ!!」


「な、なんで魔物ぎッ!!」


『魔物』によって喰い千切られ、


「あっ…お母さんお父さんっ……」


『城に往け。選ばれたのであれば、お前の父と母も其処に居る』


「僕は、食べないの?」


『子供に罪は無い。早く往け』


「?? あ、ありがとう」


子供は、魔物に救われている。


ーーーーーー

ーー


「開けろ!! 此処から出してくれ!!」


「押すんじゃねえ!!」


「アンタが退きなさいよ!!」


「王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!」


その時、門は切り裂かれた。


呆気に取られる人々に、長刀を持った青年は告げる。


「ほら、さっさと逃げろよ。喰われたくねえならな」


その言葉で堰を切ったように、人々は『外へ』逃げ出した。



「……こりゃ『居るな』まだ死にたくねえんなぁ。

 まあ、大見得切って出て来たんだ。仕方ねえ、さて行くか」


ーーーーーー

ーー

「開けろ!! 此処から出してくれ!!」


「押すんじゃねえ!!」


「アンタが退きなさいよ!!」


「王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!」


その時、門は切り裂かれた。


呆気に取られる人々に、長刀を持った青年は告げる。


「ほら、さっさと逃げろよ。喰われたくねえならな」


その言葉で堰を切ったように、人々は『外へ』逃げ出した。



「……こりゃ絶対居るな。まだ死にたくねえけど、

 まあ、大見得切って出て来たんだ。仕方ねえ、行くか」

終了します、ありがとうございました。

見返すと本当に読みにくかったです。気を付けて考えて書いた方が良いと思いました。

乙、ゆっくりでいいから続けて欲しい

まだやってんのかよwwwラノベ気取りのクソssはさっさと依頼出せww

投下します


【声】


ー門・切断前ー


「ゼノ、どうだった?」


「原因は分からんが城下町は魔物で溢れている。

 後、この門が唯一の出入り口らしく人間が押し寄せている」

「お前は里に戻って伝えてくれ。俺はこの門ぶった斬って中に入る」


「城壁上から見たが凄まじい数だ。オレも共に行く」


「いいから戻れ。

 あんま考えたくねえけどよ、里も襲撃されてるかも知れねえ」


「了解した。何か伝言はあるか」



『開けろ!! 此処から出してくれ!!』


『押すんじゃねえ!!』


『アンタが退きなさいよ!!』


『王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!』




「この情けねえ『声』を伝えろ。

 後、金玉付いてんなら女に頼んなって言っとけ」



「なる程、了解した」


【惨状】


「ひでえな……」


ほぼ無人となった城下町に在るのは、無惨に食い散らかされた死体


其処から溢れる血液が石畳を這い、歩みを進める度、靴底に粘り着く。


「(何だ? 何かが、引っ掛かる)」


これだけの人間が殺害されていながら、建ち並ぶ家屋は破壊されていない。


ただ人間を喰らい、暴れ狂うだけならば瓦礫の山になっていただろう。


見境無く襲い掛かかる知性無き化け物、それが『人間だけ』を狙って行動している。


「(そうか……あの時の、森の雰囲気に似てやがるんだ。

  何が起きた? リナトは無事なのか?)」


『やはり来たのか、ブラッズ』


「……いつから話せるようになったんだ? お前、魔物だろうが」



『気にするな。それより、もうリナトは居ないぞ?』


「『死んだ』って言わねえんだな」


『色々複雑なんだ。説明しようか?』


「リナトが何処に居るのか、これから何が起きるのかを簡潔に説明しろ」


『俺は城に居る。これから南側は魔物で溢れる』


「簡潔過ぎて理解出来ねえ」


『まあ、あれだ。北側に往けば助かる』


「ふーん。取り敢えず今から城に行く」


『来てどうする? お前に出来る事は無い』


「知るか。リナトは生きてんだろ? なら行かなきゃなんねえ。

 それに、兄…クレイズも居るんだろ?」



『ああ、俺も城に居る』


「……そうかい、教えてくれてありがとよ」


魔物との会話の中、終始俯いていた顔を上げる…


瞬間、抜刀、魔物の首を刎ねる


ごろりと落ちた首は、見透かすように語り出す。


『どうした? 随分苛ついているが?』


「うっせえ。さっきからリナトの声で喋りやがって……

 今すぐ行くから待ってろ」


『やめた方がいい。辛くなるだけだ』


「城へ行っても辛い。お前の言葉に従って此処から去っても辛い。

 どの道辛いことには変わりねえ。なら、やることは決まってる。

 アンタなら、俺がどっちを選ぶか分かるよな?」



『……あの時、生きろと言った意味が分からないのか?』


「今なら分からんでもない……

 けどな、俺は此処に来た。それが答えだ」


『考え、悩み、決断し、自分の意志で行動する……だったか?』


「そんな大層なもんじゃねえ。

 俺がそうしたい、そうありたいから行動した。そんだけだ」


『成長したな。言葉に重みがある』


「茶化すんじゃねえよ。

 まあ、この身体だ。何処までやれるか分かんねえけど………」


『どうした?』





「一応、死ぬ覚悟はしとけ」




【憤怒】


彼は覚悟を決め、友の下へ向かう


ーー其処から遡ること数時間前ーー


「な、何だ何だ!?」


「こんな朝早くから、何かしら?」


「今日って何かあったっけ?」


鳴り響く鐘の音が民を呼び覚ます


この鐘は、主に城への招集の為に鳴らされる。


ーーーーーー

ーー


「皆、朝早くから済まない。

 つい先日話したばかりだが、私は他四種族に宣戦布告した。

 しかし、残念な事に、人間でありながら他種族と手を組み、国を転覆させようと企む輩が現れたのだ」


城の二階


演説の為に設けられたその場所から、民衆に向けて真実を告げる。


突然の告白に民衆はどよめくが、王は続ける


「案ずることはない、我が国の優秀な兵が既に捕らえた。

 だが、それだけでは『芽』は潰せない……その男には仲間が居るのだ。

 そこで、不本意だが……」


王の言葉が途切れると、民衆の前に特殊な造りをした台が運び込まれ


兵に連れられた一人の青年が其処へ立たされる……


青年が立っているその場所は、死刑台に他ならなかった。



「その男こそ、国の転覆を狙う反逆者・リナトだ。

 もし、その中に仲間が居るなら自首して欲しい。

 兵に手荒な真似はさせたくない。同族で争う……それ程醜いことは無いのだ」


「リナトさん!!」


民衆の中から飛び出した一人の男が叫ぶが、リナトは俯いたまま反応が無い。


男は敢えなく兵に捕らえられ、城へ連行されて往く


「リナトさんッ!! しっかり!!」


「黙れッ!!」


「ぐぁッ……リナトさんッ!!

 私達同志が、必ず、必ず助けますから!!」


兵に顔面を殴られ血を流しながら、懸命に呼び掛ける……


直後、民衆の中から男女問わず、多くの者がリナトを救出すべく飛び出す。



しかし、


「残らず捕らえろ!!」


王の号令


その瞬間、無人かと思われた死刑台の周囲に突如として兵が現れた。


彼らは死刑台の中に身を潜めていたのだ


「くっ…リナトさん!!」


「リナトさん!!」


「放せッ!! こんな、こんなのは間違ってる!!」


「リナトさんは反逆者なんかじゃない!!」


餌に釣られた同志達を捕らえる為に……


ーーーーーー

ーー


「見苦しい物を見せてしまったな……済まない。

 だが国の為、人間の未来の為に必要な事なのだ。

 彼等は、後日処刑する」


一切の反応を示さなかったリナトは、此処で初めて動いた


死刑台に建てられた柱に吊され、身動きは取れないが、王を睨み付け叫ぶ


「ふざけるな!! 何故彼等を処刑する!! 彼等が何をした!!

 主犯は僕だ!! 僕さえ


「私は王。半端な決断をしてはならないのだ……済まないな」


「何が王だ!! 民の声を聞かず……それでは独裁者だ!!」


「そう言って民を惑わし仲間に引き入れ、私を亡き者にしようとしたわけか」



「違う!! 僕は種族関係無く、皆が笑えるように……ただ、それだけを


「黙れ。皆、目を逸らさず、私の決意を見て欲しい。

 そして、今後このような者が現れないと信じている」


『……………………』


民衆は真実を見た。


王は反逆者を捕らえ、その仲間も捕らえた。


全ては人間の為、我々民衆の為に……


それが、民衆の真実。


「ははっ…本当に、本当に救いの無い……その上、戦だと?

 やはり、人間こそ……」


誰にも届かぬ声で、呟く……


誰もが都合の良いモノを信じ、流され、そうやって生きて往く


彼にとって、それこそ絶望。


目の前に広がる民衆、安堵・歓喜の表情、


それ光景が、彼にとっての地獄


「(人間などいなければ……

  人間が居なければ、大戦も起きなかった。理不尽に生み出され、大戦に利用された彼等も……

  何て、何て醜いんだ。人間、人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間?)」


「そうだ……『そんな人間が』居なければ、最初から」


その声は民衆の歓声に掻き消され、彼の中に溶けてゆく。


「私は、人間を導く!! 我々人間が、未来を創るのだ!!」


王は、宣言と共に腕を振り下ろす



「醜い人間はいらない……」




同時、数多の槍が、彼を容赦なく貫いた。


終了します。ありがとうごさいました!!



誰にも届かぬ声で、呟く……


誰もが都合の良いモノを信じ、流され、そうやって生きて往く


彼にとって、それこそ絶望。


目の前に広がる民衆の安堵・歓喜の表情


それ光景が、彼にとっての地獄


「(人間などいなければ……

  人間が居なければ、大戦も起きなかった。理不尽に生み出され、大戦に利用された彼等も……

  何て、何て醜いんだ。人間、人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間?)」


「そうだ……『そんな人間が』居なければ、最初から」


民衆の歓声に掻き消された言葉は、彼の中に溶けてゆく。


「私は、人間を導く!! 我々人間が、未来を創るのだ!!」


王は、宣言と共に腕を振り下ろす





「醜い人間は、いらない……」







同時、数多の槍が、彼を容赦なく貫いた。



今更だけど投下終了宣言は「ここまで」とかにして欲しい…
「終了します」だとSSそのものが完結したかと思ってドキッとするんよ

確かに紛らわしいですね……
今日はここまでです、ありがとうございました!!

台詞が臭い。あと>>1がキモい

なんかよそのスレに宣伝来たんだけど酉違うし>>1無関係?

>>394
それ荒らしがやってるやつ
多分宣伝に来た酉は一番最初の酉
その酉は>>1がミスって書いちゃったから酉を変えたらしいが、それを荒らしに悪用されてる

>>1の自演じゃないの末尾同じだし

>>396
お前もな

>>396
最速のブーメランだな

申し訳無いですが次の更新まで時間が掛かると思います。
後、自分のミスで他の方が書いているssに迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳ありません。

キニスンナ
続きは気長に待ってるよ

投下します


【獲得】


『ーーーーーー!!』


先程より一際大きい歓声


偽りの真実を信じる愚か者、為せぬ理想を追う愚か者。


僕の命は此処で終わるのか?


いや、終わらせてたまるか。


こんな、思考を放棄して偽りの言葉に踊らされるだけの


『要らない人間』が未来を創る?


そんなことが許されるのか? 絶対に、間違ってる


そんな未来、僕には耐えられない。


必要な物以外は、捨てるべきだ


それが出来ないのは、心惑わす物が増え過ぎたから……


着飾る必要も、要らぬ見栄を張る事も、まして偽る必要も無い



綺麗な物は、何もせずとも綺麗なのだから。



美しくあろうとすることは素晴らしいけれど


何かを隠す為の美は、醜い。


健全な肉体と誇り高き魂、それが人間の在るべき姿。


僕には


間違いを正し、理想を実現する力は無かった。


妬みは無い……只、歯痒い


僕に力があれば、同志に辛い思いをさせる事もなかったのだから。


『リナト、用意は出来たか』


……この感覚、ブラッズの記憶を見た時に似ている。


そこに溶けてゆくような、何かが入って来るような



そんな、曖昧な感覚。



『あれだけ見せ付けられて、それでも人間に希望を持つのか。

 狂っているのは、お前の方じゃないのか?』


ー何と言われようと、僕は人間を諦めないー


『そうか。だが、もう時間だ』


ー僕は消えるのかー


『お前次第だ』


ーなら、消えるわけには行かないなー


『……リナト、お前は何故、人間に拘る?』


ー僕が、僕の目指す人間でありたいからだよー


ーそれに、この世界で人間じゃない者なんて居ないー


ー四種族だって、人間なんだー



『…………………』


ーでも悲しいことに、人間である僕等が、人間から一番遠い場所に居るー


ーだからこそ、人間である為に、僕は人間を諦めないー


『それが、お前の答えか』


ー答えなんて、まだ出てないよー


ーその答えを導き出すのは、きっと僕じゃないー


ー貴方が何をやろうとしていること、その答えも、きっとー


ーブラッズが見つけてくれるー


『最期は他力本願か』


ーははっ、確かにそうだね。僕はブラッズに頼ってばかりだー


ーでもー


ー貴方が想い描く未来を、ブラッズが望むとは思えないー


『そうかもな。しかし、他に道は無い』




「『俺は』為すべきを為す」




【新生】


公開処刑後、王の演説も終え


民衆は、期待と興奮を胸に去って行く。


残されたのは、反逆者の遺体


突き刺さった槍は抜かれる事無く、未だそのままの状態にしている。


反逆者の末路を民衆に見せ付けることにより


王は、その力を示したのだ。


ーーーーーー

ーー

「ほら、さっさと来い。

 お前達が尊敬する指導者様、その最期の姿を見せてやる」


兵士のそれは、嘲りと蔑みに満ちている。


手枷をされ、数人の兵士に引き摺られるように死刑台に連れられた同志達


敬愛する彼の、あまりにも悲惨な最期


皆は膝から崩れ落ち、号泣した。



磔にされ、槍で貫かれた姿


瞳は、閉じている。


朗らかな笑顔も、熱く理想を語る姿も、それを実行する背中も


もう、見ることは出来ない。


「ちっぽけなものだな。お前達は信じる人間を間違えた」


「大の大人がこんな小僧に騙されるなんてな、全く情けない」


「まあ、明日にはお前達も同じ場所に逝けるさ。喜べよ」


膝を突く彼等を見下し、笑う。


「お前達は、人間じゃない。こんな所業は人間がすることじゃない!!」


「戦争をする為に、民衆を煽る為に利用したんだろう!!

 リナトさんを、反逆者に仕立て上げて!!」


「私達は、お前達を、王を許さない……」


彼等は泣き腫らした目で、兵士達を睨み付け、呪う。



「へぇ、それは怖い。ならいっそ、この場で処刑してやろうか?

 どうせ明日には死ぬんだ。問題無いだろ?」


「よせ。そんな許可は出ていない」


「冗談だよ、冗談。そろそろ戻るか」


「そうだな。それに、正直此処に長くは居たくない……何だか寒気


彼等の言葉を気にも止めず、軽口を叩き城へ歩みを進める兵士の声を遮り



「俺は、為すべきを為す」



彼は目覚めた。


ーーーーーー

ーー


「これで準備は整った。後は四種族……真の人の世まで、もうすぐだ」


演説を終え、二日後に迫る戦について思案する。


「……一雨来そうだな」


日が陰り、先程まで朝日に照らされていた室内に影が差す


様子を見ようと窓に近付くと、暗雲が覆っていた。


「……これは」


雲間に消えたのは太陽ではなく


城自体が暗雲……黒い煙のようなモノに覆われていたのだ。


その煙は徐々に集束し


「一体、何が起きている……」


一つ、また一つ、黒い塊となり地に落ちる


黒い塊は形を変え、獣の姿を取ると城下町へ走り出す。


覆っていた煙は瞬く間に化け物となり



高い城壁に囲まれた城と城下町は、狩り場へと変貌したのだった。



【嘘吐き】


ー時は戻り、現在ー


城内に居るのは、彼によって選ばれた者達だけ


それ以外は、魔物により処分された。


全てがそうならないのなら、限られた人間だけで未来を創り出せば良い


だから、彼は選んだ。


必要か、そうでないか


「(此処は、もう済んだな)」


王も、唯一の肉親である母も……


特別な苦痛を与えるわけでもなく、他の者と同じように、処分された。



選ばれたのは、彼の同志だけではない


赤ん坊から老人まで、幅広い年代の者達。


親が見つからず泣き喚く子供を宥める老夫婦


足腰の悪い老人に手を差し伸べる女性


置き去りにされていた赤ん坊を抱え、城へ辿り着いた青年


妊婦に毛布を用意する子供達……


現状を把握出来ている者など誰一人として居ない。


本来なら、混乱して当たり前の状況なのだが


皆が他者を気遣い、献身的に行動している。



「(確かにリナトは消えてはいない。自らが人間と認めた者だけを生かしている。

  俺がこの台詞を言うのも可笑しな話しだが……)


「リナトさん、城に居る我々は助かりましたが、他の者は……」


「過ぎたことを考えても仕方無い。今は、出来る事をしよう。

 僕自身、何故生きているのか分からない。

 確かに槍に貫かれて死んだ筈……正直混乱しているよ」


「リナトさん」


「ん? どうしたの?」


「貴方が避難誘導したから、これだけの人間が救われたんです。

 我々は、貴方が何になったとしても信じています」


「……ありがとう。少し、外の空気を吸ってくるよ」


「そんなっ、いけません。城の外へ行くのは非常に危険です」



「大丈夫、屋上へ行くだけだよ。

 心配しなくてもすぐに戻る。その間、此処に居る人達は頼んだよ?」


「ええ、分かりました。此処は任せて下さい」


ーーーーーーー

ーー


「俺が言えたことじゃあないが……リナト、お前は狂ってる。

 自分の母まで手に掛けるとはな」


「自分を慕う弟子の右目を奪い、

 その上、僕の目を躊躇い無く引き摺出した貴方がそれを言うのか。

 しかも、その目と僕の身体を使って……」


「最悪の選択肢の中でも最善を選んだ。今なら分かるだろう」


「……ブラッズは、此処に?」


「ああ、そろそろ来るだろうな」




「お前を、救う為に」




彼の側には誰も居ない。


長い長い廊下に響く声も、やはり一つだけだった。

今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。

何と会話してんだよ

おつー

短いですが投下します。



【お伽話】


ー城・屋上ー


「貴方は『クレイズさん』ですよね」


「まあ、そうだな」


一人の青年が一つの声で会話している


受け答えの度に表情が変化。


童顔で優しげな眼差しから一転、顔に似合わぬ鋭い眼光を放つ


その全ては、内に向けられた物だ。


「貴方に聞きたい事があります」


「聞くも何も分かっているだろう。その問いに意味は無い」



「それでも、貴方の口から聞きたいんです。貴方が何を見たか。

 何より、他者の命を背負える程の力と想いを持った貴方が、何故……」




「身の程を知っただけだ。

 俺に出来る事は、俺が思っているより少なかった。

 自分の理解を超える存在と、その力を目の当たりにして、それに気付いた」


「あの大樹は、一体何の為に?」


「さあな。だが、もし本当に存在するのなら

 天上から俺達を見下ろす、無責任な奴等がした事なんだろう。

 それか、ただ単純に自然に起きた現象、なのかも知れない。

 『人間』という醜い生物を、害を為す生物を根絶する為に」


「貴方が言う『人間』とは、今を生きる全ての者達ですか?」


「そうなるな。

 実際、あれだけのモノが溢れれば、種族など関係ない。

 皆が平等に滅びる。赤ん坊も、老人も、善人だろうが悪人だろうが……

 皆、等しく死ぬ」



「……大災害から数百年。

 その過程であの大樹が生まれ、大樹は希望に自由を与えた。

 大樹から魔が溢れ、次の次の世代で、終わる」


「ああそうだ。そう告げられ、俺はそれを見た。

 大災害以前、魔獣と呼ばれた者、それを討伐する為に造られた者。

 しかし、彼等の最後の敵は、事も在ろうに、彼等が命を賭けて守った人間だった。

 魔者と呼ばれ怖れられた彼等は、生きる為に戦い、戦に勝利し、平和を齎した」


「なら何故


「『想い』が形を為したのかもな。

 何故戦わねばならないのか、本来失われる筈の無い命を奪ってまで、何故そうまでして生きたいのか。

 『あれ』にはそういった類の物が詰まっていた」



「それを彼女は、リネットさんは……」


「気付いていない。出来る事なら、知って欲しくない。

 だから俺は長い時を掛けて、数百年の全て……彼等の嘆き怨み怒りを

 この身…いや、魂に宿した」


「それが、正しい事だと?」


「あまりに規模が大きくてな、そこら辺は麻痺しているんだろう。

 王を操ったことも、お前を犠牲にすることも……

 あの子達が生きる為に必要なら、俺は何だってする」


「守るべき者を傷付けても、ですか」


「………お喋りは、終わりだ」


気配を感じ取り、そう告げて振り返る




「悪い、待たせたな」




彼にとって唯一の友で


彼にとって弟でもある青年が、其処に居た。


今日は此処までです。

待ってくれてた方、読んでいる方、本当にありがとうございます。

投下来てた!乙です

投下します。


【問】


「久し振りだな、ブラッズ」


なる程、なる程な。


そういうことか……


腰にぶら下げた二刀、赤い右目、佇まい、発する言葉の抑揚


何をどうやったかは分からねえが、どうやら間違い無さそうだ。


目の前に居る男は、俺の師で、兄……だった男


単身で北の地へ向かい、以来、姿を消した男。


「クレイズ、何故


「此処に居る、か?」


「ああ、そりゃあ聞きたくなるさ。

 一度は消えた男が、俺の友達の身体で目の前に居るんだからな。
 それに、俺は城に来るまで一匹の魔物としか遭遇してない。

 此処に住む人間達を殺したのが、あの魔物一匹だけなんてのはありえねえ」



「魔物が出現した理由はすぐに教えられる。

 だが、俺が此処に理由は少々長くなる」




「言えよ。まあ、聞いた所で納得出来そうもねえけどな」


何を聞いても結局は、戦わなきゃならねえんだ。


『一方が間違えたなら、もう一方が正してやればいい』だったな。


でも分かんねえ。何でこんな事をする必要がある?


俺の知ってる兄ちゃんは、考え無しに行動するような男じゃなかった。


色々派手にやらかした事もある、それでも、結局上手く行く


ずば抜けた意志の強さ、それを可能にする強靭な肉体と精神


完璧ではないが、クレイズという男は、『一つ』として完成している。


これも爺ちゃんから聞かされたことだけど、今だからこそ分かる。


堅物の爺ちゃんに其処まで言わせる程、この男はあらゆる面で強かった。



だからこそ、この男が何をしようとしているのかを、俺は聞かなきゃならない。



【一人語り】


「お前とリネットを背負い森から出る時、声を聞いた。

 『北の地へ来い、お前は知らなければならない』それだけだったが、妙に耳に残った。

 その声は俺の頭から離れず、思い出す度に胸騒ぎがしたよ」


「……北の地へ行って、何を知ったんだ?」


「ある吸血鬼の葛藤、英雄・ロイの真実、まあ色々だ。

 積み上げてきた歴史、闘争はなくなりはしない。

 四種族を生み出したのは人間。魔獣も、四種族も、元は人間だったのは知っているだろう」


「ああ、小せえ頃に嫌になるほど聞かされた」


「なあブラッズ、人間が消えれば争いは無くなるか?」


「なわけねえだろ」


「なら、四種族が消えれば?」



「ふざけてんのか?」



「いや? 俺は本気だ。

 それ程大きな事態になっている……いや、そうなる筈だった」


「ちょっと待て。何が言いたいのか分かんねえ」


「俺が知ったのは滅びた未来。

 そして、それを止める為に此処に居る」

「こんだけの人間が死んでんのに滅びを止める? 頭悪くなっちまったのか?」


「ラキを知っているか?」


「あのなあ、質問に質問で返すなよ」


「知っているか?」


「……………」



……ったく、何だってんだ?


さっきから訳の分からねえことばかり話しやがって


本当に答える気あんのか?


つーか未来を知っただ? その時点で理解出来ねえ。


「……知らねえ」


「狂った人間により化け物に変えられた少年。英雄の真の名だ」


「で、それがどうしたんだよ。

 此の世に居ない人間が、今起きている出来事に何の関係があるってんだ?」


「怨んでいる」


急に雰囲気が変わりやがった。


何だ? この『ごちゃごちゃ』した感じ……気持ちわりぃな。



「結局、人間として生きられなかった。

 人間として、見て貰えなかった。

 彼も、彼女も、その妹も、友も、誰もが人間として生きたかった」


「……………」


「何の為に戦ったのだろう? 守るべき者など、守るべき必要など……無かったのではないか?

 大戦の最中、魔者と呼ばれ、後に英雄と呼ばれ人間と四種族を牽引した男の葛藤。

 ラキとロイ、彼に中の二つの心。

 ラキとしての心には、人間という種に拭いがたい憎しみがあった。

 大樹の中に在る『それ』に吸い寄せられた数百万…数千万が統合し、形を為した物」



やっぱり駄目だ……俺には到底理解出来そうにねえや。



理解しようとはしてんだけど、吸血鬼だ? 未来だ?


で、後は何だっけ?


ああそうだ、大樹だの英雄の心だの……


最初から分かるように話すつもりなんざなかったのかも知れねえ。


まあ、ただ一つ理解……いや、理屈云々じゃなく『分かる』のは


リナトの身体から揺らめき出る、どす黒い煙みてえなモノが



「……それが、魔物だ」



今まで刈ってきた化け物に姿を変えたって事だけだ。



【解答】


「じゃあ、この町の人間襲った魔物は全部」


「ああ、俺が出した魔物だ」


「クレイズ、アンタは何がしてえんだ?

 滅びを止めるとか言っておきながら……やってることが滅茶苦茶だろうが」


「俺は、皆が向こう側へ渡ったら『全て』を放つ」


「…っ!? そんなもん、北の地でやりゃあいいだろうが!!

 何で、何で兄ちゃんがそんな事になったのかは分かんねえ……

 でも!! わざわざ『こっち側』でやる事ねえだろ!!」


「ブラッズ、それでは意味がないんだ……向こう側に行って貰わないと困る」


「何だよそれ!! 兄ちゃんが何言ってんのか分かんねえよ!!」


「だから退け。お前に出来る事は無い、人間も多少は生き延びるだろう」



「ふざけんな!! リナトはどうなる!?

 リナトの帰りを待つ奴は!? どうすりゃいいんだよ!!」



「……ごめんな、ブラッズ。『俺には』こうするしか無かった」


「何だよ……何だよそれ!!」


あの時と同じだ。


一人で北の地に行った時と、同じ目……


俺には、何も出来なかった。


人を殺した事、リナトの身体でいる事、俺の右目


許せねえ、倒してやると、此処へ来てそう思ってた。


でも結局、俺が出来る事は無い……



戦いすら、成立しないのか。



「さあ、もう往くんだ。お前を待つ者が居るだろう」


「……ッ」


リネット、俺はどうすりゃいい?


畜生…クソ情けねえ、守ると決めた女に頼って、うじうじ考えて……


このまま、何も出来ねえまま終わっちまうのか?


リナトも、助けられないままで?



『ブラッズ、もういいんだ。僕は、もう戻れないから』



「お前、なんで……」


口を開いたのは、



リナトの身体から出てから今まで、一切の動きを見せなかった一匹の魔物だった。




【姿形】


「お前、リナトなのか?」


『うん。僕はクレイズさんと繋がっているから』


「繋がってる?」


『上手く言えないけど、僕は中に居るんだ。

 後、きちんと話しておかなければならないことがある。

 この城下町の人間を殺したのは、誰を生かし殺すか選んだのは、僕だ。

 今も他の僕が、他の町や村に向かってる。

 でも、四種族の里には手を出さない。あんな美しい場所を、君の故郷を汚したくは無いから』



「……何が、あった」




既に起きた事であり、取り返しの付かない事


突然の告白にブラッズの思考は更に鈍り、最早問うことしか出来ない。


和平と平等を説き、その為に尽力すると語った友が何故、と。


リナトは嘘を吐く人間では無いことを知っている。


実直で、強い意志を持った彼が何故そんな凶行に出たのか……



ただ、問う。



『人は醜い。勿論、そうでない人間も居るよ?

 だから僕は選んだ。僕は、僕が人間だと認めた者以外、人間と認めない。

 王も、母も、僕を拷問した男も、同列に、等しく、要らない物だった』



『 だから、殺した 』



「なに、言ってんだよ……お前」


ブラッズは心の底で否定する。


今、リナトの声で語る魔物がリナトである筈が無いと、何度も何度も……


だが、


『何も為さぬまま死にたくはない。

 力が無い所為で、同志達にも辛い思いをさせた……

 ブラッズ、僕は魔物の姿をしていてる。けれど僕は、自分が人間だと言えるよ』


「……そう、か」


彼特有の人を惹き付ける魅力と、力強い意志を内包した言葉が、それを許さなかった。



クレイズが言っていた『辛くなるだけ』とは、この事だったのかも知れない。


此処で終了します。何だか嫌な話しですいません…

更新遅くなりましたが、見てる方、本当にありがとうございます。

むう

書きたいもの書いていきましょ!

>>440 >>441 ありがとうございます。投下します。



【違えて】


『だから、もういいんだ』


「……………」


僕を慕ってくれた同志達を騙し、初めての友達を……


これが裏切りだと言われても、僕は構わない。


人間と人間が争わず平穏に暮らし


四種族と呼ばれる彼等は新しい土地で生きる。


もとは人間なのに、同じなのに、一度は手を取り合ったのに


結局、別たれてしまう。


それでも争いが消える事は無いだろうけれど、




束の間でも平穏に、優しく生きて欲しい。



その為に、僕は切り捨てた。


人を殺めるのは悪だろう


僕に人の生き死にを選ぶ権利などないだろう


それを知りながら、僕は選んだ。


これが僕の生き方だと決めた……もう後戻りは出来ない


ブラッズと分かり合うことも、前のように話すことも出来ないだろう。


たった数ヶ月、本当に本当に短い間だけど、僕等は友達だった。


あの時、森でブラッズと出会わなければ、僕はどうなっていたんだろう?


何だか、酷く懐かしい……


でも、僕はそんな大事な友達を失った。


いや違うな、自分で壊したのだから失ったもなにもない。


人殺しが言う台詞ではないだろうけれど





ブラッズには、生きて欲しい。





あぁ、そうか……


シャズネイにも、もう会えないのか……


彼女には…彼女にも、悪いことをしたな


彼女の心は綺麗だ。


きっと、僕が選んだ誰よりも美しい人間だろう。


出来れば共に、ははっ…今更何を……僕は、壊してばかりだな。


もう、考えるのは止そう。


リネットさんが向こう側に着けば、痩せ衰えた大地も瞬く間に豊饒の地へと変わる。


其処には、ブラッズも居なくては駄目だ。


出来るなら、ずっとあの頃のまま、それなら一番良かったけれど……それは叶わない。


だから、さよならブラッズ


『さあ、もう往くんだ。ブラッズ、今まで……』





『ありがとう』




【紡いで】


何が『ありがとう』だ馬鹿野郎。


なあリナト、俺も決めたよ。


うじうじ考えんのは、もう止めだ。


死ぬとか、生きるとか、殺したとか、未来とか……


そんなもん、知ったことか。


今を生きて笑って、今を悩んで苦しんで、皆、そうして生きて往く


つーかよ、滅びだなんだって言われてもピンと来ねえんだよ。


何が英雄の怨みだ……ふざけんな。



いちいち話しが壮大過ぎて、さっぱり着いて行けねえ。



兄ちゃんが背負ってる物なんて、俺には分かんねえ


リナトの痛みも、俺には分かんねえ


でもな、俺のことも、分かんねえだろ?


そっちにはそっちの、俺には俺の都合があるんだから……


俺は、お前を連れて帰るって、一緒に帰るって言っちまったんだ。


お前が何で『そう』なっちまったのかは分かんねえけどよ


『どうにかしてやる』なんて言っておきながら、俺はお前を救えなかった。


一回破っちまったけど、やっぱ約束は守らねえと駄目だよな?


それによ、兄ちゃんは腹括ってるけど、お前は『まだ』だろう?


姿形が魔物だろうが、そんなもんは目を見りゃあ分かるんだよ。



お前は、馬鹿みてえに分かり易いからな……




だから


「わりぃな。そりゃ無理だ」


『ブラッズ……』


「言った筈だぞ、お前に出来ることは無い」


「なめんじゃねえ……ほら、抜けよ」


一つでも可能性が在るなら


「……仕方無い。意識を断った後、向こう側へ運ばせよう」

「へっ、出来るもんならやってみろ。それとリナト、お前は『中に』戻れ。

 そんで、お前の身体に付いてる『右目』で見てろ」


『……ああ、分かった』


一つでも可能性が在るなら


いや、例え見出した可能性がそのものが……



「どうしたクレイズ? 掛かって来いよ?」




もしそうだとしても、俺は戦う。




【繋がる心】


「やはり防ぐのがやっとか。

 傷が癒えたとは言え、まだ万全ではない。まして隻眼、無理もない」


「手ぇ抜いてると、痛い目見るぞ」


「お前に死んで貰うわけにはいかないからな」


「言ってろ」


早るな、待つんだ。


今防げてんのは、クレイズが防げるように攻めてるからに過ぎねえ。


巧く上下に打ち分けていように見えるが『遅い』


これも、今の速度に俺を慣れさせる為


速度を上げる時が、必ず来る。


その時、その気配を感じろ、それだけに集中しろ。



そして、防ぐのに手一杯な風を装え、悟られず、しっかりと丁寧に……



後は


「っ…らぁッ!!」


「ブラッズ、何故分からない?」


「はッ…はぁっ、何言ってんのか分かんねえのに分かるわけねえだろう……が!!」


当たんなくて良いから反撃すんのを忘れんな。


クソッ…分かってても、やっぱキツいな。朝飯も大して食えなかったし。


ゼノはもう着いたよな?


それとも、もう向こう側に……


取り敢えず里には魔物は向かってねえのは分かったけどよ、人間の町や村はどうなる?


「やはり、そうするのか。ならば、数で分かって貰う他無い」


「一人でなに言ってんだ?」


「気にするな。それよりブラッズ、そろそろ……お終いだ」



「…ッ!?」



来る!! 集中しろ!! 見えねえ所は感じるしかねえ!!


気を失わせる為とは言え


今のクレイズなら脚一本、腕一本くらいなら平気で斬る。


左手が消えた……右腕狙い、じゃねえ。


腕を広げただけだ。これは死角に意識を向ける為の、陽動。


左足が本命、これを、防ぐ。


「……随分、成長したな。迷いも無くなった」



隙が出来た!! 此処しか、ねえ!!



「なッ!?」



まず太刀を手放し、そんで右腕掴んで半回転、背を預ける


後は右肘を俺の腹目掛けて曲げてやりゃあ……串刺しの完成だ。


「ぐッ…ブラッズ……お前、何を」


「いッてえ!! 分かってても、やっぱ、いてぇな」


「馬鹿な事を……こんな事、で…な、ん だ? ブラッ…ズ、お前、なにを」


「ははっ、これが外れてたらどうしようかと思ってたけどよ……『当たり』みてえだな」


「な、に?」


「はっ…はぁっはぁっ……リナト、お前、言ったよな?」


『えっ?』


「『クレイズさんと繋がってる』ってよ。

 けどよ、俺とお前も『目』を通して肉は繋がってる。でもそれじゃあ足りねえ……

 だか、ら。こうすりゃあ、『全部』が繋がるんじゃねえか、と、思ってよ」



『……!!』


「馬…鹿な。止め ろ、ブラッ ズ」


「待っ てろ。今 から、『そっちに』迎え に行く から」


ブラッズは知らない


クレイズが奪った二刀に打ち込められた力を


ましてカティアが何を想い、何を願い槌を振ったかなど知る筈が無い。


酷く原始的な、馬鹿馬鹿しい程単純な方法


そもそもこんな繋がりなど想定して造られた刀では無い。


だが、それでも、そんな方法でも、刀はブラッズの想いを、願いを読み取り……




「今 行くぜ リナトォ!!!」





『三人の魂』を、繋いだのだ。


今日はこの辺で終了します。このお話しも、もう少しで終わると思います。

見てる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。

投下します。



【途切れ途切れ】


何だろう? 遠くで、声が聞こえる。


ブラッズが来て、クレイズさんが怒って、僕は……どうなったんだ?


『大丈夫だって、二人なら何とか抑え込める』


『拙いな、これでは三人共……』


『リナト、お前は行け。こりゃ流石に厳しい』


『ブラッズ……何故、何故来たんだ。お前には、未来』


『兄ちゃんは考え過ぎなんだよ。要は、コイツを』


『お前に背負わせたくは』


『へへっ、もう来ちまったんだ。今更』


『兄ちゃん!! 大丈夫か!?』


『ブラッズ!!』



『リナト、お前に』




駄目だ…巧く聞き取れない、声がぶつぶつ途切れてる。


『さあ、行くぞ』


『最初からこうすりゃあ良いのに、兄ちゃんは格好付けすぎなんだよ』


『そうかもな。準備は良いか? 来るぞ』


『ようやく此処まで来たんだ。生きて帰らねえとな』


得体の知れない何かと戦う二人の姿は、とても頼もしく見えた。


『 行けッ!! 』


ブラッズ、待ってよ。僕は君に謝ってもいない。


駄目だ……声が、出ない


二人の背中が、遠ざかって行く。


悔しい、力無い僕には一体何が出来るって言うんだ?



『 リナト、後は頼むぜ? 』




【顕現】


『あれが、あれが魔者本来の姿なのか!?』


『我々で何とかするしかない!!』


『皆、陣を組め!! 避難を優先するんじゃ!!』


魔族の前に居るのは一人の魔族


人の姿を保ってはいるが、決定的に違う。


前頭部から後頭部に掛けて生えた二本の角


皮膚は黒い甲冑、瞳は紅く輝き、発する気は禍々しく景色を歪める。


全ての魔を、一つの器に無理矢理収めたような……



憤怒と憎悪の化身




『族長!! 奴の側にブラッズ様が!!』


『……儂が往く、お主等は下がれ』


『オレも行きます』


『ゼノ……うむ、分かった。ブラッドリーを救出した後、すぐに離脱する。

 奴は儂が引き付ける、後ろに付け。決して、決して無理するでないぞ。

 お主はまだ若い、生きねばならんのだ』


『はい』


瞳の奥、其処には揺らがぬ決意、一人の若者を案ずる心が見えた。


彼が居るだけで皆は奮い立ち、


彼が居るからこそ、臆すること無く眼前の『魔』と相対する事が出来る。



『では、往くぞ』


また夜に投下するかも知れません。ありがとうございました。

時間軸がさっぱりわからん



【生還】


「……ッドリー!! ブラッドリー!! 目を覚ませ!!」


「ぐッ…ぅ…此処は?」


「ようやく起きたか、此処は里だ。

 何故かは知らないが『奴』は里には手を出さない」


「奴?」


「魔の覚醒者。族長は『ラキ』と呼んでいた」


「それは確か英雄の……何でお前が知ってんだ?」


「族長が教えてくれた」


「そうか。で、そいつは今何処に居る?」


「お前を救出した際は暴れていたんだが、今は動きを止めている。

 皆は、この機に北の地へ移動を始めようとしている」



「リネットは? 後、俺が寝てる間に何があったのか教えてくれないか」



「リネット様は傷付いた魔族と人間達の手当てをしている。

 お前が城に居る間の状況だが、オレが里に戻ると各地に魔物が出没したとの報告を受けた。

 族長は魔族を率いて人間の町や村に向かい、魔物を殲滅しつつ、人間を里へ避難させた。

 その後城へ向かうと、奴が現れた。お前が気を失っていたのはその僅かな間だろう」


「……!! 城に居た人間達はどうなった!?」


「安心しろ、皆無事だ」


「そうか、良かった」


「……ブラッドリー」


「どうした?」


「心して聞いて欲しい。

 お前の祖父・魔族長ファーガス様は、亡くなられた」


「…ッ!! 説明、してくれるか」


「奴の側で気を失っているお前を救出し離脱する際、お前とオレを庇って、息絶えた」


「そん、な……何でこんな…カティア、シャズネイは…」


「シャズネイは眠っている。城で奴の姿を見た時、酷く動揺していた。

 どんな経緯があったのか分からないが、奴の身体はリナトのものらしい。

 正直、その辺の状況は全く把握していない」


「……俺、行かないと」


「何処へ」


「城に行く。奴はいずれ動き出し、里にも魔物を放つだろう。

 向こう側に逃げるとしても、人間も一緒となれば、まず無理だ。

 止まっている今が、アレを倒す唯一の時」


「リネット様はどうする?」


「大丈夫、リネットなら分かってくれる。それと……」


「何だ」


「『僕は大丈夫、必ず帰るから』


 リナトからの伝言だ。シャズネイが起きたらそう伝えて欲しい」


「了解した。会わずに行くのか?」


「ああ、今会っても意味が無いから」


「お前は…いや、いい。二人にはオレから伝えておく」



「……ありがとう」


【偽物】


ゼノさん、ありがとう。


僕が何者なのか察した筈だ……リネットさんも、気付いているだろう。


「彼等は…」


里を見渡すと多くの人間と、魔族が倒れていた。


リネットさんは先程聞いた通り、エルフと共に治療を行っている。


此処へ辿り着くまで、


これだけの人間を助ける為に、一体何人が犠牲になったのだろう?


孫を助ける為に命を差し出した彼の祖父


『ブラッズ』の帰りを待っていたリネットさん


『リナト』を待っていたシャズネイ……



「……行こう。僕は此処に居るべき者じゃない」


視界が狭い、歩く度に身体中が軋む。


こんな状態でブラッズは戦っていたのか?


僕を助ける為に、約束を守る為に…


「ブラッズ、君は僕の想い描く英雄そのものだよ。

 でも、今だけは……」


ラキが動きを止めているのは、二人が内で戦っているからだろう。


『リナト、後は頼むぜ?』


あの時、戦闘が激化する中


ブラッズは、僕をブラッズの身体へ移し、繋がりを断った。


動きが止まっている今なら、『魔』その物に『ラキ』になったのなら



この刀で、斬り裂ける。

以前にも同じ指摘があったので、どうにかしようとは思っているんですが、

浮かんだ場面をすぐに書くのが癖になっているみたいです…もう少し考えて書きます。

書き方とか伝え方とか、何だかぐちゃぐちゃになってしまって申し訳無いです。

長々とすいません。読んでる方、本当にありがとうございます。

乙、毎回楽しみにしてるよ

俺はそういう所が好きなんだけどなぁ…まぁ、人それぞれか

投下します。



【借り物】


里の皆は治療と向こう側へ往く準備で忙しく、


見つからずに里を抜け出すことが出来た。


ゼノさんの言う通り、里の周囲に魔物は居なかったが


もし城への道程で出会したらどうする?


「頼るな、甘えるな」


そうだ、甘えるな。


何を今更、もう僕を守ってくれる者は居ないのだから。


戦うしか無い、あの場所に辿り着くまで、僕は絶対に倒れるわけにはいかない。


先程まで魔物を操り、人間を殺した人でなしが英雄気取りか?


ああ、その通りだよ。


僕は許されぬ罪を犯した。


あれは決意なんかじゃない、放棄しただけだ。




「はぁっ…はぁっ」


それでも、ブラッズは僕を見捨てなかった。


僕と入れ替わり、数多の怨念の渦に身を投じ、今尚戦っている。


間違いを犯し、道を違えたのに、僕に自身の身体を託したんだ……


僕はそれに、それだけには答えなくてはならない。


「……ッ!!」


『グォアアアアアアアッ!!』


僕が操っていた魔物が暴走しているのか?


それとも、あの二人でも抑え切れぬ程に……どちらにせよ、急がないと拙い。



『ガァッ!!』


「腕が伸びるのか。それより、凄い」


反応速度が人間のそれじゃない……


もし、この身体でなかったら頭を割られて死んでいた。


それどころか


『カひッ?』


避けた直後に懐に踏み込み首を斬り落とした。


自分の身体じゃないみたいだ…いや、実際その通りなんだけど


判断はしている、でもそれより一瞬早く身体が動く。


身体に染み付いているのか、ブラッズは凄まじい修練を積んだのだろう。


英雄気取りか、確かにその通りだ。


僕は偽物で、弱くて、人でなしだけど



「今だけは、この姿で居る間だけは……英雄でいなきゃ駄目なんだ」




【英雄と化け物】

「げほっ…はぁ…はぁ…はぁっ」


何体斬った? かなり辛いけど、泣き声を言ってる暇はない。


随分血を浴びたけど、奇跡的に傷は負うことは無かった。


この身体じゃなかったら、何回死んだことだろう……


限界など超えている筈なのに此処まで来れたのも、この身体のお陰だ。


見えた、もう少し、もう少しだ。


「待っててくれ、ブラッズ。今、終わらせる」


徐々に明らかになるラキの姿


あれが自分の身体だとは、到底信じられない。


二本の角に紅い瞳、漆黒に染まった皮膚は鎧のようだ。



背後の風景は陽炎のように揺らめいている。




今更遅いけれど、僕がもう少し強かったら


こうはならなかったのかも知れない。


クレイズさんが笑える未来も、在った筈なんだ。


牢獄で『俺は器として選ばれたのだろう』と言っていたけど


精神を蝕まれ、自分を犠牲にして、化け物を魂に宿し


怨みの対象である『ヒト』を犠牲にすることで、ブラッズ達を救おうとしていたのか。


その未来を壊したのが、ブラッズだ。


本当に、本当に君は凄いよ。


「はっ…はぁっ…やっと、着いた」


今、眼前の『魔』の内側で二人は戦ってる。



大丈夫、準備は出来てる。




『ハァァァ……』


「我ながら醜いな。でも、英雄に倒されるなら本望だ」


この刀を突き立てれば、全てが終わる。


「さよなら、ブラッズ」


リナトは柔らかに微笑み


右手に携えた魔を断ち切る太刀を、胸に突き刺さす


『が…ぐッ…オァァアアアアア!!!』


憎悪と憤怒の化身は、大地を揺るがす咆哮と共に崩れて往く……


「ぐッ…凄まじいな。でも、まだ終わりじゃない」


咆哮の衝撃に押し戻されるが、しがみつき、身体を支える。


そして、もう一方、左手に携えた太刀を突き立てた……



「また会えたら、友達に   」



此処で、彼の意識は途切れた。


この辺りで終了します。
読んでる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。

短いですが投下します。



【受け継いだ物】


彼は液状の黒から練成した二刀を振り翳し、圧倒する。


その二刀、どうやらそれは血液のようだった。


しかし血液と呼ぶにはあまりに黒く、通常有り得ない程の熱を帯びている。


刀が掠った部位は焼け爛れ


彼の血を受け継ぐブラッズでさえ、回復には相当の時間が必要だった。


此処は彼そのものであり、魔の源泉。


数百年前のあの時、魔獣を率いた少女との戦闘


その際、もし彼が人を諦めていたら


彼の中の何かが完全に破綻していたら



或いはこんな姿になっていたのかも知れない。




怒りに染まり、復讐に走り、ヒトという種を憎む心。


彼が内に秘めていた力、その本質。


純然たる人の身で人を超え、遂には魔物をも超えた少年・ラキ。


始まりの魔者、魔族の祖


その力が遺憾なく発揮され躊躇い無く振るわれる。


『内側』で行われているこの戦いは、通常の、単なる肉の削り合いでは無い。


正に、魂を剥き出しにして斬り合っているのだ。


一太刀でもまともに浴びれば、一瞬で存在が消し飛ぶだろう。



これは、魂の闘争。




「何だよあの鎧みてえな身体、卑怯だろ……」


「ブラッズ、お前の攻撃は当たったか?」


「ん……いや、兄ちゃんのしか当たってねえ」


此処へ来て発覚した事が幾つか在る。


当然、此処へ来た当初は武器など無く、二人は無謀にも素手で挑んだ。


しかし現在、


クレイズは長刀を、ブラッズは細身の片手直剣を所持している。


それは、気付けばその手に在った。


何を意味するのか理解出来なかったが、その剣で戦うしかない。



だが、それより不可解な点が一つ


彼はブラッズの攻撃を、躱している。


如何なる攻撃をも通さぬであろう、鎧の如き皮膚を持っているのに、だ。


ブラッズの言う通り、クレイズの攻撃は当たっている。


だがそれは、躱す必要が無いから、なのではないか?


クレイズは其処から一つの仮説を立てる。


彼は、ブラッズの持つ片手直剣を怖れているのではないか?


それを確かめるべく、守備に徹した。


振るわれる二刀を弾き、無防備になった所をブラッズが攻撃する戦法。


すると、クレイズの攻撃を受けるのをお構いなしに、ブラッズの攻撃だけは避けた。


確信、あの片手直剣には彼が怖れる何かが在る。



「ブラッズ、聞いて欲しい事がある」



ーーーーーー

ーー


「本当に、本当にそれしか方法はねえのか?

 リナトが『外側』から壊すまで待った方が良いんじゃねえのか?」


「外側からだけでは『届かない』」


「でも


「ブラッズ」


「……っ」


「それに、本来なら此の世に居るべき者じゃない。分かってくれ」


ああ分かってる。でもさ、やっぱ納得行かねえよ……


こんなんじゃあ、まるで



「ブラッズ、終わりにしよう」



まるで、兄ちゃんは『この時の為に』生きてきたみてえじゃねえか。


この辺で終了します。読んでる方、ありがとうございます。

誰と戦ってんだっけか


【今】


これで倒せるという確証は無い、もし当てが外れれば犬死にだ。

「ブラッズ、行くぞ」


この先を生きる気など毛頭無し、まして生きる資格など無い。


俺の命など、くれてやる。


「ぐッ…」


「兄ちゃん!!!」


「構うなッ!! やれッ!!」


だが、お前も道連れだ。


過去を生きた者が今を縛るなど、あってはならない。


俺もお前も、此処に居るべきじゃあない。



【独り】


兄ちゃんも、英雄の怨みとやらも、消えちまった。


『構うなッ!! やれッ!!』


貫いた感触が、まだこの手に残ってる。


本当にこれしか無かったのか? そもそも何故こんな事になっちまったんだ?


訳の分かんねえ内に始まって、終わった。


「後は、リナトが外側からぶっ壊せば……」


ん? つーか、そうなりゃ俺は死ぬのか…何だか実感ねえな。


後先考えずに此処に来ちまったし、出口なんざ在るわけねえし。


リネット、ごめんな? 流石に、帰れそうにねえや……


『『が…ぐッ…オァァアアアアア!!!』』



「終わったな……リナト、ありがとよ」


乙~

まだ終わりじゃないよね?

投下します



【想う人】


ゼノ「伝言はこれだけだ」


シャズネイ「……必ず帰る、ですか」


布団から身を起こし、ゼノの言葉に耳を傾ける彼女の顔は、


城でリナトの姿を目撃した時とは違っていた。


僅かに憔悴している感はあるが、瞳は前を見据え、迷いや困惑は感じられない。


ただ、彼の言葉を信じる。


例えそれが他者から伝えられたものだとしても、彼女には十分だった。


また会えるのなら、彼がくれた『此の場所』に彼が帰って来ると言うのなら、それを待つ。


ゼノ「シャズネイ、四種族は先程言ったように北の地へ向かう。お前達はどうする」



シャズネイ「残ります。リナト殿の帰る場所は、此処ですから」




ゼノ「そうか。ならば、オレも残る」


シャズネイ「えっ? 何故」


なにが、『ならば』なのか彼女には分からなかった。


感じ入る部分でもあるのだろうか……


世辞にも、情に厚い男では無い。まして自分の為に残ると言ったわけでは無いだろう。


ゼノ「俺も奴を……『ブラッズ』を待つ」


シャズネイ「……!!」



たかだか一週間そこらの付き合いに過ぎないが、彼女は自分が誤っていたと知る。



暗殺者として教育され、何人もの人間を葬った男。


しかし、まだ少年と言っても差し支えない年齢、表情こそ変わらないが心は動いているのだ。


ブラッズやリネット、カティアと触れ合い、少しずつ変化していたのだろう。


その中で、暗殺者の頃には無かった他者を想う心が芽生えても何ら可笑しくは無い。


シャズネイ「ですが、貴方にはリネットさんの護衛が」


ゼノ「それも含めて…だ。里の裏山から北の地へ向かう手筈になっている。

   当然、誰かが残り、里を死守しなければならない」


シャズネイ「それは、やはり魔族の方々が?」


ゼノ「魔族含め戦える者達全て……いや、女子供以外か。

   これは、魔族長が人間を救うと決めた際に下した命令」



シャズネイ「……!! それではまるで『生かす為に死ね』と言っているようなものではないですか!!」



ゼノ「救うとはそう言うことだ。何事も、そうと決めたら最期まで通す……半端は無し」


ゼノ「その場限りの行為など糞の役にも立たん。救うと決めたなら、己の身を賭して守る」


シャズネイ「それは、族長殿が?」


ゼノ「そうだ。皆、死ぬつもりなど無いがな」


シャズネイ「……!? あのっ、リネットさんは何処に? 少し話しがしたいのですが」


ゼノ「そうか、治療も一段落着いたことだろうし、オレが呼んで来る。お前は此処に居ろ」


シャズネイ「ありがとうございます」


襖を開け出て行く背中を見送った後、先程の表情を思い出す。



『皆、死ぬつもりなど無いがな』



そう言った時、彼は笑っていた。楽しいとか、嬉しいとかではなく。




何かに抗うような、不敵で子供らしい、そんな笑顔……




【二人が待つ男】


リネット「もう、大丈夫なの?」


シャズネイ「はい。私は、私がやるべき事を見付けましたから」


リネット「そっか……」


シャズネイ「リネットさんは、本当に行かれるのですか?」


彼女自身、最低な質問だと分かっている。しかし、これだけは聞いておきたかった。


リネットが、同じ『待つ者』として何を想うのかを


リネット「うん、私は行くよ。ブラッズがいつ来ても大丈夫なように、皆が笑えるようにしたいから……」


シャズネイ「貴女は、強いですね」


リネット「ううん、そんなことないよ? 最初は救世主とか言われて、それで守らなきゃって思って……」



シャズネイ「………………」



リネット「だけどね? 自分がどうしたいかって沢山考えた。短い間だけど、沢山沢山考えて決めたんだ」


リネット「カティアも、色々手伝ってくれた……『アタシはリネットの話しを聞いただけだ』って言ったけど、それで決心着いた」


シャズネイ「怖くは、無いのですか?」


リネット「すっごく怖い。早くブラッズに会いたい……でも、ブラッズも頑張ってるから」


弱々しくもあり、力強くもある笑みだった。


戸惑いもあるのだろうが、何よりブラッズの安否が気掛かりなのだろう。


シャズネイ「ゼノ殿に聞きました。ブラッズ殿は一人で向かわれたと……」



リネット「うん、そうみたい。なんで、何も言わずに行っちゃったのかな……なんで………」


此処へ来て初めての涙


愛する男が傷を負いながら魔物が溢れる『外』へ出たと言うだけで、気が気でない。


まして単身で向かうなど……最早、彼女には迷うことすら出来なかった。


深い傷を負い、多量の血を流し倒れる者多数


その中でも、半死半生の者の治療に当たっていたのだから『心配』などしている時では無かった。


『心配』その理由は至極簡単な事……あの時、ブラッズの身体を借りたリナトは、


ゼノと同じく、リネットも自身の正体に気付いているだろうと感じていたが、そうでは無かった。


彼女は『何も知らなかった』



偽物であるが故にどちらにも会えなかった事も、彼が何をしたのかも、勿論知らない。



リネット「シャズネイさんは、どうするの?」


シャズネイ「私は生き残った人々を説得し、此の地に残ります」


リネット「説得って……どうするの? 私達に着いて来るって言う人も居るんだよ?」


シャズネイ「ゼノ殿によると、魔族含め数多くの方々が此の里に残り、魔物の進行を防ぐとのこと」


シャズネイ「ならば残っても問題は無い……とは言い切れませんが、我々人間は自らの足で歩んで行かなければならないと、そう思うのです」


リネット「……………」


シャズネイ「着いて往く者を無理に止めはしませんが、残された同志達は此処に留まり『戦う』でしょう」


シャズネイ「戦争に湧いていた人間が里の方々に救われ、其処に何を想うのか……それを問うだけです」


情けなくはないのか、そこまでして生きたいのか、今こそ己の生き様を決める時なのだ。


それを彼女は『人間』に問うと言う。


都合良く生き残り、強者に取り入り、依存するのか?


死を厭わず救ってくれた里の者達に顔向け出来るのか?



それが皆の求める『生』なのか、と。



リネット「私には何も言えない…けど、それはきっと私達も同じだよ」


シャズネイ「えっ?」


リネット「何でも人間の所為にして、愚かだとか醜いとかばっかり……他にも沢山。私も、その一人」


リネット「乱暴で怖い種族、無ければ奪えば良い。

     ヒトは皆、そんな風だと思ってたけど、治療を通して少しだけ触れ合って……違うんだなって思った」


リネット「勿論今でも怖いけど……何だろうね? うぅん、上手く言えないや」


シャズネイ「……大丈夫です。ちゃんと伝わります」


リネット「そっか……」


シャズネイ「リネットさん、ありがとうございます。貴女と話せて本当に良かった」


リネット「ううん。私も、話せて良かった」


目指す場所は違えど、これから一歩を踏み出そうとする意志は同じ。


リネット「……そろそろ、行かなきゃ」


シャズネイ「………そうですね。私も同志の下へ行きます」



何より女性として、帰りを待つ身として




共有する想いを持つ者同士で言葉を交わせたことが、彼女達に力を与えた。


今日は此処で終了します

乙、次も待ってる

少し投下します



【集い】


カティア「なあリネット、ホントに魔物が来るのか? 男連中は皆残るとか言うし」


その中には、カティアの父も含まれている。


里に魔物が来ると言っても確実では無い。しかし、里が襲われないと言う確証も無い。


普段勝ち気な彼女も、今は憂いと僅かな怒りの表情を見せている。


もし来るなら百・二百ではない魔物の大群が現れる……


それを考えると、年老いた父を置いて往くのは当然の如く辛い。


それは皆も同じ、勿論リネットも辛いだろう。


しかしカティアの場合、物事を誰かに押し付けて自分達は安全な場所へ……と言うのが気に入らないようだった。


リネット「万一の為に残るって言ってたけど、人間の人達は残るから守らなきゃならないって……」



カティア「一緒に来れば良いだろう。その方が手っ取り早い」



リネット「四種族を造った『人間』など居ない。貴方達は、初めからそうだった」


カティア「なんだ急に? 人間の言い訳か?」


露骨に顔を顰め、問う。


それも当然。大戦の最中に造られた事実は、数百年経った今でも風化していないのだ。


カティアに限ったことでなく、今の言葉を聞けば誰もが同じ表情になるだろう。


リネット「違う違う!! 四種族は造られた存在なんかじゃない、みんな人間なんだ……って」


カティア「ああ…なる程。で、それが残る理由になるのか?」


リネット「何か言ってることが難しかったからよく分からなかったけど、『我々が人間として生きる為』とか何とか」


カティア「へぇ…そんな奴も居るのか」



リネット「例のリナトさん。その同志の人達が、そう言ってた」



カティア「リナト、か……結局会うことは無かったけどさ、きっと『二人共』帰って来るよ」


そう言って優しく笑いかけると、リネットの頭にぽんと手を置き、撫でる。


彼女達は『こんな時』無意識に互いを励まし、支える術を持っている。


リネット「……!! うん!! だから私も頑張らないと」


カティア「だからって、あんまり気負うなよ? そういう時は力を抜いた方が上手く行く」


リネット「そうなの?」


カティア「こうしよう、ああしよう。もっともっと……ってなると、大抵ダメになる」


リネット「鍛冶の話し?」


カティア「まあそうだけど、どんな事でも頑張り過ぎは良くない。アイツが帰って来たら言ってやれ」



リネット「うん、そうする。二度と無理しないように、絶対言う」





『『が…ぐッ…オァァアアアアア!!!』』



リネット「……!! 今の、なんだろう?」


カティア「悲鳴に近いな。ブラッズの奴、大元を倒したのか?」


リネット「そう…なのかな……」


相当の距離が在るにも拘わらず里に轟いた咆哮は何を告げるのか…


それは、直後に起こった。



『魔物だ!! 魔物が向かって来た!!!』



リネット「……!? カティア!! 行こう!!」


カティア「…ッ!! 分かった!! 皆は集会所だったよな!?」



リネット「うん!!」



ーーーーーー

ーー

ゼノ「本当に良いのか? 後戻りは出来ないぞ」


シャズネイ「私も同志達も……『皆』覚悟は出来ています」


ゼノ「そうか、作戦も何も無いが、オレ達が殺し損ねた魔物に留めを刺せ。

   それだけでいい、無理に前に出るな。いいな?」


シャズネイ「了解」


『『了解しました!!!』』


彼等はドワーフが造り上げた武器を手に、覚悟を決めた。


魔者、獣人、エルフ、ドワーフ、そして人間


真に生きようとする者、気付いた者、目覚めた者、帰りを待つ者………


異なる種族、異なる意志が、迫り来る魔物を倒す為に、今、一つになる。



そして……



先程まで遠方に見えていた『黒い点』は急激に距離を縮め、遂には其処まで迫っていた。


この辺で終了します。

>>508 訂正します。


ーーーーーー

ーー


ゼノ「本当に良いのか? 魔物が来たら後戻りは出来ないぞ」


シャズネイ「はい。私も同志達も……『皆』覚悟は出来ています」


ゼノ「分かった。作戦も何も無いが、里に侵入する魔物を殲滅する。お前達はオレ達が殺し損ねた魔物に止めを刺せ。

   それだけでいい、無理に前に出る必要は無い。いいな」


シャズネイ「了解」


『『了解しました!!!』』


彼等はドワーフが造り上げた武器を手に、覚悟を決めた。


魔者、獣人、エルフ、ドワーフ、人間


真に生きようとする者、気付いた者、目覚めた者、帰りを待つ者………


異なる種族、異なる意志が、迫り来る魔物を倒す為に、今、一つになる。



そして……




先程まで遠方に見えていた『黒い点』は急激に距離を縮め、遂には其処まで迫っていた。


投下します。



【居場所】


ブラッズ「……ったく、起きて早々これかよ。どうしろってんだ」


外側からの刃により内側も崩壊、一時は死を覚悟したが、そうはならなかった。


今現在、ブラッズの身体の中に居るのは、紛れもなくブラッズ自身。


リナトが『ラキ』に突き刺したのは二刀。一つはブラッズの物、もう一つはカティアが造り上げた物。


先の一刀を以てラキを滅し、後の一刀を以てブラッズに『返した』のだ。


それは成功したのだが、放たれた魔物が消えたわけではない。


ブラッズが目覚めた時、


周囲は既に魔物によって囲まれていたが、彼にとってそんなことは問題では無かった。




ブラッズ「退けッ!! 『俺達』は、帰らなきゃならねえんだ!!!」




それは、リナトの遺体が残っていたからである。


ラキの崩壊と共に崩れ去る筈の身体が負傷もなく、だ。


理屈は分からないが、友の遺体が残っている……


これは死者を弔うとかでなく、


彼の友として、彼を待つ者の為にも、遺体を瓦礫の山に捨て置くなど出来る筈が無かった。


ブラッズ「こんな事態だ。引き摺ってくけど許してくれよ?」


背負って行きたいのは山々だが、魔物がそれを許さない。


文字通り、道を塞がれている。


その数、数千。走り抜ける隙間を見付けることすら困難、圧倒的な数。



まして人一人を背負って抜け出す事など、不可能だろう。




ブラッズ「…ッの野郎ッ!!!」


『ゲゃッ!!』


斬っては走り、囲まれては止まり、また斬る。この繰り返し……


リナトの遺体を守りながら、進んで行く。


襲い来る魔物が狙うのはブラッズだけではなく、リナトをも狙う。


単純、それは『肉』を喰らう為。


ブラッズ「はぁっ…はぁっ……畜生、里の方にも向かってやがる」


道を塞ぐ魔物を斬り、すぐさま走り抜ける。


其処を抜けても、また次の敵。



斬っても斬っても、払っても払っても纏わりつく、魔物の群れ……




ブラッズ「早く……行かねえと」


里はどうなっているのだろうか?


祖父は、愛する女は無事だろうか? 友を待つ女は?


そればかりが頭を過ぎる。


こんな時の為に、守る為に力を求めたと言うのに、守るべき者・リネットの側に居られない自分に腹が立つ。


彼女の笑顔に何度救われただろうか、彼女の心に何度癒されただろうか、


彼女が居るだけで、何度立ち上がれただろうか……


彼女の存在そのものが、彼の心に強い力を与える。


無意識、ぽつりと呟く




ブラッズ「リネットに……リネットに会いてえ」




ブラッズ「死んでられっかよ、なあ?」


穏やかな笑顔を湛えたリナトに、笑いながら問い掛ける。


ブラッズ「会いてえなら、何が何でも生きねえと」


此処で死んでしまっては、友が命を引き換えに身体を返してくれた……


その想い、意味が無くなるのだから。


ブラッズ「はぁっ…はっ…もう一踏ん張りだ。つーかよ、本当に死んでんのか、お前」


眠っているようにしか見えない友に声を掛けるが、勿論応答はない。


しかしブラッズには、何度見ても、今にも目覚めそうな……


そんな風に見えてならなかった。



リナトの帰りを待つ女・シャズネイ



彼女を想うと申し訳ない気持ちになるが、何故か『何とかなりそう』だと感じている。


『眼』を分けたからか、ただの妄想夢想の類かも知れないが、




リナトはまだ終わっていない、目を覚ますのだと、信じている。




ブラッズ「もう直ぐだ。里に着いたら、直ぐに会わせてやる……だから、早く起きろ」


何処を見ても魔物、魔物、魔物……だが、瞳に諦めは無い。


寧ろ、ここぞと瞳は輝きを増し、疲弊の色など一切見せずに刀を振り続ける。



ブラッズ「お前等魔物に、帰る場所はあるか?」



笑う。挑発や嘲笑では無く、純粋に、ただただ、嬉しそうに……


『ガアァッ!!』


その言葉に苛立ったかのように魔物は吼え、ブラッズの腕を切り裂いた。


ブラッズ「ぐッ……ってえな!! このクソ馬鹿野郎が!!!」


『アぎゃッ!!』


ブラッズ「はぁっ…はぁ……俺には、俺達にはあるぜ?」


尚も笑い、告げる。不敵に、誇り高く、笑う。


傷は消えるが痛みは感じる。本来なら、満足に身体を動かす事など出来はしないだろう。


だが動いている、それでも生きている、生きようとしている。


誇りか、気力か、足掻きか、魔者特有の生命力の強さか……


或いは、それだけではないのかも知れない。





ブラッズ「俺の帰る場所……俺達の帰る場所。其処に、帰りを待ってる奴が居るんだ」


これで、このお話しは終わりです。

見てくれた方、レスくれた方、本当にありがとうございました。

こんな風に終わるとは思っていなかったので変なかんじですが、感想や指摘などあればお願いします。

ちょっとした打ち切り感

結構好きなラスト
ガメラ3とか、この手のはかっこいい
完結おめでとうございます

一応あげます。


>>521 ですよね……自分でも少しそう思います。

>>522 あまり良い終わり方ではないと思ってたので不安でしたが、そう言って貰えると凄く嬉しいです。ありがとうございます。


【リネットが北の地へ】とか【残った者達】とか【リナト復活・共闘】とか色々書こうとは思っていたのですが、

それを書いてしまうのは長くなるばかりで何か違うなと思い、こういう終わりになりました。

なので、打ち切りっぽいのかなと思います。

後、青年「ああ、認めるよ」と青年「俺の帰る場所」は、以前書いた「そうだ、俺の名は…」というお話しの過去になります。

見てくれた方、レスくれた方、応援してくれた方、本当に嬉しかったです。

長々とすいません。ありがとうございました。

前に打ち切ったやついつ再開すんだよ

変なのに延々と粘着されたのは気の毒だったけど完走してくれてよかった
また新作を書いて欲しい

少年「それが、僕の名前……」というの書いています。見て貰えると嬉しいです。

完結出来て良かったです、本当にありがとうございました。

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