青年「俺の帰る場所」(526)



魔者と赤国の戦争は、魔者側の勝利で幕を閉じた。


戦後、武器、技術は失われ、全ての者達に新たな時が訪れた。


赤国の研究所によって造られた種族を含めた


人間・魔者・獣人・エルフ・ドワーフ。


これら五つの種族は、悲劇を繰り返さぬ為、


罪から目を逸らさず、互いを知り、共に歩み出した。


しかし七十年後、大陸全土を未曾有の大災害が襲う。


大陸に住む者の半数以上が、大災害によって命を落とした。


生き残った者達の中には、


それは穢れを浄化するべく起こった。


これは神の意思なのだと、そう信じる者も居た。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373401469


こうして……


それまでの諸々が消え去り、本当の意味で、新たな時が動き出したのだ。


大災害によって荒廃した土地で、生きる事を余儀無くされた者達。


彼等は種族関係無く、生きる為、今日を生き残る為、手を取り合った。


だが二十年、四十年……徐々に生活が安定して行き、


少しずつ人口は増え、遂に一つの集落では収まりが付かなくなる。


百数十年が経つ頃、人間と他四種族は居住地域を分けた。


この頃の種族関係は良好、


交易も盛んで、多くの者が互いの地域を行き来していた。



………それから数百年………


人は国を造り、繁栄と発展を目指し、


四種族は自然との共存を望んだ。


すれ違い、道を違え、己が望むまま……


それから長い長い時を経て


犯した罪を忘れ、


先人が築き上げた絆を忘れ、


気高く戦い、人として生きた彼等の意志も忘れ去られた。


そして今、過ちは再び繰り返されようとしていた。



【魔者と魔物】


「あと何匹斬りゃあ良いんだ」


コイツ等は殺しても食えないし、食いたくない。


名は魔物、大災害後に現れた罪の証し。


俺達にとっちゃあ本当に迷惑な奴等。口に出したら区別が付かないからだ。


ご先祖様は人の為に戦って、人として戦って戦争に勝った。


なのに、何で未だに蔑称で呼ばれなきゃなれねえんだよ。


魔人って呼ぶ奴も少しは居る……でも、元は人間だ。


まあ、そこら辺はいい。


周りから見れば確かにヒトじゃねえだろう。瞳は紅く、力も何もかもがヒトのそれじゃない。


でも、それだけだ。それしか違わない。



何が、我々よりも貴方達は優れている、魔物討伐は頼みます……だ。


ふざけんなボケが、それは自分の手を汚したく無いからだろう? 殺したく無いからだろう?


そりゃそうだ。


首を斬られて血を流してる魔物も、腹を斬られて呻き声を上げるこの魔物も結局の所、


生きているんだから。


ヒトは変わらねえ、優位に在る者に取り入って利用する。


身分なんて物が出来れば、上位の者は下位の者を使うだけ。


ジジイに聞いた昔話じゃ、多くの『人間』は魔者に協力したらしい。



「退屈だな……そろそろ髪切るか。結構伸びたし」


それより早く帰って寝たい。


でも最近は魔物殺しばかりで気が高ぶって眠れやしねえ。


帰るか。ん? あれは誰だ?


初めて見る奴だ。ヒトか? 人間か?


此処に魔物が出る事ぐらい知ってる筈。しかも武器も持たずに来やがった。


「……っ、おい!! 逃げろ馬鹿!!」



【恥と希望】


「はぁ…」


ヒトは本当に情けない。


人間には力が無いからと、魔人に魔物を押し付けて、


たかが数百年でヒトの罪が消えたとでも思っているのだろうか?


僕が思っている以上に、ヒトは都合の良い考え方が出来る様だ。


現在、大災害前の歴史は伝説やお伽話の様に扱われている。


まるで過去など存在しなかったかの様に。


人間は時の流れと共に、過去の過ちから目を背けた。


今や人間と四種族の絆など形だけで、交流も少ない。



大陸は大災害で隆起した山脈により、南北に分断されている。


南側に人間を含めた五つの種族が暮らしているのだが、近頃は北側に移住する案も出始ている。


人間は他種族の意思を無視して開拓、発展を目指している。


発展を目指す、それは良いだろう。


でも、四種族に断りもなく開拓を始めるのは無礼にも程がある。


彼等は自然を愛し、自然と共に生きている。


そんな彼等の思いを無視して、自分達の未来だけを考えるだなんて、


同じ人間として恥ずかしい。



現在の王はとてもじゃないが支持できる人物では無い。


人間第一に考える者にとっては良い指導者なのだろう。


だが僕は嫌いだ。


だから変えたい、証明したい。


別段、腕が立つ訳でも何でも無い。それでも、どうにかしたい。


「種族は違っても共に歩めると、彼の英雄は証明した。なのに今はこの有り様……」


いや、諦めるな。祖父も父も、種族は違えど共に歩めると説いてきた。


その為か僕は変わり者扱いされているけど、そんなのは一切気にしない。


一人の人間として、現在を変えたい。



【不注意】


「まずは同志を……あっ」


考え事をしている内に森に着いてしまったようだ。


「……? 誰か、居る」


赤い制服。


大戦の最中、魔の者達が着用していたと言われる物に良く似ている。


随分着崩してはいるけど間違い無い、彼は魔人だ。


この森の魔物は彼が一人刈っているのか? ならば魔人の中でもかなりの強者に違いないだろう。


何やらだらけているけど、あんな長物を振り回したのだから疲れて当然か。


あれは嘗て英雄が使っていた剣。


伝説の鍛冶職人イザークが作り出した『刀』と呼ばれる物。


英雄は二刀所持していたらしいが、彼は一振りだ。



彼が所持しているのは、英雄の妹が使っていたと伝えられている物に似ている。


英雄・ロイの話しは、祖父に沢山聞かされた。


数百年前の話しだ。


勿論、祖父も直に見た訳では無いから、多少の脚色も混じっているだろう。


けれどロイを含め魔の者達と呼ばれた彼等の、


人として生き、人を守る為に生きた物語は、僕の中で生き続けている。


その子孫である魔人の彼も、理由はどうあれ、人間の為にしてくれている筈だ。


此処に来て彼と出会ったのも何かの縁、人間としてきちんと御礼を言わないと


『おい!!  逃げろ馬鹿!!』


彼は振り向き様に叫んだ。


明らかに僕に向けた言葉、正確には僕の背後を見てから発した言葉だった。


瞬時に状況を理解し、僕は身を屈めて前に跳んだ。




「ぅっ…はっ…はぁっ」


鋭い何かが、首もとを掠めた。


冷や汗が止まらない。この独特の重圧、背筋が凍る様な感覚、これは間違い無く、


「「 ググッ…ヴルル 」」


「……魔物」


どの生物にも該当しない異形の獣、怪物。


「「 ハッハッ…グッグルゥ 」」


大口を開け、涎を垂らし、眼はぎらついている。


狂気の獣、人間を喰らう魔の獣。


……ダメだ。


動けない、足が竦む、彼はたった一人でこんな怪物と戦い続けていたのか。



魔物は凶悪な爪を掲げ、振り下ろす


「「……あグッ?」」


「残念だったな。もう少しで喰えたのに」


が、僕の脇を目に追えぬ速度ですり抜けた彼の一振りで首を跳ねられ


何が起きたか理解する間も無く絶命した。


「馬鹿野郎。何で此処に来た? 近付くなって言われてんだろう」


案外若い。歳は僕と同じ位か?


うなじまで伸びた癖の無い黒髪、そして赤い瞳、


端正な顔立ちだが気怠げで、目の下には隈がある。


見るからに不健康そうだ。きちんと食べているのだろうか?


「おい、聞いてんのか? あ?」


「えっ? ああ、ごめん。少し考え事をしてた」


まるでチンピラの様な話し方だ。でも、悪い人では無い。



【名を継ぐ者】


「ブラッドリーよ、お主は最近、頻繁にヒトと会っているそうだな?」


「俺が会ってんのは人間だ。人間と会って何か問題あんのか?」


「いや、儂とて人間は皆愚かな者だとは思っておらんよ。じゃが、次代の英雄と呼ばれるお主には少し考えて貰わねば困る」


「英雄か。そりゃあ俺だって尊敬してる」


「うむ、我々魔の者の中で白髪なのはお主だけ。そして一族の中で最も優れた力を持っている」


「それだけで英雄の名を押し付けられるのは、確かに気持ちの良いものでは無いだろう」


「だからお主は髪を染めた。じゃがな、皆は信じて止まぬのだ。 英雄の再来を」



「よく俺みてえな奴に期待出来るな。まして英雄……なろうと思ってなれるもんじゃねえだろう」


「幾らお主が愚か者を演じようと、分かる者には分かる」


「そう思いたきゃ思ってりゃいい。でも俺はロイじゃない」


「いずれ問われる時が来る……儂もそう長くない。出来るなら、 全ての者が幸せに生きて欲しい」


「じゃが儂は、お主の祖父として、一族の希望などと言う荷を背 負わせたのは、済まないと思っとるよ」


「いいさ、ジジイは良くやっ


「馬鹿者!! お爺ちゃんと呼べ!! 孫に蔑ろにされる爺や婆の気持ちを少しは考えんか!!」


「……悪かったよ、爺ちゃん」


「良し。ならば行くが良い。友が待っておるのだろう?」


「ありがとな、爺ちゃん。じゃあ行ってくる」



「奴が気に入る人間が居るとはな。何れは儂も会うてみたい」


儂等は大戦の遺物、人間の中に嫌う者が居るのは事実。


彼等にとって我々が存在している事自体、犯した罪を突き付けられている様で目障りなんじゃろう。


身勝手極まりない理屈。


魔獣を刈り、平和を齎した我等が祖に武器を向けた赤国。それと何ら変わらんではないか。


だが未来は在る。


新しい世代、新しい時代、新しい絆。


この鬱々とした今を変える者は、必ず現れる。


まだ書き終えてはいませんが、時間かかっても最後まで書きます。ありがとうございました。


ーー「そうだ、オレの名は…」中断

ーー「そうだ、オレの名は…」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358102077/)


吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」

吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367385153/)


青年「ああ、認めるよ……」

 青年「ああ、認めるよ……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368626296/)

と言うのを書きました。一番下は今書いている物の過去の話しです。



赤国ってあったしあれの続編か



【自己紹介】


「なる程、考え事か。あのなぁ、この森には魔物が出るって知ってんだろうが、馬鹿じゃねえのか?」


「それは……ごめん。でも助かったよ。ありがとう」


悪態に反論する事も無く、人懐こそうな童顔の青年は柔和に微笑み右手を差し出した。


その所作に違和感は全く無く、馴れ馴れしさや厭らしさも無い、 純粋なものだった。


「いいのか? 怖い魔者に手を握り潰されちまうぞ?」


と、魔者の青年は脅かすが


「魔人だから…何てのは怖れる理由にはならないし、それを理由にしてはならない。エルフ、ドワーフ、獣人だって姿は違えど人間なんだから」


間を置かずに告げられたその言葉を聞いた彼は、頭をがしがしと掻き、気付けば笑っていた。


「お前、名前は? オレはブラッズだ」


「僕はリナト。よろしく、ブラッズ」


差し出された右手は、握られている。


こうして、種族の違う二人の青年は出会った。



【名を継ぐ者】


「ブラッドリーよ、お主は最近、頻繁にヒトと会っているそうだな?」


「俺が会ってんのは人間だ。人間と会って何か問題あんのか?」


「いや、儂とて人間は皆愚かな者だとは思っておらんよ。じゃが、次代の英雄と呼ばれるお主には、少し考えて貰わねば困る」


「英雄・ロイ。そりゃあ俺だって尊敬してる」


「うむ、我々魔の者の中で白髪なのはお主だけ。そして一族の中で最も優れた力を持っている」


「それだけで英雄の名を押し付けられるのは、確かに気持ちの良いものでは無いだろう」


「だからお主は髪を染めた。じゃがな、皆は信じて止まぬのだ。 英雄の再来を」



「よく俺みてえな奴に期待出来るな。まして英雄……なろうと思ってなれるもんじゃねえだろう」


「幾らお主が愚か者を演じようと、分かる者には分かる」


「そう思いたきゃ思ってりゃいい。でも俺はロイじゃない」


「いずれ問われる時が来る……儂もそう長くない。出来るなら、 全ての者が幸せに生きて欲しい」


「じゃが、儂はお主の祖父として、一族の希望などと言う重荷を背負わせたのは済まないと思っとる」


「いいさ、ジジイは良くやっ


「馬鹿者!! お爺ちゃんと呼べ!! 孫に蔑ろにされる爺や婆の気持ちを少しは考えんか!!」


「悪かったよ、爺ちゃん」


「良し。ならば行くが良い。友が待っておるのだろう?」


「ありがとな、爺ちゃん。じゃあ行ってくる」



「奴が気に入る人間が居るとはな。儂も何れは会うてみたい……」


儂等を含めた四種族は大戦の遺物、人間の中に嫌う者が居るのは事実。


彼等にとって我々が存在している事自体、犯した罪を突き付けられている様で目障りなんじゃろう。


身勝手極まりない理屈。


魔獣を刈り、平和を齎した我等が祖に武器を向けた赤国。それと何ら変わらんではないか。


だが未来は在る。


新しい世代、新しい時代、新しい絆。


この鬱々とした今を変える者は、必ず現れる。



【同い年】


「なんだリネット、また来たのか。アタシ以外に友達いないのか?」

そう言ったのはドワーフの女性。


すらりとした長身で健康的な褐色肌、


背中に届く赤茶の長髪を後ろで結び、袖無しの作業着を着用、手には鉄槌。


男勝りで気の強い感が顔に出ていて、溌剌とした女性だ。


「むっ、カティアだって私以外に友達居ないくせに」


此方は白いローブを着たエルフの女性。


白い肌、肩にかかるさらりとした金髪、背は標準なのだろうが、一部は標準以上に発達している。


可愛らしく人懐っこい顔立ち、男女問わず否応無く庇護欲をそそられるだろう。



「うっ…まあ、そうだな。だがそれより、何人かの女性には友達と言うか、それ以上の感情を持たれている気がするんだが」


どうやら、女性には人気らしい。


「鍛冶してて背が高くて格好いいもん。仕方ないよ」


「男がしっかりしないから、こんな事になるんだ……」


何やらぶつぶつと言っている。時折、友人の一部を見ながら。


「大丈夫だよ!! カティアだってまだ、あれだよ。ほら!! 成長期だから!!」


「もうすぐ二十歳だ……諦めてるよ。何故なんだ? お前も同い年なのに」


その言葉は、ある一点に向けられている。


「し、仕方ないでしょ? それに私はそんなに大きい方じゃ


「なら私はどうなるんだよ!!」



「それはえっと……祈る、とか?」


「お前をか!! お前の胸を拝めばいいのか!?」


「あうっ、ち、ちょっと、そんなに揺、らさ、な、いでよぉ」


肩を掴んで揺さぶれば、それは弾むように揺れた。


「はぁ…アタシだって、少しは女性らしく、可愛らしくありたいのに」


「えぇー、格好いい女の子がいても良いと思うけど」


「……ありがとう。で? 今日は何があったんだ?」



【唯一】


「今日、近所のお婆さんが熱を出して、いつもの感じで治したの。そしたら」


『神様が遣わした天使様じゃあ!!』


「なんて言われて、何だかいずらくなっちゃって」


「巫女に救世主、今度は天使様か。直に見たら、そう思うかも知れないな」


リネットには不思議な力が在る。


傷を治したり、枯れた樹を元に戻したり、まあ色々だ。


拾われた子だと言うこともあって、神の子、何て言われてた。



「気味悪がられるよりは良いんじゃないか? みんな慕っているみたいだし」


「慕われてると言うより、なんか皆の目が怖くて。その、上手く……言えないけど」


アタシは女で鍛冶をやっているから変わり者扱いされて、人付き合いも良い方じゃない。


仲良くなったのは、互いに共通する部分があったからだと思う。


でも、こいつが独りになった理由はアタシとは違う。


今、人間との関係がぎくしゃくしていて、四種族はぴりぴりした感じになっている。


戦の可能性も視野に入れているらしい。


その所為か、こいつは救世主などと崇められる存在になってしまった。



だから、皆がそういう『目』で見る。リネットはそれが怖くて……そして寂しいんだろう。


「大丈夫だ。アタシがいる」


「やっぱり、カティアは格好いいよ。ありがとう」


アタシは、こいつが居ればそれでいい。こうして共に笑って居られればいい、力なんて関係無い。


こんな優しい奴を、誰よりも優しい力を持つ奴を、


何かを奪う為……まして戦になんか利用させてたまるか。


リネットは救世主でも天使でもない、アタシの大事な友達なんだ。



【色々】


「悪い、遅れた。ちょっと爺ちゃんと話しててな」


「いいよ。僕もさっき着いたばかりだし平気」


あれから俺達は、森の入り口付近にある大岩に座りながら話す様になった。


リナトと話すのは楽しい。


人を惹き付ける力みたいなもんがあるんだろう。何度も話す内に、こいつは何かをやり遂げる、そう感じた。


「僕は今を変えたいんだ」


開拓やら何やらで人間と四種族の間はピリピリしてんのに、こんな事を真っ直ぐに言える奴だ。


「やっぱ変わってんな。そんな事続けてたら国に目を付けられて殺されるぞ?」


「戦わなければならないのなら、戦う。事実、種族なんて関係無しに互いを尊重した時代があったんだ……今は、間違ってる」


「……そうか」


そう言や爺ちゃんも前に似たような事言ってたな。


『一方が間違えたなら、もう一方が正してやれば良い。じゃが、二つ共に間違っていたのなら、世界はどうなるんじゃろうな?』


もしそうなら、面倒な事になりそうだ。そもそも英雄が必要とされる事自体が間違ってんだからな。



「でもよ、一人じゃ無理だろう。どうする気だ」


「伝えるんだよ」


「はあぁ…随分気の長い話しだな」


「いや、中々馬鹿には出来ないよ? 確かに最初は無視したり、馬鹿にする人も居たけど、今は僕の考えに共感してくれる人間も居る」


「そりゃあ大したもんだな、俺にゃ無理だ」


「あははっ、いや、そんな事は無いよ。ブラッズ、君は剣術を使えるよね?」


「それだって地道な鍛錬の繰り返し、僕がしている事もそれと変わらない」


地道な鍛錬か。確かに、地道で過酷でつまんねぇ鍛錬だった……何処に逃げても爺ちゃんに捕まったのは覚えてる。


「まっ、頑張れ。それと、何があっても死ぬな」


「ははっ、うん。ありがとう」



リナトに、協力してくれ、なんて言われた事は一度も無い。


『考え、悩み、決断し、自分の意志で行動するんだ』


『大衆の意見に流される者は信用出来ない』


『だから僕は、一人一人と向き合って話すんだ』


リナトは決して楽な方には流れない、糞真面目で言った事は曲げない頑固者だ。


大抵、理想を口に出す奴は何も行動しないが、こいつならやるだろう。


どんな困難に直面しても、必ず。


だから俺みたいな面倒臭がりで、ずぼらな奴と付き合ってるのが不思議だったが……


『僕は同志では無く、友達が欲しかったのかもしれないね』


……友達、か。



【気になる】


……数週間後


「ねえカティア、最近ブラッズ見ないね?」


「なんだ? アイツの爺様に聞いてないのか?」


「え、うん。この前も三人でご飯食べたけど何も聞いてない」


「そうなのか? アタシも知ってるくらいだから、お前も知ってるかと思ってたよ。ブラッズは最近人間と会ってるらしい」


「えっ? 人間って、ヒト…だよね。ヒトは、怖いよ?」


私は、ヒトに乱暴されそうになった事がある。随分前の事だけど、あのヒト達の目は未だに忘れられない。


その時助けてくれたのも人間だった。人間が皆悪いヒトな訳じゃないとは思うけど、怖いのは変わらない。


「……だから言わなかったのかも知れないな。それに、アイツも元々は人間が嫌いだった。何かがあったんだろうな」


「可愛い女の人間を助けた、とか?」



「そうかもな」


まずい、これはまずい。


「ねえ、どうしたらいいかな?」


好きになった理由は些細な事だけど、私は彼が好きだ。


ぶっきらぼうで、だらしないけど本当は優しくて、本当は格好いい。


「私に聞くな、少しは自分で考えろ。試しに誘惑でもしてみたらどうだ? あいつ免疫無いだろう」


誘惑。誘い、惑わすと書いて誘惑。いや、今はそんな事はどうでもいい。


でも一応後で調べてみよう…上手な誘い方、とか?


それより、同い年なのに年下扱い、妹扱いされている私にそんな事が出来るのだろうか?


ううん。出来る出来ないじゃない、やるんだ!!



「妄……想像してみたけど、ダメだった」


「なら諦めるんだな。初恋は実らないらしいぞ?」


「いじわる」


「なあ、リネット」


「……なに?」


「ふてくされた顔をするな。安心しろ、相手は男だ」


私は、いつもからかわれる。こうして狼狽える私の姿を見て笑う彼女の顔は、正に外道。


私には、復讐する権利がある。


「ぺったん


「今日は泊めてやろうかと思ってたが気が変わった。今すぐ帰れ」


「ごめんなさい」



【意外】


「それで、同志はどれくらい集まったんだ?」


「結構集まりはしたんだけど、 でもちょっと……」


「何だよ? なんかあったのか?」


「えっ? いやっ、別に迷惑とか、決してそう言う訳じゃないんだ」


なんだよ急にあたふたしやがって、らしくねえな。


ろくでもない連中でも仲間に…いや、それはありえねえな。


殴られようが何されようが、こいつに限ってそんな奴を仲間にするとは思えない。


少し気になるな……ん?


「「 随分捜したぜ? リナト様 」」


なんだあいつ等? チンピラじゃねえか。


しかも、斧、槍、剣。お話しに来た訳じゃあねえだろうな。



「奴等は? 絶対知り合いじゃあねえだろ」


「最近になって方々から目を付けられ始めたんだ。僕を邪魔に思うヒトの手下か何かだと思う」


なるほど。こいつは弱い、力で来るのは間違ってない。


「貴方達は何故こんな事を?」


「「 ギャハハ!! 金と女と酒の為に決まってんだろうが!! 」」


「「 テメエをやればたんまり貰えるぜ!! 」」


奴等、欲に素直に生きてんなぁ…リナト、これは話しじゃ済みそうにねえぞ?


「「 あだッ!? 痛っ!! な、何だ!? 」」


膝、膝、脛、鎖骨、そりゃあ痛いだろうな……石だし。


投擲が止み、茂みから颯爽と出て来たのは一人。それも女だった。



「あの方を殺すと言うなら容赦はしない。どうだ? まだやるか?」


「「 わ、分かった。もう、いい 」」


隣に魔者が居るの分かってて喧嘩売る馬鹿でも死にたくは無いんだな。


気付いて無かっただけかも知れねえが。


「リナト殿、ご無事ですか?」


それにしても驚いたな。


「ありがとう。でも、着いて来ないでって言った筈だよ?」


「……それは、申し訳有りません」


同志なんて言うから学者みてえな連中ばかりを想像してたんだが、どうやらそうでも無いらしい。


「分かっているだろうけど君が見つかると……その、色々拙い。だから先に戻ってて、僕も直ぐに戻るから」


「はっ!!」

>>19 ありがとうございます。

今日はこの辺で終わります、ありがとうございました。

これって以前途中まで書いてたものだよね?
今回は完結期待してる。頑張って



【2】


「はぁ……カティア、お前は女なんだから槌なんて持たずにお飯事でもしていなさい」


「やだ、アタシはイザークみたいな『かじしょくにん』になる。おままごとよりこっちのが楽しい」


「なら槌を返しておくれ、お前にはまだ振れまい。本気で鍛冶職人になりたいのなら今は見ていろ、槌を振る私の姿から学べ」


「うん、わかった」


息子は生まれなかった。弟子を取ろうかとも考えたが最近の若者は飽きっぽくていかん……


しかし寄りによって娘が鍛冶に興味を持つとは思いもしなかった。嬉しくもあるが複雑なものだ。


未だ女の職人など見たことは無し、何より女が造った剣を使う者など……いや、途中で飽きるに違いない。


いずれは嫁に行き家庭を築く、それが女のあるべき姿。私の代で鍛冶屋は終わるのだ。


何代も続いたが終わりは必ずやってくる、先祖様には申し訳無いが……


それに私も妻も若くない、子をなす事は出来ないだろう。



【4】


「族長、心当たりがある場所を捜しましたが見つかりません。最悪、外に出た可能性も」


「なに!? あの馬鹿者め、どれほど心配と迷惑を掛ければ……クレイズ、此処から近い場所と言えば『森』しかない、頼めるか?」


「ええ勿論。俺の弟子ですから」


「……ブラッドリー、どうか、どうか無事で居てくれ」


「族長、大丈夫です。すぐに見つけ帰って来ます、帰って来たら皆で夕飯を食べましょう」


「クレイズ……うむ、そうじゃな。そうしよう」


「では、行って参ります」


少しばかり厳しくし過ぎだのかも知れんな……


ブラッドリーには親が居ない、故に本来知っている筈の母の優しさ、父の厳しさを知らぬ。


同じ厳しさでも祖父と父では随分と違うのだ。


>>95 ありがとうございます、頑張ります。

短いですが今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。

読んでる方ありがとうございます。次回は早めにします。



【7】


「こいつで十七か……」


彼は魔物の骸を見下ろしながら、森の異様な空気を感じていた。


本来ならこうも簡単に魔物と出会す事は無いのだが、森に入り捜索を開始して僅かな間に十七の魔物と戦闘になった。


単体では無く、二体、三体同時に襲いかかって来る事もあった。


現在この森の魔物を刈っているのは彼……だからこそ不穏な空気をいち早く感じ取る事が出来たのだろう。


「足止めをされているのか? いつになく気味が悪い」


進もうとした先で魔物が現れ、戦闘を避けて捜索を開始しようとするも複数の魔物に囲まれ戦闘に、と言う流れが続いていた。


正に足を止められている状態。


魔物に知性は無い。勿論完全にではない、だが複数で襲い掛かるとか逃げ道を塞ぐ様に誘導すると言った行動はしなかった。


少なくとも、彼がこの森の魔物討伐を任されてから今日までは……

書き方変えたり色々読み辛いかも知れませんが宜しくお願いします。

今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。

見てるよ

頑張れ

>>112 >>113 見てくれてる方がいて本当に良かった…ありがとうございます、最後まで頑張ります。

短いですが、とうかします。



【10】


「本当にいいの?」


「だいじょうぶだって、心配すんな」


二人は四種族の里に向かう為、手を繋ぎ森を歩いていた。


少女はエルフ、ならば当然エルフの集落に少女を知る者が居る筈、


そう考えた少年は稽古から逃げ出した罰を覚悟で帰る事を決意したのだった。


「ねえブラッズ……あの人、だれ?」


少女の指差す先に居たのは遠目に見ても人には違い無かった。


初めは自分を捜しに来た者ではないかとも思ったがそうでは無い、


明らかに挙動がおかしい、何かを踏みつける動作を執拗に繰り返している。


その『何か』を踏みつける度に、果物が潰れるような音が暗がりの森に響いた。



「急ごう。あいつは、なんかへんだ」


「うん……ぁっ!?」


「な、なんだよ、あれ」


視線が、重なった。


すると人影はゆっくりと何かを持ち上げ口に運ぶ……じっと此方を見つめながら。


そしてゆっくりと、『それ』を持ったままゆらゆらと二人に近付いて行く、


一歩、二歩、そして徐々に明らかになる姿を見た途端、少年は少女の手を強く握り叫んだ。


「リネット、にげるぞ!!」


少年は少女の手を引き懸命に走りだす、それと同時に人影も走り出し二人を追った。


「ねえ!! おいかけてきてるよ!!」



人影が鳴らす草の音が、凄まじい速度で追って来ているのを少年に伝える……


このまま逃げても数分と掛からず追い付かれてしまう、


そう悟った少年は迷わず告げた


「おれはアイツとたたかう!! お前はにげろ!!」


「いやだよ!! あんなのに


「うるせえ!! このままじゃ二人ともつかまっちまう!! 早く行け!!」


少年は少女の手を放し迫り来る人影と相対し、少女は……


「やっぱりいやだ!! わたしもいっしょにいる!!」


一度は背を向け走り出したが、そう叫び少年の下に駆け寄った。


「このバカ!! いいか!! おれの後ろにいろよ!! ぜったいぜったいだからな!!」



【11 創造】


それは人でも魔者でもエルフでもドワーフでも獣人でも無い、どれにも属さぬ異形。


皮膚は爛れ身体には蛆が這い、衣服は破れ全裸に近く、所々骨が露出している。


それを見た者が真っ先に想像するのは、


死人……そう、死人が歩いているとしか言いようが無かった。


右手に持っているのは砕けた魔物の頭蓋、


先程の異常行動は頭蓋を踏み砕き中身を啜る為のものだったのだろう。


死人は魔物を喰らっていたのだ。


「おいどうした? こねえのかよ?」


両手を広げての挑発、兄と慕う師の真似事。


挑発が通用するかは分からないが、間合いに入った瞬間木刀で思い切り頭をかち割る、


それが少年の作戦だった。



死人は魔物の頭蓋を捨てがくんと上体を倒し、低い体勢から両腕を突き出し少年に迫る。


「くっ…」


頭の位置は申し分ない


が、突き出された腕が邪魔で打撃を与えるのは非常に困難な状態。


かと言って避けてしまえば、死人はそのまま真っ直ぐに少女へ……


瞬間の閃き、


少年は死人より更に体勢を低くし腕の下に潜り込み、柄頭で顎を思い切り突き上げた。


「はぁ、はぁっ、小せえからってなめんッ!? ガふッ…!!」


死人の首は見事に捻曲がり、地面に突っ伏している、


にも拘わらず突如あらぬ角度から腕が振るわれ、少年の腹部に叩きつけられた。



少年は吹き飛ばされ樹に背を強打、咳と共に血を吐き出し、地面にずるりと崩れ落ちた……


「ブラッズ!!」


少女はすぐさま少年へ駆け寄り呼び掛けるが応答は無い、その間死人は立ち上がり、獲物に近付いて行く。


「こないで!!」


気を失って尚手放さない少年の木刀を手に取り、その切っ先を死人へ向けるが歩みは止まらない。


この時、少女は心から願った。


今この手の中にある木剣が、魔を打ち払い闇を切り裂く、


そんな剣になってくれれば、


そんな都合の良い、夢物語のような奇跡が起きたなら目の前の化け物から少年を救えるのに、と……


「うっ…!! はッ、うぅ……」


……だが、そんな奇跡は起きる筈も無く、少女はいとも簡単に首を締め上げられてしまう。



「ブ………ラ…ズ、……」


何とか名を呼ぶがやはり応答は無い、少女は途端に怖くなった。


目の前の悼しい化け物にでは無い、


身を案じ、手を握り優しく微笑む少年、彼が消えてしまう事を何よりも怖れていた……


その間にも白く細い首は軋み、


持ち上げられた身体の痺れは増し、徐々に意識が遠退いて往く。


朦朧とする中、少女が目にしたのは



「リネットをはなせ、化け物」



光輝く大太刀を翳し、


殺意と狂気に満ちた眼前の化け物、


その忌まわしい両腕を断ち切らんとする雄々しい少年の姿だった。

此処で終了します、ありがとうございました。

なんだこいつら、かわいいな

>>177 ありがとうございます、登場人物の事言って貰えると凄く嬉しいです。

短いですが投下します。



【景色】


初めに見たのは彼の記憶、その断片。


その後は、ブラッズの記憶を見た……


と言うより、『入ってくる』ような感覚。


友が大事にしている想い、


絆を盗み見ているようで、とても申し訳無い気持ちになった。


いや、実際盗み見ているのと変わらない。


『綺麗な所だ……出来れば直に見たいなあ』


しかし、何時の間にか見入っていた。


草花、川、田畑は、日を浴びると輝いて見えた。


何処にでもある景色だけど、


僕が見たどの景色よりも『生きている』感じがする。


僕は場面が移り変わる度に、息を飲んだり、叫んだりした。


リネットさんとの出逢い、魔物との戦い、ブラッズの決意、


その全てが、美しかった。



【整理】


その後、その後は……


そうだ、目を覚ますと、まず痛みが無くなっているのに気付いた。


痛覚がおかしくなったのかと思ったけれど、どうやら違う。


目隠しされていた為、足先を擦り合わせて確認すると、爪が生えていた。


治ったのか? だとしたら、かなりの日数が経過している筈だ。


同志はどうなった? 無事だろうか?


……いや待て、


それ程の日数が経過していたとしたら、何も起きていないのはおかしい。


『その時は、何が何でもどうにかしてやる』


断言出来る、二日も経っていない。


しかし、傷は癒えている。


「………………」


それより、あれは本当にブラッズの記憶なのだろうか?



『僕の見た全て』が本当だとしたら、


王の側近、僕の右目を抉り出した男は、


ブラッズの師・クレイズさん……と言う事になる。


一番最初に見た記憶の断片は、間違い無く彼の物だ。


結局、北の地へは向かったのだろうか?


……あの意思の強さからして、大人しく族長の言葉に従ったとは思えない。


『次世代に背負わせるのは避けたかった』


次世代……これはブラッズ達の事だろう。


ブラッズの記憶を通して見たクレイズと言う人物は、


他者を思いやる心、


そして強靭な肉体と精神を併せ持った素晴らしい人物だった。



一体何が彼を変えたのだろう?


「………っ、やっぱり、在る」


考えないようにしていたが、失った筈の右目が在る。


ああ、分かってる


この右目は、きっと僕のじゃない……


恐らく、彼が所持していた眼球だ。


コレを『入れられる瞬間』クレイズさんの記憶の断片を……


コレを『入れられた直後』ブラッズの記憶を見た。


だとしたら、この右目は……



『目は、覚めたか?』

終了します。見て下さってる方、ありがとうございます。
時系列がばらばらで申し訳ありません。
分かり難い所があれば質問してくれるとありがたいです。

書き忘れました。
拷問の場面で気分を害された方が居たら、申し訳ありませんでした。



【憔悴】


遡る事八日……


帰りが遅いと心配したブラッズの祖父が、獣人族の青年ゼノに迎えを依頼。


ゼノは、狼の姿で帰って来た。


右目を失い、


身体には無数の刀傷、


自身の血に塗れた彼を背負って……


何があったにせよ、自宅に戻る頃には傷は塞がるだろう。


そう思っていたゼノだったが、一向に回復する気配が無い。


危険だと判断し、我が身を狼に変化させ里へ走り、ブラッズの自宅へ直行、


その後、リネットに治癒され傷は塞がったものの、


何故か右目だけは戻らず、昏睡状態が続いた。


エルフの医師を呼んだ所、後少し発見が遅れていたら……との事だった。


そして、後は彼の頑張りに掛かっている、と。


更に、彼が戻る前にも一つの事件が起きていた。


此方は盗難事件なのだが、


その盗品と、ブラッズ襲撃に関連性が浮かび上がった。


盗難されたのは、カティアが造り終えたばかりの二本の刀。


その二刀を以て、ブラッズは襲撃され、敗れたのではないか?


それが、魔族長の推測。


魔族の中で、刀を所持すると言うのは特別な意味を持つ、


嘗ての英雄が扱っていた事もあり、


言わば、選ばれた者のみが所持する事を許されている。



現在所持している者はブラッズと、その祖父である魔族長のみ。


何より、刀傷から推測するに、襲撃者の技量はかなりの物だと言えた。


考え得る中で、


二刀を扱える者、


ブラッズを倒せる力量を持つ者は、たった一人。



『クレイズ』



だが、今や存在しない人物。


しかし、それが元で『呪い』『亡霊』など様々な憶測が飛び交い、一時、恐慌状態に陥った。


それを収めたのは四種族長では無く、


ある意味では、彼の祖父以上に強い絆を持つ、リネットだった。



目が腫れるまで涙を流し、声が枯れ果てるまで彼の名を呼び続け、


一睡もせずに看病し続けた彼女は、


祖父から騒ぎの様子を聞くと、無言のまま立ち上がり、


正常な判断を失い、暴動寸前の民の前に立ち、


この里へ来てから初めて、



『力』を行使した。



水は龍に、土は堅牢な壁に、炎は鳥となり、


枯れた樹木は再生し、天高く聳え立った。


それを見た全ての者が、その圧倒的な力に、『呑まれた』。


彼女は『それ』を確認すると、未だ眠り続ける彼の下へ戻って行った。


人は、心は、脆い。


この時、力を行使した事により、


彼女は依存され、崇拝され、求められる事になる。

終了します、もう少しで回想も終わります。ありがとうございました。



【心配と女性】


ー同日・夜ー


傷だらけのブラッズを家に運び込んだ後、


ゼノは、彼の家の近くに在る空き家を与えられ、有事の際は直ぐに駆け付けられるよう待機している。


現在、その空き家には二人居る。


一人はゼノ。もう一人は、人間の女性


「ゼノ殿、ブラッズ殿はまだ……」


「医師が言うには、奴の身体は既に回復しているそうだ」


「何故意識が戻らないのかが気になりますね」


彼女はシャズネイ。


リナトからブラッズ宛てにと手紙を預かり、里に届けに来たのだが、


それは彼女を里に匿って貰う為に書かれた物だった。



そんな事は聞いていないと憤慨し、すぐさま戻ろうとしたのだが、


エルフの女性に宥められ落ち着きを取り戻し、


リナトが帰って来るまで、恩人であるゼノの家に身を寄せる事になった。


「その事なんだが……奴を見つけた時、僅かに残っていた」


「それは襲撃した人物の?」


「多分な。上手く説明は出来ないが、これだけは言える。

 あれは、生きている者全てに害を為す」


「……それを、見たのですか?」


「いや、見てはいない。

 だが、奴の身体に刻まれた多くの刀傷に、その得体の知れない何かが纏わりついていた」



「ならば、ゼノ殿も『それ』に触れたのですか?」


「オレの身体には何の問題も無い。

 しかし、奴を背負っている間に感じた疲労は普通では無かったな」


「存在、なのでしょうか」


「もしそうなら、人間とも四種族とも違う異質の……いや、魔族長には話してある、オレが考えても答えは出ない。

 それよりシャズネイ、奴の友・リナトは明日だったな」


「ええ、明日帰って来る筈です。何も無ければ、ですが」


「オレなら殺す。お前の話しを聞く限り、人を惹き付ける何かを持っている男だ。

 これ以上厄介な存在になる前に、始末する。何れ害を為すと分かっている者を、生かしておく必要は無い」


「……そう、でしょうね」



「それに、如何に暴力に屈しないとしても限度がある。殺さずとも、『壊す』ことは出来る」


「そうなっていたとしても、あの方が悩み、決断した事です」


彼女自身が一番怖れている事を列挙され、案ずる気持ちが膨らむばかりだったが、


彼自身が決断した事なのだからと、無理矢理に納得させた。


最早願う事しか出来ないが、


無事に帰って来た時は、ビンタの三つでもくれてやろうと心に決めて。


「痛みを伴うのも覚悟の上、と言う事か。

 しかし、ブラッドリーが友と呼ぶ人間。興味があるな」


「ゼノ殿はブラッズ殿をどう思っているのですか?」


「少し前にも同じような事を聞かれたな……まあ、感謝はしている」



表情はぶすっとしているが、顔を背けながら話す所を見ると照れているようだ。


「ふふっ」


「何が可笑しい」


「いえ、珍しく年相応な表情だったもので、つい」


物腰や言動は大人びているが、ゼノはシャズネイより年下で、まだ少年とも言える歳。


本来なら青春真っ只中なのだが、


幼い頃から受けていた『教育』の所為で、友人や恋人などとは縁遠い。


「オレは、お前が羨ましい」


「えっ? 急に何を」


「笑みを自然の内に出せている。オレには、未だ染み付いているらしい」


「すぐに笑えますよ」


「何故そう言える?」



「現に、ゼノ殿は悲しそうです。それはブラッズ殿が心配だからでしょう?

 ならばブラッズ殿が目覚めた時、その時はきっと笑っている筈です」


「笑えるかどうかは別として、心配しているのは事実だ。

 リネット様も憔悴しているからな、早く目覚めて欲しい」


リネットは、ブラッズが担ぎ込まれてからの二・三日、寝ずに看病(汗を拭いたり、着替えさせたりしていた)


祖父が、やつれていく彼女を気に掛け休むように言った為、


二・三時間の仮眠を取るようになったのだが、それで疲れがとれる筈も無い。


「その、失礼ですがリネットさんは一体何者なのですか?」


「お前が手紙を持って来た時、話しただろう」


「はい。自身が憔悴しているにも拘わらず、親身になってくれた事は感謝しています。心優しい方である事も分かりました。

 私が聞きたいのは、あの力の事です。まるで、全てを司っているような……」


「お前がそう思えばそうだろう。あの力は魅力的だったか?」



「いえ、私の理解を超える現象だったもので……答えが欲しかったのかも知れません」


「リネット様は、救世主と呼ばれている。今回の件で、更にそれが強まっただろう。

 本人が望まなくとも、民は望んでいる。それに、事態を収束させる為に使った……のなら、まだ理解出来るんだが」


「ならば何の為に?」


「ブラッドリーが静かに休めないから……だそうだ」


以前より人と触れ合う事が増え、


少しは心の機微が理解出来るようになったと感じていたが、


リネットに力を行使した理由を聞いた時、彼は絶句した。


「なる程」


「分かるのか? そんな理由で力を使うのは、些かやり過ぎかと思うぞ」


「女性として色々話しましたから。

 私がリナト殿の話しをした時、共感する部分が多々あるらしく、

 涙ぐんだり、怒ったり、まるで自分の事のように……なので、少し分かる気がします」



「女性は怖いな」


「『そう』出来ているのかも知れませんよ?」


「………お前もか?」


「もしも、もしもの話しですが、

 リナト殿に何かあれば、そうなるでしょうね」


「ブラッドリーの様子を見てくる。リネット様もろくに寝ていない、また無理をしているかも知れん。

 それに……」


「何です?」


「お前が少し怖い」


「えっ!?」


「すぐに戻る」


「はい、分かりました……あっ」


彼女の右手には、いつの間にか、短刀が握られていた。



「女性は怖いな」


「『そう』出来ているのかも知れませんよ?」


「………お前もか?」


「もしも、もしもの話しですが、

 リナト殿に何かあれば、そうなるでしょうね」


彼女は、改めて何かを決意したように、強く握り締めた。


「……ブラッドリーの様子を見てくる。

 リネット様もろくに寝ていない、また無理をしているかも知れん」


「それに」


「何です?」


「お前が少し怖い」


「えっ!?」


「すぐに戻る」


「あ、はい、分かりました……あっ」


彼女の右手には、いつの間にか、短刀が握られていた。

変更って書いたんですが、何か変なのになりました。

出来るだけじっくり書こうとしてるんですが、時間が進んで無いです、申し訳ないです。

後、前のお話しから続いて見て下さってる方、

最後まで書いてから……と、言っておきながら書き終わるどころか殆ど書き上げていなかったです。

本当にごめんなさい。

今日は終了します。ありがとうございました。

嬉しいです、ありがとうございます。投下します。



【消えた刀と父と娘】


ー同日・夜ー


彼女は悩んでいた。


無二の親友・リネット


その親友が愛する男を瀕死に追いやったのが、自分の造り上げた刀かも知れないのだ。


確定はしていないが可能性は高い。


現在、刀を造っているのは彼女だけなのだから……


「盗まれたのは間抜けとしか言えないな。

 アタシがきちんと保管していれば、こんな事にはならなかったのに」


暗い鍛冶場で一人、完成した刀が在った場所を見つめながら、


そう、呟いた。



「カティア、どうにもならない事を考えても、もっと辛くなるだけだ。

 さあ、家に戻ろう。母さんも心配しているから」


「あ、父さん……でも、アタシの刀でブラッズが


「それは、まだ分からないだろう?

 そんな事より……いや、この言い方はブラッズ君に悪いな、済まない。

 鍛冶職人として聞くが、お前は何を想い槌を振った?」


父は娘の側に座り、優しく手を握り問い掛ける。


「笑わない?」


この里で唯一の女性鍛冶職人となり、


魔族長から直々に依頼を受ける程まで大成したものの、まだ若く繊細。


鍛冶について相談出来る者など父以外に居らず、


他の鍛冶職人には疎まれる事もある。


溌剌としていて男勝りな印象が強いが、女性には違い無いのだ。



「ああ勿論だ。私は、作品に込めた想いを嘲るような真似はしない」


「アタシは、繋ぐ為に造ったんだ」


「何を繋ぐ?」


「想いが繋がって、何て言うか……

 斬るんじゃなくて……ごめん、上手く言えない」


「斬るのに、繋がると?」


「そうじゃないんだ。例えば、

 アタシの刀を持つ奴が誰かを助けたら、助けられた人は、刀は守る為の物だと思う。

 その場限りかも知れないけど、そう思ってくれると信じたい」


「続けておくれ」


まだ考えが纏まらず、上手く言葉に出来ていない。


父は待つ


職人として、弟子である娘がこれから何を告げるのかを……



「うーん、何だろうな。

 そう……斬るだけじゃない。何かを終わらせる為だけに在るんじゃないって、

 そう想いながら、そんな刀があっても良いだろって……」


「カティア、本気で『それ』を込めて槌を振ったのかい?」


考えを否定するようなものでなく、


純粋に、混じり気の無い気持ちで槌を振ったのかを確かめる。


「本気だよ。傷付けるだけなら、切れ味が良いだけの物なら、誰でも造れる。

 でも、アタシはその中に何かが入ってなくちゃ意味が無いと思う。

 例えそれが恨み辛みでも、希望でも……なんでも良いんだ。

 『ただ』造るだけなら、そいつは職人じゃない」


「父さん、どうしたの? 大丈夫?」


自身がどのようにして、


何を想い槌を振り、造り上げたのかをやっと伝える事が出来たのだが、


父は俯き、身を震わせている



「いや、嬉しいんだ。

 昔、お前が鍛冶職人を目指すと言ってくれたね?

 私は、すぐに飽きるだろうと、いずれは普通の女の子と同じように、嫁いで行くのだと思っていた」


辿り着けない場所、


もう助言など出来る立場ではないのかも知れない。


同じ鍛冶職人としての悔しさと、弟子が自身を超えた喜び、


そして何より、娘が真に望んで鍛冶職人になった事を噛み締めながら、


本心を打ち明ける。



「父さんは、その方が良かった?」


男にも負けまいと、無意識の内に職人として振る舞っているが


今この時、


悪戯っぽく微笑み問い掛ける、自然体な彼女の姿を見れば


里の男達はこぞって嫁に欲しがるであろう。


「いや、今の会話でそんな想いは無くなったよ。

 お前のやりたいように、濁り無い物を造りなさい。

 それはきっと、何よりも美しいだろうから」


父は娘を抱き締める。


娘は誰にもやらんと、心に決めて。



「……父さん、ありがとう」



【頼み事】


「もう寝たのか。よほど疲れてたんだろうな」


寝息をたてる彼女を見つめ、さらりとした金色の髪を撫でる。


僅かに頬がこけ、目元には隈が出来ている。


「……稽古場にでも行くか」


起こさぬよう、枕代わりになった左腕をゆっくりと引き抜き、立ち上がる。


一瞬くらりとしたが何とか持ちこたえ、静かに襖を開け稽古場へと向かう。 


廊下を曲がる際、


柱に右肩をぶつけ、想像していた以上に視界が狭まっている事を実感しながら


「随分疲れたな。思ってたより辛い」


稽古場に着く頃には、寝巻きには汗が染み込んでいた。


見えない、それだけで警戒心が強まり、身体に余計な力が入る。




見えないという恐怖。


それに囚われれば、満足に戦う事は難しいだろう。


「最近は竹刀振ってなかったな。うっし、少しやるか」


彼が空腹をどうにかするより、


身体を動かす事を優先させたのには理由が在る。


それは、先程リネットに告げられた『奪われた』という言葉、


もし、自身の積み重ねてきた物も奪われていたら……


そう考えると、空腹など掻き消された。


「……流石に考え過ぎたか」


教えられた剣技の全てが、彼の思うままに繰り出された。



何度も何度も、繰り返し動作を確認し、安堵する。


「此処に居たのか、捜したぞ」


「あ? おお、ゼノか」


「族長はまだ帰って居られないようだし、あまり動き回るな。

 リネット様もカティアも……皆が心配する」


以前からは考えられないゼノの発言に面を喰らったが、ブラッズは嬉しかった。


しかし、世辞にも素直とは言えない性格な為


「なんか、気持ち悪ぃな」


素直に『変わったな』等と言えば良いものを、こんな言い方しか出来ない。


「死にたいのか?」


「ははっ、その方が『らしい』な」


「黙れ。それより襲撃者の正体は分かるのか」


「ああ、俺の兄ちゃんだ。名前はクレイズ」



「その男は『何だ?』 お前は見た筈だ。教えてくれ」


「真っ暗闇が集まって出来たような、そんな感じだったな。

 でも兄ちゃんなんだよ……全く訳が分からねえ」


「(やはり人ではないのか……しかし、相当参っているな。

 兄であり師でもある男が、人ならざる者となり現れたとなれば、仕方無い………のか?

 オレには、何も言えない)」


「……明日はどうする。城には行くのか?」


「ああ、行く。嫌な予感っつうか、まあ、勘だ。

 これは、リネットにも伝えてある」


「そうか……その男・クレイズは城に居ると?」


「いや、そんな感じがするだけだ。俺の目玉を奪ったのも気になるしな」


「右目は、戻りそうに無いのか」


「リネットが言うには、右目っていう存在を奪われたらしい。此処には命が無いんだってよ」


右瞼をつつきながら、淡々と告げる。


右目を奪われた事自体は、あまり気にしてはいないらしい。



「奪う、か……なる程」


「なんか分かんのか?」


「お前を背負った時の疲労、あの時感じたのは正にそうだ。

 精気を吸い取られるような……リネット様の言う通り、奪うという表現が適している」


「ああ……そういや斬られた所から力が抜けてく感じがしたな。

 それよりゼノ、お前に頼みがある」


「何だ」


「明日、共に来い」


「それは頼みではなく、命令だろうが。まあいい、それは良いが何故だ?」


「リナトが無事に出てくるのを確認して、それを赤髪の女・シャズネイに伝えるのがお前の役目だ。

 一度しか見た事は無いが、リナト絡みなら何するか分かんねえ女だ」


「了解した。しかし『それ以外』、お前の勘が当たった場合はどうする?」




「その時は何とかしてみせる……約束だからな」

此処で終了します。ありがとうございました。



【それぞれの】

ー同日・夜ー


里の中核を担う、四種族の族長が一堂に会していた。


その訳は、先日突如として差し出された『書状』


現在、その書状について一つの提案が出され、それが元で衝突が起きている。


衝突しているのは二人。


残る二人の族長は静観している。


「ふざけるな!! 儂は認めんぞ!!」


一人は歴代最長・今尚魔族の長として一族を率いる男。


彼の後任となる者は過去に二人居たが、一人は他界、一人は行方知れず。


その為、継続して族長を務めているが


七十を超えて尚、一族の者からは絶対的な信頼と尊敬を得ている。


「しかし、ご覧になったでしょう?

 あの力があれば、例え北の地が魔物で溢れていようと問題無い」


もう一人は獣人族長。


先代の一件の後に族長になったのだが、


事件の混乱、そのどさくさに紛れて座に着いた人物である。



「それが気に入らんのじゃ!!

 貴様等はたった一人の、それも二十になったばかりの娘に全てを背負わせると言うのか!?」


「とは言っても、今や彼女は民に崇拝される存在。

 我々族長の言葉に従うとは、とてもとても……」


「ぐっ……」


「彼女・リネットは、亡くなられた貴方の娘と同じ名前。

 しかも何れは御孫様の嫁になるやも知れぬのですから、ご心配する気持ちも分かりますがね」


「……貴様、儂を侮辱するか。亡き娘の事まで持ち出すとは思わなんだ。

 余程、命が惜しくないと見える」


「ひっ!? な、なにを…!!」


抜刀したと認識した時、刃は既に首筋に触れていた。


気迫、眼光、殺気


その全てが、七十を越えた老人が出せる物では無い。



強者揃いの魔族。


その一族が、現役を退いた七十過ぎの老人を未だに尊敬しているのには、勿論理由が在る。


それは彼の性格・誠実で、間違いを間違いだと言える事……


そして最大の理由は、


それを正す『力』を持っている事だろう。


「我が身可愛さに、一人の娘の人生を狂わせるのが愚かだと、何故気付かん。

 儂等が生きる事を考えてどうする? 儂等は、死んでも守らねばならん。次に託さねばならんのだ。

 『これから』を生きる者の為にな」


「なっ、ならば他に術があると!? 書状には『一週間後、戦を仕掛ける』とあった!!

 貴方の孫は何者かに襲撃され!! それにより民は混乱!!

 それが元で未だに戦の事を民に伝えられず!! しかも!! あと三日しかない!! どうするつもりだ!!」


「吠えるな!! ともかく、儂等魔族は残る!! 貴様等は好きにするがいい。

 じゃが、リネットは儂が預かる。

 若い女子を先頭に立たせ北の地を目指すなど、断じて認めん!!!」


ーーーーーー

ーー

「起きて早々にこんな話しを聞かせて済まん」


「いいって、今更何言われても驚きゃしない。

 それに獣人族長はともかく、他の二種族は賛成って訳じゃあないんだろ?」


「正直、どう転ぶか分からん。

 戦となれば、魔族だけで食い止める事は可能。じゃが、ちと厳しい」


「取り敢えず、明日は城へ行くよ。

 リナトと合流して現状を伝え、その後同志達も加われば何とか出来るかも知れねえ」


「それは、王の首を取る、と言う事か?」


「双方共に何千何万死ぬのを防ぐには、それしかねえだろうな。

 何より『人間』であるリナト達によって王が倒されれば、納得する奴も出てくる。今の王に何かしらの不満を持つ奴は大勢居る。

 利用する形になっちまうが仕方無い。それに、心から戦を望む奴なんて居る筈がねえ」


「そうじゃな……」


「………爺ちゃん。俺、疲れたからもう寝るよ」



「ああ、ゆっくり休め。婚前に共に寝るのは許せんが、今は仕方無い。

 取り敢えずは、リネットの両親ともそろそろ話しをせねばならんな……」


「気が早ぇし、んな事しねえよ!! ったく……じゃあ、お休み」


「待て、ブラッドリー」


「ん?」


「襲撃者の正体は、分からんのか?」


「さっきも言ったろ?

 目深にローブ被ってたから、誰だか分かんなかったってよ」


「……そうか、そうじゃったな」


「まさか、ボケが来たんじゃねえだろうな?」


「まだボケとらんわ!! さっさと休め」


「呼び止めたのは爺ちゃんだろうが……んじゃ、お休み。

 爺ちゃんも疲れたろ? 早く寝ろよ?」


「……そうじゃな。儂もそろそろ休むとしよう」

短いですが此処で終了します。ありがとうございました。

99: ◆B/NHzKmv/c [] ex14.vip2ch.com

2013/08/16(金) 13:09:54.13 ID:pD02oBx10

100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] >>99 なんで貼ったの?

2013/08/16(金) 13:20:20.17 ID:1Clqfpzh0

2013/08/16(金) 13:25:05.77 ID:1Clqfpzh0


328:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 荒れても仕方ない

2013/08/16(金) 13:28:10.86 ID:BjajfuhX0

バレてるとかがどうでもいいからwww荒らすの頑張ったのはオレだけじゃないからね?もう>>1の自演って事でいいじゃんwwwだからさっさと依頼出せクズ


【信じて待つ】


ー翌日・早朝ー


「リネットは、まだ寝てるのか?」


「はい。ブラッズ殿に付きっきりだったので、お疲れだったのでしょう。

 貴方も休んだ方が良いですよ。お疲れでしょう?」


「それはシャズネイも同じだろ」


「いえ、この程度で疲れたなどど言ってられません。

 リナト殿の無事を聞き届けるまで、眠るわけにもいきませんから」


「……一緒に行かなくて良かったのか? 心配なんだろ?」


「大丈夫です。ブラッズ殿は、リナト殿が信頼しておられる方ですから」


「そっか……あのさ」


「何でしょう?」


「昨日は『ありがとう』」


「……!! はいっ」



昨夜、里の皆に素性が明らかになり、不審を抱く者も当然の事ながら存在した。


だが、彼女は里に居る。


完全に信用されたわけでは無いにしろ、許されたのだ。


何より彼女が驚いたのは、


『人間』である自分を受け入れてくれる人物も少なからず居たという事


今、目の前に居るドワーフの彼女もその一人


『人間』でありながら、長らく人間としての居場所が無かった彼女には、それが嬉しかった。


人間としての居場所をくれた彼の無事を思いながら、彼女は思う。


彼の理想は、そう遠くないのかも知れない……


時間は掛かれど、決して不可能ではないだろうと


【不眠】


ー翌日・早朝ー


「……なあ」


「何だ? 随分疲れた顔をしているが」


「お前の所為だろうが!!」


「ならば愚かな命令従い、リネット様を攫えば良かったのか?」


「うっせえ!! 眠いんだよ!!」


「五月蝿いのはお前だ。それに眠いのは皆も同じだろう。

 昨夜の件で全種族会議になったのだからな」


「ああそうだな、大変だったな。リネットは寝てたな」


「『深夜』にも拘わらず、会議を開くよう魔族長に申し出たのは、他ならぬお前だろう。

 リネット様に全てを背負わせるのは間違っている、そう言って」


「一々細かい野郎だな。

 つーかよ、何で面倒臭い事ばっかり起きんだよ」



「オレが知るか。それに、本当に面倒なのはこれからだ」


「……そうだな。何も起きない方が可笑しいくらいだしな」


「昨夜も言っていたが、王の首を取り、リナトを据えれば良いのだろう?」


「嫌な言い方しやがって……」


「遠回しに言った所でやる事は同じ。

 人間との戦を避け、里を守る為にはそれしかない……そう言ったのもお前だ。

 この言葉で、皆は一応の落ち着きを取り戻したのだからな」


「多少はな。だがよ、心ん中ではリネットを頼りにしてる」


「そのようだな。しかし、未然に戦を防げれば良いだけだ」



「そうなれば良いんだがな……おっ、見えてきたな」


「ブラッドリー」


「あ?」


「今更だが、その身体で大丈夫か?

 例の男・クレイズが現れ戦闘になれば、隻眼のお前は


「やらなきゃ分かんねえだろ?」


「何か策が在るのか?」


「ある」


「……嘘だろう」




「ああ、嘘だ」



【死刑】


悲鳴を上げ逃げ惑う人々、城下町に溢れかえる魔物。


無惨に引き千切られた死体に集り、肉を食い散らかす。


城壁に囲まれた城下町、出入り口である正面の門以外に逃げ場は無い。


しかし、その門すら閉じられ、今や死を待つのみ。


大多数の人々が門に押し寄せ、懸命に門を叩くものの、びくともしない。


現状から推測するに、魔物は『内側』から現れたとしか言い様が無い。


皆は思う。


何故、どの居住地区より安全であるこの城下町が、魔物に襲撃されているのか……と。


不自然な点はもう一つ


子供は襲われていない、襲われないどころか……


「退けっ!!」


「あぅっ!!」


子供を突き飛ばした男は、


『醜いな。子供を見殺しにしてまで助かりたいか』


「は? ヒぎゃ!!」


「な、なんで魔物ぎッ!!」


『魔物』によって喰い千切られ、


「あっ…お母さんお父さんっ……」


『城に往け。選ばれたのであれば、お前の父と母も其処に居る』


「僕は、食べないの?」


『子供に罪は無い。早く往け』


「?? あ、ありがとう」


子供は、魔物に救われている。


ーーーーーー

ーー


「開けろ!! 此処から出してくれ!!」


「押すんじゃねえ!!」


「アンタが退きなさいよ!!」


「王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!」


その時、門は切り裂かれた。


呆気に取られる人々に、長刀を持った青年は告げる。


「ほら、さっさと逃げろよ。喰われたくねえならな」


その言葉で堰を切ったように、人々は『外へ』逃げ出した。



「……こりゃ『居るな』まだ死にたくねえんなぁ。

 まあ、大見得切って出て来たんだ。仕方ねえ、さて行くか」


ーーーーーー

ーー

「開けろ!! 此処から出してくれ!!」


「押すんじゃねえ!!」


「アンタが退きなさいよ!!」


「王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!」


その時、門は切り裂かれた。


呆気に取られる人々に、長刀を持った青年は告げる。


「ほら、さっさと逃げろよ。喰われたくねえならな」


その言葉で堰を切ったように、人々は『外へ』逃げ出した。



「……こりゃ絶対居るな。まだ死にたくねえけど、

 まあ、大見得切って出て来たんだ。仕方ねえ、行くか」

終了します、ありがとうございました。

見返すと本当に読みにくかったです。気を付けて考えて書いた方が良いと思いました。

投下します


【声】


ー門・切断前ー


「ゼノ、どうだった?」


「原因は分からんが城下町は魔物で溢れている。

 後、この門が唯一の出入り口らしく人間が押し寄せている」

「お前は里に戻って伝えてくれ。俺はこの門ぶった斬って中に入る」


「城壁上から見たが凄まじい数だ。オレも共に行く」


「いいから戻れ。

 あんま考えたくねえけどよ、里も襲撃されてるかも知れねえ」


「了解した。何か伝言はあるか」



『開けろ!! 此処から出してくれ!!』


『押すんじゃねえ!!』


『アンタが退きなさいよ!!』


『王は、兵は何してんだ!! 早く助けろ!!』




「この情けねえ『声』を伝えろ。

 後、金玉付いてんなら女に頼んなって言っとけ」



「なる程、了解した」


【惨状】


「ひでえな……」


ほぼ無人となった城下町に在るのは、無惨に食い散らかされた死体


其処から溢れる血液が石畳を這い、歩みを進める度、靴底に粘り着く。


「(何だ? 何かが、引っ掛かる)」


これだけの人間が殺害されていながら、建ち並ぶ家屋は破壊されていない。


ただ人間を喰らい、暴れ狂うだけならば瓦礫の山になっていただろう。


見境無く襲い掛かかる知性無き化け物、それが『人間だけ』を狙って行動している。


「(そうか……あの時の、森の雰囲気に似てやがるんだ。

  何が起きた? リナトは無事なのか?)」


『やはり来たのか、ブラッズ』


「……いつから話せるようになったんだ? お前、魔物だろうが」



『気にするな。それより、もうリナトは居ないぞ?』


「『死んだ』って言わねえんだな」


『色々複雑なんだ。説明しようか?』


「リナトが何処に居るのか、これから何が起きるのかを簡潔に説明しろ」


『俺は城に居る。これから南側は魔物で溢れる』


「簡潔過ぎて理解出来ねえ」


『まあ、あれだ。北側に往けば助かる』


「ふーん。取り敢えず今から城に行く」


『来てどうする? お前に出来る事は無い』


「知るか。リナトは生きてんだろ? なら行かなきゃなんねえ。

 それに、兄…クレイズも居るんだろ?」



『ああ、俺も城に居る』


「……そうかい、教えてくれてありがとよ」


魔物との会話の中、終始俯いていた顔を上げる…


瞬間、抜刀、魔物の首を刎ねる


ごろりと落ちた首は、見透かすように語り出す。


『どうした? 随分苛ついているが?』


「うっせえ。さっきからリナトの声で喋りやがって……

 今すぐ行くから待ってろ」


『やめた方がいい。辛くなるだけだ』


「城へ行っても辛い。お前の言葉に従って此処から去っても辛い。

 どの道辛いことには変わりねえ。なら、やることは決まってる。

 アンタなら、俺がどっちを選ぶか分かるよな?」



『……あの時、生きろと言った意味が分からないのか?』


「今なら分からんでもない……

 けどな、俺は此処に来た。それが答えだ」


『考え、悩み、決断し、自分の意志で行動する……だったか?』


「そんな大層なもんじゃねえ。

 俺がそうしたい、そうありたいから行動した。そんだけだ」


『成長したな。言葉に重みがある』


「茶化すんじゃねえよ。

 まあ、この身体だ。何処までやれるか分かんねえけど………」


『どうした?』





「一応、死ぬ覚悟はしとけ」




【憤怒】


彼は覚悟を決め、友の下へ向かう


ーー其処から遡ること数時間前ーー


「な、何だ何だ!?」


「こんな朝早くから、何かしら?」


「今日って何かあったっけ?」


鳴り響く鐘の音が民を呼び覚ます


この鐘は、主に城への招集の為に鳴らされる。


ーーーーーー

ーー


「皆、朝早くから済まない。

 つい先日話したばかりだが、私は他四種族に宣戦布告した。

 しかし、残念な事に、人間でありながら他種族と手を組み、国を転覆させようと企む輩が現れたのだ」


城の二階


演説の為に設けられたその場所から、民衆に向けて真実を告げる。


突然の告白に民衆はどよめくが、王は続ける


「案ずることはない、我が国の優秀な兵が既に捕らえた。

 だが、それだけでは『芽』は潰せない……その男には仲間が居るのだ。

 そこで、不本意だが……」


王の言葉が途切れると、民衆の前に特殊な造りをした台が運び込まれ


兵に連れられた一人の青年が其処へ立たされる……


青年が立っているその場所は、死刑台に他ならなかった。



「その男こそ、国の転覆を狙う反逆者・リナトだ。

 もし、その中に仲間が居るなら自首して欲しい。

 兵に手荒な真似はさせたくない。同族で争う……それ程醜いことは無いのだ」


「リナトさん!!」


民衆の中から飛び出した一人の男が叫ぶが、リナトは俯いたまま反応が無い。


男は敢えなく兵に捕らえられ、城へ連行されて往く


「リナトさんッ!! しっかり!!」


「黙れッ!!」


「ぐぁッ……リナトさんッ!!

 私達同志が、必ず、必ず助けますから!!」


兵に顔面を殴られ血を流しながら、懸命に呼び掛ける……


直後、民衆の中から男女問わず、多くの者がリナトを救出すべく飛び出す。



しかし、


「残らず捕らえろ!!」


王の号令


その瞬間、無人かと思われた死刑台の周囲に突如として兵が現れた。


彼らは死刑台の中に身を潜めていたのだ


「くっ…リナトさん!!」


「リナトさん!!」


「放せッ!! こんな、こんなのは間違ってる!!」


「リナトさんは反逆者なんかじゃない!!」


餌に釣られた同志達を捕らえる為に……


ーーーーーー

ーー


「見苦しい物を見せてしまったな……済まない。

 だが国の為、人間の未来の為に必要な事なのだ。

 彼等は、後日処刑する」


一切の反応を示さなかったリナトは、此処で初めて動いた


死刑台に建てられた柱に吊され、身動きは取れないが、王を睨み付け叫ぶ


「ふざけるな!! 何故彼等を処刑する!! 彼等が何をした!!

 主犯は僕だ!! 僕さえ


「私は王。半端な決断をしてはならないのだ……済まないな」


「何が王だ!! 民の声を聞かず……それでは独裁者だ!!」


「そう言って民を惑わし仲間に引き入れ、私を亡き者にしようとしたわけか」



「違う!! 僕は種族関係無く、皆が笑えるように……ただ、それだけを


「黙れ。皆、目を逸らさず、私の決意を見て欲しい。

 そして、今後このような者が現れないと信じている」


『……………………』


民衆は真実を見た。


王は反逆者を捕らえ、その仲間も捕らえた。


全ては人間の為、我々民衆の為に……


それが、民衆の真実。


「ははっ…本当に、本当に救いの無い……その上、戦だと?

 やはり、人間こそ……」


誰にも届かぬ声で、呟く……


誰もが都合の良いモノを信じ、流され、そうやって生きて往く


彼にとって、それこそ絶望。


目の前に広がる民衆、安堵・歓喜の表情、


それ光景が、彼にとっての地獄


「(人間などいなければ……

  人間が居なければ、大戦も起きなかった。理不尽に生み出され、大戦に利用された彼等も……

  何て、何て醜いんだ。人間、人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間?)」


「そうだ……『そんな人間が』居なければ、最初から」


その声は民衆の歓声に掻き消され、彼の中に溶けてゆく。


「私は、人間を導く!! 我々人間が、未来を創るのだ!!」


王は、宣言と共に腕を振り下ろす



「醜い人間はいらない……」




同時、数多の槍が、彼を容赦なく貫いた。


終了します。ありがとうごさいました!!



誰にも届かぬ声で、呟く……


誰もが都合の良いモノを信じ、流され、そうやって生きて往く


彼にとって、それこそ絶望。


目の前に広がる民衆の安堵・歓喜の表情


それ光景が、彼にとっての地獄


「(人間などいなければ……

  人間が居なければ、大戦も起きなかった。理不尽に生み出され、大戦に利用された彼等も……

  何て、何て醜いんだ。人間、人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間人間?)」


「そうだ……『そんな人間が』居なければ、最初から」


民衆の歓声に掻き消された言葉は、彼の中に溶けてゆく。


「私は、人間を導く!! 我々人間が、未来を創るのだ!!」


王は、宣言と共に腕を振り下ろす





「醜い人間は、いらない……」







同時、数多の槍が、彼を容赦なく貫いた。


確かに紛らわしいですね……
今日はここまでです、ありがとうございました!!

短いですが投下します。



【お伽話】


ー城・屋上ー


「貴方は『クレイズさん』ですよね」


「まあ、そうだな」


一人の青年が一つの声で会話している


受け答えの度に表情が変化。


童顔で優しげな眼差しから一転、顔に似合わぬ鋭い眼光を放つ


その全ては、内に向けられた物だ。


「貴方に聞きたい事があります」


「聞くも何も分かっているだろう。その問いに意味は無い」



「それでも、貴方の口から聞きたいんです。貴方が何を見たか。

 何より、他者の命を背負える程の力と想いを持った貴方が、何故……」




「身の程を知っただけだ。

 俺に出来る事は、俺が思っているより少なかった。

 自分の理解を超える存在と、その力を目の当たりにして、それに気付いた」


「あの大樹は、一体何の為に?」


「さあな。だが、もし本当に存在するのなら

 天上から俺達を見下ろす、無責任な奴等がした事なんだろう。

 それか、ただ単純に自然に起きた現象、なのかも知れない。

 『人間』という醜い生物を、害を為す生物を根絶する為に」


「貴方が言う『人間』とは、今を生きる全ての者達ですか?」


「そうなるな。

 実際、あれだけのモノが溢れれば、種族など関係ない。

 皆が平等に滅びる。赤ん坊も、老人も、善人だろうが悪人だろうが……

 皆、等しく死ぬ」



「……大災害から数百年。

 その過程であの大樹が生まれ、大樹は希望に自由を与えた。

 大樹から魔が溢れ、次の次の世代で、終わる」


「ああそうだ。そう告げられ、俺はそれを見た。

 大災害以前、魔獣と呼ばれた者、それを討伐する為に造られた者。

 しかし、彼等の最後の敵は、事も在ろうに、彼等が命を賭けて守った人間だった。

 魔者と呼ばれ怖れられた彼等は、生きる為に戦い、戦に勝利し、平和を齎した」


「なら何故


「『想い』が形を為したのかもな。

 何故戦わねばならないのか、本来失われる筈の無い命を奪ってまで、何故そうまでして生きたいのか。

 『あれ』にはそういった類の物が詰まっていた」



「それを彼女は、リネットさんは……」


「気付いていない。出来る事なら、知って欲しくない。

 だから俺は長い時を掛けて、数百年の全て……彼等の嘆き怨み怒りを

 この身…いや、魂に宿した」


「それが、正しい事だと?」


「あまりに規模が大きくてな、そこら辺は麻痺しているんだろう。

 王を操ったことも、お前を犠牲にすることも……

 あの子達が生きる為に必要なら、俺は何だってする」


「守るべき者を傷付けても、ですか」


「………お喋りは、終わりだ」


気配を感じ取り、そう告げて振り返る




「悪い、待たせたな」




彼にとって唯一の友で


彼にとって弟でもある青年が、其処に居た。


今日は此処までです。

待ってくれてた方、読んでいる方、本当にありがとうございます。



「いや? 俺は本気だ。

 それ程大きな事態になっている……いや、そうなる筈だった」


「ちょっと待て。何が言いたいのか分かんねえ」


「俺が知ったのは滅びた未来。

 そして、それを止める為に此処に居る」

「こんだけの人間が死んでんのに滅びを止める? 頭悪くなっちまったのか?」


「ラキを知っているか?」


「あのなあ、質問に質問で返すなよ」


「知っているか?」


「……………」



……ったく、何だってんだ?


さっきから訳の分からねえことばかり話しやがって


本当に答える気あんのか?


つーか未来を知っただ? その時点で理解出来ねえ。


「……知らねえ」


「狂った人間により化け物に変えられた少年。英雄の真の名だ」


「で、それがどうしたんだよ。

 此の世に居ない人間が、今起きている出来事に何の関係があるってんだ?」


「怨んでいる」


急に雰囲気が変わりやがった。


何だ? この『ごちゃごちゃ』した感じ……気持ちわりぃな。



「結局、人間として生きられなかった。

 人間として、見て貰えなかった。

 彼も、彼女も、その妹も、友も、誰もが人間として生きたかった」


「……………」


「何の為に戦ったのだろう? 守るべき者など、守るべき必要など……無かったのではないか?

 大戦の最中、魔者と呼ばれ、後に英雄と呼ばれ人間と四種族を牽引した男の葛藤。

 ラキとロイ、彼に中の二つの心。

 ラキとしての心には、人間という種に拭いがたい憎しみがあった。

 大樹の中に在る『それ』に吸い寄せられた数百万…数千万が統合し、形を為した物」



やっぱり駄目だ……俺には到底理解出来そうにねえや。



理解しようとはしてんだけど、吸血鬼だ? 未来だ?


で、後は何だっけ?


ああそうだ、大樹だの英雄の心だの……


最初から分かるように話すつもりなんざなかったのかも知れねえ。


まあ、ただ一つ理解……いや、理屈云々じゃなく『分かる』のは


リナトの身体から揺らめき出る、どす黒い煙みてえなモノが



「……それが、魔物だ」



今まで刈ってきた化け物に姿を変えたって事だけだ。



【解答】


「じゃあ、この町の人間襲った魔物は全部」


「ああ、俺が出した魔物だ」


「クレイズ、アンタは何がしてえんだ?

 滅びを止めるとか言っておきながら……やってることが滅茶苦茶だろうが」


「俺は、皆が向こう側へ渡ったら『全て』を放つ」


「…っ!? そんなもん、北の地でやりゃあいいだろうが!!

 何で、何で兄ちゃんがそんな事になったのかは分かんねえ……

 でも!! わざわざ『こっち側』でやる事ねえだろ!!」


「ブラッズ、それでは意味がないんだ……向こう側に行って貰わないと困る」


「何だよそれ!! 兄ちゃんが何言ってんのか分かんねえよ!!」


「だから退け。お前に出来る事は無い、人間も多少は生き延びるだろう」



「ふざけんな!! リナトはどうなる!?

 リナトの帰りを待つ奴は!? どうすりゃいいんだよ!!」



「……ごめんな、ブラッズ。『俺には』こうするしか無かった」


「何だよ……何だよそれ!!」


あの時と同じだ。


一人で北の地に行った時と、同じ目……


俺には、何も出来なかった。


人を殺した事、リナトの身体でいる事、俺の右目


許せねえ、倒してやると、此処へ来てそう思ってた。


でも結局、俺が出来る事は無い……



戦いすら、成立しないのか。



「さあ、もう往くんだ。お前を待つ者が居るだろう」


「……ッ」


リネット、俺はどうすりゃいい?


畜生…クソ情けねえ、守ると決めた女に頼って、うじうじ考えて……


このまま、何も出来ねえまま終わっちまうのか?


リナトも、助けられないままで?



『ブラッズ、もういいんだ。僕は、もう戻れないから』



「お前、なんで……」


口を開いたのは、



リナトの身体から出てから今まで、一切の動きを見せなかった一匹の魔物だった。




【姿形】


「お前、リナトなのか?」


『うん。僕はクレイズさんと繋がっているから』


「繋がってる?」


『上手く言えないけど、僕は中に居るんだ。

 後、きちんと話しておかなければならないことがある。

 この城下町の人間を殺したのは、誰を生かし殺すか選んだのは、僕だ。

 今も他の僕が、他の町や村に向かってる。

 でも、四種族の里には手を出さない。あんな美しい場所を、君の故郷を汚したくは無いから』



「……何が、あった」




既に起きた事であり、取り返しの付かない事


突然の告白にブラッズの思考は更に鈍り、最早問うことしか出来ない。


和平と平等を説き、その為に尽力すると語った友が何故、と。


リナトは嘘を吐く人間では無いことを知っている。


実直で、強い意志を持った彼が何故そんな凶行に出たのか……



ただ、問う。



『人は醜い。勿論、そうでない人間も居るよ?

 だから僕は選んだ。僕は、僕が人間だと認めた者以外、人間と認めない。

 王も、母も、僕を拷問した男も、同列に、等しく、要らない物だった』



『 だから、殺した 』



「なに、言ってんだよ……お前」


ブラッズは心の底で否定する。


今、リナトの声で語る魔物がリナトである筈が無いと、何度も何度も……


だが、


『何も為さぬまま死にたくはない。

 力が無い所為で、同志達にも辛い思いをさせた……

 ブラッズ、僕は魔物の姿をしていてる。けれど僕は、自分が人間だと言えるよ』


「……そう、か」


彼特有の人を惹き付ける魅力と、力強い意志を内包した言葉が、それを許さなかった。



クレイズが言っていた『辛くなるだけ』とは、この事だったのかも知れない。


此処で終了します。何だか嫌な話しですいません…

更新遅くなりましたが、見てる方、本当にありがとうございます。

むう

書きたいもの書いていきましょ!

>>440 >>441 ありがとうございます。投下します。



【違えて】


『だから、もういいんだ』


「……………」


僕を慕ってくれた同志達を騙し、初めての友達を……


これが裏切りだと言われても、僕は構わない。


人間と人間が争わず平穏に暮らし


四種族と呼ばれる彼等は新しい土地で生きる。


もとは人間なのに、同じなのに、一度は手を取り合ったのに


結局、別たれてしまう。


それでも争いが消える事は無いだろうけれど、




束の間でも平穏に、優しく生きて欲しい。



その為に、僕は切り捨てた。


人を殺めるのは悪だろう


僕に人の生き死にを選ぶ権利などないだろう


それを知りながら、僕は選んだ。


これが僕の生き方だと決めた……もう後戻りは出来ない


ブラッズと分かり合うことも、前のように話すことも出来ないだろう。


たった数ヶ月、本当に本当に短い間だけど、僕等は友達だった。


あの時、森でブラッズと出会わなければ、僕はどうなっていたんだろう?


何だか、酷く懐かしい……


でも、僕はそんな大事な友達を失った。


いや違うな、自分で壊したのだから失ったもなにもない。


人殺しが言う台詞ではないだろうけれど





ブラッズには、生きて欲しい。





あぁ、そうか……


シャズネイにも、もう会えないのか……


彼女には…彼女にも、悪いことをしたな


彼女の心は綺麗だ。


きっと、僕が選んだ誰よりも美しい人間だろう。


出来れば共に、ははっ…今更何を……僕は、壊してばかりだな。


もう、考えるのは止そう。


リネットさんが向こう側に着けば、痩せ衰えた大地も瞬く間に豊饒の地へと変わる。


其処には、ブラッズも居なくては駄目だ。


出来るなら、ずっとあの頃のまま、それなら一番良かったけれど……それは叶わない。


だから、さよならブラッズ


『さあ、もう往くんだ。ブラッズ、今まで……』





『ありがとう』




【紡いで】


何が『ありがとう』だ馬鹿野郎。


なあリナト、俺も決めたよ。


うじうじ考えんのは、もう止めだ。


死ぬとか、生きるとか、殺したとか、未来とか……


そんなもん、知ったことか。


今を生きて笑って、今を悩んで苦しんで、皆、そうして生きて往く


つーかよ、滅びだなんだって言われてもピンと来ねえんだよ。


何が英雄の怨みだ……ふざけんな。



いちいち話しが壮大過ぎて、さっぱり着いて行けねえ。



兄ちゃんが背負ってる物なんて、俺には分かんねえ


リナトの痛みも、俺には分かんねえ


でもな、俺のことも、分かんねえだろ?


そっちにはそっちの、俺には俺の都合があるんだから……


俺は、お前を連れて帰るって、一緒に帰るって言っちまったんだ。


お前が何で『そう』なっちまったのかは分かんねえけどよ


『どうにかしてやる』なんて言っておきながら、俺はお前を救えなかった。


一回破っちまったけど、やっぱ約束は守らねえと駄目だよな?


それによ、兄ちゃんは腹括ってるけど、お前は『まだ』だろう?


姿形が魔物だろうが、そんなもんは目を見りゃあ分かるんだよ。



お前は、馬鹿みてえに分かり易いからな……




だから


「わりぃな。そりゃ無理だ」


『ブラッズ……』


「言った筈だぞ、お前に出来ることは無い」


「なめんじゃねえ……ほら、抜けよ」


一つでも可能性が在るなら


「……仕方無い。意識を断った後、向こう側へ運ばせよう」

「へっ、出来るもんならやってみろ。それとリナト、お前は『中に』戻れ。

 そんで、お前の身体に付いてる『右目』で見てろ」


『……ああ、分かった』


一つでも可能性が在るなら


いや、例え見出した可能性がそのものが……



「どうしたクレイズ? 掛かって来いよ?」




もしそうだとしても、俺は戦う。




【繋がる心】


「やはり防ぐのがやっとか。

 傷が癒えたとは言え、まだ万全ではない。まして隻眼、無理もない」


「手ぇ抜いてると、痛い目見るぞ」


「お前に死んで貰うわけにはいかないからな」


「言ってろ」


早るな、待つんだ。


今防げてんのは、クレイズが防げるように攻めてるからに過ぎねえ。


巧く上下に打ち分けていように見えるが『遅い』


これも、今の速度に俺を慣れさせる為


速度を上げる時が、必ず来る。


その時、その気配を感じろ、それだけに集中しろ。



そして、防ぐのに手一杯な風を装え、悟られず、しっかりと丁寧に……



後は


「っ…らぁッ!!」


「ブラッズ、何故分からない?」


「はッ…はぁっ、何言ってんのか分かんねえのに分かるわけねえだろう……が!!」


当たんなくて良いから反撃すんのを忘れんな。


クソッ…分かってても、やっぱキツいな。朝飯も大して食えなかったし。


ゼノはもう着いたよな?


それとも、もう向こう側に……


取り敢えず里には魔物は向かってねえのは分かったけどよ、人間の町や村はどうなる?


「やはり、そうするのか。ならば、数で分かって貰う他無い」


「一人でなに言ってんだ?」


「気にするな。それよりブラッズ、そろそろ……お終いだ」



「…ッ!?」



来る!! 集中しろ!! 見えねえ所は感じるしかねえ!!


気を失わせる為とは言え


今のクレイズなら脚一本、腕一本くらいなら平気で斬る。


左手が消えた……右腕狙い、じゃねえ。


腕を広げただけだ。これは死角に意識を向ける為の、陽動。


左足が本命、これを、防ぐ。


「……随分、成長したな。迷いも無くなった」



隙が出来た!! 此処しか、ねえ!!



「なッ!?」



まず太刀を手放し、そんで右腕掴んで半回転、背を預ける


後は右肘を俺の腹目掛けて曲げてやりゃあ……串刺しの完成だ。


「ぐッ…ブラッズ……お前、何を」


「いッてえ!! 分かってても、やっぱ、いてぇな」


「馬鹿な事を……こんな事、で…な、ん だ? ブラッ…ズ、お前、なにを」


「ははっ、これが外れてたらどうしようかと思ってたけどよ……『当たり』みてえだな」


「な、に?」


「はっ…はぁっはぁっ……リナト、お前、言ったよな?」


『えっ?』


「『クレイズさんと繋がってる』ってよ。

 けどよ、俺とお前も『目』を通して肉は繋がってる。でもそれじゃあ足りねえ……

 だか、ら。こうすりゃあ、『全部』が繋がるんじゃねえか、と、思ってよ」



『……!!』


「馬…鹿な。止め ろ、ブラッ ズ」


「待っ てろ。今 から、『そっちに』迎え に行く から」


ブラッズは知らない


クレイズが奪った二刀に打ち込められた力を


ましてカティアが何を想い、何を願い槌を振ったかなど知る筈が無い。


酷く原始的な、馬鹿馬鹿しい程単純な方法


そもそもこんな繋がりなど想定して造られた刀では無い。


だが、それでも、そんな方法でも、刀はブラッズの想いを、願いを読み取り……




「今 行くぜ リナトォ!!!」





『三人の魂』を、繋いだのだ。


今日はこの辺で終了します。このお話しも、もう少しで終わると思います。

見てる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。



【生還】


「……ッドリー!! ブラッドリー!! 目を覚ませ!!」


「ぐッ…ぅ…此処は?」


「ようやく起きたか、此処は里だ。

 何故かは知らないが『奴』は里には手を出さない」


「奴?」


「魔の覚醒者。族長は『ラキ』と呼んでいた」


「それは確か英雄の……何でお前が知ってんだ?」


「族長が教えてくれた」


「そうか。で、そいつは今何処に居る?」


「お前を救出した際は暴れていたんだが、今は動きを止めている。

 皆は、この機に北の地へ移動を始めようとしている」



「リネットは? 後、俺が寝てる間に何があったのか教えてくれないか」



「リネット様は傷付いた魔族と人間達の手当てをしている。

 お前が城に居る間の状況だが、オレが里に戻ると各地に魔物が出没したとの報告を受けた。

 族長は魔族を率いて人間の町や村に向かい、魔物を殲滅しつつ、人間を里へ避難させた。

 その後城へ向かうと、奴が現れた。お前が気を失っていたのはその僅かな間だろう」


「……!! 城に居た人間達はどうなった!?」


「安心しろ、皆無事だ」


「そうか、良かった」


「……ブラッドリー」


「どうした?」


「心して聞いて欲しい。

 お前の祖父・魔族長ファーガス様は、亡くなられた」


「…ッ!! 説明、してくれるか」


「奴の側で気を失っているお前を救出し離脱する際、お前とオレを庇って、息絶えた」


「そん、な……何でこんな…カティア、シャズネイは…」


「シャズネイは眠っている。城で奴の姿を見た時、酷く動揺していた。

 どんな経緯があったのか分からないが、奴の身体はリナトのものらしい。

 正直、その辺の状況は全く把握していない」


「……俺、行かないと」


「何処へ」


「城に行く。奴はいずれ動き出し、里にも魔物を放つだろう。

 向こう側に逃げるとしても、人間も一緒となれば、まず無理だ。

 止まっている今が、アレを倒す唯一の時」


「リネット様はどうする?」


「大丈夫、リネットなら分かってくれる。それと……」


「何だ」


「『僕は大丈夫、必ず帰るから』


 リナトからの伝言だ。シャズネイが起きたらそう伝えて欲しい」


「了解した。会わずに行くのか?」


「ああ、今会っても意味が無いから」


「お前は…いや、いい。二人にはオレから伝えておく」



「……ありがとう」


【偽物】


ゼノさん、ありがとう。


僕が何者なのか察した筈だ……リネットさんも、気付いているだろう。


「彼等は…」


里を見渡すと多くの人間と、魔族が倒れていた。


リネットさんは先程聞いた通り、エルフと共に治療を行っている。


此処へ辿り着くまで、


これだけの人間を助ける為に、一体何人が犠牲になったのだろう?


孫を助ける為に命を差し出した彼の祖父


『ブラッズ』の帰りを待っていたリネットさん


『リナト』を待っていたシャズネイ……



「……行こう。僕は此処に居るべき者じゃない」


視界が狭い、歩く度に身体中が軋む。


こんな状態でブラッズは戦っていたのか?


僕を助ける為に、約束を守る為に…


「ブラッズ、君は僕の想い描く英雄そのものだよ。

 でも、今だけは……」


ラキが動きを止めているのは、二人が内で戦っているからだろう。


『リナト、後は頼むぜ?』


あの時、戦闘が激化する中


ブラッズは、僕をブラッズの身体へ移し、繋がりを断った。


動きが止まっている今なら、『魔』その物に『ラキ』になったのなら



この刀で、斬り裂ける。

以前にも同じ指摘があったので、どうにかしようとは思っているんですが、

浮かんだ場面をすぐに書くのが癖になっているみたいです…もう少し考えて書きます。

書き方とか伝え方とか、何だかぐちゃぐちゃになってしまって申し訳無いです。

長々とすいません。読んでる方、本当にありがとうございます。

投下します。



【借り物】


里の皆は治療と向こう側へ往く準備で忙しく、


見つからずに里を抜け出すことが出来た。


ゼノさんの言う通り、里の周囲に魔物は居なかったが


もし城への道程で出会したらどうする?


「頼るな、甘えるな」


そうだ、甘えるな。


何を今更、もう僕を守ってくれる者は居ないのだから。


戦うしか無い、あの場所に辿り着くまで、僕は絶対に倒れるわけにはいかない。


先程まで魔物を操り、人間を殺した人でなしが英雄気取りか?


ああ、その通りだよ。


僕は許されぬ罪を犯した。


あれは決意なんかじゃない、放棄しただけだ。




「はぁっ…はぁっ」


それでも、ブラッズは僕を見捨てなかった。


僕と入れ替わり、数多の怨念の渦に身を投じ、今尚戦っている。


間違いを犯し、道を違えたのに、僕に自身の身体を託したんだ……


僕はそれに、それだけには答えなくてはならない。


「……ッ!!」


『グォアアアアアアアッ!!』


僕が操っていた魔物が暴走しているのか?


それとも、あの二人でも抑え切れぬ程に……どちらにせよ、急がないと拙い。



『ガァッ!!』


「腕が伸びるのか。それより、凄い」


反応速度が人間のそれじゃない……


もし、この身体でなかったら頭を割られて死んでいた。


それどころか


『カひッ?』


避けた直後に懐に踏み込み首を斬り落とした。


自分の身体じゃないみたいだ…いや、実際その通りなんだけど


判断はしている、でもそれより一瞬早く身体が動く。


身体に染み付いているのか、ブラッズは凄まじい修練を積んだのだろう。


英雄気取りか、確かにその通りだ。


僕は偽物で、弱くて、人でなしだけど



「今だけは、この姿で居る間だけは……英雄でいなきゃ駄目なんだ」




【英雄と化け物】

「げほっ…はぁ…はぁ…はぁっ」


何体斬った? かなり辛いけど、泣き声を言ってる暇はない。


随分血を浴びたけど、奇跡的に傷は負うことは無かった。


この身体じゃなかったら、何回死んだことだろう……


限界など超えている筈なのに此処まで来れたのも、この身体のお陰だ。


見えた、もう少し、もう少しだ。


「待っててくれ、ブラッズ。今、終わらせる」


徐々に明らかになるラキの姿


あれが自分の身体だとは、到底信じられない。


二本の角に紅い瞳、漆黒に染まった皮膚は鎧のようだ。



背後の風景は陽炎のように揺らめいている。




今更遅いけれど、僕がもう少し強かったら


こうはならなかったのかも知れない。


クレイズさんが笑える未来も、在った筈なんだ。


牢獄で『俺は器として選ばれたのだろう』と言っていたけど


精神を蝕まれ、自分を犠牲にして、化け物を魂に宿し


怨みの対象である『ヒト』を犠牲にすることで、ブラッズ達を救おうとしていたのか。


その未来を壊したのが、ブラッズだ。


本当に、本当に君は凄いよ。


「はっ…はぁっ…やっと、着いた」


今、眼前の『魔』の内側で二人は戦ってる。



大丈夫、準備は出来てる。




『ハァァァ……』


「我ながら醜いな。でも、英雄に倒されるなら本望だ」


この刀を突き立てれば、全てが終わる。


「さよなら、ブラッズ」


リナトは柔らかに微笑み


右手に携えた魔を断ち切る太刀を、胸に突き刺さす


『が…ぐッ…オァァアアアアア!!!』


憎悪と憤怒の化身は、大地を揺るがす咆哮と共に崩れて往く……


「ぐッ…凄まじいな。でも、まだ終わりじゃない」


咆哮の衝撃に押し戻されるが、しがみつき、身体を支える。


そして、もう一方、左手に携えた太刀を突き立てた……



「また会えたら、友達に   」



此処で、彼の意識は途切れた。


この辺りで終了します。
読んでる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。

短いですが投下します。



【受け継いだ物】


彼は液状の黒から練成した二刀を振り翳し、圧倒する。


その二刀、どうやらそれは血液のようだった。


しかし血液と呼ぶにはあまりに黒く、通常有り得ない程の熱を帯びている。


刀が掠った部位は焼け爛れ


彼の血を受け継ぐブラッズでさえ、回復には相当の時間が必要だった。


此処は彼そのものであり、魔の源泉。


数百年前のあの時、魔獣を率いた少女との戦闘


その際、もし彼が人を諦めていたら


彼の中の何かが完全に破綻していたら



或いはこんな姿になっていたのかも知れない。




怒りに染まり、復讐に走り、ヒトという種を憎む心。


彼が内に秘めていた力、その本質。


純然たる人の身で人を超え、遂には魔物をも超えた少年・ラキ。


始まりの魔者、魔族の祖


その力が遺憾なく発揮され躊躇い無く振るわれる。


『内側』で行われているこの戦いは、通常の、単なる肉の削り合いでは無い。


正に、魂を剥き出しにして斬り合っているのだ。


一太刀でもまともに浴びれば、一瞬で存在が消し飛ぶだろう。



これは、魂の闘争。




「何だよあの鎧みてえな身体、卑怯だろ……」


「ブラッズ、お前の攻撃は当たったか?」


「ん……いや、兄ちゃんのしか当たってねえ」


此処へ来て発覚した事が幾つか在る。


当然、此処へ来た当初は武器など無く、二人は無謀にも素手で挑んだ。


しかし現在、


クレイズは長刀を、ブラッズは細身の片手直剣を所持している。


それは、気付けばその手に在った。


何を意味するのか理解出来なかったが、その剣で戦うしかない。



だが、それより不可解な点が一つ


彼はブラッズの攻撃を、躱している。


如何なる攻撃をも通さぬであろう、鎧の如き皮膚を持っているのに、だ。


ブラッズの言う通り、クレイズの攻撃は当たっている。


だがそれは、躱す必要が無いから、なのではないか?


クレイズは其処から一つの仮説を立てる。


彼は、ブラッズの持つ片手直剣を怖れているのではないか?


それを確かめるべく、守備に徹した。


振るわれる二刀を弾き、無防備になった所をブラッズが攻撃する戦法。


すると、クレイズの攻撃を受けるのをお構いなしに、ブラッズの攻撃だけは避けた。


確信、あの片手直剣には彼が怖れる何かが在る。



「ブラッズ、聞いて欲しい事がある」



ーーーーーー

ーー


「本当に、本当にそれしか方法はねえのか?

 リナトが『外側』から壊すまで待った方が良いんじゃねえのか?」


「外側からだけでは『届かない』」


「でも


「ブラッズ」


「……っ」


「それに、本来なら此の世に居るべき者じゃない。分かってくれ」


ああ分かってる。でもさ、やっぱ納得行かねえよ……


こんなんじゃあ、まるで



「ブラッズ、終わりにしよう」



まるで、兄ちゃんは『この時の為に』生きてきたみてえじゃねえか。


この辺で終了します。読んでる方、ありがとうございます。

投下します



【想う人】


ゼノ「伝言はこれだけだ」


シャズネイ「……必ず帰る、ですか」


布団から身を起こし、ゼノの言葉に耳を傾ける彼女の顔は、


城でリナトの姿を目撃した時とは違っていた。


僅かに憔悴している感はあるが、瞳は前を見据え、迷いや困惑は感じられない。


ただ、彼の言葉を信じる。


例えそれが他者から伝えられたものだとしても、彼女には十分だった。


また会えるのなら、彼がくれた『此の場所』に彼が帰って来ると言うのなら、それを待つ。


ゼノ「シャズネイ、四種族は先程言ったように北の地へ向かう。お前達はどうする」



シャズネイ「残ります。リナト殿の帰る場所は、此処ですから」




ゼノ「そうか。ならば、オレも残る」


シャズネイ「えっ? 何故」


なにが、『ならば』なのか彼女には分からなかった。


感じ入る部分でもあるのだろうか……


世辞にも、情に厚い男では無い。まして自分の為に残ると言ったわけでは無いだろう。


ゼノ「俺も奴を……『ブラッズ』を待つ」


シャズネイ「……!!」



たかだか一週間そこらの付き合いに過ぎないが、彼女は自分が誤っていたと知る。



暗殺者として教育され、何人もの人間を葬った男。


しかし、まだ少年と言っても差し支えない年齢、表情こそ変わらないが心は動いているのだ。


ブラッズやリネット、カティアと触れ合い、少しずつ変化していたのだろう。


その中で、暗殺者の頃には無かった他者を想う心が芽生えても何ら可笑しくは無い。


シャズネイ「ですが、貴方にはリネットさんの護衛が」


ゼノ「それも含めて…だ。里の裏山から北の地へ向かう手筈になっている。

   当然、誰かが残り、里を死守しなければならない」


シャズネイ「それは、やはり魔族の方々が?」


ゼノ「魔族含め戦える者達全て……いや、女子供以外か。

   これは、魔族長が人間を救うと決めた際に下した命令」



シャズネイ「……!! それではまるで『生かす為に死ね』と言っているようなものではないですか!!」



ゼノ「救うとはそう言うことだ。何事も、そうと決めたら最期まで通す……半端は無し」


ゼノ「その場限りの行為など糞の役にも立たん。救うと決めたなら、己の身を賭して守る」


シャズネイ「それは、族長殿が?」


ゼノ「そうだ。皆、死ぬつもりなど無いがな」


シャズネイ「……!? あのっ、リネットさんは何処に? 少し話しがしたいのですが」


ゼノ「そうか、治療も一段落着いたことだろうし、オレが呼んで来る。お前は此処に居ろ」


シャズネイ「ありがとうございます」


襖を開け出て行く背中を見送った後、先程の表情を思い出す。



『皆、死ぬつもりなど無いがな』



そう言った時、彼は笑っていた。楽しいとか、嬉しいとかではなく。




何かに抗うような、不敵で子供らしい、そんな笑顔……




【二人が待つ男】


リネット「もう、大丈夫なの?」


シャズネイ「はい。私は、私がやるべき事を見付けましたから」


リネット「そっか……」


シャズネイ「リネットさんは、本当に行かれるのですか?」


彼女自身、最低な質問だと分かっている。しかし、これだけは聞いておきたかった。


リネットが、同じ『待つ者』として何を想うのかを


リネット「うん、私は行くよ。ブラッズがいつ来ても大丈夫なように、皆が笑えるようにしたいから……」


シャズネイ「貴女は、強いですね」


リネット「ううん、そんなことないよ? 最初は救世主とか言われて、それで守らなきゃって思って……」



シャズネイ「………………」



リネット「だけどね? 自分がどうしたいかって沢山考えた。短い間だけど、沢山沢山考えて決めたんだ」


リネット「カティアも、色々手伝ってくれた……『アタシはリネットの話しを聞いただけだ』って言ったけど、それで決心着いた」


シャズネイ「怖くは、無いのですか?」


リネット「すっごく怖い。早くブラッズに会いたい……でも、ブラッズも頑張ってるから」


弱々しくもあり、力強くもある笑みだった。


戸惑いもあるのだろうが、何よりブラッズの安否が気掛かりなのだろう。


シャズネイ「ゼノ殿に聞きました。ブラッズ殿は一人で向かわれたと……」



リネット「うん、そうみたい。なんで、何も言わずに行っちゃったのかな……なんで………」


此処へ来て初めての涙


愛する男が傷を負いながら魔物が溢れる『外』へ出たと言うだけで、気が気でない。


まして単身で向かうなど……最早、彼女には迷うことすら出来なかった。


深い傷を負い、多量の血を流し倒れる者多数


その中でも、半死半生の者の治療に当たっていたのだから『心配』などしている時では無かった。


『心配』その理由は至極簡単な事……あの時、ブラッズの身体を借りたリナトは、


ゼノと同じく、リネットも自身の正体に気付いているだろうと感じていたが、そうでは無かった。


彼女は『何も知らなかった』



偽物であるが故にどちらにも会えなかった事も、彼が何をしたのかも、勿論知らない。



リネット「シャズネイさんは、どうするの?」


シャズネイ「私は生き残った人々を説得し、此の地に残ります」


リネット「説得って……どうするの? 私達に着いて来るって言う人も居るんだよ?」


シャズネイ「ゼノ殿によると、魔族含め数多くの方々が此の里に残り、魔物の進行を防ぐとのこと」


シャズネイ「ならば残っても問題は無い……とは言い切れませんが、我々人間は自らの足で歩んで行かなければならないと、そう思うのです」


リネット「……………」


シャズネイ「着いて往く者を無理に止めはしませんが、残された同志達は此処に留まり『戦う』でしょう」


シャズネイ「戦争に湧いていた人間が里の方々に救われ、其処に何を想うのか……それを問うだけです」


情けなくはないのか、そこまでして生きたいのか、今こそ己の生き様を決める時なのだ。


それを彼女は『人間』に問うと言う。


都合良く生き残り、強者に取り入り、依存するのか?


死を厭わず救ってくれた里の者達に顔向け出来るのか?



それが皆の求める『生』なのか、と。



リネット「私には何も言えない…けど、それはきっと私達も同じだよ」


シャズネイ「えっ?」


リネット「何でも人間の所為にして、愚かだとか醜いとかばっかり……他にも沢山。私も、その一人」


リネット「乱暴で怖い種族、無ければ奪えば良い。

     ヒトは皆、そんな風だと思ってたけど、治療を通して少しだけ触れ合って……違うんだなって思った」


リネット「勿論今でも怖いけど……何だろうね? うぅん、上手く言えないや」


シャズネイ「……大丈夫です。ちゃんと伝わります」


リネット「そっか……」


シャズネイ「リネットさん、ありがとうございます。貴女と話せて本当に良かった」


リネット「ううん。私も、話せて良かった」


目指す場所は違えど、これから一歩を踏み出そうとする意志は同じ。


リネット「……そろそろ、行かなきゃ」


シャズネイ「………そうですね。私も同志の下へ行きます」



何より女性として、帰りを待つ身として




共有する想いを持つ者同士で言葉を交わせたことが、彼女達に力を与えた。


今日は此処で終了します

少し投下します



【集い】


カティア「なあリネット、ホントに魔物が来るのか? 男連中は皆残るとか言うし」


その中には、カティアの父も含まれている。


里に魔物が来ると言っても確実では無い。しかし、里が襲われないと言う確証も無い。


普段勝ち気な彼女も、今は憂いと僅かな怒りの表情を見せている。


もし来るなら百・二百ではない魔物の大群が現れる……


それを考えると、年老いた父を置いて往くのは当然の如く辛い。


それは皆も同じ、勿論リネットも辛いだろう。


しかしカティアの場合、物事を誰かに押し付けて自分達は安全な場所へ……と言うのが気に入らないようだった。


リネット「万一の為に残るって言ってたけど、人間の人達は残るから守らなきゃならないって……」



カティア「一緒に来れば良いだろう。その方が手っ取り早い」



リネット「四種族を造った『人間』など居ない。貴方達は、初めからそうだった」


カティア「なんだ急に? 人間の言い訳か?」


露骨に顔を顰め、問う。


それも当然。大戦の最中に造られた事実は、数百年経った今でも風化していないのだ。


カティアに限ったことでなく、今の言葉を聞けば誰もが同じ表情になるだろう。


リネット「違う違う!! 四種族は造られた存在なんかじゃない、みんな人間なんだ……って」


カティア「ああ…なる程。で、それが残る理由になるのか?」


リネット「何か言ってることが難しかったからよく分からなかったけど、『我々が人間として生きる為』とか何とか」


カティア「へぇ…そんな奴も居るのか」



リネット「例のリナトさん。その同志の人達が、そう言ってた」



カティア「リナト、か……結局会うことは無かったけどさ、きっと『二人共』帰って来るよ」


そう言って優しく笑いかけると、リネットの頭にぽんと手を置き、撫でる。


彼女達は『こんな時』無意識に互いを励まし、支える術を持っている。


リネット「……!! うん!! だから私も頑張らないと」


カティア「だからって、あんまり気負うなよ? そういう時は力を抜いた方が上手く行く」


リネット「そうなの?」


カティア「こうしよう、ああしよう。もっともっと……ってなると、大抵ダメになる」


リネット「鍛冶の話し?」


カティア「まあそうだけど、どんな事でも頑張り過ぎは良くない。アイツが帰って来たら言ってやれ」



リネット「うん、そうする。二度と無理しないように、絶対言う」





『『が…ぐッ…オァァアアアアア!!!』』



リネット「……!! 今の、なんだろう?」


カティア「悲鳴に近いな。ブラッズの奴、大元を倒したのか?」


リネット「そう…なのかな……」


相当の距離が在るにも拘わらず里に轟いた咆哮は何を告げるのか…


それは、直後に起こった。



『魔物だ!! 魔物が向かって来た!!!』



リネット「……!? カティア!! 行こう!!」


カティア「…ッ!! 分かった!! 皆は集会所だったよな!?」



リネット「うん!!」



ーーーーーー

ーー

ゼノ「本当に良いのか? 後戻りは出来ないぞ」


シャズネイ「私も同志達も……『皆』覚悟は出来ています」


ゼノ「そうか、作戦も何も無いが、オレ達が殺し損ねた魔物に留めを刺せ。

   それだけでいい、無理に前に出るな。いいな?」


シャズネイ「了解」


『『了解しました!!!』』


彼等はドワーフが造り上げた武器を手に、覚悟を決めた。


魔者、獣人、エルフ、ドワーフ、そして人間


真に生きようとする者、気付いた者、目覚めた者、帰りを待つ者………


異なる種族、異なる意志が、迫り来る魔物を倒す為に、今、一つになる。



そして……



先程まで遠方に見えていた『黒い点』は急激に距離を縮め、遂には其処まで迫っていた。


この辺で終了します。

>>508 訂正します。


ーーーーーー

ーー


ゼノ「本当に良いのか? 魔物が来たら後戻りは出来ないぞ」


シャズネイ「はい。私も同志達も……『皆』覚悟は出来ています」


ゼノ「分かった。作戦も何も無いが、里に侵入する魔物を殲滅する。お前達はオレ達が殺し損ねた魔物に止めを刺せ。

   それだけでいい、無理に前に出る必要は無い。いいな」


シャズネイ「了解」


『『了解しました!!!』』


彼等はドワーフが造り上げた武器を手に、覚悟を決めた。


魔者、獣人、エルフ、ドワーフ、人間


真に生きようとする者、気付いた者、目覚めた者、帰りを待つ者………


異なる種族、異なる意志が、迫り来る魔物を倒す為に、今、一つになる。



そして……




先程まで遠方に見えていた『黒い点』は急激に距離を縮め、遂には其処まで迫っていた。


投下します。



【居場所】


ブラッズ「……ったく、起きて早々これかよ。どうしろってんだ」


外側からの刃により内側も崩壊、一時は死を覚悟したが、そうはならなかった。


今現在、ブラッズの身体の中に居るのは、紛れもなくブラッズ自身。


リナトが『ラキ』に突き刺したのは二刀。一つはブラッズの物、もう一つはカティアが造り上げた物。


先の一刀を以てラキを滅し、後の一刀を以てブラッズに『返した』のだ。


それは成功したのだが、放たれた魔物が消えたわけではない。


ブラッズが目覚めた時、


周囲は既に魔物によって囲まれていたが、彼にとってそんなことは問題では無かった。




ブラッズ「退けッ!! 『俺達』は、帰らなきゃならねえんだ!!!」




それは、リナトの遺体が残っていたからである。


ラキの崩壊と共に崩れ去る筈の身体が負傷もなく、だ。


理屈は分からないが、友の遺体が残っている……


これは死者を弔うとかでなく、


彼の友として、彼を待つ者の為にも、遺体を瓦礫の山に捨て置くなど出来る筈が無かった。


ブラッズ「こんな事態だ。引き摺ってくけど許してくれよ?」


背負って行きたいのは山々だが、魔物がそれを許さない。


文字通り、道を塞がれている。


その数、数千。走り抜ける隙間を見付けることすら困難、圧倒的な数。



まして人一人を背負って抜け出す事など、不可能だろう。




ブラッズ「…ッの野郎ッ!!!」


『ゲゃッ!!』


斬っては走り、囲まれては止まり、また斬る。この繰り返し……


リナトの遺体を守りながら、進んで行く。


襲い来る魔物が狙うのはブラッズだけではなく、リナトをも狙う。


単純、それは『肉』を喰らう為。


ブラッズ「はぁっ…はぁっ……畜生、里の方にも向かってやがる」


道を塞ぐ魔物を斬り、すぐさま走り抜ける。


其処を抜けても、また次の敵。



斬っても斬っても、払っても払っても纏わりつく、魔物の群れ……




ブラッズ「早く……行かねえと」


里はどうなっているのだろうか?


祖父は、愛する女は無事だろうか? 友を待つ女は?


そればかりが頭を過ぎる。


こんな時の為に、守る為に力を求めたと言うのに、守るべき者・リネットの側に居られない自分に腹が立つ。


彼女の笑顔に何度救われただろうか、彼女の心に何度癒されただろうか、


彼女が居るだけで、何度立ち上がれただろうか……


彼女の存在そのものが、彼の心に強い力を与える。


無意識、ぽつりと呟く




ブラッズ「リネットに……リネットに会いてえ」




ブラッズ「死んでられっかよ、なあ?」


穏やかな笑顔を湛えたリナトに、笑いながら問い掛ける。


ブラッズ「会いてえなら、何が何でも生きねえと」


此処で死んでしまっては、友が命を引き換えに身体を返してくれた……


その想い、意味が無くなるのだから。


ブラッズ「はぁっ…はっ…もう一踏ん張りだ。つーかよ、本当に死んでんのか、お前」


眠っているようにしか見えない友に声を掛けるが、勿論応答はない。


しかしブラッズには、何度見ても、今にも目覚めそうな……


そんな風に見えてならなかった。



リナトの帰りを待つ女・シャズネイ



彼女を想うと申し訳ない気持ちになるが、何故か『何とかなりそう』だと感じている。


『眼』を分けたからか、ただの妄想夢想の類かも知れないが、




リナトはまだ終わっていない、目を覚ますのだと、信じている。




ブラッズ「もう直ぐだ。里に着いたら、直ぐに会わせてやる……だから、早く起きろ」


何処を見ても魔物、魔物、魔物……だが、瞳に諦めは無い。


寧ろ、ここぞと瞳は輝きを増し、疲弊の色など一切見せずに刀を振り続ける。



ブラッズ「お前等魔物に、帰る場所はあるか?」



笑う。挑発や嘲笑では無く、純粋に、ただただ、嬉しそうに……


『ガアァッ!!』


その言葉に苛立ったかのように魔物は吼え、ブラッズの腕を切り裂いた。


ブラッズ「ぐッ……ってえな!! このクソ馬鹿野郎が!!!」


『アぎゃッ!!』


ブラッズ「はぁっ…はぁ……俺には、俺達にはあるぜ?」


尚も笑い、告げる。不敵に、誇り高く、笑う。


傷は消えるが痛みは感じる。本来なら、満足に身体を動かす事など出来はしないだろう。


だが動いている、それでも生きている、生きようとしている。


誇りか、気力か、足掻きか、魔者特有の生命力の強さか……


或いは、それだけではないのかも知れない。





ブラッズ「俺の帰る場所……俺達の帰る場所。其処に、帰りを待ってる奴が居るんだ」


これで、このお話しは終わりです。

見てくれた方、レスくれた方、本当にありがとうございました。

こんな風に終わるとは思っていなかったので変なかんじですが、感想や指摘などあればお願いします。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom