咲「大好きだよ、舞」(101)


~~~

「はぁ……ひかりーたこ焼きちょうだーい」

ジャージ姿で椅子に座り大きなスポーツバッグをどさりと足元に置くと、
日向咲はそう声をかけた。

「どうしたの?なにか悩んでる?」

エプロンを身につけた長い髪の女性が、
とりあえずというようにジュースをいれて咲に近づいた。

「なんかさ……つまらないなぁって。
はぁ、絶不調なりぃ……」

大学を出てもうすぐ社会人二年目になろうとしている咲は、最近沈みがちだ。
口癖は出会った頃の中学生時と変わらずいるが、中身はだいぶ変わった。

「……舞とはまだ連絡とってないの?」

その原因の一端には、間違いなくその人物がいると、
店主である九条ひかりは確信している。

「……舞なんて、もう知らない」

「……なぎささんやほのかさんでも呼ぶ?」

二人の間に何があったのかは知らない。
友人として何かしてやりたいが何ができるのかもわからない。
だから、ひかりはこんな時なんとかしてくれそうな人たちを呼んだほうがいいのかもしれないと思った。

「いや、いい。ひかりがいたらそれでいいや」

ジュースを一口飲むと、咲はぼんやりとそういった。

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「あら、じゃあ私はお邪魔かしら?」

何時の間にか二人の背後に立っていたのか、赤い髪の鋭い感じの女性がそこには立っていた。

「あんた、いつ帰って来たの?」

「今よ、今。
空港から直行でここ寄ったのよ。どうせ咲がひかりに迷惑かけてると思ったからね」

「満、久しぶり。ヨーロッパ、どうだった?」

「赤髪の変な奴がいたわ。
それよりも、まだ舞と喧嘩してるの?もう何年よ」

満と呼ばれたその人はひかりよりも咲に遠慮がない。

「……舞が悪いんだもん」

「だもんじゃないわ。あなたはあなたがまったく悪くないって胸を張って言えるの?
言えるなら、それでもいいけれど。どうせいえっこないでしょう」

「と、とりあえず!咲はたこ焼きね!満はどうする?」

なにやらこじれそうな雰囲気を察したひかりは、話題をずらそうと注文をとった。

「私もたこ焼きがいいわ。あとあかねさんはいる?」

「ううん、今日は別行動。鎌倉まで足伸ばして見るって言ってた。何か用事?」

「んー、いや……店長が二号店を出そうかって話しててさ。その店長に私を選んでくれたのよ。その相談しようかと思ってね」


「えっ!満、パンパカパンやめちゃうの?」

パンパカパンというのは、咲の実家のパン屋さんだ。
満は高校を出ると大学には進学せずに、フランスへ修行に行った。
そして、同級生が大学を卒業するのと同時に日本へ帰国し、パンカパンへ就職したのだ。

「咲って本当にバカね。話聞いていた?
あなたのお父さんが二号店をだすって言ったのよ?
そこはパンパカパン二号店に決まってるじゃない」

「なーんだ、ならいいな。
まぁ、ひかりもタコカフェ二号店の店長さんだもんね……というか、たこ焼き屋って意外と儲かるんだねぇ」

ひかりは中学を卒業した時点で、すでに働き始めていた。
先ほど話題に上がった保護者であるあかねさんは高校行かせるくらいの蓄えはある、と言っていたが働く道を選んだ。
自分で働き、お金がたまったら、自分で大学に行くつもりらしい。

「それは……ほら、美人店長がいますから……なんて……」

「照れるなら言わなきゃいいのに。
それにしても、ひかりもやっと私たちに敬語使わなくなったわよね。
十年かかるとは思ってなかったわ」

初めて会った時は、同級生だというのに敬語を使われていた。
そのことを思い出したのか、満はクスクス笑った。


「でも未だになぎささんやほのかさんには敬語だよ?
普通先輩だからと言っても十年も付き合いあったらもっと砕けない?」

「ふたりは特別なの!あのふたりが、私を人間にしてくれた、私を成長させてくれた。
親友であり、同時に憧れの人でもあり、また恩人でもあるんだもん。
大好きだけど、咲達に接するようには出来ないよ」

「それでいいんじゃない?咲が馴れ馴れしすぎるのよ」

「えぇー?そぉかなぁ……?」

話をしていると、その二人の片割れが偶然にも現れた。

「あれ?咲と満じゃん!」

「おぉ、噂をしたらちょうどなぎささん!」

「私の噂してたの?なになに?どんな噂?」

二人の片割れこと、美墨なぎさは昔から変わらないサバサバとした無邪気さで自分の噂を聞き出そうとする。

「なぎささんはいつになったら藤村くんと結婚するんでしょうねって話。
というかあんた達手は繋いだの?キスはした?」

「なっ、バ……咲!」

「なぎささんこういうところはいつまでたっても子供だよね。
普段はかっこ良くて美しくて男前なのに、藤村くんとの進展聞くと一気に乙女になるよね。
そういうところが可愛くて好きなんだけどさ」


からかうように笑う咲と、赤くなりうつむいてしまったなぎさ。
そんな二人を見てため息をつくと、

「……付き合ってらんないわ。
咲、店長に私が帰ったこと伝えてといてくれる?
私もう帰って寝るわ、薫が待ってるし」

満は席を立った。

「明日休みなの?」

「えぇ、店長が疲れて帰ってくるだろうからって休みをくれたわ」

「ほーい、てか私ももう実家出てるんだけど……」

「最近まったく連絡してないらしいじゃない。
店にも私しかいない時間狙ってくるし。
たまには親に声くらい聞かせてやりなさいよ。
あ、ひかり私の分のたこ焼きはなぎさにあげて」

満は財布からたこ焼きの代金をとり出すとひかりに渡した。

「えっ、いいよ。自分で払う。
というか、満も食べて行こうよ」

「ううん、私がいない間咲が迷惑かけたと思うし、それにお土産買う暇なかったから」

それだけいうと、満はさっさと行ってしまった。

「……満って、咲の保護者かなんかなの?」

よくわからない理由に、なぎさは困ったように咲へと尋ねたが、

「さぁ?」

満の本意を正しく理解している咲は、そうやってごまかすことしか出来なかった。


~~~

一人の黒髪の女性がもくもくとキャンバスに向かっている。
キャンバスに描いているのは大木だ。

しかし、中央あたりになにも描かれていない空白の部分がある。
大木はもはや完成形と言ってもいいほど立派な出来栄えにもかかわらず、細かいところを何度も何度も書き直している。
空白の部分を埋めようという気は無いようだ。

「舞、あなたまたその絵を描いてるの?
そんな完成しない絵を描くくらいならあっちを仕上げてよ」

あっち、と指差したほうには、海や空といった自然をモチーフにした絵画が何点か並んでいる。

「舞」

絵を描き始めると、特にこの絵を描き始めるとこの女性は周りが見えなくなるということを思い出し、強めに再び声をかける。

「えっ?あ、薫さん……ごめん、なに?」

「その絵より、あっちの絵。
納品日一週間後よ?わかっているの?」

薫、と呼ばれた女性はスケジュール帳を見ながらそういった。

「そうね、そうするわ。
それよりも、薫さん」

舞と呼ばれた女性は筆をおくと薫のほうへと向き直った。

「あなたの作品も何点か出してみない?」


「私は趣味で描いてるだけだからいいのよ。
仕事にするならこういう風に絵をみたり売ったりするほうが向いてるの」

それよりも、と薫は軽く舞を睨みつける。

「舞は仕事で描いているんだから、趣味のほうの絵は仕事が終わってからにしなさい。
あと、今日満が帰ってくるのよ、良かったら家に来ない?ご飯食べましょうよ」

放っておくと何時間でも完成しない絵を描き続けると思った薫は、舞を夕飯へ誘った。

「一緒に作りましょう」

断ったら許さない、というように薫は舞の手を引いた。

「えっと……仕事が……」

「私がみてないといつまでも大空の樹を描き続けるでしょ。
今日は家でご飯食べて泊まって明日私の監視のもと仕事片付けてもらうわよ。
ほら、いくわよ」

絵描き道具を取り上げ、それらを手早く洗うと仕事用の服のままの舞を部屋から引き摺り出した。

「わ、ちょっと……着替えだけさせてよ」

「そんなのいらないわよ。家に舞の服も下着も数着あるし、別に歩き回るわけじゃなくて下降りて車乗るだけだもの」

はやくしないと満が帰ってきてしまう、と薫は無理矢理舞を引っ張って行った。


~~~

「あ、ねぇねぇほのか。咲と舞ってなんで喧嘩してるの?」

タコカフェで散々咲にいじられた事を親友のほのかへと話したあと、なぎさはそういえば、というように聞いた。

「さぁ、私は二人とは最近会ってないし。
それより、なぎさってばいつまでたってもここに住んでるけど藤村くん怒ったりしないわけ?」

話をごまかそうとしているのはわかりやすすぎるくらいわかった。
ほのかは頭がよく、察しがいいにもかかわらずこういうのは下手くそだ。

「別に怒らないよ。なんで省吾さんが怒るの?」

「だって、同室が私だよ?」

「だから、なんでそれで怒るのさ」

「いや、だって……私たち付き合ってたんだよ?
キスもしたし、それ以上のこともした。
同性だからって前の恋人と一緒に住んでるのは流石に嫌がるんじゃない?」

「あぁ、それなら大丈夫。
省吾さんとは別に付き合ってるわけじゃないし。
というか、私たちっていつ別れたの?」

何故かニコニコと笑いながら、なぎさはそう言った。

「……じゃあ、キスしても、いい?」

「キス?」

なんだそんなこと、というふうになぎさはほのかの唇に自身のそれを重ねた。

「ほのかの唇は……相変わらず甘くて熱いね」

「……なぎさのばか」

落ち着いたような笑顔で笑うなぎさに対してほのかは悲しそうな目をしながら頬をすこし赤らめた。


「ちなみに、ほのかには言っとくけど省吾さんには『全部の中で一番になれないのはわかってる。
だから男の中で一番俺のことを好きなら付き合ってくれ』って言われた。
でも、そんなの悪いじゃん?
だから、いつかほのかよりも省吾さんを好きになった時、返事をしますって答えといた」

「……告白されたと最高の笑顔で言ってたから……私捨てられたのかと思ってた」

「私がほのかを捨てるわけないじゃん。
なんてったって、私たちふたりはプリキュア、ブラックとホワイト、永遠のパートナー、相棒。
なにより、私はほのかよりも好きな人がいない」

もう一度、唇を重ねる。

「省吾さんのこともそりゃ確かに好きだけど、どっちか一つと言われたらほのかに決まってるじゃん」

「……じゃあ、もう藤村くんにドキドキしたりときめいたりしないでね?」

クスリと笑いながら、ほのかはなぎさの髪を撫でた。

「それは……無理!
でも、ほのかが一番好き!
ほら、チョコレートを美味しそうと思うのと、ステーキを美味しそうと思うのは違うじゃない?」

これ以上なにも言われないように、ぎゅーっと抱きしめた。

「ほのかの前だと、省吾さん関係の話されても平常心でいられるのになぁ」

ぼそりとつぶやいたなぎさに、普通逆だろ、とほのかは言いたくなった。


~~~

「ただいま……あれ?舞じゃない、どうしたの?」

タコカフェから帰宅した満は、予期せぬ客人に素直に驚いた。

「久しぶり、満さん。
薫さんに是非にと誘われたの」

「満、おかえり。荷物、持つわ」

薫は満の鞄やらコートやらを奪うように取ると、部屋の奥へと行ってしまった。

「その格好、薫が無理矢理連れて来たのね」

「まぁ、私が悪いんだけどね」

呆れたようにつぶやくと舞は薫をかばうように小さく笑った。

「……今咲に会って来たわ。退屈そうにしてた」

「そ、そう……」

舞は満と薫のこういうところが好きだった。
咲と関係がこじれているのを二人は知っている。
その上で、舞に咲の事を、咲に舞の事を、あったことならなんでも話す二人が好きだった。

「ねぇ、いい加減仲直りしたら?
私たちもう二十四よ?
大学でてもう二年経つのよ、最後に咲と会ったの、大学生の時でしょ?
二年もなにを喧嘩しているのよ」

「……正直、私にもわからないの」

こうストレートに来られてしまうと、舞も素直に口を割らざるを得ない。


「わからないの?あなたたちって、二人ともバカなんじゃない?
バカなのは咲だけだと思ってたわ。
というか、満も咲とあったなら連れて来たら良かったのに」

コートをクローゼットに掛け、鞄を部屋において来た薫は携帯電話を満に手渡しながら言った。

「そんなの、舞がくるなんて知らなかったもの。
咲と薫と私だけだったら、私が料理する羽目になるじゃない。
疲れて帰って来てるのに、そんな嫌よ」

「そう、それもそうね。
で、どこで咲と会ったの?」

満のいうことに一理ありと判断した薫はテンポ良く話を進める。

「タコカフェよあかねさんに話があって行ったの。
でも、無駄足だったわ。あかねさん、今日は鎌倉のほうへ行ったのよ」

鎌倉、と舞は聞き慣れた地名をつぶやいた。

「鎌倉か。中学生の頃によくいったわよね。
私たちの住んでた町から近かったから」

舞はそうね、と気のない返事をする。

――あの頃は良かった。あの頃は毎日が楽しくて、毎日咲が隣にいて……。

――一体どうして私たちは変わってしまったんだろう。

ふと、窓の外をみても、海も大空の樹も見えなかった。

「随分、遠くまで来てしまったわね……」

「……遠く?何を言っているのよ、全然遠くないわ。すぐそこよ」

舞の呟きに、薫が反応した。

それは、舞の心を正しく理解した上での反応だったとすぐにわかった。
だが、舞はそれに素直に頷くことが出来なかった。

ここまで



~~~

ねぇ、覚えている?
舞と私、これまで沢山の事を二人でやって来たよね。

ねぇ、覚えている?
咲と私、今までいろんな事を乗り越えて来たよね。

――ねぇ、覚えている?

私たち、いつもふたりでひとつだったよね。

――ねぇ、覚えている?

初めて咲が私を名前で呼んだ日の事を。

初めて舞が私を愛していると言った日のことを。

――初めて、抱きしめあった日のことを。


『沢山のキラキラ光る思い出を、あなたは覚えていますか?』

「でも、もう……かえれない」

「だって、私たちは、こんなにも」

「遠くへ来てしまったから」

ふたりの距離は近くて遠い。
会おうと思えばいつだって会える。
だって、故郷を出てもふたりは同じ街を選んでそこで生きているのだから。

「距離が遠くなっても街を出ないのはなぜ?」

そんなこと、分かり切っているでしょう?

「じゃあ、会いに行かないのはなぜ?」

そんなの……分かり切っているでしょう?

「わからないわね。全くわからないわよ」

「そうね。私にもわからないわ。でも――」

ふたりの親友は呆れたようにため息をついていた。


~~~

「……さん?さ……さん!」

「……」

ぼんやりとグランドを見つめ、考えていた。

後輩が呼んでいるのも全く気づかずに、何かを探すように、視線を揺らす。

「咲さんってば!」

休憩終わりっすよー?と肩を叩かれやっと、正気に戻った。

「へ?あ、ごめん!
じゃあ――」

練習メニューを確認し、咲は再びグランドへと駆けていく。

「はぁ、自分が嫌になるな。……いやいや、ダメだ!しっかりしろ!
来週からまたリーグ戦はじまるし……リーグ戦、か……」

足元の土をならし、ふとベンチ、そして客席を見た。

「ダメ、やっぱり……絶不調なりぃ」

咲は大学卒業後、自動車会社のソフトボールチームに所属している。
大学時代はエースとして数々の大会でチームの優勝に貢献し、日本代表にも選ばれるのではないかという期待の新人だった。
だが、大学卒業後初のプロリーグでの成績はボロボロ。
雑誌や新聞には、学生時代の輝きが失われたと評価されていた。
球威が落ちたわけでも、制球が定まらないわけでもなかった事から、所詮は学生レベルだっと言われる事もあった。

「……フラッピ元気かな」

実家を出てから、共に戦った精霊の友人たちと会う事もすくなくなった。
それでも、大学時代は大空の樹の前でたまにはあっていたのだが、ここ二年は一度もあっていない。

空を見上げてみてもその瞳にはなにも映らなかった。


~~~

「舞、起きて。朝ごはんできたわよ」

「ん、もう少しだけ……待って、咲……」

「……私は満よ」

舞はとても穏やかな表情で寝息を立てていた。
子供のように、優しく素直な可愛らしい顔だ。

「ほら、舞ってば。薫がそろそろおこるわよ。
納品日もう近いんでしょ?
……いつまでに描けと言われて描いた絵がいいものになるとは思えないけれど、それがあなたの仕事でしょう」

肩をゆすり、規則正しい寝息のリズムを止めた。

「ん……ごめん、寝すぎた?」

「さっきからそう言ってるじゃないの。
ほら、はやく朝ごはん食べて仕事行きなさいよ、私は今日休みなの」

ほとんど表情を変えずに、満はそう言うと部屋を出た。
舞が寝ている部屋は薫の部屋だ。
薫とは大学を卒業したあとも、仕事の関係で付き合いがずっと続いている。

ふたりが大学在学中から、舞が泊まる時は薫の部屋だ。

「……私、何か寝言を言っていた?」

大学に通っていた頃の事を少しだけ思い出し、あの頃は咲が隣にいた事も思い出す。
そして、毎回決まって朝起きると可愛らしい笑顔でこう言うのだ。

“薫のところに泊まると舞の寝言が聞けるから楽しいね!”

自分がどんな寝言を言っていたかは聞いたことがなかった。
なぜならば、舞も咲の寝言を何度か聞いている。きっと同じ事だと妙な確信があったからだ。
どこまでも自分たちは愛し合い、心は繋がっている。そう信じていた。

「言ってたわ。“もう少し待て”って」

「そう……良かった」

「……良くないわよ」

今ここで舞に“寝言で咲を呼んでいた”と言っても、恐らく無駄に傷を作るだけである。
無意識でしか呼べなくなった名前を、無意識ですら呼べなくさせてはいけないと満は判断した。


~~~

「さーきちゃん!」

「へ?」

TAKOカフェで満と会った日から数日後のことである。
練習を終えアパートへ帰る途中、後ろからいきなり声をかけられた。
間抜けな声を出しながら振り返ると、そこには懐かしい顔が並んでいた。

「もしかして……ラブとぶっきー?」

かつて何度か共に戦った友人がそこには立っていた。

「うん!ひっさしぶりだね!」

「本当、久しぶり。元気だった?」

一人はダンサーとして最近名が知られるようになった桃園ラブ。
もう一人は、春にやっと大学を卒業した山吹祈里だ。

「ラブはちらほら雑誌やテレビで見かけるから久しぶりって感じしないけど、ブッキーは本当に久しぶりだね!
大学やっと卒業したんでしょ?」

「その言い方だと、留年してるみたいで嫌……。
六年制の大学だからね?咲ちゃんはなんかわかってなさそうだから一応言っとく!」

「あっはは、お医者はなるのもなってからも大変だ。
ところでふたりで何してるの?美希やせつなは?」

四人は中学生の頃、クローバーというユニットを組みダンスをやっていた。
はじめてみた時はヘタクソだったがその後メキメキ上達し、高校生の頃はいくつものコンテストを制覇していた。


だが高校二年の夏、それぞれが持っている夢を叶えるためにクローバーは解散した。

「美希たんとせつなもこのあと来るよ!
久しぶりに四人の都合が合ってさ、ブッキーの卒業祝いに呑みに行くんだ!
咲ちゃんもくる?」

「んー、今日はやめておこうかな。
明日も朝かなりはやいんだ。
でも、美希とせつなには一目会っておこう。
たまには生美希たんで目の保養しなくっちゃね!」

へへへ、と笑うと祈里がそういえば、と言い出した。

「咲ちゃんこそ一人でフラフラなにしてたの?舞ちゃ――」

フレッシュプリキュアを名乗っていた四人で咲と舞の現状を知っているのはラブだけである。

せつなはラビリンスを立て直すのに必死であり、美希は着実にモデルとしての価値を上げて来ている時期である。
祈里も獣医学部という場所で日々目の回るような忙しい日々を送っていた。

「あれぇー、あそこにいるのもしかして美希たんじゃない?」

祈里にかぶせるように、ラブが大声を出す。

――そんなに気を使わなくてもいいんだけどなぁ……。

ラブの底抜けの優しさに、咲は思わず笑いをこぼした。

ラブとしてはうまく有耶無耶に出来たのだろうが、バレバレだ。
祈里も触れないほうがいい事なのだと察し、自分たちが見つからずにいる美希を迎えに行ってしまった。

「あれ、咲じゃない」

そして祈里の背中をぼんやりみていると、美希が来たほうとは逆側からせつなが現れた。

「せつなぁ!久しぶり!
その後、ラビリンスはどう?」

「久しぶりね、ラビリンスは……ウエスターがバカで大変よ。
サウラーも何気にアホだし。
でも、みんな精一杯頑張ってるわ。
少しでも自分たちの国を、自分たちの力で良くしようと……本当にみんなみんな精一杯頑張ってるわ」

髪が少し伸びたせつなは、純粋に笑った。

「そっか……落ち着いたらラビリンスを案内してよ」

「えぇ、勿論!」

ラブ、祈里、せつな、そして……。

「咲、久しぶり!元気してた?」

「うん!美希たんは流石だね、いつもと雰囲気違うけど、変わらず完璧だね!」

「そうそう、あたし完璧なのよ。
雰囲気違うのはこの服のせいね。これ、えりかがデザインしたのよ」

ふふん、と笑い服を見せるようにくるりと回った。


「へぇ……えりかも頑張ってるんだねぇ。私も衣装えりかに頼もうかなぁ」

ラブとえりかはウマが合うようで、高校時代はよく一緒に遊んでいた。
クローバー解散後、ラブは一時期ダンスをやめていた。
練習自体はトリニティの練習に参加していたようだが、自分で踊るのはやめていた。
そんな時期にえりかとはよくファッションの事で話をしていた。

「あれ?でもこの前メールした時はまだまだ見習いって言ってたわよ?
見習いが売り出し中のモデルの服なんか作れるものなの?」

「それよりせつなとえりかがどんなメールしてるか気になる」

「えりかちゃんはせつなちゃんは着せ替え甲斐があるって、よく言ってたからね。
慣れてる美希ちゃんとは違った面白さがあるみたいだよ」

祈里の説明に、なるほど、と咲が頷いているとせつなは迷惑そうに「咲までそんな事言い出さないでよね?」と言った。

「ちなみに、これは個人的に作ってもらったものよ。
えりかに「今までの雰囲気とガラッと変えてなんか作ってみて」って言ったらこれが出来たのよ。
「美希たんはオレンジとかそういうあったかい感じの色も似合うと思うんだよねぇ」とか言ってたけど……咲でも雰囲気の違いわかるなら大成功ね」

せつなの質問に答えながら、おどけるように笑った。

その後、五人は十分ほど話し、別れた。


仲良く街の中へ消えて行く四人が、自分たちの過去に重なった。
あの頃は、彼女たちがこんなに眩しく見えた事はなかった。
それは、自分も同じものを持っていたからだ。
彼女たちを見ても、切なさなど感じたことはなかった。

だが、今は違う。

咲は失くしてしまったのだ。

「……ラブにブッキーにせつなに美希。ついでにえりかも……か。
みんなみんな、夢を叶えて前に進んでる……」

自分は一体何をしているのだろう、と空を見上げる。

「取り戻したはずなのにな……青空」

心を通わし自分たちの生きるこの世界を取り戻した。
それは舞が、満が、薫が居たから出来た事だ。
世界のためなどという事は考えていなかった。
大好きな人たちにもう一度会いたい。
大好きな人と生きていきたい。
嘘偽りのないシンプルな事しか考えてはいなかった。
だから、頑張れた。
だから、精霊たちは力を貸してくれた。

「もう一度、私空を飛びたいな。
フラッピ、私まだ舞がいたら変身できるかな?……いや、24でプリキュアはちと絵的にキツイか」

絶不調なりぃ、そう呟くと咲はとぼとぼと帰路についた。

流石にレス0だと凹むなww
まぁ、いいか

万が一読んでる人いたら次もよろしく

おう、俺は読んでるぜ。おもしろいよ。
次もよろしく!

すまんsage忘れたわ

おもしろい!次も期待

>>22
ありがとう!
ちなみにageとかsageとかは気にしなくていいよ
ageられたらその分人の目につく機会ふえるし

>>24
ありがとう!
がんばります!

今日見つけた
SSのSSはただでさえ少ないから俺歓喜!
つづき期待して待ってるよ

もちろん、みのりちゃん(18)の出番もあるんだよな!

>>26
ありがとう!
みのりちゃんも出番もちろんあるよ!

では、はじめます


~~~

「ねぇ、咲ってば少しおかしくなかった?」

お酒も程よく回り、四人が四人とも饒舌になって来た頃、せつなが呟いた。

「そ、そぉかなぁ……?」

黙って聞こえなかったふりでもしておけば良いものの、ラブはついつい答えてしまう。

「ラブってば嘘が下手ね。ちなみに少し前からモロバレよ」

綺麗な色のアルコールが入ったグラスを美希はカランと揺らしながら軽く笑う。

「うん、ラブちゃんは隠し事とか出来ない子だよね。
この二年数回しか会ってない私にも、何かあったんだなぁってすぐわかったもん」

ラブはキョロキョロと目を泳がせる。

「無理に聞こうとは思わないわよ。
私たちだってもう大人なんだし、こっちから強引に踏み込むのは十代の特権だしね。
でも、さ……心配にはなるわ。
あの咲と舞が長い間喧嘩してるなんてね」

せつなの言葉に、美希と祈里は同時に頷いた。
三人ともなんとなく感じとっていたのだろう。
今の咲には何かが足りないということに。


「……ごめんね。でもやっぱり私からはやっぱり言えないかな」

何かを隠しているという罪悪感からか、ラブは小さくなる。

その様子をみて、美希とせつなは笑いだした。

「バカね、いいのよ別に。
いくら私たちが友達だからと言って秘密を持ったらいけないなんてことないんだから」

「そうよ、ラブ。
私だってラブにもせつなにもブッキーにも言えないことはあるし。
むしろ、大人になったな、と褒めてやりたいくらいよ」

「うう……ありがとう。
でも、潰れそうになったらいつでも頼ってね。
美希たんのためなら仕事サボるし、せつなのためならラビリンスでもどこでもいく。
ブッキーのためなら実験台になってあげるから」

「ラブちゃん、少し飲み過ぎだよ」

テーブルに顔を伏せ、涙声になったラブの頭を祈里は軽く撫でた。

「ラブは本当にお酒弱いわよね。
初めて飲んだ時とか面白かったわ」

珍しくせつながケラケラと笑った。


「せつなは強すぎなのよ。
私も弱い方ではないけど、いくらのんでも顔色ひとつ変えないあんたは異常よ」

「でもさ、正直お酒って美味しくなくない?」

泣いているのか眠っているのかよくわからないラブをよそに、三人の会話は進む。

「私は最近やっとわかってきたわ。最初の頃は付き合いや酔う為だけに我慢して飲んでたけどさ」

「そう?その割に美希はいつも美味しい美味しい言ってなかった?」

「若気の至りってやつよ……今も若いけどね」

飲める二人は大学生の頃からよく飲んでいた。
酒の味などわからぬ時だが、店の雰囲気とある種の大人の証を楽しんでいたようだ。

しばらく「お酒」というワードから湧き出る思い出話に花を咲かせ、それが一段落すると、そういえば、とせつなが切り出した。

「ブッキーって家を継ぐんじゃないの?」

空になったグラスの氷をカラカラ言わせながら祈里の方へ視線を向ける。


「うん、そのつもりだよ?」

「え?でもこっちで就職でいいのかな?まぁ、病院決めたんでしょ?」

驚いたように、美希が聞き返す。

「うん、まだお父さん元気だし、私がいなくても病院回るだろうしね。
それに、少しは外で経験積まないとだしね」

そんな話をしていると、ラブがむくりと起きた。

「……そういえば、お母さんがたまには帰って来いって言うんだよ」

会話の流れなどお構いなしに、勝手に話し出す。

「あんた頻繁に帰ってるじゃない」

だが、三人もそれをいつもの事だと気にしない。

「違う、私にじゃなくてせつなに。
私が帰ると、せっちゃんは?ってまず聞くんだよ。
だからさ、せつな今日あっち帰らないなら実家帰ろ」

せつなは一時期桃園家に世話になっていた。
こちらの世界から、元のラビリンスへ帰った今でもラブは桃園家の一員にせつなを数えている。
ラブだけではなく、圭太郎とあゆみも十年たった今でも当たり前のようにそう思っている。


「……そうね、そうしようかしら。
私も久しぶりにお母さんとお父さんにも会いたいし」

せつなはその事を心の底から感謝していた。
ラビリンスという国は全てが総統メビウスに支配された管理国家であった。
それゆえに本当の親が誰なのかを知っている人間はいない。
いや、実感が湧かない人間が多い、と言った方が正確だろう。
全ては国のデータファイルの中にあったが、親です。子どもです。と言われても本人達に実感はないのだ。

プリキュアによってメビウスが倒された後に産まれた子ども達だけが、本当の親を実感として持っている。

だからこそ、桃園家のこの態度は震えるほどに嬉しかった。

「ラブが復活したなら咲の話に戻そっか。
それで、私たちは何もしなくていいのね?
あの二人で解決できる事なのね?」

しんみりとした空気を入れ替えようと、美希はわざとらしく真面目な声をだした。


「……うん、正直私も詳しくは話してもらえてないんだ。
だから、何もしない。
誰かが……涙を流しているのをみて何か言葉をかけてやるのは無責任なんじゃないかって、最近思うようになったんだ。
私は咲の涙の理由を知らない……何も言えないよ……」

「そう、ね……。
正直心配だったのよね。
あの二人は絆が強すぎると中学生の頃から思ってた。
何か簡単な事でお互い傷つけあって、壊れてしまうんじゃないかって……」

美希は不安そうにうつむく。

「そうね、わかる気がするわ……」

「うん、咲ちゃんも舞ちゃんも……真っ正面から「大好き!」って感じだもんね」

なんとなく二人が付き合っているというのは高校生くらいの頃からみんな知っていた。
そして、それがすんなり受け入れられるほどに、咲の隣には舞が、舞の隣には咲がいたのだ。

「無責任かもしれないけどさ……本当に壊れてしまいそうになったら……」

「大丈夫だよ」

祈里がラブの言葉を遮り、言った。

「大丈夫って、わたし信じてる」

口癖は変わらないね、と四人は笑いあった。


~~~

「舞さん?」

薫の監視のもと、展覧会に出す絵を描き始めてから数日たっていた。
あとは仕上げと手直しだけとなり、舞は薫の監視を外された。

そして、なんとなく外をふらふらと散歩していると、突然声をかけられた。

「……え、と……どちら様ですか?」

振り返ってみたが、知らない顔である。
舞は困惑しながらその女性に尋ねた。

「ひっどいなぁ……私だよ私!」

呆れるように笑いながら、

「舞お姉ちゃん!っていったら分かる?」

そう言った。

「みのりちゃん!」

『舞お姉ちゃん』という響きに、一気に記憶が繋がった。

「そうでーす!みのりです!
すっごい久しぶりじゃないですか?」

「気づかなくてごめんなさい。
そうね、最後に会ったのって……六年前?
私が大学に入ってから会ってないわよね?」

チクリと舞の心に痛みが走る。

「そうだねー。
そういえばさ、舞お姉ちゃん……」

痛みがより鮮明になった。


「ご、ごめん!みのりちゃん!
私急がなくちゃいけないから……!
じゃあまた!次あった時は何かご馳走するからその時ゆっくり話しましょう!」

みのりの言葉にかぶせるように逃げるようにそういうと、舞は走り出した。

「ま、舞お姉ちゃん!」

「さん」と「お姉ちゃん」が混ざり混ざりになるみのりを可愛いと思うのと同じくらいに、舞はみのりに対して後ろめたさを感じていた。

大学を出てから咲が実家に全く帰っていない事は、ひかりや満からそれとなく聞いていた。
その理由は間違いなく自分である。

大学に在学中も、二人とも家にはそれほど頻繁に帰っていなかった。
お互いに、世界の中にお互いしかいなかったからである。
それ程までに深く深く想いあっていた。
周りが見えなくなるほどに愛し合っていた。

中学生から高校生という多感な時期にみのりから姉という一番身近な存在を奪ってしまったということも、罪悪感としてのしかかってくる。

その重さを肩に感じながら舞は走った。

「……ごめんなさい、みのりちゃん」

気がつくと涙がこぼれていた。

自分に泣く資格などありはしないのに、とさらに自分を追い詰めながら走る。


~~~

鍵をあけ中に入ると、部屋の電気をつけてカバンを放り出す。
BGM代りにテレビをつけると、服を脱ぎ捨てベッドへ倒れこんだ。

「舞……」

一人で冷たいベッドに横たわっていると無意識に少し前まで確かにあったぬくもりを探してしまう。

我に返りそれに気づくと、拳を握り思い切りベッドをたたいた。

「もう、嫌だよ……一人は……嫌だ」

失ってしまった温かさを、思い出すように身体を丸める。
そして、思い出に浸ろうと、静かに夢の世界へと微睡んでいった。


~~~

「おーい、朝だよー!」

中学、そして高校時代とは、明らかに変わった関係に二人はなっていた。

「あと……五分だけ……」

「ダメダメ、そう言って何回学校サボったのさ!
まぁ、そっちの学部は出席とかよりも技能が重視だから良いのかもしれないけどさ……」

咲と舞は大学生になっていた。

同じ大学に進学し、当たり前のように二人一緒に住んでいる。

「私、今日学校サボる……。
課題仕上げなきゃだし」

ウトウトとしたまま、だからもう少し寝かせてくれ、と舞は言う。

「だーめっ!朝ごはん作っちゃったし、一緒に食べよ」

「……もう、咲はうるさいわね」

「そんな私と一緒に住む事を決めたのは舞でしょ。
ほら、起きた起きた」

「……わかったわ……はい、起きた」

ゆっくりと身体を起こすと、舞はそのまま傍に立つ咲の腹部に抱きつく。

「きっと、咲が悪い。
咲の抱き心地が良すぎるから眠り癖がついたんだ」

「なにをわけのわからん事を……。
手、一回離して」


言われたとおり舞が手を離すと、咲は舞を抱きかかえた。

「ほら、お姫様抱っこ!なぎささんみたいに王子様ってガラじゃないかもしれないけど……。
私と舞なら、やっぱり私が王子様だよね!」

舞はお姫様、と言いながらそのまま舞をリビングへと運んで行く。

「それにしても舞は軽いね」

ニコニコと幸せそうに、咲は笑った。

「咲が力持ちなだけよ」

まだ覚醒しきらない頭で答えると、咲は相変わらずの笑顔を浮かべる。

「ふふふ、エースで四番ですからね!」

「そうだった……咲ってば、運動選手なんだからこんな事したらダメよ!
ごめんなさい、私ったら……」

エースで四番、というのを聞くと舞は一気に目が覚めた。

「ほら、おろして!変な力の入れ方とか使い方して腕とか肩とか痛めたら大変よ!」

「きゅ、急に目覚めたね……。
別に舞くらいなら平気だけど……まぁいいか」

舞の気迫に少々たじろぎながらも椅子に座らせる。


「もう、咲はスポーツ特待生から外れたら卒業できないんだから身体大切にしなさい!」

「はい……すみません。悔しいけど返す言葉もございません」

「それに、私はソフトボールをやってる時の咲が一番好き。
だから……私のせいで怪我なんかして欲しくないし……」

元を正せば起きなかった自分が悪いのでは、と思い舞の声から威勢が失せて行く。

「うん、私も絵を描いてる時の舞が一番好きだな。
ごめんね、でも嬉しいよ。だって、それほど舞が私の事を大切に思ってくれてるって事だもんね!」

「ううん、私こそごめんなさい。明日からはちゃんと起きるわ」

目が覚めた状態では舞はパリッとしている。
寝起きの子供のような舞を知っているのは咲だけだ。
咲はそれがたまらなく嬉しかった。

「ううん、私舞を起こすのもすごく好きだからさ。今のままでいいよ!」

大学四年間の間、この穏やかな関係は続いていた。


ここまで

ではまたよろしく!

乙!
とりあえず全裸待機…で、いいんだよな?


~~~

私たちの関係が変わったのは高校一年の夏だった。

「咲!……なにやってるの?部活は?」

「ま、舞?舞こそ部活は?」

確か、夏休みがはじまってすぐのことだった。
たまたまその日は急に私も咲も部活が休みになった。
お互いの部活の日は確認していたし、二人が急に休みになるなんて事はないと思っていたから、私は一人でチョッピ達に会いに大空の樹に来たのだ。

しかし、そこにはすでに咲がいて、フラッピとなにやらこそこそ話をしていた。

「まーい、久しぶりチョピ!」

なにをこそこそと話していたのかを聞こうとすると、チョッピが私の胸に飛び込んで来た。

「久しぶり、といっても一週間ぶりくらいじゃない」

「それでも、少し前までは毎日一緒にいたから久しぶりチョピ!」

優しく抱きとめ、頭を撫でる。

「フープとムープは?」

「二人は空の泉ラピ。薫と満と四人で空の泉で遊ぶって言ってたラピ」

「そうなの。で、二人は今日はどうしてこっちに?」

なにを話していたかは聞くタイミングを逃してしまった。
三人がそれぞれ隠そうとしているのが丸わかりだったからだ。


「咲が朝ここに来てフラッピ達を呼んだラピ。
きっと、舞も部活休みになったの知らなかったから暇だったんだラピ!」

「そ、そうそう!今朝キャプテンから電話来てさ、うちの高校でなんか会議やる事になったから部活は中止って言われちゃってさ。
まさか舞も部活なくなってるとは思わなかったよ!」

咲は若干顔を赤くしながら慌てた様子でそう言った。

咲が何かを隠している。
その事がよりわかってしまってなんだか私は悲しくなって来た。

「……そっか。
これからどうするつもりなの?
暇ならどこか……遊び行かない?」

「えっと……そうだね。別に良いよ!
でも私部活行く格好のまま来ちゃったから一回家帰って良い?」

フラッピ達はどうする?と咲が聞くと、

「フラッピとチョッピはフィーリア王女のところへ行くラピ。
ゴーヤーンを倒して泉の郷も緑の郷も平和になったけど、フュージョンやボトムの事もあるし、まだまだ油断は出来ないラピ」

「フュージョンにボトムか……。
でも大丈夫だよ!私には舞がいる!私と舞はどんな敵にも負けないから!
それに、なぎささん達やのぞみ、ラブにつぼみちゃん達もいるしね!」

「頼もしいラピ!」

咲はフラッピとハイタッチすると、そのまま私の手を引いて走り出した。

「咲、頑張るチョピ!チョッピは応援してるチョピ!」

背中越しに聞こえたその言葉の意味を、私は知りたくなかった。


~~~

「……いま、何時だろ……?」

蛍光灯の灯りがチカチカと目にしみた。

幸せだった頃の夢と、今の現実のギャップに心が冷たくなる。

「なにをどう間違えたのかな……」

舞の存在を感じさせるものは全て実家へ送った。
だが、たったひとつだけどうしても手放せないものがあった。

「……」

じっとそれを見つめる。
一緒に住んでいた頃、私がこれを未だに使っている事を舞は恥ずかしそうにしていた。

「……舞手作りの咲ちゃんクッション。これもらったのも、もう十年も前……か」

無邪気だったあの頃。
あの頃と今では何が変わってしまったのだろうか。

「……三時半か。もうなんか、本当に嫌だな」

手を伸ばしクッションを掴むと、そのまま自分の元へ持ってくる。

――舞の匂い。残ってる……。
そう言えば、これ使ってるのほとんど舞だったよね……。

大学時代、私は遠征や試合など家を空ける機会が割と多かった。
何日か家を空けて、ヘロヘロになって帰って来た時に、これを抱きしめながら寝ている舞を何度か見た事があった。

そして、起きると舞はいつもこう言う。

『咲、おかえりなさい。やっぱり本物が一番良いわね』

そう言いながら、私に抱きついてくる。

そんな舞が可愛くて、愛おしくて、大切で、大好きで……。

夢のない眠りへ私は落ちて行った。


~~~

「んじゃ、着替えてくるから少し待ってて!……ほら、コロネ来たからてきとうに遊んでてよ」

そういうと、咲はさっさと家へと駆けて行った。
一人残された私は咲の消えた扉を見つめる。

「どうしよう、コロネ。少し前まではなんでも気軽に聞けたのに……最近駄目。
なんでかな?」

フィーリア王女が泉の郷へ帰った今、コロネもう喋ることの無いただの猫だ。
しかし、こちらの言葉はわかるようで話しかけるとにゃーんと返事をしながら、足に顔をこすりつけて来た。

「ふふ、ありがとう。
どうしちゃったんだろうね……私」

しゃがみ込み、コロネを撫で回す。
普段は嫌がるが、今日は特別されるがままになってくれるようだ。

「はぁ……咲とフラッピたち、何を話してたのかしら」

私はまだこの時気づいていなかった。
あまりにも恋というものを知らな過ぎたのだ。

咲に聞けなかった理由、それは咲に嫌われたくないという気持ちが強過ぎたせいだったとあとから気づいた。
咲を失うわけがないという自信は
同時に咲を失いたくないという強い気持ちも育てていたのである。

何を話していたか、それを聞いたくらいで壊れる関係でないのは自分が一番知っているにも関わらず、少しでも関係を壊す可能性のある事はしたくなかったのだ。

その理由も今ならわかる。


~~~

「きっと、明確な印がなかったから。咲が私のものだって明確な証がなかったから……。
あの頃はプリキュアになる事も本当に少なくなったし、気づいてしまったのよね。
咲と最も強い絆はプリキュアであるという事で育んで来たものだって……」

プリキュアとして戦う必要が少なくなった時、咲がいつか私の元を去るのではないかという恐れはあった。
それが、咲に対する最大の侮辱だと当時の私は気づけなかった。

「舞!何してるのよ!」

「……ひかりさん?」

私はみのりちゃんと別れたあと闇雲にただ走り続け、限界が来たところで適当なベンチにぼんやりと座っていた。

ぼんやりと考えていたのは咲の事ばかりだった。

自分ではほんの数十分経っていても一、二時間だと思っていたが、ひかりさんの声に我に返ると、あたりは真っ暗になっていた。

「あれ、今何時?」

「もう夜中よ!
夕方三時ころ薫から舞が消えたって連絡もらって……九時くらいにまだ帰って来ないってメールもらって……もう!」

ひかりさんは珍しく怒っているようだった。

「ごめん、なさい……」

「……今まで聞かなかったけどさ……二人の間に何があったの?
話して楽になる事もあると思うよ。
私じゃなくってもなぎささんやほのかさんや、あかねさんでもいい。
一人で背負いきれないなら……頼ったっていいんだよ、友達だもん」

月が夜空に大きな花を咲かせるように穏やかに輝いていた。

「久しぶりに、空を飛びたいな……」

「飛べるよ、だって舞は……鳥の精霊のプリキュアでしょ」

久しぶりに眺めた大空には、沢山の星が瞬いていた。


~~~

「お疲れ様でーす!」

収録が終わり、スタジオを後にする。

「お、うららちゃん!今日もなかなか良かったよ」

監督さんやその他のスタッフさんからの言葉にいちいち反応し、やっと楽屋までたどり着いた。
ぼんやりとメイクを落とし、髪をとく、衣装から私服へ着替え落ちつける格好になるとどっと疲れが押し寄せて来た。

「……つっかれたぁ。
明日は……」

「お疲れ様、明日は昼からだから久しぶりにたくさん寝れるよ」

スケジュール帳を確認しようとすると、何時の間にか入って来ていたマネージャーさんがそう言いながらお茶を差し出してくれた。

「そっか。じゃあ今日は……」

さっさと帰って寝よう。
そう言おうとしたら、扉がノックされた。

監督やらプロデューサーやらからのご飯のお誘いだったら断れないな、と憂鬱な気分が頭をよぎる。

「……はーい、どうぞー?」

「やっほー!うららひさしぶりぃ!」

扉が開かれ入って来たのは、監督でもプロデューサーでもなく、本来ここにはいるはずのない人間だった。

「……の、のぞみさん?」

「うん!そうだよ!たまたまこのスタジオにうららいるってことを知ってさ。
会えるかなぁと思って仕事帰りに寄ってみたんだ!」

「よ、よってみたって……どうやって入ったんですか?」

相変わらず予想の上を行く先輩だ、と久しぶりに実感できて少し嬉しくなる。


「えー?普通に、春日野うららの友達ですっ!って言ったらいれてくれたよ」

「いやいやいや……そんなわけ……」

と、ここであることに気がついた。

「鷲尾さん、もしかして……鷲尾さんのぞみさんが来ること知ってた?」

普段の彼ならもっと驚き騒ぐだろう。
大事な商品の元へ友達とはいえ一般人が簡単に辿り着けるセキュリティの甘さに肩を落とすはずだ。

「あっはは……最近うらら元気なかったからさ。
さっき偶然のぞみさんと会ってね。
明日休みだと言うから、今日は久しぶりにうららと会ってやってくれないか、とお願いしたんだよ」

「そう、だったんですか……。
なんか、気を使わせてすみません。
でも、ちょうど良かったです。
私のぞみ“先生”に相談があったんですよ!」

久しぶりに素直に笑うことが出来た気がした。
やはり、のぞみさんは特別な人なんだと実感も改めて湧いて来た。

「じゃあ、ご飯食べに行きましょう!」

「却下!」

「へ?」

予想外の答えに、マヌケな声を出してしまった。

「今日は今からスーパー行って買い物をしまーす!
私も一人暮らししてたからね、料理できるようになったし、私が何か作るよ!けってぇーい!」

かなわないな、と予想通りに、予想の上を行く先輩に私は笑った。


~~~

――あと、ひとつ。あとアウトひとつで試合は終わりだ。

帽子をかぶり直す。

――……なんだろ、夢のせいかな。少しだけ今日は調子いい。

大きく腕を回し、キャッチャーミットめがけてボールを放つ。
そのボールは打者のバットをくぐり抜け、気持ちのいい音を響かせながら狙い通りミットに収まった。

「ストライク!バッターアウト!」

アンパイアの掛け声に、チームメイトがよって来る。

「咲!調子良かったじゃない!」

「なんか、大学時代の咲さん思い出しましたよ!」

――……足りない。

どれだけピッチングを褒めてもらっても、私が聞きたい声は聞こえて来ない。

夢はやはり夢なのだと、今更思い知らされる。
どんなに幸せだった時を思い出しても、それは所詮過去なのだ。

「……私、舞がいないとダメなんだ」

「え?」

ぼそりとした呟きをチームメイトたちが聞き返して来る。

「……ううん、なんでもないっ!
本日は絶好調なりぃー!って感じのピッチングだったでしょ?
今年は去年のような醜態晒しませんよ!」

作った笑顔でそう言う。

大学を出てから出会った人の前では作った笑顔しか、出来なくなっていた。


~~~

「あっ!」

のぞみさんの声に、私はビクッと肩を震わせる。
あの後、のぞみさんのいった通りに鷲尾さんはスーパーへより、食材を買い込んだ。
そして、そのまま私を家へと送り届けると、楽しめよ、と言葉を残して帰って行った。

私のいま住んでいるマンションにのぞみさんを招くのは初めてだ。
というか、鷲尾さんと家族以外を招くのは初めてだ。

一通り部屋を見回すと、のぞみさんは早速台所に立った。
綺麗にしてるね!と褒めてくれたがほとんど使わないから、汚れ様がない。

そして、恐怖はここから始まる。

「の、のぞみさん?手伝いましょうか?」

「うららがつくると全部カレーになるからいい!
あ、シャワーでも浴びて来たら?大船に乗ったつもりで待っててよ!……あれぇ?」

「のぞみさん!歯医者さんとコックさんは「あっ!」とか「あれ?」とか言ったらいけない職業だと思うんですが!」

そう、のぞみさんは料理をしはじめてから数分おきに「あっ!」だとか「あれ?」だとか「ん?」とか言うのだ。

不安にならない方がおかしい。
りんさんならまだしも、のぞみさんだし。

「大丈夫だもん!私意外と料理うまいんだから!」

「……のぞみさんは、変わりませんね」

きっと人気のある先生なんだろうな、と生徒たちを羨ましく思うのと同時に、不安だとかは消え失せた。

何だかんだ言って、ピンチに陥った時、いつも私たちを引っ張ってくれたのはのぞみさんである。

「じゃあ、お言葉に甘えてシャワー浴びて来ますね!」

のぞみさんの、は~い!という気の抜ける返事を聞きながら、私はシャワーを浴びる準備を始めた。

ここまで
少し書き方を変えた

今回のゲストキャラは5からのぞみとうららちゃん!

ではまた


続き期待!

期待

スプラッシュスターのBOX買った俺にはタイムリーなスレ

期待


~~~

ひかりさんに家まで送ってもらい、
一緒に薫さん満さんに謝ってもらうと
二人はため息をつきながら帰っていった。
薫さんは“これが遺作展覧会になったら笑えない”と言い、
満さんは“やっぱり舞もバカだったのね、騙されてたわ”と言っていた。
その余裕さに逆に心配してくれていた事をひしひしと感じ私はひたすら謝った。

二人が帰ったあと、ひかりさんは簡単につまめるものを手際良く料理しながら、こんな事を言い出した。

「そういえば、近頃なぎささんよりもほのかさんがよく来るよ」

「え?」

ほのかさん、という名前に少しだけどきりとした。

「ほのかさんさ、なんか妙に舞の事を気にかけてたから……。
意外と仲良いんだねって思って……」

「ほのかさん、か……」

大学院へ進んだ事は知っている。
しかし、最後に会ったのは私が大学四年でほのかさんが大学院に入った時だ。


「……ねぇ、舞」

光さんが料理の手を止めた。

「なに?」

「話ならいつでも聞くからね。
お店も一日くらい出さなくても平気だし、呼んでくれたらいつでも駆けつけるからね?」

ひかりさんは私とも咲とも一緒にいる時間が長い。
そして、薫さんや満さんほど、サバサバとした性格でもない。

きっと、私たちふたりのことで一番気を揉んでいるのはひかりさんだろう。

「……そうね、ひかりさんには話しておこうかな」

きっと私はもう限界だったのだろう。

「喧嘩の原因?」

「ううん、私たち喧嘩なんかしてないのよ。
ただ、私が咲を傷つけただけ。
それが怖くって逃げてただけ……」

幸せだった時間。
すれちがった瞬間。
逃げ出した自分。
それらを初めて私は語りはじめた。


~~~

「おっまたせー!」

コロネとじゃれていると咲が服を着替えておりてきた。
珍しく、いつもとは雰囲気の違う可愛らしい格好をしていた。

「……かわいい」

咲はかわいい。そんな、今まで普通にわかっていた事に、今更ながら驚いた。

「……あ、ありがとう。
これね、えりかが選んでくれたんだ!
勝負ふ……いや、なんでもない。
前に買い物いった時、えりかにこんなのも似合うんじゃない?って言われてついつい買っちゃった」

勝負という言葉を消そうとするかのように咲は慌てながら次々しゃべる。

私の心に黒い影がかかるのを感じた。

「そ、そっか。……どこいく?」

早く話を変えたかった。
咲が自分の知らぬ何処かで笑っている光景を想像したくなかった。

「んーっと……水族館……とか、どうかな?」

水族館、と聞いてまた私の胸が痛んだ。
少し前にプリキュアの皆と遊んだ時、年頃の私たちは当然恋の話とかにもなる。
その時、誰が言い出したかは覚えていないが、デートするならどこに行きたいか、という話になった。
恐らくこういう話を出すのはえりかさん当たりだろう。


~~~

「じゃあさ、じゃあさ!みんなはデートするならどぉこ行きたい!とかってあるの?」

えりかのやつ、また私をからかおうとしてるな。
でも、そうはいくかっての!

「そうだなぁ……私はベタなところがいいね。
海とか映画とかスケートとかさ!」

「……なぎささん、うまく逃げたね」

もうえりかの策略には乗らないよぉ~だ、と笑って見せる。

こんかいおちょくられる役は悪いが咲とラブに引き受けてもらおう。

そんな事を考えていると、えりかはターゲットをすぐに私から咲に移した。

「咲は?なぎささんと同じー!ってのはなしね!」

えりかはニヤリ、と笑いながら咲に詰め寄った。

「えぇー?……そう、言われてもなぁ……」

咲はチラリと舞のほうを見たが、舞は関心無さ気にほのかとおしゃべりしていた。
だが、あとでほのかになに話してたか聞いたら、

『舞さんったら必死に咲さんの話に興味ない振りしてて可愛かったわ』

といっていた。

キュアブルームとキュアイーグレット。
この二人はプリキュアの中でも基本性能が恐ろしく高い。

みんな頼りになるが、その中でも群を抜いて頼りになる後輩だ。


これは、全プリキュアに言える事だが、プリキュアをやってる時のみんなの格好良さは半端ない。
そんな、かっこいい後輩の可愛い姿を見せられると、先輩としては嬉しかったりする。

大人ぶるつもりはないけれど、中高生の時は、一年の違いが結構大きかったりするからね。

「私は……水族館、かな?
ほら、私の地元海だしね。
本当は花の咲く大地のプリキュアらしく植物園とかお花畑とか言いたいけれど……正直そういうところはつぼみちゃんやりんと行きたいかな」

「咲失格だよ!もっとこうさぁ……私は恥じらってるなぎささんや咲が見たいんだよ!
そんな、普通に真面目に答えられたら私一人子供みたいじゃん!」

「え?えりかさん一人子供って……どこか間違っている?」

「こまちさんって、ぽやぽやしながらひどいこというよね……」

ふてくされながら、つぼみに寄りかかるえりかは可愛かった。
でもね、私は知ってるよ。
えりかは誰よりも優しい子だってね。

からかうためだけにいつも私たちに話を振ってるんじゃない。
少しでもリサーチして、たまたまを装って色々アドバイスくれるもんね。

何かイベントがあると、えりかはその度に「○○で**やってるから今度みんなで行こうよぉ~!」とさりげなく教えてくれる。

えりかなりに、私や咲やラブの恋を応援してくれていることが私は嬉しかった。
その恋の対象が、変わっている事に気づいているのかどうかは知らないけれど……。


~~~

私は気づいていた。
咲がお兄ちゃんを好きなことに。
私は咲が大好きだったから、わかってしまった。
そして、大好きなお兄ちゃんになら咲を取られてといいと思っていた。
思っていた、はずだった。

しかし、それはきっと嘘だったんだろう。
いつもと雰囲気の違う服。
水族館。
同じように恋をしてそれを叶えたフラッピ、チョッピとの内緒話。

――あぁ、咲はきっとお兄ちゃんに告白するつもりなんだろう。

すぅーっと頭が白くなった。
お兄ちゃんも咲の事を多分好いてる。
勉強できるくせに、おバカで鈍感だから自覚はないと思うけど……。
じゃなきゃ、クリスマスや誕生日に渡すプレゼントであんなに真剣に悩むことは無いだろう。

それに、家で私と話をしている時も咲の事ばかりだ。
これは、私も咲の話題ばかり出すからかもしれないけれど、夕飯後やお風呂のあとにぼんやりしていると、

「今日の咲ちゃんは何か面白いことした?」

と聞いてくるのだ。

ただ、それでも無自覚なのが恐ろしい。

一度だけ、お兄ちゃんに咲を好きなのか聞いてみたことがあった。
お兄ちゃんはケラケラ笑いながら、

「え?咲ちゃん?咲ちゃんはいい子だから大好きだよ。
なに?ヤキモチでも焼いたか?心配しなくても、舞の事も好きだよ?
しっかり嫁にいくまではお兄ちゃんが助けてやるから安心しろよ」

そう言った。

咲に対する“好き”と私に対する“好き”は種類が違う事を本人はまるでわかっていない。
名前を呼ぶ時の表情は変わらないが、目の色が変わる。
咲の名を呼ぶ時は、優しい色にふっと変わるのだ。
妹の私だからわかる。

きっと、咲に思いを告げられたら、お兄ちゃんは一気に自覚するだろう。
そして、二人は結ばれる。

そうしたら、きっと私は置いていかれる。
大好きな咲とも、お兄ちゃんとも、埋め難い溝が出来てしまう。

「水族館……」

様々な事をぐるぐる考えながら、私は呟いた。

「あれ?嫌だった?
なら、他のところいく?」

少しだけ、咲の顔が曇った。

「う、ううん!いいわよ。
咲と二人ならどこだっていいわ」

そういうのが、精一杯だった。


~~~

「うわぁ、すっごいねぇ!舞!」

キラキラ光る水槽の前で、咲は大はしゃぎする。
そんな楽しそうな咲を見て、私の心は激しく揺れ動いた。

――可愛い、すっごく……可愛い。

ニコニコキラキラ笑う咲は抜群に可愛かった。

しかし、

――この、笑顔も……そのうち私のものじゃなくなる……。

咲が離れていくという未来が、私の心を曇らせる。

水族館をフラフラと二人で回っていると、ひと気のあまりないフロアにたどり着いた。

「……ここ、いいね」

そこは子供向けというよりも、大人向けな落ち着いた雰囲気のフロアだった。
家族連れは居らず、ゆったりとした穏やかな時間がそこには流れている。

「私も子どもだけどさ……」

咲が私の手を取った。

「舞といる時は、こういう静かな場所が落ち着く。
舞の存在だけが、感じられる距離にいるから……こういう、静かなところが好き」

普段の元気いっぱいなかわいい笑顔ではなく、大人っぽい綺麗な顔で笑った。


それを見た瞬間、私の目からは涙がこぼれた。

「ま、舞っ?
どうしたの?大丈夫?」

「ごめん、なさい……。私……わた、し……」

突然の事に、咲はあたふたとしている。

「な、なにが?どうしたの?」

「咲……好きな人がいるでしょ?」

「え?」

「そして、近いうちにその人に……想いを告げようとしてるでしょ?」

「えぇ?」

咲の顔がどんどん赤くなっていく。
本当に、咲はわかりやすい。

「多分、親友として……それは喜ぶべき事なのよね……。
でも……でも、私は……」

その先は言えなかった。
言ってはいけないと思った。

「……ごめんなさい……」

私は咲から顔を背けた。
そうする事しか、できなかった。

「まーい!」

名前を呼びながら、咲が後ろからふわりと抱きついてきた。

「大丈夫だよ……。
私が、舞の側から離れるわけがない。
舞の言っていた事ね……全部当たり。
私は今日、好きな人に大好きだって言うつもり」

心に釘を打たれるような、痛みが走る。


「……でもね、私は勇気がなくてさ。
だから、フラッピやチョッピに勇気を貰ってたんだ……。
『咲なら大丈夫ラピ~』とかなんとか言ってくれたけど……全然ダメだって気づいたよ。
私には、舞がいないとダメ」

咲の腕の力が少しだけ強くなる。

「私にいつも勇気を運んできてくれるのは、舞だから……」

力がさらに、強くなった。

「舞、私が好きなのは……舞だよ。
ずっと、言いたかった。けど言えなかった。
もしも、舞との関係が壊れたらって……考えただけで私泣いちゃうもん」

耳元に咲が囁く。

「でも、言わなかったら言わなかったで……いつか舞がいなくなるんじゃないかって……。
舞……ずっと私の側にいてくれる?」

またひとつ、涙がこぼれた。
しかし、さっきまでの涙とは意味が変わっている。

もっともっと甘く優しいそんな、涙がこぼれた。

「さき……私も、あなたが好き。
大好き、誰にも……渡したくない」

胸のあたりにおかれている咲の手を両手で握る。

「……やっぱ、舞と手をつないでいれば……なんでも出来る気がするね」

暖色系の薄暗い光の中で、私たちは初めて唇を重ねた。


~~~

「あら?舞さん?」

大学院へ進学した年の夏、偶然街の中で舞さんを見つけた。

「あ、ほのかさん……こんにちは!」

「こんにちは!……咲さんは?」

なんとなく、ふたりはいつも一緒にいるイメージなので聞いてしまう。
私も一人でいると「なぎさは?」と聞かれるので私たちもふたりセットなのだろう。

「咲は部活の遠征で今日は泊りなんですよ。
そちらこそ、なぎささんは?」

「同じよ、なんか北海道だか青森だかに行くって言ってた」

予想通りの質問に、少しだけ頬が緩む。

「じゃあ今日は家に帰っても一人なのよね?
良かったら、たまにはふたりで飲まない?」

どうしてこの時舞さんを誘ったのかは自分でもよくわからない。
ただ、そうしたほうがいいと思ったのだろう。

「そうですね、いいですよ。
そういえば、私とほのかさんとふたりってのは珍しいですよね」

「いつもなぎさか咲さんがいるものね」

ふたりして、クスクス笑う。

「じゃあ、私これから少し学校の方行かなきゃだから、六時くらいに待ち合わせでいい?」

「はい。どこ行きます?」

「私はどこでもいいけど……舞さん行きたいところとかある?」

「うーん、無いですね。
あ、良かったらうち来ます?そしてそのまま泊まってくださいよ」

「いいの?」

「えぇ、もちろんです」

「じゃあ、そうしようかな……。
またあとで連絡するわね!」

私たちは一旦別れた。


~~~

「……結構飲みますね。足りますか?」

私が舞さんたちのお家へ着くと、舞さんはご飯を作って待っていてくれた。

軽く夕食を食べ、ふたりで簡単なおつまみを作る。
そして、先に寝る準備をしてしまってから、飲みはじめた。

「大丈夫よ、顔に出ないだけだから」

「いや、でも相当強いんですよ。
私の倍は飲んでませんか?」

「そーんなこと、ないわよぉ。やーねぇ、舞さんったら」

私は酔うと少し饒舌になる。
なぎさなんかは、子供になるから可愛いと言ってくれるが、正直めんどくさい女だと思う。

「そういえば、ほのかさんとなぎささんっていつから付き合ってるんですか?」

「んー?高校入ってすぐくらいかなぁ」

「へぇ、私たちとあまり変わらないんですね。
ちなみにどんな感じで?」

この時私は気づいた。
私はきっと、なぎさと私の話をするために、舞さんを誘ったのだと言う事に。


~~~

高校に入って一ヶ月がすぎようとしていた。
なぎさとはクラスが別になってしまったので、最近ほとんど会っていない。

「はぁ……最近、すれ違いっぱなし」

廊下をとぼとぼと歩きながら、一人ため息をつく。

「ゴールデンウィークは、なぎさとのんびり過ごしたいな……」

もうすぐそこまでやってきた連休は親友と過ごしたいと願ってみるが、それも儚い夢だと私は知っている。

「でも、無理よね……多分練習よね」

ひかりさんを誘ってみようとも思うが、ゴールデンウィークはあかねさんの手伝いが忙しいだろう。

「なーんか、私って友達少ない?」

なぎさと出会うまで、休日はおばあちゃまとのんびり過ごしていた。
別にそれも悪くないが、その穏やかさになぎさとひかりさんという欠かせないパーツをもう味わってしまった。
だからこそ、どこか寂しくなる。

「ほーのか!」

「わっ……て、なぎさぁ」

足を止め窓の外を眺めていると、後ろからなぎさが飛びついてきた。
心臓の鼓動が早くなったのは、なにも驚きだけが理由ではないだろう。

「なーんか、久しぶりだよね。
クラス違うとなかなかゆっくり話もできないし」

「そうね……なぎさは、ゴールデンウィークも部活でしょ?」

「……うん。あ、でも一日くらいは休みあるからさ!遊ぼうよ!」

「そうね、でも休んだほうがいいんじゃない?」

「んー、じゃあほのかの家でのんびりさせてよ!」

なぎさも私といたいと思ってくれている。
それが、伝わってきて嬉しかった。

「うん……私は大歓迎よ」

微笑むと、なぎさも微笑みを返してくれる。
なぎさの笑顔が見られるならば、まだ我慢出来ると思った。


~~~

「雨、かぁ……」

ゴールデンウィーク一日目は雨だった。
土砂降りというほど降っておらず、小雨というには強いちょうどいい雨音が耳に心地良い。

「なぎさ、風邪とかひいてないといいけれど……」

庭に降り注ぐ雨粒を数えながら、頭に浮かぶのはなぎさの事ばかりだ。

「ほのか」

雨音が自分のリズムに合ってきた頃、おばあちゃまが私を呼んだ。

「なぁに、おばあちゃま?」

「お客さんですよ」

「お客さん?」

ニコニコしながらおばあちゃまが連れてきたのは、なぎさであった。

「やっほ!部活早く終わったからさ、少しほのかと話そうと思って……」

雨に濡れた髪に、タオルを被せながらなぎさは笑った。

「か、風邪ひくわよ!早く乾かさなきゃ!」

「えー?平気だよ、ほのかのおばあちゃんにタオル貸してもらったし」

「お風呂沸かすから、入って行きなさい」

「あ、おばあちゃま、私がやるわ」

「いいんですよ、なぎささんと話すのは久し振りなんでしょう?
ゆっくりお話なさい」

おばあちゃまは嬉しそうにそう言った。


「えへへ、ありがとうございまーす!
……ほのかは今日なにしてたの?」

明るくおばあちゃまにそう言うと、なぎさはくるりと私のほうを向いた。

「え?なんだろ……ぼーっと?」

「えー?珍しいじゃん!そういえばほのかは部活入らなかったけど、どうして?」

なぎさが空いた日にいつでも合わせられるように、とはなんとなく言えなかった。

「えっと、大学受験のため、かな?」

誤魔化そうとするとそんなつまらない答えしか出てこない。

「あー、ほのかは頭良いもんね。
私は大学はどうしようかな……ほのかと同じところは絶対無理だから、近くのところにしようかなぁ」

ごしごしと頭を拭きながら、なぎさはため息をついた。

「私が行きたい大学は、スポーツ推薦もあるわよ?」

「そうなの?でも大学の部活なんて今より厳しそうじゃん?
練習自体に着いてくのは出来ると思うけど、ほのかと会えなくなるのは嫌だな」

そんな、普通の会話を楽しんでいると、おばあちゃまがお風呂がはいったことを知らせてくれた。


~~~

「大学、か……」

なぎさが帰ると、私は今日話題に上がった進学の事をぼんやり思い起こしていた。
いっそのこと、両親のいるパリへ行ってしまおうかとも考えた。
近くにいるのに会えない事ほど辛いことはないと知った。

でも、なぎさのいない場所に行く勇気は私にはなかった。
例え、会えなくても同じ場所に居たいと思った。

そんな事を考えていたら、急に怖くなってきて、いても立ってもいられなくなった。

「……っ!」

私は傘も差さずに家を飛び出した。
時間は何時かわからない。
おそらく、十時とか十時半とかだろう。

雨は昼間よりも勢いをまし、私はすぐにずぶ濡れになる。
それも気にせず、ひたすら走る。
目的地ははじめから決まっている。

息を切らせながら、必死に走る。

そして、やっと、たどり着いた。

「な、ぎさぁ……」

たどり着いた場所はなぎさの住むマンションのロビー。

髪から、袖から、全身から雨水を滴らせ、私は美墨一家の住む部屋を目指した。

しかし、階段を登っている途中に頭が冷えた。

こんな時間にインターホンは鳴らせない。
なぎさだってきっと寝ている。

部屋の前で立ち尽くす。

この扉が、私となぎさの間に今ある壊せない壁なんだと実感した。


ぽろぽろと涙をこぼしながら私は今登ってきた階段を下る。

もう、ここまでだと思った。
これからどんどんあの扉は強固な頑丈なものになると確信していた。

ロビーに到着し、自動ドアをくぐり抜けた。

その瞬間、

「でん、わ……?」

スカートのポケットから、振動を感じた。

着信相手を確認せずに出ると、声になったかならないかくらいの声量で「はい」とだけ言った。

『ほのか、どうかした?』

電話口から聞こえてきたのは今一番聞きたかった声だった。

「な、ぎさ……」

『あれ?外にいる?
というか、もしかして今うちのマンションにいる?』

「なぎさぁ……」

『そこから動かないでね、すぐ行く!』

通話が切れると、本当になぎさはすぐにきた。
階段を転げ落ちる勢いでくだり、私を見つけると、その勢いのまま飛びついてきた。

「ほのか、どうしたの?大丈夫?」

私をぎゅっと抱きしめながら、なぎさは子どもをあやすような声で囁く。

「わ、たし……わたし……なぎさ……」

「大丈夫、私はここにいるよ。大丈夫だよ」

そのまましばらくの間、私が落ち着くまでなぎさはしっかりと私を抱きしめてくれていた。

「……落ち着いた?おばあちゃんには外に行く事言ったの?」

首を横に振る。

「そっか、今日はうちに泊まりなよ。
亮太は合宿でいないし、親も旅行行ってていないからさ。
とりあえず、お風呂はいって温まろ?」

小さく頷き、私はなぎさに手を引かれながら、エレベーターに乗り込んだ。


~~~

「おばあちゃんには連絡いれといたから安心して」

お風呂からあがると、なぎさは優しく微笑みながらそう言った。

「私……」

「いいよ、別に。言いたくないなら聞かない。
でも、よかった。ほのかが私を呼んだ気がしたんだ、だから電話した」

「なぎさ……私ね……ダメみたい」

「なにが?」

「なぎさがいないと、どうしようもなくダメみたい」

「私はずっと側にいるよ?」

「そんなの……わからないじゃない!」

「証明が欲しいの?」

なぎさの声が真剣な鋭いものになった。

そして立ち上がると、芝居がかった口調で言った。

「……あぁ、ジュリエット……僕は決して諦めない。
あなたをこの腕に抱くまでは!」

「……ロミオ……どうして……あなたはそんなに……強いの?」

中学生の時にやったロミオとジュリエット。

もうセリフなんて覚えてはいない。

「ジュリエット……いや、ほのか!
僕は……私は、あなたが大好きだ。
一生離れたくないくらいに……っ!」

「……なぎさ……わたしも、あなたが好き。
大好き……」

「私は強くなんかない……思いを伝えるのも、今みたいな予防線張らなきゃ出来ない。
だけど、この気持ちは、本物だよ」

優しく私を抱きしめると、そのまま唇を重ねた。

「これが、証明……」

ほとんど二人の距離が零の位置で、なぎさは甘くつぶやいた。

はい、ここまで

次回もよろしくお願いします

乙!
いいねェ…切ないねェ…
次回も期待して舞ってるよー


~~~

「なんか、私たちと似てますね」

ほのかさんはにっこり笑ったあと、

「あなたたちが、私に似てるんじゃない?」

そういった。

そうだ。
確かに、その通りだ。

「二人は、その……」

「いつ一線を超えたか、って話?」

私が言い難そうにしていると、ほのかさんはオブラートに包んだ表現でそう言った。

「えぇ、まぁ……」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃない?
女同士だし、そういう話にもなるでしょ」

大人だな、と思った。
そして、私は子供だな、と実感した。

「そうねぇ……高校二年生の……冬休みだったかな?」

「怖くは……ありませんでしたか?」

「怖かったわよ。だって、そりゃあね……痛いって聞いてたし」

「そうじゃなくって……」

そういうことか、とすぐに察する。

きっと、舞さんの聞きたいのは、そういう身体的な痛みのことではないのだろう。


「あぁ、女の子同士でするのがってこと?
それは、全然よ。
ただ、少しだけ寂しくはあったかな。
私が男だったり、なぎさが男だったら本当にひとつになれるのに、とは思ったわ」

それは、私が抱いている感情と同じだった。

私は、不安要素を見つけるのがどうやらうまいらしく、咲と両想いになれた次にはその事が私の心を締め付けた。

どうやっても、私達はひとつになる事が出来ない。
私も咲も女の子なのだ。

二人の距離が限りなくゼロに近づく事はあっても、ゼロには決してならない。

「まぁ、でも……もしもなぎさが男の子だったら、私は多分なぎさを好きにならなかった。
女の子が好きとかそういう事じゃないけれど、私はなぎさが好きなのよ。
それは舞さんも同じでしょ?
なぎさがなぎさであるから私はなぎさの事をこんなにも……愛してるのよ」

ほのかさんの言いたいことはなんとなくわかった。
男だとか女だとか関係なく、私は咲が好きだった。
それは、そう思えるのは、咲が咲だからだ。


~~~

「ほのか……かわいい」

高校二年生の冬、私はなぎさと一線を超えた。
その時の、なぎさのこの言葉と表情はきっと一生忘れないだろう。

越えようと思って超えたのではない。
ただ、あの時越える時が来た。そんな風に私は思ってる。

いつも通りデートをして、私の家になぎさが寄ると、おばあちゃまが言ったのだ。

「なぎささん、急で悪いのだけれど今日は泊まっていってくれませんか?
旧い友人が入院したと、今連絡が来たんですよ」

心配そうなそれでもいつも通りの朗らかな笑顔でおばあちゃまはそう言った。

「……はい、全然、喜んで泊まりますよ」

なぎさは、一瞬おばあちゃまを心配するような顔つきになったが、すぐに明るく笑った。

「では、よろしくお願いしますね。
明日のお昼には帰ってきますよ」

「あ、おばあちゃん、傘持って行ったほうがいいですよ。
夜から明日の午前中にかけて雨降るって天気予報でしたし」

「そうですか……ありがとうございます」

なぎさが傘を手渡すと、おばあちゃまは嬉しそうに笑った。

「……二人切りね」

おばあちゃまを見送ったあと、なんとなく私は呟いた。

「そ、そう……だね」

二人きりになることなんて珍しくもないのに、何故だか私達はぎこちなく笑う事しか出来なかった。

「と、とりあえず……ご飯作ろっか!」

なぎさはわざとらしく笑いながら、台所へ向かっていく。


「ご飯作ろう、というよりも……作って、でしょ?」

「……えへ?」

なぎさは未だに料理が出来ない。

「もーう、中学生の時にも言ったでしょ?
自分のご飯くらい、自分で用意できるようにならないと困るわよって」

「え?困らないよ、私にはずっとほのかがいるもん。
まぁ、でもほのかばかりにやらせるのも悪いから……教えてよ!」

当たり前のようにそういうなぎさに、私は頬が熱くなるのを感じた。
なぎさから視線を外すと、わざとらしくため息をつき、

「なぎさったらぁ……調子いいんだから」

そう言うことしか出来なくなる。

狙って言っているのならば、なぎさにも照れが出るから私は逆に冷静になれる。
だけど、なぎさは素でそういう殺し文句を言ってくる。

「まぁ、いいか。
さて、作りましょ!」

それは、自然と口に出る、それほどまでに、私と人生を共に歩むことを当たり前だと思ってくれる証拠だ。

高校生が人生を語るなど、今思えば気恥ずかしいが、その時は精一杯、そして全力でその時を生きている。
全力で人生を考えられる出会いをしたことを私は誇りに思った。


~~~

「……なぎささんって」

舞さんが言い難そうに、呟いた。

「うん、未だにまともなモノ作れないわよ」

結局、大学に入ってからは同棲していたし、
なぎさが今日のように遠征などで家を空けることはあっても私が家を空けることはほぼない。

つまり、料理を覚えなくとも、生きてこれたのだ。

「なんというか、ほのかさんの絶大な愛を感じます」

愛、などとなんとなく恥ずかしい単語をさらっと言うあたり、舞さんも酔っているのだろう。
さりげなく、舞さんの前に出ていたお酒を自分の方に持ってくる。

私は、まだ余裕だ。
酔ってはいるが、酔っている自覚もある。

「まぁ、でもかわいいのよ。
たまに私が実験とかで夜中に帰るじゃない?
そうすると、料理らしきものをなぎさは作っててくれるの」

「らしき?」

「えぇ、カレーらしきものとか、肉じゃがらしきものとか……。
これが、見た目は悪いけど、食べられない味じゃないのよ。
で、得意気な顔でそれを出してくるなぎさがかわいいの」


見た目はアレだけど、味は割と普通だから!
なぎさはそういいながら疲れて帰宅した私を癒してくれる。
なぎさも、練習で疲れているだろうに、出来ないなりにこうして頑張ってくれるのが、私は嬉しかった。

「なんか、なぎささんってかっこいいくせにかわいいからずるいですよね。
咲も同じタイプだけど……」

「あぁ、わかるわ。
あの二人は……ずるいわよね」

なぎさも咲さんも、この関係の終わりを不安に思うことがない。
いつだって不安になっているのは、私と舞さんの方だけのような気がしてならないのだ。
舞さんはきっとそういうところを含めてずるいといったのだとなんとなく思った。

私が、実際はそんなこと無いと気づけたのは最近なので、舞さんももう少しで気づけるだろう。
だから、あえて教えてやらない。

そういうことを悩んだり、ジタバタするのも恋愛の醍醐味だ。


~~~

結局ほぼ私が一人で晩御飯の支度を済ませると、なぎさは美味しい美味しい言いながらパクパクとお皿を空にして行った。

料理中は、いきなり後ろからふわりと抱きついてきたりと料理の勉強と称しながら、ベタベタしてきた。
悪い気はしないが……いや、むしろ嬉しいのだが、なんというか……という感じである。

「さーて、洗い物は私に任せて!
ほのかはのんびりテレビでも見てなよ!」

サクサクと食器を台所へと運ぶと、鼻歌交じりにそれらを洗っていく。

まるで子供だ。

そんななぎさに微笑みをこぼしながら、ふと視線を外に向けると、雨が振り出していた。

雨の時は思い出す。
初めてなぎさと口づけを交わした時のことを……。

雨音に耳を傾けていると、思ったよりも時間が経っていたらしい。

なぎさは洗い物を終えたのか、台所から消えていた。

「あれ?……なぎさー?」

どこへ消えたのかと声をかけてみると、

「なにー?今お風呂掃除してるからあとでいいー?」

そんな返事が返ってきた。

「意外と、働き者よね」

洗い物を終え、なぎさと一息ついたらやろうとおもっていたが、ありがたいことだ。

もしかしたら、料理が出来ないのを割と気にしているのかと思ったが、あとで聞くとそんなことは無いらしい。

なぎさ曰く「お風呂掃除ってなんとなく好きなのよ。お水でジャーって湯船流すのとかなんか好きなのよ」ということらしい。


~~~

お風呂がたまるのを待つ間、テレビをBGMにゆったりと二人で過ごした。

「……そろそろかな?見てくるね」

数十分経った頃、なぎさはそういうと風呂場へ向かった。
我が家のお風呂は全自動ではないので、放っておくと湯が溢れる。

「ちょうどいい感じだったよー!ほのか先に入りなよ」

片腕の袖をまくったなぎさが笑顔でそう言った。

「ううん、一応お客さんだしなぎさが先はいって」

「えー?そっちこそ、家主なんだから先に入りなよ!」

二人とも考えているのは同じことだったのだろう。
普段ならば、すぐにどちらが先にはいるかなど決まるのに、中々決まらなかった。

お互いに、待っていたのだ。

「じゃ、じゃあさ……」

そして、ついになぎさが顔を赤らめながら、その“お互いに待っていた言葉”を口に出した。

「い、一緒に……はいる?」

今までもお風呂に一緒にはいることはあった。
しかし、関係が変わってからはこれが初だ。

「……う、うん……」

きっと、控えめに頷いた私の顔も真っ赤だったろう。


~~~

「なんか、意外です。
私達、お風呂は結構一緒にはいることありますよ」

「んー、多分私もなぎさもわかってたんじゃないかな?
お風呂で、お互い裸で……その時にキスをしたら……止まらなくなるって」

直になぎさの体温を自分の全身で感じたら、止まることなど不可能だと、それはきっと本能的な理解に近かった。

服越しならば理性がしっかりと仕事をするが、その数センチの布切れが無くなったら、理性も消える。

そのことがお互いわかっていたのだろう。

「やっぱり、なぎささんとほのかさんって……いや、ほのかさんはそのままですが」

舞さんは私が自分の側に寄せた酒の代わりに置いた水を一口飲んだ。

「なぎささんも大人ですよね」

そして、ふてくされたようにそう続けると、机に額をつける。

「大人、なのかな?」

むしろ、非常に動物的な気もする。

「そうですよ。
私達なんて……未だにキス止りですし」

これには素直に驚いた。

「えぇ?ああ……なんというか……清いのね?」

「なんですか、それ。
なんどかそういう雰囲気にはなりましたよ?
でも、なんか……ね?」

舞さんはため息をつくと、テーブルから額を離し、ごろりと仰向きに寝転がった。


~~~

汗を流す。
勝った後のシャワーは爽快感が増すはずなのに、私の心はそれとは逆の感情に支配されている。

――やっぱり、ダメだ。どんなにいいピッチングをしても、それを舞が見てくれていないなんて……ダメだ。

胸の前で、ぎゅっと手を握る。

――私の一番のファンは、舞だ。
それは、自信を持って言える。舞の絵の一番のファンも私だ。

だからこそ、とぬるめの水滴を顔面に浴びながら思う。

――私だけがさせることの出来る笑顔。

舞の絵を見たときや、舞がキャンバスに向かう姿を見た時に自然とこぼれる笑顔。
自分のその顔は見る事が出来ないが、自分が最高のピッチングをした時の舞の笑顔と同じような顔だろうと私は思った。

その笑顔は、他の誰でもなく、お互いにしか引き出せないものだとなんとなくわかった。

だが、今更どうしたらいいのだろうか。

「わっかんないや……どうしよう、舞……」

つぶやくと、能天気な声が私の名前を呼んだ。

「おーい!さーきちゃーん?」

「……のぞみぃ?」

「あ、いたいた!ひっさしぶりだね!」

顔だけを出すと、そこには満面の笑みののぞみと、困惑顔のうららが立っていた。

「咲さん、すみません!のぞみさんったら聞かなくて……」

どうして二人がここにいるのか、そんな当たり前の疑問すら思い浮かばず、頭に浮かぶのは、ただただはてなマークだけだった。

ここまで

次もまたよろしく!

saga進行だけど、プリキュアのスレなのに[ピーーー]ってセリフ出るの?
敵でも氏に関するワードは言わないのに

死と関係なくても「必[ピーーー]」とかでもフィルターかかるでしょ?
ただの保険だよ、そこ突っ込まれるとは思わなかったよwwww

続きマダー?

すまん、近いうちに再開させる

また一週間経過

トイレにしては長いな
ウンコか?


~~~

「おぉ~咲ちゃんは何気にスタイル良いよねぇ」

「のぞみ、頼むからそういう発言教え子にしないでね。捕まるよ?」

小さなタオルで胸を隠しながら、咲さんはシャワー室から出てきた。

「大丈夫、大丈夫!私意外と生徒と仲良いんだよ?」

そんなの意外でもなんでもない、と咲さんは顔を少ししかめた。

「てかさ、うららはこんなところにいていいの?」

ペタペタと音を立てながら、咲さんは脱衣所を歩く。
タオルを取り、髪をぐしゃぐしゃと拭いた。

「はい、今日仕事がお休みになったんですよ。
のぞみさんは今日建立記念日だかなんだかで休みなんです!」

へぇ、と相槌を打つと、咲さんはタオルを頭から取り頭を振った。
ぐしゃぐしゃになった髪の毛はその勢いで綺麗に整った。

「咲ちゃんも髪の毛綺麗だよね。
長いから舞ちゃんの方に目がいきがちになるけどさ!」

「……ふぅ、さっぱりした。
それで?なんでこんなところにいるのさ」

おや?と少しだけ思った。


「……んー、調べら今日は咲ちゃんが投げるっていうから、観戦してた!
気づかなかった?」

のぞみさんも同じだったようだが、それを態度には出さなかった。
なので、私も、触れないことにした。演技ならば得意分野だ。

「あー、そうなの?全く気づかなかったよ。
うららは今日なんの仕事の予定だったの?」

テキパキと下着を身につけながら、咲さんが言った。

「バラエティのロケ。なんだかロケ先で問題起きて中止になっちゃったんですよ」

私にとっては嬉しいことだ。
そう思うのと同時に、そう思う自分に嫌気がさした。

「へぇ、私部屋にテレビあるけど帰るの遅いからうらら出てるドラマとかバラエティあんまり見たことないんだよなぁ……」

「でしたら、今度やる映画は見てくださいよ!
今日のロケもその映画の番宣だったんです。
あ、都合が合うなら初日関係者席へ招待しますよ?」

舞台挨拶を終えたあと、監督と主演俳優、その他大物の方々とVIP席のようなところで鑑賞することになっていた。
プロデューサーの方から二、三人ならば友達や客を招いてもいいとのことだったので、なんとなくこえをかけてみた。


「……確か、恋愛ものだったよね?」

「そうです!」

咲さんの顔が曇った。
曇ったというよりも困ったように笑った。
どこか吹っ切れたような清々しさを出そうとしているのが逆に痛々しい。

「じゃあ、遠慮――」

「行く行く行くぅううう!」

泣きそうな表情になりながら、遠慮するよ、と言おうとしたところにのぞみさんが口を挟んだ。

「おわぁ、あんたは私より一個上なのにいつまでたっても落ち着きがないねぇ……」

「もちろん!のぞみさんも都合が合うなら来てください!」

そんなのぞみさんに咲さんはため息をつき、私はやっぱり安心した。

「咲ちゃんも行くでしょ?行くよね?けってぇ~い!」

のぞみさんは教師になってものすごく察しの良い人間になったと思う。
しかも、あの頃と根元が全く変わっていない。
子供のような純粋さとまっすぐさ、それに大人の機微や正論をみにつけた彼女は、本当にかっこよくなった。
いや、昔からかっこ良いのは変わらないか……。


「あんたはまた人の都合も聞かずに……」

咲さんはまだ渋っているようだったが、結局は折れることになるだろう。

咲さんは私の出る映画をみたいと思ってくれていると思う。
もちろんそれは私が出ているからなどと自惚れているわけではない。

ぎゃあぎゃあとじゃれ合う二人を眺めながら、私はマネージャーにメールを入れた。

『舞台挨拶の後の鑑賞会私もやっぱり出ます。
招待券を三枚用意しておいてください』

そして、予想通り咲さんが折れたのとほぼ同時に鷲尾さんから返信が来た。

『無理しなくても良いんだぞ?
一応、関係者席三枚と、別の日の席を四枚取っておいた。
無理だと思ったらのぞみさんたちには謝って普通に一般人としてみればいいよ』

鷲尾さんの気遣いに頬が緩んだ。
この人は、本当に優しい。少し頼りないところもあるが、私のことを本当に大切にしてくれる。
さらに、それら全ての優しさに下心が一切感じられないからすごい。

私も大好きだけど、恋愛感情とは違う。

『ありがとう。鷲尾さん、大好きです』

『僕ならわかるからいいけど、そんなセリフ他の男にいったら脈ありと思われるぞ』

やっぱり、鷲尾さんはすごいと思う。

「うらら、咲ちゃんも参加だってぇ!
映画始まるの来週の土曜日でしょう?舞台挨拶もその日でしょ?その日なら試合ないってさ!」

「ならよかったです!」

ニコニコしたのぞみさんと、不安そうに眉をハの字にする咲さん。

携帯電話を閉じながら、私は笑った。


~~~

「こんにちは、ひかりさん」

「あぁ、いらっしゃいませ。
ほのかさんお一人ですか?」

「えぇ、学会の帰りなの。
とりあえずお腹ペコペコだからたこ焼きくれる?」

これは舞が消えたと珍しく慌てた薫から連絡を受けたあの日から半年ほど前のことだった。

なぎささんとの待ち合わせなどで来ることあるが、ほのかさんが一人で私の店に来ることはあまりない。

嫌われているのかと思ったこともあるが、院のほうで何か実験などが一段落したら遊びに行こうと誘われたりはするのでそれは無い。

では、何故だろう、と考えてみるが答えは出なかった。

「本当は学会行く前に寄ろうと思ったのよ。
丁度お昼過ぎからだったから」

「そうなんですか?でも残念でしたね、お昼頃ならなぎささんがいましたよ」

そう答えた私をほのかさんは笑った。

「なぎさとは毎日会ってるから残念って事はないわ」

確かに、と少し頬が熱くなった。


「え、えっと……お昼にこなかったのはなんで何ですか?」

恥ずかしさを消すために少し早口になった。

「学会の前にここに来たらきっと学会いけなくなると思ってね。
あかねさんの一号店もここも、TAKOカフェは居心地良過ぎるのよ」

ほのかさんはまっすぐ私を見つめた。

「だから、なるべくこの店には寄らないようにしてるのよ。
ここに来たら実験とかどうでも良くなるくらいくつろいじゃうから」

そしていたずらっ子みたいに笑う。
そんな笑顔を見せられては美味しいたこ焼きを焼かねばと気合が入った。

「嬉しいこと言ってくれますね。
でも、たまには顔を出してくださいよ。
私はほのかさんも大好きなんですから、会いたいです」

「ひかりさんも私たちと一緒に住む?
3LDKだから部屋ひとつ空けようと思えば空けられるわよ?」

「いえいえ、お二人の邪魔をしたいわけではありませんので」

ワザとらしくいうと、ほのかさんは少し照れたようだ。


「よし、出来た」

ポツリポツリと雑談をしていると、たこ焼きはすぐに出来上がった。
熱々のそれを持って、ほのかさんの座るテーブルまで持っていき、エプロンを外し、私もほのかさんの横に座った。

「他にお客さんもいませんしね」

言い訳をするように笑ってみる。

「あら、可愛い店長さんが話相手になってくれるなんて良いサービスじゃない」

お手拭きで手を拭くと、早速たこ焼きに手を付けた。

しばらくは最近の事やなぎささんの事を話題にゆったりと過ごした。

「ご馳走様、ところでさ」

そして、食事を終えると、

「最近舞さんってどう?まだ咲さんと話せてないの?」

落ち着いた微笑みを浮かべ、そう私に尋ねてきた。

――あぁ、やっぱり。

ほのかさんやなぎささんにまっすぐ見つめられると、不安など何処かに消え失せる。
この人たちが一緒にいてくれるなら、どんな困難にも立ち向かえる。
私の尊敬する憧れの先輩は、そんな風に思わせてくれる。


「えぇ、私……どうしたらいいかわからなくって……」

「そっかぁ……多分、向き合って話せばそれだけで解決すると思んだけどねぇ……」

「ほのかさんは二人の喧嘩の原因知ってるんですか?」

「知らないわ。けど、想像はつく。
多分、咲さんはそろそろ自分で気づくと思う。
だから、舞さんね……。あの子は色々考えすぎるところあるから」

「よく、見てるんですね」

「そりゃあね。大切な後輩たちのことですもの。
もちろん、ひかりさんのこともよく見てるわよ?」

言いながら、ふざけるように、笑った。

「それは……わかってます。お二人がいつも私を気にして大切にしてくれている事、ちゃんとわかってますよ」

ふんわりとした気持ちに包まれ、自然と笑顔がこぼれてしまう。

「ふふ、もう十年の親友だもんね。
あ、話戻るけど……ひかりさんは特になにもしなくて平気よ」

ほのかさんはまるで答えがわかっているかのように、スラスラとどうするべきかを話した。


「きっと舞さんのほうが自分を追い詰めるから舞さんを気にしてあげて。
そして、舞さんが話す気になったら話を聞いてあげて」

そして、それは現実となる。

舞が消え、私は走り回った。

見つけると舞は死にそうな顔つきでぼんやりとしていた。
まるで幸せだった昔を懐かしむような、過去に縋るようなさみしい目つきをしていた。

そして、やっと……私は舞から話を聞く事が出来た。

聞いてみれば本当になんて事はない、ただのすれ違いだ。
思い込みといっても良いかもしれない。

思わず、ため息をつきそうになったくらいだ。

それでも、どんなにくだらなく見えても本人たちは本気で傷つき悩み、心を削ってきた。
その事だけは、忘れないように、そしてその心を癒す手伝いを私はしたいと思った。

それが、クイーンの命でしかなかった私が人間の世界に生まれ変わる事が出来た理由だと思うから。

ここまで

さーて、喧嘩の原因どっちにしよっかなぁー
二つほど考えてんだよねー

まぁいいや

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