幼馴染「なぁ…あんたも早く彼女つくりなよ」 男「えっ……」(119)

このSSは某掲示板サイトで連載がストップしていたものを、私が途中から代筆したものです。
いわゆる乗っ取りSSというやつです。
乗っ取りSSが苦手という方は読まない方が良いかと思われます。

なるべく原作者様の世界観を壊さず、扱った(であろう)テーマを自分なりに形にしたつもりですが、途中で作品に違和感を感じたなら申し訳ありません。

長々とすみません。
それでは、劇場でお会いしましょう。

男「何か言った?」
幼馴染「アンタも早く彼女つくりなよって言ったんだけど」

男 ……でっ お前はどうなんだよ?

幼馴染「アンタとは絶対に付き合わない…それに話しかけないでくれる?」

男「そうかよ…(中学の時は仲良かったんだけどな…)」

幼馴染「じゃ…お先に」

男「はぁ… 別に
あそこまで言わなくても

友「おはよ 男 」

男「友じゃん…珍しいな こんな時間帯に」
友「さり気なく早起きしねー奴の設定にいれないでくれ」
男「…悪い」
友「何だよ しんみりしやがって」
男「しんみりはしてない」
友「でっ… さっきの女の子誰?
制服此処の制服だけど
男「ただの幼馴染だよ…(そう昨日偶然…)
確か昨日だった。俺はあいつと会った。引っ越してきたらしい。
俺は声をかけた。
男「お?久しぶりじゃん。幼馴染だよな?」
幼馴染「…」
おかしい。違和感の原因を突き止めるのはそう難しくなかった
男「?…どうした?」
人違いか?いや…そんな筈は…でもひょっとしたら…
幼馴染「…」
なんだ人違いか。自分を無理矢理納得させて、アパートの自分の部屋に戻ろうとした。

男「すみません、人違いでした」
幼馴染「アンタ、男でしょ?」
足が止まった
男「なんだよ、人違いかと思ったじゃないか…あー恥ずかしい思いして損した」
幼馴染「ふぅん」
もしかしたら、こいつ明日から俺と同じ高校に通うのか?
男「お前ってさ、もしかして通う高校って」
幼馴染「〇〇高校」
当たった。ちょっとテンション上がった。でも、何か違う。こいつ、こんな性格だったっけ?
男「そうだ!引っ越しの後片付けとか、荷物の整理とか手伝うよ!」
幼馴染「いや…いいよ」
男「そっか…」
なんか鼻っ柱を折られた気分だなぁ…
まぁこいつも女の子だ。男には見られたくないものだってあるに違いないさ。
男「じゃ…用があったらいつでも呼んでくれな」


部屋に戻り…寝た。
隣から慌ただしい音がしたが、呼ばれない以上しかたない。明日から新学期だ。

男「だったんだよな…』

友「何…一人で納得してるんだよ…お前
男「…(仲良くしてたんだけどな)


友「先ほど 女性は 男の幼馴染かぁ… 転校生は何と幼馴染 リア充すぐる』


男「違うって あいつは俺にそんな感情無いって…


友「またまた わからねーべ? ツンツンキャラかもしれんべ?』

男「はぁ… (うるさい…)

友「はっはっは!元気だせよ、男!
あ、俺陸上部の練習あっから。じゃな!」

男「おう、またな……」


男「はぁ……昔はあんなに遊んだんだけどな。
世の中間違ってるぜ……」

フードの女「もし、そこの御人」

不意な呼び止めに、男はびくりと身を震わせ、視線を走らせた。
何故、気付かなかったのだろう。
すぐ傍に、路上に粗末な台を構えたフードの女がいた。
暗がりに溶け込んでいるような、不気味な様だった。

フードの女「想い悩んでいる顔ですね。
その相は……ふむ、異性絡みですか」

男「はぁ。すみません、今持ち合わせないんで占いはちょっと」

フードの女「いえいえ、私は占い師ではありません。
所詮、占いなんて大河のような運命の支流を、グラスで汲み取るようなもの。
ですが、私は――」

フードを目深にかぶった女は、そこから覗く口元を歪ませた。

フードの女「――私はフラグ屋。
運命を『視る』のではなく、運命を『売る』
私は宇宙の叡知を欺き、大いなる意思を、あたかも神のように歪められる。
私は、カワユイ女の子との出会いを売れる!
曲がり角に潜むツンデレ、図書館に埋もれた大人しい子、暮れ泥む教室に佇む謎の転校生!
素敵な出会いを、お求め易い価格で!」

男「は、はぁ……」

フードの女「今なら初回限定価格でお試しディステニーがたったの50円!
この私のオススメ官能異能力バトル戦記小説『童貞WARS』もついてきますよ!」

男「(ヤバイのに絡まれたな……)ご、50円なら気休めに買おうかな……運命……」

フードの女「まいどっ。
あ、これ童貞WARSです。面白いですよ」

男「は、はぁ」

俺「好きだ‼付き合ってくれ‼」

幼馴染「あんたみたいなキモいやつはごめんだね‼」

俺「…」

男「おいっ…幼馴染、言い過ぎだ…」

幼馴染「思ったこと言ってないが悪いのさ」

俺(幼馴染さんに罵られた…ハァハァ)

男「幼馴染…お前変わったな…」

男「なんだったんだ?あいつは。
変な電波野郎もいるもんだなぁ……」

先生「おう、男!おはようさん!」

男「おはようございます……」

先生「ガハハハハ!元気ねぇーな!
俺がお前くらいだった時の頃はお前、アレだよ。
夜中、校舎のガラス割りまくったり、この支配からの卒業したりしたもんだぜ!」

男「はぁ……大変な時代だったんですね」

先生「まぁな!
おっと、挨拶当番なんてしてる場合じゃねぇ!
女子水泳部見に行かないと!
だからお前が代わりにガハハハハ!」

男「えぇっ!?なんで俺が正門立って挨拶しなきゃいけないんですか!」

先生「うるせぇ!
ちゃんと撮った分は焼き増ししてやる!
普通なら二万で売るところを無料でな!」

言い募る男から逃げるように、教師は行ってしまった。
男はしばし唖然としていたが、やがて、ハッとして我に帰る。

男「なんて教師だ……!
おはよーございます!」

「おはよー」

「おはよー、男ー」

男「あぁもう!
みんなおはようッッッ!!!」

自棄になって大声を張ったその時、近くにいた女子生徒がきゃっと悲鳴を上げた。

後輩「な、なんなんですかもう……!」

ツインテールの揺れる、可愛らしい少女だった。

男「(うわ、こんな可愛い子いたっけ?)」

後輩「ちょっと!男先輩!」

男「ふぁ、ふぁい!」

後輩「FIGHT!じゃありません!
そんな大声出したらびっくりするじゃないですか!」

小柄で華奢だが、意志の強そうな瞳が、少女の勝ち気な性格を物語っていた。
唇を尖らせる少女に、男はひた謝る。

男「ご、ごめん。謝るよ」

後輩「ま、まぁいいですけど」

少女はそっぽを向いた。
男は何か話題をと、苦し紛れに、

男「そういえばさ、なんで俺のこと知ってるの?」

後輩「そ、それは」

少女の顔に、僅かに赤みが差した。

後輩「私は友先輩と同じ、陸上部なんです。
部活で、いつも先輩の話を聞いてて、たまに廊下で見かけたり……」

尻すぼみになっていき、彼女は俯いた。
男は訝しみ、顔を覗き込んだ。

男「ど、どうしたの?後輩ちゃん」

後輩「~~~ッッ!?
顔近いです!バカ先輩っ!
ハードルブレイク!」 バキッ!

男「ありがとうッ!」

男は蹴飛ばされ、切りもみながら地面に激突した。
呆気なく意識を手放し、ぽっかりと口を開ける闇の底へと、落ちていった。

「……とこくん。おとこくん!」

遠くで、少女が呼んでいる。
急き込んだ語調だ。
男は混濁する意識で、声の方へ藻掻いた。

「男くん……っ!男くんッ!」

だが、悪意を持った黒がまとわりつき、否応なしに男を引きずり込んでいった。
底へ。意識の奥底まで。
やがて、一瞬の浮遊感の後、彼は目を覚ました。

男「ハァッ……ハァッ、ハァッ……」

保険医「あら、気が付いた?
凄いうなされてたけど、大丈夫かしら」

最初に映ったのは、セル眼鏡と、その奥で悪戯な光を湛えた双眸だった。
白衣を着た女性である。
歳はというと、まだ二十代前半といったところだろう。
男は、目を見開いた。
彼女に見覚えがあったのだ。

男「保険医先生……」

保険医「ふふ、名前覚えてくれてるんだ。
君は確か……2―Aの男くん、よね」

男「は、はいっす」

保険医「あはは、かたくならなくてもいいって。
熱はないよね」

そういうと保険医は、男の額に自分のそれをランデブーさせた。
保険医の豊かな亜麻色の髪が、男の鼻先で揺れる。

「(な、なんだこれ!
やぁらかぁい!柔軟剤使ってるだろ!)」

妙齢の女の芳香に、深呼吸してしまう思春期ハートを、誰が攻めることが出来ようか!
保険医の柔らかな髪と相反するように、彼は態度だけでなく股間もかたくなっていった。
目の前にあるシャツ越しの、大きな膨らみも、男の青い性を駆り立てる!

男「だだだだ大丈夫です!
ね、ね、熱はは、は、ないですすす!ア、アヘッ」

保険医「うん。熱はないみたいだね。
そうそう、ツインテールの一年の子がずっと心配してたわよ。
自分のせいだって」

男「こ、後輩ちゃん!
そうか……俺は後輩ちゃんに蹴られて……」

男の脳裏に、健康的な太ももと白いショーツが、電撃のように駆け抜けた。

保険医「起きたら謝りたいって……」

男「いえいえ、寧ろ言っといてください。
“ありがとう”と」

保険医「?わかったわ」

男は何か清々しい面持ちで、保健室をあとにした。

幼なじみ「ふぅん、終業時間までずっと保健室でサボり?」

男「そ、その声は――ッ!?」

背後からの唐突な声ッ!
まさに青天の霹靂ッ!
男は、音よりも疾くッ、振り返った!

男「お、幼なじみッ!?」

幼なじみ「しかも保健室の先生にデレデレしてるし。
ばっかみたい……変態……」

幼なじみは鼻を鳴らし、行ってしまった。
男は勃起し、その場に蹲った。

男「(違う……!俺の求めていた展開は……!
展開は……ハッ!)」

『私はフラグ屋。
運命を売るのです』

男「(ま、まさか……!
あいつから運命を勝ったから急にカワユイ女の子と縁が……!)」

男「これは……ッ」

男「これは勃起してる場合じゃねぇッ!――」

男は地を蹴り、風になった。
特段、考えがあるわけではなかった。
だが、何か大きな力に突き動かされるままに駆けた。
人はそれを、愛(せいよく)というのかも知れない。

男「フラグ屋!フラグ屋ァ!
フラグ屋ァァァアアッ!」

フードの少女「フラグ屋でごさいます」

フラグ屋は、今朝と変わらない位置にいた。
男が来るのを待っていたと言わんばかりに、口の端を吊り上げる。

フードの少女「やはりきましたか、男さん」

男「うん!ぼくおとこ!
フラグ売って!」

フードの少女「フラグの初体験はいかがだったでしょう?」

男「ツインテールのツンデレ後輩とお色気ムンムンのお姉さん系保険医の先生だった」

フードの少女「ふむ、またフラグを買いたいということは、お近づきになりたい女の子とは仲良くなれなかったわけですね」

男「うん。そうなの……。うゆゆ……おとこね、かなしいなの」

フードの少女「そこは運ですから。
運命をピンポイントで操るのは、私とて難しいのです」

男「つまりガチャポン商法かよ!
ケッ!ケッ!……カァー、ペッ!!」

フードの少女「落ち着いてください、男さん。
いつかは当たりが出ますよ」

男「だよね!男頑張るよ!」

フードの少女「その意気です、男さん。
では、男さんにリピーターになっていくにあたって、一点だけ注意があります」

男「あい!!」

フードの少女「それは――フラグで何かを得た分、何かを失うということです」

男「ぼく英語ニガテ!」

フードの少女「つまりですね、女の子と仲良くなった分、対価に何かを失うのです。
……大切な何かを、ね」

男「世の中無料はないんだね!
ぼくまた賢くなった!じゃあ、はい!十万円!」

フードの少女「まいど。
十万円なら……10人ですね……」

フラグ屋は、僅かに見える口元に、歪な笑みを上らせた。

フードの少女「男さん……貴方は何を失い、何を得るのでしょうかね……」

男「なんか言った?なんか言った?
やっべ、オラなんかワクワクしてきたぞ!」

友「――男……おい、男!」

男「……ん?なんだ友か。
どうした?」

友「どうしたって……お前、大丈夫か?」

友は不安そうに、男の顔を覗き込んだ。
その目は、何か見てはいけないものを垣間見たように、恐怖の色が滲んでいた。

友「お前、道の真ん中でへらへら笑ってたんだよ。
様子がおかしいから何回も声かけたのに、反応ねぇし」

男「あぁ……まぁそんな日もたまにはあるだろ」

少しやつれたように見える男に、力ない微笑が上った。
その表情に濁ったものが走るのに気付いたのか、友は怯みを見せた。

友「なんか調子悪そうだぞ。
そうそう、うちの後輩が粗相を働いたみてえだな。
すまん、そのせいか?」

男「後輩?後輩ちゃんかぁああ。可愛いよなぁ」

友「あぁ。そりゃ、我が陸上部の女子ハードル走のエースだし、アイドルだからな」

男「んんんんぅふ……そっかぁ、そうなんだぁ、んんんぉ!」

友「おっと、でも彼女は俺のもんだぜ!
なんせ『先輩、タオル使ってください』って言われる間柄だからな!」

男「ふぅん……んん……ふぅん」

友「ははははは、お前には幼なじみちゃんがいるじゃないか」

男「幼なじみ……どぅふふ!
こうしゃいられねぇ!家帰って寝よう!
明日が待ち遠しいぜ!」

友「お、おい男……行っちまった。
なんだったんだ、あいつ……」

友「今日の後輩……何故か男のことばっか話してたな……」

友「……ハァ」

男「ほぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオ…………!!!」ギュルンギュルンギュルンギュルン!!!

男「ア゙ァ゙ァア゙アア゙ア゙ァ゙ァア゙アア゙ア゙ァ゙ァア゙アア゙!!!」ゲッターロボ!!!

男「朝来いよォォォオオオオオオオオオオオオ!!!
早くゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!」デビィルガンダム!

男「んあっ、あっ、あっあっああっあっあ!!」ア、ア、アルクオン!!

男「愛、覚えていますか!
愛、覚えていますか!
愛ッ!覚えていますかァ!
愛があればなんでも出来る!!」ラーゼフォン!

――朝

母「いってらっしゃーい。
顔色悪いけど大丈夫ー?」

男「大丈夫だよ。行ってきます」


男「おっ……あいつは……後輩!」

後輩「先輩!昨日はごめんなさい……」

ははは、と男はしおらしい後輩に笑いかけた。

男「そんなことで朝わざわざ待ってたのか?」

後輩「!……そ、そうですよ」シャア アズナブルゥ!

ガンエデン、と後輩は赤くなる。
男は口元を歪ませ、後輩の肩に手を伸ばした。
後輩はグリプスッ、と頬を上気させた。

男「全然平気だよ。
元気過ぎてまいっちんぐさ」

後輩「あ、あぅう……」エゥーゴ……

後輩「わ、わたし部活ありますから!」タッタッタ

男「いってら(ククク……後輩ちゃんはもう陥落したも同然ッ!)」

先生「うぉぉおい!男ー!」

男「げぇ!」

先生「げぇっ、て俺は間羽かよ。
ほらよ、昨日撮った女子水泳部の写真だ。
ガッハッハッハ!他の聖職者気取り共には内緒だぞ!」

男「あ、あざーす」

男「ウホッ、すげぇ……やっぱ3年の水泳部先輩のナイスバディだなぁ」

男は教師から渡された写真を、何枚か眺める。
主な被写体は、3年の水泳部だ。
彼女は文武両道を地で行く才女で、容姿も端麗ときている。

男「綺麗だな……うっやべ。出る出る、中身出る」

水泳部の艶めかしい水着姿に夢中になっているため、男は気付かなかった。

水泳部「私がなんだって?」

背後にいた、水泳部に。

男「す、す、水泳部先輩だ!?
なんでここに!?」

水泳部「私は呂布か。
ん?なんだその写真は」

水泳部は素早く写真を奪いとった。
見るや、目を丸くした。

おもしろい

水泳部「こ、これは……!
なんでこんな写真を……」

怒気を孕ませ、男をねめつけた。
向かい合うと彼女は長身で、炎のちらつく切れ長の目も相まって迫力があった。

男「は、ははは……」

男「オワタ」

擦れた断末魔が男の口から漏れた。
だが、水泳部が次に放った言葉は、意外なものだった。

水泳部「オタワ?オタワがいいのか。
私達の新婚旅行は……」

顔を赤らめ、確かにそういったのである。

男「えっ?」

水泳部「だ、だってこんな写真を撮るくらいなんだ。
私のことが好きなんだろう?」

男は展開に脳の処理が追い付かず、呆気にとられた。
だが、世界は彼を待ってはくれない。

水泳部「ち、違うのか?
ハ、ハハ……そうだよな。
私みたいな平泳ぎバカ一代なんて……迷惑だよな……」

水泳部が涙を滲ませ、俯く。
いつもは毅然とした態度である彼女だが、その時ばかりは、寄る辺ない猫のように映った。

男はハッとし、

男「ぜ、全然迷惑じゃないよ!
先輩美乳だし!」

水泳部「そうかよかった!
では子供は何人欲しい!?」

水泳部はぱっと顔を上げ、喜色満面といった様子で言った。

水泳部「墓はどんなのがいいだろう!」

男「あ、いや、その」

水泳部「あ!いい忘れてた!これにサインしてくれ!」

水泳部は、懐から紙を一枚取り出した。

男「(入部届けか……?――否!)」

男が目を見張ったのは無理からぬことだった。
それは、婚姻届けだったのである。

男「ご、ごめんなさい!」

たたかう
どうぐ
揉みしだく
→にげる

水泳部「あ、こら待て!男ー!」

男はひた走るが、水泳部にだんだんと距離を詰められていく。

あわや捕まるというその時、

?「男くんに無理矢理迫るなんて、いくら水泳部でも許せない!
百八式!」

凛、と張りのある、それでいて鈴のような声が降ってきた。
次いで、何かが唸りを上げて空気を裂く音――

水泳部「ぬぅ!」

――フォースの警告に、咄嗟の判断で水泳部はビート板で右脇を固めた。
直後、強かな衝撃が走った。
ビート板がなければ致命傷だっただろう。
傍を転がる、水泳部を襲った飛び道具は、テニスボールだった!

テニス部「へぇ、あのタイミングで反応できるなんて、さすがはインターハイに出るだけあるね……」

水泳部「貴様は……!テニス部ッ!!!」

男「3年のテニス部先輩!?(相変わらずおっぱいでかい!)」

現れたのは、テニス部のエースだった。
髪を短く切り揃え、よく締まった肉感的な脚が目に眩しい。
健康美、といった感じの少女だ。

水泳部「何の真似だ?テニス部」

テニス部「ふふふ、喋ったのは久しぶりだね、水泳部。
高校に上がってから疎遠になっちゃったけど、あたし達、幼稚園から仲が良かったよねえ」

水泳部「何の真似だと聞いてるんだァ!
ドルフィンキック!」

轟ッ!

テニス部「効かないよ」

水泳部は宙を滑り、両足で蹴りを見舞うが、テニス部のラケットにより阻まれた。
テニス部はそのまま、完璧なフォームでラケットを振るう!

テニス部「とべよぉぉォォォオオオ!!!」

水泳部「な、なにー!?」

水泳部は打ち返され、弾丸の如く正門の壁に突っ込んだ。
石壁が飛散し、瓦礫に水泳部は埋まる。

テニス部「あっはっはっは、無様だねぇ」

男「(こ、こえー!女の子のバトルは怖いって聞いたが、怖いってレベルじゃねーぞ!)」

テニス部「さぁ男くん!」

男「は、はひ!」

テニス部「さっそくだけどえっちしようか!」

男「え、えええ!!」

テニス部「その反応、童貞かなっ?嬉しいなっ!」

男「ど、ど、どうていじゃないし!」

テニス部「照れるな照れるなっ!
じゃ、横になって……」

男「今ですか!野外ですか!」

?「そこ!何やってるんですか!」

声と共に、理知的な印象の少女が現れた。
胸は薄いが、すらりと伸びた手足がそれを弱点に感じさせない。

男「(寧ろ……いい!)」

テニス部「あ、あなたは風紀委員長!ち、違うの……これには、平井堅の彫りより深いわけが……」

風紀委員長「問答無用!えっちなことは許しません!
風紀奥義!『規制』」

テニス部「ゆ、許して!助けて水泳ぶ――」

テニス部は白い霧となっていき、やがて霧散した。
風紀委員長の哄笑が、空高くまで響いた。

風紀委員長「アハハハハハ!
風紀を乱す生徒は【NO風紀なキーワード】して【NO風紀なキーワード】されたあげく【NO風紀なキーワード】になればいいわ!」

男「(な、なにこれ……)」

風紀委員長「さぁ男くん!」

男「は、はひ!」

風紀委員長「えっちしましょ!」

男「え、ええええ!!」

風紀委員長「私のここの風紀……乱したくない?」

風紀委員長がスカートの端を少しまくし上げた。
白い太ももが、男の双眸にフラッシュバン。

風紀委員長「私っていけない子。
学校に勉強道具以外を持ち込んじゃいけないのに」

男「お、おふ、はい!」

風紀委員長「貴男への愛を持ち込んでしまった……」

風紀委員長は男に顔を近づけ、耳元で囁いた。

風紀委員長「ねぇ……私を……」

男「は、はひぃ!」

風紀委員長「……持ち物検査して。それはもう隅々まで。
そして、私のすべてを没収してほしい」

男「は、は、ハ、ハマァン!カァン!」

?「ちょっと待ちなァ!」

風紀委員長「そ、その声は――」

不良女「あたいだよ!」

風紀委員長「――不良女ァー!
貴女、またしても私の邪魔をする気!?」

待ったをかけたのは、栗色の豊かな髪を風になびかせる、不良少女だった。
一瞬の睨み合いの後、先に動いたのは風紀委員長であった。

風紀委員長「規制ッ!」

不良女「おっとぉ、きかねぇなぁ。
あんたの能力は発動条件がある」

男「(えっ、そうなの?)」

不良女「えっちなことをした時ッ!言った時ッ!
そしてあたいは、『それ』に該当しない!」

風紀委員長「くっ……ばれたわね……」

不良女「種がばれたら雑魚すぎんだよ!
スケバン喧嘩殺法!!」

轟!!

風紀委員長「暴力……!
なら、『取り締まり』」

不良女「!?、か、身体が動かねぇ……」

拳を振りかぶったままぴたりと静止した不良女に、風紀委員長は酷薄な笑みを浮かべた。
だが、それに対し、不良女も不適な笑顔をもって応えた。

不良女「――今だ。
弓道部、アーチェリー部、カメラ部」

風紀委員長「え」

思わず、間の抜けた声を上げた彼女を最初に襲ったのは、視界を奪ってしまうほど強力な発光だった。

カメラ部「カメラ部フラッシュ!!」

風紀委員長「きゃ!」

男「目が……!目がぁぁぁあ!!」

視力が回復する暇も与えず、次の攻撃が風紀委員長に迫る。

アーチェリー部「アルテミスの矢!」

弓道部「与一の弓!」

風紀委員長「が……っ!」

男の視力が回復し、最初に見たのは、肩口と脇腹から矢を生やした風紀委員長だった。

男「ふ、風紀委員長ォー!」

風紀委員長「ねぇ、男くん……そこに、いる……?
もう何も見えない……もう何も聞こえない……」

か細い息の風紀委員長が、擦れた声を漏らした。
その手をとり、男が懸命に話し掛ける。

男「うん、うん!いるよ!
そばにいるよ!/青山テルマ」

風紀委員長「あのね、男くん……私……貴男のことがね……」

風紀委員長は、口から血溜まりを吐き、一つ呻いた。
男の握る手から力が抜けていく。

風紀委員長「貴男のことがずっと……」

彼女は薄く笑みを浮かべ、こと切れた。

男「ふ、風紀委員長!
死ぬな!風紀委員長ー!」

漫画研究部「でぇじょうぶだ。ドラゴンボールがある」

バスケ部「アハハ、君達、やっかいな風紀委員長を倒してくれてありがと」

演劇部「今、一つの喜劇が幕を下ろしました。
ご覧のお客様、盛大な拍手をお願いします!」

バスケ部「でも、君たちに男くんは渡さないよ」

バスケ部が警告するように低い声で言った。

アーチェリー部「HAHAHAHA!
ミー達も舐められたもんだネ!
YOUみたいなペチャパイより、男はミーのミートパイがいいんだよ!
なんせ、ボリュームもあるしな!」

弓道部「――我、ここに在り」

カメラ部「男さん!そんな奴らほっといて私とスキャンダル起こしませんか!」

不良女「男ぉ!屋上こいやぁ!弁当作ってきたぞゴラァ!」

4人が男に迫るが、

バスケ部「ふふ、あくまでやるつもりなんだね。
男くん!終わったら男くんの童貞を私のバスケットゴールにダンクしてほしいなっ。
壊れるくらいにねッ!」

漫画研究部「邪王炎殺波!」

演劇部「人は皆、仮面を着けて生きています。
欺くため、身を守るため、隠れるため……そう、この世は仮面舞踏会。
ですが男君、貴男には私の素顔を拝見していただきたい」

男「お、お前ら……」

人が死んでるんだぞ、という言葉を男は呑み込んだ。
彼女達は、既に血で血を洗う戦いに勇んでいた。
アーチェリー部と弓道部の矢が、バスケ部の高速ドリブルによって弾かれる。
だが、その隙にカメラ部のフラッシュが視力を奪った。
バスケ部を庇うように、漫画研究部がペンを両の手に構えた。

男「な、なんなんだ……お前ら……何の為に」

『フラグを得た分だけ、何かを失います』

男の脳裏に、フラグ屋の言葉が電撃のように駆け抜けた。

?「こっちにきて!」

不意に、男は手首を捉まれた。

?「彼女達は狂ってる!
ここにいたら戦いに巻き込まれてしまう」

男「お、おい!」

か細い腕だが、見た目よりずっと力強い。
男は転びそうになりながらも、校舎の中へ連れ込まれた。

男「幼なじみ……」

幼なじみ「……で、どういうこと?
昨日からおかしいと思ってたんだよ」

男を掴む腕が、ギリギリと締め付けてくる。
幼なじみは強い怒気を孕ませ、言い募った。

幼なじみ「明らかにまがまがしいものに彼女達はとりつかれてる……!
返答次第じゃ、怒るよ」

男「じじじ実は」

?「男先輩に何するとですかッ!!」

轟!!!

幼なじみ「チッ……!」

突然の攻撃に、幼なじみは素早く身を屈めた。
刹那、襲撃者の回し蹴りが唸りを上げて過ぎ去った。

幼なじみ「貴方は陸上部の……」

後輩「男先輩に言い寄ってたんですね、この女狐!」

後輩が目を血走らせ、声を荒げながらまくし立てた。

後輩「男先輩は私のものです!
私のツインテールで髪コキしてやるとです!」

男「か、髪コキ……ゴクリ!」

幼なじみ「救えないね……ここは私に任せて」

漫画研究部「はい『ここは俺に任せて先に行け』いただきましたー!」

弓道部「――絶」

バスケ部「えへへ~!男くんっ!」

アーチェリー部「HAHAHAHA!
たった一人でこの数を?
あんたサイコーにクレイジーだぜ!」

後輩「男先輩の初めては私が貰います!
男先輩に迫る女狐には渡しません。
私自身がハードルになることでね」

陸上部の背後から、服が破れ返り血を浴びた少女達が顔を出した。
バトルロワイヤルに生き残った面々らしい。

男「ひ、ひぃぃい!」 カサカサ

男は一人抗戦する幼なじみを残し、逃げた。
転がるように、図書室へ避難した。

?「あ、あの……」

男「ヒッ!」

男は度重なるTO LOVEるからか、女の子の声に悲鳴を上げて尻餅をついた。

?「だ、大丈夫ですか?」

だが、先ほどまでの少女達とは違い、目の前にいる少女はおとなしかった。

男「君は……確か、えと」

文芸部「あ、ひどい。
たまに図書室に男さんがくるとき、挨拶したりするのに」

男「ははは、ごめんごめん」

文芸部「2―Cの文芸部ですよ。
それより……大丈夫なんですか?
ひどく顔色が悪いです」

文芸部は男の視線まで屈み込んだ。
少女の甘い匂いが男の鼻を擽る。
彼女は丸眼鏡の奥で、心配そうに瞳を揺らしていた。

男「(よく見るとかわいい!やっぱ女の子はおとなしい子だよね!)」

文芸部「あ、あのぉ……私の顔に何かついてますか……?」

文芸部は恥ずかしそうに、目を背けた。
まるで小動物のような、可愛らしい仕草だった。

男「な、何もついてないよ!
強いていうなら可愛いの神様が憑いてるかな!」

文芸部「えっ、ええぇえ!
そ、そんな……」 シャア アズナブルゥ……

文芸部の白い肌に、紅葉が敷き散っていく。
男は、口元を醜く歪ませた。

男「本当だって、自信持ちなよ!」

文芸部「あう、あうぅ……」ジオン……

男「うふ、んふふ!」

HAHAHAHA!ケツに星条旗ぶちこんでやるぜ!

男くーん!

男「ひ、ひぃ!ま、またね!文芸部ちゃん!」

文芸部「は、はい」

男は跳ね起きると、図書室の窓へ飛び込んだ。
バルシェムッ、と窓ガラスを突き破り、宙でガウォークモードからバルキリーモードへ体勢を変えた。
四つんばいで、何とか着陸の衝撃をころしきった。

男「ウォォォォオオオ!!」 シャカシャカ

彼はそのままの体勢で、学校を後にした。

男「フラグ屋ァ!」

フードの女「おや、男さん。
いかがなさいました?」

男「てめぇ!!!
俺は……!俺は……!」

フードの女「“こんな未来を望んでなんかいなかった”」

男「!?」

フードの女「貴方の顔を見れば分かります。ですが……」

フラグ屋は、ぐっと身を乗り出した。

フードの女「動き出した運命は変わらないのです。
動かした駒は、もう動かせない。
ナイトも、ポーンも、クイーンも、自らの意思で自らの役目を果たすだけ……」

男「俺は……どうすればいい……二人しんだ……俺のせいで……」

フードの女「まだ二人ですか。
10人の運命を弄ったわりには少ない、まだ綻びがどこかにあるはず」

男「俺が間違っていたんだ……
人の人生を、悪戯にもてあそんで……」

フードの女「でも、可愛い女の子に好かれたでしょう?」

男「うん!!」

友「――おい、男」

男「!?……友」

友「見つけたぜ、男……!
お前、一体後輩に何をしたんだ」

男「は、はぁ?なんだよ」

友「とぼけんじゃねぇ!
後輩は俺に毎日弁当作ってくれてたし、下校フレンドだったし、デートする妄想したりした!」

友は両眼に狂気を浮かべ、今にも掴みかからんとしていた。

友「後輩はッ!後輩は俺のものだったんだッ!
なのに、お前がサイドから掠め取った!!」

男「そ、それは」

友「おまけに彼女はお前を狙う腐れマ●コ共に敗れ、意識不明の重体で保健室に運ばれてる!
お前のせいで……全部お前のせいでッ!」

友はふと静かになり、背中に手を伸ばした。
陸上競技に使う、投擲用のヤリをちらつかせる。

男「(あぁ……そういうことか……)」

たじろぎを見せる男だったが、唐突に理解した。

男「(友情もか……俺が失ったのは……)」

友「男。友達だと思ってた――」

友の震える唇から、小さく呻くような科白が漏れた。
彼はヤリを振りかぶり、

友「そして――これからもな!」

男の顔すれすれを、刺した。
痛みを孕んだ野太い咆哮が、男の背後から響き渡った。
男はサッと振り返る。
彼の目に飛び込んできたのは、喉にヤリが刺さった3年のラグビー部だった。

ラグビー部「ギギギ……男……コロス……!
我等がアイドル、水泳部を汚した罪……許すまじじゃけぇのう……」

男「こ、こいつはラグビー部キャプテン!」

ラグビー部「男じゃ!
男がみんな悪いんじゃ……!
ワシは……先生から水泳部の写真を一枚五万出して買うほどのファンだのに……」

男「ぼられてるよ!定価二万だよ!」

ラグビー部「もう……タッチダウンしても……いいよね?」

ラグビー部はカッと目を見開き、何回か痙攣した後、動かなくなった。

男「友……」

友「へへ、お前は誰にも殺させねぇよ」

男「友……!!」

友「何故なら俺様が嬲り殺すのだからなア゙ァ゙ァア゙アア゙!!!」

男「イヤァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

友が豹変し、両の手を勢いよく合わせた。
満足気な顔をしながら、友は笑う。

友「お前に絶望的なことを教えてやろう。
俺は槍投げ競技のエースだ」

友が合わせた手を離す――そこに元からあったように、数本の武骨な槍が伸びる。
鳥のように両手を広げたまま、友は口元を歪ませた。
男の恐怖を煽るように、ゆっくりと宙に浮く槍を手に取る。

友「空気中の塵から槍を精製する……これが全国レベルだ」

すみません、コミックLO買いにいきます

レスしてくれた方、ありがとう
愛してるだなんて言われたのは、パワポケのヒロインキャラを除けば>>18さんが初めてです
本当に嬉しい

レスしてくれた方、ありがとう

再開します

男は遂に悲鳴を上げ、わき目を振らず駆け出した。
行く先も考えず、ひた走る。
後ろから友の狂ったような高笑いが追ってきた。

友「ハハハハハハハ!
待てよォォォ!男ォォォオオオ!!」

男のすぐ傍の電柱に、槍が刺さった。
次いで、ゴミ箱。自販機。

男「こ、殺される!」

友「アハハハハ!」

男は微塵も考える余裕がなかったが、友は陸上部の期待の星である。
本来なら彼は、男を追い詰めるのは造作もないことだった。
だが、彼の走りはぎこちないものになっていき、やがて倒れこんだ。

友「ちっ……動け!動けよ!
動かなきゃ、今やらなきゃ、みんな殺せないんだよ!
だから!動いてよォ!」

男「友……」

幼なじみ「近づいちゃダメだよ」

男は友に駆け寄ろうとしたが、横から腕が伸びてきた。
額から血を流し、服の左肩の部分が裂けてノースリーブとなっているが、目を力強く輝かせた幼なじみであった。

男「幼なじみ!生きてたのか!」

幼なじみ「まぁね」

そう言葉を交わす間にも、友が鬼の形相で這いずってきた。
怒りで目は赤く染まり、理性というものを感じられない。
幼なじみが友を見下ろし、ぼそりと零した。

幼なじみ「かわいそうね。
今の友くんは」

男「友はなんで……」

幼なじみ「『友達を殺したくない』理性を失い、茫漠な意識でも、彼はそう願ったのよ」

男「友……」

友「男ォォォ……!!
あんたが憎いィ!!!」

這ってきた友が、やがて、ぴたりと止まった。
その目から、静かに一筋の涙が伝った。
彼はそれっきり、ぴくりとも動かなくなった。

男「友!友ォォオオ!!!
ちくしょう俺は!俺は何をして……俺はなんてことをッ!」

幼なじみ「……泣いてる場合じゃないわ。
行かないと」

男「行くって……どこへ」

幼なじみ「学校だよ」

男「あぁ、分かったさ。
裁きを受けよう。俺は十字架を背負いすぎた……」

幼なじみ「死んで償える罪なんてないよ。
貴方には、やることがある」

男「ははは、なんだよそれ」

男は自棄になったように、かぶりを振った。

幼なじみ「じきに分かるよ。
男――貴方は、数奇な運命を背負った因果の中心」

幼なじみは、男の手をひいた。

幼なじみ「だけど、それももう終わり。
終わらせる、すべてを。
あの日に帰ろう、男」

男は何も答えず、押し黙ったまま、幼なじみについていった。

いつも学校へ向かう、馴染み深い道。
だが、今の男にはそれが、無数の人骨が積み上げられた地獄絵図の一ページかに思えた。
自分のせいで、人が傷つけあい、死んでいった。
今の自分を言葉にするなら、何だろうか。
悪では足りない。悪鬼と言っても、まだ足りない。
いや、人が作った言葉という貧弱な媒体では、自分を紡げるロジックに到底ならないと思った。
何故なら、今の自分は、数多の人命を犯した罪で出来ているからだ。
人の命を言葉で表現など、誰が出来ようか。
少なくとも、男の手には余ることだった。

男「酷い有様だ……」

幼なじみ「だね」

校庭は、立ち籠める血の匂いに支配されていた。
転がる一般の生徒もちらつく。
校舎も似たようなものだ。
白い廊下に赤が点々と滲み、あちこちに戦いの跡があった。
そこに、男と幼なじみの靴音がいやに高く響いた。

幼なじみ「男くん。
男くんは、フラグ屋でフラグを買ったね。
実は最初から知ってたんだ。怒ってごめんね」

男「あ、あぁ。いや、俺は蔑まれて当然だよ」

男くん、と幼なじみが男の方へ顔を向けた。
この惨状に微塵も心を動かしていないのか、無感動な顔だった。

幼なじみ「思い出して……男くん。
フラグ屋は……奴は何を言ったの?」

男「何って……フラグを得たら犠牲も得るとか……
あと、昨日十万払って10人……10人?」

文武両道の水泳部。
巨乳とボーイッシュが同居しているテニス部。
スレンダー委員長系風紀委員長。
口は悪いが家庭的な不良女。
お洒落に無頓着そうだが皆に人気のカメラ部。
アメリカからやってきたアーチェリー部。
涼しげな目元の大和撫子弓道部。
ポニーテールで元気いっぱいバスケ部。
ボサボサ髪が顔にかかってるけどよく見ると可愛い漫画研究部。
会話が通じない演劇部。
おとなしい小動物系の文芸部。

男「1人多い……サービスか!?」

幼なじみ「その1人は誰?
何かおかしな点はない?
気付いて……男くん」
男「おかしな点?
思い出すよ……思い出す……んんんぅ……!
頭が痛い……なんだこれ」

男が記憶を掘り起こすほど、頭が痛んだ。
深ければ深いほど、バールのようなもので殴られたように衝撃が走った。
まるで、頭の中で何かが思い出をロックしているように。

幼なじみ「男くん、大丈夫?
私、水持ってくるね」

男「あ、あぁ」

幼なじみを見送る――その華奢な背中に、強い既視感を覚えた。
直後、激痛。
これまでと比ではない。
男は発狂し、転げ回った。
白目を剥き、叫ぼうとするが、擦れた悲鳴が漏れたたげだった。
彼は自分が喘いでるのか、叫んでいるのかも分からないに違いない。
彼の額の裏を、記憶の欠片が暴風雨のように飛び交った。
先ほど見た廊下、校庭から――止まった友――血泡を吹くラグビー部――乙女達の戦場――暇だから読んだ童貞WARS――。
男は息を荒げ、吐いた。
視界は赤黒く滲み、何も見えない。
また、発狂。
中学の三年間の思い出が走馬灯のように過る――小学生の卒業式――遠くに映る入道雲――幼稚園の発表会――彼の視点がどんどん低くなっていき、やがて、浮遊感を覚えた。
母親の胎内だ、と思えば、視界が暗転し、更に彼は遡った。
幾多の星が泳ぐ宇宙を。
果てまで――


何もない暗澹たる闇の中に、彼は在った。
いや、目に見える物はないが、無限と呼べる情報が奔流を作っている。
男はそこで自分を知り、押し出されるように、元ある場所へと帰った。

幼なじみ「男……!男!」

男の目に映ったのは、いつも冷淡な態度の幼なじみであるはずの、揺れる瞳だった。

男「はは、ただいま。ボニー」

幼なじみ「クス……昔はそう呼んでたわね……
おかえり、男」

一瞬のアイコンタクト。
二人には、それで十分過ぎた。

男「黒い風が泣いておる……」

男は葉巻を取出し、火を点けた。

幼なじみ「そう……分かったのね」

男「あぁ」

その声は、降り積もった何かの胎動にも思えた。
幼なじみは太もものホルスターから、銃を抜き放った。
安全装置が外される音は、歪んだ運命の慟哭か、はたまた決戦への前奏曲か。

幼なじみ「行こう」

男は煙をくゆらせた。
遠い目は、恐らく過去に向けられているものに違いない。

男「あぁ」

図書室は沈みかかった太陽で、燃えているようだ。
校内は血と乙女達の爪痕が目立つのに、ここだけは忘れられているかのように静かだった。

男「やはり、お前か……」

男は、一つ紫煙を吹かした。

男「文芸部」

文芸部「……」

男「いや、こう呼んだ方がいいのか?フラグ屋」

文芸部「ふふ、ばれちゃいましたか」

文芸部は無邪気な笑いを零し、こちらへ向き直った。

文芸部「いつから気付いてたんです?」

男「……お前の力は『物語を紡ぐ能力』
俺が中学から幼なじみと付き合っていたのをなかったことにし、俺の記憶を改竄したのもお前だろ?
だが、どんな力にも発動条件があるんだろうな」

男は目を瞑った。
目蓋の裏で、風紀委員長がテニス部を消し去るシーンが自然に浮かんだ。

男「だからフラグ屋なんかやって、俺に望ませた。
『もてたい』当事者が願う、それが発動条件だ。
そして、お前は物語をいいように書く。
邪魔者がいなくなり、俺とお前が唯一男子『アダム』と唯一女子『イブ』になる……そんな筋書きを、な。
俺達は、お前達に踊らされるキャラクターってとこか。
だが、もっとも決定的なのは……フラグ屋から借りた『童貞WARS』の貸し出しカードにお前の名前しかないってことだよ」

文芸部「ご名答。
さすがは男さん。私の大切な旦那さま……」

喉の奥で笑う文芸部に、幼なじみが銃を向けた。
怒気を孕ませて言う。

幼なじみ「ふざけないで!
貴方のせいで、どの世界でも男は心が壊れ、悲惨な末路に向かうのよ!」

文芸部が、顔を歪ませた。
汚いものでも見るように、幼なじみへ視線を投げ掛けた。

文芸部「貴方は私の物語にはいない予定で不思議に思ってましたが、謎が解けました。
貴方は、時を繰り返してますね」

男「なに……ッ!」

幼なじみ「……そうよ。
私はただ一人生き残り、渇望した。
男を救える力を!」

幼なじみは力強い語調で、誰に言うともなく言い放った。

幼なじみ「私は勉強して、身体も鍛え上げ、お洒落して、たまに自分へのご褒美でスイーツを食べた。
女を磨きに磨きに磨いた!
摩擦熱ですり減るぐらいにね!
そして――生徒会長になった!
生徒・マスター・会長にもなれば!その権限は時間にも及ぶッ!」

男「な、なんて能力だ……」

文芸部「それを聞いて安心しました。
私が毎回勝ってるんですね。
今回は、能力を行使する前に殺して差し上げましょう!」

文芸部が、神速と評すべき早さでノートとペンを取り出した。

男「は、疾い!見えなかった!」

文芸部「私の運命を歪め、物語を創る文芸能力、歪曲論理『ディストーション・ロジック』と……私自身がユーキャンで身につけたスキル、速記検定『ハンド・ダンシング』が合わされば無敵なのですよ!」

男「な、なに!
くそ……能力の発動を速める能力!
速記検定一級まで修得してるのか!?」

文芸部「いつから一級だと勘違いしてたんですか。
――私は零級ですよ」

男「バ、バカな!?
零級は旧世界の遺物……!
まさか伝承者がいたなんて……!」

文芸部「『幼なじみは虫歯で死ぬ!』」

幼なじみ「遅い!」

文芸部が三文字しか書き終えぬうちに、幼なじみのリボルバーが火を噴いた。
文芸部は速記検定零級の資格だけでなく、ボールペン字検定零級も持っている。
その筆記速度は、瞬きする間に美文字で短編を書き上げ、フランス書院に原稿を持ちかけているほど早いのだ!
にもかかわらず、幼なじみは苦もなく文芸部のノートを撃ち抜いてみせた。

幼なじみ「時間旅行で冬戦争に参加し、シモ・ヘイヘと渡り合った私の動体視力の前では欠伸が出るわね」

文芸部「くっ……」

男「ス、スゴイ!なんて正確なエイムだ!」

文芸部「クソォォオオオ!」

文芸部はうなだれ、床に這いつくばった。

文芸部「好きだったの……好きだったのよ、男くんが!」

幼なじみ「……文芸部、自首しなさい。
……そして、クスリなんてやめてまっとうに生きな」

男「――!?……おい、こいつ床に文字を書き殴ってるぞ!」

文芸部「ハーハッハッハッハッハッハ!
“幼なじみはもうなんか死ぬ!”」

だが、何も起こらなかった。
幼なじみは嘆息混じりに言った。

幼なじみ「あんたの能力は、本名じゃないと有効じゃない。調べついてるから。
幼なじみって偽名なのよ、実は」

文芸部「そ、そんな……!」

幼なじみ「教えてあげる。
瓦礫で出来た、歪なお城のお姫様。
貴女を倒し、貴女の世界を崩壊させた女の名をね」

文芸部「ひ!く、くるなぁ!」

幼なじみ「数多の世界で特殊部隊を渡り歩き、恐竜を素手で倒し、暇だから昔の戦争に参加して歴史曲げちゃったりした――」

幼なじみは、拳を振りかぶった。

幼なじみ「元グリーンベレー所属の、カラミティ・ジェーンよ!!!!!!」

轟ッッッ!!!!!
幼なじみの拳は、音を置き去りにした。
亜空速で、文芸部の顔にめり込むッ!
彼女は紙くずのように吹っ飛び、壁を破壊し、それでも勢いは衰えず、どこかへ消えてしまった。

幼なじみ「勝ったな」

男「あぁ。当然の結果だ」

幼なじみ「ふふ、これでポーカーのツケはなしね」

男「へっ、みみっちい女だぜ……!」

幼なじみ「それどころか、仕事料金が欲しいくらい。
貴方が一生かけて払えるくらいの、ね」

男「わあったよ、バーロー。
……早速、返済してやるさ」

幼なじみと男の視線が、絡みあった。
男は彼女の絹のような髪を撫でる。
夕陽を受け、幼なじみの顔はいつも以上に艶っぽくみえた。
彼らはどちらからともなく、口付けた。
最初は触れるだけ、だが、それは熱を帯びていく。
燃える太陽をバックに、今、彼らの愛は何よりも熱く燃えていたのである。
互いに激しく求めあい、若い芳香を散らす。
男は幼なじみの首筋にKISSを落とした。
彼がだんだんと唇を下へずらす度、彼女が漏らす甘い声に、切なさが混じっていった。

ジムへ行って参ります

完結?
いってらっしゃい

>>57
いえ、まだあと半分ほど

帰宅してから再開したいと思います

再開致します

とその時、二人に嫉妬したように、校舎が揺れた。

男「な、なんだ?」

幼なじみ「空気の読めない地震ね」

二人の脳裏に、何か嫌なものが走った。
直感、とでも言おうか。
男と幼なじみは顔を見合わせ、シニカルな笑みを交わしあった。

男「まだパーリィは終わっちゃいねぇようだぜ、ボニー」

幼なじみ「じゃあ抜け出して求め合ってる場合じゃないわね、クライド」

男「おいおい……俺は軍を抜けた。
今はただの高校生さ」

幼なじみ「でも、銃は貴方のことをまだ好きみたいよ」

幼なじみは腰のホルスターから、一丁男に寄越した。
男は口を歪ませた。

男「軍の俺仕様の銃……まだあったのか。
『カラミティ』……お前と同じ名だ……」

幼なじみ「ふふ、じゃあ」

現役時代は、前線で阿吽の呼吸をみせた二人である。
無言の了解で、同時に地を蹴った。
窓ガラスをエヴァっと突き破り、転がりながら衝撃をころした。
戦場で培った勘で分かる。
すべての黒幕が、校庭で待っていると。
そこにいたのは、意外な人物だった。

演劇部「いつものように文芸部はやられましたか」

まがまがしいオーラを纏わせた演劇部である。

幼なじみ「演劇部……!」

男「その口振りは……!
繰り返された世界を知っているのか!?」

演劇部「知っているも何も」

演劇部は醜悪な笑顔を広げた。

演劇部「この世界は、私の戯曲に過ぎない。
貴方達が元凶だと思って倒した文芸部も、所詮は傀儡。
舞台でおどけるマリオネットなのです」

男「な、なんだと!」

演劇部「まだ分かりませんか?
文芸部の筋道を歪める程度の能力で、舞台を演出出来るはずがないでしょう。
それに、文芸部の力の発動条件は『当事者が願うこと』中学時代に貴方は幼なじみと付き合っていた。
好きでしたら、筋道をいくら歪めようとも大まかなシナリオは変わらない」

幼なじみ「……ッ!」

演劇部「そもそも、彼女は弱い。
少なくとも幼なじみ、貴方よりはね。
実際に戦ってみてわかったはずだ。
二百回目くらいのループまでの勝率は五分五分でしたが、ループを重ねて幼なじみが力を伸ばしていった為、今は最後の演目も楽しめない」

幼なじみ「でも……あたしは確かに文芸部に敗けて……」

演劇部「登場人物の記憶をすり替えたのです。私がね」

男「テ、テメェ!一体何の為に……!」

演劇部「戦乙女『ヴァルキリー』達とは逆です。
私は男、貴方が憎い」

演劇部は怒りとも喜びともつかない、狂気じみた表情で言った。

演劇部「冴えない、ぱっとしない!
特にたいした才能も能力もない!
口癖は『やれやれ』『今日は厄日だ』『いつになったら俺の平穏な日常は戻ってくるんだ』!
そのくせッッッ女の子にもてるッッッ!!!
私はね、貴方みたいな『やれやれ系ラノベ型主人公』がダイッキライなんですよォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

男「やれやれだぜ……」

男は葉巻をくわえ、紫煙をくゆらせた。

演劇部「だから、私はねッ!
貴方を可愛い可愛い幼なじみと離ればなれにした!
だが、全てを手がけるのは舞台演出家ではない!
役を振り当て、役者に味のある演技をしてもらいたい!
だから貴方に密かに想いを寄せている文芸部を利用した!!
そして、血深泥の戦いの中、貴方が壊れていくのを見て、フフ、勃起しちゃいましてね」

幼なじみ「く、狂ってる……!」

男「救えねぇな」

男は無感動に言うと、素早く銃を撃った。
だが、そこに演劇部はいない。

演劇部「言ったでしょう?
この世は私の戯曲に過ぎない、と」

上から降ってきた声に、振り仰いだ。
演劇部は屋上のフェンスに腰掛けていた。

演劇部「さぁて、今回は特別に、男に見せてあげましょう。
今朝言った通り、この世は仮面の舞踏会。
私の素顔を見てもらいたい」

演劇部は自身の頬を引っ張った。
ビリビリと破れ、演劇部の顔の下にある素顔が明らかとなった。
美少女の下は――キモオタだったのだ!

男「貴様は……パソコン研究部」

演劇部「フヒヒヒヒィ!
その名は捨てた!
今の俺様は謎の美少女、演劇部!
リア充爆発!リア充爆発!
もてる奴は苦しめェェェェェェェェェェエエエエエエエエエ!!!」

演劇部は唾を撒き散らしながら、

演劇部「煉獄より来たれ、浄化の炎よ!
我の命にて全てを壊す力とならん!――『リア充爆発』」

男と幼なじみが左右に転がり、回避動作をとった。
直後、彼らが立っていた場所が粉塵を巻き上げながら爆発した。

演劇部「ヒョアアア゙ァ゙ァア゙アア゙!!
逃げろ、逃げろ、兎さん。
じわじわと、我が劇場で氏ね!!!
天空駆けし風よ。
千の名を持つ神の息吹きよ。
この手に集いて凶刃とならん『リア充バラバラ』」

演劇部が手を翳すと、その方角に嵐が巻き起こった。
真空の刃が校庭で逃げ惑う二人を、木々を、街並みを破壊していく。

幼なじみ「FUCK!フランス外人部隊の糞上官に胸を揉まれた時以来にムカつく野郎ね!」

男「そいつぁいい!
生き残る理由が出来た!
そいつのケツに手榴弾ぶち込まないとな!」

幼なじみ「悪いけどもうやったわ!
手榴弾じゃなくRPGだけどね!」

軽口を叩く二人だったが、風の刃は見えない上に、恐ろしく速く、あっという間に彼らは傷だらけとなった。
演劇部が頃合いを見て、醜く破顔した。

演劇部「プギッギッギッギ!
余裕こいちゃって、まぁ!
宇宙の外側を知り、演劇部としての能力に目覚めた俺様は星の動きさえ操れんだよ!
俺様は、神だ!!!
俺様は全てを演出出来て、舞台を回せる!
なのに、なんで貴様等は俺を崇めない!?
おかしいだろがァア゙ァ゙ァア゙アア゙!!」

幼なじみ「神は信じない主義でね。
祈る為に両手がふさがったら、銃が持てないじゃない」

演劇部「うるさいうるさいうるさァい!
あぁ。分かった。
俺を誰も愛さない、こんな世界いらない。
壊れてしまえ!!!」

演劇部の股間が、淡く発光する。
彼は咆哮を上げると、宙へ浮いた。

男「あー、なんでもアリだな、あいつ」

幼なじみ「奴の息子に凄まじいエネルギーを観測……Shit!あいつ、次元まるごと吹き飛ばすつもりよ!」

男「終わりって言いたいのか」

男は横目でちらりと、涙を溜めた幼なじみを盗み見た。
彼女が泣くのを見たのはガキの頃以来だな、そう思いながら、最後の葉巻をくわえる。

幼なじみ「ごめん……男……交わした約束、守れなかった……」

幼なじみの額の裏には、遠いあの日に男と交わした会話が浮かんでいた。

幼なじみ《男くん!男くん!死なないで!》

男《ハハ、これは罰なんだ。
ハーレムエンドという禁忌を目指した漢への……
彼女達の心の痛みはこんなもんじゃない……》

幼なじみ《男くん……》

男《でも……もしも願いが叶うなら……フラグ屋に騙される前の俺を助けてあげてくれないかな……》

幼なじみ《男くん……男くん?
クライドォォオオオ!!》

男「ちっ……俺も男が落ちたな。
惚れた女一人、守れないどころか、泣かしちまう」

男は何も言わず、演劇部を見上げた。
そして、満身創痍に鞭打って、高く跳躍した。

男「演劇部ゥゥゥゥウウ!!!」

演劇部「フハハハハハ!!!!
神に抗う下等生物め!
消えろや!!」

演劇部の光る股間から、一条の光が放たれた。
胸を貫かれるが、男は歯を食い縛って耐え、宙へ浮く演劇部へ一撃を見舞った。
二人は体勢を崩し、地面に激突した。

演劇部「テンメェェェェエエエ!!」

胸を熱線が貫いた男は息も絶え絶えだが、演劇部はむくりと起き上がった。
殴られた頬も、すぐに再生していく。
演劇部は幼なじみが銃を撃つより早く、男へ股間を向けた。

幼なじみ「くっ」

演劇部「おっと、動くな。
動くと彼氏のアナル処女はないと思え。
もっとも、動かなくとも死ぬがな!」

演劇部が股間のコスモを高めた。

男「ち、ちくしょ……」

?「おっと、俺以外に苦戦してんじゃねぇよ。男」

演劇部「がっはぁ!?」

頼もしい男の声。
途端に、演劇部の背中に、無数の槍が刺さっていた。

友「ハハハ!待たせたな、ご両人!
仲人の到着だぜ!」

男「と、友ッ!」

幼なじみ「友くんッ!」

二人の喜びと驚きを孕んだ声が、黄昏を裂いた。
友はキッと演劇部を睨み、両手両足耳鼻口アナルに、装備出来るだけの槍を精製した。

友「演劇部、欺き騙す、悪い奴!
ガキの頃に教わらなかったか?
嘘ついたら針千本飲ますってなぁ!」

演劇部「クソ!何故お前が……!
こんなのシナリオにないぞ!?」

槍を抜こうと躍起になる演劇部が、悲鳴を上げた。
彼の頭にテニスボールが着弾し――

テニス部「松岡修造かと思った?残念っ!
テニス部ちゃんでした!」

右肩に木刀が振り下ろされ――

不良女「てめえだけは許さねぇ!
久々にキレちまったよ……屋上行こうぜ」

まだ癒えぬ背中に、強烈な蹴り――

後輩「陸上部殺法、ハードル・ブレイク!
男先輩!友先輩!助けに来ましたよ!」

強烈なフラッシュで目を潰され――

カメラ部「明日の校内新聞の見出しは決まりですね!
『哀れ、キモオタの末路』」

だめ押しと言わんばかりに、無数の矢が全身に刺さった。

アーチェリー部「HAHAHAHAHA!
吹っ飛んだ先がアメリカ軍基地でないことを祈りな!」

弓道部「――大和撫子より、この糞ったれた笑劇に……精一杯の愛を込めて」

男「みんな……みんな生きててくれたのか!」

幼なじみ「どうして!?」

テニス部「正確には生かされた、だけどね」

友「あぁ、保険医先生。
男と幼なじみの傷も診てくれ」

保険医「えぇ。ベ〇イミ!」

男「き、傷が……!」

幼なじみ「そうか……保険医先生が……!」

演劇部「クズ共が……群れたところで……」

演劇部はゆらゆらと立ち上がった。
全員がハッとして彼を注視した。

後輩「こいつ、まだ生きてやがるんですか!」

幼なじみ「気をつけて!
そいつは神の領分に足を踏み入れてる!」

不良女「マジで?超ヤベェぢゃん」

友「クソ!生半可な攻撃じゃダメだ!」

友が全身に槍を装備したまま、前に進み出た。

友「男と幼なじみが全快するまで、みんな時間を稼ぐんだ!」

弓道部「――御意」

アーチェリー部「神様に矢を射つなんて、田舎のオフクロには言えないね。
敬虔なクリスチャンだからな!HAHAHAHAHA!」

後輩「こんな人の人生を弄ぶような奴、神様じゃないです!
殺ッてやるです!!」

男「み、みんな……!」

幼なじみ「こんな世界……今までになかった……!
私はずっと一人で戦ってきて……」

男「幼なじみ……」

保険医「ベ〇イミ!ベ〇イミ!……ゼェゼェ」

幼なじみ「これが力を合わせるということ……。
私の胸に溢れる何かは……きっと素敵なもの……。
泣いちゃいけないって思ってたけど、でも、この涙はとても大切にしたい……」

幼なじみの目から溢れた涙が、地面に落ちる――そこが強く発光し、奇跡が起きた。
涙が跳ねた途端、そこがプールになったのだ。
全員が、それこそ演劇部でさえ、唖然となった。
プールの水は荒々しく跳ね、一瞬で津波となって演劇部に押し寄せた!

水泳部「水中だと私は無敵だ!
何故か?――超気持ちいい!!
水泳部秘伝、津波『ミツメアウト・スナオニオシャベリデ・キナイ』」

演劇部「がっあばばば!?」

水泳部「水泳部奥義、水掻き『ブルー・テンペスト』!」

友「う、上手い!
津波で水に飲み込み、怯んだ隙に、水掻きの連撃!
しかもあの水掻き、高スピードで気泡を作り、演劇部の視界を奪っている!」

後輩「なんという解説キャラ」

水泳部「止めだ!
青の衝撃『バサロキック』!」

演劇部「ぐぉぉぉおお……!」

津波から蹴り飛ばされ、演劇部は空高く舞った。
そこにサッと二つ人影が現れた。

漫画研究部「演劇部殿ぉ!
信じておりましたゆえに!
自分は悲しいですぞ!
必殺、漫画の音読『仲間だろうが!!ドン!!』」

バスケ部「ねぇ、演劇部くん。
ダンクって知ってる?」

バスケ部が演劇部の身体をがしりと掴む。

バスケ部「キミが壊れるくらい地面に叩きつけられるのをね、爽快っていうんだよ!」

バスケ部は演劇部を掴んだまま、パイルドライバーの要領で校庭に叩きつけた。
耳をつんざく轟音――校庭にクレーターが出来た。
土煙が空高くまで上がり、辺りは一気に視界が悪くなった。

漫画研究部「やったか……?」

友「い、いや……!
なんてしぶとい野郎だ!」

演劇部が奇声を上げ、弾丸の如く、飛び立った。

演劇部「ア゙ァ゙ァア゙アア゙!!
貴様等俺様をこけにしやがってェェエエエ!!
降りよ、悠久の果てよりこの地へ。
聞け、宵闇の胎動を。
我は命ずる、破壊の限りを。
我は命ずる、虚無『カルマ』の崩御を。
――『リア充爆滅しろ』」

┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙……!!!!

宙が震えた。
間髪を入れずに、魂の髄まで震わすような衝撃が全員に駆け巡った。
熱と光が奔流し、彼らは絶叫するが、炎は容赦なく口を開けた者の肺を焼き付ける。
鳴り止まない、モノが砕け、蒸発する音楽は、壊れていく星の哀哭にも似た響きだった。
誰かの啜り泣くような呻きが後を引くように漏れ――一転して、静寂。
辛うじて意識を保っていた男が顔を上げると、辺りは地平線まで焼け野原だった。
部活動で培った体力だろう、全員、何とか五体満足を保ったまま気を失っている。
男は痛覚さえ忘れてしまった身体を軋ませ、視線を横に滑らし、その目を大きく見張った。
彼の前にあったのは、たった一人、全員を守るように両手を広げていた人物が、膝から崩れていく瞬間だった。

保険医「ベ、ベホ、ベ〇マラー……」

擦れた呻きを漏らした。
直後に淡い光がその場を包み、戦士の傷を癒していく。
皆の顔がぴくりと動き、突き動かされるように立ち上がった。
彼女はそれを見届けると小さく何かを呟き、何度か痙攣した。
そして呆気なく彼女は、短い生涯をベ〇マラーに散らしたのである。

演劇部「中古オナホは処分だ」

幼なじみ「貴様ァァアア!!!
ビッチのことかァアアアアアアアアアアア!!!」

男「許せねぇ……!演劇部ッ!!」

演劇部「ふん、中古オナホが咄嗟にかけた補強保険技、無彩の灰燼『テーピング』で守られていたとはいえ、人類を滅ぼした我が一撃に耐えたとはな……」

演劇部は頭を前に傾けた。
震える唇は怒りからか、会いたくてか、震えている。
やおら顔を上げると、凄まじい形相で発狂した。

演劇部「貴様等!貴様等!
貴様等貴様等貴様等ア゙ァ゙ァア゙アア゙!!!
概念ごと消し飛べやぁぁああああああああ!」

演劇部のスカートが、ここにきて一番の盛り上がりを見せた!
やがて、あっけなくスカートとその下のショーツは弾け飛んだ。
飛び出したのは、異相とも言うべき黒い何かだった。

友「な、なんだありゃあああ!」

水泳部「恐らく奴の全神力。
この世界の始まりから、終末までの力だろう。
過去も未来も、あそこに集約されている」

漫画研究部「つまり……どういうことだってばよ!?」

不良女「この世の全てがあそこにあるってことだろ?」

漫画研究部「一繋ぎの財宝ですな!」

後輩「で、でも世界を股間に持つ奴を倒したらこの世界は……!」

友「大丈夫だ、後輩!だって――」

男「未来は俺達の手の中、だろ?」

幼なじみ「ふふ、そうよ。
あいつは神の如く力を手に入れたけど、元はただの思春期拗らせた高校生。
私達人類の絶え間ない発展は、私達自身の手で作ってきたもの。
これからの未来も、私達が歩き、作っていくもの。
人類滅んだけどね!」

友「あっちゃぁ!良いとことられちまったぜ!
そういうことだ皆!
あと後輩、結婚してくれッ!」

後輩「ふつつかものですがッ!」

言葉を交わす間にも、演劇部の股間は、銃身を伸ばしていった。
まがまがしいそれは、地球に向けられていた。
発射まで間もなくなのは言うまでもない!

友「シャアアア!!行くぜオラァ!
後輩、大会でやった合体技だ!」

後輩「はい!ツインテールコプター!」 ババババババ!

後輩が友を抱き上げ、ツインテールを高速回転させた。
次の瞬間には、宙へ浮き上がった。

友・後輩「槍千本『ライアーデッド』!」

アーチェリー部「ミー達も行くぜ姉妹!」

弓道部「――応。
我が極意――刮目せよ」

空中から友の槍が降り注ぎ、地上からはアーチャーコンビが矢を放った。
だが、演劇部の黒いオーラの前に、蒸発してしまう。

男「なに!?」

テニス部「な、何が起きたというの!?
私の動体視力を持ってしても、何も見えなかった!」

カメラ部「――捉えた」

カメラ部のインスタントカメラから、写真が飛び出た。
男がそれを掴み取る。

男「バリアだ……!」

着弾の瞬間を捉えた写真には、演劇部の周りに黒い膜が映っていた。

バスケ部「ど、どうすれば……!」

漫画研究部「考えろ……考えろマクガイバー!」

幼なじみ「私が……私が行くわ!!
だって私は生徒会長だから!!」

男「ふっ、行くなといっても行くんだろう。
だが、俺も行く」

幼なじみ「クライド……任せて!
私、一つだけ方法があるの。
皆の協力が必要だけど」

後輩「幼なじみ先輩に協力しないわけないです!」

水泳部「ふむ、懸けよう。
私達の一撃を」

テニス部「私、ひょんな形だけど皆と友達になれてよかったよ!」

漫画研究部「よせやい。
死亡フラグじゃねいか」

カメラ部「はい、こういう時だからこそ笑って笑ってー……パチッと……うん、良い笑顔。
最高の写真が撮れましたよ」

アーチェリー部「HAHAHAHAHA!
まぁ何とかなるさ!
アメリカじゃこのくらい、日常茶飯事だったからな!」

弓道部「――嘘乙」

不良女「へっ。じゃあ、全ての元凶殴り込み連合結成だな!」

バスケ部「あたし、この出会いで、また高く跳べるような気がするよっ!」

友「マブダチの彼女に頼まれたとくりゃあ、全力出さないと男が廃るぜ!」

男「ボニー、全力で行け。
そばにいるよ/俺」

幼なじみ「みんな……ありがとう!」

演劇部「!?」

演劇部の表情が歪んだ。
幼なじみの身体が金色に光り始め、彼は初めて戦慄というものを覚えたのだ。

幼なじみ「みんな――私に清き一票を、分けてくれェッッッ!!!!!」

宇宙中から願いが込められた票が空を駆り、幼なじみのオーラとなっていく。
銀河暦が始まって五万年来、彼等は傷付け合い、たくさんの血が流れた。
だが、今望むものは一つ――I love you。
幼なじみが重力から解放され、宙で演劇部と対峙した。
皚皚たる票は雪煙のように空を覆い、その投票数は更に増していく。
それは、遥か彼方からの票だった。
今を生きているものだけでなく、過去に生きたもの、あるかもしれない未来に生きているもの全てからの投票だったのだ。

聖徒会長「これが貴方にないもの……絆という名の超展開」

彼女は、生徒会長を越えた生徒会長となったのだ。
理屈?
原理?
そんなものを問う者はいなかった。
何故なら、愛に理由も理屈も必要ないからだ。

演劇部「貴様……!!!」

聖徒会長「演劇部……決着を着けましょう」

黒い影が、ぼうっと動いた。
男達の目には、そうとしか見えなかったのだ。
いや、帰宅部では見ることは疎か、衝撃波で絶命したに違いない。
地球が悲鳴を上げて揺れるのに気付き、友が慌てて、大槍で地球を串刺しにして補強するという乱暴な手段に出た。

友「おい!大気圏外でやれ!
ブラジルの人ごめんなさいッ!」

カメラ部「ダメだ……!
競っているけど、幼なじみさんの攻撃でも押しきれていない……!」

カメラ部が構え、学級新聞『モラトリアム・スキャンダル』で捉えた写真は、幼なじみのオラオラ!が演劇部のバリアに阻まれている残酷な事実を写していた。

アーチェリー部「OH……」

バスケ部「そんな……」

だが、強い闘志を目に燃やし、諦めないのが男であった。
彼は写真を見るや跳躍し、生身の身体で戦いに加わろうと勇んだのである。

水泳部「男ッ!なんて無茶を!」

友「だが、俺もあいつの背中に同意見だ!
女の子を一人で戦わせられねぇッ!
後輩!空を自由に飛びたいぜッ!」

後輩「分かりました!」 ババババババ!

弓道部「――参る」

アーチェリー部「行くぜ!
ピリオドの彼方へな!」

漫画研究部「お前だけにいいカッコさせるかよ!」

演劇部が跳躍する彼等に気付き、ビーム的な何かを飛ばした。
男は身をよじり躱すが、二撃目は避けられそうになかった。
男はせめて、ダメージを軽減しようとガードを固めた。
だが思いもよらないことに、二撃目は何者かの攻撃により霧散した。

?「この世に風紀を乱すものが在る限り、私は戦うのよ!」

?「すみません……後れ馳せながら駆け付けました!」

風紀委員長「あっちで伝言を預かってきたわ。
『途中でリタイアするけど、頑張って。貴方達はまだここへ来るべきじゃない』……私は保険医の最後の患者となったみたいね」

ドドリア「ごめんなさい。許してもらえるなんて思ってないけど、本当にごめんなさい……」

男「風紀委員長!!
と…………誰だキサマッ!」

ドドリア「文芸部ですよぉ。
貴方の彼女の右フックが、私の顔面に深刻なダメージを与えたんです」

不良女「文芸部能力があるっつう泥濘高の裏番長か……!」

男「……」

男は文芸部を直視し、口を開いた。

男「ドドリアさん……いくら操られていたとはいえ……貴方の罪、その身に課せられた呪い、簡単には消えないだろう」

ドドリア「……はい。
無事に戦いが終わったら、切腹か何かして償う覚悟も出来てます」

男「……『死んで償える罪はない』……幼なじみの言葉だよ。
俺たちは学舎を共にする仲間じゃないか。
そんな悲しいこと言わないでくれ」

ドドリア「男さん……!」

会話を交わす二人に、演劇部のエネルギー弾が飛んできた。
反応の遅れた男と文芸部だったが、友の槍がそれを紙一重で受け流した。

友「何があったか知らんが、話は後にしようぜ!」

男「すまん、そうだな。
行くぞ、相棒!皆!」

友「あぁ!」

演劇部「クソ!次から次に、何故揃いも揃って俺様の邪魔をするッ!!」

演劇部は激昂し、オールレンジ攻撃を仕掛けた。

弓道部「――きゃ、きゃぁあああああ!?」

テニス部「ぐっ……」

聖徒会長「このままじゃやられてしまう……!」

聖徒会長が焦りの窺える表情で、演劇部を見据えた。
周りにたゆたう黒いオーラは、攻撃を全て阻んでしまう。
それさえなくせれば、と彼女は胸中、歯噛みした。

聖徒会長「こいつのバリア……!
びくともしない……ッ!!」

?「当たり前だ。
何故ならそれは心の壁だからな」

その三十路絡みの男はバイクで空を駆り、生徒会長の頭上を飛び越えていった。
矢のように、演劇部へと突き進む。

先生「生徒の心の壁を壊せねぇで、教師が勤まるかってなぁ!」

男「せ、先生ェェェェェェェエエ!!!」

教師は勢いそのままに、演劇部に激突した。
神の力とバイクが拮抗し、凄まじい熱を散らす。

先生「演劇部ゥゥゥ!!
先生お前の気持ちに気付かなくてごめんなぁああ!!」

演劇部「今更教師面すんなボケがぁア゙ァ゙ァア゙アア゙!!!」

先生「あぁ、昔先生も同じことを担任に言ったよ。
俺は絶対、生徒の気持ちが分かる先生になるって教員になった。
でも……このざまだ。
俺に善い先生なんて無理だよな……でもな、先生は生徒の気持ちは分からないかもしれないけど」

教師が、懐から写真を何枚か投げた。

先生「思春期の気持ちは分かる!!!
水泳部の生写真だァアアア!!!お前にやるよ!!!」

演劇部「――ッ!?」

その時、

男「そんなバカな……!」

友「あのバカやりやがった!」

聖徒会長「バリアに……ヒビが!?」

水泳部「シャッター音は貴様か!」

一瞬の油断か、はたまた先生の切なる願いか、黒い壁にヒビが入った。
バイクも限界が近いのか、引きつれた叫声のようなエンジン音を吹かしながらも、懸命に走っていた。
さながら、それは命を懸けて特攻した彼のようだった。

先生「ハッハァー!
コイツ、盗んだ代物にしちゃぁ上出来だぜぇえ!!」

演劇部「ふ、ふ、ふざけるなぁァアアア!!!
じょじょ女子のしゃ、写真とか、い、い、いらねぇし!!!!」

先生「――夜の校舎の窓ガラスを何枚も割った。
大人になっても、何か大きな運命に突き動かされるまま、割りまくった」

不良女「師匠……ッ!」

先生「繰り返される世界でも、飽きもせずにひたすら叩き割った。
何兆回割ったかな、視えるようになったんだ。
物体にある、脆い箇所ってのが」

聖徒会長・男「ッ!?」

先生「俺がガキの頃から窓ガラス割ってたのは、この瞬間の為の布石だったんだなァアアア!!!」

黒い結界が、木っ端微塵に破壊されたッ!

先生「道は開けた!
行け!未来を担う糞ガキ共ォア゙ァ゙ァアアア゙!!!」

演劇部は、自分のバリアが破れたとはいえ、個々の力で劣る上に生身の身体というのに、挑んでくる男達に気色ばんだ。
血だらけになり、生命を燃焼させながらも戦う彼等に、彼は狼狽する様子すら見せる。
気付かぬうちに、その濁った瞳に恐れの色を滲ませていた。

演劇部「何故だ……!
何故こんな世界に執着する……!?
道を歩けば、下校中の女子中学生にクスクス笑われるッ!
ハンター×ハンターは再開しないッ!
まいんちゃんは……くっ!
滅びゆくこの劇場でッ!
貴様等は何を見出だしたというのだッッッ!!!!」

男「幼なじみ」

友「親友と……嫁と……!」

後輩「ここにいるみんなです!」 ババババババ!

水泳部「こいつかな?」

テニス部「ちょっと……んっ……ぁん……」

不良女「暗闇でこそ光るモンがある……お前にゃ分かんねぇだろうけどよ」

バスケ部「もうちょっとだけバスケがしたいんだ。
それじゃ理由には不足かな?」

弓道部「私達は生きてる……だったら、地球に緑を戻す義務がある。
絶対に、貴方の思い通りにはさせません!――という戯言を余が抜かすかと思うたか、俗物め。――支配者は余一人で足りておるわ」

アーチェリー部「HAHAHAHAHA!
むしろ、youのおかげで受験がなくなって生きる希望が湧いてきたところだぜ!」

漫画研究部「生憎、私も非リアなんでないね。
だが、一生かけてそれを探すのが生きることってことではないのかね」

カメラ部「希望?レンズを覗けば、いくらでも見えますよ。
ハイ!みんな笑って!」

ドドリア「もう過ちを犯したくない……そして、貴方にも間違ってほしくない」

風紀委員長「そこに風紀の乱れがあるからよ!」

先生「右手とおちんちん。
これ以上何が必要だってんだ?」

聖徒会長「戻りましょう……夢も、希望も、枯れてなかった、貴方がパソコン部だったあの頃へ。
そしたら、私は男のこと忘れるのかな?
男、その時は――」

聖徒会長が、いや、幼なじみが男へ顔を向けた。

幼なじみ「なぁ…あんたも早く彼女作りなよ」

男「えっ…


なぁんて言うと思ったか!
いつ、いかなる場合でも、例えスレタイがそうであってもッ!
俺たちは結ばれる運命なんだよ、幼なじみ!!」

幼なじみ「!……うん!」

先生「よぉし!!!
この支配からの卒業だ!!!」

男「先生……あぁ!
行くぞ、みんな!
日教組に負けるな!
君が代じゃぁああああ!!」

演劇部「や、やめろォォォォォォォオオオオオオ!!!!」

全員「さざれ石のぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

――泥濘高校生徒13名、教員1名、ドドリア1頭。

友「楽しかったァ!」

「「「修学旅行ッ!」」」

演劇部「イ、イヤァァァァァァアアア!!!!!!」

幼なじみ「皆で張り切ったァ!」

「「「文化祭ッ!」」」

演劇部「や、やめろォ……!
やめてくれェェエエ!!!」

男「そしてッ!今現在ッ!
世界の終末で行われているッ!」

全身全霊のッ!

卒業式『グランド・フィナーレ』ッッッッッ!!!!!!

全員「いっけぇぇぇええええええええええええええええええ!!!!!!」

演劇部「あ……あ……!」

俺「……が……はっ……」

演劇部「俺も……」


演劇部「俺も……この虚構の世界から……」


パソコン部「卒業したい!」

男「おめでとう」

幼なじみ「おめでとう」

友「おめでとさん」

先生「めでたいなぁ」

後輩「おめでとうございます」

パソコン部「あ、ありがとう……!」

偽りに さようなら

新しい自分に こんにちは

全ての非リアに おめでとう

――――――――――

――――――――

――――――

――――

――

幼なじみ「こらー。遅刻するよ、男!
卒業式くらい自分で起きてよ」

男「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ……」

幼なじみ「寝呆けてないで起きなさい!」

幼なじみはムッとすると、フライパンとお玉を叩き合わせた。
これにはさすがの彼も参ったのか、慌てて飛び起きた。

男「敵襲か!?
さてはアメフト軍だな。
俺の11.2ミリ弾で眉間に穴を……あれ?」

幼なじみ「ぷっ……くく……」

男「……あー、その、おはよう。幼なじみ」

幼なじみ「あっはっはっはっは!
何?どんな夢見てたの?
敵襲か!?……だって!
あははははは!」

男「は、はは……」

幼なじみ「あー……お腹痛い……ひぃ、ひぃ、ふぅ。
まったく、朝から笑わせないでよ、男!
早く朝ご飯食べて、学校行こ!」

男「あぁ、なんたって今日はこの支配からの卒業だからな!」

幼なじみ「また尾崎豊?
男って本当に好きよねー。
一年前くらい前だっけ?
急にはまりだしてさー。
誰かの影響なの?」

男「ん。まぁ、そうだな」


今思い出すとあの奇妙で、狂気に溢れ、中学生の妄想よりも酷い戦いは、嘘のように思える。
だが、俺は確かに気の遠くなるほど長い間、数奇な運命に踊らされたのだ。
初めの初めは、カップルが怪死するという事件だった。
最初の被害者は、水泳部とテニス部だったはずだ。
レズカップルな為に印象に残り、今もちゃんと覚えている。
俺たち二人は事件の解決と、互いに相手を守りたいから、という理由でどちらからともなく鍛え、強くなる為に戦場を渡り歩いた。
傭兵として、何年も二人で旅をした。

辛い冒険だったが、嬉しいニュースもあった。
無二の親友である友が、後輩と結婚するという報せだった。
銃を撃ち、互いの温もりを抱いて眠り、よくわからない……だが、確かに存在を感じる大きな驚異に怯えながら、俺たちは一流の戦士になっていった。
だが、傍にいる彼女は爛々と目を輝かす女戦士ではない。
持っているのは銃ではなく、箸である。
着ているのは迷彩柄の戦闘服ではなく、制服にエプロンだ。
しっかりしているが、柔らかい笑みが可愛らしいただの少女に過ぎなかった。
――彼女は、虚構の世界を一遍たりとも憶えていないのである。

幼なじみ「男……?」

男「ん?すまん、なんだ?
幼なじみ」

幼なじみ「ううん……ただ、なんか時々ね。
男の目に、なんか別の人が映るような気がするの」

男「はは、なんだそりゃ」

幼なじみ「男が妙に大人びているというか、渋くて格好いいというか……ってやだ!
そんなんじゃないんだからね!」

幼なじみは真っ赤になり、弁明した。

男「ははは、分かってるよ。
『あんたなんかとは絶対付き合わない』だもんなー。
悲しいなー」

幼なじみ「むぅ……それはちが……」

幼なじみが涙ぐんだ。
俺は苦笑し、

男「ははは、ごめんごめん。
悪かったよ、本気じゃないんだろ?」

幼なじみ「ほ、本気だし!
もう、学校行こ学校!!」

やがて、俺と幼なじみは向かう所敵無しといった強さを身に付け、日本に帰国し、愕然とした。
……友と後輩の二人が、何者かに殺されていたのだ。
俺は怒り狂った。
血気にはやり、幼なじみの忠告も聞かずに目立つ活動を続けた。
結果、演劇部の罠にかかり、奴に操られた自衛隊一個師団を相手に、壮絶な最期を遂げた。
それから、彼女は生徒会長になったのだろう。
俺の……そして皆の命を救う為に。
俺はその一件で、蓄えた力と戦意を敵に見せすぎたらしい。
黒幕の演劇部に目を付けられ、記憶を改竄されて、フラグを買って女の子を傷付けるロクデナシになってしまったのだ。
俺はそれから幼なじみを心から信じず、彼女はずっとずっと一人で戦っていた。

『時を繰り返せるって言ったよね……フラグ屋に騙される前の俺を……助けてほしいかな……』

こんな俺の為に、あんな約束をずっと――。

幼なじみ「でね……男?
もう、ちゃんと聞いてる?
こっからが面白いんだから!」

男「聞いてるよ。
アーチェリー部がどうしたって?」

幼なじみ「そうそう、あの大人しくておっとりしてるアーチェリー部ちゃんがだよ?
急にイメチェンしたいって言ってね」

友「おーい、ご両人!」

幼なじみ「あ、友君も聞いて聞いて!
アーチェリー部ちゃんがね……」

男「友、あれ?
その後ろのちっちゃい子は……」

友「あー……部活の後輩だ。
今朝、たまたま会ってな」

後輩「は、初めまして、男先輩。
お、幼なじみ先輩」

幼なじみ「あはは、後輩ちゃんだね。よろしく」

男「そんな固くならなくても」

友「まったく、俺には生意気言うんだけどな」

後輩「い、いまはそれ関係ないです!」

友は台詞とは裏腹に、優しい眼差しを後輩に向けていた。
後輩はそれに気付いているのか否かは分からないが、赤みが差した顔で友を見上げている。
俺はそれを見て、自然と顔が綻ぶのが分かった。

男「(今度こそ幸せになれよ。
友、後輩)」

そう、幼なじみだけではなく、俺以外全員が記憶を失っていた。
なぜ、俺だけがあの繰り返された世界を憶えているかは分からない。
ほぼ全部が辛い惨劇の記憶だが、最初の世界は幼なじみと深く愛し合った記憶だ。
虚構の世界といえど、肌の温もりや質感。
彼女の奥底や、優しい微笑みは、俺の中で本物として生き続けている。
俺だけ忘れなかったのは、神様の罰とも、贈り物とも思えた。

幼なじみ「むぅ」

幼なじみが友と後輩の間柄を汲み取ったのか、俺に不満そうな顔を覗かせた。
俺は自意識過剰なつもりはないが、間抜けでもない。
彼女の想いは分かっているつもりだ。
だが、果たして俺に彼女を愛する資格があるのだろうか。
愛に資格なんかいらないぜ!なんて、友なら言うに違いない。
ともすれば、殴って説教してくるかもしれない。
そして、それが恐らく正しいのだろう。
だが、長い間過ごした友といま傍にいる友は違うのだ。
相談なんて出来やしない。
自分で割り切ればいいのだが、人は一人だとそんなに強くはない。
精神年齢はオッサンなはずなのに、誰かに背中を押してもらいたい、そんな想いがどこかにあった。
情けないが、この世界で自分は常に孤独感を感じ、独りぼっちだからだ。
演劇部が壊れた理由が、今の俺にはよく分かった。

幼なじみ「男ー……」

とはいえ、俺の我が儘で彼女をまた泣かせるわけにはいかない。
どうあっても、命を懸けて守りぬくと決めたし、彼女は気が狂うほどの時間を孤独に生きたのだ。
それに、幼なじみの根本にある暖かさは、同じ時代を生きた幼なじみと一緒ではないか。
俺はそんな重石で孤独感を押し殺し、幼なじみに笑いかけた。

友「結構早くきたと思ったのに、みんな早いなぁ」

幼なじみ「最後だしね……」

体育館は、既に人集りが出来ていた。
開会までたっぷり15分はある。
俺はトイレに行くといい、外で葉巻を吹かした。
この世界にきて一年、色々あった。
友は槍投げで有名体育大学から声がかかり、オリンピック出場を有望視されているほどの選手らしい。
さすが、空気中の塵から槍を精製したり、中二臭い技を使うだけのことはある。
幼なじみは元々勉強がそこそこ出来て、俺は遥か昔は教わる立場だったのだが、年の功か、今は俺が教える立場になり、不思議がっている。
先生はすぐに逮捕された。
この世界に帰り、間もなくのことだった。
余罪を追及され、未だに獄中だ。
逮捕の極め手となったのは、保険医の前でいきなり、無言で脱いだというものだった。
彼は本当にぶれない。
他の戦乙女は……元々、接点がないため、話すことはなかった。
ただ、幼なじみがアーチェリー部を『大人しい』『おっとり』と言っていたように性格が違うのが、少し寂しく思えた。
その点、先生はさすがだった。

押し入れから引っ張りだして最近やってる伝説のオウガバトルやります

見てくれた方、どうもありがとう
おやすみなさい

アーチェリー部「あ」

弓道部「どしたの?……あぁ」

俺はぴくり、と眉が震えたのを感じた。
金髪碧眼の留学生と、和風美人といった風の二人組が、俺の前で足を止めた。
二人は俺の葉巻を、険しい目付きで見ている。

弓道部「不良だ……いけないんだ、男くん。
煙草なんて。ねっ、アーチェリー部」

アーチェリー部「あぅ」

男「あぁ、ごめんごめん。
すぐに消すよ」

俺は素直に謝ると、点けたばかりの葉巻をMy灰皿に捨てた。
その間、アーチェリー部は少し上気した顔で、何か言おうと口をぱくぱくさせていた。
説教だろうか?
アーチェリー部は決心したように深呼吸し、

アーチェリー部「HAHAHAHA!
男……卒業式中に悪さ働くなんて、進路は豚箱なのかい、アーハン?……うぅ」

俺は思わず、口をあんぐりと開けてしまった。
この声、ノリ、台詞回し、ぎこちないが『あの』アーチェリー部であった。
俺が毒気を抜かれていると、弓道部が呆れたように笑った。

弓道部「アーチェリー部、イメチェン計画まだしてるの?
というかなんでそんなヘンテコな喋り方なんだよ」

アーチェリー部「だって、弓道部ちゃんみたいに明るくなりたいし……だったらアメリカンかなって……
私アメリカ語全然だけど」

弓道部「英語でしょ……。
まったく。男くん、気を悪くしないでね」

男はかぶりを振り、真顔で言った。

男「いや、全然。
アメリカンの才能あると思うよ、ミートパイとかケツの穴とか星条旗とかも使えば、まだ伸びると思う」

ジムへ行って参ります

夜にまた再開致します

アーチェリー部「ほ、本当ですか!
毎日ハンバーガー食べたお陰かな」

弓道部「ちょっと男くん!
もう、なんで幼なじみだけじゃなくて貴方まで面白がるんだよ」

男「はは、ごめんごめん。
それより、卒業式は?」

アーチェリー部「た、大変!
後3分です!」

弓道部「急ぐよ!男くんも!」

男「あぁー、俺トイレ。
大丈夫すぐ行くよ」

弓道部「とか言って煙草吸わないでね!行こう、アーチェリー部!」

アーチェリー部「HAHAHAHA!行くぜ、姉妹!……あ、これいいかも」

弓道部「――応。なんてね」

男は目を剥いた。
彼女達の中に、確かに前の彼女達が生きている。
そんな気がした。

男は用を出そうと、トイレに行き、今度はパソコン部と鉢合わせた。
彼とは、友達というくらいには仲が良かった。
勿論、最初は良い気はしなかったし、憎いとさえ思っていた。
だが、ひょんなことから能力を授かり、彼も孤独を味わったのだ。
今の自分には、一人だけ置き去りにされて周りが変わる悲しさは分かる。
やったことは間違いなく悪だし許されないことだが、少なくともこの世界の彼を攻める気には到底なれなかった。

パソコン部「また煙草かい?
やめなよ、身体に悪いんだから」

男「毎度だなぁ、諦めろ」

俺の身体に気を遣うパソコン部は、優しさこそあれど、以前の彼のような冷酷さや、破壊衝動はなかった。
演劇部という仮面とは、決別したのだ。

パソコン部「もう、あんまり吸うと幼なじみさんに言うよ」

男「そいつぁ困るなぁ。
だが、卒業式に遅刻もかなり困るぜ、さっさと行こう」

パソコン部「ん?うわ!
もうこんな時間だ!
なんで君は落ち着いてるんだよ!」

俺は苦笑すると、さぁな、とオーバーに肩をすくめてみせた。
実感は湧かないが、遂に、遂にだ。
延々と続いてきた俺たちの高校生活も、いよいよ終わりを迎える。
俺も過去の呪縛から、卒業しようと思う。
『いつ、いかなる時でも、俺たちは結ばれる運命にあるんだよ』
あの日の幼なじみとの約束を破ろう。
幼なじみの中にいる幼なじみではなく、今いる幼なじみとしっかり向き合うのだ。
今を生きる俺として。
俺は葉巻の小箱とライターをゴミ箱に投げ捨てると、体育館へと走った。
走ったのなんて、何時ぶりだろう。

あともう少しなのに…

お腹空いたんでなんか食べてきます

「楽しかった!」

「「「修学旅行!」」」

「みんなで張り切った!」

「「「文化祭!」」」

俺は椅子に座りながら、斜め前と横にちらりと視線をやった。
幼なじみと友だ。
二人とも幼稚園小中から号泣している奴だが、意外なことに、二人は拍子抜けするほど静かだった。
顔をしかめ、不快そうにしている。
俺は肘で、友をつついた。

男「いやに静かだな」

友「まぁ、ガキじゃないしな」

男「嘘をつけ。どうしたんだ」

友は躊躇う素振りを見せたが、やがて、観念した。

友「なんか……実感湧かねぇんだ。
そりゃ、卒業祝いも貰ったし、お前ん家でパーティーもした。
みんなはこれからのことについて話すし、外には桜が咲いてやがる。
あぁ、春だね、そうさ、だけどよ」

友はかぶりを振った。

友「なんか全然そんな気がしないんだよ。
あの校庭の桜が散れば、何故だか、また二年の最初から始まりそうな気がするんだよ。
ハハ、馬鹿みたいだろ?」

男「あぁ、馬鹿だな。
お前はオリンピック選手になるんだ。
俺は大学卒業後、平凡に働き、幼なじみを守る。
何も心配しなくていいんだ」

友「でも……なんかよくわからないけど、ブラジルの人に凄い迷惑かけた気がするんだよ」

男「気のせいだろ」

それから式は差し障りなく進み、いよいよ校歌斉唱のみとなったところで、教頭が壇上に上がった。

教頭「えー、ご来場の父兄の皆様。
今年から校歌が代わり、一般公募から選ばれたものが校歌となりました。
節は変わってませんので生徒は安心してください。
……校長先生が強く感銘を受けまして……」

校長「ククク……宵の果てより舞降りし片翼の堕天使……」

男「(ん?そういや俺も卒業は初か。
最初のループでも結局、卒業時にはアラスカにいたしなぁ)」

教頭「作詞は……窓ガラス・クラッシャー」

校長「泥濘高校……校歌斉唱……っ!」

一,
幾星霜繰り返し 血に泥め
撃鉄を引き金を 碧落へ

揺れる糸に傀儡の世界 少年少女が 轍を踏む

我らは泥濘高校

友「この歌……どこかで……」

幼なじみ「あれ?なんであたし……泣いてんだろ……」

友と幼なじみは、さめざめと泣いていた。

男「お前ら……」

後ろからも啜り泣きが聞こえ、振り返るとバスケ部と漫画研究部も涙を流しているところだった。
驚くことに、他のメンバーも号泣しているとすぐに分かった。
やたら中二臭い歌詞に白けている生徒達の中で、彼女らは浮いていたからだ。

男「みんな……」

二,
散り敷く 灰燼に 佇む君

舞台は ひた廻る 狂狂(くるくる)と

因果は回る糸車 仮面の下で嗤う君

我らは泥濘高校

友「俺……なんか凄い冒険をしていた気がする」

後輩「わ、私もツインテールで飛んだ気がします。
そんなことありえないのに」

幼なじみ「私も……」

校長「卒業ッ……おめでとう……ッ!
これから君たちの行く先で、苦難が歓迎しているだろう……ッ!
だが、君たちは戦える!
武器があるから、力があるからではない……ッ!
仲間がいるからだ……!」

男「校長……」

校長「さぁ行け!
受け取るがいい、卒業証書だッッッ!!!!!」

校長が卒業証書を宙へ放り投げた。
突然の暴挙――PTAが咄嗟に獣のような動きを見せが、教員に押し止められた。
体育館を舞う大量の卒業証書。
それは、いつか見たあの空によく似ていた。

幼なじみ「私も……長い間夢を見ていたみたい」

男「夢さ。夢に決まってるだろ。
終わったんだ。
次は俺が、お前を守る番だ」

幼なじみ「男……!」

幼なじみは涙を拭い、

幼なじみ「夢なんかで終わらせない。
あの日の約束、忘れさせないから!」

男「交わした約束忘れないよ」


カメラ部「はい、はい!
笑って笑ってー!」

バスケ部「ちょっと詰めてよ!
ダンクかますよ!」

漫画研究部「この日に備えて、笑顔の練習したんだ」

弓道部「――にぱ」

アーチェリー部「HAHAHAHA!
こうぎゅうぎゅうで並んでると、士官学校を思い出すな!」

パソコン部「緊張する……」

後輩「わ、私も入って良かったのかな……」

友「気にすんなよ!」

幼なじみ「男、一緒写ろ」

男「あぁ、勿論さボニー。
さぁ、学級新聞『モラトリアムスキャンダル』だ」

カメラ部「それまじ恥ずかしいんで勘弁してください」

パシャ!

俺たちは歩きだす

テニス部「んぁ……!
こんなとこで……ぁん……」

水泳部「ふふ、そんなこと言いつつびしょびしょだぞ」

まだ見ぬ未来へ

アーチェリー部「ハンバーガー八つピクルス抜きで!
あとコーラのLLをテイクアウトでな!」

店員「かしこまりました。
えと……」

弓道部「――次に貴様は『そちらの方はご注文はどうなさいますか?』と言う」

店員「ッ!?」

弓道部「ニヤ」

明日がどうなるかなんて誰にも分からないけど

後輩「きゃぁああ!!
本当に飛べたぁああ!?」
バババババババ!

友「あぁもう、何やってんだよ!」

多分、それも素敵なことなんだと思う

先生「ハッハァー!
捕まえられるもんなら捕まえてみやがれッ!」

PTA「逃がしちゃダメよ!生徒の敵よッ!」

アメリカ軍「ヒャッハー!
応援を呼べ!あいつやり手だぜ!」

俺達の中には進学したり、あるいは就職したりするやつがいるだろう

「こんな辺境の惑星に高い戦闘力を持つものが……」

文芸部「ふえぇっ?
貴方だれですかぁ?」

「貴方、私の下で働きなさい」

文芸部「えぇ!わたし、びっぷらで『童貞「ラスト・オナニーだ」』書かないといけないのにぃ」

「……ホッホッホッ。2ちゃんくらいする時間はありますよ。
私の下で宇宙を支配しなさい」

ドドリア「分かりましたっ」

でも、いくら年月が経ってもあの日の絆は忘れない

風紀委員「この街の風紀も守った……」

俺はどんな困難があっても、挫けない

幼なじみ「男!敵のアパッチよ!」

こいつの笑顔が隣にあるんだから

男「おう、任せろ!」

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