老人「わしはピチピチギャルになりたいのう」(508)

───神殿

神官「よろしい。では今から老人はピチピチギャルじゃ」















女「えっ」

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───とある村

女「……というわけでの」

隣の老人「夢が叶ったのか。良かったな」

女「こんな話信じてくれるのか……さすがにお主は達観しとるの」

隣の老人「わしにとっての真実は必ずしも世間の真実というわけではないだろう」

女「そんなもんかの……わしは未だに信じられんよ。なぜいきなりこんなことになったのか」

隣の老人「ずっとそればかり言っていてうるさかったから、そろそろ神官さんも面倒くさくなったんじゃないか?」

女「……」

隣の老人「しかし……せっかくピチピチギャルになれたというのにお主ときたら……」

女「みなまで言うな。わしも多少なりともショックを受けておる」

隣の老人「見た目が良いわけでもないし、その胸ではぱふぱふも期待できん!」

女「言うなと言っておろうが!大体お主なんぞにぱふぱふなどせんわ!」

隣の老人「健全な男子ならば自分の身体くらい見たろ?どうだった?」

女「それが……女体に対して全く興奮せん。どうやら男性ホルモンまで失ったようじゃ」

隣の老人「今裸になられても前のお主を実行分、わしでも無理」

女「くっ……!」

隣の老人「今裸になられても前のお主を知っている分、わしでも無理」

女「くっ……!」

隣の老人「天国の奥さんもお主のその姿を見たら泣いてしまうぞ」

女「今になって罪悪感が押し寄せてくるの……」

隣の老人「しかし若返ったんだから悪いことばかりではないだろう」

女「そうじゃな。腰痛もないし、よく動けるようになったぞ。そこらの魔物なら昔のように一捻りにできそうじゃ」

隣の老人「お主は昔、魔物を狩りまくっておったからなあ。何が楽しくてあんなに頑張っていたのか」

女「健全な男子ならば強くなることに憧れたもんじゃ!お主は例外で全く努力というものをせんかったがの!」

隣の老人「悪運だけで今まで生きてきたようなもんだからな。ファッファッファ」

女「今なら強力な魔法を何回でも使える気がするぞ。老いぼれのままでは村と神殿を行き来するだけの魔法でへばってしまったがの」

隣の老人「ずっと使ってなかった魔法をまだ覚えておるのか?」

女「うむ、試しに魔物退治でもしてくるわ」タッタッタッ

隣の老人「……生き生きしとるな」

───森

魔物「グギャアアァ……」バタッ

女「ふう、昔より手こずるの。昔のわしの身体のほうが強かった気がするぞ」

女「まあ慣れれば平気じゃろ。段々とぎこちなさはなくなってきたしの」

「うわあああ!」

女「む、人の声か。誰か魔物に襲われたな。仕方ない」ダッ

───

魔物「「ガルルルル!」」

剣士「こ、これまでか……」

女「閃熱呪文!」ゴオオォ

魔物「「グギャアアァ……」」バタッバタッ

剣士「えっ!?」

女「大丈夫か?」

剣士「い、今のは君がやったのか?」

女「わし以外に誰も見当たらんがの」

剣士「あ、ありがとう。助かったよ。あのような強力な魔法が使えるとは恐れ入った」

女「長いこと生きていればあれくらい大したことはない」

剣士「どう見ても私より年下なのだが……まだまだ私の修行が足りないということか」

女(あ、わし今ピチピチギャルじゃった)

剣士「ところで君はこの辺りに住んでいるのかい?」

女「うむ、すぐ近くにわしの村があるぞ」

剣士「私は旅の者だが道に迷ってしまってね、3日間この森から抜け出せずにいたんだ」

女「あんな雑魚モンスターも倒せずによく生き残れたの」

剣士「た、体力が尽きかけていたから……万全の状態ならあの程度の───」

女「わかったわかった。そうなんじゃな。で、この辺りになんの用じゃ?」

剣士「……私は世界中に散らばるオーブというものを探している」

女「オーブ?」

剣士「そう、そのオーブを手にした者には不思議な力が宿ると云われている」

女「長いこと生きてきたがそんな話初めて聞くの」

剣士「そして全てのオーブを集めた者には願い事が叶うと伝承にあったのだ」

女「それはどこかで聞いた話じゃの」

剣士「私は剣しか取り柄がないが学者の家の出でね。書庫にある古い書物を読み漁っていたら、たまたまこのことを知ってしまったんだ」

女「ほう、それでオーブを集めてどうする気じゃ?魔王でもうち滅ぼすつもりかの?」

剣士「こんな辺境にも魔王の存在が知られていたのか!?」

女「以前村に立ち寄った旅人に聞かされたのじゃ。まさか本当だったか」

剣士「なるほど。そう、私の願いは魔王の討伐。今は世界にあまり知られていないが、やがて人間の脅威になることは間違いない」

女「どおりで昔に比べて手こずると思ったわ」

剣士「たとえ全てのオーブが揃わなくても、不思議な力を手にすれば私でも倒すことが可能かもしれない」

女「無理じゃろ。元々が弱そうじゃし」

剣士「んな!?私は修行も兼ねて旅をしている!魔王の元に辿り着くまでにはもっと強くなってみせる!」

女「わしがいなかったら死んでおったがの。行く先々の魔物はこんなもんじゃあないと思うぞ」

剣士「……たしかに、オーブにはそれぞれに恐ろしく強い怪物が守護しているらしい」

女「それは当然といえば当然じゃな。魔王がそんな代物放っておくわけないからの」

剣士「そして神殿の近くに恐ろしい怪物がいると噂を聞いてやってきたんだ」

女「なるほど。強い怪物がいるところにオーブはあるか。それだけが手掛かりというわけじゃな」

剣士「聞いたことはないかな?」

女「おるぞ。ずっと向こうに大きな塔があってな、そこがあの辺りの魔物の親玉の根城といわれておる」

剣士「やはりか……貴重な情報ありがとう」

女「今行っても殺されるのが目に見えとる」

剣士「神殿には旅人が多く集まると聞いたからね。ならば私の目的に賛同してくれる者もきっといるはず。そこで人数を集めてから向かうつもりだよ」

女「そうか、うまくいくといいの。じゃあサービスで送ってやる。わしの手を握れ」

剣士「えっ」

女「握れ」

剣士「ああ…」ギュッ

女「瞬間移動呪文!」ギュイーン

───神殿

女「ほら、着いたぞ」

剣士「こ、ここが神殿……なんて神々しいんだ。まるで建物全てに力が宿っているようだ……」

女「実際聖なる加護に包まれておるからな。わしは毎日ここでお祈りしておる」

剣士「そうか、それであの強さか。合点がいった」

女「う、うむ。そういうことにしておこう」

剣士「何から何まで感謝するよ」

女「わしは大抵ここにいるからの。朗報を期待せずに待っとるが、万が一うまくいったら一杯おごってやるぞ」

剣士「(酒の味も知らないような女子に言われてもな……でも)楽しみが一つ増えたな。ふふ、ありがとう。頑張るよ」

女「じゃあの」

おもしろい


酉つけてくれると助かる

>>16
縺ゅj縺後→縺??繝?せ

>>16
縺ゅj縺後→縺??繝?せ

───とある村

女「今日は少し遅くなってしまったな……ただいま帰ったぞ」

ガチャ

息子「うわ!?」

嫁「えっ!?」

孫「……おねえちゃん、だあれ?」

女(あ、わし今ピチピチギャルじゃった)

女(どうする?本当のことを話してしまったら……)

───妄想

『やーい、おまえのじいちゃんぴちぴちぎゃるー』

『へんたいのまごがきたぞー』

孫『うわーん』

息子『親父、いい歳して恥ずかしくないのか?』

嫁『お義父様近寄らないでください』

───

女(……絶対知られてはならん)

女「実は旅をしておるのですが路銀を失ってしまいましての。今日の宿にも困っておりまして」

嫁「まあ、それは大変ですね。今晩はお泊まりになってくださいな」

女(旅人に対して優しいことは知っておる。今は存分にその良心を利用させてもらうぞ。ヒッヒ)

女「かたじけない。お世話になりますじゃ」

──夕食

嫁「お義父様遅いわねえ」

女(うっ)

孫「まものにたべられちゃってたらどうしよう……」

息子「隣のじいさんのところで酒でも飲んでいるんじゃないか?先に食べてよう」

女(孫は心配してくれているのにこいつ……)

孫「やだー、おじいちゃんといっしょにたべるー!ぼくむかえにいってくるー!」タッタッタッ

嫁「あらあら」

女(ああ……こんなにいい孫をもつわしは世界一の幸せ者じゃ)

女(ピチピチギャルに憧れていたなんて、自分が恥ずかしくなってきた)

女(よし、この身体に未練はない。これ以上心配もかけられん。今からでも神殿に向かうとしよう)

女「あの───」

孫「ただいまー……」ガチャ

嫁「あら、早かったのね。おじいちゃんいた?」

孫「となりのおじいちゃんがおしえてくれたの……」

女(しまった!あいつ余計なことを!)

孫「おじいちゃん……」

女(うわあああ!)

孫「おさけいっぱいのんでねむっちゃったから、おとまりするんだって」

女(えっ?)

息子「ほら、やっぱりそうだ」

女「……」

女(助かった……さすがに長年の付き合いだけあってわしの考えていることがよくわかっておる)

孫「しんぱいしたらおなかすいちゃった」

息子「お客さんも待たせちゃってすいません」

嫁「本当に、いっぱい食べてくださいね」

女「いえ、わし……私のことはお気になさらずにじゃ」

孫「おねえちゃんはおうちどこなの?」

女「(ここじゃ……)は、遥か遠くの国じゃ」

孫「ひとりでたびしているの?」

女「(見たらわかるじゃろ)う、うむ。そうじゃ」

孫「まえにもたびしているひとがうちにとまったんだよ」

女「(知っとるわ)た、旅人にはありがたきことじゃ」

孫「おねえちゃんはなんでたびしてるの?」

女「(知らんわ)じ、自分探し?」







孫「まものともたたかうの?」

女「(もうやめとくれー)ま、魔物など弱すぎて欠伸が出そうじゃ」

息子「若いのに大したもんですね。しゃべり方はどうもうちの親父とそっくりですが」

女「そ、そうですかの。オホホ……しかしこのようなご家族の長を務める方ならば、さぞかし立派な人物なのでしょう……ね!」

息子「いえいえ。いつも一人でピチピチギャルになりたいとか言っているおかしなじいさんですよ」

女(バ、バレとる///)

───明朝

女「お世話になりましたじゃ」

息子「またいつでも寄ってください」

嫁「お気をつけて」

孫「おねえちゃん、またね」

女「では……」

女(孫よ……すぐ戻ってくるぞ)タッタッタッ

───神殿

神官「愚か者!未熟者の分際で転職したいと申すか!修行して出直せ!」

女「えっ……えっ?」

神官「次が詰まっておる!さっさと立ち去れい!」

女「あっ、ちょっ……なんで?」

───

女「困った……元に戻れなくなってしまったぞ。一体どうしたら……」

剣士「あっ……」

女「あっ……」

剣士「……やあ、また会ったね。なんだか顔色が良くないみたいだけど…?」

女「……お主こそ酷い顔しとるぞ。何かあったか?」

剣士「あれから色んな人にあたってみたんだけど……塔の怪物の名前を出した途端、皆怖じ気づいてしまってね。誰も一緒に行こうなんて人はいなかったよ」

女「……それはついてないの」

剣士「やっぱり得体の知れないオーブを探すために命を危険にさらしたくないか……」

女(……オーブ!?)

剣士「私は一体どうしたら───」

女「おい、昨日言っていた話は本当じゃろうな?オーブを手にした者は摩訶不思議な力を得られ、全て集めた者は願い事が叶う」

剣士「……?ああ、それは間違いない」

女「ならばわしが一緒に行こう」

剣士「ええっ、どうしたんだい?昨日は他人事みたいに聞いていたのに」

女「実はわけありで家に帰れなくなってしまってな。行く宛もなく虚空を見つめておったのじゃ」

剣士「帰れなくなったって……家出でもしたのか?」

女「う、うむ。そんなところじゃ。暇潰しにお主に付き合ってやろうというのじゃ」

剣士「悪いこと言わないから帰ったほうがいい。親御さんも心配しているはずだ」

女「親などとっくの昔に死んでおる!問題ない!」

剣士「そうだったのか……それは……」

女「お主には仲間がいない。わしが一緒に行ってやるなんて有難がるべきだぞ」

剣士「たしかに君の呪文は強力だけど、女の子を危険な旅に連れて行くわけにはいかない」

女「わしはお主より強い!守ってもらわずとも大丈夫じゃ!」

剣士「しかし……」

?「ならばわしも一緒に行こう」

剣士「えっ!?」

女「お主は……誰じゃ?」

ザワザワ

「おい、あそこにいるの賢者様だぞ」

「さっき特別な転職の儀礼を受けていた人だろ?俺も見ていた」

「賢者ってあの伝説の職の?すごい、本物?」

剣士「け、賢者だって!?」

賢者「ファッファッファ。わしだ。隣のじじい」

女「なん……じゃと……たしかに面影はあるが、少し若返っとりゃせんか?」

賢者「お主の生き生きとしている姿を見ていたら羨ましくなってな。わしも転職させてもらいました」

女「お主は昔から働きもせず、ぐーたらしていただけじゃろ!なんでそんなやつがよりによって賢者に……」

賢者「苦行を重ねることが悟りの道に繋がるわけではない」

女「何こいつ偉そうに……」

女「賢者とは厳しい修行を積んだ者だけが……」

賢者「そんなこと言ったってなれちゃったんだもん。しょうがないじゃないか」

女「ただの達観じじいではなかったか。たしかに不思議な力を感じる。肉体も若返るとは」

賢者「それはおそらくこれの力であろう」キラリーン

剣士「こ、これは……伝承にあったものと同じ……オーブだ」

女「えっ!?」

賢者「やはりそうか」

女「なぜじゃ!?なぜお主がオーブを!?」

賢者「この前外で散歩しているときに拾った」

女「は?……はあ?」

賢者「転職の際もなんとなく持ち歩いていたら、まるでオーブの力がわしに宿ったかのように肉体が活性化していたわ」

女「本当に悪運が強いというか……」

剣士「信じられん……やはりオーブに不思議な力があるというのは本当だったのか」

女「お主、あれだけ自信たっぷりに語っておったのに伝承を疑っておったな!?」

剣士「すみません」

賢者「先ほどお主らの会話を盗み聞きして、不思議な力をもつこいつがオーブだとピーンときたのだ」

女「賢くなっておる……のか?」

賢者「わしは家族がおらんからな。オーブに頼んで若い嫁さんでも見つけてきてもらおうと思って」

女「なっ!?わしは(元の身体に戻りたいという)純粋な願いがあるというのに!そんなくだらんことのために使わせんぞ!」

賢者「不純な考えのせいでそうなったやつに言われたくないわーい」

女「ぐ……」

賢者「ファッファッファ、よいではないか。大体叶えてもらえる願い事が一つだけと決まったわけじゃなしに」

女「そんなことわからんじゃろうが!一つしか叶えられなかったらどうする気じゃ!?」

賢者「そのときは……」ギリッ

女「うっ……」

賢者「早い者勝ちだな」

女「……」

賢者「どちらにせよこれはわしのものだからな。わしを連れて行かぬわけにはいかんぞ」

女「チッ、仕方ない。というわけじゃ、いいな?」

剣士「ああ、伝説の賢者様が仲間になってくれるなんて心強い。よろしくお願いします」

女(ところでわしはなんで特別な儀礼を受けたわけでも、オーブを持っていたわけでもないのにこのような姿になってしまったのじゃ?)

賢者(そりゃお主……ピチピチギャルに転職したからでは?)

女(……あまり深く考えないほうがいいかもしれんの)

ザワザワ

「俺昨日あいつに塔の怪物退治に誘われたぜ」

「マジかよ、俺もだ。けどよ、賢者様も一緒に行くみたいだぜ」

「すげえ。こりゃ本当に退治しちまうかもな」

ザワザワ

剣士「ははは……ちょっとした有名人になっちゃったね」

賢者「ファッファッファ。サインなら後にしてくれんか」

剣士「ところで君と賢者様はどういう知り合いなんだ?やけに親しそうだけどご家族というわけでもなさそうだし……いかがわ───」

女「た、ただのお隣さんじゃ!昔からよく世話してやっているんじゃ!」

剣士「世話……そういえば君も願い事があるみたいだけどそれは───」

女「乙女になんでもかんでも深く詮索しようとするな!節操がないぞ!」

賢者「ファッファッファ」

女「あとお主、この賢者様を頼っているようでは塔に着く前にやられるのがオチじゃ」

剣士「えっ、なぜだ?」

女「こいつは先ほど転職したばかり。なんの経験もないほぼただの遊び人だぞ」

賢者「ファッファッファ」

剣士「そうなのか……参ったな」

女「ここから塔まで……いくつか山を越え、途中で魔物の邪魔が入ることも考えればおそらく2週間ほどかかる」

剣士「結構かかるんだな」

女「そこでお主はその2週間でわしらの行く手を阻む魔物どもを一人で狩り、レベルアップしろ」

剣士「えっ!?」

賢者「ファッファッファ。スパルタな姉ちゃんだ」

女「わしはそれまでにこの賢者様に最低限の魔法を叩き込んでおく。寝る暇も与えん」

賢者「ファッ!?」

剣士「そんな……2週間戦い続けるなんて……」

女「それくらいできなきゃ塔の怪物に食い殺されるぞ!それでもし大丈夫だとわしが判断したら連れて行ってやる!」

剣士「連れて行ってやるって私が───」

女「わかったら旅の準備をして出発じゃ!薬草、食料を買えるだけ買ってこい!」

剣士「な、なんて子だ……」トボトボ

賢者「……それでも言うことは聞くんだな」

女「お主は準備できておるのか?見たところ旅に出るような格好ではないが……」

賢者「ハンカチと歯ブラシセットと着替えとパジャマと日記帳とお弁当と、あと枕」

女「なんでわしより乙女チックなんじゃ……旅行に行く気か!せめて装備を整えるぞ」

賢者「もう持てません……」

女「枕を置いてゆけ……」

賢者「わし枕が変わると……」

女「しかし、お主と違ってわしは何日も家を空けると不自然だし、何より可愛い孫が心配してしまう。どうすればいいかの」

賢者「それなら大丈夫。こうなると思い、出掛ける前にお主の家族に事情をうまく説明しといたぞ」

女「なんと、ここまで先を読んでいたか。さすが腐っても賢者じゃ」

賢者「世界のミスピチピチギャル鑑賞ツアーでしばらく帰らない、とな」

女「うわあ……」

賢者「しかもわしと一緒だから半分諦めておったな」

女「……」

───

女「では塔の怪物退治に出発じゃ!」

賢者「初めての冒険。わくわくするな」

女「お主、そのうちそんなこと言っていられなくなるぞ。まあ、わしも久々の旅で少しばかり楽しみではあるがの」

賢者「ファッファッファ。お弁当の時間はまだかね?」

剣士(旅行気分の素人賢者に、本能で行動する猿みたいな女の子……大丈夫だろうか……)

女「猿か?」

剣士「い、いやその君がさ、猿みたいにか、可愛らしいという意味で……ってなんで私の思考を!?」

女「何を言っておる?猿の魔物じゃ。一人で倒してみろ」

魔物「ウッホ、ウッホ!」

剣士「え?ああ、なんだ。そういうこと……」

魔物「ウッホ!」バキッ

剣士「うがあ!」バタッ

賢者「うええ、痛そう」

女「何をしておるか」

剣士「うう……面目ない」ヨロッ

女「こりゃダメか。退いていろ。お主には荷が重すぎたようじゃ」

剣士「……やああ!」ズバッ

魔物「ウッホ…!」ヨロッ

剣士「まだ終わってないぞ」

女「ほう、根性は一人前じゃな」

剣士「とどめだ!」ズバッ

魔物「ウッホ……」バタッ

賢者「おお、やるではないか」

剣士「ふふ、大したことありませんよ」

女「フラフラで何を言っておる」

剣士「う……ちょっと油断したんだよ」

女「油断できるほどお主は強いのか?これは遊びではないのだぞ」

剣士「……すまん。気を付ける」

女「回復はせんからな。魔法力が勿体ない」

剣士「なんだよ……ケチだな」

女「薬草たんまり買ったじゃろ」

剣士「なんでこんな扱いなんだ……旅はまだ始まったばかりだろ!仲良くやっていこうという気はないのか!?」

女「ではわしが猿みたいとはどういうことか教えてくれんか?」

剣士「えっと……」

───2週間後

賢者「真空呪文!」シュルルル

魔物「「グギャアアァ……」」バタッバタッ

剣士「すごい、さすが賢者様だ。この短期間で一体どれほどの魔法を身につけたのだろう」

女「ふ、ふん。わしの教えが良かったからじゃ。それにオーブの恩恵もある」

剣士「やはりオーブはパワーアップできる道具とみていいだろうな。比較的初歩の魔法であれほどの威力とは」

賢者「ファッファッファ。戦闘は楽しいな」

剣士「ところでなんで私が全員分の荷物を持っているんだ?」

女「そ、それも修行じゃ!」

剣士「この枕は本当に必要なのか…?」

女「それはどうでもいい……では塔に入るぞ」

───塔

魔物「グギャアアァ……」バタッ

剣士「ふう……」カシャン

女「お主の剣さばきもなかなか様になったではないか。わしの想像以上じゃった」

剣士「見直した?」

女「火炎呪文!」ボオオォ

剣士「!?」

魔物「グギャアアァ……」ボトッ

剣士「な……そんなところに……」

女「だからその油断が命取りじゃ。敵はいつでもどこからでも……それこそ今みたいに上に潜んでいる場合もある。魔物は手段を選ばんぞ」

剣士「……肝に銘じます」

女「塔の怪物はおそらく最上階にいる。もうそろそろじゃからな。気合い入れろ」

賢者「なあなあ、さっきからオーブが反応しとるんだがなぜだと思う?」

剣士「そういえばオーブはオーブ同士で共鳴し合うとありました」

女「お主ら、そういうことは早く言え!どこにあるかわかるか?」

賢者「上に行こうとしたら反応が弱くなったぞ」

女「ということは今の階か」

剣士「そういえばあの奥の部屋行ってなかったような……」

女「ゴクリ……よし、行くぞ」

───奥の部屋

見張りA「やはり反応しているな。もうすぐそこまで来ているかもしれん」

見張りB「ああ、だが誰が来ようとやすやすとオーブは渡さんがな」

コソコソ

剣士(……あれが塔の怪物でしょうか?)

賢者(あの宝箱にオーブがあるのは間違いなさそうだな)

女(よし、一気に奪うぞ)

バッ

剣士「やああああ!」ズババッ

見張りAB「「うわあああ……!」」バタッバタッ

女「よ、弱い……」

剣士「こんなにやすやすと手に入れていいのだろうか?」

賢者「罠があるかもしれんな」

女「よし、お主取ってこい」

剣士「うう……仕方ないなあ」

女「わしらは敵が来ないように部屋の外で見張っているからな」

剣士「くそー!どうにでもなれー!」ガバッ

女「どうじゃ?何事もないか?」ワクワク

剣士「……普通にオーブだけあった」

女「なんじゃ……早く持ってこい」

剣士「なんでがっかりしているん───」ムンズ

ガシャン

剣士「!?」

女「な、なんじゃ!?」

賢者「檻か。あいつ閉じ込められてしまっておるではないか」

剣士「しまった!罠だったのか!?」

見張りC「なんだあいつら侵入者か!?」

女「しまった!見つかったか!?」

見張りD「最上階の塔の怪物様に報告だー!」

賢者「しまった!さっきのが塔の怪物ではなかったのか!?」

女「それを渡せ!さっさと逃げるぞ!」

剣士「無茶言うな!私を置いて逃げる気だろ!?」

女「なにやっとるんじゃ!わしなら魔法で脱出できたのに!」

剣士「君が私を行かせたんじゃないか!」

女「仕方ない……なんとかしてそこから出てこい。それまでわしらが塔の怪物を食い止めておく。行くぞ!」ダッ

賢者「戦わずに済んだら一番だったが」ダッ

剣士「ちょっと!こういうのって普通外からなんとかするもんじゃないのか!?」

───最上階

塔の怪物「グルル……侵入者だと……?」

見張りC「はい!見張りABがやられてました!」

見張りD「しかもそいつら別のオーブを持っていました!」

塔の怪物「なんだと……?面白い……ならばそのオーブも手に入れれば……神殿を乗っ取ることも可能かもしれんな……」

女「お主がここの親玉か?」スタッ

塔の怪物「グルル……わざわざそちらから来てくれたか……」

賢者「でかい……」

塔の怪物「グルル……貴様らは何者だ?なぜ人間がオーブを持っている……?」

女「知れたことよ」

賢者「わしらは正義のヒーロー!世の悪をくじくため、お主のオーブもいただく!」

塔の怪物「グルル……愚かな……食らいつくしてくれる」ボオオオォォォ

女「!?」

女「うわ!熱ち!あいつ炎を吹くのか!?」

賢者「氷結呪文!」シャァァァ

ジュワ

塔の怪物「グルル……その程度の呪文で相殺したか……オーブを持っているのは貴様だな?」

賢者「やばいわし狙われる」

塔の怪物「グルル……死ね」ドガァ

賢者「あ痛っ!なんてパワーだ」

女「おい下がっていろ。わしが前衛に立つ。お主は後ろでフォローしろ」

賢者「うむ、痛いのは嫌だ。ほれ守備力上昇呪文!」ギュイーン

女(やつはスピードがそれほどない。ならば撹乱して、スキを見て攻撃じゃ!)ダッ

塔の怪物「グルル……少し本気でやってやろう」ボオオオオォォォォ

女「炎の範囲が広い!?氷結呪文!」シャァァァ

賢者「氷結呪文!」シャァァァ

女「いかん!二人がかりで防ぐのに精一杯じゃ!」シャァァァ

賢者「身動きがとれん」シャァァァ

塔の怪物「グルル……動かないのか?ならばこちらから行くぞ……」シュバッ

──奥の部屋

ドガアアアァン

剣士「うわ!上から物凄い音と振動が!」

剣士「これはただごとではないぞ……こんなことしている場合ではない!」

剣士「しかし、どうやって脱出したものか……この檻を壊すのは無理だ」

剣士「オーブを持ったときに檻が降りてきたよな……オーブを戻してみるか」スッ

ウイーン

剣士「やった!戻った……が、オーブは取れなくなってしまったな」

剣士「宝箱ごと持ってみると?」ガシッ

ガシャン

剣士「うーむダメか。もう方法はない。持っていくのは諦めるか」スッ

ウイーン

剣士「オーブの力は惜しいけど……仕方ないよな」ダッ

剣士「……」チラッ

剣士「……いや、ダメだダメだ!諦めろ私!二人を助けるのが先決だ!」ダッ

───最上階

塔の怪物「グルル……どうした?もう終いか……つまらん……」

女「いかん、魔法力がもう……」

賢者「わしは回復だけで手一杯」

塔の怪物「グルル……ならば楽にしてやる……死ね」ボオオオオォォォォ

剣士「やめろおおおぉ!」

ドカッ

塔の怪物「グッ……もう一匹いたか……隠れて出てこなければ死なずに済んだものを……」

賢者「……!?」

女「お、お主やっと来たか。遅いぞ」

剣士「すまない。それよりあの怪物はたしか……」

賢者「知っておるのか?」

剣士「文献で見たことがあります。その力は全てを砕き、吐き出す炎は全てを飲み込み、鋼鉄より硬い身体で身を守るという……まさかこんなところに」

女「オーブは持ってきたのか?」

剣士「それが───」

塔の怪物「グルル……今さら我の恐ろしさに気付いても……遅いわ」ボオオオオォォォォ

剣士「うわ!」バッ

塔の怪物「グルル……すばしっこいやつめ……」

剣士「くそ、いきなり攻撃してくるなんて!」

賢者「おい、魔 物 は 手 段 を 選 ば ん ぞ」チラッ

剣士「……」

塔の怪物「その通りだ……きさ───」

賢者「わしのターン!爆裂呪文!」ドガァン

塔の怪物「グルル……どこを狙っている……」

女「ああ下手くそ!不意をつくならもっとうまくやれ!」

賢者「チッチッチ、わしの狙いは……」

ガラガラガラ

塔の怪物「うっ……これは……」

ガラガラガラガッシャーン

塔の怪物「!?」

女「おお!天井を破壊し、落ちてきた瓦礫で生き埋めにしたのか!やるではないか!」

賢者「……」ニヤリ

塔の怪物「グルル……小癪な真似を……」ガラガラガラ

女「うわ……ダメじゃ、ピンピンしておる……」

賢者「わしの狙いは……この後だ」

塔の怪物「なに……?」

バッ

剣士「やあああああ!」ズバッ

塔の怪物「グアアアア!」

剣士「やった!」

塔の怪物「上から……だと……?」バタッ

女「なんと!穴の空いた天井に飛び乗って、上から脳天を狙いおったのか」

剣士「あれは上に潜んでいろというサインだったんですね」

賢者「うむ、お主なら気付いてくれると思ったぞ」

女「……」

塔の怪物「グオォオオォ!虫ケラども!絶対に許さんぞ!」

女「なに!?まだ生きておるではないか!」

塔の怪物「ハア…ハア…一匹も逃がさん!」ボオオオオォォォォ

剣士「出口が炎で塞がれた!」

塔の怪物「見張りども!オーブを持ってこい!こいつらは跡形も残さぬよう……消す!」

見張りCD「「は、はい!」」タッタッタッ

───奥の部屋

見張りC「良かった。俺たち忘れられていなかったな」

見張りD「声は出してなかったけど最初からずっと見ていたもんな」

見張りC「罠のスイッチを切ってと」カチッ

見張りD「さすがにあいつらもこのスイッチには気付かなかったみたいだな」

見張りC「よし、どっちが持っていく?」

見張りD「俺、オーブにあまり触りたくないんだよな……」

見張りC「俺も……」

見張りD「……」

見張りC「……」

見張りD「じゃあ二人で宝箱ごと持っていくのはどうだ?」

見張りC「おお、そうしよう」

ガシッ

見張りD「さあ戻るぞ!」

───最上階

塔の怪物「ハア…ハア…ふん!」ボオオオオォォォォ

賢者「熱い……」

剣士「もう辺り一面火の海だ……」

女「これでは動けん……魔法力も尽きた」

タッタッタッ

見張りC「塔の怪物様ー!お持ちしましたー!」

塔の怪物「……」ニヤリ

女「しまった!やつに渡る前になんとかせんと……あれ?あいつらどこ行った?」

見張りD「お受け取りくださーい!」ポイッ

女「ああ!」

塔の怪物「グルル……よくやった」ガシッ

女「もうダメじゃ……お終いじゃ……」

塔の怪物「グルル……」パカッ

塔の怪物「……」

塔の怪物「……なんだ……これは?」

剣士「残念だったね」キラリーン

塔の怪物「なに!?貴様それは…!」

剣士「終わりだあああ!」ズバッ

塔の怪物「ぐわあああああああ!」バターン

塔の怪物「」

賢者「ふう、今度こそやったな」

女「お主ここに着いたときからすでにオーブを……?」

剣士「いくら鍛えられたといっても、こいつの力を借りなきゃ鋼鉄より硬い身体を斬るのは無理だよ」キラリーン

賢者「わしはすぐ気付いたぞ。オーブが共鳴したからな」キラリーン

女「それであれほど大胆な作戦を立てたわけか」

剣士「オーブを持っている者同士、ちゃんと通じあうものですね」キラリーン

女「チッ……最後は二人ともいなくなりおって、置いていかれたと思ったぞ」

賢者「見張りのやつらが戻ってきたらスキができることはわかっていたからな。怪物のところまで辿り着けるよう周りの火を消していたんだ」チラッ

見張りCD「「うっ……」」ビクッ

女「あいつらどうするかの?」

賢者「放っておいていいんじゃないか?だって……」

剣士「そうですね。激しい戦いのせいで、もうこの床も崩れそうだ」メリメリ

女「うまい具合に天井に穴が空いておるが……行けるか?」

賢者「おう、退散するぞ。掴まっとれ。瞬間移動呪文!」ギュイーン

メリメリメリ

ズゴーン

見張りC「うわああああ!俺たちなんて」ヒューン

見張りD「どうせこんな最期だよー!」ヒューン

ヒューン

───神殿

女「しかし、お主どれほど魔法力が残っておるのじゃ?」

賢者「もうきついかも……オーブ様々だったな」

女(わしの倍近く魔法力あるんじゃないか……?これもオーブの力か……)

ザワザワ

「おお!賢者様ご一行が帰ってきたぞ!」

「本当だ!でもすごいボロボロだ」

「まさか本当に塔の怪物と?」

賢者「うむ、今帰った。塔の怪物は征伐してきたぞ!」

「うおおおお!さすが賢者様だー!」

「「「けーんじゃ!けーんじゃ!」」」

賢者「そなたらの平和はわしが守るぞ。ファッファッファ」

ワイワイガヤガヤ

女「なんじゃあいつ。まるで一人で倒したかのように……そんなに賢者が偉いのか」

剣士「ははは。まあいいんじゃないかな。今回は賢者様の力にすごく助けられたからね」

女「お主は欲がないの。オーブの願いだって自分のためには使わんし」

剣士「そんなことないよ。魔王討伐は私の一番の願いだ。それよりあちらはまだかかりそうだから先に宿をとっていよう」チラッ


賢者「そこで塔の怪物が炎を吐いてきたとき逃げ道がなくなったのだが、わしの氷結呪文でな───」ワイワイワイ

───宿

剣士「……自分の部屋に行かないのか?」

女「暇潰しじゃ。いちゃいかんのか?」

剣士「いや……構わないが」

女「ところでお主、どうやってあの罠から脱出した?」

剣士「ああ、あれはオーブを元に戻すと罠も解除される仕組みでね」

女「ほう」

剣士「一回諦めてそのまま向かおうかと思ったんだけど、代わりに別のものを宝箱に入れればどうなるか試してみたんだ」

女「別のもの?」

剣士「そう。意外と単純な作りでね。宝箱の中身をオーブと同じくらいの重量にしたら見事に解除されたんだ」

女「それはラッキーじゃったの」

剣士「ははは、ある意味君のおかげだけどね。さて、湯でも浴びに行ってこようかな」

女「お、一緒に入るか」

剣士「ブッ!?」

───

賢者「あー疲れた疲れた」

女「やっと終わったか。まったく……お主のそれはなくともよい疲労じゃろう」

賢者「初めての旅と戦闘で疲れただけですー。民衆に夢を与えることは全然苦じゃありませんー」

女「お主のやっていることで夢を壊されなきゃいいがの、似非ヒーロー様」

剣士「でもこれだけ消耗するとは正直侮っていた。賢者様もオーブを入手したことに気付いていたなら、さっさと逃げちゃうのも手でしたね」

賢者「……」

女「それはできん」

剣士「えっ、なぜだ?」

女「やつが言っておった。わしらが持っていたオーブも手に入れたら神殿を乗っ取ることも可能かもしれん、と」

剣士「!?」

女「やつはこの神殿を乗っ取ろうとしていた。おそらく魔王の計略」

剣士「魔王……」

女「だが一つのオーブの力だけではこの神聖な場所に入ることすらできんかったわけじゃ」

剣士「そんなことを……でもそれならこちらにオーブが渡ったんだから、それほど脅威ではないのではないか?」

女「やつを生かしておいたらすぐ魔王に伝わったじゃろう。これほどの脅威はないぞ。わしらはこそこそ動き回りたいのに」

剣士「そうだな……今はまだ戦うときではないか」

女「わしは魔王と戦う気は毛頭ないが」

賢者「わしも」

剣士「えっ?」

女「オーブが集まればそれでさよならじゃ」

剣士「今は平和に見えてもいずれ世界を侵攻してくるぞ」

女「わしはそれほど長生きできないしな」

剣士「なんだって?」

女「あ、なんでもない。忘れろ」

剣士「……気にならないのか?なぜ神殿をただ潰そうというのではなく乗っ取るだなんて」

女「今はなんとも言えんの」

賢者「どうせ似非ヒーローだし」

剣士「……」

>>1は先々の展開まで考えてるっぽいな
これは期待せざるを得ない

>>62
大体の設定は決まってます
結末はさっき決まりました

───次の日

賢者「さて、次はどこへ向かうとするか」

女「もうこの辺りで強い怪物の噂はないぞ」

剣士「この地域は世界的に見たら山と海に囲まれた辺境の地ですから、もう少し栄えている国に向かうのがいいかと」

賢者「おう、それならいくらでも情報を仕入れることができそうだ」

女「どうやって行く?ここから船はあまり出ないし、かといって隣の国に行くまでにすら高い山をいくつも越えねばならん」

剣士「私はここまで定期船で来たがたしかに便は少なかった。いつ出るかわからないがそれまで待つか……」

女「それは困る!さっさとオーブを集めに行きたいのに!」

賢者「歩いて山脈を越えるとなると……まだ船を待っていたほうが早いだろうな」

女「うーむ……」

剣士「では魔法で移動は?」

賢者「わしは余所の国など行ったことないから無理だぞ」

女「わしは昔色んな場所に出向いておったが、なにせあまりに昔のことじゃからの……」

剣士「君の昔というと幼少期か?ならば特定の場所を覚えていることは難しいか」

女「う、うむ……あ、一つだけ鮮明に覚えている場所があった」

剣士「本当か!?ならば魔法で行けるな!」

女「ただそこはトラウマがあっての……」

賢者「ああ、お主がこの世の終わりみたいな顔で語っていた国か」

女「気が進まんのじゃが、そこに行くしかないじゃろう……」

剣士「何があったかは知らないが今回は賢者様も、それに私だっているんだ。しっかり守ってみせるよ」

女「お主に守られることなんて、これっぽっちも期待しておらんわ!」

剣士「……私は君がトラウマになりそうだよ」

───都会の街

剣士「ここがそのトラウマの地…?」

賢者「すごいな。人がゴミのように溢れかえっておる。こりゃたしかに辺境の田舎者にはしんどいかもしれん」

女「あれから何年も経っているのに変わらんの……」ブルブル

剣士「では早速情報収集に行こう。そこの宿屋を基点にして各々別行動ということで」

賢者「よし、わしはこういうことに慣れておらんから少し遅くなるやもしれんが、頑張ってみるとしよう」タッタッタッ

女「あいつ……情報収集とは名ばかりでここを楽しむつもりじゃな。遊び人め、何が辺境の田舎者じゃ」

剣士「街に溶け込めばより詳しい話も聞ける、というのも手だとは思うよ。では私も行くとしよう」

女「待て」ギュッ

剣士「えっ?」

女「お主、わしにこの街を一人で歩けと……?」

剣士「……さっき私に守られることはないと言っていたじゃないか」

女「うるさい!そんな小さなこといつまでもグチグチ言うな!」

剣士「仕方ないなあ……」

───宿

女「あーダメじゃ!ちっとも情報が得られん!」バタッ

剣士「君が人と話すのを嫌がってろくに話を聞けなかったからじゃないか!」

女「う……」

剣士「こんなことなら宿で待っていてもらったほうが良かったよ」

女「……宿の中でも一人でいるのが嫌なんじゃ」

剣士「幼少期のトラウマなら仕方ないか……」

賢者「おう、遅くなったな」ガチャ

女「酒臭っ!お主飲んでおったな!?」

賢者「ファッファッファッ、よいではないか。しっかり朗報があるのに教えてやらんぞー?」

剣士「さすが賢者様だ」チラッ

女「……」

女「……さっさと言え。なんじゃその朗報とは」

賢者「うむ、なんでも勇者が魔王討伐の旅に出たそうだ」

剣士「なんと、勇者様が!?」

賢者「そして昨日まで勇者ご一行がこの街にいたらしい」

女「わしらには関係ないじゃろうが。どこが朗報じゃ」

賢者「いいか、勇者は世界中を旅しているそうだ。おそらく魔王の居場所がわかっとらんからだ。ということは世界中の強い怪物とも戦うはず。ということは……」

剣士「自然とオーブに近づく……」

女「ということは……?」

賢者「勇者一味を仲間に加える」

剣士「なるほど、それは心強い。やはり魔王を滅ぼすには私たち一般人より勇者の力が相応しい」

女「わしは魔王と戦う気はないと言っておるじゃろ」

賢者「勇者の旅に同行しながらわしらはわしらでオーブを集め、全て集まったらこっそり願い事を叶えてもらったらいい」

女「悪どいのう……だが一番手っ取り早いかもしれん。強い仲間がいるだけで楽な旅になるはずじゃからな」

賢者「そうそう。オーブのことはわしら以外の者が知っているとは思えんし」

剣士「しかし仲間になってくれますかね?」

賢者「なんとかなるんじゃないか?いざとなったらオーブをちらつかせよう。願いが叶うという話は伏せておいてな」キラリーン

女「何も知らずにオーブを手に入れている可能性もある。どちらにせよ会っといたほうがいいな」

剣士「ではどちらに向かわれたかわかりますか?」

賢者「西の方だと」

女「決まりじゃ。こんな街さっさと出て行きたいからの。朝早く出るぞ!」

剣士「もう荷物持ちはごめんだぞ」

女「えー」

賢者「えー」

剣士「えーじゃない!なんだ枕って!」

───山奥

女「一気に人里離れた地域に来てしまったな」

剣士「何日も歩いているのに全く人と会う気配がない……」

賢者「こんな山の中じゃそれは期待せんほうがいいんじゃないか?」

女「迷ったな。地図くらい手に入れておけばよかったの」

剣士「君がさっさと行ってしまうからほとんど何の準備もできなかったんじゃないか!」

賢者「なんとも計画性のない旅だな……」

女「お、あそこに水辺があるぞ。今日はもう休もう」

剣士「まったく……全然進まないよ」

女「久々に水浴びができるぞ!もう気持ち悪くてしょうがなかったんじゃ!」ヌギヌギ

剣士「こ、ここで服を脱ぐな!」

賢者「ファッファッファッ、お主もまだまだ青いな」

剣士「楽しまないでください!私たちは野営の準備をしていましょう!」

───

ザバーン

女「あー、気持ちいいのー。しかもこれだけ広いと泳げるな」バチャバチャ

女「しかし汗があんなに気持ち悪く感じるとは……」スイー

青年「ん?」

女「え?」

───

剣士「まだ明るいうちに食料を調達してきましょうかね」

賢者「任せた。わしは火をおこしているぞ」

「きゃああああああ!」

賢者「なんだ?」

剣士「魔物に出くわしたか!?くそ!無防備ではしゃぎすぎなんだ!」ダッ

タッタッタッ

剣士「大丈夫か!?」スタッ

女「……」

青年「あわわわわ……」

剣士「え……?」

女「ん?ああ、わしは大丈夫じゃが」

青年「な、なんですか!?なんなんですかあなたは!?」

女「わしらは旅をしていてな。この山で迷ってしまったのじゃ」

青年「い、いや……そうじゃなくて……」

女「ん?何が言いたいんじゃ?」

剣士「……身体を隠せ」

───

青年「本当に申し訳ありませんでした。いきなり叫んでしまって……まさかあんな所に人がいるとは……」

女「わしも誰もいないと思っていたからお互い様じゃ。裸を見合ったよしみで水に流そうではないか」

剣士「いいのかそれで……」

賢者「お主はこの辺の者か?」

青年「はい。僕はこの近くの山奥の村に住んでいます」

女「なんじゃ、近くに村があったのか。もう少し探してみればよかったの」

剣士「君がっ…!」

賢者「それでお主はなんであんな所で水浴びなどしておったんだ?」

青年「村から怪物の退治に向かう途中で休憩していたんです」

剣士「なに!?」

女「怪物?」

青年「はい。最近僕の村に現れることがあり、被害が出始めまして……」

女「……どう思う?」

賢者「可能性はあるな。その怪物は強いのか?」

青年「はい……一度見たことがあるのですがとてもでかく、怖じ気づいてしまい隠れてやり過ごすしかありませんでした……」

女「そんなんでお主一人で退治なんてできるのか?」

青年「村では僕しか戦える者がおらず、普段から周辺の魔物退治を任されていました」

女「ほう、意外とやるようじゃな」

青年「魔物といっても弱い相手ばかりだったのですが……その怪物退治も期待されてしまいまして……断るに断れなかったんです」

剣士「なんというか……」

女「哀れじゃの」

青年「ここで会ったのも何かの縁。見知らぬあなた方にお願いするのも誠に勝手なことと思いますが、僕と一緒に怪物退治に来ていただけませんか?」

賢者「本当にな。見知らぬわしらに頼むなんて」

青年「ここまで旅をしているということはそれなりの戦いの経験があるとお見受けします!お願いです!力を貸して下さい!」

女「別にいいぞ。ついでじゃし」

青年「!」パアァ

剣士「そうだな。私たちも───」

青年「ありがとうございます!やはりあなたに頼んでよかった!」ギュッ

女「はっはっは、まあ任せておけ」

剣士「……」

賢者「わしら眼中にないのね」

剣士「……失礼ですが本当にあなたは戦えるのですか?先ほどの女性のような悲鳴を聞いてしまったら、とても強そうには見えないのですが」

青年「これでも村を守ってきた実績があります。なんなら試してみますか?」

賢者「急に強気になったな!?」

剣士「いいでしょう。一緒に戦うならば実力は知っておいたほうがいい」

女「なんじゃ、面白くなってきたな。手加減してやれよ」ワクワク

青年「さすがにそんな余裕はないと思いますよ。まあ見ていてくださいね」チラッ

剣士「……いつでもどうぞ」

青年「では行きますよ。ほわちゃあああ!」バッ

───

剣士「う……」

女「嘘じゃろ……」







青年「」

賢者「弱すぎる……」

───

青年「調子に乗ってしまい本当に申し訳ありませんでした!」

剣士「い、いや……私のほうこそ本気でやってしまい……」

女「あのなあ……お主が退治に向かう怪物というのは、おそらくわしら3人がかりでも倒せるかどうかの相手なんだぞ」

青年「あの怪物を知っているのですか!?そんなにとんでもない相手だったとは……僕でもうまくやれば勝てると踏んでいたのですが……」

賢者「どんだけ自信過剰な……」

女「あれこれ言ってもしょうがない。今日は疲れたしもう寝よう」

青年「な、ならせめて僕が見張りをしています!戦闘ではお役に立てそうにないので……」

女「それは助かるな。気が利くじゃないかお主」

青年「ははは、お任せください」

剣士「……」

───深夜

女「zzz」

賢者「zzz」

青年「zzz」

剣士「……おい」

───明朝

青年「本当に申し訳ありませんでした!」

剣士「ああうん……大声出さないでくれます?寝不足で辛いもので」ギロッ

青年「ひっ……!」ビクッ

女「お主も気づいたなら叩き起こしてやればよかったのにの」

剣士「起こしたよ!いくら揺すっても起きなかったんだよ!」

賢者「それでお主一人がずっと起きていなくても……真面目だな」

剣士「仕方ないでしょう……」

青年(こ、怖い人ですね……)ヒソヒソ

女(ああいうタイプは怒らせんほうがいいぞ。いつまでも根に持つからな)ヒソヒソ

剣士「……聞こえているぞ」

賢者「お主がそこまでイライラしているのも珍しいな」

剣士「ふー……すみません。少し冷静になります」

青年「あっ、荷物お持ちしますよ!」

剣士「いや、私は別にそんな───」

女「おお、すまんの」

青年「いえいえ、お安いご用ですよ」

剣士「……」

───

青年「あの洞窟が怪物の住み処です」

賢者「いかにもって感じだな」

女「では行くか。お主はそこで待っておれ」

青年「ぼ、僕も行きます!僕がお願いしたことなのに待っているだけなんてできません!」

賢者「……自己責任な。命の保証はせんぞ」

青年「勿論です!自分の身くらい守れますよ!」

女「……」

賢者「……」

剣士「……行きましょう」

───

コソコソ

青年「いました!あいつです!」

賢者(大声出すなよ!)

女(あ、あれが怪物?)

剣士(いや、あれはどう見ても……)

女(わしらの住んでいる地域ではよく見る雑魚モンスターじゃな……)

青年(えっ、そうなんですか!?)

賢者(おかしいと思ったわ。オーブが反応しないし)

青年「なーんだ、だったらビクビクする必要はありませんね。さっさと僕がたおしてきますよ」タッタッタッ

剣士「あ、待って…!なんでそんなにフラグを立てたがるんだ…!」

青年「村を荒らす魔物め!覚悟!」バッ

魔物「ガルルー!」バキッ

青年「きゃっ!」ドサッ

女「言わんこっちゃない。おーい、さっさと逃げろー」

青年「」

賢者「またか!」

魔物「ガルルー!」

女「いかん!間に合わん!」

剣士「くそ!」バッ

バキッ

剣士「ぐあっ……!やああああ!」ズバッ

魔物「グギャアアア……」バタッ

魔物「」

女「危なかったの……あんなに怒っていたのに助けるんじゃな」

剣士「当たり前だろ。命には変わりない」

賢者「うむ。よくやった」

女「よし、今回は超特別大サービスでわしが回復してやろう」

剣士「私より彼をしてあげたほうがいいんじゃないか?」

女「わしはわしのしたいようにするだけじゃ。大体お主の傷のほうが酷いじゃろ」

賢者「あ、こっちのバカはわしやっとくから」

青年「」

剣士「だったらお願いしよう」

───

青年「あ、あれ……僕は…?」パチリ

女「もう終わったぞ」

青年「ああ、すごい……僕なんてすぐやられてしまったのに……僕なんて……」

剣士「……あなたが倒したんですよ」

青年「そうです僕なんて……えっ!?」

剣士「気を失う直前にあなたの武器が魔物の心臓を突き刺していました」

青年「そ、そうだったのか!僕でもやればできたんだ!」パアァ

賢者(おい、いいのか?)

剣士(あのまま自信喪失させたままだと後味悪いですし)

賢者(調子に乗らせるだけのような気もするが……)

剣士(ふふ、あとは自己責任です)

青年「……なんか嬉しそうですね。何かあったんですか?」

女「さあの?」

───

青年「今日は本当にありがとうございました!お礼になるかわかりませんが、村に帰ったら是非僕の家に泊まっていってください!」

女「わしら何もしてないがいいのか?」

青年「僕に自信をつけさせてくれたことが計り知れない恩です!」

賢者「ならばせっかくだしお言葉に甘えようじゃないか」

青年「それに……大事なお話もあるので……」

女「……」

賢者「……」

剣士「なぜかいい予感はしないな」

───山奥の村

青年「ただいま帰りましたぞ!怪物は見事退治して参った!」

「おお、さすがわが村の英雄じゃ」

「お主のことは未来永劫語り継がれるであろうな」

「いよいよ銅像でも作らんといかんのう」

青年「そんな大袈裟な。当然のことをしたまでですぞ!」

ワイワイガヤガヤ

女「やっぱり調子に乗りよった……」

剣士「しかもなんだあのキャラは……さっきまでと全然違うじゃないか」

賢者「見ていて痛々しいな」

女「いや、お主もあんな感じだったぞ」

剣士「しかしほとんどお年寄りばかりで若者があまり見当たらないな」

賢者「そりゃ魔物退治も任されるわけだ」

「ありがたや。ありがたや」

「もっと話を聞かせておくれ」

「どうやってあの怪物を倒したんじゃ?」

青年「うむ。では私がやつの住み処を発見した経緯から───」ワイワイワイ

女「デジャヴ……」

賢者「わし、酒場に行っていいか?」

女「ああ、これは長くなるパターンじゃ……」

ワイワイガヤガヤ

剣士「……」

女「……」

剣士「……宿屋に行こうか」

───次の日

青年「本当に申し訳ありませんでした!」

賢者「ある意味期待には応えてくれたが」

青年「何か代わりのお礼をしなくては……」アセアセ

剣士「いやいいです本当に大丈夫です。私たちはもう出発しますから」

青年「そんな……もう少しゆっくりしていってください」

賢者「だって勇者の情報もなんもなかったし」

女「村で売っている物も老人が扱うような武器しかなかったからの。これでは長居する理由がない」

青年「あの……だったらお話があります!」

女「ああ、昨日言っておったな。なんじゃ?」

青年「ぼ……僕の妻になってくたさい!」

剣士「!?」

賢者「わあ」

女「……は?」

青年「初めてあなたを見たときから、僕はあなたのことが気になってしまって仕方ありませんでした!」

女「初めてってわしの裸じゃろうが!」

賢者「こんな山奥にいるから免疫がなかったんだな」

青年「お願いします!僕はあなたに自信をもらいました!それはあなたを幸せにする自信にもなります!」

女「勘弁してくれ……わしは自信がない」

賢者「今とても面白いものを見ている気がする」

青年「この村だって萎びてはいますが、のどかでいい所なんですよ!」

女「この村に若い娘がいないから誰でもいいんじゃろ?」

青年「そそ……そんなことありません!あなたがいいです!」

賢者「どもるなよ」

女「わしは旅に行かねばならん!一緒になるのは無理じゃ!」

青年「だったら僕も同行します」

女「た、助けてくれえ……」

剣士「いい加減にしてください。あなたはこの村を守る義務があるはずだ」

青年「……だったら旅が終わるまで待っています!」

剣士「彼女が望んでないんです。諦めてくたさい」

青年「あなたに関係ないでしょう!僕は───」

剣士「私は彼女を守らなければならない!どうしてもと言うのならここであなたを斬る!」

青年「そ、そんな……」

女「……」

───

賢者「あれで終わってくれたからよかったが、もし諦めなかったらどうしてたんだ?」

剣士「申し訳ないけど根性があるように見えませんでしたからね。少し脅せば諦めてくれると思っていました」

賢者「確かにな……あれは調子に乗せたらいけなかった」

女「まさかお主に助けられるとはな」

剣士「あんなの助けたうちに入らないよ」

女「しかし、あれと一緒になるくらいならお主のほうがよっぽどマシじゃな」

剣士「えっ」

女「なーんてな」ケラケラ

剣士「……」フッ

女「それにしてもこれほど疲れることもあるんじゃな」

剣士「まあ仕方ないな。今回は超特別大サービスで荷物を持ってあげるよ」

女「本当か?遠慮せんぞ」

剣士「お安いご用だ」

終盤にラーの鏡とか登場して全部バレるのかな

>>93
展開予想はここではちょっと……

───

賢者「あの村の情報では山を越えたらすぐ集落があるはずなんだが」

剣士「山で暮らす人と我々ではすぐの感覚が違うのかも……」

女「まだか……もう疲れてしまって早く休みたいのにの」

剣士「君はほとんど私におぶさっているだけだったじゃないか!私は荷物と言ったよな!?」

女「いくら若いとはいえ、か弱い女子なんじゃ。労るのが普通じゃろ?」

賢者「良いように利用しとるな」

剣士「……君のせいで私が倒れたら責任取れよ」

女「グチグチうるさいの。その時は適当に回復してやるから感謝して黙っておれ」

剣士「この…!」

賢者「喧嘩すんなって。余計疲れるだろ」

女「わしは別に言い争っているつもりはない。そいつが勝手に喚いているだけじゃ」

剣士「あー、悪かったよ。もう金輪際おぶってやらないからな」

女「うえへへ……冗談じゃって。機嫌直せ」

剣士「……誤魔化すならせめてもう少し可愛らしくできないのか?」

賢者「……ん?見ろ。人がおるぞ」

女「おお、これは助かったかもしれんな」

剣士「いや……あれって魔物に襲われているのでは!?」

賢者「ああ、そうっぽいかも」

剣士「今助けに───」ダッ

?「でやあ!」ズバッ

魔物「グギャアアア……」バタッ

剣士「行く……ってあれ?」

魔物「」

賢者「出る幕なかったな」

?「ふう……何?」

女「んん?」

?「あんたらひょっとしてあたいが襲われていると思ったのかい?」

剣士「これは驚いた。女性だったのか」

?「女だからなんだってんだ。あたいは魔法戦士。男になんて負けないし、男には頼らずに生きてきたんだ」

賢者「ひゅー、格好ええな」

剣士「魔法戦士?今の剣技も見事だったが魔法も使えるのか。すごいな」

女「勿体ない。せっかく女に生まれたのに活用しない手はないじゃろ。なかなか楽できていいぞ」

剣士「いや君は少し見習ったほうがいい」

女「しかもお主はかなり見栄えがいいしの」

魔法戦士「ふん。男に媚びるのはごめんだね」

賢者「お主は旅の者か?見たところ一人のようだが」

魔法戦士「そうさ、人探しの旅をしているんだ。あんたらも旅人のようだけど?」

剣士「ああ、私たちも人探しだな。最終的には魔王討伐を目指している」

魔法戦士「へえ、魔王とは大きくでたね」

女「わしらは魔王なんてごめんだからな。途中離脱するつもりじゃ」

賢者「うん」

剣士「えっ?いやしかし……」

魔法戦士「なんだい、はっきりしない男だね。なよなよしてんじゃないよ」

剣士「なよなよ……」

賢者「それより近くに集落があると聞いたんだが場所わからんか?わしら迷ってしまったようでな」

魔法戦士「仕方ないね。地図によるともうすぐだから連れていってやるよ」

女「若いのに頼りになるの」

魔法戦士「旅に出るなら地図くらい読めるだろ」

女「そもそも地図すら持ってないからの」

魔法戦士「……それでよくここまで来たね。大体若いってあんた、あたいより年下だろ?いくつ?」

女「えっ……16くらい……かの?」

剣士(そうなんだ……もっと若くも見えるが中身がああだから不詳だったな)

魔法戦士「ほら見ろ。年寄り臭いしゃべり方なのにあたいより2つ下だ」

剣士(18か……私より更に2つ下か)

女「齢など関係ないが、お主みたいに一人ではここまで来れんかったじゃろうな」

剣士「私に負担を押し付けていたからな」

女「お主もせっかくだからこの先もずっとわしらと同行せんか?」

賢者「そうしてくれたら助かるな。地理的な意味で」

魔法戦士「あんたらは途中で抜けるんだろ?」

女「まあの。でもこいつは最後まで付き合ってくれると思うぞ」

剣士「えっ、ちょっと…!」

魔法戦士「ははは、それはごめんだね。こんな女々しい男と旅なんて」

剣士「なっ…!」

女「振られてしまったな。あまり落ち込むなよ」

賢者「飲んで忘れてしまえ」

剣士「……」

───北の村

魔法戦士「ほら、着いたみたいだよ」

女「はあ、助かったぞ。わしらだけだったら見つからなかったかもしれんな」

魔法戦士「全く大したことないはずなんだけどね……」

賢者「しかしここも山奥の村とまではいかんが結構なド田舎だな」

魔法戦士「国の中心地からはかなり離れたところにあるからね」

剣士「極度の期待は禁物か……」

魔法戦士「じゃあ、あたいはこれで……」

女「どうせ宿を探すじゃろ?一緒に行こうぞ」

魔法戦士「これから色々回ってこの先の旅に関する情報を集めようと思っているんだけど」

賢者「だったらわしと一緒に酒場にでも行くか。わしも情報収集したいし」

魔法戦士「酒場か……そうだね。面白い話が聞けるかもしれない」

魔法戦士「あんたらは行かないのかい?」

女「わしは(この姿になってから)酒が飲めんから行ってもつまらん」

剣士「私は村に着いて早々そんな元気はない。とにかく早く休みたい」

賢者「この人たち付き合い悪いんだ。放っておいてさっさと行こうぞ」

女「お主が異常なんじゃ」

賢者「お主ら、ついでだからこの子の荷物持っていって部屋もとっといてやれ」

剣士「そうですね。貸してくれ、持っていこう」

魔法戦士「いいのかい?じゃあお言葉に甘えて……任せたよ」スッ

女「えっ、わしか?」ガシッ

魔法戦士「男には頼らない」

剣士「だろうね」

───酒場

村娘「いらっしゃいませ……」

魔法戦士「ありゃ、ガラガラだね」

賢者「なるほど、ガラの悪い連中が屯しておるからかな」

魔法戦士「どうする?ここじゃあまりいい情報が聞けそうにないけど」

賢者「ファッファッファ、わしは飲めればいいんだ。情報収集なんて二の次」

魔法戦士「適当だね……あたいは一応話だけでも聞いておくよ」

賢者「トラブルにならんようにな。絶対にな」

魔法戦士「わかっているって。話を聞くだけ」

賢者「じゃあ一人で静かに飲んでいるか……」

パリーン

「きゃあああ!」

賢者「だろうね」

見てる

───道具屋

女「海賊?」

店主「ああ、あんたら運が悪かったね。今ちょうど滞在しているんだ」

女「そんなに荒れているようには見えんがの」

店主「やつらは酒場を拠点にしているからね。近づかないほうがいいよ」

剣士「酒場!?」

店主「今酒場にいる人間なんて、あんたらみたいに何も知らない旅人くらいじゃないか?」

女「あいつら行ってしまったが、まあその辺の人間には負けんじゃろ。な?」

剣士「おそらく問題ないと思うが……それよりなんで私たちは買い物に来ているんだ?宿をとるはずではなかったか?」

女「この店にハイカラな服が売っていたのじゃ。少し見させろ」

剣士「……女性とはこういうものなのか?」

女「ド田舎のくせにいいものが売っておる。わしの村にも流してほしいの」

剣士「……早く休みたい」

店主「お仲間が行っちまったのか?早く連れ戻したほうがいいぞ。運が悪かったら……」

女「何も問題を起こさなければ大丈夫じゃろ。わしらは正義の味方ってわけでもないからな。トラブルは持ち込んでほしくないの」

>>104
ありがとうございます

───酒場

海賊A「おいおい店員の姉ちゃん、俺たちはただ酌してくれって頼んだだけだぜ?なのに悲鳴を上げるなんてあんまりじゃねえか」

村娘「こ、殺さないで……」

海賊B「へっへっへ、そりゃあんた次第だな」

海賊C「何にもしていないのに殺さないでなんて俺たち魔物扱いッスか。傷ついたッスよ。こりゃあんたがどうにかして癒してくれるしかないッスね」

村娘「助けて……」

旅人「ふっ、お前たちの人相が魔物に見えたのではないか?」

海賊A「あん?なんだお前は?」

旅人「ただの客だ」スッ

村娘「私だけの勇者様?」キュン

海賊B「へっへっへ、格好いいねえ。正義の味方気取りかい?」

旅人「女性の危機を見過ごせないだけだ」

海賊C「邪魔してんじゃないッスよ」バキッ

旅人「ぎゃふん……」バタッ

村娘「……じゃなかった……」

賢者「世の中の男子はあんなんしかおらんのか」

海賊A「鬱陶しいやつがもう出てこないように、こいつは店の外に吊るしておくか」

海賊B「へっへっへ、いい見せしめになるな」

海賊C「ひんむいてからのほうが効果ありそうッス」

魔法戦士「その辺にしておきな」

海賊A「ほら、早速現れちまったよ」

海賊B「おい、よく見ろ。かなりの上玉だぜ」

海賊C「ひんむいちまうッスか」

村娘「この際女性でもいいので助けて……」

賢者「わしもいるけど」

魔法戦士「あんたはやられたやつの手当てだ」

賢者「いいけど、お主一人で相手するのか?」

魔法戦士「あんなやつらに負けないよ」

海賊A「威勢のいい姉ちゃんだ。嫌いじゃないぜ」

海賊B「待てよ、先に俺にやらせろって。へっへっへ」

海賊C「さあさあ、ひんむくッスよ」

魔法戦士「はあ……これだから男は……じゃあ容赦しないよ!覚悟しな……あれ?」

───道具屋

剣士「そういえば彼女の荷物預かってはいるけど……」

女「あ、武器も持たされたな。そういえば」

剣士「……トラブルにならなければ問題ないが」

店主「そんな甘くはいかないと思うぜ」

踊り子「そうよ。あいつらいきなり私におかしなことしようとしたのよ。皆も変な目で私の身体見るんじゃないわよ」

リア充「いや、僕には彼女がいますし。なんなら最近ストーカー被害にも遭うくらい不自由していませんが何か?」

兵士「リア充氏ね」

リア充「あんたはちゃんと海賊取り締まってくださいね。こんな弱そうな一般人に喧嘩売ってないで」

兵士「あんなやつらに勝てるかよ」

踊り子「国から派遣されて来ているんだから給料分働きなさいよ」

リア充「ちゃんと働いていないって報告しますよ?」

兵士「うるせえ!俺の給料いくらか知ってんのかよ!」

店主「酒場に行けないからってウチで屯すのはやめてくれよ」

剣士「……ま、まあ賢者様もいるし大丈夫だよな」

女「大丈夫じゃろ。それよりどの服にするかお主も選べ」

───酒場

魔法戦士「爆裂呪文!」ドガァァァン

海賊ABC「「「ぐはあ!」」」バタッバタッバタッ

賢者「おお、魔法もやるではないか」

魔法戦士「ふう……丸腰なのに気づいたときは多少焦ったけど、こんなやつらには負けないよ」

海賊A「く、くそ!この女強え……」

海賊B「こうなったら」

海賊C「兄貴!お願いしまッス!」

魔法戦士「ふん、まだいるのかい?」

兄貴「ぐがー!ぐがー!」

海賊A「あ、兄貴!」

海賊B「起きてください!」

海賊C「寝ている場合じゃないッスよ!」

魔法戦士「あんた、今のうちに外へ逃げていな」

村娘「あ、ありがとうございました……(なんでこんなに胸が高まるの?まさかこれが恋!?)」

賢者「ほれ、お主も出ておれ。邪魔だ」

旅人「ううっ、かたじけない……」

村娘「……」タッタッタッ

旅人「あ……お怪我はありませんか?」タッタッタッ

村娘「……」プイッ

旅人「世知辛い世の中だねえ」

ムクッ

兄貴「なんだ?お前ら女にやられたのか?」

魔法戦士「随分でかいのが隠れていたもんだ。あんたも同じ目に合わせてあげるよ」

兄貴「生意気な女だ……」

魔法戦士「女だからって舐めていたら痛い目見るよ!」

───道具屋

剣士「そろそろいいだろ?宿に行こう」

女「せっかく来たんだ。じっくり選ばせろ」

剣士「どれも同じに見えるが……」

タッタッタッ

旅人「はあ、酒場でえらい目に合ってしまった」

店主「お、やっぱり始まったか。死人は出なかったかい?」

村娘「はい。とても強く頼もしい女性の方に助けていただきましたので」

旅人「……」

女「ほう、あの娘か。思った以上にやるようじゃ」

剣士「やっぱり巻き込まれていたか……」

旅人「しかし大丈夫だろうか……やたら強そうな大男が出てきたから避難させられたのだが」

兵士「あいつか……俺もあいつにやられたんだ。あいつは恐ろしすぎる……」

店主「それよりなんで皆ウチに集まるんだ?」

───酒場

魔法戦士「ぐう……」ヨロッ

兄貴「へっ、所詮女なんてこんなもんだ」

魔法戦士「なんてやつだ……あたいの魔法がほとんど効いていない……」

賢者「わしも参戦する。とりあえず回復するからこっちへ来い」

魔法戦士「下がってな……一人でやる。回復呪文!」キュイィン

賢者「ありゃ、回復もできたのか」

兄貴「無駄なことを。助けてもらったほうがいいんじゃないか?」

魔法戦士「黙れ!真空呪文!」シュルルル

兄貴「ふん!」

魔法戦士「あ……」

ガシッ

魔法戦士「ああ…!」メリメリ

賢者「あ、掴まってしもうた」

兄貴「つまらんな。威勢がいいだけだったな」

海賊A「さすが兄貴だ」

海賊B「へっへっへ、ざまあないぜ。女が調子に乗りやがって」

海賊C「兄貴、その女どうするッスか?お楽しみッスか?」

兄貴「女なんかこの後どう楽しむんだ?」

海賊A「あ……」

海賊B「兄貴……」

海賊C「オッスオッス!俺たちが処理しとくんで兄貴は飲んでいてくださいッス!」

賢者「魔法使ったらあの娘も巻き込むなこれ……どうしよう」

魔法戦士「ちくしょう……」

───道具屋

旅人「そんなにあいつは強いのか?」

兵士「あっー!あっー!思い出したくない!」

旅人「余程こっ酷くやられたらしいな……あの人たち危ないんじゃないか?」

村娘「心配です……」

旅人「ああ、俺がこの前会った勇者ならこんな状況もなんとかしてくれたんだろうな……」

剣士「なに、勇者!?」

女「どこじゃ!どこで会った!?」

旅人「ん?西の国だが……勇者に会いたいのか?気持ちはわからんでもないがな」

女「どのような人物じゃった!?」

旅人「かなり陽気な兄ちゃんだったが、威厳は感じたな」

女「これは思わぬところから情報が出てきたな。感謝するぞ」

剣士「ああ、もう明日にでも出発できるな。しかし陽気か……私の想像していたイメージとは違ったな」

───酒場

兄貴「そら、好きにしろよ」ポイッ

魔法戦士「あっ…!」ドサッ

海賊A「うひょっ、いただきます!」

海賊B「へっへっへ、さっきのお返したっぷりしてやるぜ」

海賊C「はあ…はあ…」

賢者「仕方ない。多少の怪我は許してくれよ」

バタン

女「おう、やられておるな」

剣士「賢者様は……まあ無事だよな」

賢者「お主ら、いいところで来たな」

海賊A「なんだてめえらは?こいつらの仲間か?」

海賊B「また女か。今度のは……いいや、俺パス」

海賊C「守備範囲の広い俺がもらうッス!」

女「あいつら何を言っておるのじゃ?」

剣士「し、知らん!知らんがそんなことはさせないと言っておこう!」

おもしろいから最後までがんばれ

海賊A「邪魔すんじゃねえ!」ブン

剣士「ああ、悪かったね」バキッ

海賊A「うげ……」バタッ

海賊B「てめえ!よくもやりやがっぶべらっ!」バタッ

剣士「遅いよ」

魔法戦士「は、速い……」

海賊C「俺たちはいいことして遊ぶッスよー!」ブン

女「いいことってなんじゃ?」ヒョイ

海賊C「組んず解れつッスよー!」ブン

女「ああ……そういうことか」ヒョイ

海賊C「はあ…はあ…大人しく捕まるッスよー!」ブン

女「嫌じゃ。爆裂呪文!」ドガァン

海賊C「ぐええ……まだまだ……」ヨロッ

女「うわ、しぶとい」

海賊C「男の執念を舐めるんじゃないッスよー!」ガシッ

女「この…!」

海賊C「うへへ……掴まえたッスよ」

剣士「彼女に触るな!」バキッ

海賊C「ぐええ……」バタッ

剣士「大丈夫か?」

女「余計なことしおって。わしの見せ場がなくなったじゃろ」

剣士「……悪かったよ」

魔法戦士「……」

>>118
ありがとうございます

兄貴「お前ら……やってくれるじゃねえか」

女「おっ、あいつが噂の大男か」

賢者「気を付けろ。あいつは次元が違うぞ」

剣士「わかっています。あの体格が物語っている」

賢者「いや、あの……」

兄貴「お前……興味あるぜ」

女「またわしか。いい加減───」

兄貴「お前じゃねえよ!」チラッ

剣士「ん?」

兄貴「どうだ?俺とやらないか」

剣士「私か?いいだろう。1対1で思う存分じっくりやり合いたいというわけだな。望むところだ」

賢者「お主、わかって言ってないか?」

───

剣士「はあ…はあ……うっ!」ヨロッ

賢者「おっと、大丈夫か?」ガシッ

剣士「はい、なんとか。しかし激しい攻防だった……思っていたより受けに回る時間が多くなってしまったが……負けずに攻めて私の全てを出し尽くしました。フィニッシュは強烈な一発を入れて昇天させてやりましたよ」

兄貴「」

賢者「そ、そうだな……」

魔法戦士「信じられない……あの男、あんなに強かったのか」

女「魔王に喧嘩を売ろうとしているんじゃ。人間相手ならあっさり倒してほしかったの」

剣士「厳しいな……」

賢者「こいつらただのチンピラじゃなさそうだな」

女「ああ、なんでも海賊らしいぞ」

魔法戦士「海賊だって!?」

賢者「海賊にしては小規模だな」

女「わしも気になっておった。まだ仲間がおるのかもしれん」

剣士「とりあえずこいつらは縛ってさっきの兵士に引き渡そう」

賢者「そうだな。何縛りがいい?」

剣士「えっ?」

───道具屋

兵士「よし、この海賊どもは俺が責任を持って預かろう。ご苦労だったな」

踊り子「調子いいわねえ」

剣士「なにか腑に落ちないぞ……」

村娘「ありがとうございました。おかげで村というか私は救われました」

魔法戦士「あ、あたいは……」

女「すまんかったな。武器を持っていってしまって」

魔法戦士「いや、持たせたのはこっちのほうさ。それに持っていたところで……」

女「そう言うな。相性もあるじゃろ」

魔法戦士「……そうだね。だけどあいつがあんなに強かったなんてね……」チラッ

剣士「……」

旅人「あなたのような美しい人が無事でよかった」

魔法戦士「あんたじゃないよ。自分が倒したみたいな感じにするんじゃないよ」

リア充「あなたもいい線いっているけど……僕の彼女には敵わないかな」

兵士「うぜえ。お前まだいたのかよ」

店主「お前ら全員だよ!酒場空いたんだからさっさと出ていけよ!」

───宿

女「えっ?2部屋しか空いてないのか?」

剣士「はあ……君が寄り道するから」

女「おかげで良いものが買えたじゃろ。なかなか似合っていると思わんか?この服」クルリ

剣士「……誤魔化しているつもりか?」

女「いつまでもグチグチと……ならわしがお主らと同じ部屋でいい。なんなら褥を共にしてもいいぞ」

剣士「バ、バカなことを言うな!」

魔法戦士「ふふふ、あんたらはずっと見ていても飽きないね」

賢者「わしもそう思う」

魔法戦士「それより部屋だけど、あたいとこの子が相部屋で良いだろ?」

賢者「いいのか?」

魔法戦士「構わないよ」

女「本当にいいのか?」

魔法戦士「なんだよ。何も問題ないだろ。女同士なんだし」

女「そうじゃ。女同士なんじゃ。問題ない」

賢者「お主……」

魔法戦士「じゃあ決定だ。あたいは汗だくだから先に湯浴みに行くけど、あんたも行くかい?」

賢者「都合よくいきなりメインイベント!」

女「う、うむ。汗を流したいから仕方ないのじゃ」

賢者「……」

───

女「……」

魔法戦士「どうした?」

女「……服の上からでもかなりのものと思っておったが……随分立派なものをお持ちだと思っての……」

魔法戦士「あまりジロジロ見ないでくれ。女相手でもそんなにじっくり見られることに慣れていないんだ」

女「いやいや、さすがにこれは女でも興奮してしまうな」

魔法戦士「もう、いい加減にしてさっさと汗を流しちゃおうよ」

女「はっ!?最初わしが自分の身体を見たとき何も思わなかったのは、あまりに貧弱すぎたからか!?」

魔法戦士「あんただってもう少し大きくなる可能性があるんだから落ち込まないでよ」

女「なるほど、慰められるとはこういう気持ちになるのか」

魔法戦士「そんなつもりじゃ……」

女「もう知らん!女の特権じゃ!そんなものはこうしてやる!」

魔法戦士「えっ?ちょっと!何を───」

───

剣士「彼女たちうまくやってますかね」

賢者「心配することではないと思うが、それよりあの子の貞操が心配だ」

剣士「……?それこそ心配することですか?」

「うわあああ!」

剣士「!?」

「やめろー!」

剣士「この声は!?」

賢者「トラブルの予感!」

「こんな魔物を従えおって!どうじゃー!参ったか!」

「や、やめ……」

剣士「魔物!?しまった村の中にも現れるのか!」

賢者「いや、これは……やってしまったか」

剣士「彼女たちの声がする方に向かいます!」ダッ

賢者「とらぶるの予感!」

───

剣士「大丈夫か!?」 バタン

女「ん?」

魔法戦士「え……」

剣士「魔物……」

魔法戦士「きゃっ!」サッ

剣士「すすすすまん///」バタン

魔法戦士「……」

女「随分可愛らしい声も出せるのじゃな」

魔法戦士「……忘れてくれ」

剣士「すまなかったー!てっきり魔物が出たと……」

魔法戦士「……」

剣士「たしかにある意味魔物だったが……」ボソッ

魔法戦士「あんたも忘れろ!」

剣士が強くてありゃりゃ?な理由ですが

1 元々そんなに弱くなかった
2 塔に入った時点で結構強くなっていた
3 怪物撃破
4 塔攻略後から何日も経って、毎日魔物と戦っている


あえて挙げればこんな脳内設定でした。わかりにくくてごめんなさい
1は話に出てきてませんが理由はそのうちわかると思います
剣士は男です。本当にわかりにくくてごめんなさい
軽くスペック出しときます

女(♀)
16歳?
見た目はそれほど

剣士(♂)
20歳

賢者(♂)
40歳前後

強さなどは話の中で出していきたいです

酉変えます

───

女「あいつも悪気があったわけじゃないんじゃ」

魔法戦士「……わかっているよ」

女「すまんな。わしも調子に乗りすぎた」

魔法戦士「もういいって。あんたとは仲間みたいなもんだしね」

女「じゃあ、この先も一緒に?」

魔法戦士「……あたいはここに残るよ」

女「なんでじゃ?ここに目的の人物はおらんかったんじゃろ」

魔法戦士「……あたいの探している人物は父親だ」

女「え……そうだったのか」

魔法戦士「そして父親は……海賊だ」

女「!?」

魔法戦士「どうやら父親はかなり悪名高い海賊らしくてね。奴隷船なんかもいくつか持っていて、母親はその奴隷の一人だったらしい」

女「らしい?」

魔法戦士「覚えていないんだ」

女「え……」

魔法戦士「父親には子供がなかなかできなかった。だから母親が妊娠したときはお祭り騒ぎだったらしい。やっと跡取りができたってね」

魔法戦士「……でも生まれたのは女のあたいだった。空気は一瞬にして凍り、怒り狂った父親は母親を殺した」

女「壮絶じゃな……」

魔法戦士「ふっ、全然覚えていないからいいんだけどね」

女「……」

魔法戦士「その後も父親の怒りは収まらず、あたいも殺されそうになったらしい」

魔法戦士「でも母親と同じ奴隷だった人が寸前で助けてくれてね、逃げ延びた後も赤ん坊のあたいを育ててくれた。その人があたいにとっての母ちゃんさ」

女「……なんにせよ命があって良かったの」

魔法戦士「母ちゃんのおかげでね。とても温かく太陽みたいな母ちゃんさ。あまりいい生活を送っていたとは言えないけど幸せだったよ」

魔法戦士「でもその幸せさえも壊された。父親はあたいらに逃げられたことを根に持って、ずっと探していたらしい」

魔法戦士「あたいがまだ幼かった頃だった。居場所を突き止められ、あたいは逃げられたんだけど母ちゃんは男に散々虐げられた挙句……」

女「そんな……じゃあ父親を探しているというのは……」

魔法戦士「復讐さ」

女「……」

魔法戦士「でも今のままじゃ、あんな変な海賊にも歯が立たないとわかったからね。ここでさらに鍛え直すよ」

魔法戦士「ここに残ると決めたのはあの海賊どもを利用できたら何か手掛かりが見つかるかもしれないと思ったからさ」

女「……そのような環境下でよくお主のような人間が育ったものじゃ」

魔法戦士「あたいには復讐しかない。褒められるような人間じゃないよ」

女「そう言うな。お主と旅がしたかったぞ」

魔法戦士「……あたいも同じ気持ちだよ」

女「すまんな。力になれなくて……旅が終わったらわしも……」

魔法戦士「ふふ、いいんだよ。復讐なんて汚れたことに巻き込みたくないよ」

女「わしは世の中の酸いも甘いも経験してきたから多少の汚れなど気にしないぞ」

魔法戦士「あんたと話しているとホントにそう思えてくるから不思議だよ」

女「……そうじゃろうな」

魔法戦士「そういえば聞いてなかったけど、あんたの旅の目的はなんなんだい?」

女「ああ、わしは───」

───

魔法戦士「へえ、なんでも願いをねえ。なかなかロマンチックじゃないか。結構好きだよそういうの」

女「そんなこと一度も思ったことないの」

魔法戦士「じゃあ、あんたは何をお願いするんだい?」

女「えっと……世界平和かの……」

魔法戦士「ぷっ、そんなガラじゃないだろ。いいよ、言いたくないことは誰にでもあるさ」

女「……すまんの」

魔法戦士「でもやっぱり一緒に行かなくて正解だよ。あたいなんてそんな怪物相手に歯が立つわけない。人間相手で精一杯だ」

女「そんなことはないぞ。あの二人だって旅の初めはわしより全然弱かった」

魔法戦士「そうなんだ……それでもあたいは足手まとい扱いされるのは怖いかな」

女「……」

魔法戦士「ん?」

女「いや、そんなこと……」

魔法戦士「いいんだよ。男には負けないと思っていたのに、その男の足手まといなんてごめんさ」

女「男か……ブレないの」

魔法戦士「あたいにとって男は悪だった。もしあたいが男に生まれていたら、今頃は父親と同じことをしていたのかもしれないしね……」

女「この先も男嫌いは治らんのじゃろうかの?」

魔法戦士「さあ……でもあたいより強くて頼りたいって思える人がいたらわかんないかもね」

女「お、やはり先ほども思ったが剣士を意識しているのではないか?唯一女らしさが見えたぞ」

魔法戦士「そうだね。あいつなら……うん、でもやめとくよ」

女「なんでじゃ?意外とお似合いだと思うぞ」

魔法戦士「なんでってあいつは……」

女「?」

魔法戦士「いや、なんでもないよ」

───次の日

女「また会おうぞ」

魔法戦士「ああ、それまで元気でいなよ」

女「お主もな」

スタスタ

賢者「今度はゆっくり飲めるといいな」

魔法戦士「そうだね……奢りなら朝まで付き合ってやるよ」

賢者「楽しみにしておるぞ」

スタスタ

魔法戦士「……」

剣士「残念だな。心強い仲間だと思ったのに」

魔法戦士「うるさいね。人には事情ってものがあるんだよ。あんたはさっさと魔王のところに行って殺されてきなよ」

剣士「嫌われているな……結局一緒に旅はできなそうだ」

魔法戦士「ふふっ、そういうことだね……ちゃんとあの子を守ってやりなよ。男なんだからさ」

剣士「……?君からそんなことを言われるなんて意外だな」

魔法戦士「そりゃあ世の中あたいみたいに強い女ばかりじゃないからね。男が必要な女もいるってことさ」

剣士「強い女か……強がるのもいいが、もっと頼ってもいいんだぞ。自分の弱さを認められて、初めて本当に強くなれるものだろう」

魔法戦士「強がりなんかじゃ──」

剣士「それに、男だって守られたいと思うことはある」

魔法戦士「……」

女「おーい、置いて行くぞー!」

魔法戦士「ほら、お姫様が呼んでるよ。さっさと行きな」

剣士「あ、ああ……」

魔法戦士「死ぬんじゃないよ」

剣士「君も……無事を祈っている」タッタッタッ

女「じゃあのー!」ニコッ

魔法戦士「……」ニコッ

魔法戦士「……」

魔法戦士「……フー……」

魔法戦士「仕方ないだろ。強がるしかないんだよ……」

魔法戦士「あー、やだやだ。なよなよしてんじゃないよ。いつからこんなに弱くなったんだ」

魔法戦士「……あんたも次会ったときは覚悟しておきなよ」

魔法戦士「まだなよなよなんてしていたらあんたを無理矢理……」

魔法戦士「……」

魔法戦士「……ふっ……何言ってんだろうね」

魔法戦士「さて、強い女目指して頑張りますか」

───

剣士「彼女、少し変わったか?昨日宿で何か話したのか?」

女「別に……ただのガールズトークじゃ」

剣士「大丈夫かな……」

女「大丈夫。あやつは自分のことがよくわかっておる。自分の弱さも、女であることも」

剣士「しかし……」

女「そんなに気になるならついていてやれば良かったのに」

剣士「君はそれでいいのか?」

女「別にいいと思うぞ」

剣士「……」

剣士「……そもそも彼女の男嫌いはどうしようもないだろ」

女「はあ……何もわかってないの」

剣士「なんだと?どういう意味だ?」

賢者「わしでもなんとなくわかったぞ」

剣士「教えて下さいよ!」

リア充「女性って誰でもお姫様になりたいと心の奥底では思っているものなんですよ」

剣士「女心の類か……考えが及ばなかったな」

女「うむ、変な男にでもチヤホヤされたら悪い気はせんかったな」

リア充「照れ隠しで嫌がるタイプなんでしょうね。あの人は」

剣士「やっぱりそうだよな。素直になれないというか……」

リア充「結構そういう人多いですよ。それに慣れてない人なんて自分がいざチヤホヤされたら───」

賢者「しつけえよ!誰だよお前!」

リア充「あ、すみません。こういう話黙っていられなくて」

賢者「そうじゃねえよ!なんで村からしっかり同行しちゃってんだよ!」

女「ああ、お主は道具屋にいたウザいリア充ではないか」

リア充「覚えていてくれましたか。キャラ出しておいて良かったです」

剣士(ウザいな……)

リア充「実は折り入ってお願いがあってついてきちゃいました」

剣士「私たちに?嫌な予感……」

女「面倒事はごめんだぞ。これでも急いでおるのでな」

リア充「実は僕……モテるんです」

女「そうは見えんぞ」ザッ

剣士「行こうか」ザッ

賢者「死ね」ザッ

リア充「ま、待って下さい!今のは冗談ではなく、本当に困っているんです!」

賢者「ペッ!」

リア充「うっ、汚い」

リア充「最近僕、ストーキングされて嫌がらせが酷いんです。日に日にエスカレートしてきて、もう殺されてしまうんじゃないかと……」

女「それでわしらにどうしろと?」

リア充「ストーカーを取っ捕まえてほしいんです!それでもうこんなことをしないよう説得していただきたい!」

女「わしらはなんでも屋か」

剣士「とてつもなく面倒臭そうだな……」

賢者「ここでこいつを亡き者にすればストーカーさんも手間が省けて助かるんじゃないか?」

リア充「やめて下さいよ!ストーカーは多分今も僕をつけていますから、あなた方の強さならすぐ捕まえられると思います」

女「なに!?」クルッ

シーン

剣士「気配を全く感じないが……」

リア充「相手はプロのようですね。なかなか尻尾を出しませんよ」

女「殺し屋か!おいおい本当に面倒事は勘弁じゃ」

賢者「こいつを囮にしてわしらは離れた場所で見ていよう」

リア充「それって僕を置き去りにしてあなたたちは逃げませんよね!?」

女「でも実際そうするしか方法は……」クラッ

剣士「おい、どうした?」

女「なんだか……眠く……zzz」ドサッ

剣士「なんでこんなときに!」

リア充「出た……ストーカーだ……」

剣士「えっ!?」キョロキョロ

リア充「やつの手口ですよ。かなりの魔法の使い手で、最近は呪いの類いも使ってきますよ」

賢者「怖っ!」

剣士「それを早く言え!そんな輩は私たちの専門外だ!おい、起きろ!」ユサユサ

女「zzz」

リア充「無理です。一回気を失ってしまったらしばらく起きません」

賢者「なに慣れてんだよ!とりあえずここから逃げるぞ!こやつを担いでこい!」

剣士「ああ、なんでこんなことに……」ガシッ

女「zzz」

リア充「向こうは体力がないからスピードが遅い。とにかく遠くへ逃げましょう」

賢者「ウザいから平然とすんな!」

───森

剣士「はあ…はあ…追ってきてないか?」

リア充「さあ、どうでしょう?なんせ気配を消してきますからね」

剣士「恐ろしいな……こんなことに巻き込んでくれて。どうしろというんだよ……」

賢者「やはり置いて行こう」

リア充「そんな、お願いします!あなたたちだけが頼りなんです!」

剣士「そんなこと言われても……大体君に何か原因があるのではないか?これはあまりに異常だぞ」

リア充「うーん……僕の彼女が可愛すぎるから嫉妬しているとしか……」

賢者「うざっ!こりゃ殺したくもなるな」

剣士「相手が異常者なのか……とにかく姿も確認できないんじゃ……うっ……」クラッ

賢者「おい!?」

剣士「しまっ……た……zzz」ドサッ

リア充「出た……ストーカーだ……」

賢者「わかっておるわ!いちいち言わんと……おうふ……」

リア充「まさか……」

賢者「zzz」ドサッ

リア充「あわわ……そんな……」

「ふふふ……」

リア充「ひぃっ!」

ガサガサ

ストーカー「邪魔物には眠っていただきました」

リア充「出た……」

ストーカー「考えて頂けたでしょうか?彼女とは縁を切ってくれると……」

リア充「い、いやだ……」

ストーカー「あ?」ギロッ

リア充「ひっ……か、彼女は僕にとって一番大切なんだ……別れるくらいなら死を選ぶ!」

ストーカー「……」

リア充「だから、あなたが諦めて下さい!」

ストーカー「わかりました……悲しいけれど仕方ありませんね」

リア充「えっ?本当に?」

ストーカー「あなたを……殺します」

リア充「!?」

中途半端ですが今日は終わります
おじいちゃんってことは忘れてくれたほうがしてやったりです

ストーカー「あなたがいけないのですよ。せめて楽に殺して───」

シュルルルルル

ストーカー「!?」バッ

賢者「ちっ、避けたか」

リア充「えっ!?眠っていたんじゃ?」

賢者「魔除けの結界を張っていた。そんで剣士が眠った後、どうせわしにも来るだろうと思っていたから少々小芝居をさせてもらった。まんまと出てきてくれて助かったぞ」ムクッ

リア充「すごい……そんなことが……」

ストーカー「……」

賢者「お主、いくら思い通りにならないといって極端過ぎやしないか?こやつの幸せを見守るのも一つの形だろうに」

ストーカー「私の……邪魔をするな!」ゴオオオ

賢者「聞く耳持たずか……氷結呪文!」シャァァァァ

カチンコチン

ストーカー「なに!?」

賢者「どうやらわしの呪文のほうが威力は上のようだな」

リア充「すごい……」

賢者「最近どうも威力を抑えられんくらい強くなってしまってな」

賢者「セーブしようと思ったら何もできないし、剣士にばかり見せ場を取られてもどかしかったなあ」

ストーカー「なんで……なんで邪魔するのよ!あなたには関係ないでしょ!」

賢者「わしが味方したいと思ったからだ」

リア充「え……?」

賢者「こやつはただの薄っぺらい男ではない。愛する人のために死ねる覚悟があるなんて、なかなか芯が通った男ではないか」

リア充「賢者さん……」ウルッ

ストーカー「うるさい……」

賢者「お主の入り込む余地なんて、もはやないと思うが」

ストーカー「黙れ!皆殺してやる!」ギロッ

女「zzz」

剣士「zzz」

賢者「しまった!それは反則だぞ!」

ストーカー「燃え尽きろ!」

リア充「やめて下さい!」バッ

賢者「おい!危ないぞ!」

リア充「もうやめて下さい……僕が……諦めますから」

ストーカー「本当に?」ピタッ

賢者「お主、それでいいのか?」

リア充「僕のせいで関係のない人を殺されたくない」

賢者「しかしなあ……」

リア充「あなたが言ってくれたじゃないですか……これも一つの形なんですよ」

ストーカー「ふふふ、やっとわかってくれて嬉しいです」ニコッ

賢者「変わり身早いな」

───

女「……うーん」パチリ

剣士「……あれ?」パチリ

賢者「お、解いてくれたか」

女「わしは寝ておったのか?」

剣士「あ、彼は?ストーカーは!?」

賢者「……なんとか説得して帰っていった」

剣士「そ、そうですか……説得してわかってくれる相手で良かった」

賢者「……」

女「なんのことじゃ?ストーカーが現れたのか?」

賢者「あれも一つの形か……」

剣士「え?何か言いました?」

賢者「愛というものも考え方次第で変わるのかな……」

剣士「け、賢者様が愛について語りだした……」

賢者「一つの歯車が狂い……」

女「おーい……」

───西の国

賢者「ふう、やっと着いたか」

女「ここまで何日かかったことか……疲れたし宿に直行じゃ」

剣士「君はまた私におぶさっていただけじゃないか」

賢者「わしはまた情報を集めてくるぞ」

女「はいはい勝手に行っとくれ。すぐそこに酒場が見えたからの。わかりやすいやつじゃ」

剣士「では私たちは宿を探そう。それほど大きくない街だからすぐ見つかると思うけど」

女「あの子供たちに聞いてみようぞ」

剣士「そうだな……ねえ君たち、宿屋はどこにあるかわかるかい?」

男の子「宿屋はあそこだよ」

女の子「この街に一軒しかないの」

剣士「そうか、ありがとう。助かったよ」

男の子「お兄さんたち旅しているの?」

剣士「ああ、そうだよ」

女の子「ふーん。ねえ、二人は恋人同士なの?」

剣士「バ、バカなこと言わないでくれ!ただの一緒に旅をしている仲間だ!」

女「わしらはそんな風に見えるのか……」

男の子「えー、そうなんだ。僕たちは恋人同士なんだよ」

女の子「将来結婚するの」

女「ませたガキどもじゃの……」

剣士「年端もいかぬ子供が結婚などと……」

男の子「男の人が積極的に行かないと嫌われちゃうんだよ?」

剣士「ほ、放っておいてくれ!私は色恋にうつつをぬかしているわけにはいかないのだ!」

女「子供相手にムキになるな」

───宿

主人「いらっしゃい」

剣士「部屋は空いてますか?」

主人「ああ空いているよ。一部屋でいいかい?」

剣士「なっ……二部屋だ!私たちは恋人ではないぞ!それに後からもう一人来る!」

主人「おっとそりゃすまねえ。二部屋ね。空いているよ」

女「いつも思うのじゃが一部屋でいいのにの。金の無駄じゃし」

剣士「もっとデリカシーを持て!」

───

女「二人で待つのがすっかりお馴染みになったの」

剣士「……自分の部屋に行かないのか?」

女「いいじゃろ別に。暇潰しじゃ」

剣士「……」

ガチャ

賢者「ういー帰ったぞー」

女「今日は一段と酷いの……」

賢者「久々に飲む酒はうまかったぞー!」ヒック

剣士「あまりいい情報を期待しないほうがいいかも……」

賢者「勇者がな……」ウツラウツラ

女「おい寝るな!明日になったら忘れかねんぞこいつ!勇者がどうした!?」パチン

賢者「ううっ痛い……勇者はしばらく前に船で出発したそうだぞぉ……」

女「はあ……まるで鬼ごっこじゃの。捕まえられる気がちっともせんわ」

剣士「ここに来るまで強い怪物の噂すらなかったからな。ひょっとしたら勇者様が倒していたりして」

賢者「それはない……この辺の魔物は弱いし昔から平和だったそうだから……zzz」

剣士「寝てしまった……では明日早速船を手配しに行こう」

女「次は船旅か。歩くより楽できそうで良かったな」

剣士「そうだな。私がな」

───次の日

剣士「えっ!定期船が出ない!?」

船乗り「ああ、あんたらの行きたい先には行かないな」

女「勇者たちは船で南に向かったと聞いたぞ」

船乗り「彼らは国から援助を受けているからな。自分らの船を持っているのさ」

剣士「参ったな……詰んでしまったぞ」

?「あんたら旅の人だよな?」

女「ん?ああ、そうじゃが……お主は?」

?「俺は商船の船長をやっているもんだ」

剣士「はあ、どうも……私たちに何か?」

船長「今度俺の船が南に行くから用心棒代わりに乗せてやってもいいって話なんだが……」

剣士「なに!?それは助かる。是非お願いしよう!」

女「ああ、わしらならこの辺の魔物など寝ていても倒せるからな」

船長「はっはっは!話に聞いていた通り頼もしいな。期待しているぜ」

剣士「なんで私たちのことを?」

船長「昨日酒場で賢者さんと会ってな。すっかり意気投合しちまってあんたらの旅の話も散々聞かされたんだ」

女「あいつはどんだけ運がいいんだ」

船長「この話は一応賢者さんも同意していたんだが……酷く酔っ払っていたし、どうせ寝ちまって忘れているだろうと思ったんだ。案の定だったな」

女「あの酔っ払い肝心な話を……ああ、お主の言う通りじゃ。まだ宿で寝ておる。手間を掛けさせて悪かったの」

船長「一緒にいて酔わせた俺にも責任があるからな。じゃあ決まりだな」

剣士「有難い。都合よく事が運んでくれるな」

船長「だが行く先はあんたらの希望通りにならないかもしれないし、俺たちの用が済んだらとっとと移動するってことを理解しといてほしい」

女「うむ、どうせ他にあてはない。よろしく頼む」

───海

賢者「これが船か。なかなか気持ちがいいな」

剣士「まさか、航海するのも初めてなのですか?」

女「こいつほど人生無駄にしている者もおらんと思うぞ」

賢者「そんなことはない。わしは人生がつまらないと思ったことは一度もないし、後悔したこともない」

剣士「それはそれですごいな……」

賢者「わしのこれまでがなかったら今のわしもない。だから無駄なことなんてありゃあせん。無駄かどうかは考え方次第でどうにも転ぶもんだ」

女「もっと働き者なら嫁さんも見つかっていたじゃろうな」

賢者「おう。オーブの目的はそれだが旅の途中でいい女子に出くわすかもしれんな」

女「そうしたらうまくいくことを祈ってやるわ。オーブをそんなもののために使うのは、やはり気が引けるからの」

賢者「むー、わしが旅をやめてもいいのか?」

剣士「それは困ります!」

賢者「ファッファッファ、そうであろう?今やわしの魔法はこのパーティーの要だからな」

剣士「そんなことになったら彼女と二人きりで旅をしろというのですか!?」

賢者「……」

女「わしだってお主のお守りはごめんじゃ」

賢者「……まあまあ。そういえばお主は長いこと旅をしているが、家族はおらんのか?」

剣士「父と母は私が幼い頃に魔物に殺されました。身寄りのない私を学者夫婦が引き取り育ててくれたのですがまたしても魔物に……」

賢者「それはすまんことを聞いた」

剣士「いえ、いつまでもくよくよめそめそしていられない、前に進むしかないですしね。それに魔王討伐の夢を叶えたら二人の父と母も喜んでくれると思います」

女「さすがにその齢でくよくよめそめそしていたら親も悲しいな」

剣士「……君もご両親がいないのだったな」

賢者「境遇は大分違うと思うが……」

女「死は誰にでも訪れる。自然の摂理に従ったまでじゃ。両親は人生を全うした」

賢者(普通に老衰だもんな……)

剣士「兄弟は?」

女「おらん」

剣士「そうか。やはり私と似ているな。私もずっと一人だったよ」

賢者「お主も苦労していたんだな」

剣士「もう慣れましたよ。賢者様もそうなんじゃないですか?」

賢者「本当に独りであると感じたことはない。面倒見のいい幼馴染みもいるしな」

剣士「へえ、それは是非会ってみたいものですね」

賢者「ファッファッファッ、多分お主とはウマが合わん」

剣士「そうですか……どんな人だろう」

女「……」

剣士「でも賢者様のこの旅の目的は……」

賢者「寂しいということはないが興味があるからな。お主もわしと一緒に連れ添いをもらえるようお願いしてみるか?」

剣士「い、いえ……私には必要ありませんから。今必要なのは力だけです」

女「それは不憫じゃの。所帯を持つとはいいものだぞ」

剣士「えっ!?」

女「……と親に聞かされていたんじゃ!」

剣士「な、なんだ……」

今日はこんなもんです
設定作りすぎて話が進むにつれ筆が進まないという泥沼に入りかけています
コメントありがとうございました

───

船長「見えたぞ。あれが目的の村だ」

賢者「随分辺境にあるな。こんなところで交易するメリットがあるのか?」

船長「そう見えるだろうな。だがあの辺りの魔物はやたら強くてな。村で作られる武器や防具も自然と魔物に適応してきたんだ」

女「なるほど、それが狙いか」

船長「まあ、そういうことだな。じゃあ俺たちはここに2週間ほど停泊する。そうしたら次はまた別の国に向かい、そこでも用事を済ませたら俺たちの国へ帰る。よろしく頼むぜ」

剣士「2週間か……結構短いな。しかもまた戻らねばならないとなると、情報を集めたところで意味がないぞ」

女「そういう契約なのだから仕方あるまい。それに一度マーキングさえしておけば再び魔法で来られるんじゃ」

船長「じゃあ2週間後、またここに戻ってきてくれ」

───辺境の村

女「わしらの村と同じくらいの広さじゃな」

賢者「同じ辺境でも売っているものが全然違うもんだな」

剣士「そうですね。私は少し武器を見に行ってきます」

女「2週間でこの大陸を回るのは無理じゃろうな。勇者がこの村にいなければ、大人しくしておるとするか。再び戻ってきてから探したほうが良さそうじゃ」

賢者「じゃあわしは酒場に……」

女「じゃあわしは……」

───武器屋

剣士「なんで君がいるんだ?君は武器を使わないだろう」

女「うるさい。この辺の魔物は強いんじゃろ。だったら多少なりとも武器を使えたほうがいいに決まっておる」

剣士「そうか、なら私が選んでやろう。なんなら稽古をつけてやってもいいぞ」

女「わしだって剣の心得くらいはある」

剣士「剣の道は奥深いんだぞ?君に───」

女「いいから黙ってさっさと選べ」

剣士「……君だったら軽いものがいいだろうな」

店員「お嬢ちゃん可愛いからどれでも少しサービスしてやるよ」

女「聞いたか?わしのおかげで安くしてくれるみたいだぞ」

剣士「そんなわかりやすいお世辞に……」

店員「いやいやお世辞じゃないよ。この村の中でもトップ5には食い込めると思うぜ」

剣士「そもそも人口が少ないだろ……」

女「わかっておるな店員。一番いい武器はどれじゃ?」

剣士「おい!」

───宿

賢者「残念ながら勇者がこの村に来たことはないそうだな。しかもこんな辺鄙な村じゃ魔王の話すらなかったわ」

剣士「北にしばらく行けば城下町があるそうです。だけど正確な地理も魔物の強さもわからない以上、2週間では辿り着けるかどうかも……」

女「どうせやることがないんじゃ。行ってみようぞ」ニコニコ

賢者「なんだお主、嬉しそうに」

女「ふっふっふ、わかるか?これを見ろ!」シャキーン

賢者「その剣は、お主が使うのか?」

女「わしも体力はバカみたいに上がってきたからの。これからは剣のほうが得意分野にやるかもしれんぞ」

剣士「君がそんなにいいものを買うから私の分が買えなかったじゃないか」

女「わしがいなかったら割り引いてもらえなかったじゃろ。しかもこれは市場にもなかなか出回らない掘り出し物だぞ」

剣士「本末転倒だよ。ああ……せっかくの用心棒代が……」

女「いつまでもグチグチ言うな」

───次の日

女「では北の城下町目指して出発じゃ」

剣士「今回は絶対おぶらないからな」

女「女子の体力のなさを舐めるな」

剣士「昨日バカみたいにあるって言っていたじゃないか!」

女「剣がバカみたいに重くての」

剣士「なんで買ったんだよ!?」

賢者「うるさいな!いきなり喧嘩から始めんなよ!魔物を呼んじまうだろ!」

女「お主が一番うるさいぞ」

魔物「「「グギャアアア!」」」ノソノソ

賢者「ほら見ろよ!」

女「早速出たな。この剣の錆にしてくれる」シャキン

剣士「待て、無理するな。魔物の強さがわからないんだ。とりあえず魔法で様子を───」

女「はああああ!」ダッ

剣士「聞けよ!」

───野営

剣士「……ん?」

女「交代じゃ」

剣士「珍しいな。君から起きてくるなんて」

女「……用を足したくなったんじゃ」

剣士「そうか、ならば行ってくるといい。それまでは私が起きていよう」

女「貴様、デリカシーがないのか!さっさと眠れ!」

剣士「どの口が言っているんだよ……」

───

剣士「……ん?まだ帰ってきていないのか?」パチリ

剣士「何かあったのか……?様子を見てくるか。すぐ戻ってくればいいだろう」ムクッ


テクテク

剣士「ん?あれは……」

女「はっ!はっ!」

剣士「何をしている?」

女「お、お主起きておったのか!?用を足すと言ったろう!何を考えておる破廉恥め!」

剣士「剣の特訓か?」

女「……見られておったか」

剣士「なぜこんな夜中に隠れてこそこそと?」

女「いいじゃろう別に……わしの勝手じゃ」

剣士「君の勝手な都合で見張りを放棄されたら困るのだが?」

女「……」

剣士「どうしたんだ?おかしいぞ。何があったのか話してくれ」

女「……」

剣士「私たちは短い付き合いだが、幾度も死線を共に越えてきた仲間じゃないか」

女「……」

剣士「私は今ではどんなことがあっても受け止める自信がある。君も私を仲間と認めてくれるなら───」

女「……怖かったんじゃ」

剣士「怖かった?」

女「今日ここに来るまでに何度か魔物と戦ったじゃろ?」

剣士「まさか、魔物が……?」

女「違う。それならまだ良かったわ」

剣士「だったら何が……?」

女「お主らじゃ」

剣士「えっ?」

女「戦闘をこなしていくうちにどんどん強くなるお主らに比べて、わしはちっとも変わっておらん」

剣士「そんなこと……」

女「多少体力がついたくらいで、新しい魔法が全く覚えられんのじゃ……」

剣士「……」

女「ここの魔物は本当に強い。束で来られたら塔の怪物すら上回るかもしれん。この先もっと強い魔物も現れるじゃろう」

女「魔物など怖くない。怪我だっていくらでも耐えられる」

女「だが、そんな中でお主らに置いて行かれるのが……足手まとい扱いされるのが怖かったのじゃ……」

剣士「……」

女「笑えん話じゃ……偉そうなことを魔法戦士に言っておきながら、その言葉にズキズキしていた」

剣士「……」

女「しかし覚悟はできた。足手まといとなるならわしを───」

剣士「何言っているんだ」

女「え……」

剣士「君は私に希望をくれた。初めて君に会ったときから君に救われたんだ」

剣士「私が強くなれたのも君が散々こき使ってくれたからだしね、はは……」

女「……」

剣士「君のおかげで私は強くなれた。そしてこれからも君がいるだけで強くなれる」

剣士「君が前線に立てないならそれは私の役目だ」

ギュッ

剣士「だからずっと私の傍にいてくれ。足手まといなんかじゃない。私には君が必要だ」

剣士「どうか私を守ってくれ」

女「……」

女「……随分生意気になったな」

剣士「そんなこと言っていると、もうおぶってやらないからな」

女「それは……嫌じゃ」

剣士「その剣を使いこなせるようになるまで、剣の稽古ならいつでもしてやるぞ」

女「今までの仕返しが怖いの……」

剣士「……あっ!」パッ

女「どうした?」

剣士「賢者様が寝ていたんだった!急いで戻らないと。私は先に行く。君ももう戻るんだ」ダッ

女「……」

───数時間後

剣士「zzz」

女「おい、じじい起きろ。交代の時間じゃ」

賢者「……お主、気づいているか?」

女「なんじゃ起きておったのか。何がじゃ?」

賢者「最近、急に増してお主が女に近づいていることに」

女「何を言っとるか。わしは何も変わっておらん」

賢者「……さっきのあれはどう見てもプロポーズだぞ」

女「はあ?あれはただの……ってお主見ておったな!まったくどいつもこいつも」

賢者「そしてそれを拒まぬお主」

女「そんなつもり全くなかったからの」

賢者「ふーん」

女「……」

賢者「思うのだが……ピチピチギャルのレベルが上がるというのは強くなる、というより女っぽくなっていくということなんじゃないか?」

女「いや、まさか……」

賢者「お主は確実に変わった。前に比べたら顔つきも体つきも数段良くなっているぞ」

女「顔は毎日見ているからわからんが、たしかに胸はそろそろ邪魔になってきたの」

賢者「以前のお主は毎日鏡など見ていなかったし、服に気を使うこともなかった」

女「か、鏡はともかく服は装備品じゃ!旅には必要なんじゃ!」

賢者「騒ぐな。そいつが起きてしまうぞ」

剣士「zzz」

女「……」

賢者「精神にしても幼くなったよな。まだ初めの頃はじじいの色が残っているように見えたが……大人の余裕というものがなくなったぞ」

女「……」

賢者「外見から中身から……どんどん本物のピチピチギャルに近づいている気がする」

女「……」

賢者「まあ、これはわしの勝手な憶測だからなんとも言えんが」

女「……」

賢者「そうだ。連れ添いでもできれば神殿で一人前と認められるんじゃないか?」

女「は?」

賢者「こやつのプロポーズを受けたらどうだ?それで転職できたらあとは知らんがな。ファッファッファ」

女「勝手なことを……そんなことは絶対に嫌じゃ」

賢者「なんならもうさっきの村に戻って2週間つきっきりで剣の世話でもしてもらったらどうだ?いいきっかけになるかもしれん」

女「殺すぞ……」

賢者「夜はお主がこやつの剣の世話を───」

女「爆裂呪文!」ドガァン

剣士「な、なんだ!?敵か!?」ガバッ

今日はこれで終わりにします
コメントありがとうございます
嬉しいです

───洞窟前

剣士「たしかこの洞窟を抜けるとすぐ城下町が見えるようです」

女「ここまで結構かかったの。洞窟の中では時間がわからんから、長くなりそうだったらすぐ引き返すぞ」

賢者「!?」

剣士「こ、これは!?」

女「どうした?」

剣士「オーブの共鳴が……強くなった」

女「なに!?ということはこの中に!?そういえばそんな目的じゃったの」

賢者「ここまでの魔物のレベルからいって、相当協力なやつが守っているに違いないだろうな」

剣士「どうしましょうか。一旦引き返して勇者様を見つけてから再び出向いたほうがよいのでは?」

女「せっかくここまで来たんじゃ。中の様子だけでも見ていこうぞ」

賢者「まあ多少情報を仕入れておく程度ならいいか」

剣士「わかった。でも危険を感じたらすぐにげるぞ」

女「わかっておるわ。さあ行くぞ」

───洞窟

剣士「はあ…はあ……強い……」

賢者「なかなか厄介だな」

女「雑魚モンスターでこの強さとは……わしも行くぞ」

剣士「大丈夫だ。私の後ろにいてくれ」

魔物「グギャアアア!」

剣士「やあああ!」ズバッ

魔物「グギャア!」ヨロッ

女「火炎呪文!」ボオオオ

魔物「グギャアア……」バタッ

女「倒したか……」

魔物「」

剣士「ああ、助かったよ」

女「貸しを作らせたくないだけじゃ」

剣士「貸しってなんだよ。私はそんなつもりじゃ……」

女「大体わしはお主を───」

賢者「むっ、共鳴が強くなってきた」

女「なに?」

賢者「おそらくこの奥にある」

剣士「そのようですね……オーブの近くで守られていたら、あちらにも気づかれているはず」

女「わしが様子を見てくる」タッタッタッ

剣士「おい、危ないぞ!」

女「……」チラッ

女(……なんじゃ。どれほどのものかと思ったが塔の怪物より全然小さいではないか)

女(わしらでも勝てそうじゃ。なんとしてもオーブを……)

賢者(どうだー?)ヒソヒソ

女(いることはいるが勝てそうじゃー)ヒソヒソ

剣士「気づかれた!来るぞ!」

洞窟の怪物「シャアアアア!」

剣士「私が相手だ!」バッ

女「では速度上昇呪文!」ギュイーン

洞窟の怪物「シャアアアア!」カキィン

剣士「なっ、呪文をかけられたのに追いつかない!」カキィン

洞窟の怪物「シャアアアア!」バキッ

剣士「うぐ……こいつ力も強い!賢者様も下がっていて下さい!」

賢者「ならば攻撃力上昇呪文!」ギュイーン

女「ほれ頑張れ!守備力上昇呪文!」ギュイーン

洞窟の怪物「シャアアアア!」ゴオオオオ

剣士「しまった!こいつも息を……ぐああ!」ヨロッ

洞窟の怪物「シャアアアア!」

女「また来るぞ!逃げろ!」

洞窟の怪物「シャアアアア!」ゴオオオオ

剣士「避けきれ……」

賢者「火炎呪文!」ボオオオオオオ

洞窟の怪物「シャアア……」ヨロッ

女「えっ?」

剣士「すごい……相手の息以上の威力で押し返した……」

賢者「仕方ないからわしが相手になってやる。お主はそいつを回復しておけ」

女「う、うむ……大丈夫か?」

賢者「わしを舐めるなよ?もういっちょ火炎呪文!」ボオオオオオオ

洞窟の怪物「シャアア……」フラフラ

女「あ、あいつ……あんなに強くなっていたのか?」

剣士「私とは、まるでレベルが違う……」

賢者「わし天才」

女「バカ!よそ見するな!まだ生きているぞ!」

洞窟の怪物「シャアアアア!」ズバッ

剣士「ああ!賢者様!」

賢者「それは幻さ」フッ

洞窟の怪物「シャッ!?」

賢者「終わりだ。爆裂呪文!」ドガアアアアン

パラパラ

剣士「……あ……」

女「なんて威力じゃ……洞窟ごと破壊するつもりか!?」

賢者「おっとすまん。しかしオーブは無事だぞ、ほれ」ポイッ

女「うわ、投げるな」パシッ

賢者「それを手に入れるために頑張ったのだろ?あまり無理するな」

女「ああ……すまん。気持ちが逸り、敵の力を見誤っていたようじゃ。それにお主の成長もな」

賢者「コツをつかんだら一気に伸びた。わし天才だから」

剣士「さすが賢者様だ!今まで本気じゃなかったんですか!?」

賢者「すまんな。サボっていた」

女(わしらの……主に剣士のレベルアップのために合わせていたな……生意気なやつめ)

女「なんにせよこれで、3つめのオーブじゃ!」キラリーン

───出口

女「おお、やっと抜け出たの」

剣士「よかった。期日までにはまだ余裕がありますね」

賢者「うむ。そしてあそこに見えるのが話のあった城だな」

女「さっさと行こうぞ……もうヘトヘトじゃ。おい、あそこまでおんぶしていけ」

剣士「……貸しは作らないんじゃなかったのか?」

女「これはこれじゃ。紳士たる者……」

剣士「はあ……仕方な……!?」

女「ん?」

剣士「危ない!」ドカッ

ザクッ

女「なっ!?」

剣士「う……」ドクドク

女「お、おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

剣士「う……ぐはあ!」ガパァ

女「!!」

魔物「ククク、気づかれたか……」

賢者「いつの間に……お主、ただ者ではないな」

魔物「オーブを返せ……」

賢者「!?……もしやお主がオーブの本当の……?」

魔物「ククク、あんな言葉も話せないような低級モンスターにオーブを任せるわけがないだろう?」

賢者「またこのパターンか……いいな?回復させておけよ!爆裂呪文!」ドガアアアアアアン

魔物「ほう、なかなかやるな。はあ!」ドゴオォン

女「回復呪文!」キュイイイン

剣士「はあ……はあ……怪我は……ないか……?」

女「バカか!自分の心配をしろ!」

剣士「はあ……はあ……すまん……」

女「わしに怪我があるはずないじゃろ……お主が……」

剣士「そうか……敵はいつでも……どこからでもやってくる……肝に銘じておいて……よかったよ……」

女「くそ!傷が深い!わしの力では回復量が足りん……!」

剣士「私のことはいい……それより……賢者様の援護に行って……二人で逃げるスキを……見つけるんだ……」

女「そういうわけにいくか!賢者来てくれ!回復が追いつかん!」

剣士「ダメだ……」

女「そいつはわしが引き受ける!」

剣士「私のことは……いいと言ったろう……」

女「そういうわけにはいかんと言っておる!」

賢者「あいつ滅茶苦茶強いぞ……大丈夫なのか?」スタッ

女「ああ、頼む」

剣士「や……めろ……」

魔物「ククク、お前から死ぬか?」

女「お主の目的はオーブじゃろ?これを置いていくから見逃してもらえんかの?」

魔物「ククク、なぜそんなことをしなくちゃならん?お前らを殺して奪うだけだ。勿論そちらの二つもな」

女「気づいておったか……見逃してくれるならぱふぱふしてやるぞ?」

魔物「そんな手が通じると思ったか……?」

女「チッ、さすがに洞窟を住み処にしているだけあって陰気なやつじゃ」

魔物「ククク、勘違いするな?その洞窟はオーブを集めているお前らを誘き出すために利用したにすぎん。俺は自分の家を汚されるのが嫌いでね」

女「家じゃと?そんなものの存在を知っていたら近づかんかったのに……そんな情報はあの村では聞かなかったぞ」

魔物「ククク、目の前にあるだろう」

女「目の前……まさか!?」チラッ

魔物「ククク」

女「バカな!あの城は人の手で治めているはずじゃ!辺境にはあるが国家として認められておる!」

魔物「ククク、ちょっと前まではそうだったな。だが、今では俺の所有物だ」

女「侵略したのか……城を……」

魔物「ククク、ようこそ」

女「なんてやつじゃ……」











魔物「ようこそ魔王城へ」

賢者「!?」

剣士「ま……魔王……城?」

女「お主が……魔王じゃと……?」

魔王「いい顔だ……わざわざ出向いてやった甲斐がある」

女「こんな所で魔王と鉢合わせるなんて……」

魔王「信じたくないならそれでもいいが……ククク」

女「一体いつ侵略したのじゃ!」

魔王「それを知ってどうなる……?」

女「あの城の人間は生きておるのか……?」

魔王「ククク……俺の城に人間はいらない」

女「……」

魔王「さあ、おしゃべりは終わりだ……」フッ

女「消えた!?」

賢者「後ろだ!」

魔王「死ね」スッ

女「!?」

剣士「同じ手に……かかるか!」ズバッ

魔王「!?」

女「お主……!」

剣士「はあ……はあ……ぐ……」ドサッ

賢者「無理しおって……傷は塞がったがまだ動ける身体じゃないのに」

魔王「ちっ……まだそんな力があったか……」

女「おのれ……!」

賢者「おい、落ち着け。冷静にならんと勝てる相手じゃないぞ」

女「わかっておる」

魔王「勝てる……?この俺にどうやって勝てるというんだ?」

女「賢者!よいか!?」

賢者「うむ」

女「先手必勝じゃ!爆裂呪文!」ドガァン

魔王「ふん……」

モクモク

魔王「こんなものが効くと思っていたのか?」

女「なんての。さらばじゃ。瞬間移動呪文!」ギュイーン

モクモク

魔王「……」

魔王「ちっ……逃げられたか……」

魔王「……まあいい。これからお前らは死よりも辛い地獄を味わうのだからな……ククク」

魔王「そして、オーブが全て揃うことはない……絶対に……」

───辺境の村

女「ふう、なんとかうまく逃げられたな」

賢者「思ったより冷静だったな」

女「当然じゃ。どう転んでも勝てる相手ではない。逃げることしか考えてなかったわ」

賢者「逃げられたのもわざとかもしれんな。それほどやつには余裕があった」

女「そうじゃな……お主、大丈夫か?」

剣士「うう……あああ……」

女「おい、苦しみ方がおかしいぞ」

賢者「妙だな……傷なら治っているし念のため解毒もしてある」

女「そんな……おい、しっかりしろ!」

剣士「身体が……うう……」

女「やられたところが痛むのか!?」

剣士「全身に……痛みが……回ってくるようだ……」

女「くそ!回復呪文!」キュイイイン

剣士「私はもう……長く……ないかも……しれん……」

女「バカなことを言うな!回復呪文!」キュイイイン

賢者「落ち着け。ここは村の神父に診てもらおうではないか」

───教会

神父「これは呪いです……それもかなり強力な」

女「呪いじゃと!?なんとか治せんのか!?」

神父「私の力では……というより人の力では無理でしょう」

女「そんな……」

賢者「……」

神父「一体これほど強力な呪いをどこで……?」

女「そうじゃ!おい、北の城は───」

賢者「北の城に向かう途中の洞窟で魔物にやられましてな。すまないが村長さんを呼んできてはくれませんかね?」

神父「はあ、洞窟ですか。たしかにあの辺は危険ですからね。わかりました。少々お待ちになって下さい」

賢者「……」

女「……なぜ本当のことを言わない?」

賢者「今言ってどうなる?魔王の存在が元々知れ渡ってない国だぞ。城が魔物に奪われたなど誰が信じる?」

女「……」

賢者「このことはいずれ世界に広がるだろう。だが辺境とはいえ一国をいつの間にか侵略しているようなやつだ。世界の動きに気づけばまた別の場所を侵略する可能性もある」

女「……」

賢者「神殿の乗っ取りはその下準備だったのかもしれん。今はまだ様子を見たほうがいいだろう」

女「……どうすればいいんじゃ?」

賢者「おそらく呪いを解くには術者である魔王を倒さねばならん。そして、それにはやはり勇者の力が必要というわけだ」

女「結局やることは変わらんわけだな……だがこいつは?こんな状態じゃ連れて行けんぞ」

賢者「この村に預けていくしかあるまい」

女「この村は危険じゃ!近くに魔王がおるのだぞ!」

賢者「それに関してはわしに考えがある」

ガチャ

村長「お待たせ致しました。私がこの村の村長です」

賢者「わざわざすみませんな」

村長「大体の事情は聞きました。お仲間が呪いをかけられたとか……?」チラッ

賢者「ああ、ついヘマしてしまいましてな。村長さん、洞窟には近づかないよう住民に告げておいて頂けませんか?」

村長「あの辺りの魔物には手が出せない。何も言わなくとも誰も近づきませんよ」

賢者「そうですか。いらぬ心配でしたな……ところで……」

村長「彼のことですね?あの状態では旅に連れて行けない。必然的にこの村に留まらせたいということでしょう?」

賢者「話が早くて助かります。呪いの術者を倒すまでの間、お願いできませんか?」

村長「わかりました……ただこの呪いは非常に危険だということをご理解頂きたい」

賢者「……はい」

女「……?」

村長「ついてきて下さい」

───村の外れ

村長「彼にはここで療養して頂きます」

女「なんじゃと……?これではまるで……」

賢者「仕方ないことだ……村長さんも悪気があるわけではない」

女「うう……あんまりじゃ……こいつが救われん……」

剣士「私の……ために……泣いて……くれて……いるのか……?」

女「な、泣いてなどおらん!なんでわしがお主のために……!」

剣士「ふふ……そうだな……」

女「……」

───出発の日

賢者「では、こやつのことをよろしくお願いします」

村長「はい、お気をつけて」

女「体調はどうじゃ?」

剣士「ああ、まだ身体の自由がきかない。でも段々良くなってきたから、ひょっとしたらこのまま治っちゃったりしてね」

女「そうか、死ぬなよ」

剣士「ああ、わかっている」

女「お主を守るのはわしの役目なんじゃろ?わしの仕事を失敗で終わらせるなよ」

剣士「ははは……私はやっと君を守ることができたな」

女「……わしがあのとき、お主の意見を聞いて洞窟に入らなければ……」

剣士「そのおかげで魔王の居場所を突き止めることができたんだ」

女「わしを責めろ」

剣士「責めないよ」

女「優しくするな」

剣士「それも無理だ」

女「……」

女「……必ず魔王を倒す。わしがお主の願いを叶えてきてやる」

剣士「無理はしないでくれ。早く勇者様を見つけてくれればいい」

女「わしの気が収まらん。お主の分も必ず一撃ぶち込んできてやるからな」

剣士「私の今の一番の願いは、君の無事なんだ」

女「……」

剣士「だから、早く帰ってきてほしい」

女「それまで絶対……死ぬなよ」

剣士「君にはまだ言い足りない不満や文句が山ほどあるんだ。それを伝えきるまで死ねないよ」

女「……ああ」

剣士「賢者様も……おそらくあなたの考えていることは非常に危険なことでしょう。無茶な真似はしないで下さい」

賢者「……うむ」

───

女「相当無理しとったの……一時の苦しみからは解放されたようじゃが……」

賢者「だが放っておいたところで解呪することはない。今でも身体を蝕んでいるはずだ」

女「そうじゃな……して、お主の考えとは一体なんなのじゃ?」

賢者「……わしはしばらく魔王の動向を見張っていようと思う」

女「なに!?」

賢者「魔王城の近くに潜伏する。だから、お主とは一先ずお別れだ」

女「なぜそんなこと……」

賢者「なぜって……わかっているだろ」

女「待て!それならお主、結界を張れたじゃろ!?あいつの近くにいてやれば……!」

賢者「今のわしの力では結界の範囲はせいぜい家一軒分ほど。あいつを守ることができても恩があるこの村を守ることは叶わん」

賢者「だったら攻められる前にあの場所で食い止めるのみ」

女「だからってそれが一体どれほど危険なことか……」

賢者「直接戦ったわしが一番よくわかっている」

女「……」

女「……そこまで覚悟を決めていたのか?」

賢者「なーに、己を鍛えつつあの場所に留まっていれば魔王ごときにはやられんわ」

賢者「それにお主がさっさと勇者を見つけてくれれば問題ない。あそこが決戦の場になるなら、動かんでいいし楽できて好都合だ」

女「バカ言うな……一番大変じゃろうが……」グスッ

賢者「働いたことがないから少しズレているのかもな。若い頃何もしなかった分、今働いとけば極楽にも行けるだろう」

女「お主……以前わしが変わったと言っていたが、お主が一番変わったぞ」

賢者「ファッファッファ、わしは変わっとらんよ。大切なものを守りたい。結局それだけのこと」

女「それは……わしもじゃ」

賢者「また3人で旅したいな」

女「ああ……こんなことさっさと終わらせよう」

賢者「では勇者は頼んだ」

女「任せておけ!」

───船

船長「よう、色々大変だったみたいだな」

女「うむ、だがこの船のことは安心しろ。わしが無事に送り帰してやるからな」

船長「その辺は心配してねえよ。俺たちのルートの魔物はここほど強くないしな」

女「では急いで出発しようぞ。わしにはやるべきことがたくさんあるんじゃ」

船長「ああ、もうこっちの準備はできている」

女(待っていろ……すぐ戻ってくるからな)

船長「そうだ、やるべきことってたしか勇者を探すことだったよな?」

女「所在がわかったのか!?」

船長「ああ。丁度俺たちが次に向かう国にいるらしい」

昨日話を考えている最中、寝落ちしてしまったのでその分書きました
コメントありがとうございます
ヨシヒコはよくわからないです
特定の何かを参考にしているということはないですが、ベタな展開は大好物です。駆使していきます
夜また書く予定です

───砂漠の国

女「うええ……暑い……よりにもよって砂漠とは……」

船長「この砂漠のずっと向こうに街があるからな。そこに行くまでにもっと暑くなるから覚悟しておけ」

女「マジか……」

船長「しっかり日除けの装備をしておけよ。でないと太陽に焼かれちまうぞ」

女「こんなの暑すぎてまともに動けんぞ……」

船長「あんたは用心棒なんだ。ちゃんと魔物を警戒していてくれよ」

女「あうう……」

魔物「グアアアア!」バッ

船長「うわ、言ってるそばから!頼むぞ!」

女「くそ、面倒な……」

魔物「グア……?」フラッ

船長「お?」

女「しめた、魔物も暑さにやられたか?」

魔物「グアア……」バタッ

女「よし、ラッキーじゃ。このまま死んでもらうぞ」

魔物「グアア……急に力が……」

船長「しゃべった!?」

魔物「……はっ!」ビクッ

女「なるほど、知性はあるようじゃな」

魔物「ま、待ってくれ!俺はあんたらに危害を加えるつもりはないんだ!」

女「黙れ。魔物風情が」

魔物「本当だって!水が欲しかっただけだ。人間を殺すつもりなんてなかったよ!」

女「知らん。どっちにしろ襲うつもりだったんじゃろ。ていうか何も考えたくない。暑すぎて思考回路を動かしたくないんじゃ。もう死ね」

魔物「ひいい……どっちが魔物だよ……」

女「ん?」

小魔物「ピィ!ピィ!」バッ

女「仲間を呼んだか。これ以上現れんようにさっさと……」

魔物「お前……出てくるなって言っただろ!」

小魔物「ピィ……」

女「始末……」

魔物「くそ、俺が時間を稼いでやるからお前は逃げろ!」

小魔物「ピィ!ピィ!」

魔物「俺のことはいいと言ったろう!」

女「……」

小魔物「ピィ!」

女「……面倒臭い。行こうぞ」

魔物「え……」

船長「おい、放っておく気か?」

女「わしの役目はお主らを無事送り届けることじゃ。街に辿り着けたら文句ないじゃろ」

船長「それはそうだが……」

女「余計な体力を使わずに済むならそれでいい。水は大量に積んでいるな?」

船長「あ、ああ」

女「ほれ、水じゃ」ポイッ

魔物「え、え……?」パシッ

女「それを与えてやるからもう襲おうなんて考えるなよ」

船長「なんでそこまで……」

女「わしのしたいようにしただけじゃ。もう暑苦しいから考えさせるな」

魔物「あ、ありがとう……さあ飲め。半分ずつだぞ」

小魔物「ピィ」グビグビ

女「さて行こうぞ」

魔物「おっと待ちな。このまま行かすわけにはいかないぜ」プハー

船長「ほら見ろ!」

魔物「このまま借りを返さずに行かせはしない。何かお礼をしたい」

船長「えっ!?」

女「いらんわ。面倒臭い」

魔物「俺は魔盗賊。魔盗っちゃんって呼んでくれ。こっちのチビは小魔物だ」

小魔物「ピィ!」

女「聞いてないわ。馴れ馴れしいやつらじゃな」

魔盗賊「そんなこと言わずに……なんでもするからよ。きっと役に立つって」

女「……一体何ができるんじゃ?」

魔盗賊「俺たちは強くはないが、盗みや情報収集だったら信用できるはずだぜ」

女「それでは勇者がこの国に来ているということだが、どこにいるかわかるか?」

魔盗賊「えっ、勇者?なんだそれ?」

女「魔物のくせにそんなことも知らんのか。信用とか厚かましいぞ」

魔盗賊「ちょっと待ってくれ。わかったよ。時間さえもらえれば必ず突き止めてやる」

女「わしはずっとこの国に留まっているわけじゃないからの」

魔盗賊「そんなにかからねえよ。約束しよう。今夜中に持って行くぜ。どうせ街の宿に泊まるだろ?」

女「お主も街の中に入ってくるのか?」

魔盗賊「当然。人のいる所に情報は集まる。ちょっと顔を隠していれば俺が魔物だってわからないさ」

女「たしかにお主は人に近い容姿をしているが……」

魔盗賊「小魔物は荷物袋に隠れられるサイズだしな」

小魔物「ピィ!」

女「その前にわしはお主を信用しているわけではないぞ。街に入れるなんて……」

魔盗賊「ふふん、俺の生活の半分は人間と共にしている。人間の知り合いだっているんだぜ」

女「なんじゃと?」

魔盗賊「街まで一緒に行こう。そうしたらわかってくれると思う」

───砂漠の街

船長「じゃあここから先は……」

女「くっ、わしがこいつらの面倒を見るのか」

魔盗賊「面倒って」

船長「自業自得だろ。俺たちの信用にも関わるから魔物と一緒なんて絶妙知られるなよ」

魔盗賊「……」

女「絶対バレるなよ。もしバレたらお主を……」

魔盗賊「わ、わかっているって!」

船長「じゃあ帰りまで自由行動だ。俺たちも何か情報が掴めたら連絡するからよ」

女「うむ、任せた」

魔盗賊「必要ないと思うがね。俺の情報網を甘く見るなよ」

───武器屋

魔盗賊「よう、元気だったか?」

商人「お、久し振りだな。魔盗っちゃん」

女「マジか……」

魔盗賊「まったく、暑くてここに来るのも一苦労だぜ」

商人「魔盗っちゃんも街の中に住んだらいいのによ」

魔盗賊「い、いや俺は実家が街の外にあるから空けるわけにはいかねえんだ」

商人「そうだったな。いつもご苦労さん」

魔盗賊「ところで勇者ってやつがこの国に来ているそうだが何か聞いていないか?」

商人「いや、聞いてないが……あの勇者が来ているのか?だったらすぐ見つかると思うぜ。仲間にも声を掛けてみらあ」

魔盗賊「助かるよ。後でまた寄らせてもらう」

商人「そっちの娘は魔盗っちゃんの彼女か?なかなか可愛いじゃねえか」

魔盗賊「え?そうそう可愛いだろ?ほら、お前も挨拶───」

女「……」ドスッ

魔盗賊「うぐ!」

商人「ど、どうした?」

魔盗賊「な、なんでもない……ちょっと照れているみたいでな!じゃあよろしく頼む!」

───

魔盗賊「げほっ、げほっ……本気で殴りやがったな……」

女「誰が彼女じゃ」

魔盗賊「いや……たまには人間らしいところ見せないと怪しまれるからさ。ハハハ」

女「勝手にわしを利用するな。何が悲しくてお主などと」

魔盗賊「うう……悪かったって」

女「しかし、こんな普通の店で普通に会話しておったな。魔物だと全く気づかれていなかったようじゃったし」

魔盗賊「へっへっへー、少しは信用する気になったかい?」

女「いや……だが今日はもう宿に行くから期待せずに待っていよう」

魔盗賊「信用ねえな……俺」

女「なぜお主は人間の社会に入り込もうと思ったのじゃ?」

魔盗賊「人間の暮らしのほうが性に合っているんだ。ほら、俺って知能が高いだろ?」

女「自分で知能が高いとか言うと人間の社会では嫌われるぞ」

魔盗賊「さすがに住み処は街の外だけど……いつか堂々とこの中で暮らしていきたいんだ」

女「変わったやつじゃな」

魔盗賊「そして魔物と人間が共存する世界を創るのが俺の夢だ。素晴らしいことだと思わないか?」

女「……わしに言われても困る」

魔盗賊「そうだよな……でも完全に拒否されたわけじゃないから望みはあるよな」

女「随分ポジティブな」

魔盗賊「こんな夢、話したのもあんたが初めてだから結構ドキドキしていたんだぜ」

女「初め会ったときお主に襲われかけたから、ただの夢物語と思われても仕方ないぞ」

魔盗賊「基本は盗賊だけど普段はあんな襲うようなことはしない。本当に水を分けてもらおうと思っただけなんだ」

女「殺気が漂っていたが……」

魔盗賊「あのときはなんだかわからねえが、急に意識が飛んだんだ。でもあんたに近づいたら思考が正常に働き始めた」

女「胡散臭い話じゃ」

魔盗賊「うっ……そうだな。こんなこと言っていても仕方ねえ。きっちり仕事すりゃ文句ねえだろ!」

女「文句も何もお主が勝手にやっていることじゃからな」

───

商人2「勇者が?聞いていないな」

魔盗賊「知らないか……なんかわかったらよろしく頼む」

商人2「あいよ。魔盗っちゃんの頼みなら断るわけにはいかないな」

魔盗賊「じゃあ俺も商売に協力しとくかな。少し食料を買っていこう」

商人2「いつもありがとうな」

───

魔盗賊「うーん、成果なし。本当にいるのか?結構有名人みたいだが……」

小魔物「ピィピィ」ヌッ

魔盗賊「おっと顔出すんじゃねえよ。隠れていろって」

小魔物「ピィ……」

魔盗賊「腹減ったのか?待ってろ……ほら、半分こだ」

小魔物「ピィ」モグモグ

魔盗賊「しかし参ったな……このままじゃすぐ夜になっちまう。あの女に合わせる顔がねえぞ。地下の情報屋にでも当たってみるか」モグモグ

小魔物「ピィピィ」

魔盗賊「え?お前、あの女が気に入ったのか?」

小魔物「ピィー」

魔盗賊「そうだな。俺が魔物だと知りながらあんな風に接してくれる人間は初めてだったな。口は悪いがいいやつだってわかる」

小魔物「ピィ」

魔盗賊「それに心が浄化されるような感覚も……何者なんだろうな、あいつ」

小魔物「ピピィ?」

魔盗賊「バ、バカ言うんじゃねえよ!そんなんじゃ───」

?「こいつは妙な光景を見たな」

魔盗賊「グア!?」フラッ

小魔物「ピィ!」サッ

魔盗賊「……急にまた意識が……」

?「少しお前の行動を見させてもらった。魔物が人間と馴れ合っていたとはな……」

魔盗賊「な、なんだお前……まさか、この頭がおかしくなるような感覚はお前の仕業か!?」

?「俺を知らないのか?」

魔盗賊「何者だ!」

?「知る必要はない」

魔盗賊「なに……?どういう……」

?「こういうことだ」ザクッ

魔盗賊「グアア……」バタッ

?「さて、例のやつはここに来ているようだな……おそらくあれを持っているはずだ。さっさともらいに行くか……」

魔盗賊「」

今日は終わりにします
ありがとうございました

───次の日

女「来なかったか……やはり魔物など信用ならなかったな」

女「元々一人でやるつもりだったんじゃ……情報を集めに行くとするかの」

女「とは言えどうやって集めるか。今まで賢者がやっとったからどうも勝手が……」

女「いや、甘えは許されん。あいつらのためにも」

女「とりあえず昨日の武器屋にでも行ってみよう」

───武器屋

商人「いらっしゃい」

女「ええと、昨日の……」

商人「ん?ああ魔盗っちゃんの彼女か。魔盗っちゃんはどうしたんだ?」

女「いや、わしらはそういう関係では……」

商人「結局あの後来なかったし、何かあったのか?」

女「いや、知らんが……ここにも来なかったのか。だがそれはどうでもいい。勇者のことなんじゃが……」

商人「冷たい彼女だな。あいつが約束破るなんてことないはずだぜ」

女「いや、だから彼女では……」

商人「昨日は物騒な事件があったらしいから巻き込まれてなきゃいいんだが……」

女「いや、勇者は……事件?」

商人「ああ、なんでも魔物が二匹街中に現れて誰か襲われたらしい。一匹は仕留めたが、もう一匹には逃げられちまったって話だぜ」

女「え?まさか……どんな魔物だったんじゃ?」

商人「仕留めたのは……まあどこにでもいるようなよく見る魔物だ。逃げられたのは目撃証言によると小さいやつだったらしいからもう大丈夫だとは思うが」

女(逃げたのは小魔物か……だが死んだのは……?わしはあいつを見たことなかったが、この辺ではよく見る魔物だったのか?)

女(でも、死んだのがあいつならいくらなんでも気づきそうなもんじゃが……)

商人「ああ、すまん。勇者のことだったよな。勇者は───」

女「襲われたのはどんなやつだったんじゃ?」

商人「えっ……それが襲われたと言ってもその人が仕留めていたって話だけどな。でもその人もどこかへ逃げちまったらしいぜ」

女「なに?被害者なのにか?」

商人「ああ、発見者によると小さい魔物とその人が戦っているところに遭遇して、助けを呼んでいるうちに両方いなくなっていたんだとさ……一体誰だったのかな……」

女「まさかあいつでは……魔盗っちゃんではないだろうな?」

商人「それはないな。なんでも仕留めた魔物のやられ方がすごかったらしい。一撃で首を斬り落としたような跡で、とんでもない達人の仕業だって話だ」

女「とんでもない達人か……」

商人「ああ、わかっていると思うが魔盗っちゃんは戦闘がからっきしだしな」

女「その達人と逃げた者が別人という可能性は?」

商人「どうだろうな……ちゃんと現場を見た人間がいないからなんとも……でも魔盗っちゃんだったら逃げる理由がないだろ」

女「……」

───

女「……やはりあいつらじゃろうな」

女「達人に魔物だとバレて襲われたという線が強いな」

女「あいつが死んだか、または動けない状態になっていたから約束を果たせなかったのじゃな」

女「何をやっとるんじゃ。間抜け過ぎるぞ」

女「……」

女「……わしが何をやっとるんじゃ。そんなことどうでもいいじゃろ」

女「達人に襲われたって……まるで魔物目線ではないか」

女「……達人……」

女「まさかそれが勇者ではないだろうな」

女「武器屋では勇者の情報が全くなかったというからどうなのかの……」

女「ないならないでさっさと言えばいいのに、余計な話を聞かせおって」

女「後味が悪過ぎる!」

───道具屋

女「昨日街中に現れた魔物の死骸がここにあると聞いたのじゃが」

商人3「ああ?もう道具の精製に使える部分だけ剥ぎ取って処分しちまったよ」

女「そうなのか……骨などは残っていないかの?」

商人3「なんだ?何かに必要なのか?」

女「え?ああ、そうなんじゃ。魔物の骨を集めておっての。どんな魔物だったんじゃ?」

商人3「どんなって……普通だぜ。頭蓋骨ならそこにあるが……」

女「!?」

商人3「……どうしたんだ?」

女(大きさが全然違う。あいつではない!)

商人3「やけに真剣に見ているな。それが欲しいならそのまま売ってやるぜ?」

女「いらんわこんなもの!バカにしておるのか!」

商人3「ええ……」

───

女「となるとあの骨の主は一体……あいつらの仲間か……?」

女「達人は何者か?なぜいなくなったのか?そしてあいつらの行方……」

女「まだ謎は多いが、あいつらが生きていればわしの所に来るじゃろ」

女「もし傷ついてこの街にいるなら、わししか頼る人間はおらんしな」

女「だが宿に籠りっぱなしというわけにもいかんし、どうにかしてわしの居場所をわかるように……」

女「いやいや何を言っておる!わしのやるべきことは勇者探しじゃ!魔物に構っている暇はない!」

女「うむ、振り出しに戻っただけじゃ!」

女「じゃあ、一度酒場辺りに聞き込みに行って何も得られないようなら船長の所にでも行くとしよう!」

女「酒の匂いですら酔ってしまいそうな身体になってしまったから、酒場はあまり気乗りしないが……」

女「酒はこの身体とおさらばするまでの我慢じゃな」

女「……」

女「……この身体か……」

───酒場

女「昼間っから酒臭いの……」

女「さて、どうしようか……何か注文した方がいいじゃろうな」

女「腹も減ったし飯でも食うか。話はそれからじゃ」

あらくれ「おいおい嬢ちゃん。お子様がこんなところに来て酒なんて飲めるのか?」

女「……よし、ランチがあるな。すいませーんランチ一つ!」

あらくれ「なに無視してんだよコラ!」

女「うるさいの。話なら後で聞いてやるからまず飯を食わせろ」

あらくれ「……いい度胸してんじゃねえかよ」

女「酒場は毎度ガラの悪い連中がいて困る。本当にこんなところでいい話が聞けるのか……」

あらくれ「なんだ?探し物でもしてんのか?」

女「しかし屋内にいても暑くて敵わんな。ジュースでも頼むかの」

あらくれ「無視してんじゃねえよ!」

女「うるさいの。暑苦しいんじゃ。隣に座るな」

あらくれ「困ってんだろ?お兄さんに相談してみな。ジュースくらいなら奢ってやるぜ」

女「低俗なお主には絶対わからんと思うがの」

あらくれ「……お前だって世間知らずのガキだろうが」

女「お主ほど世間知らずでもガキでもない」

あらくれ「日除けもせず、肌を露出した格好のやつに言われたくねえよ」

女「やはりこの格好は無理があったかの。日光が直射してたまらんな」

あらくれ「浮いてるってわかんねえか?それとも誘ってんのか?」

女(だがこれだけ目立っていれば、あいつらもわしを見つけやすい)

女「わしは目立っておるか?」

あらくれ「そりゃな。おまけにガキがそんな立派な剣を背負っていりゃ嫌でも目立つぜ」

女「……この剣は肌身離さず持っていたいんじゃ」

あらくれ「確かに高価なもんっぽいな。どこで手に入れたんだ?」

女「はあ……剣士がいたらこんな格好で出掛ける前に止められていたじゃろうな……」

あらくれ「無視すんなよ!」

女「うるさいの。わしに何か用でもあるのか?」

あらくれ「別に……お前みたいに変な格好のガキがいたから、からかいたくなっただけだよ」

女「お、来た来た。いただきまーす」モグモグ

あらくれ「無視やめろよ!」

───

女「あー、うまかった。さて聞き込みにでも行くかの」

あらくれ「ちょ、待てよ。食ったら俺に話を聞くんじゃなかったのか!?」

女「……お主まだいたのか」

あらくれ「このまま舐められっぱなしってわけにはいかねえんだよ!」

女「律儀に待っている時点でもう……」

あらくれ「なんだよ。何か探してんだろ?情報が集まる場所なら知ってるぜ。俺は地下にも精通してるんだ」

女「……」ピクッ

あらくれ「ど、どうだ?聞く気になったか?」

女「ジュースを奢れ。そしたら聞いてやる」

あらくれ「本当か?よし持ってくるぜ…………なんでだよ!」

───

あらくれ「じゃあ行くけど……その格好でついてくるのか?」

女「うむ、上掛けは宿に置いてきたからの。何かまずいのか?」グビグビ

あらくれ「目立つだろ……一応裏の人間が集まる場所に行くんだぜ……」

女「そんなこと言われても取りに戻るのも面倒だしな」グビグビ

あらくれ「歩きながら飲むなよ……どんだけ目立つんだ。恥ずかしい……」

女「喉が乾くのだから仕方あるまい」グビグビ

あらくれ「はあ……こっちだ」

女「……」グビグビ

今日は終わりです
ありがとうございました

───

あらくれ「着いたぜ。この建物の下だ」キョロキョロ

女「地下か……ただの裏の世界のことだと思っておったが、本当に地下にあるとはな」キョロキョロ

あらくれ「さっさと行け。怪しい行動すんなよ。自然体で入れ」キョロキョロ

女「お主の行動も大概に不審者だぞ」キョロキョロ

あらくれ「お前もキョロキョロすんな。ここに来るまでずっと何か探してたのか?」

女「お主には関係ない……」キョロキョロ

あらくれ「いいからさっさと入れ」

女「う、うむ……」

あらくれ「階段は暗くなっているから踏み外すなよ」

女「わかっておる……おお、下に行くほど中は涼しいな」

あらくれ「涼みに来るだけでも価値はあるってもんだろ」

女「そうじゃな。毎日でも来たいの」

あらくれ「ここは一般人の立ち入りは禁止だが、俺が一緒にいればいつでも入れるぜ」

女「ならば諦めるしかないではないか……」

あらくれ「くっ……」

───地下1階

あらくれ「着いたぜ」

女「ここは……」

マスター「いらっしゃいませ」

女「酒場のようでもあるが、やはりきな臭い雰囲気の客層ばかりじゃの」

あらくれ「見ての通り一般の客はいねえ。闇の取引や市場に出回らない商品の売買とかよ……まあ色々危ない商売が成り立っている場所だ」

女「それでわしはどうしたらいいんじゃ?」

あらくれ「そっちの席で待っていろ。すぐに情報屋が来る」

女「向こうから来てくれるのか?」

あらくれ「情報屋はここに来る人間を主な取引相手にしているから、その辺の席にいたら自分の客だってことになっている」

女「ほう、暗黙の了解というやつか」

あらくれ「じゃあ俺はもう行くぜ」

女「なんじゃ、ずっとついて来るかと思ったが」

あらくれ「急に寂しくなったか?」

女「どうやって追っ払おうか考えていたところじゃ。手間が省けた」

あらくれ「くっ……」

女「一応感謝はしといてやる」

あらくれ「けっ、素直じゃねえな」

女「お主はここの人間なのか?顔が利くようじゃったが」

あらくれ「あまり裏の世界を知りすぎないほうがいい。俺が言えるのはここまでだ」

女「気になるではないか。勿体ぶるなよ。ようよう」

あらくれ「あー、もう!頼むから、ジュース奢ってやるから大人しくしていてくれ」

女「チッ、仕方ない。それで手を打ってやるか」

───

情報屋「何か知りたいのかい?」

女「おお、本当に来よった」

情報屋「まあ挨拶はいいだろう。わかっていると思うが僕が情報屋だ」

女「早速だが勇者の居場所を教えてもらいたい。この国にいると聞いたんじゃ」

情報屋「勇者ね……たしかに情報は入っている」

女「本当か!?ここに来て正解じゃったな」

情報屋「待ってくれ。その前に君、お金は持っている?」

女「あ、そうか。情報を買うというわけだものな。旅には困らないだけの路銀は所持しておるが……大金を出す余裕はないな……」ジャラ

情報屋「ああ、ダメだ。少なくともこの倍はないと」

女「そんな……こんな近くまで来たのに……!」

情報屋「情報屋っていうのは色々危ない橋を渡っているんだ。ここにいるお客さんは皆、それに見合うだけの報酬を出してくれるものさ」

女「あいつ、こうなることくらいわかっていただろうに連れて来たのか……本当にからかわれていただけだったか……」

情報屋「そんな人も結構いるんだ。奧に扉があるだろ?そこに行ってみるといい」

女「くそ、貧乏人は帰れというわけか!」

情報屋「そうじゃない。そこから先はさらに地下へ続く階段だ。そこでは様々な方法で大金を入手する術があるということさ」

女「本当か!普通では考えられない話じゃ!早速行ってこよう」

情報屋「料金を持って今と同じところにいてくれたらまた来るよ」

女「うむ……ところで昨日の魔物騒動のことは……?」

情報屋「ああ、勿論知っている」

女「被害者と魔物が一匹逃げたということだが、行方がわかるか?」

情報屋「いや、それはわからないね。でも報酬さえ払ってくれるなら調べるよ」

女「そうか……では行ってくる」

ガチャ

───地下2階

テクテク

女「ん?」

黒服「来たか。お客さんだな?」

女「ああ……お主は誰じゃ?」

黒服「俺はただの案内人だ。ここは金に困った人間が来ることになっている。その救済のための道をいくつか用意している」

女「要するに手っ取り早く稼ぐ方法を教えてくれるわけじゃな」

黒服「その通りだ。君には3つの選択肢がある。働いて大金を稼ぐ方法。換金して大金を稼ぐ方法。ギャンブルで大金を稼ぐ方法」

女「そこだけ聞くと一般の世界と変わらんの」

黒服「ただギャンブルはプラスになるとは限らない。余程追い詰められたため選ぶか……君には関係ないだろうが娯楽の一環として来る客も多い」

女「そうじゃな。リスクが大きい。他のにする」

黒服「では残りの2つは同じ場所で詳しい説明を受けることになる。少し移動するが、こちらの用紙に血印を押してくれ」

女「なんのためじゃ?」

黒服「裏切りを出さないようにする。我々と客の安全のためだ」

女「こんなことせんでも、わしは口外したりせんのに」ペトッ

黒服「そういう決まりだ。よし、ではついて来てくれ」

テクテク

女「さっきからやけに移動するな。地下だというのに広すぎだぞ」

黒服「セキュリティ上の問題もあるが、公にはできないことが色々行われている場所だ。あまり詮索はしない方がいい」

女「わかっておる。しかしここは暑いの。さっきまで涼しかったのに」

黒服「そうか?俺は快適だと思うが」

女「ずっとこんな所にいたらわからんじゃろうな……」

黒服「着いた。俺が案内するのはここまでだ。このドアの向こうで説明を受けてくれ」

女「帰りもいてくれるのじゃろうな……迷子になってしまうぞ」

ガチャ

───

闇商人「ほう、なるほど……」

女「ん?ここでいいのじゃな?大金を得られると聞いたのじゃが……」

闇商人「ああ、軽く説明は受けているな?」

女「ここでは働くか換金と聞いた」

闇商人「その通り。では続きの説明だ。まずは働いて大金を得る方法だが、これは危険が伴う。命の保障がないうえ合法的なものばかりじゃない。それに何日もかかる仕事もある」

女「そうか……例えばどんなものじゃ?」

闇商人「運び屋、スパイ、暗殺、スケープゴート、魔物の捕獲など様々だ……ちなみに仕事は選べない。こちらで割り振る」

女「魔物の捕獲?魔物など捕獲してどうしようというんじゃ?殺すだけじゃいかんのか?」

闇商人「詮索はするな。与えられた仕事を黙ってこなせばいい。だが、お前にできる仕事は限られるだろうな」

女「参ったな……換金できるものなどないし、働いて稼ごうと思ったのじゃが……暗殺など絶対やりたくないぞ」

闇商人「換金できるものは一般的なものだけと考えないほうがいい」

女「なに?どんなものじゃ?」

闇商人「身体の一部……例えば臓器なんかは高く売れる」

女「バカ言うな。絶対嫌じゃ。下手すれば死ぬではないか」

闇商人「心臓も脳も……さらには肉体全てを売る人間もいる。今お前がいるのはそういう世界なんだよ」

女「うおお……軽い気持ちで来てしまったらえらいことになったぞ……」

闇商人「それ以外にも売れるものを持っているように見えるが……?」チラッ

女「こ、この剣はダメじゃ!これは金には代えられん!これは……」

闇商人「親の形見かそれとも……恋人からの贈り物か?」

女「そんなんではない……だが大切なものに変わりはない」

闇商人「だとよ……どうする?」

あらくれ「チッ、そんなに大事か?目をつけていたのによ」ヌッ

女「お主、いつの間に!?」

あらくれ「初めてその剣を見たときから絶対手に入れてやろうと思っていた。お前みたいなガキには勿体ない代物だぜ」

女「お主……そのつもりで……」

あらくれ「知らない人にはついて行っちゃいけないって教わらなかったか?世間知らずのお嬢ちゃん」

女「ここの連中とはグルであったか」

あらくれ「その通りだ。俺の仕事は外で困っている人間を探して救済するって大役だ」

女「救済とは図々しい。ただのキャッチではないか」

闇商人「本当はあまりルールに逸れたことはしたくないが、今回はどうしてもその剣が気に入っちまったらしくてな。お前はそいつの個人的な理由で連れてこられたわけだ」

女「ふん、だったらわざわざ回りくどいことせずに無理矢理にでも奪おうとすればよかったのにの」

あらくれ「街中でそんなことしたら目立つだろうが。一応外は俺の職場なんだぜ。買い取ってやろうとしただけ有り難く思いな」

女「はあ……まんまと罠に掛かってしまったか……」

あらくれ「最終的にお前はここに来るだろうと思っていたからな。待たせてもらったぜ」

女「そんなことを暴いてしまうとは、もう金で取引なんて考えはなさそうじゃな」

あらくれ「察しがいいな」

女「もうルールもへったくれもないな。どうやらわしがいるべき場所ではなさそうじゃ。帰るぞ」

あらくれ「このまま帰れると思ってんのか」

女「……だよな」

闇商人「運良く逃げられたとしても、お前が先程印を押した魔法の血判がある以上どこまでも追跡することができる」

女「ただの薄汚い紙ではないと思っていたが、そのような効力があったか……」

あらくれ「つまりお前にはもう逃げ道すらないんだよ」

女「誰が逃げると言った?」

あらくれ「なに?」

ダッ

女「ふん!」バコッ

あらくれ「ぐお……!」ヨロッ

女「この剣はお主に使うのも勿体ない代物じゃ」

あらくれ「嘘だろ……こんな……」バタッ

闇商人「警備出てこい!反逆者だ!」

女「裏切ったのはそっちじゃろうが。わしの純粋な心を弄びおって」

黒服×10「「「うおおおおお!」」」

女「面倒じゃ。一気にいくぞ。氷結呪文!」シャァァァァ

黒服×10「「「うわああああ!」」」カチンコチン

女「やけに暑い部屋じゃからな。冷やしといてやる」

闇商人「おいおい……こんなに強いなんて聞いてないぞ……」

女「魔王に比べたら屁みたいなもんじゃな……さて」

闇商人「ひっ……」

女「血判を渡してもらおうかの」

闇商人「なんてこった……」

女「安心しろ。わしは正義の味方でもないからお主らの商売の邪魔をする気はない。わしの血判だけ……渡し……」

闇商人「ん?」

女「頭が……」フラッ

あらくれ「くくく……」

女「お主……もう復活しよったか……」

あらくれ「軽い打撃で助かったぜ。それより、やっと効いてきたようだな」

女「何をした……?」

あらくれ「知らない人に物を買ってもらっちゃいけないって教わらなかったか?」

女「まさか……ジュースか……!」

あらくれ「あれはジュースじゃない……お子様にも飲みやすくした酒だ」

女「!?」

あらくれ「仕込んでおいたのは念のためだったが、こんな状況になるとは思ってもみなかったよ」

女「では……ずっと身体が熱かったのも……!」

あらくれ「弱めの酒とはいえ、お子様にしてはよく耐えたほうだぜ。一暴れしてやっと回ってきたか」

女「こんなことして……ただで済むと……思っておるのか……」

あらくれ「計画をばらした時点で無事に帰そうなんて思っちゃいねえよ。お前は奴隷船にでも売りつけてやる」

闇商人「仕事がもらえて良かったな。奴隷はさすがにここでも紹介していないレアな仕事だぜ」

あらくれ「そういや奴隷船といえば有名な海賊がいたな。そいつらに売っ払っちまうか」

闇商人「そんな有名な海賊いたか?」

あらくれ「ほら、一昔前に有名だった……最近また名前を聞き始めた……」

闇商人「ああ……あいつらはダメだ。危険すぎる。取引なんてしねえ。欲しいものは略奪するしか考えてねえからな」

女「くそ……許さんぞ……」

あらくれ「まだそんな口をきく余裕があるか……」

今日は終わります
ありがとうございました

あらくれ「俺を散々バカにしやがって。許さねえのはこっちのほうだ」

闇商人「やるのか?」

あらくれ「何もしないで人の手に渡すのも勿体ねえだろ」

闇商人「たしかにな」

女「何を……する気じゃ……?」

あらくれ「その辺は察しが悪いみたいだな」

闇商人「奴隷にも色々種類はいてだな……」

あらくれ「くくく……」

闇商人「最初にお前にできる仕事は限られると言ったよな?剣を売らせるため、あえて説明はしなかったが」

あらくれ「さすがにそれは断るだろうとは踏んでいたが、実際あの強さなら暗殺でもなんでも簡単にできそうで危なかったな」

女「何を……言っておる……」

闇商人「本当にわからないのか?女のできる仕事などわかりきって……」

あらくれ「いいじゃねえか。世間知らずのガキなんだ。丁寧にじっくり教えてやろうぜ」

闇商人「そうだな。お前に与える仕事は奴隷船の性奴隷だ」

女「!?」

あらくれ「だが、その前に今から俺たちに犯される」

女「なっ……!」

あらくれ「お前には精々泣き叫び、許しを請うくらいしてもらいたいからな。意識がある今のうちにたっぷりとやらせてもらうぜ」

女「バカなことを……やめろ……」

闇商人「そんな挑発的な格好しているやつの言うセリフじゃないぜ」

女「違う……これは……」ガクッ

あらくれ「くくく、もう立っていることもできなくなったか」スッ

女「近寄るな!」ブン

あらくれ「まだ暴れるかよ。だが全然力が入ってないぞ」ガシッ

女「あ……」

闇商人「ガキのくせになかなかいい身体してやがる」

あらくれ「実はこの身体も気になっていたんだ」

ムニュ

女「!!」

あらくれ「こりゃすげえ。そこらの売春婦とは全然弾力が違うな」ムニュウ

女「くっ……」

あらくれ「いい顔だ。もっと悔しがってくれよ」

女「……よせ……」

あらくれ「くくく、泣きながら謝ってみろよ」

女「誰が……!」

あらくれ「だろうな。まだ危機感が足りないか」

女「放せ!」

あらくれ「うるせえよ。暴れんな」ムニュウ

女「あっ……」

あらくれ「どうれ中身を見せてみな」ガシッ

ビリッ

プルンッ

女「!!」

あらくれ「おっほ、たまんねえ。もう我慢できないぜ」

女「……」ギリッ

闇商人「さっさと済ませて交代してくれよ」

あらくれ「わかってる。慌てんなよ」

バタン

黒服「大変です!魔物が脱走しました!」

闇商人「なに!?」

あらくれ「なんでこんな時に!?」

小魔物「ピィー!」バッ

あらくれ「げっ!ここまで来やがった……ってこんな小さいのかよ」

闇商人「驚かせやがって。俺でも仕留められそうだ」

黒服「そんなものじゃありません!もっと凶暴なやつです!ここも危険です!すぐに避難を!」

闇商人「な、なんだとぉ!?」

小魔物「ピィ!ピィ!」

女「……小魔物……?」

小魔物「ピィ!」シュワァァ

女「……これは解毒呪文……それに覚醒呪文か……?」

小魔物「ピィ!ピィ!」

女「お主にそのようなことができたとは……助かったぞ」ムクッ

あらくれ「嘘だろ……なんで魔物が助けるんだよ!」

闇商人「そんなことより逃げたほうがよさそうだ」

黒服「あ……来た」

ドガアァァン

黒服「ぎゃああああ!」ドサッ

女「なに!?」

黒服「」

大魔物「グギャアアア!」ドガアァァン

あらくれ「うわ!」ドサッ

闇商人「ひいい……」ドサッ

女「何が起こっておる?なぜ魔物がこんな場所に……?」

あらくれ「腰が抜けて……動けねえ……」

闇商人「く、食われちまう……助けてくれえ……」

女「ふん、知ったことではない。わしの服を台無しにしおって」

あらくれ「そんな……」

女「とは言ったものの、あの魔物を倒さんとわしも帰れそうにない」

大魔物「グギャアアア!」

女「とりあえず破れた服でも隠すところは隠しておかんとな」ギュッギュッ

小魔物「ピィ」

女「お主はわしの服が落ちないよう中で隠れつつ抑えていてくれ」

小魔物「ピ、ピィ……」ムギュ

大魔物「グギャアアア!」

あらくれ「ひいいいい!」

闇商人「助けてえええ!」

女「やれやれ、わしがいたことに感謝しろよ」

───

大魔物「グググ……」バタン

女「ふう、ここら辺の魔物にしてはなかなかの強さじゃったの」

あらくれ「おい!まだ生きているぞ!とどめをさせ!」

女「はいよ」バキッ

あらくれ「うぎゃっ!」バタッ

闇商人「ええ!?」

女「お主の指図は受けん。というか自分のしたことを忘れたのか」

闇商人「あわわわわ……」

女「さて」

闇商人「ひいっ、許して下さい!」

女「仕事完了したぞ」

闇商人「え?」

女「魔物の捕獲じや。ちゃんと生きておる。報酬はもらえるんじゃろうな?」

闇商人「な、なにを……」

女「もらえるんじゃろうな?」ギロッ

闇商人「ひっ……は、はい!お支払いします!」

女「それとわしの血判も忘れるなよ」

───地下1階

ガチャ

マスター「いらっしゃいませ」

女「なんじゃ……下では結構な騒ぎだったのに、ここは通常営業じゃな」

小魔物「ピィ」

女「シッ、隠れておれ。見つかったらお主は始末されてしまうぞ」

小魔物「ピィ……」

女「狭くて悪いが隠すところがないんじゃ。服の中でしばらく大人しくしていてくれ」

小魔物「ピ……ピィ……」

情報屋「やあ、早かったね。お金は工面できたのかい?」スッ

女「お、来たか。これだけあれば足りるじゃろ?」

情報屋「……うん、十分だ。それよりここの人間が少し慌てている様子が見えたんだけど……下で何かあったのかい?」

女「さあの。情報料くれたら思い出すかもしれんがの」

情報屋「ハハハ、こりゃ参ったね。でも大体想像はつく。後で調べてみよう」

女「下で行われていることを知っておるのか?」

情報屋「さあね。情報料を───」

女「ええい、お主と話していると埒が明かん!わしにはどうでもいいことじゃ!勇者のことだけさっさと教えろ」

情報屋「そうだね。じゃあ勇者だけど……」

女「うむ」ドキドキ

情報屋「もうこの国にはいない。今日出発したそうだ」

女「なんじゃと!?どこへ向かったのじゃ?」

情報屋「わからない。それが僕の知る情報の全てだ」

女「そんな……詐欺ではないか!」

情報屋「泊まっていた宿もわかっていたんだけどね。少しここに来るのが遅かった」

女「……」

情報屋「このことだけでも十分だと思うけどね。知らなかったら今頃君は国中を走り回っていただろ?」

女「納得できん。わしがどれだけ苦労してきたことか……」

情報屋「僕もこれだけの情報を得るのにも苦労してんだ」

女「もういい!お主なんぞに期待したわしがバカじゃった!」

情報屋「そうか。今回は運がなかったけどまた協力できることがあれば───」

女「二度と来ないわ!」

───

女「はあ……また振り出しじゃ……もうどうすればいいのかわからん」

小魔物「ピィ」

女「ああ、すまんかったな。街から出てやるからもう少し待っておれ」

小魔物「ピィ……」

女「お主は地下までわしを助けに来てくれたのか?」

小魔物「ピィ」

女「魔盗っちゃんはどうしたんじゃ?生きておるのか?」

小魔物「ピィ!」

女「さっぱりわからん」

小魔物「ピィ!ピィ!」

女「……慌てておるのか?ならば急いで外に向かうか」

───街の外

女「よし、もう出ていいぞ」

小魔物「ピィ」ピョン

女「狭苦しくて悪かったの」

小魔物「ピィ!ピィ!」グイグイ

女「なんじゃ、引っ張るな……ん?ついてこいと言っておるのか?」

小魔物「ピィ!ピィ!」

女「もしや魔盗っちゃんのいる場所へ連れて行こうというのか?」

小魔物「ピィ!ピィ!」バッ

女「あ……仕方ないな」

───魔盗賊・小魔物の住み処

小魔物「ピィ!」

女「あ……」

魔盗賊「よぉ……来てくれたか……」

女「どこにいるかと思ったぞ。まったく」

魔盗賊「随分刺激的な格好だな……怪我人には堪えるぜ……」

女「何を……お主、酷い怪我ではないか!」ダッ

魔盗賊「来るな!それ以上近づかないでくれ!」

女「な、なぜじゃ?お主そのままでは死ぬぞ」

魔盗賊「……実はこれでも理性を保つのに必死なんだ……人間のあんたに近づかれたら、また襲いかかっちまう……」

女「わしに近づいたら思考が正常に戻ったと言っておったではないか」

魔盗賊「……ある事情でもう……どうにもならなくなっちまったんだ……」

女「お主をやったやつの仕業か!誰にやられた!?」

魔盗賊「……あんたには関係ない。これは俺の問題だ……」

女「いいから教えろ!」

魔盗賊「あんたは知らないほうがいい……わかってくれ……」

女「……小魔物だってお主を心配しておる。危険な目に遭っても、お主のためにわしをわざわざここに連れてきたんだぞ」

魔盗賊「俺があんたを連れてくるよう頼んだんだ……ありがとうな……」

小魔物「ピィ……」

女「だったらなぜ……治療するためではないのか?」

魔盗賊「約束だ……」

女「え……?」

魔盗賊「勇者は西の国に向かった……追えば向こうで会えるだろう……」

女「お主……それを伝えるために……?」

魔盗賊「期限は過ぎちまったが……怪我をしているってことで大目に見てくれ……」

女「……」

魔盗賊「もう行ってくれ……俺は助からない」

女「そんなになるまで放っておくからじゃ……街に残っていれば治療を受けられたかもしれんのに」

魔盗賊「街にいてもこんな状態じゃ俺が魔物だって知られちまう……」

女「……」

魔盗賊「人間との共存……夢だったなあ……」

女「……お主が人間を受け入れたように、人間もお主を受け入れたかもしれんじゃろ」

魔盗賊「……」

女「たしかに人間にも悪いやつはいる。まだ魔物のほうが可愛いと思えるほどの者もいた」

魔盗賊「……」

女「だが、お主の周りには信用できる者がいるじゃろ。武器屋だってお主を心配しておった。話せばわかってくれたかもしれん」

魔盗賊「……」

女「……お主は最初から逃げていたんじゃ」

魔盗賊「そうかもな……俺の夢を一番信じなきゃいけない俺が……一番疑っていたんだな……」

女「……」

魔盗賊「今さらだな……」

女「少なくともわしはお主を信じられる」

魔盗賊「……へへへ……ようやく信用してくれたか……やったぜ」

女「……」スッ

魔盗賊「お、おい……」

女「回復呪文!」キュイイイン

魔盗賊「ダメだ!離れ……グアア……!」

女「……」キュイイイン

魔盗賊「グアアアア!」バキッ

女「……」キュイイイン

魔盗賊「グアアアア!」バキッ

女「……」キュイイイン

魔盗賊「グアア……アア……」

女「……」

魔盗賊「アアア……」ガクッ

小魔物「ピィー!」バッ

女「大丈夫。気を失っただけじゃ」

小魔物「ピ、ピィ……」

女「あー、痛た……本気で殴りおって。ちゃんと戦えば強いんじゃないか?こいつ」

魔盗賊「」

女「傷は塞がった。運が良ければ生き残れるじゃろ」

小魔物「ピィ……」

女「こいつ最後は攻撃を止めおった。理性も戻ったようじゃ」

小魔物「ピィ」

女「さて、わしはそろそろ行かねばならん。あとはもう知らんから好きに生きてくれ」

小魔物「ピィ……」

女「でも……目が覚めたら伝えておいてほしい」

小魔物「ピィ?」

女「お主の夢、わしも多少は見てみたくなった。と」

───

女「西の国か。都合よく動いてくれるもんじゃ」

女「長かったな……もう絶対逃がしたくないぞ」

女「わしらが西の国に帰るまで、誰かに足止めをしてもらえるよう船長に頼んでおこう」

女「やっと、勇者に会える」

───西の国

女「ここかの……」

女「わしのことを話し、会う段取りまでつけといてくれるとは感謝の言葉も出ないの」

女「……」

女「……いかん緊張してきた」

女「しかし勇者か……どんな猛者かのう」

女「……」

女「……事情を話せば仲間になってくれるかのう」

女「……」

女「……イケメンだったらいいのう」

?「君か?私と会いたいと言ってきたのは」

女「……ポッ……」

?「待たせてしまったな。私が勇者だ」

女「え!?お主が……勇者……?」

?「……」

女「そうだったのか……」

今日は終わりです
コメントありがとうございます
エロレーダーはすみません。頑張ろうと思ったけど無理でした
無理でした。エロは無理でした

女「お主が勇者だったとは……」

勇者「どこかで会ったかな?」

女「以前わしの村に立ち寄ったことがあるじゃろ!忘れたのか!?」

勇者「すまない。私は多くの国に立ち寄り、数え切れないほどの人と出会っている。記憶力はいいほうだと思うが……君のことは覚えていない」

女(あ、わし今ピチピチギャルじゃった。会ったのはじじいのときじゃった)

勇者「思い出すから教えてくれ。どちらさんといったかな?」

女「い、いや……いいのじゃ。ちょっと遠巻きにお主を見ていただけじゃったから……覚えているはずないの、うん!」

勇者「そうか」

女「そんな話はどうでもいいんじゃ!もっと大事な話がある!」

勇者「仲間にしてほしい……だったら断る」

女「な、なぜじゃ!?」

勇者「足手まといはいらない」

女「なんじゃと?」

勇者「君がどれほどの力の持ち主か知らないが、魔王を倒せるのは勇者だけだ」

女「なっ……だが、お主にだって仲間はおるんじゃろ?」

勇者「私のパーティーの面子を知っているのか?」

女「いや?勇者・戦士・僧侶・魔法使いあたりかの?」

勇者「勇者・勇者・勇者・勇者だ」

女「お……お主以外にも勇者はいたのか?」

勇者「誰でもなれるわけではないが、特別な血をひいた者だけがその資格を持つと云われている。世界中を旅している理由の一つが他の勇者を探すためだった」

勇者「旅に出るのを嫌がる者もいれば、勇者の自覚がない者もいたし、一人は女の子だった。様々な事情があり、探すのに非常に苦労した」

女「他の勇者は今どうしているのじゃ?」

勇者「……世界中に情報を集めるために飛び回っている」

女「魔王の根城ならわしが知っておる」

勇者「辺境の北の城……だろう?」

女「知っておったのか!?」

勇者「そこに君たちがいたという話は聞いていた。そして、おそらく魔王城に入る前にやられたのではないか?」

女「うっ……まさしくその通りじゃが、なぜわかった?まさかお主らも?」

勇者「魔王城は入ることができない」

女「えっ?」

勇者「あそこは結界が張られている。人間が自由に出入りできるような城じゃあない」

女「そうなのか。わしらはそこまで辿り着かんかったからの……よくそこまで調べ上げたもんじゃ」

勇者「私たちには数人の協力者がいる。彼らは戦闘員ではないが、その代わり様々な分野で私たちの助けとなっている」

女「そいつらに調べさせたのか?」

勇者「ああ、そこは一番諜報が得意な従者という者に任せた」

女「一人では危険だろうに。城に辿り着くまでにも強い魔物がうじゃうじゃいたぞ」

勇者「いや、私とは別の勇者が二人ついて行った。危険な区域だということは聞いていたからな」

女「なるほど、それで調査もうまくいったわけか」

勇者「……うまくはいかなかった」

女「は?」

勇者「結界について調べていた際、急に魔物に襲われたそうだ。そいつは……魔王と名乗った」

女「!?」

勇者「魔王は彼らを殺そうとした。従者を逃がすために二人の勇者は立ち向かった」

女「魔王じゃ……間違いない。それでどうなったんじゃ?」

勇者「……おそらく殺された」

女「そんな……勇者が死ぬなんて……!」

勇者「勇者も人間だ」

女「なぜそんな冷静でいられる!仲間がやられて悔しくないのか!」

勇者「悔しくないわけないだろう!」

女「!?」

勇者「私が旅に連れ出さなければ……結界の調査などさせなければ……彼らは死ぬことはなかった」

勇者「私は気が狂うほど後悔し、悲しみ、この宿命から逃げ出したくなり自害すら考えた」

女「な……」

勇者「だがな、彼らはもういない。彼らの夢を叶えられるのは生きている私たちだけだ」

勇者「後悔は勇者として生きた彼らへの冒涜。私たちが悲しむことを望まない。自分の墓が建てられることを望まない」

勇者「彼らの望みは結界を破り、魔王を討つことだけだ!」

女「……」

勇者「……君も同じような目にあったのだろう?だから話した。同じ境遇の者として理解してくれ」ザッ

女「待て!それで一体どうするつもりじゃ!結界を破る方法は見つかっておるのか!?」

勇者「……世界にはオーブというものが存在する」

女「なに!?オーブじゃと!?」

勇者「名前くらいは聞いたことがあるか……全てのオーブを揃えたとき───」

女「わしらが持っておる!ほれ!」キラリーン

勇者「これは……不思議な力を感じる……本物か。なぜ君がこれを持っている?」

女「わしらは元々オーブを集める旅をしておった!あと二人の仲間が今それぞれ一つずつ持っている!」

勇者「オーブの存在を知っていただけでなく、三つも集めてしまうとは……」

女「だから頼む!わしと一緒に───」

勇者「いや、ダメだ。そいつは私が預かる。残り二つの場所も教えてくれ。これで予定は狂ったが、早めに集まりそうだ」

女「おい、それはないぞ!」

勇者「お互い目的は同じなんだ。私が魔王を討伐してくれば文句ないだろう?」

女「魔王と戦うのは、あともう一人の勇者しかおらんのじゃろう……?」

勇者「ああ、協力者は戦いには参加させないからな」

女「だったら一人でも増えたほうがいいだろう!わしなら死にそうになっても見捨ててくれて構わん!いや、初めからお主らの盾になるつもりで行く!」

勇者「それができたら苦悩もなかったのだろうな。私は仲間のためだけじゃない。世界を守りたいんだ」

女「いい加減にしろ!世界を守りたいだと?甘過ぎて反吐がでるわ!人一人を犠牲にできずに世界を破滅させてたまるか!」

勇者「君がついて来なければいい話だ」

女「うるさい!何が勇者じゃ!もう怒ったぞ!魔王以上にお主にキレたわ!こんなもの海に放り投げてやる!」

勇者「おい、冷静になれ。本来の目的を見失うな!」

女「知ったことか!それ───」

勇者「わかった!連れていく!だからよせ!」

女「……」ピタッ

勇者「よし、落ち着いてオーブを私に……」

女「……」ニヤッ

勇者「……!?」

女「わかればいいんじゃ」ニコニコ

勇者「……冷静になれなかったのは私のほうだったか。くそ、だが魔王と戦うのは私たちだけだ。いいな?」

女「……」ニッコリ

勇者「返事をしろ!」

───

女「もう一人の勇者はオーブを探しに行っているのか?」

勇者「ああ、彼は協力者二人と一緒に東の国へ向かった」

女「お主はどうするんじゃ?」

勇者「私たちは情報を集め、ここで落ち合うことにしている」

女「なんじゃ。ということはわしと会うためにこの国で待っていたわけではないのか」

勇者「ああ、すまないがそれは偶然だ。勇者に会いたいという人間は多いからな。全ての人と会っている暇はない。身分を隠しながら行動することがほとんどだ」

女「なるほど……見つからんかったわけじゃ」

女「で、お主が持っている情報というのは?」

勇者「ここから少し離れた場所に精霊の眠る国というところがある。そこにオーブの噂を聞いた。もう一人の勇者が来たら一緒に向かうつもりだ」

女「なんじゃ、ゆっくりしとるの。お主らがのんびりしている間にわしらは三つも集めてしまったというのに」

勇者「それはたまたまだろう?私がこれだけの情報を集めるのにどれだけの時間をかけたと思っている!」

女「意外と熱くなりやすいの。運も実力のうちじゃ。わしらの中にとてつもなく運の強い人間がおったからの」

勇者「運などに頼ったことはない。確かな情報があれば犠牲はなかったはずだ」

女「……そうじゃな。わしの仲間がいる場所へはいつ向かう?」

勇者「もう予定は決まっているからな。おそらく最後になるはずだ」

女「そうか、急ぎたいの……もう一人の勇者はいつ帰ってくるかの?」

勇者「東の国は彼の祖国だからな。昔、一度見たことがあると言っていたし、それほど待つことはないと思うが……」

短いですが今日はもう終わります
砂漠の国での女の格好ですが、水着なんてとんでもない。あれはほとんど裸でしょう
なんとなくイメージしたのは踊り子の服ですが、画像検索してみたらどっちもどっちでした
もうなんでもいいです。勝手にイメージして下さい
ありがとうございました

───東の国

東の勇者「まさか私が昔見つけたあれがオーブだったとはな」

従者「すごい偶然ですね。いや、運も実力のうちですか」

東の勇者「はっはっは、やめろやめろ。運なんて不確かなもの信じていないやつに聞かれたらどやされてしまう」

従者「あの方は少し頭が堅いですからね」

東の勇者「おいおいやめろって。もうどやされるだけじゃ済まなくなるぞ?」

従者「ふふ、ここだけの話にしておいて下さい。あっ!あの洞窟じゃないですか?」

東の勇者「おお!そうだ間違いない!よくやった!」

従者「もう、あなたが来たことのある洞窟だというのに……場所を覚えてなかったから一苦労でしたよ」

東の勇者「はっはっは!小さい頃の話だ。許せ」

従者「こんな場所まで何しに来ていたんですか?」

東の勇者「冒険ごっこをしていたときに、たまたまあそこで見つけたんだ。そこで魔物とはち会ってしまい、逃げてそれ以来だった」

従者「まだ小さいときによく逃げられましたね」

東の勇者「強くなるために色々特訓していたからな。その時編み出した身代わりの術が役立ったというわけだ!はっはっは!」

従者「こんな危険な場所に冒険ごっこなんて……昔から無意識のうちに勇者らしいことしていたんですね。さすがです」

東の勇者「はっはっは!褒めても何も出てこないぞ?」

従者「これだけ褒めてもダメですか?」

東の勇者「こいつー!」

戦士「洞窟を見つけたぐらいで、いちいちおめでたいやつらだな……」

東の勇者「なんだ、いたのか戦士。あまりに暗いから存在が闇に包まれていたのかと思ったぞ。もっと元気出していこう!」

戦士「闇に包まれながら微睡んでいられたら、どんなに良かったか……」

従者「低血圧も程々にしておけよ。大体お前は勇者様に対して敬意というものが無さすぎる」

東の勇者「はっはっは!お前も大概だぞ!」

従者「私はたまに褒めるからいいんです」

東の勇者「いいのか?」

戦士「……行くなら早く行かないか?」

───洞窟

東の勇者「うーむ、やはりここの魔物は強いな。今思うと子供の頃、恐ろしいことをしていたんだな」ズババババッ

魔物「「「グギャアア……」」」バタッバタッバタッ

従者「わ、私たちは身を守るだけで精一杯です……!」カキィン

戦士「ぐっ……」カキィン

東の勇者「大丈夫だ。私一人でなんとかなる」ズババババッ

魔物「「「グギャアア……」」」バタッバタッバタッ

従者「さ、さすがです……」

東の勇者「……さて」カシャン

戦士「……」

従者「あ!あそこ見て下さい!あれじゃないですか?」

東の勇者「おお、昔見たままだ……やはり美しい。思わず力が湧いてくるような気がしてしまうな」キラリーン

従者「これが、オーブ……」

東の勇者「しかし呆気ないな。怪物が守護しているという話だが……」

従者「でも、そんな怪物がいるなら噂になっていてもおかしくありませんよね?」

戦士「……この国でそんな怪物を見たという話は聞いたことがない」

東の勇者「そうなんだ。私はここの生まれだからわかるが、昔から平和なんだ。怪物などでたらめだと思っていたが、やはりその通りだった」

従者「では早く勇者様の元へ参りましょう」

───洞窟の外

魔物「ガルルルル……」

少女「ひぃー!」

東の勇者「む、子供が魔物に追われているぞ!ちょっと待っていろ、すぐ助けてくる!」ダッ

従者「お気を付けて」

戦士「はあ……」

東の勇者「待てい!私の祖国に仇をなす魔物め!ここで貴様の好きなようにはさせんぞ!」

少女「お、おじちゃん誰?」

東の勇者「お兄ちゃんは東の勇者だ!私が来たからにはもう安心するんだぞ!」

少女「う、うん……」

東の勇者「そこで私の勇姿をしっかりと目に焼き付けておくのだぞ!はあ!」ズバッ

魔物「グギャアア……」バタッ

少女「すごい……ありがとう。おじちゃんが東の勇者だったなんて……」

東の勇者「うむ、東の国の英雄とは私のこと。君を街に連れて帰ってあげるから今日お兄ちゃんに助けてもらったことを存分に自慢するんだぞ!」

少女「ふふふ、わかった」

戦士「調子に乗るな、おっさん」

従者「そうですよ。ただでさえ急ぎの旅なんですから」

東の勇者「わかっているがこの子を見捨てていくわけにはいかんだろう。それから私はまだ20代だ!」

従者「そうだったんですか。老けて見えるのは意外と苦労しているからですよね」

東の勇者「やめろ!意外とって言ったなこの!」

戦士「おい……大声出すからまた魔物が現れたみたいだぞ」

魔物「ガルルルル……」

少女「ひぃー!」

東の勇者「怖がらなくていい。私の後ろに隠れているんだ」サッ

少女「ひー……ヒッヒ……」

従者「ん?」

少女「ヒッヒッヒ……ヒィーッヒッヒッヒ!」

グサッ

東の勇者「ぐああ……!」ドサッ

戦士「!?」

従者「東の勇者様!」

東の勇者「ぐっ……お嬢ちゃん、何を……?」ドクドク

戦士「離れろ!そいつは魔物だ!」

少女「ヒッヒッヒ……勇者……仕留めた……」

東の勇者「お、おのれ……こんな可愛い魔物なんて卑怯だぞ……」フラフラ

従者「言っている場合ですか!?ここは分が悪い!逃げましょう!」

少女「逃がさん……」バッ

バキィ

戦士「ぐっ……!」

従者「ぐあっ!……なんてスピードだ……」

東の勇者「お、お前たちだけでも逃げろ!私はこいつを……倒す!」カキィン

少女「しぶといやつめ……」バキィ

従者「無茶です!逃げましょう!」

東の勇者「いいからこれを持て!」ポイッ

従者「そ、そんな……」パシッ

東の勇者「そ、そいつを……持って帰ればお手柄だぞ……!」

従者「やめて下さい!なぜ逃げないのですか!?」

東の勇者「わ、私は東の勇者と呼ばれることに、誇りを持っている……私は東の国の英雄なんだ……!ここで、魔物の好きには……させん!」ズバッ

戦士「……」

少女「グエッ!……本当にしぶとい……!」

従者「だったら出直しましょう!勇者様を連れて二人で───」

東の勇者「こいつをここで逃がせばどうなるか想像がつくだろう!」ズバッ

少女「グハッ!おのれ……」

東の勇者「はあ……はあ……こいつが人の世界に紛れたら、もう二度と見つけられん……!」

少女「そんな心配はしなくていい……お前は死ぬ。そして、人間は絶望する……」

東の勇者「はあ……はあ……死ぬのは貴様だ。東の国は私が守る。貴様の好きにはさせん!」

従者「東の勇者様……」

戦士「くそ……!」

東の勇者「じゃあ元気でな……あいつにもよろしく伝えておいてくれ……強制転移呪文!」

戦士「うっ」ギュイーン

従者「東の勇者様ー!」ギュイーン

───西の国

勇者「む、あれは……」

従者「勇者様ー!」タッタッタッ

勇者「来たか……紹介しよう。彼が協力者の一人、従者だ。彼にはすごく助けられている。特に───」

従者「そんなことより大変です!東の勇者様が───」

───

勇者「……」

従者「私にこのオーブを託し……」

勇者「……」

従者「おそらく刺し違える気で……」

勇者「……戦士はどうした……?」

従者「私と一緒に転移されたはずなのですが、どこかではぐれたようで……」

勇者「そうか……」

女「何をしておる!助けに行かんのか!?」

勇者「私が呪文で行ける場所からその洞窟まで……急いでも二日はかかる……間に合わん……」

女「……」

勇者「私には───」

女「助けに行けばいいじゃろう!」

従者「!?」ビクッ

女「可能性はほとんどないかもしれん。勇者としての覚悟を決めているのかもしれん……それでも、もしかしたら一人で……お主の助けを待っているのかもしれんのだぞ!」

勇者「……」

女「勇者じゃろ!何もしていないうちに諦めるのか!今この時戦っている仲間に対して申し訳ないと思わんのか!後で後悔しても遅いのだぞ!」

勇者「……」

女「お主がしたいことはなんじゃ!?」

勇者「私は……」

女「お主の大事なものはなんじゃ!?」

勇者「私は……もう仲間を失いたくない!」

女「……ああ。ならば急ごう」

従者「勇者様……」

勇者「行くぞ!瞬間移動呪文!」ギュイーン

───東の国

勇者「どっちだ!?」

従者「こ、こちらです!」

勇者「ええい、まどろっこしい!私の上に乗れ!」ヒョイッ

従者「うわっ!」ストン

勇者「半日で行くぞ!うおおおおお!」ドヒューン

従者「ひいいいいい!」

女「は、早い……置いてかれてしまう。速度上昇呪文!」ギュイーン

───

従者「そ、そんな……」

勇者「はあ……はあ……」

女「はあ……はあ……はあ……」

従者「東の勇者様が……」

勇者「はあ……はあ……」

女「はあ……はあ……はあ……」

従者「どこにもいない!たしかにここで戦っていたはずなのに……それにこの地面の凄まじい荒れ具合は一体……?」

女「はあ……はあ……どういうことじゃ?魔物の死骸もないではないか……」

勇者「……」

従者「まさか、魔物に───」

勇者「従者……苦労をかけたな」

従者「い、いえ……え?」

勇者「ここで魔王討伐パーティーは解散する!」

女「!?」

従者「勇者様……一体どうして……?」

勇者「従者、私から最後の命だ。君はこれより東の国に留まり、東の勇者の捜索を頼む」

勇者「そして、この国に異変があったときは全てにおいて優先して私に知らせてくれ」

勇者「彼が守りたかったこの地を……魔物の好きにはさせん!」

───

女(きっと、わかっているんじゃな……東の勇者はもう……)

勇者「……」

女「皆、いなくなってしまったの」

勇者「……ああ……」

女「予定も大幅に狂ってしまった」

勇者「……ああ……」

女「……」

勇者「……」

女「……仕方ないの」

ギュッ

女「お主は立派な勇者じゃ。世界中の人々や仲間の想いをたった一人で背負おうとしている」

勇者「……」

女「だが、全てを一人で抱え込んでしまったらお主が壊れてしまう」

勇者「……」

女「全世界と比べたら取るに足らんが、わしはお主の想いだけでも受け止めてやる」

勇者「……うっ……」

女「しばらく胸を貸してやるから、気が済むまで泣いていいぞ」

勇者「うっ……うっ……」

女「……」

勇者「うっ、うおおおおおおおお!」

今日は終わりです
ありがとうございました

───

勇者「では、予定通り精霊の眠る国へ向かう」

女「うむ、ようやく出発じゃな。わしのぱふぱふはそんなに良かったか?」

勇者「……」

女「……冗談じゃって」

勇者「たとえ一人になったとしても目的は変わらない」

女「お主は一人じゃ───」

勇者「もしかしたら戦闘では君の力も借りることになるかもしれんが、よろしく頼む」

女「!?……ああ、わかっておる」

───精霊の眠る国

女「独特な空気じゃな……」

勇者「この地では精霊の力が色濃く表れ、民にも不思議な力が備わっているそうだ」

女「にわかには信じられんが、この空気を感じてしまうとそうも言っていられなくなるの」

勇者「不思議な力と言っても今では珍しい道具を作るとか、その程度のものらしいが」

女「ほう。だったらついでにいい道具が揃えられそうじゃな」

勇者「それは無理だ。彼らは自分たちの存在を外界に知られたくないらしいからな。物を持ち出すことは禁止されている」

女「つまらん民じゃな。でもたしかにそんな力が知れ渡ったら、どこぞの悪党に狙われるかわからんの」

勇者「そして私たちが手に入れようとしているものは、その中でも数少ない国宝として祀られているとのことだ」

女「それは……今までで一番困難かもしれんな」

勇者「だから他のオーブが必要だった。これを見せて事情を話せばなんとかなるかもしれんからな」キラリーン

───入口

門番「帰れ」

勇者「いや、話だけでも───」

門番「必要ない。帰れ」シャキン

勇者「……」

───

女「幸先悪いの……見せる以前の問題じゃったな。お主と一緒にいると運気が下がったような気がしてくるの……」

勇者「こ、ここは誰が来ても同じだろう!」

女「かたいやつじゃの。お主は特に表情がかたい。もっと笑顔を見せていかんと受け入れてもらえんぞ」

勇者「む……こうか?」ニヤッ

女「気持ち悪っ!お主そんなんでよく勇者など名乗れたの!」

勇者「か、関係ないだろう!」

女「もっと大物っぽく笑え。はっはっは!」ニコニコ

勇者「はっはっは!」ニタニタ

女「……練習しておけ」

?「あの、すみません」

勇者「ん?」ニタァー

?「ひっ!」ビクッ

女「こら、怖がらせるな。何か用ですかな?お嬢さん」

?「あ、すみません……私、この国の占い師をやっている者です」

女「占い師?」

占い師「はい。実はあなた方にお話があるので私の家に来ていただけませんか?こちらに別の入口がありますので……」

勇者「……」

女「まあ、行ってみようぞ」

───占い師の家

占い師「こちらです」

女「ほえぇ、でかい家じゃの……占い師というのはこの国では儲かるんかの」

召使い「占い師様、お帰りなさいませ!」

勇者「召使いまでいるのか」

召使い「占い師様、なぜこのような者たちを……?」

占い師「いいのです。奥の間にお通しして下さい。案内が済みましたら中に誰も入れないように」

召使い「えっ?いやしかし……わかりました。おい、ついてこい」

女「ひょっとしたら良い話かもしれんの。わしの笑顔のおかげじゃな」ニコニコ

勇者「む……」

───奥の間

占い師「すみません。お待たせいたしました」パタン

女「して、わしらに何の用ですかの?」

占い師「実はあなた方がこの国に来ることは先見の占いでわかっていました」

女「なに!それはすごいの。そんな正確なことまでわかるのか」

占い師「……あなたが勇者様ですね?」

勇者「ああ、そうだ」

占い師「私はこの国の中でも特異な力を持って生まれました。特に予知の力が強く、何度か国を救ったこともあります」

勇者「なるほどな。それで……重宝されるのも無理はない」

女「だったらあの門番にもわしらが来ることを伝えておいてくれたらよかったのにの」

占い師「すみません。これから話すことは誰にも知られてはならないのです」

女「なんじゃ、深刻じゃの」

勇者「事情はわかった。聞かせてくれ」

占い師「はい……つい先日、占いで魔王の存在を知りました」

女「!?」

占い師「そして、魔王によって苦しめられる人々の未来を……」

勇者「……」

占い師「しかし、同時に光も見えました。その光とはおそらくこれ……」キラリーン

女「あっ、オーブ!」

勇者「それは国宝ではないのか!?勝手に持ち出していいのか!?」

占い師「だから誰にも知られてはならないのです」

女「これをわしらに……?」

占い師「はい。その光は今は小さなものですが、やがて大きな光となっていく……そんな未来が見えました」

女「つまり魔王を倒せる、と?」

占い師「そこまでは私の力では……でも、私はその光を信じたい」

勇者「ちょっと待ってくれ。オーブのあるところには恐ろしい怪物がいるはずだが」

占い師「はい。これと精霊様の力を借りて地中深くに封じ込めています」

女「そんなこともできるのか。すごいの」

占い師「普段は国王様の目の届く場所に置いてあるのですが、私しかこれを使う者がいないので持ち出すこともできたのです」

勇者「今、私たちがそれを持っていったら……どうなる?」

占い師「国は多少混乱するでしょうが、私の力だけでも封印は可能だと占いでわかりましたので……」

女「そんなやつわしらが倒してやるのにの」

勇者「ああ、そのつもりで来た」

占い師「……あなた方では勝てないのです」

勇者「!?」

女「なんじゃと!?それも占いか!?」

占い師「はい。あなた方では勝てない理由……それはその怪物が魔王より強いから」

勇者「なん……だと……?」

女「そんなバカな!魔王より強い魔物など存在するのか!?」

占い師「残念ながら確かなのです……」

勇者「ううむ、また問題が増えてしまったな……魔王を倒せたとしても、さらに強い魔物がいるとなると……」

占い師「私の国は大丈夫。封じ込めてさえいれば無害なので」

女「そんなすごい力があるのなら、魔王のやつも封じ込められるのではないか?」

占い師「それは叶いません。私の力が発揮できるのはこの地だけですから」

女「そうか。まあそれはわしらの役目じゃからの」

占い師「お願いします。どうかこれを使って人々を苦しみから救って下さい!」

勇者「………わかった。だが借りるだけだ。魔王を滅ぼした後に返しにくる。そしてその怪物も必ず滅ぼす!」

占い師「………ありがとうございます。それと、これも持っていって下さい。あなた方には必要なものかと」

女「これは……!」

占い師「一応両方とも国宝なので持ち出すのに苦労したんですよ。必ずお役に立てて下さいね」ニコッ

───

勇者「……どう思う?」

女「何がじゃ?」

勇者「あの占い師だ」

女「うむ、なかなか可愛らしい娘さんじゃったな。特に笑顔は満点じゃった。やはり人の見本となる者はああでなくてはならんな」

勇者「……彼女は嘘をついている」

女「なに!?」

勇者「何が嘘かはわからない。ただ、人々を救いたいというあの目は本気だった。余程の覚悟を決めた目だ。それを受け止めぬわけにはいかないだろう」

女「……また一つ、大きなものを背負ってしまったな」

勇者「ああ……そして彼女もまた、私が嘘を見破ったことにも気づいていただろうな」

女「はあ、やはり女はずるいのう。あんな笑顔で頼まれたら断れる男はおらんじゃろ」

勇者「ああ……そうだな」

今日は終わります
全然進んでないですありがとうございました

───

勇者「さて、次のオーブだが……」

女「今回すんなり手に入ったおかげで、予定よりいいペースで進んでいるんじゃないか?」

勇者「ああ。だが、次が一番時間がかかるだろうな」

女「えっ、そうなのか……どこにあるんじゃ?」

勇者「南の国だ」

───南の国

勇者「はあ!」ズバッ

遺跡の怪物「ぐはあ……」ドサッ

女「つ、強い……あっさりと一人で倒してしまった……」

勇者「さあ、貴様の守っているオーブの在りかを言え」シャキン

遺跡の怪物「ひぃ……ち、地下の遺跡の最下層です!命ばかりはお助けを……!」

勇者「それはできない」ズバッ

遺跡の怪物「ぐえええええ……」ガクッ

女「容赦ないの……」

勇者「魔物に甘い考えを持てば痛い目を見る」

女「……」

勇者「何か言いたいか?」

女「いや……やはりここの遺跡で間違いなさそうじゃの」

勇者「ああ、だがそこはとてつもなく拾いらしいからな。一体何日かかるか……」

女「のう……」モジモジ

勇者「どうした?」

女「だったらそのオーブを取りに行く前に……一度わしの仲間のいる村に行ってみては……くれんかのう……?」モジモジ

勇者「……」

女「わしとお主が出会えたことも知らんじゃろうし、早く安心させてやりたいんじゃ!」

勇者「……そうだな」

女「えっ!?」

勇者「何を驚いている?予定より余裕もできたからな。行ってみよう」

女「お主……柔らかくなったの……」

勇者「心外だな。人々を安心させることも勇者の務めだろう」

女「ふふ……ただの石頭じゃなかったの」

勇者「からかっているのか?さっさと行くぞ」

女「すまんすまん。では掴まっておれ。瞬間移動呪文!」

シーン

勇者「……」

女「……あれ?」

勇者「もうからかうのは止してくれ。そんなことを───」

女「違うのじゃ!魔法が使えん!瞬間移動呪文!」

シーン

女「そ、そんな……瞬間移動呪文!瞬間移動呪文!」

勇者「お、おい……落ち着け」

女「瞬間移……」フラッ

勇者「……おい!」ガシッ

女「」

勇者「しっかりしろ!おい!」

───

女「……う……」パチリ

勇者「気がついたか?」

女「わしは……一体……?」

勇者「……急に倒れた」

女「……そうか、すまんかったの……」

勇者「いや、もう大丈夫か?」

女「ああ、わしは大丈夫じゃが……ここはどこじゃ?」

勇者「南の国の村だ」

女「……!?そうじゃった……わしは魔法が……」

勇者「もう少し休んでいろ。きっと疲労が溜まっていたんだ」

女「わし、どれくらい眠っておった?」

勇者「今日で3日だ」

女「えっ!?そんなにか!?」

勇者「ああ」

女「3日もあればここのオーブを取りに行けたんじゃ……?」

勇者「……かもな」

女「……ずっと傍にいてくれたのか?」

勇者「……」

女「はあ……なんてことじゃ。足を引っ張ってしまったの……」

勇者「気にするな。良くなったら船で予定通り君の仲間の所に行くぞ」

女「こうしてはおれん、すぐ出発しよう……!」ガバッ

勇者「何を言っている!無理をするな、休んでいろ」グイッ

女「……」

勇者「……」

女「……おい」

勇者「なんだ?」

女「……顔が近いぞ」

勇者「す、すまん!」サッ

女「わしが寝ている間に変なことしなかったじゃろうな?」

勇者「バ、バカなことを……!」

女「わしの荷物の中身を勝手に見なかったじゃろうな……?」

勇者「と、当然だ……!」

女「……まあよいわ。変なことされていたとしても、これで借りを返したことにしといてやる」

勇者「な、何もしていないと言っているだろう!」

女「船に行こう。船なら休みながら移動できる」

───辺境の村

勇者「なんだ……これは……?」

女「人が寝ている……?」

勇者「村人全員がこんな昼間からか?あり得ない。異常事態だ」

女「そうじゃな……魔物にやられたような跡がないから寝ているようにしか見えんが……」

勇者「おい、しっかりしてくれ」

村人「」

女「あ、村長さんじゃ。村長さん起きとくれ。何があったんじゃ!?」

村長「」

女「これは、まさか……」

勇者「返事がない……」

女「ただの屍のようじゃ……」

勇者「くそ!魔王の仕業か!」

女「そんな……村には剣士が……!」ダッ

勇者「待て!村人たちの死体には全くと言っていいほど外傷がないんだぞ!」

女「どういうことじゃ!」

勇者「おそらくこの村は……呪われたんだ」

女「そんな……!あいつのせいだと言うのか!」

勇者「村の奥からただならぬ瘴気の流れを感じる……そっちは危険だ」

女「あいつが……あいつが待っているんじゃ!」ダッ

勇者「くそ!」ダッ

───村の外れ

勇者「うっ……これは……!」

女「……」

勇者「ダメだ!見てはいけない!」バッ

女「……」

勇者(これが……呪われた者の末路……)

女「……」

───

勇者「……彼の近くに手紙が落ちていた」

女「……」

勇者「君が見るべきだろう」スッ

女「……」

勇者「……」

女「……」ペラッ

勇者「……」

女「……」

勇者「……あの村の状況がどうだったのかわかるかもしれない。野暮かもしれんが、何が書いてあった?」

女「……ふふ……わしに言いたいことが山ほどあると言っておったからの……本当にわしのことばかり書いておるわ……」

勇者「……そうか」

女「真面目じゃな……バカがつくほど真面目なやつじゃろ?」

勇者「ああ……私とも気が合っただろうな」

女「それでバカがつくほどお人好しでの……」

勇者「ああ……」

女「わしの武器を買うために自分は我慢しておった」

女「旅では文句を言いながらもわしをおぶってくれた」

女「最後には間抜けなことにわしを庇ってあんな……」

勇者「……」

女「本当に……バカじゃ……」

勇者「……」

女「絶対に死なないと約束したじゃろ!」

女「剣の稽古はいつしてくれるんじゃ!」

女「本当に……!うっ……うっ……」

勇者「……」ギュッ

女「うわあぁあああああああ!」

───

勇者「彼を……愛していたのだな」

女「……わからん」

勇者「わからない?」

女「……わしはもう自分がわからん。一体何を考えて……どうなってしまうのか……」

勇者「……」

女「どうしたらいいんじゃ!頭が壊れてしまいそうじゃ!わしは、自分が怖い……」

勇者「……」

女「わしは……」

勇者「……」

勇者「……恐れずに自分の気持ちに素直になれ」

女「……」

勇者「君のそれは、愛だ。君は間違いなく彼を愛していた」

女「……」

勇者「彼も君を愛していた。愛する君を守ることができた彼は幸せだ。だが、君がそんな顔をしていては彼にとって一番の不幸だろう?」

女「そうか……わしはもう……」

勇者「君が彼のためにできることはなんだ?」

女「……いつまでもくよくよめそめそしていないで、前に進むことじゃ」

勇者「ならば彼の想いも私が背負おう。君は絶対に守りぬく」

女「……」

女「……」グスッ

女「……早速泣かせるなバカ」

勇者「そして魔王を倒し、呪いを解く。せめて彼を手厚く弔ってやろう」

女「ああ……」

女「……ありがとう。勇者」

今日は終わります
読んでくれてありがとうございます
モチベーションです

───

勇者「あの村は魔王が直接赴いたわけではない。呪われた対象者が死してなお周りを巻き込み呪い続けている」

女「うむ、早くなんとかしてやりたい。本格的に急がねばならないの」

勇者「たしかもう一人仲間がいるはずだったな」

女「そうなんじゃ。あいつに村のことを教えてやらんと。もうわざわざ危険な場所にいる理由がない」

勇者「そうだな。急ごう」

女「魔王城には以前行ったからの。道案内は任せろ」

勇者「あまり無理をするな。君は今魔法が使えないのだろう」

女「何を言っておる。以前、魔王城までの道のりでも剣で戦ったのじゃ。それにお主が傍にいてくれるならば怖いものなど何もない」

勇者「……わかった」

───

女「な、なんじゃこれは……?」

勇者「行き止まりだぞ」

女「おかしい……確かにここは通った覚えがあるのに……」

勇者「どう見ても川だ。そして対岸は絶壁の山脈……向こう側に行くのは不可能だ。道を間違えたんじゃないか?」

女「違う……地形が……変わっておる……」

勇者「なんだと!?」

女「よく見ると地面がずれたような跡がある……魔王、恐ろしい力じゃ……」

勇者「私の仲間が以前、魔王城に向かったときはここと別の道だった。たしか船で向かったはずだ。そちらのルートで行ってみよう」

───船

女「ここも通れないぞ……」

勇者「ここも地形を変えたというのか……これでは城に辿り着けん」

女「やはり城を守るためか。わしらを恐れているのかの」

勇者「ううむ……もう少しで城だというのに……ん?」

女「どうした?」

勇者「魔王城の方角……何か光ってないか?」

女「本当だ。前はあんなのはなかったぞ」

勇者「船から降りてもっと見やすい場所に行ってみよう」

───

女「光が魔王城を囲んでいる……あれは魔法力じゃ」

勇者「結界か?従者の話では全く気づかなかったと聞いたが……視覚できるほど結界を強化したのか……?」

女「あの魔法力は近くで感じたことがある……とても強く優しい光……」

勇者「魔王ではないというのか?一体誰が……?」

女「あんなことできるやつは一人しかおらん。わしの誇るべき親友じゃ……!」

勇者「君の仲間の賢者か!」

女「そうか……魔王城の結界の上からさらに結界を張っておるのか……魔王を外に出さんように……」

勇者「魔王を見張るとはそういうことか。大した人物だ……」

女「本当にの……いつの間にか本物のヒーローになっておった」

勇者「しかし、あのような結界を張り続けているのであれば相当消耗するはずだ」

女「そうじゃな……元はといえばあの村を守るためにやっていることじゃ。なんとか知らせてやりたいの……」

?「あれは魔法力を常に消費しているわけじゃない。結界を張り続けるという表現は間違っているな」

女「!?」

勇者「何者だ!?」

?「ククク……」

女「魔王……!」ギリッ

勇者「なに!?」

魔王「ククク、初めまして勇者様。そっちの女は見覚えがあるな。また戻ってくるとはよほど死にたいらしい……」

女「なぜお前が結界の外に!?」

魔王「ククク、俺は家の中にずっと引きこもっているタイプじゃなくてね。普段からアクティブで良かったぜ」

女「なんてことじゃ……賢者のやっていることがムダになってしまった……」

魔王「そうでもない。やつは知ったんだ……あれの存在を」

女「あれ……?」

勇者「貴様の他に封じ込める輩がいるとでも言うのか!?」

魔王「ああ、あれはとんでもねえ化物だぜ……俺以上のな」

勇者「なん……だと……?」

魔王「ククク、あの化物が外に出てきたら、この世界はとっくに無くなっている。あの賢者に感謝しとくんだな……」

女「そんな……魔王以上の存在が他にもいたなんて……」

魔王「ん?そのオーブは……そうか、あいつの封印を解いたか。あの小娘……己の国を犠牲にしたな……」

女「あの国を……占い師のことを知っておるのか!?」

勇者「犠牲にしたとはどういうことだ!?」

魔王「ククク、そのオーブがここにあるということは、あっちの化物の封印が解けたということ。とりあえずあの国は終わりだな」

女「彼女はなぜそんなことを!?」

魔王「ククク、知るか。帰って自分で聞いてみな……ここから帰れたらの話だが!」バッ

勇者「くそ!」シャキン

魔王「もう逃がしはしない。逃げてもどこまでも追いかける。なんせ帰る家に鍵をかけられちまったからな……はあ!」ドゴオォン

勇者「くっ、強い!」

女「勇者!」ダッ

魔王「小賢しい!」バキィ

女「うぐっ!」ドサッ

勇者「君は下がっていろ!やつに剣だけでは分が悪すぎる!」

女「う、うむ」

魔王「ほらほらほらほら!どうした?こんなもんか?」ドドドド

勇者「ぐああ!」ヨロッ

魔王「こんなもんならあの賢者のほうが遥かにマシだぜ!」ドゴオォン

勇者「くそ!足場が悪い……!」

女「ああもう!こんな時に魔法が使えないなんて……!降りてこい!プカプカ飛びおって卑怯だぞ!」

魔王「……」ギロッ

女「うっ……」ビクッ

魔王「ククク、そういえばお前を庇ったあの男は元気か?」

女「……!」

勇者「やめろ!」

魔王「あれはな、俺が持っている呪いの中でも特に強力なやつでな……永遠に解けることはない。たとえ、俺が死んでもな……ククク」

女「え……?」

勇者「なんだと!?」

魔王「ククク、しかもあれは死んでいない状態なんだ……まさに生きる屍ってやつだ。どうだ?地獄の苦しみだろ……?ククク……」

勇者「貴様ああああ!」ズバッ

魔王「ぐっ!なんだ、やるじゃねえか」バッ


女「永遠に……」


勇者「──────」ゴオオオオオオオ

魔王「──────」 ドゴオォン


女「解けない……」


勇者「──────」ズバッ

魔王「──────」バゴオォン


女「地獄の……」


勇者「──────」シュルルルルル

魔王「──────」シャアアアアア


女「苦しみ……」


勇者「貴様だけは許さん!」

魔王「ちっ、一旦避難だ……!」バッ

ドガアァァン

魔王「ぐは!」ドサッ

勇者「!?」

魔王「おのれ……今のは爆裂呪文か……」ギロッ

女「……約束の一撃じゃ……」

勇者「今だ!雷撃呪文!」バッ

カッ

魔王「な……」

ゴゴゴゴゴゴ

魔王「なんだこの光は?雷がやつの剣に……?」

勇者「これが私たち勇者の……」バリバリバリバリ

魔王「う、うおおおお……!」

勇者「力だあああ!」

ズバッ

魔王「ぐわあああああ!」バチバチバチバチ

勇者「冥府へ去れ……」カシャン

魔王「まさか……この俺が……」バタッ

勇者「……」

魔王「」

勇者「……勝った……」

今日は終わりにします
最近なかなかペースが上がらないです
ありがとうございました

女「……」

勇者「魔法が使えるようになったのだな。助かったぞ」

女「……わしはあいつになんて言ってやればいい?もう元に戻れないなんて……」

勇者「……」

女「……そうじゃ!オーブじゃ!」

勇者「……」

女「オーブならなんでも願いが叶うはず!」

勇者「……それは嘘だ」

女「なに?」

勇者「その情報はでたらめだと言っている」

女「な……なぜそんなことがわかる!?わしらはそのために───」

勇者「色々デマが回っているようだが、それはオーブを守るために人間が捏造したものだ」

女「そんな……」

勇者「オーブは悪の結界を破るような破邪の道具に過ぎん。魔物と戦いやすくなったのもそのためだ」

勇者「レベルと知能が低い魔物はこのことを知らない。能力が低下しているにも拘らず人間が作った嘘に踊らされ、パワーアップできるものだと盲信しているようだ」

勇者「オーブを守っていた怪物の中にもいたのではないか?」

女「あ……」

勇者「その証拠に守護していた怪物も少し離れた場所でオーブを守っていただろう?」

勇者「効果を知っていたか、本能で離れていたのかはわからんが、魔王クラスなら気づいていたかもしれん」

勇者「もし気づいていたならなんとしてでも破壊しようとするだろうが、未だその手段が見つかっていないということだろう」

勇者「人間の手に渡らぬよう守っていたというわけだ」

女「……そんなこと知っていたらわしらは……!」

勇者「……事実だ」

女「……」

勇者「悪いがもう行くぞ。まだ戦いは終わっていない」

女「……そうだな」

勇者「魔王より強い化物がまだ2匹も残っている」

女「……わかっておる」

勇者「それが終わったら呪いを解く方法を探す旅にも行かねばならん」

女「……!?」

勇者「私は諦めない。君は諦めるのか?」

女「……そ、そんなわけあるか!わしもそう思っていたところじゃ!」

勇者「よし、呪いに詳しそうな者に心当たりもある。そこに───」

ドゴオォン

勇者「ぐあ!」ドサッ

女「勇者!」

魔王「はあ……はあ……」

勇者「貴様……まだ生きていたのか……」

魔王「魔王が……そう簡単に死ぬと思うか……?」

勇者「その身体ではもう勝ち目はないぞ」シャキン

魔王「ククク……そうかな?」バッ

ガシッ

女「うわ!」

勇者「しまっ……!」

魔王「さあて、この女が塵になる姿を拝みたくなかったら剣を捨てろ……」

女「ううっ、放せ……!」

勇者「外道め……!」

魔王「ククク……魔物は手段を選ばないのさ……」

女「!?」

勇者「くそ!油断した……!」

女「……わしは、結局足手まといだったの……最初に言われた通りになってしまった……」

勇者「彼女を放せ!」

女「わしのことはいい!わしと一緒にこいつを斬ってくれ!」

勇者「ぐっ……!」

女「お主の性格はよくわかっておる……だが、頼む……お主は世界の希望なんじゃ……」

魔王「ククク、泣かせるねえ。そうだぜ勇者様、この世には俺より強くて悪い奴なんて他にもまだまだいるんたぜ……」

勇者「!?」

女「尚更じゃ!わしなどに構うことはない!」

勇者「……それでも、私にはできない……」

女「愚か者が……」

魔王「剣を捨てな」

勇者「彼女を放せ」カラーン

魔王「ククク、まあ待てよ。まだ抵抗されると厄介だからな」ズバババッ

勇者「ぐあ……!」ヨロッ

女「勇者!……頼む……もうやめてくれ……」

勇者「か……彼女を放せ……!」ヨロッ

魔王「ククク、いいだろう……あの妙な技もその剣がなければ怖くはない」パッ

女「勇者!」バッ

勇者「大丈夫か?」ギュッ

女「ううっ……なんでわしなどのために……」

勇者「私はまだ希望を捨てたわけではない」

女「えっ?」

勇者「これを……君に託す……」スッ

女「オーブ……なぜわしに……?」

勇者「そして私の……私の剣を……私の祖国に……私の……」

魔王「ククク、死ねえ!」バッ

勇者「ふん!」ガシッ

魔王「ほう、受け止める力が残っていたか……だがもう何もできまい!」

勇者「それはどうかな?」グググ

女「勇者!何を……!?」

魔王「うっ……お、おい!」

女「……まさか……」

魔王「お前……俺と一緒に死ぬ気か!?」

勇者「……他に方法はない」グググ

女「!?」

魔王「わかってんのか!?お前が死んだら人間どもはどうなるか!?」

勇者「私たちには希望が残っている。ここで貴様を殺すことこそが私の使命」

魔王「くそ!放せ!」

女「勇者!ダメじゃ!」

勇者「私はここまでだ。君ともう旅を続けることはできない……すまない」

女「な、何を言っておる……旅などいつでも行けるじゃろ……だから……」

勇者「勇者とは孤独との戦いだった。君がいてくれて本当に良かった」

女「今さらなんじゃ……」

勇者「……」

女「そんなこと言うな!わしはお主がいなければ……!」

勇者「……」ニコッ

女「え……」

勇者「俺と出会ってくれて……ありがとう」

女「嫌じゃ!やめてくれ!行かないでくれ!」

勇者「現世での旅は終わりだが、続きは冥府への旅と洒落こもうではないか!魔王よ!」バッ

女「行か……ないで……」

魔王「ち……ちくしょおおおおおおおお!」

勇者「あとは任せたぞ!はっはっは!」

女「──────」









ドボオォォン









女「勇者ぁああああああああ!」

今日は終わります
ありがとうございました

女「うわあぁあああああ!」





女「あああ……うっ……勇者……」

女「なぜじゃ……なぜわしなんかがいつも生き残る……!」

女「皆……わしのせいで……!」

女「こんなに辛い思いをするなら、いっそのこと死んでしまったほうが良かった……」

女「……」

キラッ

女「……勇者の剣……」フラッ

女「わしなんぞに後を託しおって……わしに何ができるというんじゃ……」ガシッ

女「教えてくれ……勇者……!」

『私は気が狂うほど後悔し、悲しみ、この宿命から逃げ出したくなり自害すら考えた』

女「ああ……今ならその気持ちがわかる……」

『だがな、彼らはもういない。そして彼らの夢を叶えられるのは生きている私たちだけだ』

女「お主の夢を叶えられるのは……」

『後悔は勇者として生きた彼らへの冒涜。私たちが悲しむことを望まない。自分の墓が建てられることを望まない』

女「お主の夢を……」

『私は諦めない。君は諦めるのか?』

女「そうじゃな……何度泣いたら気が済むんじゃ。まだやるべきことがたくさん残っている」

女「賢者……」チラッ

女「悪いがもう少し頑張っていてくれ。世界を平和にするにはまだかかりそうじゃ。終わったらとびきりの酒を飲ませてやるからな」

女「まずはあそこに行かなくては」

───精霊の眠る国

女「良かった。まだ無事じゃったか」

女「怪物の封印を解くわけにはいかんからな。これは一旦返しておこう」キラリーン

門番「あっ!お前!」

女「うわ、余計なのに見つかってしまった」

門番「それは国宝の摩尼ではないか!お前らが盗んだのだな!」

女「いや、違───」

門番「泥棒だ!誰か来てくれ!」

女「違うというのに!ああ、もう!わかったこれは置いて行くから!」ダッ

門番「あっ」

ヒューン

門番「……ちっ、逃がしたか」

占い師「……」テクテク

門番「これは占い師様。たった今国宝を盗んだ泥棒を発見したのですが、逃げ足が速く逃げられてしまいました。ですがこの摩尼だけは取り戻しましたぞ!」キラリーン

占い師「……」










占い師「……」ニヤッ

───

女「はあ……はあ……相変わらず人の話を聞かないやつじゃ……」

女「結局、事の真相は聞けんかったか。仕方ない……今度は夜にでも忍び込もう」

女「あとは……」

女「やはり勇者のことを祖国に報告しないわけにはいくまい……なんと言ったらよいのか……」

女「世界の英雄をわしが殺したようなもんじゃからの……」

女「……」

女「……ええい悩んでいても仕方ない!腹をくくるぞ!」

───勇者の国

女「ここが勇者の生まれ育った国……」

ワイワイガヤガヤ

女「平和じゃな……まるであの戦いが嘘だったかのようじゃ」

女「わしも少し前まではあの中だったんじゃな……」ウルッ

女「……っと、いかんいかん!こんなセンチなメンタルではこの先戦い抜けんぞ!」

女「とりあえず城に謁見の許可を───」

ドゴオォン

女「!?」

「きゃああああ!」

「なんだー!?なにが起こりやがった!?」

「爆発したぞ!」

女「これは……魔物の襲撃か……!?」

ドゴオォン

「建物が崩れるぞ!」

「うわーん!痛いよー!」

「逃げろおおおお!」

女「いかん!パニックじゃ!お主ら、落ち着け!」

「死にたくねえよおお!」

「うわああああ!どいてくれえええええ!」ドン

少年「うわ!」ドサッ

女「おい大丈夫か!?」

少年「う、うん。僕なら平気だよ。ありがとう」

女「子供を突き飛ばして逃げるとは……大人のくせに情けない」

少年「しょうがないよ。皆怖いんだ」

女「お主はまだ小さいのに立派じゃの」

少年「お姉ちゃんだって全然怖がってない。すごいよ」

女「当然じゃ。わしは勇者と───」

?「出てこい!勇者の仲間の女あああ!」

女「!?」

少年「ま、魔物!?」

?「お前が出てくるまで、街の破壊を、やめない!」

ドゴオォン

女「あ……あいつは……」ゾクッ

少年「お姉ちゃん……?」

女「……すまんな少年……わしは行かねばならん」

少年「えっ?勇者の仲間って……お姉ちゃん?」

女「勇気ある大人になれよ!」ダッ

───

女「やめろ!わしならここじゃ……魔王!」

魔王「ククク、やっと出てきたか」

女「……なぜお前が生きている?」

魔王「あのときはさすがにもうダメかと思ったぜ……だが死の直前にやつの力が抜けてくれてな、脱出することができた」

女「!!」

魔王「所詮は人間の身体だ。俺たちほど頑丈にはできていなかったらしいな」

女「……勇者は……どうした?」

魔王「ククク、無駄死にということだな」

女「くっ……!」

魔王「ダメージは相当残っているが、俺をここまで追い詰めたお前らの存在が我慢ならなくてな……絶対逃がさんと言ったろう?」

女「くそ!火炎呪文!」ボオオオオォ

魔王「そんなもの……はあ!」ドゴオォン

女「うぐっ!」ドサッ

魔王「ククク、勇者のところへ連れていってやる。感謝しろ」

少年「やめろ!」

魔王「あん?」

女「お、お主逃げなかったのか!?」

少年「お姉ちゃんが戦っているのに逃げるわけにはいかないよ」

女「いかん!お主の敵う相手ではない!」

魔王「ククク、ビクビク逃げていれば助かったかもしれないのにな」

少年「この剣貸してね」ガシッ

女「やめろ!それは子供には扱えん!早く逃げるのじゃ!」

少年「大丈夫。お姉ちゃんは僕が守ってあげるから」ニコッ

女「あっ……」

少年「こい!魔物め!」シャキン

女「お主は……まさか……」

魔王「バカめ、人間……ましてやガキなんぞ相手になるか」

少年「僕は勇者の子だ!お前は僕が倒す!」

魔王「なにい?」ピクッ

女「勇者の……子……」

魔王「ククク、勇者の子だと……こいつは面白い。あの野郎に恨みを晴らすチャンスじゃねえか!」

女「いかん!」

魔王「お前はそうだな……親父のところへは連れていってはやらん。その代わりこの呪いをプレゼントしてやろう」

女「何を!?相手は子供だぞ!」

魔王「ククク、知ったことか!泣き叫べ」シュバッ

女「くそう!」バッ

ザクッ

少年「あ……」

女「がはっ……!」ドクドク

魔王「ちっ……ガキを庇ったか」

少年「お姉ちゃん!」

女「すまんな少年……お主の父親は守ることができなかった……あいつはもう……」

少年「……知ってる」

女「!?」

少年「お姉ちゃんたちの会話を聞いちゃったから」

女「お……お主は強いの……父親そっくりじゃ……うっ……!」

少年「お姉ちゃん!しっかり!」

女「はあ……はあ……わしも……やっと……守ることが……できた……もう誰も……失いたく……ない……」

少年「お姉ちゃん!」

女「」

魔王「ふん、順番が狂ったな……まあいい。次はお前だ」

少年「……許さない」

魔王「ククク、お前もすぐにそうなるんだよ」

少年「お前だけは許さない!」

カッ


……この光は……


魔王「なに!?これは!?」


……勇者なのか……?


ゴゴゴゴゴゴ


……勇者に……会いたい……


少年「お前は僕が滅ぼす!」バリバリバリバリ


……ああ……そうか……


魔王「くそ!その技が使えたのか!」


……お主はもういない……でも……


ゴゴゴゴゴゴ


……お主の残した……


ゴゴゴゴゴゴ


……その意味が……わかったよ……




『私たちには希望が残っている』


少年「はああああああ!」


ズバッ


魔王「ぐわああああああああ!」バチバチバチバチ


……ああ……そうじゃな……


魔王「勇者……に……また……しても……ぐふっ!」バターン


……希望は……ここにあるぞ……

今日は終わります
ありがとうございました

───教会

女「う……うん……」

神父「おお!目覚められたか!」

女「ここは……?」

神父「ここは勇者の国の教会です。意識を失ったあなた方をここで治療しておりました」

女「……それはありがとうございまし……あの子は!?」

神父「隣の部屋で治療しています。ボロボロの身体であなたをここまで運んできてくれました。あなたと魔物を退治してくれたことも聞きましたよ」

女「そんな……!あの子は無事なのですか!?」

神父「外傷はほとんどありませんが、なにやら身体に大きな負担をかけたようで……ここに辿り着き、意識を失ってから未だに眠ったままです。しかし命に別状はありませんのでご安心を」

女「そうか……街の様子は?」

神父「被害はありましたが死人は一人も出ませんでしたよ。あなたのおかげです」

女「良かった……街を襲った魔物はどうなりました?」

神父「はい、死体は完全に消滅したそうです」

女「……もう復活しないだろうな……」

神父「お身体が良くなりましたお城へ行ってみて下さい。王様がお呼びですので」

───隣の部屋

女「勇者め……こんな大きな子供がいたというのにわしの胸で興奮しておったのか……」

少年「スー……スー……」

女「街は助かったぞ。皆無事だったそうじゃ」

少年「スー……スー……」

女「魔王を倒してしまうとは、さすが勇者の子じゃな」

少年「スー……スー……」

女「これからお主を待ち受けている運命は、とても過酷なものじゃろう」

少年「スー……スー……」

女「できることなら平穏な世に生きてもらいたかった。わしのせいじゃ。本当にすまん」

少年「お姉ちゃん……」

女「!?」

少年「お姉ちゃんは……僕が守る……スー……スー……」

女「……まったく、この親子は……」

───城

王「おお!元気になったか。まずは礼を言いたい。面を上げてくれ」

女「はっ」スッ

王「これはこれは……」

女「?」

王「そなたのおかげでこの国は救われた。感謝しておるぞ」

女「いえ、私は何も……」

王「魔物を退治した強者がよもやそなたのような可憐で見目麗しい女性とは思わなかった」

女「いや、あの、私は……」

王「そなたは一体何者なのだ?教えてくれんか?」ジロジロ

女「は、はい……私は勇者と───」

───

王「そうか……しかし勇者ほどの者がやられるとは」

女「……それは私に責任があります……御家族にもなんとお詫びを申し上げればよろしいのか……」

王「しかしそなたは勇者の意志を継ぎ、魔王を滅ぼしたのじゃ。世界に平和をもたらしたのはそなたなのであろう?」

女「いえ、私は傷ついた魔王に手も足も出ませんでした。しかもまだ世界に平和が戻ったわけではありません」

王「なんと……!」

女「魔王城には魔王以上の化物がいると聞きました。おそらくその化物が次の魔王となり、世界に災いをもたらすでしょう」

王「なんと……!だとすれば実に惜しい命を失くしたものだ。もはや魔王に挑めるような者はおらぬ。我々にはもう希望がないのか……」

女「いいえ。我々には希望が残されています。勇者の血をひくあの子が私を、この国を救ってくれたのです」

王「なんと……!」

女「ですが彼はまだ子供。力の使い方がわかっておりません。そのせいで身体に大きな負担をかけることになりました」

王「なんと……!」

女「今はまだ小さな光ですが、私は信じてみたいのです。彼が成長したとき再び世界を救ってくれると」

王「なん……しかしそれは何年も先のことであろう。その間に何が起こるかわからぬのではないか」

女「私の仲間が魔王城に結界を張っております。おそらく次の魔王が大きな動きを見せることはしばらくないでしょう」

王「なんと……!」

女「しかし念のため、彼が成長するまでその存在を知られぬよう御願いしたい」

王「うむ……!」

女「そして彼が自分の力を使いこなせるようになったら、この剣を授けてあげて下さい。勇者から……最後に頼まれたものです」スッ

王「なんと、これは勇者の剣か……?ならばそなたが渡してくれたらよい。わしはそなたに勇者を育ててほしいと思っておる」

女「私は事情により、それはできないのです……申し訳ありません」

王「ならばわしの側室に───」

───教会

女「なんというセクハラ王じゃ……」

女「わしの話もちゃんと聞いていないようだったし、本当に任せて大丈夫だったのか……」

女「しかしこればかりは国の力を借りんと……王が使い物にならなくても周りがしっかりしてそうじゃったし……」

女「はあ……」

女「あの子は……まだ眠っておるかの?」

ガチャ

女「ん?」

?「……」クルッ

少年「スー……スー……」

?「……」ペコリ

女「あなたは……もしやこの子の母親では?」

勇者の妻「はい……あなたは……?」

───

勇者の妻「そうですか……」

女「勇者殿の奥方。まことに申し訳ない……!」

勇者の妻「……ありがとうございます」

女「えっ……!?」

勇者の妻「私も覚悟はできておりました。それに夫は立派に戦いました。きっと本望だと思います」

女「……」

勇者の妻「夫の遺志は……きっとこの子が継いでみせますわ」ニコッ

女「……」

女(なんとも強く、美しい人じゃ……まるで敵わんな……)

───城下町

女「呪われた身じゃからな……辺境の村の二の舞は避けねば……」

女「わしのせいで人々が不幸になりすぎた。これもわしに相応しい罰なのかもしれんな」

女「さて、ここに長居するわけにもいかん。いつ動けるかもわからんし、早々に立ち去らねば」

少年「お姉ちゃん!」

タッタッタッ

女「お、なんじゃ。起きたのか」

少年「もう行っちゃうの?」

女「ああ、ここに来ることはもうないと思う」

少年「……そっか……」

女「お主、身体は大丈夫か?」

少年「しばらく安静にしてなきゃダメだって」

女「そうじゃろう。こんなところまで出てきおって、悪い子じゃな」

少年「大丈夫だよ。勇者の子だもん」

女「……そうじゃったな」

少年「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」

女「わしもお主の父親に助けられた。そのおかげで生きてられている」

少年「じゃあ僕はお父さんにも助けられたんだね」

女「ああ、勿論じゃ」

少年「……ねえ、お父さんってどんな人だった?」

女「覚えておらんのか?」

少年「うん、僕がもっと小さい頃旅に出ちゃったから」

女「そうか……お主の父親は立派な勇者だったぞ」

少年「うん」

女「誰よりも勇敢で、誠実で、頭が切れて、人の気持ちがよくわかって」

少年「うん」

女「誰よりも頑固で、仏教面で、なのに甘っちょろくて」

少年「うん……」

女「自分の苦労を人に見せずに、人の苦労も背負って……損ばかりして……」

少年「うん……」

女「自分に厳しくて……わしの想像がつかんくらい頑張って……わしの……」

少年「……」

女「わしの……」

少年「……」

女「いや……本当に強い男じゃった」グスッ

少年「僕も強くなるよ。ちゃんと……お父さんみたいに大切な人を守れるように」

女「……ああ。お主ならなれる」

少年「身体が治ったら、まず剣の使い方から教わらなきゃいけないね」

女「……実は王様にお主を強くする手伝いをするよう言われたのたが、わしにも事情があるゆえ断った」

少年「そっか。そうだよね……残念だな」

女「そこでこれを……」キラリーン

少年「何これ?きれい……」

女「これはオーブといってな、将来お主が父親と同じように悪いやつをやっつける旅に出ることと思う。そのときにきっと必要になるものじゃ」

少年「へえ……これくれるの?」

女「いいや。オーブは全部で6つある。わしはこれを世界中のどこかに隠しておくから全て探し出してみせろ。それがわしからの修行じゃ」

少年「うん。わかったよ。でもできるかなあ?」

女「それくらいできなくては、わしはお主を認めんぞ」

少年「そっか……頑張るよ」

女「では……」

少年「うん……」

女「……」

少年「……?」

女「……」ギュッ

少年「……お姉ちゃん?」

女「魔王がこの街に来たとき、わしはすごく怖かった。それがわかったから助けに来てくれたんじゃろ?」

少年「……うん」

女「お礼じゃ」チュッ

少年「///」

女「……世界を頼んだぞ。勇者の子」

少年「……うん」

───

女「さて……」

───数年後

男「邪魔だ。どきな」ドン

?「おっと、こりゃすまんの」

?「……」

?「……まったく、弱者を労る気持ちもないのか。嫌な世の中になったの」

?「あの頃は良かった」

?「長年の夢だったピチピチギャルになって……」

?「ひょんなことから出会った剣士と、お隣さんの賢者と、世界の英雄勇者と冒険し、オーブを集め、魔王とも戦った……」

?「そのとき受けた呪いで……」










老人「……じじいに戻ったわけじゃが」

老人「せっかく元に戻れたというのに、呪いの影響が怖くてわしの村に住むことはできんし……」

老人「魔王のやつ本当に余計なことしてくれたわ。ああ、孫に会いたい」

老人「ただ、この神殿の中にいれば自身の呪いが解けることはないが、剣士のように周りを巻き込むことがないようで本当にラッキーじゃった」

老人「……ここから冒険が始まったんじゃったな……」


剣士よ……


わしを庇って永遠の呪いを受けた若者

いつも真面目でわしと衝突ばかりしてたのう

わしはお主の呪いを解く方法を探す旅には行けん

だが諦めんぞ

わしも呪いのせいで死ねない身体になった

時間はいくらでもあるからの

ここで知識を得て、いつかわしが……

しかし今のわしの姿を見てもあの頃と同じ気持ちでいられるかの?ヒッヒ


賢者よ……


あの遊び人が今では大賢者様とは世の中わからんのう

お主がいてくれなかったら世界はどうなっていたか

あれからずっと魔王城の近くに住み、魔王を見張ってくれている

お主にしかできんことじゃ。やはり天才じゃったか

お主の伝説はここで生き続けている

ちょっとばかしわしが脚色したものもあるが……

そんなことも笑い合って早く一緒に酒が飲みたいの


そして───

ザッザッザッザッ

「ここがかの有名な神殿ですか……さすがに神聖な建物ですね」

「おお、俺も早く転職してみたいな」

「私はやっぱり伝説の賢者になりたいな。どうやったらなれるんだろ?」

「皆ちょっと落ち着こう。皆まとめて転職したら俺が大変なんだよ?」

「勇者は特別だからな。転職しようとしてみろよ。怒られるぞきっと」

「はは、そんなことしないさ。俺は勇者であることに誇りを持っているからね」

「そうですよ。勇者が転職なんて困ります」

「世界に勇者は他にもいるかもしれない。でも、父さんとお姉ちゃんの意志を継ぐ勇者は俺しかいないんだ」

「あれ?勇者ってお姉ちゃんいたの?」

「うん、俺の恩人だよ。小さい頃出会ってすぐにどこかへ行ってしまったんだけどね。でも世界を旅していたら、いつかお姉ちゃんに会える気がするんだ」











オルテガよ……


わしらの希望は、大きな光になったぞ……

───

勇者「ん?」

老人「……」

勇者「あの、どこかでお会いしましたか?」

老人「いや、わからんの」

勇者「そうですよね。すみませんでした」

老人「なに、他人の空似などよくあることじゃからな」

勇者「はは、そうですね。ここにはよくいらっしゃるんですか?」

老人「まあ、わしの家みたいなもんじゃ」

勇者「へえ、だったら転職されたことも?俺たちここに来るのが初めてで、どうしたらいいか迷っているんです」

老人「若い頃にの……お主らも若いうちに色々と経験しといたほうがいいぞ」

勇者「ありがとうございます。仲間に経験してもらいます。俺は転職できないから……」

老人「それは残念じゃの。だがそれが天職というもの。普通の人間ならば、なかなか見つけるのも難しいものじゃ」

勇者「天職か……あなたは見つけることができましたか?」

老人「うーむ、色々経験してきたが、どれにもいい思い出があるからの」

勇者「是非お話を聞いてみたいものですね」

老人「随分前に引退したじじいの話などつまらんぞ?」

勇者「まだお若いですよ。あなたの目は何かを求めているように見えます」

老人「そりゃありがとな。また頑張ってみるかの」

勇者「はは、だったら今からあなたが昔の職に転職するとしたら」

老人「ん……?」

勇者「一つだけ選ぶとしたら」

老人「ふむ……」

勇者「きっとそれがあなたの天職なんじゃないですか?」

老人「……」

老人「そうじゃな……」

老人「やっぱりわしは───」








老人「わしはピチピチギャルになりたいのう」








おわり

「おい、あのじいさんやべえぞ」

これは知っている人は知っていると思う物語の始まる前、OPの話でした

絶対バレたくなかったので話を作るよりミスリードの方に力を入れたため、淡白になっていたり、意味のわからない場面も多々あると思います

そのうちネタバレ編というか、投げまくった伏線回収編を立てるので、そこで全てのものが繋がるようにしたいです

読んでくれてありがとうございました

次のタイトルは考えてないです
老人「わしはピチピチギャルになりたいのう」(伏線回収編)が妥当?

このスレでは伏線を投げるだけだったから話のボリュームも投稿期間も短くできましたが、次のはよく練らないと完成しないのでペースは落ちると思います

ボリュームは2、3倍になるかもしれないので新しくスレ立てます

オルテガがどうなるとか話の展開は次のスレまで待ってて下さいごめんなさい

なりすましじゃないです

終盤の辺りのコメントに具体的な地名を書いてくれてあって、これはまずい!バレる!と思って駆け足で終わらせました

書いてくれた方が悪いわけじゃないです。見直すと正直バレバレでしたし、おかげで自分では納得したものが書けました

全裸待機は期待が薄いと思いますごめんなさい

了解です

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