男「魔王でもいい」(157)



 ――風の音がする。



 荒々しく唸りを上げながら、暴風が地を這い廻る。

 耳障りなその音は、どこか悲鳴にも似ていた。

 渇いた大地が削られ、枯れた木々は葉を散らし、時にはその身をも砕かれる。


 上天は清々しいほどの青空。

 しかし、そこを飛ぶ鳥は今はいない。

 大地にもまた、命あるものひとつすら、在りはしない。

 あるのは朽ち果てた数多の骸と、無数の鉄屑のみ。



 そこは死に絶えた地。



 ……それが、俺の知る唯一の景色だった。




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男 「――――――――」

男 「――――……」

男 「……っ、ぁ……?」

? 「あ、おきたっす?」

男 「…………」

? 「おとーさん!あんちゃんおきたっすー!」バタバタバタ…

男 「……?」

男 (どこだ、ここ……)

「おう、気付いたかアンちゃん」

男 「……はぁ、まあ」

「なんだボロボロだった割にゃ元気そうだな。起きられっかい?」


 言われるままに体を起こし、自分の体を見回す。
 何故か包帯だらけだが、特に痛みはない。

男 「…………」

 というか、何故包帯だらけなんだ。
 あとここはどこだ。

 答えを求めて、目の前にしゃがみ込んでいるおっさんに視線を向ける。

「アンちゃん、名前は?」

 逆に質問された。

男 「…………」

「?」

男 「俺は誰だ」

 疑問点が増えた。


‐森はずれの村‐


? 「あんちゃん、こっちっす!」

男 「ああ」

 あの後何故かおっさんに大爆笑された俺。
 今はおっさんの娘に連れられ、ある人の所へ向かっていた。
 といっても相手を知らないのだが。

娘 「あんちゃんおそいっすよー」

 落ち着きなくクルクルと駆け回る、枯れ草色のワンピース姿の女の子。
 耳のようにも見える癖の強い黒髪が印象的だ。

 彼女は何故か俺をあんちゃんと呼ぶ。
 おっさんの真似だろうか。


 当のおっさんはといえば、農作業の続きがあるからと去っていった。

 無防備だ、無警戒だと抗議したものの、逆に信用されてしまったのが謎だ。

 問題を起こす気などさらさらないが、もしもを考えないのだろうか。

娘 「あんちゃん、どうかしたっす?」

男 「いや、のどかな場所だなと思って」

娘 「なんにもないっすからねー」 ケラケラ

男 (何故嬉しそうなんだ)

 意味がわからん。


 そんなやり取りの合間にも、娘はあっちにふらふらこっちにうろうろ。
 落ち着きとは無縁な動きをしながら、時々こちらを振り返ってじっと待つ、ということを繰り返す。

 なんとなく、散歩中の犬を連想した。
 今から心の中でわんこと呼ぶことにしよう。

わんこ 「あんちゃん、ここっす!」

 いつの間にか目的地に着いていた。
 意外にも本来の目的は忘れていなかったらしい。評価を改めよう。

男 「駐在所か」

わんこ 「ちゅーかいしょっす?」

男 「違う」

わんこ 「てひひー、まちがえたっす」 テレテレ


男 (なにこの子可愛い) ナデナデ

わんこ 「うぃ? ふゃ~ん……」 ナデラレー

男 「……はっ、思わず撫でてしまった」

わんこ 「てひひひ、なでられちゃったっす」 ニマニマ

? 「あのー……」

男 「うおっ!?」 ビクッ

? 「あ、すみません驚かせて」


わんこ 「えーへーさん、おはようっす!」 ビシッ

衛兵 「おはようコロちゃん」

男 「コロちゃん?」

わんこ 「じぶんのなまえっす!」 エッヘン

男 (名前から犬じみてるのか)

 わんこ、犬疑惑浮上。


衛兵 「ユリウスさんもお目覚めになったんですね。お元気そうで何よりです」

男 「……ん?」

衛兵 「?」

わんこ 「うぃ?」

 三人揃って首を傾げる。


衛兵 「あれ? 名前違いましたっけ」

 それでようやくピンときた。

男 「そうか、俺はユリウスっていうのか」

わんこ 「おおっ!」 ポンッ

 わんこも知らなかったようだ。
 おっさんがここに来るように言った理由がわかった。

衛兵 「はぁ……」

 一方の衛兵さんとやらは逆にぼけーっとしている。

男 「えーっと、手拭い巻いたガタイのいい泥臭いおっさんから話聞いてません?」

 わんこの親父さんのことだ。そういえばあの人の名前も聞いていなかった。

衛兵 「いえ、何も聞いてないですけど……」

 通じたらしい。

 というか俺から説明せにゃならんのか。

 そりゃそうか。


‐森はずれの村 駐在所‐


衛兵 「記憶喪失」

わんこ 「いよくしょーしつ」

男 「やる気なくしてどうする」

わんこ 「うぃ?」

男 「わかってないのか」

衛兵 「あるんですねー、そういうの」

男 「何が?」

衛兵 「えっ?」

男 「えっ?」

わんこ 「うぃ?」

衛兵 「あ。記憶喪失のことです」

男 「あぁ」

 わんこのペースに飲まれて一瞬で忘れてしまっていた。

 後遺症か? いや関係ないか。


男 「それで、ここに来るように言われたんですけど」

衛兵 「そう丸投げされましても……。

 私も顔見知り程度でしたので、詳しくはないですよ?」

男 「知ってる範囲でいいですよ。

 さすがにこのまま得体の知れない誰かのままだと気持ち悪いんで」

衛兵 「そういうわりにはコロちゃんが懐いてるみたいですけど」

わんこ 「うぃ?」 ゴロゴロ

男 「……なんでお前は俺の膝の上にいるんだろうね」

わんこ 「んー……、よくわかんないっす!」 キリッ

男 「…………」 ナデナデ

わんこ 「♪~」 ゴロゴロ


衛兵 「……癒し系オーラでも出てるんでしょうか」

わんこ 「おおらか?」

男 「オーラな」

わんこ 「よくわかんないっすけど、あんちゃんいいにおいするっす」 クンカクンカ

男 「嗅ぐなくすぐってえっ」

衛兵 「……ロリコンさん?」

わんこ 「ろりこん?」

男 「違う!」

 と思う!


男 「というか話進めて下さい」

衛兵 「はぁ」

男 「はぁ、じゃなくて」

わんこ 「ひぃ」

衛兵 「ふぅ」

男 「…………」

わんこ 「…………」

衛兵 「…………」

男 「…………へぇ」

わんこ・衛兵 「「ほぉ」」

男 「なんだこの茶番は」


衛兵 「で」

男 「はい」

衛兵 「あなたの名前はユリウスさんです」

男 「はい」

衛兵 「以上です」

男 「なんも情報増えてねえぞオイ」

衛兵 「えー……そんなこと言われても……ねぇ?」

わんこ 「のぉ」

男 「繰り返すな」


衛兵 「あとは釣りが趣味とか、

 農業に傾倒していたとか、

 やたらめったら強かったとかしか聞いてないですね」

男 「……どういう人なの俺」

わんこ 「どんなでもあんちゃんはあんちゃんっす」 ゴロゴロ

男 「あーうん、ちょっと大人しくしてようか」 ナデナデ

わんこ 「うぃ」 ナデラレー

衛兵 「私からはこれ以上ご説明のしようがないですよ」

男 「うーん、なら仕方ないか……」


男 「あ。他の知り合いからは話聞けないのか?」

衛兵 「できると思いますよ。でもすぐには難しいかもしれませんね」

男 「そうなのか」

衛兵 「皆さん忙しいですから」

男 「……仕方ない、のんびり待つか」

わんこ 「おはなしおわったっす?」

男 「ああ。進展なかったけどな」

衛兵 「名前だけでしたね」

男 「その名前にしても全くピンとこないんだよな……」

男 「ユリウスねぇ……」

男 「ユリウス・カエサル?」

衛兵 「誰ですかそれ」

男 「なんかそんな名前の偉人がいたような……関係ないか」

わんこ 「ないないっす」


 ……結局、自分のことはさっぱりわからなかった。


 名前を聞いても思い出しそうにさえならないってことは、案外深刻なんだろうか。

 そのわりには気持ちが落ち着いているのが自分で不思議だ。

 あるいは実感がないだけかもしれないが……。

 そのことをおっさん改め親父さんに伝えたら、またしても大爆笑された。

 何故だ。

わんこ 「おとーさんはおおざっぱっすからねー」

男 「年端も行かぬ娘にそう言わせるとかいっそすごいな」

 後で聞いた話だが、親父さんは村長らしい。

 大丈夫かこの村。


 To Be Continued.

ごめん張り忘れた
カッコつけてTo Be Continued.とか入れたのが間抜けすぎる


関連:

男「魔王拾っちまった」

男「魔王拾っちまったわけだが」


ではまた。


‐森はずれの村 駐在所‐


衛兵 「――というわけなんだけど、ビー君何かわかる?」

『それマジか?』

衛兵 「うん、マジ」

 手に持ったペンダントに向けて話しかける衛兵。
 それにはいくつかの宝石と紋様が規則的にあしらわれている。

『マジか……他の奴にはまだ話してないよな』

 ペンダントからは男性らしき声。
 声が発せられる度、わずかに紋様が光を放つ。

 このペンダントは魔法を用いて作られた通信端末だ。
 通信には当然、相手がいる。


衛兵 「うん。ビー君が最初。一番冷静だから」

『……その判断は正しいな。それに俺が一番身動き取りやすい』

衛兵 「私はどうしたらいいかな」

『あー。近々帰省すっから、それまで保留にしとけ。伝える奴には俺が伝える』

衛兵 「わかった。お土産買ってきてね」

『お前な……まあ考えとくよ』

衛兵 「できれば最高級ベジスイーツ特選盛り合わせ(時価・要予約)で」

『さらっとどえらい注文すんなボケ』

衛兵 「えー?いいじゃない。私めったにそっち行けないしさ」

『それも仕事のうちだろ。まあ、善処はする』

衛兵 「えへへ、ビー君のそういうとこが好きだよ」 ニヘラ

『……お前さらっと言うなよ』

衛兵 「だってほんとのことだもん」


『とにかく、土産持って帰るからおとなしく待ってろ』

衛兵 「うん。待ってる」

『……あー、その、あれだ』

衛兵 「うん」

『……好きだからな、俺も』

衛兵 「うん!私も、愛してるよ!」

『じゃあな、またな!』

衛兵 「はーい。またね♪」

『おう』

 通信が終わる。

衛兵 「……えへへ」 ニヤニヤ

 衛兵はしばらくの間、ペンダントを眺めながらにやにやしていた。


‐とある兵舎‐


兵士 「……なんであいつはああも臆面もなく言えるかねぇ」 ハァ...

? 「何が?」

兵士 「うおあっ!? ノックくらいして入れや!」

? 「おっと、ごめんごめん。旅疲れで忘れてたや」

兵士 「お前なぁ……もう少し礼儀とかしっかりしろよ」


兵士 「魔王になるんだろが」


? 「今はまだただの魔族のいち青年だし。

 っていうか礼儀わきまえた魔王ってのもどうなの」

兵士 「先代」

青年 「あの人は例外じゃない?」

兵士 「他の例をしらねーからわかんねえよ」

青年 「まあ僕も知らないけど。

  ところで誰と話してたの?」

兵士 「嫁」

青年 「ははは、もげろ」

兵士 「うるせえボケ」


兵士 「っと、そうだユウのやつ起きたってよ」

青年 「! そっか、よかった……」 ホッ

兵士 「だが記憶がないらしい」

青年 「へー……」

青年 「……マジで?」

兵士 「どうもマジらしい」

青年 「それじゃ、もしかして」

兵士 「だろうなぁ……」

青年 「……どうしよう?」

兵士 「とりあえず先代以外には言うなよ、フォローしきれねえ。特にあの馬鹿女な」

青年 「あぁ、あいつはね……でも、参ったなぁ」


兵士 「使っちまったもんはしょうがねえだろ。

  ま、一からやり直しってのも悪かねえさ」

青年 「ビーは冷静だなー」

兵士 「理不尽にも不条理にも慣れてるだけだ」

青年 「でも、そっか……謝りたかったのになぁ……」

兵士 「ンなことしたらはっ倒されるぞ。そこは素直に礼でも言えよ」

青年 「そんなもん?」

兵士 「そんなもんだ」


‐森はずれの村‐


 数日後。

男 「よ……し。こんなもんか」

 俺は畑を耕していた。

村長 「アンちゃん筋がいいねえ! 経験者かい?」

男 「いやだから記憶ないですってば」

 農業に傾倒してたとは聞いたけど。

男 「でも体が覚えてるんですかね。経験者ではあるっぽいです」

 鍬(クワ)を持った途端ちょっとテンションが上がったのは秘密だ。
 掘り返した土の臭いがなんだか心地良い。

村長 「だっはっはっは! まあそのうち思い出すだろうよ! そろそろ飯にすっかい?」

男 「そうですね」

 それにしても豪快な人だ。



 焼き締めした水分の少ないパンひとつを、竹筒に入れた井戸水で流し込む。

 この辺りは開拓を始めて間もないらしく、パンどころか芋ひとつでも貴重なのだそうだ。
 家畜に山羊がいるがその数は多くない。ミルクも貴重だ。

 昼は男が畑を耕し、女が森の幸を集める。
 畑仕事が早く終われば釣りへ行ったり、狩りに出向く人もいるという。

 絵に描いたような田舎暮らし。けれど、不思議としっくりくる。

 俺も元は似たような生活を送っていたのかもしれない。
 存外、居心地はよかった。


わんこ 「あんちゃーん!」 テテテー...

男 「おう」

わんこ 「とうっ」 タッ

 飛びついてきた。

男 「よっと」 ダキッ

男 「お前な、俺が避けたらどうすんだよ」 ナデナデ

わんこ 「てひひー♪ あんちゃんよけないっすもん」 ゴロゴロ

村長 「おうおう仲良くなったもんだなァ、いや良いことだうん!」

 そう言ってまた豪快に笑い、頭に巻いた手拭いを外す村長。
 その下に隠れていた、垂れ下がった大きな犬の耳が露わになる。

 この人は魔族で、その中でも数の多い獣人族なのだそうだ。
 しかしわんこには耳も尾もないが、子供は違うものなのだろうか?


村長 「今日はここまでにすっか。アンちゃん、コロと遊んでやってくれや」

男 「いいんですか?」

村長 「残りは俺がやっからよ。

  なんなら釣りにでも行ってくるかい? 竿貸すぜ」

わんこ 「! つりしたいっす!」

男 「ん……。じゃあ、お言葉に甘えて」

村長 「あいよ! ちょっと待っててくんな」

 もう少し鍬を振るっていたくもあったが、以前の俺は釣りが趣味だったらしいし。
 あるいは記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない。

 そうして午後の予定が決まった。


 森の中の、川に向けて一直線に切り開かれた道を歩く。

 川は離れた場所にある。
 集落があまり近すぎると洪水などが起きたときに危険だから、という配慮らしい。

 わんこが先導する形で、その後ろを俺は竿二つに大きめの籠を持ってついていく。
 どうも釣果を期待されたようだ。

わんこ 「あんちゃんあんちゃん」

男 「どうした?」

わんこ 「へんなきのこっす」

 わんこの指差す先には、真っ赤な傘のキノコがその身を伏せていた。

男 「……ああ、ベニテングタケか」

わんこ 「たべられるっす?」

男 「いや、毒キノコだ。食えない訳じゃないが避けたほうがいい」

わんこ 「おー」

 確かどこかの地域では、興奮剤として食べることがあるらしいが。

 そんな話をしている横を、集落の別の住人が片手を上げて通り過ぎていく。
 手にした籠の中に、数匹の大振りの魚の姿が見えた。

 結構釣れるのだろうか。


わんこ 「あんちゃんはものしりっすねー」

男 「そういうわけじゃないと思うが」

 ……というか、なんでこんなことばかり覚えているんだろうか。

 記憶の謎が更に深まってしまった。




‐森を走る川 清流‐


男 「よっ! ほれ、わんこ」 ヒョイ

わんこ 「はいっす!」 タシッ

魚 < バカナ、ワナダト!?

わんこ 「あんちゃんすごいっすねー」

男 「魚が多いんじゃないのか?」

わんこ 「じぶんはいつもつれないっす」 ケラケラ

男 「笑いながら言うことなのかそれは」

 何にせよ、釣果は上々。

 大自然のド真ん中だけあってか、釣れた魚も様々だ。


男 「ニジマスにイワナにアマメ……どれも結構でかいな」

わんこ 「たいりょーたいりょーっすねー」

男 「コイまで釣れるとは思わなかったけどな」

 でかすぎて籠に収まらん。

 その一方でわんこの釣果は見事にボウズ(ゼロ)だ。
 途中から自分の竿を放り出して、俺の釣り上げた魚を受け取る作業に徹していたせいでもある。

 とはいえ俺もそんなすぐに釣れるわけではなく……。

わんこ 「…………」 ジー…

男 (……落ち着かん)

 釣れるまでは斜め後ろでしゃがみこんで、ずっと俺の釣り姿を見つめている。しかもワクワク顔で。

 何が面白いのやら。

竿 < ヘイ、カムヒア!

男 「っと、かかったか」

わんこ 「おー!」 キラキラ

 目ェ輝かせとる……。

 ……楽しそうだからいいか。

 ……いいのか?

わんこ 「きゃっほうっす!」

 ……別にいいか。

今回ここまで
携帯のメモ機能マジ便利

ではまた。



 記憶の有無に関わらず、時間は等しく過ぎていく。


わんこ 「あんちゃんあんちゃん!」

男 「はいはいここにいますよ」

 なんだかんだで、気付けば二週間が過ぎていた。

 今日は空いていた家と畑を預けられて、一人暮らしを始める準備をしている。
 初めは村長のところに厄介になっていたのだが……、

村長 「アンちゃん手伝いじゃ物足りなさそうだから畑一つやるよ」

 というわけで、ついでにと空き家も貰ったのだ。

 元々住んでいた一家は一身上の都合で故郷に帰ったらしい。
 家のそこかしこに先人の暮らした跡が見受けられた。

わんこ 「あんちゃん! いっしょにあそぶっす!」

 片付けがひと段落した頃を見計らって、わんこが待ちわびたとばかりに絡みついてくる。
 きちんと待っているあたり、躾はしっかりしているらしい。

 ……なんか、こいつに躾って言葉使うとますますあれだな……。

男 「お前はほんとに犬みたいだなぁ」

 思わず本音が漏れた。



わんこ 「? わんこっすか?」

男 「そうだな、わんこだな」

わんこ 「わんこ」

男 「わんこ」

わんこ 「てひひ~、なまえもらっちゃったっす」 ニマニマ

男 「いや名前じゃ……」

わんこ 「わんこ♪ わんこ♪」 ピョコピョコ

 何が嬉しいのやら、わんこが俺の回りを飛び跳ねる。

男 「まあ、いいか」

 満更でもなさそう、というか大変満足いただけたらしい。
 今後は堂々とわんこと呼ばせてもらおう。

男 「…………」

 ふと悪戯心が沸き上がってくる。

男 「わんこ」

わんこ 「うぃ?」

 俺は手のひらを上向きにわんこに差し出した。


男 「お手」


わんこ 「わん!」 タシッ

 盛大に噴いた。

男 「うわ普通にやりやがったコイツ……!」

 むせかえる俺を見て、わんこは首を傾げていた。

 コイツ本当に犬なんじゃねえのか?



 ~ 駐在所 ~

衛兵 「あははっ。いい子ですよねー、コロちゃん」

男 「それは否定しないけども……」

衛兵 「でも、べったり懐くのは珍しいんですよ?」

男 「そうなのか?」

衛兵 「はい。私も話し相手になったりはしますけど、遊んで~って飛びつかれるってことはないですし」

男 「そうなのか」

 少し意外だ。

衛兵 「でも、コロちゃんが懐く理由、少しわかる気がします」

男 「?」

衛兵 「ユリウスさんがいると、なんとなく空気が緩やかな感じがするんですよね」

男 「……よくわからん」

男 (そういえば、わんこがいい匂いがするとか言ってたな)

男 「マタタビの匂いでもすんのかな?」

衛兵 「それは猫相手の話では……」

 そうだった。



男 「それで、俺の昔の知り合いだって人はいつ頃来るんです?」

衛兵 「もうすぐ着くはずなんですけど、遅いですね」 ソワソワ

男 「……。その人、どんな人なんですか?」

衛兵 「私の未来の旦那様です♪ きゃっ、言っちゃった」 テレリコ

男 (うわウザッ!)

男 「うわウザッ!」

衛兵 「失礼な!?」

兵士 「いやウザいわ」 アチャー

衛兵 「」 ナンデスト

男 「? 誰さん?」

兵士 「兵士のビーさんだ」 キリッ

男 「ビーチサンダルが兵士とは……」

兵士 「そのビーサンじゃねえよ!」

男 「おお……ツッコミ役だ」

兵士 「なんでちょっと嬉しそうなんだお前」



兵士 「つーわけで俺がお前の旧友代表だ。
 名前はビー。一応言っておくが本名だぞ」

男 「これはどうもご丁寧に」 ペコリ

男 「それでシーさん」

兵士 「ビーだ」

男 「ピーさん」

兵士 「ビーだっつの!
 わざわざ分かりづらい間違いを持ち出すな!」

男 「……」 パチパチパチパチ
衛兵 「……」 パチパチパチパチ

兵士 「……なんで拍手だよ」

男 「いやぁ、この村にいるとツッコミ役が少ないもんだから」

衛兵 「ボケがいがなくてつまんないんだよねー」 ウンウン

兵士 「お前ら俺をなんだと思ってんだ」

男 「待ちに待ったツッコミ役」

衛兵 「おみやげやさん」

兵士 「はっ倒すぞテメェら!」




 悩みというものは思わぬ形で解決することがある。


兵士 「良い情報と悪い情報、どっちから聞く?」

男 「じゃあ、悪いほうからで」

兵士 「お前の記憶は戻らない」

 自称、兵士のビーさんは事も無げにそう言い放った。

 一方の俺はどう反応すべきか僅かに考えて、

男 「マジですか」

 そう一言返すのがやっとだった。


 そんなわけで、あまりにもあっさりと俺の悩みは消滅したのだった。

 過去も諸とも消え去ったわけだが。

衛兵 「ドンマイですよっ」 グッ

 そんな励まされましても……。



兵士 「代償魔法ってわかるか?」

 代償魔法。
 別名、対価魔法。

 魔力に加え(または代わりに)別の何かを消費する、強力無比な魔法のことだ。

男 「一応わかりますけど、何か関係があるんですか?」

男 (大体察しはつくけど)

兵士 「まぁ、要はお前がそれを使えたって話なんだよ」

 やっぱりね。でも、

男 「信じがたいですね」

兵士 「俺だって実際見るまでは信じられなかったさ。
  話には聞いちゃいたんだけどなぁ」

男 「はぁ」

兵士 「それはそうと敬語やめろ、なんかムズムズする」

男 「ん、ああ、うん」 ワカッタ

 そういえば……、

男 「俺とビーは元々どういう仲だったんだ?」



兵士 「さっそく呼び捨てか」 ニッ

男 「敬語やめろって言ったのお前だろ」

 あとニヤニヤすんな、とは口に出さずにおく。

兵士 「ニヤニヤすんなとでも言いたげだな」

男 「何故わかった!?」 ガタッ

 こいつ、超能力者か!?

兵士 「幼なじみみてーなもんだな、俺らは」

男 「はぁ……」

 関係あるのか……?

 カップの中を白い渦がくるくる廻る。

兵士 「元はオーマが……あぁ、オーマってのはもう一人の幼なじみみてーなやつなんだけどよ」 ズズ…



男 「あ、ちょっと待った」

兵士 「あん?」 ズズズー…

男 「良い方の情報って?」

 うっかりスルーしかけたけど気になる。

 今の俺にとっての朗報――それも記憶とは関係ない話となると……、

 ……思い至らないな。

兵士 「おぉ、忘れてたわ」 コトッ

衛兵 「!」 ピクッ

 トテトテトテ…

 コポコポコポ…

 トテトテトテ…

男 (……何も言わないうちに紅茶のおかわりを)

兵士 「さんきゅ」

衛兵 「♪」 ニコニコ



兵士 「良い情報っても、大した話じゃねーぞ?」

 カップの中に再び白い渦が巻く。

男 「悪い報せとかじゃなければなんでもいいよ」

 なんせ過去がないわけで。

 これ以上問題が増えないならなんでもいい。

兵士 「……お前相っ変わらずポーカーフェイスなのな」

男 「いやそう言われても」

 というか、その言動から察するに今の俺の心情を読み取れたのだろうか。

 ……地味にすごいんじゃないかそれ。

兵士 「どうした、難しい顔して」

男 「ポーカーフェイスじゃなかったのか?」

兵士 「ハッ、テメェのツラくらい見慣れてんだよ」

ああ、なるほど経験則か。

ようやく理解できた。



兵士 「正式にこの村に滞在する許可が降りたっつーのと、
  村長のオッサンが身元保証人になるって話でな」

男 「あ……そういえば俺居候なんだった」

 畑仕事に没頭しすぎて忘れてた。

 なんか忘れ癖がついてる気がするなぁ。

兵士 「ま、馴染んでる分にはいいんじゃねえの?」

兵士 「とにかく、身柄は保証されるように話が付いたから、永住するもどっか行くも好きに決めな」

 と言っても行く宛はなし……。

男 「そういうことならまぁ、何か機会が来たら考えるかな」

 必須でないなら今のままでいいし。

 ビーはそれを聞くと、満足げに紅茶を飲み干した。




『記憶は戻らない』


 実のところ。

 この一言がショックだったことは隠しようもなく。

 その日は日が暮れる手前まで話し込んでいたものの、何を話したのかまではあまり覚えていなかった。

 ふらふらと家に戻るや否や、早々に布団に身を投げ出し。

 渦巻いているのか捻れているのかすらわからない思考を、眠りの海深くに沈めて……。







 その夜、
   目覚めた日に見た夢を見た。


小休止

ではまた。


 閑話休題。


 この村は約千年もの間人が踏み込むことができなかった辺境の地を、極最近になってから切り開き始めた場所にある。

 そして、千年よりも云百年遡った過去の時代には、今や痕跡しか遺されていない先文明の街並が広がっていた、らしい。
 記録上のことなので一応歴史学の範疇ではあるが、ともすれば考古学の領域に踏み込みかねない程の大昔……。

 もはや古代と言っても間違いではないだろう。

 その古代文明が如何にして滅びたのかまでは……不思議なことに、誰一人として知る者はいないのだが。

 その代わりに、痕跡だけに限れば、案外容易く見つけられたりするのだ。

 例えば、軽く身の丈ほど深くまで地面を掘る。

 すると、あまりにもあっさりと、先文明の遺物がその姿を現すのだ。

 大半はガラクタだが。



 そんな場所なので、新たに森を拓こうとすると、本当に様々なガラクタが発掘されてくるのだ。

わんこ 「あんちゃんあんちゃん」

 ただ、時にはそのガラクタの中にも役立つものが紛れていることがある。

 そして反対に、どえらい大問題に発展することもあるのだ。

男 「どうしたわんこ」

わんこ 「あっちにへんなのうまってるっす」

男 「うん?」



筒状の何か < ヒサシブリノヒカリダゼ…

男 「なんだこれ……」

わんこ 「あんちゃんもわかんないっす?」

男 「材質は金属っぽいが……だいぶ禿げてるな」

わんこ 「つちのなかっすからねー」

男 「ちょっと他の人も呼んでくるか。誰かわかるかもしれないし」

わんこ 「らじゃーっす!」 ビシッ


(´・ω・`)自己保守

全っ然書けねえ……


兵士 「……で、この騒ぎか」

 現場には、地質学者のドワーフやら考古学者のエルフやら。
 発掘の専門家らしいモグラ人やら頭良さそうな偉いっぽい魔人やら。

 加えて村の人達と単なる野次馬まで集まって、不必要に賑わいまくっていた。

男 「どこから集まってきたんだか」

兵士 「調査団についてきたんじゃねえの? 余程暇なんだろ」

男 「いきなり爆発とかしたらどうするんだろう」

兵士 「自己責任って便利な言葉だよな」

 いいのかそれで。

わんこ 「あんちゃん、よばれてるっす」 クイクイ

兵士 「頑張れ発見者」

男 「畑仕事に戻りたい……」

 まだ種もまいてないけど。


わんこ 「えんか?」

男 「違う、戦車だ。移動砲台みたいなやつ」

わんこ 「ほうほう」

 よくわかってないらしい。

調査団員 「先文明終期のもののようですね。これほど状態のいいものは珍しい」

 興奮した様子で語る調査団員を後目に、掘り進められて深くなった穴の中をのぞき込む。
 初めに見えていたのは大砲の先だけだったが、今はほぼ全体が陽の光を浴びていた。

 錆だらけになりつつもかつての姿をそのままに留めたそれは、ぱっと見たところ甲殻類に似ている。

男 「多脚型か」


調査団員 「おや、ご存知で?」 ズイッ

男 「いや適当に言っただけです」

 同好の士を見つけたとばかりに目を輝かせた調査団員に対して、即座に否定を返す。

 うっかりしたら延々語り出しそうな気配だ。

 それは勘弁願いたい。

調査団員 「どうやら初めに見えていた砲身は後付けのオプションパーツで本来は前面両側にある大型のロボットアームを状況に合わせて換装していくモデルだったようです。
 ほらこのハサミの内側に背面部のものより小経の砲口が見えるでしょう?
 実はこれはエネルギー兵器の一種で同モデルのパーツが多数発見されているんです。
 換装可能なのも確認済みでまぁ実際に動いているものをみたことはないのですがうんたらかんたら……」

 あ、手遅れだった。

男 「わんこ、向こう行くぞ」

わんこ 「ほっといていいんっす?」

男 「ああいう人には関わらないのが吉だ」

わんこ 「なるほど、おぼえたっす!」 フンス

調査団員 「しかもなんと後脚部は換装型推進ユニットでつまり水陸空あらゆる場所に対応可能という実に画期的なべらべらべら……」

 虚空に向けて蘊蓄を垂れ流す、ホビット? らしい調査団員の男。

 シュールだ。

いかん、放置しすぎだ俺
生存報告ッス 待たせっぱなしで面目ない

(アカン)

もはやごめんとしか言えない
流れは決めてあるんだけどなぁ……


兵士 「おう、なんだ戻ってきたのか」

男 「なんか調査団の人がトリップしちゃって」

 あんなのに関わってられん。何よりわんこの教育に悪い。

兵士 「変人ばっかだからなぁ。そのくせ仕事はきっちりこなすから文句も言えねぇ」

男 「それはまた厄介な……」


 結局、話は発掘物の説明だけだったようで、この日はこれ以上呼ばれることはなかった。

 その待っている時間というのが案外ヒマなもので、あまりの退屈さにわんこが寝入るほどだ。

 そしてその間俺の膝が占拠されるため、ビーや野次馬にニヤニヤされるわ足はしびれるわで散々だった。

わんこ 「うぃー……、すぴー……」 プーヒュルル…

男 「…………」 ナデナデ

 ……別に悪い気はしないけれども。


 ――その晩。

「はあぁめんどくせぇぇ……なんだってこんなもん」

「ぼやくなよ、朝までもたねえぞ」

「はぁあ……。こんなもん、一生埋めときゃよさそうなもんだけどなあ」

「ま、そりゃ同感だわ」

「つーかさぁ? こーんなもん掘り返して、なんか役に立つのかって話だよな」

「おいおい、あんま言うと機械王の耳に入るぞ」

「ああそうだ、あの人がいたか。さっさと持っていってくんねぇかな、コレ」

「そもそも動くのかね?」

「いやー、動かねぇだろ、千年前だぜ?」

「動いたら面白ぇんだけどなぁ」


 …………。

 ――――カチ――……ォン……。

【制■■構 ■断】

 ……カリカリ――カリカリ、カリ……――。

【異■■認 ■ード変■】

 ――ォン……ピピッ……。

【待■■復モ■ドに以■】

 ――――ヒュゥン……。

 …………。


翌日。

現場に赴くと、調査団の人が騎士らしき風貌の男に怒鳴り声を上げていた。

調査団員「発掘が中止!? 何故です!?」

騎士「陛下直々のご命令だ。
   対象を速やかに破壊し、残骸は地中深くに沈めることになった」

調査団員「そんな! これだけ完全な形で発掘されるのは珍しいんですよ! それを破壊だなんて……!」

騎士「これは決定だ。本日一三○○より作業を開始する。直ちに撤収準備を開始しろ」

調査団員「待って下さい! せめて理由を!」

騎士「極秘事項だ。変更はない、命令に従え」

 これ以上話はないとばかりに騎士の男が去っていく。

 理由はわからないが、どうやら発掘は中止されるようだ。

 調査団の人は悔しそうにうなだれている。余程発掘したかったらしい。

 昨日あれだけ嬉しそうにはしゃいでいたし、無理もないか。

兵士「よう。どうしたボーっと突っ立って」

男「なんか発掘中止らしい。騎士っぽい人が言ってった」

兵士「騎士? ああ、エリックか」

男「知り合い?」

兵士「融通が効かねえので有名なんだ。それにアリスの兄貴だし」

男「アリス?」

兵士「衛兵」

男「ああ」

 思わぬ所で名前が判明した。



「機械王は来ねえのか?」

「機甲士団全部、結界周りの警備に回ったらしいぜ」

「百獣王も動いてるって噂だぞ。また戦争か?」

「勇者不在の状況だってのに、聖都のやつらもよくやるよなぁ」

「こっちも陛下は動けねーし、チャンスだとでも思ってんじゃね」

「泥沼化するだけだろ。向こうから攻めてくる限りこっちの有利は変わらねえしよ」

「油断大敵ってな。聞いた話じゃ、アルス・マグナ皇国も向こうについてるっつーから」

「中立じゃなかったのかよあそこ」

「最近国王が代わったらしい。クーデターがあったとか」

「どこもかしこも……」

 物騒な話だ。


 アルス・マグナ皇国。

 元はアルケミア共和国というそうで、先文明の終わり頃に生まれた国らしい。

 かつての技術を現代に受け継ぎながら、魔法と錬金術を組み合わせてその技術を研くことに全てを費やし続けている、

 つまりは研究者達の国であり、その英知は門外不出。

 噂では一度世界を滅ぼしかけたことがあるそうだが、それ故に中立。

 問題の技術は王族の手で封じられ、最大の禁忌とされている。

 その国の王が入れ替わったということは……、

兵士「十中八九、聖都の……つか、教団の仕業だろうな」



男「教団か……」

 撤収作業を手伝いながら、ビーの言葉に耳を傾ける。

兵士「地上に人間以外の知的生命体が存在するのを認めない。

   そんな馬鹿げた教義を振り回してる連中だからな。何をやったっておかしくはねえさ」

男「そんなやつらを放っておいて大丈夫なのか? 今そいつらは世界を滅ぼせるんだろ?」

兵士「滅ぼしかけた、つったろ」

男「?」

兵士「使いものにならねえんだよ、要するに」


 いまいち納得できないものの、かといって何かできるわけでもなし。

 可能なことと言えば、今ここでの作業を手伝うこと程度なわけで。

 その間、わんこは邪魔にならない程度に距離を保った上で、俺の斜め後ろに付かず離れず居座り続けていた。

男「……楽しいのか?」

わんこ「ちょっとあつくなったっす」フンス

 ……どうやらそういう遊びらしい。よくわからん。

調査団員「…………」フラフラ...

男「ん?」

兵士「どうした?」

男「いや、あの人妙にふらふらしてるなって」

わんこ「くらげみたいっす」

兵士「意気消沈ってとこか? 危なっかしいな」

「おーい、誰か手ぇ貸してくれー」

男「あ、はーい!」

兵士「とりあえずさっさと片付けねえとだな」

男「だな」




 この時……。


 もしも、もっと注意深く調査団員の人を観察していたら、

 あるいはこの後に起きた出来事を防げたのかもしれない。


調査団員「……なら…………示せば……」ブツ ブツ ブツ …


 後悔先に立たず。

 この日、俺はようやく、自分の過去の片鱗に触れることになる。


ごめん今書いてる最中なんだけど、思いのほか進みが悪い
上に歯切れも悪い
変な切れ方しそうだからもう少し時間を下さい

なんでこんな手ぇ遅いの俺……最初期の勢いはどこへ行ってしまったというのか

絶望的なことに
書き溜めを途中まで積んでたPCのHDDが完全に御釈迦になりまして、
思い出して書こうと記憶の泥を掘り返しても箸にも棒にも引っ掛からず
要するにまだできていないのです…… マジでごめんなさい
次から複数PCにバックアップしようと誓った一月の出来事でした。



えっ、一月!? ←本気で今気付いた

ほああ、色々あんねやな……
ありがとう。参考にしつつ色々探ってみます

尚HDDは物理的に逝った御様子
煮詰まる度に綴ってきた某マジヤバいの続きとか含めて5作分ががが

さっさとこっちを書けという神の意思か……
心って折れるんですね(目が虚ろ)

……うん、書こう

ひとまず生存のお知らせ、です
気付いたら2月末とか悪夢ですよ……

お待ちいただいてる方々、申し訳ねえです

参ります



  ‥‥‥


『こちら第六小隊。目標Kが第八小隊の方向へ逃走。追跡中』

『第二小隊、目標Eの沈黙を確認』

『第一、目標O同じく』

『第八小隊、目標Kを視認した。挟撃するぞ』

『第六小隊了解』


「こちら司令部。7時方向より侵入者更に3」


『第四小隊が向かう』


「了解。現在地及び推定進路を送る」


『第一、第四のフォローに回る』

『こちら第七、目標Cを沈黙』


「第一、第四小隊へ。8時方向から侵入者更に4」

「更に6時から2、10時から5」


『第三小隊会敵』


「キリがないな」

「逃げ回るばかりですよ。こちらに被害はありませんが」


『こちら第五小隊。目標を回収、また無人機です』


「了解。副王、これはやはり……」

「陽動、と見るべきか」

(聖都のやつらめ、一体何を企んでいる……?)



  ‥‥‥


「陽動はうまく機能しているようだ」

「おかげですんなり潜入できたけどよ、必要あったのか?」

「念押しというやつだろう。それに皇国から運んできたキカイとやらが役に立つのか、確かめるためでもある」

「なるほどね」

「さて、手早く『魔王』を捜さなくてはな」

「焦ることはねーと思うがね。……バケモノ共の気配が近い。見つかると面倒だ、じっくり行こう」

「そう悠長に構えてもいられまい。…………む?」


調査団員「…………――、……」ブツブツ、ブツブツ...


「あれは小人族か。なんと汚らわしい」

「おいおい、いきり立つなよ? あんなナリでもバケモノだ」

「わかっている。……いや待て、ひとつ思いついた」

「うん?」

「――――、――――――。どうだ」

「……くはっ、エグいなぁアンタ」

「褒め言葉として受け止めておこう。まずは追うぞ、『勇者』」

「はいよ。細かいことは任せるぜ、『聖騎士』さん」


  - 大陸南西 『アルス・マグナ皇国』 -

  - 皇宮 地下???階 -



「――被験体、心肺機能停止」

「これも駄目か」

「蘇生措置は……」

「無意味なことに時間を使うな。さっさと廃棄して次に移れ」

「……了解」

(やはり並の個体では耐えられんか?)

(まあいい、初めから期待はしていない。元より贄は掃いて捨てるほどある)

「被験体固定。実験開始」

「成功した時にだけ呼べ。それまで何度でも繰り返せ、いいな」

「…………了解」


  カッ カッ カッ カッ カッ カッ …


「……………………」

「……くそっ!命をなんだと思ってやがる!」ガンッ!


  コッ コッ コッ コッ コッ コッ …


(つまらん感傷なぞいらん。必要なものは結果だけだ)

(研究者でありながらそんなことも理解できておらんと見える)

(そろそろ後任を見つけ出すべきかもしれんな)

(存外、ああいう手合いこそ『器』となり得るやもしれん)

「ありゃ、大司教。視察はもう終わりっすか?」

「ん……情報屋か」


情報屋「すんませんね、中々いい報せが渡せませんで」

大司教「その言い様では、そちらも進展がないようだな」

情報屋「進むどころか後ろに退いてる気すらしますわ」

情報屋「皇族共が管理してるっつーから使ってみても、うんともすんとも言いやしねえ」

情報屋「無理矢理こじ開けようにも、魔法も爆弾も効きやしないし」

情報屋「上下も左右も斜めからも侵入不可能。一体何をそんな一生懸命守ってるんだか」

大司教「それを突き止めるのもお前達の仕事だ」

情報屋「そりゃあもちろん承知してまさあ。今はとりあえず、国中に残ってる文献を片っ端から洗ってるところです」


情報屋「ま、一番手っ取り早いのは『オーナー』を引きずってくることでしょうがね」

大司教「行方不明となった者をねだっても仕方あるまい」

情報屋「行方不明……ね」

情報屋「くくっ、手前で始末しておいてその言いぐさは流石ですわ」

大司教「さて、何のことかな?」

情報屋「さあ? 愚かなわたくしめには到底想像もつきませんで。くくく……」

大司教「ふん、食えないやつめ」

情報屋「そりゃあ俺はただの『情報』ですからね」

大司教「……そういう下らんボケは相方にでも言うんだな」

情報屋「ノリが悪いっすねぇ、残念無念っとっとっと~っと」

大司教(このふざけた振る舞いさえなければ優秀なのだがな……)

情報屋「そういやぁ、無人機持ち出したって聞きましたけど?」

大司教「使い物になるかの確認だ。役に立たんようなら切り捨てる」

情報屋「ほんっとに合理主義っすねぇ、疲れません?」

大司教「この国を傘下に加えたとて未だ目的には遠いのだ。休む暇などないだろう」

情報屋「さいでっか」

情報屋(目的に囚われて周りが見えていないようにしか思えぬが……)

情報屋(所詮は信仰の狗か。そろそろ次の『宿主』を探す頃合いだな)

大司教「私は一度本国に戻る。後は任せるぞ」

情報屋「はいはい了解ですよっとー」


  カッ カッ カッ カッ カッ カッ …


情報屋(……踊らされているのは自分自身だというのにそれに気付かないとは。なんと愚かしい)

情報屋(まあ、せいぜい利用させてもらうとしよう)

情報屋(この国の秘密を探り出すために、な)


  - 大陸北東『魔ノ国』 森はずれの村 -

  - 開拓区域 発掘場 -


 薄暗い雲が空を覆い、ひやりとした風が辺りに流れ始める。

 空気の匂いが変わる。


男「ひと雨きそうだな」

わんこ「なんかじめじめっす」

兵士「粗方片付いたとこだし、そろそろ小屋に戻るか」

男「ああ」


 去り際、同じく撤収作業に取り掛かっていた人達に声をかけて仮設小屋へ。


  ポツ ポツ ポツ ポツ …


男「って、言ってるそばから……」

兵士「えらい急にきたな。急ごうぜ」

男「だな。ほら、わんこも」

わんこ「うぃ」


  ザアアアァァァァァァ…

男「結構勢い強いな」

「うひーっ、冷てえ!」

「こりゃあ昼に間に合わねえだろぉ」

兵士「天気の予知でもありゃいんだがな」

男「ああ、いいなそれ」

 畑仕事が捗りそうだ。


「あれー?っかしいな……」

兵士「お、どうかしたか?」

「いや、調査団員がいないんすよ。あいつ雨が嫌いだから真っ先に戻るかと思ったんすけどね」

男「他のところで雨宿りしてるんじゃ?」

「テントは全部バラしちまいましたし、この雨ですよ?」

兵士「まあ、木の下に入ったくらいじゃ全然濡れそうだわな」

男「…………」

 ふと、先程の様子を思い出す。


わんこ「あんちゃん?」

男「なんでもないよ」

 嫌な予感がする。

 杞憂ならいいんだけど……。


 止むことのない雨の中、力の無さを悔いていた。
 強くなろうと足掻けども、すぐに限界は訪れ、私を嘲笑った。

 故に知識を磨いた。
 積み上げ、焼き付け、研ぎ澄まし。ある日私はその片鱗を目にした。

 獣より大きく、
 人より賢く、
 岩よりも硬く、
 無機質なその姿はしかし、私をひどく魅了した。

 そしてあらゆる記録を紐解き、手に入れる術を模索する日々。
 見付けては期待し、落胆し、また見付けては飛び付き、けれど望んだものはなく。
 諦めが心に滲み始めた、つい先日。
 ようやく、探し求めてきたものが、現れた。


「おろ、室長。なんか用事っすか?」

「倉庫の中に忘れ物をしてしまったんだ。開けてもらえるか?」

「はぁ、いいっすけど……騎士様には黙ってて下さいよ? 叱られんの俺なんすから」

「すまないな」

 忘れ物は嘘だ。


 倉庫の中、撤収が命じられる前に発掘された無数の残骸の間を歩き、奥へと進む。
 ここにあるものは全て、例外なく処分されるという。
 なんと愚かしいことか。
 我々が千年をとしてさえ届かない旧文明の遺物を、何故容易く抹消しようなどとするのか……。
 それはもはや、文明への冒涜だ。
 到底同調できるものではない。

 ──倉庫の奥、私だけが知るものが、私だけが知る場所にあった。
 それは一枚のカード。
 ガラスのように透明だが、トランプのようにしなり、金属のように丈夫で、木の葉のように軽い。
 その正体は、鍵。
 あの騎乗兵器を動かすための、私が私のために隠しておいた、唯一の切り札。

 それを袖に隠し、私は倉庫を後にする。
 去り際、倉庫番が訝しげな目をしていたが、今更疑われたところでもう遅い。
 必要なものはカードひとつ。この身をひとつ。
 乗り込むための言い訳も問題ない。
 そもそも誰もがあれに対する認識が甘く、警戒されることさえないだろう。
 だから、あとは示すだけ。
 それだけだ。


「ほう、それはいいことを聞いた」


 そこで私の意識は途切れた。


 鈍く酷い痛みが全身を伝う。
 頭が割れるように痛む。
 意識が泡のように浮かんでは消え、その度に何かを失ったような感覚が襲い掛かる。

 なんだ、これは。

 どれほど時間が経ったのか、やがてふっと全身が軽くなったような感覚を覚えた。


「グッモーニィン♪」


 やけに愉しげな声。視界が霞み、その主の姿は見えない。
 しかし、胸の底からある感情がふつふつと湧きあがってきたのを感じた。


「目覚めたところで訊いてみよう。お前の使命はなんだい?」


 使命……。

 私の、使命、は……。


「マ……ゾク……を……殺……す…………」


 殺す。

 ああ、

 そうだ。

 私は、
    殺さなくては。

 魔族を殺さなくては。

 ふらつく体を動かし、よろよろと立ちあがる。

 向かう先はわかっている。やることもわかっている。
 ならば、後は為すだけ。
 それだけだ。


「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。……」

「いってらっしゃい、哀れな人形。せいぜいたくさん殺してくれよ」


 背後から届いた声。
 あれは誰だっただろうか。

 そんな些細な疑問が、虚ろに揺らめく意識の片隅に溶け、消えていった。




  カタ カタカタ カチッ

  ギシ… カチッ カタカタカタ…

  ピ ピピ

  ――ヴォン



【起動確認 診断開始】

【完了 全システム異常無し】


『新規のミッションを確認しました』

『作戦を開始します』



  キュイイィィィィィ……




  …ィー―――――……ン…


男「っ」ズキッ

わんこ「わぅっ」ヘタッ

兵士「? どうした、立ち眩みか?」

男「いや、なんか耳鳴りが」

わんこ「うぅー、みみいたいっす」ヘニャヘニャ

兵士「耳鳴り?」

「気圧でもズレたか?」

「平地でそんな急に変わるもんじゃねえだろ」

「いやでも何か犬笛みてえな音しね?」

「犬笛は聞こえねーよ馬鹿」


 見回すと、獣人――特に聴覚の鋭い犬や狼らしい人達が、わんこと同じようにへたり込んでいた。

 外は相変わらずの強い雨だ。

 けれどどこから聞こえるのか、音叉を叩いた時のような音が脳を刺激する。


  ィィィィィィィ……


兵士「……音がでかくなってるな」

わんこ「うぇぅ~……きもちわるいっす……」

男「耳が良すぎるんだな。ハンカチ詰めとけ」

わんこ「うぃ……」


 わんこを撫でてやりながら音の元を探る。

 この場の全員に聞こえている以上、何かが音を発しているとみるべきだろう。


 ビーと顔を見合わせ、互いに頷く。

 同じく状況を理解した数名が周囲を促し、各々臨戦態勢を整えていく。


騎士「ビーさん」

兵士「静かに。……多分こっちだ」


 槍を持ってやって来たエリック氏を制し、近くの窓に。

 今この小屋にいるのは調査団の人達30名ほどと、撤収作業を手伝いに来ていた村人数名、そして俺達3人とエリック氏。

 その中で真っ当な武器を持っているのはビーとエリック氏だけだ。

 相手の正体はわからないが、さすがに採掘道具や工具は武器にならないだろう。

 ここは魔ノ国だ。

 外界とは違い、結界がなければ道を作ることも難しい世界だ。


男(……あれ?)


 ふと、何かが思考に引っかかった。

 そもそもこの発掘場にしても周囲に結界を張った上で開拓し始めた場所で、

 この音を発しているのが魔獣なら接近した時点で結界が反応するし、それ以前に結界に弾かれて侵入するのは難しいはずだ。

 それに、この音。

 音叉を叩いたような、と表現した通りの高音を自力で鳴らせる生き物なんているだろうか。

 なにより、途切れもせずに鳴り続いているというのは不自然だ。

 蝉だって休み休み鳴く。


男(だとしたら……)


 更に耳を澄ます。

 雨音に紛れてはいるが、何かが移動するような規則的な音が耳に届く。

 しかし、おかしい。

 獣が雨の中を歩いているなら、ペタリペタリという音がするはずだ。

 けれど聞こえてくるのは、鍬を地面に突き立てるようなザクリザクリという音。

 それと、


  カシャン カシャン カシャン …


 鎧が擦れるような硬質の音。

 獣の足音じゃあない。なら大型の蟲か?

 いや、蟲ならばギチギチという音は立ててもこんな音は――。

 っ!

 “鎧が擦れるような”――!?


兵士「エリック、退がれ!」


 直後、轟音と共に壁が砕け散り、“敵”がその姿を現した。


 初めに見えたのは、2本の巨大な爪。

 雨に濡れ不気味に煌めくそれは、木板を深く貫いて力任せに押し破った。

 次に見えたのは淡く光る両眼を持つ、蟹のような顔。

 そして、背中の砲筒。


兵士「おいおいマジかよ!」

騎士「総員退避! すぐにここを離れろ!!」


  ミシミシミシベキベキッ!


「やばい、崩れるぞ急げ!」

「早く馬車に乗り込め!」

「なんだってんだくそっ」


 エリック氏の言葉に従い、全員が一斉に小屋の外へ駆け出す。


男「わんこ、行くぞ!」

わんこ「はいっす!」


 手を引いて後に続く。


『――――』


男「っ」ゾクッ

男(視線……?)

兵士「早いとこ行け! 巻き込まれっぞ!」

男「あ、ああ」


『…………』



勇者「おーおー大胆だこと」

聖騎士「ここはもういい。この隙に魔王城を目指す」

勇者「あいよ。さーて、どんだけ殺してくれることやらね」


 いよいよ勢いを増す雨の中、二つの影が言葉を交わし、姿を消した。


ココマデー

ガッツが足りない

最初のスレ読み直してたら時間設定がおかしくなってることに気付いたけどどう誤魔化そう……
大体あってればなんとかなるかしら

生存報告です。区切りまで書き上がれば今日中に投下

連絡遅れましたがまだかかりそうです

戦闘シーンの書き方忘れた……

生存報告
なんか恨みでもあんのかってレベルで納期のない仕事だらけ
数こなせばいいってもんじゃなかろうに

生存のお報せですの

なんもかんも上司が悪い(八つ当たり)

もう8月じゃないか(戦慄)

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