岡部「世界線変動率が3%を超えている?」(82)

鈴羽、フェイリス、ルカ子、萌郁のDメールを取消し、打消すDメールが残り最後となった時に判明したまゆりと紅莉栖のどちかが死ぬ非情な二択の選択。
まゆりと紅莉栖……俺にはどちらかを見捨てるなんて、これ以上誰かを犠牲にするなんてできなかった。両方を救う方法を求め、俺は何度もタイムリープをした。
だが、何度タイムリープを繰り返しても結果は変わらなかった。どうあがいてもまゆりは死ぬ……まゆりを救うには最初のDメールを消し紅莉栖を見殺しにしなければならない。
分かりきっていた事だ。タイムリープでは決してまゆりを救う事はできない。だからと言って紅莉栖を見殺しになんてできる筈がない。
俺は、結果が変わらないと分かっていながらも、タイムリープを繰り返し……壊れた。
何度目のタイムリープで発狂したのか、狂った自分が何をしたのか憶えていない。
気付けば俺は世界線を移動していた。

岡部「ぐぅっ……」フラッ

岡部(この独特の感覚……リーディング・シュタイナーが発動した?)

岡部「……可能性が高いのは、俺自身か」

岡部(タイムリープの回数が4桁を超えた辺りから記憶がほとんどない……タイムリープの途中で発狂して、その時にDメールを送ったのだろうか?)

岡部(リーディング・シュタイナー特有の眩暈のような感覚で無理やり正気に戻れたが……Dメールを送ってなければ俺はずっと壊れたままタイムリープを繰り返していただろうな)

岡部「とりあえず、現状の確認からか。ケータイは……ちゃんと持っている……ん? なんだ、これは」

岡部(待受画像が紅莉栖の寝顔……?)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371046103

岡部(他にもフェイリス、まゆり、ルカ子、萌郁、鈴羽の写真も保存してある)カチカチ

岡部「……この世界線の俺は何故こんなものを」

岡部(いや、今はそんなことはどうでもいい。とりあえずタイムリープだ。まだこの世界線のまゆりのデッドラインは分からないが、11日まで戻ってから考えるのが得策か)

岡部「その為にもラボに戻る必要があるが、ここはどこだ? ラボではないな」

岡部(見たところホテルの一室のようだが……浴室から音がする。誰か居るのか?)

ガチャ

岡部「……っ」ビクッ

紅莉栖「ふう、さっぱりした。ほら、シャワー開いたわよ。岡部もさっさと浴びてきたら?」

岡部「く、紅莉栖!?」

紅莉栖「えっ? いま名前で……」

岡部「なぜお前が……?」

紅莉栖「なんでってここは私の泊まってるホテルなんだし」

岡部(紅莉栖の泊まってるホテル? そういえば、日本に滞在している間は御茶ノ水のホテルに泊まっていると言っていたな……)

岡部「……待て。なぜ紅莉栖の部屋に俺が居る?」

紅莉栖「あんた頭でも打ったの? これのせいに決まってるじゃない! 忘れたの?」

岡部(腕時計……? いや、時間を表示するような箇所はない。よく見れば俺の手首にも紅莉栖のと同じものが付けてある)

岡部「あ、ああ。そうだったな」

岡部(とりあえず今は誤魔化しておこう。紅莉栖に説明している時間はない。この世界線のまゆりの死亡時刻が分からない以上、一刻も早くタイムリープせねば……万が一、ラウンダーにラボを襲撃され、電話レンジが使えなくなるような事態が起きればその時点で終わりだ)

紅莉栖「もうっ、一度は外れたから気が緩んでたんじゃないの?」

岡部「そう、かもな……すまない」

紅莉栖「あんたが謝るなんて珍しいな。本当に頭でも打ったの?」

岡部「……」

岡部(11日まで跳んだ後はこの世界線の辿り着いた原因となったDメールを見つけ出し、打ち消して元の世界線に戻る。そしてまた紅莉栖とまゆりを救う手段を探す)

紅莉栖「岡部……?」

岡部(とんだ道草を喰ってしまったが、タイムリープしていれば時間はいくらでもある。また途中で発狂でもしない限りは……)

紅莉栖「岡部!!」

岡部「っ! な、なんだ? 急に大声を出すな」

紅莉栖「……何があった?」

岡部「なに?」

紅莉栖「あんた、自分が今どんな顔してたか分かる?」

岡部「どんなって……」

紅莉栖「凄く思い詰めたような顔……」

岡部「……」

紅莉栖「あんたのそんな顔、初めて見た」

岡部「……少し考え事をしていただけだ」

紅莉栖「でも……」

岡部「本当になんでもない、俺なら大丈夫だ。それより紅莉栖」

紅莉栖「……なに?」

岡部「少し急用ができた。俺はこれからラボに向かう、お前はどうする?」

紅莉栖「どうするって言われても、12号が付いてる以上一緒に行動しなきゃいけないんだし……OK、私もラボに行くわ」

岡部(一緒に行動しなければならない? どういう意味だ。それに『12号機』というのはこの腕時計のような物の事か? 名前からして未来ガジェットのようだが……)

岡部「よく分からんが、俺は急ぐ。お前もラボに行くのは勝手だが、俺は先に行く」サッ

紅莉栖「ちょっ、おま! そんなに離れると電撃が……!」

岡部「電撃……?」

バチチチチチチ

岡部「なっ、いたたた! ん、なんだこれは!!?」

紅莉栖「きゃっああ!! い、言わんこっちゃない!は、はやく手を出して!」

岡部「手?っいたたた!」バチチチ

紅莉栖「いいから早く!」

岡部「こ、こうか?」

紅莉栖「……っ!」

ぎゅっ

岡部「と、止まった……?」

紅莉栖「何やってるのよ! 一定以上離れても電撃が流れるって忘れたの!? 馬鹿なの? 死ぬの!?」

岡部「す、すまん……」

岡部(さっきの電流……この『12号機』から? 紅莉栖と距離が離れると流れる仕組みか)

岡部「くっ、遊んでる暇はないというのに……あ、あれ?外れない?」

紅莉栖「力ずくじゃ外れないって知ってるだろ。それも忘れたの?」

岡部「なっ、なんだと?」

岡部(厄介なガジェットだな……まあいい。今はタイムリープする事が最優先だ)

紅莉栖「ったく、なに焦ってるんだか……そんなに重要な用なの?」

岡部「……ああ」

紅莉栖「何かワケありって感じだな。まあ、ここ最近のあんた色んな事に顔突っ込んでたしね。どうせまた何かあったんだろ?」

岡部(色んな事に……?)

紅莉栖「……その度に毎回フラグ立ててきやがって、あんたはギャルゲの主人公かっつうの」ボソ

岡部「お前はなにを言ってる?」

紅莉栖「何でもない!」プイ

岡部「……?」

――ブラウン管工房前

岡部「……紅莉栖」

紅莉栖「なに?」

岡部「さっきから気になっていたのだが……なぜ俺たちはホテルからここに来るまでずっと手を繋いでいる?」

紅莉栖「はあ!? 普段からこうしておいた方が電撃が流れずに済むからって二人で決めたじゃない」

岡部(電撃、というのはさっきの事か。また随分とぶっそうなガジェットを……)

岡部「そ、そうだったな……いや、少し確認してみただけだ。気にするな」

紅莉栖「気にするなって……あんた、さっきからそればっかりよ? 朝からなんか様子が変だし……」

岡部(流石に誤魔化しきれない、か……だが、紅莉栖には相談できない。全部話せば、こいつはきっと自分を犠牲にしてまゆりを助けろと言う筈だ)

岡部(そんな事は絶対にしない、犠牲になんてさせない。俺が二人を救ってみせる)

岡部「……そんな事より早くラボに入るぞ。この炎天下に晒されながら手を繋ぐのは辛い」グイ

紅莉栖「またそうやって、誤魔化す……あっ、ちょ、引っ張んないでよ!」

岡部「誤魔化してなどない。ほら、早くラボに……なっ!」

岡部(馬鹿な……)

紅莉栖「ちょっ! 急に立ち止まるなよ、危ないだろ」

岡部(な、なぜあいつのマウンテンバイクがブラウン管工房の前に留めてあるのだ!?)

鈴羽「あっ、ちぃーす! リンリン、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「ハロー、阿万音さん」

岡部「阿万音、鈴羽……!」

鈴羽「また二人で来たんだ。いいなー」

紅莉栖「よくないわよっ! こ、これのせいで岡部なんかと四六時中一緒に行動しなきゃならないんだから……」

鈴羽「その割にはキミ、嬉しそうじゃん」

紅莉栖「誰が嬉しいもんか!」

岡部(鈴羽だと!? 何故鈴羽がまだこの時代に留まっている……!?)

鈴羽「またまた~あっ、そうだ! ねえねえ、牧瀬紅莉栖。そのガジェット、えっと『だ~りんのばかぁ』だっけ? それ外れたらあたしにくれない?」

紅莉栖「一応聞くけど……何に使う気なの?」

岡部(紅莉栖と鈴羽がこんなにも仲良く会話をしている?……鈴羽との思い出はDメールを取り消す事でなかった事にした。だから二人の間には、まだ蟠りが残っている筈だが)

鈴羽「何って、決まってんじゃん。これをリンリンとあたしに付けて離れられなくして、リンリンを未来に連れていくんだよ。こうすればリンリンも一緒に行かざるえないからね」

岡部「み、未来に連れて行く……?」

岡部(どういう事だ……こいつの目的は過去に遡り、IBN5100を手に入れる事ではなかったのか? それにあのタイムマシンは不可逆で鈴羽の居た時代には戻れない筈だ)

紅莉栖「やっぱりそれが目的か! ダメよ、ダメ! 絶対にだめだから!」

鈴羽「えーなんでさー」

紅莉栖「な、なんでって……と、とにかくダメなものはダメよ!」

岡部(それにこの様子だと、紅莉栖も鈴羽が未来人だと知っているのか?)

鈴羽「ダメって言われてもなあ……未来を救う為にはリンリンが必要なんだよ」

紅莉栖「……あなたの場合、それだけが目的じゃないでしょ」

鈴羽「酷いなーあたしは未来を救う為に来てるんだよ? まあ、若いリンリンはそそるからねえ……ちょっと手を出しちゃうかもしれないけど、それは仕方ないよね」ジュルリ

紅莉栖「仕方なくない! まったくっ、流石は橋田の娘ね……」

岡部「なにっ!?」

岡部(鈴羽が未来人どころか、ダルの娘だと知っている……?)

岡部「何なんだ、この世界線は……」

鈴羽「ねえ、牧瀬紅莉栖。今日のリンリンなんか様子ヘンじゃない?」

紅莉栖「それは同意。今朝からずっとこんな感じなの」

岡部(俺は、思った以上にとんでもない世界線に来てしまったのか……?)

――ラボ・開発室

岡部(鈴羽がこの時代に留まっているという事は、この世界線に辿り着く原因となった俺が送ったDメールの内容は鈴羽を引き止めるものだと思ったが……)

岡部(俺のケータイにはそれらしきDメールを受信した記録がない。内容が特定できない以上は打ち消す事もできないか)

岡部(とりあえず一度リープして、そこからこの世界線の情報を集める。この未知の世界線では今この瞬間にもラウンダーが攻め込んでくる可能性もある。早く準備しなければ)ガサゴソ

岡部「……あれ?」

岡部(リープマシンのヘッドセットはあるが、PCに繋いである筈の本体がない?)

紅莉栖「岡部? あんたなんで13号機なんか付けてるの?」

岡部「……13号?」

岡部(この世界線ではタイムリープマシンはガジェット扱いなのか?)

岡部「紅莉栖、タイムリープマシンの本体はどこだ」

紅莉栖「タイムリープマシン……? なにそれ」

岡部「なにって、お前とダルが完成させたタイムリープマシンの事だ。それの本体はどこにある?」

紅莉栖「ないわよ、そんなの」

岡部「な、い……?」

紅莉栖「だいたいタイムリープなんてできるワケないじゃない。なに? またあんたの厨二病? 真面目な顔して言うから何事かと……」

岡部「馬鹿な!!」バンッ

紅莉栖「っ!」ビクッ

岡部「ない……? ないだとっ!? 本当に作っていないのか!?」ガシッ

紅莉栖「へっ、きゃ!お、岡部!?」

岡部(クソっ、何てことだ……タイムリープマシンがないだと!? これも世界線を移動した影響だというのか……?)

紅莉栖「ど、どうしたの……?」

岡部(タイムリープができなければやり直しができない……もしこのまま、まゆりのデッドラインを迎えたら)

ガラッ

鈴羽「どしたの? 大声なんか出して」

紅莉栖「お、岡部がなんか変なのよ……」

岡部(まだだ。まだ何か出来る筈だ……そうだ! 鈴羽がいるという事は)

岡部「鈴羽、ダイバージェンスメーターは持っているか?」

紅莉栖「ダイバージェンスメーター?」

鈴羽「えっ? 持ってきてるけど……なんでリンリンが知ってるの? おっかしいな~この時点ではまだ作られてない筈なんだけど……まあ、確かに作ったのはリンリン自身だけどさ」

岡部(タイムリープができなければ最悪Dメールを使うしかない。世界線変動率を知ることが出来れば、この世界線がどの程度前の世界線と離れてるくらいか分かる)

岡部「いま持ってるか?」

鈴羽「残念だけど今この場にはないね」

岡部(Dメールは慎重使わなければならない……世界線変動率はDメールを送る上で多少の目安にはなる筈だ)

岡部「なら、あれに表記されている数値は覚えているか?」

鈴羽「ええっ、急に言われても……あれ、けっこう桁数多いじゃん」

紅莉栖「あの、私にも説明が欲しいんだけど」

岡部「そうか……」

紅莉栖「スルーかよ……」

鈴羽「えっと、確か表示されてた数値は3.……」

岡部「……なに?」

鈴羽「3.372329……あれ、3.406288だっけ? いや、3.130238だったような……う~ん」

岡部「3……?」

鈴羽「ごめん、リンリン。やっぱ正確な数値は覚えてないよ」

岡部「だ、ダイバージェンスメーターに表記された数値は1%台、だよな?」

鈴羽「えっ? ううん、3%台だよ」

岡部「はあ!?」

鈴羽「り、リンリン? なんでそんな驚いてんの?」

岡部「さ、3%だと!?」

岡部(たった一通のDメールが及ぼすバタフライ効果の恐ろしさは嫌というほど理解している……だが)

岡部「お前の見間違い、ではないのか……?」

鈴羽「う、うん、これは間違いない筈だよ」

岡部「そんな、馬鹿な……ありえん!」

岡部(あれだけ、俺が必死になって複数のDメールを取り消しても決して1%の壁を越える事などなかったのに、それを嘲うかのようにたった一通の、それも無自覚に送ったDメールがそこまで影響を及ぼしたのか?)

紅莉栖「な、なんだか分からないけど、その数値が3%を超えてると不味い事でもあるの?」

岡部「不味いなんて話ではない! 3%超えだと? これでは余りに前の世界線と違いすぎ……」

岡部(いや、待て。なぜ1%を超えた世界線なのに紅莉栖が生きている? β世界線ではこいつは何者かに刺されて死んでいる筈では……)ジー

紅莉栖「な、なによ、そ、そんなに見んなっ」

岡部「鈴羽、聞きたいことがある」

鈴羽「えっ? なに?」

紅莉栖「って、またスルーか」

岡部「お前の住む時代ではSERNはどうなっている? 管理社会……ディストピアは築かれているのか?」

鈴羽「SERN? 確か欧州の研究機関だっけ。あたしの時代でも存在するけど……でも、そのディストピアってなに?」

岡部「……いや、分からないのであればいい」

鈴羽「……?」

岡部(やはり、1%の壁を越えた事により未来は変わったか。問題はまゆりと紅莉栖の生死だ)

岡部「紅莉栖とまゆりはどうしてる?」

紅莉栖「お、おい! 勝手に人の未来を聞くなっ!」

鈴羽「どうって……う~ん」

岡部(この様子だと、まゆりと紅莉栖のどちらか、或いは両方が……流石に本人の前では答えられんか)

岡部「……答え辛いなら言わなくていい」

岡部(どちらかは助からない、なら俺はこの世界線を認めない。たとえ再び無限にループしようとも、Dメールを送って元の世界線に)

鈴羽「なんて言うか、二人とも年のわりに元気でさ~相手してるリンリンがいっつも疲れてるんだよね」

岡部「…………は?」

紅莉栖「……ふえ?」

鈴羽「もうみんな年なんだからリンリンの相手はあたしに譲ったらいいのに……ねえ?」

紅莉栖「ちょっ、ま、まって! 阿万音さん! そ、それどういう意味!?」

鈴羽「あっ、いけね。ちょっと喋りすぎたかな。これ以上は流石に話せないよ」

紅莉栖「お、岡部と私はどうなって」

岡部「鈴羽!!」

紅莉栖「」ビクッ

鈴羽「な、なに……?」

岡部「確認するが、お前の知る未来でまゆりと紅莉栖は生きているんだな?」

鈴羽「げ、元気だよ、二人とも。さっきもいったけど、元気すぎてリンリンが困ってるくらい」

岡部「……お、俺も、生きているのか?」

鈴羽「え? そりゃそうじゃん」

岡部(まゆりも、紅莉栖も生きている……? それにディストピアも存在しない……俺も、未来では生きている。そんな事がありえるのか? こんな、全てが都合のいい世界線など……)

岡部「終わった、のか……? 全部」

紅莉栖「岡部……?」

岡部「も、もう一度確認する……まゆりと紅莉栖は本当に無事なんだな?」

鈴羽「うん」

岡部「そう、か……」

岡部(何故この世界線に辿り着けたのか、一体どんなDメールを送ったのか、Dメールを送ればSERNがエシュロンを通してDメールの存在を知りディストピアに繋がる筈なのに、何故それが未来で起きないのか……疑問は山ほどある)

岡部(だが……)

岡部「終わったんだ、全部……」フラッ

紅莉栖「えっ、ちょ、岡部!?」

ガシッ

鈴羽「っと、危なかった。リンリン! どこか具合でも悪いの!?」

岡部「いや、何でもない……少し気が抜けただけだ」

紅莉栖「な、何でもないって、明らかに様子がおかしいじゃない!」

岡部「本当に、大丈夫だ、俺ならもう……だって全て、終わったんだから」

紅莉栖「終わった?」

岡部「……紅莉栖」

紅莉栖「なに?」

岡部「少し、こっちに来てくれないか」

紅莉栖「えっ? いいけど……」トテトテ

ぎゅっ

紅莉栖「ふぇ……ええっ!?」

鈴羽「り、リンリン!?」

紅莉栖「お、岡部!? な、な、何を!?」ドキドキ

岡部「……ありがとう、紅莉栖」

紅莉栖「べ、別に礼を言われる覚えはないんだど……」

岡部「俺は、お前に何度も助けられた。お前の言葉に何度も救われた。お前の存在が俺にとって励みだった。お前が俺を……導いてくれた」

紅莉栖「ど、どうしたの? 急にそんな……」

岡部「紅莉栖が傍にいてくれてよかった……お前を救えて、本当によかった」ムギュ

紅莉栖「あ、あの……」

岡部(紅莉栖がここに居る……この手でこの温かさを感じ取れる。俺は、この少女を救えたんだ……)

岡部「本当に、よかった……」

紅莉栖「えっ、あっ、わ、私も岡部の傍にここ最近ずっと居れてよかったっていうか、これからも傍に居たいというか……その」モジモジ

岡部「俺たちは、これからもずっと一緒だ」

岡部(この世界線では紅莉栖は死なない。ずっと俺の大切な仲間だ)

紅莉栖「はぅ……」

ピー、ガチャ

岡部(……? 手首に付いていたガジェットが外れた?)

紅莉栖「12号機が外れたって事はお互いの思いが通じたって事であって、お互いの思いが通じたって事は、つまり岡部は本心から私と一緒に居たいと思ってるワケで……あぅ」

鈴羽「うは~妬けるなあ。ねえ、リンリン」

岡部「なんだ?」

鈴羽「そろそろ説明してくんない? 今日のリンリンの様子がおかしい理由とか、さっきの言葉とかもろもろ全部」

紅莉栖「そ、そうよ! 私にだ、抱きついた理由とか! 下らない理由だったら承知しないからなっ!」

鈴羽「……抱きしめられながらそう言っても説得力ないよ」

紅莉栖「くっ……」

岡部「……分かった。全部終わったんだ、お前たちには全て話す。だが、少し長くなるぞ」

――――
――

俺は紅莉栖と鈴羽に全てを話した。

Dメール実験による数々の世界線移動
タイムリープマシンの開発、萌郁たちラウンダーの襲撃
何度タイムリープしても避けられないまゆりの死
SERNによって管理されたディストピアとなった未来
それを防ぐ為に未来から来たタイムトラベラー阿万音鈴羽
世界線変動率1%を超えるため、今まで送ったDメールの打消し、なかった事にしてきたラボメンたちの思い
打消すDメールが残り最後となった時に判明した、まゆりと紅莉栖のどちかが死ぬ非情な二択の選択
両方を救う方法を求めて狂うまで繰り返したタイムリープ
そのタイムリープの途中で発狂し、偶然送ったDメールによって辿り着いたのがこの世界線

岡部「……以上だ」

鈴羽「……」

紅莉栖「……」

岡部「信じる信じないはお前たちの自由だ。ただの厨二病の妄言だと切って捨ててくれても構わない」

岡部(前の世界線では紅莉栖とは合言葉を言って信じてもらったが……この世界線は俺の知る世界線とはあまりに違いすぎる。信じてもらうのは難しいだろうな)

紅莉栖「……岡部って、ほんと馬鹿ね」

鈴羽「うん、リンリンは大馬鹿やろーだよ」

岡部(やはり、信じてはもらえないか……)

岡部「信じないのなら、それでいい。……ただ、これだけは言っておく。今いる俺はお前たちの知る岡部倫太郎とは全くの別人だ。俺がこの世界線に移動した瞬間にお前たちの知る岡部倫太郎は消えた。俺が消したんだ」

岡部「おそらく、この世界線で前の俺がお前たちと築いた関係には戻れないと思う。ここに居る俺は別人だからな。そのことに関しては恨んでくれても構わない」

岡部(……例えこの世界線のこいつらから憎まれようとも、紅莉栖とまゆりが救えたのなら安い対価だ)

紅莉栖「はあ……ねえ、阿万音さん。どう思う?」

鈴羽「どうって、これはもう、一つおしおきが必要だね」

紅莉栖「同意」

岡部「罰なら受け入れるつもりだ」

紅莉栖「そ、じゃあまずは私から。岡部、目を瞑れ」

岡部「目を……?」

紅莉栖「いいから! 目を瞑れ」

岡部「わ、分かった……」

岡部(ビンタの一つくらいは覚悟するか……)

ぎゅっ

岡部「…………な、に?」

紅莉栖「ほんと、岡部って馬鹿っ! 馬鹿ばかばかばか! この馬鹿岡部!」グスッ

岡部(な、なんで抱きしめて……それに)

岡部「……何故、泣く?」

紅莉栖「まゆりと私、どちらも選べないから発狂するまでタイムリープした!? ふざけんな!」

岡部「……っ!」ビクッ

紅莉栖「あんた、下手すれば廃人だったんだぞ!? あんたが使ったタイムリープマシン……いくら私が作ったからって、こんなろくに設備もない場所で作られた物なんでしょ? 脳にいつどんな影響が出るかも分からないのに……」

岡部「手段を選んでる暇なんて、なかったんだよ。それに、お前の作ったマシンはガチだった」

紅莉栖「そういう問題じゃない!」

岡部「……お前、信じるのか? 俺の話を」

紅莉栖「何点か気になるところはあるけど話の筋はだいたい通ってるし、それに……」

岡部「……なんだ?」

紅莉栖「今朝のあんたの顔見せられたら、信じるわよ……」

岡部(……そんなに酷い顔だったのか)

紅莉栖「私はっ……! 岡部があんな表情をするまで苦しんで、人として擦り切れるまでして、生きたいなんて望まないよ……」

岡部「紅莉栖……」

紅莉栖「本当に、本当にあんたってバカなんだから……」ギュ

岡部「……悪かった」

紅莉栖「なんであんたはそうやって、いつも無茶ばかりすんのよっ……」

岡部「そうでもしないと、お前たちを救えなかったから……もうこれ以上誰かを犠牲にするなんて、俺にはできなかった」

紅莉栖「だからって自分を犠牲にしていい訳ないじゃない!」

岡部「……」

紅莉栖「今度また同じような事したら許さないからな」

岡部「肝に銘じておく」

紅莉栖「……あと、ありがとう、助けてくれて」

岡部「礼なんていらない。俺が勝手にやった事だ」

鈴羽「そういうとこ、やっぱり変わんないね。リンリンは」

岡部「……鈴羽」

鈴羽「君はさ、この世界線のリンリンと今のリンリンが違うって言ったよね」

岡部「さっきから気になっていたがリンリンは止めろ。まるでパンダに付けるような名前ではないか」

鈴羽「ええーリンリンってカワイイじゃん」

岡部「それは前の俺に対する呼び名なんだろ?」

鈴羽「前の前の、っていうけどリンリンはリンリンだよ」

岡部「違うと言っているだろ。俺はお前たちの知る俺とは……」

鈴羽「じゃあさ、どこが違うの?」

岡部「なに?」

鈴羽「この世界線でも記憶の有無? それともあたしたちに対する認識の違い?」

岡部「それに加えて世界線漂流の経験もだ。何度タイムリープをしたと思ってる? 俺の主観では何年も、何十年もあの三週間を繰り返している。同じ岡部倫太郎でも、もはや別人だ」

鈴羽「でも、君の本質は変わっていないよ」

岡部「俺の、本質……?」

鈴羽「そうだよ。普段は素直じゃなくて、でも根はどうしようもないくらいのお人好し」

岡部「……」

鈴羽「父さんと母さんの出会うきっかけを作るために協力してくれたリンリンも、違う世界線のあたしの為に心を痛めて謝ってくれた岡部倫太郎も同じだよ」

岡部「お前たちは……俺を受け入れるというのか?」

紅莉栖「受け入れるもなにも、最初からあんたはあんたよ」

岡部「だが、俺は……」

紅莉栖「ああもうっ! うじうじとあんたらしくないわね! あんたの名前を言ってみなさい!」

岡部「岡部、倫太郎だが……」

鈴羽「違うでしょ」

岡部「なに……?」

紅莉栖「あんたはこのラボ創設者にして、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真、だろ?」

鈴羽「ふーははは!ってね」

岡部「紅莉栖、鈴羽……」

岡部「ああ……そうだったな」

岡部(……ありがとう。紅莉栖、鈴羽)

――――
――

本日はここまでです。本編オカリンが因果律のメルト時点でタイムリープを繰り返し、偶然にもだーりん世界線に辿り着いたSSです。
過去にVIPで投下したのですが、途中で落ちてしまったもので修正しここで投下することにしました。
近いうちに再開します。それでは

随分と更新がおそくなりました。投下します。

次の日

あの後、今度は紅莉栖たちにこの世界線の事を説明してもらった。話を聞くと紅莉栖との出会いやDメール実験を行うまでは俺の知る世界線と殆ど同じ流れだった。

俺の知る世界線と違うのは、Dメール実験の最中にラボの資金不足が発覚したこと。電話レンジの多用により、電気代の請求額がとんでもない事になっていたらしい。その資金不足を解消するために俺を含むラボメン全員で様々な策を試したそうだ。

まず最初に行ったのが新たなガジェットを開発し、それを販売して儲けようという策だった。しかし誤ってその開発中の未来ガジェット12号機『だーりんのばかあ』を俺と紅莉栖が装着してしまい、しばらく行動を一緒にする嵌めになった。

最初は口論が絶えず互いにぎくしゃくした関係だったが、あるきっかけで12号機は一度外れたそうだ。その際に紅莉栖の恥ずかしいスイーツ(笑)全開の妄想が秋葉原全体に流れたらしいが……残念ながら詳細は教えてくれなかった。

その12号機の件があり、一旦ガジェットを売って儲ける策を保留にした俺たちが次に行ったのが、バンドを組み動画サイトに演奏を投稿して賞金獲得を狙う、といった策だった。

……我ながら何とも無謀、もとい常人には思いつかないような発想である。しかもボーカルをあの萌郁に任せたという。この世界線の俺は本気で資金を稼ぐ気があったのだろうか。

案の定、萌郁は歌う事ができなかった。そんな萌郁に俺が発破をかけ……この辺りの詳細は萌郁本人に聞かないと分からないが、無事バンドの演奏を成功させたそうだ。当然ながら賞金の獲得は無理だった。

ガジェット開発、動画サイトの賞金獲得と、連続して資金調達が出来ずに悩んでいる中、俺たちは偶然にも、メイクイーンが4℃の手により妨害を受けていた事を知った。なにやら4℃の奴が秋葉原のメイド喫茶を支配しようと企んでいたらしい。

それを防ぐため立ち上がった俺たちはフェイリスに協力し、人手不足になったメイクイーンでメイドとして働き、メイクイーンのPVを作成したりと、4℃たちに奪われた客足を徐々に取り戻していき、最後はダルと俺の秘策によって4℃を撃退したそうだ。

これ以来、ラボメンたちは手の空いた時にメイクイーンの手伝いをするようになったらしい……俺までも執事として駆り出されてると聞いた。

その12号機の件があり、一旦ガジェットを売って儲ける策を保留にした俺たちが次に行ったのが、バンドを組み動画サイトに演奏を投稿して賞金獲得を狙う、といった策だった。

……我ながら何とも無謀、もとい常人には思いつかないような発想である。しかもボーカルをあの萌郁に任せたという。この世界線の俺は本気で資金を稼ぐ気があったのだろうか。

案の定、萌郁は歌う事ができなかった。そんな萌郁に俺が発破をかけ……この辺りの詳細は萌郁本人に聞かないと分からないが、無事バンドの演奏を成功させたそうだ。当然ながら賞金の獲得は無理だった。

ガジェット開発、動画サイトの賞金獲得と、連続して資金調達が出来ずに悩んでいる中、俺たちは偶然にも、メイクイーンが4℃の手により妨害を受けていた事を知った。なにやら4℃の奴が秋葉原のメイド喫茶を支配しようと企んでいたらしい。

それを防ぐため立ち上がった俺たちはフェイリスに協力し、人手不足になったメイクイーンでメイドとして働き、メイクイーンのPVを作成したりと、4℃たちに奪われた客足を徐々に取り戻していき、最後はダルと俺の秘策によって4℃を撃退したそうだ。

これ以来、ラボメンたちは手の空いた時にメイクイーンの手伝いをするようになったらしい……俺までも執事として駆り出されてると聞いた。

メイクイーンの件で一応フェイリスから給料を貰ったらしいが、まだ資金は不足していた。

次に俺たちは再びガジェットの開発に取り組んだそうだ。開発に取り組んだ、と言っても今回は紅莉栖が密かにガジェットの開発を進めていたらしい。

映像を対象者の脳に送って投影する、というガジェットだそうが……どういう事か、俺は紅莉栖に勝手にそのガジェットの実験体された。

そうは知らずにリアルなドラゴンの映像を投影された俺はドラゴンが現れたと勘違いし、ルカ子と共にドラゴン退治の修行をしてそうだ。

それを後で知った俺は即刻、紅莉栖にガジェットの開発を中止させた。結局、資金を得られなかったらしい。

資金の調達が難航している中、ある日まゆりが遊園地のプールの無料券をガラガラで引き当てた。

気分転換にプールに遊びに行った俺はまゆりに泳ぎの指導をしてもらったり、紅莉栖と水泳対決をしたりと、中々楽しんでいたようだ。

プールに行ったその日、まゆりが、偶然にもその場に居合わした萌郁のバイト先である編集者の目に止まり、まゆりにモデルの仕事を持ちかけてきたらしい。最初は渋っていたそうだが、まゆりは自分の意思でそれを引き受けたそうだ。

何故か俺もまゆりの撮影の仕事に協力することになり、その際に出たバイト代でラボの資金不足問題は解消されたそうだが……そこで更なる問題が発覚した。

なんと、まゆりの両親が北海道に引っ越しする事になり、まゆりもそれに付いて行かなければならなくなったそうだ。俺はまゆりにここに留まるよう説得し、まゆりの両親にも頭を下げて残るよう頼み込んだらしい。

俺の必至の説得の末、無事まゆりはここに残る事になり、今は上野のおばの家で住んでいると聞いた。……まゆりの説得の際に俺がもの凄い発言をいたらしいが、それは当事者のみしか分からないそうだ。

ラボの資金問題、そしてまゆりの引っ越し問題を解決し、これでラボに平穏が戻ると思いきや、またしても問題が起きた。……ダルが鈴羽に惚れた。娘として父親に接する鈴羽にダルが勘違いしたらしい。しかもタチが悪い事にダルは鈴羽が自分に惚れこんでると思い込んだ。

この時の完全に勘違いしたダルの暴走ぶりは凄まじいものだったそうだ。あのフェイリスすら一蹴するほどの変貌ぶりを見せたという。正直、これを聞かされた時は鳥肌が立った。知らぬとはいえ、自分の娘に惚れるとは……

オタク趣味を捨て、コミケに行かないとダルが宣言したそうだが、ダルが嫁である阿万音由季と出会ったのが今年のコミマ。このまままでは自分が生まれなくなる可能性がある。そう思った鈴羽は俺に自らの正体を明かし、ダルをコミケに連れて行き、阿万音由季との出会せてほしいと頼んだそうだ。

俺と鈴羽は色んな策を試すが上手くいかず、鈴羽と一緒に行動していたダルが俺を目の敵にし、口論になり一時は絶交すらしかけたそうだが、なんとかダルをコミマに誘き出す事に成功。そこで出会った阿万音由季にダルが一目惚れし、無事ダルと阿万音由季の接点を作る事に成功した。

二人の出会いを見届けた鈴羽はそのまま未来に帰り、これで全て終わったと思ったら、また鈴羽がこの時代に舞い戻り未来を救うために、必要となる俺を未来に連れて行こうとしているらしい。

ちなみに俺と紅莉栖が12号機を再び付けていたのは、鈴羽の件の後に最近ラボメンガールズを誑かしすぎていると指摘され、それに俺が反論して口論になったところを見かねたまゆりに「喧嘩はよくないのです」っと、無理矢理12号機を嵌められたのが原因だそうだ。

岡部(昨日、紅莉栖たちに説明されたこの世界線の出来事を思い返してみたが……タイムリープなしの僅か3週間足らずでここまで濃い日々を送れたものだな)

岡部(世界線変動率が3%を超えたこの世界は依然とは全くの別物だと理解している。だが、まさかここまで違うとは……)

岡部(この先、やっていけるのだろうか……)

岡部「はあ……」

フェイリス「ため息を吐いてる暇なんてないニャ! お客さまがクロトをお待ちだニャン」

岡部「わ、わかった! いま行く!」

岡部(なぜ俺がメイクイーンで執事なんぞをやらねばならんのだ……)

岡部(白衣を奪われ、髭も剃られ、おまけに髪型まで弄られた……これではマッドサイエンティストを名乗れないではないか)

岡部「……お待たせいたしました、お嬢さま方。ご注文をどうぞ」キリッ

キャー!クロトサマー!

岡部(だいたい、クロトとはなんだ……俺の真名は鳳凰院凶真だ。断じてクロトなどではない)

クロトサマールカクントハドコマデイッタンデスカー?

岡部「はあ!?」

エッ?

岡部「あ、いや、ご、ごほん、失礼……る、ルカはともに働く大切な仲間であり、よき友人です」

キャー!モウテレッチャッテーカワイイー

岡部(誰だ! 俺ががルカ子の恋人などというふざけた設定を考えた奴は!?)

ルカ子「お、岡部さんの大切な……はぅ」

フタリトモラブラブー!

岡部「そ、そこだけ反応するな!」

ルカ子「す、すみません! 岡部さ、じゃなかった、凶真さん、でもなかった、えっと……クロト様」

岡部(……やはり、ルカ子は執事服ではなくメイド服か。正直かなり似合ってる……だが、男だ)

ウーン、ナンカキョウノクロトサマキャラガチガウヨウナ……

岡部「そ、そんな事はない! あ、いや、そんな事はないですよ、お嬢様」ニコッ

岡部(くっ、いきなり執事なんて無理だったか……?)

デモコレハコレデステキ!

岡部「……そ、そうですか。お褒めに戴き光栄です」

ガシャン!

岡部「」ビクッ!

岡部(な、なんだ!? 誰か皿を落としたのか!?)

紅莉栖「ほら、さっさと食べなさいよ、屑」

ウオオオオ!キョウハイチダントマシテニラミガキイテル!

岡部「……」

紅莉栖「ふん、あんたみたいな屑は犬みたいに這いつくばって食べるのがお似合いよ」

アイガトウゴザイマス!アイガトウゴザイマス!

岡部「oh……」

紅莉栖「あら、何見てるのよクロト。あんたもそこの屑共と一緒に這いつくばって食べたいの?」

岡部「い、いや、遠慮しておく」

岡部(紅莉栖も働いているんだったな。嫌々やっていると聞いていたが、あいつ結構ノリノリではないか……この店、こんな濃い奴らばかりで大丈夫か?)

ツンツン

岡部「ん?……フェイリス?」

フェイリス「……凶真」ヒソヒソ

岡部「なんだ?」ヒソヒソ

フェイリス「クーニャンに見とれてないでちゃんと働くニャ。今はクロト様なんだからちゃんとお客様の相手をしてあげなくちゃダメニャ」ヒソヒソ

岡部「み、見とれてなんかいない!」

フェイリス「にゃはは、ならいいニャン!」

岡部「まったく……人をからかいよって」

フェイリス「……あんまりクーニャンばかり見てると妬いちゃうニャ」ボソッ

岡部「なにか言ったか?」

フェイリス「にゃーんでもないニャ」

クロトサマー!

岡部「あっ、いま行きます!」

フェイリス「……もうっ」


――――
――

岡部「……やっと終わったか」

岡部(なんとか今日一日やってのけたが、接客業は慣れないな。先が思いやられる)

フェイリス「お疲れさま、凶真。ごめんね、お店の片づけまで手伝わせちゃって」

岡部「今日はお前に色々と迷惑を掛けたからな、これくらいは当然だ」

岡部(今日は何度フェイリスに助けられたか分からん。慣れない俺をフォローするために、こいつの負担も相当大きかった筈だ)

フェイリス「そんなことない。凶真は頑張ってるよ」

岡部「ん……?」

フェイリス「どうかした?」

岡部「あ、いや……」

岡部(口調に違和感があると思ったら、猫耳を外していたからか……あの世界線でも、そうだったか

フェイリス「でも、今日はちょっと初歩的なミスが多かったかな……何かあった?」

岡部「えっ?」

フェイリス「まるで初めて仕事してるみたいだったから……」

岡部「………」

岡部(こいつにも、本当のことを言うか……? だが、全てを説明するという事は父親の件についても話す事になる)

フェイリス「凶真……?」

岡部(知ればきっと悲しむ。父親を再び死なせた事を……そうさせた俺を恨む事なく、一人で背負いこんで……そんな思いを、この世界線のこいつにまでさせていいのか?)

フェイリス「……?」

岡部(そんな事、ダメに決まっている!)

岡部「12号機で助手と繋がれてたせいで昨日まで仕事ができなかったからな……少し抜けていた」

フェイリス「……」ジー

岡部「……っ」

岡部(……こいつは目を見ただけで考えが読めると言っていた。嘘だとばれているだろうが……何を言われようが、誤魔化し通す)

フェイリス「っ!……そういう事なら、仕方ないか」

岡部「えっ……?」

フェイリス「なら、明日からまた教え直さないとね」

岡部(……誤魔化せた、のか?)

岡部「すまない、迷惑をかけるな」

フェイリス「気にしないで。じゃあ、そろそろ帰ろっか」

岡部「もうこんな時間だ。一人では危険だ。家まで送っていく」

フェイリス「ありがと。でも、今日は黒木が迎えにきてくれるから大丈夫だよ」

岡部「なら、黒木さんがフェイリスを迎えに来るまで待つ。それくらいはさせろ」

フェイリス「……もうっ、猫耳を外してる時は留未穂って呼んでって言ったでしょ?」

岡部「!?」

岡部(この世界線でも、あの時と同じ言葉を言われていたのか)

岡部「そうだったな……留未穂」

留未穂「ねえ、岡部さん」

岡部「凶真でいい……なんだ?」

留未穂「パパとの思い出をくれて、ありがとう……とっても、幸せだった」

岡部「な、に……」

留未穂「マユシイも、もう大丈夫なんだね」

岡部「お、お前、まさか思いだして……!」

留未穂「私が岡部さんと過ごした時間を忘れる事はないって言ったのはあなただよ……?」

岡部(そんな、馬鹿な……)

岡部「あれは……! あんなのは……嘘だ。お前にリーディング・シュタイナーが再び発動して、しかも都合よく全部思い出すなんて保障はどこにもなかった……」

留未穂「分かってた……でも、こうして本当に全部思い出すことができた。パパと過ごした時間も、岡部さんが助けてくれたことも……」

岡部「俺は……お前にまた……」

留未穂「そんな顔しないで。私はあなたに感謝してるんだから……言ったでしょ? パパとの素敵な時間をくれて、ありがとう、って」

岡部「だが、それはお前にとって辛い記憶でもある筈だ! それならいっそ、何も思い出さなかった方が……」

留未穂「そんな事ない!」

岡部「……っ」

留未穂「確かにパパとお別れは辛いよ。でも、今度はちゃんと、あの時の事を謝る事ができた。パパに大好きだ、ってちゃんと伝えてから、お別れができたんだから……私は幸せだよ?」

岡部「留未穂……」

留未穂「それに……」ギュッ

岡部「な、なにを……!」

留未穂「あなたはと過ごした時間を思い出せたんだから、辛いわけないよ。だって、岡部さんは私を助けてくれた王子様なんだもん」

岡部「お、王子ではない、狂気のマッドサイエンティストだと言っただろ……」

留未穂「ふふっ、そうだったね」

岡部「お前にも感謝している、留未穂。俺がここに居るのもお前のお陰だ」

留未穂「こちらこそ、ありがとう岡部さん」

岡部「……しかし、なんというか、不思議な気分だ」

留未穂「……?」

岡部「リーディング・シュタイナーは誰もが持つ能力だ。だがその強弱には個人差がある。俺以外で明確に記憶を維持できたのはお前くらいだ」

岡部「世界線を超える度に世界は再構築され、周りの人々の記憶も書き換えられる。その事に孤独感を感じなかったと言えば嘘になる」

留未穂「岡部さん……」

岡部「だけど、いまは違う。俺が覚えてる事を、お前も覚えている……その事に、少し安堵している」

留未穂「大丈夫だよ、私は全部覚えてる……あなたはもう、一人じゃない」ギュ

岡部「……ああ。俺はもう、一人じゃないんだ」ギュ

留未穂「……うん」

――――
――

岡部(……どれくらい、時間がたっただろうか。さっきからずっと抱き合ったままだ)

留未穂「……」

岡部「そ、そろそろ離れないか……?」

留未穂「嫌、だった?」

岡部「そ、そんな事はない! だが、その、そろそろ黒木さんが迎えに来るだろ」

留未穂「そっか……じゃあ、仕方ないね」サッ

岡部(や、やっと離れたか……)

留未穂「あっ……」

岡部「どうした?」

留未穂「目にゴミが入っちゃった……」

岡部「なに?」

フェイリス「岡部さん、見てくれない?」

岡部「構わないが……」

岡部(この身長差だと少し屈まないと見にくいか……)

岡部「どこだ……?」

ちゅ

岡部「……っ!?」 

フェイリス「にゃはは! 油断大敵だニャ!」

岡部「お、お前!」

ガチャ

黒木「お嬢様、お迎えに参りました」

フェイリス「ちょうどいいタイミングだニャ。ご苦労さま、黒木。それじゃあね、凶真! 明日からまたみっちり地獄執事としての教えを叩き込むから覚悟しとくニャ!」

岡部「き、きさま! ひ、卑怯だぞっ!」

フェイリス「あ、それともう一つ」

岡部「な、なんだ……」

留未穂「全部思い出しちゃったから……私、岡部さんの事いままで以上に好きになったから!」

岡部「な、なに……?」

留未穂「だから、クーニャンとマユシイのは負けないからねっ!」

フェイリス「覚悟しておくニャ!」

今日はここまでです。次回はできるだけ早く更新できるよう、努力します。では

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月05日 (日) 05:49:08   ID: CU6ySZ2V

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