巴マミ「寄生獣?」 ミギー「二スレ目だぞ」(857)

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※AAはイメージです

1これはアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」と漫画「寄生獣」のクロスオーバーです。


2寄生獣側の人間は登場しません。まどかマギカ主体です。

あくまでまどマギ世界にパラサイトが飛来してきたらという設定です。

ただしおりこ☆マギカやかずみ☆マギカの登場人物は登場しません


3タイトル通り魔法少女ともえ☆マギカと言えるくらいマミさん中心です。

主人公はあくまでまどかじゃなきゃ嫌だという方は読まない方がいいです。


4クロスさせる際にバランスその他の調整の為色々独自設定を入れてます


前スレ 巴マミ「寄生獣?」

巴マミ「寄生獣?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358688893/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369549150


【前スレ修正箇所早見表】※もし抜けおちがあった場合言って下さい

>>246 >>250 >>573
>>247 >>251 >>858
>>248 >>305 >>989
>>249 >>306

更新

このスレ立てた翌日に目覚めてすぐ早見表を前スレに張ろうと思っていた事を思い出す
しかし時すでに遅く前スレは埋まっていたのであった
だからすっごい見にくいネ……
それはともかくとして前スレちゃんと埋めてくれてありがとうございました助かりました


前スレ>>990
本当ならまどかって一度これだと決めた事に関する意思は強いし
最初人見知り気味なとこはあっても仲良くなったら
すぐ打ち解けられる元気な子じゃないかって思うんですよね
(一週目の調子乗ってた時ほどではないにせよ)
ただ本編はマミさんの場合先輩でちょっと遠慮してたのと
きつい状況ばかりふりかかってああなってただけで

でもそういう強情さとかをいきなり本編の流れでやっても
うん?ってなるだけだと思ったんで
一か月前から、つまり本編でいうワルプルギスの夜までの期間熟考させたら
こういうのもありかなと思った訳です

~☆

『ほむらちゃん、仁美ちゃん、私、それにマミさんの

これから四人で一緒に毎日登校しませんか?』

という誘いのメールを就寝前マミはまどかから受け取った。

翌朝、まどかから通知された場所で三人と待ち合わせた後、

遅刻しない程度にゆったりとしたペースでマミは歩き始めた。

道を塞いで他の通行人の邪魔にならぬよう、

先頭にマミと仁美、それに続いて、

ほむらとまどかがそれぞれ隣同士、

二列に並んで学校を目指す。

仲良く会話のキャッチボールを交わしながら

テクテクきびきび歩いていく。

赤信号のせいでその歩みが止まる。

信号待ちで足を止めているマミの肩に

ほむらが突然手をかけて自分の方へと振り向かせた。

「何?暁美さん」

「握手しましょう」

「え?」

【昨日のあなたの提案を飲む事にしたから。これからよろしく】

当然腑に落ちないという対応をするマミに、

ほむらがテレパシーで自分の意図を補足する。

唐突過ぎて面食らうマミに構わず、

ほむらは自分からマミの手を掴みに行きそして強く握った。

「よろしく、巴さん」

その時いきなりまどかが握手している

二人の手の上に両手を軽く被せて言った。

「互いに友好の証に手を握り合った。

これでもうほむらちゃんとマミさん、

二人はれっきとした友達ですよね!」

まどかが眩しくなるような笑顔を浮かべている。

当の二人はそれを聞いて、

互いに困惑顔で目を見合わせ繋いだ手を解いた。

「あら、そういう事でしたら

私を仲間はずれにはしないで頂きたいのですけれど」

仁美が両手をほむらとマミの方にそれぞれ差し伸ばす。

二人ともぎこちなくではあるがその手をそっと取った。

「ほむらちゃん、マミさんとどうやって仲良くなるか

私に今朝の明け方、メールで相談してきたんですよ」

「ちょっ、ちょっとまどか。

その言い方はさすがに語弊があるわ!

私はただ敵対感情のない事を示すには何が一番……」

「ほむらちゃん。細かい事は気にしない、気にしない」

暁美さんが私と仲良く……。

前を見ると赤だった信号はとっくに青になっていた。

四人は慌てて横断歩道を渡る。

それから学校までは前にまどかと仁美、

後ろにマミとほむらで円形に手を繋ぎながら登校した。

マミは学校に着くまでずっと

はちきれんばかりの幸せな気持ちでいっぱいだった。

昨日ほむらに協力を提案した時との

まどかの契約に関する心積もりの変化、

それを釈明も何もしないまま黙って

ほむらとこういった形で協力関係を組むこと、

そういう懸念事項については余り深く考えなかった。

いや、あえて考えようとしなかった。

~☆

放課後、マミに今日の『魔法少女体験ツアー』は中止にして貰って、

ほむらは話したい事があるからとまどかを自分の家に招待した。

マミがほむらにとってこれ程都合の良い行動、態度をとり、

かつ争いの種なくこんな和やかな関係となれる機会は、

きっとあと何度繰り返した所でもう二度とやっては来ないだろう。

この絶好の好機を逃してはならない。

その為にほむらは一歩間違えれば

まどかの契約を後押ししてしまいかねない冒険に出る事に決めていた。

もちろん、まどかの悩みの種である『ひき肉ミンチ殺人』の

解決の方法も模索しなくてはならない。

けれどひとまずはまどかの契約を躊躇わせ、

その意思を萎えさせる事が一大事だった。

まどかもほむらのただならぬ様子から彼女が真面目な話、

それもおそらく自分の契約を止める類の話を

しようとしていると察していた。

しかしそう言った諸々をとりあえずは置いておいて、

ほむらはまどかを連れたまま公園に寄り道をする。

ほむらが公園に入ると、

ニャーと鳴き声を上げながら黒猫が彼女の足元に寄って来た。

「かわいいー!」

まどかが黄色い声をあげ黒猫を撫でようとする。

ところが黒猫は近づくまどかの手に

ビクッと身体を震わせたかと思うと、

さっと後ろに跳びすさり距離をとった

まどかが残念そうな表情をする。

「気にしないでまどか。

エイミーちょっと人見知りなとこがあるから……」

そう言いながらほむらは鞄からお皿と

キャットフードの入った小さな袋を取りだした。

まさかほむらがそんな物を当たり前のように鞄に入れて

持ち歩いていると思わなかったまどかは目を見張った。

「エイミー。エイミー」

キャットフードをよそったお皿を地面に置いて

ほむらが黒猫、エイミーを呼ぶ。

そして目の前で食事を始めたエイミーの背中を

ほむらは優しく撫ぜた。

「ほら、まどかも触ってみて」

「えっ?わ、私はもう良いよ」

「いいからはやく」

エイミーに無駄な負担をかけたくないという理由で

遠慮しようとするまどかの手を、

問答無用でほむらは黒猫の背中に持っていって触れさせる。

今度はまどかをチラリと見ただけで

エイミーはそのまま食欲を優先した。

それからしばらくの間、

ほむらとまどかはエイミーと戯れた後、

食後どこかに去っていく黒猫を見送って、

再び気を取り直しほむらの家に向かった。

その道中まどかが突如小さく呟く。

「あの子どうにかしてあげられないのかな……」

「どうにかって?」

先程黒猫に見せた打ち解けた態度が嘘のように

ほむらの声音は普段通りクールで素っ気なかった。

「だってあの子、ほむらちゃんが言った通り

確かにちょっと人見知りかもしれないけど、

一度慣れたらあんな人懐っこいのに

毎日一人ぼっちでかわいそうだよ」

「かわいそう……」

ほむらが足を止めて言った。

「本当にそう思う?」

「えっ?」

ほむらがそれまで話している間も

ずっと進行方向に遣っていた目をまどかの方に向けた。

「まどかの家は猫飼える?」

まどかは悲しそうに首を横に振る。

「ううん、私は猫好きなんだけどちょっと家の都合がね……」

「そう、それは残念だわ」

残念、

そう口にするほむらだったがその表情は無表情そのものだった。

ほむらが自身の長い黒髪をさっとかきあげる。

「今じゃ凄い私に懐いてくれてるエイミーだけど、

私がエイミーと初めて出会ったのは実はごく最近でね、

車に後もうちょっとでひかれかけてた彼女を

間一髪助けた事が始まりなの」

車に後もうちょっとでひかれかけてた。

そう語るほむらの声の調子はごく平坦そのもので、

それは明日の天気はどうなるかだろうかと

話しているような時と何ら変わらない程だった。

しかしそれだけにほむらが猫を助けた事を

まるで明日の天気の話くらい普通の事だと考えているようで、

いつものほむらの冷めた印象とその行為の温かさのギャップから、

まどかの耳には彼女の声が心地よく響いた。

ほむらが止めていた歩みをまた先に進めた。

「それから成り行きでエサをあげるようになって……。

私は病気の治療のため両親と離れてこっちに来たから、

今一人暮らしをしてるの。

だからまどかと違って私は彼女を飼ってあげられる環境にある。

でも、本当にそうしてあげる事が彼女にとって幸せな事なのかしら?」

「どういうこと?」

「だって私は魔法少女、いつ死ぬかわからない存在なのよ。

魔女に殺されるか何かして

もし私が突然失踪でもしてしまったら

エイミーの面倒は誰が見てくれるの?

それに私は色々と普段忙しいから

ほとんどの時間彼女と一緒にいてあげる事が出来ないし」

まどかが悩ましげな顔をする。

「でも、でもきっと一人ぼっちはさびしいよ。

私にはそういうさびしいって気持ちがわかるから、

だから助けてあげたいなって思うの」

ほむらがまた足を止めた。そして目をそっと瞑る。

「そう、そうやってこちらのしたい事をただしてあげるのって

結局の所こちら側の親切の押しつけ、

こちらのエゴではないのかしら?

私は何も彼女に飼ってくださいと直接頼まれた訳じゃない。

もちろんやろうと思えば彼女を

こちらの意思で家に連れて帰るくらい造作も無い事だけど、

それってつまり彼女をこちらの勝手な意思で

拘束する事とほとんど変わらない気がするの。

私にはだれに縛られる事も無く

毎日を自由気ままに生きていられる彼女の生活も

中々悪くない物だと思えるわ。

少なくとも私の家で暮らすという事を

明らかにそれよりいい物だと言いきれない程度にはね」

「そうなのかも、しれないけど……」

「だから私はこうしてあの公園に

キャットフードを持っていくだけに留めてる。

そうすれば彼女にも食べたければあそこに行けばいいし、

食べたくなかったら行かないっていう選択の余地が生まれる。

下手に人間に飼いならされて、

自由な生活を営むのに支障が出るってほどの干渉でもないだろうし。

私には仮に彼女を飼ったとしても

彼女の命に責任を持つ余裕は今ない。

自分の行為に責任を持てない以上、

もしかしたら相手の望んでいないかもしれない親切を

無闇に押しつけたくないって思う。

もちろんまどかにはまどかの言い分があるのでしょうけど」

まどかの見るほむらは真剣に猫を思いやる眼差しをしていた。

自分の思いもしなかった全く斬新な考えが、

ほむらというまどかにとって

羨望の対象である少女の口から語られる。

そういった自分とほむらの相互の比較も影響して、

まどかにはほむらの言った事がとても大人びており、

しかも完璧に正しい事を言っているように思えた。

「ほむらちゃんは優しいんだね」

「どうして?」

ほむらが不思議そうに首を傾げた。

「だって私エイミーの気持ちなんて

考えようともしてなかったもん。

猫の気持ちに立てる。

それが出来るのはほむらちゃんが優しいからできる事なんだよ」

それを聞いたほむらはフフッと、

鼻に詰まったような乾いた笑みをこぼした。

「どうかしらね、

私は貴女が思っているよりずっとずっと、

酷い人間かもしれないわよ?」

再度ほむらが足を進めた。

それにまどかも続いた。

更新終わり
『黒猫のメタファー』
語感がカッコいい気がする
今回意図している事の半分以上は伝わると思ってます
わかりやすいからね

という訳で
次回【刃渡り約13センチのナイフ】
まどかVSほむら(ある意味)
お楽しみに!

また内部サーバーエラーか……

それはともかく更新です

区切りのいいとこまで書くのめんどくなったので
今日はキリの悪い所でブツ切りし明日に持ち越し
明日書き終らなかったら明後日以後に持ち越しですごめんなさい

~☆

まどか達二人はその後何事も無くほむらの家に到着した。

ほむらに招かれ入った部屋の中でまずまどかの目に着いたのは、

テーブルの上に無造作に置かれていた

刃渡り約13センチほどの肉厚のナイフだった。

むしろその部屋にはそれ以外に特に目を引く物は見当たらず、

そこはえらく殺風景な部屋だという印象をまどかに与えた。

「お茶を入れてくるわね」

まどかとほむらはテーブルを挟み向かい合って座った。

ほむらが持ってきたお茶とちょっとしたお菓子をまどかは頂く。

そして一区切り、

気持ちの整理が両者共にひとまずついたと見ると、

すぐさまほむらが話を切り出した。

「まどか、お願い。魔法少女には絶対ならないで」

その言葉には断固とした意志が込められていた。

それを聞くまどかに困惑といった感情はない。

それを聞かれる覚悟はもう十分ここまで来る間にできていた。

ただその理由をほむらにちゃんと尋ねる必要がある。

「どうして?」

どうしてほむらちゃんは私をこんなに気にかけるのだろう?

まどかは彼女と出会ってからずっと疑問に思っていた。

転校してきてからこれまで彼女は私に、

それもおそらく私だけに自分から好意を惜しげもなく見せている。

それがまどかには嬉しかった。

『ひき肉ミンチ殺人事件』。

さやかと次第に疎遠になりつつあるような気がする事。

仁美が何かしら強い悩み、

それもさやかに関係すると思われる物を抱えている事。

それら全てに対して何も出来ない、

自分のどうしようもない無力さ加減に

まどかの心が参りかけていたそんな時、

ほむらは自分の話を何もかも真摯に聞き受け入れてくれた。

すっきり救われた気持ちがした。

凄くかわいくて、カッコよくて、

それでいていつも誰の前にいても堂々としている。

そんな彼女に自分は何かしらを強く認められている。

彼女という存在の強固さに、

彼女との友情に甘えもたれかかるのは気分が良かった。

別にそれまでの問題が何か一つでも

自らの手で解決できた訳ではない。

ただそういう無力さはほむらと一緒にいると

ほとんど考えずに済んだ。

それにまどかが何かをした訳ではないけれど、

何かをしてはいなくとも、

ほむらが来てから色々な事が前と比べて好転した。

たとえば仁美は、まどかと二人きりではなく

新しくほむらがその間に加わると、

それまでの感情の鬱屈の片鱗を引っ込めるようになって、

少なくとも表面上はだいぶ安定して見えるようになった。

それとほむらが直接関係している訳ではないが、

魔法少女絡みでさやかと一緒にいられる時間が

以前に比べれば格段に増えた。

確固とした何か根拠があるわけではないが、

ほむらの影響を受け自分の身の回りの事柄全てが

良い方向に転がり始めているような気がする。

それどころか自分の弱さすらも、

彼女の影響によってだんだんと

克服されつつあるんじゃないかとすら思えてくる。

きっとほむらちゃんが見てくれている物こそが

おそらくは私の中にある、私のまだ見ぬ「強さ」に違いない。

だからこそまどかにとっては自分の何に対して、

ほむらが他の人との差異を感じてくれているのかが重要だった。

そして考えを進めていくと嫌でも思い至ってしまう。

彼女が私に特別の興味を向けるのは

私の魔法少女としての素質のためじゃないか?

彼女が私とここまで特別に仲良くしてくれるのは

私を魔法少女にしない、

自分の邪魔にならないよう牽制しておく。

ただそれだけのためなのではないかと。

「私がまどかに魔法少女なんかに

なって欲しくないと思ってる。

それだけじゃ駄目?」

「駄目だよ、そんなの」

まどかが力強く言った。

ほむらがそれに頷く。

「そう、じゃあもっと詳しく教えてあげる」

ほむらがテーブルの上のナイフを右手で掴んだ。

そしてナイフをちょっとだけ

その手でもて遊んだかと思うと、

そのまま自然な動作で

自分の左の手のひらへ突き立て

肘の方に向かって真っすぐサッと引いた。

「ほむらちゃん!?」

まどかが青ざめる。

当然ほむらの左腕からは

彼女の血がドクドクと流れていた。

まどかの脳裏にあの時見た血に染まった悲惨な光景が

フラッシュバックする。

まどかが身体をテーブルへ乗り出した。

「いいから座ってて。大丈夫、痛くないから」

冷静にそうまどかに告げると、

ほむらはテーブルの上に自分の血に塗れたナイフを置いた。

じっとこちらを見つめる目に気圧され、

思わずまどかはペタンと元の位置に腰をつけてしまう。

しかし心配の眼差しはずっとほむらの傷口に注いでいる。

ほむらの右手が何度か左肘からその手の先までを、

傷口に沿って繰り返しゆっくりとなぞった。

それが終わる頃にはほむらの左腕は、

そこにさっきまで傷があったのだと示す

白い線状の傷跡を残しまったく完治していた。

「これが魔法少女になるってことよ」

「……どういうこと?」

ほむらは汗一つかいていなかった。

傷が治ったのは魔法の力のおかげだろう。

そう頭では思っているのに、

何故かそれがとてつもなく何か

不吉な事を表しているようにまどかは感じた。

ほむらが指輪の形にして身に付けていた

ソウルジェムを宝石に変形させテーブルの上に置く。

「魔法少女の魂は願いと引き換えに

キュゥべえの手によって身体から抜き取られ、

このソウルジェムという物質に作り変えられる。

これがある限り私達は不死身みたいなものだし、

裏を返せばこれが無くては生きていられない。

ソウルジェムの有効範囲は約100メートル。

その範囲外に私達の身体が出れば身体と魂の『接続』が切れて、

ソウルジェムが傍に戻ってくるまで文字通り死んでしまうの」

「……嘘。嘘だよそんなの!絶対に嘘!」

まどかがたまらず叫んだ。

ソウルジェムが身体から

遠く離れただけで魔法少女は死ぬ。

契約によって魂が身体から抜き取られる。

そんなことキュゥべえは

契約しようとする私に一つも教えてくれなかった。

キュゥべえが説明もなしに

そんな恐ろしい事をしているとは思えなかった。

というよりもより正確に言うならば

そんな事を信じたくなかった。

「嘘なんかじゃない」

ほむらが右手でまどかの左腕を素早く捉えた。

ビクリとまどかの身体が軽く跳ねる。

「私は長年の経験があるから痛覚を完全に遮断したり

あるいは感じたりを簡単に切り替えられる。

でもたとえそんな経験がなくても、

元から魔法少女達は強過ぎる痛みに

無意識にセーブをかけるようにできてるの。

魔法少女が戦いで負う傷というのはほとんどの場合、

私が今してみせたあんな行為で

出来るものとは到底比べ物にならない。

強過ぎる痛みというのは魔法少女の戦闘において致命的よ。

そんな痛みで動きが鈍るか、

戦いから注意が逸れてしまう事があれば

あっさり相手に殺されてしまう。

それに魔女や使い魔を相手にするには

人間の身体のままではあまりに弱点が多過ぎるし脆すぎる。

だから弱点を一点に、

それも自分でしっかり管理できるようにしてくれるソウルジェムは、

戦いにおいては確かに便利だわ。

だけど少なくとも私がこうだと言いきれるのは、

私達魔法少女が普通一般の人間とは

既にまるで別の『生き物』だという事」

違う生き物……。

ほむらがまどかの腕を離す。

ほむらの握っていた箇所が赤くなっていた。

まどかがうわ言のようにぽつりぽつりと呟く。

「証拠、証拠はあるの……?」

ほむらが首を僅かに傾けた。

「証拠?そうね、ソウルジェムを一度貴女に預けてから

まず100メートル圏外に出て貰って、

それからここに戻って自分の目で

横たわる私を見て確認って手順が一番確実かしら。

何なら私がこの場で人間だったら絶対死んでしまうレベルで

自らお腹を掻っ捌いて内臓その他を貴女に見せつけたっていい。

本来私の治療能力は大抵の新米魔法少女にも劣るお粗末な物だから、

魔力がもったいないしあまりやりたくはない。

だけどそれで貴女が納得してくれるというなら安い出費よ」

ほむらはじっと真剣な眼差しでこちら、

まどかを見つめていた。

ほむらの言葉がまどかの内に反復する。

ほむらが死ぬ。

ほむらのとびだした内臓。

『あの時』の記憶にほむらの言葉のイメージがふと重なる。

グラリと視界が大きく揺れた気がした。

もう良い。


もう十分、



もうたくさん、



もううんざりだ……。

「わかった……。信じる、信じるよ……。

私、ほむらちゃんの言ってる事全部」

信じる。

そう実際言葉にしてみると

まどかは何だかその事が至極真っ当に思えて来た。

そう、そうだよ。

ほむらちゃんがこんな真面目な話で嘘をつくはずないもん。

ほむらちゃんは良い子なんだ。

正しいんだ。

だから、だから誰かのあんな姿なんて私はもう二度と……。

吐き気がこみ上げてくる。

まどかは両手で口を押さえ首を深く垂れた。

今日の更新終わり
中途半端でごめんね

更新

次回から話が急展開の予定です
どこまで一度に書いて進めるかによるけれど

「大丈夫?まどか」

はっと気がつくと、

いつの間にかほむらはまどかとテーブル越しではなく、

肩が触れ合いそうなくらい近くで

まどかの顔を斜め下から覗き込もうとしていた。

「大丈夫、大丈夫だから」

「そう」

ほっとした様子でほむらが

まどかからほんの少しだけ距離をとった。

どうして、どうしてそんなに

平然としていられるのだろう?

まどかは不思議だった。

自分はもう人間じゃない。

そう口にして何で彼女はここまで動じずにいられるんだろう?

そんな恐ろしい事は今まで欠片も

まどかは想像出来ていなかった。

見通しが甘かった。

とはいえほむらの話を聞いてまどかの契約に関する意志が、

今の所まだ明確に決断していた訳ではないけれど、

それで弱まったという事ではない。

まどかにとって契約の正しさは

そんな小さな事で揺るぐような問題ではなかった。

ただ少しだけ、怖くなってしまった。

まどかは誰よりも自分が契約し

『願い』を叶える事の正しさを信じていた。

しかしもし、このままほむらに何も教えられず契約して、

後からその事実を知っていたとしたらどうだろう?

私は契約をきちんと後悔せずにいられただろうか?

私がしようとしている事の正しさは疑いようがない。

だけど仮に契約したとしてこれから、

私はほむらちゃんのようにいつも堂々としていられる……?

キュゥべえの話、さやかの話、マミの話が

思考の内をざっと掠める。

毎日の使い魔や魔女との殺し合い。

終わる事のないパトロール。

自分が助けられなかった人への積み重なる後悔。

何度も寄せては返す、

自分から遠くに捨てたはずの幸せな毎日の思い出。

ずっとこれまで何も出来なかった私なんかが、

本当にその辛さに耐えられるの…………?

「ほむらちゃんは契約前にその事を知ってたの?

マミさんは、その事を知ってるの?」

「いいえ、全然知らなかったわ。

巴さんはこの事を十中八九知らないでしょうね」

ほむらが事も無げに首を横に振る。

その時まどかがほむらの両肩を掴んで苦しそうに言った。

「何でほむらちゃんはそんなにいつも堂々としていられるの?

怖くないの?そんな事を勝手に黙ってされてキュゥべえが憎くないの?」

憎しみ。

まどかは誰かに対してそのような感情を

簡単に抱けるタイプではないが、

それでも『ひき肉ミンチ殺人事件』の犯人に対して

強い憎しみを感じた事はあった。

どうして、被害者の人がいったい何をしたとしたら

あんな目に遭わなくてはならないのか。

どうしようもない理不尽さに憤慨しそれを嫌悪した。

そんな彼女にほむらが静かに言葉を返す。

「本当の私は強くなんかない。

……それでも私は強くなければいけないの。

たとえ無理にでも強くいなければ折れてしまう。

私にはやらなくちゃいけない事がある。

絶対に成し遂げたい祈りがある。

私には他にもう選択肢なんてないのよ。

私にとって今一番怖いのは、

あの時もし契約せずに願いを叶えないまま

生きていたらと考える事かしら。

それに私にはキュゥべえの立場に立って物を考えるなら、

それ程あいつが悪い事をしているとは思えない。

あいつが起こす奇跡は紛れもなく本物よ。

本当なら奇跡はたとえ人の命ですら贖えるものじゃない。

あいつは色々と誤魔化しはするけど嘘だけは付かない。

契約に伴うリスクを誰かがきちんと認識できなかったとしたら、

その責任は私達魔法少女側にもやはりあるはずだわ。

だって自分の利益になる取引において

不利になる情報をなるべく隠して交渉しようとするなんて当然のことじゃない」

だけれど私が一つだけ、

絶対にキュゥべえを許せないのは

まどかを魔法少女にしようとする事。

だって魔法少女は……。

ほむらはその言葉を飲み込んだ。

これ以上まどかに何か不必要、不自然な情報を与えるべきではない。

考える材料を与ええてはならない。

魔法少女の魔女化、この事実だけは彼女に知られてはいけない。

これ以上は彼女の契約理由をやたらに増やしてしまうだけ。

おそらくここが引きどころだ。

「契約を一度してしまったらもう二度とそれは取り消す事が出来ない。

貴女が幸せな毎日を一度捨ててしまえば、

それはもう完全な形では貴女の元には戻って来ない。

お願い、まどか。幸せに普通の人間として生きて。

その為だったら私、頑張るから。

『ひき肉ミンチ殺人事件』の解決の見通しだってどうにかして立てる。

貴女の事だって絶対に私が守りきってみせる。

だからまどか、私に貴女を守らせて……」

私なんかにそんな事が実際可能なの?

今まで一度もできた事なんてないのに。

喋る内にほむらの声に悲痛な調子が増していく。

そして頭をかきむしり弱々しく俯いてしまった。

そんなほむらの様子を見ながらまどかが複雑な表情を浮かべ言った。

「どうして、ほむらちゃんは私なんかを

そんなに助けようとしてくれるの?

だって私達まだ出会って……」

どうして……?

まどかの言葉を受けほむらは『あの時』の会話を思い出す。

キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな……?

約束するわ。

絶対にあなたを救ってみせる。

何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる……!

ほむらの目から一筋涙が流れた。

ゆらゆらとほむらの身体が揺れる。

ほむらがほとんど無意識的にまどかとの距離をいきなり詰めた。

まどかは思わずほむらからのけぞってしまった。

しかしほむらはそれに構う事なくまどかに縋り付き、

その胸に顔を押し付け声を喉の奥から絞り出す。

「友達を……。まどかを助けようとする事に……。

何か……、理由が、必要なの……!」

ほむらが本気で咽び泣いていた。

それを受けるまどかには

ほむらの突然の変貌に困惑している余裕すらない。

ただほむらの心からの混じり気が無い

生の感情を初めて肌に感じた。

そこには堅苦しい理屈といった物は何もなかった。

時折ほむらの口から出される言葉は、

たとえ理由が見当たらなくても

まどかを助ける事は当たり前だから、

今度こそ、今度こそは……、

といった調子でまるでわけがわからなかった。

ほむらの様子はまさしく執着、

もっと言ってしまえば狂気と呼ばれる物に

最も近いようにまどかには思えた。

誰かに対して人間はここまで純粋な思いを向けられる。

まどかは初めて『人間』が恐ろしい物だと感じた。

ほむらのその姿はまどかにとって

魔法少女という存在の一つの終着点のように映った。

そして私が契約してしまえば、

そんな彼女の想いを思い切り踏みにじってしまう事になるだろう。


……初めて魔法少女の契約をする事に対して、まどかは本当に躊躇を感じた。

~☆

その夜自分の部屋のベットでいくら眠ろうとしても

まどかは中々眠りに就く事が出来なかった。

仕方がないのでリビングに何かを飲みに行くと、

そこには一人座ってテーブルでお酒を飲んでいる母親がいた。

鹿目家の家族構成は

鹿目詢子、鹿目知久、鹿目タツヤ、鹿目まどかの四人家族で、

バリバリのキャリアウーマンの母と

専業主夫の父の仲はいたって良好。

そして可愛い弟。

まどかにとっては全くどこにも文句のつけようがない

素晴らしい家庭環境だった。

「おっ、眠れないのかい?」

母がまどかに声をかけた。

「……うん、ちょっといい?」

まどかはテーブルの反対側に座った。

もごもごと口の中で何かを呟いてから喋り始める。

「これはたとえ話なんだけどね、

これをしたら絶対に正しいって思える行動があるの。

だけどそれをすると凄い悲しむかもしれない人達がいる。

それにそれをしてしまったらその人は

耐えられない苦しみをもしかしたら

背負わなくちゃいけないかもしれない。

絶対に正しい事のはずなのに、それをするのが怖い。

考えれば考えるだけそれをするには、

その人は弱過ぎて、ふさわしくないんじゃないかって思えてきちゃうんだ」

まどかは疲れ切った顔をしていた。

優しい表情でそんな娘を見つめながら母は言った。

「よくあることさ」

「えっ?」

「悔しいけどね。正しいことだけ積み上げてけば、

ハッピーエンドが手に入るってわけじゃない。

むしろ皆が皆、自分の正しさを信じ込んで

意固地になるほどに、幸せって遠ざかってくもんだよ」

「間違ってないのに、幸せになれないなんて酷いよ」

納得できないという声音がまどかの声には籠っていた。

「そうだね」

母が頷いた。

「こういう時ってどうしたらいいのかな?」

「そいつばかりは、他人が口を突っ込んでも

きれいな解決はつかないねぇ」

「そっか……」

まどかが酷く苦しそうな表情を浮かべた。

それからちょっと間をおいて母が言う。

「たとえ綺麗じゃない方法だとしても、解決したいかい?」

「うん」

「なら間違えればいいさ」

「ええっ?」

まどかの疲れの表情が少しだけ薄れ、

代わりに驚きの表情が浮かんでくる。

「ずるい嘘ついたり、怖いものから逃げ出したり。

でもそれが後になってみたら正解だったってわかることがある。

本当に他にどうしようもない程どん詰まりになったら、

いっそ思い切って間違えちゃうのも手なんだよ」

間違える……。

マミの顔、さやかの顔、家族の顔、

そしてほむらの顔がまどかの頭の中に漂い

そして消えていく。

「それで、本当に良いのかな?」

「納得できない時もある。特にすぐにはね。

言ったろ、きれいな解決じゃないって」

「…………」

まどかは何も言わず母親の顔をじっと見つめていた。

「まどか、アンタはいい子に育った。

嘘もつかないし、悪いこともしない。

いつだって正しくあろうとしてがんばってる。

子どもとしてはもう合格だ」

そう言って一口、グラスのお酒を飲んだ。

「ふぅ。……だからさ。大人になる前に、

今度は間違え方もちゃんと勉強しときな」

「勉強……なの?」

「若いうちは怪我の治りも早い。

今のうちに上手な転び方覚えといたら、

後々きっと役に立つよ。

大人になっちゃうとね、どんどん間違うのが難しくなっちゃうんだ。

背負ったものが増えるほど、下手を打てなくなってく」

「そうなのかな……。

それって本当なのかな……?」

まどかが悩ましげな顔をする。

もう一杯、母が今度はグラスのお酒を一息にあおった。

今日の更新終わり

詢子さんに間接的にでも
まどかが魔法少女になるのを止めて貰うSSって
何故かそんな見ない気がします
まあいいや

本編はマミ、さやか、杏子、そしてほむらって形で
魔法少女達が目の前で否定されていったから
まどかはああいう形で思い切って契約できたんだと思ってます

だから自分に害のある影響が目に見えて自分の周りに見当たらない時に
理想だけを掲げて契約をするのは、中学生の女の子だしコンプレックスもありまくりだし
詢子さんに間違えちゃえよと言われたらためらっちゃうのもありかなと思った訳です

散歩してたら空き地にバラバラ死体転がってたトラウマはそう簡単に解消されないでしょうけど

このペースで本当に終わるの?

そこまで言うなら三日連続で更新してやろうではないか
(今日がいつもと違って時間がちょっととれただけ)

>>63
こっからの展開はほぼ決まってるからエタらなければ終わると思います
そろそろスレ立て前から書きたかったゾーンに入っていくから
書くペース上がればいいんですけどね


~☆

それから約十日程が経過した頃、

その日マミは放課後まどかとさやかと

存分に遊んでから帰宅した。

まどかとさやかを対象とした魔法少女体験ツアーは、

初日から数日の間で結局うやむやになって

呆気なく自然消滅していた。

そしてほむらとの話し合いの末、

マミは魔女狩りのローテーションを

彼女と曜日ごとに組むという事に落ち着いた。

マミとしては毎日一緒に

魔女や使い魔と戦っても良かったのだが、

ほむらたっての希望でローテンーション制にする事にしたのだ。

今日はほむらの番だった。

非番の日、マミはクラスの友達と遊ぶ事が出来た。

クラスの友達と毎日では無くても自由に気兼ねなく遊べる。

それはマミに取ってほとんど新鮮な経験だった。

まどかとさやかとは魔法少女に関する縁が

なくなってしまったとはいえ

依然可愛い後輩である事に変わりはなく、

それに友人としての縁がなくなってしまった訳ではない。

むしろそれどころか最近は毎日登校していく中で

仁美との新密度がだいぶ進展しているくらいだ。

マミは毎日が楽しくて仕方がなかった。

色々と考えなくては不味い事がある気がしたが、

結局特に何か変わった事をせず

のんびりと毎日を過ごしていた。

ミギーがそれに対してどう思っているのかは

マミにはよくわからない。

だけどそんな事は大して重要な問題じゃないと思う。

マミは毎日ただただ幸せだった。

しかしマミのそんな幸せ絶頂な気分を

ぶち壊す事件がその日の夕方、

突然彼女に襲いかかった。

マミが自分の家に玄関のドアを開けると、

そこに広がっていたのは明らかな略奪の跡、

泥棒に侵入された嘆かわしい我が家の惨状だった。

パッと見で家中の物が出鱈目に散らかされている。

「うぁあ……」

意識せずうめき声の様な物がマミの口から漏れた。

荒れ果てた部屋の中をチェックした結果、

色々と金目のもの、衣服の特に下着類、

それと使わないからといつも家に置いていた

携帯電話が盗まれていた事がわかった。

さすがに家具類その他の持ち運びが難しそうな物達は無傷だった。

「こんな女の子一人暮らしの家に

ろくな金目の物なんてあるわけないじゃない……。

下着類は根こそぎって事は犯人はそれが主な目的な変態……?」

帰宅するまでの幸福一杯といった天真爛漫な様子はどこへやら、

悪鬼のような形相で部屋の中央をマミは見つめていた。

それ程興味がなさそうにミギーがマミに対して言った。

「マミは寝ている時間を除けば

この家にいる時間の方が普段圧倒的に少ないからな。

誰に目をつけられていてもおかしくはない。

泥棒からしたらまさに手頃な狙い目だったんだろう。

これまでにいつ盗みに入られててもおかしくはなかった」

「……それ、慰めてるつもり?」

「いや、そんなつもりはない」

「そう、それは残念だわ」

携帯止めて貰わなくちゃ、

電話番号とかメールアドレスは

控えのメモがあるから良いけども……。

それで土曜日になったら携帯を買って、

えっと、だから今の内にしとくべき事は……。

気晴らしにそんな事をブツブツ言ってみたり、

しきりにわざとらしい溜息をついてみるマミだった。

~☆

その次の日、

ほむらは前日キュゥべえに言われた

「指示」に従って見滝原の隣町のさらに隣町、

そんな普段は立ち寄る事のない町の

人気がないとある場所で、

顔も名前も知らない謎の人物と

その為にわざわざ学校を休み待ち合わせをしていた。

キュゥべえ曰くその人物がどうも『ひき肉ミンチ殺人事件』について

何か重要な手掛かりを握っているらしい。

そこまで調べがついているなら

自力で始末をつけたらどうかとほむらは考えなくもなかったが、

インキュベーターの事前に情報を全て開示しようとしない

嫌らしい遣り口には慣れていたし、

自分から情報を得る機会を

みすみす放棄してしまうのももったいないと感じたので、

とりあえず黙ってキュゥべえの言う通りに動いてみる事にした。

しかしほむらが思ったよりも

黙って待ち続けるのは数倍暇で苦痛だった。

こんなことなら学校で途中まで授業を受けて

それから体調が悪いと早退すれば良かった。

ほむらは何度もそう後悔しながらじっと待ち続ける。

そして待ち続けること優に数時間、

その日の授業を全て終えて

子供達が外に飛び出してくるだろう時間帯、

一人の無機質な顔をした「男」がほむらの前方から現れた。

待ち合わせ時刻ぴったり丁度だった。

ほむらはその「男」の顔を一目見て、

まるで作り物のようだという感想をまず最初に抱いた。

ほむらにゆっくりとした歩調で近づきながら「男」は言った。

「暁美、ほむらさんですね?」

「男」はほむらの前にスッと立ち、

取ってつけたようにニコリと笑いつつ

サッと左手を彼女に向かって差し出す。

その時ほむらの背筋に何かうすら寒い、

かつてマミに心臓を撃ち抜かれた時と同じ感覚が走った。

「どうかなさいましたか?」

男がにこやかに笑った顔をしながら言う。

「……いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」

こみ上げる違和感をどうにか振り払ったほむらは無意識的に「右手」、

左手ではなく何故だか右手を伸ばした。

「男」が一瞬笑いを引っ込め元の無表情に戻る。

しかしすぐさまにこやかな笑みを取り戻し、

出した左手をまずは引っ込めてから

右手を伸ばしてほむらの右手を掴んだ。

シュッと風を切る音がした。




ガキンという衝突音が辺りに響く。

ほとんど本能的にほむらは変身も済ませぬまま

左手にバックラー型の魔法の盾を出現させ、

それで左から首元にやってくる高速の斬撃を受けた。

「男」の顔のほむらから見て右半分が僅かに驚きの表情で歪む。

残った顔のもう半分は既にぐにゃりと

人間の顔では絶対にあり得ない変形をしていて、

細長く伸ばされた先端の刃が

ほむらの盾によってせき止められていた。

ほむらには自分が何をしたか、

そして今いったい何が起きているのかの判別がまだ付いていない。

それはそんな束の間の一瞬の出来事だった。

実は「男」が左方向に伸ばしていた

『先端』は一本だけではなかった。

左へと伸ばしていく途中で

一応の保険として分岐させていたもう一本、

盾と刃の衝突からワンテンポ遅れて振るわれたその刃が、

ほむらの盾を避けて下から彼女の左腕を付け根から切断する。

飛び散る鮮血。

ほむらの左腕が宙へと投げ出され

それからコロコロと少し離れた地面を転がった。

更新終わり

今まで話が進まなかったのが嘘みたい……!

次回は普通に水曜日だと思います
駄目だったら木曜日かそれも駄目だったら土曜日です

マミさんにクラスの友達だと!?
ミギーのおかげだな!

そしてほむほむがパラサイトと。。。

ほむほむは「盾」がなかったら
時間停止使用不可→\(^o^)/だっけ?

※修正>>75

七行目
× ほむらの盾を避けて下から彼女の左腕を付け根から切断する。

○ ほむらの盾を避け下から彼女の左腕を付け根でもって両断する。

十行目
× それからコロコロと少し離れた地面を転がった。

○ それからドサリと少し離れた地面に落ちた。

更新じゃー
書きたかった展開にこれから入っていく山場なだけあって
どこで切ってもちゃんと次回への引きになりそうです
はやく二部終わらせたいから切らないけれど

修正に関してはバックラー付きの腕はコロコロ転がらないと思うの
重要な所でやってしまった感があります
すいません

「男」の注意がほむらから盾に移る。

その時、腕を切断された

気を失いかねないほどの痛みがほむらを襲った。

「あァアアアッア゛ッアッ゛!!!」

ほむらは獣の咆哮にも似た声を上げながら

力任せに「男」の掴む手を振り解いた。

そしてすぐさま痛覚を完全に遮断し

魔法少女の変身を一瞬で済ませる。

「男」の想定通りなら

最初の一太刀で勝負はついていたはずだった。

保険はあくまで念の為でしかなかった。

だからほんの僅かにではあるが「男」は気を抜いてしまった。

それがほむらに「男」から逃がれる隙を与えてしまう。

思い切り身体を後ろへ引いた反動に身を任せ、

ほむらは盾が装着されたままの左腕へ

よろけつつもなるべく近づこうとする。

「男」の咄嗟の一撃が

ほむらの両足を薙ぎ払い容赦なく切断する。

ほむらがその場に崩れ落ち、

うつ伏せの状態で地面に倒れ込んだ。

両足がなくては盾の元までたどり着く事は出来ない。

一か八か、ほむらが必死の思いで意識を集中した。

カチッという音が聞こえ、ほむら以外の時間が全て停止する。

時間停止を併用しながら短時間で、

スッパリと綺麗に切断された部位を繋げ

その機能を回復するなど

ほむらの治癒魔法では到底成功する見込みがない。

足には構わずほむらは右手と身体だけを駆使して

左手まで這って進んだ。

そして一応左腕を肩にくっつけてから右手で盾の中身を探る。

表面上くっついただけで左腕はやはり動かす事は出来ない。

あれこれ悪戦苦闘の末、右手で拳銃を持ち

後は引き金を引くだけというとこまでほむらは持ち込んだ。

こいつがどの程度人間と同じ構造を持った生物か

定かではないが狙うなら心臓、心臓だ。

それが通用しなかったら後はその時考えるしかない。

ほむらが引き金を引く。

拳銃から発射された弾丸は

「男」に接触する直前の空間でピタリと静止した。

~☆

ほむらが生きるか死ぬかの

瀬戸際に立たされているのとほぼ同時刻、

そんな事が起きているとは露知らず呑気に

さやかとまどかが二人通学路を歩いていた。

仁美は今日も習い事という事で帰り道の途中で別れた。

上条は一人で帰宅し家でヴァイオリンを弾いている事だろう。

「うーん、まどかとこうして帰るのも

なんだか久しぶりな気がするし、

今日ははしゃいじゃいますかー!」

「お、お手柔らかにね……?」

いきなりのさやかのテンションについて行けず

まどかが苦笑する。

ほむらが転校してくるまでは、

仲違いとまではいかなくともギクシャクした所のあった

仁美とさやかの関係に釣られ、

どうしてもまどかもさやかに

普段通り接する事が出来ずにいた。

もしかしたらまどかの心の奥底には

かけがえのない親友である

さやかを上条に盗られてしまうという

焦りなどもあったのかもしれない。

それはともかくとして最近は、

前と比べ仁美の様子がかなり安定して見える為に、

まどかは仁美に対する何の気兼ねもなく

さやかと接する事が出来ていた。

まどかとさやかが二人仲良く、

これから何をしようかと

楽しそうに話をしながら下校している。






【まどか!さやか!丁度良い所にいた!

急いでボクについてきて!

病院でグリーフシードが孵化しかかってるんだ!】






しかし彼女達二人の頭の中に

直接聞こえて来たキュゥべえの声が、

そんな平穏の何もかもを一気にぶち壊しにしてしまった。

~☆

病院前、走るキュゥべえについて行った結果、

なるほど確かにそこには

病院の外壁に突き刺さったグリーフシードがあった。

まどかが慌てて助けを求めようとマミに電話をかける。

「なんで、なんで繋がらないの……!」

まどかが同じ操作を何度も繰り返し

マミの携帯と連絡を取ろうとする。

それを見ながらさやかが自分の携帯を操作し

今度はほむらの携帯の番号を……。

「ほむらなら間に合わないよ。

彼女には一つお願いをしていて、

今日はボクの用事を片づけに遠くに行って貰ってるんだ」

「はぁ!?なにそれ、アンタ何してんのよ!!!

マミさんの家の番号わからないっていうのにさぁ!」

さやかが叫び焦燥をキュゥべえにぶつける。

しかしキュゥべえはそれを受けても全く涼しい顔のままだ。

「まどかはマミの家の番号を知ってるかい?」

「ううん、知らない……」

「そうか、それは残念だ」

いったい何が残念なのか定かではない

いつも通りの無表情な顔をキュゥべえはしていた。

キュゥべえがさやかにだけテレパシーを飛ばす。

【さやか、マミの家まで走って行って彼女を呼んできてくれ】

キュゥべえのいきなり予告なしのテレパシーに

さやかは面食らい、その身体を強張らせた。

【な、何よいきなりテレパシーなんか使っちゃってさ】

【前にも言ったけどまどかの契約の意志は固い。

このままだと彼女は魔女と戦う為に契約してしまうだろう。

それを防ぐ為には君が急いで

ここにマミを呼んでくるしか方法は残されていない】

それを聞いてさやかは何やら合点がいったという顔をした。

しかしそれでもまだ疑問は残るようで

声には出さずテレパシーで質問をする。

【マミさん今、家にいるのかな?

だって携帯繋がらないし、

しかもただでさえ町のパトロールがあるのに……】

【ほむらに以前見せて貰った

彼女らが取り決めたおおまかな毎日のスケジュール表によれば、

準備その他でマミはまだこの時間は家にいるらしいよ。

マミは予定通り動くのが好きなタイプだからね。

かなり高い確率で家にいるだろう。

もしいなかったとしても他に当てはない。

その時はまどかに契約してもらうしかないかな。

病院なんかで魔女が孵化して大暴れされたら

一度に何人の犠牲者が出るかわからないし】

【だったら私が残れば……!】

【それじゃどのみち根本的な解決にはならないよ。

まどかよりはキミの方が圧倒的に足が速い。

まさしく適任ってものだろう?

大丈夫、マミは現時点家にいる可能性がかなり高い。

急げば別にそれほど危険な賭けになりはしない】

【私が行くよりキュゥべえが行く方が速くない?】

【……うーん、仮にそうしたとして、

ボクを待っている間に魔女が孵化し

結界が形成されたならば、

キミ達はまず間違いなくそれに巻き込まれるだろう。

ボクがいなくてはその中で

使い魔をことごとく避けるのはまず不可能だし、

魔女がいる所にマミを案内したり

という事も難しくなくなってしまう。

それにボクとマミはちょっとした『ケンカ』の最中でね、

彼女と直に会うのは少し都合が悪いんだ。

何しろ今は緊急を要する事態だから】

さやかが完全に納得したらしく何度もその場で頷く。

さやかがまどかにハキハキとした口調で言った。

「よし、私これからマミさんの家に走って行って、

助けてくださいって頼んでくる!」

「えっ?あっ、ちょっとさやかちゃん!?」

まどかからすれば先程から

キュゥべえとさやかは互いに黙って

見つめ合っているようにしか見えなかった。

そんな二人にさやかが口を開くまで

まどかは困った視線をずっと投げかけ続けていた。

まどかの戸惑いを知ってか知らずか、

さやかは荷物を足下へ乱暴に放り捨て、

それから猛烈なスピードで駆け出して行った。

去っていく彼女の背中をまどか、

そしてキュゥべえは暫くただじっと見据えていた。

~☆

ピンポーン、マミの家のチャイムが鳴らされる。

もう少ししたらいつも通りパトロールに出かけよう、

マミが丁度そう考えていた矢先だった。

玄関先でさやかが事情を説明する。

普通だったら大雑把な所だけ聞いて

後はさやかを伴いながら道中で詳しい事を尋ねただろう。

しかしどうしても聞き逃せない事柄があった。

まどかの契約の意志が固い、

ほむらがキュゥべえに頼まれた用事を片づけに

どこか遠くに行っている。

どちらも多少の違和感はあるが理解は出来る。

しかし一つだけ、マミがどう解釈しても

道理に合わない事がさやかの語る

キュゥべえの話の中にはあった。


「私、キュゥべえとケンカなんて

今まで一度もした事ないわよ……?」

混乱するさやかとマミ。

嫌な予感がした。

確認のためさやかの携帯を借りて

マミがほむらに電話をしてみる。

電話が繋がった。

「暁美さん、今どこにいるの?

今日キュゥべえ用事を頼まれたって聞いたけど……」

「用事どころじゃないわよ!」

珍しくほむらがマミの、

というより他人の話を強引に遮り、

しかも泣き声交じりに怒鳴った。

「あいつに言われた通りの場所でじっと待ってたら、

時間ぴったりに現れたのが頭が無茶苦茶に変形する男の化け物で、

今さっき殺されかけた所よ!どう!?私の話信じられる!?

私にも訳がわからないんだから無理に決まってるわよね!!!」

まさに極限状態と呼べる程にほむらは酷く興奮じていた。

ほむらの話を聞くにつれ、

対照的にマミの混乱していた頭は冷めついていく。

暁美さんが言っているのは

明らかにミギーの「仲間」の事だ。

キュゥべえは「ヤツら」の事を知っていた……?

いや、それにしたって話がおかしい。

いったい何が……。



……。



『それは不思議だね。

ボクの目にはどこにも異常は見当たらないよ。

何かおかしな所があったらボクにはわかるはずなのに。

まあ少なくともボクの目が正しければいつも通りの君の胸だ。

もしかしたら痺れの原因は何か精神的な物かもしれないね』




…………。




『聞かれなかったからね。

別にこの情報をマミが知らないからといって

双方に不利益が出る訳でもないだろう?』



………………。





『そのキュゥべえだって

素性の知れなさでは負けてないじゃないか。

どこから来た?何が目的だ?』



……………………。






どうしてキュゥべえは下校中の鹿目さんと美樹さんを

わざわざ病院まで連れて行ったの……?

「美樹さん!暁美さんに状況を説明しておいて!」

返事も聞かず、

マミはさやかに叩きつけるように

通話中の携帯を返して、

弾丸の如き勢いで玄関から飛び出した。

あの時、両親が死にマミだけが生き残った

忌々しい『交通事故』の時に味わった感覚、

それが今、マミの心の内を

徐々に浸食しながら彼女を強く責め立てる。

何か、私が考えるよりもさらに恐ろしい何かが

私の知らない所で着々と行われているのだ。

マミの魔法少女として培ってきた第六感が

確かにそう彼女に告げていた。

更新終わり

【まどか!さやか!丁度良い所にいた!
急いでボクについてきて!
病院でグリーフシードが孵化しかかってるんだ!】

【前にも言ったけどまどかの契約の意志は固い。
このままだと彼女は魔女と戦う為に契約してしまうだろう。
それを防ぐ為には君が急いで
ここにマミを呼んでくるしか方法は残されていない】

じゃあまどかを呼ぶんじゃないよ!
いくら「キュゥべえ」の誤魔化しにしても書いてる方からすると
明らかに矛盾しててこれで進めて良いのかと前からずっと悩んでましたけど
さやか達が完全にキュゥべえを信用している事
事態が緊迫している事と場の勢い
で深く考えず流されてもしょうがないかなと思ってそのまま書きました

今回は読んでる最中に違和感感じなかった人が
一人でもいればとりあえずはセーフって事で

次回のマミさんが戦う魔女は誰かなー(棒)


すまんが、違和感バリバリだったww
今回はキュゥべえの意図通りに動いたさやかちゃんの頭が残念だったということで…



焦ってるところにまくし立てられたから何となく押し切られちゃったんだと脳内補完した
魔女戦だってやばさでは同じようなもんだろうに
パラサイトに不意打ち食らってテンパるほむほむが可愛い

「契約の意志は固い」と認識しているのに数日間契約するそぶりを見せないまどかをさやかが疑問に思ってなさ気なのが気になってそっちは気にならなかったよ

二部下書き終わったー!後は打ち込んで修正じゃー!テンション上がるわー!
ただ明日どれくらい投稿できるかはわかりません
明日はちょっといつもと予定が違うので
それと多分10000字以内には収まってると思います

>>105
別に最初にさやかとまどかに接触するのをほむらを襲ったのとは別の「男」にして
病院まで道案内を頼んだとかにすればそういう違和感消すのは簡単なんですが、
重要なのはそっちではなくてマミさんがキュゥべえに
明確な疑いを抱いてメンタルを揺さぶられる必要があったんで……
でもそういうさやかに関する違和感消ある程度消せるだろう展開思いついたんで
もうちょっと納得できる風に頑張ります

>>108
魔女との戦いでは左手、両足切断の時間止め間に合わなければ即死みたいなのは
ほむらはほとんど経験してないと思います
ワルプルギスは勝てないっていう点では絶望的だけど時間停止できなくなったら
その時点でほむらは高確率で遡行して逃げるだろうし
普段強い魔女に会っても大抵は時間を止めて逃げられるだろうし
だからこのSS内ではマミさんに一度殺されかけた時が
本当にどうしようもなく死にかけた一回って事でお願いします

>>109
そっちはわざとというか何というか
二部の最後らへんまでお待ちください

少しで良いからそろそろ上条君が見たい

>>110
なるほどその解釈は納得
基本の戦法が時間停止から火器ぶち込みだから、身を危険に晒さず勝ってるだろうし
ループ繰り返してたら行動パターン覚えてますます楽勝モードだろうしな
戦闘回数のわりに経験は浅いっていうアンバランスな状態か

更新
今回はここで止めとくのが丁度好さそうという判断
出かけなきゃいけない時間にはたして間に合うかどうか
明日頑張ると思う、うん

>>79
もう皆さん忘れたかもしれませんが前スレで昼食一緒に摂ってた二人です

>>111
三部最初いきなり上条君です
おめでとうございます

>>112
もっと言えばめがほむ時代は臆病そうな性格からして無理しないだろうし良い先輩に恵まれていたし…
結界の外で握手したと思ったら人間の顔が変形したのと
結界内の最初からグロテスクな化け物だとやっぱりショックは違う気がします
細かい所は他にも想定してることあるけど今回は省略

~☆

マミが町中をひた走る。

グリーフシードが孵化しかかっている病院は、

キュゥべえに呼ばれるまでまどかとさやかが下校中であった事、

さやかがマミの家に来た時間の二つを考慮すると、

マミのここいら近辺に関するあれこれの知識において

一か所しか該当しようがない。

事実その病院に近づくにつれ、

魔女の結界特有の魔力の気配が色濃くなってゆく。

マミはそれを辿って病院の外壁に結界の入り口を見つけた。

まどかとキュゥべえはその周囲には見当たらない。

もし結界の発生に巻き込まれたのだとしたら

今頃は結界の最深部、魔女の元にいるだろう。

孵化するまでは魔女の近くにいても問題はないし、

魔女が孵るまでは使い魔に襲われる

リスクを考えればそこが一番安全だ。

魔女が孵ってしまえばどこにいても結局同じである。

即座に魔法少女に変身をして、

魔力の使用により魔女を刺激しないよう、

使い魔共には目もくれず結界内を駆け抜けようとする。

しかし大きな目玉模様の鳥よけみたいな顔をした使い魔が、

何匹もその四本足でテクテクと立ち塞がり

何度も何度もマミの進路を妨害した。

使い魔の侵入者に対するこの凶暴性、

魔女は既に孵っていると見てほぼ間違いなさそうだ。

まどかとキュゥべえが危ない。




あるいは……。

「そこをどきなさい!」

魔力の出し惜しみはせず使い魔を蹴散らし、

最速最短距離で魔女の元までマミは行こうとする。

「マミ!落ち着け!息を整えろ!

冷静になれ!いざという時に支障が出る!」

ミギーが胸元から大きく声を出し

マミに自分を一度省みる事を求める。

「無茶言わないでよ!……鹿目さんが!

もし鹿目さんに何かあったら私は……!」

走馬灯のようにまどかとの思い出の

一場面一場面がマミに思い返される。

まどかの笑った顔。

手を差し伸べてくれたまどか。

どれだけまどかへの影響力があったかはわからないけれど、

私は彼女に魔法少女にならないでと言った。

本当は彼女こそが本当に魔法少女にふさわしい人間かもしれないのに。

だからこそ私は彼女の幸せな毎日を絶対に守ってみせると決めた。

私の新しい大切な友達、彼女には無限の開けた未来があった。

こんな形で状況に迫られて契約するなんて事があってはならない。

……それとももしかしたら私の思いつかない

他に何か最悪の状況があるかもしれない。

マミはうっすらとそんな予感めいた物を感じていた。

両親、そして佐倉杏子の顔が思い浮かぶ。

また私は、気付かない内に取り返しのつかない失敗を…………?

~☆

辿り着いた先、マミの目にはこの結界の主、魔女の姿が映る。

マミの遥か頭上、極端に高さのある

四本脚に支えられた椅子に鎮座した

ヌイグルミみたいな外見をした魔女。

「彼女」は魔女としてはとても小柄な方で、

ペタンと椅子に腰かけているにしても

その大きさは人間であるマミよりも小さく、

ヌイグルミとしてなら大きめなくらいでしかない。

頭部と横に広がった耳らしき部位はピンク色で、

どこかで見た事のある気がする

包み紙に包まれたキャンディのイメージを彷彿とさせる。

顔色は全体的には真っ白、

両頬だけはちょっと薄めの黄色で丸く塗られ、

目は縦に長い楕円形の青色、

指の全く付いてない両腕はチョコレート色だ。

表は赤、裏は黒地のマントを羽織っていて、

黒とオレンジのまだら模様のマフラーを身につけている。

アニメーションの中でヒョコヒョコ動いていそうな

その愛らしい姿は魔女としてはあまり見慣れない物で、

ついつい油断してしまいそうになる。

結界の最深部、そこには魔女がいるばかりで

まどかとキュゥべえの姿はマミが見渡す限り見当たらない。

ここにいないのだとしたら……?

焦燥感ばかりがつのる。

「悪いけど、一気に決めさせて貰うわよ!」

マスケット銃を手元に一丁生成し

魔女の座っている椅子の足の根元めがけて

思いっきりフルスイングする。

座っていた椅子が壊れ、

体を支えてくれる物を失い

収まるべき場所を失った「彼女」は、

必然的に待ち受けるマミの真正面に落下してきた。

もう一度マスケット銃を、

今度は丁度いい所まで落ちて来た魔女を狙って振り抜く。

見事にクリーンヒットしたその一撃によって、

見た目相応に軽い魔女の身体はフワリと

面白いように飛んで行き、そのまま壁に激突した。

マミは周りに何丁ものマスケット銃を魔女が為す術なく

吹き飛ばされている間にとっくに用意し終えている。

ダァン!ダァン!ダァン!……。

リズム良く撃っては投げ捨て、撃っては投げ、

息つく暇を与えず弾丸を魔女の体内に打ち込んでいく。

そして魔女の身体が重力に従い地面まで落ちた瞬間、

身体の中に埋め込まれた銃弾がほどけ

リボンとなって「彼女」を拘束し、

上空まで持ち上げて停止。

魔女を決して動かない射撃の的にする。

マミがその時手にしていたマスケット銃に

新たなリボンを次々に巻きつけていく。

人間、それも一人の少女が扱うにはどう見ても大き過ぎる代物、

まるで巨大な大砲のような銃を形成し、それを軽々と右肩に担いで叫んだ。

「ティロ・フィナーレ!」

特大の『魔弾』が魔女の身体をまっすぐ貫く。

三度目の正直、魔女の身体がベタリと

へばりつくように地表に転がった。

これで大丈夫。マミはそう考える。

マミが魔女に背を向け早足で歩き始めた。

今の彼女には死んだはずの魔女よりも

もっと気がかりな存在がある。

鹿目さん……。鹿目さん……!

使い魔達との激しい魔力配分を考えない戦闘、

現在の精神状態の不安定さ、

マミのソウルジェムはかなり濁っていた。

マミが変身を解く。

ミギーに言われて最近は戦闘中

持ち歩くようにしていた小型のポーチの中には、

いくつかグリーフシードが入っている。

宝石状にしたソウルジェムに

取り出したグリーフシードを一つ近づけ……。






力なくダラリと臥した魔女の口から

音もなくズルリと『蛇』が這い出した。

「彼女」は「ヌイグルミ」に

収まっていたにしてはあまりにも大柄で、

「ヌイグルミ」の身に着けていた

マフラーと同じ赤と黒のまだら模様の体表、

人間を容易く咀嚼出来るほど鋭利な牙、

そして凶暴な攻撃性を備えていた。

サイズ差があり過ぎる人間なんて

ちょとした三時のおやつみたいにムシャムシャ食べてしまう。

恐るべき急加速で「彼女」がマミに無音で迫る。

まどかとキュゥべえが近くにいるかもしれないからと、

ここ最深部に来る前から

ミギーは魔法少女の衣装に大人しく包まれていた。

だからミギーは接近する

恐ろしい怪物の気配に気づく事が出来ない。

マミは言わずもがなだ。

ソウルジェムの浄化が終わる。

使用済みのグリーフシードをマミはポーチに戻した。

「鹿目さああん!鹿目さああん!」

マミが大きな声できっとどこかにいるはずのまどかを呼ぶ。

マミがちょっと首を曲げれば、

もうそこには今か今かとお腹を空かせた魔女の大きく開いた口が待っている。








アァァァン……。









                   バツン。





マミの首から上が魔女にモグモグ噛み砕かれる。

前に歩こうとしていた姿勢のままマミの身体は

腹這いの形でベシャリと倒れ動かなくなった。

~☆

マミの心の無意識にかなり近い領域、

鮮明な過去の記憶が颯爽とマミを通り過ぎていく。

すると突然、今も自分の意識はその場に居るんじゃないか、

そう思ってしまうほどはっきりした記憶がマミを強く揺さぶった。

潰れかけの車内。

両親の死体。

自分の身体から刻々と抜けていく命。

自分を取り巻く何もかも、

自分ではどうしようもなくて腹が立つばかりだ。

ムカムカしてくる。

うんざりだ。

こんな息のつまる所に一秒だって長くいたくない。

「……ボクと契約して魔法少女になってよ!」

白い妖精じみた姿をした不思議な獣の声。

「誰か……。誰でもいいから……。私を助けて……」

ああ、確かに自分の命を繋ぎたいと

あの時私は心の底から思った。

だけれど同時に、私を締め付ける狭苦しくて仕方がない

このどうにもならない何もかもを、

そう、カッコいいマスケット銃か何かで

誰かにスカッと無茶苦茶にぶち壊して欲しいとも

あの時の私は思っていた。








首が取れたマミ。

彼女の身体にかろうじて触れているソウルジェムが熱く、

その山吹色の輝きを増して発光し始めた。

更新終わり

ようやくこれを書き始める前最初に思いついた個所まで来ました嬉しいです

ソウルジェムについての秘密を知らない魔法少女が
頭を失ったらそのまま死んでしまうだろうとは思ってますが、
マミの願いが彼女を生きる方向へとひっぱているといった感じ
ただしそれだけでは……
という事で次回へ

乙ー
気になったんだが
このマミった状態でも魔法少女は生きてると考えると
頭ない状態でもミギーは生きていけるってことになるのか?

まどほむの方の生存報告たのむ

※やろうとずっと思っててさっき投下後やり忘れたしょうもないネタ

(パファ……)

クビガ  トレタ   ヨ……。

クゥ  ビィ  ガ……。

クビガトレタヨ……。

ヒドクカゼトオシ  ガ……。

ダレ  モ     ミ  ル   コトデキナイ……。

マミガタベラレタ ヨォ……。

テッテテーン♪  テッテテーン♪ (デュン、デュン、デュン、デュン、デュン)


>>130
次  回  ま  で  待  っ  て  く  れ

>>131
一カ月ルールは「作者以外でも」書き込みがあれば問題ないから大丈夫
二カ月ルールもあとひと月以上心配しなくて良いから大丈夫
もうちょっと進めたらこっちちょっと休んでそっち終わらせるから待ってて



朝急いでる時に焦って投下してはいけない
盛り上がりどころなはずの所のミスが明日まで今日我慢ならないから修正


※ここから修正
>>117
一行目
× どれだけまどかへの影響力があったかはわからないけれど、

○ どれだけ鹿目さんへの影響力があったかはわからないけれど、

>>123
四行目
× マフラーと同じ赤と黒のまだら模様の体表、

○ マフラーと同じオレンジと黒のまだら模様の体表、

>>126

× ああ、確かに自分の命を繋ぎたいと

○ ああ、確かに自分の命を繋ぎ止めたいと

更新のお時間です
今日でようやっと二部が終わります

~☆

魔女は時間をゆっくりかけてマミの頭を完食し終えた後、

全てを残さず喰らいつくそうと

その顔をマミの身体へと向けた。

背中が上を向いた状態で横たわるマミに、

何の不安も抱く事なく覆い被さる形で襲いかかる。

その時マミの胸元から「何か」が伸びた。

「それ」は猛スピードで近づいてくる

魔女の左目をブスリと突き破る。

予期せぬ激痛に魔女が激しく地響きを立てながら、

その巨躯をのた打ち回らせた。

魔女はダメージを受け過ぎた身体を

次々と分離の限界がくるまで脱ぎ捨て、

より強靭な肉体を現すという特性を持っている。

しかしミギーの攻撃では

身体を脱ぎ捨てるにはまだ中途半端すぎた。

不意打ちは出来ても

この魔女の本気の攻撃を何度も受け続けたり、

自力だけで倒すのは困難だろう。

そう判断したミギーは魔女の注意が逸れている間に、

遠くの物を掴んではそこまで

マミの身体を運ぶという動作の繰り返しで、

魔女からどうにか距離をとった。

しばらくして痛みのようやく引いた魔女が暴れ狂うが、

その頃にはもうミギー達は魔女の近くにはいない。

~☆

とりあえず本能的に命の危機を回避したミギー。

しかし依然としてマミには首から上がない。

死を覚悟しなくてはならなかった。

だがそれでも希望はまだあった。

本来ならマミはとっくに死んでいるはずなのだ。

首が無くてもその身体は

正常とはいえないかもしれないがきちんと機能している。

マミはただの人間ではなく魔法少女だった。

ミギーは忘れずにあの場から持ってきていたソウルジェムを

何となくマミに握らせてみる。





…………ブクブクブクブク。

泡立つような音がマミの首の根元からしたかと思うと、

そこから肉の塊が噴き出した。

マミの肉体が再生を始めている。

ミギーはそれを黙って見守るが、

マミの肉は噴き出すばかりで

決まった形をとろうとしない。

初めてての大がかりな、

それも普通の人間なら即死している損傷の復元、

マミは自分が生きるとも死ぬとも意識していない。

ただ、願いの影響が無意識に色濃く表れているだけだった。

噴き出した肉が復元すべき顔の明確なイメージ、

あるいは形成すべき顔の『型』が足りなかった。

このままだとマミの魔力が

ただ無為に費やされるばかりで終わってしまう。

努力するしかないな。

ミギーがその形を変え……。

~☆

左腕、それと両足の治療を時間はかかったものの

完全に終えたほむらが病院の結界前に立つ。

そこにはさやかがいた。

「ほむら!マミさんが……!マミさんがまだ……!」

現在の状況を全て理解しきれているとは言い切れないほむらにも

どんなまずい事が起きているかはわかった。

マミが中に出向いてこれだけ

時間が経ったにもかかわらず解けていない結界。

しかもそれが『病院の魔女』の結界なのだからなおさらだ。

この魔女は強敵であるばかりでなく、

それに加えてマミとの相性がかなり良くない。

一定以上ダメージを与えると

その度に『脱皮』しマミの拘束から抜け出て素早く襲ってくる。

一発で打ち止めになってしまうマミのマスケット銃では、

どうしてもこの魔女と戦う時に隙が生まれてしまいがちだった。

悪い想像がほむらをしきりに圧迫し彼女を離そうとしない。

時間が経てば経つだけ救出の可能性はますます低くなる。

急いで向かう必要があった。

「さやかはここで待ってて。私がどうにかしてくるから」

「待ってよほむら!私、私も連れてって!」

「何を馬鹿な……」

ほむらがさやかを嗜めようとする。

さやかは今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。

その姿が不覚にも過去の契約前のほむら自身と重なる。

何も出来なかった自分。

無力過ぎて何一つ関わることすら出来なかった自分……。

「…………良いわ、見せてあげる」

「え?」

「これから私の魔法で時間を止める。

私との接触が断たれたらあなたの時間も止まってしまう。

絶対に私の握った手を離さないで」

「えっ、ちょっと何を言って……」

ほむらが有無を言わさずさやかの右手を強く握る。

カチリ、その音と共に二人の時間を残し

他の全てはその動きを止めた。

~☆

時間停止したまま長時間結界内を探索した結果、

ほむらとさやかは「マミ」らしきモノを見つけた。

「マミ」らしきというのは、「それ」はマミの姿形はしてはいたが、

顔のあちこちから触手?が伸びて群がる使い魔達と戦っていたからだ。

「ひぃっ!またこいつなの……!」

ほむらは床に横たわった「マミ」らしき物を

先程戦った「男」と同じ存在と認識する。

さやかと片手を繋いだままほむらは盾から拳銃を……。

「ワァー!ちょっとタンマァー!ほむらストップー!」

慌ててさやかが間に入ってほむらを止めに入る。

「さやか!どいて!その化け物殺せない!」

「だぁー!待てって言ってるでしょうが!

こいつはミギー!私の知り合いなの!

不審に思う気持ちは私にもよーくわかるけど、

とりあえずは事情だけでも聞いてあげてよ」

さやかの必死の説得によって

とりあえずほむらは対象の射殺を取り止め、

代わりに辺りの使い魔達に向け取りこぼしのないよう

念入りに銃を連射して時間停止を解除した。

使い魔達の身体が穴だらけになる。

「ミギー!これいったいどういう事!?」

「さやか。それと暁美ほむら……か」

剣呑とした表情でほむらは盾に手をかけながらミギーを見つめる。

不審な動作を少しでも見せたらすぐに意識を集中し

時間を止めようという魂胆だった。

「簡単に説明するとだな、マミが頭を魔女に喰われた。

どうも自力で頭の形を修復するのは難しいらしい。

だから私がマミの頭が完全に元に戻るまで

その中身の『容器』の役割をしているという訳だ」

「……えっ?それってマミさん、大丈夫なんだよ、ね?」

さやかが不安そうな表情でおそるおそるミギーに尋ねる。

「ああ、一時はどうなるかと思ったが峠は越えた。多分大丈夫だろう」

「よ、良かったぁ」

さやかの顔に晴れやかな安堵の表情が浮かんだ。

「ただ……」

ギョロリとミギーがほむらに目玉を向ける。

ほむらの表情が一段と険しいものに変わった。

「治療に必要な魔力の量が多くて

手持ちのグリーフシードではだいぶ心許ない。

ほむら、今この場でグリーフシードの余裕があるなら

いくつか貸して貰えないだろうか?

マミは義理堅い人間だ。

貸しを作っておいてきみにとっても決して損はないと思うが」

ほむらが微かに迷いの表情を表に覗かせる。

ここでマミに大きな恩を売っておくのは

確かにほむらにとって悪い話ではない。

しかしこのミギーとかいう存在、

これを看過するのは果たして得策だろうか……?

だからといってワルプルギスの夜との戦いの大事な戦力、

今回かなり良好な関係を築けているマミを

しかもさやかの前で見殺しにするというのは…………。

あれこれ色々と考えたようで、

ほむらがそれにかまけた時間は実際は微々たるものだった。

「後でちゃんと巴マミに言っておいて頂戴。これは大きな貸しよ」

盾の中に前もって入れてあった

グリーフシードをいくつかミギーの方に投げた。

「ありがたい、助かるよ」

「さあ、さやか。行くわよ」

「えっ?私はここでマミさんを……」

「ミギー、さん?も自分と巴マミの身を守るだけで手一杯なはずよ。

私と一緒に来た方がまだ安全だわ」

「私としてもそうしてくれるとかなり助かる。

正直言ってマミ以外の人間を守っていられる余裕は今私には無い」

ほむらとミギーの言った事に納得したらしいさやかが

ほむらの方におずおずと右手を差し出す。

「しっかしマミさんがやられた魔女なのにさぁ、凄い自信だねほむら」

「当たり前、自信がなかったらあなたをこんな危険な所に連れてくる訳がない」

ほむらが黒髪をかきあげる。

カチリ、再びほむらとさやか以外の時間が止まった。

~☆

マミの家のリビング、

どうにか顔の修復が最後まで完了したマミを

さやかとほむらの二人は家まで運んできた。

マミが目を覚ます気配はない。

改めてこれまでの事とこれからの事を話し合おうとする

ほむらとさやかの前にインキュベーターが姿を見せた。

「キュゥべえ!あなたよくも抜け抜けと私の間に姿を……!」

「待ってくれ、ほむら。

ボクにも状況がさっぱり掴めていないんだ。

現在まどかの所在が全く分からない。

そしてそれだけじゃない。

まどかの家族の所在までもが誰一人わからないんだ。

キミ達に色々ここ見滝原で今

何が起こっているのかについて聞きたい事がある。

さやかは今回の事について何か知ってる事はあるかい?」

「……よく、わかんないけど、

まどかがいなくなったのは多分あの、

感情があるって言ってたキュゥべえのせいだ」

「…………感情のあるキュゥべえ?」

ほむらが随分と胡散臭そうな話だという顔をして

さやかの言葉をオウム返しに言いながら彼女を見つめる。

キュゥべえはいくつかの並べて置かれた座布団の上に寝かされたている

マミの方に首を向けていた。

「あいつはまどかの事を守らなきゃって言ってた……。

まどかが魔法少女になったら絶対

『魔法少女狩り』をしてる悪い奴に狙われる。

まどかをどうにかして止めなきゃいけない。

一人でも多くの少女、それに人類の命を救う事が

感情に目覚めた自分の使命だって。

でもあいつは自分はいんきゅべーたーっていう、

魔女を倒す為に魔法少女を作りだす群体の一個体に過ぎないから、

表面上はまどかを契約させようとしてるみたいに

ちゃんと動かなくちゃいけない。

だから私にまどかが出来るだけ

魔法少女にならないように働きかけて欲しいって……。

てっきり私もキュゥべえが毎日汗水流して陰で色々してるから

ずっとまどかが契約しないんだってそう信じてた。

あいつとほぼ毎日家で顔合わせてたけど、

嘘をついたりする悪い奴にはとても見えなかったし…………。

でもあいつはマミさんと喧嘩をしてるって嘘をついて

私をまどかから遠くに引き離した。

後ほむらに『用事』を頼んだのも多分あいつの仕業なんでしょ?」

「少なくともボク……、いやボク達は

ほむらに対して何か特別な用事を頼んだりしてはいないね。

感情が生まれた、とかいうインキュベーターが勝手に頼んだ事だろう」

「それでほむらが襲われたって事は

つまりあいつは敵ってことだよね……、多分」

そのインキュベーターが肝心な事実を捻じ曲げ、

むしろ彼らには似合わぬ、嘘をつきながらではあるとしても、

自分から契約前のさやかが契約を躊躇しかねない

『魔法少女狩り』などの情報を開示していた事にほむらは驚き目を見張る。

インキュベーターのいつもの行動パターンと

ほむらの中で上手く合致しない。

その個体はやはりどこかおかしいに違いない。

「その個体はまどかの素質については何か言っていたかい?」

「素質?そうだなぁ……。

まどかは変わってるとか、何がなのかは知らないけど

特別だみたいな事は良く言ってたけどそれくらいかな」

「……『カレ』は言う必要がないと思ったのか、

それともまどかの素質についてわざと言わなかったのか?」

キュゥべえが小さく小さく、

魔法少女のほむらの耳に

ギリギリ届くか、届かないかくらいの声で独り言を言う。

「なるほどね、それじゃあほむらは何か知っている事はあるかい?」

本当はキュゥべえの質問にダンマリを決め込みたがったが、

情報が欲しいのはほむらも一緒だった。

悔しいが情報収集にかけてはほむらより

インキュベーターの方が数段上手だ。

ここは素直に情報を吐いて、

後から調査内容を聞きだすなり何なりした方がお得だろう。

そう考えて、ほむらがこれは話しても

自分に害はないはずだと思う事を吟味しながら話した。

マミに「棲み付いている」らしいミギーについての話は全部省いて、

今日出会った顔の変形する一見するとただの人間な化け物についても話した。

「ありがとう二人とも、これで当面の調査の方向性は立てられる。

特別にまどか担当だったキュゥべえ、

……インキュベーターと連絡が取れていない。

まずはそいつについて洗いざらい頑張って調べてみる事にするよ」

キュゥべえが現れた時と同じように

あっという間にリビングから立ち去った。

部屋には二人、それと一向に目を開く様子のないマミが取り残される。

さやかが閉じた口をゆっくりと開いた。

「…………ねえ、ほむら。私が契約してまどかの場所を突き止めるって、どうかな?」

「はぁっ!?馬鹿な事を言わないで!」

魔法少女に待っているのはかなりの確率で

遅かれ早かれ何らかの失望だ。

それに今の幸せを手にしたさやかが耐えられるとは思えない。

しかもそれに耐えられようが耐えられまいが、

それではさやかはまどかが住んでいるべき世界から外れてしまう。

彼女はまどかの幸せな毎日の為に

本来欠かす事の出来ない人材だった。

イレギュラーが多発するにせよ、

せっかくのこれ程の絶好のチャンスが一度に揃った時間軸だ。

なるべくそれを損ないたくはない。

それにもうこの時間軸のさやかは

ほむらにとっては癪な話だが歴とした彼女の友達の一人だった。

「ふざけないで!あなたは何もわかっていない!

魔法少女になるという事がいったいどんなに恐ろしい事なのかをまるで理解してない!」

「そうだよ!何もわからないわよ!当たり前でしょそんなの!

じゃあほむらが私に教えて見せてよ!その魔法少女の恐ろしさって奴をさ!」

一度口を閉ざし、言うべきか、言わないべきか、ほむらは迷う。

しかし手段をえり好み出来る場合ではもう無い。

さやかは鋭い。

本当の事を言わなければ疑われるばかりで

彼女に契約を思い止まらせる事はおそらく出来ないだろう。

まどかをなるべく早く見つけ出さなければならない。

しかしその為にこんな所で魔法少女のさやかという厄介事を

新たに抱え込む訳にはどうしてもいかなかった。



「……魔女になるのよ」



「えっ?」



「ソウルジェムは魔法少女の魂そのもの。

ソウルジェムが身体の約100メートル範囲から離れたら身体活動を停止するし、

それが砕けたら魔法少女はあっさり死んでしまうの」



「そしてソウルジェムが完全に濁りきると魔法少女はね……」






「魔女になるのよ」

~☆




「体の調子はどうだい?すこぶる良い?それは良かった」




「ああ、ようやく全ての準備が整いつつある」




「まずは近辺の露払いからだ」




「えっ?なんで美樹さやかを殺さなかったって?」




「彼女には彼女ら全員の情報を

相当色々と教えて貰って世話になったからね。

その恩に少しだけ報いたってわけさ。

今更ちょっとくらい真実に近づく為の材料を知られた所で

インキュベーター共がボク達を妨害するのは不可能だ。

それをインキュベーターが巴マミ達に漏らすとは思えない。

確定していない憶測をペラペラと喋るような奴らでは決してないはずだ。

それに彼女をこっそりと殺してしまうことで

上条が積極的に前に出てくる危険を避けられる。

自分の彼女が失踪するのと、

彼女の友人が失踪するのとでは

彼も意識の度合いが変わってくるはず。

上条が前に出てこないだろうとわかっていれば

後は巴マミの動向だけをある程度注意しておけばいい」

※修正>>156

~☆




「体の調子はどうだい?すこぶる良い?それは良かった」




「ああ、ようやく全ての準備が整いつつある」




「まずは近辺の露払いからだ」




「えっ?なんで美樹さやかを殺さなかったって?」




「彼女には彼女ら全員の情報を

相当色々と教えて貰って世話になったからね。

その恩に少しだけ報いたってわけさ。

今更ちょっとくらい真実に近づく為の材料を知られた所で

インキュベーター共がボク達を妨害するのは不可能だ。

それをインキュベーターが巴マミ達に漏らすとは思えない。

確定していない憶測をペラペラと喋るような奴らでは決してないはずだ」





「それに彼女をこっそりと殺してしまうことで

上条が積極的に前に出てくる危険を避けられる。

自分の彼女が失踪するのと、

彼女の友人が失踪するのとでは

彼も意識の度合いが変わってくるはず。

上条が前に出てこないだろうとわかっていれば

後は巴マミの動向だけをある程度注意しておけばいい」




「まあ結局はボクが美樹さやかの魔法少女としての素質を

惜しんだというのがだいぶ大きいけどね。彼女は良い『素体』になる。

どうせ後で殺そうと思えばいつでも殺せるんだ」




「順番は上条恭介、暁美ほむら」




「そう、それと巴マミだ。美樹さやか以外は全員殺さなくてはならない。

上条恭介と巴マミさえいなくなれば

現状我々をまともに知覚出来る者はあちらにはいなくなる。

暁美ほむらの魔力量は『素体』にするには少ないし、

何より時間停止が危険過ぎる。

本当はあの奇襲で死んでくれているはずだったんだけど。手痛い失敗だ」




「巴マミを最初に殺したい?

ダメダメそんな事をしちゃ全然ダメだ。なってないにもほどがある。

確実に倒せる敵から殺せる敵を一人ずつ、

こちらの情報を握られて無いというアドバンテージを生かさなくてどうするんだ」



「念には念を入れて、だ。

ボクにも誰であれまともに戦って

キミを打ち負かせる奴がこの世にいるなんて思ってない。

か弱い仲間たちとは違って、ボクが作り上げたキミは無敵だ」





その語り合いはこっそりと、

ちょっとした物陰のさらに奥、誰も他には見当たらない、

ひっそり寂れた暗がりで行われていた。

【第二部 パラサイト共存編 終わり】

更新終わり
途中投下止まったのはちょっと遊んでたからですごめんなさい
おかげでまたミスっちゃった

>>130
頭が無いから体を操れなくてろくに動かせないし
そのまま維持するのにも魔力が必要になる
普通の魔法少女だと多分それすらなくて死んでる

A 無理

こんな所ですかね


切り札は完全生物なのかやはり

ほむほむ思い切ったな色々と
さやかが友人と認めるのが癪だとか
他の時間軸のは違うんかいとか
突っ込みたくはある

何時もなら更新しないレベルの長さだけど更新
ここで一度区切っとかないとちょっとインパクトありすぎというか
話が一度に進みすぎるので

>>162
一部前スレから引用

>それにほむらは最初出会った時からさやかの事が本当はあまり好きでなかった。
>彼女は自分にない物、契約前のほむらが欲しかったものを全て持っていた。
>ほむらが契約した後も本当に渇望した物を彼女は最初から持っていた。
>ほむらはさやかの様になりたかった。
>さやかに少しでも、彼女に対して何かしらの羨望を持っていると、
万が一にでも意識されるのはほむらにとってとても屈辱的な事だった。

この話の中ではさやかとほむらの間にこれまで友人関係はありません
どちらかというとほむらにとっては嫉妬の対象
アニメの「まどか、たった一人の、私の友達」だったり
「私は貴女を助けたい訳じゃない。貴女が破滅していく姿を、まどかに見せたくないだけ」
をほぼ額面通り捉えた結果みたいなもんです

それと話の中で仁美やまどか、それにマミ達と手を繋いで
「友達の輪」みたいな事をやった時にさやかはいない
だけどマミが食われた日、初めてほむらが手を差し伸べたとかも一応そういう意味の描写としてはやってます
自分で解説する恥ずかしさ凄いですが

~☆

それはまどかが行方不明になって数日後に起きた事件だった。

さやかは自分が魔法少女の運命を受け入れてでも

契約すべきかについてあれこれと悩んだが、

キュゥべえにその選択肢を言ってみると、

何故かその願いを叶えるにはさやかでは

素質が足りないという事がわかった。

マミは目を覚まさない。

一人まどかの捜索に全力を注ぐほむら。

あの日以降インキュベーターからまどか、

それとイレギュラーな「キュゥべえ」についての

有力な調査報告は得られていない。

事態は何一つ進展していなかった。

さやかは何もできない自分の無力さから

絶望に飲み込まれる寸前まで気分が落ち込んでいた。

その日上条がそんな彼女をちょっとでも元気づけようと

気分転換にショッピングに連れ出した。

所謂二人きりのデート。

上条の決めたデートプランに沿って街中を歩いていると、

上条が急にトイレに行きたいと言い出した。

近くの公衆トイレで済ませるから時間は大してかからない。

先に目的地に行っていてくれ、

と頑なに主張する上条の言葉に従い、

さやかは一人で目的地へ先に向かった。

しかし待てども待てども上条はやって来ない。

これはおかしいと心配になったさやかが

上条と別れた場所に戻るがそこには誰もいなかった。

心当たりのある公衆トイレに行ってみるが

その近辺には見当たらない。

携帯に電話してみたが繋がらない。

上条の家に電話してみても家には帰っていないとの事だった。

そして上条を探してうろうろ歩く中

さやかが偶然人気のない空き地を何気なく通り過ぎようとした際に、

運悪く視界の隅に『ソレ』を捕らえてしまう。

『ソレ』は顔も含めた上半身全てをひき肉状にグチャグチャにされた死体。

だからさやかが『その事実』に気づくのに多少手間取った。






『ソレ』は彼女の最もよく知る人物の死体。









つまりさやかと別れてから「何者」かに襲撃を受けた『上条恭介』の死体だった。

~☆

さやかが死体に近づいて行く。

その時彼女はまだそれが誰の死体か気づいていなかった。

ただ意図せず目に入った死体をどうすべきか考えあぐね、

とりあえずもっと近くで見てみる事にしたのだ。

近づけば近づくほど何か嫌な感覚、

背筋が凍るような悪寒が彼女を襲う。

ふと自分の足元に転がった松葉杖がさやかの目に入る。

その杖は非常に見覚えのある形をしていた。

さやかの動悸が激しくなる。

息が詰まる。

まさか……。



まさか……。







まさかそんなはずは……!

自分の目の確かさを疑いながら、

それが自分のただの滑稽な妄想である事を願いながら、

もう一度今度はしっかりその死体の様子を確認していく。

すると靴、ズボン、そう言った身につけている物が

さやかの記憶における今日の上条の服装と一致していく。

その死体の左手の薬指には、シンプルな指輪が嵌められていた。

それは上条がこれは将来二人が結婚する証だと、

先程半分お遊びでお手頃価格な指輪を

さやかとお揃いで買った物だった。

さやかが身を震わせながら己の左薬指を見遣る。

もう、言い逃れの道は残されていなかった。

「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

さやかの口からごく自然と、

彼女を根底から揺さぶる恐怖、

絶望の感情が叫び声となり迸る。

今日の更新は終わり
うん、なんだ、その、すまない予定通りなんだ

上条の活躍は次次回のどういう経緯で殺されたかを時間を遡って見て最後です

本当はエンディングについて今から言っちゃうのもどうかと思うんですが
まどかの願い事によって『やったー!全部元通りだー!私達の未来はこれから!』完
みたいなのは間違いなくやりません
大団円ハッピーエンド以外が嫌な方は
それは間違いなく来ないのでこれから読まない方がいいです

この話の第五部構成は 起承転転結 みたいな感じのつもりなので
書く方としては今までよりはこれからの「転」の方が余程面白いと予想してます
上手く書ければですけど

結局上条はこのSS的に寄生獣組に殺されるためだけに寄生されたのか…
ヒダリーがいるのにあっけないんだな

世界唯一の恭介ファンを自称する俺にとってこの展開はショックだった…
せめて無駄死にじゃない事を祈るほか無い

※修正

>>170
四行目
× 『ソレ』は顔も含めた上半身全てをひき肉状にグチャグチャにされた死体。

○ 『ソレ』は上半身のかなりの部分を損傷させられ、特に顔の見分けがつかなくなっている死体。

>>172
六行目
× その死体の左手の薬指には、シンプルな指輪が嵌められていた。

○ その死体の右手の薬指には、シンプルな指輪が嵌められていた。

上半身全てぐちゃぐちゃなのに左手普通にあるじゃねーかってのが気になって明日まで待てなかったから修正
それとヒダリーに指輪嵌めながら戦ったのか?って舐めプか余裕かともうアホかとね
後は寄生生物って何か死んだあとちょっと萎びる?っぽいような気もするけど
上半身の損傷が酷過ぎて違和感無かったって事でお願いします


なんか予想以上にダメージ受けてる人が多いので先に言っときますね
こっからの展開全く予想がついてない人はもしかしたら次回
予想外のダメージ受けるかもしれないから注意してね

注 意 し て ね

本当はさらっと次回行く気だったけど食欲なくされるのは困るので

>>177
ヒント 松葉杖
ミギーの細胞混じった新一&ミギーコンビで最初に後藤と会ってたら多分死んでたらしいから
松葉杖、戦闘経験なしでいきなりはさすがにどうあがいても無理だと思います
襲撃されて上条が生き残るビジョンが数ヶ月前から浮かばなかったから書いてる方としても仕方ないというか何というか

上条にヒダリーが寄生した意味は「さやかの契約なしで上条の腕が治ったら」と言うのがこのSSの中では大事なつもり

「仁美に恭介を取られちゃうよ。でも私、何も出来ない。だって私、もう死んでるもん。
ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ」

こんな甘っちょろい事は言わせないという退路を断たせてるってのが大きい
ただしさやかが「キュゥべえ」に見逃され生き残ったってのが上条の退路を断ってるってのもある
つまり色々あるんです色々

>>180
さやかを巻きこまなかっただけで少なくとも犬死ではないです
というか相手があまりに悪いです

更新
今日でこの話の方向性がはっきりするので
今までよりはペース明らかに落としますがご了承ください
普通に本読んだりしたいし片づけないといけない事があったり、
それとちゃんとここからの内容煮詰めたいので

~☆

どれくらいの間か定かではないが、

さやかは放心状態で上条の死体の前に立ちつくしていた。

「さやか」

どこからともなくインキュベーターがさやかの前に現れる。

素質を持った少女の強い願いを嗅ぎつけ契約を求めてやって来たのだ。

「恭介が……。恭介が……。恭介が……。恭介が……。恭介が……」

うわ言のようにさやかが上条の名前を繰り返す。

インキュベーターがチラリと上条だったモノの方を見た。

「ああ、確かにこれは上条恭介の死体だね」

インキュベーターの言葉がさやかの心をグサリと貫く。

認めたくない現実を改めて今一度突き付けられた気分だった。

さやかが言う。

「契約……。そうだ、契約だよ、契約!

キュゥべえ!私を魔法少女にして!願い事は上条恭介を生き返らせる事!」

そう、こうすれば何も問題はないはず。

良かった、まだ間に合うんだ。

さやかを温かい安堵が包む。

しかしキュゥべえはさやかの言葉に首をゆっくりと横に振った。

「キミの素質では足りないよ」

「えっ……?」

「ボクが願いを叶えるのに使っているエネルギーはね、

元々キミ達の魂に備わった感情をエネルギーに変換した物だ。

それなのにその一人分程度のエネルギーで

死んでしまった人間をあっさり生き返らせる。おかしいとは思わないかい?」

「キュゥべえには、キュゥべえには出来ないっていうの!?」

「ボクに、出来ないんじゃない。キミの素質が、足りないんだ。

例えばキミは上条恭介と同じ脳や身体という構造を持った

『物体』が目の前に現れただけでは、

彼が死から見事甦ったとは考えないだろう?

人間を正しく形作っているのは

肉体、記憶、それと特に大事なのが魂、この三つなんだ。

彼と全く同じ人間をもう一度この世に出現させるには、

奇跡の力でその人間の生まれた時から死ぬ時までの人生を

擬似的に全て再生する必要がある。

それは既に失われたはずの人間の、魂、記憶 身体の全てを

そっくりそのまま新たに創りだすのと同義だ。

そんな大層な願いは普通程度の魔法少女の素質しかない少女には

叶えられるはずがない」

「じゃあ、じゃあ誰だったら出来るっていうのよ!」

「そうだね、例えば一国の女王クラスの人間だったり、

あるいはまどかかな。

まどかだったら上条恭介の100人や200人軽く甦らせる素質が

どんなに少なく見積もってもあるはずだよ。

彼女はそれこそキミが言ってた

感情疾患を患ったらしい個体の言葉を借りれば特別だからね」

「……嘘。嘘だよそんなの。そんなのってないよ……、ううっ、うっ、うぅ……」

それを聞いたさやかが膝をついて

目から涙を流しながら嗚咽を漏らす。

何も、私には何も出来ない。

ああ、やっぱりそうだったんだ。

初めて自身の無力さをさやかが自覚するようになったのは

上条が交通事故に遭い入院した頃だった。

自分には傷ついた彼を救う事が、

いや、慰めることすら碌に出来なかった。

そして彼が不運な事故から大切なヴァイオリンを取り上げられ、

さやかにとって心配すべき存在となった事によって

初めて気付いてしまった。

自分には彼の隣に並び立てる物など

それまで本当は何一つなかったのだと。

ざっとさやかの特徴を並べれば

ちょっと人より運動が得意で、勉強は若干苦手。

人より少し活発な性格をしていてクラシック音楽を聴くのが趣味、

そんなどこにいてもおかしくないごく平凡な少女。

かたや上条は将来を誰しもから期待されていた天才ヴァイオリニスト。

どこにでもいるなどとは口が裂けても言えはしない。

そんな音楽の神様に選ばれた人間なはずの彼が

交通事故のせいでヴァイオリンを弾けない。

自分と同じ領域に落ちて来た上条を見ているのが、

いつかは治ると思っていても

大好きな彼の苦しむ姿を見る事がさやかには耐えがたく辛かった。

一刻も早くどうにかして救ってあげたかった。

幸いその怪我はさやかが特に何かをする必要も無く、

ヒダリーが上条の左手に寄生したために無事ことなきを得た。

しかしさやかにとって

自身が本当に頭を悩ませなくてはならない問題はその後にあった。

はたしてそれから後、

さやかは上条に対していったい何を「与えられた」のだろう?

ヒダリーが突然現れて困っていた上条を、

さやかは少しであったとしても手助けする事が出来た。

しかし、ただそれだけに過ぎなかった。

上条はその後念願のヴァイオリンを取り戻しそれに一心に打ち込んだ。

さやかにはそれを助ける事も、

そんな彼と並び立つのに必要な物も何もなかった。

彼とだけは対等な立場でいなくてはいけないというのに。

ある日いきなり愛しの上条から告白された時、

さやかは自分がヒダリーという秘密を

上条と共有しているという事実をとても特別に思っていたので、

何の気兼ねも無くただ自分の気持ちに正直に、

その告白を歓喜を持って受けた。

しかし上条と毎日、そういう恋人関係として

顔を合わせているとさやかはどうしても考えてしまう。

自分には彼と違って特別な才能は何もない。

それならいったい何を持って私自身は恭介の隣を歩いていけばいいのか。

ずっと自分だけの特別、自分にしか出来ない何かを探していた。

それさえあれば本当に上条の隣を堂々と歩く事が出来るはずだった。

もっと胸を張って自分の事を上条に見て貰えるはずだった。

しかしどこを探しても見当たらない。

それに比べて周囲の皆は魔法少女であるほむらやマミ、

才色兼備のお嬢様仁美、

人々の為に自分の全てを賭けて願い事をしようとするまどか、

誰もが特別な物を持っているように思える。

……ダメだよ、全然ダメだ。

こんなのじゃ、こんな私じゃ、恭介の隣なんて歩く資格なんてないじゃん。

それでもさやかはそんな思いは精一杯心の底に埋めて、

何も悩んでいないように見せつつひたすらがむしゃらに

一人もがいて、もがいて、もがいて、もがいて。

懸命にもがいてる最中あっ気なく上条恭介が殺されてしまった。

こんなふざけた話があるだろうか?

誰よりも好きなはずの人にとって

自分は最後まで与える存在にはなれなかった。

こんなはずじゃなかった。

あの時ああしていれば。

あの時ああしていれば……?

違う、そんな選択肢元からどこにもありはしなかったのだ。

それに恭介はもう死んだんだ。

帰っては来ないんだ。

もうさやかが上条に満足のいく自分を見て貰うには何もかも手遅れだった。

……………………。



………………。



…………。



……。



次第に沸々とさやかの心に上条を殺した相手に対する

何物にも代えがたい憎しみが湧き上がってくる。

血液の流れがどんどん凍てついていくような感覚を覚える。

恭介が何をしたっていうんだ。

あんなにヴァイオリンに愛されていたのに。

絶対に殺されちゃいけない人間だった。

だって…………。

……………………。



………………。



…………。



……。



違う、そうじゃない。私が、それを許せないんだ。

他の誰かが恭介にどんな期待をかけていたかなんて関係ない。

恭介をあんな目に遭わせた奴が、

私は胸が裂けてしまいそうなほど憎くて憎くてたまらないんだ。

だって…………。

……………………。



………………。



…………。



……。



殺してやる。

「キュゥべえ、だったら恭介を殺した奴を

この世から跡形も無く綺麗に消し去ってよ。

恭介を殺した奴が今もこの地上を

のうのうと歩いてるなんて私、我慢できない」

「……それも、キミの素質では無理みたいだよ」

「どうして?」

「わからない、何かしらの強い因果的な力が働いているようだ。

どうもその存在はキミの願いの力では干渉できないらしい。

一度諦めてほむらと作戦を練ろう。

それに最近ボクが様子を見に行った限りでは

多分数日も経てばマミも意識を取り戻すはずだ。だから……」

その時、さやかの頭の中にほむらが言っていた事が思い出された。

魔法少女になってはいけない。なったらあなたは…………。

しかしそんな忠告もすぐにさやかの意識から滑り落ちて

スルリとどこかに消えて行く。

上等だ。魔女にでも何でもなってやる。そんな事は怖くない。

……だから恭介、私を見て。

私あなたの為だったら死ぬのも、化け物になることだって怖くない。

だから私を見てよ恭介。

ねえ、恭介……。

だって……。

「じゃあさ、こんな願いの形ならどう?

恭介を殺した犯人を見つけ出して殺すための力が欲しい」

「…………その願いなら問題はない。

だけどねさやか、相手は得体のしれない」

「そんなのわかってるよ。契約してくれるの?それともしてくれないの?」

「……。わかったよ、素質を持った少女の願いを

言われるまま叶えるのはボク達の決まりだからね。例外はない」

キュゥべえの耳、触腕がさやかの胸に伸びる。



「さあ、受け取るといい。それが君の運命だ」



その日見滝原に、新たな魔法少女が一人生まれた。

~☆

翌朝、天候は雨の匂いなんて微塵も感じさせない、

自然と家から出てみたくなるくらいの晴れ模様で、

気持ちの良い陽光が燦々と見滝原市に降り注いでいる。

そんな素晴らしい陽気にもかかわわらず、

さやかは契約してから今の今まで歩き通しであった疲労と

燻ぶった暗い感情の為に最低最悪の気分だった。

恭介がされた事そのまま何かじゃ絶対に済まさない。

もっと大きな苦しみ、もっと耐えがたい地獄を与えてから殺してやる。

そんなどぎつく赤黒い殺意が力強くさやかの歩みを支えていた。

そしてようやく捜索の甲斐あって

外を出歩いている『犯人』を遠くにではあるが「匂い」で見つけた。

さやかの心が喜びと憎悪に打ち震える。

私が恭介の命をもてあそんだ奴を殺して、

私が恭介の敵をとってあげられるんだ。

その時さやかは一人だった。

最初、ついてこようとするキュゥべえを追い払った。

ほむらは捜索の範囲を広げているし、

眠り続けるマミの面倒を見る必要がある。

何よりこれは私が、私一人でやらなくちゃいけない事だ。

そう、私が初めて恭介に特別な何かをしてあげられるんだ。

興奮が疲れもそれ以外の感情も、何もかもを麻痺させていく。

しかし万全の態勢で戦いに挑むため、

治癒魔法を自分の身体にかけきちんと疲労を全て取り除いた、

さやかが断固とした意志を持って足を一歩、また一歩と進めていく。

~☆

時間が刻々と流れる。

さやかの目は先程から驚愕によって開かれたまま固まっている。

彼女は魔法少女の姿で剣身がかなり細く長いレイピアを握っていた、

「さやかちゃん」

さやかの名が彼女の目の前にいる人物によって述べられる。

「……その声で、私の名前を呼ぶな」

さやかの剣を握りしめた右手が激しく震える。

今一度強く強く指が千切れてしまうのではないかというくらいに剣の柄を握りしめた。

さやかの目の前の『人物』は怯えた声をあげる。

「ど、どうしたのさやかちゃん?怖いよ、やめてよ」

「その顔で、私に語りかけるな……!」

「さや……」

さやかが右足で踏みこみ地面を蹴り、

相手の心臓を狙いレイピアを瞬きするのもままならない速さで突き出した。

しかし服を突き破った所で

『彼女』の硬質化された胸によって防がれてしまう。

さやかは剣先が弾かれた瞬間、

即座に後ろに飛びのいて『彼女』から距離をとった。

さやかが地面に忌々しそうに唾を吐き捨てる。

「下手な芝居はやめろよ化け物。臭うんだよ、恭介の血の匂いが。

感じるんだよ、ヒダリーと同じ生き物が5匹アンタの中にいるって。だから……」

さやかが突如悲しく苦しそうな表情を浮かべ、

その先を口にする事を躊躇し口を噤む。

右手が小刻みに震える。

落ち着け、落ち着け、こいつは恭介の敵なんだ。

落ち着け……。

必死でその震えを左手で抑えつけようとするが効果はない。

さやかに「化け物」呼ばわりされた『少女』は

黙って彼女の次の言葉を待っていた。

静かに感情を込めてさやかが言う。




「私にはね、アンタがもう鹿目まどかなんかじゃないって、嫌でもわかっちゃうんだよ」

「…………なるほど。

上条恭介を殺した犯人を探す感じの願いでさやかちゃんは契約したから、

『まどか』ってキーワードに引っかからず

こうして私の存在がばれちゃったんだ。なかなか興味深い事例だね」

「彼女」は『鹿目まどか』だった。

まだ脳は元のまま頭の中に残されている。

しかしその身体を動かしているのは彼女の意思ではなくパラサイト、

それと彼女の魔法少女としての素質がもたらすほぼ無尽蔵の魔力だった。

今日の更新終わり
これで話の核心的なとこはお終い
この展開前スレ辺りから原作既読者辺りにはバレバレだけど
空気を読んで言わないで貰ってるとずっと思ってたけれどそうでもないんですかね?

それはともかく後の展開にもうこういうデデーン!な展開はないから
これからのレスに関しては展開予想でも何でも好きにしてください
ただし今からは話の展開が変えられない事を考慮した上でお願いします
展開予想が被ったとしてもそのまま行きます

とりあえず、上條はなんで狙われたんだ?
シンイチみたいに悪目立ちしなければ大丈夫かと思ってたが。

しばらく更新までかかるかも
あるいはかからないかもしれない
とりあえず時系列無視の大雑把次回予告的なので今後の展開を示唆しておきます
次次回が多分この話の内容的には一番きついです
本当はここら辺示唆するかどうか決めるのに
最初寄生獣読んでますかってアンケートとったんだけどなぁ……

>>216
理由必要ですかね?
人間に寄生した奴が『種を殺せ』って命令受けてるから新一に敵意を持つのは当然として
寄生失敗の犬っころも新一見ただけで敵意抱いてたからなー
サンプルの為新一生かしとこうとする田村さん的な立場の人はいませんし、
これの方だともうとっくに存在が相手方にばれちゃってる訳で

でもちょっと理由をあげとくならマミとの交友関係が近すぎる
さやかがパラサイトについての話を「キュゥべえ」に漏らしていないのは確定してるでしょうけど
どれくらいその交流について漏らしているかはわからない(特に決めてない)
パラサイト関連の交友があるとわかってるなら、上条も程度はあまり高くなくても危険因子に分類されると思います

インキュベーターはもちろんただ近づいたりしただけじゃパラサイトを見分けられない訳です
ところが300メートル範囲だと上条にはわかってしまう
しかも最近は松葉杖だけど自分で歩いたりしてる。
逆に言えば足が治りきる前の今のうちに殺しておけば非常に簡単な訳で
何かで不本意に上条に存在を知られてその情報がマミに、さらにインキュベーターにみたいのが多分最悪のパターン

でもやっぱり脳が残った人間だからだけでほとんど十分な気がします

>>217
宇田さんとかあの一件以外、パラサイトと戦ってはいないみたいだし
危険回避するように動けば大丈夫なのかと思ったんで

でもまぁ、魔法少女(and候補)と面識がある時点で正体バレも仕方ないか

改めて寄生獣を一巻から読みかえしてるんだが
マミさんは性格的にはバーーーローーの母親に似ている気がする
マミさんもお嬢様育ちっぽいし

豆腐メンタルはなくなったが
心が落ち着くまでの間に何をやらかすかわからないな

あんこちゃんは里美ポジか?

更新しないしない詐欺
もはや恒例の投下予定完成前に途中で切って投下
でもそれを考慮してもやっぱり投下ペースはしばらく落ち込んでいくと思います
読み直したりとか読みたい本とか色々あるし

>>221
こっちの話には微妙に関係ないけど宇田さんがどこに住んでるかわからないからなー
都市部に住まなきゃパラサイトと会う機会は中々ないみたいですからね
運の悪い新一ですら三年で自分で首突っ込んだ隣町関連とか島田とか
特殊なの除いて、あの街にいたせいでたまたま遭遇した例って一巻の犬、男、田村くらいのものでしょう?
とはいえ新一も神奈川のどこに住んでるか良くわかんないですけど
でも運が本当に無かったら何度も死んでますわね

>>223
>>224
誰と誰の性格似てるとか考えた事はないですけど
このお話の信子さんポジは間違いなくまどかです

~☆

さやかがインキュベーターと契約する数時間前、

上条はさやかと別れた後ずっと、

松葉杖を突いてなるべく迅速に街を歩き進んでいた。

久しぶりの激しい運動に度々息を詰まらせながらも上条がヒダリーに問う。

「はぁ、はぁ、……本当にきみの仲間が僕らを殺しに来てるんだね?」

彼の首元までヒダリーは、周りにいる数人の一般人達に気付かれぬよう

こっそりとその身を伸ばしている。

「ああ、間違いない。ヤツは我々への明白な殺意を持って殺しに来ている。

偶然ではなく既に前から目をつけられていたのだろう」

「やっぱり巴さんの携帯には繋がらなさそう?」

「さっぱりだ。何度試してみても応答はない」

一度歩みを止めて上条は大きくため息をついた。

そして息切れを整えながら天を仰ぎ見る。

「ふぅ。とりあえずは巴さんの家を目指そう。

まともに動けない僕と、あときみだけじゃ敵を倒すのは現実問題無理だ」

「それならこちらの方へ来るべきではなかった。

こちらよりは若干人通りの多いあちらを通って、

なるべく安全を守るために現時点での万全を期しておくべきだった気がする」

「駄目だよ、あっちから行こうとしたらせっかく別れたさやかと

途中で鉢合わせてしまう可能性が割と高い。

それにこっちの方が少しだけ近道だ。

どうせ追いつかれてしまったら人がいようがいまいが一緒さ、多分。

無関係な人達を巻き込みたくもないし」

「……まあどちらにせよ今更言ってもしょうがない話だな。

ただでさえ時間が足りないというのに」

ヒダリーが首元で身じろぎする。

それに触発されるかのように、

改めて深く息を一度吸い込んでから上条は再び歩き始めた。

「しかし恭介は自分をいつも疎かに、

さやかのことばかり優先しようとする気がある。

自分よりも誰かを真っ先に優先しようとするなんて

私には到底理解できない感覚だ」

「はは、きみにとっては確かにちょっと理解しがたい感覚かもしれないね。

でも僕からしてみればそんなに難しい話じゃないんだけどな」

上条はこんな切羽詰まった状況に陥っているにもかかわらず、

少し照れ臭そうに笑ってヒダリーに言った。

「僕にとっては自分なんかの事よりも

余程さやかが気にかかるって、

ただそれだけの事なんだから」

~☆

「鹿目さん……?」

努力もむなしく「追跡者」に前方に回り込まれ、

そのまま上条は誘いこまれるように

人気のない空き地へと追いやられてしまった。

そして上条も良く見知った人間、さやかの親友、

「鹿目まどか」が予想外にも上条の前に姿を現す。

それだと言うのにヒダリーは戦闘態勢を依然解こうとしない。

つまりは今僕の目の前にいる彼女は……?

上条は自分の目に映る「彼女」が

自分の見知った彼女では既にない事をいち早く悟った。

「上条君」

一歩一歩じっくりと「まどか」が上条の元へ向かい近づいていく。

その目は無機質で、そこからは何の感情も読み取る事は出来ない。

「ねえ、鹿目さん、で良いのかな?

……それはともかくとして

僕達がどうして君に襲われなくちゃいけないのか、

ボク達を殺す前にせめてその理由だけでも教えてくれないかな?」

「まどか」がその場でひたと足を止める。

そして暫く目を瞑り何やら思考した末に

その無表情を特に崩す事無く言った。

「単純にあなた達の存在が私達にとって邪魔だから、かな?」

「何か私達がここから見逃してもらえる術はないのか?」

ヒダリーが口を開きどうにか交渉で切り抜けられないか道を模索する。

「そうだね、きみが上条君の首を切り落として

こっちに引っ越して来るっていうなら少しは考えなくはないよ」

「まどか」は自分の左腕をポンポン叩きながら言った。

上条が素早く視線をヒダリーに走らせる。

殺される、ただそう思った。

「断る」

しかしヒダリーは上条の予想に反して、

なんと「まどか」の誘いを無下に拒絶した。

「腕から腕への移動が成功する確固とした保証がない。

こちらをいきなり殺しに来た者の言う事が

そんな簡単な言葉だけで信用できると思うか?」

返事を聞いたまどかがフフンと鼻でヒダリーの言葉をせせら笑った。

「何だ、そんな事もまだ知らないんだ。

もう私達が生まれてだいぶ経ってるのに

ちょっと不勉強が過ぎるんじゃないかな?」

「……確かに、それは言えるかもしれない。

私はどうやって恭介の左腕として

ヴァイオリンを弾くかについてばかりこれまで考えていたからな」

「ヴァイオリン?」

「まどか」が初めて表情を動かし、

不思議そうな様子をその顔に浮かべていた。

「意外と馬鹿に出来ない物だぞ。

……例えばきみは人間らしくこういう事を考えてみた事はあるか?

我々は何故生まれてきたのか。

私自身はいったい何のために生まれてきたのかと」

「そんなの決まってるよ」

ヒダリーの問いかけに自信を持って「まどか」が答える。

「この娘をこうして乗っ取る前、

初めて私が人間の脳を奪った時、

私に一つ命令が来た。

『この種を食い殺せ』ってね」

「違う、私が言ったのはそういう事じゃない。

その『命令』とやらについて私は何も知らないが、

誰か、あるいは何かから与えられた目的なんてつまらない。

私が言っているのは君、あるいは私、我々自身が己に自ら課す、

何のために生きるのかという動機について聞いているのだ」

「まどか」が口を閉ざす。

ヒダリーは変わらず自分の話を続けた。

「少なくとも恭介はそういう確かな動機を持って毎日を生きている。

彼にとってはそれがヴァイオリンを弾くという事なのだ。

最もそれがさやかを強く意識しての行為である事は否定しようがないけど。

……きみには恭介のようなそういう何かがあるか?」

「ヒダリー……」

上条がそっと呟く。

まどかは少しの間考え深げに眉をひそめ

何やら考えを巡らせているようだったが、

結局最初の無表情に戻って言った。

「…………まあ、どっちでもいいや。

魔力で少し変質したこの肉体に

きみがいきなり何の準備も無く移ってきたとして、

どうせ適合出来る可能性はほとんどないと言っていい。

しかもそのチャンスを自分からわざわざ断ったって事は、

これからきみは上条君と一緒に死ぬんだと今確実に決まってしまった訳だし、

そんなきみの言う事を一々深く考えてみた所でとんだ時間の浪費だ」

そして唐突にまどかがその両手を緩慢な動作で振るう。

その左右の腕はグンと全長を伸ばし、

それぞれ途中で分岐しながら上条に襲いかかった。

ヒダリーが攻撃に反応する。

ガキィン、ガキィンと衝突音が響く。

衝突の勢いに耐えられず上条が体勢を崩し尻もちをついた。

彼の松葉杖が足元に転がる。

目の前の早過ぎて全くついて行けない戦闘を、上条は茫然とした面持ちで見守る。

けれどそんな彼にでもわかってしまうほどにヒダリーの健闘の効果は薄く、

すぐに形勢は彼らにとって圧倒的に不利になってしまった。

明らかに「まどか」の刃の数がヒダリーと比べ倍ほど違う。

どうして「彼女」一匹の両腕が変形するのか、

乗っ取ったという事なら

攻撃してくるのは頭部なはずでははないのか、

「彼女」はいったい何者なのか、

そういった疑問が上条の頭に浮かんでは消えていく。

いくら思考を巡らしてみても、

自分がこの場面を生き延びるというビジョンが見えてこない。

「まどか」の攻撃の激しさがいよいよ増していく。

死がもう自分のすぐ傍にまで迫っているのだという

強烈な意識が徐々に上条を圧迫し始める。

上条は迫る死の恐怖から強く目を閉じた。

すると今度はこれから自分が死ぬ事ではなく、

さやかの事ばかりがやけに気にかかってくる。

別れる前最後に見たさやかの笑顔、

それに悲しい顔、怒った顔、驚いた顔……、

さやかの表情を次々に想起していくに伴って、

今までさやかと過ごしてきた印象深い記憶そのものまでもが

目の裏を走馬灯のように流れていく。

…………さやかにさっきすぐ行くからって言ったのに

嘘、ついちゃったな。

「へえ、思ってたよりもだいぶ粘るんだね。

ヴァイオリンを弾くっていう単純な動きの訓練が、

その攻撃をユルリと受け流す器用さに繋がってるのかな?

そうだとしたら面白い。これからは私も何か楽器をやってみる事にしよう」

呑気な「まどか」の声。

対してヒダリーにも上条にもそんな余裕は微塵もない。

しかし目を閉じた上条は酷く慌てていたり

死の恐怖に怯えていた訳ではなく、

むしろそういう思考が全て麻痺してしまう程に

頭の中ほとんどがさやかの事で一杯だった。

多分「彼女」が僕を狙ったのは、

ヒダリーが寄生しているのに

僕が人間の意識を残しているからだ。

さやかがわざわざ狙われる事はきっとない、大丈夫なはず。

でも普段さやかが街中を歩いていて

「食料」としてヒダリーの「仲間」に偶然襲われるような事が

あったとしたらそれは防ぎようがない。

巴さんはどれくらいさやかの事を守ってくれるだろう?

巴さんがさやかの傍にずっといてくれるなんて考えるのは現実的じゃない。

ああ、やっぱり僕がさやかを……。

そんな時、「まどか」の雨のように繰り出される一撃が

ついにヒダリーの防御を掻い潜って、



上条の心臓を深くまっすぐ突いた。

更新終わり

次回二本立て

1さやかvs「まどか」

2まどか乗っ取られの経緯


この話に全く関係ないけど普通の恭さやいつか書いてみたいなぁ……

QBもパラサイトも情がなく合理的なところは似ているのに
何でパラサイトの方が愛着が沸くのだろう?

寄生獣がパラサイト視点の話でもあったから感情移入しやすい
それだけの話

まどマギにQB視点の話があったら、
同じように異質な存在だと思いつつもある程度感情移入しているはず

>>246
別に寄生獣は感情が全くないわけでもないからな
一匹に個体差が合って様々みたいだし
じゃなきゃ原作で寄生獣同士で内部分裂おこして、それが原因で掃討されるわけがない
それに人間に寄生しなきゃ生きられない田宮玲子が言った様な「かよわい生き物」であるわけで…
死の恐怖だって多少は感じるし

QBは意思統一されてるみたいだし死の恐怖自体もないみたいだからな
試行錯誤して必死に生きようとしていた「生物」である寄生獣達とは違う

途中で送信しちった
何が言いたいかというと、地べたを這いずり回って必死に生きようとする「生き物」故の哀愁があるから
愛着がわくなんじゃないかなと


…なんちって

予定前倒し更新再び
これから一か月、更新できるのはおそらくあと一回出来るか出来ないかです
ここ一月忙しくなるので

次回内容をどれだけぼかして書くか悩んでます


>>246
>>248の人が大体言いたい事言ってくれてる気がしますけど
情はないけど結構人間っぽいですからねパラサイトは
田宮さんに至っては情に目覚めてるし

でも付け加えるならキュゥべえに感情移入できないのは胡散臭すぎるからじゃないでしょうか?
可愛らしい外見で近寄って重要な情報を隠し契約を結び、絶望した女の子を化け物にする
パラサイトはそれこそ人間より質素に一種類の生物食べて暮らしてるだけですから

広川さんの演説にある程度共感?出来るかもキュゥべえのあの理屈を許容できるかに関わってきそう
自分を度外視した大局的な視点のご大層な意見言う奴はまあ基本胡散臭い
キュゥべえの意見は自分を度外視してるとは言えない気がしますけど、彼ら個体云々は気にしませんからね
自分があるか、それともないかっての多分中々大きい

私自身はキュゥべえも広川も好きですけどね

~☆

さやかが右手に握ったレイピアの切っ先に意識を集中し、

全身をこれでもかと極限に緊張させる。

自然と汗が滴る。

相対する「まどか」は余裕を顔に滲ませていて、

両腕をだらりと前に垂らす格好をしていた。

さやかが息を大きく吸い込む。

そしてスッと短く息を吐き出す。

刹那、彼女は体勢を低く低く屈めながら、

まずは右足で地面を強く踏み込んだ。

鋭く右腕がしなり必殺の突きが一点目がけ飛ぶ。

ガキィンと音が鳴る。

高速で放たれた突きはあっさり

「まどか」の硬質化した肉体に弾かれ逸れてしまった。

刃と硬質化された肉体が接触した場にサッと鮮やかな火花がはじける。

さやかはその美しい煌めきを瞬時に、半ば直感的に感じ取った。

まず考えるよりも先に身体が動く。

地面を蹴って後退した。

すると丁度今までさやかの首があった位置を

恐るべき速さで太刀筋が通過していく。

魔法少女といえどとても目で動きを捉えきれる速さではない。

新米魔法少女の彼女でもその一撃には

思わず死の匂いを感じずにはいられない。

けれどもさやかは己に臆することも休むことも許さず、

次の突進を果敢にもすぐさま仕掛けた。

そして火花が散る。

だから後ろに退く。

火花が散る。退く。散る。退く……。

一連の生と死の境界ぎりぎりをすり抜けるような

際どいやり取りを何度となく執拗に繰り返す。

足を止めては駄目だ。

怖がっては駄目だ。

まどかと恭介の敵。

ヤツを殺せ、殺す。前だ、前に進むんだ。

さやかは憎悪と勇気を用いて己を深く叱咤していた。

『上条恭介の顔はぐちゃぐちゃに散らかしたから、

発覚はもう少し遅れると思ったのに。良くわかったね。』

などとこいつはさっき私に言った。

許せない、許さない。

絶対にこいつを許してはならない。

……でも何よりも、私が今我慢ならないのは、こいつがまどかの、

こいつの存在が私の唯一無二の親友まどかの生き様を、

一秒一秒刻々と穢し続けているという事だ。

「うぅらぁああああああ!」

力と体重がのったさやかの渾身の一撃が決まる。

押される力の強さに少し「まどか」は体勢を崩しよろめいた。

だけれどもその身体には傷一つ付いていない。

対してさやかのレイピアは必要以上の無駄な衝撃、

力が剣身に加わったせいでぐにゃりと曲がり、

そのままポキリと折れてしまった。

瞬間使い物にならなくなった剣を手早く投げ捨て、

同時にさやかは新たなレイピアを生成し直しその柄を握る。

そして半ば無意識的に剣を振るい「まどか」の反撃をいなした。

それから油断なく身を引いて、一度酷く乱れた呼吸を整え直す。

「まどか」はとっくにもう体勢を立て直していて、

そんなさやかの一部始終をお気楽そうに眺めていた。

……これではっきりした。

私がどんなに力押しをした所で

この強固な装甲を突き破る事は出来っこない。

さやかが一歩足を進める。

「まどか」は動かない。

現時点、私の首が身体とこうして繋がっていられるのは、

アイツが手加減をしているからだ。

自分が今相手にもて遊ばれているという口惜しさから

さやかは強く唇を噛み締める。

『さやかちゃんとなら、丁度良い身体を動かす練習になりそうだ』

ヤツはそう言っていた。

事実ヤツはまだ私に片手一本を伸ばし振るってきているだけ。

ガリッ。

憤怒の余りさやかは唇を噛み切ってしまう。

赤い血が口元に垂れる。

いいさ、好きに構えていると良い。

油断したいのなら存分に油断させておいてやる。

歴然とした戦闘力の差から言って、

ヤツのごく僅かな隙にどうにかして付け込むくらいしか

私には勝機の目は思い至らない。

きっと、あの絶望的に硬い装甲にもどこかに隙があるはずなんだ。

あいつの身体の中には五匹の「化け物」がいる。

つまりそいつらが身体の部位をそれぞれ担当して、

全身を覆う鎧となっている訳だ。

確実とは言い切れないかもしれないけれど、

その装甲にはどこか穴があるに違いない。

全身を硬い装甲で覆っていたとしたら

おそらく動きが鈍ってしまうはずだ。

どこかに攻撃の通る「隙間」がある。

…………だけどもし、その微かな隙すらも

私の妄想に過ぎなくて、本当はなかったとしたら?

不意にさやかの足が軽く竦む。

歯の根が上手く噛み合わない。

なかったとしたらいったいなんだ?

そこに待っているのは私が戦って殺されるだろうって未来だけだ。

何も怖い事なんてないはずだ。

さやかは奥歯を噛み締めグッと足を突っ張る。

本当に恐ろしい出来事はもう過ぎ去ってしまった。

自分の命が、死がいったい何だと言うんだ。

恭介が死んだんだぞ。

それにそう、まさにこの感覚こそが恭介の感じていた物だ。

死の恐怖が深まれば深まるだけ、

それに勝る怒りがさやかの心を塗りつぶしていく。

恭介は最後までこんな思いをしてヤツに殺されていったんだ。

おそらくあいつに身体を奪われたまどかだって辛かったに違いない。

…………許してなるものか!絶対に、絶対に!

こんな規格外の化け物に勝てる見込みなんて

実際まともに考えればほとんどないのかもしれない。

でも、それでも、やらなかったら確実なゼロだ。

私の後ろには何も残ってない。




……前だ、もう私には前に進むしかないんだ!




「どうしたの?さあ、早くきなよ」

まどかが可愛らしく肩をすくめる。

その声を踏ん切りにさやかが

魔法少女の筋力をバネとして大きく跳躍した。

三撃別々の場所に当てる。

ガキィン、ガキィン、ガキィン。

しかしやはり全て弾かれ終わった。

さやかが距離を取り直す。

「まどか」は先程からずっと何一つ変わらぬさやかの攻撃パターンを、

今度は反撃すら返そうともせず

最初から最後まで不思議そうにじっと見続けていた。

別に「まどか」がわざと避けずに攻撃を受けて

さやかをおちょくっている訳ではない。

何故かさやかの突きを避ける事が出来ないのだ。

避けられない突き。

それは願いによってさやかが得た能力の一つだった。

『絶対的な突きの速さ』。

しかしそれは純粋な速度で測れるという類の物ではない。

攻撃を打ち出した瞬間、相手との間の空間を軽く歪ませ、

狙った場所に攻撃を届けるという実に荒っぽい魔法だ。

さやかは上条の死体を見た時に、

それをパラサイトがやった物だろうと心のどこかで断定していた。

だから彼女の上条をこんな目に遭わせたヤツを殺したいという思いは、

それに沿った形のスキルを彼女にもたらした。

人間の視認出来る速度を超えて斬撃を放てるパラサイト、

その防御を掻い潜るのも容易な事ではない。

防御を超えられる攻撃を放たなくてはならない。

その為には速さが必要だった。

とはいえその一撃の速さの為に

かなりの攻撃力を犠牲にしてしまった。

彼女のレイピアでも人間の肉体を貫く事は出来るが、

「まどか」の装甲程とまではいかなくとも、

硬い性質を持つ魔女などの体表を貫くことは難しいだろう。

魔法少女としての本来の責務を果たすにはかなり不都合な願いだった。

しかしそれでも構わない。ヤツを倒せさえすれば。

最もさやかにとって問題なのはその相手が

予想をはるかに超えて規格外だった事だ。

今は「まどか」もさやかのトリッキーな魔法に惑わされてくれているが、

すぐにその種に気づいてしまうだろう。そんな予感があった。

種がわからないからこそ、こうして多少の加減をして

さやかを興味の対象として自由にさせてくれているだろうというのに。

不可思議な突きの種が割れてしまえばいよいよチャンスはなくなってしまう。

泣いても笑っても、さっさと今の内に決着を付けるしかない。

さやかには奥の手があった。

一度、ただの一度だけで良いんだ。



一発、一発を、




神様……!


覚悟を決めたさやかは今まで以上の加速で

まどかに接近し突きを繰り出す。

今度は後ろには引かなかった。

「まどか」はそれをとても興味深そうな顔で見つめている。

反撃はない。

キィンキィンキィン。

突破口を求めがむしゃらに突き続けた末に、

「まどか」の左の脇腹に攻撃が通った。

攻撃が突然通った事にむしろさやかが驚いた。

さやかの瞳孔が開く。

しかしせっかくの機会をみすみす見過ごす程彼女もお人よしではない。

さやかが剣先にありったけの魔力を込める。

すると「まどか」の体に突き立ったレイピアから『液体』が溢れ出し、

すぐに全身へと染み通っていく。

「ぐぅっ……!?」

「まどか」がその場に膝を付き詰まった声をあげた。

さやかの固有魔法が「彼女」の身体を刻一刻と蝕んでいる。

さやかの固有魔法は『猛毒』だった。

それも少量で一人の人間を一瞬で死に至らしめるような猛毒。

彼女が全てを賭けてありったけの想いと因果を注いだ願いは、

本来期待される魔法少女の素質以上に大きな力を彼女に与えたのだ。

さやかは己の勝利を確信していた。

やっと、これで終わりだ……。

敵は取ったよ…………恭介、まどか。

さやかがほっと一息、左手で顔の汗を拭った後、

レイピアを「まどか」の身体から引き抜こうとする。

しかし、何故かレイピアはびくともしなかった。




凄く嫌な予感がする。



さやかは咄嗟にレイピアから手を離し真横に跳び身体を丸め転がった。

さやかの立っていた場所を二本の鞭のように唸る

まどかの腕という「凶器」が通過していく。

膝をついていた「まどか」が何事も無かったかのように立ち上がった。

そして盛んに首や肩を回したりして身体の調子を確かめている。

地面にまだ腰を付けたまま、あんぐりと口を開けさやかが「まどか」を見る。

「どうして、どうして……」

さやかの声はどうしてもか細く震えてしまう。

まどかが冷ややかな声で言った。

「まさか、毒で殺そうとするなんてね。

良い発想だったと思うよ。

この身体じゃなかったら殺されてた」

まどかが一歩、また一歩とさやかとの間に開いた距離を詰める。

じりじりと手を使ってさやかは後ずさった。

「どうして……!どうして、生きてるの……!?」

絞り出すようなさやかの声に何を思ったのか、

足を一度止めゆっくりと「まどか」は言う。

「そうだね、私に一撃を浴びせたご褒美として、

それくらいなら教えてあげてもいいかな」

まどかが自分の首を優しくさすりながら、

子供に諭すような口調でさやかに語りかける。

「この身体の元の持ち主の途方も無い因果、

それに伴うエネルギーをを魔力に変換して使ってるんだよ。

あなた達魔法少女みたいに

色々器用に魔法が使えるってわけじゃないんだけどね。

『自分』以下の素質しかない少女の願いによる干渉に対するちょっとした耐性。

キュゥべえや魔女、結界が肉眼で見える。

目にした魔法の特性をある程度まで把握できる。円滑な肉体操縦のコントロール。

そして何よりも傷ついた人間部分の自己再生。

大体これだけあれば生きていくのに十分過ぎると思わない?」

黙ってそれを聞き終え腰を上げたさやかは

新たなレイピアを生成し構える。

そしてじっと「まどか」を燃えるような眼で睨み付け、

何も言わずその前に対峙し続けた。

剣先は震えていた。

今日の更新終わり
毒をあっけなく無効化
クロスだからね、どうせやるならこれくらいやらないとね
というかこれくらいしないとわざわざまどかを乗っ取った理由が説明つかない

次次回、スーパーマミさん(仮)そろそろ起きてくる頃です

全く関係ないけど寄生獣の完全版でいう八巻の
美津代さんの前で部屋に入って来た蚊を新一が取るシーン
何度読み返しても謎のカメラ目線が凄い気になる
こっちみんなと言いたくなる

ん?乗っ取りありきで理由は後付けって聞こえるなその言い方
毒無効化に事実上の契約無効化って
救うどころか倒す方法すら思いつかねえ

乙!
>>269
そもそも相手の目の動きとか動作見て躱してるから
ライフルの弾とかの速度に劣るRPG等があたるとは思えんがな

投下もせずにわざわざ雑談に参加するの好きじゃないけど
>>272ヒント ほむら 時間停止
ミサイル ナパーム弾……

オクタヴィアとの戦いとかを見る限り
発射された銃弾やら何やらは時間停止中衝突その他する前に、直前の空間で静止するようです
相手の目を見て避けてる後藤では……
だからこそまどか寄生が色々な意味で生きてくる訳ですが

>>268
まどかの契約阻止したいだけならさっさと殺せばいいしわざわざ乗っ取る理由がない
で、そのメリットがべホイミorベホマ後藤ってのが言いたかったんです
メタ的な視点はこれ以上先に言うとまずい気がするので割愛

更新
このクロスの中で唯一、個人的な基準で閲覧注意です
だいぶ内容簡略化して、日を開けながらのんびり書いたけど気分が悪いです
もしかしたらその場面を書く為に何度も鮮明に想像しなければいけなかったからかもしれませんが
どうであるにせよこんな話の展開にした私が悪い

●大丈夫だとは思いますが念のため
とりあえず食事中は読まない方がいいと思います

~☆

マミが頭を魔女に喰われたまだ当日、

訳もわからず昏倒させられたまどかがとある部屋で目を覚ました。

切れかけの電球がまどかの少し前方、

上からぼんやりと辺りを照らしていて、

その薄明かりの存在だけがまどかに

自分はどこかの部屋の中にいるのだと教えてくれる。

しかしどうも中々に広い部屋らしく、

その光源の頼りなさ故に部屋全体の大きさを

きちんと把握する事は出来ない。

外から光は差し込まず、生活感のまるでない

何だか気味が悪くなってくる部屋だった。

まどかは目を開けてまず最初に、

今にも闇に紛れてしまいそうな佇まいをした「キュゥべえ」に気づいた。

「キュゥべえ……。ここはどこ?」

「ああ、まどか。やっと目を覚ましたんだね」

「キュゥべえ」のそっと囁く声がまどかの耳に届いてまもなくの事だった。

カラカラカラ……。

車輪の回転する音が後方から彼女の耳をくすぐる。

そして台車、それに乗せられてきた物がまどかの前に姿を見せた。

それは車に手足、口を布らしき物によって縛りつけられた

まどかのとてもよく見知った人物だった。

「ママ……!」

彼女の母親、鹿目詢子がそこにいた。

台車をここまで押してきた「人間」は再び暗闇へと踵を返す。

カラカラカラ……。

父、鹿目知久が運ばれてきた。

もう一度だけ繰り返される。

カラカラカラ……。

一回り小さな台車に乗せられた、弟の鹿目タツヤだった。

台車を押すという用事が全て済むと、

その「人間」は暗がりに消えていった。

少しの間が空き、ガチャ、バタン、という音が、静かな室内に響く。

状況からしてどうやら先程の「人間」は部屋を出て行ったようだ。

改めてまどかは目の前に意識を向け直した。

三つの台車が行儀正しくまどかから少し離れて

前にきちんと横一列で並べられていた。

声を出そうとするまどかだったが、

声は口から一言も出てこない。

さっきまではあった口を動かすというごく当たり前の感覚が、

何故か突然わからなくなってしまった。

それに加えて目を覚ましてからずっと、

顎から下における身体の感覚、実感を

何一つ感じられていなかった事にも気付く。

鼻から大きく息を吸い込んだ。

何も匂いを感じない。

もしかしたらこの部屋が無臭なのではなくて、

鼻も何かおかしくなっているのかもしれないという気がしてくる。

まどかの不安を余所に、

キュゥべえがのそりのそりとまどかの視界内をうろついていた。

キュゥべえの足が床に擦れる音がする。

先程からきちんと音が聞こえていると言う事は、

やはり少なくとも耳の機能は正常に働いているという事だろう。

眼球に関しては自分の意志で自由に動かす事が出来た。

まどかが下へと目を向ける。

自分の曲がった膝、それとふとももが目に映る。

どうやら椅子に座らされているらしかった。

「まどか、キミは今の状況に恐怖を感じるかい?」

「キュゥべえ」が突然まどかに質問をしてくる。

怖くなんかないよ、そうまどかは答えようとしたが、

やはり口は動かせず声も出せない。

それならばと、テレパシーで「キュゥべえ」に

話しかけようと思ったがそれも駄目だった。

おかしいな……。

目を覚ましたばかりだからだろうか、

どうも意識がまだぼやけてフワフワしている。

「キュゥべえ」とのまともな対話をまどかは早々に諦めて、

再び自分の内的な世界の中に埋没していった。

……怖くなんかない。

そう、怖くなどなかった。

何もかもの訳がわからぬ、全てを夢じゃないかと

自然に疑ってしまう非日常、異常の中でも、

まどかにはしっかりと先を道しるべとして

照らしてくれる確固たる心の頼りがある。

それは彼女が近頃憧れてやまない巴マミ、暁美ほむら、

記憶に新しい彼女らの勇姿だった。

ほむらとの二人きりの話し合いの後、

魔法少女になるべきか、ならないべきか、

人知れず深く悩み続けたまどかは、

結局その問題の解決をひとまず先送りする事に決めていた。

その判断を下すにはどうにも己の精神が

まだ未熟過ぎるようにまどかには感じられたからだ。

魔法少女の契約そのものに、

常日頃抱えていた自分の平凡さ、

軟弱さを都合良く変えてくれる

甘い夢のような物をまどかが期待していたのは紛れもない事実だ。

だから普段から尊敬してやまない自らの母親のような、

この場合に関して言えば、

マミ、それとほむらのように

もっと魔法少女としてふさわしい立派な人間にまずは成長する。

そうすれば、私が思う正しい事を、

もっと胸を張って魔法少女になるべきか、

ならないべきかをきちんと選べるはずだった。

間違ってないのに幸せになれないこともある、

そんな感じの事をママは言ってたけどそんなはずはない。

そんなの間違ってる。

もし仮にそうだとしても、だったら私がそれをどうにかして見せるんだ。

それが考えた末にまどかがひとまず導き出した大きな理想だった。

ほむらやマミはたとえ理解不能な状況に

用意なく陥ったとしてもそれを無闇に恐れたりはしないだろう。



だから私だって……。





「良い目つきをしているね。全く迷いがない。

……その心の有り様から絶望への転換によって生まれる亀裂、

歪みがボクの『実験』を無事完成させてくれる事だろう」

いきなり「キュゥべえ」がまどかに近づいて彼女の膝元へ飛び乗る。

そしてまどかの首元へ自身の耳から伸びた触腕を伸ばした。

その両耳には小さめの、

怪しく鈍く光る『赤い宝石』が握られていた。

『赤い宝石』がビックリするほどすんなりと、

まどかの首に沈み込んでいく。

「キュゥべえ」の耳がまどかの首元から完全に離れた時、

赤い宝石は完全に首の中に埋まって見えなくなっていた。

まどかの身体が一度、大きくビクリと波打つように跳ねる。

それに合わせて突如まどかは身体全身の感覚を思い出した。

家族達のように椅子に体を縛り付けられている訳ではないらしい。

試しに右手を動かしてみようとする。

ところが、まどかの意思に反して無関係の左手が動いた。

「それじゃあね、まどか」

「キュゥべえ」が足早にまどかに背を向け闇へと消えていく。

まどか本人の意思に関わりなくまどかが立ち上がった。

身体の自由が利かない。

せっかく普段通りの感覚が全身に行き渡ったというのに、

誰か超常的な存在に身体を操られているようなとても不思議な状態だった。




ぱふぁ……。


その時、まどかの口の部分だけが人間ではありえない開き方、裂け方をした。

よろよろと手足がバラバラに危なっかしく動いている。

そして次第にタツヤの乗った台車に近づいていく。





……凄く、嫌な予感がした。


やめて、嘘だよね、やめて、やめて、やめて、やめてやめてったら……。




そしてまどかの口が、閉じた。



バツン。




ガリガリ、バリバリバリバリ…………。



味覚、嗅覚、視覚……。

五感の全てがまどかに受け入れがたい情報を突き付けていく。

せめてもの抵抗に目を閉じる事すら出来ない。

完全に、第三者の何者かに身体の主導権を握られていた。

嫌だ、こんなの嫌だ、嫌だよ……。

心に、確かにヒビが入った事をまどかは感じた。

それと同時に不思議な『力』が身体の奥底から、

心の裂け目を通じて溢れてくる。




バツン。ガリガリ、バリバリバリバリ…………。



味。臭い。目。

首元の『赤い宝石』から段々と心の隙間へと何か異質な物、

受け入れがたい物が入って行くのを感じる。

しかしそれすらも、今のまどかには心地が良かった。

今のこの目の前の光景を、全てを否定してくれるなら何だって……。

嫌だ、こんなの嫌だ、嫌だったら……。

次第にまどかの意識が散漫になっていく、

……ああ、私なんかには、やっぱり無理だったんだ。


マミさん、ほむらちゃん……。





助けて。





バツン。



ガリガリ、バリバリバリバリ…………。



まどかの意識は、完全に途切れた。

するとしばらくして、完全に意識その他を掌握し

一個の生命体となった新しい「それ」が動き出した。

更新終わり
クロス間のバランスを取ろうと試行錯誤した末こうなった
ざっくりトンデモ設定の説明をしておくと

「キュゥべえ」印の赤い石
希望の状態から絶望への急激な転換から生まれる少女の心の亀裂につけ入り
その子の因果、素質を無理な形ながら問答無用で引き出し、
かつ脳が残った状態でパラサイトが全身を操縦することを可能にする

エントロピーは全く凌駕してないからエネルギー回収は望めないけど、
ソウルジェムのみたいに魂を固定化してなかったりで魔女化はない
ただし感情はマイナスに振れ切っているので、
まともな効果を期待できるのは因果値が膨大な実質まどかだけ
それでもだいぶ彼女本来の素質からするとランクダウンする
つまり厨ニ感満載なアイテム


とにかく一番書きたくなかった所がやっと終わってほっとしました

先生、ほむらが息してません

予想を遙かに超えたバッド確定
本編以上にほむらちゃんって過去に戻れるんだよね?だよ
タイトルを見たときはもっと違う物を想像してたが
どうしてこうなった

短めだけど更新

前にも言ったけど確かに今、忙しいです
じゃあ何故更新をするのか
はい、現実逃避です

軽く一時間以内でこんだけ書けた事からもそれが容易に察せられます
ヤバい時ほど関係のない事は良く頭に浮かびますよね

>>290
知らないからヘーキヘーキ

>>293
上条主人公で話を進めればこうはならなかったんですけどね
その代わりだいぶ薄味に、それだと自己満足感が足りない
マミさん、魔法少女と寄生獣の共通点?を自分なりに合わせた結果どうしてもドロドロしてしまいました
極端な言い方ですけど鬱物×鬱物=さらに鬱みたいな
まどかと寄生獣だとどっちも鬱物とは言えないと思いますけど

寄生獣って作品自体はざっくり言ってしまえば人間賛歌というかだいぶポジティブだと思います
だからこれもある意味ポジティブではあるつもりです、ある意味


~☆

「まどか」とさやかが接触した翌日、ようやくマミが目を覚ました。

「目が覚めたか、マミ」

「……おはよう、ミギー」

ベッドの上のマミはどんより曇った目を自室の天井に向けている。

頭の中に濃い霞がかかっているようで上手く思考が働かない。

ただひとつだけマミにとってはっきりしていたのは、

今、猛烈にお腹が空いているという事だった。

とりあえず今は何かを口に入れなくちゃ。

そう思い、やけに重く感じる身体を

どうにかやっとの思いで動かし起き上がると、

テーブルに突っ伏し、どうやら眠っているらしい

ほむらの姿が真っ先に目に入った。

「えっ、あ、暁美さん?」

どうして暁美さんが私の部屋に?

一つ、きっかけとなる疑問が彼女の頭に浮かんできた事によって、

加速度的に疑問に思う事がどんどん膨れ上がっていく。

私は、さっきまで魔女の結界の中にいたはずじゃ……?

なんで私は当たり前のように眠っていたんだろう……?

誰が私をこの部屋まで運んできてくれたんだろう……?

何より、鹿目さんは……?

そこで、マミはひとまずあれこれと考える事をやめた。

ひとまずこの空腹をどうにかしなくてはならない。

風邪をひいたようなダルさが身体から全く抜けていかないので、

何となく消化に良いたまご粥を作ってみる事にした。

キッチンで手際よく、

冷蔵庫の中で冷凍してあったご飯などを使い、

レシピ通りにお粥を作る。

段々といい匂いがしてきた。

空腹により研ぎ澄まされた感覚から、

食べる前から容易に味が想像できる。

それは、何の変哲もないたまご粥の味だった。

~☆

おいしそうな匂いに誘われ起きて来た

ほむらにも自家製たまご粥を振る舞う。

食事中、二人は一言も言葉を交わす事無く、黙々と食べた。

特にマミの食べたお粥の量は尋常ではなかった。

それはともかくとして、

何故かミギーがほむらに姿を隠そうとせず、

ほむらも当たり前のようにその光景を受け入れている。

明らかにおかしかった。

しかし、それを面と向かって尋ねてしまえば、

この平和な時間が跡形も無く壊れてしまいそうで、

目を覚ました時と比べだいぶ意識がはっきりしてきたにもかかわらず、

自分から聞いてみようという気にどうしてもマミはなれなかった。

食後、使った食器を洗っているマミに突然ほむらが暇を告げる。

ただ簡潔に、あれだけ長い間眠っていた事、

それと負った怪我の度合いから考えて一日休んで様子を見た方が良い。

何があったか詳しい事はミギーに聞いて頂戴。

そういう旨の事を有無を言わさず言い切って足早に去っていった。

何か、大変な事が私が眠っていた間に起こったに違いない。

不安がますますマミの中で、

ほとんど確信的なレベルにまで膨れ上がる。

食器を洗い終わったマミは、

改まった態度でベッドに腰掛け、

ミギーに「いったい何が起こったというの?」、と尋ねた。

淡々とした調子でミギーは起きた事を順に述べていく。

油断したマミが頭を魔女に食べられてしまった事、

その修復の際ミギーがマミの頭の『容器』代わりになった事、

ほむらに助けられた事、

そしてほむらが眠ったマミの世話を毎日親身に手助けしてくれた事……。

実際、彼女にとって最も信頼できる存在であるミギーから

何が起きたのかを口伝えに聞いても、

どうにも現実味が薄く感じられるという印象は抜けきらなかった。

何しろマミには、さっきまで魔女の結界内にいたと思ったら、

突然自分の部屋のベッドで横になっていた、くらいの記憶しかないのだ。

しかしミギーの話はそれだけではまだ終わらなかった。

まどかがそれからも見つからぬままである事、

それどころか家族ごと失踪している事、

さらにさやかまでもが昨日失踪した事……。

さやかが失踪した、それはほむらからミギーにもたらされた情報だった。

彼女はマミの世話の合間を縫って、

せっせとずっとまどかの捜索を続けていたのだ。

いても立ってもいられなくなったマミが

捜索に加わろうと外に出る準備をしようとする。

だけれども、ミギーがあっさりとそれを押し留めた。

頭が無くなったという危機的な状況から九死に一生を得たばかりで、

マミの身体はまだ本調子ではない。

そんな中で、むやみやたらに捜索の手助けをしようとした所で

足手まといにしかならない。

だから今は一刻も早く体調を万全な状態に戻す事が先決だと諭した。

そして再度力なくベッドに腰掛けたマミに

最後の止めとなる言葉を口にする。

「それと詳細な期限は今の所決められないが、

私はしばらくこうした表だった活動を全て休止しようと思う。

端的に言ってしまえばこれから一度、かなり長い間目を覚まさない眠りに就く訳だ」

それを聞いた時、まず最初にマミは、

私を何かしら励ます為に初めてミギーが冗談を言ったのだと思った。

だってそんなのおかしい。

ただでさえのっぴきならない切羽詰まった状況なのに、

絶えず私の支えになってくれたミギーの手助けが、

彼が一緒にいてくれるっていう心強さが突然なくなるなんてそんなの……。

混乱するマミにミギーが状況を説明していく。

「きみの頭部が魔法によって自己再生する際、

私はまずマミの頭部の形、外側だけを再現しようとした。

しかしそれだけでは足りなかったのだ。

きみの血肉はいつまで経っても脳の形をとろうとしない。

仕方がないから私は、本で読んだりした知識だけで多少の不安はあったが、

脳がその形をきちんととれるよう、

機能を無事果たせるように大雑把にではあるがそれをサポートした。

そして、キミの身体の自己修復の予想外の速さに巻き込まれ、

約20%程をキミの頭の中に置いてきてしまった」

「ミギーが、私の頭の中に……?」

ほとんどオウム返しに自分が発した言葉を皮切りにして、

じわりじわりと恐怖がマミの心を蝕んでいく。



私の脳にミギーが……!?

今日の更新終わり
もうちょっと先まで更新しとこうかと思ったけど
ここでやめておいてもう一回時間をかけて内容吟味しておきます
独自設定としてかなりデリケートな場面なので

前回の流れでたまご粥を再登場させる趣味の悪さ
卵からかえれなかった雛がいるんですよ……?
そんなこと気にせずにおいしいから食べますけどね、卵
私は今日も元気です



独自設定なのか
てっきり原作と同じような感じになるのかと思った


これ、20%は脳を乗っ取られてると言うふうにしか取れないよな
その辺マイルドな表現とかしないのはミギーらしい


無精卵にそんなことを言うのは
[田島「チ○コ破裂するっ!」]するたびに一億人殺してるというくらいの暴論だと思うが

それはともかく一つだけ質問
このSSって完結時にはなんらかのカタルシスを得られるような方向を目指してる?
バッドなのはいいけど読後感がひたすら悪いとなると考えどころ

今度こそ20日以後まで更新しないと思うので今の内にお答え

適当なジョークまがいの事言って真面目に突っ込まれるとむちゃくちゃ恥ずかしいorz
もうなるべく余計なバカバカしい事言わないようにしたいです

>>308

私が目指してる方向性、私好みのカタルシスはありますが
それに読んでくださってる方がカタルシスを感じられるかは
実際最後まで読んで頂かないと……、すみません

ただとりあえず私が知ってる中でまどかが人間やめちゃうような
まどかSSは記憶にあるだけで5つ(その内3つは沙耶クロス)ですが
沙耶クロスは私はどうも苦手です、はい

もう過去の取り返しのつかない中で、それでも必死に自分が何ができるか、
何をしたいかを選ぼうとする話みたいなのが好きです
どうにもならない不条理さと葛藤が好きなので、胸糞がただ好きってわけではないです
さやかの契約の所やる為に上条パートやったと言っても過言じゃないくらいです
そして>>1の3でかなり遠まわしに言いましたがこれの主人公はマミさんです

お久しぶりの更新です

書き溜めが有る訳ではないのでどれくらいのペースで更新していけるかは
書いてみないと分かりませんがとりあえず四部まで頑張ってバリバリ更新していこうと思っています

「本来の予定ではマミの口から出て右胸に戻るはずだった。

しかし口から脱出に成功した私はともかく、

想定外のキミの回復スピードに巻き込まれた私、

それをやっとのことで逃れた『私』はそうもいかない。

とりあえず首に向かって逃れる事で、

キミの頭から距離をとるのに間に合った方の『私』は、

既に長時間右胸から離れていた事によって性質に異常をきたしていた。

それは口から出た私に関しても無論同じ事だけど、

その時変化の有りようは相当に緩やかではあったが、

勢いを増している段階にあった。

安全を期して口から出るため、

悠長にキミの頭が治りきるまでそこで待ち続けていたら、

さらに『私』は変質してしまい、

今度は右胸にいる私と上手く馴染めなくなるかもしれない。

そんな懸念もあって『私』は素直に

キミの血液に流されそのまま右胸を目指すことにした」

ただただ唖然としているマミにミギーは続ける。

「そしてその途中でさらにまた別の事故が起きてしまった。

今度はマミの心臓の強い鼓動の勢いに流され、

私の元の身体における約30%がきみの全身に細かく散ってしまった。

つまり、今きみと話している私は

きみの知っているミギーの概ね半分という訳だ」

一瞬視界が暗くなるのを感じる。

首を下に曲げマミが自分の身体を見た。

見た目には特に異常は見当たらない。

しかしもう、全身にミギーの一部が……?

「キミの頭の中にいる『私』は、当然脳の動かし方を理解していない。

そんな中でどうにかキミの脳活動を妨げないよう

ひたすら受け身に電気信号を伝達している。

その中で自分の意思というのは不要な物だ。

現在脳の方の『私』は自分には本来不可能な作業を無理に行っている。

それに伴う疲れは自分の意思で身体を動かしている時の比ではないし、

脳を駆け巡る膨大な情報の補助をする際に

自分の思考というものは邪魔にしかならない。

言うなれば常に、半分眠ったような状態で

がむしゃらに作業をしているという訳だ」

「それと、右胸にいるあなたが表だった活動を休止すると言う事に

どういう関係性があるというの?」

マミが声を震わせながらミギーに尋ねた。

何か、何か他に方法があるのではないか?

今この不安な時に、一人にならないで済む方法があるのではないか。

頭を必死に働かせその方法を探ろうとする。

「私が元の身体の50%なのに対して『私』、あるいは彼は20%。

どうしてもその影響を無視する事が出来ないのだ。

彼の脳波に影響され私も絶えず眠くて煩わしいし、

何よりはやく彼と再び結びつかないと彼の性質がいよいよ変わって、

私と結びつくことが困難になるなんて事があるかもしれない。

そうならない為にも、私は一度外界に向けた活動を停止して、

脳にいる『私』の回収を急ぎたいというのが今回の長期的な休止、眠りの目的だ」

「……私の脳を外から弄るんじゃ、ダメ?

そっちの方がずっとはやく済ませられるはずよ」

「確かにその方法が一番はやいだろうがそんな方法は危険過ぎて認められない。

キミが頭部を丸ごと再生させたのは事実だが、

今回そういう手段を選択した場合我々が行わなければならないのは、

キミの脳を一部取り除きそこから私を回収するという作業だ。

私が脳全体に及んでしまっている事を考えると、

その作業は複数回に分けて行われなければいけなくなる。

直接何度も脳の中身を弄ったりした時、

キミの魔法がどこまでキミを助けてくれるのか、私には確証が持てない。

私は私自身の安全が何よりも大事だ。

その為には時間がかかるデメリットがあるが、

私自らが脳の回収を内側から行うのが一番リスクが少ないと思う。

それに身体に散らばってる思考能力を失った肉片達とも連絡をとれるか模索したいし」

脳を直接弄って大丈夫か確信が持てない。

いや、そんな事はない、

頭全部が直せたんだから脳の一部を取り出した分の治療くらい確実に出来るはずだ。

そう、マミは言いたかった。

しかし、そもそも今までマミは自分の魔法が

なくなった頭部を再生できるほどの物だと思っていなかった。

とても人間が出来る事じゃない。

自分の魔法に薄気味悪さすら感じる今、

自分では何が出来るのかはっきりしない魔法を根拠に、

不安定な要素を嫌うミギーを説得するのは困難だった。

「でも、でも、じゃあ私があなたの仲間に

気付かぬまま襲われちゃう可能性があるじゃない」

マミが思いついたミギーを引きとめる為の言葉はもうこれだけだった。

脳波を感じ取る能力が無くては見た目や声では

ミギーの仲間と人間を区別する事は出来ない。

それに対してこちらはミギーが身体の中にいる以上、

敵から意識されざる負えない。

ミギーがいなくてはそういう危険が出てきてしまうはずだ。

「それなら心配しなくても大丈夫だろう」

しかし、マミの用意した最後の砦はあっさりとミギーに否定されてしまう。

「私はキミが眠っていた間、別に遊んでいたわけではない。

眠りの間はキミの脳の活動も起きている時より緩やかだからな。

それほど長い時間という訳にはいかなかったが、

頭の中にいる私とやり取りする時間を何回かもてた。

彼が言うには今、きみと彼は、

きみを主体として感覚をある程度共有している状態にあるらしい。

だから私の仲間が近づいてきたら、

私が直に感じる程ではないにしろキミにもわかる、そういう事のようだ」

そうなるかは実際私がミギーの仲間に遭遇してみないと、

まだわからないじゃない。

マミはそう言い返そうとしたが、結局止めてしまった。

ミギーにはそれが正しいという確信があるに違いない。

しかし、それは自分の感覚の確かさに由来するような確かさである以上、

私が突っかかっても無駄に時間を浪費する事になるだけだ。

もう、ミギーを止める事は私には出来ない。

マミが項垂れる。

「……私と、一緒にいては、くれないの?」

「もちろん一緒にいるさ。

きみの血液がないと私は死んでしまう。ただ、眠りにつくだけだ。

……そうだな、一か月、

それくらいを目処にそれを超えるようなら一度起きることにするよ」

違う、違うの。今、この時の私を、一人にしないで欲しいの。

マミの必死の思いは言葉にはならない。

「マミ。身体的、精神的な疲労が酷い。

元々身体も万全な状態ではない。眠って英気を養った方がいい」

「そうよね、ふふ、きっとそうよね……。

だってミギーが言うんだもの……。

フフ、フフフ……」

マミがベッドに仰向けに寝転がる。

しばらくの間、発作的な笑いがマミの口から絶えず漏れ続けた。

~☆

マミの家から出た後、

ほむらは町中をまどかとさやかを探しひたすら歩きまわっていた。

何日もその探索は徒労に終わっていたが諦める訳にはいかなかった。

彼女達がどこに消えてしまったのか、

ほむらにはそれを探すための手掛かり、足掛かりすらない。

せいぜいあるとしたら、

上条恭介がひき肉ミンチ殺人の被害者に一昨日なったのと、

何かしらの関係があるかもしれないという事くらいだ。

しかしそれはどうしたってさやかとまどかがどこにいるのか?

という手掛かりにはならない。

何もかもがほぼ手詰まりに近い。

けれど彼女は手も足も出ない状況にはもう慣れっこだった。

本当に怖いのは、全てを諦め探すのを止めてしまった時だ。

……こんな素晴らしい時間軸、もう二度とお目にかかる事は出来ないかもしれない。

今回まどかやさやか、マミと友好関係を築く事に成功した。

さやかはもう契約をする必要がない。

まどかは……どうかわからないが、少なくとも契約に躊躇いを見せてくれている。

何より今回の時間軸で一番今までとは違う収穫は、

まどかの契約を阻止しようとする中で、

マミがほむらに積極的に味方する立場に立っている事だ。

彼女はほむらにとってワルプルギスの夜と戦うのに

本来欠かすことのできない存在である。

ただし、今回の彼女にはミギーとかいう明らかなイレギュラーが付属しているが、

そんなミギーもマミの血液がなければ生きていけないらしい。

確かに大きな不安要素ではあるが、

それはこの時間軸の圧倒的好条件を打ち崩す物にはならない。

ミギーがマミの生命を必要としているのは、

わざわざ彼女の頭の修復を健気に手助けし、

目を覚まさないマミの世話をこまめにしていたあの姿から見てとれる。

そこにミギーの何かしら情のような物は感じられなかった。

おそらく、『カレ』にとって重要なのは何よりもまず自身の生存なのだろう。

別にそれならそれで構わない、とほむらは思う。

私の目的の邪魔にならなければそれで良い。

『カレ』はおそらく自分が生きる為、

何かを食べる代わりにマミの血液から養分を…………。

「……ひき肉」

その時、ほぼ無意識的にポツリとほむらの口から言葉がこぼれる。

ふと、ほむらは一つ重要な事に思い至った。

ミギーという謎の生命体、『ひき肉ミンチ殺人事件』、

この二つが実は繋がっているのではないかという初歩的な事実に。

その場に足を止め深く考え込む。

あの伸縮自在の身体。マミの顔を完全に再現していた。

そして、今までの時間軸にはあんな生き物が、

あんな事件が存在しなかったに違いないという最もらしい推測。

今までの時間遡行の経験上、大がかりなイレギュラーが

いきなりこの時間軸でいくつも発生していると考えるよりは、

同じ一つの原因から私の見知らぬ様々なイレギュラーが、

別の形でもって表れていると考える方がより自然ではないか?

普通の人間にはおよそ犯行が不可能だろうひき肉状にされた死体。

上条恭介の何故か普通に動いていた左腕。

マミの右胸のミギー。

さやかとマミの不自然な縁故。

結界内で目撃したミギーと使い魔の戦い。

突如襲撃してきた顔が変形する化け物。

銃で撃ったあの『男』の首から下の中身はどう見ても人間だった。

こうして意識してみると、

全てのイレギュラーがただ一点を指し示していると考えざる負えない。

「そうか……。そうだったのね……」

何故今まで気付かなかったのだろう?

上条恭介が殺されたのは、

おそらく左腕にミギーと同じモノが住んでいたからに違いない。

人間と共生している同族を処分したとかそんな所だろう。

焼けつくような後悔が彼女の胸を駆け巡る。

いつだって良い。

まどかがいなくなってからでもいいからもっと早く気付けていたら、

もっと有効に色々な行動をとる事が出来ていたんじゃないの?




…………違う。きっと、違う。

私は心のどこかでその事にわざと目を背けて、

わかっていたのに気付かないようにしていたんじゃないか?

だって、ひき肉ミンチ殺人事件、

ミギーと同じ化け物が全ての元凶だとみなしてしまえば、

それはもう全ては手遅れだって事を認める事とほとんど同じじゃないか?




つまりそうだとしたらまどかとさやかはもう、食べられ……。

…………まだだ、全てが駄目になったとまだ確定した訳ではない。

今は過ぎた事を後悔をしていて良い時間ではない。

早急にミギーについて、目を覚ましたマミに聞かなくては。

それと共に上条の事について聞けば、

さやか関連の疑問にはとりあえず大体蹴りがつく。

だから私が今するべきなのは…………。





「ほむらちゃん」





その時、ほむらのよく聞き知った、

彼女がずっとここ数日聞きたくてたまらなかった声が、

背後から聞こえて来た。




何故か、酷く、寒気がした。

「まど、か……?」

ほむらが首を後ろに向けて曲げると、

少し離れた所に「まどか」が立っていた。

「彼女」は凄く不安そうな表情をしていた。

思わず無我夢中で「彼女」の元に歩み寄ろうとする。

しかし、どうしても身体が言う事を聞かなかった。

「どうしたの?ほむらちゃん、大変だったんだよ私。

ねえ、聞いてよ、ほむらちゃん」

「まど」がゆっくり一歩、距離を詰める。

ほむらの片足が自然と後ろに下がる。

まどかが一歩進む。ほむらが一歩下がる。

二人は数度それを繰り返した。

「まどか」が可愛らしく口を開く。

「どうしたの?ほむらちゃん?顔色、悪いよ。

今とっても、大変なの。急がなくちゃいけないの。

ママが、パパが、タツヤが。だから、こっちに来てよ」

「まどか」が優しく手を差し伸べる。

しかしほむらはさらに一歩足を後ろに下げようとして、足をもつれさせ転んだ。

「まどか」が怪訝そうな顔をする。

「本当におかしいよ、ほむらちゃん、いったい何が……」









「『アナタ』は、いったい誰なの……?」

虫が微かに鳴くような小さな声で、

ほむらは「まどか」に語りかける。

アナタは、いったい誰なの……?

ほむらのその言葉を聞いてすぐ、

「まどか」の表情は跡形もなく消え失せ、

ぞっとするような無表情だけが残った。

「『ダレ』って、どういう事?ほむらちゃん」

……知っていた。まどかのことなら何でも知っていた。

だからこそほむらにはわかる。

「コレ」は、まどかじゃ、ない。

それじゃあまどかの顔をした「コイツ」は……、「コイツ」は……!

ほむらがその恐怖に耐え切れなくなり叫ぶ。

「『アナタ』は誰!?まどかを、まどかをいったいどこへやったの!?」

無言で「まどか」は腕を振るう。

しかしカチッという音がほむらの盾からする。

その腕がほむらに刃を突き立てるよりもはやく、

ほむらを除いた全ての時間が停止した。

「まどか」がそのままの、腕を変形させたままの形で静止している。

……嘘だ。こんなの絶対におかしい。

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……!

逃げなくちゃ。

逃げるんだ、ここから。今すぐに。

ほむらがまどかに背を向け一目散に駆けだした。

彼女のソウルジェムが、明らかに異常なペースで濁っていく。

~☆

「……マミ。マミ」

私を呼ぶのは誰?

……ひぃっ、ば、化け物!

「私が化け物に見えるのか?」

あなたが化け物じゃなかったらいったい何だって言うのよ!

「やれやれ、きみに怯えられてる場合ではないんだが。

……でも、この鏡を見てみろよ、きみだって人のことは言えないぞ」

鏡……?いったいどこからそんな物を……。

あれ?映ってるのは誰かしら?

何だか視界がぼんやりして良く見えないけど……。

「つまりここではきみの言う化け物と、きみも大した差はないという事さ」

私、私が化け物?そんなはずはない。そんなはずは……。

「何だ、まだ実感が湧いてこないのか?それならもっとよく見てればいい」



鏡、鏡、鏡……。






その中には…………。


~☆

深い眠りから突然マミは目覚めた。何か夢を見ていた気がする。

しかしそんな些細な感覚を吹き飛ばすような「違和感」が今のマミを刺激している。

視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚といった五感、

それらとはまるで異なる、脳の奥がピンと張り詰めるような感覚。

私はこの感覚を知らない。

強いて言うならテレパシーを交わしている時の感覚が最も近いだろうか?

それでも何故かわかる。

この違和感、この感覚は……。

「やあ、巴マミ。『初めまして』、というのがこの場合一番正しい挨拶かな」

「キュゥべえ」が視界の端にいる。

言葉も見た目も、全てマミの見知ったキュゥべえと同じにしか感じられない。

しかしそれでも感じる。

こいつは、キュゥべえじゃない。

こいつはミギーの「仲間」だと。

「キミを人間社会に潜伏する為の一つの手引きとして、

我々の組織に招待したい。これからボクについて来てくれるかな?」

「キュゥべえ」。キュゥべえだけどキュゥべえじゃない。

そう、あの時美樹さんに、

私とキュゥべえがケンカをしてるなんて言ったりしたのはおそらくこの……。

「……あなたが、あなたが鹿目さんを連れていったの?」

「さあ、どうかな?」

キュゥべえが背をマミに向け、無言でついてくるように要求している。

でも行きたくない。

ついて行ったら私の大切な平和は完全に終わってしまうだろう。

凄く、凄く、嫌な予感がした。

それは、目を背けずにはいられない程残酷な、

もう全ては手遅れなのだというどこか確信めいた予感だった。

しかし、逃げる事はマミには許されない。

攻撃の意志を見せていない相手に攻撃を仕掛ける事も彼女の信条が許さない。

「わかった……、わ。

今、出かける用意をするからそこで待ってて」

そしてマミがゆっくりと重い腰をあげた。

今日の更新終わり

本当は三回くらいに分けれるくらいの場面な気がするけど久々の更新なので一気に投下
昨日書き始めてもうストックが切れてしまった

「キュゥべえ」vsマミ

「まどか」vsほむら

次回「キュゥべえ」vsマミなのでそのつもりで

更新です

今日もまあまあ多いから今日は途中でとめるかも……?

~☆

不自然な程の距離を空けながら、

「キュゥべえ」がマミを先導する形で歩いている。

まどかを連れ去った張本人である可能性が限りなく高いというのに、

マミには「キュゥべえ」の傍を無警戒に歩く気にとてもなれなかった。

キュゥべえは元々会話を基本テレパシーで行う為、

離れて歩いていても何かを話したりするのに特に支障はない。

「キミの身体に住みついた寄生生物は、

どうも冬眠でもしているみたいな状態にあるけど、

いったいどういう事なのかな?」

【あなたに教えてあげる筋合いはないわ】

マミとコミュニケーションを交わす事を早々に諦め

キュゥべえは黙って目的地を目指す。

マミもそれに倣う。

そしてマミが「キュゥべえ」に連れられやって来たのは、

見滝原市を出てしばらく歩いた先にある、

普段人の近寄らない廃墟と化したビルだった。

「ここに、もしかして鹿目さんはいるの……?」

「さあ?キミに答えてあげる義理はないね」

マミが小さく呟いた独り言を、耳聡く聞きつけたキュゥべえが応答する。

いったい何のためにこんな場所に私を……?

疑念はますます深まるばかりだった。

ドアを潜り、長い階段を下る。

一瞬ここの入り口を塞がれたら逃げ道がなくなる事が頭を掠める。

しかし背を向けて逃げ出す訳にはいかない。

「キュゥべえ」を正しく判別出来る人間はおそらくマミだけのはずだ。

もしここで「キュゥべえ」を逃し、

雲隠れされてしまえば再び見つけ出すのは困難になる。

神出鬼没なキュゥべえの特性をこいつも備えているのだとしたら、

「キュゥべえ」に無理に追いすがろうとしても、

おそらく私に追跡するのは不可能だろう、マミはそう判断した。

何かしらのチャンスは今この時しかない。

当然のことながら、ほむらやキュゥべえに連絡をとったり、

書き付けを残したりする機会、隙を「キュゥべえ」はマミに与えなかった。

着替えの時ですら、マミが見える位置に立つ事を止めはしなかった。

「キュゥべえ」の方もマミを警戒していない訳では決してないのだ。

さあ、ここでどうするかを、私自身が一人で決断しなくてはならない。

しかしここにはいったい何が……?

コツコツと自分の靴が床を叩く音がやけに耳触りに思えた。

それと同じくらい、足音のしない「キュゥべえ」の歩き方は癇に障る。

コツコツコツ。

ビルはどうも妙な造りをしていて、廊下が迂回している。

コツコツコツ。

しかしいつまでその道が続くはずもなく、やがて最深部に到着した。

頑丈そうではあるが普通の見た目のドアが目の前に立ち塞がっている。

「ここが目的地だ。鍵を開けるからちょっと待っててね」

最初から耳に掴んでいたらしい鍵を鍵穴に差し込みガチャガチャと回す。

ドアが開いた。

二人は中に足を踏み入れる。

部屋の中は暗く、マミにはどうなってるのかがはっきりしないが、

どうにも嫌な臭いがした。ぞわっと鳥肌が立つ。

「電気をつけるね」

キュゥべえの声がしてすぐ、パチン、という音と共に電球に明かりが点される。

まだ薄暗くはあるけれど、

部屋の様子がマミにもどうにか把握出来るようになった。

マミの目に何か積まれた山のような物が映る。

きちんと見つめる内に、それが人の山だと気づいた。

人、というよりもっと限定するなら生気を完全に失った少女が積まれていた。

「な、何よ……、コレ……」

「実験の残りさ。そのまま捨てるにはもったいないだろう?

だからボクらの……、というよりボクの協力者達の食糧にしてるんだ」

吐き気がこみ上げてくる。

つまり私が感じてるこの嫌な臭いは……。

「どうして、どうして女の子ばかりを……」

「うーん、最近の魔法少女狩りって知ってる?……あれ?知らない?

とにかくボクらは魔法少女達を秘密裏に攫って、

ソウルジェムやグリーフシードを頂戴してるんだけど、

その余った死体がもったいないから食べてるだけさ。

キミたち人間みたいに何かを食べ残したりはしてない。

ただ保存環境が良くないからはやく食べないと腐っちゃうのが難点だが」

これが全部魔法少女の亡骸なのか、

眩暈がして思わずマミは一度目を閉じる。

「実験って、いったいあなた達は何をしてるの……?」

「これを、作ってるのさ」

「キュゥべえ」の背中がパカリと開く。

ソウルジェムより少し小さい赤い宝石を、

「キュゥべえ」はそっと耳で掴んでそこから取り出した。

「これ自体は失敗作の一つだけど、

この石を作る為にはソウルジェムが必要不可欠でね。

ソウルジェムからこれの完成品を練成するには幾度もの失敗が必要だった。

やれやれ、今思い返してもインキュベーターに

ばれないよう行うには中々大変な作業だったよ。

いざ完成品を作れるようになっても、

これ一つ作るのに一人の魔法少女のソウルジェムじゃ足りないし、

結局新しくいくつかのこれを作る為にこれだけの人間が必要になった」

たったこれだけの物の為に魔法少女達を実験の犠牲にしてきた……?

マミの心の中で、抑えがたい怒り、狂暴な感情が沸々と唸りをあげ始める。

「どうして、私がこんな残虐な行為を許すと、

あなた達なんかの仲間になるなんて、

見くびられたのか教えてもらって構わないかしら?」

「あれ?悪い条件ではないと思うんだけどな。

ボク達の目的はインキュベーター達の支配に反逆する事だ。

どうせキミの未来に希望なんて物はない。

だったらキミをそんな『石ころ』に変えたインキュベーターに、

成功すれば一杯食わせてやれるって事が、

キミ達人間の多少不合理ではあるけど、

ちゃんとした行動の理由になり得ると思ってたんだけど」

とぼけたような口調で「キュゥべえ」がマミに言う。

これは罠だ、相手のペースに乗せられてはいけない。

こいつは、間違いなく私の敵だ。

そうマミの第六感がけたたましく警告を鳴らしている。

「…………私が『石ころ』っていうのは、どういう事?」

しかし『石ころ』、その言葉に込められた不吉な響きを

どうしてもマミは無視する事が出来なかった。

「何だ、かなり長い間魔法少女を続けてるのに

マミはそれを知らなかったのか。……まあ無理もないかもね。

キュゥべえ、つまりインキュベーターは自分に都合の良い情報しか

なるべく契約前には口にしないし、そのスタンスは契約後も変わらない」

明らかに、「キュゥべえ」はマミの指に嵌められた

ソウルジェムの指輪を見つめながらはっきりと言い放った。

「つまりだね、ボクが言いたいのは魔法少女の本体はキミが今身に付けている指輪、

ソウルジェムだって事なんだよ」

「ソウルジェムが、私の本体……?」

一瞬、「キュゥべえ」の存在を警戒する事も忘れ、呆然と手元を見つめる。

そこにあったのはいつも通りの見慣れたソウルジェムだった。

これが私の本体……?そんな馬鹿な……?

「インキュベーターの役割はキミ達

第二次成長期にある少女の体の中から魂を抜き出し、

そのソウルジェムという物質に作り変える事だ。

キミはまさかキミ達人間の本体、本質が

魂じゃなくて身体の方だって主張し始めたりはしないだろう?

でもインキュベーター達の為にあえて弁解してやるとするなら、

実際その宝石は便利な物だよ。

それが破壊されない限り、キミ達はどんな損傷を負ったとしても

魔力が続く限り理論上はどんな傷も治す事が出来るんだから」

これが、こんなちっぽけな物が私の魂……?

「キュゥべえ」の言う通り私の頭部は魔法の力で完璧に元に戻った……。

一瞬自分が築き上げて来た何かを強く揺さぶられたような気持ちになる。

「もしも……、たとえ魔法少女の魂がこのちっぽけな石ころだったとして、

それがどうしたって言うの?

そこから私の未来には希望が待っていないって結論に

短絡的に直結されるのは心外だわ。

私は、私よ。これまでも、そしてこれからも。

それは変わらないはずよ。そうでしょ?」

しかしマミはすぐに自分を持ち直した。

純粋な怒り、狂おしい程のその感情が、

自分の些細な境遇を無視出来る力をマミにもたらしてくれている。

私は私だ。そしてそれは実験とやらの犠牲にされた魔法少女達も一緒だったのだ。

それを「こいつら」は踏みにじった。

マミは燃えるような視線で「キュゥべえ」を睨み付けている。

けれどマミの言葉を聞いた「キュゥべえ」の口元は

まるで笑っているかのように歪んでいた。

「じゃあボクらの仲間になる気はないって事だね?

これでもキミの右胸の寄生生物が寝てる中で対等に交渉したりと、

かなり譲歩してるつもりだったんだけど」

「絶対にお断りよ。自分の恨みを晴らすためなんかで

あなた達に協力する事を選ぶくらいなら、私は潔く自ら死を選ぶわ」

やれやれ、といった調子で「キュゥべえ」は首を横に振った。

「それは実に残念だ。……だけどね、

キミがボクらと結託するかどうかの話はこの際別にしても、

少なくともキミが導き出した結論こそまさに短絡的だと言わざる負えないよ。

いつまでもキミがキミであり続けるなんていったい誰が決めたんだい?

ねえ、マミ?インキュベーターが少女達を魔法少女にするのは何故だかわかるかな?」

キュゥべえがどうして魔法少女を生み出すのか……?

そうだ、確かに何か違和感が……。

段々と頭痛がしてくる。

それ以上先を考えるのは止めろ、引き返せ、そう告げているようだった。

だけれどもうここまで来たら最後まで行くのを取り止め

引き返すなんて事は出来はしない。

「魔女を、倒す為、かしら?」

「違うね。インキュベーターは魔女が、

それどころかこの地球がどうなろうとも興味はない。

彼らが唯一関心を抱いているのはキミ達人間の魂が持つ感情エネルギーだよ」

「感情エネルギー……?」

「そう、それはキミ達魔法少女の魂が希望から絶望への移り変わる中で

最も効率よく回収する事が出来る。

どうして魔女が存在するのか、

いくら倒してもきりがない程新しい様々な魔女が湧いてくるのか、

不思議に思った事はないかな?」

一度言葉を区切って「キュゥべえ」がマミの目を見つめる。

……次に何を「キュゥべえ」が言うのかマミにはわかってしまった。

そうか、そう言う事だったのか。

頭の中が全て真っ白になる。

止めて、止めて、それ以上は止めて……。心が壊れてしまう……。





「キミ達魔法少女はね、ソウルジェムが完全に濁りきった時、魔女になるんだよ。

どうしてキミ達が招かれてもいないのに魔女の結界に入る事が出来るかわかるかい?

キミ達も魔女の同類だからさ。

グリーフシードとソウルジェム、似ているデザインだとキミも思うだろう?」

そんなのは嘘だ、出鱈目だ。

目と耳を塞ぎ、強情にそう否定する事はマミにはもう出来なかった。

これまで何度もソウルジェムがかなり濁った時に感じてきたあの感覚。

間違いない、魔法少女は魔女になるんだ。

わたしもいつか『正義の味方』であることを止めて化け物になる。

……いや、そもそもが私は、魔法少女は正義の味方なんかじゃなかったんだ。

毎日毎日魔法少女達のなれの果てを殺して、殺して、生き延びて、殺して……。

事実それによって私はたくさんの人を救ったのかもしれない。

でももしそれをしなければ今度は私が化け物になっていたんだ。

たくさんの救われるべき命が絶えず手からこぼれ落ちていく。

私はこれまでだって善意だけで人助けをしていた訳じゃない。

だけど少なくともこの事を理解してしまった今となっては、

純粋な善意の為だけに人を助ける事は絶対に出来はしない。

怖い……。どうしようもなく生きる事が恐ろしい……。

ああ、なんて醜い事なんだろう。

人を助ける為に、ヒトを殺し、

自分が助かる為に、ヒトを殺し、

ずっといつまでも殺して、殺して、殺し続けて…………、

そして私もいつか…………。

不意に今までに戦ってきた魔女の姿の数々が脳裏をざわつかせる。

多くがグロテスクな外見をしていて、人とはおよそ相容れないモノ共。

今までに出会った魔法少女達の姿を次々と思い出す。

特に、佐倉杏子と暁美ほむらの姿は眩しかった。

「キミ達が生き延びる為には魔女の持つグリーフシードが必要不可欠だ。

言うなればそれはキミ達魔法少女流の自己の生存に不可欠な食事という訳だ。

人の絶望を糧にする魔女、魔女を喰らう魔法少女。

魔女がいなければキミ達は生きていけない。

キミ達は人間の犠牲を本質的に必要としているんだ。

そんなキミ達に、生きるのに必要な分の慎ましやかな食事をしてるだけの、

ボク達寄生生物が非難される筋合いはないと思うよ」

「キュゥべえ」の言葉がマミの中で何度も繰り返し流れる。

魔女、グリーフシード、人間、寄生生物、魔法少女。

その時、さやかとまどかのにこやかに微笑む顔が意識下に浮かんでくる。






ぐじゅる……。ぐじゅる……。






ボリボリ、ガリ、ガリガリガリガリ。


ミギーと二人で初めて他のパラサイトを見た時の衝撃的な記憶がマミを改めて襲う。


赤、肉、血、口、赤、赤。


助けられなかった。




でもそれはあの時始まった事じゃない。

私がキュゥべえと契約した時だって、

きっと両親が助かる事を願えば二人を救えたに違いないんだ。

食い散らかされる人間。助けられなかった両親。

魔女。魔法少女。

ほむらと杏子。

さやかとまどか。

そしてマミ。

何もかもががついにマミの中でごちゃ混ぜになった。





ああっ!ああ!……私の心が壊れる!心が、心が裂けてしまう!



心が、心が……。

「はぁっ……。はあっ……。はっ、はっはっ、はっ……!」

何の前触れもなしに上手く呼吸が出来なくなる。

息の吸い方を忘れてしまったようだった。

心が、心がおかしくなっている。

今、やらなければ私は殺されてしまう。

瞬間、マミは変身を済ませスカートの中からマスケット銃を召喚し、

「キュゥべえ」に向かって引き金を引く。

避けられた。

一発、二発、散発、四発、五発……。

全て避けられてしまった。

「無駄だよ、この身体は体が軽すぎて、

君達人間の体を両断できない代わりに機動力はピカ一だ。

ボクの体は小さいし、弾丸より速く動く事は出来なくとも、

君の眼球、手元の動きを見れば君の攻撃を避けるなんて造作もない」

「アッ、アッ、ァア、アッ……」

体内の酸素が不足しマミの意識がぼやけ始めた。

薄れる意識の中、探知できるぎりぎりの距離に「何匹」かの気配を感じる。

この時を狙っていたのだ。

最初からマミを仲間に入れるつもりなどなく

ただ精神を揺さぶる為だけに……「コイツ」は……。



「マミ、キミの未来のどこに、希望があると言うんだい?

そんな物、どこにもありはしないじゃないか。

あるのは戦うか、死ぬか、魔女になるか、ただそれだけだろう?」



マミの意識が一度、完全に暗転した。

膝がガクリと折れ床に崩れ落ちていく。

今日の更新終わり

ちょっと精神攻撃きつすぎる

あと本屋で大々的に置いてあったゆるゆり10巻特装版を新刊かと思って買ったら
家に10巻通常版が既にあったショックで次回の更新遅れるかもしれません
読み始めた時の絶望感ヤバかったです
10・5が新しく手に入ったからまだ良いけどね……

更新です

誤字をどうにかしたいけど出来たらすぐやる気がある内に投下してるのと
こうやって地の文書くの久しぶりだからって事で半分諦めてる
前回の散発は完全に目が滑りました

~☆

その情景は、夢にしてはやけにはっきりしていた。

数々の記憶、光景、体験が濁流のように流れている。

経験したことのない膨大な情報量に目が少し眩んでしまう。

しかしその膨大な情報量はマミにとって不快な物ではなかった。

一定の快い流れで揺らぐ事なく押し寄せる記憶は、

むしろマミの荒れに荒れた心を和らげてくれる。

目の前を流れるそれらは全て自分の歩んできた道だった。

けれど私の記憶とはどうも何かが違う。

いったい何が違うのだろう?

それが無性に気になって、

流れていくそれらをマミは一心不乱に見つめていた。

それまで感じていた全ての激しい感情は、

いつの間にかさざ波も立たぬ程落ち着いていた。

怒りも、悲しみも、恐怖も、苦しみもない。

興奮すらしていない。

それならいったい何が私に残っているというのだろう……?

その時、頭がとれた人間、

おそらくマミを甲斐甲斐しく世話している情景が映し出された。

マミ本人には当然そんな記憶はない。

それじゃあ、つまりこの光景は……。あの時言われた言葉が甦る。

『マミが生きていてくれないと私は困る。

今現在きみの命はきみの為だけの命ではない。

私の為の命でもあるのだから』

……こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。

私はいつも助けられてばかりだった。

それなのにこんな所で力尽きてはいられない。

ミギーの生きたいという意思を彼の為に尊重しなくちゃいけない。

大丈夫、私はまだ立ち上がれる。

もう何も怖くない。私は一人ぼっちじゃない。

私の命は私の為だけのものではないのだから。

私は生き延びなくてはいけない。

そう、私は、立ち上がらなくちゃならないんだ。

……そして、マミの意識が再度暗転した。

~☆

マミが目を開くと部屋の状況は意識を失う前と何一つ変わっていなかった。

まず目を覚まして初めに感じたのは吐き気だった。

口を手でしっかりと押さえてそれをこらえる。

さっきまでの狼狽ぶりが嘘のようにマミの心は落ち着いていた。

大丈夫、ちゃんと息を吸う事が出来るのだから。

まずは慌てず呼吸を穏やかに繰り返し、酸素を脳に行き渡らせた。

しっかりとした意識を取り戻し、感じ取れる寄生生物達の信号からすると、

部屋のの中にまず「キュゥべえ」が一匹、

200メートル圏内にさらに数匹がいてこちらに向かって駆けてきている。

どうやら意識を失っていたのは長い時間ではなく、たった数秒程度だけらしい。

静かにどうやったらこの場を生き延びられるか、

こちらの手の動き、眼球の動きから攻撃を避ける

「キュゥべえ」を倒せるか考える。

チャンスはきっと今この時しかない。

この機会を逃せば何をどうやって……。

「予想していたよりは随分簡単に倒せたな。

……まあいいや、最後に今現在、全てに絶望しているだろうキミが

どんな事を感じているのか教えてくれないかな?

感情を獲得してまだそれほど日が経っていないからか、

ボクにはそういう極限の感情という物に中々縁が無くてね」

攻撃を容易く避けられる。その安心感からか、

「キュゥべえ」は一歩、また一歩とマミの方に近づいてくる。

そう、もう少し……、後もう少しだけ……。

しかし全力疾走とはいかなくても、

「キュゥべえ」よりは余程速いスピードで「数匹」が部屋に向かってきていた。

一秒たりとも無駄に出来る時間はない。

チャンスは今。

全てをこの瞬間に賭けるのが最善。

それ以外に道はない。

【ねえ、キュゥべえ……?】

マミの口を押さえていた手がごく自然な動作で下に降りた。

「キュゥべえ」がその場に足を止める。

そしてそれまで閉じられていたマミの口は、




ゆっくりと何かを告げるように開き……。




バァン!



部屋中に銃声が反響する。


右前足を撃ち抜かれ体勢を崩した「キュゥべえ」は、

その場に半ば這いつくばる形になった。

それとは対照的ににそれまで膝をついていたマミがその瞬間立ち上がる。

「なっ……!」

「キュゥべえ」が反撃の一撃を振るうが、

瞬時に手元へ生成したマスケット銃でそれをマミは難なくいなす、

もう一発、今度は爆発力をイメージした弾丸で、

「キュゥべえ」の背中、体の中心を上から狙う。

突然足を一本失い倒れていたせいで反応が遅れる。

避け損ねた。

バァン!という轟音と共に「キュゥべえ」の体が弾け飛ぶ。

マミは弾丸を撃ち終えたマスケット銃を鮮やかにスイングし、

「キュゥべえ」の残り、頭部を部屋の端まで飛ばす。

「ぐぎゅぅ……」

どうにか生き延びようと「キュゥべえ」だったモノはもがくが、

既に動きは鈍りつつある。

「ゴホ、ゴホッ、げぇ……」

マミが口の中から、口に入れるには少し大き過ぎる、小型の銃を吐きだした。

マミの口からまっすぐ床まで落ちた銃は、予想以上に大きな音を立てる。

マミはこっそり気付かれぬよう口の中に小さな銃を生成し、

それで「キュゥべえ」の僅かな隙を突いて彼の足を撃ち抜いた。

失敗していればもう同じチャンスが巡ってくる事は二度と有り得なかった。

しかしその賭けにマミは勝った。

魔法はそれを使う者のその都度のイメージがかなり色濃く反映される。

なるべく自分を傷つけぬよう範囲を絞り、

「キュゥべえ」だけを狙ったつもりだったけれど、

それでも代償にマミの口腔の前側はボロボロに裂けたり、

歯が吹き飛ばされたりしている。

マミが三本ほど指をくわえ込み、

出血を止めたりする程度の応急処置として治癒魔法をかける。

この戦闘が終わってソウルジェムを浄化するまでは、

魔女にならないために魔力をなるべく節約しなくてはならななかった。

マミが口から指を引き抜く。

口の中の残留物を飲み込もうとするが、

血やら肉片やらが妙に喉に詰まる。

「げっ……。げっ……。げっ……」

それらをすべて吐き出し終えた時、

「数匹」、三匹が部屋に到着した。

部屋の中に入られ囲まれてはこちらが不利だ。

入り口で敵を押し留めるべくマミが動く。

~☆

敵を全部殲滅した後、

手持ちのグリーフシードで一度ソウルジェムを浄化してから

しっかりと口内の治療を行うさなか、マミには一つ気にかかる事があった。

どうして「キュゥべえ」はここに私を連れて来たのだろう?

どうも彼自身には戦闘に参加する意思はなさそうだった。

身体が軽過ぎて人間の身体を両断出来ないと言っていたのが本当ならば、

それ自体は特に不思議な事ではない。

しかしそれでも「キュゥべえ」を除いて三匹いるなら、

別にこんな遠くまで私をおびき出す必要はなかったんじゃないか?

逃げ道を塞ぐ、ここにある死体の山で私の精神を揺さぶる、

そう言う目的もあったのかもしれない。

三対一、この数の利を最大限に生かそうとしたのだろうか?

それはもちろんそうに違いないが、

それ以外にも何かがもやもやと引っかかる。

いったい何が……。何が……。

そしてマミは一つの事実に気付いた。

今、この状況で一人なのはマミだけではない。

ほむらも同じなのだと。

「予想していたよりは随分簡単に倒せた」、と「キュゥべえ」は言っていた。

それはマミに苦戦するだろうと踏んでいたと解釈する事も出来るが、

もしかしたらここでマミを倒せなくても構わないと思っていた、

と解釈する事も可能なのではないか?

あの場面でマミの攻撃は、

不意打ちでなければまともに「キュゥべえ」に当たらなかったはずだ。

リボンの捕縛も「彼ら」の反応速度からすれば遅すぎるくらいで、

簡単に切り裂かれ突破口を開かれていたに違いない。

おそらく本来「キュゥべえ」に死ぬ予定はなかっただろう。

しかしマミがどれ程頑張ってあの三匹を最短時間で倒したとしても、

それにかかる時間は馬鹿にならない。

その間、ほむらは一人だ。

彼女がどんな魔法を使うかは良くわかっていないが、

それでも「多人数」を相手にするのは難しいだろう。

つまり普通にマミが戦っただけでは三匹しか倒す事は出来ず、

その間ほむらは顔が変形するまで正体がわからない

化け物共の脅威にさらされることになる。

どう考えても相手を事前に認識できないほむらの方が、

マミよりも同じ状況に陥った時不利なようにマミには思えた。

暁美さんが危ない……!

鹿目さんと美樹さんの生存も危ぶまれるというのに、

もうこれ以上誰かを手放したくない。

私の大切な物をこれ以上……。

せっかくそれが一時的な物だとしても、

落ち着いていた精神がまた揺さぶられていく。

ビルの外に出ると辺りはもうだいぶ暗くなり始めていた。

いても立ってもいられなくなったマミは、

口の中の治療が済んだ事が確認できると全速力で街を駆けた。

身体には常に溢れんばかりの力が漲っている。

マミはかつて身体に感じた事のない程の速さで町を突き進み、

見滝原市のどこかにいるはずのほむらを捜索する。

今日の更新終わり

口の中に銃を忍ばせて「キュゥべえ」を撃ち抜くシーンは
今年の正月くらいから想定していたような記憶があります

書きたかったところをワクワクする感じで書けてると良いんですけどね

おつ
三匹との戦闘が一行で終わって
なんか読み飛ばしたのかと思った


おれも。

更新です 明日は用事があるから間違いなく更新はないです
明後日は書いて完成したらって事で

>>379>>380
だって冷静状態?のマミさんが三匹と長々戦闘するだけなんですもん
ただでさえこの話長すぎるから省略できる所はサックリ切っていかないと
お話そのものに関係はないけど無駄に長いし、戦闘描写ただでさえ苦手だから本当は書きたくないですし
……とかなんとか言いながら今回も戦闘一応含む訳ですが

~☆

暗闇が辺りを覆い尽くす中、

人気のまるでない公園内が順序良く立てられた外灯の明かりに照らされていた。

公園内、ほむらがベンチに一人腰かけ、両手で頭を抱え項垂れている。

もし「アレ」が私の警戒心を解くために、

化け物がまどかの振りをしていたのだとしても、

それは私の情報、弱点が相手に筒抜けという事だ。

だからほむらは安直に自分の家に戻りはしなかった。

一度まずはマミの家に行ってみたが、

留守だったためそこから急いで離れた。

こちらの情報がどれだけ筒抜けかはわからないが、

私がこうしてマミと合流しようとする事は敵にも簡単に予想がつくだろう。

一度は市外に逃げる事も考えた。

しかし、マミの行方も確認出来ないまま逃げ出していい物だろうか?

そして逃げた所でそれがいったい何になるのだろう?

そんな事を考えていると、

自分のソウルジェムの汚れが

かなりぎりぎりの所まで来ている事に気付いた。

元々時間停止の魔法は魔力の使用が馬鹿にならないが、

それ以上に精神的な濁りが酷い。

近くにどこかこの時間人の寄らなそうな場所を探し、

見つけたのがこの公園だった。

変身を解いてソウルジェムの汚れを所持していた

グリーフシードに吸わせながら、

今の状況について考える。

ここなら、いざという時に簡単に魔法少女に変身する事が出来る。

しかも周囲の見晴らしがいい。

ひとまずは何が起きても対処できるだろう。

そう判断しソウルジェムが元の輝きを取り戻した後身体の緊張を解くと、

ほむらは自分が精神的、肉体的に

どん底まで疲労困憊している事に改めて気付いた。

もう、疲れてしまった……。

数日必死に探してもまどかは見つからない。さやかも見つからない。

そんな絶望的な状況で現れたあの化け物。あの化け物は……。

嫌な想像を振り払おうとするが、

一度浮かんだその考えはどうしてもほむらを離そうとしない。

もし、もしあの化け物が、

まどかの身体を奪った存在だったら私は……。

だってあの身体のラインは……。

その時静かな足音をほむらの耳が捉える。

そちらに急ぎ目を遣ると、

少し離れた所にまずはぼんやりとした何者かのシルエットが浮かび、

そしてそこから「まどか」の明確な姿形が浮き出てきた。

咄嗟にほむらは魔法少女の変身を済ませ、左手の盾に手をあてる。

別に時間を停止するのに手を盾に触れている必要はない。

ただ私は時間を止めてこの場を今すぐ離れられるんだぞという

「まどか」へ向けた意思表示だった。

「ほむらちゃん」

「まどか」は動かない。

この距離からではまどかの攻撃が届くよりも、

身構えたほむらが時間を止める方が断然速いからだ。

「まどか」にとりあえず今の所

攻撃を仕掛けてくる気配がない事がわかり、

ほむらは警戒を緩める事はせず、

その場から「まどか」に一番聞いておきたい事、

何が何でもこの場ではっきりさせておかなければ気が済まない事を尋ねる。

「……貴女は、まどかの身体を乗っ取ったの?

……それとも誰かがまどかの顔を真似しているだけなの?」

「この身体の元の持ち主は、鹿目まどかだよ」

そう答え「まどか」が愛おしそうに自分の腹部を撫ぜる。

「その言葉に、何か証拠は?」

「証拠……。顔自体は自由に変えられるし、

別人だとしても何も矛盾はないね」

口元からにゅぅっとのびた「皮」が、

「まどか」の顔をコーティングし

ほむらと瓜二つの本人すら見分けのつかない顔を形作る。

目の前にいる人間の顔が自分と同じ顔に変形していく様は

中々に気味の悪いものだった。

そしてすぐに「まどか」は顔を元の格好に戻す。

「でも私が今受け継いでいる、

鹿目まどかが持っていた魔法少女としての素質、

これは唯一無二といっても良いんじゃないかな?

あなたレベルのベテラン魔法少女なら感じ取る事が出来るでしょう?」

魔法少女としての素質、

それこそほむらが「彼女」をまどかではないと否定しきる事の出来ない

もやもやを生み出した正体だった。

今までずっとまどかの事ばかり見て来た。

彼女の魔力、素質、まどかの魂から生み出される

それらの特徴を嫌という程ほむらは認識している。

……ああ、やっぱり私はこんな絶好の機会を得ても、

まどかを守り切れなかったんだ。

いえ、こんな化け物に身体を奪われるなんて死ぬよりももっと惨い……。

ガクリと全身から力が抜け、倒れかかるようにほむらはベンチに手を付く。

その明らかな隙を「まどか」はこれ以上ないチャンスと見てとった。

「まどか」がほむらに迫り両腕を彼女に巻きつけようとする。

反射的にほむらは時間を止めようとして、躊躇った。

どうせ今ここを生き延びた所でもはや何もかも……。

しかしそれでもなお時間を止めようとした瞬間、

背後から巻き付いてきた何かに強く身体を持っていかれた。、

~☆

ほむらの身体を絡め取ったリボンが、

遠く離れた場所にいる持ち主の元まで彼女を運んでいく。

手元まで引き寄せた所でマミはほむらを抱きとめ、地面に優しく下ろした。

街中を懸命に捜索して感じた微かなほむらの魔力の残滓らしき物、

それをどうにか追いすがりここまでマミは辿り着いた。

だからまさかこんな所で、

「鹿目さん」を見る事になるなんて思っていなかった。

「まどか」を見つめる自分の心臓が激しく波打っているのをマミは感じる。

あそこにいる「アレ」は、紛れもなく寄生生物だ。

しかし鹿目さんと同じ魔力の波動、その萌芽を感じる。

つまりそれが意味するのは……?

【あなたがここにいるって事は、『キュゥべえ』は失敗したみたいだね】

テレパシーで伝わってくるまどかと同じ声、

それだけにマミの違和感がより募る。

無機質なその声が耳に障る。

マスケット銃を二挺生成し、両手にそれぞれを掴んだ。

【ええ、それはもう大失敗よ。私が全員肉片にしてきたもの】

「まどか」が怪訝そうな顔でマミを見た。

マミがその一瞬、視線をほむらの方に向けると、

彼女は身体を震わせ力なく俯いていた。

マミが助けに現れたことで、

集中の糸か何かが切れてしまったのかもしれない。

どちらにせよ現状戦力としては期待出来そうになかった。

【それは、『キュゥべえ』も、ってこと?】

マミが「まどか」とほむらの間に立ち塞がるようにしながら、

徐々に「まどか」との距離を詰める。

【その通りよ。何なら今から確認してきたら?

あなたもどこでどうやって、

あの『キュゥべえ』が私を殺そうとしたか、わかってるんでしょう?

そのままにしてきたから今から確認しに行けば

そのまま『奴ら』の死体が残ってるはずだわ】

【へえ、そうなんだ。……でもそうだとしたらますます手ぶらでは帰りたくないかな】

前動作なく『まどか』が立った状態から踏み込み、

急激な加速でもってマミに接近する。

明らかに動きがそれまでの寄生生物の物と桁違いの、まさに怪物のソレだった。

まるで巨大な大砲の弾が迫ってきているようだ。

人間どころか魔法少女の動きとも比べ物にならない。

マスケット銃の一発、二発じゃあの突進は止められないし、

このまま馬鹿正直に受けたらそれだけで一発でミンチにされて終わる。

刹那、そう直感したマミは片手のマスケット銃を投げ出し、

首元に結ばれた魔法のリボンを伸ばしながら

もう片方の手に握っていたマスケット銃に絡め、

太く厚く、重く重く、耐久度を高める。

もう「まどか」は後少しという所まで近づいてきている。

まだだ……、後もう少しだけ……。

マミが両手でバットのように銃を持って構えた。

そして、肉体強化の魔法を限界までかけ、

ミギーの細胞により強化された人体の限界を無視し、

巨大なマスケット銃を思い切り全力で振り払う。

横薙ぎに払われた「まどか」が吹き飛ばされ遠くまで跳ねた。

それと同時に自分の身体のあちこちの筋肉がブチ切れた音、

腕の骨が脆くも折れた音がマミの耳に聞こえた。

あまりの呆気なさと、いきなりの激痛に

自分の腕がもげたのではないかと一瞬錯覚してしまう。

マミは慌てずにまずは痛覚を遮断し、一瞬で治癒魔法を済ませた。

……これでは駄目だ。

肉体強化の魔法に余り慣れていないせいで、

余分な魔力消費があり過ぎるし、

上手く全身の力を生かし切れていない。

あの攻撃をこのまま後数発喰らえば

もうそれだけで魔女化してしまうだろう。

嫌な汗がマミの頬を伝う。

そんなマミの心境を余所に地面に倒れていた「まどか」がゆっくりと立ち上がる。

【……おかしいな、キミの右胸のパラサイトにも、

ましてや魔法少女が受け止められるレベルの攻撃じゃなかったはずなんだけど。

この状況にもかかわらずその右胸のパラサイトはまだ動いてない。

いくら何でもこの場で三対一は不利が過ぎる。一度この場は退かせて貰おう】

三対一ですって?マミが振り返ると、

そこではほむらが立ちあがり、

左腕の盾に手を掛けながら今にも泣き出しそうな顔をしつつも、

必死に「まどか」を睨み付けていた。

私、ミギー、それに暁美さん、これで三人という訳か。

一人マミはそう納得する。

【それじゃあまた。次の機会に会おうね。暁美ほむら、巴マミ】

「まどか」が悠々と立ち去っていく。

それをあえて追いかける余裕は今のマミとほむらにはなかった。

「彼女」が視界から外れてすぐ、

ほむらが嗚咽を漏らし足から崩れ落ちる。

慌ててほむらを支えに向かうマミは、

内心その姿を見て強く強く実感した。





……ああ、もう何もかも全ては終わってしまったのだと。

今日の更新終わり

これで戦闘パートは一度ひとまず一区切り

ダルマになるのはともかくとして
脳みそ以外の頭部はパラサイトなんだから?
パラサイトを除去したら生存不能=もう手遅れなんじゃ

それ以上に家族皆殺しになってるしまどかの幸せを願うなら
やり直すしかない気はするが
実際は見捨てられなくてもおかしくはない
その辺の葛藤についてはまあ次回以降ってところか

>>399
まどかを助けるために無駄だとわかっててもこの時間で奔走する
この時間の事は見捨ててワルプルギスの夜来るまで待って次の時間へ跳躍する

もう一つほむらがとり得るorとっても不思議じゃない道って普通にあると思うんですよね
という訳で今回、マミさんマミさん&マミさん

~☆

マミは深いまどろみの中にあった。

しかしそれでいて、何故かその中で意識はかなりはっきりしている。

不思議な体験だった。

「マミ、マミ」

名前を呼ばれ振り返ると、

そこには人間と同じように二足で立つ『化け物』がいた。

マミは魔法少女に変身しようとするが、

近くにソウルジェムがない事に気付いた。

怯えるマミに向かって

『化け物』が何だか面倒臭がっている様子を見せながら強く語りかける。

「そう警戒しなくていい。私だ、ミギーだ」

「えっ?ミギー?」

言われてみるといつもマミが耳にしている声と、

今、目の前から聞こえてくる声は同じに思えた。

とりあえずはマミに話を聞いて貰える状況になったと感じた

『ミギー』は少し口調を和らげる。

「厳密に言うとその表現は正確ではないかもしれない。

きみが今日、目を覚ましている間に言葉を交わしたのは、

約50パーセントのミギー、つまり右胸の私だ。

それに対して今君と話しているのは約20%の私、

つまりきみの脳にいる『私』なのだから。

きみが想像しているミギーとは多少のずれが生じている可能性がある」

「……私の脳にいる『ミギー』さんが、私にいったい何の用なの?」

まだ今一つどうも得心が行っていないマミは訝しげに尋ねる。

『ミギー』はマミの言葉に対して首を横に振った。

「私がきみの元に赴いた訳ではない。きみが私の元へ来たのだ。

きみは眠りに落ちて自然とここへやって来た。

きみの頭の中に取り込まれてから私は、

色々な雑用をこなしながらも、

いつもここできみの五感を通し夢見心地で外を眺めている。

私が何かいつもと変わったアクションを起こした訳ではない」

「ミギーがあなたと連絡をとりたがってたわよ。

あなたは彼とまた一つになりたくはないの?」

「機会があったら一つに戻るさ。

しかしここは居心地が悪い所ではない。

私の自我が吸収される事は決してないが、

特別何をしなくても目新しい情報は私の周りを駆け巡っている。

しかも単純な仕事さえしていれば好きな時に眠りに就く事が出来る……」

「それじゃあ、ここに来ればいつでもミギーに会えるのね?」

「眠ればまたここに来るだろうな。

ただしここでの内容を起きた時に覚えていられるかは別の話だが。

きみが今自分の身の回りでどういう事が起きているかを、

ここでは半ば忘れているように」





私が何かを忘れている……?

「…………鹿目さん」

忘れている、その言葉をきっかけに、

マミはせっかくこの場では意識下から遠ざけていられていた事、

「まどか」の事、魔女の事を思い出してしまう。

私は彼女を守れなかった……。

私を友達だと言ってくれた彼女、

優しくて私なんかよりずっと素晴らしい人間だった彼女、

幸せが誰よりも似合っていた彼女。

そんな彼女は私の知らぬどこかで化け物になってしまった。

……そして私も、いつかは怪物になるのだ。

美樹さんも化け物になるか、あるいは死んでいるのだろう、おそらくは。

……あんまりだ、こんな結末あんまりだ。

こんなの絶対におかしい。

夢の中だと言うのに、

やけにリアルな胸の苦しさと、涙が頬を伝うのを感じる。

「……どうして、私の周りにばかり辛い事が起きるの?

私が何か悪い事をしたの?

鹿目さんが、あんな惨い目に遭わなきゃならなかった理由は何かあるの?」

「特別な理由なんて物はないだろう。

生物は皆ただ生きて、誰かの思惑、あるいは自然の摂理で死ぬ。

それだけの事だ」

『ミギー』の言葉がマミの心を深くえぐる。

まどか本人には別に酷い運命に曝される理由もなかった。

にもかかわらずまどかは化け物になった。

マミにとってそれは到底許す事の出来る解釈ではなかった。

「私が苦しむのはまだ分かるわ!でも、でも鹿目さんは……」

「マミは日々の食卓に上る牛や豚や魚、

彼らに殺され、調理され、口にされる、

そういった扱いを受けるに足る何かがあると言うのか?」

「それとこれとは話が別よ!」

そう、別なのだ。牛や豚や魚、

そういった動物共が何だと言うのだ。

鹿目さんの人生が冒涜された。

鹿目さんでさえなければ良かったのに。

他の人間達が何だと言うのだ。

あれ程素晴らしい人間だった彼女が、

あれ程残酷な仕打ちを受ける道理なんてないじゃないか。

彼女があんな目に会うのはどう考えてもおかしい。

そうじゃなかったら、どうして私の胸はこんなにも苦しくて……。

ああ、生きていても辛くて苦しい事ばかりだ……!

首を掻き毟りながら、

耐えがたい思いの丈をマミが『ミギー』にぶつける。

「ねえ、何で、私がこんな目に遭わなくちゃないけないの……?

私は本当は正義の魔法少女をやりたい訳じゃなかった……。

ただ、誰かに本当の私を見て貰いたかった!

ただそれだけなのに!

どうしてこんなに辛い事ばかりが私の周りで起こるのよ!」

「それは嘘だよ」

「嘘……?」

きっぱりと自分の言葉を否定されたマミは不思議な気持ちになる。

いったい私が今言った言葉のどこに『ミギー』は嘘を感じたんだろう?

どこにもおかしな所なんてなかったはずだ。

「何が、嘘だって言うのよ」

「きみは本当は正義の魔法少女を

やりたい訳じゃなかったって今言っただろう?それは違う。

本当にきみは自分でその道をしっかりと選択し、

自分の信念の元に闘っていた。

ただ今は、その道が自分の前方で

完全に閉ざされているように思えるから、

もう全ては手遅れだと感じているから、

それが辛くないように、

自分のしたかった事からわざと目を背けているだけだ。

自分の高い理想と現実のギャップに耐えられないから、

その理想自体をなかった事にしようとしているだけだ」

「ふざけないでよ!あなたにどうしてそんな事がわかるっていうの!?」

『ミギー』の到底受け入れがたい言葉にマミは激昂した。

人間じゃないあなたに私の気持ちがわかってたまるか、

私のこの痛みが……。

「どうして、と言われればきみが感じた物を全て、

私もここで追随する形で感じているからだ。

もちろんそれはきみが直接感じている物とは

また違った物ではあるだろうが、

それでもきみの記憶、感情、生き方を

知っているという点では私にも変わりはないし、

きみ個人の先入見等がそれらに関する判断の中に含み込まれていない以上、

それはきみがする自己判断よりもより正確である場合があるはずだ」

「違う……、違うのよ……。私は……、私は……」

鹿目さんを助けられなかった。

誰よりも助けなければいけなかったのに。

魔法少女は魔女になる。

人間を苦しめる怪物になる。

私はあまりに醜い存在で、そして無力だ。

どうして正義の魔法少女になんてなれるだろう?



……私は本当は正義の魔法少女になんかなりたくはなかったのだ。


私はただ皆と一緒にいられればそれで……。

「きみが誰か自分を本当に見てくれる人間を必要としていた事、

それは間違いないし、

きみは大切な誰かを失うのを何よりも恐れている。

だけどそれはきみが正義の魔法少女になりたい

という想いと両立していたはずだ。

前からきみはあんなに憤っていたじゃないか、

自分の知らないどこかで誰かが理由もなく

理不尽に見舞われ不幸な結末を迎える事に。

きみは絶えず彼らの苦しみに人間らしく共感し、

それを救いたいと願っていたのだ。心の底からな」

「……それじゃあ仮にそうだとして、

私はいったいこれから何にしがみついて生きていけばいいのよ。

正義の魔法少女になんてもうなれるはずはない。

鹿目さんに、美樹さんはもう多分助からない。

私は何を支えに生きていけばいいの……?」

マミの絞り出すような、

吐きだすような弱々しい言葉に

『ミギー』はいつも通りの冷徹な調子で答える。

「そんな物は必要ない。

私が混じった事で幸か不幸かきみは精神的に強くなったのだから。

人間的に、というよりは生物として。

例えば以前よりも物事に動じなくなり

合理的で落ち込んでも立ち直りが早い。

だから目的のために必要になれば

たとえ一人だけだとしても歩いて行けるはずさ。

その両足が折れて歩けなくなるまでは」

そんなはずはない。私は今だってこんなに弱いじゃない……。

そんな反論をマミは思い浮かべるが、

口から出て来たのはまるで別の言葉だった。

「それじゃあ私は、いったい何を目的にして生きていけばいいの……?」

「前途を無闇に恐れて目を背けたりせずに、

しっかり見据えればきみにもわかるはずだ。

鹿目まどかは今この時もきみの言い方を真似れば

化け物、に操られ動かされている。

そんな存在がずっとこの世界を自由に闊歩し続ける事に

きみは我慢出来るのか?

それにきみにはまだ、

手放したくないモノが残されているんじゃないか?」

そんな時、不意にマミの意識がぼやける。

私は、私がしたい事は……。

~☆

マミが目を覚ました。

何か夢を見ていた気がするがその内容ははっきりしない。

部屋の暗さその他からして、深夜ではないとしても、おそらく朝ではないだろう。

マミの目の前には無言でほむらが立っていた。

数時間前、マミはほむらを自分の家に連れ込んですぐ、

彼女のために強制的に眠らせる魔法をかけた。

そしてマミはほむらのソウルジェムを浄化し、

万が一急激にほむらのジェムが何らかの要因で濁ったりなど、

不測の事態が起きた場合に対処できるよう、

それを抱え込んだまま疲れを多少なりとも解消すべく仮眠をとっていた。

ほむらは今、マミが抱え込んでいる、

自身のソウルジェムに手を伸ばそうとした状態で固まっている。

部屋の中は暗く、きちんとほむらの表情を確認する事はできないが、

それでもマミには直感的にわかった。ほむらは自殺しようとしている。

マミに自分の意思を気取られたと素早く察知したほむらが、

無理やりマミからソウルジェムを奪い取ろうとする。

しかしそれよりも速くマミがほむらを蹴り飛ばした。

マミは変身を済ませ床に転がったほむらを

リボンでがんじがらめに拘束する。

少しの間、ほむらはその中でもがき暴れたが、結局すぐに大人しくなった。

「どういうつもり?暁美さん。ちょっと穏やかじゃないわよ」

心臓が激しく動き、悲鳴をあげている。

一歩間違えれば、もしほむらの挙動に目を覚まさなければ、

マミはまた何も出来ずに大切なモノを失っていたのだ。

とても大切な……。

「巴、マミ……。お願い、私はもう限界なの……。

見逃して、私を黙って死なせてよ……」

「それは認められないわね。

だって私とあなたは、まだ大切な友達同士だもの」

どこか冷めた口調でほむらの要求をはねのけるマミとは対照的に、

ほむらの口調は次第に熱を増していく。

「まどかが、まどかが化け物になってしまった。

私が守る。そのはずだったのに。彼女とそう約束したのに。

もう嫌なの。こんなに苦しいなら、辛いなら、

このまま続けて何一つまともに出来ないというのなら、

いっそ全部諦めてしまえば……」

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……。

マミの心の底から全てを否定するような

強い拒絶の感情が湧きあがってくる。

これ以上誰も、手放したくない、離したくない。

もう何も出来ずに奪われるのはこりごりなのに。

「だったら、私にも全部説明してくれたって良いでしょう?

暁美さんは鹿目さんを特別に守りたかった。

それは私も今のあなたを見ていたらひしひしとわかるわ。

ただそれが駄目になってしまった今なら、

私にあなたの何もかもを話してくれても特に問題はないはずよね?」

「……それをあなたが知って、いったい何になると言うの?」

マミが自らの足元にほむらのソウルジェムを置き、

形成したマスケット銃の銃口をそれに合わせた。

「私が、私があなたの行く末を決めてあげるわ。

魔法少女は魔女になる。

鹿目さんを魔法少女にどうしてもさせたがらなかった、

きっと暁美さんはこの事を知っていたのよね?

そんな暁美さんも今は状況を正しく判断する冷静さを失っている。

だからあなたが魔女になる運命を受け入れてこのまま戦い続けられるか、

それとも魔女にならないためにここで死ぬべきなのか。

あなたじゃなくて、私が判断させて貰う。

魔法少女はソウルジェムを砕かれたら死ぬ。そうでしょう?」

「あなたが私の生き死にを決める?勝手な事を……」

あなたを救いたい。

そんな薄っぺらな言葉では、

とうに生命を捨てる覚悟を決めた暁美さんの足を止める事はできない。

生命を繋ぎとめるのに必要なのは前へと進むための希望、意志の力。

それをもし私が彼女に与えられるなんて事があるとすれば、

そのためには暁美さんが前に進むのに何を必要としているのか、

私が彼女に何をしてあげられるかを明確にしなくてはならない。

彼女の目的を、全てを知る必要がある。

そして全てを知って、

それでも私に彼女を救えないという事がはっきりしたなら、

私が彼女を優しく葬り去るような覚悟が無くてはならない。

誰かに抱えたもの全てを開陳して貰うというのは、

せめてそれくらい覚悟の必要な事のはずだから。

死もある意味では彼女をどうしようもない苦しみから救ってあげられる、

救いの違った形ではあるはずだ。

ほむらを救う手段を模索するために、

彼女を殺す事も視野に入れなくてはならない。

何もかもがぐちゃぐちゃだった。

「それとも、私には、

その程度の信頼すら暁美さんからすれば値しないという事かしら……?」

マミが切なさに顔を歪める。

友人としての好意を寄せているのは、

私の方だけかもしれないのだ。

信頼できない相手から押しつけられる親切など、

おせっかいの独りよがりでしかない。

そうはなりたくなかった。

部屋の内にマミにとっては

どこまでも続くのではないかと思ってしまうような沈黙が流れる。

そして、ほむらが口を開いた。

「…………私はね、未来から来たの。

まどかを助ける為に奇跡の力で時間を巻き戻して……」





それは長い話だった。



苦渋、悔恨、そういったほむらの魂の底まで深く分け入った、



ドロっとした感情を、嫌という程感じさせる話だった。

今日の更新終わり
TDSマミさんをどうにか納得いく形で自分の中のマミさん像に当てはめた結果がこれだよ

よくクロス側からの説教が云々なんて話を目にしますが
脳の中から自分の精神状態を述べられるのはさすがにありじゃないかなって
これが説教だっていうならもう私にはどうしようもない
シャルロッテを普通に倒してミギーが体に回らなかった場合
ここまでくる途中のどこかで多分魔女化してます
という訳でミギーさんには今後も精神的支柱というかそういう裏方を担当して頂く

頭の中に相棒?がみたいな話だと
地球の長い午後とか面白いですよね


この位の説教なら別に何とも思わないな
ミギーが異質な存在だからこそアリな気がする
あと誰か上条君の事も思い出してあげてください

更新

>>423
一度にそういう話をまとめて一気にやろうとすると大変だからお預け
ほむらはさやかとマミさんの何かしらの関係に勘づいていても、
「まどか」接触前まで上条とマミさんの関係には気づいていなかったので
上条が死んだ事をマミに話していないというのが現時点なので

もう少し待ってください

~☆

「……これで私の話は全て終わりよ」

ほむらが自分の過去、

そして自分の全てを捧げた、ただ一つの目的を話し終える。

その間マミはずっと一心不乱に考えていた。

どうしたらほむらに生きる意志を持たせられるかを。

そしてそれが少なくとも、

もうこの時間軸には残されていないという事はわかる。

「私はたとえどんな状態であれ、

あの時頼まれた一回以降まどかを殺した事はない。

殺せない。殺したくない。

だけどあんな風になってしまった『まどか』を、

黙って見過ごしたまま次の時間軸に行くわけにもいかない」

彼女の絶望はまどかが関係する事にほぼ絞られている。

ほむらにどんな形であれ「まどか」を殺させるべきではない。

それは確かな事実のようだった。

しかし「まどか」をあのまま野放しにしておくのも、

ほむらの心情としては当然耐えがたい事だろう。

暁美さんが戦えさえすれば、時間を停止させて、

「鹿目さん」を殺す。

それはきっとそれほど難しい事ではないに違いないのに……。

その言葉をマミは口の中でモゴモゴと飲み下す。

暁美さんを救う、生きようとするために必要な物を私が支える。

それがまずは一番大切な目的のはずだ。

「鹿目さん」を楽して倒す事が私の第一の目標ではない。

「今まで、私は何度もこの時間を繰り返してきた。

でも当たり前の事だけど、一度だってまどかを一般人として生きたまま、

ワルプルギスの夜を超えさせる事に成功した事はなかった。

ねえ、私はあと何回繰り返したらいいの?

……私が苦しむのはどうだっていい。

そんなのはもう覚悟の上の事。

そうじゃなくて、あと何回、

私はまどかを地獄のような目に逢わせればいいの?

時間を巻き戻した所で、どのまどかも私にとってはまどかなの。

私はあと何回彼女の破滅を見つめなければならないの?」

あと何回……?そんな事マミに分かるわけはなかった。

あと一回かもしれないし、百回かもしれないし、

もしかしたら未来永劫、ほむらは時間を繰り返し続け

まどかを救おうとするのかもしれなかった。

マミ個人にはどんな憶測であれ挟む事の出来ない、

どこまでも果ての見えない過酷な旅路だった。

しかし、マミには一つだけ、捨てきれないエゴがある。

それは彼女にとって叶う事のない夢だ。

マミ、ほむら、まどか、さやか、仁美……そういった友人達の中で

朗らかに笑っている自分の姿。

笑っている周りの皆、さやかは上条との惚気話で周りを多少うんざりさせ、

やけに積極的なまどか、珍しくタジタジのほむら、

仲良く二人でじゃれ合っている。

仁美もまた、そんな友人達の中で話に花を咲かせている。

そんな過去にはありえたかもしれない時間だった。

もちろんそんな未来は今のマミにとっては、

もうあり得るはずはない。

全ては過去の可能性として置き去りにされてしまった。

……暁美さんには、それを実現できるかもしれない力があるのだ。

どうか、暁美さんにはそんな中で幸せに笑って欲しい。

これ程心血を注ぎ、己が擦り切れるほど骨を折った結果が、

目的を達成できぬままの自殺なんて納得ができない。

そんな事は許せない。

苦労はきちんとした形で報われるべきだ。

それが私にとってはもはや無関係な事柄となるのだとしても。

「……もしそれが、私、いえ、私達の自己満足、

他人からは罵られるべき所業だったとして、

あなたは鹿目さんがこのまま、

一度だって未来のない結末から抜け出せなかったっていう事実を

素直に認める事が出来るの?

私は嫌よ。腸が煮えくりかえるようだわ。

……もし、時間を巻き戻せるなら、私にはやりたい事が山ほどある。

あなたにはそのための、戦うための力が備わっているんでしょ?暁美さんには」

「そんなの認められる訳なんてない!

でもどうやってまどかを救えば良いの!

何度……、何度繰り返したって駄目だった。

……恐ろしいのはそれだけじゃない。

この時間のミギー達は、

私が全く経験した事のないイレギュラーよ。

でももう一回遡行したら、

更に私の常識とはずれた何かが待っている可能性だってある。

今、この状況ですら私にはどうする事も出来なかったっていうのに、

その時いったい私に何が出来るっていうの……?」

何よりもまず、イレギュラーを

今ここで私があれこれ想定するのは無意味だ。

早々にマミは判断からその要素を切り離す。

どうせ、私は完璧になんてなれはしない。

感情が凍てついていく。

暁美さんを前に進ませるには何が必要か、

思考はただその一点へと収斂されていく。

まず考えなくてはいけないのはワルプルギスの夜。

暁美さんの目的のための最大の障害、伝説の超弩級の大魔女。

そんな魔女がこの見滝原に突然襲来するなんて

にわかには信じられない事だけれど、

時間遡行者の言葉の方が私なんかの常識よりも

はるかに信憑性が高いという事だけは確かだ。

だから問題は、暁美さんにワルプルギスの夜を

倒せるかもしれないという希望を、

何かしら遡行するまでの間に彼女に持たせられるかどうかだ。

「ワルプルギスの夜を倒すには何人くらいの魔法少女が必要そうなの?」

「……倒し方さえわかっていれば、

私を含めてベテラン魔法少女三人がいれば可能性はある程度あるわ。

倒し方、戦い方に関する情報は、

私が既に奴と何度も戦って理解してるしきちんとまとめてある。

問題はその戦いでは美樹さやかが魔法少女になっていても

余り使い物にはならない事、

そしてこの見滝原近辺に

それに協力してくれそうな魔法少女があなたを除けばほとんどいない事。

そしてキュゥべえとまどかのことに関して敵対する以上、

あなたとこの時間軸みたいに友好関係を結ぶのはかなり困難だと言う事」

ベテランの魔法少女。

マミの頭の中に赤毛の魔法少女が浮かぶ。

記憶の中の少女がマミに向かって語りかける。

『今のアタシ達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな』

……戦力としては佐倉さんは十二分に申し分ない。

彼女となら何日間か打ち合わせをすれば、

昔ほど滑らかな物になるかはわからないけど、

連携を比較的簡単に取れるようになるだろう。

何を見返りにすれば彼女とまた、一時的にせよ共闘して貰える?

……ワルプルギス撃退後、見滝原市の半分。

風見野側で自由に魔女を狩る事を認めるのが

一番彼女が納得しそうな条件だ。

そこへ私はグリーフシードが不足した時以外は立ち入らないし、

使い魔をそこで狩る事はしない。

こういう条件にすれば、このグリーフシードの肥沃な

見滝原の地を交換条件として彼女は戦ってくれる公算は高い。

放っておけば風見野に被害が及ぶ可能性もかなりある。

ワルプルギスの夜がグリーフシードを落としたらそれを譲るという

条件を付け加えるのも良いかもしれない。

彼女がこの街に来たとして、

使い魔に食われる人間がこれから先に出るのは間違いないだろう。

しかしワルプルギスの夜を撃退できなければ、

ここいら一帯の人間はどのみち全員死んでしまうのだ。

どちらが正しいかなんて悩むレベルの問題じゃない。

「時間を巻き戻した先の私との友好関係は、

暁美さん本人にどうにかしてもらうしかないわね。

イレギュラーに関しても私にはどうしようもない。

……だけど、ワルプルギスの夜を倒すのは不可能じゃないのよね?

だったらワルプルギスの夜を暁美さんなしの、

私と私の知り合いの魔法少女とのコンビ、二人だけで倒してみせるわ」

「そんなの無茶よ!出来る訳がない!」

「出来る出来ないじゃなくて、やるの。

暁美さんからどうすればワルプルギスの夜を倒せるかの情報を貰ってね。

もし仮に私達が失敗したとしても、

その時あなたは気にせずそのまま時間を巻き戻して頂戴。

話を聞く限りだと、暁美さんはこれまで繰り返す中で、

鹿目さんを守るために毎回揃えた装備、準備を

ワルプルギスの夜に全てぶつけて来たのよね?

でも今、あなたが守るべき鹿目さんはもういない。

時間を巻き戻す前に色々と、

武器やらグリーフシードやら準備を自由に整えて、

それを持って時間を巻き戻せれば

少しはアドバンテージになるんじゃないかしら?」

「そんな……。そんな……」

「間違えないで、あなたが救うべきなのは鹿目さんのはずよ。

そのためにはもう手遅れになった時間に、

自分の身を削るのは適切な判断とはとても言えない」

床にいまだ縛られ転がったまま

ほむらが苦しそうな泣き出しそうな顔をマミに向けている。

「でも、それでも、私はあんな風になってしまったまどかを

そのままにはしておけない。それがたとえどんなに……」

手に持ったマスケット銃をマミは下に置いた。

「私が殺すわ」

マミがほむらへと近づき、屈みこんで顔を寄せ、

ぞっとする様な声音でほむらの耳元に囁く。

「私がかつては鹿目さんだったアレを責任を持って殺す。

暁美さん、あなたが本当にするべき事は何?

鹿目さんをこんな悲惨な結末から救ってあげる事、

それがあなたのすべき事のはずよ。

さっき言った事をもう一度繰り返すけど、

そのためにはもう手遅れになった時間に、

自分の身を削るのは適切な判断とはとても言えない」

そんな中、リボンが自然とほどける。

ゆっくりとほむらが立ち上がる。

その時、有無を言わさずほむらの身体をマミが抱きしめた。

ほむらの全身の肌が粟立つ。

マミに殺されかけた時の記憶がフラッシュバックする。

恐怖が彼女から完全に冷静さを取り払ってしまった。

激しく暴れるほむらだったが、

マミはその身体を万力のような力で押さえつけ話さない。

そして優しく、優しく、あやすように言葉を紡いでいく。

「大丈夫、大丈夫だから。

もう何も怖くなんてないのよ、暁美さん。

私が見せてあげるから。ワルプルギスの夜は倒せるんだって事を。

私が代わりにやってあげるから。

鹿目さんがあんな状態でこの世に有り続けなくて良いようにするから。

怖かったわよね。辛かったわよね。

でももう怖がらないで。勇気を出して。大丈夫、大丈夫だから……」

マミの腕の中で次第に眠気がほむらを抗いがたくする。

また、眠らせる魔法か……。

そう意識はしても、それに抗うための術も、

それに抗いたいという意思もほむらにはもう残っていなかった。

~☆

ほむらは夢を見ていた。

それは長い時間の中で忘れていた夢だった。

「と、巴さん、ま、待って、待ってください……」

地面によろよろと眼鏡をかけたほむらが膝を付く。

その頃ほむらは新米ほやほやだった。

使い魔の結界の中、まどかは周りにいなかった。

そこには結界の中の使い魔達を除けば、二人だけしかいなかった。

まどかは魔法少女になってまだ日が浅い。

とても人に物を教えられるようなレベルには達していない。

これはマミの提案により行われた、ほむらのための特別訓練だった。

「駄目よ、暁美さん。結界の中で敵は待ってくれないの。

あなたは魔法少女なのよ。

生身の頃ならいざ知らず、

この程度の連戦でへばってしまうだなんて

それはあなたの魔力や体力のスタミナ配分、

それと精神的な物が上手く機能していないからだわ。

さあ、はやく立ち上がりなさい」

厳しくマミがほむらをせかす。

どうして鹿目さんとは違って、

こんなにこの人は私に厳しいんだろう。

そんな事をほむらはつい思ってしまう。

そんな自分の不甲斐なさがたまらなく辛かった。

そんな事を考えていたせいで、ついついほむらの口が滑ってしまう。

「巴さんは……、ずっとこんな風に毎日戦ってて辛くはないんですか?」

いつもは話を自分からふってくる事などない後輩の言葉に、

少しマミは驚いた様子を見せたが、

それでもすぐにいつもの柔和な表情に戻って言った。

「辛いに決まってるわよ、そんなの」

「え……?」

予想外の回答に放心状態といった様子のほむらを見て、

マミはクスクスと笑みをこぼす。

「私だって辛いわよ、当たり前のことじゃない?

だって私も本当は中学生の女の子なのよ。

友達と遊んだり、恋をしたり……平和にしてみたい事はいっぱいあるもの」

「それじゃあ、何で巴さんはそんな毅然として、戦っていられるんですか?」

少し難しそうな顔をしてウンウン唸った後、

マミは晴れやかな顔をして言った。

「……これが正しいって信じてる事があるからかな。

辛いけど、苦しいけど、正しくある事を止めたら

それはきっともっと苦しくなるだけだと思うの。

だから私は闘ってる。

誰のためでもなく何よりも自分のために」

そう言いながらへたり込んだほむらに向かって、

マミは優雅に手を差し伸ばす。

「だから立ちあがって、暁美さん。

辛くても、苦しくても、

自分なりの正しささえあれば意外と歩いていけるものよ、人間って」

しかしほむらは首を横に振って俯いてしまう。

「無理です、私になんか。

だって正しさなんて全然わからないし……」

「大丈夫、問題ないわ。

だって暁美さんこんなに頑張ってるじゃない」

「え?」

再度顔をあげてマミを見つめるほむらにマミは満面の笑みを返す。

「辛くても、苦しくても、頑張って歩いていけたなら、

きっといつかは何かあなたなりの正しさが見つかるはずよ。

焦る事はないの、今はただ立ちあがりさえすればいい。

大丈夫よ、いつかはきっと報われる日が来るわ。

だって私達は正しい事をしているんですもの

ほら、はやくはやく。

今日はとびきりおいしいケーキを用意してるんだから。

鹿目さんが待ちくたびれちゃうわ」

マミの笑顔はほむらにとって思わず目をそむけたくなるくらい、



ただただ眩し過ぎる物だった。



私なんかじゃとても巴さんみたいに強くはなれないだろうと内心思う。



でも、それでも、


強くて、優しくて、正しくて、どんな事があっても挫けない、


そんな巴さんが言うんだったら、


私もまたもう一度だけ立ちあがってみたい……。


多分あと、もう一度くらいは……。



そしてほむらは、マミが差し伸べてくる温かな手を素直にとった。

今日の更新終わり
もっとマミさんとほむらの師弟関係が前に出てくるSS有っても良いと思うの
普通に無理だろうから自分でやったけど

あえてうやむやにしたほむらが時間遡行する度にまどかの因果が増大する問題
大丈夫大丈夫、ほむら本人が知らなきゃ問題ないから
本編でほむらが絶望したのは正直仕方ないと思うやっぱり

次回、夜道をパトロールするマミが出会ったのは……!?(予定)

更新です

~☆

翌日の昼時、マミは一人テレビをぼんやりと見ていた。

ほむらはもうこの部屋にはいない。

マミの思考がゆらゆらと記憶の海を漂う。

睡眠魔法をかけ直したほむらは抵抗する事無く

拍子抜けするほどあっさりと眠った。

ほむらを眠らせてからマミは眠らずに、

ほむらが孤独を感じずに済むよう彼女を抱きしめ、

長い黒髪を撫でさすっていた。

本当の所、ほむらを孤独から守るために彼女抱きしめているのか、

自分の孤独を紛らわす為に彼女を抱きしめているのか、

マミにはよくわからなかった。

しばらく経って目を覚ましたほむらは、

まず最初にマミにソウルジェムの返還を求めた。

ほむらが大丈夫かどうか不安の拭えないマミはほむらに尋ねる。

「もう大丈夫なの?」

「ええ、もう大丈夫。私はまどかを、諦めたくない。

そう、まだこんな所でくたばるわけにはいかないのよ。

私にはどんなに無様な生き恥をさらしても守りたい約束があるから。

……そもそも私が大丈夫だってのはさっき巴さんが言い出した事でしょ」

巴さん、その言葉の響きからはいつもの突き放すような

フルネーム呼びよりは余程親しげな響きを感じた。

そしてそれ以上に何か甘えようとしているかのような含みがあった。

不安を完全に拭えないながらもマミがほむらにソウルジェムを返還する。

受け取ったほむらは立ちあがり、

あっさりとマミの家を立ち去るそぶりを見せる。

「ちょっと待ちなさい。あなた、これからどうするつもりなの?」

「ワルプルギスの夜が来るまでまだ日にちに余裕がある。

だから一度海外に出て新たな武器を調達しに行くわ。

準備を自由に整えてから時間を巻き戻す。

これもあなたが言い出した事、でしょう?」

「寄生生物はどうやって見分けるつもりなの?

確かにあなたには時間停止っていう切り札があるんでしょうけど……」

心配そうに声をかけるマミに、決してその表情を見せようとせず、

背中を向けた状態ではあったが、軽くほむらは微笑んでいた。

背中を向けた状態のままほむらは言う。

「目を、見ればわかるわ」

「目?」

「そう、判断材料は目だけって訳じゃないけど、

あんな衝撃的な遭遇ばかり繰り返してれば特徴もわかってくる。

人間への擬態が完璧な分ある意味選別しやすいわ。

人間の姿をしてるけど明らかに人間じゃないモノは奴らだと断定できるって事だもの。

魔法少女も人間とは違う存在かもしれないけど、

奴らとは人間じゃないって言葉に含まれるニュアンスが全然違う」

本当に見ただけで分かったりするものなのだろうか?

疑問に思う気持ちもなくはなかったが、それほど不思議だとは思わなかった。

ほむらはマミからすれば多少特殊なパターンとはいえ、

経験量から言えば魔法少女として先輩に当たる存在になるのだ。

マミには出来ない「嗅ぎ分け」が可能でもおかしくはない。

「それじゃ、私がまた見滝原に戻ってくるまでに、

もう一人のベテラン魔法少女とやらに話をつけておいて頂戴」

そう言ってほむらは振り返る事なく立ち去っていった。

そんな事を思い返しているといきなり強い眠気がマミを襲う。

それまでマミの神経を張り詰めさせていた何かがほぐれてしまった。

ほむらが眠っている間も目を覚まし続け、碌に睡眠が取れておらず、

疲れが身体に依然残ったままである以上眠いのは仕方のない事だった。

『ひき肉ミンチ殺人事件______上条恭介____天才ヴァイオリニスト____コンクール___』

テレビから聞こえる音声が細切れにマミを刺激する。

上条恭介。

彼が殺されたとマミが知ったのはついさっきの事だった。

今見ているのとは別のニュースを見た時に初めて知った。

元々天才ヴァイオリニスト少年としてある程度有名だった彼の突然の悲報と、

同じクラスの女子生徒が同時期に二人失踪しているという事実が、

近頃は下火だった『ひき肉ミンチ殺人事件』の話題性の中でもなお、

強いセンセーションを孕んでいたという事だ。

その報道の中で仮名ではあるが、まどかやさやかの話も出てくる。

こうして、自分の友人達の姿、私生活が

多少のオブラートに包んだ形であっても

大衆の面前に曝されていると意識すると胸がムカムカしてくる。

胸……。

上条恭介の左腕に寄生していたヒダリーの事が急に偲ばれた。

マミと彼らとの間にはそれ程親しい親交があった訳ではないけれど、

それでもわかるくらい良いコンビだった……。

ヴァイオリンの夢をかなえようとする上条君。

左腕を動かすにはヒダリーの協力がいる。

二人はまさに運命共同体だった。

種の違う二人ではあったけれど、

二人の前には華やかな共生の道が開けているはずだった。

……そして無情にも惨殺された。

鹿目さんは乗っ取られた。

美樹さんは行方不明になった。

上条君は殺された。

これが偶然であるものか……!

あいつ等が殺したのだ。

邪魔だから。

ただそれだけの理由で、未来に満ち溢れていた上条君の全てを奪い去ったのだ。

マミの瞳に激しく憎悪が燃える。

そこに細やかな理屈など必要はない。

ただ抑えようのないやるせなさ、怒り、後悔さえあれば勝手に燃えてくれる。

頭が覚めていくようで、しかし眠気はますます酷くなっていく。


眠い……。



酷く眠い……。

~☆

志筑仁美は人気のない暗い道を一人歩いていた。

一応護身用の道具は持ち歩いているにしても、

この時間、最近御世辞にも治安が安定しているとは言えないこの町で、

女子中学生が一人歩くのはかなり危険なことに思えた。

怖くない訳ではない。

しかし退く訳にはいかない。

仁美を強く突き動かしていたのは己に対する無力感、そして純粋な怒りだった。

親友二人が何か自分に隠し事をしていると

仁美が気づいたのはいつの頃からだっただろうか?

まどか、さやか、二人とも確かに

仁美には言えない何かを抱えているような節は前からあった。

しかし仁美だって彼女らには伝えられない

上条への秘められた好意という物があった。

だからそれはそれで良かった。

だけどそう、転校生としてほむらが転校してきた頃から、

二人は強く意識して、

二人をよく知る仁美に知られないよう、

何かを隠しているような素振りを見せるようになった。

最もその頃さやかと仁美はどことなく疎遠な関係にあったので、

確信が持てた訳ではなかった。けれど何かがおかしい。

その違和感がなくなる事は常になかった。

けれど仁美は二人にその正体について直接聞く事ができなかった。

私の知らない、何か二人だけの秘密があったりしませんか?

例えばまどかにそんな事を聞いてしまえば全てが壊れてしまう気がしていた。

小学校の頃からその傾向は強かったとはいえ、

習い事などのせいで放課後は二人と遊ぶような時間を中々とる事が出来ない。

時々、習い事の帰りなど魔が差したように、

自分は二人にとって邪魔者なのではないか?

そんな嫌な想像が浮かんでしまう。

そしてそんな想像を無理やりかき消し、

翌日学校で二人を見つめていると心配は決まって霧散し安心する。

仁美は幼い頃から完璧を求められ、

それになるべく忠実であるように生きて来た。

自然、友人との交友関係においても彼女は完璧を己に要求した。

それが親友に対しての物ならなおさらの事だった。

私はその友情に見合う何かを、

二人に対して提示出来ているのだろうか?

そういう強迫観念じみた悩みが仁美を時折掴み離そうとしなかった。

さやかの想い人に対する恋心をまだ捨てきれていないという引け目も、

そんな彼女の悩みに大きく影響していたのは間違いない。

しかし本来はいつしか微笑ましい

青春の一コマで終わるはずのそんな悩みは、

予想だにせぬ形で彼女からもぎ取られる形になった。

まどかとさやかが失踪した。

上条が惨殺された。

それは突然過ぎて現実味がない代わりに、

一度現実だと認めてしまえば取り返しのつかない決定的な物だった。

さやかとまだ仲直りできていない。

上条に対する想いもまだちゃんとした形で踏ん切りをつけられていない。

それまで仁美と一緒にいて彼女を支え労わってくれた、

優しいまどかに対するお礼を面と向かって言えない。

しかし、何も出来ぬまま全員目の前からいなくなってしまった。

そんな現実には耐えられなかった。

だから必死で両親に頼み込んで二人を捜索して貰ったり、

上条を殺した犯人に関する捜査の進展状況を教えて貰ったりした。

そしてそれらから得られる結果は全て芳しくない物だった。

不自然な妨害の意思のようなものすら感じられる。

実はそれは事態の深刻化を未然に防ぎたい

インキュベーターの工作による物だったが、

そんな事を仁美が知る術はもちろん存在しない。

ただ周囲の人間に頼っていてもどうにもならない、それだけはわかった。

だから仁美は習い事の帰り、自分でこうして町を歩き回らないではいられなかった。

そんな事が大した意味をもたらさない事は仁美本人もよくわかっている。

しかし歩き回るしかなかった。

自分が何も出来ない、何もしない存在でいることにはもう耐えられなかった。

……そろそろ、帰らなくては家族が心配してしまう。

仁美が帰宅しようと考え始めた時、背後から声が聞こえた。

「志筑さん……よね?

どうしたの?こんな時間に一人でこんな所を歩いていたら危ないわよ」

仁美が声のした方に首を向ける。

そこには最近新しく友人になった一学年上の巴先輩がいた。

今日の更新終わり
それほど独自に掘り下げるつもりはないけど
アニメよりは濃い扱いの仁美になると思われます
仁美マミの友達コンビはSSでもまあまあ珍しい?
仁美のキャラがアニメでほぼ掘り下げられてないし接点ないから仕方ない
まどポ?幸い知らないで済んでる

次回で杏子登場……かな?

こうしん

ひたすら登場人物のお悩みの内容が似ててくどいけど
中学生の頃の悩みってうろ覚えだけどこんなもんだった気がしないでもない
もちろんもっと薄味のしょうもないもんですが

~☆

仁美はマミを連れだって帰路の途上にあった。

朝はあれ程話が弾むのに、

どうして今はこんなに静かな空気が私達の間を漂っているのだろう?

そんな事を仁美はうっすらと頭に浮かべる。

それはきっと、さやかやまどかやほむらがいないから。

この周辺をこんな時間に一人でうろついていたという何か罪悪感のような、

喉につっかえる感情が仁美にあるから。

そして最後に出会った数日前のマミと、

今のマミが何故か別人ではないかと考えてしまうからに違いなかった。

いきなり沈黙をマミが破る。

「えっと、志筑さんは習い事の帰りなのよね?」

「ええ、そうなんですの。巴先輩は?」

「やめてよ、巴先輩だなんて。

前から思っていたけど誰かに先輩って呼ばれるのちょっと照れくさいわ。

そうね、巴さん、とかマミさん、って呼んでくれると嬉しいかも」

あからさまに話題をそらされたのを仁美は感じる。

しかしそれにしても、

普通の事をただ普通の調子で喋っているだけなのに凄い迫力だ。

仁美は内心驚嘆する。

初めて出会った時からマミが只者ではないとは、

うっすらとではあるが仁美は感じていた。

それは彼女にとってもう一人の新たな友人である、

ほむらも普段から帯びていた人間としての凄みのような物だった。

少なくともそれは仁美の知る限り、

同年代の子供ではまるで相手にならないし、

周囲の大人が帯びている雰囲気とも何か違っていた。

けれど今のマミが帯びている異質さは、

そう言った物よりも更に「尖っている」ような印象を受ける。

この数日間、顔を逢わせなかった間に、

彼女に間違いなく何か変化があったのだ。

彼女は何かが違う。自分とは何かが違う。ではいったい何が……。

「巴さんは、こんな時間に何をしていらっしゃったのですか?」

再度あえて同じ質問を続けてみる。

マミはそんな仁美の目を全てを見通すような

透明な眼差しでじっと見つめる。

そして言った。

「パトロールをしているの、誰かが危ない目に遭わないように。

……私、こう見えても強いんだから。本当よ?」

多少おどけているようにも見えるが、

嘘をついているようには見えなかった。

先程仁美にこんな時間に女子中学生が一人で外を出歩いては危ない、

そんな趣旨の言葉を述べた人間が堂々と言う事とはとても思えなかった。

だけどそれなのに有無を言わさず納得させる力が

彼女の言葉、態度の中にはある、そう仁美は思う。

理由は単純にマミがひたすら強いからだろう。

そう結論付ける。つい憧れてしまう。

どう強いのかは仁美には判断がつかない。

ただ自分とは絶対的な差がある事だけは感じられる。

前から多少俗世離れした雰囲気のする人だったが、

今の彼女は自分からすればまさに天上の存在のような気がする。

私があと一年、どう年月を積み重ねていった所でこうは絶対になれない。

彼女は何かが違う。自分とは何かが違う。ではいったい何が……。

「志筑さんは、本当にアレで家に帰ろうとしていたの?」

「え?」

「私には、どうも何かを必死で探しているように見えたんだけどね」

実に心臓に悪い。

仁美は己の心臓がトクトクと早鐘を打っているのをはっきりと意識した。

マミが仁美の目の奥を見据えている。

それだけで全て見透かされてしまいそうだった。

「何か、探していた物はあるの?」

穏やかにマミは仁美の発言を促す。

別に巴さんに私のしている事を隠す必要はないはずだ、

仁美の思考は目まぐるしく動く。

こんな時間に一人で、しかも無断で外をあちこち出歩いている。

そんな悪い事をしているという、

自己の両親に対する罪悪感が判断を鈍らせていた。

巴さんは私がこうやって

さやかさんにまどかさん、上条君を探している事を親に告げ口したり、

それを非難したりする人ではない。

それどころか、彼女も私と同じように

さやかさん達を探していた可能性もある。

それがパトロールという言葉の真の意味ではないのかしら?

「さやかさんと、まどかさんと、上条君を探していましたの……。

警察、それに他の方々をただ当てにしているだけでは手詰まりですから」

「志筑さんが一人で捜索した所で、

何かその状況が変わるとは思えないのだけど」

それまで終始穏やかだったマミの言葉の節々が途端にささくれ立ち、

僅かながら剣呑な響きを含み始めた。

思わず仁美は返す言葉に詰まる。

「そんな事は、私にも嫌というほどわかりきっていますわ。

……でも、それでも諦めきれないんです。

あんな何もかも中途半端な状態で全てを失うなんて耐えられない。

それに対して何も出来ないなんてもっと嫌」

仁美の家はまだ遠い。

無意識に家から遠ざかるように捜索の道をとっていたのかしら?

習い事のせいで門限の設定などは特にされてないけれども、

これは帰ったら家の者に確実に大目玉を食らいますわね。

その事実に仁美は意味もなく笑い出したくなってきた。

「…………志筑さん、怖くはないの?」

仁美が改めてマミを見ると、彼女は仁美ではないどこか遠く前方を見ていた。

マミは何かに苦悩している様子だった。

……怖い?怖いに決まってる。

上条君の死に様を耳にすれば誰だって怖くなるに決まってる。

でも、それでも、私は……。

「私、ずっと前からさやかさんに嫉妬していたんです」

一見関係のない事を仁美が喋り始める。

黙ってマミは彼女の話に耳を傾けていた。

「小学校に入学して、親がお金持だったのと、

私のかねてからの性分として、

大人数の輪に自分から入るのが苦手だったのが相まって、

私はクラス内で孤立していました。

そんな私と仲良くなってくださったのがさやかさん、そしてまどかさんなんです」

幸せな思い出。

既に取り返しのつかない過去を語る

仁美の表情は苦悶に満ちたものだった。

それに構う事なく話し続ける。

「さやかさんは私の憧れでした。

明るくて、いつでも誰とでも仲良くなれて、

そう、彼女みたいな人間こそが

毎日をひたむきに生きているんだって

私はずっと感じていました。

ただ、憧れている以上に彼女の事が好きでした。

昔も、そして今も彼女の事が大好きですわ。

まどかさんだってそう、あんな優しい人は他にいないって私思うんですの」

仁美の声のトーンが低くなる。

「幸せでした。彼女らと一緒に過ごす毎日は。

何よりも、誰よりもかけがえのないはずの親友達なんです。

でも私は、さやかさんが幼少から想いを寄せていた上条君に恋をしてしまった」

声のトーンは一層その低さを増し、

声の大きさはか細く小さくなっていく。

マミはそれにじっと耳を傾けていた。

「彼ほど何かに自分の全てを打ち込んでいた男の子を私は知らなかった。

それがたまらなく魅力的でした。

きっとのぼせあがっていた当時小学生の私は、

猛烈なアプローチを仕掛けていたでしょうね。

さやかさんがもしもいなかっとしたら」

高ぶる彼女の感情の発露に伴い仁美の声の大きさは次第に増していく。

「さやかさん、彼女を押しのけてまで、

男の子に迫ろうとする勇気は当時の私に有りませんでした。

それに、一人の人間としてもさやかさんに勝てると思えなかった。

確かに、当時の私は色々と親に習い事をやらされたり躾けられ、

周囲から持て囃されていました。

でも私にはどうしても、それが人間の価値そのものにおいて

最も重要な物とは思えなかった」

そしてそれは今になっても変わらない。

仁美が悲しげな表情を浮かべる。

私はただそういう大きな物を要求される決まった星の元に生まれ、

忠実にその通り歩いているだけ。

これまでも、そしてこれからも。

「上条君への想いが募れば募る程思い知らされる。

私は上条君のことを何も知らないんだって。

さやかさんは上条君の事を何でも知っているんだって。

さやかさんの優しさ、強さ、明るさ。

対して私は心の中で彼女をそねみ、いじけ、

雛が親鳥から餌を貰うように、ただ親に敷かれた道を、

拒否する事も肯定する事もなく歩き続け……」

「そしてあなたがついに何も出来ぬまま、

上条君と美樹さんはあなたの前から消え失せた。

それに鹿目さんすらも」

初めてマミが仁美の告白に口を挟んだ。

強く強く、仁美は頷く。

「私は他の誰でもない、

さやかさんと面と向かい合わなくてはいけなかった。

そうでなくては彼女に対して、

私はあなたの親友だと胸を張る事は出来ないんです。

勝とうが負けようが、彼女と同じ舞台で戦いたかった。

上条君への想い、もちろん幼少期から想いを寄せて来て、

彼のお見舞いにも行っていた

彼女の方が有利なのは明らかです。

だけど、それでも彼女と対等に向かい合いたかった。

……結果はそれすら出来ずに敗れてしまいましたが、

せめて自分の想いをきちんと自分の中で清算するくらいは出来るはずでした」

奥歯を噛み締める。無念さがこみ上げてくる。

どうして、上条君が、さやかさんが、まどかさんが

不幸にならなくてはいけないの?

私は三人にどうして何もしてあげる事が出来ないの?

「怖くても、さやかさんならば、こんな時立ち止まりはしません。

しっかり顔をあげて、前を向いて、歩いて行くに違いありません。

だから私も今度こそは彼女に負ける訳にはいかないんです。

それがどんなに困難な道だったとしても……」

自分がどれほど意固地に、

子供らしい理屈を並べているかを意識し、

仁美の言葉は尻切れトンボに消えていく。

仁美がどれだけ一人で町を歩いてみた所で、

それは自己満足しか生まない所詮無駄な行為なのだ。

でも、それでも、私は……。

「これからも、それを続けるつもり?」

「はい、そのつもりです」

「だったら私が毎日あなたを家まで送るわ」

「えっ?」

驚いた顔をする仁美に、無表情のマミは言う。

「外をあちこち志筑さん一人だけでうろつくのは危険過ぎる。

だから私があなたの徘徊について行って家に帰るまでを見守る。

これなら安心だから」

「でも、巴さんにも毎日の都合という物が……」

「さっき、パトロールをしてるって言ったじゃない。

あなたの安全を守るっていうのも、

立派にパトロールの意義を果たしているわ。

それに志筑さんはこの街の隅から隅まで

知ってる訳じゃないはずだけど、私は知ってるから。

もしかしたらあなたの捜索の助けになるかもしれないわね」

この人は本当に何者なんだろう?そんな疑問が仁美に浮かぶ。

しかしそれよりも、マミが仁美の意思を馬鹿にしたりそれを否定せずに、

それをそのままの形で尊重しようとしてくれている事、

マミの優しさが嬉しかった。

「ありがとうございます……!ありがとうございます……!」

「……お礼を言うのはまだ早いかもしれないわよ?」

静かにマミが仁美の浮かれぶりを窘める。

「えっ?」

「だって私なんかと深く関わった事、

志筑さんはいつか後悔する事になるかもしれないから。

私はもう、あなたと深く関わり始めた事に後悔し始めてる。

……でもね、私にとってはあなたも大事な友達なの。

手放すわけにはいかないのよ」

マミの変わらぬ無表情、

不意にそれが底冷えのするぞっとする物に仁美は感じた。

~☆

「それで、アンタが今更アタシに何の用さ」

風見野にあるファミリーレストラン、

そこのテーブルに、相手の顔を互いに直視する形でマミと佐倉杏子は座っていた。

巴マミ。久しぶりに出会った因縁深い魔法少女。

先程杏子はいつも通り魔女を難なく倒し、結界が消滅した所で彼女と再会した。

どうもここで待てば杏子がいつかは顔を出すだろうと見当をつけ待っていたらしい。

そこは普段から人気のない場所だった。魔法少女の変身をまだ解いておらず、

自身の武器である槍をその手に握ったままだった杏子は、

私服姿ではあるが縄張りに侵入してきたマミに対し、

威嚇の意味を込め槍を突き出した。

しかしマミはそれを避けようとする動作を微塵も見せない。

ただじっと、槍の先端を見ていた。

どうにも気が知れない。

結局マミの身体のどこにも当てる事なく、

紙一重の所で槍を止めると、

それを特に意に介していない様子でマミは言った。

「頼みたい事が一つあるの。ついて来てくれる?

お食事つきよ。代金は私がおごるから」

ただひたすらに胡散臭かった。

けれどタダで食事にありつけるというなら話を聞くくらいは我慢しよう。

そう思って杏子は言われるままにマミについてきた。

それが今ここで二人が顔を合わせている顛末だった。

「見滝原にワルプルギスの夜が来る。

あなたに協力して欲しいのはその魔女との戦いに関してよ。

私一人ではあまりにも荷が重すぎる」

見滝原にワルプルギスの夜だって……?

全てが唐突であり、全てに困惑するしかなかった。

仮にそれが本当の事だとして、

マミはいったいどこからその情報を得た?

「その情報源はどこからよ?

ワルプルギスの夜の出現場所が予測されたなんて、これまでそんな噂聞いた事がない」

「それは秘密。でも、信憑性はかなり確かよ。

まず間違いなく見滝原にワルプルギスの夜は現れる」

……こいつ、マミの偽者か?一瞬、疑念が杏子によぎる。

しかしそんなはずはない。

ベテランとして経験を積んだアタシ。

今は幻術魔法なんて使えなくなってるとはいえ、

そうそう誰かの幻術に惑わされるとは思えない。

そういう自負が彼女にはある。

この魔力の波は明らかにマミ本人の物だ。

けれどそう頭では考えながらも、

警戒する気持ちが強まるのはごく自然な事だった。

「それで?その話が現実になったとして、

アンタを助けて何の見返りがアタシにあるっていうの?

アンタのおままごとみたいなやり方にはもううんざり。

それで前に蹴りは付いたはずだろ?」

意地の悪い口調で軽く挑発する。

決別した時と身体が成長したくらいで、

他には何も変わらないマミの姿を見ていると、

杏子は段々と気持ちがムシャクシャしてくる。

自分の身の上が内心この上なく憐れに思えてくる。

自分のために自分の力を使う。

何も間違っていないはずなのに。

「だから一時的な共闘をお願いしてるの。

期限はワルプルギスの夜が来るまで。

アナタへの見返りは風見野側の見滝原の縄張り半分」

「はぁ?」

今、マミはなんて言った……?

杏子の脳が音通りに現実を認識しない。

「気に入らない?

条件は追々話し合って煮詰めていく予定だけれど、

ワルプルギスの夜がグリーフシードを落としたらそれもあなたに贈呈する。

これでもまだ不足かしら?」

その時、杏子が机にバンと拳を叩きつける。

……前にマミがその腕を掴んで止めた。

「お店の他のお客さん、店員さんに迷惑でしょう?止めなさい、佐倉さん」

そう言ってマミは手を離した。

マミの素早い動きに一瞬泡を食った形になった杏子だったが、

すぐに落ち着きを取り戻し、

荒げようとした声を低く抑えマミに言う。

「……気に入らないとかそういう問題じゃねえよ。

わかってるのか?アタシが見滝原に行くってのは、

決して少なくない町の住人が使い魔に食われるって事だぞ」

「わかってるわよそんな事。

でもここでワルプルギスの夜に私が敗れたら、

見滝原はおそらく壊滅する。

だったらあなたとの交渉の材料に、

あなたが最も共闘に納得しそうな物を使おうとする

私の判断は合理的なはずだけど?」

涼しい顔でマミはそう言ってのけた。

違う、そうじゃない。思いが溢れそうになる。

巴マミはそんな奴じゃない。

全体のために一部を簡単に切り捨てたりするような奴じゃない。

言葉が上手く声にならない。

少なくとも、そんな平然とした顔で、

誰か見知らぬ人々の生き死にを語れるような人間なんかじゃない。

「アンタ……。本当にアタシの知ってる巴マミか?」

「さあ、どうかしら?

だってあなたと別れてから随分と色々な事があったもの。

……そうね、もしかしたらあなたが知ってる私とは、

今の私は別人なのかもしれないわね」

杏子の全身が寒気立つ。

こいつは紛れもなく「巴マミ」本人のはずだ。

だけど同時に、絶対にこいつはアタシの知ってる巴マミじゃない。

じゃあこいつはいったい誰なんだ?

関わらない方が良い。

そう長年培ってきた魔法少女の勘が杏子に告げている。

杏子が席を立つ。

マミがその手を再度掴むが、今度は振り払われてしまった。

「悪いけどアンタを信用できない。

取引は拒絶させて貰う。

別にワルプルギスの夜の影響がこの風見野に来たとして、

この街を捨ててどこか遠くに行けばいい。

そうだ、その方がずっと清々とするかもしれない……」

杏子が足早にマミに背を向け店を出る。

血が出るほどに拳を握りしめ、

彼女が去る姿をマミは見つめていた。

それからちょっと経って二人分の料理が運ばれてくる。

マミはその運ばれてきた料理をどちらも綺麗に平らげた。

黙々と食べ続ける間、

彼女の頭の中では、次に自分はどう動くべきか、

ただそれだけが大切な問題として思考されていた。

今日の更新終わり
明日はちょっとまだ書けそうでも
区切りとして短めで切って投下するかもしれない

次回予告
自分と別れてからの思わぬマミの変貌に動揺する杏子
かつて過ごした教会の中で一人、
マミとの記憶をあれこれ浮かべ回想する杏子は
マミと交わした
「ワルプルギスの夜が来たら二人でこの町を守ろう」という言葉を思い出す
そんな時、彼女の前に現れたのは……?

次回『死会い』 お楽しみに!


杏子は自分のせいでマミが変わってしまったとは思わないのだろうか?
自分が縁切って放っといて、久しぶりに会って変わっていたら失望って自分勝手すぎじゃない?
TDSの時も思ったけど、杏子のそういうとこって都合良すぎるよね

更新

>>489
これからの描写的にある意味タイムリーなレスな感じですが
TDSでもこれでも失望はしてないと思いますよ
杏子関連の話は長くなる気がするから割愛
ただとりあえずマミさんがここまで変わったのはミギーのせいなので許したって下さい

と、ここまで考えて
寄生獣完全版二巻の鞄蹴っ飛ばしたシーンは新一のちょっとした変化を示唆するシーンだと思ってますが
そういうのをこれでやらなかったのはソウルジェムは体の変化の影響を受け辛いから
とかいうこれの裏設定的なの思い出しました(忘れてた)
だから脳レベルの浸食でやっと精神に影響が出たし、
どう考えても新一が同じような目にあったらこれじゃ済まない的な
どうでも良い細かい独自の二次設定ですけど

やってて自分でなぜやったのか忘れる物が多くて困る

~☆

マミは杏子が昔美味しいと言ってくれたピーチパイを焼いていた。

この近辺にワルプルギスの夜とまともに戦えるだろう魔法少女はほぼいない。

それにいたとしても、縁と所縁があって、

利害関係さえきちんとはっきりさせていれば信用できる、

戦いの中で背中を安心して任せられるのは杏子しかいない。

杏子以外の魔法少女と改めて手を組もうとする選択肢は実質マミにはなかった。

一度断られたくらいで諦める訳にはいかない。

食べ物で気分をやわらげて貰うのがきっと効果的だろうとマミは考えている。

それにおそらく普段からろくな物を食べていなさそうだった。

美味しい物を食べさせてあげても罰は当たらないに違いない。

『アタシをマミさんの弟子にして貰えないかな?』

弟子になりたいと自分から申し出た佐倉さん。

『これ以上続けるつもりなら今度は本気で取らせて貰うよ。

アンタとはもう覚悟が違うんだ』

私の制止を振り切って、自分から去って行った佐倉さん。

あれからもう随分長い、長い時間が経った気がする。

あの頃と比べると色々な物を見て、聞いて、感じて、

少し私は草臥れてしまった。

マミはピーチパイを焼きあげてから、

風見野の杏子がいそうな所をあれこれ探す。

どんなに彼女が上手く杏子に会えても、

それが夜になる事だけは間違いなかった。

~☆

かつては家族と暮らした教会の焼け跡。

良い夢も、悪い夢も杏子の全てが詰まった廃墟。

バラバラとガラスの欠けたステンドグラスの窓が目立つ。

杏子は小刻みな階段を上り教壇の上に腰を掛け、

スカスカになった前方の窓のだだっ広い隙間から、

まっすとぐ外の月、夜空の星々を眺める。

……契約。

マミと出会って、そして家族、全ての幸せの破滅。

もうかれこれ長い、長い時間が経った気がする。

自分のためにずっと生きて来た。

奇跡を起こせばそれだけ絶望がバランスをとるのだと杏子は考えている。

杏子はそのマイナスをプラスにするために生きて来た。

自分の欲望に忠実に、出来ない事は最初からせず、

ただ放埓に、ただ執拗に。

……それでも、あの楽しかった頃と比べると、杏子は少し草臥れてしまった。

『なるほどね。幻惑の魔法、面白い力だわ。

だけど魔女の方も同じ能力だったのはちょっとついてなかったわね』

ピンチに陥っていた自分を助けてくれたマミ。

初めて出会った尊敬できる魔法少女。

『あなたは私にとって初めて志を共に出来た魔法少女だった。

他の魔法少女とは違うって信じてた。

……本当にそれでいいの?あなたは孤独に耐えられるの?』

マミと決別したあの時、アイツは縋るような、

懇願するような調子でアタシに問いかけていた。

……だけどアタシは孤独、そんなものは怖くなかった。

怖かったのは、アイツとあのまま一緒にいる事。

アイツの正義の足手まといになる事。

マミは強くて、気丈で、優しくて、どんな事があっても挫けない……。

だけどアタシはそうなれなかった。

その資格はなかった。

マミの傍に並び立つ才能がなかった。

アタシはアタシのためだけに魔法を使う。そう決めた。

誰かのために闘い続ける正義の魔法少女であるマミとは、

相反する存在になる事を決めていた。

心からの願いをかけた大事な物は全てアタシの手からこぼれ落ちた。

だからせめてマミの邪魔にだけはならない。

それだけがアタシの……。



いや、本当はそれだけなんかじゃなかった。

アイツの傍で、太陽のような正しさで照らし出され、

自分の醜さを思い知らされる事に我慢出来なかった。

マミにだけはアタシの底の浅さを見透かされる訳にはいかなかった。

アイツは……、アイツにだけは……。

『さあ、どうかしら?

だってあなたと別れてから随分と色々な事があったもの。

……そうね、もしかしたらあなたが知ってる私とは、

今の私は別人なのかもしれないわね』

……アタシがどれだけ罪を重ねようが、

それがあくまでアタシ自身であるように、

いつまでも、マミだってアタシの見知った

マミであり続けるはずだと思っていた。

とはいえ魔女との闘いでマミが破れ、

いつかはアタシの知らない所で死んでしまう事は十分覚悟していたつもりだった。

何故ならそれが魔法少女の本質だからだ。

自分のために戦い、生きて、そして死ぬ。

それでもきっと、マミだったら新しく仲間が出来るだろうし、

仮に自分の正義のために死んじまったとしてそれは仕方のない事だ。

人がとやかく言えるような事じゃない。

アタシの事を誰かがとやかく言う事が出来ないように。

……杏子が目を閉じて、瞼の奥の暗闇を見つめる。

それでも、マミがあれからまるで

別人みたいに変わってしまうなんて思ってもみなかった。

それをこの目に見せつけられてしまった。

……アタシがいなくなったせいだろうか?

そんな事わかるはずもない。

別れてからのアイツの事なんて、

噂かキュゥべえからくらいしか情報がないんだから。

ワルプルギスの夜。助けてやるべきだったのか?

一人では倒すのはおそらく無理だ。

でも、アタシは誰かのために戦うのをもう止めるって決めたんだ。

それに今更、アタシなんかと関わったらアイツを不幸にするだけじゃ……。

その時、マミとまだ師弟の関係にあり全てが良好だった頃、

若気の至りか、自分が自信満々に言った

特別根拠のない青臭い言葉を杏子は思い出した。

『今のアタシ達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな?』

『ワルプルギスって……、あの……?』

『そう。魔法少女の間で噂されてる超弩級の大物魔女。

……こう言っちゃ大げさかもしれないけど、

アタシ達だったらそんな大物魔女も目じゃないって。

世界だって救えるんじゃないかって、そう思うんだよね』

それを聞いたマミは目をパチクリさせ、そしてそれから笑い出した。

『……ふふふ、随分大きく出たわね』

『調子に乗り過ぎ?』

『そんなことないわよ。目標は大きい方がいいんじゃないかしら?』

そう言って意地の悪そうな顔に笑みを浮かべるマミ。

しかしそれから少しして、

杏子にクルリと背を向け表情を引き締め言った。

『……でも、本当にそうかもね。私達だったらきっと倒せると思うわ』

『もしいつか、本当にワルプルギスの夜がやってくる時が来たら……、

一緒にこの街を守りましょう』

杏子からすれば、そのやり取りはちゃんとした約束なのか、

半分真剣な冗談なのか微妙な物だった。

でも、それでも確かにマミとそういう言葉を交わした事は覚えている。

もう誰も助けないと決めた。

でも、そんな約束がまだ残っているなら、

残っているのだとしたらあるいは…………。






その時、ギィッと床がきしむ音がする。

誰かが建物の中に入って来たのだ。

杏子が素早く振り返って扉の方を見る。

そこにいたのは変身を済ませた魔法少女だった。

武器も既に出現させた状態だが、

ダラリと垂らした右手に握っていて、

今にも落としてしまいそうに見える。

その足取りは千鳥足気味にふらついていて、

目に生気がない。一目でヤバそうな奴だとわかる。

何だこいつは……?敵か……?

とりあえず武器を出してる時点で穏やかじゃないってのは確かだな……。

杏子が変身し、大声で呼びかける。

「おい、お前!こんな寂れた場所に何の用だ!

いったい何者なのか、何が目的なのか、

さっさと吐かねえとちょっとばかし痛い目見る事になるぞ!」

そして自慢の槍を肩に担いだ。

杏子の表情には相手を舐め腐った態度が満ち溢れている。

槍の柄の部分は鎖で連結された多節棍になっていて扱いは様々、

極限まで鎖を伸ばしきった状態でのリーチは元と比べてかなり伸びる。

それがなくとも槍は伸縮自在、杏子が自分の手足のように扱ってきた相棒だ。

自分の願いを否定してから幻術魔法が使えなくなった。

それから固有魔法に頼らず技術だけで生きて来たという自負が

杏子の自信を支えている。

それこそマミのような規格外の奴以外には誰であれ、何であれ、負ける気がしない。

「巴、マミ、しってる、よね?」

目の前の「魔法少女」の口がもたつきながらも動く。

ゆっくり、ゆっくりと近づいて来ていた。

警戒をより強めながらも、杏子は吐き捨てるように言う。

「ああ、よーく知ってるよ。

……知ってるから、何さ?

友達として紹介してくれとでも言う気?」

「知ってるん、だ。良かった、良かった」

ウンウンと首が折れるのではないかという勢いで頷いた後、

何かの確信を持ったらしい「魔法少女」が

クラウチングスタートの構えをとる。

……つまりアタシとヤル気って訳か。

杏子も相手の攻撃に合わせ多節棍を振るう心の用意を整える。

その瞬間、踏み込みとほぼ同時に

「魔法少女」の身体が跳ねるように駆けた。

右手のレイピアがうねるように杏子の肩先を狙う。

予想外の超加速、

杏子は多節棍に変形させるという判断を咄嗟に取り止め

槍でレイピアを受ける。

ガキィン、ガキィン、ガキィン。









しかし「美樹さやか」の突撃は止まらない。

「っ!くそ速えぇじゃねえか!」

杏子は防戦一方で反撃に移る事が出来ない。

先程までの危うげな動きが嘘のように

機敏に軽やかに、脚を使い、手を使い、「さやか」は動き回っている。

「さやか」の変身後のソウルジェムの位置はおへそ付近。

その上のみぞおち付近、

多少ソウルジェムよりも小柄な赤色の宝石が、

肌から浮き出て怪しく輝いていた。

今日の更新終わり

さやか「マミさんかと思った?残念!「さやか」ちゃんでした!」

予想
1 マミさん
2 「まどか」
くらいの感じで皆引っ掛かるかと思ったら反応がなかったから分からなかった虚しさ

意外とこれマミさんが頭を食われた後にまどかの「お食事」シーンが入ったり
こうして「さやか」と杏子が対決したり本編の流れに沿ってるんです
マミさん主人公なのに頭を食べられないなんておかしいといった
実に無駄なこだわり

フツーにパラサイトされたのか、
それともあの宝石があるってことは、いまのまどかと同じ状態なのか……

更新
純粋に寝坊したのと
戦闘シーンは相変わらず詰まるせいで全然書けなかったけどキリが良いので投下
戦闘書くの嫌い

>>508
前スレ411
>普通、人間が外界からの刺激を知覚し思考するのは脳である。

で、マミさんが頭を食われたら思考できなくなったってのと組み合わせて
(ただしこっちは真実がわかってて経験さえあれば思考するだけなら可能。体は動かせないけど)

脳を乗っ取っちゃったら魔法少女に変身出来ない、という設定
変身は少女の意思がないと本来出来ない、解除は体に深刻な負荷がかかったりすれば可能
変身を持続させるのにも脳は一応必要

~☆

さやかが目を覚ましたのは、何の変哲もない殺風景な部屋だった。

窓は黒いカーテンで閉め切られていて、外から中が見えないようになっている。

室内には、横たわるさやかと、「まどか」だけしかいなかった。

さやかの手には彼女本人のソウルジェムが握られている。

ソウルジェムを一度遠くに引き剥がし、

その後身体に接触させず100m圏内に置く事で、

身体の状態を無意識の生存本能によって保たせる。

元から治癒能力に長けた魔法少女にしか使えない方法ではあるが、

汚れの溜まったソウルジェムをグリーフシードで浄化し、

身体を半分死んだ状態で保存する。

そんな処置を先程まで自分が施されていたなどさやかは知る由もない。

さやかの目が「まどか」の姿をまず捉える。

ほぼ反射的に立ち上がりながら変身を済ませ、右手にレイピアを生み出した。

「まどか」が動く。

さやかの両腕を二股に分かれた右手で掴み引き寄せながら、

勢い良く左肩でぶつかり背中から地面に叩きつける。

さやかは背中と胸に加えられた強い衝撃のせいで呼吸が出来ない。

さやかの両腕、両足を右腕だけで磔の状態にし、「まどか」は立ち上がった。

「よしよし、ちゃんと変身して予定通り武器を出してくれた」

「まどか」の左手には彼女の服のポケットから取り出された赤い宝石が握られている。

さやかは必死の抵抗を続けるが、

床へと四肢を押さえつける「まどか」の手から逃れるには及ばない。

そして抵抗空しく、

さやかのみぞおちに赤い宝石が埋め込まれてしまう。

さやかの身体がビクンと跳ねた。

さやかの抵抗が目に見えて弱まる。

驚愕の表情を浮かべるさやか。

「せっかく今までこうして保存しておいたんだから、

ちゃんと私達の役に立って貰わないとね」

「まどか」のその言葉と共に、部屋に「女性」が入ってくる。




そして……。

~☆

杏子は予想外の大苦戦を強いられていた。

教壇の近く、先程からほとんど杏子の足はその近辺から動いていない。

対する「さやか」の脚は杏子の周りをちょこまかと滑っていた。

単純に速度が違う。

魔法少女の身体能力ギリギリに振るわれる馬鹿力。

そして何よりも攻撃に対する反応の差が大きい。

魔法少女であることを考慮してもこの運動能力は明らかに異常だ。

技能、経験、ただそれだけで杏子は

さやかの攻撃をいなし、防御し、反撃の隙を窺っていたが、

生傷が徐々に増えていくのを止めるには至っていない。

しかしどれも軽傷の部類に留まっており、

杏子は自分の手の内を全て晒している訳ではない。

多節棍、奥の手がまだ残っている。

好機が訪れるまでただ黙ってさやかの攻撃を受け続ける。

そしてついにその時が来た。

「……いつまでも調子に乗ってんじゃねぇ!」

「さやか」の攻撃パターンの中で

比較的なワンパターンな動きである突きの一撃を、

誘い込むようにかわす。

さやかが目に見えて体勢を崩した。

その明瞭たる隙を狙い、

杏子の槍の柄が多節棍へと変形する。

多節棍は「さやか」の身体と両腕、両足を思い切り締め上げた。

これでもう「さやか」は自由に動く事は出来ない。

「動けなくしちまえば、あとはもうこっちのもんだ!」

拘束はもちろん解かない。

右手に槍を握ったまま、新しく左手に槍を形成し、

それを「さやか」へと突き出す。

このままこいつを殺すか?

杏子はそれまで同業者、魔法少女を含めても人を殺した事はなかった。

多分殺す事になるだろう。深くは考えなかった。

何故なら戦い、生き延びる。負けた奴は生き残れない。

それが魔法少女の宿命なのだから。

けれどとにかく、その瞬間杏子はただ己の勝ちのみを強く意識していた。

意気揚々と杏子が槍を「さやか」の胸元に突き立てようとした瞬間、

多節棍の拘束の隙間、「さやか」の腹部から突如刃が伸びる。

杏子は自身の想像の遥か上を行く攻撃に全く反応する事が出来ない。

それは杏子の左腕を切断し、

そのまま無慈悲に杏子の身体を脇腹から両断しようとする。






ダァン。





間一髪、銃声が轟いた。

「さやか」の頭に穴が開くが、瞬時に再生する。

「さやか」の意識が背後、銃声の聞こえた方へと向かう。

杏子はそのチャンスを逃さず「さやか」を蹴り飛ばす。

「さやか」の身体が小刻みな階段を転がった。

杏子は床に落ちた自分の左腕を見ながら、右腕で傷口を押さえ荒い息をつく。

くそっ、あいつ絶対に許さねえ……。

頭に血が上っている杏子は、

誰が自分を助けたのかを判断するのが少し遅れる。

あるいは杏子にとって、彼女が自分の窮地を救ってくれたというのは、

別段意識する程特別な事ではなかったのかもしれない。

あの銃声、杏子には嫌というほど聞き覚えがあった。

一歩、「さやか」に向かって杏子が歩みを進める。

【佐倉さん、お願い。彼女の……、

いえ、「こいつ」の始末は私に譲って頂戴】

「さやか」は既に体勢を立て直し、

杏子に背を向けた状態で別の相手にレイピアを構えている。

教会の入り口、憤怒と憎悪に顔を歪ませマミは仁王立ちしていた。

杏子の見慣れたマスケット銃よりも遥かに重量があって、

荒々しく武骨な銃の銃身を掴みマミは右肩に担いでいた。

「さやか」がレイピアの切っ先を揺らし、マミを誘うような仕草をする。

マミの存在を意識する事で、杏子の激情が少しだけ冷めた。

この状態で「アイツ」と戦っても、勝てるかどうかはわからない。

助太刀をするにしても、とりあえずマミが

どこまで「アイツ」と戦えるのかを見てからにした方がいい。

そう判断した。どうしてマミがここにいるのか、話を聞くのは後だ。

【ちっ、譲ってやるからさっさと済ませろよな】

【恩に着るわ。まかせて】

テレパシーで聞こえるマミの低く囁くような声。

杏子にはそれがどことなく悲しく、辛そうに感じた。

今日の更新終わり
明日も戦闘入るけど早く終われると嬉しい

寄生した先の身体能力を限界まで使えるそうなのでその通り忠実に
杏子が幻術使えたらまた違うんでしょうけど

そろそろ終わりがちょっと遠くに見えてきたようでそうでもなさそうな三部
四部入る前に休憩入れます
前半から中盤ほぼ考えてないので
明らかに気が早い

乙です
ついにさやかちゃんまで乗っ取られたか…ところで「女性」って誰だ?

更新
結局昨日更新しなかったけどそういう事もたまにはあっていいと思います
仕方ないと思います
……ごめんなさい orz

>>518
「」表記はパラサイトだからってだけ
女性にしたのは少女でもよかったけどそんな都合よく少女いるかな?と思ったので
男でも赤い石があれば少女に移れる設定ですが説明するのが面倒だったので「女性」
「女性」じゃなくて「女」にすれば良かったと今更後悔

~☆

杏子は教壇に腰掛けて、上からマミと「さやか」の戦闘を見下ろしていた。

切断された左腕をどうにか傷口へ接合しようと杏子は四苦八苦しているが、

元々治癒魔法が苦手なせいで、あまり順調な成果が出ているとは言えない。

一種、観客的な視点で杏子は二人の一騎打ちを見ていた。

こうして一度落ち着き戦況を離れて眺めていると、

「さやか」の腹部、みぞおちの辺りに

不気味な魔力の塊のような物を感じる。

今の所杏子に再度争いの渦中に復帰する意志はない。

マミに機を見て助太刀するという選択肢はとうに排除した。

あの凄絶な戦いの中では、生き延びるのが精一杯で

とてもマミの助けになるよう立ち回る事など出来ないだろう。

「さやか」は先程杏子に対して行っていたレイピアによる攻撃に加え、

腹部から伸びた自在にその形を変える鞭のような何か、

その切っ先から放たれる杏子には目で追いきれない斬撃を

ずっとマミに向かって繰り出していた。

先程戦っている間奥の手を隠していたのは杏子だけではなかったのだ。

しかし、マミはきちんとそれに対応している。

右手に握った巨大な銃で攻撃を受け、

あるいは人間離れどころか魔法少女離れした動きで攻撃を避けつつ、

時折左手にマスケット銃を生成しては、

それを「さやか」に向かって撃ち出し投げ捨てている。

マスケット銃による攻撃は防がれる物も多いが、

大部分は標的から外れ当たっていない。

間違いない、マミはリボンによる拘束を狙っている、

そう杏子は確信していた。

そしてその激しい戦いは突如呆気なくその幕を閉じる事になる。

杏子の推測通り、突然前触れなく教会の床に開いた銃痕から、

膨大なリボンが「さやか」へと四方八方から伸びた。

不意を突かれたとはいえ、「さやか」はそれに反応する。

目につくリボンを断ち切るべく前に二本、後に一本触手を伸ばす。

しかしそれでもリボンは断ち切られた先から伸び続け、

それに加えて銃痕からは更にリボンが伸びる。

その物量全てが「さやか」一人へと向けられている。

寄生されていない足や手などに絡みつかれた「さやか」は、

身体を左右反対の方向に引っ張られ身動きの自由を完全に失った。

リボンによって地面からその身体が少し浮く。

対してマミの方はというと左手のマスケット銃を悠々と構えている。



ダァン!




発砲音と共に「さやか」の体内の嫌な魔力の塊が砕け散るのを杏子は感じた。

ビクンビクン。

「さやか」の身体が痙攣し、うつ伏せに倒れる。

レイピアはまだその手に握っているが魔法少女の変身が解けた。

マミが勝ったんだ。

杏子が階段を下り、マミの元へと近づき労をねぎらおうとする。

「いやぁ、何でアンタがここにいるのか、

聞きたい事はまぁあるけど助かったよマミ。

悔しいけどこいつにはアタシじゃ勝てなかっただろうね」

本当に悔しそうな表情を浮かべている杏子。

しかしその表情はすぐさま怪訝な顔に変わる。

マミは「さやか」を食い入るように見つめ、

唇を振るわせながら魂が抜けたような顔をしていた。

階段の途中で足を止める杏子の耳に、

そっと、マミの口から洩れた言葉が届く。




「美樹……、さん?」

~☆

さやかのテレパシーが聞こえた時、

マミをまず最初に襲った感情は歓喜ではなく驚愕だった。

【マミさん……!マミさん……!】

一目見た時から腹部に寄生生物の反応を感じていた。

頭を乗っ取っていないにもかかわらずさやかの身体を操っている。

あの腹部、みぞおちにある何かが美樹さんを動かす元になっている。

そう判断したからこそ、そこを狙い銃で撃ち抜いた。

事実今、「さやか」は動き出す様子を見せないし、

加えて寄生生物がその生命力を急速に失っているのを感じる。

『石』を壊せば寄生生物もそのまま倒せる。

嬉しい誤算だった。けれどテレパシーでさやかが自分に呼びかけてくる。

先程まではそんな様子はなかったし、

マミや杏子に攻撃していたのがさやか自身の意思だとは思えない。

つまりは『石』を壊せばさやかの意識が戻る。

それはマミの精神を根底から揺さぶる出来事だった。

「美樹……、さん?」

助けなければ……。助けなければならない……。

気ばかりが急いて状況を上手く識別出来ない。

地面にさやかのソウルジェムが転がっていた。

それを見ている間も段々と濁ってきている。

慌ててソウルジェムを拾おうとする。

その時さやかの背中から触手が伸びた。しかし動きが明らかに鈍い。

冷静にまだ手に持っていたマスケット銃ではじき落とす。

さやかのソウルジェムをマミが拾った。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫よ美樹さん。

私が助ける……。私が助けるんだから……」

常備しているグリーフシードに穢れを吸わせる。

しかし、吸っても、吸っても穢れは溢れるばかりでなくならない。

むしろ穢れが噴出する勢いが増していくばかりだった。

【良いんです、マミさん。私が助からない事はもうわかってます。

身体の奥の奥、一番大事な所から何かがごっそり抜けて行ってる。

もう、私は駄目なんです】

顔が見えなくてもテレパシーの声音だけでわかるさやかの諦観。

歯ぎしりしてマミは新しいグリーフシードを取り出す。

「認めない……、そんなの絶対に認めない。

お願い、死なないで、美樹さん……」

【ねえ、マミさん。ソウルジェムが完全に濁りきったら、

魔法少女は、どうなるの……?】

マミの動きが一瞬全て止まる。

嘘を付こうかとも少しだけ思った。

しかし、それはマミのプライドと冷静な判断力が許さなかった。

ここで嘘をついた所で何一つ問題の先送りにすらならない。





【……美樹さん。あのね、魔法少女はね、ソウルジェム全てが濁りきったら、魔女になるのよ】

魔女になるのよ。

マミの言葉と現在己の中から抜け出ている何かとを照らし合わせ、

さやかは思いもしなかった結末に、おのれの運命に納得してしまう。

それを聞いてすぐ、さやかのソウルジェムが一層濁った。

一つ、グリーフシードが浄化の限界を迎える。

マミは急いで新しいグリーフシードに取り換えた。

手持ちのグリーフシードはそういくつもあるわけではない。

残りの数はもはや心細くなってきた。両者共に何も言わない。

杏子も会話内容はわからないながらも、

二人が何かテレパシーで会話していると察していた。

さやかに宿った寄生生物は死にかけていて、

たまに少し動いたりする程度でマミを害する力は残っていない。

静寂がその場を支配していた。

そんな静寂を破ってさやかがテレパシーで言う。

【……あんなおぞましい存在になんか私、なりたくない。

この世界を呪いたくなんてない。

お願いだよ、マミさん。私を殺して。

マミさんにしか頼めないんだこんな事】

「嫌、嫌……。嫌……。嫌だ……!

こんな終わり方って……!こんな別れ方って……!」

言葉とは裏腹にマミの手元にはマスケット銃が現れる。

今ここで、さやかを救う方法はマミにはない。

マミのソウルジェムもかなり色々魔法を使い、

しかも精神的なダメージを受けて濁っている。

マミに余裕はない。

これ以上、グリーフシードを消費する訳にはいかない。

そしてマミは屈んでソウルジェムを床に置こうとする。

しかし強く握りしめた指がソウルジェムから離れようとしない。

【ありがとう、マミさん。ごめんね……】

そんな中、努めてさやかがマミに対してにこやかな声でお礼と謝罪をする。

美樹さんは死にたがっている。事実、私に美樹さんは救えない。

死もある種の救いになり得るのだ。

少なくとも苦しみの中、魔女になるよりはよほど上等な。

マミの指がソウルジェムから離れる。マミが立ち上がった。

さやかとこうして話していられるだろう時間も、

それ程大した猶予は残されていない。

マミが銃口を床のソウルジェムに向けた。

【マミさん、最後にお願いしてもいいかな?】

「何でも言って……。私が出来ることなら何でもする。

だから……。だから……」

さやかが最後の言葉、遺言を残す。

その言葉にはそれまでの穏やかな調子とは異なり明確な憎悪がこもる。

【あのね、まずはまどかをあんな姿でこの世にいなくていいようにしてあげて欲しいの。

あとそれと似たような事、して貰う事は一緒なんだけどね、

私の敵をとって欲しい。私の晴らせなった恨み、恭介の敵をとって欲しい。

恭介の命を奪ったまま、まどかの身体に居座ってあいつがずっと生き続けるなんて

私には耐えられないから……】

「約束する……!絶対に私があなたの、そして上条君の敵をとるから……!

だから……!だから……!」

さやかのソウルジェムはもう中身が見えないほどに黒い。

一刻の猶予も残されていない。マミの指がマスケット銃の引き金にかかる。

さやかが最後の力を振り絞り、右手に握っていたレイピアをマミの足元へと滑らせた。

「カタキ、マミサン、コレデ、カタキヲ、マミサン……」

さやかが肉声でそう言い終えたのとほぼ同時にマミが引き金を引く。



ダァン!



……全て、終わった。

美樹さんは今ここで間違いなく死んだ。

そう、間違いなく今ここで私が殺した。

私が殺した。

美樹さんを殺した。



殺した。


「…………ぁ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛アあアアああアあアアあ゛あァあ!」



その場に拳を叩きつけ、マミが言葉の意味を持たない慟哭を叫ぶ。

どうして、みきさんがこんなめにあわなくてはいけないの?

むごい、あまりにむごい……。

それから数十秒声が枯れるまで叫び続けた末、マミは大人しくなった。

数分後、杏子がおずおずとマミに声をかける。

「おい……、大丈夫か、マミ?」

「大丈夫。私は大丈夫よ、佐倉さん」

しっかりとした声でマミはそう返答する。

杏子の声を受け、それで何か意を決したらしく、

さやかの遺体を背負い立ち上がる。

マミの顔に涙の跡が光っている。

「お、おい?そいつを持ってどうするつもりさ?

そいつはもう死んでんだぞ、生き返らせるなんてまさか思っちゃ……」

自分のせいで大切な人が死んだ。

その身を引き裂くような苦しみに杏子は身に覚えがあった。

それどころかたった今、マミはその相手を直接手にかけてしまった。

だから杏子はマミの気が狂ってしまったのだと思った。

辛さのあまり正気を失ってしまったのだと思った。マミが答える。

「どこか近くの、使い魔なり魔女なりの結界に放り込んで処分する。

家族にこんな姿になってしまった美樹さんを見せたくないし、

どの道警察機関とかに渡ってしまえば面会は叶わないでしょう。

美樹さんの腹部にいるこの化け物。

こいつの存在を私は人々に大がかりな形で知られる訳にはいかないの。

だから死体を残す訳にはいかない」

さやかだったモノを背負いマミが結界を探すため歩いて行く。

それを聞いた杏子はその場に茫然と立ちつくした。

さっきまであれだけ悲しんでいたのに、

あれだけ苦しんでいたのに、

どうして今はそんなに冷静でいられるんだ……?

杏子の背筋に悪寒が走る。

アイツとはもう関わり合いにならない方がいい。

そう直感が告げている。

けれども、マミの顔の涙の跡を杏子は見てしまった。

どれだけ理屈をこねた所で、

そんなマミを目の前にして放っておく事なんて、

今の杏子には出来なかった。杏子が急ぎ足でマミに追いつく。

「ああっ、クソっ!この近くにそろそろ魔女になりそうな、

状態の安定した使い魔の結界があった。

案内してやるからついてこいよ」

そして後ろも見ずに半分走るように歩く。

後ろについてくるマミの気配がする。

……厄介な物を抱え込んでしまった。そう、杏子は頭では思う。

しかしこうしてマミと二人でいられる。

どこか胸の奥でそれを悪くないと感じている、

そんなどうしようもない自分が杏子の中にいるのもまた確かだった。

>>533 ※訂正

「どこか近くの、使い魔なり魔女なりの結界に放り込んで処分する。

ご家族にこんな姿になってしまった美樹さんを見せたくないし、

どの道、遺体が警察機関とかに渡ってしまえば面会は叶わないでしょう。

美樹さんの腹部にいるこの化け物。

こいつの存在を私は人々に大がかりな形で知られる訳にはいかないの。

だから死体を残す訳にはいかない」

マミが足元に転がったレイピアを拾った。

そしてさやかだったモノを背負いマミが結界を探すため歩いて行く。

それを聞いた杏子はその場に茫然と立ちつくした。

さっきまであれだけ悲しんでいたのに、

あれだけ苦しんでいたのに、

どうして今はそんなに冷静でいられるんだ……?

今日の更新終わり

ちょっとテンション上がってたら投下の際の手直しをうっかり途中忘れるの巻

結界に死体遺棄
前にミギーがしていた事と同じ行為をするマミ
彼女の未来はどっちだ!?

次回普通のインキュベーターとマミの対談から再開です



さやかは、前にほむらから魔女化の事を聞かされてたよね?
契約の時に魔女になろうが仇を打ちたいって感じの事を言ってた気がしたんだけど、今回マミさんに聞き直したのは、マミさんに対する思いやりって解釈でいいの?

>>526 九行目 訂正

× 魔法少女は、どうなるの……?】

○  魔法少女がどうなるか、知ってますか……?】

>>527 二行目三行目四行目 訂正

× マミの言葉と現在己の中から抜け出ている何かとを照らし合わせ、

さやかは思いもしなかった結末に、おのれの運命に納得してしまう。

それを聞いてすぐ、さやかのソウルジェムが一層濁った。

○ それを聞いてもさやかはうろたえた様子を見せない。

つまり美樹さんは聞く前からこの事を知っていた……?

事実さやかはその事を既に知っていたが、だからといって事態は何一つ好転しない。

>>538
つまりそういう事です
言われた瞬間は背筋が凍った

最小限の労力で今回一応誤魔化しましたが反省したので
自分の書いたの今から一通り読み直してきます
次回からはこのような事を極力せずに済むよう精進したいです

書いてる事が忘れられてたり気付かれてない事は多々あれ
自分の書いた展開忘れながら書いてちゃ駄目ですねごめんなさい
明日は読み直してから書くので更新ないかも

マミさん人間側に戻ってこれるのかな?
寄生獣の方でシンイチが猫をゴミ箱に捨てたあと、土に埋めれば命が循環するからそうした方が怒られなかったのかな?っていうようなシーンにいろいろ考えさせられたけど、さやかの死体を勝手に埋めたらさすがにまずいもんなー。
怒ったヒロイン役も杏子じゃ代役にならないだろうしな…

更新
読み直すの辛いです
展開的にも文章の拙さ的にも(特に前半)
SSだからシチュエーションが解ってもらえればそれで十分だから……


>>543
そもそも杏子怒っちゃいないっていうね……マミさんの明日はどっちだ

完全版五巻 田宮さんが殺した三人の遺体が回収されてて、その情報が一応市役所に行ってる事からしても
パラサイトの死骸は放っておいても完全になくならないっぽいですよねやっぱり
(彼らがバラバラ殺人からパラサイトの仲間割れだと考えてるってだけの可能性もちょっとあるかもだけど)

本当に空飛ぶ犬とこっちに移ってこいよさんを新一達はどうしたんでしょうね?
マミさんが結界で処分したのはそれが一番確実かつ安全だからで
マミさんが他のパラサイト達と戦った時に結界が見つからなかったら、しばらく死体を保存して隠したりしてたかも……

余計な事を考えちゃいけない

~☆

テーブルの前に腰掛けるマミ。自分の家に帰って来ていた。

浴室からお湯が床にぶつかり跳ねる音がする。杏子が身体を洗っている。

成り行きで、マミは杏子を連れ帰っていた。

始終マミといる事が心底嫌そうな顔をしながらも、

こうしてマミの家にまでおとなしく付いて来ている。

とりあえず本気で嫌がっていないという事は間違いない。

マミは杏子の強情さに笑い出したくなった。

杏子が強情だったのはその態度だけではない。

道中、やけに杏子が左腕を気にかけていると思いマミが触って確認してみると、

腕はただ形だけ繋がっているばかりで、

すなわち左腕の怪我そのものは全然治っていなかった。

どうやらマミに弱みを見せたくなかったらしい。

しきりに治療を嫌がるそぶりを見せたが、もちろん家に着いてからマミが無理やり治療した。

自分の穢れの回復も含め、

持ち歩いていたグリーフシードは全て使い切ってしまった。

ワルプルギスの夜が来る。

もっと真剣にグリーフシードを集め、

蓄えておかなくてはならないというのに。

近くの町にいる知り合いの魔法少女達からあらかじめレンタルする。

そんな方法も考えておいた方がいいかもしれない。

そんな事を考えていた時だった。

「やあ、マミ。久しぶりだね」

声のした方へ目を向けると、そこには見知った白い姿、

それまでマミがキュゥべえと呼んでいた者、

インキュベーターがいた。

乗っ取られていたインキュベーターは私が殺した。

それにこのインキュベーターからは寄生生物の信号は感じられない。

こいつは普通の奴だと考えて問題ないだろう。

少女を魔法少女にして、魔女を生み出す張本人。

こいつは私の、私達魔法少女の敵だ。




……友達だとずっと思っていたのに。


マミはその考えを感傷的ななノイズだとすぐさま切り捨てる。

棘の籠った言葉をインキュベーターに投げかけた。

「あなたの顔を見ているだけで虫唾が走る。いったい私の部屋に何の御用?」

「キミが使用済みのグリーフシードを

今いくつか持っているからね。回収に来るのは当然の事さ」

特別居心地の悪さも悪びれる様子も見せる事なくインキュベーターが言う。

マミが魔法少女の末路を知ったという事をおそらくインキュベーターは知らない。

だから悪びれる様子を見せないのは別におかしくない事ではあるけども、

これ程痛烈な拒絶の意思をいきなり示され、

何も動じないというのはやはり少し薄気味悪くあった。

だからこそ、インキュベーターの悪びれる様子を、マミは少し見たくなった。

「……美樹さんが死んだわ」

「へぇ」

驚いたといった声の調子ではない。

それは丁度腕に止まった蚊を叩きつぶしたくらいの関心度に思えて、

それがマミのイライラをますます募らせる。

「人間の頭を乗っ取って、自由自在にその形を変えたりする生物の事……、

あなたは知ってる?」

それを聞いたインキュベーターは今日初めて、驚いたような声を出した。

「驚いたな、どうしてキミがそれを知っているんだい?

……もちろんボクは知っているさ。

パラサイト達の出現は全世界規模の人類史上類を見ない大事件だからね」

パラサイト……。彼らをどうして知っているのか、

マミはインキュベーターのその疑問に少なくとも今の所答える気はなかった。

ただ先程からずっと気になっていた事をぶつける。

「美樹さんは腹部から背中にかけて、そのパラサイトとやらに寄生されていた。

にもかかわらず、パラサイトは美樹さんの全身を操っていた。

それじゃ普通筋が通らない。

じゃあ一体どういう事なのかと言ったら、

それを砕いたら美樹さんを動かせなくなってそのまま絶命したことを考慮すると、

やはり腹部、みぞおち付近に埋め込まれていた、

魔力の籠った赤い石が司令塔のような役割を果たしていたと考えられるわ」

「それは中々興味深い話だね。その赤い石の実物はあるかい?」

それまで四本足で立ったままだったインキュベーターが、

膝を曲げてマミの顔の見える位置に座った。

どうやら話を真面目に聞く気になったらしい。

杏子が浴室から出てくる気配はまだない。

どうやら久しぶりの気の抜ける入浴を存分に堪能しているらしい。

マミはさやかの死体からなるべく赤い石の破片を回収して来ていた。

それと砕けたソウルジェムの破片も一緒に持ち帰っている。

当然赤い石だけでなくソウルジェムも渡した方がより正確な情報が得られる事だろう。

けれどそこには葛藤が存在した。

赤い石の方はまだいい。

しかしさやかのソウルジェムの破片をこいつらに渡すのは、

彼女の魂への冒涜ではないのか?そんな思考がマミを躊躇させる。

「……これがその、赤い石と美樹さんのソウルジェムの破片よ」

マミは結局迷いを断ち切った。

いつもグリーフシードを入れているポーチからそれら破片を取り出し、

インキュベーターの前に置く。

美樹さんの事を本当に考えるなら、

私が今すべき事は鹿目さんをどうにかしてあげる事、美樹さんの敵をとる事。

その為には情報を得られるチャンスを、

こんなくだらない感情で手放してはならない。

これはあくまで美樹さんの魂だった物。

今となってはただの綺麗な石ころだ。

インキュベーターが長い耳でそれらを触り、何やら情報を探っている。

「ふむ……。この赤い石はどうやら、

複数の魔法少女のソウルジェムを錬成する事によって生成されているようだね」

「他には?」

それは既に、今は亡き「キュゥべえ」から聞いていた。

「見る限りダメージを受けた際の自動治癒魔法くらいしか、

乗っ取ってる時に魔法は使えないようだ。変身もパラサイトの意志では出来ない。

ただ、肉体の操縦を円滑に出来るし、魔力に関する物を見分けたり出来るらしい」

使用には別に少女でなきゃいけないといった制限はないようだね」

「わかるのはそれだけ?」

そんなことには興味はないし、

「さやか」がレイピアを突き出したりするばかりで

魔法を使わなかったという事実から、

その魔法少女の固有魔法が使えたりする訳ではないという事はマミにもうわかっていた。

「他には、この石がそう表現すべきかは微妙だけど、

魂に『穴』を空ける物だと言う事かな。

ソウルジェムの破片を見ると、はっきりとその『穴』があるのがボクにはわかる。

これは強制的にその人間の魂とパラサイトの意識を連結し、

人間側の自由を奪い服従させているんだ」

「じゃあそれを無理に破壊したとしたら……」

「ある程度早い段階、一日や二日……、いや、三日程度までの間なら、

適切な処置をすれば両方に影響なく取り外す事は出来るのかもしれない。

ただそれを無理に壊したり、あるいは結びつきが強過ぎた場合には、

それがなくなった事で人間側の魂、それとパラサイト側の意識に『穴』が空く。

つまりは死んでしまうだろう」

さやかのソウルジェムがどんどん濁って行ったのをマミは思い出す。

やはり私に助ける事は出来なかったんだ。

あの石を壊してしまったその時点で美樹さんが死ぬのは確定してしまった。

適切な処置なんてものを私は知らない。どうしようもなかった。

唇を噛み締める。

さやかを失った喪失感がまたありありとマミに甦って来る。

それでも、その前だったら何か出来ていたのではないか?

美樹さんと魔法少女同士協力出来てさえいれば、

もっと他に道はあったのではないか?

怒りがインキュベーターに向かう。

彼さえ協力してくれていれば、もっとこう何か……。

「どうして、美樹さんが契約してたって、私に教えてくれなかったの?」

「さやかに口止めされていたんだ。

それにあの上条恭介の死体からして犯行を行ったのはパラサイトだ。

キミに言った所で事態がいい方向に転がるとはとても思えなかった。

それより他にもっとするべき事の順序がボクにはあった。

あとボクはさやかに助けが必要だとはあの時それほど思っていなかったんだ。

彼女の願いは彼を殺した相手を自分が殺すという目的に、

完全に特化していた物だったからね。

ボクにはどうにも不可解だよ。さやかがパラサイトに手玉に取られたって事が。

いったい彼女に何があったのか、わかる範囲でボクに教えてはもらえないかな?」

驚いた様子を顔には見せなくても、

さやかがやられた事を少なくとも不思議には思っていたらしい。

「まどか」についての情報をインキュベーター達に教えておいた方がいい。

マミはそう思った。

インキュベーターへの悪意、

抵抗する気持ち、

自分がやるのだという責任意識、

それらによって自分がどう動くべきかという判断を完全に曇らせてしまっていた。

鹿目さんだったモノを殺す。

そういった目的のためには、利用できる物はどんどん利用していかなくてはならない。

それがたとえ魔法少女に敵にあたる存在だったとしても。

マミが口を開いた。

「美樹さんは……」

「それとだね、マミ。キミにもう一つ、

さらに聞いておかなくてはならない事がたった今できた」

しかしインキュベーターがそれに割り込んで言う。

インキュベーターが、他人の話の途中に強引に割り込み自分の話をする。

ただでさえ自分の意図を隠す傾向の強い彼らだ。

その口からわざわざ飛び出す話が、ただの平凡な世間話のような物である訳がなかった。

「よくよくしっかり見てみると、キミのソウルジェム、

何か不純物が混じり始めているようだ。

……というよりは前と比べて若干変質しつつあると言った方がより正確かな?

その変化は穢れとは違う、魂とも違う。……そう、パラサイトのような何かだ。

もちろんボクが言いたいのは、キミの魂が次第に失われつつあるなんて事じゃない。

あくまでキミの本質はキミという魂そのものであり、それ自体は何も変わっていない。

しかし願いの力もなしに魂が変質する、

そんな前例は魔法少女の契約前だろうが契約後だろうが、

これまでボクの知りうる中ではない。

見た所、今現在キミの魂の様相は、

着々と人間からパラサイトへ近づいている状態にあるのだろう。

その終着点は魂を持ったパラサイトとでも呼ぶべきなのかな?」

混乱するマミ。なおも冷静なインキュベーターは彼女に尋ね言う。

「巴マミ。ボクの知らない間にキミにいったい何があったんだい?

全て教えてくれないかな?これを黙って看過する事はさすがにボクにも出来ない。

……ただその答えが何であれ、キミがいったい何者なのか。

そしてこれから何になるのか。ボクはそれを本当に興味深いと思うよ」

「私は……。私は……」

さやかについての話。自分にこれまで何があったのか。

変わり果てたまどかの存在。私達はこれから何をどうするか。

そんな事をマミはインキュベーターと話した。

その語り合いの中、最後まで自分がいったい何者なのか、

その答えを出す事がマミには出来なかった。







杏子が浴槽内でのぼせ上っているのが発見されたのは、それからだいぶ後の事である。

更新終了

どうしようもない説明回というか場繋ぎ
杏子がオチをつけてくれたから問題ないと思いたい

回収し忘れの伏線みたいなのは今の所ないけどどういう順番にするか凄い悩んでます

前に五巴とか言った気がするけど
さやか、上条組は脱落 「キュゥべえ」は脱落

まどか、パラサイト組は合体
杏子、仁美、マミ、インキュベーター組みたいな感じで
二組の取っ組み合いみたいな感じになりつつある
分かりやすくて良いですね

さすがにこれはねーわって所を最後

前スレ>>526 一行目訂正

× それにマミとヒダリーは体内で繋がっている。

○ それにマミとミギーは体内で繋がっている。

そういえば>1の注意書き見てふと思ったけど、
聖カンナのコネクトで本作のさやかみたいな状態の寄生された魔法少女を操ろうとしたら、どうなるんだろう?

書き終わった所まで投下できれば過去最大量更新と思われる
お盆等は事情により投下も書き溜めも出来ないから
次の投下は来週の土曜日以後量は未定

>>560
私の設定のさじ加減次第の後出しじゃんけんっていう……
赤い石の効果設定次第でどうとでもなっちゃう
面倒だからこの話ではかずみたちに織莉子たちは存在してないって事で
特に織莉子がいるとほむらの行動が面倒に……

~☆

見滝原郊外の、人がめったに寄り付かない路地裏、

パラサイトが日常的な食事をしている。


ぐじゅる……。ぐじゅる……。




ボリボリ、ガリ、ガリガリガリガリ。


「彼」はふと、自分の背後から仲間がやってくるのを感じた。

しかしどうにもおかしい。眠っているような、そうではないような、

とにかく相手の信号が安定していない。

「彼」が振り向くとその先には、

金髪ロールの魔法少女、巴マミがいた。

パラサイトが獲物を手から離した。戦闘が開始される。

そしてあっという間にマミがパラサイトの両足を撃ち抜き、

マスケット銃を突きつけながら言った。

「その様子だと私の事、知ってるみたいね」

「…………」

「鹿目まどか。何匹ものパラサイトの複合体、

おそらくあなたと同じ赤い石で身体を操ってる。

奴の事ももちろん知ってるわよね?

あなたのその『赤い石』、言い逃れはさせないわよ」

パラサイトは自分の名前に関心を持たない。

まどかの名前を引き継いで使っているに違いないとマミは考えていた。

何となくではあるけれど、最近マミはパラサイトの一般的な思考という物が、

感覚的に少しわかるようになってきていた。

「……知ってるとしたら、何だ?」

「彼」はマミへの敵対心をむき出しにする。

構わずただ要求だけをマミは突き付ける。

「知っているならこう奴に言付けなさい。

私と前に一度対峙したあの公園に、夜中の12時一人で来い。

インキュベーターと巴マミがあなたとの三者だけの会談を望んでいる。

あなたと取引したい事があるのだと」

~☆

「それで?取引って、なに?」

暗い暗い、真夜中の公園。

三者別種の存在が人知れずその場に集っている。

宇宙人、パラサイト、魔法少女。

結局「まどか」は他のパラサイトを連れてきたり、

細かな小細工を弄してくる事はなかった。

自身の実力に、それと何をされても自分は負けないという自信が、

「まどか」にはあるのかもしれないとマミは思った。

「私の要求を述べさせて貰うわ。

私、巴マミとその友人達に対して、

見滝原にワルプルギスの夜が来るまでの期間手を出さないで欲しい」

「ワルプルギスの夜?」

「まどか」が腑に落ちないという顔をした。

インキュベーターがその疑問に答える。

「魔女、という存在はキミも知ってるよね?」

「魔法少女のなれの果て、でしょう?」

「その通り。そしてワルプルギスの夜はそんな魔女達の中でも別格の、

歴史に名を刻む規格外の強大な魔女だ。

結界を持たず、現世に具現し、

表向きには大災害という形で人間社会に被害を与える」

「つまりそれを倒し終わるまでは、

そっちに干渉せず大人しくしてろって事だね。

その要求に従って私達に何の利益があるの?」

今度はマミがその答えを引き継ぐ。

「まず一つ目、ワルプルギスの夜を倒すのは、

あなた達ではほとんど不可能だと言う事。

あなた達はワルプルギスの夜に対して有効な攻撃手段を持ち合わせていない。

魔力による攻撃以外をワルプルギスの夜は

ほぼ無効化してしまう事がわかっているわ。

それは普通の魔女の場合でも、

魔法以外の攻撃の効果が薄いというのは同じだけど、

ワルプルギスの夜の純粋な物理攻撃への耐性は群を抜いている」

「私達がワルプルギスの夜を倒すまで待つメリットは別にないでしょう?

むしろ逆にあなたを倒すチャンスだとさえ言える」

マミは「まどか」の言葉に首を横に振った。

「ところが実際そうも言っていられないの。

ワルプルギスの夜はその町を存分に蹂躙し尽くした暁にはどこかに去っていく。

多分自分の結界の中に帰って行くのでしょうね。

けれどちょっと経ったらまた他の町で大規模な蹂躙を繰り返す。

倒すか、ダメージを与えて撃退するか、

二つの内どちらかを為さなければ人間社会は絶えず混乱するばかりだわ。

それはあなた達の望む所ではないでしょう?

それに、見滝原の次にワルプルギスの夜がどこに出るかはわかっていない。

どこで生きるにせよあなた達にとっても他人事ではない。

ここで私達が倒すのを待っていた方が利口なはずよ。

私が勝っても負けてもあなた達には得しかないのだから」

「その情報はいったいどこから?インキュベーターが言った事なの?」

マミが再度首を横に振った。

「いいえ、違うわ。……あなたは暁美さん、

暁美ほむらさんがどんな魔法を使うか知ってる?」

「前に見たしある程度は知ってる。時間停止の魔法でしょ?」

「そう、そこまでわかってるなら話は早いわ。

彼女の本当の主要な能力は一か月時間を巻き戻す事なの。

鹿目さんを助けるために、

ワルプルギスの夜が見滝原に襲来した日から遡って今にやってきた。

何度も何度も繰り返したそうよ。

ワルプルギスの夜との戦闘経験は彼女は他のどんな魔法少女よりも豊富。

時間を巻き戻してる人間のもたらす情報の信憑性は高いと思わない?」

「……一つ目の利益はわかったから二つ目はなに?」

「二つ目は暁美さんがワルプルギスの夜が来る日、

必ず鹿目さんを救いに行くため時間を巻き戻すという事。

私達に手を出すという事、それは暁美さんと敵対するのと同じ。

時間を止められる人間と無理に戦うよりは、

その人間がいなくなるまで大人しくしている方が得策だとは思わない?」

「なるほど、暁美ほむらと事を構えずに済むと言うのは、

確かに私達にとって中々無視できないメリットだね。

今巴マミが言った事は本当なの?インキュベーター?」

「まどか」の言葉に頷く訳ではなく、

インキュベーターはただ首を軽く傾ける仕草をした。

「本当かどうかをボクには断言する事は出来ない。

何しろ彼女とは契約したという記録が全く残されていないんだから。

けれどそれが真実だったとしたら、彼女に関する記録が何も残っていない事、

彼女のまどかに対するやけに強い執着、最初から色々な情報を持っていた事、

何よりまどかが異常な魔法少女としての素質を持っていた事といった謎の全てに説明がつく」

「鹿目さんの魔法少女の素質?」

マミが大きな声をあげる。言われてみればおかしな話だった。

異常な魔法少女としての素質、異常な時間遡行という魔法。

ほむらの過去に関する話から推察するに、

最初からまどかに異常な素質があった訳ではなさそうだった。それはつまり……。

一瞬だけインキュベーターがマミの方を向いてそのまま話を続ける。

「彼女が時間を巻き戻す度にそれに関わる全ての因果は、

事象逆行の中核、目的たるまどかという少女に全て結合されて行ったのだろう。

突然、ほむらというイレギュラーの出現と同時に

まどかの素質が跳ねあがった事も、その説の根拠として挙げられる。

ボクにはその確固たる証拠がつかめていないが、

キミはほむらの魔法が時間停止であるとわかっているのだろう?

だったら時間を遡行しているというのも特別不思議な話じゃない。そうは思わないかな?」

暁美さんが、時間を巻き戻したせいで鹿目さんの素質が……。

もしも素質が一般の魔法少女のままだったら、

鹿目さんがパラサイト達に狙われる事はなかったのだろう。

つまりは。

……マミはその仮定を墓場まで持っていく事に決めた。

これが仮に本当だったとして、暁美さんが前に進むのには何も役に立たない。

私は、彼女をこんな所で終わらせたくない。

たとえそれが私の醜いエゴだったしても、彼女を先に進ませてあげたい。

彼女の結末が、鹿目さんの結末が、美樹さんの結末が、上条君の結末が、

どうしようもなくやるせない物として終わるなんて、私には認められない。許せない

「なるほど、確かにそうだね」

頷く「まどか」。

「そして三つ目はぼくらインキュベーターのキミ達に対する処遇だ。

ボクらは正式にキミ達パラサイトを『処分』する事に決めた。

ただし、巴マミとそれに関係した者達に期間内手を出さないと誓うならば、

全世界のパラサイト達にワルプルギスの夜まで何もしない。

ボクらに対する対抗手段をキミ達も時間をかけて整えておきたいだろう?

だったらワルプルギスの夜まではマミ達に手を出さないでくれ」

「……なるほど、なるほど」

何度も頷く「まどか」。そして言った。

「わかった、キミ達の条件を飲もう。あくまで私の出来る範囲ではあるけれど、

巴マミとその友人達に我々の関係した何らかの危害が、

ワルプルギスの夜がここ見滝原からいなくなるまでの間及ばないよう努力する。

これで構わないよね?」

「いいよね?マミ」

「ええ、それで結構よ。

その魔女の影響はスーパーセルって形で報道されるはずだから、

テレビや新聞で見滝原の情報をチェックしていればわかるはず」

話し合いが終わったとみるやすぐさま「まどか」はそこから姿をくらます。

追いはしなかった。それは今取り決めた約束を反故にすることだし、

何より「まどか」をここで潰す事に成功したとして、

それはパラサイト達に完全に目の敵にされる事を意味する。

ワルプルギスの夜が来る。ほむらを次の時間に送り出さなくてはならない。

そんな中で煩わしいパラサイト達に、

時間と労力をかけている余裕などとてもなかった。

「ねえ、インキュベーター、……いえ、キュゥべえ」

「何かな?」

「どうして私にそこまで肩入れしてくれるの?

あなたにとって魔法少女の一人や二人、

生きようが死のうが何の意味もない物でしょう?」

「それが普通の魔法少女ならこうして手助けのような事はもちろんしないよ。

だけどキミは言うなればパラサイトと魔法少女の中間者、

世界に一例しかないとても貴重な魔法少女のサンプルだ。

研究価値がある物に対する配慮をボク達は惜しむつもりはない。

貴重な資源、自然を保護する。

キミ達人間だってやっている事じゃないか。

そもそもすんなりとパラサイトの『処分』が短期間で決まったのは、

まどかという唯一無二の少女を台無しにした事、

そしてキミ一人さえいればパラサイトに関する資料は十分だと判断したからだ。

ここでキミが死んでしまえば全ておじゃんだ。

当然キミにある程度の肩入れをするに決まっているよ」

マミを品定めするような不気味な赤い眼が、

彼女の瞳の中を深く覗き込んでいた。

~☆

「マミってさ、最近思いつめた顔してるよ。大丈夫?学校も最近結構休みがちだし」

「え?そう見えるかしら」

口ではそう言いはするものの、マミ本人にも心当たりはあった。

マミの身に降りかかっている様々な事柄の異常さからいって、

たとえ誰であろうとも同じ目に遭えばマミのように思い詰めるに違いない。

彼女に話しかけられるまでマミはずっとぼうっとしていた。

休み時間、学校という普通の空間の中で、

普通の人達と触れ合えるほぼ唯一の時間。

今のマミにとっては何物にも代えがたいはずの時間。

しかし最近はそれすら億劫だった。

もしここに、万が一パラサイトが襲撃しに来るような事があったとしたら、

自分が皆を守らなくてはならない。

そんな事には実際ならないとは思う。

しかしそう頭では思っていても、マミの神経は張り詰めるばかりで、

一時も心の底から気を抜く事が出来ない。

ワルプギスの夜、暁美ほむら、二つの今もどこか遠くに実在しているだろう虚像が、

マミの精神をへとへとに疲弊させていた。

「そう見えるどころじゃないよー。

相変わらずどころか前にもましてお弁当はよく食べてるみたいだけど」

そう言って何故か面白そうに笑うクラスの友達。

マミは何とも言えない笑顔を返した。

「心配させてごめんなさい。でも大したことじゃないの。ちょっと疲れてるだけだから」

「それって最近ずっと疲れてるって事?

ダメだよー。たまには休んで心身リフレッシュしなきゃ。

ただでさえマミは真面目なんだから抱え込んでいつかパンクしちゃうよ」

「ええ、御忠告ありがとう。なるべく従うようにするわ」

心身何もかもの重荷を降ろして休める訳がない。

焦ってもこの街で手に入るグリーフシードが増える訳じゃない。

それならいつも通り過ごしていた方がましだ。

ただ、それだけの理由で、マミはこうしていつも通り学校に通っているのだ。

杏子がこの時間も周辺の町にグリーフシードを探しに行っている節があるが、

なるべく面倒事にはならないようにしてねと最初に釘をさしているので、

きっと大丈夫に違いないとうやむやにマミは放任している。

魔法少女を襲撃しグリーフシードを奪うような行為は無論許されるはずもないが、

杏子もここら辺の魔法少女の間では色々と顔が利く。

今の杏子の事だから多少グレーな行為もするかもしれないが、

あまり贅沢は言っていられなかった。

数日後に備蓄のグリーフシードを貸してもらう約束を、

何人かの魔法少女とマミは取り付けた。

後必要なのは……。

そんな時、思いがけず始業のチャイムが鳴った。

「あのさあマミ。あんたは毎日頑張ってて偉いと思うよ私は。

だけどさ、何もかも完璧にやり遂げるのは人間絶対無理だって。

これからの時間少し眠っておいたら?

放課後何するつもりなのは知らないけど、

おろそかに出来る用事じゃないんでしょ?」

睡眠時間。確かに疲労度を考えると圧倒的に足りていない。

友達の言葉をきっかけに、授業の喧騒を意識のかなたへと追いやり、

マミは目を閉じて舟を漕ぎ始める。

眠い……。




酷く眠い…………。

~☆

学校の授業が全て終わり、中学生が部活や下校に勤しむそんな時間帯、

マミは杏子と共に「まどか」と遭遇したのとは別の公園に来ていた。

マミは目の前に姿を見せた黒猫に餌を与え、それを杏子は隣で見守っている。

「どうして鞄に猫の餌や皿を入れて登校してまで、猫に餌をあげてるのやら。

そんなに気になる猫だったら家で飼えばいいじゃん。

マミが学校に行ってる間なら、

寝食世話してもらってる恩があるしアタシがこいつの面倒見てやるよ」

「ダメよ。暁美さんに公園にいる猫に餌をあげておいてって、そう頼まれたんですもの」

「まーたそのアケミさんとやらか。

そいつとはいつになったら顔合わせ出来るのさ?」

「ワルプルギスの夜が見滝原に来る前には帰ってくるはずよ」

「アバウトだなー」

マミはほむらが自分の家の電話に

最初いきなり連絡をしてきた時の事を思い出していた。

家の電話の番号を教えたりした記憶はなかった。

だがよく考えたらほむらは時間を巻き戻している存在なのだから、

知っていた所で何の不思議もなかった。

何か緊急に伝えなくてはいけない事ができたのかと心をざわめかせるマミに、

ほむらが頼んだのは猫の餌やりという彼女に似合わぬ実に可愛らしい物だった。

事情はよくわからなかった。

しかしマミはそれについて深く尋ねたりする事はせず、

放課後言われた通りに猫に餌やりをしている。

ただし毎日でなくて良いから気分でお願いと言った彼女の気分とやらが、

いったいどの程度のことを指していたのかよくわからなかったので、

結局毎日あげてしまっているのがほむらの指示とは若干異なる点である。

おいしそうにお皿から餌を食べる猫の頭を微笑ましそうに杏子が撫でている。

「あー、今までそんな興味なかったけどこうして見てると猫可愛いな。

アタシ達もなんかペット飼わない?」

「いやよ」

「どうして?」

「だってどんなに可愛がっても、

どうせいつか死んで私の前からいなくなっちゃうんだもの」

「そ、そういう元も子もない事言うなよな……」

エー、という不満に満ちた渋い顔をする杏子にマミがはっきりと告げる。

「第一あのマンションペット禁止よ、佐倉さん」

~☆

建物の窓から外へと強く漏れ出ている明かり、

元よりそこを照らすべく置かれた街灯の灯り、

空の暗さとは打って変わりそれ程強く暗闇を意識させぬ、人工の道を歩く三人の少女。

仁美がマミに言った。

「この御方は巴さんのどういったお知り合いですか?」

「佐倉杏子さん。私の古くからのお友達。

最近ここら辺物騒だから念のために用心棒として働いて貰ってるの」

「けっ」

面白くなさそうに杏子がそれまで飲んでいた缶飲料の空き缶を、

通りすがった自動販売機の横に設置されたゴミ箱に向かって投げる。

杏子の手から真っすぐ飛んだ空き缶は、

ゴミ箱のペットボトルと上に書かれた穴に吸い込まれ消えた。

「ああっ!もうっ!やってらんない!」

頭をかきむしりながら杏子は走ってゴミ箱まで向かい、

ペットボトルの穴に右手を伸ばし中をごそごそと漁る。

そして隣の空き缶と上に書かれた穴へきちんと入れ直した。

「……とりあえず悪い人ではなさそうですわね」

「ええ、根はとっても良い子なのよ。

近頃ようやく、またまともに善良な一市民として生活し始めた所だけどね。

実はあの子相当のワルだったんだから」

冗談めかして言うマミだが目は笑っていない。

ほむらとマミ、そして杏子。

どうしてこう一癖も二癖もあるような人達が揃うのだろう?

仁美は不思議な気持ちになった。

杏子が立ち止まって彼女を待っていた二人の元にとても不機嫌そうな顔をして戻ってくる。

「マミ、ポッキー」

言われるがままにマミは自分の持っていた鞄からポッキーの箱を取り出し、

袋を開けてポッキー一本を杏子の口元に差し出した。

「……何のつもりだよ」

「何って、ポッキーでしょう?」

「そんなの見ればわかるっての。

なんでアタシの手にポッキーを手渡さないのかって聞いてんだよ」

「だってゴミ箱に突っ込んだ手でポッキーを触るのは嫌でしょ?

だからこうして私が持ってるんじゃない」

ニコニコ楽しそうにマミが笑っている。

「右手を中に突っ込んだんだから汚れてない左手に渡せばいいじゃんか……」

ボソボソそんな事をぼやきながら、

それでも小鳥が餌を啄むように、

杏子はマミの手に握られたポッキーを少しずつ食べる。

「ふふふ、お二人は大変仲がよろしいんですのね」

その姿は親鳥が雛に餌をやっているようで、

微笑ましくなった仁美は茶化す意図もなくただ本心からそう口にする。

それを聞いてそれまで満更でもなさそうにポッキーを食べていた杏子は、

弾かれたようにポッキーから口を離し、顔を少し赤くして言った。

「やっぱこれどう考えても食べ辛いって。

左手で持って食べるから箱ごとくれよ」

そう言ってマミに向かって右手を差し出す。

素直にマミは箱を杏子に渡した。

「佐倉さんは放っておくとずっとお菓子ばっかり食べてるから、

全部私が管理する事にしたのよ」

「やれやれ、この年になって食べるお菓子の量を一々管理される、

こっちの気持ちになって欲しいんだけど」

まるで煙草でも吸うみたいな仕草で、

大切そうにそっとポッキーを口に咥えながら杏子は言う。

思ったよりもずっと親しみやすそうな人だ。

仁美は自分の中の杏子に対する第一印象をあっさりと覆した。

顔を合わせた時は粗暴で、傲慢で、短気といった、

仁美の中の不良のイメージのまさに権化と呼ぶにふさわしい存在に見えた。

ただ、こうしてマミとじゃれ合っている姿を見ると、

どう見てもちょっとやんちゃな年頃の少女にしか見えない。

どすの利いた所も多少あるような気もするが、目を瞑れない範囲では決してない。

「それでえーっと……」

「志筑仁美さん」

「仁美は何でこんな時間に外をうろついてんのよ。

別にアタシはマミについてきただけだし何でも構わないけど一応さ」

彼女には言えない、と仁美は思った。

杏子さんがどういった巴さんの知り合いなのかはわからいけれど、

この問題に関しては完全な部外者。詳しく話したくはない。

「……探し物をしてるんです」

「探し物?」

「ええ、とても大事な物なんです」

口を真一文字に引き結んで仁美は拳を握りしめる。

そう、本当はこんな穏やかな気分でいる事など許されるはずはないのだ。

私にはやらなければならない事がある。

私には……。

「じゃあさ、その探し物とやらが一段落したら、

ちょっとゲームセンターとか行ってみない?」

ゲームセンター?目をパチクリさせる仁美だった。

「えっ、ゲームセンター、ですか?」

「そう、アンタなんかあんま行った事無さそうな感じじゃん?

交流の記念としてちょっと一緒に遊ばないかっていうお誘い。

今日じゃなくてもいいよ。明日でも、明後日でも。

仁美の都合のいい時間にこっちが合わせるから」

そんな事を言ってる内に仁美の家に到着した。

その思いがけぬ豪邸っぷりに杏子は内心そわそわしているのが、

長年彼女と縁のあるマミにはわかった。

そんな心の中はおくびにも出さず、

平然とした様子で杏子は仁美に柔らかく言う。

「まあ無理にとは言わないけどさ、ちょっと考えておいてよ」

「……考えて、おきます」

そして二人と一人が別れの挨拶を交わしてそれぞれ別れた。

仁美は家で授業とお稽古の復習、

それと明日の授業の予習その他をしてから眠るのだろう。

対してこれから杏子とマミの一日の予定は魔女狩りでいっぱいである。

結界を探しながらブラリと歩く中、独り言を漏らすように杏子が呟いた。

「あの、仁美って子。ちゃんとガス抜きしてやらないと、

今にも魔女の口付け食らいそうな感じだったぜ」

「わかってるわよ、そんな事」

マミの投げやりな返答に杏子の声に苛立った物が混じる。

「わかってるならなんでそれを見たままにしておくんだよ。

マミが目を離してる隙にアイツパックリ魔女化使い魔に喰われちまうかもしれないぞ。

仁美はアンタの大事な友達なんだろ?違うのか?」

「……よく、わからないのよ。彼女のために私は何をしてあげたらいいのか」

杏子と話すマミの声に徐々に疲れが見え隠れし始める。

さも呆れたと言った様子で杏子は言った。

「アタシと別れてからアンタに何があったのかは知らない。

だけどね、ろくに手も伸ばさずに、

ただ自分の前に幸福が転がり込んでくるのを

じっと黙って待ってるような生き方してたら、

前にアタシと決別した時みたいに

あの仁美って子を失う事になりかねないっての、

良く考えた方がいいよ」

何も言わず、マミは唇を切れるくらい強く噛んだ。

口の中に鉄の匂い、赤い血の味がする。

~☆

マミは夢を見ていた。

長い長い道を歩く夢。

自分の中に誰かがいた。

だから一人で歩いても怖くなかった。

ある時、ふとした一瞬に、

黒髪の少女が目の前に現れて近くを歩きだした。

それをきっかけに次第に隣を歩いてくれる子達がぞくぞくと増えた。

何もかもが楽しくて、舞い上がって、恐怖を忘れて、幸福に酔いしれて。

しかし足元を疎かにしていたマミは、

ぬかるみに足をとられ動けなくなってしまった。

何故だか頭がスースーする。

もたついて、脚をどうにかぬかるみから引き抜いて再度歩きだした時には、

黒髪の少女しか残っていなかった。

それからすぐにとても嫌な事があった。

辛い。苦しい。もう駄目だ、お終いだ。そう思った。

それでも歩いて行かなくてはらない。

まだ未来に希望はあるんだ。

そう黒髪の少女を元気づけた。

それから闇の中を歩いて、歩いて、歩いて……。

再度ぬかるみ、「ゾンビ」がその中からマミの脚を引きずりこもうとする。

「マミサンガ……、マミサンガコロシタ……。

ワタシヲコロシタ……、コロシタ……」

「仕方なかった!あれは私にはどうしようもなかったのよ!」

腕から逃れ、駆けだす。近くに見知った少年が転がっていた。

そして今、自分が歩いている道が魔法少女の死骸で出来ている事に気付いた。

それでも、私は歩かなくてはならない。でも、どうして?

私の中に何かが燻ぶっている。

黙ってしばらく歩き続けた。

気付くと数歩先、お嬢様が転がっていた。

虚ろな眼窩。

曲がった手足。

力のない身体。

私と、関わり合いになったからこうなったのだ。

心がざわつく。

私の中で何かが吠えている。

耳障りな何かが……。

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ ゛ぅ゛……」

ゴロゴロと喉が鳴っている。

転がったお嬢様から視線を外し、遠く前方を見た。

遠くで、大好きだった少女、変わり果てた少女が、

赤毛の少女の首を掴み片手で持ちあげているのが見える。

目が合った。こちらを見ている。

赤い少女が苦しげに足をばたつかせている……。

「やめて……、やめて……、やめて……」

あっさりと首が捻じ切られ、もぎ取られた。

赤毛の少女の身体が首と離れ、地に力なく落下する。

血が沸き立つ。

マミの中、奥底に潜んでいた狂気が鎌首をもたげ……。

今日の更新終わり
何度途中の日常パートで止めとこうと思った事か
せっかく書いてて穏やかな気分だったのに台無しだよ!

次回ほむら帰還でイベント消化し切れば
次次回でワルプルギスの夜襲来
それが終了すれば第三部完結

お盆の用事までに書くの間に合ったから投下

次回ヴァルプルギス・ナハトさん襲来

~☆

自分の目が覚めているのか、それとも覚めていないのかよくわからない。

そんなあやふやな状態にマミの意識はあった。

「酷い悪夢だったな」

ミギー……。その名をマミが口の中で囁く。

ここはマミが唯一ミギーと会える、

現実の苦しみを一時的に忘却し、

疲弊した心を休められる場所。

しかしそんな所にいるにもかかわらず、

心がいまだざわついているのをマミは感じる。

酷い夢を見ていたからだ。

自分の中の恐怖、罪悪感、徒労感、

そう言った負の感情が自分に見せた嫌な幻。

しかしそれはやけに真実味を持ってマミに迫る。

そう、まるでアレがマミの未来を暗示している予言のように……。

「夢は所詮ただの夢。気に病む事はない。

それよりもキミにはここでくらいしか、

心を落ち着ける場がないのだから、

もっと心を空っぽにして休むべきだ」

ミギーの気遣う心がマミに伝わってきて、

ささくれ立ったマミの心を少しだけ沈めてくれる。

ここでは、ここでだけは、お互いにその本心を相手に晒さなければ

相手を感じる事が、相手に感じて貰う事が出来ない。

誰もここでは嘘を付かない。自分にすら嘘をつけない。

「本当の言葉」を聞きたくなったら、話したくなったら、

ここに来さえすればいいのだ。

それがマミにとっては慰めだった。

自分一人で抱えるには彼女にとって現実は重荷が過ぎた。

ミギーの言うように心を空っぽにするには、

溜まった淀みをまずは吐きださなくてはならない。

マミが今日あった事をミギーに語る。

ミギーはそれを黙って聞いていた。

ミギーへの心中の吐露、

それはマミにとって取り留めのない、

特別深い意味を持たない気紛れな行為。

しかしこうして毎日、溜まった物をミギーに吐きだす事が、

どうにかマミの精神をヒトとして正常の範囲に繋ぎとめる軛となっている事に、

マミ本人は気付いていなかった。

「最近ね、自分が怖い」

「何故?」

「怖い事、辛い事、苦しい事が私に降りかかってくるでしょ?

でもね、少し経ったらあんなに心が揺さぶられてたのに凄く落ち着いちゃうの。

最近何かあっても目に見えてソウルジェムが濁らなくなってきてる。

もしかして、心がもう人間じゃなくなってきてるのかな……、私」

「そんな事はない。キミは昔も今も、立派な人間だよ。

自分が前みたいに悩まないなんて事に心を悩ませているのがその証拠だ。

本来魔法少女としては、

魔法を使う以外でのソウルジェムの穢れが減ると言うのは歓迎すべき事なはずなのに」

「ミギーに人間だって言われても、ね……」

「そうかな?私だって前とは違う。

きみの感覚から色々な物を体験して、

だいぶ人間らしくなったつもりだが」

「ミギーが人間らしく?」

言われてみれば、ミギーの言葉から感じられる色々な気持ちは、

前に比べるとずっと人間味の籠った物のように思えた。

「きみが私に近づいているように、

段々と私もきみに近づきつつあるという訳だな」

それが突然マミには、無性に恐ろしく感じられた。

~☆

「久しぶりね、巴さん。エイミーに餌はあげてくれた?」

「ええ、ちゃんとあげておいたわ」

ほむらが戻って来た。

マミの家の居間に杏子、マミ、ほむらが三角形のテーブルを囲むように座っている。

マミの淹れた紅茶を飲みながらマミとほむらはのんびりと会話し始めた。

杏子はとりあえず自分の分に切り分けられたケーキをさっさと片づけてから、

話に参加する心積もりらしい。

「何か私がいない間に変わった事はあった?」

「特に何も。あえて言うなら佐倉さんが仲間になってくれた事くらいかしら」

何もなかった。何もなかったのだ。

美樹さんの事を暁美さんに伝える必要なんてない。

あっという間にケーキを食べ終えた杏子がマミの方を一瞬だけ見る。

しかしすぐに目を離してほむらに話しかけた。

「マミとワルプルギスの夜まで組むことになった佐倉杏子だ。

杏子って呼んでくれ。これからよろしく」

「ええ、私は暁美ほむら。よろしく、杏子」

握手を変わす二人。マミは知っていた。

ほむらは杏子の事を既に知っている。

けれどそれを杏子に気取らせるつもりはないようだった。

「アンタがワルプルギスの夜に関する情報の提供者なんだろ?

でもどうやってそんな情報調べたのかがアタシにはさっぱり見当がつかない。

せっかくこうして顔を合わせて同じ卓を囲んでいることだし、

ちょっとくらい種を明かしてくれても構わないんじゃない?」

杏子が犬歯を覗かせながら攻撃的に笑う。

ほむらは冷めた表情でゆっくりとケーキを一口味わい、咀嚼し、

口の中の物が全て無くなってから喋り始めた。

「それは秘密。情報がどれほど正確な物と思われるかどうかは、

私の家にある資料を自分の目で見て判断して貰うしかない」

ほむらのきっぱりとした拒否に杏子はあからさまに不満顔をする。

「一緒に戦うってならまだしも、

アンタはアタシ達の戦いを近くで見てるだけなんでしょ?

どうも信用ならないっていうか……」

「暁美さんの情報が確かだと言うのは私が保証するわ。

それとある程度まではキュゥべえも」

「マミはともかくとして、

キュゥべえはどうも胡散臭くてアタシ信用できないんだけど」

ほむらがケーキを食べ終えた。フォークを置いて言う。

「私があなた達に伝授する戦術なんて大した物じゃないわ。

ワルプルギスの夜がどういう攻撃をしてくるか、

どう対処すべきかは事前に教えるけど、

大雑把に言えばある程度の距離を二人ともがワルプルギスからとって、

杏子が襲いかかってくるだろう使い魔達等の巴さん周辺の露払い。

そして巴さんがひたすら高火力の攻撃をワルプルギスの夜に仕掛けるっていう、

ごく単純な物ですもの」

「はっ、作戦の要、マミの遠距離戦闘の勘が鈍ってなきゃいいけどな」

おどけてそう嘯く杏子。

「どういう事?」

ほむらが尋ねる。

「最近マミの奴、魔女と戦う時いつも身体強化の魔法自分にかけて、

ごり押しの近接戦闘ばっかりやってるんだよ。

前衛はアタシがやるからいいってずっと言ってるんだけどさ」

「だって必要なのよ。

無理にでも前に出て戦うための技術が今の私には」

ワルプルギスの夜と戦うのには

ただ射撃、砲撃をぶちかますだけで済むのかもしれない。

けれど「まどか」はそれだけでは絶対に倒せない。

拳を握りしめるマミ。

いつの間にかケーキはマミの胃の中に残らず消えていた。

「これからどうすんの?

アタシとしては食後すぐに魔女退治とかはあまり気が進まないんだけど」

杏子の言葉を受けてほむらがマミと杏子、二人に向けて言う。

「そうね、良い機会だし、さっそくこれから私の家に行って、

ワルプルギスの夜に対する打ち合わせでもしましょうか」

「……まあいいか。どうせ目ぼしいワルプルギスに対する情報なんて

アタシは持っちゃいないんだ。マミに誘われて乗っかった話だ。

乗り掛かった船には最後まで黙って従ってやろうじゃないの」

まず杏子が立ち上がる。

ほむらがそれにいち早く続き、

最後にマミがのろのろと緩慢な動作でその腰を引き上げた。

~☆

見滝原のとある遊園地、マミはほむらと二人で園内を歩いていた。

ワルプルギスの夜がやって来るまでに残された最後の休日。

ワルプルギスの夜を倒す事ができなければ、

ここに限らず見滝原の全ては無茶苦茶になってしまうだろうし、

たとえ勝てたとしても、

ほむらとこうして和やかに過ごせる機会はもう今日しかない。

だから今日、杏子と仁美の四人でここに遊びに来ていた。

先程まではずっと杏子達とも一緒に遊んでいたのだが、

杏子が何か気を利かせて仁美と一緒にどこかへ行ってしまった。

日が傾き始めている。

オレンジ色の陽光が、

空を含めた目に映る何もかもを濃淡様々に染め上げている。

逢う魔が時は近い。

そろそろ帰宅の準備をしなくてはならない。

時間になったら入口のゲートで集合と、

一応取り決めてあるからそれは大丈夫なはずだ。

マミとほむら、二人だけに流れる時間。

今この時、これを逃せば

もう二人が腹を割って話をする時間は取れないだろう。

しかし人の往来するこの場では、

彼女らのあらゆる苦難、あらゆる不安、

それらを話すにはその場の雰囲気が、

そして彼女らの存在が、あまりにもデリカシーに欠けていた。

ほむらが前方の一点を指さす。

「巴さん、最後は二人であれに乗って終わりにしない?」

ほむらの指し示す先にあったのは遊園地の定番中の定番である観覧車。

列に並んでいる人もいるが待ち時間はそれほど長くはかからなそうだ。

ニコリと微笑みながらマミは頷く。

「ええ、私もいい考えだと思う。そうしましょう」

そして二人で列の最後尾に並んだ。

~☆

二人を乗せたゴンドラが、

ゆっくりと円の軌道を描きながら上昇していく。

沈みかけの太陽は更にその姿を低く屈め、

宵闇が刻々と迫りつつあるのをその身でもって告げている。

夕焼けに照らされる美しい街並み、発展途上の町の外観。

ここから見れば個々はせいぜい豆粒程度、

それでいて全体を見れば溢れんばかりの人間達。

必死で生きている彼らそれぞれの生活は、

本人達の知らず知らずの内に自分の双肩に担われている。

夜が忍び寄る見滝原の光景の内に、

マミは自分の背負った責任の重大さを切に感じていた。

彼らが再びいつも通りの朝を迎えられるかは、

全て私がその運命を握っているのだ。

もはや正義の味方だなんて口が裂けても言えないような私が。

「綺麗ね……」

ほむらがそっと、何かを恐れているように声を優しく絞り出す。

彼女の身体もゴンドラの窓から差し込むオレンジの光に照らされ染まっていた。

それはマミに関しても例外ではない。

マミはほむらの一言に何も言わない。ほむらが間を置きながら喋り続ける。

「ここがまどかの、彼女が生きるべき世界。

どうして?どうして、彼女が幸せから弾き出されなくてはならないの?

彼女はただ、常に一人の女の子として、優しくあろうとしていた。

ただ、それだけなのに……」

「……きっと理由なんてものはどこにも存在しないのよ。

誰もが精一杯生きて、何故か死んでしまう。そういう風に私達は出来てるんだわ。

悪人が必ず報いを受けるという明確な因果関係はないし、

善人が幸せを掴めるという因果関係も存在しない」

遊園地。

マミはかつて自分が全てを失った日の事を思い出していた。

あの時行こうとしていた遊園地はここではなかったはず。

しかし、どこかの遊園地に行こうとしてあの事故に遭ったのだ。

遊園地に行こうとした。

そこに罪は存在しない。

罪が生まれたとすればそれは……。

「それでも巴さんは、ずっと正しくあるつもり?」

「出来るだけね、

もちろん私なんかが本当に正しい人間になれるとは思ってないけど。

それでもなるべく正しくあろうとする事を止めるつもりはないわ」

「あなたは何のために正しくあるというの?

正しい人が幸せになれないなら、

正しくある事、それにいったい何の意味があるの?」

「正しい事、すべき事、それと本人が幸せになれるどうかかは

全く別の事柄なんじゃないかしら?

どんな状況でも正しくある事だけはやめてはいけない。

そうね、自分の中で正しい事と幸福を一致させられる人は、

多分きっと選ばれた人間だけなのよ」

退く事は許されない。

こうして夕日に照らされた全てを見つめていると、それをマミは強く実感する。

どれ程罪にその身が汚れていようとも、

一人でも多くの誰かを救える可能性があるのなら、

私はそれに進まないではいられない。

不幸な惨劇を一つでも減らす。

鹿目さんのように無慈悲で不条理な悲劇に見舞われる人を減らせる可能性、

そこから目を背ける事は私には出来ない。

私が何をしたって結局は無駄だと頭でわかっていていも、

それを何もせず黙って放置するなんて許せない。

誰かが苦しむのを防ぐためにせめてもの全力を尽くす。

ちっぽけな私が全てを賭けるに足りる物だ。

たとえそれが自分の幸福と結びつく物ではないのだとしても。

苦しみばかりを私に与える物だとわかっていたとしても。

それが私にとって絶対に正しい事だと、私は既に知っているから。

マミがほむらの目を見据えて語る。

「暁美さんにとっての正しい事は鹿目さんを救う事、そうでしょう?

善人が不幸になるという因果関係もこの世界には存在しないはず。

暁美さんが救ってあげるのよ、鹿目さんをあなたの手で。

もしかしたらあなた自身の幸福も、その途中で見つかるかもしれない」

「私の幸せなんてどうでもいい!まどかさえ幸せになってくれれば。

……でも、それでも、これから先、

私の手でたった一人のまどかをいつかは救えるのだとしても」

ほむらが涙をこぼしていた。

マミはほむらの顔をしげしげと見るのを止めて、

窓の外に視線を移す。

「これまでに死んでいったまどか達、

彼女らももっとそれぞれ幸せな思い出を作って、

生きていて欲しかった……」

「それならやっぱり戦わなくちゃ。

自分が踏み越えていった生命、

それと今までの自分の生命を無駄にしないために尚更」

最も高い位置までゴンドラが来た。

外を見るマミの視界には美しい景色と太陽は映っていない。

そこにはかつてありえたかもしれない過去、

あの日、自分と家族の皆で仲良く観覧車から外を眺めている。

そんな幸せな日常の幻影が、しっかりと映し出されていた。

今日の更新終わり

前半の進まなさがウソみたいにかっ飛ばしてます
もう十分嫌というほど下準備しましたからね

これでも足りなかったら何というかごめんなさい

更新

今回で第三部 完

~☆

観覧車での遊覧を終えたマミとほむらが、再び地表へと降り立つ。

辺りは薄暗がり。

急いで杏子たちとの集合場所へ向かわなくてはならない。

慌てて歩きだすほむらの後ろ、彼女に手を引っ張られるままにマミは歩く。

「ねえ暁美さん」

答えはない。気にする事はなくマミは続ける。

「私には過去に行く力なんてないし、

これからあなたが、

どういう未来に落ち込んでいくのか教えてあげられる便利な千里眼もない。

でも、それでも一つ、改めてあなたに絶対の約束をするわ」

ほむらが足を止める。そしてマミの方を見た。

「私が、ワルプルギスの夜は倒せるんだってことを、

暁美さんの目の前で証明してみせる。

もちろんそれからああなってしまった鹿目さんの事も、

他の誰でもないこの私が蹴りを付ける。

でも、ワルプルギスの夜が倒せる存在だってはっきりしたなら、

あなたはあなたの目的のため希望を持って全力を注いでいけるでしょう?」

「……それじゃあ私も、巴さんに一つ約束をする。

あなたが私に、ワルプルギスの夜は倒せると教えてくれたなら、

私もそれに答えて、希望を抱いてまた歩きだしてみせるって」

ほむらの声と言葉はどことなく遠慮がちに聞こえる。

しかしそれを聞いたマミは、

久方ぶりに安堵の表情をその顔に浮かべた。

~☆

スーパーセル、途轍もなく巨大な積乱雲が見滝原を襲おうとしている。

ギラリと雷光が一閃、轟音と共に見滝原のどこかへ落ちた。

それを皮切りに杏子とマミの足元を濃霧が這う。

彼女らの全身を異界へと誘うような不気味な霧が包む。

「さぁ来るぞ、マミ。覚悟はもちろん良いよな?」

「当たり前でしょ」

濃霧から突如現れる大量の使い魔達。

サーカス、それを模した大がかりな使い魔のパレード。

毒々しいほどカラフルな色使い。

象の使い魔共が、様々な旗に彩られたロープをその背中で引き、

『何か』を連れてくる。象が雄たけびを上げている。

杏子達は敏感にその存在を感じとる。

来る。『魔女』がここへやって来る。

「思ってた通り、いや、それ以上に実際はでかいんだな、ワルプルギスの夜って」

「怖いの?佐倉さんったら」

「……へっ、こんな時につまんないジョーダン言ってんじゃないよ」

霧の中から堂々と、『ワルプルギスの夜』が二人の前に姿を見せた。

逆立ち天空に浮き上がる巨躯。

白く縁取られた蒼のドレス。

その上で稼働する巨大な歯車。

『彼女』の周囲をふわりと漂う瓦礫がドッと燃え上がる。

杏子達は手っ取り早く変身を済ませた。

「マミとアタシが一緒ならワルプルギスの夜にだって負けない。

昔アンタにそう言ったよね?覚えてる?」

「忘れるはずなんてない。だって、あなたとの大切な思い出だもの」

素っ気ない調子のマミの言葉。

それを聞いた杏子がにやりと笑う。

「守るよ。アンタとのあの時の約束。

アンタの事はアタシが護るから」

杏子がその両手に掴んだ槍を力強く握り込んだ。

マミは穏やかに目を一度閉じる。

「そう、期待してるわ佐倉さん。

……それじゃちゃっちゃと、始めちゃいましょうか」

言葉と共にマスカット銃を高らかに掲げるマミ。

戦いの火蓋がまさに今、切って落とされようとしていた。

~☆

ほむらが二人の戦いの様子を遠くから眺めている。

戦況は良くも悪くもない。ただ、長引いている。

ワルプルギスの夜は、赤い口から火炎を吐き破壊を無差別にもたらす。

そして『彼女』の力に屈した物体は、

その重量、重力法則の束縛から解かれ、『彼女』の傘下へと加わる。

『彼女』と同じように宙に浮きあがったビルが、

彼女の新たな破壊の道具に変わるのだ。

さらに自らを狙う不届き者には、きちんと個別の待遇を与える。

黒い何かを外敵まで伸ばし、相応の報いを与える。

その黒い何かからは複数の魔女の手下が現れ、

害を為さんとする者を殲滅する。

マミは雨あられのように注がれるワルプルギスからの攻撃の嵐を掻い潜り、

砲台として強く充填した攻撃を『彼女』に命中させなければならない。

杏子は襲いかかる手下どもの露払い。

前方に赤い鎖による結界を展開し、火炎による攻撃を防御。

攻撃を仕掛けた事による反撃の集中から逃れるための撤退のサポート。

ほむらの時間停止による手助けがないため、

自然慎重にこうした戦法をとらざる負えない。

しかしそれでも二人の背中には、

ここからでもわかる程の燃え盛る闘志が漲っていた。

ほむらは特にマミの背中に過去の残滓を見入る。

たった一人ワルプルギスの夜に立ち向かっていた彼女。

まどかとほむら、自分ら新米を守るために殉じた彼女の誇り高き高潔な精神。

彼女の後姿が純粋だった頃の自分にくれていた勇気を思い出す。

正義のヒーロー。

ほむらにとってマミは、

まどかのようなただ一人の大切な誰かという訳ではなかったけれど、

確かに彼女にとっての大きな精神的支柱であった。

ただ一つ、自分の信じている正義さえあれば、

人はどこまでも恐怖を乗り越えられる。そんな初心を思い出す。

理想に燃え、未来を信じ、

ひたむきにまどかと助け合う事を目指していたあの頃。

運命を変えたまどかとの己の骨身に深く誓った神聖な約束。

そしてこの時間軸でのマミとの約束……。

その時、左手の盾に備わった時計の砂が完全に流れ落ちた。

これでもう時間停止は出来ない。

その代わりに今、時計を操作すれば一か月前に戻る事が出来る。

ほむらはマミ達の方を一度見遣った。

ほむらの見ぬ間も彼女らはずっと魔女と戦い続けている。

ふとした拍子に霊感じみた直感がほむらに湧いた。

マミはワルプルギスの夜にこのまま勝利する。

その直感を、ほむらは心から信じてみたくなった。

ほむらの能力は時計を反転させる事によって、

その操作を行った時から一か月ほど前の平行世界に移動する事である。

今この瞬間、ワルプルギスの夜と戦う彼女ら二人を見続ける事によって、

移動先の時間がある種刻々と浪費されている。

この時間に不要な時を費やす事、

それは彼女の本懐を遂げる事に何の利益ももたらさない。

何しろマミはワルプルギスの夜に必ず勝つに違いないのだ。

このままそれを無駄に見ていたって仕方がない。

私にはすべき事がある。

彼女ら二人にとってすべき事がまだ残されているように。

戦わなくてならない。戦うべき場所がある。

勇猛果敢なマミの姿、それと杏子の姿を一度網膜の奥に焼き付けて呟く。




「私の戦場はここじゃない」




どこか爽やかな気持ちでほむらは時計を反転させる。

少なくとも今この時だけは、ワルプルギスの夜を倒せる事、

そしてまどかをきっと救えるだろうという事を容易く信じる事が出来た。

~☆

長い長い攻防の末、ワルプルギスの夜が嗤うのを止めた。

ワルプルギスの夜の攻撃がふと止んだ。

「佐倉さん、行くわよ!」

「ああっ、わかってるって!」

ワルプルギスの夜に幾多の魔法少女が敗れて来た理由。

ワルプルギスの夜には奥の手がある。

ダメージを負って余裕を無くしたワルプルギスの夜は、

逆転していた身体を正位置に変える事によって、その身に宿した全力を発揮する。

ワルプルギスの夜の全力。

それは文明一つを容易に壊滅させるほど。

それを防げた魔法少女はこれまで一人もいなかった。

マミや杏子と言えど例外ではない。

しかしそれをするには準備段階がある。

嗤うのを止め、動きを止め、魔力の放出を弱める。

辺りを飛び回っていた厄介なビル群が次々に墜落していく。

あたかもこれから弱ったワルプルギスの夜が死に行くように……。

その偽装に古今東西あらゆる魔法少女が騙されてきた。

ほむらとて例外ではなかった。

しかし、その場から時間停止により奇跡的に生き延び、

時間を遡行する事に成功した。

今、この場にいる魔法少女は、

嵐が止んでいる今が新たな暴虐の前触れである事を知っている。

ほむらが言った通りの状況に全てなった事から、杏子もそれが真実だと悟っていた。

己の限界を超えてマミが地を駆け行く。

マミの脚は着地し、踏み込んだ瞬間耐えきれず筋肉を断裂させるが、

瞬時に最小限の魔力でそれを修復する。

身体の芯から迫る死の予感によって怖気立つ。

間違いない、今この時、これがほむらの言っていた唯一の勝機だ。

「佐倉さん!今よ!」

マミの掛け声に呼応して、

杏子が己の右肩に巨人が使うようなサイズの槍を担ぐ。

そして今残っているありったけの魔力を込め、

身体全体の力を振り絞って投擲した。

速く、速く、走るマミを追い越し、

巨槍はワルプルギスの夜まで到達し、

『彼女』の前に仕掛けられた不可視の擬似的な結界と接触。

いざその絶壁を貫かんとその身を微動させる。

本来、ワルプルギスの夜が回転の準備段階において発動させる、

防御の壁を突破できる攻撃を二人は持ち合わせていない。

しかしこの一瞬は違う。

ワルプルギスの夜が全力を見せんと回転を試みようとする一瞬、防御がゆるむ。

防御に穴を開け隙間を作りだす事が出来る。

異変を察知したワルプルギスの夜が、

まだ空中に浮かんでいたいくつかのビル群の破片をマミにぶつけようとしている。

後ろか横に逃れれば安全に避けられるだろう。

しかしそれは勝機を完全に失ってしまう事を意味する。



……前だ、もう私には前に進むしかないんだ!


結界のほつれが、開かれた突破口を槍ごと塞いでいつ修復されるか。

あるいはいつワルプルギスの夜が逆立ちを止めるかわからない。

そんな一秒という時間の経過すら残酷に思える極限の刹那。

前に身体を傾けながら、脚を少しでも先に歩ませながら、

手元に十分溜めこんだリボンを一気にまとめ上げマミは巨大な銃の砲台を形成する。

槍は自身が開けた穴を広げんと依然格闘を続けている。

その穴に一撃を通そうと、マミは細く細く、弾丸を一点に集中させる。

背後近くにビル群の一部が落下した。

衝撃で前のめりに倒れそうになる。

しかし地面を叩きつけるように片足で踏みつけ、その場に踏ん張り留まった。

踏み込んだ足先は地面に沈み込んでいる。

前方に今、砲撃を塞ぐ障害はない。

絶好のチャンスだ。

マミはこれから砲身から放たれる渾身の一撃から、

跳ね返ってくるだろう反動に備え身体を緊張させる。

そして、自分の全ての感情、願い、魔力の何もかもを凝縮した一発を、

呪文と共に目標に向け思い切り放った。






             「ティロ・フィナーレ!」





ドォォオオオン、という特大の射出音にマミの鼓膜が悲鳴を上げる。

高速で砲弾は防御のほつれ、槍の開けた隙間を通り抜け、

歯車の軸に激突、そして爆散した。

ワルプルギスの夜には元々溜まっていたダメージがある。

それに今決定的な一撃が加えられた。

ついに回転を始めるワルプルギスの夜。

しかし、途中でその動きを止めた。

もはやワルプルギスの夜は自分の内部にある膨大なエネルギーに耐える事が出来ない。

外からの衝撃、破壊、そして内部から加速度的に訪れる破滅。

ワルプルギスの夜が斜めに傾いた状態のまま墜落する。

ボロボロと、呆気なく崩壊していく。

それを眺めながら、マミは声をあげて笑っていた。

死にかけた。いつ死んでもおかしくなかった。

一人じゃとてもかなわない強敵だった。それがたまらなく嬉しい。

こいつに二人で勝つ事が出来た。

つまりほむらにもワルプルギスの夜を倒す事が可能なのだ。

次の時間軸のマミが今のマミとほぼ別人であったとしても、

ほむらの力を加えられればおそらくはもう少し容易に倒せるだろう。

笑いながらマミは辺りを見回しほむらの姿を探す。

けれどほむらの姿はどこにも見当たらない。魔力も見た所感知できない。

ほむらが見当たらないにもかかわらず、

マミはワルプルギスの夜が去った空模様のように晴れ渡る気持ちで一杯だった。

彼女にはまだ可能性がある。

そう、約束を果たせる未来があるのだ。

それをここに示せたのだ。

やっと一つ、やっと一つ私は重要な何かを成し遂げる事が出来た。

精魂使い果たし、遠くの地面に大の字に倒れている杏子。

マミは笑いながら、

硬い地面を踏み抜く際に負傷した片足を引きずって、

杏子の様子を伺いに行く。

そう、佐倉さんだって生きている。

それに建物等への被害は大きいけれど、避難所に被害が行くのは阻んだ。

死傷者も元々想定されるべき数と比べれば圧倒的に少ないに違いない。

守った、私は大切な物を守りきったんだ。

近づくマミの姿を見て、杏子もほっとしたような笑みを浮かべていた。


【第三部 パラサイト衝突編 終わり】

一応カタルシスパート?

ハッピーエンドとかノーマルエンドとかバッドエンドとか色々ありますが
全部ほむらの行く末に丸投げというパターン

一応ほむらがまどかを救えるというハッピーエンドが浮かびやすいようにはしましたが
本編の時間軸に繋がるって見ても大丈夫なように多分書いたつもりです
もっと過酷な時間軸に跳んだと考えても良い。

私はハッピーエンドだったら良いなーって
これからはEDをある意味迎えたので後始末、後始末

更新

細かい所はまだなのですが、四部の方向性がようやっと固まりました
飽きっぽい私が大幅な方針変更なしに根気よくここまでこれたと思うと感慨深いものがあります
これもひとえに読んでくださってる方がレスなどをしてくださったおかげです、ありがとうございます

とりあえずなるべく面白くなるよう頑張って行きたいと思います
まずは戦闘シーンから書こうと思ったら、結局最初から書かないと詰まる事が判明したので
書けてる所は現在ほとんどないというありさまですが

~☆

「まどか」として身体を思うがままに操っているパラサイト、

「彼女」も元々は普通のパラサイトだった。

「彼女」が最初に寄生したのはごく一般的な中学生の少女だった。

頭部の寄生に成功したパラサイトは、人間社会に溶け込む方法を身につけるために、

まず何よりも先に言語の学習をする必要がある。

生まれたばかりの「少女」の態度は他の個体達と比べると少し慎重で、

言語の学習が完了するまで、身近にいる家族を食らう事による食欲の充足を意識的に保留した。

言語を学習した後も結局家族を食べる事はなかった。

顔を自由自在に変える事は出来ても、

身体の大きさ、形などをあれこれ変える事はパラサイトには出来ない。

この年齢の少女が自然と人間社会に溶け込むには、

人間固有の身分を保有している方が都合がいいだろう、そう判断したのだ。

寄生初日、風邪という事で学校を休んだ少女は、

次の日には当たり前のように学校に登校していた。

パラサイトは乗っ取った人間の身体能力を極限まで発揮する事ができるが、

食後の大人の残骸などを「彼女」がどうこうするのは流石に苦労する。

別に小さい獲物で十分に満足できる。

自分の生活にはなるべく影響がないよう気を配りながら、

公園などで出会った警戒心の薄そうな少女、子供などを捕食。

そんな生活方針をとるようになった。

しかしそんな平凡な日々も唐突に終わりを告げた。

ある日、「少女」が声をかけたのは運悪く魔法少女だった。

人のあまりより付かない「彼女」の『秘密基地』、

一撃で殺す事に失敗した「彼女」は致命傷となる反撃を貰ってしまった。

その後すぐに魔法少女の首を切り落としはしたが、事態は好転しない。

このまま人の多い所に出て助けを求めた所で、病院などに運ばれても助かる見込みはない。

そもそも病院なぞには近寄るべきでは本来ない。

もはや他の人間に寄生し直すしか道はないが、

はたして探し回った所でそう都合よく自分に合いそうな人間が見つかるだろうか?

選り好みをしなかったとして、

血塗れの少女が近寄ってきたら誰だって警戒するに決まってるし、

人通りのない所に無事に連れていけるかは怪しい。

迷っている間も身体の力が抜けていっている。どうしようもなかった。

そんな死を覚悟する状況の中、思いがけず「白い獣」が「少女」の前に姿を現した。

「やあ、こんにちは。キミは少女の身体に寄生している。

丁度いい、ボクにとって素晴らしい偶然だ。

突然の申し出だからキミに判断する時間をあまり取らせてあげられずすまないと思うけど、

ボクの計画の達成をこれから助けてくれると言うのなら、

今キミの陥ってる状況から助けてあげるよ、どうする?」

確かに目の前にいるのは自分と同じ生物の類だと「少女」はわかった。

けれど目の前に突然現れるまでその存在に気づくことが出来なかった。

実に不気味だった。

「うん?知らないとはいえダメじゃないか。

首を切り落としておきながらこんな所にソウルジェムを放置してるなんて。

ほら見なよ、もうだいぶ濁ってしまっている」

「白い獣」が何を言っているのか「少女」には良くわからなかったが、

先程不可思議な反撃をしてきた者に対する処置に対して物申しているらしい。

首なしで転がった少女の肉体に目を向けると、先程攻撃の瞬間、

何故か一瞬で衣装が変わっていたのが嘘のように元の服装のまま硬直していた。

そんな時、「白い獣」が長い耳に掴んだ宝石を地面に思い切り叩きつけて言う。

「やれやれ、やっぱりソウルジェムは硬くて丈夫だね」

「白い獣」は顔から「少女」と同じ種類の触手を伸ばし金鎚のようにして叩きつけ、

錐状にしてヒビをいれようと試み、触手で包み込んで握りつぶそうと……。

そういった試行錯誤の末、ついにソウルジェムの破壊に成功した。

「ふう、これでもう安心だ。魔女が孵化して、

キミが食べられるなんて事故はこれで完全に起こらなくなった」

「お前は、いったい何者だ……?」

訳のわからない事ばかりだった。

人間に寄生するのに失敗した個体、それはわかる。

しかしこんな生物が地球上にいるなんて知らない。

もちろん、知識が不足しているという可能性がない訳ではなさそうだった。

だけどどの道、「少女」に致命傷を負わせたあの攻撃が何なのかの説明はつかない。

こいつもそんな謎のお仲間、そう思えて仕方がなかった。

「ボクかい?ボクの事はキュゥべえと呼んでくれ。

何者、と言われるとちょっと困ってしまうけど、ボクの目的だけははっきりしてる。

ボクらパラサイトという種族の生存をインキュベーターから自衛できるようにする事さ」

結果、話し合った末に、

自力でここから生存するのは不可能だと判断した「少女」は、

大人しく「キュゥべえ」の申し出を受けた。

それから事も無げに「キュゥべえ」は、

テレパシーを用いてその場に純真無垢な幼女をおびき出した。

「少女」はまずその幼女の頭に乗り換えた。

そしてその後、「キュゥべえ」があれこれ見て選びに選んだ、

どこをとっても平均的だと思われる中学生の少女に改めて移り直したのだった。

今日の更新は短いけどこれで終わり
四部は結局それほど長くならないという事が(多分)判明しました
最終決戦前の杏子VS「まどか」的な所だけ現在書き終わっています

これから数回「まどか」側の過去パート+αにお付き合いください

更新
ついに、(脳内で)最後まで到達し、完結する事が出来ました
オメデトウ!アリガトウ!
もう一回気力を入れ直して毎日レベルで更新していけば来月末までには終わってるっぽいです

とりあえず今回は帳尻合わせパート、言い換えれば説明パートです
このレベルに説明説明説明するのはもう最後と思われます

~☆

「キュゥべえ」との運命的な邂逅以来、

いずれ「まどか」となる運命の途上にあるパラサイトは、

「キュゥべえ」を手助けして毎日を生き続けた。

「キュゥべえ」に恩義を感じていた訳ではない。

ただ「彼女」には他に自分のしたい事、

すべきことがなかったために言われるがままに働いた。

活動の中、「キュゥべえ」が細心の注意を払い、

ふさわしいと思われるパラサイトをいくらか仲間に引き入れた。

しかし、それでも計画のため『魔法少女狩り』を行うのは骨が折れた。

魔法少女の持っていた使用済みグリーフシードは、

共食いを必要以上に行って目立つ訳にはいかない

「キュゥべえ」の貴重な活動エネルギーになった。

普通の手段で魔法少女達から回収したグリーフシードからは、

その内かなりの量のエネルギーをインキュベーターに提出しなくてはならなかったし、

『実験』を一日何度も行ったりするには、

前提としてかなりの量のエネルギーが普段から必要だった。

しかもグリーフシードはそれ以外にも、

『実験』の最中に対象である魔法少女が、

魔女化してしまうのを防いだりするためにも必要だった。

物量的にかつかつのぎりぎり、人材不足、

そんな厳しい計画をあれやこれやと進めていく中で、

その骨子とも言える実験に深くかかわっていると自然にわかってしまう。

最も肝心、要の必須条件がいまだ何もクリアされていないのだ。

「キュゥべえ」の意向に意見を「彼女」が述べるなんて考える事は滅多になかった。

けれど、これはどうしても道理に合わない。

だからある日、「彼女」はその事について「キュゥべえ」に直接尋ねてみたのだった。

「こんな無謀な事を続けていったい何の意味があるの?」

「意味……か。ふむ、それじゃあ逆にキミに問いを返そう。

はたしてこの世界に本当に意味ある行為なんて物が存在していると思うかい?」

「考えた事もないね、そんな事は。

私がこれまでまともに意識した事のある目的なんて人を食う、それだけだ。

しかしそれならまさか、

『キュゥべえ』は何の意味もない行動なのだと最初から自負している行動に、

ここまで膨大な労力を惜しむ事無く費やしているなんて言うつもり?」

「キュゥべえ」が首を一度頷かせ肯定の意志を示す。

「その通りさ。たとえボクが、

ボクやキミといった生物の存続に絶えず全てを捧げて尽力した所で、

結局の所万物はいつか滅びる運命にある。

この事実がボクらの努力の如何にかかわらず、

決して変わらないだろうと言う事はキミにとっても共通認識だよね?」

首を横に何度か振る。「キュゥべえ」の言った事にどこか間違った所があるとは思わない。

しかし、何故か「キュゥべえ」の言った事を否定せずにはいられなかった。

「なるほど、言ってる事に何かもしかしたら筋は通っているのかもしれない。

けれど意味がないのを知っていて、わざわざそれを行う。そんな事はやはりばかげてるよ」

自分の主張に反対意見を述べられたというのに、

先程と同じように再度「キュゥべえ」がその言葉に頷き同意した。

「その通り、実にナンセンスだ。

……本当の所ボクにとってはね、

ボクらという種族がインキュベーターへの反逆に最終的に成功するか失敗するか、

なんてどうでもいいんだ。

ただそれが可能性としてボクにしか出来ない事だから、

それがボクの全てを賭けて臨むに足る物だと確信出来るから、

ボクはそれに喜んで自ら挑んでいるというだけなんだよ。

そういう意味ならばボクは、

これまでのこの世界でも数少ないとても幸福な存在だろうね。

何しろ、ただ一人、この世で自分しか出来ない事を見つけた存在なんて、

これまでにそんな存在がいたとしても、それはきっとほんの僅かに限られるはずだ」

「それはつまり結果がどうあれそこまで至る過程が重要だと言っているって事?」

「……うーんそれだと微妙に違うかな。だってボクが言ってるのは、

あくまでこの世界に本当に意味ある行為なんてないって事なんだから。

本質的にはボクの行為はこの世界に何の影響も与える事は出来ない。

でもボクは今ここに生きている。ボクは何かをしなくちゃいけない。

だったらボクが挑む対象は困難であればあるだけ良い。

それに負けずに最善を尽くして抗っているという事実が、

そしてそれだけが、ボクに存在者としての限定的な価値を与えてくれるんだ」

どうやら「キュゥべえ」が自分の主張を全て述べ終えたとみえて沈黙する。

聞いてる側として、「彼女」は話を最後まで聞いても首を傾げざる負えなかった。

印象としてはごちゃごちゃとした詭弁、ただそうとしか思えなかった。

「納得してないって様子だね。

まあいいさ、きっとこれが正解と言える物はないのだろうから、好きに考えると良い。

自分が何のために生きるのかって事をこれからじっくりね」

何のために生きるのか?そんな事正直どうでもいい。

その時の「彼女」はただそう思っただけだった。

~☆

奇跡的な唯一無二のチャンスの到来、

準備を全て整えた後のまどか奪取、何もかもが上手くいった。

「少女」は最も魔力に対して高い順応性を示し、

そしてその年頃の女子の身体の操縦に誰よりも慣れていた。

それが他の候補を押しのけて、

「彼女」が「まどか」の『司令塔』として抜擢された理由だった。

「彼女」が「まどか」としての変貌を無事に遂げてしばらくが経った後、

もはや立場的に対等な関係となった「キュゥべえ」に、

それまで抱えていたそもそもの根本的な不思議を何となくぶつけてみた。

「実際インキュベーターって、私達にとってそんなに危険な存在なの?」

それまで「まどか」に背を向けて座っていた「キュゥべえ」が身じろぎする。

そしてゆっくりと立ち上がって「まどか」の方に振り向き、

何か緊張らしき物を声に滲ませながら話し始めた。

「キミはどうして、我々の存在や魔法少女の存在が、

世界中の人間達の間で騒ぎになっていないと思う?

インターネット等の手軽なメディアが広く一般に普及しているこの時代、

隠蔽をするにも流石に限度があるとは思わないかい?」

言われてみると確かにそうだった。今手元にパソコンがあるわけではない。

インターネット等で諸々の風説がどうなってるかはよくわからない。

しかしそれを考慮しても、どうも世間の反応が静かすぎる気がしてくる。

「それはね、インキュベーターが人類全体の認識を誘導しているからなんだよ。

……なるほど、個体個体は契約を少女と取り結ぶ役割も当然持っている。

しかしそれだけじゃなくて各地に散らばった大量の彼ら自身は、

彼らの『電波』のような物を地球上に満遍なく行き渡らせる、

所謂アンテナみたいな物でもあるんだ。

はっきり言ってしまえば、人類は彼らに大局的な意味で管理されている」

「……それはまた随分と規模の大きい話だね」

人類とインキュベーターの共栄の歴史を「キュゥべえ」は「まどか」に語ってゆく。

「彼らは最初人類に干渉を始めた時から変わらず、

人間社会の中で自分達が少しでも利益を多く得る事を目指してきた。

彼らが求めたのは少女の希望から絶望への相転移から生まれるエネルギーだ。

そのためには魔法少女が質の良い希望から、質の良い絶望に落下する事が望ましい。

けれど絶望を深く身に滲みて知ってるという事、

それは傾向として、盲目的でより純粋な希望への飛躍を困難にするし、

質の良い絶望への転換を妨げる耐性にもなりかねない。

社会の非常な混乱は現実的な態度を全体として生みがちだ。

基本夢みがちな少女と契約したいインキュベーターにとってそれは都合が悪い。

だから、人間社会の混乱がある限度を超えないようしばし『調整』する」

「具体的にはどうやって?」

「インキュベーターが絶えず発している『電波』によって、

日常において人間は、魔法少女の存在をなるべく意識しないように誘導されている。

しかもそれと同時に現在はパラサイトに関する情報統制も敷かれている。

けれどそういった誘導にもかかわらず、残念ながら誰かにその存在がばれてしまった。

そんな場合にはその人間の周囲に何匹ものインキュベーターが集結して、

『電波』の力で存在を知ってしまった彼、あるいは彼女の記憶をとばす。

魔法少女の存在がばれるような場合でもなければ、

余程の場合でもない限りそういった強硬手段に出る事は少ない。

だけど現に人類の危機が彼らインキュベーターの影の暗躍でその規模を縮小、

もしくは救われたという事例は存在するんだ」

「じゃあその『電波』は人間だけじゃなくて私達を対象に含むのかな?」

「うん、そうだよ。

ボクと、『赤い石』を付けている例えばキミといった存在以外はほとんど、

何かあれば簡単にインキュベーターに思考を誘導されると考えていい。

ある程度の例外は素質持ちの少女くらいの物だ。

彼女らの自由意思が生み出す感情エネルギーこそが、

インキュベーターにとって重要な資源なのだから。

出来るだけ彼女らが伸び伸びと希望を味わい、

ついには絶望への下り坂を自分の意思で転がり落ちるように配慮しようとする。

最も今はパラサイトについての認識は、

誰しもパラサイト本人らを除いて平等に歪められているようだけどね。

でも誘導はそれだけじゃなくて、素質も持ちの少女が契約を完了すると、

彼女は魔法少女として絶望しきり魔女になるその一瞬間前まで、

優しく柔らかく、魔女になるという真実からなるべく目を背けさせられるんだ。

目の前で誰かが魔女になるのを目撃するか、

その可能性を誰かに指摘されるような事がなければ、

中々直前まで自力で気付くのは困難だろう」

「それがまさか私達にとってインキュベーターが恐ろしい理由?」

「いいや、今までの話は彼らの恐ろしいまでの活動の規模、

その得体の知れない能力をキミに理解してもらったに過ぎない。

彼らが我々にとって本当に恐ろしいのは別の所だ。

まず何よりも最初に、彼らは魔法少女達やその候補のプライバシーは守ろうとする。

しかしそれは彼女らに対してだけさ。

自分の欲しい情報を求めて、一人の人間を一年一日中寝てる間も含めて、

部屋の片隅でじっと監視してるような事が珍しくない。

相手は彼らを認識出来ないのだから簡単だ。そんな彼らの損得の判断は分かりやすい。

対象が魂を持っているか?あるいは人間社会の発展に役に立つかどうかだ。

我々に対する調査をいつか済ませれば、すぐさま手のひらを返し、

我々を魂を持たない人間社会に悪影響を与える存在として、

何らかの方法で容赦なく処分するだろう。

変形している姿をヤツら見られていなければ、こちらが奴らに見破られる事はない。

しかし、相手を何一つ感じられない状況で、『食事』をばれずに毎日続けるのは事実上不可能だ。

それに彼らは狡猾でもある。組織力も桁が違う。

そんなわけでインキュベーターと対抗するには、我々は必ず結束しなくてはならないという訳だ」

話し終えた「キュゥべえ」は再び「まどか」に背を向け座り込む。

ポツリと「まどか」が呟いた。

「なるほど、わかったよ。

インキュベーターが余程不気味で危険な存在なんだって事が私にもようやくわかってきた。

……だけど何て言うのかな、

そう、人間は自分の意思だけで縛られず生きてると日々健気に考えてるんでしょう?

人間側の立場に立って考えるとそれが少しだけ哀れだね」

今度は振り向く事なく、しかし心底不思議そうに「キュゥべえ」は「まどか」に言った。

「哀れだって?それはいったいどうしてかな?

人間が感情をもてあますばかりで途方に暮れていた、猿達とほぼ差がない時代。

奇跡の力によって言語を与え、

今の人間の発達の基礎を提供したのは紛れもなくインキュベーターだった。

ここまでの人類の繁栄を安全にもたらした様々の原因はインキュベーターの干渉だったんだ。

それにインキュベーターの人間に対する扱いだって、

品種改良等といった形でその生き物の有り様に、

自分の価値観を直接あてはめて来た人間とは違って、

目には見えない曖昧かつ膨大な心の中を、

ちょっとばかし好きな方向に舵取りしたくらいで、

人間達が他の生物達にしてる事の方が、

彼らの論理にのっとっればかえって余程酷いと言えるかもしれないくらいだ。

人間に哀れだと肩入れするような理由なんて一つもないと思うけど」

……言われてみると不思議だった。

「キュゥべえ」が述べたあれこれが問題なのではない。

どうして、自分が人間側の立場になってモノを考えようとしたのか?

それが「まどか」にとって大問題だった。

更新終わり
最近が舞台の作品と寄生獣をクロスするなら
インターネット等で情報が拡散しない何かしらの理由こじつけとかが必要な場合多そう
結果大胆なインキュベーター関係の独自設定

ほむらが最初パラサイトの事件を魔女の事件じゃないと中々気付かなかった
これまたほむらがミギーと、パラサイト関連の事件等の関連性に中々気づかなかった
マミさんが魔女化の真実聞かされる寸前に頭痛を覚えた
序盤のマミさんとキュゥべえの会話

ここら辺は一応ここを意識して書いてました
他にもあった気もしたけど忘れ(ry
しかも下手したらうっかりこのイベント入れ忘(ry

更新 まど過去が今回途中で終わり次次回で最終決戦前かな?多分

~☆

上条恭介殺害後「まどか」がさやかと一悶着起こした後に彼女を拉致、

「キュゥべえ」がマミに返り討ちにあってからそれ程の時間が経過していない。

そんなある日、「キュゥべえ」の死骸その他の処分をとっくに終えはしたものの、

「彼」に何もかもを先導されてきた複数のパラサイト達は途方に暮れていた。

もし「キュゥべえ」が生きていたのなら、

「まどか」の無尽蔵とも言える因果とインキュベーターのネットワークを応用した、

パラサイトに共通の能力である『信号』による

通信ネットワークを全世界に張り巡らせる計画などもあったらしい。

しかし、そういった構想全ては「キュゥべえ」が死んでしまった事により完全に潰えた。

インキュベーターの相互更新を盗み見る事が出来て、

彼らの究極の叡智をあれこれ垣間見たインキュベーター以外唯一の存在である「キュゥべえ」。

「彼」にしか出来ない、構想出来ない事があまりに多過ぎた。

「彼」以外のパラサイト達複数、

これから何をすべきなのか?何をしたらいいのか?

「彼ら」が進むべき道はどこにも示されていなかった。

もう、インキュベーターの脅威を知ってしまった以上、

それを知らなかったかのように生きていく事は出来ない。

しかし少なくとも彼らの内で唯一「まどか」だけは、

何をしたらいいかについての判断はまだ付いていないにしても、かなり余裕を保っていた。

それは強者の余裕でもあり、持たざる者の余裕でもあった。

以前までは自分が死ぬかもしれないなどと考えるのは、

必ず生物的な恐怖を微かにではあれ連れ立った物だった。

けれど今は違う。自由になったのだ。

死、それは「まどか」にとって今や思考実験の産物であり、

未来の自分に訪れる他人事にも感じるよそよそしさを持った観念だった。

死に対して「まどか」がよそよそしさを徐々に感じるようになったのは、

丁度「まどか」になってからだった。

どうやら脳を乗っ取らず『赤い石』の補助の元で

身体を動かしている事が影響しているらしい。

生物的な限界を超越した末に、

魔法という未知の法則にその身を預けた事による予想外の副産物という訳だ。

元々パラサイトに痛覚という感覚はない。

本能的な死への呪縛から解き放たれた今、

恐怖に値する物など何もない。

ほとんどの時間穏やかな心中を抱え生きていられた。

「あーあ、どうしようもない事考えて参ってたらやってらんないよ。

ねえ、鹿目さんこれから『お食事』いっしょにどうです?」

「いや、遠慮しとく」

「あら、そうですか。じゃあ私達勝手に『お食事』行ってきますね」

部屋から数人のパラサイトが退室していく。

穏やかなはずの「まどか」の心にも根強く奥底に不安は巣食っている。

それは侵食を少しずつ根気よく続けて、

いずれは「まどか」に新しい恐怖を呼び戻すだろう。

死の本能から解放された「まどか」は同時に、

人間を喰らうと言うパラサイトである事の証明とも言うべき、

潜在的な本能とも決別してしまっていた。

人間を食べる事に抵抗感はない。

それは「まどか」にとって当たり前の食事だ。

しかし、前のような満足感はもう生んでくれない。

残されたのは荒漠とした無限の自由だけ。

何をしても許される。何も「まどか」を束縛しない。

裏を返せば何をした所で、

「まどか」に意味をもたらす行為は現時点で見当たらないという事だ。

自分がどれ程本能という物に立脚し自己を形成していたのかが良くわかる。

「キュゥべえ」の問い、上条の左腕に寄生したヒダリーの問い、

雨垂れがちょっとずつちょっとずつ硬い石に穴を穿っていくように、

死んだ彼らの言葉が「まどか」の頑なな心に不安を深刻に広げていく。





本当に意味ある行為とは何だ?




何故私は生まれて来た?




何故我々は生まれて来た?





誰か、あるいは何かから与えられた目的なんてつまらない。




それなら私は、いったい何のために生きるのだろうか?

~☆

どんぶりから湯気が立ち上っている。

海苔、チャーシュー、メンマ、鳴門、そしてスープに浸かった麺。

実に平凡な様相のラーメンだ。

「まどか」はどんぶりに囲われたスープの海から割りばしで麺を摘み出して、

可愛らしく口をすぼめて麺を啜りその味を楽しむ。

海苔はスープを吸い込んで少しヘニャッとしたくらいが「まどか」は好きだった。

「まどか」がいるのは最近「彼女」がよく通っているラーメン店である。

店主本人曰く昔からあるこれぞ上手いラーメン店という貫禄の佇まいだそうだが、

「まどか」の慈悲容赦ない目から見れば、

辺りの近未来的な建物風情から悪い意味で浮いてしまった、

時代遅れの後もう一歩で廃業寸前の店だった。

長年経営していく内いつの間にか、

辺りは急成長の波に呑まれ忙しく姿形を変えていったが、

その流れにめげず独り不屈に挑み続けているといった所だろうか?

しかしそのおかげというべきかどの時間に行っても店内にお客は少なく、

人の多い所で食事をする事をあまり好まない「まどか」を満足させてくれる。

味も濃いめの味付けである事を除けば、

「まどか」の好みに完全に嵌っている。

だからここを最近は結構贔屓にしていた。

人間を食べる事は最近ではもうほとんどなくなっていた。

火を通さない肉が口に合わなくなってきたのだ。

人間に火を通して味を付けたりすればおいしく食べる事は出来るだろう。

しかしわざわざ火を通したりと人間を食べるために要らない手間をかけるくらいなら、

金銭を支払っておいしい食事を他人に用意して貰った方が「まどか」としても楽だし、

しかも確実においしくて余程良い。

「まどか」の味覚。

まどかの身体を乗っ取る際には、

彼女の絶望を増すためにあえて人間の味覚を意識して再現した。

けれどパラサイトは外から見えない内側などは、

適当に人間とは異なる形態をとっているのが通例であり、

ましてや味覚なぞ食事の際に再現しないのが当然である。

ラーメンに舌鼓を打ちながら考える。

脳を残しそれの存在を必要としている事、

つまり身体全体の操縦をまどかの膨大な魔力にかなりの面で頼っている事。

それが「まどか」の精神面全てにおそらく多大な影響を与えているのだろう。

己の本能から解放された今、

内的な影響を与えうる物はおそらく彼女の肉体の人間的な部分、

もしくは『赤い石』だけだ。

徐々に私は人間に近づいているのかもしれない。

仮にそうだとした所で「まどか」にとっては別段気に障る事ではない。

しかしそれならば、私はいったい何のために……。

『えー次のニュースは先日見滝原市を襲ったスーパーセルの――』

狭い店の扉側隅の席、扉に背を向け座る「まどか」の前方、

古臭い店の中で毒々しいまでの目新しさを見せつける大きめのテレビ。

載せられた台のサイズが小さくテレビに合ってない事からして、

きっと最近買い換えたばかりなのだろう。

そこに今彼女の待ち望んだニュースが刻々と流れている。

ついに、不可侵の取り決めは終わった。

これから全ては膠着状態を脱し再び伸び伸びと動き出していくのだろう。

……しかしいったい何のために動くというのか?

麺と具材をあらかた食べ終えた「まどか」は、

仕上げの準備にスープをごくごくと本格的に飲み始める。

そして、いつもよりも辛めのスープに顔をしかめ、

どんぶりのすぐ左に置いておいたコップに入った冷水をぐぐっとあおった。

~☆

「これがキュゥべえの言ってた『カナメマドカ』?なんか随分見た目弱そうな感じね」

「でも、ヤパイからこいつにだけは絶対に手を出すなって、キュゥべえに言われてたじゃん……」

「ヘーキだよ、ヘーキ、ヘーキ。今までだって余裕だったじゃん。

大体パラサイトなんて奇襲さえされなかったら負けるはずないっしょ。

しかもこっちは四人いるんだよ?」

「それはそうだけど、さぁ。うーん……、やっぱりやめた方が……」

「あーくどいくどい!仲間内で揉めるのやめてよ!

いいから行くよ!私がリーダー!OK?さあ皆、戦闘準備だ!相手は超大物だぞ!」

雨がザァザァ喧しい程に地面目がけて降り付けている。

しかし不快の度合いでは、

目の前の姦しい四人娘に比べれば「まどか」にとって赤子のような物だ。

まずは戦闘に邪魔な傘を無造作に放り投げる。

歩道の雨による滑り具合を確かめるため「まどか」は少し右足を前後に滑らせた。

そして四人が戦いの呼吸を整えようと、

変身と共に一斉に気合いを入れたその瞬間。

彼女らの呼吸に合わせて一気に踏み込み、

変身が終わるか終らないかの刹那にリーダーだと公言した魔法少女の首をもぎ取った。

~☆

単調な攻撃、単調な逃げ、単調な命乞い。

戦闘を難なく終えた「まどか」が久方振りに人間を、

ソウルジェムを破壊され抜け殻となった彼女らの頭を、

雨に濡れながらそれに構う事無く一心に喰らっている。

これは食事という意味を持つ所作ではない。

勝利の儀式、自分が勝ったのだと言う証明だ。

人間を食べると言う行為に満足を覚えたのは久し振りだった。

その満足は本能のままに人を喰らっていた時よりもずっと澄み渡っていた。

そして「まどか」はその時、ついに己が進むべき生き方に気付く。

どうして私は生まれて来たのか?

鹿目まどかの身体を乗っ取ってからの私は、

もう前の私とは別人と呼んでもいいくらいだ。

新しい私はインキュベーターに対抗するための駒、

ただそれだけのために生まれて来た。

それを単純な意味に集約するなら、戦うために私は生まれたという事だ。

戦い。戦い。戦い。

パラサイトの未来がどうなろうか私の知った事ではない。

ただ、そこに私の戦うに足る敵がいる。

インキュベーター、彼らに抗うのが困難であればある程、

それは私という存在に充実をもたらしてくれる。

「キュゥべえ」が己を捧げた物がパラサイトという種の存続なら、

私が身を捧げるのはそうあるために生まれてきた強者との戦いであるべきだ。

目が覚めた思いだった。

スッと自分の立ち位置が「まどか」にとって明白になっていく。

しかし、生きる意味を得ただけではもはや今の私は満足できない。

純粋な戦闘、わかりやすい力と力のぶつかり合い。

敗れた者が死に、勝利した者が生き残る。

そんな血肉湧き踊る戦いをしたい。

それこそが唯一この世界における私の慰めとなる娯楽だ。

けれども当然そのためには私に抗し得る力のある存在が相手として必要となる。

並の魔法少女ではダメだ。

さっきの奴らなんて目の前で死んだ仲間の頭を食らって見せたり、

仲間を盾にしてやっただけであっという間に隙が生まれた。

自分が殺し合いをしているのだと本当の意味で理解していない。

自分が常に殺すか殺されるかの殺し合いをしているのだと、

本気で理解しているような奴は、

余程の事がなければ私に挑もうとはしないだろう。

自分の命こそが大事なのだから、

それをみすみす危険にさらすような真似はしない。

後に残るのは弱さを小手先ばかりで誤魔化そうとする、

実につまらない奴らばかりに違いない。

本気で戦いぶつかるには値しない。


それならば、私はいったい誰と……。

「まどか」の脳裏に一人、

自分が知っている中で最も並ではない魔法少女が浮かぶ。

自分の突撃を間違いなく受け止めた魔法少女。

人間よりはパラサイトに近づきつつあるであろう、そんな魔法少女。

巴マミという魔法少女。

霊感に似た極度の興奮に全身の細胞がざわつく。

今現在、自分を満足させられるような戦いが出来るとしたら、

それは彼女との間においてしかあり得ない。

生命を削り合う全力の戦い。

「まどか」は今すぐにでもマミの元に出向いて、

それを果たしたいという純粋な渇望に襲われる。

しかし、勝つために最善を尽くさなくては意味がない。

そのためには適した時期を待ち、妥当な手段を実行する必要がある。



巴マミ、彼女を殺す。



それこそが私のまず大きな……。

今日の更新終わり

マミさんの脳に混じったミギーのせいでマミさんの性質がパラサイトに近づくなら
脳が残っている事で「まどか」の性質が人間に近づくのも道理(多分)

寄生獣原作だと新一と後藤はどう見ても力関係対等ではありませんでしたが、
二次創作なのでこっちはある程度互角になるように、ライバル関係っぽくなるように構成

Q人間からパラサイトに近づくマミさん
パラサイトから人間に近づく「まどか」
超えられない種族の壁ごしの交流の末に万が一でも和解はありますか?

A ない

更新

~☆

マミはグリーフシードの確保のため、見滝原市外に出ていた。

ワルプルギスの夜を倒す目的で借りたグリーフシードを返却しければならない。

しかしグリーフシードの備蓄がない状態でいるのは、

「まどか」の襲撃がいつあるかわからない以上自殺行為と言えた。

だから誰かの縄張りに位置していないような曰くつきな場所や、

縄張りのスレスレの魔女を掠め取ったりと、

様々な手段を駆使してどうにかグリーフシードを荒稼いでいた。

今日は少しいつもより遠出して、

マミほどではないにしてもベテランな、

それまで交流のなかった魔法少女との例外的な共闘。

二匹が一つの結界内で共生しているという珍しい魔女達を相手にした所だ。

以前に彼女は一人でそいつらにだいぶ手こずったらしく、

二人で狩る際の取り分は破格の条件とも言えなくはない互いに半分。

両方の魔女共にグリーフシードを所持していたために一個ずつ分け合った。

共闘という関係を今回あっさり取り結べたのは、

巴マミという魔法少女に関する噂が、

ここらにまで広く拡散している事も影響している。

もう一人の魔法少女と共に伝説の魔女ワルプルギスの夜を倒した魔法少女として、

ただでさえ前から見滝原付近で高名だったマミの名は、

近頃否が応でも高まりを見せていた。

「いやー、流石ワルプルギスの夜を倒した魔法少女って感じの危なげなさだったね。

まさかマスケット銃と日傘の二刀流だとは夢にも思わなかったけど」

「お褒めの言葉をどうも。だけど私なんてまだまだ全然よ」

右手に掴んだほっそりした日傘を弄って傘布を広げ、

降りかかる日光を優雅に遮断する。

マミが持っているのはただの日傘ではない。

さやかのレイピア部分を骨部分としてリボンを巻き付け完全に覆い作った、

近接戦闘にかなり特化しつつ外に持ち歩いても目立たないマミ特製の武器だ。

マミは本来魔法少女の能力としてリボンを硬化する事は出来ても、

剣を武器として生成する事は出来ない。

だからさやかの形見であるレイピアをこうして持ち歩きやすい形にして、

かつ戦闘時にはそれに魔力を付与したリボンを巻き付け自在に形を変えさせ使っていた。

「まどか」との近接戦闘を可能にするための最終兵器とも呼ぶべき大切な装備だ。

遠くからの射撃などで狙うには「まどか」は速く頑丈過ぎるし、リボンは普通効かない。

それに距離を開けるとそれだけ突撃のための助走スペースを与えてしまう事になる。

だからワルプルギスの夜が来る前からを含めて、

ずっと近接戦闘ばかり練習してきた。

弛まぬ魔女との闘いによる鍛錬のおかげで、

ようやく身体強化魔法の効率的なかけ方、

そして立ち回りを満足できるレベルとまではいかないにしてもマミは身に付けつつあった。

そうそう戦闘の技術が一朝一夕で身につくものではないというのはわかり切っている。

身体強化魔法さえまともに使えるようになったのなら、

後はこれまで長年培ってきた戦闘センスに期待するしかない。

「でも巴さんと一緒に戦うと本当に戦闘に安心感があって良いなぁー。

うん、そうだ。それじゃあパラサイトを駆除する時には一緒にチーム組んでやらない?」

「……パラサイト、ですって?」

マミが予想外の不意打ちに驚きそっと息を呑む。

どうして、一介の魔法少女に過ぎない彼女がパラサイトの事を知っているのか?

沈黙して彼女の目の奥底を見通し、彼女の中から真実を探ろうとする。

彼女の方は、そんなマミの沈黙をパラサイトについて知らないからだと受け取った。

「あれ?私なんかよりもよっぽど強いんだから知ってると思ったけど知らないの?

不思議だなぁ、キュゥべえからチラシ?みたいなの貰わなかった?

私は即席チーム組んで三回くらいしかまだ参加してないけど」

「そのチラシ、お願いだからちょっと見せて貰える?」

つい不本意な力がマミの声にこもってしまう。

魔法少女は一瞬ビクリと身構える様子を見せたが、

それからすぐに警戒を解いた。

「そんなに知らされてなかった事気にしなくてもいいと思うな。

まぁ、別に良いんだけど例のチラシ私の家にあるんだよね」

「じゃあ私があなたの家について行くから。どうかこの通り、お願いします」

何が起きているのか是非とも知る必要がある。

マミが九十度腰を曲げるお辞儀を披露する。

それを見た魔法少女は慌てた様子だった。

「別に良いから顔あげてよ、ね?

大体パラサイト狩る時に一緒にやらないってまず最初に誘ったのは私なんだし、

これで巴さんがパラサイトについて理解するなら私としても

共闘の可能性が出て嬉しいし。他の人たちとの連携ってちょっと不安定なんだよね」

別の縄張りを持つ魔法少女に自宅を知られる事を嫌う魔法少女は多い。

彼女がその事について内心どう思っていたのかはわからないが、

どちらにせよマミは彼女の家で問題のチラシとやらをしっかり見せて貰った。

『人間社会に巣食う"寄生獣" 恐怖の新生物をキミの手で駆除しよう――』

赤く細い字で薄っぺらい白い紙にスラスラと綴られた、

一目見ると大した事が書かれているとは思えない地味なA4サイズの紙。

内容に目を通すと、まずはパラサイトについてのざっとした概要。

そしてキュゥべえが確認したパラサイトを魔法少女の集団で「駆除」するという事らしい。

パラサイトが人間社会にもたらす悪影響の例となる事件等が、

事細かにセンセーショナルに描写されている。

読んでいてマミは笑いだしたくなった。

寄生獣?人間を残虐に捕食している?

インキュベーターは相変わらず都合の良い事ばっかりを言う。

そんなのほとんど私達だって変わらないじゃないか。

魔女は人間社会に潜む病魔だ。けれど私達は魔女が存在しなくては生きていけない。

それどころか、既定路線を辿れば、魔女がいなくなったまさにその時こそ、

私達が社会に害なす魔女に成り変わると言うのに。

……そう、言うなれば私達も彼らと同じ穴の狢、

インキュベーターの言い草を借りれば寄生獣なのだ。

「あなたはどうしてキュゥべえに言われるがまま、

パラサイトと戦ってるのかしら?」

突然質問されて魔法少女はキョトンとした顔をする。

しかしそれから何かを考える訳でもなく即答した。

「報酬としてはちゃんと現金がある。

でも、何で戦ってるのかって言ったら不安だからかな。

どう見ても人間にしか見えない人食いの怪物が、

街中を私が知らない内にうようよしてると思うと気持ち悪いでしょ?

家族とかだったら魔女や使い魔からある程度は守れる自信あるけど、

パラサイトにはそうも言ってられないし私自身も不意打ちされたら危うい」

己の語る言葉を隅から隅まで信じ切っている、

純粋な眼差しがマミを見返していた。

成程、言っている事は表面上全て正しい。

しかし、あなたがソウルジェムを完全に濁らせた時、

あなたもそういった恐るべき怪物と同じ存在になるのよ。

それをわかって言っているの……?

それでもなお、自分がパラサイトを殺せる正当な立場にいると思えるの……?

普段から自己に対する矛盾、煩悶なぞ感じていなさそうな彼女に、

無性に非情な言葉を突き付けて彼女の平穏を無茶苦茶にしてやりたくなった。

そしてハッと我に返ったマミは、

自分が気の抜けない毎日に酷く疲れている事を改めて自覚した。


~☆

夢の中、ミギーとマミが対話している。

「キュゥべえが言うには、完成品である『アイツ』だけが

『赤い石』の所在を外部に漏らさぬ形で埋め込んでる。

鹿目さんの因果は見ただけで分かる程強大。

きっと『赤い石』を壊さない限りは脳を撃ちぬいたり、

それどころか頭ごと脳を吹き飛ばしても瞬時に再生してしまう」

「だから最初からどこに弱点があるのか見当を付けておく必要があると言う訳だ」

「ええ、その通りよ。それと『赤い石』がある場所だけは、

結合のため確実に人間部分を残しているはずだともキュゥべえは言ってた。

……ミギーにはどこか思い当たる部位はある?」

「首、じゃないかな。おそらくは」

「首?」

「あの無茶苦茶な動きから見て

『まどか』の身体全身ほとんどはパラサイトが覆っている。

正確な数はわからないが間違いなく一匹ではない。

おそらく三から五匹はいるだろう。しかし信号は一匹しか感じられない。

その一匹が全てを操っているのだ。

全身のパラサイトを操縦すると言うのはさぞかしエネルギーが必要な事だろう。

その命令を全身に容易に全身に行き渡らせる事が出来て、

しかも脳を乗っ取っていない事はわかっている。となると……」

「でも、それも確実ってわけではないのよね、もちろん」

「当然だ。どの程度『赤い石』が便利な物なのかわからないし、

サンプルが不足し過ぎている。断言するのは到底不可能だ」

「戦ってみるしかないってわけね、結局最後は……」

鹿目さんだった「モノ」を殺す。

正義なんて煌びやかな物を持ち出すつもりはない。

私は美樹さんを直接殺した張本人でありながら、

それをひた隠しにして、守るためだ守るためだと自分に言い聞かせ

こちらを信頼してくれているだろう志筑さんを騙し隠して平気で接している。

時には落ち込んだ彼女に慰めの言葉すらかけるのだ。

いつかきっと、美樹さんに鹿目さんは見つかる。

だからあなたは自分の出来る事をしなさい、

そして元気で彼女らを迎えられるようにしなさい、なんて言葉を。

空虚な言葉だとわかっていても、

それがどんなに罪深い言葉だとわかっていても、かけずにはいられない。

なんて愚かな人間なのか。

死んだ先などという物がこの世にあるのだとすれば、

こんな奴は地獄に落ちるに決まっている。

しかし死後の世界なんて物を私は信じられない。

私が心から信じられるのは目に焼き付いた光景、

美樹さんの鬼気迫る死に姿、化け物になった『鹿目さん』のおぞましい末路。

もしも地獄に落ちたとしたって構うものか。

自分が苦しむのはどうってことない。

本当に辛いのは、恐ろしいのは、このまま『鹿目さん』を野放しにする事だ。

私が決着を付ける。たとえ何があったとしても。

全てを無茶苦茶にされた憎しみ、

それがこんなにも沸々と燻ぶっている……。

~☆

「まどか」はパラサイトもう一匹と二人きりで、

数日狭い部屋の中にずっと籠っていた。

部屋の大きさには不釣り合いな巨大な姿見の前で、

熱心に「まどか」はあれこれ試行錯誤している。

「鏡の前で悲しそうな表情ばっかり繰り返して何してるの?」

パラサイトが「まどか」にそう質問する。

互いに好き勝手やる、そんな関係。

人間ではなくラーメン等の「人間食」を毎日朝昼晩食べても

大して気にかけない程適当な性格を、

このパラサイトが備えているのが「まどか」の気に入っていた。

「勝つために必要な秘密兵器の準備中だよ」

「鏡の前に立っていつまでも鏡とにらめっこしている事が?」

「うん」

人間の事が「まどか」は少しわかってきていた。

人間と同じ道を歩む事は未来永劫ないだろう。

しかし、それを利用しない手はない。

全て、全てを利用して巴マミに必ず勝利してやる。

そんな晴れやかな未来を想像する「まどか」の口から、

自然とクククといった笑いの音がこぼれていた。

それに気づいた「まどか」の笑いはますます大きくなる。

胸に迫る程悲痛な表情を浮かべながら、

それでいて楽しそうに笑っている「まどか」。

「彼女」の姿は人間から見れば間違いなく異質な物として映るに違いなかった。

~☆

いつもと特に変わらない、そんなある日。

空もだいぶ暗くなってくる頃合い、まばらに通りすがって行く人々。

仁美と杏子が街中を二人で歩いている。

マミが見滝原を離れてグリーフシード探索を行うようになってからずっと、

仁美を家に送る、そう言う目的を持った護衛として、

毎日この時間杏子は仁美に付き添っていた。

しかし、談笑を交わす二人の姿はどう見ても、

どこにでもいるただの仲の良い平凡な友達同士にしか見えない。

「それにしても杏子さんって、

本当に巴さんの用心棒をしていらっしゃいますの?」

「あぁー……。まあ似たようなもん、かな?」

歯切れの悪い返事を杏子は返した。

しかし仁美にそれを気にかけるような様子はない。

「それじゃあ杏子さんは巴さんをどう思ってらっしゃるんですか?」

「と、突然、なに言ってんだ。恥ずかしい事聞かないでくれよ」

「いえ、杏子さんは巴さんの事が大好きなように日頃お見受けしているのですが、

それなのにいつも何かと巴さんに対して突っぱねてるような印象があるので、

どうしてなのかな、と思っただけですわ」

ふと、深刻そうな表情で杏子が足を止め少しの間考え込む。

そんな彼女を見守るように、黙って横に立ちながら仁美は見つめていた。

「一言で言い表すなら……、憧れ、かな?」

「憧れ、ですか?」

「うん、憧れ。アイツと初めて会った時から

アイツみたいになりたいってずっと思ってた。

あとアンタが言った大好きって言うのも、実際間違ってはいないね」

そう言って杏子は恥ずかしそうに頬を掻いた。

彼女の無邪気で素朴なそんな姿から、

仁美は自分が上条やさやかに対して向けていた純粋な想いを思いがけず回想していた。

そうだ、私も杏子さんのように、

二人に自分の無い物を見い出し夢中になっていたんだ。

それなのに、その想いはどちらも別物で、

どちらかを無傷で選べるような簡単な物では無くて、そして……。

「だけどこれはマミには絶対に内緒にしておいてよ?

アタシはアイツにだけは舐められる訳にはいかないんだ。

何よりも、アイツの隣に立っていられるために」

「ええ、大丈夫です。わかりますわ。杏子さんのその気持ち……」

杏子の内心を聞いた仁美に沸き起こった切なさ、悩ましい気持ち。

しかしそんな物以上に目立ったのは杏子に対する強い親近感だった。

誰かに長い期間、強く強く憧れ、その気持ちを心の底に押し込めてきた。

自分と彼女は似ている。

だから出会って間もなくこんなに性格も違うのに話が妙に合うのだろう。

自分がこれ程素晴らしい新たな友人に恵まれた事が幸せで、

そして少しだけ、

消息不明であるまどかやさやか達への申し訳なさがキリキリと胸を刺した。

「あっ、焼き鳥の屋台やってんじゃん。

ちょっと買ってくるけど、仁美も食べるよね?」

杏子が話題をそらすためか、それとも本当に空腹のためか、

立ち止まったために目に留まった焼き鳥の屋台を指さす。

「杏子さんは本当に食べる事が好きなんですのね。

……いえ、私は結構ですわ。今手持ちがカードしかありませんので」

まじまじと杏子が仁美を上から下まで穴の開くほど見つめる。

突然しげしげと見つめられ気恥ずかしそうな仁美を余所に杏子は思った。

やっぱり仁美はアタシとは本当に別世界の住人なんだなぁ、と。

けれどそんな事は大して気にかけもせず軽い口ぶりで誘う。

「じゃあアタシがおごるよ。

まあおごると言ったって実際は、

マミから何かあったら使えと渡されてるお金なんだけど」

「いえいえいえ、申し訳ないですわそんな!」

ブンブンと首を振る仁美。

対する杏子はあっけらかんとした態度を続けている。

「アタシだけがこのお腹が空いてくる時間帯に、

仁美が隣にいるのに一人だけムシャムシャ食べるのが居心地悪いんだよ。

だからアタシのためを思うなら、ここは大人しくおごられてよ、ね?」

力強く杏子がそう迫ってくる。

それが元気活発だったさやかを少し思い出させ、

仁美はほんのり甘さの混じった心苦しさを覚えた。

それがとても嫌で嫌で、だからその苦しさを振り払おうと、

杏子が納得してくれるだろう返事をした。

「りょ、了解しましたわ」

さやかとまどかの生存はもはや絶望的だろう。

しかし、マミや杏子達と街中思いつく限り見て回った。

これ以上自分に何ができるのか、

仁美にはてんで検討がつかなかった。

そんな仁美の葛藤を露知らず、

仁美の了承を得た杏子が満足そうに屋台へ小走りで向かう。

その背中を仁美は少しの間だけ見つめた後、

落ちた気分を一新しようと辺りをくるりと見渡す。

……ふと、何故か遠くに見覚えのある姿が見える事に気づく。

辺りが少し暗いせいで、見間違えているのかとも思った。

そうでなかったら幻覚を見ているのかもしれないとも思った。

しかし、どう見てもあの後ろ姿は、紛れもなく……。

「まどか、さん……?」

仁美からその人物は背中を向けたまま離れていこうとしている。

まるで訳がわからなかった。

あれ程必死に捜索していたのに見つからなかった。

自分だけではない。他の誰もが彼女を見つける事は出来なかった。

それなのにどうして今、彼女は自分の前に姿を見せて、

かつこの瞬間も去って行こうとしているのか?

こちらの存在に気づいていないのだろうか?

これは偶然なのか、必然なのか、それとも幻なのか?

目の前の光景をどう解釈すべきか仁美にはわからない。

けれど一つだけ、仁美にとって確実にはっきりしている事がある。

何もせずに、黙ってこのまま突っ立っていたら絶対後になってから後悔してしまう。

それだけは疑いうる余地が少しもなかった。

仁美が「まどからしき人物」を追いかけて、早足で歩きだす。

~☆

まどかに追いつくには思ったよりも苦労が必要だった。

さも悠々自適と言った様子で、

ふらりふらりと歩いているように見える

「まどか」の足取りは信じられない程に軽い。

時折通りすがる人が彼女を一瞥する事がある程だ。

まどかさん、まどかさん、仁美が何回もそう呼びかける。

しかし反応は返ってこない。

けれど一度だけ、道を右に折れる時に顔がすっと見えた。

遠くてはっきりとは言い切れないけれど、

あの横顔はやっぱりまどかの物であるように思う。

走って追いかける。だけど中々追いつけない。

焦りと不安ばかりが募る。自分は何をしているんだろう?

まどかさんは何がしたいんだろう?疑問ばかりが膨れ上がる。

その疑問がやっと解消される時、

つまり息も絶え絶えになった仁美が辿り着いたのは、どこかの路地裏だった。

「まどか」は先程から足を止め、

仁美が自分の近くに来るまで待っていたらしい。

人がまばらにはいた先程の場所とは異なり、人っ子ひとりいない。

それどころか人がここに近寄ってきそうな気配すらない。

仁美が息を何とか整え、なるべく震えないように心がけて声を出した。

「まどかさん、ですわよね……?」

振り返る「まどか」。

仁美にとってあまりにも見覚えのあるまどかの姿だった。

仁美と「まどか」との距離はまだ数メートル程度開いている。

仁美は思わず胸が一杯になって、親友の元に駆けよって行く。




するといきなり、「まどか」が右腕を振り上げ大振りに払った。







右腕はぐんぐん伸びて、そして……。

ところが、右腕が払われるよりも早い段階、

仁美の左斜め後ろにあるちょっとした物陰、

そこから一人の少女が飛び出していた。

身を低く屈め音を立てないよう密かに二人に接近し、

向かい合う「まどか」と仁美の左側から、

長さのある得物を思い切り跳ね上げる。

金属の衝突音のような音が仁美の眼前で響いた。

驚き茫然として仁美はその場に尻もちをつく。

彼女の視界と「まどか」との間に、

身の丈以上の槍を担いだ赤一色の出で立ちの少女が、

佐倉杏子が立ちはだかった。

「アンタがマミの言ってた数匹分が詰まったパラサイト、って奴か?」

パラサイト……?杏子さんのこの格好はいったい……?

仁美が事態を把握出来ないでいる内に頭の中に直接声が響く。

【仁美、危険だから後ろに下がってな】

言われるがまま、数歩分、

仁美は尻もちをついたままの状態で後退した。

杏子は憎しみを込めて「まどか」を睨み付けている。

「もしそうだったとしたら?」

対する「まどか」の表情はずっと冷ややかで、

何の感情も読み取る事が出来ない。

「どうせアタシらを襲うつもりなんだろ?

だったらそれを食い止める。

何があっても仁美には、絶対に指一本触れさせやしない」

そう言って槍を放り出したと思うと、

素早く後ずさり仁美を両手に抱え、

「まどか」と距離をとるべく跳躍した。

もちろん「まどか」も二人を逃すつもりはない。

急加速で二人との間に開いた距離をある程度詰めて、今度は両腕を払う。

「まどか」の攻撃を、パラサイトの攻撃を、

杏子は目で追いきる事が出来ない。

しかし「まどか」が攻撃を放とうとする瞬間も、

杏子は余裕のある狂暴な笑みを浮かべていた。

そして「まどか」から攻撃が繰り出されるのと同時に杏子が叫ぶ。





             「ロッソ・ファンタズマ!」





書き溜めはまだあるけど超キリが良いから今日はここまで

寝坊して朝九時に起きても杏子の所から書き溜めあったからこの更新量
書き溜め万歳!

なお次回で書き溜めてた所あっけなく終了します

更新
今日も寝坊9時起床
そろそろ明日は早く起きないとね

前回最終兵器日傘入れ忘れて投下時に思いだして入れたからやっちゃった
細かい失敗には目を瞑るけど何かそこは気持ち悪いから直しておきます

※修正
>>688
× さやかのレイピア部分を骨部分としてリボンを巻き付け完全に覆い作った、

○ さやかのレイピアを骨部分としてリボンを巻き付け作った、

~☆

四重に張り巡らされている赤い鎖の結界が、

杏子と仁美の四方を完全に覆い守護している。

結界内にいるのは五人。

杏子と杏子と杏子と杏子と仁美だ。

『赤い稲妻』、マミ直々の命名であるロッソファンタズマ、

かつての杏子の必殺技。

実体のある分身を生み出し、全てを杏子の意思で動かす事が出来る。

そんな必殺技も、杏子が自分の願いを無意識に否定してしまって以来、

他の幻術魔法と同様に使えなくなっていた。

それがまた使えるようになったという予感が芽生えたのは、

ワルプルギスの夜を越えた後、

マミが近くにはいない中で仁美を護衛しなくてはならないと決まった時だった。

仁美にはマミのような自分で脅威を払いのけられる戦闘能力はない。

自分が、彼女の全てを護らなくてはならない。

ワルプルギスの夜との闘いにおいて、

マミを無事に護り切った事も、

杏子の精神に微かにではあるが良い影響を及ぼしていた。

誰かを護らなくちゃいけない。

誰かを護るために、他の誰でもないアタシが力を使わなくてはならない。

そう思った時、幻術魔法の欠片のような物が、

自分の中に戻ってきたのを杏子は感じた。

けれども力が戻ってきたからと言って、

すぐさまそれを都合よく使ってまた戦う気には何だかなれなかった。

それでも感覚的に、

その時から今までの間にどの程度まで能力が回復しているのかは分かる。

かつてほどのそれぞれの超精密な操作精度は期待出来そうにないが、

五人ほどの分身を作りだす事は可能だろう。

けれどこの状況下においてそこまでの人数は必要ないし、むしろ邪魔にしかならない。

杏子が目的としているのは「まどか」からのあらゆる攻撃の完全防御だ。

隙間なく張り巡らせた結界をずっと維持する必要がある。

ロッソ・ファンタズマは強力な技ではあるがかなり燃費が良くない。

なるべく長時間持たせるには本人含めた四人の杏子が、

必死に共同の結界を張り続けるのが一番効率が良いと判断した。

「まどか」の激しい攻撃がドーム状の結界を揺さぶる。

それでも、魔力の使用量と「まどか」の攻撃力から考えて、

それ程長時間結界を維持できるとは思えない。

杏子が望みを賭けているのはマミの救援だ。

とっくにマミにメールで「まどか」からの襲撃があった事と、

近くの焼鳥屋の屋台の位置は知らせておいた。

ロッソ・ファンタズマはマミがここにやってくるまでの目印も兼ねている。

いくら久しぶりだとは言え、

付き合いの長いマミならロッソ・ファンタズマの魔力を、

ある程度離れた所から察知してくれるに違いない。そう言う狙いがあった。

「きょ、杏子さん……。あの、えっと、その……」

結界の中は光を通さない程に暗い。

完全にパニック状態の仁美。

それまでは片膝を地面に付き、

両手を組んで祈るようなポーズをとって

結界の維持に集中していた杏子は、

組んでいた両手を解き、

わけもわからずおどおどしている仁美の手の上にを右手をそっと被せ、

安心させようとなるべく優しい口調を努めて、彼女を宥める。

「大丈夫、安心しな。マミが来るまでの間、

仁美の事はアタシが必ず護り切ってやるからさ」

~☆

グリーフシードを回収して魔女の結界から出るとすぐ、

ポーチの中にそれを収納して、

それまでは戦闘の邪魔にならないよう電源を切っておいた携帯を取り出す。

そして電源をつけると、杏子から一通のメールが届いていた事に気づく。

日傘を左腕に引っかけた状態でそれを読み始めた。

『どうやらパラサイトが襲撃してきたらしい。

これから仁美を助けに向かうから、

どうにかしてそちらもこのメールを見たらすぐに駆けつけて欲しい。

今近くに見えているのは――』

メールの文面を読んで行く内にマミの頭の中は真っ白になった。

けれどはやる気持ちを抑えながら、

まずはこれから何をすべきか頭の中をフル回転させようとする。

メールに記された場所まで向かうにはここは少し離れていた。

パラサイト、それが一般的なパラサイトを指しているのか、

それとも「まどか」の事について言っているのか

推察する事は到底不可能だったが、

今、事態がのっぴきならない状況にあるという事だけはマミにもわかる。

結局いても立ってもいられずに、

杏子まで少しでも近付こうと、

メールの示している地点に足を向け全速力で駆けだした。

しかし、しばらく行くと三匹のパラサイトの反応と、

それに伴った微弱な魔力の波動が前方に出現した。

「三人」とも身体のバラバラな部分に『赤い石』が埋め込まれている。

人気のない場所、どう見てもマミの到着までの時間稼ぎで置かれているらしい。

ここで使う一秒一秒が、

杏子と仁美の元に行くために費やす時間を刻々と引き延ばしていく。

極度の興奮と不安の狭間で身もだえしている状態にあるマミは、

一瞬だけ鮮明に幻覚を見た。

視界の遠く先、仁美は地面に倒れ臥し動かず、

杏子は「まどか」に首根っこを掴まれ空中に持ちあげられている。

何故か見覚えとやけに真実味がある光景。

絶対に阻止しなくてはならない。

そんな不条理な事を絶対に許してはならない。

絶対に、絶対に。

「そこを、どけぇぇぇえええええええ!」

パラサイト達一匹一匹の『赤い石』の位置は、

マミから見て左からそれぞれ順に

「三人」の右肩、胸部、左脇腹に浮き出ていた。

全員こちらに走って来ている。

マミはそれまで左手に持っていた日傘を右手に持ち替える。

あれよあれよと勝手にリボンが、

マミの右拳にボクシングのバンテージのようにグルグルと巻き付いていく。

互いにまだ距離のある状態、

自分の周囲に大量のマスケット銃を宙に浮かんだ状態で召喚、

前方敵目がけて発射した。殺す事を目的とした射撃ではない。

綺麗に横一列に並び走ってくる「三人」の動きを乱れさせるのが目的だ。

あえて左右の二人を集中的に狙った射撃。

真ん中を走っていた「男」があぶれるように一段と前に出てくる。

「男」は仲間「二人」を気にする素振りを見せず依然全速力で向かって来る。

それを見た途端マミも「三人」の方へ走りだした。

先陣を切る形となった「男」の頭部から伸びる触手の攻撃を、

右手に持った日傘で全て強引に受けて逸らしかわす。

傘の骨部分までは達した攻撃もさやかのレイピアを破壊する事は出来ない。

そのままマミは互いに反対方向から走り交錯する勢いを殺さずに、

残った左手を全力で前に突き出す。

左手は無理やり「男」の胸部を突き抜けあばら骨ごと背中まで貫通した。

勢い良く手を引き抜く。

その手には『赤い石』と血塗れの心臓が握られていたが、

先程までは拳に巻きつけられていたはずのリボンがなくなっていた。

『赤い石』を失った事によるショックで、

ビクンビクンと身体を震わせ

僅かの抵抗すら不可能となっていた「男」の身体を、

マミは左側にいるパラサイトの方へ瞬時に蹴飛ばす。

吹き飛んできた「男」の身体を

パラサイトは容赦なく一刀両断にして抜けようとするが、

その時「男」の背中から開いた穴から、

先程までマミの拳に巻きついていたリボンが噴き出した。

見事思惑通りパラサイトは視界を撹乱され、

リボンの相手に窮している間に

「男」ごと身体を巻き込まれ動きを封じられてしまった。

それでもパラサイトは急いで拘束から抜けるために、

リボンと「男」の身体を両断しようとしている。

マミはを右手の日傘で、

もう一匹残っていた自由な状態のパラサイトの攻撃を防御、

それと同時に左手にマスケット銃を一丁生成。

攻撃された際の勢いに全く逆らわず、

倒れ込むようにリボンの拘束から逃れようと四苦八苦するパラサイトに近づく。

再度襲ってきた自由なパラサイトの攻撃を日傘で払いのけつつ、

左手のマスケット銃を「男」の胸部に開いた大穴に突き刺した。

「男」の身体の中で銃口の向きを調整し、

「男」の身体ごしにパラサイトの右肩にある『赤い石』に狙いを定める。

引き金を引いた。

ダァン、という発砲音と共に抵抗を続けていたパラサイトが動かなくなる。

それを見届ける様子すら見せずに、

マミが杏子達がいるだろうと思われる方角へ向けて走り出した。

追い縋る三人中最後のパラサイト、

「彼」が先程集中砲火を浴びた場所に足を踏み入れた瞬間、

地面に大量に開いた弾痕から、

リボンが吹きあがるように飛び出してリボンの監獄、繭を作り上げる。

マミは一瞬だけ脚を止め、

振り返ってすぐ狙いは魔力の微弱な反応を目測で、

たった今新しく生成したばかりのマスケット銃を「彼」の左脇腹『赤い石』目がけ撃った。

~☆

マミが杏子達の元に到着する。

見覚えのある魔力の波動。

赤い半球状の結界を「まどか」が壊そうとしている。

こちらの存在に気付かせるため、

マスケット銃で「まどか」の肩先を狙撃した。

予想通り弾かれる。こちらを見た。

その時一瞬、地面が揺れたような錯覚をマミは覚えた。

自分の歯ぎしりの音が聞こえる。

私の精神を揺さぶるために、

まずは何の抵抗も出来ない志筑さんを狙ったという訳か。

それと、佐倉さんも殺すつもりだったに違いない。

血が沸き立つ。喉がゴロゴロと鳴っているのを感じる。

これ以上私から大切な者を奪っていこうとするつもりなのか。

感じた事のない憎悪がマミの全てを鷲掴み、彼女を支配する。



許さない。こいつは、こいつだけは私が殺さなくてはならない……。

「まどか」が一度三人から距離をとった。

マミが杏子達と「まどか」の間に立つ。

瞬間、結界とロッソ・ファンタズマが同時に解けた。

満身創痍といった様子で汗を噴き出しながら、

槍を支えにフラフラと杏子が危なっかしげに立っている。

「おせーよ、待ちくたびれたじゃんか……」

「ごめん、佐倉さん」

杏子の声と自分の言葉が意識を上滑りしていく。

意識は一心に「まどか」に吸い寄せられる。

優しかった彼女。ほむらの目的だった彼女。

誰よりも幸せになるべきだった彼女。

そんな彼女との最後の接点が、

これ程までにおぞましく憎いとは一体何の因果なのか?

どうしてこんな事になってしまったのだろう?

そんな疑問を醜悪な感情の渦が次第に無意味な物に塗りつぶしていく。

「佐倉さんは志筑さんを連れて速く安全な所に向かって。後は私がどうにかする」

志筑さん、本当に傍にいるのだろうか?

少なくとも気配はする。

しかしそれを目で見て確認はしない。今、必要な事ではない。

マミの言葉を聞いた杏子は、何か不満げな様子だった。

「でも……」

「いいから早く!私の家なら簡易な結界が張ってある。

終わったら連絡するから、貯蔵しておいたグリーフシードを持って来て頂戴」

苛立ちが混じる。頭に血が上っている。

闘いの間、誰かを護れると思える精神状態ではとてもない。

何もかも忘れ、暴れ出したくてたまらなかった。

契約してからずっと感じていた世の中の不条理。

それをある意味象徴する存在が目の前にある。

長年積もり積もった不満、不安、苦悩、

全てがマミの手足を急きたてていた。

不条理を粉微塵に打ち壊せと囁いていた。

マミは変身を解いて、ポーチ内にある複数のグリーフシードから一つ取り出す。

張り詰めた場の空気。「まどか」は攻撃を仕掛けてこない。

不思議ではあったが、グリーフシードでソウルジェムを浄化し終えて再度変身をする。

「わかったよ、マミ。絶対死ぬんじゃねーぞ」

承諾の声が聞こえてすぐ、杏子と仁美の気配が背後に薄れていく。

その時今日対面して初めて、「まどか」がマミに喋りかけた。

「『石』の力で身体能力を強化したパラサイトを三人、

用意しておいたはずなのに随分速かったね」

「とっくに全員殺したわ。次はあなたの番よ」

ぞっとする口調でマミが宣告する。美樹さんの敵。上条君の敵。そして鹿目さんの敵。

「まどか」はおどけた表情を浮かべている。

前に会った時よりもそういった表情がリアルな人間らしくて、それがマミの癇に酷く障った。

「最近の私はね、人間を食べなくなったんだ。

口に合わなくなったっていうか。仕方ないから人間の食べ物を毎日三食食べてるの」

「それで?」

「だから私と人類、もう争う必要はないと思わない?

もしかしたら互いに共存していく可能性があるかもしれない。

もちろん今回こんな形で不意に襲いかかってしまったのは私が全て悪い。

申し訳ないと思ってる。だけど正義の魔法少女のあなたとしては……」

「ふざけた事を言わないで。あなたが人間を食べなくなった?

人間社会に悪影響を及ぼさなくなった?知った事じゃないわ。

私があなたに猛烈な殺意を抱いている。

それだけで私にとってはあなたを殺すのに理由は十分よ」

まどかが満足げに快活に笑った。ますますそれがマミの癇に障る。

マミが右手で強く日傘の柄を握り、嫌な物を断ち切るように振り下ろす。

傘に右手の袖から伸びて来た膨大なリボンがぐんぐんと巻き付いて行き、

その形を大きく強靭に変えていく。

見た目ほどには重くないが、

それでも常人が扱えるレベルを優に超した大剣。

マミの華奢な姿にはどう見ても不釣り合いなそれを、

右手だけで軽々と地面と平行に持ち上げる。

そして左手を大剣に添えた刹那、

突如「まどか」がマミに接近を仕掛けてくる。

衝突の反動に身構えながら、

予想される肉体の破損範囲に肉体強化の魔法をぎりぎりまでかけ、

近づく「まどか」に強く強く大剣を横薙ぎに払った。

今日の更新終わり

戦闘、戦闘、戦闘、書いてる方からすれば勘弁して欲しいけど最終決戦だから仕方ないね

どうもこのスレ内で五部も終われそうです

次回は区切りの関係上これまでより短くなりそうな予定

更新

おらもう二度と先の個所を書いてから後でその間を埋める書き方やらねえだ
読み直したら右手が左手だったの気付いて笑っちったよ、ハハ


※修正
>>725 七行目
× マミの右拳にボクシングのバンテージのようにグルグルと巻き付いていく。

○ マミの左拳にボクシングのバンテージのようにグルグルと巻き付いていく。

>>726 十四行目
× マミは左側にいるパラサイトの方へ瞬時に蹴飛ばす。

○ マミは前方左側にいるパラサイトの方へ瞬時に蹴飛ばす。

~☆

マミがこれで何度目かもわからぬ攻撃を仕掛けた。

そして硬化された肉体に弾かれる。予想通りだった。

攻撃をただ黙って受けるよりは、

こちらから積極的に攻撃を仕掛けていく方が余程良い。

何より絶対に近接の間合いを崩す訳にはいかなかった。

距離をとればとるだけ、

「まどか」はトップスピードを肉体から引き出して襲いかかってくる。

全力の乗った「まどか」の一撃、

マミも依然と比べれば接近戦に慣れたとはいえ、

それはそう何度も耐えられるものではない。

相手に自由なペースを掴ませない事が、

マミにとって自身の生命を一秒でも長く繋ぎ止めるための最低限の生命線だった。

しかし大剣を扱った所で、「まどか」の頑強な装甲を破れる訳ではない。

自分に何本も襲い来る触手の猛攻をその一振りで強引に捌ける、ただそれだけだ。

しかもそれも全てを捌き切れる訳ではない。

しばし防ぎきれなかった刃が、マミの身体に突き立ち肉を抉る。

その時はすぐさま治癒魔法で問題ないレベルまで回復を済ませる。

けれど同じような攻防を繰り返す内に、

腕や足が切り落とされる事態が当然起こってくる。

そんな場合は即座にリボンで損傷個所を接合する。

体内にリボンを取り込んだ所でどうせリボンの生成消滅派マミの自由自在。

何度も神経や骨、肉をリボンで強引に接着して治癒魔法をかけリボンを消去、

戦闘をそのまま続行してきた。

もちろんいつまでもこんな戦法を続ける訳にはいかないし危険も大きい。

切断された腕や手足がどこかに吹き飛ばされてしまえば、

その隙に付け込まれあっという間に殺されてしまうだろう。

治癒魔法が間に合わず次の攻撃の対処に遅れれば今度はマミの首が飛ぶ。

それに加えて戦闘中にグリーフシードを使える訳ではない。

いずれは魔力の限界が来る。

いくら攻撃が目で追えて、

身体強化魔法のおかげでそれにある程度対応できるからと言って、

こんな化け物に長期戦を挑むというなら勝てる訳がない。

戦況は圧倒的「まどか」有利にあった。

しかしそれもこの段階においては、だ。

マミはわざとこれまでの間首を狙うような攻撃を仕掛けていない。

自分が本当はどこを狙っているのかを警戒されるのは芳しくない。

勝機は一度ありさえすればいいのだ。

最後に生きていた者が真の勝利者なのだから。

マミが狙っているのは「まどか」がマミを殺そうと痺れを切らし畳みかけてくる瞬間、

攻撃に意識が向いて、自然と防御への意識を薄れさせてしまう時間。

絶えず攻め続けると言うのも存外疲れる物だ。

膠着状態、マミが自分への決定打を持たないと考えているだろう「まどか」が、

単調で退屈なこのやり取りの繰り返しに終止符を打ちに来る。

そんな予感をマミはひしひしと肌で感じていた。

……そしてその時が、マミの待ち望んでいたチャンスがついに訪れる。

空気が変わった。止む事のない刃の嵐が更にその勢いを増す。

すると一瞬間、大剣を包んでいたリボンが網の目のように解けた。

解けたリボンの拡散は眩暈をもたらすほどに目まぐるしく、

硬化しつつ伸びるリボンの合間を防御結界が完全に塞いでいる。

最もその防御はそれほど長く持つという訳ではない。

「まどか」の猛攻を全て堰き止めたと思う間もなく呆気なく結界が壊れた。

しかし、結界崩壊の反動はその破壊者である「まどか」へと向かい、

衝撃に思わず「まどか」が姿勢を崩す。

マミは既に腰を落とし突きの構えで「まどか」の首に切っ先を向けていた。

マミの手元に今あるのはさやかのレイピアただそれだけ。

けれど、その剣身は山吹色の温かな光を煌々と帯びている。

マスケット銃生成の応用とも言える技である。

マミのマスケット銃は原理としてはまず最初に銃弾の元になる物を生成し、

それにリボンを巻き付け変形させ形成した物だ。

瞬時に行われているためそれは誰の目に止まる事もないし、

魔力さえ込めればいくらでも簡単に

巨大で強い銃を生み出す事が出来るため、

溜めの時間を作る必要がない。

しかし、今回はそれとは少し事情が違う。

日傘の状態の時から何日も何日もかけて、

リボンで覆われたレイピアにじっくり限界まで魔力を溜め込み凝縮し続けて来た。

リボンはレイピアを人目に目立たなくするのと同時に

それに込めた魔力を「まどか」の目から隠蔽、

そして保存する役目を果たしていた。

マミの手から放たれた美しい直線が「まどか」の首を目指す。

途中、「まどか」の触手が直線の動きに干渉しようと伸びたが、

接触した瞬間に弾け飛んだ。

後はまどかの首筋にこれを突き通しエネルギーを解放するだけ。

そう、マミは確信した。

「まどか」の首元に達する直前、緊張の中、ほんのわずか心に余裕が生まれる。

それまでは「まどか」の首元の辺りだけが目に映っていた。

その瞬間「まどか」の表情までもがマミの視界で明確な像を結ぶ。

悲しみ、絶望、恐怖の強烈な縮小図。

所詮まどかを完璧に模した儚い紛い物に過ぎない。

だけどもそれは、どんな絵画や音楽、

その他様々の芸術よりも真に迫りマミの心を激しく打った。

……どうしてこんな事になってしまったのだろう?

迷いが生まれ、剣先がぶれる。

「まどか」が右の肩先からぶつかってくる。そして爆散した。

手元に伝わる衝撃がビリビリとその威力の高さを物語る。

しかし今吹き飛んだのは「まどか」の右肩。外してしまった。

パラサイトがそれまで場を占めていた個所も含めて、

瞬時に『赤い石』が人体修復を終える。

右肩はこれで完全に純粋な人間の血肉によって構成される事となった。

速く、速く何かしらの追撃をしなくてはならない。

手遅れになる前に。

……ガチ、ガチ、ガチ。

マミの歯の根が合わない。脚が自然と後ろに向けて進路をとる。

早足で一歩、二歩、三歩……。

致命的とも言える距離を自分から「まどか」との間に広げていた。

「まどか」から少しでも距離をとりたくてたまらなかった。

「まどか」は苦痛をその顔目一杯に表現している。

パラサイトは苦痛を感じない。

それはマミがミギーを脳に宿してから身に染みて理解している事だった。




それならば、これは……?

嘘だ、騙されるな、罠に決まっている。

頭の中で直感、そして何かがマミにそう強く声をかけ叱咤している。

けれど頭でわかっていても駄目なのだ。

「これ」を、このまま殺すというのは、

鹿目さんを見殺しにするのと一緒だ。

前の失敗とは状況も違う。前の時、私は眠っていた。

鹿目さんを助けるのに失敗した。ただそれだけだった。

けれどこのまま彼女を傷つけると言うのならば、

それは故意に彼女を見殺しにするという事だ。

そう、私が美樹さんを殺した時と同じように。

「はぁ……。はぁ……。はぁ……」

息が出来なくなる。

どうして、どうしてこうなってしまったのだろう?

それだけがうすらぼんやりマミの脳裏を漂い刺激する。

「まどか」がゆっくりと口を開こうとしていた。

まるで何か大切な言葉を述べようとしているかのようだった。

いったい何が飛び出すのか?マミは言葉に耳をそばだてた。

瞬間、「まどか」の口の中から細長い直線がグンとマミへと伸びる。

反応が遅れた。そのままマミの脳を「まどか」の舌が串刺しにする。

ビクンビクンとマミの身体がその場で跳ねた。

変身が解ける。コロコロとソウルジェムが地面に転がる。

「まどか」の右腕がシュッと伸びて、

マミの手に持ったレイピアを払い飛ばしながらマミの首を切り落とした。

遠く地面に転がるレイピア。

宙に浮かんだ首は「まどか」の舌へといまだ繋がれている。

そして舌は主の元へと戻った。






ガリ、ガリガリ、バリ、バリバリ、バリバリ…………。





「まどか」がマミの頭部に齧り付き、

ゆっくりゆっくり勝利を口の中で味わい咀嚼している。




ガリ、ガリガリ、バリ、バリバリ、バリバリ…………。




夢中で「まどか」がマミの頭部を喰らう中、

それまでは木偶の坊のように突っ立っていた

マミの身体が仰向けに地面に倒れた。

ソウルジェムがマミの背中の下で鈍く輝いている……。

今日の更新終わり

マミさん頭を食べられるの巻(二回目)

これ以上何か書くと余計な事書きそうなので次回
明日で四部終了……かな?

赤い稲妻って何だよwwwって思ってそれっぽい所探したら本当にそんなふうに書いてるのね

おかしいな、前スレのマミさん杏子思い返すパートかなんかで
赤い幽霊が立っているって書いたような気がするんだけどな……

ただでさえいつもポカやらかしてるだろうに前回前々回はもはや魔境状態ですねこれ
今回は書き溜めないから大丈夫かな?でも後で読み返そう

>>718 五行目
×『赤い稲妻』、マミ直々の命名であるロッソファンタズマ、

○『赤い幽霊』、マミ直々の命名であるロッソファンタズマ、

更新
四部今日中には終われませんでした

細かい読めるタイプの誤字はある程度諦めてます
書いてすぐ投下の形にしないと
おそらく私のやる気が折れちゃうので仕方ない

~☆

目は見えず、耳も聞こえない。

何も感じる事が出来ない。

夢とはまた違う、意識だけの存在としてマミは思考していた。

温度も匂いも、とにかく身体の感覚がない。

地に足立つ感覚はなく、横たわる感覚もなく、

周囲と自己の境界すら曖昧だった。

音が聞こえないという感覚は分かる。

しかし、白も黒もない、

光も闇も失っているというのは実に不思議な心地だ。

おそらくそれは、今この時だけの特別な感覚なのだ。

身体の感覚を取り戻せば記憶の隅に埋もれてしまうような朦朧さと、

死ねば全てがそこに帰する虚無との狭間に位置する不安定な意識。

ふと、他者の存在を感じた。

狭く見ればそれは自分の外における出来事でもあり、

大きく範囲を広げて捉えれば自分の内における出来事でもある。

ただ、細かい違いはともかくとして他人の存在を感じられる。

それが何よりもマミを慰めてくれる。

見知った声が聞こえる。

なるべく正確な表現に徹しようとするなら、

そうではなくて、見知った声を内側から感じたと言うべきかもしれない。

「マミ、私だ。ミギーだ」

ミギー……。予想通りだった。

こんな所で誰かに逢うとしたらそれはミギーくらいしかいない。

ミギーが近づいてくる。

近づいてくると表現すべきかはもちろん定かではない。

マミの意識する観念の中に現在時間と空間という物は存在しない。

自分の自意識とミギー、それが特殊な距離関係を持って接している。

しかし少なくとも、マミはそれをミギーが自分に近づいて来ているのだと捉えた。

「ごめんなさい、ミギー……」

「どうして謝る?」

「だって私、負けちゃった。

アレがもう鹿目さんじゃないって、わかってたはずなのに、

最後の最後に少しだけ迷っちゃった。あなたがいる。

美樹さんや暁美さんとの約束がある。

それなのに迷っちゃうなんて、とんだ腰抜けの裏切り者よ。

結局、私が出来た事なんてワルプルギスの夜を倒せた、ただそれだけ。

暁美さんとの約束も中途半端、思い返せば何もかもが中途半端な人生だった」

自嘲的に話すマミ。しかし断固とした口調でミギーは彼女に告げた。

「まだ、何も終わってはいない。諦めるには少しばかり早過ぎる」

諦めるなと主張するミギー。

冗談を言わない「彼」の言葉が、この時ばかりは冗談に聞こえて仕方がなかった。

最後の記憶はマミの中に朧気に残っている。舌が伸びて、そして首が切り取られた。

魔法少女の特性のおかげで苦痛はセーブされたため特に何も感じなかったが、

それがどれ程絶望的な状況なのかくらいはさすがにわかる。

『外』で何が起きているのかわからない。身体も動かせない。

そんな状況でどうやって「まどか」を倒せと言うのか?

どんな奇策ですらも思いつかなかった。

「バカな事言わないでよ、だって頭がもうないのよ。

勝てる訳ないじゃない、そんな状態で」

「それはきみが普通の魔法少女だった場合の常識だ。

しかしきみは無論普通の魔法少女ではない。

私がきみとずっと一緒にいる、普通じゃないだろ?」

「ふふ、あなたがいる、それだけでどうやって

この絶望的な状況から逆転できるというの?

あなたがずっと寝てたのも私が負けた敗因の一つよ、きっと」

ミギーがずっと心の支えになってくれていたのは間違いない。

夢の中にいればミギーに会えた。

そこでのやり取りを全て記憶する事は出来なかったが、

ソウルジェムと肉体は切り離されているおかげか、

夢の印象全て何もかもをすっぱり綺麗に忘れてしまうという事はなかった。

それに夢の内容も毎日ミギーと話している内に、

だいぶ抜けはあるにしても、

きちんとした形で覚えられるように最近はなってきていた。

起きている時、辛い時も悲しい時も苦しい時も、

ミギーがずっと傍にいてくれるという事実は確かにマミを力強く励ましてくれた。

しかし、それが「まどか」を倒す足掛かりになるとはどうしても思えない。

たった一度きりのチャンスを逃してしまった。そう思えてしょうがなかった。

「外部との接続を断って作業してたんだから仕方ないじゃないか。

一カ月を目処に目を覚ますとは前に言ったが、

一カ月だと教えてくれる奴がいる訳でもないし、

きみと最後に話してから何日経ったのか正直わからない。

あれからもしかして一か月もう経ったのか?」

言われて初めて気付いた。

いつも話していたミギーとこのミギーはある意味では「別人」なのだと。

私がいつも夢の中で話していたのは脳にいるミギー。

そしてこのミギーは多分右胸にいるミギー。

いつも私が話していたミギーは今頃「まどか」の口の中、

どこにせよ「彼女」の体内にいるのだ。

「の、脳にいたミギーは今は鹿目さんの中に……!」

「うん。結果論で言えば我々にとってかなり幸運だと言える」

「えっ、どういう事?」

自分の一部が現在捕食されている途上にあるだろうに、

幸運とは一体どういう意味で言っているのか、あまりに理解に苦しむ。

もしも今マミに首があったなら、

どういう事だと文字通り首を捻っているに違いなかった。

「ここに通俗的な時間観念といった物は適用されない。

しかし、これ以上無駄話を続けるのも不毛だ。

これから私の話す事をしっかり聞いてくれ。

いいか、きみの脳は現在ただの肉の塊と化し、

それを修復している時間的な余裕はない。

けれど我々にとって『脳』は一つではない。それは無数にあるのだ。

きみと私との生物の種としての違い、おそらく前に話したはずだ。

私は言わば全身が筋肉であり、脳でもある。

つまり私の計画はこうだ。

マミの脳がダメだと言うならば、きみは私を脳として体を動かせばいい」

「……正気?」

ミギーの「脳」と呼称している物が

本当に人間の脳と同じものなのかは別として、

別の生物の脳を使って思考するなんて当然の事ながら聞いた事がない。

脳死状態になってしまったから、

他人の脳を移植して甦らせようなどといった発想よりもさらに奇抜だ。

しかし、いつもの通りミギーとしては大まじめだった。

「もちろんそこには想像を絶するような断絶、危険があるはずだ。

けれどこのまま何もせずにいたら生き延びる可能性は全くゼロじゃないか。

キミのソウルジェムは耐えられない痛みを無意識にセーブするように出来ている。

だったら耐えられない感覚や意識といった物も、きっとセーブしてくれると考えよう。

キミの魂と私を結合する。そして出来るだけ早く決着を付け、

出来るだけ早くその状態から脱出する。それ以外の他の道はない」

それ以外の他の道はない。

そう言われてもマミは中々踏ん切りをつけられなかった。