八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」(1000)


俺ガイルとモバマスのクロスSSです。

若干設定に無理がありますが暖かく見守ってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374344089


アイドル。
それは人々の憧れであり、遠い存在。

誰にだって覚えはあるだろう。
テレビの中で笑顔を振りまき、歌って踊る。
時には歌手として歌い、時には役者として演じ、時にはエンターテイナーとして笑いをとる。
その見る者を魅了する様は、まさに憧れにふさわしい。

しかし、それも全てではない。
写し出された光景が真実のみとは限らない。
本当に性格が良いのか。恋人がいるのではないか。裏では汚い真似をしているのではないか。
そんな誹謗中傷は当然の事だ。

それが的を得ている事だってある。
むしろ、そちらの方が多いのかもしれない。

アイドルとは、“偶像”。自らの理想や理念を、近しい者に擦り付け、崇める。

しかしだからそこ知っているのだ。
それが自らの幻想で、本当は現実があるという事を。
自分の想像も及ばない、真実があるという事を。

もちろん、それでもなお信じ続ける者だっている。

そう。全てではないのだ。
人々を笑顔にし、希望を与え、元気をくれる。
きっとそんなアイドルがいるはずなのだ。

そんな事を本気で叶えようとしてくれる、本当のアイドルが。

まぁ、つまりだ。
ようは何が言いたいかって言うと……





八幡「やよいちゃんマジ天使」

sage進行なのかな?

>>7
すんません単に忘れてました



小町「お兄ちゃんテレビに向かって何言ってんの」

八幡「安心しろ、テレビには言っていない。やよいちゃんに言ったんだ」

小町「それ全然安心出来ないよ……」


時刻は丁度夜の八時を切ったところ。
ウチのリビングにあるテレビには、ツインテールの女の子が笑顔を振りまいて歌って踊っている。
誰もが知っている音楽番組の一発目であった。


小町「最近765プロ凄いよね。いよいよ○ステに出るなんて」

八幡「俺としてはあまり有名になり過ぎても嫌だけどな」


なんていうの? あの俺だけが知ってたマイナーなバンドが売れてきて「いや、俺は前から好きだったし?」的なこの気持ち。分かるだろ?


小町「別に、お兄ちゃんの為に歌ってるわけじゃないんだからいいんじゃない?」

八幡「おい。俺ファンだから。一応ファンの一人だから」

小町「まぁねぇ。でも推しメンがやよいちゃんって……」

八幡「なんだよ」

小町「お兄ちゃんってロリコン?」


ド直球だな。
もうちょっとオブラートに包めない?
なんなのその腐ったオニギリを見るような目は? 目しか腐ってないから。
これは少し弁解せねばなるまい。


八幡「ふっ、妹よ。それは間違っているぞ!」

小町「私は別に目も見えるし車椅子にも乗ってないけど、一応聞こうか」


俺としては是非とも「お兄様♪」と読んでもらいたい所だが、それは置いておこう。


八幡「まず一つ。俺は高二の17歳。やよいちゃん(以下天使)は中二の14歳。この時点で分かると思うが、歳の差は3つ。たかだか3つだ。例え思慕を抱いた所でおかしくもない。成人すれば尚更だ」


実際3つ以上離れている恋人同士や夫婦など、五万といる。
学生であれば同い年、もしくは1つ違いが主流だろうが、それもその時期だけ。総合的には3つ以上離れている方が多いだろう。


小町「確かにね。でもそりゃ私だって3つ離れている事は別に問題ないと思ってるよ。問題なのは、今、お兄ちゃんがハァハァ言ってる相手が、14歳だってこと!」


失礼な。ハァハァなんてしとらん。してないよね?


八幡「まぁ確かにその通りだ。ハァハァはしてないけど。歳の差が3つとはいえ天使は今14歳。思慕を抱くには少々幼すぎるというのも分かる。ハァハァはしてないけど」

小町「じゃあやっぱりロリコンじゃん」

八幡「だから、間違っているぞ!」

小町「お兄ちゃんの腐った目じゃ誰も言う事きいてくれないよ」


絶対違反の力。何それ新しい。
つーか、こんな事を話してたせいで天使の歌終わってんじゃねーか!


八幡「いいか。俺はさっき言ったはずだ。“思慕を抱くには幼すぎる”と」


そう。別に俺は何も天使に恋愛感情を抱いているわけではない。ただの1ファンなのだ。
ちなみにそういったアイドルや芸能人に夢中になる事を、仮想恋愛と言ったりするらしい。
実際に付き合う事はおろか直接会った事もないのに、熱愛発覚でデストロイ。
あーうん。あるある。


八幡「まぁつまり、そういった目で見てないって事だ。妹を可愛いと思うようなもんだよ」

小町「ふーん? なんか、それはそれで面白くないなぁ」

八幡「なんでだよ」

小町「だって、お兄ちゃんの妹は小町なんだよ? あ、今の小町的にポイント高ーい♪」


うむ。八幡的にも今のは中々高かったぞ。
あとあれだ、手に持っている週刊誌と○リガリ君さえ無ければ完璧だったね!


八幡「んじゃ、そういうお前は誰推しなんだ?」

小町「ふっふーん♪ よくぞ訊いてくれました!」

八幡「言っておくが、竜宮小町とかっていうオチは無しな」

小町「……」

八幡「……」


えっ、今僕、地雷踏んじゃった?


小町「とまぁ冗談は置いておいて」

八幡「オイ」

小町「私はやっぱり如月千早さんかな?」

八幡「ほう」

小町「奇麗だし、真面目だし、何よりやっぱり歌が素敵だよね!」


確かに。彼女の歌を始めて聴いた時、中々の衝撃を受けた記憶がある。
アイドルじゃなくて、普通に歌手だと思ったもん。


八幡「ふむ。前から何となく思ってた事があるんだが」

小町「なに?」

八幡「何となくだが……親近感を覚えるんだよな。ぼっちとして」

小町「……ッハァー…」

八幡「なんだよその露骨なため息は」

小町「これだからゴミいちゃんは」


やれやれといった風に首を振る我が妹。ムカつくなオイ。
つーか、そのゴミいちゃんってのやめてくんない? 冷静に考えると…いや普通に考えても大分酷いからね?


小町「千早さんとお兄ちゃんのぼっちを一緒にしないでよ。あっちは孤高の存在って言うの。あんなに奇麗で歌が上手で完璧なのに、ぼっちだなんて。そんな人いるわけ……」

八幡「……」

小町「……」


いるなぁ。我が高にも孤高の女王が。
確かに色々似てるわ。部分的にも(どことは言わない)。


小町「…まぁ、完璧過ぎて近寄り難いって事で!」

八幡「それフォローなのか?」


そんなこんなで番組も終了間際。
最後に○モリ(正確には隣のアナウンサー)が出演者のアーティスト達にインタビューしている。


やよい『はい! 凄く緊張しましたけど、とってもとっても楽しかったかなーって!』


うおおおおおおおおおおお!!!!
戸t…じゃなかった天使マジ天使!!!


小町「お兄ちゃん近い、近いよ。画面に」

八幡「よく見ろ。ちゃんと1m以上は離れてる」

小町「つま先はね」


そしてなんやかんやで番組終了。
あぁ、来週も出てくれればなぁ。というか毎週出てくれればなぁ。


小町「ほらお兄ちゃん、もう終わったんだからさっさとお風呂入って」

八幡「へいへい……ん?」


小町に言われ立ち上がろうとした所でふと気づく。
それは番組が終わった後のCMだった。


『シンデレラプロダクション特大企画! プロデューサー大作戦!! 詳細はこの後すぐ!』


シンデレラプロダクション……?
なんだプロデューサー大作戦って。過去に戻って告白でもすんの?


小町「へー。デレプロの新企画ってコレの事かぁ」

八幡「知ってんのか小町」


つか、デレプロってなんぞや…? ぴかしゃ?

小町「シンデレラプロダクション。略してデレプロ。765プロ程有名ではないけれど、最近結構話題になってるアイドルプロダクションだよ」
八幡「へぇ、始めて聞いたな」
小町「ホント最近だからね。何が凄いって、このデレプロ、所属アイドルが100人以上いるんだ」
八幡「100人!?」

おいおいどこの48ですか?
そんなにいて大丈夫なのかよ。出演する時タ○さん大変じゃない? 
あ、でもユニット組んでるわけではないのか。

小町「それで全員可愛いらしいから凄いよねー。んで、この間雑誌でやってたの。『シンデレラプロダクション特大新企画乞うご期待!』ってね」


小町「シンデレラプロダクション。略してデレプロ。765プロ程有名ではないけれど、最近結構話題になってるアイドルプロダクションだよ」

八幡「へぇ、始めて聞いたな」

小町「ホント最近だからね。何が凄いって、このデレプロ、所属アイドルが100人以上いるんだ」

八幡「100人!?」


おいおいどこの48ですか?
そんなにいて大丈夫なのかよ。出演する時タ○さん大変じゃない? 
あ、でもユニット組んでるわけではないのか。


小町「それで全員可愛いらしいから凄いよねー。んで、この間雑誌でやってたの。『シンデレラプロダクション特大新企画乞うご期待!』ってね」


なるほどな。それがこの特番ってわけだ。
別にそこまで興味があるわけではないが、番組表を見るに、10分程の特別番組らしい。
折角だから見てみますかね。お、始まった。


『シンデレラプロダクション特大新企画! “プロデューサー大作戦”!!』


隣を見れば、小町もテレビの画面を食い入るように見ている。
こいつも内容が気になるのだろう。


『今回企画した“プロデューサー大作戦”とは……』


八幡「……」

小町「……」わくわく


『……ズバリ、一般者のプロデューサー抜擢です!』


八幡「……は?」


今なんて行った?
一般者のプロデューサー抜擢……?
それってつまり……


『そう。シンデレラプロダクションにいる100人以上の新人アイドル。そのアイドルたちに、一人一人の一般プロデューサーが着き、プロデュースする。それこそが……』




“プロデューサー大作戦!!”



……とんでもない事になったな。こりゃ。


その後10分程の番組でされた説明によると、


1、一般希望者を募集。その中から面接し、問題無しと判断された者をプロデューサーとして任命する。

2、年齢、性別、職業問わず。例え学生であってもOK。

3、期間は1年。その間にもちゃんと給料は出るとの事。

4、担当アイドルは完全抽選性。

5、期間終了後、総選挙を行い1位となった者をシンデレラガールとする!


と、いったところだ。
しかし大丈夫かこれ? 色々問題あるだろ……
担当アイドルに手ぇ出すアホとかいそうだもん。
まぁその為の面接なんだろうが。


どちらにせよ、俺には関係の無い事だ。
……無い事なんだが。



小町「お兄ちゃん! やろうよ! 小町が応募しておくよ?」



これである。


八幡「あのな、俺がアイドルのプロデュースとか出来るわけないだろ?」


むしろ面接を突破出来る気がしない。書類選考で落とされるまである。


小町「大丈夫だよ。写真は自由でいいらしいから、目隠しして撮れば!」

八幡「何それ。俺の落ちる原因が目にあると思ってんの? そうなの?」


俺も思ってます。


八幡「とにかく、やらないもんはやらねーよ。やよいちゃ…天使のプロデューサーなら考えたけどな」


あと戸塚のプロデューサーとか。
……やべぇ、割とマジで良いかもしれん。


小町「えーつまんないの。可愛い女の子と合法的に仲良くなれるのに」

八幡「仲良くなれるとは限らん。というかむしろ、そこが一番の問題だろ」

小町「問題?」

八幡「考えてもみろ。俺が担当になると知らされたアイドルの気持ちを」


「え? あなたが私のプロデューサー……?」という引きながらの笑顔を浮かべる事間違い無しだ。
チェンジでとか言われたら泣く自信がある。


八幡「それにアイドルのプロデュースっていう甘い言葉で惑わされてるけど、ようはリーマンだぞ?


企画とはいえ1年間プロデューサーをしなければならないのだ。ようは仕事。
そう、仕事である。

……働きたくねー!!


八幡「なんで専業主夫志望してんのに、わざわざ自分から働きに出なけりゃいけないんだよ。ほら、アホな事言ってないでさっさと寝ろ」

小町「はーいはいっと。しょうがないなぁもう」


どっちがだよ、ったく。
さっさと風呂に入ろう。天使の歌でも口ずさみながらな。


この時俺は楽観的に考えていたんだ。

どうせテレビの向こうの話。しばらくすれば「へー。コイツがシンデレラガールのプロデューサーか。やっぱコミュ力高そうだな」とか言って、暢気に小町と雑談しているんだろうと。


結論から言えば、それは間違いだった。


俺は忘れていたんだ。
例え幻想を見ていたとしても、



現実は確かに、存在するってことを。






八幡「忘れてたまるもんか~よ~♪ 僕がボクじゃなくなったら~♪」


プロデューサ大作戦が発表されて三日。月曜日。
予想通りというか、教室内ではその話題でもちきりだった。
まぁ僕はその話題には入ってないんですけどね。


まぁ要所要所を抜粋すると


「いや隼人くんマジやってみって! トップアイドル間違いなしっしょ!」


それは担当アイドルの子がか? 葉山がか?


「いや俺はそんな柄じゃないし、それに、俺は皆との時間を大切にしたいからさ」


さすがである。確かにお前ならトップアイドル目指せるよ。マーキュリー入ったら? あれマーズだっけ?


「イケメンアイドルをプロデュースする隼人くん……そしてその様子をテレビ越しで見て嫉妬に燃えるヒキタニくん……ぶはっ…!」


女の子だからね? プロデュースするのは女の子だからね? あといくら話題に入れないからってそっちの話題には入れてほしくなかったなー


とまぁそんな感じで、ホントに葉山がアイドルの子と親しくならないか心配する三浦が可愛かったです(小並感)


一応奉仕部の活動中にも話題には上がったんだが……うん。
俺のHPが著しく減らされたので割愛。察してくれ。


そんなこんな一日が終了。今はその帰り道である。
帰ったらチバテレビでアニメの再放送でも見るとしよう。


八幡「声にならない叫~びを~♪ 僕が声を~枯ら~し~て~♪」

「ん?」

八幡「叫んd……ッ!」


やべっ、歌ってるの聴かれた。
は…恥ずかしい! どこの男子高校生の日常だよ!


「そこのキミ、ちょっといいかい?」

八幡「は、はぁ。なんすか」


歌を聴かれたと思ったら声をかけられた。なに? もしかしてスカウトとかされちゃうの?
しかしやけにこの人黒いな。いや肌が黒いってーか、全体的に?


「……ティンときた」

八幡「はい?」

「ティンときたんだよ! キミぃ!」


やべぇ…なんだこの人……


「あぁ、このティンときたっていうのは、私のお世話になっている人の受け売りでね。気にしないでくれたまえ」


別にそんな事は訊いてないんだが……
逃げるか? 危ない人だったら恐いし。ほら、コナンだと犯人って黒いじゃん?
しかし俺が本気でどうしようか判断に迷っていると、その黒い人(仮称)はとんでもない事を口にした。





「キミ、アイドルのプロデューサーをやってみないかね?」


八幡「…………は?」



アイドル、プロデューサー。

どちらも最近よく耳にする言葉である。
それだけに、現実離れしているようにも聞こえた。


「ああ、すまない。私はこういった者でね」


怪しまれている事にようやっと気づいたのか、黒い人はおもむろに名刺を渡してくる。
ぎこちない動きでそれを受け取り確認すると、おれは目を疑った。


八幡「シンデレラプロダクション……社長!?」


そう何を隠そう(隠してないけど)この黒い人、くだんのシンデレラプロダクションの社長だったのである!
な、なんだってー!?


社長「キミはこの前の放送は見てくれたかね?」

八幡「へ? あ、あぁ。あのプロデューサー大作戦の」

社長「そうそう。それだ。ありがとう見てくれて」


まぁ完全に天使のついでだったし。


「なら話は早い。今その企画でプロデューサーを募集していてね。キミ、やってみないかね?」


やっぱりそういう事か。

いやしかしまさか社長とは。
百歩譲って社員とかならまだ分かるが、社長が直々にスカウトって……


八幡「……俺は」

社長「まぁ急に決めるのは難しいだろう。会社の電話番号と住所は名刺に書いてあるから、気軽に連絡してくれたまえ」

八幡「え? いやちょっ……」



「む、そこのキミぃ! ちょっといいかい?」
「なんだよ。あたし早く帰ってチバテレビでアニメ見たいんだけど」
「ティンときた! アイドルをやってみないかね?」
「は、はぁ!? あ、アイドルなんて、興味、ねぇ…し!」



行ってしまった。
どぉすんだこれ……






平塚「いいじゃないか。やってみたらいい」


社長直々にスカウトされた翌日。職員室の一角で、我が担任の平塚先生はそう言った。

つーか、何で知ってんですかねぇ……
急に呼び出されたと思ったらこれだよ。


八幡「……どこでそれを?」

平塚「そこの社長さんから電話があってな。是非ともキミをスカウトしたいそうだ」

八幡「いや俺、名乗ってないんすけど」


ウチの高校って事は制服を見れば分かるだろうが、名前までは分からんだろ。


平塚「特徴をあげられてな」

八幡「特徴?」

平塚「『目が腐っていた』と言っていた」


オイ。ならなんでスカウトした? 目腐っててもいいの?
つーか、その特徴あげられて真っ先に俺だと思ったんかい。
結果的に当たってたけども!


平塚「『あの目は、他の者には見えないモノを見据えている目だ』とも言っていたよ。中々、社長も人を見る目があるようだ」


やれやれといった風に微笑む平塚先生。
気のせいか、少しばかり嬉しそうだ。


八幡「……買いかぶりですよ」

平塚「そう言うな比企谷。何事も経験だよ」


そう言うと何枚かの資料を渡してくる平塚先生。
見ると、今回のプロデューサー大作戦の詳しい企画内容が記されてしる。


平塚「先方が送ってきたものだ。もちろん、向こうがスカウトしてきたのだから面接は無いそうだ。良かったじゃないか」


どういう意味だそれは。


平塚「学校の方も心配しなくていい。プロデュース活動中は休んでいいし、仕事扱いだから内申も上がる。どうだ、ここまでしてもやらないか?」

八幡「……こういうのは、俺には向いてないですよ」


それこそ、葉山とかの方がやるべきだ。
雪ノ下も敏腕プロデューサーとして活躍するかもしれない。
由比ヶ浜は……駄目だな。あいつアホっぽいし。アイドルやってる方がお似合いだ。

でも、俺はない。


八幡「先生は、なんでそんなに薦めるんですか?」

平塚「教師が生徒の背中を押すのは当然の事だよ」


やだかっこいい。うっかり惚れそう。


平塚「それに、私は本当にキミが向いていると思うよ」

八幡「……」

平塚「誰かの為に何かを成すというのは素晴らしい事だが、中々出来る事じゃない。そして私は、キミがそれを出来る人間だと思っている」


「まぁ、やり方は褒められたものではないがね」と言って苦笑する平塚先生。


……本当に、買いかぶり過ぎだ。

先生の方が、よっぽどプロデデューサーに向いてますよ。


平塚「これも奉仕部の活動の内だ、比企谷。やってみないか?」

八幡「……」


俺はため息を吐いた後、やれやれといった風に平塚先生に向き直る。


八幡「……俺に何が出来るかは分かんないすけど」


ここまで言わせてしまったしな。何もせずに目を瞑るわけにもいかないか……


八幡「やれるだけ、やってみますよ」


それを聞いた平塚先生は、本当に嬉しそうに笑っていた。


八幡「い、いくだけ行ってみますけど、ブラックぽかったらすぐに辞めて帰ってくるんで」

平塚「いやいや、少しは頑張れよ?」


俺は顔が赤くなるのを誤摩化す為に、軽口を叩く事しか出来なかった。


はぁ……どうなる事やら。






翌日。

話は早い方が良いという事で、早速シンデレラプロダクションの事務所へと赴く事になった俺。
というかその事務所前だった。

しかし100人以上も所属してるんだからどんなマンモス企業かと思ったら、案外普通のビルだったな。
下には何故か居酒屋もあるし。いや、喫茶店か?


八幡「……そろそろ約束の時間だな」


ちなみに格好は黒のスーツ。見事に着せられている。
1年間着る事になるんだから、という理由で親が用意してくれたのだ。こういう時ははぶりが良いんだから困る。1年も続く保証は何処にも無いんだからね!

そして八幡的にポイント高いのがネクタイ。なんと、我が妹の小町が選んでくれたのだ!
お兄ちゃん、頑張る。


事務所の前でニヤニヤしていたのがまずかったのか、道行く人に白い目で見られてしまった。
つーか事務所に入ってったよ……俺完全に気持ち悪い奴だと思われてんじゃん……


八幡「結構可愛かったし、アイドルの子か? って、俺も早く行かないと」


気を取り直して俺も事務所へと入る。
あぁ、これで俺も社畜の仲間入りか……


中へ入ると、オフィスのような景色が広がっている。
しかしあまり人はおらず、というかいない。


八幡「受付とかも特に無いのか? 大丈夫かおい…」


どうしていいかわからずキョロキョロしていると、奥の方から事務員らしき女の人がやってきた。


「あら? あなたがもしかして……」

八幡「あ、比企谷八幡という者なんですが……」


意図せず声が若干高くなってしまう。
べ、別に思ったより美人で緊張してるわけじゃないんだからね!


「やっぱり! 私は事務員の千川ちひろと言います。よろしくお願いしますね」

八幡「よ、よろしくお願いします」


うーむここまでフランクだと逆にやり辛い。
所長も結構そんな感じだったし、そういう方針なんかね。


ちひろ「それでは今社長をお呼びしますので……社長ー!」


ホントに呼んじゃったよ。つーか、どこかの部屋に通されたりしないのね。


社長「はいはい。おー来たかね! 比企谷くん!」

八幡「ど、どうも」

社長「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいいよ」


いやいや無理だろ。
社長を目の前にして緊張せずにいられるかっつーの!
つか相変わらず黒いですね!


社長「しかし丁度良かったよ。彼女もさっき来た所でね」

ちひろ「グッドタイミングですね!」

八幡「は?」


彼女……?


社長「おーいコッチに来てくれー!」


今度は社長が誰かを呼ぶ。
待て。何か嫌な予感がする。


「あの、何か?」

八幡「げっ」

「あ、さっきの」


呼ばれて俺の目の前に現れたのは、先程事務所の前で会った長い黒髪の美少女。

歳は俺とそう変わらない。着ているのは制服だろうか、黒いカーディガンを着ている。
容姿や雰囲気としては雪ノ下に似ているが、制服の着崩し具合やピアスをしているあたりは由比ヶ浜に近い。
なんというか、今時の女子高生といった感じだ。

というか、わざわざ俺を紹介するって事はまさか……?


社長「紹介しよう、彼がキミを担当するプロデューサー、比企谷八幡くんだ!」



やっぱりぃぃぃいいいい!!!??



驚いてる俺をよそに、目の前の彼女は俺の事をジッと見る。

うう……怖いよぉ……

まさかよりにもよって担当するアイドルにニヤニヤしている所を見られるとは……
さいさき悪過ぎて泣けてくる。


俺の分析でも終わったのか、彼女は口を開いた。


「ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まぁ、目が腐ってるとこ意外は悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね」


八幡「……よろしく」



こうして、俺と彼女のなんとも言えない出会いが終わり、まちがったプロデュースが始まる。



……目が腐ってるは余計だ、ちくしょう。

という事で今回はここまで。
嫁ステマです。スイマセン。

そしてこんな時間まで見てくれた方々ありがとうございました!

>>1です。

これから投下しようと思うんですが、どなたか酉の付け方を教えてくれませんでしょうか?

あとちなみに>>39は奈緒です。紛らわしくてすみません。

こんな感じですかね?

おお出来た。

それじゃ投下します。






渋谷凛。
高校一年生。15歳。


8月10日生まれの獅子座。

血液型はB型で利き手は右手。

身体的プロフィールは割愛。察しろ。

出身地は東京で趣味は犬の散歩。

実家は花屋を経営しており、そこに客として来た社長にスカウトされたそうだ。


ちなみに犬の名前はハナコ。


これが俺の担当する事になったアイドル、渋谷凛である。


何と言うか、始めに抱いた感想は良くも悪くも“普通の女の子”といった印象だ。

いや、どちらかと言えば“どこにでもいる女子高生”と言った所か。
何せこの先俺は彼女以上に“普通な女の子”に会う事になるからである。


……いや、もちろん可愛いよ?


そんなこんなで俺こと新米プロデューサー比企谷八幡は、担当アイドルである渋谷凛と、喫茶店にいた。何故だ。


凛「私はコーヒーで。プロデューサーは何か頼む?」

八幡「へ? あ、あぁ。それじゃ俺もコーヒーを……」


どうせMAXコーヒーは無いだろうしな……


こんな事になったのは社長の一言「それじゃあ親睦を深める為にも、二人で話してみるといい。そうだ! この下の喫茶店はどうかね? ウェイトレスの子が大変可愛くてね。いつかスカウトしようと(ry」が原因である。

マジ社長ェ……


いやまぁこれから先やっていくには必要な事なんだろうけどさ。

つーかプロデューサーって呼ばれるのがむず痒くてたまらん!
これに慣れなきゃんらんとは、前途多難である。


凛「……」

八幡「……」

凛「……」

八幡「……」


き、気まずい……!


やっぱこれはアレか!? プロデューサーとして俺が話を切り出さなきゃならんのか!?

くそ、ぼっちにはハードルが高過ぎるぞ!
しかしそうも言ってられまい。こいつは雪ノ下こいつは雪ノ下こいつは雪ノ下……


凛「……ねぇ」

八幡「ファッ!?」



俺が何から切り出そうか頭を悩ませている間、彼女の方から話しかけられてしまった。
面目次第もございません……



凛「プロデューサーって、歳いくつ?」



何気ない仕草で訪ねてくる渋谷。

う……こうやって見てみると、やっぱり可愛いな。
容姿は雪ノ下に似ているが、どこか違った可愛さがある。
なんだろう、渋谷にはどことなくあどけなさがあるというか。いまいち言葉に出来ん。
雪ノ下が達観し過ぎているというのもあるだろうがな。


八幡「17だ」


別に女の子じゃあるまいし、特に言い淀む必要も無いのですぐに答える。
それに対し渋谷は「ふーん」とホントに気のない返事をする。なぜ訊いたし。



凛「どこの高校に通ってるの?」

八幡「千葉市にある総武高校ってとこだけど、知らないだろ?」

凛「うん。知らない。へぇ、プロデューサーって千葉出身なんだ。奈緒と一緒だね」

八幡「奈緒?」

凛「うん。ウチのアイドル。この間スカウトされて入ってきたの。アニメ好きらしいよ」



ほう。そりゃまた気が合いそうだな。
チバテレビでアニメの再放送を見ているに違いない。


凛「ちょっと気が強いっていうか、つんけんしちゃうけど、でも良い子だよ。すぐに仲良くなれたしね」

八幡「……へぇ」



なんとなく、分かった。この渋谷凛という少女が。

もちろん、この程度で彼女の本質が見抜けるとまでは言わない。俺にそんな分かりきったような事を言う資格はない。
それでも。なんとなくだが、彼女がアイドルとして何故スカウトされたのかが分かった気がする。


こうして会って間もない俺に自然に話しかけ、自然に笑う。

普通なら知りもしない相手の交遊関係なんぞ聞かされても、俺は苛立ちしか募らない。
自慢話とまでは言わなくても、そんな話を聞かされた所で、興味も関心も湧かないのである。
むしろ「何? 暗に俺に友達がいない事を皮肉ってんの?」と思うまである。


しかし彼女が話すその口は、その言葉は、不思議と苦にならない。



きっと彼女の言葉には、嘘が無いから。

本当に思った事を話して、思った通りに笑うから。



聞いていて、落ち着くのだ。

素直というのとは、またちょっと違うのだろう。



凛「それでね、加蓮っていう子が……どうしたの?」


八幡「へ? 何がだ?」

凛「いや、なんか笑ってたから。気持ち悪いよ?」

八幡「うるせぇ!」



前言撤回。コイツはただ思った事を口にしているだけだ!
なんなの? 俺のお前への好印象を返してくんない?
そうやって俺が勘違いしてのお決まりパターンなのそうなの?



凛「そう言えば、今朝も事務所の前でニヤニヤしてたよね。……何? そんなにアイドルのプロデューサーになれるのが嬉しかったの?」

八幡「んなわけねぇだろ。俺はそんな変態じゃない」


まぁ、完全に下心が無かったかと言われれば返答に困るが。
お、俺には戸塚がいるから(震え声)



凛「じゃあ、どうして?」

八幡「……このネクタイ」

凛「ネクタイ?」

八幡「…………妹に選んでもらったんだ」

凛「……」



何か言えよ! つーか俺も上手く誤摩化せる言葉が見つからなくて正直に答えちゃったし!


凛「そう……妹さんが……」


ど、どうくる?


「プロデューサーって兄妹中が良いんだね」と笑ってくれるか?

「うわぁ……きもっ…シスコンかよ」とゴミを見るような目で見られるか……?

(注:後者だったら死にます。俺が)





凛「……う、うん。良かった……ね?」ヒキッ




引き笑いで流されたぁぁぁぁああああああ!!!??



やめて! 一番それが傷つくから!
気遣われる方が下手な罵倒よりも傷つくから!!


八幡「し、渋谷? お前は勘違いをしてるぞ。それはもう壮大な勘違いだ」


このままではあれだ、俺が妹にネクタイを選んでもらってニヤニヤしている変態扱いになってしまう。

……あれ間違ってなくね?



凛「大丈夫だよ、プロデューサー。私は気にしないから」

八幡「いや気にしないとかじゃなくてね、俺は別に……」

凛「私はプロデューサーがシスコンでも、頼りにしてるから」

八幡「言っちゃったよ! もうオブラートに包まずハッキリと!」


いや確かに俺は小町の事を愛している。もちろん妹として。
その辺の野郎になんて絶対嫁がせないと思うくらい大切に思っている。妹として。

なんだっけ、あの川なんとかさんの弟の、クラーク博士みたいな名前の奴とか、絶対に小町は渡さんからな!





八幡「……」






あれ、俺シスコンじゃね?


凛「まぁプロデューサーのシスコン話はどうでもいいとして」


どうでもいいとかって言っちゃったよこの子……

思った事ハッキリ言い過ぎだぞ。
ホント、正直というか素直というか。



凛「そろそろ戻ろ? なんか企画説明があるらしいから、ちゃんと聞いとかないとね」

八幡「……へいへい。会計は俺が払うから、渋谷は先に…」

凛「凛」

八幡「あ?」

凛「これから先、一緒にやっていくんだから、私の事は凛って呼んで」


席を立ちかけた俺に、ズズイと寄ってくる渋谷。ち、近いから!
しかも名前呼びを強要されてしまった。これもプロデューサーの勤め…か……?



八幡「お、おう…………凛……」



うぉぉぉおおおお!! はっ…ハッズィィィイイイイ!!!



俺は気恥ずかしさのあまり顔をそらす。たぶん顔は真っ赤になっているだろうな。
名前とかハードル高ぇよ! ぼっちのコミュ力舐めんな!


しかしその反応で満足したのか、渋谷…ではなく凛はニッコリと微笑むと、嬉しそうに頷いてみせた。



凛「うん。改めてこれからよろしくね。プロデューサー」

八幡「……おう」



まったく。勘違いしたらどうすんだよ、くそ。


しかしなんとなく、これで分かってしまった。

彼女の人となり以上に、分かってしまった。
おそらく俺は、彼女には敵わないのだろう。



まるでどこかの、奉仕部の彼女達と同じように。


短くてすみませんが、今回はここまで!

キャラがちゃんと書けてるか不安だ……

投下したいと思いますー。

人いるかな?





プロデューサー。


映画やテレビ番組などの映像作品、ポスターや看板など広告作品、音楽作品、テレビゲーム作品制作など、制作活動の予算調達や管理、スタッフの人事などをつかさどり、制作全体を統括する職務。


以上、ユキぺ…じゃなくてウィキペディア先生より抜粋。

元々プロデュースの意味が生産や制作といった意味なので、こういった意味になるのは仕方がない。
しかし、アイドルのプロデューサーともなれば、また意味は違ってくる。


アイドルの魅力を引き出し、共に成長し、導いていく。

大抵の人は、概ねそういった印象を抱いているだろう。


しかし、だ。


俺はプロデュースのプの字も知らないが、むしろ最初に明記した“制作活動”こそがアイドルプロデュースの実態なのではないかと思う。



魅力を引き出すのではなく、大衆の流行りや好みを擦り付け。


望むと望まないとに関わらず、成長という名の決められた変化を強いられて。


結果、それはただの偶像へと成り下がる。


アイドルという作品を制作する、制作活動。



それこそがプロデューサーという職務の真実なのではないか。

そこに、本当の意味でのアイドルは存在するのか。



俺は、甚だ疑問に思う次第である。









八幡「ーーなので、俺は、全く新しい方法として、放任形式の、プロデュースを、」カキカキ


ちひろ「比企谷くん! 声に出てるから! あと書き直し!!」


凛「……はぁ」


ちっ、もうちょいでQEDだったってのに。

あとそこ、そんな可哀想なものを見るような目でため息をつくな。
いちいち可愛いだろうが。


担当アイドルであるところの凛とのファーストコンタクトを経て、既に四日。
今は事務所の一室にて、書類を書かされている俺である。
つーか、別に凛は居る必要ないんだがな。学校に行けよ。



ちひろ「比企谷くん、それは今後のアイドルのプロデュース方針を社長に報告する大切な書類なの。真面目にやってください!」

八幡「やってますよ。ちゃんと考えた上で、こういった方針をですね…」

凛「だから、プロデューサー一人じゃ不安だったんだよ」


と、またため息を吐く凛。

なに、そんなに俺って信用無い? 無いですね。すみません。
良いと思うんだけどなぁ、放任プロデュース。ほら、放任主義の家庭の子供って逆にしっかりするって言うし? ……あぁ、別にそんな事もないか。ソースは俺。



ちひろ「出来れば今日中に提出してくださいね? その書類は社長も見るんですから」



うわ、出たよその結構上の偉い人も見るからしっかり書けよっていう注意。
担任先生とか脅し文句でよく使うよなー「その報告書は校長先生も見るんだから真面目に書けよー」とかってさ。絶対嘘だろ、あれ。見てたとして「あーうんうん八割書けてるねー」くらいしか目ぇ通してないって。


ちひろ「出してないのは比企谷くんだけですよ? もう」


ぷんぷんと怒った感じで腕を組むちひろさん。
可愛いですけど、もうちょっと年齢を考えて……



ちひろ「何か?」ニッコリ



コイツ……! 直接脳内に……!?



なんてやりとりを交わすくらいには、俺は俺は余裕が持てるようにはなっていた。

凛と会ってからの三日間、俺もとい俺を含めた一般プロデューサーたちは講習を受けていた。
当たり前だ。俺たちは所詮素人。まず最低限に学ぶ事が多過ぎる。


それでも三日という日数では少なく感じるかもしれないが、元々このプロデューサー大作戦は“企画”。

ゲームとまではいかないまでも、本物のプロデュース活動とは違い、いくつかの道筋が立てられている。


例えば今回この企画を上げた事で、各業界のお偉いさん方は当然俺たちの存在を知っている。そこからアプローチし、チャンスを掴み、仕事に繋げていく。


ようはプロデューサー大作戦という礎のおかげで、幾分か難易度が下がっているのだ。

もちろんそれでも仕事は仕事。向こうだってそうホイホイと仕事はくれないだろう。
しかしそれと同時にチャンスと思っている事も事実。これだけ大きな企画だ。向こうにだって便乗しない理由は無い。


つまり、その中で、どれだけ周りと差をつけられるかが鍵になってくるわけだ。


他にも講習の中では、売り出す方向性、レッスンの有無、主な得意先や営業のポイント、スタミナ、エナジードリンクのお買い求めはちひろまでなど、これからの主な行動基準を示していた。

……最後のはいらなかった気がするが。


まぁ何と言うか、“ルール説明”と言えば分かりやすいか。


とにかくそういった感じで、俺は三日間HPを著しく現象させながら過ごしたわけである。
め、めんどくせぇ……


凛「プロデューサーは講習中に、他のプロデューサーと話してみたりした?」


手持ち無沙汰になったのか、隣のソファーに座っていた凛が訪ねてくる。


八幡「……まぁ、少しな」


ふっ、あまり舐めてもらっちゃ困る。
あの華麗な会話の流れを是非見せてやりたかったぜ。

「こんにちは」
「……ぇ…あ、あぁこ、こんにち、ゎ」
「……」

見事に流されたね。それはもう華麗に。
あれ、おかしいな? 手の震えが止まらないや。



凛「…もうちょっと交流を持ったら? 競う相手とはいえ、お互い得るものもあるかもしれないし」

八幡「違うな。競う相手だからこそお互いに得てどうする。それじゃプラマイゼロになるだろーが。むしろ奪うくらいでいい」


まぁ俺は平和主義者なんで、奪う事もせずただ話しかけないがな。
いや、ビビってないよ? オペレーションだよ?


凛「……プロデューサー、友達いないでしょ」


ほう。よく気づいたな。大正解だよおめでとう。いやめでたくないけど。

特に“少ない”ではなく“いない”って言った所がいいね。八幡的にポイント高い。
……あれなんだろう。視界が潤んできた。


八幡「友達がいなくて悪いかよ。友達が多いってのが良い事でも、いない事が悪い事にはならねーだろ」

凛「清々しいくらいの捻くれ具合だね……」


おお、あの凛が苦笑している。何かレアなモノを見た気分だ。
狼狽する雪ノ下みたいな?


凛「……でも」


八幡「あ?」

凛「悪いと思うよ。……あなたの事を、友達と思っている人たちには」


八幡「……安心しろ、そんな奴はいないから」


まったく、なんでこうコイツは真っ直ぐなんかね。

もう少しくらい不純物が入っててもいいんじゃない?


ちなみに彼女が濾過された水素水なら、俺はその辺の田んぼの横の川くらいだろう。
あぁ、「カエルは田んぼに入れよなー」と追いやられた事もあったなぁ。せめてヒキを付けろヒキを。原型無くなっちゃってんでしょうが。



ちひろ「あのーイチャイチャするのはいいから早く書いてくれません?」

八幡・凛「「イチャイチャなんてしてません」」

ちひろ「うわー気持ち悪いくらいの無表情で否定しましたね……」


当たり前だ。俺たちに一体何を求めてんだよ。

そんなまちがった青春ラブコメは奉仕部だけで充分だ。


ちひろ「でも比企谷くん? 凛ちゃんの言う通り、少しでも他の方とお話した方が良いと思いますよ? 今ならプロデューサー人数も少ないですし……」


八幡「足りないの間違いでは?」


ちひろ「うっ……!」グサッ



そう、足りていない。
プロデューサーが足りていないのだ。


これは講習中にも聞いた話なのだが、応募数の割に合格者が少ないらしい。

募集は随時続けていくそうだが、あまり滞り良くはいってない様子。
ちなみに講習内で学生(ぽいの)は俺含めて二人しかいなかった。

まぁ当然と言えば当然だ。大体こういった企画に挑戦しようとするのは、お調子者かアイドルオタクか余程の変わり者だろう。
ちなみに俺は三番目。たぶん。絶対。


もしも本気でこういった仕事をしたいなら、企画ではなく就職活動をするだろうからな。もっとも、これを足がかりに就職にこじつけようと目論んでいる奴もいるみたいだが。


そして地味に意外だったのが、思いの外女性が多かった事だ。

全体の4割程度はいるか? まぁ男にろくでもないのが多かったのだろう。6割もいるのに!


しかしちひろさんから聞く話によれば、社長としては男のプロデューサーの方が期待をしたいらしい。


何故か。それは女性アイドルのファンは、男性の方が多いからである。


男性ファンの目線でプロデュース出来る点は、確かに有利と言えるだろう。

もちろんトップアイドルとなるのであれば、女性ファンは必須。女性の目線で見る事も必要になってくるであろうが、それでもやはり、主なターゲットは男性だろう。


そういった点では俺は有利と言えるのだが……




凛「プロデューサーのコミュ力が、それを補ってあまりあるハンデだね」


八幡「うるせぇよ」


そんな事を話している間に、書類を書き終える。


平塚先生のおかげでなんだかんだ、こういった作業は得意になってしまった。
なら最初からちゃんと書けよ、とかは無しだぞ?

例え却下されると分かっていても、自分の気持ちは曲げずに書く。それが俺のジャスティス。

結果二桁代の再提出をくらっているがな。



ちほろ「どれどれ? ……ほうほう。比企谷くんにしては中々の作戦ですね」


凛「作戦?」

八幡「別にそんな大したもんじゃねーよ」

ちひろ「いやいや、最初の第一歩としては定石とも言えます。案外素人では思いつかないものですよ? 実際、これを提案した人はあまりいませんし」



え? うそ、マジで?
皆やってるもんだと思ってたんだがな。

凛「ねぇ、結局何を……」



「「わぁぁぁああああ!!?」」ドンガラガッシャーン!!



八幡「!?」



な、なんだ!?


突然の悲鳴と騒音に驚き振り向くと、女の子が二人ドアの前ですっ転んでいる。
状況から察するに、恐らくドアの前で聞き耳を立てていたのだろう。


「も、も~う! 卯月が何も無い所でこけるから!」
「え、ええ!? 未央ちゃんだって扉に寄りかかってたし…」


お、おお。

俺は今、感動している……!
まさかこんな漫画みたいな事を素でやる者がいようとは!!



八幡「なるほどな……このあざとさがアイドルには必要って事か……」ゴクリ


凛「……違うと思うよ。っていうか、卯月に未央、何やってるの?」


卯月「り、凛ちゃん。これはね、えーっとー…」


未央「ご、ごめんね? 凛が噂のプロデューサーと二人っきりで話してるって聞いたから、気になっちゃって。あはは」


凛「……まぁ別に良いけど。プロデューサーもいいよね?」


八幡「え? あ、あぁ」


急に話を振らないでくれ。裏返っちゃう。


凛「それじゃ折角だし、紹介しちゃうね。この子たちが同期の卯月に未央」


卯月「はじめまして、プロデューサーさん! 島村卯月、17歳です。よろしくお願いしますっ!」


何故か年齢も教えてくれた島村卯月という少女。

ロングの茶髪に、明るい笑顔。
制服だろう茶色ブレザーが良く似合う。


……なんだろう。確かに可愛いのだが、なんだろう。
清純派アイドル、というのだろうか。

良い意味で王道、悪い意味で……普通?



未央「本田未央15歳、高校1年生ですっ! よろしくお願いしまーす♪」


やっぱり年齢を教えてくれた彼女は本田未央。

少し跳ねた茶髪のショートで、快活そうな笑顔が眩しい。


そして制服の上に……ジャージ? いや、パーカーか。
なんだか、若干由比ヶ浜と同じ匂いを感じる。なんかアホっぽ(ry


八幡「よ、よろしく」


このキラキラを振りまくオーラ、間違いない。上位カーストグループだ……!

まぁでも考えてみれば当然の事だよな。アイドルを目指すって事は、ある程度自分が可愛いという事を自覚していなくちゃならない。上位カーストでなければ、そういった自信もつかないだろう。



しかしアレだな。凛も横に並べてこうやって見ると、バランスが良い。

オーキド博士に「そこに三人のアイドルがおるじゃろ?」とか話をふられそう。


未央「へー、思ったよりカッコいいね。ちょっと目つきがあれだけど」

卯月「み、未央ちゃん失礼だよ! 確かに目つきはあれだけど…」



うおい。あれってなんだあれって。もうはっきり言っちまえよ。
腐ってるってか。皆腐ってると思ってるんですか!?


ちひろ「ごめんね比企谷くん。この子たちはまだプロデューサーがついてなくて……そうだ!」


まるでピコーンと電球がついたかのような表情をするちひろさん。嫌な予感。

何、新しい新作ドリンクとか思いついたの? 買わないよ?


ちひろ「比企谷くん。さっきの案を実行するなら、この子たちも一緒に連れて行ってくれません?」


八幡「は!? な、なんでですか?」


凛一人でも俺のATフィールドがズタボロなのに、更に使徒が2体とか俺がもたないんですけど!


ちひろ「折角なんですから、彼女たちにも色々と経験して貰いたいじゃないですか。もちろん、比企谷くんが俺の担当アイドルじゃないーって心の狭い事を言うんなら仕方がありませんが♪」



ぐっ! この守銭奴……!

絶対わざとやってんだろ!!


八幡「…はぁ、分かりましたよ。どうせ俺は見てるだけになるでしょうしね」


ちひろ「ありがとうございます♪」


卯月・未央「「??」」


凛「さっきから、何なの? その作戦っていうのは」


八幡「だから、そんな大それたもんじゃねーよ。明日早速スタジオ行くぞ」


卯月・未央「す、スタジオ!?」」


凛「な、何をするつもりなの……?」


八幡「決まってんだろ」


アイドルを売り込むのならば、基本と言ってもいいだろう。


しかしだからなのか、あまり気づくものはいないらしい。

まぁ最初からあるので充分な子もいるからな。元が良けりゃ尚更だ。



だが、だからこそここで実行する。


人間の第一印象は、見た目が9割を占めるらしい。

その9割を良くする為の第一歩。




八幡「宣材写真だ」

すんませんホントーに短いんですけど今日はここまでです!

一日じゃあんまり進まないなぁ……

遅くなりましたが、これから投下していきます。






プロデュース活動の第一歩として、まず宣材写真を撮る事を決めた翌日。

場所は東京のとあるスタジオ。ウチのシンデレラプロダクション(断じてデレプロとは略さない。何故だか由比ヶ浜に負けた気分になるから。何故だか)をご贔屓にしてもらってる所らしい。


しかしよく借りられたな。
ちひろさんが色々と手回しをしてくれたみたいだから、ここは感謝しておこう。あ、ドリンクはいらないです。



未央「わ~っ、凄いねっ!」


卯月「私、スタジオって始めて入りました!」



スタジオに入るなり、はしゃぐ女子二人。

それでいいのか若手アイドル。
まぁ、プロデューサーもついてないんだから仕方ないっちゃ仕方ないか。


凛「カメラマンさんはまだ来てないみたいだね。……プロデューサー? どうしたの?」


八幡「……最近、いっぱいいっぱいで気づかなかったんだが、もうあれから5日たってたんだな」


そう。あの真っ黒い社長(意味深)にスカウトされたのが月曜日。それから5日。
つまり……





八幡「今日っ日曜じゃん!!!!」





なんて事だ……なんて事だ……!!
この俺が、土曜日を気づかないままスルーしただと……!?

あ、ありのまま今起こっ(ry


凛「それがどうしたの?」


おい、まだ全部言ってないから。どっちにしろ心の声だけど。


八幡「どうしたも雪ノ下もあるか。お前、俺が将来的に何になりたいか知ってるか?」

凛「……ひも?」

八幡「惜しい。いや惜しくない! 専業主夫だよ!」



凛「(知らないよ……)」

未央「(まず相手いるのかな?)」

卯月「へーっ! 家庭的な男の人って素敵ですね♪」


今ちょっとこの普通に可愛い代表に軽く惚れそうになったが、それはひとまず置いておく。



八幡「働くのが嫌で俺は専業主夫を目指してたっいうのに、いつの間にか仕事に無我夢中で休みに気づかないなんて……こんなのは俺じゃない……!」

凛「安心して。傍目から見ても夢中ではなかったから。あれは五里霧中って言うの」


……なんか、会ってから凛の対応がどんどん冷たくなってる気がする。
心を開いてくれてる証拠だな(棒)。


しかし、ホント気づいた時は愕然としたもんだ。


「あれ、お兄ちゃん今日も仕事行くんだね。日曜出勤なんてお兄ちゃんも立派になって、小町も嬉しいですよ」
「なん…だと……?」


以上。今朝の様子でした。
おかげで道中最悪の気分だったよマジで。



八幡「あぁ…俺どうしちゃったんだろ……なんか急に帰りたくなってきた」

卯月「元気出してください、プロデューサーさんっ!」

未央「そうだよ~。休みの日にこんな美少女3人に囲まれて、ある意味幸せだよ☆」

八幡「……」


うぅむ。やはりこの二人はなんともやり辛い。
これだけ敵意のない対応をされるとコッチが困る。
俺のぼっちオーラが見えんのか?


「失礼しま~すっ」


凛「あ、カメラマンさん来たよ。ほらプロデューサー」

八幡「へいへい……」


その後来たカメラマンさんに挨拶をし、撮影の準備に取りかかる。

ちなみに俺とカメラマンさん(男)のやりとりは誰得なのでキングクリムゾン。
とりあえず普通の人で助かった……


凛「それで、プロデューサー?なんで宣材写真をわざわざ取り直す事にしたの?」

未央「そうだよねー。私たちがデレプロに所属した時に撮ったやつじゃダメだったの?」


おいおい、今更それを訊くのか?
よくここまで素直に着いてきたな。
信頼というかちょっと心配だよ。


八幡「まぁ、色々と理由はあるが、やっぱ一番は印象を強くしたいからだな」

凛「印象?」


きょとんとした様子で首を傾げる凛(可愛い)。


八幡「例えば、だ。お前らが最初に撮った写真。あれもよく撮れてはいるが…」

未央「よくっていうのは?」

八幡「…いや、だからよく撮れてたって…」

未央「具体的に言うと?」

八幡「…………可愛く撮れてました……」


未央「いぇいっ!」

卯月「ありがとうございますっ♪」


なに、なんなのこの羞恥プレイ?
だから連れてきたくなかったんだよ!


凛「…っ……それで? さっきの続きは?」


コイツはコイツで嬉しそうにもしねぇし。

まぁそういう所は担当アイドルとして助かるんだけどな。
つーか、もしかしたら。この二人のどっちかが担当になってた可能性もあるわけか。


……か、考えるだけで恐ろしい…!



八幡「んんッ、まぁ、あれだ。ようはイメージ作りだよ」


俺は段々面倒になってきたので、かいつまんで説明する。


八幡「最初に撮ったやつは、確かに見た目こそ良くは撮れていても、そこには明確なイメージが無い。紹介的な意味合いが強かったからな。証明写真と何ら変わらん。それじゃ駄目だ」


宣材写真とは読んでそのまま、“宣伝材料となる写真”なのだ。


八幡「自分を紹介するのではなく、自分を宣伝する。これは近いようで違う。これからお前たちは自分を売り込んでいくんだからな。もっと“私はこういうアイドルなんだ”って写真を……ってどうした?」


凛「……いや、なんていうか」


見ると、凛は目を丸くして少しばかり驚いてる様子が伺える。
他の二人も同じような表情だ。


凛「プロデューサーがそこまでちゃんと考えてたなんて……以外」


普通に失礼だなおい。


八幡「そんな凄い事はしてないけどな。ホント初歩的な所だぞ?」


これが一般者上がりのプロデューサーだから見落としがちなだけで、プロの業界なら当たり前の事なんだろう。それこそ仕事を掴む為なら、何枚でも撮って最高の宣伝材料を作る必要がある。


八幡「実際、宣材写真を自分のイメージに合ったものに変えただけで、クライアントの反応が良くなったって話もあるらしい。印象操作とは言ったもんだよ」


ま、どこのプロダクションとは言わないけどな。
俺も、少なからず調べたりもしてるって事だ。


卯月「凄いな~。ただ可愛く撮るだけじゃダメなんだね」

未央「その人に合った写真を撮る、って事か。難しいなぁ」


八幡「ま、今日一日は時間も取ってある。色々試してみろ。自分に合った写真をな」


凛「……」


後半から終始無言な凛が気になるが……
お前、黙ると怖いんだよ!


とにもかくにも、撮影開始!






卯月「えへへ♪ よろしくお願いしますっ!」


とりあえずは試しに色々撮ってみるという事で、まずは最初に島村が撮る事になった。
よくテレビとかで見る白いバックを背景に、カメラマンが一定の間隔でシャッターを切っていく。


カメラマン「いいねー、もう少しかがんで…そう。いい感じだね」

卯月「可愛く撮れてますか?」

カメラマン「うんうん。んじゃ次は後ろ向きで、振り返る感じで…」



へぇ、やっぱ新人とはいえ、アイドルなんだな。

こうして見ていると、中々様になっている。
ちなみに衣装は自前。ようは私服である。

あれ島村さん、ちなみに私服の方はどちらで……? はい、すいません、なんでもないです。


未央「次は私ねっ、よろしくお願いしまーす♪」


続いて本田が躍り出る。いやほんとそれくらいの勢いでカメラの前に立った。


カメラマン「元気いいねぇ。動きのあるポーズしてみよっか」

未央「こーんな感じ?」


カメラの前で手を組んだり、かがんでみたり、時には跳ねてみたり、縦横無尽にポーズを取る。
ホントに元気だなぁ……なんだか小町を思い出す。
ま、小町には敵わんがな。



カメラマン「いいよいいよ、こっちまで楽しくなってくる」

未央「えへへーっ、ありがと♪」


うむうむ。大変目の保養になりますな。
これで少しは目の腐りが治ればよいのだが。




しかし、調子が良かったのはここまでだった。




カメラマン「うーん、もうちょっと笑顔になれない? ちょっと堅いかなぁ」

凛「は、はい……!」



我が担当アイドル、渋谷凛である。



凛「……っ…」カチコチ


うわぁ……見事にぎこちなさが伝わってくる。
笑顔になろうとしてるのはわかるのだが、引きつっているせいで苦笑いにしか見えん。

なんかどっかで見た事ある顔だなと思ったら、あれだ、由比ヶ浜に俺のトラウマ話をした時の顔にそっくりだ。何それ、あいつそんな頑張って笑顔作ってたの? 逆に悲しくなるんですけど。


カメラマン「……ちょっと休憩しようか? 落ち着いたら、また撮ってみよう」

凛「……はい」



撮影を一時中断し、凛がトボトボと帰ってくる。

なんか、しょげてる姿はそれはそれで保護欲をそそるな。
って、俺は何考えてんだ! 俺には戸塚が(ry


八幡「気にすんなよ。まだ時間はある……って、どこ行くんだよ」

凛「ちょっと、風に当たってくる……」


そのままトボトボとスタジオを出て行く。



卯月「凛ちゃん……」

未央「……」


八幡「……お前らは先に写真撮ってろ。時間も勿体ねぇしな」


卯月「でも…」

未央「よーっし、いっちょ気合い入れて撮りますか!」



食い下がろうとする島村に対し、いきなり本田が声を張り上げる。

あの、近くで叫ぶのやめてくんない? びっくりするでしょうが。
材木座だったら殴っている所である。



卯月「み、未央ちゃん?」


未央「私たちがさ、凛の事を気にして写真撮れなかったら、凛だってきっと嫌でしょ? だったら、私たちは凛が戻ってくるまで思いっきり撮ろ? すぐ戻ってくるよ。きっと!」



まるでニコッという音まで聞こえてきそうな笑顔。
それはさっきまでカメラの前で見せていた笑顔と何ら変わりないように見え、ちょっとだけ、違って見えた。


卯月「……うん、そうだね。私たちまでしょんぼりしてたら、凛ちゃんも困っちゃうよね」

未央「うんうん♪」

卯月「よぉーし! 未央ちゃん、一緒に撮ろっ!」

未央「うんう……え?」


言うやいなや、本田の手を取り、カメラの前まで向かう島村。


未央「ちょ、ちょっと卯月! これ、宣材写真だよ?」

卯月「二人で撮ったら、きっと凄く良い写真になるよ!」


最初はポカーンとしていた本田だが、諦めたようにクスクスと笑うと、改めてカメラに向き直る。


未央「確かにね。折角だし、思いっきり撮っちゃおう! 次は凛も一緒にねっ!」

卯月「うんっ! カメラマンさーん、よろしくお願いします♪」


見ると、カメラマンと目が合う。
俺が肩をすくめて見せると、相手もならって苦笑する。迷惑かけるね。


カメラマン「オーケー、それじゃ元気よくいってみようか!」


スタジオ内に、またもシャッターを切る音が鳴り始める。



……ホント、仲がヨロシイこって。

あいつらは……島村と本田は、凛の事をライバルであり、同僚であり、友達だと思っているのだろう。
おそらく、凛も。


例え競う相手だろうと、仲良くしたい。

 
俺にとっちゃ、そんなのはゴメンだ。

どうせ負ければ、本気で恨めしいし、妬ましい。
そんな薄っぺらい関係など、友情とは呼ばない。



……だけど、な。


ああやってカメラの前で笑顔を振りまく彼女らが、そうだとは、思えなかった。

信じたいと、思ってしまった。



……なんだよ、ちゃんとアイドルやってんじゃねぇか。



本来なら、我間せずといきたいところだが、生憎とそうもいかないらしい。


俺は、アイツのプロデューサーだからな。







八幡「ほれ」

スタジオを出てすぐ右の花壇。
そこに凛は座っていた。

充分に間を空けて腰掛け、来る途中に自販機で買ったMAXコーヒーを渡す。
ちなみに俺の分も買ってきてある。というかむしろ俺が飲むついでだ。


凛「……ありがと」


コーヒーを受け取り、開け、一口飲む。顔をしかめる。何故だ。


凛「すっごく甘い。うん、甘い」

八幡「それが良いんだろーが。コーヒーは甘くてなんぼ」


ブラックなんぞ飲めるか。俺はそんな一方通行な味覚はしていない。


コーヒーを啜りつつ、景色を眺める。 
それ以降は何も喋らず、お互い無言のままコーヒーを飲んでいた。



5分か10分がたったくらいだろうか。凛が、静かに口を開く。


凛「……私ね、写真が苦手なんだ」


少しだけ俯いて話す横顔を見るが、相変わらずの無表情だ。



凛「ううん。苦手ではないんだ。……ただ、作り笑いっていうか、人前で表情を作るのが苦手なの」

八幡「まぁ、言わんとしてる事は分かるな」


前に俺が感じたたように、渋谷凛という人間は、きっと自分に正直なのだろう。だからそれだけに、自分を偽るのが下手なのだ。



凛「笑わなきゃって思うと、どうしても引きつっちゃって……私、見ての通り愛想がないからさ」


ぽつぽつと言葉を零していく凛。


凛「こんなんじゃ、ファンなんて出来ないよね。……私、アイドルに向いてないのかな」




……それは違うだろ。



八幡「違ぇな。全然違ぇ」

凛「え?」



そんなのは、まちがっている。



八幡「凛。お前に一つ話をしてやろう。俺の知り合いの兄貴の話だ」

凛「……」


八幡「そいつは小学校時代好きな気になる子がいてな。なんとかお近づきになりたかったんだ。……でも、そいつはコミュ症だった」


凛「……ねぇ、それって…」


八幡「まぁ最後まで聞け。んで、そいつはどうしたかっつーと、とりあえず、笑顔で自然に挨拶出来るようになろうとしたんだ。そいつは毎日鏡の前で練習した。何度も何度もな」



ちなみに練習している所をクラスメートに見られて気持ち悪がられるというホントにいらないサブエピソードもあるのだが、それは置いておこう。知り合いの兄貴の話だからね?



八幡「そしてそいつは遂に行動を開始した。偶然会ったフリをして、挨拶をする。それを一週間くらい続けたんだそうだ。結果ーー」


凛「……」





八幡「ニヤニヤした男子につけられてると先生に報告された」


あれは怖かったなぁ。まさか先生に呼び出されるとは。



八幡「それ依頼、俺は女子の間でヒキニヤくんと呼ばれるようになりましたとさ」


凛「……やっぱりプロデューサーの話じゃん」


バレたか。いやそりゃそうですねすみません。


凛「結局、何が言いたかったの?」


八幡「無理に笑う必要なんざねーって事だ」



まぁ俺のトラウマ話と一緒にするのは失礼な気もするが……失礼だな。うん。


凛「……でも、笑わないアイドルなんて」


八幡「アイドルが笑わないといけないなんて誰が決めたんだよ。そんなのは思い込みだ」



作った笑顔でなきゃ出来ないファンなんて、本当のファンじゃない。



八幡「ファンの為にーなんて事は、もっと売れてから考えろ。今は、そんな無理に笑おうとなんてしないで、お前がやりたいようにやりゃいい。愛想なんてハナコにでも食わせとけ」


凛「……」


八幡「そんで、その内ファンが出来たってんなら、それは“渋谷凛”のファンだろーよ」




作り物でもなんでもない、本物のな。


凛「……ふふ」


と、いきなり笑い出す凛。

え、なに? 俺なんか可笑しい事言った? やっぱハナコじゃなくて普通に犬って言った方が良かった?



凛「プロデューサーって変だよね」



心配するな。自覚はしてる。
そんな自分が大好きだけどな。



凛「捻くれてて、めんどくさがりやで、ぼっちで……」



凛が、顔を上げて、こっちを見る。







凛「でもーー優しい」




そこには、見る者全てを幸せにしてしまいそうな、本当に自然な笑顔があった。




八幡「ーーっ」




やばい。今のはやばい。


危なかった…
ヒキメットが無ければ即死だった……


勘違いマスターの俺じゃなかったら、間違いなく落ちてたぜ。



凛「プロデューサー?」


八幡「な、なんでもない。ほら、そろそろ戻るぞ」


あいつらも待ってるしな。

そう言ってやると、凛は静かに頷いた。



凛「うん。私も、負けてられないからね」



そこには、ただ一人のアイドルが立っていた。









その後、何枚かの写真を撮り、プロデュース初日は終了した。


結果的に言えば、凛の写真は良く撮れた。

無理に笑おうとせず、時にはクールな無表情を。
そして静かに、微笑んでいた。



まったく、我が担当アイドルながら恐れ入る。
一度覚悟を決めれば、どこまでも行けるらしい。

……ホント、誰かさんにそっくりだ。




卯月「それじゃ、プロデューサーさん! 今日はありがとうございました♪」

未央「またいつでも、一緒にプロデュースしてくれてもいいからね♪」


去り際に不吉な言葉を残していく二人。
いやホント嫌な予感がすんだよね。大丈夫だよね。



未央「折角だし三人でユニット組んで、まとめてプロデュースしてもらうってのも良いカモ!」


卯月「わぁ! 良い考えですねっ!」



わぁ、最悪ですね。
ホント嫌だからね。
変はフラグ立てないでねお願いだからっ!



卯月・未央「「さよ~なら~っ」」




八幡「ハァ……んで、お前もこのまま帰るのか?」


凛「そうだね。今日はこのまま帰るよ。それでプロデューサー、明日なんだけど」


八幡「明日?」


凛「うん。明日は学校に行こうと思うんだけど、良いかな? これから本格的に休むし、手続きとかしておきたいんだ」



成る程な。確かに明日は月曜だし、丁度良いっちゃ良い。
……マジか、月曜か。滅びねぇかな。


八幡「いいんじゃないか。まだレッスン始めるって言ってないし、今の内に行っとけ」


凛「うん。ありがと。どうせなら、プロデューサーも行ってきたら?」


八幡「行ってきたらって……学校にか?」



ふむ……確かに俺も急に休んだもんだから、色々と手続きが残ってたような……
めんどくさいが、行っておくか。ここから先、行けるようになるかも分からんし。



八幡「そうだな。平塚先生にも報告して……お…く……?」


凛「? どうしたの?」




八幡「…………やべぇ……」


凛「何が?」












八幡「雪ノ下と由比ヶ浜に、プロデュース活動の事言ってねぇじゃん……」




どうなる、俺。




というわけで今回はここまで。次回は遂にゆきのんとガハマさんが出ます!


ヒッキーのこれじゃない感がヤバい……

レスが多いと、これだけ読んでもらってるんだとニヤニヤしてまう。

という事で安価終了です。ありがとうございました。

しかし思ったより好きなキャラが多くて迷うなぁ……
恐らく次次回くらいに登場する事になるので、お楽しみに。

それでは投下していきます。







月曜日。恐らくは曜日の中で人気投票をしたら断トツで最下位になるであろう曜日。

世の学生、社会人が幾度となく憎み、来るなと願う曜日である。
だが、祝日が多い点は喜ばれる。人って現金だよね。


ちなみに俺は言わずもがな土曜が好きである。時間指定でもいいのなら、金曜の夜から土曜にかけてが至高。

それだけに、先週の土曜が悔やまれる……!


まぁそういうわけで、俺は月曜日の朝、久々に学校に登校しているのであった。



八幡「…………だりぃ……」


真に不思議なんだが、仕事をしていた時は「あぁ、なんだかんだで学校って楽だったなぁ……」とか思っていたのに、今学校に向かう足は非常に重い。蟹に遭ったりしてないよな俺?


八幡「あぁ……チーズ蒸しパンになりたい」


「食べられちゃうけど良いの?」


八幡「むしろそこが良いんだろ。是非とも戸塚に……」




……いや、何故いるし。




未央「昨日ぶりだねっ、プロデューサー♪」



いきなり独り言に反応があったかと思い振り返ると、何故かは知らんが本田がいた。うん。ダメだ、そのパーカー、どうしてもジャージに見える。



八幡「お前、こんなとこで何してんだ?」


未央「決まってんじゃん、学校だよ。まだプロデューサーもついてないしね~」


八幡「学校? って事は、まさかお前……千葉出身?」


未央「ピンポ~ン♪ ていうか、知らなかったの?」


確かにパーカーで気づかなかったが、コイツの制服、どこか見覚えがある。そういや、コイツ同い年だったな……ぶっちゃけ凛の方が大人びて見えるぞ。体型以外。

というか、出身地なんて知るわけないだろ。担当アイドルならまだしも、他のアイドルのプロフィールなんていちいち覚えてられるか。



八幡「なんだったっけな、な、な、……奈緒子? って奴は千葉出身って聞いたが」


未央「直子? うーん知らないなぁ。私の知らない子なのかな?」



世間ってのは狭いもんだな。この分じゃ、千葉出身ってもっといるんじゃないか? 知らないだけで、もっといるのかもしれない。



未央「それにしても、プロデューサーの制服姿ってなんか新鮮だね。似合ってるよ♪」


八幡「はは、ドーモ」



壁だ、壁を張るんだ八幡。心の壁を。方位、定礎、結!


未央「あはっ、これ凛に教えてあげたら、悔しがるだろうな~♪』


二ヒヒ、と笑う本田。

何、そんなに俺の可笑しな所が見たいのアイツは?
プロデューサー傷ついちゃうよ?


つーか、俺からすればこっちの制服の方が慣れ親しんでるし、スーツなんて着てまだ一週間たってないぞ。



「未央ちゃーん! 早くしないと遅刻しちゃうよー!」



と、不意に俺とは違う方向の少し離れた所から、本田に向けて呼びかけが飛んでくる。

見ると、後ろ髪を団子にした黒髪の女の子が手を振っている。あれは確か中学校の制服か? 小町が可愛いと褒めてたのを覚えてる。学校が近いから途中までは一緒に登校、という感じだろうか。

しかしあの子も結構可愛いな。さすが上位カーストグループ。周囲のレベルも高いね。

あと、あの子に似てる。うんたんの妹さん。人が隣に居ると優しくなる子。
小町には劣るが、あの子も中々のシスターポイントの持ち主である。


未央「あっ、ホントだ! ごめんプロデューサー、またね!」


ケータイで時間を確認すると、慌てて駆けていく本田。


「ごめんごめん、凛のプロデューサーがいたからさ」
「えっ、あの人がそうだったの? 言ってくれればよかったのに!」
「まぁまぁ、今は時間無いし、挨拶はまた今度事務所でね♪」
「うー……礼儀のなってない子だと思われてないといいけど……」


よくは聞こえなかったが、姦しく学校へと向かっていく女子二人。

なんで女子ってのはああも元気なんかね。というかリア充が。
こっちの元気まで吸われた気分である。




八幡「…………ハァ、行くか……」



この後、もっと元気の無くなるイベントが控えているっていうのにな。







さて、久々の教室である。

良かった、入ってみて「お前の席無ぇから!」とか言われたらどうしようかと思った。
ちゃんといつものそこに俺の席はあった。少しだけ哀愁が漂っているのは気のせいだろう。


俺が教室に入ってから、何人かが「あれ? コイツ来たんだ」みたいな視線でチラっと見てくるが、所詮はその程度。わざわざ話しかけてくる奴などいない。




……と、思っていたんだが。


席につき、背もたれに体重を預けた直後の事だった。

ツカツカと急ぐような足音。
誰かが近づいて来てるな、と思ったのも束の間。




思いっきり机を叩かれた。




めちゃくちゃ驚いた。当たり前だ。

そして机に手を置き、こちら見据える人物ーー








由比ヶ浜「今まで何してたのヒッキー!!?」






奉仕部の一人。由比ヶ浜結衣だった。


ていうか、うるせぇよ……


周りを伺うと、クラスの殆どの連中がポカンとした表情でこちらを見ている。
そりゃあんだけ大声で叫べばなぁ。お前、空気を読むのが得意じゃなかったの?



八幡「お、落ち着け由比ヶ浜。もう少し声のトーンを…」


由比ヶ浜「落ち着いてられるわけないじゃん! 連絡も寄越さないし、来る時もいきなりだし!」



近い近い良い匂いだし近いし後おっぱいだし近いって! おっぱい!



八幡「分かったから。どうどう」


由比ヶ浜「犬じゃないから!」



おぁ、このプンスカ怒る感じも懐かしい。つーか、いい加減ホントに抑えてくれませんかね。さっきから獄炎の女王の目が怖ぇんだよ……!


チラッと時計を確認する。……もう授業が始まるな。仕方ねぇ。



八幡「……由比ヶ浜。ここには荷物を置きにきただけなんだ。元々職員室に用事があって来ただけだから、俺はそろそろ行かなきゃならん」


由比ヶ浜「でも、まだ説明してもらって…!」


八幡「放課後にでもいくらでも説明してやるから。“部活を何日も休んで悪かったな”。“わざわざ注意させちまった”」



俺は静かになった教室で、大き過ぎず小さ過ぎない、全員に聞こえるくらいの声で言ってやる。



由比ヶ浜「……ヒッキー」


八幡「用事が終わったら俺は部室にいるから。じゃあな」




何かを言いたそうにしている由比ヶ浜の横を通り抜け、教室から出て行く。
出て行く間際、複雑な表情をしている葉山と、一瞬だけ目があった。






場所は奉仕部の部室。

俺が学校を休む前と、なんら変わりない。
まぁ、一週間しかたってないんだから当たり前なのだが。



八幡「……ヒマだな」



由比ヶ浜にはああ言ったものの、職員室に用事なんて特にない。
昨日の夜平塚先生に確認してみた所、必要な手続きは全てやってくれていたそうだ。
ぶっちゃけ来なくても良かったのだが、平塚先生にも一応礼と、報告とかしておきたかったし、何より。


奉仕部に、顔を出しときたかったしな。


しかしそれにしたってやる事がない。

本当はテキトーに授業に出て放課後まで時間を潰すつもりだったのに、これではサボっているみたいじゃないか。サボってるけど。
いつも読んでいる本もカバンの中だ。あんだけ言って教室になんて今更戻れるはずもない。



八幡「紅茶でも入れてみますかね。……いや、勝手に触って雪ノ下に怒られるのも嫌だしな」



いつからか用意されてあった湯沸かしポットを動かしてみようかと思い、身の保身を優先する事にした。
つーか、そもそも使い方も分からんしな。


まぁ、最近忙しかったし、たまにはボーっとするのもいいか。

窓を開け、緩やかな風を部屋の中へと招き入れる。


そういや図書室があったな。
後で本でも借りてくるとしますかね。

……授業中って開いてんのかな。


椅子にもたれ、窓の外を眺めながら、風に当たる。



何故だか、図書室にずっと居るという発想は無く、俺は結局しばらくの間、奉仕部の部室で時間を過ごしていた。












八幡「……んぅ…」



ふと、目が覚める。


どうやらいつの間にか寝てしまっていたみたいだ。……こうやって机に突っ伏して寝るのも久しぶりだな。

昼休みにパン食ってたのまでは覚えてんだけどなーと記憶を辿りながら上体を起こし、伸びをする。






雪ノ下「……」






目が合った。


八幡「おおぅッ!?」ビクッ


っくりしたー……!

いやいやいや。怖過ぎんだろオイ……



雪ノ下「ようやく起きたわね。いつまで私を待たせるつもりだったのかしら」



ハァ……と視線を落とし、ため息を吐く雪ノ下。
いちいち様になっているのがまた腹が立つ。可愛いけど。



八幡「いや、別にそんなつもりは無かったし。つーか、お前いたのかよ。起こしてくれればよかったのに」

雪ノ下「そんな事よりも比企谷くん」



無視ですかそうですか……



雪ノ下「久々に会った私に、何か言う事は?」


八幡「……髪切った?」

雪ノ下「本気で言っているのなら逆に関心するわ……」



呆れたような表情で俺を見る雪ノ下。

ええー。だって思いつかないしなぁ。
ホントは「少し太った?」ってボケてみたかったが、さすがに自重。目で殺されちゃう。



雪ノ下「久々に会った人には、最初に言う言葉があるでしょう。そんあ事も分からないのかしら」

八幡「……あー…」


まぁ、あれだな。
挨拶ってのは大事なことなわけで。




八幡「……久しぶりだな。雪ノ下」


雪ノ下「ええ。久しぶりね。比企谷くん」



ただの挨拶。それをすませると、雪ノ下雪乃は、満足したように微笑んだ。




由比ヶ浜「ヒッキー! いる!?」


何だか良よくわからない空気になっていると、ドアが勢いよく開け放たれ、由比ヶ浜が入ってくる。
はいはいここにいますよ。俺は……ここにいる!



由比ヶ浜「良かった、ちゃんといた……それじゃあヒッキー。何があったか説明して…」


八幡「まぁ待て由比ヶ浜。その前に大事なことを忘れているぞ」



俺の姿を確認して安堵している由比ヶ浜に、訊かれるにこちらが攻める。



由比ヶ浜「? 大事なこと?」

八幡「あぁ。そうだよな雪ノ下?」

雪ノ下「ええ、そうね。大事なことだわ」


何の事だか分からず、頭の上にはてなマークを浮かべている由比ヶ浜。

しかし雪ノ下って、由比ヶ浜を弄る時も結構ノリノリだよな。絶対に楽しんでやってるだろ。



八幡「久々に会った奴には、言う事があるだろ?」

由比ヶ浜「…っあ! そっか! やっはろーヒッキー!」

八幡「……」




うん。まぁ確かに挨拶に変わりはないんですけどね。
なんだろう、なんか嫌だ。返したくない。



八幡「……さて。そんじゃ要望通り説明しますかね」


由比ヶ浜「無視!? これじゃなかったの!?」


雪ノ下「それじゃあ、私は紅茶を入れるわね」


由比ヶ浜「ゆきのんまで!?」



こういう時だけは俺に合わせてくれる雪ノ下。ドSの鏡である。
しかし今日は会ってからというもの、少しばかり優しい気がする。
はっはー。何か良い事でもあったのかい?



雪ノ下「比企谷くんは水道水で良かったかしら」

八幡「安心した。お前jはいつもの雪ノ下だ」

由比ヶ浜「もー! 二人とも聞いてよ!」



一週間ぶりの奉仕部。

友達でも、親友でも、ましてや恋人でもない俺たちの関係。


それでも、居心地は悪くなかった。








俺が二人にここ一週間の事を説明すると同時に、俺がいない間の学校での出来事を聞く。

俺が気になったのは、俺が休む理由を平塚先生がどう告げているかだ。
別に俺がいない事に疑問を抱く奴はいないと思うが……まぁ、こいつらを除いて……一応確認したかったのである。
一応担任だからな。クラスの奴らには何かしら報告はしているはずだ。



由比ヶ浜「あー、平塚先生は『家庭の事情』って言ってたよ。なんか、凄く真剣な風に」



オイ。なんだその典型的なあまり良くない休みの理由は。
ウチは全然そんな事ないですよ? 兄妹仲も良いしな。良いよね?



由比ヶ浜「どうにも怪しいからさ、授業が終わった後に先生に訊きにいったの。ゆきのんと一緒に」



そう言われて雪ノ下を見やる。


雪ノ下「わ、私は奉仕部の一員として、部員の状況を正確に把握しておきたかっただけで……」



はいデレのん頂きましたー。あ、やめて、ボールペンを振りかぶらないで。さすがに抜き身はヤバいから。



由比ヶ浜「で、その時にヒッキーに直接聞きなさいって言われたの。それと、忙しいだろうから電話やメールは控えるように、って」



なるほどな。あれだけ何してたか知りたがっていたのに、連絡を寄越さなかったのは不思議だったんだが。納得した。

つーか、やっぱりアイドルプロデュースの事は伏せてたんだな。まぁ、俺としても助かる。
もしもそんな話が広がったら、今後のプロデュースに影響が出ないとも限らんし。


由比ヶ浜「ホントはすっごい気になってたから、すぐにでも連絡取りたかったんだけど……」


雪ノ下「私が送らないと言ったら、彼女も我慢する事にしたそうよ」

由比ヶ浜「だって、あたしだけ必死で恥ずかしいじゃん!」



顔を赤くする由比ヶ浜に、それを微笑ましく見る雪ノ下。
コイツら仲良いなぁ……



八幡「まぁでも、別に夜とかだったら問題無かったけどな。返したかは分からんが」

由比ヶ浜「そこは返してよ……あ、それとねヒッキー」



少しだけしょんぼりしたかと思うと、何か思い出したかのように笑顔になる。なんだ、やけに嬉しそうだな。


由比ヶ浜「先生に聞いたんだけど、私たち以外にも、ヒッキーの事聞きにきた人いたんだって!」



なん…だと……?

一体誰だその物好きは。……はっ、まさか…!?



由比ヶ浜「んっとね、一人はさいちゃん」



うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!

戸塚キターーーー!!




雪ノ下「とても心配していたらしいから、後でちゃんと謝っておいた方が良いわよ」


こればっかりは雪ノ下の言う通りだ。
くそう……何故俺は戸塚だけにでも説明しておかなかったんだ……!
そもそも、何故戸塚をプロデュースしなかったんだ俺は!!


俺がうぐぐ、と自責の念にかられていると、由比ヶ浜が話に戻る。



由比ヶ浜「あとね、中二」

八幡「あ。そう」

由比ヶ浜「軽ッ!?」

雪ノ下「今初めて彼に対して同情したわ……」



大丈夫だ。アイツはドMだからな。むしろありがとうございますってなもんだ。


まぁでも予想通りだったな。
確かにその二人なら訊いてもおかしく…


由比ヶ浜「あとね、もう一人いるんだ」


八幡「え?」


由比ヶ浜「隼人くん」





……それは、正直以外だったな。





八幡「……そうか」

雪ノ下「……」


あいつがどういったつもりで俺の事を訊いたのかは知らないし、興味も無い。

ただ、一つ言える事は……






この事実を、海老名さんには絶対に教えてはいけないという事だ……!!






最悪日血の雨が振るやもしれん(海老名さんの)。ダメ。絶対。

とりあえずは、聞きたい事は聞き、こちらのアイドルプロデュースの事についても説明した。


由比ヶ浜「うっそ……」


雪ノ下「……まさか、本当にプロデューサーになるなんてね」




説明し終えると、二人はとても信じられないといった顔でコチラを見ている。まぁそりゃそうか。まず自称社長の真っ黒な人にスカウトされるという時点で信憑性が無い。俺だって信じれるかい。



由比ヶ浜「アイドルのプロデューサー……か。……ねぇヒッキー」


八幡「なんだ?」


由比ヶ浜「その担当アイドルの子って、可愛い?」


いきなり何を言い出すんだコイツは。俺が可愛くないなんて言ったらどうするんだ? いや可愛いんですけどね。


しかし素直に可愛いと言うのも気が引けたので、写メを見せてやる事にした。
写メはこの間の宣材写真を撮った時のもの。三人が仲良く身を寄せ合い、笑顔を振りまいている。

言っておくが、撮ってくれと頼まれたから撮ったんだからな?



雪ノ下「……三人いるわね」


由比ヶ浜に写メの写ったケータイを渡すと、隣の雪ノ下も覗き込む。


八幡「真ん中の黒髪だ」

由比ヶ浜「可愛い……どことなくゆきのんに似てるね。


それは同意。


雪ノ下「そうね。是非一度会って話を聞いてみたいわね。セクハラは無いか、とか。パワハラは無いか、とか」


もうハラスメントするのは決定なのかよ。
俺はそんな事はしない。する度胸も無い。
だからその怖い視線をどうにかしてくださいお願いします。



由比ヶ浜「この他の二人の子は?」

八幡「同期のアイドルだよ。まだプロデューサーがついてないらしくてな、俺が面倒を頼まれたんだ」


あの守銭奴事務員のおかげでな。
どうでもいいけど、あの人なんで会う度にドリンク勧めてくんの? セールスマンなの?


由比ヶ浜「……ヒッキー、楽しそうだね。女の子に囲まれて」


見ると、由比ヶ浜がなんかムスッとした顔をしている。
おいおい、お前は何にも分かっちゃいないな。


八幡「楽しいわけあるか。専業主夫を希望する程働くのを嫌っていた俺が、学生から社畜になってんだぞ?」


まさに苦行。リアルどうしてこうなったである。


雪ノ下「けれど、辞めるつもりはないのでしょう?」


雪ノ下がなんて事のないように言う。
少しだけ頬が緩んでいるようにも見える。


八幡「……今の所は、な。頼まれた以上、中途半端で投げ出すわけにもいかないし、それに…」


由比ヶ浜「それに?」



八幡「……担当アイドルを、放っとくわけにもいかないからな」




やれやれ、放任形式プロデュースはどこへいったのやら。
どうやら俺は、子供が出来たら親バカになるタイプらしい。


由比ヶ浜「ヒッキー……」


雪ノ下「そう……なら、応援しているわ」


由比ヶ浜「うん…そうだね! 頑張ってヒッキー! あたしも応援してるから!」




応援は俺じゃなくて凛にしてやってくれ。

まぁでも、今日は来ておいて良かったかもな。



二人の微笑む姿見て、少しだけそう思った。









帰り道。
珍しく今日は奉仕部三人組で道を歩いていた。


「今日は折角の休みなんだから、遊ぼうよ! 明日からまた仕事なんでしょ?」とは由比ヶ浜の談である。

「あなたが遊びたいだけでしょう……」ちなみにこれは雪ノ下談な。


ま、少しくらいなら付き合ってやりますかね。
俺もそろそろ千葉成分を補給しておかないと東京の空気にやられてしまいそうだし。



由比ヶ浜「それでねーその時散歩で会った犬がちょー可愛くてさ! 飼い主さんもすっごい美人でー、なんて言ったかな? 確かアッキーって名前!」


それは犬の名前がアッキーなのか? それとも飼い主の名前がアッキーなのか? どっちでもいいけど。



雪ノ下「ところで由比ヶ浜さん。この後どこに行くかは決めてあるの?」

由比ヶ浜「え? この後? んー……っと。どこに、しよっか?」

雪ノ下「……そんな気はしていたわ」



こめかみを軽く押さえながら目を伏せる雪ノ下。
諦めろ、コイツはこういう奴だ。



由比ヶ浜「ほ、ほら! 折角なんだし、ヒッキーの行きたい所に行こうよ!」

八幡「帰りたい」

由比ヶ浜「家以外で!」


えー? わがままだなぁ、家最高じゃん。小町いるし。



雪ノ下「埒が明かないから、さっさと決めてちょうだい」


ならお前も考えろよ。
なに、そんなに俺の行きたい所に行きたいわけ?



八幡「そんなん言われてもな。別に…」





「プロデューサー?」


こ、この声は……!?


背後から聞こえてきたのは、最近よく聞き馴染んだ澄んだ声。

ゆっくりと、振り返る。



八幡「……!」



そこには、我が担当アイドル。



凛「昨日ぶりだね。プロデューサー」



渋谷凛が、そこにいた。
何故だ。


八幡「な、なんでお前がここにいるんだ?」



ここ千葉よ? なに引っ越してきたの? 良いセンスだ。いやそうじゃくて。



凛「前に奈緒が千葉出身って言ったでしょ? だから遊びに来てたんだ。もしかしたらプロデューサーに会えるかもって思ってたけど、ホントに会えたね」クスッ



なんだコイツ可愛い。

俺が思わず担当アイドルの可愛さに惑わされていると、今度は更に背後から話しかけられる。



雪ノ下「比企谷くん。その子は……」

由比ヶ浜「なになに、どうしたの? って、あーっ!!」


凛「? そちらの方たちは……?」



なに、なんなのこの状況!?
別に悪い事はしてないのに冷や汗が止まらない!

なんかコイツら睨み合ってるし!



……これは、あれだな、うん。








俺の同級生と担当アイドルが修羅場すぎる。

今回はここまで! 長引かせた割に短くてすみません! 眠いんだ!

誤字脱字も多いですけど、脳内補完していただければ。

たぶん明日も来ますので。

それでは皆さん良い週末をー

凛ちゃんの中でもアイオライト凛ちゃんが特に好きな1です。

それでは今日も投下していきます!







前回あった三つの出来事!


なんと、本田は千葉出身アイドルだった! 世間って狭いね。

久々の奉仕部! 起きた瞬間に目の合う恐怖。怖い。雪ノ下さん怖い。

俺の同級生と担当アイドルが修羅場すぎる! いや別に修羅場になる要素無いよね?


というわけで、(嘘であり悪である)青春スイッチ・オン!






雪ノ下「比企谷くん? 黙ってないで何か言ったらどうかしら」

由比ヶ浜「ヒッキー! 聞いてるの!?」

凛「プロデューサー、その人たちは?」



あ、やっぱりオープニングには飛ばないですか。そうですか。
現実逃避、終わり。


八幡「あー……まぁアレだ、とりあえず場所を変えるか。凛、この後時間は大丈夫か?」


由比ヶ浜「な、名前呼び!?」

雪ノ下「……」



俺がようやく言葉を発し、場を納めようとすると、由比ヶ浜が驚きの声を上げる。

そこ? そこに食いついちゃうの?
プロデューサーなんだから、おかしくはないだろ。……だぶん。

それと、雪ノ下さん。そんなに睨んでも俺は石にはならないからね?


凛「時間は特に問題ないけど……どこか行くの?」

八幡「ああ。俺らも移動しようと思ってたからな、丁度いい」



元々俺が行きたい所でよかったんだしな。ならば、あそこしかあるまい。



由比ヶ浜「ヒッキー、行きたい所無かったんじゃないの?」

八幡「いや、たった今出来た」



というより、いつも行っている所なんだがな。
こういう時は都合が良い。



雪ノ下「……まさか」


八幡「そう。学生の味方ーーサイゼリヤだ」










ドリンクバー。


発明した人は偉大である。そう思わざるを得ない。

とりあえずこれさえ頼んでおけば、いくらでも居られるからな。嫌な客である。
裏にはGさんがいると聞いた事もあるが……世の中、知らない方が幸せな事もある。



そういうわけで、俺たちはサイゼリヤに来ていた。
窓際、コーナーの位置にある四人席。場所は良いが、ドリンクバーからは遠いな。めんどくせぇ……

どうでもいいけど、入店した時のあの店員さんの微妙な笑顔はなんなんだ。


「いらっしゃいませー♪ 四人……で、よろしかったですか?」


よろしいですけど?
なに、そんなに俺が美少女3人といるのが不思議ですかねぇ? 不思議ですね。
ぶっちゃけ俺だって、今のこの状況に軽く呼吸困難になりそうです。


ちなみに席は俺と凛が隣、向かい側に由比ヶ浜と雪ノ下である。

最初に俺が座った後、凛が何の躊躇いもなく隣に座ってちょっとビックリしちゃったが、考えてみれば当然か。俺の向かいに座ったら、見ず知らずの奴と隣になっちまうもんな。

それにしたって、もう少し離れてもいいんじゃない? ちょっと肩が触れそうだよ? 


俺がキョドりそうになるのを隠しながら平静を保っていると、その後に由比ヶ浜が若干不服そうにしながらも俺の前に、その隣に雪ノ下が(こっちも若干不機嫌そうな気もするが、いつもそんな顔だった気もする)座る。といった具合だ。そんなに俺の前は嫌なんか。


さて。席についた所で、本題に入ろうか。




八幡「いやー腹減ったな。何食うよ? 俺的にドリア290円は破格の…」

由比ヶ浜「紹介は!? 先に紹介してくれないと、ご飯なんて喉通らないよ!」


うむ。やはり由比ヶ浜のツッコミはひと味違うな。
これだからボケ甲斐があるというものだ。


八幡「冗談だ。んじゃ先にこっちを紹介しとくか」


そう言って俺は凛に向き直る。……なんか渋谷さん緊張してない? ちょっと怖いぞ。


八幡「……あー、俺の担当アイドルの渋谷凛だ」

凛「渋谷凛です。プロデューサーにはいつもお世話に……なってます」



オイ。なんか今若干の間がなかったか。

まぁ確かによく考えたら、プロデュースらしいプロデュースはまだやっていない。
……あれ、俺トラウマ話しかしてなくね?



由比ヶ浜「あたしは由比ヶ浜結衣。結衣でいいよ! それでこっちが…」

雪ノ下「雪ノ下雪乃です。よろしく」

凛「よろしくお願いします」

由比ヶ浜「えーっと、渋谷凛ちゃんだから……しぶりんだ!」

凛「し、しぶりん?」


困惑した様子の凛。
相変わらずのネーミングセンスである。



雪ノ下「嫌だったら嫌って言ってくれていいのよ?」

由比ヶ浜「むぅー、ゆきのんヒドーい!」

凛「あはは」



一応の自己紹介を終わらせると、雪ノ下が少しだけ関心したように呟いた。


雪ノ下「でもまさか、比企谷くんから女の子を、それもアイドルを紹介される日が来るなんてね……」

由比ヶ浜「ビックリだよねー」



微妙に失礼な事を言われた気がする。
お、俺だって? 小町とか紹介する時はあるし?


八幡「ほっとけ。そういうお前らこそ、俺に男の一人でも……いや、やっぱいい」


由比ヶ浜「いいんだ!?」


八幡「当たり前だ。知り合いに『私たち、付き合ってます♪』なんて紹介でもされてみろ。助走つけてシャイニング・ウィザードしたくなる」




蘭ねぇちゃんだって出来たんだ。俺にだって……無理ですね。ごめんなさい。



由比ヶ浜「あ、あたしは、紹介なんて、しないし……」


由比ヶ浜がなんかモジモジしているが、シャイニング・ウィザードが分からんのだろうか。チョーイイネ! いやよくないか。


八幡「仮に友達的な理由で紹介されても、だ。友達の紹介なんて遠過ぎて気が合うかも分からん上に、そいつと紹介された奴が楽しく話している間はこっちは入り込む余地もなくなる」

雪ノ下「妙に実感が籠ってるわね……」


八幡「しかもその友達がトイレに行った時なんて最悪だ。気まずすぎて空気が重いなんてもんじゃない」



ケータイを弄って誤摩化そうにも、時間を見るくらいしかする事もない。
あれ程トイレからの帰りを懇願する事も中々ないぞ。



雪ノ下「というか、今まさに紹介している最中に話す内容ではないわね」

八幡「……確かに」

由比ヶ浜「そうだよ! ヒッキー空気読んで!」


なんだよ空気読むって。空気は吸うもんだろ?
もしくは俺自身が空気。つまり空気を読むとは俺を知る事である。違うか。


凛「……仲良いですね」クスッ


見ると、凛が微笑ましそうに笑っている。
何処がだよ。



凛「もしかしてお二人のどっちかが、プロデューサーの彼女なんですか?」


雪ノ下「ッ!」


由比ヶ浜「え、いやっ、そ、そんなんじゃないし!」




目を見開く雪ノ下と、顔を真っ赤にする由比ヶ浜。


おーおー慌てふためいておる。
もう少し冷静でいられんのかね(貧乏揺すりがとまらない)。


雪ノ下「あなたには悪いけれど、的を外れているわ。それも盛大にね。私たちがこんな男と、こ、恋人同士だなんて、そんな事があるはずないでしょう。失礼も大概にしてほしいわね。そもそもなんでこんな目が腐った男と…」


由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん落ち着いて!」


凛「す、すみません」


八幡「謝るな。俺の立つ瀬がなくなる」



何もそこまで否定せんでもな。
俺は奇策士の方が好きだ。


雪ノ下「私たちは奉仕部という部活に所属しているの」

凛「奉仕部?」



聞き慣れない単語に首を傾げる凛。まぁそりゃそうだよな。名前を聞いただけじゃどんな部活なのかさっぱり分からん。執事とメイドさんとかいそう。



雪ノ下「簡単に言えば、生徒の問題の解決を手助けしてあげる部活よ」

凛「相談事を受ける、って事ですか?」

雪ノ下「そう思ってもらって構わないわ。最初は私一人でやっていたのだけれど、ある時そこの比企谷くんが入ってきて、その次に由比ヶ浜さんが入部してきたの」

由比ヶ浜「あたしは元々依頼しに行ってたんだけどね」


そんな事を言ったら、俺は平塚先生に無理矢理入部させられたんだけどな。まぁ舐め腐ったレポートの罰なんだが。いや、俺は真剣に書いたぞ?


凛「へぇ、どういう依頼があったんですか?」


雪ノ下「そうね。最初は由比ヶ浜さんの依頼だったのだけれど…」


八幡「あれは大変だったな」


由比ヶ浜「ちょっとヒッキー! それどういう意味!?」




その後も雑談や世間話をしながら、飯を食べてのんびり過ごした。
最初はどうなる事かと思ったが、なんだかんだでゆったりしてしまったな。

リスペクト、サイゼリヤ。




夜の8時過ぎ。



明日も仕事と学校がお互いにあるという事で、あまり遅くならない内に変える事にした。

そっか仕事か……またドリンクを勧められる日々に戻るのか。もう買っちゃおうかな。




凛「それじゃあ雪乃さんに結衣さん、今日はありがとうございました」


雪ノ下「ええ。アイドル活動頑張ってね。応援しているわ」

結衣「あたしも! また遊ぼうね!」



……なんか、俺とよりも仲良くなってないか?
プロデューサー涙目である。


雪ノ下「あなたは駅まで送ってあげなさい」

由比ヶ浜「そうだよヒッキー。女の子を一人で帰らせちゃダメだよ!」

八幡「へいへい……」



お前らは俺のオカンか。
というよりも小町が言いそうだ。こんな妹が二人もいたら俺が保たん。

サイゼリヤ前で別れ、凛を送っていく。
しかし少し歩いた所で、後ろから声が飛んできた。



由比ヶ浜「ヒッキーも! 頑張ってねーっ!」

雪ノ下「……」



振り返ってみると、ぶんぶん手を振る由比ヶ浜と微笑む雪ノ下が遠目に見える。

俺は少しばかり気恥ずかしく頭を掻き、後ろ手に手を挙げて、また歩きだした。


凛「……ホントに、仲が良いね」


八幡「そんなんじゃねーよ。俺とあいつらは」



俺とあの二人の関係。
それは上手く言葉には出来ないが、きっと、するような事でもないのだろう。

そんな簡単に、一言で片付けたくない。




凛「……プロデューサーは、彼女いないの?」


八幡「むしろいるように見えんのかよ。お前には」


凛「……それもそうだね」


納得されてもそれはそれで嫌だなおい。
こいつまで雪ノ下みたいになったらどうしよう……



八幡「少なくとも、プロデューサーやってる内はそんな事にかまけてらんねぇだろ」



まぁ、どっちにしろ彼女が出来るかは分からんが。
か、可能性は0ではない。0ではないんだ!




凛「……そっか。それなら」



少しだけ歩みを早めて、俺の前に立つ凛。






凛「今は、私の隣にいて」






キラキラと夜の街の光を浴びて、凛の笑顔が目に映る。






凛「隣で私のこと……見ててね」






その笑顔に、思わず見蕩れてしまった。



……こいつは、こういう事を無自覚で言ってるんだろうか。
だとしたら、アイドルには向いてるのかもな。




八幡「……当たり前だろ」




止まっていた足をまた動かし、凛の隣に立つ。




八幡「ちゃんと見てないと、プロデュースなんて出来るわけないしな」




今が夜で良かった。
こんな顔、明るい所で見せれるかよ。




凛「……うんっ」



そして、また二人で歩き出す。




俺がアイドルのプロデューサーなんてやっているのも、企画の内だ。


いつまで隣にいられるかは分からない。
一年を過ぎれば、そこで終わり。



でも、今は違う。


俺は、凛のプロデューサーなんだしな。
隣にいて、見ててやるよ。

歩いていく。



先の見えない、この道を。



めーっちゃ短いですけど、ここまでです。

次回はモバマスサイド!

俺ガイル原作表紙の中では4巻が一番好きな1です。

一応今で物語の三分一くらい? 終わったってとこら辺です。
あと、サイゼ店員の方は申し訳ない! 地元に無いんだ! ココスしか!

今回も短いですが、1時前くらいに投下していきますー。

投下します!








ここはシンデレラプロダクション本社のとある一室。
今この場において、ここは我々の作戦会議室となっている。

我々、とはつまり。



八幡「俺と」

凛「私と」

ちひろ「私……ってなんでですか!」



ノリの悪い事務員は放っておいて、ここはシンデレラプロダクションの一室、というか事務室の一角(もはや事務室ではなく事務スペース)であった。


八幡「想像し辛い人はアニマスの事務所を想像してくれ。それのピヨ子の位置にちひろさん。その前に俺、隣に凛といった具合だ」

凛「誰に説明してるの?」


飲み込みの悪いアイドルは放っておいて、まぁつまりは俺たち二人が事務スペースにお邪魔している形になる。と言っても事務員は知っての通りこの千川ちひろさんただ一人。ぶっちゃけ俺たちが加わった事で狭くなるような程でもない。


八幡「そんなわけで、今日も反省会やるぞー」

凛「うん」

ちひろ「だから、なんでここでやるんですか!」


しつこい人だな。ここは1から説明せねばならんらしい。


八幡「いいですか? 俺たち一般募集プロデューサー(めんどいから以下一般P)は自分のデスクを持っていません。支給されているのは更衣室のロッカーのみです」



100人以上のアイドルに加え、そこに100人以上のプロデューサーもいるのだ。いちいちデスクを用意していたらどんだけの規模の部屋が必要になるやら。



八幡「大企業なら問題は無いのかもしれません。ビルが何階建てもあるならスペースも余裕でしょう。しかしここシンデレラプロダクションにはそれが無い!」

凛「世知辛いね……」

八幡「言うな。……ですけどね、俺が思うにどーも違和感を感じるんですよ」

ちひろ「違和感?」

八幡「これだけの人数のアイドルがいて、それに一般Pとはいえ専属のプロデューサーを全員につける。そこら辺の中小企業には出来ないですよね?」

ちひろ「まぁそうですね」

八幡「だとしたら、何故ウチのプロダクションはこんな小さいビルで事務所を経営しているんですか?」


これは前から気になっていた事だ。
恐らくこの会社は儲かっている。なのに何故こんな小さな事務所にこだわるのか。



ちひろ「それはですね、社長の方針なんですよ」

八幡「社長の?」

ちひろ「ええ。なんでもお世話になった方のプロダクションは有名ながらも贅沢をしない所らしくてですね。丁度これくらいのビルにプロダクションを構えているらしいですよ」

八幡「はぁ……」



そう言えば初めて会った時にもそんな事を言っていた気がする。お世話になった人の受け売りで~みたいな。
まぁそれは納得しておこう。アニマスの事務所の雰囲気は俺も好きだ。



八幡「けどちひろさん、この事務所によく200人以上も入りますよね」

ちひろ「……」

八幡「よくよく考えれば、こんな小さい事務所のどこに200人以上もの人間の入るスペースが…」


ちひろ「比企谷くん」


八幡「ッ!?」ビクッ

ちひろ「それ以上は、触れてはいけない事ですよ?」ニッコリ



な、なんだ?
今とんでもない寒気を感じたぞ……?



凛「……」カタカタ



隣を見ると、凛も青ざめた顔で震えている。
お前、いくら蒼が好きだからって顔まで青くしなくても。


ちひろ「世の中には、知らなくていい事もあるんです……」


どこか悟ったようなちひろさん。
うむ……ここは触れずにいよう。


八幡「で、何の話でしたっけ?」

ちひろ「だから、どうしてわざわざここで反省会をやるんですかって事ですよ」


呆れたように話を繋いでくれるちひろさん。さっきまでの表情はどこへ行った。


八幡「……まぁさっきも言いましたけど、要は俺たち一般Pは居場所が無いわけです。あぁいや、仕事場がって事ですよ? 居場所が無いのは俺だけです」

ちひろ「その自虐ネタはいらなかったです……」

凛「うん……」


ほっとけ。
こちとらもう自虐ネタなのか事実を言ってるだけなのか、自分で言ってて分からなくなってきてんだぞ。
軽い末期症状な気がする。


ちひろ「しかし、そうは言いますが、事務所にある会議室、応接室、広間は自由に使っていいんですよ?」


そう。その通りだ。
実際多くの一般Pが事務所のいたる所で担当アイドルと打ち合わせやらミーティングやらをやっている。
だが、だからこそである。


八幡「だからこそ、ここを使わせてもらうんですよ!」

ちひろ「何故!?」


あれ、なんかタイムリープしてる?


八幡「まぁ面倒なんでぶっちゃけますけど、ここデスクあるし資料もあるから丁度良いんですよね」

ちひろ「身も蓋も無い! っていうか最初からそう言ってくださいよ!」


実際問題、事務員の真ん前でアイドルを打ち合わせをやろうなんて者はいなく、こうしてここの事務スペースを使っているのは俺たちだけだ。役得役得。

……それに、ここを使うのには他にも狙いがあるしな。



ちひろ「もう……本当はダメなんですからね?」


そう言いつつ許してくれるちひろさんマジ天使。


ちひろ「そのかわり、スタドリ・エナドリセットお買い上げですよ♪」


前言撤回ちひろさんマジ悪魔。



というわけでいつまでも始まらないので反省会開始ー。


八幡「んで? 今日のレッスンはどうだった凛」

凛「今日はトレーナーさんとの顔合わせも兼ねた初歩的なレッスンだったから、そこまで大変じゃなかったよ。っていうか、プロデューサーもいたよね?」

八幡「……まぁな」


付き添いという形でレッスンには付き合ったが、ホントに初歩的過ぎてする事が無かった。

なんだろうね、あの女の子のレッスンしている所をただ見ているという状況。
悪い事しているわけではないのに……うん。なんかいけない事をしているような気分になる。


八幡「正直レッスンに付き添う必要ってあんのか? トレーナーさんがいるんだから、素人の俺よりもそっちに教わってた方が身に付くだろ」



ちひろ「今はそれでいいかもしれませんが、これから先はそうはいかなくなると思いますよ?」


と、俺と凛の会話に入ってくるちひろさん。
そうだ。これを待っていたんだ。


八幡「と、言うと?」


ちひろ「今は確かに凛ちゃんは覚える歌もダンスも特にありませんが、今後もそうとは限りません。この先凛ちゃんがCDデビューした時、お芝居の仕事を貰った時、その時凛ちゃんがどういった方針で自分の個性を広げていくのか、それはプロデューサー次第です」


正確には、プロデューサーと凛ちゃん次第、ですけどね。と付け加えるちひろさん。


ちひろ「もっとボーカルのレッスンを増やした方が良いんじゃないか、ダンスはもっと静かな方が合っているんじゃないか、そうやって比企谷くんが凛ちゃんをプロデュースしていかなくちゃならないわけですね」

八幡「なるほど」

ちひろ「むしろ、今からレッスンに積極的に参加して、ここはこうだーここはああだーってアドバイスするくらいじゃないと!」


なるほどなるほど。いやホントに参考になったわ。

自信満々に胸を張るちひろさん。余程語ってスッキリしたのだろう。


ちひろ「フッフーン♪ ……っは!?」


とここでようやく気づいたようだ。
もう既に遅いがな。


ちひろ「ひ、比企谷くん、謀りましたね!?」

八幡「さてね。なんの事やら。いやーでも参考になりましたよ。さすが大企業プロダクションの事務員」

凛「……なるほどね。こういう事か」


凛も気づいたか。

そう。この場所で反省会をやる一つの理由が、ちひろさんからアドバイスを貰う事である。
アドバイス以外にだって、もちろん得られるものだってある。
ちひろさんが事務仕事をしていれば、どうしたってウチのアイドル関係の話になってくるわけだ。
得意先との電話、まとめている資料、ちひろさんに回されてくる仕事など、得られる情報はいくらでもある。

ゆえに、この席なのだ。


凛「……うん。なんかさ」

八幡「なんだよ?」

凛「せこいね」


凄く冷めた目で見られてしまった。
この間のあの笑顔はどこへ行ったの?


八幡「いーんだよ。別に“ルール違反”はしてねぇしな」

ちひろ「うぅ……確かに他のアイドルの進捗情報や仕事内容の公開は許されてるんですけどね」

凛「そうなんですか?」

ちひろ「ええ……競っているとはいえ同じプロダクションですし、お互いの成果が分かる方が良い刺激になるでしょう?」


まぁそれでも大っぴらに「お前今どんな仕事進めてんの?」と訊く奴はいないだろう。俺だって無理だ。つーか訊く相手がいない。


ちひろ「それでも、私は特定の誰かに肩入れするつもりは無かったのに……はぁ」


落ち込んでいる様子のちひろさん。

うーむ。作戦とはいえ少々やり過ぎたか。
確かに褒められたやり方ではないしな……反省もしてないが。




ちひろ「という事で、比企谷くんには特性スタドリ・エナドリ1ダースセットをお買い上げしてもらいます♪」


全然落ち込んでなんていなかった。むしろさっきより元気だった。
つーか、1ダースって! チョコレートで勘弁してくれません?


ちひろ「まぁそれは冗談として…」

凛「冗談だったんだ……


いや、今の目は冗談じゃなかった。
俺の腐った目は誤摩化せない。


ちひろ「比企谷くんに、お願いしたい事があるんです」

八幡「お願い?」


お願い。何故だろうか。このワードだけで嫌な予感がビンビンする。八幡センサー(アホ毛)が逃げろと言っている。


ちひろ「比企谷くんは学校で、奉仕部という部活をやっているそうですね?」

八幡「な、なぜそれを?」

ちひろ「担任の先生から聞きました♪」


やばいやばいやばい。
何がやばいかってーと、とにかくやばい。

あんの三十路教師、何をいらん事を伝えてるんだ!

“奉仕部”。このワードも危険だ。嫌な予感しかしない!



ちひろ「なんでも、困っている人を助ける部活とか」


そんな立派なもんでもない。字面だけ見ると、どこのスケット団? って感じだ。


八幡「……あくまで、手助けするだけですよ。飢えている人がいるのなら、魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える。それが奉仕部の方針……らしいです」


以上、ユキペディアより抜粋。
というか本人が言っていた。


ちひろ「なるほど。それじゃあ比企谷くん」

比企谷「はい」



ちひろ「比企谷くんには、デレプロ奉仕部として活動してもらいます」

比企谷「はい……ってはいィ!?」


な、なんて言ったこの人? 思わず右京さんみたいになっちまったぞ。


ちひろ「ですから、デレプロ奉仕部を……奉仕部デレプロ支部のが良いですかね?」

比企谷「どっちでもいいですよ。それより、なんなんですかその不穏極まりない提案は?」


まさか、ここでプロデューサー活動しながら相談事を受けろと?
冗談ではない。ただでさえプロデュース活動で俺の頭がミスディレクションオーバーフローしそうなのに、その上奉仕部の活動とか……


ちひろ「もちろん、そんな無理を言うつもりはありません。ただ、この間比企谷くんに他のアイドルの子の臨時プロデュースをしてもらったじゃないですか」

八幡「島村と本田の事ですか」


臨時プロデュースって言っても、ただ写真撮ってただけだけどな。


ちひろ「要はあれと同じです。比企谷くんには、まだプロデューサーの付いていないアイドルの子の臨時プロデュースをしてもらいたいんです」


八幡「いやいやいや。凛だけでも手一杯なのに、無理ですって」


ちひろ「大丈夫ですよ! 毎回じゃなくて、ちょこっとついでにプロデュースみたいな感じで!」


そんなお手軽感覚で言ってるけど、実際相当キツいよね。それ。

これからは凛+αでやっていくって事だ。
一人のプロデュースはそう多くはなくても、次、また次と来たらもうそりゃ多いんだよ!

つーか、プロデューサーまだ足りてなかったの? どんだけ人材不足よ。
アイドル好きの男共。求む。


ちひろ「お願いです! まだプロデューサーの付いてないアイドルを助けると思って! 可哀想じゃないですか?」


八幡「ぐっ……!」


確かにな。
折角夢のアイドルになれたというのに、プロデューサーがいないなんて気の毒だと思う。

でもなぁ……



八幡「……凛はどう思う?」

凛「……」


今更ながら、ずっと黙って話を聞いていた凛にふってみる。
凛が表情を変えず、静かに答えた。


凛「……私は、プロデューサーがいいならいいよ」


……うむ。


八幡「別に俺はやりたくないから、やらな…」

ちひろ「もしも引き受けてくれるなら、ここの場所は自由に使ってくれても構いません」

八幡「……いやでも…」

ちひろ「毎週マイスタドリ・マイエナドリを差し上げますよ」

八幡「……」

ちひろ「今度、ラーメンでも食べに行きましょう。奢りますよ♪」

八幡「…………はぁ……分かりましたよ」


敵わねぇなぁ、この人には。
つーか、俺が弱いのか。


凛「……」クスッ


何でか知らんが凛が笑っている。なんか癪に触る笑いだなおい。


ちひろ「ありがとうございます♪ それでさっそくなんですけど、最初の一人を紹介しちゃってもいいですか?」

八幡「えっ、もう?」


ちひろ「ええ。というか、さっきからいますけど」


は? 何言ってんだ?

周りを見渡すが、俺たちの周りには誰もいない。
まさか、プロデューサーがつかないままこの世から去ったアイドルとかじゃないよな。やめてくれ。普通に怖いんですけど。


八幡「ん? どうしたんだ凛?」


ふと凛の方を見ると、俺の足下、正確に言うならデスクの下、戦慄の表情でジッと見ていた。
俺もつられて視線を向ける。


八幡「なんだ、Gでもいた…」






「フヒ…Gじゃ、ないです……」






八幡「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!??」



妖怪キノコダケが、そこにいた。



安定の短さで今日はここまで!

お、終わってみたらちひろさんと話してるだけで終わっちまった……!

あと雑談はどんどんしてくれてオッケーです。
レスがあると嬉しいので!

それではおやすみなさいー。

これって原作だと何巻らへんの八幡?

>>427
一応6巻の文化祭後くらいのイメージですかね、アニメ終わったあたりの。
7巻の後だと色々と無理がありますんで。

でもまぁパラレルワールドみたいなもんだと思ってください。

タイプはキュートを選んだもののいざ始めてみたら好きになる子はクールばっかりな1です。

投下します!








ぼっち。


それは孤高にして至高の存在。

常に何色にも染まらず、何者にも捕われない。
どんな逆境にだって一人で立ち向かい、一人で乗り越える。
そうして己の身一つで生きて行く者。それがぼっちである。


しかし今の世の中、ぼっちは中々に生き辛い。

決断は多数決。
流行は個の敵。
集団での行動を是とし、一人を蔑む。


何がいけないのか。一人で頑張る事の何が悪いのか。
手を取り合う事は素晴らしい。
なら、一人で立ち向かう事は悪なのか?

そんなはずがない。
例え周りがそうであったとしても、俺はそうなりたくはない。

協調が正しく、排他がまちがっていると言うのなら。



俺は、まちがったままでいい。











八幡「だが、こうはなりたくない」


輝子「フ、フヒ……存在から全否定……そもそも気づかれてなかったけど……」

凛「」

ちひろ「凛ちゃーん、帰っておいでー?」


星輝子。

彼女が今回ちひろさんから依頼された臨時プロデュースの対象である。

ぼさぼさの灰色の長髪に、よれよれの服、どこか生気の無い顔。
そして極めつけがその手に持っている、キノコ。

……まぁ、何と言うか、色んな意味で衝撃である。



八幡「つーか、お前そんなとこで何してんの。まさか驚かす為に仕込んでたわけじゃないよな」


もしそうなら大成功である。あんなに叫んだのは久しぶりだ。
ていうかやめてよね、昔クラスメイトにドッキリという名の嫌がらせを受けたの思い出すから。
なんだよ下駄箱にラブレターって……ベタ過ぎて逆に疑わなかったよ……



輝子「ここ、暗くてくてジメジメしてて、キノコたちが喜ぶから……で、でも、最初からいましたけど。座る前からこにいたんですけどー……」

八幡「……」


素で気づかんかった。


輝子「フフ……いいですよ、な、慣れてます。キノコーキノコーボッチノコーホシショウコー♪」



笑い出したと思ったら、今度は歌い始めた。凄い歌である。
ひ、表情が豊かだね(震え声)。



凛「……強烈な子だね」


おお、凛が帰ってきた。
頼むぜ、常識人はお前くらいなんだから。



ちひろ「あれ? 私は?」

八幡「地の文に突っ込む時点でもう普通じゃありません。それよりも、だ。星よ」

輝子「な、なんでしょう……?」


びくびくとしながら、こっちをチラチラ見る星(相変わらず机の下である)。

いちいち行動を擬音で表現しないと会話出来んのかお前は。
……まぁ、俺も人の事は言えないが。


八幡「そこにいたんなら聞いていたかもしれんが、俺がお前をプロデュースする事になった比企谷八幡だ。……まぁ、臨時的にだがな」



仕方がないので、そこは甘んじて引き受ける。見合った報酬も約束出来たしな。



八幡「そこでだ。俺はお前のプロデュースに移る前に、お前に訊いておきたい事がある」

輝子「き、訊いておきたいこと……?」




八幡「お前、ぼっちなのか?」




単刀直入。

これが、俺の確認しておきたかった事である。
これにどう答えるかで、俺の対応も変わってくる。




輝子「……フヒ、そ、そんなの、見ればわかる」


小さく笑いを零す星。


輝子「と、トモダチはキノコだけ……そもそも、気づかれる事もないし……フフ…」


力なく、笑う。



でも、笑っていなかった。
俺だから分かる。



八幡「……気にいらねぇ」


輝子「へ……?」

八幡「気にいらねぇって言ったんだよ」



おまえは何も分かっちゃいない。
俺に、また冒頭のモノローグを言わせるつもりかよ。


八幡「お前は、ぼっちが悪いと思ってるのか?」

輝子「……フヒ、それは……だって…」


言い淀む星。
答えなくても、それで充分だった。



八幡「ぼっちの何が嫌なんだ? お前は、何か悪い事をしたのか?」

輝子「……周りと私は、ち、違うから…」

八幡「他と違うと何がいけないんだよ。むしろオリジナリティがあって良いまである」



なんで、自分を認めてやれない。
なんで、周りが正しく、自分が間違っていると決めつける。



八幡「もっと胸を張れ。自分がモテないのはお前たちが悪いくらいの事は言ってみろ」

輝子「……」




ぼっちならぼっちらしく、一人の自分に自信を持てよ。
お前は、今まで一人でやってきたんだろ?




八幡「友達がいなくても、ぼっちでも、自分を変えなかった自分を、誇りに思え」




じゃなきゃ、見てるこっちがイラついてくんだよ。



まるで。

自分を肯定する事が出来なかった、昔の自分を見ているようで。






輝子「……あ、あなたも、ぼっちなの?」


俯いていた星が、顔を上げて訪ねてくる。
顔は可愛いんだよな。うん。



八幡「ああ。よくわかったな」


凛「(そりゃ分かるよ……)」

ちひろ「(そりゃ分かりますよ……)」


何だか今失礼な事を言われた気がするが、今は放っておく。


八幡「ま、俺はそんな自分が大好きだけどな」


変わるつもりもないし、変わりたいとも思わない。


八幡「お前はどうなんだ?」

輝子「……私は」




星は、小さく微笑んだ。



輝子「よく、分からない。……でも、嫌いじゃなくなった、かも……フヒ……」



でも、笑っていた。


八幡「……そうか」



なら、良かったよ。
お前が良いと思えたんなら、それで。



輝子「そ、それで、プロデューサー……お、お願いがあるんだけど…」

八幡「おう。なんだ?」


躊躇う素振りを見せる星だったが、意を決したのか、おずおずと口を開いた。




輝子「わ、私と……友達に…」

八幡「いやそれは無理」

輝子「」






星が固まっている。
え、そんなにショックだった?



凛「ちょ、ちょっとプロデデューサー! 今のは完全に友達になる流れだったよね!?」


抗議を上げてくる凛。
うむ。ちゃんとツッコミの役割を果たしてくれているな。



八幡「何言ってんだ、俺はお前らのプロデューサーだぞ? それでもう関係が出来上がってんじゃねぇか」

凛「そういう事じゃなくて……」

輝子「フフ……大丈夫、な、慣れてるから……」


全然慣れてるようには見えん。

つーか友達を断られるのに慣れるなんて無理だろ。
俺も経験があるからな。高校に入ってからは、二回程。


しかし、星のお願いを聞く事は出来ない。

……お願いで友達になるなんて、それこそまちがっているからな。




八幡「いいか星。臨時とはいえ俺はお前のプロデューサーになったんだ。これからぼっちのなんたるかを教えていってやるからな!」


凛「アイドルプロデュースと関係あるの? それ」


輝子「……な、なら、その間に私の友達のキノコと友達になってもらう…そしてゆくゆくは……フヒッ」


凛「趣旨、趣旨忘れてるよお二人さん」




面白ぇ、やってみやがれ!

……で、キノコと友達ってどうやってなんの? ちょっと気になっちゃうじゃねぇか。


凛「はぁ……私、これからこの二人と活動していくんだね……」

ちひろ「大丈夫ですよ♪ それに、この先はもっと個性的なアイドルと一緒になる可能性もありますよ?」

凛「全然大丈夫じゃないですよね、それ……」



俺がプロデューサーになったのが運の尽きだったな。
何せ、既に俺の運が尽きているからな。




八幡「そんじゃ、明日は手始めにレッスンだ。遅れんなよ凛、星」

凛「ハァ……了解だよ」



そんな露骨にため息を吐かないでくださる?
んで星、返事は?



輝子「……し、しょうこ」

八幡「あ?」


輝子「ぷ、プロデューサーとか、名字だと、他人行儀だし……呼び捨てがいいよね。……は、はちまん…! フ、フフ、これもう友達じゃね……?」


八幡「いやないから」




なに、最近の女の子は名前呼びが流行ってんの?
ハードル高過ぎるでしょ。なんでぼっちなのにそこんところは積極的なわけ?



八幡「……遅れんなよ、輝子」

輝子「……! フ、フヒヒ……任された」



ったく、良い顔で笑えんじゃねぇか。



あと凛、何故にそんなに睨む。
俺が何した。


凛「いいよ、プロデューサーらしいしね」ハァ…


八幡「解せぬ」





















ちひろ「あ、そう言えば凛ちゃんと輝子ちゃんって同い年ですよね」


凛「!?」


輝子「フヒ、よろしく……り、凛ちゃん……フフ……」


今回は自己紹介的な感じでここまで!

次はもっと進めてみせる!

プロデューサーが学生ということで、打ち解けやすくとセーラー服を着て現れる

高橋礼子(31)
和久井留美(26)

……アリだな

モバマスには財閥だろこれっていうぐらいのお嬢様アイドルおるで
尚違う意味での『お嬢』も居る模様

渋谷凛(15)
http://i.imgur.com/QH3AqA6.jpg
http://i.imgur.com/S22zmi2.jpg

島村卯月(17)
http://i.imgur.com/rP1QRA9.jpg
http://i.imgur.com/5QkxyM0.jpg

本田未央(15)
http://i.imgur.com/Ru2oPet.jpg
http://i.imgur.com/rcdO8pt.jpg

星輝子(15)
http://i.imgur.com/OnJDLUx.jpg
http://i.imgur.com/vsX7tAd.jpg

遅くなってしまって申し訳ありません!

11時くらいには投下していきますので。

すんません!
投下していきたいと思います!








八幡「さて、今日の反省会の時間だ」

凛「うん」

輝子「フ、フヒ…」

ちひろ「やっぱり、ここでやるんですね……」


場所は我がシンデレラプロダクションの事務スペース。
プロダクション内での臨時奉仕部を引き受けた報酬で手に入れた場所だ。使わない理由はない。

正直ここに入り浸っている所を他の一般Pに見られると、あまり良い印象は与えないのだが……
まぁ、ぼっちスキルを持っている俺からすればどうってことはない。

……自分で言ってて悲しい気もするが。



八幡「ちなみに配置はちひろさんの前に俺、隣に凛、(デスクの)下に輝子、といった具合だ」

凛「誰に説明してるの?」


もういいんだよそのくだりは。いい加減察しろ。
あと輝子、お前は結局その位置なのね。ちひろさんの隣とか、凛の隣とか空いてるよ?



輝子「フフ…今日もキノコは元気……そろそろ収穫の時期か……」



相変わらず下でキノコと戯れておられる。ていうかやっぱり食べるんだ……



八幡「んで、今日のレッスンだが……」

凛「……色々と大変だったね」

輝子「フ、フヒヒ…………疲れた」


ちひろ「な、何かあったんですか?」



遠慮なく俺たちの反省会に介入してくるちひろさん。

もうあれですね、開き直ってますよね。
まぁこっちとしてはアドバイスを貰えるのは助かるんですが。


八幡「色々あったんですよ。実は……」

ちひろ「……」ゴクリ

八幡「……説明すんの面倒なんで、回想シーンに移りますね」

ちひろ「いやいいんですかそれ!?」





× × ×





東京にある某レッスン場。



トレーナー「えー、それではあまり余裕もないですし、合同レッスンを始めたいと思います。

「「「はいっ!」」」



壁が鏡張りにされた、いかにもなトレーニングルーム。

その部屋の奥で、若い女性のトレーナーが説明をしている。
それに返事をする十数人の若手アイドルたち。通称モブドルである。


凛「……今日は結構な人数がいるね」

八幡「うちのアイドルだけで100人以上いるからな。いちいち個人個人でレッスンしてたらキリがないんだろ」



基礎的なレッスンは大人数でも出来る。逆に言えば、早く仕事を見付けステップアップすれば、もっと本格的なレッスンを受けられるという事だ。そうすれば、こんな大人数ではなく、個人で指導を受ける事だって出来るだろう。

周りを見れば、アイドルに対してプロデューサーの数は少ない。大方営業にでも向かっているのだろう。

……やっぱり俺も行った方が良いのだろうか。
い、いやほら、ちひろさんも「営業に行って仕事を見つけるのも大切です。ですがアイドルのレッスンにも付き添わないと、自分のアイドルの実力、適正を測る事は出来ませんよ?」って言ってたし。うん。



八幡「……そろそろ営業の方にも手を回してみるか」

凛「プロデューサー?」


俺の独り言に反応する凛。

ちなみに格好はTシャツにハーフパンツというレッスン用のラフな格好だ。
……うむ。何故かは分からんが目線が泳いでしまう。何故かは分からんが。


八幡「何でもねぇよ。それよりも、輝子はどこ行ったんだ? もうレッスン始まるぞ」


さっきから姿が見えないので、凛に訊いてみる。
さすがにまだ着替えてるって事はないだろうが、他に見当たらない理由も無いしな。



凛「あれ、おかしいな。着替え終わる所までは一緒だったんだけど……」



つられて凛もキョロキョロと辺りを見回す。

お花でも摘みに行っているのだろうか。いやあいつの場合はキノコか。
と、下らない事を考えていたら、凛に袖を引っ張られる。

どうでもいいけど、その仕草はホントに男心をくすぐるから止めて頂きたい。でもやって貰うと嬉しいから困る。



凛「プロデューサー、あそこ」

凛の指差す方向を見ると、鏡の横に設置された纏められたカーテン。その中が……妙に膨らんでいる。それも、人間サイズで。


八幡「……あれだな」

凛「あれだね……」



トレーナーさんの説明中だが、仕方なく俺たちはそのカーテンの方へと静かに向かう。



八幡「おい」

カーテン「……!」ビクッ



声をかけると、面白いくらいに反応する。そりゃ隠れている時に突然声をかけられたら驚くだろう。



八幡「お前は完全に包囲されている。大人しく投降しろ。というかレッスンしろ」



脅しをかけてみたが、良く考えたらコイツは輝子だという確証もない。……これ人違いだったら恥ずかしいってレベルじゃないな。




カーテン「ひ、人前は、ヤバイ…ヤバイ…」



間違いなかった。



八幡「いいから出ろ! 身内同士でそんな事言ってたらこの先やってけねぇぞ!」

カー子(半分出てる)「だ、だって、皆誰だコイツ…みたいな目で見てくるし……!」



無理矢理カーテンを剥がそうとするが、向こうも抵抗してくる。お前、意外と力あるな!



八幡「そりゃお前の事知らないから当然だろ! そんな事言ったら俺だって、油断したらすぐにモドリ玉使いたくなるくらい緊張してるわ!」



ぼっち舐めんな! この仕事始めてから三度の飯より帰りたい精神だぞ!

俺がカーテンと格闘していると、またも凛に袖を引かれる。引かれる思いとはこの事か。


凛「プロデューサー、プロデューサー」

八幡「なんだよ。お前もコイツを引きずり出すの手伝…」

凛「周り」

八幡「え?」



言われて気づく。
周りを見渡してみると、トレーナーやモブドル、一般Pの奴らまでこっちを訝しむような目で見ている。



八幡「……」


凛「……」


カーょう子(ほぼ出てる)「……」



……うむ。


八幡「はぁー、だから止めといた方が良いって言っただろ凛」


カーテンを掴む輝子(出た)「フヒヒ……凛ちゃんはお茶目……」


凛「えっ!? わ、私なの!?」ガーン



とりあえず、ここはあれだ。この空気が耐えられないので誤摩化すように茶化す。凛は犠牲になったのだ。
つーか、これに乗るあたり輝子は分かってるな。



八幡「合同レッスンで緊張しているのも分かるけどな、うん」

輝子「フ、フフ……そんなに怖がらなくても、いい…」

凛「いやいやいやいや」



どうだ。これでどうにか……?


トレーナー「あなたたち」


八幡・凛・輝子「はい」


トレーナー「今日の所は……ね?」ニッコリ


八幡・凛・輝子「…………はい」



俺たちは静かに退室した。

トレーナーさんが怖かった。





× × ×





八幡「とまぁそんなわけで、レッスンも受けられずに今日は帰ってきました」

ちひろ「ダメダメじゃないですか!?」



回想、終了。


ちひろ「それに色々も何も、レッスンやってないじゃないですか!」

八幡「ぐうの音も出ない……」



いやマジで何してんだろうね? 小学生か俺らは。



ちひろ「全く……それで? この時間に帰って来たって事は、何か他にやっていたんでしょう?」



呆れたように言うちひろさん。
おお、さすがだな。今こっちから弁解しようとしていたんだが、まさか見越されるとは。



八幡「フッ……当然ですよ。俺たちが何もせずに帰ってくるとでも?」



なのであえて俺も上から言ってみる。


八幡「自主的に練習出来る良い所がありましてね……まぁ言ってしまえば」

ちひろ「言ってしまえば?」

八幡「カラオケに行ってきました」



どれだけ歌っても踊っても大丈夫!
俺も小町に付き合わされてよく行ったものだ。……一人でも。



凛「プロデューサーが結構上手くてビックリしたよ」

輝子「フ、フフ…きのこの唄が歌えて満足……」

八幡「めっちゃ懐かしかったな。あれ」


ちひろ「いや遊んでるじゃないですかっ!?」



全力で突っ込まれてしまった。


八幡「何言ってるんですか、ちゃんと練習してるでしょう」



自分に合った歌と歌い、聴いてもらい、しかも点数までつけてくれる。これが練習と言わずなんと言うのか。



ちひろ「じゃあなんで比企谷くんも歌ってるんですか?」

八幡「……」

ちひろ「……」

八幡「……すみませんでした」

凛「認めたっ!?」ガーン



どうやら凛はホントに練習だと思っていたらしい。真面目である。
いやまぁ練習のつもりだったよ? でもあんだけ勧められたら、ねぇ?



八幡「まぁ合同レッスンは明日もある。明日こそはレッスンすればいい」

輝子「フ、フヒ……」

凛「……私、遊んでたんだ…」

ちひろ「が、頑張って凛ちゃん!」



前途多難であった。








八幡「さぁ、今日も反省会するぞー……」

凛「……うん」

輝子「……フ、フフ」

ちひろ「なんか、今日は妙にやつれてますね」



手痛い失敗をした翌日。
今日も今日とて反省会だ。
各々の位置は……もう分かっていると思うから割愛。



ちひろ「それで? 今日はどうだったんですか?」



話す前にちひろさんに訊かれてしまった。
もうあなたがプロデューサーでいいんじゃないですかね。


八幡「結論から言うと、レッスンは出来ました。けど……」

ちひろ「……けど?」

八幡「めんどいので、回想シーンを見てください」

ちひろ「薄々察してましたよ! ええ!!」





× × ×





トレーナー「いいですか? 今日は真面目に受けてくださいね?」

凛「はい……」

輝子「は、はい……」



昨日と同じトレーニングルーム。

レッスンを受ける手前、トレーナーさんから注意を受けてしまった。
全く、プロデューサーとして情けないぞ。もっとしっかりしてほしいものである。


トレーナー「プロデューサーさんも、ですよ?」ニッコリ

八幡「……はい」



いや、ホントすいません、調子に乗ってました。
やはり、トレーナーさんは怖かった。



トレーナー「それじゃあ、レッスンを始めますよー」

「「「はいっ!」」」



今日もモブドルの皆さんは元気が良い。
その点うちのアイドルを見ると……元気無さそうだなおい。



八幡「大丈夫か、お前ら」

凛「私は大丈夫だけど?」



まぁお前はな。なんだかんだでメンタルは強そうだし。
問題はお前だキノ子。


輝子「フ、フヒヒ……」カタカタ

八幡「おい、輝子。大丈夫か?」

輝子「フ、フヒヒ……」カタカタ

八幡「……」



ヤベェ……なんか知らんがヤベェ……

もしかして意識失ってる? さっきから笑いしか零してねぇぞ。
あと前から思ってたけど、女の子がしていい笑い方じゃないよね。

仕方ない。ここは強引に現世に引き戻すか。



八幡「おい輝子。もしこのレッスンを無事乗り切れたら、焼き肉に連れてってやる」

輝子「フ、フヒヒ……」カタカタ

八幡「そこの焼き肉屋な、野菜が食べ放題なんだ」

輝子「フ、フヒッ!」ピタッ

八幡「……キノコも、食べ放題だぞ」



まぁそうは言っても種類に限りはあるけどな。
けど興味は持ってくれた。さぁ、食いつくか……?


輝子「……ヒ…」

凛「ひ?」


輝子「ヒャッハァァ「うるさいですよっ!」……すいません」



びっくりしたー……

いきなり叫んだ輝子もだが、間髪入れずにお叱りしてきたトレーナーさんにびっくりした。



トレーナー「もう、真剣にやる気あるんですか?」



プンプンと怒った様子のトレーナーさん。
何故だろう。笑いながら怒っている時よりそうしている方が可愛い。



八幡「す、すいません。ちょっとやる気が空回りしているみたいで。ほら、声を上げて気合いを入れるみたいな?」

輝子「す、すいません……」


「ほらお姉ちゃん、謝ってるんだし、そんなに怒らなくても」



まさかのフォローに誰かと思って見てみると、トレーナーさんとそっくりな女の子がいる。誰?


トレーナー「あ、こっちの子は妹です。まだまだルーキーですが、今回一緒にレッスンをやってトレーナーの勉強をしてもらおうと思って……」

「よろしくお願いします♪」



眩しい笑顔を見せるトレーナーの妹さん。ふむ、ここはルーキートレーナーとしておこうか。
とすれば、小町がプロデューサーになったら、ルーキープロデューサー?
いや、俺がもう既にルーキーじゃねぇか。

そんなどうでもいい思考は放っておいて、トレーナー姉妹が仲睦まじく会話をしている。



ルーキートレーナー「そんなに怒ってたら、怖い人だと思われちゃうよ?」

トレーナー「えっ! い、いや、別に怒ってるわけじゃないんですよ? ただ、少し注意しただけで…」



顔を赤くして弁解するトレーナーさん(可愛い)。



八幡「いえいえ、これからは気をつけますんで。な、輝子」

輝子「……は、はい」



さっきの歓喜は何処へやら。
しおらしく謝る輝子。気のせいかアホ毛も項垂れている。いつもか。


反省していると思ってくれたのか、トレーナー姉妹はレッスンの準備に戻っていく。



八幡「まぁ元気出せ。焼き肉はホントだからな」

輝子「うん……が、頑張る…!」



うんうん。そういう普段大人しい子が健気に頑張る姿、八幡的にポイント高いぞ。
けどさっきの叫びは何か狂気じみたものを感じた。……嫌な予感がするなぁ。

やる気を出した輝子を応援していると、隣から視線を感じる。



凛「……」ジーッ



凛ちゃんなう。



凛「……プロデューサー、私は?」

八幡「へ?」



いきなりだったので、思わず変な声が出てしまう。


凛「私も、レッスンやるよ?」



あぁ、そういう事ね。



八幡「分かってるよ。レッスン終わったら焼き肉食いに行くか。凛も一緒に」



そう言ってやると、満足したのか、凛はニッコリと笑って頷いた。



凛「うんっ。私も頑張るね」



嬉しそうに笑いやがって。そんなに焼き肉食べたかったの?
……お財布大丈夫かな?

念の為お金を降ろしておこうかと俺が考えていると、トレーナーさんがレッスンを始める声を上げた。




トレーナー「それじゃ、まず始めにストレッチをしますので、二人一組になってくださーい」







八幡「なん……だと……!?」







思わず漏れた俺の呟きもなんのその、モブドルたちは「はーい」と何の気無しにペアを作り始める。

まさか、ここであの必殺“二人組作ってー”を発動するとは……!
トレーナーさん、恐ろしい子……!

俺が当事者だったと思うとぞっとする。しかし、今問題なのは、現在進行形でぞっとしている奴がいるという事だ。






輝子「……ッ!」カタカタ





き、キノ子ォォォオオオオッ!!!!



戦慄の表情で動けずにいる輝子。もはや笑う事すら出来てねぇぞ!

やばい。俺もアイツもぼっちだからこそ分かるのだ。
今どれだけ自分が不味い状況にいるのかが。

待て、落ち着くんだ。koolになれ比企谷八幡。

そうだ。今この場には、もう一人の担当アイドルがいるじゃないか!




「ねぇ、あたしと組まない?」


凛「え? で、でも……」チラッ


「いいからいいから!」


凛「ちょ、ちょっと……!」





モブドルゥゥゥウウウウッ!!??





どこぞの誰かも分からないモブドルに凛が引っ張られて行ってしまった。

くそっ! この世に神はいないってのか! ちひろの目にも涙ってのは嘘だったのかよ!


輝子「……っあ…」



すがるように凛を目で追う輝子。

もうやめてくれよ、輝子のHPはとっくにゼロだよ……
つーか、自分がそういう立場になるのは勿論キツいけど、知り合いがなってる場面見るのも大分堪えるなオイ……



八幡「……チッ」



もう殆どペアは出来ている。見るに、余った奴は居なさそうだ。輝子を除いて。


……仕方ねぇ、ここはアレしかねぇか。


題して“先生と一緒”作戦(今回の場合はトレーナーさんにあたる)。

いや、ただ単に先生とペアを組むって事なんだけどね。しかも作戦と言っておきながら、結局こうならざるをえないのだが。先生と組むって、生徒には酷過ぎるでしょ……

どうせ輝子には一人余った事を告げる勇気は無いので、俺がトレーナーさんに言ってやる事にする。
気づかれるのを待ってたらまた怒られそうだしな。




トレーナー「それじゃあ私たちはお手本として、前でやるから…」


ルーキー「ふむふむ…」





ルキトレさァァァアアアアんッ!!!???





なんてこった、まさかの先生役までいないとは……!
これは、詰んだ。詰みと言わざるをえない。

見ると、輝子は動けずにじっとしたままだ。



八幡「……」



普段の俺なら、見限っていた。もう出来る事は無いと、見放していただろう。

これがぼっちの宿命。


一人でいるのは楽だ。しかし、生き辛い。
受け入れるしかない。

普段の俺なら、そう言っていただろう。

しかし、ホントに残念な事に……



臨時とはいえ、俺は、アイツのプロデューサーなんだよな。



八幡「……仕方ねぇか」



俺はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを解く。



輝子「……は、八幡…?」



近づいて来た俺に、不思議そうな声を出す輝子。




八幡「俺が組んでやる」


輝子「……え…?」


八幡「ぼっちはぼっち同士、俺が組んでやるって言ったんだよ」




ひとりぼっちは、寂しいもんな。




凛「いやダメだから」




ダメだった。



凛「プロデューサーが組んでどうするの。アイドルでも目指すつもり?」

八幡「うぐっ……しょうがないだろペアがいないんだから」

凛「だからって、女の子とペア組んでストレッチとか、セクハラって言われて仕方ないよ?」



呆れたように冷たい視線を送ってくる凛。
ふえぇ……凛に雪ノ下が取り憑いてるよぉ……



凛「まぁ冗談はこの辺にして」

八幡「冗談だったのか……」



絶対本心だったろ。



凛「プロデューサーの心遣いは分かるけど、やっぱり問題あると思うしさ。私が組むよ」

輝子「えっ……?」

八幡「いやでも、お前さっきの子はどうしたんだよ」


さっきの無理矢理連れて行ったモブ子。いやモブドルか。どっちでもいいね。



凛「うん。さっきの子には事情を説明して、分かれてきた。他のペアに入れてもらって三人でやるってさ」



なるほど、三人でやるっていう手もあったのか。
長い事ぼっちをやって来たが、いつも“先生と一緒”作戦か“仮病で見学”作戦しかしてなかったからな。もう作戦でもなんでもないが。

しかしそれならば、輝子がどこかのペアに入れてもらうという手もあったはずだ。おそらく、凛が輝子に気を遣ったのだろう。こっちの方が輝子の気が楽だと。



輝子「ど、どうして……そこまで…?」



心底不思議そうに訪ねる輝子。
その気持ちは、同じぼっちの俺としてもよく分かる。



凛「どうして?」



今度は、凛の方が心底不思議そうに言葉を返す。


凛「組みたかったから、だけじゃダメなの?」

輝子「……ッ…!」



……相変わらず、コイツは真っ直ぐだな。
思った事は言うし、思った事は曲げない。
そこが凛の魅力なんだろうな。思わず惚れそうだ。


こんなぼっちの自分に、嫌な素振りも見せず話しかけてくれる、バカっぽい明るい少女。
そんなとあるクラスメイトを思い出した。



凛「ほら、早くしないとレッスン始まるよ」

輝子「……り、凛ちゃん……」

凛「何?」



輝子はいつかと同じように、躊躇い、意を決し、言葉を紡いだ。



輝子「わ、わたしと……友達に、なってくれませんか……?」




凛「……何それ。傷つくんだけど」


輝子「……ッ」ビクッ



凛の答えに、怯えるように俯く輝子。
それに対し凛はーー





凛「私は、もう友達だと思ってたよ?」


輝子「……え…?」





凛は、心からの本心を言葉にしていた。



凛「ほら、行こ輝子」



手を引っ張る凛。
輝子は、俯いていた顔を上げ、戸惑いの表情を浮かべ、




輝子「…っ…うん……フフ……」




心から、笑っていた。




八幡「……ったく」



二人でレッスンに向かうその姿を見て、苦笑混じりにため息を吐く。

ちょっとだけ寂しい気分になったのは、秘密である。





× × ×





八幡「まぁそんなわけで、無事レッスンを終える事が出来たわけです」



回想、終了。



ちひろ「良かったじゃないですか! ちゃんとレッスンも出来て、仲も深まって!」



まぁ確かにその通りだ。その後のレッスンも順調にこなしていったし、大きな失敗も無かった。大成功とも言えるだろう。
……言えるんだが。



ちひろ「で、なんでそんなにやつれてるんです?」



そこである。



八幡「いえね。さっきレッスンが無事終わったら、焼き肉に行くって言ったじゃないですか」

ちひろ「あぁ、そういえば言ってましたね。キノコも食べられるとか……」



そう。行ってきた。
行ってきた結果……



八幡「食べ過ぎました……」

凛「もう、キノコは食べたくない……」

輝子「フ、フヒヒ……まんまん満足……」

ちひろ「そこっ!?」


もう当分はキノコはいいや……
見たくもない。すぐ足下にあるけど。



ちひろ「いやいやいや、レッスンじゃなくてそこでヤラレたんですか!?」

八幡「食べ放題だったんですけど、輝子が尋常じゃない量のキノコ(+野菜)を頼みまして……」



それの消費を手伝ったというわけだ。焼き肉の食べ放題なのに、明らかキノコのが食ってたぞ。



凛「しかも食べ残すと、料金が発生しちゃうお店だったから……」

ちひろ「注文した時には既に遅し、と」

八幡「そういう事です」

輝子「お、お持ち帰り出来なかったのが、残念……」



あれだけ食ってまだ食うのかコイツは。いいのそんなに友達食べちゃって?



輝子「り、凛ちゃん、また……一緒に食べに行こう…?」

凛「うっ……プロデューサー……」


そんな目で俺を見るな。俺にはどうしてやる事も出来ん。

しかしこうして見ていると、凛が輝子の頼みを断れないとことか、は雪ノ下と由比ヶ浜に少し似ているな。
微笑ましいな。見ている分には。



ちひろ「折角レッスンしたのに、勿体無いですねぇ……」

八幡「言わんでください」



そこが一番突いてほしくない所だ。こりゃ当分はレッスン漬けだな。
しかし俺がそんあ風に考えていると、ちひろさんは呆れ顔から一転、笑顔になる。



ちひろ「しかしそんな比企谷くんたちに、朗報があります」


八幡「朗報?」

凛・輝子「「?」」


ちひろ「じゃじゃーん! これです!」



ちひろさんが差し出してきた一枚の紙。というか書類には、こう書いてあった。



八幡「『○○会社のイメージタレント募集オーディション』……って」


凛・輝子「「オーディションっ!?」」





……どうなる事やら。


ということで今回はここまで!

たぶん次回でキノ子編はラストです。と言ってもその後もちょくちょく登場はすると思いますが。

めっちゃ遅くなりましたが、そろそろ投下したいと思います!
最初に言っておくと今回は若干俺ガイル側です。

……人おる?









小学生の時の話だ。


当時はまだぼっちなんて言葉を知らなくて、一人ぼっちだった時の話だ。

小学生の頃の事など、もうあまり覚えちゃいないが、いくつか覚えている事がある。
……まぁ、ほぼ嫌な思い出なんだけどな。


けどその時の事は別にトラウマでもなんでもなく、ただ、なんとなく覚えていた。


小学生の頃俺は、当時通っていた小学校まで徒歩で通学していた。
別に珍しい事でもない。むしろ割合としては一番多い通学方法だろう。
まぁ、今はモンスターペアレントなんてのもいるらしいし、車で送る家庭も増えているのかもしれないが。


とにかく。俺は当時徒歩通学であった。


別に特別遠いわけでも、めちゃくちゃ近かったわけでもない。至って普通の、小学生が歩いていける距離。


そんな通学路で、ある一カ所。横断歩道があった。


もちろん横断歩道なんていくらでもある。通学路にも当然いくつかあった。
しかしその横断歩道はあまり車の通らない路地にあり、ほぼあって無いようなもの。
誰しもが思った事があるであろう、「ここ、信号必要なの?」という交差点。


そこの横断歩道であった。


ここで繰り返すが、俺は当時小学生であった。正直学年はあやふやだ。
しかし当時の俺たちは、純真無垢な子供から、思春期の少年少女へと変わりつつあったのだ。


成長とは、何も良い事だけではない。
得るものは何も、良い事ばかりではないのだ。

この時、この横断歩道を通る小学生。

いつからだろうか。


車が通らないなら、と。小学生が信号を待たなくなったのは。


別に命に関わるような問題でもない。
確かにそこの交差点は車の通りがほとんど無いし、実際小学校を卒業するまで、事故なんてものも聞いた事が無かった。
その小学生たちだって、他の横断歩道では信号が青になるのを待つだろう。


けれど。いつからか小学生は、信号を無視するようになったのだ。


俺はその当時も一人ぼっちであった。
小町が通うようになるまで、俺は一人で通学していた。


そんな時、ある光景を見たんだ。


3人~4人の集団下校する同級生たち。
見かけたのは例の横断歩道。別に車は通っていない。

楽しそうに騒ぎながら、話しながら渡っていく小学生たち。信号は赤。


その中で、一人だけ躊躇う少年がいた。


他が気にせず渡っていく中、その少年は躊躇した。


けれど、それも一瞬の事だった。


赤信号、皆で渡れば怖くない、ってか。
俺はその言葉を、何年後かに知る事になるが……正直、嫌いな言葉だ。

当時の俺は、信号を待たずに渡った“皆”よりも。



“皆”がやるなら、と自分を曲げた少年の方が、



カッコ悪いと、思ってしまったのだ。




しかし、言ってしまえばたったそれだけの事。
今そんな光景を見た所で何とも思わないし、気にも留めないだろう。


けど、何故かその時の事は覚えている。


……そういえば、律儀に信号待ってたら、女子に「何アイツ、あんな所で一人で突っ立って……キモっ」って言われた事があったな。





八幡「……やっぱ嫌な思い出じゃねーか。何トラウマ思い出してんだ、俺……」





早朝6時。

割と最悪な目覚めであった。









小町「ふーん。また懐かしい夢を見たねお兄ちゃん」


眼前におわすは我が妹、小町。
そして眼前に並ぶは我が妹の手料理の、朝食。

……ふむ。良い朝だ。


そんな風に目覚めの悪さを癒す朝。
例のオーディションを告げられた翌日である。

基本的にうちの親は家をあける事が多いので、こうして小町の手料理を頂く事も少なくない。その点は感謝だな。自分で作らなきゃならん時は面倒だが。



八幡「まぁな。またいらんトラウマを思い出してしまった」


小学生とは怖い生き物だ。というか子供が怖い。
なんであんなに思った事をそのまま言っちゃうの? せめて本人のいない所で言ってほしい。泣いちゃう。つーかあん時は小学生だったからホントに泣いていたんじゃ……?


と、俺が過去のトラウマに悶々とし始めていると、朝食の準備を終えた小町が向かいに座る。
そのエプロンを自然に椅子の背もたれに掛ける所が、妙に自然で、何と言うか、良いですね。

そうアホな事を考えていると、小町はクスッと笑って言ってくる。



小町「でもでも、それでもお兄ちゃんは、待つ事はやめなかったんでしょ?」


八幡「……まぁ、な」



それだけ聞くと凄い一途な人みたいだが、実際は信号待ちをしているだけだ。



小町「なら良いじゃん。お兄ちゃんのそういう所、小町は好きだよ? あ、今の小町的にポイント高ーい♪」


八幡「……あ、っそう」


そりゃこっちの台詞だ、パカタレ。
八幡ポイント高過ぎて攻コスト以外にも振り分けたくなるだろーが。

全く。そんな事を言うから、こんな立派なシスコンになっちまったんだぞ?
こりゃ、当分嫁には出せんな。うん。



そんなこんなで朝食終了。


小町が後片付けをしてくれている間にネクタイを締める。

……なんか、いつの間にかスーツにも慣れてきたな。
嫌だ嫌だ。文化祭の時もそうだったが、俺は働き始めると存外社畜っぷりを発揮してしまうらしい。
こ、このままではシンデレラプロダクションに永久就職なんて事も……!?



八幡「……いや、それは無いか」



この企画の中に、優秀な人材を発掘するという目的が少なからずあるのは薄々分かってはいた。しかしその敷居の高さは、アイドルに勝るとも劣らないだろう。

そのまま正社員に抜擢されるような人材なんて、100人中10人いたら多い方じゃないか?
確かにそう言う意味では、このプロデューサー大作戦は良い選抜方法なのかもな。より実践的に手腕を測る事が出来るのだから。もしかしたら、これこそがその企画の本当の狙いなのかもしれない……それは考え過ぎか。


ま、どちらにせよ俺には関係の無い事だ。

抜擢される事は無いだろうし、万が一されるような事になっても、断るだろう。


しかし疑問は残る。

一年後の総選挙で決められるシンデレラガール。
そのプロデューサーは、果たしてどうなるのか?

実際の所、明言はされていない。
何か表彰でもされるのか、景品が貰えるのか、もしくはーー



八幡「まさか、強制的に正社員になるって事はねぇよなぁ……?」



それは勘弁していただきたい。
まぁ、今の段階じゃ要らぬ心配か。
捕らぬ狸のなんとやらだ。そんな事は、凛がシンデレラガールになってから考えればいい。



八幡「……ん?」



今何か、違和感を感じた。
それは別に病気の予兆とか、前兆の感知なんてものでもない。俺に幻想はぶち殺せない。

何と言えば良いのか、自分自身の思考に対する違和感、とでも言えばいいのか?

うーむ謎だ。


八幡「……」

小町「およ。どうしたのお兄ちゃん。ネクタイ締めたまま固まっちゃって」



俺が思考の渦に巻き込まれていると、支度を終えた小町がやって来た。いつの間にやら、家を出る時間になっていたようだ。



八幡「なんでもねぇよ。さっさと出るか」

小町「そだね。……あ! そうだった、お兄ちゃんに言っときたい事があったんだ」



玄関に向かっている最中、急に思い出したように言う小町。なんか嫌な予感がするんですが……



小町「お兄ちゃんの担当アイドルの……えぇーっとー…凛、さん? だっけ? 今度家に連れて来てよ!」

八幡「ええー……やだよ」



いや普通に嫌だ。ハズイし。
つーか、別に呼ぶ理由なくなくない?



小町「良いじゃーん、小町も挨拶しときたいし。それに、新たな嫁候補だよ? これが会わずにしてどうしろと!」

八幡「どうもしなくていい。つーか担当アイドルと結婚するとか、そんな簡単にセーラー服は脱がせねぇんだよ!」


凛はにゃんにゃんなんてキャラじゃないしな。
ていうか何。この子、なんでこんなにテンション上がってんの? 萌えじゃなくて燃えなの?



小町「でも、結衣さんと雪乃さんとは会ったんだよね?」



そして何故知っているし。いやまぁどうせ由比ヶ浜あたりから聞いたんだろうが。
女子の情報網とはかくも恐ろしいものである。



小町「良いなー。なんで小町も呼んでくれなかったの? そんな面白そうな場面に立ち会えなかったなんて……くっ! 小町一生の不覚!」

八幡「別になんも面白くもない。つーかお前を呼ばなかった事は八幡一生の功績だったな」



もしも呼んでいたらどうなっていた事か。それならばまだ卯月や本田が一緒の方がマシである。……いや、どうだろう。それはそれでウザイな。


どうにか別の話にそらしつつ、小町と雑談しながら家を出る。

小町は学校、俺は会社へ行く為駅へ。うわぁ、なんか俺、父親になった気分だ……
どちらにせよ小町は嫁に出さんがな(迫真)。


通勤&通学している途中、ふと横断歩道にさしかかる。信号は赤。
青になるのを待っている中、思い出すのは今朝の会話。


そして、この交差点は一年前の……




小町「お兄ちゃん」



小町の一言で我に帰る。
少しばかり考え込んでしまっていたみたいだ。



八幡「どうした?」



小町の方を向くと、何故かは知らんが、笑っていた。





小町「いつか、一緒に隣で待ってくれる人と出会えるといいね」












「もちろん小町は一緒に待つけどね。だってお兄ちゃんの妹だし。あ、今の小町的にポイント高ーい☆」


そう言い残して小町は学校へ向かっていった。
今日は朝から高ポイントの連続だな。そろそろ守コストにも振り分けるか。


嫌な事も良い事もあった朝を過ごし、我がシンデレラプロダクションへと出社する。我がとか言っちゃったよ完全にリーマンじゃんオレェ……


事務所には数人のアイドルと一般Pがいた。各々が仕事のスケジュール確認や、仕事前の支度へと勤しんでいる。うむ、何故だか頭が痛くなってくるな。

そんな中を颯爽と突っ切り、自分のデスクへと向かう俺。
というか、勝手に使ってるだけなのだが。

いや、でも輝子よりマシじゃない? あいつデスクの下にキノコ栽培してんだぜ?
しかもこの間思わず蹴ってしまったら怒られたし。怖い。キノコ怖い。


事務スペースには既にちひろさんがいた。ご苦労様ですな。

……前々から思っていたのだが、こうして仕事をしているちひろさんを見ていると、なんか既視感があるんだよなぁ。何でだろう。



八幡「おはようございます」

ちひろ「あら。おはようございます比企谷くん」



動かしていた手を止めて挨拶を返してくるちひろさん。



ちひろ「昨日話したオーディションの件、考えてくれましたか?」

八幡「ええ、まぁ」



例のオーディション。
まだ出るかどうかは決めていないのだが、俺の一任では決められない。



八幡「やっぱり、本人たちの意思に任せようかと」

ちひろ「そうですねぇ……それが一番良いのかもしれません」


頷くように応じるちひろさん。
意外だな。てっきり投げやりだなんだと言われるかと思っていた。

そんな俺の気持ちが伝わったのか、ちひろさんは笑いながら補足するように話していく。



ちひろ「比企谷くんだって、ちゃんと色々と考えてその結論だったんでしょう? それくらいは分かりますよ。私だって伊達にアイドル事務所の事務員をやっていませんよ」

八幡「そんなもんですか」

ちひろ「ええ。そんなものです。デレプロ奉仕部の事だって、比企谷くんの事を信用しているから頼んだんですよ?」

八幡「ダウト」

ちひろ「残念! 本当です♪」



冗談で誤摩化す作戦だったのに、更に返されてしまった。や、やりおるなこの事務員……!
どうにか冷静を保ちつつ、なんて事ない風を装う。



八幡「……まぁ、そう言う事にしておきますよ。けど、良いんですか? 特定のアイドルに肩入れはしないって言ってたのに。席まで使わせてもらってるし」



本当に今更だが、大丈夫なのだろうか。後になってインチキとか言われたらどうしよう。


ちひろ「前にも言いましたけど、デレプロ奉仕部を請け負ってくれているお礼ですよ。むしろこれでも見返りが少ないと思っているくらいです」


これで見合ってないって、この人、この先どれだけの臨時プロデュースをさせるつもりなのだろう……
俺が戦慄していると、ちひろさんは照れたように笑った。




ちひろ「って言っても、本当には近くに置いておきたいだけなのかもしれませんね。あなたたちは、見ていて面白いから」


八幡「っ!」




ーーあぁ、そうか。


今の台詞を聞いてようやく分かった。
この人を見て既視感を覚える理由が。


似ているのだ。

我が担任であり、生活指導でもあり、俺たち総武高校奉仕部の顧問でもある。


あの人に。


ちひろ「? どうかしたんですか?」

八幡「……いえ」



性格も、容姿も、全然違うのに。

それでも、何処か似ていた。



八幡「ちひろさん」

ちひろ「はい?」

八幡「今度、ラーメンを食べに行きましょう」



おせっかいで、お人好し。
もしかしたら、ちひろさんも教師に向いているのかもな。



ちひろ「よく分かりませんが……是非♪」



その笑顔を見て、そう思った。





……あ、あと独身ってとこも似てるな。やっぱ仕事に生きているからだろうか。
これは言わないでおこう。

この人にまで手を出されるようになったら、俺の身が保たないしな。









凛「出るよ。もちろん」


即答であった。
確かに凛はそう言うだろうと思ったけど、本当に早い。どれくらい早いかってーと、野球部の返事がニンバス2000なら凛はファイアボルトくらい早い。クィディッチ出れるレベル。いや出るのはオーディションだけども。




輝子「……で、出たい、とは、思う…」


遅かった。というか曖昧だった。
大丈夫? お前の箒折れてんじゃない?
こりゃ、クィディッチには出れそうもないな。いや出るのはオーディションだけれども。




八幡「……じゃあ、二人とも出るって事で良いんだな?」


凛「うん」

輝子「う、うぅん……」



今のは返事なのか微妙な所である。


ちひろ「まぁ最初は書類選考ですし、気軽な気持ちで応募してみるのも良いと思いますよ」


ちひろさんがフォローしてくれた。
まぁ実際その通りだ。まずは書類選考、それを通った後に面接だ。一次で落ちたら話にならない。



輝子「そ、そっか……書類選考があるのか……フヒヒ」



おい。何でちょっと嬉しそうなの? 完全に落ちたら落ちたで良いと思ってるよね?
そんな輝子も心配だが、ある意味ではもう一人の少女も心配だ。



凛「……」



あからさまに緊張している。
どう見ても緊張している。誰が見ても緊張している。



八幡「……大丈夫か?」

凛「え? あ、あぁうん。大丈夫だよ」



大丈夫な奴はそんなどもらねぇよ。ソースは俺。
見ろ、こうしている今だって油断するとカタカタと手が震えてくる。たぶん営業行く前とか生まれたての子鹿みたいになっちゃうぞ。


八幡「あまり無理はすんなよ。頑張るのと無理するのは別物だからな」

輝子「フフフ……八幡は、良い事を言う…」

八幡「お前は多少無理をするくらいで丁度いい」



つーか、話しにくいからいい加減机の下から出てこないか? 他の人が見たら地震でも起きたのかと勘違いするぞ。もの凄く今更だが。



ちひろ「お二人ともオーディションを受けるという事なので、説明を始めたいと思いますね。お願いします助手さん♪」



え、72? 助手? ティーナでもいるの? 



卯月「はーい♪ 助手の島村卯月です!」



違った。むしろ83だった。

いきなり現れた島村はどっからかホワイトボードを引っ張ってくる。
そのホワイトボードには、大きく「オーディション概要」と書いてあった。

お前、プロデューサーいないからって普段こんな事やってんのか……なんか涙が出てきた。



ちひろ「まず最初に言っておくと、このオーディションはシンデレラプロダクション、つまりウチの会社にのみ持ってこられたお仕事です」


ちひろさんが説明をすると、島村がホワイトボードにかいつまんだ内容を書いて行く。すげぇ丸文字だ。



ちひろ「要は“プロデューサー大作戦”に便乗して、話題を作るために回して頂いた仕事なわけですね。こっちとしても採用されれば知名度は一気に上がるし、向こうとしても会社のPRには持ってこいです。win-winな関係って事ですね♪」



出たwin-win。なんかこういう仕事ってその言葉よく使いそうだよな。
けど俺から言わせてもらえば、そんなの厳密にはあり得ないと思うけどな。
自分の利益と相手の利益が完全に一致する事など無い。どこかでどちらかは妥協しているのだ。それが無ければそんな関係など出来っこない。

それって、本当に“自分も勝ち、相手も勝つ”と言えるのだろうか。


いや今はそんな事はどうでもいい、オーディションだオーディション。



ちひろ「ここで重要なのが、他のプロダクションのライバルはいないという事です。これは若手ばかりのウチとしては大変良い事なのですが、裏を返せば、同じプロダクションの子がライバルという事でもあります」



力強く「ライバル!」と書く島村。ドヤ顔可愛い。



ちひろ「勝っても負けても恨みっこナシ! 大きな仕事としては、これがプロデューサー大作戦が始まって初の対決になりますかね~。ここまでで何か質問はありますか?」


凛「はい」


隣の凛が手を挙げた。
もう気分は学校の授業である。ホントに先生になっちゃったねちひろさん。



ちひろ「はい、凛ちゃん」

凛「今の所、オーディションを受ける人数はどれくらいですか?」



ちひろ「そうですねぇ……ざっと30人くらいですかね」



へぇ、意外だな。もっといるかと思ってた。
シンデレラプロダクションには100人以上のアイドルが所属している。つまりこのオーディションに参加しようとしているのは、全体の三分の一以下という事になる。



ちひろ「まぁ、その実態はプロデューサー不足というのもありますが……やっぱりアイドルの方向性を考えているんでしょうね。イメージタレントの募集ですから、厳密にはアイドルの仕事とは違いますし」

八幡「はぁ……成る程」



違いがよう分からんな。



ちひろ「お二人はもちろん、受けるからにはこの会社の事はある程度調べているんですよね?」

凛「うん。食品会社だよね」

輝子「フヒヒ…ここのお吸い物は美味しい……松茸」


そう。今回受けるこの会社は食品会社だ。
主にインスタント食品や冷凍食品。スーパーによく売られているあーゆーのである。



ちひろ「その通り。つまりこの会社のイメージタレントという事は、食品関係のPRをするのが仕事になるわけです。CMとかで「この冷凍食品、冷凍とは思えない☆」なんて風にね」



妙に芝居がかってたな今。ちょっとやりたいんじゃないの?
ちひろさん、普通に見た目は奇麗だからなぁ。
あと島村、その台詞は別に書かなくていいから。



ちひろ「なので、そういう方面に向いてないと判断する所もあるって事ですね」

凛「……私たちって、どうなのかな」



出るって言った後にそれ言う?
まぁ何事にも挑戦するってのは良い事なのかもしれんが。
あまり深くは考えてなかったらしい。俺も。



八幡「良いんじゃないか。今は兎に角色々やってみるのも」

ちひろ「そうですね。無駄な経験なんてありません。自分の可能性を広げるという意味でも悪くないかと」

輝子「……」


あのー輝子さん? 黙りこくってると怖いんですが……

ま、まぁ、色々思う所もあるのだろう。今はたくさん悩ませとこう。



八幡「んじゃ、オーディションは出るっつう事で。書類は出しておくから、お前らは一次通った時の為に面接練習しとけよ」

凛「うん。わかった」

輝子「……」

ちひろ「それじゃあ、私が面接官役でお相手しますよ。他のアイドルの子たちも一緒に練習しようと思っていたので」



着々と準備が進んでいく。

さて、俺は少しでも有利になるように、会社の事でも調べますかね。



とりあえず最初は『○○会社 ブラック』で検索だな。










八幡「足りない心を~♪ 満たしたくて駆け出す~♪」



帰宅なう。
夕方の千葉は良い。思わず歌いたくなる程な。

オーディションまで一週間程。
しばらくはその対策に追われそうだ。
あいつらも頑張ってるし、俺も挨拶回りに……


……また違和感だ。何なんだ一体?


自分で自分に違和感を感じるとか、情緒不安定なのか俺は。

ま、考えたってしょうがない。早く帰って風呂にでも入ろう。




八幡「見上げた空から~♪ 跡辿っt…」

「あれ? 比企谷か?」

八幡「…ッ!」


ま、また歌ってる所を聴かれてしまった。
今度は何、765プロにでもスカウトされるの? やよいちゃんに会えるならそれもやむなし。

しかしそんな事はもちろん無く、その上、聴かれたのは知り合いだった。



「やけに上機嫌だな。良い事でもあったのか?」

八幡「……別にそんなんじゃねぇよ。葉山」




葉山隼人が、そこにいた。




葉山「ハハ、悪い悪い。別にからかうつもりはなかったんだ。ただ……」



苦笑混じりに話す葉山。どこか躊躇っているようにも見える。



葉山「元気にやってるみたいで、安心したよ」

八幡「……お前」

葉山「……ごめん、平塚先生に聞いたんだ。あのテレビでやってた、プロデューサーやってるんだろう?」


あ、あの人、言ってやがったのか!
雪ノ下と由比ヶ浜には言ってないんじゃなかったの? もしかして面白がって黙ってたのか……



葉山「俺には教えとくって、言ってくれたんだ。安心してくれ、他の皆には言い触らしたりしてないから」

八幡「……そうかよ」



まぁ、別にそこは心配していない。コイツの事だ。特に口止めなんてしなくても、黙っているだろう。



葉山「なぁ、比企谷」



急に神妙な顔つきで話しかけてくる葉山。
な、なんだよ。イケメンがそんな顔するときゅんとしちゃうだろ。





葉山「どうして、プロデューサーなんてやってるんだ?」




八幡「…………あ?」






思わず呆けてしまう俺を見て、葉山は慌てて取り繕うに言う。



葉山「ああいや、別に嫌な意味で言ったんじゃないんだ。ただ、なんて言うか……不思議だったんだ」

八幡「不思議?」

葉山「あぁ。……俺としては、比企谷がそうやって物事に前向きに取り組んでるの良い事だと思ったし、嬉しいと思った」


お前は俺の親か。
思わずツッコミそうになったが、堪えて続きを待つ。



葉山「けど何か……らしくない、とも思ったんだ。言っちゃ悪いが、お前は進んでそういう事をする柄じゃないだろう?」



本当に言っちゃ悪いな。
確かに自分でもそんな柄ではないと思うけども。



葉山「だから気になったんだ。比企谷。どうしてプロデューサーなんてやっているんだ?」



葉山はさっきと同じ質問を繰り返した。


どうして、俺はプロデューサーをやっている?




八幡「……」




あぁ、そうか。


違和感の正体はこれか。


葉山のおかげで分かった。
俺はずっと引っかかっていたんだ。

いつの間にか、プロデュースする事を当然だと思っている自分に。




なんで、俺はプロデューサーをやっている?


社長にスカウトされたから?

平塚先生に勧められたから?

担当アイドルが付いたから?



どれも、違う。



ならなんで、俺は……










「今は、私の隣にいて」









ふと、思い出す。













「隣で私のこと……見ててね」










ーーそっか。


そういう、事か。





八幡「……裏切られても良いと思ったんだ」


葉山「え?」





自惚れかもしれない。過信かもしれない。いつもの、勘違いかもしれない。



それでも。



俺は確かにあの時、彼女の言葉を嬉しく思った。

彼女の思いに、応えたいと思ってしまった。

例えそれがいつもの勘違いで、いつのものように俺が傷つく事になったとしても。




俺は、凛をプロデュースしたいと思った。




彼女を信じずに、彼女が傷つくくらいなら。

俺が裏切られて、俺が傷つく方がマシだ。





八幡「頼られてるなんて不覚にも思っちまったから、やるんだよ。それが勘違いだったんなら、俺がダメージ負うだけですむからな」



だから、俺はやりたいようにやるだけだ。



葉山「……そうか」



ぽつりと言葉を零す。
葉山は何かを諦めたような、そんな表情を浮かべていた。




葉山「君は変わらないな。相変わらず好きにはなれそうにない。けど…」


八幡「……」


葉山「嫌いにも、なれそうにない」



それでも、何処か清々しさを感じさせる笑みだった。



八幡「……俺もだよ。馬鹿野郎」





その後無言で帰る。

つーか、お前もこっちの道なのかよ。
葉山は部活の帰りらしかった。



八幡「ん……」



人通りも、車の通りもない交差点。
そこの横断歩道の前。

信号は、赤だった。



葉山「っと、赤か……」



少しばかり気づくのが遅れたのか、後ずさるように止まる葉山。
思わず、その様子をジッと見てしまった。




八幡「……」


葉山「どうしたんだ比企谷? そんな意外そうな顔して」


八幡「……いや。信号、待つんだな」


葉山「? 赤なんだから当たり前だろ?」




ホントに不思議そうな顔をする葉山。

……んだよ、俺が変みてぇじゃねぇか。




葉山「比企谷?」


八幡「……何でもねぇよ」




苦笑と共に、ため息をもらす。

俺が足を踏み出すと、葉山が慌てて追いかけてくる。




信号は、青だった。





今日はここまで! 一応言っておきますが1はホモでも腐ってもいません。

次回はホントのホントにキノ子編ラストです!

ま、まだ8月10日の深夜12時過ぎだから(震え声)

もう少しお待ちを……

やっと完成! さぁ8月10日の深夜2時28分に投下だ! 8月10日の深夜2時28分に!











人間とは、後悔する生き物である。

その時その場で選択をし、その積み重ねを経て生きて行く。
そうやって生きて行く過程で、後悔しない事などありえない。

もし、たら、れば。
大きさは違えど、いくつもの分岐点を通過して。

仮想の未来を浮かべずにはいられない。


そして後悔という行為には、心を休ませる効果があるらしい。
後悔していれば、昔の自分を責め、今の自分から目を背けることが出来るから。
そうやって、心を保つのだそうだ。


人は、後悔せずにはいられない。


よく後悔をしないように生きる、なんて言葉を聞くが、実際そんな事は無理だ。

人は後悔して、葛藤して、焦燥して、生きて行く。



けれど、だからこそ俺は言おう。

それでも俺は、過去を変えたいとは思わないーーと。





八幡「…………うーむ……」

凛「プロデューサー? どうしたのそんなに唸って」



おお、良い所に来たな。
実は今行き詰まっていてな。



八幡「いや……ウチの担任から渡された課題が難しくてよ」

凛「仕事関係だと思ったら宿題だった!?」




題:もしもあなたが過去へ戻れるのならどうしたい?


平塚先生鉄板の作文制作でった。


凛「……なんだ、ただの作文か」



呆れたようにジト目で見てくる俺の担当アイドル。
ただのって何だ、ただのって。



八幡「お前、大学言ったらそんな事言えんぞ? まぁあっちは作文というよりはレポートだが。もしも文系目指すんなら今の内に勉強しとけ」

凛「プロデューサーだってまだ高校生じゃん……」

八幡「細けぇこたぁ(ry」



ペンをカリカリと走らせ、続きを書いていく。
ちなみに使っているのは勿論いつものデスクだ。ぶっちゃけ愛着すら湧いてきた。

しかし……最近は何だか、前に比べて筆が進まなくなった気がすんな。文章を作るのは得意だと思ってたのに。
つーか、仕事あるってのに宿題とか出すなよなあの先生……


「提出するのは次来た時でいい。ゆっくりやりたまえ」


なんて良い笑顔で言っていたが、そんな事言ったらもう二度と学校には顔出さんかもわからんぞ!


作文とにらめっこしていると、痺れを切らしたかのように凛が隣から横やりを入れてくる。
いやまぁこの時間に宿題やってる俺が悪いんですけどね。



凛「宿題もいいけど、そろそろ始めない?」

八幡「ん。そうだな……って、いつも通りだけど輝子は?」



周りには見当たらない。デスクの下にも……いない、だと?
ここにいないって、後は自宅かスーパーのキノコ売り場くらいじゃないか? どちらにせよ外かい。
そんな事を考えていると、凛がキョロキョロと辺りを見渡し始める。



凛「輝子なら……あ」



そして一点を見つめたかと思うと、窓際の方のあたりを指差す。



凛「あそこでカーテンに包まってるよ」

八幡「よし。連行しようか」




連行中。




凛「プロデューサー。連行完了したよ」

八幡「うむ。ご苦労」

輝子「フ、フヒヒ……もう、面接練習は嫌……」涙目


と涙目で正座している輝子だが、座っているのは相も変わらずデスクの下だ。
そこで正座されても反省の色が全く感じられないから不思議である。

例のオーディションだが、二人とも書類選考は突破したらしい。
それに伴って面接練習も本格的に始めたらしいのだが……



八幡「そんなに練習したのか?」

凛「うーんと……」



ここ最近は○○会社について調べていたので、俺は面接練習には参加していなかった。今日あたりからちひろさんと一緒に見てみようかと思っていたんだが……凛の歯切れの悪さを見て嫌な予感がしてくる。



凛「なんて言ったらいいのかな……い、色々あったよ?」



苦笑いしながら目をそらす凛。
色々ってなんだ色々って。その中にはどれだけ危険なものが含まれてるんだ? なんか訊くの怖くなってきちゃったぞ。



ちひろ「おぉっと、そこから先は私に任せてもらいましょうか」


といきなりシュタッと現れるちひろさん。やけにかっこいいなオイ。
そういや今までいなかったな。デレプロ奉仕部顧問としての自覚が足りていないぞ。……あ! デレプロって略しちまった!



ちひろ「何があったかは、実際にご覧になった方が早いかと。というわけで面接練習の方に移りましょうか♪」



そしてやけにノリノリだなこの人。

それに比べウチのアイドルを見ると、カタカタと震える輝子に、それを励ます凛。



……大丈夫なのか?













場所は変わって応接室。

ここを面接練習の部屋として使っているらしい。
部屋の奥に長テーブルが置いてあり、そこの席にちひろさんと俺が座っている。要は面接官だ。

と言ってもメインはちひろさんがやってくれる。俺も一応いくつか質問は用意しているが……なんか、こっちはこっちで微妙に緊張すんな。


そして目の前には四つの椅子がある。
二つは凛と輝子だとして……あと二人は誰だ?

ちひろさんは「後になってのお楽しみです♪」なんて言ってはいたが。
……まさか、なぁ?


俺が嫌な予感を感じていると、コンコンと扉がノックされる。きたか。


ちひろ「どうぞ」


ちひろさんが部屋への入室を許可する。
こうして見ていると、妙に手慣れた印象を受けるな。
あ、つーか実際に面接官やってんのか。アイドル事務所の事務員だしな。

そんな素朴な俺の感想は放っておいて、一拍おいた後、扉がゆっくりと開かれた。



卯月「失礼します! 島村卯月、15歳です♪」



やっぱりお前かよ! つーか自己紹介早過ぎるよ!



卯月「趣味は友達と長電話で、出身地は…」

ちひろ「卯月ちゃん、とりあえず席にね」



そのまま続けようとする島村を制し、席へ促すちひろさん。思わず素に戻ってしまっている。
まぁそりゃな。入室して2秒で年齢言う奴とか始めて見たもん。

さっそくの先制攻撃に俺がやられていると、次のアイドルが入室してくる。
島村が来たって事はやっぱり……



未央「し、失礼しましゅ!」カタカタ



うん。来ると思ってた。来ると思ってたよ。
でもまさかそんなに緊張するキャラだとは思ってなかったなー。パーカー裏返しになってるよ?

ってか絶対わざとだろ! そんなミス家出る前からやるわけねぇし!



ちひろ「未央ちゃん? そういうのはいいから…」

未央「あ、そうですか?」けろっ



しかもやめちゃうのかよ!
あとここでパーカー着直すな。目のやり場に困る。


つーかやっぱこいつらだったか……
何? ヒマなの? なんかこっちが申し訳ない気持ちになってくるんですけど……

俺が早速げんなりしていると、いよいよ本命がやってきた。



凛「し、失礼します」



担当アイドルの凛。

いささか緊張している様子ではあるが、未央程ではないな。そもそもあっち演技だし。
あと、よく見るとピアスをしていない。別に面接って言っても就活してるわけじゃないんだから、大丈夫な気もするが……どうなんだろうね。


そして遂にやってきた。一番の不安の種。

頑張れ! キノ子!!









八幡「……」

ちひろ「……」

凛「……」

未央「……」

卯月「~♪」









…………あれ。



いくら待てどもやってこない。
トイレ?



ちひろ「……はぁ、またですか」

八幡「え? また?」



隣でちひろさんが嘆息している。
またってどういう事だ。



ちひろ「逃げましたね」



逃げた?
逃げたって、え?
escape?



ちひろ「卯月ちゃん! 凛ちゃん! 未央ちゃん!」

卯月「はい!」

未央「まさせて!」

凛「……全く、輝子ったら…」


俺が状況を飲み込めずにキョロキョロしていると、ちひろさんの呼び声で三人が部屋を颯爽と出て行く。え、何この展開。どっかにカメラでもあんの?


とりあえずついていけないので、俺は部屋で待機。すると程なくして、どこからか輝子の叫び声が聞こえてくる。




「輝子。また逃げ出したらデスクの下のキノコたちは、私たちで美味しく頂くよ?」


「ノォー! マイフレーンズ!!」





……輝子に、合掌。














ちひろ「とまぁこんな感じで、大体の面接練習は逃げ出したり、ずっと黙っていたりで、上手く進まなかったわけです」



場所は戻ってきて事務スペース。
いつもの反省会の位置である。



八幡「なるほど……」



色々ってのは、そういう意味ね。

予想はしていたが、やはり中々輝子にはハードルが高いらしい。
それを言ったら俺だって難しいけどな。
今はプロデューサーやってるが、面接必要だったらやってなかっただろうし。



凛「けど私も人の事は言えないかな。結構緊張してミスしてばっかりなんだ」


苦笑いしながら言う凛。
実際彼女の言う事はその通りなんだろうが、きっと輝子に対するフォローも含まれているのだろう。良い娘である。



輝子「フ、フヒヒ……そ、そんな事ない。り、凛ちゃんに比べたら、私は……」



それでも、今の輝子には届かないようだ。

慰めは、時に人を傷つける。
もちろん当人にそのつもりはなくても、傷つけてしまう事はあるのだ。

人に、人の気持ちは分からない。



輝子「……わ、私……昔演劇部に入ってた事があったんだ…」



ぽつりぽつりと言葉を発し始める輝子。
え、演劇部とな。
何だろう。木ノコ役とかあったんだろうか。


輝子「で、でも、私目立たないから……木の役とか、大道具の係ばっかりで……」



oh…

冗談だったのに真実だった……
なんか、ゴメン。胸が痛いや……



輝子「そ、それでも一度だけ、役を任された事があった……主役ではないけど、台詞もちゃんとある役…」

八幡「……」

輝子「正直、最初は断ろうかと思った……ぜ、絶対噛むし、上手く出来っこないから……」



その時の光景が、妙に鮮明に浮かんだ。
きっとその時の輝子も、今のように不安な表情だったんだろう。



輝子「でも、こ、後悔したく、なかったから……やってみた」

八幡「で、どうだったんだ?」

輝子「失敗した」


即答だった。
お前、こんな時だけ即答ってどうなの? 悲し過ぎるぞ……



輝子「や、やっぱり台詞は噛み噛みだったし、劇中で何度も転んだし、他の部員には陰口言われまくるし……フ、フフ…散々だった……」


凛「……」

ちひろ「……」



さすがの凛もちひろさんも言葉を失っている。
というより、気安く話しかけられないのだろう。
ぼっちはデリケートなのである。



輝子「そ、それが中学一年の頃……結局その劇が終わったら、やめちゃった……」



輝子の目は、先程の不安の色ではなく、諦めの色を見せていた。


輝子「やらずに後悔するより、やって後悔する方が良いなんて言うけど……あ、あれは嘘」

八幡「……」

輝子「け、結局、後悔するかもって思ってる時点で……後悔するのは分かってる。だったら、やらずに後悔していた方が、楽。その方が、傷つかずにすむから…」



何もせずに後悔していれば、昔ああしていればなーと希望を持っていられる。

けれど、やって後悔する事だってもちろんある。
やって良かったなどと言えるのは、成功した者だけだ。

そうやって行動することで状況を悪くする事も、必ずある。



輝子「だから、きっと今回も……どっちにしろ後悔する……」



輝子の言ってる事は間違っちゃいない。
俺だってその通りだと思う。


けどーー




八幡「後悔して、何が悪いんだ?」




やはり、気に入らない。



輝子「……八幡…?」

八幡「いいか輝子。今から、俺の知り合いの友達の兄貴の話をしてやる」

凛「……ねぇ、それって…」



凛がまさかという表情で見てくる。
感の良い子は嫌いだよ。



凛「それって、プロデューサーの…」

八幡「いいから聞いとけ。為になる話だぞ?」

凛「……分かった。とりあえず突っ込まずに聞いておく」



渋々といった様子で聞きに入る凛。凛だけに。
うむ。聞き分けの良い子は好きだぞ。




八幡「そいつには、魔法少女の知り合いがいたんだそうだ」

凛「絶対嘘でしょ!?」



言った側から突っ込まれた。
おいおいまだ一言目だぞ。



ちひろ「まぁまぁ、聞くだけ聞いてみましょう?」

凛「はぁ…」



酷い言われようである。
まぁいい。続きだ。



八幡「その魔法少女はな、ある願いを叶える為に魔法少女になったんだ」

輝子「ね、願い……?」

八幡「あぁ。想い人の、動かなくなった腕を治す為にな」



ここまで聞いた所で、凛が何か思い当たったような表情をする。なに、知ってんの? ネタバレはしない方向でお願いします。



八幡「その想い人の腕は無事治った。けど、そのおかげで少女は、毎日命がけで戦う日々を送るはめになった」

輝子「……」

八幡「しかも、想い人は何やら他の女と良い雰囲気になってるし、自分は戦う為に人間離れした身体になってるし、踏んだり蹴ったりだ」


ちひろ「うわぁ……」



何とも言えない表情をするちひろさん。
今度DVD貸してあげますよ。



八幡「結局、少女は最後に後悔してる自分に絶望して、身を滅ぼした。想いを告げる事も無く、な」

輝子「……」


八幡「俺は、はっきり言ってその少女が嫌いだった」




俺は、輝子に向かって言う。




八幡「確かに結果的に彼女は後悔した。正義の為にとか言っておきながら、結局は自分の為だったんだと。後悔している自分が、誰よりも許せなかった。……けどな」

輝子「……?」


八幡「それがどうした?」




俺は、彼女が自分の事を肯定してやれないのが許せない。




八幡「例えそれが結果的に自分の為だったんだとして、やった事に後悔したとして、それでも、彼女がやったことは正しい事だったんだ。誰にでも出来ない事をやったんだよ」


下心があった。あわよくばと思った。
それでも、悪い事をしたわけじゃない。絶対に良い事をしたんだ。
恥じる事なんてない。胸を張っていい。

彼女は確かに、正しい事をした。



八幡「大体、あんな男の為に何であそこまで……!」

凛「プロデューサー、ホントはそのキャラ好きでしょ」



当たり前だ。魔法少女に嫌いな奴なんていない。
ていうか、キャラって言うなキャラって。

……話が逸れたな。




八幡「とにかく、別に後悔したっていいんだよ。輝子」

輝子「……え…?」


八幡「確かに失敗しかもしれん。けどお前は挑戦した。噛み噛みでも、転びまくっても、お前はやったんだよ」




不安で、怖くて、やめようかと何度も思ったのだろう。
それでも、彼女は劇に出た。
後悔したくないと、行動した。



八幡「お前は出来る事をやったんだ。後悔したとしても、その時のお前を否定するな。お前は、胸を張っていいんだよ」



否定するな。過去の自分を、肯定してやれ。


お前は、頑張ったんだ。




輝子「…ッ……八…幡」




俯きながら震えている様子の輝子。

……え? ちょっ! お前何泣いてんだ!?




凛「……あーあー…」

ちひろ「比企谷くん、泣ーかせたー」



ジト目をこちらを責めてくる女子二人。
やめて! そんな小学生みたいな煽り方しないで! 昔のトラウマ思い出しちまうだろ!


俺がどうしていいか分からずにおどおどしていると、輝子がデスクの下から出てくる。



輝子「……八幡」


八幡「お、おう」



澄んだ声に、思わずたじろぐ。



輝子「わ、私、やってみる……」


八幡「!」




……なんだよ、そんな顔も出来るんじゃねぇか。


キノコは、置いていた。

いつもの頼りない笑みはそこには無く。



アイドルとして立つ、一人の少女の顔だった。






八幡「……んじゃ、早速練習始めるか」

凛「…うんっ。そうだね」

ちひろ「それじゃあ、待機してもらってる二人にも準備してもらいますね♪」



あの二人ずっと待っててもらってたのかよ……
もうなんか、本当、ごめんなさい。



輝子「あ、あの……」

八幡「ん? どうした?」



遠慮がちに申し出る輝子。
そういう所は変わらんね。まぁ輝子らしいが。



輝子「れ、練習だけど、私、明日から出られない……」

八幡「出られない? それってどういう…」

輝子「準備が……ある」

八幡「……」


オーディション本番まであと三日たらず。
はっきり言って今の状態で面接練習無しは相当ヤバいだろう。
……けど。



八幡「分かった。本番のオーディションには遅れるなよ」

凛「いいの? プロデューサー」



不安げな表情で訊いてくる凛。



八幡「何か考えあっての事なんだろ。だったら、止めるわけにもいかねぇだろ」



輝子の顔見りゃ分かる。
あれはもう、逃げたりしない。……たぶん。



凛「……そうだね」



頷く凛。
けどなんか、俺に対する含み笑いを感じる。なんだよおい。



ちひろ「なんて言うか、らしくなってきましたね、比企谷くん」



ニッコニコーと笑いながら俺を見るちひろさん。
ほっとけ。こっちにも色々あったんだよ。

さて、覚悟は決まった。
果たしてどうなる、オーディション。












オーディション、当日ですよ! 当日!

というわけで当日なのだが……輝子がまだ来てません。
俺と凛は会社の外の広場で待機中。
あと15分程で集合時間なのだが、大丈夫だろうか。

凛はと言うと、さっきからその辺をウロウロしながらケータイをしきりに弄っている。落ち着け。



凛「遅いな輝子……まさか事故にあったりとかしてるんじゃ…」



そんな思い詰めた表情で不吉な事を言わんでくれ……
けど、逃げたんじゃないかと思わないあたりは輝子を信じてるのが見て取れる。



八幡「とりあえず座っとけ。お前が慌てても何も変わらん」

凛「……そう、だね」


俺が座るよう促すと、凛は俺が座っているベンチに腰掛ける。すぐ隣に。
何? なんでそんな近くに座るの? どこのガハラさんだよお前は。

今度は俺が慌てるはめになった。
とりあえず落ち着くため、さっき買ったMAXコーヒーを飲む。

……うむ。この甘さが俺を癒してくれる。

すると凛がこちらを見ている事に気づく。なんぞ。




凛「……喉乾いたから、一口貰える?」


八幡「え? いや、まぁ、良いけど……」




良いわけねぇだろ! 思わず了承しちゃったけど、良いわけねぇだろ!
心の中でとはいえ、二回も言ってしまった。大事なことだからね。

そんな俺の気持ちも知ってか知らずか、コーヒーを受け取った凛は缶を一秒程見つめた後、一口飲む。
つーかお前、前に飲んだ時甘いとか言って不味そうな顔してなかったっけ? 喉乾いたんならジュースくらい買ってやんぞ。もう遅いけど。



凛「……ん。ありがと」



コーヒーを返してくる凛。どうせなら全部飲み干してほしかった……飲み辛いだろーが。
しかしここで捨てるのも勿体無いし、何より凛に良い印象を与えないだろう。

くっ……仕方ねぇか……!

俺は、迷いを振り払うかのように一気に口へと運んだ。





凛「あっ!」


八幡「ブゥーーーーッ!!」





飲んだ瞬間に凛が声を上げるので、思わず吹き出す。

な、なに、やっぱ不味かった!?



八幡「え、あぁ、い、いや、ゴメン! でも勿体なかったし! ほら、食べ物を祖末にするのはいけないと言いますか、飲み物だけどと言いますか……」オロオロ

凛「なに言ってるの……? それよりも、ほら、あれ輝子じゃない?」



どうやらさっきの声は俺に対するものではなかったらしい。紛らわしいからやめてよね!

気を取り直して凛が指差す方向を見る。
すると一台のタクシーが止まる所だった。



八幡「あぁ。たぶんそうだな」



もう時間もあまり無いし、おそらく間違いないだろう。
俺たちはタクシーの近くまで寄り、人が降りてくるのを待つ。

そして、彼女は降りてきた。



八幡「遅かったな、輝k…」








輝子「ヒャッハァァァァァァ!!!! 待たせたな二人共ォッ!!」







八幡「」

凛「」









……だれ?







輝子「フヒヒヒフハハハハアッハッハァーッ!!! これが! 私の! 真の姿だぁ!! ……あ、お代ですね。すいません今出します…」




輝子だった。


お代を受け取るとすぐさま走り去っていくタクシー。
まぁそりゃさっさと降ろしていきたいよなぁ……コイツは。


今の輝子の格好は……何と言うか、一言で言うなら、パンク? 

黒を基調とした世紀末を想像させる派手な衣装。
灰色の長髪には赤と青のメッシュが入っており、顔にはカラーペイント。

ヘビメタのバンドでボーカルをやってそうである。

ど、どうしてこうなった……




輝子「フ、フヒヒ……ど、どうかな……八幡」



しかし中身はちゃんと輝子のようだった。

まさか、お前にこんな一面があったとはな。プロデューサーびっくり。
つーか、準備ってこういう事だったのね……



八幡「う、うん。良いんじゃないか? め、目立つし」



俺が苦し紛れにそう言うと、輝子は目を輝かせて喜ぶ。輝子だけに。



輝子「目立ててる? 目立ててる? フフ…」



そ、そんなに目立ててるのが嬉しいのか。
なるほど。この格好にはそういって輝子の思いが現れてるんだな。

そんで、凛さんはどう思います?




凛「」




まだ固まってた。



輝子「り、凛ちゃん」

凛「ふぇっ!? あ、な、何?」

輝子「ど、どう。これ……?」


困った顔で俺を見る凛。
安心しろ。俺も大分困ってる。



凛「……輝子は、どう思ってるの?」



逆に凛がそう訊くと、輝子は一瞬驚いたような顔を見せた後、微笑んだ。




輝子「こ、こういうの、ちょっとだけ憧れてた。周りの目なんて気にしないで、思いっきり自分を表現してるみたいで……フフ……や、やっぱり、変かな…?」


凛「……ううん。そんな事ない」




凛は首を振った後、輝子の手を握る。



凛「正直最初は驚いたけど……輝子が、自分が好きでそうしてるんなら、私は良いと思うよ」

輝子「り、凛ちゃん……」

凛「プロデューサーもそう思うでしょ?」



そこで俺に振るんかい。

まぁ、でもあれだな。大体の事は凛に言われちゃったし、俺から言える事は一つだな。


八幡「当たり前だろ。お前らはお前らのやりたいようにやれ。俺はそれを応援してやる。……プロデューサーだからな」



言わせんな、恥ずかしい。



凛「あはは、デレたね」

輝子「フヒヒ、うん……デレた」



うるせぇよ。



八幡「ほら、もう時間ギリギリだから行くぞ!」

凛「あ、待ってよプロデューサー!」

輝子「フハハハ!! やるぜぇ! オーディション!!」



会社の中へと歩んでいく三人。
正直上手くいく予感なんて全然しないが……

けど妙に自信満々で、俺たちはオーディションに向かったのだった。














八幡「さぁ、久々に反省会やるぞー」

凛「う、うん」

輝子「フ、フヒヒ……」

ちひろ「まぁ結果は残念だったんですけどね……」



そんなハッキリ言わんでください。

そう、結果は惨敗。二人とも面接で落とされてしまった。


まぁなぁ……ぶっちゃけそんな気はしてた。
面接が終わるのを待っている間、俺は廊下で待機していたんだが……


「アッハッハッハ!! シイタケ! エリンギ! ブナシメジ! キノコ!」


って聞こえてきた瞬間に「あ、これダメだな」って思ったもん。


輝子「フヒヒ……お題がお吸い物じゃなかったのは盲点だった……」

凛「敗因はそこなんだね……」



けど、落ちたというのに輝子はどこか嬉しそうだ。
オーディションに挑んだ自分に、胸を張っているよう見えた。

……それだけで、今回は儲けもんだったな。


あと、何気に凛が普通に落ちた事に落ち込んでいた。
まぁこれからチャンスはいくらでもある。始めから上手くはいかないだろう。



八幡「次があるってのは、それだけで恵まれてんだ。落ち込んでるヒマなんてねぇぞ」

凛「……うん。ありがと、プロデューサー」



いや、何もお礼を言われるような事は言ってないんだが……
深読みすんなよ。俺はそんなキャラじゃない。


ちひろ「さて、これでお仕事は一回終わったので、臨時プロデュースは終了ですね。お疲れ様でした」



ちひろさんが場を取り締めるように言う。

なに、臨時プロデュースってそういうルールあったの?
けど確かに島村と本田の時も宣材写真一回で終わりだったな。仕事と言えるかは微妙だけど。



輝子「フフフ……い、今まで、お疲れ様でした……」



深々と頭を下げる輝子。
やめろ、デスクの下でそんな事されると女の子に土下座させてるように見えちゃうだろうが。
つーか、最後までお前はそこだったな。
輝子らしいっちゃ、輝子らしいが。



八幡「……大丈夫か?」

輝子「……うん。プロデューサーがつくまで、な、なんとか頑張る……それに」


八幡「それに?」



輝子「プロデューサーじゃなくなっても、八幡は……と、友達だから」



珍しく照れたように言う輝子。
あぁくそ、可愛いな!



八幡「ま、前にも言ったが、俺はお願いされて友達には…」

輝子「うん。だから、勝手になる」




輝子は、どもりもせず、キョドりもせず、ハッキリと言った。





輝子「私は、八幡の事、親友だと……思ってるから」





その目にはもう、不安の色も、諦めの色も、無かった。




八幡「……勝手にしろ」


輝子「うん。勝手にする……フヒヒ」




畜生。
まさか俺が、輝子に言い負かされるなんてな……



輝子「も、もちろん凛ちゃんの事は親友だとずっと思ってたけどな……フヒッ」

凛「輝子……」



輝子「……また、キノコ食べ放題行こう…」

凛「それは嫌かな」




そこは嫌なんですね。
凄い感動した顔をしていたのに、その話題になった途端にこれである。
余程あのキノコ地獄が効いたと見える。



ちひろ「よぉーし! それならばオーディションの打ち上げって事で、焼き肉行きましょうか! デレプロ奉仕部顧問として、私奢りますよ!」

凛「えっ!?」

輝子「ヒャッハァーー!! テンション上がってキターーーーッ!!!」



やっぱりちひろさん顧問だったんですね。
つーか、あんたが飲みたいだけでしょそれ……


ちひろ「いやー久々に美味しいビールが飲めそうです♪」

輝子「フヒヒハハハ……何から食べよう……シイタケ…?」

凛「ねぇ、行くのは焼き肉だよね? そうだよね!?」


八幡「……やれやれ」



騒がしく姦しい。

けれどこの環境に、慣れてしまっている自分がいる。
それでも、気分は悪くない。


この感じは、奉仕部を通して出会った連中と一緒にいる時と、何処か似ている。

プロデューサーになって、疲れる事や嫌になる事も多い。


けど、それでもーー




後悔なんて、していなかった。




というわけでキノ子編終了! まだ登場するとは思うけどな!

次回はラーメン回かなー。

もう人ほとんどおらんとは思いますが、凛ちゃん誕生日記念でおまけ投下したいと思います。
もう朝だ!


オマケ

「やはり俺の誕生日サプライズはまちがっている。」





ある夏の日。

シンデレラプロダクションの事務スペース。
そこに二人はいた。



八幡「……あちぃな」

凛「……うん」



私こと比企谷八幡と、その担当アイドル渋谷凛である。



凛「プロデューサーは、何やってるの?」



いつものカーディガンを脱ぎ、ネクタイを緩め、シャツの襟口をパタパタとしている凛。
やめてくれませんかね。目のやり場に困る。



八幡「一般Pのやる定時報告書だよ。やっとかねぇと後がうるせぇんだ」


主に前の席に座っている鬼とかな。
ちなみにその鬼は用事にていない。



八幡「これが終わったら、その後は帰るよ」

凛「……ふーん」



興味無さげに応える凛。ホントに興味無さそうだな……



八幡「お前こそ、今日は仕事もレッスンも無いだろ。何してんだ?」

凛「別に。ただ何となく、ヒマだったから」

八幡「そうか」



ここにいる方がヒマな気もするけどな。
ま、それは言わぬが花だろう。



八幡「……」カタカタ(パソコンを打つ音)

凛「……」

八幡「……」カタカタ

凛「……ねぇ」


手持ち無沙汰なのか、話しかけてくる凛。
俺、一応作業中なのだが。



八幡「なんだ?」カタカタ

凛「今日って、何の日か知ってる?」

八幡「……いや」カタカタ

凛「……そう」



それで会話終了。
凛、若干膨れっ面の様子。

なんなんだ一体……



八幡「……」カタカタ

凛「……」

八幡「……」カタカタ

凛「……ねぇ」


今度はなんだ。
頼むから答えやすい話題にしてくれ。



八幡「どうした?」カタカタ

凛「プロデューサー、私のプロフィールとか読んでる?」

八幡「まぁ、一応」カタカタ

凛「……あ、そう」



またも会話終了。
凛、目に見えて不機嫌なご様子。

ホントなんなんだ……



八幡「それがどうしたんだ?」カタカタ

凛「別に、何でもないよ」



あからさまに何でもなくねぇだろ。
そんなムスッとした顔して。お団子でも入ってるんですか?


凛「……もういい」

八幡「え?」カタk

凛「帰る。じゃあね」



そう言ってスタスタと去っていく凛。

いや、ちょっ、あぁもう!



八幡「ちょっと待った」

凛「…ッ!」



直ぐさま回り込んで、凛を制する。
ったく、もうちょいだったってのによ。



八幡「ほら、これ」

凛「え?」

八幡「プレゼントだよ。……誕生日おめでとう」



顔を背けながら、ポケットに入っていた小包を渡してやる。
凛は最初面食らっていたようだが、その後顔を赤くして取り繕う。



凛「誕生日? あぁ、そっか。ふーん、プロデューサーもお祝いしてくれるんだ…ありがと」



何今思い出しましたみたいな顔してんだよ。さっきまで気づいてほしいアピールびんびんだったじゃねーか。



凛「…あらためてお祝いされると、変な感じだね」

八幡「本当はもう少ししたら、ちひろさんたちがプレゼント用意して押し掛けてくる予定だったんだよ。それをお前が帰ろうとするから……」

凛「だ、だってプロデューサーが……」ブツブツ

八幡「あ?」

凛「何でも無い!」



またもそっぽを向く凛。
喜んだり不機嫌になったり、忙しい奴だな。



凛「……これ」

八幡「へ?」

凛「……プレゼント。二日遅れちゃったけど、誕生日おめでとうプロデューサー」


お返しとばかりに小包を渡されてしまう。あ、誕生日って、そっか。



凛「二日前はお休みで会えなかったから、今日渡そうと思って……プロデューサー?」

八幡「あぁいや、そうか……俺もう誕生日過ぎてたんだな」

凛「忘れてたの!?」



だってここ最近忙しかったし、特に誰にもお祝いされなかったし……いかん涙が出て来た。



八幡「ま、まぁとにかく……ありがとな、凛」

凛「……うん。どういたしまして」



笑顔で応じる凛。
……やっぱ、笑ってる顔が一番良いな、お前は。



凛「そうだ。プロデューサー、来年は8月9日にお祝いしようよ」

八幡「はぁ? なんでだよ」

凛「……だって」



凛は少しだけ言い淀んだ後、髪をかき上げ、照れたようにまた笑みを浮かべる。




凛「それなら、二人で誕生日を祝えるでしょ? 間をとってさ」




……ホント、勘違いするからやめてくれ。



八幡「……今度からお前の事は、ぼっちキラーと呼ぼう」

凛「なんで!?」



お互いに交わす、他愛の無い会話。

来年もこうしてお互い祝えるような関係でいられるのだろうか。
それは分からない。

けどそれでも、今は隣にいる。


なら、今はそれで良いか。



ちなみに俺が貰ったのは、ネクタイピンだった。

こんなオシャレアイテム、俺に似合うか心配だったが、凛が選んでくれたからな。
使わない理由はない。つーかこれと小町のネクタイが合わさって最強コンボじゃね?


そして俺があげたのは、アイオライトのネックレス。
決して高価なものではないが、凛は喜んでくれたし、まぁいいか。




アイオライト。

夢や目標、自分らしさへと導く石。




何だか気恥ずかしいので意味は言わなかったが……
ま、しばらくは黙っておくとしよう。

少なくとも、来年までは、な。





おわり


というわけで凛ちゃん、ヒッキー、誕生日おめでとう! もう8月11日だけどね!

感想もらえると調子乗って投下量も増えると思うでの、よろしくお願いします。

遅くなりましたが、今夜10時くらいに投下したいと思います。
今回は若干長めかな?

よし間に合った! それでは投下していきたいと思います。












とある日の深夜。

時刻は既に10時を過ぎ、男子高校生にとってはここからが本番という時間である。
しかも今日は花の金曜日。明日は休日。これがテンションが上がらずにどうするというのか。

本来なら今の俺にとって休日とは不定期なものなのだが、今回ばかりは運良く週末に重なってくれた。これはあれですかね。金曜ロードショーを見ろという神のおつげですかね。

そういえば小町が「お兄ちゃん! 今日はラピュタだよ! 早くお風呂に入ってバルスの準備しなくちゃ!」って俺が帰ってきたら凄いテンションで言ってたな。なんだよバルスの準備って。お前ネラーだったの? そう言えば昔買ってたな、飛行石のペンダント。小町が飛んでる所見た事ないけど。

だが気持ちは分かる。いくつになってもジブリは良い。そんな俺は紅の豚派。


そんなわけで俺は、仕事の疲れを小町の手料理と風呂で洗い流し、今リビングにて小町とラピュタを視聴中なのであった。ドーラさんマジかっけぇ。

なんかドーラさんってウチの担任にどっか似てるよなー、と本人にバレたら問答無用でアイアンクローされそうな事を考えていたら、俺のケータイが震える。寂しいのは俺も一緒だよ。

見ると、デレプロ奉仕部(略すのは諦めた)顧問からであった。



八幡「もしもーし。どうかしたんすか」

ちひろ『あ! 比企谷くん!? 比企谷くんですよね!? 間違ってないれすよね!?』



俺のケータイに他に誰が出るというんだ。
つーか妙にテンションが高いな。まだバルスには早いぞ。
なんか呂律も若干怪しいし、酔ってんのか?



八幡「間違ってないですよ。で、何か用すか? 俺今ラピュタ見てて忙しいんですけど」

ちひろ『あれ! ラピュタって今日でしたっけ? てっきりトトロかと』

八幡「それは先週です。今三周連続ジブリやってるんで」


ちなみに来週は千と千尋の神隠しである。ついでにウチのちひろも神隠しになってはくれないだろうか。主にドリンクの押し売り時に。



ちひろ『あーそうらったんですかー。私は平成狸合戦ぽんぽこ好きなんですけどねぇ……小さい頃映画館で見て…』

八幡「その辺でやめといた方が良いですよ。年齢がバレます」



つーか渋いなチョイスが……俺も嫌いじゃないけども。



八幡「それよりも、何の用なんですか? 用が無いんなら切りますよ」



そろそろラピュタのエンディングも近い。
ほら、ムスカが高笑いしてるよ。



ちひろ『いやそれなんですけどね、前に話したじゃないですか。明日は休みだし、折角なんで今日はどうだろうなーって思いましてですね』

八幡「? 何をですか?」



何だろう。何か話しただろうか。
俺が記憶を辿っていると、ちひろさんがやけに元気よく宣言すると同時に、テレビ画面が目に入る。あっ。



ちひろ『ラーメンですよ! ラーメン!』



バルス見逃したぁ!?













ちひろ「比企谷くーん! こっちですよこっちー!」ブンブン


遠目に大きく手を振る独身事務員を目印に、軽く早足で飲み屋の前まで向かう。時刻はもうじき日付が変わるところまで来ていた。



ちひろ「遅いですよ比企谷くん! 酔いも覚めちゃったじゃないですか」



むしろそっちの方が良いじゃねーか。
前に焼き肉行った時とか酷かったんだからな? 一人だけグデングデンに酔っぱらって、俺がタクシー呼んで送るはめになるし、凛と輝子はそそくさと逃げるし。いやホントいつの間にか帰っててビックリした。



八幡「遅いのは時間ですよ。高校生をこんな時間に連れ回していいんですか」

ちひろ「いいんですよ、さっきまで同じ職場にいましたし、私もいるので保護者同伴って事で!」



それ全然良くないと思うんだが。
つーか、こんな保護者嫌だ……せめてその頭に巻いたネクタイを取ってから言ってくれ。


どうやらちひろさんも明日は久々にお休みを頂いてるそうで、今日は仕事終わりに飲みに行っていたらしい。その締めでラーメンか。なんつーか発想がオッs(ry


と、俺が普通に失礼な事を考えながらちひろさんの頭のネクタイを取ってあげていると、店の中から誰かが出てくる。他の客だろうと思い、俺は特に気にもとめなかった。

がーー






「あら……もしかして、あなたが…比企谷くん?」


八幡「ッ!? 雪ノ…し…た……?」





聞き慣れた声に思わず振り返る。
だがそこにいたのは氷の女王ではなくーー





「初めまして。シンデレラプロダクションに所属しています……高垣楓です」





20代前半くらいだろう、大人の女性であった。





八幡「……」



完全に勘違いしてしまった。

いやいやいやいや、今のはしょうがないだろ。
だって、声が似てるなんてもんじゃない。アテレコしてるんじゃないかってくらいのレベルだ。


しかし確かに声は似ているが、見てみれば容姿はだいぶ違っている。

灰色に近い茶髪のボブカットで、身長は高め。おそらく俺とそう変わらない。
ゆったりとした黒のワンピースを着ていて、何と言うか、大人って感じである(小並感)。

ただ一つ言える事は、この高垣楓なる女性もまた、雪ノ下に勝るとも劣らない美人であるという事だった。


思わず、見蕩れるくらいには。




ちひろ「痛い! 比企谷くん痛いですよ! ネクタイ締まってますって!」


八幡「! す、すいません」

ちひろ「全く……あ、もう自己紹介したでしょうけど。今日一緒に飲んでた楓さんです」

楓「……」ぺこ

八幡「あ、どうも……比企谷八幡です」ぺこ



軽く会釈をしてくる高垣さん。思わず俺も返してしまう。なんだこの緊張感。


ちひろ「折角なんで、楓さんも一緒にラーメンを…」

八幡「ちひろさん。ちょっといいですか」

ちひろ「え? ちょちょっ……!」



ちひろさんを引き寄せ、耳打ちするように話しかける。



八幡「聞いてないですよ連れがいるなんて。気まずさMAXじゃないですか!」

ちひろ「えー別に良いじゃないですか。ていうか、飲みの後の時点で誰か一緒なのは予想出来てたでしょう?」

八幡「いや、てっきりちひろさんの事なんで一人で飲んでるのかと」

ちひろ「ぐはッ!」



地味に俺の言葉がクリティカルヒット。そのままよよよ…としゃがみ込んでしまう。なに、俺が悪いの? 悪いか。



楓「あの、やっぱりお邪魔だったでしょうか……?」

八幡「へ? あぁ、いや、別にそんなわけでは……」


むぐぐ……どうも調子が狂うな。

この声もそうだが、こう下手に出られるとどうしていいか分からず動揺してしまう。基本的に俺の周りの女共は上からくるからな。そういう意味ではあまり居ないキャラと言える。お、大人だ……


しかしなるほど。今思い返してみると確かに高圧的な女性が周りに多い。
また一つ戸塚が天使な理由が分かったな。

新たな発見をしている俺を他所に、悪魔が目の前を凄い勢いで通り過ぎる。



ちひろ「お邪魔なんてとんでもない! 楓さんも一緒にラーメン食べに行きましょう!」



復活早いな。
早速高垣さんの手を引いて歩き始めるちひろさん。
高垣さんも戸惑っているようだが、悪い気はしていないようだった。ラーメンが食べたかったのかね。



八幡「はぁ……行くのは分かりましたけど、どこで食べるんですか?」



千葉ならともかく、この辺の土地勘は俺にはあまり無い。まぁちひろさんも考えてはいるだろうと思い、訊いてみる。


ちひろ「ふっふーん♪ 実は良い穴場を知ってるんですよ!」

楓「穴場……という事は、有名なお店ではないんですか?」



首を傾げるように訊く高垣さん。
くっ、大人の女性がやるとまた違った魅力のある仕草だ……!

そしてやっぱ声似てんな畜生!



ちひろ「そうですねぇ。あまり知られてはいないと思いますよ」

八幡「ちなみに、何て名前のラーメン屋なんですか?」

ちひろ「面屋“哀道流”です」

八幡「なんつう地雷臭だ……」



絶対有名にはなれないだろそのお店。きたなトランとかになら出てきそう。



ちひろ「すぐそこなんで、歩いていけますよ♪」

楓「……哀道流、空いとるますかね…ふふ」

八幡「……え?」

ちひろ「あ! あそこですあそこ!」


あれ、スルーなの? 今なにか……え?



楓「小さいですけど、風情のあるお店ですね」



こ、コレは触れない方が良い流れなのか……聞かなかった事にしよう。



八幡「つーか、ラーメン屋って屋台だったんですね……」

ちひろ「だからこその穴場なんですよ! 味はお墨付きですよ♪」



飲み屋が並ぶ通りから少しばかり外れた路地にある、古ぼけた屋台。
暖簾には、“哀道流”の文字。
なるほど、穴場というだけある。一人だったら絶対入らねぇ自信がある。

やはり屋台なだけに席は少なく、四人までしか座る事が出来ないようだ。
ん? つーか、既に一人座ってんな。まぁどうせリーマンだろ。


端から順にちひろさん、高垣さん、俺の順番で座る。しくじった、めちゃくちゃ気まずいぞ。なんだか、胸がドキドキする。これって恋?


しかも空いてる方から座っていったので、必然的に俺が先客の隣の席となる。
とりあえず、会釈しつつ隣の席に失礼する。ん?

ふと隣を見ると、リーマンかと思いきや若い女性であった。中々お目にかかれない奇麗な長髪で、何処かで見覚えが……?



八幡「……あッ! あんたは……!?」



「……」



ちひろ・楓「「?」」























平塚「お姫ちんだと思った? 残念! 静ちゃんでした!」



八幡「なんでいるんだよ!?」ガーン





いやホントに何してんだあんた。
色んな意味でがっかりだよ……


平塚「久しぶりじゃないか比企谷~? 寂しかったぞ私は~?」グイッ

八幡「むぐっ!?」



驚きも束の間、何故か居た平塚先生は俺を抱き寄せる。
お、おお……これは幸せな気分に……ならねぇ! 酒臭ぇ! あと煙草臭ぇ!
完全にたちの悪い酔っぱらいじゃねぇか!



八幡「ぶはっ! ちょ、なんで先生がいるんすか」



なんとか馬鹿力を振り解き、目の前の酔っぱらいに抗議する。



ちひろ「あ、私が呼んだんです~」



後ろの酔っぱらいが原因だった。



平塚「いやー私も丁度さっきまで飲んでてな。そしたら千川さんから連絡があって、比企谷とラーメンを食いに行くっておっしゃるじゃないか。これは行くしかないだろう?」


楽しそうに言う平塚先生。こりゃ相当酔ってんな。
あと飲んでたってあれですかね、やっぱり一人で飲んでたんですかね。



平塚「比企谷?」ニッコリ

八幡「なんでもありません! マム!」



俺がビシッと敬礼すると、隣に座っていた高垣さんがクスッと笑う。
なんか恥ずかしいな……これが大人の余裕という奴か。
まぁあと約二名、大人(笑)な女性がいるんですがね。



ちひろ「平塚さんは、もう先に?」

平塚「いえいえ、まだですよ。皆さんが来るのを待とうと思いまして」

ちひろ「そんなに気にしなくても~」

平塚「私だけ先に、というのは申し訳ないですし」


諭すように言う平塚先生。ふむ。



八幡「婚期の話ですか?」

平塚「懲りてないぞ比企谷♪」ギリギリ

八幡「割れます割れます頭蓋骨割れちゃいます」ミシミシ


今のは我ながらナイスなお茶目だったと思うのだが、彼女たちには笑えない問題だったらしい。まぁわざと言ったんだが。



ちひろ「比企谷くん! 独り身の女性の前でそんな事言っちゃダメですよ? 只でさえ三人もいるんですから」

八幡「は? 三人?」



何を言ってんだこの悪魔は。

俺はわざとらしくちひろさんを見て、その後平塚先生を見て、店主を見る。男だ。
そんな俺の行動にまたもクスクス笑った後、高垣さんが口を開いた。




楓「私、今年で25になるんです」


八幡「な……!?」




ば、ばんな……そかな……!?

この見た目で25だと? 年齢詐称もいい所だ。ぶっちゃけまだ十代と言われても通用する。
そう言えば、ちひろさんと飲んでいたというのにちっとも酔っている様子がない。単に飲んでいないだけかもしれないが、お酒に強いのかもしれんな。お、大人だ……



楓「やっぱり、見えませんか……? よく、子供っぽいって言われるんです」

八幡「はぁ……」



少しだけしょんぼりした感じで言う高垣さん(可愛い)。

子供っぽいというか、あどけなさが残っていると言った方が正しいか。
しかしそういう所も逆に良い。有り体に言えばギャップ萌えって奴だな。



八幡「別に、良いんじゃないですかね」

楓「え……?」

八幡「っぽさってのは何も悪い意味だけじゃないですし、それが魅力になる事もあります。そんな悲観するような事じゃないですよ」



途中から何となく気恥ずかしくなり、顔を背けながら言う。すると平塚先生と目が合った。何をニヤニヤしてるんだオイ。



楓「……ふふ…そっか。……ありがとう、比企谷くん」



お礼を言われてしまった。
しかし、この人の笑い方は微笑むという表現がピタリと当て嵌まるな。
奇麗な笑い方、とでも言えばいいか。


そして明るい所に移ってから気づいたが、瞳の色が左右で若干違う。右目が緑色、左目が青色がかっている。
こういうのを確かオッドアイと呼ぶんだったか。

思わずその双眸に、見入ってしまう。



楓「お世辞でも、嬉しいです」

八幡「……別にお世辞なんかじゃないですよ。俺にそんな器用な真似は出来ません」



もしも出来ていたら、ぼっちなんてやってないしな。



八幡「俺は自分の為に嘘はついても、他人の為に嘘はつきませんからね」



お世辞も、煽ても、アホらしい。
そんなモノで維持する関係など、俺はいらない。
まぁ、仕事ではそんな事言えないんだろうけどな。プライベートでまでそんな上辺を塗りたくって生活したくはない。むしろすっぴん推奨まである。

しかしそんな皮肉も、高垣さんには通用しないようで、



楓「ふふふ……本当に聞いていた通り、面白い人ですね」



普通なら今の所は呆れられる筈なんだが、軽く流されてしまった。お、大人だ……(決まり文句)


つーか、一体何を聞いてたんだ。どうせちひろさんだろうが、いらん事言ってないだろうな。



平塚「……相変わらずだな、君は」



平塚先生が嘆息し、微笑む。



平塚「けれど、そうやって自分の本音を直接言えるようになった点は、成長したと言うべきかな」

八幡「俺は、前から思った事は言ってましたけどね」

平塚「だがそれでも、善意を直接相手に伝えるような事はしなかった。君は、いつだって回りくどかっただろう?」

八幡「何せ捻くれ者ですから」

平塚「そう茶化すな。君は変わらない事は悪い事ではないと言うがな」



平塚先生は、そっと俺の肩にを手を置く。



平塚「変わる事もまた、悪い事ばかりではないと私は思うよ」



それはいつもの鉄拳制裁よりも、ある意味じゃ重みがあったように思えた。




平塚「しかしこう良い方向に向かえているのは、やはりプロデュース業のおかげなのかな」

ちひろ「そうですね……でも比企谷くんのおかげで良い方向に向かっているアイドルも、慕っている子も、ちゃーんといますよ♪」

平塚「ほほう、それは是非聞きたいですねぇ」

楓「ふふ……モテモテですね、比企谷くん」

比企谷「……そんなんじゃないですよ」

店主「(コイツ等いつになったらラーメン頼むんだ……)」



その後ようやく店主の怪訝な目に気づいた俺たちはラーメンを頼み、雑談と共にごちそうになった。

ラーメンは……まぁ、確かに旨かったな。





午前1時を回ろうかという頃。ようやく解散と相成った。

とりあえず三人共お酒が入っているので、俺がタクシーを呼んで帰らせる。
これでようやく帰れるな。ラピュタがもう昨日の事のようだ。あ、実際昨日か。


平塚「それじゃ比企谷。次はいつ会えるか分からんが、たまには学校に来たまえ。雪ノ下と由比ヶ浜も待っているしな」

ちひろ「私は来週また会えますけど、週末はゆっくり休んでくださいね」



そう言い残して二人は同じタクシーで去っていった。方向が近いらしい。

学校ね……そう言えば最近行ってないな。まぁ、その内嫌でも行くはめになりそうな気もするが。
あと、ゆっくりしてほしいんならもう少し早く解放してほしかったですね。


そして最後に高垣さんをタクシーに乗せる。
とは言っても、この人はこの人で全然酔ってる感じがしない。お、おとn(ty



八幡「それじゃ、お疲れ様でした高垣さん」

楓「ええ。また事務所で会った時に。……それと」

八幡「?」

楓「楓でいいですよ。なんだか、名字で呼ばれるのって慣れてなくて……」



照れたように言う高垣さん。

うむ。来たな恒例の名前呼び。
しかし俺もプロデューサーになって早一ヶ月近くたつ。これしきじゃもう動揺はしまい。



八幡「……分かりました。……か、楓さん」



うおおおおお!! やっぱハズイっ!! 全然慣れない!!!


俺が心の中で悶絶していると、満足そうに微笑んでいた楓さんが思い出したように言う。



楓「あとそれと、これは特にどうってわけじゃないんですが……」



今度はなんだ。
俺のライフはもう0よ!
そんな俺の心配も知らずにか、楓さんは勿体ぶったようにまた微笑んだ。






楓「私も……プロデューサーついてないんですよ?」


八幡「…………へ?」


楓「ふふ……それじゃあ、また事務所で♪」






そう謎の言葉を言い残し、楓さんを乗せたタクシーは走り去っていった。

……どういう意味だったんだ。今のは。


俺が思考の渦に巻き込まれていると、ふと、肩を叩かれる。誰ぞ。




店主「お客さん、お代まだ貰ってないんだけど」

八幡「マジか」




タクシー呼んでる間に払ってくれてるもんだと思ってたぜ。あの悪魔!!
どうやら皆素で忘れていたらしい。お酒って怖いね。



八幡「ったくごちそうしてくれるんじゃなかったのかよ……」ブツブツ



残された屋台で一人寂しく財布をあさる俺。良かった、一応多めに持ってきたのが功を奏した。
ホントは持ってこなくても良かったんだけどなー等とみみっちい事を考えながらお金を出していると、新しいお客さんが来たようだ。ちょっとだけズレて席を譲る。



「これは、申し訳ありません」



律儀に返される。
しかし奇麗な人だな。このラーメン屋はそういう女性が集まるジンクスでもあんのかね。


思わず見入ってしまいそうな銀色のウェーブのかかった長髪。
男心をくすぐる抜群のスタイル。モデル体型と言ってもいい。
隣に座ったので顔はよく見えないが、横顔を見るに相当美人だろう。



まるで、アイドルでもやっていそうだ。



しかし、どこかで見た事あるような気もすんな……どこでだっけ?


そんな考え事をしながらお金を数える。
しかし悲しいかな。隣に美人がいると思うと、男というのは思わずチラ見してしまう生き物なのである。俺は悪くねぇ!

あといくらかなーと思いつつも、ちらっと先程の女性を見る。するとなにやら顔を青くしていた。




「……ありません」

八幡「はい?」

「財布が……ないのです」




思わず呟きに聞き返してしまったが、財布が無いってのは……


八幡「どっかに落としたとか…」

「いえ、恐らくは自宅に置いてきたのでしょう。今思い返すと、てぇぶるの上に置いたままだった記憶がありますので」



それは良かったんだが、何だこの喋り方は。いつの時代の生まれだあんたは。
その銀髪じゃあむしろ日本人かも疑わしいってのに、古風な話し方をする人だった。

しかし落としたわけでもないというのに、随分と落ち込んだ様子だ。背景にズーンという文字まで見える気がしてくる。そ、そんなにラーメンが食いたかったのか?



「らぁめん……」


八幡「……親父さん」

店主「ん?」



先程の会話を聞いていたのか、いたたまれない顔をしていた店主に、人数分のお金を渡す。



八幡「んじゃ、ごっそーさん」

店主「あぁ、まいど……ってお客さん、一人分多い……!」



呼び止められたが、無視して店を出て行く。
まぁ、あの分じゃ気づいてたみたいだし、大丈夫だろ。このままカッコつけて帰らせてくれ。




もうとっくに終電もないので、タクシーを拾おうかと通りを歩く。

しかし大きな通りでもない為、中々タクシーが見当たらない。
ふむ。これなら電話で呼んだ方が早いかね。

と、俺が電話しようか迷っていると、後ろから足音が聞こえてくる。

な、なんだ。通り魔とかじゃねぇよな。でも東京って危ないって聞くし……
俺がどんどん悪い方向へと妄想を膨らませていると、気配が俺の後ろで止まる。




「そこのあなた」


八幡「はいぃっ!?」ビックーン




めちゃくちゃ情けない声を出してしまった。
恐る恐る振り返ってみると、そこには先程の女性が立っている。何だよ、びっくりさせんなよ、もう……



八幡「あれ? つーかラーメン食ってたんじゃ…」

「? もう食べ終えたので、こちらに来たのですが」



早っ! いやさっきから10分もたってないぞ!?
ラーメンが出来る時間も計算に入れたら、5分以下だろう。どんだけのスピードで完食してんだよ……男ならともかく女性だぞ……


俺が半ば呆れていると、彼女は畏まったように告げる。



「先程は、真にありがとうございました。このらぁめんの恩は忘れません」



その上いきなり深々とお辞儀をしてくる。
道が暗いため表情は分からないが、形でお礼を言っているわけではないのは伝わってきた。

俺、ラーメン奢っただけなんだが……


しかし別に俺はお礼を言われたくてお金を払ったわけじゃない。ただカッコつけたかっただけだ。恩着せがましくお礼を頂戴するよりも、このままクールに去った方がカッコいい(当社比)。



八幡「……何の事か分かんないっすね」

「はて? あなたがお代を払って…」

八幡「たぶん間違って多く払っちまったから、店主が気を利かせてくれたんですよ。お礼ならあの店主に」



渋めの顔をした店主が目に浮かぶ。
しかしちゃんと俺の気持ちを汲んでくれたようだ。ラーメンも旨いし、また機会があったら行くとしよう。絶対有名にならないとか言ってごめんなさい。哀道流。



「……」



銀髪の女性は、黙ったままこちらをジッと見ている。
な、なんか怖いな。よく見えないけど、たぶん無表情だし。



八幡「じゃ、じゃあ俺はこれで」

「……あなたは」

八幡「?」



さっさと去ろうとした俺を、彼女の声が引き止める。
その表情を見ようと顔を向ける、今まで雲に隠れていた月明かりが、彼女を照らした。





「あなたは……人の為に嘘をつくのですね」


八幡「……ッ!」





月の光に照らされて、キラキラと輝く銀髪。
その端正な顔立ちは見覚えがあるどころではなく、知っている。
知らない筈がない。彼女はーー






八幡「四条…貴音……!?」






そこに佇むは、

今最もトップアイドルに近いであろうプロダクションに所属する、銀色の王女であった。




貴音「私の事を存じていますか。名を知って頂けるというのは、真、喜ばしいことです」



俺が知っていた事が嬉しいのか、静かに微笑む四条貴音。

いや、あんた自分がどれだけ有名か分かってないだろ。765プロの人気は伊達じゃない。
もしも前の俺なら、あの四条貴音に会えたと喜び、キョドり、引かれていただろうが、もうそんな気楽に構えてはいられない。つーか引かれちゃうのかよ。

俺は今はプロデューサーだ。言わば彼女は商売敵。凛の超えるべき壁だ。
まぁ、まだまだ比較すら出来ない差があるがな。天と地。まさに月と……スッポンは言い過ぎか。月と道端の花くらいで。そんくらいの差があるだろう。


だが俺がこうして冷静でいられるのは、それだけが理由ではない。
先程の、発言だ。




八幡「……どういう意味だよ」



俺が、人の為に嘘をつく、だと?



八幡「俺は、自分の為にしか嘘はつかん」



楓さんにも言ったが、俺はそういう人間だ。
お世辞も、煽ても、俺はしない。



貴音「それも、嘘、ですね」

八幡「あ?」


貴音「そうしてあなたは、“自分”に嘘をついているのではありませんか?」



目の前の王女は、言葉を紡ぐ。
それはもはや、断罪とも言える程に。




貴音「人の為に己が泥を被り、傷を負う。それは酷く痛ましく、醜く、儚い優しさです。ですが、それ故に誰しもが目を背けてしまう」




俺がその人の言葉に突っかかってしまった理由。
それは発言の内容もさることながら、何よりもその目だ。何故ーー





貴音「あなたがそうやって自分に嘘をつく事で、救われる者もいるでしょう。しかし……同時に悲しむ者もいる事を、どうかお忘れなきようお願いします」





何故そうも、見透かしたような目をしている?




八幡「……」

貴音「……」



あー……しかし、あれだな。





俺、ラーメン奢っただけでなんでこんな事言われてんの?



飛躍ってレベルじゃない。アグモンどころかボタモンからウォーグレイモンまでワープ進化出来るレベルだ。




八幡「はぁ……肝に銘じておきます」



しかも折れちゃったし。
だってあんな凄まれたら納得するしかないでしょ? なんかこの人歯に衣着せぬオーラ纏ってるから、上手いこと誤摩化せも出来ないんだよ。




貴音「そうですか。それならば私も安心です」



そして再び微笑む。

一体何が安心なんだ。あんたは俺のカーチャンか。
しかしこんな人が母親だったらマザコンになる自信があるな。絶対あり得ないけどね!



貴音「それでは、らぁめんのご恩はいつか必ず」スッ



ゆっくりと背を向け、去ろうとする四条貴音。

いいのか? このままで。
あれだけ言いたい事言われて、このまま帰していいのか?



……いいわけねぇだろ。




八幡「渋谷凛」


貴音「はい?」ピタッ


八幡「渋谷凛っていう女の子を、知ってるか?」




呼び止める。
別にさっきの仕返しってわけじゃない。けど、言われっぱなしも趣味じゃない。
ならば、俺も言いたい事を言うまでだ。



貴「……申し訳ありませんが、存じません」

八幡「だろうな」


思わず苦笑する。自分で訊いておきながら、その答えは分かりきっていた。
しかし何も、俺はそんな事を確認したかったわけじゃない。



八幡「覚えといてくれ。いつか、その渋谷凛がーー」



これは宣言だ。
目の前にいる、大きな壁への。




八幡「あんたをーーあんた達を、超える」




何より、自分自身への。





八幡「俺が、トップアイドルにしてみせる。……………………たぶん」





けど、やっぱり自信はそう簡単にはつかないらしい。



ぼっちは基本的に自信が無いのだ。後押ししてくれる人がいないから。

というかよく考えたら、俺がアイドルのプロデューサーやってる事を相手は当然知らない。完全に変人だ。ただのアイドルオタクだと思われてるまである。


しかしそんな心配は杞憂だったらしく、彼女はポカンとした表情から一転、楽しそうに笑う。




貴音「ふふっ、ならば私も、負けてはいられませんね」




さながらそれは、王女の風格。





貴音「いつか来るその日を、楽しみにしております」





ホント、一体全体どこのお姫様だよ。

ただのアイドルじゃない、何か別のモノを感じさせる笑みだった。


それとなく、何者なのかを訊いてみる。
彼女は、それこそ俺をからかうような大人の微笑で、質問に答えた。





貴音「それは、とっぷしぃくれっと……ですよ。ふふっ」
















地獄の月曜日がやってきたぜ……! へへ……


思わずそんな妙なテンションにもなる月曜日。俺は事務所へと足を運ぶ。
うむ。今日も今日とて忙しそうだ。働きたくねぇなぁ!


そんな風に腐…じゃなくて負のオーラを纏いながら歩を進める。
向かうはいつもの事務スペース。もう抵抗は皆無になってきたな。

しかし何やらテレビのある休憩スペースの方が騒がしい。この声は……



未央「うーんやっぱりミキミキは可愛いなぁ♪ 今日もキラキラしてる!」

卯月「プロジェクトフェアリーかぁ……いいなぁ。私も早くライブに出たいなぁ」



やはりお前等か。
プロデューサーがいないのにこうして毎日来てるのは偉いと思うがな。うん。皆まで言うまい……



未央「そういえば、しまむーは765プロで誰が好きなの?」

卯月「私? 私はもちろん天海春香さん! 同い年だけど凄い活躍してるし、尊敬しちゃうな~。あと、どこか親近感を感じるんだよね」

未央「へ、へぇ~そうなんだ。あはは…」




おおぅ……あの本田が何とも言えん表情をしている。

だが気持ちは分かるぞ。そりゃ個性が無い同士のシンパシーだよ! なんて言えるわけもない。





八幡「個性が無い同士のシンパシーじゃないか?」


卯月「そ、そんな!」ガーン


未央「ぷ、プロデューサー!?」




しまった。
堪え切れずに言ってしまった。



卯月「そっか……私、個性が無かったんだ……確かに薄々…」ブツブツ

輝子「フヒヒ……新しいお隣さん……?」


未央「あぁもうほら! プロデューサーのせいで、しまむーが机の下で体育座りしてるよ!」

八幡「すまん。出来心だったんだ」



まさかあそこまで落ち込むとは。
輝子と一緒にキノコ数え始めてるし……

うーむ仕方あるまい。



八幡「いいか島村。個性ってのは考えるもんじゃない。最初からあるもんなんだ」

島村「最初……から?」

八幡「そうだ。お前が普段通りに振る舞って、普段通りに笑っていれば、それはもうお前の個性で、魅力なんだよ」



昨日楓さんにも同じような事を言った気がするが、別に焼き増しじゃないぞ。ここ重要。



卯月「プロデューサー……!」パァァ



ようやっと机の下から出てくる島村。
うむ。お前はそうやって笑顔でいるのが一番だ。あざと可愛いってのも個性。



八幡「ちなみに俺の個性はぼっちな。最初からあって最後まである(予定)」

輝子「フヒッ……上に同じ…」

未央「台無しだよ……」



ほっとけ。これが俺のアイデンティティー。墓場まで共にする所存である。え? それって魅力って呼べるのかって? 察しろバカ!



八幡「大体、俺は個性って言葉事態嫌いなんだよ!」

未央「いきなり何!?」

卯月「私、プロデューサーについて行きます!」キラキラ

未央「しまむーが懐柔された!?」ガーン

八幡「あ、それはお断りで」

未央「しかもそこは断るんだ!?」ガガーン


当たり前だ。これ以上担当アイドル増やしたくないんだよ。

まぁ、どうせデレプロ奉仕部として臨時プロデュースする事にはなるんだろうがな。
……そういえば、こいつらはいるのにあいつの姿がないな。まだ来てないのか?


何となく朝から疲れたし、俺の担当アイドルも来ていないのでソファに座って休む事にする。ちなみに出社して10分足らず。ゆとりだね。

ふとテレビを見ると、765プロのユニットであるプロジェクトフェアリーが朝からテレビ出演していた。その中には、あの夜に出会った銀髪の少女の姿も。




『では次に、四条貴音さんにインタビューしていきたいと思います!』

貴音『よろしくお願いします』



八幡「……」

未央「なになに、そんなに真剣に見ちゃって。もしかして貴音さんのファンなの?」

八幡「ちげーよ。それに俺はやよいちゃんのファンだ」

未央「……」



黙るなよオイ。何か俺が変な発言したみたいじゃねーか。
やよいちゃんは良いぞ? 心が暖かくなる。


そして何この子素直可愛いんだけど。
もしかして時代はしまむーなのか……?

そんなやり取りをしていたら、テレビのインタビュアーが最後の質問に移る。




『では最後にお聞きします……ズバリ! 今貴音さんが注目しているアイドルは!?』


貴音『注目している、アイドルですか……?』


『はい! 今勢いの止まらない765プロですが、貴音さんはこの子には負けられない! というアイドルはいますか? なんなら同じプロダクションの子でもOKです』


貴音『ふむ……それならば、確かにおります』


『おー! やっぱり、同じ765プロのアイドルですか?』


貴音『いえ。違います』


『ほぉ! それじゃあ一体どこの所属の……?』


貴音『分かりません』


『へ?』

>>827>>828の間。


卯月「へ~! やよいちゃん可愛いですもんね!」



貴音『所属も、顔も、私は知りません。名前は……まだ、言う時ではないでしょう』


『え? え?』


貴音『ですが、その方のプロデューサーは知っています』



八幡「……」



貴音『あの方のアイドルならば、きっと素晴らしい方なのでしょう。……お会い出来る日が、楽しみです』




本当に楽しそうに笑う姿を最後に、インタビューは終わった。あの分じゃ、インタビュアーも訳分かんなかっただろうな。



未央「へぇ、あの貴音さんに注目されてるアイドルかぁ」

卯月「どんな人なんだろうね」

八幡「さぁな。……けど、案外身近な奴なのかもな」


俺なんかを信じてくれる、あの真っ直ぐなーー






「プロデューサー?」


八幡「ッ!」ビクッ






噂をすれば何とやら。

もう聞き慣れたその澄んだ声は、しかし何処か語調が強い。
背後を振り向くと、そこにはやはり、我が担当アイドルがいた。






凛「おはよう。プロデューサー」ニッコリ






何故だか、怒った様子で。




八幡「お、おう。凛。おはよう…」



な、何だ、俺なんかしたか?
表情は笑顔なのに、目が笑っていない。怖い!



凛「……プロデューサー、金曜日の夜は何してた?」

八幡「き、金曜日か? そんなら家でラピュタ見て…」

凛「ラーメン、食べに行ったんでしょ?」ズイッ



近い! 怖い! 良い匂い!



八幡「く、食いには行ったけど、それがどうs…」



凛「なんで私も連れてってくれなかったの!?」



卯月・未央「(わー……)」





見ると、島村と本田が何とも言えない表情をしている。

くっ、まさかそこまでラーメンを食べたかったとは。
まぁ確かに自分だけ除け者は良い気はしまい。ソースは俺。

しかし念の為ちひろさんには口止めしておいたんだがな。平塚先生と繋がってるはずもないし……まさか。



八幡「……ちなみに、誰から聞いたんだ?」

凛「楓さん」

楓「ラーメン、美味しかったですね、比企谷くん」



おおぉぉぉい25歳児ぃ!!!



八幡「ちょ、楓さん、何で言うんですか」

凛「楓、さん?」ピクっ



そこにいちいち反応しないで。怖い。



楓「? 言っては拙かったですか……?」

八幡「拙いと言いますか、約一名拗ねてる子がいますと言いますか…」

凛「べ、別に拗ねてるわけじゃないから!」



ちひろ「これはこれは中々どうして面白い展開ですねぇ」ニヤニヤ

未央「ですねぇ」ニヤニヤ

卯月「?? う~んと……仲が良いですね!」


どっから湧いて出たこの悪魔!
あぁくそ、あの悪魔共に水をぶっかけたい! そのまま着替えてくればいい!
やっぱり、時代は島村さんなんですかね。天使に見えてきたよ。アホ可愛い。



凛「はぁ……もういいよ。プロデューサーだし」



おいなんだその妥協した感じは。
俺だって生きてるんだぞ! いい加減にしろ(泣)!



凛「それよりもプロデューサー」

八幡「今度は何だよ」



まだ何かあるというのか。俺、そろそろ新しい世界に目覚めるかも分からんぞ?

しかし、凛の様子はさっきと打って変わって陰鬱そうな表情になる。



凛「プロデューサーに、お願いがあるんだ」

八幡「お願い?」

凛「うん。実は…」


と、凛が何かを言いかけた所で事務所の電話が鳴る。
あまりにもタイミングが合っていたので、凛も押し黙ってしまった。



ちひろ「はいこちらシンデレラプロダクションの千川です」ヒュバッ



そしてすかさず取るちひろさん。さすがだ。



ちひろ「あ! この間はどーも、お疲れ様です~。比企谷くんですね。ちょっとお待ちください。比企谷くん! 電話ですよ!」

八幡「え、俺?」



まさか自分にとは思ってなかったので、思わず聞き返してしまう。
誰だろう。まだ得意先に名前覚えられてるわけないし、俺に電話する人と言えば……

驚く俺に受話器を差し出しながら、ちひろさんは微笑む。




ちひろ「平塚先生からです♪」














仕事が終わったら、放課後学校まで来てほしい。

それが平塚先生からの用件であった。
まぁ今日はレッスンしかなかったからそんなに遅くならなかったが、そうじゃなかったらどうするつもりだったのだろうか。つーかスーツで学校ってスゲェ嫌だな……超目立つ。

そう言えば、結局あの時聞きそびれた凛のお願いとやらは何だったのだろうか。ラーメン? 違うか。


考え事で気を紛らわせつつ、奇異の目を振り払い職員室へ向かう。するといつものデスクで平塚先生が出迎えてくれた。



平塚「まさか、こんなに早く会う事になるとはな」



そう言ってクックッと笑う平塚先生。それは俺の台詞だ。



平塚「スーツ、中々似合っているぞ?」



ええいその生暖かい視線をやめろ!
やっぱ一回返って着替えてくるんだった!



八幡「それよりも、用件って何なんですか? 着いたら教えるって言ってましたけど」

平塚「うむ。その事なんだが、奉仕部の部室に行ってから話そうと思う」

八幡「は?」



奉仕部の部室だと?
それってつまり……



八幡「依頼……って事ですか?」

平塚「まぁ、そういう事になるな」

八幡「いやいや、それなら雪ノ下と由比ヶ浜がいるじゃないですか。俺、一応働いてる身ですよ?」



プロデュース活動したまま本家の奉仕部の活動にも参加するとか、身が保たないに決まっている。マジもんの社畜やでぇ……



平塚「そこなんだがな、比企谷。今回の依頼は奉仕部に来たものだが、それと同時にデレプロ支部……つまり君への依頼とも言えるんだ」


奉仕部への依頼であり、デレプロ支部への依頼でもある? どういう意味だ?
つーか何気に平塚先生もデレプロ支部って略しているんだが……気にしない方向でいこう。



平塚「まぁとりあえず着いて来たまえ」



そう言って職員室を出て行く先生。奉仕部の部室へ向かったのだろう。
俺、スーツのままなんですけど……


仕方なく平塚先生の後を追い、部室まで行く。
しかし奉仕部へ出向くのも久しぶりだな。シールはどれだけ増えているだろう。雪ノ下に怒られていないといいが。


程なくして部室へ着いた。

なんか、久々だから妙に緊張するな。
俺のそんな心配も知らず、平塚先生は相変わらずノックもせずに扉を開く。



平塚「失礼する」



扉を開いたその先。

そこには、三人の少女がいた。




一人は雪ノ下雪乃。


一人は由比ヶ浜結衣。


そして一人は…………誰だ?




平塚「おっ、居たな。比企谷、彼女が今回の依頼人だ」




平塚先生に言われると、その少女はこちらへと身体を向ける。


雪ノ下や由比ヶ浜と同じ、総武高校の制服に身を包むその少女。

茶髪のお団子ロングに、前髪パッツン。眉は若干太め。
少しばかり勝ち気そうなその目は、真っ直ぐに俺を射抜いている。

ふむ。雪ノ下や由比ヶ浜とは違った意味での可愛さだな。そう、アレだ。




ツンデレっぽい。




そんな俺の考えを断ち切るように、彼女はきつめの口調で言う。




「し、シンデレラプロダクションに所属してる、神谷奈緒だ。あんたが、凛のプロデューサーだな……?」


八幡「……あ?」





シンデレラプロダクション……所属? つまりなんだ、こいつも……アイドル? つーか今、凛って……


いきなりの情報量に、頭が整理出来ない。

しかしそんな俺に、彼女は更に続けて言った。


それは、懇願するように。






奈緒「頼む……あんたに、プロデュースしてほしい子がいるんだ……!」












× × ×








東京にあるとある病院。




医者「うん。この分なら、あと2~3日で退院できるね。安静にしているように」

「本当ですか? 良かった……」




個人用の病室に、明るい茶髪ロングの少女がベッドに上体を起こして掛けている。

医者が出て行くのを確認した後、少女は窓際に置いてある写真立てへと手を伸ばす。





「……今日は、お見舞いに来てくれるかな」





その写真には、笑顔を振りまく、仲睦まじい三人の少女が写っていた。





というわけで今回はここまで! キャラ多いね!

ちょっと今回はアイマス知らない人にはキツかったかな?

高垣楓(25)CV:早見沙織
http://i.imgur.com/wq7o1Rn.jpg
http://i.imgur.com/gCGPNH6.jpg
http://i.imgur.com/rfI3N9Q.jpg
http://i.imgur.com/1WtbBIh.jpg
オッドアイは上の2枚をよく見てみると分かる

尚CDはこちら(試聴可)楓さんはページ最下
http://columbia.jp/imas_cinderella/
他にも登場キャラの中でCD発売中の渋谷凛、本田未央、島村卯月なども

神谷奈緒(17)
http://i.imgur.com/Zbu5nlF.jpg
http://i.imgur.com/sOCsvAt.jpg

四条貴音(18)
http://i.imgur.com/NNypcQx.jpg
http://i.imgur.com/NwyBEvp.jpg

>>880
愛してる

>>882
あのちょっとそういうのはやめてもらえませんかね……(ドン引き

正直ちゃんみおには特に興味を抱いていなかった。けど特訓前の水着のちゃんみおの笑顔には、心を奪われたと言わざるを得ない。
あと島村さんそれで大丈夫なのかオイってなったし、凛ちゃんのビキニには、もう何と言うか、辛抱たまりません。

まぁ要はあれですね。……海編、書きたいなぁ。



そんなわけで1時頃から投下します。












神谷奈緒。

それが今回奉仕部、及びデレプロ支部へと訪ねてきた依頼人である。

シンデレラプロダクションに所属しているアイドルであり、我が総武高校に在学している学生でもある。学年は二年。つまり同い年だ。
正直に言うと見覚えは皆無なのだが、そこは俺。ぶっちゃけ同じクラスでも覚えていない自信がある。
まぁもっとも、それは向こうにしてみても言える事だがな。俺の事など知らないだろうし、仮に知っていたとしても、こんなぼっちの事など気にも留めないだろう。

そんな彼女の依頼。それはーー





八幡「北条加蓮っつう子の臨時プロデュース……って事でいいのか?」


奈緒「……」コク


奉仕部の部室で、俺の問いに頷く神谷。

何故かは知らんが、妙に緊張している風に見える。
まぁ、面識の無い奴ら三人に囲まれればそうもなるか。



今俺たちは奉仕部の部室にて依頼内容を聞いている。

いつもの定位置に座る雪ノ下に由比ヶ浜。
少し離れた位置に座る俺。
そして向かい会うように更に少し離れた位置に座る神谷……といった具合だ。

ちなみに平塚先生は紹介するだけして出て行った。「後は若い者同士に任せるよ」なんて言っていたが、それを言われなきゃいけないのは先生じゃ(ry ※その後俺は鉄拳制裁を喰らいました。

しかし、こうして奉仕部にいるのも久しぶりだな。
正直、懐かしさを感じずにはいられない。
そうか……よく考えたら俺一ヶ月近くプロデューサーやってたんだな。時の流れは速い。

思わず感慨に耽りたくなったが、今は依頼を聞いている最中だ。雪ノ下に久方ぶりに罵られるのも嫌だからな。集中集中。

……そうは思っているのだが、どうも落ち着かん。その理由はーー



由比ヶ浜「……」ちらっちらっ



こいつだ。



八幡「……おい」


由比ヶ浜「えっ!? な、何? どうかした?」


八幡「それはこっちの台詞だ。さっきから何チラチラ見てんだよ」


由比ヶ浜「なっ…! ち、チラチラなんて見てないし! ヒッキー自意識過剰過ぎ!」



どもっていたかと思うと、急に顔を赤くして反論してくる由比ヶ浜。

おーおーそりゃどうもすいませんねぇ。こちとら勘違いをさせたら右に出る者はいない青春を送ってきたんでな。しかしもう騙されない。騙されないったら騙されない。再確認させてくれてありがとう!

しかし怒鳴り返してきたかと思ったら、今度は一転モジモジし始める。相変わらず表情が忙しい奴だ。それと、そのスカートの裾をいじいじするのを止めて頂きたい。今度は俺がチラチラ見ちゃう。



由比ヶ浜「た、ただちょっと、スーツ姿なのが珍しいなーって、に、似合ってる、とも思ったり思わなかったり……」モジモジ



どっちなんだよ。
確かに最近着慣れてはきたが、ぶっちゃけウチの高校ブレザーだし、そんな変わんなくないか?
……まぁ、嬉しくないこともないが。危うく騙されちゃう所だったぜ。早いなおい。

俺が気恥ずかしさを紛らわせるように目を逸らすと、今度は雪ノ下と目が合った。



雪ノ下「そうね。確かにどうせあなたがスーツを着ても、如何わしいセールスマンにしか見えないと思っていたけど……中々様になっているわね。関心したわ」



お前はお前で素直に褒める事は出来んのか。
けどまぁ、一応受け取っておこう。

その目を逸らしながら言う様子だけで、何となく察したからな。



奈緒「……なぁ、本題に戻ってもいいか?」



とここで呆れた声音の神谷が入ってくる。おほん。……気を取り直すとしよう(キリッ)。



八幡「んんッ! ……まぁ臨時プロデュースしてほしいってのは分かった。けど、一つ確認しておきたい」

奈緒「確認?」

八幡「ああ。なんでその依頼を、お前がしてきたのかって事だ」



こういった臨時プロデュースの依頼であれば、普通は本人がしてくるものだ。もしくは、何か別の事情があってひちろさんに頼まれる、とかな。


今にして思えば、輝子の時が後者だったのだろう。ずっとデスクの下にいた輝子を見かねて、デレプロ支部への依頼として俺に話を通した、と。そんな感じか。

しかし今回はそのどちらでもない。

同じプロダクションに所属している他のアイドルからの依頼。
自分ではなく、他のアイドルをプロデュースしてほしい。
その理由はなんだ?



奈緒「……加蓮とは、友達なんだ」



ぼつりと言葉を零し始める神谷。
友達。その単語に、自然と眉をひそめてしまう自分がいる。



奈緒「いや違うな。加蓮と……凛と、あたしたち三人は友達なんだ」

八幡「凛と?」

奈緒「うん……凛から何か聞いてないか?」



何かって言われても、あいつの交友関係なんて特には……




八幡「……あ」



そう言えば、確かに何か言っていたよう、な?
それも、かなり始めの頃に。



八幡「…………あー……お前、千葉出身?」

奈緒「? この高校に通ってるんだから当たり前だろ?」



何を言っているんだコイツは? という表情で見てくる神谷。

まさにその通りである。
そっか、凛が言ってた千葉出身の仲の良いアイドルって神谷の事だったのか。そういや、今にして思えば北条の事もなんか言ってたような気もする。わ、忘れてたわけじゃないよ?



雪ノ下「その様子じゃ、渋谷さんには何かしら聞いていたようね……」

由比ヶ浜「ヒッキー、忘れてたんだ……」



忘れてました。
ジトーっという音が聞こえてきそうな目線を俺に向けてくる女子二人。いやだってそれ聞いたの凛に初めて会った時よ? こっちだっていっぱいいっぱいだったんだから。



八幡「た、確かに仲が良い~って感じの事は聞いたが、それだけだ。詳しい事情は知らん」



我ながら苦し紛れだが、これは本当にそうなのだから仕方ない。



雪ノ下「まぁ比企谷くんのお粗末な記憶力は今更だから仕方ないとして」



息を吐くように暴言を吐く雪ノ下。
これを聞くと、帰ってきたんだなぁと実感するから不思議である。いや別に変態じゃないからね。



雪ノ下「けれどその様子じゃ、ただお友達だからお願いしているってわけではなさそうね」



雪ノ下がそう言うと、神谷は苦虫を噛み潰したような表情をする。
確かに何か事情が無ければ、こんな顔はしないだろう。

その表情に、既視感を覚える。



奈緒「……加蓮は、昔身体が弱かったんだ」

八幡「身体が弱かった?」



奈緒「うん……それでも、命に関わる程じゃないらしい。今では普通に生活出来てるし、普通の女子高生だ。けど……」

由比ヶ浜「けど?」

奈緒「身体が弱かった事もあって、あまり体力に自信が無いみたいなんだ。だからレッスンについてくるのも大変で、最近体調を崩してさ……」



痛ましい表情で話す神谷。きっと本当にその北条の事を心配しているのだろう。
そんな神谷の様子を見て、ふと、その表情が重なる。

今朝の、凛の顔を思い出した。



『加蓮と……凛と、あたしたち三人は友達なんだ』



……そうか、あいつの言ってたお願いって、そういう事か。



奈緒「大事はないみたいなんだけど、少しの間入院って事になって……それであいつ、随分落ち込んでるみたいなんだよ。折角、アイドルになれたのにって……もう、辞めちゃおうかなって言ってた」

由比ヶ浜「そんな……」

八幡「……」



奈緒「だから、あんたに頼みにきたんだ。臨時プロデュースしてくれれば、加蓮も、アイドルを辞めずに頑張れるんじゃないかって……!」



神谷の言いたい事は分かった。
このまま大切な友人が夢を諦めるのを、見過ごせないのだろう。
それはきっと本当の思いやりで、正しい考えなのだろう。

ならば、それを聞いて俺はどうする?

俺は、どうしたい?




雪ノ下「これが奉仕部への依頼でないのなら、私は深入りするべきではないと思うわね」




俺が何かを話す前に、雪ノ下が口を開く。
その言葉には、少しばかりの冷淡さが感じられた。



雪ノ下「その北条加蓮という子の事はよく知らないけれど、本人が自分の意思で決めた事なら、私はそれを尊重した方が良いと思うわ。例え、それが諦めや妥協だとしてもね」


神谷「けど……!」



雪ノ下「もちろん彼女が努力をしていないなんて言うつもりは無いわ。もしかしたら、本当に続けるのが困難な状態なのかもしれない。けれどここで辞めてしまうのようなら、所詮はその程度の気持ちという事よ」

神谷「……ッ」

由比ヶ浜「ゆきのん……」




さすがは、雪ノ下雪乃だ。

どんな事情があろうとも、彼女のかける言葉は変わらない。

上を見ない人間には、手を差し伸ばしたりは決してしない。




雪ノ下「……けれど」



しかし、雪ノ下はちゃんと言っていた。

“これが奉仕部への依頼でないのなら”、と。



雪ノ下「これは奉仕部への依頼。なら、私は手を貸しましょう。助けたりはしない。ただ、手を貸すだけ」


彼女は直接助けたりはしない。
自立を促し、自らの助かる手段と方法を教える。その手伝い。

飢えた人がいるなば、魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える。
それが、奉仕部。

上を見ようとしている人間には、手を差し伸べる。

それが、雪ノ下雪乃だ。




由比ヶ浜「……!! ゆっきのーん♪」

雪ノ下「ちょっ……由比ヶ浜さん、離れなさい」



雪ノ下が手伝うと言ったのが余程嬉しかったのか、抱きついていく由比ヶ浜。
うむ。やはりジャパニーズ・ユリは最高だな。



由比ヶ浜「やっぱりゆきのん、優しいね」

雪ノ下「べ、別に善意で言ったわけじゃないわ。あくまで依頼を受けたから。これでもしも本人にやる気が無いのなら、私は手伝ったりしないわ」

由比ヶ浜「んふふー。分かってる分かってる♪」

雪ノ下「……何故だか、癪に障る笑い方ね」


相変わらず、雪ノ下は由比ヶ浜に弱いようだ。
そのデレのちょっとでも俺に分けてほしいものである。


すると今度は、由比ヶ浜が神谷に向けて言う。



由比ヶ浜「あたしも、手伝いたい。だって勿体無いよ! アイドルっていうのは女の子の憧れで、夢なんだから」



そんな由比ヶ浜の目には、夢見る乙女の色だけではなく、僅かばかりの羨望が見て取れた。



由比ヶ浜「それに、友達の為のお願いを断るなんて出来ないじゃん?」



しかしそれも一瞬の事で、すぐにいつもの満面の笑みになる。
きっと夢を追う彼女らが羨ましくて、だからこそ諦めてほしくないのだろう。
由比ヶ浜は、そういう奴だ。



神谷「……ありがとう」



少しだけ俯いた後に、微笑む神谷。
……うん。ギャップ萌えギャップ萌え。



雪ノ下「お礼を言うには早いわね。まだ活動どころか、この依頼を引き受けるかどうかも決まっていないのに」



とここで空気を読まない雪ノ下。
その発言にさっきまでの感動ムードも何処へやら。神谷は面食らった顔になる。



奈緒「え? でも、さっき手伝うって…」

雪ノ下「それで、どうするの比企谷くん」

八幡「は?」



今度は俺が面食らった。え、俺?



雪ノ下「総武高校の奉仕部を経由したとはいえ、内容からするとこれはあなたへの依頼よ。私たちには決定権がない」

八幡「……なるほどな。そういう意味か」



確かに結局の所、以来内容は臨時プロデュースだ。主に実行するのは俺。むしろ雪ノ下や由比ヶ浜に出番はないだろう。まさかコイツらがプロデュースするわけでもあるまいし。



八幡「けど、それなら何でこっちの奉仕部へ依頼を持って来たんだ? デレプロ支部に直接言やぁ良かったものを」

神谷「それは……」



俺が訪ねると、言いにくそうにもごもごし始める神谷。



神谷「そうしようかとも思ったんだけど……凛に、迷惑はかけたくないし」

八幡「あー……そういう事ね」



つまり、俺に担当アイドルが増える事で、凛へのプロデュースが疎かになるのを器具したってことか。
友達の為への依頼で、友達に迷惑をかけたくないと。
この分じゃ、今回の依頼の事も凛には言ってないのだろう。
北条にも、な。



八幡「でもこっちに依頼したら、結局俺が引き受けるんだから意味なくないか?」



俺が当然の疑問を口にすると、神谷は呆れたように言う。



神谷「ウチの高校の奉仕部っていう部活にプロデューサーがいる、って噂を聞いてあたしはここに来たんだ。まさか、凛のプロデューサーと同一人物だとは思わなかったんだよ」

八幡「なーる……ってちょっと待て。噂、だと?」

神谷「知らなかったのか?」


知らなかった。
つーかほとんど学校にいなかったんだから当たり前だ。



由比ヶ浜「あ、あたしは誰にも言ってないよ!?」



別に何も言ってないのに突然弁解し始める由比ヶ浜。逆に怪しいぞオイ。



雪ノ下「疑ってもいないでしょうけど、私も言っていないわ」

八幡「ああ。そこは信じてた。言う相手がいないもんな」

雪ノ下「あなたにだけは言われたくないのだけれど……」



残念。俺には小町がいるんだな! 悔しければお前も陽乃さんに言ってみろ! ……すいませんやっぱりあの人には言わないでください。大変な事になります。俺が。



由比ヶ浜「けどそれじゃあ、どうしてバレちゃったんだろうね」

八幡「ま、色々とバレる要素はあったからな。時間の問題だったんだろ」



職員室でプロデュース活動について話す俺と平塚先生。
突然登校しなくなり、スーツでうろつく学生。

目撃されて噂になるような光景はいくつもあった。それで噂が広まったとしても不思議じゃない。


まぁ平塚先生や葉山が言ったという可能性もあるが、その線は薄いだろう。
……いや、平塚先生なら割とあり得そうか。



奈緒「元々、奉仕部自体が噂みたいなもんだったけどな。平塚先生に相談してみて、始めて実在するって知ったんだ。そこからここに案内されて…」

雪ノ下「私たちが、比企谷くんの事を紹介したのよ」



これが事の顛末、ってわけか。

しかし雪ノ下たちが俺を紹介、ねぇ……
アレだ、凄く気になる。
どうせボロクソ言われていたんだろうけど、気になる。怖いもの見たさとはこの事か。

しかしそんな事よりも、今は決めなければならない事があるようだ。



奈緒「それで、引き受けて、くれるのか?」



躊躇いがちに訊いてくる神谷。
その顔を見れば、どれだけ友達の事を思っているかが分かる。

友達……か。



八幡「……俺も雪ノ下と同意見だ。依頼を聞いた以上は引き受ける。ま、北条にその意思が無いならその限りじゃないがな」


奈緒「それじゃあ……!」

八幡「ただし」



俺は神谷の目を、真っ直ぐに見据える。



八幡「条件がある」

奈緒「条件……?」

八幡「ああ。……お前の、神谷の本音を聞かせろ」



これは、これだけは確認しておかなければならない。
誰の気持ちでもない、この依頼を持って来た、神谷の気持ちを。



奈緒「あたしの本音って……加蓮に、アイドルを辞めてほしくないってさっき…」

八幡「本当にそれだけか?」



奈緒「……どういう意味だよ」

八幡「北条にアイドルを続けてほしいってのは分かった。それも本心だろうな。けど、それだけでいいのか?」

奈緒「だから、どういう…」

八幡「北条がアイドルを辞めなかったら、お前はそれだけで良いのかって訊いてんだ」



友達が夢を諦めるのを見たくはない。
それは彼女の本音なんだろう。
素晴らしい事だ。友達思いで、心の底から切に願ってる。

けど、そこに神谷自身の事は入っているのか?



八幡「俺が北条をプロデュースして、アイドルを続けて、それでお前はどうしたい? 友達が夢を叶えてハッピーエンドじゃねぇだろう? お前は、終わっていいのかよ」

奈緒「あ、あたしは……」



神谷は俯いたまま、目を閉じて言葉を零す。
けどそれは、目を逸らしたわけじゃない。向き合うためだ。
自分の中の、本心と。





奈緒「……あたしは、三人でアイドルを目指すのが楽しかったんだ」




神谷は、ゆっくりと目を開き、顔を上げた。




奈緒「最初スカウトされた時は、アイドルなんて無理に決まってるって、バカみたいだと思ってた。けど……いつからかそうやって三人で頑張るのが楽しいって、思ってたんだ。だから…」




その目には、確かな意志が込められているように思えた。
もう、下は向いていない。




奈緒「だから……あたしはアイドルになりたい。加蓮と、凛と! 一緒にアイドルになりたい!」


八幡「……そうか」




それが聞ければ、充分だ。



ったく、最初からそう言えよな。

友達を理由に使うな、とは言わない。夢を諦めてほしくない気持ちも、きっと本当だから。
けど、だからって自分を蔑ろにする必要もない。
アイドルやりたいなら、そう言え。



八幡「そんなら、俺はプロデュースするだけだ」

奈緒「え……?」

八幡「今更、二人だろーが三人だろーが変わりゃしねぇしな」



これも奉仕部デレプロ支部の勤め、だ。



八幡「だから、今回の事も二人にちゃんと話しとけよ」



きっと言ってほしいだろ。友達ならな。



奈緒「あ、あたしもプロデュースしてくれるのか?」

八幡「そう言ってんだよ」



言わせんな恥ずかしい。



奈緒「い、いやでも、あたしは、その…ほら、ええーっと…」アタフタ



何故だか面白いくらい動揺している。
いや、アイドルなりたいんじゃないの? え、俺なんかミスった?



奈緒「…………よ、よろしく、頼む……」カァァ



目を逸らしつつ言う神谷。

……うむ、アレだ。そうやって赤面しながら言われると……うん。



俺がどうしていいか分からず顔を背けると、こちらを見ている二人に気づく。
雪ノ下と由比ヶ浜は……何と言うか、表現のし辛い複雑な表情をしている。



雪ノ下「驚いたわね……」

八幡「何がだよ」

雪ノ下「あなたが、そうやって捻くれずに物を言う事によ」



目を丸くする雪ノ下に、ストレートに言われてしまう。

なに、平塚先生にも言われたけど、そんなに俺変わった?
不変がモットーな俺としては、いささか複雑なのだが。



由比ヶ浜「ヒッキーがまともになるのは嬉しいけど……むー…なんかなぁ」



対してこちらは何故か膨れっ面。
全然嬉しそうに見えない不思議だ。つーか、今までまともじゃないと思ってたのかよ。ちょっと傷ついちゃうだろ。



八幡「……ほっとけ。どうせ一時の気の迷いだよ」



それでも。
もし変わったんだとしたら、それは彼女のおかげだろうか。
俺の隣に立つ、彼女の。



八幡「……うし。そんじゃ早速その北条とやらに会いに行くか。確か今は病院だったな」

奈緒「う、うん。けど、いきなりだな」

八幡「そうこうしている内に辞められても困るからな。早い方がいい」


しかし、そうすっとお見舞いになるのか? ……何か用意した方がいいんだろうか。
とりあえず凛も呼んで、ついでにあいつの家の花を持って来てもらって…

とこれからの算段を整えていると、雪ノ下と由比ヶ浜が申し訳なさそうに言う。



雪ノ下「ここから先は、比企谷くんに任せる事になるわね」

由比ヶ浜「うん……頑張ってね、ヒッキー!」


八幡「……もしも」


由比ヶ浜「え?」



八幡「もしも手が必要になる時があったら……その、なんだ、頼むわ」


雪ノ下・由比ヶ浜「…………」




気恥ずかしさを堪えつつ二人に言ってはみたが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で固まっている。
そ、そんなに変な事言ったか俺?



雪ノ下「……ふふ」

由比ヶ浜「……あははっ」



と今度は二人して笑い出す。



由比ヶ浜「だってよ、ゆきのん!」

雪ノ下「そうね。なら、引き受けるしかないわね」



クスクスと笑いながら俺を見てくる二人。
ええいくそっ! やっぱ言うんじゃなかった! 恥ずかしい!

俺が一人ぐぬぬとしていると、気を良くした由比ヶ浜が声を上げる。



由比ヶ浜「よーし! アイドル目指して頑張ろう! なおちん!」

奈緒「な、なおちん!?」

雪ノ下「あなたがアイドルを目指すわけじゃないでしょう……それと、あだ名は気にしないで頂戴」




久方ぶりの奉仕部。

といっても、結局は俺の臨時プロデュースなのだが……
ま、たまには二人を頼ってみてもいいのかもしれん。


もしかしたら、この考え自体が変わったと言われる要因なのかもな。
























由比ヶ浜「そう言えばヒッキー! 平塚先生に聞いたけどデレプロ支部って何!?」

雪ノ下「詳しく、話を聞きたいわね」

八幡「……勘弁してくれ」



というわけで今回はここまで! 加蓮ちゃんは次回!

神谷と奈緒が混在しててすみません……

次スレ立てておきましたので、こっちは感想やら雑談で埋めてもOKです。

……もう一回くらい投下出来るかな?


次スレ
八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その2だね」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377037014/)

番外編! 番外編を投下するよ!

先に言いますと、主役は二代目シンデレラガールです!

あと15分くらいしたら投下しますー。








番外編


蘭子「やはり私の青春模様にまちがいはない。」









中二病。


友人によると私はそういった病にかかっているらしい。

病と言っても別に病気とかそういう類いのものではなく、思春期にありがちなちょっと背伸びした振る舞い。
そういったものを指すらしい。

しかしその中でも私は特殊な分類に分けられるようで。


邪気眼系、というらしい。


意味はよく知らないけど……フフ、中々良い響きね。

……今のがそうなのかな。





蘭子「…………カッコいいなら、それで良いと思うけどなぁ」




私の呟きに、答える者はいない。

でも、お母さんのご飯が出来たという声は聞こえた。












友達「おはようー」

蘭子「煩わしい太陽ね(トモちゃんおはよう!)」

友達「……」



いつも通りに登校し、いつも通りに教室に入って挨拶する。
うん! 今日も一日頑張ろー!



蘭子「今宵は血が疼く……私の真の能力を見せる時が来たようね(今日テストだねー、頑張らなくちゃ)」

友達「……ふんッ!」マカチョップ!

蘭子「ソウルっ!?(痛いっ!?)」



いつもの朝のやり取りをしていると思ったら、いきなり教科書の角を頭頂部に振り下ろしてくるトモちゃん。か、角は本当にヤバイよ……



蘭子「うう……痛いよトモちゃん……」さすりさすり

友達「それはこっちの台詞よ。色んな意味で痛いわ」



やけにイライラした様子で言うトモちゃん。
ど、どうしたんだろう。そんなに今日のテストが不安なのかな?



蘭子「……フッ、安心せよ我が下僕よ。呪文の事なら私が…(大丈夫だよ! 国語なら私得意だから教えてあげ…)」

友達「ふんぬッ!!」脳天直撃死神チョップ!!

蘭子「イーターッ!?(痛いッ!?)」



今度は直接手刀を振り下ろされちゃった。
でも何故かさっきより痛い気がする……なんでだろう。



蘭子「うう……さっきからどうしたのトモちゃん?」さすりさすり

友達「だからそりゃこっちの台詞だってば。その中二言葉止めてよね」ハァ…

蘭子「うっ…」

友達「あんた可愛いから許されてるけど、それでブッサイクだったら殴ってるわよ?」

蘭子「もう殴ってるよ……」



ダメだ……あの痛みを味わうと迂闊に堕天使形態(※中二モードの事。蘭子ちゃん命名)になれないよ。



友達「それと、その眼帯」

蘭子「え? 変かな?」



友達「目悪いの?」

蘭子「……」

友達「……」

蘭子「……ククク、我が邪王真眼を見せる時が……あ、ごめんなさい嘘です嘘ですだからお願いだから振りかぶらないで!」



トモちゃんが怖かったので仕方なく眼帯は取りました(震え声)。



友達「ホントなら、その腕に巻いてある包帯も剥ぎ取りたいところだけど…」

蘭子「……ッ!」キッ

友達「そんな親の敵を見るような目で見なくてもいいじゃない。……分かったわよ、それは見逃してあげる」

蘭子「トモちゃん……!」キラキラ


















先生「どうした神崎ー、腕、怪我でもしたかー」(※HR中)


蘭子「~~ッ!」カァァ

友達「~~ッ!!」(笑いを堪えている)





次の休み時間、私は包帯を取りました。






蘭子「は、恥ずかしかった……」

友達「だから言ったじゃない。これに懲りたら、もうそんな真似しない事ね」

蘭子「……」



やっぱり私はカッコいいと思っても、他の人は気持ち悪がっちゃうのかな。

トモちゃんも、別に私に悪気があるわけじゃない。
むしろ心配してるからこそ、止めるよう言ってくれているんだろう。

…………でも……なぁ。



テストは、あまり集中出来なかった。














蘭子「何度も僕ら~♪ 高く星追いかけて~♪」



紅蓮の道を往き、我が理想郷へと羽ばたこう(夕日の中、私の家へと帰宅しています)。

……やっぱり、心の中じゃつまんないな。
でも口にしたら、きっと周りの人に白い目で見られる。トモちゃんが言っていたように、変な人だと思われる。それは、嫌だ。


けど、なぁ……



ついつい気持ちが暗い方に行っちゃうな。
こういう時は、歌って気分を晴らすのが一番だよね!
(※蘭子ちゃんは天然だから、歌いながら帰ってる時点で変な人だと思われる事に気づいていません)


そう言えば、今日はM○テで貴音さんが歌うんだった! 帰って録画しないと!
……アイドルは良いなぁ、自分を思いっきり出す事が出来て…



蘭子「信じてr……ん?」



少しだけ早足で歩いていると、交差点である物に目が止まる。
物というか、者だったけど。


それは私より少し年上だろう男子学生の二人組で、何と言うか、目立っていた。




「るふんるふん! 八幡、中々の戦果だったな! ここまで来たかいがあったというものだ!」

「ここで広げんじゃねーよ、周りの目が痛いだろうが。つか、俺は偶々居合わせただけだ。付き添いみたいに言うのやめてくんない?」


一人は恰幅の良い眼鏡の男子で、学校の制服の上に何故かコートを羽織っている。そしてその両手にはいっぱいの紙袋。プリントされているイラストを見ても分かるけど、正にその筋の人だった。


……でも、実は私もそこのお店の常連だったりする。
だ、だって心引かれるものがたくさんあるんだもん!


そしてもう一人は、同じ高校の制服を来ている標準的な体格の男子。顔は……か、カッコいい方だと思う。
特にその目。全てを威圧し、達観しているようなその瞳は、邪王真眼を持つ私を多いに引きつけて……はっ! もしや彼の者がダークフレイm(ry


と私が妄想に陥りそうにしていると、隣で信号を待っている女子高生から声が聞こえてきた。



「やだーちょっと見てよ、あれがオタクってやつ?」クスクス

「ホント、マジきもいんだけど」ケラケラ



蘭子「……っ!」


それはほとんど隠す気のない、陰口とも言えない悪口。
この距離だ。あの人たちにも勿論聞こえているだろう。


……何でかな。


私が言われてるわけじゃないのに、胸が、痛い。

思わずその場から去りたい衝動に駆られながら、二人の男子を恐る恐る見る。


すると思った通りか、眼鏡の男子は冷や汗を流しながら居心地悪そうにしている。


当たり前だ。私だって、同じ状況だったらそうなるだろう。
むしろ、泣きながら逃げるかもしれない。



けれど、もう一人の男子は……何も変わっていなかった。



もしかして聞こえてなかったんじゃ、と私が考えていたら、その男子は動いた。
眼鏡の男子が持っている袋と同じ、自分の持っている袋(ただし数は圧倒的に少ない)を、おもむろに開き始める。


取り出したのは、一冊の本。大きさ的にたぶん漫画かな。

すると、彼は突然切り出した。




「やっぱ、ゆのっち一択だよな。何あの笑顔、眩し過ぎてもはや見れないぜ。宮子との絡みとか微笑ましくて微笑ましくて、この間呼んでたら小町にキモイって言われちまったよ。そんな顔緩んでたんかね」


「八幡……?」

「お前はどーよ材木座。あれか。大穴で吉野家先生か」

「……ふっ、愚問だな。我はもちろん、なずな殿だ!!」

「予想通り過ぎてきめぇ!」



いきなり漫画トークが始まる。
その会話はどんどん熱を帯びていき、いつの間にやらお互い掴み掛からんばかりの熱弁になっていた。
でも、私にはそんな二人が凄く楽しそうに見えた。

羨ましいくらいに。



「うわ、なにアイツら急に……」

「……キモっ、早くいこ?」



先程の女子高生は、あからさまに引いた様子で去って行く。

よく見ると、周りにいた他の人たちもいつの間にかいなくなっている。
これが、世間の風当たりってやつなのね……




「……ふう、あーあまた黒歴史を増やしちまった…」



見ると、先程の男子が本当に疲れたといった様子でため息を吐いている。
まさか、演技……?

……いや、それはない。
私には分かる。さっきのは本音だった(同類の勘)。



「む? どうした八幡。もっと我とKRコミックスについて語り合おうではないか」

「いやいいから。俺は帰って漫画と一対一で語り合うから。ゆのっちがひだまり荘で待ってくれてるから」



やっぱり本音みたいだった。



「……まぁけど、その方がお前らしいわ」

「八幡……まさか貴様……」

「オタク上等くらいがお前には丁度いい。そっちの方がまだウジウジしてるよかマシだ」



要はあの男の子は、眼鏡の男子に発破をかけたのだろう。

オタクなら、もっと、堂々としてろと。
そういう意味だったのだろう。



「……くくく、流石は我が半身。我の事なら全てお見通しというわけか」

「いや違うから。その一心同体みたいな言い方気持ち悪いからやめてくんない」



そしてあの眼鏡の男子からは同じ匂いを感じる……!
……そっか、端から見るとあんな風なんだ私。



「しかしなハチえもん。女子にああいう事を言われると、どうしてもな。最悪泣いちゃうぞ我」

「まぁ気持ちは分かるがな……俺だってそうだ」



心底同意したくないといった様子の彼。



「けど、今は別に周りなんてどうでもいい。好きなもんくらい、好きって言いたいからな」


蘭子「っ!」




「周りの目ぇ見て、周りの顔色伺って、その上好きなものまで犠牲にして、そんなのは……俺は真っ平だ」




その言葉は、深く深く、私の中に突き刺さった。

好きなものを、自分を隠して、それで、本当に胸を張れるの?

私は……





「うむ……そうだな。それでこそ我の相棒! 剣豪将軍義輝の相棒だ!!」

「いやそういうのはいいから。ぶっちゃけそれは本当にキモイ」


わいわいと騒がしく、その二人は去っていった。

堂々と、自分を偽らないその姿がカッコよくて。

私はーー





















蘭子「クックック、我が眷属よ、闇に飲まれよ!!(トモちゃん、テスト勉強お疲れさま!)」
(※ノーマルの特訓前の格好。もちろん傘もさしてるよ)



友達「悪化したッ!!」








その後なんやかんやあり、トモちゃんは渋々ながらも私のこの病を黙認してくれた。

「見ている分には面白いしね」って言っていたけれど、せめてツッコミはもう少し優しくしてほしいかな。


けどもちろん、快く思わない人たちもいる。

親は宇宙人でも見るような目で見てくるし、外を出歩けば異端扱い。
担任の先生には泣かれちゃったりもした。……さすがに迷惑かけ過ぎました。



でも、私はやめるつもりはない。

私が好きで、カッコいいと思って、やっている事だから。



中二病は、きっと私の青春なのだ。




だからきっと、まちがってなどいない。
そう胸を張って、今は言える。


……あの人に、また会ってお礼を言いたいな。





「ちょっとそこのキミ……ティンときた!」


蘭子「はい?」





その後彼と彼女が事務所で再び出会う事になるのは、また別のお話。





蘭子「やはり私の青春模様はまちがっていない。」

おわり


つーわけで番外編でした! 蘭子ちゃんまた出番あるかな。どうしよう。

あとこのスレは今度こそ埋めてもらってOKです!


蘭子は熊本から越して来てたって脳内変換でいいのか?

>>983
細けぇこたぁ(ryの精神でお願いします。

けど実際モバマスのアイドルってほとんど皆一人暮らしって事になりますし……問題無いよね!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月26日 (土) 08:15:33   ID: RSp2jdoV

もういっても仕方ないがクール贔屓ひでぇな

2 :  SS好きの774さん   2014年05月27日 (火) 19:28:46   ID: EH6bBYjw

さすが嫁ステマ

3 :  SS好きの774さん   2014年10月21日 (火) 20:41:42   ID: 5p4pusst

面白。モバマスのことまったく知らないけど楽しめました。

4 :  SS好きの774さん   2015年10月13日 (火) 17:15:28   ID: 8u9ulXm3

good(`・ω・)b

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