ロロナ「深淵歩きのアルトリ……アル……アーくん!」 アルトリウス「」(413)

火は継がれ世界は続く……。
不死の英雄は火を継ぎ、世界から闇が消えた。
火の燃える世界には光が満ちて人の全てを照らし始める。
終わりは新しい始まりを生み、世界は時を進めた……。

火は消え世界は終わる……。
不死の英雄は火を消し、世界から光が消えた。
火の消えた世界は闇が広がり不死の者達を優しく包み込む。
終わりは無く、始まりは訪れず、世界は時を止めた……。

熱と冷たさと、生と死と、光と闇と、時の流れと
二つの世界の差異は大きく広がるばかりで、いつしか二つが混ざり始めた……。


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 第一話
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 そこは暗闇と岩だけの世界だった。
 世界に光は無く、生物の気配が無い。
 動くモノがあるとすれば、それは人影の化け物だけ……。
 深い深い暗闇を身の丈ほどの大剣を背負いながら騎士アルトリウスは亡者のように歩き続けた。
 気が遠くなるほどの時間、歩き続けた彼は孤独と無力感から世界に呑まれてしまっていた。
 今の彼は亡者と同じ、脊髄反射のように目の前に現れたモノを切り裂き、終わりを目指してただ歩き続ける……。


 そんな彼の目の前に小さな小さな光が現れる。
 光に気付いたアルトリウスは引き寄せられる羽虫のようにそれに近づいていく。
 それは光る道であった。アルトリウスはその道を一歩、また一歩と歩き出す。
 そして、やがて光の道の向こうに人影が現れる。
 アルトリウスは右手に持った大剣を人影に向けて振るう。

???「きゃあっ!?」


 
 その声にピタリと手が止まる。
 急に頭が痛くなる。
 彼は左手を額に当てて、痛みを堪える。
 そして、気がついた。
 さっきまで動かなかった手が動いている事に……。
 そして、急に周りの光が気になって左手で視界を覆う。
 目が光に慣れ始めたのでアルトリウスは左手を下ろして、周囲を見渡した。

アルトリウス「……ここは何処だ?」

 木製の本棚、机……机には妙な草花が置かれている。
 気になったのは大きな釜であった。
 普通の民家に置くには大きすぎる釜……もしかしたら、ここは何かの店なのかもしれない。
 しかし、先ほどまでアルトリウスはけして光が届かない暗闇の世界――深淵の中を歩いていた。
 それが気がつけば、見知らぬ民家の中に居るのだ。
 深淵の果てが見知らぬ民家に繋がっていた……妙な話である。
 アルトリウスが現状を理解できずに硬直していると、すぐ近くからおどおどとした声が聞こえた。


???「……あ、あの! こ、この剣! あ、危ないのでどけてくれませんか?」

 声のする方へ視線を向ける。
 そこには10代ぐらいの女の子が床に座っていた。
 そして、そんな少女の喉元に触れるか触れないかの位置にアルトリウスの大剣が止まっていた。

アルトリウス「す、すまない!」

 事態を把握したアルトリウスが急ぎ大剣をどけて少女に謝罪する。
 そして、少女に空いている手を差し出す。
 差し出された手を見て少女が一瞬、思考するとアルトリウスの手を取り立ち上がる。

アルトリウス「先ほどは申し訳ない。怪我は無いか?」

???「は、はい、大丈夫です……」

アルトリウス「それは良かった……私の名前はアルトリウス、グウィン王に仕える騎士だ」

???「グウィン王?」


アルトリウス「知らないのか?」

???「はい……」

アルトリウス「ふむ……」

 アルトリウスは左手を顎の位置に持って行き思考する。
 王の名前を知らないとなるとここは相当離れた場所なのかも知れない。
 もしくは少女があまり知識を持たない人間なのかもと……。
 とりあえず、アルトリウスは少女から情報を聞き出すことにした。

アルトリウス「ところで貴女の名前を聞かせて頂きたい」

ロロナ「あ、わたしですか? わたしはロロナ! ロロライナ・フリクセルです!」

アルトリウス「ロロナ……ところで、ロロナ」

ロロナ「はい、なんですか?」

アルトリウス「ここは何という場所だ?」

ロロナ「えっ? ここですか? ここは――」

 ――アーランドです。そう、ロロナは答えた。

とりあえず、冒頭だけ……。
こんな感じで亀更新で進めていきます。



 アルトリウスは皮製のソファに座り項垂れていた。
 騎士の仕事柄、様々な土地に派遣されることが多く、隅々とまでは行かないが世界を知っているつもりだった。
 ロロナと呼ばれる少女の話では今、アルトリウスが居る場所はアーランドと呼ばれる聞いたことの無い土地である。
 深淵を歩いていたのに気がついたらロロナに大剣をつき付け、見知らぬ土地に居たのだ。
 故にこの場所が世界の何処にあるのか、どうすれば帰れるのかなんて知るはずも無い。
 その事実がアルトリウスをさらに落ち込ませるのであった。
 とりあえず、落ち込んでもいられないのでロロナからアーランドの情報を詳しく聞くことにした。
 情報次第ではもしかしたら何とかなるかもしれない、そんな期待を込めて……。

アルトリウス「それで、このアーランドという国はどんな場所なのだ? そうだな……この国を代表するようなものを聞きたい」

 その国の代表的なモノの名を聞けば、それが鍵となり知識の片隅にあるようなことでも思い出せる。
 だから、アルトリウスはアーランドの代表的なモノを聞いたのだった。

ロロナ「えっと、アーランドはですね……え~と、う~んと……」

 ロロナがどう説明したものか思考する。
 そして、しばらくして何かを思いついたのかパンッと両手を合わせて言った。

ロロナ「機械があります!」


アルトリウス「きかい?」

ロロナ「はい、機械です!」

アルトリウス「……その、きかい? それはすごく珍しいモノだったりするのか?」

ロロナ「そうですね……珍しいかと言われれば……う~ん、どうだろう? でも、この国は機械のおかげで一変したので代表的だと思いますよ?」

 アルトリウスはさらに落ち込んだ。
 そう、彼の知識の中には『きかい』と呼ばれるモノが存在する国は無いのだ。
 その国が栄える要因になるほどのモノ……それを噂でも耳にしたことが無い。
 つまり、全くと言っていいほど、他の国との交流が無い偏狭の地と考えてもいいだろう。
 海を越えればいいのか? 山を越えればいいのか? そんな次元の話ではない。
 この広い世界から一つの土地を探し出す……それは砂の山から砂金を一粒探し出すのと同じぐらい難しい話である。
 だから、アルトリウスは落ち込んだ。

ロロナ「え、えっと! 他にも……他にも……ええっと、皆さんいい人です! ってこれじゃあ、情報じゃないよ! その、えっと! そもそも、師匠に釜を見てるように言われただけで……」

 そんな、アルトリウスを励ましたいのかロロナは落ち着き無く手をばたばたと振って何かアルトリウスが喜びそうな情報を探して言う。
 やがて、あまり役に立ちそうな情報が思いつかなかったのか目を潤ませて落ち込み始める。
 それに気がついたのかアルトリウスが何とか宥めようとする。

ロロナ「そもそも、師匠は何処か行ってるし……なんでこんな時に限って……」


アルトリウス「その、大丈夫だ! とても役立つ情報だったぞ? その、ありがとう?」

ロロナ「困ってる人に気をつかわれたー!」

アルトリウス「あ、いや、そのだな?」

ロロナ「うわーん! 師匠、早く帰ってきてー!」

 すると、眼鏡をかけた長い黒髪の女性が奥の扉から出てくる。
 女性は腕を組み片手で眼鏡をあげると言った。

???「ふむ、泣いて頼まれたら出てこない訳にもいかないな……」

ロロナ「へ? し、師匠!? いつから、そこに!?」

 ロロナは部屋に入ってきた女性に気がつき、そして驚きながらそう言った。
 師匠と呼ばれた女性は腕を組みしれっと答える。

???「いつからも何も、釜を頼んでからずっと隣の部屋にいたが……それと師匠ではなくお姉さまと呼べ!」


ロロナ「恥ずかしいからイヤです! って、そうじゃなくて! 師匠、さっき出て行ったじゃないですか!」

???「うん? あぁ、少し前に帰ってきてな……バレないようにこっそり部屋へ行った」

ロロナ「……」

アルトリウス「こちらの女性は?」

 さっきまで突然、始まったよくわからない展開に固まっていたアルトリウスがロロナに聞いた。
 ロロナはアルトリウスの存在を思い出したようで女性を紹介する。

ロロナ「えっと、こちらは……」

???「ロロライナ・フリクセルのお姉さ――」

ロロナ「――わたしの師匠でアストリッド・ゼクセス師匠です」

アストリッド「ふむ、なかなかやるではないか……」

 アストリッドは弟子の成長を喜ぶかのようにうんうんと頷いている。


アルトリウス「なるほど……では、改めて私の名前は――」

アストリッド「『深淵歩きの騎士アルトリウス』だったな……さっき、話は全部、聞いていた」

アルトリウス「そうでしたか……」

アストリッド「あぁ、だから、当然、全て理解している」

ロロナ「って、聞いてたんなら、なんで出てきてくれなかったんですかー!?」

 ロロナがアストリッドの発言に頬を膨らませながら抗議する。

アストリッド「悪い悪い、愛弟子の慌てふためく様が、思いのほか可愛くてな、つい」

ロロナ「つい……じゃないですよ! 剣つき付けられた時は怖かったんですよ!」

アルトリウス「うっ、それはすまない……」

 ロロナの発言に騎士が一般人に剣をつきつけたという事実にアルトリウスが落ち込む。
 そんな、アルトリウスの姿にロロナが慌てて訂正する。


ロロナ「あぁ~! その、ですね!? 怖かったけど、気にしてないというか!? 師匠~!」

アストリッド「……まぁ、あの時は少し肝が冷えたがすぐに正気に戻ってたみたいだったからな」

ロロナ「まぁ、そうですけど……」

アストリッド「何、いざとなれば、何とかしたさ」

 そう言うとアストリッドがロロナの頭をポンポンと軽く触る。
 そして、騎士としての誇りから落ち込んでいるアルトリウスの方を向いて言った。

アストリッド「しかし、まぁ、おとぎ話だと思っていた『深淵歩きの騎士アルトリウス』が目の前に居るとは不思議なモノだな……」

ロロナ「おとぎ話? そんな古い話なんですか?」

アストリッド「機械を生み出した文明より数千年、数万年ぐらい前の話だ……知っている人間も数えるほどしか居ないだろうな……」

ロロナ「ほへぇ~そんな前の話なんですね……師匠は何処で知ったんですか?」

アストリッド「随分と昔に城にある図書館へいった時にだな……まぁ、それぐらい限られた人間しか目にする機会は無いということだ」

 すると話を聞いていたアルトリウスが会話に入る。

アルトリウス「少し待って欲しい、それでは私は数万年後、いや、もっと未来に来たことになるのだが……」


アストリッド「書物の内容が正しいのなら……まぁ、おとぎ話の存在がココに来てしまった以上、海を越えて、山を越えて帰りますとはいかないだろうな」

アルトリウス「……そうか」

 アルトリウスが目に見えて落ち込む。
 そんな彼をロロナは何とか励まそうとアストリッドに言った。

ロロナ「だ、大丈夫ですよ! し、師匠ならすぐに帰る方法を発見してくれますよ! ねぇ、師匠?」

アストリッド「ふむ、確かに私が本気になれば出来なくは無いだろうな……」

アルトリウス「ホントか!」

ロロナ「ほ、ほら! だから――」

 アルトリウスが目の前に現れた光にすがるように元気になる。
 それを見た、ロロナがさらに元気付けるように続けるが、それを遮るようにアストリッドは言った。

アストリッド「――だが、断らせてもらう」


ロロナ「そんな!? どうしてですか!?」

アストリッド「待て、落ち着け、私も鬼ではない……愛弟子がどうしても深淵歩きの騎士を助けたいと思うのなら手助けぐらいするさ」

ロロナ「困ってるのなら助けたいに決まってます! だから、アルトリ……アル……アーくん!」

アルトリウス「……」

 自分の名前の愛称にアルトリウスは微妙な気分になった。
 そんな彼を気にせず、ロロナは続ける。

ロロナ「アーくんを――」

 そんな必死なロロナを見てニヤリと笑みを浮かべると言葉を遮るようにアストリッド言った。
 まるでこうなることを予め予想していたかのようにはっきりと……。

アストリッド「――ロロナ、お前が深淵歩きの騎士の帰る方法を探す。私はそんな愛弟子を少しばかり見守っているとしようじゃないか」


ロロナ「へ?」

 ロロナがアストリッドの言葉に固まる。
 そんなロロナを無視してアストリッドは続ける。

アストリッド「そうだな……深淵歩きの騎士は遺跡で拾った指輪を錬金術で綺麗にしているときに現れた。つまり、鍵は錬金術にあるということだな」

 そして、アストリッドは固まっているロロナの背中を押して錬金釜に向かわせる。

アストリッド「まずは手がかりになる物を見つけて、深淵歩きの騎士が帰る方法を探す! 錬金術で現れたってことは帰る方法も錬金術という訳だな?」

ロロナ「え? へ? えぇえええええ!?」

 全てを理解したロロナの叫びがアトリエに響き渡る。
 アストリッドはそんな愛弟子の姿をニヤニヤと見守るのであった。

ロロナ「えっと、まずは錬金釜の中を――」

 ロロナがアストリッドに言われるがまま手がかりを探し始める。
 そんな愛弟子を見守っていたアストリッドの視線がアルトリウスに向けて言う。
 アルトリウスにはその表情が何処か優しげに見えた。


アストリッド「と、言うわけだ。深淵歩きの騎士にはあの子の手伝いをしてもらいたい」

アルトリウス「手伝いとは?」

アストリッド「錬金術士は材料集めの為に時には危険な場所へ向わなければならないからな……深淵歩きの騎士には愛弟子が危なくなったら手助けをしてもらいたい」

 アストリッドは優しげな表情をロロナに向けて続ける。

アストリッド「今回のことは事故みたいなものだ……つまり、深淵歩きの騎士はロロナに困っている所を助けてもらう形になるわけだ」

 そして、視線をアルトリウスに向けて言った。

アストリッド「助け合いだ……深淵歩きの騎士アルトリウス、愛弟子のことを頼みたい――」

 ――頼めるか?っとさっきまでのやり取りが嘘のように真剣な顔で……。
 その表情を見てアストリッドがどれだけ、ロロナを愛しているのかをアルトリウスは理解した。
 だから、少女を守る騎士として言った。

アルトリウス「助け合いだな、わかった……私はこれよりロロライナ・フリクセルを守る剣となろう」

 アルトリウスの言葉に満足したアストリッドは頷くと、アトリエの本棚へ向い一冊の本を抜き出す。
 そして、ロロナに視線を向けて言った。

アストリッド「手がかり探しはそこまでだ。ロロナ、次はこれだ!」


ロロナ「え?」

 視線を向けたロロナに手に持った本を投げ渡す。
 ロロナは目を白黒させながらそれを受け取る。

アストリッド「次は基礎だ、ロロナお手製のパイが食べたいから作って欲しい」

 そして、アストリッドはニヤリと笑って言った。

アストリッド「もちろん、錬金術で!」

ロロナ「えっ!? 錬金術でパイを作るんですか!? というより、作れるんですか!?」

アストリッド「もちろん! ただし、方法は自分で調べる」

ロロナ「え、えぇえええええ!?」

 アトリエに再び、ロロナの声が響き渡る。
 アルトリウスはそんな二人を微笑ましく見ているのであった。

今日はここまでです。
結局、第一話の最後まで更新してしまいましたが、
第二話以降、戦闘などが入ると思うので冒頭ぐらいの亀更新をのろのろとする感じになります。
クロスオーバーなので設定二つを錬金して、シナリオもほとんどオリジナルになると思います。

【話別リンク】

_____ヽ○ノ___ヽ○ノ

   =≡ /    =≡ /  ̄ヽ
      ノ)      ノ)    〉   ミ
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 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2>>9

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』

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 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』
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ロロナ「えっと、次はこれをぱらぱら~っと入れて……」 

 深淵歩きの騎士アルトリウスがアーランドにやってきてから三日が過ぎた。
 あれから、ロロナはアルトリウスが帰る方法を探す為にずっと錬金術の勉強をしていた。
 今はアトリエにある大きな錬金釜の前に立ち、右手の本を見ながら左手で植物を粉末状にしたものをゆっくりと入れていく。
 そして、長い杖を持ち錬金釜の中を混ぜていく……。

ロロナ「ぐるぐるぐる~」

 錬金釜の中から煙のように光が立ち上り始める。
 発生した光が一つに纏まっていき錬金釜の中へと戻っていった。
 ロロナは錬金釜の中からレモン色の液体が入った瓶を取り出す。

ロロナ「中和剤できたー!」


 出来上がった中和剤を近くにある机に置く。
 樽に汲んでおいた水を錬金釜に入れると再び、錬金術を始める。
 水を入れ、素材を入れ、物を作る、再び水を入れて錬金術を始める。
 ロロナが錬金術を始めてから何度も見る光景であった。
 アルトリウスはそんな光景を見慣れているのか、アトリエにあるソファに座り本を読んでいた。
 最初の頃は興味深く見ていたが何度も見るうちに慣れてしまったのか、今では本を読み未来の世界に関する知識を学んでいた。
 ほのかに青白い光を放つ鎧兜の騎士がソファに座り読書をしている姿はシュールな光景である。

ロロナ「う~んと、次はマジックグラスを……ってあれ? ない? えっ、マジックグラスは?」

 ふと、いつもとは違う様子に気がつく。
 アルトリウスは読んでいた本を閉じソファの上に置くとロロナに近づき話しかける。

アルトリウス「どうした、ロロナ?」


ロロナ「あ、アーくん! あ、あのね、錬金術してたら途中で材料がないのに気づいて」

 アルトリウスは兜の顎の位置に左手を置くと遠くを見るような目をする。
 出会った初日に「鎧は脱がないんですか?」と質問したら帰ってきた返答は「脱げない。どうやら、鎧が身体になっているようだ」と平然と言われた。
 「食事が出来て、風呂も入れる。困る事がないのなら、これはむしろ便利なぐらいだ」とアルトリウスの何処かズレた考え方である。
 ロロナはそんなアルトリウスの考えに「昔の騎士は変ってるんですね」と納得したのだった。
 そして、ロロナを見てアルトリウスは言った。

アルトリウス「ふむ、アトリエの材料が切れたのだろう……私が来てから寝ても覚めても錬金術三昧だったからな、今まで足りてたのが不思議なぐらいだ……」

ロロナ「そ、そんな!? ど、どうしよう!? こ、このままじゃ……」

 ロロナが慌てはじめる。
 そんなロロナの様子を疑問に思っているとアルトリウスは錬金釜から先ほどと同じような光が出ている事に気がつく。
 錬金釜に近づき中を覗き込む。


アルトリウス「心配はいらないだろう。先ほどと同じように光っているみたいだが……」

 それを聞いたロロナが「あっ!」と何かを思い出したような声をあげる。
 そして、アルトリウスに言った。

ロロナ「アーくん、危ない!」

アルトリウス「ん? 危ない? 一体何が危ないと――」

 ――突然、錬金釜が爆発し液体が辺りに飛び散る。
 当然、中を覗いていたアルトリウスはずぶ濡れになった。

アルトリウス「錬金術とは興味深いものだな……」

 ずぶ濡れになったアルトリウスは再び遠くを見るような目をする。




アルトリウス「まぁ、材料が足りないのなら君の師匠に頼むのはどうだ? 手助けはしてくれるのだろ?」

 濡れた鎧をタオルで拭きながらアルトリウスは言った。
 ロロナは未だに申し訳なさそうに肩を落としながら謝っているのでアルトリウスは「気にするな、興味深い体験だった」とだけ言った。
 三日目となると互いに壁が無くなったようでロロナもアルトリウスに対して畏まった対応はしなくなった。
 アルトリウス自身が守る側に気を使われるのが嫌でそのような対応を頼んだのもあるが……。

ロロナ「うん……ちょっと、師匠に頼んでくる!」

 そう言うとロロナがアストリッドが居る隣の部屋に向おうとするが、二人の近くから発せられた声により阻止された。

アストリッド「材料なら用意しないぞ? それは自分で用意するものであって、私が行なうことでは無いからな」

 ロロナとアルトリウスが視線を向ける。
 そこにはロロナが用意したお茶とパイを味わっているアストリッドの姿があった。

アストリッド「……うむ、やはりロロナお手製のパイはおいしいな」


ロロナ「し、し、師匠!? いつからそこに!?」

アストリッド「ん? さっきからこっそり居たが……」

ロロナ「はぁ、もういいです……それよりも、わたしが用意するって街の外に採りに行くんですか?」

 優雅にお茶を飲むとアストリッドは言った。

アストリッド「材料を買うお金はないからな。当然、外に行って採ってくることになる」

ロロナ「でも、街の外ってモンスターとか出て危ないっていうし……」

 不安そうに言うロロナに対して、アストリッドはニヤリと笑い言った。

アストリッド「ちゃんと護衛は居る、その為の深淵歩きの騎士だろ?」

 そう言うとアストリッドはアルトリウスの方へ視線を向ける。


アルトリウス「ふむ、確かにこれは美味しいな……ん?」

 ロロナがつられて見てみると用意されていたお茶とパイを食べていたアルトリウスの姿があった。
 ゆっくりと時間が流れるアーランドの空気にアルトリウスは安心しきっていたのだった。
 二人の視線に気がついたアルトリウスが何事も無いかのように左手に持っていたフォークを置き言った。

アルトリウス「……当然だ」

 そんな風に自信満々に言ったアルトリウスをロロナが見つめる。
 視線は大丈夫なのだろうかと少し疑っているような意味に思えた。
 アルトリウスは視線に耐えかね、「ごほん」と咳を一つしてから場の空気を変える為にロロナに質問する。

アルトリウス「と、ところでロロナ! その様子だと、今まで戦ったことは無いと考えていいのだな?」

ロロナ「え? あ、うん……」

アルトリウス「そうか……うん、そういえば、まだ火炎壺が余っていたはずだ」

 そう言うとアルトリウスは腰の辺りを探り始め、何処からともなく皮製の袋を取り出す。
 そして、皮製の袋に手を突っ込むとゴソゴソと中を探し、中から手の平サイズの壺を取り出しテーブルの上に置く。
 アルトリウスは一連の動作を繰り返し続け、いつしかテーブルの上には50個の灰色の壺と10個の黒色の壺が並んでいた。
 その光景を目にしていたロロナは口を開けわなわなとアルトリウスの方を指差している。

ロロナ「ど、ど、何処からこんなに出てきたの!?」


アルトリウス「この袋からだが……何をそんなに驚いているのだ?」

ロロナ「驚くよ! こんな小さな袋にこんだけ物が入ってるなんておかしいよ!?」

アルトリウス「そうなのか……私が居た時代では普通だったのだが……」

 すると、先ほどまで黙っていたアストリッドが皮製の袋を興味深そうに見ながら言った。

アストリッド「実に興味深いな……この袋、一晩貸してもらえないか?」

アルトリウス「あぁ、ちゃんと返して貰えるなら構わない」

 アルトリウスが皮の袋を渡すと、アストリッドはすぐさま自室へと行った。
 しかし、すぐに扉が開き言った。

アストリッド「ロロナ、素材集めは明日にするといい! あと、今日は釜を空けておくこと! 今日は私が使用する!」


ロロナ「あ、はい!」

 言うだけ言うとアストリッドは再び自室へと戻った。
 ロロナとアルトリウスは二人して不思議そうに首をかしげる。

アルトリウス「ま、まぁ、この火炎壺を使うといい」

ロロナ「火炎壺?」

アルトリウス「敵に投げつける事で相手を燃やす事が出来る物だ……もう、私は使うことは無いからロロナが使ってくれ」

ロロナ「うん、大事に使うね! アーくん、ありがとう!」

アルトリウス「いや、どんどん使った方がいい……経験からこの手の道具は大事に使ってると余って使いどころが無くなってしまうからな」

ロロナ「そうなんだ……」

アルトリウス「そうだ……」

 結局、その日は火炎壺の取り扱いから使い方の説明、火炎壺はいつ頃から需要が無くなるかの話で終わった。

少し休憩します。

アルトリウスの攻撃はゲーム通りに闇使うのかな

闇に侵されてないっぽいしどうなんだろ?

盾…はシフの結界に使ったままだから無いのか

このアルトリウスの武器は何だ?
アルトリ大剣なのかアルトリ大剣(聖)なのか、はたまた深淵の大剣なのか……


 次の日、篭もりきりだったアストリッドが自室から出てくる。
 そして、ロロナの目の前に一つの小さなポーチを置いてきた。
 ロロナは首をかしげてアストリッドに聞く。

ロロナ「師匠、これ、何ですか?」

アストリッド「これか? これは形は違うがあの袋と同じものだ」

ロロナ「へぇー、じゃあ、あの袋は錬金術で作った物なんですね……」

アストリッド「まぁ、正確には違うんだがな……」

 あと、この袋は返しておくぞとアストリッドはアルトリウスに袋を返す。
 そして、ロロナの方を向いて言った。

アストリッド「さて、護衛も居る! ポーチもある! これで準備は整っただろ? さぁ、素材集めに行って来るといい」


ロロナ「う~ん、そうですね……じゃあ、行ってきます! アーくん、行こう!」

 街の外に出る決心をしたロロナが立ち上がると、アトリエの外へと向う。
 それに続くようにアルトリウスもアトリエの外へと出る。
 アトリエから出ると外はアルトリウスが居た世界とは比べ物にならないほどいい天気だった。
 アルトリウスは手で視界を隠しながら上を向くと全身で日差しを浴びる。
 そんなアルトリウスを見てロロナが言った。

ロロナ「日光って気持ちいいよねぇ」

アルトリウス「そうだな……」

 そう答えるとアルトリウスはロロナの方へ視線を向けて言った。 

アルトリウス「っと、ここで日光を浴びるのもいいが急ごう。日が暮れた前に戻りたい……」

ロロナ「うん!」

 そして、城門を目指してロロナと一緒に歩きはじめる。
 周囲を見渡すと様々な店や民家が立ち並んでいる。
 石作りの広い道を沢山の人が行き来していた。
 人々の表情は皆、明るく、ここが平和な場所である事を物語っていた。
 歩きながらロロナに言った。

アルトリウス「……いい所だな」


ロロナ「うん! 明るくて、元気があって……わたし、この町が大好きなんだ」

アルトリウス「わかる気がするよ……」

 そんな風に話していると目の前に大きな城門が見えてきた。
 そのまま、通過しようとして城門前に居た衛兵にロロナが話しかけられる。

衛兵「おっ? ロロナちゃん、外へ出るのかい?」

ロロナ「あ、はい! 少し錬金術の材料を取りに」

衛兵「ん? こっちのみょうちくりんな鎧着たのは?」

アルトリウス「みょう!?」

 衛兵がアルトリウスに気がついて指差しながら言った。
 衛兵が言った事に傷ついたのか少しアルトリウスが落ち込む。

ロロナ「わたしを守ってくれる騎士さんです」


衛兵「騎士? 騎士にしては格好が古臭いというか……まぁ、いいや。この人、なんとなく強そうだし通っていいよ」

ロロナ「ありがとうございます! 行こう、アーくん?」

アルトリウス「……あ、あぁ」

 アルトリウスを先頭に城門の外へと出て行く。
 城門の外を出れば、いつ戦闘になるかはわからないので護衛の騎士であるアルトリウスが先頭に立つ形となっていた。

???「ちょっと待ったっー!」

 そんな声が聞こえたと思うとロロナの背中に強い衝撃が来る。

ロロナ「ふわへっ!」

 背中から衝撃を受けたロロナが条件反射で前方に両手を突き出す形で前のめりに傾く。
 そのロロナの両手でアルトリウスのヒザ裏に当たる。
 そして、両のヒザ裏に衝撃を受けたアルトリウスはバランスを崩すのであった。

アルトリウス「のわぁっ!?」

 そして、二人して綺麗にコケるのであった。

ロロナ「うぐぐ……い、一体、何が起こったの?」


 復活したロロナが立ち上がり衝撃の来た方向を向く。

???「まったく、バカだとは思ってたけど……ここまであからさまに怪しいヤツに疑わずについて行くなってね……」

ロロナ「くーちゃん、いきなり体当たりはやめてって……」

???「あんたが誘拐されそうになってた所を助けてあげたんじゃない!」

ロロナ「あ、そうなんだ……うん! ありがとう! じゃなくて! くーちゃん、勘違いしてるよ……」

 ロロナの言葉を聞いて、首を傾げる金髪の少女

???「勘違い?」

ロロナ「そうだよ、この人は怪しい人じゃなくて……あ、でも四六時中、鎧着て過ごしてるところとか怪しいけど……」

 金髪の少女は「ほら、見ろ」と言わんばかりに自信に満ちた顔で言った。

???「ほら、やっぱりあってるじゃない!」


ロロナ「いや、そうじゃなくて! 怪しいけど、怪しくないというか……」

???「はっきりしないわね……」

ロロナ「と、とにかく! この鎧の人はわたしのことを守ってくれる騎士なの!」

 ロロナの言葉を聞いた金髪の少女が倒れたアルトリウスを見る。
 そして、アルトリウスを指差して言った。

???「これがぁ?」

ロロナ「うん、その人が」

アルトリウス「まさか、あんなにも絶妙な角度でバランスを崩されるとは……」

 そんなやり取りをしているとアルトリウスが起き上がる。
 そして、金髪の少女に気がつき、ロロナに尋ねる。

アルトリウス「ん? この子は? ロロナの知り合いかい?」


ロロナ「うん、幼馴染の――」

クーデリア「――クーデリア・フォン・フォイエルバッハよ! で、あんたは誰よ!」

アルトリウス「私の名前はアルトリウス、グウィン王に仕える騎士だ……今は彼女の師であるアストリッドに頼まれロロナの騎士をしている」

クーデリア「あぁ、あの女の知り合いって訳ね……道理でヘンテコな訳だ……」

アルトリウス「へん!?」

ロロナ「それでね、そこまで錬金術の材料を採りに行こうとしてたの」

クーデリア「錬金術?」

ロロナ「うん、話せば長くなるんだけど……錬金術の失敗で帰れなくなったアーくんの為に錬金術を学んでるの」

クーデリア「アーくん?」


ロロナ「えっと、アーくんって言うのは――」

アルトリウス「――私のことだ」

 アルトリウスは何処か遠い目をしてそう言った。

クーデリア「アルトリウス……アーくん……あー、そういうことね……まぁ、その、ご愁傷様?」

アルトリウス「……まぁ、慣れたよ」

クーデリア「そう……」

 クーデリアは何処か同情するようにそう呟く。
 そして、ロロナの方を向いて聞いた。

クーデリア「で、それで街の外に?」


ロロナ「うん!」

 クーデリアがロロナとアルトリウスを交互に見る。

クーデリア「……はぁ、しょうがないわね。あたしも一緒に行ってあげる」

ロロナ「あ、危ないよ?」

クーデリア「あんたみたいな、とろくさくて弱っちいのと頼りなさそうな騎士だけじゃあ、あっという間に全滅がオチよ」

アルトリウス「頼りない騎士……」

クーデリア「だから、あたしも一緒に行ってあげるわ……感謝しなさいよね」

 そう言うとクーデリアはそっぽ向く。
 そんなクーデリアに言い難そうにロロナは言う。


ロロナ「でも……くーちゃん、あんまり、頼りなさそう……」

 その言葉にクーデリアが怒る。

クーデリア「あんた達より100倍マシよ!! ほら! さっさと行かないと日が暮れるわよ!」

 そう言うとクーデリアはずんずんと先に進んでいく。
 そして、しばらくしてから振り返り大きな声で言った。

クーデリア「ほら! さっさと来なさいよ!」

 そんなクーデリアの後をロロナとアルトリウスがついて行くのであった。

今日はここまでです。
平日は冒頭ぐらいを不定期に更新する形になると思います。
現状はアトリエメインなのでアトリエらしい空気になってるといいのですが……。
あと、コメント数が多くて嬉しいので何かリクエストに答えて書いたり……。

>>45
深淵歩いてるので深淵の大剣になってます。

>>44>>43
闇については描写的にはギリギリ侵食してたぐらいです。



 青々とした草木が生い茂る森――それを分断するように走る土がむき出しになった道
 そんな森の中でアルトリウスとクーデリアは忙しく動き回るロロナの様子を観察していた。
 森に来た時、腰のベルトについている小さなポーチにどんどん物を入れるロロナの姿にクーデリアが驚いて騒いだりもしたが、
 「錬金術で師匠が作った」というロロナの説明により納得したらしく、今では、たまに不思議そうにポーチを見ているぐらいである。
 そんな、クーデリアが素材集めに忙しいロロナに話しかける。

クーデリア「……で、いつまでココに居るつもりよ?」

 ロロナは手を動かしながらがクーデリアの問いに答えた。

ロロナ「いろいろな材料をいっぱい欲しいから……もう少し時間がかかるかも」

クーデリア「はぁ……何を探せばいいのよ? あたしも手伝うから日が暮れる前にさっさと終わらせるわよ」

ロロナ「えっと、じゃあ、このアイヒェロアがもう少し欲しいからお願いしてもいい?」

 ロロナは腰に巻かれたベルトで固定された小さなポーチから茶色い小さなキノコを取り出して見せる。
 クーデリアはキノコを観察した後、「わかったわ」とだけ言って探し始めた。
 そんな二人を見ていたアルトリウスが言った。

アルトリウス「夢中になるのはいいが、出来れば目の届く範囲で探して欲しい……」


クーデリア「わかってるわよ。こんなモンスターが出るような森の中、頼まれたって一人で行動しないわ」

アルトリウス「……それなら構わない」

 そう言うと再び周囲を警戒する。
 モンスターというのがどれほどの相手なのかは知らないが、警戒するに越したことは無い。
 ふと、周囲を警戒していたアルトリウスが何かに気がついて木々が生い茂る奥へと入っていく。
 それに気がついたクーデリアが言った。

クーデリア「ちょ、ちょっと!? 何処に行くのよ!?」

ロロナ「えっ?」

クーデリア「ロロナ! あいつの後を追うわよ!」

ロロナ「う、うん」


 二人がアルトリウスを追って森の奥へと入る。
 アルトリウスは草木の陰に隠れていただけで、すぐ近くの崖付近で積み上げられたレンガの壁を見ている。
 クーデリアがアルトリウスに近づき話しかける。

クーデリア「……あんた、護衛の騎士なんだから単独行動しないでよ!」

 二人に気付いたアルトリウスが視線を向け言った。

アルトリウス「すまない、この壁が気になってつい……」

ロロナ「……壁?」

アルトリウス「あぁ、この壁なのだが……」

 そう言うと黄土色のレンガで出来た横に長い壁を手で探る。
 そして、壁の中央付近で止まると「ここだな……」と呟いた。


アルトリウス「危ないから、少し離れていてもらえるか?」

クーデリア「……はぁ?」

ロロナ「う、うん」

 ロロナとクーデリアが不思議そうな顔をして離れる。
 それを確認したアルトリウスが何処からか大剣を取り出し壁に向けて振る。
 そして、大剣の刃が壁に接触すると突然、壁が消えてなくなった。
 ロロナとクーデリアが壁が突然消えたことに驚く。

クーデリア「か、壁が……」

ロロナ「き、消えた……」

 アルトリウスは消えた中央部分から壁の向こうへと歩いていく。


アルトリウス「この壁は一部、隠し扉みたいになっていて衝撃を与える事で消えるようになっている」

 そして、すぐに立ち止まり地面の方を指差した。
 そこには刺さった剣を伝うように真上へ燃える一つの火があった。
 不思議なことに火の周囲は少しも燃えていない。

アルトリウス「篝火……説明すれば、おとぎ話なら不死人達の休息の場、今は……料理の火や灯代わりには出来るだろう」

 しばらく火を観察すると呟く。

アルトリウス「こんなにも大きく燃えてるとはな……」

 そして、ロロナ達の方を振り返り言った。

アルトリウス「……まぁ、これが気になっただけだから、素材集めを再開しよう。日が暮れる前に終わらせるのだろ?」

クーデリア「って、あんたのせいで中断してたんでしょうが!」

アルトリウス「そ、そうだったな……」

 クーデリアが怒りながら来た道を戻る。
 アルトリウスとロロナはその後を追うように戻っていく。



 素材集めを再開してからクーデリアがアルトリウスに文句を言う。

クーデリア「まったく、あんたのせいで日が暮れそうじゃない!」

アルトリウス「すまない……」

クーデリア「まったく……」

ロロナ「あれ? なんだろう、これ……」

 ふと、ロロナが何かに気がつく。
 アルトリウスとクーデリアがロロナに近づいて見てみると――
 そこには明るい時には気がつかなかったが、草に隠れるように淡く黄金色に発光する文字が地面に書かれていた。
 ロロナがその発光する文字に触れる。
 すると、文字の光がどんどんと大きくなる。
 やがて、その光が人の形を作っていく……。

ロロナ「わ、わわわ!?」

 そして、光が収まるとそこには両足を揃えて両手を斜め上に大きく伸ばし綺麗に立つ一人の騎士の姿があった。
 その騎士の身体は黄金色に淡く輝いている……そして、黄金色に輝きながらYの字を全身で作り出していた。
 そして、ロロナ達のすぐ後ろにある沈み行く綺麗な夕焼けに気がつき言った。

???「おぉ、美しい……やはり、太陽は偉大だ、すばらしい……」

謎の戦士登場で今日はここまで……。
あとから考えると騎士と書くより戦士の方がよかったと後悔する。

                   _     r--、   _
              r-、   〈 o ヤ    | o ト-ァ / ./
              .マム    V ヤ__.|  | / / ./
               マム   えoヤ   | o.ト! ./ ./
               .寸ハ/ .V ヤ   |  |__寸〈
                 マF==廴}==三>-个t/
                  {_i_i_f''´   O ;' /
                 〈_i_i_i,/ O o  .;' .f
                 ノ,i_i_/  o  oi o|           <女神の騎士と聞いて

       _  __   _ノ´i i i./ O  o  o.i o{
    r-、 |  | | o .|   .>----く  o    i .。|  r-┐    rァ
    (Vハ .V.∧ |   |   |=ミ、i i i\  o  o.', 〉  |  |    /リ
     Vハ .Vハ.| .o |-t ./ i i iヾx、i i i>--、__レ'{  |  |   ./ /
     (Vハ .V .| |  レ''´\i_i_i_i_>t-t-=t===彡ヘ-辷,人  / /
      } } .| レ|  |``ーリ | `、 \i i i i i i i∧   ̄`寸{

      | | .レ'。.| o |__ / /   、  Vx、i_i_i__i_ツi.ハ     `ヤ
      | |.7ー-|  .|_i_i_i| .|    `、 VT'T'T'T'T'i i i|      i
      .(| .| {-o-'| o | i i i|  ト、   __,} i ,i ,i i i i レ'、     /
      .| リ-o-'|  レァリ  | `ー'''´  .V====ミレ'´  \  〈
       | |_o_| o.|__|  |   __  V i i/ ヽ、   .i _,_〉
       `7'   `ー’  |::::::::\_,,イ   `ー'Vく    `、  ノ'´ .|
       /___,,..... /:::::::::::/\__,,,,_|、`ヽ、   ヤ7   .|
      .〈"      `リ:ー-y'  (、     У\_`ーy'、/`ー--〉
     f⌒`ーt__,, /   《    ',   ,ィ'´   .弋〈 /    |
     |    /、_ /、   ヘ _,,.ィハ ./        ト,./ー--=='レーt

謎の騎士登場したら一気にコメント数が増えたww
今、執筆してるので間に合ったら12時までに更新するかも?
まぁ、無理なら明日更新と言うことで……。


 気がつけば僅かに光がもれるぐらいまで日が沈んでいた。

ロロナ達「……」

 ロロナが金色の文字に触れ、現れた黄金色の光を放つ騎士
 彼は自身の目の前にあった夕日が隠れるまで真剣に見続けていた。
 ロロナ達がいくら話しかけても全く気がつかないほど真剣に……。
 事故とはいえ呼び出してしまった責任があるので、彼が気がつくまで黙って待っていたのだった。

???「――やはり、今日の太陽も良かった…………ん?」

 黄金色の光を放つ騎士がロロナ達に気がつく。

???「……おぉ、貴公ら! いつからそこに居たのだ?」

クーデリア「さっきからずっと居たわよ!!」


???「おぉ、そうだったか! ……ん? おぉ! そこに居るのは深淵歩きの英雄アルトリウスじゃないか! まさか、書物通りの出で立ちとは……」

 それを聞いたロロナがアルトリウスに尋ねた。

ロロナ「アーくん、知り合いなの?」

アルトリウス「……いや、覚えがない」

 ロロナの問いに首を左右に振って否定する。

???「彼は数百年前の英雄だからな……俺も書物と話で知っただけだ」

クーデリア「ふーん、あんたってそれなりには有名なのね……」

 アルトリウスを見ながらクーデリア言った。


ロロナ「師匠が言ってたけど、アーくんってお城にあるおとぎ話に出てくる騎士なんだって」

クーデリア「おとぎ話の住人ね……ジークマイヤーが居る世界とかあるのかしら」

 そう、クーデリアが聞こえないぐらいの声で呟いた。
 黄金色の光を放つ騎士が口を開く。

???「……ところで俺は何故、呼ばれたのだ? 見たところ、俺の世界とは違う場所に呼ばれたみたいだが……」

ロロナ「あっ、その、すみません! 光る文字を触ったら変なことになって……」

???「光る文字?」

 黄金色の光を放つ騎士が考える。
 そして、何かを思い出して言った。

???「……召喚のサインに触れたのか。なるほど、召喚のサインは異世界にも出現するのだな!」


ロロナ「召喚のサイン?」

???「光る文字に触れる事で霊として召喚するモノだ」

 顎に手をやり何かを考えるとアルトリウスは言った。

アルトリウス「世界を越えて召喚する文字……私も街のサインでこの世界に来てしまったのかもしれない……」

???「貴公の場合はまた違う方法だろうな……召喚のサインはサインのある限られた範囲しか行くことは出来ない。森のサインでないなら、まだ別の方法だな」

ロロナ「じゃあ、アーくんの場合は違うんだね。アーくん、アトリエから近くの森まで歩いて来てるし……」

アルトリウス「そうなるな……元の世界に帰れる手掛かりと思ったが違うようだ」

???「まぁ、今回は間違って呼び出されたようだから帰らせてもらうよ。ただ、これも何かの縁だ……何か困ってる時にサインを見かけたら遠慮なく呼んでくれ」

ロロナ「あ、はい、困ってる時にまた呼びますね……えっと」


ソラール「おぉ、紹介が遅れた。俺はアストラのソラール。見ての通り、太陽の神の信徒だ。俺自身の太陽を探して旅をしている!」

ロロナ「太陽探し?」

クーデリア「また、変なヤツね……」

 ソラールは空を見上げると言った。

ソラール「さて、太陽も隠れ、用事も無いようだから俺はこれで帰らせてもらう。では、また逢おう!」

 そう言うとソラールの姿が霧となり消えていく。
 そして、何事も無かったようにソラールが立っていた位置には金色に輝く召喚サインだけが残った。

ロロナ「……変わった人だったね」

アルトリウス「……そうだな」

クーデリア「……まぁ、ここにも妙なのがいるけどね」

アルトリウス「……」

 クーデリアの言葉に地味に傷つくアルトリウスだった。



クーデリア「……そうだった! ロロナに用があって探してたのよ!」

 アトリエ前で解散しようとした時、クーデリアは何かを思い出したように言った。
 そして、コートのポケットから一冊の本を取り出しロロナに渡す。

ロロナ「あっ、ジークマイヤーシリーズの最新刊だ!」

クーデリア「……読み終わったから、ロロナに貸してあげる」

ロロナ「くーちゃん、ありがとう! ……よかった、続編出たんだ」

クーデリア「『ジークマイヤーと灰の湖』で完結って言われた時は落ち込んだけど、『ジークマイヤーと最下層の犬ネズミ』が出てよかったわ……」

アルトリウス「そんなに面白いのか? そのジークマイヤーシリーズとは……」


クーデリア「当たり前よ! アーランドで誰もが読んでる大人気小説なんだから!」

 本を大事そうに持ちながらロロナが言った。

ロロナ「面白いよねぇ、『ジークマイヤーとセンの古城』でジークマイヤーが相棒の上級騎士と協力して罠を突破したり!」

クーデリア「上級騎士がジークマイヤーを転がして鉄球を回避する所ね! ……あれで初めてジークマイヤーと上級騎士が協力したのよね!」

ロロナ「いいよね!」

クーデリア「いいわよ!」

アルトリウス「ジークマイヤーシリーズか……今度、読んでみるか」


ロロナ「あ、そろそろ帰らないと!」

クーデリア「そうね……あたしも今日はもう帰るわ」

 ロロナに手を振るとクーデリアは自分の家へと帰って行く。

アルトリウス「そろそろ、アトリエに入るか」

ロロナ「うん!」

 ロロナがアトリエへと入っていく。

アルトリウス「ジークマイヤーシリーズ、どんな物語なのだろうか……すごく気になるな……」

 残されたアルトリウスは一人呟くのであった。

第二話はこれで終わりです。
戦闘入れる予定がソラール登場で入れるタイミングを失った……。
しかし、ゆるい展開だから筆が早いのはいいが、
ダクソとクロスしててこれでいいのかと悩む……。
まぁ、エタるよりいいので、この感じでいきますww

俺のクラーナ師匠はどうなるんですかねぇ?(迫真)

今日は少しだけ更新するかも……。

>>105
すまないがこれ以上はノーコメントでww
このままでは>>1がネタバレしそうなので……。

【話別リンク】
      \\     5人あわせて!!4人の公王!!     //

        \\                            //
  ⊂_ヽ、  .                              /⌒ヽ
    \\ ∧_∧                        / /ヽ_⌒つ
      \ ( ´Д`)/⌒つ     ∩              /∧_Λ  .  /⌒つ 
     . >  ⌒.ヽ.l l      .ノ .) ⊂⌒ヽ        /(´Д` )  /__ノ   
      /     へ ∧_∧  /./ (⌒つ\  ∧_∧ /     ヽ / ./
     /   /  ( ´Д`)/./   \\\ (´Д` )|     へ./ /
     /  ノ   /⌒    ./∧_∧ / ./  \/⌒ヽl |    .レ /.) 
    / ./    / /   / .( ´Д` )/∩   /   \|    /./ 
    / /|   ∩/ /   ./  (⌒ヽ  / )  /   ./\.\  //丿  
   .( ヽ ヽ  .ヽ_ ノ   /   \ \_//  /   .| /\.\. ∪ 
   .|  |、 \   ( .ヽ \    \___/ ) .(   ノ )( .(し つ
 .  | ノ \ ヽ  .\ ヽ. ヽ    ノ   / / /\.\\ \ 
   .| |   ) ./   /  ノl  )  (    .人 (  (   \.\\ .\

 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』>>31

 第三話『怖そうな人と王国依頼で新しい店主』>>

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 第三話『怖そうな人と王国依頼で新しい店主』
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 クーデリアはアトリエへ目指して歩いていた。
 『あのヘンテコ騎士はアトリエに住んでいるらしい……』
 そんな話を聞いて、あのヘンテコ騎士がロロナにおかしなことをしていないか心配になったのだった。
 あんなヘンテコな格好をしている……普通であるはずがないのだ。

クーデリア「……着いたわね」

 アトリエの前に到着する。
 扉に近づき開けようとしたその時――アトリエ内から大きな音が聞こえた。
 それを聞いたクーデリアがロロナの身を心配してアトリエの扉を勢いよく開ける。


クーデリア「――ロロナ!!」

 バンっと勢いよく開かれた扉の向こうには、煤で真っ黒になったアルトリウスと所々黒く汚れた親友の姿だった。
 クーデリアに気がついたロロナが言った。

ロロナ「あ、くーちゃん、おはよ~」

クーデリア「お……」

ロロナ「お?」

 ロロナが首を傾げる。

クーデリア「おはようじゃない!! さっきの音は何よ!?」


アルトリウス「……ロロナの錬金術が失敗した爆発音だな」

 真っ黒な騎士アルトリウスがそう言った。

クーデリア「そうなの? って、あんたはさらにすごい状態ね……」

 遠くから見たら元から真っ黒い鎧兜の黒騎士に見えるぐらい煤まみれのアルトリウスを見て言った。
 兜の隙間から定期的に煤が噴出している姿はすごくシュールである。

アルトリウス「ロロナが錬金術を始めて、今のが15回目の失敗……その度に巻き込まれていたらさすがに慣れるというものだ」

クーデリア「そんなに失敗してるのね……」


ロロナ「……ずーん」

 二人の会話を聞いていたロロナが部屋の隅で膝を抱えて落ち込む。
 そんな姿を見た、二人が何とか励まそうとする。

クーデリア「だ、大丈夫よ! 始めたばかりなんだから、失敗して当たり前よ!」

アルトリウス「そ、そうだ! 自ら調べて学んでそれなら大した物だ!」

クーデリア「自ら調べて学んで? あの女が教えてるんじゃないの?」

アルトリウス「ふむ、弟子には自ら調べ学んで欲しいとアストリッドの方針でな……」

クーデリア「……それ、ただ困ってるロロナを面白がって観察したいだけでしょ」

ロロナ「やっぱり、くーちゃんもそう思うよね……」

 立ち直ったロロナがそう言った。


アルトリウス「ふむ、私はそうは思わないのだが……」

クーデリア「あんたはよく知らないけど、あの女は――」

 言葉を遮るようにアトリエの扉が叩かれる。
 しばらくしてから扉が開く。
 そして、一人の長身の男が入ってきた。

???「――失礼する……その、君は大丈夫か?」

 入ってきて、男はそう聞いた。 
 どうやら、煤まみれのロロナを見て心配して聞いたようである。

ロロナ「その、くーちゃん……」

クーデリア「……わかったからさっさと着替えてきなさい」


ロロナ「あはは……お願い」

 ロロナがお客の対応をクーデリアに任せて奥の部屋に入って行った。
 黒い煤まみれの騎士アルトリウスが言った。

アルトリウス「今、店主は留守にしている……急ぎの仕事でないのなら、日を改めてからにした方がいい」

???「いや、今日は城からの使いで来た……店の者か?」

クーデリア「……関係者よ」

???「そうか。ならば、伝言を頼みたい」

 男は少し間を空けて言った。

???「――大臣と王の命令で近く、このアトリエの営業許可を取り下げることとなった」

ロロナ「え?」


 ちょうど、部屋に入ってきたロロナが男の言葉を聞いた。
 そして、しばらく間が空き―ー

ロロナ「――えぇえええ!?」

 アトリエ内にロロナの驚きの声が響き渡った。

ロロナ「え、営業許可の取り消し? え? え?」

???「詳しくは直接、本人に話す。戻って来たら城に顔を出すように伝えておいてくれ」

 「頼んだぞ」とそう言うと男はアトリエの外へと出て行った。
 そして、事態を理解したロロナが慌て始める。

ロロナ「ど、ど、どうしよう! あ、アトリエがなくなっちゃう!」


クーデリア「いいじゃない、潰れたって誰も困らないわよ」

アルトリウス「ふむ、これからは久しぶりに野宿になるわけか……」

ロロナ「二人とも冷たいよ! それにアトリエ無くなったらアーくんの帰る手段が探せなくなるのに!」

アルトリウス「……冗談だ」

ロロナ「こんな時に!?」

アルトリウス「こんな時だからこそだ……」

 ロロナの肩に手を置いて言った。
 アルトリウスは言葉を続ける。


アルトリウス「とにかく、今はアストリッドが帰ってくるのを待つしかない。事態を把握する前では対策も練りようが無いからな」

 アルトリウスの言葉を聞いたロロナが落ち着きを取り戻す。

クーデリア「……あんた、今、煤まみれよね?」

 言われてアルトリウスは自分が煤まみれになっていたことを思い出す。
 ロロナの肩部分には黒い煤の後がついていた……。

アルトリウス「……すまない」

 そう言うとアルトリウスは外にある井戸へと向うのであった。
 煤を落とす為に……。

今日はここまで……原作通りでほんとにすまない……。
これ以外のスケさん登場方法が思いつかなかったorz

さらに二刀流で犬つきなんじゃなかった?

足が四本あって角も生えてるらしいよ

実は4人ぐらいいるらしいよ

三段階変身するらしいよ

>>123>>122>>121>>120
再現はまかせろー バリバリ



ロロナ「――やっぱり、わたしが行くことに……」

 帰ってきたアストリッドに内容を伝えると「忙しいから代わりに行って来てくれ」と言われる。
 そして、有無を言わさずロロナに押し付けると再び外出してしまった。
 仕方なしにロロナ達はアストリッドの代わりにお城に向うことになるのであった。

アルトリウス「忙しいのだから仕方が無い……これも弟子の務めだと思うぞ?」

クーデリア「あいつの場合はめんどくさかっただけでしょ?」

ロロナ「だよね……」

 そんなやり取りをしていると城に着く。

ロロナ「わぁ、大きい……」


クーデリア「……受付はあっちみたいね」

 クーデリアとアルトリウスが受付の方へと向う。

ロロナ「あっ、待って!」

 その後を追うようにロロナが受付へと向う。
 受付の女性が話しかけてきた。

???「いらっしゃい、今日はどういった用事かしら?」

ロロナ「えっと、わたし、アトリエの者で……さっきお城に来るように言われて……」

???「アトリエ? あぁ、大体わかったわ。そこの人達もかな?」

クーデリア「えぇ、そうよ」


???「ついて来て、案内してあげるから」

ロロナ「ありがとうございます」

 ロロナ達が女性の後をついて行く。
 しばらく城の中を歩いていると、先ほど伝言を伝えに来た男が居た。

???「ステルクくーん、あなたにお客さんよ」

ステルク「ん?」

 ステルクと呼ばれた男がこちらを振り向く。
 視線があったロロナがアルトリウスの背中に隠れる。

アルトリウス「……何故、私の後ろに隠れる?」


ロロナ「……えっと、その」

クーデリア「あの騎士の顔が怖いからでしょ?」

ロロナ「ちょっと、くーちゃん、聞こえちゃうよ……」

ステルク「……しっかりと聞こえている」

 ステルクは溜息混じりにそう答えた。

アルトリウス「申し訳ない、ロロナ達も悪気があったわけでは……」

ロロナ「その、ごめんなさい……」

 ここまで案内してくれた女性がロロナの目線に合わせて言った。

???「えっと、ロロナちゃんだったかな? まぁ、ステルクくんも特に気にしてないからね?」

ステルク「エスティ先輩、何故、貴女が代わりに言うのですか……」


エスティ「まぁまぁ、ステルクくんも細かいこと気にしないで……それよりも、ステルクくん? そういう顔が怖がらせてるのよ? 女の子には優しく笑顔でね?」

 「それじゃあ、ごゆっくり」とだけ言うとエスティと呼ばれた女性は去ってしまう。

ステルク「はぁ、あの人は全く……ところでどうして君達が? アストリッドに伝言を伝えるように頼んでいたのだが……」

ロロナ「伝えたんですけど、代わりに行けって言われて……」

ステルク「相変わらずだな、あいつは……そういえば、まだ、名乗っていなかったな。私の名はステルケンブルク、この城で騎士をして勤めている」

 ステルクの名前を聞いたロロナが何かを考える。 

ロロナ「ステルケン? ステル……スケさん!」

 愛称を聞いたアルトリウスとクーデリアが同情するような視線をステルクに向ける。

ロロナ「スケさんって呼んでもいいですか?」


ステルク「……ステルクと呼んでくれ、頼む」

ロロナ「えー、ダメですか? スケさん、かわいいと思ったのに……」

 ふと、そのやり取りを見ていたアルトリウスが気がつく。
 ステルクのように自分で言えばいいことに……。
 アルトリウスが考え始めた。

アルトリウス「アルトリウス……アルス……アルトリ……アルト……」

クーデリア「何、ぼそぼそ言ってるのよ……何考えても決まってるんだから無駄よ?」

アルトリウス「そうか……」

ステルク「……そろそろ、本題について話しておきたい」

ロロナ「あぁ! そうでした! どうして、アトリエが潰されなきゃいけないんですか?」


ステルク「いや、そのことだが、まだ営業許可の取り下げが正式に決まった訳ではないんだ――」

 ステルクが詳しい内容を話し始める。
 内容は『これから3年間、アトリエに対して国からの依頼という形で課題を出し、それに達成できるかどうかで最終的な判断を下す』というものだった。

ステルク「――と、こんなところだな。最初の依頼内容については決まり次第、連絡しよう」

ロロナ「あ、はい、ちゃんと伝えます。えっと、忘れないように急いで帰らないと……それじゃあ、失礼します!」

ステルク「あぁ、よろしく頼む」

クーデリア「あ! ちょっと、待ちなさいよ、ロロナ!」

 ロロナが急いでアトリエ目指して城を後にする。
 それを見た二人がロロナの後を追いかけ、城を後にした。



クーデリア「ちょっと、ロロナー!」

 走るロロナを二人で追いかける。

ロロナ「はうわ!?」

 ロロナがアトリエ近くの段差でつまずき転倒する。
 追いついたクーデリアが言った。

クーデリア「……いつものことだけど、大丈夫?」

ロロナ「な、なんとか……あれ? アトリエの看板が新しくなってる」

 起き上がり、ロロナがアトリエの看板が替わっていることに気がつく。


クーデリア「……これ、ロロナの名前が書いてあるわよ?」

ロロナ「あ、ほんとだ! 師匠、アトリエの名前、変ったんだ……ん? ロロナのアトリエ? って、えぇええええ!?」

 状況を理解したロロナが急いでアトリエの中へと入ったので、二人もアトリエに入る。
 アトリエの中ではアルトリウスの持っていた袋を元に作った小さなポーチに沢山の荷物を詰めているアストリッドの姿があった。

ロロナ「し、し、師匠! アトリエの名前がわたしの名前なんですけど!」

アストリッド「ん? あぁ、帰ったのか……そのことだが、今日からこのアトリエはお前のものだ」

ロロナ「そうなんですか……じゃなくて! ど、ど、どいうことですか!」

アストリッド「いや、なに、すこしばかり旅に出る用事ができてな……で、一番弟子であるお前にこのアトリエの店主を任せようと思う」

ロロナ「えっ、旅って……えぇえええ!?」


アストリッド「重要な旅だ……結構、長くアトリエを空けることになるだろうな」

ロロナ「そんな……長くってどれくらいなんですか?」

アストリッド「数年……いや、数ヶ月……まぁ、数日……いや、三日ぐらい? まぁ、とにかく、長く空けることになるからな……その間、お前に留守を任せようと思う」

 「頼んだぞ、一番弟子よ」とロロナの肩に手を置き、アストリッドはアトリエを出て行った。
 アトリエを守るという使命を任されたロロナは言った。

ロロナ「師匠……任されました! わたし、がんばります!」

クーデリア「がんばります、じゃない! なに上手いことのせられてんのよ! 店主と留守番の話が繋がってないでしょ!」

ロロナ「え? あ、そうだった! 師匠ー!」

 ロロナが開きっぱなしの扉から外へ視線を向けるが、そこにはすでにアストリッドの姿はなかった。
 事態を把握したロロナが慌て始める。

ロロナ「ど、ど、どうしよう!? そんな、わたし、アトリエの店主なんて無理だよ!」


 ふと、アトリエ内を見渡していたアルトリウスが自分の読んでいた本に1枚のメモが入っていることに気がつく。
 取り出し見てみるとメモにはこう書かれていた。
 『方法を探す為に少し旅に出る。その間、ロロナのことを任せる。頼むぞ、深淵歩きの騎士アルトリウス』

アルトリウス「……ロロナ」

ロロナ「あ、はい!」

アルトリウス「……先行きが見えないのを恐れる気持ちはわかる。それが暗く光すら通さないのなら転ぶことも落ちることも想像して恐れてしまうのが普通だ」

 アルトリウスが思い出すかのようにそう言った。

アルトリウス「だが、前に進まなければ理想の景色が見えることは絶対にない。だから、少しずつでも構わない、今は少し前に踏み出してみないか?」

 意思を確かめるようにロロナを見て言った。

アルトリウス「ロロナはこのアトリエが潰れてほしくないのだろ?」


ロロナ「……うん」

アルトリウス「ふむ、ならば前に踏み出すとしよう。それに……」

 そして、クーデリアに少しだけ視線を向ける。
 クーデリアが何を言いたかったのか察する。

クーデリア「……はぁ、しょうがないから手伝ってあげるわよ」

アルトリウス「私達も手伝うのだから、転ぶことも落ちることもありえない。なぁ、新しいアトリエの店主?」

 アルトリウスがロロナを見てそう言った。
 それを見た、ロロナが決意して言った。

ロロナ「うん、そうだよね! よーし、がんばろー!」



 その日のサンライズ食堂も昼食を食べに来た客で賑わっていた。
 そんな、食堂にロロナとクーデリアの幼馴染であるイクセル・ヤーンの驚きの声が響き渡る。

イクセル「な、なにぃ!? お前がアトリエの店主!?」

ロロナ「うん、そうみたい」

イクセル「そうみたいって……で、こっちの鎧は?」

 イクセルがロロナの隣に座っているアルトリウスを見て言った。
 アルトリウスは兜の隙間から器用に料理を食べていた。

ロロナ「えっと、わたしを護ってくれる騎士なんだ」

イクセル「店主になっただけじゃなくて護衛の騎士まで居るのか。くそっ、俺ですらまだ見習い扱いなのに……」


ロロナ「そんな、イクセくんの方がぜんぜんすごいよ。見習いって言ってもお店のことほとんど任せてもらってるんだし……わたしはその場の流れでなっちゃっただけだし……」

イクセル「そ、そうか? それほどでもないけどな!」

クーデリア「……単純ね」

 紅茶を飲んでいたクーデリアがそう言った。
 クーデリアのところに淡い金色の光を放つ店員がやってくる。

ソラール「貴公、紅茶のおかわりはいるのか?」

クーデリア「……えぇ、お願いするわ」

アルトリウス「私にも頼む」

ロロナ「わたしもお願いします」

ソラール「あぁ、構わない」

 淡い金色の光を放つ店員がカップに紅茶を注いでいく。


イクセル「あ、ソラール! それ終わったら、あっちのテーブルにこの料理運んでくれ!」

ソラール「あぁ」

 淡い金色の光を放つ店員が料理を運んでいく。

クーデリア「……って、なんであいつがここで働いてるのよ!?」

 あまりに店の店員に溶け込んでいたソラールにクーデリアが気付く。
 言われて、ロロナとアルトリウスが気がつく。
 淡い光を放つ金色の鎧の上からエプロンを身につけたソラール
 その淡々と仕事をこなしていく姿はあまりにも違和感がなかった。

ロロナ「ソラールさん、ここの店員さんだったんだ……」

イクセル「今日からだけどな。いやぁ、びっくりしたぜ……厨房の床にあった不思議な落書きに触れたら突然出てきたからな」

アルトリウス「こんな場所にも書いてあったのだな……」


イクセル「で、ココが気に入ったから、報酬はいいから働きたいって言うから雇ったってわけだ」

クーデリア「報酬なしって……あんた、この場所の何が気に入ったのよ?」

 ちょうど、イクセルのところに戻ってきたソラールに聞いた。
 クーデリアの問いにソラールは自信満々に答えた。

ソラール「名前だ」

クーデリア「は?」

ソラール「サンライズ食堂……そのすばらしき名だったからこそ、俺は常にこの食堂にサインを残して働くことに決めたんだ」

イクセル「ソラール、次はこれをそっちのテーブルに頼む」

 「太陽と関わる食堂か……いいな」そう言い残すとソラールはイクセルの作った料理を運んでいくのであった。

今日はここまで


白が居るって事はこれ食堂の扉前に霧張ってんじゃね?wwww

>>148こんなやり取りがあって特に気にされてなくて、むしろ好評になってるぐらいで……。

ロロナ「サンライズ食堂大人気だって!」

クーデリア「は?」

ロロナ「霧がかかってて中が見えないから、入ったら金色に輝く太陽の店員が出迎えてくれるサプライズが人気の秘密とか……」

クーデリア「は?」

トトリちゃんを出したいならまずこのスレを円満に完結させた後に
続編として次スレを立てるのはどうでしょうか(ニッコリ

いっそメルルまで書いて全員集合させればいいんじゃないかな

寝落ちしてた。
今から更新します。

>>168>>169

             . ィ
.._ .......、._    _ /:/l!
 :~""''.>゙' "~ ,、、''‐'、|         _

゙、'、::::::ノ:::::::_,.-=.  _~:、         /_.}'':,
 ``、/:::::::::__....,._ `゙'Y' _.ェ-、....._ /_゙''i゙ノ、ノ
 ,.--l‐''"~..-_'.x-='"゙ー 、`'-、 ,:'  ノ゙ノブ   <またまたご冗談を

"   .!-'",/  `'-‐'') /\ `/ でノ-〈
 .-''~ >'゙::    ‐'"゙./  ヽ.,'   ~ /
   //:::::       ',    /    ,:'



クーデリア「――で、この後はどうするのよ」

 昼食を食べ終え、食後のデザートであるケーキを食べながらクーデリアは言った。
 同じくケーキを食べながらロロナは答えた。

ロロナ「う~ん、とりあえず……材料集め?」

 先ほどまで話していたイクセルは店がさらに賑わってきたこともあり料理に専念している。
 サンライズ食堂で働く太陽の店員――ソラールの方は出来上がった料理を忙しそうに運んでいた。

クーデリア「なら、違う場所とかいいわね」

ロロナ「そうだね、いろんな材料採れそうだし……アーくんもそれでいい?」

アルトリウス「構わない」

 食べ終わり、午後からの予定が決まったロロナ達が立ち上がる。
 それに気がついたイクセルが料理をする手を動かしながら声をかける。

イクセル「お、もう行くのか?」


ロロナ「うん、えっとお金を……」

 ロロナが腰のポーチの中をごそごそと探り中からお金を取り出す。
 それを見ていたイクセルが何かを思いつく。

イクセル「よし、ロロナ! 今日の分はサービスしとくぜ!」

ロロナ「え?」

イクセル「まぁ、あれだ! ロロナがアトリエの店主になった祝ってやつだな!」

ロロナ「ありがとう、イクセくん!」

イクセル「まぁ、いろいろ大変だと思うけど、困ったことがあったらいつでも協力するぜ」

ロロナ「うん、そのときはお願いするね」

 言いたい事を言い終えたイクセルが再び料理作りに集中する。


ロロナ「邪魔しちゃ悪いから行こっか」

クーデリア「そうね」

 三人がサンライズ食堂から白い霧を抜けて外に出る。

クーデリア「……準備を済ませてから城門前でいいわよね?」

ロロナ「うん、わたしはポーチの中に全部入ってるから先に行ってるね」

クーデリア「えぇ」

 ロロナ達に背を向けるとクーデリアは自宅へと向って走っていった。
 アルトリウスの方を向きロロナが言った。

ロロナ「じゃあ、アーくん、先に行こ?」

アルトリウス「その前に欲しい物があるのだが……」 


ロロナ「欲しいもの?」

アルトリウス「その盾をだな……」

ロロナ「盾?」

アルトリウス「護衛なら盾があった方がいい……」

ロロナ「う~ん、じゃあ、おやじさんのお店かな」

 顎に指先を当てて考えてロロナが言った。
 聞いたことの無い場所にアルトリウスが聞き返す。

アルトリウス「おやじさんのお店?」

ロロナ「うん、アトリエの隣にある鍛冶屋さんで……よく、包丁を研いで貰ってるんだ」

アルトリウス「そんなところに鍛冶屋があったとはな……」



 ロロナの言っていた鍛冶屋はアトリエのすぐ隣、歩いて1分もかからないほど近くにあった。
 鍛冶屋に到着したロロナ達は扉を開け、挨拶しながら中へと入る。
 すると中から声質の低い男の声――鍛冶屋の職人ハゲルの声が響く。

ロロナ「おやじさん、こんにちはー」

ハゲル「へい、らっしゃい! ……と、なんでい、嬢ちゃんかよ。また、包丁の研ぎなおしかい?」

ロロナ「違いますよ。今日はちゃんと武器を買いに来たんです」

 ロロナの言葉を聞いて、眉をひそめるとハゲルは諭すように言った。

ハゲル「なんだと? おいおい、若い娘さんが武器を持とうなんて、ちょっと感心しねぇなぁ」

ロロナ(武器屋の人の台詞とは思えないな……)

 ロロナがそう思いながら、ハゲルの言葉を否定する。

ロロナ「違いますよ……わたしじゃなくてアーくんです」


ハゲル「アーくん?」

 そこでハゲルはロロナの後ろに居た200cmはありそうなボロボロの青い光を放つ鎧を着たアルトリウスに気がつく。

ハゲル「……こっちの鎧は嬢ちゃんの知り合いか、何かかい?」

 疑わしげな視線をアルトリウスに向けてハゲルが言う。

ロロナ「えっと、わたしを守ってくれる騎士で……」

アルトリウス「私の名前はアルトリウス、グウィン王に仕える騎士だ。今日は盾を求めてここに来た」

ハゲル「グウィン王? 聞いたこと無い名前だなぁ……異国の騎士か、何かかい?」

アルトリウス「あぁ、私はこの国の騎士ではない」

ハゲル「なるほどねぇ……で、騎士の旦那はどんな盾が所望で?」

アルトリウス「そうだな、これぐらいの大きな盾が欲しいのだが……」

 身振り手振りで盾の大きさをハゲルに伝える。


ハゲル「さすがにそんな普通に持てないような、大きな盾はウチには置いてねぇなぁ」

アルトリウス「それは残念だ」

ハゲル「しかし、そんなでかい盾をねぇ……騎士の旦那、細長い割りに結構な力持ちなんだなぁ」

アルトリウス「細い……まぁ、そのだ、作る場合はどれくらい予算が必要になる?」

ハゲル「う~ん、そうだな……騎士の旦那の為に盾を作るのは簡単だが、そんな旦那以外、扱えないような盾じゃあ他の客に売れねぇ」

ロロナ「そうだよね、さすがにそんな大きなのは普通持てないよ……」

 顎に手を当てて考えていたハゲルが何かを思いつく。

ハゲル「おぉ、そうだ! いいこと、思いついたぜ!」

ロロナ「いいこと?」

ハゲル「錬金術士になった嬢ちゃんにピッタリな方法なんだが……」

ロロナ「わたしにピッタリな方法?」

ハゲル「そう、つまり、材料費が問題になる訳だから――」

 ――嬢ちゃんが自分で材料を採ってくりゃあ安く作れる!!
 ハゲルの言葉で材料集めの目的地が決まった。

少し休憩



クーデリア「――で、ここってわけね」

 アーランド国有鉱山――その入り口前で立ち止まっていたクーデリアがそう言った。
 
ロロナ「うん」

クーデリア「いかにもモンスターが出そうってところよね……」

ロロナ「うん……」

アルトリウス「あまり道は広そうでは無いな……」

 そう言うとアルトリウスが鉱山の中へと入っていく。
 二人もその後に続くように入る。
 中は薄暗く所々にある灯で微かに道がわかる程度であった。
 その道を一歩、また、一歩と道を探るようにロロナ達が進んでいく。

クーデリア「け、結構、暗いわね……」


ロロナ「そ、そうだね……あ!」

 ロロナが微かに光っている岩を発見し近づく。
 岩の近くを探り何かを採る。
 それをまじまじと観察して言った。

ロロナ「えっと……これは粘鉄かな? いっぱいあるから少し採っとこ……」

 岩の周囲から粘鉄を何個か採取し、ポーチに入れていく。
 ある程度、採取すると立ち上がる。

ロロナ「こっちに燃える土がある」

 そして、また別の所に興味を示し材料を採取していく。
 それを見たクーデリア達が言った。

クーデリア「ロロナ、手伝うわよ?」


ロロナ「えっと、じゃあ、これと同じ物を……」

クーデリア「わかったわ」

 クーデリアがロロナとは別の場所を探し始める。

アルトリウス「……私も手伝おう」

 周囲にモンスターが居ないことを確認したアルトリウスが言う。

ロロナ「アーくんはこれをお願いするね」

アルトリウス「わかった」

 ロロナが淡い光を放つ草――ほたる火草を見せる。
 それを見たアルトリウスは返事をすると探し始めた。


ロロナ「あれ? これ、なんだろ?」

アルトリウス「どうした?」

クーデリア「何よ?」

 二人が近づき尋ねる。

ロロナ「えっと、これなんだけど……」

 ロロナは手に持った動物の皮を加工し作られた皮紙を見せる。
 それをじっと観察するように見る。
 皮紙は何かに反応するように淡く光って見える。

クーデリア「何よこれ、皮紙?」


アルトリウス「……これはウーラシールで見たモノに似ているな」

ロロナ「ウーラシール?」

アルトリウス「私の居た世界の国の一つだ。しかし、これはもしかすると……少し借りるぞ」

ロロナ「うん」

 ロロナがアルトリウスに皮紙を渡す。
 すると、さっきまでの淡い光が皮紙から消えた。

アルトリウス「なるほど……」

クーデリア「どうしたのよ、何か知ってるならはっきり言いなさい」

アルトリウス「そうだな……説明するより実際に見たほうがいいだろ。ロロナ、この皮紙を持って、あの岩を意識して杖を振って貰えるか?」

ロロナ「う、うん」

 ロロナが言われたように左手に皮紙を持ち、右手に持った杖を振るう。
 すると、杖の先に光の粒子が集まり、やがてそれは光る矢のような形となって杖の先から放たれる。
 そして、杖の先から出た光の矢はロロナが意識した岩へと直撃して消えた。

ロロナ「え、え、えええええ!?」


クーデリア「さ、さっきのは何なのよ!?」

アルトリウス「……魔法だ」

ロロナ「まほう? 魔法って、ジークマイヤーシリーズに出てくる魔法?」

アルトリウス「ジークマイヤーシリーズはまだ読んでいないからわからないが……さっきのは私の世界の魔法で間違いない」

クーデリア「ちょ、ちょっと! なんで本の中に出てくる魔法がここにあるのよ!」

アルトリウス「それはわからないが……」

 ロロナの杖を見ながらアルトリウスは言う。

アルトリウス「……どうやら、その杖は魔法を使うための魔法触媒と同じ効果があるようだな」

ロロナ「え、でも、これは錬金術に使う杖だよ?」

アルトリウス「だが、使えたということは何か近いモノがあるのかもしれないな……」

ロロナ「……う~ん、なんでだろう? 師匠なら何か知ってるのかなぁ」


クーデリア「あ、あんたがこの世界に来るときに一緒に持ってきたんじゃないの?」

 その発言を聞き、二人がクーデリアを見る。

クーデリア「な、なによ!」

アルトリウス「いや、実はそうなのかもしれないと……」

ロロナ「すごいね、くーちゃん」

クーデリア「べ、べつにこれぐらい考えるのが普通よ!」

 二人の言葉にクーデリアが照れくさそうにそっぽ向いて言う。

ロロナ「……アーくん、この魔法って名前あるのかな?」

 ふと疑問に思ったことをロロナが尋ねる。 

アルトリウス「魔法の名前か……名前はわからない。オーンスタインなら知ってたかもしれないが、私はあまり魔法は詳しくないからな」

ロロナ「そうなんだ……う~ん、じゃあ名前つけなきゃ」


アルトリウス「そ、そうか……ところで、ここはもういいのか?」

ロロナ「あ、うん」

クーデリア「なら、モンスターが出る前に帰るわよ」

 そういうと来た道を戻ろうとロロナ達が歩き出す。

アルトリウス「……残念ながらモンスターだ」

 その言葉にロロナ達が止まる。
 アルトリウスは二人を守るように前に立ち周囲を確認する。
 すると暗がりから、黒い鎧を纏った八体の黒騎士達が現れる。
 黒騎士達はそれぞれ、斧、大剣、剣と盾、斧槍で武装していた。
 アルトリウスは大剣を取り出すと岩陰を指差して言った。

アルトリウス「……私がすべて引き受ける。君たちはあの岩陰に隠れていて欲しい」

クーデリア「ひ、引き受けるって、あ、あんなに居るわよ?」

ロロナ「そ、そうだよ、わたし達も――」

 ロロナ達に視線を少し向けて、安心させるようにアルトリウスは言った。

アルトリウス「いや、数だけで実力は大したことは無い……そうだな、この場は私の腕前を披露したいので任せて欲しい、では駄目か?」


 その言葉にしぶしぶ納得したロロナ達が岩陰に隠れる。
 アルトリウスは片手に持った大剣を引きずりながら黒騎士達の方へゆっくりと歩き出す。
 ロロナ達が隠れている岩陰に黒騎士達を近づけない為に、剣先で地面を削りながら黒騎士達との距離を詰めていく。

 八対一、数とその多種多様な武器で圧倒的に有利な黒騎士達――
 だが、アルトリウスは臆することなく進み続ける。
 その姿に何ともいえない気配を感じ、黒騎士達が後退する。
 アルトリウスは一歩、また一歩と変らぬ歩幅で距離を詰め――そして、黒騎士達の領域へと入った。

 それが合図となった――
 大斧の黒騎士が振りかぶり、アルトリウスを叩き割る勢いで斬りかかる。
 自身の領域内へ入った相手に向けた一撃――並の者なら絶対に外れることなく切り裂けるその一撃はアルトリウスを切り裂くことなく地面へと突き刺さった。
 絶対に外れることの無い一撃を外し、驚き黒騎士は急ぎ視線を大斧から前へと上げる。
 領域内から少し外れた位置――アルトリウスが大剣を前方に向けて突き出す姿を大斧の黒騎士が確認する。
 そこで大斧の黒騎士は自身の攻撃を後方へと飛び下がることで避けられたことを理解するが、アルトリウスの突き出した大剣に胸を貫かれ絶命する。

 アルトリウスが大斧の黒騎士から大剣を引き抜く。
 支えを無くした黒騎士は地面へと倒れた。

 それを見た黒騎士達がアルトリウスを円形に囲み攻撃しようと得物を振りかぶる。
 アルトリウスは姿勢を低くし、得物を振り下ろされる前に回転、囲んでいる黒騎士達の体制を崩すように斬りつける。
 その一撃に怯んだ目の前の黒騎士へアルトリウスが大剣を突き刺し、そのまま前進し包囲の外へと抜ける。
 アルトリウスは黒騎士から大剣を抜きながら後ろを振り返り、その勢いで自身の領域内に居た五体の黒騎士を真横に切り裂いた。
 そして、七体の黒騎士達が倒れ、光る灰となって消滅する。
 
 ――アルトリウスは強靭な意志により決して怯まず、大剣を振るえば、まさに無双であった。


 アルトリウスが一体の黒騎士に視線を向ける。
 離れた位置に居たおかげでアルトリウスの領域内から外れた一体の黒騎士が距離を取るように後退する。
 手傷を負った黒騎士がアルトリウスに背を向け、ロロナ達が隠れている岩陰へと走り出す。
 『深淵歩きの騎士アルトリウス』――彼に背を向けた時点で黒騎士の敗北は決定した。
 アルトリウスは残った黒騎士にトドメを刺す為に大剣を振り上げる。そして――

ロロナ「――え、エンゼルシュート!」

アルトリウス「え?」

 ロロナの言葉と共に岩陰から先ほどの魔法の矢が放たれ黒騎士に直撃する。
 そして、トドメを刺された黒騎士が光る灰となって消滅した……。
 岩陰からロロナ達が出てくる。

ロロナ「……えっと、倒せたのかな?」

クーデリア「……み、みたいね」



クーデリア「あのモンスターがこっちに来た時はホントに焦ったわ」

ロロナ「こっちに来るから思わず、魔法使っちゃった……」

 鉱山からの帰り道でロロナ達はそうアルトリウスに言った。

アルトリウス「すまない、あの距離なら問題は無かったのだが……」

ロロナ「でも、アーくんって強いんだね。びっくりしちゃった」

クーデリア「そうよね、騎士って割に細いし……最初、ロロナに押されてコケてたのが信じられないぐらいに」

アルトリウス「いや、あれはだな……こう、上手い角度でロロナの手が足にだな――」

 そんな話をしていると鳴き声と共に一匹のハトがロロナの前へと降りてくる。

ロロナ「ハト? 足に手紙がついてる……わたしに届けてくれたの?」

 ロロナの問いを肯定するようにハトがひと鳴きする。
 それを聞いたロロナはハトの足から手紙を取る。

ロロナ「でも、誰からだろ? ハトを飼ってる知り合いって……」

クーデリア「あ、これ、王宮の紋章よ」

ロロナ「じゃあ、ステルクさんからかな?」

 ロロナが手紙を広げて内容を確認する。
 差出人は予想通りステルクからであった。
 そして、手紙には国からの依頼内容――つまり、課題内容について書かれていた。
 課題内容は『日用雑貨』である。

三話はこれで終了です。
そろそろ、戦闘入れないと不味いかと思ったので入れました。
戦闘描写について期待に答えられてたらいいのですが……。

あと、ロロナの使う『ソウルの矢』の名前がエンゼルシュートという名前になってます。
ダクソとのクロス要素です。なんとなく、そうしました。

>>196こんなやり取りが>>195にあったということで……。

アルトリウス「エンゼルシュートとは?」

ロロナ「あの魔法の名前だよ」

    ゝゝ、_  オレサマ カコイイ
    ミ `゚w゚) 
     ミ つと    
    ノ(_,人))   白サイン

~~~~~~~~
 ホスト側

    ( ゚Д゚) (

     { i }  )
     U ♂ (
     UU  )

      o~     <iiiヽ  ヤダ ハダカ
       O    | ('A` ) 
            |ノ{ y ∩ 
            | {  ∪
       白サイン   {{ } 


 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』>>31

 第三話『怖そうな人と王国依頼で新しい店主』>>108


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 第四話『材料不足と進入禁止で無口な三剣主』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 早朝――アトリエに人の気配を感じ、ボロボロの鎧兜の淡く青白い光を放つアルトリウスが目を覚ます。
 この世界にやってきてから、アルトリウスはこのアトリエで寝泊りしている。
 アストリッドが旅に出ている現在、このアトリエに住んでいるのはアルトリウス一人であった。
 錬金釜に向う準備をしていたロロナに顔を向け、寝ぼけた頭でアルトリウスが挨拶する。

アルトリウス「おはよう、ロロナ」

ロロナ「あ、おはよう、アーくん。もしかして、起こしちゃった?」

アルトリウス「いや、そうではない。気配で起きるのは習慣みたいなものだからな」

 そういうと、寝床代わりにしていたソファからアルトリウスが起き上がる。

アルトリウス「こんな朝早くから錬金術か?」

ロロナ「うん。これでやっと完成だから、ちょっと頑張ろうと思って」

アルトリウス「……長かったな、発表から一ヶ月ぐらいか」

ロロナ「……そうだね」

 思い出すようにアルトリウスは言った。
 ロロナも課題発表からの忙しい日々を遠い目をして思い出す。


 課題内容は日用雑貨――研磨剤・ゼッテル・錬金炭をそれぞれ10個ずつ収めるというもの。
 内容的には今のロロナなら材料さえあれば簡単に作れるものだったが、その量は多く期限内に間に合うかギリギリのところであった。
 その為、ロロナは課題を知らされた日にアトリエを訪れ、日用雑貨制作に取り掛かっていた。
 今日はその開始から二十二日目の朝――あとは錬金術で制作するだけである。

ロロナ「よし、がんばろう!」

 ロロナが気合を入れ錬金釜の前に立つ。
 そして、材料を釜の中へ入れ、ゆっくりと杖で混ぜ始めた。
 しばらくすると釜の中が光り始め、その光がだんだん強くなり、やがて光が収まっていく……。
 ロロナは出来上がった研磨剤を取り出すと次の制作に取り掛かる。

 錬金術で制作する時、一番時間がかかるのはその工程であり、錬金釜での制作は実はあっという間に出来てしまう。
 材料を手に入れ、それを乾燥させたり、すり潰したり、水に溶かしたり、熱したりなどの加工に時間がかかるのである。
 今回はその工程を先に済ませ、あとは錬金術で制作するだけという状態にしてあった。

 ロロナが次々と錬金釜で制作しては出来上がった物を近くの机に置き、再び制作に取り掛かる。
 そして、最後の研磨剤が出来上がり、それを取り出し机の上に置いた。
 机の上が研磨剤、ゼッテル、錬金炭で一杯になる頃にはもうお昼を過ぎていた。

ロロナ「ちょっと疲れたかな……」


アルトリウス「――なら、休憩にしよう。机の上を片付けてくれると嬉しいのだが?」

ロロナ「え?」

 ロロナが振り向くとそこにはアルトリウスが立っていた。
 両手には出来上がったばかりの料理がのった皿を持っていた。
 先ほどまで、アルトリウスはロロナの為に昼食を作ってたのであった。

ロロナ「ちょ、ちょっと待ってね! 今、片付けるから! えっと、ゼッテルとかはポーチに入れてっと……」

 言われてロロナが片付け、綺麗にする。
 綺麗になったのを確認するとアルトリウスは両手に持った料理を置く。
 机の上に美味しそうなコンソメスープ、ミートパイが並ぶ。

ロロナ「うわ~、おいしそう。これ、アーくんが作ったの?」


アルトリウス「あぁ、そうだ」

 二人で席につき、アルトリウスが作った料理を食べ始める。

ロロナ「うん、すごくおいしい!」

アルトリウス「それはよかった……」

 ロロナの感想を聞いてアルトリウスは何処か安心したようにそう言った。

ロロナ「アーくんって料理つくれたんだね」

アルトリウス「いや、料理は今までやったことがなくてな……イクセルやソラールに教えてもらって、その二品だけだが作れるようになった」


ロロナ「あ、最近、出かけてたのって……」

アルトリウス「サンライズ食堂で料理を教わっていた」

ロロナ「そうだったんだ……」

アルトリウス「ミートパイはまだ上手く作れないけどな」

ロロナ「パイ作りなら得意だよ。今度、教えてあげるね?」

アルトリウス「あぁ、頼む」

 ロロナが美味しそうにミートパイを食べる。

ロロナ「うん、おいしい」


アルトリウス「……剣を振らなくとも人を喜ばせることが出来るというのは嬉しいものだな」

 そう、小声でアルトリウスは言った。
 そんなアルトリウスにロロナが首をかしげて聞く。

ロロナ「アーくん、どうかした?」

アルトリウス「なんでもない、ただの独り言だよ……ところで課題の方はどうだ?」

 話題を変えるためにアルトリウスがロロナに聞く。

ロロナ「うん。ちょうど、全部おわったところだよ」

アルトリウス「なら、今日、持って行くのか?」

 少し考えてからロロナが言った。

ロロナ「う~ん、そうだね。早い方がいいと思うから……」

アルトリウス「そうだな」

駄目だ、眠いのでこのまま寝オチします。



 少し遅い昼食を終えるとステルクに会う為に二人で城へと向かった。
 中に入り受付に向かうとエスティがロロナ達に気がつき話しかける。

エスティ「こんにちは。今日はどんなご用かしら?」

ロロナ「こんにちは、エスティさん。えっと、依頼された物が出来たので持って来ました」

エスティ「依頼? ああ、日用雑貨ね。ステルクくんなら……もうすぐ、ここを通るわよ?」

ロロナ「通る?」

 ロロナはエスティの言葉を聞いてに首をかしげる。
 すると、何やら難しそうな顔をしたステルクが早歩きで歩いてきた。
 それを見たエスティが話しかける。

エスティ「ステルクくん、お客さんよ?」


ステルク「客? ……ああ、君達か」

 言われてステルクがロロナ達に気がつき察する。
 そして、ロロナ達の元までやってくると確認するように聞いた。

ステルク「今日は依頼の物を納品しに来た、でいいのだな?」

ロロナ「あ、はい」

ステルク「出来れば、今度はまとめて持って来てくれるとありがたいのだが……」

 ロロナがカゴも何も持ってないことから判断してステルクはそう言った。

ロロナ「あ、大丈夫です。全部、まとめて持ってきたので……」


ステルク(……全部?)

エスティ(……全部?)

 発言を聞いて疑問に思っているとロロナが腰のポーチから錬金炭を取り出し受付のカウンターの上に置いた。
 それを見たステルクとエスティが驚く。
 ロロナは二人の反応を気にしないで錬金炭、研磨剤、ゼッテルを次々と取り出しては置き、取り出しては置きを繰り返す。
 そして、あっという間にカウンターの上は錬金炭、研磨剤、ゼッテルで一杯となる。

エスティ「え? え? ちょっと、ロロナちゃん、何処から取り出したの?」

ロロナ「えっと、ポーチからですけど……」

 エスティの言葉を不思議そうに思いながらロロナが答える。
 一ヶ月前までは驚く側だったロロナだったが、錬金術を始めたことで驚かす側になっていた。


エスティ「ポーチから? え? え?」

 ロロナの言葉に混乱するエスティ。
 そんな自身の先輩を無視して、ステルクがカウンターに近づき日用雑貨を数え始める。
 そして、数え終えたステルクがロロナに言った。

ステルク「……研磨剤が一つ足りないようだが?」

ロロナ「え?」

 ステルクに言われて、ロロナが研磨剤の数を数え始める。

ロロナ「あ、本当だ! でも、材料はピッタリだったんだけどなぁ」

アルトリウス「……数が多かったので、材料の個数を間違えたのだろうな」


ロロナ「え、どうしよう。おやじさん、フェストはあれが最後って言ってたし……オルトガ遺跡は入ったら駄目だし……うぅ、このままじゃアトリエ無くなっちゃうよ」

 フェストが無いので研磨剤を作れないということに落ち込むロロナ。
 そう、オルトガ遺跡は数ヶ月前から立ち入り禁止となっている。
 数ヶ月前に見たことも無い巨大な『牛頭のモンスター』が目撃されてからオルトガ遺跡は立ち入り禁止となった。
 本当ならオルトガ遺跡へ十分な量を取りに行くはずだったが、オルトガ遺跡は立ち入り禁止。
 その為、ロロナはハゲルの所へ行き、理由を話すことでフェストの最後の在庫を売ってもらったのであった。

アルトリウス「ところでステルク、オルトガ遺跡だが……」

 アルトリウスの言葉に三人が反応する。

アルトリウス「……その『牛頭のモンスター』が居なければ入れるようになるのだな?」

ステルク「そうだ」


アルトリウス「ならば、私が『牛頭のモンスター』を討伐しに行っても問題はないか?」

 アルトリウスがステルクを見てそう言った。

アルトリウス「先ほどの顔から判断するに『牛頭のモンスター』を討伐したいが人手が足りないと……これでも剣の腕には自信がある」

 「駄目か?」――アルトリウスがステルクに聞いた。
 その言葉を聞き、ステルクは少し考えた後、ロロナに尋ねる。

ステルク「……彼の話は本当か?」

ロロナ「あ、はい! その、アーくんはとても強いです。モンスターに囲まれても一瞬で倒しちゃったぐらいで!」


ステルク「なるほど……」

 ステルクが悩む。
 それでも危険な場所へこの国の騎士ではない者を連れて行くべきかと……。
 そして、答えを出した。

ステルク「わかった、協力を依頼する」

アルトリウス「よろしく頼む」

ステルク「ところで名前は?」

アルトリウス「アルトリウス、グウィン王に仕える騎士だ」

 名前を聞き、城にあった書物にその名前があったことをステルクは思い出す。

ステルク「……出発は明日の朝だ」


アルトリウス「あぁ、わかった」

 アルトリウスの言葉を聞いたステルクは城の奥へと去っていく。
 ロロナがアルトリウスに心配そうに話しかける。

ロロナ「アーくん、大丈夫なの?」

アルトリウス「ステルクも居るのだから大丈夫だろう」

ロロナ「ステルクさんって強いのかな?」

アルトリウス「強いだろうな……他の騎士とは違って、ステルクには隙が無い」

ロロナ「そうなんだ、ステルクさんって強いんだね」

アルトリウス「明日の準備もある。今日はもうアトリエに戻ろう」

ロロナ「うん」

 二人が城を去っていく。
 そして、残されたエスティは一人ぼやくのであった。

エスティ「この日用雑貨、私が持っていくのよね……」

 カウンターに置かれた沢山の日用雑貨を見ながらそう言った。

とりあえず、ここまで。
続きが出来たら今日中に、無理なら明日か明後日にします。



 城からオルトガ遺跡まで、徒歩で丸一日ほどかかる。
 そろそろ日が暮れる頃だが、昼間でも夜のように薄暗いオルトガ遺跡付近の森ではあまり関係の無いことであった。
 危険なモンスターが出るということでロロナを置いて、アルトリウスとステルクの二人だけでここまでやってきた。
 周囲を見渡しアルトリウスが言った。

アルトリウス「日暮れともなるとずいぶんと薄暗い……」

ステルク「いや、この辺りは昔からこんな感じだ」

アルトリウス「そうなのか?」

ステルク「そうだ……無駄話はこれぐらいにして先を急ごう」

 そういうとステルクがそういうと薄暗い森の奥へと進んでいく。

アルトリウス「……わかった」

 アルトリウスがその後について歩く。
 しばらく、森の中を歩いているとアルトリウスが言った。

アルトリウス「モンスターの姿が全く無い……」


ステルク「牛頭のモンスターに襲われたか、怖がって逃げたのか……いずれにしても、この近くに居るのだろう」

アルトリウス「なるほど」

 土がむき出しになった道を歩いていく。

アルトリウス「誰かが後ろからついて来ている……」

 森を歩き始めて、突然、現れた人の気配……。
 アルトリウスがそれに気付き言った。

ステルク「盗賊か?」

アルトリウス「危険なモンスターが潜んでいる場所に?」

ステルク「……罠か、何か別の目的があるのか。いずれにしても、こちらから仕掛けるのはあまり得策ではないということか」

 追跡者を警戒しつつ、二人が森を進んでいく。
 しばらく歩くと崖を跨ぐように作られた小さな石造りの橋が見えてきた。


アルトリウス「どうする?」

 石造りの橋を見てアルトリウスがステルクに尋ねる。
 もしも戦いになった場合、狭い橋ではこちらが不利になる可能性がある。
 例えば、相手が弓や槍を持っていら、橋の上では避けることが困難である。
 そして、相手が二人居た場合、もしも橋の上で挟まれれば……。

ステルク「……こちらから仕掛けないと決めた以上、進むしかない」

アルトリウス「……わかった」

 二人が石の橋を渡っていく。
 そして、二人が橋の真ん中に来たタイミングで追跡者が姿を現した。
 追跡者は半裸で頭にずた袋を被った、赤黒い光を放つ女だった。
 右手には巨大な肉断ち包丁、左手には木板の盾を持っていた。
 その姿を見てステルクは言った。

ステルク「……あの変態は君の知り合いか?」

アルトリウス「……残念ながら、あんな変態には心当たりが無い。ステルク、貴公の知り合いだろ?」


 追跡者は変態だった。
 赤黒い光を放つずた袋の変態が巨大な肉断ち包丁を両手で持つ。
 そして、石の橋に向って走ってくる。

アルトリウス「っ!?」

ステルク「橋の上では不味い! すぐに橋を渡るぞ!」

 ステルクの声に反応し、石の橋を急ぎ渡ろうとする。
 すると橋の向こうにある茂みが揺れ、びっしりとトゲがついた防具を身につけた赤黒い光を放つ騎士が現れる。
 赤黒い光を放つトゲの鎧を纏った騎士が石の橋へとやってくる。

アルトリウス「ステルク、変態は貴公が――」

ステルク「私は目の前に居るトゲの騎士を相手しよう……」

 ステルクはそう言うと目の前に居るトゲの騎士に向って走り出す。
 そして、トゲの騎士と剣を交えた。


アルトリウス「ステルク!?」

 変態を担当する事になったアルトリウスが叫ぶ。
 そんなアルトリウスに向って変態――ずた袋の女が巨大な肉断ち包丁を振り下ろした。
 アルトリウスが両手に持った大剣でそれを防ぐ。
 肉断ち包丁の重量を利用した重い一撃に膝をつく。

アルトリウス「ぐっ! だぁああ!!」

 大剣で肉断ち包丁を受け止めていたアルトリウスが足に力を込めて立ち上がる。
 そして、防ぎつつもずた袋の女を器用に蹴飛ばした。
 不意に真後ろへと蹴り飛ばされたずた袋の女がよろける。
 その隙をつくようにアルトリウスが飛び上がり前転し勢いをつけた大剣の一撃を叩き込む。
 
ずた袋の女「っ!?」

 ずた袋の女がその攻撃をギリギリのところで真上に肉断ち包丁を構え受け止める。
 大剣の一撃を受け止められたアルトリウスは刃を滑らせることで、ずた袋の女の上を飛び越えた。
 そのまま、ずた袋の女の後ろを取る形で着地する。
 そして、アルトリウスはずた袋の女を蹴飛ばした。崖の方へと……。



 アルトリウスがずた袋の女と戦っている時、ステルクはトゲの騎士と剣を交えていた。
 トゲの騎士の剣をギリギリのところで真後ろに避け、その隙をつくようにステルクが斬りかかる。
 トゲの騎士がそれを盾で防ぎ、真っ直ぐに剣を突き出す。

ステルク「くっ!?」

 トゲの騎士の剣による突きをステルクは身体を真横に倒すようにして避ける。
 すぐに体勢を立て直す為に、一回転するような形で背中を地面につけ起き上がる。
 そして、背後を取るような形となったステルクは、急ぎ振り返るトゲの騎士を剣を両手で持ち斬りつける。

トゲの騎士「ぐっ……」

 斬られたトゲの騎士は膝をつき倒れる。
 そして、赤黒い霧となって消滅した。

今日はここまでにしとく。
また、明日、続きを更新します。
あと、闇霊の二人は長々と剣を打ち合うレベルでもない気がしたので、
一瞬で出番が終わってしまいました……。

ちなみにサブタイの三剣主はフロム繋がりでストルタ四剣主をもじって使ってます。
ダクソにもフライパンやハリセンなどのネタ武器を……。

ミルドレッド落下死ワロタ

アヴェリンかと思ったらスナイパーワロスだったでござる。
素晴らしいさんチート使わないで下さい^^;

イザリスまでやってきて、隠し篝火で立てこもり中。
さて、矢が全て切れ、ひたすらソウルの矢で下半身ドラゴンを篝火までおびき寄せて撃破する作業……。
万能型にしててよかったと思ったww

>>249
スナイパーワロスというより、クロスボウの使い道がわからない。
正直、ファリスの黒弓と竜狩りの大弓があったら十分な気がする……。

>>245
攻略中は闇霊さんに落下死してもらった方がアイテムの節約になるから……。



アルトリウス「何だ、今のは……」

ステルク「……消えたということは人ではないのだろうな」

 剣を鞘に収めながら、ステルクは言った。

ステルク「……先を急ごう。また、出てこられたら厄介だ」

アルトリウス「あぁ」

 周囲を警戒しながら、二人は森の奥へ進んでいく。
 森の中は変らず生き物の気配がなく、不気味な雰囲気が漂っていた。
 森を進んでいると大きな遺跡の外壁が見えてくる。
 外壁周辺には木の板でしっかりと足場が作られていた。
 二人がその足場を進んでいくと、一体の牛頭のモンスターを発見する。
 牛のような角があり、全身がびっしりと毛で覆われ、巨大な大斧を持ったデーモン
 二人は左右に別れ、ステルクは外壁近くへ、アルトリウスは近くに積み上げられた樽の影に隠れる。

アルトリウス「あれか?」

ステルク「特徴は一致している……あのモンスターで間違いないだろう」


アルトリウス「足場が崩れると不味い……誘き出して叩く事にしよう」

ステルク「そうだな」

 アルトリウスは皮製の袋を取り出し、中から一本の投げナイフを取り出す。

アルトリウス「私が誘い出す……ステルクは来る途中にあった開けた場所になっていた辺りで待っていてくれ」

 遺跡外壁の近くにあった草木の無い開けた場所を思い出し、アルトリウスは言った。

ステルク「……わかった」

 外壁から移動し、ステルクは森の方へと向う。
 ステルクの姿が完全に見えなくなったのを確認し、アルトリウスが物陰から出てくる。
 牛頭のデーモンはまだ気がついていない。
 アルトリウスは左手に持ったナイフを牛頭のデーモンの顔に向って投げる。
 投げられたナイフはまっすぐに牛頭のデーモンに向って飛んでいくと、左目へと突き刺さる。


牛頭のデーモン「――――ッ!?」

 牛頭のデーモンは左目に刺さったナイフの痛みから、苦しそうな咆哮をあげる。
 しばらく、苦しんだ牛頭のデーモンはナイフの飛んできた方へ視線を向け、アルトリウスの存在に気がつく。
 そして、雄叫びをあげ、アルトリウスの方に向かって走ってくる。

アルトリウス「……さて、しっかりと私についてきてもらおうか」

 アルトリウスが牛頭のデーモンに背を向けて走り出す。
 牛頭のデーモンは逃げる獲物の背中に視線を向けて、それを追いかける。

 足場か合流地点まで、さほど距離はなく歩いてすぐの所にあった。
 
ステルク「来たか……」

 走るアルトリウスとそれを追いかける牛頭のデーモンの姿にステルクが気がつき剣を抜き構える。
 開けて広場になっている場所にたどり着いたアルトリウスが振り返り大剣を構える。


 牛頭のデーモンは獲物が止まったのを確認すると、巨大な大斧を振り上げ大きく飛び上がる。
 そして、アルトリウスに向けて落下しながら大斧を振り下ろす。
 アルトリウスはそれを左側へと転がることで回避する。
 巨大な大斧が何もない地面に突き刺さる。
 牛頭のデーモンが大斧を引き抜き、アルトリウスを見て怒りの雄叫びをあげる。
 アルトリウスは次の行動を警戒するが、牛頭のデーモンは右を向き、走りながら木々が密集した森の中へと入っていく。

アルトリウス「……逃げた?」

ステルク「我々の目的は討伐だ、追うぞ」

アルトリウス「あ、あぁ……」


 二人も牛頭のデーモンの後を追うように木々が密集した森へと入っていく。
 森の中へと入ると牛頭のデーモンの背中が見えた。
 牛頭のデーモンは速く走っているようで、その背中はずいぶんと小さく見える。
 急ぎ、その背中を追いかけるが、木の枝や剥き出しの根っこが邪魔をして思うように速度が出ない。
 やがて、青々とした草木に覆われた遺跡の中へと消えていった。

ステルク「これは……ずいぶんと古い遺跡だな。まさか、こんな遺跡があったとは……」

アルトリウス「何があるかはわからないが……倒すには中に入るしかないか」

ステルク「……そうだな」

 巨人でも入れるような青々とした大きな入り口、その中へ警戒しながら入っていく。
 中へ入ると、すぐに道が三つに分かれていた。
 左右にある小さな道と、そして、前にある大きな大きな道――その道の先の広場中央に牛頭のデーモンが居た。
 二人は目の前の大きな道を歩き広場の中へと入っていった。
 広場は大きな円形の形をしており、まるで円形闘技場のようであった。


 武器を構え、二人が牛頭のデーモンに近づいていく。
 二人が中央へと近づいたとき――牛頭のデーモンは雄叫びをあげた。
 すると、円形闘技場の外壁の影から、新たに6体の牛頭のデーモンが現れる。
 そして、一匹の牛頭のデーモンが出入り口が塞がる位置に土煙を上げて飛び降りた。
 残りの牛頭のデーモンも二人を囲むように飛び降りてくる。

ステルク「……罠か」

アルトリウス「一人三匹ずつ相手だ」

 周囲の牛頭のデーモンを警戒しながら、アルトリウスは言った。


ステルク「残り一匹はどうする?」

 大剣を両手に持つとアルトリウスはステルクの問いに答えた。

アルトリウス「――終わったものに贈呈だ!」

 そして、前方に居る牛頭のデーモンに向って突進する。
 牛頭のデーモンは突進してくるアルトリウスに向けて大斧を振り下ろす。
 アルトリウスは牛頭のデーモンの股下を地面に身体を擦り付けて滑り込み背後へと回る。
 そして、地面にめり込んだ大斧を引き抜こうとする牛頭のデーモンの背中を振り下ろした大剣で斬りつける。
 背中を斬られた牛頭のデーモンが悲鳴のような咆哮をあげた。
 さらにアルトリウスは重さを利用して、大剣を真横に振るい牛頭のデーモン頭部を跳ねる。
 牛頭のデーモンの頭部が地面へと落下し、その身体が地面へと崩れ落ちた。



 大斧を振り上げ飛び上がる牛頭のデーモン。
 その勢いをつけ振り下ろされた大斧を真横にステップしてステルクが回避する。
 避けた先に居たもう一体の牛頭のデーモンが大斧をステルクに向けて振り下ろす。

ステルク「はぁッ!」

 ステルクはそれよりも速く剣を真横に払い、牛頭のデーモンを斬りつける。
 怯んだ隙にステルクが牛頭のデーモンの間合いから外れる。

牛頭のデーモン「~~~~っ!!」

 雄叫びをあげ、大斧を振り上げた牛頭のデーモンがステルクに飛び掛る。
 それに気がついたステルクが地面に背中を付けて転がることで回避する。
 そして、円形闘技場の外壁を背にするようにして起き上がる。


ステルク(一撃の重い相手の数が多いと厄介なものだな……)

 牛頭のデーモンが大斧を振り上げ、ステルクに飛び掛る。

ステルク「……だが、動きがあまりにも単純だ!」

 長剣を両手に持ち壁に向って走る。
 飛び上がり壁を蹴り、牛頭のデーモンの方へ高く飛んだ。
 振り下ろされた大斧が地面に突き刺さる。
 ステルクは長剣の刃を真下に向け、牛頭のデーモンの隙だらけな頭部に目掛けて振り下ろす。
 刃が頭部に深く突き刺さり、牛頭のデーモンの息の根を止める。
 ステルクが長剣を引き抜き、牛頭のデーモンをから飛び降り着地する。
 頭部を貫かれた牛頭のデーモンがステルクの背後で崩れ落ちた。



アルトリウス(巨体で数が多いと厄介だな、しかも恐れ知らずと来た……)

 牛頭のデーモンは死を恐れず他者を捻り潰すことのみを優先していた。
 数が少ない、もしくは場所によってはアルトリウス達にとっては大した相手でもないだろう……。
 しかし、この場は全てが牛頭のデーモンにとって圧倒的に有利な状況だった。
 圧倒的に有利な数、そして、円形闘技場という体勢を立て直す為の物陰すらない圧倒的に有利な広々とした空間……。
 その為にアルトリウス達は複数の牛頭のデーモンの猛攻を凌がなければならなかった。

 振り下ろされた牛頭のデーモンの大斧をアルトリウスは後ろにステップして回避する。
 しかし、回避した先にもう一体の牛頭のデーモンがその背中に向けて大斧を真横に振るう。


アルトリウス「――ッ!?」

 それに気付いたアルトリウスは両足を地面に滑らせ、前のめりに倒れるような形で回避する。
 無理な回避の仕方でアルトリウスは胸を地面に打ち付ける。

アルトリウス「かはッ」

 アルトリウスが軽い痛みに息を吐くが、すぐに左手を地面に押し付け上半身を起こす。
 そして、その勢いでそのまま左側に回転して体勢を立て直す。
 牛頭のデーモン達を警戒しつつステルクの方へ視線を向ける。

 ステルクも複数の牛頭のデーモンを相手に苦戦している。

アルトリウス(さて、どうしたものか……ん?)

 そして、アルトリウスは少し離れた床に光り輝く文字を発見する。
 それは以前見た召喚サインであった。
 前にそれに触れたことにより、ソラールがこの世界に現れた。
 ふと、アルトリウスはソラールの言っていたことを思い出す。

 ――『何か困ってる時にサインを見かけたら遠慮なく呼んでくれ』


アルトリウス(非常時だ……遠慮なく呼ばせてもらうぞ、ソラール)

 牛頭のデーモンの大斧がアルトリウスに真っ直ぐ迫る。
 アルトリウスはそれを真横に回避する。
 その先には、光り輝く召喚サインがあった――そして、召喚サインに触れた。

 召喚サインが光り輝く。
 光は大きくなり、やがて、それは人の形をつくった。
 淡い光りを放つずた袋を被った女の姿に……。

人食いミルドレット「……」

 淡い光りを放つずた袋の女が周囲を見渡す。
 召喚サインに触れたことで現れた、ずた袋の女を見ながらアルトリウスが停止する。

アルトリウス(馬鹿な……さっきの盗賊だと?)


 見渡すがソラールの姿は何処にもない。
 再び、アルトリウスがミルドレットに視線を向ける。

人食いミルドレット「……」

 ミルドレットは左手の人差し指を顎に置き、明後日の方向を見て思考している。
 そして、右手に持っていた巨大な肉断ち包丁を両手で持つ。

アルトリウス「ッ!?」

 それを見て、アルトリウスは武器を構える。
 アルトリウスは後悔した。
 召喚サインに不用意に触れたことで、敵を増やしてしまったことに……。


人食いミルドレット「……」

 ミルドレットが走り出す。
 アルトリウスではなく、ステルクでもなく、牛頭のデーモンに向って……。

アルトリウス「は?」

 それを見たアルトリウスの思考が再び止まる。
 無理もないことである。
 つい先ほど、襲われた相手が今度は自分達を手助けするかの様に牛頭のデーモン達と戦っている。
 そのことに思考停止するも、すぐにアルトリウスは頭を軽く振って気持ちを切り替える。

アルトリウス(……あの女は今は牛頭のモンスターと戦っている。なら、我々は先ほどと同じように牛頭のモンスターと戦うだけだ)

 アルトリウスは再び、両手で大剣を持つとミルドレットに続くように牛頭のデーモンに突進した。


 牛頭のデーモンの間合いに入ったミルドレットが巨大な肉断ち包丁の重さを利用した一撃を放つ。
 自らの守りを捨て、力の全てを込めた一撃は牛頭のデーモンの硬い肉だろうと易々と切り裂くのであった。

牛頭のデーモン「~~~~ッ!!」

 雄叫びをあげ、牛頭のデーモンがミルドレットに大斧を振り下ろそうとする。
 ミルドレットはその攻撃を肉断ち包丁で防ぐ。
 その無防備となったミルドレットの背中を目掛け、別の牛頭のデーモンが振り上げた大斧を振り下ろそうとする。

 しかし、その大斧は振り下ろされることはなかった。
 ミルドレットを叩き潰そうとしていた牛頭のデーモンは真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちる。
 牛頭のデーモンの亡骸の近くには大剣を振り下ろしたアルトリウスの姿があった。
 ミルドレットが自分の目の前に居た牛頭のデーモンを真横に切り裂いた。


人食いミルドレット「……」

 ミルドレットが顔をアルトリウスに向ける。
 そして、再び顔を残り三体の牛頭のデーモンに向けると突進する。
 三体の牛頭のデーモンが突進するミルドレットにその大斧を振るおうとするが無駄であった。
 数と場所という絶対的に有利な状況が失われた今、三人にとって牛頭のデーモンは敵ではなかった。

 ミルドレットが向ってくる一体の牛頭のデーモンを縦に切り裂かれ、崩れ落ちる。
 二体の牛頭のデーモンがミルドレットに向けて大斧を振るう。
 しかし、二体の牛頭のデーモンはアルトリウスとステルクによって切り裂かれ崩れ落ちた。



人食いミルドレット「……」

 ミルドレットが霧となり消えていく牛頭のデーモンを見ている。
 そして、両手で肉断ち包丁を持ったまま顔をアルトリウス達に向けた。
 それを見たアルトリウス達がミルドレットの攻撃をいつでも防げるようにする。

アルトリウス(……やはり、我々とも戦うつもりか?)

 三人の間に硬直が生まれる。
 そして、ミルドレットの肉断ち包丁が動く。
 それを見て二人が武器を構えようとするが、ミルドレットは構えをといたのを見て止まる。
 そのまま、ミルドレットは霧となって消えていった……。

ステルク「……何だ、さっきのは?」

アルトリウス「どうやら、召喚サインで呼ばれた者は必ず味方になってくれるものなのだな……」

ステルク「どういうことだ?」

 そのアルトリウスの呟きにステルクが尋ねる。
 しかし、アルトリウスはただミルドレットが消えた場所を見続けるのであった。



 牛頭のデーモンが居なくなった事で封鎖は解かれ、無事にフェストを入手する。
 それから、すぐにロロナは研磨剤を制作しステルクに提出した。
 そして、現在……。

ステルク「――すまない、待たせてしまったようだな」

 ロロナと共に城の中で待っているとステルクがやってくる。

ロロナ「い、いえ! ぜんぜん、待ってないです! はい!」

アルトリウス「……ロロナ。少し、落ち着いたほうがいい」

 緊張して、落ち着きの無いロロナにアルトリウスは言った。

ロロナ「う、うん! えっと、深呼吸して! すーはー、すーはー……よし!」

ステルク「……落ち着いたようだな」


ロロナ「あ、はい」

ステルク「……では、結果を伝える」

ロロナ「え! あ、その、待って!」

アルトリウス「ロロナ……」

ロロナ「え、うん。そうだよね……」

 「信じろ」――そう言いたげなアルトリウスの視線にロロナが気付く。
 ロロナは胸に手を当てて、軽く息を吸い込み言った。

ロロナ「……ど、どうぞ!」


ステルク「……では、もういいな。改めて、今回の仕事に対する評価を発表させてもらう」

ロロナ「お、お願いします!」

 ステルクが懐から、折りたたんだ一枚の紙を取り出す。
 そして、広げると読み上げた。

ステルク「……今回、君が提出した三十個の日用雑貨だが、作りが荒くなっている物が何個かあり、それは減点対象となった」

ロロナ「うぅ……」

 ステルクの言葉にロロナが少し不安になり目を瞑り俯く。

ステルク「だが、三十個もの数を期間内に提出し、尚且つ、それらのほとんどは品質が良く、丁寧な仕事をしていた」

 ロロナがちらりとステルクの方を見る。
 ステルクは持っていた一枚の紙をロロナに見せる。
 その紙には今回のロロナの仕事に対する評価が書かれていた。
 評価は星が三つ、つまり……。


ロロナ「……え、こんなにいい評価?」

 評価を知ったロロナが信じられないものを見るように驚く。
 そんな、ロロナに少し笑みを浮かべてステルクは言った。

ステルク「あぁ、見事と言う他ないな。アストリッドも適当な判断で君にアトリエを任せた訳ではないみたいだな」

ロロナ「え、こ、これ本当? 実は夢とか?」

 確認するようにロロナがアルトリウスを見上げる。

アルトリウス「……ロロナは頑張ったのだから当然の評価だ。ロロナはこの評価に誇りと自信を持つべきだと思う」

ロロナ「う、うん」

ステルク「彼の言う通りだ。それでこそ、安心して君に仕事を任せられるのだから……次回もこの調子で頼む」

 ステルクはロロナを見てそう言った。
 ロロナがアルトリウスとステルクを交互に見る。
 そして、自信を持って言った。

ロロナ「は、はい! ありがとうございます!」

やばい、気がついたらこんな時間……。
これで第4話は終了、寝ます!

纏まった時間が取れないから、本編がなかなか書けない……。
なので、毒にも薬にもならない小ネタを少し投稿……すごく短いです。


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 番外1『アーランドの最新流行情報』
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 ロードラン……ではなく、アーランド。
 今から数百年前、とある古代遺跡を中心に造られた、とても小さな国。
 その国になる一軒のアトリエ。
 そこでは店主の少女がいつも通り釜に向って錬金術をしていた。


ロロナ「ぐ~るぐ~るぐ~る」


 両手で持った杖で釜の中をかき回す。
 手を動かしながら、視線を机の上に開いて置いてある本へと向ける。


ロロナ「えっと、ここで混ぜ方を変えて……ぐるぐるぐる~」


 アトリエの店主――ロロライナ・フリクセルが釜を掻き混ぜる手を速める。
 そして、再び、視線を本へと向けるとふむふむと文字を読み口を開いた。



ロロナ「なるほど……アーくん、ピュアオイル取って貰っていい?」


 ロロナがすぐ傍のソファーに座り、本を読んでいた鎧の男に話しかける。
 男は本から視線を上げるとロロナを見て言った。


アルトリウス「ん、ピュアオイル? ああ、あれか……」


 深淵歩きの騎士アルトリウスは『ジークマイヤーと病み村の蜘蛛姫』と書かれた本を閉じソファーの上に置く。
 そして、立ち上がり釜から少し離れたところにある机に向う。
 机の上にはやや濃い緑色の液体が入った小さな小瓶が置いてあった。
 その小瓶を持つと釜の近くまで行く。


ロロナ「えっと、ちょろちょろ~って入れてもらっていいかな?」

アルトリウス「ちょろちょろ? ……ああ、理解した」



 ロロナに言われたとおり、ゆっくりと小瓶の中の液体を釜の中に入れる。
 釜の中から真っ白な光が生まれるとどんどんと光が強くなっていく。
 そして、光が収まると釜の中には癒しのアロマと呼ばれる青色の四角い物体が入っていた。
 ロロナは手に持った杖を壁に立てかけ、それを釜から出すと近くの机の上に置いた。


ロロナ「できたー! アーくんもありが……」


 アルトリウスの方を向きお礼を言おうとしたロロナが止まる。


ロロナ「……じゃなかった! ちょっと待っててね?」


 何かを思い出したのか、すぐ傍に置いてあったポーチの近くまで行き中を漁る。



 そして、中から丸い顔のような木彫りを取り出し床に投げる。
 床に落ちた木彫りが砕ける。
 アトリエ内にロロナでもない、アルトリウスでもない。
 ものすごく低い第三者の声が響く。

『Thank~↑ You~↓』


ロロナ「……」

アルトリウス「……」

ロロナ「……どうかな?」


アルトリウス「どうかな? っと言われても……なんなんだ、それは?」

ロロナ「えっとね、今、アーランドで流行ってる木彫りなんだ」


 視線を床に向けると砕けたハズの木彫りはいつの間にか元に戻っていた。
 アルトリウスは木彫りを拾うとまじまじと観察して言った。


アルトリウス「これが……流行るのか……」

ロロナ「うん、流行ってるの。なんかね、塔の形の古い遺跡で山ほど見つかったんだって」

アルトリウス「これが……山ほど……」

ロロナ「うん、研究用に一個あればいいからってあとは全部お店で売ってるの」

アルトリウス「これが店で……山ほど……」

ロロナ「うん、山ほど!」


アルトリウス「ふむ……」


 説明を聞いたアルトリウスが木彫りを床に投げる。
 床に落ちた木彫りが砕ける。
 ものすごく低い第三者の声がアトリエ内に響く。

『Thank~↑ You~↓』

 それはロロナの説明に対するお礼であった。
 ロロナが床で復活した木彫りを拾い投げる。

『Thank~↑ You~↓』

 それはお礼に対するお礼であった。
 アルトリウスが床で復活した木彫りを拾い投げる。

『Thank~↑ You~↓』



アルトリウス(なんだろうか、これは……地味に……いや、すごくクセになるぞ!)


 ロロナが床で復活した木彫りを拾い投げる。

『Thank~↑ You~↓』


 アルトリウスが床で復活した木彫りを拾い投げる。

『Thank~↑ You~↓』


アルトリウス(ふむ……これは考えた者に是非会ってお礼を言いたいものだ……)


 ロロナが床で復活した木彫りを拾い投げる。

『Thank~↑ You~↓』



 アルトリウスが床で復活した木彫りを拾う。
 そして、木彫りを見てふと手が止まる。


アルトリウス(だが、しかし……なんだろうな、この声を聞くと懐かしい気持ちになるのは……)

ロロナ「……どうしたのアーくん?」


 動きを止め、木彫りを寂しげに見つめるアルトリウスを心配して尋ねる。
 アルトリウスは軽く頭を振って言った。


アルトリウス「……なんでもない」

ロロナ「そうなの? なんだか、寂しそうに見えたけど……」

アルトリウス「いや、大丈夫だ。心配かけてすまなかったな、ロロナ。その、ありが……いや、違ったな」


 アルトリウスが手に持った木彫りを床に投げる。
 床に落ちた木彫りが砕ける。
 ものすごく低い第三者の声がアトリエ内に響く。
 それは世界を越えた仲間からの感謝の声なのかもしれない……。

『Thank~↑ You~↓』

以上です。本編はまだ、待ってくださいorz

               /: : : : : : : : : : : : : ;;;',

     ビアトリーン     /: : : : : : : : : : : : : ; ;;;;l       っ
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 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』>>31

 第三話『怖そうな人と王国依頼で新しい店主』>>108

 第四話『材料不足と進入禁止で無口な三剣主』>>210

 番外1『アーランドの最新流行情報』>>305



 ――貴方が錬金術を始めてから一番、恥ずかしかった出来事は何ですか?

ロロナ「えっと、やっぱり、『キャベツ娘』と初めて呼ばれたときです……」

 ――ああ、キャベツ祭りの?

ロロナ「あれから、しばらくの間、『キャベツ娘』って言われるし……今でも、たまに呼ばれるし……」

 ――まあまあ、いいと思うわよ? 美少女キャベツ錬金術士ロロナちゃんとか

ロロナ「また、キャベツって言ってますよ! あと、どこから美少女が!?」

 ――次の質問、貴方が尊敬する人は誰ですか?

ロロナ「む、無視されたの!?」

 ――で、尊敬する人は?

ロロナ「はぁ……えっと、う~んと、アーくんとかかな?」

 ――アルトリウスさん?

ロロナ「はい。アーくんはいつも冷静で、剣を持つとすごく強くて、錬金術に使う材料を集めるとき、いつも手伝ってもらってますし……」

ロロナ「あ、でも、強いって言ったらステルクさんもジオさんも強いですし……」

 ――ロロナちゃんが尊敬する人は強い人?

ロロナ「う~ん、イクセくんくんもすごく美味しい料理が作れてすごくて」

ロロナ「くーちゃんもいつも手伝ってくれるほど優しくて、そんなくーちゃんもすごくて……」

 ――みんな尊敬する人ってことかな?

ロロナ「あ、はい! それです!」

 ――じゃあ、次は~

ロロナ「じゃなくて! あ、あの!」

 ――ん? どうしたの、ロロナちゃん?



 お昼のサンライズ食堂は今日も大繁盛で大勢のお客で賑わっていた。
 そんな大勢の目の前で不思議なやり取りをしていれば、当然のように周囲のお客達はロロナ達に注目する。
 テーブル席に座っていたロロナが恥ずかしさのあまり、向かいに座っていたエスティに言った。

ロロナ「これ、いつまで続くんですか、エスティさん……」

 顔を赤らめながら「……すごく恥ずかしいよぉ」と小声で呟く。

エスティ「『今、アーランドで一番にホットな天才美少女錬金術士ロロライナ・フリクセル突撃独占インタビュー!』のこと?」

ロロナ「そうですよ! って、そんなに長いタイトルだったんだ……」

エスティ「今やアーランドといえば錬金術士のロロナちゃん、ロロナちゃんといえばアーランドの錬金術士!」

ロロナ「また、無視された……」

エスティ「そんな有名人であるロロナちゃんを大々的に宣伝、アーランドの顔にしてアーランドをもっと賑やかにしよう!」

エスティ「って、アーランドにはすごく重要な企画なんだけど……」

ロロナ「それはわかりますけど……」

 そういうとロロナはすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干しカップを置く。

ソラール「貴公、紅茶はいるか?」

 するといつの間にか、淡い金色の光を放つ、太陽マークの刺繍が入った自作エプロンをした店員が立っていた。

ロロナ「お願いします」

エスティ「私にもお願いね」

 空のカップに紅茶を注ぐと手に持ったお盆の上からパイを二つテーブルに置く。
 オレンジを使用した甘く酸味のある『太陽の紅茶』と輪切りのオレンジがまるで太陽のように見える『太陽パイ』である。

ロロナ「わぁ、太陽パイだぁ~。でも、わたし、注文してませんよ?」

ソラール「これは俺から貴公達へのサービスだ。貴公達には俺が落ち込んでいたときに励まされたからな」

ロロナ「前にも言いましたけど、わたし達、何もしてませんよ?」

 ね?っと本を読みながらケーキをフォークで突いているアルトリウスの方へとロロナが顔を向ける。
 視線に気がついたアルトリウスはフォークで一口大にしたケーキを口に運び頷く。
 ちなみにアルトリウスが読んでいるのは発売したばかりの大人気書籍、『崖の上のロートレク』という本である。

ソラール「何、貴公達が忘れていても俺はずっと覚えているさ。太陽を見失っていた俺に貴公達が太陽を教えてくれたあの日のこと……」

ロロナ「う~ん?」

ソラール「そういう訳でこれは俺からの感謝の印だ。太陽の紅茶には、太陽パイがよく合うんだ。ウワッハッハッハハ」

 そう言うとソラールは再び、あっちこっちのテーブルを回り始める。
 錬金術士としてアーランドで忙しい毎日を過ごす、ロロライナ・フリクセル。
 そんなロロナを手助けするアルトリウス達。

 ――あの日の出会い。
 ――ロロナとアルトリウスが出会ってから、三年の月日が流れた。


       第五話『白いサインろう石と不死の英雄で辿る足跡』






クローネ「あら~」

パメラ「あら~?」

クローネ「あら、まあ~」

パメラ「う~ん、あ!」

クローネ「あら~」

パメラ「うふふ、あら~」

クローネ「あらあら~」

パメラ「あらあら~」


エスカ「……」

ロロナ「……」

エスカ「クローネ……個性的な会話ですごく良かったよ!」

ロロナ「えぇえええ!?」


~パイ狂いなふたり~


エスカ「――つまり! 探索装備にパイを入れることで毎日、パイが食べれるんです!」

ロロナ「つ、つまり、それは探索装備をパイでいっぱいにすれば……」

エスカ「……はい! 毎日、パイが食べ放題です!」

エスカ「と言っても、わたし一人だとすごく時間が……」

ロロナ「大丈夫だよ! わたしも……わたしとエスカちゃんの夢(ロマン)を叶えるために頑張って協力するから!」

エスカ「ロロナちゃん……うん、ありがとう!」

ロロナ「二人でわたし達の夢の為に頑張ろうー!!」

エスカ「おー!!」



――それから、数日後……。


アルトリウス「――チッ」

 飛びかかってきた巨大な獣の攻撃を両手で構えた大剣で受け止める。
 獣の攻撃は重く、アルトリウスは片膝をつき、獣の持つ巨大な爪を抑える。
 攻撃を防ぎながら、視線を近くの仲間に向け言った。

アルトリウス「今だ、ロジー!」

ロジー「わかった! フラムでそいつを吹き飛ばす!」

 そう答え、探索装備用のカバンへと手を伸ばし中を探る。
 しかし、どれだけ探してもフラムらしい物を見当たらない。
 ロジーは不審に思いカバンの中を覗くと……。

ロジー「なっ!?」

 ……カバンの中には大量のフルーツパイしか入っていなかった。




~マリオンの春?~


リンカ「――最近、マリオンの様子が変なんです」

 エスカ、ロジーの二人が話していると、リンカがアトリエの扉を開けるなりそう言った。


エスカ「……マリオンさんがですか?」

 そう言うと顔を見合わるロジーとエスカ。


ロジー「最近ですよね? 特に変わったところは……いつも通りだと思いますが」

 ロジーの言葉に首を横に振りリンカは言った。 

リンカ「いえ、あのマリオンはどう考えてもいつもと違います!」

リンカ「なんと言えばいいか……話している時、たまに顔を赤くしたり」

リンカ「書類仕事をしている時、ふと、寂しそうな顔をしたり……とにかく、実際に見てもらうのが一番です!」

リンカ「ついて来てください!」

 そう言うとリンカはアトリエの外へと出て行く。
 ロジー達はそんなリンカを不思議に思いながらあとに続くのであった。


***


 リンカの後を追って市街に来た二人は物陰に隠れながら言った。

エスカ「あれは……マリオンさんとアルトリウスさん?」

 そこには楽しげにアルトリウスに話しかけるマリオンと彼女の話に頷くアルトリウス。
 そんな二人がクレープ片手に市街を歩いている姿だった。

ロジー「珍しい組み合わせだな……いや、珍しすぎる」

 市街を歩く二人を見ながらロジーが言った。
 そんなロジーの言葉を同じく物陰に潜んでいたリンカが否定した。

リンカ「いえ、そうでもありません。ここ数日、あのように二人で話している姿を何度か目撃していますので……」

エスカ「へぇ~、意外ですね。」

ロジー「つけてたんですか?」

リンカ「はい」

ロジー「……騎士のアルトリウスと開発班の班長のマリオンさんか………………駄目だ、会話の内容が想像できない」

 頭を抱えるロジー。
 頬に人差し指を当て、う~んと唸っていたエスカがふと口を開く。

エスカ「……恋、とか?」



リンカ「故意?」

エスカ「うん、そうですよ! あのマリオンさんのアルトリウスさんを見る目! あれは片思いしている乙女の目!」

ロジー「そんな馬鹿なこと……」

エスカ「いいえ、あれは正しく恋する乙女の目ですよ! 間違いありませんって!」

リンカ「な、なんと! マリオンは恋をしているのですか!」

リンカ「な、なるほど! 今にして思えば、確かに思い当たることが……」

ロジー「いや、普通にクレープを食べに来ただけじゃ……」

リンカ「故意、濃い、恋……マリオンは26……年齢的にこれを逃すと……う~ん……」

リンカ「……わかりました、マリオンのその片思いな恋! 必ず成就させてみせます!」

エスカ「リンカさん、わたしも手伝います!」

リンカ「ええ、二人でマリオンの片思いな恋を手助けしましょう!」

エスカ「おー!」

 リンカの言葉に握りこぶしを作り、天高く手を上げるエスカ。

ロジー(アルトリウスが元の世界の住人であること、班長が理解していないとは思えないのだが……)

ロジー(……それよりも、この二人の暴走が厄介事を起こさないことを祈りたいところだ)

 そんな二人を見て、これから起こるであろう問題事に額を抑えるロジーであった。


今日はこれで終わり。
5話以降、ダクソ某イベント用の新展開は小ネタみたいな展開になります。
クローネ&パメラ遭遇はネタですけど……。

12時から更新します。

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 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』>>31

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 第四話『材料不足と進入禁止で無口な三剣主』>>210

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 小ネタ >>355



 ――深淵歩きの騎士と若き錬金術士の出会い。
 ――あの日の出会いから三年の月日が流れた……。

 ――突然ですが、貴方が錬金術を始めてから一番、恥ずかしかった出来事は何ですか?

ロロナ「えっ!? え、えっと、やっぱり、『キャベツ娘』と初めて呼ばれたときです……」

 ――ああ、キャベツ祭りの?

ロロナ「あれから、しばらくの間、『キャベツ娘』って言われるし……今でも、たまに呼ばれるし……」

 ――まあまあ、いいと思うわよ? 美少女錬金キャベツ術士ロロナちゃんとか

ロロナ「また、キャベツって言ってます! 名前がキャベツ専門みたいになってます!」

 ――次の質問、貴方が尊敬する人は誰ですか?

ロロナ「む、無視された!?」

 ――尊敬する人は?

ロロナ「……えっと、う~んと、アーくんとかかな?」

 ――アルトリウスくん?

ロロナ「はい。アーくんはいつも冷静で、武器を持つとすごく強くて、錬金術に使う材料を集めるとき、いつも手伝ってもらってますし……」

ロロナ「あ、でも、強いって言ったらステルクさんもジオさんも強いですし……」

 ――ロロナちゃんが尊敬する人は強い人?

ロロナ「う~ん、イクセくんくんもすごく美味しい料理が作れてすごくて」

ロロナ「くーちゃんもいつも手伝ってくれるほど優しくて、そんなくーちゃんもすごくて……」

 ――みんな尊敬する人ってことかな?

ロロナ「あ、はい! それです!」

 ――じゃあ、次は~

ロロナ「じゃなくて! あ、あの!」

 ――ん? どうしたの、ロロナちゃん?





ロロナ「これ、いつまで続くんですか、エスティさん……」

 お昼のサンライズ食堂は今日も大繁盛で大勢のお客で賑わっていた。
 そんな大勢の目の前で不思議なやり取りをしていれば、当然のように周囲の目はロロナ達を注目する。
 顔を赤らめながら「……すごく恥ずかしい」とロロナは小声で呟いた。

エスティ「『今、アーランドで一番にホットな天才美少女錬金術士ロロライナ・フリクセル突撃独占取材!』のこと?」

ロロナ「そうですよ! って、そんなに長いタイトルだったんだ……」

エスティ「今やアーランドといえば錬金術士のロロナちゃん、ロロナちゃんといえばアーランドの錬金術士!」

ロロナ「む、無視された!?」

エスティ「そんな有名人であるロロナちゃんを大々的に宣伝、アーランドの顔にしてアーランドをもっと賑やかにしよう!」

エスティ「って、アーランドにはすごく重要な企画なんだけど……」

ロロナ「そんなに重要だったんだ……」

 ロロナはすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干しカップを置く。

ソラール「貴公、紅茶はいるか?」

 いつの間にか、淡い金色の光を放つ、太陽マークの刺繍が入った自作エプロンをした店員が立っていた。

ロロナ「お願いします」

エスティ「私にもお願いね」

 空のカップに紅茶を注ぐと手に持ったお盆の上からパイを二つテーブルに置く。
 オレンジを使用した甘く酸味のある『太陽の紅茶』と輪切りのオレンジがまるで太陽のように見える『太陽パイ』である。

ロロナ「わぁ、太陽パイだぁ~。でも、わたし、注文してませんよ?」

ソラール「俺から貴公へのサービスだ。貴公達には世話になったからな」

ロロナ「前にも言いましたけど、わたし達、何もしてませんって」

 ね?っと本を読みながら太陽パイを突いているアルトリウスを見る。
 ロロナの視線に気づいたアルトリウスはフォークで一口大にしたパイを口に運びながら頷く。
 アルトリウスが読んでいる本は発売したばかりの大人気書籍『崖の上のロートレク』という本である。
 ちなみにこの本、続きもので不死の英雄とロートレクによる心温まるストーリーをメインに書かれている。
 特に一巻の見所であるロートレクが崖から落下するシーンは……必見である。



ソラール「何、貴公達が忘れていても俺はずっと覚えているさ……」

ロロナ「う~ん、ん?」

ソラール「……そういう訳でこれは俺からの感謝の印だ。太陽の紅茶には、太陽パイがよく合うんだ。ウワッハッハッハハ」

 そう言うとソラールは再び、あっちこっちのテーブルを回り始める。
 ロロナは首をかしげるとテーブルに置かれた太陽パイをフォークで一口大にして口に運ぶ。

ロロナ「そういえば、さっきのアーくんもですか?」

エスティ「ん? インタビュー?」

ロロナ「あ、はい。そのわたしだけじゃなくて、アーくんも来て欲しいとのことだったので……」

エスティ「あ~、違う違う。さっきのはついで、こっちは本題ね」

ロロナ「え? さっき、重要って……」

 その疑問に答えるようにエスティはニコリと笑った。
 その意味を理解したロロナは「はぁ」とため息をつく。

エスティ「で、オルトガ遺跡の奥にある、円形の遺跡は知ってるわよね?」

ロロナ「あ、はい。前に牛頭のモンスターが出て、アーくんが倒しに行ったところですよね?」

エスティ「ええ、それでね、その円形の遺跡に騎士の幽霊が出るらしいの」

ロロナ「ゆ、幽霊ですか……」

エスティ「そうよ、鎧兜を着た幽霊……」

ロロナ「ゆ、幽霊……」

 怯えるロロナを見て、エスティが目を細める。



エスティ「これはね? 私が聞いた……露天商の少女とその友達、旅芸人の少女から聞いた話なんだけど――」


 ――露天商の少女は遺跡から発見した遺跡物や錬金術の材料を商品にしている、少し変わった商売をしていた。
 その日も商品を探すために旅芸人の少女と一緒にオルトガ遺跡にやってきた。
 二人の少女はオルトガ遺跡で遺跡物や素材を探して、カゴがいっぱいになる頃には日が暮れていた。
 カゴもいっぱいになり、暗くなってきたのもあり、二人の少女は街に戻るには丁度いいだろうと振り返ると――


エスティ「――そこには血まみれの騎士がっ!!」

ロロナ「いやぁああああああああ!!」

エスティ「……というのは冗談よ」

ロロナ「じょ、冗談……うぅ、脅かさないでくださいよ、エスティさん!」

エスティ「まぁ、冗談は騎士の見た目ね。幽霊を見たっていうのは本当みたいよ?」

ロロナ「そ、それはそれで怖いですね……」

エスティ「その騎士の幽霊は何かを確認するようにじっと観察するとそのまま黒い霧を纏って消えたらしいの」

エスティ「で、怖いから調査して欲しいって頼まれたんだけど……」

エスティ「辺りが暗かったとかなら見間違いってこともあるでしょ? 被害もなかったから、こちらも動くに動けないのよね……」

エスティ「そこで!」

ロロナ「……そこでわたしとアーくんですか?」

エスティ「そういうこと」

エスティ「で、ロロナちゃん! この依頼、受けてみない?」



***



ロロナ「うぅぅ……」

ロロナ「ゆ、幽霊、出てきたら、くーちゃ~ん……」

 オルトガ遺跡。
 その深い森の中を歩きながらロロナは言った。

クーデリア「おおお、落ち着きなさいよ! ゆ、幽霊なんて居る訳ないじゃない!」

 クーデリアが前を歩くアルトリウスを指差す。

クーデリア「だだだ、大体! ちょ調査ならあいつ一人でも問題ないでしょう!」

ロロナ「で、でも、わ、わわたしが受けた仕事だし……」

クーデリア「そもそも、な、なんで怖いのに受けたのよ」

ロロナ「だ、だって、困ってるみたいだし……そ、それにく、くーちゃんだって、ここ、怖がって……」

クーデリア「べべべつにここ、怖くないわよ? ここ、怖がってないわよ? ばば、バカロロナ」

ロロナ「えぇ~、何故!?」

 アルトリウスが歩みを止め、目の前の巨大な遺跡を見ながら言った。

アルトリウス「ここには以前、牛頭のモンスターが居た……」

アルトリウス「また、何が居座っていてもおかしくない。警戒はした方がいい」

 その言葉にロロナは杖をクーデリアは拳銃を構える。
 アルトリウスを先頭に三人は遺跡の入口へと向かう。

 円形闘技場のような遺跡、その壁にぽっかりと空いた穴のような入口。
 その入口を潜り、広場へと続く長い通路を歩いていく。
 通路の左右には階段のあり、階段、正面、後方、敵が潜むであろう場所を警戒しながら広場へと入った。



ロロナ「……何も出てこなかったね」

 日が傾き始めた頃、ロロナが言った。
 その言葉にクーデリアが銃を仕舞う。

クーデリア「ほら! やっぱり、ただの見間違いじゃない!」

ロロナ「みたいだね」

クーデリア「ほら、ほら! やっぱり、そうだったじゃない! 全くビビって損したわ!」

ロロナ「……ん?」

 その言葉を聞いたロロナがはっと気がつく。

ロロナ「やっぱり、くーちゃん、怖がってたんだね!」

クーデリア「んなっ! 怖がってないわよ!」

ロロナ「またまた~」

クーデリア「うがー!」

アルトリウス「……もう、調査はいいだろう。暗くなる前に戻った方がいい」

 周囲を警戒していたアルトリウスが左で構えていた大剣を下ろし言った。

クーデリア「そうね」

クーデリア「こんな場所、何も出なくても気味が悪いもの……さっさと帰りたいわ」

ロロナ「うん、わたしも……え?」

 ――ふと、ロロナの言葉が途切れる。

クーデリア「……『わたしも』何よ?」

 クーデリアがロロナに視線を向ける。
 ロロナは何かに驚き、一箇所を指差していた。
 パクパクと口を開けるが声が出てこない。
 クーデリアはロロナが指差す場所へと視線を向ける。
 ――そして、何を見たのかを理解した。

クーデリア「……っ!?」

 視線の先には左手をダラリと垂らし、こちらに視線を向けるアルトリウスの姿があった。
 左手を怪我しているのか右手で持った大剣を肩に担ぎ、こちらをじっと観察していた。


 ――アレはアルトリウスではない。
 アルトリウスは自分達のすぐ近くで両手で大剣を構え、ソレを警戒したのだから……。

 ――アレはアルトリウスではない。
 アルトリウスは左手を怪我していない。
 アレを見据えたまま、大剣を両手で構えたまま、アレと自分達の間に立ったのだから……。

 ――アレは
 ――アレは
 ――アレは
 ――アレは
 ――じゃあ、アレは、誰?




「ォオオオオオオオオオッ――――――――――!!」

 雄叫びと共に騎士の周囲を漆黒の霧が包んでいく……。
 騎士の周囲に集まる、その漆黒の霧。
 アルトリウスはその霧に覚えがあった。

アルトリウス「この感じは……まさか――」

 漆黒を纏った騎士が右手で持った大剣を振り上げ、飛び上がり、アルトリウスに襲いかかったことで言葉は遮られた。
 アルトリウスは目の前に大剣を構え、騎士の大剣を防ぐ。

アルトリウス「――クッ!?」

 漆黒を纏った騎士の一撃は重く、アルトリウスの身体が沈む。

ロロナ「アーくん!!」

アルトリウス(……右手一本でこの重さかッ!)

アルトリウス「だ、大丈夫だ……二人は何処かに隠れていて、欲しい」

 漆黒を纏った騎士がその剣に力を込める。
 アルトリウスが思わず膝をつく。

クーデリア「……隠れるわよ、ロロナ!」

ロロナ「で、でも!」

クーデリア「あいつがそう言ったなら、それだけ危険なのよ……悔しいけど、現状の装備だと、足で纏でしかないわ」

 錬金術士はしっかりとした準備をして対等以上に戦える。
 だが、事前に予想できない強敵と出会った場合は不可能である。
 そう、今の装備では漆黒を纏った騎士と対等に戦うことは出来ない。

ロロナ「……う、うん」

 理解したロロナはクーデリアに引っ張られるように入口の方へ急ぐ。
 視線をアルトリウスの方へ向ける。
 そこには体勢を立て直し、漆黒を纏った騎士に斬りかかるアルトリウスの姿があった。





***



 逃げるロロナ達の姿を確認したアルトリウス。
 『深淵纏いの騎士』の大剣を自分の真横へと刃の上を滑らせ落とすと、身体を捻り全身で大剣を振るう。
 が、『深淵纏いの騎士』は真横に振るわれたアルトリウスの大剣を姿勢を低くし回避する。

アルトリウス(その姿勢から対応するか!?)

 屈んだ姿勢から『深淵纏いの騎士』は全身のバネを使い大剣を振り上げる。

アルトリウス「――ッ!?」

 アルトリウスは急ぎ、その一撃を身体を捻った方向へ転がり回避する。 
 急ぎ起き上がり、『深淵纏いの騎士』から距離を置くように後ろへと飛ぶ。
 地面に着地し敵を見据えながら大剣を構える。

アルトリウス(この戦い方……この感じ……まるで自分と戦っているような気分だ……)

アルトリウス(いや、馬鹿馬鹿しい……私はココに居るのにか?)

アルトリウス(くだらない……アレとの戦いに要らぬ思考をする余裕はない!)

 アルトリウスが動く。
 『深淵纏いの騎士』へ真っ直ぐ走り、剣先を真っ直ぐに突き出した。
 その剣を『深淵纏いの騎士』避けるために身体を数ミリ動かした瞬間――アルトリウスは反応した。
 その姿勢から、片足を軸に大剣の重さを利用して身体を回転させる。
 『深淵纏いの騎士』が回避行動を取ることを予想しての突進突きからの回転斬りであった。




 予想通り、『深淵纏いの騎士』は突きを真横に避ける。
 しかし、アルトリウスの攻撃が突きから変化したことでそれは無駄な行動へと変わる。
 その一瞬の隙は次の回避行動を取る前に『深淵纏いの騎士』を斬るのに十分であった。
 アルトリウスの刃が間近まで迫る。


深淵纏いの騎士「ォオオオオオオオオオッ――――――――――!!」

 『深淵纏いの騎士』が雄叫びを上げた。
 その纏った深淵の闇が黒炎のように立ち上り、騎士を中心に爆発する。
 その刃が食い込むことはなく、アルトリウスは吹き飛ばされ地面に転がった。
 なんとか体勢を立て直し、起き上がろうとするアルトリウスに向け、高く飛び上がった『深淵纏いの騎士』の大剣が迫る。
 横に転がり刃を避け、回避行動の勢いを利用し起き上がる。
 そして、起き上がったアルトリウスに『深淵纏いの騎士』の突きが迫る。
 アルトリウスは急所を庇うように大剣を逆手に構える。

 ――逆手に構えたアルトリウスの大剣と『深淵纏いの騎士』の大剣が衝突する。

アルトリウス(……違う)

 ――違和感が……。

アルトリウス(……奴は命など興味がない?)

 ――アルトリウスの持つ大剣、深淵の闇に飲まれた大剣に小さな亀裂が入る。

アルトリウス(振り下ろされた刃は……振り上げた刃は……突き出された刃は……全て……)

 ――亀裂が広がって……。

アルトリウス(……左手を狙ったモノ)

 ――深淵の大剣はついに折れた。

深淵纏いの騎士「ォオオオオオオオオオッ――――――――――!!」

 ――そして、『深淵纏いの騎士』の大剣は彼の左腕を貫き、その胸に突き刺さった。




***



 ――目の前の光景を信じられなかった。
 アルトリウスの左手から折れた深淵の大剣だった物が落ちる。
 右手は力が抜けたようにダラリと垂れ、やがて、それは彼の全身へと広がる。
 『深淵纏いの騎士』がその身体から大剣を引き抜く。
 支えを失ったアルトリウスの身体がゆっくり、ゆっくりと地面に倒れた。
 アルトリウスに興味を無くしたように『深淵纏いの騎士』は背を向ける。
 起き上がらないアルトリウス。
 それを見て、頭の中に一つの言葉が浮かんだ。

 ――その意味を理解して
 ――ロロナは目の前の現実から逃げるように意識を失った。





***



クーデリア「嘘、何かの間違――」

 物陰に隠れ、一部始終を見ていたクーデリアは目の前の光景を見て言った。
 クーデリアの隣で一緒に見ていたロロナが倒れる。

クーデリア「――ロロナ!?」

 その身体が地面につく前に抱きとめたクーデリアは視線を目の前の光景へと向ける。
 『深淵纏いの騎士』はアルトリウスから興味を無くしたように背を向ける。

クーデリア(……この場から立ち去る?)

クーデリア(なら、立ち去った後にあいつを急いで手当して、助けを呼んで……)

クーデリア(……あいつ、何をするつもりよ?)

 そこには右手を空に向ける『深淵纏いの騎士』の姿があった。
 全身から深淵の闇が黒炎のように立ち上り、深淵の闇が空を貫いた。
 空に亀裂が入り、そして、その亀裂は全体へと広がって――空が砕けた。

 瞬間、世界がズレた。
 目の前の世界と黄昏色の世界がズレては重なる。

クーデリア「――うぐっ!」

 その光景にクーデリアは気分が悪くなる。

クーデリア(駄目、意識が――)

 ――意識を失う瞬間、クーデリアには目の前の世界と黄昏色の世界が混ざり合い
 ――二つの世界が重なったように見えた。

 
 

      第五話『深淵歩きの騎士と深淵纏いの騎士で交わる世界』




今日はここまで。

>>375の修正。
>その纏った深淵の闇が黒炎のように立ち上り、騎士を中心に爆発する。
フロム繋がりでもアサルトアーマーは不味い……。
ということで、わかりやすい伏線に修正します。





 予想通り、『深淵纏いの騎士』は突きを真横に避ける。
 しかし、アルトリウスの攻撃が突きから変化したことでそれは無駄な行動へと変わる。
 その一瞬の隙は次の回避行動を取る前に『深淵纏いの騎士』を斬るのに十分であった。
 アルトリウスの刃が間近まで迫る。


深淵纏いの騎士「ォオオオオオオオオオッ――――――――――!!」

 『深淵纏いの騎士』が雄叫びを上げ、手に持った大剣を逆手に持ち地面に突き立てた。
 アルトリウスの刃が『深淵纏いの騎士』に食い込む。
 『深淵纏いの騎士』の大剣から、地面に突き刺ささった箇所から深淵の闇が吹き出し、騎士の後方から無数の球体が出現する。
 そして、その漆黒の球体はアルトリウス目掛け、一斉に襲いかかった。
 それは闇の魔法。

アルトリウス「――!?」

 アルトリウスは体勢から回避行動を取ることが出来ない。
 結果、アルトリウスを目標に集弾した漆黒の球体は全て直撃し、吹き飛ばされ地面に転がった。
 なんとか体勢を立て直し、起き上がろうとするアルトリウスに向け、高く飛び上がった『深淵纏いの騎士』の大剣が迫る。
 横に転がり刃を避け、回避行動の勢いを利用し起き上がる。

 そして、起き上がったアルトリウスに『深淵纏いの騎士』の突きが迫る。

 アルトリウスは急所を庇うように急ぎ大剣を逆手に構える。


 ――逆手に構えたアルトリウスの大剣と『深淵纏いの騎士』の大剣が衝突する。

アルトリウス(……違う)

 ――違和感が……。

アルトリウス(……奴は命など興味がない?)

 ――アルトリウスの持つ大剣、深淵の闇に飲まれた大剣に小さな亀裂が入る。

アルトリウス(振り下ろされた刃は……振り上げた刃は……突き出された刃は……全て……)

 ――亀裂が広がって……。

アルトリウス(……左手を狙ったモノ)

 ――深淵の大剣はついに折れた。

深淵纏いの騎士「ォオオオオオオオオオッ――――――――――!!」

 ――そして、『深淵纏いの騎士』の大剣は彼の左腕を貫き、その胸に突き刺さった。





***



 ――目の前の光景を信じられなかった。
 アルトリウスの左手から折れた深淵の大剣だった物が落ちる。
 右手は力が抜けたようにダラリと垂れ、やがて、それは彼の全身へと広がる。
 『深淵纏いの騎士』がその身体から大剣を引き抜く。
 支えを失ったアルトリウスの身体がゆっくり、ゆっくりと地面に倒れた。
 アルトリウスに興味を無くしたように『深淵纏いの騎士』は背を向ける。
 起き上がらないアルトリウス。
 それを見て、頭の中に一つの言葉が浮かんだ。

 ――その意味を理解して
 ――ロロナは目の前の現実から逃げるように意識を失った。



***



クーデリア「嘘、何かの間違――」

 物陰に隠れ、一部始終を見ていたクーデリアは目の前の光景を見て言った。
 クーデリアの隣で一緒に見ていたロロナが倒れる。

クーデリア「――ロロナ!?」

 その身体が地面につく前に抱きとめたクーデリアは視線を目の前の光景へと向ける。
 『深淵纏いの騎士』はアルトリウスから興味を無くしたように背を向ける。

クーデリア(……この場から立ち去る?)

クーデリア(なら、立ち去った後にあいつを急いで手当して、助けを呼んで……)

クーデリア(……あいつ、何をするつもりよ?)

 そこには右手を空に向ける『深淵纏いの騎士』の姿があった。
 全身から深淵の闇が黒炎のように立ち上り、深淵の闇が空を貫いた。
 空に亀裂が入り、そして、その亀裂は全体へと広がって――空が砕けた。

 瞬間、世界がズレた。
 目の前の世界と黄昏色の世界がズレては重なる。

クーデリア「――うぐっ!」

 その光景にクーデリアは気分が悪くなる。

クーデリア(駄目、意識が――)

 ――意識を失う瞬間、クーデリアには目の前の世界と黄昏色の世界が混ざり合い
 ――二つの世界が重なったように見えた。

 
 

      第五話『深淵歩きの騎士と深淵纏いの騎士で交わる世界』





***



 崖を斜めに切りるような形で設置された石階段。
 青々としたコケの生えた石階段を錬金術士が地図を片手に慎重に降りていく。
 長い石階段を下りながら、ふと、アストリッドは思った。

アストリッド「……とある愛弟子ならこの階段で転倒し、そのまま下まで転がり落ちるような芸当を見せてくれるのだろうか」

 とある愛弟子が聞いたら「なりません!」と全力で否定しつつ、その斜め上を行く芸当を見せるのだろう。
 が、現在、この場にはアストリッドしか居なかった。
 最後の階段を下り、緑の生い茂る平原を歩いていく。
 足を止め、手に持った地図を確認し、目の前の石造りの巨大な塔を見上げて言った。

アストリッド「……ここだな」

 地図を仕舞うとアストリッドは壁に触れ、巨大な塔の周囲を歩き入口を探す。
 一周するが何処にも入口らしいものが見当たらない。

アストリッド(入口どころか、窓すらない……)

アストリッド(……誰も入ることが出来ない)

アストリッド(墓か、それとも別の何かか……どちらにしても、入れないのなら、壊すしかないか)


 ――その必要はありません。今、お迎えしますので……。

 誰かの声が聞こえ。
 そして、アストリッドの意識がそこで途切れた。





 冷たい床の感触にアストリッドが目を覚ます。
 ぽっかりと空いた真っ黒な穴。穴に蓋をするように塞ぐ透明な床。
 アストリッドはその透明な床の上に寝転がっていた。立ち上がり、周囲を見る。
 部屋の中央に透明の円形な床が、それを囲むように石の階段や石の床。
 そして、それらの周囲を石の壁が覆っている。

アストリッド(階段や壁の形状から、空間は円筒状、石造りの塔内部といったところか……)

 
「目が覚めましたか?」

 階段を降り、一人の女性が現れる。
 女性が近づいてきたことで、その姿が特徴的であることに気がついた。
 黒い布を巻きつけたような黒衣を身に纏い、黒い蝋のようなもので顔の上半分を潰している。
 手には長い灯火杖を持っており、素足で地面を探るように歩いてくる。
 アストリッドの前で立ち止まり言った。

「すみません、魂だけという形で迎えてしまい……人はここには入れませんので……」

 その言葉にアストリッドは自分の身体が青白い淡い光を放っていることに気がついた。
 自分の身体は無事なのだろうか。思考していると黒衣の女が言った。

「肉体は無事です……出る際に肉体へ戻れるよう、あなたの魂をご案内します」

アストリッド「……何処だ?」

 確認する為、黒衣の女にアストリッドが聞く。

「……あなたが探していた『最初の火の炉』と繋がる……ここはその間、楔の神殿です」

アストリッド「お前は――」

「――私は、名乗れる名前はありません。必要でしたら火防女、と…………来てください、ご案内します」

 黒衣の火防女が透明な床を灯火杖で叩く。
 透明な床が消え、アストリッドと黒衣の火防女が真っ黒い穴の中へと落下する。 
 長い間、真っ暗な闇を落ちていると、小さな光が見えてきた。
 光が大きくなるにつれて、落下速度がだんだんと遅くなる。
 地面がすぐ傍まで迫ったとき、アストリッドの身体がふわりと浮いて、ゆっくりと足が地面についた。

アストリッド「もっと、マシな方法は無かったのか?」

黒衣の火防女「……こちらへ」

 そう言うと黒衣の火防女は奥へと進んでいく。
 やれやれと言わんばかりにアストリッドは手を広げ、後を追う。



すみません、眠いのでここまでにします。

ゆっくり更新します。
>>384から第6話という形にしましたので、最初の方から投稿し直します。

                _/ ̄ ̄ ̄ ヽ
             __/ / <、      \
            / /ヲフ、\  ヽ     └、
.           /´//i  `ヽ\  丶─\  ト、

           / .{´      ヽ ヽ  ヽ ー-ヽ__i | _
.          /  i  ∧. 、_   ヽヽ  ト   }::\/::::{
          {   .| /\`  ` ,>、i |  i `ー -}:-:ノヽ_:{_
         入  i {─、   ´ ,r-..、リ   i / ´ ∧    \
        / ヽ  V/テヾ.   ´ {,::ij:::}|.  └、 / i ヽ   \ 入
       //  >、 入弋ソ     ー´ .}   |/ }\ {_ \_    ヽ、
        人 /_入 `、::::::!.    ::::::::i  レ´\. \_ ̄`ヽ、`─、 }`ヽ
        V_/´入 i.、  t-フ  イ /、.  \\_  ̄   ヽ } |
     r  ̄   /  i | > .`_, < | ト、:::\_ \__`ヽ─、\.|´┘
    / / フ  /  / .} レ::´/:::::_j   i/ レ::/::}E} \ヽ`ヽ\ }>/、


 第一話『錬金術士と深淵歩きの騎士で新しい時代』>>2

 第二話『錬金術と材料集めで不思議な出会い』>>31

 第三話『怖そうな人と王国依頼で新しい店主』>>108

 第四話『材料不足と進入禁止で無口な三剣主』>>210

 番外1『アーランドの最新流行情報』>>305

 小ネタ >>355

 第五話『深淵歩きの騎士と深淵纏いの騎士で交わる世界 ~前編~』 >>366~>>374>>382


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 第六話『深淵歩きの騎士と深淵纏いの騎士で交わる世界 ~後編~ 』
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 崖を斜めに切りるような形で設置された石階段。
 青々としたコケの生えた石階段を錬金術士が地図を片手に慎重に降りていく。
 長い石階段を下りながら、ふと、アストリッドは思った。

アストリッド「……とある愛弟子ならこの階段で転倒し、そのまま下まで転がり落ちるような芸当を見せてくれるのだろうか」

 とある愛弟子が聞いたら「なりません!」と全力で否定しつつ、その斜め上を行く芸当を見せるのだろう。
 が、現在、この場にはアストリッドしか居なかった。
 最後の階段を下り、緑の生い茂る平原を歩いていく。
 足を止め、手に持った地図を確認し、目の前の石造りの巨大な塔を見上げて言った。

アストリッド「……ここだな」

 地図を仕舞うとアストリッドは壁に触れ、巨大な塔の周囲を歩き入口を探す。
 一周するが何処にも入口らしいものが見当たらない。

アストリッド(入口どころか、窓すらない……)

アストリッド(……誰も入ることが出来ない)

アストリッド(墓か、それとも別の何かか……どちらにしても、入れないのなら、壊すしかないか)


 ――その必要はありません。今、お迎えしますので……。

 誰かの声が聞こえ。
 そして、アストリッドの意識がそこで途切れた。


 冷たい床の感触にアストリッドが目を覚ます。
 ぽっかりと空いた真っ黒な穴。穴に蓋をするように塞ぐ透明な床。
 アストリッドはその透明な床の上に寝転がっていた。立ち上がり、周囲を見る。
 部屋の中央に透明の円形な床が、それを囲むように石の階段や石の床。
 そして、それらの周囲を石の壁が覆っている。

アストリッド(階段や壁の形状から、空間は円筒状、石造りの塔内部といったところか……)

 
「目が覚めましたか?」

 階段を降り、一人の女性が現れる。
 女性が近づいてきたことで、その姿が特徴的であることに気がついた。
 黒い布を巻きつけたような黒衣を身に纏い、黒い蝋のようなもので顔の上半分を潰している。
 手には長い灯火杖を持っており、素足で地面を探るように歩いてくる。
 アストリッドの前で立ち止まり言った。

「すみません、魂だけという形で迎えてしまい……人はここには入れませんので……」

 その言葉にアストリッドは自分の身体が青白い淡い光を放っていることに気がついた。
 自分の身体は無事なのだろうか。思考していると黒衣の女が言った。

「肉体は無事です……出る際に肉体へ戻れるよう、あなたの魂をご案内します」

アストリッド「……何処だ?」

 確認する為、黒衣の女にアストリッドが聞く。

「……あなたが探していた『最初の火の炉』と繋がる……ここはその間、楔の神殿です」

アストリッド「お前は――」

「――私は、名乗れる名前はありません。必要でしたら火防女、と…………来てください、ご案内します」

 黒衣の火防女が透明な床を灯火杖で叩く。
 透明な床が消え、アストリッドと黒衣の火防女が真っ黒い穴の中へと落下する。 
 長い間、真っ暗な闇を落ちていると、小さな光が見えてきた。
 光が大きくなるにつれて、落下速度がだんだんと遅くなる。
 地面がすぐ傍まで迫ったとき、アストリッドの身体がふわりと浮いて、ゆっくりと足が地面についた。

アストリッド「もっと、マシな方法は無かったのか?」

黒衣の火防女「……こちらへ」

 そう言うと黒衣の火防女は奥へと進んでいく。
 やれやれという形でアストリッドは手を広げると、黒衣の火防女の後を追う。




 しばらく歩いていると大きな扉が目の前に現れる。
 一つの岩を加工して作られたような、継ぎ目のない大きな扉。
 扉の前には大きな金色の器が置いてあった。

アストリッド「王の器か……」

 アストリッドの言葉に黒衣の火防女は頷くと杖の先を器に向け、火を灯した。
 器の火に連動するように扉が開く。開いた扉から真っ白な空間が見えた。

黒衣の火防女「……ここから先は歩くだけです」

 黒衣の火防女が真っ白な空間へと入っていく。
 その後に続き、アストリッドも中へと入る。
 真っ白な空間をしばらく歩くと、空間を区切るように別の風景が見えてきた。
 灰色の雲と雲間から見える黄昏色の空、灰色の地面、所々に見える遺跡。
 アストリッドは灰色の地面を歩きながら黒衣の火防女に話しかける。

アストリッド「……火防女はお前だけなのか?」

黒衣の火防女「彼女らの使命は世界に散らばる火の番をすること……今は使命を終え、その魂も救われています」

黒衣の火防女「不死の英雄が世界に散らばる火を一つにし、その火が継がれたのなら、火防女は不死人である私一人で十分ですから……」

アストリッド「楔の神殿は『最初の火の炉』の間と言ったな?」

黒衣の火防女「『最初の火の炉』は不死の英雄が火を継いだ日から世界から切り離されています」

黒衣の火防女「神殿は『最初の火の炉』と世界の間に打ち込まれた楔……世界との繋がりを断つ役割があります」

アストリッド「楔の神殿……その名の通りという訳か」

 灰色の斜面を上がり、崖の上で黒衣の火防女が立ち止まる。

黒衣の火防女「あの火が、不死の英雄が継いだ火です」

 遠くで燃え盛る炎を指差しながら黒衣の火防女はそう言った。




***



 アルトリウスは運が悪い方であった。
 例えば、アルトリウスが椅子に座った際、何故か壊れて転倒する。今年は既に三回ぐらい転倒する姿をロロナは目撃している。
 例えば、錬金術を失敗した際、アルトリウスが錬金釜に近づいた時に丁度、爆発する。今年は十回ぐらい真っ黒な姿をロロナは見ている。
 例えば、『地方に遠征するだけの簡単な仕事』と聞いてたが、実際は暗闇の中を何ヶ月も飲まず食わずで彷徨う仕事になったとか。
 これは本人から聞かされた話なので、ロロナは詳しくは知らなかった。
 ロロナが知る限り、一番、酷かったのは錬金術の材料を採取しに『センの遺跡』へ初めて行った日だった――。


ステルク「――ここだ」

 ステルクに案内されてアルトリウスと共にやってきたロロナはセンの遺跡の大きさに驚いた。

ロロナ「うわぁ、大きい……」

ステルク「中は薄暗く、危険なモンスターが住み着いている。暗くなる前に済ませた方がいいだろう」

ロロナ「あ、はい!」

 先頭をステルクが、その後ろをロロナ、アルトリウスと遺跡の中へと入る。
 奥へ進み、薄暗い柱を横倒しにしたような細い橋のある所に出る。
 ロロナが天井から四つの大きな刃がぶら下がっていることに気づいた。

ロロナ「あ、あれって……」

ステルク「この遺跡の罠だ。もっとも、今は錆び付いて止まってしまっている」

ロロナ「そ、そうなんですか……なら、安心ですね」

 崩れる可能性を考え、ステルク、ロロナと順々に橋を渡り向こう側へと行く。
 最後にアルトリウスが橋を渡り始める。

 ――ガチャン!!

 音の後、大き刃がアルトリウスの頭上から落ちてくるのが見えた。

ロロナ「アーくん!!」

 アルトリウスが橋の後方へと下がる。
 大きな刃が橋の一部を砕き落ちていった。
 心配しているロロナを見て、アルトリウスは言った。

アルトリウス「ロロナ、大――」
 
 言い終える前に、ゆっくりとロロナの目の前でアルトリウスは落ちていった。
 一部が砕けたことで脆くなった橋がアルトリウスの重さを支えることが出来ず、足元が崩れたからだ。

ロロナ「アーくんがぁあああああ!?」

 ロロナの声が遺跡内に響いた。

修正 ×センの遺跡  ○センの古城
脳内補完してください。再度、投稿するのもどうかと思うので……。




ロロナ「アーくん! だ、大丈夫だよね?」

 合流したアルトリウスにロロナが心配そうに尋ねる。

アルトリウス「心配ない」

ステルク「私には落下した君がモンスターの群れに飛び込んでしまい、そのまま、一斉に攻撃されたように見えたのだが……」

ロロナ「へ?」

 アルトリウスの落下で慌てていたロロナはその状況を目撃していなかった。

ロロナ「それって、大丈夫じゃないよ。アーくん……」

 ロロナはポーチからヒーリングサルプを取り出し、アルトリウスを治療する。

 その後もアルトリウスは……。
 足元が崩れたことで足を取られて動けないところに鉄球が直撃する。
 上行きのエレベーターに乗ったら真下に落下。
 ロロナが開けた宝箱に何故か噛み付かれる。などなど……。 
 不思議なことにどう考えても無事じゃ済まないような状況でも、かすり傷程度で済んでいた。


 

 ――でも、今度は……。

 夢の中、ロロナは思い出した。
 アルトリウスが敗北し、深淵纏いの騎士の大剣が左腕を貫き、その胸に突き刺さったことを……。
 今度は無事じゃ済まなかったかも知れない。
 今度は大怪我をしたかも知れない。
 今度は……。

 ――いつだって、アーくんは一人で戦って、危険な目に遭ってた。

 黒騎士達に襲われた時も……。
 深淵纏いの騎士が出た時も……。
 牛頭のモンスターが出て、オルトガ遺跡に行けない時も……。

 ――いつだって、アーくんは困ったわたしを助けてくれた。

 材料を取りに街の外へ行く時はいつも護衛としてついて来てくれた。
 アトリエの店主を任されて、不安になってる時は背中を押してくれた。

 ――いつだって、アーくんは見守ってくれてた。

 思い出すのは錬金術をしている自分の姿。
 その傍には本を読むアルトリウスの姿があった。

 ――今度はわたしも一緒に戦う。

 ――強くなろう。

 ――だから……。



 寝室のベッドで目覚めたロロナは起き上がると手で涙を拭った。

ロロナ「……うん!」

 立ち上がり、アトリエへの扉を開けた。
 開いた扉からアルトリウスとクーデリアがソファーに座っているのが見えた。
 まだ、怪我が治りきっていないのか、アルトリウスの姿は何処か元気がないように見える。
 そして、彼の左手は力なくダラリと垂れていた。

ロロナ「……っ」

 その姿を見て、ロロナは辛そうに顔を歪めるが、すぐに軽く頬を叩く。
 そして、二人に微笑んだ。
 ロロナが入ってきたことに気づいたクーデリアが立ち上がり、ロロナに近づく。

クーデリア「今度はあたしも一緒に戦ってあげる!」

ロロナ「くーちゃん……うん、今度はわたし達も!」



今日はここまで
第6話、終了でいつものゆるい展開に戻るので……。

最近になってアルトリウスは必要なことしか喋らない、やや無口キャラっぽく思えてきた。
ムービーシーンも戦闘中も一言も喋らないし……。
あと、アルトリウスに不幸キャライメージで書いて申し訳ない。


>>395の修正

黒衣の火防女「あの火が、不死の英雄が継いだ火です」

 遠くで燃え盛る炎を指差しながら黒衣の火防女はそう言った。

不死の英雄(薪)「燃えろ! 俺のソウルゥ!! ソウルを燃やせぇ!! ファイヤー!!」

アストリッド「……」

黒衣の火防女「……」

不死の英雄(薪)「美女がぁ!! 美女達が俺を見ているだとぉ!! ヤッフゥ!! テンション上がってキタァァァ!!」

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