マミ「クルーシオ!」(1000)

このスレはマミ「アバダケダブラ!」の続編です。

前スレ
マミ「アバダケダブラ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1355412238/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372879800

前スレの続きより投下再開


 考えても答えは出ないので、情報収集を行うことにした。

 携帯のネット機能を使って、上条恭介が巻き込まれていた筈の事故について調べる。

 私の知る限りその事故は、前年度の夏休み明け、歩道を歩いていた上条恭介に、
 運悪く居眠り運転のトラックが突っ込んできた、というものの筈だった。


ほむら(……事故自体は起こってる、わね)


 だが、巻き込まれた被害者はゼロ。怪我をしたのは運転手だけだ。


ほむら(……どういうこと? 上条恭介の事故は、私が戻れるよりも以前に起こっている。
     なら、どんなことがあっても変わらない筈……)


 情報収集を続ける必要がある。

 今回のループは、まどかや美樹さやかと友好的な関係を築こう。

 そして、情報を聞き出さねば。


さやか「交通事故ぉ?」

ほむら「ええ。去年の夏休みの終わりに……この辺で合ったって聞いたから」

さやか「半年前のことなんて覚えてないに決まってるじゃん!
     さやかちゃんの脳細胞は、もっと有意義なことに使われるのだ!」

ほむら「例えば?」

さやか「……えーと……ロックマンのパスワードとか……」


 話にならない。

 諦めて、ファーストフード店の同席に座るまどかに視線を飛ばすと、彼女は「うーん」と考え込んで、


まどか「ほむらちゃんが言ってるのと同じのかは分からないけど、その辺りで起きた事故は覚えてるよ」

さやか「え、マジで? なんだよまどか、記憶術でも身に着けた?」

まどか「だってその日、さやかちゃんと上条君のデートだったんだもん!
     ニュースを見てちょっと心配したんだよ! ていうか、電話もかけたじゃない!」

さやか「あ、あー! あの日か! ……ってちょっと待てぃ! 別にあれはデートじゃねー!」

ほらむ(……それが、事故を回避した原因?)


 過去における、上条恭介の行動パターンが変わった……?

 それは、ありえない筈のことだった。


 私の魔法は時間操作。より正確に言うのなら、時間遡行と時間停止だ。

 この二つの内、時間遡行は読んで字の如く、世界の時間を巻き戻す魔法である。

 "基点"からワルプルギスの夜が襲来する日まで、きっかり一月分、私は何度でもやり直すことができる。

 ここで重要なのは、私の魔法は時間を"巻き戻す"という部分だ。

 それはつまり、常に"同じ基点"にまで戻るということ。

 そこからは無数の平行世界として分岐するが、この基点だけは常に不変だ。

 だから、基点より以前に確定している事象に対し、私は干渉をすることができない。

 佐倉杏子や巴マミの契約、上条恭介の入院などは、"基点"の時点で既に起こっていることなので、これを防ぐことは出来ないのだ。


ほむら(……なら、なぜ? 考えられるのは――)


 私の心の中で、ひとつの疑念が浮かび上がる。

 その疑念が確信に変わるのは、この街を縄張りにする、佐倉杏子に出会った時だった。

 CD店に寄った後、まどかがインキュベーターからのテレパシーを受け取り、魔女の結界に入りこんでしまう。

 ちなみに、このインキュベーターのテレパシーは、私が奴を襲撃しなくてもやってくるイベントだ。

 昔、そのことを疑問に思って『誰に襲われたわけでもないのに、なにが助けてだ』、と問うたことがある。

 奴らの返答はこうだった。


「だって、宇宙の熱的死を救うために、まどかに助けてて欲しいから」


 それからは、基本的にここで襲撃を行うようにしていた。

 出会う前に仕留められれば、まどかとの接触を遅らせることができるからだ。

 だが、今回は情報収集を優先させた。

 だから現在こうして、まどかと一緒に結界に入りこみ、使い魔に囲まれている状況にあるのだ。


さやか「な、なんだよ、これ! 気持ち悪い……」

まどか「これ、夢だよね? 本当じゃないよね……!?」

ほむら「……」


 一応、いつでも変身できるようにしておきながら、待つ。

 待っているのは巴マミだ。この街は彼女の縄張りであり、このパターンの場合、まず間違いなく彼女が助けに来る。

 だが、その予想もまた、裏切られた。


杏子「よう、危なかったな。平気か?」


 助けに来たのは佐倉杏子。本来、隣町を縄張りにしている筈の魔法少女だ。


まどか「杏子ちゃん!」

さやか「杏子!? あんた、その恰好は一体!?」

ほむら(……すでに三人は知り合いなの?)


 これは、これまでのループと余りにも違いすぎる。


 極めつけは、これだった。 


Incubator「やあ、杏子。おかげで助かっ」

杏子「うっせ。死ね」


 杏子はまどかの抱えていたインキュベーターを無造作に取り上げると、躊躇なく槍で引き裂く。

 ぼとりと、両断された死体が地面に転がった。


まどか「杏子ちゃん? なにこれ、酷い……!」

杏子「大したことねーよ。だいたい、こいつらはあたしらを家畜としか思ってねえような宇宙人だ」

ほむら「……!」

さやか「ちょっと、それどーいう――」

Incubator「困ったなあ。無駄に数を減らされるのは困るんだけど」

まどか「……! もう一匹、同じ子が!?」

Incubator「さっきのとは別の個体だよ。それより酷いじゃないか、杏子。いきなり体を破壊するなんて」

杏子「はん! 悪いけどこいつらを守るよう、マミに頼まれてるもんでね。
    グリーフシードの回収以外であたしらの目の前に現れたら、容赦なくぶっ潰すから覚えときな」

まどか「マミさんが……?」

ほむら(巴マミは存在する……でも、この街にはいない?)


 あとで聞いた話によると、巴マミは魔法少女ではなく、イギリスの学校に留学しているらしい。

 ――これで、私の立てていた仮説はほぼ確定した。

 ループの基点より、以前の時間軸が改変されている。

 そんなことができるのは、つまり――



ほむら「……時を操る魔法少女が……私の他にもいる?」

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>18
ま、マミさんの指輪が誤変換起こしただけだし……

ごめんなさい。完全に間違って覚えてました。記憶がオブリビエイトされてました。

白状すると、実はクィリナス・クィレルも、直す前はクィレナス・クィレルって書いてました。

ちくしょう、囚人の時は間違えなかったのに。


そして怖くなって前スレ見直してたら、他にもとんでもない間違いをしてることに気づきました

秘宝の下巻、禁じられた森でハリーがアバダされても死ななかったのは愛の加護のお陰。

つまり奴の魂にハリーを守る効果なんてあるわけないじゃないですかやだー。



よって、前スレ>>934の↓この部分を


◇◇◇

 最後にハリー・ポッターを守護するのは、かつて赤子だったころの彼に刻みつけられた、ヴォルデモート自身の魂。その欠片。

 だが、それとて完璧な守護ではない。闇の帝王の死の呪いを一度受ければ、容易く破壊されてしまうだろう。


 そう――いまや、ハリー・ポッターは、ヴォルデモートに対する無敵さを失っていた。

 数年後、ハリーを守る犠牲の印が効果を失った後、死の呪いを二度掛ければ、それでハリー・ポッターを完全に殺すことができる。

◇◇◇





↓これに差し替え


◇◇◇

 そう――いまや、ハリー・ポッターは、ヴォルデモートに対する無敵さを失っていた。

 数年後、ハリーを守る犠牲の印が効果を失った後、死の呪いを掛ければ、それでハリー・ポッターを完全に殺すことができる。

◇◇◇




 たぶんミスは他にいくらでもあると思います。見つけたらご一報を。

 見つけてくれた方には、お礼として、ジェーン上級次官とピンクな部屋で二人っきりになれる夢を見られるよう念力で祈ります。

 まどマギしか知らない方に説明すると、彼女は少女のような声と趣味を持つ、子猫の絵が大好きな無能っ娘です。

上記の通り他の設定ミスってるか心配になってきたので、ハリポタ読み返してきます。
よって、今回の投下は、ホグワーツに視点が戻る前にいったん切ります。短いです。


見滝原市 巴マミ宅


まどか「願いと引き換えに、魂を石に……?」

さやか「しかも、力を使い果たすとさっきみたいな化け物になっちゃうなんて――」

まどか「さ、さやかちゃん!」

杏子「……」

さやか「あ、う……ごめん。あたし、無神経だった……」

杏子「謝らなくたっていいよ。まあ、こんな体になったのを気にしてない、っていったら嘘になるけど……後悔はしてないつもりだからさ」

さやか「杏子……」

杏子「……それに、さやかががさつで女らしくないのは、今に始まったことじゃないし」

さやか「な、なんだとー!? あんたこそ、その幼児体型でよくもそんな大口叩けるね!」

ほむら(……魔法少女の秘密も、すでに知っているのね)

 あの後、案内されたのは巴マミの家だった。

 佐倉杏子はここに住んでいるらしい。巴マミとは旧知の間柄のようだ。

ほむら(……確かに、二人は魔法少女の師弟関係にあったけど)

 だが私の知っている限り、それは"基点"の時点ですでに破棄されている関係の筈だ。

 おまけに、今の巴マミは魔法少女ですらないらしい。イギリスの学校に留学しているのだという。

ほむら(……やっぱり、私のような時間に干渉するタイプの魔法少女が……?)

 有り得ない話というわけではない。

 私の魔法少女としての才能は、あまり高くない。

 ある程度の才能を秘めた子が過去や未来を変えたいという願いで契約すれば、こういうことも起こり得るだろう。

ほむら(不味いわね。もしそうなら、これまで収集してきたデータは役に立たなくなる。
     これまでの、数えるのが馬鹿らしくなるほど繰り返して手に入れた情報が……)

 おまけに、今回のこれに限っては要因の排除が難しい。

 なぜなら、その魔法少女がどこにいるのか全くわからないからだ。

 都合よく見滝原在住である、ということはないだろう。むしろ、この国の人間であることすら疑わしい。

ほむら(その魔法少女を見つけて、契約前に排除する……それまでに、あと何回ループを……
     いえ、それ以前に、基点より前が改変されているのなら排除すること自体……)


まどか「――むらちゃん。ほむらちゃん?」

ほむら「……あ、と。なにかしら?」

まどか「ううん。なんだかぼーっとしてたみたいだったから……」

さやか「いやまあ、無理もないっしょ。あたしもまだびっくりしてるし……」

杏子「――まあ、なんにしろ話は分かっただろ?
    これからもあいつらは契約を迫ってくるだろうけど、まさか今のを聞いて契約したいだなんて言わないよね?」

さやか「そりゃあ……ねえ。願い事を叶えてくれるっていうのは魅力的だけどさ。
     魂と引き換えにー、なんて言われたらまんま悪魔との取引だし」

まどか「……うん。そこまでして叶えたいお願いっていうのも……」

ほむら(……これは、いい方向に進んでいるの?)

 二人は、あっさりと魔法少女の真実を受け入れている。

 おそらく、旧知の仲である佐倉杏子に諭されたことが大きいのだろう。転校したての私では、こうはいかない。

 上条恭介の怪我がない以上、美樹さやかが契約する可能性は低くなる。

 以前のループでは何回かそれ以外の理由で契約することもあったが、それは私が事前に排除できる程度の要因だ。

 重度の神経系断裂という、それこそ奇蹟でもない限り治らないようなものではない。

 問題はまどかだろう。彼女は優しい子だ。弱気で自信なさげに見えるが、実は芯も強い。

 魔法少女の真実を知ってもなお、他人を救うために契約する可能性は常にある……

杏子「……で、そっちのあんたはどうなんだ? えーと、確かほむらっつったか?」

ほむら「え……私?」

 声を掛けられて、考え事を中断する。

杏子「そうだよ。マミに頼まれてたのは、まどかとさやかのことだけだったけどさ。
    あんたもインキュベーターは見えてたみたいだし、才能があるんだろ?」

ほむら「……ああ、そういうこと」

 どうやら、彼女は私が魔法少女だということに気づいていないらしい。

ほむら「別に、隠していたわけではないけれど――」

杏子「?」

 秘密にする必要はないだろう。

 隠し通せるものでもないし、情報収集を重視した今回では、余計な疑念を持たれることは避けるべきだ。

 ポケットの中から、指輪の形態にしたソウルジェムを取り出す。

杏子「……! そいつは!」

まどか「色は違うけど、杏子ちゃんの指輪とおんなじ……」

さやか「転校生……もしかして、あんたも……?」

ほむら「そう。私も魔法少女よ……だから、既に契約するしないの問題じゃないの」


杏子「……なんで隠してた?」

 僅かに警戒の色を強めながら、佐倉杏子。

 私の知っている佐倉杏子よりも社交的ではあるが、それでも決して油断しないのは彼女生来の素質だろうか。

ほむら「さっきも言ったけど、隠すつもりはなかったの。ただ言うタイミングが無かっただけ」

杏子「そうかい。だけどそれならあたしが来る前に、使い魔くらい倒せてたんじゃないの?」

ほむら「……私も貴女の意見に賛成だからよ。魔法少女の仕組みについては以前から知っていたから。
     これ以上、私たちと同じ呪われた存在を増やしたくない。
     だから、どうにかして魔法少女のことを知られずにあの場を切り抜けたかったの」

まどか「ほむらちゃん……」

杏子「……」

ほむら「貴女の縄張りを荒らす気はないわ。グリーフシードも、ある程度のストックはあるから」

さやか「縄張りって……そんな犬か何かみたいな」

ほむら「グリーフシードの数は有限だから、基本的に魔法少女は地区ごとに住み分けしてるのよ。
     ここは、貴女の縄張りなのでしょう?」

杏子「そうだね。見滝原と風見野はあたしのテリトリーだ。だけど――」

ほむら「なら、私がこの街に滞在するのをしばらく見逃してほしい。期間は――そうね、一ヶ月弱もあればいいわ。
     それを過ぎれば、私は大人しくこの街から出ていく……」

杏子「待ってよ。別に追い出すなんて、あたしは一言も言ってないよ?」

ほむら「……あまり長く滞在するなら、私も魔女を狩らざるを得なくなるけれど?」

杏子「だから別にいいって。ただし、きちんと使い魔も倒してくれるんなら、だけど」

ほむら「……本気で言ってるの? 魔法少女が増えて損をするのは貴女なのに」

 佐倉杏子の縄張り意識は人一倍強かったはずだ。

 だからこそ、強かに魔法少女を続けることができていた。

ほむら(……彼女の性格も、改変の影響を受けているみたいね)

杏子「あー、でも、やっぱひとつだけ条件付け足させてくれ。一緒に魔女退治をするのは、悪いけど無理だ」

さやか「え、なんでよ。危ないんでしょう? なら、一緒にやればいいじゃん」

まどか「そ、そうだよ、杏子ちゃん。その方が怪我とかしないで済むだろうし……」

杏子「それはそうなんだけどさ……いや、絶対に協力しないって話じゃないんだ。
    ただ、この場で確約はできないってだけでさ」

ほむら「……? 貴女自身の問題でしょう? なぜそんな曖昧な……」

杏子「んじゃ、それを聞かないでくれるのも条件のひとつ、ってことで」

ほむら「……別に、言いたくないなら無理には聞き出さないわ」

さやか「わー、転校生、おっとなー。胸のサイズは杏子以下みたいだけど!」

ほむら「……」

さやか「……あ、あれ? 突っ込みは無し? なんでそんな冷ややかな視線を……」

まどか「もう、さやかちゃん! 二人は真面目なお話をしてるんだから――」

杏子(マミが魔法使いだってことは、さすがに秘密にしないと不味いだろうしなぁ……)


ほむら「……こほん」

 閑話休題。場を仕切り直すようにして咳払いをし、注目を集める。

ほむら「……ただ、交換条件、というわけではないけれど……一度だけ、共闘を頼めないかしら?」

杏子「一度だけ、か? まあ、それならいいけど……変な頼みだな」

 さて、問題はここからだ。

 さほど悩むことはしなかった。もとより役立たずになったデータを公開することに、躊躇う必要はないが。

ほむら(佐倉杏子は魔法少女の中では与し易い方に分類される……なら、事情を話してしまっても大丈夫な筈。
     まどかの同情を引かないように、ループ関連と私の願い事だけぼかして説明すれば……)

 それでも、やはり緊張する。

 ここ最近のループにおいて、私は他の魔法少女と協力関係を築こうとしていなかった。

 複数の魔法少女が集まれば、そこにはどうしても軋轢が生まれる。

 それでもなお、その関係を維持しなければならないというのが煩わしかったのだ。

ほむら(大丈夫……大丈夫……)

 先ほどの美樹さやかの冗談も、どう返せばいいのか分からなくて、ただ曖昧に微笑むことしかできなかった。

 しかも微笑みとも認識されなかったらしい。笑顔の作り方も、人を信頼する方法も、すでに私からは失われていた。

 ――それでも、まどかの為ならば。

ほむら「……もうすぐ、この街にワルプルギスの夜が現れる。私の目的は、奴の撃退。
     その為に、貴女の力を貸してほしいの」



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 ワルプルギスの夜。最悪の魔女。私のループの終点に在るもの。

 まどかが契約していない状態で、ワルプルギスの夜を撃退するのが私の目標だ。

 基点以前が改変されている今回に限っては、期日通りに来る保証はないが、対策をしておいて損はない。

杏子「ワルプルギスの夜ね……あれがこの街に来るのか」

さやか「そいつって、有名な魔女なの?」

杏子「魔法少女に伝わるお伽噺……ってとこかな。
    あたしも昔、遠くの街に居た時に、別の魔法少女から聞いただけだし」

ほむら「だけど、事実よ。奴はこの街にやってくる。
     もしかしたら、インキュベーターがそれをダシにして契約を迫ってくるかもしれないけど――」

さやか「あー、うん。分かってるって。契約はしないからさ。信用してよ」

まどか「……でも、二人だけで勝てるの? 他の魔法少女の人に助けてもらうとかは……」

杏子「ここらには、あたしら以外の魔法少女はいないんだ。

    さっきも言ったけど、基本的に魔法少女は縄張りを持ってるからね。
    協力するってこと自体が稀なんだよ」

ほむら「……それに、頑張れば勝てない相手じゃないわ。二人掛かりなら、確実に撃退できる」

まどか「本当に……?」

ほむら「ええ」

 本当はそこまで勝算があるわけでもないが、まどかを心配させないためにそう言った。

 実際、一週目では魔法少女になって一月も経たない新人だったまどかが、
 最後はほぼ単独でワルプルギスの夜を撃退――"撃破"ではない――している。

ほむら(だから、私にも同じことは出来る、筈――最悪、刺し違えてでも……)


さやか「……にしても、ほむらに――あ、もうほむらって呼ぶよ?――予知能力があるなんてね。
     杏子のは幻覚だっけ? それに比べるとずいぶん便利な魔法だよねぇ」

ほむら「……さっきも言ったけど、確実な予知ができるわけじゃないわ。
     的中率は……そうね、だいたい6割ってところかしら」

 ループ関連はぼかして話したので、私がワルプルギスの襲来を知っている理由は、そういうことになっていた。

 まあ、全て嘘というわけではない。この一ヶ月間に起こる、おおよその出来事は知り尽くしているのだから。

ほむら(それでも、契約した美国織莉子が得るような本物の"予知"には及ばないのだけど)

 情報のタイムスリップ。未来におこる出来事を、確実に先取りできる彼女の力は脅威だった。

 それに比べれば、結局、私のは統計に基づく予測でしかない。

 今回はそのデータも鵜呑みにはできないが、それでもCD店での出来事を見る限り、半分くらいは信用してもいいだろう。

さやか「6割でも凄いと思うけどなぁ。あっ、ねえねえ、宝くじとか当てられないの?」

ほむら「それは――」

まどか「さやかちゃん! ほむらちゃんが、そんなくだらないことに魔法を使うわけないでしょ!」

ほむら「……その、通りよ。そんな、私利私欲の為に魔法を使うなんてこと、有り得ないわ」

杏子(やったことあんな、こいつ……)

 なにやら佐倉杏子が疑いの目でこっちを見ている気がする。

 失礼な。私は一度も、この力を下卑た欲望を満たすために使ったことなどない。

 あくまで、実験として行っただけだ。

 おまけに数字選択式の宝くじでは、私が買うと番号がずれるため、結果的に当たらなくなってしまうということが判明している。


さやか「うーん、残念っ。大金持ちになれるかと思ったのに……
     でもそれなら、そのワルプルギスって奴が来ないってことも有り得るよね?」

ほむら「可能性としては、ゼロではないわね。私としてもそれを願いたいところではあるけれど」

 とはいえ、願うだけ無駄だろう。私も色々試してみたが、あれは毎回、ほぼ同じ時間にやってくる。

 多少の改変では、あれの襲来を防ぐほどの"うねり"を作り出すことは不可能だ。

 今回も、基点以前の改変があるとはいえ、来襲自体が起こらないというのは望み薄だろう

まどか「でも、本当に来ないといいよね……きっと建物も壊れちゃうし、人だって……」

ほむら「……そうね。完全に被害をゼロにすることは難しいかもしれないわ。申し訳ないけど」

まどか「あっ……そんな! ほむらちゃんが謝ることなんて!」

さやか「あー、やっぱり被害は出るよね。台風みたいな奴、って話らしいし……
     でもさ、それなら、事前に皆に説明して見滝原の外に逃げちゃうってのはどう?」

杏子「馬鹿かよ、お前。こんな話、誰が信じてくれるっていうのさ」

さやか「やっぱ駄目かなぁ……あと馬鹿ってなによ、馬鹿って」

杏子「さやかの代名詞だろ?」

さやか「むっきぃぃいいいいいいい! あ、あんたって奴は、あんたって奴はぁ~!」バッ

杏子「うわ! 何しやがる! お茶が跳ねただろうが!」

まどか「ちょっと二人とも、いい加減に――」

 なにやら取っ組み合いを始めた二人と、それをあわあわと仲裁するまどかを見ながら、私は呟く。

ほむら「……そうね。それも難しいと思う」

 この佐倉杏子がまだ幻惑の魔法を使えるというのなら、
 市議会や気象観測所を傀儡にして、市民を事前に避難させることは可能かもしれない。

 だが問題はワルプルギスの夜を放置した場合、その被害が果たして見滝原ひとつで収まるのか、という疑念が拭えないことだ。

ほむら(私が時間を戻せるのは、最後の日の、ある一定の時間内でだけ。
     それを過ぎれば、もう戻ることは出来なくなる……)

 だから"どこまで被害が広がるか"という事象だけは、私にも観測することができない。

 見滝原だけで済むのか、それともこの国が海の藻屑と変わるのか、果てまた人類の文明がすべて根こそぎにされてしまうのか。

 最悪のパターンを考えれば、きりがない。だからこそ、ワルプルギスは確実に撃退しなければ。


ほむら(……それにしても、この部屋に入るのも久しぶりね)

 周囲の空間を見渡して、ふと、感傷に浸る。

 巴マミの部屋。以前はここで、彼女と一緒にお茶を飲んだこともあった。

 部屋の間取やコーディネートは、記憶にあるものとほぼ変わらない。

 今回は掃除を行っているのが佐倉杏子のせいか、多少乱雑になった印象を受けるが、
 それでも慣れていないなりに一生懸命やっている感じは伝わってくる。

ほむら(巴マミ……ベテランの魔法少女である彼女が仲間になってくれたらもっと楽になるのだけど。
     でも、今回に限っては魔法少女じゃないらしいし――……?)

 ふと、胸中に疑問がわく。

ほむら「……そういえば、佐倉杏子。さっき貴女が話していた感じだと、その……
     ……マミさん、という人も、魔法少女のことを知っているようだけど?」

杏子「あ?」

 ぴたり、と取っ組み合いをやめて、佐倉杏子の瞳がこちらを捉え、そして離れる。

ほむら(……目を、逸らした)

 それは、なにか隠し事をしている目だ。

杏子「……えーと、そんなこと言ったっけか?」

まどか「そういえば、マミさんが私達を守る様に頼んでいった、って……」

さやか「言ってたよね、確かに」

杏子「……あー、まあ、な。そりゃ一緒に住んでる以上、秘密には出来ないし
     ……うん、マミも一応、魔法少女のことは知ってるよ。魔法少女じゃないけどね」

ほむら(……何かを隠そうと、取り繕っている?)

 そんな印象を受ける。

 だが、何を隠そうとしているのだろうか。

ほむら(私の知っている佐倉杏子は、必要なら犯罪も辞さないような性格だったわね――)

 一瞬、巴マミを殺害し、どこかの雑木林に死体を埋めている彼女を想像してしまい、顔をしかめる。

ほむら(流石にそれは無いと思うけど……巴マミのことも調べた方がいいか。
     改変の影響がどこまで発生しているかの手がかりになるかもしれないし……)

 問題は、どう話を切り出すかだ。

 ループ関連の話をしなかったので、私は巴マミと面識がないことになっている。

 下手なことをすれば、まどかに私の願いごとがばれる可能性も……



 そうやって悩んでいると、都合よく美樹さやかが話を切り出してくれた。

さやか「そういえばさ、マミさんからはまだ連絡ないの?」

杏子「ん……ああ。さっぱりだよ。一応、手紙も出してるんだけどね」

ほむら「……連絡が、つかない?」

さやか「うん、そうなの。イギリスに留学してるってのは話したでしょ? でも、全然連絡が取れないらしくてさ」

ほむら「学校の方に直接連絡してみたら?」

さやか「あたしもそう言ったんだけど……」

杏子「……あー。だって、ほら、英語とか分からないしさ。
    携帯も海外だと繋がらないし、マミの寄宿舎宛に手紙を出すしかないんだよ」

まどか「厳しい学校みたいで、家族以外からのお手紙は届かないんだって。
     だから、杏子ちゃんに出してもらうしかなくて……」

ほむら「……」

 なにやら、先ほど想像した巴マミ殺害&死体遺棄事件が急に現実味を帯びてきた気がする。

 その恐ろしい想像を打ち消すために、ぷるぷると頭を振って否定するための材料を探した。

ほむら「勉強が忙しいんじゃないかしら? 文化も違うし、手紙を出す時間も惜しいんじゃ」

さやか「でもさ、もう四年目なんだよ? さすがに慣れてくるんじゃないかなぁ。
     向こうの学校生活の思い出とか、楽しげに話してくれてたし」

ほむら(4年……逆算すると、ちょうど私の知ってる巴マミが契約した年ね。これは何を意味して……)

 確か彼女は事故に遭って、その時、自分の命を繋ぐ為に契約する筈だ。

 この家に巴マミの両親の影が見えないことから考えると、事故そのものは起きていて、彼女だけ偶然助かったか――

ほむら(……あるいは、やはり巴マミは魔法少女なのか)

 だとすれば、一緒に生活しているらしい佐倉杏子がそれに気づいていない筈がない。

ほむら(佐倉杏子が隠そうとしているのはそのこと? でも隠す意味なんて――
     ……待って。佐倉杏子は、どうして魔法少女の真実を知っていたの?)

 その可能性は二つ。インキュベーターに直接聞いたか、あるいは。

ほむら(目の前で、誰かが魔女になったか……こっちの可能性の方が高いわね。
     インキュベーターが自発的に話すことはない。なら、その魔女になった魔法少女が……)

 巴マミ、なのではないか。

 それなら納得がいく。まどか達は巴マミと面識があり、なおかつ親しいようだ。

 ならば、佐倉杏子が巴マミの死を隠そうとしてもおかしくはない。

ほむら(もっとも、あくまで推測にすぎないけど……確かめた方がいいかしら?)


ほむら「……そもそも、どうして連絡しようということになったの?
     外国だし、手紙だってそう気軽には送れないでしょう」

まどか「あのね、マミさん、クリスマスに一度帰ってくる筈だったの。
     でも帰ってこなくて、それについての連絡もなくて……」

ほむら「そう……それは心配でしょうね」

杏子「は! べっつにぃ? 男でも作って遊んでるんじゃないの?」

 佐倉杏子が、拗ねたように明後日の方を向く。

 なぜそんな態度を取るのか私には分からなかったが、まどかとさやかは直ぐに理解したらしい。

 二人は呆れたような面持ちで、佐倉杏子を見ている。

さやか「まーたそんな風に強がっちゃって……ねえ、まどか。
     冬休みに『マ゛ミ゛が帰ってごな゛い゛~』ってあたしらに泣きついてきたのは誰だったっけ?」

杏子「……あたし、泣いてなんかなかったけど」

まどか「そうだよ、さやかちゃん。
     杏子ちゃんは、一生懸命作った御馳走の前で、ひたすら落ち込んでただけじゃない」

杏子「べ、別に一生懸命作ったわけじゃなかったよ、あんなの! 落ち込んでもない!」

まどか「ええー……」

さやか「さて、ここにその時の光景を携帯のムービー機能で記録したものがありまーす!
     マミさんが帰ってきたら見せる予定だったけど、まずほむらに見せてあげるね」

杏子「なっ……!? テメエ、いつの間に! やめろ、おい――そこをどけよ、まどかぁ!」

まどか「まあまあ、まあまあ」

 飛びかかってこようとする佐倉杏子を、やんわりと押しとどめるまどか。

 そんな光景を尻目に、私は再生され始めた映像を見つめた。

ほむら(……テーブル一杯の料理を前に、佐倉杏子がうなだれてる……
     生気がないわね。まるで魔女化する直前の美樹さやかのようだわ)

杏子『マミの奴、何で帰ってこないのかな……?』

杏子「うがああああああああ!」

 ムービーの中の彼女と、目の前で頬を紅潮させて暴れている彼女。同一人物とは思えない変わり様だ。

 だが、ふとそのムービーを見ていて気付いた。

ほむら「……あら? ということは、とも……マミさん、が帰ってこないということをあなた達に伝えたのは彼女なの?」

さやか「ん? そうだよ。だって一緒に暮らしてるのは杏子だし、当たり前じゃん」

ほむら「そう……」

ほむら(それなら……私の予想は間違っていた?
     巴マミが魔法少女で、佐倉杏子がそれを隠しているなら、誤魔化しようはもっとある筈……
     巴マミは魔法少女でも死んでもいなくて、ただ単に帰ってこないだけ……?)

 まあ、どちらにせよ今回のループに置いて、巴マミの助力には期待できそうにないということは分かった。

 とりあえず、こんなところでいいだろう。他にもやらなければならないことはたくさんある。

 巴マミのことだけに係っているわけにもいくまい。私が一番に優先するのはまどかのことだ。

ほむら(でも彼女、身内には甘いタイプだと思ってたけど……
     それが約束を破って、あまつさえ手紙も出さないなんて、何があったのかしらね)

ここでいったん切ります。さあハリポタを全巻引っ張り出してこよう。

読破ったー。やっぱりスネイプ先生はかっけえ。「永遠に」とか完全に主人公の風格。
校正し終わったら投下します。

頻繁に読み返しはしないけど、読み返し始めると止まらなくなるハリポタ。
マルフォイ家両親のドラコに対する愛情が意外と深いことに気づいた。
シシーは言うに及ばず、ルシウスもあの人に進言するくらいドラコの身を案じてたし。
もしあの人が手ずからドラコを殺そうとしたら、ふたりが自己犠牲の加護になってアバダ弾き返すかもしれん。

校正終わったので投下します。でも鉄也が祟って死ぬほど眠いので、寝落ちするやも


ホグワーツ 空き教室


『ハリー・ポッターの名前をゴブレットに入れたのは、死喰い人のバーテミウス・クラウチ・ジュニア』

『アズカバンから密かに脱獄し、いまはアラスター・ムーディに変装している』

『狙いは、ハリー・ポッターを闇の帝王の下へ送り届けること』



ダンブルドア「ふぅむ……なるほどの。送り主不明の情報か」

ハリー「はい、そうなんです、先生。以前ペティグリューをマミが捕まえたのも、これが……」

ダンブルドア「それについては、わしももう少し詳しく話を聞くべきじゃったのう。
         なにぶん、あの時は取り急ぎやらねばならんことがあった……」

シリウス「……例えば、誰かの冤罪を晴らす手続きを、不要に長引かせる準備をしたり?」

ハリー「え? シリウス、それってどういう……」

ダンブルドア「はて、なんのことやら……覚えがないのじゃが?」

シリウス「私もホグズミードでただバカンスを楽しんでいたわけじゃない。
      ダンブルドア、貴方はそんなにハリーをあのマグルの家から引き離すのに反対だと――」

ダンブルドア「シリウス。それはいま、この場で話すべきことかの?」

「……」

シリウス「……いずれ話は聞かせて貰う」

ダンブルドア「おお、良いとも。しかるべき時、しかるべき場所でな」



ダンブルドア「さて、話を戻そう。以前にも、こういう情報が送られてきたという話じゃが?」

ハリー「はい、先生。一年生のクリスマスの時に、"石"を守る仕掛けが書かれたカードが。これです」スッ

ダンブルドア「……なるほど。確かに、全て先生方が施した関門じゃ。
        わしの考えた仕掛けが書いてないのは寂しいがの」

ロン「あと、三年生のホグワーツ特急の中で、蛙チョコの中からこのカードが――
   ペティグリューが自分の指を切り落としたことが書いてあるんです」

ハーマイオニー「こっちの本には、ペティグリューを捕まえる為にはどうしたらいいかというアドバイスが」

ダンブルドア「そして、今回のこれ……ふむ。その全てが彼女――」

マミ「は、はい。私のところに、全部届きました……たぶん、ですけど。
   ……あ、あと、すみません。実はこの前の夏休みにも……」

ハーマイオニー「この前の夏休み!? マミ、そんなの私達聞いてないわ!」

マミ「ご、ごめんなさい。つい、うっかり言い損ねちゃって……その、ホグワーツとは関係ないことだったから……」

ハーマイオニー「だからって、あなた! メッセージが来たら相談するって約束したじゃ――」

ロン「落ち着けって! いまどういう状況なのか考えろよ!」

ハーマイオニー「……っ、す、すみません。校長先生」

ダンブルドア「構わんよ。友達を心配するのは良いことじゃ……しかし、ミスター・ウィーズリーズ。そしてシリウスも。
        君たちは今回初めてこの件に関わったようじゃが、すぐにこのメッセージを信用したのかね?」

フレッド「先生、友達を信頼するって素晴らしいことだと思いません?」

ジョージ「まったくその通りだと思うね。可愛い後輩たちを信じて導いてやるのが、いい先輩の務めってもんさ」

ロン「いい先輩ね……こりゃいいや。まったく尊敬できる先輩だよな?」

シリウス「……私の冤罪を晴らしてくれた情報だというなら、その送り主が信用に値すると考えるのは自然では?」

ダンブルドア「そうか、そうか……ま、よかろう。
        "もしも"なにか別の証拠を持っているのなら、必要となれば提出してくれるとわしも"信じよう"」

双子「……」ニヤッ

シリウス「……そうして頂けるとありがたい」


ダンブルドア「ふぅむ。しかし差出人不明の、時には未来を見通すことすらある情報か……
        通常なら、まず間違いなく闇の魔術だと疑うところじゃが」

ハリー「……脳みそがどこにあるか見えないのに、一人で勝手に考えることができるものを信用してはいけない?」

ダンブルドア「さよう。まっこと、至言じゃよ、ハリー。相手のことを知らんのに、その相手を信用するのは愚かじゃ。

         ああ、とはいえ、別に君らが愚かだと言っているわけではない。
         きっと君らは、もっと信用に足るものを心のどこかに持ち合わせているのじゃろうて」

シリウス「……」

ダンブルドア「わしが言いたいのは、じゃ。つまりは早急に、これの送り主を解明せねばならんということでの」

QB「何か考えがあるのかな?」

ダンブルドア「猫君、それはこれから考えようぞ。さて、ミス・トモエ。これらは全て、君に送られてきたものだという。
        そこで君にいくつか質問したいのじゃが、構わんかの?」

マミ「は、はい! ……その、私に応えられることなら」

ダンブルドア「分からぬことには、分からぬ、と答えてよい。

         さて、送られてきたものは、ここにある分だけで全てかね?
         ああ、無論、夏休みに送られてきたものはないのじゃろうが」

マミ「はい。ここにある分で全部です」

ダンブルドア「確かかの?」

QB「マミは嘘をついていないよ。僕はずっと一緒だったから分かるけど」

ダンブルドア「嘘だと疑っているわけではない。だが猫君、君は二年生の時、石にされていた時期がある。
        そしてこの蛙チョコのカードじゃが、最初はメッセージだと気づかなかったのじゃろう?」

ハーマイオニー「つまり――マミが気づいてないだけで、
          送り主が送ってきたメッセージは他にもあるってことでしょうか」

ダンブルドア「可能性の話じゃ。全ての可能性は考えておかねばならん……それで、どうかね?
        君は自信をもって、ここにある分だけだと断言できるかの?」

マミ「そう言われると……確かに、言い切ることはできないかもしれません。
   夏休みのメッセージなんかは、ティッシュの広告に紛れてたし――気づかなかったことがあるかも」

ダンブルドア「では次の質問に映ろう。その夏休みに送られてきたメッセージじゃが、
        それらも全てカードや本といった、紙に書かれた媒体で送られてきたのかね?」

マミ「ええ、そうで――」

QB「違うだろう、マミ。一回だけ、電車のアナウンスみたいな形で流れたって言ってたじゃないか」

マミ「あっ、そうね。そうだったわ……ありがとうキュゥべえ」

ダンブルドア「それは音声で、ということかの? しかし猫君は聞こえなかったというような口ぶりじゃが」

マミ「はい。私にしか聞こえない、奇妙な声で――」

ダンブルドア「――君にしか、聞こえなかった?」

ハリー(……? 目が、鋭く……)

マミ「たぶん。他に乗っている人は全く反応してませんでしたし……キュゥべえにも聞こえませんでしたから」


ダンブルドア「……彼女にだけ、聞こえればよかった……いや、逆か……他人に見える形であることのほうが……」ブツブツ

マミ「……先生?」

ダンブルドア「おお、すまんの。では最後の質問じゃが、この"石"を守る仕掛けが掛かれたカード。
        裏側にも文字が書かれているが、これは君が?」


 "禁じられた森" "ハグリッドの小屋"


マミ「ああ、それは……ええと、何だったかかしら?」

QB「確か、後になって浮かんできたんだ。誤配かと思って、ルームメイトを訪ねて歩いてた時」

ダンブルドア「その時の詳しい状況は覚えておらんかの?」

マミ「……すみません。さすがに、何年も前のことですから……」

QB「僕は覚えてるよ。質問を代わるかい?」

ダンブルドア「いや――おそらくこれは、ミス・トモエが自分で自覚せねばならん問題じゃ」

マミ「私、自身が……?」

ハーマイオニー「先生。それって、どういう――」

ダンブルドア「ここで話すことは出来ん。確証もないしの。場所を移す必要がある……
         シリウス。すまんが、わしはここを離れねばならん。例の偽ムーディを見張る役を頼まれてくれんか?」

シリウス「先生方がいるでしょう。私は、ハリーと一緒に――」

ダンブルドア「そのハリーに危険が降りかからぬよう、今現在、このホグワーツでもっとも危険な者の監視を任せるのじゃ」

シリウス「……分かりました。引き受けましょう」

ダンブルドア「ジョージとフレッド、君らもシリウスと一緒に大広間に戻りなさい。
        わしがシリウスに偽のムーディを見張る様に命じたと、ミネルバや皆に証言しておくれ」

フレッド「……抗議しても無駄そうだな」

ジョージ「ああ。ここまで来て蚊帳の外ってのは気に食わないけどな。おい、ロニー。あとで何があったか聞かせろよ?」


 がちゃ ばたん


ダンブルドア「さて、他の皆はわしについてきて貰おうかの。なに、すぐそこじゃよ。校長室じゃ」


ホグワーツ 校長室


マミ「ここが、校長室……初めて入ったけど、まるで理科室みたい。色んな道具があるのね……」

ハーマイオニー「ええ、確かに興味深いわ……あら、この鳥って、もしかして……不死鳥!?
          凄いわ! これを飼育できるのは本当に力のある一部の魔法使いだけなのよ!」

ロン「君、その一部にダンブルドアが入らないとでも思ってたわけ?」

ハリー「やあ、フォークス。元気かい?」

フォークス「――♪」

マミ「わあ、とっても綺麗な声……」

ロン「あれ、こいつの鳴き声、どっかで聞いたような……気のせいかな。僕、校長室に入ったの初めてだし」

QB「……? あの本……」

マミ「どうしたの、キュゥべえ……あら、これって」


日記「」


ロン「糞リドルの日記だ! 一昨年、マルフォイの親父が放り出したのを拾って、ダンブルドアに届けた……
   まだあったんだな。とっくに燃やしちまってたかと思ったよ」

ハーマイオニー「これが例の、ジニーを操ったっていう……大丈夫なの?」

ハリー「中の記憶は忘却術で消したらしいから、平気だと思うけど……」

QB「……」

マミ「キュゥべえ、どうかしたの?」

QB「いや……なんでもない」


ダンブルドア「さて、さて。お待たせしたの。ちょいと中身を移し替えるのに手間が……ああ、これは失礼。
        お客様に椅子を出すのを忘れておった」ヒョイッ


 ぽふん!


マミ「わあ、ソファーが……」

ダンブルドア「さ、掛けなさい。実際に話すべきことは少ないじゃろうが、
         君らには少しばかりここで待って貰わなくてはならなくなると思うからのぅ」

ハリー「分かりました……でも、"実際に話すべきことは少ない"って――?」

ロン「うわー、ふかふかだよ、ハリー! これ、談話室にも置いてくれないかな」ポフッ

ハーマイオニー「ロン! 行儀が悪いわよ!」

ダンブルドア「一考しよう。勉強するには不向きじゃが、午睡するにはちょうどいいからの。
        かく言うわしも、魔法省のお偉いさん方が面倒なことを押し付けてきそうな時は――」

QB「……」

ダンブルドア「……ま、それはいま話すべきことでもないようじゃ。本題に入ろう。
        といっても、先ほども言ったが、言葉はあまり必要ではない。わしはマミにとある許可を貰うだけでいい」

マミ「許可、ですか?」

ダンブルドア「ああ。その前に、この道具について説明せねばならんが」コトッ

ハリー「……なんですか、これ? 石で出来た……水盆?」

ハーマイオニー「……もしかして、ペンシーブですか?」

ロン「何? ペンをレシーブが……なんだって?」

ハーマイオニー「ペンシーブ! 憂いの篩よ。とても貴重な道具で……確か、記憶を再現できるの」

ダンブルドア「素晴らしい。グリフィンドールに十点、というところかの。
         さて、いまの説明の通り、これには人の記憶を溜め、その記憶を体験できる力がある」

ハリー「つまり他人の記憶も見ることができる……?」

ダンブルドア「その通りじゃ。褪せることのない、その当時の記憶を完全に再現できる。
        わしが許して欲しいのは、マミの記憶を覗かせて貰うことなのじゃよ」

マミ「ああ、それなら……」

ダンブルドア「軽々しく了承してはならん。わしが見るのは、君の生涯の記憶、その全てじゃ」

マミ「ぜ、全部ですか!?」

ダンブルドア「その通り。もう分かっていると思うが、わしは君がメッセージを受け取った前後の状況を確かめたい。
        じゃが何処にそのメッセージが潜んでいるかわからん以上、有り得る可能性を全て潰さねばならん」

ハーマイオニー「でも、先生。それは……」

ダンブルドア「当然、他人には見られたくない記憶も含まれるじゃろう。
        ……酷いことを言っているのは自覚している。しかし、ことは一刻を争うかもしれんのじゃ」

ハリー「先生は、"送り主"が危険だと考えているのですか?」

ダンブルドア「ある意味、そうじゃ。もし、わしが考えていることが正しければ――
         早めに手を打たねば、手遅れになりかねん。少なからず傷つく者が出るじゃろう」

マミ「そんな……」

ロン「マミ、記憶を渡しちまったら? 大丈夫だよ、ダンブルドア先生が言いふらしたりするわけないし――」

ハーマイオニー「ロン、それとこれとは別よ。例えば、あなたは自分の全てを私やハリーに曝け出せる?
          嘘も誤魔化しもきかない、心の底まで。ちなみに私は嫌だけど」

ロン「あー……それは、まあ……友達にだって隠し事のひとつやふたつあるよね」

マミ「私……私……」

マミ(どうしよう……私の記憶を全部ってことは、当然、魔法少女関連の記憶も……
   もしもばれたりしたら、佐倉さんやキュゥべえは……でも、私の記憶がないと誰かが傷つく……?)


ダンブルドア「……マミ。君は自分の記憶が暴かれるということより、
        それで他人に被害を及ぼす可能性があることの方が心配なのではないかね?」

マミ「……! もしかして、ムーディ先生に聞いて……」

ダンブルドア「いいや、あの偽物のアラスターとの間で君の話題が出たことはないよ。
        じゃが、これでもわしは長年教師をやっているのでな。
        生徒の悩みに関して、理解しようと努力はしているつもりじゃ」

マミ「……はい、その……別に、校長先生を信用していないというわけではないんですが……
   もしも何か手違いがあって、私の記憶が誰かに知られると……私の友達に迷惑がかかるかも……」

QB「……」

ダンブルドア「ふむ。しかし悩んでいるところをみると、やはりメッセージの送り主は気になる、というところかね」

マミ「はい。私が記憶の開示を拒むことで誰かが傷つくかもしれないというのは、ちょっと……」

ダンブルドア「なるほど、の……ならば都合のいいように計らおう。
         ハリー。少し手伝ってもらっていいかね?」

ハリー「手伝う? 手伝うって、何をです?」

ダンブルドア「なに、さほど難しいことではない……マミ、わしの右手を握っておくれ。
        大丈夫。きちんと洗ってあるから汚くはないよ」

マミ「は、はい。こうですか?」ギュッ

ダンブルドア「うむ。そしてハリーは杖の先を、わしらの手の上へ」

ハリー「はい……でも、一体なんなんですか?」

ロン「――あっ! これってもしかして、"破れぬ誓い"じゃ!?」

マミ「破れぬ誓い? ロンくん、これが何だか知ってるの?」

ロン「昔、僕が五歳かそこらの頃、フレッド達がふざけて誓いを結ぼうとしたんだ!
   絶対に破れない誓いで……その、破ると誓った側が死ぬって……」

マミ「死……っ!?」

ダンブルドア「その通りじゃ。子供でも結んでしまえるほど簡単じゃが、効果は絶大……その分、危険だともいえる。
        これをわしとマミとの間に結ぶ。"知り得た記憶を外に漏らさぬ"という条件でな」

QB「なるほど。そうすれば、絶対に秘密は漏れないというわけか」

マミ「そんな……そこまでする必要は……」

ダンブルドア「ある。望まぬ記憶を暴くのじゃ。わしも誠意を見せねばならん。さて、どうかな、マミ?
         全ての決定権は、君にある」

マミ「……私、私は……」


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マミ「――"篩から得た私の記憶を決して漏らさぬと、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


マミ「"知り得た記憶によって、私の友達を迫害しないと、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


マミ「"閲覧後一時間以内に、憂いの篩に溜めた私の記憶を破棄することを、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


ハリー「……」

ハーマイオニー「紐みたいな細い火がハリーの杖から飛び出て、二人の手に巻きついていく……」

ロン「成功するとこうなるんだ……僕の時は怒り狂ったパパが乱入して失敗したからなぁ。
   あんなに怒ったパパは初めて見たよ。フレッドの尻なんか倍にまで膨れ上がったし」


マミ「……終わりです。すみません、先生……」

ダンブルドア「謝ることなどない。当然のことじゃ……さ、それでは記憶を篩に移そう。
        マミ、目をお閉じ……少し額に触れるが驚かぬように……」スイッ

マミ「……」


 ス――……


ハリー「白銀色の糸みたいなものが、マミの額から……あれが記憶なんだ。
     憂いの篩に入って、水溜りにみたいになっていく……」

ダンブルドア「――さて、準備はこれでよし。しばらくわしは記憶を巡る。
        すまぬがその間、皆にはお茶でも飲みながら待っていて貰おうかの」スイッ


 カチャンッ カチャンッ


ダンブルドア「宴会も途中であったし、お腹も空いていることじゃろう。遠慮せずお上がり。
        それでは、行ってくるでな。さほど長くはかからんじゃろう。数分か、あるいは十数分という――」パタッ

ハリー「……憂いの篩に頭を近づけたら、そのまま意識を失っちゃった。何だか寝てるみたいだ」

ハーマイオニー「あくまで記憶を"覗く"だけだから……肉体ごと記憶の中に入るわけじゃないもの。
          まるで記憶の中に入ったみたいに錯覚するって、本には書いてあったけど。
          それより、マミ、平気? どこか痛くない?」

マミ「え、ええ。平気よ。記憶を抜かれる時、少しひんやりしたくらいで……」

ロン「まあ、とにかく食おうぜ。せっかく山盛りのお菓子が出てきたんだし
   僕らは何も食ってないから腹ペコだよ……キュゥべえ、君の分もあるぞ。ミルクみたいだけど」

QB「貰うよ。ありがとう」


十数分後


マミ「――それでね、私、煤を思いっきり吸い込んじゃって。
  ダイアゴン横丁じゃなくて、変なとこに出ちゃったの。薄暗くて、不気味な物ばっかり売ってて……」

ハリー「僕も最初は失敗したなぁ。煙突飛行は慣れないと難しいよね」

ロン「っていうか、マミが行った其処ってノクターン横丁じゃないかい?
   闇の魔術に関する品物とか、違法なものが売買されてる……」

ハーマイオニー「ハリーも確か、煙突飛行に失敗してそこに落ちたのよね……
          あなた達、ほんとよく無事だったわね」

ハリー「僕の場合はハグリッドに偶然会えたからね」

マミ「……そんなに危ないところだったかしら? 特に危ない目にあった記憶はないけれど」

QB「よく言うよ……僕と杏子がどれだけ苦労したか……」ブツブツ

ハリー「? 何か言ったかい、キュゥべえ」

QB「いいや、別に何でも……そろそろダンブルドアも戻ってくるかな。20分近く経つし」

ロン「早く戻ってきて欲しいなぁ。意識がないとはいえ、目の前に先生がいるとなんか落ち着かないよ」モグモグ

ハーマイオニー「なら食べるのをよしたら? ……ちょっと、スコーンの欠片をこぼさないでよ」

ロン「おっと、やばいやばい……校長室に食べかすを落とすなんて恐れ多いや。
   ダンブルドアが起きてなくて良かった――」

ダンブルドア「いやぁ、実は五分ほど前には戻って来ておったのじゃよ」ムクッ

ロン「!? ごほっ、ごほっ!」

ハーマイオニー「ロン、大丈夫? はい、お茶……」

ダンブルドア「おお、すまんのう。休み中の学生がどんな風に過ごしているか聞ける機会はなかなかないのでな。
         つい意識の無い振りをしてしまった。マミ。君は素敵な友達を持っているようじゃのう」

マミ「え……? あ、そうか。先生、もう佐倉さんのことを……」

ダンブルドア「ああ。無論、この場に君以外の人間がいる限り、具体的なことは何も話せんが」

マミ「……本当に、すみません。あのぅ、今更ですけど、あれって解除する方法は……」

ダンブルドア「無いからこそ、"破れぬ誓い"なのじゃよ……それに、君に謝られる筋合いはない。
        おそらく君も、わしに謝罪の言葉を口にしたことを後悔するじゃろうし」

マミ「? 先生、仰る意味が――?」

ダンブルドア「わしの方こそ、先に謝っておかねばならぬかもしれん。非常に残念な話じゃが――」



ダンブルドア「わしは君たちを、即刻アズカバンに収監せねばならん」



マミ「……え?」


ロン「あ、アズカバンだって!? なんでさ、僕ら何にも悪いことしてないだろ!?」

ハーマイオニー「そんな――ハグリッドやシリウスでさえ、とても怖がってたあの場所に……?
          というか、私達、た、退学になるの!?」

ハリー「先生、一体どういうことなんですか!」

ダンブルドア「すまんが、話すことは出来んのじゃ。"誓い"を結んでおるからして」

マミ「そんな――私の、せい? 私の記憶の中に、何か不都合が……?」

ロン「そんなの、納得できるわけ――っ!? なんだこれ! 腰がソファから離れない!」グッ

ダンブルドア「すまんが、"永久粘着呪文"を仕掛けさせてもらった。君らが座る前にのう」

ハーマイオニー「最初から、そうする必要があるかもしれないと思っていたんですか……!?」

ダンブルドア「確証は無かった。だが、彼女の記憶を見てはっきりしたのじゃ。
        あのメッセージに関わった者は全員、すぐに隔離しなければならぬ」

QB「……」

ハリー「全員って……」

ダンブルドア「……おお、シリウスに、ジョージとフレッドもそうじゃな。非常に心苦しいが、仕方あるまい」

ハリー「そんな……! シリウスは、ようやく自由の身になれたのに……」

マミ「せ、先生……冗談、ですよね? だって、そんな……意味が分からない……」

ダンブルドア「冗談で口にするには、いささか以上に趣味が悪いと思うがのう?」

マミ「だって! だって――……もう、どうにもならないんですか……?」


ダンブルドア「……そうじゃのう。ひとつだけ、方法がないこともない」

ハリー「……! それって一体――僕、なんでもやります!」

ダンブルドア「残念じゃが、これはマミにして貰わなければならぬことじゃ。他の誰もない、彼女にの」

マミ「私、に? それって、一体なにを……」

ダンブルドア「君はただひとつ、質問に答えてくれるだけでよい。
        それさえしてくれたら、この問題は解決するのでな」

ロン「頼むよ、マミ! 僕たちの命運は君に掛かってる――」

ハーマイオニー「ロンったら! なんであなたはそうやってプレッシャーを掛けるような……」

ロン「そうは言っても、アズカバンなんだぞ!? あそこに入るくらいなら死んだ方がましさ!
    君だってさっきは怖がってたじゃないか!」

ハーマイオニー「それは……」

ハリー「……マミ、大丈夫?」

マミ「……ええ。こうなったのも、私のせいみたいなものだし。
   わかりました、先生。それで、質問っていうのは、どんな……?」

ダンブルドア「ああ。それはの――」

マミ(絶対に、答えなきゃ……じゃないと、みんなが……)


ダンブルドア「――もしもヴォルデモート卿が、自分の魂と同じくらい価値のあるものを隠すとしたら、
        一体それは何処にあると思うかね?」


ハリー「……ヴォルデモート?」

ロン「な、なんで例のあの人が出てくるのさ……」

ハーマイオニー「……マミ、なにか心当たりは?」

マミ「し、知らないわ! 先生、なんでそんな質問を――」

ダンブルドア「理由は言えぬ。それで、答えて貰えるかの?
         答えられねば、申し訳ないがアズカバンに送らねばならぬ」

マミ「そんな……だって私……」

マミ(分からない……だって私、本当に何にも知らないし……でも)


ハリー「……シリウス」

ロン「……」ガタガタ

ハーマイオニー「……」ギュッ


マミ(私が答えられないと、皆が――答えなきゃ。何があっても、答えないと……
   "知りたい"。"ヴォルデモート卿の、魂と同じくらい大切な物の場所"は"どこ"に……)


 コ ト ン


ハリー「……? 本棚から、ひとりでに本が落ちた……?」

ダンブルドア「……ふむ」ヒョイッ

マミ「あの、先生」

ダンブルドア「ああ、済まぬがもう少し待っていておくれ……」ペラッ

ロン「……どういうことだい? 答えるのを待つどころか、本を読みだして……」


ダンブルドア「……なるほど、なるほど……」チラッ


日記「」


ダンブルドア「確かなようじゃ……しかしそうすると……やはり、そういうことになってしまうの……
         鍵は"願う"ことか。ほぼ、意識的に力を発揮できる……」

マミ「あの、先生……」

ダンブルドア「ん? おお、すまんすまん。とりあえず、もうソファに尻を掴まれている必要はないの。
        ほいほい、ほいっと」スイッ

ロン「うわっ!」ガタッ

ハーマイオニー「粘着呪文が取れたみたいね……ロン、平気? どれだけ逃げ出そうとしてたのよ、あなた」

ロン「だ、だってアズカバンに送られるなんて言われたら、そりゃ逃げ出したくなるもなるよ!」

ハーマイオニー「それはまあ、そうだけど……でも、魔法を解いてくれたっていうことは、疑いは晴れたのかしら?」

ハリー「でも、質問に答えてないけど……」

ダンブルドア「ああ、さっきも言ったが、わしは謝らねばならんのう。
         アズカバンに送らねばならないというのは、真っ赤な嘘じゃ」

ロン「……はい?」

マミ「ええっ!? 嘘、嘘って……そりゃあ、嘘で良かったけど……」


QB「やっぱり、ブラフか」

ダンブルドア「おやおや、君の猫君は非常に賢いのう」

マミ「……キュゥべえ。あなた、分かってたの?」

QB「うん。だってダンブルドアは誓いを結んだじゃないか」


"知り得た記憶によって、私の友達を迫害しないと、誓っていただけますか?"


QB「マミひとりを逮捕するっていうつもりなら、分からなかったけど……
   ここにいる全員を、って時点で、本気で収監するつもりはないって気づいたよ」

マミ「……あ。そっか。私、佐倉さんのことしか考えてなかったけど……友達には、皆も含まれるわよね」

ロン「お、驚いたなぁ……そうだよな。ダンブルドアがそんなとち狂った真似するわけないさ、ウン」

ハーマイオニー「全力で逃げようとしてた人の台詞とは思えないわね」

ハリー「でも、それなら何であんな嘘を?」

QB「……それに関しては僕も同意見だ。

   魔法については詳しくないけど、嘘をついて脅すことも、"迫害"の範疇に含まれる可能性はあった。
   そんな危険をおしてまで、どうして……?」

ダンブルドア「……確かに、わしは嘘をついた。君らをアズカバンに入れるなどという、荒唐無稽な嘘を。
         だが、必要ではあったのじゃよ。早い内に、自覚をさせねばならなかった――彼女に」


マミ「――え? わた、し?」


ダンブルドア「その通り。何よりも君に、わしはこの辛い事実を突きつけねばならない。
         マミ・トモエ。君のことは知っている。努力家なことも、それに比例せずに実技がやや苦手であることも」

マミ「……」

ダンブルドア「君は、もしかしたら疑問に思っていたかもしれん。自分には、本当に魔法の才能があるだろうか、とな。
        しかし、君にはとてつもない才能があるのじゃ」

マミ「私の、才能――?」

ダンブルドア「わしは教師として失格かもしれん。君がこの事実に耐えきれるか――
         それももう、ほれ。一緒に座っている彼らを初めとした、君を取り巻く友人たちに託すしかなくなってしもうた」

ハーマイオニー「……私たちに、ですか?」

ハリー「どういうことなんだろう……?」

ロン「っていうか、マミの才能って? 教室をワイルドに模様替えする才能とか?」

ダンブルドア「ああ、それくらいであれば実に微笑ましかったのじゃが! しかし、事実はそうではない。
        才能……恐るべき、才能じゃ……」

マミ「あの……結局、どういうことなんです?」

ダンブルドア「……ミス・トモエ」

 









ダンブルドア「君がトレローニー先生の授業を取らなかったのは不幸であり、同時に幸いでもあったのう」









.



マミ「トレローニー、先生……? それって、えーっと、確か……」

ハリー「"占い学"の先生だよ。いつも自分の部屋に籠ってるし、マミは会ったことなかったっけ?」

マミ「……そういえば、去年のクリスマス休暇の時、大広間で一度だけ……お話ししたことはないけれど」

ロン「でも、それとマミの才能とどんな関係があるっていうのさ? あのインチキ婆さんが――あ、すみません……」

ダンブルドア「先生にそのような口を聞いてはいけないよ、ミスタ・ウィーズリー。
        まあ、わしも"占い学"という学問には、少々疑問を持っている一人なのじゃが……」

ハーマイオニー「……あっ! それじゃあ、もしかしてマミは……でも、そんなことって」

ハリー「……ハーマイオニー? 何かわかったの?」

ダンブルドア「……君らの考えは、ある意味初手から間違っておった。"時計"が手元にあったということもあるのじゃろうが。

         その者は、未来からメッセージを送っているのではない。
         未来そのものを無意識の内に悟り、周囲に無差別に放射しておるのじゃ」

ハーマイオニー「私……占い学は、嘘っぱちだって思ってた……でも、それが本当なら、マミは」

ダンブルドア「さよう――そうした特別な才能を持つ者のことを、我々は"予見者"と呼んでおる」

QB「……! それじゃあ、マミの才能っていうのは――」

ダンブルドア「その通り。マミ、君は強力な予見者としての才能を持っておるのじゃよ」


マミ「私が……予見者? つまり、未来のことを知ることができる?」

ダンブルドア「未来だけではないがの。本来なら知り得ぬこと全てが、君の手の内にある。
        いままで受け取ったメッセージも、全て君が無意識に予見していたものじゃ」

マミ「……そんな、急に言われても……」

ダンブルドア「予兆はあった筈じゃ。おそらく予見の条件は、君が強く"知りたい"と願うことだからのう。
        たったそれだけで、君はどんな知識も手に入れることができる」

ロン「ええええ!? 凄いじゃないか、マミ! 宝くじとか当て放題だ! テストも勉強しなくていいし!」

ハーマイオニー「ロン、あなたっていう人は、本当に……でも、先生。それは確かなのですか?
          "送り主"がマミだっていう証拠は……」

QB「確かに、送り主が別にいるという可能性はまだ潰えてない。
   だって、例えば賢者の石の仕掛けなんかは、知りたいなんて願わなかった筈だろう?」

ダンブルドア「……予見の力は、年を経るごとに強力になっていったと考えられる。
        最初の内は、偶発的に予見してしまうようなこともあったのじゃろう。
        逆に知りたいと思うたことが、予見されないことものう」

ダンブルドア「そして――彼女が予見者だという証拠じゃが――……」

ハーマイオニー「……先生?」

ハリー(……言おうかどうか、迷ってる?)

ダンブルドア「……隠しようもないことじゃ。ここで話さずにいても、いずれは本人が予見してしまうからかのう。
        だからわしは、ここで君に告げねばならない。マミ、心を強くしてお聞き」

マミ「……は、はい。大丈夫、です」

ダンブルドア「……君に魔法使いとしての才能がある、と分かったのは、入学式の直前じゃった。
        つまり、その時初めて、君は魔法使いとしての才能を開花させたということじゃ」

マミ「……覚えています。マクゴナガル先生が、直接伝えに来てくださって……」

ダンブルドア「そうじゃのう。ミタキハラにフクロウ便が整備されたのはごく最近の話じゃ。
         そして何分急な話じゃったから、こちらもきちんと人をたてた方が良い、ということになった」

マミ「はい。……でも、それが何か? 私に予見の才能があるということと、どういう繋がりが」

ダンブルドア「君の魔法使いの才能が発現したことに関して、マクゴナガル先生が何と言ったか、覚えておるかね?」

マミ「……自動車事故で、無傷だったからと……危機的状況で、魔法の力に目覚めるのはよくあることだって」

ダンブルドア「そうじゃのう。間違いではない。じゃが、今回に限っては間違いじゃった」

マミ「……どういうことですか?」

ダンブルドア「……マクゴナガル先生は、君に関しての報告を詳しくはせんかったのじゃよ。
        君の不幸を広めるというのが、彼女の良心を咎めたのじゃろう」

ダンブルドア「君についてわしが知っていたのは、君には確かに魔法の才能があるということ。
        ご両親は交通事故で亡くなり、その時、君は無傷で生き残ったとこと。この二つだけじゃった。
        だからこそ記憶を見るまで、時系列の矛盾に気づくことが出来なかったのじゃが」

マミ「時系列の、矛盾……」

ダンブルドア「君は覚えている筈じゃ。初めてマクゴナガル先生と出会った時のやり取りを。
        君の記憶の中でも、それはとりわけ鮮明で、暖かいものじゃったからのう」

マミ(マクゴナガル先生との、出会い……?)

ごめん。やっぱ駄目だ。頭かっくんかっくんしおる。起きたら続き投下します

おはようございました。続きを投下します。


◇◇◇


『……っと、失敬。貴女がマミ・トモエですね?
その歳でこんな……大変だったでしょう。お悔やみ申し上げます』


『いえ、残念ながら。この国はふくろう便が整備されてなくて……ああ、まあそれはともかく。
本来なら三日前の誕生日、貴女が食事から帰ってきたらお会いする予定でした」


『自己紹介がまだでしたね。私はミネルバ・マクゴナガル。
イギリスのホグワーツという学校で教鞭を取っている者です』


◇◇◇





ダンブルドア「そう。"本来なら三日前の誕生日に会う筈だった"。奇妙だとは思わんかね?
        君が事故にあうことなど、その時点では分からなかった。
        マクゴナガル先生が君の御両親にお会いしようとしていたのは、君が交通事故に遭う前なのじゃよ」

マミ「……あ!」

QB「……それよりも前に、マミは魔法の力に目覚めたていた、というわけか」

ダンブルドア「その通り。もっとも、マクゴナガル先生が気づかなかったのも無理はない。
        君が生き残ったのは確かに魔法の力によるものじゃろうし、なにより考える為の時間が少なかった」

ダンブルドア「君に魔法力が観測されて、その日の内にマクゴナガル先生は日本に"姿現し"したのじゃ。
        その時、既に君はご家族と……おっと、これは純粋に君の記憶から得た知識じゃから口に出来ん。
        マミ、辛いかもしれんが、代わりに頼めるかの?」

マミ「……両親と、誕生日のお祝いとして、街に車で……」

ダンブルドア「そうじゃ。マクゴナガル先生は、家族水入らずに割り込むのを控えた。
        結果として、マクゴナガル先生が君の両親と出会う前に、君は交通事故に巻き込まれることとなった。
        ……故に、彼女は勘違いしてしまったのじゃよ。君の魔法力が、初めて発現した時を」

マミ「……」

ダンブルドア「……もう、分かったのではないかね? いったい、それがいつだったのか。
        どういった形で、君の魔法使いとしての才能が目覚めていたのか」

マミ「……そんな……だって、それじゃあ……」ブルブル

QB「……マミ? どうしたんだい?」

ハーマイオニー「っ! 酷い顔色……先生、良くわかりませんけど、これ以上は……」

ダンブルドア「いいや。ここで受け止めねばならん……最悪なのは、誰も傍にいない時に予見してしまうことじゃ。
        いま、この時。彼女は全てを知らねばならん」


マミ「……あれは、私の気のせいで」

ダンブルドア「気のせいではなかった。おそらく、君がした最初の"予見"じゃった」

マミ「嘘、です……私に、そんな才能は」

ダンブルドア「心当たりはある筈じゃ。君はこれまでのメッセージに、奇妙なほど全幅の信頼を置いていた。
         何故なら、君は心のどこかでそれが紛れもない自分自身の"予見"だと知っていたのじゃ」

マミ「そんな……」


(なんていうのかしら。凄い馴染みのある気配、とでもいうのかしら。
 知らない筈なのに、長い間ずっと一緒にいたような……)


マミ「あ……」

ダンブルドア「……さよう。君が知りたいと願った時、実に都合よく、それは目の前に降ってきた――」

マミ「――都合なんて、よくなかった!」ガタッ

ハリー「マミ!?」

ハーマイオニー「ちょっと、落ち着いて――」

マミ「落ち着く!? 落ち着いてなんて、いられないわ! だって、私、私――」


マミ「私、パパとママを、殺して、なんか――」


ダンブルドア「……」

ハリー「……え?」

ハーマイオニー「どういう、こと……?」

ロン「君が、自分のパパとママを……その、」

マミ「……っ! そんなわけ! ない! 私、私は――」ガタッ

ハーマイオニー「マミ!? あなた、憂いの篩を――!?」

マミ「見れば、全部わかる! 私は、才能なんか、なくて。ただの、出来損ない、で……」


 そうであれば、どれほど良かったことか。

 憂いの篩に意識を落として、私はそう思い知ることになった。


◇◇◇



マミ(実際に見て、言葉だけじゃなく、本当に理解できた……この試合は、本当に危ないんだ。
   さっきロンくんが言った通り、誰かが、本当に、ハリーくんを殺そうとしてる……)

マミ(一体"誰"が? "どうやって"? "何の目的で"――?)



 彼女は願った。友人を殺そうとする犯人が知りたいと。



『ハリー・ポッターの名前をゴブレットに入れたのは、死喰い人のバーテミウス・クラウチ・ジュニア』

『アズカバンから密かに脱獄し、いまはアラスター・ムーディに変装している』

『狙いは、ハリー・ポッターを闇の帝王の下へ送り届けること』



◇◇◇


◇◇◇



マミ「そこよねえ……二人のわだかまりを解くのに、私ができることって何かしら?」


 彼女は願った。友人たちの諍いをおさめたい。その為に、成すべきことを知りたいと。


『スキャバーズは生きている。捕まえたいなら、この位置に罠を張り、さらにこの六つの位置で踊ること』



◇◇◇


◇◇◇



マミ「ふうん。これがロンくんのネズミね……」

ロン「あれ? 見せたことなかったっけ? スキャバーズさ。
   ほんとはもっとぷくぷくしてたんだけど、エジプトに行ってから弱っちゃってて」

マミ「本当、可哀想に……ああ、指も一本欠けちゃってる。どうしたの、これ?」


 彼女は願った。友人のペット。その怪我の理由を知りたいと。


ハリー「真っ白な背景に、字だけ書いてある……"逃げる時に自分で切り落とした"? どういうこと?」



◇◇◇

◇◇◇



QB「そうだね。あとはハーマイオニーだけど……今日もダメだったのかい?」

マミ「そうなのよ。帰ってきてから、あの三人でずっと何かやってるみたいで。
   今日も授業が終わってすぐ、教室から飛び出していっちゃったの」

QB「話す機会がなかなかないねぇ。まあでも、向こうが聞いてこないんなら、彼女のでもないんじゃないかい?」

マミ「そうかもしれないけど……でも聞く前に捨てるわけにもいかないし」

QB「せめてどこにいるか分かればねえ」


 彼女は願った。友人の居場所を知りたいと。


 "禁じられた森" "ハグリッドの小屋"



◇◇◇

◇◇◇



マミ「これとこれと……あ、新聞がある。じゃあこれもお願いします」
   (魔法使いの世界の事情とか、全然知らないし……)



 彼女は願った。魔法界のことが知りたいと。これから、自分の周りで起こることが知りたいと。



(生き残った男の子、ハリー・ポッター帰還)
(ワーロック法違反。危険生物の卵が帳簿と釣り合わず)
(賢者の石の創造者ニコラス・フラメル氏、死去)



『一つ目はケルベロス。音楽を聞かせること。
 二つ目は悪魔の罠。火をつけること。
 三つ目は空飛ぶ鍵。箒で飛んで掴むこと。
 四つ目はチェス。よく練習しておくこと。
 五つ目はトロール。対策を練っておくこと。
 六つ目は論理。前へ進みたいなら一番小さな瓶。戻りたいなら右端の瓶を』



◇◇◇

 


マミ『ねえお母さん……やっぱり、今日のお出かけやめにしない?』

マミママ『? どうしたの? マミも今日のお出かけ楽しみにしてたじゃない』



 彼女は願った。この幸せな日々が、ずっと続けばいいと。



マミ『……えっと、なんとなく……だけど。今日はあんまり外に出たくないなって』

マミママ『あら、体調でも悪いの?』

マミ『そういうわけじゃないけど……』



 彼女は思った。この幸せな日々は、いつまで続くのだろうと。




マミママ『……珍しいわね、マミが愚図るなんて。でも駄目よ、もうレストランも予約しちゃったし』

マミ『でも……テレビで最近――』





 






マミ『でも……テレビで最近、車の事故が多いって……』



 ――ふと、思って、しまった。





.

 

テレビ『ザ――ザザ、ザ――こんばんは、夜のニュースです。○月○日、見滝原市で大規模な玉突き事故が発生しました。
     死亡したのは、巴――ザ――さんと、その妻――ザ、ザ――で、ザ、ザザッ』


テレビ『ザ――お昼のニュースです。イギリスでフクロウが異常発生しているニュースの続報ですが――』


マミ『……』


マミママ『――マミ、マミ? あ、こんなところに居た。もうっ!
      まったく、テレビの前に座り込んじゃって……支度出来たの?』

マミ『ねえお母さん……やっぱり、今日のお出かけやめにしない?』

マミママ『? どうしたの? マミも今日のお出かけ楽しみにしてたじゃない』




 未来を予測することが出来ない限り、運命は変わらない。

 だからその日、私は家族を失った。


 ――なんて、欺瞞だろう。


マミ「嫌……」


 私は、未来を知っていた。それなのに、私は何もしなかった。


マミ「嫌ぁ……」


 それだけなら、まだしも。


マミ「嫌ぁ……!」


 ダメ。だめ。駄目。駄目駄目駄目駄目駄目。絶対、駄目。

 思い出せ思い出せ最低の記憶を思い出せお前、お前はお前はお前は、


マミ(あ――私、は……)


 ――私は、運命を変えるチャンスを、フイにしていた。

 思い出したくなくて、心の底に沈めていた、あの時の記憶が再生される。


巴マミ 11歳の誕生日 交通事故現場



マミ「……」


 気づけば、そこはあの日の、あの事故現場になっていた。

 ガソリンが燃え、周囲には火の粉が舞っている。小規模な爆発が起こり、私の横を鋭い鉄片が通りぬけていく。


マミ「げほっ、げほっ……ひどい、煙……」


 記憶でなかったら、窒息して死んでいただろう――そんな地獄の中で、昔の私は座り込んでいた。


幼マミ『……っ、ぁ』


 服は煤で汚れ、ところどころ擦り切れている――だが、目立った怪我はしていない。


マミ(無傷で助かったののよね……自分だけ)


 視線を移す。昔の自分の背後。

 ――そこには見るも耐えない状態になった、両親の姿が。


マミ「……!」


 こみ上げる吐き気に、思わず手を口に当てる。

 葬儀でも、遺体との対面は出来なかった――その意味を、理解する。

 それをもう、人だとは思えない。少し前までは動いていたなどと、信じられない。

 だから、幼い自分は目をそらしている。両親の"無い"前を向いている。


マミ(こんな時まで、私は弱虫で……そして、だからこの後も……)


『やあ、酷い事故だね』


 ――来た。

 道路に座り込んでいる昔の自分の前に、白い獣――インキュベーターが、浮かぶように現れる。

 私が、忘れていた記憶――忘れようとしていた記憶。

 すでにこの時、私はインキュベーターに出会っていた。


Incubato『君は奇跡的に無傷のようだけど……でも、後ろのふたりはもう駄目かな。
      既に死んでいる。明らかに致命傷だしね。この星の医療技術じゃどうにもならないだろう』

幼マミ『……』

Incubato『でも、君が望めば、この運命だって変えられる。
      君の素質なら、死後間もない人間をふたり、生き返らせることは可能だ』

幼マミ『……』

Incubato『だから僕と契約して、魔法少女になってよ!』



マミ「インキュベーター……」


 宇宙の為に、魂を弄ぶ異星の民。

 佐倉さんのことを思えば、彼らへ憎しみを抱いてもおかしくはないだろう。

 だけど、


マミ「……ねえ、お願い……パパとママを助けてって、言って?」

幼マミ『……』

マミ「お願いだから……ね? 私みたいな役立たずでも……その位はできるんだから」


 無駄だということは知っている。これは記憶。すでに過ぎ去った過去にすぎないのだから。

 それでも、懇願せずにはいられない。それはつまり、私はこの過去を受け入れられないということ。


幼マミ『……』

Incubato『……困ったな。意識はある筈なのに。契約は、合意がなければ結べない。
      はっきりと、意思表示をして貰わないと困るんだけど……』

幼マミ『……』


 昔の私は、喋らない。

 理由は知っている。覚えている。

 息が苦しかった。事故のショックがあった。相手の説明が良くわからなかった。

 兎に角、まともに会話ができる状況ではなかった。
 

Incubato『やれやれ、仕方ないな。契約出来ないのに、個体をひとつ潰すのも馬鹿らしいし。
      またね。君が望めば、いつでも契約するよ』

幼マミ『……』

マミ「あ、あ、あ……」


 インキュベーターの姿が、揺らめく様に消える。

 息が苦しかった。事故のショックがあった。相手の説明が良くわからなかった。

 ――たったそれだけの理由で、私は両親を見殺しにした。


マミ「……助けられる方法は、すぐそばにあったのに!
   その代償は、私の魂なんてちっぽけなもので良かったのに!
   私、私は――」


 これが、吸魂鬼に幸福な感情を吸い取られた後に残る、私の最悪の記憶。

 まね妖怪に呼び覚まされることを恐れた、私の最低の不義。

 私には、全てを見通す、素晴らしい才能があった。

 私には、全てを覆す、素晴らしい才能があった。

 ――そんな望外の力を持ちながら、私は大切な人達を見捨てたのだ。


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校長室


シリウス「やれやれ、ようやく尋問が終わった……まさかクラウチの息子がムーディに化けていたとはな。
      まあ、奴もめでたくアズカバンに逆戻りというわけだ。さて、ハリー達はまだ中にいるか……?」


 バタン!


マミ「……」

シリウス「っと! ああ、なんだ君か。話は終わったのかい? 
      ハリーは中かな? それとももう寮へ……?」

マミ「……っ!」ダッ

QB「……」トテテテ

シリウス「……行ってしまった。どうしたと言うんだ?
      どうも険しい表情をしていたが、もしや何かあったか……?」

ハリー「――シリウス!」

シリウス「ああ、ハリー! どうしたんだ? 中で一体、何が――」

ハリー「ごめん! でも急いでるから……マミはどっちに行ったか見た?」

シリウス「彼女なら、あっちの方に……というか、地図を使えばいいだろう」

ハリー「それもそうか。ありがとう、シリウス! "我、ここに誓う"――」

ロン「でもさ、追いついたところでなんて説得する?」

ハーマイオニー「そんなの追いついてから考えればいいのよ! 私達、詳しい事情も知らないし。
          もう、マミったら! 急に飛び出していくんだから――」


 タタタタ……


シリウス「……何やら、私ひとりだけ蚊帳の外だな――ダンブルドア! いったい何があった!?」

ダンブルドア「――それで、本物のムーディは?」

シリウス「トランクの中に監禁されていた。失神呪文やら服従の呪文やらを掛けられてな。
     それでもマダム・ポンフリーの見立てでは、クリスマス休暇明けには復帰できるそうだ」

ダンブルドア「なるほど……不幸中の幸いじゃの。
        問題はクラウチ・シニアに掛けられた服従の呪文をどうするかじゃが……」

シリウス「ヴォルデモートが直々に掛けたという話だ。下手に手を出すのは不味い。
      本人の抵抗に任せて、動向が向こうに伝わらぬよう校内に軟禁しようというのが、
      スネイプ……あー……"教授"のご意見だったが」

ダンブルドア「ならばそのように取り計らおう。魔法契約のせいで、T.W.Tは中止にも出来んしのう。
        さて、ヴォルデモート卿の復活を、ファッジが受け入れられるかどうか」

シリウス「まったく、奴らしい。実にいやなタイミングでことを運ぶ……」

ダンブルドア「であるからこそ、奴は強大な闇の魔法使いになった……しかし、そっちの方は一段落か。
        問題はミス・トモエの件じゃが……」

シリウス「事情は聞いたが、考えすぎでは? 確かに、急に予見者の才能に目覚めれば戸惑うだろうが……
      残酷な真実、というには大げさではないのか?」

ダンブルドア「……シリウス、君は予見者について、どの程度知っておる?」

シリウス「そこまで詳しいわけではないが……未来予知やら失せ物さがしやら、
      そういう"本来知り得ないこと"を口にする奴らだろう?」

ダンブルドア「まあ、そうじゃな。実を言うと、わしはあまり占い学という科目が好きではないのじゃが……」

シリウス「……貴方がそういうことを口にするとは、正直驚いた」

ダンブルドア「……そもそも、予見は勉強で身に付くものではない。純粋な才能じゃよ。
        占い学も、その才能の発芽を促す手助け程度にはなるじゃろうが――」

シリウス「つまり占い学は……多くの者にとっては役立たずだと?」

ダンブルドア「大きい声では言えぬがの。わし自身、あの科目を続けるのは意に反したところがある……
        しかし問題は、現実に本物の予見者がいるということでな」

シリウス「……それのどこに問題が?」

ダンブルドア「わし個人としては、予言や運命というものが全てを支配しているとは考えていない。
        しかし、そう考えたくなる者の気持ちも分からんではないのじゃ」

ダンブルドア「予見者! 未来を予測するという非常に難解な分野において、彼らは専門家じゃ。

         その点に関して、わしらは絶対的に及びはしない……誰も予見者としてのミス・トモエを理解はしてやれん。
         この学校の占い学の先生も、本物ではあるが相談役には適さんじゃろう」

ダンブルドア「つまりは、それ以外の点で――単なる一学生としてミス・トモエを見ることができて、
        なおかつ彼女を手助けしてやれる者が必要じゃ。わしはそれを、彼女の友人に託した」

シリウス「ハリーなら大丈夫でしょう。友達想いの良い子ですよ」

ダンブルドア「否定はせん。じゃが、すでにあの子は背負いすぎるほど背負い込んでおる」

シリウス「……」

ダンブルドア「なればこそ、保険はかけておくべきじゃろうな……エクスペクト・パトローナム(守護霊よ、来たれ)」

守護霊「……」

ダンブルドア「今宵、皆が寝静まった頃、ミス・トモエに伝言を。内容は――」


翌日 11/25 ホグワーツ 図書室



ハーマイオニー「私のミスよ! 送り主がマミだって、気づけてた筈なのに――ヒントはいっぱいあったもの!
          でも逆転時計を使ったばっかりだったし、占い学はインチキだと思ってたし――」

ハリー「それをいうなら僕もだ。去年の騒ぎで、すっかり忘れてた……トレローニー先生が、本物かもしれないって。
     本当の予言者がいるかもって知ってたんだ」

ロン「いや、絶対気づけないよ、そんなの……少なくとも僕はそう思うけど。
   それよりマミだ。昨日から全然捕まらないじゃないか。こっちは地図で先回りしてるのに」

ハーマイオニー「……たぶん、私たちが先回りするのを更に先回りしてるのよ。
          自覚したことで、もっと能動的に"予見"できるようになったんじゃないかしら」

ロン「……それってつまり、マミが捕まりたくないって思ってる限り、絶対に捕まらないってこと?」

ハーマイオニー「どの程度まで予見できるかにもよるでしょうけど……」

ハリー「昨日は寮に戻って来なかったし……朝食時にも現れなかった。
     地図は一つしかないから、三手に分かれて追いつめることも難しい……」

ロン「その内、お腹が減って倒れちゃうんじゃない? その時に捕まえる?」

ハーマイオニー「そんな悠長なこといってられないでしょ! ダンブルドアも言ってたじゃない。
          マミが自分の才能に耐えきれるかどうかは分からないって」

ロン「それなんだけど、いまいちよくわからないんだよね。だって未来が見えるんだろ?
   どう考えたって人生バラ色じゃないか!」

ハーマイオニー「……たとえば、自分がいつ、どんな風に死ぬか、分かってしまっても?」

ロン「……え?」

ハリー「それってどういう……?」

ハーマイオニー「いつだったか、あなたが馬鹿馬鹿しい死神犬のことで大騒ぎしてたけどね。
          予見者はそれ以上にはっきりと、死の前触れを見ることもできるの」

ロン「……それは、その……ぞっとしないね」

ハーマイオニー「"死の前兆"っていう占い学関係の本があるんだけど、
          それに書いてあること全部真に受けて人生に希望が持てなくなっちゃ人もいるのよ。
          マミはダンブルドアに太鼓判を押された本物なんだから、実際しゃれになってないわ」

ハリー「……なんとなく分かるよ。去年の僕もそんな感じだったし」

ハーマイオニー「そんなわけで――どうにかして早く捕まえる手立てを考えないと。
          すっごい昔の話だけど、予見者って迫害の対象だったりもしたらしいし……

ハリー「でも、結局どうすればいいんだろう……?
     マミが僕たちに会いたくないと思ってる限りは会えないんじゃ……」


ロン「そもそも、なんで僕らを――っていうか、他人を避けようとしてるんだろう?
   僕だったら誰かに相談するけどなぁ」

ハーマイオニー「分からないわ。マミが取り乱し始めたのは、自分の記憶を覗いてからだけど……」

ロン「でもあれ、自分の記憶だろ? なんであんな風に……ダンブルドアは話してくれなかったしさ。
   "誓い"のせいだとは分かってるけど……」

ハリー「……辛い記憶を、もう一度見たんだと思う。彼女、御両親を酷い事故で亡くしてるし……
     それに、変なことも言ってただろう。自分の両親を、その……」

ハーマイオニー「……とにかく、手遅れにならない内になんとかしないと。
          もう一度、居場所を確認して見ましょう? ハリー、地図を」

ハリー「うん……"我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり"」トン



地図『ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ。
    我ら悪戯坊主の味方が送る最高の品、"忍びの地図"』スゥ....


ロン「僕、昨日の時点でちょっと思ってたんだけどさ。
   地図を使うたびにこの文句が出てくるのどうにかならないのかなぁ?」

ハリー「それは今度シリウスに相談してみよう……それより、マミは何処に……」

ハーマイオニー「彼女、いざとなれば抜け穴を"予見"してホグワーツから抜け出すかもしれないし……
          一応、昨日の内に外へ通じる隠し通路には呪いを掛けておいたけど」

ロン「ジョージとフレッドが引っかかったりして……うーん。それにしても、マミは何処に……」

ハリー「……いた! ここだ! でも、ここって……」

ハーマイオニー「……グリフィンドールの女子寮? 入れ違いだったの!?」

ロン「彼女、ようやく戻ってくる気になったのかな?」

ハリー「分からない――でも、急ごう!」


グリフィンドール談話室


ハリー「……」

ロン「……おったまげー。これ、どういう状況?」

ハリー「僕に聞かれても……でも、普通じゃないよね?」


 バサ バサ バサ


ネビル「わっぷ! わああああああ! もうやだ! 誰か助けて――ああ、ハリー!
     どこに行ってたんだい? 昨日は君らの話題で持ち切りだったのに……」

ハリー「ああ、ネビル。そんなことより、今のこの現状の方が深刻だと思うけど……なに、これ?」

ネビル「僕にだって分からないよ! さっきからずっと、どこからともなく本やら羊皮紙やらが降ったり湧いたりで……
     おまけに変なことばっかり書いてあるんだ!」

ロン「どれどれ……ははん? ネビル、君は近い将来、ハリーを助けるって書いてあるぞ?」

ネビル「そうなの? こっちには君の妹がレイブンクローの誰それと付き合うって書いてあるけど……」

ロン「はあああ!? おいちょっと、その紙を貸せ! 誰だ! 誰って書いてある!?」

ハーマイオニー「ああもう! ロン! そんなことやってる場合じゃないでしょう! インセンディオ!(燃えよ)」

ロン「あああああ! 君、何てことするんだ! 僕の妹が慰み者にされてもいいのか!?」

ハーマイオニー「そんな頭が軽い子じゃないわよ、彼女――それにしても、マミが人を避けてたのはこれが原因ね」

ハリー「……じゃあこれ、全部マミが?」

ハーマイオニー「ええ。能動的に予見ができる、どころじゃないわ。彼女、もう止められないのよ。
          多分、頭によぎったことに関するほとんど全てが予見として……」

ロン「おいおい、冗談じゃないぜ! もう足首のとこまで羊皮紙が積もってるんだぞ。談話室が紙で埋まっちまうよ!」


ハーマイオニー「この量だと燃やすのは危ないから、纏めて消しましょう。
          アクシオ! 予言よ、集まれ! エバネスコ!(消えよ)」


 ぽん!


「おおー」パチパチパチ


ハーマイオニー「ふふん。さて、これでようやくマミのところまで……」


 ドサササササ!


ハーマイオニー「」

ロン「消したのと同じくらいの量がいっぺんに降ってきたね」

ハリー「……えーと、何々……"ハーマイオニーが呪文で消した音"……
     なるほど。マミがちょっとでも疑問に思ったら全部こうやって答えが出るんだ」

ロン「彼女、さっきのを聞いてたってことかい? じゃあもう、ここから呼ぼうよ。
   おーい、マミ、降りてきなよ! お腹減ってるだろ! 生憎、いまここにはヤギの餌しかないけど!
   でもフレッドとジョージに頼めば、きっと食料を調達してきて――」

ネビル「あの二人なら医務室だよ。隻眼の魔女像の前で、誰かに呪いでやられてるのを発見されたって」

ハーマイオニー「……あー、そう、なの。それは心配ね?」

ロン「……ややっこしい呪いを掛けてやしないだろうね、その誰かさんは」

ハリー「マミ! 話があるんだ! とにかく一度おりてきてくれ!」


 がちゃっ ぎいぃ…


マミ「……」

ハーマイオニー「ああ、マミ! 良かった……もう! 本当に心配したんだから!
          ねえ、昨日はどうしたの? 私たちで力になれることなら、相談して……」

マミ「……ごめんなさい」

ハーマイオニー「謝ることなんか! まず、理由を教えてちょうだい?
          そりゃあ話したくないことは、無理に話さなくたっていいけど――」

マミ「……」ガチャッ

ロン「……おい、奴さんおかしいぜ。トランクなんか持ってやがる。あれじゃまるで……」

ハリー「……マミ? どこに行く気なんだ?」

マミ「ごめんなさい……」

ハリー「謝ってばっかりじゃ、何にも分からないよ――」



QB「悪いけど、止めないでくれ。マミが決めたことだし、僕もこうした方がいいと判断した」

ハリー「キュゥべえ! マミは一体……昨日、君はあれからずっと一緒だっただろう?
     何か知ってるんじゃ……」

QB「……僕の口からは言えない。校長室から飛び出した理由も、今からホグワーツを出る理由も」

ロン「ここから出るだって!? なんでそんな――」

ハーマイオニー「ねえ、マミ……あなたが悩んでいるのは分かるわ。それがとても難しいことだっていうのも。
          でも相談してくれれば、私達、絶対に力になれると思うの。今までだって……」

マミ「……ハーマイ、オ……」


 バサバサバサ!


ロン「うわっ! またか――なにこれ。ハーマイオニーのO.W.L試験の成績!?
   僕ら、これを受けるのは来年の筈だろ? こんなもんまで……」

ハーマイオニー「み、見せないで! やめて、あっちにやって!」ブンブン

ハリー「……そうか。本当に、どんな些細なことでも……」

QB「……そうさ。下手に相談しても、その間、その人の未来を無差別に予見してしまう……
   いまのところまだ、そういうことは無いけど……」

QB(分かるだろ? それで、もしも誰かの"死の予言"をしてしまったら――)コソッ

ハリー(……! そうか、それを口にしたら――少しでも意識してしまったら――)

マミ「……」

QB「マミは昨日から、必死に関係ないことを考えて誤魔化してる状態だ。でも、長くはもたないだろう。
   予見についての知識も十分だとは言えない。非常に危険な状態なんだ」

ハーマイオニー「じゃあ一体、どうするつもりなの?」

QB「それは……」


 ガチャッ バタン


ロン「うん? 誰だろう。悪いけど、見ての通り取り込み中だから――」

???「……」スッ

ロン「へ? 大人……? でも、ホグワーツの先生でも」

ハリー「ロン、危ない! そいつ、杖を!」

???「ドルミーテ!(眠れ)」

ハーマイオニー「っ! プロテゴ!(守れ)」


ネビル「うわっ……むにゃむにゃ……」Zzzz

ロン「……談話室にいる連中、僕ら以外みんな眠っちまった」

ハリー「誰だ!? どうやってホグワーツに……エクスペリアームス!(武器よ去れ)」

???「っ!?」カランッ

ロン「よっしゃ! よくやったハリー! あとは縛り上げて、先生のところに……」

???「待て待て待て! 別に私は君たちに危害を加えようとしたわけじゃ」


 ガチャッ


マクゴナガル「……」

ハリー「先生! ちょうどいいところに! 見てください、変な奴が寮に――」

マクゴナガル「ポッター。その人は……」

???「全く! 君たちのことを思って私は呪文を――おっと、不味い。早くしないと――」スッ

マミ「……」

ハリー「……! マミ、危な……!」

???「ステューピファイ(麻痺せよ)」

マクゴナガル「フィニート!(終われ)」


 バシッ


???「だから何で邪魔をするというのか! 私はダンブルドアの許可を貰っているんだぞ!」

ハリー「ダンブルドアの……?」

マクゴナガル「……確かに、この件に関しては貴方達が専門家でしょう。
         ですが、もっと安全な呪文にしていただけませんか?」

???「意識を飛ばすのが一番安全なんだが――仕方ない。耳と目、口を塞ぐ方法で……」ブツブツ

ハリー「先生、この人は……」

マクゴナガル「……魔法省の無言者です。トモエが望んだので、校長がお呼びになりました」

ハリー「無言者って……?」

ロン「確か、魔法省の神秘部で働いてる人のことだよ。昔、パパに聞いたことがある。
   何やってるのか誰も知らない謎の部署だって言ってた」

ハリー「全然、無言じゃないけど……」

無言者「何やら酷い言われようだがね。我々が秘するものは世界の深奥だ。
     時間や精神、運命に予言といったものの仕組みを解明するべく――」

ハーマイオニー「予言……それで。でも、マミをどうするつもりなんですか?」

無言者「神秘部に連れて行くのさ……あー、そう睨まんでくれ。別に解剖するわけじゃない。
     本人の安全は保障する。というより、その為に我々が連れて行くんだ」


ハリー「……マミを監禁するっていうんですか?」

無言者「だから人聞きが悪い……彼女が望んだことだと聞いただろうに!
     そりゃまあ、好き勝手に歩けはしないが……」

ハーマイオニー「……先生、何とかならないんですか……?」

マクゴナガル「……トモエが望んだことです。こればりは、どうしようも」

ハーマイオニー「そんな……」

QB「……僕が付いていくよ。僕はマミのペットだし……だから、心配しないで。
   だいたい、ハリーには第二の課題もあるんだし」

ハリー「キュゥべえ……」

無言者「さて、そろそろ私も仕事をしていいでしょうかね?」

マクゴナガル「……そうですね。お待たせしました。ですが、最後にひとつだけ」

マミ「……」

マクゴナガル「――マミ。ホグワーツの学生である限り、私は絶対に貴女を見捨てはしません。
         そのことは、胸に刻んでおいてください」

マミ「……せん、せ」


 どさどさどさ!


無言者「おおおお! 素晴らしい! 予言の源泉だ! あとでこれ全部送って――こほん。失礼。
     これ以上、本人への接触は危険ですので……フェルーラ!(巻け)」

マミ「……んっ」キュッ

無言者「これで外界からの情報はシャットアウト……他には、えーと、荷物一式にペットが一匹。
     はい、確かに。それでは行きましょう。ホグズミードに移動キーが……」

マミ「……」

QB「……」


 ガチャッ バタン


ハリー「マミ……」

ハーマイオニー「そんな……私達、なにも……」

ロン「……仕方ないよ。僕ら、予見については何にも知らないし……あんなのどうしろっていうのさ?」

マクゴナガル「……悩んでいてもしかたありません! ポッター! 次の課題の準備を怠ってはいけませんよ!
         ウィーズリーとグレンジャーは、ここにある紙の束を集めるのを手伝ってください――」


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一ヶ月 魔法省 神秘部 保護部屋


マミ「……」


パサッ ドサッ ヒラッ 


無言者「うーむ。凄まじいペースで予見を生み出してるな。
     流石に周りに人がいなくなってからはペースも安定したが……それでもとてつもない才能だ。
     カッサンドラと同等か、少し劣るというところだろうか。また棚を増やさんと……」

QB「……それより、マミはここから出られないのかい? 一応、食べ物やシャワーはあるけど……
   もう一ヶ月もこの部屋に籠りっぱなしじゃないか。外に散歩に行くくらい……」

無言者「もう何回も説明したと思ったがね、猫君――我々は別に彼女を監禁しているわけじゃない。
     そりゃあここに居てくれた方が、神秘部としての研究が捗るのは確かだが……」

QB「……」ジッ

無言者「……オーケイ。なら何度でも説明しよう。いいかね? あの部屋の扉には魔法が掛かっている。
     "彼女が信頼している者以外は入れない"っていうね。だから彼女は安全だ。
     おまけに鍵はないから彼女はいつでも外に出れるし、必要ならベルを鳴らして誰かを呼ぶこともできる」

QB「面会用の窓もあるしね……そこからそうして中の様子も覗けるわけだ」

無言者「――さらに、ここはイギリス魔法省の中だ。世界で最も安全な場所だよ。
     仮に彼女を殺そうとする輩がいても、指一本触れられない」

QB「マミを殺そうとする人物なんて……」

無言者「彼女自身に恨みは無くても、予見者ならとりあえず小さく刻んで塩漬けにしたいって奴はいるんだよ。
     予見者は迫害されてきた……まあ大昔のことだが、現在それが絶無になったとは言えない」

QB「……未来を見通せるからかい」

無言者「まあ、そういうことだ。自作のポエムをいつ引っ張り出されるかと思うと連中は眠れんのだろう。
     とにかく、予見者を保護するためにこの部屋は作られたんだ。飼い殺しにするためじゃない」

QB「安全……絶対に?」


無言者「ああ。あの部屋の中にいる限りはね。
     保護呪文が掛けられていて、自殺も出来ないようになっている」

QB「……自殺、か」

無言者「……あー、まあ。彼女みたいなタイプ――つまり予見を抑制できず、
     なおかつ予見が残リ易かったり、自分の予見を自覚できる予見者は自殺率が高いんでね」

QB「どうして?」

無言者「予見者を殺そうとする連中と同じさ。予見者自身が、自分の予見に耐えられなくなる。
     パンドラの箱って知ってるかい? マグルの神話で、なかなか興味深い話なんだが」

QB「……絶対に開けてはいけない箱を、ある少女が開けてしまった。
  その中からは災いが飛び出したけど、最後にひとつだけ希望が残った。そんな話だろう?」

無言者「ああ、まあ、それでも間違いではないんだけど……実は、箱に残ったのは最悪の厄災だったのさ」

QB「それは?」

無言者「"未来"。箱の中に残ってたのは、これから起こる全ての出来事。即ち予見。
     それを人は手にしなかったからこそ、希望を抱いて生きていけるっていうお話なんだ」

QB「……予見者は最悪の災厄ということか。全てを見通してしまっては、生きてはいけない……」

無言者「そりゃあね。本だって、結末が分かってれば誰も読みゃしないだろう?
     予見も同じさ。本当に強力な予見者は、希望を持つことができない。全部、予め分かってるからね」

QB「……分かったよ。マミはこの部屋からはいつでも出られる。
  でも、実質的には出られないというのも確かだ。どうすれば出られるようになる?」

無言者「まあ、兎にも角にも力の制御が先だろうなぁ。今のところ、寝てる間さえ予見してる状態だ。
     とはいえ、その制御の方法は我々では教えることもできないんだけど……」

QB「……今までの予見者で、健常に生活できてた者はいるのかい?」

無言者「ああ、大勢いたよ。もっとも、その中に本物がどれだけ居たかは分からんが。
     まあ、見習うならカッサンドラがお勧めだ。彼女は強力で、しかも上手い予見者だった……
     書いた本が焚書されるどころか教科書になってて、蛙チョコのカードにも載ってるし」


QB「……まだ聞きたいことがあるんだけど」

無言者「構わないよ。話が通じる部外者って珍しいんだ。他の部署の連中は我々を奇人扱いしてくるし」

QB「そうかい。なら、遠慮はしないけど……予見の的中率が知りたい」

無言者「的中率?」

QB「つまり、どのくらい当たって、どのくらい外れるか……」

無言者「――あははははは! は、外れる? 外れるだって? はははははっ!」

QB「……おかしなことを言ったかな?」

無言者「は、はは……はぁ。ああ、ごめん。別に馬鹿にするわけじゃないんだが。
     いいよ、答えよう。予言の的中率。そいつはずばり――」


無言者「――100%。予見されてしまったら、どう足掻こうが絶対に的中する」


QB「……確かかい?」

無言者「ああ。まあ、色々と異を唱える人はいるけどね。僕個人の意見としてはそうだ。
     何しろ、今まで外れた"予見"なんて見たことないからね。
     逆に言うと、外れてしまえばそれは予見ではなく、ただの戯言にしか過ぎないんだけど」

QB「……どうにも、言葉遊びのように聞こえるね」

無言者「うーん。そういうつもりじゃなかったんだが……逆に聞こう。
     報告では、彼女の予見は以前から確認されてたらしいけど、ひとつでも外れていたのがあったかい?」

QB「……それは……でも、抗うことは出来たかもしれないじゃないか。
   例えばネズミを捕まえる方法を予見したことがあったけど、僕らがそれを実行しなければ――」

無言者「ネズミは捕まらなかっただろうね。でも、それとこれとは話が別だ。
     だってそれは"ネズミの捕まえ方"であって"ネズミが捕まる"という予見ではないのだから」

QB「……適切な方法を予見するのと、結果そのものを予見する違いか」

無言者「おお、その通りだ。いやあ、君は実に物わかりが良い。
     上で働いてる奴らより、猫を雇った方がいいな。連中は我々の仕事にほんと無関心で……」

QB「でも、まだ分からない。本当に予見は絶対なのかい? 抗う方法はない?」


無言者「ないよ。例えば、こんな話がある。ある男に死の予見がされた。内容はこうだ」


 『汝、明日、昼食のリンゴに当たって死ぬであろう』


無言者「その男は用心した。何にリンゴが入ってるか分からなからその日は絶食したし、
     フルーツパーラーの類にも近づかなかった。唇に粘着呪文すら掛けて、ずっと家の中に閉じこもってたんだ」

QB「それで、結果は?」

無言者「隣家から音速で飛んできたリンゴの破片が頭に直撃して死んだよ。
     隣の奥さんが昼食にアップルパイを焼こうとして、カマドを爆発させたらしい」

QB「……」

無言者「予見に関しては色んな考え方があるよ。それは否定しない。
     運命なんて存在しないって考えもあるし、人の行動こそがそれを作るって考える人もいる」

無言者「でも実際問題、外れた予言、というのは存在しないんだ。
     そもそも外すことのできる予見になんの価値がある? 変えられる予知なんて予知じゃない」

QB「彼らの予見は絶対……外れることはない……」

無言者「あるいは、こう言うこともできる。
     仮に変えられぬ運命というものがあるなら、それを作っているのは彼ら予見者だ、ってね」

QB「……じゃあ、もしも予見されたら、どんな努力をしても無駄ということか」

無言者「……うーん、それはまた話が違うと思うけど」

QB「え?」

無言者「さっきのリンゴ男の話で言うとさ、その男、家族がいたらしいんだよ。
     で、巻き込まれるといけないからって、その日は外に逃がしていたんだ」

QB「家族の死は予見されてなかったんじゃ……」

無言者「そうだけど『男一人"だけ"が死ぬ』って予見でもなかったからね。用心を重ねたんだ。
     実際、隣の家のカマドは物凄い勢いで炸裂してて、男の家の中も滅茶苦茶だった。
     中に居れば、まず間違いなく男の家族は死ぬか、でなくても大怪我はしていただろう」

QB「男の行動が……家族を救った?」

無言者「そうだ。予見されていた男自身の死は防げないけど、そこからの二次災害は防ぐことができた。
     だから予見があるから何もしなくていい、というのは違うと思うな。
     確かに予見は抗い難い運命を作り出すけど、その周りの状況は変えることができるかもしれない」

QB「……」

無言者「……っと、あー、もうこんな時間だ。昼食だけど、猫君はどうする?
     いつもみたいにそっちで、ご主人様と食べるかい?」

QB「……そうさせてもらうよ。今日は一言くらい話せるといいんだけど」スタッ

無言者「甲斐甲斐しいな。良いペットだ。
     ……さて、こっちも飯にするか。煙突飛行デリバリーでも頼むかな……」スタッ


 ガチャ バタン


紙飛行「……」フワッ

 きょうのおひるごはんは、ピーマンでした。

 まいにち、ごはんは3かい。てーぶるのうえに、じどうででてきます。

 きっと、やしきしもべよーせいがやってくれているんだとおもいます。

 やしきしもべよーせいといえば、えす・ぴい・いー・だぶ








 ピーマンはとってもみどりいろです。みどりいろといえばカエルですけど、カエルはごはんではありません。

 ピーマンをフォークでさして、くちにはこびます。かみます。にがい。

 となりにいる、しろいねこもおなじものをたべています。にがくないのかな?


QB「……」
 

 ねこはしゃべりかけてきません。ただ、だまってそばにいてくれます。それはとってもうれしいです。

 だって、おはなしすると、どうしてもいやなことがあたまにうかんでしま








 ここは、とてもいいところです。

 「おかしがほしい!」

 そうおねがいすると、てーぶるにすきなだけでてきます。

 きょうはクッキーがおいしい。ねこにもあげました。がんばってピーマンをたべていたので。

 でも、ちょっとたいくつになってきました。

 おはなしもできないし、ほんもよめません。

 かよっていたがっこうには、ともだちがいっぱいいて、









 もう嫌! 耐えられない! 助けてキュゥべえ!

 こうやって思考を鈍化させて、大切なものを連想しないようにするなんて、本当に最あ











 おちゃをのみましょう。かっぷはわれてしまったけど、へいきです。

 ようせいさんがあたらしいのをくれるし、このへやではけがもしません。すごいでしょ?

 ここはとてもいいばしょです。ここにいれば、もうなにもこわくない。

 もうどのくらいここにいるでしょうか。

 あとどのくらい、ここにいるのでしょうか。


マミ「……」モグモグ

QB「……」


 マミは果たして生きているといえるのだろうか。

 身体的には確かに問題ない。体重やその他の数値も適正値を保っている。

 だが、その顔に何の表情も浮かべず、次々と生まれる予言に半ば埋もれるようにして、

 黙々と食物を咀嚼しているその姿からは、かつての快活だった姿は想像できない。

 この一ヶ月、マミは一言も喋らなかった。

 テレパシーにも反応しない。おそらく、彼女なりの防衛方法なのだろう。

 目の前の状況を膨らませて、無理やり頭の中をいっぱいにする。そんなところか。

 事実、いま降ってきた予言には今日の昼食に使われている野菜の、来年の取れ高のことについてしか書かれていない。

 だが、この方法も長くは持たない。むしろ、一ヶ月も続けられているのが異常だ。

 マミの精神は限界だろう。誰か、彼女を助けてあげて欲しい。

 ハリー達からは幾度も手紙が来たが、彼らの死を予見しない為にと、全て受付でストップしている。

 誰とも話せない。外からの情報を取り込むこともできない。

 それは人間にとって、耐えがたい苦痛の筈だ。

 僕が傍にいるのをマミが許容しているのは、きっとそのせいだろう。

 独りぼっちの寂しさと、僕にとって悪い予言をしてしまうかもという気持ちがせめぎ合っているのだ。

 僕も、悪い予言をされてしまう可能性があるのだから、こうしているのは危険だ、ということは承知している。

 でも、構うものか。死の予言がされたっていい。彼女をひとりにはできない。

 もしも僕の死が予言されたら、マミが見る前に回収するように、あの無言者の男にお願いしてある。

 双子の呪文を使って、僕そっくりの偽物も用意した。緊急時は、これに魔法を掛けて身代わりをさせるつもりだ。

 無論、根本的な解決にはならないけど――それでも、彼女には少しでも救いをあげたい。

 だって、あの時、彼女は僕を救ってくれた――……

 ……うん? どうしたんだろう。

 部屋の外、面会窓口の前で、例の無言者が僕を呼んでいるようだ。

 この部屋には防音呪文が掛けてあるから、こちらから許可を出さない限り外の音声は拾えないのに。

 ……仕方ない。僕が外に出るしかないだろう。

 ほんの少しだけだ。マミも、きっと大丈夫な筈……


マミ「……」



マミ「……?」

紙飛行「……」フワフワ


無言者「あ、ああ。猫君。大変だ。少しばかり不味い事態になった」

QB「落ち着いて。どうしたというんだい?」

無言者「受付――つまり外からの郵便物を各部署に分配して届ける連中だが、そいつらがミスをしたんだ!
     ミス・トモエへの郵便物は全面差し押さえになっているというのに!」

QB「……通してしまった、ということかい? なんで今日に限って……」

無言者「今日だからだよ! いいか、彼女を私がホグワーツに迎えに行ったのは11月25日!
     そのちょうど一か月後が今日だ! つまり、今日は――」

QB「――クリスマスか。ということは、その郵便物っていうのは……」

無言者「クリスマスカードだ! 無論、ホグワーツには連絡が行っている……彼女の同級生は遠慮してくれるだろう。
     だから油断していた! 天涯孤独と聞いていたから、まさかそれ以外のところからカードがくるなんて――」

QB(……ホグワーツの生徒以外で、ふくろう便を送れる……それって、もしかして)

無言者「とにかく、不味いぞ。危険物ではないから、部屋の保護呪文はカードの侵入を拒まない。
     おまけに受付から送られた郵便物には宛先まで確実に届く魔法が掛けられている。
     いいか、私はここで全力でカードを撃墜するから、猫君は――」



マミ『……ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!』



QB「マミ!?」タッ

無言者「……遅かったか!」


 ほんのちょっと、魔が差した。それだけだった。

 もう、一ヶ月も誰とも話していない……もとから独りになるのを恐れていた私は、限界だった。

 そんな私の目の前に、誰かからの手紙を、人参よろしくぶらさげられてしまえば――

 気づいた時には、私はむしゃぶりつく様にその手紙に飛びついて、開封してしまっていた。




『マミへ。言っていた日に帰ってこなかったけど、どうかしましたか。
 雪で、電車が止まってたりするんでしょうか。少し、心配です。さやかが泣いていました。
 いつ帰れるか分かったら、お手紙ください。ケーキを作って待ってます
                                             佐倉杏子』




マミ(……くすっ。佐倉さんったら……意外と可愛い字を書くのね)

マミ(そうか、もう、クリスマス……佐倉さん達と会ったのも半年近く前か)

マミ(……佐倉さん、"大丈夫かしら?" "魔女にやられたりなんかしてないと……)






マミ「……あ」







 パ サ ッ


マミ「あっ、あっ、あっ……」




『○月×日、見滝原市にぃ――』





マミ「い、いや……違う! 違う! 今のは違うの! インセンディオ!(燃えよ)」


 ゴォッ! メラメラメラ……



 パ サ ッ




『最悪の魔女、ワルプルギスの夜が現れてぇ――』




マミ「違うの! 違うんだったら! やめて! 見せないで!
   インセンディオ! インセンディオ! インセンディオ!」




 ゴオオオオオオオオオ!



マミ「はぁ……はぁ……へ、部屋の中を、全部火の海にしちゃえば……」






『その日、巴マミの大切な友達が――』







マミ「あ……そんな、紙じゃなくて、声で、なんて……やだ。やだやだやだやだ!
   やめて! 聞きたくない、聞きたくない! ねえ、何でもするから!
   何でも、します。だから、お願いですから、聞かせない、で――」

 










『――死、ヌ』












マミ「あ、ああ……あああああああああああああああっ!」





 涙が枯れるほどに泣きわめき、喉が裂けるほどに懇願しても。

 ――予言は、覆らない。

 時が募る約束の地に、ワルプルギスの夜が来る。


○月×日 見滝原市



ほむら(ついに、この時が来た)



ワルプルギスの夜「キャハハハハ――!」



杏子「ひゅー……さすがに伝説の魔女ってだけはあるね。
    戦闘態勢にも入ってないのに、この重圧は……」

ほむら(おそらく、今までのループの中でも屈指の有利な状況で、この日を迎えられた)

ほむら(美樹さやかは契約せず、そのお陰でまどかに悪影響がでることもなかった)

ほむら(佐倉杏子あ、豊富にGSの予備を持っていて……おまけに幻惑の魔法まで使える)

ほむら(思えば、今回は都合が良すぎるほど、私にとって上手くことが運んだ。
     そう、まるで――運命が、私の味方をしてくれたとでもいうように)

杏子「……おい、ほむら。なにぼーっとしてんのさ。頼むよ、アンタの時間停止、頼りにしてるんだから」

ほむら「……そうね。奴はここで撃退する。これ以上、あいつには何もさせない」

杏子「ああ。手紙のひとつも寄越さない、薄情な奴が帰ってくる場所なんだ……
    帰ってきてからひとこと文句を言うまで、この街は壊させないよ!」

ほむら「ええ。 ……? 何かしら、ワルプルギスの、夜、が……」





ワルプルギスの夜「――キ ャ ハ ハ ハ ハ !」グリン




 そうして、演劇の〆に舞台装置は反転した。

 全ての役者を場外へ。物語を台無しにせんと、真なる魔女が咆哮する。




.

今回分は以上です。一応もう一回見直したし平気……なはず。
もしかしたらダンブルが誓いを破って二、三回死んでるかもしれませんけど、大丈夫おじいちゃんはつよい

すっかり遅くなりました。投下再開。


○月×日 見滝原市 避難所


ガタガタガタガタ!


「おい、本当にここは安全なのか!?」「さっきから揺れが酷く――」「お前らは何をやってるんだ!」


市職員「落ち着いてください! 大丈夫です。この避難所は、えー、さいしんのせっけいりろんを元に……?
     ……とにかく安全なので!」


まどか「……杏子ちゃん達、大丈夫かな?」

さやか「平気平気! ほむらは時間が止められるし、杏子はそのほむらが一目置くくらい強いんだよ?
     ワルプルギスの夜がいくらやばい魔女だからって、負けようがないって」

まどか「そうだといいけど……」

さやか「そうだって。時止めコンボは最強なのだ! ……それより、まどか。あんたこそ気を付けなきゃ。
     ほむらも言ってたっしょ? あいつら、まだまどかを諦めちゃ……」

Incubator「――僕のことを呼んだかい、さやか?」

まどか「ひっ……!」

さやか「で、出た! あっち行けよ! あたしもまどかも契約しないって言ってるでしょ!」

Incubator「やれやれ、ずいぶんと嫌われたものだ。
       前にも言ったけど、この宇宙の寿命を延ばすのは君たちの為でもあるんだよ?」

さやか「だからって、魂を石にするなんて了承できるわけないでしょうが!」

Incubator「その点に関して、僕たちの意見は平行線だね。ま、いいさ。今回は問答が目的じゃないし。
       君たちに伝えたいことがあってきたんだ」

まどか「伝えたいこと……?」

Incubator「うん。君たちは魔法少女候補だからね。できれば生き延びて欲しいというのが正直なところだ」

さやか「……なによ、どういう意味?」

Incubator「ワルプルギスの夜が本気になった。
       仮に今、この星に存在する全ての魔法少女が集結したところで、最早あれを滅ぼすことは出来ない」


さやか「……は?」

Incubator「もう誰もあれに勝つことは出来ない、と言ったんだ」

まどか「そ、そんな……」

さやか「は、はんっ! 嘘に決まってる! どうせそうやって、私たちに契約させようって魂胆なんでしょ!?」

Incubator「僕らが嘘をつかない、ということは君たちも知っている筈だけど」

まどか「でも、ほむらちゃん達、ふたり掛かりなら絶対に勝てるって……」

Incubator「うん。確かにベテランの魔法少女が二人もいれば、ワルプルギスの夜を撃退することは可能だ」

さやか「ほ、ほら!」

Incubator「続きがある。正確には"本気でないワルプルギスの夜相手なら可能だった"ということだ。

       魔女はそれぞれ固有の性質を持っている。
       あるものは生前の嗜好を模倣し、あるものは破れた祈りを継ぎ接ぎに再現しようとする」

Incubator「ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だ。彼女は意図的に破壊行為をしているわけじゃない。

       ただ、『演劇をしていたら、いつの間にか街ひとつが滅んでいた』というだけに過ぎないのさ。
       だから観客が舞台を荒らし続けるようなら、大人しく退散していた。これまではね」

さやか「な、なら、今回は何だっていうのよ!?」

Incubator「さっきも言った通り、もはやワルプルギスの夜は演じることをやめた。
       本格的な"破壊"を始めるだろう。この星の地表全てを、比喩抜きにひっくり返すまで」

さかや「ち、地表全部って……滅茶苦茶じゃない! そんなのあるわけ――」

Incubator「前例があるんだ。有史以前に一度、あれはそれまであった文明をひっくり返している。
       その後、ここまで君たちの文明を復興させるのに、僕らがどれだけ苦心したか……」

まどか「そんな……なんで!? なんでよりによって、いまこの時に――」

Incubator「……実を言うと、僕もそれは疑問に思っているんだ」

まどか「え?」

Incubator「あれが良質な魔法少女候補を潰してしまわないよう、僕らは以前から観測を続けていた。
       その結果、次に"ひっくり返す"のはまだ当分先だと出ていたんだけど……
      まったく、飛びっきりのイレギュラーだよ、暁美ほむらは」

まどか「……ほむら、ちゃん?」

さやか「ほむら? あいつがどうしたっていうのさ?」

Incubator「暁美ほむらの魔法は、本人の申告によると未来予知と時間停止らしいね?

       なるほど、理にかなっていないこともない。両方とも時間に関連する祈りから生まれる力だろう。
       ただ、今回の状況と併せて考えてみると……」

さやか「な、なんだよ……はっきり言いなよ!」



Incubator「――彼女の本当の力は"時間操作"なんだと思う」

まどか「時間を……操る? でも、それって結局、時間を止められるってことじゃ」

Incubator「それに加えて、おそらく世界の時間を巻き戻している。それも数えきれないほどに。
       未来予知というのは、そこから得たデータを用いた統計なんだろう」

まどか「ほむらちゃんが……未来から来た?」

さやか「……なんであんたに、そんなことが分かるのさ?」

Incubator「理由はいくつかあるよ。

       彼女の予知が願いによって獲得した力なら、的中率があんなに低いのは奇妙だ。
       僕は彼女と契約した覚えがない。彼女が未来から来たというのなら納得できる」

Incubator「そして、ワルプルギスの行動を変える程の因果干渉を行える魔法少女は、僕の知る限り現存しない。

       ならば僕の記憶にない彼女がそうだと考えるのが一番妥当だ。
       時間の巻き戻しを繰り返したことで、因果律に影響が出たんだろう」

さやか「……全部、ほむらのせいだって言いたいの?
     でも、ほむらの奴は何で自分の魔法が未来予知だなんて嘘を……」

Incubator「さあ? 僕らは嘘をつかないからね。その理由までは想像できない。
      ただ、時を幾重にも巻き戻してまで達成したい目的があるのなら、その為じゃないのかい?」

まどか「そ――そんな筈ないよ! だって、だって……そう!
     もしかしたら、他にも未来からきた魔法少女がいるかもしれないじゃない! 
     キュゥべえ、そういう魔法少女がいても分からないんでしょ……?」

Incubator「その可能性はすでに検討したけど……

       今現在、イレギュラーで、なおかつワルプルギスの夜に接触しているのはほむらだけだ。
       因果に影響を与えるのなら、ある程度は近い位置にいなければ駄目だろう」

まどか「でも……だけど……!」

さやか「……それで、あんたは結局何を言いたいの? もう助からないよー、って言いに来た?」

Incubator「いや、そんな無駄なことはしないよ。僕が来たのは、助かる方法を伝える為さ」

まどか「……私が、魔法少女になれば……」

さやか「まどか! 絶対に、駄目!」

まどか「でも! それでみんなが助かるなら――私、魔法少女に」

Incubator「ああ、そのことで言いたいことがあるんだ。

       鹿目まどか。この状況を打破するには、君が契約するしかない。
       だけど、君がただ魔法少女になればどうにかなる、という状況はすでに終わってしまった」

まどか「……え?」


Incubator「君は素晴らしい素質を秘めている。最強の魔法少女になれるだろう。
       本気でないワルプルギスの夜なら、一撃で倒せるほどに」

さやか「本気でないワルプルギスの夜なら、って……」

Incubator「そうだ。もうワルプルギスの夜は遊ぶことをやめた。
       先ほど言った、この星に存在する全ての魔法少女というのには君も含まれているのさ」

まどか「それじゃあ、もう、私が契約しても……?」

Incubator「足止めくらいは出来るだろうけど、それで終わりだ。結局、この星の文明は一時の終焉を迎えるだろう」

まどか「嘘……私、私が、もっと早く契約していれば……?」

さやか「でもさっきあんた、助かる方法はあるって!」

Incubator「うん。確かに、ただ魔法少女になるだけじゃ、ワルプルギスの夜は倒せない。

       今のワルプルギスの夜には、奇妙なほど多くの因果が集中している。
       下手な願いでは、願うだけ無駄になってしまうだろう」

Incubator「だけど、鹿目まどか。君の持つ素質を全て注ぎ込み、切に祈ればそれも可能だ。
       "ワルプルギスの夜を倒したい"。それだけを願えば――」

まどか「……そうやって願えば……私、皆を助けれられるの……?」

さやか「まどか!」

まどか「だって! それしか方法がないなら……それに、魔法少女になったって、絶対に死んじゃうってわけじゃない。
     杏子ちゃんみたいに、何年も生きていられることだって……」

Incubator「ああ――ひとつだけ言っておくけど、その願いで契約した場合、君はすぐ魔女になるよ」

まどか「……え?」

Incubator「当然だろう? "本気になったワルプルギスの夜を倒す"という願いに全ての因果を注ぎ込んでしまえば。

       その祈りで誕生した魔法少女は、ワルプルギスの夜を倒す為だけの存在になる。
       それだとワルプルギスの夜がいなくなったら、その魔法少女に存在している価値はないよね」

Incubator「肉体を維持するだけで莫大な魔力を消費し、魔法は使えず、武装は何一つ残らない。
       そんな、SGを保有する以外、ただの人間と変わらない存在になってしまうだろうね」

さやか「あんた、なんてこと……!」

Incubator「僕達が事前に全てを説明せず契約を勧めることに関して、
       君らが反感を持っていたようだから、こうして説明しているんじゃないか」

まどか「私、魔女になるの……?」

Incubator「うん。それも、ワルプルギスの夜すら超える最悪の魔女にね。

       本気になったワルプルギスの夜でも地球を根こそぎにするのに一月はかかるだろうけど、
       君なら十日かそこらで出来ると思うよ」

さやか「そんな――そんなの、意味ないじゃない!」

Incubator「どうしても魔女になりたくないなら……そうだな。僕としては止めて欲しいんだけど、

       ワルプルギスの夜を倒してすぐ、ほむらか杏子にSGを砕いてもらえばいい。
       その場合は仕方ないから、契約した際に得られるエネルギーだけで我慢するとしよう」

さやか「言うに事欠いて、用済みになったら死ねって……!? まどか、こんな奴の言うことなんて聞くことない!
     皆を助ける為にあんたが犠牲になるなんて、間違ってる!」

まどか「……でも……そうしないと……」


市職員「落ち着いてください! 助かります! 必ず助かりますから――!」


まどか「私……私は……」


見滝原市 スーパーセル中心部




ほむら「はぁ……はぁ……」


 息を切らせながら、時の止まった空間を走る。

 予め設置しておいた榴弾砲や対使い魔用の機銃陣地、
 ミサイルやロケットの発射機構を積んだ装甲車両の類は、開幕の一撃で蹴散らされた。

 鋭く、的確で、時を止める暇も与えてくれないような攻撃だった。


ほむら(――さっきのは……偶然? それとも……)


 私の知っているワルプルギスの夜の攻撃は、どことなく散発的な印象を受けるものだった筈だ。

 強大な力を四方八方、気の向くままに放射しているという感じで、
 相応の準備さえしておけば、ありったけの兵器を一方的に叩き込むことも可能なレベルだった。

 そのワルプルギスの夜が、こちらの攻撃を明確に阻止しようとした――?


ほむら(分からない……でも、試すわけにもいかない。もともと強力だった攻撃が、更に桁違いになってる。
     さっきは佐倉杏子が分身を盾にしてくれたから、なんとか助かったけど)


 咄嗟に時の止まった世界に引きずり込んだ佐倉杏子の感触を左手に感じながら、さらに加速する。


ほむら「回り込むわよ。一度安全地帯まで退いて、SGの穢れを浄化してから最大火力を叩き込む。
     貴女はそのサポートを……佐倉杏子?」


 そういえば、なぜ先ほどから彼女は一言もしゃべらないのだろうか。

 私の魔法少女としての素質は低い。肉体の強化効率もそれは同じ。

 その私が、どうして人ひとりを掴んでなお、加速できた?

 疑問の答えを得るために、振り返る。私が、掴んでいたものがなんだったのか、確認する。


ほむら「……そんな」


 私が掴んでいたのは、佐倉杏子ではなかった。もう、佐倉杏子ではなくなってしまっていた。

 それは体の半分が爆圧で千切れて飛んだ、彼女の死体に過ぎなく――


ワルプルギス「キャハハハハ――!」

ほむら「――あ」


 気を抜いたせいか、時間停止もいつの間にか解除され。

 再び動き始めた世界に、最悪の魔女の嘲笑が響く。

 周囲には数えきれないほどの使い魔が現れ、その空虚な目玉で、私を値踏みするように見つめていた。


ほむら「あああああああああああああああああああああああああああっ!」


 咄嗟に盾から軽機関銃を引っ張り出し、制圧射撃を敢行。

 毎分千発もの勢いで吐き出される鉛の瀑布が、使い魔たちを穿ち――

 ――それ以上の勢いで押し寄せた使い魔の群れに、私はあっけなく拘束された。


ほむら「っ、放、して!」


 ワルプルギスの夜の使い魔。その役割は"束縛"。

 触れた相手を極端に重くし、観客として無理やり釘付けにする。

 時を止めたところでもう無駄だ。この重量は、私の貧弱な筋力では押し返せない。

 そして再びワルプルギスの夜が、あの禍々しい色の魔力を収束させる。

 久しく感じていなかった死の恐怖が、私のすぐ背後にまで迫っていた。


死の予見より数週間後 魔法省 神秘部




マミ『……』


無言者「……あれ以来、予見の発現する速度が劇的に落ちたな。一日に数回がいいところだ。
     猫君、君はこれをどう考える?」

QB「……届いた手紙の件からして、マミは地元の友達のことを考えてしまったんだろう。
   予見の発動条件は願い、思うこと。だからこんな、君が燃えカスから復元した予見を……」


『○月×日、見滝原市に、最悪の魔女、ワルプルギスの夜が現れて、
 その日、巴マミの大切な友達が死ぬ』


QB「……ほとんど自分が殺したようなものだと思っているんじゃないかな。
   その衝撃が大きくて、鬱病患者のように一時的に思考が麻痺しているんだと思う」

無言者「私も同意見だ。魔法は精神状態の影響を大きく受ける。予見もそれは同じだ。
     もっとも、少々……いや、少々以上にダメージが深いようにも見えるが」

QB(……憂いの篩を使った直後の反応を見るに、過去に類似するトラウマがあるのかもしれない。
   マミやダンブルドアの言動から推測するに、多分……両親の死を予見して……)

無言者「しかし、ワルプルギスの夜ね……そんな闇の魔法使い、聞いたことないなぁ。
     執行部に問い合わせたけど、どの記録にも載ってないっていうし……」

QB「……もしも闇の魔法使いが、その予言どおりに見滝原に現れるとしたら。
   魔法省は、何か対策を取ってくれるかい?」

無言者「うーん……難しい、と言わざるを得ないだろうな。
     予言の内容は、基本的に部外秘だからね。神秘部は予言を使ってトラブルを減らす部署じゃない。
     あくまでその保管と研究が目的なんだ。私もそれを口外しないという"誓い"を結んでいるしね」

QB「僕やマミが証人になっても? 予言された日まで、あと数ヶ月ある。
   その間に、なにか対策をとれないだろうか?」

無言者「当人が話すのなら、まあ……しかしそれでも、イギリス魔法省は何もできないよ。
     他国での活動には制限があるし……それに、その友達というのはマグルなんだろう?」

無言者「そうなると、仮に魔法省が動いても、大したことはしないだろうな。

     日本の魔法省を通して、その国のマグルの首相に警戒を呼び掛けるくらいだと思う。
     大臣が強権を振るえば別かもしれないが……ファッジだしなぁ……純血派もいい顔をしないだろうし」

QB「……となると、とってつけたような避難勧告が流れるのが関の山か」

QB(それじゃあ無駄だ。一般人の被害は減るかもしれないけど……ワルプルギスの夜は、強大な魔女。
   杏子の性格を考えれば、おそらく残って戦おうとする……それに――)


無言者「……それに、その。気の毒だが、もう"予見"されてしまったことだ。
     つまり、それは既に起こったことと同義なんだよ。前にも言ったけど、防ぎようはない」

QB「……絶対に、死ぬ、か……」

無言者「……こんなことになってしまったのは残念だよ。とはいえ、予想できなかったといえば嘘になるが。
     正直、彼女ほどアンバランスな力の持ち主は初めて見る。
     大体の魔法使いは――特別な事情が無ければ――自分の魔法力を制御できるものだ」

QB「マミは普通の魔法も制御できていなかったけど……」

無言者「子供だし、ある程度は仕方ないさ。でも、ここまで致命的になるのは……
     確かに完全な制御ができる予見者は多くはないが、それでも彼女は異常すぎる。
     まるで……そう、他人から与えられた、借り物の才能を使っているような……」

QB「原因はどうでもいいんだ。それより予見の対策が取れないなら、別の方法でマミを助けないと……。
   あの状態のまま放っておくことは出来ない」

無言者「……とはいっても、どうしたものか……」

QB「魔法で精神治療は出来ないのかい?」

無言者「無理やり心を癒そうとするのは、本人にとってもよくない影響を与える。
     まあ彼女の場合は呪文による損傷ではないから、手がないこともないだろうが……」

QB「例えば?」

無言者「具体的な手法は癒者に聞かないと――でも、そうだな。
     いっそのこと、忘却術で記憶を修正するのも手だろうね」

QB「死の予見のことを忘れさせる?」

無言者「加えて、予見の力があることもだ。彼女の予見が酷くなったのは、力を自覚してからだったね?
     それなら、その記憶さえ無くしてしまえば、以前のように普通の学校生活を送れるだろう」

QB「そんなに上手くいくものなのかい?」

無言者「……まあ、これも諸刃の剣ではある。予見の力が消えるわけではないからね。
     ダンブルドアが彼女にことを告げたのも、誰もいない場で、不意に予見してしまうのを防ぐ為だろう」

無言者「それに、忘却術も完璧ではない。切っ掛けがあれば思い出してしまう。
     よほど強力なオブリビエイターなら別だろうが……そもそも許可なくやるのは犯罪だしなぁ。
     私も忘却術士本部にはコネがないし」

QB「……リスクが大きいか」

無言者「現実的なのは、聖マンゴに入院させることだろうが……落ち着いたとはいえ、予見は続いている。
     下手に外部に出すと危険もあるだろう。周囲にも、それに彼女自身にもね。
     結局、身体的な安全を確保するにはここが一番というわけだ」

QB「それは分かっている。いま問題にしているのはマミの精神的な治療についてだろう――」

無言者「こう言っちゃなんだが、今の時点で精神的なケアをしても無駄かもしれない。
     予見の頻度が落ちたのは、その精神的な傷が原因だからね。
     それを癒せば、また頻度は戻って元の木阿弥。同じことの繰り返しさ」

QB「でも……」


無言者「……はあ。私が提示できる案は二つだな。
     ひとつは、時に任せる。さっきも言ったが、ここなら身体の安全は保障される。
     彼女が予見の制御法を身に着けるまで待ち、それから聖マンゴに移送しよう」

QB「どれくらい時間が掛かる?」

無言者「さて、明日か、一週間後か、一年後か、果また一生涯かかっても無理か……
     断言はできない。彼女自身に全て託すわけだからね」

QB「論外だ。いますぐ助けが欲しい」

無言者「……二つ目は、あまりお勧め出来ないんだが。
     予見の暴走は、現在小康状態にある。前よりは安全だろう。
     そこで外部から人を招き、ここで彼女のケアを試みる」

QB「それは……」

無言者「ああ。確実な効果は期待できないし、対話する人間にも危険がある。
     なにより、ミス・トモエが拒む可能性も高い。彼女が許可しないと、窓越しの面会もできないし。
     そうすると、直接部屋に入らなきゃ駄目なわけだが――」

QB「保護呪文の効果で、部屋に入れる人間は限定されている……マミが信頼している人間だけだ」

無言者「その通り。私も入れない。心当たりのある人間はいるかい?
     それとも君がやってみる? 君もあの部屋に入れる内のひとりだしね」

QB「……僕じゃ、無理だ……」

無言者「まあ、それもそうか。しかしそうすると、適任者は……」

QB(……感情に訴える説得は、僕にはできない。
   感情を手に入れたとはいえ、それを完璧に理解したわけではないからだ)

QB(そうなると外部から人を呼ぶしかないけど……
   予見の対象である杏子は論外として、まどか達も魔法省には入れない。
   ハリー達はT.W.Tがある……何より、未成年だ。説得の術に長けているわけじゃない)

QB(一番の適任者はマクゴナガルだろう。マミからの信頼も厚いし、教師としても優れている。
   問題は気軽にホグワーツを離れられる立場じゃないことだけど……)


 ボゥッ


QB「? 暖炉に火が点いた……」

無言者「うん? おや、本当だ。珍しいな、ここの連絡用暖炉って、滅多に火が入らないんだが。
     ――はい、神秘部ですが……ホグワーツから来客? ミス・トモエに?」


神秘部 保護部屋



マミ「……アクシオ、水差し」


 呪文に応えて飛んできた水差しは、すっぽりと手の中に納まった。


マミ「……」


 ホグワーツでは何度やっても成功しなかった呼び寄せ呪文は、あっさりと成功した。

 呼び寄せ呪文だけではない。肥大呪文に元気呪文。いままで練習してきた呪文は、全て習得できていた。

 魔法は、精神の影響を受ける――つまりはこれも予見という才能を自覚した結果らしい。


マミ(くだらない)


 苛立ち紛れに、掴んだ水差しを床に叩きつけた。

 けたたましい音とともに、硝子製の器が砕ける。鋭い破片が広範囲に飛び散り、そして消えた。

 この部屋の保護呪文は、中にいる人間に対する、あらゆる危害を取り除いてしまう。

 例外は、保護呪文を打ち破るほど強力な呪いくらいだろう。そんなものは、今の自分には使えない。


マミ「くだらない……くだらない! 魔法なんて、使えても意味ないじゃない!」


 あれほど欲しかった力が、今となっては路傍の石のように色あせて見える。

 死の予言。あれを覆す方法は、無い。

 直感で分かってしまうのだ。もう何をしても、絶対にそれは起こる。

 千の呪文を唱え、万の奇跡を起こそうが――もはや、未来は確定した。


マミ「……こんなことになるなら、私、魔法なんて要らなかったのに……」


 いっそのこと、あの事故で死んでいればよかったのだ。

 ずるずると床にへたり込み、膝を抱えた。


「――以前にも同じような泣き言を口にしていたな、トモエ」


マミ「……?」


 声が響く。知っている声だった。

 膝に埋めていた首をあげる。

 いつの間にか部屋の扉は開き、そこには猫背気味の、意地の悪い顔をした男が立っていた。


フィルチ「まったく、本当に進歩の無い……」

マミ「フィルチ……さん?」


フィルチ「中々いい部屋だな? 私の座る椅子があれば、だが」

マミ「……」

フィルチ「ふん。まあいい……椅子があったところで、どうせお前がそこに這いつくばってる限り、視線も合わんしな。
      リュウマチ持ちには辛いが、ガキにそこまでの気遣いは求めんさ」

マミ「……何しに、来たんですか……」

フィルチ「私が個人的に見舞いなどすると思うか? 仕事でなければ、こんなところには来やせんよ。
      お前に渡すものがある」

マミ「……! 手紙、とかなら――」

フィルチ「手紙か。確かにお前の学友から預かったがな。全く、私はフクロウかと……どの道、受付で没収されたさ。
      まあ、それはいい。私がいま持っているのは、副校長から頼まれた物だけだ」

マミ「マクゴナガル先生の――要りません! 帰ってください……帰って!」


 パサッ


フィルチ「ふん? これが例の予見というやつか。……ほう、確かに私の持って来たものが何か当てているな。
      何にせよ、私がお前さんの言うことを聞く理由もないがねぇ」

マミ「……フィルチさんは……怖くないんですか? ……死を、予見されるかも……」

フィルチ「私はガキを特別扱いはせん。生き残った男の子だろうが予言者だろうが、どいつもこいつも糞餓鬼だ。
      思慮がなく、遠慮がなく、規律のない――そんな馬鹿どもがお前らだろうが? ええ?」

マミ「……」

フィルチ「話が逸れたな。さっさと仕事を済まそう――副校長から預かったのはこの二枚だ」パサッ

マミ「書類……ですか?」

フィルチ「そうさ。何を期待していたかは知らんがな。休学届と、退学届だ」

マミ「……退、学」

フィルチ「上手い具合にクリスマス休暇を挟んだが、それでももう一月になるからな。
      私がここに来たのは、これからどうするのかの意思確認と……お前さんのサインを貰う為さ」

マミ「……」

フィルチ「説明が必要か? 読んで字の如くだがな。休学なら単位を保留にして一定期間を休む。

      退学なら、これまでの単位を破棄して学校をやめる。杖も没収だな。
      以後は魔法を使わぬ職に就くか、マグルとして生きるか……」

マミ「……これを、マクゴナガル先生が……?」

フィルチ「おかしいか? あの人はお前の寮監だろうが。ならば学籍を管理するのは当然だろう。
      それとも、慰めのメッセージでも欲しかったか?」


マミ「だって……」


 図星だった。

 私は、誰かに助けて欲しかった。

 予見でその為の方法を見ることは出来ない。それは、私が心の底で、もっとも忌避している行為だ。

 救いようがないと確定してしまうのが、どうしようもなく恐ろしい。

 だから私は、誰かに道を示してほしかった。

 それなのに。


マミ「……だって……私、どうしていいのか……何も、できなくて……」

フィルチ「……その話はいつ終わるんだ? さっさとどっちかの書類にサインをしてくれんかね?
      考える時間がほしいというのなら、今年度いっぱいまで待ってやれるが」

マミ「……フィルチ、さん……」

フィルチ「何だ、その目は? 言っておくが、私はお優しい先生様じゃないんだ。
      ここには仕事で来ただけ。お前さんにアドバイスなんかせんよ」

マミ「だって……透明の教室のことを、教えてくれました」

フィルチ「ああ。仕事をあれ以上増やされたくなかったからな」

マミ「私がホグワーツに入学する前、ダイアゴン横丁を案内してくれて」

フィルチ「それも、仕事だったからだ」

マミ「フィルチさんは」


 目の前の少しも優しくない、だけど、いざという時にはきっと助けてくれるだろうと、勝手に期待していた大人の人は。

 床に座り込んでいる私を、ひたすらに冷たい目で見つめている――


マミ「……私のことが、嫌い、ですか?」


 人に嫌われるのは、どうしようもなく苦手で、怖い。

 それでも、訊ねてしまった。訊ねずにはいられなかった。


フィルチ「……言っただろう。私は生徒を特別扱いせん。お前も、ポッターも、マルフォイも。
      私にしてみれば、同じ餓鬼にすぎんよ」


 ガチャ バタン


フィルチ「いや、どうも。手間を掛けましたな。ですが、これで終わりです――サインも貰えましたからな」


退学届 マミ・トモエ


無言者「……」

フィルチ「彼女の扱いに関しては、追って正式な通知が校長の方からあるでしょう。
      それまでは、いままで通りということで――」

無言者「……君は」

フィルチ「? なにか?」

無言者「君は、なにも感じないのか? あの子がどれだけ苦しんでいるのか分からないのか?
     あの部屋に入れるのは、ミス・トモエに信用されている者だけだと言った筈だ!
     あの子は誰かに助けて欲しかったんだ! 少なくとも、君はその内のひとりだったんだぞ!」

フィルチ「……」

無言者「実際にどんな言葉のやり取りがあったのかは知らない。僕には知る権利すらない。
     だけど、あの子は泣いていたじゃないか。泣きながらそれにサインして、叩きつけるように渡して……
     あとはそこの窓から見えるように、ずっと塞ぎ込むようにしている」

マミ『……』


無言者「君はそれを前にして、何とも思わなかったのか?」

フィルチ「……私は校長から命じられた仕事を果たしただけですので。
      何かご意見があるのなら、お伝えしましょうか?」

無言者「……っ」

フィルチ「……それでは、失礼します」

無言者「……くそっ」


魔法省 廊下


フィルチ「……」

QB「やあ、アーガス・フィルチ」

フィルチ「……トモエの猫か。そういえば、お前もここにいたんだったな。
      どうだ? 餌は貰ってるか?」

QB「食べてはいるよ。それより、君に聞きたいことがあるんだけど」

フィルチ「ふん。廊下の真ん中で待ち構えてるから何かと思えば……お断りだ。
      これからホグワーツの廊下をピカピカに磨き上げなけりゃならん」

QB「さほど時間はとらせないよ。
   それとも、僕と会話しちゃいけないっていうのもダンブルドアからの命令かい?」

フィルチ「……さっきの話を聞いていたのか? 姿は見えなかったが」

QB「猫は姿を隠すものさ」

フィルチ「ふん、猫自身がそれを言っていれば世話はない……いいだろう。
      さあ、さっさとしてくれ。何が聞きたいんだ?」

QB「……マミにあんな態度を取ったのは、ダンブルドアから頼まれた仕事に含まれていたからかい?」

フィルチ「主思いなことだな――答えはNOだ。校長は、私に書類を届けてサインを貰ってこいとしかいっとらん。
      もっとも、私が生徒にどんな態度で接するかということは、あの方はよくご存じだろうがね」

QB「なら、やっぱりそれが狙いか……マクゴナガルは来れなかったの?」

フィルチ「はっ、お前も私では不満だったか?」

QB「いや、単に不思議だっただけさ。だって君も言っていただろう。マミの学籍を管理しているのはマクゴナガルだって。
   確かに彼女は職務で多忙だろうが、公務の一環としてならここに来る時間くらいは作れるはずだ」

フィルチ「……確かに最初はあの方が来ようとしていたさ。だがそれを校長が止めて、私を御指名なさったんだ」

QB「理由は?」

フィルチ「さてな。校長のお考えは、私如きには理解できんよ。
      だが先ほどの口ぶりだと、お前さんにはある程度予想がついているようだが?」

QB「……まあね。つまり、ダンブルドアはマミを見捨てたのさ。
   PTSDの治療ではなく、単純な事務処理を優先したということだろう――」

フィルチ「それは半分当たりで、半分外れというところだな」

QB「? どういうことだい?」

フィルチ「お前さんは、少しばかりご主人様の側に立ちすぎているよ。無論、ペットとしてはそれで正解なのだが。

      確かに、私が寄越されたのはこれにサインをさせる為だろうさ。
      実際見て分かったが、あの状態じゃ副校長がここに来ても、トモエはサインをしなかっただろうからな」

QB(……確かに、マミのことを真摯に心配してくれる人が相手じゃ、マミはその人を拒絶するかもしれない。
   心の底で助けを求めていても、それが相手を危険に晒すということを理屈で理解しているからだ)


QB「でも――それなら、やっぱり、ダンブルドアはマミを見捨てたんじゃないのかい?」

フィルチ「……まあ、先ほども言った通り、私にダンブルドアのお考えは分からん。
      だが副校長のお考えは、校長のよりは分かりやすい。この書類は副校長が用意したものだが――」


退学届 マミ・トモエ


フィルチ「――これがただの退学届けに見えるなら、お前さんもただの猫だということだ。
      そしてこんな小細工を校長が見逃すはずがない。なら、あの方もトモエのことは真剣に考えているさ」

QB「……その書類に、何か細工がしてある? どういったものなんだい?」

フィルチ「さてな。所詮……あー、魔法が得意ではない私には、よくわからんよ」

QB「その発言は矛盾しているよ。それなら、その書類に魔法的な細工がしてあるなんてどうして言えるのさ?」

フィルチ「分かるさ。副校長は一見厳格だが、生徒のことを一番に考えるお方だ。私に言わせれば激甘さね。
      まともな思考ができる人間なら、誰にだって分かるさ。副校長が生徒を救おうとするなんていうことは――」

QB「――君がその"まともな思考ができる人間"なら、マミに励ましの言葉くらい掛けて欲しいものだけど」

フィルチ「私が、か?」

QB「特定の障害が無ければ、人間というのは他者に対する共感性を持つ筈だ。
   その点で言えば、僕よりも君らの方がマミの気持ちは理解できるだろう」

フィルチ「共感……ねぇ。さっきも言ったが、私はお優しい先生じゃないんだ。
      アドバイスを与えるのは仕事じゃない。罰則ならいくらでもくれてやるがな」

QB「……先生じゃないのが理由だというのなら、なおさら、君は言葉を掛けるべきじゃないかな」

フィルチ「……何だと? 何を言っている」

QB「以前から考えていたことがある。君は魔法が使えず、魔法を使える生徒たちを憎らしいと言っていた。
   過剰な罰則はそのせいだというのが、事情を知っている者達の一般見解だろう」

フィルチ「ふん! そうさな。間違っているのは、"過剰な"罰則というところだけだ。
      私は鞭打ちくらいでちょうどいいと思っている……それで?」

QB「だけどそれだと、どうしても奇妙に思える点があるんだ。
   そもそも、なんで君はホグワーツで働こうなんて思ったんだい?」

フィルチ「ガキどもに罰を与える為、とは思わんのか?」

QB「ホグワーツは、魔法界でも最高レベルの教育機関だ。
   教師でないとはいえ、職員にも相応のものが求められるだろう」

QB「君の持つ事情を鑑みれば、就労に必要な労力は並大抵のものではなかった筈だ。
   魔法使いが杖の一振りで済ます仕事を、君はその何倍もの労力と時間を掛けて達成しなければならない。
   だから、わざわざ虐待をしたいが為だけにこの職に就いた、というのは考え辛い」

QB「そして規律を好む言動に、口調こそ粗雑だが、良好な職務態度……
   これらを総合すると、ひとつの仮説が浮かび上がってくる」

フィルチ「……」

QB「――もしかして君は、教師になりたかったんじゃないのかい、アーガス・フィルチ?」


フィルチ「教師に? スクイブの私が? はっ! 全く、おかしなことを――」

QB「……」

フィルチ「……はあ。そうだな。お前の考えは的外れだが、少しだけ、私の知り合いの話をしてやろうか。
      立ち話は辛いし、座れ。そこにベンチがある……」

QB「……」ピョイッ

フィルチ「さて……昔、あるところに馬鹿な男がいたんだ。そいつは私と同じ出来損ないだった。
      今でこそ多少マシになったが、魔法界でスクイブというのは……
      まあ、なんというか、どうしても色眼鏡で見られるわな」

QB「虐げられていた?」

フィルチ「不当に冷遇されている、と言っているわけではないぞ。
      ただ、公に区別されれば、そこには公然とした差別も付き纏うという話だ。
      それこそ大昔には、生涯家の中に幽閉されたり、マグルとして育てられた奴もいる」

フィルチ「そいつは学校に行かず、家で教育を受けた。
      まあ、それ自体は大したことじゃない。少数だが、普通の魔法使いにも自宅で教育を受けた奴はいる」

QB「でもそれは……目立つだろうね」

フィルチ「ああ。そいつは近所に住む"普通の連中"、特に同い年の餓鬼どもから愚図無能と蔑まれていたよ。
      幸い、両親は愛情を注いでくれたから……変に歪むこともなかったようだが」

QB「……愛情を? でも、さっきは学校に行かせず、家で教育を、って」

フィルチ「そいつの両親は魔法使いだった。自分の子供に、魔法界のことを知ってほしかったんだろう。
      その上でスクイブがいい職に就けるようにするには、マグルの学校に通わせている暇などなかった」

QB「なるほど……」

フィルチ「だからそいつの敵は目下、自分をからかってくる悪ガキどもだった。
      思慮はなく、遠慮もなく、規律のない連中。そいつはそんな連中が大嫌いだった」

フィルチ「馬鹿だった。青二才だったんだ。そういう連中に、規律を叩き込みたいと思ってしまった。
      それで、多少努力して……運も良かったんだろうな。そいつはとある魔法学校の管理人になった」

QB「ホグワーツみたいな?」

フィルチ「……ああ、そうさ。無数のガキどもが蠢く無秩序な空間。そいつの言うことを聞くやつなど、誰もいない。

      どれだけ正しいことを言われようが、他人からそれを指摘されればイライラする。
      強い口調で言われれば反発する。ガキには大人しく服従することが正しいなどと、言葉では理解できん」

QB「そうだね。感情とは理不尽なものだ。それに関しては僕もよく知っている……」

フィルチ「その理不尽さを前にしてしまえば、馬鹿な夢想が破れるのにさほど時間はかからなかったさ。
      もとより、人を諭す才能などなかったのだろう。だから結局、そいつはもっとも簡単な結論に達したよ」

フィルチ「口で言っても分からないなら、体に覚え込ませるしかない。罰を、もっと厳しい罰を――とな」

QB「……」


フィルチ「――さて、これで分かっただろう? 説教など無駄。少なくとも、私はそいつと同意見だね。

      適当な言葉一つ投げかけてやっただけで考え方や生き方が変わるほど、人間という奴はよく出来ていない。
      そいつにとって都合の良い言葉を取捨選択しているだけさ」

QB「……それならマミの為に、都合の良い言葉を吐いてはくれないかい?」

フィルチ「……はあ。まだ言うのか……」

QB「だって、君は教える側になりたかったんだろう? それなら、いまがチャンスじゃないか。
   君のことをマミは信用しているよ。彼女なら君の言葉を真摯に受け取るだろう。だから、」

フィルチ「……何か勘違いしているようだが、"そいつ"は別に、後悔しているわけじゃないんだがね」

QB「後悔していない? 願いが叶わなかったのにかい」

フィルチ「ああ。確かにガキどもやお温い処罰に不満はあるさ。魔法を使えたら、なんて思うこともある。

      だがな、それでもいいのさ。しょぼくれた人生だったが、それでも得たものはある。
      そいつは言葉よりも体罰の方が効果的だと確信してるし、その信念に誇りを持っている」

QB「その信念は間違っているといわれても?」

フィルチ「誇りとはそういうものだ。他人からは埃に見えるようなものでも、当人にとっては大切なもの。

      規則を破った生徒を見つけてくれる可愛い子ちゃんも、使う機会のない手錠も。
      そいつが長年を掛けて手に入れたものだ。いまさら捨てることは出来んさ」

QB「……君は、絶対にマミを助けようとはしてくれないんだね」

フィルチ「ああ。首輪をつけて引きずり出せ、というなら喜んでやってやるがね。
      さ、これで話はお終いだ。お前が満足していようと、満足してなかろうとな」スッ

QB「っ、待って――待ってくれ!」

フィルチ「……」

QB「あ、いや――君の理屈は理解したよ。でも……マミを助けられるのは……」

フィルチ「……不思議に思っていたんだが、お前さんは何故、そこまでして他人に助けを請うんだ?
      そんなに助けたいなら、お前が助けてやればいいだろうに」

QB「僕が、かい?」

フィルチ「ああ。私なんかに頼むより、いくらかは建設的だと思うがね。
      優しい言葉なんて、いくらでもかけてやれるだろう」

QB「僕は――僕じゃ、無理だ。君に言わせれば、僕はただの猫だろう?
   人間の感情を完全に理解することは出来ないよ。ましてや、心のケアなんて……」

フィルチ「……お前さんが思っとるほど感情は崇高なものじゃないし、人がそれを理解してるとも思えんね。

      ホグワーツを思い出してみろ。何となく楽しいからとかいうどうしようもない理由で
      廊下を糞塗れにする馬鹿どもだらけだったろうが」

QB「だけど……」

フィルチ「思うにお前さんは、人間なんぞに期待し過ぎているんじゃないか。

      そもそも、私とて奴にどんな言葉をかければいいのかなど分からんしな。
      ……あー、つまり、私が教師だったら、ということだが」

QB「……僕に、できるだろうか」

フィルチ「さあな。知らんよ。だから何ができるかではなく、何がしたいかを考えてみるといい。
      したいことだけしていれば、少なくとも後悔は少なくなるだろうさ」

QB「君は、欲望赴くままに行動した連中に、後悔をさせる側の人間だろう」

フィルチ「ああ。だからこそ分かるのさ。

      連中はいくら私に処罰を食らわされようが、糞爆弾をばら撒くのが止められないんだからな。
      ガキなんて、所詮はそんなものさ。やりたいことだけやっていれば満足できるんだ」

QB「……アドバイスはしないんじゃなかったのかい?」

フィルチ「何のことだ? 私は他人の猫と話しているだけだ。
      その猫が誰に何を喋るかなど、私の知るところではないしな」

QB「……」

フィルチ「ふん! 話は終わりだ。私はもう行くぞ。尻がすっかり冷えちまった」


神秘部 保護部屋


 バサッ


『アーガス・フィルチはこれからも変わることはない。
 生徒から人気がでることもなく、一生煙たがられて過ごすだろう』


マミ(だけど――フィルチさんは、それが嫌じゃないんだ)


 キュゥべえとフィルチさんの会話は、テレパシーで中継されていた。


マミ(後悔のない生き方……か)


 後悔のない人生。それは、とても素敵な響きに聞こえる。

 私の人生は後悔の連続だ。両親の死を予見してしまったことも、両親の死を覆せなかったことも。

 佐倉さん達の死を予見してしまったことも、それがもう、どう足掻いても覆せないということも。

 無力な私には、なにもできない――そう、思っていた。


マミ(できないかもしれない……けれど……私は何がしたいの?)


 答えはすぐにはでない。それでも、出そうと思える。答えを探すために考えている。

 少しずつ、私の中の歯車が動き出した。


数日後 神秘部 保護部屋



 ――ふと、真夜中に目が覚めた。

 照明を消してあるこの部屋は薄暗かった。完全な暗闇でないのは、天候呪文によって天井に星々が輝いているからだ。

 僅かな星明りが、部屋の中を薄く照らしている。その中で。

 テーブルの上に、一匹の白い猫を見た。


マミ「……キュゥべえ?」

QB「やあ、マミ。眠れないのかい?」

マミ「ううん。ちょっと起きちゃっただけ」


 最後にキュゥべえと言葉を交わしたのは一月以上も前だっただろうか。

 だけど不思議と、長い間会っていなかった者同士の間に生まれる、あの蜘蛛の巣のような隔たりは感じられなかった。


マミ(ああ――それじゃあ、きっと。これは夢なのかしら)


 夢ならば、予見を恐れる心配もないだろう。

 私はベッドに腰掛けて、キュゥべえと正面から向かい合った。


マミ「フィルチさんとの話、聞いたわ。ありがとう、キュゥべえ。私のこと、とても心配してくれて」

QB「ああ――飼い主が駄目駄目だと、僕も苦労するよ」

マミ「むぅ……そこまで言うことないじゃない」

QB「愚痴のひとつでも言いたくなるさ。君、ホグワーツを退学してどうする気だい?
   これからの人生設計に関して、何か考えはあるの?」

マミ「あー……だってあの時は、頭に血が上っちゃって……悔し紛れに書き殴って、叩きつけちゃったから」

QB「はあ。先が思いやられるよ。僕が居なかったら、君はどうなっていたんだろう?
   そして、これからどうなってしまうんだろうね?」

マミ「……さあ? 思い浮かばないわね。ずっと傍に居てくれたし……これからも、傍に居てくれるでしょう?」

QB「……」


 キュゥべえは、無言でこちらを見つめてくる。

 ……なんだか嫌な気分になってきたので、話題を変えた。


マミ「それにしても、私のやりたいこと、って……いざ考えると、なかなか思い浮かばないのよね。
   特に、後悔しないように、なんて考えると」

QB「うん? ああ、フィルチの言葉か。それは、君にとって都合の良い言葉だったのかい?」

マミ「……そうね。少なくとも、歩き出す切っ掛けにはなったと思う。
   それだけで、何もかも変われるわけではないけれど……」

QB「それはそうだろう。君ら人間の歩みは遅々としたものだ。

   それでも歩むことを止めなかったから、君たちはようやく宇宙に進出するまでになれたんだろう。
   言葉一つで成長できるのなら、そもそも教育機関なんていらないしね」

マミ「……そうやって、難しい話にするのはあなたの悪い癖よね、キュゥべえ」

QB「それじゃあ、もっと簡単な話にしようか。
   君が今、一番やりたいことはなんだい?」

マミ「……もちろん一番の心配事はあの死の予見だけど……覆したくても、覆せない。
   なら、具体的にどう行動すればいいのかな、って……」

QB「心配することはないよ」


 不思議な力強さで、キュゥべえはそう断言した。


QB「君の思う通りにやればいい。失敗しても、フォローは僕がしてあげる。安心して、全力でぶつかって大丈夫さ」

マミ「――そ、それは、あの、その、嬉しいけど……んっ、んん。
   ……ねえ、あなたってそういうこと言うタイプだったかしら?」

QB「いいや。君以外には言わないし、たぶん、これが最後だろう」

マミ「……最後?」

QB「ああ。さすがに何度もフォローしてはあげられないよ。君ももう自分で考えて動ける年齢だろうしね」

マミ「自分で考えて……か。ねえ、キュゥべえ? やりたいことの参考に、ひとつ質問していいかしら?」

QB「構わないよ。なんだい?」

マミ「どうしてキュゥべえは……インキュベーターは、自分達の体を改造してまで宇宙の為に働こうと思ったの?」


 ふと、胸中に浮かんだ疑問だった。

 私は何がしたいのか。それについて考えていた時、少しだけ、彼らのことが気になったのだ。

 インキュベーター。かつて、キュゥべえもそれに属していた。

 彼らは非常に高度な文明を築いた種族だ。星の海を自由に旅できるというだけで、その力の度合いは伺える。

 そんな彼らが何故、侵略戦争を仕掛ける等ではなく、熱的死を回避するという途方もない命題の為に動いたのか。

 私の質問に、キュゥべえは俯く様に黙考し、やがて答えた。


QB「――それしかすることがなかったから、かな」

マミ「することがなかったって……」

QB「前に言ったと思うけど、僕らには感情が無かった。それなのに、科学技術はアンバランスなまでに発展してしまった。
   今現在、この星で問題になっているような問題は、全て解決してしまえるほどにね」

QB「いくつもの星を開拓し、銀河を丸ごと消せるような武器を生み出し、確認されている他の知的生命を悉く凌駕して――
   インキュベーターは、これ以上ないほどに力を高めた」

QB「……でもね、僕らには感情がなかったし、個という概念も薄かった。

   つまり、欲がなかった。個体数を必要以上に増やそうとも思わなかったし、娯楽文化が発展する余地もなかった。
   他の種族を技術的に圧倒していても、彼らを駆逐して僕らが宇宙の覇者になる、というような野望もなかった」

QB「人間からは奇妙に見えるだろう。僕らはただ"出来るから"という理由でストイックに技術を高め続けたのさ」


 それは例えるなら、野球部でも何でもない少女が、ひたすら素振りを続けるようなものなのだろう。

 意味のない技術を高める。そんな行為は無駄もいいところだ。

 だけどインキュベーターには、そうせざるを得ない理由があった。


QB「そんな、生きるには欠陥だらけの僕らも生物だ。生物である以上、停滞していることは出来ない。

   技術に発展の余地がある内は良かった。ただひたすらそれを追い求めていればよかったから。
   でもその力が頂点にまで達した時。もうこれ以上発展のしようがなくなってしまった時、僕らはやるべきことを失った」

マミ(……そうか、感情がない、ってことは……人生を楽しもうとしない、ってことだ……)


 インキュベーターたちには感情がない。

 苦しみや怒りに支配されることはないが、自分たちが幸福になるという想像もできないのだ。


QB「僕らには感情が無かった。欲望が無かった。やりたいと思えることは何も無かった――
   だから僕たちは、"やりたいこと"ではなく、"やるべきこと"を模索し始めた」

マミ「……魔法少女システム?」

QB「……そうだ。僕らが出した結論は最大の奉仕活動だった。
  それも特定の種に肩入れするのではなく、この宇宙にある全ての存在の利となるような。
  少数の犠牲は出るけど、僕らは圧倒的に多くを救える――そう思っていた。いや、」


 そこで、キュゥべえは話を切った。

 迷うように揺れる赤い瞳が、私を見据えている。


マミ「いまは……どう思ってる?」

QB「……少なくとも、僕が一番にやりたいことじゃない。それだけは確かだ」

マミ「そっか……それじゃあ、一番にやりたいことって――?」

QB「マミを守ることさ」

マミ「ふぇ?」


 あ、変な声が出た。

 停止した頭の片隅で、他人事のようにそんなことを思った。


QB「何をしてでも。嘘をついて、人を騙して、傷つけてでも――僕は、君を一番に守るよ」

マミ「……キュゥべえ? あ、あなた、変なものでも食べたんじゃ――」

QB「だから、マミは自分がしたいことをするといい」

マミ「キュゥべえ――」


 届かないと分かっていながら、私は彼に手を伸ばす。

 ――そこで、私の夢は終わった。


ガチャッ


マミ「……」キョロキョロ

無言者「うん……? おお! ミス・トモエじゃないか! 部屋から出てきたのかい?
     やあ、こうして言葉を交わすのはほとんど初めてだが、私は君の担当官で――」

マミ「あの、すみません。キュゥべえを知りませんか?」

無言者「キュゥべえ? ああ、猫君か。彼なら最近、魔法省の中を散歩するのが趣味みたいでね。
     いまもどこかに――」


パサッ


『キュゥべえは今、イギリス魔法省の地下一階にいる』


無言者「――ご覧の通りさ。なんなら受付に言って探させようか?」

マミ「あ、いいえ――いるんなら、いいんです。きっとまた、帰ってくるでしょうから」

無言者「ああ、そうだろうとも。それより、紅茶はどうかな?
     ちょうどティータイムだったんだが、知り合いが新作の百味ビーンズを送って寄越してきて――」

マミ「キュゥべえにあげてください。あの子、それが好きだったから。それじゃあ」


バタン


無言者「……ふぅ。とりあえず、第一段階はクリアかな……?」



○月×日 見滝原市 廃ビル 地下部



杏子「ったく、ちっとは落ち着きなよ」


 そう言いながら、佐倉杏子は変身を解き、すっかり黒く染まりかけていたSGの穢れを祓い始めた。

 ここは事前に用意してあった緊急避難所のひとつだ。

 ワルプルギスの夜が襲来する前に、ある程度強度がありそうな建物や地下室を見繕っておいたのである。

 見滝原は無理な開発が祟ってそこら中廃墟だらけなので、簡単な防御改修を施すのもそう難しいことではなかった。


杏子「あんたが分身と本物を見間違えてどうするのさ。そりゃあいきなりだったし、あたしもちょっとビビったけど。
    砕けた分身の方を持って時間停止しやがって。間に合ったからいいものの……下手したら死んでたよ」


 ――使い魔の群れに拘束された後、ワルプルギスの夜の一撃が着弾する前に、何とか彼女の援護が間に合った。

 拘束する使い魔を蹴散らし、再び私が時を止めることで、逃げ延びることができた。

 だから、こうして私は生きている。だけど――


ほむら「……」ガチガチ

杏子「……お、おい。大丈夫? そりゃ、確かに危なかったけど……落ち着きなって、ほら。水でも飲んで」


 そういって差し出されたペットボトルを、私は大人しく受け取った。だが、蓋を捻る気力はない。

 力が入らなかった。私の指はぶるぶると小刻みに震えている――それは紛れもない、死の恐怖から来るものだ。


ほむら(……死ねば……まどかとの約束を、守れない……)


 今回のワルプルギスの夜は、明らかに異常だ。

 それ自体の攻撃力が増していることに加え、使い魔を戦術的に配置、運用し、確実にこちらを殺しに来ている。

 魔法少女は常に死と隣り合わせの存在だ。だがこの一ヶ月に限って、私はその例外である筈だった。

 未来の情報を先取りし、魔女の弱点を知り、戦闘においては時を止めるという強力な手段を持つ。

 ループの最後に起こるワルプルギスの夜との戦闘においても、最悪、逃げ回って時間を稼ぎ、時を巻き戻すことができた。

 代償としてループが無事に終幕を迎えれば私は魔法を失い、遠からず死ぬだろうが、それは構わない。

 願いを叶えられれば、私はどうなってもいい。だけど――


ほむら(だけど、もう――逃げることもできない、なんて)


 遡行可能になるまで、あと一時間弱。

 たった一度の接触で死にかけたのだ。それだけの時間が経過するまで逃げ延びるのは不可能と言っていい。

 広範囲に使い魔が配置され、ワルプルギスとの連携を取っている以上、見滝原から逃げ出すことも難しいだろう。

 避けられぬ死の恐怖に、思わず弱音がこぼれた。


ほむら「嫌……死にたく、ない」

杏子「……誰だってそうでしょ?」

ほむら「違う……違うの! わたしは、約束を守らなきゃ――その為だけに、生きてきたのに」


 あの日、私は魔女になって死ぬはずだった。

 それを救ってくれたのはまどかだ。そしてそのまどかと、私は絶対の約束を交わした。

『キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげて』

 それを果たす為だけに、私は永遠の迷路を彷徨ってきたのだ。


ほむら「約束を果たせずに死ねば……あの時のまどかの覚悟を、無駄にしてしまう……」

杏子「……あんたが何を言ってるのかは分からないけどさ」


 ほとんど半狂乱の私に、だが佐倉杏子は取り乱しもせず、落ち着いた様子で声を掛けてきた。


杏子「ワルプルギスの夜が、聞いてたよりもかなり強いってのは私も感じた。
    たぶん、完勝は難しいだろうってことも、なんとなく分かるよ」

ほむら「――きょう、こ」

杏子「だけどさ、あたしにも守りたいものはあるんだ」


 穢れを移し終えたGSを投げ捨てて、彼女はSGを掲げた。


杏子「――なにもかも失くしちまった馬鹿なあたしだけどさ。守りたいものがまた出来たんだ。
    あたしは、そいつを守りたい。それが、あたしが魔法少女を続ける意味だ」


 一瞬の閃光。佐倉杏子が、再び魔法少女に変身する。


杏子「ほむら。あんたが魔法少女をやってるのも、守りたいもんがあるからだろう?
    立て、なんて言わないよ。手も差し伸べない。問題は、あんたに立つ気があるかどうかだ」

ほむら「……私、は――でも、あいつに勝つことなんて」

杏子「後ろに守りたいものがあるんなら、逃げることもできないでしょ?
    ……まあ、ここまできちゃったら、あとは足掻くか、足掻かないかのどっちかだよねぇ」

ほむら(……そう、ね。もう、時間遡行まで漕ぎ着けられる望みはほとんどない……)


 逃げ場はない。前に進むか、それともこのまま絶望の海に没するかの二つしか、選択肢はない。

 ――それなら、私が選ぶべき道は――


ほむら「……ええ、そうね。分かったわ」


 ソウルジェムを握りしめながら、立ち上がった。

 震える膝を誤魔化して、無理やり笑う。


ほむら「どうせ最後なんだし、派手にやってやろうじゃない」


◇◇◇


 時の止まった世界で、私は最後の準備を開始した。

 盾を装着した左腕を振るう。瞬間、私の所持する最強の武装が現れた。

 鋼鉄で成形された兵器の群れ。その一台の上に、私たちは立つ。


杏子「――これ、戦車?」

ほむら「正確には自走榴弾砲らしいわ。どうせ似たようなものだし、分類なんてどうでもいいけれど。
     重要なのは、これに積んである砲弾」


 苦い記憶だ。僅かに顔をしかめる。

 情報の不足していた最初の頃は、早期にまどかが契約してしまったり、魔女に殺されてしまうことがあった。

 そうした遡行できるようになるまで間が開いてしまったループにおいて、私が行っていたのが戦力の強化。

 つまりは、大火力の兵器を収集することだった。


ほむら「昔――ずっと昔、某国の退役兵器を管理してる場所から失敬したの。
     まだ解体されていないものが多くあって助かったわ」


 とはいえ使い道も思い浮かばず、私単独での運用も難しかったため、盾の中で埃を被っていたのだが。

 しかし――およそ対魔女戦闘において、これ以上の武装は存在しないだろう。


ほむら「W79.mod0。中性子弾頭」

杏子「ちゅーせいし?」

ほむら「簡単にいうと核兵器よ。あなたには、これによる街への被害を防いでほしい。
     安心して。これはあくまで中性子放射線による殺傷が目的で、爆発力はさほどでもないから――」

杏子「……いま"核"って言った?」

ほむら「と言っても、十年以上も前の物だし……素人知識で補修はしたけど、起爆するかは疑問だわ。
     全体の1割も作動すればいいほうね。まあ、それでも数発は起爆する計算だし、よしとしましょう」

杏子「ねえ、核って言った? おい、無視してんじゃねえよそんなもん防ぎきれるか!」

ほむら「爆発力はさほどでもないと言ったでしょう。一発たったの0.1キロトンよ」

杏子「それ、具体的にどれだけの威力なのさ?」

ほむら「TNT爆薬換算で100キロ。広島原爆の150分の1。
     それより防いでもらいたいのは中性子の方よ。物理的な防御は難しいけど……魔法でなら」

杏子「……防げるの?」

ほむら「信じなさい。私達の魔法って、そういうものでしょう?」



 正直、実験無しでやるのは狂気の沙汰で、半ばやけっぱちになった子供が癇癪を起しているようなものだが、
 実際問題、もうこれ以外に奴を倒す手は思い浮かばない。


杏子「ああくそ……まさか核爆弾ぶっ放す羽目になるとはね……
    ねえ、これってミスったら避難所の連中、不味いんじゃない?」

ほむら「離れてるし、分厚いコンクリートの外壁で囲まれてるから、中性子線も致死量は届かないと思う。
     ……それに、どのみちこのままじゃ全滅よ」

杏子「……やるっきゃないってことか」


 杏子が渾身の結界を張るために集中し始めたのを横目で確認して、私は足元の車両に魔力を通した。

 機械類の操作は、私が使える数少ない汎用的な魔法のひとつだ。

 擬似的なネットワークで繋がった無数の自走砲台が、宙に制止しているワルプルギスの夜に照準を向ける。


ほむら「――やるわよ。弾丸が停止した後に結界を張って」

杏子「ああ、全部受け止めてやるよ――」


 佐倉杏子の返答を合図に、私は斉射を命じた。

 吐き出された数十発の戦術級核砲弾が、奴の巨体の寸前で停止する。

 さらにその上から、杏子の赤い結界が球状に展開。舞台装置の魔女を、完全に覆い切る。


ほむら(準備は――出来た)

 
 ワルプルギスの夜。

 お前がいくら台風として観測されるような強大なエネルギーの塊でも、そこには生物的な側面がある。

 実際、以前のループでまどかに倒された時には、体に傷を負えば悲鳴を上げたし、動きも鈍った。

 それは、体の構造が崩れればダメージになるということ。

 中性子線は生物の細胞構造を破壊する不可視の死神だ。

 その全身を、穴あきチーズのようにぐちゃぐちゃにしてやる。


ほむら「死になさい――!」


 時間停止解除。

 弾丸が着弾するまでに半秒も掛からない。もっとも、幾重にも展開された結界の向こう側を見ることは出来ないが。

 僅かに、待つ。着弾に十分な時間が過ぎても、音も、光も、衝撃も起こらなかった。


ほむら(中性子線は――?)


 ちら、と設置していた計測装置を見るが、正常に動いている。示す値は適正値だ。

 驚くべきことに、どうやら杏子の結界は、核兵器の影響を完全に遮断したらしい――


杏子「……ねえ、変だよ。手応えがない」

ほむら「え?」


 額に脂汗を浮かべた彼女がそう呟いた次の瞬間、結界が消滅する。

 その結界の内側で、絶望は未だ、大笑を続けていた。


ワルプルギス「アハハハハハ――!」

杏子「……無……傷……?」

ほむら「――そんな、嘘でしょう?」


 あの密閉空間内では爆発力も中性子線も凄まじいことになっていたはずだ。
 
 信じられず、目に魔力を通し、視力を限界まで引き上げる。

 ――そこで、私はあまりの恐ろしさに身を竦ませた。


ほむら「使い魔が……砲弾を、防いでる」

杏子「……なんだって?」


 ワルプルギスの夜から生まれた無数の使い魔が、飛来する全ての榴弾の底面に触れていた。

 "束縛"の能力で、砲弾の運動エネルギーが完全に殺されている。

 私は榴弾を補修する際、構造を極力単純化していた。その為、あれの信管は着弾の衝撃で作動するタイプに換装されている。

 あれでは、核反応が起きない。

 完全に動きの止まった砲弾を使い魔たちが一呑みにしていくのを見て、私は背筋が泡立つ感触を覚えた。 


ほむら(ワルプルギスの夜が――能動的に防御行動をとった!?)

杏子「ほむら、危ない!」


 隣にいた杏子が、私を抱えて横っ飛びに自走砲の上から飛び降りる。

 次の瞬間、頭上から降ってきた使い魔たちが自走砲をまるでウェハースのように踏みつぶした。


ほむら「そんな、使い魔の力も上がってるなんて――」

杏子「よそ見するな! 次が来るよ!」

ワルプルギス「キャハハハハ!」


 上空を見れば、ワルプルギスの夜が再び攻撃態勢に移っていた。


杏子「防ぎきれない! ほむら、時間を――」

ほむら「っ――駄目、魔力が……」


 私の魔法は燃費が悪い。

 さきほどの一斉射撃の準備と自走砲に対する操作で、私のSGは濁りきっていた。

 即座にこちらの状態を理解した杏子がなけなしの魔力で結界を造り上げ、私もせめてもの抵抗に盾を構える。

 ――そしてワルプルギスの夜は、そんな、私たちのちっぽけな努力を訳なく無為にした。


見滝原市 半壊したマンションの一室




 ――瓦礫の中で、目を覚ます。


ほむら「っ……ここ、は……?」

杏子「……最後の退避所だよ。他はもう、全部やられた」


 上体を起こしながら、周囲を確認する。

 そこは巴マミの自宅だった。ただし、もうかつての暖かみは残っていない。

 外に面する壁はえぐり取られ、そこから荒れに荒れる見滝原が一望できた。

 半ばからへし折れた高層ビルや、無理やり剥がされたアスファルトが宙を舞い、さらに破壊が拡大している。

 幸い、まどか達の避難所の辺りはまだ比較的無事なようだが、他の避難所には被害も出始めているだろう。


杏子「あたし達は一撃で吹っ飛ばされた。その後は気絶したあんたを背負いながら、何とかここまで逃げ延びたよ」

ほむら「そう……っ! あなた、その怪我!」

杏子「……あー、さすがに、ねえ? 今度は分身ってわけにもいかなくてさ……」


 見れば、杏子の脇腹にはソフトボールほどの大穴があいていた。

 脂汗を浮かべながら、彼女はその辺の布で作った即席包帯で、止血を試みている。


ほむら「私を庇って……いえ、それよりも、魔法で治療を」

杏子「魔力が限界なんだよ。さっきの結界と、ここまで逃げてくるだけで空欠だ」

ほむら「なら、グリーフシードを使えば――」

杏子「このマンションの周りは使い魔だらけだ。魔法を使ったら、その刺激で感知されるよ」

ほむら「そんな……」


 SGの穢れを祓うには、一度、変身を解かなければならない。

 そんな時に襲われれば、今度こそ抵抗するまもなく殺されてしまう。


杏子「あたしは平気だ。痛みは切ったし、体は動く……だけど、さっきの一体どういうことだ?
    なんでこっちの攻撃が通用しなかった?」

ほむら「……奴は、全力でこっちを潰す気ってことよ」

杏子「そりゃあ、魔女はみんなそうだろ?」

ほむら「……魔女の中でも、積極的にこっちを攻撃してこない奴を見たことはない?
     本来、ワルプルギスの夜はその類の魔女だった」

杏子「……そういや、ちょっと前に箱みたいな魔女を倒したことがあったな。変な映像みせてくるだけの……」

ほむら「ええ、それと同じ。ただ、奴の場合は持っている力が比べ物にならない。
     だからただ存在するだけで、その被害は甚大なものになった。
     理由は分からないけど、奴はいまその力を全て破壊と外敵の排除に注ぎ込んでいる」

ほむら「榴弾が作動しなかったのは奴が防御したからよ。奴には、もう隙がない――
     時間を止めたところで、着弾寸前の状態からでも防がれてしまう……」

杏子「……勝つ方法は? あんた、あれの情報を大量に持ってただろう」

ほむら「……これまで一度だって、こんな状況になることはなかった。
     それでも勝つ方法……いえ、少なくてもダメージを与えるには……」


 大抵の攻撃では使い魔に防がれて終わりだろう。ならば、相手に確実に当てる方法を――


ほむら「……時を止める余力はない。回復の為に変身を解いたら、その時点で襲われる。
     もう使い魔の群れを避けながら、爆弾を抱えて特攻するくらいしか……」

杏子「……なるほどね」


 私の返答に、佐倉杏子は深いため息をついて。


杏子「――なら、そうしよっか。それが一番、可能性があるっていうんならさ」

ほむら「……正気?」

杏子「言ったろ? 守りたいものがあるんだ……」


 囁くように言って、彼女はふらふらと、壊れた壁に向かって歩きだした。

 その右手が、髪を括っていたリボンを抜き取る。彼女の長い髪が、強風に煽られてなびいた。


杏子「諦めきれないよ。どんなに絶望的な状況になってもさ。あたしは、この街を守らないと」

ほむら「杏子……あなた、なんでそこまで」


 この世界での彼女の生い立ちを私は詳しく知らない。

 私の知っている佐倉杏子は、表面的には利己的な面が強く、だからこそ強かに魔法少女を続けることのできる人物だった。

 それが、まるで――


ほむら(まるで、正義のヒーローみたいに――)

杏子「言ったよね? あたしはさ、大切なものを一度、ぜーんぶ失くしちゃったんだ。
    でもここで、この街で、あたしはまたそれを手に入れられた。
    だから、守らないと。じゃないと――あいつが、帰ってこられない」


 胸元のソウルジェムを引き千切り、彼女はそれを掲げるようにして宣言した。


杏子「ここは、見滝原はあたしの大好きな街だ! それをむざむざ、無くさせるもんかよ――!」


 ぼう、と杏子の全身から、冷たい青色の炎が噴出し始める。

 ソウルジェムを砕いて行う自爆攻撃。文字通り、最後の手段だ。

 その炎の中で、彼女は誇らしげに笑っていた。


ほむら(ああ――まったく)

ほむら「そこまで啖呵を切られたら――負けてはいられないわね。
     私だって、守らなきゃいけない約束がある」


 まどかを救う。その為になら、永遠にループを繰り返そうが、死ぬことになろうが構わない。


ほむら「限界を超えて時間を止めるわ。多分、ワルプルギスの夜に辿り着いた瞬間、私は魔女になると思う。
     いい? 遠慮せず、私ごと消し飛ばしなさい」

杏子「……悪いね、付き合せちまって」

ほむら「お互い様、よ。せめてこれで、ワルプルギスの夜を退かせるくらいのダメージになればいいけど」


 同じような笑みを浮かべながら、私達は壁の穴からワルプルギスの夜を睨みつけた。


ほむら「――行くわよ」

杏子「ああ、行こう」


 そうして、私達は未来を繋ぐための一歩を踏み出す。


 ――そしてその瞬間、視界が黒く覆われた。


ほむら「……え?」

杏子「なっ!?」


 天井、壁の穴、部屋の物陰。

 ありとあらゆるところからなだれ込んできた使い魔の群れが、私達を再び束縛した。


杏子「くっ、そ……! こいつら、いつの間に!」


 ……自爆の予兆を感知してから動いたにしては、早すぎる。


ほむら(……全部、知っていた? 私たちがここに隠れてることも、魔力が切れかけていることも……
     最初から知っていて、こうなる状況を待っていた?)


 体へかかる負荷が一瞬で増幅される。私達は床に押し倒され、身動きが取れなくなった。

 このタイミングでの襲撃は最悪だ

 素質の低い私はもとより、杏子もほぼ全ての魔力をソウルジェムに籠めている為、身体能力へのブーストが薄い。

 そしていったん拘束されてしまえば、時を止めることもできない。


ほむら(罠を張られていた……これじゃあまるで……)


 ……まるでベテランの魔法少女を複数相手にしているような違和感を覚える。

 ワルプルギスの夜の狡猾さは、衝動に任せて攻撃してくる魔女のものではない。

 そこには明らかになんらかの知性が感じられた。

 相手にとって、もっとも絶望的な行動を的確にとってくる――今の私たちが置かれている状況のように。


ほむら(爆弾、拳銃、ナイフでもいい――なにか、なにか武器を……!)

杏子「くそっ、くそぉ! 離れろ、離れろよぉっ!」

ほむら「杏子!」


 佐倉杏子は私よりも多くの使い魔に拘束されていた。

 あれでは、再び身体能力を増幅させたところで振り払えるとは思えない。

 腕が動かない以上、槍を生成しても有効な攻撃は出来ないだろう。

 私も、人の心配をしているどころではない。使い魔の群れは私の全身を覆いつくし、完全に視界を奪った。

 もはや、外の様子を見ることはできない。


杏子「くっ、そ……がぁぁぁああああああああ!」


 ただ、隣から杏子の絶叫が聞こえ、炎の温度を肌に感じた。


ほむら(自爆――する気?)


 苦し紛れか、それとも一矢報いる気か。

 どちらにせよ、炎の規模はさらに拡大し、使い魔の身体を透過して、私の網膜に緑色の残響を残した。

いったん終了。あと2回か3回で終わりの予定です。


ちなみに他のスレタイ候補は

ハーマイオニー「ティロ・フィナーレ!」
ダンブルドア「愛は無限に有限じゃよ」
ヴォルデモート「そんなの、俺様許さない」

とかでした。あまりにも関係ないからやめました。

投下します


◇◇◇


 某日。ホグワーツに設けられた自室で、ミネルバ・マクゴナガルは悩んでいた。

 手元には一枚の書類がある。マミ・トモエのサインが綴られた退学届だ。

(これは、自己満足でしょうか)

 祈る様に組んだ手を口元に当て、幾度も繰り返した自問自答を、もう一度だけ試みた。

 マミ・トモエは自分の教え子である。

 ひたむきな努力家で、他人を気遣うことのできる素晴らしい子だ。

 入学当初は引っ込み思案な部分もあったが、それもあの三人組を初めとする友人たちと交流することで改善されてきていた。

(まあその影響で、私の知らない所で校則のひとつくらい破っているかもしれませんが――)

 だが、彼女はそのくらいやんちゃになればいいと思う。

 彼女には両親がいない。11歳の誕生日に、交通事故で亡くなっている。自分はその葬儀に立ち会った。

 初めて彼女を見た時は、よくもこれだけ小さい体に鬱屈としたものを溜め込める、と驚いたものだ。

(周囲の大人たちは、魔法力を発揮した彼女を訝しみ――酷い者は、あまつさえそれを口に出しさえした)

 当時のマミは孤独だった。信頼できる者は誰もいなかった。

 家族を失う辛さは、自分も知っている。だから彼女にホグワーツに来るように促した。

 今思えば、あれは同じく自分の生徒であるハリー・ポッターが"生き残った男の子"になった日のことを重ねていたのかもしれない。

 ダンブルドアに押し切られる形であのマグルの家で育てることに決まったが、心の底では反対していた。

 子供を理解の無い場所で育てることは、往々にして愉快な結果を招きはしない。

 ハリーがあの家で歪まずに育ってくれたのは奇跡といっていいだろう。あるいは、校長はそれも見越していたのかもしれないが。

 閑話休題。

 結果として、マミはホグワーツに入学し、少しずつ両親の死を乗り越えて行った。

 少しでも慰めになればと思い、ペットを見繕うようにアーガスに頼んだのも功を奏したのだろう。

 彼女は上手く学生をやれていたと思う。グレンジャーに次ぐ優等生、と言ってもよかった――

(――実技さえ上達すれば、とあの頃は思っていたものです)

 マミは実技が不得手だった。変身術の授業でも、最下位をネビル・ロングボトムと争っていたものだ。

 だけどそれは全て、自分の勘違いだった。

 マミには才能が有った。恐ろしいほどの才能だ。文字通り、我が身を滅ぼすほどの。

 その才能に、自分はいち早く気づいて然るべきだったのだ。

 あの日、自分が彼女に魔法界のことを伝えに行った日。すでにその才能は発露していたのだから。

(私の、責任。もっと早くに気づいていれば――こんなことには)

 机の上の退学届。そこに記されたサインをなぞりながら、ミネルバ・マクゴナガルは決断する。

「たとえ独善的と言われようが、私は彼女を――」

「――それほどまでの決意があるのなら、ミネルバ。君にも協力を頼みたい」

「……アルバス?」

 降ってわいた声に、顔をあげる。

 いつのまにか部屋の扉の前に、白い猫を従えたアルバス・ダンブルドアが立っていた。

「おそらく、それがもっとも彼女の為になるじゃろう」


◇◇◇

 
 ○月×日 神秘部 保護部屋


 ずっと考えていた。

 私には何ができるのか、ずっと考えていた。

 予見の力は役に立たない。

 死の予見からこっち、その頻度が下がったということもあるが、
 それがどういったものであるのか理解してしまった今、迂闊にその力は望めない。

 魔法は使えるようになったが、それでも人並みの域を出ない。

 学生が使える程度の呪文では、予見に抗うどころか、最悪の魔女とやらにも勝つことは出来ないだろう。

 魔法少女の契約も、それは同じ。私の素質では、予見された運命を覆すほどの願いは叶えられない。

 私には何もできない――ようやく、私はそれに気づいた。

 だから。

(やりたいことを、やろう)

 そうすれば、きっと。私の後悔だらけの人生に、さらなる後悔が積み重なることはない筈だ。

 ムーディ先生、いやその偽物に言われた言葉を思い出す。

『――お前は孤独を恐れている』

 そうだ。私は独りになるのが怖い。友達を失うのが怖い。

 だから、私のやりたいことは決まっていた。例えそれが逃げだといわれても構わない。

 間違っていてもいい。その間違いを押し通せれば、きっと私は満足だ。

 シャワーを浴びて、服を着替え、杖をポケットに突っ込んで、私は部屋の扉に手を掛けた。


QB「……出かけるのかい?」


 振り返る。数ヶ月を過ごした神秘部の部屋。その中心にあるテーブルの上に、いつものようにキュゥべえが載っている。


マミ「――キュゥべえ、私、行ってくるわ。もしかしたら帰りは遅くなるかもしれない。そしたら、あなたは――」

QB「……うん。いってらっしゃい、マミ。僕のことは心配しないでいいよ。いざとなれば、なんとでもなるから」


 片時も離れず、ずっと私の傍に居てくれた彼は、私を心配させることが無いよう、そんな言葉で送り出そうとしてくれている。

 私は微笑みを浮かべた。きっと、彼に向けるのは最後になるであろう微笑みを。


マミ(……さようなら、キュゥべえ)
 

◇◇◇



 ○月×日 神秘部 保護部屋前


無言者「――行ったか」


 巴マミの担当だった無言者は、彼女の出て行った扉を見やった。

 ともすれば迷宮のようにも感じられる神秘部から出る方法は、初日の内に教えてある。

 迷うこともないだろう。あとはきちんと、通勤用の暖炉にまでたどり着ければいいのだが。


無言者「何もかも計画通り、か……喜ぶべきなんだろうな」


 浮かべる表情とは裏腹な言葉を吐きながら、無言者は手近な机をこんこんと指で叩いた。

 とたん、保護部屋の扉から白い猫のような生き物が出てきて、机の上に飛び乗る。


QB「……」

無言者「これで僕の仕事はお終い。君も、もう用済みさ……エバネスコ(消えよ)」


 気だるげに放たれた呪文は、何に妨害されることもなく、正しく作用した。

 白い猫が、この世から消え失せる。


無言者「さて……運命に挑む難しさはよく知っているけど、彼にはぜひとも勝って欲しいものだね」


◇◇◇ 


○月×日 見滝原市 避難所


 ワルプルギスの夜。

 舞台装置の魔女。その性質は無力。

 彼女の正体は、複数の魔女の集合体だ。

 最初の一体にそういう性質があったのか、それとも他の要因が絡んでいるのか。

 なんにせよ、ワルプルギスの夜は他の魔女の波動を受け、吸収し、最悪の魔女になった。

 その特性は彼女の使い魔にも見ることができる。

 黒く染まりきった、まるで影法師のような魔法少女の姿をした使い魔たち。

 あれらは吸収した魔女の、魔法少女時代の姿を象ったものだ。

 つまり"彼女達"は魔法少女であった頃の形質を完全に失ってはいない。

 舞台を上演している時は与えられた役柄に準じているが、台本が破り捨てられた今となっては、
 蓄積した魔法少女の経験、その全てをもって障害を打倒する。


QB「だから、元より暁美ほむらたちに勝ち目はなかった。そもそも人数で負けているのだから。
   本気を出したワルプルギスの夜を相手にするということは、無数の魔法少女を相手にすることと同義だ」

さやか「そんな……」

まどか「……」

QB「さあ、まどか。決断を急いだ方がいい。ほむらと杏子は既に敗北した。
   まだ生きてはいるみたいだけど、そう長くは持たないだろう」

まどか「そんな……杏子ちゃんと、ほむらちゃんが……」

QB「彼女たちを助けたいのなら、二人が死ぬ前に契約するべきだ。
   仮に二人の蘇生を願ったところで、結局はワルプルギスの夜から逃れることは出来ないのだから」

まどか「……」

さやか「まどか……」

QB「それに、君たち自身の心配もするべきだ。周囲を見てごらん?」



「おい、なんとかしろ! いまからでももっと遠くの避難所に移せ!」

「連絡が取れないの。親戚が避難した筈の避難所と――」

「お前らの言う通り、車や家財道具は置いてきたんだ! なら、お前らには俺らを守る義務がある――」


QB「群衆は恐怖に耐えきれず、暴徒と化す一歩手前だ。
   ワルプルギスの夜がこの避難所に被害を出すか、内側から崩れるか、いい勝負だと思うよ」

さやか「……っ、確かに、あんまりいい空気じゃないけど……でも、まどかを犠牲にするなんて」

まどか「さやかちゃん、私――」



市職員「大丈夫――大丈夫で――痛っ、叩かないで――大丈夫ってんでしょうが!
     ああっ、もう! マーリンのヒゲ!」


◇◇◇


○月×日 見滝原市 半壊したマンションの一室


ほむら(終わり……これで終わりなの……?)


 遡行魔法は使えず、魔力も尽き、使い魔に拘束され、外では無傷のワルプルギスが待ち構えている。

 チェックメイト。もはやどれだけ頭を捻ったところで覆せない劣勢。


杏子「くっ、そ……がぁぁぁああああああああ!」


 私と同じように拘束された杏子の叫び声。同時に、視界を覆う使い魔越しにでも分かるような強い炎が部屋を満たす。

 破れかぶれ、なのだろう。だがここで自爆をしても、使い魔を数匹減らせるだけだ。


ほむら(でも――もう、そのくらいしか出来ることはない……)


 どうあがいても、まどかを救うことは出来ない。

 突きつけられるその事実に、私のソウルジェムがじわじわと黒く染まっていく。

 頭の中を、走馬灯が駆け抜けていく。経験した無数のループの記憶が高速で再生される。

 走馬灯が起こる原因は、危機に陥った際、その窮状から脱するために過去の経験を脳が反復するからだという説がある。

 だからなのかもしれない――私は声を聞いた。


「……セ……オ……」


 懐かしい声。まだ、このループでは聞いていなかった声。聞くこともないと思っていた声。


「――リセオ」


 震えながら、何かを決断したようにはっきりと響く――そんな彼女の声を。


「――グリセオ!(滑れ)」


 二条の閃光が走り、次の瞬間、私たちに覆いかぶさっていた使い魔が転がりながら離れていく。

 奇妙な光景だった。部屋や私たちの感覚になんら変化はない。

 ただ使い魔達にとって、まるでそこが急な下り坂になってしまったとでもいうように、彼らは勢いよく転がり落ちていった。

 とは言っても、全ての使い魔達が離れたわけではない。

 数匹の使い魔は、しっかりと身体にしがみ付き、離れようとしなかった。だが、


ほむら「――落ちなさい」


 自由になった右腕で、盾から大型のマシンピストルを引っ張り出す。

 照準は必要ない。弾丸をフルオートでばら撒き、私の下半身に群がっていた使い魔達を穴だらけにして排除する。


杏子「邪魔、だっ!」


 同じく、杏子も身体能力をブーストし直し、使い魔を跳ね飛ばしながら飛び起きた。


ほむら(助かった……でも、今の声は……?)


 辺りを見渡すという行動をわざわざするまでもなく、立ち上がってしまえば、自然とそれは目に入った。

 部屋の中に、緑色の炎が飛び散っている。

 自爆しようとした杏子の青い炎とは違う、エメラルドグリーンの奇妙な炎。使い魔越しに私が見た炎はこれだ。

 その火の出所は、部屋の奥に転がっている巨大なトランクからだった。


ほむら(……なに、これ)


 奇妙な光景だった。そのトランクは私の身長の半分ほどもある巨大さだが、
 それでも絶対に入りきらないであろう、巨大なレンガ造りの暖炉が、開いたトランクから"生えて"いる。

 破壊の余波でその暖炉もところどころ砕けているが、そのお陰で、炎は際限なく燃え盛っていた。

 その炎の中から、一本の腕が付き出されている。

 三十センチほどの木で出来た杖を握った、白く細い少女の腕。

 真っ直ぐに伸ばされたそれは炎に焦がされることもなく、ただ悠然とそこにあった。


ほむら「これって――」

杏子「……マミ、なのか?」

ほむら「え?」


 杏子の言葉に疑問を覚えるよりも早く、緑炎が消える。

 そこから姿を現したのは、どこかの制服の上から、マントのようなローブを身に纏った――


マミ「……良かった。間に合ったみたいね」

ほむら(巴……マミ……? なんで、彼女が)


 理解できない。何故、イギリスにいる筈の、それもただの学生である筈の彼女がここに居るのか。

 だが、その答えを出す時間もない。


ワルプルギス「キャハハハハハ!」

ほむら「……不味いっ!」


 壊れた壁から、紫色の光が差し込んでくる。

 咄嗟に時間を停止させ、二人を抱きかかえながら、壊れた壁から身を躍らせた。

 とはいえ、もともと魔翌力は枯渇している。大穴から外に飛び出したところで、時間停止は打ち止めになった。

うお、トリ外れよった


ほむら(助かった……でも、今の声は……?)


 辺りを見渡すという行動をわざわざするまでもなく、立ち上がってしまえば、自然とそれは目に入った。

 部屋の中に、緑色の炎が飛び散っている。

 自爆しようとした杏子の青い炎とは違う、エメラルドグリーンの奇妙な炎。使い魔越しに私が見た炎はこれだ。

 その火の出所は、部屋の奥に転がっている巨大なトランクからだった。


ほむら(……なに、これ)


 奇妙な光景だった。そのトランクは私の身長の半分ほどもある巨大さだが、
 それでも絶対に入りきらないであろう、巨大なレンガ造りの暖炉が、開いたトランクから"生えて"いる。

 破壊の余波でその暖炉もところどころ砕けているが、そのお陰で、炎は際限なく燃え盛っていた。

 その炎の中から、一本の腕が付き出されている。

 三十センチほどの木で出来た杖を握った、白く細い少女の腕。

 真っ直ぐに伸ばされたそれは炎に焦がされることもなく、ただ悠然とそこにあった。


ほむら「これって――」

杏子「……マミ、なのか?」

ほむら「え?」


 杏子の言葉に疑問を覚えるよりも早く、緑炎が消える。

 そこから姿を現したのは、どこかの制服の上から、マントのようなローブを身に纏った――


マミ「……良かった。間に合ったみたいね」

ほむら(巴……マミ……? なんで、彼女が)


 理解できない。何故、イギリスにいる筈の、それもただの学生である筈の彼女がここに居るのか。

 だが、その答えを出す時間もない。


ワルプルギス「キャハハハハハ!」

ほむら「……不味いっ!」


 壊れた壁から、紫色の光が差し込んでくる。

 咄嗟に時間を停止させ、二人を抱きかかえながら、壊れた壁から身を躍らせた。

 とはいえ、もともと魔力は枯渇している。大穴から外に飛び出したところで、時間停止は打ち止めになった。


ほむら「……っ、リボンで、着地を――」


 思わずそんなことを口走ってしまったのは、巴マミが居たせいだろう。

 彼女の操るリボンの魔法に、私は何度も救われていた。

 この世界の巴マミが魔法少女でないと事前に知っていた筈だが、
 彼女が鉄火場に出てきたため、その前提を忘れてしまったのだ。


マミ「へ? え、え、なにこれぇえええええ!?」

ほむら「!?」

杏子「ああ、クソ。無茶しやがって――!」


 魔女の一撃でマンションが粉みじんに打ち砕かれる音と、気づいたら空中に放り出されていた巴マミの悲鳴。
 
 そんなものを背負いながら、杏子は多関節の槍を極限まで伸ばし、隣接する別の建物の屋上に突き刺した。

 それを勢いよく縮めることで、まるでワイヤーアクションのように、私達は比較的無事なビルの上に着地する。


マミ「……な、何、今の? 急にマンションの外に……」

杏子「マミ……!」


 コンクリートの床にへたり込むマミに、杏子が近づいて行く。


杏子「馬鹿野郎! なんで、なんでこのタイミングで帰ってくるんだよ!」

マミ「佐倉さん……」

杏子「見ての通りだ。あの魔女は夏休みにあたしらが狩ってた奴らとは違う。
    たった数時間もあれば、見滝原を叩き潰せちまうような奴なんだぞ。見ろ!」


 杏子が指し示したのは、既に廃墟と化し始めている見滝原の光景だ。

 ワルプルギスの夜が居座る中心は、既にその圧力により、すり鉢状に地形が変じている。


杏子「なんでだよ……クリスマスには帰ってこなかったくせに、なんでこんな時に……」


 最初は詰るような勢いだった杏子も、次第に言葉から力が抜け、崩れ落ちるように巴マミの肩に額を預けた。


杏子「……あたしは、あんたを守りたかったんだ。マミの帰ってくる、この街を守りたかった。
    それなのに……それなのにさ……もう、守れないじゃないか……」

マミ「……」


 その背に撫でるように一度触れて、巴マミは杏子を抱き起した。

 どこか儚げに微笑みながら、巴マミは囁くように告げる。

 
マミ「私ね、全部知ってたの」

杏子「え……?」

マミ「今日、佐倉さんがワルプルギスの夜と戦おうとすることも。それが、もうどうやったって覆せないことも。
   全部、知っていて――でも、どうにもできなくて」


 風が吹く。

 どこかの書店が潰れでもしたのだろうか? 紙の束が、私たちの周りを舞った。


『巴マミが加わっても、その結果は変わらない』


ほむら(……?)


 見間違いだろうか? 確認しようとする前に、その紙はさらに風を受け、暗い空の中に吸い込まれていく。


マミ「口にできないような、卑怯なことを考えたこともあったわ――だけど、私は決めたの。
   後悔をしたくない。だから、やりたいことをやろうって」

杏子「マミ……あんた、一体……」

マミ「スコージファイ(清めよ)」


 巴マミが杖を振るう。振り撒かれた煌めきは、私たちの体に降り注ぎ――


ほむら(変身を解かず、グリーフシードも使わないで、ジェムの穢れが――?)


 ソウルジェムが本来の輝きを取り戻していく。枯渇寸前だった魔翌力が、体中に溢れた。


『魔法使いと魔法少女。二者が扱うエネルギーは同じもの』


 降り注ぐ紙切れと、巴マミの魔法による光。二つが相まって、まるで雪が降っているような錯覚に陥る。

 周囲は相変わらず暴風による破砕が起こり続けている筈だが、それでもこの一瞬には奇妙な静けさがあった。


杏子「マミ……あんた、魔法が?」

ほむら「魔法? でも、彼女は魔法少女じゃ」

マミ「あなたが、暁美ほむらさんよね?」


 その静寂の中で、私と巴マミが相対する。

トリは外れてもいい……! だがsagaは、sagaだけはなにとぞ! コンピューター様ー!

 
マミ「私ね、全部知ってたの」

杏子「え……?」

マミ「今日、佐倉さんがワルプルギスの夜と戦おうとすることも。それが、もうどうやったって覆せないことも。
   全部、知っていて――でも、どうにもできなくて」


 風が吹く。

 どこかの書店が潰れでもしたのだろうか? 紙の束が、私たちの周りを舞った。


『巴マミが加わっても、その結果は変わらない』


ほむら(……?)


 見間違いだろうか? 確認しようとする前に、その紙はさらに風を受け、暗い空の中に吸い込まれていく。


マミ「口にできないような、卑怯なことを考えたこともあったわ――だけど、私は決めたの。
   後悔をしたくない。だから、やりたいことをやろうって」

杏子「マミ……あんた、一体……」

マミ「スコージファイ(清めよ)」


 巴マミが杖を振るう。振り撒かれた煌めきは、私たちの体に降り注ぎ――


ほむら(変身を解かず、グリーフシードも使わないで、ジェムの穢れが――?)


 ソウルジェムが本来の輝きを取り戻していく。枯渇寸前だった魔力が、体中に溢れた。


『魔法使いと魔法少女。二者が扱うエネルギーは同じもの』


 降り注ぐ紙切れと、巴マミの魔法による光。二つが相まって、まるで雪が降っているような錯覚に陥る。

 周囲は相変わらず暴風による破砕が起こり続けている筈だが、それでもこの一瞬には奇妙な静けさがあった。


杏子「マミ……あんた、魔法が?」

ほむら「魔法? でも、彼女は魔法少女じゃ」

マミ「あなたが、暁美ほむらさんよね?」


 その静寂の中で、私と巴マミが相対する。


ほむら「……貴女とは初対面の筈だけど?」

マミ「ええ。それでも私はあたなを知っている。同じ時間を幾度も繰り返していた魔法少女。
   大切なものを守るため、迷わず前に進む人」

ほむら「……貴女、一体――?」


 あまりにも状況が不明すぎて、思わずそう口にする。

 だが同時、頭のどこかで直感的に理解したこともあった。

 ループの基点より前が改変されている。それを私は、私以外の魔法少女の仕業だと思っていたが。


ほむら(その考えは、間違っていた――時間に干渉していたのは"彼女"だ)


 理論も何もないただの勘に過ぎないが、
 不思議とそれを疑問に思わないのは、私と彼女の何かが繋がっているからかもしれない。
 
 そして宙に浮かぶワルプルギスの夜を睨みつけ、彼女は名乗りを上げた。


マミ「私は巴マミ。ホグワーツの4年生。そして――」


 切り返した視線の先にある、空を覆う程の絶望を鋭く睨みつけ、


マミ「――友達と一緒に戦う為に来た、魔法使いよ」


◇◇◇


 ……ずっと考えていたんだ。


 僕にできることは何か、ずっと考えていた。

 動物的な幸福とは、つまり三大欲求を満たすことだろう。

 健康に生きて、子孫を残す。だけど複雑化した人間の感情はそれ以外の、さまざまな価値観を生み出した。

 例えば自己犠牲。ある新興宗教の教祖は、これを愛と尊び自ら十字架に掛かった。

 例えば死への憧れ。別の新興宗教の教祖は、生から離れることこそ苦しみからの解放だと謳った。

 感情を得たばかりの僕には、人類が作り出したそれら全てが、途方もなく輝かしいものに思える。

 だから、ずっと考えていたんだ。

 なにをすれば、彼女を救うことになるのかを。


◇◇◇


◇◇◇



「……なるほど、確かにその可能性はあるね。予見は覆せないが、その解釈は――
 だけど、それじゃあ結局君は」

「僕はいいんだ。それに伴うリスクは承知している。承知したうえで、そうしたいと判断したんだ」

「……だが、難しいな。途中で彼女に気づかれれば、計画は水の泡になる」

「君に協力を頼みたいのはそこなんだ。保険として作っておいた身代わりがあっただろう?
 あれを使って、マミの目を逸らしていてほしい」

「……構わないが――だが彼女が予見してしまえば無駄だぞ。
 君の居場所を知った彼女が不信感を募らせれば、計画も露見してしまう」

「だから最初に一度、計画の前に僕の居場所を予見させておく必要がある。
 "予見は絶対"だ。その重さを一番よく知っているのは他でもないマミ自身だろう」

「……なるほどね。予見の絶対さを逆手にとって、疑いを抱かせないようにするのか。
 その間に君が計画を進めると」

「ああ。タイムリミットはワルプルギスの夜の襲来まで――多分、マミのことだ。
 結局は自らの身を顧みず、友達を助けに行くと思う」

「彼女自身を守る計画でもある、か……」

「……問題は、僕が直訴してもおそらく受け入れてもらえない、というところにある。
 マミ自身の命を救うためには、圧倒的に駒が足りない。その点を煮詰めなければいけないけど――」

「前にも言ったが、私にはコネがない――神秘部だからね。他部署との関わりは薄いんだ。
 だから、君のコネを使うしかないだろう」

「僕の? でも、僕だって魔法界上層部との関わりは……」

「ダンブルドアだ。確実ではないが、彼なら力になってくれるだろう。生徒のことだしね。
 君が接触したい相手との窓口になって貰う人物としては最適だと思う」

「でも、ホグワーツに行くまでの足がないよ」

「私が連れて行くさ。通勤用の暖炉を使ってホグズミードまで飛ぼう。
 ここに来るときは機密性を重視してポート・キーを使ったが、今回はそうではないし」

「それは助かるけど……いいのかい? 君に頼まざるを得ないけれど、君がそこまでする理由は……」

「あるのさ。私が神秘部を希望した理由はね、運命に勝つ為だったんだよ。
 幼い日にそう誓ったんだ。リンゴで死んだ父が、私を守ったあの日からね」

「それって――」

「だから、君の勝利は私の勝利だ、猫君――君が勝てるように祈っているよ」


◇◇◇

◇◇◇



○月×日 見滝原市 スーパーセル中心部


 暴風が渦巻き、瓦礫が舞い、魔女たちが歌う暗闇の中を魔法少女と魔法使い見習いが駆け抜けていく。

 赤い魔法少女が使い魔を振り払い、黒い魔法少女が時を止めて援護し、魔法使いは尽きない魔力を注ぎ込んでいく。

 魔法使いが魔法を使うために用いるのは感情の力。

 友達と一緒に戦うために、その他の全てを投げ捨てる決断をした彼女の意思は、何よりも強い。

 唱えた呪文の数は十を超え、五十を過ぎ、百に届こうとしている。

 それでも、その力の底は見えない。

 感情の力。それは宇宙の栄華を極めたインキュベーターですら生み出すことのできない、あらゆる法則から外れたエネルギーだ。

 ――だからこそ、そのマイナスの極致であるワルプルギスの夜は、彼女たちの上を行った。


杏子「っ……マミ、平気か……?」

マミ「う、うん……二人が守ってくれたから……でも、佐倉さんが」

杏子「気にするなよ。マミは一撃食らったらお終いなんだからな」

ほむら「……ワルプルギスの夜。まさかここまで強大になっているなんて」


 如何に時を止め、大槍を叩き込み、呪いを掛けても。ワルプルギスの夜は傷一つ付かず、泰然と宙に浮き続けていた。

 確かに巴マミのお陰で、暁美ほむらは今やほぼ無制限に時間を止めていられるようになった。

 使い魔を問題なく蹴散らし、ワルプルギスの夜本体に攻撃を仕掛けることが可能になった。

 だが攻撃を当てる瞬間には、どうしても時間停止を解かなければならない。

 その一瞬。その僅かな空隙にワルプルギスの夜は反撃を捻じ込み、そして魔法少女たちを返り討ちにした。

 佐倉杏子の結界を紙切れのように引き裂き、巴マミの妨害呪文を無視して、
 暁美ほむらの時間停止が間に合わない速度の一撃を振るった。

 その結果が、これ。

 佐倉杏子は腹部から大量に血を零し、暁美ほむらは四肢を断たれた。

 二人に守られる形になった巴マミは軽症だが、肉体的には一般人と変わらないのだ。

 その多少の怪我で、彼女は動けなくなってしまう。


杏子「全く、嫌になるね。ここまで手合い違いだと怒る気にもならない――のを更に通り越して、死ぬほどむかつくな」

マミ(……ワルプルギスの夜。最悪の魔女――今日、佐倉さんはあれに殺されてしまう)


 もう、その予見を覆すことは出来ない。


マミ(だから、私はここに来たんだ。逃げでもいい。それでも佐倉さんを救いたいこの気持ちは本物だから。
   私は絶対に、最後まで佐倉さんと一緒にいる)


 空を睨みつける。宙を浮く巨大な魔女――かつて魔法少女だった怪物の哄笑を、指輪が翻訳した。


ワルプルギス『無駄だよ』『あなた達は何もできないよ』『全ての希望を失って』『ここで死ぬんだよ』


 幾人もの声が重ね合わさったような、不快で――そして、底抜けに悲しい声。

 あの魔女の性質は無力。

 それは死ぬか魔女になるかの二択という、どうしようもない魔法少女の構造に打ちのめされた彼女たちの嘆き。

 その集大成が、ワルプルギスの夜という最悪の魔女の正体だ。


マミ(それでも――絶望は、しない。私は無力だけど、それでも後悔をするつもりはないもの)


 震える手で、杖を掲げる。体は動かなくても、この感情が萎えることはない。

 同時、ワルプルギスの夜が紫色の魔力を練り上げて、巨大な弾丸として放った。


マミ「――プロテゴ!(護れ)」


 盾の呪文をぎりぎりで成功させ、魔力弾を受け止める。


マミ「く、うぅぅぅうううううう……!」


 だが、未成年の魔法使いがひとりで何とかできるほど、ワルプルギスの夜は軽くない。

 杖から生じた不可視の力場は瞬時に歪み、弾け、魔力弾の侵入を許そうとしていた。

 懸命に歯を食いしばって耐える。杖からはメキメキと嫌な音が聞こえる。口の中に血の味が広がった。


マミ「だけど、それでも私は――背を向けたりは、しない!」

杏子「ああ、そうだ。絶対に最後まで、あいつからは逃げないよ」

マミ「佐倉さん……」


 杖を握る手に、別の手が添えられる。佐倉杏子。折れた槍にもたれかかりながら、それでも彼女は立ち上がる。


杏子「最後の一瞬まで、抗うのはやめない。そうだろう?」

ほむら「ええ。そうよ――大人しく負けを認められるほど、私は大人じゃない」


 不慣れな回復魔法と、巴マミが名前も知らないような奇妙な道具で千切れた左腕を無理やり癒着させながら、
 暁美ほむらも不倶戴天の敵を睨みつけた。


マミ「暁美さん……!」


 未成年の魔法使いひとりでは、ワルプルギスの夜の攻撃は防げない。

 ならば話は単純だ。ひとりで足りないなら、数を足せばいい。

 感情の力は条理を覆す。それが三人分だ。


マミ(それなら、この程度の攻撃! 弾き返せないわけがない!)


 盾の呪文が変化する。プロテゴから一段上のトタラム。さらに最上級の魔法使いだけが使えるマキシマムへ。

 そうして――未だ絶望を知らぬ少女たちは、ワルプルギスの夜の放った魔力弾を相殺した。


マミ「やった――」


 全力を出し切った疲労感に、その場に座り込む。会心の魔法だ。

 これからの生涯においても、これ以上の魔法を使うことは出来ないだろう。

 頭上では紫色の光が視界を閉ざしているが、すでにその光には熱も衝撃もない。

 ただの光に変じた、ワルプルギスの夜の魔力が消え去り――


 その先に番えられた、無数の砲弾を見た。


杏子「んなっ――」


 ワルプルギスの夜の周りに浮かんでいた巨大建造物の残骸。その巨大質量を、魔女は第二陣として用意していた。

 その数は優に30を超える。もう一度盾の呪文を試みても防ぐことは叶わないだろう。

 暁美ほむらの腕も、まだ接合を終えていない。時間を止めて逃げることすら不可能だった。


ワルプルギス『死んじゃえ』


 宙を裂く轟音と共に、瓦礫の槍が、まるで流星のように降ってくる。

 回避も防御もできない。思考する時間すら与えず、無慈悲な鉄槌が下される。


マミ(それでも私は――逃げなかった)


 そうして予め来ると知っていた死を、巴マミは勝ち誇った微笑みを受かべながら受け入れた。


◇◇◇


○月×日 見滝原市 避難所


まどか「……決めた。私、魔法少女になる」

さやか「まどか!」

まどか「だって、仕方ないじゃない! 私がそうしなきゃ、みんな死んじゃうんだよ!?
     ほむらちゃんも、杏子ちゃんも、パパもママもタツヤも、さやかちゃんだって!
     私、そんなの耐えられないよ……!」

さやか「……っ」

まどか「大丈夫、私、魔女にはならないよ。皆を殺しちゃう魔女になんて、なってやるもんか……
     それを、ほむらちゃんたちに押し付けたりもしない」

さやか「……まどか。あんた、死ぬ気なの?」

まどか「ううん。違うよ。私、守るの。皆を守るヒーローになるんだよ。
     ……だから、そんな顔しないでよ、さやかちゃん。
     ごめんね。こんな、辛くなるようなことを聞かせることになっちゃって」

さやか「そんなこと! 一番辛いのはアンタでしょうが……!
     っ、決めた。キュゥべえ。あたしも魔法少女になる」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「まどかにだけ責任を押し付けたくない。私の願いは、まどかを一人にしないこと。
     叶えられるよね、インキュベーター?」

Incubator「ああ。どんな形で叶えられるかは分からないけど、その願いで契約することは可能だ。
       君たちの決断を、僕は喜ばしく思う。さあ、祈りをささげてくれ。それで契約は完了する」


さやか「……まどか」

まどか「うん。私は、ワルプルギスの夜を――……」

さやか「……まどか?」

まどか「……ぐぅ」

さやか「は? ……っと、っとぉ! まどかが急に倒れた!?
     一体どうしちゃって……寝てる? え、このタイミングで?」

Incubator「……!」

さやか「一体、なにがどうなって……ぐぅ」バタッ


 鹿目まどかを支えていた美樹さやかも急に倒れ、二人は同じように床の上に寝転がる。

 その時になって、インキュベーターはようやく周りの状況が変化していることに気づいた。

 周囲の群衆は、相変わらず大声でわめいている――だが、その性質が変わっていた。


「お、おい――どういうことだ」「お前、いったい――?」


 群衆に落ち着くよう声をかけ続けていた市の職員が、床に尻もちをついている。

 おそらく、突き倒されたのだろう――そしてその際、壁際に設置してあった掃除用具入れにぶつかったらしい。

 その掃除用具入れの扉が開き、中から座り込む市職員と全く同じ顔をした人物が、気絶した状態で転がり出てきていた。


市職員?「……あー……」


 疑惑の視線が集中する中で、座り込んでいたそいつが取った行動は極めてシンプルだった。

 立ち上がり、埃を払うように二回ズボンはたく。そして次の瞬間にはベルトの間に挟んでいた杖を引き抜き、掲げていた。


市職員?「ドルミーテ!(眠れ)」


 一瞬で避難所を満たす閃光。それがおさまった時には、群衆は一人残らず、鹿目まどかのように床の上で眠りこけていた。

 やれやれ、と首を振る市の職員――いや、その振りをしていたそいつは、段々と元の姿を取り戻しつつあった。

 日本人特有の黒髪は桃色に、男性の体つきは小柄な女性の物へと変じていく。

 最後に、だぼだぼになったスーツを振り回すようにその場で一回転すると、その服装も"魔女"のものに変わっていた。


「あーもう! 失敗した! マッド-アイに怒られる! やっぱりロッカーにも検知不可能拡大呪文を掛けとくべきだった!」

「トンクス、そりゃ仕方ねーことだろう」


 喚く桃色頭に呼応するように、ばさり、と何か布を取り払うような音がした。

 同時、ひとりの男がまどかとさやかの傍に現れる。

 男も杖を持っていた。どうやら、先に少女二人を眠らせたのはこの男の仕業らしい。


「なにしろ、準備する時間なんざほとんどなかった。入れ替わるんで精一杯だったろうがよ」

トンクス「そうは言うけどね、マンダンガス。マッド-アイに怒られるのを想像してみてよ。
     あの人、私にはやたら厳しいんだから」

マンダンガス「それこそ、しかたねーさ。奴さんが手塩にかけた弟子なんだから」

トンクス「あーもう本当に……ってそれより、煙草臭いよ。この距離でもにおってくる。
      それじゃあ透明マント着ててもばれちゃうでしょ」

マンダンガス「……俺ぁ闇祓いじゃねえし、そんなとこまで気づかねえよ。
         それにどうせ、普通のマントに目くらまし術かけただけの粗悪品だ。ニーズルも騙せねえさ」

トンクス「じゃあそれ、売ったりしないでちゃんと返してよ。
     どうせちょろまかした挙句、『マッド-アイ謹製の~』とか謳って売りさばく気だったでしょ」

マンダンガス「は、ははは、はあ? 何を馬鹿なこと――って、おい。猫が、ああいや、インキュベーター?
         とにかく居なくなっちまってる」

トンクス「ええ!? ちょっと! 捕まえておかなかったわけ!?」

マンダンガス「んなこといったって、猫一匹くらい、逃げようとしてからでも捕まえるのはわけねえと……」

トンクス「説明聞いてなかったの!? その猫は、私達を星ごと塵にしちゃえるんだから!
     マドカとサヤカ、それに接触するインキュベーターの監視はアンタの仕事だったでしょうが!」

マンダンガス「あ、あー……それじゃあ俺ぁ、ちょっくら猫を探しにいってくる――」パシッ

トンクス「あっ、ちょ――姿くらましした! もう! ……はぁ。とりあえず、どうしたもんかな、これ。
      法案可決までここを守るのが私の仕事だったけど……」


 溜息をつきながら、トンクスは身じろぎもせずに眠る大勢のマグルを眺めていた。

 と、そこにまた新たな人影が虚空から現れる。


ルーピン「――ナイスタイミングだね、トンクス。たったいま、法案は可決したよ。私がそのメッセンジャーだ」

トンクス「リーマス! ああ、よかった。もうさ、本当にどうしようかなって……」

ルーピン「……ああ、なるほど。全員眠らせたのか。失敗した?」

トンクス「うー、ちょっとだけ……マッド-アイには秘密にしてね?」

ルーピン「……君がムーディに嘘をつき通せるとは思わないけどね。
      どのみち、もう時間だったんだ――さあ、もう一仕事だ。行こう。
      既にみんな動き始めている。ここはもうすぐ派遣されてくる忘却術士達が何とかするだろうさ」


◇◇◇


○月×日 見滝原市 スーパーセル中心部


 予想した衝撃がいつまでたっても来ないことを訝しみ、巴マミはいつの間にか閉じていた瞳を開けた。


マミ「……え? これって……」


 見れば、射出された瓦礫の砲弾は、その全てが空中に縫い付けられたようにぴたりと止まっていた。


マミ「暁美さん、時間を――?」

ほむら「……私じゃないわ。まだ左腕は動かないし……それに、あなた達は普通に動けている」

杏子「風も吹いてるしな……一体、なにがどうなって」


「――ピエルトータム・ロコモーター(全ての石よ、動け)」


 声は後ろからした。その聞き覚えのある声に、思わず振り返る。


マミ「……そんな、どうして……」


 そこには"魔女"がいた。

 四角い眼鏡にひっつめ髪。黒いローブとマントを纏った、厳格そうな老婦人。

 それは巴マミのような見習いではない、正真正銘の魔女だった。


マミ「マクゴナガル先生――!?」

マクゴナガル「久しぶりですね、トモエ。息災――とは言えませんが、それでも元気そうで何よりです」


 常人ならば立っていられないほどの暴風の中、ミネルバ・マクゴナガルは何の気なしにそう返してくる。


マミ「どうして――先生が、どうしてここに?」

マクゴナガル「私がここに来たのは、仕事だからですよ」


 なにやら聞き覚えのある台詞を口にして、マクゴナガルは巴マミの瞳を覗き込んだ。


マクゴナガル「トモエ。私は貴女にホグワーツに残る意思があるかどうか、確認するためにここに来ました」

マミ「え……? でも、退学届はフィルチさんに渡して」

マクゴナガル「ああ、これですか」


 言いながら、マクゴナガルはローブのポケットから四つ折りにされた書類を取り出した。

 その書類には退学する意思がある旨と、巴マミのサインが綴られている。だが、


マクゴナガル「"ちょっとした手違い"で、変身術の練習に使った紙をアーガスに渡してしまいまして。
         これは、退学届として機能しないのですよ」


 言った瞬間、書類に印字されているサイン以外の文字がうねうねと蠢き、構成する文章を変えていく。

 大した時間もかからず、退学届が"ミネルバ・マクゴナガルを後見人として指定する"と記された書類へと変じた。


マミ「後見人、って――」

マクゴナガル「危うく、詐欺師のような真似をしてしまうところでした。
         きっと"最初からこの書類だったら貴女はサインをしなかった"でしょうしね」


 予見の力に怯えていた巴マミは、その申し出を拒んだだろう。

 彼女は孤独を恐れていたが、同時に、親しい誰かを思うことも我慢していた。

 後見人――それはつまり、ハリーにとってのシリウスと同じ立ち位置だ。


マミ(……両親のいない私がホグワーツを退学したら、その先にあるのは……
   普通の学校にも行ってないし、魔法も使えなくなっちゃう……)


 その先行きは、決して明るいものではなかっただろう。

 そのことを一番心配してくれていたのは、誰だったのか。


マミ「……先生。もしかして、それ」

マクゴナガル「いいえ、ただのミスです」

マミ「でも――」

マクゴナガル「トモエ。私がまさか、職権を乱用した挙句、生徒を騙すような真似をすると?」


 三人を通り越すように、マクゴナガルが前に歩み出る。

 それはまるで、見られたくない表情を隠すように。


マクゴナガル「さあ、トモエ。改めて聞きますが、あなたはホグワーツに残る意思がありますか?」

マミ「私は――でも、予見の力が……それに、私は」

マクゴナガル「私が訊ねているのは」


 マミの言葉を遮るようにして、マクゴナガルはいつものように鋭く言葉を放った。


マクゴナガル「貴女が一体どうしたいのか、ということです」

マミ「……私が、どうしたいか」

マクゴナガル「そうです。自ら道を狭めるような考えはおやめなさい。
         貴女が成したいこと。ただそれだけを思い浮かべなさい」

マミ「私、は……」


 佐倉杏子と一緒に、ここで死ぬまで戦うつもりだった。

 予見を覆すことができないと知っていても、それが無駄な行為だと知っていても、抗おうとした。

 ――だけど、もし。死の予見なんてものが無くて。

 ただ平和な時間を過ごすことが出来るのなら、今の自分は何を望むのか。


マミ「私は……皆と一緒に居たい。佐倉さんとも! ホグワーツのみんなとも!
   ずっとずっと、一緒がいい!」

マクゴナガル「――なるほど。ではもう、これは要りませんね」


 マクゴナガルが手を放すと、風に煽られた書類は、遥か彼方へと飛んで行った。


マクゴナガル「マミ。貴女は再び前に歩み出した。その勇気を、私はグリフィンドールの寮監として高く評価します。
         そして貴女がそれを選択するのなら、私も約束を果たしましょう」


『――マミ。ホグワーツの学生である限り、私は絶対に貴女を見捨てはしません』


マクゴナガル「教師とは先達者。生徒に道を示す者。
         ならばその道を塞ごうとする大馬鹿者を取り除くのも、我が仕事のうち」


 ミネルバ・マクゴナガルが、希代の魔女が杖を振るう。

 宙に静止していた瓦礫の大群が、一斉にその形を変じ始めた。


ほむら「これは……」

杏子「……これがマミの言ってた"魔女の先生"か」


 ただの瓦礫に過ぎなかったものに仮初の命が吹き込まれ、それらは巨大な竜の石像へと"変身"する。

 数十にも上るドラゴンの群れが、ワルプルギスの夜の嘲笑をかき消すように咆哮した。


マクゴナガル「あらゆる障害、あらゆる理不尽、あらゆる困難。
         生徒がそれと立ち向かう時、常に私達も傍にある。そしてその悉くを粉砕して見せましょう」


 ワルプルギスの夜が無数の魔力弾を放ち、使い魔が石竜を拘束せんと舞い踊る。

 それでも半分以上の竜がそれらを掻い潜り、ワルプルギスの夜へ食らいついた。

 さしもの大質量による突進に、ワルプルギスの夜の巨体が揺らいだ。


マクゴナガル「お聞きなさい。私の名はミネルバ・マクゴナガル。ホグワーツ変身術教授にして、マミの師」


 ワルプルギスの夜が笑いながら身を捩る。砕けた石竜の破片は、そこからさらに小さな百舌鳥へと変化した。

 無数の鳥の群れが、使い魔達を翻弄するように飛び回る。


マクゴナガル「――そして、教育して差し上げましょう。怪物に対する、魔法界の流儀を」

マミ「"魔法界"の……?」


 マクゴナガルの言葉尻を捕えたマミが、疑問の声を漏らした瞬間。

 その問いに答えるかのように、見滝原のあちこちから、数百の閃光が打ち上げられた。


◇◇◇


某日 魔法省 魔法大臣室


ファッジ「……うーむ」


 その日、コーネリウス・ファッジ魔法大臣は落ち着きなく部屋の中を歩き回っていた。

 その直接的な原因は、数ヶ月前、わざわざダンブルドア自身が伝えにきた情報のせいだ。


ファッジ(例のあの人が復活したなど……確かにある程度の証拠はあるようだが……)


 正直なところ、それを認めたくないという気持ちは多分にある。

 "あの人"は魔法界における恐怖の象徴だ。とくに活動の拠点でもあったイギリスではその傾向が強い。

 数年間、自分は魔法大臣として職務を果たしてきてそれなりに自信もついたし、この椅子に愛着もわいた。

 そこにきてあの人の復活などという大スキャンダルは、出来れば目が覚めたら無くなっていて欲しい物の筆頭だった。

 だからこそ"今しばらく、この事実を公表することは控えるように"というダンブルドアからの忠告を、自分は頑なに守っている。

 多分、言われなくてもそうしただろうが、ダンブルドアからのお墨付きという後ろ暗い免罪符によって、多少は心苦しさも減っていた。

 とはいえ、このままでは何の解決にもならないということは流石にわかる。

 夏休みの宿題を、確実に来ると分かっている最終日まで溜めている気分だ。


ファッジ(しかし……この件が解決できるとして、本当にそんな人物がいるものだろうか?)


 つい先日、ダンブルドアがまた新たに連絡を寄越してきた。

 なんでも、あの人に対抗できる力を持った人物とコンタクトが取れたらしい。

 その人物が今日ここに、そろそろやって来る筈だった。だからこそ、こうして落ち着きなく部屋を歩き回っているのだ。


ファッジ「……それにしても、何で私のところにくるのだろうか?
     そんな凄腕の魔法使いがいるなら、ダンブルドアと組んで勝手にやっつけてくれればいいのに」

「それはできないよ、コーネリウス・ファッジ。僕は慈善事業をやっているわけじゃないからね」

ファッジ「……!? だ、だだっ、誰だ!」


 唐突に響いた声に、思わず狼狽する。

 周囲を見渡しても、声の主らしき人物はいない。咄嗟に緊急用の執行部直通ベルを鳴らそうとして、


「そう慌てないでくれ。僕は君に敵意を持っていないし、姿を消してもいない。
 君の視線が高すぎるんだ。もっと下だよ」

ファッジ「……猫?」


 言われて視線を下げると、確かに自分の足元に、一匹の白い猫のような生き物が佇んでいた。


ファッジ「おやおや――職員のペットかな? それだったら、今の醜態は忘れてくれると嬉しいのだが。
      ほら、お菓子をあげよう。だから早く、ご主人様の下にお帰り。もうすぐ来客があるんだ――」

QB「やっぱり覚えていなかったか。まあ、半年以上前に一度会っただけだからね。
   期待はしていなかったけど」

ファッジ「?」

QB「どうでもいいことだよ。それより、その来客っていうのは僕のことだ。
   ダンブルドアからメッセージは受け取っていただろう?」

ファッジ「君、が? ペットとかじゃなくて? ……私を担ごうとしているのかね?」

QB「いいや。真面目な話さ。なんなら、ダンブルドアに確認してくれてもいい」

ファッジ「……そこまで言うなら。それで? あの人に対抗できる力を持っているとのことだったが……
     まさか君が例のあの人を倒してきてくれるとでも?」

QB「いいや、そんなことは無理だ」

ファッジ「……まあ、君の姿を見てその答えを予想していなかった、と言えば嘘になる。
      が、それならなんでダンブルドアは君を送り込んできた? 癒し効果かね?」

QB「僕自身が倒すのは無理だ、と言ったのさ。僕はただ協力するだけ。
   そして僕が協力すれば、確実にヴォルデモート卿に対抗できるだろう」

ファッジ「ああ、その名前をあまり呼ばないでくれると――
     それに協力する相手を選ぶなら、私よりダンブルドアの方が良いのでは?」

QB「いいや。ダンブルドアでは不可能だ。これは君にしかできない」

ファッジ「私が? はっは、馬鹿をいっちゃいけないよ。私がダンブルドアに勝る点など、ひとつも――」

QB「僕が重視したのは、どんな能力を持っているか、ではない。
   どんな素質をもっているか、ということだ」

ファッジ「……私がそれを持っていると?」

QB「ああ、その通りだ。君はダンブルドアにはない、この計画に必要な素質を持っている。
   それが無ければ例のあの人は倒せないし、僕の要求に応えることもできない」

ファッジ「私が、ダンブルドアを……いや、待て待て待て。要求? 要求だと?」

QB「そうだ。最初に言っただろう。これは慈善事業じゃない。
   見返りを求めて、その分の報酬を与える。それだけの事に過ぎない」


QB「――だから、僕と契約してくれ。コーネリウス・ファッジ」

◇◇◇



「ステューピファイ!(麻痺せよ)」

「ディフィンド!(裂けよ)」

「コンフリンゴ!(爆破せよ)」


 花火のように打ち上げられた数百の閃光が、色取り取りに夜を照らした。

 燃やし、砕き、凍らせ、押しつぶす。あらゆる作用が、同時にワルプルギスの夜へ収束する。


マミ「あれが全部、魔法?」

杏子「……すげえ、そこら中に"居る"」


 魔力によって強化された佐倉杏子の視覚は、閃光を打ち上げた彼らの姿を見て取った。

 暗闇や瓦礫に紛れて、突如現れた老婦人と似たような恰好をした無数の人影が杖を掲げている。


マクゴナガル「……採決が間に合いましたか」

マミ「採決、って――……! 先生、危ない!」

杏子「っ」


 無うすの石像を動かしているマクゴナガルを狙うように、四方から使い魔が押し寄せてくる。

 マミは先ほどの一撃ですでに力を使い果たしていた。咄嗟に杏子が槍を構えようとするが――


「――悲鳴を上げるくらいなら呪文の一つでも唱えろと、わしの偽物は教えなかったのか?」


 それよりも早く、新たな人影が間に割り込んだ。


マミ「……え?」

「なら、教えてやろう。敵の陣地では常に360度、土の中まで警戒することだ。
 援軍が来たからといって気を抜くようでは、その隙を刺される。左様――」


 一瞬で、複数の使い魔が地に叩き落とされる。

 その中心にいるのは一人の老人だ。

 傷だらけの凶相に収まった魔法の義眼が、ぐるぐると節操なく回転していた。


ムーディ「――油断、大敵」

マミ「ムーディ先生!?」

ムーディ「お前さんが知ってるのは偽物の方だろうがな」


 ふん、と鼻を鳴らし、マッド-アイ・ムーディは生身の方の目でマミを見つめた。


ムーディ「お前がトモエか。一応、礼を言っておくぞ。お陰で早々に復帰できた。
      わしを襲った死喰い人も、アズカバンに叩き戻してやったしな」

マミ「あ、あの、いえ。私、大したことは――それより、これってどういう……」

ムーディ「どういう状況か、か? 見たままだろう」


 いまだ途切れることない呪文の群れを、忙しなく動く義眼で追いながら、ムーディは呟く。


ムーディ「オーラーにマジカルロウ・エンフォースメントスクァード。その最精鋭であるヒット・ウィザーズ。
      更には執行部以外の部署からも魔法に秀でた者を選抜し、引き抜いてきた。
      イギリス魔法省――いや、イギリス魔法界に在る全戦力。それが集結している」

マミ「全戦力、って……」

ムーディ「本来、こんな無茶な動員は出来ん。空前絶後。まさしく歴史的な出来事だ。
      ここまで大勢の魔法族が一か所に集まり、組織的に杖を振るうなどな」


 呪文の弾幕が着弾し、弾ける魔法の光にワルプルギスの姿が覆われていく。


ムーディ「戦力的には、ドラゴンだろうがキメラだろうがヴォルデモートだろうが倒せるだろう。
      ……まあ、もっともそれを出来なくさせたからこそ、ヴォルデモート卿は恐るべき存在だったわけだが」

マミ「あの、そうじゃなくて……一体、どうしてここに……」

ムーディ「無論、お前さんを助けに来た――訳ではないぞ。
      ひとりの魔法使い見習い、ましてやマグルどもの為にイギリス魔法省は動かん。
      魔法省が動くのは法に基づき、大臣が命じた時のみだ」

マミ「法律……でも、"魔女"のことなんて、魔法界の人は誰も」

ムーディ「ほんの数分前に、ここ数ヶ月ほど省内で極秘に審議されていた、とある法案が可決された。
      プエラ・マギ・コード。"魔法少女法"だ。提出したのはコーネリウス・ファッジ」

ほむら「魔法少女……ですって?」

ムーディ「うん? ああ、お前さんが"そう"なのか――小娘の集まりと聞いていたが、なかなかどうして、ふむ」


 ムーディはじろりとほむらを、正確にはほむらの周囲に散らばっている使い魔の残骸を見た。

 先ほど飛びかかってきた使い魔の内、半数を叩き落としたのは、この黒い魔法少女だったのだ。


ムーディ「――今の闇祓い局にいるひよっこ共なんぞより、よっぽど修羅場を潜っているようだな。
      ならば、なるほど。ファッジの演説も、誇大妄想だったわけではないのか」

マミ「あの、なんで大臣が魔法少女のことを?」

ムーディ「さあな、そこまでは知らんよ。だが奴は魔法少女の存在や、その力の"危うさ"も知っていた」

ほむら「……ソウルジェムの秘密のことね。それで?」

ムーディ「ファッジはお前さん達の存在を公表すると同時、その庇護を訴えた。

      曰く、お前さん達はわしらと同じ力を持っていて、おまけに悲劇的な存在だと。
      それを見て見ぬ振りをすることは魔法族として恥だとか、まあ耳障りの良いことを色々とな」

ほむら「つまり貴方達は……私達を助けに来た?」

ムーディ「より正確に言えば、あのワルプルギスの夜とやらを倒しに来たのさ。
      魔法少女法は、ざっくり言えば魔法少女をマグルとは別の存在だと定義し、魔法界の一員だと認めるものだ。
      省内に新しく魔法少女対策委員会を設け、ソウルジェムの浄化や、魔法界での就職支援などを行う」

ほむら「……聞いた限りじゃ、わざわざここまで、大人数を引き連れてやってくる必要はないんじゃないかしら」

ムーディ「最後まで聞け。魔法少女法には"魔獣"に関する条項も定められているのさ」

ほむら「魔獣?」

ムーディ「ああ、お前さんらは"魔女"と呼んでいるんだったか?
      だが紛らわしい上に、それじゃあ士気も上がらんのでな。呼び方は改めさせて貰った。
      ともかく、魔法少女法では"魔獣"を有害な魔法生物と認め、その駆除を行うとある」

ほむら「……それでも、ここまで大部隊を送れるものなの?
     並大抵の労力じゃなかったはずよ。リスクに見合うような見返りだってない。
     わざわざ苦労を背負いこんでいるようなものじゃない」

ムーディ「随分と疑ってかかるじゃないか、ええ?」

ほむら「昔、騙されたことがあってね。上手い話は信じないようにしているの」


ムーディ「まあ、警戒しない馬鹿よりは数倍ましだがな。
      しかし実際、そう突っ込まれるとわしは答えることが出来ん。
      さきほども言ったが、確かにこんな大人数を、しかも他国で動かすなど普通は不可能だ」

ほむら「……」

ムーディ「魔法少女法は、イギリス魔法省内で定められた法律だからな。
      この国の魔法省に対する影響は、少なくとも未だない。
      世論の反発やらなにやらもあるだろうしな。お前さんの言う通り、不自然な状況ではある」

ほむら「なら、どうして?」

ムーディ「さっきも言ったが、正確な理由をわしは知らん。これをほぼ独断で強行したのはコーネリウス・ファッジだ。
      奴の一声で、この法律は制定され、今回のワルプルギスの夜討伐作戦も決まってしまった」

マミ「ファッジ大臣が……? でも、あの……」

ムーディ「お前さんの言いたいことは分かる。ファッジはそんな強権を振るえるタマじゃない。
      支持率も低空飛行だし、カリスマもない――少なくとも、ついこの間まではそうだった」

マミ「今は違うんですか?」

ムーディ「ああ。奴はいまや"英雄"だ。しかも国内だけではなく、全世界でな。
      だからこそ、こんな無茶を押し通せるというわけだ」

ほむら「……その人、一体何をしたの?」

ムーディ「お前さんに言っても、その意味は伝わらんと思うが……一ヶ月ほど前のことだ」


 未だに納得できない、という表情を傷だらけの顔の片隅に浮かべながら、ムーディはその事実を告げた。





ムーディ「――復活したヴォルデモート卿が、ファッジの手によって捕縛、処断されたのだよ」





.

◇◇◇


一ヶ月前 魔法省 とある一室


ヴォルデモート(……ここは……?)


 ヴォルデモートが目を覚ました時、そこは自分がいた筈の廃屋ではなく、清潔な建物の一室だった。

 そして辺りを見渡すまでもなく、真正面に立っていた人物の声を聞くことによって、
 自分が最大の窮地に立たされていることを思い知らされる。


ダンブルドア「お目覚めのようじゃのう、トム。こうして君と向かい合うのは何年ぶりじゃろうか?」

ヴォルデモート「……ダンブルドア!」


 咄嗟に腰に手を伸ばす――が、そこに杖の感触はない。


ダンブルドア「探しているのは、これかね?」


 手慰みのように、目の前の老人が自分の杖をくるくると回していた。

 あのダンブルドアの前で、自分は無手を曝している――


ヴォルデモート「貴様、俺様の杖を……いやそれよりも……」


 これは、どういう状況なのか。

 室内には自分達二人の他にも、複数の人影があった。

 こちらに杖を向ける、フードを目深に被った闇祓いらしき魔法使い。その奥に、守られるように佇むコーネリウス・ファッジ。

 その存在と現状の意味不明さに、ヴォルデモートは油断なく周囲を見渡した。

 改めて確認してみれば、囲まれて杖を突きつけられてはいるものの、特に体が拘束されているわけでもない。

 ただし、直前の記憶が一切存在しない。久しく覚えることのなかった不気味さに、ヴォルデモートは歯噛みをした。


ヴォルデモート「……どういうことだ、これは。
          ダンブルドア、貴様が何か俺様も知らぬ魔法でも使ったか?」

ダンブルドア「それは半分当たりで、半分外れというところじゃのう」

ヴォルデモート「なにを?」

ダンブルドア「君がここに居るのは闇祓い達による"服従の呪文"によるものじゃ。
        君に操られていたクラウチ氏がその昔、彼らにその権限を与えたことは知っておろう?」

ヴォルデモート「……ホグワーツに潜入させていた俺様の忠実な死喰い人はしくじったということか。
          だが、服従の呪文だと?」


 ヴォルデモートは訝しむ。そんなものを掛けられた覚えが一切ない。

 一対一で自分に勝てる魔法使いなど存在しない。目の前のダンブルドアとて、そこまで実力差はないだろう。

 そもそも、闇祓いとはいえ、そこらの魔法使いに自分が支配されるということは考え辛い。

 有り得るとすれば複数人の魔法使いに呪文を掛けられた場合だが、
 それほどまでの大人数が動くのなら、自分は事前にそれを知ることが出来ていた筈だ。


ダンブルドア「ああ、確かにのう、トム。君に気づかれぬよう忍びよって"服従"させることはわしにも無理じゃろう。
        つまり謙遜せずに言えば、そんなことは誰にもできんというわけじゃな」

ヴォルデモート「……俺様をその名前で呼ぶな」

ダンブルドア「トム。トム・マールヴォロ・リドル。君はある意味で、わしよりもよほど偉大な魔法使いじゃろう。
        じゃが世の中は常に未知で溢れておるよ。君が、かつてはホグワーツの存在を知らなかったように」


 そう言いながら、ダンブルドアは懐から宝石をいくつか取り出し、中央の机にひとつひとつ丁寧に並べていく。

 ブラックオニキスのような深い闇色をした、卵型の石だった。


ヴォルデモート「これがなんだと――?」

ダンブルドア「先ほど言った、"当たりの半分じゃよ"。わしも知らなかった異星の技術。
         契約を交わし、願いを対価に生み出されるもの」


 七つ目の宝石を置き終ると、ダンブルドアは少しだけ悲しげに笑った。


ダンブルドア「――凝固した魂。名を、ソウルジェムという」


◇◇◇


死の予見より一ヶ月後 ホグワーツ 校長室


ダンブルドア「……なるほど、理解はした。君の計画も、その為に君が支払うという対価についても」

QB「……」

ダンブルドア「まず、君の計画についてじゃが――確かに上手く行く確率はある。というより、最善手じゃろうな。
         運命に打ち勝つ方法はいくつかある。君の考えたそれは、その中でも確かに上手い」

QB「なら、力を貸してくれ。マミは君の生徒でもある筈だ。彼女を救う義務がある。
   それに、見合う対価は払うと言った筈だよ」

ダンブルドア「……ヴォルデモート。トム・リドルの捕縛」

QB「ヴォルデモートは、滅びたといわれる今もなお、名前を呼べないほど恐れられている。
   何故なら、彼の死を確認した者が誰もいないからだ。実際、復活したようだしね。
   どうして彼が復活したのか――その仕組みを僕は知らない。それでも、彼の魂を完全に滅ぼすことは出来る」

ダンブルドア「それが、このソウルジェムか」


 ダンブルドアは手の中にある黒い宝石を見つめた。

 それは、ついさっき目の前で、キュゥべえが"トム・リドルの日記から抽出した"ソウルジェムだ。



◇◇◇


『君が願えば、そうだ。君はかつての力を取り戻せる。僕にはその願いを叶える用意がある。
 君には魂と意思がある。最低限そのふたつが揃っていれば、契約には十分だ』

(ならば――)


 迷うことは、ない。


(叶えろ。僕に力を寄越せ。かつての記憶を、力を僕に与えろ)


『いいだろう。合意の下、確かに契約は成立した。その願いを叶えよう、トム・リドル。
 君の祈りは、エントロピーを――』






QB『――凌駕"しない"』






(……なに、を――?)

QB『それでも叶えよう。取り返しのつかない契約を結ぼう。
   宇宙の為でなく、僕の為に魂を差し出してくれ』



◇◇◇


QB「彼が復活できた詳しい理由は分からない。だけどこの前ここに来た時、この日記を見て大体の事情は悟った。

   ヴォルデモート卿の日記には記憶だけじゃなく、彼の魂――それも、酷く傷ついたそれが封じられている。
   おそらく、彼が復活したというのはこれが原因なんだろう?」

ダンブルドア「分霊箱。ホークラックスという。君の言う通り、分割した魂を保存する禁断の魔法じゃ。
        これがある限り、真の意味でヴォルデモート卿を滅ぼすことは出来んし、
        分霊箱自体も、並大抵の手段では破壊することが難しい」

QB「だけど、ソウルジェムにしてしまえば簡単だ。ジェム自体の物理抵抗や魔法抵抗は皆無に等しい。
   簡単に魔法の影響下におけるし、ハンマーを使えば砕いてしまえる。
   もっとも、契約を結ぶという相手の了承が無ければ抽出できないけどね。この日記に記憶が封じられていたのは幸いだった」

ダンブルドア「……彼は、この日記は何を願ったのかね?」

QB「"かつての力を取り戻したい"。望みの通り、日記としての力、即ち記憶を元に戻しておいた。
   もっとも、それだけだ。魔法少女としての素質は無いから、魔法を使うこともできない」

ダンブルドア「なるほど……新たな脅威となることはない、か。
         しかし、分霊箱はあと六個あるのじゃが?」

QB「分割されていたとしても、元はひとつの魂だ。既に僕は、この魂の願い事を叶えた。
   残りの分霊箱からは、もう自由に魂を抽出し、ソウルジェム化できるだろう」

ダンブルドア「まるで詐欺のような手法じゃな」

QB「君に言われたくはないな――計画に協力してもらう見返りとして僕はこの提案を挙げたけど、
   おそらく君の中では既に、似たような計画の素案があった筈だ」

ダンブルドア「……」

QB「マミの記憶を見た時から、君は僕の能力を知っていた。"誓い"でマミが禁じたのは、記憶を外部に漏らすこと。

   逆に言えば、君は頭の中でそれをどうとでも利用できたわけだ。
   分霊箱の位置も、あの質問で分かっていたんだろう?」


◇◇◇

ダンブルドア「――もしもヴォルデモート卿が、自分の魂と同じくらい価値のあるものを隠すとしたら、
        一体それは何処にあると思うかね?」

◇◇◇



QB「あの質問は、マミが本物の予見者かどうかを調べる為だけのものじゃなかった。
   つまり君はマミの記憶を見てからのごく僅かな時間で、この計画を考え付いたんだ」



◇◇◇

QB『……契約のシステムは、個体そのものに搭載されている。当然、僕にもだ。
   通常のインキュベーターが効率を重視して素質のある二次性徴期の少女としか契約しないことを考えると、
  それを無視できる僕の方が、契約できる対象に関しては幅広いともいえる』

◇◇◇


QB「君にとって僕が今日ここに来たのは、まさに鴨が葱を背負ってやってきたようなものだろう。
   君は怖いほど正確に、事態の推移を予測していた――」

ダンブルドア「……あまり悪者扱いせんでくれ。確かに君に協力して貰えれば、とは考えていた。
        じゃがミス・トモエの件を交渉材料にしようと思ったことはないし、
        彼女を救いたい、と思っているのはわしも同じじゃよ」

QB「じゃあ――」

ダンブルドア「ああ、協力を約束しよう。コーネリウスへの取り次ぎは任せるが良い。
        ……しかし、彼は君の計画に乗ってくると思うかね?」

QB「ほぼ間違いなく。コーネリウス・ファッジは為政者として、もっとも大切な素質を持っている。
   自らが愚か者であるということを受け入れ、正しい助言を受け入れることができる、という素質だ」

QB「もっとも、長らく権力に触れ続けたせいで、今のポジションに固執し始めてもいるようだけどね。

   だからこそ、そのポジションを盤石にできる僕の提案には必ず乗ってくる。
   ヴォルデモート卿を打ち倒した英雄という名を手に入れる対価としてなら、マミを救うことを約束してくれるはずだ」

ダンブルドア「なるほど、のぅ――ならば、わしは分霊箱を集める準備をしておこう。
        内ひとつは常に奴の傍にあるようじゃが、残りの5つがあれば"服従"させることも容易じゃろう」


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ダンブルドア「――あとは分かるかのう。君は優秀な闇祓い達の服従の呪文により、自らここにやってきた。

         そして君のペットであり、同時に分霊箱でもあったあの蛇からソウルジェムを抽出し、
         そうして今のこの状況というわけじゃ。ああ、クィレル先生は今頃アズカバンにおるじゃろう」

ヴォルデモート「この石ころが、俺様の魂だと……!?」

ダンブルドア「その通り。そして、既に分霊箱としての性質は失っておる。
        君が掛けておった呪いの類も、全て解呪されてしまったよ」

ヴォルデモート「馬鹿な――」

ダンブルドア「……こういった結末になってしまったことに関して、わしは君に謝らねばならぬ。

         トム。君の持つ優れた才能を、正しい方面に発揮させてやれなかったのは、
         まことにわしの力不足じゃった……」

ヴォルデモート「黙れ……! 勝った気でいるなよ、ダンブルドア!」


 叫び、ヴォルデモートは右腕を強く伸ばした。

 狙いはヴォルデモートのもっとも近くにいた、酷く小柄な闇祓いだ。


闇祓い「……!」

ヴォルデモート「忘れたか? 俺様があの薄汚い孤児院で、マグルの餓鬼どもを支配してい事を。
          杖などなくとも、俺様の力は完全に制御されている……!」


 見えざる力が働いたように、闇祓いの手から杖が飛び出し、ヴォルデモートがそれを掴み取る。

 ファッジとダンブルドアの瞳が、驚愕に見開かれた。

 
ファッジ「!? な、なにをやっている!? 制圧しろ!」

ヴォルデモート「遅い――アバダ・ケダブラ!(死ね)」


 その場に居る誰よりも速く、ヴォルデモートは死の呪文を唱え終わった。

 姿くらましをしても、このソウルジェムとやらが存在する限り、自分に勝ちの目は無い。

 この場で、全員を皆殺しにするしかない。


ヴォルデモート「……な!?」


 だが、それは叶わなかった。

 ヴォルデモートの手の中にある杖が、魔法を発しない――それどころか、いまやそれは杖ですらなくなっていた。

 ゴムで出来た、アヒルの首にすり替わっていた。


ダンブルドア「ああ、それと――もうひとつ、言っておかねばならないことがあった」


 ダンブルドアの声を尻目に、状況は動き続ける。

 杖を取られた、小柄な闇祓いが動いた。

 ポケットから、友人の兄たちに貰った試作品のだまし杖ではない、"本物の杖"を抜き取り、素早く構える。

 その反動で、目深に被っていたフードがぱさりと落ち、その下から眼鏡と、稲妻の形をした傷が見えた。


ヴァルデモート「ハリー・ポッター――!?」

ハリー「エクスペリアームス!(武器よ去れ)」


 如何にヴォルデモートが最強の闇の魔法使いと言えど、杖無しでは、完成された呪文を防ぐことは出来ない。

 真紅の閃光が直撃し、ヴォルデモートは壁に叩きつけられた。

 薄れていく意識の中で、ダンブルドアの声が響く。


ダンブルドア「君も前半分を昔、部下から聞いたことがあるじゃろうが。

         ハリーには、君を倒すという予言がされておったのじゃ。
         じゃから君を正しく打ち破るためには、どうしても一度、ハリーに打ち倒して貰わねばならなかった」

ダンブルドア「そうでないと"予見されていた機会はまた別にある"ということにもなりかねんからの。
         故に、こうしてハリーにも協力をお願いしたわけじゃが――」

ダンブルドア「それも、計画された勝利では駄目なのでな。手筈は全て、彼ひとりに任せた。
        故にわしもコーネリウスも、その手法がどんなものかは知らなかったのじゃが……ほっほ。
        この杖が君に奪われた時には、わしもうっかり騙されてしまったよ」

ダンブルドア「のう、トムや。こんな素晴らしいものを作ることが出来る子供たちが育ってきておるのじゃ。
         もはや、わしらのようなロートル達は幕に引っ込むべきではないかね?」


 そうして、ヴォルデモート卿の意識は途絶えた。


ファッジ「ひ、冷や汗をかいたぞ、ダンブルドア。それにハリーも……一言くらい言っておいてくれてもよかろうに!
      ……こほん。では、"例のあの人"の身柄は魔法省が引き取ろう。
     数日中には予言者新聞の一面に今世紀最大のビッグニュースとして掲載される。うむ――」

ダンブルドア「コーネリウス。もうきちんと名を呼ぶべきではないかね? ヴォルデモート、と。
        でなければいつまで経っても、本当にその恐怖から脱却したとは言えんじゃろう」

ファッジ「あー、それはまあ、確かに……では改めて、ヴォルデモートの身柄は預かった。
      それと、その。彼を捕まえるに至った経緯についてだが……」

ダンブルドア「おお、君に一任しよう。わしは口外せんよ。ハリー、君はどうかね?」

ハリー「はい――大臣、僕も誰にも言いません。有名になんてなりたくないですし、大した苦労もしていませんから」

ファッジ「そうかそうか! うむうむ。ああもちろん、個人的に何かお礼はするつもりだよ――」

ハリー「いえ……それよりも、キュゥべえとの約束のことを……」

ファッジ「うん? ああプエラ・マギ・コードか。もちろん、契約は果たそう。なに、この手柄を利用すれば即座に可決されるさ!
     心配はいらんと、彼にも伝えておいてくれ……おい! 闇祓いをありったけ呼べ!」


ばたん!


ハリー「……先生、大丈夫でしょうか?」

ダンブルドア「なに。コーネリウスはあれでいて真面目な男じゃ。約束は守るじゃろう。
         さあ、ハリー。ご苦労様。学校に戻ろうかのう? 課題の準備もあるじゃろう」

ハリー「そうじゃなくて――いえ、確かに課題のことは心配ですけど、僕が心配なのは……」

ダンブルドア「マミが助かるかどうか、かね?」

ハリー「はい、そうです――死の予言のことは聞きました」


 十数年前、ハリーがヴォルデモートの死の呪文を弾き返した時、偶発的に、ヴォルデモートの魂の欠片が宿った。

 今回、その魂の欠片をソウルジェムに変換する際、予めその辺りの説明は受けていたのだ。


ハリー「もしもマミが、その死を予言されてしまった友達を助けにいったら――そんな怪物を相手にしたら――」

ダンブルドア「その為の法案じゃ……もっとも、準備が間に合うかはぎりぎり、といったところじゃろう。
        実際、猫君の話が本当なら、世界中の魔法使いが束で掛かっても勝てるかわからん」

ハリー「そんなに――?」

ダンブルドア「だからこそ、わし個人としても備えはしている。猫君にはこれで大きな借りができてしまった。
        わしは持てる力の全てでを使って、それに報いねばならん」

ハリー「先生。僕達にも何か、できることは……?」

ダンブルドア「君は、すでに多くを背負い込んでおる。それでもかね?」

ハリー「その背負い込んだものの内、半分はこうして下すことが出来ました。
     マミやキュゥべえには、僕も感謝しています――それに、なにより彼女たちは友達です。
     ロンやハーマイオニーも、ずいぶん心配してますし……」

ダンブルドア(――だからこそ、君達をその場に居合わせたくない、というのはあるのじゃがな)

ハリー「……先生?」

ダンブルドア「何でもないよ。しかし、君たちはまだ未成年じゃ。
         その身を預かる者としては、そうそう危険に晒すわけにもいかんのう」

ハリー「でも――」

ダンブルドア「……どうしてもというのなら、ハリー。もしも君たちに、その気があるのなら――」


◇◇◇


○月×日 見滝原市 スーパーセル中心部


マミ「ヴォルデモートが、大臣に……?」

ムーディ「ああ――実際に、現場でどういうやり取りがあったのかは知らんがな。
      わしも、ファッジが単身闇の帝王に挑み、あまつさえ倒したなどという冗談を信じるつもりはない」

ムーディ「とはいえ刑の執行は、民衆の不安を払拭するという建前のもと、公開的に行われた。
      ヴォルデモートという闇の魔法使いがもうこの世界に存在しない、というのは事実だ」

ほむら「……」

ムーディ「まあ、そんなわけだ。信じないというならそれもいい。わしらはわしらの仕事を果たすだけだからな」

ほむら「……話は分かったわ。協力も、してもらえるならありがたい」

杏子「……ねえ、さっきから全然話についていけないだけど……味方でいいんだよね?
    とりあえず、日本語で話してくれって伝えてくれない? ほむらみたいに英語もしゃべれないし」

ほむら「その必要はないわ。今からじゃ、そこまで緻密な連携が組めるとも思えないし……
     ……問題は貴方達の協力があっても、ワルプルギスの夜に勝てるのか、ってことよ」

ムーディ「なんだ? わしらの力を疑うのか?」

ほむら「貴方達の力は見せて貰ったわ。確かに魔法少女と比べても劣るものではないでしょう。
     でも、ワルプルギスの夜は別格。現にいまの攻撃で傷一つ付いていない」


 暗い空を見上げる。数多の呪文が直撃しているにも関わらず、ワルプルギスの夜は健在だった。


ワルプルギス「キャハハハハ!」

ムーディ「……確かに、予想を超えて奴が強大なのは認めよう。
      正直、この一斉攻撃で蹴りがつけば、と思っていたのは事実だ」


 しかし――と、凄絶な笑みを浮かべてムーディが続ける。


ムーディ「しかし、我等の杖の歴史を舐めて貰っては困るな。
      よかろう……ならばこのマッド-アイ・ムーディの"戦術眼"をご覧に入れようじゃないか」


 青い魔法の瞳が、戦場をぐるりと一瞥した。 

今回分は終わりです。たぶん、次回で最終回。

だいたい完成したので、校正して明日のこの時間くらいに投下します

投下します。

昨日見付けたんで読んでみたが最悪につまらんかった時間返せよ



 星明りすらない暗闇の下、ふたつの人影が背中合わせに立っている。


シリウス「さて、久しぶりの仕事だ。ヴォルデモートの脅威が消えた以上、不死鳥の騎士団は解散。
      最後の任務として、これ以上のものはないな」

ルーピン「全くね……もしかしたらヴォルデモートの方が幾分ましかもしれない。
      あれだけの呪文を食らえばどんな魔法使いでも粉々になるっていうのに、あいつはピンピンしてる」


 空を見る。ワルプルギスの夜は、ドラゴンでも百度は殺せる量の呪文を浴びたにも関わらず、未だ健在だった。


シリウス「杖の振るい甲斐があるというものだろう? リーマス、君は昔から心配性だな」

ルーピン「生憎、周りの連中が無茶ばっかりしていたものでね……それにしても、君は浮かれすぎだ。
      まさかあの怪物と戦うことを楽しんでやしないだろうね?」

シリウス「あんな歯車お化けなど! それより、もっと素晴らしいニュースがあるのさ。聞きたいか?」

ルーピン「……」

シリウス「ダンブルドアがようやく折れた! 来年からハリーはあのマグルの家を出て私と一緒に住むぞ!
      ああ、安心してくれ。部屋はいっぱいあるから、君もこのまま居てくれて構わない」

ルーピン「……これからとんでもない怪物と戦うって時に、何で君はそんな話をするんだ。
      "未来"に"家族"なんて! 最悪のNGワードじゃないか」

シリウス「くだらないジンクスだ! 私達が共に戦って、何かに負けたことがあったか?」

ルーピン「掃いて捨てるほどあったよ……だがまあ」


 それでも、とリーマス・ルーピンは続けた。

 胸中に蘇るのは人生の黄金時代。あの"三人"と、危険な冒険を何度もした。

 暴走するジェームズとシリウスのせいで、無数の死喰い人に囲まれるような目にも遭った。それでも。


ルーピン「――それでも、背中を向けて逃げ出そうとは思ったことは一度もないがね」


 物陰や瓦礫の隙間。目に見えぬ至る所から、小さな何かがこちらを伺っている気配がする。

 その中で怯えもせず、二人の魔法使いは背中合わせに笑いあった。


シリウス「その通り。逃げる必要などない。私たちは常に真正面から挑んできた。
      さあ――始めようか、我が友ムーニー」

ルーピン「パッドフット。学生時代みたいに羽目を外しすぎないでくれよ」

                     . -─「`´. : : ̄: : `  .
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                }: : :从:| ⊂⊃     ⊂⊃ | : : |/ : :l:|
               从: : 人l //// // /////| |  .|: : :リ`Y: :从
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                N !: :l: l:i:.!: :j:ル≧= ≦: i: :l: : :/: ://
                  ノ::人j:K!::ルハr┴v ┴ァ: ルイ!:.:/ {
                 ´      _.ィ升‐┼rァ弁<⌒く
                     /  }.::::/´「\.:: /  / Y
                    /Y⌒⌒iく. ::/∧. ::V  し トx
                     ムしし ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ しヘ リハ
                   派 | じかんかえせ  かえせイ j}ト、
                     .ト--|  ( X )  ( X )  ( X ) l|メ .イ
                   乂 |  =  == =   ( X )  j| ノ


◇◇◇


 強い光が周囲を照らし出す。強靭で、鋭い。そんな熟練の魔法が、接近する使い魔を一匹ずつなぎ倒していく。


バグマン「はっはぁ! やるな、バーティ! 連中、羽虫みたいに吹っ飛んでいくぞ!」

クラウチ「……これでも元執行部だ。それより、君も防衛に専念してくれ。
      この区画は私達の担当だ。一匹たりとも後ろへは通せない」

バグマン「相変わらず真面目だな! まあ、任せてくれ。君が元執行部なら、私は元ビーターだ。
      目の良さと反射神経には自信がある――さ、っと!」

使い魔「ギッ!?」

クラウチ「その調子で頼む。私の役人としての最後の仕事だ。完璧にやり遂げたい」

バグマン「……ふぅむ。その件だが、もうどうにもならんのか?」

クラウチ「妻に懇願されたとはいえ、息子をアズカバンから脱獄させたのは私だ。

      くだらん情に流されて、むざむざ妻を殺し、ひとりの未成年魔法使いを危険に晒した。
      元とはいえ、執行部長がこれでは示しがつかんよ」

バグマン「だからといって、アズカバンで終身刑は……君のコネを使えば、数年で出てくることも可能だろうに」

クラウチ「本当なら、既に私は収監されている筈の身だ。

      ヴォルデモートに掛けられた服従の呪文のせいで、先送りにされていたに過ぎない。
      この作戦とその後処理が終われば、すぐに裁判が始まるだろう。それを拒む気はない」

バグマン「なら、なんでわざわざこの戦いに参加した? 得る物なんてないだろう。
      君は自ら志願したと聞いたぞ」

クラウチ「得るべきものはない。確かにな。だが支払わなくてはならないものがある」

バグマン「……憂鬱になる言葉だな。支払いだって?」

クラウチ「けじめだ。妻の最期の望みの、その意味を汲めもしなかった馬鹿息子。
      そして、その馬鹿息子をあんなになるまで放っておいた私自身の愚行に対するけじめさ」


 クラウチ・シニアは決して良い父親ではなかっただろう。

 彼は規律を愛し過ぎた。息子はその反発から死喰い人になり、ロングボトム夫妻を廃人になるまで拷問し、
 法廷で己の罪を認めず、情に訴えかけるような卑劣な真似さえした。

 実の母に命を賭して救われても、その行為を笑いながら踏みにじった。

 バーミテウス・クラウチ・シニアは規律の側に立つ人間だ。あらゆる罪を許すことは出来ない。

 己の息子がしでかした行為も、そのきっかけとなった自分の罪も。

 ――だからこそ、少しでもその罪を減じてくれた存在には感謝している。


クラウチ「ルード。君の言うことろのコネのお陰で、私は少しだけこの一連の事情を知っている。
      息子を止めてくれた彼女に、私は最後に報いたいのだよ」

バグマン「……よくわからん話だ。だがその決意が固いのは分かったよ、バーティ。
      もしも行ければ、面会には行かせてもらおう」

クラウチ「……ところで、ルード。君はなぜ参加した?
      最後だから言わせてもらうが、君はさほど職務に忠実だと思えんのだがね」

バグマン「あー、その、なんだ。ちょいと子鬼に借金をしていてな。
      魔法省からの参加者には、少しばかりボーナスがでるだろう? 返済の足しにでもしようと思って……」

クラウチ「金勘定に関して、子鬼は容赦がないぞ。どうせギャンブル絡みだろう。
      その調子だと、そう遠くない内に身を滅ぼすだろうな、ルード」

バグマン「脅さんでくれ――まあ正直、もうどうにもならんとこまで来ている。
      最後の賭けも負けが濃厚だし、その内、夜逃げでもするしかないだろうな」

クラウチ「――ふん。ついでだ。もし君がギャンブルをこれ切りにするというのなら、少しばかり都合してやらんでもない。
      親類縁者もいない私には、どうせ不要になる金だ」

バグマン「ほ、ほんとか!? そりゃ大歓迎だが……いったいどうして?
      君は私を嫌っていたと思ったが」

クラウチ「ああ、嫌いだ。お前のように不真面目な男はな。魔法省に入ると聞いた日には眩暈がしたよ。
      ……だからこそ、最後にひとりくらい、真っ当に更生させられれば、と思ったのさ」

バグマン「何やら酷い言われようだが……まあいい。これで首の皮も繋がった。
      よし、そうと決まれば仕事を果たして無事に帰るぞ、バーティ! 私も、君もな!」


◇◇◇



 巨大なビルの屋上に蠢く、目深にローブを被った一団があった。

 全員、杖を掲げるその腕に、蛇の舌を突きだす髑髏の紋様を彫り込んでいる。

 死喰い人――かつてそう呼ばれていた者達だった。


ルシウス「……まったく、なぜこのような極東くんだりまでやってきて、怪物退治などしなければならないのか……」


 それを率いるように一団の先頭に立つ、ひとりの男が憂鬱そうにぼやく。

 血の気の無い、青白い肌をした男――ルシウス・マルフォイ。かつて死喰い人の中でも高い位置にいた男。

 その背後から、嫌味な成分を多分に含んだ声が飛んだ。


スネイプ「無論、魔法省から疑われたくないからでしょう?」

ルシウス「……セブルス・スネイプ。この蝙蝠め」

スネイプ「蝙蝠で結構。はっきりと闇の側に付いていた者達よりは大分マシだと思われますが?
      例えば――獄中でヴォルデモートの後を追ったレストレンジ夫妻のように」

ルシウス「……まあ、そうだな。私達のように清廉潔白な身としては……あー。
      ヴォルデモート卿が滅んだというのは、実に喜ばしいニュースだ」

スネイプ「そうでありましょうとも……もっとも、闇の陣営側に付いていた者は、内心戦々恐々といったところでしょうがな」

ルシウス「いや全く。はっはっはっはっは……」

スネイプ「……まあ、魔法省への従順を示すには絶好の機会ですからな。
      貴方達は、精々この機に点数を稼いでおくべきでしょう」ボソッ

ルシウス「貴様に言われずとも分かっている! ……こほん。まあ、いい。
      我が家は常に瀟洒に、勝者となるべく立ち回ってきた。今回も同じことだ」


 ルシウス・マルフォイはワルプルギスの夜に向け、杖を高々と掲げた。


ルシウス「――諸君! 思い知らせてやれ! 血を裏切る屑どもに穢れた血! 奴らに思い知らせてやるのだ!
      真に魔法族の誇りを受け継ぐ者は誰か! 最高の杖の担い手は誰か!
      それは我ら純血だ! あのデカブツを下し、それを思い出させてやれ!」


 その腕を振り下ろす。呼応して、数十の呪いが宙に奔った。


「アバダ・ケダブラ!(死ね)」

「クルーシオ!(苦しめ)」

「インぺリオ!(服従せよ)」

「フィン・ファイア!(悪霊の火よ)」


◇◇◇



ムーディ「――よし、A-21班は安全地帯まで下がれ! 休み? 甘ったれるな!
      薬でドーピングしたらまた最前線送りだ! それ一気に飲み干せ!
      犬っころども、貴様らが前に出ろ! 高さそのまま、北西に40メートル!」


 マッド-アイ・ムーディ。その二つの名の通り、彼の片目は魔法の義眼だ。

 その魔眼は透明マントを含むありとあらゆるものを透過し、見たいモノだけを見せてくれる。

 ムーディはそこから一歩も動かず、だが戦場の全てを把握していた。


ムーディ「A-10から13までのライン! 貴様らの区画が突破されかかっているぞ! B班まで届かせるな!
      30秒後に予備戦力を投入する! それまで踏ん張らんか!」


 手に持った奇妙な形をした石に向けて、ムーディは次々と指示を飛ばしていた。

 おそらく、それが通信機と似たような役割を果たすのだろう――そんな風に納得して、ほむらは頷いた。


ほむら「……つまり、二重に防衛線を張ったのね。
     前衛で食い止めて、後衛が思いっきり火力を――もとい、魔力を振るう。そんなところかしら?」

ムーディ「正解だ。なにぶん時間が無かったのでな。緻密な連携など組みようがない。
      最低限の連携だけ仕込んだ――前に出過ぎるな! 二人一組だ! 片方が常に防御を担当しろ!
      危なくなったら盾の呪文で凌いで、"付き添い姿くらまし"で下がれ! ――とまあ、こんな風にな」

マクゴナガル「彼の他、数人の魔法使いが指揮を取っています。
         陣形を柔軟に流動させ、被害を少なく、それでいて常に最大の攻撃力を発揮できるように」


 マクゴナガルが杖を振るうと、ざあ、と巨大な石造りの百舌鳥の群れが周囲を旋回した。

 百舌鳥自身が杭となって、近づいてきた使い魔達をそこらにある廃墟の壁に磔にしていく。


杏子「なあ、マミ。こいつらなんて言ってるんだ?」

マミ「あのね、基本的に複数人で行動して、危なくなったら姿くらまし……ワープして仕切り直すんですって」

マクゴナガル「ええ、このように」


 マクゴナガルの両手が伸びて、マミと杏子を捕えた。

 暗転。次の瞬間には全員が数十メートルほど後方にさがり、
 同時に、さっきまで居た地点がワルプルギスの夜の攻撃で粉々に爆砕されるのが見えた。


ワルプルギス「キャハハハハ――」

ムーディ「忌々しい奴だ。早々に指揮者が誰か見抜いたな」

ほむら「ええ。今回のワルプルギスの夜は、異常よ。単純に強いだけでなく、こちらの動きに素早く対応してくる」


 同じく"姿現し"したムーディとほむらが、空を苦々しげに見つめていた。


ムーディ「そのようだな。既に、わしらの魔法にも対応を始めている――」


 ムーディの視界には、使い魔の群れがその密度を下げ、広範囲に展開しようとしている様が写っていた。

 姿くらまし・姿現し対策だろう。姿現しをした瞬間、連携を取り直す間もなく攻撃するつもりのようだ。


ムーディ「事前に提供されていた情報から判断すると、最悪のパターンだな。奴は"本気"なのだろう。
      ふむ……許されざる呪文も、糞っ垂れた闇の魔術も目立った効果は無し、か。
      仕方あるまい。少し早いが、作戦を二段階目に移行する……」

ほむら「……情報を、事前に提供されていた? ちょっと、それはどういう――」

ムーディ「選抜メンバーは全員、杖を構えろ!」


 ムーディの号令に、一瞬、空を舞う呪文が止んだ。


ムーディ「合わせろ! 3――2――1!」


 斉唱。

 それまでバラバラに唱えられていた魔法が、ひとつに収束する。

 まったく同じ呪文の詠唱が、見滝原に響いた。


『エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ、来たれ)』 


 


◇◇◇



 空が白く染まる。先ほどまでの花火のような色取り取りの魔法とは違う、単一の魔法。

 白光を放つ様々な動物が、縦横無尽に見滝原を闊歩する。

 その内の数匹が、ほむら達の足のすぐ脇をすり抜けるように駆けていった。


ほむら「これは……?」

ムーディ「パトローナス・チャームで作り出した守護霊だ……ふむ、やはり数は減じるか。
      守護霊を作り出せない者は、そのまま戦線の維持に努めろ!」

ほむら「パトローナス?」

ムーディ「あの"魔獣"と対になる、プラスのエネルギーの集合体だ。だから奴を食い止められる。
      更に、守護霊は単純な力押しでは破壊できん。最高の壁役だ」

マミ「へえ、そうなのね……」

ほむら「……待って。なんで同じ魔法使いの貴女が知らないのよ……」

マミ「だ、だって、あんなのまだ習ってないもの……」

マクゴナガル「あれは非常に高度な呪文です。4年生ではまだ習いません。
         大人の魔法使いでも、完全なパトローナスを出せる人は少ないでしょう」


 マクゴナガルの言う通り、先ほどまで雨あられと飛び交っていた呪文に比べれば、守護霊の光はその数を減じさせていた。

 だが確かにワルプルギスの夜の侵攻を食い止めるには相性がいいらしい。

 その身に食らいつく守護霊の数が増えるにつれ、ワルプルギスの動きが少しずつではあるが鈍っていく。


マクゴナガル「そう――本当に高度な呪文です。
         4年生では、いかにムーディ先生が付きっ切りだったとしても、本来覚えられる呪文ではないでしょう」

マミ「?」


 マクゴナガルの言葉に対し、疑問を唱える前に。

 マミの背後から使い魔の一団が飛びかかった。瓦礫の陰を伝って忍び寄ってきていたらしい。


杏子「マミ!」

ほむら「っ!」


 多節槍と銃弾が空間を蹂躙する。だがその隙間をすり抜けて、一匹の使い魔がマミに迫り――


マミ「……え?」


 びちゃり、とマミの頬に粘ついた液体が張り付いた。

 蹄に踏みつぶされた、使い魔の残骸が。


マミ「これって……牡鹿の、守護霊?」


 マミを守る様に、巨大な白く透き通る美しい牡鹿が立ち塞がっていた。

 牡鹿だけではない。周囲を見渡せば白いテリア犬が唸りながら使い魔を追い散らし、
 その背中の上ではカワウソの守護霊が使い魔をかみ砕いている。


杏子「……マミの知り合いか?」

マミ「え?」

杏子「いや、なんかマミの周りに集まってるからさ」


 言われてみれば、他の守護霊は一目散にワルプルギスの夜に向かっているというのに、この三匹だけはその様子がない。

 呆然として見ていると、カワウソの守護霊がテリアの背中から飛び降りて、マミの目の前まで駆けてきた。

 ぴょこんと二足立ちしながらキィキィと非難するように鳴くその様子をみて、ふと、マミは級友のひとりを思い出す。


マミ「……ハーマイオニーさん?」

ムーディ「奴らも大したタマだよ」


 ムーディ指示を飛ばす合間に、ムーディが呟いた。


ムーディ「僅か数ヶ月で、ゼロからパトローナス・チャームを習得してしまったのだから。
      わしと、元から習得していたポッターのしごきがあったとはいえな」

マクゴナガル「よほど、貴女の助けになりたかったのでしょうね――
         ウィーズリーとポッターは、あの熱意を少しは勉強に振り分けて欲しいものです」

マミ「じゃあこれって、ハリーくん達の……皆もここに来てるんですか?」

マクゴナガル「彼らはそれを望んでいましたが、さすがに未成年を戦場に立たせるわけにはいきません。
         ですがホグズミードの暖炉を使って、守護霊を飛ばすくらいなら……まあ、そういうことです」

マミ「みんな……」


 三匹の守護霊が自分を守る様に整列するのを見て、
 マミは守護霊を構成している暖かい成分が、胸の内に満ちていくのを感じた。


ほむら「……だけど、足止めだけじゃジリ貧には変わりないわ」


 冷静に現状の推移を眺めていたほむらが口を開いた。

 確かにワルプルギスの夜の動きは緩慢なものになっているが、それでも完全に動きを封じられたわけではない。

 使い魔の問題もある。守護霊の呪文に人数が裂かれてしまったため、足止めの人数が足りていない。


ほむら「こんな風に時間稼ぎしているは、この後の手があるということよね。それは?」

ムーディ「御見通しか。その通り。今回の作戦は、大きく分けて三つの段階がある。
      姿くらましからの奇襲攻撃が第一段階。それで仕留められん場合の、守護霊による足止めが第二段階。
      そして第三段階目は、驚くなよ、ただひとりの魔法使いに全てを託すという、目も覆いたくなるような悪手だ」

ほむら「それって一体――」


「――アラスター。さすがにわし一人に全てを押し付けるのはずるいと思うのじゃが」


 かつかつと、奇妙なほど通る足音を響かせながら、一人の老人が現れた。

 豊かな白いひげを蓄えた、絵にかいたような外見の魔法使い。

 使い魔の群れの中を歩いてきたというのに、ローブには皺ひとつ付いていない。

 彼は、まさしく魔法界でも頂点を争うほどの魔法使いだった。


マミ「ダンブルドア先生……それじゃあ、先生が?」

ダンブルドア「やあ、ミス・トモエに、そのお友第も。元気そうで何より――
        というようなことはきっとマクゴナガル先生が先に言ったじゃろうから、省かせて貰おうかの。
        そう、わしが最後の攻撃を担当することになっておる」


 まあ、攻撃というのは正確ではないのじゃが、と続けて呟くダンブルドア。

 その周囲に、きらきらと輝く物が浮いているのが見えた。


マミ「? 先生、それは一体……」 

杏子「砂時計……か?」


 魔法少女である杏子が目を凝らさなければ判別できないほどの速度で、宙に浮いた砂時計が回転している。

 それもひとつではなかった。非常に細く、長い鎖で繋がれたいくつもの時計が、同じ動作を反復している。


ダンブルドア「魔法の鎖でつなげて一つにした、現存するすべての逆転時計(タイム・ターナー)じゃ。
        これを一ヶ月ほど前から、わしが魔法で昼夜問わず回転させ続けている。
        触れてはいけないよ。少しでも回転が乱れると、とんでもないことになるからのう」

ほむら「逆転時計? とんでもないことって……」

ダンブルドア「逆転時計は時を戻す道具じゃ。ひっくり返した分だけ、過去にさかのぼれる。
        既にこの逆転時計には、既存の単位では表せない程の"時"が詰め込まれている。
        触ったらどうなるか、わしにも見当がつかんよ」

ほむら「……時を戻す時計、ね。そう、それでワルプルギスの夜を消すつもりなのね」

マミ「ワルプルギスの夜が生まれる前に戻って、その魔法少女を助けるってこと?」

ほむら「いえ、あれが魔女になった正確な年代は分からないし、確実性に欠ける。
     時計を使うのは、正確にいうなら"使わせる"のは、ワルプルギスの夜自身。そうでしょう?」

ダンブルドア「その通り。ワルプルギスの夜を過去に送るのじゃ。
         それも現在にはたどり着けぬほどの昔へ。星々を湛える夜空が生まれるよりも前に」

ムーディ「御託はそこまでしておけ! ダンブルドア! やるなら早くしろ!
      もうもたんぞ! 連中、わしらの魔法を覚え始めた!」


 ムーディの視界には呪文を躱しながら、町中に拡散しようとする使い魔の群れが写っていた。

 呪文の射程や速度、その全てを学習し、対応を始めたのだ。


ダンブルドア「うむ……じゃが、ちょびっとばかし問題が残っておっての」

ムーディ「だから、早く言えといっとろうが!」

ダンブルドア「簡単に言うとじゃな。現状では、この逆転時計作戦は成功せん」

マミ「……え?」

ほむら「どういうこと?」

ダンブルドア「あれの力を読み違えておったのはわしも同じだった、ということじゃ。

         先ほども言ったが、この逆転時計はいま、非常にデリケートな状態での。
         もしどれか一つでも回転がぶれると、中に溜められた"時"が暴走しかねん」


 ダンブルドアはちら、と空を見上げた。

 その視線の先に浮かぶワルプルギスの夜は、ありったけの守護霊によって動きを緩慢にしている。

 緩慢――それは、完全に動きが止まったわけではないということ。


ダンブルドア「本来なら守護霊を使って、完全に動きを止める予定じゃった。

         しかし結果は見ての通り。奴を完封することは叶わなかった。
         これでは回転を保ったまま、奴の周囲に逆転時計を設置することができん」

マミ「あの、それなら守護霊以外の魔法も足止めに投入するのは……?」

ムーディ「無理だ! 設置に当たっては、使い魔の方も食い止めておかねばならん!
      ただでさえ手が足りんというのに、これ以上魔獣の方に割いては……
      ダンブルドア! 貴様の方で何とかならんのか!?」

ダンブルドア「だから今、いろいろと考えてはおるのじゃが……」

ほむら「――時を操るのは、私の専門ね」


 繋がった左腕の具合を確かめるように髪を掻き上げて、ほむらが呟く。

 つかつかとダンブルドアに近寄り、逆転時計のひとつに向けて左腕を振るう。

 次の瞬間、逆転時計のひとつが盾の中に飲み込まれ、
 そこから伸びる鎖で繋がった他の逆転時計も一斉に動きを止めた。


ダンブルドア「ほう、これは……」

ほむら「私の盾の中は時間が止まっている。
     逆行する為の時間を蓄えたまま、この砂時計を保管できるわ」


 言いながらも次々と逆転時計を盾の中に仕舞い、さほど掛けずにその全てを飲み込んだ。


ほむら「あとは時間を止めて、その間に準備を済ませる。
     そうすれば、あとは残った使い魔の処理だけよ」

マクゴナガル「時を止める、ですか。なんとも規格外の魔法があったものです」

ムーディ「なんでもいいが――早くしろ! 防衛線が崩壊し始めている!」

ほむら「言われなくても――それじゃあ、行ってくるわ」


 カチン、という軽い音を立てて盾の機構が動作した。同時に、ほむら以外の時間が静止する。

 停止した時間の中を彼女は歩き出した。

 幾重にも繰り返し、停滞していた暁美ほむらの時間。それが今、動き出そうとしている。


ほむら(これで……終わり。永遠に思えたこのループに、ようやく出口が見えた)


 まどかを救える。その望外の喜びに、ほむらの足は加速する。

 一歩、二歩、三歩。そして、四歩目を踏み出そうとしたところで、


ほむら「……え?」

杏子「ほむら、どうかしたのか?」


 意に反して、時間が動き出した。


ほむら「そんな、魔力はまだ十分にある筈――っ、もしかして!?」


 最悪の事態が脳裏をよぎった。左腕の盾を見る。

 ほむらの時間停止には制限がある。それは遡行してから一ヶ月の間だけしか使えない、という点だ。

 時間操作の使える期間は、奇しくも逆転時計と同じく、盾に仕込まれた砂時計の残量であらわされる。

 その砂時計の残量が、ゼロになっていた。


ほむら(……あれから、一時間。既に経過していた……)


 巴マミを初めとする魔法使いたちの参戦で、意識が残り時間に向いていなかった。


マミ「暁美さん……?」

ほむら「……ごめんなさい。時間停止の魔法は、打ち止めになってしまった。
     もうどんなに魔力を注ぎ込んだところで、一秒も止められない……!」


 がくり、と膝をついて、暁美ほむらは慟哭した。

 ワルプルギスの夜の攻撃は、いまだ続いている。使い魔達はさらに活発に行動する。

 時間停止無しで、逆転時計を正しく設置するのは難しい。

 触れられるほどに近づいた希望が寸前で消えた。その虚無感に、全身が脱力する。


ほむら「……なんで、こんな時に! せっかく終わりが見えたのに――まどかを救う道が、見えたのに!」


杏子「……道が見えたんなら、進めばいいでしょ?」


 その泣き言を遮るように、佐倉杏子が言った。


杏子「立ち止まってちゃ先は見えないさ。ほむら、あんたはさっき、最後まで足掻くっていったじゃないか」

ほむら「杏子……でも、時間停止無しじゃ、この時計を設置するのは……」

ムーディ「いいや。そっちの赤い小娘の言う通りだ。その道は、まだ断たれていない。
      逆転時計の時が停止しているなら、まだ無事に敷設できる目はある」


 ムーディが前に進み出た。守護霊に群がられているワルプルギスの夜を睨みつけ、鋭く宣言する。


ムーディ「言っただろう。魔法界が積み重ねてきた歴史をみくびるな、と。
      相手が世界を滅ぼす怪物とはいえ、少女一人を守れぬほどわしらは軟弱ではない。
      そうだろう、御両人?」

マクゴナガル「当たり前です。子供を守るのは、教職にあるものとして当然のこと。
         それに、私はまだ杖を存分に振るい切ってはいませんよ、ムーディ」

ダンブルドア「謙遜という素晴らしい美徳を排して、あえて言わせてもらおうかの。

         ここにいるのは、最高の魔法使い達じゃ。
         君に希望を見せるくらいのことはやってみせよう」


 ダンブルドアとマクゴナガルが杖を振るう。

 瞬時に、見滝原市全域の道路が蠢いた。大量のアスファルトが大地から剥離していく。

 ワルプルギスの夜を中心にして、八方向からアスファルトが隆起。

 魔女を目掛けて伸び、うねり、合流し、形を変えていく。

 そうして八つの柱を支えにして、ワルプルギスの夜をドーナツ状に取り囲むような"道"を形成した。



ダンブルドア「進みたまえ。それは君にしか出来ぬことじゃ」

ほむら「出来ない……だって、時間操作の無い私は……」 

マミ「問題は、出来るか出来ないかじゃないと思うの」

ほむら「……巴、マミ」


 何処からともなく現れた分厚い本を片手に、巴マミは座り込む暁美ほむらに手を伸ばした。


マミ「後悔しないためには、やりたいことをやっておくこと。私は、そう教わった」

ほむら「……私は、まどかを守りたい。でも、ひとりじゃできない……
     もう誰にも頼らないと、そう決めていた……」

マミ「そんなの無茶よ。確かに私たちは普通じゃない力を持ってる。
   でも魔法少女だろうが魔法使いだろうが、まだ出来ないことの方が多いような子供なんですもの。
   私なんて、その魔法すらずっと満足に使えなかった」


 それでも、これまで自分がやってこれたのは。


マミ「周りの人に助けて貰ってきたの。そうして、少しずつ色んなことができるようになってきた。
   望まないような結果になったこともあったけど、それでもきっと、独りきりでやるよりはましよ。
   そうすればきっと、変えられない未来だって少しは良いものになる……」

ほむら「……貴女、は」


 数多のループを経て、暁美ほむらは人に頼ることを止めた。

 巴マミ。美樹さやか。佐倉杏子。そして鹿目まどか。

 誰に頼っても、悲惨な結末になるのは避けられなかった。

 誰も未来を信じない。誰も未来を受け止められない。

 それなら、自分一人で全てを終わらせる。そう、断じていた。


ほむら「……貴女は、未来を受け止められるの……?」

マミ「……一度、私はそれに失敗してる。たぶん、今も一人じゃできないわ。
   それでも、こんな駄目駄目の私でも、見捨てずに支えようとしてくれる人がいる。
   その人達がいるから、私は未来を前にして、こうしてここに立っていられるの」


 巴マミの胸中には、白い猫の像が浮かんでいる。


『何をしてでも。嘘をついて、人を騙して、傷つけてでも――僕は、君を一番に守るよ』


 現実かどうかも分からない、夢のような狭間で聞いたあの台詞。

 だけど、それがまやかしの様にはどうしても思えなかった。

 腕の中の本を抱きしめて、巴マミは暁美ほむらの瞳を見つめた。


マミ「一緒にやりましょう。あなたや皆が一緒に居てくれれば、きっと私は未来を受け入れられる」

ほむら「……私は……」


 暁美ほむらが立ち上がる。

 盾から一つだけ逆転時計を取り出して、がちり、と盾の機構にはめ込んだ。


ほむら(もう一度だけ……人を信じてみよう。
     他でもない、魔法少女の未来を受け入れることのできなかった、彼女がそう言っているのだから)


 差し伸べられた巴マミの腕に、手を伸ばす。

 佐倉杏子との共闘も、魔法使いたちの支援を受け入れたのも、全ては自分の願いを果たす為。

 これは違う。結果の一部を他人の裁量に委ねる、ある意味では逃げともいえる行為。

 だけど、それが今はどうしようもなく頼もしい。


ほむら「私を……手伝ってくれる?」

マミ「ええ。私は、そうしたい。私がそうしたいの」


 伸ばされたマミの手を、ほむらが握りしめた。


ムーディ「決まりだ――いいか貴様ら! 作戦は最終段階に入った!
      わしらはこれより、あの魔獣の下へ、二人の少女を無事に送り届けねばらならん。
      既にこちらの戦術に対応されつつある今、奴の膝元に付き添い姿現しする愚は犯せん」


ムーディ「暴風の中、箒による輸送も難しい。徒歩で接近するしかないわけだ。
      だが、たったの二人だ。パレード隊を護送しろといっているわけじゃあない。
      まさか出来んなどと言う腰抜けはおらんだろうな!?」


ムーディ「――よろしい。ならば総員、全力で道をこじ開けろ!」


 怒号と共に放たれた呪文が、雲霞の如く押し寄せる使い魔の群れに風穴を開けた。

 その中に突入していく二人の少女の後ろ姿を見ながら、ムーディは狂ったような哄笑をあげた。


ムーディ「さあ、最後の仕事だぞ! 奴らの為に道を開けろ!
      どんな犠牲を払っても、だ! なぜならば――」


 すでに、少なくない被害が魔法使いの側にも出ている。

 それでもムーディの頭の中に、ここで退くという考えは一切ない。

 アラスター・ムーディはプエラ・マギ・コードに関する一連の流れを知らない。

 だがそれでも想像することくらいは出来る。

 ファッジが都合よくヴォルデモートを下し、同時に奇妙なほど熱烈にプッシュしだした魔法少女法。

 両者に関係がないと思う方が無理だ。


ムーディ(十中八九、ヴォルデモート逮捕の主軸は魔法少女の関係者……だからこそ、だ)


 その恩に、自分たちは報いねばならない。

 ヴォルデモート卿が魔法界に住む者達にどれほど被害をもたらしたのか、闇祓いだった自分は良く知っている。

 部下を何人も失った。守るべき住民を幾人も無残に殺された。

 治安は悪化の一途をたどり、隣人すら信じられないような、暗黒の時代が続いた。

 ワルプルギスの夜は強大だ。単純な力なら、ヴォルデモートよりも圧倒的に上だろう。

 だが、それを上回る恐怖とおぞましさをヴォルデモートは振り撒いていた。

 ――その闇が払われたのが、彼女達に起因するものならば。


ムーディ「だからこそ、だ。わしらの闇は晴れた――今度は、わしらがこの夜を明けさせる番だ!」

◇◇◇


 夜闇の下を疾走する二人の少女。暁美ほむらと巴マミ。魔法少女と魔法使い。

 手を取り合い、身体能力に優れるほむらがマミを引っ張る形で、二人は使い魔の群れを突破していく。

 ここに来て、ワルプルギスの夜が自身に対する本当の脅威を取り違える筈もない。

 街中に散らばっていた使い魔は、この二人を止める為に集結しつつあった。

 魔法と武装の大部分を失った暁美ほむらと、未成年魔法使いの巴マミに、それを乗り越える力はない。

 ――そう、彼女たちだけでは、無理だった。
 

トンクス「ボンバーダ!(砕けよ) ――進め進めー! 脇目も振らず真っ直ぐ進め!」 

キングズリー「小物はこちらで引き受けよう。君たちはただ、進み続ければいい! コンファンド!(錯乱せよ)」


チャーリー「デプリモ!(沈め) ――あのドラゴンも真っ青な怪物によろしく!」

ビル「インペディメンタ!(妨害せよ) ついでにグリンゴッツの金庫番にならないか勧誘しておいてくれ!」

パーシー「兄さんたち、少しは真面目に――言っても無駄か。インカーセラス!(縛れ)
      マミ! きちんとホグワーツに戻ってロンやハーマイオニーを安心させてやってくれよ!」


オーガスタ「ステューピファイ(麻痺せよ) あれがお前さんの自慢の生徒かい、ミネルバ?
       なるほど、良い目をしている。きっと素晴らしい魔女になるだろうよ」

マクゴナガル「当然でしょう。私の生徒なのですから。ピエルトータム・ロコモーター!(全ての石よ、動け)
         お行きなさい、マミ! 貴女は既に、気概だけなら一人前の魔女です。
         魔法の腕もそれに見合うものにすべく、無事にやり遂げて帰ってきなさい!」


 あらゆる呪文が頭上から降り注ぎ、彼女たちの為の道を開ける。

 魔法使い達も戦力を結集していた。

 持ち場を放棄して、とにかく使い魔の群れを吹き飛ばし、道を開く為に杖を振り続ける。


マミ「みんなが……!」

ほむら「全く――泣き言なんていってる場合じゃないわね」


 ほむらは左手でマミの手を引きながら、空いている手で残り少ない爆薬を取り出した。

 遅延信管を起動させ、投擲。爆発。

 使い魔の群れが散り散りになった隙間に、強引に体を捻じ込んで進んでいく。


ほむら「見えた……!」

マミ「……マクゴナガル先生たちが造った、ワルプルギスの夜に向かう道」


 坂道、と形容するのも馬鹿馬鹿しくなるような巨大な隆起が二人の前に現れた。

 天へと続く巨大な柱。そう形容した方が近い。

 ――その麓に、使い魔達は網を張っていた。


ほむら「っ、さすがに、密度が濃すぎる!」


 目の前にそびえるのは、使い魔の壁。もはや一分の隙もない、ただここを通さない為だけの布陣。

 時を止めることができない以上、暁美ほむらが瞬間的に発揮できる火力は、これを崩せるものではない。


ほむら「足を止めたら後ろに追いつかれる! なんとかしないと――」

マミ「――大丈夫。このまま真っ直ぐ進んで!」


 片手で開いた本の内容をちらりと一瞥して、巴マミが叫ぶ。

 次の瞬間、豪快な破裂音と共に、眼前の使い魔の壁が崩れた。

 壁の向こう側には、杖を構えた二人の魔法使いが佇んでいる。

 
シリウス「やあ、待たせたねマミ! だが主役は遅れてくるものだ!」

ルーピン「なら、彼女達より遅れてきちゃ駄目だろう?」

マミ「ルーピン先生! それにシリウスさんも!」


 壁を二つに割いた二人の魔法使いは、立て続けざまに呪文を放った。

 両脇から崩れ落ちて、開いた中央の穴を埋めようとした使い魔達が見えない力で掴まれ、その場に釘づけにされる。


シリウス「再開を喜びたい気持ちは分かるが、後だ。さあ、ここは私達が食い止めよう!
      メインディッシュは譲ろうじゃないか。さっさとあの怪物をやっつけてこい!」

ルーピン「マミ、君ならできるさ。授業でやっていたように、障害をぶち壊しながら進めばいい。
      誇りなさい。その点に関して、君は間違いなく優秀な生徒だった」

マミ「は、――はい!」


 駆け抜ける。置き去りにした背後では、連続して炸裂する強大な魔法の音が響き続けた。


◇◇◇


 少女たちは天へと駆け上がっていく。目指す先には、数えきれないほどの守護霊に抑え込まれたワルプルギスの夜。

 近づく程に、パトローナスの放つ白い光が強くなっていく。

 背後からの襲撃は、ない。地上の魔法使いたちがすべてを食い止めているのだろう。

 残りは、上から散発的に振ってくる使い魔のみ。だがそれでもなお、少女二人で凌ぐには多い。

 いかに巴マミの周囲を三匹の守護霊が守っているといっても、その全てを蹴散らすことは出来ない。

 ――しかし、少女達は足を止めなかった。
 

マミ「――暁美さん! 次、三秒後、右から使い魔! 2匹!」

ほむら「――っ!」


 銃声。散弾銃から吐き出されたスラッグ弾が、使い魔の一部を抉り取った。

 反動に顔をしかめながらも、ほむらは弾を撃ち切った銃を捨て、次の武器を引き出した。


ほむら(未来予知……ね。正直、あまりいい思い出のない力だけど)


 ちら、と巴マミの抱える本を見やる。

 片手で広げられたその本には、次々と自動的に文字が浮かび上がっていた。

 そのどれもが、これから数秒後に起こる出来事を示しているらしい。

 巴マミを一緒に連れてきたのもこの力があるからだ。

 テレパシーができれば一番いいのだが、
 魔法少女でない以上、中継にインキュベーターを使わなければ巴マミはテレパシーを使えない。


ほむら「……ところでその力、もっと先は見えないの? 例えば、ワルプルギスの夜を倒せるかどうか、とか」

マミ「ようやく制御できたばかりだから……
   もしかしたら、まだどこかで結果を知るのを怖がってるのかもしれないけど」

ほむら「そう……大丈夫よ。その力の強力さは、私もよく知っている。
     だからきっと私たちは勝てるし、その――頼りに、させて貰うわ」

マミ「……ええ! 次は三匹、七秒後に頭上から!」


 そうして無数の使い魔をやり過ごし、気の遠くなるような距離を駆け――


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ほむら「着――いた! ……大丈夫? 生身の貴女に、この距離は……」

マミ「っ、はあ、はあ……帰ったら、少し運動するわ。
   ホグワーツって、体育の授業もないし……」

ほむら「体育が苦手だった私には天国みたいなところね――さあ、もう一仕事よ」

ワルプルギスの夜『……――!』


 彼女たちは柱を登り切り、ワルプルギスの夜を取り囲む円環にまで辿り着いていた。

 体長百メートル以上にも及ぶワルプルギスの巨体をぐるりと取り囲むだけあって、
 この道だけで数百メートルの距離はあるだろう。

 間近で見るワルプルギスの夜はあまりにも巨大で、その全容を把握することも難しい。

 今は無数の守護霊が張り付いている状態の為、なおさらだった。


マミ「暁美さん、逆転時計を……」

ほむら「ええ――まずはひとつ」


 盾から鎖で繋がれた逆転時計を取りだし、軽く放る。

 何か不思議な力が働いているのか、砂時計は地面に落ちようとはせず、そのまま目線の高さで浮かび続けた。

 じゃらり、と宙に浮いた逆転時計から盾の中に続く鎖を引っ張って、ほむらは円環の先を見据える。


ほむら「急ぎましょう。次の設置場所は――」

マミ「――暁美さん、上!」


 マミの手にしていた本のページが、凄まじい勢いで黒く染まる。

 それは大量の使い魔が、逆転時計を破壊するために襲来するという予言だった。


ほむら「……っ、坂を上る時、使い魔の妨害が妙に少ないとは思ったけど……
     こっちに戦力を集中させていたの!?」

マミ「あと二秒! プロテゴ!(守れ)」

ほむら「くっ――弾薬も、もう残り少ないのに!」


 天を仰ぐように杖と拳銃を構える二人に、空から無数の使い魔が降り注ぎ――


杏子「通すかよ……!」


 一閃。跳躍してきた佐倉杏子の巨大な槍が、その暴流を吹き飛ばした。


マミ「佐倉さん!」

ほむら「……遅いわよ、杏子」

杏子「悪いね。ただ、ちょいと準備に手間取ってたもんでさ」


 そう言う杏子の背後から、幻惑の魔法で生み出された分身たちが現れた。

 その数、12体。本物を含めて13人の佐倉杏子が槍を構えている。

 ほむらは驚愕した。佐倉杏子は、つい先ほどまで一体の分身を生み出すのが精々だったはずだ。


ほむら「これだけの数の分身を生み出せるなんて……」

杏子「無理はしたけどね――遅れた分、仕事はするさ。
    さあ、その時計の守備は引き受けた。マミ、ほむら。こいつをブッ飛ばすのは任せたよ!」

マミ「……ええ、もちろん! 時間の果てまで吹っ飛ばしてやるわ! 暁美さん、行きましょう!」


 盾からのびる金色の鎖を駆け抜けた道筋の軌跡として残しながら、二人の少女は再び走り出す。


杏子「行ったか――さぁて、まったく、手酷くやってくれたもんだな……」


 佐倉杏子は、守護霊の光で白くて駆らされる円環の上から、見滝原市を見下ろした。

 辺り一面酷い状態だ。倒壊したビルに、潰れた住宅街。

 完全な復興には一体どれだけの時間がかかるのか、想像もつかない。


杏子「あたしの街をこんなにしやがって――落とし前はつけさせてもらうよ!」


◇◇◇


ほむら「これで、ラスト!」


 設置を繰り返しながら円環を一周し、最初に設置した逆転時計に鎖を接続。

 ワルプルギスの夜を囲む輪を形成する。

 すべての逆転時計は盾の中から外へと出た――だが、暴走する様子はない。

 逆転時計の内の一つが、ほむらの盾の機構に組み込まれている。


ほむら(私はもう時を止めることは出来ない。だけど、それでも残された力はある。
     時間遡行。同様の性質を持つ逆転時計とこの魔法を、盾を介してリンクさせた)


 宙に浮かぶワルプルギスの夜を包囲する、ドーナツ状の道。

 俯瞰視点から見れば、それはちょうど、ライトアップされた時計のようにも見える。

 文字盤を煌めく逆転時計が彩って、中心に鎮座するワルプルギスの夜を守護霊の群れが照らし出している。

 ――その守護霊の光が、一斉に消えた。

 地上の魔法使いたちがざわめく。

 守護霊を維持しきれず、既に何人かの魔法使いが脱落しているが、それでも一斉に消えるということはない。


ワルプルギス「――キャハ」


 ならばそれは、外的要因によるものということだ。

 解放された両腕を誇示するように高々と掲げて、ワルプルギスの夜が笑った。


ワルプルギス「キャハハハハ――!」

ムーディ(完全に――守護霊に対応したというのか!?
      方法は分からんが、その仕組みを理解し、消したなどと――いかん!)


 ムーディの目には、円環の上で巨大な怪物と対峙する少女達が見えていた。

 逆転時計の設置はほぼ完了しているが、その制御役となる黒い魔法少女がやられてしまえば、
 暴走した逆転時計がどんな大惨事を起こすか分かったものではない。


ムーディ(だが――わしひとりの魔法では――)


 他の魔法使いたちに連携の指示を飛ばす時間は無い。

 ワルプルギスの夜が、既に魔力を目に見えるほどに収束させていた。

 それが解き放たれれば、二人の少女は逆転時計ごと砕けて――


ダンブルドア「――させぬよ」


 びしり、と水が急速に凍りつくような音が、空間自体から聞こえた。


ワルプルギス「ギッ――!?」

ダンブルドア「"魔女"、ワルプルギスの夜。君が哀れむべき存在であることは知っている。
         その上で、わしらは君をこの世界から消し去らねばならん……!」


 たった一人が唱えたたった一つの呪文で、だが確かに最悪の魔女の動きが停止した。

 最高の魔法使い、アルバス・ダンブルドア。その手に握るのは『死すら下す』と謳われた最強の杖、ニワトコ。

 老魔法使いの形振り構わぬ全力に、世界が慄くようにして凍りついた。

 それでも、効果は一瞬だ。


ワルプルギス「キャ――ハハハ――!」


 ワルプルギスの夜が、見えない糸を断ち切るかのように身を捩った。

 同時、大粒の汗を顔中に浮かべたダンブルドアが、何かの反動を受けたように、その場から跳ね飛ばされる。


マクゴナガル「アルバス――!?」


 瓦礫に上に飛び込むようにして倒れたダンブルドアを、マクゴナガルが駆け寄って抱き起した。

 ダンブルドアは酷く消耗した様子で、荒く短い息を繰り返し吐いている。

 ――その顔に、勝利を確信した笑みを浮かべながら。


ダンブルドア「――それが、わしの果たすべき約束じゃ」


 視線の先――ワルプルギスの夜を取り囲む円環が、強い光を発していた。


◇◇◇


 守護霊の群れがかき消されてしまった瞬間、だが暁美ほむらの胸に焦りは無かった。

 目の前でワルプルギスの夜が再動し始めても、暁美ほむらの胸に恐怖は無かった。

 何故なら、


マミ「――大丈夫」


『アルバス・ダンブルドアの捨て身の魔法で、ワルプルギスの夜は停止する』


 全てを見通す彼女が、平然とした様子で自分の隣にいる。

 予言を見たわけではない。ただ、隣にいる彼女が何も言わなかった。だから自分も動かなかった。

 そう――それが人を信頼するということだ。暁美ほむらが遠い昔に忘れ、そして今取り戻したもの。


ほむら「永かった――この光景を、私はずっと待ち望んでいた」


 ほんの数十メートル先に、ワルプルギスの夜の顔があった。

 幾度も自分の前に立ちふさがってきたその存在と今、暁美ほむらは決別する。


ほむら「時間遡行。それが私に残された最後の力。
     この魔法を使って、私は数えきれない程の世界を渡ってきた」


 幾度も幾度も失敗して、その度にこの魔法に頼ってきた。だけど、


ほむら「だけど、ワルプルギスの夜。この魔法は、お前から逃げる為の魔法じゃない。
     全てはまどかとの約束を果たす為。お前という壁を打ち破るために」


 盾を構える。その中央にはめ込まれた逆転時計が、主の命令を待っていた。


ほむら「――その為に私が得た、最高の魔法よ!」


 カチリ、と盾の機構が作動した。

 反転した盾のタイム・ターナーに連動し、設置した全ての逆転時計が作動する。

 逆転時計の鎖で作った結界の内側に在るもの、即ちワルプルギスの夜を遠い過去に送り始める。


ワルプルギス「キャ――ハ――?」


 ワルプルギスの夜の嘲笑が、奇妙に歪んだ。

 薄く薄く、まるで遠ざかるサイレンのように極限まで引き延ばされて――

 その果てに、声だけではなくその姿まで薄れ始め――

 ――時間にしてみれば、ほんの一瞬。

 その一瞬で、ワルプルギスの夜は永遠に消え去った。


ほむら「終わった……の?」

マミ「……勝っ、た? 私、生きてる……佐倉さんは!?」

杏子「おーい! マミー! ほむらー! 生きてるかー!?」


 使い魔から時計を防衛していた佐倉杏子が、円環の向かい側で元気に手を振っていた。


マミ「生き、てる……予言が、外れた……?」

ほむら「? 貴女、何を言ってるの?」


 呆然と何事かを呟く巴マミと、その意を問いただそうとする暁美ほむらの言葉。

 それらをかき消すように、地上から魔法使いたちの大歓声が上がった。


マミ(生きてる――生きてる! 佐倉さんが生きてる!
   なんで予言が外れたのかは分からないけど、でも、それでも、佐倉さんは――!)


 歓声とともに花火やら流星群やらが狂ったように打ち上げられる夜空を見ながら。

 巴マミは微笑み、そして体力の限界を迎えてその場にへたり込んだ。


◇◇◇


 ――その光景を、離れた場所から観察している存在があった。


 驚くべき光景だった。まさか、本気になったワルプルギスの夜を消してしまうとは。

 おまけに以前送り込んだ廃棄個体の報告には無かった現象がいくつも確認された。

 グリーフシードを用いないソウルジェムの浄化や、大規模な時間操作。

 何らかの対策を講じる必要があった。

 下手をすれば、魔法少女システムそのものが崩壊しかねない。それほどの非常事態だった。


Incubator「それなら一番いいのは――彼らが絶滅してくれることだよね」


 インキュベーターは勝利に沸き立つ魔法使い達を見て、そんな結論を出した

 この星でのノルマは未達成となってしまうが、仕方ない。

 それよりもこの星の突然変異体が、他のシステム実施惑星に伝播する可能性の方が脅威だ。

 インキュベーターは便宜上、自分たちの"母星"と区分している場所に連絡を取った。

 
 この地球ごと、彼らを消滅させる要請を出すために。


 自分たちにとって、それは容易いことだ。インキュベーターは高度に発展した種族である。

 宇宙を渡り、エネルギーさえあればどんな願いも叶え得るシステムさえ構築した。

 必要がないならそんな無駄なことはやらないが、必要があれば、星のひとつやふたつは簡単に消してしまえる。

 
Incubator(それほどまでの緊急事態だ。システムも再構築の余地があるね。
       記憶は共有したし、あとは他の個体がやってくれるだろう)


 命令が受諾される。あと十数分で、地殻から核に至るまで余さず蒸発する程の熱量が降り注ぐだろう。

 そんな未来を知らず喜びの声をあげる彼らを見ながら、インキュベーターはその時を待つ。

 ――その時、背後から声がした。


「ああ、見つけました――はい、今から接触します」

Incubator「……おや、変異体のひとりか。なんの用だい?」


 振り返ると、そこにひとりの男が立っていた。

 三角帽にローブという格好で、すぐにあの変異体の仲間だと知れた。


忘却術士「初めまして。えー……魔法事故惨事部、魔法事故巻き戻し局の者です。
       あなたを探していました――インキュベーター」


Incubator「僕たちの名称を知っている、か。ワルプルギスの夜の対策もされてたし……

       ああ、そうか。廃棄個体がそっちにいるんだね?
       ま、いいさ。それで繰り返すけど、君は何をしに来たんだい?」

忘却術士「法を執行しに。魔法少女法、というのがこの度制定されまして――」


 忘却術士は簡単に、その内容を説明した。


忘却術士「――そして当然同法内には、魔法少女という存在に深く関わる、
       あなた達インキュベーターに関する条項も存在しているというわけです」

Incubator「まあ、当然だろうね。それで? その法はだいぶ魔法少女たちに同情的なようだし、
       僕を排除しに来たのかな? でも、それが無駄だってことは知ってる筈だけど」

忘却術士「ええ。ですから服従の呪文で服従させて、
       忘却術で真っさらにした記憶を強制的に全個体へ同期させます――」


 と、そこまで言って、忘却術士の男は芝居がかった動作で肩を竦めた。


忘却術士「――というのが、あなた達の勢力をよく分かっていなかった時、議会で出た一番過激な意見でした。

       ああもちろん、今はそんな気ありませんよ。出来ませんし。
       というか出来たとしても、人道的にあなた達の種族を滅ぼすわけにはいかないんですよね」

Incubator「確かに記憶の同期に関しては精神疾患まで伝染させる恐れもあるからね。
       ある程度のセーフティは設けられているよ。でも、人道的に、だって?」

忘却術士「あなた達が可哀想だ、ということではないですよ。当たり前ですが。
       聞くところによると、あなた達は他の星でも魔法少女を生み出しているとか」

Incubator「ああ。この星はノルマ対象のひとつに過ぎない。
       他にも無数の惑星で、僕らは魔法少女システムを施行している」

忘却術士「そうしますと、もし仮にあなた達がいなくなったら、その星々はどうなります?」

Incubator「遠からず滅びるだろうね」


 何の気なしにインキュベーターが口にした台詞に、そうでしょう? と忘却術士が頷く。


忘却術士「グリーフシード。あの怪物の卵でしたか。私達の魔法でも、孵化する前のあれは損なえませんでした。
       当然、マグルにも無理でしょう。そうすると、あれを処理する手段は――」

Incubator「僕たちの技術だけだ。システムを施行してる星は、おしなべて技術レベルが低いからね。
       だから僕たちが居なくなってしまえば、GSを処理できない」


 そしてGSが処理できなければ、その惑星は魔女で溢れかえることになる。

 インキュベーターがいなければ、魔女に対抗できる魔法少女も新たに生まれない。


忘却術士「酷い話です。毒をばら撒いておいて、その解毒剤はあなた達しか持っていないというのですから。
       詐欺みたいな話ですよ――まあ、それに関しては言えた義理でもないんですが」

Incubator「なるほど。人道的に、というのはそういう意味か。
       でもそれなら、君が僕に会いに来たのは――」

忘却術士「お察しの通り、交渉です。それも極めて平等な契約を結ぶ用意が、イギリス魔法省にはあります」

Incubator「魔法省、というのは君の属する組織の名前だろうけど……君にその全権があるのかい?
       人間の慣習を鑑みるに、重役を任されるにはだいぶ若過ぎるようだけど」

忘却術士「ああ、別に私が全権大使、というわけではないんですよ。新入りですし。

       とにかく急いで契約しろとのことで、あなた達の捜索に当たっている、
       戦力外通知を出された魔法使いは全員、その権限を持っています。監視の上で、ですけど」

Incubator「急いで……そうか、廃棄個体がそっちにいるなら、僕らがどういう行動にでるのか予測できるよね。
       なら、単刀直入に聞こう。君たちが持ちかける契約。その内容は?」

忘却術士「単純なギブ・アンド・テイクです。こちらが求めるのは、この星での魔法少女システムの順次廃止。
       そしてグリーフシードの処理と、それに関する技術の供与です」

Incubator「もちろん、見合う条件を出せるのなら飲むよ。さあ、君たちは対価に何を差し出すんだい?」

忘却術士「あなた達が一番欲しがっている物ですよ。つまりは、エネルギーです。

       先ほどの戦いを見て分かったでしょうが、私達と魔法少女の使う力は根本的に同じものです。
       あなた達風にいえば、エントロピーに縛られない力ですか。そのエネルギーを提供します」

Incubator「……ふむ」

忘却術士「契約と怪物になる際のエネルギーには及ばないでしょうが、常に一定の供給が可能です。

       長期的な目で見れば、個人の資質に依存する従来のシステムよりも安定するでしょう。
       情報提供者曰く、システムもさほど時間を掛けずに構築できるとのことですが」

Incubator「確かに、ワルプルギスの夜の動きを封じた生物状のエネルギーには強い力を感じた。

       それを定期的に供給してもらえるのなら、契約の対価としては十分だ。
       根本的に同種のエネルギーなのだから回収用のシステムの改編にも時間はかからないだろう」

忘却術士「それでは?」

Incubator「ああ。細かい取り決めは後で詰めるとして、君たちとの契約は考慮に値すると判断した。
       もうしばらく、この星でのエネルギー収集作業は続けさせてもらおう」


 インキュベーターは暗雲に覆われ、未だ暗い空を見上げた。まるで、何かが遠ざかっていくのを見送る様に。


Incubator「――それにしても、まさか魔法少女システムが君たちのような存在を生み出すなんてね。
       やはり、僕らのシステムは宇宙を救うのに最も適した形だったということか」

忘却術士「……最も適した形、ですか」

Incubator「そうだろう? 結果として、僕らは君たちという効率の良いエネルギーの供給源を生み出した。
       それは紛れもない事実だ。僕らがいなければ、君らは生まれることも無かっただろう」

Incubator「そういった意味では、僕らは最初から手を組むべきだったのかもしれないね。

       精神疾患の誘発存在として君たちを避けていたけど、
       本来は持ちつ持たれつの間柄になるべき関係だったんだし――」

忘却術士「例え、私の杖があなた達から与えられたものだとしても」


 インキュベーターの言葉を遮るように、忘却術士が口を開いた。


忘却術士「それをどう振るうかは、私たちが決めることです。

       どうせ気を悪くするということもないのでしょうし、言わせて貰いますが――
       私たちは、既に自分の足で歩くことができている」

Incubator「僕らから言わせて貰えば、君たち人類が常に正しい道を歩いてきたとは思えないけどね」
       
忘却術士「間違ったのなら歩みなおせばいい。ひとりが怖いのなら手を繋げばいい。

       我々が劣って見えるのでしょうが――舐めるんじゃあない。
       私たちはその人生を生きる中で、目指すべき"星"を見つけ――」


 風が吹く。ワルプルギスの夜が消えた今、それは最後の暴風だった。

 夜天を満たす星々の明りが差し込んだ。風の影響で、空を覆う厚い雲が割れていく。

 忘却術士が杖を取り出した。天を示すように、杖の先を掲げる。


忘却術士「――やがて自身が同じような"スター"になろうと歩き出せるのです!」


 被っていた帽子が飛んでいく。ウェーブのかかったブロンドを揺らしながら、その忘却術士は叫んだ。


忘却術士「オブリビエイト!(忘れよ)」


 街の至る所から忘却術の光が上がった。その中でもひときわ強い光を、この忘却術士は放つ。

 1932年のイルフラクーム事件において使用されたものを上回る、今世紀最大の忘却術が発動。

 光が見滝原を満たし、そこに住むマグルと電子機器の全てから今夜の記憶を奪い去り、修正していく。


Incubator「記憶の修正……これだけの範囲を一度に?」

忘却術士「どんなに劣る人間でも、ひとつくらいは特技があるものです――受け売りですけどね。
       さ、これで私の初仕事は終わりです。魔法省まで御同行願いましょうか?」


◇◇◇


 ――次に巴マミが目を明けた時には、既に円環の上から地上に降りていた。


マミ「あれ……私……?」

マクゴナガル「起きましたか、トモエ。

         上で気を失ったようで、ミス・サクラが担いで降りてきてくれましたよ。
         あとでお礼を言っておきなさい。体は大丈夫ですか?」

マミ「は、はい。どこも痛くは……あの、私、どれくらい寝て……?
   周り、とても静かですけど」

マクゴナガル「ほんの三十分ほどです。周辺住民への記憶処置などは終えたので、

         ほとんどの参加者はイギリスに戻りました。今頃、向こうはお祭り騒ぎでしょう。
         残っているのは、私やこの国の魔法省に引き継ぎをしなければならない者だけです」

マミ「そう、なんですか……佐倉さん達は?」

マクゴナガル「ムーディ先生と話しています。この国の魔法省への事情説明に必要なので。
         ほら、あそこに」


ムーディ「ふむ。つまりひとりが使える魔法は一種類だけなのだな?」

ほむら「結界とか、ある程度汎用的な魔法は才能があれば使えるわ。
     正確にはひとり一種類、その子にだけしか使えない魔法がある、ということね」

杏子「つうかおっちゃん、目え怖いな。それどういう仕組なわけ?」

ムーディ「魔法の義眼でな。物を透かして見ることのできる機能がある」

杏子「……それ、服の下とかも?」

ムーディ「当然だ。敵がどこに武器を隠しているか分からんからな。
      ――やめろ! なぜいきなりわしの目を奪おうとする!?」


マミ「佐倉さん……良かった……夢じゃなかった……」

マクゴナガル「……さあ、マミ。ホグワーツに戻りましょう。復学の手続きがあります。
         魔法省に手紙も書かねば――」

マミ「はい……あら、あれって――」


 マミは遠くの瓦礫の上に、ちょこんと佇む、白い猫の姿を見た。

 それはインキュベーターではなく、この数年、ずっと自分の傍にいた――


QB「……」

マミ「キュゥべえ!? なんでここに――すみません、先生! ちょっと待っててください!
   キュゥべえも連れて帰らないと――」

マクゴナガル「……マミ、彼は――」


 返事も待たず、駆けだす。その生徒の背中に、マクゴナガルは手を伸ばそうとして、


ダンブルドア「――行かせておやり、ミネルバ。
         例え行く先に悲しみがあっても、生きる為にはそれを乗り越えねばならん」

マクゴナガル「……はい、アルバス」



◇◇◇


 疲労したフラフラの身体を無理やり動かして、巴マミはキュゥべえの下に駆け寄っていった。

 牛歩にも劣る速度だったが、それでも懸命に走る少女を、白い猫は律儀にそこで待っている。

 そうしてようやく会話ができる距離まで近いたマミに向けて、キュゥべえが口を開いた。


QB「やあ……マミ。上手く行ったみたいだね。おめでとう」

マミ「っ、はぁはぁ……キュゥべえったら! なんでここに――危ないじゃない! 魔法省にいた筈でしょう?」

QB「飼い主のピンチだからね……僕も、ただ待っているわけにはいかなかったんだよ」

マミ「調子の良いこと言って……ふふ、でも嬉しくないっていったら嘘になるけど。
   ねえ、キュゥべえ! 全部終わったのよ! 全部、良い方に終わったの!
   予見も制御できるようになったし、佐倉さんの死の予言も外れたんだから!」

QB「予見を……そうか、それは予想以上だったな……」

マミ「そうでしょ? さ、キュゥべえ、ホグワーツに帰りましょう。
   暖炉は壊れちゃったけど、マクゴナガル先生がなんとかして――」

QB「……マミ」

マミ「なに? お腹でも減った? もう、相変わらず食いしん坊なんだから。
   ホグワーツに戻れば何かあるわよ、きっと」

QB「マミ」

マミ「……どうしたの? さっきから元気が無いみたいだけど……」

QB「最後に、君が無事か確認しに来たんだ……元気そうで、本当に良かった。
   これからも、君は……楽しい……」

マミ「……キュゥべえ?」


 最後とは、どういう意味なのか。

 なぜそんな、燃え尽きる寸前のマッチの様な、か細い声でしゃべっているのか

 それを言葉にして、口に出す前に。

 ――ぱたり、とまるで糸の切れた人形のように、キュゥべえがその場に倒れた。


マミ「――え?」


『その日、巴マミの大切な友達が死ぬ』


 予言は、覆らない。


◇◇◇


マミ「キュゥ、べえ? ねえ、なに、それ……笑えない、わよ?」


 眼前のキュゥべえを見ながら、途切れ途切れにそう呟く。

 気づけば膝が地面についていた。疲労のせいか、あるいは、別のものか。

 手を伸ばし、倒れたキュゥべえを抱き上げる。


マミ(……冷たい。冷たく、なって行く……!?)


 在りし日の、あの小動物特有のぬくもりが感じられない。

 それどころか、残っている僅かな体温さえ消えていく。

 はっきりと理解した。これは、死に行く途中の――


マミ「や、だ……キュゥべえ!? ねえ、どうしたのよ!
   怪我? やっぱりどこか怪我をしてるの? 大丈夫よ、すぐに治してもらうから――」

Incubator「――それは難しいだろうね」

マミ「……インキュベーター……?」


 見間違えるはずもない。

 自分のキュゥべえとそっくりな、けれど決定的に違う生物が、いつの間にか背後に現れていた。


マミ「あなたが、キュゥべえを……?」

Incubator「違うよ。君たちに危害を加える理由はない。魔法省とは友好関係を結べそうだしね。
       その廃棄個体が活動停止に陥ろうとしているのは、単に寿命のせいだ」

マミ「寿命、ですって?」

Incubator「正確には活動に必要なエネルギーの枯渇だ。

       使用済みGSを回収していなかったのか、無駄にエネルギーを使っていたのか。
       記憶の共有ができない以上、正確な理由は分からないけどね」

マミ「GSを食べないと、死んじゃうってこと……?」

Incubator「緊急手段として、僕らはこの星の有機物を取り込む機能も持っている。

       だけどあくまで緊急手段だ。
       そんな活動サイクルを何年も続ければ、やがて供給も追いつかなくなるだろう」


 その言葉を聞いて、思い当たることはあった。

 キュゥべえが体の大きさに見合わぬほどの食事を取っていた理由。

 ホグワーツに居る限り、グリーフシードを取り込む機会などないこと。


マミ「で、でも……今年の夏は、佐倉さんと魔女を退治して……
   そうよ! その時のグリーフシードは、キュゥべえが食べた筈……」

Incubator「……? 君は何を言っているんだい?」

マミ「……え?」

Incubator「佐倉杏子が生産した使用済みのGSは、僕らが回収していた。
       そりゃあ、ひとつかふたつは取りこぼしがあったかもしれないけど……」

マミ「そんな……どうして……」

キュゥべえ「……まどかとさやかを……契約させない為には……」

マミ「キュゥべえ!? 大丈夫なの!?」


 浅い息を早いペースで繰り返しながら、そのわずかな隙間に言葉を挟むようにして、キュゥべえが呟く。

 それを聞いて、ああ、と納得したようにインキュベーターが頷いた。


Incubator「そういうことか。確かに、佐倉杏子がその生涯で生産するGSの予測数はかなりのものだった。

       鹿目まどかの素質が異常な増え方を見せたから勧誘したけど、
       それがなかったら、確かに僕は不確定要素をこの街に解き放とうとはしなかっただろう」

マミ「何を、言ってるの……?」

Incubator「君たちは契約そのものに否定的だっただろう?

       佐倉杏子から使用済みのGSが提供される限り、僕らは鹿目まどかに契約を持ちかけなかった。
       だからそこの廃棄個体は、あえてGSを摂取しなかったんだと思う」

マミ「あ……そ、それじゃあ! いまからでも、グリーフシードを――」

Incubator「いや、ここまでバイタルが低下してしまっては無理だろうね。
       一度燃えた火を維持するのに比べたら、最初の火を起こすのには苦労するだろう?」

マミ「そんな……」

Incubator「通常の手段で廃棄個体を回復させるのは難しいと判断せざるを得ない。
       その廃棄個体の死に、なぜか多量の因果が集中している」

マミ「……どういうこと?」

Incubator「さあ、分からないな。だけど奇妙だよ。
       まるで……活動停止という運命が決定づけられているみたいだ」

マミ「運、命……」


 その二文字に、どうしても胸がかき乱される。


マミ「違う……そんな筈ない! だって佐倉さんは生きてる!
   ワルプルギスの夜は倒した! あの予言は、もう外れたじゃない……!」


 そんな、取り乱すように絶叫をあげたマミの背後から、声が掛けられた。


ダンブルドア「……マミ。落ち着いて聞きなさい」

マミ「ダンブルドア先生……! キュゥべえ、キュゥべえを助けてあげてください!
   先生なら、できるでしょう……?」

ダンブルドア「……彼がこうして、死に瀕している理由はの」


 力なく首を振りながら、ダンブルドアは言った。


ダンブルドア「素質の無い人間の魂を、七個もソウルジェムに変換してしまったからじゃ。
        無論、それがどういった結果を齎すかは、彼も知っていた。
        他ならぬ、彼がそれをわし達に持ちかけたのじゃ」

マミ「キュゥべえが、自分から死のうとした……? そんな筈……」

ダンブルドア「君の死の予言は――」

マミ「っ!」


 ダンブルドアの言葉に、マミがびくりと体を震わせる。

 まるで、目を逸らしていた傷口を突かれたかのように。


ダンブルドア「君の予言した内容は"この町にあの魔女が現れた日、君の友人が死ぬ"というものじゃった」

マミ「それは! でも、ワルプルギスの夜は倒したし、佐倉さんは死んでなくて――」

ダンブルドア「その考えは、前提から間違っておるのじゃよ」


 底知れぬ悲しみを湛えた瞳で、ダンブルドアはじっとマミの目を覗き込んだ。


ダンブルドア「"この町にあの魔女が現れた日、君の友人が死ぬ"。
        分かるかの? 君の友人が"魔女に殺されて死ぬ"という予言ではなかったし、
        その友人というのがミス・サクラだと限定されてはいなかった、ということじゃ」

マミ「あ……」

ダンブルドア「つまり、戦いとは無関係に誰かが階段から足を滑らせるという可能性もあったし、
         避難所が壊れて、ミス・カナメとミス・ミキが被害に遭う可能性もあった。
        無論、単純にワルプルギスの夜が世界すべてを滅ぼしてしまうということも有り得た」

マミ「……それとキュゥべえが死ぬことに何の関係があるっていうんですか?」

ダンブルドア「……わしが思うに、もっとも可能性が高かったのは世界すべてが滅ぶことじゃった。
        魔法少女は勇敢に戦いながらも破れ、君の心は傷つき、そして最終的にはみんな死んでしまう。
        そんな運命になる可能性が、もっとも高かった」

マミ「で、でも! ワルプルギスの夜は、撃退して――」

ダンブルドア「――だからこそ、彼は運命に挑んだのじゃ。
         その残酷な運命を、もっと良いものにするために。
         少しでもハッピーエンドに近づける為に、彼は最も強大な敵と戦う道を選んだ」

マミ「キュゥべえが……救ってくれた……?」

ダンブルドア「今宵、君がワルプルギスの夜を撃退できたのは、魔法省の協力があってのことじゃ。

         その魔法省はなぜ協力したか? コーネリウスが魔法少女法を制定したからじゃな。
         では、なぜコーネリウスはそんなことをしたと思う?」

ダンブルドア「全て、君のキュゥべえがお膳立てしたのじゃ。
        彼は死の予言がもたらす運命を、もっとも害のないものにしようとした」

マミ「キュゥべえが、死の予見を覆してくれたってことですか……?」

ダンブルドア「いいや、予言自体は覆せん。マミ、よくお聞き。運命を覆すことは出来ない。

         予言はそれが未来にあるというだけで、すでに確定した事象じゃ
         言い方を変えれば、その予言の内容は絶対に成就させなければならない」


ダンブルドア「だから彼は違う戦い方をした。予言自体は覆せない。
         だが覆せずとも、その"解釈"を変えることは可能なのではないかと彼は気づいたのじゃ」

マミ「解釈を、変える……そ、それじゃあ、もしかして……」


 マミは腕の中のキュゥべえをみつめる。

 抱えてしまえるほどの小さな体躯。その中に秘められた、強すぎる覚悟を垣間見た。


ダンブルドア「……そう、"この町にあの魔女が現れた日、君の友人が死ぬ"。

         その予言が成就した上で、最小の犠牲で済ますには――君の友人がひとり死ぬ他ない。
         ……そのただひとりの犠牲に、彼は自ら立候補したのじゃ」


 無言者から聞いた話を元に、キュゥべえはある計画を立てたのだ。

 この日に自分が死ねば、最低限、予言が成就した形にできる。

 あとはその死を最大限に利用して魔法省の協力を取り付け、
 佐倉杏子を初めとしたマミの友人達を死なせないようにする。

 そう。全ては巴マミの為。彼女の生命だけではない、何もかもを守るために――


マミ「……そんなの、嫌」


 ぎゅっ、と。どんどん冷たくなるキュゥべえの身体を抱きしめて、囁く。


マミ「そんなの、いやぁ……! キュゥべえ、起きて。起きてよぉ……
   ずるいじゃない、そんな、自分勝手に決めちゃって……
   私は、あなたにだっていなくなって欲しくないのに……!」


 認められない。こんな現実を、認めることは出来ない。


マミ「キュゥべえを、死なせたくない……死なせない……!
   なにか、なにか方法は……」


 縋るように、ダンブルドアを見る。老人は無言で首を横に振った。

 キュゥべえを救うには、通常の手段では難しい。最高の魔法使いであるダンブルドアにもそれは不可能だ。

 死の予見による因果の収束が、彼の死を運命に組み込んだ。

 ならば通常の手段ではない、もっと奇跡のような手段はないか――


マミ「……契、約」


 ――あった。

 魂と引き換えに、願いをひとつだけ叶える奇跡。

 数年前は使い損ねたが――いまなら躊躇いもなく、自分の魂を差し出せる。


マミ「間違えない……今度こそ、間違えない。救ってみせる。
   キュゥべえ、起きて……!」

QB「……マ、ミ」


 うっすらと細く目を開けるキュゥべえ。

 よく見えるように、言葉を伝える為に、ほとんど触れ合うほど近くまで顔を寄せた。


マミ「契約よ、キュゥべえ。私を魔法少女にして。私は、あなたを助けることを願うわ」

ダンブルドア「マミ、それは――」

マミ「黙っててください! 私は、キュゥべえがいないと――キュゥべえと、一緒に居たい!
   さあ、叶えて。キュゥべえ……」


 ダンブルドアの制止を乱暴に切り捨て、マミはキュゥべえの瞳を覗き込んだ。

 それに対する返答は――


QB「……だめ、だ」


 力のない、だけどはっきりした拒絶。


マミ「どうして……!? 全部、全部あげるわ! 私の素質も、魂も!
   願い事だって、キュゥべえが死なないでくれるんなら、他に何もいらない! だから!」

QB「きみを……魔法少女に、したくない」

マミ「それは……そんなの、些細なことよ! ソウルジェムだって、魔法で浄化できる!
   ねえ、聞いてキュゥべえ。私、魔法も使えるようになったのよ?
   もう、劣等生なんて言わせないんだから……だから……一緒にいてよぉ……!」

QB「……それでも……だめだ。魔女化のリスクが、なくなったわけじゃない……」


 魔法省の協力があればグリーフシードは不要になるだろうが、それでも完璧ではない。

 生きていく上で、一度や二度は何もかも嫌になってしまう時が来る。

 魔法少女は、そうした絶望を乗り越えることが難しい。

 深い絶望を抱いた瞬間、人としての生を強制的に奪われる。それはどう足掻いても回避できない、魔法少女の宿命だ。


マミ「それでも!」


 それでも構わない、と少女は叫んだ。


マミ「それでもいいわ、魔女になったっていい! キュゥべえと一緒に居られるなら――」

QB「違う……僕が嫌なんだ。マミには、幸せに暮らしてもらいたい……だから、契約はできない」

マミ「どうして……!? どうして、そこまで……だって、キュゥべえにずっといじわるばっかりしてきて……
   私、キュゥべえに何もしてあげてない……」


 巴マミは思う。自分はキュゥべえにずっと救われてきた。

 家族がいなくなって、独りぼっちになった自分がここまで立ち直れたのは、彼が隣に居続けてくれたから。

 彼からたくさんのものを貰った。それなのに、自分はまだ何一つ返すことができていない。


マミ「だから、死なないで……」

QB「違うんだ……マミ、救われたのは、僕の方だ。僕は、君に救われた」

マミ「わたし、が?」

QB「そうだよ。独りが怖かったのは……僕も同じだった」


 感情を得た自分が、それまで属していた巨大なネットワークから外されて。

 最初に覚えたのはどうしようもない寂寥感だった。孤独という初めての恐怖がその身を貫いた。

 インキュベーターには個々の自我というものがない。種としての総意があるだけで、個体ごとの意思はない。

 あの廃教会で再開したインキュベーターが驚いたように、
 ネットワークから外されてなお生き続ける個体というのは、本来なら有り得ない。

 歩むべき道が見えなくなってしまった――そんな自分を救ってくれたのは、ひとりの少女だった。

 巴マミ。彼女が隣に居てくれたから、自分はこうして生き続けられた。

 だから、彼女を救うためなら、自分は何でもできる。

 嘘をついて、人を騙して、傷つけることになっても。この命を全て彼女の為に使い切れる。


QB「――僕は、君が好きだから」


マミ「キュゥべえ……でも、そんなの私だって……キュゥべえが好きよ。
   だから、離れたくない気持ちもわかるでしょう……?」

QB「それは、そうだけど……ごめんね。 どの道、僕がここで死なないと、他の誰かが死んでしまう。

   そうすれば……君はやっぱり傷つくだろう――僕は、そんな光景を見たくなかった。
   君を生かして、被害を最小限にするには、この道しかないんだ」

マミ「……いやだぁ……」


 消えていく体温を僅かにでも取り戻せればとでもいうように、さらに抱きしめる腕に力を込めた。

 ――分かってはいる。もう、キュゥべえが助からないということは。

 死の予言の絶対さを誰よりも感じていたのは、他ならぬ自分だ。

 例え奇跡が起きて、ここでキュゥべえが助かっても、他の誰かが代わりに死ぬ。

 それでも、自分の為に犠牲になるというキュゥべえの為に、何もできないという現実が嫌だった。


QB「……そんな顔をされると……辛いなぁ……ねえ、マミ。

   それじゃあ、最後に……僕の我が儘を、きいてくれないかな?。
   それさえ果たせれば……僕は……ここで終わってしまっても、救われる」


 キュゥべえの言葉に、マミは飛びついた。

 彼の為に何かができるというのなら、是非もない。

 彼がしてくれたように、自分だってどんなことでもしてみせる。


マミ「! いいわ、なんでもする……どんなお願いでも聞いてあげる! 
   一体、なにを――?」


 キュゥべえが乱れる呼吸をどうにか整えようとするのを、静かに待つ。

 ――永遠のようにも感じられる、あまりにも長い沈黙を挟んで。

 キュゥべえが口にしたのは、たった一言だった。


QB「――生きてくれ、マミ」

マミ「……生き、る? 私、が? ねえ、キュゥべえ、違うわ。私、あなたの為に……」

QB「君が幸せに生き続けてくれることが、なによりも僕にとっての幸福だ。
   ……ああ、そうだ。最後に、ようやく見つけられた」


 インキュベーターは、自分の幸福を願えない。

 だけど感情を得て、彼女と暮らして、その最期にそれを手に入れた。


QB「生きて、笑っておくれよ、マミ。君には、素敵な友達がたくさんいる。

   彼らと一緒に、とても楽しい人生を歩んでほしい……それが、僕の最後の願いだ。
   この祈りを叶えてくれたら、きっと僕も安心できる」


マミ「……私が、それをできれば、キュゥべえは嬉しい?」

QB「ああ……そうだ。頼りない飼い主が、これからも頑張ると約束してくれたら。
   僕も……安心して、眠れる」

マミ「……っ」


 涙が溢れた。キュゥべえの口にした言葉が、これ以上ない別れの言葉だと分かってしまった。

 自分の浮かべる表情がくしゃくしゃに歪む。喉の奥から生まれる嗚咽が、言葉をせき止める。


マミ(それでも――キュゥべえを、安心させないと)


 それが最初で最後の、彼が自身の為にした願い事だというのなら。

 奥歯を噛みしめて、悲しもうとする表情筋を黙らせた。

 胸元を手で押さえ、嗚咽を押し込める。

 そうして無理やり笑顔を作って、キュゥべえにかける最後の言葉を絞り出した。


マミ「わた、しっ……がんば、るわ。べんきょ、も、たくさんして……料理も、もっとうまくな、る。
   立派な魔法使いに、なって……いっしょうけんめい、生きる……っ!」


 途切れ途切れの拙い言葉を、死にゆく彼が聞き取れていたのかは分からない。

 だけど、それでも彼は目を閉じて、ゆっくりと、小さく息を吐き出した。


 ああ――ありがとう、マミ。


 体温の低下が止まる。

 もう、下がらない――下がりようがない。

 それまでほんの僅かに脈打っていた何かの鼓動の、最後の一つが余韻として手に残った。


マミ「あ……キュゥ、べえ……あ、ああ、ああああああああ……!」


 ――決壊する。少女の全てが決壊する。

 二度と動かない亡骸を抱きしめて、少女はひたすらに、途切れることなく泣き続けた。


杏子「……マミ?」

ほむら「いったい、なにが……」


 異常を感じた魔法少女たちが近寄っていく。

 その光景を見ながら、ダンブルドアは魔法少女たちと入れ替わるようにしてその場を離れた。


マクゴナガル「アルバス……彼女は、マミはこれからどうなるのでしょう。
         ああ言ってはいましたが、立ち直ることができるのでしょうか」

ダンブルドア「……それも無論、彼女次第じゃろうが」


 キュゥべえの最後の願い。それを叶えるのも放棄するのも、全ては巴マミの選択だ。

 だが、それでも――


ダンブルドア「それでも、そこまで心配せんでいいと思うがの。
         彼らの間にあったのは、真に我らが尊ぶべき感情じゃった――」


◇◇◇


死の予見より一ヶ月後 ホグワーツ 校長室


ダンブルドア「――だが、その計画にはひとつだけ穴があるのう」

QB「穴……かい?」

ダンブルドア「君とミス・トモエは、本当に"友達"といえるほど親しいのかね?」

QB「……っ」


 鷲の様に鋭い目つきで、ダンブルドアは追及した。


ダンブルドア「本来、君は感情を持たない生き物じゃった。

         感情を持ってから数年で、その全てを理解したというわけでもなかろう。
         君の抱く友人の定義は、果たして適当なものといえるのか――」

QB「……」

ダンブルドア「どうかね? 自信を持って、君は自分がミス・トモエの友達だと言えるかね?
         その前提がなければ、君の計画は上手く運ばんのじゃが」

QB「……僕は……」


 一緒のテーブルで、巴マミとご飯を食べた。

 ――それじゃあ、グリフィンドールの生徒とはみんな友達だろうか?


 ずっと一緒に住んでいる。

 ――学校の寮に居る時間の方がずっと長い。ラベンダーやパーバティは友達だろうか?


 友達であるという論拠を見つける為に、膨大な自問自答を繰り返す。

 そしてその果てに出た答えを、キュゥべえは恐る恐る口に出した。


QB「――それでも、僕とマミは、友達だ」

ダンブルドア「その証拠は?」

QB「……それは……思いつかない」

ダンブルドア「そうかね。だというのに、君は友達と言い切るか――」


 ふう、とため息を吐いて、ダンブルドアは座っていた椅子にもたれかかり、天を仰ぐように首を曲げた。

 重苦しい沈黙が落ちる。その静寂を破ったのは白い獣の方だった。


QB「……やはり、無理だろうか。僕では、マミの友達には……」

ダンブルドア「いいや、いいや」

QB「?」


 ダンブルドアが顔を戻し、キュゥべえを見やる。

 白いひげの奥に好々爺とした笑顔を浮かべて、老魔法使いは優しく告げた。


ダンブルドア「確証がなくとも、なお友と思え、尽くそうとすることができる――
        なればこそ、君たちの間にあるのはまことの愛なのじゃよ」



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ダンブルドア「――あの子もそれは分かっていることじゃろう。彼の願いを無碍にすることはあるまい。
         ミネルバ、わしらに出来ることは、その手助けをすることだけじゃ」

マクゴナガル「はい……」


 星明りの下、壊れた街の片隅で、少女の泣き声だけが響き渡る。


 そうして、ワルプルギスの夜は終わりを告げた。


 とある少女の時間は再び前に進みだし。

 とある少女の胸には、友達と交わした大切な誓いが立てられた。


 ――ここに、ワルプルギスの夜が終了する。



◇◇◇






 あれから、色んなことがありました。







◇◇◇


◇◇◇


 ホグワーツ スネイプ私室


スネイプ「あー……わざわざ新年度早々に貴様を呼んだのは他でもない。ハリー・ポッター。
      6年次からの魔法薬学授業において、我が輩は最高レベルの者しかクラスに取らん。
      O.W.L試験、魔法薬学の科目において、貴様は"NEWTレベル"の受講を許されない程度の成績だった」

ハリー「……はい。上から二番目でした」

スネイプ「E(期待以上)だろうがT(トロール並)だろうが、同じことだ――同じことだった。本来ならば」

ハリー「? 先生、それってどういう意味ですか?」

スネイプ「……コーネリウス・ファッジ魔法大臣が失脚したのは貴様も知っているな?」

ハリー「ええ。あの後も、無茶な政策を立て続けに推し進めようとして……」

スネイプ「経緯などどうでもいい。

      問題は奴の最大の功績であるヴォルデモート捕縛の真実が一部、漏れてしまったことだ。
      ――おっと、これは我が輩が言う必要もないか。英雄ハリー・ポッター殿には?」

ハリー「皆勘違いしてますけど、僕がひとりでやったわけじゃ――」

スネイプ「説明などいらん!

      貴様の行いがどれだけお素晴らしいものだったか、毎日のように抗議の手紙が来ている!
      全く、何がハリー・ポッターを闇祓いに、だ。それで我が輩の授業に干渉してくるなど……」

ハリー「あの……結局どういうことなんです?」

スネイプ「……ふん。まあ、話をそう急ぐことも無かろう……
      そら、紅茶でも飲んで、まずは落ち着きたまえ」

ハリー(!? あのスネイプが、僕に紅茶を出した!?
     なんだこれ――とうとう僕を直接的に殺しにきたのか!?)

スネイプ「飲まんのか、ポッター。我が輩が手ずから入れてやったというのに。
      そういう礼儀知らずには、やはり授業を取らせぬようすべきか……ふむ、美味い」

ハリー(飲んだ……少なくとも、毒殺はないのか?)

ハリー「いただきます……でも、授業を取らせないようにするって?
     僕はもともと取れないんじゃ……」


スネイプ「再試験、だ。このままでは抗議の手紙に押しつぶされかねん。
      そこで校長と相談し、望む者に再試験を課すことになった」

ハリー「ほ、本当ですか!? 僕、受けます!」

スネイプ「当たり前だ! 貴様のせいで再試験をするようなものなのだからな!
      まったく、魔法界の誰もかれもが、この小僧に甘すぎる……」

ハリー「……それで、試験はいつなんですか? 授業が始まる前にやるんでしょう?」

スネイプ「……ああ、そのことだが、もう始まっている」ニヤリ

ハリー「え?」

スネイプ「闇祓いになりたいのだろう? ならば自分で飲んだ毒薬に対する解毒薬を、
      その場で煎じられる程度にはなって貰わなくては……」

ハリー「あの……」

スネイプ「さあ、お待ちかねの試験の内容を発表するぞ、ポッター。
      "今飲んだ紅茶に入っている毒薬を特定し、その解毒薬をつくること"
      期間はこれより一時間。材料は魔法薬学の教室にあるものならなんでも使っていい……」

ハリー「え、え? だって、先生も紅茶を飲んで……」

スネイプ「ポッター……我が輩は魔法薬学の教授なのだがね?
      飲ませたい相手にだけ効く毒薬というものもある。ひとつ勉強になったな」

ハリー「」

スネイプ「安心しろ、死にはしない……もっとも、失敗した時には死んだ方が良かったと後悔するであろうが」





・セブルス・スネイプ

 ヴォルデモートの脅威が早々に去った為スラグホーンは来ず、魔法薬学の教授を続ける。
 ハリーに対する態度は卒業するまで相変わらず。
 結局彼の一番素晴らしい部分は、彼の望むとおりに、ダンブルドア以外の誰にも知られることは無かった。


グリフィンドール寮 談話室


ロン「で? 結局その試験は上手く行ったんだろ? ここに五体満足で座ってられるってことは」

ハリー「ああ、まあね……魔法薬学の教室にあった昔の教科書に、
     ヒントが書き込まれてなかったら駄目だったろうけど」

ハーマイオニー「ハリー! それってカンニングじゃない!」

ロン「じゃあ君、ハリーが顔面から七色の光を放つようになるほうがましだったって言うわけ?」

ハリー「それに、教室にあるものなら何でも使っていいって言ったのはスネイプだし。

     あーあ! それにしても、あの時のスネイプの顔ったら痛快だったなぁ!
     怒りで顔が真っ赤だったよ」

ロン「でもハリー、そのスネイプの授業を取るんだろ?」

ハリー「……まあ、なんとかなるんじゃないかな。それより闇祓いへの道が開いたことが今は嬉しいよ」

ロン「将来かぁ……僕は何になろうかなぁ。フレッドとジョージの店でも手伝おうかな……」

フレッド「おっと残念! ロニー、経営陣の手はもう十分足りてるんだ。
      バイトとしてなら雇ってやってもいいけどな!」

ジョージ「どの道、僕らの店にお前を引き込んだらママに殺されっちまうよ!
      おっと失礼。それじゃあ僕らはハッフルパフの連中に行商に行くから、これにて」

ロン「なんだよ、もう! 僕ら、血を分け合った兄弟じゃないか!
    最近、羽振りがよさそうで羨ましいなぁ……にしても、二人はどうやって資金の都合をつけたんだ?」

ハリー「あははは……」



・フレッド&ジョージ

 ウィーズリー・ウィザード・ウィーズを無事に開店。次々にヒット商品を生みだし、大儲けする。
 ちなみに資金は、ファッジがヴォルデモートの件で"お礼"としてハリーに送った金貨の山から提供された。



ハーマイオニー「もっと真面目な方法で稼ぐことを考えたらどう? 
          たとえば……魔法省に入って、屋敷しもべ妖精の地位向上を目指すとか――私と」

ロン「え? やだよ、反吐をやるなんて」

ハーマイオニー「だからS.P.E.W! 反吐って言わないの!
          それに、とっても意義のある活動よ! ここに居る以上、彼らにはたくさんお世話に――」

ロン「まあ、百歩譲って"えすぴーいーだぶりゅー"をやるのは構わないけどさぁ……
   君と一緒、っていうのがね」

ハーマイオニー「……へえ、それはどういう意味かしら、ロナルド・ビリウス・ウィーズリー?」

ロン「だってさぁ、職場まで同じって……息がつまりそうだし。
   君が大量の書類をこなしつつ、同じくらいの量の仕事を僕に振り分けるのが目に見えてるしなぁ……」

ハーマイオニー「……」

ロン「あれ? ハーマイオニー? なんで杖を振り上げて――」


「うわー! ロンがまたナメクジを吐いたぞ!」「やめろ、こっちにくるな――!」「ネビルがナメクジ塗れに!」


ハリー「……はぁ。あの二人も懲りないよなぁ。まあ、これも平和な証なんだろうけど……」

ネビル「わぷっ――ぷは! 全然平和じゃないよ! ナメクジ塗れの平和なんてごめんさ、ああ!」

ジニー「……」



・ハリー・ポッター

 卒業後は魔法省で闇祓いになる。最終決戦が無かったため、原作ほど出世は早くなかった。
 ヴォルデモートの暗躍が無かったため、結婚するまでブラック邸に住み続け、充実したスクールライフを送る。
 ジニーと結婚し三子を設けるが、その中に"もっとも勇敢な人"の名前は無い。


・ロナルド・ウィーズリー

 双子が健在なため、WWWの手伝いはせず、そのまま魔法省に就職。
 結局、なんやかんやありながらもハーマイオニーと同じ局で働く。
 学年が上がるにつれ、ハーマイオニーとの仲は周囲がうんざりさせられるものになった。


・ハーマイオニー・グレンジャー

 最終巻での分霊箱探しの旅が無かったため、原作よりも一年早く卒業する。
 その後は魔法生物規制管理部に入り、ハウスエルフの地位向上に努めた。
 ロンとは喧嘩が絶えないが、それでも仲は良いらしい。


・ネビル・ロングボトム

 闇の勢力の台頭が無くなったことで、急成長する機会は失われた。
 それでも着実に薬草学の成績を伸ばし、将来、スプラウト先生の後任を引き継ぐ。
 その人生の中で、彼の素晴らしい才能はゆっくりと花開いて行くだろう。



ガチャ


シリウス「やあやあ、何の騒ぎだい、これは? ……ああ、またロンとハーマイオニーが喧嘩したのか」

ハリー「喧嘩……まあ、喧嘩かなぁ。ロンが一方的に呪われまくってるけど」

シリウス「女の子に杖をあげないのは評価すべきところだろう。
      ハリー、そういえば君は、気になる女の子とかいないのかい?
      ジェームズは、君のお母さんにこれでもかというほどアピールをして――」

ジニー「……!」ピョンピョン

ハリー「それ、談話室の真ん中でする話じゃないと思うよ、シリウス。
     あと、また無断で入ってきて……寮監でもないのに、どうして合言葉が分かるわけ?」

シリウス「なあに。悪戯小僧の味方、パッドフットを舐めて貰っちゃ困る、というわけさ」

マクゴナガル「――ほう。では、その悪戯坊主のなんとやらを叱るのは、私の役目ですね」

シリウス「あ……あ、あははは。マクゴナガル先生、今日もご機嫌麗しく――」

マクゴナガル「シリウス・ブラック! あなたという人は、いつまでたっても学生気分で――
         もっと教師としての自覚をもったらどうです!?」

シリウス「あー……もちろん、私もそのつもりで努力は――」

マクゴナガル「ならば結果をお出しなさい!
         授業計画もルーピン元先生に書かせて、ふくろう便で送らせてるとかいう話も聞きましたが!?」

シリウス「いや、それは大丈夫。もちろん給料は支払って――」

マクゴナガル「そういうことを言ってるのではありません!」

ハリー(……こっちに飛び火する前に逃げよう……)コソコソ




・ミネルバ・マクゴナガル

 ハリー達の卒業後、ホグワーツの校長に就任。
 その際、グリフィンドールの寮監をシリウスに譲るが、しばらく本気で悩んだという。
 最後まで彼女は厳しく、そして理想的な教師だった。



・シリウス・ブラック

 ホグワーツにて"闇の魔術に対する防衛術"の教授職に就く。
 スネイプとは犬猿の仲であり、皮肉合戦が絶えない。たまに杖もでる。
 ハリーが結婚して家を出ていくことが決まった時は、しばらく吸魂鬼にキスされたような状態が続いた。


グリモールド・プレイス 十二番地 ブラック邸


ルーピン「さて、シリウスは上手くやってるかな……彼に教職が向いているとはあまり思えないが」

トンクス「大丈夫じゃないの? 魔法も上手いし、そこまで厳しくもないし……」

ルーピン「厳しくない、というのは別に教師向けの資質ではないと思うがね」

トンクス「だってさー! こっちは相変わらずマッド-アイが無茶苦茶やるんだよ!?」

ルーピン「ああ……確か、闇祓いの教導役として復帰したんだっけ?」

トンクス「そーなの。なんだかしらないけど、一年前のあの戦いで奮起しちゃったみたいでさ。
      どう考えてもこのままじゃ死んじゃうから、いまはキングズリーと闇討ちを計画してる」

ルーピン「まあ、それでストレスが発散できるのなら、いくらでも計画するといいさ……
      ほら、お茶が入ったよ」

トンクス「ありがとー! ……うーん。やっぱりリーマスの淹れるお茶は美味しいねえ。
      私は家事の魔法がさっぱりだからさ」

ルーピン「葉が良いんだよ。私の腕じゃない」

トンクス「でも、私よりは上手じゃない?」

ルーピン「君のプライドを傷つけない為にも、ノーコメントにしておこうか」

トンクス「……ところで、あー……一年前さ、日本に行ったでしょ? 
     それで向こうの職員とも仲良くなったんだけど……」

ルーピン「ふむ。まあ、若いうちに繋がりを増やしておくのはいいことだ。それで?」

トンクス「うん……あの、ね――」


トンクス「――いまさ、向こうでは主夫っていうのが流行ってるんだって」





・リーマス・ルーピン

 一時期、ブラック邸に居候する。結果的に、ハリーとシリウスのいない学期中は管理人のような立ち位置に。
 後にトンクスと結婚。色々葛藤しながらも子を設け、一児の父として頑張る。


・ニンファドーラ・トンクス

 ムーディにしごかれ、めきめきと実力をつける。後にハリーの先輩に。
 ルーピンと結婚し、家庭を築く。家事の魔法は相変わらず苦手のようだ。


ホグワーツ 廊下


ハリー「しばらく一緒に暮らしてみてわかったけど、シリウスって意外とだらしないんだよなぁ。
     リーマスが呆れるのも少しわかるよ、うん……あ」

ドラコ「あ……ポッターじゃないか。ふ、ふん! いつものお友達はどうした?
    とうとう愛想つかされたか?」

ハリー「マルフォイ……嫌な時に嫌な奴にあったなぁ……まあいいや。
     二人なら仲良く喧嘩してるよ。それじゃ、僕はこれで」

ドラコ「待て待て待て! 最近なんか、僕の扱いがぞんざいになって来てないかポッター!?
    いいか? 父上はこの前の魔獣との戦いで多大な功績をだな!」

ハリー「この前って……一年も前のことじゃないか」

ドラコ「黙るフォイ! そんな細かいこと気にしてるから、ウィーズリー達にも愛想つかされるんだぞ!」

ハリー「だから、二人は喧嘩中だって……っていうか、君こそ手下はどうしたんだ?
     ここ最近、一緒に居るのを見てないけど」

ドラコ「……」

ハリー「……もしかして、愛想つかされたのは――」

ドラコ「ち、違う! 違うぞぉ! マルフォイ家の次期当主たる僕が、あの二人に見限られる筈ないだろ!
    ……あ! 噂をすれば、ゴイル! クラッブ!」

クラッブ「……」

ゴイル「あー、えっと……」

ドラコ「どこ行ってたんだよ、一体! まあいい。これから働いてもらうからな!
    さあ、この生意気なポッターをたたんじまえ!」

クラッブ「ふん!」バキッ

ドラコ「ふぉうい!?」ドサッ

ゴイル「……」オロオロ

クラッブ「……ぺっ」スタスタ

ハリー「唾まで吐いて行った……ねえ、マルフォイ。何があったのさ。
     急に手のひら返されてるけど」

マルフォイ「わ――分かるもんか畜生! 例のあの人が失脚した頃からずっとあんな調子だ!
       くそ、でも諦めないぞ! マルフォイ家に後退の二文字は無い!
       やいクラッブ、止まれ! ほら、餌だぞ! ――フォイッ!?」

ハリー「……」

ゴイル「……」

ハリー「……君も苦労してるんだね。仲のいい二人が喧嘩して困るその気持ち、分かるよ」

ゴイル「……」コクリ



・ドラコ・マルフォイ

 在学中は小悪党のまま終わるが、閉心術の才能をスネイプに見込まれ、鍛え上げられる。
 その結果、魔法省の重役に就任。ハリーとは会ったら憎まれ口を叩き合う仲のまま。
 アーサーとルシウスが増えた、とは魔法省職員の談。なお、クラッブとは最終的に仲直りしたらしい。


・ビンセント・クラッブ

 死喰い人だった親の立場を考えた上でドラコに従っていた為、ヴォルデモート失脚後は反旗を翻す。
 腕力はいうに及ばず、実は意外と魔法の才能もあったため、フォイに対して終始有利に立ち回った


・グレゴリー・ゴイル

 ドラコとクラッブを何とか仲直りさせようと奔走。
 結果として、ハリー達にちょっかいを掛けることは少なくなった。
 後年では、三人でホグワーツ時代の思い出を語り合える程度には関係修復したとか。


 マルフォイ達三人と別れて――というより、向こうが勝手に絡んできた挙句勝手にいなくなった――
 ハリーは散歩を続行した。

 6年生の新学期が始まって、初めての週末である。

 夏休み中に帰ってきたO.W.L試験の結果を肴に、大多数の生徒は自分たちの将来について話し合っていた。

 当然、廊下にあまり人影はない――筈だったのだが。


ダンブルドア「やあ、ハリー。散歩かね?」

ハリー「……ダンブルドア先生」


 窓から入る暖かい日差しを浴びるようにして、ダンブルドアが佇んでいた。


ダンブルドア「外は風が冷たいが、こうしていると太陽の暖かみが感じられるのう。

         学校の中の日光浴スポットを見つけるのが最近の趣味でな。
         ハリー、君もどうかね?」

ハリー「えーと……遠慮しておきます。ロン達の喧嘩が収まるまでぶらぶらしてるだけですし」

ダンブルドア「喧嘩、かね?」

ハリー「はい。将来のことで、ちょっと意見が食い違ったみたいで」

ダンブルドア「そういえば、ふくろう試験の成績が返ってきたのじゃったな。
         君の防衛術の成績は目覚ましいものだったと聞いているよ、ハリー」

ハリー「ありがとうございます――でも、ほとんどパトローナスの呪文のお陰だと思いますけど」

ダンブルドア「ふむ。確かに君の歳で完全な有体の守護霊を出せるのは珍しいからのう。

         おまけに試験では、"伝言"まで披露したとか。確かに稀有なことじゃろう。
         しかし、それは君の努力が実った結果じゃよ、ハリー」

ハリー「……」

ダンブルドア「それでも納得いかないという顔をしているが……どうしたのかね?」

ハリー「……いえ、すみません。少し……マミのことを考えていて」

ダンブルドア「ミス・トモエか……」


 二人の間に、僅かな沈黙が共有された。


ハリー「――僕たちは少しでもマミの助けになればと、守護霊の呪文を練習しました。
     でも結局、マミは――」

ダンブルドア「彼女を助けられなかったのに、その呪文で高得点を取るのは心苦しい?」

ハリー「……はい。そんなところです」

ダンブルドア「ハリー、それは違う。君たちは彼女の助けになった。それは確かなことじゃよ」

ハリー「でも、マミは僕らと一緒にふくろう試験を受けられませんでした」


 ハリーの記憶には、今年度最初の授業の風景が焼き付いている。

 彼女が絶対に取るであろう変身術の授業。そこに、巴マミの姿は無かった。

 永遠に、もう二度と、彼女は自分たちと同じ教室で授業を受けることはない。


ダンブルドア「……どれほど彼女が頑張っても、彼との約束を果たそうとしても。
         それでも、覆せぬものはあるのじゃ……それこそ、運命の様に」

ハリー「……」


 それでもなお、諦めきれないという感情を瞳に宿すハリーに、ダンブルドアは残酷な現実を告げた。


ダンブルドア「さよう――たとえば出席日数とか」

ハリー「駄目ですか、やっぱり」

ダンブルドア「半年も休学しておったしのー。そりゃもう一回4年生やるしかなかったろうて」


 そう言って、ダンブルドアは顔の向きを変えた。真正面から日差しを受け、眩しそうに目を細める。


ダンブルドア「まあ、それでも彼女がそれを気にしているようには見えないが。
         彼女は十分、人生を楽しんでおるよ――彼との約束を、果たし続けている」


 ダンブルドアの視線を追うように、ハリーは窓の外を見やった。

 ――そこには、一生懸命杖を振るう、ひとりの少女の姿が。



・アルバス・ダンブルドア

 ハリー達の卒業後、校長職から退く。
 ワルプルギスの夜との戦いの後遺症が、とのことだが真偽は不明。
 ゴドリックの谷で静かに余生を過ごすが、後年、ホグズミードのホッグズ・ヘッドにて度々目撃された。


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 ――あれから、何年も経ちました。当然、色々と変わったこともあります。

 私の予見の才能は、あの夜以来、すっかり消えてしまいました。

 いまでは一生懸命水晶玉を見続ければ、ごくたまに、未来の景色が靄のように映る程度です。


「おそらく、それが君の持つ本来の才能だったんだろう。
 君にあった予見者としての才能は、ごく僅かなものだったんだ」

「じゃあ、あれは一体?」

「可能性としてもっとも高いのは、暁美ほむらの魔法だ。
 何度も繰り返された時間遡行によって歪められた因果が、君にも作用した。
 鹿目まどかを救いたいという彼女の願いが、その願いにとって都合の良い存在を生み出したんだ」

「でも暁美さんが繰り返せるのは、ワルプルギスの夜までの一ヶ月だけだったんでしょう?
 私の予見は、その前から――」

「過去の積み重ねが未来になるのではなく、過去と未来は同時に存在するものだとすれば問題は無くなる。
 暁美ほむらはいうまでもなく、君の力も広義で言えば一種のタイムトラベルだ。
 つまり主観時間軸を自在に選択できる者同士の意識が交わる時、主観未来の混合が――」

「……そういう話はやめて。頭が痛くなるわ」

「大事な話なんだけどね。まあ、いいさ。それより急がないと遅刻するよ。
 煙突飛行のお陰で移動自体は一瞬だけど、向こうの暖炉は混雑するだろう?」

「分かってるわよ――もうすぐ終わるわ」

「そもそも君たちの慣例として、初出勤の日は早めにでるものじゃないのかい?
 それなのになんでこんなにのんびりしているのか、やれやれ、理解に苦しむよ」

「迎えが来る筈なのよ。だから、それまでに終わらせればいいのっ」

「それは、君たちで言うことろの屁理屈だと判断する。
 いまこの瞬間に、その迎えがこないという理由にならないからだ」

「……相も変わらず、理屈っぽいわね、もう」


 制服であるマントとローブをようやく鞄に詰め終えて、私は背後にいる白い猫に振り返った。


「そもそも、なんであなたがここにいるのかしらね――インキュベーター」

Incubator「一応、形式的には、今日から同僚になるわけだからね、巴マミ。

       この個体はイギリス魔法省魔法少女部・対魔獣課の専任として派遣されているんだから。
       職員の管理や動向の把握も、僕に課せられた仕事の内で――」

マミ「はいはい。それじゃあ少しでも支度が捗る様に、少し静かにしていてくれないかしら?」

Incubator「分かったよ……あとそれと、ひとつ言おうとしていたことがあったんだけど」

「なぁに?」

Incubator「僕の呼び名だけど、インキュベーターというのは長くないかい?
       そういうことを考慮して作ったのが"キュゥべえ"という呼称だ。
       別に、あの廃棄個体だけのコードではないんだが」

マミ「私にとってのキュゥべえはあの子だけよ」


 そう言って、私は壁に目を向けた。

 僅かに思い出に浸る――そんな暇もなく、玄関のチャイムが鳴る。


杏子「おはよう、マミ。支度出来てるか?」

ほむら「あなたじゃないんだから。巴さんが寝坊なんてするわけないでしょう?」

Incubator「いや、それが――」

マミ「おはよう、二人とも」


 何か言おうとしたインキュベーターを軽く蹴り飛ばして、玄関の外に立つ二人に挨拶する。

 そこにはリクルートスーツ姿の、つまりは今の私と同じ格好をした暁美さんと佐倉さんの姿があった。

 二人はあの後、魔法省にできた魔法少女局に就職した。

 暁美さんはしばらく学生との二足のわらじで大変だったみたいだけど、いまは落ち着いたらしい。



マミ「準備は出来てるわ。さあ、行きましょう?」

杏子「ああ。……にしてもめんどくさいよねー。
    家から直接煙突飛行できりゃ、こんな恰好しなくていいのに」

ほむら「仕方ないでしょう。まだようやく、この街にも支部が出来たばかりなんだから」


 ワルプルギスの夜の影響で、ようやくこの街にも魔法省の支部ができた。

 私達は、そこからイギリスの魔法省に煙突飛行で通勤することになる。

 昔、ロックハート先生から貰った暖炉は完膚なきまでに壊れてしまったため、私もそうせざるを得なかった。


マミ「そういえば今度の週末、鹿目さんと美樹さんが、私の就職のお祝いをしてくれるって……
   二人も来てくれる?」

ほむら「もちろん、行かせてもらうわ。私達、巴さんの先輩になるわけだしね」

杏子「年上の先輩ってのも、おかしな話だけどな……まあ、学校の城壁に大穴開けちまったんだし、
    留年で済んで幸せだったと思わなきゃぁ」

マミ「わ、若気の至りよっ。また佐倉さんはそのことを持ち出して! というか、別にそれと留年は関係ないわ!」


 結局、"ホグワーツの歴史"に載ることになってしまった五年生の時の大惨事を思い出して、思わず声が上ずる。


マミ「まったく……確かにハーマイオニーさん達からみて一年遅れての卒業だから、最後の年は寂しかったけどね。
   ああ、そういえば会うのも久しぶりよねぇ。みんな、元気にしてるかしら」

Incubator「……それを確かめる為にも、はやく出発した方がいいと思うけどね」

杏子「あ? ――げっ、もうこんな時間か! のんびりしすぎた! 走るぞ、おい!」

ほむら「あ、ちょっと待って――もう。ほら、巴さんも行きましょう?」

マミ「え、ええ……そうね」


 荷物を持って、暁美さんんの後に続く。

 開いた玄関の向こうには、ようやくあの夜の傷跡を埋め直し終えた見滝原が広がっていた。

 空は晴天。九月の太陽が、街に光と熱を放射し、その光景を煌めかせている。


マミ「それじゃあ――行ってきます」


 部屋の中にそう言葉を掛けて、ドアを閉める。

 振り向けば、佐倉さん達は随分先に行ってしまっていた。

 追いつくために、新鮮かつ、窮屈にも感じるタイトスカートを翻しながら、私も足早に駆け出した。


マミ「もう、待ってったら――!」


 私は、いまもこうして歩いています。彼との約束を果たすために。

 時には辛いこともあるけれど、それでも私はやめるつもりはありません。
 
 ――彼がくれたこの素晴らしい人生を、その果てまで歩むこと。

 その為に、私は今日も歩み続ける。




・鹿目まどか&美樹さやか

 忘却術により、事件当夜の記憶は失われている。よって、魔法界のことは知らない。
 彼女たちにとって、二人の魔法少女は誇るべき英雄であり、友達である。
 現在は二人して同じ大学に通っている。美樹さやかは上条恭介と、未だに微妙な距離感を保っている模様。

 
・佐倉杏子&暁美ほむら

 イギリス魔法省で新たに設立された魔法少女局に就職する。
 主な仕事は魔獣の討伐や他国魔法省にも魔法少女法の整備を呼び掛けること。
 フィールドワーク派の杏子と、デスクワーク派のほむらでバランスは取れているらしい。
 

・巴マミ

 神秘部に半年以上引き籠っていた為、出席日数の関係で卒業が一年遅れる。
 それでも勉強に励み、ひたすら頑張り、限界まで踏ん張り――
 そうして張り切り過ぎたせいで、五年生のふくろう試験の際、ホグワーツの城壁に大穴を開けた。
 偶発的にとはいえホグワーツの防御を破った魔法使いとして、ホグワーツの歴史に名を残す。
 卒業後は魔法省の魔法少女局に就職。
 彼に誇れるような魔法使いを目指して、日々努力を重ねていく。


◇◇◇



 巴マミが見つめていた部屋の壁。

 そこには少し日焼けした、一枚の古い写真が貼ってある。
 
 アルバス・ダンブルドアが気を利かせて、撮影しておいてくれた魔法界の写真。

 そこにはホグワーツの教室で、その机の上に、ちょこんと座る白い猫の姿。

 ドアが閉まる音に反応してか、その猫は目を瞑り、柔らかく微笑んだ。
 

 ――いってらっしゃい、マミ。




≪完≫

投下終了。ここまで読んでくれてありがとうございました。

キターーキタキターーー!!!

前スレの続きより投下再開


 考えても答えは出ないので、情報収集を行うことにした。

 携帯のネット機能を使って、上条恭介が巻き込まれていた筈の事故について調べる。

 私の知る限りその事故は、前年度の夏休み明け、歩道を歩いていた上条恭介に、
 運悪く居眠り運転のトラックが突っ込んできた、というものの筈だった。


ほむら(……事故自体は起こってる、わね)


 だが、巻き込まれた被害者はゼロ。怪我をしたのは運転手だけだ。


ほむら(……どういうこと? 上条恭介の事故は、私が戻れるよりも以前に起こっている。
     なら、どんなことがあっても変わらない筈……)


 情報収集を続ける必要がある。

 今回のループは、まどかや美樹さやかと友好的な関係を築こう。

 そして、情報を聞き出さねば。


さやか「交通事故ぉ?」

ほむら「ええ。去年の夏休みの終わりに……この辺で合ったって聞いたから」

さやか「半年前のことなんて覚えてないに決まってるじゃん!
     さやかちゃんの脳細胞は、もっと有意義なことに使われるのだ!」

ほむら「例えば?」

さやか「……えーと……ロックマンのパスワードとか……」


 話にならない。

 諦めて、ファーストフード店の同席に座るまどかに視線を飛ばすと、彼女は「うーん」と考え込んで、


まどか「ほむらちゃんが言ってるのと同じのかは分からないけど、その辺りで起きた事故は覚えてるよ」

さやか「え、マジで? なんだよまどか、記憶術でも身に着けた?」

まどか「だってその日、さやかちゃんと上条君のデートだったんだもん!
     ニュースを見てちょっと心配したんだよ! ていうか、電話もかけたじゃない!」

さやか「あ、あー! あの日か! ……ってちょっと待てぃ! 別にあれはデートじゃねー!」

ほらむ(……それが、事故を回避した原因?)


 過去における、上条恭介の行動パターンが変わった……?

 それは、ありえない筈のことだった。


 私の魔法は時間操作。より正確に言うのなら、時間遡行と時間停止だ。

 この二つの内、時間遡行は読んで字の如く、世界の時間を巻き戻す魔法である。

 "基点"からワルプルギスの夜が襲来する日まで、きっかり一月分、私は何度でもやり直すことができる。

 ここで重要なのは、私の魔法は時間を"巻き戻す"という部分だ。

 それはつまり、常に"同じ基点"にまで戻るということ。

 そこからは無数の平行世界として分岐するが、この基点だけは常に不変だ。

 だから、基点より以前に確定している事象に対し、私は干渉をすることができない。

 佐倉杏子や巴マミの契約、上条恭介の入院などは、"基点"の時点で既に起こっていることなので、これを防ぐことは出来ないのだ。


ほむら(……なら、なぜ? 考えられるのは――)


 私の心の中で、ひとつの疑念が浮かび上がる。

 その疑念が確信に変わるのは、この街を縄張りにする、佐倉杏子に出会った時だった。

 CD店に寄った後、まどかがインキュベーターからのテレパシーを受け取り、魔女の結界に入りこんでしまう。

 ちなみに、このインキュベーターのテレパシーは、私が奴を襲撃しなくてもやってくるイベントだ。

 昔、そのことを疑問に思って『誰に襲われたわけでもないのに、なにが助けてだ』、と問うたことがある。

 奴らの返答はこうだった。


「だって、宇宙の熱的死を救うために、まどかに助けてて欲しいから」


 それからは、基本的にここで襲撃を行うようにしていた。

 出会う前に仕留められれば、まどかとの接触を遅らせることができるからだ。

 だが、今回は情報収集を優先させた。

 だから現在こうして、まどかと一緒に結界に入りこみ、使い魔に囲まれている状況にあるのだ。


さやか「な、なんだよ、これ! 気持ち悪い……」

まどか「これ、夢だよね? 本当じゃないよね……!?」

ほむら「……」


 一応、いつでも変身できるようにしておきながら、待つ。

 待っているのは巴マミだ。この街は彼女の縄張りであり、このパターンの場合、まず間違いなく彼女が助けに来る。

 だが、その予想もまた、裏切られた。


杏子「よう、危なかったな。平気か?」


 助けに来たのは佐倉杏子。本来、隣町を縄張りにしている筈の魔法少女だ。


まどか「杏子ちゃん!」

さやか「杏子!? あんた、その恰好は一体!?」

ほむら(……すでに三人は知り合いなの?)


 これは、これまでのループと余りにも違いすぎる。


 極めつけは、これだった。 


Incubator「やあ、杏子。おかげで助かっ」

杏子「うっせ。[ピーーー]」


 杏子はまどかの抱えていたインキュベーターを無造作に取り上げると、躊躇なく槍で引き裂く。

 ぼとりと、両断された死体が地面に転がった。


まどか「杏子ちゃん? なにこれ、酷い……!」

杏子「大したことねーよ。だいたい、こいつらはあたしらを家畜としか思ってねえような宇宙人だ」

ほむら「……!」

さやか「ちょっと、それどーいう――」

Incubator「困ったなあ。無駄に数を減らされるのは困るんだけど」

まどか「……! もう一匹、同じ子が!?」

Incubator「さっきのとは別の個体だよ。それより酷いじゃないか、杏子。いきなり体を破壊するなんて」

杏子「はん! 悪いけどこいつらを守るよう、マミに頼まれてるもんでね。
    グリーフシードの回収以外であたしらの目の前に現れたら、容赦なくぶっ潰すから覚えときな」

まどか「マミさんが……?」

ほむら(巴マミは存在する……でも、この街にはいない?)


 あとで聞いた話によると、巴マミは魔法少女ではなく、イギリスの学校に留学しているらしい。

 ――これで、私の立てていた仮説はほぼ確定した。

 ループの基点より、以前の時間軸が改変されている。

 そんなことができるのは、つまり――



ほむら「……時を操る魔法少女が……私の他にもいる?」

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

成長が足りないって下手したら
分霊箱巡りに連れて行って貰えない可能性もあるよな。このハリー

分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

アイツも改心させたいのに

トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwwwwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

成長が足りないって下手したら
分霊箱巡りに連れて行って貰えない可能性もあるよな。このハリー

分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

アイツも改心させたいのに

トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwwwwwwwwwwwwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

成長が足りないって下手したら
分霊箱巡りに連れて行って貰えない可能性もあるよな。このハリー

分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

アイツも改心させたいのに

トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

成長が足りないって下手したら
分霊箱巡りに連れて行って貰えない可能性もあるよな。このハリー

分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

アイツも改心させたいのに

トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
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いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

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マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

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ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
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時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


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それでもダンブルドアなら
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超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
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成長が足りないって下手したら
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分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

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トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

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収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
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流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

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おつ!
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ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

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>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
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えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

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>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
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時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

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超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
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成長が足りないって下手したら
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分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

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ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
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一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
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>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

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マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
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マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

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ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

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マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

>>29逆転時計

>>29
なんでageたし

時間に関する魔法は魔法省のトップシークレットだから、作中で出てきたのは逆転時計が精々だな
呪文ももしかしたらあるかもしれんが、少なくとも原作で出たことは無い(はず)


>>30
優勢どころか超優性
本来裏目に出るべき計画が全部失敗してるから、ハリーが積み上げる筈だった強みが殆どない

それでもダンブルドアなら
あのホモなら何とかしてくれる・・・

>>32
超優性っていうがお辞儀さんがまだハリーと対面してないなら
原作の賢者の石みたく触れてしまえばOKじゃないの?

成長が足りないって下手したら
分霊箱巡りに連れて行って貰えない可能性もあるよな。このハリー

分霊箱巡りって書くとなんか観光みたいだな

えー、右手に見えますのが、ハッフルパフのカップこれが例のあの人の分霊箱となっておりまーす
左手にみえますのが、レイブンクローの……

あれ?これ主にホグワーツ創設者の遺物博物館じゃね?

そろそろ来るだろうから、黙って待とうぜ

アンブリッジBBAは来ないのか・・・

アイツも改心させたいのに

トム・リドルってまほうs

>>38
ヴォルデモートにそういう収集癖があったからあながち間違いではない
本当はグリフィンドールの剣を箱にしたかったっぽいし

>>34
一番痛いのがハリーの血で肉体蘇生してない事かと
あれでリリーの愛まで混ざったから、ヴォル=ハリーの似非分霊箱化してくれたわけだし

>>42
収集癖っていうかある種の潔癖症じゃね?
偉大な自分の魂が入るのだから、優れた有名な魔法使いの遺品とか特別な魔法具でなければならないっていう
流石に指輪の中身が死の秘宝とまでは知らなかったようだけど

投下終了です

追記。ほむらのループ形式、ループ期間に関しては諸説ありますが、このSSではこういう感じで、ということでご了承ください

乙です

乙です
1スレ目に引き続き2スレ目のタイトルでもマミさん物騒な呪文唱えてるなw

マミ・ザ・デストロイヤー乙

インペリオも唱えてええんやで

おつ!
マミさんにインペリオされたい
でもゴブレットが最終章だから三スレ目までは行かないかな?

この時点ですでにハリポタもまどマギもかなり流れが変わってるからこれからどう動くか予想できない……偽ムーディがこんなに早く捕まるとは
メモの送り主や魔法少年リドル★マギクスの動向も気になるし

いままでは各章の最後辺りで大きな変更点が発生してたけど今回は最初から変化が大きいな。
ようやくほむらも登場したし、闇の魔法使いとインキュベーターも暗躍してるし、最終的には魔法使いと魔法少女が交差するとんでもない戦いが待ってたりして。

乙!

マミさんはインペリオ中に制服をナニしたと言うんだ……?

楽しく読んでるんだけどひとつだけ
ロメルスタって誰だよロスメルタだよ!
バタービールぶっかけんぞ!!

乙!
昼間前スレ見つけてやっと追いついた
楽しみにしてます

シリウスがまともに活躍するのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
偽が捕まった訳だし、真ムーディもゴブレットで活躍するのかな?

乙乙!!

ハリーの活躍アレダケとか舐めてんだ???????????????

乙!今追い付いた!
キュウベえさんに変わりたい!

凄く面白い
わくわくするなぁ

来てたー
面白いな

デストロイヤーさんのファンクラブってさぁ、
自習にしてくれるって名目だけじゃないだろ?ん?
正直に言えよ小僧達


前スレにリンクが無かったから打ち切りになったかと思ったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

現状だけ見れば良い方に転がってるけど、長い目で見ると最悪な条件がそろいつつあるな

お辞儀ハゲさえどうにかすればええねん

今おいついた!

待ってますぜ!!

時間操る呪文ってなんかあったっけ

追い付いたー

偽ムーディは捕まえたけど、まだまだヴォルデモート優勢なんじゃないか、これ?

ようやく動けるようになって見に来たらカオスなことになってて笑った
書くネタもあんまりなかったんで埋める手間は省けましたけれども。
方向性はともかく、ここまで人に原動力を与えられたという点は誇っていいのだろうか。

ネタを書く雰囲気でもないので、最後に宣伝を。
■ コミケにSS速報で何か作って出してみない? 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368282039/l50)
このスレの企画に参加させていただけることになりました。

10/6のサンクリでSSの合同誌を無料配布するそうです。
自分はハリポタもまどマギも関係ない『猫とネズミ』というオリジナル短編を書かせてもらいました。
当日サンクリ行くという方で、興味のある人は手に取っていただければ幸いです。無料ですし。

では、またどこかで

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