モバP「いいお酒が手に入ったので」(1000)

P「今度……って……」

 あの人と目が合う。
 やられた。またか。

P「楓さん。……いつも以上にシッポ振り切れてますね」

 そう言ってあの人は苦笑した。

 別に「酒」という言葉に過剰反応してる訳じゃない。
 あの人の言い方に釣られるのだ。
 きっと前世は、性悪ないじめっ子だったに違いない。

楓「Pさん……楽しそうですね」

 釣られた腹いせをぶつけると、あの人の苦笑は堪え笑いに変わった。

P「いや、だってノーディレイで反応してましたもん。……実に見事だな、と」

 そう言ってまたくつくつと笑う。悔しい。
 なにが悔しいって、釣られたことよりあの人の笑う姿が素敵に見えることだ。

 ああ、やっぱり好きなんだな。と。

楓「で? いつにします?」

 あの人は手帳をめくりながら言う。

P「そうだな……この日なら雑誌のインタビューだけだし、夜でどうです?」

 手帳の先、指で示された日付を確認した。意外ときれいな字を書くのね。

楓「わかりました。それじゃ」

 私は、とびきりの笑顔を貼り付ける。

楓「楽しみにしていますね?」

 皮肉たっぷりの笑顔に、あの人は

P「はい。楽しみにしてください」

 と、とびきりのドヤ顔で答えた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371785287

むしゃくしゃしたので立てた。後悔はしていない。

・地の文多めです
・書き溜めがほとんどないので、ゆっくり進行です
・ss神を降ろしながら書きますので、しばらくずっとお待ちください(←をい)

 出会いは、さほど劇的なものでもなかった気がする。
 ……いや、居酒屋からアイドル誕生なんて、ちょっとは劇的かも?
 そう。
 あの人とは居酒屋で知り合った。わりとどこにでもありそうな話だ。
 ただ、あの人がプロデューサーだったというだけ。
 焼ホッケが美味しそうだった。ホッケに釣られたのだ。
 なんともリーズナブルな出会いではないか。

楓「ホッケ、美味しそうだな……」

 誰に宛てたわけじゃなし、ひとりつぶやいてると。

P「脂のっててうまいですよ! 大将のお勧めだし!」

 そんな返事がかえってきた。

楓「……え?」

P「だよね! 大将!」

 カウンター越しに、居酒屋の大将と会話している男の人がひとり。
 正直『なんだ? こいつ』と思った。
『誰この人』じゃない。『なんだこいつ』だ。

大将「いいのが入ったからね! あとひとつしかないけど!」

 我ながら釣られやすい体質だな、なんて思いつつ。

楓「じゃあ、最後のひとつ。いいですか?」

 あの人と同じものを注文した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

楓「あ……おいし……」

 大振りのホッケは身がふっくらして脂がよくのっていた。日本酒がすすむ。
 私は二合徳利をもうひとつ注文した。
 あの人はニコニコしながら、皿の料理を平らげる。

楓「あんまりお酒飲まれないんですね?」

 私は隣のホッケ男に声をかけた。
 なんで声をかけたんだろう? 普段は私から会話を切り出すなんてことしないのに。
 きっとホッケが美味しいせいだ。そうに違いない。
 ホッケ男は「いやあ」なんて頭をかきながら言った。

P「実はお酒弱いんですよね」

 その時、私はきっと微妙な顔をしていただろう。

 居酒屋なのに?
 お酒飲まないなんて?
 ひょっとしてひとり飯?
 さびしさ満喫中?

 失礼極まりないことを考えているところ、ホッケ男は言葉をつないだ。

P「弱いんですけど、飲めなくはないですよ? それに」

楓「それに?」

P「こういう雰囲気、大好きなんですよね」

楓「ああ、なんか分かりますね」

P「賑やかで活気があって。まあ、静かなとこもいいんですけどね」

 はじまりの会話は、とてもありきたりだった。

 あの人の話が止まらない。
 大将と同郷だということ。
 一人暮らしだということ。
 つい何度も食事に来てること。
 裏メニューがあること。

 ……裏メニュー?

楓「よくある、まかない飯、みたいな?」

P「いえいえ、そうじゃなくて」

 どうやら大将と同郷なのをいいことに、だいぶわがままを言っているみたいだ。

P「大将がね? 今度なに食べたいよ? って。そう言ってくれるんで」

大将「いやー、やっぱ後輩は大事にしないとさ」

P「そんな訳で、好意に甘えてるんですよ」

大将「いや、俺も自分の食いたいやつ仕入れてるし。お互い様だ」

P「ありがとうございます、大将」

 ああ、なんかうらやましいな。
 そんなことを思った。

 私もこっちに出てきて、だいぶ経った。一人暮らしも慣れた。
 同郷の友達とは疎遠になってるし、モデル仲間とはつかず離れずの関係。
 仕事にやりがいがあるから続けてるけど、ちょっとさびしいと思うこともある。
 だから、時々こうして飲んでいる。
 なんとなく賑やかな居酒屋にいると、ぼっちじゃないって、思う。
 我ながらさびしんぼぶりを発揮しているな。

大将「こいつ仕事が忙しいから、食うのも不規則だしな」

P「仕方ないですよ。そういう仕事ですし」

大将「ま、俺がかわいい後輩のために、手料理を振舞っているわけだ」

P「メニューにあるものは手料理とか言いません」

楓「失礼ですけど、お仕事はなにを?」

P「ああ! そうでしたね!」

 あの人は、胸ポケットから名刺ケースを取り出した。

P「こういうものです」

 そこにはアイドル事務所の名前と、プロデューサーの肩書き。

P「よかったら、アイドル、やってみませんか?」

 なに言ってんだこいつ?
 私は思考停止した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

楓「いえいえ。実はですね」

 私も名刺を取り出す。
 自分の所属事務所と名前、そして連絡先。
 私みたいな、いわゆる『マネキン』はセルフプロデュースが基本だ。
 コネの世界なのだ。
 自分という素材を、売り込む。
 些細なつながりでも、仕事を生むなら全力だ。

P「あ! ああ! はいはい。あそこですかー。なるほどなるほど」

 どうやら理解してくれたらしい。
 私は素材。アイドルのお手伝いならできますよ、と。

 ところが。

P「そっかー。なら話は早いな」

 彼はかばんから手帳を出すと、あわててめくりだす。

P「じゃあ、こちらから高垣さんの事務所へ電話します。ちょっと時間ください」

 心の中でガッツポーズ。仕事ゲット!
 そんな打算の斜め上を、あの人は走る。

P「高垣さんのプロデュースできるの、楽しみにしていますね」

 私は再び思考停止した。

 そこから先はあまりよく覚えていない。
 ただ、大将がその場で作ってくれた裏メニューのカレーが美味しかった。
 カレールーを包丁でごりごり切っているのは、少しシュールに見えた。
 中華なべでカレー。しかも15分くらいで。

大将「やっぱりカレーはバー○ントだよな!」

 そう笑いながら出してくれたカレーの味は忘れられない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

続きはまた後日。
勢いで書けたら、今日中にもう一回だけアップするかも。

ではでは、よろしければゆっくりお付き合いくださいませ~

画像先輩ありがとうございます!ウヒョー

少し時間が取れたので、きりのいいところまで投下します

↓ ↓ ↓

 数日後。
 社長に呼び出されたと思ったら、突然移籍を言い渡された。

楓「は? ど、どういうことです?」

 なにかやらかしただろうか?
 頭の中を『無職』を文字が駆け巡る。
 冷静に考えれば、移籍なのだから無職はありえないのだけど。
 その時は、自分の生活について考えるのが精一杯だった。

社長「実はな。先方からぜひに、と言われてなあ」

 なぜか社長はニコニコと笑みを浮かべていた。

 話をよく聞いてみると、この前のホッケ男の事務所へ移籍、ということだった。
 急にホッケの脂とカレーの味が蘇ってきた。
 ホッケ男、なかなかやるな。
 実は豪腕の持ち主なのかと、感心した。

社長「あちらの社長は、ここを立ち上げる前に働いていた事務所の先輩でね」

 豪腕でもなんでもなかった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 とはいえ、CGプロの社長とは面識がない。
 なにか釈然としないまま雑務を整理し、一ヶ月ほど引継ぎを行って。
 私は事務所を円満退社した。移籍だけど。
 驚くほど穏やかな移籍だった。もっと揉めるかとワクワクしたのは秘密だ。

 そしてCGプロへ足を踏み入れることとなった。もちろん社長も一緒。
 あちらの社長は、なぜかうちの社長に雰囲気が似ていた。
 同じ釜の飯の間柄なら当然かも。
 形式的な挨拶を交わし、ひたすら長い世間話に耐えながら、本題を待つ。

CG社長「ということで、よろしくお願いしますね」

 しまった。
 肝心の本題がスルーしていった。

楓「は、はい! よろしくお願いします!」

 あわてて取り繕いの挨拶をする。

モデル事務所社長「しっかりやってくれよ、な? ……テレビの前で楽しみに待ってる」

 はい社長。今までありがとうございました。
 でもテレビの前で待機するのはやめてください。
 私は、違う事務所所属という立場を実感しきれないまま、お世話になった社長を見送った。

CG社長「それで高垣さん。さっそく貴女の担当を紹介したいのですが」

楓「え? はい! お願いします……」

 内線電話をかけてすぐ、私の担当となる人がやってくる。
 やはり。

 ホッケ男そのものだった。

P「Pと申します。高垣さん、『はじめまして』」

 うわ、しらじらしい。
 それが腹芸というやつだ。悔しいけど乗るしかない。

楓「あ、『はじめまして』。Pさん」

 私の新しい門出は、焼ホッケの思い出から始まった。
 あの人の笑顔は、居酒屋のときから変わっていない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ということで移籍編でした
土日は書けないかもなので、月曜日にアップできれば

とりあえず、また来週 ノシ

>>16 訂正 5行目

×「『無職』を」 → ○「『無職』の」

お待たせしました~

書いてて「こりゃかなり長くなるな」と感じてます
でも完走まで書き切ります

よろしければ、ゆっくりとお付き合いください

では、お昼を食べたあたりで投下します

昼飯届かないorz

では投下します

↓ ↓ ↓

 お互いの自己紹介のあと、Pさんが事務所を案内してくれた。
 多くのアイドルを抱えてる事務所にしては、だいぶちんまりした……、もとい。
 大きくはないが機能的なところに見える。

 そこで一人の女性を紹介された。

P「高垣さん。こちらが事務所の庶務経理を担当してる、千川ちひろさん」

ちひろ「はじめまして。千川と言います」

楓「はじめまして。こちらでお世話になります、高垣と言います。よろしくお願いします」

 千川さんはなかなかにかわいらしい感じで、アイドルと言ってもいい雰囲気があった。

P「ちひろさんはですね。うちのメインブレーンですから」

ちひろ「Pさん? あんまり新人さんにウソ教えないでくださいね?」

P「いやだって、ちひろさんいないとうちの事務所回りませんから。これは事実です」

ちひろ「私はアイドルのみんなやPさんたちのサポートをしているだけです。大げさですよ」

P「そうかなあ? 冷蔵庫にいつも謎ドリンク常備して、みんなを鼓舞してるじゃないですか」

ちひろ「謎ドリンク言わないでください! みんなが喜んでくれるから用意してるだけです」

P「まあ助けられてるのは確かですから、ね?」

ちひろ「そ、それなら……用意した甲斐がありますけど……」

 なるほど。確かにかわいらしい人だ。
 こういう女性がいると、事務所の雰囲気も華やかになるだろうな。

ちひろ「えっと、高垣さん、でしたっけ?」

楓「はい」

ちひろ「Pさんからセクハラ受けたら、真っ先に相談してくださいね!」

楓「は……はあ……」

P「ちひろさん? それはどういう意味かなあ?」

ちひろ「え? 会社のセクハラ相談員ですがなにか?」

P「なんか作為的なものを感じるんですが」

ちひろ「いいえ~。ごく常識的なお話をしてるだけですよ? 作為なんて、ねえ」

 なかなかパワフルな人だ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ひととおり案内を受けたあと、私とPさんは会議室へ。
 前の事務所から引き継いだプロフィールの確認、だそうだ。

P「えーと? 趣味が『温泉めぐり』ですか」

楓「はい。好きですね」

P「それから、『お酒』ですか」

楓「ええ、まあ」

P「なるほどなあ……」

 あの人はなにか含んだように言葉をつむぐ。

楓「あの、なにか?」

P「高垣さんって」

楓「はい?」

P「……『おっさん』ですよね」

 そう言ってあの人は苦笑した。

 失礼な。
 お酒と温泉が好きで、別にいいじゃないか。
『風呂あがりによく冷えたビールがジャスティス!』とか言うわけじゃなし。
 好きだけど。
 確かにおっさんという自覚はなくもない。
 それも私だ。文句があるか。

楓「なにか? 問題でも?」

 たぶん私は、ぴきぴきと青筋立てていただろう。
 でもあの人は。

P「いえ。それがいいんです」

 急に真顔になって、こともなげに言う。
 その表情にどきっとした。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 あの人は語る。

 アイドルは個性のかたまり。
 その人となりを見て、個性を最大限に引き出し、魅力的に見せないといけない。
 それが自分の役割。
 だから、この確認はとても重要なこと。
 現在の自分を確認して、意識を共有して、どこへ進むのか。
 アイドルとプロデューサーは、一心同体なのだ。

 そんなことを熱く、でも訥々と話す。
 なるほど、Pさんは仕事に対して真摯なんだ。
 自分の将来を任せてみてもいい、そんな気にさせられる。
 そして。
 仕事が好きなんだろうな。と。
 そんな印象を持つ。

P「あ。そういうこととは別にですね」

楓「はい?」

P「僕も、温泉大好きなんですよ」

楓「あら」

P「高垣さんとは、いろいろ話が合いそうで、楽しみなんですよ?」

楓「……でも、お酒は弱いんですよね?」

P「いや、そこはそれで」

楓「ふふっ」

P「あはは」

 この人とは、戦友になれそうだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

P「ところで高垣さん」

楓「あ。名前でいいです。……なんか苗字で呼ばれるの、慣れてないんで」

P「……じゃあ……楓さん」

楓「はい……」

P「どのあたりによく行かれてました?」

楓「……はい?」

P「いや。温泉ですけど」

楓「あ。ああ。地元にいたときは『龍神温泉』ですかね」

P「また渋いところですね」

楓「よくご存知ですね?」

P「まあ、温泉好きですから」

 感心するやら呆れるやら。本当に温泉好きなんだ。
 龍神温泉は、私の地元では有名なところだ。行きづらいということで。
 でも、元湯の露天で日高川からの風に当たりながら、柔らかなお湯に浸かるのは至高。
 時間の無駄遣いという贅沢なのだ。

P「『忘帰洞』とかは?」

楓「ああ。あんまり」

P「おや」

楓「だって、時間が悪いとすごく狭いんですもん」

P「ああ、なるほど」

楓「風景見えねー! 金返せー! って」

P「ありがちですよね」

楓「ふふっ」

P「あはは」

 お互いに好き勝手。温泉談義に花が咲く。
 仕事以外で話をすることが苦手な私が、こうして会話に溶け込んでいる。
 それが不思議でならない。
 お互いのツボが一緒ということなのだろうか。
 そういうことなら、これほど嬉しいこともない。

 もはや戦友かもしれない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ミーティングという雑談に一息ついたところで、あの人が切り出す。

P「そういえば、大将の店にはもう来ないんですか?」

楓「ああ。あの時はたまたまで」

P「一見さんだったんですか」

楓「いろいろなお店を開拓するのが好きなので」

P「大将さびしがってましたよ? 『この前の美人さん、はよつれて来い』って」

楓「いやいやいや。美人とか恐れ多いです……」

P「僕も楽しかったですし。仕事抜きにお会いしたかったんですよ」

楓「あ」

 急に気恥ずかしくなる。

楓「なんか……恥ずかしいです……」

P「あ。……なんか僕こそすいません。これじゃ口説いてるみたいだ……」

 気まずい空気が流れる。

P「で、ですね。よかったら場所を変えて」

楓「は、はあ……」

P「大将のとこ、行きませんか? ちょっとした歓迎会です」

楓「そ、それなら。はい。よろしければ……」

P「ああ、よかった」

 あの人はひどく安心したようなため息を吐き、そして微笑む。
 あ。
 あの時の笑顔だ。

 その笑顔を見て、私はほのかに暖かくなる何かを感じた。
 もっとその笑顔を見たい。
 今ならそう言えるだろう。
 でも、その時はこれで十分だった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

やっと昼飯キタ━(゚∀゚)━!

食べながらログ読むので、何かあれば伺います

食った。全く時間がない
ちくせう……

25歳児は、うーん…… がんばります。としか言いようがないです
自分の力量で可愛らしさが書けたら、自分の中では成功です

楓さんは歳相応だけど、かなり無邪気なんだろうな、と
あくまでも自分なりのイメージです

※「ここでいう高垣楓という人物は架空の人物であり(ry」というお約束を書いたほうがいいのかな?

みなさんのイメージでお楽しみください
それがなにより、作者の一番の望みです

夕方にアップできるようなら、また来ます
そうでなければ明日

では、戦場へ戻ります ノシ

少し時間が取れました

ということで、ゆっくり投下

↓ ↓ ↓

大将「はーい! おふたりさん、カウンターどうぞ! ……来たな?」

P「大将、ちゃんとつれてきたよ。少しくらい慰労してくれてもいいと思うんだ」

 大将は、この前と一緒で明るく迎えてくれた。

楓「お……お久しぶりです……」

大将「おう美人さん。待ってたよ」

楓「び、美人とか……違いますから……」

 真正面から美人などと言われ、恥ずかしさとくすぐったさで落ち着かない。
 それでも大将は、ニコニコと笑いながら。

大将「いやあ、正直に美人って言うのも、あんまりよくないのか?」

P「そりゃあそうでしょうよ。それほど面識のない人に言われても、怖いだけです」

大将「俺は思ったことを思ったとおりに言っただけだぞ?」

P「客商売なんだから、少しは気遣いを覚えてください」

 相変わらず、仲のよいやり取り。
 やっぱりうらやましい。

P「今日は楓さんの歓迎会だから。大将なんか見繕って。お願い」

大将「ほー。そっちの美人さん、楓さんって言うのか」

 なぜか名前を呼ばれただけで落ち着かなさが増す。
 うーん。はやいとこ一杯いただきたい。

楓「よ……よろしくお願いします……」

大将「はいよ。こいつが初めてお仲間連れてきたんだ。任せてもらうよ」

 そう言って大将は厨房へ下がっていった。

楓「あの……事務所の方とは?」

P「ああ。ここはなんとなく『隠れ家』なもんで」

楓「はあ」

P「完全プライベートの場所なんです。ゆっくりするための」

楓「そんなとっておきに、私がご一緒していいんですか?」

P「なに言ってるんですか」

 あの人は笑顔を浮かべて言う。

P「ここは、楓さんと出会った場所ですから。二人のとっておき、ですよ」

 ああ、まいった。
 この人は、いとも簡単に入ってくるんだな。

 私とPさんとの間に、秘密がひとつできた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

大将「日本酒でよかったか?」

楓「は、はい。日本酒、好きですから」

P「『特に』日本酒が好みだそうだから」

楓「Pさん?」

大将「はは、そりゃ結構だ」

 大将は二合徳利を二本、用意してくれた。
 それからお新香とスルメイカの一夜干し。

大将「一夜干しは焼きたてのうちに食べないと、身が硬くなるから」

 大将はそう言って、なぜか自分もお猪口を持っている。
 3人がお猪口を手に取り。

P「楓さんの前途を祝して」

大将「それから久しぶりの再会を祝して」

三人「乾杯」

 一口目をいただく。

楓「甘口で呑みやすいですね」

大将「おお、そりゃよかった! なら、こいつにお礼言ってくれよ」

 と、大将はあの人を指さす。

P「いや、僕は自分の選んだ酒を持ってきただけですし」

大将「いやあ? かなり下心があると思うけどな、俺は」

楓「え? え? どういうことですか?」

P「いやいやいや。下心もなにもないですって!」

大将「だってな? このお酒」

 大将は、そっと耳打ちしてくる。

大将「岩手の『南部美人』って、銘柄だ」

 お猪口一杯で、私は顔が真っ赤になった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 あの人が大将に、ネタばらしはやめろと訴えかけてる間。
 私は、出されたイカに手を伸ばす。
 日本酒にはイカだ。マイジャスティス。
 切り身を一口かじると、身の厚いイカの甘さと潮の香りが広がる。

大将「どうだい楓さん? うまいだろ?」

楓「はい。とても柔らかいですね」

大将「そりゃそうさ。これは冷凍ものじゃない。昨日獲れたばかりのイカだからな」

 大将は自慢する。
 確かに簡単に噛み切れるくらい柔らかい。でも一夜干し独特の甘さとうまみがある。
 これはやみつきになりそうだ。

大将「鯵ヶ沢の友達が今日持ってきてくれたやつだ。だからメニューにはない」

P「青森に友達がいるんですか?」

大将「おう。出張がてら寄ってくれたんだよ」

P「なんか新幹線の中、イカくさそうですね」

大将「それを言ってやるな……」

 顔も知らない大将のお友達、ごちそうさまです。
 あなたの犠牲は忘れません。

楓「皆さんに愛されてるんですね、大将は」

大将「うんにゃ。みんなうちの奥さん目当てだからな」

P「そうそう。大将の奥さん、えらく美人なんですよ」

 そう言ってPさんは、携帯の写真を見せてくれる。
 そこには、デレっとした大将とモデルみたいな奥様。
 なるほど。私でもファンになる。

楓「奥様に愛されてるなら、男冥利につきそうですね」

大将「はは……まあな」

 大将はテレを隠そうともしない。奥様を愛しているのだろう。
 そういう関係、いいなと、思う。

楓「奥様は? お店にいらっしゃらないんですか?」

大将「ああ。店には出ない。子供が小さいからな」

P「二歳になったんでしたっけ?」

 子育て中なのか。
 二歳なら目を離すわけにはいかないな。
 かわいい盛りだとは思うけど。ひとり身の私には感覚がわからない。

P「かわいいお嬢さんですよね! 将来はうちの事務所に」

大将「馬鹿言うな。お前に任せるほど危ないものはねぇ」

P「うわ、きっついですわ……」

 そう言って二人は、ゲラゲラと笑いあった。
 私は手酌で二口目をいただく。

P「あ! 気付かなくてごめんなさい」

楓「いえいえ。手酌のほうが自分のペースで呑めるので」

P「でも今日は、楓さんの歓迎会ですから。主賓に手酌はいかんでしょう」

 そう言って、あの人はお銚子を摘みあげた。

P「ま、一口だけでも。どうぞ」

楓「ありがとうございます……」

 三人だけの歓迎会は続く。

 お造り。もも串。うにご飯。
 大将の出す料理はおいしい。自然とお酒がすすむ。
 気がつけば、三本の徳利を空けていた。私だけで。
 あの人の目がとろんとしている。

楓「Pさん。眠くなりました?」

P「あはは。……はい。お酒が入ると眠くなるもんで」

楓「そろそろお開きにしませんか?」

P「そうですね。……明日も仕事ですし」

 大将にお礼を言って、お店から出た。
 お会計はPさんが出した。割り勘にしようと言ったのに。
 次は私が出そう。

 外は相変わらずの残暑だ。ビールのほうがよかったかな?
 でもビールはすぐ汗になるし、やっぱり冷酒のほうが好きだ。
 そんなことを考えながら、駅までふたり歩いていく。

楓「大丈夫ですか? 乗り過ごさないようにしてくださいね?」

P「はい、大丈夫です。たった三駅ですし」

楓「ほんとかしら?」

P「まあ乗り過ごしてもこの暑さですから。どこでも寝れます」

 そう言ってあの人は笑った。

楓「ほんとに、気をつけてくださいね? 何かあったら洒落になりませんし」

P「はい。ありがとうございます。お気遣い感謝いたします!」

 そう叫んで敬礼をひとつ。

楓「ぷっ……ふふっ……」

 つい噴き出してしまう。

P「ということで。また明日。よろしくお願いしますね」

楓「はい。今日はありがとうございました」

P「いえいえ。これからどうぞ、長いお付き合いで」

楓「はい。こちらこそ」

 熱気にあてられながら、それぞれの家路へ。
 明日からがんばろう。

 そう、決めた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

続きはまた明日

ではまた ノシ

お待たせしました~

続きを投下します

↓ ↓ ↓

 翌日。

 私はレッスンルームに来ている。
 まずは基礎の確認ということらしい。

トレーナー「まずは体力チェックをしますね?」

楓「はい。よろしくお願いします」

トレ「高垣さんはモデルをやってらっしゃったということなので……」

 正直、なめていた。
 モデルは体力勝負の仕事だし、日頃から運動はやっていた。
 普通に動いたり、たとえばダンスであってもそれなりについていけると思ってた。
 しかし、このへばりようはなんだろう。

楓「ふう……はあ……はあ……」

 息をするのもしんどい。
 モデルのときと、使う筋肉が違うのだ。
 これはきつい。地道にレッスンに励まないと追いつかない。

トレ「高垣さん、すごいですね! さすがモデルさんです」

 トレーナーはえらく喜んで、私にスポーツドリンクを手渡してくれた。

楓「そう……ですか? ……はあ……全然……ふう……ついていけない……」

 すっかりライフがゼロの私に、トレーナーさんは言う。

トレ「すごいですよ! だって、初心者メニューじゃなくて上級メニューでしたし」

楓「……え?」

トレ「基礎体力はあるだろうと思って、普段の子達のレッスンと同じレベルにしました」

 トレーナーさんの笑みが怖い。

トレ「これなら、今でも十分にステージこなせるくらいですよ。自信持って!」

 初日から全力とは。
 私の明日はどっちだ。

 午後。
 今度はボイストレーニング。
 歌はカラオケ程度しかやったことがないから、これはかなり興味がある。

ベテトレ「まずは、ピアノに合わせて『お』で歌ってください」

 こんなレッスンは、高校の音楽の授業以来かな。
 校内合唱コンクールでがんばったのも、いい思い出。

 音階がどんどん上がっていく。
 なんとかついていく。結構きついな。

ベテ「はい。おつかれさまです」

 終わったときは、のどに熱を持つような感触が残った。

ベテ「高垣さんの声質は、とても素直できれいですよ」

楓「ありがとうございます」

ベテ「音域も広いので、いい歌い手さんになると思います」

楓「そうなんですか?」

ベテ「3オクターヴ近く出せる人はそれだけで貴重ですよ?」

楓「はあ」

 そう言われても、どうすごいのか全くわからない。

ベテ「やや声量が細いのと、換声点付近がふらつくので、トレーニングは必要ですね」

楓「換声点って、なんですか?」

ベテ「地声から裏声に切り替わるところです。のどの筋肉の使い方が変わるんですよ」

楓「ほー」

ベテ「輪状甲状筋っていう筋肉です。声帯を引っ張る筋肉ですね」

楓「ふむふむ」

 私はただ相槌を打つだけ。専門外だからさっぱりわかってない。

ベテ「歌うには、ダンスと一緒で、専門の筋肉をフル活用しないとならないんですよ?」

楓「それを鍛えていくってことですか?」

ベテ「そうです。ただ使いすぎは筋肉に無理をさせてしまうので、少しずつ」

楓「はい」

ベテ「休養もすごく大事ですよ? 商売道具ですからね?」

楓「ああ。はい。そうですね」

 言われて気づく。
 そうか、アイドルって歌う仕事もあるんだ。
 自分がその立場になるとは、全く思ってなかったけど。
 そもそも、この歳でアイドルって。

 ……いや。
 私よりも先輩の方がいるじゃないか。年齢的に。
 歳は関係ないな。うん。
 彼女たちは、確かに魅力的だ。
 自分がそこを目指せるかはわからないけど。でも。
 こういう仕事に就いたのだ。
 やるからには、全力。
 昔からそうじゃないか。

ベテ「じっくりやっていきましょう。ね?」

楓「はい、お願いします」

 少しはアイドルらしいプロ意識を持てただろうか?


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 レッスンが終わるころに、あの人が現れた。
 朝ここに送ってくれてから、別の現場に行っていたらしい。
 その分刻みのスケジュール管理は、どこから来ているのか。

P「楓さん、お疲れさまでした」

楓「Pさん、ありがとうございます」

P「いえいえ、これが仕事ですから」

 これが仕事。この人は完璧主義なんだろうか。

P「初めてのレッスン、どうでした?」

楓「いや、なんかダメダメですね。正直きついです」

P「そうですか? ベテトレさんなんか『逸材!』って興奮してましたよ?」

楓「うーん。全くそんな感じはなかったんですけど」

P「そりゃレッスン生の前でキラキラ目を輝かせることはないでしょ」

 まあ、そりゃそうか。
 レッスン中はクールに。基本なんだろうな。

P「トレーナーさんも、基礎力は出来上がってるって言ってましたし」

楓「はあ」

P「要するに『即戦力』のお墨付きをいただいたわけです」

 即戦力。
 まだやってきたばかりのルーキーに即戦力とは、いかがなものか。
 でも、期待されていることはわかった。
 応えられるかどうかは、わからないけど。
 努力はしよう。

P「あ、そうそう」

楓「はい?」

 帰りの車で、あの人が言う。

P「今晩は、晩酌禁止ですよ?」

 ちっ。ばれたか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 しばらく経って。

 私のポートレートを撮ることになった。
 いわゆる『宣伝スチル』というやつ。
 前の職場でもやっていた。飽きるほど。
 もっとも、それがメインの仕事だから、スチル撮影になんの感慨もない。
 ただ。

楓「これ、着るんですか……」

 フリフリの衣装とか。
 ヒラヒラのドレスとか。

 うわあ。
 アイドルという仕事に就く以上、これは避けられないと思っていたけど。

楓「なかなか、きついなあ」

 そうぼやく。

P「楓さんのイメージを作っていくためのものです。いろいろ試しましょう」

 あの人はこともなげに言う。

 マネキンだったときは衣装がメインだったし、なりきることもできた。
 でも。
 今度は自分がメイン、ときたもんだ。
 どうしていいかわからない。
 衣装さんとメイクさんのおもちゃにされながら、撮影をこなしていく。

 ただ、着せ替え人形をしていくうちに、だんだんハイになっていく。
 よっしゃ。どんどんもってこーい。

カメラマン「楓さーん。こっちに視線くださーい」

 パシャパシャと響くシャッター音。
 うん、久々だ。この感じ。
 自分が衣装と同化していく。

カメ「今度は笑顔でお願いしますー」

 私はモデル笑いを貼り付ける。
 パシャ。
 パシャ。

 撮影は進む。

アシ「はーい。休憩取りまーす」

 控室に戻ると、あの人が硬い表情をしている。

楓「Pさん、どうしました?」

P「あの、ですね……」

 ちょっと逡巡したあと、あの人が言う。

P「あの笑顔、やめましょ?」

楓「はい?」

P「あなたはマネキンじゃない。アイドルですから」

楓「はあ」

P「笑顔に魂、込めましょうよ。愛想笑いはいらない」

 きっぱり切り捨てた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

P「楓さん」

楓「はい……」

P「ここにいるみんなは、たぶん楓さんのイメージを『神秘的』って見てます」

楓「はい……」

 自分のイメージなんて、わからない。
 イメージを隠すことばかりしてきたのだ。
 いまさら言われても、どうしたらいいのか。

P「でも、僕は違うと思ってます」

P「僕は、楓さんがおっさんで、そしてとても明るいことを知ってます」

P「それでいいじゃないですか。ギャップですよ」

P「そのギャップが、楓さんの魅力です。間違いない」

P「大将の店で笑いあった、あの楓さんが必要なんです」

 一呼吸おいて、言葉をつなげる。

P「さあ。行きましょう。……一発かましましょう」

 なにをどうするのかわからないまま、スタジオへ向かう。

 撮影を続ける。
 パシャ。
 パシャ。

 その時。

P「楓さんの! 一発ネタを! 見てみたいー!」

 突然あの人が叫ぶ。驚くスタッフ。
 そして私。

P「さあ! 楓さんが! 渾身のギャグを! 見せ付ける!」

P「さあさあ! お楽しみ! お楽しみ!」

楓「え? え?」

 あわてる私に、あの人は。

『お』『や』『ぢ』

 と、声に出さず言った。

 ストンと心に落ちた。
 よっしゃ、かましてやろうじゃないか。

楓「えーと……」

 息をのむスタッフ。

楓「このドレス……」

楓「どーれす?……」

 ぷっ。
 くくっ。
 あはは。
 あははははははは!!

 噴き出すスタッフさん。
 つられて、私も。

楓「ふふっ……ふふふっ……」

楓「あははは!!」

 泪目になって笑う。

カメ「おお! ひひっ! それ! ぶふっ! 最高!」

 あわててシャッターを切る。
 パシャ。
 パシャ。

 笑顔あふれる撮影になった。

 私はやりきった。
 なんか、あの人に踊らされた気がするけど。
 オヤジギャグの達人と言われようと、後悔はしていない。

 ふふっ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

今日はもう一回アップするのは難しいかも

仕事増えるな!ナムナム

飯食ってきます

カップめんうめぇorz

ほかの作者さんのSSと比べて、進みがめっちゃ遅いので
これでいいのか?と心配になります

まあ、現状こういうペースでしか書けないので
気長に見ていただければ

一応、また明日と言っておきます

ノシ

明日のほうが忙しいってどういうことよママンorz

少しだけ投下します

↓ ↓ ↓

 その夜。
 私とあの人は、大将の店に来ている。
 もちろんPさんにおしおき、もとい。
 非難をぶつけるためだ。

楓「Pさん」

P「はい……」

楓「わかってますよね?」

 あの人は押し黙る。

楓「私は怒っています」

P「はい……」

楓「なぜ怒っているか、わかります?」

P「……無茶振りして、恥ずかしいことさせてしまいました……」

 あの人はしゅんとしたまま。
 ほんと。ため息のひとつでも吐きたくなる。

楓「まったく……そんなことで怒ってるんじゃありません」

P「はい?」

楓「なんで……ご自分からヨゴレをするんですか?」

P「……いやあ」

楓「どうしてです? あれは私のことを考えてのことでしょう?」

P「まあ、そうですけど」

楓「なら」

 私は、ため息をひとつ、吐く。

楓「いいじゃないですか。もう」

P「いや、恥ずかしい思いをさせたことは事実ですし」

楓「そんなことはもう忘れました」

 私は、少しだけあの人に近づいた。

楓「私が怒っているのは」

 うつむいてるあの人と、目線を無理やり合わせる。

楓「Pさんが、ひとりで全部抱えちゃう、その癖です」

 確信はない。仕事の付き合いだって、まだ短い。
 でも、間違いないだろうと思っている。

楓「Pさんは、アイドルとは一心同体、そう言ってましたよね?」

P「はい」

楓「それなのに、なんで一緒に背負わせてもらえないんですか?」

P「……」

楓「……そうですね。怒ってるというか、むしろ」

 一呼吸。

楓「淋しいです」

 そう言って私は、あの人の頬を突いた。割り箸で。

P「あの、楓さん?」

楓「なんです?」

P「先っちょだと、すごく痛いです」

楓「そのくらい痛いってこと。わかります?」

P「……はい」

 あんまりPさんを困らせるのは本意じゃない。

楓「じゃあ、こうしましょう」

楓「日帰り入浴1日分。これで手を打ちましょう」

 自然と、私は笑えていた。

楓「どうですか?」

 あの人も、笑みを返してくれる。

P「そのくらいなら、喜んで」

楓「では。この話は終わりにしましょう」

 そう言って私は、冷酒のグラスを手にした。

楓「お酒が温くなっちゃいますし?」

大将「おーおー。Pよぉ。お前愛されてるねえ」

 大将がニヤニヤしながら、追加のおつまみを持ってきた。
 あの人はなにか言うでもなく、ただ苦笑している。

 もちろんお会計は割り勘にした。
 働く仲間だ正しく割り勘。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ちょっと分量少なめですけど、やっぱり反省会は必要だと思うんだ

では、また明日 ノシ

お待たせしました~

今回も分量少ないですけど投下

↓ ↓ ↓

 日帰り温泉の約束が履行されないまま、時が過ぎる。
 スチル撮影からしばらくして。

楓「お仕事、ですか?」

 あの人がレッスンルームにひょっこり現れた。

P「はい。PVに出演して欲しいと」

 とまれ。
 アイドルとして初仕事、ということになった。

 翌日、事務所に出社すると。

ちひろ「あ、楓さん。すぐ会議室に行ってくださいね」

楓「はい?」

ちひろ「お仕事の話、だそうですよ?」

 ああ、PVの話か。
 ちひろさんに案内されて会議室に顔を出すと、Pさんと、見慣れない人が数名。
 スタッフさんかな? 企画会社の人かも。

P「あ、来ましたね。……えーと、こちらが今回参加させていただく『高垣楓』です」

 あの人がスタッフさんらしき人に私を紹介する。

楓「はじめまして。高垣楓と申します。よろしくお願いいたします」

スタッフ「これはご丁寧に。……今回お仕事をお願いします、○○企画の……」

 スタッフさん達から、次々名刺をいただく。
 あ。
 私の名刺、まだ作ってなかった。
 あれ? 今の仕事に名刺必要なのか?
 ま、いいか。

 企画担当さんと、映像ディレクター、その他。
 いや、あんまりよく覚えてないんです。特に話に混ざっていたわけじゃなし。
 PV企画書をめくりながら、あの人とスタッフさんの話を聞いている。

スタ「で、ですね。高垣さんにお願いしたいのは」

 企画書のある部分で目が留まる。

『囚われのお姫様』

 おひめさま? はい? 私が?
 いやいやいや。ちょっと待て。
 かなり無理があるんでね?

スタ「スチルを拝見しまして。高垣さんのミステリアスな雰囲気が大変いい、と」

 いや、でもこれはどうなのよ。
 そんな私の慌てようと対照的に、あの人はニコニコと満足そうだ。
 Pさんは豪腕なのかもしれないけど、営業としてこの仕事はどうなんだ。

P「その点を注目していただき、大変ありがたいと思っております」

 どうやらあの人は、まず私の見た目から売り込む気らしい。
 中身おっさんですよ? それでもいいのか?
 いいのか。ギャップが魅力って言ってたし。
 あの人にプロデュースをお願いしているのだから、そこは全幅の信頼を置こう。

 なんとなくむずむずした感覚を持ったまま、企画書をめくる。
 ラフコンテ。
 うん、なるほど。ほんとに『ミステリアス』を押し出すんだ。
 でも、めくってるうちに気がついた。

 これ、私しか出演してない?

スタ「V系バンドなんですけど。彼らは今回出演しません」

 マジか。
 またえらい仕事取ってきましたね、Pさん。
 つか。
 V系なら自分たちだけで出てよ。とか思ったのは余談。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 スマホのスケジュールに、『仕事』の文字が浮かぶ。
 仕事かあ。
 なんか実感が沸かない。

 あの人にスタジオまで送られる。今日はPVの撮影日。
 予備日も含めて3日間。
 よくそんな日程で撮れるものだな、と思ったりしたが、案外こんなものとあの人が言う。
 タレントの拘束時間の絡みと、ギャラの問題。
 PVにそうお金をかけられないということらしい。
 全編スタジオ撮影なら、押さえられれば短期間でガッツリ、というのは当たり前だと。

 うん、そうだよなー。
 屋外撮影なんてお天気頼みだし。
 モデル時代もそうだった。日がかげればストップ。雨が降れば中止。
 無為な時間が過ぎていくので、文庫本が捗ったなあ。

P「楓さん」

楓「はい?」

P「初陣の心境、いかがですか?」

楓「まあ、緊張はしますね」

P「でしょうね」

楓「今まで、ずっと静止画ばかりだったじゃないですか」

P「はいはい」

楓「だから、演技する自分、っていうのが。あんまりよくわかってないんですよね」

P「今回はコンテもありますし。今までとそんなに変わらないですよ」

楓「そんなもんですか」

P「セリフもないですしね」

 そう。
 セリフとかないのだ。だから台本もない。
 あるのはコンテ画。

楓「ランウェイを歩くイメージで、やってみればいいですか?」

P「そうそう。その心持でいいと思います」

 そんな話をしながら、スタジオへ車を滑らせる。
 目的地まであと少し。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

筆が進まない。ss神降臨お頼み申します
ナガタヤダ~ナガタヤダ~

飯食います

オムライスうまうま。

ぶっちゃけ、実は初SSなのですよ。マジで
作者さん、よく書けるなあと尊敬します。マジリスペクト

でも書いてて苦痛ってことないです。楽しい。進行遅いけど
ただ、こうして書いて気づくのは

やっぱり『愛』だよな(迫真)

ってことですね。うん

ご都合主義バッチコイな自分ですが、自分で書く上で現実と乖離しすぎるのも違和感あるので
こうした感じになっています。肉付け難しいよね

みなさんも『愛』のままに書いちゃえばいいと思うの

夕方来れるようなら来ます ノシ

♪愛のま~まに~ わ~がま~まにぃ~

愛『私の出番ですかーーー!!!』

うっさいわ手からレーザーZビーム出すぞオラー


……こうね、わかるわ


続き投下します

↓ ↓ ↓

 スタジオの中は、夢とファンタジーが詰まっていた。
 美術さんの仕事すごいなと、素直に感心する。

ディレクター「お久しぶりです! 今日はよろしくお願いします」

 ディレクターさんから握手を求められる。

楓「はい、よろしくお願いします」

 握手を交わす。手の力強さが、ディレクターさんのやる気を感じさせる。
 うん、いい仕事にしよう。

デ「いい画にしましょう!」

楓「ええ」

 Pさんとディレクターさんが打合せをする間、私は衣装合わせをする。
 それはなんというか。
 お姫様というよりは、西洋の女神みたいな衣装。
 ディレクターさんの中の私は、そういうイメージなのかな。

メイク「じゃあ、早速セットしましょう」

 鏡台に向かう私。

メ「高垣さんって」

楓「はい?」

メ「なんか、すごくオーラがありますね」

楓「え? オーラ、ですか?」

 はて。
 こんなぽっと出のルーキーに、オーラもなにもあるものか。

メ「ええ。なにか不思議というか。引き込まれる感じがします」

楓「そうなんですか。自分ではよくわからなくて」

メ「とってもいいと思いますよ。うらやましいです」

楓「ありがとうございます」

メ「そういえば。高垣さんって『お人形さんみたい』って、言われたりしません?」

楓「確かにありますけど。どうしてです?」

メ「眼の色が」

楓「ああ」

 確かに。
 他の人と瞳の色がやや違うのは知ってる。しかも左右とも微妙に。
 オッドアイなどと言うと聞こえはいいけど、私にとってはコンプレックス。
 普通がよかったのに、と思う。

 ただ。そうは言ってもこの瞳があったから、モデルの仕事も得られたのは確かだし。
 これは武器なのだ、と。
 いつも自分に言い聞かせている。

メ「肌が白いので、ナチュラルメイクで十分魅力的ですよ」

 普段から化粧っ気のない私。
 ナチュラルメイクしか知らないんです、すいません。
 仕事のときは、メイクさんにお任せばかりでした、すいません。

 メイク自体は、ほとんど時間もかからなかった。
 衣装合わせも勝手知ったるなんとやら。時間はかからない。

衣装「モデルさんやってらっしゃっただけあって、楽できます~」

 あら、本音ですね。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

デ「はい、そこで空をつかむように!」

 ディレクターさんの声が響く。

 コンテを参考に立ち回りをするが、実に難しい。
 演技というのは、こんなに神経を使うものなんだ、と。いまさら気づく。

デ「高垣さん。もう少しゆっくりつかんでみましょうか」

 何度目かのテイク。
 複数のカメラで同時に撮るマルチビューでの撮影だから、リテイクのたびにカメラさんが大移動。
 非常に申し訳ない気持ちになる。

 ディレクターさんもひっきりなしに映像の確認をし。
 進行さんと打合せをし。
 カメの歩みでカットが積みあがっていく。

楓「次のシーン。指先はこう、かな?」

P「お。演技に余念がないですね」

 あの人は冷たい麦茶を持ってきた。

楓「お酒じゃないんですね」

P「仕事中ですから」

 お互いに笑う。
 麦茶の香りが気持ちを和ませる。
 だいぶ意識が持っていかれていたようだ。集中していたんだな、と。

P「いいでしょ? こうして演技というのも」

楓「いいかどうかはまだわかりませんけど」

 麦茶を一口。

楓「初めての経験で、やりがいありますね」

P「ほう。そりゃなによりです」

 あの人の笑顔。うれしい。

楓「自分に適性があるのか、それはわかりませんけど」

 笑顔を見つめながら言う。

楓「こうして濃密な経験ができること。Pさんに感謝しています」

 あの人の笑みは、いっそう輝いて見えた。

P「アイドルというのも、いいものでしょ?」

楓「ええ」

 自信を持って。

楓「本当に、そう……」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

アシ「おつかれさまでしたー!」

 特に進行が押すことなく、二日間の撮影を終了した。
 打ち上げはささやかに。

アシ「では、監督から一言。お願いします!」

デ「えー。二日間お疲れさまでした」

 私を含め、みな手に紙コップを持っている。中味はソフトドリンク。残念ながら。

デ「まだ編集作業がありますが、まず撮影が無事終えられたことと」

デ「高垣さんという、素敵な女優さんと知り合えたことに、感謝します」

デ「では。乾杯!」

全員「乾杯!」

 そして拍手。

 この二日間はとても充実していた。
 スタッフの皆さんに恵まれたこと。物事に取り組む姿勢。
 みんなで作り上げる楽しさ。
 全部得難いものだった。

アシ「では、高垣さんからもひとつ」

 え。ご指名?

楓「えーと。本当にお疲れさまでした」

楓「こうして皆さんと一緒にお仕事できたこと、感謝しています」

楓「とても楽しい二日間でした」

楓「また、皆さんとお仕事ができる日を」

楓「わーくわーく、しながら? 待ってます……」

 あれ。
 ……ひょっとして、滑った?

 ぷっ。
 くくっ。
 はははは。
 あはははは!

 どうやら受けたらしい。
 あの人は、私に向かってサムズアップを決めていた。

 私も負けずに。
 サムズアップ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ふぅ、やっと楓さんに仕事させることができた

イメージはSR+「神秘の女神」ですかね

明日は来れるかどうかというところです~

もうちょっといます

画像先輩おっつおっつ

今度はウミキチさんか、まったくCoPは休む暇がねぇなHAHAHA

……泣いていいすか……

ではまた明日(一応) ノシ

お待たせしました~

筆に任せて書いていたら無意識に伏線貼りまくっているとか、なにこれこわい

投下します

↓ ↓ ↓

 撮影が終わってしばらく腑抜けになった私。
 それでも、時間が日常を連れてくる。
 相変わらずレッスンの日々。
 撮影のときに感じた熱。それを思い出しながら、私は何かをつかみたいと思っている。

 私に、できること。

 この先にある、見果てぬなにか。アイドルというもの。
 私はそこを目指せるのか。

P「楓さん、おつかれ」

 あの人は今日も、レッスンルームに顔を出す。

楓「Pさんも、お疲れさまです。毎日会いに来てくれるんですね?」

P「あはは。そりゃあもう」

 あの人は笑う。

P「楓さんの、一番の、ファンですから」

 うれしい。

P「あ、そうそう。この前のPV、出来上がりましたよ」

 そう言ってあの人は、DVDケースをひらひらと見せた。

楓「あ。できたんですか!」

P「ええ。これから事務所で鑑賞会といきませんか?」

楓「ぜひ。お願いします!」

P「じゃあ、事務所まで送ります。……楽しみですね」

楓「ふふっ。ほんとに」

 ざっと汗を流して着替える。
 あの人を待たせるのは申し訳ない。
 できるだけ急いだのに、あの人は「そう急がなくても」と苦笑した。

 あの。
 乙女心をわかってくださいよ。
 少し、傷つきますよ?

P「そうだ。鑑賞会にちょっとアイドルの子を加えたいんですよ」

楓「なんか恥ずかしいですけど」

P「いや、率直な意見がきけそうなんで」

楓「そうですか。Pさんがよろしいのなら」

P「ええ、なつきちならフラットな意見を言ってくれるでしょう」

 Pさんは夏樹ちゃんに連絡を取った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

夏樹「Pさん。PVだって?」

P「ああ」

 事務所の会議室。
 夏樹ちゃんとは事務所で何度か会っている。相変わらずかっこいいな。

夏樹「電話じゃ『お楽しみ』ってしか言わないから。で? 誰の?」

P「『フェイス・ザ・フェイス』の新曲だ」

夏樹「お。やるじゃん。なら呼んだかいがあるな」

P「ん?」

夏樹「だりーも呼んだ。参考になるだろうと思ってさ」

夏樹「おーい! だりー!」

 ほどなく、小動物みたいな子がやってくる。

李衣菜「なつきちー。どうしたのこんなときに呼んでー。レッスンあるじゃん」

夏樹「ん? お前『フェイス・ザ・フェイス』嫌いなのか?」

李衣菜「え? え? 『フェイス・ザ・フェイス』?」

李衣菜「マジ? え? ……ウッヒョー! 会えるの? ねえ! 会えるの?」

李衣菜「NAOTOどこ? え? どこ?」

夏樹「おまえさあ」

 夏樹ちゃんはどうにも頭が痛いようだ。

夏樹「PV見るぞって、あたし言ったよな?」

李衣菜「え? そうだっけ?」

夏樹「人の話聞けよ、もうちょっと……」

李衣菜「あ。あははー。……ごめん」

P「りーな、ぬか喜びだったな」

 あの人は腹を抱えて笑っている。私も。
 かわいい子だな。

P「ただ。まだ発表されてない新曲だからな?」

李衣菜「え? マジ?」

P「マジ」

李衣菜「……イエス!!」

 李衣菜ちゃんは大きくガッツポーズする。うん、かわいい。

夏樹「あのな、だりー? Pさんが感想くれって言ってるんだから。きちんと見ろよ?」

 李衣菜ちゃんは、コクコクと首を振る。うん、かわいい。

P「まあメインは、楓さんの映像だからな? 素直な感想くれよ?」

夏樹「了解」

李衣菜「イエッサー!」

ちひろ「あの、私も拝見していいですか?」

 ちひろさんがこっそり入ってくる。

P「ええ、どうぞどうぞ。ちひろさんの意見もぜひ」

 こうして、五人だけの鑑賞会が始まった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

短いですけど。

基本、楓さんとPの話なので、他のアイドルが出ても深く関わることはない、はず
わかりませんけど

ちなみに「Face the face」は、ピート・タウンゼントの曲です

夕方は来れないと思います~
では、また明日 ノシ

http://i.imgur.com/EcNTTs9.jpg
http://i.imgur.com/uMoPMJn.jpg
木村夏樹(18)

http://i.imgur.com/g0QmQPf.jpg
http://i.imgur.com/FH7jrQb.jpg
多田李衣菜(17)

だりーな誕生日おめでとう!(早漏)

おかしい。楓さんの話なのにだりなつとか、俺得やんけ

ひっそり投下

↓ ↓ ↓

 映像が始まる。
 そこには、私の知らない私。
 私は、あんな顔をしていただろうか。
 熱くて、そして、冷たい。

 ディレクターさんの才能に圧倒される。
 こんなすごい人と、仕事をしたんだ。

 恐ろしい。
 自分がどこまでも変われそうな気がして。そんな錯覚に陥る。

   Fly away どこまでも飛べるだろう
   お前の求めるもの すべて
   Fly away どこへ飛べばいいだろう
   ふたり まだ見ぬ場所求め

 夏樹ちゃんは、まばたきひとつせず、画面を見つめる。
 李衣菜ちゃんは、キラキラと眼を輝かせている。
 ちひろさんは、眼を潤ませている。

   この世界のすべてから 飛び立つための EXIT――

 やがて、映像が終わる。

 なんと言えばいいんだろう。
 あれは私であって、私でない。
 でも、偽りの自分ということでもない。
 あれも私だ。

 ……ふわあぁ……
 李衣菜ちゃんが、脱力したような声をあげる。
 その声を聞いて、みんな我に帰った。

李衣菜「NAOTO……いい……サイコー……」

 李衣菜ちゃんは、まだ恍惚としている。

夏樹「ふう」

 夏樹ちゃんが息を吐いた。

P「ん。おつかれ。……みんなどうだった?」

李衣菜「Pさん」

P「なんだ? りーな」

李衣菜「NAOTOと共演したい!」

夏樹「……おいおい」

 夏樹ちゃんはやっぱり頭が痛そうだ。

夏樹「そうじゃないだろ? このPVがどうかって、訊いてんじゃん」

李衣菜「あ。ごめん」

夏樹「ま、いいや。だりーらしいよ」

 みんなクスクスと笑う。

夏樹「じゃ、私から。いいかな」

P「おう。なつきち、頼む」

夏樹「そうだな……これは、楓さんしかできない、と思う」

P「ほう?」

夏樹「NAOTOの声って、いつもけだるそうな感じじゃん。それと」

夏樹「KG(ケイジ)のギター、いつもよりエッジが効いてる」

夏樹「詞の世界観も考えると、なんていうかな。中性的っていうか、ふわりとしたっていうか」

夏樹「つかめないはかなさが、女優さんにないと難しい気がする」

P「おお。なるほどな」

夏樹「この監督さんは、ものすごくうまく表現してると思うし、あと」

夏樹「楓さんのために、これを作った感じがした」

夏樹「楓さんが、全部を引き出したんじゃないかな」

 なにか気恥ずかしい。
 自分ががんばれたのかわからないのに、こうしてほめられるなんて。

P「なるほど。りーなはどうだ?」

李衣菜「うーん……あんまり難しいことはわからないけど」

李衣菜「このシングル。ファンじゃない人も買いたくなる、気がする」

P「ほう。そりゃいいこと聞いたな」

李衣菜「え? あたしいいこと言った?」

P「実はな。この曲、ある番組のエンディングに使われる予定なんだ」

 Pさんは爆弾を落としてくれた。
 そんなえらい仕事だったんですか。何も教えてくれなかったじゃないですか。
 うわあ。
 うわあ。
 一気に緊張する。どうしようどうしよう。

P「だからな? 間違いなく売れる。当然このPVも見られるわけだ」

P「楓さんのお披露目には、ぴったりだったろ?」

夏樹「ああ。ドンピシャだった」

 李衣菜ちゃんはやっぱり、コクコクとうなずいている。

P「ちひろさんは、どうでした?」

ちひろ「……」

 ちひろさんは、泣いていた。

楓「あの……ちひろさん?」

 そう言うと、ちひろさんは突然私の手を握り。

ちひろ「よかったですぅ……すっごく、よかったですぅ」

 そう言って、さらに涙を流してくれた。
 その姿を見て、Pさんは満足げにしていた。

 こんなに、人を感動させる仕事。
 私は、そんな世界に足を踏み入れた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

楓「Pさんは、ひどい人ですね」

 夜。いつもの大将の店。
 PV完成の打ち上げと称して、またあの人と来ている。

楓「私を担ぎましたね?」

P「いや、だって」

 言い訳ですか。よろしい、伺いましょう。

P「あまりぶっちゃけたら、楓さん、緊張でガチガチになったでしょう?」

楓「う」

 図星。
 ひょっとしたら、逃げ出したかもしれない。

P「そのあたりのさじ加減も、プロデューサーの仕事なんですよ」

楓「ううっ」

P「まあ、わかってください、とは言いませんけど」

 悔しい。
 なにが悔しい、って。

楓「やっぱり、Pさんはひどい人です」

P「すいません……」

楓「そんなこと言われたら、『わかりました』って言うしか、ないじゃないですか」

大将「まったく。Pはひどいやつだよな」

 大将が口を挟む。


※ とりあえずここまで ※

JDを入れてみたけど、あんまりうまく書き込めない
たのむで、マジで

誰か、だりーなとNAOTOの共演書きませんか、お願いします何でもしますから!

ちなみに、特定のメンバーとかなんにも考えてません
歌詞もでっち上げです

夕方打ち合わせがあるとか言って延期になるとか。ファック

では明日 ノシ

お待たせしました~

ホントならガッツリまとめて書き溜めて投下したほうがいい気がするけど
そうすると長い間ss神ご降臨なされない悪寒。放置はいやじゃ

投下します

↓ ↓ ↓

P「断定ですか」

大将「昔っから、Pってひどいやつだよなぁ」

P「大将と知り合ったの、4年くらい前ですけど」

 大将は遠い目をし、あの人は憮然とする。

大将「……小粋なジョークってやつだよ。マジになんなよ」

P「あんまり感心しないジョークですねえ」

大将「でも、だ」

 そう言うと、大将はあの人へ耳打ちする。
 あの人は「ええ。同感です。気をつけます」と返事をしていた。

楓「あ、あの。大将?」

大将「ん? なんだい楓さん」

楓「Pさんに、なにおっしゃったんです?」

 気難しい顔をしているPさんを横目に、大将が私に耳打ちする。

大将「なに。美人の泣かすやつはダメだよな、って」

大将「そう言ったんだ」

楓「え」

 もう。大将はずるいなあ。

楓「Pさん?」

P「なんです?」

楓「あまり難しい顔しないでください」

P「ああ、すいません」

楓「あと。すぐに謝らないで、ください」

P「……」

楓「一緒に背負いたいんですよ。前にも言いましたよね?」

P「……」

楓「今度からは、ちょっとだけ種明かしをしてくれたら、うれしいです」

P「……はい」

楓「確かに、プレッシャーに負けそうになるかもしれないですけど」

楓「Pさんとなら、がんばれますよ?」

P「……」

楓「Pさんを、信頼してますから」

P「……ありがとうございます」

 まったく、お互いにぎこちないなあ。

楓「それと」

P「はい?」

楓「今度からは『すいません』じゃなくて、『ありがとう』で」

P「あ」

楓「そのほうが、もっとうれしいですから」

 私は、あの人に今できる笑顔を見せる。

楓「一緒に、やっていきましょう?」

 私たちは、戦友じゃないか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 新曲発表があり、同時にPVも公開された。
 PVは動画サイトにもアップされ、そこから火がついた。
 そして。

 私はここのところ、雑誌のインタビューを受けてばかりだ。
 もう何社目だろう。
『あのPVの女性は誰だ』という反響が、結構あったらしい。
 あの人のもくろみは成功した、のだろう。

楓「ええ。このお仕事が初めてで」

 もう何度答えただろうか。
 私と、私の周りは急に忙しくなった。

 グラビア。ドラマ出演。
 いろいろ。
 あの人とちひろさんは、届くオファーをさばいている。
 私になにかお手伝いできることは、と声をかけたけど。

ちひろ「楓さんにはお仕事をしていただくのが、なによりのお手伝いですよ?」

 そう、こともなげに返される。

P「はい、はい。では、まずお話を伺いますので。では、後日」

 あの人の手帳に、アポイントのスケジュールが書き込まれる。
 私も同席しますかと訊いたら、「まだその時期じゃないです」と。

P「まずは選別です。そういうことができるまで、知名度があがった証拠です」

P「ですから、ここからが勝負。楓さんを正しく、売り込みます」

 たとえば、グラビア。
 アイドルなら、水着なども避けられないだろう。
 でも、今はその時期じゃない。
 絶妙のタイミングというものがある。そこを狙って。
 しかも、こちらから売るのではなく、先方からのオファーで。
 こちらも人気が上がる。クライアントも反響が大きい。
 まさにウィンウィン。

 あの人と戦友になったので。
 ふたりで、その情報と考えを共有する。
 共有するからには、私の羞恥に関わることもタブーにしない。
 一心同体。

 今、とても充実している。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

基本、平日の投下で土日は休みの予定です
しかし、ここのところss神にそっぽ向かれてる気がする……

スランプ脱出の薬があれば、教えて欲しいもんです
いや、年中スランプですが

ではまた ノシ

追い付いた
楓さんきゃわわ

お待たせしました~
なかなか入れなかったりして、鯖落ちたのかと

投下します

↓ ↓ ↓


楓「大将。お願いされてたもの、持って来ましたよ?」

大将「おお、楓さん。ありがと!」

 大将に頼まれたもの。
 友紀ちゃんがキャッツのユニフォームを着て、ジョッキを掲げているビール会社のポスター。

大将「目立つところに貼っておかないとな」

楓「もうこんなに寒いのに、ビールはどうなんです?」

 季節は冬。
 事務所を移籍して、半年近くが経った。

大将「居酒屋だから、年中ビールは当たり前さ。これは必需品だわな」

楓「ポスターなら、Pさんにお願いすればよかったんじゃないですか?」

大将「あいつさあ。『販促品を融通することはできません』ってさ。頭固いよな」

楓「ふふっ。なんかPさんらしいですね」

 あの人は忙しい。
 私も忙しくなったが、それを上回る忙しさだ。
 あの人は「忙しいのはプロデューサーにとって幸せなことですよ」なんて言うけど。
 たまに疲れたような表情を見せるのは、心が痛む。

楓「Pさん、早く来ないかな」

 あの人を待ちわびる。

大将「こんないい女待たせるなんて、あいつは甲斐性なしだなあ」

楓「ふふっ。そんなことないですよ?」

大将「おーおー。楓さんも乙女だねえ」

楓「残念ながら。お互いに戦友なので」


 戦友。
 仲がいいことは確かだとは思うけど、決して『恋人』なんかじゃない。
 仕事仲間というには、もっとどっぷりとした付き合いだとは思うけど。
 恋? それおいしいの?

 私とあの人の関係はあいまいだ。

大将「そういや、楓さんも忙しいみたいだしな」

楓「Pさんがいっぱい仕事取ってきますからね」

大将「そりゃあひでえ」

 大将が笑う。

 言うほど仕事がいっぱいという訳ではない。
 あの人は、相当に仕事を選別してる。
 水着でないグラビア、単発ドラマのゲスト、ナレーション。
 それほどメディアに露出していない。
 今のところの戦略なのだ、そうだ。

 どの仕事もやりやすく、あの人が配慮してくれているのがよくわかる。
 どれほど感謝しても足りないくらいに。

P「ふたりで、僕のうわさでもしてましたか?」

 あの人がお店にやってくる。
 仕事を離れたところで会えるのは、なんとなくうれしい。
 なんとなく。

楓「さっそくいただいてました」

 私は相変わらず、お銚子を摘み上げる。

P「じゃあ、僕もいただこうかなあ」

大将「たまには、俺もつきあうか」

P「大将は仕事してください」

 隠れ家の夜は更ける。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


楓「それはそうと、Pさん」

P「ん? なんです?」

 ほろ酔い状態のあの人に、切り出す。

楓「まだ、Pさんにお願いした約束。果たしてもらってないんですが」

 Pさんはよくわかっていないみたいだ。

楓「温泉」

P「あ? ああ!」

 ようやく気がついたか。遅い。

P「日帰り入浴ですね。はいはい」

 あの人は、頭をかく。

P「それはですね……。もう少し待って欲しいんですが」

楓「あら? どうしてです?」

P「実はですね」

 お酒を一口。

P「楓さんにひとつ大きな仕事を、やっていただくことになるので」

 なんですと。
 なにか聞き捨てならないことを聞いてしまった気がする。

楓「あら、それはどういう」

P「まだ秘密です」

 おや、Pさんはいけずですね。

楓「それなら、お話を楽しみに待ってますけど」

楓「でも私、風呂に行けないと、ふろ~っと、どっか行っちゃいますよ?」

楓「ふふふっ」

P「……鋭意努力します」

 そう言って、あの人は笑った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。
 あの人に呼ばれて応接室へ。

P「昨日の話ですけど、実はですね」

楓「はい」

P「楓さんに歌を、やっていただきます」

楓「……はい?」

 歌、ですか。
 アイドルなら、歌もやるでしょうね。レッスンもしてるし。

楓「このタイミングで、ですか」

P「はい。このタイミングです」

 こういうことらしい。
 今まで露出を抑えていたのは、歌手への布石。
 歌をやる前に、イメージを固定させたくなかった。
 できれば、歌手として売っていきたい、と。

P「ベテトレさんから、楓さんの実力は伺っています」

P「楓さんは実感がないかもしれませんが、歌い手としての能力は相当に高い」

P「ここを、楓さんの一番の売りにしたいんです」

 PVも、このためだったと。
 見た目から入って、想像を膨らませる。
 メディア露出を避け、さらに想像を加速させる。

P「ここで、楓さんの歌が開花する。インパクト抜群です」

 なるほど。
 あの人は、半年前から構想を練っていたのか。

P「楓さんを正しく売り込むのは、ここだったんです」

楓「なんか……Pさんは私を買いかぶりすぎていませんか?」

 恥ずかしさに、自分を卑下してしまう。

P「いえ、それはないです」

P「むしろ、この選択に自信を持っています」

P「やりましょう。ここからが本番です」

 あの人は自信にみなぎっている。
 そうだ。
 私とあの人は一心同体なのだ。
 信じよう。

楓「はい。一緒にやりましょう」

P「ええ。一緒に」

 Pさんと進んでいこう。
 あの人が、私を引っ張ってくれる。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

楓さんのキャラがぶれてきてる気がします
がんばろう

では、また ノシ


少しだけ投下

↓ ↓ ↓


 仮題、『こいかぜ』
 私に手渡された曲は、こんなタイトルがついていた。
 譜面がいまいち読めない私は、ベテトレさんのピアノに合わせて練習する。

 やられた。
 これは、私への挑戦状だ。

ベテ「はい。まずは休憩しましょうか」

 一度通しで歌ったあと、休憩を入れる。

ベテ「これはまた……期待されてますね」

 ベテトレさんが微笑む。
 そうなんだろうか。あの人と、作曲者さんのいじわるとしか思えない。

楓「そうなんでしょうか?」

ベテ「ええ。このくらい、楓さんならやるでしょうって。期待のあらわれ、ですよ」

 釈然としない私に、ベテトレさんは説明を加える。

ベテ「まず、歌詞は楓さんを意識して書かれていますね」

ベテ「新人の歌う曲としては歌詞が壮大です。異例でしょう」

 そこは自分も感じている。私のイメージをそういう方向へ結び付けようとしているかのようだ。
 そこに異論はない。
 あの人がゴーサインを出したのだろうから。
 ついていくだけ。

ベテ「それと、曲がですね」

楓「はい」

ベテ「見事に換声点付近に集まってますよね」

 そう言ってベテトレさんは苦笑した。

 そこだ。
 換声点に音を集めるということは、つまり。

ベテ「声がひっくり返りやすいところに集中させるなんて、えぐいですね」

楓「……まったくです」

 私が挑戦状と捉えた理由。それがこのメロディーだった。


 換声点では、のどの使い方が変わる。
 つまりは、意識してのどを使わないと簡単に声がひっくり返る。
 そして、サビはこの換声点付近のラインで作られている。

 これを挑戦状といわずして、なんと言えばいいのか。

ベテ「訓練されていない人が換声点のあたりを酷使すると、のどの負担が大きいです」

ベテ「あんまりひどくなると、声がれや、最悪ポリープができてしまいます」

ベテ「そこをわかっていて、こういう曲を用意してるんですから。まあ……」

楓「ええ、そうですね」

 私もつられて苦笑する。

楓「みっちり練習しやがれ。そういうことですね?」

ベテ「……そういうことです」

 わかりました。ええ、わかったとも。
 その挑戦、受けて立とうではないか。
 どのみち、私に退路なんかない。迷わず進むだけ。

 あの人が示した道だ。歩けるはずだ。
 いや。
 歩くのだ。あの人と。

 こうして、レコーディングに向け必死のトレーニングに明け暮れる日々が始まった。

   ココロ風に 閉ざされてく
   数えきれない涙と 言えない言葉抱きしめ
   揺れる想い 惑わされて
   君を探している ただ君に会いたい only you

 上行。下行。
 音が跳ね回る。

 くそ。負けるか。

   満ちて欠ける 想いは今
   苦しくて溢れ出すの 立ち尽くす風の中で
   会いたい今 会える日まで
   ずっと想い続けるの 誰にも負けないほど
   君のそばにいたい ずっと

 あの人との日々を思い返す。
 いつだって、私の先を見て私の道を示してくれた。
 うれしいけど、悔しい。
 絶対、隣に立ってやるんだ。

 勝ち戦しかしないのだ。負けるなんて。
 ありえない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

実際ある歌の練習風景とか、なんて無理難題orz

では、また明日 ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 運命の日。
 私はレコーディング・スタジオにいる。

 この一ヶ月、曲と向き合ってきた。
 歌いこみもしたし、自分なりの解釈もした。
 歌うほどに、自分のものになっていく。そんな気がした。

ディレクター「じゃあ高垣さん、ルームで準備お願いします」

 ディレクターさんの声がかかる。
 さあ、いくぞ。

楓「はい」

 レコーディングルームに入る。
 ガラス越しに見えるのは、ディレクターさんはじめスタッフの皆さん。
 作曲者の先生、そして。
 あの人。

 Pさん、勝負です。

 私は目を伏せる。ヘッドホンから流れる伴奏。
 CD-Rで送られてきたそれをはじめて聴いたとき、あまりの壮大さに震えた。
 でも、怖くない。

   渇いた風が 心通り抜ける
   溢れる想い 連れ去ってほしい

 歌いだす。
 私は、あのPVの風景を思い描いていた。


 なにかをつかみたい。届かない。
 じれる心。

   あなたしか見えなくなって 想い育ってくばかり
   苦しくて 見せかけの笑顔も作れないなんて

 あのとき、私は囚われのお姫様だった。
 手をとって、連れ去って欲しいのに。
 早く。

   めぐる恋風 花びらまき散らし
   人ごみの中 すり抜けてく
   震えてるの 心も体も
   すべて壊れてしまう前に 愛がほしいの

 私の出したひとつの解。
 それがあのPVだった。
 囚われて、どこにも行けなくて。愛しい人の手が欲しい。
 ふたりで、どこまでも飛んで、逃げたい。

   涙は今 朝の星に
   寂しさは冷たい海に
   ひとひらの風 吹くその中で
   変わってく 溶けてゆく
   近くで感じていたい

 あなたは今、どこにいるの?
 早く連れ去って。私を。

   満ちては欠ける 想いが今
   愛しくて溢れ出すの 舞い踊る風の中で
   巡り会えた この奇跡が
   遥かな大地を越えて あなたと未来へ歩きたいの

 ようやく手が触れる。会いたかった。
 どこまでも連れて行って。決して離さずに。

 ふたり、どこまでも飛んでいく。

   ココロ風に 溶かしながら
   信じている未来に つながってゆく
   満ちて欠ける 想いはただ
   悲しみを消し去って しあわせへ誘(いざな)う
   優しい風 包まれてく
   あの雲を抜け出して鳥のように like a fly

 音が消える。
 しばしの沈黙。


楓「ふう」

 息が漏れる。緊張していたのだろう。
 心地よい開放感に包まれる。

デ「はーい。おつかれさまでーす。まだそこにいてください」

 作曲者さんがマイクを取る。

作「あー、高垣さん。お疲れさまです」

作「……合格です」

 作曲者さんとあの人が、サムズアップ。

 よかった。安堵と開放感で、力が抜けそうになる。
 どうやら、勝ったようだ。
 努力が報われた。支えてくれた皆に感謝する。

デ「じゃあ、休憩を挟んで数テイク録りますねー。ルームから出てくださーい」

 出るとき、ドアレバーを握った手がかすかに震えていた。
 出し切ったのだと、実感する。
 編集ルームで打合せをはさみ、さらに録音。
 ほぼ、まる一日のレコーディング。

P「楓さん、お疲れさまでした」

 あの人が、帰りの車の中で慰労してくれる。

楓「ありがとうございます、Pさん」

P「いえ、お礼を言うのはこちらです」

P「私の無茶に応えてくれて、ありがとうございます」

楓「やっぱり、挑戦状だったんですね?」

P「いや、そこまで大それたものじゃないですけど」

 あの人の笑顔は、私を安心させる。

P「……僕も、わがまま言ってみたくなったんですよ」


楓「わがまま、ですか?」

P「ええ、まあ」

 あの人が語る。

P「作詞の先生に、お願いしたんです。楓さんの出たPVを見せて」

楓「はい」

P「『届かない恋心』を、書いてください、と」

P「普通は、こちらから注文することはあんまりしないんですけどね」

P「でも、楓さんの歌ですから。大事にしたいと」

P「ふたり、一心同体って言ったじゃないですか、以前」

楓「ええ。そうですね」

P「だったら、自分のわがままを入れても、いいかなと」

楓「まあ」

 Pさんは、悪い人ですね。

P「こうして楓さんと一緒に仕事をして、自分なりの楓さんを表現したくなりまして」

楓「で、作詞の先生に」

P「ええ」

 私がPVをイメージしたのは、あながち間違いではなかったのか。
 いや。
 私とPさんの考えが、同じ方を向いていたからか。

 うれしい。

楓「Pさん?」

P「はい」

楓「うれしいです」

P「そうですか。よかった」

楓「Pさんと一緒に仕事ができてよかったことと」

楓「それ以前に」

楓「Pさんと、知り合えたことです」

 運命と言うには、大仰かもしれないけど。
 この人で、よかった。そう思う。

P「僕も、そう思います」

P「ありがとうございます」

楓「ええ。ありがとうございます」

 もしかしたら。
 このとき、戦友という領域を越えたのかもしれない。
 そんな、気がした。

 私は、隣に立てているか。
 この人の隣に立っていたい。
 これからも。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

大きな山場だと思って頑張ったけど、盛大に自爆したorz

「こいかぜ」は言わずもがなの曲なので、魂こめて書きました
これが、今の自分の限界です。謝ります。ごめんなさい

もっとうまくなりたいなあ

燃え尽きた感があるので、ちょっと間があくかもです

ではまた ノシ

>>124&128です(もしもし)
書き込む(sage)→別のトコへ→ブラウザバック→なぜか同じ内容で書き込まれている(age)→Σ(゜Д゜)

こんばんは。続きはまだ書いてません
クールダウン中

で、換声点のお話を少し
カラオケ板のボイトレスレとか見るといろいろあったりしますけど
有名どころでは「YUBAメソッド」と「ロジャーメソッド」なんかがあって
どちらも、裏声と地声の境目を目立たなくする、ということでは方向はあってます

たとえば「こいかぜ」なら

ココロ風に 閉ざされてく
数えきれ「な」い涙と 言えない言葉抱きしめ
揺れる想い 惑わされて
君を「探」している ただ君に会いたい only you

のところ。「」のところが地声から裏声へ切り替わる換声点で、音がふらつきます
はやみんのようなプロですら、なかなか消すのは難しいので
自分のような素人さんは、地道な練習をひたすらしていくしかないです

こっちの話は、少し進んできた感じでしょうかね
楓さんをリアルっぽくかわいく書けたら、いいなあ

では

継続は力なり、と電波を受信しました

投下します

↓ ↓ ↓


 花見酒としゃれ込む暇もなく、桜は散っていく。
 4月。
 シングルが発売される。

 発売までの活動は、だいぶ制限されたものだった。
 PVは作らない。3月までメディア露出は雑誌だけ。
 4月に入るまで、発売日以外の曲に関する一切をリークしない。

 正直不安だった。
 これで売れるというのか。

P「楓さん、心配でしょう?」

楓「ええ。こんなに秘密裏に進めるなんて、なんというか……」

 私は戸惑いを隠せない。

P「そうですね。僕もこういうことは初めてです」

 あの人の戦略かと思っていたが。

P「事務所を挙げてプロジェクトを進めるとは、ね」

 プロデューサーがどれほどの実力があろうと、できることには限界がある。
 たとえばメディア対応。
 事務所がプレスに関する一切の情報を統率して管理する。
 それは、一個人の力ではどうしようもないこと。

P「普通ならある程度のネタをリークして、購買意欲を掻き立てるんですけど」

P「楓さんの場合は、その逆ですね」

 今までの仕事から、ある程度のイメージは作られている。
 神秘的、というキーワード。
 そこに情報統制。歌を出すということまではわかるけど、そこから先は。

P「それが、逆説で購買意欲を掻き立てるんです」

楓「私も、いち社会人ですから、ある程度の濁りは知ってるつもりですけど」

P「はい」

楓「なんか、怖いところですね」

 私は笑う。
 なにをいまさら。そんなこと最初からわかっているじゃないか。

P「まあ、ねえ。未成年の彼女たちは、こんな裏は知らなくてもいい」

 あの人は誰かを思っている。私も。
 あの子たちは、きらびやかな舞台を駆け回って欲しい。

P「ただ」

P「僕も楓さんも、意識してその裏を知って、いいんじゃないでしょうか」

P「弁えられる年齢ですしね」

 ちくり。
 なんだろう。

楓「そう、ですね」

P「淋しいですか?」

楓「……そうですね。そんなとこです」

 私のばか。なぜ言わない。
『弁えられる』って、なにをですか?
 一言でいいじゃないか。


 レコーディングがすんで、それ以来。
 私は気づいてしまった。
 恋心。いや、そんな大仰なものじゃない。
 恋愛とは違うなにか。よくわからないけど。
 ただ、あの人に善い感情を持ったのは事実だ。
 戦友と呼ぶには、一歩踏み込んだこの気持ち。いかんともし難いなあ。

 あの人との距離を測りかねてる。
 これが、今の私。

P「ただ、4月から攻勢かけます。忙しくなりますよ」

楓「ええ、そうですね」

P「そうそう。これでセールスが成功したら、社長から」

楓「はい?」

P「少し、お休みがもらえるようです」

P「そしたら、約束を果たしましょう」

楓「約束?」

 あざとい。わかってるくせに。

P「温泉」

楓「……ようやくですね」

P「それも、日帰りじゃなく」

 え?

P「お泊り、です」

 ええ?

P「場所は、任せてもらいますよ」

 あの人はうれしそうに言う。
 まったく、困った人だ。

 私を、こんなに喜ばせてどうするつもりなのか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 4月に入った。

 まずFMを中心に、ラジオ番組にデモを持ち込む。
 少しおいてから、ネットにサンプルを公開。
 3月にあらかじめ、テレビの音楽番組出演をとりつけておいた。
 準備は怠りない。粛々と実行していく。

 私もゲスト出演として、走り回る。
 カウントダウン番組のビデオ出演、ユーストリームのネット番組、FMスタジオでDJとトーク。
 休む暇なんかない。

楓「今日はあと何件です?」

P「今日はあと2件ですね。行きましょう」

 Pさんと行脚。色っぽい話ひとつありゃしない。
 こうして忙しいほうが、私もありがたい。余計なことを考えずにすむ。

 音楽番組へ生出演。
 グラサンの人にお酒と温泉の話をつっこまれ、「おやじだねぇ」って。
 ほめ言葉ですよね?

司会「三度の飯よりお酒が好きって聞いたけど」

 失礼な。お酒は『めし』です。

楓「どこから聞いたんですか」

司会「あそこ、目の前にいる事情通」

 Pさん。あとで説教ですね。屋上がいいですか?

 18日が迫る。やるだけのことはやった。
 あとは当日が来るのを待つだけ。
 楽しみだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

日付の整合がだいぶ怪しくなってきた
ssでこんなこと考えすぎとは思いますけど、性分なので仕方ない

飯食います

やきそば弁当おいしいです(^q^)

話が破綻しない程度の整合はとってるつもりですけど
ここまで長くなるともはや怪しいですね

ではまた ノシ

こんにちは

書いてるテキストが3000行、70kBになりそうな勢いです
どこまでいくんだおい

投下します

↓ ↓ ↓


 発売日当日。ストアライブを三件抱えている。
 事前にCD予約数とダウンロード予約数の情報は知らされていた。
 想定よりかなり上回る数とのこと。
 あの人は言う。

P「ギャンブルスタートに成功しましたね」

 でも、あの人は緊張を解かない。
 事前の情報統制で、かなりの金額を投資したと聞いている。
 コストパフォーマンスが悪いのだ。

P「ここからは王道です。話題性だけでは長く持ちません」

楓「そうですか。……まあ、そうでしょうね」

 一過性のヒットでは、費用対効果が出ない。
 私たちは商品なのだ。
 大きく、長く、売り続ける。
 意識を持って売り込む。それがプロとしての矜持。
 そう理解している。

P「楓さんの売りはなんだと、自分で思いますか?」

楓「え? そうですね……」

 しばし、考える。

楓「ギャップ、ですか?」

P「もちろん、それもひとつですけどね」

P「アイドルとして言うなら、正統派」

楓「正統派?」

P「はい。歌唱力重視の正統派アイドルです」


P「まず見た目。神秘性を持った直球美人、これは素直に売りです」

P「次にバラエティー。これはちょっと難しいかな。個人的には楓さんのギャグ、好きですけどね」

 いや、いつもいつもそんなネタ考えてるわけじゃないですから。
 私をなんだと思ってるんですか。おっさんですかそうですか。

P「それから演技力。今の神秘性だけでは、正直頭打ちになりますね」

P「これは時間をかけて方向を模索しましょう」

P「で、最後。歌唱力」

楓「はい」

P「これは抜きんでています。一押しです」

P「楓さんの年齢を考えると、踊りやバラエティーで魅せるというのはもう遅い。これは仕方ないことです」

P「それを大きく上回る歌唱力。ここに今はリソースを集中しましょう」

 なるほど。PさんはPさんなりに長く売る方法を考えている、と。
 でも、やっぱり。
 歳のこと言われるのはきついなあ。

楓「なかなか、容赦なく言ってくれますね?」

P「オブラートに包んでも、仕方ないでしょう?」

楓「ふふっ。そうですよね」

 こういう人だから惹かれるのだ。
 最初は引っ張ってくれていた。今は。
 隣に並んで、一緒に歩いてる。
 昔から知っているかのように。

 私も、欲張りだなあ。
 隣にいれば、手を触れたいとか思ったり。

 手、かあ。あの人の手、大きいよね。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


司会「さっそくお呼びしましょう。高垣楓さんです!」

 ストアライブのスタート。
 私はステージに立つ。目の前には大勢のお客さん。
 狭い店内が熱気に包まれている。

楓「皆さん、はじめまして。高垣楓です。よろしくお願いします」

 今まで何度も言ったはずの『はじめまして』。私はその意味を知っている。
 一期一会。
 目の前の人たちと私は、文字どおり初対面。でも。
 この人たちは何度も、媒体を通して私を知っている。はじめてであってはじめてじゃない。
 だから、『はじめまして』に、魂を込める。

 飛び交う声援と携帯のシャッター音。
 司会の女性とトークを交わす。
 台本に書かれたルーチンワーク。でもそのひとつひとつに、自分の心を織り込んでいく。

『私を、よく知ってください』

 やがて、歌の時間。カラオケの伴奏が鳴る。
 緑のステージ衣装に、そっと手を触れる。よし。
 私は歌いだす。そして。

 鳴り止まない拍手、そして歓声。
 ああ。
 これは、いいなあ。
 私のこれまでは、恵まれたスタッフさんたちと、中での仕事。
 直にお客さんの反応を受けたわけじゃない。
 今こうして、自分のやっていることがストレートに受け入れられていく。

 アイドルというのも、いいものでしょ?
 あの人がかつて言ったセリフを思い出す。
 そうですね、ものすごく。
 いいものですね。

 でも、あの人には責任を取ってもらわないといけませんね。
 ふふっ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 三件目。
 これまでで一番大きい会場だ。
 お客さんの数もかなり多い。でも不思議と緊張しない。
 むしろ、多くのお客さんと接することがうれしい。

P「じゃあここは。打ち合わせどおりに」

楓「わかりました」

 私は今日最後のステージへ上がる。

 歌い終わる。拍手と歓声。
 今日こうしてお客さんの反応に直接触れられたのは、私にとって新鮮なことだ。
 感謝。

司会「本日はどうもありがとうございました」

楓「あ、少し」

司会「はい?」

楓「今日来てくださった皆さんへ。本当にありがとうございます」

楓「こうしてデビューしたての新人へ、声援をいただけて、とてもうれしいです」

楓「ここで、いらした皆さんへ感謝の気持ちを込めて、プレゼントを送ります」

 そう言って、私はマイクを下ろした。
 しんと静まり返る会場。

   Amazing Grace, how sweet the sound
   That saved a wretch like me
   I once was lost but now am found
   Was blind but now I see

 私はアカペラで歌いだす。


P「楓さんには、もう一曲。練習してほしいんです」

楓「もう一曲?」

P「はい。誰かのカヴァーでいいです」

 あの人が出したオーダー。
 プロモート用に一曲用意しておけ。
 そう言われたのは、4月のあたま。発売日にサプライズを仕掛けましょう、と。

楓「なんでもいいんですか?」

P「よほどひどい選曲じゃなければ。信頼してますから」

楓「ど演歌とかでも?」

P「あ、それはやめてください」

 あの人とふたり、笑いあう。

 歌で勝負すると決めた。だから、持ち歌以外の勝負曲が欲しいと。
 そして。
 カラオケなし。完全アカペラで、と注文までついて。

 そのオーダーに応えたのが、この曲だった。
 私が好きな曲。
 そして、私が今実感している曲。

 私は、あの人に救われた。だから、私は歌う。
 人をたたえる歌を。

   Than when we've first begun――

 歌い終える。しばしの静寂。
 拍手。
 拍手、鳴り止まず。

 私のデビュー初日は、こうして終了した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

長くはなりますけど、落としどころは決めてます
がんばります

ではまた ノシ

ちょっとだけ投下

↓ ↓ ↓


『俺たちの楓さんマジスゲェと思ってたがそれを遥かに超えていた。何を言ってるか……』

 ツイッターにライブの画像が上がっていた。動画も。
 スマホで撮られていたようだ。

P「これ、スタッフ説教ものですけどね」

 あの人と苦笑い。
 たとえストアライブであっても、無断録画や録音はあらかじめチェックしなければいけない。
 それを怠ったと言われても仕方のないことだ。

 リプライの数が増えていく。リツイートも。
 私の『アメージング・グレース』が拡大していく。

P「まあ、怪我の功名ですかね」

楓「うそばっかり」

 そう。
 こうなることをあらかじめ予測してのサプライズだった。
 やらせと言われそうな微妙なラインだが、拡散すればこっちのものだ。
 もちろんやらせではないけど、たとえそう言われようがこっちはデビューしたての新人だ。
 それすらも売りの力にする。名前を覚えてもらうことが先。

 そういうことでは、この拡がりは計画どおり。
『I did it!』ということだ。

楓「なかなかあざといですね?」

P「いいえ? 古典的なやり方ですよ。そう何度もできませんけど」

 ネットのチェックを行い、私たちは次の営業先へ向かった。

 ただひたすらに営業の毎日。
 笑顔と足で稼ぐ、簡単なお仕事。
 うそ。
 労力を惜しまず全力で行う、ハイパワーなお仕事。
 そして。

 チャートランキング。
 オリコン、ウィークリートップ10入り。
 ビルボードジャパン、ウィークリートップ10入り。
 私たちの努力は、スタートで結実した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 6月。私たちは『はやぶさ』のグリーン車にいる。

 およそ二ヶ月の全力疾走の結果、私の立ち位置は確保された。
『神秘の歌姫』
 なんとまあ直球ど真ん中なお名前。
 とても光栄なことである。

 忙しさが落ち着いてきたころ、社長が休みをくれた。
 いや。
 あの人が休みを勝ち取ってきた、のだろう。

 ようやくのオフ。私とあの人は北へ向かった。
 約束が果たされる。

楓「なんで、青森なんです?」

P「いや、自分が知ってるところのほうがね、案内できますし」

楓「まあ、そうですね」

P「それに楓さん。営業以外でこうして東北とか、今まで縁がなさそうですから」

楓「ああ、それはありますね」

 営業で来ることはあっても、ほとんどとんぼ返りだし。
 ゆっくりご当地めぐりなんて、望めそうもない。

P「ですから、企画しました」

楓「そうですか。ふふっ」

 あの人なりの配慮。

楓「では、よろしくお願いしますね? ツアコンさん?」

 私たちは、朝ごはんに用意した『深川めし』のふたを開いた。
 お酒? そんな当たり前のことは訊かないでいただきたい。
 ビールで我慢しました、はい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

温泉行きたいなあ

ではまた明日 ノシ

絵的に想像できる書き方を探ってます
実際マンガで見せられたらいいんでしょうけど、そんな画力は元からない

描ける人がうらやましい。描いてくれないかなあ

次回は温泉回。になるといいな

こんにちは
南部杜氏のお酒は出ます(たぶん)。石鳥谷には行きません
これでわかります?

投下します

↓ ↓ ↓


 新青森駅でレンタカーを借りる。
 まずは青森市内へ。

P「実はですね」

楓「はい」

P「青森市内は、あまりよく知らないんですよ」

楓「あらまあ」

P「学生時代に、弘前に友人がいたので、そっちは何度も行ってるんですけど」

P「車だと微妙に遠いんですよね」

P「それにもうすぐお昼ですから、アスパムあたりで食事にしましょう」

 言われてもぴんとこない。はじめてのところだし。

楓「ツアコンさんにお任せですから」

P「なんか、頼りなくてすいません」

楓「ほら」

P「え?」

楓「すいません、って」

P「ああ、はは……」

 ほどなく市街地へ。
 港に集まっている青森の街はコンパクトに見える。
 アスパムの展望台から見る陸奥湾の広がりは、とても印象的。

P「そうそう。今日の宿泊はあっちです」

 あの人の示す方向。本当なら八甲田の山なみが一望できるはずなのだが。
 あいにくの曇り空で、その眺望の堪能できない。

楓「浅虫じゃないんですか」

P「個人的に湯治してた宿に行きます」

楓「まあ、湯治ですか」

P「ええ、好きですからね」

 Pさんの温泉好きは筋金入りらしい。


P「たぶん、楓さんの好みに合うと思いますよ?」

楓「そうですか、ふふっ」

 それを楽しみに来ているのだ。私のハードルは高いですよ?
 お昼は中の飲食店で。じゃっぱ汁がおいしい。

楓「なんか、ほっとする味ですね」

P「こういう素朴なのって、いいですよね」

楓「お酒も頼んでいいですか?」

 いや、頼みましょう。わくわく。

P「あははは。夜まで待ってください」

 ええ? がっくり。

P「その分、いいの用意しておきますから」

 わかりました。私のハードルはもっと上がりましたよ?
 あの人は、物産店でなにか物色してたようだ。私もお土産買おうかな。
 ちひろさんにはなにがいいかな。まあ無難にお菓子かな。
 事務所のみんなで分け合えるし。

楓「あ、Pさん。琥珀ですよ」

P「おお。ほんとだ」

 久慈の琥珀。有名だけど、やっぱり。

楓「お高いんでしょう?」

P「お高いですね……」

 うん、私には手が出ない。この桁はなんだ。

楓「でも、琥珀を見ると」

P「はい?」

楓「中に虫がいないか、探しちゃったりしません?」

P「あはは。やりますねえ」

 そう。虫入りは高い。
 やたら俗っぽいとは思うけど、小市民だから許してほしい。

楓「このくらいぽんとキャッシュで買えるように、なりますかねえ……」

P「もちろん。それは保障します」

 そっか。
 Pさんが保障してくれるなら安心だ。

 まだ時間に余裕があるので、あちこち散策する。
 八甲田丸や、ワ・ラッセ。青森ベイブリッジの下で、休憩したり。
 なんとなく、デートみたいな気分。
 我ながら単純な女だなあとは思うけど、うれしいのだから仕方ない。

楓「Pさん?」

P「はい?」

楓「これ、デートですよね?」

P「ああ」

 あの人が空を見上げる。

P「うん。デートですね」

 空は鈍色。でも私の気持ちは。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 八甲田へ近づくにつれ、あたり一面もやが濃くなってきた。

P「ちょっと途中で休憩しましょう」

 雪中行軍像。ほう。
 歴史のお話程度のことしか知らない。
 あの人は大きな銅像に向かって「後藤伍長!」とか叫んでたけど。
 いや、あなたいくつですか。

 やや肌寒い空気のなか、暖かいお茶をすするふたり。

P「もうすぐ目的地です。なかなかひなびてていいと思いますよ」

楓「楽しみですね」

P「あ、露天はないですよ?」

楓「あら、それは残念」

 うそ。ちっとも残念なんかじゃない。
 お風呂がよければ露天の有無は関係ない。
 満足いくお湯と、おいしいもの、そして時間。
 これがあればいい。
 茶屋で多少つまみを仕入れて、いざ目的地へ。

 走ることしばらく。

P「ほら、やってきましたよ」

 見えてきたのは、山小屋のようなひなびた木造の宿。
 谷地温泉。目的地はここだった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

まだ風呂に入れないとか。楓さん(´・ω・)カワイソス

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 車を降りると、すぐにわかるほどの硫黄の香り。落ち着く。
 ひなびた一軒宿というのもポイントが高い。

楓「Pさん」

P「はい」

楓「いいところですね」

P「でしょう?」

 さすが温泉通。好みを的確についてくる。
 受付で宿泊手続きを済ませ、部屋に案内される。
 廊下の天井が低い。頭をぶつけそうなくらい。
 実際そんなことはないけど。
 急な階段をのぼって、2階へと通された。

楓「……」

P「……」

 うなぎの寝床のような長い間取り。
 実に、なんと言うか。
 見事になにもない。

 扉を開ければ、すぐに畳部屋。たたきすらない。
 靴は部屋の中にあるトレーへ。
 ドアの鍵すら、簡単なもの。
 これは本当に山小屋だ。

楓「Pさん」

P「……はい」

 私は、サムズアップを決める。

楓「グッジョブです」

 テレビすら古くて、映るかどうか怪しい。
 実に潔いじゃないか。
 風呂に浸かってのんびりしやがれコノヤロウという姿勢。
 大好物だ。

 私の反応に安心したのか、あの人も。

P「この何もなさが、いいんですよ」

P「湯治にもってこいなんです」

 いい笑顔で答えた。


P「夕食まで多少時間があるので、お風呂に行きましょうか」

 あの人の部屋はとなり。壁の薄さは気になるけど。
 ま。いい歳したふたりだし。分別はあるさ。

楓「いいですね。じゃあ準備をするので、できたら声かけますね」

P「了解です」

 あの人は部屋へ戻る。

 クローゼットらしきものを開けると、温泉浴衣が用意されていた。
 硫黄の香りがうつるからなあ。
 私はためらうことなく、浴衣へ着替える。
 タオルとクレンジング、ヘアバンドを用意して。
 あ、バスタオルも忘れずに。

 ひととおり用意できたところで、あの人と合流。
 Pさんも浴衣に着替えていた。

 お風呂は別棟になっている。男女の入り口は別。
 おや、残念でしたねPさん。

P「中のお風呂はぬるいので、ゆっくり浸かってくださいね」

楓「そうですか。わかりました」

 廊下でPさんと分かれ、脱衣所へ。
 ガタガタきしむ扉がまたいい。
 浴衣を脱ぎ浴室へ。
 木で囲われた浴槽がふたつ。白く濁ったお風呂と、透明なお風呂。
 へえ、透明なほうが源泉なのか。手をつけてみると確かにぬるい、というよりちょっと冷たい。
 壁に書かれている入浴方法を見ると。

『ぬる湯に30分、上がり湯にあつい湯5分』

 なるほど。白いほうが上がり湯なのか。確かに触れるとちょっとぴりっとする。
 ざああ。ざああ。
 かけ湯をして、いざぬる湯へ。


楓「……くぅ……ふぁ……ふぁぁ」

 最初は冷たいかと思ったけど、慣れると気持ちいい。
 ああ、これはやみつきになりそうだ。いくらでも入っていられそう。
 足元からぽこぽこと泡が出てくる。自噴ということのか。
 窓に一応時計がかかっているけど、そんなの見てられるか。
 もうこのまま、溶けてしまいたい。
 私は、長湯を決め込んだ。

 クレンジングで化粧を落とし、洗顔もする。
 石鹸はあったものの、全然泡が立たない。硫黄泉だもの、仕方ない。
 それでも、備え付けのボディーソープをなんとか泡立てて体を洗う。
 そしてまた、入浴。もちろんぬる湯。
 もうすぐ一時間かな。時計を見る。

 これは湯治したくなる気持ちもわかる。時間の進みがゆっくりなのだ。
 このお風呂に浸かっていれば、ほんとに時間なんか気にしなくなる。
 今まで時間に追われていた生活だもの。忙しいことはありがたいのだけど。
 たまに逃避したくなる。
 あの人は、どう思ってるのかな。

 日帰り入浴だけのお客さんもいるようで、声をかけられた。
 私のことを知ってくれていたらしい。うれしい。
 年配の方にまで知られているのは、とてもありがたいことだ。
 いろんなことを根掘り葉掘り訊かれるかと思ったけど、そうでもなかった。
 ちょっと世間話をして、まただんまり。
 みんな湯に浸かりにきたのだ。余計な話はいらない。
 お客さんも少ないみたいで、私は自分だけの空間を堪能する。

 気がつけば、1時間半も入っていた。あの人を待たせてしまったかな。
 上がり湯で体を温めて、身支度。
 あの人は廊下で待っていた。

楓「ごめんなさい。お待たせしました」

P「いえ、気にしないでください。私も今まで入ってました」

 そう言って私の手を握る。うわ、恥ずかしい。
 確かに手のぬくもりを感じられて、安心する。
 いやいや、そうじゃなくて。

 なんで私は混乱しているのだ。落ち着け、私。

P「もうすぐ夕食です。部屋に一度戻りましょうか」

楓「え、ええ。そうですね……」

 私の顔は、赤くなったまま。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夕食は食堂でとる。テーブルに部屋番号が書かれていた。

P「あ、お酒はいらないので。その代わり、コップをふたつ」

 え。お酒を頼まないですと?

P「いや、楓さんのために用意しておきましたから」

 あの人は包みから四号瓶を取り出した。『田酒』と書かれたラベル。

P「地元青森のお酒です。物産店にあったので」

P「それに、もうすぐ楓さんの誕生日ですから」

 特別に用意してくれたお酒。それだけでうれしくなる。
 誕生日かあ。モデル仲間にお祝いされたりしてたけど。
 こうしてゆっくりお祝いも、いいな。

楓「うわあ。ありがとうございます」

P「まあ、コップ酒で申し訳ないですけどね」

 あの人はビールグラスをチンチンと鳴らす。
 いいんです。いいお酒が呑めるなら。
 おやじスタイル結構じゃないですか。ガード下でもいけますぜ、旦那。
 とくとくとく。
 お酒を注ぐ。果実のようなさわやかな香りがする。

P「それじゃあ、少し早いですけど。お誕生日おめでとうございます」

楓「はい。ありがとうございます」

 かちん。
 口に含んだお酒はほんのり甘く、のどの奥にすっと消えていく。


楓「すっきりしていいですね、これ」

P「弘前の友人が遊びに来るとき、必ず持って来まして」

P「とは言っても、ほとんどそいつが呑んじゃうんですけどね」

楓「いいなあ。うらやましいなあ」

P「ま、今はどうしてるやら。連絡とってないので」

楓「あらもったいない」

P「勤務医で忙しそうですからね。転勤もあるそうですし」

楓「そうでしたか」

P「縁が切れてるわけじゃないので、またそのうちつるむでしょう。ははは」

 そんな話をしている間に、料理が運ばれてきた。

 イワナの刺身、塩焼き、きりたんぽ鍋。
 お酒をゆっくり味わいながら、舌鼓。イワナの刺身が淡白でありながら、身がしまっておいしい。
 鍋もいい味付けだ。

楓「なんか、ゆっくりしていていいですね」

P「ええ。ここで料理を食べるのもしばらくぶりで」

楓「そうなんですか?」

P「湯治のときは、自炊でしたから」

 ああ、そうなんですか。
 湯治と自炊は切っても切り離せないような関係かも。
 長湯治は自炊でもしないと、お財布にやさしくないですしね。

楓「一度、Pさんの手料理もいただきたいものですねえ」

P「いやいや、男の料理なんてアバウトですから」

楓「いいえ? 男性のほうが凝り性だって聞きますよ?」

P「そうですかねえ」

 そうですとも。男性料理人の多さをごらんなさい。
 女性は毎日のメニューを考えるのに四苦八苦ですから。
 まあ、料理に対して立ち位置が違いますからね。

 窓を開ければ沢のせせらぎ。
 私は至福の時間を堪能している。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

楓さんがどう入ったかって? タオル巻きしてるわけないじゃないですか
もちろんすっぽんぽん。硫黄泉にタオルつけたらボロボロになりまっせ
そこまでひどくはないですけど

今は経営者が変わってしまったらしいので、谷地温泉でこういう食事は出ない模様

ではまた来週 ノシ

>>202 誤字訂正

4行目 ×「自噴ということのか」 → ○「自噴ということなのか」

25行目 ×「1時間半」 → ○「一時間半」

数字には気をつけてるつもりですけど、ぽろぽろ間違いありますね

お待たせしました~

投下します

↓ ↓ ↓


 夜も更けて。あの人の部屋で呑みなおす。
 Pさんはソフトドリンクに切り替わっている。
 このお酒おいしいな。『田酒』だっけ。帰りに買っていこうか。

P「楓さん、改めて26歳の誕生日おめでとうございます」

楓「ありがとうございます。……なんか早いですね」

P「お互いにですね。20代後半になると、ほんと早い」

 他愛もない世間話。なにげない会話が楽しい。
 歳が近いせいか、あの人と話をするのは気疲れしないし、むしろ心地よい。
 お酒もすすんで、つい口も軽くなってしまいそうだ。

楓「そう言えばPさん。なんで私をスカウトしたんですか?」

P「ああ。んっと……顔ですね」

楓「顔、ですか……」

P「冗談です」

楓「冗談でもなんか、傷つきますよね」

P「あ、ああ。ごめんなさい。……つい楓さんとは長い付き合いと思うことがあって」

楓「長い、付き合いです、か?」

P「長いって言うよりは、密度が濃いって感じですかね」

 密度かあ。うん。
 確かに。
 この一年、実に密度は濃かった。あの人と一緒に走り回っているし。
 付き合いは一年なくても、確かに濃いな。

楓「ほんとですね。そう思います」

楓「他の子たちとはどうなんです?」

P「他のアイドルたち、ですか?」

楓「ええ。私の前にもプロデュースされてたでしょう? その子たちとも濃かったでしょうに」

P「ええ、まあ。そうですけど……」

 あの人は逡巡する。

P「こんな感じじゃなかったですねえ」

 ほう。それはどんな感じだったんでしょうね。

P「楓さんは、『トライアドプリムス』、ご存知ですか?」

楓「そりゃあもう。事務所の看板ですよね」

P「彼女たちのプロデュース、やってました」

 知らなかった。
 うちの事務所の稼ぎ頭。女の子三人組のユニット。
 そっか。Pさんのプロデュースだったんだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの人は語る。

 すでにピンで活躍していた凛ちゃんを中心に、ユニット活動をさせようという企画が持ち上がり。
 デビュー待ちだった加蓮ちゃん、奈緒ちゃんを加えた三人組をプロデュースすることに。
 そこに抜擢されたのが、まだ駆け出しのPさん。
 アシスタント歴はそこそこあったけど、すでに売れっ子のプロデュースということで。
 緊張の連続だったらしい。

P「凛はあまり話しませんけど、プロ意識の強い子で。無言実行タイプでしたね」

P「加蓮はもとから華がある子で。体力のなさを気力でカバーする子でした」

P「奈緒はね、あのとおり奥手で。でもやるときは切り替えられる聡明な子でした」

楓「なんで担当から外れたんですか?」

P「それは最初から決まっていたことです」

P「路線を決めてその目標に進んで、仕事のルーチンが回ったらマネージャーに渡す。そう決まってました」

P「ただ、ね。やっぱり難しい年頃は大変です」

 あの人は、三人といろいろ話をしながら路線を決めていったらしい。
 それだけ接する時間も長くなる。これがいけなかった。
 思春期の子と頼れる異性。恋愛感情も沸いてくるだろう。

P「なんていうか、依存が強くなってきてるのがはっきりわかるようになってしまったんですね」

P「特に凛」

P「明らかに仕事のパフォーマンスが落ちてしまいました」

 Pさんは恋愛感情を持つことはなかったそうだけど、彼女たちがそうだとは限らない。
 お互いに高い職業倫理は持っていても、心の揺らめきは隠せない。

 マネージャーへの引継ぎを前倒しすることとなった。
 多少の不満はあろうが、決定事項だから曲げられない。それに。
 大勢のファンがいる事実。
 高い仕事意識を持ってる彼女たちは、決定に従った。

P「今でも人気があることで、目指した方向は間違ってなかった」

P「でも、自分のやり方は、失敗でしたね」

 あの人と彼女たち三人は、今でもあまり顔を合わせることはない。
 大きな代償を支払ったのだろう。

P「今でも、どう関わればよかったのか。わからないんですよ」

楓「……難しいですね」

P「うん。思えば、憧れと恋愛を錯覚していたのかも、しれませんね」

楓「……」

 では、私の気持ちはどうなんだ。
 錯覚?

 酔っているから、言ってしまっても仕方ない。

楓「じゃあ、Pさん」

P「はい?」

楓「今日なんで、私には『デート』って、おっしゃったんですか?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


P「……」

 あの人は黙り込む。

楓「私も、彼女たちの気持ちがわかる気がするんです」

 私は、いま自分にある心の澱を吐き出す。

 Pさんと仕事をしてまだ一年も経っていない。でもそれ以上の付き合いを感じる。
 それは自分も同じだ。
 歳が近いこともあって、Pさんとは戦友以上のなにかを感じる。
 いいパートナーだと思う。
 でも。

 でも。
 Pさんに『弁えられる歳』と言われ、胸が痛んだ。
 私だって気持ちがある。アイドルとプロデューサーという関係が、どういうものかも知ってる。
 この気持ちのもやもやを、理性で強引にふたをしてる、そんな状況。

 なぜ。
 あのタイミングで。
 あんなことを、言ったのか。

楓「Pさんは、ずるいです」

楓「『デート』なんて言われたら、揺らぐに決まってるじゃないですか」

楓「Pさんは、私の心にすっと入ってきたんです」

楓「この気持ちは錯覚かもしれません。けど」

楓「この気持ちを貶めるようなことは、言わないでください」

楓「お願いですから……」

 言ってしまった。もう戻れない。
 私は自覚した。これは恋心に、最も近い感情だ。

 あの人は軽いやり取りのつもりで、言葉を返してくれたのかもしれない。
 流れ的にはそうだ。
 でも。私には大ダメージだったのだ。
 気づいてしまったのだから。

P「楓さん」

楓「はい」

P「聞いて、くれますか?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


P「正直、困ったもんですよ」

 あの人が苦笑いしながら、語る。

P「そうですねえ」

 大将の店で楓さんと会って、なんと言うか琴線に触れたんですよ。
 この人と仕事をしてみたい。純粋に興味ですね。
 でも、楓さんは自分の想像をはるかに超えてました。
 仕事スイッチが入ったときの楓さんは、自分の課題をこなすだけじゃなくて、そこに付加価値をつける。
 もっとこの人と関わりあいたい。そう思わせる力があります。

 自分も、そのひとりでした。ええ。
 でした、です。

 楓さんが、すっと入ってくるんですよ。これには参りました。
 他の人は、オン状態の楓さんしか知らない。
 自分は、オフ状態の楓さんも知ってる。
 これが、うれしくなってしまったんです。

 自分の気持ちに戸惑ってるのは、今もです。
 なんだろうなあ。
 楓さんがたぶん思っていることと、近いかもしれないですね。
 
 デートって言ったこと。あれは本心、でしょうね。
 疑問形なのは勘弁してください。自分でもすんなり言っちゃったんで。

 自分もたぶん同じ気持ちです。楓さん。
 ただ。

P「僕はプロデューサーで、貴女はアイドルです」

楓「わかってるつもりです」

P「お互いに、ただ勘違いして燃え上がってるだけかもしれません」

楓「そう、かもしれませんね」

 いやだ。
 そうじゃないと言って欲しい。

P「……もっと上に登っていきましょう。そうしたら」

楓「そうしたら?」

P「お互いの気持ちが、確かめられる」

P「そんな、気がします」

楓「……」

P「時間をください」

楓「……それは、どういうことですか?」

 気持ちにけりをつけるということか。
 それならそうと、はっきり言って欲しい。
 このまま宙ぶらりんなのが一番、つらい。

P「自分も大きくなります」

P「がんばりましょう。これからも」

 まだこの人と一緒にいられる。それだけで救われた気がする。
 でもそれは。
 死亡宣告よりつらいものかもしれない。

 一緒にいたい、だけでは済まないもの。
 あの人も、自分も。
 いっぱい抱えている。

 あの人と私は、まだ恋人未満。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


P「風呂入ってきます」

 クールダウンすると言って、あの人は風呂へ向かった。
 私は今、自分の部屋の中。
 残ったお酒をあおる。まったくおいしくない。

 ふう。
 ため息だけが、出てしまう。

楓「私も風呂、行こう」

 足取りもおぼつかないまま、お風呂セットを持って部屋を出た。

 ちゃぽーん。
 誰もいない浴槽に浸かる。

楓「あーあ。なんでこうなっちゃったんだろう……」

 打ち明けてしまった自分の失敗。
 何も言わなければ、ギクシャクすることなく済ませられたかもしれないのに。

 でもあの人も、同じ気持ちなのか。
 それがうれしいのと同時に、自分のしでかした事の大きさに頭を抱えたくなる。
 これから、普通の顔をして仕事できるのかな。
 後悔は、いつも先に立ってくれない。

 ふと見ると。入口の反対側に引き戸がある。

楓「なんだろう?」

 私は好奇心だけで、その戸を開ける。

楓「……打たせ湯だ」

 タオルひとつで、打たせ湯へ。
 この煩悩だらけの頭には、いい滝行かもしれない。
 そんな馬鹿なことを考えながら、流れ落ちる湯に肩を当てた。

楓「くうぅ……」

 痛い。
 ちょっとこれは痛すぎる。
 こらえ性がないというか。まったくどうかしているぞ、私。

 湯の圧力に負けて、私は戸を開ける。

楓「……あ」

P「……あ」


 あれ?
 どうしてあの人がここにいる。
 いや、違う。
 女湯と、造りが反対。

楓「!」

 慌てて戸を閉める。

楓「Pさん! ごめんなさいごめんなさい!」

 あっちゃー。やってしまった。
 ラッキースケベ。いやいや。
 そんな色っぽいことなんかあるものか。

P「いや! いいんです! 大丈夫ですから」

 扉一枚を隔てて、あの人が叫ぶ。

P「他に人、入ってなかったので」

 その言葉を聞いて。

 私はきっと、熱に浮かされていたのだろう。
 扉を開け、あの人の隣へ。

 ちゃぽん。

P「楓、さん?」

 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
 でも。
 一緒にいさせてくれたって、いいと思うんだ。

楓「今は、こうして」

P「……」

楓「いさせてください」

 透明な湯の中、ふたり。
 ふしだらだと、あの人は思うだろうか。

楓「あの……」

 なんと言えばいいのだろう。言葉がうまく出ない。

楓「私、その……」

 ああ。私のばか。

楓「今だけは、恋人でいさせてください……」

 理性はどこかへ置き去りにしてしまった。

楓「うれしかったんです、私……」

 そして。
 私は、あの人の唇を奪った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 なにも身に着けていない男女が、同じ浴槽に共に浸かる。
 浴場で欲情。
 なにをばかな。

 あの人は、私に手を出しはしなかった。
 安心感と、敗北感。

P「申し訳ない。手を出したら負けだと、思うので」

 手を出してくれたほうがいいのに。
 そのほうが、よほどすっきりする。どっちに転ぼうと。

楓「なんで、ですか?」

P「ええと……」

楓「なんでですか!」

 こんなに自分に正直になったというのに。あの人は。
 私に恥をかかせる気か。

P「楓さんはとても魅力的です。襲ってしまいたい」

楓「なら!」

P「それではだめなんです」

楓「どうしてだめなんですか!」

 理不尽な言葉ばかりがあふれてくる。
 なんということだ。誰か私を止めてくれ。

P「このままじゃ楓さんのヒモになっちゃうからですよ! わかってくださいよ!」

楓「ヒモだっていいじゃないですか!」

P「自分のプライドの問題です! 僕だって!」

楓「なんだって言うんですか! ええ! 聞こうじゃないか!」

P「楓さんを養えるくらいでっかくなりたいんだよ! わかれよ!」

P「誰も、ぐうの音も出ないくらい! 文句言わさないくらいしっかりしたいんだ!」

P「……じゃなきゃ、とても釣り合わない」

 あの人が悔しそうに、私を見る。
 ああ。失敗だ。
 こんな顔をさせるつもりはなかったのに。

 私は、あの人を抱きしめた。


P「楓さん……」

楓「……ごめんなさい。ほんとに」

 私にできることは。

楓「私は。あなたが、いいんです」

 こうして、一緒に。

楓「そのままの貴方が、いいんです」

 抱き合う。

楓「いつまでも、待ちます……いや」

 いや、そうじゃない。

楓「一緒に、大きくなっていきましょう」

楓「誰からも、うしろ指をさされないくらい」

 これは私の決意。腹をくくった。

 私は、この人と一緒に歩いてく。そのために。
 私は私のできることをせいいっぱい。

楓「帰ったら、また仕事仲間です」

楓「でも。オフのときくらいは、一緒にいさせてください」

楓「大丈夫。弁えてますから」

 私はせいいっぱい微笑む。

P「……ありがとう」

 やっと。ふたりの距離は定まった。
 やっと。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

重い(確信)

楓さんとイチャラヴする話だったのにどうしてこうなった
CoPだから、ちかたないね

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


P「いつからです?」

 あの人が問う。
 あの人の部屋。同衾するふたり。
 腕枕が気持ちいい。でも、一緒に寝てるだけ。
 このままなし崩しに事に及べば、壊れる。
 それは、あの人も私もわかっている。
 弁えてると言ったのだ。言葉には責任を持たなければいけない。

楓「うーん。たぶん」

 私は、思考の鈍った頭で考える。

楓「レコーディングの頃、ですかね」

P「そうですか」

楓「Pさんは覚えていないかもしれないですけど」

 私は言葉をつなぐ。

楓「Pさんが、作詞の先生にお願いしてくれたのが」

P「ああ」

 そう、うれしかったのだ。

楓「Pさんなりに、私を表現したいと言ってくれて」

P「そうでしたか」

楓「Pさんが、私に能動的に関わってくれるのが、うれしかったんです」

楓「私をきちんと見てくれるようで」

P「そうですね、うん。そうだ」

 あの人がつぶやく。

P「ほんとなら、プロデューサーが私情をはさんだらいけないんですけど」

楓「……でしょうね」

 私は笑う。

P「確かに、自分で染めたくなったんですよ」

 その言葉が素直にうれしい。

P「まあ、最初から惹かれていたといえば、そのとおりなんですけどね」

楓「ふふふっ」

P「業界的にも社会人的にも、だめなプロデューサーだと思いますよ。ええ」

楓「そんなことないです」

P「いや。こうして私情に任せて心通い合わせたら、だめですよ」


 それは正論だ。でも。
 正論なんかくそくらえと思う私がいる。

楓「それなら、私もだめなアイドルってことになります」

P「……ですね」

楓「いっそこのまま、逃げちゃいましょうか?」

 それもいいかもなんて。思う自分。

P「いや、それはだめです」

楓「なぜです?」

P「楓さんが成し遂げたところ、見たいですから」

楓「成し遂げた、ですか」

P「ええ。そのためにスカウトしたんですし」

楓「それもそうですね。ふふっ」

P「なにより、自分でそうしたい。今はそう、強く思ってます」

楓「それなら、逃げ出せませんね」

P「はい。逃げません」

楓「だったら」

 私はあの人へ顔を向ける。

楓「なおさら、隠し事はなし、ですよ?」

P「わかりました」

楓「私も逃げません。だから」

楓「成し遂げたら……」

 成し遂げる。
 それがどういうものなのかはわからないけど。きっと。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 朝。朝食を済ませ、ひとときのまどろみ。
 あの人が横にいる。
 夜はお互いよく眠れなかった。さすがにこれでは運転に支障が出る。
 朝風呂もいいけど、いい加減入りすぎてだるくなってきた。
 出発まで、ごろごろ。

 寝顔、かわいいな。
 見ていたいけど我慢。自分も休息しないと。

楓「少しは休めました?」

P「ええ、大丈夫です。深く寝たので」

 Pさんに申し訳ない。睡眠不足の原因は私だ。
 出発時間を遅らせても、あの人の休息にあてた。

P「まあ、あまり回れなくなっちゃいましたけど」

楓「いいんです。私こそごめんなさい」

P「楓さん? ほら」

楓「え?」

P「『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』ですよ?」

楓「あ」

 一本とられた。自分で言ったことなのにね。

P「楓さんには、感謝してます。ありがとう」

楓「いえ、私こそ」

 今度こそ。

楓「ありがとう」

 少しすっきりしたところで、出発しよう。


 行きとは別の道。酸ヶ湯へ抜ける。

P「時間があれば、酸ヶ湯の千人風呂にも行きたかったですけどね」

楓「あら。あそこは混浴でしょう?」

P「よく知ってますね」

楓「だって有名じゃないですか」

 私だって温泉好きなのだ。有名どころは知ってる。行ったことないけど。
 あの人は意地悪そうな笑みを浮かべる。

P「おや。谷地のお風呂も混浴なんですよ? 知ってました?」

楓「え?」

P「昨日、楓さんとふたりで入ったところですよ」

 知らなかった。だとしたら、Pさんはあざとい。
 下心満載じゃないか。

P「まあ女性風呂もあるんで、混浴になることなんてないですけどね」

 むむ。そんなことでこの楓さんがごまかされるとは思わないでいただきたい。

楓「でも、期待して選んだんですね?」

 そう言うと、あの人は「まさか!」と噴き出した。

P「あんなひなびたところに、若い女性なんかいるわけないじゃないですか!」

 あの人はひいひい笑っている。私は面白くない。

楓「その若い女性と混浴したのは、どこの誰ですかねえ」

P「……いや、まあ。はい。役得でした」

 あの人を黙らせることに成功する。
 そうそう。私の上に立とうなんてまだ早い。
 ふふっ。


 惜しいけど酸ヶ湯は通過する。いつか来ますからね。
 城ヶ倉大橋を抜けて黒石へ。

P「お昼がまだですし、ここで『つゆやきそば』でも食べますか」

楓「『つゆやきそば』ですか?」

 焼そば、だよね?

P「まあ、僕も食べたことないんですけどね」

楓「じゃあ、自らが実験台になる、と」

P「楓さんも道連れですよ」

楓「あら、怖いなあ。ふふっ」

P「ははは」

 駐車場に入れて、お店へ。お昼の時間も過ぎたというのに大賑わいだ。
 相席でと案内される。

 頼んでしばらく。つゆやきそばが運ばれる。

楓「あらら」

P「うわあ」

 でかい。765プロのお姫さまなら大丈夫だと思うけど。
 でも頼んだからには、お残しは許しまへんで。
 あの人とふたり、果敢に挑戦する。

P「お。意外といける」

楓「あら、ほんと」

 ラーメンスープに浮いた焼そばという、想像しにくい物体だったのに。
 スープがあっさりしているからか、ソース味となじんでいる。
 なにより麺がもちっとしておいしい。
 こってりしてるけどあっさり。癖になるかというと、うーんという感じだけど。

P「たぶん、自分の家で作ったらこうはならないですねえ」

楓「……ですね」

 やっぱり、地元のお店で食べるのがいいと思う。
 あの人に心配されたけど、私も完食。

楓「味が濃いから、お酒に合いそうですね」

P「あ、焼きそば酒ってのもあるらしいですよ?」

 がたん。
 なんですかそのZ級グルメ。

P「いや、焼きそばに合う日本酒ってことで、売られているらしいですけど」

 ああ、そういうことか。残念。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 黒石から高速を使って青森市へ。戻ってきた。
 レンタカーを返して、みやげ物を物色する。
 事務所のみんなにはりんごスティックかな。まるごとりんごパイだと、切り分けられないし。
 あと、『田酒』は買っていこう。
 おいしいけど、すぐに呑むのはもったいないかな。あの人との思い出の品だし。

 昨夜の出来事を思い出して、恥ずかしくなる。
 私は、あんなに浮かされるような女だったのか。昨日の自分を問い詰めたい。
 あわあわしていたら、「なにやってるんです?」とあの人が。

楓「い、いえ。大丈夫。ええ。大丈夫ですとも」

P「なんか大丈夫って感じに見えないです。動揺しまくりじゃないですか」

 くすくすと、あの人。
 むう。

楓「Pさんのせいですからね」

P「ああ。僕のせいですね」

 お互いに恥ずかしいことでも、こうして軽口で交わせる。

P「どうでしたか?」

楓「ええ、いい旅行でした。ありがとうございます、ツアコンさん?」

P「それがなにより。では」

P「日常へ帰りましょうか」

 日常。また忙しい日々がはじまる。でも、私とあの人には目標がある。
 成し遂げる。
 そんな漠然とした目標であっても、私たちにはとても大事なことだ。

 もう腹はくくっている。あとは、自分の気持ち。
 今にも暴れそうな思いにふたをして、立ち回ろう。
 大丈夫。あの人がいる。

 車内。あの人とふたり。

楓「手をつないで、もらえますか?」

 あの人はなにも言わず、ブランケットの下で手をつなぐ。
 私はそのぬくもりを感じながら、意識を沈めていった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

楓さんがかわいく書けてるか心配
あとR-18にならないように気をつけてますけど、一応保険としてR-15ということで

がんばって書きます
ではまた ノシ

今日の投下はありません。ごめんなさい

ふたりのターニングポイントまで書いたら、ぱたっとss神がご降臨なされません
ちょっとアイディア練っておきます

しばらくずっとお待ちください(←二回目

少しですけど投下します

↓ ↓ ↓


 旅行からしばらく経った。7月。
 私は大将の店にいる。

大将「楓さん、浮かない顔してるねえ」

 大将が心配して声をかける。

 確かに腹をくくったなどと宣言したものの。ハードルはひどく高い。
 社長になんと言えばいいのか。
 名前が売れればマスコミだってかぎ回るだろうし。
 事務所の他の子たちにも示しがつかないし。
 なにより、ファンの気持ちをないがしろにすることになる。

楓「いえ、ちょっと考え事してただけで」

大将「ん。そっか」

 大将が深入りせずに放っておいてくれるのがありがたい。
 あの人はまだ仕事中だ。忙しそうで心配になるけど、私ができることはないに等しい。

楓「私も、ただの女なんだなあ……」

 自分がこんなに乙女だったとは。まったく世の中わからない。

 高校生のとき、先輩や同級生に告白されたこともある。付き合ったことも。
 でも、長続きはしなかった。
 どこか覚めた目で見ていたのかもしれない。恋愛なんてこんなもんか、と。
 身体の関係になることもなく、別れてしまう。それになんの感慨すら持たない自分。
 いや。
 正直に言おう。奥手なのだ。
 コンプレックスだらけの自分が求められることに、抵抗があった。
 自信もない。
 無意識でその手のことを遮断してしまう。

 だから、あの夜の自分が今でも信じられない。
 いまさらうぶなんですとは言わないけど。


楓「まったく。どうかしてる……」

 私は思考の海に沈む。まるで迷路だ。
 どこに出口があるのだろう。いや、まったくないのかもしれない。
 考えるほど暗澹たる気持ちになる。

CG社長「おや、だいぶ呑んでますね」

 突然声をかけた人物は、私を驚かせるに十分だった。

 なんでここに社長がいるのだろう?
 その答えはすぐわかった。後ろにあの人がいる。

社長「Pくんに誘われましてね。いや、なかなかいいお店です」

 社長はにこにことしている。
 あの人は大将に話をしている。大将はうなずいて奥の座敷へ通した。

P「楓さんも、一緒にどうですか」

 私がそれを断ることは不可能なこと、わかるくせに。
 でもそれは言わない。

 こころもち緊張しているあの人と一緒に、座敷へ移動する。
 隠れ家に社長が来るということは。
 うれしい話ということでもないのだろう。

 座敷はきちんと隔離されていて、カウンターや小上がりの賑やかさが響いてこない。
 まあ。こういうことも考えての造り、なんだろう。
 つまり、聞かれては困る話、ということだ。

 この先の展開を想像して苦しくなる。最悪のことにならなければいいが。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


社長「まずは乾杯しましょうか」

 座敷に三人。手にお猪口を持っている。

楓「お疲れさまです」

P「お疲れさまです」

社長「乾杯」

 軽く一口。大将は次々と料理を運んでくる。
 社長は大将になにか告げた。表情を堅くする大将。

社長「いや、Pくんがこういう店を知ってるとは。びっくりしましたよ」

P「たまたまです」

社長「まさか、宝生はづきのお相手のお店とは、ね」

 宝生はづき。はて。
 あ。
 思い出した。

 一般男性と結婚して、表舞台へ出なくなった女優さんだ。
 結婚のニュースはそれなりにセンセーショナルだったけど、その後は特に何もなく。
 女優として伸びた時期での結婚だったから、表に出てこなくなったのを惜しむ声もある。

 まさか。
 いや、そのまさかだった。
 大将の奥様。
 Pさんに写真を見せられたときは美人さんだな、としか思わなかったけど。
 あの表情は宝生はづきだった、かも知れない。


P「僕も最初は驚きました。ええ」

P「でも大将の人柄に触れて、なるほどと思いまして」

社長「そうでしたか。いや、まったく世間は狭いですね」

 社長は懐かしそうな目をしている。

社長「彼女が幸せなら、それでいいと思いますよ」

P「実に幸せそうでしたよ。みんな妬けるくらいに」

 そうか。社長に指摘されて、大将は堅くなったのか。

楓「あの」

P「はい」

楓「Pさんは知っていた、ってことですよね?」

P「まあ。大将と仲良くなったのが先ですけどね」

 なにか触れてはいけないものに触れてしまった気がする。これでよかったのか。

P「たとえ奥さんが元女優だろうが、大将は大将ですし」

P「その大将の奥さんってことだけで。それ以上でも以下でもないです」

楓「でも、社長もよくお分かりになりましたね」

社長「Pくんから多少聞いてましたから、ここに来る前に」

 そっか。顔見知りというわけではないのか。

社長「で、本題です」

社長「高垣さん」

 私は一気に緊張の度合いを高める。

社長「Pくんとのこと、本気ですか?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

重すぎる(確信)

落としどころもある程度の展開も考えてますけど、言葉が出てこない
産みの苦しみ状態です

ただ、へたに推敲するより最初の勢いのほうがいい文章だったりする経験があるので
毎日とろとろと筆を進めてます

書くぜー。超書くぜー
では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 私は、あの人の顔をうかがう。でも、いまひとつつかめない。

社長「あの、誤解しないように言っておきますね」

社長「別にとがめようとか、そういうわけじゃないです」

楓「あの。どういうことでしょうか?」

社長「いや、事実はどうなのかということを、知りたいだけですよ」

 怪しい。
 そんなことでここに来るなんてありえない。

P「社長」

 厳しい顔であの人が止める。

P「楓さんにカマかけるのは、やめてもらえませんか」

 そういうと社長は、からからと大声で笑い出した。

社長「いやいや。Pくんは本気なんですかねえ」

 笑う社長と、困った顔のPさん。

社長「いやあ、Pくんが担当をはずして欲しいなんて言い出すから、てっきりもう手をつけたのかと思いましたよ」

 は? それはどういうこと?
 いや待て。今『担当をはずす』と言ってたような。

楓「Pさん」

P「……」

楓「社長にそんなことをおっしゃったんですか……」

 怒りがこみ上げてくる。
 あれほど、隠し事はなしと言ったはずなのに。Pさんは。

楓「社長」

 私は社長に向きなおす。

楓「私は本気です」

 社長の笑い声が止まる。

社長「ほう?」

楓「私は、本気でPさんとお付き合いしたいと、思っています」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 早いか、遅いか。
 本気なら、いずればれる話なのだ。

社長「そうですか」

楓「はい。所属タレントとして、大変申し訳ないことをしました」

楓「謹慎でもなんでも、処分は覚悟しています」

楓「解雇も」

 社長はなにかを考えている。

P「いえ。自分からお付き合いしたいと、申し出たのです」

P「楓さんに、責任はありません」

P「処分はお任せします」

 Pさん!
 なにを言い出すんですか。
 あなたがいなかったら私は。

楓「Pさんはプロデューサーとして大変有能な方です」

楓「Pさんが去られるとしたら、事務所にとって大変マイナスだと思います」

P「楓さん!」

社長「まあまあ」

 あわてるあの人を、社長が留める。

社長「Pくんの有能さは、よく知ってますよ」

社長「それと、己に対しての厳しさも」

社長「その厳しさが、凛くんにつらい思いをさせたこともね」

P「……」

楓「……」

社長「まあここは会社じゃありませんし、戯言です」


 社長がゆっくりと話し出す。

 アイドルと関係者の恋愛なんて、別に珍しいことでもないですよ。
 それに、私も人のこと言えませんからね。
 私の妻もアイドルでした。私のプロデュースで。
 ですからね、私はふたりを引き離そうとか、そういうことを考えてるわけじゃないんですよ。
 前向きに仕事をこなして事務所の利益になれば、いいんです。

 ただ。スキャンダルはまずい。
 ばれるのがまずいのではなくて、事務所があずかり知らないということが、です。
 あらかじめ知っていれば、やりようはいくらでもある。
 リスクマネジメントです、要は。
 ただ。

 凛くんには、大変申し訳ないことをしました。
 彼女もPくんも、あまりに真っ直ぐすぎた。彼は自分を律し、彼女は憧れを抱いた。
 そのことで仕事に影響を出してしまったら、それはさすがに見過ごせない。
 だから、離したんです。

 そんなPくんが、自分から降りたいなんて言い出すんです。なにかあるに決まっている。
 仕事に真っ直ぐで、自分を律することができる彼です。
 凛くんの事がありましたから、そういうことではと思いまして。

社長「ですから。おふたりの本心を知りたいと、思ったんです」

 耳が痛い。
 あれこれひとりで思い悩んでる暇があったら、とっとと社長に話をすればよかった。
 それだけのことだった。

 それだけのことが、簡単にできない。
 しがらみだらけの業界だから、難しい。

社長「ただ、高垣さんは今、うちの事務所でも大々的にプッシュしているアイドルです」

社長「惚れた腫れたでいられたら、非常に困るんです」

楓「……はい」

社長「ぶっちゃけ言いましょう。売れてください」

社長「それが、私の処分と思ってください」

楓「……ありがとう、ございます」

社長「まあPくん辞めさせて、それで高垣さんが仕事に穴あけてしまうほうが、よほど怖いですから」

社長「それだけ、投資してますからね」

 実に直球な話だ。要は、認めてもらえるくらい売れてみせろ、と。
 事務所に損害出すな、と。
 お前に投資した分は回収させろ、と。

P「わかってます」

 あの人は真っ直ぐ社長を見据える。

P「それは自分の義務ですから。そして」

P「間違いなく、売ってみせます」

楓「私も、Pさんと一心同体ですから」

楓「やり遂げてみせます」

 もはやふたりの逃げ道はない。
 成し遂げることという目標はあれど。そこに絡むのはお金。
 その現実に寒気が走った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

書き進めるたびにどんどん重くなる。なぜだ

かの業界は魑魅魍魎の跋扈するところなので、こんなきれいごとになるはずがない
と思います
SSだもの、このくらいいいよね

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 社長はタクシーで帰るといい、ふたりで帰宅を見送った。
 そして、座敷へ戻り。大将と三人。

P「大将……ごめん」

 あの人は大将に頭を下げた。

大将「いや、別にいいさ。知ってる奴は知ってることだ」

P「それでも」

大将「だーから。別にいいっての」

P「……」

大将「まあ、な。今でもうるせえ奴はいる。嫁を復帰させないごくつぶし、とか」

大将「お前らの業界は人材不足なのか?」

P「ほんと、申し訳ない」

 重苦しい雰囲気の漂う中。大将が語る。

 俺と嫁が付き合って結婚したってのは、知ってる奴は知ってる事実だ。
 別に隠し通そうとしたわけじゃないしな。
 嫁のいた事務所だって知ってるし、今でも動向は知らせてる。
 まあ、近所に住んでたちんちくりんがアイドルになってたってのは、びっくりしたけどな。

 この店に嫁を出さないのは、俺のわがままだ。
 嫁は一緒に店を切り盛りしたいと言ってくれるが、なんかな。
 嫁のネームバリューで店が繁盛するの、いやじゃねえか?
 あいつが家庭を守りたいと言って引退したんだ。嫁には家を守ってもらう。
 それに、家族も増えたしな。

 嫁がお前らの業界に戻らないのは、別にいやだからとかってわけじゃないし。
 もちろん、俺が引き止めてるわけじゃない。あいつがやりたいって言うなら、応援する。
 うるさく言ってる奴は、しょせん外野だからな。
 あいつの気持ちも、事務所の理解も、なーんもわかろうとしない。

 なあPよお。
 お前が俺たちのことを知ってて、ちょっかい出さないでいてくれるのは、知ってる。
 お前は信用できるってのは、今までの付き合いでわかってるつもりだ。
 それで裏切られるなら、それは俺の目が節穴ってだけだ。
 そのお前があの社長にばらしたんなら、あの社長だって悪いようにはしないだろうさ。


大将「ま、そんなわけで、だ」

P「……」

楓「……」

大将「俺は気にしちゃ、いない。そこはわかれ」

大将「な?」

 私たちはなにも言えない。
 大将は大将なりに苦労があっただろうに。そこは決して口に出さない。

大将「なんだな。Pと楓さんがくっついたってのは、俺にとっては朗報だ」

楓「朗報、ですか?」

大将「ああ。応援してたからな」

大将「業界とかしがらみとか関係なしにさ」

大将「いい男といい女がくっつくってのは、いいもんだろ?」

 あの人は頭をかく。

大将「こいつ固ぇからさ。早いとこ身を固めちまえって思ってたからな」

楓「ふふふっ。そうですか」

大将「楓さんや」

楓「はい」

大将「こいつを、頼む」

楓「……はい」

大将「それとPよお」

P「……なんです?」

大将「楓さんを泣かすな。俺がぶっとばす」

P「怖いですね」

大将「当たりめえだ。先輩なめんな」

 大将……。

 いろんな逆風があろうと、この人はずっと応援してくれる。
 それだけで、私たちは救われる気がした。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 帰る前に事務所へ戻る。今後のことを話し合うためだ。
 事務所ではまだ、ちひろさんが仕事をしていた。

P「ちひろさん、あんまり無理しちゃだめですよ」

ちひろ「いえ、もうあがりますからご心配なく」

P「女性の残業は感心しませんよ?」

ちひろ「ふふふ。女性扱いしてくれるんですね。ありがとうございます」

 確かに夏向けイベントで忙しい時期だ。
 学生組の子たちは、夏休みが大いに稼ぎ時でもある。
 そんなわけで裏方も大忙し、ということになる。

ちひろ「打合せですか?」

楓「ええ、そうです」

ちひろ「社長とご一緒だったんでしょう?」

P「社長は先に帰りましたよ」

ちひろ「そうですか……」

 そう言ってちひろさんは、冷蔵庫からなにかを取り出してきた。

P「仕事場でビール、ですか」

ちひろ「ちょっとした息抜きです」

P「いやいや」

ちひろ「だってPさんも楓さんも、すっかりできあがってるじゃないですか」

楓「ふふっ。まあ、そうですね」

ちひろ「それに」

ちひろ「ひとり酒って、淋しいじゃないですか」

 ああ。
 そうだなあ。


 以前の私なら、ひとりで呑むことになんのためらいもなかったはずだ。
 でも今は。
 あの人のとなりで呑むことが、当たり前のようになってる。

 うん。ひとり酒は淋しい。

P「仕方ないなあ。今回だけですよ?」

楓「ええ。お付き合いします」

ちひろ「ありがとう。やっぱりこうして仲間と呑むって、いいじゃないですか」

P「ああ。うん」

楓「そうですね」

 ぷしゅっ。
 プルタブをひく音が響く。

ちひろ「じゃあ」

楓「ええ」

P「お疲れさまです」

 ほてった身体にビールの冷たさが心地よい。

 そうだよなあ。
 自分たちのことだけじゃなくて、こうしてがんばってくれる仲間がいる。
 この人たちのために、がんばれる。

ちひろ「職場でビールもいいですね」

P「背徳感満載ですしね」

楓「ふふふっ」

 先ほどまでの重苦しさから解放される。
 うん。
 単純に。がんばろう。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

重苦しくて救われねえと思ったら、ちっひーが救ってくれた

天使! 女神! ちひろ!


飯食います

ほんの少しだけ投下

↓ ↓ ↓


ちひろ「あまり遅くならないようにしてくださいね」

 ちひろさんは「ふふふ」と意味深な笑みを残して帰宅した。

楓「ふたりきり、ですね」

P「ですね」

 あの人は自分の椅子に腰をかける。

楓「これからのことですけど」

P「そうですね……」

 沈黙。

P「なんか、ちひろさんの呑んでたら、どうでもよくなっちゃいました」

 苦笑する。

楓「Pさんもですか」

P「ええ。数多く仕事こなして売るとか、考えたんですけど」

P「そんなの、どうでもいいや、と」

 その言い草におもわずおかしくなる。

楓「ふふっ。ふふふっ」

P「おかしいですか?」

楓「いえ。Pさんらしいなあって」


P「僕らしい、ですか」

楓「ええ」

 今なら、あの人の考えてることがわかる。

楓「今までどおり、なにも変わりなく、ですよね?」

P「……まあ、そのとおりです」

 お互いに笑う。

P「今までやってきた方向は間違ってない、というか、正しいと思うんで」

楓「そうですよ」

P「ま、粛々と。やりますか」

楓「ええ。それでこそ」

楓「私が惚れたPさんです」

 恋の力は、ときに素晴らしいと思える。
 なんの根拠もなく、できると思えるその力。

P「……帰りましょうか」

楓「ですね」

P「なんか、ただビール呑みに戻ってきた感じですね」

楓「いいじゃないですか、それで」

 あの人と手をつなぐ。
 ぱちん。
 フロアが暗くなる。あるのは窓越しの街灯り。

楓「Pさん」

 自分の唇をあの人の唇へ、軽く重ねる。

楓「よろしくお願いします、ね?」

 あの人の表情はよく見えない。
 でも。

P「ええ。これからも」

P「末永く」

 その言葉で、明日からも。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ビターなのもいいけど、スイートなところで終わらせたかったので
甘さは控えめじゃないほうがいいよね

では、よい三連休を ノシ

誤字訂正

>>265 9行目

×「ちひろさんの」 → ○「ちひろさんと」

連休いかがでした?

投下します

↓ ↓ ↓


楓「ふう」

 ファンの熱気にあてられる。
 8月。
 セカンドシングル発売と同時に、ファンミーティングのライブを行っている。
 全国で六ヶ所程度のものだけど、会場を借りて有料のライブの行うのは初めてだ。

P「お疲れさまです」

 あの人がぬるいスポーツドリンクをすすめる。
 体調、特にのどの調子を崩さないよう、冷たいものにせずわざわざ常温にしている。

楓「Pさんもお疲れさまです。大変でしょう?」

P「いやいや、ステージの楓さんのほうが大変でしょう」

 お互いに譲り合ってる。どうぞどうぞって。
 なんだかなあ。

楓「うーん、なんて言うか。こんなに集まってくれて申し訳ないというか」

P「申し訳ない?」

楓「……いえ、謙遜はかえってファンの方に失礼ですね」

楓「ふふっ」

 あの人はなにも言わず、ただ笑顔で見つめてくれる。
 チケットは、全ての会場でソールドアウトだそうだ。
 反響と期待の大きさに逃げたい気持ちも沸いたりするけど、でも。
 私に会いに来てくれる、このことが素直にうれしい。

P「うれしそうですね」

楓「ええ。もちろん」

 あの人も満足そうだ。
 私も、ファンの反応が直接感じられるライブはとても楽しい。

P「楓さん?」

楓「はい?」

P「アイドルらしさが板についてきましたね」

楓「ええ、そりゃあもう」

 自信を持って言い切る。

楓「Pさんの教えのたまもの、ですから」

 忙しいけど、充実している。
 プロモーターや後援者へのあいさつ回りとか、いろいろしがらみや打算もあるけど。
 それでも、その忙しさが楽しいのだ。

 相変わらずとんぼ返りの日々だけど、Pさんとふたり旅。
 これもデートだ、と思えば。やる気も倍増。

 私たちの努力は、ちゃんと結果となって表れている。

楓「でも」

P「ん?」

楓「しばらくは、お預けですかねえ」

P「……なにがです?」

 なにがって。
 貴方とのプライベートデートですよ。
 そう言いそうになるけど、こらえる。

 まだ、成し遂げてなんかいない。これからこれから。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ライブが成功してすぐ。あの人が言う。

P「フルアルバムの制作に入ります」

 早い。まだセカンドが出たばかりだというのに。

楓「だいぶ早いんじゃないですか?」

P「いや、時期的にギリギリですね」

 12月にサードシングルを発売し、そのすぐあとにフルアルバムを出す、というスケジュールらしい。
 逆算すると、今からレッスンとレコーディングを行わないとまずいそうだ。

楓「Pさんにしては、だいぶ荒っぽいような気がするんですが」

P「いや、そういうわけでもないんですよ」

 企画としては、すでに動いていた途中だった。
 ライブの反響で、制作会社が前倒しを希望した、と。

楓「うーん……」

 あの人がゴーサインを出したのなら、できるのだろうけど。
 シングルではなく、フルアルバムかあ。

P「楓さんが心配になる気持ちはわかります」

P「ただ制作会社が前倒しを希望するなんて、普通はありません。スタジオを押さえる関係もありますし」

P「関係者のスケジュール調整もありますからね」

楓「なら」

P「それだけ、楓さんが売れる、と見込んでのことです」

P「大丈夫。僕がなんとかします」

 あ。
 そうじゃないのに。

楓「Pさん?」

P「はい?」

楓「だから、なんでひとりで抱えるんですか?」

P「あ」

楓「私とPさんの、ふたりの作業ですよ?」

 あの人は頭をかいている。

P「そうでした、はい。ふたりの作業ですね」

楓「ええ。一心同体でしょう?」

P「あはは。……はい」

P「これはチャンスです」

P・楓「「一緒にモノにしましょう」」

楓「ですよ、ね?」

 あの人は一瞬あっけにとられ。
 そして笑った。

P「いや、こりゃまいった!」

楓「ふふふっ」

 ビッグチャンス。確実にモノにしよう。
 大丈夫。あの人がいるから。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


楓「それはそうとですね」

 場所は大将の店。
 私はあの人に説教をしている。

楓「Pさんが忘れていたとは、まったく信じられませんねえ」

 事務所を移籍して一年。
 そう。
 大きな話でうやむやになっていたが、移籍して一年のお祝いすらしていなかった。

P「いやほんと。面目ない」

 ぺこぺこ謝るあの人を横目にして、大将はにやにやしている。

大将「俺はフォローできねえよなあ。お前が悪いんだし?」

P「いや、だからほんとに面目ないって」

 ふと、あの人の言葉が止まる。

P「あの。大将関係ないですよね?」

 大将は高笑いをしながら厨房へ引き上げた。

P「……ったく、都合悪くなるとすぐ引っ込むんだから」

楓「Pさんが言えた義理じゃないですよね?」

 私はとどめを刺す。

P「……」

 いや、私としても公開説教をするつもりはなかったのだ。
 ただ、仕事に明け暮れるあの人を見てるのがつらかったし。

楓「淋しかったんですよ?」

P「いや、まあ」

楓「確かに、仕事中は弁えて、ということはしっかりやってます。お互いに」

楓「でも、少しはプライベートに気を遣ってくれても、いいと」

楓「思うんですよねー」

 自分でもおとな気ないとはわかっている。
 でも、やっぱり記念日くらいは覚えていて欲しいものだ。

楓「私のわがまま、なんですかね?」

P「……」

楓「……なーんて。いいんです」

 少し気を抜く。

楓「私はどんなときでも、Pさんの彼女のつもりなんです」

楓「ただここのところ忙しくて、お互いのプライベートもおろそかだったじゃないですか」

楓「仕事ばかりで」

P「まあ、そうですね」

楓「ちょっとわがまま言ってみたくなっただけです」


 うそ。そんな簡単な理由じゃない。

楓「いえ、ほんとは」

楓「Pさんが忙しすぎてちょっとつらそうにしてたから」

楓「それが心配だったんです」

 そう。彼氏が仕事で悲鳴を上げているのを、自分はそばで見ているのだ。
 彼女として心配になるのももっともだと、思う。

楓「ここのところのPさんは、走りすぎです」

楓「ちょっとは息を抜いてください」

P「……走りすぎ、ですか」

楓「ええ。アルバムの話も含めて」

楓「なんか、功を焦っているみたいで、不安です」

P「……ふう」

 あの人がお猪口をあおる。

P「そうですね。焦っていたかもしれません」

P「楓さんのプロデューサーの前に、彼氏であるべきなのにね」

 あの人はなにかを考えている。

P「楓さん」

楓「はい?」

P「僕といて、つらくないですか?」

楓「え?」

 なにを言い出すのやら。

楓「Pさんは勘違いをされてません?」

P「なにをですか?」

楓「私は、Pさんと離れるつもりは、いっさい、これっぽっちも、ぜーんぜん」

楓「ありませんから、ね?」

楓「私は、Pさんとふたりだから、なんでも楽しいんです」

楓「私はつらいなんてこと、まったくありませんから」

楓「ご・か・い・し・な・い。こと!」

 あの人の額にデコピン。べちん。
 あ。
 モロに痛そうだ。

P「ふ。ははは。はははは」

楓「ふふっ。ふふふ」

 ひとしきり笑う。そして。

P「楓さん」

楓「はい」

P「大好きですよ」

 Pさんたら。知ってますよ。

楓「私も、大好きですよ」

 こんなにすんなり言えるのは。
 きっとお酒のせいばかりじゃ、ない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

三連休もあったのにこれしか書けてないorz
ゆっくり進むのでとりあえずご勘弁を

ではまた ノシ

さて投下しようと思ったらいつもの定休日でがっかりした(´;ω;`)

投下します

↓ ↓ ↓


 アルバムに向けて、レッスンが始まる。
 サードシングル曲もお願いしている、作曲家の先生とマンツーマンで。
 とはいえ、あの人も同席している。

作曲家「はい、オッケーです。……あいかわらず飲み込みが早いですね」

楓「ありがとうございます」

 セカンドシングルもお願いした方だ。お互いに気心が知れている。

作「これだったら、即レコでも大丈夫そうですね」

 そう言われると照れくさい。
 ベテトレさんとのボイトレは継続してるので、音の拾い方がよくなってるのかも知れない。

P「あとは、スタジオ待ちですかね」

作「そうだねえ。……って言うか、Pくんアレンジャーやらない?」

P「なんですか唐突に」

 あら。『Pくん』とは。

楓「Pさんと先生はだいぶお親しいんですね」

作「いやいや、親しいもなにも、こいつ俺の後輩ですから」

P「……あんまりばらさないでくださいよ」

 あの人は苦笑している。

作「てっきり普通のリーマンになるかと思ってたのに、なんの因果かなあ」

P「こうして一緒に仕事することになるとは」

作「ねえ」

楓「Pさんって、曲関係の仕事もなさるんですか?」

作「んっと、私よりできると思いますよ」

作「もっとも、本人にその気はないみたいだけど?」

 あの人は、両指でバツ印を出している。

作「こいつとは高校のときからかな? 知ってて」

作「オケ部の後輩でね」

 へえ。
 なにやら面白そうなネタだ。


楓「じゃあ、Pさんは演奏ができるんですね」

作「なんだ? 言ってないのか?」

P「……言うわけないじゃないですか。仕事に直接関係ないし」

作「なんだもったいない。練習はしてるんだろ?」

P「ええ、まあ……」

 Pさんは言いづらそうにしている。

作「ヴァイオリンやってるんだよね、こいつ。小さいときから」

 あらあら、まあ。
 Pさんに似合わず。げふんげふん。

作「スズキメソードの教室通ってたんだよな?」

P「ええ」

作「学生オケ程度のもんでもソリストやったんだし、もったいないよなあ」

作「ピアノも少しはできるだろ?」

 あの人は頭をかくだけだ。

楓「なんで言わなかったんです?」

 ちょっと、Pさんを問い詰めたくなった。
 才能がありそうなのに。

P「んー。なんていうか」

P「趣味の範囲で楽しみたいというか、ね」

 まあその気持ちはわからなくもない。
 好きなことを仕事にするというのは、楽しみを奪いかねない。

P「先輩のいるところだから言えますけど」

P「社長には作曲アレンジも含めた『総合プロデュース』もやってみないか、と」

P「そう、言われてはいるんですけどね」

 ふむ。Pさんの曲を歌う、とか。
 それは、素敵だなあ。
 あ。
 でも、他の人が歌ったりするのはちょっと妬けるかも。

楓「将来は、そういうのも?」

P「いやいや。それは将来というよりまだまだ『そんなのも面白そうだな』という程度で」

P「業界のイロハを覚えるまでは、このままで」


 しきりと謙遜するあの人に、先生が言う。

作「でも、お前はそういうの向いてそうな気がするんだよ」

作「仲間紹介するぞ?」

P「いやいや。先輩は音大進んでそれこそ専門の道じゃないですか」

作「あのな。音楽業界なんか横道ばっかり歩いてきたやつのが多いっての」

作「俺だってスタジオミュージシャンになったばっかりに、こうして足踏み外してるし」

 あの人と先生が爆笑する。

P「いや、リーマンが一番ですよね!」

作「まったくだ! 堅実が一番!」

 ちょっと心当たりはあるかも。
 私も、モデル稼業なんか始めなかったら、たぶん堅実に地元で事務員やってたかもしれない。
 で、かたぎの彼氏と結婚して。普通に主婦して。
 想像でしか言えないけど。

 でも今は、かたぎじゃないPさんとお付き合いしてる。
 失礼だとは思うけど。

楓「ふふっ。ふふふっ」

P「楓さん、僕なんかおかしいことでも言いましたか?」

楓「いえいえ、堅実もいいですね」

 私は笑いが止まらない。
 あの人と付き合ってる時点で、そんな堅実な、なんて言えるはずがない。

 堅実も、悪くないかもなあ。
 Pさんとの将来を想像して、なおさらおかしくなる。

作「ま、俺たちとしては」

P「一山あててしっかり稼いで」

作「ばら色の老後、ってか!」

作「自由業はつらいよな!」

P「ですね」

作「……お前は月給制だろ」

P「ああ、社保完備ですしね。十分堅実、ですか?」

作「ばーか」

作「ははは」

P「ははは」

楓「ふふふ」

 あの人との未来。そんなことを夢想する。
 どうなるんだろうな? どうしたいかな?

 レッスンの隙間に思う、そんなこと。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レッスンも佳境に入って。だいぶものになってきた気がする。
 通し練習の休憩中。

楓「そういえば」

P「はい?」

楓「Pさんがヴァイオリンやっていたって、社長はご存知なんですよね?」

P「ええ。まあ」

P「履歴書に書きましたし」

楓「不思議に思ったんですけど」

 この前、あの人と先生の話で引っかかったことだ。

楓「どうしてPさんは、この業界に入ったんですか?」

楓「あまり乗り気でなさそうだったのに」

 Pさんは『趣味の範囲』にこだわっていた。
 なら、この業界ではなくてもよかったはず。
 かえって、Pさんの経歴はいろんな人に目を付けられそうだ。

P「そうですねえ」

 あの人は考える。

P「まあ成り行き、って言うのが正解でしょうね」

楓「成り行き、ですか?」

P「ええ」

P「実は僕、理系なんですよ」

楓「あら」

 へえ、そうなんだ。
 言われてみると、そういうふうに見えてくる。不思議だ。

P「ほとんどオケと研究室の往復で、就活してませんでしたし」

P「かといって院に進むにも、同期のやつらよりスタートが遅かったですから」

 ああ。そっか。
 あの人は好きなことにのめり込んで、他の重大ごとを忘れてたのか。

P「教授の推薦でメーカーに就職ってのもあったんですけど、なんとなく乗り気でなかったし」

P「で、オケのOBが紹介してくれたのが」

楓「今の事務所だった、と?」

P「ええ、まあ」

 そういうものかな。
 そうだな。私もあんまり『将来はこういう人に!』とか思い描いてたわけじゃないし。
 モデル事務所に入ったのも、まあなんとなくスカウトされてって感じだったし。


楓「そのOBさんって、業界の方ですか?」

P「765プロのプロデューサーやってますよ」

楓「じゃあ、ライバルですね」

P「いやいや。そんな大それたことじゃなくて」

P「まあ、ふらふらしてた自分を誘ってくれた恩人ですよ」

P「親からは呆れられましたけどね」

 あの人は笑う。

楓「私もそうですよ」

楓「なんとなくモデル事務所にスカウトされて、面白そうだなって」

楓「それで決めたら、親から怒られましたもん」

P「そうでしょうねえ」

P「とても胸張ってドヤ顔できる仕事って、言えないですからねえ」


 実際はわりときちんとしてて、それなりに厳しいところだけど。
 でも世間のイメージなんて、そんなものだ。

楓「それでも、最後はこうして送り出してくれましたし」

楓「今は多少名前も売れましたから、少しは親孝行できたかな、と」

P「そう思ってくれると、いいですね」

楓「ええ」

 あ。でも。

楓「Pさんを紹介するときは、もめそうですね」

P「ええ? そうですか?」

楓「そんなやつとの交際は認めん! とか言ったりして」

P「そりゃ困ったな」

 あの人はそう言いつつ笑顔だ。

P「なら、楓さんの親御さんが認めてくれるように」

P「少しは僕の名前が売れたほうがいいのかな」

 いいえ。

楓「大丈夫ですよ」

楓「私をしっかり、売ってくれるんですよね?」

P「……ええ」

楓「なら、それでいいじゃないですか」

 手ごたえはある。
 よく見えない将来だけど、あの人となら歩ける。
 いや。
 歩く。

 その想いはいっそう深くなる。

楓「Pさん?」

P「はい?」

楓「今度、演奏聴かせてくださいね?」

P「……機会があれば」

楓「楽しみにしてますね?」

楓「ふふっ」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 メディア出演の合間を縫ってのレコーディング。
 季節はもう。

楓「Pさん」

楓「秋ももう、終わりですね」

 移動中の車窓。
 街路樹もだいぶ落葉している。

 アルバムのレコーディングも終わり、打ち上げ会場から移動している。

P「なんか、一年があっという間に過ぎていく気がしますね」

楓「ええ、ほんと」

 まだ年の瀬には早いけど。ほんとにあっという間の一年だった気がする。
 デビューシングル発売からは、まだ一年経ってないけど。
 そこに関わった時期からすれば、とても忙しい日々だった。

楓「どのあたりまで登ってきたんでしょうね、私たち」

P「ん?」

楓「成し遂げる目標へ、どこまで届いているんだろうって」

 やはり気になる。
 あの人と成し遂げるという目標。
 セカンドシングルもチャートインしてから、コンスタントに推移している。
 そろそろ、自分の立ち位置も気になってくる。

P「んー、そうですねえ」

P「目標は高いほうがいいので、まだまだと言いたいところですけど」

P「データで見れば、健闘してるでしょうね」

 年間シングルチャートでも上位に行くだろう。
 各フェスティバルでも新人賞候補としてノミネートされている。
 音楽番組出演回数も増えた。

P「社長は特になにも言いませんけど」

P「たぶん『トライアド』の次くらいに、うちの看板と考えてるんじゃないでしょうか」

楓「そうですか……」

 トライアドプリムス。
 あの人が初めてプロデュースした女の子たち。
 先日のドームツアーも大成功だったようだし、まさにうちの金看板。

 ちくり。
 痛みが走る。


楓「Pさん」

P「はい」

 社長は厳命した。売れろ、と。

楓「彼女たちを超えられたら、成し遂げたことになるんでしょうか」

P「うーん。それはどうかなあ……」

楓「私は、醜いなあって。思うんです」

楓「なんで、Pさんにプロデュースされたのが、一番先じゃなかったのかなって」

楓「そう、思っちゃうんです」

P「楓さん……」

 これは贅沢な想いだ。それはわかっている。

楓「『トライアド』の三人に。ううん」

楓「凛ちゃんに、嫉妬するんです」

楓「Pさんと先に出会ったことに」

 そんなの、どうにもならないことだとわかっている。
 今こうして、Pさんと一緒にいられる。それだけで十分に幸せなことだ。
 でも。

楓「こんなに独占欲が強かったんだな、って」

楓「自分に嫌気が差すんです」

P「……」

楓「こうしてPさんとお付き合いして、とても魅力的な人だと、日々気づくんです」

楓「そして凛ちゃんが叶わなかった想いを、私は叶えられた」

楓「幸せだから、どんどん欲が深くなっていくんです」

 自分がこういう女だとは、思わなかった。
 いや。
 どこにでもいる、ただの女だ。

楓「なんででしょうね。こうして目標にまい進してるというのに」

楓「高みに昇っていくたびに、Pさんと離れていきそうで」

楓「怖いんです……」

 気がつけば、私は涙声になっていた。
 ぽろぽろ。
 ぽろぽろ。
 あふれてくる。

楓「Pさん……」

 路肩に車を止めた。そっと抱きしめてくれるあの人。

P「大好きです」

 ああ。
 その一言が欲しかったんだ。

楓「Pさん……大好き……好き……」

 Pさんとキスを交わす。
 ついばむような、触れるような、はかないキス。

 私は、ただ、泣いた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

なんかこう、大人のキュンとした話にしたいな、と
好物なので

でも書くのは難しいね

ではまた ノシ

ちょっとだけ投下します

↓ ↓ ↓


P「落ち着きましたか?」

 ひとしきり泣いて。
 その間あの人は、ただあてもなく車を走らせていた。

楓「部屋へ」

P「え?」

楓「Pさんの、部屋へ。連れて行ってください」

P「……いったいどうしたんで」

楓「お願いです」

 あの人の言葉をさえぎって、私は言った。
 最上級のわがままを。

P「……まったく」

 あの人が呆れたように言う。

P「お泊りとか言うのは、なしですよ?」

 あの人はどう思っただろう。それはわからない。
 でも。

楓「安心したいんです」

楓「Pさんが近くにいることが、感じられるように」

 弁えているからこそ、プライベート空間には侵入しない。
 暗黙の了解だ。
 でも、もう限界。
 ねんごろになろうが、それを自分で望んでいる。
 あの人は黙ったまま、車をすべらせた。

 事務所にほど近いマンション。あの人の部屋。
 中は整然としていて、驚くほど生活臭を感じさせない。

P「ほとんど寝に帰ってくるようなもんですからね」

 苦笑いしながらあの人が言う。

楓「いえ、男の人の部屋って感じがしなかったので」

P「僕がそんな甲斐性もちに見えますか?」

 お互いに見つめあい、噴き出す。

楓「ふふふっ」

P「ははっ。楓さんは失礼な人だなあ」


 改めてリビングを見ると。
 アップライトのピアノにエレクトーン、それから。

楓「あれ、ヴァイオリンケースですか」

P「ええ」

 あの人が手に取る。

P「きちんとメンテしてないと、すぐすねちゃいますから」

 その言い草がおかしい。

楓「手のかかるパートナーですね?」

P「楓さんには負けます」

楓「あら」

 そんなに手がかかりますか? 私。
 まあ。
 部屋へ連れ込めと言ってる女じゃ、手がかかるよなあ。

P「でも、そこも好きですよ」

 Pさんはたらしだ。
 ええ、そうですとも。

楓「そうやって女性を口説くんですね?」

P「口説くのは楓さんだけで十分です」

楓「ふふっ」

P「ははは」

 好きな人の部屋でふたりきり。襲ってください的なシチュエーション満載だけど。
 でも、あの人のことだ。
 きっと襲わない。

楓「聴かせてください」

P「曲、ですか?」

楓「ええ、一曲」

楓「そしたら、安心して帰れそうです」

P「なにか、リクエストあります?」

楓「いえ、お任せします」


 私のためのコンサート。もちろんお客は私だけ。
 あの人はチューニングを整え、構えた。

 あ。聞き覚えのある曲。
 なんだろう。
 すごく心に入り込んでくる。

 あっという間の時間。私はただ音に身をゆだねた。

楓「夜分に演奏させてしまって、ごめんなさい」

P「いえ、一応防音のしっかりしたところですから」

P「じゃないと、練習なんてできません」

楓「なんて曲ですか?」

P「エルガーの『愛のあいさつ』」

P「聞き覚えのある曲でしょう?」

 うん、よく知ってる曲だ。

楓「すてきな曲ですね」

P「……実はですね」

P「これ、エルガーが婚約者に贈った曲なんです」

 あの人はそう言って照れた。

楓「まあ」

P「お気に召しました?」

 ええ。もちろん。

楓「大満足です」

 あの人の気持ちに。
 私は感謝した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

自分で書いててなんですけど……

このヘタレPめ(確信)

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 12月。サードシングルとファーストアルバムの発売。
 デイリーとウィークリーチャートで一位を獲得した。
 その余勢のままに、ツアーがスタートする。

 12月から2月までの3ヶ月。全国八ヶ所をめぐるツアー。
 会場も2000人規模のホールだ。

楓「さすがに、大きいですね」

 初日。私は緊張を隠せない。

P「なに言ってるんですか。僕のほうが緊張しまくりですよ」

P「楓さんのせいですからね」

楓「私のライヴですもん。このくらいいいですよね?」

 となりのあの人の手には、愛器のヴァイオリン。
 そう。
 私はあの人を巻き込んだのだ。

 ツアーの企画会議で、私がもらした一言。

楓「Pさんが一緒にいたら、歌いやすいかなあ……」

 なにげなくつぶやいただけなのに、作曲家の先生が食いついた。

作「ですね! 今回は俺を含めて気心の知れたメンバーだし」

作「先輩の頼みなら、断る道理はないよなあ? Pくん」

 その一言で、あの人は固まった。

P「な、なに言ってんですか! 僕は裏方ですし」

作「いやあ。ステージにストリングスがあると違うんだよねえ」

P「……ああ、先輩にステージ監修お願いするんじゃなかった」

 Pさんは頭を抱えている。


P「さすがに事務所の仕事放り出して、先輩たちにお付き合いはできませんよ?」

作「そこは事務所の社長さんに話を通しておくさ」

作「それより、ちひろさんに話をしたほうがいいか?」

P「……いや、それだけは勘弁してくださいマジ頼みます」

 あの人はちひろさんに弱みでも握られてるのかな。
 今度ちひろさんに訊いてみよう。

 結局言いくるめられ、あの人はツアーバンドへ参加することになった。
 ツアー概要が事務所のボードに貼られ、それを見たアイドルたちが大騒ぎしたのは余談。

楓「私もここまで反響が大きくなるなんて、びっくりしました」

楓「でも」

P「でも?」

楓「私、Pさんのはじめてに、なれました」

楓「Pさんの初ライヴ。初お披露目」

 初プロデュースは叶わなかったけど、初演奏に立ち会える。

楓「うれしいんです。すごく」

P「僕はあんまりうれしくないですけどね」

楓「あら?」

P「でも楓さんの表情を見たら、これもいいかも、なんて」

P「思いました」

楓「ふふっ」

P「お付き合いしましょう? 僕もプロだ」

P「みんなをあっと言わせましょう」

楓「ええ」

 開演5分前のベル。
 さあ、行こう。ファンの待つ場所へ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 12月に二ヶ所、1月に三ヶ所、2月に三ヶ所。
 ようやく前半二ヶ所を終える。

 ツアーの忙しさにかまけたばかりに、恋人たちのクリスマスは忘却のかなたに去ってしまった。
 致し方ない。特番でテレビ出演もあったし。
 フェスティバルの表彰も待っている。最優秀新人賞を取ったのだ。
 年末までは、お仕事に励む。

社長「まずはおめでとう。がんばった甲斐があったね」

 社長がねぎらってくれる。
 表彰式のあと、ささやかながらとお祝いの会を開いてくれた。

 社長は、事務所近くのイタリアンレストランを貸切にしていた。
 都合のつく人たちと、ビュッフェ形式のパーティー。
 年末年始は事務所にとっても稼ぎ時だし、そうそうスケジュールをあわせられるはずがない。
 でも、うまく時間の取れたアイドルの子たちは来てくれた。

 その中に、彼女がいた。
 渋谷凛。

凛「高垣さん、おめでとうございます」

楓「ありがとう、凛ちゃん」

楓「それと。楓でいいですよ」

 凛ちゃんはうなずく。

凛「楓さん。びっくりしましたよ」

凛「どうやってPさんを引きずり出したんです?」

 その言い方には鋭い棘がある。
 私は覚悟しながら、慎重に話を進める。

楓「たまたま、作曲の先生とPさんが同じ学校だったそうですよ?」

楓「先生たっての希望でしたから」

 うそは言ってない。事実そのとおりなのだ。

凛「そうなんですか」

凛「私たちのプロデュースをしてくれた間、自分がプレイヤーだったってこと」

凛「一言も言ってくれませんでしたから」

 凛ちゃんは眼をふせる。


楓「そう、でしたか」

凛「ええ、だから」

 彼女は一呼吸待って、口にする。

凛「貴女がうらやましくて、仕方がありません」

 ずきん。
 彼女の瞳と言葉はストレートだ。
 嫉妬の想いを隠そうともしない。

 負けるわけにはいかない。

楓「ありがとう」

楓「たまたまご縁があったから、Pさんに協力してもらったので」

楓「大事にしないといけませんね」

 迂遠なやり取りを、彼女はストレートに理解することはないだろう。

凛「私たちも、Pさんにプロデュースしていただいて」

凛「ここまで成長できました」

凛「かけがえのない縁だと思ってます」

 そして。彼女は。

凛「楓さん」

凛「Pさんを、返してください」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 彼女は、常にまっすぐだ。
 その強い想いを感じると同時に、私は怒りをおぼえた。

 あの人は、ものじゃない。
 返せなんて簡単に言うな。
 Pさんは、貴女のペットでもなんでもないのだ。

楓「凛ちゃん」

 彼女はなにも言わず、ただじっと見つめている。

楓「その言葉、Pさんの前で言える?」

 私の放った言葉に、彼女は目をそらす。

楓「私は、貴女がうらやましいの」

楓「Pさんと一緒に作り上げてきた今の貴女たちが、とてもまぶしい」

楓「とてもいい関係だったんだなって、わかります」

 自分の言葉にも棘がある。でも自重はしない。

楓「だから、Pさんをぞんざいにするようなことは、言わないで欲しい」

楓「Pさんはいつだって全力なの、凛ちゃんはよくわかってるでしょ?」

 彼女はなにも言わない。

加蓮「あー! 凛! なにやってんの!」

 加蓮ちゃんが私たちの間に割って入る。

加蓮「スタッフの人たちに料理運ばないとならないんだから、ちょっとは手伝ってよー」

凛「あ」


 凛ちゃんが、我に返る。

凛「う、うん。そうだったね」

凛「……失礼なことを言って、ごめんなさい」

凛「また、あとで」

 加蓮ちゃんに手を引かれ、この場を後にする。

楓「ええ、また」

 私は足の力が抜けそうになる。
 こりゃ大変だ。

 気持ちがわかるぶん、たちが悪い。
 あの人はスタッフと談笑している。
 気持ちを切り替えようと、ドリンクコーナーへ歩いていった。

奈緒「楓さん」

楓「奈緒、ちゃん?」

 気がつけば、奈緒ちゃんがそばに来ていた。

奈緒「あの……」

奈緒「なんか、凛が失礼なこと言ったんじゃないか、って」

 なるほど。心配してフォローに来たのか。

楓「いいえ。大丈夫」

奈緒「そ、それなら、いいんです、けど……」

楓「どうかしたんですか?」

奈緒「あの」

奈緒「Pさんが楓さんのステージのサポートメンバーに入っていて」

奈緒「それを凛が見て、ショック受けてたんで」

 そっか。
 奈緒ちゃんは優しいね。

奈緒「あの、今度」

楓「?」

奈緒「ふたりでお話したいんですけど……いいですか?」

奈緒「凛のことで」

 避けて通れないだろうな。うん。
 でも、こうして心配してくれる友人がいる。
 彼女は幸せものだなあ。

楓「ええ」

楓「お互い時間が取れるときに、ぜひ」

奈緒「……ありがとうございます!」

 奈緒ちゃんはお礼を言って、凛ちゃんたちのところへ戻っていった。
 たぶん加蓮ちゃんも、私たちの様子を気にして、割って入ってくれたんだな。

 私の恋は、まだ波乱含み。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ぎゃあああああああああああああああああ
筆に任せて書いてたらすっかり修羅場じゃないですかヤダー

昼ドラ系ドロドロものにはなりません。ええ、しませんとも

6000行・135kBまでの分量になってます。読んで下さり感謝します
このぶんだと10000行超えるな。うん、超えるorz

土日はお休みします。スレたててまもなく1ヶ月ですか。よく書いたなあ

よろしければ参考までにお聞かせください

1.今回の話は好みに合いますか?
2.キャラや世界観に違和感はありませんか?
3.普段読んでいるSSの傾向をお聞かせください
4.読んでみたいキャラやシチュがあれば教えてください

このアンケートで、この話が変化することはありません。
伺った内容は、今後の創作に生かしたいと思います。

基本、嫁prprなのはみんな一緒ですよね。

ではまた ノシ

http://i.imgur.com/ne5JVw1.jpg
http://i.imgur.com/CAyyBUL.jpg
渋谷凛(15)

http://i.imgur.com/n4GmRoR.jpg
http://i.imgur.com/QqjTn3M.jpg
神谷奈緒(17)

アンケートご協力ありがとうございます
読んでいただいてる方から評価いただけて光栄です
まあ、好みに合わないときはそっ閉じでしょうから

いただいたキャラで、幸子や美優さんは動かしやすい気がするので挑戦するかも
もちろんこれを完走させてからですけど
きらりんとか蘭子の熊本弁とかは難しいけど、やりがいはありそうです

ちょっとだけ投下します

↓ ↓ ↓


 翌日。今日は大晦日。
 今日と年明け三が日はお休みをいただいた。
 実家に帰ることもなく、部屋にひとり。

『Pさんを、返してください』

 昨日の凛ちゃんの言葉が、繰り返し頭の中に響く。
 凛ちゃんはあれから話しかけてくることもなく、パーティーは和やかに終わった。
 でも。
 私の気持ちは乱れていた。

P「楓さん、どうかしました?」

楓「いえ、なんでも」

P「?」

 言えるはずがない。
 まさかPさんをめぐって、諍いが起こってるなんて。
 今あの人に言えば、責任を感じてなんらかのアクションを起こすだろう。

 それだけは、今は避けないとならない。

 なにも根拠のないままそう結論付けて、私は平静を装って引き上げた。
 そして。
 こうしてひとり、部屋で悶々としている。

 まったく。
 私はなにをしてるんだろう?


 手近にあったクッションを抱きしめたまま、無為に時間だけが過ぎる。
 ああ。どうしたら。

楓「ふう」

 ため息だけが通り過ぎる。

 ライバル出現。といえば、聞こえもいいだろう。
 でも、そうじゃない。
 あの人が気を遣いすぎて、私から離れてしまうこと。それだけが気がかりなのだ。

 あの人の優しさが、怖い。
 想像できてしまうのだ。
 凛ちゃんと私との関係を気にして、お互いが傷つけあわないよう、距離をとる。
 それはすなわち。あの人と別れてしまう、ということ。
 あの人は、自分を押し殺してまで全体の調和を考える。そういう人だ。
 それは、私が決して望まない結末。

 あの人のいない生活なんて、考えたくない。

楓「会いたい……会いたいよお……」

 誰も気づくことのない言葉。
 あの人に届かない言葉。

楓「どうしたらいい?」

 ひとりの部屋が広すぎる。
 私はすっかり涙もろくなってしまった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そのとき。
 携帯に着信がある。
 相手は。

楓「はい。高垣です」

奈緒「楓さん? お休み中ごめんなさい。奈緒です」

楓「……奈緒ちゃん」

 どうやら、奈緒ちゃんもお休みだったらしい。
 あの人でなかったことに少し残念な気持ちになるけど、なぜかほっとする気持ちもあった。

奈緒「今、どちらかにお出かけでしたか?」

楓「いいえ。家にいますよ」

奈緒「……昨日の今日で申し訳ないんですけど」

奈緒「よかったら、少しお話できますか?」

 こんなに乱れっぱなしで、満足に話もできないかもしれない。けど。
 今、話をしたい。

楓「ええ、いいですよ。どこかで待ち合わせしましょうか?」

奈緒「そうですね……じゃあ事務所で」

奈緒「そこで待ち合わせしたら、あと喫茶店かどこかで」

 天の配剤。そんな言葉が思いついた。
 きっと今、話をすべき相手が奈緒ちゃんなのだ。

楓「ええ。じゃあ事務所で」

 私は泣きはらした目をどうにかごまかしつつ、準備を始めた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

心理描写とか考えるのはわりと好きですけど、そこでやってることは
文章を書いたあと、音読してみてます
声に出して読みたいSS、なんちって

音読すると読感のリズムとかがつかみやすい気がします
自分なりの方法ということで

飯食います

>>1乙!相変わらず(;´Д`)スバラスィですな

1.十二分に、更新が楽しみで仕方ない作品
2.表現や演出に説得力があるので全くと云っていい程ないですね
3.キャラや作品に対して『愛情』が感じられるSS
4.もしトライアドのプロデュースを続けていたらと言うHappyENDルートを読んでみたいです。

投下します

↓ ↓ ↓


奈緒「年の瀬のお忙しいところ、ありがとうございます!」

 奈緒ちゃんがおじぎをする。

楓「奈緒ちゃんだって忙しいでしょ? お互い時間があったんだし、いいでしょう?」

奈緒「そう言ってもらえると助かります」

 奈緒ちゃんはしっかりしてるなあ。
 トライアドで一番上だから、どうしてもまとめ役にならざるを得ないだろうし。

奈緒「ほんとはもっとゆっくりしたときにお話できればって、思ったんですけど」

奈緒「昨日から、凛の様子が……ちょっと……」

楓「……どうしたの?」

 喫茶店のボックス席。
 ファンの人に見られることも考えて、個室ボックスのあるお店にいる。

楓「私は、今日は暇だし」

楓「ゆっくりお話しましょうか」

 奈緒ちゃんが切り出しやすいよう、話を振る。

奈緒「……昨日は、凛が失礼なことを言ったみたいで」

奈緒「ほんとに! ごめんなさい!」

 いきなり奈緒ちゃんが謝りだした。

楓「どうしたの?」

楓「別になにも言われてないし。気にしないで」

 私はなだめることしかできない。

奈緒「凛が、ずっと言ってるんです」

奈緒「『あんなことを言うつもりなかったのに』って」

奈緒「なんか、すごく後悔してるみたいだったし……」

 ああ。
 凛ちゃんは不器用なんだ。
 感情のままに言葉を吐いて、そんな自分を嫌悪してるんだ。

楓「奈緒ちゃん?」

奈緒「はい」

楓「凛ちゃんはPさんのことが、好きなのかしら?」

 奈緒ちゃんは、こくり、と。うなずいた。

 優しさは罪深い。
 なにもはっきりしないまま離されてしまったのでは、気持ちのやり場がなくなってしまうだろう。

 決着させないとならない。たとえ時間がかかろうと。

楓「凛ちゃんとPさんとのこと、聞かせてもらえます?」

 私はとても重苦しいものを抱えたまま、奈緒ちゃんの話を聞く。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 奈緒ちゃんは、ゆっくりと語りだす。

 Pさんと私たちが一緒に仕事をはじめたのは、3年くらい前です。
 凛はすでにアイドルの仕事をしてましたけど、私と加蓮はデビュー前で。
 凛は、歌で勝負したいと思ってたようですけど、私や加蓮がついていけなくて。
 そこの間を取り持っていたのがPさんでした。

 凛は最初、ものすごく抵抗したんですけど。
 Pさんは私たちを、ダンサブル・パフォーマンスのユニットとして売り出したんです。
 私はそこそこ体力はあったし、加蓮は負けるのがとにかく嫌いだったから。
 凛も踊りは弱かったみたいで、なんか、スタートラインが一緒になれてうれしかったんです。

 Pさんはとにかく「自分たちでよく考えろ」って、そればっかりで。
 でも、結局いろいろアドバイスしてくれるんです。
 凛は特に、歌への希望は捨ててなかったので、だいぶPさんに食って掛かってました。

 考えてみると、凛が一番Pさんといることが多かったかな。
 自分が納得するまで食いついてたし。

奈緒「だから、Pさんと一緒に作っていくことが楽しくて、それで」

楓「好きになった、のかな?」

奈緒「……たぶん」

 凛のヴォーカルをメインに据えるようになったのは、ユニット結成で半年くらいです。
 今のスタイルですね。
 ダンサブルからパワー・ミュージックへ変わることに、ファンの抵抗があるかもってことで。
 だいぶ準備して動いていたようです。

 Pさんはとにかく、凛のヴォーカルを指導してました。
 凛もうれしそうで。

奈緒「ああもう、付き合ったらいいじゃん、って」

奈緒「加蓮とよく言ってました」

 そう言って、奈緒ちゃんは笑う。

奈緒「でもそうやってはやし立てて、私たちは、やってはいけないことをしたな、って」


 ユニットデビューして一年経たないくらいで。
 レッスン中ですけど。
 凛が突然、泣き出したんです。

 失恋の歌で。初めてのバラードだったから、凛もがんばってたんですけど。
 泣き出した理由を訊いても、ただ首を振るばかりで。
 私も加蓮も、なんとなく気づいてました。

 Pさんと凛のこと、投影してるんだな、って。

 ステージで気づかない程度のミスも出てきたんです。
 一緒に踊ってる私たちが、ちょっと違和感を感じる程度ですけど。
 でも、Pさんはわかってたみたいで。

奈緒「それから二ヶ月くらいで。Pさんが配置換えになっちゃって」

奈緒「凛は、その場では気丈にしてたけど。三人だけになったら、取り乱して」

奈緒「『どうして!』って。そればかりで」

楓「……そう」

 どうしてこうも、恋する乙女は泣き虫になるんだろう。
 私は、凛ちゃんの気持ちを思いながら、自分の泣き虫っぷりを振り返る。

奈緒「楓さんの『こいかぜ』を聴いて、凛が」

奈緒「『私みたい』って、つぶやくのが聞こえて」

奈緒「そして、あのツアーのメンバー見て、はじけちゃったんじゃないかな、って」

 奈緒ちゃんは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
 彼女も、後悔の念に囚われているんだろう。

 あの人は、罪作りだな。
 そういう自分も、かなり罪なやつとも、思う。

奈緒「楓さん」

楓「ええ」

奈緒「楓さんとPさんは、お付き合いされてるんですか?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

なんか重苦しい話ですまんす
でもそういうもんだろ、と。心を鬼にして書いてます

一応設定的に
凛が18、加蓮19、奈緒20歳ということになってます
楓さんも今26歳だしね。リアルに追っかけると、このくらいが妥当かな、と

では ノシ

奈緒の口調には違和感あるかも

でも仲が良くてプライベートなら「あたし」でもいいかもだけど、堅い口調なら「私」かな、と
妄想です、ええ

投下します

↓ ↓ ↓


 奈緒ちゃんの問いかけに、逡巡する。
 社長が知ってることとはいえ、さすがに関係を公言するのは。
 でも。
 凛ちゃんの、そして奈緒ちゃんや加蓮ちゃんの気持ちを考えると。

 伝えたほうがいいのだろうか。

奈緒「あ、あの」

奈緒「なんか、失礼なこと訊いちゃいましたね! ごめんなさい!」

 奈緒ちゃんはしきりに恐縮する。

 ええい。ままよ。

楓「えっと、奈緒ちゃん」

奈緒「……はい」

楓「凛ちゃんにはまだ、言わないでね?」

楓「……確かに、お付き合いしてます」

奈緒「……」

 ああ。言っちゃった。言ってしまった。
 私のばか。

奈緒「そ、そう……ですか……」

奈緒「やっぱり、そうなん……ですか。あ! ほんと、ごめんなさい」

奈緒「やだ! なんだろ。あは。あははは」

 奈緒ちゃんは動揺しまくりだ。
 衝撃の大きさが表情に表れている。

楓「奈緒ちゃん……ごめんなさい」

 私は、彼女をなだめるので手一杯だ。

奈緒「いえ! 大丈夫! ちょっとびっくりしちゃっただけで……」

奈緒「……いえ……やっぱり、ショックです」

 仕方がないだろう。大事な友人の想い人を取ってしまった女が、目の前にいる。

奈緒「あの、凛ばかりじゃなくて。えっと……あたしも……」

奈緒「好きでした」

 素のままの奈緒ちゃんが、そこに見えた。


奈緒「あたし……ああ……私も、ひどい女だと、思ってます」

奈緒「凛があんなに好きでいて、まっすぐに想っているのに」

奈緒「私も、Pさんのこと好きだった、なんて」

 そっか。そうだよね。

奈緒「言えるわけないです。だって」

奈緒「凛は大切な、私の友だちですから」

 奈緒ちゃんは大切な人を壊したくないから、自分を諦めた。
 たぶん。加蓮ちゃんも。

楓「奈緒ちゃん?」

奈緒「はい」

楓「つらかったよね?」

 奈緒ちゃんはひどく淋しそうな顔をする。

奈緒「いいんです。私には手の届かない人だと」

奈緒「そう、思ってます」

 彼女は手を握り締め、なにかをこらえていた。
 そして、顔を上げる。

奈緒「楓さん」

楓「はい?」

奈緒「絶対! 幸せに」

奈緒「……なってください、ね」

 奈緒ちゃんの必死の想いに、応えたい。
 いや。
 そうあらねばならない。

楓「ええ。必ず」

楓「そして、凛ちゃんにも。私から」

楓「答えます」


 彼女が必死にこらえていた目から、涙があふれる。
 私も、ふと。

 向かい合わせで、大人ふたりが泣きあっている。

楓「うん……うん……」

奈緒「絶対ですから、ね……」

楓「約束……しますね……」

奈緒「あと」

奈緒「今度、一緒に呑みに行きましょう。ね?」

楓「……あら」

奈緒「もう呑める歳ですから」

奈緒「私の失恋パーティーにご招待です……」

楓「いいのかしら? 私が参加して」

奈緒「張本人をつるし上げます」

奈緒「強制参加ですから、ね」

楓「わかりました」

楓「必ず、行きましょうね」

 泣き笑いしながらふたり、約束を交わす。
 責任は大きいな。
 ああ。
 あの人にも、言わないとダメだろう。

 もはや、秘め事なんて浮ついたことは、言えない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


楓「さて、と」

 奈緒ちゃんと分かれてすぐ。
 私はあの人に連絡をとる。

P「はい。CGプロのPでございます」

楓「あ、Pさん。楓です」

P「ああ、楓さん。どうしました?」

楓「えっと、今どちらです?」

P「ああ。あいさつ周りが終わったとこです。年末ですしね」

P「もっとも、年末年始とか関係ない業界ですけど」

 あの人は笑う。

楓「あの、今日よかったら」

P「はい」

楓「お時間取れませんか?」

楓「大事なお話が、あるので」

P「え、ええ。大丈夫ですよ?」

 あの人がよく理解しないまま、約束をとりつける。
 奈緒ちゃんや凛ちゃんの顔が浮かぶ。
 そうだ。きちんとしないと。

 今年ももうあと数時間。開いているお店はあまりに少ないので。
 私は再び、あの人の部屋に来ていた。

楓「無理言ってごめんなさい」

P「いえ、いいですよ。楓さんには知られている場所ですし」

P「で。大事な話って、なんです?」

楓「あの……私たちのお付き合いのこと」

楓「奈緒ちゃんに、打ち明けちゃいました……」

 微妙な顔をしたあの人に、昨日からのいきさつを話す。
 ゆっくり、理解してもらえるように。

 こういう恋愛ごとは、たぶん、男と女で考え方が違うものかも知れない。
 だから、その隙間を埋めるように、ゆっくり。
 隠し事はしないと、ふたりで決めたのだから。

 話を進めていくたびに、あの人の顔がくもる。
 そうだろう。自分で意識しないうちに、自分のアイドルに恋慕を浮かばせてしまったのだから。
 しかも、凛ちゃんだけでなく、奈緒ちゃんまでも。

P「そうですか」

 そう一言こぼして、あの人は黙ってしまう。

楓「あの。Pさんのせいじゃないです、よ?」

楓「私だって」

楓「Pさんが振り向いてくれなかったら、たぶん、諦めてました」

楓「Pさんは、私を見出してくれた恩人ですし」

楓「一時の想いで、困らせることはしたくないですから」


 あの人がなにを発するのか。その言葉が怖い。
 私は関係を壊してしまったのかも。
 後悔してもしきれない。

P「楓さん」

P「あんまり、自分を責めないでください」

楓「え?」

P「こうしてお付き合いしてるのは、僕が望んでしたことですから」

P「それとも、楓さんは後悔してますか?」

楓「……いえ」

P「なら、いいでしょう」

P「いつかは、広く知らせないとならないことです」

P「まあまだ、そのときじゃないと思いますけど」

楓「……」

P「ただ、凛にははっきり、けじめつけないと」

P「いけないですね」

 お互い、ため息が出る。
 覚悟してたこととはいえ、誰かを傷つけるのは、気持ちのいいものではない。
 ただ、それを恐れていては、なにも得られない。

P「今度、凛と三人で、話をしましょうか」

楓「……」

 考える。このままストレートに話をして、いいものなのか。
 凛ちゃんの想いの深さを考えると、傷の深さから立ち直れない気がする。

楓「Pさん」

P「なんでしょう?」

楓「まず、奈緒ちゃんとお話しませんか?」

P「うーん」

 あの人は考え込む。

P「外堀から、ですか?」

楓「そういうのもありますけど」

楓「私と凛ちゃん、お互いよく知らないですし」

楓「これは、私の勝手ですけど」

楓「トライアドの三人と、共演させてもらえませんか?」

 これは私のわがまま。でも。
 凛ちゃんもプロだ。
 私とあの人の仕事を見て、わかってもらうしかない。
 仕事から見えることもあるだろうと、そう思ってる。

楓「凛ちゃんに認めてもらえなければ」

 私は、力をこめる。

楓「たぶん、誰をも説得できないと、思います」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの人の部屋でふたり。お酒も入っている。
 年始列車もあるし、いつもより遅くまで電車はあるけど。
 ただわがままを言っただけだ。年越しは一緒にいたい、と。

 あの人も覚悟してたのか、断ることもなかった。

楓「こうしてると」

P「はい?」

楓「恋人みたいですね」

P「……なにをいまさら」

 この前と同じ整然とした部屋。ふたりで寄り添ってる。

楓「ほんとに、今年もお世話になりました」

P「いえ、こちらこそ」

P「お世話しました」

楓「ひどいですね?」

楓「ふふふ」

 あの人の温もりがうれしい。
 お互いに確認しあったのだから、我慢することもないだろう。

P「なんだか、緊張しますね」

楓「いまさらですか?」

 寄り添って、テレビ。
 今年は『赤組』の勝利かあ。

P「来年は、こんなことできないと思いますよ?」

楓「そうなんですか?」

P「たぶん」

 あの人は画面を見つめる。

P「テレビの、向こう側です」

 そっか。
 あの人が言うなら、そうなんだろう。

 除夜の鐘が、テレビから聴こえる。
 そして、年明け。

楓「あけまして、おめでとうございます」

P「はい。おめでとうございます」

 お互いに見つめあい、笑う。

楓「今年も……うーん」

楓「その先も」

楓「幾久しく、よろしくお願いします」

 あの人に向かい、三つ指。

P「あはは。そうですね」

P「幾久しく」

 そして。
 私とあの人は結ばれた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

えんだあああああああああああああああああ

読んでる方からすれば
はやくやっちまいやがれコノヤロウ(直球)
だったとは思いますが

いや、文才ないから勘弁しておくれよ(´・ω・`)

明日は投下できるかどうか
ではまた ノシ

ああ!しまった!
>>354>>355の間に挿入してください

↓ ↓ ↓


 テレビの中。アイドルたちが歌っている。
 大晦日の歌合戦。
 トライアドの三人は辞退している。

P「あいつら、ニューイヤーライヴがありますからね」

 奈緒ちゃんは、唯一の休みを私に費やしてくれた。
 本来なら、このテレビの奥で歌っていただろう。
 でも、今年は違う。

 彼女たちは、自分たちだけでお客さんが呼べるほど大きくなっている。
 メディアに依らない、彼女たちの試み。
 自分たちで、企画したのだそうだ。

P「まあ、チャレンジとしてはおもしろいと思いますけどね」

P「でも、事務所的には困ったもんですよ」

 企画を通すため、テレビ局や広告会社、プロモーターへ根回ししておかなくてはならない。
 歌合戦を辞退するなんて、事務所としては大きな打撃なのだ。

 それを通せるだけの知名度。人気。
 集客できると判断させる力。
 うらやましい。

楓「Pさんも一枚かんでるんですか?」

 意地悪な質問をしてみる。

P「いや、僕なんて」

P「せいぜい『ライヴをよろしく』とあいさつすることしか、できませんよ」

 あの人は謙遜するけど。
 そういう地道な営業が大事だ。モデル時代を思い出す。

楓「そういうPさんが、すごいと思いますよ?」

P「そうかなあ」

楓「ふふっ」

↑ ↑ ↑

なんで抜けちゃったんだろうorz
よろしくです ノシ

ひょっとしておいらはとんでもないものを書いてしまったのではなかろうか(((((( ;゚Д゚)))))

投下します

↓ ↓ ↓


楓「ん……」

 朝。となりには、あの人。
 朝チュンはいいものだ、なんて。誰が言ったんだろう。

 なにかが大きく変わるものかと、ほのかに期待はしていたけど。
 特になにも変わらなかった。
 いや、痛かったことは認めるけど。

 身体が悲鳴をあげているみたい。

楓「のど、渇いたな……」

 重い身体を引きずって、こっそり。
 寝室を抜けてキッチンへ向かい、昨日のグラスで水を一口。
 ああ、染み渡る。

P「起きたんですね……」

 音を立てないように気をつけたのだけど、あの人は起きてきた。
 寝ぐせ。かわいい。

P「僕にも水、ください」

楓「あ、はい」

 自分のグラスをそのまま、あの人に渡す。

P「ん……ふう」

P「生き返ります」

 一気に飲み干して、あの人がつぶやく。
 時計を見ると、もうお昼近くになっていた。
 カーテンを開けようとして、あの人が。

P「いや、開けるなら」

P「お互い、服着てからにしませんか」

 あ。
 私はなにか浮かれていたらしい。


 お昼にもなるということで、あの人は買いだしに出かけた。
 もちろん、おせち料理なんかない。
 作る暇もない。

 テーブルに並ぶ、牛丼弁当と、とん汁。

P「貧相な正月で申し訳ないです」

楓「いえ、好きですよ?」

P「それ、フォローになってないというか、とどめ刺してますから」

 お互いに苦笑い。

楓「ほんとなら」

楓「Pさんのために手料理とか、振る舞うところなんでしょうけど」

P「まあ、なんにもないですし」

P「それに」

楓「それに?」

P「お酒のつまみばかりに、なりそうじゃないですか?」

 失礼な。多少は作れます。
 つまみ兼用かもしれないけど。

楓「普通の料理だってやります。ひとり暮らしなめるな」

P「それは知ってます」

楓「大事なのは、手抜きとコスパ、ですから」

P「楓さんにサイフ、握られそうですね」

楓「当然でしょう?」

 まだまだ確定しない先の話で、笑いあう。
 いいなあ。
 あの人だから、いいのだ。

楓「そうそう。牛丼に紅しょうが大盛りにして食べるの、好きですねえ」

P「行ったことあるんですか?」

楓「よくお世話になりましたよ? モデル時代に」

楓「夜中に行くと、ワンカップ持ったレゲエさんが、牛皿つついてたり」

P「またディープな時間帯に行きますねえ」

P「僕は、紅しょうがおかわりして食べたりしてました」

楓「さすがにそれは、できませんねえ」

楓「ふふふっ」

 正月のめでたい日に、牛丼談義。
 午前11時の牛丼が一番うまいとのうわさとか。
 お店の七味は、ふりかけにしか見えないとか。
 おしんこはめっちゃ高いけど、うまいから困るとか。

 確かに結ばれたふたりだけど、なにも変わっていない。
 平常運転の安心感。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 2日。初売りの喧騒を残したまま。
 私は事務所に来ている。

 本当なら3日まで休みだけど、あの人が出勤しているのだ。
 正月体制で、交替で電話番をする。

ちひろ「楓さんまでお手伝いすることないんですよ?」

楓「いえ、家にいても暇なので」

楓「それに、皆さんの仕事を拝見できるので、私もうれしいです」

ちひろ「Pさんもいるからですか?」

楓「ふふっ、そうですね」

ちひろ「あらあら。妬けちゃいますね」

 あの人を肴に盛り上がる。
 実際付き合ってるなんて言えないけど、こうして冗談にくるんでしまうのも、たしなみだろう。

 ちひろさんは、いろいろ書類を作っている。
 いわゆる勤怠管理だ。
 この業界、時間は不定期だし、直行直帰は当たり前。
 一応グループウェアで管理しているとはいえ、自己申告の世界なので、なんともアバウトなのだ。

ちひろ「私がチェックしておかないと、労基からうるさく言われますしね」

 苦笑せざるを得ない。
 タレントは別にしても、スタッフはサビ残が当然。
 ブラックと言われても仕方ないところもある。

楓「ちひろさんも大変ですね」

ちひろ「社長には、事務所立ち上げから使っていただいてますから」

ちひろ「もう腐れ縁みたいな感じですかねえ」

楓「バイトさんとか、雇わないんですか?」

ちひろ「ああ」

ちひろ「バイトやパートは、入れないようにしてるんですよ」

楓「あら」

ちひろ「うちの業界は、ちょっとした情報漏れが命取りですから」

ちひろ「責任のない人を入れるわけにいかないんですよ」

楓「なるほど」

ちひろ「私も誓約書、書かされましたからね」


楓「厳しいんですね」

 今のご時勢、このくらいは当たり前なのだろう。
 ツイッターやフェイスブックで、簡単に情報が広がってしまうのだ。
 アイドル情報なんてそれこそ、宝の山だろう。

ちひろ「まあ、アイドルの皆さんといっぱい接することができるんで」

ちひろ「目の保養ですよね」

 忙しいだろうに、ちひろさんは今を楽しんでるようだ。
 うらやましいな。

楓「私もやってみたいかな」

ちひろ「お勧めしませんよ? お給料安いし」

楓「あら、それは困るかも」

ちひろ「ふふふ」

楓「ふふっ」

 私たちふたりの話を、あの人はただ聞いているだけ。
 三が日だし、そうそう電話があるわけじゃない。

P「なんか、楽しそうですね」

ちひろ「ええ、楽しいですよ?」

ちひろ「書類さえなけりゃ」

 それはそうだ。
 三人で笑いあった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


P「少しだけですけど、行ってみます?」

楓「いいんですか?」

 3日。あの人に、トライアドのライヴへと誘われる。
 本当は関係者でないから、はばかられるのだけど。
 それに。

 凛ちゃんのことが、まだなにも決まってないし。

楓「うーん……」

 私が悩んでいると、あの人が。

P「奈緒の様子、気になりませんか?」

楓「……ええ、気にはなります、けど」

 奈緒ちゃんはステージで、しっかりやれてるだろうか。
 まあ、原因たる人間がこんなこと言うのは、間違ってる気がするけど。
 それに、凛ちゃんと顔を合わせるのは、正直怖い。

P「ま、楓さんが行かないようなら、僕もやめておきますけど」

楓「え? でも」

P「彼女が嫌がること、すすんでやるなんてできないでしょう?」

楓「あ」

 あの人の言葉がずしりと重い。
 そうだ。
 私とあの人は、彼氏彼女の関係と認め合ったんだ。
 なにより、私の事情を最優先にする、と。あの人の宣言なのだろう。

P「楓さんが考えてることくらい、わかりますよ」

P「顔を合わせづらいなら、客席からステージ見て、そのまま帰りましょう」

楓「Pさん……」

 やっぱりかなわないな。

楓「それなら、ぜひ」

楓「行きたいです」

 彼女たちと共演したいと思うなら、しっかり偵察するべきだろう。
 もっと、心強くありたい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

一応R-15の範囲でセフセフ、かと
ああ、おいらの楓さんが遠くへ旅立ってしまったようだ……

飯食います

ちょっとだけ投下します

↓ ↓ ↓


 トライアドプリムス・ニューイヤーライヴ・2デイズ。
 2日からアリーナライヴをこなす彼女たち。

楓「……うわあ」

 客席からステージをうかがう。圧倒される熱気。

P「すっかり、僕の手の届かないところに行った、気がしますね」

 あの人の声が、観客の声援に消される。
 すでに公演中のところ、スタッフにお願いして入場させてもらった。

 暗転からステージライトが点灯し。
 タイトな姿の三人が浮かぶ。

楓「あれは……」

 手に持っているのは、フラッグ。
 彼女たちはカラーガードなのだ。

 激しいビートにのせて、フラッグパフォーマンスを魅せる三人。
 手に持ったフラッグを回しながら、飛び散る汗もそのままに。
 そして。三人が輪になり向かい合うと。

 トン。

 つま先で蹴り上げたフラッグが宙を舞い、互いに交換。

楓「すごい……」

 完璧な振り付け。ダンスユニットから変わったといっても、まったく衰えなど見せない。
 私は会場の一体感に、ただ圧倒されるだけ。

P「よし!」

 聞こえるかどうかの叫びを、あの人があげた。

楓「Pさん」

P「ええ。すごい」

 私たちは、そのステージパフォーマンスに酔いしれる。


凛「みんなー! どうもありがとー!」

加蓮「はあ……はあ……楽しんでもらえたかな?」

客席「イェーー!!」

奈緒「加蓮、息あがってんじゃん」

加蓮「みんな応援してくれるから、ちょっとがんばってみた」

凛「倒れないでね? ダメだよ?」

加蓮「前のめりに倒れるから大丈夫」

奈緒「最初からダメなのかよ」

客席「はははは」

 トークも慣れたもの。さすがだな。

凛「それじゃあ、みんな。入場のときにもらったもの、用意してね!」

 観客は手にそれを持つ。紙製のミニフラッグ。
 トライアドプリムスのロゴが入っている。

凛「じゃあまずは、練習してみましょう!」

奈緒「みんな、ついてきてねー」

加蓮「はーい。じゃあ、前、前、右、右」

奈緒「左、左、上あげて」

凛「右回りー、左回りー」

奈緒「前に三回ー」

加蓮「上!」

凛「うん、完璧だね」

加蓮「そりゃあ私たちのお友達だもんね! 完璧だよね!」

奈緒「さすがだね! みんなに拍手!」

客席「パチパチパチ……」

凛「じゃあ本番だね! みんなの応援ソング!」

奈緒「レディー!」

加蓮「セット!」

凛・奈緒・加蓮「ゴー!!」


 明るいビートにのって、三人の歌声。
 元気が出る。

P「楓さん?」

楓「はい」

P「共演、したくなりました?」

楓「……正直、まだ一緒にできるほど、実力はありません」

楓「でも、彼女たちと共演できたら」

楓「なんて幸せなことかな、って」

 あの人と私は手をつなぎ、ステージを眺める。
 恋愛とか恋敵とか。
 そういう自分が矮小に思えた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

これ書き溜めなしで書いてるんだぜ? 信じられるか? ブラザー
脳の許容量超えてしまいますorz

ちょっとだけ裏話

トライアドのライブを書くにあたって、ティンときたのが
イギリスツアーのフラッグ
あー、カラーガードってかっこいいよね、と思って書いてみた
と思ったら、℃-uteのライブでフラッグパフォーマンスやってんのね。知らんかったよ

ちなみに、曲のタイトルは「READY STEADY GO」にしようと思ったけど
ラルクの曲と勘違いしそうなのでやめました

りんなおかれんの三人がかわいく書けてたら、自分としてはうれしいです
ではまた ノシ

ちょっとだけ投下します

↓ ↓ ↓


 ライヴの余韻覚めやらぬままに。あの人と帰路につく。

楓「彼女たちは」

P「?」

楓「プロですね……」

 やはり顔は合わせづらい。スタッフに断りを入れて抜け出してきた。

P「プロっていうか、結局」

楓「結局?」

P「アイドルが、好きなんですよ。あいつら」

楓「そっか……」

 好きこそものの上手なれ、とは言うけど。
 アイドルの自分が好きならば、それを高めたいと思うのかもしれない。

楓「私には、無理かも、ですね」

P「おや? 白旗ですか?」

楓「だって」

楓「私はPさんが、好きですから」

P「……言ってくれますね」

楓「言っちゃいます」

楓「ふふっ」

 うん、あの人が好きだ。
 Pさんと一緒にがんばる自分が好きだ。

 それでいいじゃないか。

楓「やっぱり、Pさんと一緒だから」

P「ん?」

楓「私はがんばれるんですよ?」

P「……責任重大ですね」

 矮小だろうが、正直に、愚直に。
 きっと、わかってくれる。
 いつか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夜。奈緒ちゃんにメール。

『今日のライブ、こっそり見に行きました。
 三人が魅せるパフォーマンスはすごかったですよ!
 奈緒ちゃんががんばってる姿を見て、自分もがんばらないとって思いました』

 ほどなく、返信。

『スタッフさんから聞きました!
 来てくれてうれしいです(`・ω・´)
 でも、せっかくなら楽屋に来て欲しかったかなって思います(´・ω・`)
 あ、凛にはまだ大晦日のこと言ってないので、安心してください(・ω・)b』

 奈緒ちゃんは、私なんかよりずっと大人だなあ。
 自分もつらいだろうに、それを押し込めて振舞っている。

 なんか、私のほうがお子ちゃまだな。なんて。
 そんなことを考えていたら、携帯が鳴った。

楓「はい」

奈緒「あ、楓さん! ライヴ来てくれてありがとうございます!」

楓「Pさんから聞きました。みんなで作ったんですって?」

奈緒「はい。ファンのみんなにお返しできないかなって」

奈緒「ずっと三人で考えていたんで」

楓「じゃあ、昨日と今日は特別、ってことかな?」

奈緒「うーん、いつもライヴは特別なんですけど」

奈緒「今回は自分たちの企画だから、気合が入ってたかもしれないです」

楓「奈緒ちゃんは今は?」

奈緒「あ、もう自宅です。みんな疲れちゃって」

奈緒「楓さんは?」


楓「私も自分の部屋」

奈緒「そうでしたか」

楓「Pさんがいると思った?」

奈緒「……いえ!……ああ、ちょっとは」

奈緒「お邪魔したら悪いかなーって」

楓「Pさんは仕事してるみたいですよ? 明日の仕事始めの準備だって」

奈緒「仕事始めかあ……仕事始めなのに、その前に仕事って」

楓「ねえ……変よね?」

奈緒「ですよねー」

 奈緒ちゃんと夜電話。
 この前ふたりで大泣きしたら、自然と距離が近づいた気がする。

奈緒「Pさんってほんと、仕事命!の人なんですねー」

楓「奈緒ちゃんたちの担当のときもそうだった?」

奈緒「はい。あたしたち、すっかり子ども扱いで」

奈緒「時々、こいつぶん殴る、って思ってましたよ?」

楓「ふふっ」

奈緒「でも、Pさんには」

奈緒「『ファンあっての自分』って、ずっと言われてましたから」

楓「ああ」

奈緒「だから、ステージでは絶対弱みは見せません」

奈緒「Pさんに怒られるとかっていうんじゃなくて」

奈緒「悲しくさせちゃうんで」

楓「そっか」

楓「好きな人を悲しくさせるの、いやだもんね」

奈緒「……はい」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

あれ?
どうして奈緒がこんなに絡む話になったんだろう?
まいっか

ライヴの表記が、メールでは「ライブ」になってますが
一応会話の中では「v」表記を「ヴ」と取り扱ってますけど
普通メールで「ヴ」と書くことはないと思いますので、わざと書いてます
誤記ではありません

飯食いますー

ぐう畜かすまんのう |ω・`)

ちょっと投下します

↓ ↓ ↓


奈緒「あ! で、でも! 気にしないでくださいね!」

奈緒「あたしが勝手に想って、勝手に諦めて……勝手に自爆しただけなんで……」

楓「奈緒ちゃん……」

 しんみりしてしまう。
 ううん。
 ここで私までしんみりしたら、奈緒ちゃんに申し訳ない。

楓「そうそう。私ね」

奈緒「はい」

楓「ホッケに釣られて、事務所に入ったの」

奈緒「……はい?」

奈緒「ほ、ホッケ? ですか?」

楓「そう。ホッケ」

奈緒「え? え? どういうことです?」

楓「Pさんにね。『ホッケうまいよ!』って」

楓「そう居酒屋で言われたのが、はじまり」

奈緒「え? な、なんかよくわからないんですけど」

楓「んっと。出会いなんてどこに転がってるか」

楓「わからないなあ、って。そう思ったの」

奈緒「……ああ。うん。ですね」

 奈緒ちゃんは反応がいいな。凛ちゃんと加蓮ちゃんにいじられてるんだろうな。

奈緒「あたしなんて、映画館ですよ」


楓「Pさんに声かけられたの?」

奈緒「はい。スカウトの人じゃなくて、Pさんでした」

 今度Pさんをとっちめてあげよう。うん、そうしよう。

奈緒「しかもロビーとかじゃなくて、館内ですよ?」

奈緒「上映終わったあと、ぼろぼろ泣きながら『いい映画だよねえ』ですから」

奈緒「ただの変質者ですよね? これ」

 もっと常識的な人と思ってたけど、これは。

楓「奈緒ちゃん」

楓「今度ふたりで、Pさん問い詰めない?」

奈緒「あ、いいですね!」

奈緒「よし! なんかPさんの困った顔想像したら、元気が出てきました」

楓「ふふふ」

奈緒「楓さん」

楓「はい?」

奈緒「時々……電話してもいいですか?」

楓「……ええ」

奈緒「よかったー。あたし、トライアドで一番上だし、なんかこう」

奈緒「相談できるお姉さんがいたらいいな、って」

楓「だいぶ子供っぽいお姉さんだけどね?」

奈緒「そんなことないですよー!」

楓「そうかしら?」

奈緒「頼りにしてます。ね?」

楓「はい。頼りにされます」

奈緒「えへへへ」

楓「ふふっ」

 夜も更けて、長電話。
 私にかわいい妹ができた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

雑談スレで紹介されててびっくりしたよ
新規に読んだ方おっつおっつ

「私」→「あたし」にランクアップしましたな。テーレッテレー

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


社長「えー。長々あいさつするのもしんどいので」

 仕事始め。
 実際にはもう、仕事は動いているけれど。これは形式というか、お約束だ。

社長「あけましておめでとう。今年もがんばりましょう」

一同「ぱちぱちぱち……」

ちひろ「えー、皆さんの手元にお弁当と飲み物は行き渡ってますでしょうか?」

ちひろ「それじゃあ、Pさんにもごあいさついただきます」

P「じゃあ。僕も長々あいさつするのは面倒なので」

P「では今年もがんばりましょう。いただきます」

一同「いただきます」

 事務所にいるスタッフと一部アイドルたちで昼食。
 松花堂弁当と吸い物、それからソフトドリンク。
 普通の会社ならよくある光景。

 Pさんは昨日、人数の取りまとめとケータリングの確認をしていた。
 どこまでもまめな人だな。

楓「なんかこういうのは新鮮ですね」

P「前の事務所では、こういうのなかったんですか?」


楓「ええ。セルフマネジメントが基本でしたから」

楓「事務所ではスケジュール確認程度で、ほとんどフリーランスと変わらなかったですね」

楓「だから、なんか社員になったみたいでうれしいです」

 アイドルという仕事は十分に非日常だから、こういう平凡な行事がなんとなくうれしい。

P「ああ、新鮮かもしれないですね」

P「僕は毎年のことなんで、今年はどこに弁当頼むかなとか」

P「そういうことばっかりで」

P「まあ、食い気が一番ですかね」

楓「でも、食欲が原動力って、ありますよね」

 とても元旦を、牛丼で迎えたとは思えない。
 このギャップが好き。

楓「ふふっ」

P「なにかおかしいですか?」

楓「いえ」

楓「Pさんは、かわいいなあ、って」

 2月まで、ツアーで苦楽を共にする人。
 いや、その先も。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ツアー最終日。
 八ヶ所とはいえ、よく走りきったものだ。

『最終日のステージ、見に行きますね!』

 奈緒ちゃんからメールが届いていた。
 彼女のスケジュールを確認すると、その日はオフだとのこと。
 ひょっとすると。

 事務所で確認してみたら、トライアドの三人は全員、オフ。

楓「ふむ」

P「ん? どうかしました?」

楓「えっと。奈緒ちゃんから、最終日を見に来るってメールが」

P「ほう?」

楓「……Pさんも、そう思います?」

 たぶん、三人そろって見に来るんだろう。
 それなら、相応のおもてなしをするべきだろうな。

P「なら、正攻法で」

P「アイディアがあります」

楓「Pさんのアイディアですか」

P「楓さんならやれると思うので」

P「あんまり時間がないですけど、やりましょう」

楓「わかりました」

 最終日まで四日。作曲の先生を中心に、ほぼ缶詰めでリハをこなす。
 彼女たちのお気に召せばいいけど。

 ステージも最終盤。さあ、召し上がれ。


楓「ありがとうございます。実はですね」

楓「えー、私に、かわいい妹たちがいまして」

楓「まあ、ほんとの妹じゃないんですけどね。事務所の子たちです」

楓「その子たちがですね。『ステージがんばって!』って言うので、今日はちょっとがんばろうかと」

楓「妹たちのために、二曲ほど、用意しました」

楓「楽しんでくれるといいかな? って、思います」

楓「では、お楽しみください」

 ピアノが和音を出して、音合わせ。よし。

   LaLaLiLaLiLaLiLa~♪

 スキャットで歌いだす。
 その曲。
 ユーリズミックスの『There Must Be An Angel』

   No-one on earth could feel like this.
   I'm thrown and overblown with bliss.
   There must be an angel
   Playing with my heart.

『こいかぜ』で鍛えた換声点。その特徴に一番適う曲を、あの人は選んだ。
 今、自分がやれる最大のパフォーマンスを。

 楽しんでね。凛ちゃん、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん。

   I walk into an empty room
   And suddenly my heart goes "boom"!
   It's an orchestra of angels
   And they're playing with my heart.

 アニー・レノックスの天使のような声。
 私がどれだけ迫れてるか、わからないけど。

 ただ、歌い上げる。

   (Must be talking to an angel)

 歌い上げた、あと。
 沈黙を破るかのような喚声と拍手。

 その地鳴りを確かめて、私はヘッドセットをつける。
 そして、エスニックの太鼓の音。

 シャカタクの『Fire Dance』

 先生のエレピが踊る。
 私は夢中でティンバレスを叩く。そしてヴォーカル。
 あの人は、私の横。ヴァイオリンソロで絡む。

 激しいダンスナンバー。
 これは、彼女たちに贈るためのもの。

楓「はあ……はあ……」

楓「ありがとうございます!」

 割れんばかりの拍手。
 彼女たちは、どこかで見てるだろうか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

YouTubeとかで曲を聴くと、より楽しめるかもしれません

土日はお休みです
ではまた月曜 ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


加蓮「楓さーん!」

 ステージが終了して。
 楽屋へ飛び込んできたのは、加蓮ちゃんだった。

加蓮「もうすごいすごい! よかったー!」

 興奮気味に、加蓮ちゃんが抱きついてくる。

楓「あ、あの……」

加蓮「あ! ご、ごめんなさい!」

 困惑してる私を見て、加蓮ちゃんがあわてて離れる。

楓「ふふっ。ありがと」

加蓮「いえ、ほんと。すっごく! すっごくよかったです!」

加蓮「楓さんみたいに、あんなに歌えたらいいのになあ」

奈緒「……はあ……はあ。加蓮はこういうとき、なんでそんなに走れるんだ?」

 奈緒ちゃんは息を切らしている。

加蓮「えー。私そんなに走ってないよ?」

奈緒「そうだけどさあ。よく人ごみかき分けられるよな」

楓「まあ、奈緒ちゃんも落ち着いて。ね?」

 ふたりに飲み物を渡す。

奈緒「あ、ありがとうございます。それと」

奈緒「ステージ、最高でした」

 奈緒ちゃんが笑顔を見せる。加蓮ちゃんはこくこくうなずいている。

加蓮「あ、そうだ。後半のあの二曲」

加蓮「私たちに贈ってくれたんですよね?」


奈緒「妹たちって、楓さんが言ってくれたから。ちょっと恥ずかしくて」

楓「あら。そう?」

 ふたりとも、まんざらでもなさそうな顔をしている。

楓「奈緒ちゃんが来てくれるって、メールもらったから、ね」

加蓮「あー! 奈緒ったらちゃっかり楓さんとアド交換してるし!」

奈緒「い、いや、加蓮。悪かった、悪かったって!」

 奈緒ちゃんはばつが悪そうだ。

加蓮「私も楓さんとお話したいー! 仲良くなりたいー!」

楓「加蓮ちゃん、私と仲良くしてくれるの?」

加蓮「もちろんです! きれいなお姉さんは好物ですから」

楓「ふふふっ。ありがと」

加蓮「あ、そうだ。奈緒、ちゃんと連れてきたよね?」

奈緒「ん? ああ、引っ張って来たけど」

 本命登場、か。

奈緒「おーい、凛」

 がちゃり。
 なんとも複雑な顔をして、凛ちゃんが入ってきた。

凛「……楓さん、おつかれさまです」

楓「……ええ、ありがと」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

書けねぇ。困った

自分に気合入れます ノシ

ありがとうございます。がんばります

投下します

↓ ↓ ↓


 空気が重い。
 お互いに、次の言葉が出てこない。

奈緒「お、おい。なにお見合いしてんだよ。ほ、ほら」

 事情を知ってる奈緒ちゃんが、どうにかしようと会話を促す。

楓「え、ええ」

凛「あ、ごめん」

 それでも、ちょっとやそっとで、こんな空気を打破できるわけがない。

加蓮「ねえ、凛」

 そんな雰囲気を破ったのが。

加蓮「言いたいことがあったら、言えばいいじゃん」

加蓮「私は、空気読んだりしないよ」

 豪胆な乙女がそこにいた。

凛「う、うん……」

 加蓮ちゃんに促されるように、凛ちゃんが切り出す。

凛「あの、楓さん」

楓「……はい」

凛「この前はごめんなさい!」

 驚いた。
 凛ちゃんがいきなり謝罪してきた。
 あまりに急なことで、私は思考が追いつかない。

楓「え? ど、どうしたの?」

凛「あの……ずっと謝らないとって思ってたんです!」

凛「年末のパーティーのこと」

 ああ。そっか。
 奈緒ちゃんが言ってたっけ。後悔してるって。

楓「凛ちゃんも、ほら」

凛「え?」

楓「座って。ね?」

楓「ゆっくりお話もできないでしょ?」


 まっすぐっていいな。
 自分に至らないところがあれば、こうしてすぐに謝罪できる。
 その素直さがうらやましい。

凛「は、はい」

楓「うん。よろしい」

 なにを言われるかと思ったけど。いい意味で肩透かしだ。
 私は凛ちゃんにも、飲み物を渡す。

凛「あ、ありがとうございます」

楓「いいの。気にしないで」

凛「……はい」

 どうしよう。
 そうは言ったものの、ここでなにか話をできる雰囲気でもない。

楓「んっと」

 思い悩みながら、口に出す。

楓「凛ちゃんがよかったら、女子会しようか」

楓「加蓮ちゃんと、奈緒ちゃんも一緒に」

凛「え?」

楓「場所は……そうね」

楓「私の家。どう?」

加蓮「行きたい! 行きたいです!」

 真っ先に反応したのは加蓮ちゃん。

加蓮「私たち三人とも寮だから、お互いの部屋行ったりはするけど」

加蓮「楓さんのおうちに行けるなら喜んで!」

 すでに決定事項のようだ。目の輝きが違う。

奈緒「……あたしは……えっと」

奈緒「……凛は、いいのか?」


 奈緒ちゃんは凛ちゃんを気遣っている。当然だろう。
 この中で事情を知っているのは、私と奈緒ちゃん。
 そして、三人の絆は深い。

 凛ちゃんはしばらく目を泳がせて。

凛「楓さんがよかったら」

凛「行ってみたい、です」

 よかった。
 ハードルをひとつ飛び越えた感覚だ。

奈緒「凛、いいんだな?」

凛「うん」

奈緒「じゃあ」

 奈緒ちゃんは安堵の笑みを浮かべる。

奈緒「三人でお邪魔します。よろしくお願いします」

楓「ええ。楽しみにしてます」

楓「あ、そうそう。加蓮ちゃんと凛ちゃんとも、アド交換しないとね?」

加蓮「やったー! しますします!」

凛「……え?」

 凛ちゃんは不思議そうな顔をしている。

凛「私も、ですか?」

楓「うん、だって」

楓「凛ちゃんと、仲良くしたいし」

楓「凛ちゃんのこと、よく知りたいから」

楓「ね?」

 凛ちゃんは泣き笑いのような、複雑な表情だけど。
 そんな凛ちゃんを見て、奈緒ちゃんは安堵する。
 加蓮ちゃんも、とても喜んでいる。

 問題を先送りしてることは否めないけど。
 でも、慌てることはないじゃないか。
 三人はライバルで、そして。

 大事な妹だ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


加蓮「ところで楓さん」

楓「はい?」

加蓮「なんであの曲選んだんですか?」

楓「ああ」

 もう種明かししてもいいだろう。

楓「Pさんがね。いくつかセレクトして」

楓「私が決めたの」

凛「Pさんが……」

 凛ちゃんは遠い目をしている。
 きっとうらやましいと思ってるのだろうな。

楓「でも、練習したのは4日前からよ?」

奈緒「えー?」

加蓮「……なんか、反則ですよね?」

加蓮「それで、あんな歌聴かされたら、ねえ」

 三人は顔を見合わせる。
 その目は、間違いなくプロだ。

凛「どうして」

 凛ちゃんが切り出した。

凛「どうして、あの曲なんです?」

楓「そうねえ」

 私は考えをまとめる。

楓「Pさんはどう考えてたか、わからないけど」

楓「私は、三人にできるだけのもてなしをしたかったから」

楓「だから、私のできる全力を、見せたかった」

楓「それだけじゃ、だめ?」


 凛ちゃんは軽く首を横に振る。

凛「えっと。正直に言って」

凛「寒気がしました」

凛「楓さんがあまりに圧倒的で、同じ事務所でよかったって、思ったくらいで」

 あら。それなら。

楓「気に入ってくれたのかしら?」

凛「……悔しいですけど」

 凛ちゃんは笑みを浮かべた。
 私はその笑みに。

楓「よかった。やった甲斐がありますね」

楓「だって、ね? トライアドの三人は、私の憧れなんですもの」

 奈緒ちゃんと加蓮ちゃんは、私の発言に驚いてるようだ。
 凛ちゃんは、なぜかうれしそうな顔をして、言う。

凛「私、思ってたんです」

凛「失礼ですけど、楓さんがここまで来れたのはPさんのおかげだろうな、って」

凛「でも、そうじゃない。楓さんは楓さんです」

凛「うん……すごい」

 そんな凛ちゃんの姿を見て、奈緒ちゃんが。

奈緒「だろ? Pさんもすごいんだろうけど」

奈緒「楓さんが、マジですごいんだよ」

加蓮「うん。私もそう思う」

加蓮「改めて、楓さんのファンになっちゃいました」

楓「そっか」


 素直にうれしい。

楓「やっと同じラインに、立てたのかな?」

 凛ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうに言ってくれた。

凛「同じラインかどうかはわからないけど」

凛「楓さんと一緒になにかできたら、って」

楓「ふふっ」

 それは光栄だ。

楓「私も、そう思ってるの」

 今日は、本当によかった。
 全ての物事に感謝する。

楓「凛ちゃん、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん」

凛「はい」

奈緒「はい」

加蓮「はい」

楓「これからも、よろしくね」

 凛ちゃんははにかみ。奈緒ちゃんはうれしそうに。
 加蓮ちゃんは、また抱きついてきた。

 少し、距離が近づいた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

nice boatとか(((((((( ;゚Д゚)))))))
おいらが怖いのでさすがに、ねえ

文字数チェックしてみたら77,000字超えてました

飯食います

投下します

↓ ↓ ↓


 凛ちゃんたちは、あの人に会わずに帰っていった。
 顔を合わせるのが、ちょっと恥ずかしいらしい。

 私とあの人は、ツアーの打ち上げで絶賛呑んだくれ中。
 とはいえお酒の弱いあの人なので。

作「おう! 呑んでっか!」

P「呑んでねっす」

作「なんだよー。付き合い悪いなーおい」

P「だから呑まねっす」

楓「先生? そろそろその辺で」

 私が介抱役とか。どうしてこうなった。
 作曲の先生は、だいぶごきげんな絡み酒だった。
 あの人も、先輩だから邪険にできないとお付き合いしたけど。

 完全に沈没。
 目が完全に据わってる。

楓「もうだいぶ呑まれたようですし、そろそろお開きにしましょう?」

作「えー、楓さん冷たいなー」

楓「いえ、また機会はありますから」

作「もうちょっと呑みましょうよ、よければ、ねー!」

 先生もできあがってる。いやはや。

作「だってPがね! 初めて俺と組んでくれたんですよ!」

作「こんな機会、もうないかもしれない!」

P「僕も、勘弁して欲しいですね」

作「あんだとー! お前はもっとガツガツ! ガツガツ!」

作「もっと全面に出ろよー。俺さみしいじゃんかよー」

P「先輩、暑いっす」

楓「あのお、Pさん」

P「ふぁい?」

楓「先生って、昔からこんな感じですか?」

作「そう、でーす!」

P「高校生だったから、わかんねっす!」

 困ったおやじが二匹。
 仕方がないので、お店の人に会計をお願いする。
 なんとかふたりをなだめて、スタッフさんたちとお店の外へ。
 先生のことは、スタッフさんにお任せすることにした。

スタッフ「こんなに機嫌のいい先生も珍しいですからね」

 苦笑いしながら任されてくれた。


楓「Pさん。大丈夫ですか」

P「……眠いっす!」

 こりゃだめだ。
 あの人をマンションに届けるため、タクシーを拾う。

 走ることしばらく。マンション前に着く。

楓「ほら、Pさん。着きましたよ?」

P「……ふぁい」

 あの人を引きずりおろす。

楓「カギ、どこですか?」

P「あー、ズボンのポケットの……」

楓「はいはい、わかりましたから」

 失礼してポケットをまさぐる。あった。
 エントランスの呼び出し卓に、カギを差し込む。
 自動ドアが開く。

 勝手知ったるなんとやら、ではないけど。
 あの人とエレベーターに乗り、部屋階まで。
 なんとか部屋まで届けた。

楓「Pさん。お水、どうぞ」

 とりあえず寝室に押し込んで、水の入ったコップを手渡す。

P「あー……ありがとう……ござます……」

 あの人は浮ついたまま、水を。
 つるん。

楓「あ!」

 ばしゃあ……

 あの人のズボンが水浸し。

楓「い、いま! なにか拭くもの出しますから」

P「あー……おかまいなく……」

 よろよろとあの人が立ち上がり。
 ズボンを脱ぎ始め。

楓「!」

 あの。
 こういうとき、どうすればいいんでしょう。


楓「き、着替え! 出しますね!」

P「すいませーん」

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
 あの人と身体を合わせた仲だというのに。
 まだまだ、こういうサプライズには弱いみたいだ。

 私はあわてて、あの人にパジャマを渡す。
 ズボンとカーペットを手近なタオルで拭き。ズボンはハンガーへ。
 タオルは、えーと。脱衣所に放り込んでおくか。

楓「じゃ、じゃあ、私。そろそろおいとまします、ね?」

 あの人が着替えたのを確認して、引き上げようと。

P「楓さーん」

楓「はい」

P「帰っちゃうんですかあ?」

 ああ。
 こんなに隙だらけのあの人を、放っておけるはずがない。

P「僕はですね? 淋しいんですよお」

P「楓さんがいないのが、淋しいなあ……」

 前後不覚になるまで呑んで。
 もう。

楓「大丈夫です」

楓「ここにいますから」

P「ほんとですかあ?」

楓「ええ。だから」

楓「離さないでください、ね?」

 あの人は『にへら』と笑い、ベッドの横をぽんぽんと叩く。
 はいはい。

 とりあえず、服を脱ぐ。しわになるのはまずいし。
 下着姿のまま、私は指定席に促されて、もぐりこむ。
 それじゃあ。
 おやすみなさい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ふぅ(直球)
これはできるPだな、うん

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


P「あの」

 お昼近く。
 リビングで、あの人は反省しきり。

P「なんか、ごめんなさい」

楓「……」

 私は、特になにを言おうともしない。

 朝、あの人の「うえぇ!?」という声で起こされた。
 それはそうだろう。
 気がつけば、下着姿の私がとなりに。
 なにごとかと思うのは当たり前。

 前後不覚になっていたとはいえ、あの人はおぼろげに昨夜のことを覚えていたようだ。
 で。
 今、こういう状況。

P「いろいろ、手を煩わせてしまって、ほんと」

楓「ふふっ、ふふふっ」

 つい我慢できず、噴き出してしまう。
 別に怒っているわけじゃないのだ。

楓「Pさんは、ほんと。まじめですね」

 酔っぱらいの扱いは、慣れてるわけじゃないけど。
 こんなもんかと思えば、別に腹を立てるもんじゃないし。
 それに。
 あの人の世話ができるのはうれしい。

楓「Pさんと添い寝なんて、願ったりですし?」

 しきりに照れまくる。かわいい。

楓「ただ困ったなあって思うのは」

楓「私の着替えがない、ってことですね」

P「……ああ」

 あの人は、ぽりぽりと頭をかく。


楓「で、Pさんにお話がありますけど」

楓「ここに、私の着替えとか置いても、いいですよね?」

P「……まあ、そうですね」

楓「別に同棲しましょ、っていうことじゃないですよ?」

楓「お付き合いしてるわけですし、今後もこういうことがあったりするかも、じゃないですか」

P「ん、確かに」

 あの人は固いから、なし崩しになっちゃうことを心配してるんだろうな。

楓「それとも、誰かいい人を連れ込んだり」

P「それは絶対にないです!」

 Pさん、顔が近いです。
 いや、真剣なのはわかりますけど。

P「あ。すいません」

 まったくもう、かわいいなあ。

楓「同棲なんかしたら、マスコミの格好の的になるってこと、わかりますし」

楓「なにより。Pさんがきちんとしたいってこと、理解してますから」

楓「ただ現実こうして、困ったなあって思うことがあるわけで」

楓「そのくらいは認めてくれても、いいですよね?」

 あの人はこくりとうなずいた。

楓「それじゃあ、そのあたりの準備はしておきます」

楓「急ぐものじゃないですし、ね?」

P「はい」

楓「それよりせっかくのオフなのに」

楓「なんかこうして、ふたりで恐縮してるのもなんだかなあって」

楓「思いません?」


 そう。私だけじゃなく、あの人もオフなのだ。
 ツアーが終わった翌日だから、そこは無理をしていない。

P「ああ、ですね」

P「どこか、出かけてみます?」

楓「いえ?」

P「?」

 やっぱり。あの人は素でわかっていない。

楓「せっかくふたりきりのオフなのに、いちゃいちゃくらい、したいじゃないですか」

楓「家でまったり。イエーイ」

楓「なんつって」

 あれ?
 あの人の顔が引きつってるような。

P「楓さん」

楓「はい」

P「それはないわー」

楓「……泣きますよ?」

P「でも、楓さんの提案、いただきます」

楓「はい、召し上がれ」

P「そうじゃないけど……ま、いいか」

楓「ふふっ」

P「あ、それと」

P「……女性から言わせてしまって、すいません」

楓「……いえ」

P「今日はふたりでゆっくりしようか」

P「なあ、楓?」

 うわあ。うわうわ。うわあ。
 呼び捨てですよ。憧れですよ。

楓「そうね。ゆっくりしましょ」

楓「あなた?」

P「……やっぱり、照れますね」

楓「……ですね」

 まだまだ、恋人ごっこな私たち。
 これから少しずつ、らしくなれたら、それでいい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

イチャコラは好物です

では ノシ

少しリフレッシュしました

投下します

↓ ↓ ↓


 4月。四枚目のシングルを発売した。
『こいかぜ』発売から一年。早いものだ。
 発売記念のトークライヴの合間、メールが入る。

『新曲発売おめでとうございます。楓さんも忙しそうですね。
 私たちもようやく一緒のオフが取れそうなので、よかったら今月女子会どうですか?
 楓さんのスケジュールがいい日で(*´∀`*)』

 凛ちゃんからだ。
 奈緒ちゃんはよく電話をくれるし、加蓮ちゃんはメール魔だ。
 ふたりとはよくやり取りをしてるけど、凛ちゃんからとは。

楓「珍しいな」

P「ん? メールですか?」

楓「ええ」

P「なんかうれしそうですけど」

楓「いとしの彼女から、ですから。ふふっ」

P「彼女?」

 あの人の頭の上に浮かぶハテナマークが見える。

P「楓さんって」

楓「はい」

P「バイだったんですね」

楓「失礼な。私はいつだって、Pさん一筋ですよ?」

P「いや、ここでそういうこと言われても」

 あの人を照れさせることに成功。
 マンションに行けば、私が恥ずかしい思いをさせられてるのだし、このくらいの反撃はいいよね。

楓「大丈夫です。Pさんもよく知ってる子ですし」

P「ほう?」

 私はスマホをひらひらさせながら、あの人に画面を向けた。


P「へえ。凛ですか」

楓「意外ですか?」

P「ああ、うん。でも」

P「楓さん、奈緒や加蓮とだいぶ仲良くしてるみたいですし」

P「まあ凛も凛で、素直なとこありますからね」

楓「うーん。凛ちゃんはいつでも素直ですよ?」

P「そうかなあ。僕にはけっこうツンケンしてましたけどね」

楓「それはだって」

楓「好きな人に素直に、なれるもんでもないでしょ?」

P「そういうことです、か」

P「で、女子会ですか?」

楓「ええ。女子会です」

楓「Pさんは参加禁止ですよ?」

P「そんな野暮なことしませんよ」

 そうは言っても、たぶんあの人のことだ。私が困ればきっと救いの手を差し伸べるに違いない。
 いつだってそういう人だ。

楓「で、彼女たちのオフ前日にやりたいかな、とか思うんで」

楓「Pさん。スケジュールチェック、よろしくお願いしますね?」

P「はいはい、任されます」

 なんだかんだ言っても、私が頼りにするのはあの人。
 愛情は信頼の上に成り立っているのだ。

スタッフ「高垣さん。そろそろ二回目の準備お願いします」

 もうそんな時間か。
 それじゃあ、始まる前にメールを返さないと。

『凛ちゃんありがとう。
 私のほうでも調整できそうだから、三人のオフにあわせられると思います。
 それじゃあ……』


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


奈緒「じゃあ。CGプロ女子会初開催に!」

凛・奈緒・加蓮・楓「かんぱーい!」

 かちん。
 手に飲み物を持って乾杯。

 私と奈緒ちゃんはビール。加蓮ちゃんと凛ちゃんはソフトドリンク。
 の、はずなのに。

加蓮「え? 私も呑めるよ?」

奈緒「おい。加蓮は未成年だろ」

加蓮「そうだけどさあ。今どき『呑めませーん』なんて子、いないよ?」

 というか。凛ちゃんすでに呑んでるし。
 なんとなくこういうのは、無礼講も多少は許されるんじゃないかな。
 とか、勝手に言い訳をしてみたり。

楓「まあ、宅呑みだし。今日は大目にみましょ?」

凛「そうそう。普段は節制してるんだし」

 乙女のぶっちゃけはこういうものか。
 ファンが見たら泣くぞ。

楓「でも、凛ちゃんも加蓮ちゃんもお酒飲む機会なんてあるの?」

凛「ん? ありますよ?」

加蓮「マネージャーには怒られるけどね」

奈緒「あー、どうしてもしつこいプロモーターさんもいるんで」

凛「お付き合い程度に」

凛・加蓮「ねー」

 未成年に酒を勧めるプロモーターというのもどうなんだろう。
 そんなきれいごとの言える業界でもないし、まだ少々のお酒ならゆるいのかもしれない。

凛「あ、でもさすがにカクテル一杯くらいでやめてますよ?」

加蓮「マスコミにすっぱ抜かれたら、迷惑かけちゃうし」

奈緒「うちの事務所は、そのあたりのことは厳しいから」

奈緒「なんとかその程度のお付き合いで済んでるけどね」

 本当にそう思う。
 未成年の飲酒はスキャンダルだけど、それをとがめる事務所は、まあない。
 プロモーターの意向が優先されてしまう。
 さすがにプライベートの飲酒はまずいのだけど。

 CGプロはそのあたりのコンプライアンスをきちんと教育していて。
 マネージャーやプロデューサーが管理する。

 今日はみんなここにお泊りするから、多少は大目にみたのだ。
 外出しなくてもいいように、飲み物とつまみは多めに用意してる。
 小腹がすいたときのカップめんもしっかりと。


楓「奈緒ちゃんはお酒、大丈夫なの?」

奈緒「うーん。普通じゃないですか?」

奈緒「ビールは苦いから、あんまり好きじゃないですけどね」

加蓮「おこちゃまの舌だからねー」

奈緒「うるせー。ふたりだって一緒じゃん」

楓「でも、そうよね。苦いのは苦手って子、多いもんね」

 私はいつから苦手じゃなくなったかなあ。
 もう覚えていない。

凛「え? 私は平気だよ?」

奈緒「え?」

加蓮「え?」

凛「だって、お母さんから『社会人になったらお付き合いもけっこうあるから』って」

凛「晩酌に付き合ってたし」

奈緒「うわー」

加蓮「凛のお母さん、豪快だねえ」

凛「え? そう?」

凛「うち花屋だから、花き組合とかのお付き合い多いしね」

凛「普通の家庭より、呑む機会はあると思うよ」

 ちょっと驚いた。
 お酒のことじゃなくて。凛ちゃんが意外と饒舌なこと。

楓「じゃあ凛ちゃんは、鍛えられたんだ」

凛「いや、鍛えられたってほどじゃないですけど」

凛「ね。まあ……あはは」

 そう言って苦笑いする凛ちゃんがかわいい。

楓「でも、よかったな」

凛「なにが、です?」

楓「凛ちゃんとこうして、ぶっちゃけ話ができること」

楓「年末のときは、刺されるかと思ったし」

凛「……あー、あの時は」

凛「ほんと、ごめんなさい」

 私と凛ちゃんは、なにも手をこまねいていたわけじゃない。
 忙しいながらのメールとか。
 互いに打ち解けることの模索を、行っていた。

 今はこうして、年末騒動のことも笑い話にできる。
 そこまでは打ち解けられた感じ。

楓「まずは、呑も?」

楓「スキャンダルにならない程度に、ね?」

凛「……はい!」

 まだまだ、夜はこれから。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

凛がヤンデレという風潮
いや、それもアリなんですけどね

飯食います

楓さんなにやってんですか仕事行きますよ

投下します

↓ ↓ ↓


奈緒「あー! それは、加蓮が行かせようとするから!」

加蓮「えー? そのわりにいそいそ傘持って行ったじゃない」

奈緒「あー! し……しらん! も、もう忘れた!」

 女子会というのは、こんな話が好きなんだなあ。
 ほどよくお酒もまわった頃、Pさんとのエピソード話になる。

奈緒「つか、加蓮だって! Pさんがお見舞いに来るって聞いて、うれしそうに」

加蓮「え? そうだっけ?」

凛「そうだよ。バレバレじゃない」

加蓮「凛だって。バレンタインのチョコ、気合入れて作ってたって」

凛「ちょ、ちょっと待った!」

加蓮「なーに」

凛「誰に訊いたの、それ」

加蓮「えー。ひみつぅ」

凛「未央だね。絶対そうだ……」

 若いっていいな。なんて言うと年寄りくさくなっちゃうけど。
 こんなふうに、いろいろ打ち明けられる友人がいるっていうのは、うらやましい。
 モデル事務所にいたとき、一緒に呑むなんてこともそうなかったし。
 ひとりで気楽なのがいちばん、なんて思ってた。

 そんな私が『うらやましい』なんて。
 私もだいぶ変わったものだ。あの人のせいだ。

奈緒「楓さんは」

楓「うん」

奈緒「ホッケ、ですよね?」

凛「は?」

加蓮「へ?」


 ふたりともきょとんとしている。
 事情を知ってる奈緒ちゃんは、噴き出す。

奈緒「ぷぷっ、あははは! おまえら変な顔ー」

凛・加蓮「なーお~?」

奈緒「……はい……自重します」

楓「ふふふっ。そうね」

楓「私はホッケで釣られた女なの」

 凛ちゃんと加蓮ちゃんに、あの人にスカウトされたエピソードを話す。
 ころころ変わる表情が、いちいちかわいい。

加蓮「えー、居酒屋いいなー。私も行きたいなー」

凛「Pさん、そんなとこでご飯食べてたなんて。言ってくれれば一緒に」

楓「未成年と一緒には、なかなか行けるとこじゃないでしょ?」

楓「お酒が絡むしね」

凛「そりゃ……そうですけど……」

 凛ちゃんは不服そうだ。

楓「それに。男の人は、自分だけになれる場所が欲しいなんて、よく言うし」

楓「凛ちゃんがこうして、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんとお話して、いろいろ気分転換できるように」

楓「たぶん気分を変えたい場所なんじゃないかしら」

楓「私にはわからないけどね」

凛「楓さん」

楓「はい?」

凛「楓さんは今でも、Pさんとそこに行くんですよね?」


 私とあの人の仲を探ってるのか。それとも、単にうらやんでいるのか。

楓「そうね。今でも行くわね」

楓「でも、Pさんがひとりでも行くかどうかは、わからない」

凛「そう、ですか」

 凛ちゃんは缶カクテルを飲み干し。

凛「楓さん」

楓「なに?」

凛「今日は自分の気持ちにけりをつけようと、思って」

 私より付き合いの長い彼女の、決心。
 向き合いましょう。きちんと。

凛「楓さんは、Pさんと付き合ってますよね?」

 奈緒ちゃんが固まる。なにか言い出そうとした彼女を、私が手で制する。

楓「ええ。お付き合いしてます」

凛「Pさんが、好き、なんですよね?」

楓「ええ」

 あのときと同じ、射るようなまっすぐな瞳。
 私は、その想いに向き合う。

楓「好きよ」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

土日は毎度ながらお休みです

ではまた来週 ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


凛「……あの」

 数十秒の沈黙ののち。
 凛ちゃんがなにかを思いながら、口にする。

凛「私も……Pさんのこと……」

凛「好き……でした……」

 でした?

凛「いえ、ほんとは。たぶん」

凛「やっぱり、今でも好きなんだと、思います」

凛「……あきらめ……悪いですよね。私……」

 そう言って凛ちゃんはうつむいた。

奈緒「なに言ってんだよ、凛。あたしや加蓮だっているじゃ」

凛「わかってる! わかってるの……」

 奈緒ちゃんの言葉を、凛ちゃんがさえぎった。

凛「この前のライヴのときから、わかってたの」

凛「あきらめなきゃ、忘れなきゃ、って」

凛「奈緒や加蓮がついててくれて、いっぱい励まされて、うん、がんばれるって」

凛「でも! 楓さんの顔を見たら、やっぱつらくて……」


 ぽたり。
 凛ちゃんの瞳から、涙が零れ落ちる。
 そして涙もそのままに、凛ちゃんは顔を上げる。

凛「楓さん、ごめんなさい!」

凛「泣かせて……ください……」

 こらえても止まらない、涙のしずく。
 私は、どうしていいかわからず。
 気がつけば、凛ちゃんを抱きしめていた。

凛「うっ……ううっ……」

凛「うう、うああぁ」

凛「楓、さん」

凛「うああぁぁ……ああぁぁ……」

 ただひたすらに泣き続ける凛ちゃん。
 その心の叫びを、私はただ受け止めるしかできなかった。

奈緒「凛」

加蓮「凛、大丈夫だよ」

奈緒「あたしたちも、いるよ」

 奈緒ちゃんと加蓮ちゃんが、凛ちゃんを囲んで優しく包む。
 もはや恋敵とかライバルとか。関係ない。
 渋谷凛というひとりの女性を、私は全身で受け止める。
 誰も、なにも。
 言葉にできなかった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


楓「凛ちゃん」

 泣く声が収まってきた頃。凛ちゃんに声をかける。
 私はまだ、彼女を抱きしめたまま。

楓「ちょっとは、落ち着いた?」

 凛ちゃんはなにも言わず、こくりとうなずいた。

加蓮「凛、大丈夫。大丈夫だよ」

 加蓮ちゃんは、凛ちゃんの頭をなでている。
 奈緒ちゃんは凛ちゃんの背中を優しくトントンとしていたけど、今は部屋を片付けている。

凛「みんな……ごめん……」

加蓮「ううん……いいんだよ……いいの」

 加蓮ちゃんはまだ、髪をなでている。

凛「楓さんも、ありがとう……ございます」

楓「ううん。いいの」

 凛ちゃんは私にもたれかかったまま、訊く。

凛「楓さんは」

楓「うん?」

凛「楓さんは、どうしてそうなんですか?」

楓「そう、って?」

凛「どうして、私に優しくするんですか? 私は、楓さんを」

楓「凛ちゃん?」

 私は凛ちゃんの言おうとすることを、さえぎった。

楓「嫉妬することは、悪いことなのかな」

凛「え?」

楓「私ね、思うの」

楓「嫉妬は、深い愛情のたまものなんじゃないかな、って」

 そう。
 かつて私は、凛ちゃんに嫉妬した。
 その私が今、凛ちゃんに嫉妬されている。
 いや、ちょっと違う。

楓「恥ずかしい話なんだけどね。私も、凛ちゃんに嫉妬してるんだ」

楓「凛ちゃんたちがPさんと先に出会ったこと」

楓「時間なんか巻き戻せないのにね。おかしいでしょ?」


 凛ちゃんはちょっと考えて、首を横に振る。

凛「なんとなく、わかります」

凛「私もPさんが楓さんの担当になったってわかったとき、すごくもやもやしました」

凛「ライヴでPさんが、楓さんのサポをやるなんて思わなかったし」

凛「私の知らないPさんを知ってる楓さんがうらやましくて」

 私も凛ちゃんも、互いに知らないあの人を求めてしまった。
 嫉妬は当然の帰結。

楓「おんなじだね」

凛「……うん」

 私の言葉に、凛ちゃんは小さく同意してくれた。

奈緒「あたしも、ほんとは」

 手の空いた奈緒ちゃんが話に入ってくる。

奈緒「凛のこと、うらやましいって思ってたよ」

凛「え? 奈緒」

 加蓮ちゃんも、なでていた手を止める。

加蓮「私もさ」

加蓮「凛がPさん好き好き光線出してたから、仕方ないなあって思ってたけど」

加蓮「Pさん好きだったんだよ?」

凛「加蓮……」

 凛ちゃんは、少し険しい顔になって。

凛「なんで……」

奈緒「凛……」

凛「なんで……言ってくれなかったの?」

凛「なんで私に……好きな気持ち……言わなかったの? ふたりとも」


奈緒「なあ、凛」

奈緒「あたしも加蓮も、さ。凛が大好きなんだ。大親友だって思ってる」

加蓮「そりゃPさんのことは好きだよ? でも」

加蓮「私は『あこがれ』なんだなあって、気づいちゃったし」

加蓮「親友の恋愛を応援するの、あたりまえじゃん?」

凛「奈緒。加蓮……なんで?」

 凛ちゃんはまた、涙声になる。

凛「わかんない……わかんないよ……」

凛「こんな私を応援するなんて……気持ちあきらめて……」

凛「なんで、ふたりとも……わかんないよ……」

奈緒「ばーか。わかんなくていいよ」

奈緒「あたしは凛が好き。凛を大切にしたい」

加蓮「私も凛が大事。ずっと親友でいたい」

加蓮「それだけのことだよ。凛がいるから、私たちがいる」

凛「……ふたりとも……ばかじゃん」

凛「こんな私をかばって……つらい思いして」

奈緒「ああ! もう!」

 奈緒ちゃんは、私から凛ちゃんを奪い取るように抱きしめる。

奈緒「うじうじ言ってんじゃねえ。あたしは凛が一番大切」

加蓮「凛。私も奈緒も、凛がいてくれたからここまでがんばれたんだよ?」

加蓮「ずっと三人で、やっていきたいんだ」

奈緒「わかれよ、そんくらい」

凛「奈緒……加蓮……」

 凛ちゃんは、奈緒ちゃんにされるがまま。

凛「……ありがと……」

 そう言うのがせいいっぱいだった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

しぶりんも好きなので、正直書いてて心痛かったっス(´;ω;`)

楓さんssが増えてうれしいので、おいら逃走してもいいよね?と一瞬思ってしまいましたごめんよ(´・ω・`)

飯食います

叱咤ありがとうございます

投下します

↓ ↓ ↓


 続いて呑む雰囲気ではなくなったので。
 部屋に布団を敷き詰める。そして四人で雑魚寝。
 でも。

凛「楓さん」

楓「え?」

凛「起きてます?」

楓「ええ」

 眠れるはずがない。

楓「凛ちゃんは、眠れない?」

凛「……はい」

楓「ん……そっか」

凛「楓さん」

楓「なに?」

凛「2月のライヴで、ほんとあきらめようって」

凛「そう、思ったんです」

楓「どうして?」

凛「うーん」

 凛ちゃんの悩む声が、狭い部屋にただよう。


凛「かなわないなって」

楓「かなわない?」

凛「なんか。楓さんにはかなわないって」

凛「そう、直感で思いました」

楓「直感、か」

凛「うん。ですね」

凛「理由とかいろいろ考えたりもしたけど、よくわかんなくて」

凛「でも、理由がわからないから、すっごく不安で」

凛「これでいいの? ほんとにいいの? って」

凛「ずっと考えてました」

 凛ちゃんの言葉をかみしめる。
 理由なんかない。その通りだ。
 好きになるのに、理由なんかないし。
 凛ちゃんの直感というのも、なんとなくわかるような気がする。

凛「楓さんがなにか言ってくれたら、あきらめられるかも、とか」

凛「逆に、奪い取ってやるとか」

凛「そう思えたかも、知れない」

凛「でも楓さん。なんにも言わないで。ただ、抱きしめてくれて」

凛「なんだろう……やっぱりよくわからないけど」

楓「けど?」

凛「けど……ちょっとだけ、腑に落ちた気がします」

凛「楓さんとPさん、お似合いです」

凛「……悔しいなあ……」

 暗闇の中。凛ちゃんは泣いているようにも思えた。

凛「楓さん、ごめんなさい」

凛「自分がPさんのとなりにいられなかったって、それを認めるのがこわいです」

凛「素直に、楓さんとPさんをお祝いしたいのに」

楓「凛ちゃん」

凛「はい」

楓「私が言っても、いやみにしかならないかもだけど」

楓「聞いてね?」

凛「……はい」


楓「私はね。今Pさんとお付き合いしてるよね」

楓「私は、Pさんのことが好き。ずっと一緒にいたい」

楓「……でも、先のことは、わからない」

凛「……」

楓「不安だけど、それも現実」

楓「私が振られてしまうかもしれないし、事故かなにかで、私が死んじゃうかもしれない」

凛「楓さん、そんなこと」

楓「ううん、私も不安なんだ。自分の未来がね」

楓「ただ、決めてることがあるの」

楓「今をせいいっぱい、生きよう、って」

楓「こうして、凛ちゃんや奈緒ちゃん、加蓮ちゃんの想いも背負ってるんだし」

楓「自分自身、後悔のある生き方をしたくない」

楓「だから、凛ちゃんに宣言します」

楓「Pさんと、全力で生きていく」

楓「ぜったい幸せになる」

楓「もし、凛ちゃんが『今の高垣楓に任せるなんてできない』って思ったときは」

楓「全力で、奪って」

楓「もちろん、負けるつもりは、ないけどね」

楓「凛ちゃんには怒られちゃうかな。刹那的だって」

凛「……いえ。そんなことないです」

凛「やっぱり、楓さんは楓さんです」

凛「……えっと」

楓「なに?」

凛「Pさんを、よろしくお願いします」


 そう凛ちゃんが言ってくれたとき。
 ぐすっ。鼻をすする音。

凛「奈緒? 加蓮? 起きてるでしょ」

奈緒「……なんだよ。悪いか」

加蓮「私だって眠れないの。わかんない?」

凛「もう、しょうがないなあ、ふたりとも」

奈緒「誰のせいだと思ってんだよ、凛」

凛「さあ。楓さん?」

奈緒「おい」

凛「うふふっ」

楓「ふふっ」

加蓮「奈緒ったら。単純なんだから」

奈緒「なんだよ……文句あんのか?」

楓「ねえ、三人とも」

楓「朝起きたら、出かけてみようか」

楓「おいしいもの食べて、いっぱい遊んで、ゆっくり寝たら、忘れられるなんて言うけど」

楓「そんな簡単なものじゃないと思うの」

楓「でも、そんなに言うなら、実体験しようと思うんだけど」

楓「どうかな?」

凛「くすっ」

凛「賛成ですね」

加蓮「いいですね」

奈緒「うん」

楓「じゃあ、そうしよっか」

楓「近くに、パンケーキのお店あるし、甘いもの食べて元気だそっか」

凛「はい」

奈緒「うん」

加蓮「ええ」

 いまだ暗い部屋で。女四人の企みごと。

楓「じゃあ、決まり」

 そうと決まれば。少しは眠りにつこう。
 睡眠不足はお肌の天敵だ。
 みんなそう自分に言い聞かせて、眠りにつく。

 カーテンの先では、月明かりが四人を見つめていた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

みんながみんな、最高の幸せをつかめるとは限らないのが現実
でも、前後賞や組違いだって、それはそれで幸せなんだろうなあ

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


大将「ほう、つまり」

 女子会から二週間あまり。今日はカウンターではなく、奥の座敷にいる。
 というのも。

凛「Pさんのなじみのお店に、来てみたかったんです」

加蓮「私たちには、ぜーんぜん教えてくれなかったのにねー」

奈緒「……」

 奈緒ちゃんは、あいかわらず気苦労を抱えているみたい。

 そう。トライアドの三人、私、そして。
 あの人。

大将「モテ期到来、ってやつか?」

P「……大将、勘弁してください」

 大将を除けば、Pさんのハーレム状態。と言えなくもない。
 でも、あの人は居心地が悪そうだ。


 きっかけはもちろん、女子会。
 四人でパンケーキの朝食を食べているとき。

凛「あの、楓さん」

楓「なに?」

凛「もしよかったら」

凛「楓さんとPさんの行きつけの居酒屋。行ってみたいかな、って」

加蓮「あ、私も興味ある!」

奈緒「おい、あんまり無茶言うなよ」

奈緒「……あたしも、興味あるけど……」

 かわいいツンデレは正義だね。

楓「んー。私はいいけど」

楓「Pさんがオッケーなら、いいんじゃない?」

楓「もともと、Pさんの息抜きの場所だし」

 正直言えば。
 私とあの人の隠れ家のつもりなので、あまり連れて行きたくない気持ちも、ちょっとだけ。
 でもこの三人だったら、いいかな。
 かわいい妹たちだし。

 私が返答すると、早速動いたのは。

凛「あ、ちひろさん。凛です」

凛「えっと、Pさんと連絡取りたいんですけど……ええ……はい……」

凛「じゃあ、私の携帯に電話欲しいと。はい。では」

楓「……」

 なんとまあ。
 凛ちゃんって、こんなにアクティブだったのか。

楓「凛ちゃん」

凛「吹っ切れたんで、我慢するのやめました」

凛「Pさんと楓さんと、大いに絡んじゃいます」

凛「よろしくお願いしますね」

 そう言って、凛ちゃんは私に指を向け。

凛「ばーん!」

 ピストルを撃つまねをした。

楓「ふふっ。ふふふっ」

楓「こっちこそ、よろしくね」

 手のかかる妹だなあ。
 よろしくされましょう。ええ。

 加蓮ちゃんはその様子をニコニコと見つめ、奈緒ちゃんは額に手を当てて天を仰いだ。


 Pさんは電話口でだいぶ困っていたようだけど、結局は凛ちゃんに押し切られ。
 そして。

大将「俺は来てくれてうれしいけどな」

大将「売れっ子の三人娘と、神秘の歌姫さまが、こんなしがない店にいるなんてな」

楓「大将?」

楓「しがない店なんて言わないでくださいね?」

楓「私はここ、大好きなんですから」

大将「がはは! 楓さんに怒られちまったな!」

大将「ああ、ここは俺の城だから。ま、ゆっくりしてくれや」

 そう言うと大将は厨房へ戻っていった。

凛「おもしろい大将さんですね」

P「ま、いっつもあんな調子だけどな」

奈緒「Pさんの顔つぶさないようにって気ぃ遣ったのに、あたし馬鹿みたいじゃん」

加蓮「奈緒は損な性格だよねー」

 加蓮ちゃんはからから笑う。

P「んで? なんでまたこんな普通の店に来たいなんて」

凛「んー」

 凛ちゃんは首をかしげて。

凛「……やじうま根性?」

P「……おい」

凛「うそじゃないよ。Pさんと楓さんのデート場所、見てみたかったのはほんと」

凛「あ、そうそう」

凛「Pさん。楓さんとうまくやってくださいね」

P「凛……」

 凛ちゃんのその言葉に、加蓮ちゃんも奈緒ちゃんも安堵の表情。
 あの人も、その言葉の意味を理解したのか。

P「承知した。まかせとけ」

P「あ、でもお前と加蓮はお酒呑むのだめな。奈緒はいいけど」

加蓮「えー、Pさんかたーい」

P「堅くて結構。なんとでも言え」

凛「ふふ。Pさんあいかわらずだね」

凛「やっぱり、私の好きなPさんだな」

楓「……あげませんよ?」

凛「……ください」

楓「ふふっ」

凛「ふふっ」

P「僕は粗品ですか……」


P「ま、ふたりが仲良しなのは僕もうれしいことです」

P「お前らとりあえず、好きなの頼め。店は普通だが料理は間違いなくうまい」

凛・奈緒・加蓮「はーい」

楓「じゃあ私は、冷酒を」

P「はいはい、どうぞどうぞ」

P「とりあえず今日はおごり。でも、サイフの負担は考えてくれ」

加蓮「じゃあいっぱい頼んじゃおうっと」

P「加蓮は、お残し禁止な」

加蓮「えー、私食細いの知ってるでしょ?」

P「なら考えて頼め」

 女三人寄ればかしましい、と言うけど。
 四人ならどうなんだろうか。

 Pさん、お疲れさまです。そして、ごちそうさま。
 ふふっ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

なんてことない話なのに、今回は大苦戦しました
間が開きすぎるのも考えものだなあ

飯食います

短いですけど投下します

↓ ↓ ↓


凛「Pさんはさ」

P「ん?」

凛「どうしてここに来るようになったの?」

奈緒「あ、それあたしも訊きたい」

 加蓮ちゃんもなにか言おうとしてるけど、ネギマを食べていてしゃべれない。

P「そうだなー。ここを知ったのは酒屋のあんちゃんの紹介」

楓「そうなんですか?」

P「僕の地元の酒を扱ってるって、教えてくれたんです」

加蓮「んぐっ……へえ、Pさんが酒屋さんなんて」

奈緒「うん、意外」

P「まあ、アルコールは弱いけどな。でも酒はきらいじゃない」

P「それにそういう情報持ってると、営業するときに役に立つしな」

 あの人にとっては、なにをするのも仕事につながってるんだな。

楓「あんまり仕事ばっかりしてると」

楓「『仕事と私と、どっちが大事なの!』って、叫んじゃいますよ?」

P「そのときは迷わず『仕事』って、言いますよ」

 あら。
 あとでもう一度うかがいましょうか? ベッドの中でとか。

楓「まあ、ひどい」

P「ま、冗談にお付き合いするのはこのくらいで」

 加蓮ちゃんがにやにやとやり取りを見ている。
 凛ちゃんは呆れるように。

凛「まったく、ごちそうさまです……」

 と、一言。

奈緒「……もう結婚しちゃえばいいじゃん」

 奈緒ちゃんはビールを呑みながら言う。
 結婚。
 その響きに、私はどきりとする。


楓「……」

P「ま、そういうタイミングがあれば、そういうのもあるかもな」

 あの人は余裕の態度だ。なんか悔しい。

P「でも、先のことなんか全然わからんし」

P「だいいち、一般人でさえ結婚なんて一大事だ」

P「今はとても考えられないよ」

 どきりとした気持ちが、一気にしおれてしまう。
 わかってる。ええ、わかってますとも。

 まだお互いに、付き合いを始めて長くもないし。
 アイドルが結婚とか、夢を売る商売である以上タブー視されているのだし。
 でも。

 私だって、少しくらい夢を見たいじゃないか。

 あの人に、文句のひとつでも言いたくなるけど、言葉が見つからない。
 確かに、今まで結婚ということを真剣に考えたことはなかったけど。
 そのハードルのあまりに高いこと。
 かえってそのことが、私に結婚を意識させる。

『惚れた腫れたでいられたら、非常に困るんです』

 かつてここで、社長が言った一言が胸に刺さる。
 アイドルは、ファンに夢を見せる商売。
 自分は夢見てはいけないのか?

凛「楓さん?」

楓「……え?」

凛「ぼうっとして。大丈夫ですか?」

楓「え、ええ。うん。大丈夫」

 因果な商売だな。
 口をつけるお酒の味が、ほろ苦い。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

スレも半分使っちゃいましたか
たぶんこのスレ内で完結できる、はず

では ノシ

ひとつだけ投下します

↓ ↓ ↓


 からん。
 手に持つグラスの氷が揺れる。
 気分を変えて、今はスミノフのロック。

 ひとり酒。
 大将の店から帰ってきても、どことなく居心地が悪い。

 五人で呑んでいても、会話しても、さっぱり頭に入ってこない。
 気がつけば、いつのまにかお開きになっていた。
 私はふらふらと帰宅。
 そして今。

楓「『結婚』、か」

 もうすぐ27歳になんなんとする自分には、わりと現実めいた言葉だ。
 ただ。

楓「アイドル、と、結婚」

 職業、アイドル。
 あの人との縁で仕事をはじめて、二年がせまる。
 歌を聴かせ、踊りを舞い、ファンを楽しませる。
 普通なら経験することのない、ハレの仕事。
 やりがいもあるし、やってきたという自負もある。

 かたや、結婚。
 もちろん、相手はあの人以外に考えられない。
 あの人と生活し、家庭を作り、こじんまりとした普通の生き方。

 両立するという選択肢もあるだろう。けど。
 アイドルの賞味期限は思う以上に、短い。

楓「引退、とか?」

 まだ二年も仕事をしてないのに、引退なんて。
 だいいち、あの人と成し遂げるって、約束したじゃないか。

楓「……ふぅ」

 ウォッカの焼けるような刺激が、のどを通り抜ける。
 なんというか。
 考えるほど、泥沼。

 ふと目に付く、スマホ。

楓「メール?」

 タップして開いたメールは、凛ちゃんから。

『楓さん、無事着きました?
 なんかお店出ても、心ここにあらずって感じだったから、心配です(´・ω・`)
 なにかありました?』

楓「凛ちゃん……」

 私は動きの悪い頭を回転させながら返信文を書いた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

明日以降にまわしても良かったんですけど、なんとなくここまでかなあ、と

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


『凛ちゃんありがとう。ちゃんと着きました。
 特になにもないですよ。大丈夫。
 凛ちゃんこそ、無事着いたのかな?』

『私はメール送る前に着きました。ありがとうございます。
 私たちが無理にPさんと楓さんのなじみのお店に突入したから、気を遣わせてしまったかなって。
 無理させたんならごめんなさい(´・ω・`)』

『私も楽しかったですよ。Pさんも楽しんでたと思います。
 またゆっくり呑めたらいいね』

『それならよかったです(*´∀`*)
 でも、楓さんの様子がすぐれない感じだったんで。
 ひょっとして、奈緒の言ったこと気にしてます?』

『気にしてないと言ったらうそになっちゃうかな。そういう年齢だしね。
 でも今は仕事が忙しいし、事務所でも中堅にも満たないからね』

『えっと、楓さんは、Pさんと結婚したくないんですか?』

『そりゃしたいと思ってるし、そういうお付き合いのつもりですよ。
 ただ、まだまだそれを許してくれる環境じゃないし。』

『それはただ逃げてるだけじゃないですか?
 自分の幸せが一番優先されるべきです。』

『そうね。逃げてるかもしれない。
 でも、自分のわがままで、Pさんの立場を悪くするのはいやだしね。
 私はPさんが批判にさらされるのを見たくはないかな。』

『言い過ぎました、ごめんなさい(´・ω・`)
 結婚するってことは、ファンへの裏切りになるかもっていうの、わかります。
 でも、自分が幸せになりたい行動を、誰も祝福してくれないなんてことないと思います。
 そんな冷たいファンじゃないって信じてます(`・ω・´)』

『ありがとう。そうだね。
 ファンのみんなは応援してくれるよね。
 私がむしろ心配なのは、業界の反応かな。
 アイドルに手をつけて、結婚までしたプロデューサーって評判は、マイナスにしかならない気がする。』

『でも、ぶっちゃけこの業界なんて売れてナンボじゃないですか。
 楓さんがPさんの手腕で売れていたら、決して悪評にならない気がします。』

『でも、お手つきってのは別だと思いますよ。
 もしそういう評判がついてまわってたら、そういうプロデューサーに大事なアイドルを任せるなんてできる?』

 凛ちゃんから、反応がなかなかかえってこない。
 そして。

『今度、ゆっくり話をしませんか?』

 うん、そうだね。
 お互いに頭沸騰してるし、ちょっと時間を置いたほうがいいかもしれないね。

『そうしましょう。今日はもう遅いし。』

『ですね。じゃあおやすみなさい。』

『はい、おやすみなさい。』


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 三日経って。
 レッスンルームの休憩室で、凛ちゃんと偶然会った。

楓「あら、奈緒ちゃんと加蓮ちゃんは?」

凛「今日は別々にロケ行ってます。私はレッスンにあててもらいました」

楓「オフだったの?」

凛「うーん。なんか」

凛「体動かしてるほうが、気がまぎれるんで」

楓「そっか」

 凛ちゃんは自分自身で、気持ちを昇華しようとしてる。すごいなあ。

凛「えっと」

凛「この前は、メールでえらそうなこと書いて、ごめんなさい」

楓「ううん。私こそごめんね」

凛「いえ。私こそ、甘っちょろいなって」

凛「こういう仕事してると、ままならないこと多いですよね……」

楓「そうね。そう思う」

凛「社長は」

楓「ん?」

凛「Pさんと楓さんのこと、知ってるんですか?」

楓「ええ。知ってる」

凛「そう、なんだ」

楓「だって、一番最初に見抜いたの」

楓「社長だもん」

凛「……」


凛「……」

楓「ねえ、凛ちゃん」

凛「はい」

楓「今こうしてPさんとお付き合いしてて、一応ゴシップとか気をつけてはいるけど」

楓「今のところそういう記事にはなっていない」

楓「……どうしてだと思う?」

凛「社長……ですか?」

楓「たぶん、ね」

 こういう業界で生きていくには、清濁併せ呑む気構えがないと、やっていけないだろう。
 そしてうちの事務所は、アイドルたちがいきいきと仕事をしている。とするなら。
 濁りを引き受けるのは、上層部。

楓「だから、自分が結婚とか言い出すなら」

楓「まず、社長を納得させられないと無理だと、思うの」

楓「ひどい話だとは思うけど、まだ私には主張する権利は与えられていない」

楓「結果を出してからきやがれ、ってとこ」

凛「そう……ですか」

楓「凛ちゃんは、この業界で先輩だからわかっていると思うけど」

楓「でも、私もモデル業界にいたし。もっとも、そっちはここよりだいぶゆるいけどね」

楓「ダーティーな部分があるってことくらいは、たぶん理解してる」

楓「凛ちゃんや私がこうして、普通にお仕事をしていられるのは」

楓「誰か裏方さんが、ダーティーな部分を引き受けてくれてるから」

楓「それに恩返ししないとね。まずは」

凛「楓さんって」

 凛ちゃんは、言葉を確かめるようにつぶやいた。


凛「……おとな、ですね」

楓「そう、かな?」

楓「みんなにおんぶにだっこ、だけどね」

凛「私は、ファンが一番大事で」

凛「ファンのみんなに喜んでもらえるようにって、やってるだけで」

凛「裏方さんとは、同志って感じで」

楓「でも、アイドルってそれが」

楓「一番大事じゃない?」

凛「ええ。そう、思うんです」

 とどのつまりは、そういうことだ。

楓「ファンに祝福されるような引き際、って言うのかな」

楓「そういうのって、たぶんあるんじゃないかな」

凛「そうですね。うん、そうだ」

凛「今は引き際とか、ぜんぜんわからないですけど」

楓「それは私も同じ」

楓「やれることを、やるしかない」

楓「かな?」

凛「くすっ……そうですね」

凛「なーんだろ。前よりずっと」

凛「楓さんと一緒に仕事。したくなっちゃいました」

 凛ちゃんが笑う。

楓「奇遇ね。私も」

楓「そう思ってます」

凛「うふふっ」

楓「ふふふっ」

 引き際を考える余裕なんか、まだない。
 今はこうして、大好きな人たちと一緒に仕事ができる、幸せ。

 私は恵まれてるなあ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

勘の鋭い方は、このあとの展開はわかりそうかも
まあ、王道のつもりで書いてます

まいどですが、土日はお休みです

ではまた来週 ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 事務所に来て二度目の6月。
 27歳の誕生日に、やっぱり来ているのは大将の店。

P「呑みなおしたいって楓さんが言うと思ったら、ここですか」

楓「ええ、ここです」

 今年は旅行とか行けませんから、と。あの人はディナーの予約をしてくれていた。
 もちろん、それはそれで楽しい。雰囲気も違って。
 でもやはり、あの人となら。

P「なんかいつもと変わりませんけどね」

楓「でも」

楓「Pさんとの場所ですからね。ふふっ」

大将「お前なにげに失礼なこと言うよな」

 こうして気心の知れた人たちに囲まれて、バースデーを祝ってくれることが、なによりうれしい。

大将「ま、なにより。楓さんのめでたい日だし」

大将「改めて」

P「乾杯」

 かちん。
 グラスの音がここちよい。

楓「これ、すごく甘いお酒ですね」

大将「『一の蔵』の『ひめぜん』って酒だな」

大将「まあ、Pに頼まれてな」

P「だから大将、ネタばらしはやめましょうって何度も」

大将「べーつにいいじゃねえか。お前と楓さんの仲だし」

大将「それとも、言えないようなやましいことでもあんのか?」

P「ありません、って。それ何番煎じのいじりですか」

楓「ふふふっ」

 あの人と大将はあいかわらずの仲だ。
 でも。

大将「まあ最近、ふたりとも忙しいみたいだからさ。俺としては淋しいけど」

大将「でも、忙しいのはいいことだ」

P「おかげさまで」

 実は、結構ごぶさただった。
 というのも。


 5月。ゴールデンウィーク明けに、私とあの人は企画会議に出ていた。

スタッフ「トライアドの恒例アリーナライヴですが、チケット予約完売です!」

 ぱちぱちぱち。
 さすがにうちの看板。人気の高さはすさまじいものがある。

ス「それで、高垣さんに今日、会議に参加してもらったのは」

ス「追加公演のゲスト出演をお願いするためです」

楓「ゲスト、ですか?」

ス「はい。アリーナの予備日を追加公演にあてることにしましたので」

ス「サプライズゲストという形でお願いしようかと思ってます」

P「えーとそれは、トライアドとのジョイント、ということですか?」

ス「はい。実は」

ス「社長から直々の要請です」

P「ちょっと待ってください! えーと……」

P「うちの高垣もライヴツアー中ですが」

ス「ブッキングは確認してます。それと」

ス「確定ではありませんけど、これは高垣さんとのクロスジョイントとする予定です」

P「クロス、ですか?」

ス「はい。高垣さんのツアー最終日にトライアドとの共演を入れようということです」

 えらいことになった。
 どうやら事務所としては、私とトライアドを二枚看板にして、今度のツアーで共演させるつもりらしい。
 すでに私のツアーはある程度企画が固まっている。そこに、いわゆるブッコミだ。

P「うちのほうはすでに企画が動いてるので……なんでまた社長が」

ス「一応、上層部の意見はそれでということだそうですが……」

 同じ事務所であっても、担当アイドルごとにスタッフが動いているわけで。
 そこを横断してイベントを行うのは、初期の頃から根回ししておかないとなかなか厳しい。
 ただ。そこはご意向に逆らうというわけにはいかない。

P「うーん。確認ですけど」

P「最終日だけで、いいんですね?」

ス「そういうことになります」

P「まあ、トライアドの追加分に参加は大丈夫だと思いますけど」

P「こっちのツアーはどうかなあ……」

 悩ましい。
 そりゃあ、凛ちゃんたちと共演したい気持ちは強い。
 でも、私の一存では決められない。
 それでも、ここは。

楓「Pさん?」

P「はい」

楓「もし、やれるようなら」

楓「私はこのお話、お受けしたいんですが」


P「……」

 あの人は悩んでいる。

P「わかりました。できるだけ努力はしましょう」

P「ただ、トライアドの参加決定は、早めに。できれば一両日中にも」

P「お願いします」

ス「……了解しました」

 あの人も駆け引きをする。
 そっちがぶっこんできたのだから、こっちの無理も聞け。
 そういうことだ。

P「まあ、同じ事務所ですし」

P「お互いにがんばりましょう」

 急な話ではあるが、凛ちゃんたちとの共演が決まる。
 思ったよりずっと早くに実現することに、私はとまどう。

楓「あんなこと言っちゃいましたけど」

楓「私、大丈夫ですか、ね?」

 あの人はにっこり笑って。

P「大丈夫です」

P「楓さんはもううちの看板ですから。自信持って」

P「僕もいますから」

 ああ、そうだ。
 あの人がいる安心感。

楓「なんか頼ってばかりですけど」

P「いいんじゃないですか?」

P「役得ですし」

楓「……はい」

 忙しくなるのは確定。でも。
 あの人と一緒にまた、がんばれる。
 今はそれで。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

お盆休みなんてありません

飯食います

投下します

↓ ↓ ↓


 それにしても、なぜ社長が。
 このタイミングで。

 なんとも釈然としないところに、メールが届く。

『なんかスタッフがご迷惑をおかけしたみたいで、ごめんなさい!』

 凛ちゃんだ。

『共演したかったのだから、こっちこそお礼を言うことですよ。
 でも急な話だったから、正直とまどったのは確か。とくにPさんがね』

『私がついライブのキックオフミーティングで、楓さんとやれたらって言っちゃったから(´・ω・`)
 キックオフだったしたまたま社長がいて、覚えてたみたいです(;´・ω・`)』

 ああ、そういうことか。
 なら凛ちゃんに罪はないし、社長が主導なのだから仕方ない。

『気にしないで。とにかく私は楽しみにしてるからね』

『はい、わかりました。
 あ。奈緒も加蓮も、楽しみにしてますよ!』

 そうだろうなあ。
 凛ちゃんのメールの前に、加蓮ちゃんからも来てたし。
 奈緒ちゃんにいたっては、電話口でぺこぺこ謝ってたし。

『近いうちに打合せもあるでしょうから、またそのときにね』

 三人とも、一緒に話を聞いてるだろうに。
 それぞれ私にメールとか電話とか。みんなかわいいなあ。


 翌日にトライアドのツアー参加が決定する。
 そしてほどなく、合同の打合せ。

チーフプロデューサー「おお! Pくん久しぶり!」

P「お久しぶりです」

チーフ「まだPくんがアシやってたときからだから、4年ぶりくらいか?」

P「ですね。まさかチーフがトライアドのプロデュースやってくれてるなんて」

楓「あの。こちらの方は?」

P「ああ、僕がアシスタントのときお世話になった方で」

チーフ「高垣さんはじめまして。画面では何度も拝見しております」

 チーフさんから名刺をいただく。
 ああ。外部委託の方か。
 でも、このプロデュース会社、確かフリーの大手だったような気が。

 あれ? 代表取締役……

P「チーフさんは、うちの社長と一緒にプロデューサーやってた方ですよ」

チーフ「CGプロの看板と一緒に仕事させていただくので」

チーフ「私が出なきゃいかんな、と思いまして。あはは」

楓「まあ」

チーフ「今は独立してますけど。こうして仕事もいただいてますし」

チーフ「ありがたいことです」

楓「そうでしたか」

チーフ「いや、高垣さんのご活躍、うかがっておりますよ」

楓「いえ、Pさんのおかげですから」

チーフ「Pくんは実直だから、スタッフメンバーからも評判がいいんですよ」

楓「そうですか。それなら私は運がよかったですね」

 チーフさんは、あの人と私を温かい目で見ている。

チーフ「まあ、まさかPくんがプレイングプロデューサーやってるとは思わなかったけどな」

P「いや、それは勘弁してくださいよ」

チーフ「でもそれはそれで、いろいろ楽しそうだからねえ」

P「だから勘弁してください。たのんます」

 旧知の仲なのか、あの人とチーフさんのやりとりを見てると、おもしろいと感じる。

チーフ「そうそう、高垣さん」

楓「はい?」

チーフ「ぜひ機会があれば、プロデュースさせていただきたいですな」

楓「いえ、こちらこそ」

チーフ「ま。Pくんがいる間は無理そうですけど?」


楓「そうですね。ふふっ」

チーフ「いやあ、Pくんもいい仕事してるようだし、将来が楽しみですよ」

P「でも事務所の意向で配置換えになるかもですしね」

チーフ「そのときはうちに来なさい」

チーフ「なあに、Pくんほどの力量なら、かなりの案件を任せられるからね」

P「さすがに、社長に恨まれそうなんで、やめときます」

チーフ「ああ、あいつなら大丈夫。いやでもオーケーと言わす」

P「ははっ、そのときはぜひ」

チーフ「はははっ」

チーフ「ま、時間もおしてるから、さっそく打合せに入ろうか」

P「ええ、よろしくお願いします」

 私は私で、妹たち三人とグループを組んでいる。

奈緒「なんか楓さんとPさんに無理させちゃったみたいで、ほんとごめんなさい!」

楓「奈緒ちゃん、電話でも謝ってくれてたじゃない。わざわざいいのに」

加蓮「奈緒って、ちょっと気にしすぎじゃない?」

奈緒「いや、こういうのは形からきっちりしておかないとさ」

凛「でも楓さんもいいって言ってるんだし、もういいんじゃない?」

奈緒「……ううっ、なんか釈然としない……」

 奈緒ちゃんはリーダー気質なんだろうな。やはり手順が大事だと思ってるみたい。
 凛ちゃんや加蓮ちゃんの面倒を見れるのも、こういうパーソナリティがあるからだろうな。

楓「でも、こうして一緒にできる機会が与えられたんだし」

楓「がんばりましょ?」

凛「……はい」

 凛ちゃんはいっそう気を引き締めているようだ。

加蓮「みんなー、打合せ始まるってさー」

奈緒「はーい」

凛「はーい」

 さあ、私も行こう。

楓「はい。今行きます」


 初回の打合せなので、まずは自己紹介。
 そして、互いのライヴコンセプトの説明と、セットリストの交換。
 期間も限られているため、今回持ち寄った案をもとに、トライアドの演出はチーフさんが。
 私のジョイントに関してはあの人が担当することとなる。

チーフ「あとの詳細は、私とPくんで詰めていくとして」

チーフ「全体レッスンはどうするかね」

P「そこはお互いプロ同士ですし、経験もあるわけですから」

P「それぞれ仮想レッスンを行って、本番近くに通しでやればいいんじゃないでしょうか」

チーフ「そのあたりのマネジメントは、事務所統括としてPくんにお願いしたいんだけど」

P「わかりました。そのほうがたぶん通りがいいと思います」

チーフ「うん。よろしくお願いするよ」

 ざっくりとしたスケジュールを決め、解散。
 トライアドの三人は、これからグループレッスンということで、ルームに向かった。

楓「なんか、Pさんの負担が大きくなっちゃいましたけど」

楓「大丈夫ですか?」

P「まあ二組分ですから、正直いっぱいいっぱいだなと思いますけど」

P「でも、やりがいありますよ」

 そんなことがあって、ひと月。
 私はレッスンと営業に。あの人はチーフさんと打合せに。
 お互いにすれ違いが続き。

大将「で、今日顔合わせできたってことか」

 あの人は頭をかいている。


大将「ま、なんだ。彼女を置き去りにしてる感じは否めないわな」

P「そこはほんと、申し訳ない」

楓「いえ。メールとかでやりとりはしてたので」

大将「ま、それでも誕生日をちゃーんと祝ってやったってのは」

大将「合格だな」

P「そこは、大事な日ですから」

楓「それだけで、私はうれしいですよ?」

大将「ほう? Pは愛されてるねえ」

大将「がははは!」

 大将がいてくれると、それだけで明るくなる。
 正直私もあの人も、ちょっと煮詰まっていたきらいはあるのだ。
 ディナーはうれしかったし、久々にふたりきりというのもうれしかった。
 でも、間が持たない。

 誤算だった。
 ひと月会えないだけで、こうもギクシャクするとは。

楓「でもここに来ると、なんか自分の居場所に帰ってきた感じで」

楓「和むんです」

大将「そいつあうれしいねえ」

P「僕も正直、レストランで食事とかって」

P「なんか変な汗出てて、落ち着かなかったんですよ」

楓「そうなんですか?」

P「楓さんには感謝してますよ?」

楓「あら?」

P「こうして気の許せるところで二次会とか」

P「まあ、息の抜けない日々でしたからね」

大将「そうかい。ま、気が楽になったってんなら」

大将「俺もうれしいよ」

P「大将、感謝します!」

楓「ふふっ」

大将「おう、もっと日頃から感謝しとけ。な」

 私は手に冷酒のグラスを持つ。

楓「なら、大将の心遣いに」

楓「乾杯」

P「僕も、乾杯」

 張り詰めた気持ちをほぐしてくれる、この時間。
 大事にしたい。

大将「おう。俺も、お前らの幸せに」

大将「乾杯、だ」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

コミケ行った方は、お疲れさまでした
とんでもない暑さだったみたいなので、十分な休息を

いろいろと捗る本が読みたい

では ノシ

いいなあ。とらのあなwebのお世話になるか……

投下します

↓ ↓ ↓


楓「んふふー」

 私はすこぶる機嫌がいい。
 大将の店からの帰り道。久々にあの人と打ち解けることができたのだ。
 多少呑みすぎても、ばちは当たらないと、思う。

P「楓さん、ほら、危ない」

 あの人が、車道側へふらついた私の腕をつかむ。

楓「あ、Pさん。セクハラですよー」

P「なんか今日は、だいぶ酔ってるんじゃないですか?」

楓「んふー。たまにはいいじゃないですかあ。だって」

楓「Pさんと久々の、で・え・と。ですしー」

P「……ま、いいですか」

 あの人はやれやれといったそぶりをする。

P「それはそうと、僕から誕生日のプレゼントがあるんですけど」

楓「プレゼントですかあ? あら、なにかしらー」

P「ちょっとあぶなっかしくて、見てらんないです。ほら」

 あの人と私は、小さな公園へ立ち寄った。

楓「ぶらんこー。えへへー」

P「ほら、漕がない漕がない。酔いがまわりますよ?」

楓「はあい」

 ブランコに座る私に向き合って、あの人が私の手の上から優しくつかむ。

P「ほら、これで漕げない」

楓「いいですー。乗ってるだけで楽しいですー」

 下から見上げる私と、上から見つめるあの人。
 見つめあうまま、あの人が口を開く。

P「で、プレゼントです」

楓「……はい」

P「あんまりお金はかかってないですけど」

 そう言ってあの人は、スーツのポケットからなにかを出した。

楓「……これ」

P「……キザですか」


 渡されたのは、カギ。
『P』のイニシャルが入った、キーホルダー付きの。

楓「あい、カギ」

楓「ですよ、ね?」

P「……です」

 あの人はズボンのポケットからカギを出す。そこには『K』のイニシャルのキーホルダー。

 どくん。
 鼓動が速くなるのが、わかる。

楓「いいん、です、か?」

P「……社長がですね、言うんです」

P「お前たちのことは、なんとかしてやる、って」

楓「……」

P「まあ、まだまだ成し遂げてない気はしますけど」

P「社長にそこまで言われたら、ねえ」

楓「……」

P「というわけで、楓さん」

P「これからも、ずっと一緒に、いてください」

 言葉にならない。
 ぽろぽろ。
 ぽろぽろ。
 なぜだろう。涙が出てくる。

 ああ。うれし涙、か。
 うれしくても、泣けるものなんだ。

 私は、ブランコから立ち上がる。
 目の前にはあの人。
 そのまま、私はあの人の口をふさぐ。
 大人のキス。ただ気持ちのおもむくままに。
 何度も。何度でも。

楓「はい……はい……」

楓「一緒にいさせて、ください」

 そしてまた、大人のキス。
 むさぼるように、何度も。

 小さな公園で、人目もはばからず。
 そのとき、その空間が、私の世界の全てだった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

おぼろげながら終着駅が見えてきた気がします
まだだいぶありそうですけど

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 翌日。
 あの人とともに出社した私は、報告をするために社長室へ向かう。

社長「そうですか。とりあえず、おめでとうと言っておきましょう」

楓「ありがとうございます」

P「ありがとうございます」

社長「いえ。私もおせっかいだとは思いますけどね」

社長「高垣さんも、もううちの看板になっていると思ってますし」

楓「光栄です」

社長「あ、それと」

社長「これだけ有名になると、やはり」

社長「パパラッチもうるさくなってるのでね」

 そうか。そうだろうな。
 移動や外出にも、かなり気を遣っている。
 あの人のマンションに行くときでも、ここのところはタクシーなどで移動する。
 偽の行動スケジュールを流しておくこともある。
 どこから情報が漏れるか、わからないからだ。

社長「ああ、あの居酒屋ですけど」

社長「もうマークされてますよ」

 そうなのか。だとしたら、大将に迷惑をかけてしまってる。

楓「じゃあ、あのお店には」

社長「いえ? そのままどうぞ。行ってもらって結構です」

楓「え?」

社長「大将には、すでにお願いしてありますので」

 どういうこと?
 社長の言ってることが、よくわからない。

P「僕と社長で、大将とお話させてもらいました」

P「楓さんを守りたいから、協力してくれないか、と」

社長「そういうことです。気がつきませんでしたか?」

社長「高垣さんがいるときは常に、大将が近くにいませんか?」

 あ。そういえば。
 なにかにつけ、大将は私に声をかける。

P「あと、いつものカウンター。あそこも『予約席』にしてます」

P「お店で一番死角になるとこですから」

 なんてことだ。
 私は、私のわがままで、これほどの人たちを巻き込んでいる。

 そんなこともいっさい見せることなく、大将は普段どおり私に接してくれた。
 ああ。

楓「私……あの……なんと言えば」

社長「いえ、高垣さんは気にする必要はないんです」

社長「私は言ったでしょう? 本気ですか、と」


社長「アイドルを守るのは、私やPくんの仕事であり、義務です」

社長「そして大将は、宝生はづきの夫であって、その苦労も知っている」

社長「大将は言ってましたよ? 『楓さんが幸せになるなら、協力を惜しまない』と」

楓「……」

社長「そうそう。トライアドの三人も、協力したいって言ってます」

楓「え?」

社長「彼女たちと良好な関係以上のものが、できている。喜ばしいことです」

社長「だから、彼女たちとのジョイント、組んだのですよ?」

社長「外野がとやかく言えないくらい、高垣さんの実力を見せる、絶好の機会じゃないですか」

 三人の顔が浮かぶ。
 彼女たちも、彼女たちなりに応援してくれてるんだ。

 いろんな人の、いろんな想い。
 私は泣きそうになる。

楓「こんなにも、みんなを巻き込んで……私」

社長「いえ? ちょっと違いますね」

社長「みんな高垣さんが好きで、みんな勝手に応援してるだけです」

社長「私も含めて」

楓「……ああ」

 それ以上、なにも言えなくなる。
 私は、幸せ者だ。

楓「ほんとに、ありがとう、ございます」

社長「我ながら甘いなあと、思うんですよ」

社長「でも、私も人のことは、言えませんからねえ」

社長「妻に怒られてしまいます」

 私は深くおじぎをする。
 社長は「期待してます」と言い、私とあの人を部屋から送り出した。


 緊張から開放されたふたり。
 そこにちひろさんがやってくる。

ちひろ「お疲れさまです。まあ、お茶とかいかがです?」

P「ちひろさん、ありがとう」

楓「ええ、いただきます」

 事務所のソファーで三人。ちひろさんの入れてくれたお茶がおいしい。

ちひろ「楓さん?」

楓「はい?」

ちひろ「幸せになってくださいね?」

 自分の湯飲みを持ち、やさしく微笑むちひろさん。

ちひろ「事務所みんなの、総意ですから」

 周りを見ると、みんな私たちをやさしく見つめてる。
 そうか。そうだよな。
 誰かを守るってことは、みんなの協力がないと。

楓「責任重大ですね」

ちひろ「いえ? 責任重大なのはPさんですよ」

P「重々承知してます」

ちひろ「楓さんは、自分の思ったとおりに、ね」

ちひろ「あとちょっとだけでも、私に幸せのおすそ分け、くださいね?」

 くすっ。

楓「はい」

 私の、大きな大きな変化。
 みんなに見守られて、生きていく。あの人と。

 この事務所でよかった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あわただしく日々が過ぎていく。8月。
『トライアドプリムス・サマーヴァケイション・アクト2』
 彼女たちのライヴに、ゲスト参加をする。

 6月のあの日から、私は打合せとレッスンと営業と。ほとんど休みのない日々。
 あの人は二つのライヴの統括と、私のツアーのレッスンと。
 これまた休みのない日々。
 今まで以上に、ふたりでいることも難しくなってしまった。

 でも、私はそれでいいと思っている。

楓「いつも、一緒だもんね」

 キーホルダーに語りかける。

 みんなが私を守ってくれるとわかってる以上、私もよりプロらしくあらねばならない。
 忙しさを理由にして、あの人とプライベートで会うことを減らす。
 もちろん事務所やレッスン先で会っているし、全然会話がないということはない。
 大将の店も、ふたりで行くことがなくなった。

大将「なんかPに、言っておくこと、あるか?」

 大将は気を遣ってくれるけど。

楓「いえ。Pさんとは仕事で会ってますから。大丈夫」

 私は笑顔を貼り付ける。

 今、私とあの人をつないでいるのは、仕事と電話。それと。
 キーホルダー。

 淋しい。
 淋しい。
 でも、泣かない。
 私は、私自身をだますことに成功した。

凛「楓さん?」

楓「ん?」

凛「Pさんと、うまくいってます?」

楓「……もちろん。心配しないで?」

楓「それより。レッスンの続きでしょ? がんばらなくちゃね?」

凛「え、ええ……」

 このクロスジョイントを成功させる。
 その思いひとつで、私は私を動かしている。
 私は、プロだから。


 そして当日。
 トライアドの三人と、同じ楽屋。

奈緒「それじゃあ、行こうか」

 ゴシックスタイルの三人は、円陣を組んで左手を重ねる。

凛「りん」

奈緒「なお」

加蓮「かれん」

奈緒「トライアドプリムス。レッツゴー!」

凛・奈緒・加蓮「おー!」

 掛け声とともに気合を入れる。

凛「じゃあ、楓さん」

凛「ステージで、待ってます」

 凛ちゃんが振り向きざまに、声をかけてくれる。

楓「ええ」

楓「また、あとで」

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


加蓮「みんなー! もりあがってるー!」

客席「うおおおーーー!!」

 舞台袖。出番が近づく。
 あいかわらず、すごい熱気だ。

チーフ「高垣さん」

楓「チーフさん、今日はよろしくお願いします」

チーフ「いえ。彼女たちも高垣さんがいることで、今まで以上に燃えてますから」

楓「そうですか。私もがんばらないと」

 ぽん。
 肩を叩かれて振り向くと。

P「しっ」

 あの人が指を立てて口を押さえている。
 今日は渉外で来れないはずなのに。

 もう。
 あの人の手をとり、袖裏のスペースへ誘導する。

楓「Pさん、今日は来れなかったんじゃ」

P「案外スムーズにいったので。それに」

P「彼女の舞台に彼氏がいないなんて、カッコつかないじゃないですか」

 いつも、あの人はずるい。
 思ってても言えなかった私の気持ちを汲んで、こうして。

『私を、見てください』

 いつも、そう思ってるのに。

楓「Pさん……」

 私はすばやく、あの人の唇に触れる。

P「ちょっ、楓さん」

楓「ずっと緊張してたんですよ?」

楓「これで、勇気をもらいました。ふふっ」

 あの人は、あいかわらず頭をかく。

P「行けますね?」

楓「ええ」

 私は、舞台袖へと戻る。
 いよいよ。


 舞台が暗転する。ひとときの静寂。

楓「♪~」

 ハミング。私自身の声で歌いだす、前奏。
 客席がざわめく。
 ようこそ。いらっしゃいませ。

   あなたの後姿を 見つめるだけの私

 歌いだしたとたん、歓声に変わる。

客席「うおおーーー!!」

   追いかけて 追いかけて
   あなたの行方 見えなくならないように

 歌にあわせ、トライアドの三人が舞う。

   ただ 歩き続ける Straight Road

 私はただひたすらに歌う。みなさん、聴こえますか?
 三人の乙女の舞が、舞台を彩る。
 歌は駆け抜け、ラストへ。

 そして、再び暗転。

楓「みなさん、こんばんは。高垣楓です」

客席「わああーーー!!」

奈緒「本日のスペシャルゲスト! 高垣楓さんです!」

客席「わああーーー!!」

 袖で聞いていた以上の、揺れるような歓声。
 思わずうれしくなる。

凛「最後の公演にふさわしく、サプライズを仕掛けましたー!」

加蓮「みんなー! よろこんでくれたかなー!」

客席「いぇーーーす!!」

楓「ふふっ。ありがとうございます」

奈緒「でも、楓さんが出てきたほうが、なんか盛り上がってない?」

加蓮「うんするするー。私たちの立場ないよねー」

楓「そんなことないですよ、ね? みなさん、トライアドの大ファンですもんね?」

客席「いぇーーーい!!」

楓「ほら。奈緒ちゃんも加蓮ちゃんも、安心してね?」

凛「みんな驚かせてごめんねー。でも、今日来てくれたみんなは、ラッキーだよ?」

凛「チケット一枚で、CGプロのアイドル二組の歌聴けるなんて。ねえ」

加蓮「お得すぎてクレームこない?」

奈緒「いや、それはまずいだろ。営業的に?」

客席「わははは」

凛「でも、私たちもうれしいよ。こうして一緒にステージ立てるの」

楓「そうねえ。テレビでも共演ってなかったね」

加蓮「うん、事務所の圧力だね、これは」

奈緒「同じ事務所だし。圧力とかないし」

客席「わははは」


 ステージトークを繰り広げ、もう二曲。
 会場のボルテージは、いやでも盛り上がる。

凛「スペシャルゲスト、高垣楓さんでしたー! みなさん拍手!」

客席「ぱちぱちぱち」

楓「ありがとうございます」

 深々とおじぎ。

奈緒「さあ! こっからラストまで、突っ走っていくぜー!」

客席「うおおーーー!!」

 喧騒に後押しされながら、退場。
 袖口ではあの人が待っていた。

P「楓さん、おつかれ」

チーフ「よかったですよ!」

楓「Pさん。チーフさん」

楓「ありがとうございます!」

 ふたりに向かって、おじぎ。
 でも、まだ終わりじゃない。

 サプライズはこれから。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ちょっと多めの投下です
都合により、今週の投下はここまでです。相変わらず引き気味の終わりで申し訳ない

では来週 ノシ

お久しぶりです。投下します

↓ ↓ ↓


 ライヴのアンコール。
 すでに一曲終え、もう一曲。
 私は、椅子に座っている。

楓「よし」

 声にならない声で、つぶやいた。そして。
 私は、鍵盤に手を添える。

 こうなったのも。

凛「楓さん」

楓「なに?」

凛「実は、ライヴでやりたいことがあるんですけど」

楓「あら」

 凛ちゃんの提案。それは、私との共演。
 もちろんトライアドのライヴに参加するのだから、それは共演に違いないのだが。

凛「楓さんとふたりだけで、やってみたいんです」

楓「どうして?」

凛「どうしてって言われると、困っちゃうんですけどね」

凛「うーん。大切な人と一緒にやってみたい」

凛「これじゃ、ダメですか?」

 大切な人。凛ちゃんから、そう言われたことが。

楓「ありがとう。うれしい」

楓「なら、凛ちゃんに歌って欲しい曲があるんだ」

凛「私に、ですか?」

楓「うん。私もキーボード練習するから」

凛「え?」

 普通の人生を歩んできた私。ピアノとかエレクトーンを習った経験はない。
 だから、これはチャレンジなのだ。

 そして、凛ちゃんに曲の譜面とCD-Rを渡し、私はキーボードを練習するため。

楓「お願いします?」

P「なんで僕なんです?」

作「いや、俺も手伝うんだし」

 キーボード経験のあるあの人と、プロである作曲家の先生に手ほどきをお願いすることにした。

作「二ヶ月なら、まあ多少は形になるかなあ」

P「大変だと思いますよ?」

楓「でも、凛ちゃんとやりたいかな、なんて思ってるんで」

楓「このくらい、どうってことないです」

 自分のツアーレッスンの合間と、レッスン後に時間を作り、ふたりに特訓を受ける。
 何度か、凛ちゃんがこっちのレッスンスタジオに足を運んで、音合わせをした。

楓「やっぱり、凛ちゃんすごい!」

凛「最初にCD聴いたとき、私には無理って思いましたよ?」

凛「でも、今は大好きです。うん」

作「いや、よくこんな古い曲知ってましたね、楓さん」

楓「さて、どうしてでしょう? ふふっ」


 せっかくのサプライズなのだから、自分でなにかを成し遂げてみたかった。
 これは、その足がかり。

 舞台のスポットライトが私を映す。
 ざわめく客席。
 私は、前奏を弾きはじめる。アリーナに響くハモンドオルガン風の調べ。

   If it's getting harder to face every day
   Don't let it show, don't let it show
   Though it's getting harder to take what they say
   Just let it go, just let it go

 凛ちゃんにスポットライトがあたり、彼女は静かに歌いだした。『Don't let it show』

   And if it hurts when they mention my name
   Say you don't know me
   And if it helps when they say I'm to blame
   Say you don't own me

 母親が洋楽好きで、この曲をなんとなしに聴いた覚えがある。
 その女性ヴォーカルのせつない声。
 初めて凛ちゃんの歌声を聴いたとき、この曲が思い浮かんだ。

   Even if it's taking the easy way out
   Keep it inside of you
   Don't give in
   Don't tell them anything
   Don't let it
   Don't let it show

 二ヶ月でやれることは限られている。
 だからバンドのサポートと、打ち込みに大半を任せ、メロディーラインを弾く。
 凛ちゃんの切なくて力強い声が、アリーナの隅々まで響き渡る。

   Even if you feel you've got nothing to hide
   Keep it inside of you
   Don't give in
   Don't tell them anything
   Don't let it
   Don't let it show――

 凛ちゃんのロングトーンはどこまでも伸びていく。
 すごい。さすが凛ちゃんだ。
 一緒にやれて、本当によかった。

凛「どうもありがとう……オン・キーボード。高垣楓!」

 凛ちゃんに促されて、私は立ち上がり客席にお辞儀をする。
 暖かい拍手。ファンのみんなの気持ちが、心地よい。
 拍手が鳴り止まぬ中ステージへ下がると、あの人とチーフさん、そして、スタッフのみんなが暖かく迎えてくれた。
 私は、再び深々とお辞儀をした。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの喧騒から一週間経ち。今度は私のツアー。
 サプライズ第二弾。さて。

楓「えーと。次の曲の前に」

楓「先日、実はですね。とあるところにお邪魔しまして」

楓「ネットとかで記事を見た方もいるかもですね」

客席「見たーー!」

楓「ありがとうございます。そうです、トライアドプリムスのライヴにお邪魔しまして」

楓「なかなか刺激的で、楽しいひとときでした」

楓「皆さんの中に、そのライヴ行った! って方、おられますか?」

 客席をみると、結構な人数が行ったらしい。

楓「ありがとうございます。行かれた方はラッキーでしたね?」

客席「いいなーー!!」

楓「ですよねー。行けなかった方のほうが多いですよね」

楓「じゃあ、そんな方のために。雰囲気だけでも味わっていただこうかと」

楓「私から魔法をかけたいと思います」

客席「おおーー」

楓「では」

楓「……アイヤ~~ホンニャ~~マ~~カシ~~……」

楓「あ、ひかないでくださいね?」

客席「わははは」

楓「さあ、これで準備は整いました!」

楓「では、ライヴの雰囲気を堪能してくださいね?」

 突然の暗転。客席がざわめく。
 そこに。


   ずっと強く そう強く あの場所へ 走り出そう

 突然の歌声。そして耳になじんだ曲。
『Never say never』

客席「うおおおーーー!!」

   過ぎてゆく 時間とり戻すように
   駆けてゆく 輝く靴
   今はまだ 届かない 背伸びしても
   諦めない いつか辿り着ける日まで

 ステージを縦横無尽に駆ける凛ちゃん。
 客席は突然のサプライズに興奮が高まる。

   目を閉じれば 抑えきれない
   無限大の未来が そこにあるから

 凛ちゃんの合図につられ、客席から合いの手があがる。
 色とりどりのスティックライトが揺れる。

   振り返らず前を向いて そして沢山の笑顔をあげる
   いつも いつも 真っすぐに 見つめて
   弱気になったりもするよ そんな時には強く抱きしめて
   強く そう強く あの場所へ 走り出そう

 ギターソロの代わりに、あの人のヴァイオリンソロ。
 凛ちゃんはあの人に寄り添い、歌い上げる。

   どこまでも走ってゆくよ いつか辿り着けるその日まで

 曲とともに駆け抜けていく凛ちゃん。いつ見ても彼女はすごい。
 躍動感あふれるステージ。
 そして、曲が終わる。

凛「みんなこんばんはーー!! 渋谷凛でーす!!」

客席「うおおおーーー!!」

凛「今日は楓さんのライヴに乱入しちゃいましたー! どうぞよろしくー!」

客席「うおおーー!!」

凛「そしてー!」

???「そしてー!」

客席「おおー!!」

加蓮「私ももちろん、歌っちゃうよーー!!」

 加蓮ちゃんがひょっこり登場する。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

スレが長くなって、ダレちゃってるかなあ。だとしたら申し訳ないです
しかも、もうしばらくライヴ描写が続くので、なおさら申し訳ない

凛の歌った曲
・パット・ベネター「Don't let it show」
・渋谷凛「Never say never」
です

飯食います

大きな障害は解決とか、それフラグですがな

投下します

↓ ↓ ↓


 前奏が始まり、凛ちゃんと入れ替えに加蓮ちゃんがステージ中央へ。

加蓮「私のソロ。楽しんじゃってね!」

   人に任せて 気まぐれ わたし
   誰もうらやむ UP TOWN GIRL
   しゃれたデートの誘いも どうせ
   より取りみどり あきあき

 ステージをかわいらしいしぐさで往復する加蓮ちゃん。
 小悪魔の雰囲気に、客席も和らいだ雰囲気になる。

   誰か 教えてよ
   トキメキって なにそれ
   ひとりで探す気も おきない世の中

 ステージから見えるスティックライトが、まるで波のうねりのよう。

   Tell me what can I do
   かわいい人と言われたいけど 今はまだ
   風に吹かれて探したいの 素直になれるそのときを

 ちょこんとフロアスピーカーに座り、そのまま歌いだす。
 そのしぐさがとても愛らしい。

   こんな私でも 優しくなることが
   あるのよ
   見落としているんじゃないこと?

 歌い終わり、一礼。

加蓮「どうもありがとー!」

客席「うおおーー!!」

???「ちょっと待ったー!」


奈緒「今度はあたしの出番だよ?」

客席「いえーーい!!」

 さっそうと奈緒ちゃんが登場する。

奈緒「さあみんな盛り上がっていくぜー!」

客席「おおーー!!」

   What's this crazy feeling
   That's come over me
   I keep falling deeper in his spell
   What can it be
   He's got my senses reeling
   Spinning dizzily
   In the magic that he weaves so well

 右に左に揺れながら、奈緒ちゃんが歌う。
『It's magic』
 その光景はほんとうに、魔法のようだ。

   And whenever he is near, it's magic
   Feel the room start swaying
   Gypsy violins are playing
   Melodies haunting me
   Endlessly taunting me

 ベースとドラムの刻む8ビートに、奈緒ちゃんが乗る。
 先生もノリノリだ。

   Fantasy in the air
   Sparks flying everywhere
   Suddenly he is there
   Calling me
   Promises in his eyes
   Paradise in his smile
   Fire is in his kiss
   Ecstasy

 サックスの代わりに、あの人がヴァイオリンのアドリブを奏でる。
 その演奏をあおるように、トライアドの三人が取り囲む。

   Fantasy in the air
   Sparks flying everywhere
   Suddenly he is there
   Calling me
   Promises in his eyes
   Paradise in his smile
   Fire is in his kiss
   Ecstasy

奈緒「はーい、どうもー! トライアドプリムスでーす!」

客席「いえーーーい!!」


凛「今日は楓さんのツアー最終日ということで!」

加蓮「私たちがお手伝いしちゃいます!」

客席「うおおーーー!!」

 地鳴りのような歓声。まさかの展開に、みんな総立ちだ。

奈緒「で、なにを手伝うって?」

客席「わははは」

楓「いやいや、もうこうして来てくれただけで、みなさんうれしいですよね?」

客席「いえーーす!」

楓「ね? ありがとうございました。トライアドプ」

奈緒「楓さん、それもう『お帰りください』言っちゃってるから」

客席「わはは」

凛「せっかくこうして乱入したんだから、なんか楓さんとやりたいよね?」

加蓮「え? そのつもりで乱入したんだけど」

客席「ぱちぱちぱちぱち」

加蓮「ほら。みんな期待してるよ?」

楓「えー、でもなんにも用意してないし」

 すると、後ろであの人がなにかをひらつかせる。

凛「あー、こんなところに譜面がー」

奈緒「凛さあ。なんだよその棒読み」

客席「わはは」


加蓮「台本どおり?」

楓「えー、そうね。台本どおりね」

奈緒「いや、ネタばらさなくていいから」

客席「わはは」

楓「じゃあ、みんなとやったことがないこと。しましょうか」

凛「おっけー。じゃあ」

 凛ちゃんの合図で、先生がキーボードで和音を出した。
 そして、私たち四人はアカペラで歌いだす。

   ああ あなたにときめく心のまま
   人知れず よりそいたい
   夕やみのブルーにまぎれて今
   さまよう トワイライト・アヴェニュー

 トライアドの三人が参加することが決まって、打合せをする中。

凛「楓さんはソロだから、なんかコーラスみたいなのやってみるって、どうかな」

 そんな凛ちゃんの提案から話が転がった。

P「ほう? なら『アカペラ』なんかどうだ?」

奈緒「え?」

加蓮「え?」

 ステージでもメインヴォーカルをとらないふたりには、ちょっと荷が重そうだ。
 でも。

奈緒「やる」

加蓮「やるよ」

 いつになくやる気十分のふたり。

奈緒「楓さんとの共演だから、あたしたちも高みを目指したい」

加蓮「それに、なんかやれそうな気がするんだよね」


 そんな感じですんなりと企画が通った。
 選曲はあの人にお任せ。そしたら、この曲がまわってきた。

凛「これ」

P「ん? いいだろう?」

凛「ん。Pさんらしいなって」

 私は歌詞を見て、胸がきゅんとなった。
 私自身を書いたみたいに。

   会わないで いられるよな恋なら
   半分も気楽に暮せるね
   友達と呼びあう仲がいつか
   知らぬまに それ以上のぞんでた

   So you will be, be my love
   恋は逃げちゃだめね
   たとえ 痛手がふえる日がこようと

 客席はしんとして、歌に聞き入っている。
 私は、震える心もそのままに、歌う。

   ああ 恋する想いは なぜかいつも
   少しだけ まわり道ね
   ああ このまま この手を離さないで
   さまよう トワイライト・アヴェニュー

 歌い終わる。客席はしんとしたまま。

楓「ありがとうございます」

客席「うおおーーー!!」

客席「ぱちぱちぱち」

 そして。
 割れんばかりの拍手が、会場を埋めた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

加蓮の歌:角松敏生「UP TOWN GIRL」
奈緒の歌:マリーン「It's magic」
四人のアカペラ:スターダスト・レビュー「トワイライト・アヴェニュー」

です

加蓮も奈緒もソロとってると思うんですよね。自分のライヴでは

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


P「おかげさまで無事成功いたしました。ご協力感謝します」

 そう言ってあの人は、担当者に販促グッズと金券を渡す。
 ツアー終了から二日後。
 私たちは、関係先にあいさつ回りをしている。

 ツアー翌日は完全休息日としているが、その先は当然、次の営業へと向かう。

楓「午前中はここまでですか?」

P「ええ、そうですね。ふぅ」

 まだ残暑厳しい中、地味な仕事だ。体力的にも堪える。

楓「Pさん、まだずいぶんお疲れのようですけど」

P「ああ、まあそうですかねえ。うーん」

 ひとつ、伸びをする。

P「僕も歳ですからねえ」

 私の5歳上だから、そんな歳とかいう年齢でもないと思うんだけど。
 でも、たかが一日の休みでは。

楓「疲れ、抜けませんか」

P「ちひろさんのドリンクのお世話になろうかなあ。あはは」

 そう言ってあの人は笑う。

楓「ちひろさんのドリンクって、冷蔵庫のあれですか?」

P「ええ、ちひろさんの趣味らしいですからね」

楓「へえ」

P「グリーンスムージーとか、やってるそうですから」

楓「意外と健康オタクなんですかね?」

P「まあその分、スタッフの健康管理に気を遣ってくれてるんで、ありがたいですよ」

 私も気になっているけど、正直面倒がっていまだ手をつけていない。

楓「ちひろさんに、悪酔いしないドリンクでも作ってもらおうかしら」

P「あはは。楓さんらしいですね」

P「おっと」

楓「きゃっ」


 がくん。
 あの人は急ブレーキをかけた。

楓「Pさん、どうしました?」

P「いや、車が迫ってきたので。ほんとごめんなさい」

楓「いえ、私なら大丈夫ですけど。Pさんこそ大丈夫ですか?」

P「ええ、より安全運転で行きますよ」

 あの人はうっすら汗をかいている。
 私は自分のハンカチをあの人に当てて、汗を拭いた。

P「ああ、楓さん。ありがとう」

楓「いえ、どういたしまして?」

P「疑問形ですか」

楓「ふふっ」

 営業まわりでふたりきり。
 ここのところすれ違いばかりだったから、こういう機会はうれしい。

P「そろそろお昼ですから、どこかで昼ごはんにしますか」

P「なにか、食べたいものあります?」

楓「お酒」

P「それは却下で」

楓「ふふっ、冗談です。お任せします」

P「じゃあ、今日は冷たいそばとか、どうですか」

楓「じゃあ私は、それに枡酒ですね」

P「どこの江戸っ子ですか」

楓「ここは東京ですよ?」

 きゅっと一杯あおりながら、そばを手繰る。粋じゃないですか。

P「ま、軽くそば行っときましょう。あんまり食欲ないので」

楓「あら、夏ばてですか?」

P「そうなんですかねえ」

 そう言いながら、あの人はスマホでお店を探す。


P「ああ、ここがよさそうだなあ。十割そばなのか」

楓「いいですね。じゃあそこで」

 ナビをセットして、しばらく。
 お店近くのコインパーキングに車を止める。
 日差しはまだ痛いくらいだ。

P「ふぅ。いつまで暑さが続くのかなあ」

 直射日光を避けるようにして、お店へと急ぐ。
 中はとても涼しい。座敷に案内され、もりそばを二枚注文する。

楓「あら、Pさん。どうかされたんですか?」

 普段ならいろいろと話しだすあの人が、うつむいたままだんまり。

P「うーん。なんかちょっとね、うん」

 歯切れが悪い。

楓「具合悪いんじゃないですか?」

P「いや、そういうことでもないと思いますよ」

P「ちょっとだるいかな、って感じですし。やっぱり夏ばてかな?」

 そう言って笑う顔に、力強さがない。

楓「だいぶ無理してるんじゃないですか? 心配です」

P「いやいや、このくらいどうってことないですよ。ははっ」

 出されたそばは更科の白くきれいな細切り。つゆとの相性もいい。
 でもあの人は、ちっとも食が進まない。

P「……」

楓「P、さん?」

P「ああ、大丈夫。ゆっくり食べてますから」

楓「あいさつ回りが一段落したら、病院行ったほうがいいんじゃないですか?」

P「まあ、ゆっくり寝れば大丈夫ですよ。うん」

 そう言って、そばをかっ込んだ。

 これは。
 あの人の悪い癖。

楓「Pさん」

P「はい」

楓「具合が悪いなら悪いと、正直に言ってください」

楓「お互い、隠し事はなし、でしょう?」

P「……いや、隠し事とかそういうんじゃ」

楓「どうなんです?」


 沈黙。
 この時間が、たまらなくつらい。

P「大丈夫ですよ?」

 ほんとかしら?
 あの人が仕事の虫なのは、お付き合いをする前からわかっているけど。
 でも……

 いや、あまり深く追求するのはやめよう。
 お互い気を悪くしたって、なんにもならない。
 まして、久々のふたりきりだもん。

楓「なら、ゆっくり休んでから次行きましょうか」

P「そうですね」

 なんとなくぎくしゃくしたまま、そば湯を飲む私たち。
 そばの味など、すっかり忘れてしまった。
 私に言われたからか、すぐにお店を出ることもなく。多少休憩はしているものの。
 会話がない。

P「そろそろ頃合いもいいとこですから、行きましょうか」

楓「え、ええ」

 あの人に促され、座敷を立つ。
 外はあいかわらずの日差し。

P「いやあ、この日差しはいつ……」

 あの人が上を向いたとたん。

P「あ……れ……?」

 ……ばたっ。

楓「P、さん?」

 あの人が倒れこむ。

楓「Pさん!」

 あ……あ……
 どう、したら……

楓「Pさん!!」

 何も考えられない。何も思いつかない。

楓「だれか!……だれかー!!」

 私は狂ったように叫びだす。
 世界が白くなり、そして、暗転した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ではまた ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


医師「メニエールかもしれないですね」

楓「……」

ちひろ「そう、ですか」

 Pさんは今、総合病院の処置室で横になっている。
 うなされることもないが、ごろごろと落ち着いてない。

医師「耳の病気です。ぐるぐるめまいがします」

医師「目を見るとわかるんですよ。眼振と言って、目玉が細かく揺れるんですね」

ちひろ「はあ」

医師「ま、命に関わるものじゃないですし。疲れとかで起きる人もいますし」

医師「念のために、MRI撮ってみますから、今日は入院されたほうがいいかと」

ちひろ「ありがとうございます」

楓「……」

ちひろ「楓さん、私は受付で手続きをしてくるんで」

ちひろ「Pさんのそばに、ついていてくれますか?」

楓「……はい」

 先生からの説明もよく入ってこなかった。
 Pさん……
 あの人が横になっている、その状況だけでどうにかなってしまいそうだ。


 Pさんが倒れた。
 目の前の出来事に、私の思考は完全に止まってしまう。
 なにをしたら。どうしたら。
 まったくわからない。
 通りすがりの女性が、声をかけてくれる。

通行人「大丈夫ですか?」

楓「あの……あの……」

通行人「あれ? ひょっとして歌手の高垣楓、さん?」

楓「あ……あの」

 あの人が。あの人が倒れてるの。
 お願い、なんとか。

通行人「そっちの人は」

楓「あの……事務所の……」

通行人「とにかく、救急車呼びますね! 大丈夫。大丈夫ですから」

 私はどんな顔色をしてたんだろう。
 要領を得ない私の代わりに、通行していた人が自分の携帯で119番をしてくれる。

119「はい、こちら119番」

楓「あの……あの……」

119「はい、大丈夫ですよ。ゆっくり話してくださいね。……どうされましたか?」

楓「事務所のプロデューサーが、倒れまして……」

119「はい、救急ですね。場所はどこか、言えますか? 近くの方に聞いてもいいですよ?」

楓「あ、あ」

楓「あの、ここは」

 混乱してどうしたらいいか、頭から出てこなくなっている。
 私はただ、電話をしてくれた人に、携帯を手渡すしかできなかった。

通行人「変わりました。はい。はい。えっと……」

 代わりの人がいろいろ説明してくれる。その説明がなにを言ってるのかさえ、私には入らない。


通行人「大丈夫。すぐ救急車来ますよ。落ち着いて」

楓「え、ええ。ありがとう、ございます」

通行人「会社とか電話しなくて大丈夫ですか?」

楓「あ、ああ! そう、ですね。はい、そうします!」

 そう言われて、少し正気に戻った私は、事務所に連絡する。

楓「もしもし、ちひろさん? あ、あの。高垣です」

ちひろ『楓さん? どうしました?』

楓「あの、P、Pさんが。倒れて」

ちひろ『はい? Pさん? 倒れたって……』

楓「えっと、移動中に路上で、ぱたりと」

ちひろ『それで! Pさんはどうなんですか? Pさんは』

楓「あ、あの。今救急車を呼んでいただいて」

ちひろ『救急車ですね! 病院決まったら連絡してくださいね。必ずですよ』

楓「は、はい……」

 どうにか一報を入れた私は、急に体の力が抜ける。

楓「はあ……はあ……」

 へたりこむ私に、立ち止まってくれた人が声をかける。

通行人「よかった、連絡ついたみたいですね」

楓「あの」

通行人「もうすぐ救急車来るでしょうから。それまで待ってて」

通行人「じゃあ」

楓「あ、あの。せめてお名前と住所」

通行人「いいですいいです!」


 そう言ってその人は、なにも教えず立ち去っていった。
 どのくらい経ったろう。救急車が到着するまでの時間が、たいそう長い。
 遠くからサイレンが聞こえ、ほどなく音が止まる。
 救急車が到着。隊員の人が、あの人のそばにやってくる。

 意識を確認し、ストレッチャーに乗せるまで、どのくらいかかったろう。
 ほぼ放心状態の私は、なにも言えずその光景を見ていた。
 救急車への同乗を促され、私はあの人のとなりに。
 すぐに病院へ行くかと思ったが、なにか連絡をしてるようでなかなか発車しない。

 時間が、もどかしい。

 ようやく発車したとき、私は隊員の人に慰められていた。

隊員「大丈夫ですよ。意識もあるし、病院もすぐですからね」

隊員「とにかく病院に着いたら、先生や看護師さんの言うとおりにしてくださいね」

 その言葉を聞きながら、私はただ震えるだけ。
 病院に着いても、足元がおぼつかない。

看護師「大丈夫ですからね。任せてくださいね」

楓「……は、はい……」

看護師「落ち着いたらでいいですからね。連絡されるところに電話とかしておくといいですよ?」

 そうだ、ちひろさんに。
 その言葉だけはストンと私の中に入り、体だけは公衆電話へ向かう。
 どうにか事務所へ電話できたらしく、ちひろさんがあわててタクシーでやってきてくれた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 どうやら病室でうたた寝をしてしまったらしい。
 気がついたら、あの人がベッドで私の髪をなでていた。

楓「あ」

P「もう少し寝ててもいいんですよ」

 疲れきった表情だけど、やさしい笑顔。

楓「うっ……うう……」

 私は声を押し殺して泣いた。

楓「P、さん」

 あの人は横になったまま、私の髪をなでる。

P「まだぐるぐるするんで。すいません」

楓「いいん、です」

 あの人は私をなぐさめようとしている。自分のほうがつらいだろうに。

楓「なんで……そんなに」

楓「自分を犠牲にするんですか?」

 泣きながら話す私。まったく要領を得ていない。

楓「どこにもいなくならないで、ください」

楓「私を置いて……いかないで……」

 あの人は髪をなでながら一言「ごめん」とだけ。
 よかった。ほんとうに。
 私はただ、泣くだけ。


 泣いて、泣いて。ようやく落ち着いて。

楓「今はどうですか?」

P「うん、寝返り打つとぐるぐるがひどいんで。それがつらいかなあ」

楓「そうですか」

P「で、先生はなんと?」

楓「耳の病気じゃないかって」

P「……そうですか」

 あの人の左手につながる点滴が痛々しい。

P「迷惑かけてしまいましたね」

楓「ほんと、ですよ」

P「……」

楓「ちひろさん、あわてて駆けつけてくれましたよ? 入院の手続きもしてくれて」

P「あ、保険証」

楓「それはあとでもいいそうです」

 無理に動こうとするあの人を、押しとどめる。
 そしてまた沈黙。
 病室には時計もない。今は何時なんだろう。
 窓の外はもう暗い。

P「楓さん」

楓「はい」

P「……ありがとう」


 え?
 私がなにかお礼を言われるようなことをしただろうか。

楓「どうしたんです?」

P「いえ、なにもないです」

P「なにもないですけど、そうだなあ」

P「いてくれて、ありがとう」

楓「……」

P「楓さん、いつも言ってるじゃないですか。『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』だって」

P「なんか、わかる気がします」

楓「……そうですか」

P「楓さんがこうしていてくれる、それだけでありがたい」

P「すごく、実感します」

楓「そう……よかった」

P「怒らないんですね? 無理しないでとか」

楓「そういう気持ちもありますけど、Pさんがこうしていてくれるから、もういいです」

楓「早くよくならないでくださいね?」

P「いや、楓さん。その言い方はおかしいでしょう?」

楓「だって、早くよくなったら、また無理するんじゃないかって」

楓「心配です」

 あの人はひとつ、ため息をつく。

P「そうですね。ゆっくり休めっていう、お告げかもしれませんね」

楓「ええ。それと」

楓「少しは、Pさんの彼女らしいこと、させてください」

 もうすぐ、面会時間が終わる。
 私は、あの人の右手をとり、軽く握りしめた。

 また、明日。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

メニエール辛いです(実話)

長文ドシリアスって、読むの大変ですよねえ
読んでいただいて、いつもありがとう

ではまた ノシ

いざとなれば薬もあるんで大丈夫。よほど追い込まれるようなことがないと発症しませんね
ご心配いただき感謝

ちょっと投下します

↓ ↓ ↓


ちひろ「とにかく、楓さんはPさんのそばについててください」

ちひろ「お願いしますね?」

 昨日あの人が倒れたので、あいさつ回りが終わっていなかったのだけど。
 ちひろさんは、他のスタッフにいろいろ肩代わりしてくれていた。

楓「なんか、いろいろ申し訳ないです」

ちひろ「いいんですよ。そのための私たちですから」

 そう言ってちひろさんは、私を送り出す。

 病室。その前に立つと、なにもなくても入るのがはばかられる。

楓「よし」

 覚悟を決めて入ると、あの人は起き上がっていた。

P「おはようございます」

楓「Pさん、起きられるようになったんですね」

P「めまいの薬が効いてきたみたいで、よかったです」

P「これから検査なんで、またぐるぐるさせられるらしいですけど」

 あの人は苦笑い。でも、私は笑えない。

楓「ちひろさんが、今日一日ついててくれと」

P「そうですか。ちひろさんにお礼をしないとならないですね」

 私はかける言葉が見つからず、ただうなずいた。
 検査の時間になり、看護師さんが呼びにきた。

看護師「これからMRIの検査になりますけど、歩けそうですか?」

P「はい、大丈夫です」

看護師「では、検査室までご案内します」

楓「私も、一緒に行ってかまいませんか?」

看護師「ええ、かまいませんけど。時間かかりますよ?」

楓「かまいません。お願いします」

看護師「では、ご一緒に」


 案内されたそこは、いろいろな検査に分かれている場所だった。
 CT、MRI、レントゲン。
 リニアック室と書かれた部屋の前には、お年寄りが二・三人座っていた。

看護師「こちらになりますね。呼ばれたら部屋にお入りください」

 第二MRI室という部屋の前。長いすにふたり、腰を下ろす。
 あの人は、肩で息をしているようだ。

楓「Pさん、つらいですか?」

P「昨日の今日ですから、ちょっとしんどいですけど。ぐるぐるしないだけましです」

 ああ。なぜ私は、こうも無力なのか。
 あの人がつらそうにしても、私はなにも助けてあげられない。

P「楓さん? そうつらそうな顔、しないでください」

楓「……あ」

P「僕は命に関わるような病気じゃないんでしょう?」

P「なら、なにも問題ないじゃないですか」

 違う。違うの。
 Pさんが心配だけど。でも、そういうことじゃない。
 なんでわかってくれないの?

技師「Pさーん。どうぞお入りください」

P「じゃあ、楓さん。ちょっと行ってきます」

 そう言ってあの人は検査室に入っていった。

 ひとり、残される。
 私は自分の立ち位置を、いやでも考えさせられた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

リニアックは検査じゃなくて治療の機械です。放射線関係は一箇所に集まってるところが多いですね

念のために。楓さんがヤンデレになるとか、そういう展開はないです
おいらが怖いわ、それ

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 あの人が倒れたときの喪失感。
 私は、これほどまでにあの人とつながっていたのか。
 検査室からビイビイと甲高い音が響く。待っている時間の流れが遅い。

P「お待たせしました」

楓「……」

P「楓さん?」

楓「あ。ああ、Pさん。お疲れさまです」

 あの人の一言でようやく自分に戻る。
 ああ。

 思わず、あの人を抱きしめる。

P「楓さん、どうしたんです?」

 私はなにも言わず、ただ抱きしめたまま。

P「まったく、仕方ないですね」

 あの人はまた、髪をなでてくれた。
 午後も検査があるということで、病院の食堂で一緒に昼食をとる。

楓「Pさん。食べられそう、ですか?」

P「ええ、まあ。軽いものなら」

 私もあまり食欲がない。ふたりでサンドイッチとコーヒー。

楓「……」

P「楓さん? さっきからどうしたんです?」

楓「え?」

P「浮かない顔、ですよ?」

 純粋に心配してくれるあの人。でも裏腹に、私の心は薄暗い。

楓「これが」

P「これが?」

楓「私の仕事中だったら、どうだったんだろうって」

楓「不安なんです」


 あの人は、だまって私の話を聞く。

楓「もし、私がステージで歌っていて、Pさんが倒れた話を聞いたとしたら」

楓「そのまま、歌える自信……ありません」

 思わず、自分の手を握り締める。

楓「ファンのことを一番大切にしないといけないのに」

楓「そうできる、自信がないです……」

 今の私は、アイドルなのだ。ファンがいてこその、私。
 でも。
 そういう建前も、あの人がいないという現実感を前にして、すべて吹き飛んでしまった。

楓「Pさんと成し遂げるって、言いましたよね?」

楓「もし、ひとりになってしまったらって考えると、足がすくんでしまいそうで」

 なんとか言葉を出そうとしても、出てこない。
 自分を保つのにいっぱいいっぱいだ。

P「……」

 あの人が発するであろう言葉が怖い。私は、自分の発したことを後悔する。

P「別れましょう……なんて」

P「言うと思いました?」

楓「え?」

P「そんなこと、言うはずないじゃないですか」

P「僕は、楓さんが好きなんです」

 言葉にならない。
 口をつぐんだままの私に、あの人は語りかける。

P「昨日言ったじゃないですか」

 僕は、楓さんがこうしていてくれるだけでありがたい、って。
 正直な気持ちなんですよ?

 人は、自分の存在を喜ばれていると感じたとき、いきいきと生きられる存在である。
 大学でこんなこと教わりました。理系なのに。変でしょう?
 うちの教授はなかなか変わり者でしたから、こんなことも一研究になってましたねえ。

 正直、よくわからなかったです。実感がなかったって言うかなあ。この言葉が。
 でも、今はわかります。

P「何度でも言います」

P「楓さんが、いてくれて、うれしいんです」


 なんて。
 なんて私は、愛されているのだろう。

楓「ありがとう。Pさん。ほんとうに」

楓「Pさんがいてくれて、うれしいです」

 私はまた泣いてしまう。何度も、あの人に。
 でも。
 悲しい涙じゃない。

P「確かに、ファンあってのアイドルってのは、正論です。事実です」

P「その前に、貴女は『高垣楓』という、ひとりの存在です」

P「貴女がやりたいことをやりたいように」

P「それが、一番なんじゃないですかね」

楓「はい……はい」

P「僕は、楓さんの味方です。楓さんがどういう選択をしようと」

P「僕は、それをサポートして、応援します」

楓「いいんですか? ……ほんとうに」

楓「それで、いいんですか?」

 あの人はただうなずき、笑顔を見せる。
 そうだ。
 Pさんはいつでも、私の味方だ。

楓「私がつまずきそうになったら、助けてくださいね?」

P「ええ」

楓「すぐに駆けつけてくれなきゃ、いやですからね?」

P「もちろん」

 私は、アイドル。でも今は。
 ただの、女。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

毎度ですけど、土日はお休みです
スレも600まで来ちゃいましたね

ではまた ノシ

お久しぶりです。投下します

↓ ↓ ↓


 夜。あの人のマンションに、一緒にいる。
 横になるあの人に寄り添う私。

 MRIに異常は診られず、他の検査も問題なかった。

医師「少し首の骨がゆがんでる感じですけど、これは問題ないです」

医師「血行をよくする薬とコリをほぐすビタミンを出しておきますね」

医師「しばらくゆっくり休むように」

 メニエールだろうという診断だった。

楓「Pさん、大丈夫ですか?」

P「うん、だいぶ楽になった感じですね。寝返りはまだしんどいですけど」

 ちひろさんに連絡を入れて、直帰と称してあの人といることにした。

P「ああ、そういや営業がまだ残ってましたねえ」

楓「ちひろさんたちスタッフで、手分けしてくれたそうですよ」

P「そうですか。ほんと申し訳ない」

 あの人は、こんなときでも仕事のことを気にする。

楓「もう」

楓「少しは仕事から離れてくださいね?」

楓「とにかく、休むこと」

P「わかってはいるんですけどね。でも、なんか仕事してないと落ち着かなくて」

楓「Pさん、お願いですから」

 私はつい、きつい口調になる。

楓「仕事のことはしばらく、考えないでください」

楓「私が、つらくなります……」


 どうして、わかり合えないんだろう。
 あの人と私は、成し遂げると約束した。そのために走ってきた。
 今こうして一定の評価を得て、会社からもファンからも認められていると思っている。
 でも、それは。あの人の献身の上の成り立っているものだ。

 あの人が、つぶれてしまう。
 私の人気があがるほど、あの人は努力してしまう。
 愛しい人をこれ以上、無理強いしたくない。

 こんなこと、エゴだと。わかっている。
 私のわがままでしかないのだ。
 私が周りのもろもろに目をつむり、駄々をこねているだけ。

楓「Pさん」

楓「成し遂げるって、なんですか?」

 ふと、言葉を漏らす。

楓「Pさんがつぶれてしまうまで、走らなければならないことですか?」

楓「そんなの、私が耐えられません……」

 あの人はなにも言わないけど、私は言葉が止まらない。

楓「Pさんが犠牲になるのが、私は耐えられないんです」

楓「なんでわかってくれないんですか……」

 これ以上は苦しくて、私も言葉にできない。
 こんなこと言われても、あの人が困るだけだ。

P「楓さん。僕は、楓さんを苦しめてきただけなんですかねえ」

楓「それは違います!」

 あの人の言葉に、私は叫んだ。


楓「違うんです……」

楓「私は、Pさんと一緒に走ってきて、幸せなんです」

楓「でも、そうしてきて今、Pさんが倒れた」

楓「大切な人を失いたくない。Pさんを失いたくない。その一心なんです」

楓「ただ、Pさんが好きなんです。それだけなんです……」

 あの人が、私の頭を。
 ぽんぽん。
 軽くなでる。

P「そうですね。走ってばかりで、休みを入れなかったかもしれませんね」

P「もう、こうしてひとりじゃないのに。なにを焦っていたのかなあ」

 くすっ。
 そう、私たちはもう、ひとりじゃない。

P「でもこうして。お互い言葉にしないと」

P「わからないこと、多いですよね」

 そうだ。どんなに通じ合ったって、言葉にしなければわからないことは、ある。

楓「これからも、ずっと一緒にいてくれますよね?」

P「もちろん」

楓「私が、アイドルじゃなくても?」

 気になること。

P「アイドルじゃなくても」

 そっか。

楓「よかった。一緒にいて、いいんですね」

P「一緒にいてくれなきゃ、僕が困ります」

楓「Pさんが迷惑だろうと、一緒にいますからね?」

P「ええ、そうしてください」

 ファンに祝福されるような引き際。かつて、凛ちゃんと話したことだ。
 それを今、真剣に考えるときが、来たのかもしれない。

 私の、引き際。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

いよいよ終盤戦です
最後までがんばろう

ではまた ノシ

誤字訂正

>>606 4行目

×「献身の上の」 → ○「献身の上に」

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↓ ↓ ↓


 それから。あの人は週末まで有給をとることにした。
 私は普段どおり営業をこなす。

楓「いつも応援、ありがとうございます」

 握手会。
 このときはあの人のことを頭の片隅に追いやり、ファンのことを思う。
 いつだってほんとうに、ファンの応援がありがたい。

 それだけに、私の決断を鈍らせる。
 引き際を考えることが、ファンへの裏切りにならないか、と。

 その思いをひとりで煮詰めても、ろくなことにならない。

楓「Pさん」

P「はい?」

楓「この前から思っているんですけど」

楓「このままアイドルを続けていくことに、疑問を持っているんです」

P「……ふむ」

 これは、私たちふたりの問題だ。
 自分たちの将来をきちんと、話しておく必要がある。

P「楓さんは」

楓「はい」

P「今の仕事、つらいですか?」

楓「いえ! そうじゃないんです。今の仕事は充実してるし、とても楽しいです」

楓「でも、私は女です。女は現実を逸脱できないんです」

楓「自分の将来を考えたとき、今の路線でいけるのもそう長くないと、感じるんです」


 アイドルは偶像。夢を売る商売だ。
 でも、現実として年齢は大きなハンデだ。そして。
 あの人と一緒に、これから『生活』していくことを考えると。

P「そうだなあ。うん。選択肢はいくつかあるでしょう」

P「このままの路線をしばらく進む」

P「ま、いつかはどこかで見直しを考えないとならないですから、ただの先送りです」

P「それから、分野特化。歌手とか俳優とか」

P「すでに楓さんはそういう方向に向かってますから、一番自然でしょう」

P「あとは、そう」

P「引退」

 引退。
 あの人がいう言葉には、現実の強さがある。

P「正直、僕はまだ楓さんが活躍する姿を見ていたいってのは、あります」

P「でもそれが、僕の純粋な気持ちとばかりは言えない」

P「事務所の都合とか、業界の打算とか。そんなのも含まれちゃいますから」

 あの人は、ぬるくなったスポーツドリンクを一口飲む。

P「楓さんの気持ちが、一番ですからね」

 あの人は、私の味方だと言ってくれた。
 たぶん、私が出す結論を尊重してくれるだろう。
 だから、これは自分の責任で。

楓「Pさん」

楓「私は、遠からず引退をと、思ってます」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 私は、今私が考えるすべてを、打ち明ける。

 私はこの仕事が好きです。ファンの皆さんも好きです。
 でも。
 Pさんが一番好きで、ずっと一緒にいたくて、生活をしていきたいと思ってます。
 だから、今のことだけじゃなくて、十年、二十年先も、考えるんです。

 結婚をして、子供ができて、家族が増えて。
 そのとき、私がどうしてるだろうって考えると。
 芸能界で働いてるって選択肢が、見当たらないんです。
 私は不器用です。
 大勢のファンに夢を見せることと、家族に夢を見せることは、両立できません。
 特に、これからやってくるであろう子供たちに。
 一番の夢と愛情を注ぎたい。

 Pさんが仕事をするサポートができたら。
 子供たちと一緒に安心してすごせる家庭が築けたら。

楓「それが、自分の幸せで。願いです」

楓「私の未来は、小さくてささやかなものが、いいんです」

P「……」

 私の想いは、あの人に伝わっただろうか。
 あの人は、どう思うのだろう。

P「そっか。そうだよなあ……」

 あの人は、遠くを見るようなそぶりをして、ため息をつく。

P「僕は、楓さんをプロデュースしてきたから、楓さんのアイドル姿ばかりを思い浮かべてきました」

P「でも、楓さんと一緒に暮らしていくのだから」

P「僕はプロデューサーの前に、夫であり、父親なんだよなあ……」

 そう言って、やっぱりあの人は頭をかく。
 あの人の癖。

P「ふたりでやっていくって言いながら、将来設計とか、すっかり抜け落ちてたなあ」

P「うん。そうですね」

 あの人は私を見つめる。

P「楓さんのフィナーレを、飾らせてください」

P「そして楓さんの人生を、僕と一緒に歩いてください」

P「僕はやきもち焼きですから、楓さんを独占しちゃうかもしれませんけど」

楓「あら。ふふっ」

 私は、あの人に願う。

楓「私を、独占してください。お願いしますね」

 引退。それを私たちの意志とした。
 あとは、どう着陸するか。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

急ぎすぎてないか気がかりです

ではまた ノシ

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↓ ↓ ↓


 残暑の名残が漂う、9月。

楓「ふう……よし」

 私は覚悟を決める。
 大将の家に遊びに来た。奥様に会うために。

 宝生はづき。将来を嘱望されながら引退した、女優。

はづき「楓さん! 早かったわねえ」

 開けられた玄関からのぞかせる顔は、女優の面影を色濃く残していた。

楓「はづきさんはじめまして」

はづき「いえいえー。旦那も待ってたから。さ、あがってあがって!」

 その清楚な顔からは想像できない快活さにとまどいながら、中へ案内される。
 Pさんの部屋より広いマンションの一室。大将と娘さんが一緒に遊んでいた。

大将「お。よく来たな」

楓「ほんとに、忙しいところありがとうございます」

大将「いや、かえって店の休みに合わせちまって、こっちが申し訳ないさ」

 大将の娘さんが無邪気に笑っている。

 大将がこうまでしてくれる。それは一週間前のこと。

大将「まあ、おまえらの決意はわかった。あの社長にはどう説明するつもりだ?」

P「ああ、それはですね」

P「社長には、僕から話をします」

P「ソフトランディングの方法は、僕だけではどうにもなりませんし」

大将「そうだろうな。俺に訊かれても困るし」

楓「でも。大将には」

楓「ひとつお願いがあるんです」

大将「ん? 金なら貸せないぞ?」

楓「奥様と、お話したいと思って」

楓「ぶっちゃけ、経験者のご意見がうかがいたい、と」

大将「ぶっ! わははは!」

大将「楓さんもまあ、ずいぶんぶっちゃけたもんだな!」

 笑いの止まらない大将を説得する私。

楓「ええ」

楓「なりふり構ってられませんから」

大将「ほお、女ってのはつええな」

大将「うちの嫁もだけどな」

大将「ま、あいつは専業主婦だし、子供と一緒にいるから大丈夫だとは思うが」

大将「ここの休みにあわせてもらえねえかな。俺が助かる」

楓「そのくらいなら全然。じゃあお願いしていいですか?」

 私は、大将の奥様とアポをとりつける。
 覚悟。
 自分の決めた先になにがあるのか、それを知ってみたかった。


はづき「旦那から聞いてるわよ。ずいぶん思い切ったわねー」

 大将は気を利かせて、娘さんと席をはずしてくれた。
 はづきさんは、冷たいお茶を出してくれる。

はづき「で? さっそく本題に入ったほうがいいんじゃない?」

楓「あ。ほんとすいません、なんか」

 思った以上にざっくばらんな態度に、かえって恐縮してしまう。

楓「来てみたのはいいんですけど……なにをうかがったらいいのか」

はづき「ん? そうなの?」

楓「ええ、まあ」

楓「自分で引退とか口にしたのはいいんですけど」

楓「どう道を開いたらいいか、なんかよくわからなくて」

はづき「それで、あたし。ってこと?」

楓「はい」

はづき「そうねえ。ま、勝手に引っ込んじゃったあたしが言えることなんて、そうないけど」

はづき「まあ、いろいろあるってことだけは、言えるかなあ」

楓「いろいろ、ですか」

はづき「うん、いろいろ」

はづき「あの業界のめんどくささ、楓さんはわかるでしょ?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 はづきさんが語りだす。

 旦那とはいわゆる幼馴染ってやつ? まあ、いつからってこともないけど。
 お互いに好きで結婚したんだから、これはこれでいいと思うの。
 あたしは高校生の時にもう業界に入ってたから、だいぶ長い遠距離恋愛って言えるかもねえ。
 よく続いたもんだと、あたしが感心しちゃうね。あはは。

 うちの事務所の社長はね。みんな家族のようなもんだって。
 それが口癖。
 だからね、こうしてまだお付き合いは続けてる。
 知ってた? あたしまだ、事務所に籍あるんだって。
 復帰する気なんか、さらさらないけどねー。

 でも、社長が「いつでも戻れるように、用意したいから」って。
 今はこうして、旦那と娘に囲まれて忙しいしさ。戻るつもりもないし。
 そういう心遣いに感謝はしてる。

はづき「楓さんはアイドルだから、引退するときのいろいろな揉め事、気になるんでしょう?」

楓「そうですね……それはあります」

はづき「あたしは俳優業だったから、ちょっと毛色が違うと思うけど」

はづき「まあ、マスコミはうるさいよねー」

 ここんとこ業界は、でき婚当たり前って感じじゃない。
 あれ好かないよねー。
 できたんだから仕方ないって、子供ダシにするんじゃない、って。思っちゃう。

 あたしはねえ、社長がうまく立ち回ってくれた。
 旦那と付き合ってること、それとなしに小出しにリークしてくれて。
 ただ、いろいろ取材はうざかったけどね。交際は順調ですかとか。
 そんなこと訊かれたら、余計ぎくしゃくするからやめろ、とかって。思ってた。

 社長は、受け答えも指南してくれた。まあこれでも演技やる人間だし、そこはね、うまくやったつもり。
 ただ、でき婚は避けろ、と。それは言われてた。
 あれはね、自分だけじゃなくて、事務所全体、業界全体のダメージになるからねえ。
 なんてただれた世界なんだ、なんて思われるのいやじゃん。

 それにね、あたしは旦那に迷惑かけたくなかった。
 ただの一般人に記者やカメラマンが殺到したら、それだけでいやな気持ちになるでしょう?
 でもね、あちらもそういう商売だから、無碍にできないしね。
 だから、そういうことでも、でき婚だけは絶対避けた。

 だいぶ社長が動いてくれて、女性誌の記事からあたしの名前が消えるのに、そうかからなかったな。
 それだけに、なおさら自分の動きには気を遣ったかな。
 ゴシップの出どこ、どこが多いかわかるでしょう?
 そう。同業者。
 だれだれを売るためとかなんとかで、ないことないこと平気で言うとこだからね、あの業界。
 だから、そういう根も葉もないことにきちんと対応できるように。

はづき「あれは正直、まいったなあ」


楓「……」

はづき「でも、楓さんはたぶん、こんな比じゃないと思うな」

はづき「アイドルって、ファンの数が桁違いだからね」

はづき「あ。なんか脅しちゃったみたいだね、ごめんね」

楓「いえ……」

楓「覚悟はしてるんですけど、やっぱり……不安はありますね」

はづき「でも、ね」

 はづきさんは、ウインクしてみせる。

はづき「なんて言うかなあ。無条件であたしを信じて、見返り求めず愛情を注いでくれる」

はづき「そういう人がちゃんとそばにいれば、やっていけるよ」

はづき「楓さんの彼氏は、そういう人、でしょう?」

 すごい。
 想いひとつで困難を乗り切った人の言葉は、とても大きい。

はづき「旦那がどんなときでも、無条件にあたしの味方でいてくれる」

はづき「それは今でも変わらない」

はづき「だから、あたしは旦那と娘のため『だけ』に、ここを守ろうって」

はづき「それが、あたしの愛情だからね」

 そう言ってはづきさんは微笑んだ。

はづき「ねえ、楓さん?」

楓「はい?」

はづき「貴女の愛情は本物、でしょう?」

楓「はい」

 私ははづきさんの問いかけに、真っ直ぐに応える。
 それは揺らぎない。そう信じている。

はづき「なら! 大丈夫」

 はづきさんは、私の両手をとって、そう言った。


はづき「根拠なんかないけどね。でも大丈夫」

はづき「あたしがそうだったように。楓さんもね」

 手のぬくもりが伝わる。
 彼女の苦労は、とても語りつくせないものがあるだろうと思うけど。
 でも、はづきさんが『大丈夫』というなら、大丈夫なのだ。

 だって、先人なのだから。

楓「はづきさん」

はづき「ん?」

楓「来て、よかったです」

楓「きちんと覚悟、できました」

はづき「なら、よろしい」

 彼女は握っていた手を離し、深くうなずいた。

はづき「あ、そうそう。よかったら夕飯食べていって?」

はづき「旦那の料理はプロだけど、プロ主婦の料理だっていいものよ?」

楓「ふふっ。ありがとうございます」

はづき「娘がいるからお酒はないけど、それは勘弁してね?」

楓「じゃあ、お言葉に甘えて」

 大将が娘さんを連れて帰ってきた頃には、すっかり日もかげって。
 夕飯をご馳走になる。

 私もお手伝いした夕餉の食卓は、なにか懐かしい味がした。
 家族。
 こういう家庭が築けたら、なんて。
 あの人との未来を想った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

いつもながら、土日は休みです
結局今月には完結出来なくてごめんなさい

ではまた来週 ノシ

終わりが近づいてるとはいえ、まだかかりそうですけどorz

投下します

↓ ↓ ↓


社長「ああ、楓さん」

楓「はい」

社長「ちょっと入院してきてください」

楓「はあ!?」

 10月のある日。社長に呼ばれて告げられる。
 私は素っとん狂な声をあげた。

楓「あ、あの、社長。私、どこも悪くないんですが」

社長「まあ、人間ドックというやつですよ。ちょっと骨休めするのもいいでしょう」

楓「いやいや、待ってください。今レコーディング中じゃないですか」

社長「ええ、知ってます」

楓「そんな検診とか受けている暇、ないと思うんですが」

社長「ですから言ってるでしょう? 骨休め、ですよ」

楓「そんな……」

社長「すでに病院は手配してあります。あとはちひろさんに詳しいこと訊いてください」

楓「あの、社長!」

社長「これは決定事項ですから。では、よろしく」

 理由もろくに告げられず、私は社長室を放り出される。
 仕方なく、私はちひろさんに話を聞く。

楓「ちひろさん、どういうことなんですか?」

ちひろ「……さあ?」

 ちひろさんも、よくわからないようだ。
 とはいえ、上からのお達し。ちひろさんは手配した病院を私に教える。

ちひろ「まあ、お泊りドックは食事が楽しみっていいますから」

楓「いや、ほんとそれどころじゃ」

 もやもやしたものを吐き出そうとする私を、ちひろさんがさえぎる。

ちひろ「社長がおっしゃったことですから、ここは受けざるを得ないですよ」

楓「……まあ、そうなんですけど」

 ちひろさんはドックの日程と書類一式を渡してくれる。

ちひろ「書類に、ドックの内容とか書いてありますけど」

ちひろ「詳しいことはPさんに訊いてくださいね?」

 ちひろさんは「うふふ」と、意味深な笑いを浮かべていた。


 そしてその夜。私はPさんの部屋にいる。

P「ああ、社長がなにも説明しなかったんですか。なるほどねえ」

 あの人は苦笑い。

楓「まったく、ひどいですよう」

 焼酎をちびちびとやっている私は、少々酔っているかもしれない。

P「まあ、社長が書いたシナリオなんですけどね」

楓「シナリオ、ですか?」

P「ええ、引退の」

 引退。
 社長がなにも言わなかったのは、本人なりのささやかな抵抗だったのかもしれない。
 いや、ただのいじわるかも。

P「僕も詳しいことは聞いてないですけどね」

 こういうことらしい。
 私が体調不良で入院ということにする。それをリーク。
 頃合いを見て、支えてくれる人がいるらしいと。これをリーク。
 仕事量を徐々に調節。そして休業宣言。

 もっともらしいことを言ってはいるが、つまりは、嘘。

楓「そんなにうまく、ことが運ぶんですかねえ?」

P「いやこればっかりは、なんとも」

 あの人も半信半疑らしい。

P「ただ、社長が言うんですよ。『全面うそなら、簡単にばれる』」

P「でも『ほんとのことを言えば、つつかれる』」

P「だから『うそに少しだけ真実を混ぜる』」

P「これが一番、信用されやすい。のだそうです」

 あの人も呆れ顔だ。
 なるほど、私は体調もすこぶる良好だし、入院なんてことにはなりえない。
 でも、支えてくれる人がいるというのは、ほんとのこと。

楓「うーん」

楓「なんか、あまり気持ちのいい行いじゃないですね」

 自分の都合で引退などと言っているのだ。そのこと自体が、ファンにとって気持ちがいいことじゃない。
 だから、きちんとだます。
 それはわかっているのだが。


P「楓さんの気持ちだけで考えれば、正々堂々と宣言できればいいでしょうけど」

P「それはまず無理でしょうねえ」

楓「……」

P「ファンの間でもめるでしょうし、それよりまず、マスコミが関係ないことまでほじくり出します」

P「そうすれば、一般の人へのイメージが落ちますし、事務所全体のマイナスになるでしょう」

P「ファンじゃない普通の人には、スキャンダルはいい暇つぶしのネタでしかないですしね」

 非常に心が痛い。
 はづきさんと話をして、そういう問題も頭ではわかっていた。
 でも、現実になると、とてもつらい。

P「業界から見れば、いちアイドルの醜聞は、自分たちの儲けのネタですしね」

P「事務所としては、どうあってもソフトランディングさせないとならないんです」

楓「Pさん」

P「はい」

楓「私は、早まったことをしたんでしょうか?」

 こうまで現実を叩きつけられると、心が折れそうになる。
 はづきさんの苦労が私の想像以上のものだという事実に、逃げ出したくなる。

P「いえ、そんなことないです」

P「いずれは通る道です。早いとか遅いとか、関係ないです」

P「僕も一緒に歩くんです。それでは頼りないですか?」

 あ。
 そうだ。
 私はあの人と一緒に歩いていきたい。だからこの道を選んだのだ。

楓「いえ、それが一番ありがたいです」

楓「そうですね。一緒に歩きましょう」

 心は晴れない。
 でも、もう動き出した。
 あの人と、後戻りできない道を、歩く。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


凛「楓さん! 大丈夫ですか!?」

 ドックに入った日。凛ちゃんがあわてて病室にやってきた。

楓「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「い、いえ。楓さんが入院したって話を聞いて」

楓「あら。どこからその話を?」

凛「あの……テレビ局のスタッフさんが、そんな話をしてて」

 どういうルートでリークしたかは知らない。でも。
 ものすごい勢いでうわさが駆け巡っていることは、凛ちゃんの態度でわかった。

楓「よくここの場所がわかったわね」

凛「え? あの。ちひろさんに訊いて」

楓「ああ」

 ちひろさんなら知ってる、というか、仕掛けた張本人のグループだし。

楓「心配しないで。大丈夫だから」

楓「ほら、どこから見ても大丈夫でしょう?」

 そう、初日の検査が終わったから、すでに私は検査服から私服に着替えている。
 ただ、病室に泊まっているというだけ。

凛「え、ええ。確かに」

楓「ね? ちひろさんにどこまで訊いたかはわからないけど」

楓「私は、大丈夫」

 凛ちゃんは私の言葉を聞いたとたん、へなへなとへたり込んだ。

凛「……よかったあ……ほんとに」

 座り込んだままさめざめと泣く凛ちゃん。
 その姿に、私は罪悪感を覚えずにはいられない。
 彼女が泣き止むまで、私は凛ちゃんを抱きしめていた。

凛「その……加蓮のこともあって」

 落ち着いたころ。凛ちゃんがぽつぽつと話し出す。

凛「入院って言葉を聞くと、どうしても普通にしてられなくて」

楓「そう……」

凛「だから、楓さんが入院って話を聞いて、いてもたってもいられなくて」

凛「ここへ、来ちゃいました」

 うつむく凛ちゃん。
 私は彼女に尋ねる。

楓「どうして?」

楓「どうして私のこと、そんなに心配してくれるの?」

凛「……だって」

 震える肩もそのままに、凛ちゃんは私を見上げる。

凛「だって大切な人が入院したんですよ!」

凛「心配しちゃいけないんですか!」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


凛「あ……」

 彼女は、自分の叫んだ言葉にはっとして、そしてまたうつむいた。
 凛ちゃんの一途さに、心が震える。

楓「そっか」

 私は、小さくなった彼女の肩に、手をあてる。

楓「心配してくれて、ありがとう」

凛「……だって……心配で心配で押しつぶされそうだったんですよ?」

凛「楓さんは……私のお姉さんのような人だもん」

 そこまで慕われている。
 以前の彼女なら、考えられないことだった。

楓「ふう……そうねえ」

楓「なにから、話したらいいかしら?」

 私は、頭の中を整えながら、凛ちゃんと目線を同じくする。

楓「あのね? 凛ちゃん。私ね」

楓「引退しようと、思ってるの。芸能活動から」

凛「……え?」

 彼女の見せる戸惑い。そうだろう。
 姉と慕ってる人が、引退を口にするのだ。

楓「Pさんと、一緒になるために、ね」

 私は、同じ人を好きになった彼女に、告げた。
 あの人と一緒になると。

凛「そう……ですか……」

 冷静に振舞おうとしている凛ちゃんだけど、動揺が顔に現れている。

凛「Pさんと楓さんが……」

凛「いえ! それはうれしいことなんです! おめでとうございます」

凛「でも……この業界から引退するなんて……」

 凛ちゃんはなにを思っているだろう。
 それは、当人にしかわからないことだろう。でも。

楓「凛ちゃんとこうして、一緒に仕事ができること。とてもうれしいの」

楓「でも、これは私なりのけじめ、なの」

凛「……けじめ」

楓「そう。けじめ」

 私は、引退を決断するにいたるまでの想いを、凛ちゃんに打ち明ける。
 ゆっくり、ゆっくり。

 彼女と私の、夜が更ける。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ちょっと副業が忙しそうなので、間が空くかもです
そのため、ちょっと多目の投下

いや、ここまでしか書けなかったんだよう。ごめんよう(´・ω・`)

ではまた ノシ

なぜか時間が取れた。投下します

↓ ↓ ↓


楓「もうだいぶ遅いけど、明日に差し支えない?」

凛「大丈夫。明日は遅い入りなんで」

楓「そう」

 Pさんのこと。引退のこと。
 凛ちゃんとふたり、話を続けている。

凛「そう、ですか。うその入院……」

楓「あんまり気が乗らないけどね」

 病室のベッドに腰掛けて会話というのは、実に違和感がある。

凛「私は、自分たちがきちんとしていれば、いつかは祝福してくれる。そんなふうに」

凛「思ってました」

楓「私も、同じ。でも、さすがにそういうところじゃないから。この業界はね」

楓「正しいと思ったことでも、後ろ指を差される。ずっと」

楓「悔しいけど、自分たちのこれからを守るには、かなりの詭弁が必要」

凛「そう、かもしれないですね」

 凛ちゃんの表情もさえない。それはそうだ。
 私ですら、あらかじめはづきさんに教えてもらっていても、やはり納得いかないものだ。
 まして彼女には、これからがある。

凛「でも」

楓「ん?」

凛「でも……Pさんと楓さんが、ひっそりと幸せでいられるなら」

凛「そのうそも、いつか許されるんじゃないか、って」

凛「そう思いますけど……私の希望でしかないですけどね」

 そう言って凛ちゃんは気丈に笑った。

凛「楓さん、アイドルって」

楓「アイドル?」

凛「なんなんでしょうね」

 アイドル、か。
 ほんと。

楓「なんなのかしらねえ」

楓「これだけやってても、さっぱりわからない」

楓「凛ちゃんは、わかる?」


凛「私も、わかんないです……」

 窓の外には、いつもの街灯り。
 それを眺め、彼女はため息をつく。

凛「自分の思う『渋谷凛』と、ファンの見てる『渋谷凛』」

凛「そして、この業界が求める『渋谷凛』って、似てるようで違うんだと、そんな気がして」

凛「時々、自分が何者なのかわかんなくなっちゃいますね」

 凛ちゃんは、私よりずっと先を走っている。だからこそ、思い悩むのだろう。

楓「アイドルって、テレビ画面の世界が創ったまやかしかもしれないけど」

楓「でも、私も凛ちゃんも、こうして意志を持って動いてる」

楓「ただのキャラクターなんかじゃない」

凛「私は、求められるものに自分を一致させようとすることが、アイドルの仕事と思っていたときがあるんです」

凛「でも奈緒や加蓮、Pさんに出会って、変わった」

凛「みんな、思うものが違う。なら、私の思う私に、ファンをどれだけ引き込めるか」

凛「それがアイドルの醍醐味だ、って」

 外を眺めていた彼女は、私を向いて言う。

凛「Pさんの受け売りですけどね」

 凛ちゃんは「ふふっ」と笑った。

楓「私、凛ちゃんがプロフェッショナルだって感じたの、正しかったね」

凛「いえ! そんなことないです」

 街灯りに映える彼女のシルエットが、幻想的だ。

凛「ほんとのこと言うと、ちょっとだけ楓さんになりたかったんです」

楓「え? どうして?」

凛「だって……Pさんが惹かれて、好きになった人ですから」

 ああ。
 もし逆の立場だったら、私はどんな選択をしたんだろう。

凛「でも今は違います。私は私、楓さんは楓さん」

凛「違うから、いいんです」

 なにかを目で追うように、凛ちゃんは天井を見上げ、つぶやいた。

凛「楓さんと一緒に、ツアーやってみたいです」

凛「トライアドとしてじゃなくて、私と楓さんで」

 どこまでいっても、彼女は私のライバル。
 そして、愛おしい妹。

楓「ここにPさんがいたら、きっと悔しがるわね」

凛「え? どうしてですか?」

楓「たぶん『そんなおいしい企画、僕が立てたかったのに』って」

凛「ぷっ。ふふっ」

楓「ふふっ。絶対そうだって」

 ふたりの密やかなたくらみ。
 実現できたら、どんなに楽しかろう。

 私に残されている時間は、あと、どのくらい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ここまで書いてはっきりしました
終盤は、落としどころと凛とのからみが主体です

自分の中で凛はトリックスターです。雑談でも書いちゃいましたけど

ではまた ノシ

戯言とは思いませんよ。ありがとうございます
単純に書く腕がないってことだろうなあと思います。精進します
完走させることにとらわれすぎて、枝葉を切り落としちゃってるかも。反省

投下はもうしばらくお待ちください

お待たせしました。ちょっとだけ投下します

↓ ↓ ↓


 私が入院したことにメディアは大きく反応した。
 事務所としてはお決まりのファックスを出したのだけれど。

『弊社所属の高垣楓が入院したことにつきましては事実でございます。
 しかしながら、これは体調不良を考慮し念のために入院したものであり、
 今後の活動に支障となるものではございません』

レポーター「お体の調子は、もう大丈夫ということですか?」

楓「ええ、大丈夫です。ちょっと崩しただけですから」

 何度目かの返答。ここしばらくはこれが続くのだろう。

P「お疲れさまです」

 移動の車で、あの人は言葉をかけてくれた。

楓「ふう。覚悟してたとはいえ」

楓「かなり擦り減っちゃいますね」

 毎日追いかけられることがないだけましだと思うけど。精神的にこたえる。
 なんというか。
 自分の中に土足で上がりこまれる感覚というか。

楓「なんか、呑まなきゃやってられない、って感じですね……」

 私はそう言ってシートを傾けた。

P「いや、酒臭いアイドルはまずいでしょう」

 あの人は笑う

P「でも、そう言いたくなる気持ちは、わからなくないです」

P「楓さんは自分のせいだからと思うかもしれませんけど」

P「僕のせいでも、あるわけですから」

 計画の端緒でこの疲労。
 まして、あの人は当事者でありながら、完全に裏方として振舞っていないとならない。
 ストレスも相当のものだろう。

楓「あーあ。Pさん成分が足りないです」

楓「なんとかしてください」


 私はおどけてみせる。

P「僕だって楓さん成分が足りませんよ。補充したいよなあ」

 今日はたまたまあの人が送迎をしてくれたけど。
 最近は、プロデュースの立案と上層部との打ち合わせで忙殺されている。
 すれ違いばかり。

楓「なら、Pさんの部屋にお邪魔してもいいですか?」

P「退院したばかりなんですから、無茶言わないでください」

 所詮は検査入院なのだから、体調うんぬんはまったく問題ない。
 マスコミ対策。

 今あの人の部屋へなど、行けるわけがない。

楓「……」

P「……」

 空気が重い。
 お互いに神経すり減らして、ぎすぎすしている。

楓「ああ、大将の店。行きたいなあ……」

 無性に、大将の店が恋しい。
 なにも気兼ねすることなく、あの人と大将と。
 三人で馬鹿な話をして過ごしたい。

P「もうちょっとだけ、待ってください」

 あの人が言う。

P「もうちょっと時間がたてば、マスコミを落ち着くでしょうから、そうしたら」

P「僕が必ず時間を作ります」

P「それと、手土産もね」

楓「あら?」

 手土産、ですか。

P「ええ、楓さんが気に入るような手土産を、ね」

 そうですか。なら。
 もうちょっと我慢しましょう。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

そういやむかーし、「お前の話は平坦で深みがない」とか言われましたなあ
あんまり成長してないのかなあ

こんな長くするつもりがなかったから、コンテなしの見切り発車が自分の首を絞めている気がします
筆折りてえ。書くけど

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 11月。一部の女性誌がしぶとく粘ってくれたものの。
 どうにか平静を取り戻す。

楓「あら?」

 まだ事務所には誰もいないようだ。
 もっとも、私も早く起きすぎてしまったので、いなくても仕方ない。
 合鍵を取り出す。ちゃりん。

 手元でひかる、Pのイニシャルのキーホルダー。

楓「もう長い付き合いだね」

 そうひとりつぶやき、鍵を開けた。

楓「コーヒーセットよし。電気ポットよし。エアコンよし」

 普段はちひろさんがやっていることだけど、見よう見まねでやってみる。
 こぽこぽこぽ。
 コーヒーメーカーが、いつもどおり仕事をしてくれる。

P「おはようございます!」

 あの人が入ってくる。

楓「あら、Pさん」

P「かえ、で、さん? 早いですね?」

楓「なんか、早く起きちゃったもので」

P「ああ、なるほど」

楓「電車もあるようだし、来ちゃいました」

 あの人は年末が近づくにつれ、忙しさが加速しているようだ。
 コンサートにテレビ出演、そうそう、年末といえば国民的歌合戦もある。
 あれやこれやの段取りで、ほとんど事務所にいないくらい。

楓「Pさん、無理してませんか?」

P「ああ、これでも忙しさは小さいほうですよ?」

P「きちんと薬も飲んでますし、倒れるようなことはしません」

楓「なら、いいんですけど……」

 あの人がこういう状態にあって、私がただお任せするのも申し訳ないので。
 ある程度のスケジュール管理は、セルフで行っている。
 そんなわけで、すれ違いが一向に解決しない。

 心配なのにな。あの人はわかってるのかな?

楓「あ、Pさん。コーヒー入りましたけど」

P「ありがとう。じゃあ机にあげといてください、なしなしで」

 給湯室からあの人のカップを取り出す。なんの飾り気もない白いマグに、『P』のテプラ。

楓「あ。茶しぶがついてる」

 使い込まれたマグに、できたてのコーヒーを注ぐ。
 私も紙コップに。

 あの人は机に座るやパソコンを確認し、今日の仕事内容をチェックする。
 私は、応接ソファーからあの人を眺める。


楓「久々のふたりきり、か」

 仕事をしてるあの人の顔は、いつも引き締まって見える。

楓「やっぱり、好きなんだなあ……」

P「あ、そうそう。楓さん」

P「いいお酒が手に入ったので」

楓「!」

P「今度……って……」

楓「……」

 空白。
 ひとりごと、聞こえてないよね?

楓「ふふふっ。目が逢いましたね」

P「楓さん。……いつも以上にシッポ振り切れてますね」

 シッポですか。私は犬ですか。
 最近の私は、Pさん成分が明らかに不足してるのかもしれないな。

楓「Pさん……楽しそうですね」

P「いや、だってノーディレイで反応してましたもん。……実に見事だな、と」

 ああ、やっぱり好きなんだな。
 いつだってこの笑顔が見たい。でも今は。
 そう言っては、ずっと自分をごまかしてきたのだ。シッポも振り切れますよ。

楓「で? いつにします?」

P「そうだな……この日なら雑誌のインタビューだけだし、夜でどうです?」

 私はあの人の机に移動し、一緒に手帳を眺める。

楓「わかりました。それじゃ」

楓「楽しみにしていますね?」

 なんかやられっぱなしは悔しいので、少しは皮肉っぽく。

P「はい。楽しみにしてください」

 うわあ。ドヤ顔で答えたよ、あの人。
 正直、似合わない。

 私は笑いをこらえつつ、あの人の提案に同意した。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

なんか新鯖になってから重くないですか?

ではまた ノシ

私事で執筆から遠ざかってました
久々にパソコンに向かったら、まったくss神が降りてきてくれません。悪戦苦闘中
これが苦悶式というやつか

とりあえず生存報告です

祝日の午後にほんの少しだけ投下

↓ ↓ ↓


 約束の日。
 私はいつになく浮かれていた。

『夜に大将の店で。よろしく』

 たったこれだけのメールに、心が躍る。
 ひょっとしたら禁断症状? それほどあの人成分が足りない。
 先日のメディアの反応を考えれば、十分注意をしなければならない時期だというのに。

楓「まだ、かな……」

 あの人を待ち焦がれている私がいる。
 雑誌のインタビューを終えて事務所で待つも、どうにも落ち着かない。

ちひろ「これは私の仕事ですから、楓さんはゆっくりしてくださいよー」

 手持ち無沙汰な私は、ちひろさんの仕事を奪って伝票整理をしていた。

楓「いえ、このくらいはさせてください」

ちひろ「……Pさん待ちですか?」

楓「ええ、まあ」

ちひろ「早く戻ってくると、いいですねえ」

 そう言うとちひろさんは、整理された伝票をまとめはじめた。


 ちひろさんは、私とほぼ同じ歳だというのに、ずっと大人だ。
 私たちを囃すこともなく、ただ見守ってくれる。

 ただ黙々と伝票整理する私たち。
 外は夕闇が降りている。

P「ただいま戻りました」

ちひろ「お帰りなさい」

楓「お帰りなさい」

 ちひろさんはそれ以上なにも言わず、私に目配せした。
 ちひろさん、ありがとう。

楓「Pさんは、まだ仕事ありますか?」

P「いえ? 特には」

 そう言ってあの人は、ちひろさんに目を向ける。
 ちひろさんはただにこやかに笑っていた。

P「もし楓さんがお時間あるようなら、このあと呑みにでも行きますか?」

楓「それはいいですね。喜んで」

 あまりに芋演技のふたり。ちひろさんは微笑んでいる。
 まあ、大人のたしなみというか。お約束というか。

P「じゃあちひろさん。お先してもいいですか?」

ちひろ「ええ、私ももうすぐ終わりますから。ご心配なく」

P「お言葉に甘えて。お先に失礼します」

楓「私も、お先に失礼します」

ちひろ「お疲れさまでした」

 ちひろさんが手を振ってくれる。
 私はちひろさんに近づき、あの人が聞こえないように小声で。

楓「ちひろさん、ありがとう」

ちひろ「いえ。ごゆっくり」

 微笑みもそのままに、小声で送り出してくれた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

時間の割けるところで書いた結果がこれだけorz
決していずみん欲しさにメダルガチャしてたんじゃないよ! ほんとだよ!

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


大将「いらっしゃい。ふたり並んでたあ、久々だな」

 大将の店に来るのも、もはや当たり前のよう。
 でも、ここのところはすれ違いばかりで。

P「みんな忙しいんですよ」

大将「そのわりには、だいぶぐちぐち口説いてたけどな」

P「ちょっ!」

 へえ。
 あの人がくだ巻いてたんですか。

楓「あら。そうだったんですか」

P「いや……まあ、その」

 あの人は頭をかく。

P「僕もね、いっぱいいっぱいだったようです」

 苦笑いをするあの人。
 かわいらしい。

楓「ふふっ。一緒ですね?」

P「まったく、人のこと言えないですね」

大将「ま、しけた話もなんだ。とりあえず座っとけ」

楓「大将、ありがとうございます」

大将「なあに、いいってことよ。で、今日はこいつの酒、だよな?」

 大将はあの人を指さして言う。

P「キンキンに冷やしてくれたんでしょ?」

大将「おう、業務用冷蔵庫の力は偉大だからな!」

 大将はがははと笑いながら、厨房へ引っ込んだ。

 訪れる沈黙。
 なにを、どう切り出したらいいか。

楓「あの」

P「あの」


 あ。
 かぶってしまう。
 また黙り込むふたり。

 ええと。

楓「あの」

P「あの」

 あ。また。

P「ぷっ。くくっ」

楓「ふふっ。うふふっ」

 お互いに噴き出してしまう。

P「いやはや、これは」

楓「お互い、気が合いますね」

P「まあお先に、どうぞ」

 あの人は笑いながら、私を促した。

楓「えっと、ですね……その」

楓「会いたかったんです」

P「会いたかった?」

楓「ええ。Pさんに」

 あの人は不思議そうな顔をしている。
 それは仕方ない。仕事では時々顔を合わせているわけだし。

楓「仕事抜きで、こうしてふたりになれるのって、いつ以来ですか?」

P「……ああ」

 あの人も合点がいったようだ。

楓「なにかこう、Pさんと距離ができてしまったみたいで」

楓「なんだろう……えっと、淋しかったんです」

 仕事であれ、会えるだけまし、という人もいるだろう。
 事情はどうあれ、気持ちはそうそう押さえ込めるものではない。
 私は、気持ちを吐露するだけ。

楓「時々顔を合わせていても、Pさんが遠いんです」

P「……」

楓「しがらみのないままのふたりで、会いたかったんです」

楓「……なんとなく、わかってもらえます?」


 あの人はしばらく考え込み、そして頭をかき。

P「同じ、ですね」

 そうつぶやいた。
 そしてもう一言発しようとしたところ。

大将「取り込み中すまんが。まあ」

大将「一杯やってから、ゆっくり話しゃあいいだろ?」

 大将が日本酒を抱えて帰ってくる。
 うん。そうだ。

楓「呑みましょ? ね?」

P「そうですね、うん」

 私たちは、持って来てくれたグラスを手に取った。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 グラスに注がれたお酒はほんのりピンク。泡がぱちぱちと弾けている。

楓「これは?」

大将「ほれ、説明」

 大将に促されて、あの人が説明する。

P「これは『すず音』って日本酒です。うちの地元の」

 へえ。日本酒の発泡酒は初めて見た。
 立ちのぼる甘い香りが、心を落ち着かせる。

楓「じゃあ、さっそく」

 私はグラスを持ち上げる。

P「乾杯」

大将「乾杯」

 かちん。
 心地よい音。そして一口。

楓「シャンパンみたいですね」

 口当たりは甘く、シャンパンそのもの。
 でも日本酒独特の、米の香りが鼻腔を抜ける。

楓「これがPさんが言ってた、『いいお酒』ですか?」

P「ええ。たぶん楓さん好みかな、と」

 あの人の心遣いには、いつも感謝するばかりだ。

楓「でも、なんか呑みすぎちゃいそう」

 日本酒だから、それなりの度数がある。
 ちょっと危険。

P「いや、友人から聞いた話なんですけどね」

 あの人は語る。

P「このお酒の名前をつけるときに、一応会長にお伺いを立てたそうなんですよ」

P「そしたら会長が、『日本酒のシャンパンだから、じゃんぱん、でいいべや』って」

 ぷっ。
 え? え?

楓「じゃ、じゃんぱん……」

 私は笑いが止まらない。
 じゃんぱんって! じゃんぱんって!


P「いや、こりゃ楓さんのセンスだなあ、なんて」

P「思ったもんですから」

楓「ひぃ……じゃんぱん……ふふ……そ、それ。ちょっとひどくないです? はは……」

 お腹がよじれる。誰か助けて。

P「ま、そんな話があって。これは楓さんと呑まないとな、と」

楓「……なんか、素直に喜べないですねえ」

 私は引きつり笑いもそのままに答える。
 あの人はいつも以上にしたり顔だ。

大将「お前ら、ほんとまだ夫婦じゃねぇってのが、信じられんわ」

 大将は呆れ顔でそう言った。

大将「じゃあ、俺からはこれな」

 出された皿には、青魚の刺身が。

P「これは?」

大将「さんま」

 ああ、なるほど。

大将「もう旬も終わりだけどな。ま、脂もいい具合だし。食え」

 忙しさに流されて、季節感もおぼろげになってしまう。
 こういう大将の細やかさが、とてもうれしい。

楓「大将ありがとうございます。さんま、大好きです」

大将「そりゃなによりだ。新鮮さが命だからな。ほれ」

 小皿にしょうゆとおろししょうが。
 では、いただきます。

P「お」

楓「甘い……」

 小皿に浮かんで光るくらいの、さんまの脂。
 とてもおいしい。
 一口食べては、お酒を一口。

楓「ああ、幸せ……」

P「うん、懐かしい味」

 私たちは大将の笑顔とともに、幸せを味わった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

蔵元に勤めていた人から聞いた話です
真偽の程は確かではありませんけど

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


楓「そういえばPさん、さっき」

 お酒もほどよくまわってきた頃。

楓「『同じ』って言ってましたよね? あれ、どういう意味です?」

 ほんのり赤らんだ顔のあの人に、切り出してみる。

P「うーん。そうだなあ」

 あの人はちょっと難しい顔をして。

P「僕もですね。なんというか、距離を感じてたんですよ」

P「ま、自業自得だとは思いますけど」

 そう言ってグラスをあおった。

楓「自業自得、ですか?」

P「ちょっと適当な言葉がないですけど。そんな感じで」

楓「どうして?」

 あの人は言葉を捜しながら手酌。

P「ふたりで決めたことだから、なんて自分をごまかしていましたけど」

P「やっぱり、一緒にいられないのは、ねえ……」

 あの人もやはり淋しいのだ。
 確かに、私が引退すると決めたこと、その意向はふたりで確認しあった。
 でも、なぜ自業自得?

楓「Pさんは、後悔してます?」

 こうももどかしい状況が続くのは仕方のないことだけど。
 でも自業自得とは、ちょっと自虐に過ぎないだろうか。


P「ああ、いやいや。後悔とかいうんじゃないです」

P「ただ、自分がこんなにも淋しがりだったのかなあ、なんて考えると」

P「ずいぶん楓さんに、メロメロなんだなあなんて、思いまして」

楓「まあ」

 やはり、物理的に距離があると、どうにもいけない。
 こうして言葉を交わすことすらできない。ひとりで抱えるしかない不安。

 愛しているから、不安。

 そんな当たり前のことが、やけにクローズアップされていた。

楓「やっぱり、こうして言葉で話さないと、ダメですね」

P「ん?」

楓「……Pさんのこと、愛してるんですよ?」

P「そりゃあ、僕も」

 そういうあの人の唇に指を当てて、言葉を押しとどめる。

楓「愛してます」

 そうだ。何度でも。
 先の見えないことにおびえて、言葉を交わすことすら忘れてた。
 だから、何度でも。

楓「私は、Pさんを。愛してます」

楓「せめてほんの些細な時間でも、顔を合わせたのなら、我慢なんて忘れないと」

楓「……Pさんを、愛してます」

 見つめる瞳。あの人の表情が柔和になる。
 押しとどめていた指を握り、ゆっくりと手をつなぎ返す。

P「楓さん。僕は、楓さんを愛してます」

P「……ふたりで、いましょう」

 改めて気づく。私たちは我慢しすぎだ。
 周りに気を遣い、相手に気を遣い。自分たちで追い込んでしまっている。
 刹那であろうと、我慢することを忘れないと。

楓「もう少し、ゆっくり呑みましょう?」

P「そうですね」

 大将は少し離れたところで見守ってくれているようだ。
 いつも、ありがとう。

楓「大将。お銚子もうひとつ、お願いします」

 そう声をかけると、大将は「あいよ」と返事をして厨房へ下がった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

楓さんをひたすら色っぽく書きたい、が
どうしてこうなった

では ノシ

今回の投下はしっかり「R-15」です。ご注意

投下します

↓ ↓ ↓


 お互いの隙間を埋めるかのように。私たちは時間をかけて呑み、歓談し。
 そしてあの人のマンションまで、タクシーを乗りつけた。

 エレベーターに乗るふたり。手をつなぎあって。
 ぬくもりが愛しい。

楓「なんか、久々って気がしますね」

 実のところ、そう久々というわけではない。
 私の焼酎がボトルキープされているくらいだし。気持ちの問題だ。

楓「ふふっ」

P「なにかおかしいですか?」

楓「いえ、新鮮だなあ、って」

 エレベーターが到着する。
 あ。そうだ。

楓「カギ開けてみて、いいですか?」

 私は『P』のイニシャルの入ったキーホルダーを取り出す。

楓「まだ使ったことがないんですもん」

 そう言って、ひらひらと合鍵を振ってみせた。
 かちゃり。間違いなく鍵が開く。

楓「本物だったんですね?」

P「ええ? 信用してなかったんですか?」

楓「言ってみただけです。ふふっ」

 玄関のドアが閉まる。
 ばたん。私はあの人の唇を奪う。


P「楓さん……」

楓「おかえりなさい、あなた……」

 どうしても、あの人が欲しかった。
 すれ違いばかりで、たまに来た日であっても、お預けで。

P「ああ。うん。ただいま」

 あの人は私の頬に手を寄せ、キスを返す。
 深く、深く。溶け合うように、大人のキス。

楓「淋しかったんですよ?」

 それしか、言葉が出ない。
 私は、あの人で自分を埋めることにせいいっぱいだ。

 何度もキスを交わす。暗闇の中で。

楓「ふう……」

P「……部屋、入りましょうか」

 言葉はいらない。
 私たちふたりは、当たり前のようにシャワーを浴び、当たり前のように着替え。
 そして。
 お互いを埋めるように長い間、つながっていた。

 ただれた朝。
 カーテンのすき間から差し込む光に促され、目が覚める。

楓「……ん……何時だろ」

 朝の7時か。私は一応午後からレッスンだけど。

楓「Pさん……朝ですよ?」

P「ん……何時、です?」

楓「7時ですけど」

 あの人は首をコキコキと鳴らして、けだるそうに起きた。

P「ああ、一応留守電入れておくか……」

 スマホを取りにリビングへ。
 私も長Tシャツを羽織り、連れ立って行く。


P「おはようございます、Pです。今日は現場に直行しますので、事務所へは午後から出社します」

 ぴっ。言い訳完了。

楓「午前は打合せ、ですか?」

P「まあクライアントとの定例打合せなんで。そんなにあわてて出る必要ないです」

楓「それじゃあ……」

 私は、冷蔵庫を開けてみる。そこには、見慣れたボトルキープされた焼酎、だけ。
 見事に、何もない。

楓「Pさん、ちゃんと食べてます?」

P「いや、まあ……食べてますよ?」

 まったく。男のひとり暮らしって、そんなもんなんだろうな。

楓「これじゃ、ブランチ作りましょうか? なんて言えないじゃないですか」

P「いや、面目ない」

 あの人の身体のことを考えると、できれば一緒に暮らしたい、なんて思うけど。
 今は、無理。

楓「はあ、もう。今度ごはん作りに押しかけますから」

P「ほんと、ごめん」

 そう言うとあの人は、私を抱きしめキスをする。

楓「あ」

 スイッチが、入る。

楓「もう、そんなのでごまかして……」

 言葉とは裏腹に、あの人をまさぐる唇を止められない。
 結局私たちは、また事を致すはめに。

 少しさっぱりしたいからと、湯船にお湯を張り、入浴。
 あの人はあわてて身なりを整え、打合せに出て行った。

 ひとり残る、私。

楓「さすがに、だるいかな……」

 どうベテトレさんに言い訳しようか。
 そんなことを考える。
 でも、この近所で冷蔵庫の中のものを買うというわけにいかないし。
 あまりマンション界隈で、私の目撃情報があったら、いろいろと困ることになるからだ。

楓「しょうがない。帰る、か」

 私はいつもの変装を整える。次は食事の準備を整えて来ようと、心に誓って。
 じゃあ、またね。
 重い身体を引きずって、マンションを後にする。
 太陽の日差しが、恨めしい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

おいらは色っぽいシーンが苦手という事に気がついた
遅いがな(´・ω・`)

では ノシ

朝っぱらから投下します

↓ ↓ ↓


楓「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい」

 年の瀬というのは、時間が過ぎるのがどうして早いのか。
 12月。私は年末年始特番の収録に追われていた。

ちひろ「だいぶ遅くまでかかりましたね」

楓「共演の方の入りが、だいぶ遅くなりましたから。年末ですからね。仕方ないですけど」

 みんなタイトな時間をやりくりして出演している。
 だから、こうしたことも当たり前。
 深夜の戻りであっても、ちひろさんはこうして待っててくれる。
 ありがたいことだ。

楓「Pさんは?」

ちひろ「今、社長とお話中ですけど。あ、そうそう。社長から」

ちひろ「楓さんが戻ったら、社長室に来るよう言伝が」

楓「?」

 こんな深夜なのに、社長がまだいるんだ。
 どうしたんだろう。

楓「わかりました。ありがとうございます」

 とんとん。社長室のドアをノックする。

楓「高垣です。ただいま戻りました」

社長「どうぞ」

楓「失礼します」

 中に入ると、あの人が悩ましい顔で座っていた。

社長「いやあ、お疲れさま。大変でしたね」

楓「いえ、いつものことですから。ところで、お話か何かですか?」

社長「ええ。ちょっと確認しておきたいことがありまして」

 なんだろう。あの人の表情をうかがうに、いい話ではなさそうだ。
 社長は私を、ソファーへ座るよう促す。


 あの人の隣に座った私に、社長は持っていたレジュメを渡してくれる。
 そこにあったのは。

『発覚!人気俳優○○とアイドルK.Tの通い愛!』

 えっ。

楓「これ、は?」

 あの人が、口を開く。

P「来週発売される女性誌に載ると思われる記事です」

 生のファックス原稿。
 社長かあの人が、どこからか入手したものだろう。
 私は、まだ組み版があがったばかりと思われる記事を読む。

社長「ここに書いてあることに、心当たりはありますか?」

 社長が問いかける。

楓「いえ。まったく」

 そう答えるのがせいいっぱい。
 まったく身に覚えがないどころか、よくもまあこうもでっち上げが書けるものだと、呆れてしまったからだ。

 いわく。
 年下の俳優が、私との共演をきっかけに仲良くなった、とか。
 お忍びでデートをしている、とか。
 私が足しげく通っている、とか。

社長「共演は?」

P「先月の音楽番組だけ、ですね」

 確かに共演はあった。でも、特に会話をすることなどなかったし、共演もそれきりだ。

社長「高垣さん、もう一度うかがいます。心当たりはない、ですね?」

楓「もちろんです」

 疑われているのは気分のいいものではない。が、こういう記事がある以上、訊かなければならないこと。
 それは理解できる。

 私は、毅然として答える。

社長「やはり、ですか……」

P「『飛ばし』ですね……」


『飛ばし』。写真や証言など裏付けのないまま、記事にしたもの。
 社長とあの人は、そう結論付ける。

 なぜ私が?
『飛ばし』って?

P「楓さん、疑うようなことを訊いて、ほんとうに申し訳ないです」

 あの人が深々と謝る。

楓「いえ……なんでこんな記事が出るのか、私にはさっぱり」

社長「それは、私から話をしましょう」

 私が、あの人に向けたなんとも表現しがたい視線を、社長がさえぎった。

社長「先日、とある懇親会がありましてね。そこで言われたんですよ」

社長「『おたくの高垣さん、最近どうです?』って。複数から」

 複数?
 所属タレントの動向を話したりすることは、時候のあいさつと同じようなものだけど。
 でも、同じことを複数から言われるのは、明らかにおかしい。

社長「……おかしい、と。思いましたね?」

楓「え、ええ」

社長「その通り。あからさまにおかしい。何かあるなと思いまして」

社長「Pくんにちょっとしたお願いをしたんです。変な記事が出る可能性を調べて欲しいと」

 たぶんあの人は、秘密裏に動いたのだろう。
 普通は、出版社が記事の内容について裏を取り、記事の内容をあらかじめ通知する。
 お互い持ちつ持たれつの関係だし、それが慣例だからだ。
 でも今回は。

P「まあ版下の段階でつかめましたけど、ただ」

楓「ただ?」

P「たぶん、記事の差し替えを要求するのは難しいと、思います」

楓「え? どうして?」

 困惑する私に、社長が言う。

社長「当事者のタレント。所属はご存知ですか?」

楓「……あ!」


 そうだ。うちより老舗の、大手事務所。
 最近はあまりいい話を聞かないけど。

楓「でも、それにしてはあまりに乱暴な」

社長「乱暴ですねえ。でも、このタイミングなんだと、私は思いますよ」

楓「……」

社長「あの事務所には、いろいろ思うところはありますけど。ま、それはともかく」

社長「あちらは、彼が主演する映画が公開になる。主題歌もね」

社長「で、高垣さんは、フルアルバムがチャートトップを走っている。現在も」

社長「……たぶんあちらさんは、誰でもよかったんだと思いますよ? 話題になるなら」

楓「そんな……」

 売り込み方法には、いろいろなやり方があるとは思う。
 うちは地道に、泥臭くやってきた。信頼も勝ち得ていると、自負している。

 一方。
 一発、花火を打ち上げるようなやり方もある。

社長「まあ、根拠のない記事なんてすぐに忘れられるものです。ただ」

社長「そのときにセンセーショナルなら、とりあえず成功って考えもあるわけです」

社長「相手がヤケドしようが、おかまいなし……」

 社長の言葉に、憤りがにじんでいる。

社長「あの事務所は、雑誌媒体にコネを多く持つところでしてね。先代が築き上げた関係ですけど」

社長「今のぼんぼんは、なにを考えているんでしょうねえ……」

楓「それって」

社長「証拠も、確証もありません。憶測です」

楓「……」

社長「事務所ぐるみなのかも、一部の暴走なのかもわかりません。ただ」

社長「うちが表立って動けば、この出版社がかなりまずいことになる、というのは間違いないですね」

 いやな話だ。
 私は、もらい事故にあったというようなものだ。しかも、ひき逃げ。

楓「私は、どうすれば……」

社長「ガン無視です」

 社長は断言する。

社長「関わっても、ろくなことになりません。単発のネタですし、すぐに消えます」

社長「この件は、私とP君に任せてください。高垣さんはコメントを一切、発しないように」


 あの人は、ただ申し訳なさそうにしている。
 そんな表情をしないで欲しい。

P「水際で食い止められなくて、ほんとうに申し訳ない」

 あの人は私に謝罪する。

楓「いえ……Pさんの責任ではありませんから……」

 そう言ったところで、あの人の気持ちが晴れるとは、到底思えない。
 重苦しい雰囲気が、社長室を支配する。

社長「とにかく、今後の対応を詰めておかないとなりません。高垣さん、疲れているところ申し訳ないですけど」

社長「もう少し、話にお付き合い願えませんか?」

楓「……わかりました……」

 もうすぐクリスマス。
 でも、私には試練のクリスマスとなりそうだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ではまた ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 雑誌の発売日。特段大騒ぎになることもなく、静かな立ち上がりとなった。

P「1誌だけですから、まだ様子見なんでしょう」

 収録先のテレビ局の楽屋。あの人が語りかける。
 メディアからの取材に対応するため、しばらくはあの人と行動を共にすることになった。
 一緒にいられるのはうれしいけど。

楓「こんな形で、一緒に行動するなんて。なんか複雑ですね」

 気が重い。一緒にいるのに、まったく気を抜けない息苦しさ。
 どうしてこうなった。

P「まあ、このまま通り過ぎてくれるのが一番なんですけど」

 あの人はポケット吸入器を渡してくれる。

楓「ありがとうございます」

P「ストレスがかかると、のどを傷めやすいですからね」

 季節柄、こうした吸入器は必需品のようなものだ。
 事務所やレッスンルームには、卓上式の吸入器も置いてある。

 私が加湿吸入をしている間、あの人が話をする。

P「収録が終わって、ひょっとしたら取材クルーがいるかもしれませんけど」

P「楓さんは、なにも話さないようにしてください」

 先日の社長室での話し合い。
 やはり、無言を貫くのが一番だろうということになった。
 相手がどういう対応をするか、まだわからないし。それによってこちらの対応も変わる、と。

楓「……」

 ミストを吸入する。
 ユーカリ油を少したらすのもよさそうだけど、吸入器が痛んでしまうので。

 吸入している間のこの沈黙が、たまらなくつらい。
 取材クルーに質問されて、表情を崩したりしないか。湧き上がる怒りを抑えられるか。
 ファンは、どう思うだろうか。

 そんなつまらないことばかり、浮かんでは消える。

 女性誌に載せるということは、あちらのファン向けの記事、という意図だ。
 こちらのファン層にかぶらないところを狙ってる。
 女性ファンは実のところ、記事の真偽に対してあまり深く追求することはない。
 むしろ感情に訴えること。
 うそはったりだろうが、『それらしい』記事なら、ファンは動く。

 もちろん記事自体は偽りだから、あちらの事務所でも対応は考えているだろう。
 肯定は当然しないが、否定もしない。そんなところか。
 それをどういう方法でアピールするのだろう。

 こちらが後手に回ってしまった以上、相手の動きを注視するしかない。
 もどかしい。


楓「Pさん、ありがとう」

 5分ほど吸入を行い、私は吸入器を返す。
 あの人は何も言わずうなずいて、機械を片付ける。

 あの人のスマホに着信音。すぐに私のにも。

P「同報でメールかな?」

 ふたりでメールを確認する。ちひろさんからだった。

『件の事務所から、ファックスによる発表がありました』

 私とあの人、社長に同報送信したようだ。
 場がこわばる。
 あの人は事務所に電話を入れる。

P「あ、ちひろさん。Pです。ええ、メール読みました」

P「えーと、ファックスの内容をベタ打ちでいいので、メールで送ってもらえませんか。ええ、同報で」

P「はい、じゃあお願いします」

 取り急ぎ内容を確認しないとならない。あの人に思案の色が見える。
 しばらくして、着信音が再び鳴る。たぶんファックスの内容だろう。

 収録の休憩明けには、まだ時間がありそうだ。
 ふたり、メールを読みはじめる。

『先日掲載されました記事につきまして、ご報告申し上げます。
 掲載内容につきましては、現在事実を確認しております。確認次第、改めてご報告させていただきます。
 なお、○○におきましては、間もなく主演映画の公開もございますので、暖かい応援を賜りますよう
 お願い申し上げます』

P「なるほど、積極的に否定をする気はなさそうですね」

 まだこれだけでは、事務所の関与を否定も肯定もできない。
 こちらに『うまく踊ってくれたまえ』と、言ってるようにも見える。

楓「なんか……悔しいですね」

P「想定の範囲内、ってとこですかね」

 おそらく、記事の裏を取るために取材陣がここにやってくるだろう。
 あちらがなにも言わないのなら、こちらで確認しよう、と。

P「ま、とにかく。楓さんは予定通り、無言ということで」

楓「……はい」

 ほどなく、局スタッフから収録再開の声がかかる。
 大丈夫。切り替えていこう。

 心に不安を残したまま、私はスタジオという戦場に向かった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

一時期の大スランプから脱出しつつあるかも
でも、他の方のSSおもしろ杉内。書く時間がなくなる。ぐぬぬ

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


レポーター「お付き合いは順調ですか! どうですか! 高垣さーん!」

 果たして、彼らはそこにいた。
 テレビ局が3社か。他にスポーツ紙だろうか。

 私は無言のまま車に乗り込む。作り笑顔を貼り付けながら。
 車がテレビ局の構内から離れるまで、笑顔を貼り付けたままでいる。

P「おつかれさま」

 あの人が声をかけた。

楓「……ふう」

 予想はしていた。もっとしつこいものかと思っていたが。

楓「それほど混乱することもなかったですね」

P「そんなもんですよ。みんな半信半疑ですからね」

 せいぜい裏が取れたらラッキーくらいのことなのだろう。
 あの人が運転する車は、まっすぐ事務所へ帰らずに幹線を流している。

楓「撒くんですか?」

P「まあそれもありますけど……」

 あの人はそう言ってナビをセットする。

楓「ん? どこかに寄るんですか?」

P「そうですね。そこはお任せで」

楓「ええ、かまいませんけど」

 ちょっと今日は、息苦しさを感じたままだったし。
 息抜きということかしら。
 コインパーキングに車を入れ、あの人に案内されるまま歩く。

楓「ラーメン屋?」

 街道沿いにあるラーメンの看板。こってりした香り。

P「和歌山ラーメンとか、どうです?」


 ああ、そういうことか。
 気が滅入っている私に配慮してくれたのだ。

楓「いいですね。行きましょうか」

 私たちはお店に入っていく。
 和歌山ラーメンはとんこつ醤油味。
 でも私自身は、あまり食べたことがない。

P「懐かしいですか?」

楓「実は、それほど」

 私は苦笑する。あの人は気まずそうに頭をかく。

楓「気持ちはうれしいですよ?」

P「あはは。そりゃどうも」

 席についてラーメンを頼む。

P「楓さんは、地元で食べたりしなかったんですか?」

楓「誘われて行ったことはありますけど。んー」

 食わず嫌いということではない。自分から行こうという機会がなかっただけ。
 地場のものなんて、そんなもんだろう。

楓「でも、Pさんが私のことを考えてくれたことが、うれしいです」

 あの人が照れながら、コップの水をごくり。
 なんか、いいなあ。

 ふと、青森旅行のことを思い出す。
 あれから、だいぶ経った気がするな。

 出てきたラーメンはシンプルなもの。脂がなかなかの自己主張。
 一緒に小皿が。

楓「これは?」

P「岩のり、かな?」

 味玉子と、岩のり。トッピングかあ。
 では、失礼して。

楓「いただきます」

P「いただきます」

 小皿のトッピングを乗せ、いただく。

楓「あつっ」

P「楓さん大丈夫ですか?」

楓「……あひゅいれふ……」


 ヤケドした。舌がじんじんする。
 ふーふーと冷まして、ゆっくりと。

楓「ちょっと柔らかいんですね」

P「楓さんの好みと違ったかな?」

楓「いえ、そうじゃなくて。あんまり覚えてないものだなあ、って」

 片手で余るくらいしか食べたことがないのだから、覚えてなくて当然だと思う。
 でも、せっかくあの人が案内してくれたのだし。
 なんかこう、気の利いたことでも言いたいのになあ。

 そんなことを思っていたら、あの人がくつくつと笑い出した。

P「いやいや、楓さん。僕に気なんか遣ってどうするんですか」

楓「え? 全然気なんか遣ってませ」

P「ほら。それ」

 あの人が笑いながら言う。

P「僕と楓さんの仲じゃないですか。わからないとでも思ってました?」

 ああ、そっか。
 そうだよなあ。

 私とあの人は、コイビト。
 なんとなく雰囲気で、分かり合えることもあるのだ。

楓「なんかそう言われると、照れますね」

P「……逆にそう言われて、僕も恥ずかしくなってきました」

 ふたりでラーメンをすすりながら、互いを思う。
 色気も何もない空間だけど。

楓「ふふっ。ありがとうございます」

P「いや、別に。ほら、言うじゃないですか」

P「腹が立ったら飯を食え、ってね」

 なんですかそれは。
 聞いたことありますけど。

楓「Pさんは、なだめるためにここへ?」

P「いや、まあそれもありますけど……」

 あの人は水を一口飲む。


P「僕自身、腹が立つことばかりだったので」

 そう言ってため息をつく。

P「楓さんのスキャンダルを食い止められなかったこともそうですけど」

P「ふたりでいるとき、安心を与えられない状況に、ね」

P「僕は、楓さんの恋人なのに。なんだかなあ……」

 今すぐ抱きしめたい。
 あなたがいてくれるから、私は我慢できるのだ。

 衝動をこらえ、私は口にする。

楓「いえ、Pさん」

楓「いつでも、Pさんは私の心の支えです。恋人です」

楓「いてくれて、ありがとう……」

 せめて、言葉には尽くそう。
 想いを言葉に乗せて。

 あの人は、少しデレっとした顔をして言った。

P「うん。僕も、楓さんが心の支えです。ほんとうにありがとう」

P「楓さんがここに、こうしていてくれることが、ありがたい」

 お互いの存在が大きくて、愛しい。
 それがわかるから。

 私たちはそれまでの怒りや焦燥を、一口ずつお腹へ流し込む。
 食べて。語って。

 また明日。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

いつも応援ありがとうございます。がんばります
和歌山ラーメン、おいらは好きですよ

ではまた ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 クリスマスも近づいたころ。かの方が主演した映画が公開される。
 あちらの事務所は、いまだだんまり。
 こちらがすべて泥をかぶることを期待しているのではないかと、うがった目で見てしまう。
 舞台あいさつ。ちひろさんが敵情視察に出かけている。
 私とあの人は、事務所で待機していた。

 どれくらい待っただろう。あの人のスマホに着信。

P「はい。あ、ちひろさん。ええ。はい」

 メモを取りながら、ちひろさんの情報を聞いている。そして。

P「ありがとうございます。はい。ではまた事務所で」

 電話が終わり、あの人は特大のため息をひとつ。

P「『ノーコメントで』と、かの方が。おっしゃったそうですよ……」

 無言ではなく、『ノーコメント』。
 つまり先方は、意図的に『どうとでも解釈してください』と発言した、ということだ。

P「そこまでやりますか……」

 可能性を考えてはいたものの、こうまで踏みつけにされると。

楓「……」

 言葉にならない。怒りと諦観と。

P「社長が戻ってきたら、相談しましょう」

 あの人の声のトーンも低い。
 年末でいろいろと忙しい時期だというのに、こんなことで忙殺されるなんて。

楓「私は、どうすればいいですか?」

 あの人に訊いてみる。

P「いや、まだなにも言わずに。無言のままで」

 答えはわかりきっている。事務所の正式なコメントがないうちに、何かを話すことはまずい。
 大波打つ動揺を、無理やり押し込める。

 やがて。
 ちひろさんが事務所へ戻り、社長も戻ってきた。
 事務所に残っていたスタッフに、緊急招集がかかる。

社長「えー、皆さんも知っているかと思いますが、先日の雑誌に掲載された高垣さんの件で話があります」


社長「本日、先方のタレントさんが、交際をしているとも取れる発言をしました」

社長「これは看過できませんので、事務所から正式に否定コメントを出します」

 正式にコメントを出せば、当然取材対象になる。
 どこで言質を取られるかわからない。スタッフの意思統一を図るのだ。

社長「年末年始で忙しいところだと思いますが、皆さんのフォローアップお願いします」

 回答のポイントは、後ほどレジュメで配布と知らせ、解散。
 あの人はレジュメ作成へと机に戻った。

 その日のうちに、各社あてにファックスを送信する。

『先日○○に掲載のありました、当社所属・高垣楓の交際の件につきましてご報告いたします。
 事実関係を調査しました結果、交際の事実は一切ございませんでした。
 CGプロといたしましては、このような記事が掲載されたことは誠に遺憾であり、
 掲載記事の取り下げならびに謝罪を求める意向でございます。
 関係方々には、多大なるご心配を賜りまして厚く御礼申し上げます。
 今後とも高垣楓ならびにCGプロへ、ご支援ご協力賜りますようお願い申し上げます。』

 社長名で否定をする。
 件の出版社には、さすがに泥をかぶってもらうしかない。
 裁判とか、そこまで大事にするつもりはないけれど。

P「まあこれで、先方がだんまりしてくれれば御の字ですけどね」

 レジュメをコピーしながら、あの人がつぶやく。
 あちらの事務所が交際を否定してくれれば、それが一番よい。
 でもこうまで焚きつけた責任からは逃れられない。
 出版社との付き合いも考えると、さすがに否定するのははばかられる。
 だったらうやむやになるまでだんまり。そこが落としどころなのだろう。

 精根尽き果てるとは、このことか。
 要らぬ心配をして、私たちの疲労はピークだ。

楓「でも、あちらからすればベターなんでしょうね……」

 落としどころがどうあれ、宣伝効果としては大いにあったわけで。
 集客第一なら、多少の問題は目をつぶる、ということかしら。
 これからの尻拭いを考えると、頭痛がしてきそう。
 あの人とふたり、レジュメを読み合わせながら対策をシミュレートする。

 むなしさが更けていく、夜。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ストーリーの陳腐さにへこんだりするけど、おいらはとりあえず元気です
少し暗い展開が続きます

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 まあトライアドはユニットだから、ソロ活動をベースとするのは当然だろうけど。
 でも、なんで改めて言ったんだろう。

凛「あ、みんなお疲れさま」

 あいさつ回りを終えたであろう彼女が、楽屋に戻ってきた。

楓「凛ちゃんもお疲れさま」

凛「楓さん……お疲れさま」

 凛ちゃんが笑顔を浮かべる。
 去年の今頃は……なんて。そんなことを考えたら、ずいぶん変わったもんだなあと。

楓「凛ちゃんたちはこれから?」

凛「ニューイヤーTVの生特番です」

 ああ、まだ仕事なんだ。

加蓮「今日は終日営業ですよー……はあ、がんばろっと」

 加蓮ちゃんはちょっとお疲れ気味。
 でも、忙しいうちが華、とも言えなくもない。
 そうでも言わなきゃ、この仕事はやってられない。

奈緒「じゃあ、移動があるんで。よいお年を!」

 三人はあわただしく出ていった。
 私は、彼女たちの後姿を見送る。

 時計を見れば、0時を過ぎている。シンデレラの時間は、終わった。

楓「ハッピーニューイヤー、か」

 楽屋では、残った共演者たちやスタッフが、クラッカーを鳴らす。
 新年おめでとう、と。
 なんかあっけない年越しだったな。

 せめて正月はゆっくりと。
 あの人がスケジュールを配慮してくれたので、今年も三が日はフリー。
 とはいえ去年の年越しとは、だいぶ違う。

 あの人と、一緒にいたのになあ。

 仕事に明け暮れれば、取材攻勢に辟易し。
 ひとりでいれば、これからの不安に押しつぶされそうになり。

 ああ。
 どこをどう、掛け違えてしまったのだろう。

 楽屋の喧騒が、私には届かない。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

あれ、前半が抜けた……
>>734の前に入れてください


 ほたるの光 窓の雪 ――

 年末の歌合戦。今年は紅組が勝った。
 私はステージで、共演した仲間と歌っている。

 今年も無事勤め上げました。お疲れさまでした。
 などという気には、まだなれない。

 交際否定のコメントを額面どおり受け取るところは少なく、私たちは取材の矢面に立たされる。
 いまだ、その余波が色濃く残っている。

『ほんとうに交際されてないんですか?』『実際どうなんですか?』
『書かれたことについてどう思われますか?』『相手を訴えますか?』

 土足でどかどかと踏み込んでくる質問に、私は。

『事務所の担当からお答えしますので、私から話すことは特にございません』

 そう繰り返す、のみ。

 かの方は、ノーコメント発言のあとは、ひたすらだんまり。
 その甲斐あって、映画の動員数は好調だとか。

楓「お疲れさまでした」

 楽屋に戻り、共演者にあいさつ回りをする。よいお年を、と。

 よいお年を、ねえ。来年もこんな感じで巻き込まれるのかな。
 ほんと、私の安寧を返せ。
 心がささくれる。

加蓮「楓さんおつかれさまー!」

奈緒「おつかれさまー」

 今年は出演をしたトライアドの三人が、楽屋に戻ってきた。

楓「みんなお疲れさま……って。凛ちゃんは?」

奈緒「あれ? 一緒に戻ってきたんだけどなあ」

 出演者でごった返す楽屋に、凛ちゃんの姿は見受けられない。

加蓮「凛のことだから、あいさつ回りしてるのかも」

奈緒「ああ、そっか。来年はソロ活動も本腰入れるみたいだからなあ」

楓「え? そうなんだ」

 初耳だ。いや、スタッフは知っていたのかもしれないけど。
 このところのどたばたで、巷の動きにすっかり鈍感になってしまった。

楓「いつごろの話?」

奈緒「先月ですよ? ……ああ、まだ本決まりってことじゃないけど」

加蓮「凛が、『そろそろ私たちも、ソロで本格活動してもいい頃合いじゃないか』って」

加蓮「そう言ったんですよ」


※ とりあえずここまで ※

ああ、投下失敗したorz
書き溜めてから投下したほうがいいのかしらん?
書き溜めるとすんごく間が空きそうなので、こうして少しずつ投下してますけど

ではまた ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 元日。穏やかな日差しが私を起こす。
 事務所の仮眠室。のどを痛めないようにマスクをして寝たはずなのに。

楓「どっかいっちゃった……」

 枕元にも転がっていない。

楓「ま、いっか」

 しっかり加湿器が働いてくれているから、問題ない。
 ぼーっとした頭で、私は飲み物をとりに湯沸室へ。

 楽屋で年明けを迎えた私は、なんとなく自分の部屋へ帰るのが怖かった。
 なんだろう。ひとりでいるのが怖かったのかな。
 あの人はしきりに帰ることを勧めていたが、強引に仮眠室へもぐりこんだ。
 そして今。

 あの人は、事務所の応接ソファーで横になっていた。

楓「おはようございます」

 いまだ夢の中のあの人に、起こさないように小声で。
 もうお昼近い。
 そのとき、ぴんぽーん、と。インターホンが鳴る。

楓「はい」

配達「郵便でーす」

 ああ、年賀状か。
 私は入口のドアを開け、ダンボールを受け取る。

P「ああ、起きたんですね」

 チャイムの音で起きたのか、あの人が後ろから声をかける。

楓「起こしちゃいました?」

P「いえ、もうお昼ですし」

 受け取ったダンボールを、あの人がひょいと奪い取った。

楓「あ」

P「このくらい、軽いもんですよ」

 軽くなった両手の質感が、落ち着かない。
 ぎゅっ。あの人の服の袖をつかむ。

P「どうしたんです?」

楓「いえ。なんとなくつかみたくて」

 あの人はふわりと笑った。


 元日だから、出前をするお店もない。
 あの人は「お昼買ってきます」と、外へ出て行った。
 残った私は、年賀状を仕分ける。

 私は自分でブログやツイッターをやっていない。
 事務所のオフィシャルページで、スタッフが情報をアップする。
 だから、時々メールをチェックすることはあっても、こうした紙の手紙なども多い。
 それに肉筆の応援は、なんともうれしいものだ。

 事務所気付で送られてきた年賀状を、タレントごとにより分ける。
 年賀状というか、かなり厚手の手紙らしきものも、結構ある。

楓「やっぱり多いな、凛ちゃん……」

 トライアド以前から、ずっと一線で走ってきたのだ。その人気は事務所でも群を抜いている。
 あらかた仕分けしたところで、あの人が帰ってきた。

P「今年もまた、こんなものですいません」

 手には、牛丼屋のビニール袋。

楓「ふふっ。いいじゃないですか」

楓「私たちらしくて」

 去年の今頃を思い出し、少しおかしくなった。

 いつもの牛丼弁当を食べ、お茶で一息。
 あの人は自分の机に戻る。

P「楓さんはどうします?」

楓「私は、これを」

 仕分けた年賀状を、あの人に見せる。

P「ああ。まあ根をつめない程度に」

 私あてに送られた年賀状を、ひとつひとつ眺めていく。
 どれも力作だ。たかがファンレター、されどファンレター。
 みんな「アイドルが読むかもしれない」と、手を抜くことはない。

楓「……すごいなあ」

 はがきはあとでゆっくり読むことにして、輪ゴムで束ねる。
 私は、手紙の封筒をひとつずつ開けていく。
 どれくらい開けただろう。その中のひとつに、私は凍った。

『死ね』

 赤い字で書かれた一文。
 その二文字に、私の頭の中は真っ白になる。

 その封筒に、相手の名前はない。
 中には、びりびりに破かれた私の写真が、丁寧に同梱されていた。

 手が、震える。
 血の気が引くというのは、このことか。

 怖い。
 私は、手にした便箋を握り締めたまま、震える身体をもてあましていた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

今度はきちんと投下できました
では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


P「楓さん! 楓さん!」

 あの人の声で、私の意識は戻ってくる。
 ああ、Pさん。
 なにか話そうと声を出そうとするが、出ない。

 あの人は、私をきつく抱きしめる。

P「楓さん、大丈夫。大丈夫だから……」

 抱きしめたままぽんぽんと、背中を叩く。
 少しずつ、息が戻る気がした。

楓「あ……あ……」

P「楓さん、大丈夫だから。こうしているから」

楓「あ……ああ……」

 私は声にならない声をあげ、涙を落とす。
 あの人は、やさしく髪をなでる。

 怖い。
 ただその気持ちだけが、私を支配する。
 あの人が懸命に私をなだめるけど、今の私には届かない。

ちひろ「あけましておめで……あ」

P「ちひろさん、ちょっと!」

 ただならない様子を感じたのか、ちひろさんは湯沸室へ直行し、水を持ってきた。

ちひろ「どう……したんです?」

 あの人は、私が落とした便箋を指さす。
 ちひろさんはそれで理解したのか、私のそばへ寄り添い、声をかける。

ちひろ「楓さん、大丈夫。大丈夫ですよ。みんないますから」

 あの人とちひろさんのサポートで、徐々に気持ちを取り戻した。


 ようやく落ち着いたころ。あの人とちひろさんは、なにかやり取りをしていた。
 私はちひろさんにもらったコップを抱え、ソファーで震えている。

P「楓さん、とにかく自宅へ帰りましょう。送ります」

 あの人はそう言うけど、私は首を横に振る。
 ひとりにしないで。
 心の叫びが、私を惑わせる。

P「ちひろさん、お願いします」

ちひろ「わかりました」

 ちひろさんは社用車を取りに、事務所を出た。

 エアコンの音と、時計の音。
 パソコンのうなり。
 私とあの人の、息遣い。
 すべてのノイズが絡み合い、私は吐き気を催す。

楓「うっ……」

 青白い私をかばい、あの人は背中をさする。
 ほどなくちひろさんが戻ってきたが、あの人は首を横に振った。

ちひろ「ダメですか」

P「もう少し、落ち着いてからですね」

 あの人にもちひろさんにも迷惑をかけている。
 私は自分の器の小ささに、大きな罪悪感を感じる。
 悔しい。悔しい。
 自分で自分の気持ちにけりをつけられないことに、憤りを感じる。

 結局、私が落ち着くまで時間がかかり、送ってもらうころにはすっかり夜の闇に包まれていた。

楓「ほんとに、ごめんなさい……」

P「いや、いいんですよ」

 お互いになにかを話すこともなく。ただ目的地へ向かう。
 心の中に、表現しがたいどろどろを抱えたまま。


楓「どうぞ、入ってください」

P「……じゃあ」

 マンションに着く。部屋がうすら寒い。

楓「今、お茶入れますから」

P「あ、おかまいなく」

 会話がぎこちない。どことなくよそよそしいふたり。

P「楓さんすいません。ちょっと電話かけてきます」

 そう言ってあの人は廊下へ出た。
 こぽこぽと、ティファールからお湯の沸く音。
 その光景を、ただぼうっと眺める。

 あの記事から抱えていた漠然とした不安が、こうして爆発してしまった。
 これからどうしようとか、なぜこうなったとか。あれこれ考える気力がない。
 ただ、怖い。

 かちっ。お湯が沸いた。
 私は急須にお湯を注ごうとするが、うまく注げない。
 手が震える。

楓「あつっ」

 跳ね上がったお湯が手に当たる。私は驚いてティファールを取り落とした。
 がらがらん。お湯がこぼれる。
 その音に、あの人があわてて入ってくる。

P「大丈夫ですか!」

楓「……もう……やだ」

 私はうずくまったまま絞り出す。
 なぜこんな気持ちにならなきゃいけないのか。なぜ責められなきゃいけないのか。
 なぜ。

 こんな気持ちになっても、アイドルでいなければいけないの?

 なにを信じればいいのか、今の私に教えて欲しい。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

これもうわかんねえな

ではまた ノシ

描写が女性的ってのは素直にうれしいです。感謝

投下します

↓ ↓ ↓


P「楓さん、ほら。少しでも飲んでください」

 リビングに座る私に、あの人がスポーツドリンクを差し出す。
 あの人は私をリビングへ連れて行き、こぼしたお湯を片付けた。
 そして。
 すっかりふさぎこんでしまった私に、声をかける。

楓「……」

 なにも話す気になれない。
 いやだいやだ、と。その思いに囚われる。

 そのとき、あの人のスマホに着信音が。

P「はい、Pです。あ、ちひろさん……え?」

P「わかりました。はい。じゃあ、ここで待ってます。はい。では」

 いったいどうしたんだろう。

楓「……ちひろさん?」

P「ええ、まあ。あ、これ。飲んでください」

楓「……はい」

 あの人はスポーツドリンクを押し付ける。
 受け取ったものの、とても飲む気になれない。視線が定まらない。

P「さっき、楓さんを送ったことをちひろさんに連絡したんですが」

P「どうやら、凛がそばにいたみたいで……」

楓「……え?」

P「……事務所を飛び出したそうです」

 なぜ? 凛ちゃんが?
 たまたま居合わせたタイミングだったとしても、飛び出る理由がない。

楓「どうし、て」

P「……僕にもわかりません」


 凛ちゃんの突然の行動に、私はさらに混乱する。
 自分のことすらままならないのに、凛ちゃんまで。

P「ちひろさんから、楓さんのこと少し聞いたみたいですから」

P「たぶん、こっちに来るんじゃないですかね」

 それを聞いて、私はさらに自己嫌悪に陥る。
 凛ちゃんまで巻き込んでしまった。私はなんておろかなんだ。
 自分のせいではないと理性でわかっていても、心の深くではそれを否定する。

P「とにかく、僕はここで待ちます。なに、凛のことだ。近くまで来れば連絡をよこすでしょう」

 心がせめぎあう。
 無事に着いて、という気持ちと。お願いだから来ないで、という気持ち。

 そんな気持ちもむなしく、部屋のインターホンが鳴る。

楓「……はい」

凛『楓さん! 開けてください!』

 なぜ、来たの?
 あの人は目をふせて、アプローチを開けるよう促した。

 ほどなく、玄関のインターホンが鳴り、あの人がドアを開けた。

楓「凛、ちゃん……」

 お願い。今の私を見ないで。
 こんな私を……

 凛ちゃんは今にも泣きそうな顔で、私を見る。

『見ないで』

 そして、そのまま直進し。

『お願い』

凛「楓さん」

 私を、強く抱きしめた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

このスレで完結できるのか不安になってきた
だからって急ぐと、ろくなことにならない希ガス

ではまた ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


凛「Pさん、どういうこと?」

 凛ちゃんがあの人を強く問い詰める。

P「いや、僕のミスだ。すまん……」

 あの人はそうとしか返せない。

 凛ちゃんは、なかなか私を離してくれなかった。
 気持ちはありがたいのだろうけど、そのときの私は、ただとまどうだけ。
 あの人が私たちをリビングに誘導する。
 そして、現在。

凛「ミスじゃわからないよ。だからどういうことなの?」

 あの人はため息ひとつ。

P「不幸チェックを怠った僕のミス。そういうことだ」

凛「……ああ」

 凛ちゃんはなんとなく理解したようだ。

 不幸の手紙。
 私たちアイドルに送られてくるファンレターの中には、変なものもいくらか含まれている。
 そういうものを、『不幸の手紙』などと揶揄している。

 不幸の手紙はあらかじめ、事務所スタッフがチェックを入れる。
 そう。
 私は事前チェックをする前のファンレターを、うっかり読んでしまった。

 頭ではわかっている。そんな手紙など些末なものなのだ、と。
 でも、あの赤の衝撃。
 肉筆の手紙が、私を震え上がらせた。


凛「楓さん、気にしたら負けだから……」

楓「……」

 わかってる。わかってるの。
 でも、一度刺された痛みは、そう簡単に忘れられるものじゃない。
 凛ちゃんは私に寄り添い、気を遣ってくれる。

 その心遣いが、今は痛い。

P「凛が心配することもわかる。……そうだな、この機会に少し話しておこう」

 あの人は、今おかれている現状を語りだす。

 凛は楓さんの記事のこと、知ってるよな?
 まあうちとしては、嵐が過ぎるのを待っていたわけだが……
 そこへ、奴さんの『ノーコメント』発言だ。
 どうやら、あちらの女性ファンの反感を買ったらしい。楓さんに対してな。

 不幸の手紙は、こういう仕事をやってる以上、多少は送られてくる。仕方ないさ。
 人気商売だからな。
 ただ。今回は明らかに数が増えた。
 僕とちひろさんでチェックをやってたけど、ちょっとな。明らかにおかしいのも増えてな。
 まあ、犯罪すれすれってやつだな。

 楓さんも聞いてください。
 今回のような手紙は、まだ軽いほうです。
 でも、軽い重いの問題じゃない。今こうして楓さんがつらくなってるというのは、そういうことです。
 僕のミスです。ほんとうにごめんなさい。
 このことは、僕が責任を取るとか、そういうレベルに収まらないので、事務所のみんなでフォローします。

 凛も、心配かけてすまない。
 僕にもフォローできる限界はあるかもしれない。ちひろさんだってそうだ。
 都合のいいお願いではあるけど、楓さんをフォローしてあげて欲しい。

 楓さん。他人事だからこんなこと言えると、そう思うかもしれない。
 実際、楓さんのつらさ、わかっていないかもしれない。
 でも。

P「僕も、僕なりにできることをします」

P「頼ってください。楓さん」


 あの人が懸命なのもわかる。凛ちゃんが心配してくれてるのもわかる。
 でも、そうじゃない。

楓「あ、あの……」

楓「ほんとに、ごめんなさい……私が、巻き込んでしまって……」

凛「……」

 凛ちゃんの顔色が変わる。

凛「ばか! 楓さんのばか!」

 凛ちゃんが私の両肩をがしりとつかむ。その勢いに私はたじろいだ。

凛「いったい楓さんがなにをしたって言うの! なにも悪いことしてないじゃない!」

凛「楓さんが謝ることじゃない! なにひとりで抱えるの!」

凛「どうして!? ねえ、楓さんどうして!?」

 そう言うと凛ちゃんは、声をあげて泣き出した。
 あの人は、その姿を見て苦虫をかんだような顔をする。

P「凛の言うとおり。楓さんはなにも悪くないです」

P「むしろ謝るのは、僕のほうですから」

楓「でも……」

 ネガティブになっている私は、自分の至らなさを探す。
 そんなことをしても、なんにもならないというのに。

凛「Pさん……私、今日泊まってく」

P「え?」

 突然、凛ちゃんが言い出す。

P「おい、お前明日仕事あるんじゃないのか?」

凛「大丈夫! 大丈夫だから……」

凛「楓さんも……お願い……」

 返答に困る。
 ひとりでいたくないけど、大事な人たちを巻き込むのはいやだ。
 矛盾した想いを抱えて、私はどうしたいんだ。

P「まったく……スケジュール確認しておく」

P「僕も泊まる。それでいいなら」

凛「Pさん……うん、それでいい」

P「今の楓さんをひとりにするには忍びないですから。否は、なしで」

 決断できない私に、あの人は告げた。

 アンバランスな三人が迎える、夜。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

最初のプロットでは、こんな重苦しい展開じゃなかったのに
この展開を書き切れたら俺、ハロワに行くんだ……

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


凛「楓さん、寝ちゃいました?」

 凛ちゃんが語りかける。
 以前もこんなことがあったっけ。女子会のときか。
 あの時は楽しかったなあ。

楓「……ううん」

 男女が同室で、というのもまずかろうと。あの人は別の部屋で休んでいる。
 いまさらという気もするけど。

凛「眠れそうです?」

楓「……無理みたい」

 凛ちゃんはふうと、ため息をひとつ。

凛「いっそのこと、一緒に住んじゃえばいいのに」

楓「そうね。そうしたいのは山々だけどね」

 私に自虐的な笑みが漏れる。

凛「Pさんのこと、もっとオープンになっていれば、こんなことにならなかったんじゃ」

楓「そうかな。うん、そうかもしれないけど」

楓「でも『たられば』の話だもん。意味ないと思う」

凛「そんなこと! ……ない、です」

 少し声を荒げてしまった凛ちゃん。その勢いはすぐにしぼむ。

凛「楓さんは以前、自分とPさんのために引退するって、言ってましたよね」

楓「ええ」

凛「その気持ち、変わりませんか?」

 私は少し考えて、答える。

楓「うん、変わってない」

凛「……そっかあ」

 外は物音ひとつしない。ひょっとしたら雪が降ってるかもしれない。

凛「楓さん。こんなことがあって、アイドルいやになったりしません?」

楓「うーん、どうだろう」

 頭の中はまったく整理されていない。けど。
 思ったことを、思ったままに。

楓「ままならないなあと思うことはいっぱいあるけど、ファンの応援もそれ以上にもらってるし」

楓「いやだ、辞めたいって。そうは思わないかな」


凛「……よかった」

 凛ちゃんはほっとしたような声を出した。

楓「なんか逆に心配かけてごめんね。こんなに打たれ弱いなんて、思わなかった」

凛「ううん! いいんです。あれで平気でいられる人なんていないし。ただ」

楓「ただ?」

凛「楓さんが、アイドルそのものに嫌気がさしたんじゃないかな、って」

 凛ちゃんの声がか細くなる。

楓「うーん。まだ頭の中がぐらぐらして、自分でもよくわからないんだけど」

楓「こんな思いをしてまでって、それは正直感じた」

凛「……」

楓「ちょっとね、自分には向いてないのかな、なんてね」

凛「そ、そんなことない、です」

楓「凛ちゃん、心配してくれてありがと」

凛「いえ」

楓「もちろん、ファンあっての自分だし、これからもがんばっていくつもり。だけど」

楓「今までのようには、楽しめないかなって、思う」

凛「……」

楓「ごめんね。今日はちょっとナーバスになってるだけ! 大丈夫。大丈夫だから……」

凛「……」

 言葉が続かないふたり。しばしの沈黙。
 ふと、凛ちゃんがこっちを見てる、気がした。

凛「楓さん」

楓「ん?」

凛「私、ここしばらく考えてました」

楓「考えた?」

凛「私は、どうしたいんだろう、って」

 小さい声だけど、なにかを決めた雰囲気。
 そして。

凛「楓さん。私」

凛「楓さんに引導を渡します」

 え?

楓「凛、ちゃん?」

凛「楓さんを、過去の人に、します」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ハロワには「求人募集」をしに行ったのだが

では ノシ

次のセクションで難産しております。いやあ、凛がムズカシス
ということで、もう少しお待ちください

それまでBGMでもどうぞ
Steve Reich - Electric Counterpoint III(Fast)
http://www.youtube.com/watch?v=NmWgIidnXX4

お待たせしました。ひとつだけ投下します

↓ ↓ ↓


 彼女は何を言ったの? 私の意識が、言葉を遠ざける。

凛「楓さん」

 その一言で、私は現実に戻る。

楓「どうし、て……」

 なぜ、そう言わねばならないのか。凛ちゃんの想いが伝わらない。

凛「そう、決めたんです」

楓「なん……で……」

 凛ちゃんがわからない。私は急激に不安になる。
 私は起き上がり。そして。
 言ってはならない言葉をぶつけてしまった。

楓「凛ちゃん……私のこと、嫌いになった?」

凛「……」

 刹那が果てしなく長く感じる。
 彼女は同じように起き上がり、叫んだ。

凛「そんなわけないじゃないですか!!」

 凛ちゃんは私に抱きつく。

凛「なんで……なんで楓さんを嫌いになんかなるんですか」

凛「私は……私だって……いろいろ考えたんです」

 手に力がこめられる。
 その強さに、私はとまどう。

凛「いろいろ考えて……これしかなかったんです」

 凛ちゃんの込める力に、その言葉に偽りがないことは理解できた。
 しかし。
 自分の不安との折り合いが、つかないのだ。

 そのとき、部屋の明かりがつく。

P「眠れませんか?」

 あの人が隣の部屋から起きて。

凛「Pさん!」

 凛ちゃんはあの人に訴えかけるような目を向けた。

凛「私、どうしたらいい?」

凛「楓さんに、安心してPさんと一緒になってほしいのに……」

楓「凛ちゃん……」

P「凛……」

 凛ちゃんの想いがこだまする。
 これほど真剣に、私たちのことを思ってくれているのに。

 私は己の心の狭さと、抱える不安な気持ちに挟まれ、呆然とする。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

2週間うんうん唸って、書いては消ししてこれだけかよorz
なかなか納得いかなかったのです。で、書けたのはこれだけ
まさか絵コンテまで切るとは思わなかったよ

少しは筆が進むと思いたい
では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


P「とりあえず、これでも飲んで」

 ことり。テーブルにマグカップが2つ。
 あの人はホットミルクを用意してくれた。

凛「Pさん」

楓「ありがとう、ございます」

 湯気の向こうに見えるあの人の笑顔が、私を落ち着かせる。

P「で? どういうことです?」

 あの人が切り出す。
 しかし。なんと言ったらいいものか。
 私が躊躇していると、凛ちゃんが。

凛「私が、楓さんを困らせた……」

P「ほう。なにか言ったのか?」

凛「私が、楓さんに引導を渡すって、言ったから」

 そうだ。無意識に遠ざけていた言葉がよみがえる。
 でも、その言葉には理由がきっとある。
 凛ちゃんの想いの深さを知り、少しだけ冷静になった今なら、そう思える。

P「引導、ねえ。まあ穏やかな言葉じゃあ、ないわな」

凛「でも!」

P「でも?」

凛「なんかこう、あてはまる言葉が見つからなくて、その」

凛「ごめん、なさい」

 そう言って凛ちゃんはうなだれた。

P「いや、謝るのは今じゃなかろう? なんでその言葉になったか、その理由が知りたいな」

 あの人は少しずつ解きほぐすように、凛ちゃんに語る。
 その雰囲気に誘導され、凛ちゃんが少しずつ話し出した。

凛「私、楓さんに降りかかったゴシップが許せなかった」


 私、本当のことを言ってしまいたいって、今も思ってる。
 でも、我慢してる。誰も得しないから。マネージャーや奈緒にも止められてるし。
 嵐が過ぎればいいって、それだけ思ってた。

 悪意のあるファンレターは、私のところにも来てるだろうことはわかってる。
 事務所のみんなが押さえてくれてるだろうって。
 でもあの手紙を見たら、なにか抑えきれなくなって。勢いでここまで来ちゃったけど、結局やれることなんかなくて。
 私は、なにができるだろうっていうの、思い出した。

凛「私は、楓さんに安心して引退してほしいんだ」

 楓さんのツアーにゲストで出てから、なにか心に引っかかってたの。
 そして楓さんから引退の言葉を聞いて、なにかが宙ぶらりんになった感じがして。
 それってなんだろう? って。

 やっと気づいたんだ。私は、認められたいんだって。
 楓さんにも、Pさんにも。
 だから、奈緒にも加蓮にも話をした。ソロをやりたいって。
 自分が大きくなって、楓さんに『渋谷凛にはかなわない』『これで安心して引退できる』って思ってもらえるくらい。
 がんばろう、って。

凛「楓さんは大事な人で、いちばんのライバル。負けたくないし、喜ばれたい」

凛「だから、汚い言葉かもしれないけど、『引導』なんだ」

楓「……」

凛「高垣楓という存在が埋もれてしまうくらい、自分を高めたい」

凛「だから、負けません」

 なんということだろう。
 凛ちゃんは、私のはるか先を見つめ、そこへ進もうとしている。私などでは太刀打ちできないくらいに。
 この時点でもはや、かなわないと思っている自分を押し殺す。
 今言うべき言葉じゃない。凛ちゃんに失礼だ。

 彼女の射るような瞳に、私の心が触れる。
 私もプロなのだ。最後は華々しくあれ、と。

凛「楓さん。挑発するようなことを言ってごめんなさい。でも」

凛「今言わなきゃ、楓さんがいなくなってしまう気がして……」

楓「……うん」


凛「Pさん、お願いがあるの」

P「ん? なんだ?」

凛「楓さんとデュオで、なにかやらせて。……ううん」

凛「なにかじゃない。うん。ツアー」

凛「ふたりで、ツアーをしたい」

P「……そっか」

凛「思いつきでできないことなんてわかってる。でも」

凛「たぶん、ラストチャンスだと、思うから」

 彼女の口からついて出た『ツアー』の一言。私の心に灯りがともる。

楓「凛ちゃん」

凛「はい」

楓「ありがとう。そんなに私のこと、評価してくれて」

凛「いえ、当たり前の評価だと思います」

楓「……今、こんなふがいない私で、正直凛ちゃんになぜ評価されているのか、わからない」

楓「でも。ただで負けるつもりはない」

凛「……」

楓「やりましょう。……Pさん、やらせてください」

 凛ちゃんと私、ふたりに見つめられたあの人は、気まずそうにしている。
 そして。

P「まったく、困った人たちだなあ」

P「わかりました。ええ。僕も魂込めてやらせてもらますよ」

 そう言って苦笑いした。

 凛ちゃんと私と、あの人。ホットミルクがつなぐ、三人の密やかな企み。
 私のラストワンマイルが、始まった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

絵コンテなんてラフですよ、ラフ。漫画描くわけじゃないし、自分がわかればいいのですよ

やっと暗い展開から戻ってきました
では ノシ

三連休中に投下します

↓ ↓ ↓


ちひろ「楓さん、おはようございます」

楓「おはようございます、ちひろさん。今日も寒いですね」

 季節は2月。今年の東京はいつになく雪を見かける。
 私もブーツを新調した。気分転換だ。
 新年に受けた衝撃を、私はまだ引きずっている。

 凛ちゃんとデュオツアーをやりたいと、あの人は社長はじめ経営陣にプレゼンした。
 それは意外とあっさり通ったのだけど。
 私の体調と心が、問題だった。

 あれからしばらく、凛ちゃんが部屋に泊まりに来てくれたり、いろいろフォローをしてくれた。
 とてもありがたい。感謝してもしきれない。
 でも、彼女はソロ活動に立ち位置を動かすため、いろいろな雑務が多くなる。
 松が明けたころには、私はまたひとり。

 怖い。今まで寂しさを感じることはあったけど、怖いと思ったことは、なかった。
 私は、なんて弱い女になってしまったのか。

楓「Pさん」

P「はい?」

楓「今晩、一緒にいてもいいですか?」

 私は、あの人の部屋へたびたび訪れ、ぬくもりをむさぼった。
 あまりの恐怖に、どうにかなってしまいそうなのだ。

 アイドルとして、とても脇が甘く危うい状態であったに違いない。
 しかしあの人は、そんな私になにか言うこともなく、ただひたすらに私に与えてくれた。
 そうして、ようやくひと月。

 仕事はしているものの、どこか浮ついている。

ちひろ「眠そうですけど、大丈夫ですか?」

楓「ええ、大丈夫です」

 嘘ばっかり。
 まだ眠りが浅く、たまにうなされることもある。
 あの人はたぶん、ちひろさんにも私の状態を話しているだろう。
 ちひろさんは、それをわかっていて気遣ってくれてるのだ。

ちひろ「……無理は禁物ですからね?」

楓「肝に銘じておきます」


ちひろ「今日は?」

楓「えっと、社長に呼ばれたので……」

 社長が「ちょっとお話がありますので」と、相変わらずのはぐらかすような言い方で私を呼びつけた。
 たぶん、あの人もいるだろう。
 すると。

凛「おはようございます……あ、楓さん」

楓「凛ちゃん、おはよ」

凛「楓さん、今日仕事でしたっけ?」

楓「ん? えっと、社長に呼ばれて、ね」

凛「え?」

楓「え?」

 凛ちゃんはちょっと驚いている。

凛「楓さんも、ですか?」

楓「凛ちゃんも?」

 お互いの顔を見合わせ、そして腑に落ちた。
 なるほど、例のツアーがらみだろう。おそらく。

楓「ふふっ、楽しみね」

 そう作り笑顔で応えると、凛ちゃんは複雑そうな顔をする。

凛「え、ええ。楽しみですけ、ど」

凛「楓さん、大丈夫ですか?」

 彼女はそう言った。

 年明けの例の件から、私の様子をあの人の次によく知っている凛ちゃんだ。
 本当に心配で仕方がないのだろう。

楓「こうして仕事もこなしてるし。うん、大丈夫大丈夫」

 そうは答えるものの、凛ちゃんには見透かされているだろうな。

ちひろ「寒いからこれ、どうぞ」

 ちひろさんは、難しい顔をしているだろう私たちに、ホットレモネードを出してくれる。

凛「これ、ちひろさんが作ったんですか?」

ちひろ「私は、こんなことくらいしかお手伝いできないし」

 そう言ってちひろさんは、社長室へ連絡をした。


社長「ああ、ふたりともそろったんですね。じゃあ、話をしましょうか」

 社長は部屋から出てくると、私たちを招き入れる。
 社長室にはあの人もいた。

社長「さて、おふたりのその表情を見ると、私の話がどういうものかお分かりのようですね」

 私たちふたりが呼ばれたということは、きっとそういうことだろうとは思っても。
 それは確信ではない。

社長「そうですね。ひとつは、ご想像のとおりです」

 ひとつは?
 軽い驚きを覚え口を開こうとすると、凛ちゃんが先に。

凛「ひとつは? ですか?」

 社長はうなずき、続きを口にする。

社長「ええ、もうひとつあります」

楓「ふたつ、ということですか」

社長「その通りです。ひとつはデュオのこと、そしてもうひとつは」

 社長は私に、左手を差し出すように向けた。

社長「高垣さんの引退について、です」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


凛「えっと……あの……」

 私の引退。
 凛ちゃんも個人的に知っていることとはいえ、なぜ一緒に。

凛「私が一緒に聞いても、いいんですか?」

社長「ええ。ここしばらくの高垣さんをサポートしてくれたのは、渋谷さんだと伺いまして」

 社長はあの人に目線を向け、あの人は軽くうなずいた。
 凛ちゃんはふたつめの驚きに、少し戸惑ってる。

凛「そう、ですか。引退、なんですね」

 そう言って彼女は目を伏せた。
 知っていたこととはいえ、社長から直接言葉にされたことで、それが近い現実であると気づいたのだろう。

楓「あの、それでいつ」

社長「まあ、それは座って話をしましょうか」

 社長は応接ソファーに私たちを誘導した。
 応接セットを囲んで、私と凛ちゃんが隣り合い、社長とあの人が向かいに。

社長「さて、と。まずなにから話をしますかね」

 社長はあの人の用意したレジュメに目を向ける。
 あの人の内線コールで、ちひろさんが飲み物を持ってやってきた。

社長「ああ、千川さんも残ってください。大事なことです」

ちひろ「わかりました」

 ちひろさんは折りたたみ椅子を出して、少し離れて座る。

社長「まず、引退の話からしましょうか」


楓「は、はい」

 社長に話を向けられ、少しどきりとした。

社長「高垣さんの活動は今年いっぱい、ということにします」

社長「そこから先は、高垣さんの自由です。おめでとう」

楓「あ、ありがとうございます」

 社長におめでとうと言われ、反射的にお礼を言ってしまう。
 決しておめでたいことではない。私のわがままで決めたことなのだから。
 ただ、それを非難することなく、ずっとフォローしてくれた事務所のスタッフには、お礼をいくら言っても足りない。

社長「渋谷さんは個人的に、高垣さんの引退のことを知ってるようですが?」

凛「ええ。まあ」

社長「では、このスケジュールは他言無用にしてもらいます」

凛「は、はい」

社長「というのも、事務所から引退について、一切の発表は行わないことにしましたので」

楓「え?」

社長「Pくん。説明して」

P「はい」

 社長が同席した中であの人が説明する。とてもやりにくそうだ。

P「本来なら、私と楓さんがおつきあいをしていることを発表するはずでした、が」

 あの人のしゃべりがこわばっている。
 内輪とはいえ、こうして自分たちが交際しているという事実を話すのは、とても恥ずかしいし重苦しい。
 でも、これはきちんとしておかないとならない。そういうものだ。

P「先般の雑誌報道、それから先方のファンによるものと思われる一連の行為があったので」

P「楓さんの今後の行動を考え、発表を避けようということを、スタッフミーティングで決定しました」

楓「どうして、です?」


凛「うん、どうして? なにもやましいことなんかないんだし」

 凛ちゃんは純粋に疑問をぶつける。
 私は正直、多少のやましさは感じるけど、でも発表できないというのもさびしい。

社長「まあぶっちゃけ言うとですね。高垣さん叩きが増えるだろう、と」

社長「それでは、事務所にとってマイナスしかありませんからねえ」

P「あちらさんの一連の行為で、女性ファン層の楓さんのイメージが、悪化してるのは確かです」

P「『恋多き女』と言われる危険が、非常に高い、と」

 あの人はとても悔しそうに言った。

凛「なんで! あっちが勝手に嘘ついてこっちが迷惑被ったんじゃない!」

凛「ひどいよ、あんまりだよ。事務所が楓さん守れないでどうするの……」

 凛ちゃんの言葉に、あの人の顔がゆがむ。

P「いや、凛の言うとおりだ。ほんとに申し訳ない」

 あの人が深々と首を垂れる。
 凛ちゃんのやり場のない苛立ちに、社長が割って入る。

社長「渋谷さん。気持ちはわかります。でも」

社長「あちらの事務所と全面対立しても、うちの事務所のほうが分が悪い」

社長「しがらみが多いとこなんですよ。許してください」

 社長にそう言われ、凛ちゃんは悔しさをかみ殺す。
 それが業界。掟に反しないすれすれなら、セーフなのだ。

社長「でも映画が派手にこけてくれましたし、少しは溜飲を下げてもらえると、私は嬉しいですね」

 あちらもかなりの製作費と宣伝費をつぎ込んだ映画は、結局封切り週以外は動員もさんざんだったらしい。
 しばらくはおとなしくしてるだろう、と。

P「ただ、ファンのイメージはまだ残ってますから」

P「楓さんにヘイトが集まることは、極力避けないとならないんです」

 誰も納得などしていない。でもそういうものだから。
 自分たちの気持ちを押し殺し、次善策で乗り切るしかない。

社長「ただ私個人もとても悔しいものですし、それなら大きな花火を上げようじゃないか、と」

社長「そして渋谷さんは、ソロとして大成したいと考えている」

社長「ですから、私はこのデュオツアーにゴーサインを出したんです」

 あの人がうなずく。

P「見返してやりましょう? いろいろなしがらみに」

社長「このツアーは、事務所の今年のメインでやります。総力戦です」

社長「渋谷さんを不動のトップに、高垣さんを伝説に」

 社長はにやりと笑う。

社長「当然、やっていただけますね?」

 言葉はいらない。
 私と凛ちゃんは、社長の一言にうなずいた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあずここまで ※

このところおまたせばかりだったので、ちょっと多めに
気がつけば11月。だらだら長くなってしまったかも

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


トレ「はい! おつかれさまです」

楓「ふう……はあ……」

トレ「だいぶ体のほうはしゃっきりしたんじゃないですか?」

楓「はあ……そう……ですか?」

 3月。私はダンスレッスンを行っている。
 ツアーのスタートは8月、ラストは12月と、スケジュールの粗組みが済んでいた。

凛「私も久々だから、ちょっときついかも」

 凛ちゃんと私はそれまで、各々の仕事をこなしながら、基礎レッスンをもう一度さらうことにした。
 スタートまで思ったほど時間はない。休む暇はない。

楓「でも凛ちゃんはさすがだね。私はもうあっぷあっぷ」

凛「そうですか? 楓さんがこんなに速いステップをこなすなんて」

楓「意外?」

凛「ふふふ。……ですね」

 基礎をもう一度、言ったのは私だ。
 凛ちゃんと一緒にやることは楽しみであり、同時に不安でもある。
 少しでも自分の弱点を克服しておきたかった。
 それと。

凛「でも、今は楓さんがいきいきしてて、好きですよ」

楓「ありがと」

 体を動かしていると、あの日の鬱々とした物事が多少吹っ切れる気がした。
 ごまかしでしかないと思うけど、少しだけやる気が出てきたのはいい傾向かもしれない。

トレ「じゃあ、クールダウンのストレッチやったら終わりにしましょう」

凛「お疲れさまでした」

楓「お疲れさまでした」


 疲労のたまった筋肉を伸ばす。

楓「くうぅ、結構ぱんぱんかも」

凛「でもずいぶん、可動域が広がりましたよね」

 自分では気が付かないけれど、確かに体の可動域が広がったような気がする。
 やっぱり。

楓「日ごろからやってないと、ダメってことね」

 歳相応の体がうらめしい。

凛「明日にヴォイスやるんですか?」

楓「ええ。さすがにこの後に発声は、ねえ」

 凛ちゃんと互いに苦笑い。

凛「じゃあ、それでは」

楓「今日もやってみる?」

凛「ええ、負けませんよ」

楓「じゃあ」

 私たちふたりは、右手を出し合う。

凛・楓「最初はグー! じゃんけんぽん!」

楓「よし! よーし! 勝ちましたわあ」

凛「……ううっ、負けた」

 私がチョキ、凛ちゃんがパー。
 夕飯の当番をじゃんけんで決めたのだった。


 話はさかのぼる。
 社長からツアー話をもらって一週間。凛ちゃんから話が振られる。

凛「楓さん」

楓「ん?」

凛「合宿もどき、しません?」

楓「もどき?」

凛「ええ、もどき」

 凛ちゃんから提案された、合宿もどき。
 トライアドの三人は、ツアー前に一週間程度一緒に生活して、お互いの意思疎通を図るようにしてるとか。

凛「楓さんと運命共同体になるんで、親睦を図りたいかな、と」

楓「私は構わないけど。親御さんや奈緒ちゃん、加蓮ちゃんに話は?」

凛「親はいつものことなんで大丈夫です。奈緒と加蓮は、まあ」

楓「あら?」

凛「言ったら、押しかけてくるんじゃないかなー、って」

 凛ちゃんは照れくさそうに言った。

楓「それはそれで楽しそうだけど、ねえ」

凛「んー、でも」

 彼女はなにか悩んでいるようだ。

楓「ところで、合宿ってどこでするの?」

凛「えっと……」

楓「?」

 凛ちゃんは私を見てもじもじしている。

凛「楓さんちでお泊り、で。ダメです?」

 ぷっ。
 凛ちゃんったら、最初からそれが目的だったのかな。

楓「ふふふっ、いいわよ。ただし」

凛「ただし?」

楓「食事は交代制で、ね?」

凛「……あー」


楓「どうしたの?」

凛「私、料理あんまり得意じゃないけど……いいですか?」

 彼女のうろたえ方からすると、本当に苦手らしい。
 しかたないなあ。

楓「じゃあ、毎回じゃんけんで。少しはできるようにならないと、ねえ」

凛「努力します」

 バレンタインのチョコ作れるくらいだから、大丈夫だろうと思うけど。
 かわいい妹には、どうやら甘い私らしい。

楓「私も手伝うから」

凛「お願いします」

 そういえば、東京に出てきてしばらく同業の子とルームシェアしてたなあ。
 ちょっと懐かしい。

楓「いつやろうか? もどき」

凛「えっと、仕事のスケジュール見て、ですかね」

楓「そうね。妥当かな」

 ふたりのスケジュールを事務所のグループウェアで確認し、凛ちゃんのマネージャーとあの人に内諾を得る。
 マネージャーもあの人も、「ああ、いつもの」と言ってオーケーしてくれた。

楓「三人の合宿って、どこでしてたの?」

凛「女子寮ですね。奈緒がいるし」

楓「そっか」

凛「あと、ご飯も出るので」

楓「……ああ」

 実に合理的というか。
 実際仕事やレッスンで疲れた後に、ご飯作りなんかしたくないよね。

 わりとすんなり決まった合宿もどきは、ふたりのスケジュールを見ながら3月に実行された。
 始まって4日目。結構楽しい。
 一週間程度の共同生活だけど、久々のルームシェアは新鮮だ。

凛「なにか食べたいものあります?」

楓「そうねえ。まあ、スーパー行ってから考えよっか」

凛「はいはーい」

 シャワーを浴びて帰る準備をする。
 さて、なにを買おうか。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

楓さんおとなげないですなw
つか、楓さんがつまみ以外のもの作ってる画が想像できない

では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


楓「それじゃ、いただきます」

凛「いただきます」

 テーブルに並ぶ夕食。棒々鶏、れんこんのきんぴら、きのこの炊き込みご飯、みそ汁。
 凛ちゃんはよく頑張っている。

楓「手際が良くなったね」

凛「うーん、慣れたのかな?」

 きんぴらは惣菜コーナーの店屋物、炊き込みご飯はレトルトの素を使ったけど。
 でもきちんと手抜きしながらできることに意味がある。

楓「あ、そうそう」

 私は冷蔵庫へブツを取りに行く。

凛「楓さん、私も」

楓「……もう」

 ストックの発泡酒を二缶、食卓へあげた。
 ぷしゅっ。
 未成年の凛ちゃんと晩酌。私は悪い大人だなあ。

凛「今日もお疲れさまでしたー。乾杯!」

楓「乾杯」

 ひとりで呑むお酒、あの人と呑むお酒。
 今こうして凛ちゃんと呑むお酒。
 それぞれ雰囲気も表情も違って、とてもいい。

凛「なんか家で晩酌するお父さんの気持ち、わかるかも」

 凛ちゃんが笑う。

楓「疲れてる時のビールって、なんか沁みるのね」

 きんぴらをつまみながら一口ごくり。

凛「ところで楓さんって、どうしてお酒呑むようになったんです?」

楓「んー、そうねえ」

 私は停止しかかってる頭を回す。


楓「おばあちゃんの梅酒、かな」

凛「梅酒? ああ、和歌山だから」

楓「まあ、それもあるけど……なんかね、小さい頃おばあちゃんちに遊びに行ったときにね」

楓「甘酸っぱいにおいがするあれが、とても気になったの」

凛「へえ」

楓「梅酒って甘いでしょ?」

凛「はい」

楓「なんかのジュースって思ったのかな、こっそり飲んで」

凛「うんうん」

楓「そのままふらふらって、リビングで寝ちゃって」

 ぷっ。凛ちゃんが噴き出す。

楓「母親には怒られたけど、おばあちゃんに『そんなにおいしかったかい』って、持たせられて」

楓「もちろん小さいうちはそれ以来飲まなかったけど、こっち来てから時々送ってくれてね」

凛「そうなんだ。じゃあ今も?」

楓「ううん。おばあちゃんはまだ元気だけど、もう漬けるのめんどくさくなったって」

凛「そっかー、ちょっと残念」

楓「私の飲んだくれ人生は、そこがスタート」

凛「いや、飲んだくれって」

楓「でも、事務所じゃそういうイメージ、でしょ?」

 凛ちゃんが苦笑いする。

凛「そうですね」

楓「そうやって構えずにみんなが接してくれるのが、うれしいの」

 この事務所に来て、自分が軽くなったような気がするのは確か。
 凛ちゃんだって、ライバルと言えばライバルだけど、戦友? いや、心友かな。
 そんな心のつながりがいっぱいあふれてる。

楓「なんか、よかったなあって」

凛「なら、私もよかった」

凛「自分がアイドルやってなかったら、普通に高校生やって普通に大学行って」

凛「あまり個性もなく、のんびりやってたかなあって思ったり」

楓「でも、それもまたいいと思うけど」

凛「うん。でも、今の刺激ある生活が楽しくて。すごく仲間に恵まれたし」

凛「もう普通じゃいられない、かな?」

 ふたり笑いあう。
 なんだかんだと、私たちはどっぷりアイドル生活に浸かってしまったのだ。


凛「こうして楓さんと合宿もどきして、よかったなあ」

楓「奈緒ちゃんと加蓮ちゃんと三人も楽しいでしょう?」

凛「もちろん!」

 凛ちゃんは満面の笑みを見せる。

凛「奈緒と加蓮がいなかったら、今の私はないって思うし」

凛「ふたりには、いつも感謝してるんだ」

 彼女たち三人をつなぐ糸は、ピアノ線ばりに強いものみたいだ。

凛「でも、楓さんと知り合って、いろいろあって」

凛「自分をもっと高めたい、って。すごく思って」

凛「三人がそれぞれステップアップする機会かなって、それで」

楓「私と組んでみた、ってこと?」

 私の問いかけに、凛ちゃんがうなずく。

凛「自分でもこんなにわがままで、上昇志向が強いんだなって、びっくり」

楓「それって必要なことじゃないかな。この仕事やってるなら」

凛「うん」

 凛ちゃんが真剣な表情になる。

凛「楓さん」

楓「ん?」

凛「ありがとうございます」

楓「んー。どういたしまして?」

凛「私、もっと上に行けそうです」

楓「そう。それはよかった」

凛「言い方は悪いですけど、楓さんを踏み台にして、もっと上まで」

楓「ん」

凛「絶対行きます」

 凛ちゃんの表情は自信にみなぎっている。
 これだ。これがうちの事務所の絶対エース、渋谷凛。

楓「私もお礼言わせて。凛ちゃんのおかげで、私は立ち直っている」

楓「ありがと」

凛「いえ」

 凛ちゃんの表情を見てると、こっちもがんばろうという気になる。
 ソロじゃないっていうのも、いいな。

楓「がんばろうね」

凛「はい」

 彼女の想いに応えよう。そして。
 自分の想いも、届けよう。
 彼女に、あの人に。すべてのファンに。

 ツアーまであと五か月。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

果実酒作りって楽しいよね

では ノシ

赤ザクロで作った果実酒はよくできましたなあ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 世間は年度末らしく、人の行き交いもにぎやか。
 プライムタイム。15秒のスポットCMに、私たちが映る。

『蒼は……好きですか?』

 凛ちゃんの声が響いた。

『蒼は……お好き?』

 私の声が続く。

『いろんなこと』『ステージ』『歌うの』『ファンのみんな』
『大好き』『きらきら』『楽しい?』『もちろん』

 私たちの短いカットがつなぎ合わされて、モノトーンの画面に流れる。
 少しの違和感とともに。

 歌が、ない。

『Rin Shibuya』『Kaede Takagaki』

 フラットラインなBGMに私たちのカットだけ。

『August 20XX ―― START』

 CMはその言葉を残して、終わる。


 さかのぼること少し前。

P「CM撮りします」

 レッスン中の私たちに、あの人が告げた。

凛「えっと、どんな?」

P「今、レッスンしてたろ?」

凛「うん」

P「それを、撮った」

凛「え?」

楓「え?」

 あの人がクスリと笑うと、ドアの向こうの人影に声をかける。

デ「どうも、お久しぶりです」

楓「あ!」

 私のデビューとなった、PVのディレクターさんだ。
 その手には、家庭用ビデオカメラ。

楓「お久しぶりです!」

デ「高垣さんもすっかり有名になっちゃって。遠い世界に行っちゃいましたね」

楓「ディレクターさんこそ……あ、監督さんって呼んだほうが」

デ「いやいや、気恥ずかしいんでやめてください」

凛「あの、こちらの方は?」

 私とディレクターさんの話に、凛ちゃんが加わる。


楓「あ、初めてだよね。こちらは、私のデビュー作を撮ってくださった監督さん」

デ「渋谷凛さんですね。はじめまして」

 ディレクターさんのあいさつに、凛ちゃんもうなずく。

凛「あ、どうも……はじめまして」

 いきなりの対面で、凛ちゃんがとまどっている。

楓「えっと。年明けに封切になった、ロードムービーの話題作、知ってる?」

凛「え? ああ、観に行った、確か」

楓「あの監督さん」

凛「え、ええ!?」

 あまりの凛ちゃんの驚きに、ディレクターさんは照れている。
 驚くのも当然だ。今話題の作品の監督さんが、目の前にいるのだから。

デ「もともとCM畑の人間なんで、困っちゃいましたけどねえ」

 ディレクターさんはそう言って笑った。

楓「ひょっとして?」

P「ええ、そうです。彼にふたりのCMを制作してもらいます」

 なんという縁だろう。
 私のスタートが彼の作品なら、私のラストも彼の作品、ということになる。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

ではまた次回 ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


 意外な再開から3日後。私たちのデュオに関するミーティングが開かれる。
 その席には、ディレクターさんもいる。

P「先日のキックオフミーティングのとおり、今月からプロモーションを開始します」

 社長やあの人も含め、事務所スタッフの主要メンバーが勢ぞろい。

凛「ほんとに総力戦なんだ……」

 凛ちゃんはそうつぶやく。

P「まずはユニット名ですが。お手元のレジュメのとおり『Bleuet Bleu(ブルーエ・ブルー)』とします」

P「ブルーエ・ブルーはフランス語で『矢車草』を意味します。濃紺色です」

P「それと、これは『Bleu et bleu』つまり『蒼と蒼』というダブルミーニングを表しています」

P「渋谷凛、高垣楓というふたりのイメージを掛け合わせ、命名しました」

凛「蒼と、蒼、か……ふふっ」

 蒼、か。なるほどね。
 凛ちゃんは小さく笑った。


P「概要はレジュメのとおりです。ツアーは8月から12月まで。フィナーレは京セラドームと東京ドームです」

P「なお、今回のデュオユニットはツアーステージのみとし、音楽番組の出演は行わないものとします」

スタッフ「えーと、音楽番組の出演なしということですが」

ス「雑誌のインタビュー等の活字記事は受けるということですか?」

P「そうなります。ユニットの音盤は基本的に流さないということです」

P「ステージオンリーが基本ですが、最終公演に限ってWOWWOWの生中継が入る予定です」

ス「CD等の販売とグッズ物販については」

P「進行中です」

ス「チケットについては」

P「グッズとの絡みもありますが、ふたりの場合それぞれのFC(ファンクラブ)があるわけではないので」

P「CGプロサポートメンバーの先行予約という形で動く予定です」

 意外なことだけど、私のオフィシャルFCというものは存在しない。
 事務所のサポートメンバーという総括したFCらしきものがあり、その会員がそれぞれ「マイアイドル」を登録し、その登録に応じた特典を受けている。
 今回はそこに乗せる形をとるみたいだ。

ス「プロモートについて、レジュメの中身以外に行う予定は」

P「ない、とは言えません。各メディアさんの要望にはある程度応じようと考えています」

 レジュメをめくる。
 今月に15秒のスポットCM。4月には新作30秒CMと雑誌インタビュー。
 8月に入るまで、新作CMを毎月制作。プライムタイムを中心に配信。

楓「ふうん」


 読んでいてわかる。
 なるほど、出し惜しみか。
 詳細をつまびらかにしない代わり、メディアの要望を受けて小出しに情報を流す。
 ウィンウィンの関係を最大限に利用する。

凛「……あざといね」

楓「でも、Pさんが好きそうなやり方よね」

凛「うん、知ってる」

 ふたり笑いあう。

ス「ユニットでの番組出演はしないとのことですが、ソロの出演は」

P「もちろんソロの出演はあります。そこでふたりにがんばって売り込んでもらおうかな、と」

 あの人は私たち二人に目線を送る。

凛「そうだね。がんばります」

楓「宣伝料はずんでくださいね?」

 スタッフから笑いが起こる。空気が弛緩した。
 しばらくの質疑応答が続き。

P「ほかになければ、社長から一言お願いします」

社長「まあ、ここにそろったメンバーの顔を見てわかるとおり、うちの持てる全力で、事に当たります」

社長「成功はすると思いますが、それではいけません」

 スタッフ全員が、社長に視線を向ける。

社長「……大成功させましょう」

 全員の表情が引き締まった。
 CMがスタートしたのは、その一週間後。
 社内で事前にお披露目をしたときの反応の良さから、絶対いけると確信していた。
 あのディレクターさんの作品だもの。

 メディアの反応は早かった。
 各媒体がネットで速報を打つ。事務所にも問い合わせが相次ぐ。
 ほどなく、『計画通り』の記者発表をセッティングすることになった。
 スタートは順調だ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

凛楓のデュオユニットについては、賛否あるでしょうが。そこはそれ、フィクションという事で
「ブルーエ・ブルー」のが正しいんでね?というご意見は伺っておきます。
ごめんよぅ、ダブルミーニングにしたかったんだよぅ(´;ω;`)

では ノシ

お待たせしました。投下します

↓ ↓ ↓


P「報道各社の皆さま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 社長とあの人、凛ちゃん、私。
 セッティングされた会見場で、デュオの説明を始める。

社長「先日、CMを先行して配信させていただきましたが、このたび弊社の新しいユニットを発表する機会をいただき、大変光栄に存じます」

社長「メンバーはこちらにおります、渋谷凛、高垣楓。ふたりのデュオユニットでございます」

社長「ご存じのとおり、両名は弊社のエースであり、今年の弊社一押しのユニットでございます」

社長「ユニットの活動につきましては、弊社担当Pよりご説明いたします。よろしくお願いします」

 社長のあいさつがあり、続いてあの人が説明を始める。

P「それではご説明いたします。まず今回のユニットについてです。お手元の資料をご覧ください」

P「ユニット名は『Bleuet Bleu』。メンバーはここにおります、渋谷、高垣、以上2名のユニットでございます」

P「ユニットは期間限定。今年いっぱいの活動となっております」

P「渋谷の活動しております別ユニットにつきましては、休止することなく並行して活動してまいります」

 時限ユニットの発表がなされたとき、会場がざわつく。

P「なお、このデュオは『ヴォーカルパフォーマンスユニット』として活動いたします」

P「弊社のイメージリーダーである、両名の歌による強力なインパクトは、きっと皆さまを虜にすると期待しております」

P「『Bleuet Bleu』は、ライヴパフォーマンスに特化した形でお送りすることにしております」

P「生のステージライヴを楽しんでいただくため、音楽番組等の出演は計画しておりませんので、よろしくお願いいたします」

 会場が大きくざわついた。当然だろう。
 テレビに出演しないアイドルユニットなんて、前代未聞だ。
 メモを取る音が、かすかに響く。


 その後もあの人の説明は続き、一段落したところで私たちの紹介がある。

凛「渋谷凛です。今回ユニットを組みます高垣楓さんとは、よきライバルとして一緒に仕事をしたいと思っておりましたので」

凛「このユニットで念願がかなったこと、大変うれしく思っています」

凛「みなさんに届けられる最高のパフォーマンスをお見せしたいと思ってます。よろしくお願いします」

 拍手が起こる。
 凛ちゃんのあいさつは淡々としているが、内に秘めた熱情を大いに感じさせるものだ。
 私も負けないように。

楓「高垣楓です。渋谷凛さんはご存じのとおり、ソロでもトライアドプリムスでも活躍している、わが社のエースです」

楓「その渋谷さんと私が組むことで、お互いの限界を超え、新たなステージが開けられればと思っております」

楓「きっとご満足いただけるステージにします。よろしくお願いします」

 私にも拍手をいただく。
 うぬぼれかもしれないけど、期待してほしいと思っている。
 自分自身、なにかが起こりそうな気がするのだ。

P「それでは、質疑応答に移らせていただきます。まずは代表の方から」

記者A「テレビ代表です。ではまず」

 質疑が始まる。
 今回の意気込みとか。新ユニットのコンセプトとか。
 無難な質問が並ぶ。

記者A「続いてテレビ出演の件ですが、計画がないということですがまったく出演しないということでしょうか?」

P「それにつきましては『Bleuet Bleu』として出演の予定がない、ということでございます」

P「渋谷、高垣。両名の単独出演はこれまで通り行います」

記者A「では、おふたりのユニットを観るにはステージで、ということですか」

P「はい。すべてはステージに存在します」

 あの人は言い切った。
 すべてはステージに。傲慢とも思えるその言葉は、自分たちの持てるものすべてをそこに投入するということ。
 決してフロックなどと言わせてはいけない。

 個別の質疑に移っても、訊かれることはステージオンリーの件。
 アイドルは画面の中にいるものだなんて、誰が決めたのだろう。

凛「もちろん私たちは、数々の番組で育てられたという意識もありますし、その恩恵を受けているとも思っています」

凛「でもその中でも、『いいものはいい』と。それは場所や時間に関係なしに、あっていいと」

凛「私も楓さんも、そこにあるのならぜひ観たいと、そう言われるくらいのパフォーマンスをお見せできれば、と」

凛「これは私たちのチャレンジです」

 凛ちゃんが気持ちを伝える。丁寧に。
 私もそう思う。

楓「凛ちゃんがすべて言ってくれました。私も同感です」

楓「私たちのすべてを。ステージにぶつけます」

 私たちの想いはほどなく記事になるだろう。
 この熱を、みんなに受け取ってもらいたい。今はただ、そう思っている。

 成功させたい。
 いや、成功させる。それだけ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

進行遅いですが、お読みいただき感謝いたします

では ノシ

少し投下します

↓ ↓ ↓


 『Bleuet Bleu』の記事は、大きな期待を持って紹介された。
 ネットにアップされて以降、いろいろな問い合わせが来ている。
 特にツアーのチケット発売時期。
 先行予約はあるかとか、ツアースケジュールはまだかとか。

 そんな喧騒の中の4月。新しい30秒CMが配信される。

凛『あなたに、沁みていく』

楓『蒼の、旋律』

 今度はインタビューカットがメインのCM。

凛『歌? 好きですよ。うん、大好き』

凛『歌で、みんなに想いを届けるの、好き』

凛『知ってほしい。私のこと』

『Starring RIN SHIBUYA』

楓『歌の力って、たぶんあると思います』

楓『私も、ファンの皆さんも、のめりこむくらい』

楓『怖いけど、うれしい』

『Starring KAEDE TAKAGAKI』

凛『私たちの色に』

楓『私たちの心に』

『Bleuet Bleu』

凛『染めたい』

楓『染め上げます』

『On August 20XX』

凛『待ってて』

楓『会いに行きます』

『START SOON』


 ディレクター自らがインタビューしてくれたものを、私たちのカットだけコラージュしている。
 相変わらずスピード感あふれる映像。

凛「映画もすごかったけど、なんか」

 凛ちゃんができあがったカットを見ながらつぶやく。

凛「自分がこういう撮られ方をするって、新鮮というか、恥ずかしいというか」

楓「うん、すごいよね」

 才能の塊そのままに組み上げられる映像。これは私たちであって私たちでない。

楓「女優、やってみたくなった?」

凛「うーん、演じるのは向いてないかも。っていうか」

凛「こういう映像が撮れるような才能、ほしかったなあなんて」

 彼女は苦笑した。

楓「映画監督、やっちゃう?」

凛「あはは! まさか!」

 大笑いした後、凛ちゃんは真剣な顔をして言う。

凛「私には、歌があるから」

楓「ん。そうね」

 私たちには、歌という武器がある。
 自分の体ひとつで、大勢を虜にする武器。

 今にもはじけそうな熱情を抑えながら、私たちふたりはレッスンへ向かった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

かっこいい映像とか、イメージを文にできる人がウラヤマシス(´・ω・`)

では ノシ

不意打ちで投下

↓ ↓ ↓


 がたーん!

凛「楓さん!」

マストレ「大丈夫か? 高垣」

楓「ふっ……はっ……はい……」

 激しいビートの曲に乗りステップを踏み続けていた私は、足がもつれて転倒してしまった。
 正直返事をするのも息苦しい。

楓「もう一度……お願いします」

 つりそうな足にこぶしで喝を入れる。

凛「楓さん。今日はもうおしまいにしよ?」

楓「ううん。もう一回……もう一回だけ」

マス「これ以上はさすがにな。後の仕事に差し障るぞ」

楓「いえ、大丈夫ですから」

 何かにせきたてられるように願い出る。
 マストレさんはやれやれという表情をみせ、私に言った。

マス「通しで一回だけだ。それ以上は許さん」

楓「ありがとう……ございます」

 私のわがままで、凛ちゃんとマストレさんに付き合ってもらっている。時間が惜しい。

楓「じゃあ、お願いします」

マス「……そうか。じゃあ通しでいくぞ」

 マストレさんが曲をかける。
 私とマストレさんのふたりの踊りを、凛ちゃんは見守ってくれる。



”I is 9th - Dimension”

http://www.youtube.com/watch?v=3uTySmdDM7A



 強烈なビートに、マストレさんの高速ステップが駆け巡る。
 ついていくのも苦しい。

楓「はあ……はあ……」

 ステップの反響音と息遣い。

マス「ラスト! 遅れるな!」

 今回はなんとか転ばずに済んだ。終わったとたんへたり込む私。

凛「おつかれさま」

 凛ちゃんがドリンクを持ってきてくれた。

マス「よし、おつかれ。明日に響かないように、ストレッチは念入りにするようにな」

楓「ありが……とう……ございます」

 床に這いつくばったままの私は、なんとかあいさつだけはこなした。

凛「楓さん、大丈夫?」

楓「ん。大丈夫、だけど……体力ないなあ、私」

凛「こんなの、私だって続けられないよ」

楓「でも、なんかね」

凛「待った」

 凛ちゃんが言葉をさえぎる。

凛「でももだってもいらない。楓さんがそうしたいんだろうから」

凛「さ、ストレッチ手伝うよ。休んだら始めようか」

 この数ヶ月で、私と彼女の関係もだいぶ近しくなった気がする。
 凛ちゃんは、私にもタメ口で話してくれる。
 だからこそ、あせる。

 私には、凛ちゃんのようなパフォーマンスを見せられない。魅せられないと言うべきか。
 でも『Bleuet Bleu』は、ヴォーカル『パフォーマンス』ユニットなのだ。
 高い次元のステージを期待されていることは、わかる。

 今からがんばったところで、付け焼き刃なのは想像に難くない。
 でも、そこに妥協するのはイヤなのだ。


楓「私もいい加減、意地っ張りだよなあ」

 ふたり一組で、ストレッチをこなしながらぼやく。

凛「楓さん、今さらそういうこと言う?」

 凛ちゃんはくすりと笑った。

凛「だから、私も負けたくないって思うんだけどね」

凛「私も頑固者だし?」

楓「そうね、ふふっ」

 似たもの同士。なんとなくそういう気にもなる。
 でなければ、同じようにあの人を好きになったり、しないだろう。

凛「ほんと、本番が心配」

楓「まだ先だけどね」

凛「ええ? そんなこと言ってると、すぐそこに来ちゃうんですからね?」

楓「だーいじょうぶー。凛ちゃんが支えてくれるし?」

凛「年下をあてにするって、どうなのかなあ」

楓「ふふふ」

凛「ふふふ」

 疲労のたまった体もほぐれてくる。もう少し。

凛「がんばろうね」

楓「そうね。うん」

 しばらくは自分をいじめ抜こう。それがきっと、この先のステージへつながっている。
 彼女となら、できる。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

一応取り上げている曲を貼った方がいいかと思ってやってみました

では ノシ

お待たせしました。投下します

↓ ↓ ↓


凛「ねえ、楓さん」

楓「ん?」

凛「なんかおいしいものでも食べません?」

 レッスンの帰り道。凛ちゃんが提案してきた。

楓「そうねえ。うん。そうしよっか」

凛「ちょっと自分にごほうび、って気分だし」

 私とマストレさんとのレッスンに、凛ちゃんも結局参加している。
 ひょっとして私たち、Mなのかしら? なんて。

 疲労もピークなのだ。気持ち的に。

楓「なんかリクエストある?」

凛「んー。じゃあ、大将のお店に」

楓「あら」

 意外。もっとオシャレなお店とかあるだろうに。

凛「なんかこう、落ち着いて過ごせるとこがいいかなあ、なんて」

楓「ああ。その気持ち、わかるかも」

 お互いへろへろなのだ。これ以上気を張るようなところには行きたくない。
 そうと決まれば行動あるのみ。タクシーを拾って大将のお店へ。

大将「いらっしゃい。お? 珍しい組み合わせだなあ」

楓「そうでしたっけ?」

凛「お久しぶりです」

 大将はいつもにこやかに応対してくれる。
 ああ、これだ。この安心感。

楓「なんかこう、おいしいものを」

大将「おう、任せな」

 大将はそう言って厨房へ向かう、かと思ったら。

大将「あ、飲み物どうするよ?」

凛「えっと。私はウーロン茶で」

楓「いつもの」

大将「いつもの、ね。あいよ」


 おしぼりで手を拭きながら、凛ちゃんと会話をする。

楓「今日はまたどうしたの?」

凛「え?」

楓「大将の店なんて」

凛「んーと」

 ちょっと考え込むふりをする。

凛「Pさんが来るかもしれないし」

楓「あら、あざとい」

凛「えー。そこは策士って、言ってほしいかな?」

楓「ふふっ」

凛「ふふふっ」

 疲れた頭に浮かぶのは、あの人の笑顔。
 私たちは、お互いに同じ顔を浮かべていた。

凛「ここのところ、Pさんも大忙しだし。なかなか会えてないんじゃないかなって。楓さんが」

楓「まあ、そうだけど」

凛「少しは補給するのもいいんじゃないかなって。いらぬおせっかい」

 彼女がくすりと笑う。

凛「私も、幸せ成分のおすそ分け欲しいしねえ」

楓「そっか。うん」

楓「ありがと」

 私の言葉に、凛ちゃんのほほが染まった気がした。

大将「ほい、お待たせ」

 大将が大皿を持ってくる。中には白身の盛り合わせ。

楓「これは」

大将「さわら。あぶりにしてある」

 表面の焦げ目が、おいしそう。

凛「さわら、って?」

大将「まあ食えばわかるさ。おっと」

 大将はお銚子とぐい呑み、凛ちゃんのウーロン茶を持ってきた。

大将「これはいつもの」

楓「ふふふ、いつもありがとうございます」

大将「まあ楓さんにはお世話になってるし。それに、だ」

大将「おふたりさんの人気にあやかりたい、ってね」

凛「あ、ありがとうございます」

大将「いやあ、CM見たけど。ありゃすげえな。嫁さんもすげえって、言ってた」

 大将は私たちの事情を知ってるとはいえ、一般人。
 その大将に評価されてるってことだ。巷の評判がうかがい知れる。


大将「ま、まずはおつかれさんということで。ほれ」

 大将は私のぐい呑みにお酒を注ぐ。

凛「いいなあ。私もお酒呑みたくなったなあ」

楓「ここでは、ね。勘弁して」

凛「ん。わかってる」

 三人そろったところで。

大将「じゃ、おつかれさん。乾杯」

楓「乾杯」

凛「乾杯」

 まずは一口。
 あたりは柔らかいけど、とてもフルーティー。

楓「これは?」

大将「岩国の『五橋』って酒だ。吟醸な」

楓「すごく柔らかいですね。うん、好き」

 疲れた体にこれでは、すぐに酔ってしまいそうだ。

凛「お刺身いただきますね」

大将「おう、食え食え」

 さわらは表面があぶってある分、香ばしさが口の中に広がる。

凛「へえ、甘いんだ」

楓「魚の脂って、甘いからね」

大将「足が速いから、刺身で出せるのってそう多くないけどな」

凛「あー、やっぱりお酒欲しい! ビール!」

大将「ノンアルでよければあるぞ?」

凛「それでもいい! ください!」

 結局凛ちゃんは、ノンアルビールを注文する。
 うん、これ食べたら勝てないな。
 しばらく歓談していたら、やっぱり。

P「あれ? ふたりとも来てるし」


凛「やっぱりね」

楓「ね」

 凛ちゃんの読み通り。

凛「きっとPさんが来るんじゃないかなあ、って」

P「うっわあ。僕の行動わかりやすいかなあ」

大将「男同士で語らったって、色気ねえからな。俺は勘弁だ」

P「ええ? 大将冷たいなあ」

凛「ほら。ここに座る!」

 凛ちゃんはちゃっかり、私と自分の間をあける。両手に花だ、と。強制的に。

大将「売れっ子に挟まれて、Pも本望だろ?」

P「なんか釈然としない自分がうらめしいっす」

大将「楓さんと同じものでいいか?」

P「うっす」

 そう言うと大将は、追加のお銚子とぐい呑みを持ってくる。

P「あ、あざっす」

楓「最近かまってくれないから、さびしかったんですよ? 私たち」

凛「そうそう。Pさん成分を要求する」

P「成分ってなんだ成分って。ま、いいか」

大将「改めて。乾杯な」

P「はい。乾杯」

 あの人の少し苦々しげな横顔を、私たちは眺めていた。
 いいなあ、なんか。

P「なにふたりともにやにやしてるんだ?」

凛「ん? 別に?」

楓「別に?」

 なんかこう、あの人がいるだけで場が和む。
 言葉にはならない、漠然としたものだけど。

P「あ、そうそう。来月からツアーの曲詰めて、練習始めるから。よろしく」

凛「なにもここで仕事のこと言わなくても」

P「いや、ちょうどいいなと思っただけだし。どのみち明日にはわかることだ」

凛「なんだかなあ。しょぼーん」

 凛ちゃんは口ではそう言うけど。でも、内心は。

楓「そっか。楽しみにしますね?」

凛「ん。私も楽しみ」

 ほらね。

凛「やっと動き出すんだ。うん。楽しみだな」

 彼女の瞳に、やる気が見える。
 どんどん形になっていくことが、楽しくて仕方ない。


大将「忙しくなるのか。そりゃさびしいな」

楓「まあ忙しいでしょうけど、でも」

 大将にお礼を。

楓「ちょくちょく、顔出しますからね?」

大将「そっか。おう。待ってるわ」

凛「私も来ていいですか?」

大将「おう、どんどん来い」

 四人がお互いをいたわりあい、おだやかに過ぎるひととき。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

普通を素敵に書ける人がうらやましいですが
まあ、自分は自分らしく

次はすぐに投下したいなあ
では ノシ

またお待たせしましたorz
少し投下します

↓ ↓ ↓


 7月。来月にはツアーが始まる。
 忙しさにかまけて、事務所に来て三年になったことも忘れていた。
 私も、あの人も。

 ユニットの練習に挟まれるようにテレビ出演。それくらい、私たちはユニットメインで動いている。

奈緒「なあ、凛。あたしたちが一緒にいてもいいのか?」

加蓮「そりゃあ前に、『ふたりのやってること見てみたいな』って言ったけど」

 トライアドのふたりが、凛ちゃんに連れられレッスンスタジオに現れる。

凛「こういう時でもないと、奈緒と加蓮に見てもらえないから、ね」

 久々のトライアドでの活動。歌番組の収録から直接ここへ来たらしい。

 私と凛ちゃんのユニットは、大々的にプロモーションをかけているにしては、活動実態がつかめない。
 何をするのか。何を魅せようとしているのか。
 同僚のアイドルにすら、秘密だ。

『びっくり箱は、開ける瞬間が一番楽しいのだ』
 そんなことを、あの人は言った。
 それを、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんに見せる。少しだけ。

凛「ふたりは、私と運命を共にしている大事な友達だから」

 奈緒ちゃんが照れる。
 凛ちゃんのその言葉には、重みがある。
 その想いに、私もあの人も共感する。
 だから。

凛「ようこそ」

楓「『Bleuet Bleu』の隠れ家へ」

 私、凛ちゃん、作曲家の先生、そしてあの人。
 ひょっとしたら、仔羊二匹を前に悪辣な顔をしていたかもしれない。

 私たちの初めてのお客様。丁重におもてなしをするべきだ。

奈緒「お、おじゃましま、す?」

加蓮「なんで疑問形?」

 疑問に思うのも当然かもしれない。
 なにせあの人は、ピアノの前に座っているから。

P「ツアー開始までネタばらししないつもりだったけどなあ。でも、今日は特別、な」

 そう、このツアーの監修はあの人なのだ。
 先生と分担して、アレンジも務めることになっている。


加蓮「Pさん、ピアノもできたんだ……」

 加蓮ちゃんが凛ちゃんに耳打ちする。

凛「ん。私もこうして組むまで知らなかったけどね」

凛「一時期は音大進学も考えたんだって」

加蓮「うわあ」

奈緒「なんの話してるんだ?」

加蓮「え? ないしょ」

 奈緒ちゃんの問いかけに、加蓮ちゃんは意地悪っぽく言った。

奈緒「ええー、あたしだけハブかよ。勘弁してくれよ」

凛「奈緒。あとから、ね」

 すかさず凛ちゃんのフォロー。そのタイミングで、先生が言葉をつないだ。

作「まあ、お客さんが来たことだし? 少しやってみる?」

 さて、おもてなしの始まり。どちらから行こうか。

凛「じゃあ、私」

 速いなあ。うん、でも。
 凛ちゃんがものすごく頑張っていたこと、よくわかるから。

凛「奈緒、加蓮……聴いてね」

 凛ちゃんはあの人に譜面を渡し、ピアノ脇に立つ。



”私にだけForever - 国分友里恵”

http://www.youtube.com/watch?v=X_mtil7SODA




   途切れ途切れの 今のあなたの嘘
   問い詰めたい
   突然のget back 言い訳と優しさ
   すり替えてる

 先生とあの人の弄り、もとい、レッスンの効果か。
 凛ちゃんはすごく伸びた。
 ただでさえ、うちの事務所最強だと思っていたのに、まだ伸びしろがあったなんて。

   今頃 何しに来たの?
   強がりの一つでも言いたいけど

   Love me once again 私にだけ forever
   本気で誓えるなら側にいて

奈緒「うっわ……」

加蓮「……」

 奈緒ちゃんの漏らした一言ののち、ふたりは絶句した。
 当然だ。私もかつて絶句したのだから。

   Love me once again もう何もいらない
   光の海に抱かれあなたへと

 もともとパンチ力のある凛ちゃんのヴォーカルを、さらに発展させる。
 先生とあの人は、音域とダイナミクスを拡げることに手をつけた。

 スパルタ式学習法。凛ちゃんはそれを見事に吸収しきった。

   Love me once again 離れてた分だけ
   心は強くなるわ more than yesterday

 肉声の洪水。
 曲を終えて、凛ちゃんがにっこりとほほ笑む。

凛「……どう?」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※ とりあえずここまで ※

副業がふぅ苦行なんですって。ふふっ

ss神降臨お頼み申します(-人-)
しばらくはいろいろな曲が出たりするので、読み物としてつまらなくなるかなあ
ま、頑張ります

年内に完結しないかもorz=3
では ノシ

投下します

↓ ↓ ↓


奈緒「……」

加蓮「……」

 凛ちゃんの問いかけに、苦い顔のふたり。
 これが、今の渋谷凛。

奈緒「……ふぅ」

 奈緒ちゃんは大きなため息をひとつ吐き、スタジオの天井を見遣る。
 加蓮ちゃんは握りしめた右手を、開いたり閉じたりしていた。

加蓮「……悔しいな」

 先に口を開いたのは、加蓮ちゃんだった。

凛「悔しい?」

加蓮「うん、どうしようもなく。悔しい」

加蓮「ものすごく、置いてきぼりな気分」

 そうつぶやく加蓮ちゃんの言葉に、奈緒ちゃんが同意する。

奈緒「加蓮の言うとおり、かな。うん」

奈緒「あたしたち、三人でどこまでも行けるって、そう思ってたんだけどな」

奈緒「なんか、凛が遠くなった……」

 その言葉は、彼女たちにとって事実だろう。
 でも。

楓「ふたりとも、がっかりするのは早いんじゃ、ないかしら?」

 ここからは私のターン。
 おもてなしは、終わらない。

楓「凛ちゃん、組んで」

 歌い終えたばかりの凛ちゃんはうなずき、スタジオの中央に歩み寄った。
 手を取りあい、アブラッソ。



”Michelangelo '70 - Astor Piazzolla”

http://www.youtube.com/watch?v=UHW9aVn97u4?