男「俺の名前は『オズ』。君は?」エメラルド「……」(916)

エメラルド「……」じーっ

男「……?」

男「(もしかして警戒されてんのか?)ほ、ほら自己紹介。君の名前だよ」

エメラルド「……」じーっ

男「と、とりあえず壁に隠れてないで出てきてくれないか? 色々、君に聞きたいことがあるんだけど」

エメラルド「……れない」ぼそっ

男「……え?」

エメラルド「出れない。ていうか出たくない」

男「……(あーあ、完全に警戒されてんなこれ)」

 (まあ相手は見知らぬ男だし無理もないか。にしてもちょっとショック……)

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エメラルド「……」じーっ

男「(……こっちから近づいてみるか)そ、そんなに怪しまなくても大丈夫だって」ザッ

エメラルド「!? あ、あわわ……こ、こっち来ないでっ」ささっ

男「ちょ、そんな逃げることないだろ!? 俺は決して怪しいヤツなんかじゃないぞ、むしろこの家の――」

エメラルド「そーいうことじゃない!」

男「……? そ、“そういうことじゃない”って、何が?」

エメラルド「き、着てないのっ」

男「?」

エメラルド「だーかーらっ、着てないの! 服!」

男「……は、はぁ?」

エメラルド「……キミってこの建物に住んでるの? これキミの家?」ぺちぺち

男「そ、そうだけど。……え? それよりも何で君は服着てないの?」

エメラルド「――っ、だ、誰のせいで裸のままでいると思ってんの!?」

エメラルド「このっ、変な家がっ、こいつのせいで……っ!」げしげしっ

男「お、おい人ん家に何してんだ! ていうか家の所為で服着てないってどういうことだよ!? 意味わからんぞ!」

エメラルド「私だってわけわかんないわよ!」げしげしっ

男「蹴るの止めろって!(うわ、身体半分見えてるしっ///)」

エメラルド「……!」ぴたっ

男「……とりあえず落ち着いて。ちゃんと説明してくれよ」

男「君がその、裸でいる理由。俺ん家の所為って……一体何のことだ?」

エメラルド「その先にある湖で水浴びしてたから」

男「うん?(……湖? 水浴び?)」

エメラルド「水浴びするときは服脱ぐでしょ。だから裸なの」じろっ

男「じゃあ俺の家は関係ないじゃん」

エメラルド「あるに決まってるでしょ! キミの家が邪魔で服着れないんだからっ!!」

エメラルド「戻ってきたらいつのまにかここに変な家が建ってたの! さっきまでは何もなかったはずのここに! 
      私の着替えとか置いてあったこの場所に!」げしげしっ

男「わ、わかったから落ち着けって! 頼むからこれ以上蹴るな!」

エメラルド「じゃあはやくこれどかしてよ! この下に私の服あるんだから! それに大事な魔法石だって――」

 「あ……」

男「?」

エメラルド「……! な、なんでもない。と、とにかくこれ……はやく何とかしてよ」

男「何とかしてくれって言われてもなあ……そっか、そういうことか……」

男「大体の事情はわかった。けど俺にはどうすることもできないぞ。君には悪いけど」

エメラルド「はぁ!? な、何でよ。これキミの仕業でしょ!?」ぺちぺち

男「いやだって家とか動かせないし。あとこれ俺の仕業じゃない」

エメラルド「へ?」

男「俺も同じ気持ち。何コレって感じだよ。家が……ていうか自分が何で“ここ”にいるのかすらわかんねーし」

エメラルド「??」

男「はぁ……」

  (……我ながら今の状況下でよく落ち着いていられるなとは思う)

男(人間こういう時こそ意外と冷静になるって聞くけど本当だな)

男(あるいはこの『異常』を目の当たりにして未だ現実味が感じられないからかもしれん)

男「だけどなあ……これって夢じゃないんだよなぁ。こういうことって、マジであるんだ……」

エメラルド「……? だ、大丈夫なのキミ、さっきから何言ってるのか……」

男「この家は突然ぱっと現れたわけじゃないんだ。もちろん俺が建てたわけでもない」

男「これは俺の想像なんだけど……多分、“空から落ちてきたんだよ”」

エメラルド「……はぇ?」

男「と、いうわけで君には色々聞きたいことがあるんだけど、まずは1つ教えて欲しい」


 「あのさ、ここって……どこ?」

 (俺、『家』に帰りたいんだけど――――)


______________


男「……ウチには女物なんてないから、悪いが俺ので我慢してくれ」

男「上着だけだけど、俺でも少し大きいくらいのやつだから多分大丈夫だと思う」

エメラルド「う、うん。ありがと……」

 ごそ ごそ

男「……」

 (しっかし家ん中、見事に散らかってくれてたなぁ。月明かりが差し込んでなきゃ服なんて探せなかったぞ)

 (当然電気も通ってなさそうだし、見渡す限り一面生い茂る木々。これって森の中だよな)

男「……」

男「は、はは……ホントどこなんですかここ」

エメラルド「お待たせー」

男「……ん? お、おぉ……っ!?」

エメラルド「……ど、どうかな? 変じゃない?」

男「……! へ、変じゃないぞ、うん。結構……似合ってる、な(む、むしろ可愛い……っ!)」

エメラルド「そ、そう? 見たことない服だったから……よかった。ありがとね」ニコッ

男「う///」ドキッ

エメラルド「~~♪」

男「……!」

 (や、ヤバイぞこの子。人ん家を平気な顔して足蹴にするからどんな性格してんだよって思ってたけど……)

 (意外と素直! しかも間近で見るとメチャクチャ可愛い顔してんじゃねーか……!)

 (暗くてしかも半身だけだったとはいえ、こ、この子の裸を見ちゃったのか……)

男「……惜しいことをした」ごくり

エメラルド「?」

男「……あ。そ、そうだったスマン。さっきの質問の続き」

エメラルド「ん」

男「えーと、まず聞きたいのが“ここがどこなのか”ってことなんだけど……」

エメラルド「“ここ”って、この森のこと?」

男「あー、まあそれでも。……ついでにどこの国の森なのか教えて貰えるとありがたいかな」

男「あと一応確認なんだけどここって日本じゃねーよな? どう見ても」

エメラルド「……ニホン?」

男「そ、俺の住んでる国の名前。あれ、知らない?」

エメラルド「聞いたことないけど……ニホン? この大陸にそんな名前の国あったかな」

エメラルド「うーん、おばあちゃんにも教えて貰った記憶がない……」

エメラルド「ね、そのニホンってどんな魔法石が採れるの?」

男「はい?」

エメラルド「あ、ち、違うよ? 私は魔法石なんて、も、持ってないんだから。誤解しないで」

エメラルド「た、ただね、それを聞けばどこの国なのかもしかしたら思い出すかもーって……」あせあせ

男「……」

エメラルド「ほ、ホントよ? 持ってないんだから」ちら

男「……」

エメラルド「し、信じて」

男「……そ、そうなんだ。うん、大丈夫……信じてるぞ」

男「……でさ、ここってどこなのかな?」

エメラルド「……」

エメラルド「ここは東の大国“アメジスト”に属する辺境の森よ」

エメラルド「確かえーと、西端だったかしら。ちょうど大陸の真ん中に位置してるの。
      あ、流石に“アメジスト”がどこにあるのかくらいキミも知ってるよね?」

男「……」

男「……あのさ、ここってどこなのかな?」

エメラルド「だーかーらっ、今説明してるでしょ! もう、ちゃんと最後まで聞いてよ」

男「……」

エメラルド「ゴホン。でね、“アメジスト”にある森って聞いて、キミ何かピーンとこない?
      この森には他にも呼び名があるんだけどなぁ♪ ……何て呼ばれてるか知ってる?」

男「知らない」

エメラルド「教えて欲しい?」わくわく

男「いえ、位置はわかったんでもういいです。どうもありがとう。これで帰れます」

エメラルド「あ、や、ちょっと待って! 聞くだけ……聞くだけでいいから……っ!」がしっ

男「え、ええー……」

エメラルド「おっほん。実はこの森、正式に認められている名称はないんだけどね、
      かつて1人の“とある魔女”が住んでいたことでその存在だけは数多くの人に知られているの」

エメラルド「“エメラルドの森”」

エメラルド「人々はその魔女への尊敬と畏敬の念を込めてそう呼んでいるわ」ちら

男「……」

エメラルド「(ふふ、驚いてる驚いてる)……そうなの。何を隠そう今キミがいるこの森に、あの! 伝説の魔女! 
      偉大なる『エメラルド』が住んでいたのでしたー! キャー、素敵ー♪」ぱちぱち

男「……」

エメラルド「えへへー、驚いた?」

男「……それはもう(驚くしかないだろ……)」

 (さっきから何言ってんのこの子……ひどすぎるだろ。頭が。まったく会話にならねー)

エメラルド「ね、ね、キミも当然知ってるでしょ? 魔女『エメラルド』」

男「……ん?」

 (まてよ……<会話>……?)

エメラルド「今や伝説になってるもんねー。私の憧れの人なの……」うっとり

男「……!」

 (うわ、今気付いた! 俺この子と普通に会話してんじゃねーか! 言葉が……通じてるっ!?)

 (いや通じてるどころかこの子が喋ってるのは間違いなく日本語だぞ。俺が理解できてるんだし)

男「……え?(この子もしかして日本人?)」ずいっ

エメラルド「?」

男「……」じーっ

 (むむ、月明かりだけじゃそこまで詳しくわからないけど……この髪と瞳の色、どう見ても違うよな)

エメラルド「ちょ、ちょっと急に何? そ、そんなに見つめないで///」

男「……」

男「ジャパン」

エメラルド「?」

男「ヨーロッパ、アメーリカ」

エメラルド「??」

男「……どうなってるんだ」

 (もしかして俺の頭がおかしくなってるのか……?)

エメラルド「そういえばキミ、この森のことも知らないなんて、“ニホン”ってそこまで閉鎖された国なの?」

エメラルド「それともやっぱりアレなのかな……ここ最近の風潮。
      『エメラルド』の名前を呼ぶことさえ禁止されてる国もあるもんね……」

男「……」

男「あー、話の途中でスマン。さっき君、大陸がどうのって言ってたよね? 
 俺さ、どうやら君たちの住んでる大陸――こことは違う場所から来たみたいなんだよ」

エメラルド「……え?」

男「だからずっと黙ってたんだけど、さっきから君の言ってることがさっぱり理解できてない」

男「唯一わかるのは『アメジスト』とか『エメラルド』……宝石の名前くらいだ」

エメラルド「ほうせきじゃないわ、まほうせき。あと“アメジスト”は魔法石の名前じゃなくて国の名前よ」

エメラルド「え、ていうか“アメジスト”も知らないって……大陸と違う場所? ウソ、それ本当なの?」

男「ホント。この大陸とは違う島国から来ました。魔女とか魔法石とか、そんなファンタジーが実在しない国」

エメラルド「……! す、すごい……は、初めて会った。大陸の外から来た人なんて……!
      す、すごいすごい! どおりで何も知らないはずだわ! キャー、初体験♪」

エメラルド「そっか、そっかぁ……空から落ちてきたとか言うからてっきり……でもそうよね、
      あんな家を動かす強大な魔法を人目も気にせず使うなんて。……いや、でもまさか……」ぶつぶつ

男「おーい」

エメラルド「じゃ、じゃあキミって魔法石を持ってる人がいても通報したり、魔女狩りなんかもしないわよね?」

男「しねーよ! いつの時代の話だそれ!?」

エメラルド「ほっ、よかったぁ」

男「うわー! もう意味わからん! 魔法石って何、魔女って何、キミは誰、ここはどこなんだああああっ!!」

エメラルド「ふっふーん、キミがこの大陸の人間じゃないならもう隠す必要はないわね」

エメラルド「私の名前は『エメラルド』。偉大なる魔女の名を継ぐ正当後継者」

エメラルド「ゆくゆくはその名に恥じぬよう立派な魔女になるため日々精進中!
      ……伝説の『エメラルド』はね、私のおばあちゃんなの♪」

エメラルド「キミの名前は? 最初に会ったとき何か言ってた気がするけど」

男「……」

 (こ、これってまさか……空から落ちてきたって……“そういうことなのか”?)

 (いやいやいや、そんな馬鹿な話あるわけ……あるわけ……い、家が……)

エメラルド「キミの名前!」

男「あ、ああ……お、俺は、俺の名前は『オズ ケイスケ』」

エメラルド「んー、じゃあ『オズ』でいいかな? ふふっ、オズ、歓迎するわ」


 「美しくも不思議な魔法石が輝く大陸――――『ブリリアント』へようこそっ!」



______________


エメラルド「……げ、元気出してよ。気持ちはわかるけど」

男「家が……家が……」ぶつぶつ

エメラルド「ね、大丈夫よ。だってほら、キミはこうして無事でいるんだもの。きっと帰れるわよ」

男「地球じゃない……異世界……」ぶつぶつ

エメラルド「……(う、うーん、どうしよう)」

エメラルド「ち、違う世界かぁ、魔法石のない世界。私も一度行ってみたいなー、オズの住んでる国」

男「……そ、そうだ! その魔法石、魔法だよっ!」

男「君の言ってることが本当なら今、俺の前でその魔法とやらを使って見せてくれよ! 魔女なんだろ!? 
 俺はな、この目で確かめない限り魔女とか魔法とか、そ、そんな話は一切信じねーからなっ!」

 (あ、俺涙ぐんでる……)

エメラルド「んー、残念。今は無理」

男「ほ、ほら見ろやっぱり使えないじゃん! は、はは、そりゃそうだよな、魔法なんてあるわけ……」

エメラルド「ちーがーうーの。オズは勘違いしてるわ」

エメラルド「確かに私は魔女よ。けどね、だからといって魔法石なしで魔法を使うことはできないの」

男「じゃ、じゃあその魔法石とやらをはやく!」

エメラルド「……あのね、キミ。もう忘れたの? あれ」くいっ

男「あ」

エメラルド「そうよー、あそこには私の大事な魔法石も下敷きになってるんだからね、もう」

男「……」

男「そ、そもそも魔法石って何? さっきからその言葉を口にしてたけど」

エメラルド「魔法石はこの大陸で採れる石のことよ」

エメラルド「すっごく綺麗な色をしてて透き通っていて……眺めてるだけでも思わず魅了されちゃう不思議な石」

エメラルド「各地方、国によって採れる魔法石は異なっていてね。色、形、性質、そして匂いも様々」

エメラルド「例えばこの“アメジスト”で採れる魔法石なんかは紫の色をした独特の結晶体で、
      魔法石としては愚か、錬成されていない石のままでも装飾品や調度品として人気が高いわ」

男「……錬成?」

エメラルド「そ、錬成。採掘された魔法石もそのままの状態では魔力を発揮することができないの」

エメラルド「魔法を使うためには膨大な時間、卓越した技術、そして『共鳴する魂』を石に注いで錬成することが
      必要でね、それらを可能とするのがこの大陸で唯一、私たち『魔女』の一族のみってわけ」

エメラルド「その代わり錬成後の魔法石さえあれば別に魔女じゃなくったって、誰でも魔法を使うことが可能。
      つまりオズ、キミだって魔法使いになれるんだから♪」

男「お、俺が魔法使いに……?」

エメラルド「ふっふーん、どう? ちょっと魅力的な話なんじゃない?」

男「それは……まあ、そうかな(確かに魔法とか、魔法使いとか、そういうのに憧れていた時期もある)」

男「――じゃなくてっ! 俺は家に帰りたいんだよ! こことは違う世界にっ!」

男「魔法の存在に魅力感じてる場合じゃないんだって!」

エメラルド「お、オズが聞いたんじゃない……だから答えたのに」

男「う、うう……頭が、どうにかなりそう(ヤバイ、本気で泣けてきた)」

エメラルド「……っ、そ、そんなに落ち込まないでよ。家に帰れないなんて、まだ決まったわけじゃないじゃない」

男「……」

男「俺の住んでる世界には魔法とか存在しねーんだ」ぼそっ

エメラルド「え?」

男「君の言ってることが本当なら、この世界は存在しないはずなんだよ! あり得ない世界! 
 そんなトコからどうやって元の世界に帰れっつーんだよっ! う、うぅ……」 

エメラルド「そ、存在するからキミはここにいるんでしょ! しっかりしてよ!」

エメラルド「いい? 落ち着いて。確かに私はオズの住んでる世界がどこにあるのかなんてわからないけど、
      キミは実際ここに来てるの。なら逆にどうして帰れないなんて思うの?」

男「……」

エメラルド「オズの住んでる世界とこの世界。片方からは行けたのに片方には帰れないなんて、
      そんなの理屈に合わないわ。要はその行き来する手段の問題じゃない?」

男「しゅ、手段っつったって、こっちに来た経緯すらあんま覚えてねーんだよ。気ぃ失ってたから」

男「突然家が揺れたのは覚えてるんだけどな。そのまま部屋の壁にぶつかったのか意識なくしてたみたいで、
 目ぇ覚ましたときにはすでにこの森に着いた後だった」

 (意識を取り戻す直前、僅かに感じた浮遊感。あれはジェットコースターに乗ってるときの感覚に似ていた)

 (そして直後、あの叩きつけられたような衝撃――)

男「家ごと地面に落ちてきたのは間違いねーんだけどなぁ……」

 (それがわかったからって家に帰れるとはとても思えん)がっくり

エメラルド「……」

エメラルド「じゃあ誰か知ってる人を探すとか」

エメラルド「この大陸にもたくさんの人が住んでるんだから、誰か1人くらいオズの住んでる世界のことを
      知ってても不思議じゃないわ。帰る方法だって見つかるかもしれないわよ?」

男「……どうやって探すんだよ。無理に決まってんだろ」どんより

エメラルド「……“どうやって探す”?」

エメラルド「じゃあ聞くけどオズは“どうやって”家に帰るつもりなの? まだ何もしてないのに、
      最初から無理って決め付けて可能性を捨てて、一体この後どうするつもりなの?」

男「そ、それは……」

エメラルド「こんな所で落ち込んでるだけじゃ一生家には帰れないわよ」
      
男「……!」

エメラルド「オズの気持ちを考えたらすっごく無責任で酷なことを言ってるなって自分でも思う」

エメラルド「でもね、オズ。私が言いたいのは『可能性』を探すことを諦めないでってことなの」

結構改筆してる?

エメラルド「元の世界に帰れる可能性はゼロなの? オズが勝手にそう思い込んでるだけなんじゃないの?」

エメラルド「諦めたらその時点で可能性はゼロよ。だからお願い、無理だなんて言わないで。ね?」

男「……」

エメラルド「と、とりあえず都に行ってみたらどうかしら。人も多いし」

エメラルド「まずはそこから始めれば、意外とすぐ見つかったりして。オズの住んでる世界のこと知ってる人」

男「……」

エメラルド「……」

男「……都」

 (いわれてみれば、そうだ……確かにエメラルドの言う通りだ)

 (まだ家に帰れないと決まったわけじゃない。そうだよ、何を諦めてるんだ俺っ!)

男「可能性か……探さなきゃ、確かにゼロだな……っ!」ぐっ

 (情けねぇな、初めて会った女の子に勇気付けられるなんて)

男「エメラルド!」

エメラルド「は、はいっ!?」どきっ

男「都……その都にはどうやって行けばいいんだ? 頼む、教えてくれっ!」

エメラルド「お、オズ……! う、うん! そうそう、その調子よ♪(よかったぁ……!)」

エメラルド「えへへ、じゃあ一緒に都まで行こっかー。……あ、でも今日はもう夜遅いけど、どうする?」

男「む、そ、そうだな」


??「おーい、あったぞー! 見つけた、ここだ!」


男「!?」 エメラルド「!?」

??「例の建物らしきものを発見! 隊長、こちらですっ!」

男「……な、何だ? 誰か来たみたいだぞ? それも1人じゃないっぽいけど」

エメラルド「あわ、あわわ……た、多分都の兵士たちよ。誰かが通報したんだわ、きっと」

エメラルド「か、隠れなきゃ……っ! オズ、見つかったら大変よ、キミも隠れてっ!」

男「え……な、何で? 都の兵士ならちょうどいいじゃん。事情を説明してそのまま案内して貰えば」

エメラルド「……! そ、それはそうなんだけど……でも……」

??「誰かいるみたいだぞ!」

エメラルド「……っ!」

 ダッ

男「お、おい、エメラルド!? 何で逃げ――」

??「おい、貴様っ! ここで何をしているっ!」

??「隊長! やはり人がいました、男が1人です!」

 ザッ

アメジスト国警備隊隊長「……」

男「あは、あはは……ど、どうもこんばんはー……」

隊長「……」じろっ

男「……!」

隊長「……近隣の住民から、この森で激しい衝撃音があったとの通報を受けた。見たところ……」ちら

隊長「どうやらこの家らしき建物が原因みたいだが、これは貴様の仕業か?」

男「え、ええ、まぁ……俺の仕業っていうか、仕業じゃないというか……」

隊長「……」

隊長「その珍妙な格好……この国の者か? この場所で何をしている。答えろ」 

男「は、はい。……えーとですね、まず……俺はこの国の人間ではありません」
 
男「というより『ブリリアント』……でしたっけ? とは違う国から来たみたいなんです」

兵士「……?」

 ざわ ざわ

隊長「……『ブリリアント』とは、違う国?」

男「そ、そうです。次にですね、“この場所で何をしているのか”という質問なんですが……」

男「実はそのことについて考えていたというか、むしろ俺がそれを教えて欲しいくらいで。あは、あはは……」

隊長「……?」

男「と、とにかくっ、起こったことをありのまま説明するとですね」

男「実は俺、理由はわかりませんが空から落ちてきたみたいで……ここにある家ごと、
 気付いたらこの森にいて。……ホント自分でもよくわからないんです。なんでここにいるのかも……」

男「ホントなんです、信じてくださいっ! 俺の住んでる国、日本っていうんですけど誰か知りませんか!?
 誰でもいいんです、知ってる人……お願いですっ! 俺、家に帰りたいんです!」

 ざわ ざわ ニホン? 聞いたことないぞ ヒソ ヒソ

兵士「……た、隊長」

隊長「……」

隊長「今の話だが、2つ疑問に思うことがある」

男「な、何でしょうか」

隊長「1つ目。……貴様、先ほど『ブリリント』の名を口にしたな」

隊長「異国から来たという貴様が何故この大陸の名前を知っている。答えて貰おう」

男「……! そ、それは……」ちら

 (エメラルドのやつ……逃げたってことは、何かワケがあるってことだよな……)

男「それは、その……お、俺たちの国でも『ブリリアント』の名は結構有名なんですよ」

男「魔法とか、魔法石とか、俺たちの国にはそういうのなくて。だ、だからみんな憧れてるっていうか……」

男「た、ただ詳しい場所とか知らないんで、俺みたいなヤツは滅多に来ないと思いますけどね」

男「俺自身、さっき言ったようにどうやってここまで来たのかはわかんないですし。はは……」

隊長「……」

隊長「2つ目。その“どうやって来たのか”、だが。そこにある家ごと空から落ちてきたと言っていたではないか」

男「そ、それはそうなんですけど……」

隊長「そんな馬鹿な話があると思うか?」

隊長「この大陸の人間ならまだしも、貴様、今自分の国では魔法石がないとも言ったな」

隊長「魔法石なくして、魔法を使わずして、どうやってこの家が宙に浮くというんだ!」

男「知るかよっ! 俺が聞きたいくらいだ!」

隊長「!」 兵士「……!」ざざっ

男「あ……す、すいません」

男「け、けどホントに知らないんです……何で家が浮いたのか、何でこんなとこに来ちゃったのか……」

男「記憶がないんで……俺にもわかりません。答えられません」

隊長「……」

兵士「た、隊長……」

隊長「むぅ……(記憶がないだと? この男、確かに嘘を言っているようにはみえんが……)」

 (しかし、魔法も使わずこれ程大きな家を浮遊させるというのも信じられん話だ)

隊長「……」

隊長「……今の話、完全に疑うわけではない。が、信じるに足る話ではないこともまた事実」

隊長「悪いが貴様を一旦、都まで連行させて貰う。詳しい話はそこでゆっくり聞こう」

男「な……っ!」

隊長「おい、この男を捕縛しろ! 残りの者は建物内を捜索、怪しいものがないか徹底的に調べろ!」

兵士「はっ!」ざざっ

男「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
 
 (た、確かに都には行きたかったけど、こんな犯罪者みたいな扱い……!)

兵士「大人しくしろ!」ぐいっ

男「……っ、は、離せよっ!」ばっ

兵士「……! て、抵抗するか貴様っ! おい、手伝え!」

 ザザザザッ

兵士「貴様っ、大人しくしろ!」ぐぐっ

男「ぐ、ぎ、ぎ……は、離せ……っ!」

兵士「このっ、まだ抵抗する気か……っ!(こ、コイツ、なんて力だ……!)」ぐぐぐっ

エメラルド(お、オズ……! ど、どうしよう、どうしよう……)おろおろ

男「ぐぬぬぬ……っ!」

兵士「ぬ、ぬおおおお……っ!」

隊長「……お前たち、数人がかりで何をしている。さっさと捕まえろ。フザケている場合ではないぞ!」

兵士「そ、それが……コイツ、とんでもない力でして……!」ぐぐぐぐっ

兵士「き、貴様ぁ……抵抗して、後でどうなるか……わかっているのか……っ!」ぐぐぐぐっ

男「ぐ、だ、誰が大人しく捕まるか……お、お前らこそ……」

男「離せっつってんだろーがっ!!」ばっ

兵士「!? う、うわあっ……!?」

 ドサ ドサ ドサドサッ

男「……え?」

エメラルド「……へ?」ぽかーん

隊長「……!!」

兵士「お、おい大丈夫かっ!」

兵士「う、ぐうぅ……っ」

男「……な、何だこれ?(お、俺こんなに力あったっけ……)」ぽかーん

兵士「た、隊長……気をつけてください。この男、尋常な力じゃ……ぐ、痛ぅ……」

隊長「……!(あ、あの体躯で鍛えられた兵士数人をなぎ払っただと!?)」
 
 (馬鹿な。この俺でも無理だ、信じられん。この力……まさかこの男……)

隊長「……全員剣を抜いて囲め!」

 ザザザザッ チャキッ

男「う……」

隊長「そのまま距離を置け。気をつけろ、もはや一個人が相手だと思うな」

隊長「お前たちも見ただろう、あの膂力。この男……“トパーズ”産の魔法石を所持している可能性が高い!」

 ざわっ

兵士「と、トパーズ産……っ!」ざわ

兵士「で、ではこの男が言っていた“家ごと空から落ちてきた”というのは……」

隊長「うむ、まさかとは思っていたが……“トパーズ”の<力>なら合点がいく」

 ざわっ

隊長「だとすればかなり厄介な相手だぞ……(我々だけで抑えることができるか……)」

  (くそっ、こちらも魔法石の使用を女王陛下にお許し願うべきだった!)

兵士「……っ」じりじりっ

男「う、うぅ……(おいおい、ウソだろ……丸腰の相手に武器かよ。しかもこの人数って)」

 (さ、流石にヤバすぎる……っ! 抵抗しないほうがよかった……)がくっ

隊長「……やはり貴様は嘘をついていたな。異国から来たなどと……たわけたことを!」

男「ウソじゃねーよっ! ホントなんですって! お願いだから信じてくれっ!」

隊長「黙れっ! 魔法石を無許可で所持している可能性がある以上、どの道貴様は連行される身だ!
  それとも貴様、使用許可状を持っているというのかっ!」

男「持ってないから……頼むよ……っ」

隊長「俺が合図を出す。一斉にかかれ。もし<力>を使うようであれば……かまわん、殺せっ!」
 
 チャキッ カチャ カチャ

男「お願い、します……ウソなんかじゃ……」

兵士「……っ!」ごくり

隊長「――」すっ

隊長「よし! 今だかか――」


エメラルド「ダメーーーーーーーーーーーーっ!!!」




隊長「!!」 兵士「!?」

男「……!?(え、エメラルド……!)」

エメラルド「だ、ダメっ! ダメなんだから! そ、その人に乱暴なことしないでっ」がたがた

エメラルド「その人の言ってることは本当よ! 彼は魔法石なんて持ってないわ!」がたがた

 ざわっ

隊長「……誰だ貴様。こんな所で何をしている」じろっ

エメラルド「ひ、ひ、光らなかったじゃない、彼の体……!」がたがた

隊長「!」

エメラルド「ま、魔法を使ったなら光るはずよ! 体のどこかにある魔法石が……輝くはずでしょ!」

エメラルド「あの強い輝き、どんなに隠そうとしたって隠しきれるものじゃないわ。
      いい年齢した大人がこんなに集まって、何でそんな簡単なことに気付かないのよっ!」

隊長「……!」 

 ざわ ざわ 確かに 光らなかったぞ それより誰だ ヒソ ヒソ

エメラルド「そ、それにもし、さっきのがトパーズの<力>だっていうのなら……家と自分に、
     彼は少なくとも2つの魔法石を持っているってことになるわ」

エメラルド「……これがどういう意味か、あなたたちにもわかるでしょ?」

隊長「う……」

エメラルド「このご時勢、そんなことが普通にあると思う? 1つだけならまだしも、個人が2つ。
     ……しかも1つはあんな大きな家を浮遊させる程の魔法よ?」

エメラルド「そんな貴重な魔法石を所持していて、しかも人目を気にせず使う人物。
      彼がトパーズ王室の関係者だったらどうするつもりなの! 大問題よ!?」

 ざわっ

エメラルド「さ、さっき“殺す”とか言ってたけど……もしあの軍事大国を敵に回して、あなた責任取れるの!?」

隊長「う、ぐ……っ」

兵士「た、隊長……!」

隊長「と、とりあえず剣を収めろ」

兵士「はっ!」

男(ほっ)

隊長「……う、伺いたい。き、貴殿はトパーズ王室の関係者で、ありますか?」

男「いえ、違いますけど」

隊長「……! ど、どうだっ! 本人が違うと言っている!」

エメラルド「だーかーらっ! その本人が自分は異国から来たって言ってるでしょ! 魔法石も持ってないって!」

エメラルド「何でそれは信じてあげないのよ!」

エメラルド「いい? 私がさっき言った“彼がトパーズ王室関係者の可能性がある”って話、
      きっと女王様だって同じことを懸念されるに違いないと思うんだけど」

エメラルド「あなた今回のこと、女王様にどう報告するつもりなの?」

隊長「そ、それは……」

エメラルド「本人が自分は異国から来たと必死に訴えていましたが“信じませんでした”。
      ただ彼がトパーズ王室関係者であることを否定したのは“信じました”のでご安心下さい」

隊長「……」

エメラルド「魔法石は輝いていませんでしたが、彼は魔法を使っていたに違いないので“命を奪いました”」

エメラルド「――とでも報告するの?」

エメラルド「こんな筋の通ってない話、女王様が聞かれたらどうお思いになられるかしら。きっと激怒されるわよ?」

エメラルド「……まさか、ウソの報告なんてしないわよね?」

隊長「ぶ、侮辱する気か貴様っ! 嘘の報告など、できるわけがないっ!」

エメラルド「そりゃそうよね、“例の魔法石”がある限り女王様に嘘は通用しないもの」

隊長「そういう意味ではないっ! 俺はこの国に、女王陛下に忠誠を誓っているのだ!」

隊長「その女王陛下に偽りの報告をするなど……決して許されることではないっ!!」

兵士「た、隊長……!」じーん

隊長「ぐ、ぐぅ……っ! し、しかし先ほどの異常な力といい、家のことといい、一体どう説明すれば……!」

エメラルド「ありのままを説明すればいいじゃない。今さら何よ」

エメラルド「この大陸にだって、あんなにたくさんの魔法石――不思議な石があるんだから、
      外の世界にはまだまだ私たちの知らない不思議があるってこと! ただそれだけ」

エメラルド「現に彼は私たちの目の前にいるじゃない、異国から来た彼が」

男「……」

エメラルド「こーんな不思議なこと目の当たりにしちゃったら、異常な力とか、家が浮いたとか、
      それが何? って感じ。例えそれが魔法じゃなくてもね。ちっとも驚くことなんてないわ」

エメラルド「ね、オズ♪」ニコッ

男「……!」どきっ

 タタッ

兵士「た、隊長! 大変ですっ!」

隊長「……? どうした」

兵士「報告します! 先ほどから建物内を捜索していましたところ……こ、このような物を発見しました!」

隊長「!? こ、これは……っ!」

男「?」

隊長「これは……魔法、石……なのか?」ちゃら

 ざわっ

兵士「はっ、我々もこれを発見したときには驚いたのですが、この質感、透き通るような美しさは
   間違いありません! 魔法石かと!」

兵士「た、ただ……」

隊長「……見たことのない色をしている」

兵士「そ、その通りです! 我々もこのような色をした――『緑』の魔法石を見るのは初めてです!」

エメラルド「……!」

隊長「……貴様、これは一体どういうことだ」じろっ

隊長「自分は異国から来たと、魔法石など存在しない国から来たと、そう言っていたではないか!」

男「(またこのパターンかよっ! め、メンドくせー)……はあ、だってそれ魔法石なんかじゃないですから」

男「俺たちの国では『宝石』って呼ばれてるただの装飾品ですよ」

 (ホント、ただの宝石。親父が結婚記念日だかなんだかでお袋に買ってあげてたネックレスだし)

隊長「とぼけるな!」

男「とぼけてねーよっ!」

男「あ……じゃあさ、そんなに魔法石ってことにしたいなら、それで魔法使って逆に証明してくれよ」

男「この大陸じゃ魔法が使えるんでしょ?」

隊長「……それは無理だ」

男「はぁ?」

隊長「当たり前だろう。俺はこの魔法石に込められている魔力の内容を知らないのだからな」

隊長「第一、このような色をした魔法石を見るのは初めてだ。『特性』すらわからん」

隊長「そもそも錬成されている石なのか……」じっ

 (この見事なまでに均一に磨かれた楕円形。一応錬成されているようには見えるが、確実にはいえん)

 (それこそ魔女でない限り判断はつかないだろう)

隊長「……」ごくり

 (……そ、それにしても美しい。この美しさ、これこそが魔法石である何よりの証拠ではないか)

エメラルド「……」

 (私にはわかる……あれは間違いなく魔法石だわ。で、でも、何でオズがアレを……)ぎゅっ

男「……ん?(見るのが初めて……?)」

男「! そ、それって俺が外の世界から来た証明になりませんか?」

隊長「?」

男「だって、あなたたちはその宝石を見たことがないんでしょう? つまりこの大陸には存在しない石です」

男「それを俺が持っていた。……どうです? これこそ異国から来たという動かぬ証拠じゃないですか」

 ざわ ざわ

隊長「……」

兵士「た、隊長。実は建物内にはこの他にも、確かに我々が初めて目にする物が多数見受けられました」

隊長「何っ!?」

兵士「さらにあの建物自体、どうもこの大陸には存在しない物質で造られているようなのです」

兵士「もしかしたら、この男の言っていることは本当なのかも……」

隊長「な……っ、ば、馬鹿者っ! 何故それをもっと早く報告せんのだ!」

この人たちがザ・ゴールデン・ジュビリーを見たらどうなるのっと。

男「――ね、言った通りでしょ」

隊長「う」

男「ちなみに、さっきは無理やりだったから抵抗しましたが、ホントは俺も都に連れて行って欲しいんですよ」

男「誰か俺の住んでる世界のことを知ってたり、帰る方法を知ってる人がいないか探したいんです」

男「だからお願いします。俺の話を信じて、都まで案内してください!」

 ざわ ざわ

エメラルド「連れて行ってあげればいいじゃない! これ以上彼の話を疑うものなんてないでしょ!」

エメラルド「それに女王様だって、その緑の魔法石をご覧になられたらきっと彼に興味をお持ちになるわ!」

男(……へ? 女王様?)

隊長「むむむ……た、確かに……っ!」

 (性別が男、すなわち明らかに魔女ではない者が魔法石を所持していたとしても
 女王陛下が直接お会いになられることはない。我々の行う取調べだけで十分だ)

隊長(だが今回は違う。この魔法石……あの小娘の言うように、恐らく女王陛下はこの男に
   会いたいと申されるだろう。そうなるとこの場の判断で勝手に処分を下すのは……非常にマズイな)

隊長「……ふむ」

 (それに女王陛下がお会いになられるとすれば、異国から来たという話の“真偽”もはっきりする)

男「……」どきどき

隊長「……よしわかった。貴様を都まで連れて行ってやろう」

男「ほ、ホントですかっ!? あ、ありがとうございます!!」

隊長「その代わり、この魔法石は暫くの間、我々が預からせて貰うぞ」

男「あ、後で返していただけるなら……(ていうか魔法石じゃないって)」

エメラルド「よかったぁ……オズ、都に連れて行って貰えてホントによかったねー」ぐすっ

男「……」 

隊長「……」 

兵士「……」 

 シーン

エメラルド「……ん?」

隊長「……心配するな、貴様も一緒に連れて行ってやる」

兵士「……」がしっ 

エメラルド「へ?」

男「ちょ、ちょっと待ってくださ――」

隊長「よぉーし! それでは全員、都に引き上げるぞーっ!」


エメラルド「ぎゃーーーーーーーー!!」




______________

アメジスト国警備隊屯所・宿舎

男「ふぅ」ぼふっ

男「……」

 (疲れた……)

男「やっと落ち着けたぁ……どんだけ長い夜だったんだよ。今日だけで色々ありすぎだろ……」


男「……」


男「はぁ……(しっかし、冗談じゃないっつーの)」ごろん

 (突然変な世界に来ちゃったかと思えば、魔法とか、魔法石とか……危うく殺されるとこだったし!)

男「なんだって俺がこんな目に……くそっ」

 (こんな危ない世界、いつまでもいるわけにはいかないぞ。マジではやく元の世界に帰らねえと)

男「……」

 (とは言ったものの、ホントに見つかんのかなぁ……知ってる人。ていうかいるんだろうな?
 ……もし見つからなかったり、そもそも帰る方法がなかったとしたら……)

男「……!」ぞくっ

 (いやいや考えるな、探す前から悲観的になってどうする。エメラルドも言ってただろ、可能性はゼロじゃない)

 (そうだよ、大丈夫だって。現に俺はこの世界に来てるわけだし、逆に帰れないってことは……多分ないはず)


男「……」


 (う、うぅ……けど、それでも……流石に不安だよな……)じわ

男「(帰りたい……親父やお袋、クラスのみんながいる世界に……)はやく、帰りてぇ……」ぐすっ

 コン コン

男「……? あ、はい。どうぞ」ごしごし

隊長「失礼します!」がちゃ

男「……」

隊長「先ほどは大変失礼致しました。まずは森で我々が働いた貴殿への数々の非礼、
   隊を代表してお詫び申し上げます。どうか、お許し下さいっ!」ぺこ

男「い、いえ……なんとか無事だったので、大丈夫です。もう気にしてません」

男「むしろこちらこそ、寝床を用意してくれてありがとうございます」

隊長「……」

男「あの、それで……他に何か?」

隊長「……はい。実は森での出来事を城に報告したところ、やはりと言いますか、
   女王陛下が貴殿の話に大変興味をお持ちになられまして」

隊長「緑の魔法石のことも含め、貴殿にお会いして直接話を聞きたいと申されております」

隊長「つきましては明朝、貴殿を城までご案内するようにと仰せつかっておりますゆえ、
   何卒ご理解頂きたくここに参った次第」

男「……! 女王様が、俺に……?」

隊長「ご心配召されるな。我が国の女王陛下は心お優しき方、それも大変聡明でいらっしゃいます」

隊長「貴殿が異国から参られたという話もご承知のゆえ、帰国の件につきましても
   必ずやお力添えを頂けるに違いありません。……ですのでどうかご安心を」

男「……」

男「女王様、か……」

 (確かに、街に出て闇雲に人を探すよりはまず国の一番偉い人に話を聞いて貰ったほうがよさそうだな)

 (それにこの人の言うように、お願いすれば人探しも手伝って貰えるかもしれん……むしろ願ったりだぞ)

男「……わかりました、明日お会いします。女王様に、どうかよろしくお伝えください」

隊長「はっ!」

男「……」

男「あ、あの、1つだけ聞いてもいいですか?」

隊長「?」

男「その、俺と一緒に連れてこられた女の子のことなんですけど」

男「今、どうしてるのかなって。……もしかしてヒドイ目にあわされたりとかはしてないですよね?」

隊長「……あの娘に関しては、この後すぐにでも取調べを行う予定です」

隊長「通常の場合ですと、魔法石を所持しているかどうかさえ確認できれば
   後の処分・手続きは簡単なのですが、あの娘の場合は本人が女であること、
   そしてあの時間、あの森に1人でいたという疑問点があります」

隊長「仮に魔法石を持っていなかったとしても十分怪しい。魔女である可能性が極めて高いのです」

男「……魔女……」

――私の名前は『エメラルド』。偉大なる魔女の名を継ぐ正当後継者――

男「……」

男「も、もしあの子がその……魔女だった場合、どうなっちゃうんですか?」

隊長「『ブリリアント』では現在、魔女を見つけ次第即刻処分する決まりとなっております」

男「しょ、処分って……まさか、殺すとか……?」

隊長「その通りです」こく

男「……! そ、そんな……(エメラルド……俺を助けてくれたばっかりに……!)」

男「あ、で、でも! どうやったら魔女とかわかるんです? 本人が違うって言ったら……」

男「まさか拷問とか、無理やり口を割らすような乱暴なことは……しないですよね?」ごくり

隊長「……そういう手段を用いる国も確かにあります」

隊長「ですが、我が“アメジスト”ではそのようなことはしておりません。というより……必要ないのです」

男「……?」

隊長「ふふっ、貴殿が何故あの娘の心配をされているのかはわかりませんがご安心くだされ」

隊長「魔女である可能性がある者には決して手荒な真似はするなと、この国では女王陛下に厳命されています」

隊長「その者が魔女であるかどうかの判断は女王陛下の手によって行われますので……」

男「……女王様ならわかるんですか?」

隊長「ええ、確実に」ニヤ

男「……それで、もし魔女だとわかった場合は……」

隊長「先ほども申し上げましたように、即刻処分することになりますな」

男「……!」

隊長「(ふふ……)まぁ、あの娘のことよりもご自身の心配をされたほうがよろしいかと」

隊長「貴殿も見知らぬ土地へ来てなにかとご不便なこともあるでしょう、これからが大変だと思いますぞ」

男「……」

隊長「それでは明朝の件、確かにお伝えいたしましたので私はこれにて失礼します」

隊長「……貴殿が無事、国許へ帰れるよう願っておりますぞ。では」

 バタン


男「……」


 (そんな……エメラルド……)

 
 (俺の所為で……エメラルドが……)

 
 (俺の所為で……)

 
 (俺が……)


 ズキッ

男「うっ」

男「た、助けねえと……」

 (女王様に……お願いして、命だけは……)

 ズキッ

男「う、うぅ……」

 (す、救って……貰うよう……)

 ズキッ

 (お、お願い……して……)

 ズキッ

男「ぐ、うぅ……!(あ、アイツだけは……)」

男「エメラルドだけは……」

男「俺が、助け……ねえ、と……」ふらっ

 ドサッ

男「……」

 
 (…………)





―――― 必ズ救ウノダ、『オズ』ノ名ニカケテ









______________

翌朝

男「……ふぁ~……」

 (……昨夜はいつの間にか寝ちまってたな。床に寝転がってた所為か身体中が痛い)

 (せっかくベッドも用意されてたのに……やっぱ相当疲れてたのか)

男「……」

男「むぅ、それにしても……」きょろきょろ

 (女王様に会うっていうから、なんか謁見の間みたいなすごい場所を想像してたけど……)

 (意外と普通の部屋に通されたぞ。それに……机の上に置いてあんの、これって食器だよな)

 (なんだろ、料理でもご馳走してくれんのかな。……そういえば昨夜から何も食べてなかった)ぐぅ~

 シーン

男「……」

 (ま、まだか。流石に緊張してきた……!)

男(大丈夫なのか俺、こういう時の礼儀作法とかまったく知らねえぞ)

 (も、もし知らず知らずの内に女王様の気に触るような無礼な振る舞いとかしちゃったら……)

男「……!」ぞくっ

 (や、ヤバすぎるっ。俺さっき欠伸とかしちゃったよ……腹も鳴ったし、き、気をつけねーと)

 (家に帰りたいとか、エメラルドを助けてくださいとか、お願いする前に首が飛ぶぞ……!)

 ガチャ

男「!!」びくっ

??「……」

男「……?」ちら

??「……」ニコ

男「……!(き、来たっ! 女の人……こ、この人が……っ!)」

 ツカ ツカ

男「あ……(た、立たねーと!)」がたっ

??「あ、宜しいのですよ。どうぞそのままお掛けになって」

男「い、いえ、あの……は、初めまして! お、俺、『オズ ケイスケ』といいます!」

男「本日は、えと、し、城にお招きいただきまして誠にありがとうございます!」

??「……あらあら、いけませんわね。お客様に先にご挨拶などをさせて……大変失礼致しました」

アメジスト「私、東の国“アメジスト”を統治しております、『クイーン・アメジスト』と申します」

アメジスト「さぁ、どうぞお掛けになって下さい、オズ殿」ニコ

男「は、はい……」

アメジスト「……」すっ

男「……(こ、この人が女王様……)」ごくり

男(想像してたイメージと全然違う。国のトップっていうから、もっと年齢のいってる人かと思ってた)

  (この物腰と口調、女王様なだけあって確かに落ち着いた雰囲気はあるけど……若い、見た目が若すぎる)

  (……何歳なんだろ。これ下手すると俺とそんなに変わらないんじゃないか?)

男「……」ちらちら

アメジスト「ふふっ、どうかなさいましたか?」

男「あ、い、いえ(……聞けるわけがない。ていうか! ジロジロ見ちゃダメだって!)」

アメジスト「本日はこのような朝早くからお呼び立てして申し訳ございません」

アメジスト「昨夜に至っては、我が国の警備隊の者たちが大変無礼を働いたとかで……」

アメジスト「こちらも合わせてお詫び申し上げます」ぺこ

男「きょ、恐縮です」ぺこ

アメジスト「さて、早速なのですが……」

アメジスト「聞くところによりますと、なんでもオズ殿は異国からいらっしゃったということですが?」

男「はい、その通りです」

アメジスト「……私といたしましても、そのような方をお迎えするのは初めてのことでして」

アメジスト「寝耳に水と申しますか……正直、そのお話を素直に受けきれていないというのが実情なのです」

男「……」

アメジスト「加えて、お預かりしておりますこの緑の魔法石」チャラ

アメジスト「すでにお聞き及びかと存じますが、こちらの魔法石に関しても我々が目にするのは
      初めてのことでして、何故オズ殿がこの魔法石をお持ちになられているのか……」すっ

男「……(指輪?)」

 カッ !!!

男「……っ!?(う、っく……眩しい……っ!!)」

アメジスト「……失礼」

アメジスト「ですが、この2点についてもう一度お聞かせ願えないかと思い本日はお招きした次第なのです」

アメジスト「さあ、オズ殿……お願いします。お話を、この魔法石の前で……」

 「――――この輝きの前でもう一度!」

 ぱぁああああああ……

男「……!(こ、この光は……まさか、使ってんのか……魔法!?)」

アメジスト「……ええ、その通りです」

男「!?(な、何で……! 俺、今喋って……)」

アメジスト「ふふっ、喋らずともわかるのですよ?」

男「……!」ぞくっ

アメジスト「ですが、喋っていただいたほうが“伝わり易い”のは事実です。さあ、どうぞお話を。オズ殿」ニコ

ご迷惑おかけしております。もう暫くお待ちくださいm( )m

>>26
ここまでの改筆は予定にはなかったのですがついつい……><

>>49
「でけええええええっ!?」ってなりますw 
ただし異国から来た証明にはなり得ない、ですねー


前スレkwsk

______________


男「――――で、、意識が戻った時にはもうすでにあの森の中にいた、って感じなんです。
  その後の経緯については女王様もお聞きになっているかと思うのですが……ど、どうでしょうか」

アメジスト「……」

アメジスト「……なるほど。確かにオズ殿の仰っていることは全て事実のようです」

男「信じて貰えましたか!!」がたっ

アメジスト「ええ。お話の内容と思考に齟齬はなく、よって嘘偽りはまったく見受けられませんでした」

アメジスト「もっとも、お考えになられていることさえ伝わればそれで十分でしたので」ニコ

男「い、今のってやっぱり……(俺の心を……)」

アメジスト「はい。仰るとおり、『読心』の魔法を使わせていただきました」

男「……独、身?」

アメジスト「心を読む。『読心』です」ぴく

男「あ、ああ……ですよね(そっちか……)」

アメジスト「……“そっちか”、とは?」ぴき

男「!? いやいやいや! ちょ、すいません! なんか勘違いしちゃっただけで!」

 (え、ウソ、なんか地雷踏んだ!? まさかこの人……!)

アメジスト「……!」
 
男(ていうかその魔法はもう止めてくれ! 違う世界から来たことは十分伝わったはずだぞ!)

アメジスト「……」

――フッ

男「ほっ(光が消えた)」

アメジスト「……」

男「は、はは……」たらー

アメジスト「……コホン、『心を読む』魔法です」

アメジスト「魔法に関してはオズ殿も多少の知識はお持ちのようですが、その前提となる魔法石については
      なにかご存知ですか?」

男「えーと、魔法を使うにはまず魔法石が必要で、さらにその魔法石も……確か錬成でしたっけ、
  みたいな作業をしないと魔法が使えない云々の話を昨夜少し」

アメジスト「その通りです。では魔法石の特性についてはいかがでしょうか?」

男「い、いえ全く」

アメジスト「……この大陸に存在する魔法石には産地(色=種類)によって異なる特性があるのです」

アメジスト「通常、魔法石を錬成する際には個別・具体的な魔力、すなわち使用したときに現れる
      魔法の効果を設定することが必要となりますが、その内容は錬成者――魔女と呼ばれる
      者たちの無限の裁量によって行われるわけではありません。それぞれの魔法石、
      各特性に従った内容の魔力を込めなければ錬成は成功しないといわれています」

男「ふむ……」

アメジスト「例えば、我がアメジスト領内でのみ採れますこの紫の魔法石。その特性は<伝達>」

アメジスト「魔法の効果といたしましては主に遠く離れた場所での会話、風景、その他様々な出来事の
      伝達を可能にさせることが挙げられます」

アメジスト「これら<伝達>の魔法によって収集された大陸中のあらゆる情報、すなわち知識を武器として
      この国は大国と呼ばれるようにまで成長を遂げることができました」

男「……なるほど(情報が武器、ね)」

アメジスト「先ほどオズ殿に使用させていただきました『心を読む』魔法ですが、これも正確には
      オズ殿の思考の<伝達>を受けたに過ぎないのです」

男「“過ぎないのです”って……いやいや十分すぎるのでは(ていうか凶悪すぎだろ)」

アメジスト「くすっ、ですわね」ニコ

アメジスト「私が把握している限りでも、人の思考にまで影響を及ぼす<伝達>は未だ他に聞いたことがありません」

アメジスト「我が国の『秘法石』。これを錬成した者の卓越した技術、独自性のある発想を窺い知ることができます」

男「あ……これを錬成した人……」

アメジスト「?」

男「その人も魔女なんですよね?」

アメジスト「……そうですが、それが何か?」

男「い、いえ、そんなすごい魔法石を錬成することができる人たちを……」

男「な、なんで捕まえたりしてるのかなぁ、って……」ちら

アメジスト「……」

男「……殺すとも聞きました」

アメジスト「……」

アメジスト「この大陸ではそう決まっているから。……いえ、“私たち”が法によってそう定めたからです」

男「……っ、だからっ、どうしてですか」

アメジスト「魔女の存在が『ブリリアント』に混乱をもたらすから……とでも申しておきましょうか」

アメジスト「もっと言えば彼女たちが錬成する魔法石――魔法の存在が、です」

男「……?」

アメジスト「……怪訝な顔をされるのも無理はありません」

アメジスト「確かに魔法の存在は長きに渡りこの大陸に住む人々に多大な恩恵を与えてきました」

アメジスト「事実、この国も魔法による助力なくしてここまで成長することは叶わなかったでしょう」

アメジスト「ですが……一方でその魔法が人を魅了し、異常なまでの独占欲、支配欲を駆り立てる。
      それが原因となり、一部の人間による凄惨な魔法石の奪い合いが繰り広げられてきたことも
      また事実なのです」

アメジスト「歴史上、そういった争いがそのまま国家間を巻き込む争いにまで激化した事例も少なくはありません」

男「つまり、戦争……?」

アメジスト「……」こく

アメジスト「ですからそのような事態を未然に防ぐため、魔法石の管理を厳格に定める必要があったのです」

アメジスト「現在、魔法石の保有・管理は各国によって一任、王室によって一元化されており、使用の際は
      当該産地国の王室が発行する女王捺印の入った許可状を得ることが義務付けられています」

アメジスト「また、装飾品など嗜好品として扱われている『未錬成の魔法石』についても同様」

アメジスト「こちらにつきましても錬成後の魔法石か否かの判断は魔女でなければできませんので、
      当然所持は一括して禁止。石は発見次第、すべて没収となっております」

男「……」

アメジスト「おわかりですか? 各国の女王が自国の事情も考慮しつつ協議を重ねた結果、やっと完成した大陸法」

アメジスト「それをたった1人の魔女が新たに魔法石を錬成することによって全て台無しになるのです」

男「だからって、なにも殺さなくても……」

男「じゃ、じゃあ“魔法石を錬成したら罰せられる”みたいな法にするとかはダメだったんですか?」

アメジスト「……無理です」ふるふる

アメジスト「彼女たちは古来よりそれで生計を立てていましたから、今さら魔法石を錬成するなと
      言われても大人しくそれに従うとは思えません」

アメジスト「錬成された魔法石があればどのような重い刑罰を科したとしても手にしようとする者が
      必ず現れます。その逆もまた然り。需要さえあれば、彼女たちもきっと……」

アメジスト「争いの原因――魔法、魔法石。……元凶である魔女はすべて排除しなければならないのです」

男「そ、そんな……食ってく術を奪われた上に、保護もされず……ただ殺される?」

男「それも、自分たちの錬成した魔法石の恩恵を受けてたヤツらに……?」

男「……っ、無茶苦茶すぎやしませんかっ!?」ばんっ

アメジスト「……」

アメジスト「無茶苦茶……ですか」

 (それくらいのことはわかっています。そもそも……)

 (この法自体が表向きに取り繕われたものに過ぎないのですから――)



――……はぁ? 命は奪うな国で保護しろだぁ? いきなりなに言い出すんだいクイーン・アメジスト――

――なんの為だよ冗談じゃない。第一、その保護する金をどっから出すっつーんだ、うちはゴメンだよ。
   あんな薄汚い連中を食わしてやってくメリットがないねえ――

――それともなにか、あんたんとこが金出してくれるってのかい? ええ? ポッと出の新興国さんよぉ――

――私も『クイーン・サファイア』と同意見ですわ。『ブリリアント』にどれだけの魔女がいると思っているのです――

――それに手厚く保護したところで彼女たちは口を割りませんよ? “喋らぬであれば殺される”、
   その恐怖を植えつけなければ。この法の目的、『本来の趣旨』をお忘れなきよう――

――感情に走るのはお止めなさい若きクイーン。亡くなられた母君はもっと話のわかる方でしたよ?――



――……ふぁ~~……――




アメジスト「……っ」ぎゅっ

 (今思い出しても悔しい……)

 (あの時……この国に、私にもっと力があれば、ここまでの悪法には……っ)

男「……?」

アメジスト「……とにかく、これは私の一存で決めたことではありません。各国了承済みの大陸法です」

アメジスト「失礼ですが、異国からいらっしゃったオズ殿にこれ以上異論を唱えられる筋合いはありませんので」

男「そ、それは……そうなんですけど、でも……(それじゃエメラルドが……)」

アメジスト「……」

 (そう、確かにあの時は力がなかった。あの3人、いや、2人に対抗し得る力が……)

 (でも今は違う。あれから国は成長を遂げ大国と呼ばれるようになった。発言権も増した)

 (それに、切り札が……今まさに切り札となり得る状況がここに転がり込んで来ている……!)

アメジスト「……(問題は……)」ちら

男「?」

アメジスト(このことをどう切り出したものか……ですわね)

アメジスト「……」

アメジスト「それはそうとオズ殿、お預かりしておりますこちらの『ほうせき』なのですが――――」

 コン コン

男「……?」

アメジスト「……」

男「あ……ど、どうぞお構いなく」

アメジシト「……申し訳ございません。――中に」

 ガチャ

隊長「失礼しますっ!」

男「お(警備隊の隊長さん)」

アメジスト「……一体どうしました。今お客様がお見えになられているのですよ?」

隊長「は、はっ! ですが至急、女王陛下のお耳に入れなければならないことがございまして、
   その……同時に確認といいますか、そちらの方が恐らく関係していることかと」

男「?」

アメジスト「何のことです?」

隊長「おい、入れ!」

 スッ

エメラルド「……」

男「……!(え、エメラルド……!)」

アメジスト「その子は確か……昨夜の」

隊長「はい、我々がそちらの方と接触した際、現場の森にいた娘です」

アメジスト「……その子が何か?」

隊長「はっ、実は取調べにおきまして身体を改めましたところ……この娘、なんと魔法石を身につけておりました」

隊長「それも驚くことに、そちらの方がお持ちになられていた魔法石――緑の魔法石とまったく同じ物です!」

男「!?」

アメジスト「なんですって!?」がたっ

隊長「こちらが娘の所持していた魔法石です」ちゃら

アメジスト「……! た、確かに。周りの意匠は若干異なりますが石そのものはオズ殿が
      お持ちになられているこの『ほうせき』と全く同じ色……」

アメジスト「これは……魔法石……?」

男「……!(マジかよエメラルドのやつ、全然気付かなかった……!)」

 (家の下敷きになったっつーから、てっきり全部……!)

アメジスト「……この石はどうしたのです」

エメラルド「……」がたがた

アメジスト「この石は一体どうしたのかと聞いているのです。お答えなさい」

エメラルド「……」がたがた

アメジスト「……」

アメジスト「……取調べでは何か喋りましたか?」

隊長「いえ、それが全く口を割りません」

隊長「それどころか名前、住んでいる場所、あの森にいた理由、その他一切について黙秘を続けている状態です」

アメジスト「……なるほど」

アメジスト「名前くらい答えなさい。黙っていても私にはすぐわかるのですよ?」

エメラルド「……」がたがた

男(エメラルド……あんなに怯えて……)

――私の名前は『エメラルド』。偉大なる魔女の名を継ぐ正当後継者
   ……伝説の『エメラルド』はね、私のおばあちゃんなの♪――

――元凶である魔女はすべて排除しなければならないのです――

男「……っ」ぎゅっ

隊長「女王陛下の御前だ、質問にお答えしろ! 名前は!」

エメラルド「あ……う……」がたがた

アメジスト「……(使ったほうが早そうですね)」すっ



男「トト」



アメジスト「……え?」ぴた

隊長「?」

男「……『トト』です。その子の名前は『トト』。昨夜森で会ったとき俺にそう言ってました」

アメジスト「……『トト』?」

男「確かそうだったよな、トト。あれ、違ってたっけ?」

エメラルド「え……あ……(お、オズ……?)」おろおろ

男「(こら、そこは素直に頷いとけ!)ちなみにその緑の石、『宝石』は俺がこの子にあげたものです」

アメジスト「……あげたもの? オズ殿がですか?」

男「はい。俺があの森に家ごと落ちてきたのはさっき説明した通り、女王様もご存知のはずですよね?」

アメジスト「え、ええ」

男「あの時、ちょうどその時間、トトは湖で水浴びをしていた最中で……これが彼女があの森に いた理由
  なんですが、偶然にも彼女の着替えが置いてあった場所に家が着地したみたいなんです」

男「当然彼女は困りました。けど俺たちの力じゃ家を動かすことはできない」

男「だからその代わりとなる服と、迷惑をかけたお詫びとして宝石を彼女にあげた、とまぁこういうわけなんです」

男「ほら、彼女が着ている服。どう見たって俺の着てるやつと同じ感じの服でしょ? その宝石だって同じ、
  2つとも俺のもの。ていうか片方はトトにあげたものなんで、彼女に返してやってください」

アメジスト「……」

隊長「へ、陛下、実は我々もそうではないかと思い、その確認の為、娘をここに連れて来た次第なのです」

訂正
>>85 以下に変更

男「(こら、そこは素直に頷いとけ!)ちなみにその緑の石、『宝石』は俺がこの子にあげたものです」

エメラルド「!?」

アメジスト「……あげたもの? オズ殿がですか?」

男「はい。俺があの森に家ごと落ちてきたのはさっき説明した通り、女王様もご存知のはずですよね?」

アメジスト「え、ええ」

男「あの時、ちょうどその時間、トトは湖で水浴びをしていた最中で……これが彼女があの森に いた理由
  なんですが、偶然にも彼女の着替えが置いてあった場所に家が着地したみたいなんです」

男「当然彼女は困りました。けど俺たちの力じゃ家を動かすことはできない」

男「だからその代わりとなる服と、迷惑をかけたお詫びとして宝石を彼女にあげた、とまぁこういうわけなんです」

男「ほら、彼女が着ている服。どう見たって俺の着てるやつと同じ感じの服でしょ? その宝石だって同じ、
  2つとも俺のもの。ていうか片方はトトにあげたものなんで、彼女に返してやってください」

エメラルド「……!」

隊長「へ、陛下、実は我々もそうではないかと思い、その確認の為、娘をここに連れて来た次第なのです」

アメジスト「……」

アメジスト「つ、つまりオズ殿は警備隊と出会う以前にこの子と面識があった、ということなのですね?」

男「ええ、そうです」

隊長「我々が現場に着いたときにはすでにその場を離れていたようですが、森での会話を
   聞く限りでは確かにそういう口ぶりでした(オズ、と名前も呼んでいたはず)」

アメジスト「……なるほど。お話の筋は通っています。特に不自然な点も見当たりません」

アメジスト「ですが、何故このことを……トト、貴女は取調べの際に説明しなかったのですか?」

エメラルド「そ、それは……」

男「無理に決まってるじゃないですか。この後自分がどうなるのか考えたら……普通怖くて何も話せないでしょ」

アメジスト「……どういう意味です?」

男「だって、殺されちゃうんですよね? 魔女は。……だから怯えてるんですよ」

アメジスト「……?」

隊長「?」

男「言ってましたよ、彼女。“自分は魔女だー”って」

アメジスト「は?」 隊長「は?」

エメラルド「!?」

男「いやでもこれって女王様ならすぐわかることなんですよね? だったらこれ以上隠しても意味ないぞ、トト」

エメラルド「……!」

隊長「お、おい! 彼の言ったことは本当かっ!?」

エメラルド「あ……あ……」がたがた

アメジスト「ど、どうなのです?」

エメラルド「う……ひっく、は、はい……」こく

アメジスト「……!」 隊長「……!」

男「ね、言った通りでしょ」

男「自分が魔女だってバレそうなときに、そんな他人から貰った石の説明をしてる場合じゃないですって」

エメラルド「う、うぅ……ひぐ、ぐすっ、うえええええええん」ぽろぽろ

男「……(すまん、エメラルド)」ぎゅっ

 (こうするしかなかったんだ。伝説の魔女の孫であるお前じゃダメ、それじゃきっと助からない。
  助命をお願いするなら一介の魔女、『トト』でいてもらわねえと)

 (一番怖いのはこの人に『読心』を使われて全てバレること。……だったら、情報はこっちから与える!)

 (これなら魔法を使う理由がなくなるはずだ! なんせ本人が魔女だって認めてんだからな!)

アメジスト「う……こ、これは……」たじ

男(そして今しかないっ! なんでもいい……使えるものは使って、あとはお願いするのみ……っ!)

男「――女王様っ!」

アメジスト「は、はいっ!?」どきっ

男「……お願いしたいことが」

アメジスト「……? な、なんでしょう」

 ガバッ

男「率直に言います。ここにいる魔女を……トトを見逃してやって貰えないでしょうか!!」

アメジスト「!?」 隊長「!?」 エメラルド「!!」びくっ

男「お願いします! もちろんタダでとは言いません!」

男「もし見逃してやっていただければ俺が持っている宝石のうち、1つはすでに彼女にあげたもの
  なのでもう片方……最初に預けていた宝石を女王様に差し上げます!」

アメジスト「!? な……っ、そ、それは本当ですかっ!?」

隊長「へ、陛下……!」

アメジスト「あ……い、いえ……」ちら

アメジスト「で、ですが、何故急に……? どうしてオズ殿が彼女の助命を……」

男「当然です。それは彼女が……俺の命の恩人だからです」

アメジスト「い、命の……恩人?」

男「はい」こく

男「昨日の晩、もし彼女が助けてくれなかったら俺は危うく警備隊の人たちに殺されるところでした」

隊長「う」ぎくっ

男「あの時彼女が出てきた意味。それがどんなに勇気ある行動だったか、あなたたちにわかりますか?」

男「こんな魔女狩りみてーなことが行われてる状況で、それでも彼女は自分の身を省みず俺を救ってくれたんです」

男「捕まったら自分が殺されるってのに……っ」ぎゅっ

エメラルド「……」じわ

男「あなたたちにとってはただ捕まえて殺すだけの対象かもしれませんが、俺にとっては大切な命の恩人。
  その恩人が命を奪われそうってときに、俺だけ黙って指くわえてるわけにはいかないんですよ! 人として!」

アメジスト「……!」

男「だからもう一度お願いします! その宝石と引き換えに彼女を助けてやってください! この通りです……っ!」

エメラルド「オズ……」ぽろぽろ

男(頼む……っ!)

アメジスト「……」

隊長「へ、陛下……」

アメジスト「……警備隊長、外してください」

隊長「は、はっ! ……し、失礼します」

 バタン

アメジスト「……」

男「……」

アメジスト「オズ殿、頭をお上げ下さい」

男「……」すっ

アメジスト「……オズ殿が彼女を救おうとする理由はよくわかりました」

アメジスト「魔女とはいえ、1人の恩人。……なるほど、確かにそうですわね」

アメジスト「そのお気持ち、熱意と誠実さを備えた訴えは私としても決して無下にできるものではありません」

アメジスト「さらにトト、貴女のとった勇気ある行動。こちらも賞賛に値する、1人の人間として
      大変尊敬すべき行為であったといえます。よくぞオズ殿の危機を救ってくれました」

エメラルド「……」ぽろぽろ

アメジスト「その若さで錬成経験があるのかどうかはわかりませんが……今後、
      二度と魔法石を錬成しないことを私の前で誓えますか?」

エメラルド「……? そ、それは……」

男「……っ、トト! 約束するんだっ!」

エメラルド「!!(びくっ)……は、はい……ち、誓い、ます……」こく

アメジスト「……オズ殿。先ほど仰いました『ほうせき』の件、これを間違いなく私に頂けるのでしょうね?」

男「と、トトの命を救っていただければ」

アメジスト「……(願ってもない申し出……)」

 (むしろこちらが譲渡の願いをどう切り出そうか思案していたところ……まさかあちらから持ち出してくれるとは)

 (これさえあれば……5日後の会議で……)ニヤ

アメジスト「わかりました。その申し出に応じましょう」
     
アメジスト「この『ほうせき』と引き換えに……彼女を、『魔女』トトを不問といたします!」

男「!? ほ、本当ですかっ!?」がばっ

アメジスト「ええ、本当です」ニコ

 (もとより断るつもりは……そもそも魔女の助命など、私の前では必要ありませんから。ふふっ)

男「……! や、やった! やったぞエメ――(じゃなかった)トト! 助かったぞ!」

エメラルド「あ……お、オズ……」ぽろぽろ

男「よかったなぁ、トト。ずっと言いたかったんだ……あのとき、森で助けてくれてありがとう」

エメラルド「あ、う、うぅ……わ、私……私も、ありが、と……」ぽろぽろ

エメラルド「ありがと、オズ……助けて、くれて……オズ、う、う、うわああああああああああん」ぎゅっ

男「……だから、お礼を言うのは俺だって。……ありがとな(エメラルド……)」なでなで

______________


アメジスト「……トト? どうしました? 貴女も召し上がっていただいて宜しいのですよ?」

アメジスト「昨夜の取調べでお腹も空いているでしょう。さ、遠慮なさらずに」

エメラルド「は、はい……ありがとうございます」ぐぅ~

アメジスト「……ですが、気を失っていらしたのでは無理もありませんわね」

男「ええ、困ったことに。それが原因でどうやってこの世界に来たのか、その経緯がさっぱりなんです」

男「それさえわかればある程度の解決方法を探れるはずなんですが……」カチャカチャ

エメラルド「……」じーっ

アメジスト「魔法を使用せず家が宙に浮くというのも確かに不思議な話です」

アメジスト「私自身、ニホンという国の名前を耳にしたことはありませんが、一度城の者たちにも聞いてみましょう」

男「助かります」

アメジスト「それで、オズ殿はこの後どうなさるおつもりなのですか?」

男「一旦人の多い街に出て色々情報を集めるつもりです。誰か俺の住んでる世界のことを
  知ってる人がいないか。……今のところそれくらいしか」

アメジスト「それでしたら私もお手伝いを」

アメジスト「手の空いている者たちを使ってそちらに関する情報収集に当たらせることにします」

男「ほ、本当ですか!? それ、すっごく助かります!」

アメジスト「ですがかなりの時間を要すると思っていただいたほうが」

アメジスト「なにぶん外の世界の情報に関してはこれまで一度も取り扱ったことがありませんので……」

アメジスト「その点を考えますと、オズ殿もしばらくはこちらで生活することになると思いますが」
 
男「……はい、実はそのことについてもどうしようかなと」

アメジスト「ふふっ、ご安心下さい。それでしたら当面の生活資金は私がご用意させていただきましょう」

男「えぇ……っ!?」

アメジスト「誤解なさらずに。いくら私がクイーンを名乗らせていただいているとはいえ、
      国のお金を私的に使うつもりはありません。すべて私の個人資産から、です」ニコ

男「……! じょ、女王様……!」

アメジスト「あとは食事や気候、文化の違いといった問題があると思いますが……どうか
      オズ殿がこの世界を気に入っていただけますよう」

アメジスト「せっかくいらしたのですから♪」

男「あ、ありがとうございます……俺、失礼なこといっぱい言ったのに……ここまでしていただけるなんて……」

アメジスト「あら、私は気にしていませんわよ」

男「……! ありがとうございます! 本当に……ありがとうございますっ!!」

 (……っ、こんなに善い人だったとは……!)

アメジスト「……ふふっ、それよりも気になっていたのですが、トト?」

アメジスト「先ほどから一向に手をつけていないようですが、もしかして苦手なお料理がありましたか?」

エメラルド「あ……い、いえ、あの……」びくっ 

男「?」

エメラルド「ご、ごめんなさい……その、私……使い方が、わからなくて……」

アメジスト「あ……」

男「お、お前、ひょっとしてナイフとフォークの使い方知らないのか?」

エメラルド「……」こく

男「え……普段はどうやって食べてるんだ?(まさか箸とかなわけねーよな)」

エメラルド「いつも、は……スプーンとか、木の枝で食べてる……」

男・アメジスト(……木の枝!?)

男「い、いやでも大体でわかるだろ……ほら、こうやって」

エメラルド「で、でも……女王様の御前だし、も、もし変なことしちゃったらって……思って……」

アメジスト「よ、宜しいのですよ。私も気付きませんでした。どうぞスプーンをお使いになって」

アメジスト「そ、それと鉄串を用意させます」

エメラルド「あ、ありがとうございます……」しゅん

男「う……(お、俺も気ぃ使ってやればよかった。可哀想なこと言っちゃったな)」

エメラルド「……」

アメジスト「あの森にいたそうですが……普段はこの国で生活しているのですか?」 

エメラルド「は、はい」

アメジスト「住んでいる町はどちらに?」

エメラルド「ず、ずっとあの森で暮らしてます……ずっと……家も、ないので……」

アメジスト「……!」

男「い、家がないって、お前……マジかよ(……あんな何もなさそうな森で?)」 

エメラルド「……」

アメジスト「……」

アメジスト「そういえば、あの森にちょうど新しい家が建ちましたわね」 ぼそっ

男「……え?」

アメジスト「そうでした、オズ殿にもう1つ」

男「?」

アメジスト「今回、特例ではありますが、オズ殿が我が国の王室関係者である旨の書状を発行いたします」

男「……重ね重ね感謝します。ホント、これ以上なんてお礼を言っていいのやら……」

アメジスト「ちなみに、その書状さえあればご本人に限らず、ご一緒されている方にも十分効果は見込まれます」

アメジスト「例えば、仮にお連れの方が若い女性だったとして。その方が魔女であることを疑われたり」ちら

エメラルド「……」
      
アメジスト「魔法石を所持していないかを疑われ拘束される可能性も……格段に低くなるでしょうね」

男「……」

アメジスト「あくまで、“例えば”のお話ですけど。……いずれにせよ、あまり悪用なさらぬようお願いします」

男「は、はい……」

エメラルド「……」

アメジスト「……くすっ、しっかり守って差し上げて下さいね、オズ殿」 ニコ

訂正

>>103 10行目

アメジスト「今回、特例ではありますが、オズ殿が我が国の王室関係者である旨の書状を発行いたします。
      これさえお持ちになられていれば情報収集など、あらゆる面での活動が行いやすくなるはずです。
      ……きっとお役に立つかと」

に変更

メイド「お呼びでしょうか、女王陛下」

アメジスト「……これを」ちゃら

メイド「!? そ、それは……魔法、石……?」

アメジスト(……やはり、初見ではこの者たちでさえそう思いますか)

アメジスト「ええ、これを貴女たちに調べていただきたいのです」

アメジスト「明日からの給仕の仕事は多少疎かになっても構いません。この魔法石が錬成後の
      ものなのか、そうであるのならば込められている魔力、特性……特に腕の良い者を
      中心に総出で解析に当たって下さい」

メイド「かしこまりました」

アメジスト「それともう1つ」

メイド「?」

アメジスト「装飾を全て破壊し、石そのものが採掘直後の原石であるかのような細工を施していただきたいのです。
      こちらは5日以内、必ずそれまでに間に合うよう最優先でお願いしたいのですが、可能ですか?」

メイド「は、はい。細工自体は可能かと。ですが陛下、それですと石を変形させるということになりますので、この魔 

   法石に魔力が込められていた場合、その力が消失してしまう恐れが……」

アメジスト「! そういえば……そうでしたわね。……私としたことが失念していました」

 (一応念の為に、と思ったのですが……)

アメジスト「……」

 (この際、仕方がありませんね、諦めるしか……それにどの道異国から持ち込まれた石。
  魔力の心配は要らないでしょう)

アメジスト「……わかりました、それでも構いません。細工を優先して行うようお願いします」

メイド「かしこまりました」

アメジスト「……それにしても、残念でしたわね」

メイド「?」

アメジスト「いえ、貴女たちの仕事仲間が1人増えるはずでしたのに、ふふっ、
      異国の殿方に連れ去られてしまいましたの♪」

______________


男「ん~……疲れたぁ……」

男「でも助かったなぁ、女王様があそこまで全面的に支援してくれるなんて」

エメラルド「う、うん」

男「これで元の世界に帰る方法もすぐ見つかるといーんだけどなぁ」

エメラルド「……」

エメラルド「……あ、あのね、オズ」もじもじ

男「ん?」

エメラルド「助けてくれて……ありがとう」

男「……いいって。俺のほうこそ助けて貰ったんだ、そのお礼」

エメラルド「ま、魔法石のことも、ありがとう」

男「ああ、だってそれ大事なものなんだろ? 全然気付かなかったぞ俺。
  全部家の下敷きになったんじゃなかったっけ?」

エメラルド「これは……これだけはずっと身につけてるの。おばあちゃんの……大切な形見だから」ぎゅっ

男「……そっか。ん、ならこれからも大事にしねーとな(……あれ? 緑の魔法石って実は存在するのか?)」

エメラルド「……」

エメラルド「あ、あとね、ずっと気になってたんだけど……私の名前、どうして『トト』なの?」

男「あー……それか、スマン。服に書いてあんの見てそのまま言っただけ」

エメラルド「?」

男「お前の着てるパーカー、ほらここ。アルファベットで『トト』って書いてあるんだよ。……読めるか?」

エメラルド「??」

男「やっぱ読めねーか。ていうか読めちゃったらウソついてんのバレたかもしんねーしな」

エメラルド「……」

男「……」

エメラルド「……」

男「……」

エメラルド「……」

男「……(きゅ、急に黙るなよ……!)」

男「そ、そういやお前、これからどーするつもりなんだ?」

エメラルド「わ、私はあの森に帰って……それから、いつものように生活するの」

男「……1人で? 家族とか、仲間の魔女とかいねーの?」

エメラルド「い、いない。ずっと1人よ」

男「(……家族もいねーのかよ)……家は?」

エメラルド「な、ないって言ったでしょ」

男「……」

エメラルド「……! い、偉大なる魔女(になる予定)の私は1人でも十分なの! じゅーぶん!」

エメラルド「お、オズなんていなくてもちゃーんと生きていけるんだからっ!」

男「……」

エメラルド「……」

エメラルド「う、うぅ……で、でも魔法石が……だ、誰かさんのせいで……」ごにょごにょ

エメラルド「あ、あれがないと……私も困るっていうか、どうしてくれんのっていうか、その……」ごにょごにょ

エメラルド「お、オズが帰るまで……ちゃんと、家を見張ってなきゃ……いけないし」ちら

男「……」にやにや

エメラルド「な、なんで笑うのよ! 私の大事な魔法石が下敷きになってるんだからね!///」かぁああ

男「じゃあどうすればいいんだ?」

エメラルド「え……」どきっ

男「どうすればお前に許して貰える? 責任、とったほうがいいよな」

エメラルド「え、あ、その……許すっていうか、べ、別にオズを責めるつもりは……ないんだけど……」

エメラルド「ご、ごめんなさい」しゅん

男「……(素直にお願いしてくれたほうが助かるんだけどなぁ)」

――こちらが当面の生活資金になります。どうぞ、オズ殿のお好きなようにお使い下さい――

――あ、ちなみに。これはあくまでも『オズ殿の為』にお渡しするお金ですので、くれぐれも
   『他人』に譲り渡すなどはしないで下さいね(ニコ)――

男「……(金だけ渡して“さよなら”はすんなってことか)」

 (でもなぁ……問題は女の子ってことなんだよなぁ……)ちら

エメラルド「……」しゅん

男(……いや、女の子だからこそか。あんな森で、たった1人で暮らしてるとか聞いちまったら)

  (それに、家の下にこいつの魔法石があるのも事実だし……)

男「あー……あのさ、トト」

エメラルド「……?」

男「俺さ、この世界に来たばっかりだし、色々とわからないことが多いと思うんだ」

エメラルド「……」

男「今だって正直森に行く道すらあやふやで、誰かと一緒じゃなきゃ家にも帰れない」

男「明日からも街に出て話を聞いたり、生活に必要なものを買い揃えたりしたいんだけど
  ……もし誰かがそういうの案内してくれたらすっげえ助かるだろうなーって、考えてる」

エメラルド「わ、私そーいうの得意!」

男「ははっ、そっか。……じゃあ、お願いしよーかな」

男「トト」

エメラルド「は、はいっ」どきっ

男「帰る方法が見つかるまででいいんだ。しばらくの間……俺の側にいてくれないか?」

男「て、ていうか……その、お前さえよければ、なんだけど……あ、あの家で一緒に暮らさないか、って……」

エメラルド「暮らす!」

男「お、おう(早っ!)」どきっ

エメラルド「私も……オズと一緒がいい」

男「あ……う……そ、そう///」かぁあああ

男「え、えーと、それじゃあ一緒に暮らすってことで……と、とりあえず家に帰るか」

エメラルド「あ……お、オズ」

男「……ん? ど、どうした?」

エメラルド「……」

――俺の名前は『オズ』。君は?――

エメラルド「じ、自己紹介……」

男「? 自己紹介って……あの森で済ませたろ。俺の名前は『オズ』。で、お前は『エメラルド』」

エメラルド「も、もう1回」

男「……?」

エメラルド「……」ぎゅっ

男「(ま、まぁいっか……)ん、俺の名前は『オズ ケイスケ』。今日からよろしく頼む。……お前は?」

――数百年の刻を経て、物語が動き出す


エメラルド「わ、私は……私の名前は『トト』。『トト』です」

 (あなたに貰った名前――)

エメラルド「ふ、不束者ですが、きょ、今日からよろしくお願いします!」ぺこ

男「(なるほどね……)ふふっ」

男「ん、こちらこそよろしくな、トト」

エメラルド「……」こく

男「よーし! それじゃあ一緒に帰るぞ! 俺たちの家に!」


   「うん!」


 『男』と『魔女』、二人の出逢いが

 『エメラルド』の輝きが、再び大陸を混沌へと導く――

  
                           『Wizard of Emerald~エメラルドの魔法使い~』

_______________


男「……ふぅ、こんなもんでいいかな? 見られちゃマズイ物はあらかた隠せたし……」

男「おーい、トト! もういいぞー!」

 ガチャ

エメラルド「……終わったの?」

男「おう、だいぶ片付いたはずだ。今日からここがお前の部屋。好きに使ってくれていいぞ」

エメラルド「……」じーっ

男「一応俺が使ってた部屋だから、ちょっとゴチャゴチャしてるけど我慢してくれ」

エメラルド「……オズが使ってた……あ、あれってベッド!?」

男「ん、ベッドも好きに使うがいい。布団は……悪ぃけど今替えのやつがないんだ。明日洗濯するから――」

 ボフッ

エメラルド「キャー、ふっかふかー♪」ばたばた

男「……」

エメラルド「私ベッドで寝るの初めてー! キャー、キャー♪」ばたばた

男「そ、そっか……そりゃ良かったな。ちょ、ちょっと汗臭いかもしんないけど……」

エメラルド「……!」ぴた

男「う」

エメラルド「……」

 すん すん

男「……」

エメラルド「……」

エメラルド「~~!///」ばたばた

男「なにその反応!? こ、こら! あんまバタバタすんなよ、ホコリが立つから……!」

男「――って、うわ!? うわぁっ!?」どきっ

エメラルド「?」

男「お、お、おおお前……っ!///(そ、そういやそうだった……!)」

 (コイツ、下に何も着てない……ていうか何も穿いてなかった!!)かぁあああ

エメラルド「……オズ? どうしたの?」

男「な、なんでもない」ぷい

エメラルド「?」

男「あ、明日……町に出たらさ、い、“色々”買いに行こーな……」

エメラルド「……? う、うん」

男「……ゴホン、じゃ、じゃあ俺は下の片付けしてるから。ごゆっくり」

エメラルド「私も行く!」がばっ

男「……!」

 カァー カァー バサバサッ

男「……結構薄暗くなってきたな。しまった、照明くらい先に買っときゃ良かった」

男「メシも……」ぐぅ~っ

男「なんか食う物あったっけ。冷蔵庫は……飲み物しか入ってないと」ばたん

男「カップ麺もお湯がないとダメだし……お、これは?」

男「お菓子……ポテトチップスか。まぁ、今日の夜はこれで我慢するか(城でご馳走も食ったしな)」ちら

エメラルド「……すぅ、すぅ……」Zzzz

男「……うーん、トトの口に合うかどうか。……そもそもコイツいつもなに食ってるんだろ」

男「……」

――ヒーヒッヒッヒ。蛙(ぽちゃ)蝙蝠の羽(ぽちゃ)危ないキノコ(ぽちゃ)……いーいスープになりそー♪――

男「……(ま、まさかね)」

エメラルド「……ぅん、むにゃ……」Zzzz

男「……にしても、せっかく部屋用意してやったのに。そんなトコで寝てたら風邪引くぞー」

エメラルド「……すぅ、すぅ……」Zzzz

男(やっぱ相当疲れてたんだろーな。無理もない、昨夜の取調べでロクに寝れてなかったみたいだし。
  精神的にも……)

男「ふっ、それとも珍しい物いっぱい見てはしゃぎ疲れたか?(確かタオルケットあったよな)」

 ファサッ

男「……片付け、手伝ってくれてありがとな」

エメラルド「……すぅ、すぅ……」Zzz

男「……」

  (しっかしホント……こう、なんていうか……可愛い顔してんなぁコイツ)じーっ

  (このちょっとクセのある髪も……すっげー綺麗な色。なんだろ、金? 銀? を混ぜた感じか?)

男「……」

男(か、考えてみりゃ女の子の顔をこんな間近で見んのはトトが初めてだな……)

  (しかもコイツと暫く二人っきりなんだよなぁ……う、うぅ、ほっぺた柔らかそー)

男「ちょ、ちょっとだけ触ってみたい気が……」ごくり

エメラルド「……むにゃ、むぅ……」ごろん

男「……!」

 (い、いかんいかん、そういうのはいかんぞ! トトは命を救ってくれた恩人なんだ!)ぶんぶん

 (アホなこと考えるなよ! 第一、コイツは住む家を確保できる。俺はこの世界のことを色々教えて貰える。
  そういう契約で一緒に住むことにしたんだからな!)

男「へ、変な真似して逃げ出されたら困るのは俺なんだし、あんま意識しないようにしねえと……」ちら

エメラルド「……すぅ、すぅ……」Zzz

男「……」

 (す、少し外で頭を冷やすか)

_______________

次の日

エメラルド「……ふぁ~……」

男「……あれだけ寝たのにまだ眠いのか?」

エメラルド「むー……ちゃんと起きてるじゃない」

男「“起きてるじゃない”って、俺が起こさなきゃずっと寝てたろ。ほら見ろ、太陽がもうあんな位置に」

エメラルド「そういうオズは早起きだったの?」

男「さあな。時計が止まってるから正確にはわからんが、多分早かったんじゃねーかな。
  外出たらなんか霧でてたし」

男「まぁ、お前が寝てる間にシーツ干したり残りの部屋の片付け出来たからいいんだけどさ」

男「それよりお前、腹減ってないか? 町に着くまでこれでも食べてろよ」

エメラルド「? なにこれ?」

男「ジャガイモを薄く切って油で揚げた食い物。……ジャガイモってわかるか?」

エメラルド「それくらいわかるわよ。……ふーん、変わった袋に入ってるのね。美味しいの?」

男「好みの問題かな。むしろそれ食ったお前の反応が見てみたい」

エメラルド「……」じーっ

 パリッ

エメラルド「……」もしゃもしゃ

男「……ど、どうだ?」 どきどき

エメラルド「ちょっほしおはらいへどおいひい」もしゃもしゃ

男「……」

エメラルド「……」もしゃもしゃ

男「……え? そんだけ?」

エメラルド「?」もしゃもしゃ

男「い、いや……もっとこう、お前ならキャーキャー言いながら食うもんだと……」

エメラルド「……?」もしゃもしゃ

男「む、(もうちょっとはしゃいでくれると思ったんだけどな、つまらん)」

エメラルド「それよりオズ、今日はどうするの? やっぱり情報集め?」

男「それもある。けど今日はどっちかっていうと買い物主体かな。とりあえず生活に必要なものを揃えないと」

エメラルド「必要なものって?」

男「うーん、まずは基本的なところで水、食料……あとは照明とかかな」

男「食べ物に関しては街に出たときに外食で済ませるつもりだけど、一応買いだめ」

男「それよりも水がなぁ……ないと地味に困るんだが。飲むだけじゃなくて他にも色々使うし。
  大量に欲しいんだけど、水って売ってんのか?」

エメラルド「売ってないわよ水なんて。井戸がそこらじゅうにあるんだから、そんなの商売にならないわ」

男「っつっても、その井戸がないんだけどな、あの森に」

エメラルド「その代わり近くに湖があるじゃない。あそこの水もすっごく綺麗よ?」

男「ああ、そういえば水浴びしてたとか言ってたな。もしかして風呂代わりにしてんのか?」

エメラルド「うん」

男「そういや風呂にも入りてえなぁ……(かれこれ2日入ってないしそろそろ限界)」

男「この世界では風呂っていわゆる水風呂なんだ?」

エメラルド「? それ以外のお風呂があるの?」

男「え? お湯に浸かるとか」

エメラルド「なにそれ!?」ぎょっ

男「い、いやお前がなに想像してんのか知らないけどあれだぞ、お湯って言ってもちょっと温かいくらいのやつな」

男「俺の住んでる世界ではそういう温かいお湯に浸かって疲れを癒したりするんだよ。それが風呂」

エメラルド「そ、そうなんだ……ビックリしたぁ(……そういう拷問があるって聞いたことあるから)」ぶるっ

エメラルド「あ、でもそれって“トルマリン”産の魔法石があれば可能かも」

男「……“トルマリン”産? マジで!?」

エメラルド「うん。あそこの魔法石、<蓄積>の特性を利用すれば火を使わなくても広範囲の
      水を温かくすることができるわ 。照明にだって使われてるし」

エメラルド「生活する上においては、あれば確かに便利よねー。あればの話だけど」

男「すっげえ欲しいんですけど。……手に入らねえかな?」

エメラルド「て、手に入れてどうするの?」

男「使うに決まってんだろ」

エメラルド「だ、ダメよ。使用許可を貰わないと」

男「これじゃダメなのか? 女王様に貰った書状」

エメラルド「それはあくまでも王室関係者であることの証明だから。通常の魔法石使用許可状とは違うわ」

エメラルド「“トルマリン”の魔法石を使いたければ“トルマリン”の王室……まぁ、あそこはちょっと違うけど、
      とにかく産地国が発行する許可状を得ないとダメなの。まずそこから」

男「そういえば女王様もそんなこと言ってたような……む、これじゃダメか」

エメラルド「確かに王室関係者も自国の魔法石なら自由に使えるんだけどね」

エメラルド「この場合、オズだって“アメジスト”産の魔法石なら自由に使えるのよ? これってすごいことなんだから」

男「<伝達>かぁ……実用性のあるほうがいいな」ぼそっ

エメラルド「……で、<伝達>だって実用性あるわよ」

男「で、でもこれがあれば身体検査されないとか言ってたし、隠れて使っちゃえば……」

エメラルド「ダーメ! 悪用しちゃダメって女王様にも言われたでしょ!」

男「う」

エメラルド「万が一そんなことしてるのが見つかっちゃったら、女王様にご迷惑がかかるのよ?」

エメラルド「いい? 今の法律下、魔法石は各国の自治管理・保管責任が定められてるっていうけどね、
      これって捉えようによってはある種の独占権が認められてるってことなの」

エメラルド「魔法石だって、必要があればそれこそ国同士で貸し借りをすることもあるわ」

エメラルド「その際、魔法石はその国にとって政治的駆引きの道具としてかなり重要な意味を持つことになるの」

エメラルド「基本的にはね、使用許可の見返りとして権利国に莫大な対価を支払うことになるんだけど、
      その見返りにもお金だけじゃなくて人、土地、通行権や徴税権など様々な権利が絡んでくる場合
      もあるから、貴重な魔法石が採れる国によっては最初からそれが目的で使用権利をちらつかせる
      ことだってあるわ」

エメラルド「そんな状況で、例えばオズが。“アメジスト”の王室関係者が」

エメラルド「どこで手に入れたかわかんない他国の魔法石を不正使用してるのがバレたりしたらどうなると思う?」

男「……」

エメラルド「飛んじゃうわよー、オズの首」

男「……!」

エメラルド「それだけで済む問題じゃないわ」

エメラルド「女王様はもちろん、その国の信用が一気に失われて最悪国交が断絶することだってあり得るんだから」

エメラルド「王室関係者であればその辺のことはちゃーんと理解してるはずよ」

エメラルド「だからね、オズ。女王様にせっかく頂いた書状を悪い事に使っちゃダメ。ね?」

男「わ、わかった……要は王室関係者である自覚を持てっつーことだな」

エメラルド「うんうん」こくこく

男「はぁ……“トルマリン”産の魔法石、もとい温かい風呂は諦めるか……」がっかり

エメラルド「う、うん……(そもそもどうやって入手する予定だったのかしら)」

男「それじゃ生活に使う水は湖ので我慢するとして、あとは照明と……」

男「あ、そうだ……服」

エメラルド「服?」

男「そ、服。俺のじゃなくてお前のやつな」

エメラルド「え……な、なんで? 私……これがいい」ぎゅっ

男「これがいいってお前、1枚じゃ足りないだろ。服洗う時どーすんだよ」

男「そ、それに服っていうか……その、アレもだ」

エメラルド「?」

男「い、一応確認なんだが、この世界の女の子、っていうか男もだけど……そ、その……///」かぁあああ


  「し、下着とか穿かないのか?」


エメラルド「 」

長らくお待たせしましたここまでですm( )m

>>69
このスレは前スレを改稿したものです。ここまでが前スレ分となっています
以下に前スレで載せていた注意事項と設定を投下しますねー

ご迷惑おかけしました。この後、主要人物が出揃うまではしばらく退屈な話がつづきますが
またお付き合いいただければ嬉しいです。ノ

このSSは『オズの魔法使い』をモチーフにした異世界恋愛ファンタジーとなっています
あの有名な登場人物たちのモデルも出てくる予定ですので、どうぞお暇なときでも
軽く流す感じで読んでいただけたら嬉しいです

※注意事項
魔女に対する倫理観、軽度ではありますが戦闘などにおける残酷な描写、性表現
もありますので苦手な方はご注意下さい

【人物】
エメラルド:毛先に強いウェーブのかかったクリーム色の髪と『緑色』の瞳が特徴
      背はあまり高くはないが年頃の女の子らしく「出るところは出てる」 。15歳。
      現在、裸の上に黒のパーカー1枚を着ただけの状態。フードをかぶると「っぽく」なる

生存報告です すいません帰省してました
帰ってきたので明日か明後日から投下できます><

_______________


エメラルド「……ほんっと、オズには驚かされるわ」ぺしぺしっ

男「わ、悪かったって……」

エメラルド「そっちの世界の男の人ってみんなそうなの? それともオズが無神け……能天気なだけ?」ぺしぺしっ

男「バカ言え。どっちかっていうと、俺は割りと繊細な部類だと思うぞ」

エメラルド「……」じろっ

男「ぐ……さ、さっきのは確かに無神経な発言だったけど……ご、ゴメンナサイ」

エメラルド「……まったく、よく女の子に向かって、し、下着がどうのって言えたわね。
      穿くに決まってるでしょ。恥ずかしいから黙ってたのに……」ぺしぺしっ

男「だ、だから謝ってるだろ? ほら、いい加減機嫌直してくれよ」

エメラルド「むー」ぺしぺしっ

男「はい、それは没収。木の枝は食事のときだけに使おーな」

エメラルド「ふん、どうせ私はナイフとフォークの使い方知らない田舎の森娘よ……」ぶつぶつ

男「……(文句言いつつも素直に渡すのがコイツの良いところ、と)」

男「悪かったな、トト」なでなで

エメラルド「……」ぶつぶつ

男「んー、それはそうと……あれは一体何なんだ?」

エメラルド「?」

男「ほら、都の入り口。こっから見えるだけでも……荷馬車ってやつか? すっげえ行列が出来てんだけど」

エメラルド「ああ、多分あれは地方の行商人たちよ。都に入る前に素性の確認と積荷の検査を受けてるの」

男「行商人……へぇ、あれが噂の」

エメラルド「そっか、あれだけ多いってことは今日は休日なのね」

男「休日だとなにかあんのか?」

エメラルド「うん。月に4回、休日になるとね、広場のほうで大規模な市場が開かれるの」

エメラルド「普段の定期市と違ってこの日は交易が主な目的。領内の商人はもちろん、
      他国の行商人たちも出店や買い付けに集まってくるから、街は人で大賑わいのはずよ」

男「ふーん、市場かぁ……面白そうだな。だからあんなに並んでるのか」

エメラルド「あんなもんじゃないわよー」

エメラルド「この時間に検査受けてるってことは、あそこにいる人たちは何かの事情で遅れてきたか、
      午後から出回る品のみを扱っているか狙っているか……そのどっちかってことね」

エメラルド「市場自体は朝早くからやってるもの。中に入るともっと多いんだから」

男「あ、それどっかで聞いたことある。確か比較的新鮮な食材とかは午前中に売りに出されるんだっけ?」

エメルド「うんうん」こくこく

男「ふむ、せっかくだから食い物はその市場で買いたかったな」

エメラルド「午後からでも食材を扱ってる店は多いわよ? 新鮮な状態をお望みなら、ちょーっと値が張るけどね」

男「別に新鮮なやつじゃなくてもいいんだ。そもそも食事は外で済ませるつもりだからな。
  街に出れないときに家で食う用……むしろ日持ちするほうがいい」

エメラルド「例えば?」

男「実際見てみないとなんとも言えないが、こう、なんていうか……今日の市場でしか
  手に入らないような珍しい食材を買いたいよなぁ」

エメラルド「珍しい食材……うーん、滅多に食べられないって意味なら……葡萄とか!」

男「……は? 葡萄?」

エメラルド「うん、葡萄! えへへー、知ってるかなぁ、あの甘くて美味しい果物♪」 

男「……知ってるよ」

エメラルド「あ、オズも知ってるんだー♪」

エメラルド「この国では葡萄作りが盛んでね、ちょうど今収穫期に入ったところなの」わくわく

エメラルド「今年は天候に恵まれてたし、全体的に作物が豊富に育ってるみたいだから、
      葡萄もきっと美味しく実ってるに違いないわ」

エメラルド「あのつぶつぶで水気の多い香り豊かな食感はまさに果物の魔法石……」うっとり

エメラルド「きっと市場ならすでに出回ってるはずよ、オズ!」

男「……」

エメラルド「……」ちら

男「い、いや別に買ってもいいけど……」

エメラルド「ほ、ホントっ!?」

男「いいけど、葡萄って日持ちすんのか?(しかも珍しくないし……)」

エメラルド「大丈夫、ちゃーんと今日中に食べます!」

男「……お前が食いたいだけなんだな、ワル魔女め」

エメラルド「~~♪」

_______________

アメジストの都・入り口門付近


男「……」

エメラルド「……変ね」

男「……ああ、さっきから列が全然進んでないな。積荷の検査ってそんなに時間がかかるものなのか?」

エメラルド「ううん、いつもはもっと短い時間で終わってる。それに見て、行商人じゃない人たちも足止めされてるわ」

エメラルド「何かあったのかしら?」

男「おいおい、これって俺たちも調べられるんじゃないのか? トト、魔法石はしっかり隠しとけよ」

男「女王様に許して貰ったからって、見つかるとまたメンドくさいことになるかも知んねえしな」

エメラルド「う、うん……顔も隠したほうがいい?」

男「逆に怪しくならないか? まあ、お前がそうしたきゃ無理には止めんが……」

エメラルド「い、一応……」さっ

男「大丈夫だって、いざとなりゃ書状もある」ぽん

エメラルド「うん……」

男「にしてもメンドくせえなぁ……並ぶの。ホント何やってんだろ?」



門兵1「――次!」

男「(やっとか……)どうも、ご苦労様です」

門兵1「……珍しい格好をしているな。どこから来た?」じろっ

男「え、えーと、この先にある森……の近くからです」

 (付近の住民から通報があったって隊長さんが言ってたし、あの辺りに町か村があるはず)

門兵2「森の近く……ああ、あの村か。今日は市場が目的で都に?」

男「市場が目的ってわけじゃないけど……まあ単純に買い物ですね」

門兵1「隣の女は連れか?」

男「え、ええ」

門兵2「これまた珍しい外套を着込んでるな。なぜ顔を隠している」

エメラルド「……!」びくっ

男「べ、別に隠してなんか……彼女、いつもこんな感じなんです」

門兵1「……まあいい、どの道今は特別警戒中だ。悪いが二人とも身体を改めさせて貰うぞ」

男「!? ちょ、ちょっと待ってください。俺は構わないですけど、彼女は女性ですよ?」

門兵1「それがどうした?」

男「こんな大勢の人がいる前で身体を触るっていうんですか?」

門兵2「当然、それが我々の職務だ。それとも、何か調べられたらマズイ物でも持っているのか?」

男「冗談じゃない。彼女は俺の大事な連れなんだ、指一本触れてもらっちゃ困る」ばっ

門兵1「……? な、何だ? 書状?」

門兵2「!? お、おいこれ……っ!」

門兵1「うおっ!?」

男「……女王様に頂いた書状、これでも検査は必要ですか?」

門兵2「と、ととととんでもない! お、王族関係者の方でありましたか! 失礼しましたっ!」ばっ

門兵1「し、失礼しましたっ!」ばっ

男「いやこちらこそ。先に見せればよかったですね」

門兵1「いえいえいえ! そんな……お連れ方にもとんだご無礼を。ど、どうかお許し下さい」ぺこぺこ

エメラルド「……」ぺこ

門兵2「で、ですが王族関係者の方があのような村から……?」

門兵1「ば、馬鹿っ! 余計な詮索はするな! 失礼だろうが!」ひそひそ

男「ちょっと色々ありまして……それよりもこれは一体何事なんです? 特別警戒中とか言ってましたけど」

門兵1「はっ、ご存知ありませんでしたか。近く4ヶ国会議がこの都で開催されますゆえ、
    女王様のご命令により本日から都及びその他周辺の警備強化を行っているのです」

エメラルド「……」ぴく

男「……4ヶ国会議?」

エメラルド「北の“ダイヤモンド”、西の“サファイヤ”、南の“トパーズ”、そしてここ、東の“アメジスト”
      ……現法体制秩序を主導する4大国で行われる会議のことよ」

エメラルド「会議の内容・議題はいつも極秘。必要があれば国民に『後で』知らされるわ(あの時みたいに)。
      そう、今回はこの国の都が開催地に選ばれたってわけね……」

門兵1「その通りです。なにぶん各国のクイーンが列席する重要な会議ですので、期間中に不祥事が
    あってはならないと、こうして入り口の検査も入念に行わせていただいております」

門兵2「特に今日の様な日は外部からの行商人が多数都に留まることが多いので……やはりそれなりにと」

ここまでー

訂正

>>157>>158
王族関係者→王室関係者
門兵「女王様」→「女王陛下」

です

男「うーん、にしても女性の身体をこんな所で調べるのはちょっとやりすぎなんじゃ……」

門兵1「お言葉ですが、“女だからこそ”この場で調べる必要があるのです」

男「……? まさか、魔女がここを通るかもしれない、ってこと?」

門兵1「……そのまさかです」こく

男「はは、そんなバカな。こんな派手に警備強化されてる場所に魔女がのこのこ現れるとは思えないんだけど」

エメラルド「……」

男「大体、彼女たちって普段はどっかに隠れてるんでしょ? こんな人の多い時期に、何しに都に来るわけ?」

門兵2「……この時期だからこそ、やつらが侵入してくる可能性が高いのです。それこそ危険を冒してまで」

男「?」

門兵2「端的に申しますと、我々は魔女による報復行為についても懸念しているのです」

エメラルド「……!」

男「魔女の……報復……(ああ、なんとなく……わかる気がする)」ちら

エメラルド「……」

門兵2「ええ、魔女狩りの根底にあります大陸法、その立役者4人が一堂に会するわけです」

門兵2「しかも内3人が滅多に出ることのない自国を離れるとくれば、
    やつらにとっては絶好の復讐する機会であるといっても過言ではありません」

門兵2「中でも特に北と西は急進的な魔女狩り推進国ですので、向けられている憎悪の念も尋常ではないかと」

門兵1「まあ、あのお二方自身もそのことについては理解なさっているでしょうし、引き連れてくる護衛も精鋭揃い、
    それもかなりの数が予想されます。心配は無用かと思いますが一応……」

門兵2「相手が魔法石を錬成する魔女ともなれば用心に越したことはないというわけです」

門兵1「もちろんあの2ヶ国だけではありません。我が国の女王陛下の御身に危険が及ぶことも考えられます」

門兵1「ですのでこの期間中、都に出入りする者にはいつも以上に目を光らせておかねばならないのです」

門兵2「これが我々の職務……どうかご理解を」ぺこ

男「……」

門兵3「おーい、何をやってるお前たち! 列が増えてきてるぞ!」

門兵1「あ……」

門兵2「……! も、申し訳ございません。我々も戻らなくては」

男「い、いえ、こちらこそ長々とすいません。お仕事、頑張ってください」

門兵2「ありがとうございます」ぺこ

門兵1「あ、それともう一つ。期間中は普段より早い時間帯から閉門を行っておりますので、こちらだけご注意を」

男「わかりました」

門兵1「では、失礼します」ぺこ

男「……」ぺこ

エメラルド「……」ぺこ

_______________
 
都・大広場南通り

 がや がや

男「……よかったな、すんなり通してもらえて」

エメラルド「うん……」

男「身体検査も全てパス。……女王様の言ってたとおりだ。この書状、かなり効果があるぞ」

男「次からああいう面倒事があったらさっさと見せちまおうか、その方が話早そうだし」

エメラルド「……そうね」

男「……」

エメラルド「……」

男「……? どうしたトト、なんか……元気ないな」

男「も、もしかして何か怒ってるのか? 書状を出したのは、べ、別に問題なかったよな?」

エメラルド「あ……う、ううん、違うの。怒ってるとか、そういうのじゃなくて……ご、ゴメンね」

エメラルド「ただ……さっきの話がちょっと気になって」

男「……さっきの話? 会議のことか?」

エメラルド「うん……というより、その会議を狙って魔女たちが何かするかも、って話……」

男「ああ、報復がどうのって言ってたな」

エメラルド「……オズはどう思う?」

男「ど、どう思うって……いきなり何だよ。俺がそんなことわかるわけないだろ」

男「まあ、確かに物騒な話だとは思うけど……お前の方が詳しいんじゃないのか? 同じ魔女なんだし」

エメラルド「……」

エメラルド「……私はね、今の今まで復讐なんて……これっぽっちも考えたことなかったの」

エメラルド「ううん、むしろ生き延びるに精一杯で、誰かを恨みに思ったりする暇さえなかった」

男「……」

エメラルド「だからね、あんな話を聞いて……やっぱり他のみんなは国や女王様たちを恨んでる
      のかなぁって思うと、ちょっと複雑な気持ちになって……」

エメラルド「私も……ただ逃げてるだけじゃダメなのかな……」

男「お、おいおい、変なこと考えるなよ」

エメラルド「……」

男「そ、そりゃ俺だってこの世界の今の状況はおかしいと思う」

男「それこそ外の世界から来た……いや、魔女じゃない、当事者でもない俺なんかじゃ想像もつかない
  くらいお前らが苦しんでることもわかる」

男「……自分たちを追いやる連中を恨んでたって何も不思議じゃないし、それを咎めることも当然できない」

男「でも、だからって復讐しようなんて考えは……トト、お前は絶対に持つな」

エメラルド「……」

男「そういうのはな、復讐の連鎖っつっって、永遠にやられたらやり返すの繰り返しになるんだよ。
  それこそどっちかが完全に倒れるまで」

男「この場合だとどうだ? 一方は魔女。……こっちはわかりやすけど、もう一方……相手は誰になる?」

男「仮に女王様たち……俺は他の3人を知らないけど、4人の命を奪ったところで現状が解決すると思うか?」

エメラルド「……」ふるふる

男「だよな。自分とこのトップに手を出された怒りで、今度は国民が黙っちゃいないもんな」

男「むしろ今まで魔女に同情的だったヤツがいたとして、そういう連中も逆に魔女を憎むようになる」

男「……お前だって嫌だろ? 魔女とそれ以外のヤツらでずっと争ったりするの」

エメラルド「……うん」こく

男「同じ人間だもんな」

エメラルド「……!!」

男「片方に憎しみはあるかもしれないけど、同じ大陸に住んでる者同士傷つけ合う。
  ……復讐なんて、そんな戦争みてーなことを生み出すだけだ」

 (そもそもあの法自体、理由は違えど『争いを回避する為』につくられたって女王様も言ってたし)

男「だから……な、トト。頼むからお前は誰かに復讐するとか、人を傷つけたりするようなバカな考えはしないでくれ」

エメラルド「……」

男「……それに信じてるぞ。お前は人を傷つけるどころか、困ってるやつを助ける優しい心を持った英雄――」

男「伝説の魔女になるんだろ?」

エメラルド「……! そ、そうよ! 私なるもん、おばあちゃんみたいな魔女に!」

男「……っ、ば、バカ! 声が大きいって……!」しーっ

エメラルド「あ……」

 がや がや

男「……(だ、大丈夫か。聞かれてなかったみたいだな……)」ほっ

投下遅れてすいません
夏までのレポートが明日か明後日に終わる予定なので、今週末より通常通り毎日投下できるようになります
しばらくお待ちくださいませm( )m

エメラルド「ご、ごめんなさい、つい……」

男「……」

エメラルド「け、けど今の話ね、すっごくわかりやすかった」

エメラルド「“復讐なんて結局自分たちを苦しめるだけだ”、って……私もそう思う。オズの言うとおりだって」

エメラルド「……それに、例えどんな理由があったとしても誰かを傷つけたりするのはいけないことよね」

エメラルド「それ位、私だってわかるもん……」

男「……」じっ

エメラルド「ほ、ホントよ? ちゃんとわかってるんだから」

エメラルド「……わかってるから、さっき言ったことは反省してます。……変なこと考えちゃった」しゅん

男「……」

男「……ん、お前がそう思ってるならもう心配要らないな。……安心したぞ」

男「俺のほうこそ、なんか説教くさいこと言って悪かった」

エメラルド「う、ううん。そんなことない」ふるふる

男「いや、ホント偉そうに語っておいて言うのもなんだけどさ、今のは別に俺の持論ってわけじゃないんだ」

男「なんていうか、その……復讐についてのありふれた一般論的な、そういう話」

エメラルド「?」

男「正論みたいに聞こえるだろ?」

エメラルド「う、うん。立派な考え方だって思う……けど、違うの?」

男「違うことはない。人それぞれ……お前が納得できるなら、それが正しい考え方になるってこと」

エメラルド「??」

男「……まあ気にすんな。要するにお前が人を傷つけないで済むならそれでいいんだ」

男「そりゃな、俺だって親父やお袋……家族とか恋人とか、自分にとって大切な人が傷つけられたり、
 命を奪われたりなんてしたら当然相手を恨む」

男「それこそ“殺してやりたい”って、思うかもしれん。その時になってみないとわかんねえけど
  ……復讐だって考えるかも」

エメラルド「……! だ、ダメよ、ダメっ! 私にはあんなこと言っておいて、なんでオズだけ!」

男「そうそう、そんな感じ。今みたいに、今度はお前が誰かを止めてやってくれ」

エメラルド「……!」

男「さっき言った一般論でいいんだ。お前が理解してるなら……それを教えてやればいい」

男「もし復讐を考えてるやつがいて、そいつに誰かを傷つけて欲しくないときに、な」なでなで

エメラルド「あ……う、うん……」

男「ふふっ……」なでなで

エメラルド「で、でもでも、他のみんなが女王様たちを襲っちゃったらどうしよう」

男「大丈夫だって。そうならないように警備の人たちが頑張ってんだから」

男「お前も見ただろ? 入り口の警戒っぷり。……あの様子じゃ魔女も都に入るのを諦めると思うぞ」

男「それに会議って城でやるのか? もしそうなら、例え都に侵入できたとしてもその後どうすんのって感じだよ」

男「城の警備は入り口以上に厳重なはず。近づくことすらできないって」

エメラルド「……」

エメラルド「魔法……」ぼそっ

男「使えばいけるか?」

エメラルド「うん」こく

男「でも魔法石が必要。……ってことは、やっぱり最初の検査で詰んでるな。心配なさそうだぞ」

エメラルド「……」

男「……」

男「ほ、ほら、いつまで深刻な顔してんだ。いつもみてーに元気出せって」

男「連れのお前がそんな調子じゃ俺が買い物しづらくなるだろ? 葡萄も買ってやれなくなるぞー」

エメラルド「……!」

男「それでもいいのか?」

エメラルド「そ、それは、その……」

 
 ガラーン ガラーン


エメラルド「あ……」

男「? これは……鐘の音、か?」

エメラルド「……午後からの市場が始まったみたい」

男「お、じゃあさっさと買うもん買って市場を見に行かないと」

エメラルド「……」

男「……こっからはお前が案内してくれよ。俺じゃどこに何があるのかわかんないからな」

男「せっかく来たんだし、買い物終わったら市場も終了してましたーなんてことはないように、手早く」

エメラルド「……」

男「……頼んだぞ、トト」ぽん

エメラルド「う、うむ! まかせときなさい!」

男「よし! なら俺のほうもまかせとけ。市場に間に合ったらお前の好きなだけ葡萄を買ってもいいぞ」

エメラルド「ほ、本当!?」

男「ああ、ホント」

エメラルド「でも、多分値段が……」

男「心配するな。金ならある」ずっしり

エメラルド「……」

男「……」

エメラルド「ん……もう、正確にはオズのじゃないでしょ」くすっ

男「いやいや、貰ったんだから俺の金だよ(……よかった……)」

エメラルド「ふふっ、女王様がお聞きになったらどう思いになられるかしらね」

男「(やっと笑ってくれた……)どう思うって……“オズ殿の仰るとおりですわ”って言うに決まってんだろ」

エメラルド「今のもしかして女王様の真似? 全然似てない!」

男「……(別に真似したわけじゃ……)」

男「それより早く行こうぜ」くるっ

エメラルド「あ、オズ……」

男「……ん?」

エメラルド「……ごめんね、困らせちゃって」

 (隣にいる人が暗い顔してたら、誰だって……オズだって困るよね……)

男「……」

男「気にすんなって、さっきも言ったろ。……金ならある。葡萄なんて安いもんだ」ぷいっ

エメラルド「……」

男「……」

エメラルド「うん……ありがとう」ニコ

男「……! ほ、ほら、急がないと市場閉まっちゃうぞ。店にはどっちに行けばいいんだ?」

エメラルド「その前に――」すっ

男「?」

エメラルド「オズが道ではぐれて迷わないように、手♪」

男「……」

エメラルド「……」ニコニコ

男「か、買うもんいっぱいあるんだから……早くしてくれよ」ぎゅっ

エメラルド「うん!」こく

エメラルド「えへへー、それじゃあお買い物に行きますかー♪」

男「……///」

エメラルド「~~♪」

_______________

 がや がや

??「……」ざっ

??「み、見ててこっちが恥ずかしくなるようなやつらだな、あの2人……どういう関係なんだ?」

 (……まあ、あいつらの『仲』まで俺の知ったこっちゃない話だが。問題は……)ちら

行商人?1「……」

??「……」ちら

行商人?2「……」

??「……けっ(いつまでもチョロチョロと……うざってえ。気付かないとでも思ってんのか?)」

 (けど、こんな生活とも今日でおさらばだ。どういう関係だか知んねえけど、『魔女』と『王室関係者』の
 組み合わせ……二度とお目にかかれねえぞ。しかもこの場所ってのがツイてる)

 (これがまさに神のお導きってやつか……くく)

??「悪いが利用させて貰うぜ、お二人さんよ」にや

ここまでー

_______________

アメジスト・女王府内 廊下

アメジスト国情報隊隊長「お、そこにおわすは我がアメジストが誇る警備隊の隊長様じゃあないか!」

警備隊長(既登場)「……ん? お、おおっ!?」

情報隊長「よ! 元気にしてたか。相変わらず気難しい顔をしてるな君は」にやっ

警備隊長「これはこれは……珍しい顔に呼ばれたと思ったら、未来の情報府長官様じゃあないか」にやっ

警備隊長「……久しぶりだな」ぎゅっ

情報隊長「……ああ、久しぶり」ぎゅっ

警備隊長「いつこっちに戻ってきたんだ?」

情報隊長「昨夜だよ。近く4ヶ国会議があるだろ? それで活動は一旦引き上げ、ってわけだ」

警備隊長「なるほど……そういえばお前はどこを担当しているんだったかな?」

情報隊長「それは言えないよ。知ってるだろ? 情報隊の活動内容は内外ともに極秘。
      例え親友の君にだって話せることじゃあない」

警備隊長「……そうだった。いやなに、仕事が忙しそうなんでちょっと聞いてみただけだ」

警備隊長「ちょっと痩せたんじゃないのか?」

情報隊長「そうかな? そういう君こそ悪人顔にますます磨きがかかってきたじゃないか。
      警備隊長様のご活躍はうちでも評判だぞ?」

警備隊長「嘘をつくな。評判になる程大それた成果はあげてない」

情報隊長「ふふっ、なら国内の治安はすこぶる良いってことかな? 誇れることじゃあないか、なあ」ぱんぱん

警備隊長「……お前はまったく……」

情報隊長「ところで君はこれから外かい?」

警備隊長「ああ……いや、まあこの後外に行くには行く……」

警備隊長「その前に少し高台の見張りを増やそうかと思ってな。編成指示を仰ごうかと長官にお会いするつもり
      だったんだが、どうも今朝から城に赴いてるらしくてな……」

情報隊長「お会いできなかったと」

警備隊長「うむ」

情報隊長「ははっ、そりゃ残念。今日は城で大事な会議があるからねえ、暫く帰ってこないと思うよ」

警備隊長「……会議? この時期にか? 何も聞いてないぞ」

情報隊長「うーん、僕も今しがたそれを聞いてね。うちの親父も今朝から城に出張ってるらしい」

警備隊長「情報府長官も?」

情報隊長「だけじゃない。国防府の軍統括大臣も呼ばれてるそうだ」

警備隊長「へえ、そりゃまたすごい面子が顔を合わせるもんだな。
      ……なんの会議か知らんが、まともに話し合いなんてできるのか?」にやっ

情報隊長「くっく、確かに。あの3人の仲の悪さは折り紙つきだからね。陛下の頭痛の種」

情報隊長「しかもあまり“良い話”じゃないみたいだから……4ヶ国会議並みに荒れるかもよ?」

警備隊長「お前……議題を知っているのか?」

情報隊長「まあね。詳しい内容まではわからないけど、どうやら『これ』の話らしい」くい

警備隊長「金……? ま、まさか……予算の話か?」

情報隊長「……みたいだよ。だから僕たちにとっても景気の良い話じゃあない」

警備隊長「ま、まてまて。……ということは中央の経費を削減するってことか? そんな馬鹿な。
      先代の頃とは打って変わって今の王家の財政は相当に潤っているはずだぞ!?」

警備隊長「なんだっていきなりそんな話が……」

情報隊長「さあ、それは僕にもわからない。女王陛下に何かお考えがあってのことだろう」

情報隊長「……ただ、縮小の割り振りいかんでかなり揉めることになると思うよ。均等に減らされるならいいけど、
      絶対に何かしらの差が出てくるに違いないからね」

情報隊長「例えわずかな差でも、あの3人にとっては立場上……陰で反目しあってる関係上、
      決して譲れない部分になるはずさ。どういう結果に終わっても、必ずどこかが割を食う」

情報隊長「それも美味しくない割り。……減ることはあっても増えることはないだろうし、どうなることやら」

警備隊長「……」

情報隊長「ま、僕たちが心配したところでどうにかなるもんでもないからねえ」

情報隊長「お互い与えられた任務をきちっとこなすこと。それだけ考えてればいいや」

警備隊長「……まあな」

情報隊長「君のところは今大変じゃないのかい? 警備の仕事。会議中に不祥事が起これば、
      まっさきに削られるのは君たち警備府だぞ~。責任重大だぁ」にやにや

警備隊長「ふん、余計な心配はするな。金の問題じゃあない」

警備隊長「俺たちはこの国を、女王陛下をお守りするため命を張って警備を行っている。
      その心構えは会議があるとて普段と何も変わりはしない。言われなくてもな」

情報隊長「ご立派。……だけど今回は単に女王陛下をお守りすればいいってわけじゃないんだよ?」

警備隊長「それも重々承知だ」

情報隊長「ならいいけど……」

情報隊長「そういえば君のその見上げた奉職精神……前々から聞きたかったことがあるんだ」

警備隊長「?」

情報隊長「君ってさあ、本当に国の為だけを思って職務に励んでいるの?」

警備隊長「……どういう意味だ?」じろっ

情報隊長「んー、そうだねえ……国の為、っていうよりどちらかというと女王陛下の為って感じじゃないのかな?」

情報隊長「いやもちろん同じことだよ? 国とはすなわち女王陛下。治安を預かっている身としては、
     いずれも捧げる忠誠心に違いはない。けど……」

情報隊長「本当にそれだけかな~?」にやにや

警備隊長「……何が言いたい」

情報隊長「別にぃ……ただ先代の陛下にお会いする時でさえ無骨な態度を崩さなかった君が、
    『オリガ』様の御前ではどこぞの新卒兵と見紛うくらいに大人しくなるそうだね」

情報隊長「その髭はどうしたんだい? 昔の無精髭と違って、ずいぶん綺麗に整えてるじゃないか」

警備隊長「こ、これは……」

情報隊長「なんでも? 『オリガ』様がクイーンを継承された途端、何故か急に髭を剃るようになったのはいいいが
     そのことについて陛下がお尋ねになったとか」にやにや

情報隊長「……何て言われたのかなぁ? ぷぷ、僕は知ってるぞ」

情報隊長「昔の髭はどうしたのか、あの髭が、お、お、男らしくて素敵だったのにって……
      言われたんだってぇ? くくっ」

情報隊長「し、しかもお手を顔に触れられたとか。その時の君の顔……お、鬼の隊長様とも呼ばれる君が
      まるで恥じらう少女のように真っ赤になってたらしいね!? ぎゃははは!」

警備隊長「……!///」かぁあああ

情報隊長「ダメダメ、駄目だよぉ? あまり女王陛下を変な目で見ちゃあ」にやにや

情報隊長「迷惑なさるのは陛下だけじゃないんだから。『貴方の部下が私を邪な目で見てくるのです』
      なーんて言われてみろ。君のところの長官殿にもご迷惑がかかるんだよ? ぷぷぷ」

警備隊長「ぐ、ぎ、ぎ……!」ぷるぷる

情報隊長「君は心根は優しいがいかんせんそっち方面には向いてないからねー。立場ってもんを考えなきゃ」

情報隊長「大丈夫。その陰の努力はちゃーんと僕が評価してあげる。
      ……『素敵な髭だねえ、惚れ惚れするよ』。ぎゃは、ぎゃははははは!」

警備隊長「……」すっ

 がしっ

情報隊長「……ん?」

警備隊長「……情報隊きっての凄腕隊長様が、扱う情報の選択を間違えたな。
      なーに、心配するな。一瞬で楽にしてやる」ぎりぎり

情報隊長「ぐぇっ!? あ、ご、ご……う、うぞうぞ、うぞだがら……! ちょ、ごめ……」ぐえええ

警備隊長「……ふん」ぱっ

情報隊長「ぶはっ……! っはぁ、ぜぇ、ぜぇ……こ、この! 何が一瞬で楽にだ! 十分苦しんだぞ!!」

警備隊長「次から口には気をつけろよ」

情報隊長「ったく、相変わらず馬鹿力だな……」ぜえぜえ

情報隊長「……けど、確かに僕もからかい過ぎた……悪かったよ。久々に君と会ってね、
      ちょっとはしゃいじゃったみたいだ。許してくれ」

警備隊長「別に怒ってなどいない」ぷいっ

情報隊長「……(本気だったクセに)」

警備隊長「……さて、久々に会ってもう少し話もしたいところだが、俺はそろそろ仕事に戻らなくては」

情報隊長「そうだね。僕もこれから仕事があるし」

警備隊長「ん? お前は他国の諜報専門ではないのか?」

情報隊長「うん。でもだからといって任地の情報だけを扱ってるわけじゃあない。この後『トパーズ』から
      あがってくる情報をまとめなきゃいけないんだ」

警備隊長「……? 情報隊は一時全員引き上げたと言ってなかったか?」

情報隊長「そのはずだったんだけどね。どうやら『クイーン・トパーズ』が今朝の時点においても
      国を出立していないそうで。彼の地に赴いてる情報隊も同様、未だ現地に留まってるってわけ」

警備隊長「なに!? 4ヶ国会議は目前だぞ? あと数日で間に合うのか?」 

情報隊長「うーん、時間については問題ないと思うよ。砂漠を一直線……どうせ軍船を走らせて来るんだろうし、
      1日あれば間に合うさ」

情報隊長「それよりもねえ……どうも城下の様子がおかしいみたいで」

警備隊長「?」

情報隊長「あー、でもこれ以上は言えないな。悪いけど、これも一応仕事の話だからね」にや

警備隊長「む」

情報隊長「ふふっ、それに僕も詳細は把握していないんだ。この後の情報待ち。
      ……で、わかり次第まずは陛下にご報告しないと」

情報隊長「ってことで、お互い忙しい身。僕の方こそそろそろ失礼させて貰うよ」

警備隊長「ああ、俺ももう行く」

警備隊長「……昔を思い出して楽しかったぞ」ぽん

情報隊長「くっく、君がそんな台詞を言うなんて。じゃあ今度は酒でも飲みながらゆっくり話したいねえ」

警備隊長「ほう、ちょうど今年一番の葡萄酒が出回り始めた頃だ」

情報隊長「へえ、葡萄酒。……そういえば陛下も好んで嗜まれているそうじゃないか」

警備隊長「……だから何だ?」じろっ

情報隊長「あっはっはっは、なんでもないよ。おお怖い」

警備隊長「……」むすっ

情報隊長「……じゃ、またいつか」ひらひら

警備隊長「ふん。元気でな」くるっ


 すた すた すた





情報隊長「……」

情報隊長「……」

 (変わらないな、君は。嫌味のない、話していて気持ちの良い男だよまったく……)

情報隊長「……だけど……」

 (だけどその『忠誠心』だけはいただけないねえ。不要だよそれは――)


 
 「君を……敵に回したくはないんだが……」ぼそっ




ここまでー

_______________

 がや がや

男「――えぇ!? あの人……女王様ってまだ19なの!?」

エメラルド「確かそうよ。……えーと、4年前に即位なされて、その時15を迎えられてたはずだから……」

エメラルド「うん、間違いないわ。今年で御歳19」

エメラルド「……4年前っていったらね、ほら、例の大陸法を制定した会議があった年だからよく覚えてるの」

エメラルド「ちょうど会議の直前だったかしら。『オリガ』様の戴冠式は私も遠目から見てたもん」

男「『オリガ』様……ああ、それが女王様の本名か。へー」

 (『クイーン・アメジスト』が名前ってわけじゃないんだな……そりゃそうか)

エメラルド「……けど、それがどうかしたの? 急に女王様の御歳を聞くなんて」

男「い、いや、別にどうかしたってわけじゃないんだけど……さっきの話を聞いてちょっとな」

エメラルド「……さっきの話?」

男「ほら、他の国の女王様たちがここに来るって話」

男「それ聞いて女王様……っていうか紛らわしいな、その、オリガ様と会った時のことをふと思い出してさ」

エメラルド「?」

男「だって女王様っつーから、もっと歳のいってる人を想像してたのに、あの見た目だろ? 
  最初会った時驚いちまって。……この人何歳なんだろうって、会話中ずっと気になってたんだよ」

男「まさか本人に尋ねるわけにもいかないし……」

エメラルド「あ、オズでも流石にそこは理解してるのね」

男「……当たり前だろ。どういう意味だよ、失礼なやつだな」じろっ

エメラルド「よかったぁ……だってオズそういうこと平気で聞きそうなんだもん」

エメラルド「下着……」ぼそっ

男「……」

男「い、いつまで引っ張るつもりなんだお前はその話を」

エメラルド「ずっと♪」

男「ぐ……」

エメラルド「……」にこにこ

男「……ゴホン、と、とにかく。聞かなかったからお前に尋ねたわけだ。わかるか?」

エメラルド「はいはい♪」

エメラルド「んー、でも確かにお若いわよね、女王様。それにすっごくお綺麗な方じゃない?」

男「それはまあ、確かに」

エメラルド「私もね、オズと同じでこの間女王様にお会いしてびっくりしちゃったもん。もともとお美しい方
      だったけど……以前にも増してお綺麗になられてたから」

エメラルド「先代のお母上そっくり。ますます似てきてらっしゃるわ」

男「先代の母上……ってことは、女王様のお母さん? 先代も女性だったのか?」

エメラルド「うん、オリガ様のお母上、『オリヴィア』様。先代の『クイーン・アメジスト』よ」

エメラルド「それはもーう綺麗な方でね。オリヴィア様の美貌は『ブリリアント』中に轟くほど。
      男女問わず、思わず惹かれて見とれちゃう生ける魔法石……」
      
エメラルド「『紫光の輝き』って噂されるくらいだったんだから」

エメラルド「私もお顔を拝見したのは小さい頃だったんだけど、なんだか気恥ずかしくて顔が真っ赤に
      なっちゃった覚えがあるもの。……別にオリヴィア様が私の顔を見られていたわけじゃないのにね、ふふ」

エメラルド「……オズならどういう反応をしてたかしら?」くすっ

男「へ、へえ……そこまで言われるとちょっと見てみたい気がするな。けど……」

男「話の流れ的に……もういないんだろ? そのオリヴィア様って」

エメラルド「……」こく

エメラルド「4年前……例の会議の直前に突然亡くなられて、それでオリガ様が急遽……」

男「……亡くなられた、か」

男「こういうことを聞くのは少し気が引けるけど、“突然”ってことは何かの病気で?」

エメラルド「う、うん、多分……」

男「……多分?」

エメラルド「だって……知らないのよ。単に“ご病気で”としか聞かされてないもん」

エメラルド「当時の王室が公式に発表したのはオリヴィア様ご逝去の報と、そのご息女である
      オリガ様の『クイーン』継承の儀のことだけ。それもある日突然、急にね」

エメラルド「オリヴィア様がどういうご病気だったのか、どういう経緯で亡くなられたのか。
      ……詳しいことは何一つ触れられていなかったわ」

エメラルド「だから私たちが知ってるのは“突然ご病気によって亡くなられた”……それぐらいしか」

男「ふーん……そういうのって国民には説明しないもんなのか?」

エメラルド「まあ、説明する必要っていうか……意味はないわよね。王室って、そういう所じゃないかしら」

エメラルド「政治的に必要があると判断される事柄については国民にも公表されるけど、
      それ以外の事情については内々に伏せておくものよ」

エメラルド「政治の話を抜きにすれば、王室とはいえ1つの家系。あくまでも身内のことだから」

エメラルド「その身内の死因についてまで他人に詳しく説明するのは……普通しないんじゃない?」

男「うーん、言われてみれば……そう、かな?」

 (俺たちの世界じゃ有名人だと普通に報道されてるけどなぁ……)

エメラルド「そういうわけだから、国民も王室を気遣って特に詳細を求めたりなんてしなかったわ」

エメラルド「なにより、当時のオリガ様の落胆ぶりがね……あの姿を見れば誰もそんなこと……」

男「……」

エメラルド「……オリガ様、お母上のことを敬愛してらしたから」

男「……ショックだったろうな」

エメラルド「うん……それに初の外交会議が目前に控えてるって理由で、オリヴィア様のご葬儀もままならない
      内に戴冠式が急ぎ執り行われてね」

エメラルド「そのまま……悲しみの癒えない中、会議にご出席されてたわ」

男「……」

エメラルド「会議の議題だって、内容が内容じゃない?」

エメラルド「私ね、思うの。さっきの話を蒸し返すわけじゃないんだけど、大陸法の立役者がオリガ様たち『4人』
      だって話……それって本当にそうなのかしら、って」

エメラルド「本当に、あの会議でオリガ様は大陸法制定に賛同なされたのか、そもそも
      女王様に発言権がおありになったのか……当時の状況を考えると正直微妙よね」

男「……」

――この大陸ではそう決まっているから。……いえ、“私たち”が法によってそう定めたからです――

男「……」

 (例えそうだとしても、『私は反対しました』なんて言えるわけねーよな……)

 (もしかして、あの人なりに責任を感じてるのかもしれん)

男「……けど、優しい人だよなぁ、女王様。まだ1回しか会ったことないけど、なんとなくわかる」

男「色々世話も焼いて貰ってるしな」

エメラルド「ふふっ、そうね。そういう所もお母上にそっくり」

エメラルド「……そうだ! それにね、あと4年……5、6年もすればオリヴィア様がどんなにお美しい方
      だったのか、オズにもわかるわよ?」

エメラルド「数年後、女王様にお会いすればきっと……その時のオズの反応が楽しみー♪」

男「お、おいおい、5、6年って……俺はそんな長い間この世界に留まるつもりはねーぞ」

男「なるべく早く帰りたいって言ってるだろ? いつ帰れるかについてはあんま考えないようにして
  たんだから、数年後とか……怖いこと言わないでくれ」

エメラルド「あ……ご、ごめんなさい」

男「頼むぞー、お前の助けが必要なんだからな」

エメラルド「わ、わかってるわよ……」

――い、いつまで引っ張るつもりなんだお前はその話を

――ずっと♪

エメラルド「……言われなくたって、それくらい……」

昨日の投下の続きということで今日はここまでー

オズのPT(?)は現在2人だけですが、この後騒がしい面子が続々加わる予定ですので
もう暫くお待ちくださいm( )m

生存報告です 
別の作業も終わりちょうど1ヶ月たったので明日から再開します
お待たせしてすいませんm( )m

_______________

 アメジスト・城下大通り とある衣服店

 カラン カラーン

女店主「あら、いらっしゃい。……って、おや?」

エメラルド「こ、こんにちはー」

女店主「あらら、珍しいね。若い娘さんがウチで買い物なんて……こんにちは」にこ

女店主「今日は服をお探しかい?」

エメラルド「は、はい……あ、じゃ、じゃなくて、その……下着を買いに」

女店主「ああ、そっちかい。下着ならその奥に並んでるから好きなだけ見てって頂戴な」

エメラルド「……」きょろきょろ

エメラルド「こ、こんなに……!」

女店主「あははっ、驚いたでしょ? ウチは品揃えの豊富さでは余所に負けないからね。
     ゆーっくり選んでくれていいんだよ? 勿論、その分買ってって貰えると嬉しいねぇ」にこにこ

エメラルド「は、はい」

エメラルド「うわぁ、こんな可愛いの初めて見た……(ま、街の人ってこういうの穿いてるんだ)」ごくり

女店主「ふふっ、お嬢ちゃん今日は1人かい?」

エメラルド「い、いえ、2人で一緒に。表で待ってくれてる人がそうなんですけど……」

女店主「ふーん?」ちら

男「……」ぽつーん

女店主「……あの荷物抱えた男の人がそうかい?」

エメラルド「……」こくこく

女店主「へえ、男連れとはやるじゃない。もしかして旦那、にしてはちょっと若すぎるか
     ……恋人かい? 優しそうな殿方じゃないか」にやにや

エメラルド「あ、や、そ、そーいうのじゃ……や、優しいのは合ってます、けど、その……///」かぁああ

女店主「ん? 違うの?」

エメラルド「ち、違うっていうか……ただ、最近一緒に暮らし始めたってだけで……///」あせあせ

女店主「なんだ、やっぱりそういう仲なんじゃないか」

エメラルド「で、でも暮らしてるっていうか、私がお世話になってるだけで……!」あせあせあせ

女店主「はいはい、照れちゃってまぁ」

女店主「じゃああれだね、彼の喜びそうなとびっきりのやつを選ばないと」

エメラルド「……!」

女店主「ま、そこはお嬢ちゃん次第ってことで。これだけあれば良いの見つかると思うよ? 頑張りな」にやにや

エメラルド「だ、だから……!///(違うのに……)」



男「……」ぽつーん

 (暇だな……)


男「あーあ、俺もあいつと一緒に服見たかったんだけどなぁ……」

 (服だけならまだしも、下着も置いてあるんじゃ流石に入れねーし)

男「うーん……(中の様子、っていうかあいつがちゃんと服探してんのかすっげえ気になる)」

男「来る途中、服はいらないって散々喚いてたからな。適当に選んでそうで怖い」

 (そりゃあまぁ、一応本人が着る服なんだ。あいつが好きなように買えばいいと思うけど……)

男「やっぱそれなりに可愛いのを期待しちゃうよな(見た目もアレだし、俺の服なんかじゃ勿体ない)」

男「……」

男「……そこの窓から中見れるかな?」そろぉ~


 ドンっ!!!


男「!? うわっ、とぉ!?」

 
 チャリン チャリーン


??「――っと、と、とぉ……わ、悪ぃ兄ちゃん! 大丈夫か!?」

男「あ、は、はい……別になんとも――」

??「すまねえ! 余所見しながら歩いちまってて……悪ぃな!」

男「(……なんだよ同い年くらいじゃねえか)いや、俺の方こそ人通りの多い場所で突っ立ってたわけだし」

男「あ、ていうかお金……」

??「ありゃー、結構散らばってんなぁ……って、おいそこのオッサン! 勝手に拾うんじゃねえ、俺の金だ!」

男「……拾うの手伝うよ」

??「お、助かるぜ兄ちゃん。ホント悪いね、こっちからぶつかっておいて」

男「いやそれはお互い様ってことで」

 (ん? この金……女王様に貰った金とはまた違う種類の貨幣だな)

??「……優しいんだねぇ、兄ちゃん」ぼそっ


??「流石、王室関係者の方ともなれば人間性の出来も違うってか」


男「……は?」

??「でもいけませんなぁ、その王室関係者の方が白昼堂々……」

??「魔女をお連れになられては」にや

男「……!(こ、こいつ……!?)」がばっ

??「そのまま!」

??「……金を拾いながら、あくまで自然に。このまましゃがんでお話しましょうや」

男「い、いやちょっと待て。俺はなにも話すことなんてないぞ。大体なんだよ、
  いきなり魔女とか王室関係者とか……頭おかしいのか? ていうかお前は誰なんだ」

??「くくっ、まぁ、今は俺のことなんてどうでもいいじゃないですか。ねえ? オズ殿」

男「!?」

??「お隣を歩いていた魔女様は確か……トト嬢、だったかな? おとぼけはナシにしましょうや。
   実は後をつけさせて頂いてね、会話は全て聞かせて貰いましたぜ」にや

男「ぐ……!(しまった、名前まで……!)」

 (し、しかも後をつけてただって……? なんで俺たちを……!)

男「……(こいつ、マジで何者なんだ)」じろっ

??「おいおい、そんな怖い顔しなくてもいいだろ。むしろ感謝して欲しいくらいだぜ?
   あんたら2人の関係、知った上で俺はまだ誰にも喋ってないんだから」

??「例えば、そうだな……この事がクイーンの耳にでも入ってみろ、当然魔女の嬢ちゃんは処刑。
   兄ちゃんだって、いくら王室関係者っつってもタダじゃ済まないぜ? それくらいわかってるよな?」にや

男「知らねーな。確かに俺は王室関係者だ。けど、それがどうしたってんだ?」

??「どうしたって……ははっ、なるほど。魔女の嬢ちゃんは見捨てる気かよ」

男「は? 魔女? ……誰が魔女なんだ? どこにいる?」

??「違った。あくまでとぼける気かい」

男「とぼけるもなにも、あいつは魔女じゃないからな」

??「自分で魔女だっつってたぜ。俺は聞いたんだ、この耳でちゃーんと」

男「それはお前が勝手に言ってるだけだろ。証拠はどこにある?」

??「そうくるか。じゃあ仕方ない、クイーンの耳に届くよう密告でもするかな」

男「なんて言うんだ?」

??「勿論、ありのままに」

男「……ふっ、好きにしろよ」

??「へー、ホントにいいのか? どうせ取り合うはずがないとタカをくくってるみてーだが、
   魔女絡みの密告は必ず調査される。……後悔することになるぜ?」

男「好きにしろっつってんだろ(……ばーか、トトはとっくに女王様公認の魔女なんだよ)」

??「そうか、ならどっちのクイーンにするかな……」

男「……“どっちのクイーン”?」

??「いや待てよ、せっかくの機会だ。ここは両人ともに、ってのもアリだな……ふむ」

男「お、おい」

??「……ん? なーに不思議そうな顔してんだ? くくっ、まさかとは思うが、俺がバカ正直に
   “アメジスト”の城に訴えるとでも思ったのか? ありのまま、
   『あんたんとこの王室関係者が、魔女を連れて楽しそうに城下を歩いておりました』……って」

??「んな訳ねえだろ」

??「中身が自国の王室関係者の不祥事とくりゃ、当然庇い立てされるに決まってるもんなぁ?」

男「ぐ……!」

??「魔女の嬢ちゃんはともかく、兄ちゃんは姫さんに叱られるかケツ叩かれて“はいお終い”。
   下手すりゃ逆に密告した俺の身が危うい位だ。それじゃあ意味がない」

??「耳に入れるだけで確実に2つの首がとぶ……」

??「俺の言う“クイーン”ってのはな、兄ちゃん。“サファイヤ”と“ダイヤモンド”、2人の女王のことだよ」にやり

男「……! さ、“サファイヤ”と“ダイヤモンド”って(確か会議に参加する……)北と……西の……?」

 (そ、それって……)

――中でも特に北と西は急進的な魔女狩り推進国ですので――

??「そ、ご存知の通り、4ヶ国会議――わざわざあちらさんから出向いてくれるわけよ。手間が省けるぜ」

??「ま、この手の話で効果的なのはやっぱあの2人だろ、南の変人女王は論外だしなぁ。
   ……っつっても、あの2人もある意味変人か。なんせ魔女に対する扱いが尋常じゃねえ」

??「可愛そうに。嬢ちゃんも楽には死なせて貰えねだろうな、くくっ」

男「……! お前……っ!」ぐいっ

??「兄ちゃんだって終わりだぜ?」

??「“アメジスト”の王室関係者を前にこんな話をするのもなんだが、あの2人はこの国を快く思っていない」

??「長年格下と見下してきた相手がここ数年、当代に代わった途端急速に力をつけ始めたんだ。
   やつらからすれば内心面白くないはずさ」

??「この件で、ここぞとばかりにクイーンを糾弾するのが目に見えてる」 

??「2人が騒げば、流石の『クイーン・アメジスト』も庇い立てできやしねえぞ。
   それどころか、クイーンの立場も失墜だなぁ……兄ちゃんのおかげで」にやにや

男「う……」

??「……理解できたんなら、とりあえず手ぇ離してくんねえか」

男「ぐ、く……」すっ

??「『証拠』なんていらねえ。『オズ』と『トト』、2つの名が判明してる限り、事実確認なんざ簡単よ。
   しかも兄ちゃんは王室関係者だ」

??「周りを見てみろ。他国の行商人も大勢いるからな、今から俺がでけえ声で騒げば面だって割れるぜ?
   なんせおたくら2人は目立つ目立つ。まさか余所の国の連中が気ぃ利かせて庇うとも思えねえし……」

??「仮に逃げることを考えてんなら、それは止めといたほうがいい。逃げ切れねえぞ。
   ……むしろ逃げりゃそれが『証拠』だ」

??「後はわかるな? 魔女の嬢ちゃんがとっ捕まってなにもかも終わり。俺の聞いた話じゃやつらの行う
   拷問は凄惨極まる、それこそ異常ってくらいの代物らしいからな」

??「あんないたいけな嬢ちゃんが耐え切れる訳がない。俺でも無理だ」

男「あ、あいつは俺の連れだぞ! 俺だって一応この国の王室関係者だ! なんだって他国の女王が
  密告くらいでそんな真似するってんだ! そんな権限あるのか!」

男「そもそも! その2人にあいつが魔女だってわかるのかよ! 拷問で自白させるって……んなもん
  密告された時点で魔女じゃなくても魔女ってことになんだろーが!!」

??「……! に、兄ちゃん声がでけえって……」しーっ

男「ふざけんなよ……そんな馬鹿みてーなこと、あいつに……」

 (俺がついてながら、またあいつを……)

 ズキッ

男「させるかよ……」ぼそっ

男「魔女がなんだってんだ、そんな真似……あいつに、トトに……」ぶつぶつ

 ズキッ ズキッ

??「……? お、おい、兄ちゃん?」

男「う、うぅ……っ!」

 ズキッ ズキッ

??「……?(な、なんだ……?)」

男「さ、せ……るか……クイーンごトきが……トトニ……ご、拷問ダと……」ぶつぶつ

男「だ、誰のき、きさ……ぐ、うぅ……トトに……お、俺ノ……」



 (エメラルドニ……ッ!)ぎろっ



??「!?」

??「うわっ! う、わわ……っ!?」どさっ

男「? ……ん?」はっ

??「あ……え、え……?」

男「……? な、なんだよいきなり……(なに倒れてんだこいつ)」

??「……え? あ、あれ……に、兄ちゃん?」

男「(な、なんの話だっけ)あ……そ、そうだ! その2人! 例えお偉いクイーンだとしてもだ!
  なんの権限があって余所もんがこの国の王室にまで干渉してくるんだよ!」

男「それに魔女だ! 証拠もないのに拷問なんて……オリガ様がそんなの認めるわけねえだろ!
  それともなにか? 拷問でもしなきゃ魔女の判別もできない程そいつらは無能なのか!?」

??「あ、ああ……いや、だから声がでけえって。っていうか、兄ちゃん……(あ、あれ? 今のは……)」

 (見間違い……か? なんだ……? い、一瞬目の色が……それにあの殺気……)ごくり 

??「(くそっ、ビビっちまった。こんな王室育ちのボンボンに)へ、へへ……なんにも知らねえんだな。
   というより、世間知らず……ってとこか?」どきどき

短いですがここまでー

男「……」ぎろっ

??「う……だ、だからそんな怖ぇ顔すんなよ。いちいち睨むなって」たじっ

??「そ、それに声だ。兄ちゃんがバカみてーにでけぇ声出すから、周り」

 がや がや ヒソ ヒソ

男「む」

??「自分から目立ってどうすんだよ……ったく、ここに来る途中もそうだったが、
   もうちっとばかり自覚を持ったらどうだ?」

男「ぐ……!」

??「あんたら2人、やってるこたぁ完全に法を犯す大罪だ。バレりゃ終わり、ギリギリの崖端を歩いてる
   ってことにな……ほら、金。まだ残ってんだろ」ちら

行商人?1「……」

行商人?2「……」

??(……ちっ、そろそろ疑い始めたか? 時間がねえ……くそっ、いつまで粘ってんだこのアホ。
   さっさと本題に入んねーとこっちがヤバイ……)

男「……」

??「ま、まあいい。兄ちゃんが言ってたさっきの話、知らねえなら知らねえで……試してみるか?
   密告すりゃどうなるか、すぐにはっきりする」

??「そん時わかるだろーぜ。干渉、拷問……果たして兄ちゃんとこのクイーンが公でそれらを阻止できるのか。
   なぜ魔女の判別にやつらが拷問を用いてんのか……全部な」

 (魔女の判別方法なんて、俺ら平民にんなこと知る術はねーよ。王室関係者のこいつが知らねえんじゃ尚更だ)

??「ま、わかった所で兄ちゃんたちの末路は変わんねーと思うがな。どうだ?」

男「そ、そんなこと……ない、女王様が……きっと……」ぶつぶつ

??「……(もうあの嬢ちゃんが魔女って認めてるようなもんじゃねーか)」

??「……」

??「黙っててやるよ」にや

男「!?」

??「俺が喋らなけりゃ誰にも咎められるこたぁない。そうだろ?」

男「……! ほ、ホントか……っ!? う、ウソじゃねーだろうな!!」がばっ

??「ぐ、ぐえっ、お、落ち着けって……まだ話は終わってない。ひ、1つだけ条件がある……」

男「……条件?」

??「あ、当たり前だろ、なんでタダで犯罪を見逃さなきゃなんねーだ。魔女の通報は国民の
   義務でもあるんだからな……ぐ、て、手ぇ離せ……」ぐえええ

男「じょ、条件って……お前、まさか……(それが狙いで……?)」

??「ふぅ、ふぅ……察し悪過ぎだろ兄ちゃん。本来なら『頼むから黙っててくれ』って懇願するのを期待
   してたのに、いつまでも意地張りやがって」

男「う……も、目的は金、か……?」

??「ははっ、まぁこういう場合、金目当てってのが相場と決まってるもんなぁ……いやいや、
   俺の言う条件ってのはもっと簡単だ。これでもかってくらい簡単……いやなに、ただ俺とだな――」

??「……ん?」

エメラルド「……」じーっ

男「?」

エメラルド「……やっぱりオズだった」

男「え、エメ――あ、(じゃない)……と、トト!?」ぎくっ

エメラルド「ていうかオズの声だったもの、店先でわーわーと」

エメラルド「……もう! お店の人に迷惑がかかるから大声出さないでよ、苦笑いしてたじゃない!
      なんの話してたか知らないけど、恥ずかしいわね……まったく」

男「あ、いや、その……す、スマン」

??「……!(ほ、ほへ~っ、これが魔女の……!)」

エメラルド「で、なに? もしかして、け、 喧嘩……?」ちら

??「や」にこっ

エメラルド「こ、こんにちは……(だ、誰……?)」ささっ

??「初めまして、トト嬢……でしたかな?」

??「お名前はこちらの『彼』から聞き及んでおります。俺の名は『レオ』――」

レオ「こう見えて『ガーネット』――北西部の商業組合(ギルド)に所属しております旅の行商人で御座います。
   ……以後お見知りおきを」きりっ

エメラルド「あ、え、え……オズ?」

男「(……『レオ』?)あ、ああ、ちょっとそこでぶつかちまってな、ちょっと話してただけだ。
  別に喧嘩とかじゃないから心配しないでくれ、悪かった」

男「そ、それよりもお前、服は決まったのか?」ひそひそ

エメラルド「え……? う、うん……///」もじもじ

男「じゃあこれ、金渡しとくから」

エメラルド「あ、ありがと……(お金、オズの大切な生活費なのに……)」

エメラルド「ご、ごめんなさい! その代わり、『とびっきり』のやつなので!(?)///」だだっ

男「?」

訂正>>262 5行目

ちょっとそこでぶつかちまってな、ちょっと話してただけだ
           ↓
ちょっとそこでぶつかちまってな、少し話してただけだ

レオ「……仲いいんだねえ」にやにや

男「……」じろっ

レオ「にしても、あの嬢ちゃん……外套すっぽり被ってたから気付かなかったが、
   ありゃかなりの上玉じゃねーか。たまげたぜ」

レオ「いや兄ちゃんが手元に置いとくのも無理はねえ。わかるぜぇ、その気持ち。
   あれほどの女……やっぱ良い女にゃ魔女もクソもねーもんなぁ、うんうん」

男「……余計なお世話だレオ。……俺には名乗らなかったクセに」

レオ「ははっ、俺はな、女にはちゃーんと名乗るようにしてんだ。……良い女にゃ特に、だ。
   別に兄ちゃんは覚えとかなくていいぜ? むしろ忘れてくれ」

男「覚える気はねーよ。いいから、さっさとその条件を言え」

 (……こっちはもう限界なんだ。これ以上強気な態度を保つのは……)

 (条件次第じゃ、正直……)ぐっ

レオ「あー、そうだったそうだった、条件ね。なーに簡単さ」

レオ「たった1つの頼みごと――」


 「俺を連れて……都の城門を抜ける。ただそれだけだ」にや



原作のライオン――『レオ』の登場です。
オズを脅してはいますが、実際はノミの心臓……原作通りかなりの臆病者です。
とある『スキル』に長けてますが、それはまた後ほど……

短いですがここまでー

明日の昼に続きを投下します!
完結は必ずさせます。毎度お待たせさせてしまい申し訳ないですmm

_______________


警備隊長「――お疲れ様です長官」

警備府長官「ん? ああ……お前か」

警備隊長「今朝より長官をお探ししておりました。今……少しお時間を頂いても宜しいでしょうか」

警備隊長「此度の警備のことで少しお話が」

警備府長官「……警備? ふん、手短にな。
        こっちはその今朝から下らん会議に付き合わされて疲れとるんだ」むすっ

警備隊長「……実は夜に備え、高台の見張りをもう少し厚くしたいと考えております。
      それに伴い現在の警備編成に若干の修正を加えてみたのですが、こちらを……」すっ

警備府長官「……」

警備府長官「人員を増やす分には構わん……好きにしろ」ぴらっ

警備隊長「それともう1つ、外壁を照らす篝火の数も同様に増やしておきたいと思いまして」

警備府長官「ほう、篝火……で? それがどうした」

警備隊長「は、ですので、使用する油をもう少し備蓄庫から引っ張る必要が」

警備府長官「……」ぴく

警備隊長「?」

警備府長官「……足りんか」

警備隊長「は?」

警備府長官「与えられた量では足りんのかと聞いておる」

警備隊長「は、はあ……まあ……」

警備府長官「その備蓄庫だが――」ぎっ

警備府長官「お前はあそこをどこが管理していると思う?」

警備隊長「(う……そういうことか)……た、確か、国防府の軍管理下……だったかと」

警備府長官「ふはは、よく知っておるではないか」

警備府長官「今『引っ張ってくる』と簡単に言ってくれていたが、要はやつらに頼んで『借り受けてくる』ということだ」

警備隊長「……」

警備府長官「つまり『ジェイル』……お前は儂に、あの穀潰しどもに頭を下げろと、そう言うのだな?」にこにこ

警備隊長「あ、いえ、そういう意味では……ただ、長官におかれましては
      認可と依頼状に一筆署名を頂けないかと、それだけでありまして……」

警備隊長「あ、頭を下げる役目は自分が!」

警備府長官「馬鹿者っ!!」ばんっ

警備隊長「……っ!」びくっ

警備府長官「そういう問題ではないわっ!」

警備府長官「いいか、お前ら下っ端がいくら他人に頭を下げようがそんなことはどうでもいい。
        が、『情報府』、『国防府』! この2つにだけは下げる頭も作る貸しもうちにはないっ!!」
        
警備府長官「何時いかなる状況にあってもだ! 平時より何度も言っておることを……簡単に下がる
        お前のその軽い頭には一体何が詰まっておる。儂の話をちゃんと聞いているのか!?」ばんっ

警備隊長「う……申し訳ございません」ぺこぺこ

警備府長官「警備の増強だか何だか知らんが、そもそも編成計画書は既にまとめて女王府に上げておる」

警備府長官「このうえ変更しようものならまた不要な出費がかさむというに、
        人員ならまだしも備品の負担はどこですると思っておるのだこの馬鹿め」ぶつぶつ

警備隊長「……」

警備府長官「いつまでそこに突っ立っておる。理解したのであればとっとと行かんか!」

警備隊長「は、はっ……!」

警備府長官「よいか、『出来る人間』というのは組織にとっていかに有益な仕事をするかで判断される」

警備府長官「お前にとってそれがどこであるのか……それをよく肝に銘じておけ」

警備隊長「……」

警備隊長「申し上げるまでもなく……それでは失礼します」ぺこ

  バタン

警備府長官「……ふん(使えんやつだ……)」

_______________

 ザッ

見張り兵1「隊長! お疲れ様であります!」

見張り兵2「お疲れ様であります!」

警備隊長「……あと一刻ほどで交代の時間だが、周辺の様子はどうだ?」

見張り兵3「はっ! 今のところ特にこれといった不審は見当たりません。引き続き警戒を続けます!」

警備隊長「うむ、ご苦労」

警備隊長「しかし……相変わらず長蛇の列が続いているな」

見張り兵2「ええ、ですが午前中と比べますと、停滞も少し落ち着いてきたかと」

警備隊長「そうか、だが問題は最終閉門時……東西2門を先に封鎖する予定だ。
       あの数が残り2門、特に北に集中することになる。下の連中にも苦労をかけるな……」ぼそっ

見張り兵1「……」ちら
 
 (隊長もかなりお疲れの様子。珍しく疲労が顔に……)

警備隊長「……(都を出る者にまで検査を行うのは少しやりすぎたか……?)」

 (この状況で、更に部下の負担を増やすことになるわけか……)

見張り兵2「……隊長? どうされました?」

警備隊長「……今晩から高台の警備強化を図る。足りぬ人員は各隊に要請して補充するつもりだが、
      恐らく余裕のある隊は少ないはずだ。最悪お前たちにはこのまま夜通しで待機して貰うことになる」

警備隊長「もちろんお前たちだけではない、俺もその時間は高台につく」

見張り兵1「急に……ですか?」

警備隊長「本来なら期間中、我が隊は不眠不休で事に当たる腹づもりで計画書を作成したのだ」

警備隊長「ところが蓋を開けてみればどうだ。この配置・1人に当てられた警備時間の少なさ、
      まるで足りぬではないか。お前たちも見てみろ、ここだけで手薄な箇所がいくつあると思う」

見張り兵2「では、計画書に変更があったと?」

警備隊長「……理由は俺にもわからん。長官が修正を加えたのであれば普通その逆だからな……」

 (数だけ多めに報告しておき現場の人員を削る。予算の水増しはあの方がよく使う手だ)

警備隊長「あっさりと増員を認めた点からしても、どうやら違うらしい」

警備隊長「とにかく、これは陛下をお守りする為に必要なことなのだ……黙って従ってくれ」

見張り兵1「これはこれは、恐れながらとても我々を率いる隊長のお言葉とは思えませんな」

見張り兵2「『従ってくれ』などと……お気の弱い。士気が下がりますぞ」

警備隊長「む……」

見張り兵3「元より我らが反対するはずもなくっ!」びしっ

見張り兵1「お任せ下さいっ!」 見張り兵2「お任せ下さいっ!」

警備隊長「……うむ(スマンな、お前たち……)」

見張り兵3「……ですが隊長。実は私、この様に大規模な警備に参加するのは入隊後、今回が初めてのことでして……」

警備隊長「ん?」

見張り兵3「その、緊張といいますか……ほ、本当に『ヤツら』が来るのかと思うと少し……」

見張り兵1「お、おい、不遜だぞ。他国といえども1国を治める『クイーン』だ、『ヤツら』はないだろう」ひそひそ
       
見張り兵3「ば、バカ! それ位俺にもわかる! 違う、違うんだ、俺の言ってるのは……魔女のことだ」

見張り兵2「……は?」

見張り兵3「魔女だよ……この時期に来るのだとすれば、やっぱり狙いはアレだろ? 
       そうなると、使用する魔法石もそれなりに……だよな?」

見張り兵3「も、もちろん俺も誇り高き警備隊、それも隊長の下で働く選ばれた人間だ、有事の際の
       覚悟はできている。いざとなれば剣を抜き、この身を投げ打ってヤツらに立ち向かうつもりさ」

見張り兵3「ただ……ただ、想像しただけで怖くないか? だって、本来魔法石は殺傷を目的に錬成され
       たものじゃないんだろ? それをどう使うのか……どう使われるのかと思うとつい……」

見張り兵3「俺、未だ魔法を一度もこの目で見たことがないんだよ……」

見張り兵1「……」ぽかーん

見張り兵2「ぷっ……く、くくっ」

見張り兵3「……?」

見張り兵2「くはっ! そ、そうか、魔女が怖いか、ぶふっ、あ、余り笑わせないでくれ……!」ぷるぷる

見張り兵1「ぷ、ま、まあ仕方ないだろう、俺たちと比べりゃまだ若い。
       この世代じゃよくあることさ。そう笑ってやるな(……ぷぷ)」

見張り兵2「た、隊長、こいつに教えてやって下さい。やつら魔女がどれだけ臆病で脆弱な生き物であるかを!」

警備隊長「……」

見張り兵3「……! お、俺は魔女そのものに恐れを抱いているのではないっ!///」かぁああ

見張り兵3「魔法石だ! 魔女の使う魔法がっ、くっ……み、未知のものを恐れて何が悪いっ!」

見張り兵2「わっはっはっは! 同じことだ! 試しに剣を向けてみろ、やつら震え上がって
       魔法石を落としてくれるぞ。今のお前以上に怯えてな。どうだ? 丸腰なら怖くあるまい!」

見張り兵1「ふ、確かに……魔法石を錬成するというだけで所詮は女子供。いや、それ以下かもしれん。
       魔法石さえ持たせれば、俺の息子ですら魔女を圧倒できるぞ?」

見張り兵1「それでも警戒を怠らないのは、隙を突いて都に進入する恐れがあるからにすぎん。
       陰でこそこそ、人目を避けるやつらの習性そのもの……ある意味やっかいだがな」

見張り兵2「ぶははっ、それでも怖いというのなら仕方ない、隊長に頼んで心根からもう一度鍛え直して貰え!
       ねえ、隊長? ぶはっ、ぶははははっ!」

警備隊長「……失望したぞ」

見張り兵2「ほら見ろ、隊長もお前のふがいなさに腹を立ててなさる」

警備隊長「――お前たちのことだっ!!」ごつん

見張り兵2「ぁだっ……!? っ痛ぅう……!!」

見張り兵1「……!」

警備隊長「馬鹿者が、そんな甘い考えで任務に当たっていたのかお前らは……恥を知れ!」

見張り兵2「う……も、申し訳ありません」しゅん

警備隊長「まったくもって嘆かわしい、こいつの様に不安を抱いている方がまだはるかにマシだ。
      いや、今回に限りむしろそれが正しいのかもしれん」

見張り兵1「……と、言いますと?」

警備隊長「今我々が未然に防ごうとしているのはその通り……『未知のもの』であるということだ」

一旦休憩です
我ながら話の展開が遅くてあせります。
戦闘等のアクションと恋愛パート(イチャイチャ)、バランスよくいきたいなぁ……

今週金曜日が丸一日休み! 投下できますっ!

とびとびなのでストーリー内、「ここの部分わからない」って箇所あったら教えて下さいmm

ちなみに個人的なツイッターで指摘された「ハーレムものなのか?」という質問について

ハーレムかどうか、というのは軽いネタバレになるので伏せます
が、確かに各女性キャラ(ヒロイン?)と男連中それぞれの『恋愛』をメインにその他ファンタジー要素がくっついているという感じです
原作オズの魔法使いにあった各キャラの『何かが足りない』(脳であったり勇気であったり……)という箇所を
恋愛の障害としてどう克服していくか……というのが描き切れればいいなぁといった感じです
描き切れれば……

見張り兵1「?」 見張り兵2「?」

警備隊長「『魔女という生き物は元来大人しく、その性質は極めて温厚―― 』」
      
警備隊長「『女であるということを抜きにしても余りにか弱く、例え他者から危害を加えられようと
      それに対し暴の手段を用いて対抗し得る生き物ではない』」

警備隊長「……これが現在、世間一般で流布している魔女への評価だ。
      先ほどお前たちも言っていたように、どれも概ね似通った内容であろう」

見張り兵3「ち、違うの……ですか?」ごくり

警備隊長「……お前も理解していたではないか。何故やつらがこの時期、わざわざこの都を訪れると思う?」

見張り兵3「え……そ、それは……」

警備隊長「物見遊山、であればそれはそれでおめでたい話だが……」

警備隊長「もし魔女が都に侵入するようなことがあれば……その時点でやつらへの評価は間違っていた、
      ということになるな」

見張り兵2「あ……」

警備隊長「いや、或いは認識の不足と言ったところか。獣ですら追い詰められれば牙を剥く」

警備隊長「ましてや相手は獣ではない……俺たちと同じ人間――それも特別な力を有する者どもが
      今初めてその『牙』を他人に向けようとしている」

警備隊長「甘く見すぎておるのだ誰もが。窮地に立たされた者の必死さ……己の生命を省みぬ人間、その全霊を
      賭けた苛烈さを」

見張り兵1「……!」

警備隊長「もっとも、現時点では単なる可能性……だが、これが現実のものとなれば
      それは『未だ誰も知らぬ魔女』……今まで俺たちが認識していたものとは全くを異にする者たちの襲来」

警備隊長「俺が『未知のもの』であると言ったのはそういうことだ」

見張り兵2「……な」 見張り兵3「なるほど……」

警備隊長「そもそも……はっきり言っておくが、魔女を評するに単なる弱者として扱う考え方が間違っている」

警備隊長「俺からすれば、何故魔女をこうも侮るのか、
      その見立てからして甚だ疑問と言わざるを得ん……お前たちも耳にしたことあるだろう」

警備隊長「あの伝説の魔女――『エメラルド』の存在を」

見張り兵1「え、エメラルド……?」

見張り兵3「わ、私も存じております! 魔女『エメラルド』……! 幼少の頃、父と母に何度か!」

見張り兵2「そ、それは、まあ……ですが、それはあくまでも伝説、御伽噺として……」

警備隊長「ふむ、なるほど……その反応、当時を知る者でなければ識る術もない」

警備隊長「仕方ないのかしれんな、言われてみればお前たちは若い。その世代じゃよくあること、か」にや

見張り兵1「む」

見張り兵2「……(た、隊長だって俺たちと歳の差はそうないはず)」

見張り兵3「ぷぷ」

警備隊長「……だが、伝説と言われるほど由緒ある話ではない。伝説とはあくまで彼女の成した数々の業
      を他に称え様がなかっただけのこと。ほんの少し、俺たちの一世代……いや、ニ世代前か」

警備隊長「確かに彼女は存在したのだ。大陸中を我が庭の如く闊歩し、ありとあらゆる魔法石を操る――
      世の全ての魔法と混沌を統べる稀代の魔女が……!」

警備隊長「お前たちとて、かつて魔法石がこの大陸にもたらした恩恵、そして今尚計り知れない影響力を持ってい      ることくらい言わずとも理解しているだろう」

警備隊長「魔法石自体は古来より存在していた……が、彼女ほど魔法石を深く理解し、それを有効的に駆使す      る技術・才能を持つ者がそれまでいなかったのだ」

見張り兵3「錬成……も、その内の?」

警備隊長「うむ。俺も詳しくは知らんが、魔法石の錬成も口にするほど容易ではないらしい。腕はもちろん、
      なんでも魂……? の共鳴が前提として必要になるそうだ」

警備隊長「何のことかはわからんが、
      “魔法石を深く理解する”――恐らく魔女特有の『隠語』みたいなものだろう……」

警備隊長「加えて魔力の構成、内容も錬成者独自の感性が問われるからな。それに膨大な刻を消費する」

警備隊長「高度な魔力にこだわる余りか、それこそ1つの魔法石を錬成するのに生涯を費やすこともあるそうだ」

警備隊長「錬成だけではない。その逆……魔法石の解析にも同様のことが言える」

見張り兵1「確かに……人によっては魔女を職人、錬成された魔法石を芸術品と例えることがありますな」

警備隊長「その通り。彼女の錬成した魔法石はどれをとっても一級品……それも驚くべきはその数。
       現存する彼女の作品と確認される石は聞き及ぶ錬成時間の常識を覆すほど多い」

警備隊長「仮にだ。それら全てが他者の生命を脅かす類(目的)のものであったと考えた場合、
      “エメラルド”クラスが生み出す魔法石……すなわち優れた殺戮兵器と言っても過言ではない」

警備隊長「しかも大量生産が可能とくれば、彼女がどれ程危険な存在であったか想像がつくだろう」

見張り兵3「……」ごくり

警備隊長「もっとも、現実はその逆。実際はその様な危険思想とは程遠い人物であったらしいが」

警備隊長「生あるものに害を成すことを極端に嫌う……その点においては
      彼女も『通説通りの魔女』であるということだ。他者との関わりを積極的に持つ点を除けば、な」

警備隊長「どうだ? 誰もが見下す魔女の一族にもかつて世を震わす傑物が存在していた」

警備隊長「何事にも例外はある。お前たちも、たかが魔女だと風聞を鵜呑みに職務に当たるのではないぞ。
      常に緊張感を持て。……俺が言いたかったのはそういうことだ」

見張り兵1「は、はっ……!」 

見張り兵2「あ、改めて任務に励む次第であります……!」

警備隊長「うむ」

見張り兵3「……エメラルド」

警備隊長「……うん?」

見張り兵3「え、エメラルドには、娘はいないのですか? 魔女の子は魔女です。
       その血を引き継ぐ者が……いたとして、もしそいつが生きてるとしたら……どうなるのです?」

見張り兵1「お前な……」

見張り兵2「いい加減にしろ、何なのださっきからお前は」

見張り兵3「い、今の話を聞いて、疑問に思うのは当然だろう。むしろ何故不安に思わないのか逆に聞きたい」

警備隊長「……脅すつもりではなかったのだがな。うむ、エメラルドとて1人の女、男と交わり子を成しているぞ」

見張り兵1「え……」 見張り兵2「……!(い、いるのか……!)」

警備隊長「だが心配するな。血を引き継いでいるからといってその才まで受け継いでいるとは限らん、それに……」

警備隊長「彼女の娘は、とうの昔に死亡が確認されている」 

見張り兵1「……」ほっ 見張り兵2「……」ほっ

見張り兵3「……(こ、こいつら……)」じーっ

警備隊長「大陸法制定以前の話だ……エメラルドがそれまでの権勢から一転、
      鳴りを潜め隠遁生活に入ったのも可愛がっていた一人娘の死が原因とされている」

警備隊長「娘に子はなく、伝説の血はその時点で絶えわずか一代で終了」

警備隊長「そうだな、確かに……仮に娘が生きているとすればどうなるか……ふふっ、間違いなく
      大陸中がひっくり返る騒ぎになるだろうな」

警備隊長「当時を知る者――今は全員老人だろう、平民、貴族……中には各国王室で立派な地位に収まってる
      者もいる。驚きの余りそのままぽっくり逝くのではないか? はっはっはっ」

見張り兵3「……」

警備隊長「以上だ。他に不安要素もあるまい」ぽん

警備隊長「話が長くなったが、俺とて会議が終わるまで平穏無事に時が過ぎるのを願っている。
      とにかく残り数日、気合を入れていくぞ!」

見張り兵1「はっ!」 見張り兵2「はっ!」 見張り兵3「……」



見張り兵3「……はっ」 こく





 ザッ

見張り兵4「隊長! こちらにおられましたか!」

警備隊長「……? どうした?」

見張り兵5「我々は交代の時間です。
       が、それとは別に隊長へ女王陛下より託を賜っておりまして、それで」

警備隊長「陛下が……? 俺にか?」

見張り兵5「はっ、内容は存じませんが至急女王府まで来るようにとのこと」

警備隊長「う、うむ……(至急……如何なるご用件であろう)」

警備隊長「……承知した」さわさわ

見張り兵2「……ぷぷ(おい……おい、あれ! 髭!)」つんつん

見張り兵1「……!(や、やめろ馬鹿! 笑わせるな……!)ぷ、ぷぷ」

 ガツンっ……!!

見張り兵2「あ痛っ!? 」

警備隊長「……行ってくる。お前たちは夜に備えてゆっくり休んでおけ」

見張り兵1「っ……ぅ! は、はい……(な、なんで俺まで……!?)」 

_______________

アメジスト・女王府内 女王執務室

 コン コン

アメジスト「――どうぞ」

警備隊長「失礼します!」がちゃ

警備隊長「!?」

宰相(女王府長官兼女王補佐・後見人)「……」じろっ

軍統括大臣(国防府最高位)「……?」じろっ

警備隊長「……!(こ、国防府の大臣が……そ、それに宰相まで……!)」
 
 (な、なななな何故この場に……!?)

宰相「……陛下?」

アメジスト「あら、あらあら……どうしましょう。確かに私が来るようにとお願いしていたのですが……」 

アメジスト「それにしましても予想より随分と早く……失礼、警備のお仕事が忙しいと伺っていたもので」

警備隊長「……?(至急、とのことだったはずだが……)」

アメジスト「とにかくお呼びした以上、お待たせするのも何ですわね。さ、どうぞお掛けになって」

軍統括大臣「お待ち下さい陛下、今はまだ大事な……」

警備隊長「はっ! あ……い、いえ、自分は室外にて待機しております!」

アメジスト「……」

警備隊長「あ、あの……」

宰相「……陛下が座れと仰っている。掛けろ」

警備隊長「は……で、でででは、失礼します……」かたかたかた

軍統括大臣「(……ちっ)待て若造」じろっ

軍統括大臣「腰掛ける前に貴様、陛下を御前にし名乗りもしないとは一体どういう了見だ。ん? 
        所属は? 基本的な礼儀作法も知らん田舎者を管理しているのはどこだ?」

警備隊長「あ、や、そ、その……」ぱくぱく

宰相「……儂も1つ気になっておったのだが、お前は普段から腰に剣を携えたまま陛下にお会いしておるのか?」

警備隊長「……!」

軍統括大臣「貴様ぁ……!」がたっ

警備隊長「お、お、おおおお許し下さい、じ、自分は……出自が平民でありまして、」かたかたかた

アメジスト「お止めなさい!!」

警備隊長「……っ」びくっ
  
 すっ

アメジスト「……名乗って差し上げて。誰のおかげで自分たちが枕を高くして寝ることができるのか、
      知りたいと言っているのです。……頬、また傷を作りましたのね」くすっ

警備隊長「あぅ、あ……/// け、警備隊第一隊長『ジェイルロック=ラズライト』……!
      へ、陛下の命を受け只今参上つかまつりましたっ!」       


宰相「!?」

軍統括大臣「!? じぇ、『ジェイルロック』……!? 警備隊の『ジェイル』!!!
       で、ではこ奴が……そ、その剣があの……!?」

アメジスト「ええ、亡国の宝剣……世に2つと存在しない魔法石の剣に選ばれた我が国唯一の“騎士”」

アメジスト「それが彼ですの」にこ

軍統括大臣「……!」

宰相「なるほど、噂には聞いておったがお前が……」

アメジスト「ジェイル、剣を抜くことを許可します」

警備隊長(以下、ラズライト)「は、ははっ! で、では……」ガチャ

 スー……ッ

ラズライト「こ、こちらが自分の愛剣『スケア・クロウ』であります、どうぞ……」

軍統括大臣「お、おお! おおおおお……!」

宰相「むうぅ……いやはやこれは何とも……刀身を通して向こうが見えるではないか。
   華美な装飾など一切不要と言わんばかりじゃのう……何たる美しさ」ごくり

宰相「しかし、この藍色の輝き、透明感は紛うことなき魔法石。
    これを剣と称するにはちと……斬れ味はどうなっておる?」

中途半端ですがここまでー


警備隊長っておっさんのイメージというのが最初にあって中々拭えん

>>312
おっさんのイメージで合ってます。そこまで年ではないですが
息子がいる見張り兵とあまり離れていない程度です
「若造」と大臣に呼ばれていたのは日本の政治家で言うところの
どう見てもオッサンの議員を「若手」と呼んだりする感じですね

土地を守護するカカシのモデルです
オズの仲間としては最年長!

ちなみに残りの「ドロシー」「木こり」、2人のヒロインはまったくの未登場です

宰相「勿論、お前が扱った場合のことじゃが。
   儂がコレを振るったところで何も斬れんからのう……お主はどうじゃ?」

軍統括大臣「……無理ですな」

軍統括大臣「形状こそ剣となっていますが、肝心の刃付けがこれでは。
        貫くことなら可能でしょうがどちらかと言えば打撃向きかと」

宰相「ふむ、その辺りはやはり魔法石よの。魔女と鍛冶師はまた別じゃて」

ラズライト「恐れながら、斬れ味は世に出回る数々の名剣と比べ何ら遜色のない一級品……」

ラズライト「――いえ、正直に申し上げますと、それ以上であると自負しております」

軍統括大臣「む……」ぴくっ

宰相「ほーう(……名剣収集を趣味としておる大臣の前で良く言いおった)」にやにや

宰相「しかし面白い。持ち手によって斬れ味が変わる剣、か」

アメジスト「少し語弊が。持ち手と言っても彼だけ。彼のみがこの剣本来の斬れ味を発揮できるのです」

宰相「……ふむ、そうじゃった」

軍統括大臣「それにしても不可解ですな」むすっ

軍統括大臣「斬れ味が露骨に変化するなど、明らかに魔法の効果であると言わざるを得ませんが……」

軍統括大臣「はて、『サファイア』産の特性からは到底考えられぬ魔力構成」

アメジスト「それも少し違います。斬れ味の変化そのものが魔力ではありません。
      もしそうであるならば、効果を認識している私たちにも扱えるはず」

宰相「魔法は本来誰もが扱えるはずじゃからのう」

アメジスト「魔法石は同じ者が長年扱えば、ただ『使用する』という意思だけで魔法を発動させることが可能です」

アメジスト「こちらに関しては、彼が無意識に魔力を引き出しているだけのこと」

ラズライト「……」

アメジスト「……ですが、私も訂正を。剣本来の斬れ味ではなく、剣(魔法石)に込められた魔力の発揮、
      と表現すべきでした」

宰相「……ジェイル、未だ『取り戻せず』におるのか?」

ラズライト「……はい」こく

宰相「……」ちら

アメジスト「こればかりは『読心』でも」ふるふる

宰相「むぅ……では、暫くはやはりお前しか扱えぬことになるのう。魔力を知っておる唯一の本人がこれでは」

宰相「<<記憶>>と共に封じられた魔法か……奇なる鍵を掛けられたものよ。錬成者にとっても想定外じゃろうて」

軍統括大臣「ほ、他に誰ぞ魔力を知る者はおらぬのですか? 魔女による解析などは?」

宰相「おらぬから彼が所持したままなのじゃ。それに魔女の解析など……一体どうやって? どこに魔女がおる?」

軍統括大臣「そ、それは……」

宰相「この国に魔女はおらん。おったとしても発見後、即縛り首よ」

アメジスト「……」

 (……もっとも、当然解析は試みました、が)

アメジスト「(侍従たちでは少々荷が勝ちすぎましたので)……その通りですわ」

軍統括大臣「む、し、しかし宜しいのですか? この事が公になれば問題になりますぞ」

軍統括大臣「我が国が魔法石を返還していないと知れば『クイーン・サファイア』が黙っておりますまい」

アメジスト「あら、ですがこれは剣ですので」

宰相「わっはっはっはっは!」

軍統括大臣「……! し、しかしですな、現実はそうもいきますまい。恐れながらこれは重大な違法行為ですぞ」

宰相「……(何を今さら)」にやにや

軍統括大臣「こ、この上はしかるべき者が所持し、厳重に保管しておった方が……」

アメジスト「それには及びません。ジェイルで十分です」

訂正>>318 10行目

軍統括大臣「こ、この上はしかるべき者が所持し、厳重に保管しておった方が……」
         ↓
軍統括大臣「こ、この上はしかるべき者が所持し、他に露見せぬよう厳重に保管しておった方が……」

軍統括大臣「こ、こ奴では……」

アメジスト「ご心配なく。私の許可なく剣を抜くことを禁じていますので人目に触れることはありません」

アメジスト「また、ジェイルには姓を与えています」

アメジスト「領地にこそ封じてはいませんが一応、彼は特権身分。いかなる場合においても
      帯剣は許されています。手違いから他人の手に渡る恐れもありません。……そうですわね?」

ラズライト「はっ。片時もこの身より離してはおりません。陛下のお気遣い、大変感謝しております」ぺこ

軍統括大臣「ぐ、ぐぅ……っ! (な、なぜこんなうだつの上がらん田舎者……下賎の者が……っ!)」

宰相「ふふっ、魔法の内容は気になる所じゃが、これはこれで……お前しか知らぬ今の状況が一番心躍るわい」

宰相「なんせ箔が付く。『宝剣に選ばれた騎士』! 良いではないか! わはは!」

アメジスト「……くすっ」

軍統括大臣「むぐぐぐぐぐ……っ」ぎりぎり

短いですがここまでー

宰相「それよりも陛下、何ぞこ奴に用があったのでは?」

アメジスト「そうでした。実はジェイル、貴方に少々お願いしたいことがあってお呼びしたのです」

ラズライト「何なりと」

アメジスト「そうですわね……その前に」ちら

軍統括大臣「! む……席を外したほうが宜しいですかな?」

アメジスト「ええ、申し訳ありませんが」

軍統括大臣「……では、今日の所はこれで失礼させていただきます(……ちっ、宝剣のおかげで気勢を削がれた)」

軍統括大臣「ですが陛下、先ほどの話の続きは必ず」

アメジスト「わかりました。こちらも出来得る限りの考慮はしておきますので」

軍統括大臣「……陛下のご英断に期待しておりますぞ。では」ぺこ

 バタン

アメジスト「……ふぅ」

宰相「やっと口煩いのが消え、厄介払いが出来たと言ったところですかの」

宰相「随分と絶妙な間合いにこ奴が現れたものよ。いやー助かりましたな、陛下?」にやにや

アメジスト「まあ、何のことでしょう?」くすっ

ラズライト「……」

アメジスト「さてジェイル、お待たせしました」

ラズライト「はっ」

アメジスト「用事と言うのは他でもありません。先日――貴方の率いる隊が衝突した異国の少年のことで」

ラズライト「? ……オズ殿、ですか?」

アメジスト「ええ、実は彼にお伝えしなければならないことがあるのを私すっかり忘れておりまして。
      色々と、事情を詳しく知る貴方に例の森へ赴き、彼への伝言と少々……
      “お使い”を頼まれていただきたいのです」

ラズライト「……して、そのお伝えする内容とは?」

アメジスト「……」

アメジスト「『会議が終わるまでの数日間、都には一切近づかぬように』」

アメジスト「どちらかといえば注意ですわね。こちらの勝手な都合で申し訳ありませんが」

アメジスト「……ですが、必ず守っていただきたい旨とその理由についてもご説明差し上げて下さい」

宰相「既に『クイーン・サファイア』が領内に姿を見せておる。万が一の事を考えれば当然じゃ。
   何なら森から外へ一歩も出るなと言っておけ」

アメジスト「これはオズ殿……というより、ご一緒している彼女の為にもなります」

アメジスト「どのような意味かは、貴方なら察していただけますわね?」

ラズライト「……」

――言ってましたよ、彼女。“自分は魔女だー”って――

ラズライト「……はい」

宰相「ま、例の小娘の事もそうじゃが……もう1つ」

アメジスト「ええ、お伝えするにむしろこちらが重要」

ラズライト「?」

アメジスト「……オズ殿に、自身が異国から来たという話を絶対に他者へ漏らさぬようお伝え下さい」

アメジスト「帰国の件については城でお話した通り、こちらが情報を集めますので全てお任せいただければ、と」

アメジスト「恐らくそうは言っても不安に感じられるでしょうから、
      貴方からもよくよく言い含め彼を安心させてあげて下さい。とにかく……」

アメジスト「誰も知ることがない異国の存在を示唆する――これを止めて頂きたいのです」

ラズライト「?」

宰相「理由はわからずともよい。今は……彼の者が口をつぐみさえすれば何も問題はない」

アメジスト「本来なら私が直接彼に伝えるべき重要事項なのですが……」

宰相「陛下は現在多忙を極めておるからの。これはお前に信を置いておる故の頼み事じゃ。わかっておるな?」

ラズライト「は、ははっ……! 勿体無きお言葉……!」

アメジスト「では、こちらも宜しくお願いします」

ラズライト「かしこまりました」ぺこ

アメジスト「――あ、それともう1つ」

アメジスト「ご不便をおかけするお詫びとして、オズ殿にお渡しして欲しい物が」にこにこ

ラズライト「……?」 宰相「……?」  

 ドンッ

アメジスト「これですの♪」

ラズライト「……!」 宰相「……!(ま、またこの人は……!)」

アメジスト「今年一番、最高級の一品です! あの2人にもぜひ♪」にこっ

短いですがここまでー

【人物】
『クイーン・アメジスト』

本名『オリガ=フェブリウス』――“アメジスト”国を代々治める『フェブリウス家』現当主。19歳。
薄茶色のゼミボブに紫の瞳をした、かつて『紫光の輝き』と評された母の美貌と身体を受け継ぐ絶世の美女。

4年前の4カ国会議直前に母であるオリガが急死した為クイーンを継承、魔女を迫害する大陸法の制定に関わる。
若くして政治、特に外交手腕に長けており、オリガの統治期に“アメジスト”はそれまでの名ばかりの大国から一転、
新設した『情報府』の力により他の国が警戒する程の成長を遂げる。

基本的に温和な性格。周囲からは人の情を理解する心優しき女王として通っている。
が、母の死を契機にとある心情の変化が……?

年齢は若いが王室生まれの『女王』としては第一の婚期を逃しており、過去に数人の男に逃げられた経験を含め本人もかなり気にしている。また酒乱の気も若干ある為、宰相以下大勢がその事についても心配しているが触れると空気が凍る
ので誰も何も言えないでいる。『独り身』は禁句。怒ると怖い。


>>331
訂正、母の名前は『オリヴィア』

_______________


宰相「――中々に見所のある若造でしたの」ずずっ

宰相「生真面目というか、不器用というか……生粋の武人はやはりああでなければ。……ふぅ、茶が旨い」

アメジスト「あら、ですが彼もああ見えて昔はなかなかの問題児、上もかなり手を焼いていたそうですよ?」

アメジスト「反骨精神もそれなりに持ち合わせているようで」

宰相「ほほう、ますます好感が持てるわい」

アメジスト「ふふっ、ですわね。己の信念を抱き道を全うする者はそれだけで信用に値します」

アメジスト「もっとも、昔と比べ今は随分と落ち着いていますが」ずずっ

宰相「わっはっは、いかなやんちゃ坊主とてそれなりの地位に収まればそれなりの責任を伴う。
   あ奴も大勢の部下が出来てそれに気付いたのじゃろう」

アメジスト「……ふぅ。……くすっ」

宰相「それにしても相変わらず、ここで出る茶は旨いのう」ずずっ

アメジスト「まあ、まるで私1人が独占してるかの仰り様。爺の部屋にも同じ物をお出ししているはずです」

アメジスト「……そうですわね?」

宰相「?」

アメジスト「どうぞ、中にお入りなさい」

 ガチャ

メイド「……失礼します」

宰相「……気付かなんだ、いつから外に……」

アメジスト「お待ちしておりました。情報府から何か?」

メイド「はい。ご来客中でしたので一旦お取次ぎは……ですが、どうやら急を要する報せとのこと」

宰相「む、“トパーズ”の動向になんぞあった……か?」ちら

アメジスト「わかりました。情報府への連絡はこちらから致します」

メイド「では、私はこれで」ぺこ

宰相「の、のう」ひそひそ

メイド「……?」

宰相「これ、本当に儂の所と同じ物か?」ひそひそ

メイド「? まさか、陛下にお出ししているのは限られた一等品。
   宰相が普段お飲みになられているお茶とは全くの別物です」

宰相「……」

メイド「……失礼しました」
 
 パタン

アメジスト「――こほん、私です。情報府に取次ぎを」ぱぁあああああ

連絡員『こ、これは女王陛下……! しょ、少々お待ち下さい!』

アメジスト「……」

情報隊長(既登場)『――お待ちしておりました陛下。私、先ほどご連絡差し上げました情報府第2隊の者です』

アメジスト「帰国早々ご苦労様です」

情報隊長『有り難きお言葉。早速なのですが、至急お耳に入れておくべき緊急の事態が御座います』

アメジスト「“トパーズ”に……やはり何かありましたのね?」

情報隊長『はい……『クイーン・トパーズ』未出国の件、その理由が判明しました。
      今、お伝えしても宜しいでしょうか?』

アメジスト「構いません、部屋に居るのは私と宰相2人のみ。どうぞ」

情報隊長『会議を目前に、我々情報府も混乱しております。陛下におかれましても何卒お心構えを』

宰相「なんじゃい、勿体つけずに早う言わんか」

情報隊長『じ、実は……『クイーン・トパーズ』が今朝――』


 『――――』


アメジスト「!? な、何ですって!!?」ガタッ

宰相「な……っ、そ、それは真か……っ!?」ガタッ

情報隊長『この後、国を挙げての”式”が執り行われる模様です。確かな情報かと』

アメジスト「……!」

宰相「で、では会議は、4ヶ国会議はどうなるっ!?」

情報隊長『そ、それは我々も……』

情報隊長『尚、“トパーズ”から各国に早馬を飛ばす気配は一向にありません。
      今現在、この事を知るのは我が国のみ……恐らく、今後も知らせる気はないのでは』

情報隊長『ご存知のようにあの国は、というよりあそこの王室は少々変わっておりますので……』

宰相「に、にしてもじゃ……! 陛下!」

アメジスト「そ、そんな……」よろっ

アメジスト「『クイーン・トパーズ』は……年齢が離れているとはいえ、まだお若いはずでしたが……」どさっ

情報隊長『……”式”はもう間もなく始まるようです。『伝景』を使いこちらに様子が届く手筈になっていますが、
      陛下もご覧になられますか?』

アメジスト「……! え、ええ、もちろん!」がばっ

宰相「わ、儂も行くぞ!」

情報隊長『では、ご足労をお掛けすることになり大変恐縮ですが……お待ちしております』

アメジスト「ご報告、感謝致します。また後ほど」

情報隊長『……失礼します』

 ――フッ





情報隊長「――だ、そうです。ここに来られるそうですよ?」

??「……聞こえてたよ。じゃ、俺は外出してるってことで、後はよろしく」ぽん

??「一日に2度もあの女の顔を見るのは苦痛だからねえ」

情報隊長「宰相もご一緒ですが?」

??「……」

??「あー、それじゃあ……仕方ないねえ、ご挨拶だけしなきゃ。一応顔は見せときますか」

??「……お前は? この後どうするつもりなの?」

情報隊長「対応が終わり次第、今晩から帰郷するつもりです」

情報隊長「久方ぶりの帰国、僕も父上と母上に顔を見せる位の孝行はしないと」

??「ふーん、そりゃお喜びになるに違いない……あ、父上には俺からも宜しく言っていたと、伝えておいてよ」

情報隊長「ええ」にこ

??「あーあ、にしても“トパーズ”ねえ……うちの女狐様といい、どいつもこいつも面倒ばかり起こしてくれる」

??「まったく、これじゃあ気の休まる日がないよ」ぶつぶつ

情報隊長「僕も会議が終わり次第、また赴任先です」

??「身体には気を付けてねえ、お前に何かあったら俺が父上に怒られちゃうんだから」

情報隊長「くっく、じゃあ本国の室内勤務に左遷して頂くようお願い申し上げても?」

??「駄目。お前を甘やかすなとも、きつーく言われてるから。若い者はしっかり外で働きなさい」

??「そうでなくとも、お前は優秀なんだから。大事にし過ぎて腐らせちゃった、なーんてのは阿呆のすることだよ」

情報隊長「……お褒めの言葉、ですかね? 親父のご期待に沿う様せいぜい頑張ります」

??「なーに、その内お前にはまた帰国して貰うことになる」

情報隊長「……」

??「ま、その時お前は『情報府長官』様様ですよ」

情報隊長「……では、『現長官』であらせられる親父殿は?」にや

情報府長官「さあ……なんだろ? 少なくとも――」


 「この国で一番偉い人になってると思うよ?」


ここまでー

明けましておめでとうございます
去年投下したのをもう一度読んでみて「……なんだこりゃ?」ってなりました。
正直長編のファンタジーを書くには完全に力量不足でした。
それでも読んでくださった方たちには大変感謝しております、かなり励みになりました。
改めて御礼お申し上げます。

次の投下からまた暫くオズたちの話になります ではノシ

______________


女店主「はいお待たせ。穿いて帰るやつを除いてこちらが全部、ちゃんと包んであるからね」

女店主「お買い上げ、ありがとうございました」にこにこ

エメラルド「あ、ありがとうございました」

女店主「ふふ、何も穿かずに来たって聞いたときは正直驚いちゃったけど、まあこれだけ買ってってくれたらねえ」

女店主「当分下着には困らないんじゃない? 色んなのが見れて、彼も大喜びさっ」

エメラルド「……くふっ」

 (……喜ぶかどうかはともかく、そうよね、かなり気合を入れて選んだんだもん。オズもきっと驚くわよね)

 (一緒に住んでるんだし、当然お洗濯も一緒。干してあるこれを見て……)

――うわっ!? こ、これ、トトの……? あ、あいつこんなの穿いてんのか!?――

――す、すげえ……可愛い上にこの大胆な意匠、なんという大人の下着……(ごくり)――

――知らなかった。トトのやつ、意外と……///――

エメラルド「……くふふっ♪」

 (オズってば私のこと田舎娘とか、時折子ども扱いする節があるから)

 (これで認識を改めるに違いないわ!)にや

 (そうよ。私だってもう15、立派な大人の女性なんだからね)

エメラルド「(これでオズの私を見る目が変わるの。私を見る目が……オズが、私を……)くふっ、ぐふふ」

エメラルド「ぐふふふふふ///」

女店主「……何だか知らないけど楽しそうだねえ。ま、お幸せに」


 
 カラン カラーン

女店主「毎度ー、ありがとうございましたっ」にこにこ



エメラルド「~~♪(早速明日お洗濯しよーっと)」

レオ「お、やっと出てきたみたいだぜ」

男「……」

エメラルド「お待たせー、オズ」にこにこ

男「おう、買い物はもう済んだのか?」

エメラルド「うん♪」

男「……どうしたんだ? やけに嬉しそうな顔して」

エメラルド「う、ううん、何でもないの/// それより遅くなっちゃってごめんね」

エメラルド「はい、これ。余ったお金です。……ありがとう、オズ」ちゃり

男「ん、ちゃんと足りたみたいで良かった」

レオ「よし、それじゃあトトちゃんの買い物も終わったことだし」

男「あ、ああ……そろそろ行くか」

エメラルド「?」

エメラルド「……オズ? “行く”って……何処に?」

男「……ちょっとな。今からこいつを連れて……一旦都を出ることにする」

エメラルド「へ?」

男「すまん。色々あってな……」

エメラルド「?」

レオ「ごめんねー、トトちゃん。この後市場に行く約束してたんでしょ? 兄ちゃんから聞いたよ~」

レオ「でもお2人の時間は後回し。楽しみにしてた所悪いけど、
   ちーっとばかし俺の方の用事を優先してくれるかな」

エメラルド「??」

男「……理由は歩きながら説明するよ。なに、そんな“大した事情”じゃないから心配はいらん」

男「とにかく、今は一緒に来て欲しい」

エメラルド「う、うん……。……?」

______________

  がや  がや

男「……」

レオ「……」

エメラルド「……そ、そうだったの」

男「ああ、ウソをついたのは謝る。喧嘩っていうか、少し揉めた位に思ってたからさ」

男「大声出しちゃったのは反省してるよ。つい興奮しちまって」

レオ「いやいや、俺の方こそ反省してます。先にぶつかったのは間違いなく俺。兄ちゃんは悪くない」

レオ「ただ……拍子で金をぶちまけちゃってね、それでイラッと……ついつい文句言っちゃったんです」

レオ「本当に申し訳ない」

エメラルド「あ……いえ、私からも謝ります。ご迷惑おかけしました」ぺこ

レオ「いやいやとんでもない! トトちゃんが謝る理由は全くありませんよ。
   こうして貴重な時間を割いていただいて、詫びるのはこちら。むしろお礼も言わなきゃ……ですよねえ?」

男「あ、ああ……まあ、な。はは……」ひくっ

(遡ること少し前)

男『……なるほど。要するにお前の狙いはこの書状――』

男『これを使って門の検査を素通りするのが目的か』

レオ『ご明答。もっと言やあ、あの煩わしい長蛇の列に並ぶ必要もなくなるからな。
   さすが王室関係者、便利な道具を持ってらっしゃる』

男『……お前こそ、何か調べられたら困るような物を持ってんのか? だったら……』

レオ『だったら何だ? 断って嬢ちゃんと一緒に処罰されるのを待つか?』 

男『う……』

レオ『余計な詮索は無用。俺の事情をいちいち説明する義理はねえ。
   兄ちゃんはただ黙って俺を連れて抜けるか、それとも……お連れの大切な魔女様を売るのか』

レオ『2つに1つだ』

レオ『……どうだい? 悩むような選択じゃねえだろ。我ながら思った以上に簡単な条件だと思うぜ?』

男『……』

男『本当にその条件だけなんだろうな?』

レオ『ああ、門を無事に抜けさえすればそれ以上何も求めることはない。
   兄ちゃんたちともそれっきり、二度と会うこともないだろーぜ』

レオ『それに、俺も無理難題を言って兄ちゃんが断るのはごめんこうむりたいからな』

レオ『兄ちゃんがどうなろうと知ったこっちゃないが、あの嬢ちゃんが拷問で殺される姿だけは想像したくねえ』

レオ『夢見が悪い。……お互い利益がないだろ?』

男『……』

男『……わかった。ただ、俺からも1つ条件――頼みがある』

レオ『聞くかどうかは内容にもよるが……何だ?』

男『トトのことだ』

レオ『?』

男『……理由だよ。お前と一緒に城門を抜ける理由をあいつに説明しなきゃならん』

レオ『説明すれば……いんじゃねえの? 俺は構わないぜ、嬢ちゃんにどう見られても』

レオ『まあ、二度と会わないとはいえ女の子に嫌われるのは正直避けたい所だが……
   なんせ脅してる張本人だからなぁ。それ位は覚悟してるぜ』

男『違う。お前なんかどうでもいい、トトだ』

男『あいつに有りのまま、理由を全て説明するのは無理だ』

レオ『……何で?』

男『あいつに、自分が魔女だってことをネタの一部に脅されましたなんて言える訳ねえだろ』

男『んな事聞かされて、どんな顔するか……』

レオ『あー……まあ、なんとなくわかる。確かにトトちゃんの悲しむ姿も見たくないなあ……』
   
レオ『俺としてはこっちの条件を呑んでくれれば問題ないし。
   となると……違う理由を説明するしかないよな?』

男『ああ、だから頼む。出来れば自然に、お前を連れて外に出る何か適当な理由で口裏を合わせて欲しい』

レオ『ふーん、そうだなあ……』

 

   『あ……じゃあ、こんなのはどうだ……?』





ここまでー

______________


レオ「……いやー、まさかつっかかっていった相手が王室関係者の方とは露知らず」

レオ「兄ちゃんが優しい人で本当に助かりましたよ。
   下手すりゃ城に連れてかれてそのまま拘束されてもおかしくない状況ですから」

エメラルド「……王室関係者?」ちら

男「い、いや、素性を明かしたのにも理由があってな」

レオ「ええ。それこそが今こうしてお2人の貴重な時間をいただいている理由です」

エメラルド「?」

男「……実はこいつ、一緒に来た商人仲間と都の外で落ち合う約束をしてるそうなんだ」

男「ここに来たのはもちろん市場が目的。午前でお目当ての物は手に入ったから、
  都に滞在することなくその人たちと次の街に移動するんだと」

男「で、待ち合わせの時間ギリギリに急いで向かってる途中、俺とぶつかり揉めちまった――」

レオ「無視して先を急ごうかとも思ったんですがねぇ、何せ散らばった金が両替したての大事な貨幣だったもんで」

レオ「どうしても、ね……時間を取られちまったって訳です」

エメラルド「え……そ、それで、待ち合わせには……」

レオ「……残念ですが間に合いそうにありません。このままじゃ」

エメラルド「……!」

男「俺は商人のことなんて全く知らないけど、一応仲間同士、待ち合わせも重要な仕事の1つらしい」ぽん

男「仕事なら、時間を厳守しなきゃなんねーってのは理解出来るだろ?」

エメラルド「……」こくこく

レオ「それに恥ずかしながら俺はギルドに所属してまだ日が浅いので。
   駆け出しの新人ごときが時間の約束も守れない様じゃあ俺は明日から何も任せられなくなっちまう」

レオ「この世界、信用ってのは金と同じ、場合によってはそれ以上に大事ですからね。死活問題です」

男「……てな感じの恨みつらみを散々聞かせられてさ。流石に俺も悪かったと、
 何か助けてやれることはないか……そう考えて思いついたのが、この書状だ」

エメラルド「?」

男「お前も見ただろ? あの門の行列」

レオ「……」にこにこ

エメラルド「あ……」

男「そ、これさえあれば門は素通り、大幅に時間を短縮出来るって訳だ」

エメラルド「じゃ、じゃあ……まだ間に合う!?」

レオ「当然待ち合わせの時間にはあの行列を計算の内に含めて間に合うよう行動してましたから」

レオ「1人当たりに食う検査時間、単純な列の待ち時間を考えて……それら全てを差し引けば、
   兄ちゃんと揉めた時間を足した所で帳尻が合う。……むしろお釣りが来るくらいです」にこ

男「俺たちも一緒に歩いてるのはそういうこと。……な? 言った通り、大した理由じゃないだろ?」

エメラルド「そ、そっか……そういうこと……だから素性も……」

男「お前まで巻きこんじまって悪いな。市場は後でちゃんと行くから……許してくれ」

エメラルド「う、ううん、そんなことない! そんな……市場なんていつでもいけるもの」

エメラルド「そ、それよりも、ちゃんとこの人を間に合わせてあげなきゃ……そっちの方が大事!」

レオ「んー、嬉しいこと言ってくれるねえ、トトちゃん。俺嬉しくて涙出ちゃいそう」

男「は、はは……(勝手に泣いてろ脅迫ヤローが!) まあ、お前ならそう言ってくれると思ったよ……助かる」

男「ていうか市場にはちゃんと行くからさ。お前の好きな葡萄、いっぱい買おーぜ」

エメラルド「い、いいのよ市場は……多分、戻る頃にはもう終わっちゃってるから」

男「え」

エメラルド「ほら、門兵の人たちが言ってたじゃない。『本日は早めに閉門を行います』って」

レオ「ああ、店出してるやつらもそれで早めに切り上げるって言ってたぜ?」

男「……!」

エメラルド「日も沈みかけてるし、広場まで距離もあるから……
      例え間に合ったとしてもゆっくり見て回る時間なんてきっと……」

エメラルド「葡萄はね、確かに期待してたけど……それより私、オズと色々見て回るのを楽しみにしてたの」

男「トト……」

エメラルド「だから市場はまた今度。今度また一緒に……ね? 連れてって下さい♪」にこ

レオ「」

エメラルド「そ、それに誰かと都に来るなんて久しぶりだったから、十分楽しかったっていうか、
      満足っていうか……いっぱいお買い物もしたし……えへへ///」てれてれ

男「……おい、おいレオ、ちょっと来い」ぐいっ

男(……お前、こいつの命を秤に俺を脅したってこと理解してんだろーな?)ひそひそ

レオ(え……ま、まあ……)ぎくっ

男(すげえ神経してんな。罪悪感とかねーの!? 市場楽しみにしてたんだってよ!)

レオ(……! つ、連れてってあげなさいよ。兄ちゃんが囲ってんだろ、いつでも行けるじゃねーか)

男(お前みたいなのが居るからな。おいそれと外に連れ出すのも考えもんだ)

レオ(こ、今度から気をつけましょうね。俺みたいに優しい人間ばかりじゃないから……)

男(黙れ!)

エメラルド「?」

男「……(そりゃそーだ。こいつ、家族もいないもんな……)」

 (薄暗い森で1人ぼっち。いつ命を狙われるかわかんねー境遇で、楽しむも何もないよなぁ……)

――ううん、むしろ生き延びるに精一杯で、誰かを恨みに思ったりする暇さえなかった――

 (生きるのに精一杯……本当に久々だったんだろうな……こうやって外を出歩くの)

――えへへー、それじゃあお買い物に行きますかー♪――

 (……楽しみにしてたんだろうなぁ、市場……)がくっ

男「それを……お前が……」ぎろっ

レオ「ちゃ、ちゃんとそれらしい理由を作ってやったろ。トトちゃんも悲しんでない。何が不満だってぇの」ひそひそ

レオ「そ、それにあんまゴチャゴチャ言ってっと全部バラすぞ。いいのかそれで!?」

男「う……」

レオ「トトちゃん本当に市場に行けなくなっちゃうぜ。か、代わりに絞首台に連れてくってか? ヒュー、優しい」

男「ぐ、ぎ、ぎ……(こ、このクズ野郎がぁ……っ!)」ぎりぎり

レオ「へ、へへ……」

エメラルド「もう! 何話してるのオズ!? また喧嘩してるんじゃないでしょーね!?」

男「い、いや……」

レオ「まさかぁ~、喧嘩だなんてそんな」にこにこ

レオ「ただ兄ちゃんがお連れの方の自慢をね」

エメラルド「へ……!?」

レオ「トトちゃんの見目麗しさと可愛らしさをこれでもかと語って下さっている最中です」

エメラルド「……!///」ぼっ

レオ「いやー妬けますなぁ。でも確かに頷ける。こんな美人を連れて、兄ちゃんも幸せ者だ。あっはっはっはっは♪」

エメラルド「あ、や、や、やぁ……も、もう、オズ/// な、何言って……あ、あぅ……う、うぅ……///」かぁああああ

男「……(殺す……)」

レオ「ま、城門までの短い間ですが、こーんな感じで3人。楽しく行きましょーや」

エメラルド「そ、そうですね……///」

男「……こいつが、こいつが死ねば……丸く収まる……」ぶつぶつ

エメラルド「ほ、ほら、オズ。行きますよー///」ぐいぐい

男「殺るしかない……殺るしかないんだ……」ぶつぶつ

レオ「くく……」

 (そう、楽しく……あくまで自然に頼むぜ……)ちら


行商人?1「……」

行商人?2「……」


レオ「……」

 (見てろよアホども。いつまでもお前らの言いなりになると思ったら大きな間違いだ)

 (俺は臆病なんかじゃねえ……『これ』さえあれば……『これ』を上手く使やぁ“ガーネット”だってひっくり返せる)

 (ギルド風情が……俺を誰だと思ってやがる。俺は……俺は大陸一の商人になる男だ!
  いつまでも他人に利用されるだけの便利屋じゃねえってことを思い知らせてやるぜ!!)

レオ「大商人レオ……(くくっ、そん時のお前らの顔が楽しみだなぁ)」
  
男「……」ぶつぶつ


  (……まずは手始めに、俺が門をくぐるのを指咥えて見てやがれ……!)

ここまでー

訂正>>366 13行目

(……まずは手始めに、俺が門をくぐるのを指咥えて見てやがれ……!)

(……まずは手始めに、俺の門出を指咥えて祝福しやがれ……っ!)

______________


 がや がや

エメラルド「へぇ~すごいわよねー、もう1人でお仕事任されてるんだって」くいくい

男「……」

レオ「ははっ、いやいや……っつっても扱う品モンは決められてますし、向かう先もギルド指定の馴染みの街。
   出先の組合連中への挨拶も兼ねオマケ程度に売り買いやってるだけです」

レオ「一応行商人を名乗らせていただいてますが実際は只のお使い。
   奴らと違って、自由気ままに商売出来る訳じゃあないですからねえ」

レオ「己の嗅覚を頼りに各地を放浪、入れ込んだ品で大金を動かすのは商人の醍醐味です。
   そういった意味じゃあ俺なんて……」

レオ「ここだけの話、地方の組合に所属してた方がまだマシだったんじゃないかと考える日もありますよ」

エメラルド「そ、それでも立派だと思います。ね、オズもそう思うわよね?」

男「……」ぶつぶつ

エメラルド「……」

レオ「……うーん、どうしちゃったんでしょうねえ彼は」

エメラルド「んもう、さっきから何ぶつぶつ言ってるの? ちゃんと聞いてる?」

男「……聞いてるよ」

エメラルド「ほら、私たちと1つしか違わないのにもうギルドのお仕事任されてるの。すごいと思わない?」

男「……けっ」

 (なーにが商人だ、どうせそれも嘘だろ適当なこと言いやがって)

 (大体俺より1つ下だと? 学校で言やあ後輩じゃねーか。何で年下の奴に脅されなきゃなんねんだ)むかむか

 (お前も! こんなヤンキー面褒めてんじゃねーって、命売られるとこだったんだぞ!)わしゃわしゃ

エメラルド「ぎゃーっ!?」

男「はぁ……。……はいはい、確かに立派ですね。立派立派……」

レオ「……」にやにや

エメラルド「う、うぅ……何で……(髪が……)」ぐすっ

レオ「あっはっは、本当に仲が良さそうで」

レオ「人を見てりゃその国の情勢がある程度読めると言いますが、
   お2人を見てると“アメジスト”は平和そのもの。……つくづくそう思いますよ、いや羨ましい」

エメラルド「!」

レオ「うちは今めちゃくちゃですからねえ。どいつもこいつも殺気立って、笑顔1つ見せやしない」

エメラルド「……」

男「? 何かあるのか?」

エメラルド「お、オズ! ダメっ!」

レオ「あー、いいんですよ俺は気にしてませんから……って、兄ちゃんは兄ちゃんで冗談は止してくれ」

エメラルド「ご、ごめんなさい。オズも悪気があって言った訳じゃ……
      その、本当にわかってないっていうか……他国の事とかあまり詳しくないの、彼」あせあせ

レオ「……おいおい、本気かよ。あんた王室関係の人間だろ」

 (ったく、これだから銀匙咥えて生まれてきた坊ちゃんは……)

レオ「そりゃ大した世間知らずがいたもんだ。ひょっとして“アメジスト”の人間にはそういうのが多いんですかね」

男「……」むかっ

レオ「知らないなら教えてやるよ。“ガーネット”で今何が流行ってるのか」

レオ「華美な服装や品の良い音楽なんかじゃねえ。もっと陰鬱で、反吐の出る位下卑た代物――」

レオ「謀略と暗殺」

レオ「……うちはね、国が2つに割れた内乱の真っ只中」

レオ「平和とは程遠い、寝食を共にする人間にすら一時の心も許すことのできない
   掃き溜め以下の腐った国なんですよ。……覚えておいてね、兄ちゃん」にや

男「……!」

レオ「あーあ、そう考えるとやっぱ間違いだったかなぁ……お仕事する場所。それとも生まれてきた国か」

レオ「ただ表向きはそりゃあもう綺麗なトコなんで、一度来てみたらどう? 
   街並みだけは自信を持ってお勧め出来るよ。街並みだけは、ね」

エメラルド「……」

男「え、な、何で……国が割れてるんだ?(……これも聞いちゃマズイ?)」

レオ「ま、事情は色々あるんじゃねーか? 国が割れるって事は、要するに政治経済、文化信仰、
   その他諸々に不満がある人間と、そうでない人間が同じ場所にいたって事だ」

レオ「上の考えてる事なんざ詳しく知る術はねえけど、“ガーネット”も例外じゃねえ」

レオ「元いた指導者に、ついてけねーって奴がいたんだよ。それが俺ん所の王様」

レオ「それに賛同する連中が大勢いたって訳」

男「……王様?」

レオ「ああ、早くも『国』王を名乗ってらっしゃるよ」

男「いや、そうじゃなくて……」

エメラルド「正当後継者『ガーネットⅩⅧ』――」

エメラルド「そうね、周りは確かに女王様ばかりだもんね」

エメラルド「……けど、オズの認識で間違いないわ。元々“ガーネット”の指導者は女性だもの」

男「やっぱり」

レオ「ははっ、なるほど。でも女ばかりが国の頂点に立つとは限らねえぜ」

レオ「魔女じゃあるまいし、王家だって男が生まれりゃ大抵そいつが国王様になる」

レオ「もっとも、トトちゃんの言うようにかつての“ガーネット”の統治者――
   今は東の半分のみにしか権勢は及ばねえが、あの方も王家の血を継ぐ女性だ。いわゆるクイーンね」

レオ「対して西を拠点に袂を分かつは男の指導者」

男「ふ、ふーん……でも、正当後継者って……王家の血を引いてるんだったらその人が正当なんじゃねえの?」

 (革命みたいなもんか? 歴史の授業は苦手だからな……その辺のことはよくわからん)

エメラルド「……もう1人の『王様』も王家の人間なの」

男「え?」

レオ「そういう事。『ガーネットⅩⅧ』は『クイーン・ガーネット』の実弟」
   
レオ「つまり現在、2人の正当後継者が『ガーネット』の称号を巡り国中を巻き込み争ってくれてるって訳よ。
   ……姉弟喧嘩でな、馬鹿馬鹿しい」

男「……姉弟でって、そんな……何で……」

男「王様や女王様の称号って家族で争うような物なのか?」

エメラルド「私には……わからない……でも、2人は元々仲の良い姉弟だったそうよ」

レオ「んな時もあったらしいですね。うちの王様……弟の方がクイーンにべったりだったみたいで」

レオ「俺がギルドに所属した頃にゃあ、既に蜜月も終わってましたが」

レオ「ある日を境にいきなり反旗を翻すんですもん。どうかしてるとしか思えませんぜ」

男「仲良かったんなら、話し合いとかで解決を……いや、喧嘩の理由は知らないけどさ」

レオ「無理無理。そんな次元じゃねえ、話し合いの段階はとっくに過ぎてる」

レオ「大規模な衝突こそないが、毎日、陰でどれだけの血が流れてると思ってんの。
   今さら上同士が和解した所で、互いに付いてってる国民が納得しねえよ。それに――」

レオ「“サファイヤ”と“ダイヤモンド”もそれを許さない」

男「?」

エメラルド「……“ガーネット”の内乱はね、最早一国内のみの争いじゃないから……」

エメラルド「北西部の様々な都市規模ギルドが擁する新たな国王」

エメラルド「クイーンと同じ王家の人とはいえ、既存の地盤を割り人心を掴むには少し若すぎたわ」

エメラルド「それでも彼が国土の半分以上を支配することができたのは、背後に“サファイヤ”の強大な支援と
      後押しがあったからなの」

レオ「“サファイヤ”はずっとうちを狙ってたからな」

レオ「一方の『クイーン・ガーネット』、つうか元々“ガーネット”には
   『クイーン・ダイヤモンド』が後見人的立場で付いてたんだ。当然激怒するだろ?」

レオ「それにあっこは氷に閉ざされた、地理的に外の情勢関連に疎い国だから。
   電光石火、『クイーン・サファイヤ』の手付けに対応が遅れちまったのも怒りに拍車をかけた」

レオ「大陸法で4大国同士の直接戦争は禁じられてるが、代理戦争となりゃ話は別」

レオ「わかるかい? 東と西、それぞれには北と西の大国が後ろで剣の切っ先を向けてるんだ。
   人と土地、金と魔法石の利権に目をギラつかせた獣2匹が――」
   
レオ「……後に引きたくても引けねえ状態よ」

男「そ、そのいわゆる4大国……? 以外の国はそんなに立場が弱いのか?」

エメラルド「……うん」こくり

レオ「残念ながら」

男「に、にしたって、後から手ぇ出したのは“サファイヤ”って国なんだろ?」

男「確か“ダイヤモンド”も同じ大国のはずだぞ、何だってそんな喧嘩売る様な真似を……」

エメラルド「それだけ“ガーネット”に魅力があるのよ」

男「今言ってた、利権ってヤツか……?」

レオ「それもそうだが、加えてあの女に常識を求めないほうがいい。あいつは……はっきり言って頭がおかしい」

レオ「凶暴かつ残忍、他人の話は全く聞かねえ上に人の情なんざ解す心も持ち合わせていない」

レオ「『クイーン・サファイヤ』っつったら、大陸の一の危険人物だろーが(……どこまで無知なんだこいつは)」

レオ「欲しい物を手に入れるためなら何だってするぜ。国同士で通す筋なんて奴には関係ねえ」

レオ「例え大国同士だろうが、隙あらば形振り構わず噛み付く性質の持ち主だ」

レオ「……そうだな、あの女が唯一話を聞くとしたら“トパーズ”位のもんか。兄ちゃんも覚えておいた方がいい」

レオ「大陸法で保たれている今の秩序も、前提として『狂犬ベファーナ』を
   最強“トパーズ”の存在が抑えてるからこそ成り立っているって事に」

レオ「一度でも均衡が崩れればこの国の平和も一気に消し飛ぶ。なんせ――」

レオ「間違いなく“サファイヤ”が戦争を仕掛けてくるに違いないからな」

男「……!」 エメラルド「……!」

レオ「“アメジスト”だけじゃない、“ダイヤモンド”だってそうだ。他の小国は言わずもがな……」

レオ「奴はいつか大陸全土に戦の『火』を起こす気でいるらしいからねえ……これは割りと有名な話だぜ?」

レオ「戦争になりゃあそこに太刀打ちできんのは軍、魔法石の質、どれを考えても“トパーズ”のみ」

レオ「……うちはもう手遅れに近いけど、兄ちゃんたちも対岸の火事と思わねえことだ」ぽんぽん

男「……(いや……)」
 
 (俺は……この世界の人間でも、この国の人間でもないけど……方法さえわかればいつか帰るし……)

 (けど、こいつは……)ちら

エメラルド「……」

男「……」

 シーン

レオ「……(う~ん、平和ボケした御仁には少し脅しが過ぎたかな……)」

 (ま、嘘は言ってねえし)

レオ「あっはっはは、そんな顔しなくても大丈夫だって。“トパーズ”健在はちょっとやそっとじゃ揺るがねえ」

レオ「つまり戦なんざ起こりはしない……」

レオ「俺が言ったのは最悪こういう事もあり得るって話で……そんな心配しなくても~」

レオ「兄ちゃんが悩むのはトトちゃんの事で十分でしょ、けけっ」ひそひそ

ここまでー

男「お前が話を振ったんだろうが……」じろっ

レオ「だったっけ? ま、どうでもいいけど」

男「……人を見てりゃ国が云々とかさっき言ってたけど、
  お前を見てる限りそんな大変な事になってるとは到底思えねえな」

レオ「はっ、そりゃそうだ。俺は商人だぜ? 物売る人間が辛気臭い面してどうすんだっつうの」

レオ「それに……暗い顔してるだけで何かが変わるって訳でもねえしな、世の中」

エメラルド「!」

レオ「前を見て歩かなきゃ。前だよ、希望溢れる未来ってヤツだ」

男「……お前が言うと白々しく聞こえる」

レオ「いやあ、んな事ねえよ。ほら、前……そろそろ見えてきたぜ」

男「……ん?」

男「! うわっ、何だあれ!?」

レオ「ひゅーっ、すごいねえ……こりゃ」にやにや


 がや がや

門兵1「よし、次っ!」

門兵2「そこっ、1列に並んで! 列を乱さないように!」

 がや がや


男「大渋滞だな……俺たちが来た時の比じゃないぞこの行列」

エメラルド「そ、それにこの人数、都に滞在する人たち抜きでこれなんでしょ? 確かにすごいわね……」ごくり

レオ「なんでも東と西を先に封鎖したらしいからな。必然的にここか南、残りの門に群がるだろうさ」

レオ「でも、俺たちには関係ねえ……だろ?」

男「あ、ああ……」

 (正直こいつの件を別にしてもこの行列は……流石に並びたくねえな)

レオ「書状の準備は出来てるか?」

男「言われなくても出してる、いちいち煩いぞ」

レオ「上出来。んじゃ、サクッと通りますか。……はーい、ちょっとそこ通してねー、はい、そこどいてー」

 「な、何だ……?」  「お、おい! ちゃんと並べよ!」

男「……行くか」

エメラルド「う、うん」

門兵3「こらそこのお前! 列の後ろに並ばんか!」

レオ「あん?」

門兵1「!? あ、ちょ、ちょっと待った……そちらの方は違う! お通しして差し上げろ!」

門兵3「? この小僧が……どうかしたのか?」

門兵1「馬鹿。後ろだ、後ろ」ひそひそ

男「あ……ど、どうもさっきは……ご苦労様です、はは」ぺこ

門兵1「これはこれは、今日はもうお帰りになられるのですね」にこにこ

男「ええ、買い物も済んだのでこれで」

門兵3「?」

門兵1「……王室関係者の方とそのお連れ様だ。陛下の書状をお持ちになられている」

門兵3「!?」

レオ「そーいう事。誰が小僧だって? お?」

門兵3「う……! し、失礼しましたっ!」

門兵1「あの……こちらの方もお連れ様で?(はて、都に入る前には居なかったが)」

男「……」

 (いえ、全く関係のない見ず知らずの他人です、って言ったらどうなるんだろうか。言ってみたい……)

レオ「それなりの礼儀ってもんがあんでしょ、礼儀ってもんが」

門兵3「も、申し訳ありませんでした」ぺこぺこ

男「……まあ、一応連れですね(残念ながら)」

門兵1「左様で御座いますか……では、少々混みあっておりますのでこちらからお通り下さい」

男「あ、ありがとうございます」

エメラルド「ありがとうございます」ぺこ

男「おいレオ、さっさと行くぞ」

レオ「あいよ、悪いね皆さん。お先にしつれーい♪」

______________



行商人??1「……おい、いいのか本当に」

行商人??2「……」

行商人??1「おい、あのまま行かせていいのか!?」

行商人??2「……構わん。放っておけ」

行商人??1「だが――」

行商人??2「手を出さなかったのは正解だ。あれは……恐らく“アメジスト”王室関連の人間だろう」

行商人??2「下手に回収しようとすれば騒ぎになる。立場上、事を荒立てる訳にはいかないからな」

行商人??2「それに我々はあくまでも一般の商人――」

行商人??2「という名目だ。あの列を割って行くことは出来ん」

行商人??1「任務は……書状はどうなる! あの野郎、“国王”の書状を持ったまま出ちまうぞ!!」

行商人??2「ふっ、それも心配いらん」

行商人??1「何?」

行商人「……見ろ。レオから我々に、最後の挨拶みたいだぞ?」


レオ「……」にやあ


行商人??1「……! あ、あのクソ野郎……っ!!」

行商人??2「ふふっ、今あいつはこう思っているに違いない」

行商人??2「『俺はお前たちの存在に気付いていた。上手く出し抜いてやったぞ』、と」

行商人??2「なるほど……どの様な経緯で王室関係者を見つけ、
         そして行動を共にしていたのかは知らんが、あの小僧にしては良く考えたものだ」

行商人??1「感心してる場合か!」

行商人??2「だから言ったろう。何も心配はいらん」

行商人??2「あいつが携えている書状は……白紙だ」

行商人??1「!?」

行商人??2「あんな腰抜けの小僧に国の命運を賭けた大事を託す訳がないだろう」にや

行商人??2「今回の件は支配人(マスター)からレオを試すよう指示されての事だ」

行商人??2「ここ数ヶ月のやつの挙動には不審な点がいつくも見られていたからな。近く……
        ギルドから脱走する恐れがあると」

行商人??2「黙って好きなようにやらせていたのはそれ故よ」

行商人??1「で、では書状は……」

行商人??2「本物はここにある」すっ

行商人??1「……!」

行商人??2「……今晩だったな。任務は……我々が行う」

行商人??1「そ、そういう事だったのか……それならそうと、教えておいてくれても……」

行商人??2「……何だかんだでお前はレオに甘いからな」

行商人??1「ば……っ、馬鹿言うな! 俺があいつに漏らすとでも!?
         ま、まさか支配人がそう言ってたのか!?」

行商人??2「気をつけろよ……ウチは皆が皆、疑心暗鬼に取り付かれている。
         何が理由で疑いを持たれるかわからないぞ」

行商人??2「俺の一存で敢えてお前には伏せた。言えばきっと、お前はレオに……」

行商人??1「ぐ……っ(お、俺も試されていたって事か……!)」

行商人??1「う……す、スマン。気遣い感謝する」

行商人??2「……」

行商人??1「……し、しかし、レオのやつ大丈夫なのか?」

行商人??1「あいつは任務の内容を知っている。今後他の誰に何を喋るかわからんぞ」

行商人??2「……可能性はあるな」

行商人??2「だが肝心の書状が白紙では何を喋った所で信憑性は皆無」

行商人??2「それでなくともレオはまだガキだ。大人と対等に口を聞けてたのはギルドという後ろ盾
        があってのこと……それがなければ誰もあいつの話に耳を貸さんよ」

行商人??1「……」

行商人??2「もっとも、何故か本人は己の能力を過信していたみたいだがな」

行商人??1「大陸一の商人になると……豪語していたな、いつも……」

行商人??2「最早叶わん夢だ。この先あいつに待っているのは……残念ながら死だ」

行商人??2「ギルド脱走は死罪ということくらいレオも理解しているだろう」

行商人??1「……追わないのか?」

行商人??2「今から追っても構わないが……あの列に並ばされて間に合うか?」にや

行商人??1「お前……」

行商人??2「勘違いするな。どの道捕まるって事さ。ギルドの息がかかった商館は大陸中そこかしこに存在する」

行商人??2「もしあいつが商人でいようとするのならばいつかは必ず引っ掛かる」

行商人??2「もしそうでなければ……野垂れ死ぬのがオチだろう」

行商人??2「レオの事は諦めろ」ぽん

行商人??1「……」

行商人??1「あいつは……俺の事を嫌っていたが、俺は……あいつが好きだった」

行商人??2「ああ、だが忘れるな。たった今あいつは俺たちばかりか国も見捨てたんだ。そこは紛れもない事実」

行商人??1「……どこか憎めないヤツだったんだ」

行商人??2「忘れろ……俺たちが気に病むべきは裏切り者の事ではない」

行商人??2「まずは任務……そして俺たちの国、“ガーネット”の行く末を案じるべき――」



なあ……そうじゃないのか?



______________


レオ「……」

男「――さて、無事外に出たわけだが……レオ君? 何処見てんだ?」

レオ「ん? あ、ああ……」

 (……何だよ、割とあっさり行けたな。あいつらも特に驚いた様子もなかったし……)

レオ「(拍子抜けだぜ……)いや、別に何も見てねえよ……」

男「あっそ……で? これでお前とはお別れしていいんだな?」

レオ「勿論、約束は守るぜ」

男「ならさっさとどっか行け」

エメラルド「こ、こらオズ!」ぽか

エメラルド「ご、ごめんなさい。普段はこういう人じゃ……も、もう! 何で喧嘩腰に言うのよ!」

レオ「いいんですよ、彼はトトちゃんをしっかり守ったわけですから」にこにこ

エメラルド「?」

男「余計なことは言うな。いいから早く行け」

レオ「はいはい。俺としても長居は無用ですからね、言われなくとも立ち去りますよっと」

レオ「それじゃトトちゃん。名残惜しいですがこれで俺は失礼します。……またいつか、貴女に
   お会いできる事を願っていますよ」ぎゅっ

エメラルド「え、え? あ、あ……は、はい?」

男「……! な、何手ぇ握ってやがる! は、早く消えろっ!!」しっ

レオ「あっはっはっは、じゃーねー♪」

男「……」

エメラルド「……」ぽかーん

男「……」

エメラルド「……」

男「……ふぅ、(マジで消えたか……)」
 
 (良かった……これで終わって……助かった)へなへな

エメラルド「お、オズ? どうしたの、大丈夫?」

男「あー……大丈夫。ただ疲れがどっと出ただけ」

エメラルド「……お、面白い人だったわよね(ていうか、待ち合わしてる人たちは……?)」

男「どこが」

エメラルド「んもう、オズの意地っ張り。本当は寂しいくせに」

男「はぁ?」

中途半端ですがここまで。もうちょっと行くつもりでしたが眠い……orz

訂正>>395

7行目
行商人??2「ああ、だが忘れるな。
        ↓
行商人??2「ああ、だが現実はそうもいかん。

エメラルド「だって、オズとあの人見てたら仲の良いお友達みたいだったもの」

男「……おいおい」

エメラルド「こっちに来てから初めてお話したんじゃない? 年齢の近い男の人」

男「うん、まあ……確かに」

エメラルド「オズって男の子同士だとあんな感じなんだーって、ちょっと意外な所見ちゃった感じ」

男「べ、別に変わんねーだろ、お前と話してる時と」

エメラルド「んふふ、そう?」

エメラルド「でも喧嘩っていうか、あの人とじゃれ合ってる時のオズ、とにかく楽しそうだったわ」にこにこ

男「……何をどう見りゃそんな風に思えるんだ。俺は寂しくもないし二度と会いたいとも思わん」

 (お前だってあいつの本性知ったら絶対同じこと言うはずだぞ)

エメラルド「……けど、せっかく一緒に居たんだからあの事も聞けば良かったのに」

男「……あの事?」

エメラルド「オズの世界の事よ」

男「ああ、それか……え、あいつに?」

エメラルド「だってあの人は商人なんでしょ? 色々各地を回ってるって言ってたわ。
      もしかしたら外の世界の事、少しくらい耳にしてるかもしれなかったわよ?」

男「うーん、言われてみれば」

エメラルド「私からその話を切り出すのはどうかと思って黙ってたんだけど……」

エメラルド「も、もっと早めに言えばよかったかしら」ちら

男「……いや、気にするな。忘れてたのは俺の方だし、自分の事だしな」

 (それにどの道あいつには聞かなかったと思う)

男「今度から忘れずにちゃんと聞くようにするよ。……ありがとな」

エメラルド「うん」

男「それよりお前、腹減ってないか?」

エメラルド「? んー、少し」

男「今日はもう都で食事すんのは無理っぽいし、家に帰って早めに飯にしようぜ」

男「実はずっと我慢してたんだ」ぐぅ~

エメラルド「あ……くすっ、オズのお腹鳴ってる」

男「一応出来合いの食材は大量に買ったからな。この羊の干し肉だっけ? これとか美味そうだよなー」じゅるっ

男「これと野菜をパンにはさんで食うんだ、俺」にこにこ

エメラルド「!? 何それ美味しそう!!」

男「ふっふ、だろう?」

 (……日本人としては出来るなら米を食べたかったんだけど、売ってないんじゃ仕方が無い)

エメラルド「わ、私もお腹空いてきちゃたかも……」ぐぅ~

男「お、じゃあさっさと帰りますか」

エメラルド「う、うん! 私もそれ食べたい!」

男「もちろん。……チーズもあっただろ? これも一緒にはさむぞ~」

エメラルド「……! な、なんて贅沢! う、うぅ、でも美味しそう……」

男「あっはっはっ、金はあるからな。女王様に感謝!」

エメラルド「お、オズ、早く早く」ぐいぐい

男「はいはい」にこにこ


______________

_________

______


 ……それよりトト、あの店でどんな服買ったんだ?


エメラルド「え゛?」ぎくっ

男「結構時間かけて選んでたじゃないか、服」

男「何だかんだ言ってお前も新しいのが欲しかったんだろ?
  どんなの買ったんだ? 帰ったらちょっと着替えて見せてくれよ」にこにこ

エメラルド「……!」がさっ

男「……ん? 何で隠す?」

エメラルド「……」

男「あれ? よく見りゃ随分小さい袋だな……え? これって服も包んであるんだよな?」

エメラルド「……」

男「……トト?」

エメラルド「……」

男「……」

エメラルド「……」

男「……」

______________

オズの家

男「……ったく、トトのヤツ」もぐもぐ

 (下着を十数枚だと? アホかあいつは。何の為に金を渡したと思ってんだ)

 (あれだけ服も買うよう念押ししておいたのに、スカートの類すら買ってないとか)

 (期待した俺がバカだった)
  
男「本気であれ1枚で過ごす気なのか? 何考えてるんだろうな、あのワル魔女め」もぐもぐ

 コン コン

男「……」

 コン コン

男「……ん? 何だこの音……窓……?」

ラズライト「……」じーっ

男「げっ!? た、たたたたた隊長さん!?」ぶふっ
 
ラズライト「……(開けてください)」こんこん

______________


ラズライト「いやあ、失礼しました。丁度そこからオズ殿の姿が見えたもので……」

ラズライト「驚かせてしまって申し訳ない」

男「い、いえいえ、気にしないで下さい。どうぞ」

ラズライト「お邪魔します」

男「……(あ、靴……)」

ラズライト「うーむ、これがオズ殿が住む世界の……」きょろきょろ

ラズライト「……む、あの娘の姿が見えないようですが、一緒ではないのですか?」

男「? 上に居ますよ(今……部屋でしょげてるんじゃないかな)」

ラズライト「ふむ、やはりご一緒でしたか」

ラズライト「それにしても上……上にも部屋が……」

ここまでー

ラズライト「オズ殿の家は宿屋か何かを営んでおられるのですか?」

男「……? いえ特に。ごくごく普通の一般家庭ですけど」

 (というより靴を脱いで欲しいんだけど……言い出せないなぁ……)

ラズライト「……それにしても広いですな」きょろきょろ

男「あの……きょ、今日は俺に何か用事でも……?」

ラズライト「や、これは失礼。ついいつもの癖が」

ラズライト「ゴホン、先日は色々とご迷惑をお掛けしました。
      実は今日、夜分にお訪ねしましたのは他でもありません」

ラズライト「陛下よりオズ殿へ、少し急を要する伝言があるとのことで」

男「……女王様が?」

ラズライト「ええ。ですが陛下ご自身、会議を目前に控えられている事もあり今は大変お忙しい身。
      代わりに私が託をお預かりしております故、こうして参った次第であります」

男「で、その伝言というのは」

ラズライト「実は――」

______________



男「……なるほど、その話は確かにちらっと耳にしました。かなり危険な人たちだって……」

男「魔女に対する扱いが尋常ではないって事も……」

ラズライト「……魔女に関して言えば、正直どの国も扱いは同じと言えます。
      命を奪うという点においては我々も他と何ら変わりはありませんので」

男「で、でも女王様は――」
ラズライト「――ですが、」

ラズライト「あの娘に限り、今回は特例として助命を認められた形となっております」

ラズライト「これはオズ殿、あくまでも例外であるという事をお忘れなきよう」

ラズライト「一度助かった命を無下にする事もありますまい。もし万が一他国のクイーンに知られれば、
      次は助命など叶う余地はありませんぞ」

男「……」

ラズライト「既に西のベファーナ姫が領内に姿を現しているそうです」

男「!」

ラズライト「恐らくは多少、都を見物して回られるかと思います。近づかぬ方が賢明かと」

ラズライト「何と言ってよいのやら、その……お2人はどうにも目に入り易いというか……」

男「……」

 (レオにも同じ事を言われたな……やっぱり俺たちの服、目立つのか……)

ラズライト「……お持ちになられている書状――」

ラズライト「こちらも大国のクイーンが相手ともなると効力は保障しかねます」

ラズライト「いえ、むしろ話がこじれる原因にもなるでしょう」

ラズライト「ですので会議が終わるまでの数日間で結構、
      それまではどうかこの森を動かぬ様お願いしたいのですが」

男「……」

 (確かに隊長さんの言うとおりだ。トトを許してくれた女王様の国に居るからって、皆が皆同じな訳じゃあない)

 (他国の人間も少なくはないだろうし、それにレオの件もある。少し……油断してた部分があるな)

男「……わかりました。それについて断る理由はありません」

男「むしろこちらとしても有り難い助言……お気遣い感謝します」

ラズライト「いえこちらこそ」

男「……けど、もう1つの方――」

男「『俺が外の世界から来たという話をしてはいけない』というのは?」 

ラズライト(う……)

男「どういう意味なんでしょうか。何か理由でも……?」

ラズライト「あ、や、それに関しては……その、オズ殿がどうのというよりですな……」

ラズライト「そもそも異国の存在を口にしないで頂きたいという意味合いがあるそうで」

男「?」

毎度遅くなりますが今晩投下できそうです


未出キャラを含め軽くオズ側(サイド)の人物紹介 ※ネタバレ有り

・男(オズ)
 主人公 女の子の前では格好つけてしまう高校生。交際経験一切ナシ。17歳

・トト(エメラルド)
 魔女 久しぶりの人との触れ合いに毎日が楽しい15歳。

・レオ
 祖国ガーネットを捨てギルドから逃走。オズ曰くヤンキー顔。ヘタレDQN。後のオズの悪友。16歳

・ジェイル(ラズライト)
 アメジストの警備隊長。魔法石の剣を所持。記憶が一部失われている? オズPTの超火力その1。26歳

・ドロシー
 我が道を征く最強お姫様。金髪超巨乳。後のトトの大親友。オズPTの超火力その2。17歳

・ブリキ
 木こりのモデル。一切が謎。




・オリガ(クイーン・アメジスト)
 アメジスト女王。オズPTのバックボーン。19歳

・メイド
 アメジスト宮廷内侍女。魔女。貧乳。後のオズの家専属使用人。トトと仲が悪い。15歳


みんな揃って過ごし、旅をするのはまだまだ先ですが
こういう設定考えてる時が一番楽しい

ラズライト「恐らく先程申し上げた件と似通った理由で御座いましょう」

ラズライト「誰も知り得ぬ異国の存在を口にする――」

ラズライト「こういった言動が図らずも目立つと事となります。……その上自らが大陸の外より
      来たなどと話せばより一層、奇異な目を向けられ他人の耳へと入り易い」

ラズライト「陛下が危惧されておりますのは正にそこかと」

男「……ってことは、それも会議が終わるまで……?」

ラズライト「ま、まあ基本的にはそう考えて頂いても」

ラズライト「しかしオズ殿。陛下は今、城の者たちを使い全力を挙げて情報を集めておいでです」

ラズライト「いかがでしょう、この際帰国の件は全てこちらにお任せ頂き、
      貴殿は異国での生活をゆるりと満喫されてはどうですか?」

男「いやそれは……そんな他人任せで自分は何もしないっていうのはちょっと……」

男「そうでなくとも、これは俺自身の問題ですから」

ラズライト「……ゴホン、オズ殿のお気持ちは良くわかります」

ラズライト「ですが今暫く、少しの間で結構ですのでご自身の話はお控え下さい」

ラズライト「何よりこれは陛下たってのご希望でありまして……どうかご理解を」

男「……」

ラズライト「……」

男「……女王様には大変お世話になっています。その事で迷惑をかけるというのであれば……わかりました」

ラズライト「おおっ! ではっ――」

男「はい。また会議が終わった後、他人に話しても良い機会が訪れたら教えて下さい」

男「それまでは『俺が外の世界から来たという話』……当分の間喋らないようにします」

エメラルド(……何のお話してるのかしら……?)そろぉ~

ラズライト「助かります。陛下にもその旨必ずやお伝えしておきますので」

男「お願いします」

エメラルド(……?)

ラズライト「あ、それとですな、実はもう1つ。陛下よりオズ殿と娘、2人へとお預かりしている品が」

男「?」

ラズライト「ふむ、オズ殿は我が国の特産品をご存知ですかな?」ごそごそ

男「特産品?」

ラズライト「今日など街にお出になられれば一度は目にしたかと思いますが……葡萄です」

エメラルド(!!!!!)がたっ

ラズライト「……ん?」

男「……」

ラズライト「? ……娘、ですかな?」

男「気にしないで下さい。じゃあ、それってもしかして……」

ラズライト「ええ。“アメジスト”では先月からちょうど収穫期に入った所でして、その葡萄……」

エメラルド(はわわわわわわわっ♪)

ラズライト「――から造られたこちら、『葡萄酒』で御座います。どうぞご賞味下さい」

 バタンッ

ラズライト「?」

男「……気にしないで下さい」

ラズライト「は、はあ」

男「それよりもお酒ですか……」

ラズライト「おや、ひょっとして苦手でしたか?」

男「というより俺、未成年なんで」

ラズライト「……みせいねん?」

男「あ、いえでも有り難く頂きます。女王様にもどうかお礼を言っておいて下さい」

ラズライト「確かに。ではこれにて用件は全て終わりました」

ラズライト「個人的にもう少し貴殿とお話……上に居る娘にも訊ねたい事があったのですが、
      警備の仕事がありますので都に戻らねばなりません。これで失礼します」

男「こちらこそ、今日はどうもありがとうございました。隊長さんも……お仕事頑張って下さい」

ラズライト「――ジェイル」

男「え?」

ラズライト「ジェイルです。ジェイルロック=ラズライト……私の名前です」

男「あ……じぇ、ジェイルさん……?」

ラズライト「ふっ……ではオズ殿、また後日」ぺこ

______________


 コン コン

男「おーい、トト」

 シーン

男「……入るぞー」がちゃっ

エメラルド「……」

男「……(あーあ、布団すっぽり被っちゃって)」

男「いつまで部屋に篭ってるんだ? 早くメシ食わねーと片付けちまうぞ?」

エメラルド「オズが怒るから出ない」

男「何だそりゃ。さっき出てたの知ってるんだぞ」

エメラルド「……! も、もう出ないの!」もぞもぞ

男「……はぁ、俺は別に構わないけど。……わかったわかった」

男「もう怒らないから、さっさと布団から出てきてくれ」

エメラルド「……ホント? もう怒らない?」

男「ん」

エメラルド「もう服のこと煩く言わない?」

男「ぐ、煩くって……ったく。あー、言わない言わない」

 ボフッ

エメラルド「出た」

男「頭だけじゃなくて、下に降りて来いって意味だ。髪ぐちゃぐちゃだぞ」

エメラルド「……隊長さん来てた」

男「ん? あ、ああ……ジェイルさんね」

エメラルド「何のお話してたの?」

男「聞いてたんじゃなかったのか?」

エメラルド「最後の方しか聞いてない。お酒……貰ってるトコ」むすっ

男「そっか……ふふっ、葡萄じゃなくて残念だったな。まあ、話自体は大した事じゃない」

男「あの後俺たちがどうしてるか、様子見を兼ねて近況を聞きに来てただけ」

エメラルド「……うん」

男「それよりほら、早く降りるぞ。少し……お前に案内して欲しい所があるんだ」

エメラルド「? 今から外に行くの?」

男「ああ」

エメラルド「何処どこ!? 行く!」がばっ

 ぐぅ~

エメラルド「……」

男「……その前にメシ食ってからな」

______________



エメラルド「……ここよ」にこにこ

男「お、おおお……!」

エメラルド「えへへ、どう? すっごく綺麗でしょ?」

男「す、すっげえ……近くにあるとは聞いてたけど、まさかこんな広い湖が……」

男「あそこで光ってんのは虫か? うわぁ、こんな光景初めて見た」ごくり

男「空も……こんなにはっきり星が見えるなんて……」

エメラルド「夜空に散りばめられた魔法石よ。ここからだと一層輝いて見えるの。……私の好きな場所」

エメラルド「水だって綺麗なんだから。ほらオズ、ここ」ぱちゃぱちゃ

男「おわっ……お、思ったより冷たくない。結構いけるなこれ」ぱちゃぱちゃ

エメラルド「くすっ、オズもここで水浴びするのね」

男「うーん、深さはどうなんだ?」

エメラルド「浅瀬なら私の背でも足がつく位だから、オズなら問題ないと思うわよ?」

男「そっか……よ、しょ、ここ座っても汚れないよな?」

エメラルド「私も隣……」すっ

男「……」

エメラルド「……」

男「……本当に綺麗な場所だな」

エメラルド「うん」

男「月も……こんなに近くて大きいんだ……」

 (月、か……昼には太陽も出てた……)

 (もし俺が元の世界で見てるやつと同じ物だとするなら……やはりここは現実に存在する世界なんだろうか)

男(だったら、俺は一体何処から……)

男「……」

エメラルド「……」

男「……なあ、魔法石ってそれぞれに特性があるんだよな、確か」

エメラルド「? そうよ?」

男「1つ……ずっと引っ掛かってた事があるんだ。その特性について……教えて欲しい石がある」

エメラルド「何?」

男「“トパーズ”――」

男「俺がこの世界に来た時、ジェイルさんたちが真っ先に口にした魔法石の種類」

男「その口振りからすれば、空から家が落ちてくる事が何ら不思議ではない様に俺は感じた」

男「……これって“トパーズ”の石は家を宙に浮かすことが出来ると考えていいんだよな?」

エメラルド「……うん、そうね。確かに“トパーズ”の魔法石はそれを可能にするわ」

エメラルド「南方の覇者“トパーズ”――『ブリリアント』で圧倒的な存在感を誇る超軍事大国」

エメラルド「その特性は“トパーズ”そのものを体言するかのよう……ズバリ、<<力>>」

男「……<<力>>?」

エメラルド「この世界に存在するありとあらゆる『力』を発生、増幅或いは減少させる事の出来る魔法石よ」

エメラルド「例えば物が動く推進力であったり浮遊力……それにこれを見て」

 ポトッ

エメラルド「石が落ちたでしょ? これにもね、ある種の自然の力が働いてるみたいなの」

男「それは知ってる」

エメラルド「こういった力でさえ自在に操ることが可能な魔法。それが“トパーズ”の特性」

訂正 >>429 4行目

体言→体現

男「つ、つまり家を動かす事くらいお手のモンって訳か。すげえな……」ごくり

エメラルド「うん。程度は魔法石の錬度にもよるけど」

エメラルド「実際“トパーズ”は自国の石を専ら軍事兵器に転用してるもの」

エメラルド「基本的には軍船なんだけどね……巨大な船を大量に建造、
      それらを陸・海・空全てにおいて駆ることが出来る唯一の国」

エメラルド「“トパーズ”の北には広大な砂漠が広がってて、そこでいつも軍事演習を行ってるわ。不思議な光景よ」

エメラルド「砂上を軍船が疾走してるんだから。オズもきっと驚くわ」

男「……(もう既に驚いてる)」

エメラルド「それに物質だけじゃなく人にだって効果は及ぶの。この場合、筋力って所かしら」

エメラルド「常人を遥かに越えた力を発揮する。そういった兵士たちの存在も“トパーズ”が軍事大国たる所以ね」

男「チートじゃねえか!? あ、だからあの時……」

――お前たちも見ただろう、あの膂力。この男……“トパーズ”産の魔法石を所持している可能性が高い!――

男(……冗談じゃない)

エメラルド「……あのレオって人も言ってたでしょ? “サファイヤ”が戦争を仕掛けてくるかもって」

男「あ、ああ……でも“トパーズ”の存在がどうのって言ってたな」

エメラルド「あまり戦いとか、そういう事は考えたくないんだけど、確かにあの人の言う通り」

エメラルド「今の『ブリリアント』で“トパーズ”を横目に戦を起こすなんて無謀だわ。自殺行為よ」

エメラルド「例え“サファイヤ”だって、あそこの石の特性も争い事に使用すればかなり凶悪なんだけどね……
      それでも国家間の戦争ともなれば話は別。最後に物を言うのは動員力と速さだもん」

エメラルド「何が“トパーズ”の逆鱗に触れるかわからない」

エメラルド「一度怒らせれば、次に目にするのは自国を囲む大船団。
      ……ひとたまりも無いわ。瞬く間に蹂躙されちゃう」

男「……!」

エメラルド「……でも、どうしてそんな事聞くの? あの時の話が気になってただけ?」

男「……」

男「……空から落ちてきたんだ」

エメラルド「?」

男「俺は家と一緒に空から落ちてきたんだ。つまり……家が宙に浮いてた」

 (……異国から来た話が出来ないんじゃしょうがない)

 (今出来るのは、帰る方法――その術を模索するのみ。これは約束を何ら違えるモンじゃあない)

男「家が浮く不思議・魔法……少なくともその種さえわかれば希望が出てきた」

 (俺の住む世界に魔法石は存在しない。だったらどうやって?
  ……それを考える余裕は無い。今はわずかな『可能性』にすがるしか……)

男「――空を飛び或いは降って来たんだとしたら、帰る方法はその逆!」

男「トト!」がしっ

エメラルド「は、はいっ!?」どきっ

男「俺は“トパーズ”の魔法石を手に入れたいっ! いや、手に入れなきゃならん!」 
 

  「頼む、お前も手伝ってくれ!!」




ここまでー


______________


エメラルド「――お、オズ、ちょっと……ちょっと落ち着いて///」あせあせ

男「む、俺はいたって落ち着いてるぞ」

エメラルド「そ、そうなの? だ、だったら、以前私が言ったこと覚えてる?」

男「……魔法石の入手は困難だって話だろ?」

エメラルド「う、うん……」

男「それは俺も承知の上だ。……けど、こればっかりはそうも言ってられない」

男「元の世界に帰る為、今考え得る方法としては最低でも家を動かす必要があるからな」

男「どうしても“トパーズ”の力が俺には要る」

エメラルド「そ、それはわかるけど……でもどうやって手に入れるの?」
 
男「……それはまだ考えてない」きっぱり

男「いや、一応考えがあるにはあるんだが……その時になってみないと実際どうなるかわからん」

エメラルド「……?」

男「大丈夫、別に無茶しようって訳じゃないから心配しないでくれ。それに今すぐどうこうって話でもない」

 (……どうせ暫くは外を出歩けないし)

男「もう少し煮詰まってから説明するよ。これにはお前の助けが不可欠だからな。
  ……ふふっ、きっとお前も驚くぞ~俺の斬新な発想に」にこにこ

エメラルド「そ、そう……うん、あまり無茶はしないでね」

男「しないしない」にこにこ

エメラルド「……(何かしら、すっごく嫌な予感がする……)」

男「それよりもトト」

エメラルド「?」

男「お前の身に付けてるその石……それも魔法石なんだよな?」

エメラルド「これ? そうよ」ごそごそ

エメラルド「はい、どーぞ」

男「さ、触ってもいいのか?」

エメラルド「うん」

 キラッ 

男「お、おお……初めて触った。魔法石」

エメラルド「んふふ、どう?」

男「う、うん……まあ、綺麗な色してるよな……(見た目は完全に宝石そのものだ)」

男「おばあちゃんの形見、だったっけ?」

エメラルド「うん。と言っても、私が生まれて直ぐに譲られた物なんだけど……
      それでもおばあちゃんが遺してくれた唯一の石」

男「これって女王様たちも見た事のない石って言ったよな。緑の魔法石……何処の国のやつなんだ?」

エメラルド「何処の国の石でもないわ」

男「……え?」

エメラルド「だっておばあちゃんがそう言ってたんだもん。『ブリリアント』にったった1つしか存在しないんだって」

エメラルド「誰も見た事がないのは当然。これは魔女の中でも私たち――『エメラルド』を名乗る者にしか継承
      されない極秘の魔法石」

エメラルド「一部を除いて、同じ魔女の一族にさえ秘されてきた守護石なの。……数百年も昔から」

男「す、数百年!? そんな昔から!?」

エメラルド「……これは皆勘違い、というより知らないだけなんだけどね、『エメラルド』は何もおばあちゃん
      1人が名乗ってた訳ではないのよ?」

エメラルド「ずっとずっと昔から、私たちの系譜で繰り返されてきた次代への引継ぎ――」

エメラルド「生まれてくる子に、その緑の魔法石と『エメラルド』の名、2つを必ず譲ること」

エメラルド「そしてまた、その子に赤ちゃんが生まれた時には同じく継承を行うようきちんと託す。
      ……これが私たち『エメラルド』に課された使命なの」

男「確かに、お前も『エメラルド』だもんな。……使命ってことは何か意味があるのか? その名前に」

男「それにこの石……何かしらの特性があるんだよな? どんな特性なんだ?」

エメラルド「さあ、わかんない」

男「何だそりゃ」ずるっ

男「……わかんないって、理由もわかんないのに継承なんかしてるのか? ていうかお前魔女だろ。
  魔女は魔法石の解析? 特性とか魔法の内容を調べる事が出来るんじゃなかったっけ?」

エメラルド「出来るけど、んー……」

エメラルド「こ、こういうのってほら、長年繰り返されてきた事だからある種形骸化されてるっていうか、
      おばあちゃんも特に意味とか理由だとか、魔法石の特性についても話してくれなかったから、えへへ」

男「……お前本当に解析とか出来るんだろうな?」じーっ

エメラルド「……! し、失礼ね! 私こう見えても魔法石関連においては一族中最高の腕と技術を誇っていると
      自負してるんだからっ! 解析なんて一瞬よ、一瞬!」

エメラルド「私が最初に魔法石を解析したのは6歳の時。
      床に転がってる魔法石を何かと拾い無意識の内に……」ぶつぶつ

男「わ、わかったわかった、スマン俺が悪かった」

短いですがここまで

男(……プライドみたいなモンがあるのかな。トトがムキになるのは初めて見た)

エメラルド「……」

エメラルド「……『決して解析をしてはいけない』」

男「?」

エメラルド「『この魔法石に関し、いかなる魂の介入をすることなかれ』」

エメラルド「……ダメなの。この魔法石を私たちがみだりに手を加えることはダメ。
      絶対に破ってはならない一族の禁……おばあちゃんにもキツくそう言われてるから」

エメラルド「そりゃあ私だって一応、どんな魔力が込められてるんだろうって気にはなるし、
      知的好奇心や探究心も疼くわ」

エメラルド「でもダメ。数百年守られてきた掟を私個人の勝手で破るのは許される事ではないの」

男「……」

エメラルド「魔法の効果がわからなければ魔法を行使することも出来ない。……けどね」

エメラルド「おばあちゃんはこう教えてくれたわ」

――魔力を知らずとも身につけているだけでそれは力を発揮する――

――エメラルド、私の可愛い孫よ……覚えておきなさい――

――それは『エメラルド』……私ではない、『貴女にのみ』託された『約束の魔法』――

エメラルド「……効果を認識しなくても、決して手放さなければ必ず私を守ってくれる」

――必ず、いつか必ずお前を……――

エメラルド「ずーっと、ずっと守ってくれるんだって」

男「ふ、ふーん、そっか……何だろうな。お守りみたいなもんか……」

エメラルド「『エメラルド』の守護石よ」にこにこ

男「……」

エメラルド「だ、だからね、私も、その……いつか子ども……赤ちゃんをつくってその子に……」

男「あ、ああ……そうだな……ちゃんと渡さないとな」

エメラルド「い、いつかは良い人見つけなきゃ……」ちら

男「ま、まあ……会えるといいな。……って、まだ早いんじゃないのかそういうの……はは」

エメラルド「……」じーっ

男「……! そ、そういや子どもっつっても、生まれてる子どもが女の子とは限らないんじゃないか?」

男「そういう場合はどうなんだ、男で魔女っつーのも変だよな?」

エメラルド「魔女の子どもは魔女よ。生まれてくる赤ちゃんは必ず女の子。
     ……魔法石を錬成する才を持った立派な魔女」

男「へ、へぇ~不思議ダネ」

エメラルド「……」じーっ

男「い、以前はいなかったのか? 何ていうか、気になるやつとか、
  同世代の男……多少は男も身近に居たんじゃないのか?」ぷいっ

 (……な、何だろこの変な感じ。何の話してんだ)

エメラルド「周りはみんな魔女だもん。基本的には女の人だけよ」

男「そ、そう」

エメラルド「男の人ともお話したこと位あるけど……でも、こうやって長い時間、側に一緒に居にるのは……」

エメラルド「オズが初めて」もじもじ

男「そ、そう」

エメラルド「……」もじもじ

男「……(う、うぅ……意味も無くノドが渇く)」

エメラルド「お、オズは……」

男「う、うん?」どきっ

エメラルド「オズはいないの? 好きな人」

男「おおおおおおおお俺!?」

エメラルド「あっちの世界では、みんながどんな生活してるのかわからないけど、
      そういう出逢いとか……こ、恋とか自由に出来る?」

短いですがここまで
もうそろそろキリよく終わらせますねー

男「そ、そりゃまあ自由だろ恋愛なんて。……自由っつーか、誰が誰を好きになろうが
  個人の勝手じゃないか? ……これ返しとく」

エメラルド「……オズは?」

男「お、俺は別に……いないけど、今は……」

エメラルド「でも身近には女の子もいるんでしょ?」

男「う、うん。(学校に行けばたくさん居る)」

エメラルド「だったら、オズにその気がなくても誰かオズのこと好きな人とかいるんじゃない?」

男「ど、どうかな。いるかもしれないし……いないかもしれないな、はは」ひくっ

エメラルド「……」

男「はぁ……(そんな子がいてくれりゃこんな寂しい高校生活は送ってなかったんだろうなぁ)」

 (周りのやつらはほとんど彼女作ってるし、どんどん付き合い悪くなってくし、俺だけ……)がくっ

エメラルド「わ、私は――」

男「?」

エメラルド「あや、や、そ、そそその、私は、どう、かなって……変じゃない?」あせあせ

男「……変って、何が?」

エメラルド「あの、その、オズの周りにいる女の子たちと比べて、何処かおかしな所ない?」

エメラルド「私……こっちの世界でも普通の子たちとは違う生活を送ってきたから……
      今日とか街ですれ違う女の人たちを見てずっと……気になってたの……」

男「……」

エメラルド「や、やっぱり変、かな……?」ちら

男「……全然。ちっとも変なんかじゃないぞ」

エメラルド「ほ、ホント?」

男「ああ、服1枚ごねて拒否するおかしな性格を除けばごく普通。その辺にいる女の子と何も変わらない」

エメラルド「むー」

男「……(気にしてるのかな、自分が魔女であることに。少なからず他と違う、そう思われることに)

 (けど、何も変わらないよな。魔女だからって何もおかしな所なんてない。むしろ……)」

エメラルド「――うん……でも、ありがとう」

エメラルド「オズにそう言って貰えると……えへへ、すっごく嬉しい///」

男「う///」どきっ

エメラルド「……オズの住んでる世界かぁ……いいなぁ、私も一度行ってみたいなぁ」

男「……!」

 (む、むしろどうしたんだこいつ、いつもと……雰囲気が……)」

 夜空を仰ぐその横顔――

 月の光に照らされ尚負けないくらいに輝く瞳。エメラルドの色があまりにも――

男(……や、やっぱり普通じゃないかも。こいつ、改めて見るとすげえ綺麗な目ぇしてんな……か、顔も……)

エメラルド「ねえ、オズ」

男「ん? ど、どした?」ぎくっ

エメラルド「もう少しだけお話。……オズの世界のことをね、いっぱい聞かせて欲しいの」

男「あ、ああ……別に構わないけど。俺の話じゃなきゃ何でも話してやるぞ」

エメラルド「オズのお話はダメなんだ?」

男「……話して楽しいことなんて何1つないし、それに聞いても多分つまらないと思う」

エメラルド「じゃあオズの子どもの頃のお話から!」

男「……」



   「……くすっ♪」



______________
 
__________
 
_______

____

______________

 ヒュウウウウウウ ガタ ガタッ


エメラルド「……」

 (……眠れない)

エメラルド「……(不思議……どうしてだろう。こんなに落ち着かないのは)」

 (ついこの間まで、確かに私は1人で過ごしていたのに……暗闇の中、たった1人で……)

 (何よりも待ち望んでいた夜――誰にも見つかることがない、全てを覆う夜の帳)

エメラルド「(それなのにどうして……)どうしてこんなに不安になるの……?」ごろん

エメラルド「……」

 シーン

エメラルド「……(静か過ぎる……他に誰もいないみたい)」

 (誰も側に……)

  いつもと同じ、私1人――

エメラルド「……っ、オズ……!」ごそごそ

______________


男「ぐがーっ」Zzzz

エメラルド「……(ほっ)」

男「ぐが~っ、むにゃ」Zzzz

エメラルド「んしょ、んしょ」ずるずるっ

 (きょ、今日は私もここで……)いそいそ

男「むにゃ、ぐぅ」Zzzz

エメラルド「……」

男「ぐ、ぐがぁ~~~っ」Zzzz

エメラルド「くすっ、オズったらすごいいびき。寝相も……ふふ」

 (今日はいっぱい歩いたし、ずっと荷物持っててくれたもんね……きっと疲れてたんだわ)

エメラルド「……」じーっ

男「ん、んぅ、むにゃ……」Zzzz

エメラルド「……くふっ」

男「むにゃ、が、が~~~っ」Zzzz

エメラルド「くふふっ、~~~♪///」ばたばた

男「う、ぅん? む、むぅ……?」

エメラルド「……!(あ、あわわ、し、しーっ! 静かにしなきゃ……!)」ぼふっ

男「……ぐう」

エメラルド「……」そろぉ~

男「すぅ、すぅ」Zzzz

エメラルド「……」

男「すぅ、すぅ」Zzzz





エメラルド「……………」






――――スッ

______________

 ヒュウウウウウウ バサバサッ


アメジスト「……(風が出てきましたわね……)」

 (我が国にとっては追い風……ここに来て何もかもが上手く働く)

 (あの“トパーズ”でさえ……思惑とは別に、まるで全てが私を後押しするかの様に……)

 ヒュウウウウウウ ガタッ  ガタガタッ

メイド「――こちらでしたか、陛下」

アメジスト「……」

メイド「今宵は少し肌寒く、夜風はお身体に障ります。どうか中に」

アメジスト「あら、ですがとても気持ちの良い風ですわよ? もう少しこのまま」にこ

メイド「……(なるほど)」ちら

 (酒瓶……またですか……ここの所、益々量が……)

アメジスト「お頼みしていた件。……そのことでいらしたのでは?」

メイド「はい。例の緑の魔法石……仰せの通り加工が終了しましたのでお持ち致しました」

メイド「こちらに」すっ

アメジスト「……見事です」

アメジスト「そう聞かされなければ、採掘直後の原石と見紛うばかり。
      ……これでは誰も気付きません。流石ですわね」

メイド「加工処理それ自体は極めて簡単に行うことが出来ましたので」

アメジスト「つまり……魔力は込められていなかった」

メイド「結論から言いますと」こく

アメジスト「……(『読心』の能力を疑う訳ではありませんでしたが、やはり彼の言ったことは真実……)」

アメジスト「『ほうせき』――異国の稀少石に過ぎませんでしたか」ぼそっ

メイド「……」

アメジスト「貴女方の手を煩わす事もありませんでしたわね」くすっ

メイド「……」

アメジスト「ですが彼には感謝しなければ……ん、んっ」こくっこくっ

アメジスト「――ふぅ」

メイド「……へ、陛下。それ以上は程ほどに(……医療団の静止も聞かない。一体どうすれば……)」

アメジスト(……只の石とて、事情を知らぬ者にはそうは映らない)

 (正に此度の会議における切り札……ふふっ、目に浮かぶよう……)

 (あの欲深き者たちの目が、この石と同じ色を湛え、鈍く、妖しく輝く様が――)

メイド「……」

アメジスト「うふふっ、お母様……ご覧になられていますか」ふらっ

アメジスト「もう少しで御座います。もう少し……あと一歩で貴女の夢に、また近づく……」ふらふら

メイド(……必要なのかもしれない。お仕えしている私たちとはまた違う存在……)

メイド「(この方にも、特別心の支えとなる人が……)陛下、もうそろそろ中に。さ、こちらです――」

アメジスト「!? う、ぷっ……こほっ、けほっ!」

メイド「……! へ、陛下!?」

アメジスト「けほっ、けほっ……う、うう……」よろっ

 ドサッ

メイド「……! だ、誰かっ!! 誰か来て!! 陛下がっ、陛下が……!!!」


 「陛下! 陛下っ!!」ばたばたっ

 

 『異変』――

 

 「医師を早くっ! そ、それと宰相をお呼びしろっ!! 至急だっ!!」

 

 聡明なる女王が治めし国に忍び寄る『凶事』―― 


 
 「陛下……こ、これではまるでオリヴィア様と同じ。い、一体どこから……」

  
  

 だが、未だそれに気付く者は居ない――



 「誰だ!! あれ程陛下の側に酒は置くなと命じていたはずだぞっ……!!」


 誰1人として――

______________

 カッッポ カッポ カララッ


情報隊長「……止めて」

 ヒヒ~ン ブルルッ

情報隊長「……」

行商人??1「……」

行商人??2「……」

情報隊長「……君たちだったの」

行商人??1「はい。お久しぶりです」

情報隊長「1人と聞いてたけど」

行商人??1「事情が変わりまして、急遽我々が」 

情報隊長「……ふーん、まあいいや。こんな時間に長話もなんだ。
      帰郷を理由に外出してることになってるんでね、早めに終わらせよう」

行商人??1「では早速。……おい」

行商人??2「――これに。……こちらが我が国王『ガーネットⅧ』より預かりし親書で御座います」

情報隊長「(国王、ね)……拝見させて貰うよ」

行商人??2「そちらがご提示された条件は全て呑んでおります。一部を除く我が国の既得権益、
         その半数以上を貴国に譲渡する由……国王も了承済みです」

情報隊長「……」

情報隊長「結構! 王家の捺印も問題なし。では『ガーネットⅧ』の念書、確かに僕がお預かりした」

行商人??1「で、ではっ!」

情報隊長「うん、任せておいてよ。かねてよりの計画通り、次の会議で君たち“ガーネット”が抱える問題」

情報隊長「国内の一時休戦及び“サファイア”の政治的・軍事的関係者、その全ての即時撤退を視野に入れ――
      大陸秩序を脅かす最優先の課題として取りあげることを約束する」

行商人??2「お、おお……!」

行商人??1「し、してどの様に!?」

情報隊長「……」

行商人??1「あ、いえ……申し訳ありません。国の存亡を賭けた大事であります故、つい……」

情報隊長「ふふっ、気持ちはわかるよ。……だけど心配は要らない」

情報隊長「それについても筋書きはちゃーんと用意している」

情報隊長「国内でのいざこざはともかく、聞けば『クイーン・サファイア』は支援国の立場をいいことに
      貴国の魔法石を好き勝手に利用しているそうじゃないか。これは大陸法――」

情報隊長「魔法石の自治管理を定める条文に明らかに違反する行為だ」

情報隊長「此度の会議、議題国として女王陛下はこれを切り口に“サファイア”糾弾の方向へ持っていくおつもりさ」

情報隊長「会議には『クイーン・トパーズ』も同席されておいでだし、こちらの言い分に正当性がある以上、
      さしものベファーナ姫も耳を傾けることくらいはするんじゃないかな?」

情報隊長「もしそうなれば、国内の停戦は叶わないまでも背後で君たちを掻き回す存在を
      引っ込めることは可能だと思うねえ」

行商人??1「そ、それだけ叶えば! 十分で御座います!」

行商人??2「流石は徳高きオリガ姫! やはり頼りになるは“アメジスト”のみ!」

情報隊長「そう」にやにや

行商人??1「……! お、お恥ずかしい話、この台詞は今ので二度目――」

行商人??2「い、以前は“サファイア”を頼りにしていましたので」

情報隊長「目が覚めたかな?」

行商人??1「……彼の国の介入に異議を唱える重臣をはじめ、
         街の主要人物が次々に殺害されるに至りようやく我々も……」

行商人??2「当初は東――『クイーン・ガーネット』の手の者の仕業とばかりに思っていたのですが……」

情報隊長「ところがそうではなかった。……ま、ベファーナ姫のやりそうな事だよね」

情報隊長「なし崩し的に君たちの国を侵食する気さ。だから僕が言ってたじゃない」

情報隊長「あの国とは早めに縁を切れと」

行商人??2「貴公が我が国に滞在されておりましたのは正に神の導き。……本当に、本当に助かります」

情報隊長「これも何かの縁。僕も“ガーネット”の実情を目の当たりにし心を痛めたんだ。
      このままではいけない、助けになることはないか……陛下だって同じお考えだよ?」

情報隊長「だってそうじゃない、自国の者同士が争い血を流すなんて……そんな悲しいこと他にないじゃないか」
 
行商人??1「あ、有り難きお言葉……」じわっ

行商人??2「この様な機会を与えて下さりなんとお礼を申し上げて良いのか」

情報隊長「……」

行商人??1「きっと大丈夫だ。オリガ姫ならきっと上手く事を運んで下さる」ごしごし

行商人??2「ああ、間違いない」こくっ

情報隊長「……」

 誰1人――

 気付く者はいないのだ――

情報隊長「――で? それはそうと君たち……君たちこそ大丈夫なんだろうね?」じろっ

 誰1人――

行商人??1「……?」

情報隊長「この件について、他に話が漏れていないかと聞いてるんだ」

行商人??1「そ、それは間違いなく」

情報隊長「……本当かい?」

情報隊長「東の連中はもちろん、何より『クイーン・サファイア』に動きを掴まれていないか心配なんだよ僕は」

情報隊長「脅すつもりはないけど、この書状に記載されている文面は
      間違いなく“サファイア”を裏切る内容に他ならない」

行商人??2「……!」

情報隊長「事が露見すれば無事で済まないのは君たちだけじゃあない。うちにも多大なる迷惑が及ぶ……」

情報隊長「その辺については理解してくれてるんだろうね?」じろっ

 『元凶』たる当事者たちを除いて――

行商人??1「も、もちろんで御座います」

行商人??2「ば、万全を期して参りましたので」

情報隊長「……そ、ならいい」

情報隊長「じゃあ話はこれで終わりかな。あまり留まると不審に思われちゃうからね」

情報隊長「僕は一旦城に戻って、この書状を陛下にお渡ししないと」にこ

行商人??1「は、はっ、では何卒我が国の事、宜しくお願いします」ぺこ

行商人??2「オリガ姫にも宜しくお伝え下さい」ぺこ

情報隊長「……出してくれ」

  ヒヒ~ンッ 



 誰も知る由もない――

 
 カッッポ カッポ カラララッ

情報隊長「…………く、くくっ」

 この国の誰もが――


ラズライト「……冷えるな、今日は」ぶるっ


 「陛下っ! 陛下ぁっ!!」
アメジスト「……」ぐったり


 気付かないまま眠りにつくのだ――


男「ぐが~~~~っ」Zzzzz


エメラルド「~~~~~っ/// (は、初めてしちゃった……!///)」じたばた



 “アメジスト”に忍び寄る破滅の足音に――


  否――


______________

 バサッ バサッ

大カラス「クァアア! クァアアッ!!」

黒羽の魔女「――いつまで付いて来る気? しつこいわよ」

翼の生えたサル「ギィーッ! ギギッ!(お前、縄張りを荒らした!)」

黒羽の魔女「通っただけじゃない」

翼の生えたサル「ギッ、ギギッ! ギギーーーッ!(通ったなら通行料を寄こせ! 金、金を寄こせっ!)」

黒羽の魔女「……獣の分際で金を望むの? ご立派」

翼の生えたサル「ギギギッ! ギッ!(やかましいぞ人間の女ぁ! 捕らえてバラバラにしてやろうか!)」

黒羽の魔女「ふん。欲しけりゃ取りに行きなさい」ぽいっ

翼の生えたサル「ギギャーッ! ギャギャッ!(……! ああっ、こいつ落としやがった!?)」

翼の生えたサル「ギィッ! ギギーッ!(拾え! 急げ! 見失う!)」

 ヒューン

黒羽の魔女「……」

 (欲は申し分ない……だけど我が強すぎる)

黒羽の魔女「あいつらを『使う』のは無理そうね」なでなで

大カラス「クァアア! クァアアッ!!」 ばさばさっ

カラスたち「ギャアギャア!(見えてきたぞ、“アメジスト”だ!)」

カラスたち「ギャアギャア!(すげえ! なんちゅー綺麗な都! 夜なのに光り輝いてるぜ!)」

黒羽の魔女「あれは……篝火?」

カラス「ギャアギャア!(光物! 光物! 俺たち大好き光物!!)」

黒羽の魔女「……あれは違うの。落ち着きなさい」

カラス「ギャアギャア!(城にはいっぱいあるもんね! ぴっかぴか! 俺たち大好き魔法石!)」

黒羽の魔女「ふふっ、そうね……城にはたくさんあるわ」

黒羽の魔女「あとで好きなだけあげるから、もう少し待ちなさい。その前に……寄る所があるの」

カラスたち「ギャアギャア!(ええ~っ、ここでおあずけ!? イヤだ! イヤだ!)」

大カラス「クァア゛ア!(黙れっ!)」

カラスたち「……!」びくっ

大カラス「クァアア! クァアアッ!!(あまり『ジル』を困らせるんじゃねえ! 毛ぇ毟られたいか!)」

 シーン

黒羽の魔女「……大丈夫よ皆。あとでちゃーんとあげるから」

 

 バサァッ バサァッ

 
 否、羽音―――




黒羽の魔女「ちゃーんと、全員殺してあげるから……その後自由に持ってきなさい」

カラスたち「ギャアギャア!(うわーい! 自由だ自由だ!)」

黒羽の魔女「……私たちから全てを奪った罪深き者ども」ぎりっ

黒羽の魔女「お前たちが眠れるのも今宵が最後。最期の夜よ……待ってなさい」


  「1人残らず冥府へ送ってやるわ」


大カラス「クァアア! クァアアッ!!」 ばさっばさっ


 『災厄』を運ぶ羽音が近づいていた――

ここまで。ちょっとラストは急ぎすぎました。これで1章終りです。

去年からやってましたが改めて読んで下さった方にはお礼申しあげます……本当に感謝!

色々思う所もあり暫く間が空くかもです。何卒ご容赦を……

では、またいつかノシ

 『2章』スタートです






――君は誰? 何処から来たの?――



――………………――

――そ、そんなに怪しまなくても大丈夫だよ。ほら、そんな所に隠れてないで――

――……! ……! ……!――

――ちょ、ちょっと! 逃げることないじゃないか! ボクは変質者でもなんでもないって!――

――………………――

――う、うーん、困ったな。完全に警戒されてるよ――

――まあ相手は見知らぬ男だし無理もないか。にしてもちょっと傷付く……――

――………………――

――(にしても、この子がさっき発した言葉……いや、そもそも言葉なのか? 聞いたことがないぞ)――

――………………――

――え、えと、ボクの話は通じてるのかな? ほらこれ見て――

――これはただの本。ボクの研究内容を記したただの本だよ、ここに置くね――

――こっちは護身用の短剣。これも置く――

――どうだい? これで丸腰さ。君に危害を加える気はさらさらないことを理解してくれたはずだよ?――

――………………――

――(む、少し緊張は解けたかな? よし)――

――さ、どうぞこちらに。手をお引きしますお姫様――

――………………――

――綺麗な手をしてますね(ニコ)――

――……! ……! ……!――

――うわーーっ!? 逃げなくていいよ、何で逃げるのさ!?(爽やかな笑みをしたつもりなのに!)――

――………………――

――(慣れないことはするもんじゃないな……)ゴホン、今のは冗談。ちょっとした愛嬌――

――この上は素性も明かしましょう。自己紹介……あとで君の名前も教えてくれると嬉しいな――

――………………――

――ふふっ、いずれ誰もが我が名を口にすることになる。君も覚えておくといいよ――

――………………?――




――ボクの名前は『オズ』――




――この名も無き大陸で唯一、魔法体系を極めし孤高の天才。偉大なる魔法使いさっ!――


______________
 
__________
 
_______

____

男「ん……んぅ?」ぱちっ

男「……」

男「……」

 (夢か……)

 (懐かしい夢を見たな。エメラルドと最初に会ったときの夢か)

男「……」

男「……」

男「いや、何言ってんだ。懐かしいって……ついこの間の話じゃないか」

男「確かにここ数日は長く感じられる気がするけど……はは、寝ぼけてんのかな」

男「しかもエメラルドじゃなくてトトだって」

 (意識して癖つけとかないと、外でその名を呼んだら大変なことになるぞ)

男「ふぁ~~~、今何時だろ。トトはもう起きてんのかな?」

男「……ん?」

男「……」

男「!? 何故床に布団が……!?」がばっ

男「げ。ま、まさかトトのやつ……こ、ここここで寝たのか!?」

男「……」さわさわ

男「……! うわ、なんか温かいしっ! 枕に髪の毛ついてるしっ! おまけになんか……」くんくん

男「良い匂いするっ!?」

男「うわ、うわああああああ!! こ、こらっ! トト!!」

 (自分の部屋あんだろ! 何処行った!)

 バタンッ!!!

______________


 サッ サッ

エメラルド「~~♪」

男「いた、見つけたぞ。外にいたのか……こら、トト!」

エメラルド「?」

男「お、お前なぁ、」

エメラルド「オズ起きたの? おはよう」にこ

男「……」

男「……う、うん。おはよう」

エメラルド「良く寝れた? くすっ、すごい寝癖。オズの頭、鳥の巣みたいになってる」

男「む……」

エメラルド「ふふ、もうお昼よ。湖で顔洗うついでに直してくれば?」さっさっ

男「……」

 (よく考えたらどう言えばいいんだ。『昨日俺の部屋で寝たろ!』って……)

 (その後は? 寝たから何?って感じで返されたらどうしよう)

 (いや、色々問題あるんだけど……それをいちいち説明すんのか?)

 (男女が同じ部屋で寝るのはゴニョゴニョ)

 (……自意識過剰と思われたらやだな)

エメラルド「~~♪」さっさっ

男「(ここは一旦スルーしよう、うん)……庭掃いてくれてんのか」

エメラルド「うん、昨夜風が強かったみたい。見て、こんなに木の葉が落ちちゃってるもん」

エメラルド「滑ってこけたら危ないからこうして……ね」さっさっ

男「その箒はウチのか?」

エメラルド「入り口の所に立てかけてあったの。お借りしてます♪」

男「玄関……そんなのあったっけ。外の掃除はお袋任せだからなぁ」 

エメラルド「~~♪」さっさっ

男「……」

 (魔女が箒か……テンプレだよね。やっぱ絵になる……気がする)

男「しっかし良い天気だな」

エメラルド「ねー、お日様でぽっかぽか。この季節にしては珍しく暖かいわ」

エメラルド「あ、オズ。お洗濯もちゃーんとしてるのよ? ほらあれ」

男「ほう」

男「……」

男「そ、そうだな……/// たくさん干してあるね、色々と……(見ちゃマズイものが)」

エメラルド「ぐっふっふ、取り込むのは各自でお願いします」

男「は、早起きだったんだなお前」ぷい

エメラルド「オズが遅いだけよ。『ほら見ろ、太陽がもうあんな位置に』」

男「……もう昼なんだろ、さっきも聞いた」

エメラルド「ね、ね、オズ。今日は何処か行く予定ある?」

男「外に? ……いや、今日は(っていうか暫くは)特にないけど」

エメラルド「じゃ、じゃあね、もし良かったら……この後連れて行って欲しい所があるの」

男「?」

短いですはここまでー
この章から注意書き通り、性的・差別的な描写、胸糞悪い話がちらほら出ます。ご注意下さい。


あと更新遅すぎてごめんなさい。まだ読んで下さってる人いるかな(´・ω・`)

「魔法石」について

①魔法を行使する際に必要となる不思議な石。
 
②各魔法石には種類があり、現在の産地国=色によって特性がある。
 魔翌力は必ずこの特性に沿った内容となる。

③内容は錬成者、すなわち魔女の裁量にかかっている。

④錬成された魔法石があれば誰でも魔法を使うことが出来る。
 
⑤魔法を行使する際の条件は「効果を認識している」「使用するという意思」の2つ。
 例外として、魔法石を同一人物が長期にかけて使用すれば効果を認識せずとも
 使用するという意思だけで(ある種無意識の内に)魔法が使える事例もある。



「未錬成の魔法石(原石)」

 誰もが形を変える程度の加工が可能。それらは装飾品などとして重宝されてきた

「錬成後の魔法石」

 完全に魔女の領域。加工等も全て魔女でなくては手がだせない。
 錬成後の魔法石は「魂」の込められた不可侵の芸術品。常人では形を変えるどころか
 傷1つつけることも叶わない。
 また、加工や魔翌力の解析は同じ魔女といえど当事者と錬成者のレベル差によって成否が決まる。
 未熟な魔女が高名な魔女の作品に手を加えようと試みてもほぼ失敗に終わる。
 その場合は大人数で時間を掛け事に臨むことが必要。

男「……何処に?」

エメラルド「おじいちゃんの家」

男「“おじいちゃん”……?」

男「って……え? おじいちゃんってことは、あの例のおばあちゃんの旦那さん!?」

エメラルド「ううん、違うの。おじいちゃんって言っても私のおじいちゃんじゃなくて別のおじいちゃん」

男「紛らわしいな」

エメラルド「都に行く途中に村があったでしょ? オズも気付いてたかしら」

男「ああ。遠目にしか見てないけどあったな」

男「そこに住んでる人か?」

エメラルド「うん」

男「なんでまた。……その人に何か用事か?」

エメラルド「んー、特に用事があるって訳じゃないんだけど」

エメラルド「おじいちゃん元気にしてるのかな、って……私も久しぶりに顔見せたくて」

エメラルド「これ、朝に採ってきたの」ごそごそ

男「? 何これ」

エメラルド「森の食材よ。滋養に優れた珍味を厳選してみました」にこにこ

男「ふーん。山菜とか薬草みたいなもんか?(……ヤバイ色したキノコっぽいのもあるがこれは一体……)」

エメラルド「スープにするとすっごく美味しいんだから」にこにこ

エメラルド「おじいちゃんの家に行ったらね、今日はこれでご飯作ってあげようかなーって♪」

男「……なるほどね」

エメラルド「だ、だから出来ればオズも一緒に……その、私、オズがいないと外行けないから……」

男「……」

エメラルド「だ、ダメ……かな」ちら

男「うーん」

 (困ったな。一緒に行ってやりたいのは山々なんだが、ジェイルさんに森から出ないでくれと頼まれてるし)

 (それに他の国の女王様たちも近づいてるんだよな)

男「それって今日じゃなきゃダメか?」

エメラルド「べ、別に今日じゃなくても……いい、けど」しゅん

男(……ああ、でも朝早くから山菜採りに行ってたんだよな。その人の為に……)

男「(行く気満々だったってことか)……変なこと聞くが、そのおじいちゃんってどういう人なんだ?」

エメラルド「……」

エメラルド「オズと同じ」

男「?」

エメラルド「オズと同じ……私の命を救ってくれた人」

男「! ……! 命って……お前」

男「まさか魔女――」

エメラルド「うん。私が魔女だってこと、知った上で助けてくれた人なの」

男「あ……」

エメラルド「随分前の話なんだけどね。それ以来私も何度か家を訪ねてたんだけど……」

エメラルド「おじいちゃん、『もう家には来るな』って……危ないから村には近づくなって」

エメラルド「怒られちゃったから」もじもじ

男「……」

エメラルド「で、でも今は昔と違う。今はオズが一緒にいてくれるもの。……危なくないでしょ?」

エメラルド「だから、その、2人で行けばおじいちゃんも怒らないと思うの」

男「……(そっか、そういうことだったのか……)」

エメラルド「わ、我がまま言ってるのは重々承知です。立場も……わきまえてないことも……」

エメラルド「それでも私、おじいちゃんに会いたい」

男「……」

エメラルド「オズ……」

男「構わないぞ(……そんな顔するなって)」ぽん

エメラルド「ほ、ホント?」

パンドラハーツというアニメを見たせいで男が金髪ショタ少年で再生されるwwww
まあ、あれは「不思議の国のアリス」や「鏡の中のアリス」を参考にしているから関係ないか……

男「ああ、命の恩人に会いたいなんて何も我がままなんかじゃない」

男「それに立場ってなんだ? わきまえる?」

男「この世界じゃお前が色んな所に案内してくれる約束だろ? だから一緒に連れてってくれ」

男「俺もその人に会ってみたい」にこ

エメラルド「あ……う、うん! うん♪」

男「ふふっ、(まあ大丈夫だろ。ちょっとくらい外に出たって……)」

 (トトが大事に思ってる人なんだ。断れる訳ないよな)

 すっ

男「……う///」

エメラルド「オズ、ありがとう……」ぎゅっ

男「あ、あはは……じゃ、じゃあその前に髪直してこよっかな。お、お前も出かける用意しとけよ~」

エメラルド「うん……///」すりすり

男「は、はは……」



 (こ、断れる訳……ないよな……///)


______________


 さぁああああ 


男(……見渡す限り一面の麦畑)
 
 (少し風も強いのか、雲が流れていく様子もはっきりとわかる)

 (何度か通った道なのに、意識して歩けば色んなものが見えるな)

男「村ってのはあそこだよな? ちと遠いが……人がたくさんいる」

エメラルド「うん。でもおじいちゃんの住んでる家はもっと向こう側」

エメラルド「村からちょっと離れた場所にあるの」

男「ふーん……で、何やってるんだ? あの人たち」

エメラルド「収穫期も一段落ついてるし、多分祭りの準備だと思うわ」

男「へえ、祭り」

エメラルド「年2回、その節々の実りを祝う感謝の祭りが各地で行われるのよ」

エメラルド「そっか、そういえばもうそんな時期なのね」

エメラルド「この後……祭りが終われば徐々に寒い季節になるわ」

男「……冬か。寒いの苦手なんだよなぁ」

男「あ……じゃあ、そのおじいちゃんも祭りの準備に参加してんじゃないのか?」

エメラルド「……」ふるふる

エメラルド「多分参加してない。おじいちゃん、村の人たちとあまり交流ないもの」

男「?」

エメラルド「お仕事柄ね、ちょっと……それにおじいちゃん自身、かなり気難しい性格してるから」

男「げ。マジで……? 見ず知らずの俺が会っても大丈夫なんだろうな?」

エメラルド「くすっ、どうかしら」

男「おいおい」

エメラルド「だいじょーぶ。オズならおじいちゃんにも気に入って貰えると思うわ、きっと」ごそごそ

男「え、えええ(勘弁してくれ)」

エメラルド「よ、しょ、っと」

男「あれ、一応顔隠すのか?」

エメラルド「う、うん」

男「まあ、用心に越したことはないけどさ……(余計怪しくなると思うんだが)」

エメラルド「オズ、ちょっとだけ迂回しましょ。こっち」

男「ん? あ、ああ……」

 (……? 村を横切らないのか?)

______________

 
 クァアア! クァアアッ!  ばさばさっ


エメラルド「あそこよ。あそこにある一軒家……おじいちゃんの家」

男「……」

 クァアア! クァアアッ!! ギャアギャア!

男「……」

男「……お、おじいちゃんって何のお仕事してるのかな?」

 (周りが、どう見ても墓だらけなんですが……これって墓地だよな? カラスが……)

 クァアアッ!! ギャアギャア! ばさばさっ

男「うわっ、多すぎんだろ(なんか大きいし怖っ)」

エメラルド「うーん、やっぱりオズもこの子たちを怖がるのね」

エメラルド「みんな何でかしら。こんなに可愛いのに、ねー♪」

 クァアア! クァアアッ!! ギャアギャア!

エメラルド「見ての通りよ。この辺り一帯は村と都に住む一部の人たちの為の共同墓地」 

エメラルド「おじいちゃんのお仕事はね、亡くなった人たちをここに埋葬する事――」

エメラルド「いわゆる墓堀人なの」

見てくださってる方、ありがとうございます。

>>496
ショタですか、意外でした。
男は一応高校生、パッと見は頼りない優男ですが、背は高い部類に入るという設定です。
またいずれ本文で記載したいと思います。

ここまでー

______________


 コンコン コンコン


男「……さっきから叩いてるけど返事がないぞ。居ないんじゃないか?」

エメラルド「だから言ったじゃない。いつものことよ。みんな勝手に入ってるの」ガチャ

男「お、おい」

エメラルド「お邪魔しまーす」

墓堀人「……?」

エメラルド「ね、ほらいた。もう、相変わらずね」

墓堀人「……」

エメラルド「おじいちゃんお久しぶり。元気にしてた?」にこ

墓堀人「……誰かと思えば……お前か」

エメラルド「えへへ、覚えててくれたんだ」

墓堀人「……覚えてるとも」

墓堀人「確かもうここには来るなと言っておいたはずだ。……帰れ」

エメラルド「嫌。折角ここまで来たんだもん」

墓堀人「……」じろっ

墓堀人「まだ自分の立場がわかってないのか? 
     あれだけの目に合っておいて……尚も外をのこのこ出歩くとは」

墓堀人「死にたがりだったとは気付かなんだ」

エメラルド「し、死にたがりじゃないし。今日だって1人で来たわけじゃないもん」

墓堀人「?」

エメラルド「オズ、はやくはやく」ぐいぐい

男「い、いや、ちょ、ちょっと待――」

墓堀人「……?」

男「あはっ、あはは……ど、どうもー」

墓堀人「……」

エメラルド「ふっふーん。どう? 今はこうして一緒にいてくれる人がいるのよ?」

男「は、初めまして~」

墓堀人「……」

エメラルド「おじいちゃん自分で言ったこと覚えてる?」

――老いぼれに構うくらいのことでこの辺りをウロウロするな――

――どうしてもここに来たいというのなら、そうだな……――

――次は男の1人でも見つけてから連れて来い。そうすれば俺も会ってやる――

エメラルド「……言いつけはちゃーんと守ってるんだから」にこにこ

墓堀人「……あれは」

 (本気で言ったわけでは……むむ)じろっ

男「……!」どきっ

墓堀人「……お前」

男「は、はいっ!?」

墓堀人「こいつのことを知っているのか?」

男「……」

墓堀人「……」

男「それは……彼女が魔女だってことですか?」

墓堀人「! む、むぅ……」

 (まさか……この時勢に魔女と関わる阿呆がまだおったとは……このガキ)

墓堀人「……とりあえず中に入れ」

墓堀人「さっさと扉を閉めてくれんか。ここは死者の眠る墓地でな」

男「は、はい。すいません、失礼します」

 ギィイイイ パタン



エメラルド「おじいちゃん、おじいちゃん♪」がばっ

エメラルド「元気だった? 腰はもう大丈夫なの?」

墓堀人「この歳で治るもんじゃあないからな。ま、立つことくらいは出来る」

墓堀人「お前は? 元気にそうしてるじゃないか……正直驚いたぞ」

エメラルド「ん、まあね」ぎゅっ

墓堀人「それは何だ?」

エメラルド「これ? これはね、んふふー♪ 森で食材採ってきたの」

訂正>>510
墓堀人「お前は? 元気にそうしてるじゃないか

墓堀人「お前は? 元気そうにしてるじゃないか

墓堀人「またか」

エメラルド「どうせまたご飯食べてないんでしょ? 昼間からお酒飲んじゃって」

墓堀人「これしか楽しみがないからな。……で? またメシでも作る気か?」

エメラルド「うん!」

墓堀人「どうせいつものスープだろう。あれしか作れんからな、お前は」

エメラルド「!? ちょ、ちょっと! や、止めてよ!///」かぁああ~~

エメラルド「あ、あれが一番得意ってだけで……あぅ、ほ、他にもいっぱい作れるんだから!///」ちらちら

エメラルド「ほ、ホントよオズ。他にも得意料理が満載なの、私」

男「? あ、ああ……そうなんだ」

エメラルド「もう! おじいちゃんの馬鹿! お台所借りるからねっ!」

墓堀人「ふっ、好きにしろ」

男「……」

墓堀人「……変わるもんだな」

男「はい?」

墓堀人「俺が知っとる昔のあいつとは違う」

墓堀人「年頃の娘だ。3、4年もすれば確かに色々と……変わる部分はあるだろう」

墓堀人「昔はもっと小さかったんだぞ? ちょうどお前の腹の辺りくらいの背だった。それが……」

墓堀人「今ではどうだ。ふふっ、見違えるように成長したもんよ」ぐびっ

男「……」

墓堀人「ふーっ。……器量も申し分ない。あれじゃ街の娘連中が束になっても遠く及ばん」

墓堀人「お前も、そう思うだろ?」

男「ま、まあ、可愛いとは、思いますけど……」ちら

エメラルド「……?(あれ、いつもと食材違くない……?)」

男「……」

 (容姿だけじゃないんだよな)

 (同級生の女子と比べても見た目・体型は遜色ないっていうか、正直それ以上だし……)

 (背は若干低いけどなんていうか、妙に大人びてるというか……スタイルも良いし)

 (一応外国人? だからとは思うんだけど……)

エメラルド「??(何このキノコ? こんなの必要だったかしら……あれ?)」

男「……でも、なんか子どもっぽいんですよねトトのやつ。あはは」

墓堀人「……トト?」

男「……!(げっ!?) あ……と、トトって……確か、名前? だった様な……」

墓堀人「……ほう。それがあいつの名か」ちら

エメラルド「……うん、うん」もぐもぐ

 (一応食べれそうね。入れちゃえ)ポチャ

墓堀人「……俺もあいつも、特に互いに名を尋ねたりはしなかったんでな」

男「そ、そうなんですか(……よかった)」

墓堀人「ま、変わったと言ったのはそういう面だけではない」

墓堀人「とりあえずお前、そこに突っ立ってないで座ったらどうだ?」

男「あ、はい……では、失礼して」

墓堀人「……」

中途半端ですがここまでー

墓堀人「あいつとは長いのか?」

男「いえ、トトと知り合ったのはほんの2、3日前です」

墓堀人「……2、3日?」

男「くらいですね」

墓堀人「お前、男なんだろう?」

男「? 見ての通り一応男ですけど……」

墓堀人「そうじゃあない。……いや俺の言い方が悪かったか」

墓堀人「あいつと深い仲じゃあないのか? 交際しとるのかと聞いてる」

男「いいっ!? こ、交際って……! お、俺とあいつはそんなんじゃないですよ!?」

墓堀人「……はぁ」

 (……そんなことだろうとは思った)

エメラルド「~~♪」トントントン

墓堀人「……(出会って2、3日そこらの男をしたり顔で連れて来るとは)」

 (“男”の意味を理解していなかったようだな……)

男「あ、あの、なんでそんなことを?」

墓堀人「ん? ああ、まあ一応聞いてみただけだ……気にするな」

墓堀人「それで? どうしてお前は魔女なんかと一緒におる」
     
男「! それは、その……」

男「ちょっと色々あって、なりゆきで一緒にいるっていうか……」

男「たまたまあいつが魔女だったってだけで……別にトトが何者だとか、
  そういうのは余り関係ないっていうか、俺は気にしてないんで」

墓堀人「ふーん? 身なりからして世間知らずの坊ちゃんという訳でもあるまい。
     疫病神を連れて我が身が心配にならないのか?」

男「(疫病神……)自分よりは……今はどっちかっていうとあいつの方が心配ですから」

墓堀人「……変わったやつだな」

墓堀人「だがあいつと違ってお前にも親兄弟がいるだろう。もしもの時の迷惑を考えたことはないのか」

男「ははっ、それはもっと心配ないです」

 (……心配は、かけてると思うけど)

墓堀人「……?」

エメラルド「ねえ、オズ」

男「? どうした?」

エメラルド「ちょ、ちょっとだけね、味見してみてくれない?」

男「ああ、いいけど」

エメラルド「じゃあ口開けて。はい、あーん♪」

男「じ、自分で食えるから」

エメラルド「あーん」

男「だ、だから自分で食うって。ほら貸せよ」

エメラルド「あーん」

墓堀人「……」

男「……! う、うぅ……(おじいさんに見られてるのに)あ、あーん///」ぱく

 (ぐ、ぐぐ、恥ずかしい……)もぐもぐ

エメラルド「どう?」にこにこ

男「……」

男「……生じゃねえか」

エメラルド「ちゃんと火は通ってるわよ。味付けはこれからだけど」

男「じゃあそれ終わってからにしろよ! 何の味見だ!?」

エメラルド「むっふっふ。この素材の味がどう変化するのか。それをご期待くださいと」

男「はあ?」

エメラルド「お話中失礼しました~♪」ててっ

男「……!」

墓堀人「ふふ、ふふふ……わっはっはっは! 妬けるな坊主!」

男「~~~っ///」かぁあああ

墓堀人「ふっふ、あいつがお前に懐いとる理由も何となくわかる」

 (確かに……善い“男”を見つけたな)

墓堀人「お前、間違いなく尻にしかれるぞ」

男「何の話です」じろっ

墓堀人「なーに、顔がな……あいつの顔が、変わったと思ってな。ふふ」ぐびっ

墓堀人「昔と違う、いい顔を見せるようになった」

男「あ……」

男「そういえば……1つだけ、聞いてもいいですか?」

墓堀人「なんだ?」

男「トトが、あなたのことを命の恩人だと」

墓堀人「……あいつがそう言ったのか?」

男「はい」

墓堀人「……」

墓堀人「あいつには一度説明してやったんだがな……まだそんなことを……」

墓堀人「別に俺が命を救ってやったわけじゃあない」

墓堀人「職業柄な、ただあいつを遺体を俺が引き取っただけだ」

男「!? 遺体って……!? ど、どういうことです!?」

墓堀人「どうもこうも、あの時はてっきり死んどるもんだと思ってたんでな。俺も……
     あいつに死ぬまで暴行を加えた村の連中も、皆がそう思っていた」

男「……!」

墓堀人「4年前のことだ……ちょうど大陸法が制定された年。お前も聞いたことくらいはあるだろう」

墓堀人「この村とそう離れてはいない、かつて魔女たちが根城にしていた森での大粛清――」

墓堀人「『エメラルドの森の虐殺』を」

男「!!」



  いやあああああああ!! 助けてぇ……っ!!



―――燃え盛る炎、響く怒号、泣き叫ぶ女たちの声



墓堀人「……当時、法制定直後に4大国を始めとし、各国の編成した奇襲部隊が
     突如としてエメラルドの森を襲った大厄災」

墓堀人「攻撃は昼夜を問わず執拗に行われ……付近の街道と川は血で染まり、
     逃げ惑う魔女たちの悲鳴がここまで聞こえてくる程……」

墓堀人「その場に居ずとも、森の中の凄惨さは容易に想像できるくらいの殺戮だった」

男「……!」

墓堀人「あいつはな、その時の生き残りらしい」

墓堀人「……どうやってあの難を逃れたのかは知らんが、奇跡に近い」ちら

エメラルド「~~♪(まだかな、まだかな)」

墓堀人「それが暫くしてだ。ある日突然、この村にふらっと現れよった……」



――ざわ ざわ (な、なんだこいつ……?)――

――あ、あの、あの……おね、お願いが……あります……――

――(おい、なんだこの娘? 汚ねえ格好して、どっから来たんだ……?)ヒソ ヒソ―― 

――お願いが……ある、です……どうか、どうか……――



墓堀人「……今にも死にそうな顔で、『食べ物をくれ』と。村の連中にすがったそうだ」

短いですがここまで

――お願いします……何か、食べるものを……――

――何でも、いいんです……お腹が……どうか、お願い……します――


墓堀人「――今でこそああして森の食い物を見つけては自分でどうにかしとるみたいだが、
     あの頃はまだそういった自給を試みるには幼すぎたんだろう」

墓堀人「一見して身寄りのない物乞いの娘。……ごく稀にあることだ。
     村の連中もあいつの姿を見て最初はそう思ったらしい」

墓堀人「だが、すぐにただの娘ではないことに気付く」


――お願いです.。これ……これを……差し上げます、ので……――

――(!?) ざわっ――

――こ、これ……私が錬成しました……魔法石……これを……――

――お金はいりません。代わりに……何か食べ物を……恵んで、下さい……お願いします……――

――(……!! こ、こいつまさか……っ!!)――


墓堀人「……哀れにも、自ら魔女だと告白してしまった」

男「な、何であいつ、そんなこと……」

墓堀人「何も可笑しな話ではない」

墓堀人「魔女が魔法石を他人に売り対価を得ようとするのはそれまでごく普通。
     日常的に、当たり前のように行われていたことだからな。無理からぬことだ」

墓堀人「あいつにとって不運なのは、その“常識”が魔女以外の全ての人間に通用しなくなっていたこと」

墓堀人「そして……“何故自分たちがこんな目に逢うのか”」

墓堀人「たった数日、わずか1ヶ月そこらでまさか命を狙われる身分になっていようとは……
     その時まだ知る由もなかったということだ」

墓堀人「……その後あいつに何が起こったかはお前にも想像がつくだろう」



――バキィ…ッ!! (いい度胸してるじゃねえかこのガキぃ……!!)――

――や、やめ……っ、な、なんで……ぁうっ……!! か、はっ!?――

――とりあえず吊るせ! 村の奴らを全員呼んで来い! 魔女がのこのこ現れたぞ!!――

――けほっ、ごほっ!? や、やぁ……やめて……イヤ、苦し……っ――

男「……っ」ぎゅっ

墓堀人「4年前の奇襲時、近隣の村々はどこも森の近場であることを理由に、
     展開する部隊の駐屯地として利用されていた」

墓堀人「その際、森での虐殺に興奮した者や統率のとれておらん国の兵士たちによる
     略奪や村人への暴行が少なからずあり……」

墓堀人「この村も同様、兵士の狼藉に不満を漏らしたという咎で、西の狂女王率いる火炎部隊により
     農作物はもちろん、家屋のほぼ全てを焼き払われた経験がある」

墓堀人「その時の恨みを……これは、まったく筋違いの恨みだが……」

墓堀人「現実に目の前にいる、屈強な兵士たちとは違う自分たちでも手が出せるか弱い存在……」

墓堀人「大国によって『悪しき者』の烙印を押された魔女に、その恨みの矛先を向けたのだ」

墓堀人「お前たちさえこの世に存在しなければ、とな」

――このっ、疫病神が……っ!!――

男「……」

墓堀人「……そうやって、一頻りあいつを痛めつけた後。ついに――」

――4年前


村の荒くれ者「ふぅ、ふぅ……ぺっ、この糞ガキ」

村人1「なんだもう止めるのか? 俺はまだ殴り足りねえなぁ……起きろっ!」ガスッ

村人2「いつまで寝てやがる、さっさと起きろこの悪魔!」ドコッ

エメラルド「」

村人3「……? お、おい、ちょっと待て。様子が変だぞ」

村の荒くれ者「あ~ん?」

村人3「ちょ、ちょっとどいてくれ。……おい! おい! お前!」ゆさゆさっ

エメラルド「」

村人3「……! こ、こいつ息が……まさか……し、死んでるぞっ!?」

村人2「!?」

 ざわっ

村人1「?」

村の荒くれ者「死んだから……何だっつうんだ?」

村の荒くれ者「こいつぁ魔女だぜ?」げしっ

村の荒くれ者「くたばったらくたばったで、後はコレを都の城まで持って行きゃあ良い話だろ」

村人1「ああ、その通りだ。一体何を驚くことがある」

村人3「お、お前ら……お触れを知らないのか?」

村の荒くれ者「あ? お触れ?」

村人3「魔女の扱いに関するお触れだよ。ついこの間出たばっかりだろ」

村人1「……知らんぞ俺は。魔女の扱い……?」

村人1「魔女を見つけたら城に通報するか捕らえて警備隊に引き渡せばいいんだろ? 
    確か生死を問わず……だったはず。こいつらはどの道処分されるんだからな」

村人3「それだ、その生死を問わずの部分だ……」

村人3「新しいお触れでは通報義務はそのままに、だが今後、
    魔女を見つけたとして一切の危害を加えることを禁ずると」

村人3「一般の者がみだりに手を出せば魔女同様、
    その者にも等しく刑を科すると、そう記載されていたじゃないか!」

村の荒くれ者「ああっ!? 何だそりゃあ!?」

村人4「実際隣村のヤツが魔女を見つけ、首に縄をかけ城まで引きずって行ったらしいが」

村人4「そいつはそのまま捕らえられ、今でも獄に繋がれたままになっていると聞いた」

村人4「お前ら、本当に知らなかったのか?」

村人1「……!」

村人2「お、俺は……知ってた。け、けど、てっきりお前らも知ってるものとばかり……
     知ってて、バレない程度にやってるんだと……」がたがた

村の荒くれ者「……! お、俺は聞いてねえぞ、そんなこと……お、おいっ! 
        手前ぇ何勝手に死んでやがる! おい! 起きろ! 起きねえか!」ぺしっぺしっ

エメラルド「」

出かけなきゃいけないので短いですがここまで

前回の投下分、日本語おかしい箇所がたくさんありますね。反省

村人3「……すまん、俺も同じく知ってるものとばかり思っていた。もっと早くに言えば……」

村人4「……」

村人1「ど、どうするんだよコレ……」

村人2「単に手を出したのとはわけが違う。こ、殺しちまったら……一体どうなるんだ俺たち」がたがた

村の荒くれ者「落ち着け手前ぇら! んなもん黙ってりゃバレやしねえよ!」

村人1「だ、黙ってるって……隠すつもりか?」

村の荒くれ者「ああ、ここにいる全員が口をつぐんでりゃ何も問題ない。……そうだろお前ら」

 ざわっ ざわざわ

村人3「む、むぅ……」

村の荒くれ者「他に方法があるのか? あるなら聞くが、まさか手前ぇら……」

村の荒くれ者「俺たちを売ろうってんじゃねえだろうな?」ぎろっ

村人1「じょ、冗談じゃねえぞ! お前らも笑って見てたじゃねえか!
    笑いながら……内心死ねばいいと、本音ではそう思ってたんだろ!?」

村人2「そ、その通りだ。お前らも同罪だぞ。な、なんで俺たちだけが……」がたがた

村の荒くれ者「いいかっ! こいつぁ村に災いをもたらした魔女のガキ!
        人目を避けてコソコソと、病を運ぶ害獣となんら変わりゃしねえ!」

村の荒くれ者「その害獣をっ! 俺たちが駆除してやったんだその何処が悪い! 何が罪だ!」ドカッ

エメラルド「」

村の荒くれ者「通報した所で褒美の1つも出やしねえ、その上危害を加えるなぁ?
         ふざけるなっ! 新しい姫さんもどうかしてんじゃねえのか!?」げしげしっ

村人4「……王家の批判は止せ。今の言葉は聞き捨てならんぞ」

村の荒くれ者「るせぇ!!」

村人4「落ち着けと言っている。誰もお前たちを売ろうだなんて思っちゃいない」

村人1「!!」

村人4「当然だ。ここにいる全員がその通り、等しく罪を被るんだからな。
    俺も、お前も、同じ……魔女を引き渡さなかった罪を」

 ざわっ

村人4「だがそれだけじゃあない。そもそもここには、村の仲間を売るやつなんて1人もいない……」

村人4「そうだろ? みんな」

 ざわ ざわ

村人3「ま、まあな、当たり前じゃないか。別に……お前たちを売ろうだなんて、はは」

村人2「だ、だよなぁ! そうだよなぁ!」ぱぁああ

村人1「そう言ってくれるのは助かる。けど、コレはどうする? このまま放っとくわけにはいかないぞ」

村人4「……埋めるしか、ないだろうな」

村の荒くれ者「埋めるっつったってどこに? 森にでも行くか?」

村人4「……いや、もっと良い場所がある」

村人1「?」

村人4「さっきも言っただろう、村の『全員』が『等しく』罪を被ると……
    それはただの1人も欠けることは許されない」

村人4「死体を埋めるには……墓地と相場が決まってるよなぁ」にや

村の荒くれ者「……なるほど」にや





墓堀人「……」

村の荒くれ者「――っつうわけだ、爺さん。コレをあんたん所で埋めてくんねえか」どさっ

エメラルド「」

墓堀人「……何の用かと思えば。貴様ら、恥ずかしくないのか」じろっ

村の荒くれ者「おっと、何睨んでるんだよ」

墓堀人「魔女とはいえまだ年端もいかない幼い娘だろう。
     それを大の大人が寄ってたかって……死なせ、挙句隠そうとする」ぎりっ

墓堀人「それが人間のやることか! よくここに来れたもんだ、少しは恥を知れ!」

村人2「……っ」びくっ

村の荒くれ者「けっ! 綺麗ごとをいうのはよせ」ぷいっ

村人1「爺さん、あんたの家は外れにあったから免れたが……
    こいつらの所為で村がどんな目に逢わされたと思ってる」

村人1「同じ村の一員なら、ちょっとは気持ちを汲んで欲しいな」

墓堀人「ふん、外道の気持ちだと? 笑わせるな」

村人4「笑ってくれるのは結構。しかし爺さんよ、これはあんたの義務……
    ここに住みながら、村に何ら貢献することのない老人が出来る格好の仕事だと思ってくれ」

墓堀人「何だとぉ?」ぎろっ

村人4「事実じゃないか。畑で作物を育てるわけでもなく、家畜の世話も出来やしない。
    おまけに寄り合いにも参加しない偏屈が一体どれだけ村の役に立っていると?」

村人4「あんたがやってることは誰もが忌み嫌う仕事、ただそれだけだ」

墓堀人「……」

村の荒くれ者「近頃体調を崩してるそうだなぁ? ただでさえ俺たちの援助で生活してるあんただ」

村の荒くれ者「女房や娘に逃げられ、老いぼれ1人で生きてくにゃあ不便だろ」にやにや

村人4「もし俺たちが城に引っ張られたとして……その後どうするつもりだ?」

墓堀人「……」

エメラルド「」ピク

墓堀人「! ……!(い、今微かに……まさか、まだ……!?)」

村人4「いいかい? こいつは魔女なんだ。普通の人間をどうにかしたってわけじゃあない」

村の荒くれ者「日頃の恩を返すつもりでちったあ協力したらどうだ」

村人2「なあ、頼むよ爺さん。身体の調子が悪いなら俺も手伝うからさ。な?
    ちょいと場所さえ提供してくれりゃいいんだ」

墓堀人「……」

村の荒くれ者「いつまで黙ってんだ。こっちはこうして頼んでるんだぜ? さっさと――」

墓堀人「わかった」

村人1「!? ほ、本当か!?」

墓堀人「……ああ」

村人2「じ、爺さん……! あんた話のわかる人だ!」

村の荒くれ者「ふん、最初からそう言えばいいんだよ」

墓堀人「わかったからさっさとそいつを置いていけ。……貴様らの顔は二度と見たくない」

村の荒くれ者「だったら村の援助も要らねえかぁ!? がははっ」

村人4「……その前にもう1つ。爺さん、これも一緒に埋めて貰おう」

墓堀人「……これは」

村の荒くれ者「見ての通り魔法石だ。このガキ、手前ぇで錬成したとかウソこきやがって」

村の荒くれ者「こんなチビの頃から錬成出来るなんて聞いたことがない。それもこんな大量に……
        大方どっかからかっぱらって来たんだろう、末恐ろしいガキだぜ」

墓堀人「……」

墓堀人「……早く出ていけ」

村の荒くれ者「へっ! 言われなくてもこんな陰気臭ぇ場所、すぐに退散すらぁ!」

村人4「……爺さん、一応礼は言っておく……助かるよ」

墓堀人「……」

村人1「これで皆が一蓮托生」

村人2「だな。めでたしめでたし……じゃ、後は宜しく頼んだよ」

 パタン

墓堀人「……」

墓堀人「……!」がばっ

エメラルド「」

 トクン トクン

墓堀人(……やはりまだ鼓動が……今から手当てをすれば、助かる、か……?)

墓堀人「急がねば……!」ごそごそ


______________
 
__________
 
_______

____

ここまでー

墓堀人「……その後の事は見ての通り。なんとか一命は取りとめ、今はああして元気にやっている」

墓堀人「それよりも当時は身体に負わされた傷以上に色々と、な」

墓堀人「せめて完治するまではと、しばらくここに置いてやってたんだが……
     最初の頃は俺にも怯え、かといって外に出ればまた恐ろしい目に逢う」

墓堀人「どうすればいいのかわからなかったんだろう。
     1日中部屋の隅で震えながら泣き過ごす日々が続いておった」

男「……」

墓堀人「ま、いずれにせよ命の恩人などと謂われるほど大したことはしておらん。
     確かに多少傷の手当はしてやったが……」ぐびっ

墓堀人「結局のところあいつ自身の生命力、魂の強さが回復へ導いただけの話」

墓堀人「それにだ。ふふっ、いつまでもこの辺りをウロチョロするあいつを怒鳴りつけさえもした」

男「! それは……それはあいつの為を想って……」

男「ずっとここに居る訳にもいかなかったでしょうし」

墓堀人「……」

男「トトはあなたに感謝してると思います」

墓堀人「……」ぐびっ

男「それに俺自身、さっきの話を聞いてちょっと安心しました」

墓堀人「何?」

男「あいつが昔受けた仕打ちはショックでしたけど、それでも皆が皆そうじゃないんだって」

男「中にはあなたみたいな人もいる。魔女を……なんていうか、差別しない人、みたいな」

墓堀人「……お前も同じだろう」

男「お、俺は……まあ、(一応……この世界の人間じゃないし)」

墓堀人「だったら何も不思議がることはない」

墓堀人「『こうなる以前』は魔女も、そうでない人間も、共に交わり生きてきた」

墓堀人「それを訳のわからん法1つで急に態度を変えろなどと……俺にはそんな器用な真似は出来ん」

――あなた、今日も村の人たちのお手伝いに行かれないの?――

――あなた――

――お父さん――

墓堀人「……いや、そんな不器用な性根だからこそか……」

 (その魔女に愛想つかされ逃げられる男もいる)

男「?」

墓堀人「ふっ、世の中広いからな。色んな人間がいるってことだ」

男「はあ……」

墓堀人「それより、あいつはまだあの森で暮らしているのか?」

男「(ぎくっ)……え、そ、そうみたい、ですね」

墓堀人「そうか……いやなに、先日森の方で異音があったと村のやつらが城に訴えおってな。
    都の警備兵が数人向かったと聞かされそれなりに心配しておったんだが」

男「……!」

墓堀人「結局『何事もなかった』と村にも報告が来ておったし、
     見る限りあいつも無事の様……ふむ。あれは一体何だったんだろうか……」

男「は、はは」たらー

墓堀人「今や死の森と化したあの場所に好んで立ち入る者はおらん」

墓堀人「確かにあそこに居さえすれば人目は避けることは叶うだろうが……
    年齢の近い男との逢瀬も年頃の娘にとっては重要だろう」

男「……」

墓堀人「俺が言えた義理ではないが、オズ……だったな。あいつを、どうか宜しく頼む」ぺこ

男「……! は、はいっ!」

墓堀人「ふっ」ぐびぐびっ

男(うぅ、思わず返事しちゃったけど……宜しく頼むって……)
  
男(トトがおじいちゃんって呼んでる人に言われると何か……変な感じ)

墓堀人「ふーっ、さて。そろそろ飯のご到着だ、覚悟しろよ」

男「へ?」

エメラルド「あら、丁度お話終わってた? お二人ともお待たせー」にこにこ

 ぐつぐつ ギャアアア ギャアアア

男「う゛わ」

エメラルド「……『う゛わ』?」

男「え、い、いや……こ、これ、これを今から食うの?」

 (俺の代わりに食材が悲鳴あげてくれてるんだけど!? え、ええ? 何入ってんのこれ!?)

墓堀人「……ゴホン」

エメラルド「そうよ。トトさん特製『森の滋養スープ魔女風~アルラウネの調べとともに~』で御座います」


   エメラルド「さ、たーんと召し上がれ♪」

______________


アメジスト城 寝室


アメジスト「う、うぅ」

――どうしたのですクイーン・アメジスト。この期に及んで何を躊躇っておいでです――

――さっさとしな姫さんよぉ、これだけの軍勢を前にいつまで待たせるつもりだぃ?――

――あとはあんたの号令待ちだよ『総司令』殿ぉ(にやにや)――

アメジスト「……う、うぅ」

――各国要人の衆目が集うまたとない機会。ご覧なさい、あの『トパーズ』の部隊でさえ
   今日は貴女の指揮下に収まろうというのです――

――こんな名誉二度とない。即位まもないあんたにとっちゃあ初の晴れ舞台ってとこだねえ――

アメジスト「うぅ、い、や……」

――貴国の領有権を尊重し、魔女一掃の全権を託した我々の好意を無駄にしてはいけません――

――はは、震えるばかりじゃ誰も動きやしないよ。ほら、兵を動かすにはこうするんだ、手ぇ貸しな――

アメジスト「わ、私は……」

――ほーらこうやって、手を挙げて、ただこう言えばいい――



    「殺せ」



アメジスト「……っ!」がばっ

宰相「!」

メイド「陛下!」

アメジスト「……はぁ、はぁ」

メイド「へ、陛下」

アメジスト「はぁ、はぁ」

宰相「み、水じゃ。何ぞ喉を潤すものを」

メイド「は、はっ。陛下、どうぞ」

アメジスト「はぁ、はぁ……ん、ん、ん」ごくっごくっ

メイド「……」

宰相「……」

アメジスト「……ふっ、ふぅ、ふぅ、ふーっ……」ぜえぜえ

メイド「……落ち着かれましたか陛下」

アメジスト「……此処は」

メイド「寝室で御座います。昨夜私どもがお運び致しました」

アメジスト「昨夜……」

宰相「覚えておいでにないか。どこぞの酔っ払いよろしく酒の飲みすぎで倒れよったんじゃ」

アメジスト「……!」

メイド「宰相」じろっ

宰相「事実じゃろう。少しはキツク言わんとわからんのよ、このじゃじゃ馬も」

メイド「へ、陛下、お加減はいかかでしょう。多少……うなされておいででしたが」

アメジスト「……大事ありません。ありがとうございます……ご迷惑も、おかけしました……」

メイド「い、いえ、そんな! 頭をお上げください!」あせあせ

宰相「ふん、しばらくはずっとそうしておけ」ぷい

アメジスト「……」しゅん

メイド「宰相、程々に」ぎろっ

宰相「何を! 一体どれだけの者に心配をかけたと思っておる!」

アメジスト「……っ」びくっ

宰相「これで何度目だ! あれ程飲酒を控えよと口を酸っぱくして言っておったものを!」

宰相「聞けば姫よ! 夜な夜な倉庫に忍び込んでは酒瓶を持ちだし、あまつさえそれを知る
   者たちに口止めしておったそうだな! 問い詰めたところ侍従が全部吐いたわ!!」

アメジスト「も、申し訳ございません」しゅん

メイド「そ、その儀については今後私からも厳しく申し付ける所存ですので何卒ご容赦を……」

宰相「見てみい。こうして罪無き侍従たちが叱られる目に逢うとる」

宰相「森への土産にと酒瓶を自然に出しおったときにおかしいと思ったんじゃ、まったく」ぶつぶつ

アメジスト「こ、今度ばかりは私も反省しております」

宰相「……」

宰相「……倒れたと聞かされた時、どうにも不安が頭を過ぎってな」

アメジスト「……」

宰相「先代の事もある」

アメジスト「……はい」

メイド「……」

ここまでー

宰相「……ゴホン、ともかくじゃ。以降酒は慎みくれぐれもご自愛のほどお頼み申す」

宰相「今日の所は政務はよかろう。もうしばらくここで養生なされ」

メイド「本日は私がお側に。御用がありましたら何なりとお申し付け下さい」

アメジスト「……」

アメジスト「……窓を、開けていただけますか」

メイド「かしこまりました」ぺこ

 がちゃ ヒュゥウウウウ

宰相「……」

アメジスト「……随分と長い間眠っていたのですね」

宰相「もう陽が落ちかけておる。儂も夕暮れ時の城下を眺めるのは久方ぶりじゃわい」

 クァアア クァアアッ  ギャアギャア

宰相「ふふっ、カラスどもも巣に帰る時間じゃな」

 ヒュゥウウウウ

アメジスト「……本当にご迷惑をお掛けしました」ぼそっ

宰相「う、うむ。なんのなんの、主に小言は昔から慣れておる」

宰相「少しは落ち着かれたと思っとったがまだまだ、
   相も変わらず世話を焼かせるお転婆姫じゃわい。のう? わっはっは!」

アメジスト「……くすっ」

宰相「そうじゃ! お転婆姫で思い出したが、陛下」

アメジスト「?」

宰相「政務の話で悪いが1つだけ。“クイーン・トパーズ”が予定通り来られるそうじゃ」

アメジスト「まあ、それはそれは」

宰相「どの道来て貰わねば困る話。一時はどうなるかとヒヤヒヤしたが、会議には無事間に合うとの事」

宰相「一応、早急にご報告しておこうかと思ってな」

宰相「当日はさぞかし皆が驚くじゃろう」

宰相「陛下におかれましても、また違った意味で楽しみなのでは?」にや

アメジスト「さあ、どうでしょう」にこ

宰相「ふふっ……さて、そろそろ肌寒くなってきたの」ちら

メイド「……」こくり

メイド「陛下、食事のご用意が出来ておりますがいかがでしょう?」パタン

アメジスト「そうですわね……では、お言葉に甘えて」

メイド「かしこまりました。それではこちらにお運び致します(……宰相)」ちら

宰相「う、うむ」

アメジスト「?」

宰相「あー……ゴホン、ゴホン」

アメジスト「……何か?」

宰相「ん? い、いや……そのう、アレじゃ。話を蒸し返すようでちと……なんじゃが」

宰相「今回の件な、どうも医師の話によれば単に過度の飲酒のみが原因ではないと」

宰相「いわゆる気苦労、日々の政務による心労がたたってのことと……そう言うんじゃ」

アメジスト「はあ」

宰相「ま、まあ勿論、そういった負担をお掛けしておる我ら臣下の不徳と致すところであると言えば
   そうなんじゃが……なんというか、他に、精神面での支えというか……」

宰相「夜毎悩みを打ち明けれる様な、こう、頼れる者というか……
   頼れるゴニョゴニョが必要なのではと……皆が口を揃えて、な。ゲフンゲフン」

アメジスト「……」

宰相「だ、だからの。はっきり申すが……主もいつまでも『独り身』という訳にはいかんじゃろう」

アメジスト「……」ぴくっ

宰相「有力諸侯や他家の目もある。世間体を考えても……そろそろ、のう?」

宰相「どうじゃろう?(にこっ) 会議が終わり一段落済めば、本格的に婿探しでも――」


_______________


 ガラガラガラツ

メイド「……陛下は?」

宰相「中に居る」

メイド「……? 例のお話は」

宰相「一応振った」

メイド「それで……」

宰相「何故儂が外に叩き出されていると思う?」

メイド「で、ではご機嫌は」

宰相「すこぶる悪い。今は入らんほうが良いぞ」

メイド「……はぁ、駄目でしたか」げんなり

宰相「あれものう、これまでの縁談がことごとくご破算になって自暴自棄になっとるんじゃよ」

宰相「母上に似たるは外見だけなのか、何故こうも男に縁がないんじゃろうか……」

 (やはりあの性格かのう……はぁ、どこぞに姫の手綱をしかと握れる男は居らんものか……)

_______________


 クァアア クァアアッ  ギャアギャア


男「結構長居しちまったなぁ」

男「何だかんだで良い人そうだったじゃん。おじいさん、元気そうで良かったじゃねえか」

エメラルド「うん。また遊びに来てもいいって言ってた」にこにこ

男「そっか。じゃあまた今度だな」

エメラルド「えへへー、次までに新しいお料理研究しなきゃ」

男「げ」

エメラルド「で、で? 結局ご飯のお味はどうだったの?」

エメラルド「感想は後のお楽しみって、もう教えてくれてもいいでしょ? 早く早く!」くいくいっ

男「う、うん……料理(?)な。うん……」

 (どう言えばいいんだ。『美味しかった』、なーんて軽々しいウソはつきたくないなぁ……

男(かといって正直に言うのも……)ちら

エメラルド「……」わくわく そわそわ

男「……」

 クァアア クァアアッ  ギャアギャア

男「そういえば今日、やたらカラス多くないか?」

エメラルド「へ? カラス?」

男「うん、ほら見てみろよ空」

 クァアア クァアアッ  ギャアギャア

エメラルド「うーん……言われてみればそうかしら」

エメラルド「でももう夕暮れ時だもの。偶々あの子たちが一斉に帰る頃なんじゃない?」

男「なるほどね。おじいさん家の裏に居たやつらも今頃どこかに帰ってるのかな」

エメラルド「ふふっ、そうかも」

エメラルド「……で? オズ?」くいっ

男「家に帰ると言えばさ」

エメラルド「へ?」

男「ずっと気になってた事があるんだよ。聞いてもらっていいか?」

エメラルド「う、うん……」

男「大したことじゃないんだけどな」

男「いつも森に帰るときに通ってるこの道……都にも一直線に繋がってるよな、ここ」

エメラルド「? それがどうかしたの?」

男「よく見ればさ、所々に舗装された跡があるんだよ」きょろきょろ

男「ほら、例えばあそこ。平らな石が埋め込まれてるだろ? 欠けちゃってるけど……黄土色っぽい石」

エメラルド「ああ、あれね」にこ

男「ああいうの見るとさ、昔はもしかしたら石畳の道だったのかなーとか思っちまって」

眠いのでここまで

訂正>>569

(どう言えばいいんだ。『美味しかった』、なーんて軽々しいウソはつきたくないなぁ……
というかその言葉を鵜呑みにして毎日作るとか言い出されても正直キツイ)


あと今さらながらとある疑問が。
家って例えば竜巻とかで飛ばされた場合、床は一体どうなるんだろうか……

オズの家のことは気にしないでいただきたい(´・ω・`)

男「ホントどうでもいい話なんだけどね。でも気になるな~」

エメラルド「……ふふっ」

男「あれ、もしかして違った? 俺の気のせいか」

エメラルド「ううん、そんなことない。オズの言う通りよ」

エメラルド「昔はこの街道も綺麗に舗装されてたみたい」

エメラルド「と言っても本当に昔の話。ずっとずっと遠い昔……」

エメラルド「……果てはどこまでも続く、黄金で光り輝く王都への道」

男「お、黄金?」

エメラルド「なーんて言われても、普通は信じないわよねぇ? くすっ」

男「あ、ああ……だって、あれ(どう見てもただの石じゃねえか)」

エメラルド「そうね。あれはただのレンガよ」

男「レンガ……まあ、それなら納得」

エメラルド「けどね、私が小っちゃかった頃、おばあちゃんがそう言って聞かせてくれてたの」

エメラルド「『黄金が敷き詰められた街道』……ある種の御伽噺ね。ふふ、懐かしいなぁ」

エメラルド「その言葉を信じて私、同い年くらいの子と一緒にせっせとレンガを削ってたのよ?」

エメラルド「大人の人たちにバレないよう隠れて」

エメラルド「これで大金持ちになるんだーって……くすっ、実際は黄色いだけ。ただのレンガなのにね」

男「ふっ、子どもの頃ってそんなもんだよな。わかる気がする」

エメラルド「結局みんなにバレて怒られちゃったけど、あの頃は楽しかったなぁ……」

エメラルド「叱られてる私を見ておばあちゃんが苦笑いしてたの覚えてる」にこにこ

男「……」

エメラルド「色んなこと、何もかもぜーんぶ覚えてるわ」

エメラルド「寝る前におばあちゃんが聞かせてくれてた御伽噺……続きがあってね」

エメラルド「今歩いてるこの道――『黄金の街道』は誰しもが見失わぬよう、
      大陸中どんな場所にいてもすぐに見つけることが出来る不思議な道なの」

エメラルド「この道を求める人はね、何か大きな悩みや困難にぶつかって、
      中には生きる事にも絶望し、それこそ先行く道(人生)を見失いかけている……」

エメラルド「そんな人たちの目の前にいつのまにか現れ、人々は導かれるように足を踏み出し、
      黄金の光を辿りその先へと進むの」

エメラルド「その先にはね――」

男「その先には?」ごくり

エメラルド「……気になる?」

男「え? そ、そりゃまあ、こんなとこでぶった切られてもな」

エメラルド「ふふーん」

男「な、なんだよ。早く続きを」

エメラルド「続きは後のお楽しみ」

男「はあ?」

エメラルド「続きは家に帰ってから。寝る前にお話してあげる」にこにこ

男「……寝る前って」

男「いいから今話せよ。俺そういうの気になる性質なんだ」

エメラルド「私も同じよ。後でとか言われてもどうしても気になる性質なの」

男「……」

エメラルド「続きが聞きたければまずオズからでしょ!? ご飯のお味はどうでしたか!」

______________



墓堀人「……また、静かになったもんだ」

 (何時以来だったか、ここが賑やかになったのは……)

――おじいちゃん! おじいちゃん!――

墓堀人「……」

墓堀人「……魔女、か」

 (少なからず驚いたのは正直な所。いかなる者とて希望は存在する)

 (巡り合う人物如何によって誰しもが己を変え得るということか……あいつは、)

 (魔女にも関わらず、そうと思わせない位希望に満ち溢れた顔をしていた)

――お父さん! お父さん!――

墓堀人「……」

墓堀人「娘が男を連れてくればあんな感じなのかもな」

墓堀人「最期にいい経験をさせて貰った……」ずずっ

墓堀人「……ふっ、相変わらずマズイ」

 (これを黙って食うようじゃあ、あの坊主もこの先苦労するだろうて。ふふ、ふふふっ)

――トトと知り合ったのはほんの2、3日前です――

墓堀人「……」

――ふっふーん。どう? 今はこうして一緒にいてくれる人がいるのよ?――

墓堀人「……(たった2、3日……)」

 (それでもあいつの顔は……)

 (出逢う者によって己は変わる。例えそれが虐げられし現状でもそこにはまだ希望がある)

墓堀人「それが何故わからん……何故“お前”には誰も……」




   ――久しぶりね、お父さん――





墓堀人「何故、こうも違う道を征く……」

______________


 パチ パチパチ…ッ

見張り兵2「うー、寒い寒い」

見張り兵1「おい、暖を取るのは構わないがちゃんと外を見てるんだろうな」

見張り兵2「言われなくてもちゃんと見てるよ。おー温かい」

見張り兵3「確かに、昨日今日と夜風がきつくて身に染みるからなぁ」

見張り兵1「お前もか……ったく、隊長に見られればまたどやされるぞ」

見張り兵1「何の為の篝火だと思ってる! ってな。俺も叱られるんだからな」

見張り兵2「わかってるって。うー」ぶるぶる

 パチ パチパチ…ッ

見張り兵2「……そう言えばお前。休憩の間カミさん所に戻ってたけど、息子はもう寝かしつけたのか?」

見張り兵1「ん? ああ……ははっ、まあ相当ぐずってたけど、何とか大人しく」にや

見張り兵2「その後ついでにカミさんも?」

見張り兵1「……何の話だ?」じろっ

見張り兵2「こいつのカミさんな。結構美人でさ」ひそひそ

見張り兵3「へえ、そいつは羨ましい」

見張り兵1「お前ら真面目に仕事しろ」

見張り兵2「息子ももう1人で歩ける年齢か?」

見張り兵1「……手を貸して立たせてやれば少しはな」

見張り兵2「じゃあそろそろ親子揃っての警備隊所属だな!」

見張り兵1「馬鹿言え」

見張り兵3「あれ、息子さんもやっぱり将来はうちに?」

見張り兵1「うむ……」

見張り兵1「まだ早いが、いずれはそう考えている」

見張り兵2「まあ平民出の俺たちにとっちゃあこれほど恵まれた職もない」

見張り兵2「多少の危険があるとはいえ、陛下と都をお守りするという名誉ある立場だ」

見張り兵2「そこらの奴より金は貰えるし。老後も安泰とくりゃあね」

見張り兵3「なるほど」

見張り兵1「……若干語弊はあるが、否定は出来んな」

見張り兵1「もっとも、倅がどう考えるかはその時になってみないとわからん」

見張り兵3「まあね」

見張り兵2「それになぁ! 例え本人が希望した所で
       この仕事に向いてるかどうかはまた別の話だからなぁ! 適性ってやつだ!」

見張り兵2「まずは腕っ節、これがなきゃ話にならん!」

見張り兵1「ふむ」

見張り兵2「次にここ!」どん

見張り兵2「何事にも動ぜず、いつ如何なる時も冷静に事に当たる頑強な精神よ!」

見張り兵2「……まあ心根に関してはこいつでさえ入隊出来てるから心配はないと思うが」

見張り兵3「む」

見張り兵2「そして、何より大事なのは……」

 パチ パチパチ…ッ

見張り兵2「この国を心の底から愛しているかどうかだ」

見張り兵2「それさえありゃ、他の2つが見劣りしてたとて問題はない」

見張り兵1「……ああ、その通り」

見張り兵1「だが心配はいらんよ。倅は俺似だからな」

見張り兵1「それに腕っ節だけに関して言えばどっちに似たって関係ない」

見張り兵1「なんせ家内は俺より強い」にや

見張り兵3「ぷ」

見張り兵2「ぶははははっ、そりゃ良かった!」

見張り兵1「ははっ」

見張り兵2「あーあー、この分だといつかは親子揃って隊長に叱れる絵を拝めるってわけか」

見張り兵1「だといけどな。そうとも限らんぞ」

見張り兵2「何で」

見張り兵3「そりゃそうだ。親子揃って同じ部隊って訳にもいかんでしょ」

見張り兵1「違う違う。それもあるが……そうじゃない」

見張り兵1「その隊長がな……いつまでここに居てくれるか」

見張り兵2「?」

見張り兵1「というよりここに居て欲しくないと言ったほうが正しいかもしれん」

見張り3「どういうこと?」

見張り兵1「あの人はな、現場の一隊長に収まる器じゃないってことだ」

見張り兵1「現役中ずっと俺たちだけの面倒を見てくれるなんて思っちゃいない。
       もっともっと上に立つべき人物……そう俺は思っている」

見張り兵1「お前もさっき言ってただろう。警備隊に求められし3つの条件を」

見張り兵1「武芸、胆力は言わずもがな。あの人ほど国を想い
       その身を捧げている人物が他にいるか? 悪いが俺は思い当たらん」

見張り兵3「確かに……」

見張り兵2「なるほど。その上規律にも厳しく、口煩いだけならまだしも時に拳で
       部下を叱ってくれる方の存在は他部隊でも聞かないな」

見張り兵1「……」

見張り兵2「だが……ちっとも悪い気はしない。何でだろうなぁ……
       年齢は変わらないはずなんだけど、まるで親父に怒られてるような」

見張り兵1「ああ、だからこそだ。だからこそ親父には出世して欲しいんだよ」

見張り兵2「わかる……けど現実はそうもいかんぞ。技能・精神だけで上にいけるほど世の中甘くない」

見張り兵2「どう頑張ったって俺たちには、な」

見張り兵2「どうしても身分という壁がある。残念だがこればっかりは……」

見張り兵2「それでなくとも隊長は上の連中とも折り合いが悪いと評判だ」

見張り兵2「特に長官なんてかつての異動のいざこざの件でうちの親父を毛嫌いしてるそうじゃないか」

見張り兵3「何だいそれ?」

見張り兵1「お前は知らなかったか。うちの隊長はな、最初からずっと警備畑に居たわけじゃないんだ」

見張り兵1「元は軍所属。それも若くしてかなりの地位に就いていたらしい」

見張り兵3「いいっ!? せ、正規軍って……あの貴族のエリート様たちで占めらてるあの!?」

見張り兵2「当時は今ほど門閥ぎちぎちの徴兵制は採られてなかったからなぁ」

見張り兵1「そう、隊長とて出自は平民」

見張り兵「それでも腕を見込まれ正規軍に入隊することが出来たんだよ、あの時代は」

見張り兵3「へえ」

見張り兵1「それを4年前……とある任務の遂行を境に急に軍に嫌気が差したらしくてな」

見張り兵2「……」

見張り兵1「あろうことか馬鹿正直に理由を述べ、自ら警備隊への移動を願いでたそうだ」

見張り兵2「あの頃は……と言っても今も変わらんが、やはりうちは平民出身、田舎者の
       寄せ集め部隊と馬鹿にされるような場所」

訂正

>>589 5行目

見張り兵1「それでも腕を見込まれさえすれば

見張り兵2「そんな所に好き好んで行くヤツが何処に居る?」

見張り兵2「理由はどうであれ、ある程度約束された地位を棒に振ったわけだ」

見張り兵2「誰しもが変に思うだろ」

見張り兵3「……うーん、かな?」

見張り兵1「長官もその例外ではない。それでなくとも猜疑心の強い方だ」

見張り兵1「移動してきた変り種はつい先日まで政敵である軍統括大臣の下に居た人物」

見張り兵1「さらに時期も情報府の新設に伴う権力争いが水面下を越え激化していた頃……」

見張り兵2「とくりゃあ色々と勘ぐってしまうってやつよ」

見張り兵3「……つまり腹に一物抱えた猟犬が放たれたとでも?」

見張り兵1「普通に考えればあり得ないけどな」

見張り兵1「事実、軍の人事に大臣は余程のことがない限り関わらない。
       そういうのは専ら下に任せっきりだよ」

見張り兵1「あの方はあの方で宮廷外の事情には一切興味がないし」

見張り兵1「……下手したら隊長の存在すらご存知なかったんじゃないか?」

見張り兵2「それだけ長官の肝っ玉が小さいってことだ。もっと言やあ器が」

見張り兵3「へえ、てことはまだ隊長を疑ってるんだ?」

見張り兵2「と、影で噂になっている」

見張り兵3「あらら」

見張り兵3「じゃあ長官がいらっしゃる限り我らが親父さんも待機状態だねぇ」

見張り兵1「……気持ちとしては複雑だがな」

 バサバサ……ッ

カラス「クァー」

 パチ パチパチ…ッ

カラス「クァー」ツンツン

見張り兵2「……」

見張り兵3「……でえ、その隊長はまだ戻らないの?」

見張り兵1「ああ、そういえば……」

見張り兵2「ったく、酔っ払い同士の喧嘩なんざわざわざ隊長が出張る程のことでもないだろうに」

見張り兵1「要請があったんだ。仕方ないだろう」

見張り兵2「そういう所もダメなんだと思うぜ俺は」

見張り兵2「上に立つ人間はな、もっと下をこき使わないと。自分が泥まみれに駆け回ってどうすんの」

見張り兵2「あの人らしいと言えばそう……正直好ましく思うし、俺だってもっと出世して欲しいと願ってる」

見張り兵2「ただ出自云々、その他色々を抜きにしてもちょっと不器用過ぎるんじゃないか?」むすっ

見張り兵1「ふふっ、普段軽口を叩いては隊長を小馬鹿にするお前がなあ」

見張り兵2「そ、そりゃ俺だって!」

カラス「クァー」コンコン

見張り兵2「~~~っ///  こらあっちいけ。しっ!」

見張り兵3「……まあそれにあの人いないと不安になるんだよねえ。特にこんな夜は」

見張り兵1「おいおい」

見張り兵2「人肌恋しい秋の夜長ってか? え、お前ひょっとして……」

見張り兵3「アホかっ! そんなんじゃねえよ! ……ったく」

見張り兵3「けど、ただでさえ時期が時期だろ? もうここの所気が張り過ぎちゃっててさ」

見張り兵3「何ていうか、ああいうのですら気になっちゃって……」すっ


  クァアア クァアアッ  ギャアギャア

                  クァアア クァアアッ  ギャアギャア




見張り兵1「あー……確かに」

見張り兵2「気味悪いな」

見張り兵2「ていうか今日は一体どうしたんだあいつら? とっくに巣に帰って寝る時間だろ」


  クァアア クァアアッ  ギャアギャア


見張り兵3「……さっきからずっと都の上空を旋回してんだよ。不気味じゃないか?」

見張り兵3「あれ見てると他人の葬儀を思い出す。ほらよく言うじゃん、 
       やつらは死者の眠る場所に好んで集う……うぅ、嫌だ嫌だ」ぶるっ

見張り兵2「でたでた始まったよこいつの弱腰節」

見張り兵1「ふむ」

見張り兵2「なら俺が代わりに聞いてやるから」

カラス「クァー」コンコン

見張り兵2「……おーい、お前らの仲間は何やってんだ? こんな夜更けにまで」

カラス「クァー」

見張り兵2「んー? ほうほう」

カラス「クァー」バサバサッ

見張り兵2「ふむふむ、なるほどなるほど」

見張り兵1「ははっ、何て言ってるんだ?」

見張り兵2「……うーん、『優秀な警備隊の皆様、お仕事ご苦労さまです』」

カラス「クァー」バサバサッ

見張り兵2「『今宵は月が余りに綺麗で寝るには勿体ない』」

見張り兵2「『日頃のお勤めに敬意を表するとともに、
       その労いを兼ね今宵我々が代わりに警備を行う所存』……?」にやにや

見張り兵1「ぷっ」

見張り兵3「馬鹿にして……あーあー、どうせ俺は臆病者。情けない人間だよ悪かったな」むすっ

カラス「クァー」バサバサッ

見張り兵2「うんうん」

見張り兵2「『……ああ仰る方もいます。ですのでこの機会……ぷぷ、是非とも
       貴方がたに一時の休余をお持ち頂きたく――』」

見張り兵1「……」ぽん

見張り兵3「……」むすっ

見張り兵2「『職務に重圧を感じられる位でしたらどうかゆるゆりと眠られてはいかがですか』ー?」

見張り兵2「だそうだ」にやにや

見張り兵3「お、お前なぁ……! いい加減にっ!」

     

    「イエ、オ気ニナサラズ――」



大カラス「クァア゛アア゛アアアア!!!!」バサァ……ッ!!!!


       「!?」

見張り兵2「な……っ!?」チャキッ


 ザシュッ!!!!!


見張り兵2「――――――っ」

黒羽の魔女「……お気になさらずどうかごゆるりとお眠りに」

見張り兵2「ぁ……か……かふ……っ」ごぷっ

黒羽の魔女「――ただし就くのはニ度と目覚めることのない永遠の眠り」ぐりぐり

見張り兵2「ぁ……ぁが……」

 ドサッ

見張り兵2「」

見張り兵1「…………!」

見張り兵3「うわああああああああああああああああああ!」


    「お仕事ご苦労様でした」




ここまでー

早くドロシーを登場させたいです

______________

 

見張り兵4「どうしたっ!?」

見張り兵5「何かあっ――」

 
 バサッ バサッ


見張り兵5「――なっ!?」

大カラス「クァアア゛アアア!! ギャア! ギャア゛!!」

見張り兵5「な、何だ……コイツは……」

黒羽の魔女「……」にや

見張り兵4「!? お、おい、しっかりしろ!」

見張り兵2「」

見張り兵1「」

見張り兵4「おい!? おいっ!!」ゆさゆさ

見張り兵4「……! 目を離すな! 上だ! 上に乗ってるぞ!!」

大カラス「グギャギャアア゛アアア!!」

黒羽の魔女「……」

見張り兵5「(……女? まさか、こいつが?) く……っ」ピューーーーイ 

大カラス「クァアア クァアアッ!(おーおー流石にお仲間呼ぶくらいの知恵はあるみたいだぜ)」

 バタバタ…ッ  こっちだ! 構えろ!!





黒羽の魔女「……」

見張り兵4「……この惨状、貴様の仕業と見る」

弓兵たち「……」ギリギリッ

見張り兵4「逃げられると思うなよ。わずかな素振りを見せれば即その身体を射抜く」

見張り兵4「率直に問おう……何者だ。……いや、」

見張り兵4「貴様、魔女だな?」

黒羽の魔女「……」にや

見張り兵5「答えろっ!」

弓兵たち「……!」ギリギリッ

見張り兵3「……ぁ、……ぅ」ずるずる

見張り兵5「!? お、おいっ、息があるぞ! 1人は無事だっ!」

見張り兵4「……!」

見張り兵3「ぁ……ぁ……」 

見張り兵5「しっかりしろ! もう大丈夫だ、助けにきたぞ!」

見張り兵3「ぁ……ぅ……」

黒羽の魔女「……どう思う?」

大カラス「クァアア クァアアッ!(ハズレだ。どいつもこいつもただの木偶だぜ!)」

黒羽の魔女「……ずいぶん話と違うじゃない。拍子抜けだわ」

見張り兵4「何を喋ってる! 妙な真似をするな!」

見張り兵3「ぅ……ぁ……(に、逃げろ……)」ぱくぱく

見張り兵5「何? どうした?」

見張り兵3「ぅ……(す、すぐにここから……に、げ……)」

見張り兵5「どうした、どこかやられたのか!? 無理に動くんじゃない」

見張り兵3「ぁ……(ち、違う。だ、ダメだ、こ、声が……体も……)」ぱくぱく

見張り兵4「……そのまま大人しく降りて来い」

弓兵たち「……!」ギリギリッ

見張り兵4「貴様の行った所業、我々がこの場にて断を下すわけにはいかん。
      女王陛下の名においてまずは城に連行する。降りて来いっ!」

ちょっと休憩
続きは昼に投下します
久々に暫く更新時間がとれそうです

黒羽の魔女「……」

カラス「クァー」ツンツン

弓兵たち「……?」

見張り兵3「……ぁ、う……」ずるずる

見張り兵5「隊長もじきに戻られるはず。このまま現状を維持するのも1つの手だと思うが」

見張り兵4「いや、すでに2人もやられている。悠長なことを言っていられる状況ではない」

弓兵たち「……」ギリギリッ

見張り兵4「ここは我々だけで……(場合によっては、このままここで――)」

 
  アォオオーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!


見張り兵4「!?」 見張り兵5「!?」 弓兵たち「!?」ざわっ

見張り兵5「な、何だ!? 今のは……外から!?」

黒羽の魔女「……時間切れね。残念……もう少し待っていたかったけど」

黒羽の魔女「“あの子たち”もシビレを切らしてるみたい」くすっ

見張り兵4「何っ?」

大カラス「クァアアッ!(て、ことは)」

黒羽の魔女「ここは用済みよ」スッ


 カッ !!!


見張り兵4「……っ!?」

見張り兵5「く……っ!(しまっ、これは……!)」


 ぱぁああああああ……


黒羽の魔女「この国の警備兵にも厄介なのがいる。そう聞かされてたから選んで来たのに」

黒羽の魔女「居ないんじゃあ仕方がないわね」

大カラス「クァアアッ!(1本釣りは失敗だなぁ!)」

黒羽の魔女「――城門は制圧させて貰うわよ」にやぁ



 ぱぁああああああ……


見張り兵4「くっ、(魔法石……相手が魔女と知りながら不覚……っ!)」

見張り兵4「構わん! もろとも射ろっ!」

弓兵たち「……! ……!」プルプル

見張り兵4「非常事態だ! さっさと撃て!」

弓兵たち「……っ! ……くっ!」プルプル

見張り兵4「何をしている! さっさと――」

 どさっ どさどさっ 

見張り兵4「……!?」

弓兵たち「ぁ……ぅう……」ぱくぱく

見張り兵4「な……こ、これは……」

 どさっ カラーン

見張り兵5「……ぅ、あ……」ぱくぱく

見張り兵4「……!」

大カラス「ゲギャギャギャギャギャアアア!」ばさっばさっ

見張り兵3「ぅ……ぅ……」ずるずる

見張り兵5「……ぅ、(か、身体の、力が……)」ずるずる

見張り兵4「これは……一体……」

――まったく、あいつらは(ぶつぶつ)――

見張り兵4(隊長……)

――どうかしましたか隊長。またあの3人が何か?――

――ん? いや何、さっき上でな。少しばかり任務時における心構えをだな、改めて活を……――

――というより何故わかった――

――ははっ、今『あいつら』、と。隊長をしかめ顔にさせるのはヤツら3馬鹿と決まってます――

>>23見て思ったんだけどこれって前スレとかあるの?

――むぅ……3人とも腕は抜群に立つんだがな。どうもそれぞれムラがあるというか、
   意識面で不安に思わせる様な所がある。困ったもんだ――

――今が一番肝心な時期。ああも油断じみた態度を見せられるとは――

――ですがヤツらに限って心配は無用でしょう。常日頃、軽口を叩いてるのはともかく、
   事に臨んで気を緩めるタマでもありますまい。それは……隊長が一番ご存知のはず――

――それはまあ、な……――

見張り兵4(そうだ……)

見張り兵1「」

見張り兵2「」

見張り兵3「ぁう……ぅ……」ぱくぱく

見張り兵4(隊で1、2を争う手練のお前らが油断など……)

 (断じてない……)

>>614
一回書き直しをしまして、そのスレはどこかに残ってるはずです

ですが内容はこのスレの途中までとほぼ同じなので……

――そうだ、ついでにお前にも話しておこう。いかな性根で我々が任務に当たるべきか――

――あ、私はこれから上と交代です。ですからお話はまた後ほどということで(そそくさ)――

――ん、ん? あ、ああ……そうか……なら仕方がない。頑張れよ……――

見張り兵4(油断をしたのは……)

見張り兵4「――――っ!??」びくっ

見張り兵4「か……っ! ぁぁ……っ!?」

 どさっ

見張り兵5「……!」

見張り兵4「ぁ……ぅ……(こ、これか。この痺れ……これに、皆……)」ぱくぱく

大カラス「クァアアッ!(終わったぜ。止めは?)」

黒羽の魔女「残りはあの子たちに任せるわ」

 クァアア クァアアッ  ギャアギャア

カラスたち「ギャアギャア!(いいの? いいの? こいつら殺しちゃっていいの!?)」

見張り兵4「ぐ……くくっ……!(何をされた……あの光、何処の石だ……)」ずるずる

 (それに……このカラスども……こ、こいつらも……)

黒羽の魔女「……眼を抉り、肉を削ぎ、出来るだけ苦しみを与えた上でね」

黒羽の魔女「母様が味わった同じ苦しみを彼らにも」にこっ

カラスたち「ギャアギャア!(任せろーーーっ!!)」ばさばさっ

見張り兵3「……! ぁ……ぁあ……っ」ずるずる

見張り兵5「ぐ、ぐぅ……っ」ずるずる

見張り兵4(へ、陛下……隊長……)


  ――――申し訳、御座いません



______________


 ゴウ……ッッ!!! 


大カラス「ギャハハハハハハハハッ!!(さーて余興はここまで! こっからだぜぇ!!)」ばさっばさっ

大カラス「クァアアッ!(ジル! 開門の手筈は!?)」

黒羽の魔女「いつでもいけるわ」すっ

大カラス「クァアアッ! クァアアッ!(<<操作>>……便利だなぁ、魔法石っつーのはよ!)」

大カラス「クァアアッ!(俺みたいな獣でも使えたら良いのになぁ!)」

黒羽の魔女「……」くすっ

大カラス「クァアアッ! クァアアッ!(それ、メスの心も『操る』ことは出来るのかぁ!?)」

黒羽の魔女「あら、どうしたの? どこかでいい娘でも見つけてきた?」

大カラス「クァアアッ! クァアアッ!(何言ってやがる。いい娘ならよ……)」ばさっばさっ

大カラス「クァアアッ!(もう背中に乗せてるっつーの!!)」

黒羽の魔女「……馬鹿」ぺしっ


 ヒュウウウウウウウ


黒羽の魔女「……それにしても」

大カラス「クァアアッ!(ああ……醜い街だぜ)」ばさっばさっ

黒羽の魔女「虐殺の采配を振るう女王、数多の犠牲の上で安穏を貪る民――」

黒羽の魔女「何もかもが偽善に満ちた都……虫唾が走る」ぎりっ

大カラス「……」ばさっばさっ

黒羽の魔女「……」ぎゅっ

大カラス「クァアアッ!(……んじゃまあ、始めるとするか!)」

 
 カッ !!!



黒羽の魔女「……まずは全員、地に這いつくばらせ恐怖を煽る」ぎりっ

黒羽の魔女「そして何が起こったのか気付かぬまま、お前たちにふさわしい死を」


  ぱぁああああああ……


黒羽の魔女「――行け! 廻れ! 覆い尽くせ我が“毒”よ!」


  そう、誰も気付かない……『気付けない』

  闇の帳が開けぬ限り、決して術は破れない――――



ありがとうございます。
前にも書きましたが、仲間が全員揃うまでは結構退屈な話が続きますご容赦をm( )m


ここまでー

______________

 アメジスト・城下大通り とある酒場

 がや がや ワイワイ

飲み客1「おーい! 向かいはやっとこさ終わったみたいだぞぉ!」

飲み客2「全員、無事っ! 城に連れてかれたとさ!」 

 ドッ! わっはっはっは!! そりゃご苦労様だっ!

飲み客3「でぇ、結局何よ? 何をあいつら揉めてやがったんだぁ? ひっく」

飲み客1「始めは行商人と、そいつから物買った客との喧嘩だよ」

飲み客1「何でもゴミみたいな価値しかないモンを高値で買わされたとかで」

 わはははっ! 非道ぇな! いやいや騙される方が悪い!

飲み客1「呑んでた商人をたまたま見つけ食ってかかって行ったはいいが」

飲み客2「周りの酔っ払いどもが盛り上がっちまって。そのまま一部を巻き込んで大乱闘よ」

 面白そうじゃねえか! ちくしょう俺が居れば! 居たら何だよ! わははははっ!!

 がや がや ワイワイ

村人1「……流石、女王陛下のお膝元ともなると賑やかだな」

村の荒くれ者「がはははっ、俺たちも向かいの酒場にすりゃあ良かったぜ!」

村人4「冗談。下手をすれば城行きだったんだぞ? お前がいれば絶対に巻き込まれていた」ぐびっ

村人3「ま、騒がしいのは嫌いじゃないが……」ぐびぐびっ

村人1「確かに。村でずっと働いてる分には退屈な日々が続くもんなぁ」

村人4「退屈……まぁそれもそうか。だが別の言い方をすれば平穏無事。……喜ばしいことだ」すっ

村人3「ああ、今年も一段落ついて後は冬を越すだけ。とりあえずはお疲れ様って所かな」カツンッ

村人2「あー、うー、ひっく」

村人1「……もう潰れてら、こいつ」

村の荒くれ者「おいおい、今日は朝まで飲むっつったろう」

村人2「うー、帰りたい。誰か門を開けてくれぇ……」

村の荒くれ者「ったく、祭りの準備もサボってやがったクセに。しょうがねえなお前ぇはよぉ」ぐりぐり

村人1「……準備と言えば爺さん、まーた家に篭りっきりだったが」

村人4「いつものことだろ」

村の荒くれ者「あんな老いぼれ必要ねえよ。居ても邪魔なだけだ」

村の荒くれ者「けっ、とっととくたばらねえかな」

村人1「けどお前んとこのカミさんから聞いたぞ?  こないだ爺さん、家の前で倒れてたそうじゃないか」

村の荒くれ者「ああ、らしいな。構わねえから放っとけっつっといたが」ぐびっ

村人3「へえ、やっぱどこか良くないのか?」

村人4「みたいだな」

村の荒くれ者「いよいよじゃねえの? 今の内にあの土地どうするか決めといてもいいんじゃねえかぁ?」

村人1「さてさて、あんな気味の悪い場所をねえ」

村人3「一応、村にも墓は要るだろう。それよりも問題は誰が爺さんの仕事を引き継ぐかじゃないか?」

村の荒くれ者「よし! お前やれよ」

村人2「えぇ~、やだよ俺……死体を埋めるなんて……むにゃむにゃ」

村人4「……ふむ。爺さんに身寄りがいないともなれば、
    その辺りのことについては少し考えておいた方が良さそうだな」

村人4「散々蔑んではいたが、埋葬の依頼は決して少なくはない。
    わずかでも村の収益になりさえすればむざむざ捨て置く手もあるまい」

村人1「昨日もアレだ、どっかから仕事を頼まれてたみたいだしな」

村人4「……ほう?」

村人3「俺も聞いた。昨夜だろ? 爺さんの家、夜遅くに誰か訪ねて来てたって」

村の荒くれ者「だからか! 糞カラスどもの声がやけにうるせえと思ってたんだ、人が寝てんのによぉ!」

村人3「それだ。それが気になって家まで様子を見に行ったヤツがいるんだよ」

村人1「そしたら爺さん家、灯りがずっとついてた上に、中で誰かと会話してるのを耳にしたって」

村人4「それが……埋葬の依頼だったと?」

村人1「いやあ、そこまでは」

村人1「けどあの偏屈に用事があるとすれば1つじゃないか?」

村の荒くれ者「だな」

村人4「ふむ……」

村人3「それより面白いのがさ、声からしてどうも……訪ねて来てたのは“女”らしいんだ」

村人4「ふーん?」

村人1「わざわざ人気の少ない深夜に女が死体を埋めて欲しいと頼みに来る」

村人1「……何か訳ありっぽくないか?」

村の荒くれ者「ああ? そうかあ?」

村人4「……」

村人1「色々想像出来るよ。人には言えない埋葬、例えば旦那や恋人を殺してしまった……とかさ」

村人3「好きだなお前もそういうの。確かに珍しいと言えば珍しいが、ないこともないだろう」

村人2「そーそー、時間なんて、関係ないよ……ひっく」

村人2「俺たちらって……『あの時』、まっ昼真から頼みに行ったじゃない」むにゃむにゃ

村人1「!?」 村人3「!?」 村人4「!!」 ぎょっ

村の荒くれ者「ぶはっ、そうだそうだ! そういやそうだった! 懐かしいなぁ、おい!」

村人1「お、お前ら……やめろよ。こんなトコで」ちらっ

 がや がや ワイワイ

村人4「……」

村の荒くれ者「心配しなくても誰も聞いちゃいねえよ」ぐびっ

村人3「……せっかく忘れてたのに」

村の荒くれ者「がははっ、そりゃ悪かった! ならもう忘れろ忘れろ!」

村人2「忘れろ忘れろー」ばんばん

村人1「こ、こいつ……(この酔っ払いがぁ……っ!)」

村の荒くれ者「それにいつまでビクビクしてんだ情けねえ。もう過去の話だろう」

村の荒くれ者「例えあの事がバレたって、今さら捕まりっこねえっつーの」ぐびぐびっ


 ―――バンッ


飲み客4「おい大変だ! 警備隊の連中がっ!」

ココマデ

______________

 広場

 がや がや ヒソヒソ

警備兵「下がれ! 見世物じゃないぞ!」

 「う、あ、あ……」

警備兵「どうだ、立てるか!?」

警備兵「しっかりしろ、もう大丈夫だ!」

 「うぅ……」

 ヒソヒソ 人が倒れてるって 酔っ払いか? がや がや

警備兵「……どうやら喋ることもままならんらしい」

警備兵「こっちも同じだ。微かな痙攣、全身の筋肉が緩みきっている」

警備兵「何の症状だ?」

警備兵「わからんが、意識はあるんだろう? 取り急ぎ命に別状はなさそうだが……」

警備兵「かといって放って置く訳にもいかん。とにかく全員医療所へ運ばねば」

 がや がや 運ばれてるぞ 1人じゃない 何があった? ヒソヒソ

警備兵「ほらどいたどいた! 道を開けろ!」

 がや がや ヒソヒソ

村人1「……こりゃまたすごい野次の数だな」

村人3「なるほどね。警備兵がこんな時間に街中を走り廻ってる理由はこれか」

村の荒くれ者「んだよ、大げさに言いやがって。何人かぶっ倒れてるだけじゃねえか」

村の荒くれ者「おおかた調子に乗って飲みすぎたヤツらだろう、こいつみたいに。
        わざわざ見に来る価値もなかったぜ」

村人2「うぅ……ひっく、うっぷ」ふらふら

村人4「……それにしては、慌て方が普通ではないみたいだが」ちら

警備兵「そこに居ると邪魔になる、見物人は散れ! 散れ!」

 ヒソヒソ がや がや

警備兵「……そっちはどうなっている?」

警備兵「やはり、他でも同様の報告が」ひそひそ

警備兵「発生場所もまちまち。点で繋げば都全域と言っても差し支えないと」

警備兵「それに、だ。隊内にも被害が出たらしい。対応に当たった者が数名」ひそひそ

警備兵「その場でか!?」

警備兵「しっ! 声が大きい。……しかし、マズイな」

警備兵「ああ、余り考えたくはないが」

カラスたち「ギャアギャア!」

警備兵「……最悪の事態(流行り病)もあり得る」

警備兵「……」

警備兵「どの道我々だけの手には負えんぞ。早急に城に報告を」

警備兵「残った者は住民の不安を煽ることの無いよう速やかに現場の処理を」

 がや がや ヒソヒソ

村人3「お、もう終わりかな? 引き上げてくみたいだぞ」

村の荒くれ者「あーあ、しょうもねえ。俺たちもとっとと戻ろうぜ、飲み直しだぁ!」

村人1「さっきと同じ所? 店変えるかい?」

村人4「そうだな……ふふ、あの連中の様に外でやるってのも中々」

村人4「今夜は月も綺麗だ」


 ――キラッ 


村人4「……ん?」

村の荒くれ者「どうした?」

村人4「いや……今、空で何か……(光……?)」

村の荒くれ者「あん? 空ぁ?」

 「きゃあああああああああああ!!」

 「!?」 ざわっ

警備兵「どうしたっ!?」

 「倒れたぞ!」 「まただ!」 「いきなり倒れた!」

警備兵「何ぃ……っ!?」

警備兵「どこだ!? 開けろ! 通してくれ!」

 ざわ ざわ 

 「あう、うぅ……」ぱくぱく

警備兵「……!(やはり同じ……!)」 

 ざわ ざわ どうなってるんだ これって 変じゃない?  ヒソヒソ

警備兵「大丈夫だ! 騒ぐな、静かに! 静かに!」

 「うわっ、うわあ!」  「こっちもだ!」 「こっちも倒れたぞ!」

警備兵「な……っ!?」

 「う、あ、あ……」ぴくぴく

警備兵「……! お、落ち着け! 何も問題ない! 我々がすぐに運ぶ!」

 ざわ ざわ 

村人1「……おいおい、何か様子が変だぞ」

村人3「また誰か倒れたのか」

 「説明しろよ!」  「どうなってるんだ!」  「大丈夫なのか!?」

警備兵「周囲の熱気にあてられた可能性がある! 速やかにここから離れて!」

警備兵「搬送の邪魔になってるぞ! 散れ散れ!」 

村の荒くれ者「ぷくく。見てみろよ警備兵のヤツら、あの顔。相当青ざめてるじゃねえか」

 どさっ

村人4「?」

村人2「あ、ぁ……か……っ」ぴくぴく

村人1「……え?」

村人3「!? お、おいっ!?」

 「きゃーーーー!」 「またよ、また人が!」 「今度はこっちだ!」

村人1「い、いや、こいつは違うんです。かなり酒が入ってて……なあ?」

村人3「そ、そうそう。酔っ払ってるだけなんで」

村人3「しっかりしろよ、だらしねえなおい(恥ずかしいだろ)」ゆさゆさ

村人2「あ、あ……」ぱくぱく

村人4「これは……」

村の荒くれ者「ひょっとして、お前ぇも……?」

村人2「う、あ……」ぱくぱく

警備兵「……(同じか)」

 ざわざわ ヤバイんじゃねーの? 次々倒れてるぞ ヒソヒソ

 どさっ

 「いやあああああ!?」 「げえっ!? まただ!」 「どうなってんだぁ!?」

警備兵「ぐ、くぅ……っ!」

警備兵「き、聞きたいのはこっちだ……一体何がどうなっている」

  (まさか……)

 「こ、これって……もしかしてここに居ると俺たちも」ぼそっ

 「!?」 ざわっ

警備兵「待て待て! 離れるのは結構だが、大げさに騒ぐんじゃあない!」

警備兵「先ほども言った通り、命に別状は無く――」

警備兵「――っ」ぴくっ

 「?」ざわっ

警備兵「……っ、な……く」

 どさっ

 「……!!」 「うわ、うわああああああああああ!」 「きゃあああああああああ!」 

警備兵「……! こ、これは……まさか」

 (まさか、本当に流行り病が……?)

 「急げ!」 「離れろ逃げるんだ!」 ぎゃーぎゃー 

                   ギャアギャア  クァアア クァアアッ


    「ギャーッハッハッハッハッハッ!!!!」ばさっばさっ



______________


警備府長官「――何? 疫病?」

警備兵「はっ。状況を鑑みるに可能性高しと、宰相がそう申されておりました」

警備府長官「陛下は何と?」

警備兵「陛下は今朝方より療養の為、政務を離れられておりまして」

警備兵「恐らく後ほど宰相からこの件をお耳にするのではと」

警備府長官「……」

警備兵「現在、女王府が極秘に衛生隊を街に派遣しており、
    下水・井戸水等の水質調査を行わせている模様です」

警備兵「と同時に、他国からの商人を主に絞り荷駄の検査も実施するとのことで」

警備兵「こちらにつきましてはやはりと言いますか、我々にも援助の要請がかかっております」

警備府長官「うむ、それは構わん」

警備府長官「構わんが……疫病……」

警備府長官「運ばれた者の中で死者は?」

警備兵「今の所はいません」

警備兵「しかしながら数が多く、こうしている間にも運ばれてくる者は増え続けているようです」

警備府長官「……」

警備府長官「この国は歴史上、これまで一度たりとも流行り病を経験したことがない」

警備府長官「交易における荷駄の検疫は特に義務付けられておらん……うちに不手際は無い」

警備兵「はっ」

警備府長官「仮に女王府がこのまま最終判断を下せばどうなる」

警備兵「恐らく都全域が有事の際と同様の扱いになるかと」

警備府長官「戒厳か……つまりあの穀潰しども(国防府)が上に立つということだ。笑わせる」

眠いので、ここまで……

警備府長官「常日頃より、王都の治安を預かっているのは我々警備府だ」

警備府長官「それを戦だの病だの、もっともらしい理由を付け横からしゃしゃり出る……」

警備不長官「余所にでかい顔をされるのだけは我慢ならんっ」

警備府長官「各隊の長に伝えろ。女王府からの正式な要請に備え人員を確保するよう」

警備府長官「衛生隊への支援とは別に、発症者の隔離にも数を割け」

警備兵「はっ!」

警備府長官「いいかっ、まだ流行り病と決まったわけではない。余計な心配などするな」

警備府長官「とにかく、何としてでも我々の力のみで早期解決に努めるんだ。他は必要ない」

警備府長官「……やつらにそう言い聞かせておけ。わかったな」

警備兵「ははっ」

______________

 アメジスト警備府内 牢獄・尋問所

自称商人「だからっ、何度も言ってるでしょ!? あっちが先に殴り掛かって来たの!」

警備兵「で、お前も手を出した」

自称商人「出してないよ! 一方的に殴られてたんだって! 他の連中も見てたはずだよ!」

警備兵「皆覚えてないと言っている」

自称商人「何それ」

警備兵「相手はお前がやり返してきたと証言しているぞ」

自称商人「ウソだね。殴ったのは周りのやつらだよ。腹いせに適当言ってるだけだよ」

ラズライト「……何の腹いせだ?」

自称商人「私に粗悪品売りつけられたって喚いてたんでしょ!?」

ラズライト「ほう、粗悪品を売りつけたのか」

自称商人「それも誤解だよ! 私じゃない、人違いだ!」

自称商人「私たちの商売、物を売る、買うだけじゃない。互いの信用もやり取りしてる」

自称商人「目先の利益欲しさに相手を騙すようなことは絶対にしないね」

ラズライト「だったら何故今回は騙す様な真似を?」

自称商人「だから騙してない! お前話聞いてたのか!?」

自称商人「そもそも、例え粗悪品を売ったとして、それが何か罪になるのか!」

自称商人「お前たちが不当に私を拘束する理由になるのか! 答えろ!」

ラズライト「連れて来られている理由は騒ぎを起こしたからだろう」

自称商人「私は被害者だよ!? ……ああっ、もう! 話にならないね!」

 コン コン

警備兵「……隊長」ひそひそ

ラズライト「うむ、どうだった?」

警備兵「確認が取れました。隊長の睨んだ通りです」

警備兵「やつの持っていた“ガーネット”商業組合所属の証明書……
     商館に問い合わせた所、こちらは正真正銘の本物です。ですが……」

警備兵「市場開催の期間中にこの者が都に滞在していた記録は残っていません」

警備兵「つまりやつは商館の管理下とは別に、独自で商売を行っている」

ラズライト「……やはり『ウィンキー』だったか。舐めやがって」

警備兵「『ウィンキー』……表向きは西国“サファイア”を本拠とした商集団ですね」

警備兵「現在は“ガーネット”の各ギルドと連携して活動の幅を広げているそうですが、その実態は……」
    
ラズライト「商人を隠れ蓑にした一大犯罪組織」

ラズライト「やつら、各国の市場で違法な売買取引を裏で行っていると商人の間でも問題になっている」

ラズライト「扱う品も多岐に渡り、長年の摘発にも関わらず後を絶たない未練成の魔法石の流通、
      これも『ウィンキー』の仕業だ……果ては人身の売買まで手を染めているらしい」ぎりっ

続きは深夜に

警備兵「でもどうするんです? このままじゃあ手は出せませんよ」

警備兵「いくらならず者の集団とはいえ、大国である西が公認しているわけですから」

警備兵「そもそもやつらを犯罪組織とするのであれば、
     その元締めは間違いなくクイーン・サファイアに他なりません」

警備兵「先ほど足を運んだ商館からも、この件に関しては
     何卒穏便に済まして欲しいと宜しくお願いされました」

警備兵「彼らも現状、“サファイア”の無法には目を瞑るしかないですからね」

ラズライト「どこまでふざけた国だ、あそこは」

警備兵「荷駄の方も一応調べました。が、特にこれと言った物は出ておりません」

警備兵「酒場でやつが無抵抗であった事も確認済みです。これ以上の拘束は……」

ラズライト「くそっ!」

警備兵「入都の際に念入りに検査は行っています。致し方ないかと」

ラズライト「何でも良い……何でも良かったんだ。
      わずかでも法に触れるブツが出てくれば落とすことも可能だった」

ラズライト「そうすれば4ヶ国会議……陛下を通じ、あの西国の女王に一矢報いることも出来たはず」

警備兵「……確かに」ちら 

自称商人「おいこら! いつまで放置する気だ! さっさと私を解放しろ愚図ども!」

警備兵「……このまま放つのも癪ですね」

ラズライト「いっそのこと締め上げて、過去の所業を洗いざらいぶち撒けさせてやろうか」


    「ジェイル!」


ラズライト「?」

警備隊第3隊長「こんな所で油を売っていたのか。探したぞ」

警備兵「……」ぺこ

ラズライト「おお、珍しいな……何か用か?」

警備隊第3隊長「何か用かじゃない。お前こそ何をしている」

警備隊第3隊長「北門の警備はどうした?」

ラズライト「部下に任せている……心配はない。それに遊んでいる訳ではないぞ」

ラズライト「見ろ、『ウィンキー』だ。やっと引っ張ってこれた」

警備隊第3隊長「ほーう……見るからに小物だな。お前が相手にする程じゃあない」

警備隊第3隊長「どうせ何も掴めなかったんだろう?」

ラズライト「ぐ……」

警備隊第3隊長「だったら後は他に任せろ。……ジェイル、それどころじゃあないんだ。耳を」

ラズライト「……?」

警備隊第3隊長「……」ひそひそ

ラズライト「……!? なっ!?」

ラズライト「ほ、本当なのかっ!?」

警備隊第3隊長「冗談でこんな事を言うか。長官の指示では都の慰撫を最優先に、
          発症者の搬送を速やかに行う様にとのことだが……」

警備隊第3隊長「状況は最悪だ。時を経るごとに感染者が増え続けている、人員がまるで追いつかん」

警備隊第3隊長「さらには疫病を疑う流言が既に街中を飛び交っている」

警備隊第3隊長「都を脱出しようと、各城門に市民が群がり恐慌状態であるとの報告も入っている」

ラズライト「……!」

警備隊第3隊長「俺もすぐに戻り、自隊をまとめるつもりだ。
          お前の所も、今大変な事になっているんじゃないか?」

警備隊第3隊長「すぐに戻った方が良いと思うぞ」

ラズライト「う、うむ」

警備兵「隊長、ここは大丈夫です。後は我々にお任せください」

ラズライト「……頼んだ」こく



  警備隊第3隊長「……忙しい夜になるぞ」




ここまでー

1ヶ月くらい纏まった休暇が欲しい……更新が……orz

こういうことを聞いていいのかわからないんですが
短更新(極端な例で2~3レス分)を毎日するのと
まとまった長レス更新を1ヶ月単位でするのってどっちが良いんだろう……

確かに1年は個人的にも衝撃。話自体は最後まで考えてる分なおさら
読んでくれてる人さえ許してくれるなら酉が必要ない違う場所で続きを書きたいとか考えてたり……

やっぱりウソ。もうちょっとここで頑張る!

______________

 アメジスト・城下大通り

 がや がや

女店主(既出)「……い、一体何だい? この騒ぎは」

薬屋主人「おおっ、あんたか!」

女店主「薬屋の……どうしたのさ、こんな夜更けに出掛けるつもりかい?」

女店主「それに、どうも街中が慌しいみたいだね」

薬屋主人「知らないのか? 流行り病だよ!」

女店主「は、流行り病……!?」

薬屋主人「ああ、ついさっき発症者が現れたそうだ。わずかな時間で次々と倒れてるってさ!」

薬屋主人「このまま都に留まるとこっちの身も危ない!」

薬屋主人「だからこうして早めに脱出しようとしてるって訳よ。ここいらのヤツはみんな同じ考えだぞ」

女店主「だ、だから荷馬車を……」

薬屋主人「ほら何してる、あんたも早く」

女店主「は、早くったって……私はいいよ、行かない。店を放って行けないよ」

女店主「旦那が遺してくれた大事な店なんだ。中には商品だって置いてあるんだから」

薬屋主人「馬鹿! その店も普段誰が切り盛りするっていうんだ」

薬屋主人「あんたが倒れちまったら許も子もないんだぞ!?」

女店主「そ、それに流行り病かどうかの真偽は定かなのかい? 
     みんな、噂だけを鵜呑みにして慌ててるように見えるけど……」

女店主「城からの非常宣言は?」

薬屋主人「ない」

女店主「だったら、それが出るまで少し落ち着いたほうが――」
薬屋主人「そんなもん待ってたらそれこそ面倒になるだけだ! 今の内に逃げ出すのが賢い人間よ!」

薬屋主人「医療所にかなりの人数が運ばれていったこともはっきりしてる。疑う余地は無い」

薬屋主人「さ、あんたも早く! ウチのに乗ってくれても構わん。隣の誼だ」ぐいっ

女店主「ちょ、ちょっと待っとくれよ。私は――」

薬屋主人「あんたんトコの旦那と、この辺りで店構えてるやつらは大体が昔からの馴染みだ」

薬屋主人「あいつが逝っちまう前に、みーんな、あんたの事を気に掛けてやってくれと頼まれてる」

薬屋主人「俺もその内の1人さ」

女店主「あ、あの人が……」

薬屋主人「宜しく頼まれた身としちゃあ、あんたに何かあったら俺が怒られちまう」

薬屋主人「ほら、わかったら早く乗るんだ」

女店主「す、少しだけ待ってくれないかい? 大事な物だけ持って行きたいんだ」

薬屋主人「……仕方が無い。急ぎでな」

女店主「す、すまないね。恩に着るよ」たたっ

薬屋主人「……」

______________

 カッッポ カッポ カララッ

 ざわざわ ガヤガヤ

女店主「……随分、大騒ぎになってるんだね」

薬屋主人「ああ。感染速度が尋常じゃなく速いとも噂されている」

女店主「みんな、血相変えて、荷物抱えて……」

薬屋主人「向かう先は一緒だろうな。この方向だと北門になる」

薬屋主人「今頃、各門に市民が大挙して押し寄せていると思うぞ。さて門兵がどう出るか」ちらっ

女店主「そうだよ。そもそも逃げるったって、門が閉まってちゃあ外には行けないんだし」

薬屋主人「……」じぃーっ

女店主「開けろ開けろと言われても、はいわかりましたで済むモンでもない」

薬屋主人「……ゴクリ」

女店主「開門に応じなかったらどうする気なんだろうねえ。……どうする気だったんだい?」

薬屋主人「う、うん!? あ、ああ、そりゃあ無理にでも開けてもらうさ」あせあせ

薬屋主人「こっちも命がかかってるんだからな……ゲフンゲフン///」

女店主「? ふーん……」

______________

 同時刻 アメジスト・都東門

 がや がや

 「門を開けろーっ!!」 「閉じ込めるつもりか!!」 「開けてくれーっ、頼む!!」 

東門兵1「……」いらいら

東門兵2「隊長が戻るまでの辛抱だ。我慢しろ」

東門兵1「隊長が戻った所でこの状況が打破されるのか?」

東門兵1「彼らが望むのは都からの脱出、ここの開門だ。城がそんな事を許すはずがない」

東門兵1「おおかた、城門付近の鎮静と街の慰撫を仰せつかって来るに決まっている」

東門兵1「見ろ。こうしている間にも……」

 「ま、まただ! 倒れたぞ!」 「ここも、もう……」 「いやーっ、お願いっ! 早く開けてぇーーっ!!」

東門兵1「これを……いつまでここで眺めてればいいんだ」ぎりっ

東門兵3「それにアレをなだめろって? 考えただけでも鬱になるな」

東門兵3「こんな騒ぎになってるとは……俺も、家族を想えばすぐにでもここを開けてやりたいよ」

東門兵2「気持ちはわかるが、俺たちが何の為に城門の警備を任されているのかを思い出せ」

東門兵1「……」

東門兵2「それに、こっちはまだマシだぞ? 言い方は悪いがな……」

東門兵2「普段より行き来するやつらの数が他と比べて少ない」

東門兵2「残りの3門――特に北なんて、ここの何倍もの数が詰め寄っているんじゃないか?」

東門兵3「言われてみれば、そうだね……」

東門兵3「あっこは伸びてる街道が交通の要所だし、仕方ないといえばそうだけど」

東門兵3「うわあ、想像しちゃった……大変だろうね。あそこは確か……」

東門兵1「ジェイル隊長殿の持ち場だ」

東門兵2「音に聞こえた第1隊の精鋭――」

東門兵2「この混乱をどう捌くのか。出来れば後学の為に、お手並みを拝見したい位だよ」

______________

 アメジスト・都北門

 ざわ ざわ

 「おーい、聞いてるのかっ!?」 「早く開門しろーっ!!」 「俺たちは他国の人間だぞ!!」

村人1「……これだけの声に未だ反応無し、と」

村人3「すごいな、見事なまでに沈黙している」

 「顔くらい見せろよ!」 「自分たちだけ安全な場所に居る気か!?」 「とにかく開けてくれぇ!!」

村の荒くれ者「ちっ、こんな目に遭うのがわかってりゃあ村で大人しくしてたのによぉ」

村の荒くれ者「さっさと開けやがれクソ門兵どもぉ!! 聞こえてんだろぉ!??」

村人4「……やはり開ける気はないか。流行り病だとすれば、尚更だな」

村人1「どうするんだよ、ずっと都に閉じ込められるのか?」

村人3「ぐずぐずしてると俺たちもヤバイぜ。さっきだって――」

 

 「いやっ、いやああああああ!?  坊や! 坊や!!」




 ざわっ
 
母親「しっかり! しっかりしとくれ! 坊やあっ!!」

赤子「……」ぐったり

母親「……! だ、誰かっ! 誰か警備隊の方をっ、この子を! 医療所に連れて行って下さいっ!!」

 「ウソ、ついにここも……?」 「ちょ、ちょっと!」  「あ、あっちに行けよ伝染るだろ!!」

母親「あああお願いです。誰か誰か、警備隊の方、警備隊の方来てください」おろおろ

 「おい門兵! 見てるのか!?」 「聞こえてるなら早く連れて行ってやれ!!」 わいわい

村人3「……おいおい、まさか本当に見捨てる気じゃないだろうな」

母親「お、お願いです。あなたでも良いのでこの子を……」

 「しっ、あっち行け!」 「警備隊のヤツに頼め」

母親「ど、どなたか……あ、あなたでも……」ぎゅっ

村の荒くれ者「ばっ、な、なんで俺が。自分で連れてけ! 手前ぇのガキの世話くらい手前ぇでしろ!」

母親「ああああ……」がくっ

 わいわい

 「門兵の連中、全く反応しないぞ」 「逃げたんじゃないだろうな!?」 「まさか」 ざわざわ

村人4「これは、流石に非情過ぎるのでは……」

 「お前らが普段守っているのは何だ!!」 「住人はどうなってもいいのか!!」

   「この母子を早く連れて行ってやれよ!!」 「いいから早く開けろってんだ!!」

 わー わー





 ヒュウウウウウウウ


大カラス「クァアアッ!(下も良ーい具合に沸騰してるみたいだぜ?)」ばさっばさっ

黒羽の魔女「本当……良い眺めね。醜すぎて笑いが出ちゃう位」

大カラス「クァアアッ!(まだ少し散らばっちゃあいるが、だいぶ各所に固まってくれたなぁ)」ばさっばさっ

大カラス「クァアアッ!(これでもっと“毒”が廻りやすくなる……へへっ、哀れな餌どもが♪)」

黒羽の魔女「餌、ね……くすっ。それなら多少散らばってくれてた方が面白いのよ?」

黒羽の魔女「あいつらが無様に逃げ惑う姿も楽しめるし、それに――」

黒羽の魔女「“あの子たち”だって狩りを楽しめる」スッ

大カラス「クァアアアアアッ!(やるか!!)」ばさっばさっ


   カッ !!!



 ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「!?」ざわっ

村人1「お、おいっ!? 門が開いたぞっ!?」

村人3「き、奇跡だ……」

 「うおおおおおお!! やった! 開いたぞぉ!!」 「さすが警備隊! 俺は信じてたぞぞおお!!」

村の荒くれ者「や、やりゃあ出来るじゃねえか連中も……とっとと開けとけきゃ良かったんだ、なあ?」

  ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「これで暫く都を離れることが出来る」 「助かったぞ」 「ああ、助かったんだ」 わいわい

  ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「よーし、じゃあみんな! 慌てずゆっくり退去するんだ」 「おーーーーっ!!」 

  ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「お、お……。……ん?」ざわっ

  ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「……。……?」

 ゴ ゴゴゴゴゴゴ……

 「――――え?」



 「……な、何……これ……?」

 ばさっ ばさっ

黒羽の魔女「――地獄の釜、開くを望んだのはお前たち自身」




狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」

巨大オオカミ「……じゅるり」ベロン

 「―――――――!?」

村人1「な……っ!?」

巨大オオカミ「アオオオオオオオオオオオオォォォォォンッ!!!!!」

 「………っ!?」ビリビリッ




黒羽の魔女「さあ、存分に食い散らかしなさい。遠慮することはないわ」

黒羽の魔女「今宵の肉はまた格別よ。だって……私の毒でとっても柔らかくなってるもの」くすっ

 


 「身体中、動けない程柔らかく、ね♪」


ここまでー

狼の群れ「ガルルッ!」

村人3「うわぁっ!?」

 「お、襲ってきたぞぉ!?」 「なんでココに狼がっ!?」 「逃げろおっ!」

狼の群れ「ガウゥッ!!」

 「ぎゃああああぁぁっ!?」 「た、助けっ――」 「いやぁあああああっ!?」

 がつがつ グシャッ グチュ

村の荒くれ者「うおおっ!? てめっ、この獣どもがぁっ!!」ぶんぶん

村人1「うわ、や、やめ……っ! ぎゃあっ!?」

狼の群れ「ガウゥッ!」

村人4「……っ、離せえっ!」

村の荒くれ者「じょ、冗談じゃねえぞ! こんな所で、こんな、意味わかんねえ……」

 「助けてええぇ!」 「いやあ、食べ、食べられて……あ、あ゛ぁ、あ゛」

狼の群れ「ガゥ! ガウゥッ!」がつがつ グシャ グチュ

村の荒くれ者「お、俺は死なねえ。あの村で一生平和に、死ぬまで――」

村の荒くれ者「こ、こんな死に方……っ、死んでたまるかああああぁ!!」

 ザシュ……ッ! 「あ゛ン」 

巨大オオカミ「グ゙ルルルルルゥ……ッ」ぽいっ

 どさっ ゴロゴロッ

村の荒くれ者「」

狼の群れ「ガウゥッ♪」むしゃむしゃ

 「うわあああああっ!」 「警備兵、助けろっ!」 「いやだぁ死にたくないぃ」 

巨大オオカミ「アオッ、アオーーーーーーーーーーン!」

狼の群れ「ゥオーーーーーーーーーーン!」

 がつがつ グシャ グチュ 


  村人3「」 村人4「」



______________

 ワーッ きゃああっ!


薬屋主人「……うん? どうしたんだ?」

女店主「変だね……こっちに戻ってくるよ」

女店主「というより、逃げて来てる……? みんな血相変えて」

薬屋主人「むぅ。あまり考えたくはないが、
      業を煮やした警備隊が武力行使にうって出たんじゃないだろうな」

女店主「まさか」

女店主「あの人たちが市民に手を出すはずがないさ。
     それよりもさっきの声、やっぱり何かあったんじゃ……」

薬屋主人「いずれにせよ門は開かなかったということか……ちっ」

 ヒヒ~ン ブルルッ

薬屋主人「おーい、何処に行くんだ? 北門は無理だったんだろう?」

市民「ああ、ああっ! 無理だったさ! あんたらも早く逃げたほうがいいぞっ、狼だ!」

薬屋主人「……お、狼?」

市民「群れだよ狼の! 門から入って来やがった! 
   見たこともねえデカイやつもいる……みんなっ、食われちまってるんだよぉ!」

女店主「……え?」

______________

 ダダッ カチャカチャ

警備兵「――流行り病の次は狼の群れだと? ……ったく、なんて夜だ」タッタッ

警備兵「さっきから街中を走らされっぱなしだが、どう考えても人手が足らな過ぎるだろう」
     
警備隊「この状況下でさらに衛生隊のお付に人員を割けときたもんだ、まいるね」

警備兵「……しかし、にわかには信じられんな」

警備兵「狼といえば獣の中でも知恵はあるほうだ。辺境の村を襲うならともかく、
     こんな城壁に囲まれた都を……? あり得ん」

警備兵「そもそもどこから湧いて出たんだという話だ。外からの侵入は不可能なはず」

警備兵「……」タッタッ

 「ぎゃあああっ、助けてくれぇ!」

警備兵「――見えたぞ!」

警備兵「!? ……くっ、市民が襲われている。まさか、本当に……」

警備兵「考えるのは後だ! 剣を抜け! やつらを追い散らすっ!」チャキッ

警備兵「俺たちはこっちだ! 例の症状で動けずにいる者がまだ多数いる、残らず救出するぞ!」

______________
 
 ワー ワーッ

警備兵「北の区画は交戦状態に入った模様!」タッタッ

警備隊第3隊長「ふっ、たかが獣相手に“交戦”……大げさに過ぎる。こっちの状況は?」タッタッ

警備兵「それが……芳しくありません。市民救出の成果で申し上げますと、正直手こずっています」

警備隊第3隊長「詳しく」

警備兵「やつら、一見無秩序に見えてその実、かなり統率の取れた動きを見せています」

警備兵「襲うのは無力な者ばかり。それも警備兵を見るやいなや、一斉に踵を返し『餌場』を変えます」

警備隊第3隊長「……臆病ともいえる慎重さが狼の本領だ、そしてやつらは群れでの行動を主とする」

警備隊第3隊長「恐らく統率者が――」ぴくっ

警備兵「!? こ、これは……っ」


 「クァアアア! クァアアアア!!」つんつん ムシャムシャ


警備兵「こ、この死体の数……し、信じられない光景……これが、
     これがあの美しく活気溢れる我がアメジストの都……っ!」

警備隊第3隊長「――生存者はいないようだな……好き放題やってくれる……っ」ぎりっ

カラス「クァアア! クァアア!」つんつん 

警備隊第3隊長「失せろカラスどもっ!」

 ばさばさっ……ッ

警備兵「う、ぷっ、ひ、酷い荒らされようですね……おぇっ」

警備隊第3隊長「……っ」ぎりっ

警備兵「さ、先ほども申し上げましたが、やつらは腕利きと判断すれば一旦その場を離れます」

警備兵「しかし、それは一時の凌ぎ……」

警備兵「待っているのです。まるで、理解している。
     時が経てば、街にいる者がいずれ流行り病で倒れることを……!」

警備隊第3隊長「……! ……それゆえ隊内にも犠牲者が出ているわけか。合点がいった」

警備隊第3隊長「と、なると、どうもきな臭くなってきたなぁ……」
          
警備隊第3隊長「――なぁ、どうなんだ? 教えてくれないか、そこの貴様」じろっ

警備兵「?」

 ズゥゥゥゥ……ン 

巨大オオカミ「……じゅるり」ベロン にやあ

短いですが、ここまで!

警備兵「!? こ、こいつが群れの……なんという……!」

警備隊第3隊長「通常の固体とは比べ物にならないほどの大きさだな」

警備隊第3隊長「膨大な年月がそうさせるのか、それともこいつが特別なのか……」すっ

 ズゥゥゥゥ……ン

巨大オオカミ「グ゙ルルルルルゥ」

警備兵「た、隊長、さすがにこれは応援を――」

警備隊第3隊長「でかければ臆すると思ったか、犬ころぉ……っ」チャキッ

 (放っておきなさい! 相手にしないの!)

巨大オオカミ「……!」ピタッ

 スッ

警備隊第3隊長「! 逃げる気かっ!」

巨大オオカミ「……。……(にやっ)」

警備兵「……! い、今のは……(わ、笑った……のか!?)」

警備隊第3隊長「待てっ! 逃げるな貴様っ!」だっ

警備兵「た、隊長!」

警備隊第3隊長「わかっている! これがやつらの思う壺だということも!」

警備隊第3隊長「だが! これを追わねばまた新たに犠牲者が出る!」

警備隊第3隊長「お前は応援を呼べ!」

警備兵「はっ! し、しかし、」

警備隊第3隊長「追う追われる――やつらにどんな企みがあろうと、
          市街の構造を把握しているぶん、我らに利がある!」

警備隊第3隊長「区画の通りを全封鎖し、じわじわとやつらを締め上げるのだっ」

警備隊第3隊長「いくら逃げようと、いずれ行き場を失くす……そこで一網打尽にしてくれる」

警備兵「な、なるほど……承知致しました!」

警備隊第3隊長「これは、時間との戦いだ……流行り病……」タッタ


 ――チカッ キラッ


警備隊第3隊長「…………」

______________

 ヒュゥウウウ…… ばさぁっ ばさぁっ


黒羽の魔女「――それでいい、それでいいの。貴方たちが無駄な血を流すことはない」

黒羽の魔女「標的は動けず何も出来ないでいる無辜の民。
        死に逝く者は常に弱者と決まっている……お前たち人間がそう教えてくれたものね」

大カラス「クァアアッ!(ははっ、しかし狼の脚力を舐めてないかぁ? あのボンクラ)」

黒羽の魔女「1人離れていく……おおかた助けを呼んで包囲するつもりよ。本当に愚かね……」

黒羽の魔女「動きを把握しているのは上空から全てを見下ろす私たち」

黒羽の魔女「これで一箇所に集うゴミども(警備隊)にまとめて毒を投入することが出来る」

大カラス「クァアアッ!(違いねえ! だがよジル、そろそろ気をつけたほうがいい)」

大カラス「クァアアッ!(城にも動きがある。やつらは決してバカじゃあないんだ。大丈夫か!?)」

黒羽の魔女「……ここに居る限り問題はないわ」

大カラス「クァアアッ!(……ならいい。お前につべこべ言うのは好きじゃねえからな)」

黒羽の魔女「……ありがと、“ライル”。心配してくれてるの?」なでなで

大カラス「クァアアッ!(そ、そりゃあよぉ! 当然だろ、何年お前のお守りをしてると思ってんだ!///)」

黒羽の魔女「お守り? ……いつまで子ども扱いするのかしら?」くすっ

大カラス「クァアアッ!(当初の“目的”を忘れてなきゃ何もいうことはねえ。撤退の機を見誤るなよ)」

大カラス「クァアアッ!(すでに半分以上――任務は達成してるんだからな)」

黒羽の魔女「……」

黒羽の魔女「……わかってるわよ」ぎゅっ

大カラス「……」ばさっばさっ

黒羽の魔女「でも、もうちょっとだけ――」

黒羽の魔女「もうちょっとだけ付き合って。……せめて……いえ、出来ればあいつらを皆殺しにしたいの」

大カラス「クァアアッ!(ジル……)」ばさっばさっ

黒羽の魔女「……お願い」ぎゅっ

大カラス「クァアア……」ばさっばさっ

 (……城の連中が動き出したということは、遅かれ早かれ俺たちの存在はいずれ……)

 (そして危惧していたとおりジルは……人間を少し侮っている部分がある……無理はない)

 (世間知らず―――それ以上にこいつら魔女の、本質・気質は重々承知している……)

 (良くも悪くも、根が『甘い』……!)

 (――けど、それを理解した上で俺はここに来た! こいつを乗せて来たんだ!) 

 (すべてはジル“たち”の為、惚れたメスにゃあ最後まで付き合うと俺は覚悟を決めているっ!!)

大カラス「クァアア! クァアアッ!(お前らぁっ! 今からが正念場だ! ジルはまだ殺る気だ!)」

大カラス「クァアア! クァアアッ!(殺って、殺ってぇ……死ぬ気でジルを守り通せ!)」ばさっばさぁっ

カラスたち「ギャアギャア!(いやっほーい!)」ばさばさっ

黒羽の魔女「……な、何? どうしたの、何て言ってるの? いつもの様に話してよ!」ゆさゆさっ

大カラス「クァアア! クァアアッ!(なーに、気にするなジルっ! 俺たちを信じろぉ!)」ばさばさっ


 (信じてくれ。“今度こそ”、何があってもお前らを守る――)



  ヒュウ……ゴウッ!! ばさばさっ!

______________

 わー わーっ 
 
 ガラガラガラッ


薬屋主人「……ええいっ、くそっ! どけどけぇっ!」ピシィ ピシィッ

女店主「ちょっ、ちょっと! そんなに速度を出したら危ないよ!」

女店主「逃げてる人たちだっているんだ。もし轢いちゃったらどうするつもりだい?」

薬屋主人「他のやつの心配なんかしてる場合じゃあないっ! 狼だぞ!?」

薬屋店主「幸い私は城に誼を通じている高官がいる。その方に頼み、城で匿って貰うんだ!」

女店主「だ、だからって……!」

薬屋主人(くそうっ、せっかくこの騒ぎに乗じて、
      色気のある未亡人に言い寄る絶好の機会だったはずが……!)

 「うわぁ!?」 「きゃあ!?」 「危ねえっ!」

薬屋主人「死にたいのか、道を開けろっ!」

女店主「……! い、いい加減に――」

女店主「あうっ!? あ……あ……?」びくっ

薬屋主人「はいやぁっ!」ピシィッ!

 ガラガラガラッ   ズルッ

薬屋主人「ん? お、おいこら寄りかかるな。……い、いや、どうしたんだ急に……///」

女店主「あ……あ……」ぱくぱく

薬屋主人「……?」

女店主「う……あ……」

薬屋主人「!?(……こ、これは、まさかっ!?)」

 ヒヒ~ンッ ブルルッ

女店主「う、うぅ……」ずるずるぅ

薬屋主人「ま、まさか……は、流行り病ぃいいい!? ば、馬鹿なっ、あんたまで……!」

女店主「う、ぁう……」ぎゅっ

薬屋主人「……! は、離せえっ! 伝染するだろうっ、離すんだ! ――っ!?」ぴくっ

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」

薬屋主人「~~~~~っ!? お、狼……っ、(い、いつのまに……!?)」

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」 じゃりっ

薬屋主人(か、囲まれているっ、そ、そんな……!)

女店主「う、うぅ……」ぱくぱく

薬屋主人「……! う、うぉおおお!」どんっ

女店主「ぁう!?」

 どさっ

薬屋主人「わ、悪く思うな! どの道あんたは病で逝っちまう運命! このままじゃあ俺が危ないんだ!」

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」

女店主「……! あ、あ……(あ、あんた……!)」

薬屋主人「お、お前らっ、腹を空かしてるんだろう、これ(女主人)で満足しろぉ!」ピシッ

 ヒヒ~ンッ ブルルッ

狼の群れ「ガウゥッ!!」 ばっ

薬屋主人「なっ……!」

 ヒヒ~ンッ ブルルッ

狼の群れ「ガウゥッ!!」

薬屋主人「ば、馬鹿どもっ! こっちじゃないだろう!」

狼の群れ「ガルゥッ!!」がぶっ

薬屋主人「ぐぅっ!? 何故俺を……っ、ちくしょう、はな、せ……!」

女店主「う、う……(く、薬屋……!)」

薬屋主人「離せえええええ! 俺よりあの女を――ぎゃっ!? ぎゃあああっ!!」

狼の群れ「ガウ、ガウゥッ!!」

薬屋主人「あ゛、あ゛あぁあ……」

狼の群れ「ガウゥッ♪」むしゃむしゃ

 がつがつ グシャ グチュ 

女店主「……! あ……あ……」がたがた

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」 じろっ

女店主「!?」

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」じゃりっ

女店主「う、ぁう……(つ、次は私番ってかい……)」

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」

女店主「あ……う……(う、嘘でしょ。嫌だよ……こんなのって……)」チョロ

 チョロロ… じわぁっ

狼の群れ「グルルルルルルゥ……ッ」

女店主「あ……や……(か、身体が……た、助けとくれよ、あんたぁ……)」ひっく

女店主(怖い……し、死にたくない、よぉ……誰か、助け、て……)」ぽろぽろ

狼の群れ「ガウゥッ!!」 ばっ
 


    「――――っ!」びくっ





  しーーーーん


女店主「……」

女店主「? (……え?)」

狼の群れ「グルッ、グルルルルルゥ……」

女店主「……?」


 「――お前ら獣にも、『領域』というものがあるだろう」じゃりっ


女店主「あ、ぁう……(……! こ、この人は……っ!?)」


 「何を血迷いこの都を侵す。この場に……『敵』がいないと勘違いでもしたか?」


狼の群れ「グルッ、グルルルルルゥ……キャウン、キャウン!」

女店主「ぅ、う……(この、鋭い眼光に顔の傷……そして、腰に2本差の剣……!)」


 「……餌場を間違えたぞぉ、狼ども。残念ながらここには天敵(俺)が居る――」


ラズライト「領域を荒らす輩には仕置きが要るなぁ!!!」にやぁっ

ここまでー

狼の群れ「ガウゥッ!! フウゥ、フーッ!!」 グルル

女店主「ぁ……う……」

ラズライト「道中、流行り病とは別にお前ら狼が市街を騒がしているとは聞いていた」

ラズライト「耳を疑うような話ではあったが、まさか事実であり、
そしてこれほどの数の群れで荒らし回っていたとは驚きだ」じゃりっ

狼の群れ「グルッ、グルルルルルゥ……」 じりっ

ラズライト「奥まで深入りした仲間は全員あの世に送っておいたぞ」ぎろっ

狼の群れ「ガウゥッ!! ガアゥッ!!」


 ――『剣を所持している者は相手にするな』


 群れの統率者からそう指示を受けていたにもかかわらず、
 彼らが直ちにこの場を離れないのには訳があった――

ラズライト「次はお前たちの番だなぁ」じゃりっ

狼の群れ「……!」じりっ

 『目の前の人間はこれまでと明らかに違う……!』

 彼らは正確にいえば逃げていたのではなく、狩りを楽しむため、獲物を引き込んでいたに過ぎない

 半ば遊戯――

 自分たちと比べ『格下』の警備兵を弄んでいたのである。だが、

ラズライト「どうした、“お前たちは”かかってこないのか?」
 
狼の群れ「ガウゥッ!! フウゥ、フーッ!!」 グルル

 現れたのは想定外の者。瞬時に理解する。
 余裕などありはしない、下手に背を向ければ即、死に繋がる
 
カラスたち「ギャアギャア!(ヤバイ雰囲気だぜ! ジルたちに知らせろ!)」

 彼らにとって不運だったのは、上空に待機する『真の統率者』が他の動向に注視しており、
 この場を自らの判断で切り抜けるしかなかったこと――

狼の群れ「グルッ、グルルルルルゥ……」 じりっ

ラズライト「……」じゃり

 さらには、先ほどから『本気で』逃走を試みようとしているにもかかわらず、
 眼前の敵が間合いを詰めてくるためそれが叶わないという絶望的な状況

狼の群れ「グルッ、グルルルルルゥ……」

 ジェイルの後方に位置どる者も、仲間を置いて逃げることなどは出来ない。そして――

 ばさぁ……っ!!

ラズライト「!」

カラスたち「ギャアギャア!(俺たちが抑える! 今の内に逃げろっ!)」

狼たち「――――!」

 好機――これを逃す彼らではない

狼の群れ「ガウゥッ!!」 ばっ

狼の群れ「ガルゥッ!!」ばっ

女店主「……!(ああっ、一斉に……!)」

 狼は、野生においても誇り高き種族

 『不運にも』、隙を見せた敵を目の当たりにし、自尊心と闘争心が燃え上がる――

カラスたち「ギャアギャア!(ば、バカ野郎……っ!)」

ラズライト「……ふん」

 ごきぃっ バキッ グシャッ 「ギャン!?」 「ギャウッ!?」

狼の群れ「ガウゥッ!!」 ばっ

狼の群れ「ガルゥッ!!」ばっ
 
 グシャッ! ぼきぃっ ごきっ 「ギャアゥ!?」 「ギャン!?」

女店主「……!(す、素手で、狼を……!?)」

狼の群れ「ガウゥッ!!」 ばっ

ラズライト「……」ひょい

 ボキィ……ッ!! 「ギャアアゥ!?」

カラスたち「ギャアギャア!(う、うわあああ!?)」

カラスたち「ギャアギャア!(信じらんねえっ、本当に人間かよこいつ――ぎゃあ!?)」

狼の群れ「……! っ、ギャイン、ギャイン!」だだっ

ラズライト「――逃がすか」

 ――ヒュッ! ザシュッ……! ズバッ!!

狼の群れ「ギャウ……! カ……ッ!?」

 どさっ どさどさっ

カラスたち「ギャアギャア!(……! ひいいいいっ)」ばさっばさっ

ラズライト「……」

狼の群れ「」 カラスたち「」

ラズライト「……うむ、こんなものか」チィィンッ

ラズライト「さて」くるっ

女店主「あ……あ……」ずるずる

ラズライト「無事で良かった」ざっ

薬屋主人「」

ラズライト「……もう1人は、残念だ。助けることができず、すまない」

女店主「ぅ……う……(これが、あの噂の警備隊第1隊長の……)」ずるずる

ラズライト「立てるか?」

女店主「あ……う……」ぱくぱく

ラズライト「(全身の筋肉が緩みきっている、この症状……)君もか……」

女店主「あ……う……(た、助けてくれて、ありがとう、ございます)」ぱくぱく

ちょっと休憩

ラズライト「会話もままならない、か」

ラズライト「なるほど耳にしたとおりだ。だが、これを流行り病とするにはちと……」

 ……ブ ウゥ…… ン

――ヒュッ!

女店主「……っ!」びくっ

ラズライト「……」

ラズライト「……驚かせてしまった」チィィンッ

ラズライト「どうも、やつらの他に鬱陶しいのが紛れ込んでいるようでな」ちらっ

カラスたち「」

ラズライト(今の襲撃、明らかに狼どもと呼応する動きを見せていたが、こいつらも……)

ラズライト「住んでいる家は近いのか?」

女店主「あ……う……」ぱくぱく

ラズライト「――と、すまん。話せなかったんだな……」

ラズライト「仕方がない……家に篭っていたほうがよほど安全だというのに、皆それに気付かん」がしっ

女店主(……へ?)

ラズライト「悪く思うな、この場に放っておくわけにはいかんのだ」ひょいっ

女店主「あ……///」

ラズライト「君の身柄は後ほど警備兵に預ける。その前に、少しだけ俺に付き合ってくれ」
      
ラズライト「どうしても、確認しておきたいことがある……」

 わー わーっ

ラズライト「……(噂では狼どもの侵入を許したのは北の城門だったと……そんなはずがない)」

ラズライト(あいつらが、そんな馬鹿な真似をするはずが……)

  わー わーっ

女店主「う……ぅ……///」ぱくぱく

ラズライト「……ん? あ、ああ……婦人にこの扱い(肩背負い)、非礼は詫びる許せ」あせあせ

ラズライト「だが、片手は空けておかねばならんのだ理解してくれ。でないと――」

ラズライト「君を守れない」

女店主「……!///」

>>722 訂正
ラズライト「君を守れない」
    ↓
ラズライト「君たち(市民)を守れない」

______________

 医療所

衛生兵1「……こちらも同じですな」

衛生隊長「……」

衛生兵2「隊長! 残りの者の身体もすべて調べました!」

衛兵兵2「やはり皆、同様の局所疾患が見られます」

衛生隊長「むぅ……これはもう、疑う余地はないな……よしっ!」

衛生隊長「至急、女王府に報告を。件の疫病、原因が判明したとお伝えしろ」

衛生兵1「はっ!」

衛生隊長「それと情報府にも。似た例が過去にこの大陸で必ずあったはずだ」

衛生隊長「彼らなら、何らかの形で記録を保持している可能性が高い。それが裏付けにもなる」

衛生兵2「ははっ!」



衛生隊長「……しかし、城も驚くだろうな」

衛生隊長「まさか、“これが”『流行り病』の正体だったとは……」

______________

 その頃 オズの家


エメラルド「いーーーやーーーーっ!」

男「嫌じゃない! なんでこっちで寝ようとするんだよ!」ぐいぐい

エメラルド「別に寝ようとしてないわよ!」ぎゅっ

男「ウソつけ! だったらなんで布団を持ってくる!(せっかく向こうの部屋に戻したのに!)」ぐいーっ

エメラルド「お、お話しするからっ、楽な姿勢で会話に興じたいの!」ぎゅーっ

男「……あぁ? 本当に?」ぱっ

エメラルド「隙あり」ぼふっ

男「あ、こら! お前!」

エメラルド「いっひっひ♪」もぞもぞ

男「こ、この……っ、いい加減にしろ!」

男「大体なぁ、お前のその! 外出た服のまま布団に潜り込む行為自体、俺は許せないんだ!」

エメラルド「……なんでよ」むすっ

男「なんでって……汚いだろ!? ホコリとか汚れとか、いっぱい付いてるんだから!」

エメラルド「し、失礼ねっ! 汚くないしっ!」もぞもぞ

男「汚いよ! ちょっと考えればわかるだろ!? 俺はこう見えても綺麗好きなんだよ!」

エメラルド「じゃあ裸で寝ます! 服を脱げばいいんでしょ!? 
      そんなに汚い服っていうなら、脱ぐわよ! 脱がせて頂きます!」

男「は、はだっ、か……?///  ……ばっ、だ、だったら尚更もとの部屋で寝ろよ!///」 

エメラルド「……」

 しーん

エメラルド「……」もぞもぞ

男「いいから布団から出ろ!」ぐいっ

エメラルド「いーーーやーーーーっ!」 ぎゅうう

男「こ、こら抵抗すんな――うわすごい力!?(割りと本気で引っ張ってんのに……!)」ぐぎぎっ

エメラルド「ふぐぐぐっ……!」ぎゅうううう

男「て、手ぇ離せ……布団破けるだろーがっ」ぐぎぎぎっ

エメラルド「お、オズが離せばいいじゃない……! こ、これ以上は私も本気で怒るわよ!?」ぎゅうううう

男「なんでお前が!?」ぎゅうううっ

エメラルド「オズがしつこいから!」

男「それはこっちの台詞だ! ……ったく、(いっそ布団ごと持ってってやろうかな)……ん?」

エメラルド「う゛ううううう」グルルル……ッ

男「(……よく見りゃ後ろがら空きじゃねーか)……なんか唸ってるし」

男「ふ、(頭隠して何とやらだな……ワル魔女め。覚悟しろ)」ぴらっ


 「!?」




ここまでー

しばらくおっさんのターン
一方主人公は (´・ω・`)

男「……!///」がばっ

エメラルド「う゛うううう」ぐるるっ

男「あ……いや、違うんだ。今のは、わざとじゃ……///」よろっ

男「そ、そうだ! なら俺が向こうで寝ればいい話じゃないか!?
  そうだよっ、お前はここで寝たけりゃ好きにすればいい!」

エメラルド「!」

男「て、ことで。お休み、トト///」がちゃ

エメラルド「や、やぁん! オズ待って!」がばっ

男「待たない」

エメラルド「や、ぁっ、行っちゃダメ! なんで意地悪するのよ!」たたっ

男「別に意地悪じゃない。お前がわがまま言うからだろ」

エメラルド「と、とにかくダメっ! あ、あっちには私の下着だって置いてあるんだから!」ぎゅっ

男「いいっ!?(ぎくっ) し、下着……///」かぁああ

男「み、見てない! 言っとくがさっきのは全然、俺は何も見てないからな!?///」ぶんぶん

エメラルド「?」

男「……ゴホン、というよりだな」

 がしっ

エメラルド「あ」

男「……やっと捕まえたぞ。そもそもお前があっちに戻れば丸く収まる話なんだ」ずるずる

エメラルド「ぎゃーーーーっ!?」

エメラルド「い、イヤっ、離して!」ばたばた

男「ほーら暴れるな。ちゃんと部屋があるんだから、大人しく1人で寝てなさい」ずるずる

エメラルド「いーーーやーーーーっ!」 ばたばた

男「今度から寝る前に余計な体力を使わせないでくれよ?」ずるずる


  「――イヤ。もう、1人は嫌……」


男「……え?」どきっ

エメラルド「嫌なの。夜に、1人ぼっちはもう嫌ぁ……」

男「と、トト……!?」

エメラルド「……ぐすっ」

男「……! きゅ、急にどうしたんだよ。ひ、1人じゃないだろ、なに言ってるんだ」

男「この家には俺がいる。一緒に俺が居るじゃないか!?」あせあせ

エメラルド「だって、部屋……暗いし、1人だと静かで……」

エメラルド「……ぐすっ、まるで誰も、いないみたい。オズも……」

男「う……」

エメラルド「……」しゅん

男(そういうことだったのか……)

男(同じ部屋で寝たいとか、いい年齢してなに考えてるんだろうなコイツ、って思っちゃったけど……)

――……1人で? 家族とか、仲間の魔女とかいねーの?――

――い、いない。ずっと1人よ――

男(……わかってたことじゃないか。トトは、ここ数日でたくさんの人と接する機会があった)

男(以前のように、1人怯えながら隠れて生活する……そんな昔に、誰だって戻りたくはない)

男「誰だって、思い出したくないよな……」ぽんっ

エメラルド「オズ……。……?」

男(……それにコイツ、よくよく考えれば人懐っこい性格してるもんなぁ)

――おじいちゃん、おじいちゃん♪ がばっ――

男(ああいうのもスキンシップ――そう考えればこれまでのトトの行動に特別深い意味はない)

男「はぁ……(なに1人で焦ってんだ。やっぱり……自意識過剰なのかなぁ、俺)」

エメラルド「……」じーっ

男「あー、もうはいはい! これ以上あーだこーだ言われると俺も疲れる!」

男「お前引きずんのも疲れたしな! 意外と重いしっ!」

エメラルド「!? なっ、お、おも――///」かぁああ

男「……こっちの部屋で寝るならそうしろ」

エメラルド「ほ、ホントっ!?」がばっ

男「ああ。つーか、言っても聞かないだろお前。諦めた」

エメラルド「お、オズ……っ!」

男「そ、その代わり、俺の睡眠の邪魔だけはすんなよ///」ぷいっ

エメラルド「も、もちろんっ」ぎゅっ

男「あ、あと、別に服は着たままでいいから。さっきのは忘れてくれ///」

エメラルド「ちゃ、ちゃんと毎日お洗濯しますっ!」ぎゅーっ

男(ついでに、そのすぐ抱きついてくる癖もなんとかしてくれ……!)

男「そ、そう。じゃあ……そろそろ寝よっかな///」

エメラルド「うひひ♪」

男「……」

男「(今、『うひひ♪』って……)先に言っとくが、今のでとっても疲れたから今日はお話はナシだ。また明日」

エメラルド「え、ええ~~っ!?」

男「約束したよな。俺の睡眠の邪魔はしない……もう眠いんだ、俺は寝るぞ」ごろん

エメラルド「そ、そんなぁ……楽しみにしてたのにぃ」がくっ

男「大人しくしてくれてたら起きてても構わないけど、早めに寝たらどうだ?」

エメラルド「……」

エメラルド「じゃ、じゃあお言葉に甘えて私も寝ることに――」いそいそ


 「お前はそっちの布団! いい加減にしろっ!///」ばふんっ

 「あぅ」


男「邪魔すんなって言った側からこれかよ、ったく……」

男(勘違いしちまうからそーいうの止めろっ!)

エメラルド「……ぐすっ」もぞもぞ

男「……また明日な、お休み」ごろん

エメラルド「……」もぞもぞ

男「……」

男「はぁ、(女の子と2人で生活……やっぱ、色々と溜まるなぁ……)」

______________

_________

______

短いですがここまでー

短いですがここまでー

訂正 >>738

男「はぁ、(女の子と2人で生活……やっぱ、色々と溜まるなぁ……)」

男「はぁ、(女の子と2人っきりで生活……やっぱ、色々と溜まるなぁ……)」がくっ

______________


 火事だっ!! 火の手があがったぞぉ!!

 わー きゃーっ


衛兵1「……こりゃあ、いよいよ本格的に危なくなってきたなぁ」

衛兵2「ああ、ここにきて城もかなり焦っている。さっき女王府から緊急招集がかけられたって」

衛兵2「中央の高官たちがぞくぞくと城に駆けつけてきているのはそれさ」

衛兵3「お偉いさんはお偉いさんで大変っすねぇ。こんな時間にまでお呼びがかかるなんて」

衛兵2「お、あれは……」

警備府長官「……」

衛兵1「警備府の長官だな」

衛兵3「かなり機嫌悪そうじゃないですか?」

衛兵2「そりゃそうだろ~。今現場で対応に当たってるのは警備府の連中。それがあの様だからなぁ」

衛兵1「少し前に軍の大臣も到着してたな。また荒れるぞ……」

 ヒヒ~ン ブルルッ

衛兵3「お、次は誰っすかね」わくわく

 すっ

情報府長官「……」


衛兵1「げっ!?(じょ、情報府の……!)」

衛兵2(『クラウス卿』――!)

衛兵3「? ……誰です?」

衛兵2「バカっ、目を合わせるな! 頭を下げろっ!」ぐいっ

衛兵3「?」

衛兵2「お前、情報府の長官の顔を知らないのか?」ひそひそ

衛兵3「情報府……」

衛兵3「え!? ってことは、あの方が『クラウス卿』……!?」

衛兵1「ああ、あの方が情報府を束ねる、陛下を除けば宰相に次ぐ宮中の実力者だ」

衛兵2「陛下の信も厚い。なんせこの国を隆盛に導いたのは情報府の力に拠るところが大きいからな」

衛兵2「軍の大臣、警備府の長官……同期2人とよく比べられているが、頭1つ飛びぬけている」

情報府長官「……」

衛兵3「は、初めて顔を見ました……」

衛兵1「滅多に城には来られないお人だからな。……やはりあの方にも召集が」

衛兵2「でもどうしてだ? 情報府にお声がかかるのは珍しい類の事件だが」

衛兵1「……確かに、現場に赴き騒ぎをどうこうする機関ではないな」

衛兵1「どちらかといえば、今回は軍の出動の是非が鍵となるはず……」


情報府長官「…………」


______________

 アメジスト・女王府内 閣僚会議室


軍統括大臣「――随分と、」

軍統括大臣「醜態に醜態を重ねてくれているそうじゃあないか」

警備府長官「……なにぃ?」ぎろっ

軍統括大臣「恐慌状態の民を鎮めるどころか、門を解き放ち、
        野犬の類を都に引き入れるとは……ふふん、これを醜態と言わずして何という」

警備府長官「ぐ……」

女王府高官「おまけに感染発生の報告からかなりの時間が経過しているにも関わらず、
        一向に事態が収まる気配もなし。どころか、一部で火の手まであがったそうですが?」

軍統括大臣「お前たち……まさか遊んでいるんじゃないだろうな?」

警備府長官「ぐ、ぐぐ……っ」ぎりっ

宰相「……」

軍統括大臣「宰相、もはやこの無能どもに任せておくわけにはいきませんぞ」

軍統括大臣「ここはやはり、我々軍の出動が――」

警備府長官「必要ないっ!」バンッ

警備府長官「宰相、いくばくか手間取っているのは事実ですが、
        現在我が警備府総動員で事態解決にあたっております」

警備府長官「すでに感染者の搬送はほぼすべて完了しており、あとは狼の群れを一掃するだけ」

警備府長官「もう少しだけお時間を頂ければ、必ずや我々の手で……っ」

宰相「……」

女王府高官「その時間がねぇ、ないと言っているのですよ」

軍統括大臣「狼の群れを一掃するのにどれくらいかける気だ?」

軍統括大臣「まさか、やつらが市民を喰らい尽くし、腹を大きく膨らませたまま都を去るまで――」

軍統括大臣「と抜かすのではないよなぁ?」

 ドッ!!  わっはっはっは!!

警備府長官「横からしゃしゃり出てくるなぁ……っ、貴様の魂胆は見え見えだぞ……っ!」ぎりぎりっ

軍統括大臣「ふん。何の話だ」

宰相「……」

女王府高官「女王府としても、これ以上騒ぎが悪化するようであれば
        陛下の管理能力が疑われかねません」

女王府高官「それだけは絶対に避けねば」

女王府高官「早めに戒厳を発令し、国防府主導で街の鎮静に当たらせた方がよろしいのでは?」

警備府長官「待て、黙れお前ら」

軍統括大臣「黙るのはお前だ」

宰相「いい加減にせんかっ!」

女王府高官「!」 警備府長官「!?」 軍統括大臣「……!」

短いですがここまで

宰相「……黙って聞いておれば、相も変わらず……」

宰相「ここはお主ら2人が喧嘩をするために用意された部屋ではないぞ」じろっ

軍統括大臣「は、」

警備府長官「ははっ」

宰相「お前たちもじゃ。この場におる意味……中枢の調整役として、その任をしっかり果たさぬか」

女王府高官「う……」

宰相「……はぁ、頭が痛い。まったく……頭が痛いわい」ふるふる

女王府高官「も、申し訳ございません」

宰相「……いや、そうではない。ワシ自身の手落ちについてじゃ」

軍統括大臣「?」

宰相「これを見い。……状況が一変したぞい」ぴらっ

警備府長官「? これは……」

宰相「今しがたもたらされた報告じゃ。医療所から、例の病とされる症状の原因が特定できたとな」

軍統括大臣「ほう!」

 ざわ ざわ

女王府高官「『搬送された感染者の身体を入念に調べた所、
        皆、共通してある部分に強い腫れを確認』……」

警備府長官「……腫れ、ですか?」

宰相「うむ。お主も一度くらいは経験があるじゃろう」

宰相「ほれ、例えば虫などに刺された際に出来るアレじゃ。
   放っておけば皮膚が赤くなり、時に痒みを、時には痛みを伴う腫れ」

警備府長官「虫……」

軍統括大臣「で、では流行病というのは……」

宰相「あくまでも局所症状として確認したとの慎重な報告ではあるが、
   最終的に強い因果関係があると括られておる」

宰相「そうであるとすれば今、都を騒がせ猛威を振るっておるのは目に見えぬ病などではなく」

宰相「何らかの毒性……それも人1人を行動不能に陥らせる程の強い毒を持つ生物、
   ということになるのう。そこに書いてある通り、虫である可能性が高い」

女王府高官「まさか」

宰相「完全に初手を読み誤った。『疫病である』……そう判断を下した儂の責任は極めて大きい」

警備府長官「い、いやそれは……」

軍統括大臣「信じられません。その様な生物がいたとして、誰も気付かぬとは一体……虫……?」


 「――蜂ですよ」


警備府長官「!」

情報府長官「と言っても、普通の蜂ではないんですがね」

 ざわっ

軍統括大臣「クラウス……お前も呼ばれていたのか……」

アメジスト「ええ、少し別室で協議を。遅れて申し訳ありません」

女王府高官「陛下!」がたっ

警備府長官「……!」がたっ 軍統括大臣「……!」がたっ

宰相「お待ちしておりましたぞ、陛下。……お身体の方は」

アメジスト「ご心配なく。何より、今は休んでいる場合ではありません」

宰相「うむ、そうじゃな……」

情報府長官「……」

宰相「……ゴホン、では陛下もおいでになられたところで、正式に会議を始めるとするかの」

宰相「まずはクラウス、蜂と言ったか?」

情報府長官「はい。それも非常に厄介な蜂です」

情報府長官「大陸北東部、バロア湿原――その中でも『死の沼地』と
        呼ばれる域にのみ生息する稀少な蜂……」

情報府長官「通常の固体と比べ身体は小さく、羽を含め全てが黒に
        覆われているため闇に溶け込みます」

情報府長官「羽音も高音域であるがゆえ常人には聞き取り難く、また、この蜂最大の特徴として
       挙げられるのは、『刺された際の痛みがまったくと言っていいほどない』」

情報府長官「その癖、毒性に関しては皆様ご存知の通り、
        強さ・効果ともに危険であると言わざるを得ません。幸い――」

情報府長官「一斉に襲われさえしなければ死に至ることはないそうですが……」

 ざわ ざわ

女王府高官「何故、その蜂であると……?」

軍統括大臣「『死の沼地』は俺も知っている。あそこなら多少の異形が潜んでおっても不思議ではない」

軍統括大臣「だがその蜂が、どうしてこの都に現れる」

宰相「バロア湿原……確かあそこは」

アメジスト「ええ、かつて大魔女エメラルドが大陸中の“害”とされる種をまとめて押し込めた、
      いわば危険生物の管理地。長い年月を経て、独自の生態系が築かれていると聞きます」

情報府長官「先ほどの質問、『何故この蜂が都に現れたのか』……これがまさに問題でね」

情報府長官「もう少し、違った見方をしてみてはいかがかな。すなわち、」

情報府長官「どこのお馬鹿さんが、この様な危険極まりない生物を引き連れ我が国を訪れたのか」

女王府高官「!?」

警備府長官「何っ!?」
 
 ざわっ

情報府長官「蜂だけではないよ。狼だってそうさ、都周辺には彼らの縄張りの存在は確認されていない」

情報府長官「それは君たち警備府がよーく知っているはず。
        だってそうだよね? 常日頃より害獣の駆除も行ってくれているんだから」

警備府長官「う、うむ……」

情報府長官「そもそもが出来すぎた話じゃあないか。
        病だ何だと騒いでるところに、獣が大量になだれ込んで来るなんてそんな偶然」

 ざわ ざわ ひそひそ

アメジスト「……もう1つ。残念なお知らせが」

アメジスト「例の、狼の群れ侵入のきっかけとなった……開門に応じたとされる北の城門について」

警備府長官「や、やつらが何か?」ぎくっ

アメジスト「……」

情報府長官「殺害されてたよ。上と下の担当全員……可哀想に、皆殺しだって」



ラズライト「…………」

女店主「……!(こ、これって、あんたの隊の……)」ぱくぱく

 からーん

ラズライト「お前たち……」



警備府長官「……!」

アメジスト「遺体の一部からは、明らかに人の手による刺し傷も確認されたそうです」

 ざわっ

女王府長官「ま、まさか、本当に……!?」

アメジスト「時間がありません。これより先の議論の前に、アメジスト国最高責任者として
      女王府より、この場にて最終判断を下します」

アメジスト「此度の騒動、疫病及び偶発的な獣の侵入による天災などではなく――」

アメジスト「明確な悪意を持った何者かによる人災……我が国に仇なす、都襲撃事件と認定いたします」

 ざわっ

軍統括大臣「馬鹿なっ、一体誰が……っ! いや、それよりもお前らぁああ!!」がたっ

警備府長官「!」

軍統括大臣「みすみす賊の侵入を許したということかっ!?  この間抜けっ!!」

軍統括大臣「今がどんな時期かわかっているのか!!」

警備府長官「あ、いや……」

宰相「待て落ち着け。それよりもまず賊の正体じゃろう」

女王府高官「獣を引き連れてきた……そんなことが可能なのですか?」

情報府長官「可能ですよ。陛下も仰っていたではありませんか」

情報府長官「害獣を多数誘導し、湿原を人も近寄らぬ危険区域に変えたのは魔女エメラルド」

情報府長官「つまり魔法石の力を使えば……誰でも獣を自在に動かすことが出来る」

宰相「魔法石、か……となると」ちら

アメジスト「……」

情報府長官「誰でも、と申し上げましたが、やはり魔女である可能性は高いかと」

情報府長官「実は賊の正体もおおよその見当は付いております」

宰相「何っ!?」

女王府高官「じょ、情報府はそこまで掴んでいるのか……!?」 

情報府長官「もっとも、垂らされた糸を手繰り寄せた結果……推測の域は出ないけどね」

情報府長官「『流行り病』を蜂の仕業であるとしたのにも、そこに訳があります。こちらの資料を」

宰相「……これは? 随分とまた懐かしい」ぺらっ

情報府長官「はい。3年前にガーネットで起きた『エステイン伯爵夫人事件』、
        その内容を詳細に記録した文章です」

女王府高官「ありましたなそんな事件……」

情報府長官「事件の概要については、多少皆さまもご存知かと思います」

軍統括大臣「覚えてるとも。当時、ガーネット中央の高官であったエステイン伯爵」

軍統括大臣「その夫人、『ジーナ・エステイン』は国中でも評判の美貌を備え、またその器量を活かし、
        夫である伯爵の為に時の中枢の情勢に影響を及ぼすほどの裏工作を多数行っていた」

軍統括大臣「だがある時、ひょんなことから彼女の素性が明るみになる」

軍統括大臣「魔女『ジーナ』――」

軍統括大臣「あろうことか、クイーンですら交流のあった伯爵夫人が魔女であると発覚、
        大陸を揺るがす一大醜聞事件としてその名を轟かせたからな。忘れるはずがない」

女王府高官「さらにジーナといえば魔女の一族においても名うての練成者」

女王府高官「大陸法制定後、全土で最重要手配されていた大物中の大物です。
        不敵にも本名を名乗っていたことにも驚かされましたな」

ここまでっ

軍統括大臣「素性が発覚した後、やつはすぐに捕らえられ本国で処刑されたはずだが」

宰相「うむ」

女王府高官「……それが、今回のことと何か関係が?」

情報府長官「ある、と考えるのが自然だねえ。
       もっとも、表立った情報だけを鵜呑みにするとそこに気付かない」

女王府高官「?」

情報府長官「この事件には公にされていない、数多くの秘された事実が存在するということです」

軍統括大臣「どういうことだ?」

情報府長官「まずはジーナの正体について。
        彼女には魔女であるという他にもう1つ、別の裏の顔がありました」

情報府長官「先に話にも出てきたバロア湿原。あそこは当時、エステイン伯爵が保有する土地……
        つまり伯爵領内に含まれていた地域でしてね」

情報府長官「偶然なのか、或いはそれを狙い伯爵に近づいたのか……ジーナはその危険区域、
        特に『死の沼地』の監視を魔女エメラルドより託された――」

情報府長官「いわば、沼地の管理人としての役目を負っていたのです」

宰相「ふ、ふむ。それで?」

情報府長官「……君もさっき言ってたよね、ジーナは『すぐに』捕らえられ処刑されたと」

軍統括大臣「そう発表されていたはずだ」

情報府長官「大嘘だよ、それは。実情は……もう少し異なる」

情報府長官「ジーナはすぐに捕縛されいません。素性が露見するや否や、
        彼女はすぐさま領内に逃げ込み、その後奥深く、『死の沼地』に立て篭もる……」

情報府長官「そこで魔女討伐の命を受けたトパーズの正規軍と、
        数回にわたる大規模な戦闘を繰り広げているのです」

軍統括大臣「何っ!?」

女王府高官「そ、そんな話は聞いてないぞ!」

  ざわっ がや がや

情報府長官「だから秘された事実と申し上げたでしょう。
        トパーズにとっても、決して公にはしたくない汚点だからねえ」

情報府長官「たった1人の魔女を相手に、差し向けた追討軍が悉く壊滅、
        2度目の戦闘に至っては全滅の憂き目にあっているのですから」

宰相「何と……!」

>>767
訂正 トパーズではなくガーネット

情報府長官「戦闘についての詳細はそこに記しています」

情報府長官「衝突は大きく分けて4度。その時にジーナと共に討伐軍を迎え討ったのが、
        沼地周辺に生息する危険生物たち……」

女王府高官「……『狂狼』、『化けカラス』、『幼生のドラゴン』……。こ、これはまさか……!?」

情報府長官「まるで自分の手足のごとく自在に獣を操るジーナの戦術に、
        部隊は沼地に引き込まれ苦戦を強いられました」

情報府長官「中でも特に手を焼いたのが……例の『毒蜂』であったと、記録されています」

軍統括大臣「!?」

情報府長官「この度の都における騒動、医療所から感染者とされる者の
        様相を耳にしてすぐにこの事件を思い出しましたよ」

情報府長官「戦闘中、原因不明の麻痺状態に陥ったガーネットの部隊。
        彼らもまた、今回の感染者と全く同じ症状を呈していたのでね」

宰相「な、なるほどのう。それで……」

軍統括大臣「で、ではまさか、ジーナがまだ生きているということか? やつが都に――」

情報府長官「それはない。彼女は間違いなく処刑された」

女王府高官「じゃあ一体誰が……」

情報府長官「ここから本題です」

情報府長官「ガーネット王室が何故、こうまで事件の内容を覆い隠そうとするのかその理由」

情報府長官「実は、部隊壊滅という事実の他にも、彼らが致命的な失態を演じていたからです」

宰相「まだあるのか」

情報府長官「……まず、魔女を捕らえたにも関わらず、魔法石を回収することが出来なかった」

 ざわっ

情報府長官「沼地の戦闘において、ジーナは明らかに石の力を用い獣たちを操っており、
        少なくともガーネット産――<<操作>>の魔法石を所持していたと考えられています」

情報府長官「それも自我のある一部の生物、その精神を完全に掌握し<<操る>>高等魔法、『使役』――」

情報府長官「……困ったことに、やっとの思いで捕らえた魔女ジーナからは、彼女が使用していた
        と思われる魔法石が1つも出てこず、挙句、驚愕の事実も判明します」

情報府長官「それこそが今、我が国に降りかかっている災厄の発端ではないのか――」ぱさっ

情報府長官「なんとガーネット王室は、『使役』の魔法石とともに、
        ジーナの娘たちまで取り逃がしていたのですよ」

軍統括大臣「何ぃっ!?」がたっ

宰相「む、娘……!? 娘がおったのか!?」

女王府高官「え、エステイン伯爵との間に……子が? それも初耳だぞ」

情報府長官「伯爵との娘じゃあない」

情報府長官「彼女は伯爵に見初められる以前に、別の男との間に3人の娘をもうけている。
        その男の素性は定かではないが……伯爵もそれを承知で夫人に迎え入れたそうだよ」

情報府長官「よっぽど器量が良かったんだろうねえ……ま、それは置いといて」

情報府長官「問題はこの娘たち。魔女の子は魔女です。これを捕まえることが出来なかった……」

情報府長官「恐らく、ジーナが間際に魔法石を預け逃したのでしょう」

情報府長官「仮に生き延びているとすればどうだろう」

情報府長官「娘たちによる母親の復讐……十分に考えられるんじゃないかな」

 ざわ ざわ 「確かに」 「手口は同じだが」 「何故ウチを」 ヒソヒソ

アメジスト「……下の2人は3年経った今でもまだ幼く、この様な大胆な行動にうって出るとは思えません」

宰相「陛下……」

情報府長官「はい。脅威足りうるのはこの上の娘――」トントン

軍統括大臣「こいつか」

アメジスト「年齢は私と変わらないそうです。壮気に満ち溢れ、単身乗り込んできても不思議では……」


情報府長官「長女の名は『ジルバ・エステイン』」


情報府長官「――と、失礼。もう『エステイン』ではありませんでした。……魔女ジルバ」

情報府長官「彼女こそ、今回の都襲撃の張本人であると、我々情報府は判断しております」

短いですがここまで

 ざわ ざわ

軍統括大臣「……何故ウチだ。母親の仇ならガーネットだろう、どうしてこの国を襲う」

情報府長官「さあねえ、そこまでは。……本人に聞いてみなきゃ」

情報府長官「ただ、今あの国を襲うにしても、“どっち”を的にすればいいんだろう」

情報府長官「それにあそこはもう風前の灯火じゃない。襲う価値あるのかな」

アメジスト「あるいは母親の復讐と同時に、一族全体の復讐も兼ねているのかもしれません」

アメジスト「私は、かつて森での虐殺を指揮した経験があります。
      彼女たちにとっては決して許すことの出来ない仇……」

宰相「む、むぅ……だとしてものう、時期も不自然じゃと思わんか?」

宰相「どうせ一族の報復を行うのであれば、会議の日を狙えばよい。
   あと2、3日待てば大国のクイーンがここに集結する。絶好の機会が訪れるではないか」

女王府高官「その通りです。それを危惧した上で、都の警備増強を図っていたわけですからな」ちら

警備府長官「……」

情報府長官「時期については恐らくこの辺りに理由があるんじゃないかなぁ。
        魔女ジーナが処刑された日付をご覧下さい」

宰相「……?」ぺらっ

女王府高官「!? こ、これは……この日付、3年前の明日……!?」

軍統括大臣「いや違う! 陽はすでに落ちている、今日だ! 今日がやつの処刑日……!」

女王府高官「……! は、母親の命日、か……」

 しーーーーーーん

宰相「……決まりじゃのう」

軍統括大臣「お待ちください。となると、どういうことです?」

軍統括大臣「魔女を逃したうえに自国の魔法石も未回収……要はガーネットの失態のつけが
        すべてウチに回ってきたということになるではありませんか。冗談ではない」

女王府高官「しかもそれを隠蔽していたなどと……陛下、これは大問題ですぞ」

女王府高官「事が済み次第、彼の国に厳重な抗議の意を示さなければ」

軍統括大臣「ふざけおって、弱小国がっ」バンッ

女王府高官「いやある意味好機かもしれません。
        これを契機に、我が国もガーネットの騒乱に介入するのです」

軍統括大臣「ほう、それはいい。確かにあの2大国にだけ美味しい思いをさせることはないな」

 がや がや

情報府長官「……」

宰相「問題といえば4ヶ国会議もそうですなぁ、陛下。こっちの方がはるかに重要じゃぞ」

宰相「会議を目前に魔女の襲撃を受けたとあっては……面子がどうこう以前に、端から見れば
   身の安全の保証が約束されていない危険な地に、各国のクイーンを迎え入れることになる」

宰相「議題国としてはちと具合が悪いのう」

宰相「それを理由に難癖を付け会議参加を拒否することくらい、北と西ならやりかねんぞ」

宰相「そうなれば会議自体がご破算になる可能性も出てくる」

情報府長官「…………」

アメジスト「問題ありません、彼女たちは必ず会議に参加します」

アメジスト「……そう、一癖も二癖もある彼女たちだからこそ、ここに来るのです。何があっても……。
      ご心配なく、私に考えがあります」

宰相「ふ、ふむ(……?)」

アメジスト「皆さま、今この場で早急に案じなければならない問題は市民のことです」

アメジスト「クラウス卿。獣たちを抑え、街の人々を救う手立ては?」

情報府長官「狼はともかく、この広い都で闇の中、無像に拡がる毒蜂を止めることは不可能です」

情報府長官「やはり術者を何とかするしかありませんね」

アメジスト「わかりました。……ではこれより、アメジスト国女王オリガ・フェブリウスの名において、
      都全域を対象とし、非常事態宣言を発令いたします」

警備府長官「!? か、戒厳……そんなっ、」

軍統括大臣「ふん、当然だ」にや

アメジスト「現時点を持ちまして、都における治安維持、
      その権限及び責任義務は全て国防府に委譲」

アメジスト「警備府は国防府指揮の下、両者協力して市民の救出活動に全力を注いでください」

警備府長官「……」がくっ

アメジスト「と同時に、賊と思われる何者かが都内に侵入しています」

アメジスト「魔女ジルバ――」

アメジスト「慎重を期すれば、魔女であるか否か、単独であるのか複数による凶行である
      のかはまだ断言できません。しかし、」

アメジスト「獣を繰り、国の至宝である民の生命を脅かす者が間違いなく潜んでいます」

アメジスト「この者を速やかに見つけ出し、必ずや生ある状態で捕縛するよう」

アメジスト「長きに渡り平穏を保ってきたこの都の――」


           「我が国の威厳と秩序を取り戻すのです!」
           「「ははっ!!」」


短いですがここまで

ガーネットの<<操作>>については魔法石の薀蓄を語るのが趣味のチビ魔女がその内語る予定

______________

_________

______


警備府長官「…………」

――わかっていると思うが、お前たちの出番はもうない。大人しく部屋に篭ってろ――

情報府長官「……っ」ぎりっ

――可哀想になぁ、お前も。貴族の出でありながら田舎者だも(警備隊)の管理を押し付けられ――

――くくっ、それがこの結果とは、同情するよ。……もう先が見えたなぁ? ふはっ、ふはははっ――

警備府長官「く、く……くぅ……っ」ぎりっ

警備府長官(何故だっ、何故ワシがこんな目に……ワシが、こんな屈辱をぉ……っ)

 バンッ!!

警備府長官「使えん! 使えん無能っ! ワシに恥をかかせおって!!」

――実は夜に備え、高台の見張りをもう少し厚くしたいと考えております――

警備府長官「なーにが警備の増強だっ、北の警備はジェイルぅ……っ、お前だろぉ~~~っ」

警備府長官(あの口だけの脳足りんがぁ~~~~~っ!!)ぎりぎりっ

警備府長官「! いや待てよ、ジェイル……?」

警備府長官「……そうだ、あいつは元々国防府出身……」

――は、ですので、使用する油をもう少し備蓄庫から引っ張る必要が――

――あ、頭を下げる役目は自分が!――

警備府長官「……」

――宰相、もはやこの無能どもに任せておくわけにはいきませんぞ――

警備府長官「……! まさか、やはりあの噂は……」


 「――あれ、まだ居たのここに」


警備府長官「!」

情報府長官「……いいのかい? こんな所で油売ってて」にこ

警備府長官「クラウス……」

情報府長官「警備府は国防府と、両者協力するよう言われてたじゃない。
        現場の部下たちが君の指示を待ってると思うけどなぁ」

警備府長官「何の用だ……貴様も、ワシを笑いに来たのか?」ぎろっ

情報府長官「笑う? はて、何か可笑しなことでもあったかな?」

情報府長官「それより君をねえ、探してたんだよ。少し、伝えておきたいことがあって」

警備府長官「貴様と話すことなど何もない。失せろ」

情報府長官「そう邪険にしなくても……せっかく君にとって有益な情報を持ってきたのに」

警備府長官「……情報?」

情報府長官「そ、とっても良い情報」

警備府長官「……要らん。とっとと失せろ」

情報府長官「そう? 賊が今どこに居るのか知りたくない?」

警備府長官「!? ……何っ!?」がばっ

情報府長官「あ、やっぱり知りたいんだ。教えてあげようか?」

警備府長官「……! な、なぜ貴様がそれを……それよりなぜ会議で……」

情報府長官「会議であえて黙っていたのはそうだねえ、あれ以上うちの推論のみで、
        各機関の動きを狭めることを避けたかった」

情報府長官「何より、君たち警備府に賊捕縛の大功を挙げて欲しかった……それだけの理由だよ」

警備府長官「……む」

情報府長官「今回の失態の責任を逃れることは難しい。だったら、自分たちの尻拭いは自分たちで。
        国防府を出し抜き、いち早く賊を捕らえ少しでも汚名を挽回しなきゃ」

情報府長官「そうすれば陛下の覚えも悪くはならない」

情報府長官「戒厳といっても、手柄まで譲ることはないからねえ」にこ

警備府長官「う、む……むぅ……」

情報府長官「あーあ、まだ強情はって……いいさ、どうせこれも推論。ここからは俺の独り言ってことで」

情報府長官「賊の正体がまさしく魔女ジルバであったとしよう。
        娘は母親の手口をそっくり真似、獣を動かし街を蹂躙している」

情報府長官「この広い街、入り組んだ街路をあますことなく把握し、狼と毒蜂を存分に繰るには
        どこから指揮を執ればいいんだろう」

情報府長官「市民の騒ぎに乗じ、地上のどこかに隠れて魔法石を輝かせているのかなぁ」

警備府長官「!」

情報府長官「母親のジーナはガーネットの部隊とやりあった時、
        戦場をはるか遠くまで見渡せる、空の上から危険生物たちに指示を与えていたそうだよ」

情報府長官「簡単には手を出すことが出来ないはるか上空……大きな大きな化カラスの背に乗ってね」

警備府長官「! ……っ!」ガタッ

 だだっ  バンッ!!

カラスたち「ギャア! ギャア!」

警備府長官「……」きょろきょろ

カラスたち「ギャアギャア!」

警備府長官「……」じいっ


――キラッ 


警備府長官「!? (光……っ、あそこかっ!)」

情報府長官「何か見えたかな? どうも書物ばかり読んでいるせいか、俺は視力が悪くてねえ」じいっ

カラスたち「ギャアギャア!」

情報府長官「んー、カラスたちが邪魔だな……」

警備府長官「……これをワシに教えて、いったい何を企んでいる」

情報府長官「企むだなんてとんでもない。さっきも言ったように、俺は君に華を持たせてあげたいの」

情報府長官「ついでに良い機会だからもう1つ言っておこう」

情報府長官「日頃から、君たち2人はなぜか俺を目の敵にしているみたいけど、
        俺は君たちのことを嫌いに思ったりしたことなんて一度もない」

情報府長官「それどころかむしろ、どうやって3人が協力してこの国を、陛下を守り立てていくのか」

情報府長官「常にそのことで頭が一杯でね」

情報府長官「……だってそうでしょ? 俺と君たち2人は旧魔法府出身の同期、
        ともに国の行く末を案じた仲間じゃあないか。職務に関する衝突ならともかく、」

情報府長官「下らない権力争いでいがみあってる場合じゃないと思うけどなぁ」

警備府長官「……」

情報府長官「あーあ、それにしても……ついに魔女だってさ。見てよ」

 ギャアギャア! ギャアギャア!

情報府長官「これで民の、魔女にもつ評価もがらりと変わってくる。
        とうとう人間に危害を加えちゃったんだから……しかもウチを標的にするなんて」

情報府長官「今回のことで、陛下も彼女たちに対する認識を
        少し改めていただければ助かるんだけどねえ……」

 ギャアギャア! ギャアギャア!

警備府長官「……ワシは本塔(警備府本部)に戻る」くるっ

情報府長官「そう。頑張って」

警備府長官「……」

警備府長官「クラウス」

情報府長官「? 何だい?」

警備府長官「礼は言わんぞ」

情報府長官「ふっ、君らしくていいじゃない」

警備府長官「……ふん」

 パタン

情報府長官「……」


 ギャアギャア! 

     ――キラッ 
            
           ギャアギャア!



情報府長官「………………」

訂正>>794 7行目
情報府長官「ふっ、君らしくていいじゃない」
     ↓
情報府長官「ふっ、当然だよまだ早い。お礼は見事、警備府が賊を捕獲したあとで聞く」にこ

______________

 ばたばたっ 「戒厳だっ!」 「女王府より非常事態宣言が出された!」 がやがや


  ずらーーーーーーーーーーーーっ


軍統括大臣「ふははははっ! 壮観なり我が力、我が優秀なる国防府・軍の諸君っ!」

軍統括大臣「諸君が聞いたとおり、今より都の総指揮はウチが執ることと相成った!!」

アメジスト軍「うおーーーーーーーーーーーっ!!」

軍統括大臣「おーおー、はっはっ、なんとも頼もしき活気。その意気だっ、
        普段持て余しておる諸君の闘志を解き放ち、獣たちを討ち滅ぼせ!!」

アメジスト軍「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

軍統括大臣「……♪」にこにこ

 ひそひそ 「大臣も気合が入っておられる」 「兵の前に姿を現すなんて相当だぞ」 
    
 「見ろ、あの防具。矢の1つも通さない完全防御……どこで手に入れたんだあんな重装備」 ひそひそ


アメジスト軍「大臣自ら戦線に立たれるとは、我々も身の引き締まる思いでありますっ!」

軍統括大臣「いや俺は出ん、ここで指揮を執る」

アメジスト軍(……え?)

軍統括大臣「良いかっ、侵入しておる賊の正体は魔女、1人とは限らん。だが臆することはないっ」

軍統括大臣「魔法石を持っていようが所詮は女。見つけ出しさえすれば問題はない。無力だ」

軍統括大臣「街に身を潜め隠れておるのが何よりの証拠」

軍統括大臣「何としてでも獣を操るこの魔女を捕らえ、陛下のご期待に沿う結果を出すのだ!!」

アメジスト軍「ははーーーーっ!!」

軍統括大臣「それと! 警備府の愚図どもに街で出くわした場合は撤退させろ!」

軍統括大臣「戒厳中はやつらとて国防府の規律に従ってもらう!」

軍統括大臣「もし撤退命令に背くなど、我々軍の邪魔するようであれば遠慮はいらん、」


    「斬り捨てろっ!!」




ここまで

______________

 ゴォオオオオオオ パチ、パチ…ッ

 「火を消せ! 延焼してるぞ!」 「回せる数だけ消火活動に!」 「ダメだ、こっちは狼だっ!」 

 わーー きゃーーーっ


黒羽の魔女「……」


ジーナ『……! そ、そんな……』ぱさっ

(黒羽の魔女改め)ジルバ『……お母様? どうしたの?』

ジーナ『い、今……一族の本拠が大国の手により奇襲を受け、同胞が皆、
    無抵抗のままその凶刃に倒れていったとの、報せが』

ジルバ『!? お、大婆さまの森が……!?』

ジーナ『森は炎に包まれ生存者は皆無、一族全滅の勝ち鬨を高らかに宣言したと、こ、ここに……』

ジルバ「う、ウソよ、そんな……っ!』ばっ

ジルバ『…………』じっ

ジルバ『……! ど、どうして大国が……いえ、これは何かの間違いよ! そうに決まってるわ!』

ジーナ『……大国の不穏な気配は、大御所さま(先代エメラルド)ご存命中から察していました』

ジーナ『いずれ一族に災いをもたらす……まさか、ここまで早い動きを見せてくるとは私も……』がくっ

ジルバ『……っ、し、信じないわよ! 例えあいつらが攻めてきたって、そう簡単に森が落ちるわけない!』

ジルバ『だってそうでしょ!? あそこは大婆さまが築きあげた一大拠点』

ジルバ『サファイアやトパーズにだって劣らない戦力(魔法石)を保持した一族最強の砦じゃないの!』

ジーナ『……魔法石とて、それを有効に扱える者がいなければ意味をなさない……』ふるふる

ジーナ『有効に……他人に危害を加える効力を平然と行使できる精神……』

ジーナ『“ウルスラ”と“ヴァーチェ”が不在であったのが不運と言わざるを得ません』

ジルバ『あ、あの2人は……』

ジーナ『大御所さまの命を受け長らく森を留守に……どちらか1人でも、
     いえ、せめて私がここを任されていなければこんなことには……』

ジルバ『……そ、そんな、森の皆が……』じわっ

ジーナ『同胞のことは残念でなりません。が、何より……エメラルド様の安否が……』かたかた

ジルバ『! お嬢様……! そ、そうよ! お嬢様はご無事なの……!?』

ジーナ『こ、これによると森の一族は全滅……1人残らず、命を絶たれたと……』がたがた

ジルバ『……!』

ジーナ『おお、おお……っ! そんな、まさかエメラルド様まで……っ!』がばっ

ジルバ『お母様っ!』

ジーナ『な、何たる面目もなき次第……姫のお世話を仰せつかった私たちが、
    どうしてこの様な火急の事態に何も……』

ジーナ『一族数百年の悲願が、希望がこれで……これでは、大御所さまに会わせる顔もない……っ!』

ジルバ『お母様っ、しっかりして! まだわからないじゃない!』

大カラス『クァアア!(ジルの言うとおりだぜ、ジーナぁ!)』ばさっばさっ

ジルバ『……ライル!』

大カラス『クァアア!(エメラルドの小娘のことなら心配は要らねえ! よく読め!)』

大カラス『クァアア!(そこに“あの”魔法石のことは書かれてるのかぁ!?)』

ジーナ『!?』

ジルバ『? 魔法石……?』

大カラス『クァアア!(殺された魔女は身ぐるみ剥がれて魔法石を回収されてるに違いねえ)』

大カラス『クァアア!(だったら、小娘の持つ魔法石のことが公にならないはずがない、そうだろ!?)』

大カラス『クァアア!(もし小娘がやつらの手に掛かっていたのなら、今頃大陸中ひっくり返る大騒ぎだ)』

ジルバ『……!(た、確かに……!)』

ジルバ『お、お母様、魔法石って何のことなの……?』

大カラス『クァアア!(それによぉ、俺もあの小娘に一度会ったことがある)』

大カラス『クァアア!(俺たち獣は人間を……上辺じゃねえ、“魂”の質量で判断する。ありゃあ――)』

 (化け物だ……! ババァ以上のな。誰も殺せるはずがねえ……っ!)

大カラス(“魂”のでかさは生命力だけじゃない。そいつの持つ『運』、そして魔女に限っていえば
      練成能力の差にも如実に現れる。何よりあの小娘には……)

大カラス『クァアア!(<<約束>>の魔法石がついている! “覇王”の力が常にあいつを守ってるんだ!』

大カラス『クァアア!(はっはー! 何の心配が要る!? どうせ小娘も生き延びてるぜ!)』ばさっばさっ 

ジーナ『そ、そうでした、その通り……エメラルド様にはあの方が……っ!』

ジーナ『おおっ、きっとエメラルド様もご無事で……ご無事でいらしている……そう信じる他ありません!』

ジルバ『え……え? 何……? あの方……?(<<約束>>の魔法石って……?)』

ジーナ『……』

ジーナ『……そうですね、貴女も良い年齢です』ぼそっ

ジーナ『今が良い機会……そろそろ、我が一族の生ける目的・真の意味――』

ジーナ『エメラルド様について、あの姫君の素性を……貴方にも話しておかねばなりません』

短いですがここまで

このスレまでには第2章がちょうど終わる予定

戦闘では役立たずっぽいアメジストの魔法石の力も炸裂します!

______________

 ゴォオオオオオオ パチ、パチ…ッ

ジルバ「……お母様」


――逃げなさいっ、これ以上は持ちません……! せめて貴女だけでも!――

――い、イヤっ! 私もここで戦う! 私もここで、お母様と……!――

――あの子たちはどうなるのです! 姉である貴女が居なければあの子たちを一体誰が!――

――ライルっ! ジルを連れて行って!――

――!? いや、嫌よっ! お母様も一緒に! 皆で、一緒に故郷に戻って……!――


 ゴォオオオオオオ パチ、パチ…ッ


――聞いたか? とうとう魔女ジーナが処刑されたってよ――

――ああ、ひでぇ殺され方だったらしいな……生きたまま獣に食われたって。
   散々叩かれた軍の意趣返しも含んだやり方だったみたいだが――

――しっ、沼でのいざこざは無かったことにされている。滅多なことは言うな――

――ま、どの道やつら魔女に相応しい最期だったわけだ。へへっ、ははははっ――

――……っ!(ぎりっ)――

――お姉ちゃん、どうしたの?(くいくい) 私、お腹すいた(ぐぅ~)――

――なっ、何でもないの、何でもない……(ぎゅっ)そ、それよりお腹、空いてるのね――

――うん♪――


ジルバ「……お母様、ごめんなさい」ぽろ

ジルバ「お聞きした一族の大儀……お嬢様の安否より私は……私には守るものが……」

ジルバ(それでも私たち魔女にも生きる意味、意義があるのであれば、何より今は、)

ジルバ(お母様の復讐以外に優先すべき道は見えない……っ!)

大カラス「クァアア!(――ジル……っ!)」ばさっばさっ

ジルバ「……?」

大カラス「クァアア!(どうしたボーッとして! さっきから何度も呼んでるぜ!?)」

ジルバ「……っ!」ごしごしっ

ジルバ「……何? どうしたの? ちょっと考え事をしてただけよ」

大カラス「クァアア!(んな悠長なことを……下を見ろ! とうとう軍が出張ってきやがった!)」

 わー わーっ

 「下がれ警備隊! 戒厳だ!」 「お前たちの出番はもうない、速やかに撤退しろ!」

 「何ぃ!? ふざけるなっ!」 「お前らこそ引っ込んでろ!」

 「軍律違反はその場で打ち首だぞっ!」 「やれるモンならやってみろ! 俺たちは引かんっ!」

 わー わーっ



ジルバ「…………」

大カラス「クァアア!(それだけじゃねえ! あいつら、警備隊の野郎どもの力……っ!)」ばさっばさっ

 (完全に見誤った……! まさか、やつらがここまで……っ!)



アメジスト軍「……!」

警備隊第3隊長「はぁ、はぁ……こ、これは国防府の諸君。一体何をしに来られたのかな?」

巨大オオカミ「」

アメジスト軍「な……っ、こ、この巨大な狼は……!」

警備隊第3隊長「……ふ、見ての通りだ。この区画にいる獣は、我々が一掃した……」ぜえぜえ

狼の群れ「」

警備兵「た、隊長……! その腕は……!」

警備隊第3隊長「腕が、どうした。片腕1本犠牲に民を守れればなんの……安い安い」にやっ

アメジスト軍「――っ!」ぞくっ


 いつの頃からであろう――

 歴史を紐解き、人と人が互いに争い血を流すという行為に走ったのは――


大カラス「クァアア!(ヤベぇぞ! 被害がでか過ぎる!)」ばさっばさっ

ジルバ「……!」

大カラス「クァアア!(ジルっ! 軍が動いたってことは、俺たちの存在に気づいたってことだ!)」

大カラス「クァアア!(“目的”は達した、これ以上は留まる意味がねえ! すぐに撤退を――)」


 ガラーーーーン   ガラーーーン


ジルバ「!?」

大カラス「!?」


 やられればやり返す。単純にして明快な人の性――


 ガラーーーーン   ガラーーーン


アメジスト軍「な、何だ!? これは、鐘の音……!?」ざわっ

アメジスト軍「あれだ! 大鐘楼……上だっ!」



――チカッ キラッ


アメジスト軍「!? お、おい、上! 光だっ、空で石の輝きが……!」ざわっ


アメジスト軍「あそこだぁ! あそこに魔女がいるぞぉ!!」




大カラス「……!(ちいっ、見つかっちまった……!)」




 ガラーーーーン   ガラーーーン

警備兵「隊長! 戒厳です! 女王府より非常事態宣言がなされました!」

警備隊第3隊長「……そうか、それは遅かったな。人員が増えれば、俺も……部下を失うことは」よろっ

警備兵「隊長っ!」がしっ

アメジスト軍「……! か、彼を早く医療所に! 医療所に連れて行ってやれ!」

アメジスト軍「そ、それより魔女が上空に……」ざわざわ

警備兵「隊長、長官より密命が……魔女が、ぐすっ、魔女が都に入り込んでいると……」

警備隊第3隊長「ああ……」ぜえぜえ

警備兵「そ、それで、魔女の位置も、補足したとも。我々警備府が必ずこれを捕らえるよう……」じわっ

――チカッ キラッ

警備隊第3隊長「ああ、知っている……今、俺も見ている……遅かったな……」ぜえぜえ

アメジスト軍「ど、どうやってあの位置に手を出すのです!?」

アメジスト軍「ゆ、弓だ! 弩兵を呼んで来いっ!」

警備隊第3隊長「ふ、ふふっ、どいつもこいつも遅い……俺たちを、誰だと思っている……」ぜえぜえ


 因縁絶ち難き負の連鎖、業と業のぶつかり合い――
 

 生ある者にとっては宿命ともいうべき課題に、果たして解決方法はあるのだろうか――



警備隊第3隊長「国防府、長官……城の連中が揉めている間に、とっくに俺たちはやつらに気付いている」

警備隊第3隊長「とうの昔に俺たちは……我ら警備隊はっ、賊を捕らえに向かっているっ!!」

アメジスト軍「何……っ!?」

警備隊第3隊長「引っ込むのはお前らだああぁ! 国防府っ!」

警備隊第3隊長「そこでジェイルの活躍を見てろおおおおっ!!」

アメジスト軍「……!」ざわっ

女店主「……(どうか、ご武運を……!)」ぎゅっ

 ガラーーーーン   ガラーーーン

 ヒュゥウウウ……


大カラス「クァアア!(この鐘、手前ぇの仕業かぁ……味な真似しやがる)」ぎろっ

ラズライト「……やっと見つけたぞぉ、都を騒がす阿呆どもがぁ……っ!」じろっ

ジルバ「……ふん、よくもまあこんな所まで……ご苦労さま」

ラズライト「北の門では部下たちが世話になったなぁ、その礼は存分にさせて貰う」ぎりっ

ジルバ「……北?」

大カラス「クァアア!(! ぐははっ、そうかこいつが……!)」ばさっばさっ

ジルバ「ああ、例の『厄介な警備兵』ね。なぁんだ、隊長さんだったの」くすっ

ラズライト「何が可笑しいいいいっ!」ぎりぎりっ


 解決方法――


 円満な和解――


 或いは、どちらか一方の業を喰らい尽くす、そういったありふれた答えしかないのかも――


大カラス「クァアア!(ジルっ、ちーっとばかし俺の我がままに付き合ってくれねえか?)」にやぁ


 そうであるならば、ここで問題が1つ――


ジルバ「……いいいわよ、腕試しね」にや


 一族を背負い、母の復讐燃える魔女――


大カラス「クァアア!(ぐはぁっ! 言っておくが、俺ぁ、下の狼どもより強えぞぉ……?)」ばさっばさっ

ラズライト「何を話している、人にモノを喋るときはなぁ、化カラス……っ、人間の言葉を使えぇ……っ!」

 
 国、そして部下の復讐に燃える警備兵――


ラズライト「でねえと――」

大カラス「グァアアアアアアアアアアア!(ぐはははっ、撤退前に一仕事だ! この馬鹿を――)」ばさっ


      (血祭りにあげるっ!!)
      「ブチ殺すぞおおおおおおおおおおっ!!」

 
 問題は、どちらの憎悪、“背負うもの”が勝るか、である――


訂正 >>818

一族を背負い、母の復讐に燃える魔女――

国を背負い、部下の復讐に燃える警備兵――



カカシVSカラス、都の最終決戦! ここまで

 

大カラス「ギャッハッハッハーーーーッ!(ひと突きだぜぇ人間っ!)」ばさぁっ
ラズライト「……ふん」チャキッ

 ゴウ……ッ!!

ラズライト「!」

大カラス「クァアアアアアアッ!!」
ラズライト「……ちぃっ!」ガギィィン…ッ!

ラズライト「―――っ」ズサァ…ッ!

 ばさぁ……っ!

大カラス「クァアアッ!(! コイツ……っ、“いなし”やがった……!)」ばさっばさっ

ラズライト「……」ぎろっ

大カラス「(へっ、良い判断しやがる……)クァアアアアアアッ!(オラぁ! もう一丁!!)」ばさぁっ

ラズライト「ぬ、ぅ……っ」ガギィィン…ッ!

ラズライト「……! ぐ、ぐっ、お……っ!」ズザザァ…ッ!

 ばさぁ……っ!

大カラス(……こりゃあ驚いたっ、ニ度も防ぎやがるとは!)ばさっ

大カラス(クァアアッ!(やるなお前ぇ! 獲物はこうでなくちゃあなぁ、仕留め甲斐あるぜっ!)」にやっ

ラズライト「……(あの図体にこの速度、なるほど想像以上……)」

ラズライト(何よりあの凶悪な嘴――)
大カラス「クァアアアアアアッ!(お次はどうだぁ!?)」ばさぁっ

 ガギィィン…ッ!

ラズライト「……!(まともに受ければ剣がもたん……っ!)」ズサァ…ッ!

大カラス「クァアアアアアアッ!(まだまだぁ!!)」ばさぁっ

 ゴウ…ッ!!

ラズライト(…………)



 ガギィィン…ッ!!



アメジスト軍「――大臣! あれをご覧に!」

軍統括大臣「!? お、おおっ! 魔女か、あの輝き! あそこにヤツらが……っ!」

アメジスト軍「大鐘楼の上……待て、あれは誰だ!? 誰かが戦ってるぞ!」ざわっ

軍統括大臣「何っ、ウチの軍か!? 何者だ! どこの所属だ階級は!?」がばっ

アメジスト軍「あ、あれは……」じぃっ

______________

警備兵「長官っ、大変です!」ばたんっ

警備府長官「どうした」

警備兵「そ、それが、戒厳中にも関わらず、軍の意向を無視して街に留まるものが隊内に数名!」

警備兵「国防府は警備隊の即時撤退を訴えているそうなのですが――」

警備府長官「ほ、ほう、それはいかんな。いかん、後で女王府から咎めを受けることになる」

警備府長官「速やかに撤退指示に従うよう……やつらに伝えろ。……急がんでいい」

警備府長官「とにかくワシはそう告げたぞ」ぷいっ

警備兵「で、ですが話によると、鐘の音を頼りに上空にて賊を発見したと……現在、
     捕縛の功を争い正規軍と我が隊、両者一発触発の興奮状態であると報せがありまして」

警備府長官「(鐘の音……? ちっ、余計なことを。どこの馬鹿が)む、そ、それで?」そわそわ

警備兵「先手を取り、賊と交戦を始めた方がいます! 警備隊のあの方ですっ、ジェイル隊長が――」

警備府長官「――何っ!?」

 

 わーー わーーーっ

アメジスト軍「弩兵の準備が出来たか! よしっ、我らも上に登るぞ!」

警備兵「ふざけるな! お前らが行ったところで隊長の邪魔をするだけだろう、ここは通さん!」

アメジスト軍「!? しょ、正気か貴様たち……後でどうなるか――」

  わーー わーーーっ



______________

 ばさぁ……っ!

ジルバ「――なぁに? こいつ、大したことないじゃない。さっきから防戦一方」

ラズライト「……」

大カラス「クァアアッ!(へっ、受けるだけじゃあ何も出来ねえぜ!? 腕利きの隊長さんよぉ)」

大カラス「クァアアアアアアッ!(必死なんだろうがなぁ……いつまで持つかなぁ!?)」ばさっ

 ゴウ…ッ!! 

 ガギィィン…ッ!!

ラズライト「……っ!」ズサァ…ッ!

大カラス「クァアアッ!(おおっとぉ!? 今のは惜しかった。どうしたキレが落ちてきてるぜぇ?)」

ラズライト「……さっきから何度も言ってるだろう畜生。貴様の話す言葉はまったくわからん……耳障りだ」

大カラス「ギャッハッハ!(口だけはまだ剛毅でいやがる!)」ばさっばさっ

ラズライト「……」

 (数度に及ぶやり取りで『2つ確信した』。やはり、この剣では無理だな……だが、)ぎゅっ

ラズライト(陛下のお許しがなければ“こっち”は抜けん……となると、やはり――)

大カラス「クァアアアアアアッ!!(いい加減くたばりなっ!)」ゴウ…ッ!!

ラズライト(やはりこれしか――)すっ

大カラス「!?」

 

 ガギィ…ッ! パキッィ……ィン!!!



ラズライト「ぬぉおおおおおおおおおおっ!」ズザサザザザザ゙ァ…ッ!



 ゴッ、ッツ… 「ぐぅ……!?」



 ガァーーン ガラーーーーン



ラズライト「……っ! ぉ……っ、おお……っ!(くっ、背が……っ!)」ビリビリッ

ジルバ「――なっ、」ぎょっ

大カラス(……っ、う、ウソだろコイツ。ば、馬鹿か――)

ラズライト「っ、ふうぅーー……」

大カラス「……!(素手で俺を……止めやがった……!?)」

ラズライト「ふぅ、ふぅ…………ぐはぁ、」ぜえぜえ

ラズライト「……となると、やはり信じるのは己の力だけ……えぇ? 貴様もそう思わんか?」

カラス「~~~~~~っ!?(は、離しやがれええええええ!)」ばさばさばさっ

ラズライト「そして、口ほどにもないのはお前らだろう……存外大したことのない威力だなぁ」


  テッキリ遊バレテイルノカト勘違イシテシマッタゾ?


ラズライト「俺なら十分止めることが可能だ、貴様の力量は見切った……ぐハッ、グハハァ!」にやぁ

大カラス「んんんんんんんんんんっ!?」ばさばさばさっ

ジルバ「な、何なのコイツ(ぞくっ) ま、まさか“トパーズ”の<<力>>を……っ!?」

ラズライト「……ふっ、その言葉……思い出すな」

――お、お前らこそ……離せっつってんだろーがっ!!――

――この男……“トパーズ”産の魔法石を所持している可能性が高い!――

ラズライト(……なんの、俺もまだまだ……さらにその上もいる)

ラズライト「さて、ご自慢の嘴の強度はどうだぁ!?」メリメリッ

大カラス「ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんんんっ!?」ばさばさばさっ

ジルバ「ら、ライル……っ!!」

短いですがここまでー

ラズライト「はぁああああ!」メリメリッ

大カラス「ん゛んんん゛……っ!!」

 ミシッ、ピシィ ビシィッ!

ジルバ「こ、このっ、ライルを離しなさいよ!!」すっ 


  (集え、“毒蜂”――!)ぱぁあああ……


ラズライト「!」

蜂の群れ「……」ブブブブ

ジルバ「早くこいつを――」
ラズライト(させるかっ)

 バゴォン…ッ!!

大カラス「グエッ!?」ごぷっ

ジルバ「きゃっ!?」ぐらっ 

 ――キラッ

ジルバ「!?(しまっ、魔法石が……!)」

 ぱしっ

ジルバ「……!」

ラズライト「――これが貴様の魔法石か。これで獣たちを……」

蜂の群れ「??」ブブブブ

ラズライト「残念だったな。この大陸では各国王室の許可なくして石の使用は厳禁、
      それだけでも罪だ……知っていたか? これは、」

ラズライト「ウチが回収させて貰う」

ジルバ(く、くそ……っ! お母様の石が……!)ぎりっ

警備兵「隊長!」ばたばた

ジルバ「!?」

警備兵「ジェイル隊長、ご無事ですか!」ばたばた

ラズライト「お前たち……」

警備兵「うわっ、何だこの黒い塊!?」

警備兵「こ、これって例の……蜂、か?」

ラズライト「……放っておけ。刺激さえしなければすぐに散る」

ラズライト「それより何故ここに? 下はどうした」

警備兵「弓です。隊長に弓をお持ちしました」

警備兵「下……とはいかなる意味なのかは察しかねますが、問題ありません」

警備兵「煩い獣ども、連中はあらから黙らせておきましたゆえ!」


アメジスト軍「ぐ、ぐ……この、無法者どもが……」

アメジスト弩兵「」

警備隊第3隊長「いいから寝てろ。後でいかなる処分も受ける」ぐしゃっ

アメジスト軍「あぶっ」

 がくっ


ラズライト「……ふっ、そうか。頼りになるな」にや

警備兵「それよりもあいつ……あの上に乗ってるのが魔女ですか」

ラズライト「……ああ、もう丸腰だがな」

ジルバ「ライルっ、ライル! 大丈夫!?」さすさす

大カラス「ク、ァア……(う、ぐ……っ、まさか、人間ごときの蹴り1つで吹っ飛ばされるとは……)」ぜえぜえ

 (しかもこりゃあ、骨が何本かイッちまってんな……)ずきずきっ

大カラス「クァア……(心配すんなジル……大丈夫だ。俺ぁまだ戦れる――)」ぜえぜえ

大カラス「!? グ、グァ!?」ごぷっ

ジルバ「ライルっ!?」

大カラス「クァ、ア゛、ア、ア゛」びちゃびちゃ

ジルバ「……! も、もういいの! これ以上はもう無理よ!」さすさす

大カラス「グ、グ……」ぜえぜえ

ジルバ「……もういいわ。私が悪かったの……あんなのに構う必要はなかった」さすさす


 「――撤退しましょ」


ラズライト「何っ!?」

警備兵「て、撤退……逃げる気かっ!?」ざわっ

大カラス「……そう、だな。お前がそう言うなら、退くか……」ぜえぜえ

警備兵「ふざけるな!」ヒュッ

ジルバ「!」

大カラス「クァア゛アア!(舐めるなぁ!)」

 ギィイイイン……ッ!

警備兵「……!」

大カラス「クァア゛アア!(んなヒョロヒョロの矢に当たるほど、まだ弱っちゃねえんだよ!)」ばさっばさっ

カラスたち「ギャア! ギャア!(えぇ~、ジルもう行くの? ぴかぴかな光物は!?)」

カラスたち「ギャア! ギャア!(ボクこれしか拾ってないよう!)」

 キラッ

ラズライト「!?(あ、あれは――)」

ジルバ「……ああ、これ。確か北門の……」

ラズライト「き、貴様……っ、何故それを貴様が……!」ぎりっ

ジルバ「やっぱり知ってるんだぁ? 貴方の部下だったもんね」にや

カラスたち「ギャア! ギャア!(そうだよ! あいつらから奪ったの!)」

ジルバ「銀製の……何かしら? いびつな剣の形……してるけど」

ジルバ「これってお守りなんでしょ? ふふっ、よく見たら裏に言葉が刻んである……」 

ジルバ「『お父さんへ、警備のお仕事頑張って』……あとは、自分の名前かな?」にやにや

ラズライト「こ、殺すぞ……貴様……っ!」びきっびきっ

ジルバ「最初に殺してあげた警備隊の雑魚の遺品ね。そういえば息子がどうとか話してたわ」にやにや

警備兵「や、野郎……!」

ジルバ「哀れよねぇ、あの時居た警備兵ぜーんいん、死ぬ直前まで貴方のことも話してたわよ?」

ジルバ「結構慕われたみたいじゃない隊長さん……貴方の部下、それはもう無様に死んでいったわぁ」

ラズライト「……!」

ジルバ「知ってる? こう、喉を突き刺してあげたらね、醜い声出して」

ジルバ「あははっ、口をパクパクさせて……他のヤツらもそう! 地べたを這いずり回って――」

ラズライト「うぅおおぉおおおおおおお!!」

警備兵「このっ、魔女がっ!」ヒュッ

大カラス「クァア゛アア!」ギィイイイン……ッ!

ジルバ「あはははっ、無駄よ! 私たちはこの場を去る!」

ジルバ「悔しいでしょ! 貴方は部下も守れなかったただの木偶!」

ジルバ「そして仇を目の前にし、捕まえることも出来ない……ライルっ、私たちのj勝ちよ!」

大カラス「クァア゛アア!(へへっ、良い性格してやがる……流石はジルだ)」にやっ

ラズライト「がっ、がぁあああああ!!」ぎりっ

警備兵「隊長っ、このままでは……!」

ラズライト「こ、この……っ、(ここまで国を、部下たちを好きにされて……っ)」ぎりぎりっ

 (逃げられるというのか――!)

ラズライト「降りて来いっ! 逃げるな卑怯者ぉおおおおおおおおおっ!!!」


 『ここで逃がせば魔女の勝ち』


 その通り。彼女たちは十分に成果を挙げ、結果『無事に』都を離れようとしている――


 ばさぁ……っ!

ジルバ「あっはっはっはっ。また今度、会う日が来るかもね。それまでお元気に隊長さん♪」

大カラス「クァア゛アア!(次は必ずお前ぇを仕留めてやる。覚えてやがれ!)」ばさっばさっ


 そもそもが酷な話であったのかも。魔法石を使わずして彼女たちを止める術は難く


 その意味では――


ラズライト「くそっ、くそおおおおおおおおおおお!!」


 常人らしからぬ働き。彼も十分に成果を挙げていると言えよう――


   「あーーーーはっはっはっはっは♪」
   「ギャーーーッハッハッハッハハ♪」


 嗤う魔女。後はこれを捕らえるのみ――


大カラス「ハッハッハ――ハ……ッ!?」ぴたっ

ジルバ(―――え?)


 そう、ここからは“魔法”の領域――


警備兵「?」

警備兵「な、何だ? 様子が……変だぞ?」

大カラス「クァア゛アア!?(な、何だこりゃあ……!)」ばさっばさっ

ジルバ「な、何よこれ……どうなってるの!?」きょろきょろ

ラズライト「……?」

大カラス「クァア゛アア!(きゅ、急に景色が変わって……!)」ばさっばさっ

ジルバ「い、意味わかんないっ、どうしてよ! どうして私が――」


  (私が自分を……遠目から『ここ』を見てるの……っ!?)きょろきょろ


アメジスト「――間に合ったようですね」

メイド「はい。お見事です、陛下」

アメジスト「獣を操る『使役』……対象は個に留まらず、複数に効果を与える。素晴らしい練成です」

アメジスト「流石は長年、エメラルドの近侍を努めたジーナの石」

アメジスト「ですが、わが国には貴方と同様の才能を持った魔女がいたのですよ?」

メイド「……」


大カラス「クァア゛アア!(あ、頭がおかしくなりそうだ! どこを振り向いても同じ所を……!)」ばさっばさっ

ジルバ「こ、これは……この術は……」きょろきょろ



アメジスト「――彼ら(警備隊)の活躍のおかげで対象者を捕捉することが出来ました」



   「視覚情報の強制(一方的)『伝達』――!!」



アメジスト「……いま貴方たちが見ているのは、私がここで見ている光景とまったく同じもの」ぱぁああああ

アメジスト「いかがですか? 私は、この場所から見る都の景色がとても気に入っているのです」

アメジスト「整然と並ぶ街の区画、活気溢れる市民の声……都に息吹く何もかもが、
      この国の生命力を感じさせる、そんな光景を私は毎日……」

 わーー わーーーっ

アメジスト「貴方たちの目にはどう映っているのでしょう。残念です……」
       
アメジスト「私の愛する国を、民を一夜にしてここまで変えた――」



    「賊を決して逃がすわけには参りません!」キッ





ここまでー

内容には変更ないけど細かい訂正 >>842


アメジスト「獣を操る『使役』……対象は個に留まらず、複数に効果を与える。素晴らしい練成です」

アメジスト「流石は長年、大魔女エメラルドの近侍を努めたジーナの石」

アメジスト「ですが、わが国には貴女と同様の才能を持った魔女がいたのですよ?」

メイド「……」


大カラス「クァア゛アア!(あ、頭がおかしくなりそうだ! どこを振り向いても同じ所を……!)」ばさっばさっ

ジルバ「こ、これは……この術は……」きょろきょろ


アメジスト「――彼ら(警備隊)の活躍のおかげで対象者を捕捉することが出来ました」ぱぁあああ



  「視覚情報の強制(一方的)『伝達』――!!」



アメジスト「……いま貴女たちが見ているのは、私がここで見ている光景とまったく同じもの」ぱぁああああ

アメジスト「いかがですか? 私は、この場所から眺める都の景色がとても気に入っているのです」

アメジスト「整然と並ぶ街の区画、活気溢れる市民の声……都に息吹く何もかもが、
      この国の生命力を感じさせる。そんな光景を私は毎日……」

 わーー わーーーっ

アメジスト「貴女たちの目にはどう映っているのでしょう。残念です……」

アメジスト「例え魔女といえども私の愛する国を、民を一夜にしてここまで変えた――」



    「賊を決して逃がすわけには参りません!」キッ



______________


大カラス「クァア゛アア!」ばさっばさっ

警備兵「こ、これは、一体……?」

大カラス「クァア゛アア!(く、クソがぁ、上も下も同じ景色じゃねえか! 手前ぇら――)」ばさっばさっ

ジルバ「ライルっ、落ち着いて! 下手に動くと……!」きょろきょろ

警備兵「こ、こっちに戻ってくるぞ!」

ラズライト「……あの御方のお力添えだ。弓を貸せ」

警備兵「は、はっ」

ジルバ「!?」

ラズライト「――感謝しますぞ、陛下」

ジルバ「へ、い、か……?」

大カラス「……!」

大カラス「クァア゛アア!(あ、あの女かあああ! クイーン・アメジストっ、あの女の仕業……!)」

  

   (また、クイーンが俺たちの邪魔を……っ!) 



  目を閉じ、尚も“眼前に”広がる光景――


 これは“とある魔女”が、視力を失った恋人に美しい景色を――


 自身が眺める全ての輝きを、共に分かち合いたいと願い、創り出した魔法――


ジルバ「な、なんでアンタが、この魔法を……石を……っ!」


ラズライト「……終わりだ」キリキリッ


大カラス「クァア゛アア!」ばさっばさっ


 間際――


 それとは別に、『彼』の脳裏に過ぎる光景があった――


 3年前、世を騒がせたガーネットとの衝突――


大カラス「クァア゛アア!(ジーナぁあああああ!)」ばさっばさっ


 彼の沼地での出来事について、この国の情報府ですら掴んでいない事実がもう1つある――


ラズライト「はぁっ!!」ひゅっ

 スカッ


警備兵「―――!?」

警備兵「……え?」

ラズライト「……!」



大カラス(お前が、お前ほどの女が……! たかだか1国の部隊に屈するわけがねえ!)」


 彼の言うとおり――


 ジーナはかつて大魔女エメラルドが孫の為に、一族から選び抜いた“精鋭5人”の内の1人――


 練成の才、石の行使能力、どれをとっても比類なき能力を有した『エメラルド』の守護者――


 間違いなく、ガーネットのみの力では彼女を捕らえることは出来なかったであろう――


 そう、ガーネットの力『のみ』では――


大カラス(俺は見た――あの時、4度目の攻勢に押され、ジルバを連れて逃げる際に――)

ジルバ『いや、嫌よっ! 離してライルっ! お母様を置いて行くなんて嫌ぁああっ!』

大カラス『ジルのことは心配ねえ、それよりお前はどうなんだ!?』ばさっばさっ

ジーナ『……』

 わーー わーーっ

 『もう少しだ! ジーナは丸腰だぞ!』 『何としてでも捕らえろ!』

??『…………』

ジーナ『……ご心配なく、私を誰だと思っているのです。後で追いますから……さ、お行きなさい』

ジルバ『いやぁ、ぐすっ……嫌よお母様ぁ……』ひっく

大カラス『騒ぐなジル、ジーナなら大丈夫だ』

ジーナ(……娘たちを任せましたよ、ライル)

  わーー わーーっ

大カラス『……(ジーナ……!)』ばさぁっ

ジルバ『嫌あああああああっ!』

大カラス(俺は……あの時間違いなく見た。かなた遠くで群がるガーネットの部隊)

大カラス(その中に、あの女が……)


 わーーー わーーーーっ

??『………』


大カラス(毒蜂を無効化し、獣を沈め、沼地を何の変哲もない土くれに換えたあの魔法――)

大カラス(恐らくジーナもヤツの存在に気づいていたに違いない。だからこそ、)


ジーナ『……貴女がいたのでは親子揃って無事撤退、という訳には参りませんね』


大カラス(発する気は朧にして陰鬱……黒衣に身を包み、
     兵に紛れ存在をひた隠しにしているつもりだろうが)

大カラス(手前ぇの内に秘めるドス黒い狂気がだだ漏れだぜ。何故ここにいる……!)ばさぁっ



警備兵「た、隊長!?(そ、そうだった、聞いたことがある。この方は弓の腕がからっきし――)」

警備兵(な、何故したり顔で弓を貸せと、『終わりだ』とも言ったぞ……!)

ラズライト「む、ぐ……///」

警備兵「『む、ぐ』、ではありません! そこをどいてくださいっ!」

ラズライト「……!」

 わーーー わーーーっ

 わーーー わーーっ

大カラス「……煩せえぞ雑兵どもぉ、そいつの顔を見せろ……」

ジルバ「ライル!? ライルっ!」ゆさゆさっ

 
 わーーー わーーーっ

 『ご覧下さいもう少しで御座います! あと一歩であの魔女を!』  
 『まさかクイーン直々の親征を得られるとは我が国にとっては最大の栄誉!』


??『…………』ぱぁあああああ


大カラス(何故だ、なぜお前がこの場に姿を現す――)

大カラス「クァア゛アア!(何故お前らクイーンは土壇場で俺たちの邪魔を……!)」


ダイヤモンド『…………』にたぁ

      
大カラス「クァア゛アアアアアアアアアアアアアアア!(邪魔をしやがるウウウウウウ!)」

大カラス「クァア゛アアアアアアアアアアアアアアア!(“悪魔の女”どもがああああああああああっ!!)」


警備兵「――死ねっ!」ひゅっ

ジルバ「!? ら、ライル避けてっ!!!!」ぎゅっ


   スバババババッ!!


大カラス「グ、ギャァ……ッ!!!???」

決着…! 


短いですがここまで

まさか一スレの後半全部主人公がいらない子なんて…

ジルバ「ライルーーーーーーっ!!!」

大カラス「カ……! ガ、ァ……ッ」ぐらっ

警備兵「!? (しまった……!)」

警備兵「下に落ちて行く! このままでは魔女もろとも地面に!」がばっ

ラズライト「……」



 ざわっ 「賊が上から落ちてくるぞ!」 「危ない離れろっ!」 がやがや



大カラス「」

ジルバ「~~~~っ(ライル……っ!)」ぎゅっ



ラズライト「……最期だ。意地を見せろ化けカラス」ぼそっ



大カラス(!!)くわっ

大カラス「クァア゛アアアアアアアアアッ!!」ばさぁっ

 ぶわぁあ……っ!!

警備隊第3隊長「!」

警備兵「うわぁ!? まだ生きてるぞ!」ざわっ

警備兵「くっ、お……っ!? なんて風圧だ……!」

 (この巨体――こんな化け物と上で闘り合っていたのか……っ!?)

大カラス「クァア゛アアアア!」ばさぁっ

ジルバ「ら、ライルっ! 無事で――」

大カラス「ァ……カァ……(ああ、お前が無事で良かった……悪ぃなジル……俺ぁここまでだ……)」

ジルバ「ら、ライル……?」

大カラス「カァ……(まだまだお前を乗せていたかったんだけどな、へへ……)」

大カラス(もう飛べねえよ……どうも、多分に漏れず俺も甲斐性のないオスだったらしい)ぐらっ

――娘たちを任せましたよ、ライル――

 (……悪いな……一足先に、ジーナんトコに行ってら……)ふらっ

ジルバ「!? ライルっ!!」

 ばさ……ぁっ

大カラス「」

ジルバ「……ライル? ウソでしょ、ライルっ!?」ゆさゆさっ

大カラス「」

ジルバ「イヤ……嫌よ、起きて……」ゆさゆさっ

警備隊第3隊長「――確保っ!」

警備兵「! か、確保だっ! 賊を確保しろぉおおっ!」ばたばたっ

ジルバ「いやああああああああああああ!! ライルぅうううううううううううう!!」

 がしっ

警備兵「大人しくしろ魔女!」

ジルバ「くっ、は、なせ……っ、離してよ! 触らないでっ! ライルが、ライルはまだ……っ」

警備兵「と、捕らえたぞ! 賊を確保したっ!!」

警備兵「謳え! 我ら警備隊が賊を、都を荒らした下手人を捕らえたぞーーーーー!!」

ジルバ「……っ!」ぎゅっ

 「うおおおおおおおおおおっ!!!」



 えい、えいっ、おーーーーーーーーーーーっ!!

ラズライト「……ふぅ(やったか……)」へたっ



アメジスト軍「……おおっ! この歓声、どうやら賊を捕らえたようですな!」

軍統括大臣「ふはっ、ふははは! 良くやったぞ! で? 結局どこの部隊が手柄をモノにした!?」



 えい、えいっ、おーーーーーーーーーーーっ!!

メイド「……」

アメジスト「……終わったみたいですね」くるっ

宰相「……」


 えい、えいっ、おーーーーーーーーーーーっ!!

______________


  わーー わーーーっ


警備隊第3隊長「……ご苦労だったなジェイル。今回はお前の大手柄だ」

ラズライト「俺のじゃない。“俺たち”の、だ……お前こそ……」

警備隊第3隊長「ん? この腕か? ふふっ、どうだ男前が上がったろ?」にやっ

ラズライト「……」

 わーー わーーーっ

ラズライト「……これから、どうなると思う?」

警備隊第3隊長「「あー、そうだな……とりあえず厳罰は免れんだろう。
           なんせ戒厳命令をほぼ無視したし、しかも貴族の坊っちゃんを数人のしちまった」

ラズライト「ほう、それは羨ましい。俺もやりたかったな」

警備隊第3隊長「ふっ、お前はもう領地持ちの半貴族だろ……ま、最悪縛り首じゃないかなぁ」

警備隊第3隊長「とは言ってもすべて覚悟の上。後悔はない」

ラズライト「……そうか、だが俺が心配しているのは別だ。あの魔女の娘だよ」

警備隊第3隊長「ああ、なるほど」

ラズライト「……お前の意見を聞きたい」

警備隊第3隊長「……正直言って、今度ばかりは助命も叶うまい」

警備隊第3隊長「いくら魔女とはいえ実際に、ここまで都に損害を与えたんだ」


 わーー わーーーっ 


警備隊第3隊長「公にこれを処さなければ民が黙っていないだろう。
          ……あの心優しき女王陛下のご心情、俺ごときが察するに余りあると思う」

警備隊第3隊長「だがな。理由なんかそもそも無い、彼女たちは問答無用で処分されるべき対象」

ラズライト「……そうか」ちゃり

警備隊第3隊長「……? それは?」

ラズライト「あの娘が所持していた魔法石だ……ヤツから回収した」

警備隊第3隊長「ガーネットの石か。これまた厄介なモノを持ち込まれたもんだ」

ラズライト「うむ。すぐに城に届けなければならんのだが……」

警備隊第3隊長「そうだな……この石の処遇についても城は必ず揉めるだろう」

警備隊第3隊長「ガーネットの、“どちらに”石を返還するかによって、我が国が当該王室――」

警備隊第3隊長「クイーンかキングか……両者いずれの正当性を支持するのかを世に示すことになる」

警備隊第3隊長「すなわちこれ1つで、サファイヤとダイヤモンドとの関係にも影響を与えかねん」

ラズライト「……むぅ。(いっそ捨てるか……?)」じぃっ

警備兵「た、隊長!」ばたばたっ

ラズライト「?」

警備兵「お、お二方、大変ですっ!」

警備隊第3隊長「……? 随分と……早いな」ちらっ

ラズライト「……もう召還命令か。……慌てなくとも抵抗はしない。謹んで命は受けるつもりだ」

警備兵「何の話です! そ、それより捕らえた賊のことです!」

警備兵「隊長! 我々が賊を連行中、突然『情報府』の連中が来て、魔女を――」



ラズライト「……何?」

警備隊第3隊長「――どういうことだ!?」

______________

アメジスト情報府・本塔 長官執務室


情報府長官「――いやぁ、驚いたよ。君ともあろう者が、」

情報府長官「まさかウチの連中に捕まるなんてねぇ……話を聞いて、一瞬肝を冷やしました」

情報府長官「ま、他に先んじて君を回収することが出来て良かったとしよう」

情報府長官「まずはご苦労様でした、と言っておくべきかな? ジルバ嬢」

ジルバ「……そんなの要らない。それより、とっととこの縄を解いてよ」

情報府長官「解いてあげて」

情報兵「はっ」

ジルバ「……」

情報府長官「……ずいぶんと機嫌が悪いみたいだねぇ、どうかしたのかい?
        やっぱりお友達を失ったことが堪えているのかな」

ジルバ「……っ、放っといて! それより――」

情報府長官「それより」

ジルバ「……」

ジルバ「何よ」じろっ

情報府長官「少々、苦言を呈してもいいかな? 
        今回の件なんだけど……少しやり過ぎなんじゃあないのかい?」

ジルバ「貴方がやれと言ったんでしょ」

情報府長官「……言いましたよ。確かに都を襲えとは言いました」

情報府長官「だけどねえ、普通あそこまで荒らし回るかなぁ」

情報府長官「誰が建物に火をつけてくれと頼んだ? お友達も、散々街を破壊してくれたそうだね」
        
情報府長官「俺の依頼内容をちゃんと聞いてくれていたとは到底思えない」

情報府長官「君、完全に私情を挟んで動いたでしょ」

ジルバ「……ふん、当たり前じゃない」ぷいっ

情報府長官「あらら、開き直りときたかぁ……驚いたよ」

情報府長官「まあでも、考えてみればそうだよね。『恨みを一旦置いておく』なーんて、
        君たち魔女にとっては酷な注文だったかな」

情報府長官「結局、最後に捕らえられてしまったことも含めて、多少の契約違反には目を瞑りましょう」

情報府長官「大筋の目的、『魔女が都を襲った』という既成事実を作ることはできた。あとは――」

ジルバ「あとはこっちの番よ。妹たちに会わせてちょうだい」

情報府長官「……」

ジルバ「妹たちの面倒を見てくれているのには感謝しているわ。
     けど、そう続けて貴方たちの手足となって働くとは言っていない。しばらく休みよ」

ジルバ「早く妹たちに会いたいの。匿っている場所を教えて」

情報府長官「……」

ジルバ「それと。出来ればライルの身体を情報府で回収して欲しいの」

ジルバ「お墓を作ってあげたいし、何より……ライルと一緒に帰りたい。……貴方なら可能でしょ?」

情報府長官「可能だけど……んー、そうだねえ」

情報府長官「さっき言いそびれた話の続き、実は君の仕事はまだ終わってないんだよねぇ」

ジルバ「?」

情報府長官「ま、ちょうどいいや。まとめて叶えてあげましょう」

情報府長官「妹たちに会わせてあげてよ」くいっ

情報兵「はっ」すっ

ジルバ「……?」

 チャキッ カチャ カチャ

ジルバ「!? な……っ、ど、どういうつもり!?」

情報府長官「だから、妹たちに会いたいんでしょ? お友達と一緒に還りたいとも」

情報府長官「急げばまだ間に合う。2人の許に送ってあげるよ……ついでに母親にも会える」

ジルバ「……! い、妹たちをどうしたの!? 妹に何をしたっ!!」

情報府長官「……今回の依頼はね、君の死を以って完遂するお仕事だから」

情報府長官「非常に残念だけど、君とはここでお別れ。ちゃーんと最後まで働いてくれたまえ」

ジルバ「答えなさいよっ!! 妹たちに――」

情報府長官「最期まで、君の名前を呼んでいたそうだよ。『お姉ちゃん、お姉ちゃん』、と」にやっ

ジルバ「……! そ、そんな……」がくっ

情報府長官「3人寄り添い、このご時勢生きていくのは大変だったでしょう。俺たちの庇護がなければ
        とっくに野垂れ死にしてもおかしくはなかった……家族みんなで、あの世で感謝して下さい」

ジルバ「こ、この……っ」ぎりっ

ジルバ「騙したのか! この人でなしっ!!」だっ

情報府長官「!」

 ザシュッ! グサッ グサッ

ジルバ「……! ぁ……ぐ……っ」

 ぽた ぽた

ジルバ「ぅ……こ、この……」ごぷっ

 どさっ

情報兵「長官、お怪我は」

情報府長官「……危ないなぁ、まるで噛み付く獣だ。『人でなし』は君たちの方だろう、魔女ジルバ」

ジルバ「ぅ……ぁう……」ずるっ

情報府長官「家畜以下の君たちに、人様の役に立てる機会を与えてあげたことにまずは感謝でしょうに」

ジルバ「こ、殺して……やる……っ」ずるずるっ

情報府長官「でもアレだねえ。そうやって床を這う君の姿を見て、1つ確信したことがある」

情報府長官「やはり世間の噂どおり、魔女というのはお人好だ。それも『ど』が付くほど馬鹿な生き物」

情報府長官「本当に俺たちがゴミの面倒を最後まで見ると思っていたのかね? ん?」

ジルバ「こ、ろして……やる……」ぽたぽた

――お姉ちゃん♪ お姉ちゃん♪――

ジルバ「ころし……て……(ご、ごめんね……)」ずるずるっ

ジルバ「おね、え、ちゃん……守れなかった……」ぽたぽた

情報府長官「……ふっふ、殺すだ守るだと忙しい女だ」

ジルバ「……ご、めん、ね……」

  (今度はちゃんと……守るから――)


――ジル、貴女は良く頑張りました(なでなで)――


――ジルっ!(ばさばさっ)――


――お姉ちゃん!(ぎゅっ)――


 (ああ……でもこれで、やっと……)


墓堀人「……いつでも、帰ってこい。ジル……」


 (……やっと皆で、家族一緒に――)



ジルバ「」



情報府長官「はい」ぱんっ

情報府長官「これにて無事! 我が国の都を侵した賊は死に絶えました、拍手!」

 パチパチパチ

情報兵「……しかし長官、これで宜しかったのですか?」

情報府長官「?」

情報兵「城に引き渡す前に処分してしまっては、後でお咎めを受けるのではと」

情報府長官「うん。表向きは叱られるだろうね」

情報府長官「でも大丈夫、陛下もきっと一安心なさるに違いない。
        あの方はね、森での粛清で魔女たちに負い目を感じていらしているんだよ」

情報府長官「本音ではもう魔女を殺したくはない……だからといって、
        助命などすれば周囲から猛反発を食うからねえ」

情報府長官「内心、今回の沙汰を下さずに済んでホッとしているはずさ」

情報兵「なるほど」

情報府長官「そういったお気持ちを察することも臣下の努め。
       独断で魔女を処分したことについては俺から詫びておく……さて、」くるっ

ジルバ「」

情報府長官「ここ、綺麗にしておいてね。薄汚い血で絨毯が汚れちゃってるから」

情報府長官「あと『ミハイル』がそろそろ戻る頃だと思う。着いたら俺の書斎に来るよう伝えておいてよ」

情報兵「ははっ」

情報府長官「ふっ、石の力を使わずとも情(なさけ)・報(しらせ)を『伝え』、人心を『操る』ことなど容易い」


    「これより俺は、本格的にこの国の頂点を目指す」にやっ


寝落ちしてしまいました、昨日からの続き……ここまで!

>>858
2章はあと2回分くらいの投下で終わる予定
次章からはいよいよオズたちメインの冒険が始まります。もう少しお待ちを

______________


ラズライト「一体どういうことですっ!?」ばんっ

警備府長官「……」

ラズライト「なぜ情報府が魔女の身柄を持っていくのですか! ヤツはウチで挙げた賊ですよ!?」

ラズライト「あそこに都で発生した事件における捕縛・取調べの権限はありません。
      その上、賊の素性・背後関係もあやふやなままにこれを死亡させたなど……」

ラズライト「こんなことが許されるのですか!? これは明らかに越権行為と言わざるを得ません!」

警備府長官「……」

ラズライト「どうしてお止めになられなかったのですか! 長官!」ばんっ

警備府長官「知れたこと……非常事態宣言は先ほど解除されたばかりだ」

警備府長官「それまではウチにも、今お前が言った権限などありはしない。口をはさむ余地もな」

ラズライト「だからと言って……!」

警備府長官「だからと言って何だ? 越権を犯したのはお前のほうだろう、ジェイル」

警備府長官「戒厳命令は愚か、ワシの撤退指示にも従わず賊捕縛に向かった件について、
        何か申し開きはあるか?」

ラズライト「撤退指示……? 待って下さい、長官が内々に我らで功を挙げよと、そう仰ったはずでは」

警備府長官「何の話だ、ワシは知らん。そんな指示は出した覚えが無い。……誰から聞いた?」

ラズライト「そ、それは、(第3隊のヤツらから……)」

警備府長官「お前が、直接ワシからそう聞いたのか?」

ラズライト「い、いえ……」

警備府長官「ちなみに」

警備府長官「最後まで現場に残っておった第3隊の連中だが……今まさに
        女王府から詰問を受けている最中だ」

ラズライト「!」

警備府長官「ジェイル。お前ごときにはわからんだろうが、
        貴族の間には貴族の間で様々な横の繋がりが存在する」

警備府長官「此度の件について、国防府からも強い抗議がウチに来ている。本来なら――」

警備府長官「あのはねっ返りどもは全員絞首台送りだ」

ラズライト「……っ、そ、それなら自分も!」

警備府長官「だが特別に、今回だけは『ヤツらが挙げた』賊捕縛の功績を鑑み、
       全て免罪の方向で話が進んでいる。……クラウスの働きかけによってな」

警備府長官「宰相を通じ、軍も抑えてくれているそうだ」

ラズライト「!? く、クラウス卿が……? どうして……い、いえそれよりも――」

警備府長官「どうした。仲間が縛り首を逃れたことがそんなに驚きか」

警備府長官「それともまさか、己が賊を捕らえた功績者であるはずだとでも言いたいのか?」

ラズライト「そ、そんなことは一言も……! 」

警備府長官「だったら黙っておけ。これ以上情報府にとやかくぬかす権利などお前にはない」

ラズライト「ぐ……(そうか、あれ程毛嫌いしていた他府にここまで大人しくしているのは保身の為)」

 (すべては自分の座っている椅子を守る為か……っ!)

警備府長官「さて、得意の大口を叩きにここへ来たのは丁度良かった。お前の処分についてだ」

ラズライト「……っ」

警備府長官「違反を犯したとはいえ見事、魔女を捕らえた第3隊の連中と違いお前は、
        何ら誇れる手柄を挙げたわけでもない」

警備府長官「それどころか北門の警備を担当していたにも関わらず、あたら貴重な部下を死なせ
        都を危険に晒した責任は極めて大きい」

ラズライト「……」ぎゅっ

警備府長官「お前にはウチの規律に従い処分を受けて貰う。ジェイルロック・ラズライト――」

警備府長官「たった今より、お前を警備隊第1隊長から解任する」

ラズライト「……っ!」ぐっ

警備府長官「お前の失態のおかげでワシがこの後どれだけの人間に
       頭を下げねばならないと思っている。恥をかかせおって……この無能が」

警備府長官「処分がこれだけで済むと思うなよ。残りの沙汰は追って出す」

警備府長官「それまでは謹慎してろ、暫くは警備の職務にも就かんでいい。……わかったな」

ラズライト「ぐ……っ、うぅ……」ぎゅっ

警備府長官「わかったのかと聞いている」

ラズライト「は……い……」ぎゅーっ

警備府長官「不満があるなら今すぐここを辞めても構わんぞ」

警備府長官「いっそ古巣に戻ったらどうだ。軍なら、喜んでお前を迎え入れるんじゃないのか?」

警備府長官「その方が互いの為になる。これ以上ウチで好き放題動かれても迷惑だからな」

ラズライト「……」

警備府長官「理解したのならとっとと失せろ。お前の顔は二度と見たくない」

ラズライト「……」

警備府長官「早く出て行け!」ばんっ

ラズライト「……失礼……しました……」ぎりっ


  パタン


警備府長官「…………」

警備府長官「……ふん、犬め」

______________

 アメジスト国 墓地

 サァアアアアアア

ラズライト「……」

 「珍しい人発見――」

ラズライト「?」

メイド「……久しぶりね、ジェイル」

ラズライト「……お前か。久しいな」

メイド「どうしたの? こんな場所で神妙な顔して」

ラズライト「……」

メイド「あ……(ジェイルの部下だった人たちの……)」

ラズライト「……」

メイド「――それは?」

ラズライト「……部下の1人に息子がいた。父親の為に、想いを刻み渡したお守りだ」

メイド「お守り……」

ラズライト「今しがた各隊員、全員の遺族に侘びに回ったところなんだが……」

ラズライト「どうしてもこれを返すことが出来なかった」

メイド「……」

ラズライト「どんな顔をして渡せば……皆、俺の所為で死んでいった」ぎゅっ

メイド「あ、貴方の所為じゃないでしょ」

ラズライト「……」

メイド「貴方の所為じゃない……何もかも、都を襲った魔女が悪いんだから」

メイド「魔女が、全部悪いの。ジェイルが気に病むことはない」

ラズライト「……」

メイド「……」

ラズライト「賊の正体は名もなき一介の魔女――そう公表されていたな。遺体はどうなった」

メイド「……直ぐに埋葬されたわ。都から少し離れたところにある村の墓地……」

メイド「そこで無縁の遺体として引き取ってくれた人がいたの」

ラズライト「そうか……」ちらっ

メイド「……」

ラズライト「……(目が腫れているが……まさか、な……)」

メイド「いっておくけど、知らないわよ。遺体には会ったけど面識もない人……」

メイド「たくさんいる一族全員の顔をいちいち覚えてないわ」

ラズライト「む……そ、そうか。……で、お前こそ何をしにここへ?」

メイド「ちょっとね、しばらくお姉ちゃんに会ってなかったから」

ラズライト「侍従長か……そういえば、彼女もここに……」

ラズライト「亡くなって1年くらいは経つか?」

メイド「だったかも」

ラズライト「来月から正式に侍従長を継ぐらしいな、お前」

メイド「んー……そのはずだったんだけどね、結局どうなるか……」

ラズライト「なんだ、何か問題でも?」

メイド「だってそうじゃない。今度のことで、魔女に対する目も相当変わってきてる」

メイド「現に宮中でもすでに、私たちの扱いについて疑問の声があがってるらしいもの」

ラズライト「……」

メイド「陛下は大丈夫だから心配するなと仰ってくれているんだけどね。
    これ以上迷惑を掛けるのはどうなんだろう、って……」

ラズライト「陛下がそう仰っているのなら大丈夫だろう、あの方はきっと守って下さる」

ラズライト「要らぬ心配はするな。……お前らしくない」

メイド「らしくないって、どういう意味なの」

ラズライト「……もっとずぶとい性格してただろうに」

 げしっ

ラズライト「……っ、ぐぅ……!?」

メイド「貴方もたいがいね」

ラズライト「ぐ……!」

メイド「……くすっ、でも守ってくれるといえば、誰かさんも以前
   私たちを救ってくれたもんね。鬼の隊長さん♪」つん

ラズライト「……」

ラズライト「(守る、か……)あの頃はまだ軍に所属していた。それに――」

ラズライト「俺はもう、隊長ではない」

メイド「?」

ラズライト「本日付で隊長職は解任されたよ」

メイド「え……?」

ラズライト「それどころか、下手をすれば警備府に居られなくなる可能性も出てきた」がくっ

メイド「ど、どうして……? ジェイル、警備の仕事すごく頑張ってたじゃない」

ラズライト「色々あるんだよ……組織に身を置いていると。俺も今になってようやくはっきりわかった」

メイド「ジェイル……」

ラズライト「もっとも、こいつらを死なせてしまい、市民にも犠牲者を出してしまった責任は
      当然とらなければならん。……その意味では自業自得だが」

ラズライト「はぁ……(やり切れん……)」がくっ

 (一体、俺は今まで何を守れたのだろう。何もかも、自分で全てを守るつもりでいた)

 (都を、この国を、背負うくらいの気概を持ち職にあたっていたつもりだが、やはりそれは……)

ラズライト「分不相応だったか……結局、俺には守れなかったモノの方が多い」

メイド「……」

ラズライト「……」

メイド「な、情けない男。そんなことでウジウジしてるなんて」

ラズライト「何だと」じろっ

メイド「何よ、死なせた死なせたって。馬っ鹿みたい」

メイド「貴方1人が皆を守っていたと勘違いしてるなら、今すぐこの人たちに謝りなさいよ」

メイド「ここで眠ってる貴方の部下、みんながジェイルと同じ気持ちで働いていたと考えないの?」

ラズライト「!」

メイド「1人1人、このお守りを持っていた人だってそう! 
    誰もがこの国を守っているんだと自負していたはずよ。それを貴方に守られてるだなんて」

メイド「アメジストの警備隊は『俺のお守りが必要な腑抜けの集まりだった』と、
    貴方は部下の前でぼやくのね!? どうなの!」

ラズライト「……! う……そ、それは……」

メイド「……」じろっ

ラズライト「それは、違う。お前の言うとおりだ、彼らはいつだって誇り高い精神を持ち
      現場に立っていた……すまない」

メイド「私に謝ってどうするのよ」

ラズライト「す、すまないお前たち……過分にして尊大な態度……どうか、許してくれ」ぺこ

メイド「し、しっかりしてよね。もう」

ラズライト「う、うむ」

メイド「……それに、何かを守るって……」

 サァアアアアアア

メイド「数の大小じゃないと思うの。……貴方にお客さまみたいよ、ジェイル」

ラズライト「?」

女店主「……」もじもじ

ラズライト「あれは……」

女店主「……///」ぺこ

メイド「い、一応聞いておいていい? 誰なの?」じとーっ

ラズライト「ああ……(ふふっ、そうか、そうだな……)」


       「なーに、彼女はな――」


   サァアアアアアア


ココマデ

______________

_________

______


宰相「さてさて早まったことをしてくれたもんじゃ……クラウスにしては、ちと詰めが甘かったか」コツコツ

宰相「獣を追い詰めれば牙を向くは常よ。女子とて相手は憎悪に目を血走らせた魔女、
   誰かれ構わず襲いかかることも十分考えられたじゃろうにどうして縄を解いたのか」

宰相「部下がおらなんだら、あやつが殺されておったかもしれん」

アメジスト「……仕方がありませんわ。クラウス卿にはそういう、他人に甘い所があります」

アメジスト「それに私にも責任が」

宰相「ふむ。あやつめ、『陛下にお渡しすればあらぬ温情をおかけになる』、とはっきり言いおったな」

宰相「密かに追っていた大物の娘……これを逃されては困る、と。こちらに関しては厳しい意見じゃが」

アメジスト「耳が痛いですわね。そんなつもりはありませんでしたのに」

宰相「……陛下とて、また別にヤツから聞き出しておきたいことがあったのにのう。やれやれじゃ」

宰相「ま、クラウスには小言の1つでもくれてやれば良い。街の復興に府の予算をすべて回してくれと
   申し出ておったし……あやつなりに反省はしておるじゃろう」

宰相「今後優先すべき課題は街の復興……しかしその前にじゃ、とりあえずは
   2日後に備えある程度の体裁を保たねばならん」

アメジスト「……」

宰相「これは建物施設の回復のみにあらず、市民を含め都全体がクイーン各位を歓迎――」

宰相「せずとも良いが、それなりの活気・賑わいは演出せねばの。もっとも、」

宰相「あの3人が本当に来ると仮定した場合じゃが……」

アメジスト「一応、人を迎えに遣りましたので」

宰相「なるほど、魔女襲撃の件をいち早く知らせるおつもりか」

 (……確かに、黙っておってもいずれすぐにわかること。こちらから恥を伝えれば誠意は見せられる)

宰相「(が、それではなおさら会議には……)来るかのう?」

アメジスト「来ますわ」チャラ

宰相「ふーむ、えらく自信がおありの様じゃが」

 (……はっきり申して良いのやら。北と西の姫はウチを心の底から嫌っておる)

 (議題国とはいえ、わざわざ呼び出される形になったことですら不満を口にしてはばからんというに)

 (そんな連中が果たして……)

アメジスト「自信というより……確信ですわね」

アメジスト「ふふっ、何故ならもう、私の中ではすでに始まっていますのよ? 爺」にこっ

宰相「?」

アメジスト「円卓に着かずとも会議は始まっているのです……」

 

  稀代の曲者たちを相手取る欲望の駆引き――



アメジスト「魔女の襲撃は予期せぬ出来事でしたが、此度の会議開催に影響はございません」

アメジスト「あるとすれば……切り札を先に出すか、後で出すか」チャラ

アメジスト「手筋に修正を加える程度――」

宰相「……?(ジルバから回収したその石が切り札……?)」



   「……くすっ、武威で劣るとされる我が国も、机上での戦は得意なのです」にこっ







   大陸暦○○年――



   アメジスト国・王都に魔女が侵入、多数の市民を殺害した後、軍によって捕らえられる――


   
   魔女の襲撃――



   大陸法制定前後を問わず、有史以来、人々が初めて経験した出来事である



アメジスト市民「おーい、瓦礫はこっちで良いんだったか?」

アメジスト市民「ああ、あとは向かいの建物を解体しよう」

 ふら ふら

??「あ~~~、あ~~~~~」

アメジスト市民「……?」

??「あ~~~、あ~~~~~」ふらふら

アメジスト市民「! あ、アンタあの時の……!?」

――だ、誰かっ! 誰か警備隊の方をっ、この子を! 医療所に連れて行って下さいっ!!――

母親「あ~~~、坊やがぁ~~~」ふらふら

赤子「」

アメジスト市民「……!(助からなかったのか……!)」ぎくっ

アメジスト市民「お、おいアンタ、危ねえからこっちに近づいちゃダメだ! しっ!」

母親「あ~~う~~~」ふらふら

アメジスト市民「……気が触れちまったんだろう。可哀想に」

アメジスト市民「……(お、俺はあの場にいたからな……)」ずきっ

アメジスト市民「いちいち構ってられるか。他にも大勢死んでいる……
         はやいこと立ち直って都を復旧しなきゃ。俺たち市民が頑張らないといけないんだぞ」

アメジスト市民「あ、ああ……そうだな」



  だが、公式に『ジルバ』の名は出てこない――

 

  賊はあくまで無名の魔女。動機は一族の復讐――



母親?「あ~~~う~~~、ジルバぁ~~~~」ふらふら

母親?「お前が灯した種火は無駄にはしないよぉ~~~」ふらふら

 どんっ

アメジスト市民「あっ、と、すまないね!」

母親?「……」

アメジスト市民「……!(うわ、何だコイツ? 抱えてんのよく見りゃ人形じゃねえか!)」ぞくっ

母親?「……」

アメジスト市民「(き、気味悪ぃ女……!)わ、悪かったよ」

母親?「…………」


  「お前のあげた炎は、いずれ大炎へと姿を変え全土を覆いつくすであろう」ぼそっ


アメジスト市民「え?」


  ――ばさばさばさっ!!


アメジスト市民「……へ?」ぽかーん

 
   ひらっ ひらっ


アメジスト市民(き、消えた――!?)

 
  ひらっ ひらっ


アメジスト市民「う、うわっ、うわーーーーーー! 何だよ今の突然消えたぞ!?」

アメジスト市民「しかもこの黒い羽……大量に……ひっ、き、気味悪い……!」


   ひらっ ひらっ


アメジスト市民「……! た、助けてくれーーーー! 化け物が出たーーーー!」だだっ



 たった『1人』の魔女の侵入――


 彼女が都に残した爪痕は大きく、獣たちによって刻まれた人々の恐怖が癒えるには、


 まだまだ多くの時間が必要であろう。しかし――


 それでも市民は一丸となり、早くも街の復興作業に取り掛かりつつあった――


 そう、


 彼らは理解しているのだ。この後、魔女が引き連れてきた獣など問題にならぬほどの巨獣――


 さらなる脅威が再び訪れることを。心構えというべきか――



 <アメジスト北部・とある村>


 「向こうの空を見ろ! 大気が光り輝いている!」ざわっ

 「何かしら、綺麗……色のついたカーテンみたい」うっとり

 「き、聞いたことがある……俺は知ってるぞ。あれはダイヤモンド領内でしばし見られる空の現象」

 「すなわち天空を駆けるクイーンの威光がその輝きを見せているのだと……」

 「て、ことはあれってまさか――」ざわっ


 大陸に巣食う巨獣たち――


ダイヤモンド「……」


 北の医療大国・始まりの国より来たるは『クイーン・ダイヤモンド』――

<アメジスト情報府>


連絡員「――なにぃ? 東方部艦隊の主力まで合流しただと!?」

 『ああ、明らかに異常だ。いくらクイーンを運んでいるとはいえ、
 これはたんに会議に参加しようとする陣容じゃない。戦規模だよ』

 『今、俺たちも船を追いつつそっちに向かっている。陛下にくれぐれも油断なさらぬようお伝えしてくれ』

連絡員「う、うむ。引き続き情報を待つ」


<大砂漠>


トパーズ軍艦隊提督「……姫は」いらいら

トパーズ軍「無事、アメジストの方角へ向かっております」

トパーズ軍「事情を聞いた各方面の主艦隊もぞくぞくと駆けつけてきており……姫を見失うことはこれで」

トパーズ軍艦隊提督「ふ、ふふっ、これ程の船を動かしなさるとはさすがは我らがクイーン・トパーズ」

トパーズ軍艦隊提督「これでご本人さまが船にいらっしゃらないと聞けば、
             皆腰を抜かすであろうな……まったく困った姫君よ」



??「ふぁ~~~、眠む」ごしごし


 南の軍事大国・自由と正義の国より来たるは『クイーン・トパーズ』――


 そして――

______________

 アメジスト領内・西のとある地域


遣いの者「……」

サファイヤ軍「……へ、陛下、今のをお聞きになられましたか」ごくり

??「……」

遣いの者「我らがクイーン・アメジストより実物も預かってきております。……こちらを」すっ

サファイヤ軍「!? お、おお……っ!」ざわっ

サファイヤ軍「な、なるほど確かに緑色に輝いている! こ、これを陛下に!?」ざわざわ

遣いの者「ベファーナ姫にお渡しするよう仰せつかっておりますので、ご遠慮なく」

遣いの者(あの帷幕の中に大国サファイヤを治める巨魁が……どんな姿をしている……)ごくり

サファイヤ軍「へ、陛下、これはどうも本当に……」

??「よこせ」

サファイヤ軍「は、ははっ!」

??「……」

遣いの者「……」ごくり

サファイヤ軍「……」ごくり

 シーーーーーーン

??「……原石みたいだねぇ、どこで見つけた」

遣いの者「それについては先ほども申し上げました通り、私も存じ上げません」

遣いの者「石に関する詳しい情報は会議にてお伝えしたいと陛下はおっしゃっておりますゆえ」

??「だから来いってか」

遣いの者「は……はっ! ですので、クイーンにおかれましては何卒ご来訪を固くお願い申し上げたく」

遣いの者「ま、魔女の襲撃を受けたとはいえ、これを退け今は――」

??「ババァには伝えてんのかぃ?」

遣いの者「……は?」

??「ババァだよババァ、北のクソババァだ。あいつにも渡したのか聞いてるんだよ。これと同じ物を」

遣いの者「く、クイーン・ダイヤモンドのことでありますか。恐らく……同様に迎えを遣わせていますので」

??「ふーん……で、詳細は会議にてお話します、か……行くだろうねぇ。あの欲深のことだから」

??「だったらどうすべきなんだい、お前たち」

サファイヤ軍「はっ、やはり参加せねばウチだけ損をする羽目に」

??「そうか、その通りだ」

遣いの者「で、では――」

??「ああ、喜びな。のこのこ出向いてやるさ。……お宅の女王も、上手い餌を拾ってきたもんだねえ」

――キラッ

 (こりゃ上等すぎる餌だろ……どこで手に入れやがったあの女……)

遣いの者「これより先は河となっております。簡素ではありますが、
      渡し船を何隻かご用意させていただきました」

船頭たち「……」ぺこ

サファイヤ軍「ほう。これはこれは気が利く」ざわざわ

遣いの者「さ、皆様どうぞお早めに――」


 「――必要ナイ」すっ


遣いの者「?」

サファイヤ軍「へ、陛下!?(杖を……!)」ぎょっ

サファイヤ軍「ま、マズイぞ下れ! 巻き添えを食う!」


  カッ…!!!


遣いの者「!?」


 ゴゴゴゴゴ……ズッ…バッァアアアアアアアンッッ!!!!


船頭たち「う、うわぁあああああああああ!?」

遣いの者「なっ……!?(か、河が……真っ二つに――!?)」

先頭たち「うわぁ! な、流され――ごぷっ、」

遣いの者「……っ、な、何をなされますベファーナ姫! 河には我が国の者が控えていたのですぞ!?」


 パァアアアア…


??「……だから何だ。必要ないんだよ、私の前に立つな下郎ども」すっ

サファイヤ軍「陛下っ!」ざわ

遣いの者「……!(こ、この方が……!)」


 そしてもう1人――


サファイヤ「ありはしない……私の征く道をふさぐ存在(モノ)など、この世にあってはならない」

サファイヤ「私は常々そう口にしている。河がどうした……? あるのは進むべき我が覇道」

   ゴ ゴ ゴ ゴ……

サファイヤ「船がなくても通れるだろう。ぼさっとするな……進軍を開始しろ」

サファイヤ軍「は、ははーーーーーーーーーーーっ!!!」


 西より来たるは『クイーン・サファイヤ』――


サファイヤ「……フェブリウスの小娘に伝えときな。次から目上の者にお願いするときゃ
      手前ぇ自ら来いってな。そうすりゃあよぉ、」


  「『河の氾濫で死んでたのはお前だったのに』……そう西の姫さまが悲しんでました、ってなぁ」にたぁ


 サファイヤ国第11代皇帝・『ベファーナ・ドルジアーネ・フォン・セプテンベルク』

 現在、大陸でもっとも危険視されている人物である――

サファイヤ「……」

  
 緑の輝きが、彼女ですら惹き寄せる――


アメジスト「……」


 ブリリアント――


 その名は『光り輝くモノ』の意――


 もしかすると、その輝きを統べる者が大陸を征することになるのかもしれない――


エメラルド「……すぅ、すぅ」zzzz

男「うーん、うーん(なんか狭い……)むにゃ」




  そして全土が注目する中、




  ついに4ヶ国会議の日が訪れる――






2章終り!

>>667にもありますが、ちょっと色々考えることもありこのスレは終りにします
1年とちょっとという長い間でしたがここまで読んで下さったかた本当にありがとうございました

ではここまでーーノシ

ブログ登録してみたけど編集とか難しくてあきらめたココで頑張る(´・ω・`)

次スレ
男「俺の名前は『オズ』。君は?」エメラルド「……」 -Ⅱ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381854936/)

またよろしくお願いしますねヽ(´・ω・`)ノ

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