洋榎「次鋒戦と副将戦が無くなるんやて」(1000)

【閲覧注意】
このスレは、エロ・グロ等の、過激な表現が含まれる可能性があります。
胸糞・鬱展開になりますので、心の弱い方はそっ閉じをしてください。
また、各キャラの性格が、原作と大きく異なる可能性があります。


【安価・コンマ・多数決等について】
このスレは、安価、コンマ、多数決等を使用する予定です。
その詳しい方法については、それらを行う直前に説明します。

※多数決の使用を止め、コンマに変更する可能性があります。

このスレでは以降、コンマや多数決等の事も全て含めて〝安価〟と表記します。

事前により詳しい安価方法を知りたい方は、前スレ>>901>>904をご覧ください。


【安価レスの形式について】
======
【安価:○○】
安価内容
======
↑この様な形式で、安価レスして貰う様にお願いする予定です。

【安価:○○】←この部分を文字検索し、安価レスの確認・集計をします。

この文字検索に引っ掛からない安価レスは、全て無効となります。
その他、要件を満たしていない安価レスも、全て無効となります。

安価のやり直し(意見変更)は、一切できませんのでご注意ください。
自分のレスが無効になってしまっても、やり直し(書き直し)は不可です。

※不明な点がある方は、安価レスをする前に、>>1にお気軽に質問してください。

>>1が安価レスの集計等を間違えた場合、
基本的には訂正せず、そのまま続行します。

安価が確定した時には、確認を入れる予定ですので、
何か間違いに気付いた方は、ご指摘をお願いします。


【スレの特徴】
このスレは、『ホラー系』です。『百合系』『レズ系』ではありません。
ご都合主義や、スーパー帳尻合わせが発動する事があります。
ホラーと言っても、あくまでB級ですので過度の期待は禁物です。


【その他注意事項】
この物語はフィクションです。実際の団体、人物とは全く関係がありません。
方言は適当です。違和感があったらすみません。脳内変換お願いします。
>>1は遅筆です。


前スレ
咲「次鋒戦と副将戦、無くなっちゃうんですか?」
咲「次鋒戦と副将戦、無くなっちゃうんですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365240742/)
玄「次鋒戦と副将戦が無くなりますのだ」
玄「次鋒戦と副将戦が無くなりますのだ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366523589/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369647348

――― 姫松高校 麻雀部 部室 ―――

洋榎「おっし、全員、集まった様やな」

由子「お休みの日なのに、突然、呼び出されたのよー」

漫 「絹ちゃん、何か知ってる?」

絹恵「ううん、私も今日の朝、いきなりお姉ちゃんに連れられて……」

恭子「主将、唐突にレギュラーを部室に集めて、一体何なんですか?」


洋榎「分からん」


漫 「はっ……? どうゆう事ですか、それ!?」

洋榎「せやから、分からへん言うとるやろ」

由子「大事な話があるって言うから、予定をキャンセルして来たのよー……」

絹恵「お姉ちゃん、ちゃんと説明してくれる?」

洋榎「うちは、代行から来た連絡を、そのままみんなに伝えただけやで」

由子「代行が?」

洋榎「せやでー」

漫 「何考えとるんですかね、あの人は……」


恭子(また面倒な事になりそうやなぁ……)

郁乃『ぴんぽんぱんぽ~ん』


訝しむ部員達を嘲笑うかの様に、突如スピーカーから赤坂監督代行の声が響く。


郁乃『麻雀部レギュラーのみんなにお知らせやで~』

郁乃『これから重大発表を行うんで、大至急、全員屋上まで来てや~』


短く用件だけ伝え終えると、校内放送はプツッと切れた。


由子「……屋上?」

漫 「ホンマ、何なんですかね……」

絹恵「お姉ちゃん、どないしよ……?」

洋榎「まぁ取り敢えず、行くしかないやろなぁ……」


郁乃の指示通り、5人は屋上へと向かった。
校内は静まり返り、人影などは全く見えない。


恭子「今学校にいるんは、うちらだけの様ですね……」

洋榎「そら祝日やしなぁ……」

漫 「せやけど、普通は部活やらで誰かしらいるんじゃ?」

由子「たまたまお休みが重なっただけなのよー」

絹恵(人気の無い学校って、ちょっと不気味やな……)


薄暗く湿った廊下に、5人の足音だけが鳴り響いた。
非常灯が点滅する階段を上り、屋上へと繋がる扉に辿り着く。

普段は鍵が掛かっていて、生徒が立ち入れる場所では無い。
洋榎はドアノブに手を掛け、勢い良くその鉄の扉を押し開いた。

空はどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうだ。
湿度が高く、蒸し蒸しとした嫌な暑さが体に纏わり付く。

屋上の縁には、転落事故防止用の、高さ2m程のフェンスが連なっている。
だが、何者かの手によって、その一部分は取り外された状態になっていた。


郁乃「急に呼び出してごめんな~」


入り口から離れた所で、郁乃が微笑みながら、こちらに手を振っていた。
その傍らに、何故かは分からないが、謎の大型モニターが設置してある。

更に彼女の背後には、得体の知れない、巨大な黒い立方体が鎮座していた。

その立方体の側面には扉が付いている。
あの中に、何か入っているのだろうか?

その異様な光景を目の前にして、5人は呆然とその場に立ち尽くした。


郁乃「何でみんな口を開けて呆けてる~ん? もっと近くにおいで~」

狐につままれた気分で、郁乃の前にやって来た5人。

漫 「……何ですかこれ?」

郁乃「ん? あぁ、これ? これはな~、倉庫みたいなもんやで~」

絹恵「倉庫……ですか……?」

郁乃「せやで~」

絹恵「はぁ……」


郁乃「~♪」


漫(これはツッコミ待ちなんやろか……?)

洋榎「お、おぅ……」

由子(流石の洋榎でも突っ込めないのよー)

絹恵(こんな大きなもん、どうやって屋上に運んだんやろか……?)

恭子「……中には何が入ってるんです?」

郁乃「ん~、それは後の お・楽・し・み♪ 」

恭子「……」


洋榎「とりゃっ! うりゃっ!」ゲシゲシ

絹恵「……お姉ちゃん、何してるん?」

洋榎「これメッチャ硬いで!」ガンガン

黒い倉庫(?)を蹴りながら洋榎は言った。

恭子「ところで代行、重大発表って何です?」

郁乃「なんや、末原ちゃんはせっかちやなぁ~」

郁乃「もっと心に〝ゆとり〟を持たなあかんで~?」


恭子「……」ジトーッ


郁乃「そないな冷たい目で見んでもええやん……」

由子「私も今日呼び出された理由を聞きたいのよー」

洋榎「せやせや、うちらは貴重な休日削られてんやで?」

洋榎「しっかもこんな朝早くに……。代行の酔狂には付き合い切れんわ」

絹恵「ちょっ、お姉ちゃん……」


郁乃「………………」


郁乃「しゃあないな~。それじゃあ、一気に本題行こか……」


大きく息を吸い込んだ後、郁乃は目を見開いて5人に言い放った。


郁乃「高校生麻雀大会の団体戦がな~、5人から3人になるんよ~」

郁乃「それでな~、この中から2人〝ポイ〟せなあかんねん……」


洋榎「!?」

恭子「!?」

由子「!?」

絹恵「!?」

漫 「!?」


洋榎「……なん……やて?」

由子「そんな話、聞いて無いのよー……」

恭子「ホンマなんですか、代行……?」

郁乃「末原ちゃ~ん、冗談でこんな事言う訳無いやろ~?」

郁乃は厭らしい笑みを浮かべながら恭子に言った。

予期せぬ突然の宣告に、場の空気が重くなる。

漫 「レギュラー落ち……1人目は間違い無くうちですよね……」

絹恵「今までの総合成績から見て、私と漫ちゃんが落ちですか……?」

郁乃「いやいや、まだ分からんで~?」


恭子「……どうゆう事です?」

郁乃「今日集まって貰ったのはな~、ポイする2人をみんなで決める為や」

由子「これまでの総合成績で判断するんやないんですか……?」

郁乃「それはほら、将来性とか相性とか、他にも色々あるやん?」

郁乃「そ~ゆう、目では見えへん部分も、選考基準に入れたいかな~って……」

洋榎「……」


洋榎「……まぁええわ。で、どうやって決めるん?」

恭子「順当に考えれば、私、主将、ゆーこで決まりですが……」

絹恵「当然そうなりますよね……」

漫 「経験も実力もうちらの方が下ですし、それしか在り得ませんもん……」

由子「曖昧な部分を加味して判断する事はとっても難しいのよー……」

恭子「結局、数値として可視化された物で評価するしか無いでしょうね……」

洋榎「……異論無しか。ほな、これで決定やな」


郁乃「まって、まって~、ちょいタンマ~!」


恭子「……何か?」

郁乃「勝手に話進められたら困るで~」

恭子「はぁ?」

洋榎「話し合いで2人レギュラーから外すんやろ?」

漫 「うちと絹ちゃんも納得済みですやん……」

絹恵「お姉ちゃん、末原先輩、真瀬先輩の3人が姫松のベストやと思いますよ」

由子「みんな了承して円満に解決したのよー」


郁乃「ちゃうちゃう、人の話を最後まで聞いて~!」

===========
1:
2:
3:
4:
===========


由子(全員に紙とペンが配られたのよー)

漫 「……?」

洋榎「……なんやねんコレ」ジトーッ


郁乃「そこにな~、自分以外の名前を〝最低3人〟書くんや~」

郁乃「1の所に名前を書かれたら1P

    2の所に名前を書かれたら2P
    3の所に名前を書かれたら3P
    4の所に名前を書かれたら5P」

郁乃「ただし、4の所に名前を書くと、自分に2Pのペナルティーやで?」

5人「……?」


郁乃「お互いにPを与え合って、一番Pの多い子が1人目のレギュラー落ちや!」


漫 「はっ……? はぁぁぁぁっっっっっ!? なんですかそれっ!?」

恭子「……そんなくだらん冗談言う為に、うちらは呼び出されたんですかね?」

郁乃「だ~か~ら~、冗談や無いって言うてるやろ~?」

由子「一番Pが多かったら、洋榎でもレギュラー落ちするんですか?」ノヨー?

郁乃「当然そうなるで~。ルールは絶対やからなぁ~」

洋榎「……」ピクッ

洋榎「聞き捨てならんわぁ……。代行、それどーゆう事やねん」

郁乃「ん~?」

洋榎「姫松ナンバー1のうちが、レギュラー落ちの可能性もあるゆうんか……?」

郁乃「せや。レギュラーには、麻雀の才能以外に人望も必要やからな~」ニヤニヤ

洋榎「……」

洋榎「ふっ……ははっ! おもろいやん! やったろうやないか!」


絹恵「お、お姉ちゃん……?」

郁乃「ちなみに、レギュラー落ちの2人には、ごっつ痛いお仕置きが待ってるで」

漫 「ちょっ! なんでそうなるんですか!?」

由子「痛いのは嫌なのよー」ブルブル

郁乃「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ、レギュラーに残ればええんやから~」

洋榎「ほぅほぅ、お仕置きか……」ピコーン!

由子(うわぁ……洋榎が凄く悪い顔になってるのよー……)

漫 (主将、碌でも無い事を考えてるんやろなぁ……)

恭子(あかん、ホンマに面倒な事になりそうやわ……)


絹恵「代行、一番Pの多い人が複数いた場合はどうなるんです?」

郁乃「あ~、面倒やから、そうなったらその時に説明するわ~」

絹恵「あと、2人目は……」

郁乃「それも後でな~」

漫 「適当過ぎやないですか……」

恭子「……帰って良いですか?」

郁乃「そこの扉、オートロックやから帰れへんで?」

由子「恭子、もう諦めるしか無いのよー……」

恭子「はぁ……」

5人はそれぞれ距離を置き、紙との睨み合いが始まった。


郁乃「みんな~、適当に名前を書いたらあかんで~?」

郁乃「レギュラー落ちたら、地獄の苦しみが待ってるんやからな~」

郁乃「姫松の将来も懸かってるんやし、真面目に考えてや~」

郁乃「それと~、一番Pの少なかった子には~、ご褒美があるで~」

郁乃「あと~、名前を書いた紙を~、他の子に見せたらあかんよ~?」


恭子「あ~、はいはい」

上げた手をゆっくりと振りながら、億劫そうに恭子は応えた。


由子「恭子恭子……」

ふと顔を上げると、由子が手招きをして呼んでいる。
恭子は誘われるがままに、由子の方へと歩いていった。

恭子「ん?」

由子「恭子は、ホンマにこれでレギュラー決まると思ってる?」

恭子「……それは無いやろな。代行が気紛れで考えた、いつものお遊びやろ?」

由子「せやね。私もそんな事だろうと思ってたのよー」

恭子「さって、名前……どないしよか……?」


恭子は横目でチラリと、他の部員達の様子を窺う。
漫は絹恵の傍で、時折笑みを零しながら何やら話し合っている。
洋榎は顎に手を当て、一人でニヤニヤしながら紙を眺めていた。

郁乃が出した突拍子も無い提案の影響か、
それまでの重苦しい空気は一変していた。


恭子「うちらと同じで、皆代行の言う事を本気にはしてない様やな……」

由子「何だかんだ言って、みんな楽しそうなのよー」

恭子(……はぁ、少しだけ付き合ってあげますか……)

郁乃「あ、もう1つ大事な事ゆーの忘れとったわ~」

恭子「……今度は何です?」

郁乃「みんなのな~、〝初期値〟を公表するで~」


漫 「っ!?」

絹恵「っ!?」

由子「ふぇっ?」

恭子「……」


洋榎「初期値……やて?」


郁乃「せやで~。初期値はこちら! はい、ど~ん!」


郁乃が巨大なモニターに手を翳すと、
画面に5人の顔写真と数値が表示された。

===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 : 0P
末原 恭子 : 1P
真瀬 由子 : 3P
愛宕 絹恵 : 4P
上重 漫   : 5P
===========

郁乃「これがみんなに与えられた初期値やで~」

恭子「ふんふむ……」

由子「恭子と洋榎が圧倒的に有利なのよー」

洋榎「当然やなっ!」


漫 「ちょっと! ちょっと! これじゃあ、うちが一番不利やないですかっ!」

絹恵「まぁまぁ漫ちゃん、落ち着いて……」

郁乃「しゃあないやん……。そーゆう〝運命〟なんやから~」

漫 「そんなん、納得できませんて!」

郁乃「え~?」ゲンナリ

郁乃「漫ちゃん、さっきはレギュラー落ちやって、自分でゆうてたやん……」

漫 「それとこれとは別ですー!」

洋榎「漫……納得できんでも、素直に受け入れるしかないんやで……」ニタニタ

漫 「むぐぐっ……! こんなんイジメですやん! そうでしょ、末原先輩?」


恭子「……まっ、妥当な所ですね」

漫 「えぇっ!? 末原先輩まで何ゆうてはるんですか!?」

恭子「……漫ちゃん、この初期値は、これまでの総合成績から算出されたモノや」

漫 「へっ? そうなんですか?」

恭子「ですよね、代行?」

郁乃「うぇっ? あ、あぁ、うん、そうそう、そやで~。さっすが末原ちゃん!」

由子「言われてみれば、そんな気もするのよー……」

恭子「そもそも、実力にある程度の差があるんやから、
   もし、本当にこれでレギュラーを決めるとしたら、
   全てが対等な条件で遣り合えるワケ無いやろ……」

漫 「そ、そんなぁ~」ヘナヘナヘナ...


漫 (せやかて、こんなんタダのお遊びですやん……)

洋榎「何でそないに気落ちしてるん?」

漫 「そりゃ、我侭で傲慢な主将に復讐できるチャンスですから……ハッ!」

洋榎「ほぉ……漫はそういうつもりやったんか……」

指を鳴らしながら、洋榎が漫の方へと歩き出した。

漫 「じょ、冗談ですって……絹ちゃん助けて~」

洋榎「待てやコラァッ!」


マテェー スズー コラー
ゼッタイ イヤデスー
ワタシモ ナカマニ イレルノヨー
オネーチャン ヤメタッテー

キャッキャウフフ


郁乃「遊んでないで、はよ名前書いてや~」ゴソゴソ

郁乃「あっ! ポケットにガム入ってた!」ガサガサ パクッ

郁乃「美味ひ~」クッチャクッチャ


恭子(なんやこれ……)

恭子(しっかし、今回は随分と手の込んだ悪戯やな……)

下唇に右手の人差し指を添え、黒い倉庫を見上げる恭子。


恭子(初期値は、このゲームに真実味を与える為の演出やろか?)

恭子(いや……あの人がそんな深い事を考えてるワケあらへん……)


郁乃「」モゴモゴ プクーッ

郁乃はチューインガムで口元に風船を作り遊んでいる。


恭子(まさか、ホンマにこれでレギュラーを決めるつもりなんか!?)

恭子(代行の事やから、絶対に在り得へんとも言い切れんしなぁ……)

恭子(あの人の性格を考慮すれば、逆にその可能性の方が高いんじゃ……)


恭子「……」


恭子(お遊びとして適当に名前を書くか、真面目に検討して名前を書くか……)

真剣に考察するほど疲労感が蓄積し、全てが馬鹿馬鹿しく思えてくる。


恭子(……何でこんなくだらん事で悩まなあかんの?)


能天気な代行の良い玩具にされている、滑稽な自分。
あれこれ思案するだけ、時間の無駄ではなかろうか。


恭子「めげるわ……」


恭子は溜め息を吐きながら、小さく一言呟いた。


洋榎「ゆーこ、しっかり漫を押さえとってや~」キュポン

由子「了解なのよー」ガシッ

漫 「待って! それ油性ちゃいます!? やめ……やめてー!」ジタバタ

絹恵(こうなったお姉ちゃんは誰にも止められへん……。漫ちゃん南無……)

漫 「絹ちゃんっ! 見てないで助けて~」ジタバタ

洋榎「こらっ! 大人しくしーや!」

漫 「うぅ……鏡無いから何て書かれたかも分からへん……」

涙目の漫の額には、黒いペンで〝死〟の一文字が書かれていた。

絹恵「お姉ちゃん、それはちょっと遣り過ぎやで!」

洋榎「うちを侮辱した罰は重いからな。当然の報いやろ」

由子「大丈夫、これは水生なのよー」

洋榎「このゲームが終わるまで、絶対に消したらあかんからな?」

漫 「主将は横暴過ぎます……完全なイジメですよこれ……」グスン



恭子「名前書き終わりましたけど、代行に渡せばええんですか?」

郁乃「せやで~」クッチャクッチャ


激しく音を立てながら、緩急を付け、艶かしく扇情的に口と舌を動かす郁乃。
全身にねっとりと絡み付いてくる様に、見ている者に卑猥な印象を喚起させる。


恭子「……食べながら喋るの止めてくださいよ」

郁乃「んんっ?」ペッ

恭子に指摘され、郁乃は噛んでいたガムを勢い良く吐き出した。

恭子「きたなっ!」

郁乃「だってぇ~、末原ちゃんが文句言うから……」

恭子「だからって、ここで吐き出さんでくださいよ!」


洋榎「んっ? 恭子は名前全部書いてもうたん?」

郁乃とのやり取りを一部始終見ていた洋榎が、こちらへと向かって来る。

恭子「はい。正直、はよ帰りたいんで……」


洋榎「恭子、どんな感じで書いたのか教えてーな」ヒソヒソ

傍に駆け寄って来た洋榎が、恭子の耳元で小さく囁いた。

恭子「嫌ですよ。ていうか、それルール違反とちゃいます?
   名前を書いた紙を見せる事と、実質同じですやん……」

洋榎「なんや相変わらず恭子はお堅いな~」

恭子「うちが生真面目なのは、主将がいい加減やからです」

少し頬を膨らませ、顔を背ける恭子。

洋榎「へいへい、すんません、うちが悪うございましたー」

誠意など微塵も感じられない様子で謝罪の言葉を口にした後、
鼻歌交じりにスキップしながら洋榎は恭子から離れて行った。

それから10分程度が経っただろうか。
皆、用紙に名前を書き終わり、郁乃にそれを差し出した。


郁乃「全員分、確かに受け取ったで~」


全ての用紙を受け取り終えると、
書かれた内容の確認すらせずに、
郁乃はそれらを空中へ放り投げた。


郁乃「そぉ~れ、飛んでけ~」


風など吹いてもいないのに、ひらひらと空を舞う5枚の用紙。
何かに引き寄せられるかの様に、遥か彼方へと飛んで行った。


洋榎「あっ……」

由子「えっ……?」

恭子「なっ……!」

絹恵「へっ……?」


漫 「はっ!? 何してんですか代行っ!」

郁乃「だってぇ~、先に結果が分かったらおもろないやん……」

恭子(先に……?)

絹恵「それじゃあ、みんなが書いた用紙の内容を誰が集計するんです!?」


不安と疑心に満ちた5人の視線が郁乃に集中する。


郁乃「その心配はいらんで~。あの紙の中身は、全部この中に入っとるからな~」

横にあるモニターの背部をバシバシと叩きながら、郁乃は笑顔でそう言った。

洋榎(ぶっ飛び過ぎやろ、このおばはん……。うちでもツッコミ切れんわ……)

絹恵(データを入力してた風には見えへんかったけど……)

由子(どういう事なのかしら……? 理解に苦しむのよー……)

漫 (いやいや、全然意味分かりませんて……)


恭子「……」


恭子(端からレギュラーは確定していて、うちらをからかっただけなんじゃ?)

恭子(だとすれば、紙の中身なんて関係あらへん……)

恭子(余興でこの場の雰囲気を和まそうとしただけなんやろか……?)


レギュラー落ちのショックを軽減させる為の、代行なりの配慮かもしれない。
そんな恭子の予想は、郁乃が発した次の言葉によってあっさりと裏切られた。


郁乃「それじゃあ、みんなの紙の内容を公表していくでー」

恭子「っ!?」

洋榎「ホンマかいな……」

絹恵(腑に落ちんけど、成り行きを見守るのが良さそうやな……)

由子(書いた名前の順もちゃんと覚えてるし、嘘を言えば分かるのよー?)


漫 「ちょっ! それは困りますって!」

洋榎「なんや漫、バレたらマズイんか?」

漫 「そりゃそうですよ! なぁ、絹ちゃん?」

絹恵「私は別に構わへんけど……」

漫 「マジでっ!?」

由子「私も問題無いのよー」

洋榎「漫、己の選択に後ろめたさなんて感じたらあかんで。なっ?」ニヤニヤ

漫 「ひぃー」ガクガクガク


恭子(書いた本人の前で公表? これじゃあ、紙の中身を偽る事もできへん……)

恭子(という事は、本気でうちらにメンバーを決めさせるつもりなんか?)

恭子(みんなが真面目に考えてるとは限らんし、どうなっても知らんで……)

郁乃「まずは~、用紙を公表する順番を〝安価〟で決めるで~」

恭子「安価?」


郁乃「安価っちゅーのはな~、異世界の者達に、自らの〝運命〟を託す事やで~」


由子「異世界の者達?」ノヨー?

漫 「運命を……託す……?」


洋榎「何で見ず知らずのオッサン達に、自分の運命を託さなあかんねんっ!」ビシッ


絹恵(そこは〝異世界の者達〟に突っ込んだ方がええんちゃうかな……?)

漫 (いやいや、それより何でオッサン限定なんですか主将……)


郁乃「人生っちゅうんは、得てして理不尽なもんやからな~」

郁乃「どんな結果になるか分からんけど、潔く受け入れてや~」


洋榎「何かもう滅茶苦茶やな……」

由子「一周回って楽しくなってきたのよー♪」

漫 「考えるのもアホらしくなってきました……」

絹恵「ははっ……あははっ……!」

恭子「……」


洋榎「そもそも、発表の順番を決めるだけやろ?」

由子「誰から公表する事になろうと、結果は同じなのよー」

漫 「運命とか 全 く 関 係 無 い ですやん!」

絹恵「ふふっ、代行はホンマおもろい人やなぁ」

恭子「……」


恭子(胸がざわめく……なんやろ……この嫌な感じ……)ザワ…ザワ…


郁乃「異世界の皆さ~ん、ほなよろしく頼むで~ノ」フリフリ

そう言いながら、郁乃はモニターに向かって笑顔で手を振った。


洋榎「代行、テレビに向かって何やってんねん……」

【選択結果(紙の内容)の発表順】
名前を書いた紙を、公表する順番を決めます。

1P→
2P→
3P→

矢印の横に、それぞれ1名ずつ名前を書いてください。(姫松レギュラー限定)
皆様が書いてくれた結果を集計し、Pの多い者から、紙の公表を行います。
3名の名前が書かれていない場合、その安価レスは無効となります。



【発表順の具体例】
洋榎 10P
恭子 20P
絹恵 30P
漫   40P
由子 50P

集計結果がこの様な場合、発表順は、由子→漫→絹恵→恭子→洋榎となります。



【レスの形式】

========
【安価:発表順】
1P→
2P→
3P→
========

この様な感じでお願いします。
〝=〟は無くても構いません。
全て全角大文字でお願いします。

【安価:発表順】←この部分を文字検索し、安価レスの集計を行います。
この文字検索に引っ掛からない安価レスは、全て無効となります。



【安価レスの具体例】

========
【安価:発表順】
1P→漫
2P→絹恵
3P→由子
========

この場合、漫は1P、絹恵は2P、由子は3Pをそれぞれ獲得します。
名前でも苗字でも、ひらがなでも漢字でも、誰だか分かれば問題ありません。



【安価の〆切り時間】
未定です。



※このSSでは、〝安価〟という言葉に、コンマや多数決等の意味も含まれます。
 書き分けるのが面倒なので、それらは全て〝安価〟で統一させて貰います。

1P→由子
2P→絹恵
3P→恭子

んじゃ
【安価:発表順】
1P→由子
2P→洋榎
3P→漫

【安価:発表順】
1P→ 漫
2P→ 洋榎
3P→ 絹恵

こんな感じでいいかな?

【安価:発表順】
1P→漫
2P→由子
3P→末原

【安価:発表順】
1P→ 漫
2P→ 洋榎
3P→ 末原


>>29>>30>>31>>32
ありがとうございます、そんな感じです。


>>28
【安価:発表順】←今回は、これを文字検索して安価レスを探すので、
この部分が無いと、集計する時に漏れてしまい、無効になってしまいます。

ですが、今日はこの安価レスも集計に加えますので、ご安心ください。

【中間報告】
>>32までの集計結果

恭子 9P
漫   6P
洋榎 6P
絹恵 5P
由子 4P


現時点の場合、この様な感じで、上から順番に紙の公表が行われます。

想定していなかったのですが、ポイントが同数の場合は、
初期値が多い者から先に発表していきたいと思います。


今日の更新はこれで終わります。
書き溜めはここまでなので、これから書き込むスピードが落ちます。
安価レスは、暫くの間、このまま募集を続けようと思います。

【安価:発表順】
1P→恭子
2P→絹恵
3P→由子

【安価:発表順】
1P→洋榎
2P→漫
3P→由子

【安価:発表順】を〆切ります。
皆様、ご協力ありがとうございました。


【最終結果報告】

>>37まで集計
有効安価 8
無効安価 0


由子 12P
漫   11P
恭子 10P
洋榎  8P
絹恵  7P


【発表順】
由子→漫→恭子→洋榎→絹恵

すみません、〆切り宣言前なので、>>38も有効になります。


【最終結果報告】

>>38まで集計
有効安価 9
無効安価 0

由子 15P
漫   13P
恭子 10P
洋榎  9P
絹恵  7P


【発表順】
由子→漫→恭子→洋榎→絹恵


これからは、〆切り宣言をした後、結果を集計するようにします。

郁乃「……」

洋榎「……」

恭子「……」

由子「……」

絹恵「……」


漫 「……何も起こりませんね」

郁乃「あっれぇ~? おっかし~な~」


いつまで経っても、画面に変化が起きない。
部員達の冷ややかな視線が郁乃に突き刺さる。

痺れを切らし、郁乃はモニターを叩き始めた。

郁乃「ほれほれ~、はよせんか~い!」バシバシ

漫 「代行、テレビが壊れますって!」


その時、一瞬、モニターにノイズの様な物が生じた。
画面が暗くなり、新しい映像へと切り替わってゆく。


郁乃「おっ? きたきた、来たで~!」


===========
【選択結果の公表順】
洋榎 0P
恭子 0P
由子 0P
絹恵 0P
漫   0P
===========

顔写真は先程より縮小されており、
全員のPが〝0〟と表示されている。


次の瞬間、物凄い速さで、各人のPが急上昇を始めた。
同時に、Pの右にバーが現れ、Pに比例して長く伸びてゆく。


洋榎「うわわ、いきなりPが増え始めたで~!?」

由子「私のPの伸びが、一番速いのよー」

絹恵「私のはあんまり伸びませんね……」

漫 「代行が裏でこっそり操作してるんちゃいます?」

郁乃「してへんしてへん! 濡れ衣は勘弁やで~;;」


洋榎「んん……? うちのも全然伸びん……。どういう事や……っ!?」

漫 「ん~、愛宕姉妹は伸びが悪いですねぇ」

由子「トップ争いは、私と漫ちゃんなのよー♪」


洋榎「むむむっ……!」

絹恵「まぁまぁ……」

恭子「……これが〝異世界の者達〟の意思って奴ですか?」

郁乃「せやで~」

郁乃「より早く紙の内容を知りたい子に、Pを入れてってお願いしたんや~」


絹恵「それはつまり、Pが多い者から順に、公表していくと言う事ですか?」

郁乃「せやせや」


漫 「要は、うちと真瀬先輩に対する期待が大きいと……」

郁乃「かもしれんな~」


洋榎「異世界人は、うちに興味無いっちゅう事か? そんなん納得いかんでぇ!」

漫 「主将、納得できんでも、素直に受け入れるしかありませんて……」ニヤニヤ

洋榎「ぐぬぬっ……!」



恭子「あ、Pの増加が止まりましたよ?」

=======================
【選択結果の公表順】
由子 150P―――――――――――――――
漫   130P―――――――――――――
恭子 100P――――――――――
洋榎  90P―――――――――
絹恵  70P―――――――
=======================


由子「わーい! 私がトップなのよ~!」ピョンピョン

洋榎「うちが4位……なんでや……」ガックリ

漫 「にゃふふっ! いやぁ、人気者は辛いですわ~」

洋榎「うぅ……反論できへん……。こんな屈辱、初めてや……」

絹恵(私、何か悪い事したんかな……)ションボリ


郁乃「発表の順番は~、真瀬ちゃん、漫ちゃん、末原ちゃん……」

郁乃「洋榎ちゃん、最後に絹恵ちゃん。こんな感じで決定やで~」


洋榎「……もう勝手にしてくれや」

由子「洋榎がいじけちゃったのよー……」

漫 「不人気さんはほっといて、はよ次行きましょうよ」

絹恵「…………」ズーン...


郁乃「それじゃあ、真瀬ちゃんの選択結果を公表するで~!」

由子「どんと来ーい! なのよ~♪」

【安価についての告知】

真瀬由子の紙の内容は、安価によって決定されます。
安価レスの募集は、今日の19時辺りから開始する予定です。

詳しい安価方法については、安価レスを募集する際に明記します。
恐らく、コンマを使った方法になると思います。


===========
【安価:由子の選択】
1:
2:
3:
4:
===========
↑ここに、皆様の好きな様に名前を書いて貰って、
コンマの大きいレスを採用する感じになると思います。



===========
★初期値★
愛宕 洋榎 : 0P
末原 恭子 : 1P
真瀬 由子 : 3P
愛宕 絹恵 : 4P
上重 漫   : 5P
===========


【真瀬由子の紙の内容】
真瀬由子がどの様に名前を書いたかを決めます。


【最大コンマの安価レスを採用】
安価レスの中で、コンマが一番大きいレスを採用します。
ただし、最大コンマが同数だった場合、次の様になります。

レスA コンマ99
レスB コンマ99
レスC コンマ99

レスD コンマ76
レスE コンマ76

レスF コンマ50 ←採用

レスG コンマ23

同数コンマのレスは、全て無かったモノとし、
上記の様な場合には、レスFが採用されます。


【レスの形式】

===========
【安価:由子の選択】
1:
2:
3:
4:
===========

↑に、真瀬由子以外の名前を、上から順番に3名か4名書いてください。
苗字でも名前でも渾名でも、誰か分かるなら、どう書いても構いません。

〝=〟の部分は無くても構いません。
全て全角大文字でお願いします。

【安価:由子の選択】←この部分を文字検索し、安価レスを探します。
この文字検索に引っ掛からない安価レスは、無効となる可能性があります。


【安価レスの具体例】

===========
【安価:由子の選択】
1:洋榎
2:絹恵
3:恭子
4:漫
===========

この場合、洋榎は1P、絹恵は2P、恭子は3P、漫は5Pを獲得します。
また、4人目を書いているので、由子には2Pのペナルティーが与えられます。


【現在の累計ポイント】

===========
★初期値★
愛宕 洋榎 : 0P
末原 恭子 : 1P
真瀬 由子 : 3P
愛宕 絹恵 : 4P
上重 漫   : 5P
===========


【安価の〆切り時間】
20時辺りで〆切る予定です。〆切り宣言後の安価レスは無効です。
有効安価レスが3つ未満の場合、時間を延長する可能性があります。

最後の安価レスから最低5分間は、飛び込みの安価レスを待つ為に〆ません。
それによって、〆切りの時間が、少しずつ延長される可能性があります。
余りにも長くなってしまった場合は、>>1の判断で、適当な所で〆切ります。

【安価:由子の選択】
1:漫
2:絹
3:愛宕姉
4:末原

【安価:由子の選択】を〆切ります。

皆様、ご協力ありがとうございました。
安価レスの最終確認をしますので、少々お待ちください。

【安価:由子の選択】【最終結果】

>>48
コンマ91

1:漫
2:絹
3:愛宕姉
4:末原

由子の紙の内容は、>>48に決定しました。

モニターに、再び5人の初期値が表示された。

由子(私の初期値は3P……。最下位の漫ちゃんとは、たったの2P差……)

由子(恭子や洋榎とは違って、安心できる数値ではないのよー……)

由子(痛いお仕置きなんて嫌やし、ここは漫ちゃんに犠牲になって貰うのよー!)


郁乃「これが真瀬ちゃんの選択結果やで~」


==========

1:漫    +1
2:絹    +2
3:愛宕姉 +3

4:末原  +5
==========


由子「……えっ!?」

洋榎「なるほど……そう来たか……」

恭子「4人目……。自分を犠牲にして、うちと主将を狙い撃ちですね……」

恭子(ていうか、何でうちの事、苗字呼びなんやろ……)


郁乃「2年生組にとっては、ありがたい助け舟やね~」

絹恵「これで、最下位脱出の希望が見えましたわ」

漫 「ありがとうございます、ありがとうございます~!」


由子(違う……。これ、私が書いた内容とは全然違うのよー!?)


郁乃「累計ポイントは、こんな感じになったで~」


===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 : 3P
真瀬 由子 : 5P
末原 恭子 : 6P
愛宕 絹恵 : 6P
上重 漫   : 6P
===========

郁乃「モニターには、常に最新の累計ポイントが表示されるんやで~」


恭子「3人が6Pで同率最下位ですか……」

絹恵「場がかなり平らになりましたね」

洋榎「はははっ、うち以外は全員、棺桶に片足突っ込んだ状態やなっ!」

漫 「主将だって3P増えてますよ? 余裕かましてたら、足元掬われますって」


由子「ちょっと……ちょっと待って……」

洋榎「ん? ゆーこ、どないしたんや?」

由子「これ……」


   
ゆらっ……



洋榎「っ!?」ゾクッ

漫 「っ!!」ゾクッ


恭子「どないしたんです、主将?」

洋榎「恭子! 今、何か感じんかったか!?」

恭子「……? いえ、何も……」


漫 「うっ……」クラッ

絹恵「漫ちゃん……? 大丈夫……?」

漫 「……あ、うん、平気……」

漫 (なんやろ、今の変な感じ……。立ち眩み……?)


洋榎「……」

洋榎(まるで、空間が捻じ曲げられた様な、気持ち悪い感覚……)

洋榎(恭子は全く感じていない様やな……。うちの気の所為やろか……?)


由子「…………」

洋榎「……おい、ゆーこ、大丈夫か?」

由子は口を開けたまま、茫然と空を眺めている。

洋榎「ゆーこ!」

洋榎は由子の肩を掴んで荒々しく揺さ振った。


由子「はっ! ごめんごめん、ちょっと気が抜けて、ぼーっとしてたのよー」


郁乃「真瀬ちゃん、自分の選択に、何かコメントしてや~」


由子「せやね~……」


由子「恭子と洋榎は絶対安全圏にいるっぽかったから、
   取り敢えず、その幻想をぶち壊してあげたのよ~」

漫 「主将も末原先輩も、最下位を他人事みたいに思ってそうですしね」

由子「2人だけ安心安全なんて、そんなアンフェアは絶対に許さないのよー」


絹恵「でも、真瀬先輩にも2Pのペナルティが入ってますよね……」

恭子「その初期値で2Pのペナルティは痛過ぎちゃうやろか……?」

由子「大阪人なら、派手にキメなきゃ駄目なのよー!」

洋榎「分かる! その気持ち分かるで~、ゆーこ!」


郁乃「真瀬ちゃんのお陰で、先行きが全く分からんわ~」ワクワク

洋榎「ゲーム的には、おもろなって来たんちゃうんか?」

郁乃「せやな~」



郁乃「ま、これはゲームちゃうんやけどな……」

郁乃の小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

郁乃「次は~、漫ちゃんの紙の中身を公表するで~」


洋榎「最下位の漫はどう書いたんやろな~」ワクワク

漫 「あの~、言っときますけど~、もう単独最下位やないんで~」

恭子(最下位である事には変わらんやろ……)


洋榎「漫、詰まらん内容だったら許さへんで~?」

漫 「はぁ? うちがどう書こうが、主将には関係無いですやん!」


由子「どうなるか楽しみなのよー♪」ワクワク

洋榎「盛大に自爆してたらおもろいんやけどな~」

漫 「縁起でも無い事、言わんでくださいよっ!」

恭子「確かに、少し期待してしまいますね」

漫 「えぇっ!? 末原先輩まで!?」

絹恵(正直、私もちょっと楽しみやわ~)ワクワク


郁乃「みんな~静粛にしてや~」

郁乃「これが漫ちゃんの選択結果やで~」

【上重漫の紙の内容】
上重漫がどの様に名前を書いたかを決めます。

基本的なルールは、>>47と同じですので、そちらを参照してください。


【レスの形式】

===========
【安価:漫の選択】
1:
2:
3:
4:
===========


【現在の累計ポイント】

===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 : 3P
真瀬 由子 : 5P
末原 恭子 : 6P
愛宕 絹恵 : 6P
上重 漫   : 6P
===========


【安価の〆切り時間】
未定です。


>>1からのお知らせ】
今日の更新はここまでです。
明日は忙しいので、更新できるか分かりません。
その為、安価募集時間が長くなるかもしれません。

黒服「日跨ぎの件、了解しました」


【安価:漫の選択】の安価募集は、本日の23時59分59秒99で〆切ります。

【安価:漫の選択】
1: 由子
2: 絹恵
3: 洋榎

【安価:漫の選択】を〆切ります。

>>70
コンマ90

1: 由子
2: 絹恵
3: 洋榎


漫の紙の内容は>>70に決定しました

00は100じゃなくて0扱いか、把握

計算・数え間違いがあるかもしれませんが……。


【真瀬由子編】
有効安価数 5

【その時点での各自のP】
洋0 恭1 由3 絹4 漫5

【総獲得P】 
漫14 絹13 恭11 洋7 由6 

【平均獲得P】
漫2.8 絹2.6 恭2.2 洋1.4 由1.2

【実際の獲得P】
漫1 絹2 恭5 洋3 由2



【上重漫編】
有効安価数 9

【その時点での各自のP】
洋3 由5 恭6 絹6 漫6

【総獲得P】
洋21 由18 絹14 恭6 漫2

【平均獲得P】
洋2.33 由2 絹1.55 恭0.66 漫0.22

【実際の獲得P】
洋3 由1 絹2 恭0 漫0



※総獲得P……全ての有効安価レスのPの合計



>>72
00は0扱いとなります。
先に説明しなくてすみませんでした。

郁乃「はい、どーん!」

郁乃の掛け声と共に、漫の選択結果が画面に浮かび上がる。


=========
1:由子 +1
2:絹恵 +2
3:洋榎 +3
4:
=========


郁乃「累計ポイントはこうなったで~」


===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 : 6P
真瀬 由子 : 6P
末原 恭子 : 6P
上重 漫   : 6P
愛宕 絹恵 : 8P
===========


漫 「よっしゃぁ! 主将と並んだわ~!」

洋榎「むっ! やってくれるやないか、漫!」

由子「4人が6Pで並んだのよ~」

恭子「ゆーこと漫ちゃんの開票でこんなんなるとは、想定外ですわ……」


絹恵「私が単独最下位や……」ションボリ

漫 「絹ちゃんは、うちが主将達にイジメられてるんを、
   止めもせんで見殺しにしたんやから、そのお返しやで!」

絹恵「え~、そりゃないで~、漫ちゃん……」

絹恵「私がお姉ちゃんを止められるワケ無いやろ~……」

洋榎「漫~、絹を倒した位で、調子に乗ったらあかんで?」

漫 「あ、うちと〝同率1位〟の主将じゃあないですか」

洋榎「……言っとくけどな、うちはまだ自分の投票結果を温存してるんやで?」

漫 「わ、分かってますよ、そんなん……」

洋榎「同じ1位でも、うちと漫じゃあ格が違うんや、格がぁ!」

漫 「ぐぬぬっ……!」

絹恵(私の投票結果も、まだ公開してへんのに……)


由子「私と漫ちゃんの用紙は既に公表されているから、
   未公表の洋榎や恭子より断然不利なのよー……」

漫 「諦めたらそこで試合終了ですよ、真瀬先輩!」

漫 「一緒に最後まで闘い抜きましょうよ!」

洋榎「うちは逃げたりせえへん! 誰の挑戦でも受けて立つでー!」


恭子(実際の所、漫ちゃんより洋榎の方が相当有利なんやけどなぁ……)

恭子(自身と妹の絹ちゃんの結果発表を残しとるから、守りは磐石やし……)

恭子(……うちも他人の事を気にしてる余裕は無いんやけどな)


洋榎「ところで代行、これって、紙の中身がそのまんま表示されてるんやろ?」

郁乃「一言一句に至るまで、紙に書かれた通りの筈やで~」


洋榎「おい漫、先輩を呼び捨てにするとは、ええ度胸しとるやん、なぁ?」

漫 「だ、だってぇ~、紙が公開されるなんて、知りませんでしたもん……」

洋榎「逆に、隠れた所でそうゆう態度を取られる事の方が腹立つわ~!」

漫 「ひえぇぇぇぇぇぇっ!」


郁乃「……」ニコニコ

漫 「そ、そんな事より、さっさと次の発表に行きましょうよ!」

郁乃「せやな~」

恭子「次はうちの番ですか……」


洋榎「ふむ……。恭子の紙の内容も、非常に興味深いでぇ……」

恭子「そないに期待されても困りますよ……」


由子「せやけど、恭子の発表順は、5人中3番目……」

由子「このゲームの結末も、ある程度、見えてくるんやない?」

恭子「それはどうやろ……。Pは全員僅差やしなぁ……」

恭子「最下位の確定は、最後の最後まで縺れ込みそうな気がするわ……」


絹恵(末原先輩の結果が公表されれば、残りはお姉ちゃんだけ……)

絹恵(私の発表順は最後やけど、自分の紙の中身は知っとるからな……)

絹恵(ここさえ何とか乗り切れれば、最下位からの脱出も可能やで……っ!)


漫 (まだ主将の発表もされてへんし、うちは崖っ縁に立たされたままや……)

漫 (ここで末原先輩に見捨てられたら、今度こそ絶体絶命の危機やん!)

漫 (神様、仏様、末原様~、ホンマ頼んます……)グググググッ

漫 「ぎにゃああぁぁぁあああぁぁぁぁっっっっッッッ!!!!」ゴゴゴゴゴッ


洋榎「なんちゅう気迫でお祈りしとるんやコイツは……」oh...

由子「漫ちゃん必死過ぎなのよー……」


漫 「最下位は嫌だ最下位は嫌だ最下位は嫌だ……」オイノリノポーズ


洋榎「どんだけびびってんねん……」ヤレヤレヤナ...

由子「そっとしておくのよー」アワレミノメ


郁乃「ほな、末原ちゃんの選択結果を発表するで~」

恭子「……どうぞ」


洋榎「ワクワクするなぁ~」キラキラ


恭子「……」

恭子(洋榎のあの視線、凄いプレッシャーを感じるわ……。胃が痛い……)キリキリ


由子「恭子は地味に手堅く攻めて来ると思うのよー」

絹恵「麻雀でも堅実な打ち筋してますもんね」



漫 「頼んます頼んます頼んます頼んます頼んます……」スエハラサマァー!

【末原恭子の紙の内容】
末原恭子がどの様に名前を書いたかを決めます。

基本的なルールは、>>47と同じですので、そちらを参照してください。


【レスの形式】

===========
【安価:恭子の選択】
1:
2:
3:
4:
===========


【現在の累計ポイント】

===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 : 6P
真瀬 由子 : 6P
末原 恭子 : 6P
上重 漫   : 6P
愛宕 絹恵 : 8P
===========


【安価の〆切り時間】
未定ですが、募集時間は長めになりそうです。




【安価:恭子の選択】
1:漫
2:絹
3:洋榎

【安価:恭子の選択】を〆切ります。

>>83
コンマ97

1:漫
2:絹
3:洋榎


恭子の紙の内容は>>83に決定しました。

【末原恭子編】
有効安価数 8

【その時点での各自のP】
洋6 由6 恭6 漫6 絹8

【総獲得P】
由18 漫15 洋11 絹9 恭2

【平均獲得P】
由2.25 漫1.875 洋1.375 絹1.125 恭0.25

【実際の獲得P】
由0 漫1 洋3 絹2 恭0

恭子(うちは、皆の驚きや笑いを取りに行く様な真似はせえへん……)

恭子(代行の真意が分からん以上、ここは慎重に行動すべきや……)


赤坂郁乃……。

姫松高校麻雀部の監督がとある病に倒れ、
入院した翌日に代行としてやってきた人物。

彼女の経歴については、一切不明であるが、
多くのプロ雀士や、麻雀協会の重役と繋がりを持つ。

そのコネを利用して、姫松高校に赴任して来たとも言われている。


郁乃が姫松に来てから、麻雀部には沢山のプロ達が出入りする様になった。
テレビで話題の人気雀士から、表には出ないが実力のある訳有り雀士まで……。

その交友関係の広さから、大物が後ろ盾にいるとも囁かれ、
校長ですら逆らう事ができず、姫松で絶対的権力を手にしていた。


〝姫松高校の影の支配者〟


その力が本物である事を裏付けるエピソードは多々ある。

自由奔放な性格から、郁乃はこれまで数々のトラブルを起こしてきた。
ちょっとしたいざこざから、警察沙汰に至るまで、多種多様である。

しかし、それらの問題が表面化する事は一度として無かった。
まるで、巨大な組織が事件を揉み消し、隠蔽しているかの様に。


郁乃の横暴な振る舞いに、真っ向から異を唱える者達もいた。
だが、その者達は皆、事件や事故に巻き込まれ、命を落としている。

事情聴取の為に、警察が姫松高校の麻雀部を訪れた事もあった。
周囲の様々な証言から、郁乃を容疑者として疑っていたのだろう。

しつこく食い下がる警察に、
郁乃は厭らしい笑みを浮かべながら、
部員達の目の前で彼等に言い放った。


郁乃『証拠、無いやろ……?』

その破天荒さから、生徒達の間では、絶大な人気を誇っている郁乃。
けれども、彼女の不真面目さや無責任さを、不快に思う生徒達もいた。

末原恭子もその1人である。

恭子は、現在入院中の麻雀部監督である善野と仲が良い事もあり、
善野の不幸をキッカケにしてやって来た郁乃に対し、反感を抱いていた。

逆恨みと言えなくも無いが、度が過ぎたおふざけをする郁乃にも非はある。


恭子『善野監督が帰ってくるまで、うちが麻雀部を守る……っ!』


そんな思いもあり、恭子は郁乃と対立する事が多かった。
郁乃自身は、何故か恭子の事を気に入っている様なのだが……。


好きな子に悪戯をする小学生の様に、しょっちゅう恭子に絡んで来る郁乃。

始めは不機嫌な様子であしらっていた恭子だったが、
能天気で悪意などは感じられない事から次第に慣れ、
郁乃に対する嫌悪感や不信感は徐々に薄まっていった。

また、恭子が呈する苦言には、郁乃も素直に従う事が多い。


郁乃『だってぇ~、好きな子には逆らえんし~……』

恭子『はぁ!? 冗談も大概にしてくださいよっ!』

郁乃『え~っ?;;』

恭子(代行なら、このふざけたお遊びで代表を決める可能性も十分有り得る……)

恭子(それならうちは、初期値と同じく、過去の総合成績でP配分をするまでや)


恭子(赤坂代行、貴女が凄い人物やという事は、うちにも理解できます……)

恭子(せやけど、善野監督が作り上げた姫松麻雀部を玩具にはさせへんで!)


郁乃「これが末原ちゃんの選択結果やで~」


恭子(詰まらん選択で悪かったな、洋榎っ!)



ゆらっ……



洋榎(うぐっ……またやっ……何ぞこれ……っ!?)

洋榎(空間が……揺らいで……世界が……歪む……っ!)

ぐらつきながらも、洋榎は何とかその場に踏み止まった。


漫 (はぅぁ……っ!?)ビビクン

漫 (この感覚……真瀬先輩の紙が公開された時と同じ奴や……っ!)

漫 (あの時、うちへのPが一番少なかった……。だとしたら、次も……!?)

漫 (……間違いあらへん。これは、神の啓示や……!)


漫 (きたきたきたぁっ! うちに神風が吹いて来たでぇ~っ!)ゴゴゴゴゴッ

ゆらっ……

=========
1:由子
2:絹恵
3:漫
4:
=========

=========
1:由≡
2:絹恵
3:≡
4:
=========

=========
1:≡≡
2:絹恵
3:≡≡
4:
=========

=========
1:≡≡
2:絹恵
3:≡榎
4:
=========

=========
1:漫≡
2:絹恵
3:≡榎
4:
=========

=========
1:漫
2:絹恵
3:洋榎
4:
=========


ゴゴゴゴゴッ…………

郁乃「そぉ~れ、ど~ん!」


=========
1:漫  ..+1
2:絹恵 +2
3:洋榎 +3
4:
=========


漫 「っ!!」

洋榎「なんやとっ!?」

由子「あらあら?」

絹恵「はぅぅ……っ」


恭子「…………」


郁乃「累計ポイントはこうや~!」


===========
★累計ポイント数★
真瀬 由子 : 6P
末原 恭子 : 6P
上重 漫   : 7P
愛宕 洋榎 : 9P
愛宕 絹恵 :10P
===========

漫 「っしゃぁ! いよっしゃぁ!! やったでぇぇぇっっっっっ!!!」

大きくガッツポーズをしながら、漫が勝利の雄叫びを上げた。

漫 (現在最下位の絹ちゃんに2P、憎っくき主将には怒涛の3P!)

漫 (1P受けてもうたけど、これなら上出来やろっ!)


絹恵(ここに来て2Pの加算……。不味い……これ不味いわぁ……)

絹恵(お姉ちゃんの行動は、完全に予測不可能やし……)

絹恵(みんなの意表を突く為に、妹の私が〝直撃〟される事態も有り得るで……)

横目で洋榎を盗み見ながら、絹恵は小さく溜め息を吐いた。


由子「う~ん、これはトップ狙いと言う事なのかしら……?」

由子「恭子なら、最下位回避を優先すると思ったのだけれど……」

由子(でもそれだと、私が最初に与えた5Pが致命的なのよー♪)

したり顔の由子は口に手を当てて、クスクスと押し殺した笑い声を上げた。


洋榎「………………」

洋榎「まさか恭子から3Pも喰らうとはなぁ……」

洋榎「見た目は地味やけど、これはこれでおもろいで~」


郁乃「末原ちゃ~ん、解説よろしく~」


恭子「…………」

恭子「……うちは、代行がどこまで本気なのか、試してみたかったんですよ」

郁乃「んん? どゆこと~???」


恭子「姫松のレギュラーから、主将を外すという選択肢……」

恭子「戦力的に考えれば、絶対にありえへんでしょう?」

郁乃「ん~、せやね~」

郁乃「洋榎ちゃん並の力を持った子は、姫松には他におらんしなぁ……」


由子「レギュラーメンバー達の目の前で、ハッキリ言ってくれるのよー……」

漫 「悔しいですけど、主将の実力は認めざるを得ないですからねぇ……」


恭子「けど、このゲームで最下位になったら、主将は降格させられる……」

恭子「そんな事が、本当に起こり得るのか、この目で確かめてみたいんですわ」


郁乃「ふぅ~む、なるほど、なるほど、なるほど~」

郁乃「末原ちゃんは、ホンマに疑り深いなぁ~」

郁乃「真瀬ちゃんが質問してきた時に、ちゃんと答えたやろ~?」


郁乃「洋榎ちゃんでも落ちる、〝ルールは絶対〟やって……」ゴゴゴゴゴッ

郁乃「少しは私の言う事を信じて~な~」

恭子「代行は、今まで人から信用される様な事をしてきたつもりなんですか?」

郁乃「……う~ん、そう言われると辛いわ~」


洋榎「……恭子の言いたい事は分かった」

洋榎「要するに、うちをレギュラーから叩き落とすつもりなんやな?」

恭子「まぁ、端的に言えばそうなりますね……」

洋榎「そうか……」


洋榎「だったら恭子、お前、ちょっと考えが甘いんちゃう……?」


不敵な笑みを浮かべ、洋榎は恭子に視線を向けて言った。


恭子「……どういう意味です?」

洋榎「うちの初期値は〝0〟だったんやで?」

洋榎「もし、本気でうちの事をどんけつにしたいんなら、
   〝4人目〟に名前を書く位の度胸見せなあかんやろ」


恭子「……」


洋榎「けど、慎重なお前は、その〝4人目〟を使わんかった……。
   2Pのペナルティーを恐れ、手を出す事ができなかったんや!」


恭子「…………っ!」

恭子「……確かに、主将の言う通りですわ」

恭子「〝4人目〟を書けば、自身はPで相対的に損をしますからね」


由子「恭子らしい、合理的な考え方なのよー」

洋榎「恭子らしいと言えば、もう1つ……」


洋榎「漫に1P、絹に2P入れた所やな……」

漫 「へっ? それのどこが末原先輩っぽいんです?」

絹恵「最下位回避の〝保険〟を掛けるなら、漫ちゃんに2P入れるやろ、普通」

洋榎「せや。けど恭子は、漫より絹に1P多く入れた……」

由子「〝リスクの分散〟やね」

洋榎「それも一理ある。けどな、うちが言いたい事はそれとちゃうねん」

由子「……?」


洋榎「うちを最下位にする為には、漫を4位に引き上げなあかん」

洋榎「その場合、本来ならこの初期値から見て、
   絹に1P、ゆーこに2Pを入れるべきやった」


洋榎「せやけど、恭子はどうしても確保しておきたかったんや……」


洋榎「自分の安全を確実に保障する為の〝安牌〟をな……」


洋榎「漫を最下位にしたまったら、恭子の目的は達成できへん。
   それでも、自分の優位を確保する為にPを入れておきたい」

洋榎「矛盾する2つの事象が合わさって、導き出された答えがこれや」


由子「漫ちゃんへの〝1P〟……」

絹恵「私への2Pは、初期値と合算したら、漫ちゃんと同じになるから……?」

洋榎「そうや。それがゆーこの言う、〝リスクの分散〟の部分やで」


恭子「ふふっ……。流石は主将、うちの考えは全てお見通しですか……」

洋榎「長い付き合いやからな。これくらい当然やろ……」


洋榎「けどな、恭子……」

洋榎「そないに中途半端な心構えで、うちを倒せると本気で思ってたんか?」

恭子「……っ!」ゾクッ


洋榎「一つの物事を貫き通すには、それ相応の覚悟が必要なんやで……」

洋榎「それと同時に、大阪人なら、劇的な展開も演出せなあかん……」

洋榎「物語を、より扇情的に、より感動的にする為にな……」


洋榎「お前らに見せたるわ……。〝愛宕洋榎〟の真髄を……っ!」ゴゴゴゴゴッ

>>101
訂正

洋榎のセリフ

したまったら→してまったら

洋榎「代行っ!」

郁乃「はいは~い、ほな、洋榎ちゃんの選択結果を発表するで~」

洋榎「おぅ! 愛宕姉妹の反撃開始や!」


漫 「……まるで絹ちゃんと共闘してるかの様な物言いですね」

由子「絹恵ちゃんは、洋榎と裏で手を結んでたりするのかしら~?」

絹恵「いえ、全然。」

漫 「それ聞いて安心したわ~。主将を背中からズドンと撃ったってや」

絹恵「あははっ!」


洋榎「ちょっ! 絹ぅ! うちにP入れてたりせーへんやろなぁ!?」オロオロ

絹恵「さぁ……? てか、お姉ちゃんこそ、私にP入れてたりするんやないの?」

洋榎「むぐぐっ……! そ、それは、公開してからのお楽しみやでっ!」


漫 「……逃げましたね」

由子「逃げたのよー……」

恭子「混沌としてきたなぁ……」

絹恵(やっぱり、お姉ちゃんは私にP入れてるんちゃうやろか……) 

漫 (にっしっしっ……。ここで絹ちゃんに大量のPが入れば、うちは安泰や!)

漫 (絹ちゃんには悪いんやけど、お仕置きなんて絶対に嫌やからな~)

漫 (主将が最下位になってくれれば、それが一番ハッピーなんやけど……)

漫 (……よし、主将が自滅するよう、怨みの念送っとこ!)グググググッ


漫 「ぬぐぐぐぐっ……」オイノリノポーズ

絹恵「漫ちゃん、何してんの……?」

洋榎「ほっとけ絹、アホが染るで」

由子「酷い言われ様なのよー……」

漫 「ふんぬっ! ふんぬっ! せいやぁっ!」グググググッ


郁乃「あはははっ、漫ちゃんは見てておもろいなぁ~」


由子(さってと……)

由子(洋榎次第で、絹恵ちゃんの発表を待たずに助かる人も出てくるのよー)

由子(取り敢えず3P差があれば、単独で最下位になる事は無いけれど……)

由子(同率最下位が発生したら、その時はどうなるのかしら……?)


絹恵(うぅ……。私にとっては、最後の1人が発表するんと同じやからなぁ……)

絹恵(これで全てが決まるんや……。お仕置きって何するんやろ……?)

絹恵(レギュラー落ちはともかく、罰ゲームは確実にやらされるんやろなぁ……)

絹恵(……あかんあかん、まだ結果は分からんのに、弱気になったらあかんで!)


恭子(このPやと、誰が最下位になってもおかしく無い……)

恭子(洋榎は一体、誰にPを入れたんやろか……?)

恭子(………………)

恭子(考えるだけ無駄やな……。洋榎の思考回路なんて、神様でも分からんわ)

恭子(数分後には明らかになる事やし、それまで大人しく待ちますか……)



洋榎「うおっしゃぁ! 奇跡のカーニバル、開幕やでっ!」

【愛宕洋榎の紙の内容】
愛宕洋榎がどの様に名前を書いたかを決めます。

>>47に加え、コンマに新たなルールが追加されます。


【新ルール】【コンマ合体】
同じ意見の安価レスは、コンマ同士が合算され、意見が通り易くなります。
ただし、合計コンマが99を超える場合には、コンマ合体はできません。


【具体例1(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ30
レスB コンマ20

この場合、30+20で、コンマの数値は50となります。
コンマの合計が99以下の場合は、3つでも4つでも合体できます。


【具体例2(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ60
レスB コンマ50

この場合、コンマ合体はできません。


【具体例3(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ60
レスB コンマ50
レスC コンマ30
レスD コンマ20

この場合、レスAとレスCが合体し、コンマは90となります。
コンマ合体は、コンマ99以下で、最も大きくなる様に計算されて適用されます。
それ以外の、同じ内容の安価は、もうコンマ合体をする事ができません。


【コンマ合体のデメリット】
コンマ合体した複数の安価レスは、1つの安価レスとして扱われます。
同数コンマで無効にされた場合、コンマ合体している全てのレスが無効になります。

コンマ合体は強制的に行われ、拒否する事ができません。
>>1が、コンマが最大になる様に、勝手に組み合わせを行います。
同じ数になる組み合わせが複数ある場合、小さいコンマを優先的に組み合わせます。


【レスの形式】

===========
【安価:洋榎の選択】
1:
2:
3:
4:
===========


【現在の累計ポイント】

===========
★累計ポイント数★
真瀬 由子 : 6P
末原 恭子 : 6P
上重 漫   : 7P
愛宕 洋榎 : 9P
愛宕 絹恵 :10P
===========


【安価の〆切り時間】
23時59分59秒99


>>1からのお知らせ】
今日の物語の更新はここまでになります。


※コンマ合体について質問のある方は遠慮なくどうぞ。

【安価:洋榎の選択】
1:絹
2:漫
3:末原
4:由子

【安価:洋榎の選択】
1:絹
2:恭子
3:由子
4:漫

【安価:洋榎の選択】
1:絹恵
2:由子
3:恭子
4:漫

【安価:洋榎の選択】
1:絹
2:漫
3:恭子
4:由子

これで>>106(61)と>>114(34)が足されて合計95ってことか

>>115
ご指摘ありがとうございます。どうやら、その様ですね。


それと、コンマ合体についての補足が1つあります。


【具体例4(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ90
レスB コンマ50
レスC コンマ30

レスBとレスCを足しても、コンマ90を超えないので、
この様な場合には、コンマ合体は発生しません。

【安価:洋榎の選択】
1:絹恵
2:由子
3:恭子
4:漫

【安価:洋榎の選択】
1:絹恵
2:由子
3:恭子
4:漫

>>112>>117>>118で安価合体が発生している様です。

>>112 コンマ24
>>117 コンマ11
>>118 コンマ84


今現在、>>117>>118のコンマが合体し、95となっております。

今現在、>>106>>114のコンマが合体して95となっております。


このまま変動が無い場合、>>117>>118>>106>>114の安価が無効化され、
>>111(コンマ84)が採用される事にされます。



※無効化された安価は、無かった物として扱われます。

【安価:洋榎の選択】
1:由子
2:恭子
3:漫

【安価:洋榎の選択】の安価募集は現在〆切られています。
(〆切りの書き込みが遅くなってすみません)


>>120
コンマ99

1:由子
2:恭子
3:漫


洋榎の紙の内容は>>120に決定しました。



【愛宕洋榎編】
有効安価数 12(同数コンマレスを含む)

【その時点での各自のP】
由6 恭6 漫7 洋9 絹10

【総獲得P】
漫45 恭34 由32 洋20 絹11

【平均獲得P】
漫3.75 恭2.83 由2.66 洋1.66 絹0.91

【実際の獲得P】
漫3 恭2 由1 洋0 絹0

郁乃「これが洋榎ちゃんの選択結果やで~」


=========
1:由子 +1
2:恭子 +2
3:漫  ..+3
4:
=========


郁乃「そんで~、累計ポイントはこうや~」


===========
★累計ポイント数★
真瀬 由子 : 7P
末原 恭子 : 8P
愛宕 洋榎 : 9P
愛宕 絹恵 :10P
上重 漫   :10P
===========


恭子「……」

由子「……」

漫 「……」

絹恵「……」


洋榎「どやった?」


恭子「普通ですね……」

由子「普通やね……」

絹 「普通やな……」

漫 「普通ですやん……」


洋榎「……」


郁乃「なんやろ……。無難と言うか、平凡過ぎて詰まらんP配分やな~……」

洋榎「ちょっと、代行! 何ゆうてんの!? 最高におもろいやろ?」

郁乃「う~ん……。洋榎ちゃん、取り敢えず解説頼むわ~……」

洋榎「よっしゃぁ!」


洋榎「まず、漫に基本最大値の3Pを与え、自分の安全を確保すると同時に、
   最愛の妹、絹が最下位にならん様、姉としての心遣いを見せとるやろ?」

絹恵「……あぁ、うん、そやね……。ありがとな、お姉ちゃん」


洋榎「次に、恭子に2Pを入れて、トップを維持しようとしてる訳や」

恭子「はぁ……。まぁ、分かりますけどね……」


由子「そんで、余りの1Pは絹恵ちゃんに入れられへんから、私に入れたと……」

洋榎「せや」


郁乃「……それで?」

洋榎「説明は以上やで!」


郁乃「……」

郁乃「…………」

郁乃「………………?」


郁乃「……で、それの何処がおもろいん?」


洋榎「みんな、よう考えてみてくれや」

洋榎「うちやぞ? 〝姫松の核弾頭〟と恐れられてる問題児のうちが、
   ド派手なパフォーマンスもせず、ごく普通に投票してるんやで?」

洋榎「そんなん、絶対にありえへんやん!」

洋榎「平凡で日和見的なうちの姿を想像してみいや。逆におもろいやろ?」


恭子「……」

由子「……」

漫 「……」

絹恵「……」

郁乃「……」



洋榎(……あれ? 何やこの空気……)

由子「確かに、意外性はあったけど、全然面白く無いのよー……」

漫 「こないな詰まらん演出をする為に、うちは3Pも与えられた訳ですか……」

漫 「正直、その事の方がショックですわ……」

絹恵(お姉ちゃんは、たまに狙い過ぎて大コケするからなぁ……)


由子「洋榎の投票結果について、もうこれ以上語る事なんて無いのよー」

恭子「せやね。無駄な事柄に、貴重な時間を費やしたくないですわ」


洋榎「……」


恭子「振り返ってみると、今の所ゆーこだけやね。4人目を書いたんは……」

漫 「あぁ、それはうちも予想外でした」

由子「4人目を書かないと、盛り上がらないと思ったのよー」


漫 「ですよねー。うちらは自らの保身に走ってもうて、
   真瀬先輩みたいに大胆な行動が取れませんでしたわ」

漫 「勇気のある英断ですよ。ホンマに尊敬します」

由子「うふふふふっ! もっと褒め称えるのよー♪」


洋榎「……」

絹恵「それにしても、最初のあの状況の中で、よく4人目を書けましたね……」

恭子「しかも、それでいて現在累計P第1位やしなぁ。素直に驚いたわ」

由子「ふふふっ、初期値がね、真ん中の3番目だった事が功を奏したのよー」

漫 「どうゆう事です?」


由子「最下位を回避しようとするんなら、4位や5位を狙うんが必然。
   トップ争いをするんなら、1位や2位を潰さなあかんやろ……?」

由子「中間にいた私は、大量Pの直撃を受ける的にはなり得ないのよー」

漫 「流石です真瀬先輩! そこまで計算尽くやったなんて!」


由子「お~ほっほっほっほ~なのよ~!」


恭子「それなりに、劇的な展開やったと言えなくもないわなぁ」

漫 「偉そうに大口を叩いておきながら、
   詰まらん中身を公開して恥を曝した、
   どこぞの誰かさんとは大違いやないですか!」

由子「格が違うのよー、格がー♪」



洋榎「…………」プルプルプル......

漫 「それはそうと、絹ちゃんはもう誰が最下位か分かってるんやろ?」

絹恵「え゛っ ? ま、まぁ……」

由子「未公表なんは、絹恵ちゃんの紙だけやもんね~」


漫 「……で、誰なん?」

絹恵「そ、それは……」


洋榎「ちょっと、待ちぃや!」


漫 「……何です? 姫松の不発弾は黙っててくださいよ」

洋榎「んぐぐっ……。不本意やけど、その暴言は甘んじて受けたるわ……」


洋榎「けどな、絹の口から結果を聞きだすんは許さへんでぇ!」

恭子「一応建前としては、代行が皆に発表するんが筋ですからね」


絹恵「ご、ごめんな、漫ちゃん。そういう事やから……」

漫 「ううん、うちの方こそごめんな。無理言ってもうて……」

由子「どうせ、すぐに分かる事なのよー」



絹恵(どないしよ……。こないな事になるなんて、想像もして無かったわ……)

絹恵(私は、先輩達に弄られ過ぎな漫ちゃんの事が可哀相になって、
   漫ちゃんが最下位にならん様に、真瀬先輩に3Pを入れた……)

絹恵(そんでもって、お姉ちゃんに1P、末原先輩には2Pを入れたんや……)

絹恵(でもこれやと、全員が10Pで同じになってまうやん……っ!)


絹恵(お姉ちゃんのあの割り振りが、こないな結果を招くやなんて……)

絹恵(どう転んでも、周囲の人間に多大な影響を及ぼすんやな……)

絹恵(お姉ちゃんは、生粋のトラブルメーカーやで……)


絹恵「……」


絹恵(んっ……? ちょいタンマ……)

絹恵(全員が同じ順位なら、お仕置きは無くなるんちゃう?)

絹恵(流石に、全員罰ゲームなんて事にはならんやろうし……)


絹恵(そもそも、全員が同じPって、奇跡的な出来事とちゃうやろか?)

絹恵(今回だけは、〝お姉ちゃん的奇行〟に救われたのかもしれへんな……)



恭子(さっきは調子に乗って洋榎をからかってもうたけど……)

恭子(この累計P……。よく見てみると、ど偉い事になってますわ……)


恭子(2人、3人、4人、5人……)


恭子(同率最下位の組み合わせパターンが、絹ちゃん次第で全て可能や……)

恭子(その原因を作ったんは、間違い無く、洋榎のあのP配分やろな……)


恭子(それぞれ、ルール的にどの様な扱いになるんかは、代行しか知らん……)

恭子(結局うちらは、代行と洋榎に振り回され続ける運命なんやろか……?)



郁乃「これが最後、絹恵ちゃんの選択結果を発表するで~」ゴゴゴゴゴッ......

【告知】【コンマのルールの改変】

今まで通り>>47>>105>>116が基本ルールとなりますが、
少しだけ、コンマのルールを改変させて頂きます。



【コンマ96~99の単独安価レスは無効】
コンマ合体をしていない安価レスの、コンマの最大値が95になります。
コンマが96~99の安価レスは無効です。(コンマ合体している場合を除く)

また、コンマ96~99の安価レスは、コンマ合体を行う事ができません。
コンマ合体をして96以上になった場合も、それ以上合体する事はできません。



【具体例5(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ95
レスB コンマ01
レスC コンマ02

この場合、レスAとレスCがコンマ合体し、コンマ97となります。
合計コンマが96を超えたので、これ以上は合体できません。



【具体例6(安価の内容は全て同じ物とします)】
レスA コンマ96
レスB コンマ80
レスC コンマ02

この場合、レスBとレスCがコンマ合体し、コンマ82となります。
レスAはコンマが96以上の為、コンマ合体もできず、無効になります。



【最大コンマが同数の場合の特殊事例】
意見A コンマ90 有効
意見A コンマ90 有効

同じ意見の場合、同数コンマでも無効になりません。

意見A コンマ90 無効
意見A コンマ90 無効
意見B コンマ90 無効

違う意見が同数コンマにある場合、そのコンマのレスは全て無効になります。



※改変されたコンマルールの質問等を受け付ける為、
 本編【絹恵の選択】の安価募集まで少々お待ちください。

※コンマ合体を故意に行うつもりが無ければ、
 このルールを知らなくても特に問題は無いと思います。

意見A1 コンマ60 
意見A2 コンマ30 
意見B1 コンマ80 
意見B2 コンマ10

意見C  コンマ80

この場合は最初の方でやった合成無しだと意見B1と意見Cが同値で相殺されて意見A1が有効になるけど、
前回からの合成ありだと意見Aの合計と意見Bの合計が相殺されるから意見Cが有効ってことになるの?

>>133
1:まず最初に、コンマ合体の判定が行われます。

2:その後、同数コンマの無効化判定が行われます。


【具体例】

意見A1 コンマ60 
意見A2 コンマ30 

意見B1 コンマ80 
意見B2 コンマ10

意見C  コンマ80


まず、コンマ合体の判定が行われます。


意見A12 コンマ90 無効

意見B12 コンマ90 無効

意見C   コンマ80 採用


次に、同数コンマの無効化が行われます。


意見A1A2と意見B1B2が無効となり、意見Cが採用となります。

【愛宕絹恵の紙の内容】
愛宕絹恵がどの様に名前を書いたかを決めます。


【レスの形式】

===========
【安価:絹恵の選択】
1:
2:
3:
4:
===========


【現在の累計ポイント】

===========
★累計ポイント数★
真瀬 由子 : 7P
末原 恭子 : 8P
愛宕 洋榎 : 9P
愛宕 絹恵 :10P
上重 漫   :10P
===========


【安価の〆切り時間】
未定です。
最長は23時59分59秒99です。
21時を超えたら、途中で募集を打ち切る可能性があります。

今日の更新は無理そうなので、引き続き安価を募集します。

【〆切りは、23時59分59秒にします。】

質問等には、すぐに答えられないかもしれません。
すみません。

【安価:絹恵の選択】
1:洋榎
2:恭子
3:由子
4:

【安価:絹恵の選択】は現在〆切られています。

>>146
コンマ95

1:洋榎
2:恭子
3:由子

絹恵の紙の内容は>>146に決定しました。



【愛宕絹恵編】
総安価数 10(無効レス含)

【その時点での各自のP】
由7 恭8 洋9 絹10 漫10

【総獲得P】
由35 恭24 漫21 洋15 絹14

【平均獲得P】
由3.5 恭2.4 漫2.1 洋1.5 絹1.4

【実際の獲得P】
由3 恭2 洋1 絹0 漫0



【5人の安価レスまとめ】
総安価数 44

【総獲得P】
由109 漫97 恭77 洋74 絹61

【平均獲得P】
由2.47 漫2.20 恭1.75 洋1.68 絹1.38

【×5】
由12.3 漫11.0 恭8.75 洋8.4 絹6.93

【期待値から計算した最終結果】
漫16 由15.3 絹10.93 恭9.75 洋榎8.4

【結論】
漫と由子は非常に運が良い様です。。。



※計算間違いがあるかもしれません……。

ゆらっ……

=========
1:愛宕洋榎
2:末原先輩
3:真瀬先輩
4:
=========

=========
1:≡宕洋榎
2:末≡先≡
3:真瀬≡輩
4:
=========

=========
1:≡≡洋榎
2:≡≡先≡
3:≡瀬≡≡
4:
=========

=========
1:≡洋≡榎
2:≡≡≡≡
3:≡≡≡≡
4:
=========

=========
1:洋榎≡≡
2:恭≡≡
3:≡子≡
4:
=========

=========
1:洋榎
2:恭子
3:由子
4:
=========

郁乃「運命を決める、絹恵ちゃんの選択結果はこれやっ!」


=========
1:洋榎 +1
2:恭子 +2
3:由子 +3
4:
=========


恭子(何でうちとゆーこを名前呼び?)

由子(……?)


郁乃「そんで~、累計ポイントの最終結果は~…………んっ?」


===========
★累計ポイント数★
愛宕 洋榎 :10P
末原 恭子 :10P
真瀬 由子 :10P
愛宕 絹恵 :10P
上重 漫   :10P
===========


郁乃「んん? あれれ……?」

郁乃「どうゆう事やこれ……?」

郁乃「全員のPが同じになってもうた……」


絹恵「何かすみません……」


恭子「まさか、こんな結果になるやなんて……」

由子「これは奇跡なのよー」

洋榎「うちのP配分のお陰やな! 実はこうなる様に計算してたんや!」

由子「それは嘘なのよー」

洋榎「ちっ……」

漫 「何にせよ、これならうちは罰ゲームを受けずに済みますよね!?」ヤッター


郁乃「ええ~……」

洋榎「ふははっ! いくら代行でも、流石にこれは想定外だったんやろ~?」

由子「何で洋榎が偉そうなのよー……」


郁乃「洋榎ちゃんの言う通り、こんなん考慮して無かったわ~……」


恭子「代行、実際この場合はどうなるんです?」

郁乃「ちょっと待って~、今確認するから~……」


そう言うと、郁乃は服の中から、1冊の黒いノートを取り出した。
ぶつぶつと何かを呟きながら、パラパラとページを捲ってゆく。


郁乃「う~ん……選出方法……ここかなぁ……ええっとぉ……この場合はぁ……」

郁乃「……」

郁乃「……ふむふむ、なるほど、なるほど~」


郁乃はノートをパタンと閉じ、再び服の中へそれを仕舞い込んだ。


郁乃「よしっ! みんな~! 分かったで~」


洋榎「……で、結局どうなるんや?」

由子「しっ! 静かにするのよー」


郁乃「それじゃあ、発表するで~」


ゆっくりと言葉を紡ぎ出す郁乃の口を、5人は息を呑みながら見守った。


郁乃「全員が同じポイントの場合はぁ……」


郁乃「神の指定した〝6人目〟が生贄を決めるんや!」

恭子「……はっ?」

由子「神様……?」

絹恵「6人目……?」


漫 「ちょっと代行! 生贄って何ですか、生贄って!」

洋榎「そらお前、罰ゲームを受ける奴の事やろ」

漫 「そんなん、分かっとります! ただ、言い方が物騒やないですか!」

洋榎「きゅふふっ! それだけきっつい〝お仕置き〟なんやろな~」

漫 「そんな風に言うの止めてくださいよ、マジで!」


絹恵「代行、その6人目って、貴女の事ですか?」

恭子「うちら以外でここに居るんは、代行だけですしね……」


郁乃「…………」


郁乃「……う~ん、私は司会やからなぁ……」

郁乃「ここまで来て、司会者がしゃしゃり出るんも、興醒めやしぃ……」


郁乃「……取り敢えず、神様んとこの携帯に電話してみるわ」ピポパッ


郁乃は自らの携帯を取り出し、どこかに電話を掛け始めた。


洋榎「神様の電話番号を知ってるんかいっ!」ビシッ

恭子「はははっ……。代行の交友関係は広いなぁ……」

漫 「いやいやいや……」

絹恵「神様も携帯を持ってるんやね……」

由子「自称神様なら沢山いるのよー」


郁乃「あ~、もしもし~? 私やけど~」

洋榎「代行は誰と話してるんや?」

恭子「さぁ……」


郁乃「今~、大変な事になっててぇ~」

??『あー、私達も見てたよ~☆ 面白い事になってるね~♪』

郁乃「それで~、この〝6人目〟の事なんやけど~」


??『それなら、適任がいるじゃない☆ その黒い箱の中にさぁ!』

郁乃「あ~、あの人な~。私も、それが一番良いと思ったんやねんけどなぁ……」

郁乃「残念ながらあの人、今、喋れる状態じゃ無いねん……」

??『そっかぁ……。それじゃあ、仕方無いね~☆』


漫 「あの人って誰の事ですか?」

由子「う~ん……」


??『そうなると、やっぱり、いくのん自身が決めるしか無いんじゃない?』

郁乃「えぇ~? そんなん、おもろないわ~」

郁乃「不確定要素があるからこそ、盛り上がるんやん……」


??『じゃあ、適当に阿弥陀でもやって決めるとか☆』

郁乃「そうやないねん! もうええわっ!」ブチッ


洋榎「あっ、何かキレとる……」

郁乃「もぉ~! 全っ然、分かっとらんやないかい!」プクゥーッ


恭子「……神様は何て言うてました?」

郁乃「阿弥陀がええんちゃうかって……」

絹恵「せめて、麻雀にしましょうよ……」


漫 「まぁまぁ、もういいじゃないですか……」

漫 「落ちる2人も、別に今すぐ決めなあかん訳やなし……」

洋榎「んじゃ、また改めて話し合うっちゅう事で……」


郁乃「だ~めだ~め! 今、ここで決めなあかんの!」


洋榎「うちらに、どないせぇっちゅうねん……」

恭子「別に阿弥陀でも構いませんよ、うちは。」

漫 (末原先輩、マジ切れしてますやん……)

絹恵(今日のお昼は、お姉ちゃんと一緒に、から揚げ定食にしよ)ポワワーン

由子(絹恵ちゃん、何か幸せそうな顔しとるなぁ……)


郁乃「んぐぐぐぐっ……」


郁乃(……んん? 待てよ~? ホンマにこの累計Pで合ってるんかな……?)

郁乃(いくら何でも、全員同じPって出来過ぎやろ……)

郁乃(これはちょっと、確認せなあかんな……)


郁乃は空を見上げ、右腕を高々と天に翳す様に突き上げる。
一瞬であったが、彼女の周りに、弧を描く様に突風が吹き荒れた。


洋榎「何や今のっ!?」

由子「ちょっと、みんな! あそこを見るのよー!」


郁乃の遥か頭上に、5枚の紙がひらひらと舞っている。
恐らくは、皆が名前を書かされたあの用紙なのだろう。


漫 「あの紙って、代行が投げ捨てた奴ですよね?」

洋榎「ずっと向こうの先まで、飛んでった筈やで……?」

絹恵「どんなトリックを使ったんやろ……」


5枚の紙は、郁乃の手元に滑り込む様に収まった。
何時に無く真剣な表情で、郁乃は用紙を見詰めている。


洋榎「なんや、全員同じPになった事が、そんなに気に喰わんのかいな……」


郁乃「……っ!」


郁乃(……どゆ事?)

===========
【由子の選択】
1:絹恵ちゃん
2:洋榎
3:漫ちゃん
4:
===========

===========
【漫の選択】
1:真瀬先輩
2:絹恵ちゃん
3:洋榎先輩
4:
===========

===========
【恭子の選択】
1:由子
2:絹恵
3:漫
4:
===========

===========
【洋榎の選択】
1:由子
2:恭子
3:漫
4:
===========

===========
【絹恵の選択】
1:愛宕洋榎
2:末原先輩
3:真瀬先輩
4:
===========

郁乃(モニターには、紙に書かれた中身が、そのまま表示される筈やろ!?)

郁乃(その通りに表示されたんは、洋榎ちゃんの用紙だけやん……っ!)

郁乃(真瀬ちゃんと末原ちゃんに至っては、内容自体が間違ってるで!?)

郁乃(けど、2人はその事に対して、何の疑問も持っとらん様やし……)

郁乃(一体全体、どないなっとんねん……???)

郁乃「……」

郁乃(この紙に書かれたままで計算すると……)


============
★紙の累計ポイント数★
末原 恭子 : 5P
愛宕 洋榎 : 6P
真瀬 由子 : 9P
愛宕 絹恵 : 9P
上重 漫   :14P
============


郁乃「……」


郁乃(……なるほど。そうか、そうか~。漸く私も理解したで~……)


郁乃(これが運命を捻じ曲げる、〝安価〟の力なんやな)

郁乃(私には気付かれん様、あの子達に干渉してたんか……)

郁乃(くっくっくっ……おもろいわぁ!)


郁乃「イーッヒッヒッヒーーー……ッ!」


突然、郁乃が奇妙な笑い声を上げると同時に、
持っていた紙が、真っ赤な火柱を上げ燃え始めた。


洋榎「ちょっ! 代行! 燃えとる燃えとる!」

恭子「大丈夫や主将。あの人、笑ってるやろ?」

由子「凄い手品なのよ~!」


郁乃(〝安価〟っておもろいなぁ……)

郁乃(せやけど、私を出し抜くなんて、少し生意気やないか……)


郁乃(さぁて、これからどないしよか……)


不気味な笑みを浮かべながら、洋榎達に視線を向ける郁乃。
5人が名を書いた紙は灰となり、空間に溶け込む様に消えていった。

【代行の選択】
赤阪郁乃が行う生贄選択の方法を、多数決で決めます。


【1:本来の紙の内容に従う】

各人のPは、【恭子5 洋榎6 由子9 絹恵9 漫14】です。
漫が1人目の生贄となり、2人目の生贄は恭子が選びます。


【2:コンマルーレット】

コンマにより、1人目の生贄が決定します。
確率は平等で無く、初期値が低い者ほど、助かる可能性が高くなります。

ルーレットは複数人で行う予定です。
出たコンマによって、その数字に対応する者が、1Pを受けます。
先着順で5人程を想定し、決着が付かなければ、さらに安価レスを募集します。

2人目の生贄選出をどうするかは、まだ不明です。

00~10 11% 洋榎
11~25 15% 恭子
26~45 20% 由子
46~70 25% 絹恵
71~99 29% 漫


【3:紙の発表順決めと同じ方法】

基本的なルールは>>27と同じです。
ポイントが一番高い者が、1人目の生贄となります。

2人目の生贄選出をどうするかは、まだ不明です。


【レスの形式】

===========
【安価:郁乃の選択】→
===========

右矢印の横に、1~3の数字を書いてください。
〝=〟の部分は必要ありません。

1:本来の紙の内容に従う
2:コンマルーレット
3:紙の発表順決めと同じ方法


【安価の〆切り時間】
未定ですが、質問や延長要請があれば、〆切時間は延長されます。


>>1からのお知らせ】
2人目の生贄選択は、物語の都合上、>>1の意思が介入する可能性があります。

今気が付いたのですが、【赤坂郁乃】ではなく、【赤阪郁乃】です。
過去、【赤坂】と何度か表記しましたが、脳内変換お願いします。
そして今後も、変換ミスの可能性があります……。


※質問があれば、お気軽にどうぞ。

【安価:郁乃の選択】→2

【安価:郁乃の選択】【途中経過】
>>174まで集計

1→0
2→3
3→5


接戦なら長めに時間を取るつもりでしたが、
3の選択肢が、頭1つ抜けて強そうなので、
安価〆切りを早めに切り上げようと思います。

今見たら、2に1票入ったので、僅差とも言えなく無いですが……。
今までの総安価数から考えると、2票差も大きそうなので良いかなと。


【安価〆切り時間】
19時

【安価:郁乃の選択】を〆切ります。

>>174まで有効

1→0
2→3
3→5


生贄の選出方法は、【3:紙の発表順決めと同じ方法】に決定しました。

郁乃(正直、これ以上の手間を掛けるんは、ちょっとしんどいなぁ……)

郁乃(もう私が、本来の紙の内容に従って、漫ちゃんを生贄に選んでも構わへん)

郁乃(せやけど、それだけじゃあ、バイオレンス感が物足りん……)


郁乃「……」


郁乃(あっ……、良い事、思い付いたわぁ……)


妖しい笑みを浮かべながら、郁乃は天を仰いだ。


郁乃(私は己の決断を、〝安価〟に任せるでぇ!)


郁乃(今、考えてる3つの方法の中から、1つを選んでみぃや!)


郁乃は心の中でそう強く念じた。

すると、急激に雲が厚くなって空が暗くなり、雷鳴が轟き始めた。



ゆらっ……



恭子「うわぁ……。これ、一雨来るんちゃう?」

由子「降水確率は0だったし、傘なんて持って来てないのよー……」

恭子「主将、どうします?」


恭子が目を向けると、洋榎はその場に座り込み震えていた。


恭子「主将……? ちょっと、どうしたんです!?」

洋榎「やばい……これ、やばい……っ!」

先程から吹き始めた風は、より一層強さを増し、
暴風とも呼べる勢いとなって、恭子達に襲い掛かった。


恭子「なんやこの風は……尋常やない……っ!」


恭子はしゃがみ込み、蹲って歯を鳴らしている洋榎を優しく抱き締めた。
まるで縋り付くかの様に、洋榎も恭子の身体に腕を回して抱き締め返す。


恭子「大丈夫や洋榎、落ち着くんや……。うちが傍におるで……」

洋榎「恭子……お前は、ホンマに何も感じんのか?」

恭子「感じる……? 何をや?」


洋榎「分からん……。けど、確実に在る……そこら中に……感じるんや!」

洋榎「どす黒い何か……悪意に満ちた狂気が、うちらを取り囲んどる……っ!」

恭子(悪意に満ちた狂気……やて……?)


絹恵「真瀬先輩!」


突然耳に響く、不安の入り混じった絹恵の叫び声。
恭子は、その声がする方へ視線を向けた。

漫が洋榎と同じ様に蹲り、体を大きく震わせている。
その様子を見て、由子は急いで漫の元へと駆け寄った。


恭子(洋榎……漫……。2人は、一体何に怯えているんや……?)

恭子(うちには感知できん〝何か〟を、感じ取ってるとでもゆうんか……!?)


郁乃(おぉ……凄い……! 駆け巡る……身体を……脳を……っ!)

郁乃(無数に絡まった意思の集合体が、私の中に次々と入ってくるで~!)ゾクゾクッ


魂を犯された郁乃はオーガズムに達し、空に向かって野獣の如く咆哮した。

暫くして、嵐が通り過ぎたかの様に、辺りは静寂を取り戻した。
しかし、それまでとは違って、異質な気配が周囲に漂っている。


洋榎の体の震えは治まり、恭子を抱き締めている腕から力が抜けていく。


恭子「もう大丈夫みたいやな、洋榎……」

洋榎「あぁ、すまんな恭子……」

どうやら、漫の方も謎の〝発作〟が治まっている様だ。


恭子「病院に行った方がええんちゃう?」

洋榎「平気や、そう言うんとはちゃうねん」

恭子「そか、そやろな……」


恭子(昔から洋榎は、うちには見えん何かが見えていた……)

恭子(麻雀でもそうや……。洋榎には見える世界が、うちには見えん……)

恭子(同じ卓を囲んでいても、洋榎を遠くに感じてしまう……)

恭子(それが何より悔しくて、寂しいんや……)

恭子(うちもあんたと、同じ世界が見たい。同じ場所に立ちたい……っ!)


恭子(……そう言えば、漫ちゃんも洋榎と同じ様になっとったな)

恭子(洋榎が感じていたモノを、漫ちゃんも感じたんやろか……?)

恭子(うちよりも漫ちゃんの方が、洋榎に近い存在っちゅう事なんか……!?)


洋榎「ふぅ……。心配掛けたな恭子。もう大丈夫やからっ!」


洋榎は、それまで以上に元気な姿を、恭子に見せた。


洋榎「おら、代行! 呆けて無いで、さっさと何するか決めーや!」


郁乃「……せやなぁ」


空を見上げていた郁乃のは、そのまま顔を動かさず、
瞳だけを洋榎に向け、口元に厭らしい笑みを浮かべた。

郁乃「これからどうするかは、もう決めたでぇ……」

郁乃「みんなぁ、待たせてもうてぇ、ごめんなぁ~……」


泥酔状態であるかの様に、体を揺らめかせている郁乃。
先程までとは明らかに違う、異常な雰囲気を醸し出している。


洋榎「つ、次ふざけた事ゆうたら、うちらは帰らせて貰うからな!」

郁乃「はいはい、了解や~」

郁乃「けどぉ~、その前に~……。特別ゲストを呼んで来るわぁ~」


郁乃はふら付いた足取りで、黒い倉庫の扉の前へと歩いて行く。
その扉は、触れずとも勝手に開き、郁乃は中へと入っていった。


由子「特別ゲスト……?」

洋榎「このどでかい黒の箱ん中に、人が入ってたっちゅう事かいな……」

恭子「人以外にも、色々と入ってそうやけど……」

絹恵「これだけの大きさですからね……」

漫 「一体、誰がこの中に居るんでしょうか……?」

黒い箱は、圧倒的存在感を持って、物静かに5人の前に鎮座している。
郁乃がその中にいる筈なのだが、内部から物音は一切聞こえなかった。


洋榎「見知らぬ人間が入ってた思うたら、なんや薄気味悪くなってきたわ……」

由子「洋榎が怖気付いてるのよー」

洋榎「そ、そんなんちゃうわ!」


恭子「……今回の件、この倉庫にしても、代行1人では用意できへん」

絹恵「つまり、代行の他に、共犯者がいると……?」

恭子「せや。代行が呼びに行ったんは、その共犯者やないやろか?」

漫 「時が来るまで、この中にじっと隠れてたってワケですか……」

洋榎「ふ、ふ~ん……。なら、そいつのツラを、拝ませて貰おうやないか!」

由子「代行の酔狂に付き合う変人の顔を見てみたいのよー」


数分して、再び黒い箱の扉が開いた。

そこから代行と共に出て来たのは、車椅子に乗った、華奢で色白な女性であった。


洋榎「な、なんやと……っ!」

由子「なんで……」

絹恵「ありえへんやろ……」

漫 「そ、そんな……」

恭子「嘘やろ……」



善野「……」

郁乃「お待たせ~」


笑顔で車椅子を押す郁乃とは対照的に、善野は全くの無表情だった。

左右の肘パットに、拳を握り締めたまま、それぞれ腕を乗せている。
フットプレートに両足を綺麗に揃えて置き、その姿勢から動かない。

透き通った肌に、白いワンピースの組み合わせが非常に映える。
瞬きをしていなければ、蝋人形と見間違えてしまうかもしれない。


恭子「善野監督が……何でここに……?」

絹恵「国立病院に入院中の筈ですよね……?」


郁乃「今朝、退院して来たんやで~」

恭子「ほ、ホンマですか……?」

郁乃「今、この場に居るんやから、嘘も何も無いやろ~?」

善野「……」


由子「善野監督、退院おめでとうございます~」

由子(もしかして、これって善野監督の退院祝いのサプライズ……?)


漫 「うわぁ、善野監督が代行とグルやったとは、驚きましたわ……」

洋榎「いやいやいや……。そんなオカルト、ありえへんやろっ!」


善野「……」

5人がそれぞれ退院の祝辞を述べるも、
善野は表情すら変えず、言葉も発しない。

まるでマネキンの様に、そのままの姿勢で、ただ遠くを見詰めている。


恭子(退院したばかりで、体の調子が悪いんかな……。大丈夫やろか……?)


郁乃「善野さんは疲れてるんやから、責っ付いたらあかんて~」

郁乃「ほらほら~、離れて離れて~」


車椅子の周囲に群がる5人を追い払おうとする郁乃。

その時、善野の口唇が僅かに動いている事に、恭子はふと気が付いた。
気の所為かも知れないが、目線も微かに自分の方へ向いている様に思える。


善野「…………ッ」

恭子「んっ? 何です……?」


善野「…………ケ…………」

恭子「監督、良く聞こえませんて……」


恭子は善野監督の口元に耳を近寄せた。


恭子「もう少し、大きな声でお願いします」


善野「……タ…………ケ…………」


善野「……タ…………ケ……テ……」



善野「……タ……ス……ケ……テ…………」

恭子「……えっ?」

郁乃「末原ちゃ~ん、はよ離れてや~」


言葉の真意を問い質す暇も無く、恭子は善野から引き離された。
聞き間違いだと思っても、恭子の胸はざわめき鼓動が早くなる。

両手と額から、油の混じった嫌な汗が染み出して来た。


恭子「代行、今、善野監督が……」

洋榎「代行! 善野監督の登場には、うちも驚かされたけど、
   こんなんで、話の本題をはぐらかすつもりちゃうやろな?」


洋榎の厳しい口調での追求と重なり、恭子の言葉は掻き消された。


郁乃「洋榎ちゃ~ん、最後のお別れなんやから、そう急かさんといて~」

恭子「最後の……お別れ……?」

郁乃「せやで~。善野監督の最後の姿、その目に焼き付けといてや~」


そう言うと、郁乃は屈み込み、善野の耳元で小さく何かを囁いた。
善野は全身を微かに震わせ、指や瞳を必死で動かそうとしている。

しかし、善野のその動きに気付く者は、誰一人いなかった。


洋榎「ちょっと、ちょっと待ちぃ! それ、どうゆう意味や!?」

郁乃「どうゆう意味ってぇ……こういう事やで~!」


次の瞬間、郁乃は善野の乗った車椅子のグリップを握り締め、
落下防止用フェンスの外れた場所に向かって、全力疾走を始めた。


郁乃「キィィィィィィィィィィィィィン!」


郁乃「ドォォォォォォン!」


屋上の端の近くまで行くと、郁乃はその場で止まり、
勢いの付いた車椅子を、前へ押し出す様に手放した。


車椅子は善野監督を乗せたまま、あっと言う間に皆の視界から消えていった。

        ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       (;´Д`)< すぐ終わらせるから待っててな~

  -=≡  /    ヽ  \_______________
.      /| |   |. |
 -=≡ /. \ヽ/\\_

    /    ヽ⌒)==ヽ_)= ∧_∧
-=   / /⌒\.\ ||  ||  (´・ω・`) ←>>善野監督
  / /    > ) ||   || ( つ旦O
 / /     / /_||_ || と_)_) _.

 し'     (_つ ̄(_)) ̄ (.)) ̄ (_)) ̄(.))





        代行→ oノ
             |  三   
 _,,..-―'"⌒"~⌒"~ ゙゙̄"'''ョ  ミ
゙~,,,....-=-‐√"゙゙T"~ ̄Y"゙=ミ    L____

T  |   l,_,,/\ ,,/l  |      ゚ ゚
,.-r '"l\,,j  /  |/  L,,,/..............................ヽ○ノ ←善野監督
,,/|,/\,/ _,|\_,i_,,,/ /................................ヘ/

_V\ ,,/\,|  ,,∧,,|_/...................................... ノ

突然の出来事に、誰もその場から動く事すらできず、
唖然とした表情で、ただ事の成り行きを眺めていた。


郁乃「ふぅ~」


屋上から人を突き落としておいて、何事も無かったかの様に、
いつも通りの笑顔で、郁乃がこちらへゆっくりと歩いて来る。


恭子「あっ……ああっ…… あ゛ あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ っ っ っ ! 」


漸く脳が目の前の事態を理解し、恭子は叫び声を上げた。
絹恵と漫はまだ状況の把握ができず、呆然と立ち尽くしている。


洋榎「だ、代行……あんた……何やって……」

洋榎「4階の屋上やで……?」

洋榎「こんな所から人を落としたら……殺人やろ……!?」


郁乃「……」ニコニコ


郁乃は何も言わず、温和な微笑みを浮かべている。
優しげなその顔も、今は不気味にしか思えない。


洋榎「何とか言ったらどうなんや、この人殺しぃ!」


纏わり付く恐怖心を振り払う様にして、洋榎は郁乃に向かって大声で吐き捨てた。


郁乃「ははっ……」


郁乃「はははははっ……」



郁乃「あはははは は は は は は は は は っ っ っ っ ! ! ! ! ! 」

洋榎「何がおかしいっ!」

懸命に強気を装うも、上擦った声が、洋榎の動揺を露呈させていた。


郁乃「良い……とっても良いわぁ……」

恍惚とした表情で、郁乃がぽつりと呟いた。


郁乃「いつも他人をからかう側の洋榎ちゃんが、こんな風に取り乱して……」

郁乃「無理に強がろうとする、その顔、その仕草、凄くそそるでぇ~」ニタァ

洋榎「……っ!?」ゾクッ


男が女の肉体を品定めするが如く、厭らしい目付きで、洋榎の全身を舐め回す。
洋榎は自らの肩を抱き締める様にして、その不快な視線から身を守ろうとした。

近寄って来る郁乃に対し、洋榎は後退りをしながら睨み付ける。


郁乃「そんなに警戒せんでもええよ~」

郁乃「私は洋榎ちゃんの事を傷付けたりせんて……」


郁乃「今の所は、な……」


洋榎「……こ、こっち来んなっ!」

郁乃「酷いわぁ~。そんな風に言わんといてや~」


洋榎「あっ……!」

洋榎は足を縺れさせ、後方へ倒れ込み尻餅をついた。
迫り来る代行の姿に恐怖し、呼吸は乱れ、涙ぐんでいる。



由子「ちょっと代行、おふざけが過ぎるんちゃいます?」

郁乃「ん~?」

由子「それ以上、洋榎を怖がらせるんは止めてください」


由子は両腕を組み、郁乃と洋榎の間に、凛として立ち塞がった。
郁乃は足を止め、口元に笑みを浮かべながら由子を眺めている。


由子「洋榎も恭子も、少し頭を冷やすのよー」


洋榎「っ!?」

恭子「っ!!」


絹恵「何でそないに落ち着いてるんですか、真瀬先輩っ!」

漫 「監督が……善野監督が、代行に殺されたんですよ?」


由子「絹恵ちゃん、漫ちゃん、もっと冷静になるのよー」

由子「常識的に考えて、そないな事、絶対にある訳無いんやから……」

洋榎「で、でも! 善野監督は、そこから落とされたんやで!?」

フェンスの無い部分を指差して、洋榎は叫ぶ様に言った。


由子「せやね……。けど……」

由子「……そこのフェンス、随分と綺麗に無くなってると思わへん?」

由子「まるで、誰かが意図的に取り外したみたいやろ?」


洋榎「そ、それは、代行が善野監督を突き落とす為に外したんやないか?」

由子「……何故、そんな手間の掛かる事せなあかんの?」

恭子「っ!!」


由子「もし、監督が〝本当に〟体を動かせん状態やったなら、
   この様な真似せんでも、もっと簡単に殺害できるやろ?」

洋榎「た、確かに……」


由子「それに、代行が監督を殺害する所を、
   私らにわざわざ見せたのもおかしい」

絹恵「私らの誰かが、警察にこの事をゆうたら……」

恭子「……代行は終わりやな」

由子「その通りや。今のこの状況、余りにも不自然過ぎるんやわ……」


郁乃「……」

漫 「つまり……どうゆう事です?」

由子「ハッキリ言えば、今までの事は全て演技、質の悪い冗談やね」


洋榎「せやけど……善野監督は……?」

由子「1つ下の階、4階部分に網を張って受け止める……」

由子「テレビでも良くある、単純なトリックなのよー」


不安な面持ちをしている洋榎に、由子は人差し指を立て、笑顔で答えた。


漫 「な、なんや……。ビックリしましたわ、もう……」

恭子「こんな悪戯、悪質過ぎるで……」


全身から力が抜け、恭子はその場にへたり込んだ。


絹恵「し、心臓に悪いわぁ……」

洋榎「はっ、はははっ……。善野監督も、退院してすぐに無茶するわ……」


郁乃「……」ニコニコ


由子「正直、私も最初は度肝を抜かれたのよー」

由子「せやけど、茶番はここまでや!」


車椅子が落下した場所へと、由子が歩いてゆく。


郁乃「……何する気なん?」

由子「ふふっ、ちょっと確認させて貰うだけですわ、代行……」


擦れ違いざまに、2人は短く会話を交わした。
視線を合わせる事は無く、由子は目的の場所へと突き進む。


遂に屋上の縁へと到達し、由子は首を伸ばして、そっと下の様子を窺った。

洋榎、恭子、絹恵、漫の4人は、由子の後姿を注視している。
由子は下を向いたまま、その場に立ち尽くし、微動だにしない。


洋榎「おい、ゆーこ、どないしたん?」


由子は洋榎の問い掛けにも応じず、黙り込んでいる。


洋榎「なんで黙ってるん……?」


由子「……」


洋榎「ゆーこ……? 返事してや……」


洋榎は立ち上がり、ゆっくりと由子の元へ歩き始めた。
恭子、絹恵、漫の3人も同様に、洋榎の後を追い掛ける。


遠目では分からなかったが、近付いて見ると、由子の脚は小刻みに震えていた。


洋榎「ゆ、ゆーこ……?」


洋榎が後ろから肩に手を掛けると、由子は一瞬、身体をびくっとさせた。
振り返った由子の目は涙ぐんでおり、歯を鳴らしながら下方を指差している。


その指の先には、壊れた車椅子と、地面に叩き付けられた善野の姿が在った。

善野の頭からは、大量の血液が流れ出し、顔の下辺りに血溜まりが出来ている。


洋榎「ひっ!」


その光景は皆を戦慄させ、洋榎は再び尻餅をついた。


由子「落ちてる……善野監督が……落ちてるの……」


震えた声で、由子が小さく呟いた。

絹恵は両手で口を押さえ、ガクガクと膝を震わせている。
漫は口を大きく開けたまま、恐怖で体を強張らせていた。

恭子は変な呼吸音を発しながら、過呼吸状態に陥っている。


洋榎「そ、そや……救急車……救急車呼ばな……」


携帯を取り出し、電話を掛ける洋榎。
しかし、指が震えて思う様に動かない。


洋榎「あっ……!」


洋榎の携帯が汗で手から滑り落ち、屋上から落下していく。
それは地上のコンクリート部分と衝突し、一部が砕け飛んだ。


洋榎「あ、あかん……。やってもうた……っ!」

洋榎「き、絹! 救急車頼む! はよ……はよしてっ!」


洋榎の言葉で我に返り、絹恵は携帯を掛け始めた。
しかし、その電話は一向に繋がる気配を見せない。


絹恵「だ、駄目やお姉ちゃん! 携帯、全然繋がらへん!」

洋榎「もう1回……もう1回掛け直すんや!」


郁乃「いくら掛けても、無駄やって……」


いつの間にか、背後に郁乃が笑顔で立っていた。

洋榎「無駄……? 無駄やて……? なんでや……!?」


不安と恐怖の入り混じった5人の視線が、郁乃の元に集まる。


漫 「まだ……まだ助かるかもしれんやないですか!」


郁乃「いやいや、そうじゃ無くて~……」


郁乃「この世界には、私ら7人しかおらんからなぁ~」


恭子「……はっ? どうゆう意味ですか……?」


郁乃「そのまま、言葉通りの意味や……」


郁乃「今、この世界に残ってる人間は、もう私ら7人だけやから、
   電話なんて繋がらんし、助けを呼んでも、誰も来ないで~?」


洋榎「そんなワケあるか! 意味分からんわ! 恭子! ゆーこ! 漫!」


名を呼ばれた3人は、すぐにその意味を理解し、
助けを求める為に、それぞれ電話を掛け始めた。


だが、その切なる思いが通じる事は無く、
ツー、ツー、ツー、という無機質な音だけが辺りに響いた。

洋榎「そ、そんな……」

郁乃「……これで分かったやろ?」

洋榎「嘘や……そんなん、絶対嘘や……」

郁乃「洋榎ちゃ~ん……。しっかりと現実を受け入れてや~……」


郁乃は屈み込み、横から、自らの顔を洋榎に近付けてそう囁いた。


由子「みんなっ! あそこ見てや!」


突然、由子が大声を上げ、校門の方を指差す。
そこには、動いている1つの人影が見えた。

その人影は、暫く辺りを彷徨いた後、地面に倒れている善野を発見したのか、
引き寄せられるかの様に、彼女の方に向かって、真っ直ぐと歩みを進めている。


漫 「あの人、監督の所に向かってますよ!?」

絹恵「良かった! 助けてくれるみたいやな!」

洋榎「うちら以外にも、まだ人が居るやないか!」


その人物は、背広を着たサラリーマン風の男性だった。

謎の男性は、倒れ伏している善野の傍に寄ると、
その場にしゃがみ込み、彼女の体を触り始めた。


恭子「お願いや……善野監督を助けて……っ!」

謎の男性は、救急に連絡する様子も無く、ただずっと善野の体を弄くっている。
それは救命活動の様にも見えず、洋榎達の間に、男に対する疑念が生まれ始めた。

良く見ると、服のあちこちが泥で汚れていて、破けている箇所も多数ある。
靴は片方しか履いておらず、靴に見えていたもう一方は、黒い靴下であった。


漫 「あの人、さっきから何やってるんですか……?」

恭子「監督の怪我の状態を確認してるんじゃ……」

絹恵「そんな風には見えませんよ……?」

由子「まずは、警察か救急を呼ぶんが普通やけど……」

洋榎「そんな素振りもしてへんで……?」


男は善野を仰向けにして、顔をまじまじと眺めている。
突如、男は善野のワンピースを、力任せに引き裂いた。


洋榎「あいつ、監督に何するつもりや!?」


善野の胸元が開け、雪の様に白い乳房が露出している。
その先端にある桃色の突起部分に、男はしゃぶり付いた。


恭子「う……嘘やろ……? あいつ……監督に何してん……!?」

漫 「怪我して意識の無い女性を……ご、強姦する気なんや……っ!」

絹恵「鬼畜の所業や……! 人間やあらへん……っ!」


だが、皆の想像よりも、事態は遥かに深刻な状況にあった。

次の瞬間、誰もが予想し得なかった、身の毛もよだつ出来事が起きる。
その男は、善野の乳房を噛み千切り、咀嚼してそれを飲み込んだのだ。

男は貪る様に、善野の肉体に喰らい付いた。
白いワンピースが、血で真っ赤に染まってゆく。


洋榎「あいつ……人を……監督を……食べて……」

由子「か、カニバリズムなのよ……」

洋榎「正気の沙汰やない……完全にイカれとる……っ!」


余りに凄惨な光景を目の当たりにして、5人はこれまで無い程に戦慄した。


その時、何処からともなく、気味の悪い奇声と呻き声が響いてきた。
1人や2人のモノでは無く、大勢の群衆から発っせられている様だ。


絹恵「ちょっと……あの人達……何ですか……?」

洋榎「どっから湧いて来たんや……!?」


気味の悪い集団が、校門から姫松高校の敷地内へと、
吸い込まれるかの様に、続々と雪崩れ込んで来る。


皆、異常なまでに肌が白く、逆に瞳はどす黒くて、白目が見えぬ程大きい。
汚れてボロボロになった衣服を身に纏い、激しく損傷した靴を履いている。

小学生程度の幼い者から、髪が抜け落ちた老人まで、年齢は様々だ。
老若男女が入り混じり、叫び声を上げながら、必死に何かを探している。


その中の1人が善野に気付き、彼女の元へと駆け出した。
後を追う様に、数人が続けて同じ方角に向かって走り出す。


彼等は、唸り声を上げながら、善野に飛び掛かると、
眼球を抉り、腕や脚をもぎ取り、腹を割いて臓物を引き摺り出し、
それら全てを、飽く無き食欲で、次々と自らの胃袋へ収めていった。

漫 「う゛っ ……! おげぇぇぇっっっっ……」


漫は堪え切れず、その場に倒れ込んだ。

屋上の縁にしがみ付いて、顔を外側に出し、
地面に向かって、勢い良く大量に嘔吐する漫。

漫の吐瀉物が、善野に群がる人食い達の頭上に降り掛かる。
彼等は一斉に食事を止め、黒く澱んだ瞳を校舎の上に向けた。


「 お゛っ …… お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ っ っ ……… 」


視界に洋榎達の姿を捉えると、不気味な唸り声を上げた。


漫 「げほっ、げほっ、げほっ……」

洋榎「おぃ、あいつら、うちらの事を見てるで! 隠れろ!」

漫 「ぐぇっ!」


洋榎は漫のワイシャツの首元を引っ張って、
屋上の内側へと、乱暴な扱いで引き摺り込んだ。


恭子「た、大変や……善野監督が……助けに行かんと……」カタカタカタ......


虚ろな目をして、全身を震わせながら、恭子はぶつぶつと呟いている。


洋榎「あほっ! 監督なんか、とっくに死んどるわ!」

恭子「善野監督が……死んでる……やて……?」

洋榎「うぅ……頼む、恭子……しっかりしてくれや……」


洋榎は涙を流しながら、恭子の体を激しく揺さ振った。

絹恵「お、お姉ちゃん……あの人達は……一体……」

洋榎「そんなもん、うちが知る訳無いやろっ!」

絹恵「そ、そんな怒鳴らんでもええやん……」


鼻を啜りながら、絹恵は涙声で言った。


郁乃「あ~、厄介なのが紛れ込んで来よったなぁ……」

郁乃「絹恵ちゃん、あれはな、〝屍鬼〟ってゆう、地獄の亡者やで~」


絹恵「屍……鬼……?」

由子「地獄の……亡者……?」


郁乃「人間の魂はな、死ぬと肉体から抜け出して彷徨うんやけど、
   徐々に〝世界〟に吸収され、自然と消滅していくもんなんや」


郁乃「けどな、全部が全部、綺麗さっぱり無くなる訳やない……」

郁乃「死んでも肉体に残り続けたり、別の屍に宿ったりする事もある……」


郁乃「そう言う魂の残った亡骸はな、地獄と呼ばれる異世界に、
   〝鬼〟と呼称される化け物として、輪廻転生をするんや……」


郁乃「そんでな、転生する前に持っていた〝魂の質量〟によって、
   生まれ変わった後の、地獄での階級が決まるんやけど……」


郁乃「〝屍鬼〟の階級は最下位、〝人〟と〝鬼〟の中間的な存在でなぁ。
   〝塵〟程度の魂しか残ってなかった連中の、成れの果てなんやで……」

郁乃「魂っちゅうのはな、〝人〟の根幹の部分でもあるんやけど……」

郁乃「その魂を殆んど持たん屍鬼には、知性の欠片も無くてな、
   最も単純な本能である〝食欲〟に従って行動しとるだけ……」


郁乃「どこまでも貪欲で、全てを喰らい尽くす、飛蝗の様な奴等やで……」


郁乃「出入り口はそこの扉だけやし、暫くは平気やろうけど……」

郁乃「あれは私にも制御できんし、やる事やって、はよ帰ろっと!」


洋榎「代行……あんた一体、何者なんや……?」


郁乃「そんなん、どうでもええやろ……」

郁乃「どうせ君らには理解できんよ……」


見開いた郁乃の瞳は、金色の輝きを纏っていた。


洋榎「……っ!」

漫 「ひぃ……っ!」

絹恵「な、何やの……!?」

恭子「代行の……目が……金色に……っ!」

由子「人間じゃ……無い……っ!?」


郁乃「ノーウェイ、ノーウェイ、これでも私は人間やで~」

郁乃「ただちょっと、人より〝力〟を持っているだけや……」



郁乃「さぁて、そろそろ、生贄選びの続きを再開しよか……」

由子「私、黒魔術が得意なのよー」

恭子「い、生贄選びって……」カタカタカタ......


これまで戯言と思っていた〝生贄〟という言葉も、今では現実味を帯びている。


郁乃「ん? あぁ~、ごめんごめん、言い間違えてもうた……」

郁乃「〝レギュラー落ち〟の2人を決めるんやったな~」


漫 「ちょっと待ってくださいよ……」

郁乃「なぁに? 漫ちゃん」

漫 「……レギュラー落ちになると、どうなるんです?」

郁乃「どうなるって……?」

漫 「恍けんでくださいよ!」


漫 「レギュラー落ちの2人が〝生贄〟になるんでしょ!?」

漫 「〝生贄〟になったら、うちらはどうなるんですか!?」


郁乃「……」


郁乃「……死ぬで」


郁乃は目を瞑り、少し考えてから、漫の質問に答えた。
それが冗談などではないと、今の状況を見れば分かる。


漫 「そ、そんな……」

漫 「嫌や……うち、死にたくない……」


漫はその場に座り込み、声を上げて泣き出してしまった。

由子「レギュラー落ちは……死ぬ……?」

絹恵「そ、それじゃあ、さっきやった、レギュラー落ちを決めるゲームは……?」

恭子「もし、あの時、誰かが単独最下位になっていたとしたら……」カタカタカタ......


郁乃「その時は、最下位の子が、1人目の生贄として死んでたやろうなぁ……」


一歩間違えば、自分が生贄となり、代行に殺されていたかもしれない。
驚愕の真実を聞かされ、5人は背筋を凍らせた。


洋榎「……何で、その事を先に言わんかった?」

洋榎「何で真相を隠したまま、うちらに生贄を選ばせ様としたんやっ!?」


郁乃「だってぇ、本当の事を言った所で、どうせ信じてくれなかったやろ?」

郁乃「それにな~、真実を知らん方が、幸せな事もあるんやで……?」

洋榎「なんやと……?」


郁乃「とある高校ではな、仲良い部員同士が、殴り合う事態にまで発展したり、
   仲間の内の誰を犠牲にするんかで、死ぬ程苦悩を味わったりしたんや……」

郁乃「洋榎ちゃん達は、そないに残酷な事実を全く知らんかったから、
   煩悶したりせずに、楽しみながら名前を書く事が出来たやろ?」

郁乃「感謝されこそすれ、非難される筋合いは無いわ~」


洋榎「他の高校でも、こんな事をやらせてたんか!?」

郁乃「この〝選別〟は、全国の麻雀部に対して行われる事やからなぁ……」

洋榎「……選別?」


郁乃「そや。選ばれた者のみ救われ、新世界へ行けるんやで……」

由子「新世界……?」

郁乃「真瀬ちゃん、難しい事は考えないでええんや」

郁乃「ただ単純に、〝3人が救われる〟って覚えとけばええよ?」


恭子(救われるんは……3人だけ……!?)


洋榎「全国の麻雀部に対してっちゅう事は、千里山もか!?」

郁乃「当然や」

洋榎「おかんや浩子、セーラや竜華はどうなったん!?」

郁乃「千里山の選別は、まだ行われてへんよ」

洋榎「せやけど、もうこの世界には、うちら7人しか居らんて……」


郁乃「う~ん、説明が悪かったなぁ……」


郁乃「今、私達が居るんは、元の世界から切り離された、隔離空間なんや」

郁乃「それは姫松高校の周辺だけで、他の場所には何の影響も無い……」

郁乃「せやから、千里山の人達は、まだ日常生活を送っている筈やで」

郁乃「と言っても、この空間以外は、時が止まった状態なんやけどな」


荒唐無稽な郁乃の話……。


しかし、それを否定できない現実が、洋榎達に容赦無く襲い掛かっていた。

郁乃「そんな事より、洋榎ちゃん……」

郁乃「他人を心配するより、まずは自分の身を案じた方がええんちゃう?」


洋榎「……っ!?」


郁乃「さっき、とある高校の事を例に出したやろ?」

郁乃「そこにも、洋榎ちゃん達の様に、仲睦まじい姉妹が居ったんやけどな……」


郁乃「妹の方は助かったんやけど、姉の方は死んでもうたわ……」


洋榎「……っ!」ゾクッ


郁乃「最初の生贄選びは、全員、引き分けた形で終わってもうたやろ?」

郁乃「せやから、洋榎ちゃんや末原ちゃんに与えられた、
   初期値というアドバンテージは、もう無いんやで?」


洋榎「っ!?」

恭子「っ!?」


郁乃「逆に、他の3人はハンデが無くなって、生き残り易くなったかもしれんな」


由子「っ!!」

絹恵「っ!!」

漫 「っ!!」


郁乃の右手が妖しく光り、その中から、黄金に煌く4枚のカードが現れた。


郁乃「これは、新世界へ行く為の乗車券や……」


4枚のカードの内の1枚が、ぐんぐんと伸びて光の筋となり、
郁乃の右手に巻き付いて、黄金のリストバンドの様になった。


郁乃「この内の1枚は私のやから、残るカードは3枚だけ……」

郁乃「これが無い者は、絶対に、この隔離空間から抜け出す事はできんよ?」


郁乃「5人の中で、このカードを手にできるんは、一体誰なんやろなぁ~?」

洋榎「……今度は全員同じ条件で、またあのPの与え合いをやるんか?」

郁乃「ううん、あれはもうやらんよ」

由子「それじゃあ、どうやって生贄を……?」


郁乃「……最初の生贄を決めるんは、私らやない。あいつらや!」


そう言うと、郁乃は振り向き、巨大モニターを指差した。
全員の顔写真が縮小され、今までの累計Pが0に戻っている。


郁乃「お~い、聞こえるか~? 聞こえてるやろ~? 異世界人~!」

郁乃「この5人の中で、一番〝殺したい子〟を選んでや~!」


洋榎「な、なんやそれっ!?」

恭子「面識も無い人間?に、うちらの生き死にを決めさせるゆうんですか!?」

由子「そんなの、理不尽過ぎるのよー!」


郁乃「始めに言ったやろ~? 人生は理不尽やて……」


郁乃「それに、仲間内で誰を殺すか話し合うより、ずっと気楽やろ?」


郁乃は笑顔で3人にそう言い放った。

漫 「だからって……そんなの、受け入れられる訳無いですやん!」

郁乃「そんなん、知ったこっちゃ無いわ~」

漫 「うっ、うぅ……」


大粒の涙を流しながら、漫は俯いた。


郁乃「生贄が確定したら、死は強制執行やからな~? 誰も逃れられへんで~!」


洋榎「待てやっ! 大体、何でうちらの中の2人が死ななあかんのっ!?」


恐怖に駆られながらも、搾り出す様にして声を張り上げる洋榎。
悲鳴にも似たその声は、暗雲とした空に向かって拡散してゆく。


郁乃「洋榎ちゃ~ん……。それは愚問やで?」


洋榎の方へ向き直り、郁乃は冷酷な微笑を浮かべた。


郁乃「……例えば、通り魔に刺されたり、必ず死に至る病に罹ったとするやろ?」

郁乃「その時に、〝何で私が?〟って訊かれたら、洋榎ちゃんはどう答える?」


洋榎「そ、それは……」


郁乃「私なら、迷わずこう答えるで~」

郁乃「〝知るかボケェッ!〟ってなぁ……」


郁乃「それで納得できんのなら、神や悪魔の所為にしたらええねん」

郁乃「あるいは〝業〟か、運命か……。日頃の行いっちゅうのもありやな」

郁乃「そんな感じで、自分が甘受できる理由を、勝手にこじつければええやろ?」


洋榎「くっ……!」


絹恵「殺される……。顔も名前も知らん輩に、私は殺されるんや!」



郁乃「さぁさぁ! 地獄のカーニバル、開幕やで~!」

【生贄選択】
洋榎、恭子、由子、絹恵、漫の中から、1人目の生贄を選びます。

基本的なルールは>>27と同じです。
一番Pの多い者が、1人目の生贄となります。

2人目の生贄は、物語の都合上、>>1が決めさせて頂きます。
ただし、最もPの少ない者が、生贄に選ばれる事はありません。

安価募集を〆切った時点で、同率トップ、同率最下位が発生している場合、
>>1が物語の構成を考えた上で、どちらかにPを加え、その同率を崩します。

3人~4人が同じ順位の場合、その他の方法を検討する可能性があります。
(再び生贄選びの安価をする、という意味ではありません)

同率以外の順位を変動させる事はありません。


【レスの形式】

========
【安価:生贄選択】
1P→
2P→
3P→
========

一番Pの多い者が、最初の生贄となって死にます。
一番Pの少ない者は、この時点で生き残りが確定します。

助けたい子には、Pを入れないでください。
殺したい子には、沢山のPを入れましょう。


【安価の〆切り時間】
23時59分59秒99


>>1からのお知らせ】
今日の更新は、ここまでとなります。
進むペースが遅くてすみません。

おおもう……

【安価:生贄選択】
1P→恭子
2P→漫
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→絹
2P→末原
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→洋榎
2P→由子
3P→絹恵

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→洋榎
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→洋榎
2P→絹恵
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→由子
3P→洋榎

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→漫
3P→洋榎

【安価:生贄選択】
1P→絹
2P→漫
3P→末原

【安価:生贄選択】
1P→由子
2P→絹恵
3P→末原

【安価:生贄選択】
1P→漫
2P→由子
3P→洋榎

【安価:生贄選択】
1P→絹恵
2P→洋榎
3P→漫

【安価:生贄選択】【途中経過】

>>235まで集計

有効安価数11

絹恵 10P
漫   10P
恭子 12P
洋榎 15P
由子 19P


【安価〆切り】
23時59分59秒99

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→漫
3P→絹恵

無効だろうが郁乃にも10Pほど入れといてやる

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→絹
3P→洋榎

【安価:生贄選択】
1P→絹
2P→由子
3P→末原

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→漫
3P→絹恵

【安価:生贄選択】
1P→由子
2P→漫
3P→恭子

【安価:生贄選択】
1P→絹恵
2P→漫
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→恭子
2P→洋榎
3P→漫

【安価:生贄選択】【途中経過2】

>>243まで集計

有効安価数 18

洋榎 20P
絹恵 20P
漫   21P
恭子 22P
由子 25P


【安価〆切り】
23時59分59秒99



途中経過の報告は、これで最後にしようかと思います。
後は〆切り後の集計をお楽しみにという方向にします。

(これ以上安価レスが付かない可能性もありますが……)


※〆切り後の集計は、明日の朝とかになる可能性があります。
※質問等には、すぐに答えられないかもしれません。

【安価:生贄選択】
1P→ 洋榎
2P→ 絹恵
3P→ 恭子

【安価:生贄選択】
1P→絹恵
2P→洋榎
3P→漫

【安価:生贄選択】
1P→由子
2P→洋榎
3P→絹恵

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→絹恵
3P→漫

【安価:生贄選択】
1P→ 由子
2P→ ネキ
3P→ 末原

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→由子
3P→絹恵

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→のよー
3P→ネキ

【安価:生贄選択】
1P→漫
2P→洋榎
3P→絹恵

【安価:生贄選択】
1P→由子
2P→恭子
3P→漫

【安価:生贄選択】
1P→洋榎
2P→絹恵
3P→由子

【安価:生贄選択】
1P→由子
2P→絹恵
3P→漫

【安価:生贄選択】
1P→洋榎
2P→由子
3P→漫

【安価:生贄選択】
1P→すず
2P→由子
3P→末原

いくのんにも50P程オナシャス

【安価:生贄選択】
1P→漫
2P→末原
3P→絹

【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→絹
3P→洋榎

これまでとは違い、モニターの画面は全体的に薄暗く、
名前の表示も、気味の悪いフォントに変えられている。

これから始まるであろう、悍ましい惨劇の前触れであろうか?


恭子「なんで……なんでこんな事に……」

由子「そもそも、異世界人って何なのよ……!?」


郁乃「…………」


郁乃「……ふと、誰かの視線や、何者かの気配を感じる事があるやろ?」

郁乃「それらは、気の所為なんかやない……。全て異世界の者達の仕業なんや……」


郁乃「彼等は、いつでもすぐ傍に居る……」

郁乃「一挙手一投足に至るまで見逃さず、常に私等の行動を監視しとる……」

郁乃「今、この瞬間でさえも……」


両腕を大きく広げ、辺りを見回しながら、郁乃は意味深な言葉を口にする。
湿気を多量に含んだ生暖かい風が、洋榎達の肢体を舐める様に吹き抜けた。


郁乃「……始まった様やな」


モニターを見詰め、郁乃がそう呟いた。
各人のPが、ゆっくりと上昇を始める。

同時に、Pの右横から、どす黒い血の様な色をしたバーが伸びてゆく。
最初の発表順決めの時とは異なり、5人のPの増え方に明確な差は無い。


緊張感溢れる中、全員無言でモニターの画面を凝視している。
やがてPは上げ止まり、無慈悲な投票結果が皆に提示された。


郁乃「これが生贄選出の最終結果やで~」

===============================
【異世界の者達による殺したい人ランキング】
愛宕 絹恵 43P-------------------------------------------
真瀬 由子 40P----------------------------------------
上重 漫   39P---------------------------------------
末原 恭子 39P---------------------------------------
愛宕 洋榎 37P-------------------------------------
===============================


絹恵「あっ……あっ……あぁ……」

洋榎「そ、そんな……嘘やろ……?」


郁乃「嘘やないで~。1人目の生贄は、絹恵ちゃんに決定や!」


洋榎「絹が……生贄やて……!?」


洋榎は崩れ落ちる様に膝を突き、力無く前方へと傾いてゆく。
両手を地面に着けて体を支え、何とか倒れ込まずには済んだ。

右手の下から、グニャリとした、気持ちの悪い感触が伝わって来る。
手を上げてみると、郁乃が吐き捨てたガムがくっつき、糸を引いていた。


漫 (うちは助かった……。でも、絹ちゃんが……っ!)

由子(絹恵ちゃんが生贄に……!?)

恭子(本気で絹恵ちゃんを殺す気なんか!? 代行……っ!)


郁乃「それにしても、手に汗を握る、熾烈な接戦やったなぁ~」

郁乃「最初は真瀬ちゃんが本命かと思ったんやけど、
   後半、絹恵ちゃんの追い上げが凄かったなぁ~」


絹恵「なんで……なんでですか……? 私、悪い事なんて何もしてへんのに……」


全身を震わせながら、絹恵は涙目で郁乃に訴えた。


郁乃「だ~か~ら~! そんなん、知らんて……」


洋榎「ふ、ふざけんなっ! うちの絹が、お前らに何したって言うンや!」

洋榎「絹に投票した奴、全員出て来い! うちの前に、そのツラ見せーや!」


洋榎は立ち上がり、周囲に視線を巡らせ、怒り狂った様に怒鳴り続ける。
だが、幾ら凄んでも、彼女の前に異世界の者達が姿を現す事など無かった。

絹恵「う……うぅ……怖い……生贄なんて嫌や……」


絹恵はその場にへたり込み、頭を両手で抱えている。


郁乃「絹恵ちゃん、そう悲観的にならんでもええで?」


死への恐怖に震え嘆く絹恵に、郁乃が微笑み語り掛ける。


郁乃「絹恵ちゃんが死ぬお陰で、掛け替えの無い仲間が1人救われるんや……」

郁乃「それは、究極の自己犠牲とも言える、献身的で美しく尊い行為やで~?」


洋榎「あほか! 通らんわ、そんな理屈! あんた頭おかしいわ!」


悪態を吐く洋榎を無視し、郁乃は平然と話を続ける。


郁乃「それとな~、絹恵ちゃんには1つ朗報があるんや……」

絹恵「朗報……? 何ですか……!?」


郁乃「この時点で、大好きなお姉ちゃんの〝生き残り〟が確定したで~」


絹恵「っ!!」

恭子「っ!?」

由子「っ!?」

漫 「っ!?」


洋榎「なんやて……?」

洋榎「うちの生き残りが……確定やと……?」

郁乃「せや。生贄選定の投票で1位を獲った、ボーナス特典やなぁ~」

漫 「えぇっ!? そんな話、聞いてませんよ!!」


鼻水を垂らし、泣き喚きながら抗議する漫。


郁乃「最初の生贄選択をする前に、私、ゆうたやろ?
   Pの一番少ない子には、ご褒美があるって……」

郁乃「それと同じで、今回もトップ賞はあったんやで~」


由子「それなら、何で先に言ってくれなかったのよ……」

郁乃「それを知った所で、結果は何も変わらんし、どうでもええやん……」

由子「で、でも……」


漫 「主将だけずるいじゃないですか! 代行が依怙贔屓してるんとちゃいます?」


郁乃「……言っておくけど、別に洋榎ちゃんを贔屓にしてる訳やないで?」

郁乃「〝生贄選択の投票に於いて、最上位の者は、その選択肢から除外する〟」

郁乃「マニュアルの規定には、きっちりそう書いてあんねん。私が決めた訳やない」


その時、郁乃の持っていた金のカードの1枚が細長く伸び、
ぐるぐると螺旋を描きながら、洋榎の方へと向かってゆく。

良く見てみると、その先端は蛇の頭部に似ており、
大きく口を開き、長く鋭い牙を剥き出しにしている。


洋榎「な、なんやコイツ!?」


黄金色の輝きを放つ光の蛇は、洋榎の右手首を噛みつつ巻き付いてゆく。


洋榎「んぁっ!? 熱っ……!!」

洋榎「んぐぐっ……熱いっ! 燃える……腕が燃える……っ!」


苦痛に顔を歪め、のたうちまわる洋榎。


恭子「洋榎っ!?」


郁乃「Congratulation~♪」


郁乃「大丈夫、火傷とかしたりせぇへんから、安心しぃや~」

郁乃「その熱さも、すぐに治まるから平気平気~」


全身を洋榎の手首に絡ませると、黄金の蛇はその厚みを失ってゆく。
リストバンドに似た金の帯となって、洋榎の右手首に静かに収まった。


洋榎「はぁっ……はぁっ……っ!」


郁乃「この金のカードはな~、私の意思には関係無く、
   運命の引力に導かれて、自らの所有者を選ぶんや」

郁乃「死の選択肢を回避した事で、洋榎ちゃんを正当な所有者と認めたんやで~」


郁乃「これで、新世界への切符は残り2枚……」

郁乃「次に黄金のカードに選ばれる、幸運の持ち主は誰やろな~?」



郁乃「けどぉ~……その前にぃ~……」



郁乃「お楽しみにしていた、処刑タイムの始まりや~!」ゴゴゴゴゴッ

絹恵「た、助けて……お……お願い……します……」

郁乃「はははっ、それは無理やで~」


郁乃「けどまぁ、生きてる内に、姉の生存確定が分かって良かったやん」

郁乃「これで、安心して逝けるやろ……?」


涙を流して座り込んでいる絹恵に、じりじりと迫る郁乃。
郁乃が手を伸ばし、絹恵の体に触れ様としたその時……!


洋榎「絹に触れんなっ!」


横から洋榎が飛び出し、郁乃を突き飛ばした。


郁乃「あっれ~?」ベチャッ


郁乃は顔面から激しく地面に突っ込んで倒れた。


郁乃「あたたたた……。洋榎ちゃん、いきなり何すんの~?」ハナノカワムケタ......


洋榎「うっさいわボケェ!」

洋榎「もう、あんたには付き合い切れんわ! うちらは御暇させて貰うからな!」


洋榎「行くぞ、絹っ!」

絹恵「あっ……」


洋榎は絹恵の腕を引っ張り上げると、強引に建物の入り口へと連れて行った。


郁乃「その扉はオートロックで開かんゆうたろ~?」


そう叫ぶ郁乃に、洋榎はキーホルダーの付いた鍵をちらつかせた。
それを見た郁乃は驚きの表情をして、自らの胸ポケットを確認する。


郁乃(いつの間に扉の鍵を……!?)

郁乃(私を突き飛ばしたあの一瞬に、掠め取ったゆうんか……?)


郁乃(くっくっくっ……。洋榎ちゃんは手癖が悪いなァ……)

洋榎「恭子、ゆーこ、漫! ここから脱出するで!」

漫 「ま、待ってくださいよ、主将! 外には監督を襲った化け物共が……」

洋榎「だからって、ここに残っててもしゃあないやろ!」

洋榎「さっさとこの学校から抜け出して、遠くへ逃げた方がええ!」


そう言って、洋榎が扉の方へと振り返ったその時、
内側から扉を激しく叩き付ける音が聞こえてきた。


ドン ドン ドン ドン ドン …………


洋榎「っ!?」

絹恵「ひぃっ!」

由子「……何……何やの……この音……?」

恭子「まさか……もう……ここまで上がって……きた……っ!?」

漫 「あいつ等や……。あいつ等が、扉の内側に居るんや……っ!」


郁乃(ちぃ……。新鮮な〝肉〟の匂いを、もう嗅ぎ付けて来よったか……)

郁乃(……まぁ、今回は結果オーライやな……)


恭子「駄目や洋榎、ここから逃げる事は不可能や……っ!」

洋榎「くそったれぇ……っ!」

由子「校舎の中も、きっと奴等で一杯なのよ……」


郁乃「これでもう、この屋上から逃げ出す事は出来んなぁ~」

郁乃「幸い、出入り口は、頑丈な鉄の扉で塞がれとるから、ここは安全やで~」


郁乃「せやけど、その扉もいつまで持つかは分からん……」

郁乃「もたもたしてたら、みんな逃げ遅れて死ぬで……?」

郁乃「屍鬼共に生きながら喰われるんは、さぞ辛いやろなぁ……」


洋恭由絹漫「……っ!」ゾクッ


郁乃「早い所2人の生贄を捧げて、この世界からおさらばしようや……な?」

モニターの前に立ち、郁乃は画面に手を翳す。
すると、そこに6つの漢字が浮かび上がってきた。


〝鯰〟 〝貫〟 〝掃〟 〝輪〟 〝巻〟 〝凌〟


郁乃「さぁ、絹恵ちゃん! この6つの中から、どれか1つを選んでや~!」

絹恵「そ、その文字は、一体何なんですか……?」

郁乃「そんなん聞かんでも、大体の見当は付いとるんやろ~?」


郁乃「この漢字一文字はな、それぞれの〝処刑方法〟を示してるんやで~」

絹恵「処刑……方法……?」


絹恵の脚が、ガクガクと大きく震え出した。


郁乃「それらが、どういうモノなのか、実は私も知らされてないねん……」

郁乃「せやから、その豊満な肉体で、実際に体験して見せてや~」


絹恵「いや……嫌です……そんなん、選べません……」


涙を流しながら、小さく震えた声で絹恵が呟いた。


郁乃「〝1人目の生贄を処刑した後、2人目の生贄を決める〟」

郁乃「これが、定められている基本ルールなんや」


郁乃「そして今回は、処刑方法を、生贄自身が決める事になっとる」

郁乃「絹恵ちゃんがどれか選ばんと、処刑は執行できへん」

郁乃「そしたら~、2人目の生贄が決められんやろぉ……?」

郁乃「新世界に行けるんは、君ら5人の内、3人だけ……」

郁乃「2人の生贄を捧げるまでは、誰もこの地獄から抜け出せんのや……」


郁乃(生贄が死んでなくても、ホントは問題無いんやけどな)


郁乃「大好きなお姉ちゃんも、仲の良い親友も、尊敬する先輩も……」

郁乃「みんな、奴等に喰い殺されてしまうんやでぇ~……?」


絹恵「っ!!」


郁乃「例え、絹恵ちゃんが生贄として処刑されんかったとしても、
   その先にあるんは、全員が飢えたゾンビ達に喰われる悲惨な未来や」

郁乃「せやったら、仲間達の為に、自らの命を差し出してもええんやないの?」


郁乃「いつ生贄になるのか?」

郁乃「今やろっ!」


絹恵「……っ!」


郁乃に発破を掛けられ、絹恵は固く目を瞑り、苦悶の表情を浮かべた。


絹恵「私は……私は……っ!」



洋榎「待て、絹ぅ! 代行の言葉に惑わされんなっ!!」

絹恵が言葉を発しようとした次の瞬間、洋榎が大声を上げてそれを制した。


洋榎「絹っ! 代行の口車に乗ったらあかんで!」

絹恵「せ、せやけど、私が犠牲にならんかったら、お姉ちゃん達が……」

郁乃「そやで~。私は、洋榎ちゃん達の為を想って言ってるんやで~?」


洋榎「黙れやクソババァ! お前のゆう事なんぞ、誰が信用できるかっ!」

郁乃「あぁ~ん?」


洋榎「絹を生贄にするなんて事は、うちが絶対に許さへんで!」


そう言うと、洋榎は絹恵を自分の後方へと誘導し、郁乃の前に立ちはだかった。


郁乃「……まぁ、洋榎ちゃんは、絹恵ちゃんの肉親やからなぁ……」

郁乃「妹を庇いたいという姉の気持ちは、分からんでもないで~」

郁乃「けどなぁ……その所為で、他の部員達が死んでもええんか?」


洋榎「……っ!!」


郁乃「皆、対等な条件の下、生贄選出は〝公正・公平〟に行われたんや」

郁乃「それやのに~、出た結果が気に食わんからって、
   従わないっちゅうんは、少々我侭が過ぎるんちゃう?」


郁乃「末原ちゃん、真瀬ちゃん、漫ちゃん……」

郁乃「君らは、今の洋榎ちゃんの行動をどう思ってるん?」


末原「……」

由子「……」

漫 「……」

郁乃「君ら3人は、生贄選考の第一関門を突破し、未来に希望を繋げた……」

郁乃「この時点で、選出せなあかん生贄は、洋榎ちゃんを除いて後1人……」

郁乃「3人の内、2人は助かるんや。確率的にも、悪い賭けや無いやろ?」


郁乃「けど今、洋榎ちゃんは、ルールを無視してまで、身内を擁護しとる」

郁乃「その身勝手な振る舞いが、私ら全員を危険に晒しとるんや」


郁乃「絹恵ちゃんが生贄として死なんと、君らは確実に死ぬんやで?」

郁乃「ルールに則り、正式な形で勝ち残った3人が……」

郁乃「それこそ、理不尽っちゅうもんやないのぉ?」


恭子「……」

由子「……」

漫 「……」


洋榎「……おい、何でみんな黙ってるんや?」


洋榎「うちらは、突然こんな訳の分からん事に巻き込まれて、
   異世界人とかゆうのに、勝手に生き死にを決められて……」


洋榎「何でうちの絹が、そんな阿呆らしい妄想話の犠牲にならなあかんのや!?」


洋榎は黙り込む3人を睨み付けながら怒鳴り散らした。



由子「……妄想話ですって?」



由子「せやったら、その目で学校の周囲を見回してみなさいよ!」

洋榎「ゆ、ゆーこ……!?」


由子「洋榎……。周りから響いてくる唸り声を聞けば分かるでしょ……?」

由子「今までの代行の話が、デタラメなんかじゃ無いって……」


由子「こんな大掛かりな事、代行の仕込みでも出来る筈が無いっ!」


由子「それとも、この状況が質の悪い冗談やと、まだ本気で信じてるん?」

由子「……違うやろ? 洋榎は、この現実から目を逸らそうとしてるだけや!」


洋榎「……っ!」


由子「善野監督が奴等に食べられてる所を、洋榎も一緒に見たやん!」

由子「あんな光景を見せられたら、代行の話がただの妄想だなんて言える訳無い!」


由子「亡者達の声は、今もまだ増え続け、津波の様に押し寄せて来てる……」

由子「あれだけの数の人喰いから逃げ切る事なんて、絶対に不可能でしょ!?」

由子「私達に逃げ場なんて無い! 今は代行に従うしか、助かる道は無いのよ!」


由子「だから……」


由子「可哀相やけど、絹恵ちゃんには、生贄になって貰うしかない……っ!」


洋榎「ゆーこ……お前ぇぇぇぇ……っ!!」

洋榎「漫っ! お前はどうなんやっ!?」


漫 「な、なんでうちに話を振るんですか!?」ガタガタガタ......

洋榎「漫は絹の一番の親友やろ? お前は、親友を見捨てる様な人間なのか!?」


漫 「そ、そんな訊き方、卑怯ですよ……っ!」

洋榎「……なにぃ!?」


漫 「だ、だってぇ……うちらは、正々堂々と勝負した訳ですやん……」

漫 「その結果、絹ちゃんが最下位になってしもうたんでしょ……?」


洋榎「……正々堂々勝負したから、敗者は潔く死ねゆうんか? あぁっ!?」

漫 「そ、そんな事は言って無いじゃないですか……っ!」


洋榎「だったら、どうゆう意味か言うてみい!」

漫 「うぅ……なんでうちが責められなあかんの……?」


ぽろぽろと涙を零し、漫はその場に泣き崩れた。

洋榎「泣いてたら分からんやろ!? うちの質問に、はよ答えんかいっ!」


洋榎は座り込んでいる漫の胸倉を両手で掴み、力任せに無理矢理引っ張り上げた。


洋榎「お前は絹の何なんやっ! 親しい友人やないんかっ!?」

洋榎「それとも、自分さえ助かれば、友達がどうなろうと関係無いんか!?」


怒号を浴びせながら、漫を激しく揺さ振る洋榎。


漫 「むぐぐっ……く……苦しい……っ!」


絹恵「やめて! お姉ちゃんっ!」


見兼ねた絹恵が、洋榎と漫の間に入り、2人を何とか引き離した。


漫 「ごほっ……ごほっ……ごほっ……」

絹恵「ごめんな漫ちゃん……私の所為で……ごめんな……」


咳き込む漫に対して、絹恵は涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返した。


洋榎「絹! そんな薄情な奴とは、金輪際付き合うな! 友達の縁を切れ!」


洋榎は、汚物を見るかの様に、冷酷な視線を漫に向けながら叫んだ。


恭子「……」


洋榎「恭子、さっきからずっと黙っとるけど、お前も由子や漫と同じ考えなんか?」


恭子「…………」

恭子は洋榎の言葉に反応せず、指を下唇に当て、何やら考え込んでいる。


洋榎「おいっ! 恭子! 聞こえてるんやろ!? 返事くらいせぇや!!」


それでも、我関せずとばかりに、恭子は視線すら合わせず沈黙を続ける。


洋榎「ははっ……そうか……。恭子ぉ、お前もそっち側の人間か……っ!」


洋榎は右手を額に当て、大声を上げて笑い始めた。


洋榎「お前らは、うちが絹の事を身内贔屓にしてると思っとる様やけどなぁ……」

洋榎「うちはただ、仲間を犠牲にする事が許せなかっただけや!」


漫 「っ!?」

由子「……っ!」

恭子「……」


洋榎「確かに、妹である絹は、何者にも代え難い、最も大切な存在や……」

洋榎「けどなぁ、恭子やゆーこ、漫の事だって、うちは蔑ろにしたりせぇへん!」


洋榎「うちは、全員が生き延びる方法をずっと考えてたのに、
   お前らは、自分が助かる事しか頭に無かったんやなっ!」


洋榎「心から信頼できる仲間だと思ってたのに……」

洋榎「どうやら、うちの思い違いだった様やなぁっ!」


漫 「うぅ……」


由子「わ、私だって……っ!」


由子「私だって、皆が助かる方法があるのなら、こんな事はしたくないのよっ!」

由子「せやけど、それは現実的に無理があるやろ? 冷静に考えれば分かるやん!」


由子「洋榎は考えが甘過ぎる! 私達に、無駄死にを勧めているだけなのよ!?」

由子「違うと言うのなら、全員が助かる明確なプランを、今ここで提示して!」


洋榎「……」


由子「どうせ洋榎の事や。策も無く、気合と根性で生き抜くとかゆうんでしょ!?」

由子「そんな無謀極まり無い、危険過ぎる賭けに、命張れる訳無いやん!」


由子「私は、蠢くゾンビの中を、強行突破する勇気なんて無い!」

由子「誰もが洋榎みたいに、強い力と心を持ってる訳やないんよ!?」


洋榎「……言いたい事はそれだけか?」


由子「っ!!」


洋榎「……お前らみたいな〝屑〟を、もう仲間だとは思わん!」


涙を流し訴える由子の想いも、今の洋榎の心には全く届かなかった。


洋榎「うちは絹を連れて、必ずここから脱出してみせる……っ!」

洋榎「人喰いだろうが何だろうが、邪魔する奴は、全員ぶちのめしたる!」

洋榎「奴等と戦う勇気の無い臆病者は、ここで縮こまって震えてればええよ……」


漫 「ま、待ってくださいよ、主将……」


洋榎「 う る さ い ! 」


洋榎「お前らみたいな下衆は、代行と一緒に、奴等の餌になればええんやっ!」


絹恵「 も う や め て お 姉 ち ゃ ん ! 」


今まで誰も聞いた事の無かった、絹恵の怒声が辺りに響いた。

洋榎「……絹?」


絹恵「今のお姉ちゃんの態度は、余りにも傲慢過ぎるで!」

絹恵「それに、他の人の気持ちを、これっぽっちも考えとらん!」


絹恵「強引に〝我〟を通そうとして、相手の心を踏み躙ってる……」

絹恵「はっきり言って、最低や! 見損なったで!」


洋榎「う、うちは絹の為に……」


絹恵「お姉ちゃんが、私を想ってくれてる事は、痛い程分かってる……」

絹恵「けどな、私の大切な親友や先輩達の悪口は言わんといて!」


洋榎「せ、せやけど……っ! みんな絹の事を見捨てようとしてるんやでっ!?」


絹恵「あんな惨状を見せ付けられた挙句、こんな状況に追い込まれて……」

絹恵「自分だけでも助かりたいと思うんは、至極当然の事やろ!」


洋榎「嘘や! そんな訳あるかっ! うちはそんな風に思ったりしてへんで!」


絹恵「誰もがお姉ちゃんみたいなヒーローになれる訳やないんよ!
   自分がそうやからって、それを他人にまで押し付けたらあかん!」


洋榎「ぐっ……!」

洋榎(何でや絹……っ! 全員で生き抜こうとする事があかんゆうのか……!?)


漫 「絹ちゃん、ごめん……。うちは……うちは……」

絹恵「……分かってる。漫ちゃんの気持ちも、十分に理解してる……」


漫と絹恵は、固く互いを抱き締め合った。


絹恵「普通の人間は、誰しも心に弱い部分を持ってる……」

絹恵「だからこそ、相互に助け合う事が必要なんや……」


絹恵「相手の弱さを責めた所で、何の解決にもならへん……」

絹恵「そんなら、自分がもっと強くなればええねん……」


絹恵「相手の弱さを認めた上で、それを全て受け入れられる位に……っ!」


決意を固めた絹恵は、毅然とした表情で郁乃を見据えた。


絹恵「代行!」

郁乃「ん~?」


絹恵「……私が生贄として死ねば、本当にみんな助かるんですか?」

洋榎「絹……お前、何言って……」


郁乃「洋榎ちゃんの命だけは保証できるで~」

郁乃「せやけど、残りの3人については、今はまだ何とも言えんなぁ……」

郁乃「3人の内の1人は、確実に死ぬ。それが誰になるかは、私にも分からん」


絹恵「……逆に言えば、2人は必ず助かるって事ですよね?」

郁乃「せやで~。2人は間違い無く生き残れる、それは保証するで~」

郁乃「あと、絹恵ちゃんは無理やけど、生き残った者の家族は助かるから、
   千里山で監督をしとる雅枝さんは、洋榎ちゃんのお陰で救われる筈や」


絹恵「そうですか……」


絹恵は少し空を見上げ、優しげな面持ちで一言呟いた。


郁乃「絹恵ちゃん、覚悟はええか?」

絹恵「……はい。私、生贄になります……っ!」


洋榎「絹……ま、待て……っ! もう一度、落ち着いて良く考え直せ!」


漫 「絹ちゃん……」

由子(ごめんなさい、絹恵ちゃん……)

恭子「……」


洋榎「嫌や……認めん……っ! そんなん、うちは絶対に認めんでっ!」


絹恵「私だって、死ぬんは怖い……。身体の震えも止まらん……」

絹恵「けど、お姉ちゃんには、絶対に生き残って欲しいねん……」


絹恵「お姉ちゃん……。おかんの事、よろしくな……」

恭子「……絹ちゃん、それはちょっと待ってくれへん?」


それまで無口だった恭子が、突然、絹恵の処刑に待ったを掛けた。


洋榎「恭子……?」


郁乃「いきなりどうしたん、末原ちゃ~ん?」

郁乃「折角、綺麗に纏まり掛けた話を、ま~た蒸し返すん?」


恭子「……結果的には、まぁ、そうなりますかね……」

郁乃「ふぅ~ん……。まっ、取り敢えず、末原ちゃんの意見を聞こうやないの」


恭子「結論から言うと、うちは洋榎の考えに賛成です」


洋榎「っ!!」

絹恵「っ!?」

漫 「っ!!」

由子「っ!?」


郁乃「……」


由子「それ、どういう事なん、恭子!?」

恭子「要するに、屍鬼の群れの中を、強行突破しようって事ですわ……」


由子「はっ……はぁ!?」


郁乃「イーッヒッヒッヒッーー……ッッッ!」


郁乃「慎重派な末原ちゃんの口から、そんな大胆発言が飛び出すとはなぁっ!」

郁乃「奴等の包囲網を突破しようやなんて、完全に自殺行為やで~?」

郁乃「いつから末原ちゃんは、命知らずの勇猛なアマゾネスになってもうたん!?」


郁乃「んふぅーふっふっー、んーっくっくっくっくっ……はひぃーはひぃー……!」

郁乃「ぷぷぷっ……真顔で冗談ゆうなんて反則やろ! 笑い死ぬ所だったで~!」


恭子「……いえ。これは決して冗談なんかじゃありませんよ、代行……」


郁乃「……」


郁乃の顔から急速に笑みが消えてゆく。


恭子「それに、うちは勇猛でも何でもありません」

恭子「今にも恐怖心に押し潰されそうで、立ってる事すらやっとの状態ですわ……」


由子「そんな状態であるなら尚更、ここから逃げ出す事なんて無理じゃない!」

由子「1人でも多く生き残る為には、素直に代行の指示に従った方が賢明よ!」


恭子「……せやね。代行の言っている事が、〝真実〟であるなら……な」


由子「……どういう意味? 今更、代行が私らに嘘を吐いてるとでもゆうん?」


恭子「全部が全部嘘だとは、流石にうちも思わへん。この現状を見ればな……」

恭子「けど、全てが真実だとも思ってへん。事実、代行は隠し事もしていた……」


郁乃「……」


恭子「代行は、今のこの状況に動じる事も無く、寧ろ楽しんどる……」

恭子「うちらの生き死にすら、ゲーム感覚で弄んでいる様にしか思えん……」

恭子「そんな代行が、うちらの味方な筈無いやろ……?」


由子「……っ!」


恭子「なぁ、由子……。代行に大人しく従えば助かると、本当にそう思うんか?」


由子「……」

郁乃「ちょっとちょっと~、末原ちゃ~ん! 何、勝手な事言ってる~ん?」

郁乃「私は、姫松高校麻雀部の監督代行やで? みんなの味方に決まっとるやん!」

郁乃「ほぅら~、この目を良く見てみぃ。嘘吐いてる者の目やないやろ~?」


郁乃は目をしっかりと見開き、珍しくキリッとした顔付きを皆に披露した。


郁乃「……」キリッ


郁乃「……」

郁乃「…………」

郁乃「………………」

郁乃「……………………」

郁乃「…………………………」プルプル......


郁乃「ぶふぉっ!!」


郁乃「んっくっくっ……ぶふぅっ! あかん、これあかんわ!!」

郁乃「イヒッ……イヒヒッ……ふごふごっ……ごぷぅっ! げほっげほっ……!」


洋榎「……」

絹恵「……」

由子「……」

漫 「……」


恭子「……な? これで分かったやろ?」

郁乃「待ってぇ、末原ちゃん! 今の無し! ノーカン、ノーカン!」

郁乃「もう一回、真面目な顔作るから、ちょっと待って~!」


ふざけた調子の郁乃を無視し、恭子は話を続ける。


恭子「……代行は、うちらが苦しむ姿を見て、面白がってるだけなんや」

恭子「とすれば、この生贄選択も、代行の戯れかもしれん……」


恭子「例えば……」

恭子「生贄にならなければ助かると、うちらに思い込ませて置いて、
   後からそれが嘘である事を明かし、絶望のどん底に叩き落す……」

恭子「……とかな」


由子「つまり、最初から私達全員を殺す気やと……?」

恭子「……そういう可能性も、十分考えられるって事やね……」


郁乃「えぇ~!? それは、末原ちゃんの勝手な想像やで~?」


恭子「だったら、それを証明してくださいよ。今すぐに!」

郁乃「うぇっ!? そんなん、出来る訳無いやん……」


恭子「結局、代行の言葉を裏付ける証拠は無い……」

恭子「自分に都合の良い様に、話を歪曲している可能性も否定できん……」


恭子「2人を生贄に捧げた所で、残りの3人が生き残る保証は何処にも無い!」

漫 「そんな事ゆうたら……うちらは、既に詰んでるじゃあないですか!」


漫 「扉を開ければゾンビに襲われて死ぬ、代行の言う通りにしても死ぬ……」

漫 「どうすれば良いんですか、末原先輩……っ!」


恭子「……」


恭子「……代行は、現状に全く危機感を抱いていない」


郁乃「そんな事無いで~? 私の心臓はバックンバックンやで~!」


恭子「……それはつまり、自分だけ逃げ道を確保しとるゆう事や……っ!」

由子「逃げ道……? そんなのある訳……」


その時、全員の視線が黒い箱に集まった。


絹恵「まさか……」

洋榎「この中に……あるゆうんか……?」


恭子は静かに頷いた。


恭子「……恐らく、この箱の中に、ここから脱出する手段が用意されている筈や!」


郁乃「……」

恭子「せやけど、それが全員分あるかは分からん……」

恭子「代行の話が本当なら4人分、最悪1人分しか無いかもしれん……」


漫 「そ、それじゃあ……」

由子「足りない分は……どうするん……?」

由子「どっちにしても、取り残される人が出るやん……?」


恭子「それは、さっきゆうたやろ……?」


恭子「ここに残された者の選択肢は、たった1つだけ……」

恭子「奴等の中を、強行突破するしかない……っ!」


漫 「そ、そんな……」

由子「最終的には、必ず誰かが置き去りにされるって事……よね……?」


恭子「……せやな」


絹恵「……」


絹恵(こんな所に残されるなんて、絶対に嫌やけど……)

絹恵(生贄投票で一番に選ばれた、私が残るんが筋やろな……)

絹恵(残された者の生存確率は、限り無く0に近い……)


絹恵(だからこそ、誰かにそれを押し付ける事なんて絶対に出来ん……っ!)

絹恵「その時は、私が……」


洋榎「 う ち が 残 る で ! 」


絹恵が言い掛けたその時、洋榎がそれを遮る様に言葉を発した。


洋榎「この中で、最も運動神経が良いのはうちやろ? うちが残るわ!」


絹恵「で、でも、お姉ちゃん……」

洋榎「なぁに、そう簡単にうちは喰われへん。必ず生き残るから心配すんな、絹」


絹恵の頭を撫でながら、洋榎は強気に笑って見せた。


恭子「……うちも付き合うわ。洋榎1人じゃ、心許無いからな」

洋榎「恭子……。そんな事言って、後悔しても知らんで……?」


そう言いつつも、洋榎は少し嬉しそうな顔をしている。
恭子という、心強い仲間が傍に居てくれるお陰だろう。


1人では無理でも、2人ならどんな困難も乗り越えられる。
洋榎も恭子も、心の底からそう信じて疑わなかった。


恭子「ふふっ……」

洋榎「へへっ……」


互いに顔を見合わせ、控えめな照れ笑いをする2人。


恭子(偽善だとか、英雄気取りだとか……そんなの関係無い……)

恭子(うちに取っては、洋榎を1人残して行く事の方が、何よりも辛いんや……)


恭子(洋榎は……洋榎だけは、うちが絶対に守ってみせる……っ!)

恭子「そういう訳で、その箱の中を拝見させて貰いますわ」


郁乃「……ええよ」


恭子「そうですか。まぁ、貴女の許可が無くても見ますけどね」


郁乃「……」


恭子を先頭にして、5人は黒い箱の入り口へと向かった。
大きな扉の前に立つと、その姿に反応したのか、自動で扉が開いてゆく。


恭子(この中にある筈なんや……。地獄から抜け出す為の〝切り札〟が……っ!)


自動扉が全て開き切り、黒い箱の内部が5人の前に晒された。
だが、そこには何も無く、ただ空間だけが無駄に広がっていた。


漫 「えっ……?」

洋榎「空……やと……?」

由子「何も……無いのよ……っ!?」

絹恵「どうなって……」


恭子「そんな阿呆な!? ありえん! こんなん、絶対にありえへん!」


恭子は黒い箱の中に飛び込み、驚愕した表情で周囲を見回しながら声高に叫んだ。
悲痛な叫びにも似たその声は、黒く硬い壁に反響して、自らの耳に跳ね返ってくる。


恭子「絶対にある筈なんや! 絶対……必ず……ここに……っ!」


必死に床や壁を触りながら、隈無く箱の内部を確認する恭子。
他の4人も中に入り調査するも、変わった所は何も無かった。


郁乃「くっくっくっ……。探し物が見つからなくて、残念やったなぁ~♪」


いつの間にか、郁乃が恭子達を嘲笑いながら、箱の入り口付近に立っていた。

恭子「……何処に隠したんや?」

郁乃「隠す? 何を?」


恭子「恍けるな! ある筈やろ!? ここから逃げ出す為の〝切り札〟が!」


郁乃「始めから無いってぇ~、そんなもんは~……」


郁乃「けどぉ~……」


郁乃「強いて言うならぁ、この黄金に煌くカードこそが、
   今、末原ちゃんが探し求めている〝切り札〟やと思うで?」


2枚の金のカードをちらつかせる郁乃。


洋榎「せやったら、力尽くでそのカードを奪い取るっちゅう選択肢もあるな……」


郁乃「ノーウェイ、ノーウェイ!」


郁乃「これを私から強奪しても無駄やで~?」

郁乃「カードに選ばれなければ、所持してても無意味やからな~」


そう言うと、郁乃はその場から移動を始める。
5人は、郁乃の後を追う様に、箱の外へと出た。


モニターの傍に立ち、郁乃はニヤニヤと笑っている。
そこから少し距離を置いて、5人は郁乃と対峙した。

郁乃「で、次はどうするん? 末原ちゃん」

恭子「……」

郁乃「末原ちゃ~ん?」

恭子「……私の考えは変わりませんよ。奴等の包囲網を破る策を練るだけですわ」


郁乃「そんなん、考えるだけ無駄やと思うけど……」

郁乃「なぁ、真瀬ちゃん?」

由子「……」

郁乃「真瀬ちゃん?」


由子「……私も、恭子や洋榎と一緒に戦います」


洋榎「!!」

絹恵「!!」

漫 「!?」


郁乃「あ゛っ !?」


由子「……信用できない人の言う事なんて聞けませんから」


冷たい視線を郁乃に向けた後、由子は洋榎の方へ振り返って頭を下げた。


由子「洋榎……。調子良いけど、もう一度私を仲間に入れて貰えないかしら……?」


洋榎「……」


洋榎「……何、寝ぼけた事言ってん?」


洋榎「うちらは、最初から最後まで仲間やろがっ!」

由子「っ!! ありがとう、洋榎……っ!」

漫 「っっっ!!!!!」


漫 「あ、あの~」オズオズ

洋榎「あぁん?」

漫 「うちも〝仲間〟……ですよね……? 主将……」

洋榎「アホな事訊いてないで、もっとこっち来い!」

漫 「主将~」



郁乃「……」

郁乃「……」


郁乃「……何でこうなってしまったんや?」

郁乃「少し前までは、良い感じに進んでおったのに……」


洋榎「おい、1人で何ブツブツ言っとんのや?」


郁乃「気に食わんなぁ……メッチャ苛つくわぁ……」ゴゴゴゴゴッ......

郁乃「もう、あいつらの手を借りて、事を進めるしか無い様やなぁ……」


郁乃「おいっ! 黒服! チョットこっちに来いやぁ!」


突然、黒い箱の方へと向き直り、郁乃が怒りに満ちた大声を上げた。
5人が激怒する彼女の顔を見たのは、それが初めてだったかもしれない。


そしてその時、黒い箱の扉が内側から開き、
中から、サングラスを掛けた屈強な男達が現れた。

黒いスーツに身を包み、近寄り難い威圧感を放っている。


黒服 「……」

黒服2「……」

黒服3「……」

黒服4「……」

黒服5「……」


黒服「失礼します」


洋榎「なんやコイツら!?」

由子「あの箱の中に潜んでいたの!?」

恭子「いや、隠れられる様な場所は、何処にも無かった筈や!」

漫 「ひ、ひぃぃぃぃ……っ!」

絹恵「な、何やの……この人達……」



郁乃「疲れたから、進行代わって貰える?」

黒服「……かしこまりました」

洋榎「おい! お前ら、一体何者や!?」


黒服「初めまして。我々は、この儀式の進行を、神から任されている者です」


恭子(儀式……!?)

洋榎「神から……任された……やと……?」


黒服「イエス」


黒服「ですが今回は、赤阪郁乃様の強い希望により、
   その権限の全てを、一時的に彼女に移譲していました」

黒服「しかし今、赤阪様がその権限を放棄されましたので、
   本来の役割に戻り、我々が後任を務めさせて頂きます」


黒服「どうやら、余り時間が残されていない様ですので、
   強制執行モードで、儀式の方を進めさせて頂きます」


校舎に続く入り口の扉を一瞥し、黒服はそう宣言した。


洋榎「強制……執行……やて……?」


黒服「イエス」


黒服「我々の指示に従わない場合、重い罰則が与えられるのでご注意ください」


漫 「罰則……? 罰則って何ですか……!?」


黒服「皆様に対して、肉体的苦痛を伴う行為をさせて頂く、という事です」


由子「私達に……暴行を加えると……?」

黒服「イエス」


漫 「ひぃぃ……た、助けて……」

恭子(コイツら……暴力でうちらを支配する気か……っ!?)

黒服「まず、逃げ回られると面倒なので、その場から動かない様にしてください」

黒服「ただし、我々から指示された場合は、速やかに移動をお願いします」


洋榎「あぁ? 随分と勝手な事を言ってくれるやないか!」


黒服「失礼しました。愛宕洋榎様は、既に生き残りが確定していますので、
   我々の指示に従う必要はありません。どうぞ、ご自由になさってください」


黒服「……ただし、我々の進行を妨害する真似だけは、決してなさらぬよう……」


洋榎「妨害するかどうかは、お前らがこれから何をするか次第やで……?」


黒服「……」


黒服「最初は、愛宕絹恵様に、自らの処刑方法を選んで頂きます」

黒服「次に、選ばれた方法で、絹恵様の処刑を執行します」


洋榎「ちょい待てやっ! そんなん、うちが許すと思うんか!?」

黒服「非常に残念ですが、ここまでは確定事項ですので……」


洋榎「絹を殺すんが、確定事項やと……?」

黒服「イエス」


洋榎「本気なんやな……?」

黒服「イエス」


洋榎「そうか……」


洋榎「……人を殺そうゆうんなら、逆に殺されても文句は言えないな?」


鋭い眼光で睨み付けながら、洋榎は黒服にそう言い放った。


黒服「……?」

黒服「申し訳ありませんが、質問の意味が理解できません」


洋榎「絹を殺す気なら、うちがお前をぶち殺すっちゅう意味やで……」


そう言うと、洋榎は装飾が付いた髪留めを外し、
硬く尖った先端が指の間から出る様にしてそれを握った。

黒服「貴女が私を〝殺す〟事など、不可能だと思いますが……」


黒服「仮に、貴女が私に危害を加えようと、私は貴女に文句など言いませんよ?」

黒服「ですが、私の邪魔をなさるのなら、こちらも相応の措置を取らせて頂きます」


洋榎「……警告はしたからな」

黒服「私は、貴女に忠告を致しました……」


黒服「……それでは、絹恵様。モニターの前まで、移動をお願いします」

絹恵「っ!?」


洋榎「絹! こんな奴の言う事に従う必要は無いで!」

黒服「従わない場合、強制的に我々がお連れする事になりますが……」


言い終わらない内に、黒服が5人の元へと近寄って来る。


洋榎「絹、後ろに下がってろ! 恭子、絹を頼む!」

恭子「分かった……っ!」

絹恵「お姉ちゃん!」


洋榎「ゆーこと漫も、うちから離れてろ!」


恭子は絹恵の肩を抱きながら、ゆっくりと後退した。
由子と漫は左右に別れ、洋榎から一定の距離を取る。


洋榎「それ以上近付くな! うちは本気や! どうなっても知らんで!?」


洋榎の言葉を聞き入れる様子も無く、黒服はその歩みを止めない。


洋榎「うちはやる……絹の為なら……何だって……躊躇わず……っ!」

3歩踏み込めば触れる事のできる距離に迫った次の瞬間、
洋榎が姿勢を低くして、黒服の懐へと、一気に飛び込んだ。


髪飾りを握り締めた右手の拳を、黒服の左眼球目掛けて繰り出す。
洋榎は同時に、黒服の股間に狙いを定め、強烈な膝蹴りを放った。


黒服は立ち止まり、防ぐ事も避ける事もせずに、
洋榎の急所に対する攻撃をそのまま全て受ける。


ガキンッ


洋榎「っ!?」

洋榎(何やこの目玉の硬さは……! 金属の髪飾りが……弾かれた!?)


黒服「右手に注意を引き付け、無防備となった男性の急所を強襲する……」

黒服「その着眼点、咄嗟の判断力と行動力、実に素晴らしい……」


黒服「ただ……」


黒服「我々は人間ではありません。ですから、眼球も局部も弱点では無いのです」


洋榎「……っ!?」


思いも掛けぬ黒服の言葉、予期せぬ事態に、動揺を隠し切れない洋榎。

その一瞬の隙を突き、黒服は洋榎の腕を掴んで、自分の方へ引き寄せると、
素早く背後に回り込み、宙に浮かせる様にして、彼女を羽交い締めにした。


洋榎「くそっ! 放せっ! このぉ……っ!」


自由の利く脚を動かし、靴の踵を黒服の脛に打ち付ける洋榎。


黒服「大人しくしてください。我々は、貴女に危害を加えるつもりはありません」

黒服「ですが暫くの間、貴女を拘束し、行動の自由を制限させて頂きます」


黒服2「……」スタスタ......

黒服3「……」スタスタ......


新たに2人の黒服が、手錠と縄の様な物を手に持って、洋榎の元へとやって来る。
洋榎は脚を動かし、必死に抵抗するものの、黒服を振り解く事など出来なかった。

洋榎「んっ……!」


もう1人の黒服に両足を持ち上げられ、空中で真横に寝かされた洋榎は、
その体勢のままゆっくりと地面に降ろされ、その後うつ伏せにさせられた。


頭と肩を黒服2に押さえ付けられ、両足は黒服3に掴まれ、身動きが取れない。
黒服は、動けぬ洋榎に対して、後ろ手に手錠をし、両足首にも別の手錠を掛ける。


更にその上から、縄をぐるぐると、念入りに巻いてゆく。
足首の方はより厳重に、脹脛の上辺りまで縛られていた。


洋榎「んっ……くっ……くそぉ……っ!」


地を這う芋虫の様に、必死に身体をくねらせる洋榎。
しかし、縄は少しも緩まず、抜け出す事はできない。


郁乃「惨めやなぁ、洋榎ちゃん……」

洋榎「くっ……!」


黒服達が洋榎の体から離れ、それと入れ替わる様に郁乃がやって来た。


郁乃「洋榎ちゃんみたいに、生意気な子がそんな姿にされてると、
   こう、背中が〝ゾクゾクッ〟としてきて、虐めたくなるわぁ……」


洋榎「っ……!」ビクッ

郁乃は、うつ伏せ状態になっている洋榎の背中に伸し掛かると、
服の上から厭らしく胸を触り、スカートの中の内腿をまさぐり始めた。


ひんやりと冷たい郁乃の細い指が、洋榎の性感帯を刺激する。


洋榎「あっ……んぁっ!」


恭子「なっ! 洋榎に何を……っ!」

絹恵「だ、代行……っ!」


郁乃は洋榎の耳の穴に舌を捩じ入れながら、シャツの内側へ自らの手を潜り込ませ、
臍を指の腹で円を描く様にさすった後、皮膚の表面を爪でなぞり上部へ侵攻して行く。


洋榎「ひぁっ!?」


やがてその手は胸部にまで到達し、フロントホックブラの留め金を外す。
そこから解き放たれた洋榎の慎ましい乳房を、捏ね繰り回し揉み拉いた。


洋榎「やっ……やだっ……! やめてぇぇぇっっっ!」


如何に勇敢な少女でも、辱めを受ける事には耐えられなかった。
それが親友や妹の目の前で行われるとなれば、尚更の事である。


郁乃「そうそう、その顔や……。堪らん……堪らんでぇ……洋榎ちゃん……っ!」


たっぷりと涙を溜め込んでいる、洋榎の目蓋を舌で抉じ開け、眼球を舐める郁乃。


洋榎「んんんっっっ……!!!」


郁乃「あぁ~、洋榎ちゃんの涙、美味しいなぁ~……」

黒服「赤阪様……。お戯れは程々にして頂かないと困ります」


郁乃「 あ゛ぁ ん ? 」


黒服「生き残りが確定した者に対し、肉体的苦痛を与える行為は禁止されています」

黒服「赤阪様は、我々側の立場にいますから、その規則が適用されますよ?」


郁乃「……何言ってん? 苦痛なんて与えてないやん……」

郁乃「私は洋榎ちゃんを、気持ち良~くしてあげてるだけやで~?」


ググググッ……ズププッ……


洋榎の閉じた秘部に、下着の上から小指を押し挿れる郁乃。


洋榎「んっ! んくぅぅっっっ!」


目を固く瞑って唇を噛み締め、洋榎は頬を紅潮させた。


黒服「……」


黒服「〝生き残りが確定した者に対しては、如何なる苦痛も与えてはならない〟」

黒服「赤阪様、〝ルールは絶対〟です。これ以上は、我々も見過ごせませんが?」


郁乃「ちぃ……。しゃあないなぁ……」


郁乃は渋々と洋榎の上から降り、モニターの方へと戻っていった。


洋榎「ヒック……ヒック……」


洋榎は横向きになって身体を丸め、声を押し殺してしゃくり泣いた。

洋榎に弾き飛ばされたサングラスを拾い上げ、それを掛ける黒服。
左レンズが破損しているものの、気にする様子は見受けられない。


黒服「さて、絹恵様……」


洋榎を完全に無力化した黒服が、絹恵の方に目を向ける。
その視線を遮る様に、恭子が黒服の前に立ちはだかった。


毅然とした顔付きとは裏腹に、その脚はガクガクと大きく震えている。


黒服「絹恵様、どうぞこちらへ……」


恭子「絹ちゃん! 逃げてっ!」


恭子は歩み寄って来る黒服に突進し、その体にしがみ付いて叫んだ。


絹恵「で、でも……っ!」


恭子「いいから、早く!」

黒服「末原様、貴女は生贄候補者です。洋榎様とは、立場が違うのですよ?」

黒服「抵抗なさるのなら、我々は貴女に対し、手心など加えませんが……」


恭子「うるさい! うちは、死んでもお前から離れんで!」


黒服「そうですか……。なら、仕方ありませんね……」


黒服は、恭子の首を両手でじわじわと絞め上げる。


恭子「ぐっ……んんっ……!!!」


黒服の顔面を引っ掻いたり、腕を叩いたりするも、効果は無い。
恭子の体は宙に浮き、顔色が赤から紫へと徐々に変化してゆく。


漫 「あわわわわ……」ガチガチガチ

由子「ひっ……」ガタガタガタ


漫も由子も恐怖に震え、動く事すらできない。
絹恵も腰を抜かし、その場にぺたんと座り込んだ。

突然、黒服は恭子の首からその手を離す。
恭子はその場に倒れ込み、激しく咳き込んだ。


黒服は、そんな恭子の胸倉を掴み上げ、彼女の鼻柱を硬い拳で殴り付ける。
恭子の鼻からダラダラと大量の血液が垂れ、純白のブラウスを赤く汚した。


痛みはそれ程では無いが、出血による戦意喪失を狙ったのだろう。
実際、由子と漫は血塗れの恭子を見て戦慄し、言葉すら失っていた。


洋榎「きょ、恭子……」

恭子「ごぽっ……へ、平気や洋榎……。これ位、なんて事無いわ……」


黒服の顔に向かって血反吐を飛ばし、強がりを言う恭子。
しかしそれは、黒服の最後の慈悲を拒否したという事でもある。


黒服は恭子の言葉を聞き、これでは手緩いと思ったのか、
胸倉から手を離すと、今度は恭子の左手を掴み取り、
手の甲に向かって、彼女の小指を勢い良く折り曲げた。


ボキッ


恭子「う゛っ ……う゛あ゛あ゛ぁ ぁ ぁ っ っ っ ……!!!」


それまでとは比較にならない激痛が走り、恭子は堪え切れず悲鳴を上げた。

由子「あっ……あぁぁっ……」

漫 「ひ、ひぃぃぃぃっっっ!!!!」

絹恵「あっ……あっ……っ!」


黒服「……末原様。今後、我々の邪魔をしないと言うのであれば、
   これ以上、痛い目に遭わなくて済みますが、どうしますか?」


恭子「こ……断る……っ!」


激痛に顔を歪め、声を震わせながらも、恭子は黒服の提案を突っ撥ねた。


黒服「そうですか……。それでは、2本目を折らせて頂きます」


そう言うと、黒服は眉一つ動かさず、恭子の左手薬指を、小指と同様に圧し折った。


ボキッ


恭子「ぐっ……ん゛ん゛ん゛っ っ っ ! ! ! 」


洋榎「あぁ……恭子……恭子……恭子ぉぉぉぉっっっっっ!!!!」


涙と鼻水に塗れた顔で、洋榎は恭子の名を叫んだ。

恭子「あぐぅ……ぅぅぅっっっっ……っ!」


黒服「片意地を張るのも、程々にした方が宜しいかと……」


黒服「末原様が音を上げるまで、私は貴女の指を折り続けます」

黒服「折れる指が全て無くなったら、次は腕や脚を圧し折るでしょう」


恭子「ひぃ……っ!」カタカタカタ......


黒服「けれど、殺しは致しません。貴女はまだ〝生贄候補者〟なのですから……」

黒服「ですがそれは、死ぬよりも遥かに苦しい事かもしれませんよ……?」


恭子「うぅっ……あぁぁぁっ……」カタカタカタ......


抵抗の先にある、苛酷な結末を想像して、恭子は恐怖し震え上がった。


服従しなければ、黒服は自ら提言した責め苦を、躊躇う事無く実行するだろう。
自分が助かりたいという思いと、絹恵を守ろうとする心が、激しくせめぎ合う。


恭子(嫌や……怖い……! これ以上は……うちには無理や……っ!)


全身を震わせて涙を流し、救いを求める様な目で、恭子は絹恵を見た。


絹恵「っ!!」

死ぬ事すら許されぬ、終わり無き拷問……。

そんな惨い仕打ちに、耐えられる者などいるだろうか?


〝た、助けて……絹ちゃん……〟


風の音にすら掻き消されてしまう程のか細い声で、恭子は絹恵に助けを求めた。
恐怖と痛みが正義感を蝕み、恭子は利己に満ちた一言を吐き出してしまったのだ。


恥も外聞もかなぐり捨て、後輩の情けに縋る恭子。


絹恵「もう止めてください! 行きます! 私、モニターの前に行きますから!!」


黒服「……そうですか。絹恵様が、そう仰るのなら……」


黒服は、恭子を乱暴に横へ放り捨てると、
座り込んでいる絹恵の手を引っ張って立たせ、
モニターの正面へと、彼女を連れて行った。


恭子は小さく蹲ったまま俯き、無言で体を震わせている。
今の恭子には、抵抗する気力など、微塵も残っていなかった。


恭子(我が身可愛さに、絹ちゃんを見捨ててもうた……)

恭子(うちは最低の人間や……。ごめん……絹ちゃんごめん……)


力無き正義など、暴力に支配された環境では、何の役にも立たない。
己の無力さを痛感し、恭子の義侠心や自尊心は、砂城の如く崩壊した。

モニターの前に立ち、画面を見詰める絹恵。
映し出されている、禍々しい書体の漢字達。


〝鯰〟 〝貫〟 〝掃〟 〝輪〟 〝巻〟 〝凌〟


黒服「絹恵様、この中から、いずれか1つをお選びください……」


絹恵(うぅ……。そんな事言われても、どれを選べば良いんや……)


どうせなら、苦しまずに死ねる選択肢を選びたい。
しかし、処刑方法の内容は、一切教えて貰えない。


洋榎「ま、待って……! 待ってください!」


涙声の洋榎が、懇願する様に、黒服に向かって懸命に叫ぶ。


洋榎「うちが絹の身代わりになります! 絹の代わりに、うちを処刑してください!」

洋榎「やから、絹は助けてくれませんか? お願いします! この通りや!」


絹恵(お姉ちゃん……っ!)


洋榎「今までの反抗的な態度も謝ります! ごめんなさい、許してください!」

洋榎「もう、貴方達には絶対に逆らいません! 命令にも、素直に従いますから!」


黒服「……申し訳ありませんが、それは無理です」


洋榎「なんでですか!? 2人が生贄として死ねばええんでしょう!?」

洋榎「せやったら、絹の代わりに、うちが生贄になっても構わんやないですか!」


洋榎「お願いです! 何でもします!! 何でもしますから!!!」


洋榎「絹を助けてください! うちの命を差し上げますから……!」

黒服「……洋榎様。そもそも我々には、生贄を変える権限など無いのですよ」

黒服「我々は、あくまで司会進行役であり、事の内容には一切干渉出来ません」

黒服「また、投票結果は絶対であり、神とてそれを覆す事は不可能なのです」


黒服「ですから、無駄な足掻きなどせず、諦めて大人しく運命に従ってください」


洋榎「そ、そんな……。うちに、妹の死を受け入れろゆうんですか?」


黒服「イエス」


洋榎「無理や……そんなん……無理に決まってるやろぉぉぉっっっっ!!」


縛られたままの体勢で、洋榎は地面を激しく転げ回る。


洋榎「ああ……あああっ…… あ あ あ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ …………」


洋榎「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ っ っ っ っ !!!!」


洋榎「ざげんなゴルァッッッ!!!」

洋榎「ッテメェ! 絹に手ぇ出したら、絶対に赦さへんぞっ!」

洋榎「殺す! 地獄の果てまで追い掛けて、必ずこの手でぶっ殺したるっ!!」


洋榎「あ゛ぁ゛っ ー ! あ゛ぁ゛っ ー ! う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ っ っ ! 」


郁乃「はははっ! そんなアザラシみたいな格好で恫喝しても、全然怖ないわ~」


洋榎「代行ぉぉぉっっっっっ……!」

洋榎は、鬼の様な形相で、郁乃を睨み付けた。
強く噛み締めた唇からは、血が滲み出している。


郁乃「洋榎ちゃん、そんなに気にせんでも平気やで~?」

郁乃「どうせ新世界に行けば、全部忘れてしまうんやから……」


郁乃「ここで起きた事も、絹恵ちゃんの存在も、綺麗さっぱりとなぁ……」


洋榎(うちが……絹の事を……忘れる……? 嘘や……そんなん嘘や……っ!)


黒服「……絹恵様、選択をお願いします」


絹恵「わ、私は……」


洋榎「っ!」

洋榎「選ぶな絹っ! 方法が決まらな、処刑を執行する事は出来ん!」


絹恵「っ!?」


郁乃「絹恵ちゃ~ん、後が支えてるんやから、はよしてや~」

郁乃「時間稼ぎするなら、今度は真瀬ちゃんと漫ちゃんを半殺しにするで~?」


由子「……や、いやっ! やめてぇっ!」

漫 「あわわ……アワアワアワ……」


絹恵「わ、分かりました、選びます! 選びます!」

【絹恵の処刑方法を選択】
愛宕絹恵の処刑方法を、6つの中から多数決で決めます。

〝鯰〟 〝貫〟 〝掃〟 〝輪〟 〝巻〟 〝凌〟

鯰→初級
貫→初級
掃→中級
輪→上級
巻→上級
凌→超上級


【レスの形式】

==============
【安価:絹恵の処刑方法】→
==============

右矢印の横に、次の漢字を1つ書いてください。
「鯰」「貫」「掃」「輪」「巻」「凌」


【安価の〆切り時間】
23時59分59秒99


【捕捉】
同数の場合、優先順位は以下の様になります。

凌>輪>貫>巻>掃>鯰


※内容が分からないと選べないという方がいれば、
  Hりんが少しだけ処刑方法について教えてくれるそうです。


【安価:絹恵の処刑方法】→掃 これだけ想像出来ない

【絹恵の処刑方法】【途中経過】

>>367まで集計

鯰→2
貫→4
掃→2
輪→1
巻→1
陵→2


【Hりんからの一言アドバイス】

『鯰』
アマゾンの暴れん坊が緊急来日!
大自然の厳しさを教えちゃうぞ☆

『貫』
これが一番簡単に死ねるんじゃないかな☆
でも、みんなの前ではチョット恥ずかしいかも?

『掃』
派手さは無いけど、凄く苦しそう!
身体の柔らかい子なら、少しは耐えられるかも?

『輪』
回せー回せーぐるぐるぐる~♪
スピードが落ちると大変だ~!

『巻』
ソーセージ美味しそう~!
けど少し臭うんじゃないかな~☆

『凌』
これは超超痛いアルよ~☆
手順が大変だし、みんなに手伝って貰おうかな!

【安価:絹恵の処刑方法】→貫

【安価:絹恵の処刑方法】を〆切ります。

皆様、ご協力ありがとうございました。

>>379まで集計

有効安価数 20

鯰→2
貫→8
掃→2
輪→2
巻→1
凌→5


絹恵の処刑方法は、『貫』に決定致しました。

>>384
色んな穴から入って中から食うんだっけ?

あと1は後で処刑方法の答え教えてくれるのかな?

>>385
作中で使われなかった処刑方法については、後で軽く説明しますね。


本編の方は、書き溜めが中々進まない為、もう少しお待ちください……。

郁乃「で、どれにする~ん?」

絹恵「……〝貫〟にします」

洋榎「絹っ!」


郁乃「おっけ~おっけ~! それじゃあ、準備よろしく~」

黒服「かしこまりました……」


黒服が右手を上げると、他の黒服達は、黒い箱の中へと移動を始めた。


絹恵(〝貫〟……。恐らく、何かで私の体を貫くんやろな……)

絹恵(怖いし痛そうやけど、それが頭や心臓なら、比較的容易に死ねる筈や……)

絹恵(想像も出来へん処刑方法よりは、シンプルなこっちの方がええわ……)


震える身体を、自らの両手で押さえ、何度も深呼吸を繰り返す。
目蓋を閉じて上を向き、絹恵は自らの〝安らかな死〟を切に願った。


暫くして、黒い箱の中に入って行った黒服達が、
処刑に使うであろう、器具や機械を持って出てきた。


自分達が調べた時には、中に何も入っていなかったのに……。
腑に落ちない点もあるが、今となっては、些細な問題である。


皆の関心は、黒服達が持ってきた道具に注がれた。

2人の黒服達が、体操競技で使う〝鞍馬〟の様な物を、絹恵の目の前に置く。


黒服「絹恵様、スカートを脱いでください」

絹恵「え……っ?」


黒服「スカートを脱いでください」

絹恵「そ、それは、何の為に……」

黒服「説明の必要はありません。我々が無理矢理に脱がせても良いんですよ?」


絹恵「……わ、分かりました」


頬を赤らめながら、絹恵はその短いスカートを脱ぎ捨てた。
黒のサイハイソックスが、白い下着をより際立たせている。


黒服「それでは、この上に乗って、うつ伏せになってください」

絹恵「あの……靴は脱がなくても良いんでしょうか……?」

黒服「靴は履いたままで結構ですよ」


言われるままに、絹恵は鞍馬の上に跨がり、
前方を正視する形で、うつ伏せになった。

黒服は、細い紐を使って、寝ている絹恵を後ろ手に固く縛った後、
鞍馬に付いている拘束用の金具で、彼女の首と胴を完全に固定する。


豊満な胸は、金具の締め付けで押し潰され、鞍馬の上から横にはみ出している。
それでも、余りに巨大な乳房の影響で、絹恵の上半身は僅かに上へ向いていた。


次に、絹恵の脚を、蛙の後ろ足の様に開かせて、
一本の金属の棒に、その状態のまま両脚を括り付け、
股を閉じる事ができない様に、きつく固定した。


悲鳴を抑える為か、あるいは自殺を防ぐ為だろうか、
最後に猿轡を噛ませ、絹恵にすべき準備は完了した。


その姿は、寝た体勢でM字開脚をしているかの様にも見える。
身体が柔らかい絹恵でも、この姿勢は少々無理があるらしい。


絹恵「んくぅっ……!」


絹恵は荒く鼻呼吸をし、苦しそうに顔を歪めた。

洋榎「おい……お前ら……絹に何するつもりや……?」


洋榎の質問を無視し、淡々と処刑の下準備を進める黒服達。


洋榎「聞こえてるんやろぉッ! 絹に何するつもりか訊いてんねん!」


郁乃「洋榎ちゃ~ん、そんなに焦ったらアカンよ?」

郁乃「そんなん訊かんでも、すぐに分かるて……」


郁乃は瞳を輝かせながら、期待に胸を躍らせている。


郁乃「一緒に仲良う、絹恵ちゃんの最後を見届けよ?」

洋榎「んぐぐぐぐっ……!!」



鞍馬に縛り付けられている絹恵の後方に、
長さが2m程ある金属製の筒が付いた、謎の機械が設置された。


筒の穴の直径は小さく、2cmにも満たない程度であろうか。


その細長い筒は、絹恵の身体と水平になっており、
彼女の肛門と同じ高さになる様、調節されていた。


筒の先と、絹の肛門の間には、50cm位の距離がある。


機械の本体には、赤いボタンと青いボタンが1つずつあり、
それ以外に、大きく丸いハンドルが、3つ並んで付いていた。


全ての準備が整ったのか、黒服達は一列に並び、足を少し広げ手を後ろに組んだ。



黒服「それではこれより、愛宕絹恵様の処刑を開始させて頂きます」

黒服「赤阪様、赤いボタンを押して頂けますか?」

郁乃「はいは~い、ポチッっとな!」


郁乃が赤いボタンを押すと、銀色の筒が急速に熱を帯び、真紅に変わってゆく。


恭子「何やのコレ……何が始まるんや……?」


臀部にその熱が伝わったのか、絹恵は頻りに後ろを気にしている。
だが、顔の向きは変えられず、目を動かしても真後ろの様子を窺う事はできない。


それから数十秒が経過し、筒の中から、鋭く尖った金属の串が顔を見せた。


洋榎「な……なんやと……!?」

恭子「そ、そんな……」

由子「嘘……よね……?」

漫 「あっ……あぁ……」


それを見て、絹恵以外の4人は、〝貫〟の意味を完全に理解した。
加熱された金属の串は、絹恵の肛門を目掛けゆっくりと伸びていく。


絹恵の臀部に到達する、僅か数センチの所で、串は一旦動きを止め、
その後、それまでとは比較にならぬ程、非常に遅い速度で進行を再開した。


絹恵「んんっ!? んん、んんんっ!!」

絹恵「 ん゛ん゛ん゛ッ ッ ッ ! ! ! 」


串の先端が絹恵の下着を突き破り、直接肌に触れると、
ジュッと音を立て、絹恵が声にならない悲鳴を上げた。

良く見てみると、破けた下着の部分が茶色く焦げている。
その事から、金属の串はかなりの高温である事が分かる。


絹恵「 ん゛ん゛ー っ ! ん゛ん゛ー っ ! ! 」


金属の串が、少しずつ尻の割れ目に進入してゆく。
肉を焼く音が大きくなり、白い煙が上がっている。


やがてそれは肛門に達し、突き刺さる様に絹恵の体内へと侵入した。


ズププッ……


絹恵「んぐぐぐぐぐッッッ!? ん゛ん゛ーーーーっ!!!」


大粒の涙をぼろぼろと零し、塞がれた口から悲鳴を漏らす絹恵。


洋榎「あっ……ああっ……やめて……もうやめてーっ!!!」


洋榎は涙を流しながら大声で叫び、処刑の即時中止を黒服達に訴えた。
しかし、そんな願いが聞き入れられる訳は無く、粛々と刑の執行は続く。


絹恵と屍鬼の呻き声が混じり合い、屋上は阿鼻叫喚の様相を呈してきた。

絹恵「ん゛く゛く゛く゛ー っ っ っ ! ん゛ん゛ん゛ー っ っ ! ! 」


洋榎「あぁ……絹……絹……絹ぅぅぅぅーっ!」

洋榎「なんでや! 何で絹にこんな酷い事するんやっ!?」

洋榎「絹がお前らに何かしたんか? 絹に怨みでもあるゆうんか!?」


黒服「そんなモノはありませんが……」


黒服「しかし、絹恵さんは運が良いかもしれませんよ?」

黒服「数ある処刑法の中で、割と早く死ねる方法を選択できたのですから……」


恭子「これが、6つの処刑方法の中では、比較的楽な方だとでも……?」


黒服「イエス」


由子「こんな惨い仕打ちが……楽……ですって……?」

漫 「だとしたら……他の処刑方法は……」


恭子、由子、漫の3人は恐怖で震え上がった。


黒服「〝楽〟だと言うのは、少し語弊があるかもしれません……」

黒服「肉体的に受ける苦痛のレベルは、他の処刑法と大差はありませんからね」


そう言うと、黒服は処刑方法〝貫〟についての説明を始めた。

黒服「見ての通り、金属の棒が絹恵様の肉体を貫く訳ですが……」

黒服「棒に熱を加えるのは、刺した傷口を焼き、出血を抑える為です」

黒服「それにより、失血死を防ぐ事ができ、より長く苦痛を味わって頂けるのです」


恭子(苦痛を……長引かせる……? さっきは早く死ねるって……)


黒服「棒は肛門から進入し、腸を突き破り、心臓付近を通ってゆきます」

黒服「この時、運良く心臓等の生命維持に重要な器官を貫ければ、
   通常より早く絶命する事ができ、早期に苦痛から解放されます」


黒服「……が、棒の軌道から外れ、それらの器官が致命的損傷を避けた場合、
   棒は更に上へと進み、喉を通って、最終的には、頭部を貫く事になります」

黒服「その時点で、生贄は確実に死亡し、処刑は完了となるのです」


黒服「それだけですと、間違い無く〝上級拷問〟に匹敵する苦しさなのですが……」

黒服「この処刑法には、救いが1つ用意されているのです」


洋榎「っ!?」

恭子「救い……?」


黒服は、機械の本体に付いている、3つの丸いハンドルを指差して言った。


黒服「現在、棒の進みは非常に遅いですが、
   あのハンドルを、皆さんが回す事により、
   その速度を、格段に上げる事が出来るのです」


黒服「3人であれを回せば、20秒程度で、棒は絹恵様の頭蓋に達するでしょう」

恭子「絹ちゃんを早く楽にする為に、うちらにあのハンドルを回せと……?」

由子「わ、私達に、殺しの手伝いをさせる気なの……?」


黒服「これは強制ではありません。そういう選択肢もある、という事でございます」


黒服「仲間が処刑されている所を、ただ眺めているだけでは辛いと思い、
   皆様自身が、〝ある程度の救済〟を行える様、調整させて頂きました」

黒服「と言っても、全ての処刑法に、この様な救いがある訳ではないのですがね」


洋榎(救……済……絹を……救済……)


黒服「ところで……」

黒服「この様に話をしている間も、絹恵様への責め苦は続いているのですよ?」


恭子「っ!?」


耐え難い激痛を受け、歯を食い縛り、涙を流して苦悶の表情を浮かべる絹恵。
その痛みの所為だろうか、今の黒服の話など、全く聞こえていない様子だった。


黒服「そのハンドルを回すかどうかは、全て貴女方次第でございます……」

黒服「もし、それを回す勇気があるのなら、早めに実行した方が宜しいかと……」

どの道、生贄は死ぬのだから、苦しい〝生〟の時間など短い方が良いだろう。
それでも、大切な仲間を殺す事に加担するのは、どうしても気が引けてしまう。


恭子(うちが……絹ちゃんを殺す事に手を貸す……?)

恭子(そんな事、絶対に出来へん……出来る訳無いやろ……っ!)

恭子(例えそれが絹ちゃんの為だとしても、うちには無理や……)


激痛に苦しみ、呻き声を上げ続ける絹恵。
無慈悲な選択の狭間で、恭子は苦悩する。


洋榎「回して……」

恭子「っ!?」


消え入りそうな声で、洋榎の口から、断腸の思いと共に吐き出された言葉。


〝回して〟


洋榎「恭子……頼む……回してくれや……。絹を、早う楽にしてやってくれ……」


洋榎は涙を流し、悲痛な面持ちで恭子にそう告げた。
妹の死を願う姉、それは苦渋の決断だったに違いない。


恭子「せ、せやけど……」


洋榎「うちには……絹を助ける事が無理やから……頼む……恭子……」

洋榎「うちの代わりに……あのハンドルを回してくれ……」


恭子「……っ!」


恭子は天を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ後、意を決して頷いた。


恭子「……わ、分かった」

恭子「ゆーこも、漫ちゃんも、ハンドル回すんに協力してや!」


由子「む、無理……私は絶対に嫌よっ!」


恭子「っ!!」


漫の方に視線を向けると、怯えた表情で首を横に振っている。


恭子「うちらが……うちらが、絹ちゃんを助けな……っ!」

由子「絹恵ちゃんを助けるですって!? 殺すの間違いでしょっ!」


目を閉じ耳を塞ぎ、由子はその場にしゃがみ込んでしまった。


恭子「漫ちゃん……漫ちゃんはうちと一緒に……」

漫 「い、嫌です……っ! うちには出来ません!」


恭子「うぅ……」


恭子は、由子や漫の事を責めはしなかった。
彼女達の心境は、恭子も十分に理解している。


そして恭子自身にも、後ろめたい思惑があった。

〝皆でそれを行えば、罪の意識も分散され軽くなる〟


絹恵を自らの手で殺したという、自責の念から逃れたい。
そんな打算が自分の中にある事も、恭子は自覚していた。


如何なる理由があろうと、絹恵の処刑に手を貸す事を、断固として拒否する2人。
結局、恭子は、由子と漫を説得する事が出来ず、2人の協力は得られそうにもない。


だがその事が、逆に恭子の使命感を湧き上がらせた。


恭子(今、絹ちゃんを救えるんは、うちだけや……。うちがやるしかない……っ!)


恭子は覚悟を決め、ハンドルの前に立った。


恭子(うちが絹ちゃんを、地獄の苦しみから解放するんや……)

恭子(これは、洋榎の願いでもある……。洋榎の代わりに、うちがやるっ!)


恭子(全ての罪を背負ってもええ! 洋榎と絹ちゃんが救われるのなら……っ!)


恭子はハンドルに手を掛け、思い切りそれを右回りに動かし始めた。

絹恵「ん゛ん゛ん゛ん゛ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」


串の速度が目に見えて速くなると同時に、絹恵の呻きがより一層増した。
絹恵の手足は痙攣した様に激しく震え、大量の涙と鼻水を垂れ流している。


見るに堪えない絹恵の哀れな姿が、洋榎の心を容赦無く抉る。
その洋榎の様子から状況を察し、恭子の固い決意も揺らいだ。


恭子「ごめん……絹ちゃん……ごめんな……」


恭子は泣きながらも、惰性でハンドルを回し続ける。


絹恵「 う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ ッ ッ ッ ! ! ! 」


恭子「うぅ……絹ちゃん……絹ちゃん……ううぅぅぅ…………」


恭子「うああぁぁぁあああぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ っ っ !!!!」


絹恵の呻き声を掻き消す様に、恭子は力の限り叫び続けた。
折れた指の痛みなど忘れ、一心不乱にハンドルを回転させる。


周囲の音も耳に入らない程、恭子はその作業に集中していた。

ガコンッ


恭子「っ!?」


限界まで回り切ったのか、これ以上ハンドルを動かす事は無理そうだ。
その間、僅か1~2分の出来事であったが、恭子には悠久の時に感じられた。


恭子「終わったんか……?」


肩で呼吸をしながら、ゆっくりとハンドルから手を離す。
串の進行は完全に止まり、筒の色も元の銀色に戻っている。


恭子「終わった……うちは最後までやりきった……絹ちゃんを……救えた……っ!」


涙を流すその顔にも、安堵の表情が見える。


恭子「洋榎……っ!」


恭子が洋榎の名を叫び、彼女の方に視線を向けた。
洋榎は口を開けたまま、驚愕した様子で絹恵を見詰めている。


恭子「洋榎……?」


恭子の呼び掛けに、洋榎は全く反応しない。
由子も目を見開き、その場で固まっている。
漫は全身を震わせ、粗相をしていた。


漸く周囲の異常に気付いた恭子は、皆の視線が集中している絹恵を見る。


しかし、涙で視界がぼやけている所為もあって、
絹恵の後ろ姿だけを見ても状況が良く分からず、
涙を拭いながら横に回り、彼女の状態を確認した。


恭子「えっ……? な、何やこれ……嘘やろ……」


恭子「何で……絹ちゃん……まだ……生きてるん……?」

絹恵「」ピクピク


本来、絹恵の頭蓋を貫く筈だった金属の串が、
胸の上辺りから、体の外へと飛び出している。

その所為で、致命傷を与える事が出来ず、
串が伸び切っても、絹恵は生存していたのだ。


絹恵は口から血を流し、ピクピクと小さく痙攣を起こしている。
まだ意識はある様で、恭子を横目で見ると、微かに呻き声を上げた。


絹恵「 う゛ぅ゛ぅ゛っ っ …… 」


恭子「……っ!」ビクッ


身体が激しく震え出し、ガチガチと歯を鳴らしながら、恭子は後退りをする。


恭子「何でや……? うちは、絹ちゃんが楽になれると思ったから……」


絹恵「 う゛う゛ん゛ん゛ん゛っ っ っ …… 」


恭子「嫌……見ないで……っ! そんな目で……うちを見んといて……っ!」


救いを求める絹恵の視線が、恭子には、憎悪に満ちた怒りの眼光に映る。


恭子「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」


恭子は躓き、尻餅をつく様に倒れた。

それは予期せぬ出来事だったのか、黒服達も、互いに顔を見合わせている。


郁乃「なぁなぁ、黒服ぅ~」

郁乃「絹恵ちゃん、死んでないやん……」


黒服「その様ですね……」

郁乃「……なんで?」


暫し考え込んだ後、黒服は郁乃の問いに答える。


黒服「恐らく、絹恵様の胸が、我々の想定以上に〝豊か〟だった事が原因でしょう」

黒服「彼女の乳房が、上半身を上に反らせ、棒の軌道が逸れてしまったのです」

黒服「結果、棒は頭蓋に達する事無く、それが絹恵様の存命に繋がったのかと……」


郁乃「ふぅ~む、なるほど、なるほど、なるほどぉ~」

郁乃「確かに絹恵ちゃんは、姫松一のダイナマイトボディの持ち主やもんな~」


郁乃「串が重要器官を傷付けず、トドメとなる筈だった頭部にも刺さらない……」

郁乃「絹恵ちゃんは、本当に運が良い子やなぁ~!」


郁乃は1人拍手をし、絹恵の〝強運〟に感嘆の声を上げた。


郁乃「……で、この後どうするん?」

郁乃「このまま、絹恵ちゃんが絶命するまで、みんなで見守るん?」


黒服「そうしますと、時間が掛かり過ぎてしまいますので、
   我々の手で、直接、絹恵様を〝処分〟させて頂きます」


黒服が絹恵に近付き、首に手を掛けようとしたその時……。



郁乃「ちょい、タンマ……」

絹恵の首に触れる既の所で、黒服の動きが止まった。


郁乃「あかんやろ、黒服ちゃ~ん、そんな事したらぁ……」


黒服「……はい?」


郁乃「生贄は、ルール通りの〝処刑法〟を以って始末せな……」

黒服「ですが、それだと絹恵様が死亡するまでに、相当の時間が……」


郁乃「……別に、1つの処刑法に固執せんでもええやん……」

郁乃「他にも、こんなに沢山の素敵な処刑法があるんやから……」


郁乃はモニターの方に振り返り、残る5つの漢字を指で指し示した。


郁乃「1つの処刑法で死なんかったら、次の処刑法で殺せばええやろ?」


郁乃「それとも、規則から見て、何か都合の悪い事でもあるん?」

黒服「……いえ。ルール上は、何の問題もありません」

郁乃「それじゃあ、絹恵ちゃんに、2つ目の処刑をする事で決まりやな!」


恭子「そ、そんな……」

洋榎「あっ……あぁ……」


黒服「この状態からですと、〝巻〟の処刑方法が、最も繋げ易いのですが……」

郁乃「そんなら、それでええんちゃう? 読みも〝貫〟と同じやしな」

黒服「それでは、〝巻〟の処刑準備をさせて頂きます」

郁乃「はいは~い♪」


絹恵「 う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ っ っ …… 」


郁乃「きゅふふふふぅぅぅ♪ カン! も1個カン! ドラ爆嶺上開花やで~!」

黒服が青いボタンを押すと、金属の棒が筒の中へと戻り始める。


血で赤く染まった棒が、絹恵の身体から完全に抜けると、
用済みになった機械は退かされ、新たな処刑装置が設置された。


人の高さ程ある2つの立て棒、その間には、極太のローラーが取り付けられている。

器械運動に使われる鉄棒の、バーの位置を少し下げ、
そのバーを、数倍に太くした様な物を想像して欲しい。


立て棒には起動スイッチがあり、それを入れると、ローラーが回転する仕組みだ。


黒服2が、メスと金槌と釘の入った箱を持って、黒服の元へとやって来た。
黒服は、絹恵の下着を剥ぎ取ると、メスを手に持ち、肛門付近に刃を入れる。


絹恵「 ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ っ っ っ っ ! 」


当然、麻酔などは無く、耐え難い痛みが絹恵を襲う。


黒服は、メスで絹恵の肛門部の肉を円形に切り取ると、
丁寧にその部分を引っ張って、大腸を引き摺り出した。


周囲に、糞尿の臭気が広がってゆく。


郁乃「くっさ~! 絹恵ちゃん、昨日何食べたん?」


鼻を摘み、酸っぱい顔をして、絹恵から距離を取る郁乃。


悍ましい光景と、鼻を突く悪臭で、由子と漫は嘔吐した。
恭子と洋榎は絶句し、唖然とした表情のまま固まっている。


黒服は、抜き出した絹恵の腸を、ローラーに釘で打ち付けた。

黒服「2人目の処刑方法は、再び安価を取らせて頂く予定です」

黒服「選択できる処刑方法は6つですが、その内容には、多少の変動があります」

黒服「それでは、絹恵様に対し、第2の処刑、〝巻〟を執行させて頂きます」


黒服が起動ボタンを押すと、極太ローラーが音を立て回転を始めた。
それは、尻から絹恵の大腸を引き摺り出し、ゆっくりと巻き取っていく。


この装置は、生贄の臓物を絡め取る〝ウインチ〟だったのだ。


ガゴ ガゴ ガゴ ガゴ ガゴ ガガガガガガガガガガッッッ…………


絹恵「 ん゛ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ っ っ っ ! ! 」


肛門からの流血によって、鞍馬の下に、大きな血溜まりができた。


黒服「本来の、処刑方法〝巻〟は、生贄を仰向けにして折り曲げ、
   両足を肩に付けた〝まんぐり返し〟の体勢でこれを行います」

黒服「それにより、腸が引き摺り出される様を、自身の目で見る事が出来るのです」


黒服「今回、絹恵様はうつ伏せになっている為、
   その精神的苦痛は受けずに済むでしょう」

黒服「また、時間の都合により、ローラーの回転速度を、
   通常の10倍の速さになるよう、設定させて頂きました」


郁乃「やったな~、絹恵ちゃん! 苦痛は、本来の10分の1以下やで~?」


絹恵「 う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ ッ ッ !!!!! 」

日本人の腸の長さは、個人差もあるが、大体7~9m程度だと言われている。
それが今、ローラーによって巻き取られ、鮮やかなピンクの糸巻きを作り出す。


郁乃「しっかし、綺麗に巻けるもんやな~。途中で切れたりせぇへんの?」

黒服「その心配は無用です。この程度で、人間の腸は破れませんから」

黒服「最終的には内臓が千切れますが、その時が、絹恵様の最後となるでしょう」


郁乃「ふぅ~ん。絹恵ちゃんが死ぬまでに、後どれ位掛かるん?」

黒服「通常は10分程度ですから、絹恵様の場合、1分程ではないでしょうか」

郁乃「なんや、全然大した事ないなぁ~。カップラーメンも作れんやないかい」


絹恵「 ん゛ッ ぐ ぐ ッ ッ ぎ ぎ ィ゛ィ゛ィ゛ッ ッ ッ ! ! 」


黒服「不愉快そうですね。〝巻〟は御気に召しませんでしたか?」

郁乃「せやなぁ……。何より、この臭いがアカン。鼻がひん曲がるわぁ……」


郁乃「真瀬ちゃんと漫ちゃんもゲロっとるし、まさに〝地獄絵図〟やね」


郁乃「〝貫〟の方はおもろかったんやけどな~。主に絹恵ちゃんの構図が。」

郁乃「あれで棒が頭を貫いとったら、蛙の串刺しみたいで、大爆笑もんやったわ~」


郁乃「けどぉ……今の絹恵ちゃんは、血便漏らしとる様にしか見えへんしぃ~」

郁乃「マニアックなスカトロ属性なんぞ、私は持ち合わせてないで~?」

黒服と郁乃が会話している間にも、臓器の巻き取りは続く。
終には〝ブチッ〟と音を立て、絹恵の呻き声も無くなった。


郁乃「あ、死んだ。」


臓物を巻き付けたまま、絹恵の死後もローラーは回り続けていた。
〝胃〟の様な物が、血を撒き散らしながら、ぶらぶらと空中を舞う。


黒服が停止スイッチを押すと、
ローラーの回転は徐々に収まり、やがて完全に停止した。


郁乃「そのクッサイ生ごみ、さっさと捨ててくれる?」


左手で鼻をつまんで、右手で払う仕草をする郁乃。


黒服は、絹恵の乗った鞍馬と巻き取り機をフェンスの無い場所へ持って行くと、
夥しい数の屍鬼が跋扈する地上に向かって、それらを屋上から投げ捨てた。


グシャッ


数匹の屍鬼が落下物の下敷きとなり、潰れてそのまま動かなくなった。
そんな様子を気にする事なく、周囲の屍鬼達は絹恵の死体に群がってゆく。


絹恵の肉体に、我先にと喰らい付く亡者達もいれば、
巻かれた内臓を手で引き千切って口に運ぶ亡者達もいる。


数分もしない内に、絹恵は屍鬼達に喰らい尽くされた。

郁乃「ふぅ……。これで少しはマシになるやろ……」


郁乃はモニターの前に戻り、生贄候補の3人を一瞥した後、笑顔でこう告げた。


郁乃「さぁて、2人目の生贄を決めようか……」


恭子「っ!!」ビクッ

由子「っ!?」ビクッ

漫 「っ!!」ビクッ



〝2人目の生贄〟


郁乃のその言葉に、3人は背筋を凍らせた。

次にあの残虐な拷問を受けるのは、もしかしたら自分かもしれない。
屍鬼に喰われるのとどちらが良いか、その答えにすら迷う程の生き地獄。


由子「お、お願いします……助けて……助けてください……代行……っ!」


由子が郁乃の前に走り出て、膝を突き、涙を流しながら懇願する。


郁乃「はははっ! この中で一番の怖がりは真瀬ちゃんやな~」


必死に頼み込む由子の姿を上から眺め、郁乃は嘲笑した。


漫 「抜け駆けしようだなんて、ずるいですよっ! 真瀬先輩っ!」


その様子を見た漫は立ち上がり、泣きながら大声で叫んだ。

漫の言葉を無視し、由子は郁乃に何度も土下座を繰り返した。


由子「助けてください……お願いします……お願いします……っ!」


郁乃「そう言われてもな~。決めるんは私でも黒服でも異世界人でもないしぃ~?」


由子「じゃ、じゃあ、一体誰が……?」


郁乃「2人目の生贄を決めるんは……」

郁乃「生贄選択の投票で、単独トップを勝ち獲った、洋榎ちゃんで~す!」


恭子「っ!?」

漫 「主将が!?」

由子「洋榎が……2人目の生贄を……決める……?」


郁乃「生贄選択投票の結果でトップの子が、2人目の生贄を決めるルールやねん」

郁乃「せやから、3人の命運は、洋榎ちゃんに握られてるんやで~」


郁乃「という事で、洋榎ちゃん! 2人目の生贄は誰がええ?」


洋榎「」


郁乃「洋榎ちゃん???」


洋榎「」


郁乃の呼び掛けにも反応せず、洋榎は黙ったまま横たわっている。
その目は虚ろに澱み、口を半開きにした状態で涎を垂れ流していた。


郁乃「……」


郁乃「あかん……。洋榎ちゃんが壊れてもうた……」

洋榎「」


恭子(洋榎……っ!)


郁乃「なんや、さっきから妙に静かやな~思うてたら、そういう事かいな……」


洋榎「」


郁乃「お~い、洋榎ちゃ~ん! 洋榎ちゃ~ん? お~い!」


洋榎「」


郁乃「う~ん……。洋榎ちゃんは、もう駄目かもしれんね~……」



郁乃(妹である絹恵ちゃんが死んだ事で、洋榎ちゃんの心は空っぽになっとる……)


郁乃(2人は精神的に依存し合ってたけど、洋榎ちゃんの方がその傾向が強かった)

郁乃(俗に言う、〝シスコン〟っちゅう奴やな。しかも、かなり重度の……)


郁乃(今までの強気な姿勢も、絹恵ちゃんあってこそのモノやった気もするしなぁ)

郁乃(絹恵ちゃん抜きでは、洋榎ちゃんも〝普通〟の女子高生っちゅう事か……)



郁乃(期待外れやな。つまらんわ……)

郁乃「なぁ、黒服。2人目の生贄の選択権は、今も洋榎ちゃんにあるんやろ?」


黒服「イエス」


郁乃「洋榎ちゃんが生贄を選べない時はどうなるん? 実際、こんな様子やし……」


洋榎「」


黒服「洋榎様は、投票に於いて単独トップでしたから、
   他の方に、生贄の選択権が移る事はありません」


黒服「しかし、〝洋榎様が生贄の選択をする事は不可能〟だと我々が判断した場合、
   洋榎様の代わりに、我々が何らかの方法を以って、2人目の生贄を決めます」


郁乃「何らかの方法……ねぇ……」


郁乃「……」


郁乃「そんならぁ~……この3人を、同じ処刑(拷問)に掛けて、
   一番最初に死んだ子が、2人目の生贄っちゅうのはどうやろ?」


郁乃「あぁ、同じっちゅうんは、〝3人が同じ処刑法〟って意味な」

郁乃「絹恵ちゃんにやった処刑法と同じって意味やないで?」

黒服「……ルール上、問題はありません。アリですね」


恭子「っ!!」


漫 「あぁ……あぁぁ……っ! あぁぁぁああぁぁぁぁ……っ!!!」


由子「い、いやよ……そんなの、絶対嫌ぁぁぁぁッッッッッ!!」


由子は泣き叫びながら、放心状態の洋榎に駆け寄った。


由子「洋榎っ! 生贄を選んでっ!! 生贄を選んでよぉぉォォォッッッ!!!」


洋榎「」


由子は洋榎の両肩を掴み、上半身を起こしてから、体を激しく揺さ振る。
その勢いで、洋榎の首はガクンガクンと上下するが、それでも無反応だった。


由子「お願いよ洋榎っ! 恭子か漫ちゃんを生贄にするって言って頂戴!」



恭子「っ!?」

漫 「っ!!」

形振り構わぬ、由子のストレート過ぎる台詞に、恭子と漫は愕然とした。
だが、由子の心情を最も理解しているのは、他ならぬ恭子と漫自身だった。


迫り来る残酷な死を前にして、今更建前など気にする必要があるだろうか?


自分が助かる場合、代わりに仲間の誰かが死ぬのだ。
だからといって、絹恵のあの処刑を見てしまったなら、
自ら生贄になるなどと、口が裂けても言えないだろう。


由子は英雄などではないし、勇敢な戦士でもない。
良くも悪くも、彼女は〝普通〟の女子高生だった。


恭子「ゆ、ゆーこ!?」


漫 「はぁっ!? なんですかそれ!? ふざけた事、言わんでくださいよっ!」


漫は涙と鼻水を垂らしながら、怒りの形相で由子を睨み、抗議する。


漫 「自分1人だけ助かろうとして、最低じゃないですか! この卑怯者っ!」

由子「うるさい! 漫ちゃんだって、どうせ同じ事を考えてるんやろ!?」

漫 「ぐっ……!」


由子「ねぇ洋榎! 私達、親友でしょ!? 助けて……お願いや……洋榎……っ!」


洋榎「うっ……うぅ……」

そろそろ処刑安価がくるかと待ってるんだが…まだか?

>>483
黒服「安価を待たせてすみません、もう暫く掛かりそうです」

黒服「処刑安価は、23時59分59秒99〆切りの方式でいく予定なので、
   23時辺りに1回スレを覗いて頂ければ、見逃しは無いと思います」

黒服「お手数お掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」ペッコリン

漫 「う……うちも! うちも助けてくださいよ!」


ふらついた足取りで、漫も洋榎の元へとやって来た。


由子の行動を非難する資格が無い事など、漫も最初から分かっている。
それならば恥を捨て、由子と一緒に、自らの命を乞う方が良いだろう。


2人は泣きながら洋榎に縋り付いた。


郁乃「真瀬ちゃん、漫ちゃん、人生諦めが肝心やで~?」

郁乃「今の洋榎ちゃんはな~、〝絹恵ちゃん〟以外の人間は眼中に無いんや……」


洋榎「」ビクッ


〝絹恵〟という単語を聞くと、洋榎は一瞬、体をビクッとさせた。


洋榎「……絹? 絹はどこ……?」

洋榎「絹ー? 絹ー! 何処行ったんやー? 絹ー!」


周囲を見回しながら、絹恵の名前を大声で呼ぶ洋榎。


由子「いい加減にしてよ洋榎! 絹恵ちゃんは、もう死んだのよ!」

洋榎「絹が……死んだ……?」

由子「そうよ! 洋榎もその目で見てたでしょ!?」


洋榎「違う……あんなん嘘や……絹は絶対に生きとる……っ!」

洋榎「そうやろ絹! 隠れてないで、はよ出て来てやーっ!!」


由子「絹恵ちゃんは死んだの! いくら呼んでも、帰って来ないのよ!」


洋榎「嘘や……嘘や嘘や……嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や……」


洋榎「き゛ぬ゛ーっ! ぎぬ゛ぅ゛ーっ!! ぎぬ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ー ! ! ! 」


洋榎「あぁぁ……あぁぁあああぁ……ぁぁぁ…………」


洋榎「あぁ……ぁああ……ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ っ っ っ ! ! ! 」

由子「お願いやから洋榎、目の前に居る人の方を見て! 私達はまだ生きてるの!」

由子「この命は洋榎次第なんよ? あんたの一言で救われる命がここにあるんや!」


洋榎「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ っ っ …………」


由子「洋榎……お願い……私達を見て……その瞳に私達を映して……っ!」

漫 「主将っ! うち、死にたくない! あんな拷問されるんも絶対に嫌です!」


洋榎「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛っ゛っ゛ーーーーー!!!!」


どんなに必死に語り掛けても、洋榎の目に由子達の姿が映る事は無かった。
喚き続ける洋榎を収める事も出来ず、会話すら不可能な状態になっている。


郁乃「真瀬ちゃん達の声も、洋榎ちゃんの心には届かんかった様やなぁ~」

郁乃「まっ、親友と言っても、所詮は赤の他人やしねぇ……」


黒服「これ以上待っても、無駄の様ですね……」


恭子「ま、待ってください!」


黒服が動き出したその時、恭子が立ち上がって叫んだ。


恭子「もう少し、もう少しだけ、洋榎が落ち着くまで待って貰えませんか?」

黒服「……」


恭子の訴えが聞き入れられたのか、黒服は無言のまま、元の位置に戻ってゆく。


恭子「ゆーこも漫ちゃんも! 焦る気持ちは分かるけど、少し頭を冷やすんや!」

漫 「け、けど……っ!」

恭子「絹恵ちゃんを失った洋榎の心の痛み、それは2人にも分かるやろ?」

漫 「……っ!」

恭子「今、洋榎を責っ付いても逆効果や。もっと洋榎の事を考えて行動せな……」


由子「……」


由子「恭子は随分と冷静なんやね……」

ゆっくりと立ち上がり、恭子の方へと向き直る由子。
敵意を剥き出しにした鋭い眼光で、恭子を睨んでいる。


由子「洋榎が生贄を選ばなければ、私達がどうなるか、分かっているわよね?」

恭子「分かってる! 分かってるけど! 今の洋榎に、それを訊くのは酷やろ!」

由子「じゃあ、いつ訊くの? 私達には、余り時間が残されていないのよ!?」

恭子「大丈夫、洋榎はきっと大丈夫やから! もう少し時間が経てばきっと……」


由子「……」


由子「酷い目に合わされて殺されるかもしれない時に、悠長な事を言うのね」

由子「それに、生き残りが確定している洋榎の事よりも、
   私達は、まず自分達の身を案ずるべきじゃなくて?」


恭子「ゆーこの言い分もよう分かる! けど今は、落ち着いてもっと冷静に……」


由子「冷静になった所で、この状況の何が変わるって言うのよ!」


普段のおっとりとした姿からは想像もできぬ迫力で、由子は恭子を怒鳴り付ける。


由子「生贄に選ばれたら、苛酷な責め苦を負わされて殺されるのよ!?」

由子「しかも、その生贄選び自体が、拷問を兼ねたモノになりそうやのに……っ!」

由子「まるで他人事みたいに、緊張感が感じられないのは何故なのかしら!?」



由子「恭子……」

恭子「な、なに……?」



由子「もしかして、自分だけは必ず助かるなんて思うてるんちゃうの……?」

恭子「なっ!? ゆーこ!? 何言って……」


由子「恍けないでよっ!」

恭子「っ!?」ビクッ


由子「恭子と洋榎は、中学ん時からの付き合いなんでしょう?」

由子「高校で知り合った私や漫ちゃんよりも、当然、親しい仲の筈よね……」

由子「事実、あんたら2人は、いつも一緒に居ったしなぁ」


由子「せやから恭子は、洋榎が自分の事を生贄に選ぶなんて思うとらんのやろ?」


由子「違う?」


恭子「そ、それは……っ!」


言葉に詰まる恭子を見て、由子が冷たい笑みを浮かべた。


由子「どうやら、図星の様やね……」


由子「洋榎が平静を取り戻せば、拷問も受けず、自分は確実に生き残る事ができる」

由子「そう考えているからこそ、今、この状況でも、そんな奇麗事が言えるんやろ!」


恭子「ち、違う! うちは……うちはただ、洋榎の事を考えて……っ!」


由子「 こ の 偽 善 者 っ ! 」


恭子「っ!!」

由子「私だって、自分の命が保証されているのなら、
   体裁の良い言葉を、幾らでも並べられるのよ!」


由子「でも、命の保証なんて私には無い! 死は目前まで迫って来ているのに!」


由子「どんなに惨めでも、どんなに罵倒されても、私は生き残りたい……っ!」


由子「残された〝1つ〟の椅子を、私はどうしても手に入れたいの!」


漫 「残り……1つ……? ホンマに……あと1つ……?」


由子「生贄を1人選ぶという事は、洋榎が救える命は2つ……」

由子「けど、残された2つの椅子の内の1つは、既に恭子の物と決まっているのよ」

由子「常識的に考えて、一番付き合いの長い恭子を助けるんは、当然の選択よね」


漫 「そんな事ゆうたら……一番付き合いの短いうちが……生贄に……?」

漫 「嫌やっ! 助けて! 助けて主将っ! うちの事、見捨てんでくださいよ!」


声も枯れ果て、虚脱している洋榎に、必死の思いで泣き縋る漫。
洋榎は再び無反応となり、焦点の合わない瞳で漫を見詰めている。



由子「ねぇ、恭子……」

由子「そんなに洋榎の事を考えてるゆうんなら……」


由子「あんたが抱え込んでるその椅子、私達に譲ってくれない……?」

恭子「えっ……?」


由子「そうすれば私達も、洋榎の心の傷に配慮した優しい対応ができるの……」

由子「せやから、恭子……。恭子が自分から生贄に立候補してよ……」


恭子「そ、そんな……っ!」

由子「できんの?」

恭子「……っ」


恭子は口を噤み、由子から視線を逸らした。


由子「できんやろ? 当たり前よねっ! みんな、自分が一番可愛いんやから!」

由子「それやのに、本音を隠して善人面してる方が、よっぽど汚いやんか!」


恭子「うぅ……ちがう……うちはホンマに……洋榎の事が心配で……」


由子「ふぅん。洋榎の心配はする癖に、私達の命はどうなっても良いと?」

恭子「そんな訳無い……っ! うちは、2人の事だって真剣に考えて……!」


由子「2人? 私達が2人とも助かったら、生贄になるのは恭子なのよ?」

由子「それでも私達を気遣う事が、今のあんたに出来るの?」


恭子「……」


由子「これで分かったでしょ? 自分の言っている事が偽善的だって……」


洋榎を想う心は本物だったが、由子の指摘も当を得ている。
核心を突く由子に反論できず、恭子の瞳からは涙が溢れ出した。


由子「恭子はもう、生き残る事が確約されてる。おめでとう、心から祝福するわ」

由子「その代わり、自分の椅子を譲る気が無いのなら、
   これ以上、私がする事に対して口挟まんといて!」

由子「私は恭子と違って、目の前の希望を掴み取るのに必死なんやから!」


由子は涙を流してそう言い放ち、恭子に背を向けた。

由子と漫は、それからずっと洋榎の傍で救いを求め続けている。
恭子はその様子を、少し離れた場所からただ茫然と眺めていた。


恭子(うちだって、自分の命は惜しい……。生贄になんかなりとうない……)

恭子(まして、あんな拷問を受けるとなれば、尚更の事……)


恭子(自分の身を呈してまで、大切な仲間を守る……)

恭子(そんな勇気、腰抜けのうちは持ってへんよ……)


恭子「……」


恭子(今更……やな……。うちはそれで、絹ちゃんの事を見捨てたやないか……)

恭子(今回もそれと同じ……。我が身可愛さに、今度はゆーこか漫ちゃんを……)


恭子(偽善者……。まさにその通りやね……)


恭子は物思いに耽りながら、3人の様子を傍観している。


残る1つの生き残り枠を奪い合う間柄でも、由子は漫に直接手を出したりはしない。
洋榎に助けを求める事しかせず、漫の行動には一切干渉するつもりが無い様子だ。

それは後輩である漫への、由子なりの配慮だったのだろう。
競争相手の妨害などせず、真っ向から勝負をする気らしい。


確かに由子は、皆の前で抜け駆けに近い卑怯な真似をした。
だが、一々他人の許可を得なければ、命乞いをしてはいけないのか?

〝これから皆で、洋榎に命乞いをしましょう〟的な宣言をしろとでも言うのか。

そう考えれば、由子の行為は決して非難される様なモノではない。
寧ろ、言われるまで行動できない者の方が間抜けと言えるだろう。

恭子(ゆーこは、自分の本心を包み隠さず皆の前に曝け出した)

恭子(例え自分の印象が悪くなるとしても、嘘を吐いたりはせずに……)

恭子(その上で、正々堂々と筋の通った主張を行っている)


恭子(それに比べてうちは、上辺だけを取り繕った薄っぺらい言動ばかり……)

恭子(うちの中にある、仲間を想う気持ちは、果たして本物なんやろうか……?)


恭子の信条や理念は、残酷な現実の前に為す術無く崩れた。
今残っているのは、虚栄に満ちた、偽りの優しさに過ぎない。


自らの振る舞いを顧みて、深い自己嫌悪に陥る恭子。
自身の想いにすら確信が持てず、真実と虚偽の区別も付かない。


恭子(うちは何や……? 仲間って何や……?)

恭子(洋榎は、ゆーこは、漫ちゃんは、絹ちゃんは、うちにとって何なんや!?)


そんな風に恭子が思い悩んでいる中、由子達の方に大きな変化があった様だ。
それまで反応の無かった洋榎が、小さく口を開き、言葉を紡ぎ出そうとしている。


洋榎「……ぇ」


漫 「主将っ!?」


洋榎「……ぇぇょ」


由子「えっ? 今、何て……?」


洋榎の口から微かに漏れ出た、消え入りそうな程に弱々しい声。
しかし、その衝撃的な一言は、恭子の耳にもハッキリと届いていた。



〝 誰 で も え え よ 〟

由子「っ!?」

漫 「っ!?」

恭子「っ!!」


由子「誰でも……良いって……?」

洋榎「2人目の生贄やろ……? そんなん、誰でもええわ……」


生気を失った目で由子を見ながら、洋榎は投げ遣りな態度でそう言い放った。


漫 「そんなら、うちを助けてくださいよ! 生贄は誰でも良いんでしょ!?」

由子「私も助けて、洋榎っ! お願い! お願いよ……っ!」


恭子「……」カタカタカタ.........


恭子の全身から脂汗が染み出す。


洋榎にとって最も大切な存在は、紛れも無く妹である絹恵だ。
その次が誰かと問われれば、自分であると恭子は答えるだろう。

実際、恭子と洋榎は、互いが一番の親友である事を認め合っている。

だからこそ、自分は生贄に選ばれないという自信が、恭子の心の奥底にはあった。
しかし、恭子が持っていたその優位性は今、儚くも完全に崩れ去ってしまったのだ。


恭子(誰でも良い……? うちでも……? 嘘や……嘘やろ……洋榎……っ!)

この3人の中では、自分が一番洋榎の事を気に掛けている。
絹恵の事だって、最後まで抵抗したのは、洋榎を除けば自分の筈だ。


それは決して、見返りを求めての行為などでは無い。
ただ純粋に、洋榎や絹恵を想っての事であった。


それでも、それらの行為が、生贄選びに有利に働くという、客観的な見方は可能だ。
恭子も無意識の内に、それを自身の、生贄除外の拠り所にしていた感は否めない。


恭子(何で……何でや……っ! うちは洋榎の為に頑張ったのに……っ!!!)


恭子(……ハッ!)


その時、漸く恭子は、自身の中にある醜い一面を自覚した。
親友の為と言いつつ、結局はその対価を求めている自分を。


無償でなければ、思い遣りなど〝偽善〟に過ぎない。

由子から放たれた〝偽善者〟という言葉が、恭子の胸に深く突き刺さる。


恭子(そうか……そうやな……全部うちが悪かったんや……)

恭子(洋榎は、仲間の為の行動に、見返りなんか求めたりせえへんもんな……)


恭子(うちみたいな卑しい女が、洋榎の隣に居る資格は無い……)


全身から力が抜けて行く様に、恭子はその場に崩れ落ちた。

魂の抜け殻となって、塞ぎ込み沈んでいる恭子とは対照的に、
生き残りへの光明を見出だした由子と漫は、洋榎に最後の懇願をしていた。


洋榎が選ぶと知った時から、自分とは無縁の話だと思っていた2人目の生贄……。
だが気付けば、生贄の祭壇に立たされていたのは、他の誰でも無く恭子自身だった。


今、洋榎に命乞いをしなければ、確実に恭子が次の犠牲者となるだろう。
苦痛を伴う死への現実味が高まり、これまでに無い恐怖感が恭子を襲う。


恭子(嫌……怖い……死にたくない……)

恭子「た……たす……ケて……洋榎……ぉね……がぃ……たスけ……テ……っ!」


呼吸が乱れて発声が上手くいかず、恭子の言葉は、洋榎の耳に届かなかった。
絹恵が地獄の淵へと誘っているのか、どす黒く澱んだ空気が恭子を包んでいる。


郁乃「洋榎ちゃん、そろそろ生贄を決めてくれる?」


洋榎「……」


郁乃「生贄はだ~れ? 真瀬ちゃん? 漫ちゃん? それとも~……末原ちゃん?」


震える恭子を冷酷な視線で眺めながら、郁乃は厭らしい笑みを浮かべた。


郁乃「答えて洋榎ちゃん! はよっ! はよはよっ!! はよォォォッッッ!!!」


洋榎「生贄は……」


由子「おねがいよ洋榎っ!」

漫 「頼んます主将っ!」

恭子「ひ、ひろえ……っ!」


3人が涙を流し見詰める中、洋榎は呟く様に2人目の生贄を指名した。





洋榎「漫がええ……」

漫 「なッ!?」


由子「あ、ありがとう洋榎! ありがとう……っ!」

恭子「う……うち……たすかった……?」


生贄を回避し、拷問という恐怖から解放され、一先ず安堵する由子と恭子。


次の瞬間、郁乃の持っていた2枚の金のカードが伸びて黄金の大蛇と化し、
由子と恭子の方へ飛ぶ様に向かって来て、2人の手首にそれぞれ巻き付いた。


由子「あっ! んんっ!!」

恭子「んぐっ!? ぁあ……っ!」


灼熱の如き熱さに、もがき苦しむ由子と恭子。
蒸気を発しながら、金色の蛇達は、2人の手首に収まった。


郁乃 「Congratulation~♪」

黒服 「Congratulation……!」

黒服2「Congratulation……!」

黒服3「Congratulation……!」

黒服4「Congratulation……!」

黒服5「Congratulation……!」


屍鬼達の賛美歌と共に、無表情のまま祝辞を述べ、拍手をする黒服達。


漫 「何でですか主将! 生贄は誰でも良いって言ったじゃないですか!」


漫は涙を流して声を荒げ、怒りの表情で洋榎を睨み付けた。

漫 「誰でも良いのなら、生き残りの椅子は、早い者勝ちでしょ!?」

漫 「うち、真瀬先輩の次に助けて言いましたやんっ!」


漫 「それやのに、何でうちなんですか!?」

漫 「なんで、うちを生贄に指名するんですか!?」

漫 「答えてくださいよ、主将っ!」


漫は泣きながら洋榎に掴み掛かり、自分が選ばれたその理由を迫った。



洋榎「だって……漫は、絹の一番の親友やろ……?」




漫 「……………………はっ?」




洋榎「絹があの世で1人やったら、可哀相やから……」

洋榎「うち、絹には寂しい思いをさせたくないねん……」


狂気を含んだ憂いの面持ちで、洋榎は漫に優しく語り掛ける。



洋榎「せやから漫、あの世で絹の事を、よろしく頼む……」ゴゴゴゴゴッ



漫 「なっ……何ですかそれ……そんな理由で……うちが……生贄に……?」


郁乃「そっかぁ~。洋榎ちゃんは、ホンマに妹思いやな~」


漫 「ナンヤソレ……ナンヤソレ……ナンヤソレ……」


漫は洋榎から手を離し、呆然とした表情で空を見上げた。

なんかくそどうでもいいんだけど、CongratulationよりCongratulationsの方がいいのでは、と思ってた。どうでもいいんだけど

>>502
黒服「確かに、作中では心からの祝福的な意味で使っているので、〝s〟がある方が良さそうです」

黒服「ですが、訂正は面倒なので、〝おもち無い奴が生き残っちまったか〟的な解釈でもしといてください」ペッコリン

郁乃「そ~れ~で~は~!」

郁乃「生贄は漫ちゃんに決定した事やし、次は処刑方法を決めようか……」


漫 「っ!?」ビクッ

漫 「い、嫌です……うち……絶対に選びません……っ!」


歯を鳴らし、身体を震わせ、怯えた顔で首を横に振る漫。


郁乃「漫ちゃ~ん、それはアカンで~?」


郁乃「生贄が自分の処刑方法を選ぶって、絹恵ちゃんの時にもゆうたろ……?」

郁乃「ルールに逆らったら、この兄ちゃん達に何されるか分からんで~?」ニタァ


黒服達を指差し、郁乃は薄ら笑いを浮かべた。


郁乃「もしかしたらぁ~、それは処刑よりキツイかもしれへんよ……?」

漫 「ひぃ……」カタカタカタカタ......


郁乃「命令には素直に従った方がええと、いくのんは思うんやけどなぁ~」

郁乃「漫ちゃんだって、苦しむ時間は、可能な限り少ない方がええやろ?」


今度は首を何度も縦に振り、漫は郁乃と黒服に対して従順な態度を誓った。


郁乃「物分かりが良い子は好きやで~」

郁乃「そんな漫ちゃんには、良い事を教えたげる……」

漫 「良い事……?」


郁乃「実はなぁ~、待ってる間、暇やったからぁ~、
   どんな処刑法があるんか、調べてたんやけどぉ……」

郁乃「そしたらなぁ~、その中にぃ~、なんとっ!
   全っ然痛くない、緩い処刑法があったんや!」


漫 「ほ、ホンマですか?」

郁乃「いくのんは嘘吐かないで~?」


郁乃「運が良ければ、痛みを感じずに死ぬ事ができるんや。嬉しいやろ~?」


〝痛みを感じずに死ねる〟


惨殺された絹恵を見た後では、それこそが最上の幸せだと思えてくる。
凶悪な拷問を目の当たりにして、漫の死に対する感覚は麻痺していた。


今となっては、〝死〟こそが安らぎであり、救いなのである。
痛み無く絶息に至る事ができるのなら、それ程嬉しい事は無い。


漫 「……それがどれかは、教えてくれないんですよね……?」


郁乃「流石に、そこまでは無理やなぁ」

郁乃「けどぉ、痛みの無い処刑法は3つもあるんや」

郁乃「確率は2分の1やから、当てずっぽうでも、十分いけるやろ」


ゴクリと生唾を飲み込み、漫は、自身を死へ導く処刑法を選択する覚悟を決めた。


〝50%の確率で楽に死ねる〟


そう思わせる郁乃の言葉が、漫の背中を後押ししたのだ。


郁乃「さぁ、漫ちゃん! 運命の選択をする時が来たで!」

郁乃「この6つの中から、〝幸運な処刑方法〟を、自らの手で掴み取ってや!」

郁乃はモニターに手を翳して、声高に叫んだ。

画面が暗転し、新しい映像へと切り替わったその時……。



ゆらっ……



〝There is someone walking behind you〟

〝turn around, look at me〟


画面にノイズが走って映像は揺らめき、聞き慣れない英語の歌が流れてきた。


郁乃「ん? なんやのコレ……?」


郁乃が黒服の方へ振り向き、状況の説明を求める。


黒服「さぁ……? 我々にも分かりません……」

郁乃「黒服ちゃんにも分からんのかぁ……。何なんやろなぁ……?」


黒服「これは憶測に過ぎませんが、恐らくは、システムの不具合が原因かと……」

郁乃「それって、すぐに直るん?」

黒服「現状では、何とも言えませんね。何分、我々の管轄外ですので……」


黒服「あるいは、このモニター自体が故障した可能性も……」

郁乃「そっかぁ、そっちの可能性もあるんか……。なら、試しにやってみよか~」


そう言うと、郁乃はモニターの裏面をバシバシと激しく叩き始めた。

郁乃「おらァッ! はよ直らんかい!」バシバシッ


黒服「赤阪様、物理的な衝撃を与えては……」


黒服が言い掛けたその時、画面は正常に戻り、6つの漢字が表示された。
流れていたスローテンポの洋楽も、気が付けばピタリと鳴り止んでいる。


郁乃「ほらな? 家電製品は、こうするのが一番やて」

黒服「……」


郁乃「それで、漫ちゃんはどれを選ぶんや?」


暗い画面に浮かび上がっている、血で書かれた様な6つの漢字。
書体の不気味さは相変わらずだが、表示されている漢字が幾つか違う。


〝壁〟 〝掃〟 〝輪〟 〝蚯〟 〝飲〟 〝餓〟


漫 (この6つの中で、痛ない処刑方法は3つ……)

漫 (絹ちゃんの時とは、違う漢字が4つある……)


漫 (〝貫〟と〝巻〟は、激痛を伴う処刑法やったな……)

漫 (だとすると、残りの〝掃〟と〝輪〟が、楽に死ねる処刑法ちゃうか……?)


漫 「……」


漫 (いや、〝貫〟の事を、黒服は〝楽な方〟ゆうとった……)

漫 (他があれと同程度やったとしても、相当の苦痛やないか……っ!)


漫 (けど、想定外の事が無ければ、〝貫〟は1分以内に死ねる処刑法やった……)

漫 (痛くてもすぐ終わるモノなら、それはそれでアリかもしれん……)


漫 「……」


漫 (いや、やっぱしそれは無いやろ……。痛いのだけは、絶対に嫌や……っ!)

漫 (漢字的に痛なさそうなんは、〝飲〟と〝餓〟辺りやな……)


漫 (〝飲〟は何かを飲むんやろうけど、劇薬でも飲まされたら……)ブルッ

漫 (〝餓〟……餓死? いや、それは時間的にあり得んやろ……)


漫 (そう考えると、漢字の意味だけで推測するんは、危険かもしらん……)


漫 (虫偏の漢字……何て読むんやろ……?)


郁乃「漫ちゃんま~だ~?」


漫 「ちょ、ちょっと待ってください!」


郁乃「……」


郁乃「黒服ちゃ~ん、ちょっと来てくれる~?」


郁乃が黒服を呼んだのは、自分に〝罰則〟を与える為だと、漫は即座に理解した。


漫 「決めます! 今、決めますから!」


漫 (うぅ……考えても全然分からん……)


漫 (こうなったら、自分の直感を信じるしかない……っ!)

【漫の処刑方法を選択】
上重漫の処刑方法を、6つの中から多数決で決めます。

〝壁〟 〝掃〟 〝輪〟 〝蚯〟 〝飲〟 〝餓〟

壁→初級
掃→中級
輪→中級
蚯→上級
飲→上級
餓→超上級


【レスの形式】

==============
【安価:漫の処刑方法】→
==============

右矢印の横に、次の漢字を1つ書いてください。
「壁」「掃」「輪」「蚯」「飲」「餓」


【安価の〆切り時間】
23時59分59秒99


【捕捉】
同数の場合、優先順位は以下の様になります。

餓>輪>壁>飲>蚯>掃


【Hりんからの一言アドバイス】

『壁』
シンプルイズベスト☆
最後くらい、簡単に逝かせてあげようよ~!ね?

『掃』
死ぬまでに、かなりの時間が掛かるんだけど……。
タイムオーバーになったら、どうなるの?_?

『輪』
時間の都合で、拷問時間が大幅カット!
そのお陰で、楽に死ねる候補に急浮上?

『蚯』
南シナ海に生息する謎生物の捕獲に成功☆
豪華客船を襲ったクリーチャーが、今ここに見惨!

『飲』
痛くはない!だが、苦しくないとは言ってない!
無理矢理何かを飲まされる女の子って、興奮するよね☆

『餓』
残酷描写は一切無しの、読者に優しい処刑です☆
みんなが待ち望んでいた処刑が、今、ここに現る?

漫 「……うちは〝餓〟にします!」


漫 (漢字の意味を考慮すれば、これは餓死しかあり得へん……)

漫 (あんな痛い思いする位なら、飢え死にした方がマシやろ!)


画面から他の漢字が消え、〝餓〟の文字が大きく表示される。


郁乃「おぉ! やったな、漫ちゃん! それは痛ない処刑方法やで!」

漫 「嘘じゃ……ないですよね……?」

郁乃「ロンオブモチ! Congratulation~♪」

漫 「やった……やった……っ!」


郁乃「しかも! 漫ちゃんの頑張り次第では、生き残る事も可能やで~」


漫 「えっ……!?」


郁乃「その証拠に、ほら、モニターを見てみぃ……」


漫が画面の方に視線を向けると、
徐々に〝餓〟の文字が消えてゆき、
新たに別の漢字が浮かび上がってきた。


〝脱〟


漫 「〝脱〟……?」


郁乃「さっきの文字はフェイクやねん」

郁乃「〝脱〟なんて書いたら、漢字の意味的に、みんなそれを選んでまうやろ?」

郁乃「せやから、別の漢字でカモフラージュしてたんや」


郁乃「強運の持ち主しか、この処刑法を選ぶ事ができん様になぁ……」ゴゴゴゴゴッ

黒服達が、畳一畳程の大きさがある、長方形の〝鉄箱〟を倉庫から持って来た。
鉄箱の高さは、成人がその中に入って普通に体育座りをする事ができる位ある。


長く広い方の面を手前にして、漫の目の前にそれを置く。
底面には4本の脚が付いており、鉄箱は50cmほど宙に浮く形となっていた。


正面左寄りの所には、四角い穴が1つ空いている。
体は無理そうだが、顔を出す位ならば出来るだろう。


上面は開く事ができる構造になっていて、留め金が付いており、
正面中央にある突起と、3つの南京錠の様な物で繋がれ、固定されていた。

その南京錠は、それぞれ〝赤〟〝青〟〝黄〟と色分けされている。


黒服「上重様、こちらをご覧ください……」


黒服は、1本の〝U字型〟になっている針金を、漫の前に示した。
形以外は何の変哲も無いその針金を、青い南京錠の鍵穴に差し込む。


黒服「青の鍵は、最も簡単に開錠する事が出来ます」


僅か1~2秒程で、青い南京錠は外れ、地面に落ちた。


黒服「この様に、開錠された鍵は、自然と地面に落ちる仕組みになっております」


続いて黒服は、黄色の南京錠に針金を差し込む。


黒服「黄色の鍵は、先程の物より、多少難しいのですが……」


青い南京錠よりは時間が掛かったものの、黒服はいとも簡単にそれを開錠した。


黒服「最後に赤の鍵ですが……これを初めての方が外すのは困難かもしれません……」


言葉では難しさを強調するも、黒服は10秒弱で赤い南京錠を開錠して見せた。


黒服「ご覧の通り、コツさえ掴めば、誰でも容易く開錠する事が可能です」


地面に落ちた3つの南京錠を拾い上げ、黒服は漫の方を見てそう言った。

黒服は鉄箱の上面を開け、漫にその中へ入るように指示をする。
漫は言われるままに、黒服の手を借りて上から箱の中に入った。


黒服「それでは、上重様にルールの説明をさせて頂きます」


漫は立ったままの状態で、黒服の話に耳を傾ける。


黒服「既に察しは付いていると思いますが……」


黒服「その中から脱出する事ができれば、上重様に与えられた死の運命は上書きされ、
   特例に於ける〝4人目の生存者〟として、新たなる世界へ行く事が認められます」


黒服「逆に脱出できなければ、その鉄箱が上重様の〝棺桶〟となるでしょう……」


漫 「棺桶……」ゴクリッ


黒服「この針金は貴女に差し上げます。予備はありません。
   ですから、くれぐれも、取り扱いには注意してください」


黒服「それを使って3つの鍵を開ける事が、箱から抜け出す唯一の手段ですから」


漫は黒服から針金を受け取り、それをしっかりと握り締めた。


漫 (思ってたより、ずっと硬い……。これなら、折れる心配はせんで済むわ……)


漫 (正面、左寄りの穴から手を伸ばせば、鍵穴まではギリギリ届きそうやな……)

漫 (つまり、そうやって開錠して、この鉄箱から抜け出せゆう事か……)

漫 (けど、そん時にこの針金を下に落としてもうたら、拾い上げる事はできん……)

漫 (そこん所は、細心の注意を払わなあかんな……)

黒服「それと、我々から上重様に、もう1つ渡す物があります」

漫 「……? 何ですか?」


黒服は、金の美しい装飾が施された、水筒の様な物を漫に差し出した。


黒服「それは、非常に特殊な〝魔法瓶〟でございまして、
   〝無限〟とも呼べる量の飲料水が入っております」


漫 「……無限? 幾ら飲んでも無くならんゆう事ですか?」


黒服「イエス」


黒服「長丁場になる事が予想されますので、飲み水としてご利用ください」


漫 (長丁場……? 今まで時間の事をずっと気にしてたのに……?)


漫は水筒の蓋を開け、試しに少しだけ飲んでみた。
香りは無く、ほんのりと甘い味が口の中に広がる。


漫 (砂糖水やろか……? 薄いけど、確かに甘味が感じられるな……)


黒服「説明は以上です。何か質問はありますでしょうか?」


漫 「……これって、制限時間はあるんですか?」


黒服「特に制限時間などは設けていませんが……」

黒服「強いて言うなら、〝貴女が死ぬまでの時間〟が、それに該当するでしょう」


漫 「うちが……死ぬまで……?」


黒服「イエス」


漫 「という事は、うちはこの箱の中で何かされるんですか……?」


黒服「ノー」


黒服「上重様に対して、我々が直接何かをする事はありませんのでご安心を……」

黒服「この鉄箱の中の〝孤独〟と〝安全〟は、我々が保証しますよ……」


漫 「……?」

突然、モニターの画面が切り替わり、月面の様な映像が映し出された。
太陽の光は無いが、暗いという訳でも無く、遠方まで見通す事ができる。


黒服「貴女には、このチャレンジを、我々が用意した〝亜空間〟で行って頂きます」


漫 「あ……亜空間……?」


黒服「我々は、その亜空間の〝時間〟を、自在にコントロールする事が出来ます」

黒服「貴女は、我々よりも遥かに速い時の流れの中に身を置く事となるでしょう……」


漫 (……?)


漫 (速い時の流れの中に身を置く……?)

漫 (言ってる意味がよう分からん……。どゆこと……?)


漫 「……」


漫 (そんな事はどうでもええか……)

漫 (どうせこの箱から脱出すれば、そこで処刑は終わるんやからな)

漫 (自分がどんな風に死ぬとか、後ろ向きな事ばかり考えてもしゃあないやろ)


漫 (黒服達は、うちに手を出す気は無いみたいやし、身の安全は保障されとる……)

漫 (ならうちは、施錠された鍵を開ける事にだけ集中すればええんや……っ!)

黒服「その他に質問はありますか?」


漫 「あ、あと1つ、底の端っこに空いてる丸い穴は……?」


黒服「その穴は、排泄物を処理するのにお使いください」

黒服「穴の周りが汚れてしまった場合は、水筒の水で洗い流せば良いかと」


漫 「……分かりました」

漫 (この砂糖水で洗い流せゆうんか……? まぁ、ええけどな……)


黒服「他に確認しておきたい事は?」


漫 「いえ……」


黒服「それでは、上面部分を閉じさせて頂きます……」


黒服が鉄箱の上面を閉じようとしたその時……。


由子「漫ちゃん……っ!」

漫 「真瀬先輩……?」

由子「私がこんな事を言える立場じゃ無いのは分かっているけれど……」

由子「頑張って……」

漫 「真瀬先輩……」


恭子「調子良いのは、自分でも分かってる……」

恭子「けど、漫ちゃんには、必ず生きて帰って来て欲しい」

恭子「それは、紛れも無いうちの本心や……っ!」

漫 「末原先輩……」


漫 「……っ」


漫 「心配は無用ですよ! うちは、絶対に生きて戻って来ますからっ!」


漫は針金を持った右手を空高く上げ、由子と恭子に笑顔で応えた。

洋榎は無言のまま、虚ろな表情で遠くを眺めている。


漫 (主将……)


漫 (絹ちゃんを失った主将の悲しみがどれ程か、うちは知っていたのに……)

漫 (自分の事だけで精一杯だったうちは、傷心している主将の心を踏み躙った……)

漫 (こっちに戻って来たら、まずは主将に謝ろう……)


漫 (ごめんな、絹ちゃん……。そっちに逝くんは、まだ先の事になりそうや……)

漫 (生きてる時に何もしてやれんかった臆病なうちを、どうか赦してな……)


漫が鉄箱の中に座り込むと、黒服は上面を閉じて、3つの鍵を掛けた。


郁乃「漫ちゃん、頑張ってや~。いくのんも応援しとるで~」


鉄箱の穴から出てきた漫の手が、郁乃に向かって中指を立てる。


郁乃「はははっ! やる気マンマンやなぁ~」


郁乃「ほな、漫ちゃんの命を懸けた〝脱出ゲーム〟を始めるで~!」

2人の黒服達が、漫の入った鉄箱を、黒い倉庫の中へと運び込む。

それから暫くして、月面に酷似した風景を映しているモニターの画面内に、
鉄箱を持った黒服達が現れ、四角い穴が空いている面を手前にしてそれを置いた。


由子「あの場所と黒い倉庫の中は繋がっているの……?」

恭子「もしかして、この倉庫は〝転送装置〟的な物なんじゃ……」


郁乃「末原ちゃん正解!」


郁乃「これと同じもんが、予め色んな場所に配置されててな~、
   それらん中は全部繋がってて、自由に行き来できるんやで~」


恭子「それじゃあ、うちらはその転送を使って、この世界から脱出を……?」

郁乃「うんにゃ。これを使っても、新世界には行けへんよ?」


郁乃「この転送装置は、〝旧世界〟の中しか移動する事ができへんからなぁ」

郁乃「あの亜空間も、所詮は旧世界の内側に作られた特殊空間やしね」


郁乃「そもそもこれは、処刑に必要な物を持ってくる為だけに用意されたもんやし」

郁乃「今回みたいに、生贄を〝処刑場〟へ連れてく用途もあるけどぉ……」

郁乃「基本的には、〝倉庫〟としての利用価値しか無いんやわ」


郁乃「まぁそんな事より、今はみんなで漫ちゃんを見守ろうや」


郁乃に言われ画面を見ると、漫が四角い穴から顔を出し、周囲の様子を窺っていた。


郁乃「音声入らんのが残念やわぁ……」

〝0時間02分15秒〟


画面の右下には、漫が亜空間に放置されてからの時間が表示されている。


漫は注意深く辺りを見回した後、鍵の位置を確認し、早速開錠に取り掛かった。
最初は青い南京錠の鍵穴にU字型の針金を差し込み、試行錯誤を繰り返している。


郁乃「始まったな……」


恭子「まずは簡単な物からいくみたいやね……」

由子「頑張って、漫ちゃん……」


黒服「等速で見ていますと、時間が掛かり過ぎてしまいますので、
   亜空間に於ける時間の進み具合は、我々が適宜調整させて頂きます」


黒服がそう言った直後、右下の累積時間が、物凄い速さで増え始める。
それと同時に、漫がビデオの〝早送り〟をした時の様な動きをし出した。


恭子「何が起きたんや!?」

由子「どうなっているの!?」


黒服「現在、亜空間の時の流れを、通常空間の60倍にさせて頂いております」

黒服「つまり、この世界での〝1秒〟が、亜空間では〝1分〟となるのです」


由子「時間の進み方を操れるのっ!?」

恭子「まさか……そんな事が……」


唖然とした顔で黒服を見る2人。


郁乃「それはさっき言ったやろ~? ちゃんと説明は聞かなあかんで~」

時の操作というオーバーテクノロジーに衝撃を受け、愕然とする由子と恭子。
モニター画面を見る事すら忘れている2人に、黒服が漫の進捗状況を伝える。


黒服「真瀬様、末原様、画面の方をご覧ください」

黒服「上重様が、青の鍵の開錠に成功した様です」


恭子「っ!?」

由子「っ!!」


〝0時間43分55秒〟


恭子達の体感では1分も経たぬ内に、漫は1つ目の鍵を開ける事に成功した。

いつの間にか、亜空間での時間の進みが、こちらの世界と等速になっている。
事態が何らかの進展を迎えた時には、時の流れを正常な速さに戻すと黒服は言う。


穴から顔を出し、地面に落ちた青い鍵を見ながら、満面の笑みを浮かべている漫。
そんな漫の様子を見て、由子と恭子はホッと胸を撫で下ろし、歓喜の声を上げた。


由子「やったわ! 漫ちゃんが、1つ目の鍵を取り外したのよ!」

恭子「おめでとう漫ちゃん! 2つ目もその意気で頑張ってや!」


郁乃「あー、1つ目の障壁を突破されてもうたわー、どないしよー」

郁乃「けどぉ~、それよりも高く厚い壁が、まだ2つも残ってるしぃ~?」

郁乃「いっちばん簡単な鍵を1つ外した位で喜んでたらあかんよ~?」


勢いに乗ったまま、漫は2つ目の鍵の開錠に挑戦し始めた。
漫が黄色い錠の鍵穴に針金を差し込んだ途端、亜空間の時の流れが加速する。


黒服「1つ目の時よりも、時間が掛かる事が予想されますので、
   時の流れを先程の2倍になるよう、設定させて頂きます」


由子「さっきの2倍って……通常の120倍!?」

恭子「うちらの1秒が、漫ちゃんには2分に感じられるんか!?」


針金を持つ漫の手首は、動きが速過ぎて全く見えない。

ほんの一瞬、チラッと見えただけだが、漫が穴から頭を出し、
鍵の方に視線を向けている様子を、数回確認する事ができた。


〝4時間16分31秒〟


郁乃「くくくっ……」

〝5時間52分44秒〟


由子「2つ目の鍵……中々開ける事ができないわね……」

恭子「1つ目の鍵を外してから、休む事無く開錠に挑戦し続けて5時間……」

恭子「驚異的な集中力やけど、その分、体力の消耗も激しいやろな……」


恭子(漫ちゃん、適度に休憩も取らな……。焦りは禁物やで……っ!)


郁乃「いひひっ、2つ目の鍵には、かな~り手子摺ってる様やなぁ……」

郁乃「この分やと、3つ目の鍵の出番は無いんちゃうか?」

郁乃「黄色の鍵も外せないまま、〝脱落〟したりしてな!」


由子と恭子が、不謹慎な言葉を口にする郁乃をキッと睨み付ける。


郁乃「うそうそ、軽い冗談やて……。そんなに目くじら立てんといて~」


由子、恭子、郁乃、黒服の4人が静かに見守る中、遂にその瞬間が訪れた。
黄色の鍵が外れ、地面に向かって落下を始めると同時に、時の流れも減速してゆく。


〝8時間49分06秒〟


顔を出し、黄色の鍵が外れた事を自身の目で確認して、漫は安堵の溜め息を吐いた。
隔絶された空間で、8時間を超える鍵との格闘、漫の顔には若干疲れの色が見える。


由子「2つ目も見事にクリアしたのよー!」


拍手をしながら、由子は喜びの歓声を上げた。


由子「時間はかなり掛かったけれど、残る鍵はあと1つ!」

由子「漫ちゃんなら、きっと生還できるわ!」


恭子「……せやな」


恭子「……」

恭子(2つ目の鍵を外すのに要した時間……8時間強……っ!)


恭子(残り1つは、最も難易度が高いとされる、赤の鍵……)

恭子(もし、それが本当なら、開錠には相当の時間が掛かる筈や……)


恭子(漫ちゃんは食料を持っていない。唯一手元にあるのは、大量の水のみ……)

恭子(空腹状態では、集中力も長く続かんやろし、ここからが正念場やな……)


恭子(神様……どうか漫ちゃんに力を貸してあげてください……っ!)


ここで漫は小休止を挟み、1回目の排尿を行った。

30分程の休憩をした様だが、恭子達にとっては、僅か1秒程度の出来事であった。
画面右下にある経過時間の表示が無ければ、漫が過ごした本当の時間は分からない。


120倍以上のスピードで映し出される漫の映像。
気が付けば、既に10時間以上の時が流れていた。


〝19時間37分22秒〟


モニターの画面から、漫の腕が忽然と消える。
どうやら、漫は鉄箱の中で眠りに就いた様だ。


亜空間には太陽など無く、そこでは昼も夜も存在しない。
穴から外を見渡しても、時間を計れる様な物は何も無い。

携帯が無ければ、漫も自分が何時間そこに居るのか分からなくなるだろう。

〝24時間25分27秒〟


漫の睡眠中は、超高速で時間が進むらしい。
たった数秒で、5時間近い時が過ぎ去った。

画面に映されている光景には、何の変化も無いので、
時間の経過は、表示されている数字で判断している。

本当にそれだけの時間が経っているのか、
懐疑的な部分もあるが、確かめる術は無い。


漫が目を覚ましたのか、時間の進みが緩やかになる。
2回目の排尿、今回はそれと同時に排便も行われた様だ。


赤い鍵の位置を確認した後、漫は大きく深呼吸をし、再び最後の難関に取り掛かる。
それに呼応して時の流れが加速し、漫が自身の生存を懸けた孤独な闘いが始まった。


〝27時間08分40秒〟


由子と恭子が祈る様に見詰める中、無情にも時間だけが過ぎてゆく。


〝30時間46分13秒〟


郁乃「そろそろちゃう?」

黒服「さて……どうでしょうか……」


郁乃「黒服的には、どの位で漫ちゃんはやらかすと思う?」

黒服「3日……といった所でしょうか。その辺りで上重様の集中力は切れるかと……」

郁乃「3日かぁ……楽しみやなぁ……」


恭子「……?」

〝36時間29分09秒〟


郁乃「もっとや! もっともっと速く!」

黒服「それでは……」


〝45時間51分57秒〟


郁乃「ただし! 漫ちゃんの表情は絶対に飛ばしたらアカンで?」

黒服「……承知しております」


〝58時間19分43秒〟


由子「58時間……ですって……?」フルフルフル......

恭子「漫ちゃんは……あんな所に……3日も……閉じ込められて……」カタカタカタ......


郁乃「へーきへーき、漫ちゃんに渡した水筒から出るんは、ただの水やない」

郁乃「糖分や塩分の他にも、様々な栄養素が微量に含まれとる、バランス飲料水や」

郁乃「あれだけでも飲んでれば、1ヶ月位は余裕で生きられるんちゃうやろか」


由子「1ヶ月……? 1ヶ月もあの中に……!? 酷い……酷過ぎる……っ!」

恭子「せ、せやけど!」

恭子「逆に考えれば、時間的な猶予がたっぷりあるゆう事やろ!?」

恭子「それだけの期間があれば、外す事が難しいとされる赤の鍵だって……」


郁乃「末原ちゃん、例え1ヶ月も生きていられるからって、
   その間ずっと開錠に挑戦できる訳じゃないんやで?」

恭子「……どういう意味です?」

郁乃「説明しなくても、もう少し見ていれば分かるやろ……」


郁乃「開錠作業を始めてから3日目……」

郁乃「劣悪な環境に長時間も置かれて、ストレスも溜まりまくりやろなぁ……」

郁乃「体力的にも、精神的にも、ガタが来る頃やでぇ……」

〝65時間34分28秒〟


黒服「上重様の排尿行為の頻度が増えています」

郁乃「そうなん? 時間の進みが速過ぎて、そんなん全然分からんわ……」

黒服「空腹を紛らわす為に、相当量の〝水〟を飲んでいる様ですね」

郁乃「あんなもん、幾ら飲んでも腹の足しにはならんやろ」

黒服「一時的に飢えを凌ぐ事は出来るでしょうが、その後は更に辛くなるでしょう」


郁乃「海水と同じやな。飲めば飲む程、後から激しい渇きに襲われる……」

郁乃「それが分かっていても、飲まずにはいられない。目の前の誘惑に抗えんのや」


郁乃「ええんやで、漫ちゃん。気が済むまで、その水を飲めばええ……」

郁乃「いくのんは、漫ちゃんに1日でも長く生きていて欲しいんや……」ゴゴゴゴゴッ


空腹、疲労、不安、緊張、焦燥、苛々……。


それらが漫の中に渦巻き、冷静さや集中力を著しく低下させた。
鍵を力任せに抉じ開けようと、針金を持つ手に無駄な力が入る。

漫の手は全体的に汗ばみ、非常に滑り易い状態になっていた。
腕を水平に伸ばしたまま行う作業は、想像以上に負荷が大きい。


〝79時間26分35秒〟


次の瞬間、漫は取り返しのつかない致命的なミスを犯した。
生命線である針金を、誤って手から落としてしまったのだ。


その最悪な事態は、様々な因果が交錯して起きた必然であった。


針金が漫の手から離れると同時に、時の流れが通常の状態に戻る。
これまでの速さに慣れた所為か、それはスローの様に恭子達の目に映った。


郁乃「イーッヒッヒッヒッヒッヒィィィィィぃぃぃーーーー!!!」

由子「そ、そんな……っ! 嘘でしょ……!?」

恭子「なっ……何してん……漫ちゃん……針金を……落として……」

郁乃「あははははっ! やってもうたなぁ漫ちゃん! これでゲームオーバーや!」


漫が穴から顔を出し、鍵の真下に落ちてしまった針金を見て、酷く狼狽している。
手を伸ばしても当然届かず、事の重大さから、漫は恐怖と絶望の表情を浮かべた。


郁乃「それそれ! それや漫ちゃん! その顔を、いくのんは見たかったんや!」


失意のどん底に沈む漫を、郁乃は恍惚とした表情で眺めている。
その興奮を抑えきれず、仕舞いには両腕を上げて拍手し始めた。


郁乃「ブラボー! ブラブラボー!!」


恭子「もう……漫ちゃんは……箱の中から……出られへん……」

由子「そっ……それじゃあ……漫ちゃんは……どうなるん……?」


郁乃「そんなん、分かりきってるやろォ……?」


〝餓死〟


由子も恭子も、その可能性がある事について、話の流れから疾うに理解していた。
しかし、余りの陰惨さに現実を受け入れられず、気付かない振りをしていたのだ。


郁乃「箱から脱出し生き残るっちゅう希望は、今、完全に絶たれてしまったんや」

郁乃「〝あの針金さえ手元にあれば、自分は助かるかもしれへんのに……っ!〟」

郁乃「漫ちゃんは、地面に落ちた針金を恨めしそうに眺めながら、
   これから毎日、飢え死ぬまで、未練がましく後悔し続けるんや」


郁乃「最高やろォ……?」


瞳に狂気を宿した郁乃に、由子と恭子は戦慄を禁じ得ない。


郁乃「肉体的苦痛は少ないかもしれんが、精神的苦痛は役満クラスやでぇ……」


郁乃「こんなにも素敵な処刑方法を考えてくれた、
   異世界人(前スレ353 ID:dMslPfhlo)には、
   どんなに感謝しても、し足りない位やわ~!」


郁乃「ありがとう! そして、ありがと~う!!」


郁乃は両腕を広げ、顔も知らぬ異世界人に、笑顔で感謝の言葉を送った。

暫くの間、落ちた針金を茫然と眺めた後、諦めたのか、漫は箱の中に戻った。
次の瞬間、鉄箱の上面部分が大きく振動し、鍵にもそれが伝わって揺れ動く。


郁乃「んん? 何や? 箱の中で何が起きてるんや?」

黒服「どうやら、上重様が仰向けの体勢から、足で上面を蹴り上げている様ですね」

郁乃「ぶふぅっ! そんなんで、箱の蓋を壊せると本気で思ってるんかいな!」


郁乃「蹴って破壊できる程度の強度なら、この処刑法自体、端から成立せんわ」

郁乃「想像以上にアホやなあいつは! ヘソで茶が沸くで~!」ケラケラケラッ


由子「あぁぁぁ……漫ちゃん……」


由子は両手で口を押さえ、涙を流しながらモニターを見詰めている。


恭子(あの針金に代わる、棒状の何かがあればええんやけど、
   今日の漫ちゃんを見る限り、そんな物は持って無さそうやし……)

恭子(ここまでなんか? 漫ちゃんが助かる方法は、本当にもう無いんか!?)



ゆらっ……



〝事前に落としたらヤバイぞ言われてたんだから〟

〝自分の服ちぎったりして針金と繋げて〟

〝命綱的なもの用意しておけば良かったのに〟

〝wiiリモコンみたいな感じに〟



洋榎「……」



洋榎「そんなん、うちが知るかボケ……」ボソッ

5分程度その様な状態が続いていたが、次第に揺れは収まり、
以来モニター画面は、静止画と見紛う映像を映し続けている。


郁乃「……治まったな。漫ちゃんも遂に観念したんか?」


郁乃がそう言った直後、漫が再び穴からひょこっと顔を見せた。
漫の表情に翳りの色は無く、地面に落ちた針金を、ただじっと見詰めている。


恭子(ん……? なんや……? 漫ちゃんの髪型が変わって……?)


再び箱の中に引っ込んだと思ったら、今度はブラウスを持った手が出てきた。
それは細長く棒状に丸められ、2つの髪留めゴムと、紐ネクタイで縛ってある。


郁乃「むっ……? 漫ちゃん、丸めた服なんか持って何する気や?」


手首のスナップを利かせ、そのブラウスで地面を掃く様な動作をしている。

十数回その動作を繰り返した後、再度顔を出して針金までの距離を入念に確認し、
箱の下に引き込むかの様に、外側から内側へ、斜め方向に服で針金を弾き飛ばした。


郁乃「なにっ!?」

黒服「ほぅ……」


針金は箱の底面にある〝トイレの穴〟の真下付近に飛ばされた。
漫はその穴から手を伸ばし、糞尿の中にある針金を拾い上げた。


黒服「まさか、あの様な方法で、落とした針金を回収するとは……っ!」

郁乃「そ、そんな~」グニャア~


糞尿を箱の中から排出する為の穴は、直径10cm程度しかない。
そこから手を伸ばして触れられる地面は、極僅かな範囲に限られる。

その範囲を飛び超えてしまえば、穴から拾い上げる事も出来ず、
また、視認不可能な領域に移動した針金は、それ以上動かせない。


それは絶対に失敗が許されない、一発勝負の危険な賭けでもあった。
窮地に追い詰められた漫は、その状況を、力業を以って強引に覆した。

由子「やった……針金を……希望を……漫ちゃんは取り戻したわ……っ!」


恭子「お世辞にも上策とは言えん……。成功の公算も低かったと思う……」

恭子「けど、そんな逆境を撥ね除けて、漫ちゃんは未来への可能性をもぎ取った」


恭子「漫ちゃんは持ってるんや……! 〝ここ一番〟の勝負強さを……!」


水で汚れを洗い流し、改めて赤い鍵の開錠に取り掛かる漫。
その針金の中心部分には、紐ネクタイが結び付けてある。


郁乃「紐ネクタイを……針金に……結わえ付けた……やと……!?」

黒服「針金は棒状でなくU字型ですから、結び目が取れる事も無いでしょう」


恭子「手首と針金を、制服の紐ネクタイで結び繋げたんか……」

由子「これなら、針金を手から放しても問題無いわね!」


郁乃「ぐぬぬ……漫ちゃんに、そないな対策を講じる知能があったとは……っ!」

黒服「手痛い失敗から、針金の重要性を再認識した結果でしょうかね……」


恭子「これでもう、漫ちゃんが針金を失う事は絶対に無い……」

恭子「鍵の開錠に取り組める時間も、まだ十分に残されている……」


恭子「形勢は完全に逆転した……っ!」

恭子「漫ちゃんの背中には今、神懸かった〝生〟への追い風が吹いている!」

郁乃「完敗……やな……」


亜空間の時が加速を続ける中、郁乃が小さく呟いた。


〝84時間58分16秒〟


郁乃「この処刑は完全に失敗や……」


郁乃「自らのミスで生き残る可能性を失い、後悔と絶望の中で息絶える……」

郁乃「それがこの処刑のコンセプトであり、最大の目玉やったのに……」


郁乃「希望を持ったまま死ぬなんて、そんなん、普通の〝餓死〟やないか……」


由子「代行、今更負け惜しみなんて見苦しいのよ」

由子「例えどんなに赤い鍵の開錠が困難なモノだったとしても、
   漫ちゃんなら……漫ちゃんなら、きっと遣って退けるわ!」


郁乃「……無理や。漫ちゃんは、絶対にあの箱の中から出られへんよ……」


由子「何でです!? 何でそうだと言い切れるんですか!?」


〝92時間35分39秒〟


郁乃「だってぇ……」


郁乃「あの3つの鍵な、元々針金なんぞで開けられる構造にはなってへんから……」

由子「……はっ?」

恭子「なっ、何言って……。実際に漫ちゃんは2つも鍵を外してるやないですか!」


郁乃「あれはな、漫ちゃんが自分の力で開錠した訳やない」

郁乃「一定時間が経過した後、鍵穴に針金を差し込んで適当に弄くれば開くんや」


由子「それは……本当なの……?」


郁乃の言う事を鵜呑みには出来無いので、由子は黒服に確認を取る。


黒服「イエス」


由子「っ!?」

恭子「っ!!」


〝100時間00分04秒〟


黒服「3つの鍵には、開錠が可能になるまで、それぞれ時間が設定されています」


黒服「青の鍵は30分、黄色の鍵は8時間……」


黒服「ただし、鍵穴の中に針金を入れていた累計時間にも影響されますので、
   実際に鍵が外せる様になるまでは、設定された以上の時間が掛かります」


恭子「赤の鍵は……赤の鍵はどうなって……?」


黒服「赤の鍵は特別で、設定時間が過ぎれば、自動的に外れる様になっております」


〝117時間39分52秒〟


由子「その設定時間は……どれ位なの……?」



黒服「……1440時間でございます」ゴゴゴゴゴッ

由子「1440時間……ですって……?」

恭子「なんや……なんやそれ……」


郁乃「つまりや……」

郁乃「幾ら漫ちゃんが足掻こうが、あと1300時間以上経たな、
   何が起ころうとも、赤の鍵は絶対に開かんゆう事や……」


恭子「1440時間……あの水だけで60日間も漫ちゃんは生きられるんか……?」


黒服「それは不可能です」


黒服「元より、上重様が確実に死亡するよう、時間を設定させて頂きましたから」


〝133時間55分46秒〟


由子「……という事は、最初から漫ちゃんを殺す気だったのね!」

恭子「うちらを……漫ちゃんを……あんたらは騙したんかっ!?」


黒服「本来、我々は赤阪様と違って、皆様方を騙す様な真似はしないのですが……」


郁乃「ちょっとちょっとぉ~、黒服ちゃ~ん! な~に勝手な事言って~ん!?」


頬を膨らませ抗議する郁乃を無視し、黒服は話を続ける。


黒服「上重様が処刑法を選択したその時から、既に刑は始まっていました」

黒服「それらの嘘は、処刑法〝絶〟を執行する為に必要な下準備だったのです」

恭子「処刑法……〝絶〟……やて……?」

由子「何よそれ……漫ちゃんの処刑方法は〝脱〟でしょ……!?」


黒服「いえ……」

黒服「そもそも、処刑法〝餓〟、処刑法〝脱〟というモノは、存在しません」


〝142時間23分11秒〟


由子「それ、どういう意味よ!」

恭子「確かに画面には〝餓〟〝脱〟って表示されとったで!」


黒服「それにつきましては、皆様にお詫びします」

黒服「システムの不具合によって、〝絶〟が〝餓〟と表示されてしまった様で……」

黒服「死に方を悟らせぬ様、急遽〝脱〟と言う架空の処刑法を作らせて頂きました」


黒服「と言っても、説明した内容に変更点はございません」

黒服「あくまで、処刑法の名前を変えさせて頂いただけです」


郁乃「いくのんのアドリブもバッチリやったろ~?」

黒服「ええ。ですが、皆様も最初からお気付きの様で、結果的には無駄でしたがね」


恭子「……で、処刑法〝絶〟って、一体何なんや……?」

恭子「ただの餓死なら、こんな小細工は必要無いやろ……?」


黒服「この処刑で最も重要なのは……」

黒服「〝餓死〟という〝結果〟では無く、そこに至るまでの〝過程〟なのです」


黒服「隔絶された空間で、絶望に打ち拉がれ、絶食により絶命する……」


黒服「それが、処刑方法〝絶〟でございます……」ゴゴゴゴゴッ





〝156時間42分48秒〟

黒服「私が鍵を開けて見せたのは、上重様に偽りの〝希望〟を与える為であり……」

黒服「亜空間で赤以外の鍵を開錠できる様に設定したのは、
   〝本当に鍵は開けられる〟と完全に信じ込ませる為です」


由子「何の為に……そんな事を……?」


黒服「そうする事により、鍵を開ける手段を失った際の絶望が格段に増すからです」

黒服「この処刑法は、強い絶望、精神的苦痛を与える事が第一の目的なので……」


郁乃「上げてから叩き落とすんは、精神攻撃の基本やからなぁ~」


郁乃「〝希望〟と〝絶望〟は表裏一体や……」

郁乃「プラスかマイナスかの違いしか無く、本質的には何も変わらん……」

郁乃「希望が強ければ強い程、それを失った時の絶望もまた強くなるんやでぇ……」


〝172時間14分53秒〟


黒服「上重様に絶望を与える事が、我々に課せられた任務でしたが……」

黒服「針金が手元にある限り、彼女は脱出への希望を持ち続けてしまうでしょう」


黒服「ルールにより、我々は上重様を死ぬまで〝孤独〟にさせねばならず……」

黒服「カウンターが回り始めたら、何人たりとも彼女に接触する事は許されません」


黒服は恐ろしい速さで進む累積時間を指差しながら言った。


黒服「彼女を亜空間に隔離した今となっては、最早どうする事も出来ないのです」


黒服「生贄の〝絶望〟無くして、この処刑法は成り立ちません」


黒服「彼女の持つ胆力と行動力が、処刑法〝絶〟を打ち破ったとも言えるでしょう」

由子「何よそれ……漫ちゃんの処刑方法は〝脱〟でしょ……!?」

これは餓の間違い?

>>611

黒服「真瀬様は>>542の赤阪様の発言を聞き、処刑方法が〝脱〟と思っているようです」


本来の処刑方法→〝絶〟


システムの不具合で、処刑法〝絶〟の名前が間違って〝餓〟と表示された。


〝餓〟では死に方が餓死とバレてしまうので、
〝脱〟という架空の処刑法を黒服がでっちあげ、誤魔化そうとしました。

黒服「しかし、大変残念な事ではありますが、彼女の死は決して免れません……」

黒服「上重様の魂に刻印された死の運命は、何者にも変える事は出来ないのです」


由子「死ぬ事が確定しているのなら、打ち破るも何も無いじゃない!」


黒服「それは真瀬様が、〝肉体的な死〟だけを〝死〟と認識しているからです」

黒服「そこに横たわっている洋榎様の姿を、自身の目で篤と御覧なさい……」


黒服は、死んだ魚の様な目をしている洋榎を指差しながら言った。


黒服「……洋榎様の〝心〟は、最愛なる妹の死によって崩壊しました」

黒服「人が人足るに、〝心〟が必要であるのならば、
   彼女は人として既に死んでいると言っても過言ではありません」


黒服「それは〝絶望の生〟であり、我々から見れば〝死〟と同義であるのです」


〝221時間33分42秒〟


黒服「それとは逆に、上重様は今、希望を持って死を迎えようとしている……」

黒服「彼女は非常に臆病ですが図太くもあり、精神的にはかなりの強者であります」

黒服「絶命に至る瞬間まで、上重様は不屈の精神で生き残る事を諦めないでしょう」


黒服「絶望に穢されず、直向きに生を求め続ける彼女の純粋な魂は、
    色褪せる事無く、消滅するその時まで、絢爛と輝き続ける……」


黒服「我々はそれを〝死を超越した魂〟と呼んでおり、
   人が考える死の概念とは、別の定義をしています」


由子「肉体は死んでも、魂は死を乗り越えて生きているとでも言うの!?」

由子「そんなの、カルト染みた詭弁じゃない!」


黒服「理解は出来ても、納得はして頂けませんか……」

黒服「それでも、私は別に構いませんがね……」


黒服「上重様は処刑法〝絶〟を打ち破れずに死んだ」

黒服「けれども、彼女は課せられた苛酷な運命に屈せず、最後まで絶望しなかった」


黒服「……これで宜しいですか?」


由子「くっ……!」

〝285時間07分25秒〟


恭子「うちも、黒服の言う〝死を超越した魂〟なんてモノには納得できへん」

恭子「けど、あんたらの思惑通りにならんかったゆうなら……」

恭子「それは紛れも無く、漫ちゃんの勝利や……っ!」


黒服「肯定。我々は敗北を認め、崇高なる上重様の魂に敬意を表します」


黒服達は胸に手を当て、モニター画面に向かって深く一礼した。


恭子(黒服達は負けを認めた……)

恭子(漫ちゃん……あんたはこいつらに、一泡吹かせたんやで……っ!)


恭子は目を瞑って大きく深呼吸をし、改まって黒服の方を見据えた。


恭子「……それとは別に、うちは1つだけ黒服に訊きたい事がある」


黒服「訊きたい事……とは……?」


恭子「なんで、漫ちゃんに水筒なんか渡したんや……?
   どうせ殺すんなら、あんなモンいらなかったやろ!」


黒服「……」


黒服「……その理由は、既にお分かりでしょう?」


恭子「っ!?」


黒服は振り返り、サングラス越しに恭子を見詰める。


黒服「今、貴女が想像している通りですよ……」


恭子「うちの……想像通り……やて……?」


黒服「イエス」


恭子の頬を、一筋の汗が流れ落ちた。

恭子「鬼畜が……この腐れ外道……っ!」

由子「どういう事……? あの水筒には、何か意味があるの……?」


黒服「あの水筒は、上重様により長く処刑の苦痛を味わって頂く為のモノです」

黒服「通常、人間は水を飲まねば、3日程度で死んでしまいますからね」


由子「より長く苦痛を与える為ですって……? 何て惨い事を……っ!」


黒服「上重様には、〝水を飲まない〟という選択肢もありますが……」

黒服「あの状況下で水筒の水を飲まない人間など、まずいないでしょう」


恭子(助かる可能性があると信じている漫ちゃんは、最後まで水を飲み続ける……)

恭子(いや、そんな確信が無かったとしても、きっと飲んでしまうに違いない)

恭子(苦痛の時間を最大限まで引き延ばす為の、〝悪魔の水〟とも知らずに……!)


〝364時間24分34秒〟


郁乃「肉体的な痛みが無いその代償として、長時間の苦しみが与えられとるんや」

郁乃「〝餓〟という文字から簡単に連想出来たんやし、漫ちゃんの自業自得やな」


希望を砕かれた由子と恭子の胸に、郁乃の非情な言葉が突き刺さる。



郁乃「あのさぁ……君らが絶望してどないすんの……?」


悲観的な未来しか見えぬ状況に、絶望の色を隠し切れない2人。


郁乃(2人ともええ顔しとるなぁ……。これはこれでアリやな)ジュン......

〝452時間33分56秒〟


郁乃「黒服、ちょっと時間の進み緩めてくれる?」


黒服は無言で頷き、亜空間の時の流れが通常の100倍程度に減速する。
それによって、ぶれてぼやけていた漫の腕が、若干明瞭に映し出された。


恭子「うぅ……漫ちゃん……」

由子「あぁぁ……何て……酷い……」


郁乃「監禁してから、2週間以上も経ってるからなぁ~」

黒服「幾ら飲んでも、あの水から得られるカロリーなど高が知れていますからね」


今にも折れてしまいそうな程に痩せ細った漫の腕……。
多少ボケた映像からでも、それはしっかり見て取れた。


握力が弱まったのか、針金を何度も手から落としながらも、
めげずにそれを引き上げ、ただ只管、開錠に取り組んでいる。


郁乃「漫ちゃん、顔出さんかなぁ……。どれくらい痩けたか見たいんやけど……」

黒服「上重様は、数日前から顔を出していませんよ」

郁乃「そうなん?」

黒服「ええ。鍵穴の位置は、手と腕の感覚だけで正確に把握している様です」


郁乃「そっかぁ……詰まらんなぁ……」


郁乃「……なら、もうええわ。漫ちゃん死ぬとこまで早送りして」


黒服「かしこまりました……」


〝603時間57分05秒〟

それから数分も経たずして、亜空間では300時間もの時が過ぎ去った。
1000時間を過ぎた頃から、漫は腕すらも穴の外に出さなくなっている。


郁乃「……死んだ?」


黒服「いえ。箱の中からは、まだ微かに生命反応を感知する事が出来ます」

黒服「ただ、上重様は現在、深刻な飢餓の状態にあり、動く事も儘ならない様です」


郁乃「なんやしぶといなぁ……。漫ちゃん無駄な脂肪多いし、それが原因なん?」


黒服「それもあるでしょうね……」

黒服「水筒の水には、脂肪を燃焼させる為に必要な、
   最低限度である極微量の糖質が含まれています」

黒服「故に、体脂肪が多ければ、それだけ生き長らえる事になるでしょう」


郁乃「『60日間生き延びて奇跡の生還を果たす!』なんて事にはならんやろな?」


黒服「我々の試算では、上重様の存命期間は45日前後となっております」

黒服「誤差を考慮しても、試算より15日間も長く生存する事は有り得ません」


郁乃と黒服が会話している間にも、累積時間のカウンターは高速で進み続ける。
その数字が1350時間を過ぎた時、黒服は恭子達に視線を向け訃報を告げた。



黒服「真瀬様、末原様……。先程、上重漫様の死亡を確認致しました」







〝1440時間00分00秒〟ビーッ ビーッ ビーッ !!!



経過時間の表示が停止し、辺りに無機質なブザー音が鳴り響く。
同時に赤の鍵が外れ、ゆっくりと地面に向かって落ちていった。

黒服達は亜空間から鉄箱を回収し、恭子達の前にそれを置いた。

箱の四角い穴からは、鼻を突く強烈な糞尿の臭いが溢れ出ている。
動けなくなった漫は、その場で排泄物を垂れ流していたのだろう。


郁乃「 う゛っ ! またこの臭いかいな! クッサイなぁ! オゲェェェッッッ!」


漫の顔を冷やかし程度に一目見ようと近寄って来た郁乃であったが、
箱から漂う悪臭に耐え切れず、鼻を摘まんで、そそくさとその場から離れていった。


黒服が箱の上面部分を開けると、更に強い臭気が辺り一面に広がった。
しかし、そんな臭いなど気にする事無く、由子と恭子は箱の中を覗き込む。


恭子「あぁ……漫ちゃん……」

由子「こんなの……あんまりよ……っ!」


全身痩せこけた漫は、壁を背にして寄り掛かり、
優しく穏やかな顔をして、眠る様に座っていた。

上履きと靴下は脱いでおり、箱の隅に丁寧に揃えて置いてある。


衛生環境の悪さも影響したのだろうか、
踵や尻など、あちこちに酷い床ずれを起こし、
膿や壊死した体組織が、底面にこびり付いていた。


死してなお、右手に針金を握り締めている事から、
最後まで箱からの脱出を諦めていなかったと分かる。

左手には、電池の切れた携帯が握られていた。


恭子「孤独の中でも諦めず、最後まで闘い抜いたんやな……立派やで……」

恭子「うちは卑怯で情けない先輩やった……ごめんな漫ちゃん……赦してくれ……」


窶れた漫の頬にそっと触れる恭子。
瞳から溢れる涙が、漫の顔に零れ落ちた。


由子「私は自分が助かる為に、後輩の漫ちゃんを生贄に差し出した……」

由子「ごめんね……ごめんね……漫ちゃん……」


由子と恭子は変わり果てた漫の手を握り締め、涙を流して謝罪の言葉を繰り返した。

黒服「これにて、姫松高校に於ける生贄選別の儀を終了致します」


郁乃「それじゃ……」


黒服「……がっ! その前に……!」


黒服「上重様より、皆様に最後のメッセージがございます……」


恭子「うちらに……!?」

由子「最後の……メッセージ……?」

洋榎「……」


黒服は1本ずつ漫の左手の指を広げ、握られていた携帯を取り上げた。


黒服「上重様は、亜空間に置き去りにされる際、我々に言いました」

黒服「万が一、自分が生きて戻れそうに無いと判断した場合には、
   携帯の録画機能を使い、皆様宛てにメッセージを残すと……」

黒服「そして、その動画を皆様に見せて欲しいと頼まれたのです……」


黒服「我々は、上重様のその願いを承諾致しました……」


黒服「よって今、我々は我々に与えられた最後の使命を果たします」



郁乃「えぇ~? まだあるんかいなぁ……トホホ……」

黒服「洋榎様もこちらへ……」


洋榎を縛っていた縄と手錠が、光の粒子となって消えてゆく。
行動の制限を解かれ、洋榎はゆっくりと静かに立ち上がった。


洋榎「……」


洋榎は無言のまま、顔を俯き加減にしてその場から動かない。


恭子「洋榎……?」

由子「早くこっちに……」


洋榎「……」


由子「洋榎っ!」


洋榎「どうでもええわ、そんなん……」


恭子「っ!?」

由子「なっ……!」


洋榎「どうせここで起きた事なんぞ、綺麗サッパリ忘れてしまうんや」

洋榎「んなもん、今更聞く意味も無いやろ……」


感情を失った無機質な瞳を恭子達に向け、洋榎はそう吐き捨てた。


洋榎「処刑も終わった事やし、はよ新世界とやらに行こうや」

洋榎「こんなクソみたいな記憶、とっとと忘れてしまいたいわ」


由子「洋榎……それ……本気で言ってるの……?」

洋榎「あぁ……」

由子「……っ!」


由子は早足で洋榎に詰め寄り、大きく振り被って洋榎の頬を平手打ちした。

恭子(ゆーこ……)


由子「……っ!」

洋榎「……」


由子は潤んだ瞳で、洋榎を正面から見据える。

打たれた左頬を軽く手で押さえる洋榎。
その一撃には怒りでなく、哀しみの情が込められていた。


由子「大切な肉親を、目の前で惨殺された事……」

由子「その悲しみや苦しみ、怒りが、どれ程の物であるのか……」

由子「当事者でない私には分からない……。分かるなんて、言える筈も無い……!」


由子「でも……だからと言って……! 漫ちゃんを蔑ろにして良い訳が無いっ!」


由子「漫ちゃんは私達が殺した……」

由子「勿論、私の罪過が最も重い事は承知の上よ」

由子「自分が助かれば、代わりに他の誰かが死ぬ……」

由子「それを理解していながら、私はあんたに命乞いしたんやから……」


由子「けど……! 洋榎にだって罪はある……っ!」


由子「あんただって、自分の都合で漫ちゃんを生贄に選んだやろ!」

由子「それとも、絹恵ちゃんの為と言って、その罪から逃れるつもり!?」


洋榎「……絹に罪を擦り付けるするつもりなんて毛頭無いわ」


由子「それならっ! 私達が殺した漫ちゃんの最後の言葉に耳を傾けなさいよ!」


由子「漫ちゃんが私達に伝えたい事があると言うのなら……」

由子「例えそれが怨嗟に満ちた罵倒だったとしても……っ!」

由子「私達には、それを聞かなければならない義務がある筈よ!」


由子「もし洋榎がその責任を放棄すると言うのなら……」

由子「力尽くでも、私はあんたに漫ちゃんの声を届けるわ……っ!」


洋榎「……」

洋榎「……うちは漫の言葉になんか全く興味は無い」

洋榎「せやけど、お前がウザイから、取り敢えず聞くだけ聞いたるわ」


洋榎「ぶっちゃけ、時間の無駄やけどな……」


由子「洋榎……っ! あんたは何処まで……っ!」


洋榎の態度に憤り、胸倉を掴む由子。
その手を洋榎は荒々しく払い除けた。


洋榎「 あ゛っ ? 文句あんのか!? 聞けばええんやろ、聞けば!」

由子「何よその態度は! 漫ちゃんに申し訳無いと思わないの!?」

洋榎「うちがどんな態度で漫の言葉を聞こうが、お前には関係無いやろ!」


洋榎は由子の胸を突き飛ばし、鉄箱に向かって歩き出した。
由子は洋榎の背中をキッと睨み付けながら、その後に続く。


鉄箱の前に立つ洋榎、恭子、由子。
黒服が持つ携帯に視線が集中する。


洋榎「……その携帯、充電切れとるやんけ」


黒服「当初、上重様は携帯の電源を切り、電力を温存していましたが……」

黒服「1ヶ月を過ぎた頃から、度々携帯を起動する様になりまして……」

黒服「飢餓の状態も進み、バッテリーの残量にまで気が回らなかったのでしょう」


恭子「それじゃあ……漫ちゃんが残したメッセージは……」

黒服「いえ、その点に付きましては、問題ありません」


携帯を持つ黒服の手がバチバチと音を立て、青い火花を散らした。
それまで真っ暗だった携帯の画面に、何やら映像が映し出される。


由子「私達の……写真……?」

恭子「漫ちゃんが初めてレギュラーに選ばれて、記念に5人で撮った奴やな……」

洋榎「……」


黒服「これは、上重様が死の直前に見ていた画像です」

黒服「箱の中で彼女は、主に写真や動画のデータを眺めていた様です……」

長時間に渡り、冷たく窮屈な牢獄に1人幽閉されていた漫。
その孤独に耐え切れず、彼女は携帯の電源を入れたのだろうか。


黒服「そしてこちらが、皆様への最後のメッセージでございます……」


携帯の映像が切り替わり、痩せ衰えた漫の顔が映し出された。
酷く苦しそうな表情をしており、死期が迫っている様子が窺える。

漫は最後の力を振り絞る様に、1つ1つの言葉を紡いでゆく。


漫 『すんま……せん……うち……もう……だめ……みたい……ですわ……』

漫 『せやから……さいごに……いわせて……ください……』



漫 『ありが……とう……ござい……ました……』



恭子「っ!?」

由子「っ!?」


洋榎「……」



漫 『はじめて……レギュラー……に……えら……ばれて……』

漫 『うれしい……はんめん……ふあんも……おおきくて……』


漫 『けど……みんな……やさしく……むかえて……くれて……』

漫 『あったかい……かぞく……みたいな……ぬくもりに……あふれ……てた……』


漫 『まいにち……が……たのし……かった……』

漫 『ここが……うちの……いばしょ……やって……』

漫 『こころ……から……そう……おもえ……たんです……』


痩せ果てた体の何処にその水分が残っていたのか、
漫の瞳からは、大量の涙が止め処無く溢れ出していた。

漫 『ひろえ……せんぱい……ごめん……なさい……』


洋榎「……っ」


漫 『うち……じぶんの……ことしか……かんがえて……なくて……』

漫 『ひろえ……せんぱい……を……いっぱい……きず……つけて……』

漫 『きぬ……ちゃんも……うちは……みごろしに……しました……』


漫 『けど……つぎは……つぎ……こそは……』

漫 『きぬちゃん……を……ぜったい……に……うらぎり……ません……』


洋榎「っ!?」


漫 『きぬちゃん……しっかりもの……やけど……たまに……どじ……するんで……』

漫 『うちが……かならず……いつも……そばに……ついて……います……から……』

漫 『しんぱい……せんで……あたらしい……せかいへ……いって……ください……』


漫 『つよくて……あかるく……て……やさ……しくて……おもろ……くて……』

漫 『ひろえ……せんぱい……は……うちの……あこがれ……でした……』


携帯の録画は、そこで終わっている。


洋榎「……」カタカタカタカタ......


由子「洋榎……あんたは漫ちゃんに〝薄情〟って言ったわよね……?」

由子「これを見ても、まだ同じ事が言えるのかしら!」


由子は涙を流しながら強い口調で洋榎に迫った。

由子「私ならっ! 自分を生贄に選んだ人間に〝ごめんなさい〟なんて言えない!」

由子「私ならっ! 憎悪に満ちた怨み言を、延々と吐き続けていたでしょうよ!」


由子「でも漫ちゃんは、憎み怨む所か、傷付いた洋榎の事を気遣って……っ!」

由子「自分が辛く苦しい時にも拘らず、あんたの心配をしているのよ!」


自分が助かる為ならば、親友をも生贄に差し出す人の業。
築き上げた友情など儚く崩れ去り、利己主義が横行する。

非情な現実を目の前に突き付けられ、人間不信に陥った洋榎。
友人達の言葉すら、体の良い偽善としか受け入れられなかった。


だが、漫は違う。


死が目前に迫る苛酷な状況の中で、体裁を取り繕う意味などある訳が無い。
だからこそ、漫の言葉は紛れも無く真実であり、純粋な彼女の想いなのだ。


洋榎「なんで……なんでや……漫……」

洋榎「お前を……殺したんは……うちやのに……」


由子「洋榎だって、もう気付いているんでしょう……?」


洋榎「あぁぁ……」カタカタカタ......


由子「それはね……」


洋榎「やめて……聞きとうない……」カタカタカタ......


耳を手で塞ぎ、よろめきながら後退る洋榎。


由子「漫ちゃんは、最後まで洋榎の事を大切な〝仲間〟だと思っていたからよ!」


洋榎「ああぁぁぁああああぁぁぁぁぁっっっっっッッッッッ!!!!」

いくのん(……なんやこの茶番)

いくのん(と、思ったらもう一波乱キター!)

洋榎「すまん……すまん漫……赦してくれ……赦してくれや……」


洋榎「 あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ っ っ ッ ッ ッ ! ! 」


洋榎はその場に倒れ込み、全身を震わせながら泣き叫び続ける。


恭子「洋榎っ!」


恭子は洋榎に駆け寄り、震えるその体を起こして強く抱き締めた。


洋榎「恭子ぉ……うちは……漫を……漫を殺してもうた……」

洋榎「うちが殺したんや……うちが漫を……っ!」


恭子「違う! 洋榎だけの責任やない! うちも同罪や!」

恭子「いや、洋榎に生贄を選ばせた分、うちの方が罪深い……うちの方が……っ!」


恭子「ごめんな洋榎……辛い事を……全部あんたに押し付けて……ごめんな……」


洋榎「うぅ……恭子ぉ……恭子ぉぉぉっっっ!!」


2人は涙を流し、互いに固く抱き締め合う。


その時、漫の亡骸から、青白い輝きを帯びた光の粒子が溢れ出した。


由子「なにっ!? 何なのこの光は……っ!?」


郁乃「ほぅ……まだ漫ちゃんの肉体に〝魂〟が残ってたんやねぇ……」ニタァ......


由子「ひぃっ!?」


いつの間にか、由子のすぐ真後ろに、不気味な笑みを浮かべた郁乃が立っていた。

由子「これが……漫ちゃんの……魂……?」


郁乃「せやで~」

郁乃「多少の差はあれど、普通死んで少し経つと肉体から抜け出てまうんやけどな」


郁乃「しっかし、数日もの間、魂が肉体に留まっていたとは……たまげたわぁ……」

郁乃「それ程までに、漫ちゃんの〝生〟への執着が強かったって事やろか……?」


漫の魂は美しく煌き、鉄箱の上を漂っている。


郁乃「漫ちゃんの魂……思ったより美味そうやなぁ……」


由子「えっ……?」


郁乃「 い た だ き ま す 」ゴゴゴゴゴッ......


そう言うと、郁乃は大きく口を開き、青白い光の粒子を勢い良く吸い込み始めた。
洋榎、恭子、由子の3人は言葉を失い、愕然とした表情でその光景を眺めている。


ズズズズズゥゥゥゥ…………


郁乃「っ!?」


郁乃(むぅっ!? 何やこの魂はっ!? 想像以上のエネルギーやないか!)

郁乃(ただのクズやと思っとったが、コイツ、能力者か!? しっかも極上の!)


郁乃(上重漫……洋榎ちゃんに匹敵する程の、強大な器の持ち主やったとは!)

郁乃(いやいや、潜在的な力は、洋榎ちゃんの上を行ってるかもしれんでぇ……)


郁乃「旨しっ! 旨し旨しっ! こないな特上級の魂にありつけるとはっ!」



郁乃「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……」



郁乃「漲って来たで~!」ゴオォォォォッ......

由子「漫ちゃんの魂を……食べた……!?」

恭子「そっ……そないな事が……」

洋榎「あ……あぁぁ……漫……」


郁乃「イーッヒッヒッヒッヒッヒィーーーッッッ!!!!」


黒服(噂には聞いた事がある……。人の魂を喰らい力を得る鬼の話を……)


〝魂喰らい〟(たまぐらい)


黒服(ただの人間だとは思っていませんでしたが……)

黒服(まさか赤阪様が、世に災厄を撒き散らす悪鬼の類いだったとは……っ!)


黒服(しかし、彼女が何者であろうと、我々には関係の無い事……)

黒服(その餌食となった上重様を含め、姫松高校の皆様には同情しますがね……)


黒服「さて……」

黒服「我々は、ここですべき役割を全て終えました」

黒服「また別の高校に行かねばなりませんので、これで失礼させて頂きます」


郁乃「あー、はいはい、おっつかっれさ~んノ」フリフリ


黒服達は皆に一礼した後、黒い倉庫の中へ戻ってゆく。

黒服達全員がその中に入ると、倉庫は音も立てず静かに宙へと浮き上がって、
斜めに高速回転しながら、徐々に小さくなり、空間に溶け込む様にして消えた。

郁乃「さぁて……。それじゃあ、私達も行こか!」


郁乃「ゲェェェェトォォォォ! オォォォォーーープゥゥゥーーンッッッ!!!!」


郁乃が右手を天空に翳し、叫び声を上げると、
屋上の遥か上空に、厚い光の雲が広がり始めた。

それと同時に、4人の身体が重力から解き放たれ、
ふわふわと浮き上がり、光の雲に向かって上昇を始めた。


恭子「な、なんやこれ!?」フワフワ

洋榎「体が……浮いとる……」フワフワ


抱き合いながら宙に浮かぶ洋榎と恭子。


由子「あっ! 漫ちゃんっ!」フワフワ


由子は咄嗟に漫の腕を掴み上げ、優しく抱き抱えた。


洋榎「っ!?」


郁乃「ちょっと~、真瀬ちゃ~ん! その汚いゴミ、ポイッとその辺に捨てとき~」

由子「ふざけないでよ!」

郁乃「そんな屍肉、新世界へ持ってった所で、何の意味も無いで~?」

由子「だからって!」

由子「こんな世界に漫ちゃんを置いては行けない……っ!」


洋榎「っ!!」


郁乃「それは魂を失った抜け殻で、漫ちゃんやない。ただの骨と皮や」

由子「うるさい!」


郁乃「……まっ、勝手にし~や~」フワフワ

洋榎「まっ……待って……絹も……絹も連れてかんと……」


郁乃「いやいやいや、絹恵ちゃんは流石に無理やろ」

郁乃「っちゅうか、一度浮かび上がったら、下に行く事は出来んし」

郁乃「そもそも、絹恵ちゃんは屍鬼共に喰らい尽くされとるやん」


洋榎「で、でも……」

郁乃「絹恵ちゃんは~! 既に亡者達の 〝 腹 の 中 〟 な~の!」


洋榎「そ、そんな……」


洋榎「いやや……こんな所に……絹を1人置いてくなんて……」

洋榎「残る……うちもここに残る……っ!」

恭子「洋榎っ! 落ち着き!」

洋榎「放してっ! 放してや恭子!」


暴れ出す洋榎を、恭子が必死に抱き付いて押さえる。


郁乃「これこれ洋榎ちゃん、無茶ゆうたらあかんて……」

郁乃「それに、絹恵ちゃんは1人やない。善野ちゃんが居るやんけ……」


郁乃「2人はきっと仲良うやっとる筈や……」


郁乃「 化 け 物 共 の 胃 袋 の 中 で な ぁ ! 」


郁乃「 は は は は は は っ っ っ っ ! ! ! 」


洋榎「いややぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」


10mほど浮き上がった所で、屋上の扉が破壊され、屍鬼達が雪崩れ込んできた。
唸り声を上げ、ダラダラと口から涎を垂らしながら、空中の4人を凝視している。


郁乃「うわわ、あっぶな~! もうチョイ遅かったら、奴等の餌食になってたわ~」

郁乃「おし~りぺんぺん! あっかんべろべろべろべろべ~」レロレロレロ


屍鬼「オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ ッ ッ …………」

一定の速度で上昇を続ける4人。

かなりの高度にまで達し、見下ろす校舎は小さくなり、
貪欲に〝肉〟を求める屍鬼達の声も届かなくなっていた。


洋榎「あぁぁ……きぬ……きぬぅ……」


洋榎は手足をだらんとさせ、虚ろに囁く様な声で絹恵の名を呼び続ける。


郁乃「ふっふっふぅぅ~♪ 新世界、楽しみやなァ~!」

郁乃「みんな~、これからは代行やのうて、監督って呼ぶんやで~?」


恭子「……」

由子「……」


郁乃「ん?w んん?ww どしたん?www」


恭子「代行……あんたは……あんただけは……絶対に赦さん……っ!」


洋榎を両手で固く抱き締めながら、恭子は郁乃を睨み付けた。


郁乃「はははっ! む~りむ~り! ここでの記憶は残らんゆうたろォ!?」

郁乃「新しい世界で、また一緒に面白可笑しくやろうや、なっ?」


由子「誰が……あんたなんかと……っ!」


郁乃「キキキ……カカカ……クックックッ……」

郁乃「イーッヒッヒッヒッヒッヒィィィィーーーーッ!」


恭子(代行に対するこの怒り、この憎しみ……。うちは絶対に忘れん……)

恭子(今日起こった忌まわしい記憶を……魂に刻み付けて……っ!)


洋榎「ぁぁ……ぁぁぁ……キヌ……」


暫くして、4人は光り輝く雲の中へと、吸い込まれる様に消えていった。

洋榎「うぅっ……」


気が付くと、洋榎は光の中に浮かび彷徨っていた。


洋榎「恭子……? 由子……? 何処行ったんや……?」


濃い靄に視界は阻まれ、周囲を見渡しても何も見えない。
相変わらず身体は無重力状態にあり、自分の意思で移動する事は無理そうだ。


洋榎「誰も……おらんのか……」


全身から力が抜け、茫然と宙を漂う洋榎。
目を閉じて身体を横にし、物思いに耽る。


洋榎(結局うちは、絹に何もしてやれんかった……)

洋榎(由子が漫にした様に、せめて肉体だけでも、あの世界から救い出せれば……)


洋榎(ごめんな絹……助けてやれんで……情けないお姉ちゃんを赦してや……)


洋榎(あぁ……)


洋榎(もう……どうしようも……ない……)

洋榎(受け入れるしかない……絹のいない世界を……)


洋榎(全てを……忘れて……)


洋榎「……」


洋榎(ざッけンな! 出来る訳無いやろ、そんなんっ!)

洋榎(絹との思い出を、そんな風に軽々しく捨てられるかっ!)


洋榎(例え新世界が絹の存在を否定しても……)

洋榎(例え誰も絹の事を覚えていなくとも……)


洋榎(うちは……うちだけは……絹の事を絶対に忘れたりせぇへん……っ!)


瞳を閉じているにも拘らず、眼前に白い光が広がってゆく。
薄れゆく意識の中で、洋榎は何度も絹恵の姿を思い描いていた。


洋榎(何があろうとも……絹は……絹はうちの妹やから……っ!)






洋榎「ハッ……!」


気が付くと、洋榎は姫松高校の屋上に立っていた。


オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ ッ ッ …………


洋榎「なっ!?」


周囲から聞こえてくる亡者達の呻き声。


洋榎(うちは……恭子達と一緒に……光の雲に吸い込まれて……)


洋榎(何がどうなってるんや……!?)


自らの置かれている状況が理解できず、洋榎は周囲を確認した。

モニター画面には全員の顔写真が映っており、皆〝0P〟と表示されている。
その横には郁乃が立っていて、厭らしい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


洋榎(これは……異世界人による生贄選定の前……?)


まるで時計の針を巻き戻したかの様に、
過ぎ去りし過去の光景が洋榎の目の前に広がっていた。

洋榎の近くには恭子がいて、不安気な様子でモニターをじっと見詰めている。
2人から少し離れた場所で由子と漫、そして絹恵が同様にモニターを眺めていた。


洋榎(思い出した……絹恵……うちの妹……)

洋榎(あぁ……絹が……生きて……うちの前に……)


その視界にまだ生存している絹恵の姿を捉え、洋榎の瞳からは涙が溢れ出した。


洋榎(あれは……全部……夢……? そうや……そうに決まっとる……!)

洋榎(絹が死ぬ結末なんて……最初から無かったんや……!)


洋榎はブラウスの袖で涙を拭き取り、慈しみに満ちた眼差しを絹恵に向ける。


洋榎「きぬ……」スッ......



グニョリ……



洋榎「っ!?」


絹恵の方へ歩み寄ろうと一歩踏み出したその時、足の裏に伝わる不快な感触。
足を上げてみると、地面にある潰れたガムが洋榎の靴底まで糸を引いていた。



洋榎「…………」ゴゴゴゴゴ......

郁乃「さぁさぁ! 地獄のカーニバル開幕やで~!」


洋榎「……っ!」


恭子「なんで……なんでこんな事に……」

由子「そもそも異世界人って何なのよ……!?」


郁乃「…………」


郁乃「……ふと誰かの視線や、何者かの気配を感じる事があるやろ?」

郁乃「それらは気の所為なんかやない……。全て異世界の者達の仕業なんや……」



洋榎(なんやこれ……デジャビュ……か……?)



郁乃「彼等はいつでもすぐ傍に居る……」

郁乃「一挙手一投足に至るまで見逃さず、常に私等の行動を監視しとる……」

郁乃「今、この瞬間でさえも……」


両腕を大きく広げ、辺りを見回しながら、郁乃は意味深な言葉を口にする。
湿気を多量に含んだ生暖かい風が、洋榎達の肢体を舐める様に吹き抜けた。


洋榎(……っ!?)ゾクッ


洋榎(悪意に満ちた風……この嫌な感触……確かに覚えがある……)


吹き抜ける風を追い掛ける様にして視線を上空へ向ける洋榎。
どす黒い雲が幾重にも渦巻きながら空一面を覆い尽くしている。


欲望、憎悪、狂気……


それらが無秩序に入り交じり、具現化して膨張を続けているかの様な錯覚に陥る。
洋榎は一瞬、その深い闇の中へと体が吸い込まれてしまいそうな感覚に襲われた。

郁乃「……始まった様やな」


モニターを見詰め、郁乃がそう呟いた。
各人のPが、ゆっくりと上昇を始める。

同時に、Pの右横から、どす黒い血の様な色をしたバーが伸びてゆく。
最初の発表順決めの時とは異なり、5人のPの増え方に明確な差は無い。


繰り広げられる既視感に溢れたやり取り。
込み上げる不安と恐怖が全身を竦ませる。


洋榎(偶然か……? いや……有り得へん……けど……まさか……)

洋榎(細かい部分の記憶は曖昧やし……確証なんて無い……無いんやけど……)


洋榎「…………」


洋榎(落ち着け……冷静になるんや……)


両手で自分の身体を抱き締め、震えを抑え込もうとする洋榎。


洋榎(もしあれが夢でなく、〝実在した未来〟やったとしたら……?)

洋榎(或いは、事の顛末をうちが〝予知〟したんやとしたら……)


洋榎(この生贄を選ぶ投票で最もPを獲得するのは……絹……!)


洋榎は目を瞑り、ゆっくりと大きく息を吸い込んだ。


洋榎(異世界人達による生贄選出投票……ここで真偽を見極める……)

洋榎(あの残酷な終局が現実に起こり得るか否かを……)


洋榎(そして万が一……絹に最も多くのポイントが与えられていたその時は……っ!)


5人が息を呑んで見守る中、突然モニター画面にノイズが走り、映像が激しく乱れる。
ディスプレイに背を向けていた郁乃は、その異変に気付く事無く声高らかに宣告した。



郁乃「これが生贄選出の最終結果やで~」



郁乃がモニターの方へ振り返った時には既に画面の乱れも治まっており、
何事も無かったかの様に、穏やかで不気味な映像が映し出されていた。


郁乃「じゃじゃじゃじゃ~~………………ん?」



洋榎「っ!!」

======================================
【異世界の者達による殺したい人ランキング】
赤阪 郁乃 60P------------------------------------------------------------
愛宕 絹恵 43P-------------------------------------------
真瀬 由子 40P----------------------------------------
上重 漫   39P---------------------------------------
末原 恭子 39P---------------------------------------
愛宕 洋榎 37P-------------------------------------
======================================


恭子「……はっ?」

由子「えっ……?」

漫 「あっ!」

絹恵「これって……?」


郁乃「ん……? んんっ!?」


それまで表示されていなかった郁乃の顔写真が、
集計後に前触れも無く唐突に付け加えられていた。


洋榎(…………)


恭子「代行が……60Pで……1位……?」

由子「という事は……」

漫 「1人目の生贄は代行に決定ですか……!?」


恭子、由子、漫、絹恵、4人の視線が郁乃の方に集中する。
洋榎も横目で鋭く睨む様に郁乃の出方を注意深く窺っていた。


郁乃「はぁぁぁぁぁっ!? 何ゆうてんねんっ! んなワケあるかい!」

漫 「せ、せやけど! 異世界人が生贄を決めるって自分でゆうたじゃないですか!」


郁乃「 あ゛っ !? 」


漫 「人生は理不尽なんやし、どんな結果も潔く受け入れてくれるんですよね!?」

郁乃「生贄になるんはお前らの中の2人ゆうてるやろがっ! このど阿呆ぅっ!」

漫 「ひぃっ!」


怒りの形相で睨み付けられ、漫はその場に縮こまってしまった。


郁乃「間抜けなツラしてズケズケと……ええ加減にせぇよお前っ!」


いつも笑顔で温厚だった郁乃の怒声を聞いたのは、洋榎以外この時が初めてだった。
急変した郁乃の態度によって場の空気が一気に張り詰め、5人の背中に緊張が走る。


郁乃「おい、黒服っ! さっさと出て来いやぁっ!」

郁乃が叫んだ直後、黒い箱の扉が内側から開き、
その中からサングラスを掛けた屈強な男が現れた。


黒服「……失礼します」


黒い服の男は洋榎達に一礼した後、郁乃の元に向かって歩き出す。


由子「怪しい人物が現れたのよ……」

恭子「あの箱の中にまだ人が居ったんか……!?」

絹恵「な、何やの……あの人……」

漫 「ひ、ひぃぃぃぃ……っ!」


洋榎(あいつ……1人か……?)


近寄ってきた黒服に対し、郁乃は怒鳴り声を浴びせた。


郁乃「これは一体どうゆう事や!? なんで私が生贄候補に入ってんねん!」


黒服「申し訳ありません、赤阪様……」

黒服「異世界の方々には、事前に投票のルールをきちんと説明したのですが……」

黒服「故意か否かは不明ですが、数名の方々が貴女へPを入れてしまった様です」


郁乃「なんやシステムの不具合か何かかと思うてたら……」

郁乃「異世界人の中に、日本語も碌に読めん〝クズ〟が混じっていたとはなっ!」


黒服「姫松高校レギュラー部員以外への投票は、明確なルール違反です」

黒服「ですから、赤阪様に与えられた60Pは全て無効となります……」


黒服がそう言うと、モニターの画面から郁乃の写真とPが削除された。


黒服「本来であれば、不適切な投票は自動で集計から除外される筈なのですが……」

黒服「何故か今回はその機能が正常に動作しておらず……」


郁乃「ふんふむ……って、結局システムの不具合が最終的な原因かい!」

郁乃「しっかりせぇや、ホンマに……」

黒服「誠に申し訳ございません……」


恭子(代行への投票は無効やったか……まぁ当然やろな……)

恭子(となれば……1人目の生贄はどうなる……?)

恭子(普通に考えれば、うちらの中で一番Pの多い絹恵ちゃんやけど……)

恭子(どないするんや……洋榎……っ!)チラッ



洋榎(…………)ゴゴゴゴゴッ……

由子「ねぇ……この投票結果は有効なの……? 私達に与えられたPは……」


黒服「イエス」


黒服「無効となるのは規定に反した赤阪様への投票のみであり、
    それ以外の投票結果につきましては、全て有効となります」

黒服「よって、最多Pを獲得した愛宕絹恵様が1人目の生贄に確定致しました」


絹恵「そ……そんな……」カタカタカタ......


郁乃「イヒッ……イヒヒヒヒッ……イーッヒッヒッヒッヒッヒィィィィッッッ!!」


漫 (うちは助かったんか……? でも……絹ちゃんが……っ!)

由子(絹恵ちゃんが……最初の生贄になる……!?)

恭子(この2人……本気で絹恵ちゃんを[ピーーー]気なんか!?)


黒服の言葉に恭子達が戸惑う中、洋榎の意識は全く別の事に向いていた。


洋榎(…………違う)


洋榎(ここは違う……うちが見てきた未来とは異なる世界……)

洋榎(けど繋がっとる……1本の幹から分岐した枝の様に……)


洋榎(感じる……広がりゆく数多の世界……その結び付きと天命の流れが……!)


瞳を閉じた洋榎の脳内に、樹形図のイメージが展開する。


洋榎(この世界は今、大きな運命の流れに飲み込まれようとしとる……)

洋榎(その流れの中心にあるんは、異世界人によって確定させられた〝絹の死〟……)

洋榎(大きな幹から枝分かれし、未知の可能性を秘めた小さな世界達が、
    再び死の運命に収束するかの様に引き寄せられているんや……!)


理屈ではない、直感がそれを確信させる。


洋榎(うちが為すべきは、その流れを根底から断ち切る事……っ!)

洋榎(その為には、絹が最多Pを獲得した異世界人達の投票結果を何とかせんと……)

洋榎(でも、どうすればええんや……? 力業が通用せん事は明白やし……)


洋榎(考えろ……考えるんや……。この最悪な状況を打破する方法を……っ!)

郁乃「なぁなぁ洋榎ちゃ~ん、妹が生贄に選ばれて今どんな気持ちィ~?」ニタァ......


鋭い眼光で郁乃を一瞥するも、洋榎は平静さを失わずに挑発を受け流す。
が、洋榎の思考も完全に行き詰まっており、徐々に焦燥感が生まれつつあった。


洋榎(駄目や……なんも思い浮かばん……)

洋榎(投票結果を撤回させる……そんな都合の良い話……ある訳無いやろ……!)


唇を強く噛み、拳をギュッと握り締める洋榎。


洋榎(同じやないか……絹の死に様をただ呆然と眺めていたあの時と……っ!)

洋榎(あの悪夢を……痛ましい惨禍を……また繰り返すんか……!?)


洋榎「…………」

洋榎(繰り返す……?)


ふと、洋榎の脳裏をよぎる一抹の違和感。


洋榎(待て……ここはうちの見た〝未来〟とは似て非なる世界なんやぞ……?)

洋榎(まだこの体は拘束されとらんし、今のところ行動に制限も無い……)

洋榎(擬似的な未来視とはいえ、代行や黒服の動きもある程度は予測可能……)


洋榎(前向きに考えれば、事態を好転させる要素が無い訳やない……っ!)


洋榎(現時点で同じ不幸な結末が訪れると決め付けるんは早計やないか……?)

洋榎(大体、なんもせん内から悲観し諦めてどないする……!)


洋榎(思い出せ……今、この場に自分がいる意味を……っ!)


〝絹恵をこの地獄から救い出す〟


我が身を犠牲にしてでも成し遂げねばならぬ大儀。
揺るぎ無い決意と共に、洋榎は自身の目的を再認識する。


洋榎(この命尽きるまで……何があっても諦めへん……)


洋榎(絹は絶対に守り抜く……)


洋榎(うちは……)


洋榎(うちは絹の〝お姉ちゃん〟なんやから……っ!)

洋榎は自らが感じている違和感の正体について思考を巡らせていた。


洋榎(代行に与えられた幻の60P……)

洋榎(まだ1人しか現れていない黒服……)


洋榎(あの世界とは異なるこの2つの事象に何らかの意味があるとしたら……?)


ドン ドン ドン ドン ドン …………


校舎へと繋がる扉を激しく打ち鳴らす音が屋上に響き渡る。


絹恵「ひぃっ!」

由子「……何……何やの……この音……?」

恭子「まさか……もう……ここまで上がって……きた……っ!?」

漫  「あいつ等や……。あいつ等が扉の内側に居るんや……っ!」


郁乃(ちぃ……。新鮮な〝肉〟の匂いを、もう嗅ぎ付けて来よったか……)

郁乃(これから面白くなるっちゅう所やのに……糞共が……ッ!)


洋榎(来たか……血に飢えた亡者達……)

洋榎(けど少し早い……。やっぱり2つの世界には、まだ〝ずれ〟があるんや……!)


世界線の〝ずれ〟によって引き起こされる事象の僅かな変化。
原理の詳細など分からずとも、洋榎は感覚的にその本質を理解していた。


洋榎(うちには分かる……)

洋榎(重なり合おうとする2つ世界……その間に生じる小さな歪みと綻び……)

洋榎(完全に同化してまう前の今なら……そこに付け入る隙があるはず……)

洋榎(そこを足掛かりにして、閉塞したこの世界から抜け出す活路を切り開く……!)


洋榎(絹が生き延びる事の出来る可能性を持つ、新しい未来を目指して……っ!)

郁乃「う~ん……。あいつらは四六時中お腹ペッコリンやからなぁ……」

郁乃「はよせんと、その扉をぶち破って雪崩れ込んで来るかもしれんでぇ……?」


由子「化け物共が……ここに押し寄せて来る……ですって……?」

漫  「あわわわわ……」

恭子(退路を塞がれた……。万事休す……か……っ!)


郁乃「っちゅう訳で絹恵ちゃん、覚悟はええか?」ニコニコ


絹恵「っ!?」ビクッ


郁乃「言った筈やでぇ……?」

郁乃「2人の生贄を捧げるまでは、誰もこの地獄から抜け出せんてなぁ……」


洋榎(…………)


郁乃「それとな、2人目の生贄は、1人目を処刑した後やないと決められんのや」

郁乃「もたもたしとると、私らまで屍鬼共の餌食になってまうしぃ?」

郁乃「皆の為にも、ちゃっちゃと往生してくれや~」

郁乃「イヒッ……イヒヒッ……!」


絹恵「うぅ……」ポロポロ......


郁乃「それじゃ早速、絹恵ちゃんを処刑する準備でも始めよか」


洋榎「ちょい待ちぃや……」


郁乃「ぬっ?」


それまでの沈黙を破り、洋榎が処刑の進行に待ったを掛ける。


郁乃「今までやけに静かやったなぁ、洋榎ちゃん……」

郁乃「で、なんや突然……」


郁乃は口元に薄笑いを浮かべながら、おちょくった態度で洋榎を見た。


洋榎「…………」


俯き加減に右手で顔を覆っている洋榎。
指の隙間からは、突き刺す様な視線が郁乃に向けられている。


洋榎「絹を生贄と決め付けるんは、まだ早いんとちゃうか……?」


絹恵「お……お姉……ちゃん……?」グスッ


郁乃「…………」


郁乃「……はっ?」

郁乃「どーゆう意味やそれ……」

洋榎「…………」

郁乃「まさか洋榎ちゃんまで私が生贄やなんてアホな事言い出す気ちゃうやろな?」


洋榎「いや……そないな事ゆうつもりは毛頭あらへんよ……」

洋榎「そんな甘っちょろい主張が通らん事なぞ、端から承知しとるからな……」


郁乃「ほぅ……?」


洋榎「事の事情に精通しとるあんたは、言わばジョーカー的存在……」

洋榎「うちらとは置かれとる立場が根本的に違う……」

洋榎「そんなあんたが、ここで生贄なんぞになる筈がない……!」


郁乃「クククッ……よう分かっとるやないか……」

郁乃「せやけど、それを否定したら1人目の生贄は絹恵ちゃんで決まりやろ」

郁乃「私を除けば、絹恵ちゃんがPトップなんは歴然たる事実なんやからなァ!」


モニター画面を指差しながら、郁乃は嬉々としてそう言い放った。
洋榎は暫く黙り込んだ後、誰もが想像し得なかった意外な言葉を口にする。


洋榎「……確認させろ」


郁乃「…………なに?」


洋榎「その異世界人達の投票結果が本当に正しいかどうか……」


洋榎「この目で確認させて貰う……っ!」

郁乃「ちょっと洋榎ちゃん、なに呑気な事ゆうてんの?」

郁乃「この切迫した危機的状況からして、そんなん無理に決まっとるやろ」

郁乃「悠長に投票の確認をする暇なんぞ、私らには無いんやで!」


早く生贄の処刑を執行しなければ、屍鬼共に全員飲み込まれてしまう。
そう言って不安を煽り、急かす様にして処刑の準備を進めたがる郁乃。


洋榎「…………」


洋榎「黒服。」


黒服「……何でしょう?」


洋榎「お前さっき、〝数名〟が代行にPを入れたと言ったな……?」


黒服「イエス。それが何か?」


洋榎「具体的には、何人が代行にPを入れたんや?」


黒服「…………」

黒服「赤阪様にPを入れた異世界人は〝2名〟でございます……」


漫  「えっ……? たったの……2人……?」

由子「数名って言うから、それなりに少ないとは思っていたけれど……」

漫  「でも、それが何だって言うんです……?」


恭子「そうか……そういう事か……」


漫  「末原先輩……?」

恭子「最初に見せられた投票結果には、大きな矛盾がある……っ!」

漫  「へ……?」


洋榎「代行にPを入れたのは2人だけ……」

洋榎「にも拘らず、代行には大量のPが与えられとる……」

洋榎「これって、ちょっとおかしいんちゃう?」


郁乃(確かに……言われてみれば妙やなぁ……)


洋榎「この投票は、1人で30Pも入れる事が出来るんか?」


黒服「ノー」

黒服「規定では、投票者が1人の生贄候補に対して与えられるPは最大で3Pです」


洋榎「つまり、代行にはルールを無視したPが与えられていた……」


黒服「……そう言う事になりますね」


洋榎「もし、それが代行だけやなく……」


洋榎「絹にも規定に違反した〝不当なP〟が与えられていたとしたら……?」

郁乃「ちょ、ちょいタンマ! 流石にそれは無いんちゃう?」アセアセ


洋榎「…………」


洋榎「〝不適切な投票〟が自動で除外されるシステムは機能していなかったんやろ?」

洋榎「実際、規定に違反した投票も有効扱いされとったしなぁ……?」

洋榎「それやのに、どうして〝他に不適切な投票は無い〟って言い切れるんや?」


郁乃「ぐぬぬ……っ!」


郁乃「く、黒服っ!」

郁乃「私に関する投票以外については、何の問題も無かったんやろ!?」


黒服「…………」

黒服「……さぁ?」


郁乃「なっ……!」


黒服「調査したのは、赤阪様が関係している2件の投票〝だけ〟です」


〝キーワード抽出調査〟


今回、黒服は特定の文字列のみに反応するこの方法を用いて、
投票全体の中から郁乃に関係している物だけをピンポイントで探し出したらしい。


黒服「ですから〝それ以外に不適切な投票は無かった〟と断言する事は出来ません」

黒服「そもそも、この様な事態が起こる事は想定していませんでしたので……」


郁乃「そ、そんなぁ~……」グニャア~......

郁乃(絹恵ちゃんに対する不適切な投票……そんなんがホンマにあったとしたら……)

郁乃(〝妹の処刑〟っちゅう極上のシチュが無くなってまうかも……)


洋榎「なんや、調べられたら都合の悪い事でもあるんか?」

郁乃「い、いや……そないな事は無いんやけど……」モゴモゴ......


洋榎「黒服、うちが投票内容を見たらあかんルールなんてあるんか?」

黒服「いえ、その様な規則はありませんよ」


洋榎「なら……っ! 今、ここで投票内容の詳細を改めさせて貰う! ええな?」


黒服「……かしこまりました。では、こちらへどうぞ……」

黒服の誘導により、モニター画面の前に立つ洋榎。
映像が切り替わり、異世界人達の投票内容が示された。


>>225 >>226 >>227 >>228 >>229 >>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235

>>237 >>238 >>239 >>240 >>241 >>242 >>243 >>245 >>246 >>247 >>248

>>249 >>250 >>251 >>252 >>253 >>254 >>255 >>256 >>257 >>258 >>259


黒服「今回の生贄選出投票に参加した異世界人は33名ですが……」

黒服「現在、その全ての投票内容がモニターに表示されております」


恭子(総勢33名か……思ったより少ないな……)


黒服「モニターに触れた状態で手を動かせば、画面をスクロールさせる事が出来ます」

黒服「どうぞ、お気の済むまで調べて頂いて結構ですよ」


洋榎「あぁ……。そうさせて貰うで……」

洋榎「けど、その前に……」


洋榎「代行、あんたが持っとるルールブックを渡して貰おうか……」


郁乃「えぇ~!?」


洋榎「投票の規則が分からんと、不適切かどうか判断出来んやろが……」


洋榎「それとも……」


洋榎「うちがルールブックを見る事は 禁 止 さ れ と る ん か ? 」


郁乃「ちっ……しゃあないなぁ……」


郁乃が懐から取り出した黒いノートを、洋榎は勢い良く奪い取った。


洋榎「それと……あんたらは少し離れていてくれんか?」


洋榎「うちはあんたらを信用してないからな……。念の為や……」

洋榎「時間無いんやろ? はよ失せや!」


側にいる郁乃と黒服を睨み付けながら洋榎は言った。


郁乃(ぎぎぎッ……調子に乗りよって……!)


黒服は舌打ちする郁乃を連れ、その場から距離を取る。


〝郁乃『ルールは絶対やからなぁ~』〟 

〝郁乃『ルールは絶対やって……』〟

〝黒服『ルールは絶対です』〟


洋榎(ルールに縛られとるんは、うちらだけやない。あんたらも同じ様やな……)


洋榎(黒服は〝規則に反する行為〟なら実力を以って制限する事が出来る……)

洋榎(せやけど、〝規則に反しない行為〟を止める権限は無い……!)


洋榎(代行も黒服も、うちらと同様に規則の範囲内でしか自由に振る舞えないんや)

洋榎(そういう意味では、ここに居る全員は〝平等な立場〟とも言える……)

洋榎(故に、正当な主張であれば、あいつらもそれを受け入れざるを得ない……っ!)


洋榎(だとすれば……この局面を打開する〝鍵〟はこれしかないやろ……!)


希望への糸口である黒いノートを見詰め、汗の滲む手でそれを握り締める洋榎。


洋榎(代行へのPの件から、異世界人にもこの規則が適用される事は明らか……)

洋榎(どんな些細な事でもええ……。見つけ出して難癖を付けたる……)

洋榎(そこに僅かでも正当性があれば、投票結果を覆す事も可能なはず……っ!)


胸に手を当て深呼吸し、荒ぶる心臓を落ち着ける。


洋榎(まずは投票のルールを〝一言一句〟正確に把握せな……)

絹恵「お姉ちゃん……」フラフラ......


覚束無い足取りで、洋榎の方へと歩き出す絹恵。


絹恵「あっ……」グラッ

漫  「危ないっ!」


足を縺れさせ転び掛けた絹恵を、漫が素早く、そして優しく受け止めた。


漫  「絹ちゃん……大丈夫……?」

絹恵「うぅ……」


絹恵は精神的疲労から、憔悴した様子で漫にもたれ掛かっている。


恭子「漫ちゃん、絹恵ちゃんを洋榎の側まで連れて行ってあげてや」


漫  「末原先輩っ!? わ、分かりました……」

漫  (いつの間にうちらの所へ来たんやろ……?)


漫は絹恵に寄り添い、支えながら洋榎がいるモニター画面の方へと歩いて行った。


恭子「絹恵ちゃんの事は漫ちゃんに任せておけば大丈夫そうやな……」

由子「そうやね……」


恭子「…………」

由子「…………」


由子「ねぇ、恭子……」

恭子「ん?」


由子「……分かっているわよね?」


恭子は目を細め、無言のまま小さく頷いた。

洋榎は脇目も気にせず、真剣な表情で画面を操作している。


漫  (今は話し掛けたらあかん気がする……)


漫  「絹ちゃん、うちらはここで静かに待ってよう……な?」


絹恵「う、うん……」


絹恵も漫の思いを察したのか、洋榎から少し離れた場所で立ち止まった。


漫  (末原先輩と真瀬先輩は何話してるんやろ……?)チラッ


離れていて声は聞こえないが、重苦しい雰囲気が漂っている事は見て取れる。
この時、恭子と由子はこの先の展望について、互いの意見を交換していた。


由子「仮に不正なPが絹恵ちゃんに与えられていたとして……」

由子「それで順位が入れ替わったとしても、犠牲者は減らないって事……」

由子「恭子だって、最初から気付いていたでしょう!?」


恭子「……あぁ。」


由子「1つ助かる命があれば、代わりに別の命が1つ失われる……」

由子「それじゃあ、問題の根本的な解決になっていないわ……っ!」


恭子「せやね……」


由子「こんな事……本当は言いたくないけれど……」


冗談でも言ってはならない言葉……。
友情すら崩壊し兼ねない危険牌……。


口に出す事を最後まで躊躇いながらも、
由子は意を決し、遂にその言葉を吐き出した。


由子「洋榎は絹恵ちゃんを助ける為に、私達を殺す気なんじゃ……」


恭子「…………」


目を閉じて深く息を吸った後、恭子は強くハッキリとした口調で言った。


恭子「いや、それは無い。」

恭子「例え妹の絹恵ちゃんを助ける為であったとしても……」

恭子「うちらを犠牲にしようとする事なんて、絶対に有り得へんよ」


由子「どうして? どうしてそこまで言い切れるの!?」


恭子「…………」


恭子「お調子者で悪ふざけもするし、一見して不真面目に見られがちやけど……」

恭子「強い責任感と正義感、それらを貫く確固たる〝信念〟が洋榎にはある……」

恭子「そんなあいつが、仲間の命を天秤に掛ける様な真似をするとは思えん……!」


由子「…………」


恭子「あいつはどんな逆境に陥ろうと、納得のいかん事には絶対に従わない」

恭子「そういう芯の通った性格である事は、由子もよう知っとるやろ?」


由子「…………っ」


恭子の言い分に説得力を感じるも、簡単に頷く事は出来無かった。
自身の命が懸かっている故に、安易な判断を下す訳にはいかない。


洋榎を信じるべきか否か、由子の表情から葛藤している様子が読み取れる。


恭子「洋榎は今でも5人全員が助かる方法を模索しとる筈や」

恭子「それが如何に無謀極まり無い挑戦であったとしても……」

恭子「他の選択肢を選ぶ事は無いと、うちは心からそう信じとる……っ!」


確信を持ってそう断言する恭子に、由子の心は更に激しく揺れ動かされた。

由子(洋榎は恭子から絶対的な信用と信頼を受けているのね……)

由子(確かに、洋榎には人を惹き付ける魅力があるわ……)


由子(私と違って外面など気にせず、誰に対しても自然体で接して……)

由子(陽気で、温かくて、人懐っこくて、大胆で、行動力があって……)

由子(周りの皆を笑顔にさせる……まるで太陽の輝きを纏った様な人……)

由子(そんな洋榎は、いつも多くの友人達に囲まれていた……)


由子(私だって信じたい……洋榎は……私達を犠牲になんかしないって……)

由子(でも……心の奥底に残る微かな疑念を、どうしても拭い切れないの……っ!)



由子「……もし、恭子の言う事が正しいとして……」

由子「今、洋榎がしている行為はどう説明するのよ……?」


恭子「…………」


由子「正直私には、洋榎が絹恵ちゃんだけを助け様としている風にしか見えないわ!」

由子「それとも、あの投票結果が変われば、私達全員が救われるとでも言うの!?」


恭子「…………」


恭子「由子の言う通り、投票結果が変わっても犠牲者は減らない……」

恭子「最終的には〝誰が死ぬか〟の部分だけが変わるだけやろな……」


由子「だとしたらっ!」


由子「〝全員を救う〟という目的に於いて、洋榎の行為は何の意味も為さない!」

由子「精々、処刑までの〝時間稼ぎ〟にしかならないじゃない……っ!」


恭子「……せやな」


恭子「けど、うちは〝時間稼ぎ〟程度で十分やと思っとるよ……」


由子「…………?」

あれだな
>>1が何度か「赤阪」を「赤坂」と書き込んでる
ひとまず「赤阪代行」を処刑してもう一人の生贄を「赤坂代行」にする
誰かが言ってたけど「ルールを書き換えてはいけない」とルールにはないから
そこを書き換えておもちさんズを助けて終了
貴重なおもち要素を助けた上に代行の死に行く様を2度見れて俺得

【安価:生贄選択】
10P→赤坂
20P→郁乃
30P→代行

だから俺はあえてこっちの名前で書き込んどくぜ……

由子「それ……どういう意味なのかしら……?」


恭子「何だかんだ言って、うちらは洋榎に頼り過ぎなんや……」

恭子「いざという時は、きっとあいつが何とかしてくれる……」

恭子「麻雀でもそれ以外の事でも、最後はあいつに任せておけばええって……」


恭子「そんな洋榎任せな気持ちが、由子の心の中にもあるんちゃう?」


由子「…………」

由子「全く無い……と言えば嘘になるわね……」


恭子「今までは、それで何とかなってきた……」

恭子「せやけど、今回ばかりはそうも行かんやろ……」

恭子「洋榎1人の力では、この状況から脱する事は難しい……」


恭子「……そう思わんか?」


由子「恭子の言いたい事は察しが付くわ……」

由子「でも……だからって……今の私達に何が出来るって言うのよ!?」


恭子「…………」


恭子「〝出来る〟〝出来ない〟やない……」

恭子「〝やる〟か〝やらない〟かなんや……っ!」


由子「……っ」


恭子「洋榎が機転を利かせて作り出したこの貴重な時間……」

恭子「それを有効活用し、頭使って策を練るんは、
   〝姫松の頭脳〟と呼ばれたうちらの仕事やろ!」


由子「……っ!」


恭子「〝何も出来ん〟と決め付けるんは、ただの〝思考停止〟やないか?」

恭子「頭で勝負するうちらが、思考を放棄してどないするんや……っ!」

恭子「洋榎は考えるより直感で行動するタイプやからな……」

恭子「今回も後先考えず、勘を頼りに突っ走ったんやと思う」

恭子「絹恵ちゃんの事もあるし、少し冷静さを欠いていたかもしれん……」


恭子「けど、その直感と行動力は、うちらには無い洋榎の〝武器〟や……」

恭子「そして、客観的に物事を分析し、論理的に考えるんがうちらの強み……」

恭子「洋榎とうちらが力を合わせれば、どんな困難でも乗り越えられる……っ!」


恭子「違うか!?」


由子「…………」


由子(そう……私達は今までそうやって様々な苦難を共に乗り越えてきた……)

由子(それは、今回の様に命を張った事柄ではないけれど……)

由子(私達はいつでも3人で協力して難題に立ち向かってきたのよね……)


恭子「なぁ、由子……」

恭子「今、一番辛く苦しい思いをしとるんは、妹の処刑を宣告された洋榎や」

恭子「勿論、生贄とされた絹恵ちゃんも、死への恐怖に怯えとるやろうけどな……」


由子「……っ!!」


由子(そうよ……絹恵ちゃん……)

由子(こんな状況下で生贄やなんて言われて……)

由子(私なんかより、ずっと恐ろしい思いをしているに違いない……)


恭子「麻雀部の仲間として……洋榎の親友として……絹恵ちゃんの先輩として……」

恭子「うちらが今為すべきは、あの2人を支え助ける事やないか……?」


恭子「それは即ち、絹恵ちゃんを含め全員で生き残る方法を探し出す事やろ!?」


由子「…………」


由子「……えぇ、そうね。恭子の言う通りよ……」


由子「そして……ごめんなさい……」

由子「私は……自分の事しか考えていなかったわ……」


由子「目の前で善野監督が殺されて……気味の悪い食人鬼まで現れて……」

由子「怖かったの……私もあんな惨い死に方をするんじゃないかって……」


由子「死にたくない……何としてでも……自分だけは助かりたい……」

由子「それが醜い感情であると分かっていても……抑えられなかった……っ!」


恭子「由子……」


瞳に涙を溜め、声を詰まらせながら、由子は本心を恭子に語った。


由子「異世界人達の投票で絹恵ちゃんが生贄に決まった時……」

由子「私ね……内心ホッとしていたの……」

由子「生贄が自分じゃなくて良かったって……」


由子「大切な後輩が……親友の妹が……殺されようとしているのに……」

由子「酷い話よね……最低でしょ……? 軽蔑してくれても構わないわ……」


恭子「…………」

恭子「軽蔑なんてせんよ……」


由子「っ!?」


恭子「自分が可愛い? そんなん、誰だって同じやろ。うちだってそうや……」

恭子「こんな風に奇麗事並べとるけど、うちも由子と同じ事を考えとったよ……?」

恭子「恐怖に心を蝕まれとるし、今は必死に平静を装ってるだけやねん……」


よく見てみると、恭子の脚は小刻みに震えている。


恭子「あんな凄惨な現場を直に見せられたら、誰だってそう思うに決まっとる!」


恭子「せやからな、由子……。うちには弱みを見せてもええんよ……?」

恭子「自己嫌悪したり卑屈になる理由なんて、これっぽっちも無い……」

恭子「恐怖も不安も1人で抱え込まんで、全てを曝け出せばええやん……!」


〝うちらは親友なんやから……〟


由子「恭子……」


由子は自らの手で涙を拭った後、恭子と固く抱き合った。


恭子「一緒に頑張ろう? みんなが助かる方法……必ずある筈やから……」

恭子「それをうちらが見つけ出して、洋榎達を救うんや……っ!」


由子「ええ……っ!」

恭子「ところで由子……実は1つ気になる事があるんやけど……」

由子「偶然ね……。私も恭子に伝えたい事があったの……」


2人は互いに顔を見合わせ、ニヤリと小さく笑みを交わした。


由子「私はね、代行の様子を見ていて、その不自然さに気付いたの……」


恭子「不自然さ?」


由子「代行と黒服のやり取りを見る限り、代行の方が〝格上〟と推察できるわ」

由子「それはつまり、代行は今この場で最も発言力を有している、という事よね……?」


恭子「ふむ……。まぁ、そうなるわな……」


由子「せやけど、その場合どうしても腑に落ちない事があるの……」


由子「投票結果を調べる事や、ルールブックを渡す事を代行は快く思っていない……」


恭子「不快感が露骨に表情や態度に表れとったもんなぁ……」


由子「にも拘らず、代行はさっきから洋榎の言い成りよね……」


恭子「言われて見れば、確かにそうやね……」


由子「本当に嫌なら、洋榎の申し出を拒否すればええだけやのに……」


恭子「代行は……洋榎の要求を……拒めなかった……?」


由子「ええ。理由は分からないけれど、代行は〝そうせざるを得なかった〟のよ!」


由子「もしもよ? もしも代行に……」

由子「〝やりたくない〟事でも、〝やらざるを得ない〟事があるとしたら……?」


恭子「代行と言えど、自由気ままに好き勝手振る舞える訳やない……」

恭子「あの人にも、何らかの定められた〝ルール〟があるっちゅう訳か……」


恭子「……ん? ルール……?」


2人の視線が洋榎の所持している〝黒いノート〟に注がれる。


由子「そう……。代行の不可解な行動の謎を解く鍵は、あのノートにあるのよ……!」

恭子「そうか……っ! せやから洋榎はあのノートを……!」


由子「恐らくね……。洋榎はこの事に最初から気付いていたんやと思うの」

由子「そして絹恵ちゃんをダシに正論を翳し、代行から見事ノートを奪い取った……」


由子「洋榎はきっと、その〝ルール〟を逆手に取って代行達を出し抜く気なんだわ!」


恭子「成る程な……。なら、うちらもあのノートを拝みに行かんか?」

恭子「ルールの裏側……洋榎1人で仕様の穴を探すより、3人で探した方がええやろ」


恭子の言葉に、由子はゆっくりと首を横に振った。


由子「……いいえ。ここは洋榎に任せるべきだわ」


恭子「えっ!?」


由子「今の洋榎の集中力は抜群よ。それを途切れさせない方が良いと思うの……」


恭子「……そっか。そうやな……」


由子「悔しいけど、今は洋榎を見守る事が私達に出来る一番の最善手……」

由子「洋榎任せ……またあの子に頼る形になってしまうけれど……ね」


恭子「あいつの邪魔になるゆうなら……大人しくするよりしゃあないやろ……」

恭子「うちらには辿り着けん境地に、あいつはいつも軽々と到達する……」


恭子「最高状態の洋榎なら、必ず逆転の一手を見つけ出す筈やから……っ!」

由子「それで、恭子の気になる事って何かしら?」


恭子「…………」

恭子「うちが気になってたんはアレや……」


スッと恭子は黒服の方を指差した。


由子「黒服……? 黒服がどうかしたん?」

恭子「あいつの袖先……よう見てみぃ……」

由子「ん……?」


目を凝らし黒服の袖先部分を注意深く観察する由子。
暫くして恭子の発言の意図に気付き、無意識に声を漏らす。


由子「あっ……!」


恭子「……無いやろ? 金のリストバンド……」


この隔離空間から抜け出す為に必要とされる黄金のカード。
それは所有者が決まると形を変え、腕に巻き付きリストバンドの様になる。


郁乃の右腕の手首にはそれがあり、美しく神々しい輝きを放っていた。


もし、黒服が黄金のカードを自身の体の何処かに身に付けていたとしたら、
仮にそれが服の下であったとしても、その光を確認する事は出来ただろう。


恭子「代行は言った……。新世界へ行く為には、あの黄金のカードが必要やと……」

恭子「せやけど、黒服の奴がそのカードを持っとる風には見受けられん……」

恭子「もし代行の言う事が本当なら、あいつはこの世界から抜け出せん事になる」


由子「それって……」


恭子「あの黒服、この地獄の様な場所で亡者共と心中するつもりなんか……?」


恭子「もしくは……」


恭子「新世界へ行くのに、本当はあんなカード必要無いんちゃうか……?」

由子「代行が持っている黄金のカードが無くとも、この隔離空間から抜け出せる……」

由子「恭子の推測が正しければ、5人全員の生還も可能って事よね……!?」


恭子「あぁ……。2人の犠牲を強いられる必要性なんて何処にも無い……っ!」


由子「ふふ……光明が見えてきたわね。希望へと繋がる一本の道筋が……っ!」

恭子「絶望を抱くには時期尚早……求める未来はうちらの手の届く場所にある……!」


由子「それはそうと、代行達はどうやってこの場から脱出する気なのかしら……?」

恭子「……その答えは、そこの黒い箱の中にあると思うで……?」


モニター画面の後ろにある巨大な黒い箱を指し示しながら恭子は言った。


由子「あの箱の中に、皆がここから脱出する為の手段が用意されていると……?」

恭子「せや。そもそも何かを隠すとしたら、そこしか考えられんからな……」


恭子「その中にある筈なんや……。この地獄から抜け出す為の〝切り札〟が……!」

恭子「いざとなったら……力尽くでもそれを奪い取る……っ!」

恭子「……まぁ、それはあくまで最終手段やけどな……」


由子「あんな大男に真っ向から立ち向かうんは無理そうやけど……」

由子「上手く立ち回ってあいつの虚を衝く事が出来れば、あるいは……」


恭子「言葉巧みに相手を丸め込むんは、洋榎の最も得意とする所……」

恭子「問題はいつ仕掛けるか……絶対に見逃す訳にはいかん……っ!」


由子「洋榎に乗じて、私達も行動を起こすのよ……」

由子「あの子の思考を先読みして事の展開を予測し、迅速かつ適切にサポートする」


恭子「洋榎が前面に立ち、うちらは裏方として陰からあいつを支える……」

恭子「それが姫松式必勝法……うちらの戦い方や……っ!」


屈強な男相手に平凡な女子高生が腕力で敵う筈など無い。
だが、〝洋榎〟という存在が2人のそんな常識を打ち砕く。

慎重で現実主義の由子ですら、今ではその〝幻想〟を信じて疑わなかった。


恭子(うちには洋榎や漫ちゃんの様な〝流れを感じる力〟なんて無い……)

恭子(けど今なら分かる……うちらの背中を後押しする風……流れの存在を……!)


恭子(洋榎……誰もが悲しむ事の無い未来へ、うちらを導いてくれ……っ!)





洋榎「…………」

郁乃「洋榎ちゃ~ん、ま~だ~?」


洋榎「……っ」


洋榎(落ち着け……焦ったら終いや……)

洋榎(集中……外部からの不必要な情報は遮断しろ……!)


郁乃「ねぇねぇ、ま~だ~?」


雑念を捨て神経を研ぎ澄まし、異世界人達の投票結果を精査してゆく。
が、何度見直してもルールに反する〝不適切な投票〟は見つからない。


洋榎(くっ……駄目か……。不当なPの付与も集計ミスも見当たらん……)

洋榎(方法を間違えたんか……? 何処で何を見落としてしまったんやうちは……)


幾ら考えてもその答えは出ず、次の一手も思い浮かばない。


洋榎(このままやと、絹の処刑は免れない……。死の運命を……変えられん……っ!)


体中から力が抜け、茫然とその場に立ち尽くす洋榎。
右手で掴んでいた黒いノートが、パサリと地面に落ちた。
瞳からは涙が零れ、モニター画面の文字が滲む。


洋榎(無駄にした……奇跡が齎したこの貴重なチャンスを……)


全てを諦めてしまいそうになった次の瞬間……。


洋榎「っ!?」


漠然と眺めていた画面から得た予期せぬ視覚情報、洋榎の脳に電流が迸る。
溢れる涙を素早く手で拭い去り、はっきりとした視界で映像を再確認した。


洋榎(こ……これは……っ!?)

それは視界を広げ画面全体を眺める事により偶然にも発見された。
他の投票と見比べる事で、その微細な違いを認識する事が出来たのだ。

また、P関連にだけ注がれていた意識が解放された事も幸いしたと言えよう。


洋榎(確か……この事に関連する何らかの規則があったはず……っ!)


洋榎は慌てて黒いノートを拾い上げ、投票に於ける記述方法のルールを再読した。


洋榎「……………っ!」


洋榎(これや……間違い無い……。不適切な投票は存在したんや……!)

洋榎(他にも……ある! 明記されたルールに反する絹への投票が……っ!)

洋榎(これらの投票が無効となれば順位は入れ代わる! 絹は助かるかもしれへん!)


絹恵の死を回避する為の突破口を見出し、歓喜に打ち震える洋榎。
だがそれも束の間、ふと我に返り、冷静に物事を整理して考える。


洋榎(あ……あれ……ちょいタンマ……)


================================

生贄選出投票に於いて、一番ポイントの高い者が1人目の生贄となる
1人目の生贄を処刑した後、2人目の生贄を決める

2人目の生贄を決めるのは、ポイントの最も少なかった者である
自身や他者のポイントに関係なく、残り3人の中から自由に1人を選べる


ただし、以下の場合はその限りでない。


A:最もポイントの多い者が2人の場合、その2人がそのまま生贄となる

B:最もポイントの多い者が3人の場合、
  残りの2人が話し合って、3人の中から1人を救う

C:最もポイントの多い者が4人の場合、
  残りの1人が、4人の中から生贄を2人選ぶ

D:最もポイントの少ない者が2人の場合、
  2人目の生贄を決める際は相談し、自分達以外から1人を生贄に選ぶ

E:最もポイントの少ない者が3人の場合、残りの2人が生贄となる

F:最もポイントの少ない者が4人の場合、
  最下位の1名を処刑した後、再び4人で再投票

G:全員ポイントが同じ場合、神の指定した〝6人目〟が生贄を決める

================================


洋榎(仮に投票結果がうちの主張通りに変わったとしたら……)

洋榎(絹の代わりに、本来死ぬ筈やなかったあいつが1人目の生贄に……!?)


洋榎は顔を少し動かし、横目で恭子と由子をチラリと見た。



恭子「洋榎がこっちに視線を向けて……」

由子「何か策を思い付いたのかしら……?」

恭子「そうならええんやけど……」


恭子(なんやろ……この胸騒ぎは……)ザワ......ザワ......

洋榎(アホかうちは……。こうなる可能性は簡単に予測できた筈やろ……っ!)


洋榎(絹が順位を上げれば、代わりに他の誰かが最下位に落ち生贄となる……)

洋榎(あの世界で最後まで生き残った恭子や由子とて例外やない……!)


これまで洋榎は、自分が絹恵の身代わりにさえなれれば良いと考えていたのだ。
絹恵に課された死の運命を自らが請け負う事によって、全ては解決されるのだと。

しかし、それで話が終わるほど単純な問題ではなかった。
例え自分が犠牲になろうと、もう1人の命を捧げなければならないのだから。


洋榎(大体、何故2人目の生贄が漫に確定しとると思い込んだ……?)

洋榎(あいつを殺したんは、うちなんやぞ……?)

洋榎(誰に強制された訳でも無く、うちがうちの自由意思で漫の命を奪ったんや)


洋榎(その漫が……最下位となってもう一度死ねば良かったんか……?)


洋榎(そんな訳あるかっ!)


〝如何なる犠牲をも厭わずに行動する勇気と覚悟〟


洋榎はそれを勝手に〝己の命を投げ出す勇気と覚悟〟と限定的な解釈をしていた。


自らの命を以って絹恵を救う事しか頭に無かった洋榎には、
一巡前の世界で心から分かり合えた親友を犠牲にする覚悟など無かったのだ。


勿論、漫を再び処刑台に送るなどと言う残酷な決意がある訳でも無い。


生贄投票に於いて絹恵がトップ、自身が最下位となる事が洋榎の理想であった。
完全なる立場の逆転、自分は1人目の生贄となるが絹恵の生存は確定している。
責任の放棄とも言えるが、2人目の犠牲者について苦悩する必要も無い。


けれども、現実はそこまで都合良く行かなかった。


大切な親友の命か、親愛なる妹の命か。


異なる世界線で体験したあの結末も、少なからず選択の意思に影響を及ぼしていた。


恐怖と悲しみを乗り越えて、共に新世界へと旅立った仲間に対し、
この世界では一転して奈落に叩き落とす非情な仕打ちを行えと言うのか。


親友の命を差し出すならば、あの時感じた思いも友情も、その全てを裏切る事となる。


究極の二者択一を迫られ、洋榎の決心が揺らぐ。


洋榎(また……うちが……命の選択を……する……?)

雅枝  『まーた洋榎は手牌にドラを抱え込んどるんか?』

幼洋榎『だってぇ~……捨てんの勿体無いやん……』

幼洋榎『うち、高い手でドカンと和了るんが好きやねん!』

雅枝  『そないな事ゆうても、和了れんかったら意味無いやろ?』

幼洋榎『ぶーっ……』


雅枝  『確かに、麻雀に於いてドラは打点を高める手段として非常に有用な存在や』

雅枝  『せやけど、状況によってはそれを捨てる勇気も必要なんやで?』


幼洋榎『えぇ~!?』


雅枝  『取捨選択……』

雅枝  『大きな目的の為には、大切なモンも切り捨てなあかん時がある……』

雅枝  『今、自分にとって何が最も重要なんか、正確に見極めるんや』

雅枝  『同時に、それ以外のモン全てを犠牲にする位の覚悟も持ってな……』



洋榎(何考えとるんやうちは……。人の命が掛かってるんやぞ……?)

洋榎(それを麻雀と同列に語るなんて……絶対に許されん事や……!)

洋榎(不要な牌を捨てるみたく、人間の命をぞんざいに扱える訳無いやろ……っ!)



〝アホかお前は……〟



洋榎「っ!?」


何の前触れも無く、突然周囲が目映ゆい光に包まれ、
気付くと洋榎は何も無い白一色に満ちた空間にいた。

目の前には、自分と同じ姿をした黒い人影が立っている。
その影は、重く響く声で洋榎の脳内に直接語り掛けてきた。


影洋榎『麻雀なら例え失敗を犯しても失うのは点棒だけ……』

影洋榎『けどな、今お前が選択を誤れば絹の命が失われるんやぞ?』


洋榎  『そんなん……言われなくとも十分理解しとる……』


影洋榎『そうか。そんなら……』


影洋榎『人の命にもきっちり〝序列〟を付けんとなァ……』


洋榎  『……っ!?』


影洋榎『それに併せて優先度の低い〝牌〟はガンガン捨てて行け……』


洋榎  『なっ……!』

洋榎  『親友と妹の命を……天秤に掛けろと……?』


影洋榎『何をそんなに驚いてるんや? 当然の事やろが……』


洋榎  『くっ……!』


苦悶に満ちた表情の洋榎に対し、影は遠慮する事無く言葉を続ける。


影洋榎『……今、お前は心ん中でこう思っとる筈や……』

影洋榎『〝何でうちばかりがこんな辛い思いをせなあかんのや!〟ってな……』


影洋榎『勘違いするな。寧ろお前はその恵まれた境遇に感謝するべきなんやで?』


洋榎  『恵まれた……境遇やと……?』


影洋榎『この苛酷な環境に於いてなお、お前には〝選択権〟があるんやからな』


洋榎  『選択……権……?』


影洋榎『多くの人間は、他人はおろか自分の生き死にすら制御する事が出来んのや』

影洋榎『ただ神の敷いた〝運命〟という名のレールをなぞっているに過ぎん』


影洋榎『例えその先に残酷で不平等な死が待ち受けていたとしても……』

影洋榎『自らの意思や努力でそれを回避する事は不可能……受け入れざるを得ない』



影洋榎『もう1つの世界で非業の死を遂げた絹や漫の様に……』



影洋榎『あいつらには、端から選択権なんてもんは無かった』

影洋榎『濁流に浮かぶ流木が如く、その流れに我が身を任せ祈るだけ……』

影洋榎『制御不能な運命に翻弄され、無残な最後を迎えた哀れな奴等よ』


影洋榎『それと比べれば、今の自分がどれだけ恵まれているか分かるやろ?』

影洋榎『お前はお前の意思で死ぬ人間を〝選別〟する事が出来るんやからな……』

影洋榎『お前の手牌には今、自分、絹、恭子、由子、漫の5つがある……』

影洋榎『そん中でお前が絶対に切れん牌はどれや……?』


洋榎  『…………っ』


影洋榎『 絹 や ろ 。 お 前 が 囲 う べ き 牌 は ! 』


洋榎  『っ!!』


影洋榎『誰かが犠牲にならん限りこの悪夢は終わらん……。永遠にな……』

影洋榎『思い悩む余地は無い……。絹を除いた残り4つの牌は潔く全て捨てろ……』

影洋榎『ドラ……有効牌……危険牌……和了牌……そんなん関係無く全部や』


影洋榎『それが出来んゆうなら、絹の命はスッパリと諦める他無いな……』

影洋榎『等価交換……命の代償は別の命で支払うしか無いんやから……』


洋榎  『…………』

洋榎  『……無理や。絹を見殺しにするなんて……うちには……』


影洋榎『せやったら……』

影洋榎『これからどうすればええか、言わずとも分かるな……?』


洋榎  『…………』


洋榎は黙ったまま小さくコクリと頷いた。


影洋榎『友情、信頼、絆、結束、正義、和協……』

影洋榎『それらが糞の役にも立たん事を、お前はその身を以って思い知らされた筈や』

影洋榎『甘美な幻想に惑わされるな。それは絹を殺す破滅の罠……奈落への道……』


影洋榎『同じ過ちを繰り返すな。お前には妹を救う〝義務〟があるんやぞ?』

洋榎  『あぁ……。分かっとる……分かっとるよ……』


影洋榎が洋榎に向かってゆっくりと黒い手を伸ばしてくる。
洋榎もそれに応え、2人は互いの手を固く握り締め合った。


影洋榎『お前は……』

洋榎  『うちは……』


影洋榎『絹の……』

洋榎  『絹の……』



〝 お 姉 ち ゃ ん や か ら 〟



影の洋榎が腕から吸い込まれる様にして洋榎の肉体と同化してゆく。
2人が完全に1人となった時、洋榎は顔を上げ荒ぶった獣が如く咆哮した。



黒洋榎『悪に堕ち、罪を背負い、地獄に落とされようとも構わない……』

黒洋榎『世界中から罵られようとも、譲れんモノがうちにはある……っ!』



黒洋榎『必要とあらば……うちはやる……』


黒洋榎『相手が誰であれ……容赦無く……躊躇わずに……』



〝 殺 す 〟



白色に染まった空間は音も無く崩れ、洋榎は元の世界へと戻ってきた。
それと同時に、何を思ったか手に持った黒いノートを無言で破き始める。


郁乃「ちょっとちょっと~! 洋榎ちゃん何してん!? それ私のやで!」


洋榎「…………」


洋榎「あぁ……そやったな……。すっかり忘れとったわ……」


郁乃「あ~あ~、細切れになって風に飛んでってもうたやん……」


郁乃「一体何のつもりや?」



洋榎「…………」ユラッ......



洋榎「〝念の為〟や……」



洋榎は口元に小さく笑みを浮かべ郁乃に答えた。

郁乃「ったく、なんやねんも~……」


郁乃は苦い顔をしながら地団駄を踏んでいる。


郁乃「なぁ、もう気は済んだやろ……?」

郁乃「無駄な足掻きは止めて、そろそろ現実を受け入れようや……な?」


洋榎「…………」


郁乃「はい、タイムオーバー! 終了! 時間稼ぎもここまでや!」

郁乃「さぁ! 宴の始まりやで~! 今宵、最初の贄となるんは絹恵ちゃ……」


洋榎「……あったで」


郁乃「ふぁっ!?」


洋榎「絹に対する〝不適切な投票〟は存在した……」


恭子「っ!!」

由子「っ!!」

絹恵「っ!?」

漫  「っ!!」


郁乃「なっ……なんやて……!?」


洋榎「代行……あんたは絹を生贄にしたくて堪らんみたいやけど……」


洋榎「思惑通りに行かなくて残念やったな……」

恭子(ホンマにあったんか!? 無効となる投票が……っ!)


由子(もし本当に不適切な投票があったとしたら………………なるほど、読めたわ!)

由子(洋榎は管理の杜撰さを理由に、この投票自体を無かった事にする気なのね!)


皆が注目する中、洋榎は敵意に満ちた視線を郁乃に向けている。


郁乃「なんや胡散臭いわ~。口から出任せ言ってるだけちゃうん?」


洋榎「出任せかどうか……こいつらの投票、その目ん玉引ん剥いてよう見てみぃ!」


そう言って洋榎は>>237>>240を指差した。


=========
ID:ruJsz1TDO
【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→漫
3P→絹恵

ID:xyK1tvZEO
【安価:生贄選択】
1P→末原
2P→漫
3P→絹恵
==========


郁乃「ん~?」

郁乃「その2つの投票結果がどうかしたん?」

郁乃「名前も間違っとらんし、Pも規定値やないか……」


洋榎「そこやない……。うちが言いたいんは〝:〟の部分や……」


郁乃「…………」


郁乃「…………はっ?」

名前の書き間違いでも不正なPの付与でも無く、
投票の書式に関する誤りを洋榎は指摘したのだ。

生贄投票に関するルールは>>224に明記してある。
その内容は、最初に安価を行った時の>>27を踏襲していた。

異世界人が投票に参加する場合、この〝レスの形式〟に準拠しなければならないのだ。
定められた形式と異なっていたなら、その投票自体が無効とされても文句は言えない。

>>224では、〝基本的なルールは>>27と同じ〟とある。
そしてそこには、次の様な事が書かれていたのだ。


【レスの形式】について
〝全て全角大文字でお願いします〟
〝【安価:発表順】←この部分を文字検索し、安価レスの集計を行います〟
〝この文字検索に引っ掛からない安価レスは、全て無効となります〟


【○○:○○○】の部分を文字検索する事は、全ての集計時に於いて共通である。

そのルールは>>224の【安価:生贄選択】の部分にも同様に適用される。
基本的なルールは>>27と同じなのだから、それは当然の事と言えよう。


洋榎が指し示した投票の〝:〟は全角でなく、〝:〟と半角で記入されていたのだ。
事実、一度目の文字検索に引っ掛からず、>>1はこの2つのレスを読み飛ばしている。


文字検索に引っ掛からない投票は全て無効となる……。
洋榎はその〝レスの形式〟に於けるルールを以って郁乃達に迫った。


洋榎「この2つの投票は書式が間違っとる……」

洋榎「そして、書式の間違った投票は無効となる事も明記してあった」

洋榎「よって、これらの投票は〝不適切な投票〟として認める事は出来ん!」


郁乃「はぁ!? なに言ってんねん! たかが1文字間違えた位で……」

郁乃「それに、その部分は名前やPといった重要な事柄とは全く無関係やないか!」


郁乃「大体、そこまで細かいルールが存在するとも思えん……」

郁乃「さては洋榎ちゃん、私にはバレんと踏んで勝手にルールを付け加えたな……」

郁乃「黒いノートを破棄したんも、本当のルールを知られん様にする為の布石か!」


洋榎「…………」


郁乃「自分に都合の良いルールを創り出すとは、とんだ奇策に走ったなぁ……」

郁乃「せやけど、そないな小学生並みのアホな発想が通用すると思うなや!」


黒服「……いいえ、赤阪様。洋榎様の仰っている事は嘘ではありませんよ?」


郁乃「!?」

郁乃「……なんやと?」


黒服「私はあのノートに書かれていた内容を全て〝正確〟に把握しておりますが……」

黒服「洋榎様が先ほど仰った内容の事は、確かに記載されております」


郁乃「そんな……アホな……っ!」

由子(代行といえ、全てのルールを把握している訳では無いのね……)

恭子(ノートを破棄したんは、代行にルールを確認させん為か……?)


郁乃「なんでやねん! なんでそないな風になっとるんや!?」

黒服「機械(>>1)が集計する際、見落としを無くす為に導入されたシステム様です」


郁乃「見落としを……無くす為……? っちゅう事は……」

郁乃「それは書式の間違った投票を弾くんが目的では無いっちゅう事やな?」

黒服「イエス」


黒服「〝この文字検索に引っ掛からない安価レスは、全て無効となります〟」

黒服「この断り書きは、万が一、見落としが発生した場合の〝保険〟でございます」

黒服「投票の書式に誤りがある場合、その投票内容のP加算を保証しないと……」


黒服「このシステムは、あくまで投票者側の視点に立ったモノであり……」

黒服「例え書式が間違っていても、機械が投票内容を確認できれば問題ありません」


郁乃「はははっ! 要するに洋榎ちゃんの主張は認められんゆう事やな!」


洋榎「……せやったら、何でその事を明記しておかなかったんや?」

洋榎「そんな〝ルールに無い事情〟を言われたかて信用できんやろが……」


洋榎「うちが主張している事は、規則としてハッキリ書いてあった事や」

洋榎「ところが、あんたらの主張は規則に書いて無い事ばかりやないか」

洋榎「明文化されている事と、明文化されていない事……」

洋榎「〝正当性〟の差は歴然。どちらが優先されるべきかは明白ちゃうか……?」


洋榎「 〝 ル ー ル は 絶 対 〟 な ん や ろ ? 」


洋榎「あんたらもしっかりと守れや。決められたルールを……」


郁乃「…………」

黒服「…………」


郁乃と黒服は黙り込み、無表情のまま洋榎を見詰めている。


洋榎「この2つの投票が無効となれば、順位は変化する……」


===============
愛宕 絹恵 43P -6 →37P
真瀬 由子 40P
上重 漫   39P -4 →35P
末原 恭子 39P -2 →37P
愛宕 洋榎 37P
===============


洋榎「1人目の生贄になるんは……最下位の由子やろ……」





由子「…………えっ?」

追記

洋榎、郁乃、黒服の会話は、異世界人用に全て脳内変換されています。
実際の物語中での会話とは、意味は同じでも言葉は少々異なっている様です。

また、>>27>>224をルール説明の部分で挙げていますが、
洋榎が見た黒いノートの内容とは多少異なっております。

洋榎が黒いノートで見たのは、この〝儀式〟に於ける様々なルールです。
それには、投票に関する事の他に、処刑に関する事等も書かれています。

由子「わ、私が……最下位……?」

洋榎「そうや……。お前が最下位なんやで……? 由子……っ!」


そう言い放ち由子に視線を向ける洋榎の瞳の奥には、強烈な〝殺意〟が宿っている。
その尋常で無い様子から、由子は洋榎が本気で自分を殺しに来ているのだと悟った。


恭子(全員の生存を目指すのであれば、順位なんて気にする必要は無いはず……)

恭子(せやのに、何故そこまでして由子が最下位である事に拘るんや……?)


恭子(まさか……本気でこの中から2人の生贄を選ばせる気なんか……?)

恭子(洋榎が……親友である由子を犠牲に……? 嘘やろ……!?)


心配そうな表情で洋榎を見詰める恭子。


由子「…………っ」

由子「洋榎は……最初から絹恵ちゃん以外の誰かを殺す気だったのね……!」

由子「どうしてなの……? どうしてそんな恐ろしい事を……!」

由子「私達は仲間でしょ!? それなら、皆が助かる方法を考えるべきよ!」


洋榎「…………」


由子の言葉に聞く耳も持たず、寧ろその眼光は敵意を増してゆく。


恭子(あいつのあんな表情、今まで見た事無い……。明確な殺意を感じる……!)

恭子(洋榎が受けた精神的ダメージは、うちが想像していたよりも遥かに深刻……)

恭子(このままやと、話し合いすら出来ん……。何とかして落ち着かせな……!)


恭子「洋榎……。うちらは絹恵ちゃんを生贄にしようやなんて思ってへんよ……?」

恭子「絹恵ちゃんだけやない……。この中から犠牲者なんて、絶対に出さへん!」

恭子「全員が助かる未来の為に……洋榎もうちらに協力してくれ……っ!」


洋榎「ふっ……ふふふっ……はははっ……ハハハハっっっッッッ!」


恭子「洋榎……?」


洋榎「ありもしない希望に縋る……。傍から見ると甚だ滑稽やな……」


恭子「……っ!」


洋榎「実現する可能性も無い幻想をただ只管妄信し、協力まで持ち掛けて……」

洋榎「悪意が無い分、ホンマに質悪いわ……」

洋榎「甘く優しい言葉を囁いて、その実〝死ね〟ゆうとる様なもんやからなァ!」



洋榎「全員が助かる未来やと……?」



洋榎「そんなもん、 何 処 に も 存 在 せ ん わ っ ! ! 」

恭子「幻想……? 存在しない……? 違う! それは違うで洋榎っ!」

恭子「未来の可能性を否定する事なんて……誰にも出来へんよ……っ!」


恭子「もし仮に、その未来の可能性が完全に失われる事があるとすれば……」

恭子「それはうちら全員が代行達に屈し、皆で生き残る事を諦めてしまった時や!」


洋榎「…………」


恭子「うちは絶対に諦めん! 投票結果の順位なんて関係無い!」

恭子「最下位が由子であれ絹恵ちゃんであれ、2人とも助かる未来を探し続ける!」


由子(恭子……)

絹恵(末原先輩……)


恭子「妹の絹恵ちゃんを何としてでも救わんとする洋榎の気持ちはよう分かる……」

恭子「けど、その為に仲間を犠牲にするなんて、ホントはしたくないんやろ……?」

恭子「ならっ! 〝どちらか一方だけを助ける〟なんて選択肢を選ぶ必要は無い!」


洋榎「…………」


洋榎「どちらか一方だけを〝助ける〟か……」

洋榎「恭子……やっぱりお前は何も分かってへんのやな……」


恭子「……?」


洋榎「よう聞け恭子……。うちには〝絹を助ける〟なんて選択肢は無いんや……」

恭子「絹恵ちゃんを助ける選択肢が無いやて……?」

恭子「それ……どういう意味や……?」


洋榎「うちに与えられた選択肢はな……」


洋榎「〝 絹 を 殺  す 〟 か 〝 由 子 を 殺 す 〟かなんや……」


洋榎「この違いが、お前に分かるか……?」


恭子「…………っ」


恭子に思考の猶予も与えず、洋榎は更に問い掛ける。


洋榎「うちに絹が殺せると思うか……?」

洋榎「十数年も共に人生を歩んで来た絹を……」

洋榎「この手に掛けるやて……?」


洋榎「 そ ん な ん 出 来 る 訳 無 い や ろ ! 」


洋榎「せやから……もう……由子を〝殺す〟しかないねん……」


直接的過ぎる、洋榎の口から放たれた衝撃の一言。
その殺意は言葉として具現化し、由子に襲い掛かる。


『何よりも優先すべき存在……』


『躊躇するな……』


『迷いはお前の妹を殺す……』


『ここで確実に由子を殺さねば……』


『〝次〟は無い……!』


洋榎「頼む由子……絹の命……絹の未来と引き換えに……」


洋榎「 死 ん で く れ 」


恭子(そんな……嘘やろ……こんなん……うちの知ってる洋榎やない……!)

恭子(洋榎の皮を被った……お前は一体……誰なんや……?)


恭子「っ!?」


ふと恭子が隣を見ると、由子は歯を鳴らし脚をガクガクと震わせていた。


恭子「ゆ、由子……?」


由子「あれは演技なんかやない……洋榎が導き出した〝結論〟なんだわ……」

由子「絹恵ちゃんを救う為には、私を最下位に落とす事が最善であると……」

由子「あの子の中には、もう私を生贄として差し出す選択肢しか無いのよ……!」


由子「殺される……私……洋榎に殺される……っ!」

恭子「由子を……仲間を犠牲にして……」

恭子「本当にそれでええんか!? 洋榎っ!!」


洋榎「仲間やと……? 笑わせんなやっ!」


洋榎「新世界への切符は、3人分しか用意されてへんのやぞ!?」

洋榎「それを5人で奪い合うんや。競う相手は皆敵に決まっとるやろが!」


恭子「敵……? うちらが……?」


洋榎「あぁ……。お前も……由子も……うちの邪魔すんなら敵や……っ!」


恭子「……っ」


由子「それは違うわ! 私達は決して洋榎の敵なんかじゃない!」

由子「例え何があろうとも……私達の友情は変わらない! そうでしょ!?」


洋榎「 黙 れ や こ の 偽 善 者 が っ ! 」


由子「っ!?」


洋榎「由子……うちは知ってるんやで……? お前の本性をな……」


由子「私の……本性……?」


洋榎「そないな奇麗事が言えるんは、お前にまだ〝余裕〟があるからや……」

洋榎「偽りの希望に満たされ陶酔し、現実を無視した理想論を振り翳しとるだけ……」


洋榎「その希望がまやかしと気付き、絶望した次の瞬間……」

洋榎「心のメッキは剥がれ、お前は醜い真実の姿を皆の前に曝け出す……!」


由子「醜い真実の姿って……なによそれ……」


洋榎「本能が求める〝生〟への渇望と執着、そして迫り来る〝死〟への恐怖……」

洋榎「いざ自分の身が危うくなれば、お前は簡単に仲間さえも切り捨てる……!」


洋榎「そういう薄情な人間やゆうとるんが伝わらんかったか……?」


由子「そんな……なんで……」


洋榎「都合の良い時だけ友達面する恥知らずの卑怯者が……」

洋榎「うちはなぁ……お前の様な奴に仲間や何や言われると虫唾が走るんや!」


由子「ひ、酷いわ……。あんまりよ……」

由子「私の事を……洋榎はそんな風に見ていたのね……」


親友と思っていた洋榎から、まさかの裏切り者扱い。
由子の瞳からは大量の涙が溢れ、その場に泣き崩れた。

洋榎「なぁ……もう仲良しごっこは終わりにしようや……」


〝親友でも仲間でもない……〟


洋榎「体面なんぞ気にせんと、腹を割って話し合おうやないか……」


〝吐き出せ……お前の本音を……〟


洋榎「由子やて、本心では絹に生贄になって欲しい思うとるんやろ……?」


〝曝け出せ……醜悪な姿を……〟


洋榎「変に気張らず、正直にゆうてみい……。その方が楽になれるで……?」


〝そうすれば……うちも楽になれるんや……〟


洋榎「お前は既に気付いとる筈や……。全員が生き残る事は無理やって……」

洋榎「せやから、己の安全を確保する為に絹を最下位にしておきたいんやろ……?」


由子「うぅ……」


洋榎「人に友情を謳っておきながら……ホンマに汚い奴やな……」

洋榎「うちらを犠牲にしてでも、自分だけは助かろうと画策しとる癖に……っ!」


由子「ち、違う……っ! 私……そないな事してへんよ……!」


洋榎「 嘘 吐 け っ ! 調 子 の 良 い 事 抜 か す な ! 」


由子「 嘘 や な い も ん っ ! 」


由子「私やて、皆の事を心から大切に思うとるもん!」

由子「その大切な仲間を陥れて自分だけ生き残ろうやなんて考えてないっ!」


謂れ無き誹謗中傷を受け、悲しみと悔しさで涙が止まらない。
皆に対する友情が本物であると、由子は泣きながら洋榎に訴える。


由子「私は状況に流され易いし、弱くて臆病な人間やと自分でも思う……」

由子「絹恵ちゃんが最下位になった時、自分でなくて内心安堵したのも事実よ……」

由子「でも……だからって……絹恵ちゃんの死を望んだりはしてない……っ!」


由子「 私 は そ こ ま で 冷 酷 な 人 間 や な い ! 」


由子「私も恭子と同じ様に、全員が救われる未来を諦めないわ……!」

由子「仲間を切り捨てたり、裏切る様な真似も絶対にしない……!」

由子「5人全員でこの地獄から脱出する……それが私の真の願いよ……っ!」


洋榎「…………っ」


洋榎は一瞬顔を歪めるも、次の瞬間には何事も無かったかの如く元に戻っていた。
感情など持たぬ人形の様に、無機質な表情で洋榎は由子に対して一言小さく呟いた。


洋榎「なら……うちにそれを証明してくれや……」

由子「証明……ですって……?」


洋榎「もし、うちら全員が助かる可能性を信じ、それを諦めんゆうなら……」

洋榎「お前にとって、この投票結果は何の意味も為さない……」

洋榎「何故なら、お前の思い描く未来では生贄となる者が存在せんのやからな……」


洋榎「……せやろ?」


由子「ええ……そうね……」


洋榎「せやったら、絹の代わりに最下位になってくれても構わへんよな……?」

洋榎「そしたらうちはお前の言葉を信用し、全面的に協力する事を誓う……!」


由子「……っ」


洋榎「口だけでなく行動で示してくれ……。お前の〝覚悟〟と〝勇気〟を……!」

洋榎「出来るやろ……? 己が紡いだ言の葉に嘘偽りが無いのなら……」


由子「私……嘘なんて……吐いてない……っ!」


洋榎「ほんならゆうてみいや! 〝私が最下位なります〟って!」


由子「…………っ」


洋榎「……どうした? はよせいや!」


怒鳴り洋榎が急かすも、由子は険しい顔をして沈黙を続ける。


洋榎「なんや、言えへんのか……? あれだけ大口を叩いておいて……」

洋榎「お前がうちに語った希望や願い、仲間への思いは全部嘘やったんか……?」


洋榎「どうなんや……? 答えろ! 由子……っ!」

洋榎に激しい剣幕で責め立てられ、由子の顔色が徐々に変化してゆく。


自らの言葉に偽りなど無い。
絹恵に対する思いも本物だ。

しかし、拭い去る事の出来ぬ恐怖が由子の脳裏を掠め尻込みをさせた。
希望への道を隠すかの様に、濃い靄が彼女の心一面に広がりつつある。


拳を握り締め、固く目を閉じ、全身を震わせながら苦悶の表情を浮かべる由子。


由子(何を迷っているの……? 私が最下位になれば済む事じゃない……!)

由子(そうすれば、洋榎の不安を取り除くと同時に信用を得る事も出来るのよ!?)


由子(全員で生き残るという理想を実現させるには、あの子の協力が不可欠……)

由子(希望の未来を掴み取る為には、これが最善手……の筈やのに……)


由子(〝生贄〟という言葉の響きが怖くて、洋榎の提案に頷く事が出来ない……)

由子(確然たる〝生〟の保証が無ければ、私はこの一歩を踏み出せない……)


由子(それが私の弱さ……)


由子(でも……っ!)

由子(自分の言葉に責任も持てない口だけの卑怯者に、私はなりたくない……!)


由子(神様……一度だけでいい……。私に大切な親友を救う為の勇気をください!)


〝行動すべき時は今……っ!〟


猜疑心に囚われた洋榎を救ってやれるのは自分しかいない。
由子は大きく深呼吸をし、覚悟を決めた表情で洋榎を見据える。


由子「わ……わたしは……っ!」


由子が決意の言葉を放とうとしたその時……。


黒服「大事なお話の途中、誠に申し訳ありませんが……」

黒服「今問い合わせた所、洋榎様の主張は認められないとの結論が下されました」

黒服「よって、絹恵様の最下位が確定致しました事を皆様にご報告申し上げます……」

由子「っ!?」

絹恵「っ!?」

恭子「っ!!」


漫  (絹ちゃんの最下位が……決まってもうた……)

漫  (けど平気なんですよね……? 末原先輩、真瀬先輩……っ!)


洋榎「…………」

洋榎「どうゆう事か、詳しく説明して貰おうやないか……」


これまでの自分の行為を無にするかの様な発言を受け、
洋榎は黒服を鋭く睨み付けながらその理由を問う。


黒服「洋榎様がご指摘された通り、我々が作成したルールには不備がありました」

黒服「その点に付きましては、皆様に深くお詫び致します……」


黒服「ですが、前述した様に……」

黒服「〝票の見落としを防ぐ為〟と言う本来の目的から考えますと……」

黒服「投票内容と関係無い部分の間違いを理由に無効とするのは……」

黒服「些かやり過ぎなのではないかと、その様な結論に至ったらしく……」

黒服「それらの投票も〝有効〟であると、最終判断が為されたのです……」


洋榎「…………っ」


郁乃「……ほぅ。」

郁乃「一応訊くが、あの2人がそう判断したんは確かか?」


黒服「イエス」


恭子(あの2人……? 代行がさっき電話してた〝神様〟ゆう奴の事か……?)

黒服「と言いましても、Hりん様は今も納得されていないご様子ですがね……」


郁乃「あの人は納得してないんか。なら何で洋榎ちゃんの意見は否定されたんや?」


黒服「Hりん様は洋榎様の主張を支持し、逆にSやん様は否定的な立場でした」

黒服「洋榎様の物言いから議論していたとの事ですが、両者とも意見を譲らず……」

黒服「最終的には、多数決を以ってHりん様が折れる形となりました……」


恭子(HりんにSやん……一体何者なんや……!?)


郁乃「多数決……? っちゅう事は、黒服はSやんと同意見なんやな?」


黒服「いえ、私ではなく……あの方々は赤阪様の意向を汲んだ様でございます」


郁乃「私の?」


黒服「イエス。赤阪様は洋榎様の主張に否定的でしたので……」


郁乃「そうか……。それで洋榎ちゃんの主張に〝賛成1反対2〟っちゅう訳やな」


黒服「イエス」


郁乃「ふ~ん、そうかそうか……。なるほどなるほど~」


口元に人差し指を当て、真顔で思考に耽る郁乃。
突然、何かを思い付いたのか、厭らしい笑みが零れる。


郁乃「そんならぁ~……」


郁乃「いくのんは自分の意見を撤回するで~」ニタァ......

由子「……っ!」


黒服「撤回……ですか……?」

黒服「赤阪様は、洋榎様の主張を支持する側に鞍替えをする……」

黒服「その様な解釈で宜しいのでしょうか……?」


郁乃「ノンノン!」

郁乃「いくのんは~、洋榎ちゃんの主張を支持しません!」


黒服「…………?」


郁乃「肯定もせず、否定もしない。つまりは〝中立〟っちゅう事やで~」

郁乃「せやからこの勝負、〝賛成1反対1〟のドローになるなぁ……」チラッ


洋榎「っ!」


郁乃はにやつきながら、一瞬洋榎の方に横目で視線を送った。


洋榎(こいつ……何のつもりや……)

洋榎(なんでここに来てうちを庇う様な真似をするんや……?)

洋榎(代行は絹を生贄にしてうちの反応を見たかったんとちゃうんか……?)


冷静を装うも、洋榎の額からは一筋の脂汗が滴り落ちる。


洋榎(嫌な予感がする……これは罠や……。救いの糸なんかやない……)

洋榎(けど……奴の企てに乗らんと、今度こそ絹は死ぬ……。確実に……!)



洋榎(ならうちは……お前の謀略であろうと甘んじて受け入れたるわ……っ!)

洋榎「……で、ドローの場合はどうなるんや?」

洋榎「黒服の奴に最終決定権を持たせるんか?」


郁乃「そやねぇ……。黒服の判断を以って生贄を決める、か……」

郁乃「うんうん、それも1つの〝解答〟ではあるなぁ……」


大袈裟に頷きながら、郁乃は洋榎に相槌を打つ。


郁乃「この場合、〝適正〟かつ〝公平〟な方法で決着を付けなあかんねん……」

郁乃「黒服は私情を挟まず、全ての物事を論理的かつ機械的に判断する……」

郁乃「洋榎ちゃんにも真瀬ちゃんにも与する事は無いから〝公平〟と言えるやろな」


郁乃「せやけど、黒服の意見及び見解は却下、ノーカンや」


黒服「私は洋榎様の主張に反対ですが、それは1票にカウントされないと?」


郁乃「せや。ここでお前が票入れした所で、全くの無意味やからなぁ……」


黒服「無意味……とは……?」


郁乃「もしも黒服が反対に回るなら、いくのんは賛成に1票入れるで~?」

郁乃「それやと、結局は2対2のドローになってまうやん……」


郁乃「なっ? 意味無いやろ?」


黒服「なるほど。把握しました……」

黒服「あくまで貴女はドローに持ち込む事を望むと……」


郁乃「イヒヒッ……」

恭子(洋榎の主張に賛成1と反対1……。そこに代行が自分の1票を加える……)

恭子(決定権は代行にあった筈やのに、何故それを放棄する様な真似をした……?)


恭子(一見すると、絹恵ちゃんに最下位脱出の為の助け舟を出した様にも見える……)

恭子(けど、そんなら洋榎の主張に自ら賛成票を投じればええだけの話やないか……)

恭子(代行はどうして結論を不確定に……先延ばしにしたんや……?)


郁乃の不可解な行動に納得出来ず、顎に手を当て考え込む恭子。


恭子(ドローになった場合、適正かつ公平な方法で決めなあかんみたいやけど……)

恭子(そうなれば、もう自分の意見を押し付ける事やって不可能になるはず……)

恭子(それで代行にどんなメリットがあるゆうんや……?)


いくら考えてもその答えは見つからず、それは郁乃以外全員が同じであった。


洋榎「だとしたら……どないすんねん……」

洋榎「引き分けやから生贄は無し、なんて事をあんたは望まない……」

洋榎「あんたは生贄を……うちらの処刑を待ち望んでるんやからな……」

洋榎「そこは絶対に譲れない……。せやろ? 代行っ!」


郁乃「当然や! 2人の生贄無くして新世界への扉は開かれんからなぁ!」


歓喜に満ちた天使の様に、天真爛漫な笑顔を見せる郁乃。
しかしその中には、得体の知れない悪意と狂気が潜んでいる。


郁乃「せやかて、なんもかんも私達の判断だけで強引に物事を進めるんはあかん」

郁乃「妹を救う為、死に物狂いで探し見つけた〝不適切な投票〟やぞ?」

郁乃「その努力、功績を否定するんは、例え神様でも許されない事なんや……っ!」


演技掛かった様子で、都合の良い即席の持論を展開する郁乃。


郁乃「となれば、これはもう……」


皆が注目する中、郁乃は暫し目を瞑り深呼吸をした。
次の瞬間、大きく目を見開き、声高らかに宣言をする。



郁乃「洋榎ちゃんと真瀬ちゃんが 直 接 対 決 して決めるしかないで!」

洋榎「直接対決やと……?」

由子「私と……洋榎で……?」


郁乃「せやせや!」


郁乃「さっきもゆうたけど、洋榎ちゃんの主張の是非を私達が判断すべきやない」

郁乃「けどな~、生贄選出の為には、まず順位を確定させなあかんねん……」

郁乃「そこで君ら自身に正々堂々勝負してもろて、その結論を出そうっちゅう訳や!」


郁乃「そうして決着させた方が、私達が決めるより2人も納得出来るやろ?」


郁乃は瞳を輝かせながら楽しそうに話を続ける。


郁乃「真瀬ちゃんを殺す事になる洋榎ちゃんの主張が正しいんか……」

郁乃「それとも、洋榎ちゃんの言い分を否定する真瀬ちゃんの主張が正しいんか……」


郁乃「互いの命を賭けた、運命の大一番やで~!」

郁乃「あ、でも洋榎ちゃんが負けた時に死ぬんは絹恵ちゃんやけどな!」ニヤニヤ


由子「ま、待って!」


郁乃「んあ?」


由子「私、洋榎の主張を否定なんてしてません! 勝手に決め付けんでください!」


郁乃「せやかて……そうせんと君、一番最初に死んでまうで……?」


由子「くっ……!」

由子「で、でも……私は……絹恵ちゃんを……」


郁乃「……真瀬ちゃ~ん、無理に良い人振らんでもええんやで~?」

郁乃「絹恵ちゃんを救う為とか、そんな下らん事は考慮せんでええって……」


恭子(絹恵ちゃんを助けようとする事が……下らないやと……?)ギリッ


郁乃「それにな~、私は真瀬ちゃんの為を思って君の主張を代弁しとるだけやねん」


由子「私の為……?」


郁乃「実際の所、真面目で論理的な思考の持ち主である真瀬ちゃんなら……」

郁乃「余りにもこじつけ過ぎる洋榎ちゃんの主張には賛同し兼ねるんちゃう?」

郁乃「そんなんで最下位に落ちて生贄にされたら割りに合わんやろ……」


由子「確かに洋榎の主張には少し無理があると思います……」

由子「ですけど……そんなん私には関係無い……!」


由子「私は……最下位になっても構わないわ……っ!」


絹恵(真瀬先輩……)

郁乃「…………」


郁乃「なぁ、真瀬ちゃん……」

郁乃「君、もしかして最下位になっても自分は死なへん思ってるんとちゃう?」


由子「……ええ、そうよ。私やて、こんな所で死ぬつもりは無いわ……っ!」


郁乃「ふ~ん……。まぁ当然やな……」

郁乃「せやけど……そんなら~……」


郁乃「もし仮に最下位の人間が〝確実に死ぬ〟としても、さっきの台詞言えるん?」


由子「……っ!」


郁乃「それでも揺るがずに真瀬ちゃんが〝最下位なります〟ゆえるんなら……」

郁乃「その美しく気高き〝献身的自己犠牲〟の精神に心から敬意を表し……」

郁乃「いくのんは洋榎ちゃんの主張を支持してやってもええで~」


郁乃「そこんとこ……どうなんや……?」


由子「わ……私は……」


由子(そこに希望があると信じたからこそ、私は最下位となる選択肢を選べた……)

由子(でも……それがもし間違いだったとしたら……?)

由子(辿り着いた先に未来など無かったとしたら……?)


ここに来て郁乃の揺さ振りに思考を囚われる由子。


由子(洋榎と代行は私が信じた未来を頑なに否定し続ける……)

由子(もしもあの2人の言う事の方が正しかったとしたら……?)


再び全身が激しく震えだし、額からは大量の脂汗が染み出してきた。


郁乃「クククッ……答えられん様やなぁ……」


思い悩む由子の心中を見透かすかの様に、郁乃は勝ち誇った顔で話を続ける。


郁乃「なぁに、恥じる事はない。自分が一番可愛いんは誰でも同じやからなぁ……」

郁乃「そんなん生物としては極々普通の考え、言わば〝生〟への本能みたいなもんや」

郁乃「肉親ならいざ知らず、他人の為に自らの命を投げ出す奴なんておらんて……」


郁乃「自分が助かる為、仕方無く後輩を犠牲にしたとして、非難される筋合い無いわ」

郁乃「例えここで絹恵ちゃんを見殺しにしたとしても、誰も君を責める事は出来んよ」


郁乃「逆に、相手に死を押し付けんとする輩の方が断罪されるべき悪党やて……」


郁乃「なぁ、洋榎ちゃ~ん?」


洋榎「…………」

由子「…………」


郁乃の言う通り、悪者は自分でなく洋榎の方ではないだろうか。
妹を救う為とは言え、友人をも躊躇い無く切り捨てんとするその態度。

更には身に覚えの無い濡れ衣まで着せられ罵倒されたのだ。
何故自分がそこまで酷く言われなければならないのか。


絹恵の事についての罪悪感と同情から、
由子は洋榎の横暴な振る舞いも許容してきた。
だが、それにも我慢の限度というモノがある。


由子の中に、洋榎に対する〝不満〟の芽が芽生え始める。
それはまだ本人が自覚出来ない程に小さな感情であった。

しかし、その鬱屈した心情は確実に由子の精神を蝕み始めている。


郁乃「流石に死ぬと分かっていて業火に飛び込むアホはおらんしぃ……」

郁乃「そんなん〝勇気〟やなく、〝無謀〟で〝命知らず〟なだけやんなぁ?」

郁乃「真瀬ちゃんは、そないな〝死に急ぎ野郎〟とちゃうやろ?」


由子「…………」


恭子「ちょっと待ちいや! 好き勝手抜かすんもええ加減にせえよ、代行!」

恭子「そもそも、それは〝確実死ぬ〟ゆう事が前提にある場合の話やろ!」

恭子「その前提が定かでない以上、今それを語った所で何の意味も無い!」


聞くに堪え兼ねた恭子が大声を上げ、郁乃の発言に異を唱えた。


恭子「……由子、代行の口車に乗せられたらあかんで……」

恭子「うちらの精神的弱さに付け込んで、仲違いさせよう目論んどる……」

恭子「人の心を弄び、苦しむ様を見て楽しんどるんや……」

恭子「ここで迷ったり隙を見せたら、あの人の思う壺やで……っ!」


由子「え、ええ……。そうね……」


郁乃「イヒヒ、末原ちゃんはいつでも前向きやなぁ……」

郁乃「まっ、何を信じるか、誰を信じるかは個人の自由やけどぉ~……」

郁乃「真瀬ちゃんも〝お利口さん〟にならんと……早死にするでぇ……?」ニマァ......


由子「……」ゾクッ

郁乃「さてと……」

郁乃「黒服、2人が雌雄を決するに相応しいゲームをここに用意しろ」


黒服「赤阪様……しかしそれは……」


郁乃「……なんやお前、自分が洋榎ちゃんにゆうた事を忘れてもうたんか?」

郁乃「〝ルールに不備があった〟〝皆様に深くお詫びします〟ってゆうたやろ!」


郁乃「お前は洋榎ちゃんから指摘を受け、自らその〝罪〟を認めたんやぞ……?」


郁乃「故にその件で害を被った洋榎ちゃんに対し、相応の〝誠意〟を見せなあかんのや」

郁乃「口だけの謝罪で済まされるとでも思ったんか? そんな訳無いやろボケが!」


黒服「誠意……ですか……?」


郁乃「せや。〝誠意〟とは、それ即ち洋榎ちゃんにも〝チャンス〟を与える事!」

郁乃「洋榎ちゃんに絹恵ちゃんの命を救う最初で最後のチャンスをくれてやれ」


黒服「…………」


黒服「……私が自身の非を認めた事は、紛れも無い事実です」

黒服「いいでしょう。洋榎様と真瀬様、どちらの主張を認めるか……」

黒服「それを決める、〝適正〟かつ〝公平〟な方法を用意させて頂きます……」


郁乃「クククッ……それでええんや……。それがお前の仕事やからなァ……」


黒服「……ただし、こちらにも幾つか条件があります」


郁乃「ぬっ!?」


黒服「まず、赤阪様には、この儀式の進行に関する全ての権限を放棄して頂きたい」


郁乃「んん? その意図する所はなんぞや?」


黒服「最終決定権を私が有する事により、スムーズに物事を進められるからです」

黒服「判定方法や結果について異議が出た場合も、私の判断が最優先されます」

黒服「赤阪様と言えど、私のやり方に一切口を挟めなくなりますが……」

黒服「それでも宜しいですか?」


郁乃「ふむぅ……。まぁええやろ……。今、ここでお前に全権を返すわ」

郁乃「私も疲れてきたし、そろそろ傍観者にさせて貰おう思っとった所やからな」


黒服「それでは本来の役割に戻り、私が赤阪様の後任を務めさせて頂きます……」

黒服「次に、真瀬様……」


由子「っ!?」


黒服「真瀬様は、〝洋榎様の主張を否定する〟という立場を明確に取られますか?」


由子「そ、それは……」


黒服「貴女がその様な姿勢に無ければ、この勝負をする意味がありません」

黒服「それならば、私はこの事案を〝洋榎様の不戦勝〟として処理しますが……」


由子「…………っ」


郁乃「真瀬ちゃん、結論は急がんでもええよ~?」


沈黙を続ける由子に、郁乃が妙に優しい口調で語り掛ける。


郁乃「仮にこの勝負を受けたとしても、君の持つ〝選択権〟は失われんからなぁ~」


由子「選択権……? それは……どういう意味ですか……?」


郁乃「最下位になりたくなければ、全力で洋榎ちゃんに立ち向かうしか無い……」

郁乃「けどそうでないなら、洋榎ちゃんに勝ちを譲ってやればええだけの話やん」

郁乃「ここで不戦敗にならずとも、〝負ける事〟ならいつでも可能や」

郁乃「せやからな~、無理に〝今〟答えを出そうとせんでもええんやで~」


由子「せ、せやけど……」


由子は不安気な表情で恭子に視線を送る。


恭子(この話に乗らない場合、由子の負け確か……)

恭子(頼りの洋榎は未だに精神が不安定な状態やし……)

恭子(その所為もあってか、由子まで動揺してきとる……)


恭子(悪い流れやな……長期戦に持ち込むんは厳しいかもしれん……けど……)

恭子(現状を打破する術が無い今、生贄を確定させるんは不味いんとちゃうか……?)


恭子(この時点で〝負け〟を選び、由子の選択肢を減らすんも悪手に見える……)

恭子(代行が言うように、この勝負を受けても特にデメリットは無い……)

恭子(ここは時間を稼ぎつつ、反撃の機会を窺うんがベターやろか……?)


恭子「……受けよう。その勝負を……!」


由子は恭子の言葉を聞き、黒服の方を向いて頷いた。
絹恵と漫は不安に満ちた表情で由子を見詰めている。


恭子(心配せんでええ……。これは全員が生き残る未来への布石や……)

恭子(うちらは絶対に絹恵ちゃんを見捨てたりせえへんからな……っ!)


洋榎「…………」

恭子(思ったより反応薄いな……)


表情に変化の無い洋榎の様子を見て、ふと恭子はそう思った。


恭子(あいつから見れば、うちは不戦勝の機会を潰した敵のはず……)

恭子(罵倒されるんも覚悟の上やったんやけど……)

恭子(洋榎もうちらの真意に気付いてくれたんやろか……?)


洋榎は口を開く事も無く、ただ静かに事態の推移を注視している。


黒服「最後に洋榎様……」


洋榎は顔を動かさず、横目で視線だけを黒服に向けた。


黒服「今回は特別ですが、今後は仕様の穴を突く様な物言いは一切受け入れません」

黒服「どんなに不服であろうとも、こちらの見解には必ず従って頂きます」


黒服「また、無意味に事を引き伸ばしたり、進行を妨害する様な行為も認めません」

黒服「もしそれらの行為を〝故意〟に行い、私が〝悪質である〟と判断した場合……」

黒服「貴女には重いペナルティが課される事になるので、それをお忘れなく……」


洋榎「……分かった。」


黒服「他の皆様も同様ですよ?」


黒服は全員を見渡しながら念を押した。


黒服「…………」

黒服「洋榎様、今更この様な事を言っても信用して頂けないかもしれませんが……」

黒服「不適切な投票の件につきましては、私も誠に遺憾と思っております……」

黒服「私は貴女の〝味方〟ではありませんが、〝敵〟という訳でもありません」

黒服「今後は誰もが〝不当な被害〟を受けぬよう、細心の注意を払わせて頂きます」


洋榎「あぁ……。」


黒服「それでは、早速準備に取り掛からせて頂きます……」


そう言い残し、黒服は一人黒い箱の中へと消えていった。

>>790 修正

恭子「そもそも、それは〝確実死ぬ〟ゆう事が前提にある場合の話やろ!」


〝確実死ぬ〟→〝確実に死ぬ〟

キャスターの付いた木製の荷台と共に、黒服が黒い箱の中から出てきた。
その荷台をモニターの前まで運び、キャスターにストッパーを掛け固定する。


黒服「皆様、お待たせしました……」


全員の視線が黒服の持って来た荷台に集まる。
それは2段構造になっていて、高さは1m強あった。

一番上の台には、高さ50cm程の〝何か〟が乗っている。
白い布が掛けられている為、それが何であるかは確認できない。

二段目の台には、〝裁ち鋏〟〝試験管〟〝鳥の羽〟が各2つずつ置いてあった。


その大きな裁ち鋏の柄の部分には、煌びやかな宝飾が為されている。
刃は黄金で出来ており、美しくも威厳のある高貴な輝きを放っていた。
長く鋭い刃先は、肉体に突き立てればナイフの様な凶器にも成り得るだろう。

試験管には緑色をしたゴム製の蓋が付いており、
栓がしてあるけれども、中身は何も入っていない。

飾り物であろうか、鳥の羽は7色の綺麗な虹模様に着色されていた。
特殊な素材が使われているのだろう、それは仄かに発光している。


黒服「それではこれより、洋榎様と真瀬様の〝主張の正当性〟を量らせて頂きます」


恭子(正当性を〝はかる〟ってなんや……?)

由子(どういう事なのかしら……?)


洋榎「…………」


誰がどの様にしてそれを〝はかる〟と言うのか。
皆が疑問に思う中、黒服は徐に白い布を取り去った。


郁乃「むっ!」

由子「っ!?」

恭子「っ!!」

漫  「え……?」

絹恵「な……なに……?」


そこに現れた物は、装飾も無い簡素な作りの〝天秤〟であった。
見掛けは古びた骨董であるが、何やら怪しげな雰囲気を醸し出している。


洋榎「…………っ!」ゾクッ......

漫  (何やアレ……嫌な感じがする……)ゾワゾワ......


ただならぬ気配、常人では感知する事の出来ないオーラ。
あの白い布は、それを閉じ込める為のモノだったのだろうか。
麻雀部レギュラーの内、洋榎と漫だけがそれを肌で感じ取っていた。


洋榎「……それは?」


黒服「これは世界のあらゆるモノを〝量る〟事が出来る異界の神器……」

黒服「〝死者の書〟に描かれている宝具を、我々が再現し具現化した物……」

黒服「古代エジプトにて、冥界の神アヌビスが使用したとされる……」


黒服「〝ラーの天秤〟の複製品(レプリカ)にございます……」ゴゴゴゴゴッ......

書き溜めは全然出来ていませんが再開します。

更新頻度の間隔がどれ位になるかは分かりません。
これからラストまでは不定期更新となります。

一度に更新する量も少ないと思います、すみません。

更新時間もバラバラですが、夜遅くからになる可能性が高いです。


それでは>>802より再開します。

由子「死者の書……ラーの天秤……」

恭子「なんや知ってるんか由子?」

由子「ええ……。聞き齧った程度やけど……」

恭子「あれは一体……」

由子「〝ラーの天秤〟はエジプト神話の中で〝死者の裁判〟に用いられた〝魔具〟よ」


恭子「魔具……?」


由子「いわゆる〝魔法〟と呼ばれる力が込められた道具、人智を超越した逸品……」

由子「なんでも、その天秤は死者の魂が持つ〝罪の重さ〟を量る事が出来るとか……」


恭子「魂を……罪の重さを物理的に量るやと……?」

恭子「そんなオカルトありえん……と言いたい所やけど……」

恭子「うちらの置かれている現状を見れば、一概にそうとも言い切れんな……」


黒服「この天秤による審判は、法と真理と正義を司る女神マアトの意思……」

黒服「我々の手が及ばぬ場所……神聖なる太古の神々の領域……」

黒服「故に、その裁定は〝絶対〟です……」


漫  「けどそれ、複製品なんですよね……。要するに偽物なんでしょ……?」


黒服「複製品と言えど、これに込められた〝力〟は紛れも無く本物……」

黒服「貴女にはそれが分かる筈です……。違いますか? 上重様……」


漫  「……っ」


恭子「…………」


恭子(うちにはただの小汚い天秤にしか見えんけど……)

恭子(漫ちゃんには〝違う何か〟が見えてるんか……?)

恭子(うちには見る事のできん何かが……っ!)ギリッ


洋榎「御託はええ。それより、どないして質量の無い〝正当性〟を量るゆうんや?」


郁乃「イヒヒッ……。私、知ってるで~」

郁乃「それ、人の心臓を秤に掛ける奴やろォ~?」


恭子「人間の……心臓を……!?」

絹恵「そ、そんな……」


由子「私達に……この心臓を差し出せと……?」

洋榎「ご丁寧に鋏まで用意して……それで自分の腹掻っ切れっちゅう事か……」


漫  「そんなん、死んでしまいますやん!」


黒服「…………」

黒服「何か勘違いをされている様ですが……」


黒服「確かに、主張の正当性を量る為には、貴女方の肉体の一部を必要とします」


漫  (肉体の……一部って……)ゾクッ


黒服「しかしながら、それが心臓である必要性はこれと言ってございません……」


由子「それじゃあ……何を……?」


黒服「何でも構わないのですが……そうですね……それでは……」

黒服「洋榎様、真瀬様……。貴女方の御髪を1本、頂戴致します……」


漫  「か……髪……?」


黒服の言葉に安堵し、ホッと胸を撫で下ろす漫。


洋榎「なんや髪の毛1本でええんかい……。拍子抜けやな……」


由子「……っ!」


例え心臓であろうとも、差し出す覚悟が自分にはある。
その揺ぎ無い信念は、由子の中にある恐怖を増長させた。


黒服「……鋏、使いますか?」


洋榎「いらんわっ! そんなもん!」


そう言って、洋榎は勢い良く自らの髪の毛を1本ブチッと引っこ抜いた。
黒服はそれを受け取り、試験管の蓋を外してその中に洋榎の髪を入れた。


郁乃「ほんなら真瀬ちゃんの分は私が~♪」


郁乃はもう一つの試験管を手に取り、由子の元へと駈けて行った。


郁乃「真瀬ちゃ~ん、君の毛髪を1本頂戴するで~」

由子「は、はい……」

郁乃「あっ……! 鋏持ってくるの忘れてもうた……。どないしよ……?」

由子「要りません……」

郁乃「そぉ? ハゲても知らんで~?」

由子「…………」

郁乃「ほんじゃまぁ、髪の毛ちょ~だい!」


由子は言われるままに頭髪を1本抜き、郁乃に手渡した。
郁乃も黒服と同様に由子の髪の毛を試験管の中に入れる。


郁乃「あっりがっとちゃ~ん!」


恭子「…………」

恭子「代行……あんたの企みは全部お見通しやで……っ!」


郁乃「んん~? 企み~?」


恭子「あんたの狙いは、麻雀部員同士を仲間割れさせる事やろっ!」

恭子「惑わせ、煽動し、うちらの仲を引っ掻き回して……」

恭子「仲間同士いがみ合う様がそんなに面白いかっ!」


郁乃「あ~、君さっきも似た様な事ゆうとったねぇ~」


郁乃「……なぁ末原ちゃん、それは君の主張が正しければの話やろ……?」

郁乃「2人の生贄を捧げずとも生還できるんなら、その通りかもしれへんけど……」

郁乃「逆に私の主張が正しいなら、それらは全て〝助言〟とも言えるんちゃう?」


恭子「あんたが由子に抜かした、うちらの対立を煽らんとする文句……」

恭子「あれらも全部含めて〝助言〟やったと……?」


郁乃「せや。私は真瀬ちゃんの為を思って親切心から〝助言〟してあげたんやで~」


恭子「なら……っ! なんであんたは途中で自分の意見を変えたんや!?」

恭子「もし仮に……代行のゆうてる事が正しいとしても……」

恭子「あんたが意見を変えなければ、由子が最下位となる可能性は無かった……!」

恭子「助言なんて回りくどい事せんでも、由子は最初の生贄を回避できたやないか!」


郁乃「うんうん、末原ちゃんの言う通りやで~」

郁乃「けどな、黒服の阿呆が自らの非を認めたっちゅう〝事実〟が問題なんや……」

郁乃「一度それを認めてしもうたら、相応の〝形ある償い〟をせなあかん……」

郁乃「謝罪の言葉なんぞ、幾ら並べた所で何の意味も無いやろ?」


郁乃「それに……」


郁乃「この件に関し、公正公平であるっちゅう私らの面子を保つ必要性もあった……」

郁乃「それは生贄選定に於ける、最も重要な大前提……」

郁乃「決して冒す事の許されぬ〝ルール〟の根幹やからなぁ……」

郁乃「せやから、失態の落とし前を付ける為にも、こうするしか無かったんや……」


恭子「……っ」

恭子(一応筋は通っとる……。けど……この人が言うと……きな臭い……)


郁乃「そんな事より~、末原ちゃんに訊きたい事があるんやけどぉ~……」

郁乃「……君は洋榎ちゃんと真瀬ちゃん、どっちの味方なん?」


恭子「っ!!」

由子「っ!?」

郁乃「末原ちゃんて~、洋榎ちゃんと中学も一緒やし~、一番親しげに見えるやん?」

郁乃「もし、洋榎ちゃんと真瀬ちゃん、どちらか片方しか助けられんとしたら……」

郁乃「君はどっちを助けるんやろなぁ……?」ニタァ......


恭子「…………」


由子(恭子……?)


恭子「……あんたの言う通り、洋榎はうちの一番の親友やけど……」

恭子「だからと言って、由子を切り捨てる様な真似をするつもりは無いっ!」

恭子「由子やて、うちの大切な親友やからな……っ!」


郁乃「クククッ……。真瀬ちゃんと同じ模範的解答やねぇ~」

郁乃「せやけどぉ~、それは質問の答えになってへんで~?」

郁乃「どちらか一方ゆうとるのに、両方とも救いますやなんて……」

郁乃「そんなん、明らかなルール違反やないか。なぁ?」


恭子「……っ」


郁乃「……とゆうても~」

郁乃「真瀬ちゃんを前にして〝洋榎ちゃん助けます〟なんて言えんやろうけど~?」


恭子「くっ……! この……っ!」


郁乃の挑発に憤り、興奮した様子で声を荒げる恭子。
がしかし、それを否定する言葉は恭子の口から出なかった。


由子(…………)

郁乃「まぁ、末原ちゃんの本音も直に分かるやろ……」

郁乃「それと1つ、君にも〝助言〟と言う名の忠告をしておこう……」


〝 必 ず 2 人 の 犠 牲 者 が 出 る 〟


郁乃「君が真瀬ちゃんと洋榎ちゃんの争いに首を突っ込むゆうなら……」

郁乃「間接的とは言え……」

郁乃「君は自らの意思で真瀬ちゃんか洋榎ちゃんを殺す事になるんやで……?」


恭子(うちが……由子や洋榎を……殺す……?)


郁乃「誰の命が大切か……」

郁乃「君も早い内に仲間を天秤に掛けておいた方がええよ……?」


郁乃「って、今回の件で命が掛かっとるんは、絹恵ちゃんの方やったなぁ~」

郁乃「失敬、失敬。殺す事になるんは洋榎ちゃんやなく、絹恵ちゃんやったわ~」


郁乃「けどまぁ、洋榎ちゃんは自分の命よりも絹恵ちゃんの事が大切な様やしぃ?」

郁乃「絹恵ちゃんの命は洋榎ちゃんの命ゆうても過言やないか……」

郁乃「最愛の妹が死んでもうたら、洋榎ちゃんどんな顔するんやろ?」ニマァ......

郁乃「精神的にタフなあの子でも、流石に壊れてしまうんかなぁ~?」ニヤニヤ


恭子「……っ!」


そう言い終えると、、郁乃は由子の傍に近寄り、その耳元で小さく囁いた。


郁乃「末原ちゃんは君より絹恵ちゃんとの付き合いの方が長い……」

郁乃「油断したらあかんで……。気を許せば足を掬われかねんよ……?」


由子「っ!!」


〝真の敵は君のすぐ近くに居るかもしれへん……〟


由子「…………っ」


郁乃「十分に気ぃ付けぇや……」


妖しい笑みを浮かべながら、厭らしく由子を眺めた後、
毛髪の入った試験管を持って、郁乃は2人の元を去って行った。


由子「……っ」

恭子「由子、あいつに何や言われたんか?」


俯き体を震わせる由子を見て、恭子は心配そうに声を掛ける。


由子「……大した事じゃ無いわ。」

恭子「そっか……」

由子「ええ……もう大丈夫よ……」


由子「…………」

皆が見守る中、黒服は虹色の羽を2つの試験管の蓋に1本ずつ挿す。
その後、羽の挿さった試験管を天秤の両皿に1つずつ横にして置いた。


いつの間にか、吹き荒んでいた風は完全に止んでいた。
天秤は微動だにせず、静かにその均衡を保っている。


恭子(2つの試験管に質量の差は見受けられん……)

恭子(これは……2人の主張の正当性が五分ゆう事なんか……?)


誰もがそう思い始めた次の瞬間、試験管にとある異変が起きた。
横になっていた2つの試験管が独りでに起き、ふわっと宙に浮いたのだ。


洋榎「っ!!」

由子「っ!?」

絹恵「っ!!」

漫  「なっ……!」

恭子「これは……っ!?」


同時に、試験管の中に入れられた2人の頭髪が目映ゆく輝き始めた。
洋榎の髪は燃える様な赤い光を、由子の髪は金色の煌きを放っている。

それに呼応するかの様にして、虹色の羽もより輝きを増してゆく。


黒服「それではこれより、審判の儀を始めます……」

黒服「偉大なる女神マアトの名に於いて……」

黒服「洋榎様と真瀬様の主張の正当性を、今、ここに示さん……」


ゆらっ……


次の瞬間、それまで釣り合い静止していた天秤の両皿が、
水面を漂う水草の様に、ゆらゆらと上下に揺らめき始める。


郁乃「始まった様やな……」

郁乃「信仰と崇拝によって生み出されし〝純正〟なる神の非情な裁定が……っ!」

〝より正当性が認められれば、その分だけ『真実の羽』は自らの質量を増す〟


真実の羽……。

それが、あの美しき色彩を纏う羽の正式名称らしい。
両者の髪から精気を吸い上げる様に、光の粒子がその羽に集束してゆく。


洋榎(つまりは、〝重い方〟が神に正しいと認められたゆう事になるんやな……)


揺れる天秤を誰よりも真剣な眼差しで見詰める洋榎。


洋榎「…………っ」


洋榎(憂慮する必要は無い……勝つんはうちや……うちに決まっとる!)

洋榎(運命の流れにただその身を任せて来ただけのお前とは違う……)

洋榎(最後まで生き残る事が出来るんは、受け身の奴なんかやない……)

洋榎(女神が微笑むんは、己の運命を自らの手で掴み取ろうとする者だけや……っ!)


洋榎(頼む……絹の未来を……希望を……絶やさんでくれ……!)


それまで神など信じていなかった洋榎も、今はその神に縋るしかなかった。
やがて天秤の揺らぎは完全に治まり、無慈悲な神の裁定が皆の面前に示された。


黒服「これが女神マアトによる、覆す事の出来ぬ〝絶対的審判〟の結果でございます」


その差は僅かであったが、優劣は誰の目から見ても明確に判断する事が出来た。


黒服「ご覧の通り、真瀬様の主張の方が洋榎様の主張よりも正当性がある様です……」


由子(私が……勝ったの……?)


洋榎「…………っ」

洋榎「嘘や……そんな……ここまで来て……」


失意から洋榎は呆然とした面持ちでその場に崩れ落ちた。
それとは対照的に、由子は心做しか安堵の表情を見せている。

特に自ら何かした訳でも無く、言うなれば洋榎の自滅によって得た勝利。
建前上表立って争う事が出来なかった由子にとっては、最も都合の良い結末。


由子(ううん、喜んでいる場合じゃない……。まだ何も解決していないわ……)

由子(最下位が誰であれ、皆が救われる未来を目指す事に変わりはないんやから……)


自分が優位に立った事で心に余裕が生まれ、精神の安定を取り戻した由子。
深い呼吸を何度も繰り返しながら、落ち着いて状況を再確認する。


由子(私達は……全員で生き残るのよ……っ!)


由子は自身の胸に手を当て、気の緩みを戒めるよう心の中で最終目的を反芻した。


郁乃「イヒヒヒヒッ……」

郁乃「ちょっとちょっと~、お2人さ~ん!」

郁乃「安心するんも、絶望するんも、まだ早いんちゃう~?」


洋榎「っ!!」

由子「っ!?」


郁乃「私は2人が〝直接対決〟する事を条件に全権を放棄したんやぞ?」

郁乃「例え古のお偉い神様の裁定やろうと、それだけでこの勝負が決まる訳無いやん」


郁乃「……せやろ? 黒服……」


黒服「…………」

黒服「……イエス」


由子(終わってない……ですって……?)


心臓の鼓動が急激に早くなり、不安が一気に加速してゆく。
再び心に恐怖が増殖し、持ち直し掛けた由子の精神を侵蝕する。


洋榎(勝負は……続いとるんか……?)

洋榎(希望の糸は……まだ繋がって……!)


洋榎は顔を上げ、黒服に視線を向けた。


黒服「ラーの天秤による、正当性の最終確認……」

黒服「それは、この勝負を〝公平〟に執り行う為の、言わば下準備……」

黒服「闘いの本番は、これからでございます……」


恭子「闘いの……本番……?」

由子「…………っ」

漫  「主将達に……何させる気なんですか……!?」


黒服「…………」


洋榎「黒服……はよ言え……。勝負の方法を……っ!」


黒服「…………」


黒服は無言のまま黄金の鋏を1つ手に取り、それを皆に示しながら言った。


黒服「それでは、皆様にお伝えします……」


黒服「最下位を決める勝負の方法……それは……」



黒服「〝 ゆ び き り 〟 でございます……」ゴゴゴゴゴッ......

洋榎「…………」


由子「ゆ……ゆび……きり……?」

漫  「ゆび……ゆびって……指……?」

絹恵「うそ……やろ……?」


恭子「おい……〝ゆびきり〟ってなんや……なんなんや!?」


黒服「言葉通りの意味でございます、末原様……」


恭子「……っ」


郁乃「イヒッ……イヒヒッ……イヒヒヒヒッ………!」


黒服「ルールは至ってシンプル……」

黒服「この鋏で〝根元から〟指を切り落とすだけ……」

黒服「自身の指をより多く切った方の勝ちでございます……」


恭子「鋏で……指を……切り落とすやと……!?」

漫  「ひぃぃぃ……」

絹恵「なんやそれ……なんやそれ……!」

由子「狂ってる……狂気の沙汰よ……こんなの……っ!」


恭子達の言葉に反応もせず、黒服は淡々と説明を続ける。


黒服「この鋏の刃は切れ味を高める為、特殊な金属でコーティングしてあります」

黒服「至高の切れ味を持たせた、この特別な鋏ならば……」

黒服「指の骨など容易に切断する事が出来るでしょう……」


黒服「とは言え、人間の指を骨ごと切断するには、それなりの力が必要です……」

黒服「痛みで力が入らず、完全に切り落とせない場合もあるかもしれませんが……」

黒服「肉だけ切っても本数にはカウントされませんので、お気を付けください……」


郁乃「怖い怖い、痛い痛いゆうて思い切りが足らんと、大変な事になるで~?」

郁乃「こう、一気に力を入れて、ズバッ!っとやるんが一番楽ちんやからな~♪」


郁乃は右手を〝チョキ〟の形にし、左手の人差し指を切る動作をして見せた。


洋榎「…………」

黒服「それと……もう1つだけ注意点がございます……」

黒服「切断した指の数が両者同じだった場合ですが……」

黒服「その時は〝真瀬様の勝ち〟とさせて頂きます……」


郁乃「ほうほう……。真瀬ちゃんに有利な条件やねぇ……?」


黒服「この優位性は、ラーの天秤が示した結果を考慮しての事……」

黒服「即ち、指1本分が真瀬様に与えられた〝アドバンテージ〟でございます……」


郁乃「なるほどなるほど、そうゆう事かいな……」

郁乃「あの正当性の差が、指1本分に相当するっちゅう事やな?」


黒服「イエス」


由子(開始の時点から……指1本分私が洋榎をリードしている……)

由子(と言う事は、このまま洋榎が指を切らなければ……私の勝ち……?)


郁乃「さてさて、これで〝追う者〟と〝追われる者〟が決まった訳やけど……」

郁乃「指1本の差なんぞ、有って無い様なもんかもしれんなぁ~」

郁乃「見てみぃ、真瀬ちゃん……。洋榎ちゃんのあの気迫……!」


郁乃に言われ、由子は洋榎に視線を向けた。


洋榎「…………」ゴゴゴゴゴッ......


由子「っ!!」


殺気に満ち溢れた目で洋榎もこちらを睨んでいる。
由子は恐怖の余り思わず悲鳴を上げそうになった。


由子(本当に……洋榎なの……?)


それは自分が知っている愛想の良い友人の顔ではなかった。
もう話し合いで済ませられるレベルを完全に超えてしまっている。
こちらが何を言おうとも、洋榎は説得に応じず勝負を挑んで来るだろう。


由子「……っ」


由子(切る……洋榎は絶対に切る……)

由子(躊躇う事無く……自分の指を切り落とす……!)

由子(この勝負、無血による決着は有り得ない……。洋榎はそれを許さない……)

由子(せやったら……私は……どうする……!?)


郁乃「クククッ……おもろなって来たわ~……」

郁乃「果たして真瀬ちゃんは洋榎ちゃんから逃げ切る事が出来るかなぁ~?」ニマァ......

洋榎(指切りか……おもろいやんけ……望む所や……)

洋榎(激痛に耐える我慢比べ……そこに運否天賦の不確定要素は皆無……)

洋榎(痛みへの恐怖さえ克服すれば、100%負ける事は無い……!)


洋榎(この勝負……うちがもろたわ……っ!)


洋榎は徐に左手を口元に当て、人差し指の付け根の肉を噛み切った。
流れ出る赤い鮮血は腕を伝わり、肘から地面にぽたぽたと垂れてゆく。


口内に広がる鉄の味を存分に堪能し、己の精神を狂気の世界へと導く。
それは痛みや恐怖に打ち勝つ事の出来る精神状態への移行であった。


絹恵「お……お姉ちゃん……なにして……」


洋榎「ふふっ……ふふふっ……ふふふふふっ………」


不気味な笑い声を上げながら、黒服に視線を向け洋榎は言った。


洋榎「なぁ黒服……はよ始めようや……」

洋榎「その〝指切り〟とやらを……っ!」


恭子「正気か……!? 洋榎……っ!」


洋榎「…………」


恭子「アホな真似はよせ! こんな馬鹿げた勝負する必要なんか無いでっ!」


洋榎「恭子……ここまで来てうちが引くとでも思っとるんか……?」

洋榎「まして確実に勝てる勝負をむざむざとドブに捨てる阿呆が何処におる?」

洋榎「指程度で絹の命が救えるんなら安いもんや。何本でもくれてやるわ!」


恭子「洋榎……」

由子「……っ」


絹恵「やめてや! お姉ちゃんっ!」

洋榎「絹……?」


絹恵の声に反応し、洋榎は振り返った。


絹恵「私は……お姉ちゃんが傷付く所なんて見たない……っ!」

絹恵「こんなん絶対間違っとる! こんな勝負、私は認めんでっ!」


絹恵は涙を流しながら、泣き叫ぶ様にして洋榎に訴え掛ける。


絹恵「私は……〝恭子ちゃん〟や真瀬先輩の意見に賛成や……」

絹恵「全員が無事に生き延びられる方法を、皆で協力して探すべきやと思う……」


絹恵「最下位なんて……そんなん誰でもええやん……っ!」


洋榎「絹……お前……っ!」


お前の事を一番考えているのはうちなのに……!
姉である自分よりも、恭子や由子の言う事を信じると言うのか?


洋榎「……っ!」


洋榎は絹恵の正面まで歩いて行き、右手を大きく振り上げる。
殴られる、そう直感した絹恵は、歯を噛み締め固く目を瞑った。



ギュッ……



絹恵「っ!? お姉ちゃん……?」


洋榎「…………」

洋榎は何も言わず、ただ絹恵を強く抱き締めた。


伝わってくる絹恵の匂いと温もり、心臓の鼓動……。
確かに今、ここに生きているという、〝生〟の証明。


一度は失われた命が目の前に存在しているという奇跡。
瞳を閉じ、全身で妹の生存を幾度となく確認する洋榎。


洋榎(感じる……絹をここに……間違い無く……絹や……)


自らの命に換えてでも守りたい、守らなければならない唯一の存在。


〝うちはお姉ちゃんやから……〟


洋榎「絹……お前を救うには、もうこうする他に道は無いんや……」

洋榎「お前は何もせんでええから……」

洋榎「うちの事だけを信じて、そのまま大人しくしててくれ……」

洋榎「頼む……」


絹恵「嫌や……お姉ちゃんにそんな痛い事……させたない……っ!」


洋榎の胸に顔を埋め、嘔吐きながら身体を激しく震わせている絹恵。


洋榎「痛ないわ……絹の為なら……」

洋榎「指切る位、余裕のよっちゃんやねん……」


洋榎「そんなんよりな……」

洋榎「うちにとっては、絹が目の前で傷付けられる方がずっとずっと痛いんや……」


洋榎「せやから……お姉ちゃんに守らせてくれ……お前を……」


反論を封じるかの様に、更に強い力で絹恵を抱き締める洋榎。


洋榎「お前は……お前だけは……うちが必ず救って見せるから……っ!」

洋榎と絹恵がそうこうしてる間にも、対決の準備は着々と進められていた。
黒服は黄金の鋏を持って由子達の傍まで来ると、両手でそれを差し出した。


黒服「真瀬様、どうぞ……」


恭子「いらんわ! うちらはお前らのふざけた遊びに興じるつもりは無い!」


一度は勝負を受けると言ったものの、こんな内容では到底承諾する事など出来ない。
恭子は黒服の前に立ち塞がり、右手で大きく一薙ぎする仕草をした。


黒服「……それを決めるのは貴女ではありませんよ? 末原様……」

黒服「この勝負、受けるか否かを判断するのは、真瀬様でございます……」


恭子「く……っ!」

由子「…………」


黒服「それと……誤解を招かぬよう申し上げておきますが……」

黒服「これは決して指切りを強制している訳ではございません……」

黒服「〝切る〟〝切らない〟の決定権は、真瀬様の自由意志にあります……」

黒服「その事に関して、我々は一切干渉しませんのでご安心を……」


由子「……つまり、この指切りを強要する様な真似はしないと……?」


黒服「イエス」


黒服「そもそも、その様な事をする〝理由〟がありません……」

黒服「我々の目的は、貴女方の中から2人の生贄を選出する事ですが……」

黒服「その2人が誰であるかは、我々にとってどうでも良い事なのです……」


黒服「仮に真瀬様がこの勝負を自らの意思で放棄し……」

黒服「その結果、真瀬様が最下位になってしまったとしても……」

黒服「我々は一向に構いませんし、どうこうする事もありません……」


黒服「我々は、我々に与えられた使命を着実に遂行するのみ……」


〝生贄に選ばれた者の処刑をルールに則り速やかに執行する〟

黒服「では、真瀬様……。自らの意思を以って決断してください……」

黒服「貴女はこの鋏の受け取りを〝拒否〟しますか……?」


由子「…………」

由子「……いえ、取り敢えず受け取っておくわ……」


恭子「……っ!」


驚く恭子を後目に、由子は差し出された鋏を受け取った。


ずしりと両手に感じる重厚な金属の重み。
それは見た目よりも遥かに重く扱い辛い。

金鋏はまるで氷の様に冷たく、手の熱を急速に奪ってゆく。
刃に映る自分の姿を見ながら、湧き起こる恐怖に抗う由子。


由子(切るか否かの選択は私の自由……)

由子(今それを決める必要は無い……時間はまだ残されている……)


それは現実逃避に似た思考であったかもしれない。
恐怖から逃れる為、由子は問題を先送りにしたのだ。


恭子「由子……お前はこんな気狂い染みた勝負を受ける気なんか……?」


由子「安心して恭子……。この鋏を使うとは一言も言って無いわ……」

由子「そう……あくまで受け取っただけ……ただそれだけの事よ……」


恭子「そ、そうか……」

恭子(せや……所詮これは時間稼ぎ……勝負の中身は関係無い……)


由子「私やて……こんな勝負、絶対にしたくない……」

由子「洋榎が……洋榎さえ正気に戻ってくれれば……」


恭子「せやな……」


恭子(状況から考えれば、先に指切るんは洋榎……)

恭子(洋榎が指を切り落とす前にどうにかせんと……)

恭子(けど……どないすればええんや……?)

恭子(もう……洋榎の心に……うちらの言葉は届かんゆうに……!)


狂気の渦に飲み込まれ、閉塞感が漂う打つ手無しの絶望的状況……。
恭子はその場でモニターの方へ戻って行く黒服の背中を眺めるしか無かった。

黒服は荷台からもう1つの鋏を手に取り、洋榎達の方へと歩き出す。
その気配を察知したのか、洋榎は絹恵を漫の方へと突き飛ばした。


絹恵「あっ……!」

漫  「絹ちゃんっ!」

漫  「主将っ! 何しはるんですか!」


漫は絹恵を受け止めながら、粗暴な態度の洋榎に文句を言おうとした。


洋榎「…………」


漫  「っ!!」


がしかし、洋榎の険しい表情を見て漫は言葉を失った。
親友との殺し合いをも辞さんとする覚悟を決めた顔付き。


漫  (この人は本気や……本気で指を切るつもりなんや……っ!)


絹恵「嫌やっ! お姉ちゃんっ!」

絹恵「放して漫ちゃん! 放してっ!」


漫  「落ち着いてや絹ちゃんっ!」


漫  (くっ……! 主将の事も心配やけど……)

漫  (このまま絹ちゃんを放っといたら、何しでかすか分からん……っ!)


もう自分にはあの人を宥め制止する事など出来ない……。
漫は洋榎を止める事を諦め、絹恵だけでもと必死に押さえた。


絹恵「嫌や……嫌やぁぁぁぁっっっ!」


漫  (今のうちには……絹ちゃんの暴走を抑える事しか……っ!)


黒服「…………」スタスタ......


洋榎「……先攻はうちやろ? さっさとその鋏、こっちに寄こしや!」


洋榎は黒服の方へ向き直り、右手を差し出して催促する。


が、次の瞬間……


黒服「…………」スッ......


洋榎「っ!?」


無視するかの様に、黒服は洋榎の前をそのまま素通りした。
そして絹恵達の手前まで辿り着くと、そこで歩みを止めた。


黒服「絹恵様、どうぞ……」


そう言って、黒服は黄金の裁ち鋏を絹恵に向かって差し出した。


絹恵「……えっ?」

突然の出来事に面食らい、絹恵の体から力が抜けてゆく。
漫は絹恵から手を放し、動揺した様子で黒服に問い掛ける。


漫  「な……なんで絹ちゃんに鋏を……?」


黒服「何故……? 何故とは……?」

黒服「これを渡す理由など、1つしか無いではありませんか……」


黒服は皆に聞こえる様、大きな声で衝撃の言葉を口にする。


黒服「〝指切り〟を行うのは洋榎様でなく、絹恵様でございます……」


絹恵「わ……私が……指を……?」


漫  「そ、そんな……なんで……」


恭子「指を切るんは……絹恵ちゃん……やと……?」

恭子「一体……どうゆう事なんや……!?」


由子(勝負の相手は洋榎じゃなく……絹恵ちゃん……っ!?)


洋榎「お、おいっ! 何ゆうてん!? 指切るんはうちやで!」

洋榎「これはうちと由子の勝負やないか! 絹は関係無いやろっ!」


黒服「 そ れ は 違 い ま す 洋 榎 様 」


洋榎「っ!?」


黒服「確かに、事の発端が洋榎様の発言という事もあって……」

黒服「あたかも〝 洋榎様 対 真瀬様 〟の様相を呈してしまいましたが……」

黒服「実質的には、〝真瀬様〟と〝絹恵様〟の、互いの生存を賭けた闘いなのです」


黒服「であるならば、当然、指を切るのは当事者の絹恵様であるべきしょう……」


黒服「……違いますか?」


洋榎「くっ……!」

黒服「敗北が自らの死に直結しない洋榎様が勝負に参加する事は〝不適切〟です」

黒服「これは現状況を厳密に生贄選定ルールと照合して導き出された結論であり……」

黒服「誰にも覆す事の出来ぬ、〝最終確定事項〟でございます……」


洋榎「せ、せやけど……っ! お前はうちに〝チャンス〟をくれると……」


黒服「私は既に、貴女に絹恵様を救う〝チャンス〟を差し上げました……」

黒服「それが、〝ラーの天秤〟による〝正当性の検証〟でございます……」


黒服「もし、洋榎様の主張に真瀬様のそれを遥かに凌駕する正当性があったなら……」

黒服「絹恵様は、この勝負をより有利な条件で闘う事が出来たでしょう……」


黒服「実際の所、それとは真逆な結果を招いてしまいましたがね……」


黒服「ですが、これは神の〝公平〟な裁定によるモノですから……」

黒服「例え不利を被ったとしても、貴女はそれを甘んじて受け入れねばなりません」

黒服「そうでなければ、真瀬様の視点から見た時に〝不公平〟となりますから……」


由子(黒服は私の味方ではない……。でも……敵という訳でもない……!)


恭子(どちらにも肩入れはせず、か……。つまり、あいつは完全なる中立……)


黒服「生贄選定に於いて、不当な〝差別〟や〝贔屓〟があってはなりません……」

黒服「今回の様に、洋榎様にチャンスを差し上げる事になった場合でも……」

黒服「我々には、貴女方5人の〝公平性〟を保つ〝義務〟が課されているのです……」


洋榎「……っ」

洋榎(正論……っ! 認めざるを得ない……絹の指切りを……!)

洋榎(ざッけんな……っ! 絹は……絹は傷付けさせん……絶対にや……っ!)


自らの意思とは関係無く、勝手に脚が小刻みに震え始める。
洋榎はそれを必死に押さえながら、ひたすら気丈に振る舞おうとしていた。

洋榎「…………」


洋榎「せやったら……代行との約束はどう説明するんや……?」

洋榎「代行が望んだんは、〝うちと由子〟の〝直接対決〟やぞ……?」

洋榎「あんな天秤の裁定なんぞ、うちらの〝直接対決〟とは言えんやろっ!」


黒服「それは……」

郁乃「あ~洋榎ちゃん、その事なんやけど~」


黒服が何か言い掛けたその時、突然、郁乃が2人の話しに割り込んできた。


郁乃「確かに、言われて見ればその通りやわ~」

郁乃「死に直接関係してない洋榎ちゃんが指切るんはおかしいわなぁ……」


洋榎「なっ……!」


郁乃「それに~、それやと絹恵ちゃんに〝不利益〟が生じるかもしれんしぃ~?」


洋榎「不利益……?」


郁乃「私もな~、黒服の話を聞いてから気付いたんやけどぉ~……」

郁乃「例えば、洋榎ちゃんが真瀬ちゃんに味方して絹恵ちゃんを殺す、とかな……」


洋榎「はぁっ!? うちがそんな事する訳無いやろっ!」


郁乃「洋榎ちゃん、君分かって無いな~。これは〝ルール〟の問題なんや……」

郁乃「私やて君がそないな事をするとは、これっぽっちも思っとらんよ?」

郁乃「けど、このままやと、君が真剣に勝負をすると見せ掛けて……」

郁乃「闘いが始まった直後に裏切り、絹恵ちゃんを生贄にする事も〝可能〟やん?」


郁乃「勝負中の騙し合いなら、それは〝作戦〟の範疇やろうけどぉ~」

郁乃「勝負前のそれは〝不当な手段〟と言わざるを得ないやろ……」


郁乃「なぁ、黒服?」


黒服「イエス。その通りでございます……」


黒服「実際に洋榎様が〝裏切る〟〝裏切らない〟に拘らず……」

黒服「その様な〝危険性〟がある以上、貴女が勝負する事は認められません」


洋榎「……っ」


郁乃「っちゅう訳で~、私は黒服の意見に賛成や」

郁乃「真瀬ちゃんの対戦相手は〝絹恵ちゃん〟でよろしくっ!」


そう言って、郁乃は最後に厭らしい笑みを洋榎に向かって浮かべた。

最後の切り札を失い、いよいよ手詰まりの状態に追い込まれた洋榎。


洋榎(やられた……完全に奴の思惑通り……)

洋榎(うちを絶望させんとする、悪意に満ちた最悪のシナリオ……っ!)


郁乃からすれば、洋榎より絹恵が指を切る方がさぞ面白い事だろう。
最愛の妹である絹恵の苦痛は、洋榎の精神を甚振るのに最も効果的だ。

2人を同時に痛め付ける事が出来るのだから、黒服の話に乗らない手は無い。
ここに来て代行が絹恵を狙うのは、自分をより苦しませる為だと洋榎は考えた。


洋榎(いや……最悪ゆうにはまだ早い……。これで絹の死が確定した訳やない……)

洋榎(代行が言う様に、今はまだ勝負前……。闘いは始まってすらいないんや……)

洋榎(けど、うちの手札はゼロ……。駆け引き出来る材料は何も無い……)

洋榎(こうなったら……もう……切って貰うしかない……)

洋榎(何とかして……絹に……指を……っ!)


由子「…………」


郁乃「イヒヒッ……良かったなァ~、真瀬ちゃん……」

由子「な……何が……?」

郁乃「はははっ! 今更、恍けんでもええやないか……」

郁乃「対戦相手が洋榎ちゃんやなく、絹恵ちゃんになった事に決まっとるやん!」


郁乃は由子に妖しい笑みを向けながら語り出した。


郁乃「実を言うとなぁ……私……」

郁乃「洋榎ちゃん相手ならこの勝負、真瀬ちゃんの負けや思うとったんよ……」

郁乃「なんせ勝負に対する意気込みも、勝ちに拘る執念も、君とは全然ちゃうやろ?」


郁乃「けど絹恵ちゃん相手なら、真瀬ちゃんにもワンチャンあるでっ!」

郁乃「敵は過保護な姉に育てられた、年下の温厚な子羊やからな……」

郁乃「修羅場を経験した事も無い甘ちゃんや。手玉に取るんも簡単やろうて……」

郁乃「優しい言葉を囁けば、洋榎ちゃんと違って君に靡くかもしれへんよ?」


郁乃「せやかて、油断したらあかんでぇ……?」

郁乃「その羊には、狼すら噛み殺す、最も厄介で凶暴な〝番犬〟が付いとるからな」


由子「……っ」


郁乃「そんでもって~……絹恵ちゃん! これは君にとっても朗報やで!」

郁乃「大好きなお姉ちゃんが痛い思いせんで済むんやからなぁ。嬉しいやろ?」


絹恵「……っ!」


郁乃「真瀬ちゃんにとっても、絹恵ちゃんにとっても、互いに良い事尽くめやん」

郁乃「これは所謂〝WIN×WIN〟ゆう奴ちゃうのん!?」


郁乃は両手の人差し指を交差させ、〝×〟の字を作ってそれを皆に見せ付けた。

由子「…………」


事実、それは由子のみならず、恭子にとっても好都合であった。

郁乃の言う通り、対戦相手が絹恵でなく洋榎であったなら、
この指切り勝負、由子が勝つ事は非常に困難だっただろう。

だが、相手が絹恵なら話は変わってくる。
そもそも、彼女はこの勝負に懐疑的だ。

また、由子や恭子の中には、ある1つの確信があった。
それは誰も血を流す事無く、由子が勝利する可能性……。


〝洋榎は絶対に絹恵を傷付けない〟


自らの指を切る事さえ厭わない洋榎でも、
絹恵の指切りを認める事は出来ないだろう。
少なくとも、躊躇いの心情は必ずある筈だ。

その事を上手く利用すれば、指を切らずとも自分が勝者になれる。

そんな狡猾的思考に自己嫌悪しながらも、由子はその可能性を探っていた。
恭子も〝無血決着〟をさせる為に、由子と似た考えを巡らせていたのだ。


黒服「絹恵様……」

黒服「先ほど真瀬様に申し上げたのと同様に、どうなさるかは全て貴女の自由です」

黒服「もし、自らの指を切る意思がおありなら、どうぞこの鋏を受け取ってください」


黒服「ですが、ここで絹恵様がこの鋏の受け取りを拒否するのであれば……」

黒服「我々はそれを試合放棄と見做し、即、真瀬様の勝利とさせて頂きます……」


絹恵「わ、私は……」


差し出された黄金の裁ち鋏を前に、恐怖し動揺する絹恵。
指切りを想像するだけで、体中から嫌な汗が溢れ出てくる。

ゆっくりと右手を鋏の前に翳すも、それに触れ掴む事は出来なかった。
黒服は暫くの間その様子を見続けた後、〝切る意思無し〟と判断をする。


黒服「この勝負、絹恵様の不戦敗により……」


洋榎「絹っ! 切る切らんは後で考えればええ!」

洋榎「今すぐその鋏を受け取れっ! はよっ!」


絹恵「っ!?」


洋榎の叫びに似た声に驚き、絹恵は咄嗟にその鋏を手に取ってしまった。


黒服「…………」


黒服「……それではこれより、〝指切り〟勝負を開始致します」

黒服「制限時間は特に設けていませんが……」

黒服「状況を見て我々が勝敗を判定させて頂きますので……」


冷気を纏った鋏を握り締め、唖然とした表情でその場に立ち尽くす絹恵。
これから起こるであろう惨劇を想像し、全身をガタガタと震わせている。


郁乃「イヒヒッ……。ショータイムの始まりやでぇ~」ニタァ......

暗い色を基調とした不気味な背景のモニター画面に、
可愛らしくデフォルメされた由子と絹恵の顔が映し出された。

その顔の横には、血で描いた様な文字で〝0〟と表示されている。


絹恵「お、お姉ちゃん……」


鋏を持ちながら涙目で洋榎の方を見る絹恵。
洋榎はか細く小さな声で絹恵に向かって呟いた。


洋榎「すまん絹……。それで指……切ってくれんか……?」


由子(そんな……洋榎が……っ)

恭子(絹恵ちゃんに……指を切れと……!?)


絹恵「む、無理やて……そんなん……」


洋榎「頼む……もうそうするしか無いんや……」

洋榎「お前が生き残るには……それしか……」


絹恵「……っ」


恭子「それはちゃうって! 全員が生き残る方法は他にも必ずある筈やからっ!」

恭子「怖いかもしれへんけど、絹恵ちゃんも落ち着いて! 冷静になるんや!」

恭子「大体、指を多く切った方の命が助かるなんて話おかしいやろっ!」

恭子「しかもそれやて、あくまで黒服の〝口約束〟に過ぎん!」


恭子「正当性? 公平? これが? ふッざけんな!」

恭子「あいつらがそないな奇麗事を幾ら並べた所で……」

恭子「最終的にどないするかは、絶対的権限を持つ黒服の気分次第やないか!」

恭子「この勝負に勝てば最初の生贄を回避できる、そんな保証は何処にも無いっ!」


郁乃「末原ちゃん、黒服はなんも嘘なんてゆうとらんよ~?」

恭子「こんなキチガイ染みた勝負を嗾ける奴の言葉なんぞ信用できるかっ!」


恭子「絹恵ちゃんなら分かるやろ? この勝負の無意味さが……」

恭子「奴らの言葉に踊らされたらあかん……。せやからここは……」


洋榎「 黙 れ や 恭 子 っ ! 」


恭子「っ!?」


恭子の言葉を無理矢理に遮った洋榎。
強い口調とは裏腹に、洋榎は涙を流し身体を震わせている。
その表情に怒気は含まれておらず、不安と恐怖に満ちていた。


洋榎「お前は……そんなに絹の事を殺したいんかっ!?」

恭子「そ……そんなつもりは……」


それまでとは全く違う洋榎の様子に動揺を隠せない恭子。
痛々しいその姿を見せられ、反論の言葉も思い浮かばない。

洋榎は絹恵の方に向き直り、近付いて涙ながらに訴える。


洋榎「なぁ絹……お願いやから聞いてくれ……」

洋榎「今までうちがお前を傷付けたり、危険な嘘を吐いた事があったか?」


絹恵は黙ったまま首を大きく横に振った。


洋榎「うちは不真面目なとこもあるし、調子に乗ってやらかした事もある……」

洋榎「喧しい……落ち着きが無い……礼儀正しくもない……」

洋榎「それを絹に注意された事、数え切れない位あったな……」

洋榎「お前にとって、うちは〝理想のお姉ちゃん〟やなかったかもしれへん……」

洋榎「それでも……うちはええお姉ちゃんになろ思て頑張って来たつもりや……」


洋榎「うちはお前を助けたい……ただ純粋に……それだけを考えとる……」

洋榎「指切れゆうんも、絹を傷付け苦しめる為なんかやない……」

洋榎「お前の傷付く姿を見たいなんて……うちが思う訳無いやろ……?」


洋榎「もし許されるなら、お前が受ける全ての苦痛をうちが代わってやりたい……」

洋榎「けど無理なんや……。今はお前が自分の指を切るしか助かる道は無い……っ!」

洋榎「そうする他無いと……うちは知ってんねん…………」


恭子(知ってる……?)


洋榎「〝確信〟があるからこそ……絹にこんなお願いをしとるんや……」

洋榎「今ここで指を切らな、それより残酷な方法でお前は殺されるっ!」

洋榎「せやから……怖いかもしれんけど……指を切ってくれ……っ!」

洋榎「頼む……一度だけでええ……うちのゆう事を信じてや……絹……っ!」


この時、絹恵は生まれて初めて姉の泣いている顔を見た。
それまで洋榎は妹の前で涙を見せる事など一度も無かったのだ。


絹恵「…………」

絹恵「……分かった、お姉ちゃん……」


暫く悩んだ後、絹恵は意を決し小さく頷いた。


絹恵「切ればええんやな……?」

絹恵「指を……」

恭子「冗談……やろ……?」

絹恵「ごめんなさい……恭子ちゃん……」

恭子「なんで……なんでや絹恵ちゃん!」

絹恵「ごめんなさい……」

恭子「そんなん謝らんで……きっちり説明してや……っ!」


狼狽える恭子に向かって、絹恵は優しく語り掛ける様に告げる。


絹恵「お姉ちゃんは……いつも私の事を助けてくれた……」

絹恵「辛い時や悲しい時、気付けばいつも傍に居てくれた……」


絹恵「何があっても……お姉ちゃんはずっと私の味方でいてくれる……」

絹恵「自分が傷付く事さえ恐れず……私の為に行動してくれる……」


絹恵「そんなお姉ちゃんがゆう事やから……私はそれを信じる……!」


絹恵「例え世界中の誰もがお姉ちゃんの事を信じなくても……」

絹恵「私は……私だけは……っ!」

絹恵「最後までお姉ちゃんを信じ続ける……っ!」


恭子「……っ」


洋榎「絹……」


絹恵「恭子ちゃん、真瀬先輩、本当にすみません……」

絹恵「2人とも心から私の事を心配してくれているのに……」


絹恵「でも……」

絹恵「全員が助かる未来を諦めた訳ではありません……」

絹恵「それは〝信じる〟〝信じない〟ではなくて……」

絹恵「〝必ず実現させるべき未来〟やから……」


絹恵「ただ私は今……どうしてもお姉ちゃんを〝安心〟させてあげたいんです……」


由子「…………」

由子は何も言わずに目を瞑り、苦悩の表情を見せている。

洋榎や絹恵の純粋な思いと最下位への恐怖が入り乱れ葛藤し、
自らが取るべき行動や立場を決断する事が出来ずにいた。


由子(私は……私は……)


恭子「……っ」


恭子(洋榎が落ち着けば逆転の勝機が訪れるやもしれん……)

恭子(けど……だからと言って……絹恵ちゃんに指を切らせるんか……?)

恭子(はいそうですかと……簡単に承諾できる訳無いやろ……そんなん……)


恭子(絹恵ちゃんは……うちにとっても〝妹〟同然なんやぞ……っ!)


恭子は深呼吸し、即座に頭のスイッチを切り替えた。
困惑や動揺が何も生み出さない事を彼女は理解している。
それを克服し脱却する方法も、恭子は既に会得していた。


恭子(この場で由子が絹恵ちゃんを説得するんは無理か……)

恭子(何を言った所で、最下位に陥れる為の罠と受け取られる可能性がある……)

恭子(絹恵ちゃんがそう思わなくとも……洋榎が黙っとらんやろうし……)

恭子(今、不安定なあいつを刺激すれば、状況が更に悪化し兼ねん……)


恭子(由子もその事は十分に承知しとるはず……)

恭子(やはりここは勝負の当事者でないうちか漫ちゃんが説き伏せな……)


恭子(……っ!)

恭子(せや、漫ちゃんっ! 漫ちゃんなら、絹恵ちゃんを止められるかもしれへん!)

恭子の視線に気付き察したのか、漫が絹恵に真剣な面持ちで問い掛ける。


漫  「本気……なんやな……? 絹ちゃん……」


絹恵は漫の目を真っ直ぐ見据えながら、ゆっくりと頷いた。


絹恵「漫ちゃんも……私を止めるん……?」


暫く黙り込んだ後、漫を俯き加減に首を横に振った。


漫  「……ううん、うちは絹ちゃんを止める気なんて無い……」


恭子「漫……ちゃん……!?」


漫  「うちは決めたんや……。最後まで絹ちゃんの味方やって……」

漫  「せやからうちは、絹ちゃんの意思を何より優先にしたい……」


漫  「絹ちゃんが……洋榎先輩を信じて指を切ると……」

漫  「そうする事が正しいんやと……心からそう思えるんなら……」

漫  「うちは……ここで絹ちゃんの行為を止めたりはしない……っ!」


恭子「なんで……漫ちゃんも……洋榎のゆう事を信じるんか……?」


漫  「…………」

漫  「……分かりません」


漫  「絹ちゃんを止めた方がええなら……もちろん全力で止めます……」

漫  「せやけど……それが正しいかどうか……うちには分からんのです……」


漫  「末原先輩や真瀬先輩のゆうてる事も正しいと思うし、うちも賛成です……」

漫  「けど……上手く言えないんですけど……凄く嫌な感じがするんです……」


漫  (ここで指を切らな、絹ちゃんに二度と会えん気がする……)

漫  (そんなん……うちは絶対に嫌や……っ!)


普通ならば、親友の指切りなど止めに入るべきなのだろう。
しかし、漫の持つ〝超感覚〟がその行動に待ったを掛ける。

その能力によって、漫は感覚的に洋榎の感情を最も深く理解していた。


恭子(あの時、黒服は言った……。漫ちゃんなら天秤の持つ〝力〟が分かると……)

恭子(あの子にも特別な〝力〟がある……。洋榎の持つそれと似た類いの……)

恭子(絹恵ちゃんを止めんのも、洋榎と同じモノを見て感じているからか……?)


恭子(せやったら……この勝負の結末は……どうなる……!?)

恭子(指切りの果てにある未来……それこそ本当の地獄やないか……っ!)


郁乃「あははははっ! ええやん、ええやん! そうこなくっちゃなァ!」

郁乃「ここまで引っ張っておいて誰も指切らんかったら白けるわ!」


郁乃「さぁ絹恵ちゃんっ! 思い切ってサクッとやっちゃってや~!」

絹恵「ふぅーっ、ふぅーっ……」


左手の小指を刃で軽く挟み、絹恵は何度も深い呼吸を繰り返した。
鋏を握る右手は小刻みに震え、額からは大量の脂汗が滲み頬を伝う。

絹恵の細く綺麗な小指に全員の視線が吸い寄せられた。
覚悟はある様に見えるが、本当に切れるのか……?
その答えが今、皆の面前に示されようとしている。


恭子「ま……待って……絹恵ちゃ……」


漫の予期せぬ言動に焦る気持ちを隠せない恭子。
絹恵に向かって手を伸ばし彼女の名を叫んだ次の瞬間……。


ジョギッ……


屍鬼達の呻き声が轟く中、肉を切り骨を断つ鈍い音が屋上に響いた。
意識を集中していたからだろうか、その音は鮮明に皆の耳に届いた。

切られた指は鮮血と共にスローモーションの様にゆっくりと地面に落ちてゆく。


絹恵「ぐっ…… う゛ぅ゛ぅ゛…… あ゛ぁ゛ぁ゛…… っ っ っ ! 」


想像していたよりも遥かに激しい痛みが絹恵を襲う。
鋏を地面に落とし、絹恵は苦しみ悶えながらその場に蹲った。


由子は言葉を失い、両手を口に当て戦慄しながらその様子を見ていた。
漫は固く目を瞑って耳を塞ぎ、しゃがみ込んでガタガタと震えている。


恭子「あっ……あぁ……夢や……こんなん……夢に決まっとる……」

恭子「覚めて……夢なら……はよ覚めてや……」


ぶつぶつと独り言を呟きながら、恭子は力無く膝を突いた。


洋榎「絹っ!」


洋榎は蹲る絹恵に駆け寄り、ハンカチを取り出して傷口を強く押さえた。


絹恵「う゛ぅ゛ぅ゛っ っ っ …… お゛ね゛え゛ち゛ゃ ん゛……」


絹恵の顔からは血の気が失せ、異様な程に青白くなっていた。
歯を鳴らし、涙を流し、鼻水を垂らしながら激痛に堪えている。


洋榎「絹……よう頑張ったな……えらいで……」


洋榎も涙を零しながら震える絹恵を強く抱き締めた。


由子「…………」カタカタカタ......

由子(絹恵ちゃんが……指を切った……)


指を切るというこの最悪な事態も、可能性の1つとして想定していた。
しかし、それはあくまで〝仮定〟に過ぎず、現実感など皆無であった。

実際に絹恵が指を切り落とす所をその目で見るまでは……。

それまで漠然としていた恐怖が、今や判然と目の前に迫って来ている。


由子(次は……私の番……)

モニターに映し出されている絹恵の画像の横にある数字が0から〝1〟に変わった。


郁乃「イヒヒッ……次は真瀬ちゃんの番やでぇ~?」ニタァ......


由子「……っ!」


破裂しそうな程に激しく鼓動する由子の心臓。
自らの胸に手を当てそれを鎮め様とするも治まらない。
息遣いが乱れ、奇妙な呼吸音を発している。


郁乃「指切りを止めなかったんは絹恵ちゃんに対する同情~?」

郁乃「くくくっ……。甘いなぁ~真瀬ちゃんは……」

郁乃「けどぉ……そんな君でも攻守が逆転して分かったやろ……?」

郁乃「自分が如何に危うい立場に置かれとるかが……」

郁乃「他人に気を遣えるほど君には余裕なんか無いんやで?」


由子「……っ」


郁乃「まっ、そんなんは今更ゆう事やないし、こっちに置いといてぇ……」


郁乃「理由はどうあれ、最終的に絹恵ちゃんは自分で指を切る事を選んだんや……」

郁乃「今度は君が選択する番や……。自らの意思を以ってなぁ……」


郁乃「ここで勝負を終わらせるか、あるいは続けるか……」

郁乃「全ては君次第やからな……?」


由子(私が……選択する……切るか……切らざるか……)


素直に敗北を認めれば、痛みを負う事無くこの戦いは終わる。
だが、その先に待ち受ける未来に果たして希望はあるのか?

ここが自分の〝生〟か〝死〟を決める最終分岐点だとしたら……。


郁乃「せやけどぉ~……」


苦悩する由子に対し、郁乃は意外な言葉を口にする。


郁乃「いずれの選択肢を選んだとて、この勝負はそこで終局やろな」

由子「……?」


郁乃「窮地に立たされとるんは君やない。それは寧ろ絹恵ちゃんの方や……」


そう言って郁乃は泣きじゃくる絹恵を指差した。

想像を絶する痛みからか、絹恵は完全に戦意を喪失している。
今の彼女に2本目の指を切るという意思など毛頭無いだろう。


郁乃「自分で指を切るゆうんは、事故でそれを失うんとは訳が違う……」

郁乃「脳の混乱や意識の喪失で痛みを感じなくなる事も無いからなぁ……」

郁乃「鎮痛剤も麻酔も無いこの状況での指切断がどれ程の苦痛か……」

郁乃「絹恵ちゃんのあの顔を見れば一目瞭然やろ?」


郁乃は振り返り、微笑みながら今度は由子の指を指し示す。


郁乃「その指を1本……切り落とす勇気があれば……」

郁乃「この勝負……確実に君の勝ちやで……?」


由子「…………っ」


郁乃の言う通り、絹恵が指切りを続行する事は不可能に見える。
恐怖を乗り越え指を1本切れば、間違い無く勝者となれるだろう。

だがそれは、指切りがそれだけ大きな苦しみを伴うという事の証左でもある。
あんな絹恵の様子を見せられては、由子の恐怖心も益々増大していくばかりだ。


郁乃「さぁ……どうする……? 真瀬ちゃん……っ!」


由子「うぅ……」


出来る事ならば、こんな勝負から今すぐ逃げ出したい。
可能か否かの話であれば、それは勿論〝可能〟である。

が、由子の脳裏に洋榎の言葉が蘇る。


『自分の指を切るしか助かる道は無い……っ!』

『〝確信〟があるからこそ……絹にこんなお願いをしとるんや……』

『今ここで指を切らな、それより残酷な方法でお前は殺されるっ!』


由子(洋榎は知っている……私達が本来知り得ない核心的な情報を……)

由子(勘よりも具体的で信頼性の高い〝何か〟を以ってそれを感じ取ったのよ……)

由子(でなければ……あの子が絹恵ちゃんに指を切らせる筈が無いわ……っ!)


何があろうと変わる事無く洋榎の中に存在し続ける絹恵への深い愛情。
嘘偽りの無い純粋なその想いは誰の言葉よりも心に響き信用に値する。


〝生き残る為に……私はどうすればいい……?〟


由子「…………」


由子「切らなきゃ……私も……指を切らなきゃ……!」

アドバンテージあるんじゃなかったけ?

>>863
指を切った本数が同じ場合、由子の勝ちとなります。
絹恵が勝つには、由子より1本多く指を切る必要があります。

これが由子の持つアドバンテージです。


現在
絹恵 1本 
由子 0本

恭子「由子……? あんたまで何ゆうて……」


由子「洋榎が……あの洋榎が絹恵ちゃんに指を切らせたのよ……?」

由子「ただの勘や思い込みだけでそないな事させるなんて有り得ない……っ!」

由子「それに……負けたら酷い方法で殺されるって……」


由子は恭子の方へ振り向き、声を震わせ涙ながらに言った。
そして絹恵と同じ様に、恐る恐る左手の小指に鋏を当てる。


由子「切るしかないのよ……。この勝負……引き分けは無いんやから……!」


恭子「っ!?」


その時、恭子はある1つの真実に気が付いた。


恭子(そうか……そうゆう事か……。まんまと嵌められた……っ!)


恭子(天秤を使った洋榎と由子の〝正当性〟を量る勝負……)

恭子(あれは……この指切り対決で差を付ける為だけのもんやない……)

恭子(黒服の本当の狙いは別の所にあったんや……!)


〝引き分け潰し〟


恭子(もしこの勝負に引き分けが存在し、最初の差も無かったなら……)

恭子(絹恵ちゃんが指を切らん可能性やって十分に考えられた……)

恭子(けど……由子に1本分のアドバンテージを与える事によって……)

恭子(〝最初の1本目〟が切られ易くなるよう、心理的に誘導されてたんや……!)


〝ゲームは指を切る前から既に始まっていた〟


恭子(そして、これにはもう一つ……巧妙な罠が隠されとる……)

恭子(仮に黒服が由子に〝指1本〟のアドバンテージを与えていたとしたら……)

恭子(絹恵ちゃんが1本指を切った事により、今は〝引き分け〟の状態やった……)


恭子(せやけど、実際は〝引き分けの時は由子の勝ち〟と言うルール……)

恭子(実質的には指1本の差やけど、その意味する所は全然ちゃう……)


恭子(引き分けが無い故に、2人は勝つまで際限無く指を切り続ける……っ!)


恭子(……とは言え、それは指切りによる苦痛を一切考慮しとらん空理空論……)

恭子(絹恵ちゃんの様子から察するに、2本目を切る事はまず無理やろな……)

恭子(けど洋榎はそれを許さんやろし、代行が何か仕掛けて来るかもしれん……)

恭子(今この場で由子を止めな、またあの鋏で2人が何度も指を切る様な事態に……)


恭子「…………」


恭子(…………鋏?)

郁乃「イヒヒッ……! 真瀬ちゃんも漸くやる気になったみたいやね……」

郁乃「うんうん、それでええ……。それでええんやで~」ニタァ......

郁乃「恐怖と痛みを乗り越えた先にしか君の未来は無いんやからな……」

郁乃「指1本を失う事で輝く未来を掴み取れるんなら安いもんやて……」


由子「……っ」


由子の鋏を握る右手に力が入る。
左手小指の肉に刃が僅かに食い込み、
薄っすらと赤い線が浮き出したその時……。


恭子「待て由子……! 無意味な事をするなっ!」


由子「っ!?」

由子「恭……子……?」


恭子「あるで……全員が〝確実に〟助かる方法……」

恭子「せやから……早まるな……」


由子は鋏を小指から離し、涙目で恭子に視線を向けた。


由子「それ……本当なの……?」

恭子「あぁ……嘘なんかやない……。信じてくれ……」


恭子は静かに立ち上がり、郁乃を睨み付けた。


郁乃「……んん?」

恭子「残念やけど、あんたの思い通りにはさせんから。」

郁乃「……ほぅ。何のつもりか知らんけど、まぁ精々私を楽しませてや~♪」


恭子(うちらはずっと……あんたらの手の平の上で踊らされていた……)

恭子(せやけど、それもここまでや……。うちが全てを終わらせたる……っ!)


恭子は顔を天に向け大きく深呼吸をした後、洋榎に視線を向け言った。


恭子「洋榎……こっちに来てくれ。話がある。」


洋榎「…………」


洋榎は絹恵を抱き締めながら、少しだけ顔を恭子の方へ向けた。
横目で恭子を見るその視線は鋭く、こちらの出方を慎重に窺っている。


恭子「……今、勝負は絹恵ちゃんの方が勝っとる」

恭子「この話し合いで由子が指を切らずに済むなら……」

恭子「それは洋榎にとっても美味しい話やろ。……違うか?」


洋榎と対話をするなら絹恵が優勢な今しかない。
そんな恭子の読みは見事に的中した。

洋榎はゆっくりと立ち上がり、真正面から恭子を見据える。


洋榎「……ええやろ。お前の話……聞くだけ聞いてやるわ……」

洋榎「…………」

由子「…………」

恭子「…………」


絹恵を漫に任せ、恭子達の元へとやって来た洋榎。
由子は少し気まずそうな表情で視線を逸らしている。

重苦しい沈黙が続く中、最初に口を開いたのは洋榎だった。


洋榎「……お前、全員が助かる方法があるゆうたな?」

恭子「あぁ……そうや……」

洋榎「なら……さっさとゆうてみぃ……。その方法とやらを……」


由子は不安げな様子で恭子を見詰めている。


恭子「なぁ洋榎……これは由子とも話した事なんやけど……」

恭子「仮に生贄を回避し、処刑を免れたとして……」

恭子「残りのもんは、一体どうやってこの屋上から脱出するんやろな……?」


洋榎「…………」


恭子「校舎へと続く階段の扉……その向こうには化け物共が犇めいとる……」

恭子「唯一の逃げ道は完全に塞がれ、絶体絶命とも言えるこの状況……」

恭子「にも拘らず……代行達は全く危機感を抱いとらん……」


恭子「それはつまり……」


洋榎「あいつらは既に逃げ道を確保しとる……」

洋榎「脱出の為の手段は、その黒い箱の中にある……」


恭子「ふふっ、御明察の通りや……。流石やね洋榎、飲み込み早くて助かるわ」


洋榎「…………」

洋榎「…………それで?」


恭子「単純な話や……。うちらがそれを……力尽くで奴等から奪い取る……っ!」


由子「ま、待って恭子……! 策も無しにそんなの無茶よ……っ!」

由子「敵は2m近くもある巨漢なのよ!?」

由子「私達が束になっても勝てる相手じゃないわ……っ!」


恭子「あいつとやり合うんは、当然リスクを伴う……」

恭子「せやけど……うちらにも勝算はある……っ!」


恭子は由子が持つ黄金の鋏を指差しながら言った。


恭子「それは鋏やけど、形状的にはナイフの様に扱う事も可能や……」

恭子「さり気無く近付いて至近距離から一気に突きを繰り出せば……」

恭子「黒服と言えど、その攻撃を躱す事は出来んやろ……」

神々しい光を放つ、鋭く尖った鋏の先端部分に3人の視線が集まった。
刃渡り10cmを超えるそれで刺されれば、場所によっては致命傷にも成り得る。


由子「刺す……? この鋏で……?」

恭子「あぁ……。心臓目掛けて一突きや……!」

由子「えっ……!? そないな事したら……死んで……」

恭子「……しゃあないやろ。一撃で致命傷を負わせな、うちらがやられるからな」


恭子の瞳に宿る、人殺しをも辞さんとする固い決意。


恭子「あいつらは……うちらを本気で殺す気なんやで……?」

恭子「なら……! 逆にうちらに殺されても文句は言えん筈や……!」

恭子「あの2人には……ここで死んで貰う……っ!」


由子「2人……? まさか……代行も殺す気なん!?」

恭子「あぁ……勿論や……」

由子「そ、そんなっ! 別に殺さなくてもええやろ!?」

恭子「いや、あの人は危険過ぎる。生かしておけば、何しでかすかも分からん」

由子「だからって……」

恭子「甘いで由子っ! 代行が何をしたか、もう忘れたんか!?」

由子「っ!?」ビクッ


郁乃達には話が聞こえぬ様、ひっそりと会話をしている3人。
その抑えた声量の中にも、底知れぬ怒りの感情が込められていた。


恭子「代行は……善野監督を殺したんやぞ!? しかも笑いながらやっ!」

恭子「そんなん、人に出来る所業やないっ! せやろ、由子っ!」


由子は恭子の迫力に圧倒され首を縦に振った。


恭子「あいつは人間やない……! 人の皮を被った悪魔や……っ!」

恭子「周囲に災厄を振り撒く悪鬼……存在そのものが〝悪〟なんや……っ!」

恭子「ここで代行を確実に仕留めとかな……必ずうちらに災いを齎す……!」

恭子「うちらやて、殺るか殺られるかの崖っぷちに立たされとるんや!」

恭子「躊躇う必要は無いっ! 一瞬でも隙を見せたら、死ぬんはうちらやぞっ!」


洋榎「…………」

洋榎「代行と黒服を殺す……か……」

洋榎「まさか恭子の口からそないな台詞が聞けるとはな……」


恭子「うちも必死なんや。追い詰められれば猫やろうと虎やろうと噛み殺すで……!」


洋榎「……そうか。恭子の考えはよう分かった」

洋榎「せやけど……それは無理や……」


恭子「っ!?」


洋榎「お前の策では……全員が助かる未来を掴み取る事は出来ん……っ!」

恭子「……うちらに奴等を殺す事は無理やと?」

洋榎「…………」

洋榎「……いや、そんな事は思ってへんよ。これっぽっちもな……」

恭子「せやったら……っ! お前がうちの作戦を否定する理由はなんや……!?」


洋榎「…………」


暫く沈黙を保った後、ゆっくりと洋榎は口を開いた。


洋榎「……何故、奴等が〝2人の生贄〟に拘るんか……お前らに分かるか?」

恭子「……?」

洋榎「それはな……用意されて無いからなんや……」

由子「用意……されてない……? 何が……?」


洋榎「これは代行から奪った黒いノートに書いてあった事なんやけど……」

洋榎「ここから脱出する事が出来るんは、最大でも5人までなんやと……」

洋榎「そして今、ここに残っているんは……全部で7人……」

洋榎「せやから、奴等は自分達を除く2人の人間を減らそうとしとるんや……」


恭子「脱出できるんが5人なら、人数的に丁度ええやないか……!」


洋榎「…………」

洋榎「脱出方法は記されて無かったから、これはあくまでうちの想像やけど……」

洋榎「例えば……あの黒い箱の中に〝ヘリ〟が隠されていたとして……」

洋榎「そいつに乗ってここから逃げるんやとしたら……」

洋榎「そのヘリの操縦は誰がするんや……?」


恭子「っ!?」

由子「っ!!」


ヘリコプターによる校舎屋上からの脱出。
現実的に考えて最も可能性が高い脱出方法。


洋榎「ヘリの操縦者は黒服で間違い無い……」

洋榎「奴を殺せば、うちらの脱出手段は完全に失われる……っ!」


恭子「っ……! 黒服は絶対に殺せんゆう事か……っ!」

洋榎「あぁ……。その場合、代行を殺したとしても残り6人……」

洋榎「どう計算しても席が1つ足りないんや……」

由子「そんな……」

洋榎「黒服以外から1人……この場に残る人間を決めなあかん……」


由子「私達の中から1人を……ここへ置いて行く……ですって……?」

恭子「くっ……! 仲間を置き去りになんて……出来る訳無いやろ……っ!」


洋榎「けど1人が犠牲になる事で、残りの4人は確実に助かるんや……」

洋榎「せやから……うちが最後までここに残る……っ!」

由子「洋榎……?」

恭子「なっ……! 何ゆうてんねんアホっ!」

恭子「こんな地獄にお前1人を置いて行ける訳無いやろっ!」


洋榎「…………」

洋榎「うちはお前らと考え方が根本的に違うねん……」

洋榎「絹が……絹さえ生き残ってくれれば……後はどうなっても構わへん……」

洋榎「絹の為なら……この命さえも惜しくはない……っ!」


恭子「けど……っ!」


洋榎「例えこの指切り勝負に勝ったとしても……」

洋榎「生贄は2人やからな……。絹の命の保証は無い……」

洋榎「せやけど代行を殺し、うちがこの場に残れば絹は確実に助かる……!」

洋榎「これはうちにとっても二度と無い最大級のチャンスなんやっ!」


恭子「……っ」


洋榎「それとな……さっきは1人が犠牲になるゆうたけど……」

洋榎「うちやて、大人しく化け物共の餌になるつもりなんか無い……!」

洋榎「必ず奴らを振り切って、この地獄から生還してみせる……っ!」


恭子「……本当にお前はそれでええんか?」

洋榎「あぁ……。これが最善策やと、うちは信じてるからな……」


恭子「そうか……。なら……もうお前を止めん……」

恭子「その代わり、うちもお前と一緒にここに残る……っ!」


由子「……っ!」

洋榎「…………」


洋榎「恭子……お前がここに残る必要は……」

恭子「うちは残る。これはうちの意思や。お前には関係無い。」

由子(恭子……)


恭子(洋榎……お前に絶対譲れないモノがあるように……)

恭子(うちにだって譲れないモノがあるんや……っ!)

恭子(お前に何を言われようと……この意志だけは貫き通す……!)

恭子(例えこの身を危険に曝そうとも、うちは最後までお前の傍に……)


真剣な眼差しで洋榎を見詰める恭子。


洋榎「…………」

洋榎「……恭子、分かってない様やからハッキリ言わせて貰うわ……」

洋榎「お前は 足 手 纏 い やから来るなゆうとるんや……」


恭子「っ!?」

洋榎「うちは自分1人なら奴らの包囲網を突破する自信がある……!」

洋榎「けどお前が居ったら……うちは思うように動けんのや……」


恭子「う、うちの事は気にせんでええからっ! どんどん先に行って構わんて!」

恭子「こっちはお前の後を勝手に付いてくだけや……! 絶対に迷惑は掛けん!」


洋榎「……そうゆう問題やない。お前が居るだけでこっちは迷惑するんや……」

洋榎「いくら気にせんでええゆうても、何かあればそっちに意識を持ってかれる」

洋榎「その一瞬の遅れが致命的な判断ミスに繋がったりする事もあるんやぞ……?」

洋榎「せやからもう一度言う。お前は足手纏いやから、うちは1人でここに残る」


恭子「……っ」


恭子は拳を握り、唇を強く噛みながら俯いた。

何を言われても洋榎と共に残るつもりだった恭子。
しかしそれが彼女の足を引っ張る事になるのなら、
洋榎の制止を無視して付いて行く訳にはいかない。


恭子(そんなん最初から分かっとる……。うちじゃ洋榎のお荷物やて……)


知力面では洋榎より優れている恭子も、体力面では彼女に遠く及ばない。
屍鬼達から逃げ切るには、知力より体力と勘が重要となる事を恭子も理解している。


恭子(それでも……っ! 洋榎を置き去りにして自分だけ逃げるやなんて……)


洋榎「恭子……。うちがいない間、お前には絹の事を頼みたい……」

洋榎「絹は寂しがり屋やし、お前の事を姉の様に慕っとるからな……」

洋榎「もし、お前が絹の事を守ってくれるなら……」

洋榎「うちは安心して自分の事だけに集中できるんや……」

洋榎「だから……頼む……」


恭子「…………っ」

恭子(絹恵ちゃんを守り洋榎の不安を取り除く……)

恭子(悔しいけど……今うちが洋榎にしてやれる事はそれしか無い……)


恭子「……分かった。絹恵ちゃんの事はうちに任せとき……っ!」


洋榎「ありがとな……恭子……」


恭子の手をしっかりと握り、笑みを浮かべ感謝の言葉を口にする洋榎。
その優しい洋榎の笑顔に、恭子は自らの心が満たされていくのを感じた。


恭子「必ず生きて帰って来てや……。絹恵ちゃんの為にも……!」


恭子の言葉に洋榎は小さく頷いた。


郁乃「なぁなぁ、なぁ~にコソコソ3人で話しとる~ん?」

郁乃「いくのんも君らの話に混ぜてや~」

恭子「うっさいババァ!」

郁乃「末原ちゃんひどっ! いくのんのガラスのハートは粉々やでぇ……」ションボリ

由子(私達が殺す……代行を……人間を……)


2人の会話に入れず、聞き役に徹していた由子。

生き残る為には、敵である代行を排除しなければならない。
彼女は冷酷かつ残忍な〝悪魔〟であり、同情の余地も無い。

とは言え、能動的に人殺しを行う事には抵抗があった。
自身の中にある倫理観が由子に疑問を投げ掛けてくる。


〝本当にそれで良いの?〟


そんな由子の心の迷いなどお構い無しに、
洋榎と恭子は〝郁乃殺し〟を前提に話を進めていた。


恭子「断罪の時は来た……。あの悪魔に……裁きの鉄槌を下すんや……っ!」


恭子は幾度と無く代行の事を〝悪魔〟と称し、怒りの言葉を放った。

恭子の中にも、人を殺める事に対する罪の意識があったのだろう。
相手を諸悪の根源と断定し、人ではなく悪魔と決め付ける事で、
無意識の内にその罪から逃れようとしていたのかもしれない。

あるいは、これから行う〝人殺し〟を完遂する為に、
鼓舞するが如く自らに暗示を掛けていたのだろうか。


由子(私に代案は無い……。故にこの計画を否定する権利も無い……)


由子「ねぇ……2人の話は分かったけれど……」

由子「それじゃあ……誰が代行を殺すの……?」


恭子「……っ」

洋榎「…………」


計画の核心を衝く由子の一言に、恭子は顔を曇らせ斜め下を向いた。
洋榎は無表情のまま空を仰ぎ、小さな声で何か独り言を呟いている。


恭子「それは……」


親友に郁乃の殺害を教唆する事に後ろめたさはあったが、
恭子は口籠もりながらも、洋榎の名を言おうとしていた。

3人の中で身体能力が最も優れているのは洋榎であるし、勘も鋭く度胸もある。
郁乃殺しの実行者は洋榎が適任である事は、誰もが満場一致で認める所だろう。

先ほど洋榎に〝足手纏い〟と誹謗された影響も無い訳ではない。
汚れ役を買って出たい気持ちはあるが、大局を見誤ってはならない。
今は確実に郁乃を仕留める事が重要であり、それこそが最優先事項なのだ。


恭子「それは……ひろ……」


洋榎「 由 子 や 。」


恭子「っ!?」

由子「っ!!」


洋榎「代行を殺すんは……由子や……」

恭子(由子に……代行を……?)


洋榎の口から出た意外な名前に、恭子は違和感を覚えた。
彼女の性格からして、自ら実行役を名乗り出てもおかしくない。

ところが、一番乗り気で無く、運動能力も低い由子を洋榎は指名したのだ。


由子「わ、私が……!?」

洋榎「せや……。お前が一番〝適任〟やからな……」


全身をガタガタと震わせる由子に向かって、洋榎はそう言い切った。


由子「な、なんで……私なの……!?」


洋榎「あいつらが最も危険視してるんは、間違い無くうちやろ……」

洋榎「次に、代行に対して敵意を剥き出しにした恭子……」

洋榎「うちらが妙な動きを見せれば、あいつらは警戒心を強める……」


洋榎「その点、由子なら特に警戒されずに近付く事が可能や……」

洋榎「この勝負の放棄を宣言し、鋏を返す事を口実に代行に近付いて……」

洋榎「十分に距離を詰めた所で……奴の胸にその刃を突き立てればええ……」


由子「む、無理よ……! 私には……」

洋榎「……自分の手を汚す様な真似は出来んと?」

由子「ち、違うっ! 違うのっ! そうじゃないわ……!」


由子は必死に首を横に振り、洋榎の言葉を否定する。


由子「私は怖い……怖いの……人を殺す事が……」

由子「手も……足も……さっきから震えが止まらないのよ……!」

由子「こんな状態じゃ……絶対に失敗する……! 私は代行を殺せない……!」

由子「自分だけ罪を逃れたくて言ってるんじゃないのよ……!」

由子「お願い……信じて……っ!」


洋榎「……どうしてもやれんと?」


洋榎の問い掛けに、由子は目を瞑って何度も首を縦に振った。


洋榎「そうか……。由子が出来んゆうなら……しゃあないな……」

洋榎「危険性は格段に増すやろうけど……うちがやるしか無いか……」


由子「洋榎……」


洋榎「安心せい由子……」

洋榎「お前の代わりに全部うちがやるから……」

洋榎「うちが全てを終わらせるから……」


そう言って、洋榎は由子に向かってゆっくりと右手を差し出した。


洋榎「その鋏……うちに貸してくれんか……?」

由子「…………っ」

洋榎「由子……」


由子「ごめんなさい……洋榎……」

由子「あんたにばかり……辛い事を押し付けて……」


由子は煩悶した様子を見せた後、涙ながらに消え入る様な声で洋榎に謝罪した。


洋榎「…………」


洋榎「……気にすんな。これでええんや……」

洋榎「今更こないな事ゆうんもアレやけど……」

洋榎「うちが手を汚す事でお前らの命が救われるんなら本望やて……」


洋榎「お前にも……散々酷い事ゆうたから……」

洋榎「罪滅ぼし……させてくれや……」


目を細めながら洋榎は由子に優しく語り掛ける。


洋榎「それに……善野監督の仇をこの手で討ちたい思っとったんや……」

洋榎「これは純粋なうちの意思……。お前が責任を感じたり、気に病む事は無い……」


由子「洋榎……都合の良い自分勝手な話やけど……」

由子「私は……あんたに運命の全てを託すわ……!」


洋榎「あぁ……。任せとけ……」


由子が洋榎に向かってその美しい黄金の鋏を差し出す。
洋榎がそれを受け取ろうとして鋏を掴んだその時……。


ジュンッ……


洋榎「あ゛っ……! んぐ……っ!?」


鋏に触れた瞬間、洋榎の右手に激痛が走る。
洋榎は苦痛に顔を歪め、思わず鋏を地面に落とした。


恭子「洋榎っ!?」

由子「どうしたん!? 洋榎っ!!」


洋榎は左手で右手首を掴み、自身の右手の平に視線を向けた。
鋏に触れた部分が赤く腫れ、ズキズキとした強い痛みを感じる。


洋榎「…………っ!」


これは一体何なのだ?何が起こった!?

洋榎は驚愕した表情で黒服の方を見た。
その視線の意図を汲み取り、黒服が口を開く。


黒服「現在、その鋏の〝所有権〟は真瀬様と絹恵様だけに認められており……」

黒服「それ以外の者が触れる事は出来ぬ様になっております……」

洋榎「なんやと……?」


黒服「これは2人の〝指を切る権利〟を尊重し、保障する為の措置でございます……」

黒服「第三者が不当な手段で鋏を奪い、指切りを妨害する可能性もありますから……」


由子「不当な手段て……! 私は私の意思で自分から洋榎に鋏を渡したのよ!?」


黒服「鋏の所有権を他者に移譲する事は認められていません」

黒服「その様な事をする必要も無いと思いますが……」

黒服「それとも、洋榎様に鋏を渡さなければならない理由があるのですか?」


由子「くっ……!」


郁乃「はははっ、真瀬ちゃんはお人好しっちゅうか、もうアホやな!」


その言葉に由子は腹を立て、郁乃をキッと睨み付けた。


郁乃「何のつもりかは知らんけどぉ~……」

郁乃「よりにもよって、最も警戒すべき洋榎ちゃんに鋏を渡そうとするとは……」

郁乃「そんなん、自分を殺そうとしてる相手に鉄砲渡す様なもんやで~?」


由子(代行……あんたの言葉なんかに……私はもう惑わされない……っ!)


郁乃「しっかし、洋榎ちゃんも惜しかったなぁ~?」

郁乃「せっかく真瀬ちゃんの手から鋏を取り上げられる所やったのに……」


郁乃(まぁそんな事は想定内やし、あんな鋏いくらでも用意できるんやけどな……)


郁乃「鋏を失う事は、それ即ち指を切る手段を失うという事……」

郁乃「絹恵ちゃんが優勢な今、その鋏を奪えば必勝やったのに……」

郁乃「常人が己の指を噛み切るなんて荒業は不可能やからなァ! あははははっ!」


郁乃「ちなみに~、暴力で鋏を無理矢理奪うんは、当然御法度やで~?」

郁乃「そんな事したらぁ~……この勝負、絹恵ちゃんの反則負けにするからな?」

郁乃「それでええやろ? 黒服……」


黒服は郁乃に視線を向け、大きく一度頷いた。


黒服「本来、勝負に無関係な洋榎様の行動を以って、そう言った判断を下す事は……」

黒服「我々も誠に遺憾ではありますが、〝不正行為〟を事前に防ぐ為に……」

黒服「今回は赤阪様のその提案を受け入れさせて頂く所存でございます……」


黒服「それと、洋榎様がその鋏を〝廃棄〟する様な真似も禁止させて頂きます」

黒服「ですから、地面の鋏を〝蹴り飛ばす〟などという事も決して為さらぬよう……」


洋榎「…………っ」


郁乃「ククククッ……」

郁乃「っちゅう訳で、残念やったなぁ~……」

郁乃「あくまで勝負の決着は真瀬ちゃんと絹恵ちゃんの2人で付けな……」

郁乃「〝部外者〟である君が直接手ぇ出す様な真似したらあかんて……」

郁乃「せやろ? 洋榎ちゃん……」


洋榎「…………」


洋榎は屈み込み、俯いて地面に落ちた鋏をじっと見詰めている。


由子「…………」


由子(洋榎も恭子も……この鋏を武器として使う事は出来ない……)

由子(こうなったら……やるしかない……私が……この手で……っ!)


由子「洋榎……」


由子「っ!?」


洋榎に声を掛け様とした次の瞬間、由子は偶然にもそれを見た。
地面に落ちた鋏、その輝く黄金の刃に反射して映る洋榎の顔を。

眉間に皺を寄せ歯を噛み締めるその表情は、まさに〝鬼〟の形相であった。
悍ましい程の敵意と殺意に満ち溢れたその視線は、一体誰に向けられている?

郁乃か……黒服か……あるいは……。


洋榎「どうした……由子……?」

由子「えっ……?」ビクッ


そう言って由子を見上げる洋榎の顔色には、一切の怒気が含まれていなかった。
だが、よく見るとその顔は余りにも無機質で、全ての感情を読み取る事が出来ない。

こんなにも短い時間の中で、そこまで表情が一変して変わるものなのだろうか。
その怒りが郁乃達に向けられたモノならば、敢えてその感情を隠す必要も無いだろう。


由子「な、なんでもないわ……」


洋榎の不可解な態度を考えれば考えるほど、不気味さが浮かび上がる。
由子は心の奥底から込み上げてくる恐怖を堪え、必死に平静を装った。


洋榎「……そうか。」


恭子「大丈夫か!? 洋榎っ!」

洋榎「あぁ……大した事は無い……。ちーとばかし驚いただけや……」

恭子「その右手……火傷しとるやないか……!」

洋榎「平気やて……。この程度、舐めれば直るわ……」


洋榎は自らの右手の平を舐めながら、横目で由子に視線を向けている。
その視線は鋭く、まるで由子の動向を注意深く観察しているかの様だ。


洋榎「…………」


由子(洋榎が……私を見ている……)


由子は少し横を向き、洋榎の視線に気付かぬ振りをした。

このスレで終わるのか…?

恭子「この鋏にそないな仕掛けが施されていたとはな……」


恭子(派手なだけの玩具やない……。これもあの天秤と似た類いの奴か……?)

恭子(それとも神の力で……? いずれにせよ、そんなん考慮できるか……!)

恭子(予想の遥か上を超えてくる敵に、うちらが立ち向かう術は……)


洋榎「うちにも恭子にも、この鋏は扱えんみたいやな……」

洋榎「となれば……消去法的に〝代行殺し〟は由子がやるしかないが……」


洋榎「……出来るか? お前に……」


ゆっくりと立ち上がり、由子を直視したまま洋榎が問う。


由子「…………」

由子「〝やる〟しか無いんでしょ……? 私達に残された選択肢は……」


洋榎「…………」

洋榎「……せやな、その通りや。」


洋榎「方法は……さっきもゆうたけど……」


由子「この勝負の放棄を宣言し、鋏を返す振りをして近付き襲い掛かる……」

由子「……それで良いのよね?」


洋榎は視線を逸らす事も無く、真っ直ぐ由子を見詰めたまま、そうやと頷いた。


由子「ねぇ、洋榎……」


由子は鋏を拾い上げ、その刃を眺めながら今度は洋榎に問い返す。


由子「その〝この勝負の放棄を宣言する〟ゆう部分て、本当に必要なのかしら……?」


洋榎「…………」

洋榎「……あぁ。」


一瞬の間はあったものの、洋榎の表情や声に特に不自然な変化は無い。


由子「その理由を……聞かせて貰いたいんやけど……」


洋榎「…………」

洋榎「……全ては奴らの油断を誘う為や。」


洋榎「さっきゆうた通り、あいつらはうちを一番警戒しとるはず……」

洋榎「けどそれは〝絹がこの勝負に敗北する可能性がある〟場合に限った話や……」


恭子「なるほど……。絹恵ちゃんの勝ちが確定すれば……」

恭子「洋榎が暴れる可能性は無いと……奴らはそう考える……」

恭子「由子も自ら敗北を認めた訳やから、自分達に歯向かって来る筈が無い……」


洋榎「そうゆう事や……。この方法なら……必ず奴らの裏を掻ける……っ!」

由子「正論ね……。反論の余地も無いわ……」

洋榎「納得して貰えたんか……?」

由子「ええ……そうね………」

洋榎「そんなら早速……」


由子「その前に1つ……」

由子「洋榎に確認しておきたい事があるわ……」


洋榎「……なんや?」


由子「私が代行を殺す事さえ出来れば……」

由子「最下位が〝絹恵ちゃん〟でも構わないわよね……?」


洋榎「…………」

恭子「なっ……! お前まさか……指を切るつもりなんか!?」


由子「分からない……私にも分からないわ……っ!」

由子「だって……代行や黒服はともかく、洋榎さえも……」

由子「私が信じる未来を、これまで否定し続けて来たから……っ!」


由子は吐き捨てる様に心の内を洋榎と恭子にぶち撒けた。


由子「洋榎の説明に納得はした……。この計画を否定するつもりも無い……」

由子「せやけど……どうしても引っ掛かる部分があるの……!」

由子「私はそれを取り除き……心の底から洋榎の事を信じたいのよ……っ!」


洋榎「…………」


由子「お願い……。誰が最下位であっても構わないと……私に誓って……!」

由子「私も……何があろうと、必ずこの手で代行を討つと約束するから……っ!」


真正面から向き合い、目と目を合わせ微動だにしない2人。
由子は洋榎の真意を探るべく、その瞳の奥へを入り込んでゆく。


洋榎「……代行の息の根を止める事が出来れば、その時点でうちらの勝ちや……」

洋榎「投票の順位なんて、そんなもん関係無い……」


由子「信じていいのね……? 今の言葉を……私は信じていいのよね……?」

洋榎「勿論や……。せやから……由子の〝覚悟〟もうちらに見せてくれや……」

由子「ええ……。みんなの為に……私はやる……やって見せるわ……っ!」


由子は鋏をギュッと握り締め、自らの決意を洋榎と恭子の前で誓った。


恭子(恐怖を乗り越えて……由子の瞳から迷いの気配が完全に消えた……)


緊張から恭子の脚は痙攣し、心臓は爆発音を奏でる。


恭子(落ち着かんかい阿呆が……。そんなに怯えてどないするっ!)

恭子(由子が手間取った時は……うちが黒服の奴を1秒でも多く足止めするんや!)

>>888
確実に1スレでは終わりません。
実は>>654の時点で既にその可能性が高いと考えていました。

これまでのペースでは完結までに数ヶ月掛かると判断し、
死に物狂いでスピードアップを図っている所であります。

それでも他の方に比べれば全然進みは遅いですが……。

このシリーズは短編にするつもりで書いていたのですが、
2スレ目に突入とか完全に予定外の展開となっております。

なんもかんも安価が悪い(責任転嫁)

郁乃「ふぁ~あ……んん?」


待ちくたびれた様子で、大きく欠伸をする郁乃。
そんな中、洋榎は1人恭子達の元を離れ、絹恵の方へと戻ってゆく。


郁乃「なんや、秘密の相談はお終ったんか~?」


洋榎「あぁ……。ついでに、この茶番も終いにしようや……」


絹恵「お姉ちゃん……?」

洋榎「絹……勝負は終わりや。これ以上指を切る必要は無いで……」


洋榎は皆に聞こえる様、大声でそう宣言した。


絹恵「ホンマに……?」

洋榎「ホンマや……」

絹恵「うっ……うぅ……」


漫はさり気無く絹恵から離れ距離を取った。
洋榎は泣き出す妹を優しく抱き締め頭を撫でる。


洋榎「ごめんな……怖かったやろ……痛かったやろ……」

絹恵「うぅぅ……お姉ちゃん……うあぁぁぁああっっっ……」

洋榎「もう痛い思いはさせへんからな……」


漫  (末原先輩達と話が付いたんやろか……? 良かったな……絹ちゃん……)


抱き合う洋榎と絹恵を見て、漫の瞳からも涙が溢れ出していた。


恭子(やっと帰って来たんやな……うちらの洋榎が……っ!)

恭子(後は由子次第……うちらも全力でサポートを……)


希望を胸に由子の方へと振り返った恭子。


恭子「…………」

恭子「……えっ?」


郁乃「ふんふ~ん。そんで~? 絹恵ちゃんはもう指切らんのん?」


絹恵は洋榎に抱き付いたまま、何度も首を縦に振った。


郁乃「まぁ、普通の女子高生なら指1本で音を上げるんも無理ないわなぁ……」

郁乃「そんじゃ、指切り勝負はこの辺でお開きとしますかぁ~」



郁乃「この勝負、真瀬ちゃんの勝ちゆう事で~」



洋榎「…………」


言葉を発する事も無く、黙り込んだまま絹恵と抱き合っている洋榎。
だが、その顔が激しい憎悪に歪んでいる事に気付く者は、まだ誰もいなかった。

=======
愛宕 絹恵:1
真瀬 由子:1
=======


由子「くっ……んぐぐっ……」

恭子「由子……お前……何してん……っ!?」


驚き慌てふためく恭子の耳には、郁乃の言葉など届いていなかった。
由子は俯き加減に脚を震わせながら、ハンカチで自身の左手を押さえている。
その足元には、ネイルアートが施された可愛らしい小指が1本落ちていた。

恭子は青褪めた顔をしている由子に駆け寄り、彼女の左手に視線を向けた。
傷口からの出血が激しく、ハンカチは既に大部分が血の色に染まっている。


恭子「なぜ今指を切った!? 洋榎のゆう事が信じられなかったんか!?」


恭子の言葉に、由子は首を横に振る。


由子「いいえ……違うわ……」

恭子「なら……どうして……」

由子「これは……私にとって〝覚悟の証〟なのよ……」

恭子「覚悟の……証……?」

由子「ええ……そうよ……」


低く力の籠もった声を振り絞りながら、由子は言葉を続ける。


由子「この痛みが……血の赤が……私を狂気へと……誘ってくれる……」

由子「今の私なら……人でさえ……躊躇い無く……殺せるわ……っ!」


恭子(その痛みを以ってして、〝人〟の感情を麻痺させようゆうんか……!?)


由子「大丈夫よ……安心して頂戴……。約束は必ず守るわ……」


そう言って恭子を見る由子の瞳の奥には、燃え猛る狂気の炎が宿っていた。


洋榎「そうか……由子は……指を切ったんやな……」

洋榎「お前は切らん思っとったのに……完全に想定外やわ……」

絹恵「おねえ……ちゃん……?」


抱き締めていた腕を外し、洋榎は肩を押して絹恵を自分から遠ざけた。


郁乃「勝負は君らの負けや……。いひひっ、絹恵ちゃんには生贄になって貰うでぇ~」


洋榎「いらん事をピーチクパーチク囀りおって……」

郁乃「……ん?」

洋榎「ゴミの分際で喧しいんじゃボケがッ!」ゴッ

郁乃「ぬぉっ!?」ビュォッ......


突然、前触れも無く強烈なつむじ風が発生し、郁乃達を包み込んだ。
それは気紛れな嵐の様に数秒で屋上を駆け抜け、再び無風状態が訪れた。


洋榎「何の権限も持っとらんお前が、勝手に場を仕切んなや……」

郁乃(一瞬やけど大気が震えよった……。なんちゅう殺気を放っとんやコイツ……)

郁乃(それに呼応するかの様に、洋榎ちゃんのエントロピーが爆発的に増大した……)

郁乃(まさに運命と言う名の絶対的秩序すら破壊せんとする勢いやないか……っ!)


恭子(洋榎……?)


洋榎「……なんでお前が勝手に勝敗を決めとるん? 調子に乗んな屑が……」

郁乃「うえぇぇっ……? せやかて絹恵ちゃん、もう指切らんて……」

郁乃「なぁ黒服? 絹恵ちゃんも頷いとったやんなぁ?」


黒服「…………」


黒服は何も言わず、その場から微動だにしない。


洋榎「……代行、お前は権限の全てを放棄したんやろ?」

洋榎「せやったら口出しせず、黙って大人しくそこで見てろや」


郁乃「ぐむぅっ……!」


洋榎に正論を以って威圧され、郁乃は渋々と口を噤んだ。


郁乃「おぃ、黒服! なんでお前は何も言わんのや?」


郁乃は黒服を肘でつつきながら小声で囁いた。
黒服は隣にいる郁乃を見下ろし徐に口を開く。


黒服「絹恵様の敗北を宣言するには時期尚早かと……」

郁乃「なんやと……? まだ勝負は付いてないゆう事か?」

黒服「イエス」

郁乃「なんでやねん、絹恵ちゃんは自分の負けを認めたんやぞ?」

黒服「いえ、彼女は錯乱しており、反射的に貴女の問いに頷いてしまっただけです」

黒服「その様な状態での敗北表明は、適正な権利保護という観点から認められません」


郁乃「…………」


郁乃(絡み付く災禍の気運……。〝死〟は間違い無く絹恵ちゃんを欲しとる……)

郁乃(普通人間は〝死〟に魅入られたが最後、逃れる術など無い……)

郁乃(……が、もし絹恵ちゃんの〝死の因果〟を人の力で断ち切るゆうなら……)

郁乃(それは神の領域をも侵害する、許されざる冒涜行為、正しく神をも恐れぬ所業)

郁乃(世界の神々を敵に回して、自らが望む通りに運命を制御する事は可能か……)

郁乃(荒唐無稽な話やけど、それはそれで実に興味深い……)ユラッ......


知らず知らずの内に郁乃自身も洋榎の〝引力〟に巻き込まれていた。
運命に抗おうとする洋榎が、皆を混沌の渦へと引き摺り込んでいく。


洋榎「……絹、指。」

絹恵「えっ……?」


洋榎「2本目……いってみよか……」

恭子「っ!?」

由子「…………」


漫  「はっ……?」

絹恵「い、いま……なんて……」


洋榎「2本目の指を切れゆうたんや……」

絹恵「そ、そんな……お姉ちゃん……」


絹恵は唖然とした顔で数歩ほど後退りした。


漫  「ちょっと待ってくださいよ! 勝負は終わりゆうたやないですか!」

漫  「それに……もう痛い思いはさせへんて……絹ちゃんに約束したのに……!」


洋榎「うちやて心からそうしたい思っとったんやけど……」

洋榎「ここに来て由子の奴が指を切りよったからな……」


洋榎は拳を握り締め、険しい顔付きで漫に向かって言い放つ。


洋榎「この勝負……絹の負けで終わる事だけは絶対に許されんのや……っ!」


恭子「何ゆうとるんや!? お前さっき順位は関係無いて……」


困惑した表情で洋榎に向かって叫ぶ恭子。
洋榎の元へ詰め寄ろうとするも、由子がそれを無言のまま制止した。


恭子「由子……?」

由子「…………」


それは私が直接洋榎に訊く……。
言葉にせずとも、由子の様子からそう感じ取った恭子。
恭子は後ろに下がり、静かに推移を見守る事にした。


由子「これは一体どういう事なの……?」


由子「洋榎……あんた私に誓ったわよね……?」

由子「最下位が誰であっても構わないって……」

由子「確かにそう誓った筈よね……っ!?」

由子「それやのに……っ! 絹恵ちゃんに指を切れって、どういうつもりよっ!」


洋榎「…………」


口を半開きにしたまま、洋榎が由子の方へ向き直る。


洋榎「……どうゆうつもりか……やて……?」

洋榎「そんなん一々口にするまでも無いやろ……」


言わなくても当然分かるだろう……?
蔑む様な目付きで洋榎は由子にそう言った。

由子「…………っ」


由子「あんた……始めから私を騙す気やったのね……」

由子「さっきの話も、私の指切りを阻止する為の罠やったんでしょ!」


由子の言葉を全面的に肯定しつつ鼻で笑う洋榎。


洋榎「ふんっ、あんな与太話……信じる方がアホなだけや……」

洋榎「最初にゆうたやろ? 指を切るしか助かる道は無いと……」

洋榎「うちが絹に言い放ったその言葉……お前も聞いとった筈や……」


恭子(そんな……。これまでの話は全部デタラメやったと……?)


洋榎「この指切り勝負……何があろうと……勝つんは絹や……」

洋榎「お前に……お前なんぞに……勝利の座を譲る気は無い……っ!」


由子「……っ!」

由子「嘘吐きが……開き直って本性を現したわね……」


洋榎「お前が指を切った今、本音を偽る必要も無いからな……」


由子「そう……。代行の言う様に、あんたを信じた私が間抜けだったわ……」

由子「よくも自分を犠牲にして私達を救うなんて大嘘言えたわよね……」

由子「実際はその真逆……私を騙し最下位へ陥れ殺すつもりやった癖に……!」


由子「薄情者やとか卑怯者やとか……」

由子「あれだけ私の事を口汚く罵倒しておいて……」

由子「でもそれは全部あんたの事じゃないっ! この恥知らず!」


由子「絹恵ちゃんの事もあったから今まで我慢してきたけど、それももう限界よ!」

由子「あんたみたいに自分勝手で卑劣な人間……私は絶対に許さないから……っ!」


洋榎「吠えてろ雑魚が……。お前如きに何が出来る……」

洋榎「処刑前の苦痛を減らしてやろうゆう人の〝好意〟を無にしおって……」


〝指を切らなければ、もっと楽に死ねたのに……〟


由子「好意……? 私を殺そうとした事が……好意ですって……!?」


いつも穏やかで物腰の柔らかい由子も、その言葉で更に激昂し怒りを顕にする。


洋榎「阿呆が……。せやったら、好きなだけ苦しみ藻掻いて死ねっ!」


由子「洋榎ぇぇ……!」


郁乃(あーあー、真瀬ちゃんの奴、完全にスイッチ入ってもうた……)

郁乃(さっきまでチワワみたいに震えとったのに、今やまるで獰猛な土佐犬やないか)

郁乃(普段温厚な人間ほど、キレたら手に負えんゆうからなぁ……)

郁乃(これは血の雨が降るでぇ~……)ニマァ......

洋榎「さぁ絹……指切りの時間やで……?」


洋榎は地面に落ちている鋏を絹恵目掛けて蹴り飛ばす。
それは絹恵の足に当たり、驚いた絹恵は思わず尻餅を搗いた。

廃棄する事が目的ではないからか、黒服も洋榎の行為を黙認している。


洋榎「その鋏を拾って指を切れ。」

絹恵「い、嫌や……」


洋榎「…………」

洋榎「……嫌やと? 勘違いすんなや絹……」

洋榎「うちは〝指を切ってください〟とお願いしとるんやない……」

洋榎「〝指を切れ〟と〝命令〟してるんや……」


洋榎は転んだ絹恵の目の前に立ち、威圧的な態度で見下ろしながら言った。
絹恵は狂気に満ちた姉の視線に恐怖し言葉を失い、震えながら首を横に振る。


洋榎「おぃ……同じ事を何度も言わせんなや……」


怯えたまま一向に指を切ろうとしない絹恵に苛立ちを隠せない洋榎。
洋榎は絹恵のブラウスの胸元を掴み上げ、無理矢理に立ち上がらせた。


絹恵「く、くるしい……おねえちゃ……」

洋榎「この程度で泣くなッ! 勝負に負ければもっと酷い目に遭わされるゆうたろ!」

洋榎「これ以上の痛み苦しみを味わいたくないなら、素直にうちのゆう事に従えッ!」


涙目の絹恵に対して容赦無く厳しい態度で臨む洋榎。
更に洋榎は右手を振り上げ、絹恵に平手打ちをする。
絹恵の眼鏡は吹き飛び、遠く離れた地面に落ちた。


洋榎「切れっ! はよっ! はよ切れやっ!」

絹恵「うっ……うあぁぁぁぁっっっ!」

洋榎「お前が指を切るまで、うちは殴るのを止めんぞッ!」


大声を上げ泣き叫ぶ絹恵に、洋榎は何度も何度も平手打ちを繰り返した。


由子「く、黒服! 絹恵ちゃんに指を切る意思は無いわ!」

由子「それに暴力で指切りを強要するなんて反則でしょ!?」


黒服「我々は明確な違反が無い限り、貴女方の行動に一切干渉を致しません」

黒服「暴力等の不当な圧力によって絹恵様の指切りを妨害する行為は禁止ですが……」

黒服「暴力を振るって〝指を切らせようとする行為〟はルール上問題ありません」


恭子「なんやと……? 洋榎の絹恵ちゃんに対する暴力は有効って事か……!?」

黒服「イエス」

由子「何よその洋榎に有利なルールはッ!」

由子「あんた……洋榎の事を贔屓してるでしょ!?」


黒服「信じる信じないは自由ですが、我々はどちらの味方でもありませんよ」

黒服「ただ、彼女は我々の〝やり方〟を随分と熟知している様です……」

恭子「ルールが書かれたあの黒いノートを読んだからか……?」

黒服「可能性としては、それ位しか考えられませんね……」


由子「……ハッ!」


その時、由子の脳裏に電流が走る。


由子「そういう事ね……謎が解けたわ……」

由子「洋榎があの黒いノートを破り捨てた理由……」

由子「代行にルールを把握させんが為にやった事やない……」

由子「私達にノートの内容を知られたくなかったのよ……」

由子「自分が有利に事を進める為にね……っ!」


恭子(あの時から……既に洋榎はうちらの事を敵視していた……!?)


黒服「しかし真瀬様、貴女にも洋榎様に対抗する手段はございます……」

由子「対抗する手段……?」

黒服「絹恵様の指切りを直接妨害する様な行為は禁止されていますが……」

黒服「勝負の当事者でない者の行為を妨害する事は出来ます。つまり……」

黒服「絹恵様に指を切らせんとする洋榎様を〝実力〟で排除する事は可能です」


由子「実力で……排除……?」


黒服「洋榎様が絹恵様に対してそうしている様に……」

黒服「貴女も暴力で洋榎様を屈服させ、今の行為を止めさせれば良いのですよ……」


洋榎「由子がうちを暴力で屈服させるやと……?」

洋榎「おもろい事ゆうやないか……。うちはいつでも相手になったるで?」


洋榎は振り翳した手を宙に止め、顔だけを由子達の方へ向けた。


洋榎「ただし……! 本気でやり合う気なら……お前も覚悟しとけよ……?」

洋榎「黒服! その場合、うちが反撃しても正当防衛として認められるんやろな?」


黒服「イエス。先に手を出さず、また命まで奪わなければ、特に問題はありません」

黒服「ですが、戦闘になれば鋏を所持している真瀬様の方が有利かと思いますよ?」


洋榎「ふん、それ位のハンデが無いと話にならんやろ……」


由子(この鋏を持ったまま……洋榎と殴り合いの喧嘩をする……?)


その鋏で郁乃を殺すと固く決意していた由子だったが、
洋榎をそれで突き刺すなど、考える事は出来なかった。

それは由子の中にある最後の良心だったのかもしれない。

素手による殴り合いでは、自分に勝ち目など無い。
結局、由子は洋榎と闘う事を諦めその場に留まった。


洋榎(それで情けを掛けたつもりか? 根性無しが……。お前は所詮その程度や……)

洋榎(非情になれぬ者に未来は無い。ならうちは、鬼にでも悪魔にでもなる……っ!)

洋榎「絹……これはお前の為や……全部お前の為なんや……」

洋榎「せやから……我儘言わずにさっさと指を切れぇーーーっっっ!!!」


ガシッ


洋榎「っ!?」


振り上げた手を絹恵の頬に打ち下ろそうとした次の瞬間、
洋榎は何者かに腕を掴まれ、その動きを止められた。


漫  「……止めてください洋榎先輩。絹ちゃん嫌がっとります……」

洋榎「漫……っ!」

漫  「これ以上……絹ちゃんを傷付けんでください……」

洋榎「うちに……絹を傷付けるな……やと……?」

洋榎「ふ……ふッざけんなお前ぇ……っ! 舐めた事を抜かすなやッ!」


洋榎は激怒し、絹恵を突き飛ばして漫の方へと向き直った。


洋榎「うちは誰よりも絹の事を考えとるし、傷付けたくないとも思っとる!」

洋榎「けどなぁ、こうせな絹は確実に奴らに殺されてまうんやぞ!?」

洋榎「お前は絹の味方やろ!? 一時の感情に流されるな! 大局的な視点に立て!」


漫  「うちは洋榎先輩みたいに全体の流れを見渡せてないのかもしれません……」

漫  「せやけど……親友が泣いてるのに、それを見過ごすなんて出来ません……!」

漫  「それにうちは洋榎先輩と違って、全員が助かる未来を諦めたくもないんです」

漫  「例えこの勝負に負けたとしても……絹ちゃんを生贄になんてさせません!」


漫はまだ皆が救われる方法が存在するという希望を胸に持っている。
それは洋榎以外の全員が、心の何処かで思っていた事なのかもしれない。

洋榎は思った。だからこそ、彼女達には危機感が足りないのだと。
これが最後のチャンスだと知らないから、悠長な戯言を抜かせるのだと。


洋榎「漫……お前に良い事を教えてやる……」

洋榎「生贄は2人やからな……。当然、お前が犠牲者になる可能性もある……」

洋榎「だがこの勝負に絹が勝てば……お前と絹の命は100%助かるんや……っ!」


漫  「っ!?」


洋榎「そうやろ、黒服ッ!」

黒服「イエス。この勝負、絹恵様が勝てば上重様の身の安全は保障されます」

黒服「また、上重様の〝選択〟次第で絹恵様の命を救う事も可能となります」

漫  「そんな……でも……なんで……!?」

洋榎「生贄投票トップに与えられる特典、代行の言ってた〝褒美〟っちゅう奴や……」

洋榎「うちの主張が認められれば、あの投票でトップに立つんはお前や……漫……!」


洋榎「お前も絹も生贄にされず、屍鬼共の餌食にもならず……」

洋榎「この地獄から、無事生還する事が約束されるんや……!」

洋榎「頼む漫……っ! 絹の為にもお前自身の為にも……ここは退いてくれ……っ!」

恭子(確かに代行は、一番Pの少ない者には褒美があるゆうてたな……)

恭子(それが新世界への切符と、2人目の生贄を選ぶ権利か……っ!)


〝上重様の選択次第で絹恵様の命を救う事も可能となります〟


恭子(黒服の言葉から、トップが2人目の生贄を選ぶ事はまず間違い無い……)

恭子(ん……? 待て……せやったら……由子が勝った場合は……!?)

恭子(その場合……洋榎が……2人目の生贄を選ぶ事に……?)

恭子(絹恵ちゃんが最下位となり、生贄となって処刑されたら……)

恭子(憎しみの矛先は由子へ向かう可能性が高いんちゃうか……?)

恭子(となれば……どっちみち由子は……殺される……!?)


恭子は横にいる由子に視線を向ける。
由子は目を瞑って俯き、震えながら右手の爪を噛んでいた。


恭子「なぁ由子……今の話やけど……」

由子「分かってる! 分かってるから、何も言わんといてッ!」

恭子「す、すまん……」

由子「……何にせよ、私には最初の生贄を回避するしか生き残る道は無いのよ……!」

恭子(…………)


気まずい沈黙が2人の間に流れる。
そんな中、洋榎と漫の方は何やら揉めている様子だった。


洋榎「お前にとっても……悪い話やないやろ……?」

漫  「…………」


漫は絹恵の意思を確認しようと彼女の方に視線を向ける。
絹恵は漫の意図をすぐに理解し、首を大きく横に振った。


漫  「……絹ちゃんは、それでも指を切りたないゆうてます」

洋榎「絹は何も分かってないんや……」

洋榎「これが生き残る為の唯一にして最後の機会やとも知らずに……」

洋榎「けど漫……っ! お前は……お前なら分かる筈や……!」

洋榎「正しいのはうちの方やと……お前の持つ〝感覚〟で分かるやろ……っ!?」

洋榎「お前はこの中で一番うちのゆう事を理解し共感しているはず! 違うか!?」


恭子「……っ」


漫  「それでも……絹ちゃんが嫌ゆうなら、うちは洋榎先輩を止めます」

洋榎「絹の味方やのに……うちを否定するんか……?」

漫  「うちは絹ちゃんの味方であって、洋榎先輩の味方ではありません」

洋榎「それが絹を殺す事になってもか……?」

漫  「……絹ちゃんは殺させません。絶対に……」


洋榎「この……分からず屋が……」


洋榎「せやったら……力尽くでうちの事を止めてみぃや……っ!」

漫  「…………っ」


緊張感が高まり、険しい表情をする漫の額からは一滴の脂汗が流れた。


洋榎「なんや怖気付いたんか? はよ掛かって来いんかいッ!」


しかし漫は洋榎の挑発には乗らず、両者は互いに向かい合ったまま動かない。
緊迫した無言の睨み合いは暫く続いたが、その膠着状態は洋榎によって破られた。


洋榎「ふっ、拍子抜けやな……」

洋榎「お前はもう少し骨のある奴やと思っとったけど……」

洋榎「完全にうちの見込み違いやったわ……」


漫が自分と本気でやり合う気は無いと判断したからなのだろうか。
洋榎は絹恵の方へ向き直り、敵である漫に無防備な背中を見せた。


洋榎「戦う度胸も覚悟も無い〝子犬〟は大人しく隅で震えてればええ……」


そう吐き捨て、再び絹恵にきつい視線を向けた。
怯える絹恵は地面に座った状態のまま後退りする。

そんな絹恵を洋榎が追い掛け様としたその時……。


漫  「絹ちゃんに手を出すなぁぁぁっっっ!」


物凄い勢いで漫は洋榎に突進し、後頭部を目掛けて拳を繰り出した。


スッ……


漫  「っ!?」


洋榎は後ろも見ずにそれを躱し、漫の拳は空を切った。
と同時に、突っ込んで来た漫の鳩尾に右肘で一撃を入れる。


漫  「ぐぇっ……!」


洋榎は透かさず振り返り、流れる様に次の攻撃体勢へと移行した。
悶絶しながら腹を押さえ俯いている漫の頭を掴んで、顔面に膝蹴りを放つ。
その一撃は鼻を正確に捉え、漫は鼻血を出しながら後ろに倒れ込んだ。


恭子「漫ちゃんっ!」

漫  「んぐ……ん゛ん゛ん゛……っ!」


鼻からの大量出血で気道を塞がれ、思う様に呼吸が出来ない。
漫は痛みと苦しさで顔を歪め、涙を流しながら地面に這い蹲った。

そんな漫の頭の前に立ち、突き刺さる様な冷たい目で洋榎は言った。


洋榎「これで分かったやろ……? うちとお前の〝格の違い〟が……」


涙と鼻水と涎で顔を汚しながら、漫は洋榎を下から見上げた。
滲んだ視界に映る大きな人影は、悪魔の様に冷酷な笑みを口元に浮かべている。

味方の時は頼もしいが、敵になるとこんなにも恐ろしい存在なのか。
圧倒的な実力差を見せ付けられ、敗北感が漫の自信と決意を打ち砕く。


漫  (この人には勝てない……この人から……絹ちゃんを守れない……)

洋榎「うちに歯向かった勇気だけは褒めてやる。けど時間の無駄や……」

洋榎「全てが終わるまでそこで寝てろ。それがお前の為でもある……」


そう言って漫から離れようとした次の瞬間、洋榎は後ろから足を掴まれた。
漫は地面に顔を伏せたまま、その場を立ち去ろうとする洋榎の邪魔をする。


漫  「…………」

洋榎「……放せ。」

漫  「…………」


漫は無言のまま地面を這いずり、しがみ付く様に洋榎の脚に絡み付いた。


洋榎「時間の無駄ゆうたろ! これ以上手間掛けさせんなやッ!」

漫  「…………」

洋榎「聞いとんのかボケッ!」


洋榎の握り拳が漫の後頭部を直撃する。
しかし漫は洋榎の脚に抱き付いたまま離れない。


洋榎「この……っ!」

漫  「…………っ」


洋榎は両手で幾度と無く漫の頭部を殴るも、一向に離れる気配は無い。
漫は目を瞑って洋榎の脚にしがみ付き、ただ只管その痛みに耐えている。

洋榎は殴るのを止め、今度は漫の首を絞め始めた。
長い爪が漫の首の肉に食い込み、血が滲んでいる。


漫  「ぐぎぎっ……」


意識が朦朧とし力が緩んだその瞬間、洋榎は漫の側頭部を殴打した。
漫の体は吹き飛ばされ、地面の上を勢い良く転がりながら倒れ込む。
それでも起き上がろうとする漫を仰向けに倒し、洋榎はその上に跨った。


洋榎「お前は一体なんや! 何なんや!? 何故そこまで意地を張る!?」

洋榎「うちを止める事が絹の為になると、本気で勘違いしてるんちゃうか!?」

洋榎「絹を救える選択肢が他にあったなら、うちかてこないな事してへんわ!」

洋榎「そんくらい考えれば分かるやろ!? 分かれやッ!」


漫  「きぬ……ちゃんを……きず……つけるな……」


仰向けに倒れている漫の襟元を掴んで激しく揺さ振りながら怒鳴る洋榎。
だが漫は同じ言葉を繰り返し、力無く洋榎の体をポカポカと叩き続ける。


〝絹ちゃんを傷付けるな〟


洋榎「黙れ…………黙れや…………黙れゆうとるやろッ! 漫……っ!」


洋榎は馬乗りの体勢から漫の顔面を何度も何度も殴り付ける。
漫の頭は右に左に大きく揺れ、いつしか洋榎を叩く手も止まっていた。

それでも洋榎は力一杯上から叩き付ける様にして漫の顔を殴り続ける。
目蓋が腫れ目を開く事も出来ない状態になってもなお、振り下ろす拳を止めない。


洋榎「お前が! お前が悪いんや! お前がうちの忠告を無視するから……っ!」

恭子「もうやめーや洋榎っ! それだけ殴れば気は済んだやろ……!」


洋榎の気迫に押され動けなかった恭子も、流石に漫の身を案じ仲裁に入ろうとする。
ぐったりした様子で全く動かない漫、けれど由子が恭子の腕を掴みそれを制止した。


恭子「放せ由子! 洋榎を止めな……漫ちゃんが……!」

由子「お願い恭子、何処にも行かないで!」


由子の目には漫など映っておらず、恭子の腕をしっかりと掴んだまま離そうとしない。


恭子「どうした由子!? うちは洋榎の奴を止めに行くだけや!」

由子「嫌っ! 絶対駄目! 恭子はずっと私の傍にいて!」


一度向こうへ行ってしまったら、もう恭子は自分の元に戻って来ない。
そんな強迫観念に駆られ、涙目で縋り付く様にして必死に訴える由子。


由子「ねぇ恭子、あんたは私の味方よね!?」

恭子「由子……?」

由子「私は頑張った……。皆が助かる未来を求めて……自分なりに努力した……!」

由子「私やて怖かったけど……皆の為やから……そう思って必死に頑張ったわ……!」

由子「けど洋榎は違った……。あいつは……私を殺す事しか頭に無いのよ……っ!」

由子「悪いのは全部洋榎、そうでしょ!? 恭子もそう思うわよね!?」

恭子「そ、それは……」


口籠もる恭子に対し、由子は執拗に同意を迫る。


由子「恭子……あんたは私を裏切らないわよね……?」

由子「最後まで……私の味方でいてくれるわよね……?」


その時、恭子は漸く由子の本質を理解した。
由子は迫り来る恐怖を乗り越え克服した訳ではない。
怒りと言う感情を利用して、恐怖心を紛らわせていただけなのだと。

自分も弱者であると自覚している恭子、だからこそ分かる由子の心理。


〝臆病者の虚栄心〟


だがそれも、誰かが傍にいてあげなければ、
砂上の楼閣の様に儚く崩れ去ってしまうだろう。


恭子(一時的とは言え、うちがこの場を離れたら……由子はどうなる……?)

恭子(こんな状態の由子を、このまま1人残して行くなんて……うちには……)


恭子「安心しろ由子……うちはずっとお前の傍に居る……」

恭子「何があっても……最後までうちはお前の味方やからな……」


そうハッキリと明言し、そっと優しく由子を抱き寄せる恭子。
今彼女を支えられるのは自分しかいないと言う〝使命感〟がそうさせたのだ。


由子「うぅ……ありがとう……恭子……」

恭子(すまん漫ちゃん……。うちに由子を見捨てる事なんて出来ん……)

恭子(洋榎……お前のそのやり方で……本当に大切なモノが守れるんか……?)

洋榎「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


疲れたのか殴る手を止め、肩で呼吸をしている洋榎。
その拳も漫の顔も2人が着ている服も真っ赤に染まっている。
漫は口元だけを動かし、口内に溜まった血を吐き出していた。

流石にこれだけ殴れば、こいつも大人しくなるだろう……。
そう思い掛けた矢先、漫が消え入りそうな声で何かを話し始めた。


漫  「あきら……めんで……くだ……さい……」

漫  「ぜんいん……たすかる……みらい……あきら……めんで……ください……」


洋榎「まだそないな世迷言を……っ! そんなん無理やて何度言わせるんや!」


漫  「うちら……には……むり……かも……しれま……せん……」

漫  「けど……ひろえ……せんぱい……なら……きっと……できます……」

漫  「ひろえ……せんぱい……なら……みんなを……すくえ……ます……」


洋榎「おまえ……なにゆうて……」


漫  「あなたが……できると……しんじ……れば……かならず……できます……」

漫  「せやから……さいごまで……あきらめんで……ください……」


洋榎「なんや……なんやそれ……全ての責任をうちに転嫁する気か……?」

洋榎「うちが皆を救おうとせんから……お前の言う未来が実現せんと……?」

洋榎「ざッけンな……ふざけンなふざけンなふざけンなふざけンなぁぁァァッッッ!」


再び洋榎は拳を振り上げ、漫の顔面を殴り出す。
しかしその打撃には最初の時ほどの威力は無かった。


洋榎「うちはスーパーマンちゃうねんでッ!」

洋榎「自分達に出来ん事をうちに押し付けんなッ!」

洋榎「お前らの〝理想〟をうちに押し付けんなッ!」

洋榎「無責任な〝希望〟をうちに押し付けんなッ!」

洋榎「 う゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛っ゛っ゛ッ ッ ッ ッ ! ! ! 」


初めて本音、自らの〝弱さ〟を仲間達に吐露した洋榎。
そこには無力な自分への怒りも込められていたかもしれない。

これまで洋榎は絶対的エースの重責を物ともせず、その役割を全うしてきた。
どんな困難にも正面から立ち向かい乗り越える姿は、皆に勇気と希望を与えた。

他者には弱みを見せない洋榎の豪気な性格も相俟って、
彼女に対する周囲の期待は際限無く高まっていったのだ。

〝洋榎なら如何なる逆境も必ず乗り越える。全ては洋榎に任せておけばいい〟

だがそれは、大きなプレッシャーとなって洋榎の背中に伸し掛かり苦しめていた。
親友である恭子にも悟られぬ様、洋榎は一人、心の奥底に〝闇〟を溜め込んでいた。
それが今回の件で許容限度を超え、漫の言葉をキッカケに爆発してしまったのだ。

恭子は自分達の過大な期待が重荷となって洋榎を苦しめていた事を初めて知った。
洋榎の親友としてその事に気付かなかった自分を責め、心の中で謝罪を繰り返す。

最早暴走する洋榎を止める手立ては無い、そんな雰囲気が漂い始めたその時……。


絹恵「やめて……もうやめてや、お姉ちゃんッ!」

絹恵「切るから……指を切るからっ! 漫ちゃんを叩かないで……っ!」

絹恵「お願いやお姉ちゃん……もう……漫ちゃんに酷い事しないで……」


震えながら鋏を持ち、左手薬指に刃を当てる絹恵。
絹恵の言葉を聞き、洋榎の動きが一時的に止まった。


洋榎「…………」


しかし、完全には信用していないのか、
洋榎はその発言の真意を確かめるべく、
鋭い目付きで絹恵の様子を窺っている。


〝お前がすぐに指を切らなければ、また漫の顔面を殴ってやるからな〟


そんな脅しを掛けているかの様な、無言の圧力を放つ洋榎の冷たい視線。
ハッタリなどではない、今の姉なら誰であろうと容赦無く暴力行為に及ぶだろう。

例えそれが動けぬほど酷い怪我を負い横たわっている、仲の良かった後輩でさえも。


絹恵「…………っ」


洋榎「どうした絹……切らんのか……?」


洋榎は拳を握り締め、それをワザと絹恵に見せ付けた。
お前の所為で漫が傷付くんやぞ、そう言わんばかりに。


〝お前が素直に従っていれば、漫がこんなに痛い思いをする事は無かった〟


罪悪感を煽る精神攻撃、責任感が強く心根の優しい絹恵には効果が抜群だった。


絹恵(私の所為で……漫ちゃんが傷付いた……)

絹恵(私が……私が漫ちゃんをあんな目に遭わせた……)


絹恵「うぅ……あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ っ っ ! ! ! ! 」


ザクッ……


絹恵は大声で叫びながら、いつかは婚姻の印を付けるであろうその指を切り落とした。
鋏を持ったままその場に蹲る絹恵、低い呻き声を出しながら、その痛みに堪えている。

大切な親友を想い、その痛みを受け入れる決意をした絹恵と漫。
2人を結ぶ強い絆が、臆病な絹恵の心をも奮い起こさせたのだ。


洋榎「お前が指を切りさえすれば、うちはそれだけで満足や……」


絹恵の2本目の指切りを確認し、洋榎は立ち上がって漫から少し距離を取る。
しかし、漫も絹恵も激痛でその場を一歩も動けず、互いに歩み寄る事は無かった。


郁乃(指切りを止めさせよう思って洋榎ちゃんに立ち向かった漫ちゃん……)

郁乃(けど逆にそれが絹恵ちゃんを精神的に追い詰め、2本目の指を切らせた……)

郁乃(結果的に漫ちゃんの行動は洋榎ちゃんにとってプラスに働いたな……)

郁乃(逆境をも味方に付ける〝悪運〟の強さ……全く恐れ入る……っ!)


=======
愛宕 絹恵:2  ピッ
真瀬 由子:1
=======

恭子(絹恵ちゃんの2本目……指切りの連鎖……想定していた最悪の事態……)


由子「負けない……私は……あんな奴に……絶対負けない……っ!」


指を切る〝正当性〟と〝勇気〟を高める為か、
対戦相手を絹恵ではなく、洋榎と見ている由子。

2本目の指を切るのかと問う恭子に、当然だと由子は息巻いた。
先の事など後で考えれば良い、重要なのは〝今〟勝つ事なのだと。


恭子(強引な手段での指切り妨害は厳禁……黒服はそれを許さない……)

恭子(由子の自傷を阻止する唯一の方法……それは言葉による説得…………)

恭子(けど何も思い浮かばんし、当事者でないうちが何を語っても説得力は皆無……)


恭子(動き出した破滅への歯車を止める術は……無い……っ!)


由子を止める事の出来ない無力な自分に憤り、切れるほど強く唇を噛み締める恭子。
洋榎と恭子がそれぞれの思いを胸に見詰める中、今度は由子が左手薬指に鋏を当てる。


由子「私はまだ死にたくない……生き残る為に……洋榎に勝つ……!」

由子「勝って……生き延びて……新世界への切符を手にするのよ……っ!」


〝生〟への執着によって恐怖を克服しようと試みる由子。

生きようとする意志は何よりも強い。
何故なら、それこそが生物の〝本質〟であるから。


由子「私は……指を切る事すら恐れない……っ!」


ジャキンッ……


指が切り落とされんとするその時、恭子は咄嗟に目を伏せた。
洋榎は瞬き一つせず、鋏が由子の指を喰らう瞬間を凝視していた。


由子「んっ……んぐ…… ん゛ん゛ん゛ッ ッ ッ …… ! ! ! 」


激痛に襲われ、地獄の苦しみに顔を歪める由子。
恭子は自らのハンカチで由子の傷口を押さえる。


由子「ハァッ……ハァッ……フゥー……」

恭子「大丈夫か由子……?」

由子「ふふっ……やった……やってやったわ……っ!」

恭子「…………っ」ゾクッ


震えながらも不敵な笑みを浮かべる由子に恭子は恐怖し身震いした。


郁乃(真瀬ちゃんの脳内を駆け巡る大量のβエンドルフィン……)

郁乃(自己暗示を掛け極度の興奮状態へと移行し、恐怖と痛みを和らげたか……)


恭子(足元が揺らぐ……空が……世界が……グルグルと廻って……)

恭子(狂気に飲み込まれる……由子も……洋榎も……うちも……みんな……)

=======
愛宕 絹恵:2
真瀬 由子:2
=======


洋榎「…………っ」


絹恵の指切りに合わせて、即座に自分の指を切断してきた由子。
勢い付き洋榎を睨む由子とは対照的に、絹恵は蹲ったまま動かない。


〝さぁ……次はお前達の番だ……〟

〝だが、それで終わると思うなよ……〟

〝私には3本目も切る覚悟がある……っ!〟


切り落とした指は互いに2本、しかし勝負に懸ける意気込みがまるで違う。
明らかな絹恵の劣勢に危機感を抱く洋榎の額からは、油汗が滲み出ていた。


洋榎(まさかここまで由子の奴が喰らい付いてこようとは……!)

洋榎(あいつの胆力を完全に見誤った……この嫌な感じ……ヤバイ……!)

洋榎(この先何本の指を切る事になるかも予測できん……どうする……!?)

洋榎(……いや、考えるんは後回しや。とりあえず次、絹に3本目を……っ!)


洋榎「絹っ! 3本目や!」


絹恵は俯き両腕を抱え込む様にして蹲っている。


洋榎「絹っ!! 聞こえてるやろ!! 3本目の指を切れっ!!!」


大声で怒鳴る洋榎、だが絹恵は全く反応しない。
洋榎が痺れを切らし、絹恵の方へと歩き出したその時……。


絹恵「……降参します」

洋榎「なに……?」

絹恵「この勝負……降参を宣言します……」

洋榎「お前……今なんて……」

絹恵「もう無理です……もう……指を切れません……」

黒服「自らの意思を以って敗北を認めた、という解釈でよろしいですね?」

絹恵「はい……。私の負けでいいです……」


か細い涙声で自身の敗北を宣言する絹恵。
完全なる試合放棄の意思を皆に示したのだ。

唖然とした表情でよろめくも、洋榎は何とかその場に踏み止まった。


洋榎「絹……っ! 今すぐその言葉を取り消せ!」

洋榎「さもないと……お前は……処刑されて……」


絹恵「こんな痛い思いする位なら、処刑された方が100倍マシやッ!」


泣き叫びながら絹恵は黄金の鋏を力一杯遠くへと放り投げた。


郁乃「……勝負あったな。」

黒服「それではこの指切り勝負、真瀬様を勝者とさせて頂きます」

洋榎「そ……そんな……待って……まだ……勝負は……」

郁乃「見苦しいで洋榎ちゃん」

洋榎「っ!?」


郁乃「絹恵ちゃんは皆の前でハッキリと降参を宣言したんやで?」

郁乃「幾ら口の上手い洋榎ちゃんでも、流石にこれは言い逃れ出来んやろ……」

郁乃「それに、指切りを拒否する絹恵ちゃんの意思は相当固い様やしな……」

郁乃「もう君にはどうする事も出来んよ……」


まるで洋榎に同情するかの様な口調で語る郁乃。
しかしその顔には厭らしい笑顔が咲き誇っていた。


洋榎「くっ……!」

恭子(洋榎……っ)


モニター画面が暗くなり、全ての映像が消えてゆく。
洋榎は崩れる様にして地面に両手両膝を突いた。
瞳からは涙が止め処なく溢れ、コンクリートを濡らす。


郁乃(順当な幕引き……洋榎ちゃんでも運命には逆らえんかったか……)

郁乃(まぁ、それなりにオモロイもん見せてもろたし、君には感謝しとるで)


黒服「では早速、絹恵様の処刑の準備を……」

洋榎「……待て。」

郁乃「こらこら、勝負はもう終わったんや。聞き分けの悪い子は嫌いやで~?」

洋榎「ホンマにそんな事ゆうて良いんか? 代行……あんた後悔するで……?」

郁乃「…………」

郁乃「……なんやと?」


洋榎がゆらりと立ち上がり、薄気味悪い笑みを浮かべながら郁乃に言った。
既に涙は止まっており、その瞳はこれまでに無い不気味で異質な何かを宿している。


郁乃「それは一体どうゆう意味や? 洋榎ちゃん……」

洋榎「あんた……もっと楽しみたいやろ……?」

洋榎「これから始まる〝最高のショータイム〟を見逃してええんか……?」

郁乃「最高の……ショータイム……やと……?」

洋榎「せや……。うちがあんたに本当の〝地獄〟を見せてやろうゆうんや……」


郁乃「…………」

郁乃「…………ふっ」

郁乃「ぷふっ……クククッ……はははっ……アハハハハッ!」


右手で顔を、左手で腹を押さえながら笑う郁乃。


郁乃「あかん、あかんて洋榎ちゃん! それはあかんよッ!」

郁乃「君にそんなん言われたら……」

郁乃「期待してまうやろォ~……?」ニタァ......

郁乃「黒服、洋榎ちゃんに少しだけ猶予を与えてやっても構へんやろ?」

黒服「…………」


黒服は無言のまま郁乃に視線を向ける。
すると突然、モニター画面が先程の映像を映し出した。


=======
愛宕 絹恵:2
真瀬 由子:2
=======


洋榎に再びチャンスを与える、それが黒服の出した結論の様だ。
だが当然、その余りにも寛大な措置に対して由子は猛反発をする。


由子「ちょっと待って! 何勝手に話を進めているのよ!」

由子「絹恵ちゃんは敗北を宣言し、黒服はそれを認めた……」

由子「勝負に勝ったのは私なのよ!? その結果を覆すなんて許されない事だわ!」


郁乃「いやいや、これは別に勝敗の結果を引っくり返そうゆうてる訳やないで~?」

郁乃「ただチョコッと試合を延長させるだけやて。真瀬ちゃんは何を焦ってるん?」

郁乃「例え絹恵ちゃんが指を切ろうとも、君が更に切り返せばええだけやないか」


由子「そう言う問題じゃないわ! 一度下した決定を変更するなんてズルイのよ!」

由子「洋榎の肩ばかりを持って……っ! これが贔屓じゃなくて何なのよっ!」


洋榎「……何故、黒服の奴がこうもすんなりとウチの要望を受け入れるんか……」

洋榎「その理由を……知りたいか……?」


由子「…………っ」

由子「勿体振ってないで、さっさと言いなさいよ!」


洋榎「ふっ、ならお前にも教えてやろう……」

洋榎「黒服は別にうちだけを特別扱いしてるんとちゃうで? 奴にはなぁ……」

洋榎「規約に反しない限り、うちらの要望に応える〝義務〟があるんや……」


由子「なんですって……!?」

恭子(黒服の奴にそんな制約が課されていたとは……っ!)


洋榎「勿論、条件を満たしても、その全てを聞き入れて貰える訳やない……」

洋榎「あくまで定められた〝ルールの範囲内〟に於いての話や……」


恭子「なんやその〝ルールの範囲内〟っちゅうんは……?」

洋榎「そこまで教える気は無い。あのノートを破棄した意味が無くなるからな……」

由子「やっぱり……! あんたは黒いノートを私達に見せまいとして……っ!」

洋榎「そうや。お前らは頭が良いからな……。用心するに越した事は無い……」


由子「くっ……!」


恭子(こんなん、ルールを知らされないままゲームさせられとるんと同じやないか!)

恭子(お前は一体いくつの重要な秘密を隠し持っているんや……洋榎……っ!)

由子「そ、それなら! 私も黒服にこの延長戦の中止を要求するわ!」

由子「だって……決着の付いた勝負をやり直すなんてフェアじゃないでしょ!?」


洋榎「それは無理やで、由子……」

由子「はぁっ? なんでよ!?」


洋榎「さっき代行がゆうた通り、これはただ試合の引き延ばしをしとるだけ……」

洋榎「1から勝負を仕切り直すんとは訳が違う。つまり、〝やり直し〟やない……」

洋榎「仮に延長されたとしても、この勝負自体はあくまで公平なモノや……」


洋榎「そしてもう1つ、重要な事がある……」

洋榎「恭子の知りたがっていた〝ルールの範囲内〟に関係する話……」


洋榎「規約に反しない限り、黒服はうちらの〝自由〟を尊重しなければならない」

洋榎「これは最優先事項として黒服に与えられとる、厳守すべきルールの1つ……」

洋榎「であるなら、今回の様にうちらから2つの相反する要求が出された場合……」

洋榎「うちらが〝より自由を享受する〟方の意見が優先されるんは必然……」

洋榎「勝負を続けようとするうちと、勝負を打ち切ろうとするお前……」

洋榎「どちらの意見の方が〝自由度〟が高いか、お前にも分かるやろ……?」


由子は洋榎の言う事が真実であるかどうか判断できず、
それが本当に正しいのか黒服に確認しようと視線を向けた。
黒服はその視線に気付き、由子の方に顔を向け大きく1回頷いた。


由子「…………っ!」

恭子(今、洋榎がゆうた事は……全て真実……!?)


黒服「ところで洋榎様、貴女は随分と我々の事情に精通されていますね……」

黒服「あのルールブックには、それほど詳しく記載されていなかった筈ですが……」

洋榎「ああ、その事か。お前らの事は〝とある人物〟から色々と教えて貰ってな……」

黒服「教えて……貰った……?」


郁乃「おい黒服、お前の情報どっかから漏れてるんちゃうん?」


洋榎達には聞こえない様に、郁乃は小声で黒服に話し掛ける。


郁乃「清澄高校か阿知賀女子に洋榎ちゃんの友達がおって、そこから……」

黒服「いえ、それは有り得ません。」

黒服「私が彼女達に姿を見せた時、既に空間の隔離は完了していました……」

黒服「選別終了後、彼女達にはそのまま新世界へと移動して頂いております……」

黒服「洋榎様が彼女達と接触したり、連絡を取り合う機会は存在しないのです」

郁乃「となると、洋榎ちゃんは嘘を吐いとるっちゅう事か……?」

黒服「体温、声質、発汗、脈拍等から分析した結果、その可能性は限り無く0です」

黒服「神がそれらの情報をリークする筈もありませんし……これは一体……?」


郁乃(どんなマジックを使ったんか知らんけど、神や黒服をも出し抜くとは……!)

郁乃(せやけど、絹恵ちゃんに指を切らせな全ては無意味やで、洋榎ちゃん……)

黒服「それはさておき……」

黒服「洋榎様、貴女に差し上げる猶予は〝3分〟とさせて頂きます」

黒服「その時間内に絹恵様が3本目の指を切らない場合は……」

黒服「真瀬様の勝利を〝確定事項〟とさせて頂くので、ご了承の程を……」


〝3:00〟


モニター画面にはタイムリミットが表示され、
その瞬間からカウントダウンは始まっている。

が、洋榎は焦る様子も無く、ただその場に立ち尽くしていた。


洋榎「…………」

郁乃「どないしたんや洋榎ちゃん? 残された時間は僅かやでぇ~?」

郁乃「黄昏とる暇なんて無いやろ。そんなんでホンマに大丈夫なん?」

郁乃「私に見せてくれるんやろ? 真の地獄っちゅう奴を……」

洋榎「あぁ……心配すんなや……。3分もあれば十分過ぎるわ……」


そう言って洋榎は絹恵が投げ捨てた鋏に向かって歩き出す。
歩きながら、妙に落ち着いた声で洋榎は黒服に問い掛けた。


洋榎「なぁ黒服……。5本指を切ったらどうなるんや……?」

黒服「……はい?」

洋榎「今は2人とも右手で左手の指を切っとるやろ……?」

洋榎「けどもし左手の指を全部無くしてもうたら、右手の指が切れなくなるやん」

洋榎「それとも、左手の指を2本残して右手の指切りに移らなあかんのか?」

黒服「いえ……。〝どの指を切るか〟その順番に関するルールはございません」

黒服「そもそも5本以上指を切る事態など、我々は想定していませんので……」

洋榎「想定していない……か……」


洋榎は落ちた鋏の前で立ち止まり、それを見詰めながら再び黒服に話し掛ける。


洋榎「うちが鋏を持てない理由……。お前はこうゆうとったな……」

洋榎「〝鋏を奪い取って指切りを妨害する可能性があるから〟やと……」

黒服「ええ、その通りです」

洋榎「〝指切りを妨害する行為〟は禁止……それはよう分かった……」

洋榎「けど……」ユラッ......

洋榎「〝指切りを手伝う行為〟は禁止されとらんのとちゃうか……?」

黒服「イエス」

黒服「指切り行為を〝補助〟する事に関しての禁則事項はありません」

黒服「先ほど貴女が仰っていた、自力で指を切れなくなった際などは……あっ」

洋榎「そうか……。せやったら……」


洋榎はゆっくりとしゃがみ込み、その鋏を手に取った。
ジュウッと肉を焼く音がし、鋏を握る右手から煙が上がる。
それでも鋏を手放す事無く、立ち上がり皆の方を向いて言った。


洋榎「うちが絹の指切りを〝手伝って〟やるわ……」ジュゥゥゥッッッ......

郁乃「洋榎ちゃんの手ぇ、煙出とるやないかっ! ハハッ……アハハハハッ!」

黒服(肉をも焦がす高熱を帯びたあの鋏を……持ち続けて……!?)

黒服(有り得ない……我々の行動予測分析で彼女を推し測る事は不可能……ッ!)


恭子「手伝うって……お前……何する気や……!?」

洋榎「見て分かるやろ……? うちが直接絹の指を切り落としてやるんや……」

絹恵「ひぃっ!」カタカタカタ......

由子「そ、そんなの駄目に決まってるでしょ!」

洋榎「……駄目? なんでや……?」

洋榎「黒服、うちが絹の指を切ったらあかんルールなんてあるんか?」

黒服「……いえ、その様なルールはございません……」

洋榎「なっ? ルールは絶対、けどルールに無ければ何をしてもええんやで?」


黒服(当事者の2人以外が触れられぬよう、鋏に細工を施した故……)

黒服(洋榎様がその鋏を利用して何かを仕出かすという発想は無かった)

黒服(それがこの様な事態を招くとは……我々はそこまで考慮していない……!)


洋榎は黄金の鋏を握り締め、絹恵の元に向かって歩き出す。


由子「黒服ッ! 今すぐ当事者以外が指を切る行為を禁止するルールを追加して!」

由子「自分で指を切れなくなった場合のみ手伝う事が出来る、でも構わないわ!」

黒服「それはどちらも不可能です、真瀬様。」

由子「なぜっ!?」

黒服「勝敗の行方に直接関わる様な規則を、試合中に追加する事は認められません」

由子「そんな……っ!」


〝2:06〟


洋榎「残念やったな由子……。けど、お前にも逆転の手段は残されとるで……?」

洋榎「暴力を以って……力尽くでうちをあと〝2分〟足止めすればええんや……」

洋榎「お前がその強硬手段に出た場合、当然うちはコイツで反撃するけどな……」


洋榎は右手に持った黄金の鋏を顔の前に翳して言った。

こちらは鋏で洋榎を突き刺す事に抵抗を持っているが、
相手は容赦無くその刃を自分の身体に突き立てて来るだろう。

身体能力のみならず、精神面でも既に由子は洋榎に負けている。
その様な状態で、由子が洋榎に肉弾戦を挑める筈も無かった。


絹恵「い、いや……来ないで……っ!」


洋榎「ごめんな絹……。最初からこうしておけば、お前の苦しみを減らせたのに……」

洋榎「けどもう大丈夫や……。お前は何も考えず、ただ〝我慢〟するだけでええ……」

絹恵「やだ……やめて……お姉ちゃん……」


洋榎(やっと守れる……この手で……絹を……お前の命を狙う死神から……!)


洋榎「 後 は 全 部 お 姉 ち ゃ ん に 任 せ と き ぃ や 」

洋榎「ちぃとばかし痛むかもしれへんけど、我慢してな……?」

絹恵「いや……いやあぁぁぁッッッっっっ!!!」


その場から必死に這いずりながら逃げ出そうとする絹恵。
そんな妹の横に回り込み、脇腹に強烈な蹴りを入れる洋榎。


絹恵「うぐっ……!」


その衝撃で絹恵は勢い良く横に転がり、数回転した後、仰向けの状態で止まった。
洋榎はその上に跨り、それでも抵抗する絹恵の腹と顔面に一撃ずつ打撃を加えた。


絹恵「げほっ……げほっ……げほっ……!」


先ほど洋榎から受けた〝平手打ち〟の嵐、それを格段に上回る破壊力。
絹恵は鼻血と腹部への強打で呼吸が出来ず、苦しそうに何度も咳き込んだ。


洋榎「暴れるんやない。暴れると余計痛なるからな……」

洋榎「それと逃げるな。今度逃げようとしたら、その脚圧し折るで?」


目を細め、顔を近付け、冷淡な口調で絹恵にそう告げる洋榎。
余りにも無慈悲で一方的な通告、それは冗談でも脅しでも無く、
ただ従わねば言葉通りそれを実行するという〝意志〟の表示であった。


〝別に逃げようとしても構へんよ?〟

〝そしたら逃げられなくするまでや〟


手加減や温情など一切加えるつもりは無い。
冷酷かつ機械的にお前の脚を破壊するだけだと。

絹恵が知っている優しく温かい姉の面影は、最早何処にも見られない。
愛情と狂気が融合し、得体の知れない何かが洋榎の中に巣食っている。

洋榎は止血の為に使用していたハンカチを絹恵の左手傷口から奪い取り、
変色し薄黒くなった血染めのそれを丸めて絹恵の口に強引に押し込んだ。


絹恵「ん゛ー っ 、ん゛ー っ 、ん゛ー っ ! ! ! 」


絹恵の右手が自由にならぬよう、洋榎は左膝でそれを押さえ付けている。
その状態から洋榎は左手で絹恵の左手を掴み、その指を切ろうとした。

しかし絹恵は指を内側に折り曲げ、切られまいと死に物狂いで抵抗する。
洋榎はその指を伸ばそうとするも、利き手でなくしかも片腕では難しい。


〝1:22〟


洋榎「絹……手ぇ開いてや……。これじゃ指切れへん……」

絹恵「…………っ」フルフル


絹恵は泣きながら首を横に振る。


洋榎「手……開いて……?」

絹恵「んんっ……」フルフル


洋榎「…………」

洋榎「そうか……。絹はもうお姉ちゃんのゆう事、聞いてくれないんやね……」


洋榎「……分かった。ならお姉ちゃんのやり方でその手、開かせて貰うな……?」

洋榎は鋏を持つ右腕を振り上げ、絹恵の左肩にそれを深々と突き刺した。


絹恵「 ん゛ん゛っ っ っ ーーーーーッ ッ ッ ! ! ! 」


絹恵は声にならぬ悲鳴を上げ、激痛に顔を歪め更に大量の涙を流した。
洋榎は痛みで力が抜けた絹恵の左手を掴み、地面にグッと押し付ける。
そして、鋏を持つ右手を振り上げ、絹恵の左手首にそれを突き立てた。


ズンッ……


絹恵「 ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ゛っ゛っ゛ッ゛ッ゛ッ゛! ! ! ! ! ! 」


目を裂けんばかりに見開き、それまでとは比較にならない絶叫を上げる絹恵。
鋏は絹恵の手首の骨を砕き、貫通してコンクリートの地面に突き刺さった。

まるで磔にされたかの如く、地面に固定された絹恵の左手。
痛みで握力を失ったその拳は、蕾が咲く様に緩やかに開かれた。
洋榎はゆっくりと鋏を引き抜き、絹恵の中指にその刃を当てる。


〝0:46〟


洋榎「…………」

洋榎(ここで3本目を切ったとして……由子はすぐに切り返してくる……)

洋榎(この1本が最後とはならん……。4本目、5本目と勝負は続く……)

洋榎(その度に絹は恐怖と苦痛を味わわされ、激痛に悲鳴を上げるんか……)

洋榎(せやったら……いっその事……)


洋榎は自らのタイを解き、それで絹恵の手首の刺し傷の少し下を固く結んだ。
そしてその手首の傷口、骨が砕け穴が空いた部分に鋏の刃を合わせ軽く挟む。


洋榎「こうすれば……3回分の痛みが1回で済むやろ……?」


洋榎は鋏を握る右手に左手を添え、そこから一気に体重を乗せた。


ゴキゴキゴキッ……


口を布で塞がれているにも拘らず、耳を劈く様な悲鳴が屋上に響き渡った。
全身を痙攣させる絹恵、誰もが息を呑み、言葉を失い、ただその様子を眺めていた。


〝0:09〟


激しい痛みと大量出血によって、絹恵は朦朧状態に陥っている。
焦点の合わない虚ろな目をして、小さな呻き声を上げていた。
洋榎はそんな絹恵の頬を撫で、優しく見詰めながら語り掛ける。


洋榎「眠りや絹……。この〝悪夢〟が終わるまで……」

洋榎「お前が目を覚ます前に、うちが全てを終わらせるからな……」


絹恵「う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ っ っ …………」

絹恵「…………」


完全に意識を失ったのか、絹恵の身体の震えが止まった。
洋榎は切り落とした絹恵の手首を持って静かに立ち上がる。


〝0:00〟 カチッ…ピーッ…ピーッ……

漫  「くっ……うぅ……………………ハッ!」

漫  (うち……気絶しとったんか……?)

漫  (勝負は……絹ちゃんは……!?)


身体を横向きにして上体を起こし、漫は絹恵の方へ目を向けた。


漫  「……はっ!? な、なんや……それ……っ!」


霞む視界の先に見えたのは、全身返り血で真っ赤に染まった洋榎の姿だった。
その左手には、小指と薬指の2本が切り取られた〝手〟が握られている。
彼女の足元には、左手首から先を失った絹恵が眠る様に静かに横たわっていた。


洋榎「 う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ ッ ッ ッ ! ! ! 」


天に向かって洋榎が猛獣の如き咆哮を放つ。
同時に彼女を中心として熱風が巻き起こった。


郁乃「ぐぅっ……! なんやこのやたら熱い夏風は……!? 鬱陶しいッ!」


漫  (真紅の風が……1本の帯状となって洋榎先輩に纏わり付いた……!?)

漫  (まるで……巨大な赤いマフラーが……あの人を包み込む様に……っ!)


洋榎「おい黒服……モニターの数字……変わっとらんやないか……」

洋榎「指……ちゃんと切り取ったやろ……? 余計な部分も付いとるけどな……」

洋榎「それとも……このやり方になんや問題があるゆうんか……?」


黒服「ハッ、申し訳ございません洋榎様……」

黒服「特に問題はございません。貴女のその指切り方法は有効です……」


=======
愛宕 絹恵:5
真瀬 由子:2
=======


洋榎「ふふっ……これで絹は合計指5本やな……。出血大サービスやで……」


郁乃(しっかしまぁ、指を手首ごと切り落としよるとは……大胆にも程がある!)

郁乃「はっ……ははっ……はははっ……ハハハハハッ!」

郁乃「ブラボー! ブラブラボー!! 君、最っ高にクレイジーやなァッ!!!」


拍手をしながら子供の様に無邪気な笑顔を見せ悦ぶ郁乃。


黒服「絹恵様は左手の指を……いえ、左手を失ってしまいましたので……」

黒服「今後、自力での指切り行為が困難かと思われます……」

黒服「よって、絹恵様が所有する鋏を他者が使用する事を承認致します……」


郁乃「良かったなぁ洋榎ちゃん、これでもう熱ないやろ?」

洋榎「熱い……? そんな感覚……とうの昔に無くなってたわ……」


洋榎の右手は黒く炭化し、熱も痛みも感じない状態となっていた。


洋榎「待たせたな由子……攻守交代や……。今度はお前が根性見せる番やで……?」

郁乃「クククッ……。〝今度はお前が根性見せる番やで〟やとォ……?」

郁乃「笑止! 君はただ妹の指切っとるだけやないかいっ! うぷぷぷぷっw」


黒服「真瀬様……。今更申し上げるまでもない事と存じますが……」

黒服「貴女がこの勝負に勝つ為には、最低3本の指を切る必要があります……」


由子(うぅ……指3本……いきなり……3本も……)


郁乃「真瀬ちゃん、ファイトや! ここで弱気になったらアカンで!」

郁乃「相手が切った指は3本! なら君は6本切ればええ! 倍返しやッ!」

郁乃「なんなら、いくのんがその指切り手伝ってやるでぇ~!」


由子(3本……あの痛みを……最低あと3回も味わうの……!?)

由子(で、でも……っ! そんなの最初から覚悟していた事よ……!)

由子(敵は洋榎……容易に勝てる相手ではないと分かっていたでしょ……!?)

由子(それに1本ずつ切るより、纏めて同時に切った方が苦痛も少ないはず……)

由子(この命を繋ぐ為だもの……! 出来る……私なら出来る……っ!)

由子(あんな卑怯者に……私は負けない……負けたくない……ッ!)


洋榎「…………」

洋榎「由子……先に言っておくで……」

洋榎「お前が3本の指を切るなら、次うちは絹の指を5本切る……!」

洋榎「勿論……その手首ごとな……ッ!」


そう言って、洋榎は絹恵から切り取った左手首を由子目掛けて投げ付けた。
指より遥かに質量感あるそれが目の前に落ちて来た時、由子は小さく悲鳴を上げた。


郁乃「ぐぬぬっ……! 真瀬ちゃん、こうなったら必勝の最終奥義を教えたるッ!」

郁乃「10本……右手左手合わせて10本の指、その全てを切り落とすンや!」

郁乃「黒服がゆうたやろ? 切った指が同数の場合、真瀬ちゃんの勝ちやと!」

郁乃「つまり、全部の指を切り落とせば君の勝利は揺るがない! まさに必勝や!」


洋榎「代行……あんた算数間違えとるで……」

洋榎「人間には全部で〝20本〟指があるやろ……?」


郁乃「ふぁっ!?」

由子「……っ!」


洋榎「両手の指が無くなったら、次は両足の指が無くなるまでやる……!」

洋榎「それでも足りん時は、手首足首その他、切る場所を随時付け加えればええ……」

洋榎「この勝負の趣旨は根性比べ。なら別に指だけに拘る必要は無い、せやろ?」

洋榎「〝達磨〟になるまで……うちはこの手で絹の身体を切り刻むで……!」


郁乃「ハハハハハッ! 死なんよう応急処置はしてやるから思う存分やってまえ!」


洋榎「さぁ由子……。それでもこの勝負、続けるゆうなら……」

洋榎「お前のその指3本……! うちの前に差し出してみぃや……ッ!」

由子「うぅ……卑怯よこんなの……出来レースだわ……っ!」

由子「痛みを受け耐え忍ぶんは洋榎やない……! 絹恵ちゃんの方やのに……っ!」

由子「心の痛みですって……? それが何だって言うのよ……!」

由子「そんなん、肉体の痛みに比べれば100倍マシなのよッ!」


由子はポロポロと大粒の涙を零し、叫ぶ様に吐き捨てた。


由子「こんな勝負フェアやない……! 勝てる訳無い……ッ!」


由子は手から鋏を落として、その場に泣き崩れた。


郁乃「うんうん、ホッンマに真瀬ちゃんのゆう通りやて……」

郁乃「自分が痛い思いする訳やないのに、さも偉そうに語るんはどうなんや?」

郁乃「はははっ! けどまぁ