モバP「渋谷凛とのお話」(208)



プロデューサーをやる事になった。

アイドルの。

どうして社長は俺なんかをプロデューサーにスカウトしたんだろう。

けど、大学卒業していい仕事も見つからなかった俺にとってはありがたい話だ。

アイドルのプロデューサーなんて何すればいいかよく分かんないけどさ。

まぁ一度やってみて、もしきつかったら辞めちゃえばいいか。俺まだ若いし。失敗してもやり直せるしな。


という訳で、本日初出勤。


P「おはようございまーす」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369266293


「あっ、おはようございますPさん! 待ってましたよ!」

P「あっ、どうも。えーと……ちひろさん」

ちひろ「ふふふ、名前覚えてくれたんですね」

この人は千川ちひろさん。俺が働く事になったこのプロダクションの事務員的ポジション。

数日前ここでプロデューサーとしての軽い説明をこの人から受けた。



P「とりあえず、俺はどうすればいいですかね?」

ちひろ「はい、Pさんには今日から早速一人の子の担当プロデューサーになってもらいます!」

P「……えっ? いきなりですか!? て、てっきり、まずは先輩プロデューサーのそばについたりして色々学んでいくものだと思ってたんですけど」

ちひろ「んー、そうしたいのは山々だったんですが……」


ちひろ「ちょっとウチのプロも人材不足というやつで……そういう訳にもいかなくなっちゃったんですよ。すいません」

P「は、はぁ……そうなんですか……」

まさかいきなりアイドルを受け持つ事になるとは。予想してなかった展開だ。

ちひろ「それでPさんに担当してもらう子なんですけど、もう来てるんで早速呼んできますね!」

P「えっ、もうですか!?」

おいおい、心の準備ができてないのにどんどん展開を進めないでくれよ。

俺の担当アイドルか……一体どんな子だろうな。

というか男? 女? まずそこすら分かってないんだけど。

女の子だとしたらちょっとめんどいなぁ。多分年下だろうし……若い女の子の扱い方なんて俺は知らんぞ。

まぁアイドルっていうぐらいだし……きっと世渡り上手で八方美人なキラキラと輝かしいやつが来るんだろう。



ちひろ「お待たせしましたっ、連れてきましたよー」

おっ、きた。


スッ





「ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まあ、悪くないかな……」

P「……!」



凛「私は渋谷凛。今日からよろしくね」

P「…………よ、よろしく……Pです」





――これが俺と凛の出会い。





P「えーっと……渋谷さん……は……今、いくつなの?」

凛「15歳」

若いなやっぱり。7つも下かよ。

P「正直もう少し上の子の担当かと思ってたよ。最近のアイドルって若いよね」

凛「そう? 私より若い子も結構いるよ? 9歳の子とか」

P「マジか……」

チャイドルというやつか?

凛「そういうアンタも社会人としてはかなり若いよね」

P「ああ。今年大学を卒業したばかりで、これが初めての仕事だからね」

凛「……」


凛「……あのさ」

P「うん?」

凛「アンタは……どうしてこの仕事に……アイドルのプロデューサーについたの?」

P「え? どうしてって……ここの社長にスカウトされたからだけど……」

凛「けどその誘いを受けたって事は、多少なりともこの仕事に興味を持ったからだよね? やる気になった理由が聞きたいの」

えー……何この子、ずいずい聞いてくるなあ……

理由なんてないよ。ただ職もなく困っていたところに運よく舞い込んできたこの仕事に何も考えず飛びついただけの話。

だけどそれをそのまま言うのも格好悪いな……適当にそれっぽい事を言っておくか。


P「俺は、芸能界という華々しい世界で活躍するアイドル達がその表舞台から降りた時ちゃんと休めているだろうか、といつも心配だった」

P「だから俺はプロデューサーという仕事を通して、アイドル達が裏では気兼ねなく休息できる、そんな安らぎを常に与えられる存在になろうと思ったんだ!」


どうだ。素晴らしい回答じゃないですか。

凛「…………ふぅん……そう」

ふぅんて! おい! せっかく頑張って答えたのに何だそれ!

 



つか……何だろう。この子、年齢の割に落ち着いてるっていうか……すごいクールだな。

俺の想像ではアイドルってもっとキャピキャピしたやつがなると思ってたんだが。

俺たちこれから二人三脚で頑張るんだからさ、もうちょい愛想よくいこうぜー。大体――

凛「……ねぇ……ねぇってば」

P「あ、はいっ?」

やべ、声裏返った。

凛「いつまでここにいるの? 今日は何かしなくていいの?」

P「え……えっと……何か……って?」

凛「……はぁ」

ため息つかれた。

 


凛「お仕事とか……レッスンとかさ。私のアイドルとしての活動だよ」

P「そ、そっか……でも俺は今日からプロデューサーになった訳だからさ……ちょっとその辺の勝手がまだ分からないんだけど……」

凛「前のプロデューサーが組んでたスケジュールがまだある筈だから……ちひろさんに貰ってきなよ」

P「あ、うん。じゃあちょっと行ってくるよ」


ガチャ


……うーん、何だかなー。俺あの子と仲良くやっていけるのかなー。

まだ1日目だというのに早くも軽く不安だ……

……しかし、そうだ。あの子との関係もあるが、プロデューサーとしての仕事も早く覚えなければならないんだよな。





P「あっ、いたいた。ちひろさんっ」

ちひろ「あ、Pさん。どうですか? 凛ちゃんとは上手くやっていけそうですか?」

P「え、あ、あはは……ま、まぁ何とか……それより、渋谷さんの前のプロデューサーが組んでいたスケジュールがあれば欲しいんですけど」

ちひろ「あー、そうですよね。先に渡しておくべきでしたよね。すいません、今お渡ししますね」


ガサゴソ


ちひろ「……あったあった。はい、どうぞ」

P「ありがとうございます……どれどれ……って」


P「……何か思ったより入ってないですね……予定」

ちひろ「まぁ……そうですね」


ちひろ「まだまだ凛ちゃんも新人ですから! これからこの白紙の部分を埋めていくのがプロデューサーであるあなたの役目ですよ!」

P「そ、そうですよね」

ちひろ「……」


ちひろ「凛ちゃんを……お願いしますね…………今度こそ」


P「……ち、ちひろさん?」

ちひろ「ふふ、期待してますよ? プロデューサーさん」

P「あ……はい」







P「それじゃ今日はとりあえずレッスンらしいから。スタジオまで送ってくよ」

凛「うん」

P「……」

凛「……」

静かな車内だなあ。音楽かけよう。


P「あー……渋谷さんってさ、何か趣味とかあるの?」

凛「趣味? んー……何だろ。犬の散歩とかかな」

P「へー、犬飼ってるんだ。可愛い?」

凛「うん、可愛いよ」
 


P「犬といえば俺もさぁ、昔飼ってたのがいて、そいつがまた面白いやつで……」

凛「あ……今の道右に曲がらなきゃ……」

P「え……?」


凛「あー……通りすぎちゃった……あそこ過ぎちゃうとしばらく直進し続けなきゃいけないのに……」

P「あ、あはは……この地図ちょっと見辛いなあ……」

その後俺はレッスンスタジオに到着するまで計7回も道を間違えてしまった。




凛「……それじゃレッスン行ってくるね」

P「う、うん。頑張ってね。終わったら迎えに来るから」

凛「うん……それじゃ後で」


タッタッタッ


行ったか。


P「……とりあえず……一段落」



…………プロデューサーか。俺やってけるかな。

P「……」

……ま! 何とかやれるだろ。

仕事の方は、正直この量なら忙しくはないと思うからドタバタせずじっくり覚えていけばいいだろうし。

スタジオへの道も……あと3回くらいいけば完璧の筈!


渋谷さんとの関係は……

うん、これも時間が経てば何かいつの間にか仲良くなるだろ! 多分!

大丈夫大丈夫!





――根拠もなくそんな能天気な事を考えていられたのは……

――最初の内だけでした。
 

今回はこんだけ更新

乙 期待してます

>>ちひろ「凛ちゃんを……お願いしますね…………今度こそ」
不穏な空気を感じる

前Pなのかループモノか…





数日後―

今日は凛のグラビア撮影の仕事。

ちなみに俺がプロデューサーになって初の“お仕事”でもある。

が……


凛「遅いよプロデューサー!」

P「ごめんごめん。ちょっと目覚ましの調子が悪くてね」

凛「もうっ……撮影始まっちゃうよ? 私が遅れたらスタッフの人だけじゃなく他のアイドルの子達にも迷惑がかかるんだからね?」

流石に凛はまだ単独で撮影の依頼が来るほど人気ではないので、他の新人アイドル達とセットでの撮影なのだ。


P「大丈夫だって。今からでも普通に間に合うし。渋谷さんの設定した出発時刻が早すぎるくらいじゃない?」

凛「……前のプロデューサーはそれくらいに出発してたから」

P「そ、そうなの? ま、まぁ前の人はどうか分かんないけど、俺は俺なりのスタンスでやっていくよ」

凛「……」





撮影場―


ガヤガヤ


P「おっ、ほら。見てよ渋谷さん。丁度そろそろ撮影が始まるっぽいよ。グッドタイミングだったんじゃないの俺たち」

凛「そうだね」



「……ん? 君、見ない顔だけど関係者か?」

P「へ?」


誰だこの髭もじゃのおっさん。


P「えっと、おれ、いや、私はですね、今度から渋谷凛の担当プロデューサーになりましたPと申します」

「何? プロデューサーが変わったのか? 君が新しいプロデューサー?」

P「はい」


撮影監督「そうか、私は今回の撮影を仕切らせてもらう撮影監督だ。よろしくな」

監督だったのかよ。

撮影監督「さっきまで君達の姿が見当たらなかったが、どこにいたんだ?」

P「あ、いえ、私達は今着いたばかりですので」

撮影監督「何だと……ふむ……そうか…………それで?」

……え?



P「あの……それで……とは?」


撮影監督「……」

P「……」


何だ? 何だこの沈黙!?



撮影監督「……はぁ……そうか……いや、何でもない。今日“は”よろしくな」

P「あ、はい! よろしくお願いします!」


今のは一体何だったんだ? ……まぁいいか。

 





そんなこんなで撮影開始。


パシャッ、パシャッ


……おー、やってるやってる。

へー、渋谷さん以外のアイドルの子達も結構色んなタイプがいるんだなぁ。


うお、何だあの子の格好……ゴスロリ……っていうのか? 人形みたいだ。

あれ、あっちで撮ってる人……アイドル? にしてはちょっと年が上に見えるような……


……って、うわっ! あそこの子でけー! 俺より慎重でかいんじゃ……

「ウチのアイドルに釘づけですか?」

P「……え?」

>>22
漢字ミス
×慎重→○身長


「どーも」ニコッ

P「あ、ど、どーも」

「私、アイドル諸星きらりのプロデューサーをしているこういう者です」スッ

P「あ、わざわざご丁寧にどうも」

名刺だ! これが噂の名刺交換! あ、けど……

P「す、すいません。私の方はまだこの仕事に就いたばかりで、名刺が用意できてないんですよ」

きらりP「あー、そうなんですか。分かりました」

P「はい……あ、私は渋谷凛のプロデューサーをしているPといいます」

きらりP「知ってますよ。さっき撮影監督さんとの会話聞いてましたから」

P「え、あ、そうなんですか」



きらりP「……あなた、社会人一年生さんですか?」

P「え……そ、そうですけど……何で」

きらりP「やっぱり…………いいですか、社会人……特にこの業界で働く者にとって、大事なものとは何だと思います?」

な、何だよ急に? 大事なもの? ……お、お金?


きらりP「それは、“信頼”……そして“人間関係”です」

P「信頼……人間関係……」

きらりP「あなたはこの撮影現場での仕事も、ここのスタッフとの仕事も初めてですよね?」

P「は、はい。そうですけど」

きらりP「でしたら何故撮影が始まる前に挨拶回りをしなかったのですか?」

P「あ、挨拶?」


きらりP「はじめにしっかり挨拶をしておくのは最低限のマナー。しかもあなたの場合、それ以上に大事な“顔見せ”の意味も含まれているんです」

P「顔見せって……なんでそんな事……アイドルを覚えてもらうならともかく……」

きらりP「そのアイドルを覚えてもらう為の“お仕事”を直接取ってくるのが、あなただからですよ」

きらりP「これから渋谷凛に仕事を与えてくれる方々とは、基本的に全てあなたが接するのですよ?」

P「……」ゴクッ


きらりP「それなのにあなたときたら、あんなギリギリの時間に来られて……あれでは挨拶する時間もないでしょうに」

な、なるほど。俺の前のプロデューサーはそれで早い出発だったのね。にしても……
 


きらりP「さっきの監督さんとのやり取りだってそうです。折角あちらから声をかけてくださったんですから、精一杯自己アピールしておかないと」

きらりP「菓子折りの一つでも用意していれば完璧でしたけど、そうじゃないにしてももう少し言う事あったでしょう」

……な、何なんだよコイツさっきから。初対面のくせに好き勝手言ってくれちゃってぇ。


きらりP「この撮影が終わってからでも遅くありません。各関係者、できれば他の事務所のプロデューサー方にも挨拶しておいてくださいね」

P「は、はぁ……」



きらりP「という訳で色々言わせてもらいましたが、是非私ともこれから末永く仲良くしてくださいね? Pさん」


P「……よ、よろしく……お願い……します」

 






P「……疲れた」


“顔見せ”を終えた俺が最初に発した言葉はこれ。



俺という人間は、あまり社交性のあるタイプではない。

別に友達がいなかったとかそういう事ではなかったが、必要以上にたくさんの人と関わるのが面倒だと感じるのだ。

少なくともこれまでの人生は、積極的に他人と関与するという道は避けてきた。

だが……

これからはそうはいかなくなるみたいだ。

プロデューサーというお仕事は、周りとの人間関係の積み重ねの上に成り立つものらしい。

その事実は俺にとって辛すぎるものであるという事は、今日一日の挨拶で嫌という程痛感した。
 



凛「……プロデューサー?」


P「……ん、あ、ああっ! お疲れ渋谷さんっ」

凛「何かプロデューサーの方が疲れてない?」

P「ま、まぁこっちにも色々あって……」
きらりP「お疲れ様ですー」

うわっ、また出た!



P「お、お疲れ様です……えーと、何か?」

きらりP「はい。実はですね、監督さん達がこの後皆で飲みに行こうと仰っていたので、是非あなたも誘おうと思いまして」

の、飲みだと……!?

P「い、いや、でもですね。今から渋谷さんを送っていかなきゃいけなくて……」

きらりP「その後来ればいいじゃないですか。どっちにしろ飲みですから車使えないんだし」

P「で、でもー……」
 


きらりP「……お酒の力ってすごいですよ? 普段話しづらい方とでも腹を割って話せたりしますし。人との繋がりを強めるにはいい場ですけど」

ま、またそういう……


P「お、俺は……」

酒が大の苦手なんだよ!

一口飲んだだけでもすぐに酔っ払っちまって、一杯まるまる飲もうものなら気持ち悪くなって吐いてしまう。

大学時代一度地獄を見てからは、何度誘われても断り続けてきた。

しかし、今は……


P「……」チラッ

]
凛「行ってくればいいじゃん。大人の付き合い……ってやつでしょ?」

P「……う」
 

社会人一年目とか関係なく
まともな引き継ぎも無しでこれはちょっと酷じゃね?




――結局。


参加した俺はよりにもよって監督の隣になり、適当に相槌を打っていただけの筈なのに何故か気をよくした監督に半ば無理やり何杯も飲まされ……

数時間後にはトイレでグロッキーしていた。



混濁した意識の中俺は、



「ああ……きつい……もうプロデューサー辞めたい……」


と、早くも思い始めていたのだった。


 

うざい化け物のプロデューサーだけあってうざいなこいつ
何様のつもりだ

これはきらりんのPがクズ

今回はこんだけ更新
コメントくださった方ありがとうございます

実際きらりPみたいな業界の慣習を教えてくれる人は大事だよ
凛のPはまだ右も左も分からない状態なんだし

新卒で入社したてで研修や碌な説明もなくアイドル1人つけて放り出す
ブラックどころじゃないな

実際、挽回できるチャンスくれるきらりPはありがたいだろ?
周りが割と優しい分、自分で変わらないといけないのが問題だけど

厳しさを肌で感じるのは大事
だけど普通は研修やるよな
そりゃPが自分から色々教えをこわなかったのはあるけど

エヴァQの序盤のシンジの扱い思い出すわw

http://i.imgur.com/pajP7oF.jpg
こんな感じのスパルタか

監督の今日“は”とか考えると怖いな、まだ教えてくれる人がいるだけでもラッキーだな。

社会人一年生になるのが不安だ。

言われた直後なのに酒の付き合いから逃げようとするのはいかんだろ
この態度のままだと研修とか受けても同じこと繰り返しそう

そもそも性格的に向いてないんだからPやめて別の仕事探すべき





それからしばらく。


俺は仕事の現場に行くたびに、あのきらりPとかいうやつに言われた通り、積極的に周囲の人達に凛のプロデューサーである自分を押し売りしていった。

俺が新人ということもあり大抵優しく相手してもらえたが、当然人というものは個人個人で全く性格や好みが違う。

やたらべたべたとしてくる人もいたし、逆に反応がほとんどなくて無視されてるんじゃ、と思うような人もいた。

その全てに臨機応変に対応し、愛想笑いや気の利いた話なんかを駆使しつつ、相手に気に入ってもらう、というのは……

半端ないストレスを感じる所業であった。




……ていうか。

何であいつら皆揃いもそろって酒好きなんだよ……?

うぷ……くそ……気持ち悪い……

 





凛「おはようございまー……うわ」

P「……んあ? あー、おはよー……渋谷さん……」

凛「プロデューサー……何で事務所のソファーで寝てるの?」

P「んー……いやー……昨日も○○プロのプロデューサーから飲みに誘われてさ……終わった後一旦ここ帰ってきたんだけど、きつくてそのまま寝ちゃって……」

凛「へえ……何ていうか……色々と大丈夫?」

P「心配してくれるのー? ありがと……」

凛「うわ、お酒くさっ。ちょっとこっち来ないでよ。せめてシャワー浴びてきて」

ひでぇ。


凛との関係は未だに良好とは言えない状態だが、それでもめげずに仕事を続けていた……
 



そんなある時。

ふと気づく。

とってもヤバい事に。



……仕事が無い。


今まで俺は前のプロデューサーが残していった仕事をこなしていただけなのだが、新しい仕事が入ってこない以上、必然的に仕事はなくなっていく訳でして。

スケジュール帳がもう真っ白になる訳でして。


P「……」
 

凛視点だと、酒飲んでるだけのクズだな、これw




きらりP『あなたは何をしているのですか?』

P「……すいません」


事の深刻さを感じ取った俺は、何故かきらりPに電話をかけていた。


きらりP『あなたのアイドルは超売れっ子ですか? あなたは名の知れた敏腕プロデューサーですか? どちらも違うでしょう!』

きらりP『今のあなた達の知名度で仕事が勝手に入って来る訳ないでしょう。だったら自分から獲得に動く。違いますか!?』

P「……おっしゃる通りです」


きらりP『一つの仕事を終える際、そこでお世話になった方々にまた次のお仕事の依頼をしておくのは基本。そこでも人間関係が活きてくるのです』

きらりP『新しい仕事相手に頼む場合は電話でアポを取り、直接顔を見せ売り込むのがベスト。決して電話だけで済まそうだとか楽な考えを持たないよう』

きらりP『分かりましたか? アイドルの仕事というのはそういった地道な働きをコツコツやって初めて得られるのです』

P「……はい」

 

きらりPは事務所の先輩とかで出したほうがよかったんじゃね?って気はするな



長い事説教を俺に浴びせ続けてきたきらりPはなんと最後に、知り合いに掛け合っていくつか仕事がこっちに回るよう頼んでみる、と言ってくれた。

何度もお礼の言葉を述べて俺は電話を切った。

なんだかんだ言っても、あの人はすごくいい人だ。


そして俺は……

考えの甘いダメ人間だ。

こんな俺がこれからもプロデューサーを続けていけるのだろうか。

この頃になって俺はようやく、プロデューサー初日の時のあの自分の考えが、いかに浅はかだったか気づいた。

 




P「もしもし、こちらモバプロダクションのPと申しますが――」


P「――いや、そう仰らずに一度顔だけでも――そうですか……分かりました」


P「――はい――え? 今度の話は無かった事に? ――そんな――いえ、分かりました。またの機会には是非――」




なんと。


人間関係の構築や酒の付き合いだけで“地獄”だと決めつけていたあの日々は、まだまだ可愛いものだった。

今まで用意されていた仕事をこなしていただけだった俺は、仕事を取る、という事がどれだけ大変なのか分かっていなかったのだ。


少しづつ、だがしかし確実に俺は限界を感じはじめていた。
 




P「……ふぅ、着いたよ渋谷さん……レッスンスタジオ」

凛「うん、ありがと」

P「それじゃ頑張ってね……」

凛「……あのさ、プロデューサー」

P「……うん?」

凛「今日……ちょっと、私のレッスン見ていってくれない?」

P「え? ど、どうして?」

凛「何となく…………ダメかな?」

P「うーん……でも俺ちょっと疲れてて……渋谷さんのレッスンの間くらいは休んでおきたいんだけど……」

凛「……そっか……そうだよね……ごめん、無理言って」

P「……」


凛との関係は……もうどうだとか考える余裕が無かった。

 






ある日。


仕事を終え帰りの支度をしていると、隣の仕事場の裏方から何やら声が聞こえてきた。

こっそり様子を伺ってみると、あのきらりPが恐らくお偉いさんであろう相手に向かって謝罪を繰り返していた。


きらりP「この度は誠に申し訳ございませんでした!」ペコッ

偉そうな人「いやいや、いいよいいよ。備品破壊っていっても全然大したものじゃなかったんだしね。今度から気をつけてくれれば」

偉そうな人「きらりちゃんはあの元気さが売りなとこもあるし、あなたがしっかり導いてあげればきっともっと人気者になれる」

きらりP「あ、ありがとうございます! これからもウチのきらりをよろしくお願いします!」



謝罪を済ませ裏から出てきたきらりPに俺は話しかけた。


きらりP「おや……これは……見苦しいところを披露してしまいましたね」

きらりP「きらりという子はね……とっても明るくてパワフルなんだけど、たまにいきすぎちゃう事があって……」

きらりP「だけどそこがあの子の可愛いところだから……多少何か起こしてしまったとしても、大人しくなってはほしくないんです」

きらりP「だからそういう時は今みたいに誠心誠意謝罪をするだけ……そうすればきっといつか周りも理解を示してくれると思うから……ね」




この人はすげえな。素直にそう思った。

俺はきっとこんなに綺麗に謝れない。

自分がせっかく取ってきた仕事で、アイドルに問題を起こされ台無しにされたりしたら……

きっとアイドルを責める。直接言うか心の中でかは分からないが。


そんな自分が容易に想像できてしまって、改めてそこで、俺にプロデューサーが向いていないと思い知らされてしまった。

 



――そしてとうとう。


――来たるべくしてその日は来た。



きっかけは凛が呟いた一言から。


凛「Live……したいな……」ボソッ

P「えっ?」

凛「あっ、いや……なんでもないよ」

P「Live……ってステージで歌ったり踊ったりする……あのLive?」

凛「え……あう……うん」

P「んー……今の俺たちでLive出させてもらえるとこあるかなー……」

凛「だ、だよね。ちょっと言ってみただけだから」

P「……取れるかどうか分かんないけど、一応あたってみるよ……“渋谷さん”」

凛「……! ……う、うん、ありがとう……」
 

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

ええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

ええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

ええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@




きらりP「ない事もない……ですよ」

P「え!? ホントですか!?」


ダメ元でLiveの件を聞いてみたら、きらりPからまさかの回答。

P「ぜ、是非教えてください!」

きらりP「ただ……行くなら覚悟した方がいいですよ」

P「か、覚悟?」

きらりP「ええ……そのLive出演を斡旋してくださる人がいるんですが、その方はこのアイドル業界ではかなりの大御所さんでして……」

P「そ、そうなんですか」

kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk


きらりP「万が一その人に嫌われたりしたら、下手すれば業界から追放もあるかも……」

P「う……」ゴクリッ

きらりP「それでも……行きますか?」

P「……」


俺は……まだ一度も自分がプロデューサーらしい事をなしたという実感が無い。

今回……凛の望むLiveの仕事を取ってくる事が出来れば、少しはその実感を得られるかもしれない。


P「……はい……行きます!」

               _,|__|,_
                      ,.;x=7/>─</7ァx,
                ,ィ´///./      \//ヽ
               ,;'//////  \       ヽ/∧  安価が
               ,'//////   o|       |V∧
                  ;//////!    o!         lo}/ハ     「 'ニ)  、_
                 i//////|    o|         |o|/リ     、_,)   __) 」 だと? ルーシー
               V/////ハ__⊥ =-──┴--'--、
             ////\//|L -z、‐───=zァ7 ̄ ̄ヽ    予想外だ……
 .            //////./|ハ rテ汞ト-  ,ィァテ ∧___,ノ    この世には
           〈_//_, イ: |l:|: :〉 `冖`   /´冖'/|: |         その「安価」のために
 .              ̄ |: :|: :|l:|:/      │   ': l: :l        無償で…喜んで…
              _/l: :|: :|l:|'     -ト、ノ  / :│: ',         生命を差し出す者も
            / L:!: l : | | ヽ     --`- /l: : :l :_:_ゝ          大勢いる
      _r─‐x_ノ\l ∨ : |:l/⌒\  ー‐ ' イ┴<\
    /二二二\ \_ ∨ l:!   __` ー‐ '__|___/ ノ       たとえば
 .   /ニニニニニ∧   ヽV:/  /、   ̄二´   ,.ィ__        その者が
   {ニニニニニニハ     \/、 \____// |∧___      「女」であろうと
   /ニニニニニニニ}、 ,ィ      \_     i /  ./ ゚ \\_     ……
  r{ニニニニニニニ//。{            ̄ ̄    「 ̄\ } У \    修道女のような
  | \__二二二∠,.イ  i \_           ハ ゚ ゙ヽ 「jー-- 。〉   …………
  |ヽ.    ̄ ̄∧゚__\_l___,ノ__。 ̄了          \__厂\._/
 人 \__/  ./  / {_j       /                |  l |.l
/  \,       〈  /  /ヽ---<           -‐=   ̄ \_。_|ハ
          ∨。 ./   | |               ___|_|_∧
/`ヽ__         }/    | |        _ -‐   ̄  ̄ ̄Τl〉
ニニニ\___   l l      | |__ -‐  ̄  i:.           }ニ|

               _,|__|,_
                      ,.;x=7/>─</7ァx,
                ,ィ´///./      \//ヽ
               ,;'//////  \       ヽ/∧  安価が
               ,'//////   o|       |V∧
                  ;//////!    o!         lo}/ハ     「 'ニ)  、_
                 i//////|    o|         |o|/リ     、_,)   __) 」 だと? ルーシー
               V/////ハ__⊥ =-──┴--'--、
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           〈_//_, イ: |l:|: :〉 `冖`   /´冖'/|: |         その「安価」のために
 .              ̄ |: :|: :|l:|:/      │   ': l: :l        無償で…喜んで…
              _/l: :|: :|l:|'     -ト、ノ  / :│: ',         生命を差し出す者も
            / L:!: l : | | ヽ     --`- /l: : :l :_:_ゝ          大勢いる
      _r─‐x_ノ\l ∨ : |:l/⌒\  ー‐ ' イ┴<\
    /二二二\ \_ ∨ l:!   __` ー‐ '__|___/ ノ       たとえば
 .   /ニニニニニ∧   ヽV:/  /、   ̄二´   ,.ィ__        その者が
   {ニニニニニニハ     \/、 \____// |∧___      「女」であろうと
   /ニニニニニニニ}、 ,ィ      \_     i /  ./ ゚ \\_     ……
  r{ニニニニニニニ//。{            ̄ ̄    「 ̄\ } У \    修道女のような
  | \__二二二∠,.イ  i \_           ハ ゚ ゙ヽ 「jー-- 。〉   …………
  |ヽ.    ̄ ̄∧゚__\_l___,ノ__。 ̄了          \__厂\._/
 人 \__/  ./  / {_j       /                |  l |.l
/  \,       〈  /  /ヽ---<           -‐=   ̄ \_。_|ハ
          ∨。 ./   | |               ___|_|_∧
/`ヽ__         }/    | |        _ -‐   ̄  ̄ ̄Τl〉
ニニニ\___   l l      | |__ -‐  ̄  i:.           }ニ|





大御所Pのオフィス―


大御所P「どうぞ、そこにかけて」

P「失礼しますっ!」

大御所P「ふんふん、君がきらりPの言っていた新人プロデューサー君か」

大御所P「いやね、きらりPとは俺がまだフリーになる前にいた事務所での先輩後輩の仲なんだけど、アイツには俺も一目置いてるのね」

大御所P「そのアイツが紹介してきたプロデューサーだから、結構期待してるんだけど……」


大御所P「……」ジー


何だ? 何かすっごい値踏みをするかのごとく見られてるんだが。
 

ストレスの発散や逃がし場所を作るのも大人の仕事とは言うが難しいんだよな…
酒も煙草もストレスの解消手段としては適量なら会話の種にもなるから有用とは言えるらしいけど



大御所P「…………ん……とりあえず、今度のLiveに君のアイドルを出してほしいんだよね?」

P「は、はい! お願いします!」

大御所P「うんうん、出すかどうか判断するために、一個だけ質問をさせてもらっていいかな」

P「質問……ですか?」



大御所P「そんなに構えなくても大丈夫。難しい事聞く訳じゃないから……そう、質問の内容はズバリ」

大御所P「――君が思う、君の担当アイドルの魅力は?」



……凛の……魅力……?

 



P「え、と……」

何か、何か言わなきゃ!



P「わ、私のプロデュースする渋谷凛という少女はですね、15歳という年齢にしてトップアイドルを目指す志高き女の子でして――」


P「スリーサイズは上から80-56-81、身長は165cm、体重は44㎏、スタイルはまだ年相応といった感じかも知れませんが十分将来性を秘めており――」


P「顔つきは少女の幼さを残しつつも、釣り目がちな眼差しからはどこか大人の女性を感じさせ――」


大御所P「ちょっと待ったちょっと待った」

P「え……?」



大御所P「あのさぁ……俺が聞きたいのはそんな調べたらすぐ出てくるようなプロフィール上の薄っぺらい情報なんかじゃないの……分かるっしょ?」

大御所P「知りたいのはアイドルの“本質”。ぶっちゃけその情報が多少曖昧でもいいから、“君が知る渋谷凛”をありのまま伝えて欲しい訳」


お……俺が知る渋谷凛……

俺が……知る……


……あれ。

…………あれあれ。



俺…………………………リンノナニヲシッテルンダ???

 



そこからは何を喋っていたかあまり覚えていない。

意識がはっきりしたのは、大御所Pが、

「もういいよ」

と、発してから。


大御所P「結論から言おうか? 不合格。Liveの件は無し」

P「あ……は……」



大御所P「というかね、びっくりした。まさかこんなに自分のアイドルの事知らんとは」

大御所P「君さぁ、ろくにアイドルの事見てないでしょ? それってさ、評価にすら値しないっていうか、論外なんだよね」

大御所P「まぁ君もこの業界の事あまり教わらず飛び込んできて、色んな試練抱えて四苦八苦したのかも知れないけど」

大御所P「そんなの、アイドルには微塵も関係ないから」



P「……あ、の」

大御所P「俺もさぁ、それなりにこの世界長いから、たっくさんのアイドルと、そのプロデューサーを見てきたんだよ」

大御所P「そしたらね、段々見ただけで、何となくその人の器というか、可能性の光みたいなのが感じられるようになったの」

大御所P「だけど…………今の君からは何も感じない」

P「――っ」




大御所P「……まぁ、これから君がどういうプロデューサーになっていくのか、これっぽっちも興味を抱けないけど」

大御所P「俺から一つだけアドバイスする事があるなら……」





大御所P「一秒でも早くプロデューサーなんてやめて他の仕事見つけな。その方が君とアイドルの為だ」

P「――――――――っ」
 



何も言えなかった。


俺は……プロデューサーに向いてない。

分かってた。そんな事自分で分かってた。

だけど、それをあんなにはっきり……つきつけられて……

今まで自分の奥に無理やり押し込めていた“何か”が飛び出しそうだった。


他の仕事……か。


そうか。そうじゃん。

あんなボロクソに言われて、それでもまだプロデューサー続ける理由ってあるか? ないだろ。

うんうん。元々、きつかったら辞めちゃえばいいやって軽い気持ちで就いたんだし。ここらが潮時っしょ。

……よし……そうとなったらもう明日にでもちひろさんに言って、辞めさせてもらおう!

…………いやー……………………辞めると決めると…………何か……心が軽くなった気がするなー……あはは……


……はは………………は…………

今回はこんだけ更新
コメント下さった方々ありがとうございます
確かにきらりPは同事務所設定で良かったかも



辞めたほうがいいだろこんな超ブラック。

なんでもいいけど凛と全然絡んでない……

これはPが悪い

>>78

Pより仕事のノウハウ教えずにほっぽり出す社長とちひろさんのがよっぽど悪い気がする

言われてみればその通りだ

いきなり職場ほおりだされて、右も左もわからないのにアップアップで頑張って(アドバイスはあるけど同じ職場じゃない)
他人にも気を配れってのが無理な話でしょ
これは会社としての体系に問題あるとしか言えん
そういう話なんだろうけどね

まぁそういう所に突っ込む話じゃあないだろう、こっから何とかして星井が

>>79
業界に長くいる人ほど業界で常識なことは相手にとっても常識だと思う傾向があるから素人に事前教育は必要
ただPにも会社にも原因があるからなんとも

なんかこの無理やりPを理不尽に逆境にもっていく展開がエヴァっぽい

スレタイにでてるアイドルが空気な件

>>49
たぶん伏線絡みと予測してるぜ
きらりPなのは

>>84
このまま一回解雇されて覚醒するんですね分かります

ぶっちゃけあまりにもPが理不尽な目にあわされ過ぎて解雇されてもこんなクソ会社と縁切れておめでとうってレベルだろ

無理だろ
ログ削除

これで成功できたら、Pは自分でプロダクション立てた方が大成する(確信)







ちひろ「辞めちゃうん……ですか」

P「はい……すみません」



辞表届を見つめるちひろさん。

あれだけ目まぐるしい日々を送っていたので気づかなかったが、実は俺がプロデューサーに就いてからあまり月日は経過していない。

せっかく働かせてやった新人がこんなにすぐ辞める、なんて言うものだから失望しているのかもな。

すごい罵詈雑言を並べ立てられるかもしれないが、辞めると決めたのは俺だ。どんな言葉も噛み締めて受け止めなければ。




ちひろ「分かりました」

P「……え?」

 



ちひろ「これまでありがとうございました。Pさんが働いてくれた分はしっかり給与を出しますので安心してください」

P「え、あ、の」


え、そんなあっさり認めちゃうの?

もっと……驚いたり……憤ったり……しないの?




ちひろ「せめて……最後に凛ちゃんに会っていってあげてくれませんか? もうじき来ると思うので」

P「……それは」


凛「もう来てるよ」スッ


ちひろ「……凛ちゃん! ……いつから」


凛「ほとんど最初から。話は聞いちゃったよ」


凛「プロデューサー……辞めちゃうんだ?」

P「……! ああ……ごめん……ね」


はぁ……できれば凛には会わずに辞めたかった。

気まずいっていうのもそうだけど。

もし哀しまれたり責められたりしたら覚悟が鈍ってしまうかも、と思ったからだ。

凛は……一体どんな反応を……






凛「……ふぅん…………あっそ」




…………は?

 



おい。

何だよその反応は。


何でそんな…………どうでも良さそうなんだよ?

何でそんな…………“完全に興味を失った目”で俺を見てるんだよ!?




P「し……“渋谷さん”っ」

凛「…………なに」

P「あの……Liveの話だけど……ごめんね? 一応かけあってみたんだけど、取れなかったよっ」

凛「ああ……いいよ別に」




凛「最初から大して期待してなかったから」


P「最初……から……?」


何なんだこれ。

俺が……俺が辞めても……誰も困らない?



はは……そっか。そうだよな。


俺みたいな奴が一人居なくなったところで事務所的には大した痛手でもないよな。

それなのに俺ってば何を勘違いしてんだか、引き止められるかも……なんて心配するなんて……無様すぎるだろ。あはは。

こうして俺が消えていっても、しばらくしたらまた凛には新しくプロデューサーがすぐ着くだろう。

今までもそうだっただろうし、これから先もきっとそんな感じで続いていくんだと思う。

そして凛は、俺の事なんて“使えなかった沢山のプロデューサー達”の内の一人として何の躊躇もなくその存在を記憶から抹消していくんだ。

 


そう、無かった事になっちまう……俺と過ごした日々は。


…………無かった事に?

あの……あんなに大変だった日々が……?



……俺はっ!

短い間だったが、アイドルのプロデューサーだったっ。

その苦労と事実は、きっと生涯忘れる事はないだろう。


だけど凛は、そんな事いとも簡単に忘れていってしまう。


それって……なんていうか……


すげぇ……



すっげぇムカつくっ!!

 

むかつくのはこっちだ




凛「……まぁ、お互いお疲れ様でしたって事で」

凛「これからは別の仕事で頑張って……
P「ちょっと待てよっ!」

凛「……え?」


P「なんでそんな冷たいんだよっ!」


凛「な、なに?」


P「お前らからしたら俺なんていくらでも替えのきく量産品なのかも知れんけどなあっ、俺だって自分なりに精いっぱいやったつもりだったんだよ!」

P「その努力くらい認めてくれてもいいじゃん! 適当に済ませないでくれよ!」

ちひろ「プ、プロデュ……」

P「大体なぁ、渋谷凛っ!」ビシッ

凛「え?」ビクッ


P「お前俺にもっと興味持ってよ!」
 

なんだこの(元)P?

うっぜえwwwwwwwwww


凛「……」ポカーン

俺は一体何を口走っているんだ? 頭ではそう思うも口が止まらない。


P「俺さ、頑張ったよ? 大した事もしてやれなかったけど……それでもこれまでお前の為に働いてきたんだよ!」

P「なのにさ、お前ってばあんまり俺に話しかけてもくれないし! 笑った顔すら見た事ねえよ!」

P「Liveだってお前がしたそうだったから、わざわざ偉そうな奴のとこまでお願いしにいって、あんな事言われたっつーのに……期待してなかった!?」

P「しろよ! 期待! 俺は何のために頑張ってんだよ!」

凛「…………」

P「冷静ぶってすましてんじゃねえよ! 子どものくせに可愛くねえんだよ!」

凛「…………っ!」ピクッ

ちひろ「ま、待ってくださいPさん、凛ちゃんは――――」

凛「勝手な事ばっか言わないでよ!!」バンッ

お、おう


P「……え」ビク


凛「俺に興味持て? それはこっちのセリフだよっ!」

凛「私は私なりにアンタと仲良くしたいと思ってたよ! だけどアンタはいっつも疲れ果ててて……そこであんまり話しかけるのも申し訳ないと思って……」

凛「呼び名だっていつまで経っても“渋谷さん”とか他人行儀だし! そんなので笑顔とか見せれる訳ないじゃん!」

P「え、えと」アセッ


凛「Liveだって……本当はすっごく期待してたっ! Liveしたかったよ!」

凛「でも……気持ちを正直に言うのは“重み”だもん! 私は“ワガママな子”にはなりたくなかったの!」

P「なんで……そんなこと気遣って……」

凛「アンタに負担与えたくないからに……プロデューサー辞めてほしくないからに決まってんじゃん! バカ!」

P「バ、バカ……?」アセアセ

 



凛「だけどやっぱり……アンタは辞めちゃうんだもんね」

P「……!」ドクンッ


凛「アンタは努力を認めてくれって言ったけど……」

凛「無理だよ。アンタは私を見限った。それなのに自分は見限られたくないなんて勝手じゃない? 私もアンタを認められない」

ちひろ「凛ちゃん、だけどPさんは“こんな状態”の事務所で、すごく頑張ってくれたと……」

凛「分かってる! プロデューサーが頑張ったのは分かってるけど……」

凛「一緒なんだよ……辞めちゃうなら」

凛「三日で辞めようと……一か月で辞めようと……一年で辞めようと……!」

凛「プロデューサーじゃなくなった時点で、それまでの事は全部過去のものになるんだから……」


凛「ちひろさんもありがとね……最後にちょっとだけ夢を与えてくれて……」

ちひろ「凛……ちゃん……」

 






P「……ふぅ……びっくりした」



凛「え?」



P「自分がこんな感情的になっちゃったのもびっくりしたけど、まさかお前に言い返されるとは思ってなかった」

凛「……私もこんな事言うつもりじゃなかった……“冷静ぶってすましてる”つもりだったのに……ついアンタに乗せられて……」


いや、本心を聞かせてくれてありがとう。




P「――――凛」

凛「…………えっ?」


P「Live……したいんだよな?」


凛「……何回言わせたいの? したかった……よ」

P「よし」


P「俺が……絶対にLiveの仕事を持ってきてやる!」


凛「はい? それって……やっぱりプロデューサー続けるって事?」

P「う……いや……それは」

凛「……」ジッ

P「こ、これが最後だっ。最後にお前に最高のステージを用意してやるっ! だからその時には……」

P「努力を……俺を……認めてくれっ!」

 


凛「は、はぁ!? 何それ……て、ていうか、昨日それは断られた話でしょ? 取れる訳ないじゃん!」

P「取る! 絶対取る!」

凛「……ええー?」





もはや何に対して意地になっているのか自分でも分からない。

ただ、勝手ながら思いきり感情をぶちまけた直後だったので、気持ちは妙にスッキリしていて。

今、頭の中は「凛に自分を認めさせる」という一点だけで構築されていた。


足は必然的に昨日の場所へ向いていた。

 







再び大御所Pのオフィス―


大御所P「……」

P「……」


大御所P(まさかあれだけ俺に言い負かされたその次の日にまた現れるとは……しかもアポ無しで)

大御所P(しかし、気迫は昨日とはまるで違う。それ相応の“武器”を持ってきたというのか)

大御所P「……面白い」



大御所P「今まで数々のプロデューサーから大小さまざまなお願いをされてきた俺だけど」

大御所P「2日連続で来たのも、断られた後にまた来たのも君が初めてだよ」

大御所P「まぁ……つまり今から君がしようとしている事は、一般常識的に考えてすごく失礼な行為にあたる、っていうのは分かるよね?」

P「はい」
 



大御所P(……臆する様子は無し、か)

大御所P「分かっているならいいんだ。それじゃあ早速、君の用事を聞こうか」

P「……はい」

大御所P(“相当な曲者”か……はたまた“ただの馬鹿”か……見極めさせてもらおうか)





P「……」スゥ

大御所P「……?」







P「……お願いしまぁすっ! ウチの渋谷凛をっ! Liveに出させてやってくださぁいっ!!」ガバッ

大御所P「……!?」


 



P「俺は……確かにアイドルの事など何も分かってない……プロデューサーには向いてない人間でしたっ!」

P「だけど……初めてアイドルと本音でぶつかって……改めて思ったんです!」

P「凛の願いを叶えてやりたいと! そして、凛に認めてもらいたいと!」

P「そのためなら俺、何でもします! サンドバッグ代わりにボコボコにしてもらっても結構ですし!」

P「全裸になれと言われたら脱ぎます! 俺の事は好きにしてもらってかまいませんから!」

P「ですからお願いしますっ! 凛を……どうか凛をLiveに……!」





作戦など何もなかった。

そのかわり15歳の女の子と喧嘩した直後で恥もなくなっていた俺が出来る事といえば。

なりふり構わぬ懇願のみ。


一度「やめる」と宣言したおかげか、相手がプロデューサー業界の大物だろうと関係なく思えた事もよかったかも知れない。

なんにせよこうなったらもう引き返せない。人生初の土下座もお披露目した。

あとは俺の真摯な姿に大御所Pが感銘を受けてくれるまで、ひたすら粘るだけ……


大御所P「…………ぷっ」






大御所P「……ぷははははははははははっ! な、なんだそれ……な、なにするかと思えば……ど、土下座て! 今どき! あははははっ!」

P「……え? あの」


大御所P「しかも……『俺の事は好きにしていい』って…………ぷふっ、興味ねーっつーのお前なんか! はは、ぶははははっ!」

P「う……」カアアア


大御所P「ひーっ、ひーっ……ちょ、ちょっと待って、お腹痛い……ぅく、くくくくくっ……」

それから数分、笑い続ける大御所Pが落ち着くまで俺は黙って待っているしかなかった。

 

お前に認めてもらわなくて結構だ、さっさと忘れてくれてかまわんよと笑顔で言いたくなる凜だな。





大御所P「えー、ごほん……すまんね、少々取り乱してしまった」

……少々?


大御所P「いや、うん……君の言いたい事は伝わった。どうしても渋谷凛にLiveさせてあげたいんだね……じ、自分が……どうなっても……く、ぷくく……」

……なんか死にたくなってきたぞ。


大御所P「ま、まさか、あれだけ意気込んで再び現れて……土下座とは……くくく……昨日俺が君にした質問ガン無視で……ふ、ふふっ」

P「お、俺にはまだ凛の“本質”は分かりません」

大御所P「だろうねえ……昨日の今日だしねえ……だから普通の人はそんな状態で俺のもとに来ないんだけどねえ……」

大御所P(まさか“相当な曲者”でも“ただの馬鹿”でもなく……“相当な馬鹿”だったとは。俺ですら測りきれなかったわ)

 



P「あ、あの……結果は……」

大御所「んー……俺は人をボコボコにする趣味も、男を全裸にする趣味も残念ながらないんだよねぇ……」

P「……うっ」



大御所「だから――――ふふっ、特別にタダで許してやるよ」



P「……え……それって」

大御所P「ああ、いいよ。Liveに出させてやる。君のアイドルの晴れ姿、見せてもらおうじゃないか」

 



P「……っ! あ……ありがとうございますうっ!!」バッ

大御所P「あれ? そこは土下座じゃないんだ」

P「え? あ、し、した方がいいですか?」

大御所P「あはははっ、冗談冗談」


大御所P(――俺の質問に答えきれないまま、俺をその気にさせた奴は初めてだ。その規格外の馬鹿さに免じて、一度だけチャンスをくれてやるよ)




想定とは少し……いやかなり違ったけど。



――念願のLive出演権を獲得した。

 

今回はこんだけ更新
たくさんのコメントありがとうございます
しかし需要は薄い感じですかね…

いいよ続けて、どうぞ



今のところPに魅力を感じないけど、最後まで読まないと分からないから頑張れ

このクソPのような不器用なバカは嫌いじゃない

成長?していってるて感じがして面白いよ

ぶち切れたら、たまたまうまいこといきましたー、ってだけで終わらないことを祈る

凛の実力見ないでよくこんなことできるよね
頭悪いのか馬鹿なのか

結局凛自身を見てないじゃないか(呆れ)

どの業界でも酒は必須なんだよな、苦手な場合は慣れるしかないん?

酒に慣れは存在しない
飲めない奴は絶対に飲めないし命に関わる
飲めるようになったと言うやつは元々飲める人だったというだけ

お願いしますと言っといて研修ひとつ受けさせずに放り出して連日吐くまで飲ませといて
どうでもいい虫けら扱いする連中よりゃ人としてまだマシだと思うがね

>>126
実際問題、営業職なんて酒付き合いできねえとやってけないんだよ青二才

>>124
先輩が昔は飲めないなら相手をおだててグイグイ飲ませて
さっさと酔い潰すって方法をとってたみたいだけど
最近は無理強いして飲ませたら救急車騒ぎで
後々刑事事件に発展なんて事も少なからずあるから
飲めないなら飲めないで理解してくれる人も多いよ
俺もおだてて飲ませる話術を習得したい

こういうの見ると事務職で良かったと思えるわ

それと無理やり飲ませれグロッキーさせることは関係ないんじゃないですかねぇ。

日付変わりましたね≫124です、おだてて先に飲んでもらう考えは目から鱗でした、感謝します。
とりあえず社長は立ち上げる前にある程度のコネや力をつけろよ・・・芸能界なんて事務所のごり押し力なんだから。

はよ






凛「えっ? Liveできるのっ!?」

P「ああ! 宣言通り取ってきてやったぞ」


大御所Pのオフィスから戻ってきた俺は即刻凛にLive出演獲得の報告をした。


凛「嘘……信じられない……またLiveできる日が来るなんて……」

P「嘘じゃねえさ! 何せ俺が頑張って誠意を見せたんだからな! どうだ? これで俺の事を認めてくれる気になったか?」

凛「……はっ、ていうかそのLiveっていつ? いつやるの?」

話聞いてよ。





P「いつって……一週間後だけど」


凛「……えっ、一週間後!?」
 



大御所Pが凛に用意してくれたLiveは、一週間後の日曜日に行われるもの。

場所は都内の野外Live会場で、その収容人数は一万人近くに及ぶ。

だが、いくら大御所Pといえどもこれ程の規模のLiveを新人である凛に与える力はない。


つまりどういう事かといえば。

その日に行われるのは今旬のアイドルユニットのLiveで、その中にいくつかパフォーマンスで新人アイドルが起用される場面があるのだ。

時にはバックダンサーを務めたり、時にはメインのアイドル達とコーラスしたり……


脇役は脇役なのだが、そのLiveではそうした脇を固めるアイドルのパフォーマンスが売りの一つとなっているらしく、他のLiveよりは大分優遇されるみたいだ。

凛はそこに急きょ参加させてもらえる事になったという訳である。




凛「い、一週間だなんて……急すぎるよ」

P「しょうがないだろ、無理言ってお願いしてもらったお仕事なんだから」

凛「そ、そうだとしてもたった七日しかないなんて……心の準備が……」

P「じゃ、やめるか? Live」

凛「……やだ」

P「だろ? だったら、この少ない時間でするべき事は?」

凛「……Liveに向けて、レッスン」

P「はい正解。そんじゃとっととレッスンスタジオ向かうぞ。あちらにはもう事情は連絡してあるから、今日からLiveの日まではレッスン漬けだ」





車内―


凛「……送ってくれるんだ」

P「んあ? 何だよ今さら」

凛「だってさっき、もうプロデューサーやめるって言ってたじゃん」

P「う……だ、だから、最後にLiveさせてやるって言っただろ? それが無事終わるまではきっちり仕事はするよ」

凛「そっか」

P「おう…………あ、やべ、また道間違えた!」

凛「きっちり仕事するには道もきっちり覚えないとね」

P「……うん」
 



P「……着いた」

凛「送ってくれてありがと。帰りはいつもの時間でいいの?」

P「あ、ああ……」

凛「分かった。それじゃまた後でね」

バタンッ

P「……あ」


シーン


P「……」





『君さぁ、ろくにアイドルの事見てないでしょ?』



P「…………!」ギュッ
 


P「ちょっと待った、凛」


凛「……え?」

P「そのさ……今日のレッスン、俺も見ていっていいかな?」

凛「え……? どうしたの? 何で急に……」

P「いや、お、俺ってばお前をLiveに出れるよう推しといて、そのくせお前の実力全く分かってなかっただろ?」

P「もしこれでお前がとてもLiveに出せるようなレベルじゃなかったら、俺がストップをかけなきゃいかんからな。この目で見ておかんと」

凛「そういう事か………………うん、分かった」

凛「それじゃ……いこっか」
 


レッスンスタジオ内―


トレーナー「それじゃレッスンを始めましょうか……って、その前に」

ドレーナー「渋谷さん、そちらにいる方はどちらですか……?」

P「あ、初めまして。凛のプロデューサーのPです。今日は凛のレッスンを見学させてもらいたくて……大丈夫……ですよね?」

トレーナー「えっ!? 渋谷さんのプロデューサーさんですか!?」

P「そ、そうですけど……」

トレーナー「わぁ、お会いするのは初めてですね! 渋谷さん普段は一人で来られるから、プロデューサーさんがどんな方か気になってたんですよ」

P「あ、そうですか…………あれ、でも、ってことは俺の前のプロデューサーもレッスンスタジオの方には全く顔出してなかったんですね」

トレーナー「前? プロデューサーさん変わられてたんですか?」

P「ええ、俺もよく聞いてないんですけど、凛の担当は俺の前にも数名いたらしくて……」

凛「……そんな事より早くレッスンしようよトレーナーさん。Liveまで全然時間ないんだし」

トレーナー「あっ、そうですね。何しろ本番まで一週間ですからね」

トレーナー「よし、それじゃいつものレッスンよりハードになると思うけど、頑張りましょう!」

凛「はい!」
 



凛のレッスンが始まった。

Liveで踊るダンスや歌、ステージでの動き等を何度も繰り返し練習する。

その光景をしばらく眺めていた俺は。


とてつもない衝撃を受けていた。


P「凛って……こんなに出来るんだな……」

俺は凛のプロデューサーでありながら、今日初めて彼女が歌ったり踊ったりするところをしっかりと見た訳だが。

こんなにキレのいい動きができるのか。こんなに力のある声で歌う事ができるのか。

他のアイドルのレッスン風景を見た事がないので比べられないが、少なくとも俺の想定していた15歳の女の子のポテンシャルとは正に格が違った。
 



――しかし。


更に凛をずっと見続けていると、今度はなんだか違和感を覚えるようになった。

決して踊りの動きは鈍ってないし、歌の音程が著しく外れているなんて事もない。

むしろ練習が熱を帯びる毎にそれらのクオリティは上がっていっているとも思えるのに。


何かが足りない。何かあるべき筈のものが無い。

凛を見ていたら、漠然とだがそう感じるようになった。







トレーナー「……はい、そこでビシッ、と決めて! ……はい、オッケー!」


トレーナー「いやー、やっぱり渋谷さんは覚えが早いですね。これなら本番までに何とか仕上げられそうです」

凛「ありがとうございます……ふぅ……」
 


P「お疲れ、汗かいただろ? ほら、ドリンクとタオル」

凛「あ、プロデューサー……ありがとう」


凛「……ねぇプロデューサー。さっきの私、プロデューサーから見てどうだった?」

P「俺から見て、か」

P「……正直ちょっとビビった。凛がこんなにやれる子だとは知らなかった」

凛「そりゃ初めて見るんだもんね、私のレッスン……でも、そっか。良かったと思ってくれたんだ」


P「……うーん……けど、なんか違うんだよなー」

凛「え? 違う? 何が?」

P「何が、と聞かれると俺も分かんないんだけど……凛のダンスや歌は、凄いんだけど、凄い“だけ”っていうか……」

凛「な、何それ……アンタ、とりあえず私に文句つけたいだけなんじゃ……」

P「ち、違うって! そういうんじゃなくてさぁ……」
 


凛「……まぁ要するに、まだまだ技術として物足りないからもっと頑張れ、って事だね? 大丈夫、私だってこのままで満足してる訳じゃないから」

P「い、いや、技術とかの話でもなくって……」


くそ、ダメだ。

どれだけ答えをだそうとしても、うやむやのままイメージが湧かない。

やっぱりレッスンの難しさも知らない俺じゃ、レッスンについて指摘するのは無理か。



せめて凛と同じ目線に立てば、少しは分かると思うんだけど……



同じ目線に……







あ……そうだ。


 





次の日―


凛(『今日はちょっと送れないから、一人でスタジオ向かってくれ』……か)

凛(昨日まさかレッスン見に来てくれるとは思わなかったけど、やっぱりアレは気まぐれみたいなものだったのかな)

凛(それとも昨日見た私の実力が低すぎて、もう完全に見切っちゃったとか……)

凛(まぁ……元々私一人でレッスンしてたんだし……気にしないようにしよう……)


ガチャ



凛「おはようございます。今日もよろしくお願いしま――」

トレーナー「違います! そこはもっと腰をひねって、ステップをしっかり踏んでっ!」

P「は、はいっ! はぁ、はぁ……」フラフラ



凛「――――え?」
 



トレーナー「あっ、渋谷さん! おはようございます」

P「お、おう、凛。おはよう」

凛「おはよ……じゃなくて!」


凛「ど、どうしてプロデューサーがレッスンしてんの!? 気合い入れてトレーニングウェアなんか着ちゃって!」

P「ああ、俺がトレーナーさんに頼んだんだ。俺にも凛と同じレッスンを受けさせてくださいって」

凛「え、ええ?」

トレーナー「いやぁ、前代未聞でしたよ。まさかプロデューサーの方をレッスンしてくれって頼まれるとは……」

凛「な、なんでそんな事……」
 


P「いやさぁ、俺ダンスも歌もほとんどやった事無くて、専門的な事は何一つ分かんないじゃん?」

P「だから俺も凛と同じ事をすれば少しは凛の事が分かるかなぁ、って思って」

凛「だ、だからってわざわざレッスンを受けるって……プロデューサー……バカすぎ……」

P「な、なんだとっ!? こ、これでも俺なりに考えてだなぁ……」


凛「……ふ、ふふっ」


P「…………おう?」ドキッ

凛「……じゃ、一緒に受けよっか。レッスンの先輩として、色々教えてあげるよ」

P「あ、ああ……お願いしますよ……先輩」

 

今回はこんだけ更新
コメントありがとうございますー

良いよー

不器用そうなPで結構好感が持てる

Pが好きになってきた

それにしても、凛のヒロイン力高いよなあ

正妻と呼ばれる理由が分かったわ






数時間後―


トレーナー「はーい、それじゃちょっと休憩にしましょうか」

凛「はいっ! ありがとうございました!」


凛「……ふうっ…………大丈夫? プロデューサー」


P「はひーっ、はぁ……はぁ……きっつう! やばい、超疲れる……! 凛、お前すげえな、マジで! こんだけ体力使ってもすましちゃって」


凛「そう? プロデューサーがだらしないだけじゃないの?」

P「いやいや、俺だって高校時代はサッカー部で体力には自信ある方なんだぞ? まぁ大学入ってからはあんまり運動しなかったけどさ」

やっぱり見るのとやるのとじゃえらい違いだ。こうやって体験してみると、目の前の凛含め世の歌って踊れるアイドル様達は本当すごいと気づく。


けど……収穫はそれだけじゃない。
 



P「…………凛、お前に足りないと感じたものの正体が分かったよ」

凛「え? ほ、ほんとっ? それは一体……」




P「ああ……それは…………『感情』だ」


凛「かん……じょう?」



P「うん。凛の歌やダンスは、正直言ってすごいと思った。ミスらしいミスはほとんどしないし、基礎の部分をとても長い時間磨いたんだって事がよく分かる」

P「だけど、どれだけレベルの高い技術を見せても、“ただこなしているだけ”に見えるっていうか……作業的な印象が強いんだよね」

P「それはどうしてかなって思ったんだけど……今日同じメニューをやってみてはっきりした」

P「俺はただただハードな練習に、ひいひい顔を歪ませてただけなんだけど……その隣でお前が涼しい顔して踊ってんの見て驚いた」

P「ただその驚きはあんまりいい意味のものじゃなくて……まるで感情の欠落した人形の踊りを見たような……」

凛「ちょ、ちょっと待って」
 


凛「疲れを顔に出さずにいられるって、それはいい事なんじゃないの? Liveで満身創痍になってフラフラで踊ってるアイドルがいたらダメでしょ?」

P「ん、まぁ確かにな。それはその通りなんだけど…………今の凛は疲れの感情どころか、喜怒哀楽全て感じられない」

凛「……っ」

P「なぁ凛、お前は歌ったり踊ったりしてる時、何も考えないのか? 何も……感じていないか?」

凛「そ、それは……」




トレーナー「あ、あのっ」

P「……え?」


トレーナー「Pさん、ちょっと……お話があるのでこちらに来てもらえませんか?」

P「……?」
 





P「急にどうしたんですかトレーナーさん?」

トレーナー「……Pさんには伝えておこうと思いまして」

P「な、何をですか?」

トレーナー「実は……渋谷さんの歌やダンスに『感情』が足りないのは……Pさんの前のプロデューサーの指示によるところが大きくて……」

P「……どういう事ですか?」


トレーナー「私はその、前のプロデューサーさんにお会いした事は無いのですが、初めて渋谷さんのレッスンを受け持つ事になった時」

トレーナー「渋谷さんの育成方針をまとめたような紙を渡されまして」

P「育成方針……?」

トレーナー「はい、プロデューサーが渋谷さんに求めるステータスを伸ばすために予め具体的に用意されたレッスン内容ですね」
 


P「そんなものを作るなんて……随分熱心な方じゃないですか」

トレーナー「はい……ただその内容というのが、とことん基礎能力の向上を望んでいるんですが、『表現力』のレッスンは一切行わないというものだったんです」

P「『表現力』のレッスンを?」

トレーナー「ええ。なんでも、まだ感情制限の未熟な渋谷さんに表現力の練習をさせてしまうと、精神面に大きく振り回され技術面の成長に支障が出る、と」

トレーナー「私個人としてはその方針に思うところもありましたが、やはり担当プロデューサーの意向ですから……従わせてもらいました」

P「その結果が……今のあの凛ですか」

トレーナー「はい……渋谷さん自身、前のプロデューサーの教えが身に沁みついてしまってるんだと思います」

トレーナー「すいません、まさかプロデューサーが変わってるなんて、渋谷さんからも聞かせてもらえなくて……」

P「いえ……教えてくれてありがとうございます」
 





なるほど、合点がいった。

まだ新人である筈の凛が、何故あれほどレベルの高い実力を発揮できているか。

確かにその他の事を考えずひたすら基礎の技術だけを練習したら、才能があればあの域までは達するのかも知れない。

前のプロデューサーのやり方も、捉えようによっては“上手い育成方針”と言えるのかも知れない。




だけど。

俺は“あの凛”を見て、全然納得できないのだ。

凛が、自分というものを無理やり殺しているような、そんな風に見えて。


P「……」



ならば、“今”アイツのプロデューサーである俺が言うべき事は。

 





P「……凛」

凛「……はい」


P「もう一度さっきと同じ質問をする。お前はレッスン中、何を考えてる?」

凛「……えっと」


P「歌やダンスは……嫌いか?」

凛「……! そ、そんな事ない!」


凛「……好きだよ……歌も、ダンスも。レッスンだって、大変だけど嫌いじゃない。むしろ楽しんでやってる」

P「そうか……それを聞いて一安心だ」



P「よし、それじゃ…………笑え」


凛「……はい?」
 



P「とりあえずわざとでいいから笑ってみろ」

凛「な、なんでいきなり?」

P「無理やりにでも笑う事によって凝り固まった顔の筋肉をほぐし、表情を作りやすくするためだ。いいからほら、やってみ」

凛「そ、そんな事急に言われても……面白くもないのに笑えないよ」

P「いやいや簡単だろ。こうだって…………あっはっはっはっはっはっ!」


凛「……ええー?」


P「うっはははははははははは! ぶゎははははははっはははは! ……ほれほれ、凛も真似してみろ」


凛「あ……あっはっはー……」

 




P「……よーし、これで大分豊かな表情が出せるようになったんじゃないかー?」

凛「……よく分かんない」

P「そんじゃここらでもう一度……レッスンを再開しようか」


P「ただし……今度は“凛の気持ち”を思いっきり爆発させろ」

凛「私の……気持ちを……?」


P「ああ、辛いでもいい、悲しいでもいい。とにかくレッスンしながら感じた気持ちを全面に出してみるんだ」

P「勿論、楽しいなら全力で楽しんで、な」

凛「だ、だけど」


P「ま……慣れてない事かも知れないけど、いっぺんやってみようぜ? な?」

凛「……分かった」





そしてレッスン再開。


相変わらずトレーナーさんの指導はハードだ。

口調や物腰は決して怖い訳じゃない。むしろ懇切丁寧な方だとは思うのだが。

瞬時に凛や俺が出せる力の限界を見極め、且つその少し上のレベルを要求してくるスタンスは、俺には鬼畜の所業のように思えた。

これでまだ上にもっときつい姉達がいる、というものだからトレーナー業界もなかなか恐ろしいところだ。




凛は……

やはりすごい。

 


トレーナーさんが徐々に上げていくハードルに、戸惑う事なくついていく。

間近で見ていると、凛が今まさにどんどん成長しているんだ、という様子が伝わってくる。


だけど、やはりまだ固い。

体ではなく、心が。

彼女なりに頑張って表情を出そうとしているのは何となく分かるが、それがかえって不自然なものとなり、違和感を助長してしまっている。





……仕方無い。

こうなったら俺がもっと心を開放的にして、全力全開になった姿をお手本として見せつけてやるしかねぇ!



うおぉおっっしゃああ!

 



凛「ハッ……ハッ……」


凛(……難しい)

凛(自分の内にある“想い”を外に発信するというのが、こんなに大変になるなんて)

凛(やっぱり“あの人”が残していった影響は大きいな……)


凛(ごめん、プロデューサー……私……)チラッ


P「ふひゅうううっ、はぁ、はぁ、んん゛っ! うがああああっ、はぁ、はぁああああああっ!」ババンッ

凛「……ぷふっ!?」





凛「ちょっ……ふっ……ふふふっ、プ、プロデューサー……何でそんな気持ち悪い顔してんの……?」

P「おっ、いい笑顔! そうそうそんな感じで…………って、誰が気持ち悪い顔じゃあ! こっちはなぁ……」ズイッ

凛「ふふっ、やっ、その顔で接近して来ないでっ、ふふ、あはははっ!」

 



トレーナー「はいはーい、じゃれ合うのもいいですけど、しっかりダンスはしてくださいねー」


P「あ、すいませんっ……ほらー、お前が変な事言うから怒られちまっただろー?」

凛「えー? 先に邪魔してきたのはプロデューサーじゃん」

P「あのなぁ、人の顔見て笑うっていうのはすごい失礼な事なんだぞ?」

凛「いやだって、さっきのプロデューサーの顔は……ふふっ」

P「思い出し笑いすんな! ……くっ、そうやって余裕ぶっこいてると俺がお前よりダンス上手くなっちまうぞ?」

凛「それだけはないよ。プロデューサー全然ダンスの才能無いもん」

P「言ったな? よーし、賭けるか? 絶対お前より上達して、『すいませんでした』って謝らせてやる」

凛「ふふっ、じゃあ私が勝ったら何してもらおうかな」

 





P「……ほっ! ど、どうだ、今のパートは結構俺良かったんじゃないか?」

凛「へぇ、本当に段々筋が良くなってる。こりゃ私もうかうかしてられない……ねっ!」キュキュッ

P「うえっ、なんだ今のステップ!? かっけえ! 俺もやる!」

凛「すぐには無理無理、私でもちゃんと出来るようになるまで時間かかったんだよ?」

P「いや、今一瞬見て大体理解した。つまりこう、足をクロスさせつつ……ぬおっ!?」ズルッ

凛「ふふふ、足くじかないようにね?」


俺と凛はダンスもしながら、とりとめのないおしゃべりを続けた。

トレーナーさんの目の前でそんな事をするのは失礼にあたったかも知れないが、トレーナーさんはそこには触れずただ見守ってくれていた。

 





P「…………なぁ凛!」

凛「……なにー?」



P「楽しいかぁ? ダンスは?」

凛「…………!」



P「楽しんでるかぁ!? 今!」




凛「…………うん……楽しいっ」


P「ははっ、だろうな……いい顔してるもん」

 




P「こうやって感情をさらけ出してやるのも悪くないだろ?」

凛「うんっ、なんだか身体まで軽くなった気がしてきて……気持ちいい!」


P「……へっ」

P「おっけ、んじゃ体も心もノってきたところで……踊るぜー! 朝までフィーバーだああ!」




――無論。

運動不足気味だった俺がそんなテンションでずっと踊れる訳はなく。

この数十分後に足をつり、情けなくもリタイアする事になるのだが。


凛は……俺が抜けても、その楽しそうな顔を絶やす事は無くレッスンを続けた。

 







トレーナー「……お疲れ様! 今日はこれでおしまいです」

凛「はぁ……はぁ……ありがとうございました」

トレーナー「渋谷さん、よく頑張りましたね。今日は特に素晴らしい動きでしたよ! 明日からもあの魅力を引き出していきましょうねっ」

凛「は、はい……」



P「おう、お疲れ様、だな」

凛「プロデューサー…………何か今日、いつもより……つ……疲れた……」

P「そりゃそうだ。あれだけ全部出しきりゃ、ね」

凛「む……なんかそれだと今まで私が余力残してやってたみたい……」

P「仕方ないさ。凛は気持ちの出し方が分からなかっただけだし……」


P「さ、もう帰ろうぜ。俺も全身クタクタだわ」
 







帰り道―


賭けの戦利品として、スタジオ脇の自販機でおごってやったジュースを飲む凛と。

悲鳴をあげる肉体に苦しみながらも、車を運転中の俺。


P「あー、腹減ったなあ。この辺どっかメシ屋とか無かったっけ?」

凛「……あのさぁ」

P「ん?」



凛「今日のレッスン……プロデューサーに言われた通り、私の気持ちをめいっぱい出したけど……本当に良かったのかな?」

P「何で? やっぱり『感情』を出すのは嫌だったのか?」

凛「ううん……さっきも言ったけど、私自身はすごく楽しくて、気持ちよかった」
 


凛「だけどね……私の……“前の”プロデューサーに言われたの」


凛「『凛はそのクールな雰囲気が美しい。ストイックにダンスする姿が格好いいんだ』……って」

P「……うん」


凛「“前の”プロデューサーは私のそういうイメージを壊したくなかったみたい。私も自分がそっちのタイプだって自覚はあるし、納得してたんだけど」

凛「……どっちが正しいのかな?」

P「んー……どっちが正しいっていうか……」



P「確かに“前の”プロデューサーさんの考えも分かるよ。アイドルってのはさ、色んな容姿、色んな性格の人がいて」

P「可愛さを推してるのもいれば、クールさを推してるのも、情熱的な感じを推してるのもいる」

P「凛は落ち着いてるし、その中でもクールなアイドルに属されるってのも分かるんだけど……」



P「でも、だからってクールな奴が好きな事を楽しんじゃいけない、って事はないだろ?」

凛「……!」

 


P「普段冷静な少女も凛だし……ダンスや歌を楽しむ少女も凛なんだ。何もイメージを壊す事なんてない」

P「まぁ、何が言いたいかというと……もっと自由に思うままやってもいいんじゃね? って事だ」

P「まだ15歳の子供が、自分捨ててまでアイドルに徹するのはおかしいと俺は思う。個人的にね」


凛「……」


P「だから……今日のレッスンはお前に意図的に楽しませようとしたけど……もし、全然楽しくない、嫌だ、って思った事があるなら」

P「“楽しい振り”とかして無理しなくてもいいんだぞ……作り笑いで誤魔化すのは大人だけで十分だ」


凛「プロデューサー……」
 



凛「……ふっ……それって……芸能界では通用しないんじゃない?」

P「ん、そうか? 何とかいけるだろ、多分」

凛「アンタは……考えて言ってるのか、何も考えてないのか分かんないな……」



凛「――――けど、重荷が取れたっていうか……気は楽になったよ」




凛「だから……その……」


凛「今日の事については……色々と……あ……ありが……と……ね…………プロデュ
P「おっ、メシ屋発見! 寄ってこうぜー! …………って、え? 悪い、何か言ったか?」

凛「……」


凛「な…………何でもない」

 

今回はこんだけ更新
コメントありがとーでごぜーますよ

おつ
だんだんいい感じの関係になってきたな
相変わらずPがうざいけどww

それに比べて事務所がブラックすぎる……

あ^~いいっすね^ー

>>172
>P「まぁ、何が言いたいかというと……もっと自由に思うままやってもいいんじゃね? って事だ」
>P「まだ15歳の子供が、自分捨ててまでアイドルに徹するのはおかしいと俺は思う。個人的にね」
このセリフは岡崎さんにプレゼントしてあげたい





それから数日間。


凛はそれまでよりもダンス、声、表情、全てが格段に良くなり、トレーナーさんもその成長速度には驚きを禁じ得ない、といった様子だった。

凛本人は「ただレッスンを楽しんでるだけ」と、口では事もなげに言っていたが、自身の変化には気づいているのだろう。

俺と会話している時も終始機嫌がいい。


最初はLiveまで一週間という期限に正直俺も、時間が無い、と思ってはいたのだが。

レッスン開始から5日目を終えた時点でLiveでの動きは完璧にマスターし、さらにアレンジを加える、といった段階まで来ていたのだった。






そしてLive前日。

 


今日は明日のLiveに備えて、リハーサルが行われる日である。

ので、俺と凛はいつものレッスンスタジオではなくLive会場に足を運んでいる訳だが。



P「か、会場結構でけー……」

凛「ひ、人がいっぱい……」



2人してそのビッグイベントの雰囲気に圧倒されていた。


凛「ま、まさかこんな大きなステージでやるなんて……思ってなかった……」

P「凛はLiveの経験はないのか?」

凛「一回だけ、デビューしてすぐの頃にやったんだけど……あの時はすごくちっちゃいLiveハウスだったし……規模が違うよ」
 







偉いやつ「ええと……モバプロダクションのPくんと、アイドルの渋谷凛ちゃんね」

P「は、はい! この度は、急な決定にも関わらずウチの凛をお使いいただき誠にありがとうございます!」

偉いやつ「ああ、いいよいいよ。確かに急だったけど、あの大御所Pさんからの推薦だしねえ。断る訳にもいかないよ」

偉いやつ「……それに、あの人の“人を見る目”は確かだから。渋谷凛ちゃん……まだまだ新人みたいだけど、おじさんも期待しちゃうよ?」

凛「……! は、はい……が、頑張ります」

偉いやつ「ははは、緊張しちゃって可愛いねえ……まぁ、今日のリハと明日の本番ではしっかり頼むよ」

P「はいっ!」

凛「……」

 





控え室―


ワイワイガヤガヤ


凛「こ……ここにいるの全部アイドルの人達……!?」

P「いや、俺みたいにプロデューサーとか、Liveのスタッフの人達も出入りしてるだろ」

P「ま、今回はメインじゃないんだ。別個で部屋は用意してもらえないわな」

凛「関係者だけでこれだけの人数……」

P「こんだけ人いたらLiveの練習とかも出来無さそうだな……大人しく待ってようぜ」





<ニョワー!


…………ん? あそこにいるのって……

 






P「……いやぁ、きらりPさんも今回のLiveに呼ばれてたんですね」

きらりP「ええ。Pさんも……大御所Pさんに気に入ってもらえたようで、私としても一安心です」

P「あ、はは……どうですかねー」

土下座で笑いを取って得たLiveとは言えないな。



P「……ところできらりPさん」

きらりP「はい、なんでしょう」

P「さっきからそちらのアイドルにウチの凛がやられそうになってるんですが、それは……」チラッ





きらり「うっぴょー! この子すっごいきれー! かわいいー! はぐはぐすぅうー!」ギュウウウウウ

凛「うぐ……ちょ……苦し……」

 





P「えと、じゃ改めまして軽くみんなで自己紹介でもしときますか……俺は、凛のプロデューサーのPです」

凛「アイドルの渋谷凛です……けほ」

きらりP「私はこっちの諸星きらりをプロデュースしてるきらりPと言います。以後お見知りおきを……そしてこの子が」



きらり「にゃっほーい! きらりだよ☆」


きらり「凛ちゃん、さっきはごめんにぃ。凛ちゃんがとってもきれーでかわいいからつい嬉しくなっちゃったのー」

凛「いえ、ちょっとびっくりしたけど……諸星さんに悪気がないのは分かるので、全然気にしてないです」

きらり「にゃはー! ありがとー! 凛ちゃん優すぃー! えっとえっと、きらりの事はきらりって呼んでいいよー☆」



……おいおい、聞いてないぞ。

まさか冷静で大人なイメージのきらりPの担当アイドルが、こんなぶっとび元気っ娘だったとは。

インパクトが凄いのは見た目だけじゃなかったのか。

 







スタッフ「――それでは先ほど集められたグループの人達は、そろそろ出番ですのでこちらに来てくださーい」


きらりP「ん……どうやら私達が呼ばれたようです。きらりは渋谷さんとは出演のタイミングが違うようですが、お互い頑張りましょう」

P「はいっ」

きらり「よーし、いっぱいハピハピすぅよー! 凛ちゃん、Pちゃん、またにぃー!」

凛「あ、はは……またね」

きらりはこちらを見て腕をぶんぶん振りながら舞台の方へと向かっていった。



P「俺らの出番まではまだあるし……袖からきらりのLiveでも見せてもらうか」

凛「そうだね」
 



俺達は会場の端の方へと移動し、Liveの様子を伺ってみた。

するとすでに場内は雰囲気が変わっており、まだリハーサルだというのに重苦しい緊張感のようなもので包まれていた。

しばらく待っていると、お目当てのきらりが登場する。




きらりが歌う。


きらりが踊る。


きらりが……はしゃいでいる。




……なるほど、流石はきらりPがプロデュースする女の子。

色々と荒削りなところも目立つが、凛とはまた違った魅力を持つ子だなぁ……そう思った。
 


ステージ上にはきらり含め4人のアイドルが立っていたのだが(メインのアイドルはその時いなかった)、断トツできらりが一番目立っていた。

その圧倒的な“存在感”の要因には、勿論あの大きな身長があげられると思うが。

それは、きらりのあの明るい内面があるからこそだとも言える。


普通、あの年頃の女の子は自分の身長が高いという事に多少なりコンプレックスを抱きがちなものだが。

きらりはむしろその大きな体躯をフルに活用し、ダイナミックなパフォーマンスを楽しそうに披露する。

だからこそそれが立派な“武器”として成立しているのだ。






凛「きらりちゃん……すごい……」

P「うん……すごく輝いて見える」


凛「私……だ、大丈夫かな……」ドキドキ

P「……凛?」

 



凛「こ、こんな……大きな会場で……観客の人も……すごくいっぱい来るのに……」ガクガク

凛が……露骨に緊張している。

先ほどからところどころでその感じが伝わってきてはいたが、実際に会場の熱気を目の当たりにして一気に不安が膨らんできたか。


P「凛、ちょっと落ち着け」

凛「ま、周りのアイドルの子達も……全然……私より……すごい子達ばっかだし……私なんかが出て……いいのかな……」

P「いいに決まってるだろ」ガシッ

凛「……!」

震える凛の肩を押さえる。


P「凛、お前だって一生懸命レッスンしてきただろ? 俺はちょっとしか見てないけど、お前が頑張ってきたのは分かるぞ」

凛「で、でも……」
 


P「大丈夫、お前はこの中のアイドルに……きらりにも負けてねえ! 昨日までのレッスン通りの実力が出せれば、一番にだってなれるさ!」

凛「そ、そうかな……」

P「そうだ、自信を持て!」

凛「プロデューサー…………うん」


凛「そうだね……せっかくプロデューサーが頑張って取ってきてくれたLiveなんだし」

凛「頑張るよ……」ニコッ


P「……」




そう言って無理やり絞り出したような笑顔を見せられて……

今度は俺が不安になった。

 




程なくして、とうとう凛の出番がやってきた。

さっきのように、舞台袖の方から見守る俺。



凛が歌う。


凛が踊る。


凛が……緊張している。



P「やっぱりかぁ……」

今ステージの上にいる凛は、レッスンスタジオの時とはまるで別人のようだった。

歌声に張りがないし、踊りはギクシャク。

何より、顔が強張っていて全然楽しそうじゃなかった。


P「あんなに楽しみにしてたLiveだっていうのに……」
 






凛「ごめん」



ステージから戻ってきた凛が、開口一番言ったセリフがこれ。

P「……何で謝るんだよ?」

凛「だって、あんなダメダメの出来で……」

P「別に、それで誰かから怒られた訳じゃないし」


凛のパフォーマンスは、実力の一割も発揮できていないようなレベルだったが、最低限するべき動きはしているし、Liveの邪魔になった訳でもない。

なので、お偉いさん達に怒られたりする事態でもなかった。それは良くも悪くも、凛が“脇役”であるが所以だろう。

 



凛「だけどプロデューサーだって期待してくれてた筈なのに、私それに答えられなくて……」


P「なぁ凛、それは違うぞ。大事なのは――」

凛「ごめん……! 明日はしっかりやるから……絶対調子取り戻すから……」


凛「だから……今日はもう……帰ろ?」

P「凛……」


すっかり意気消沈してしまっている凛を見て、俺はそれ以上何も言えず。

とりあえず今日は早めに休んで、明日までに凛が何とか復調してくるという事になった。



回復してくれればいいが…………恐らく…………

P「……」



……その夜、俺はある場所へ電話をかけた。

 

今回はこんだけ、ちょい久々の更新
コメントありがとーの気持ちになるですよ

待ってたぞ

面白いけど途中からPが別人になってる

続き期待

ふーむ

なんで上げたの?

待ってるよー

スレ延命の為に生存報告しときます
待ってる人がいるかはともかく数日の内に更新予定

支援

お、期待して待ちます。

支援

まだかな

舞ってる

数日……

支援

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