豊久「首置いてけぇ!!巨人ッ!!」(451)



・ドリフターズ×進撃の巨人のクロスSSです
・原作との設定の違いがあります
・キャラの崩壊もあります
・必要な場合は随時補足を入れていきます
・内容はあまり深くないので、展開予想は心の中に留めていてください



以上のことが許容できないという方は、お控えください



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369384432


轟々と森を叩く大雨の中、流れ出る血と雨水で視界が滲む目を拭い、いくつもの刃痕が刻まれた体を引きずって、死体が散乱する山野をかきわける侍の男が、木々を抜けた先に見たのは──────


無数の扉が壁を埋める、奇妙な石造りの通路だった。


そして、その通路の中央には、妙な男がいた。


眼鏡越しに目が合う。


「次」


煙草を吹かした妙な男は、机のプレートを外し、腕時計を確認すると、ただ一言そう言った。


「何だ!?血まみれじゃないか!」


「おいあんた、大丈夫か!」


死にかけた男は、少し目を開けてこちらを伺う男を見たかと思うと、再び気を失った。


「まだ生きているぞ」


「今ならまだ周りに巨人はいない。とりあえず、南東の巨大樹の森に行くぞ。そこで、応急手当をする」


「こっちの馬に乗せろ」


「怯むな!ヤツを先に仕留める、続け!」


調査兵団の男たちは、次々に攻撃を仕掛ける。



しかし、───その後は地獄だった。


「グォオオアアオオォオオォオオオオ!!!」


咆哮をあげる15m級の巨人は、隊員たちを踏み潰し、叩きつけ、蹴り、のし掛かり、様々な方法で蹂躙していく。


─────その時、木に伝わった衝撃で木の上で寝かされていた怪我人が、下に、落ちた。


「親父(おやっど)ッ」


木から落下した衝撃で、ガバッ、と男は目覚めた。


「痛ッ───、ここは……どこじゃ……」



周りを見渡す。見慣れない風景───


そこには、男の目には初めて見る異形の存在────男の2倍以上大きさの、巨人がいた。


「何だ、お前、何者だッ!」


巨人は答えない。元から答える知能など持ち合わせてはいない。巨人が捕食しようと男に手を伸ばす。



それを男は、───────刀で両断した。


「おぉうあぉおおおぅあああぉああぁぁぁ!!!」


腕を斬られた巨人が悲鳴をあげる。



「わがんねぇよぅ、何言ってんのかさっぱりわがらねぇ。日本語(ひのもとことば)しゃべれよう」


切断された箇所から蒸気を立ち上がらせ、なおも巨人は男に近づく。



「日本語しゃべれねぇんなら──────── 死ねよ」


片方の足を刀で叩き斬り、バランスを失った巨人が倒れてくる。近づいてくる巨人のその奇妙な形相にも眉ひとつ動かさず、


─────────首を、斬った。


首がなくなった巨人の体を、踏み台にして再び周りを見渡す。


男の周りには、まだ小型の巨人が数体いる。15m級の巨人の咆哮で集まってきた個体だ。



男は一息ついて、言い放つ。



「お前(まん)ら、俺を見下ろすんじゃなか」


「どいが大将首じゃ、前に出ろ。そんで──────────」




「首置いてけぇ!!巨人ッ!!」


今日はここまでです

補足1
一度ルビ()をふったものは二回目以降はルビは書きません
漂流物は進撃世界に来た時点で傷が治っている
日本刀マジ最強刃こぼれなんて知らない
弱点はそのまま豊久は斬っただけです再生します

更新速度だけはヒラコー並みなのでよろしくお願いします

投下します


「どうするッ、状況は変わらないぞ!」


隊員たちの絶望が更に深まる。しかし、15m級の巨人は動きを止めたかと思うと、一直線に走りだし、途中、体が木にぶつかるのも気にせず森の向こうへ駆けて行った。



「逃げた……のか…?」


「追うのはよそう。これ以上、犠牲者は増やせない」


「とりあえずは、助かったか」


「それにしてもあの巨人……」


「おいッ、あの怪我人が小型のやつらに襲われてるぞ!」


「なんだって!?救出しろ!」


膠着した時間が刻々と流れ、隊員の一人が抑えきれずに半刃刀身を振り上げた時──────────



「ウゴクナ」


またしても声と同時に矢が降り注いだ。矢はそこにいた男たち全員の足元に突き刺さり、完全に的に定められていることが判る。



「あなた、刀を持っている。日の本の武者ですね」


頭上からの声にようやく理解できる言葉を聞き、男は少し安堵しつつも集中を切らさず答えた。



「おうよ、そう言うお前は誰ぞ」


「私は───────」


頭上の射手が答えようとした時、ズザザッ、と何者かが降ってきた。


動くこともできず、訳のわからない言葉でのやりとりが目の前で始められ、隊員たちは只々混乱していた。


「いったい何なんだ、こいつらは……」



「拉致が明きませんね、それじゃいっせーのーで言ってみましょう」


「チッ、仕方なか」


「てめえが先に言えばいいものを……」


「はいはい喧嘩やめて、それではいきます。いっせーのーで────」



「─────────島津 中務少輔 豊久じゃ」


「─────────織田 前右府 信長である」


「─────────那須 資隆 与一で御座います」

ここからのやりとりはどうやっても原作のパクリになってしまいました。
キンクリしますがいいですか?


849年、卒業を半年後に控えた104期訓練生たちは、この日も厳しい訓練を終え食堂で夕食の後の貴重な団欒の一時を過ごしていた。


マルコ「今日も疲れたね」


エレン「このきつい訓練もあと半年で終わりか」


マルコ「成績上位者も固まってきたね」


ジャン「このままいけば10番以内は確実だ。憲兵団がすぐそこに見えてきたぜ」


コニー「憲兵団って上位10番以内なんだよな?」


エレン「今さら何言ってんだ、最初から言われてただろ?」


コニー「いや、噂で聞いたんだけどよ、なんでも憲兵団、調査兵団、駐屯兵団とは別に、本当に特別な者しか入れない幻の部隊があるんだって」


アルミン「幻の部隊?」


マルコ「オレも先輩から聞いたことがある。人員構成も入団条件も目的も完全に秘匿されているらしいよ」


エレン「ん?じゃあ何で、秘密になってるってことはわかってるんだ?」


マルコ「うぐっ、それは……」


アルミン「噂だからね、なにかと尾ひれが付いてくるものなんだよ」


エレン「それもそうか」


ジャン「んなこたあ、どうでもいい。幻なんだから気にしたって仕方ねえだろ」


エレン「お前は憲兵団に行ければそれでいいんだもんな」


ジャン「うっせえな、お前はさっさと調査兵団でもどこでも行ってくたばっちまえ。死に急ぎ野郎が」


エレン「なんだと!?」


アルミン「二人ともやめなよ」


マルコ「この光景もあと半年で見られなくなるのか、感慨深いな」


コニー「だな、104期の名物だったもんな」


そうして、訓練兵たちの夜は更けていく─────────。


巨大樹の森、そこで数時間前に行われた対巨人戦で生き残ったのは、調査兵団4名、そして、謎の言語を話す異人3名だった。


調査兵団の兵士たちは、長髪の射手による通訳によって敵意がないことを示され、双方刀を納め奇妙な晩餐についていた。


双方刀を納めると言っても、調査兵団側は強制的に武装解除させられ、為す術もなく一塊になっている状況である。



豊久「しっかし、あげな巨人がいるなんてのう」


トヨトヨと紹介された男は調査兵団が携帯していた食料を全て食いつくし、さらに異人の二人が貯蔵していた鹿肉を食らっていた。


「こいつ、俺たちの食料全部食いやがった……」



信長「てめえ、一人で食ってんじゃねえよ。明日の分無くなるじゃねえか」


豊久「明日の分は明日獲りに行けばよか」


信長「そんな単純なことじゃねえんだよ。巨人いるんだよ、バカ」


与一「狩りに行ってるの僕ですけどね」


豊久「与一、お前、どげんしてこんしらの言葉覚えたんじゃ」


与一「前にも、この森に入って来た兵士たちがいたんですよ。援護して少しばかりの交流をしました」


信長「乗せて帰るための馬がないからまた来るって言って帰った割りに、こいつらに俺らの情報が伝わってないところを見ると、きっと帰り道に死んだんだろう」


豊久「そげなことがあったんか」


信長「だが、今回はみんなこの森で死んでくれたおかげで馬は有り余っている」


巨人にやられた調査兵団員の馬は生き残った団員が集めて全部で10頭近くいた。


信長「これでひとまず、こいつらの街に行ってみるか」


与一「いつまでもこんな木の上での生活は嫌ですもんね」


三人が他愛もない会話と小競り合いを続けていた時、不意に豊久は火を踏み消した。


団員たちは急に明かりを失い、真っ暗な視界の中で恐怖に身を縮こまらせた。



与一「馬の駆ける音が聞こえますね。……一頭しかいない…?」


与一は、一瞬で暗順応させた目と研ぎ澄まされた聴力で新たな来訪者をすぐさま確認する。


時間をおいて、ようやく団員たちの耳にも蹄の音が聞こえ生き残りの仲間がいたのかと安堵した時──────目の前にいた三人が消えた。


女は馬に乗り、森の中を駆けている。上司の指令ではその森に目的の人物たちがいるということだった。


「もーどうしよう、何の明かりも見えないじゃない。もし、いなかったらここまで来たわたしの苦労は……」



愚痴を吐きながら、広大な森を探索していた時、なにやら恐ろしく速い物が風を切る音が聞こえた気がした。そう、例えば矢のような─────


そこまで思考した瞬間、馬の前足が跳ね上がった。目の前に矢を射られた馬が驚いたせいだった。


「ウギャーーーーーッ」


馬から投げ出され、大地に盛大に尻餅をつく。


ズババッ、とその周りに三つの影が降ってきた。


「ギャーーーーーッ!!」


女は、いきなり取り囲まれた恐怖に更に叫び声をあげた。


「殺されるーーーーーッ」


豊久「ふんっ」


「ぎゃん」


ヘナヘナと腰を抜かして叫び続ける女に痺れを切らし、豊久は女を手刀で黙らせた。


豊久「何だ、お前!!」


与一「彼らの生き残りですかね」


信長「ちょっと待て、そいつ日本語しゃべっとる」


与一「あ、ほんとだー」


豊久「おい、お前吐けいッ、全部吐けいッ!」


「いやーーー、ひーー、いやーーー」


信長「さっさと吐かねば殺すぞぅ」


「いやーーーッ」


信長は誰が見ても悪役と認める顔で脅す。回りを取り巻く夜の森特有の不気味さも相俟って、恐怖は更に増す。


女は本能的に理解した。この三人こそ自分の探していた人物だと。



震える足をなんとか立たせ三人と向かい合い、女は名乗った。



「わっ、わたしは御師匠さまの命令で貴方達を迎えに来ましたッ」


「十月機関のッ、魔術師で、オルミーヌともうしますぅ!」

今日はここまでです
また2年後に書きます

< コンコンッ

ライナー「誰だ!」

ベルトルト「おめぇのあんちゃんだよ」


ってコントを何故か想像した

投下します
前回補足忘れてましたね

補足3
オルミー乳他、十月機関構成員は現地民です


夜の森に単騎でやって来た使者オルミーヌは、この世界の言葉がたちどころに話せるようになる符術の札を取り上げられ、更に縛り上げられて三人の異人に尋問されていた。


オルミーヌ「あなた方の様にどこかの世界から飛ばされてきた人々を、我々は“漂流者”と呼んでいます」


オルミーヌ「わたしたち十月機関は、巨人に対抗するために“漂流者”を集結させることを目的としています」


オルミーヌ「つまりあなた方は、巨人と戦うためにこの世界にやって来たのです」


豊久「知るか」


信長「なにそれ勝手に決めんな」


与一「やだ」


オルミーヌ「えーーーーーッ」


調査兵団の男たちは、目の前で急に理解できる言葉で話し始めた男たちに目を白黒させながらも、もう一つの知られざる事実に衝撃を受けていた。


「まさか、十月機関なんて組織が存在していたなんて」


「団長たちはこのことを知っていたのか?」


「なんにせよ、俺たちは必ず生きて帰らねばばらん。報告すべきことが山ほどある」


「壊滅した分隊、知性を持った巨人、壁外での生き残り、そして十月機関」



オルミーヌ「…………」


オルミーヌは彼らの会話をただ聞き流しているわけではなかった。十月機関は魔導結社であり、もともとそんなものがないこの世界では簡単に世間に受け入れられるものではない。


彼女は他にも様々な用途の符術の札を師匠から預かっている。その中には記憶を消すものもあり、世間の混乱を防ぐためにも街に着いた時点で調査兵団らの自分達のことに関する記憶を消す予定だった。


結局、漂流者の完全な説得は出来なかったが、いつまでも巨大樹の森に留まっているわけにもいかず、巨人の活動が止まるその夜のうちに街に向けて出発した。


豊久「こん馬はよか馬ぞ」


オルミーヌ「調査兵団用に特別に品種改良された馬です。十月機関の支部に行けばあなた方にも支給する用意はあります」


信長「それなりの待遇があるんなら、ちょっとは話を聞いてやってもいいぜ」


オルミーヌ「お、お手柔らかにお願いしますぅ」


かくして一行は空がうっすらと白み始める頃、ウォール・ローゼの南側先端の街、トロスト区にたどり着いた。


記憶を消された直後で意識が曖昧になっている調査兵団と別れ、オルミーヌに連れられて十月機関の支部に向かう。


が、朝早くから開き始めた市や商店を見たいと遠回りを繰り返した。


信長「しけた街だなあ、活気が足んねえよ。楽市やれ楽市」


与一「僕のいた時代よりは発展してる様ですがね」


豊久「こん魚ばうまかど」


オルミーヌ「店のもの勝手に食べないでくださいッ」


所々で道草をする三人をなんとか引っ張り、ようやく支部に到着した。


街の建物と一線を隔した、和風建築の建物。その門を開け、オルミーヌは帰還の報告に向かった。


オルミーヌ「お師匠さまぁー!」


すると、奥から一人の青年が現れ、名乗った。



「初めまして、私は……このオルミーヌの師、魔導結社“十月”の長をしています」


「─────────安倍 晴明と申します」

再開します
今のところトロスト区奪還戦まで書こうと思っています


互いに自己紹介を終えた後、奥の座敷に通され会合が始まった。


信長「まず、最初に気になってることがいくつか……」


晴明「どうぞ」


信長「なぜ、街のやつらは俺たちに反応しない。こんな怪しい格好をしてんのに」


晴明「私が人々の認識をずらす術を使っています。この建物についても同様です。派手なことをしない限り、我々は一般人となんら変わりないように認識されるでしょう」


信長「流石は陰陽師だな、それで秘密結社の体を守ってるって訳か。次は、お前らの組織の規模は、自由に動かせる兵はどれだけいる?」


晴明「構成員は私が選抜した少数精鋭のみ。兵に関しては、いないと答えるのが妥当でしょう。この国の兵は王政府の統括下にあります。そうでない私たちは彼らを正当な手段で動かすことは出来ません」


信長「俺たち以外にも、漂流者ってのはいないのか?」


晴明「集めていますが、まだ少数です。漂流者はこの世界のどこに、あの扉から吐き出されるかわかりません。あなた方を陰陽術で感知出来たのは幸いでした」


信長「次、それじゃあどうやってこの組織は動いている。出資者がいなけりゃ無理だろう?」


晴明「私たちはある巨大貴族の支援を受けています。彼も漂流者なのです。私たちの実情を世間的な目から見るならば貴族の私兵、といったところでしょう。また、彼が憲兵団に圧力をかけることで多少の兵は運用できるかと」


信長「気に食わんなぁ、そうやって誰かにいいように動かされるっていうのは」


信長は、真面目な顔をしていたかと思うと呵呵と笑ってため息をついた。


与一「では、どうするんです。壁の外に安住の地はないらしいですが」


信長「もしも、その前提が間違っていたらどうする。この国はおかしい、何か隠している匂いがプンプンしやがる」


信長は、前情報としてオルミーヌから聞き出していたことを反芻しながら語り出した。


信長「王政府は壁の外に興味を持つことをタブーにしてるんだってな。教育による思考矯正、本当にそんなもんがいつまでも続けられると思ってんのか」


信長「考えてもみろ、巨人が百年前に急に現れただと?そんなのあり得ねえ、どこの天才か知らんが誰かが造り出したに決まっている」


信長「人間同士の争いがない、なんてとんだ平和野郎だと最初は思ったが。人間の本能は闘争だ、敵は必ずいる」


信長「この国はそいつらと戦争状態にあるってことだ。もっともこの国でそう思ってるやつらはほとんどいないだろうが」


信長「巨人なんか造っちゃって趣味が悪いなあ、人間の戦なら人間がするべきだろう。戦に泥臭さと美学がない」


信長「というわけで、俺はこの世界のあり方が気に食わねえ」


信長「だから、俺たちは──────この国をぶっ潰す」


あまりにぶっ飛んだ論理展開にその場にいた十月機関の者たちは凍りついた。


晴明「どうしてそんな結論になる!?」


信長「だって気に入らねーんだもん。どうして外敵が巨人しかいないとかほざいてるくせに、不釣り合いな王政を守り続ける」


信長「この国の調査兵団とやら以外は頭腐ってんじゃねえか?」


信長「何故、今以上の発展を目指そうとしない連中に義を尽くさねばならん。自分たちのことをよく見てもいないやつらのために民衆も兵も働いてんだぜ」


信長「世界の真実とやらを国民の前に叩きつけて目を覚ませてやるよ。それでもこの腐った国のために生きたいって言うんなら勝手にすればいい」


信長「なに、結局のところお前らとやることは変わらん。巨人を倒して、敵を倒し、真実を知る。十月機関の下に着くわけじゃねえが、しばらくは協力してやんよ」


晴明は混乱していた。自分以外の漂流者がこんなにも扱いづらい者たちだとは予想していなかった。


信長「豊久、与一、お前らもやってみるか?」


与一「僕は構いませんよ」


豊久「俺はお前が言うちょったこたあさっぱりわからん。ここがどこでどうなっているか何も知らん。これが夢か現か何もわからん。だったら俺は─────突っ走る事しか知らん」


信長「いいだろう、思う存分突っ走らせてやるから着いてこい」


そうして会合は終了した。この世界での居場所を確保するために、漂流者の三人は形式上のみ十月機関の所属となることが決まった。


850年、豊久と与一はトロスト区の壁上を散歩していた。


豊久「今日もよか天気ぞ」


与一「そうですね」


豊久「あん奥に鹿ばおるぞ」


与一「ここからじゃ射っても届きますかね」


信長『てめえらも仕事しろ、バカ。チッ、バカじゃなけりゃこき使ったっていうのに』


信長の声は、十月機関により支給された水晶型の通信端末から聞こえてくる。一日中どこかしこ出歩く豊久を監視するために与一がお供につき、いつでも信長が召集できるようにそれを携帯させられていた。


信長『バカと煙は高いところが好きって言うが本当だな』


豊久「じゃっでお前も本能寺で煙と心中したんか」


信長『煙のことが好きだって言ったんじゃねえよ、これだからバカは』


半年の間、三人に大きな仕事はなかった。暇潰しに調査兵団の壁外遠征時にこっそりと抜け出し、数体の巨人を矢で目を潰し、日本刀で首をぶった斬るだけの、彼らにとっては簡単なお仕事があるだけだった。


それほど簡単にこの国の秘密は見つからず、この日も信長は十月機関の構成員を使って内地から取り寄せた資料の調査を続けていた。



「おい、あの人たちまた来てるぜ」


「一般人が壁上に来る許可ってどこが出してるんだろうな」


「なあ、それよりみんな所属兵科どこにするか決めたか?」


壁の上に散歩に来ては、矢で獲物を狙ったり、昼寝をしたり、水晶に話しかけたりと特異な行動をするため、認識をずらす術も整備班には少しずつ効力を失い始めていた。


五年前の巨人の強襲から復興が進み人類が尊厳を取り戻しつつあったその日─────


いつもと変わらない日常が今日も過ぎて行くと街の誰もが疑わなかったその時─────


トロスト区に、雷鳴のような音が轟いた。


「─────────」


今まで何もなかった壁の前に突然、超大型巨人が現れた。



豊久「何ぞ─────こいは」


次の瞬間、超大型巨人から膨大な蒸気が噴出され、壁上にいた者たちは皆吹き飛ばされた。


与一「熱っ、蒸気の量は体の大きさに伴って増える様ですね」


豊久「こげんでかやつば初めてぞ」


与一「これが、話に聞いていた五年前の超大型巨人というやつですかね」


豊久「思うちょったより大きか」


──────この二人を除いて。



ズドオォン、と轟音が街を再び貫いた。超大型巨人が足を振り抜いてトロスト区の外門を蹴り破ったのだ。


壁の向こうからは巨人の群れが穴の空いた門を目指して押し寄せて来る。


信長『おい、今何が起きた!?』


与一「超大型巨人が現れ、門を蹴破りました。巨人の群れが入って来ます」


水晶から聞こえてくる信長の声に答える。


与一「信さん、僕の立体機動装置と街中に替え矢の用意をお願いします」


信長『オッパイーヌどもにやらせておく。豊久、お前は好きなようにやれ』


与一「それじゃ豊さん、僕は立体機動取って来ますのでそれまでよろしくお願いします」


豊久「おうよ」


与一は、豊久にそう伝えると50mある壁の縁を蹴り、飛び降りた。


与一「置き土産です」


しかも、それだけではなく落下しながら超大型巨人に振り向き、その両目を矢で射抜いて行った。


豊久は鞘から刀を抜き放ち、超大型巨人へ向き直る。


豊久「お前が巨人の大将首か────その首、島津 中務少輔 豊久が貰い受ける!」


ダンッ、とそこに立体機動を使い一人の訓練兵が降り立った。


エレン「……よう、5年振りだな……」



大量の蒸気を噴き上げる超大型巨人を目の前に、十文字の紋を背負う者と、違い剣の紋章を背負う者が並び立つ。


「─────────」


ここに、トロスト区防衛戦の火蓋が切られた。

今日はここまでです。またいつか書きます

補足5
豊久は信長の好感度を原作ほど上げてないので少し扱いが違います
信長がごちゃごちゃ言ってましたが気に入らないから国を潰すと覚えてくだされば結構です

次回から対巨人戦が始まりますが、基本的に首を斬るだけなので過度な期待はしないでください

投下します

廃棄物は原作でも漂流者との強弱関係がはっきりしてるのが貧乳とそのストーカーくらいなので勝手に戦わせるのはやめときます

廃棄物出すなら逆に壁の中の人類を滅ぼす視点になりますかね。まあ、一方的な殺戮になるでしょうが


超大型巨人は、目を潰されたことに構わず、その巨大な腕を振りかぶり横に薙いだ。


壁上に配置されていた固定砲をレールごと根こそぎ抉っていく。


豊久「わっぜか、わっぜかのう」


豊久は、高く跳躍し左から迫ってくるその腕を避けると同時に、抜き身の刀を突き刺した。


巨人の腕に乗って壁上から離れる。踏み外したが最後地上へまっ逆さまだが、そんなことを気にする男ではない。


豊久「まず、腕を潰すッ」


超大型巨人はその巨体故、動きが鈍い。更に攻撃手段は腕か足による破壊に絞られる。


弱点であるうなじを完璧に破壊するためには、一撃では足りないかもしれない。攻撃を加えている間に、腕による妨害を受ければ一巻の終わりだ。


超大型巨人は人間の体格と違い、腕はアンバランスに細い。斬ることは不可能な訳ではない。


豊久は、まず攻撃手段の破壊による無力化を狙った。


腕の上を走り肘の部分に達した豊久は、剥き出しの皮膚を踏みしめ、フンッ、と袈裟に構えた刀を振り下ろした。


豊久「チェストォオオオッ!!」


刀は深く肉を斬り裂き、前腕を支える腱と骨を断った。


巨人の腕が自重に堪えきれず、繋がっていた部分もブチブチと音を立てて断裂していく。


最後の筋繊維が千切れ、落下したその巨大な腕は下にいた数体の巨人を潰した。


エレン「マジかよ……」


エレン・イェーガーは驚愕していた。


いつも壁の上でバカなことをやっていた男が、立体機動装置もなしに超大型巨人と対峙し、あまつさえその腕を斬り落としたのだ。


エレン「なんにせよ、今がチャンスだ」


門を蹴破る以外に足は使えない。片腕を無くしたことで戦闘力は実質的に半減している。


左腕にアンカーを撃ち込み、ガスを噴かして弧を描きながら背面に回る。


エレン「鈍いッ!いける!!」


二本目のアンカーを首の付け根に撃つ。高温の蒸気が噴出され、視界を塞ぐが無視する。


エレン「殺ったッ!」


一気にワイヤーを巻き戻し、うなじを斬り取ろうと半刃刀身を振り下ろしたその時────────


豊久は腕が千切れ落ちるを見届け、肩の方を目指して駆け出したその瞬間──────突然、足場が消えた。


豊久「は?」


目の前に見据えていたはずの超大型巨人が跡形もなく消えたのだ。


当然、豊久は重力に従い落ちる。超大型巨人が残した大量の蒸気で地上は見えない。


豊久「どげんすっかのう」



落下する。


豊久が着地の方法を思案していた時、ようやく視界が晴れた。


そこには運良く、12m級の巨人がいた。


豊久「よかよか」


全身を掠める空気の流れの中で、素早く狙いを定め、巨人の首に刀を突き立てた。


ズババッ、と首から背中まで切り裂き、速度を殺す。


豊久「どっこいしょ」


無事に着地した豊久は、壁の中に戻るために急いで壊された門へ向かった。


後には、真っ二つにされた巨人の残骸が残った。


与一は、十月機関の支部で自分専用の立体機動装置を受け取ると、すぐさま豊久の元へと転進した。


与一の立体機動装置は、半刃刀身を使わない彼のために十月機関が特別に造った物である。


ガス噴出装置を操作するレバーは弓矢と同時に握れるように小型化。


半刃刀身の替え刃が入る鞘は取り外され、その代わりにガスボンベが増量されている。ガスの総量は通常のボンベの三倍以上有り、上手に使えば戦闘中にガス切れになることはない。


しかし、与一は惜しげもなくガスを噴かして飛んだ。そのスピードは戦場の誰よりも速い。


訓練兵が三年かけてやっと習得する立体機動を、半年もかけずマスターした彼の能力は尋常ではない。


戦闘地帯中衛部に配置されていた多くの訓練兵たちはその空を疾走する人影を目撃した。

「誰だ、あれ?」


「半刃刀身じゃないぞ、弓だ!」


「ありえませんっ、人間業じゃないです。自分が高速で動きながら、動く的に当てるなんて!」


与一は、道中見かける巨人の目を潰して駐屯兵や訓練兵の援護をしながら、最短距離で豊久の元へ向かった。


超大型巨人が突然消えたという連絡は既に聞いていた。獲物を逃した豊久なら、やり場のない闘争心をぶつけるために最も巨人の数が多い外門付近で戦っているだろうと予想を立て、建物を飛び越えて門が見える位置に立った。


与一「ふふふ、流石は豊さん」


案の定、豊久は壊された門の前で戦っていた。


どんどん巨人が壊された門から入って来る。7m以上の巨人はいくら豊久でも平地で相手をするのは厳しい。


小型の巨人を選び、背後を取らせないように素早く動き回り、足をだるま落としの様に斬り飛ばして、巨人の上半身が目の高さまで降りてくると、正面から首筋に刃を斬り込ませうなじを斜めに両断する。


そうやって豊久が作った死体が門付近に多数転がっていた。


ドシンッドシンッと大きな足音が聞こえる。与一が、その方角へ目をやると10mを越える程の巨人が走って来ていた。


与一「奇行種、ですかね」


このままの進路では、あの奇行種は豊久を撥ね飛ばすだろう。


与一「───────行きますか」


与一は屋上をすっ、と飛び降りると前方の建物に連続でアンカーを撃ち込み、一直線に豊久の元へ飛んだ。


豊久はこちらに向かって走って来る奇行種の巨人を見ながら頭を捻っていた。


今の自分では手は出せない、からと言って通してしまっては後方の部隊に大きな損害を出させるかも知れない。


豊久「足を避けっせ、肩まで登いがなるか………っ─────」


そう考えていた時、不意に横から浚われた。


豊久「─────与一か」


与一「はい、お待たせしました」



奇行種は二人を通りすぎ、街の中心部へと走って行く。


豊久「あれをば仕留めるぞ」


与一は無言で了解し、進路を変える。


ガスを最大限噴かして背中を追い、奇行種の走行速度を越える。加速を止め空中で慣性飛行状態になると、


与一「それじゃ行きますよ……せーのっ」


──────脇に抱えていた豊久を、投げた。


豊久は、綺麗な線を描き巨人の首へ到達する。与一が予め首筋に放っていた矢を掴み、体勢を整えると、首の根元の部分を斬り裂いた。



豊久に細かいことを言っても解らないので、信長はとにかく首から首の少し下までを斬れと言いつけていた。


弱点を余分に深く破壊された巨人はまもなく、ドスンッと倒れて動きを止めた。



これが二人で巨人と戦う場合の戦法である。与一が移動を、豊久が攻撃を担当する。混戦にならない限り、この二人なら確実に巨人を殺すことができる。


豊久「与一ィ!!」


地上にいる豊久が呼ぶと、すかさず与一が来て再び豊久を脇に抱え、飛んだ。


与一「豊さんも立体機動覚えてくれると、効率いいんですがね」


豊久「そいは動きづらか」


与一「慣れるとなかなかいいものですよ。それじゃ次の獲物は……大きいのと小さいの、どちら?」


豊久「こんまいのはもうよか」


与一「じゃあ大きいやつで」


そう言うと、今度は駐屯兵が苦戦している複数体の大型巨人の方へ向かった。


豊久を次の巨人へ放り投げると、与一は近くの建物の屋上に降り立った。そこには替え矢と爆薬が備えてある。


与一は弓矢を用いて戦う。


それは、彼の信条とも言える戦い方で、自分が不利な時も変えることはない。無論、巨人相手にも然りである。


だが、弓矢だけでは巨人のうなじを破壊するのに何本も矢を消費し、効率は良くない。そういう理由で巨大樹の森での戦いでは刀剣を持つ者の援護に徹した。


そんな与一のために十月機関は、この国ではほとんど使われていなかった矢と大砲以外に用途の少ない火薬、爆薬を大量に支給した。


それらは、このトロスト区防衛戦が始まった直後、十月機関の構成員により街のいくつもの建物の屋根付近に配備された。


与一は素早く矢を番えると、30m前方、10m級程の巨人に照準を定め───────放った。


爆薬付きのその矢は急所を確実に捉え、爆ぜた。衝撃と爆炎がうなじをごっそりと抉り取る。


与一「あはは、的が大きくて楽チーン」



命中精度はこの国の大砲と比べものにならず、威力を差し引いても与一の弓の方が巨人に対してより有効だった。


漂流者もとい戦闘狂の二人は久々の戦さと呼べる程の狂乱の舞台を嬉々として荒らしまわっていた。


その頃の十月機関支部──────


信長「おいっ、オッパイーヌ!さっさと帰って来いっつってんだろうが!」


オルミーヌ『だーかーらー急いでそっちに向かってますってば!』


この日、運悪く晴明とオルミーヌは王都へ諸用で出向いていた。巨人襲撃の知らせが水晶型連絡端末で即座に伝わり、オルミーヌは単身でトロスト区まで引き返している。


信長「てめえの石壁がありゃ、壁の穴なんて余裕で塞げんだろ!?」


オルミーヌ『あれはそんなに長持ちしないんですぅ!』


信長「豊久の足場にはなる!いいから死ぬ気でさっさと戻って来い!」


信長は通信を切ると、卓上に広げたトロスト区の地図を睨んだ。


信長は、十月機関のスポンサーの巨大貴族とやらの権力を行使して指揮系統を途中で操作し、憲兵団をトロスト区の要所に配置、運用していた。


だが、所詮腐った組織の実践慣れしていない兵士たち。思うように動かない。


信長「チッ、こんな時に調査兵団は壁外遠征なんか行きやがって………ん?五年前もそうじゃなかったか?これは─────」


「信長さんっ!緊急連絡です!」


頭の中で何かが繋がろうとしていたその時、十月機関の連絡員が入って来た。


「信長さん、本部が!」


信長「アァン?本部がどうしたって?」


豊久と与一が巨人を駆逐していると、水晶体から声が聞こえてきた。


信長『おい、与一!聞こえるか!?』


与一「どうしました?」


信長『本部に向かって、そこの巨人共ぶっ殺してきてくれ』


与一「本部、ですか。何かありましたっけ」


信長『ガスの補給所だ。バカ共がビビって籠城して他の奴らのガス供給ができねえんだと』


与一「あぁ、なるほど。僕はまだ余裕なんで補給とか忘れてましたよ」


豊久「腹が減った。飯はあるんか」


信長『本部を解放したら、そこにあるの何でも食っていい。どうせウチのじゃない』


豊久「よか、行っど」


本部に群がる巨人達に恐怖や絶望などといった感情は一切抱かず、与一は豊久を抱え、本部へと向かった。

今日はここまでです

首以外も色々斬っていたことを深くお詫びします

首の切り方くらいは豊さんわかるんじゃねーのと思わなくもない

>>197
それは巨人の急所はメートル毎に縦~m横~mって座学で習ってるっぽかったので
豊久にそれを15m級まで覚えろと言ってもきっと無理なんじゃないかということで

どうでもいいんだけど、諦めが人を[ピーーー]っていうスタンスのアーカードは、食われてなお巨人を駆逐しようとしたエレンを気に入りそうだよね

>>200
面白そう巨人化じゃなくて吸血鬼化するのか
終盤のセラスくらいになれば巨人無双だな


◇ ◇ ◇ ◇


エルミハ区を抜けて数時間が経っただろうか、オルミーヌはこの額を流れる汗はひたすら馬を走らせ続けた疲労によるものだけでないであろうと感じていた。


オルミーヌ「…っはぁ、はぁ、あのお馬鹿さん、たちは、目立たない様、には………」


言いかけて、先程の通信を思い出す。既に戦闘は開始されていた。ただでさえ好戦的なメンバーだ。戦場で好き勝手暴れていないはずがない。


オルミーヌ「……してないんだろうなあ、やっぱり……」


盛大にため息を吐く。きっと認識をずらす符術も解けてしまってはず。


この戦いが終わった後、十月機関の存在は公になってしまうだろう。秘密結社の体がなくなってしまうのは、この際仕方がない。


だが、魔術の存在だけは広まらないように策を講じなければならない。オルミーヌの頭には、事後処理に追われる少し未来の自分が容易に想像できた。


オルミーヌ「残業の前に、少しは休みくださいよねぇ、お師匠さまぁ」


頭上を仰ぎ、太陽の位置を確認する。日が暮れる頃には到着できると予測し、更に馬に鞭打ち一直線にトロスト区を目指した。


◇ ◇ ◇ ◇


戦闘を中断し、立体機動で本部を目指していた与一のいつもの飄々とした態度は陰り、少し眉をひそめていた。


ワイヤーを巻き取り、次のアンカーが壁に刺さるのを確認すると息をつき脇の豊久にチラッと視線を流した。


与一「豊さん、ひとついいですか?」

豊久「なんぞ」

与一「重い」

豊久「っ───────?」


ずっと脇に抱えて飛んでいたのだ。自分よりずっと体格の大きい豊久を、片腕で長距離を運ぶのは加重の大きい立体機動中であることを差し引いても多大な負担だった。


与一「十秒だけ休ませてください」


そう言うと、与一は豊久からパッと手を離した。


豊久「っ───ウオオオオオオオオオォォォ!!!」


空中に投げ出された豊久は、姿勢を整えようともがく。


与一「いーーち、にーーーい」


与一は空中で身を翻し手をプラプラとほぐしながら、明らかにゆっくりと数を数えている。


豊久「与一テンメェエエエェエエッ!!!」


豊久の絶叫が響き渡った。


◇ ◇ ◇ ◇


「とにかく避け続けろ!」


「俺が囮になるから、背後をとれ!」


煉瓦を蹴る靴の音、互いに呼び掛ける指令、そして時折、断末魔の叫び声が聞こえる。


駐屯兵団の男は奥歯を噛み締め、叫び声が聞こえた方を振り返ることはせず、今自分が指示された対象へと駆ける。


ガスをほとんど消費し、建物の屋上で為す術のなくなった駐屯兵団の団員たち。だからと言って、目の前を通り過ぎていく巨人たちをみすみす見逃すことはできない。まだ、住民の避難が終わっていないかもしれないのだ。


「……畜生、帰りてえ。死にたくねえ……クソ巨人どもが……」


何に向けるべきかもわからない呪詛をもう何度唱えただろうか。


立体機動は使えない。日頃の訓練で鍛えた生身の体と刃だけが残っている。


半刃刀身の柄を強く握り過ぎて白くなった手のひらを見る。昨日までそこにあった自分の子供の手をもう一度優しく包み込むことができるだろうか。


温かいその風景を心に留め、今の自分にやれること、やらねばならないこと──────“家族を守る”、胸中に繰り返し、もう逃げ出しはすまいと内心に呟く。


目標の巨人が射程距離、自分の跳躍距離内に入った。チャンスはそう多くはない、最善のタイミングを窺う。


巨人の注意が逸れた──────


地面を蹴る──────


ブレードを振りかぶり、一気に──────


「ッ!?──────ぐはぁっ」


体をわしづかみにされた。


奥に胴体を半分失った仲間が見える。陽動は失敗していた。


「クソッ、離し…やがれ……ぇ」


左腕は胴体と一緒に締め上げられている。脱出を図ろうと、残った右手のブレードを何度も突き立てるがビクともしない。


捕食しようとにやついた巨人の顔が近づいてくる。開いた口の奥から胃液と血の混ざり合った生臭い息が顔にかかった。ねっとりとした唾液が線を引く歯と歯の間には、おそらく仲間だった者の髪の毛が挟まっている。


「……ここまでか」


せめて人間らしく死にたいと刃を返し、喉に当てる。


「─────ッ」


ガツンッ──────ひと思いに喉を切り裂こうと腕に力を込めようとした時、自分を噛み砕くはずだった顎が目の前で勢いよく閉じた。


巨人の頭がこちらに傾いてくる。よく見るとその後頭部に何かが刺さっていた。


いや、蹴りを入れている。


豊久「フンッ!」


豊久は上手く巨人の後頭部に着地すると、傾いて水平になったところでで姿勢を整え、一息に二度首筋を斬り裂いた。


そこでタイミングよく与一がかっさらう。


豊久「オイッ、巨人ン頭(ビンタ)がこっち向いちょったら、け死んどったわ!」

与一「狙ったんですよ。言っときますけど、あと五秒残ってるんで」


絶命した巨人から解放された駐屯兵団の男は、呆然としてその後ろ姿を見送った。


◇ ◇ ◇ ◇


ガシャンッと勢いよく窓を破り、室内に転がり込む。割れたガラスを踏み、立ち上がった男たちは辺りを見回した。


豊久「よいなこて着いたか」


与一「補給室ってのはどこにあるんでしょうね」


与一はガサゴソと机上の書類を漁っている。


与一「字は読めないから図面があれば……ん?」



「うおおおおおおおおおお!!!」


外から更に何人もの兵士たちが窓を破って入って来た。


「何人…たどり着いた……?」


「仲間の死を利用して…」


「オレの合図で何人…死んだ?」


悲痛な懺悔が呟かれる。豊久たちと同じく本部解放のために駆けつけた兵士たちだろう。


与一「どうします?中に詳しいのが来たから外やりますか?」


豊久「ああ、そいでもよかが……ッ──────!?」


ドオォォォンと今度は巨人の頭が壁を突き破ってきた。


「早く中に!!」


「よせ!!一斉には出れない!!」


一気に周りがパニックになる。


我先にと奥に逃げていく兵士を尻目に、


豊久「外」

与一「はい」


一人は抜刀し、一人は弓を構え、外に出ようとした時、眼前の巨人の顔が歪み、吹き飛んだ。


新たに現れた15m級の巨人が、殴り飛ばしたのだ。


豊久「は……!?」

与一「巨人が巨人を攻撃しましたね」

豊久「わかっちょる」


後から来た兵士たちによると、巨人だけを攻撃する奇行種らしいことがわかる。


与一「どうします?」

豊久「中」

与一「はい」

豊久「飯」

与一「…………」


とりあえず、補給所には食料もあるだろうということで訓練兵たちに着いていく。


訓練兵一行の中で豊久たちは明らかに異様な雰囲気を出しているが、緊急事態の状況でそちらを気にする者はほとんどいなかった。


超大型巨人の出現から戦い続けていた二人はここでようやく休憩をとっている。


豊久は刀の血を拭き取りながら、訓練兵たちが立てている補給所奪還の作戦に耳を傾けていた。


与一「手伝わなくていいんですか?そんなに簡単にいくとは思えませんが」

豊久「将でん兵子でん経験ば必要ぞ」

与一「ふむ、なるほど」


鉄砲やリフトの準備を固め、互いに声を掛け合って士気を高めていく兵士たちを目を細めて昔を懐かしむように見ていた。


◇ ◇ ◇ ◇


アルミン・アルレルトが立てた作戦通りに訓練兵たちは皆、指定位置についていた。


中央の天井から陽動のリフトが降りてくる。作戦は始まった。


サシャ・ブラウスは滑車を支える鉄骨の上で息を潜め、自分の出番が来るまで待機する。


サシャ「────────」


ドクンドクンドクンと内に響くこの大きすぎる鼓動が、巨人を振り向かせてしまうのではないかとあらぬ心配をしてしまう。恐らくこの緊張は自分だけのものではないだろう。


周囲の巨人が一歩また一歩とリフトに近づく。最後に深呼吸して息を止める。


サシャ「────────」


心の中で数える……3、2、1─────ドドドドドンッと一斉に散弾が放たれた。サシャはタイミングが自分の読み通りだったことに少し驚きつつも一気に鉄骨を蹴った。


何度も唱えた縦1m幅10cmの線を目標の体に投影する。ただそれを刃でなぞるだけ。


サシャ「フッ!!」


ただ、なぞるだけ──────外した。一撃で仕留められなかった。


立ち尽くす。頭で理解した途端、恐怖が背筋を駆け上がってくる。


サシャ「あ…あの……」


こちらに気づいた巨人が歩み寄って来る。思考が止まり、上手く言葉を発することができない。


サシャ「う…後ろから……突然…た、大変…失礼…しました……」


耳で聞いて初めて自分が言ったことがわかった。いったい何を言ってるのか。


巨人と目が合う。あ、結構つぶらな瞳をしてるんだな、今のが最後の考え事だったらどうしよう、などとどうでもよい思考が頭を占領する。


しかし、巨人が捕食のために踏み出した一歩で全てが吹き飛んだ。


サシャ「ひッ……」


あらんかぎりの力で後ろに跳んだ。


──────その時、何か大きい影が脇を低く駆け抜けた。


続いて、高く跳躍。


そして、一閃。


首が飛ぶ。


着地して身を翻す


再び、一閃。


もう一体の取りこぼした巨人の首を刈り取った。



豊久「奪ったど!!」


一瞬での決着、その場の誰もが驚愕した。


サシャはどこの誰とも知れない救世主に言葉にならないお礼を繰り返した。



その後、全員無事補給は完了した。訓練兵たちは皆、他の部隊への補給物資を手に脱出していく。


サシャ「……本当に、本当に死ぬところだった……」


先程の恐怖が抜けきらず未だ足元がおぼつかないサシャは、外に出ようとして先刻助けてくれた異人を見つけた。


サシャ「…………」


あの人たちの近くにいれば死ぬことはないのではないか、そんな根拠のない考えが頭をよぎる。


外に出て行く二人を自然と追いかけていた。


その二人は何故か本部の上へと飛んでいく。


着いていくとそこには、ミカサやアルミンなど他にも数人の同期がいた。


サシャ「どうしたんですか?」


尋ねても返事はない。皆の視線は揃って、一体の巨人に向いている。コニーから説明があった奇行種だ。


サシャ「…………」


自分も同じように見守る。力尽きたらしい巨人は大量の熱気と共に、その身を蒸発させていく。



ふと、視界に変化があった。幻覚かと目をこする。いや、目の錯覚などではない。


「─────────」


みんなが息をのむのがわかった。


サシャ「…エ……レン……?」


巨人のうなじから、今朝まで談笑していた自分の同期、アルミンから戦死したと聞かされていたエレン・イェーガーが出てきたのだ。


なぜ、巨人からエレンが?死んだはずでは?


朝から様々な事が起こり、処理しきれなくなったサシャの脳裏に最後に去来したのは、今朝食糧庫から盗んだお肉はどうなったんでしょうか、というまたもや取るに足らない思考だった。


◇ ◇ ◇ ◇


豊久と与一も補給所から持ち出した干し肉を喰らいながらその光景を眺めていた。


豊久「巨人が人間になったど」

与一「それはちょっと違うと思いますけど」


与一は水晶を手に取り、信長を呼び出す。


信長『おう、どうした』

与一「巨人の中から人間が出てきました」

信長『は……!?』

与一「巨人の中から人間が出てきました」

信長『聞こえとるわ』


────────沈黙、電話の向こうで信長が思案しているのがわかる。


信長『俺も行く。本部の前だな?』

与一「はい」

信長『俺が行くまで余計なことすんじゃねえぞ』

豊久「応」

信長『テメエが一番心配なんだよッ!』


通信は切れた。


──────
────
──



トロスト区を囲む外壁の一角、そこで駐屯兵団数十名がたった三人を遠巻きに囲んでいた。


隊長のキッツ・ヴェールマンは、声を張り上げる。


キッツ「命乞いに貸す耳は無い!目の前で正体を現しておいて今さら何を言う!」


先程、自分の命令で放たれた榴弾が巨人の腕によって防がれたのだ。対象の訓練兵、いや巨人、エレン・イェーガーにもはや疑う余地は無い。


恐怖と混乱で声が上ずりかける。


キッツ「ヤツが巨人でないというのなら証拠を出せ!!それができなければ危険を排除するまでだ!!」


得体の知れない者の侵入、そのリスクの早期排除。この瞬間の選択の遅れが、五年前のような失態を再び招いてしまうかもしれないのだ。自分は何も間違ってはいない。


アルミン「証拠は必要ありません!そもそも我々が彼をどう認識するかは問題ではないのです!」


キッツ「何だと!?」


対象を守るように立ち塞がるアルミン・アルレルトが反論する。


アルミン「大勢の者が見たと聞きました!ならば彼と巨人が戦う姿も見たハズです!!」


アルミン「巨人は彼のことを我々人類と同じ捕食対象として認識しました!!我々がいくら知恵を絞ろうともこの事実だけは動きません!!」


周囲に動揺が生まれる。その事実は確かに存在するのだ。チラホラと擁護の声も聞こえる。しかし、


キッツ「迎撃態勢をとれ!!ヤツらの巧妙な罠に惑わされるな!!」


そう、これが罠でないと誰が保証できるのだ。隊を率いる自分には隊員や住民を守る責任がある。


既に多くの部下の命を失った。自分のようなちっぽけな者の一時の心情の揺れで、彼らにこれ以上の犠牲を強いることはできない


腕を振り上げる。


決死の訴えが続けられる。


アルミン「私はとうに人類復興の為なら心臓を捧げると誓った兵士!!その信念に従った末に命が果てるのなら本望!!」


アルミン「彼の持つ“巨人の力”と残存する兵力が組み合わされば!!この街の奪還も不可能ではありません!!」


アルミン「人類の栄光を願い!!これから死に行くせめてもの間に!!彼の戦術的価値を説きます!!」


アルミン・アルレルトは公に心臓を捧げる決意を示す敬礼を以て叫んだ。


だがもはや、自分の考えは変わらない。


どう命乞いしようと、規則に従うまで……


規則に反する者は排除する……


腕を、振り下ろした──────


「─────────」


静寂────────何も、起こらない。榴弾が発射されない。


キッツ「固定砲どうした!?」



後ろを振り向こうとして、耳のすぐ近くで劇鉄を起こす音が聞こえた。こめかみに銃口が突きつけられている。


キッツ「なっ────!?」



横から、ぬっと男が現れる。


「あるじゃねえか、そいつの戦術的価値」


「お前らがいらねえって言うならよぉ……」


散切り頭に眼帯、よれた和服、狂気の笑み────────第六天魔王。


信長「────────俺たちにくれよ」

今日はここまでです

弱点については私の勘違いでした。反省して2ヶ月ROMります

補足
話の都合上、サシャも目撃者組にしました

いつから私がROM期間を律儀に守る男だと錯覚していた……?

私の場合、更新が遅いのは原作の展開を待つとかいう高等技術ではなく単に書いてないだけですね(開き直り)単行本派ですし

というか以前書きました様に、この話はトロスト区奪還作戦までなので、多分次回で終わりです

前回変換ミスしたので反省して10分くらいROMってます


◇ ◇ ◇ ◇


巨人が蹂躙するトロスト区から壁一枚隔てたウォール・ローゼの内地の一角。


馬を走らせ、途中で壁を越え、数十分をかけて、漸く探していた二人が視界に入る。


余計なことはするなという指示を珍しく守った二人は対象が移動したということさえ連絡してこなかった。


信長「あんのバカヤロウどもがぁ……」


悪態を吐きながら近づく。駐屯兵団数十名が放つ異様な緊迫感が漂うその一帯で、豊久と与一はあぐらをかいてモッシャモッシャと肉やらパンやらをかっ食らっていた。


あまりに呑気なその様子に、一発ぶん殴ってやろうと思っていた怒気も薄れる。


信長「よう、今どんな状況だ」

豊久「おう、信か、遅かったな」

信長「どの口が言ってやがるテメエ……」


食べ物がまだ一杯に詰まっている豊久の両頬を掴み上げて、再燃した怒りを発散する。


信長「ったく、場所が変わったんなら連絡ぐらいしろっての」

与一「スミマセン、でも幸いまだ何も始まってませんよ」

信長「どれがその巨人人間ってやつだ?」

与一「あの三人の、今起きた者です」

信長「ふぅん、ただのガキに見えるが」

与一「僕にもそう見えます」


豊久が何か言おうとフガフガともがいているので離してやる。片手で掴まれていた頬をさすりながら、もう片手でうなじ付近を指差してくるくると回してみせた。


豊久「っふぅ……巨人のな、こっから出っきた」


信長「ほう……首ねえ……それは巨人の弱点と関係あるよなあ、ないとは言わせねえぞ」


信長の口角がつり上がり、目尻にシワがよる。


信長「んで、こいつらは何やってんの」


駐屯兵団の面々をアゴでしゃくって指す。


与一「あぁ、なんか殺そうとしてるみたいですよ。危険だからとかなんとか」

信長「はぁ!?バカじゃねえの、ウチのお豊より」

与一「それは流石にあちらが可哀想な気が」

豊久「おい待て、お前ら何話しちょる」


状況をいまいち把握していない豊久に可哀想なモノを見るような目を向けてから、視線を件の少年に戻す。


信長「大切な情報源をみすみす殺させる訳にはいかねえなぁ」


無精髭を撫でながら、長銃を肩に担ぎなおす。


信長「さぁて、迅速に、円滑に、穏便に、あちらさんと交渉でもしてくるかにゃー」

豊久「おい信、その顔で堂々と嘘吐くな」


豊久の野次を、クククと低く喉を鳴らして受け流す。


少年のもとへ歩み出す─────その刹那、広場を砲声が貫いた。


信長「なっ─────!?」


絶句し、我が目を疑った。


放たれた榴弾へ少年が手を伸ばす。その指先から、細胞が、骨格が、筋肉が、一瞬で生成され、巨人の上半身を構成し、三人の少年少女など一瞬で消し炭にできる程の威力を持った榴弾を、受け止めた。



「────────────」


次第に晴れていく硝煙と蒸気。その向こうから現れたのはやはり、見間違えようもなく、巨人だった。


周囲の兵士たちから恐怖する声音が漏れる。



信長は喫驚し、思わず唾を飲んだ。


信長「ククク、なんだよこりゃあ、クククク」


与一「あれは……すごいですね…信長さんどうかしました?」


顔を上げた信長は、先程とは比較にならぬ喜色を浮かべていた。


信長「あれ欲しい??!、なんとしても欲しい???!!」


与一「うわぁ……すっごい悪い顔…」


信長は、親の仇を見るような目で壁上の砲台を見て指差した。


信長「与一、あの大砲止めてこい。二射目は撃たせるな」

与一「御意」


すぐさま立体機動を使って、壁上へと上っていく。


信長「豊久、お前は………まあ一緒に来い。余計なことすんなよ」

豊久「応よ」


念のため釘をさしておく。しかし、心配するまでもなく豊久の意識も既に、戦さの時のそれに変わっていた。


与一「うわぁ……すっごい悪い顔…」


信長は、親の仇を見るような目で壁上の砲台を見て指差した。


信長「与一、あの大砲止めてこい。二射目は撃たせるな」

与一「御意」


すぐさま立体機動を使って、壁上へと上っていく。


信長「豊久、お前は………まあ一緒に来い。余計なことすんなよ」

豊久「応よ」


念のため釘をさしておく。しかし、心配するまでもなく豊久の意識も既に、戦さの時のそれに変わっていた。


信長「まったく……お前らは火薬の匂いでヒトが変わるのかよ」

豊久「お前がそいを言うがか」


二人で笑い合って、駐屯兵団の中心にいる、少年兵に向かって喚いている男へ歩み寄る。


信長「あーあー興奮しちゃって、己も大局も見えてねえ。実戦足りてねえんじゃねえの?」

豊久「俺らの兵子にはそがいな奴ばおらんど」

信長「オメエんとこの戦闘集団と一般兵士を一緒にすんな」


隊長キッツ・ヴェールマンの背後に立つ。ここまで近づいても気づかないことから、思考が限界に達していることが窺える。


目の前で大砲発射を指示する腕が振り下ろされた─────しかし、何も起こらない。


信長「お、与一えらいぞ。あいつの一族百万年無税」


長銃の撃鉄を起こし、キッツの頭に突きつけ、ひとつ大きく息を吸って、言った。


信長「あるじゃねえか、そいつの戦術的価値……お前らがいらねえって言うならよぉ……」


ゆっくりと、耳朶を打ち相手の思考を占領するように語りかける。兵士たちが騒然とし始める前に、その数刻の内に、言葉だけで中核の心を、集団の意識を、空間の意思を、掌握する。


信長「────────俺たちにくれよ」


低く言い放った言葉の圧力とその禍々しくも圧倒的な存在感は、広場の兵士たちに手を出す余地が無いことを理解させるのに十分だった。


顔を僅かにこちらに向けたキッツと目が合う。


信長「だからテメエらはあいつがいらねえんだろ?もったいねえから俺たちがもらってやるって言ってんだよ」


キッツは小さく呻き、声を絞り出した。


キッツ「バカなっ、あいつは巨人だ。裏切り者だ!」


信長「別に俺たちは裏切られてねえし」


キッツ「───っ、それでもっ、我々に更なる被害が出たらどうする!?」


信長「ダイジョブダイジョブ、ウチには巨人一体くらい余裕でぶっ殺せる戦力があるから」


キッツ「な、なにをっ!?」


信長「あぁもういいからっ、テメエらはアイツを置いてさっさとどっか行け!」


終わりそうにない問答に早々に見切りをつけ、こめかみに強く銃口を押しつける。


信長「ほら早く命令出せ、じゅーう、きゅーう……」


キッツ「はっ…ぁあ……うぅ……」


信長の目に本気の殺意を見たキッツは焦りで呂律が回らなくなる。


信長「ごーお、よーん、さ─────」


カウントダウンが終盤に差し掛かった時、不意に銃身が下から押し上げられた。



「……軽々に、ワシの部下に銃口を向けないでもらいたい」


見ると、半刃刀身を構え銃の軌道をずらしている老人がいる。



信長「誰だ、じいさん」


信長は銃を引いて訊ねる。老輩の男も、音を立てて剣を納めると重々しく口を開いた。


「ワシはドット・ピクシス。ここらの駐屯兵団の司令をしておる」


トロスト区を含む南側領土を統括する最高責任者。人類の最重要区防衛の全権を託された人物だった。


信長「俺は織田信長だ。偉いじいさんならこいつらを退かしてくれ」


ピクシス「ふむ、状況は聞いておる。ワシとしても彼らを殺させるつもりは無いのだが……かの少年の策とやらも聞いてみたい」


キッツ「ピクシス司令ッ……!」


キッツが抗議の声を上げる。だが、ピクシスは視線のみでそれを一蹴した。


ピクシス「お前は増援の指揮に就け。一度しか言わんぞ」


キッツ「っ………!、はっ」


反論を呑み込み敬礼し、苦虫を噛み潰したような顔で信長をひと睨みした後、指示通りに去って行った。


信長「話のわかるじいさんで安心したぜ。そんじゃな」


ピクシス「待ちたまえ。訓練兵は我々兵団の管理下にある。勝手に連れて行かせる訳にはいかんよ」


エレン・イェーガーのもとへ歩を進めた信長をピクシスが呼び止める。


信長「ふぅん………まあ、殺すんじゃねえなら今んところはいいよ」


ピクシス「では、まずあの者らの話を聞いてみようではないか」


瞳から冷徹な光が薄れ、気安さすら感じさせる笑みを浮かべる。



信長「そうだな。───────あぁ、豊久、もう刀降ろしていいぜ」


おかしな動きをすれば、即斬り捨てるつもりだったのだろう。豊久は言われて、刀を納めた。


なんてじいさんだ、と信長は内心に呟く。他を黙らせる程の殺気を放つ豊久に、刃を喉元に当てられて動じなかったピクシスの胆力は並大抵のものではない。


三人の少年少女へと歩み寄るピクシスの背中を、思わずこぼれた微笑と共に見送った。


◇ ◇ ◇ ◇


ウォール・ローゼ壁上、ピクシスが地上の兵士たちを鼓舞する傍らで、訓練兵アルミン・アルレルトによるトロスト区奪還作戦の説明が行われていた。


信長「よくもまあ、そんだけ都合の良い大岩があったもんだ」


与一「見たことありますよ。あれならピッタリ填まるでしょう」


信長は腕を組んで、街を見渡している。


信長「岩を運んでいる間に他の巨人の襲撃を受けるのは避けたい。対角に集める必要があるな」


アルミン「そ、その通りです」


立案者のアルミンは緊張した声音で信長に同調し、更に続けた。


アルミン「巨人はより多数の人間に反応して追ってくるので、それを利用して壁際に集めることができれば、大部分は巨人と接触せずにエレンから遠ざけることができると思います」


アルミン「ただしエレンを無防備にするわけにもいかないので少数精鋭の班で彼を守るべきだと思います。それに穴から入って来る巨人との戦闘も避けられません……そこは精鋭班の技量に懸かっています」


息を呑む。作戦の困難さは推して知ることができる。誰もが死の可能性を背負っている。


信長「いいだろう、囮の大部隊の方は俺がなんとかしよう。お豊と与一は建物の無い穴の辺りをキレイにしといてくれ」


豊久「応」


与一「承知」


しかし、二人がその中でも最も難易度の高い任務の要請に二つ返事で答えたことに兵士たちは絶句する。


信長「コイツらに心配なんかいらねえよ。己が死なねえコトだけ考えてろ」


信長は巨人化という不確定要素を除けば、作戦の失敗など微塵も疑っていない。その考えは既に、作戦の終了後、如何に事を上手く運ぶかにまで及んでいる。


顔を強ばらせる兵士たちに笑みを浮かべて見せるが、その心の内を知らぬ者にも戦慄しか覚えさせなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


トロスト区奪還作戦は、まず巨人群を大岩から最も遠い一角に集めることが前提となる。


陽動となる兵士たちは区内のある一帯の家屋の屋根上に集められていた。巨人への恐怖抜けきらぬ兵士たちは四分五烈していながら、彼らの視線は総じて地上の一人の人物に注がれている。


その男、立体機動装置も身に付けず、左手には松明、右手には何かを布で包んだものを担いでいる。


兵士たちのざわめきの中に、男がかんらかんらと鳴らす下駄の音だけがいやに響く。


信長「はい皆の衆、良くお聞き。第六天魔王様による、猿でもできる巨人殺し講座を始める」


何を言ってるのか、兵士たちの思考が一致したであろう瞬間である。訳もわからず立ち尽くし顔を見合わせる衆人に対して、信長は自分に従わせるための決定的な一言を投げ掛けた。


信長「──────良く聞かないと、死にます」


信長「巨人は超絶怖いですが、全然怖くありませーん」


軽快に語り出す。


信長「何を言ってるかわからねーとは思うが、数の多さとかは超怖い。てかキモい」


左手の松明を弄ぶ様にくるくると振り回す。弾けた火の粉が顔にかかるのを振って払う。


信長「でも致命的に馬鹿です。知能はカス程度もありません。人間見つけたら食べる、だけ」


不意に、石畳を踏み抜く鈍い音が近くの窓ガラスを震わせた。信長の後方数十mの家屋の陰から15m級の巨人が現れる。


信長は、振り向きもせず歩き続ける。


信長「君たちの主力は、その薄っぺらい刀だと聞きました。ですが、玉薬があるのに照準精度の低い大砲程度にしか使わないなんてはっきり言ってバカだと思います」


巨人は、地上にいる信長を捕食対象に定め、足音を響かせてゆっくりと近づいて来る。


信長「数人一組が一体の巨人をチンタラ壁付近まで誘き寄せるなんて、はっきり言って時間と人手の無駄です。なので、──────こうします」


背後二十数mまで迫って来ていた巨人の踏んだ地面が火を噴いた。予め爆薬が仕掛けてあった。


信長「さっきも言ったように巨人の一番の脅威は数とキモさですが、その他にも色々あります。でもまあ、その色々ってのを機動力を潰して全部奪います」


爆煙を背に信長は語り続ける。片足を失った巨人が体を反転させ轟音を立てて倒れ、差し出す様にその頭を信長のすぐ後ろに横たえた。


信長「こうなったら、もー超こわくない。あ、この時腕にだけは気をつけて」


寝ながら掴みかかってきた巨人の腕を躱して、布の包みから生えている導火線に松明の火を移し、巨人に向き直る。


信長「うつぶせに倒れた時は、足が再生する前にさっさとうなじ斬っちゃってください。だけど、もしこんな風に仰向けに倒れちゃった時は──────」


火のついたそれを口の中に投げ入れる。距離をとって数秒後、巨人の頭が吹き飛んだ。


信長「はい、これで安心。巨人たちにも、たまには人間以外のモノを食べさせてあげて。あとは、和歌とか詠みながらもう一個玉薬を首の下にでも押し込んで、次の目標に移りましょう」


更に取り出した爆薬を松明と一緒に、再生を始めている剥き出しになった食道に投げ込む。


信長「えらい原始的ですが、相手が一体なら効果的です。二体以上の時はまた勝手が変わってきますが、初心者のみなさんはまず、これができるようになってからです」



握り拳を右に突きだし、親指を下に向ける。瞬間、三度目の爆発が巨人の上半身を粉砕した。


信長「講義終了!!」



背中に受け止めた爆風が和服をはためかせる。黒の和服と黒煙の色が混ざり合い、輪郭が曖昧になったそれは、端から見ると実際よりも遥かに大きく不吉なものと錯覚してしまう。


その姿はまさに、第六天魔王だった。


高らかに宣言したものの、兵士たちは唖然とするばかりである。


信長「集めた後に下手な大砲で数撃ちゃ当たる、なんてアホです。玉薬の無駄です」


今までに修練してきたセオリーと、余りに違うことに戸惑っているのだろう。


信長「ぶっ殺せる時に、ぶっ殺せるだけ、ぶっ殺しときましょう。あ、これは薩摩の戦闘民族の教えです。俺のじゃないよ、ホントだよー」



未だ動揺している兵士たちを苛立たしげに見て、チッと舌打ちし、叫んだ。


信長「常識なんざ狗にでも喰わせろ!巨人など恐るるに足らず!生き残りたいなら俺に従え!!」


「────────────」



少なからず大衆の空気が変わった。覚悟を決めた面構えになった者をチラホラと見つけ、満足した様にニヤリと笑う。



では、と静まった衆客に向かって大きく両手を広げ、最後に、言った。


信長「──────── 征くぞ、諸君」

今日はここまでです
ノブノブ回でしたね

俺……今月の桜島の噴火回数が先月より少なかったら次の更新するんだ……

うわぁ……今確認したら連投してるは文字化けしてるは……

文字化けのはテストスレで確認してそれだけ投下します


放たれた榴弾へ少年が手を伸ばす。その指先から、細胞が、骨格が、筋肉が、一瞬で生成され、巨人の上半身を構成し、三人の少年少女など一瞬で消し炭にできる程の威力を持った榴弾を、受け止めた。



「────────────」


次第に晴れていく硝煙と蒸気。その向こうから現れたのはやはり、見間違えようもなく、巨人だった。


周囲の兵士たちから恐怖する声音が漏れる。


信長は喫驚し、思わず唾を飲んだ。


信長「ククク、なんだよこりゃあ、クククク」


与一「あれは……すごいですね…信長さんどうかしました?」


顔を上げた信長は、先程とは比較にならぬ喜色を浮かべていた。


信長「あれ欲しい~~!、なんとしても欲しい~~~!!」

今日まで色々忙しかったのでまだ1レス分しか書いてません
明日から本気出します

書くには書いた(ノートに)

パッと見て前回の倍くらいあるしこれから推敲しながら打ち込むからあと1~30日くらいかかるかも

結局日曜日にしか書けないことがわかりました
あと後半は書き直すのでとりあえず前半だけゆっくり書いてく

補足
みんなチート


◇ ◇ ◇ ◇


陽動作戦が開始されてから数刻、斜陽が街を赤く染める。


待機を命じられた豊久は疼く躯を抑えながら、やたらと爆発音が響く街並みを静かな闘志を秘めた眼で見つめていた。


「豊久さーん!」


遠くから背中に声がかかる。


豊久「おう、おるみーぬか」


オルミーヌ「はぁ…はぁ……よかった、やっと着いた………はぁ、お尻痛い……はっ────」


疲弊から安堵、苦悶ところころと表情を変えると最後に恐怖に顔をひきつらせる。


オルミーヌ「の、信長さんはっ!?」


首をブンブンと振って周りを探す。


豊久「信ならあっちじゃ」


豊久が街の対角を指差す。今度こそオルミーヌは安心してペタンと膝をついた。


オルミーヌ「よかったぁ、また怒られるかと思いましたよ」


豊久「よう来てくいやった」


オルミーヌ「豊久さんの言葉が胸に染みる……」


オルミーヌは立ち上がって、壁下の街並みに目を向ける。


オルミーヌ「それにしてもすごいことになっていますね。わたしは五年前のは経験していなかったんですが………想像以上です」


豊久「作戦は聞いたか」


オルミーヌ「いえまだ……今着いたばかりなので。それで、わたしは──────」


豊久「信からじゃ」


そう言って豊久は数枚の羊皮紙をオルミーヌに渡す。


オルミーヌ「何ですかこれ?………え?……えぇ?……ええぇ!?」


それに目を通したオルミーヌが驚愕の声をあげる。


豊久「よう来てくいやった」


オルミーヌ「今聞くとさっきと意味合いが違うように聞こえる……。こんなの本当にできるんですか!?」


豊久「俺らン他はもう始まっちょる」


オルミーヌ「はぁ、ですよね……できるできないを今更言っても仕方がないですよね。やるしかありません」


豊久「信は必ず成功させねばおっぱい斬るち言うちょったど」


オルミーヌ「ひぃっ、全力でやります!」


豊久「ほうじゃ、行っど」


オルミーヌ「はいっ!………お尻痛い……」


斯くして精鋭班の戦端は開かれた。


エレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン他駐屯兵団護衛班が立体機動で飛び出していく。



一人地上に腕を組み、仁王に立つ男がいる。


男の周りには高い建物が多く、巨人相手にこの場所で戦うことを選ぶのは当然の判断だろう。
しかし、その男、島津豊久は肝心の立体機動装置を装備していない。


では巨人相手にどう戦うか。


オルミーヌ「豊久さんっ、御札の設置が終わりました!」


オルミーヌが豊久の隣に降り立つ。


オルミーヌ「展開します!」


地面に手をつくと周囲の建物の側面から数十もの石壁が唸りをあげて生える。


だがその音は近辺だけではない。重低音が街中を震わせる。


信長が二人に託した、否、強いた作戦。
それは、エレンが使うルートに通じる道を全て石壁で塞ぎ、かつ他の路地を計画的に閉じることで巨人の進路を限定し、豊久のところに集めるというものだった。


豊久「──────御美事」


豊久は満足気に笑う。


オルミーヌ「御札あとこれだけしか余ってませんよぅ。あんなにたくさん持ってきたのに……」


豊久「貰うど」


残りの札を全て引ったくる。


オルミーヌ「あぅ……それではわたしは及ばずながら援護させてもらいます」


通りの向こうから早速、二体の巨人が現れる。
オルミーヌはそれを見て「ひゃあ」と小さく悲鳴をあげて建物の屋上へと戻っていった。



豊久「ふぅ──────────」


豊久は一歩踏み出し、大きく息を吸う。そして、


豊久「オオオオォオオオオオォオオオオォオオオオオオオオォオオオオオオォオオオオオオオオォオオオオオオォオオオオオオオオォオオオォォッッッ!!!!」


街中に咆哮を轟かせた。


刀を抜き放ち、突き刺す様に切っ先を巨人に向けて構える。


豊久「今からお前らぁを斬るぞッ、裂くぞっ、削ぐぞッ、断つぞッ、駆るぞッ、殺すぞッ!!」


──────猛々しき決殺の宣戦布告。


豊久「逃ぐっなよぉ……なあぁっ!!!」


──────その眼は眼前の怪物よりも。遥かに狂気に満ち怪物染みている。


豊久「なあぁっ!!首寄越せよぉっ!!なああぁっ!!!」


──────狂戦士が、今、解き放たれる。


豊久「オオオオオッ!!」


豊久は大地を蹴り、放たれた銃弾の様に突進した。


尋常の神経を持つ人間なら畏怖で逃げ出すであろうその迫力にも、知能の高くない巨人は近づいてくる。


オルミーヌ「って、ちょっと豊久さんっ、せっかくの足場使わないんですか!?」


オルミーヌの声に耳を貸さず駆ける。
前方から走ってくるのは、手前に足の速い8m級、続いてやや遅い15m級。


真正面からぶつかると思われたが、交錯する瞬間ぐっと体勢を低くとり加速する。
タイミングを計り、地面に下ろそうとした左足首を切断する。


一旦8m級を捨て置き、そのまま速度を緩めずに15m級に迫ると、巨腕を紙一重で避け、股下に滑り込む。
靴で砂利を弾き飛ばしながら片腕をついて速度を殺し躯を反転させると、足元に御札を叩きつけた。


豊久「ぉおおるみいぬぅぅ!」


オルミーヌ「はいっ!」


瞬間足元から石壁が突きだし、豊久の躯を押し上げる。


豊久「ウオオオオォッ!!!」


巨人の首元まで真っ直ぐ伸びた足場を蹴ると延髄を斬り裂いた。


正面から浴びた顔の返り血を手の甲で乱暴に拭う。
蒸気に肌を焼かれながらも、その顔は狂喜の笑みを浮かべている。


首筋を駆け上がり、沈みゆく頭を踏み台にすると、片足を失って倒れている8m級の巨人の背中へ飛び降り、急所を断った。


オルミーヌ「ひゃあ?、すごすぎですよ豊久さん。これで討伐数いくつですか」


豊久「まだ来っど」


集中を切らさない豊久が通りの向こうを顎でしゃくって指す。


わらわらと巨人が集まり始めた。信長の予測は恐ろしい程に正確だったことがわかる。


脇の路地からも小型の巨人が三体現れた。


手前の一体の懐に素早く潜り込み、腹に刀を突き刺す。そのまま跳び上がり上半身を真っ二つにする。


体勢をとり直して次の二体。
横に瞬時にステップし、一列に並ぶように位置をとる。
刀を手前の一体に投擲し胸に突き立てると、駆け出して跳び、柄頭を蹴り込む。
巨人は、二体諸共貫通し壁に貼りつけられる。
翻って柄に跳び乗ると、脇差しを抜いて横に薙ぎ、二つの首を同時にはね飛ばした。


脇差しを鞘に収め、蒸発する体から刀を引き抜き、続いてやって来る大型の巨人に向き直る。


建物から生えている石壁に足をかけると、いくつものそれを階段の様に駆け上がり、あっという間に巨人の目線に達する。
伸ばしてきた腕に跳び乗り、腕上を走って、刀を肩口に振り下ろし、うなじを斬り裂く。


巨人の硬い皮膚に対して鎧袖一蝕に見えるほどに刃を振るえるのは、日本刀の性能だけに頼ったものではない。


躱さずまともに受ければ刀を砕き、兜を割ると言われた一撃必殺の薩摩の刀法と、それを全ての振りにおいて損なうことのない豊久の気迫、技術にこそ真髄がある。


別の足場へ跳び移り、そこからまた別の標的へ。
空間を電光石火、縦横無尽に駆ける。


オルミーヌ「“俺たちが八割やるから、あとはよろしく”なんてのを見た時は、何を馬鹿げたことをと思いましたが……」


それを現実にしてしまえる二人の実力。


オルミーヌ「あはは……どうしてあんなに笑えるのかなあ」


目に写るのは、戦いを至上の喜びとする侍。
オルミーヌには、眼前の異世界人が同じ人間だとはとても思えなかった。


闘気は赤く蒸発する血が生み出した陽炎となって形を成し大気を歪ませ、刀は紅の夕日に燃え灼熱に輝く。


巨人を屠る様は鬼神が如し。



オルミーヌは息を呑んで、豊久を見守る。緻密に考えられた豊久の戦場は、半端な介入をすれば邪魔になってしまう。


その獅子奮迅の活躍に感嘆しながらも、いつでも援護できるように戦況を注視し続ける。


◇ ◇ ◇ ◇


トロスト区壁上、超大型巨人に破られた大穴の真上に位置するそこはたった一人によって、しかし絶対侵入不可の関所となっていた。


与一は、艶のある柔らかい黒髪を硝煙の入り交じった風になびかせ、手持ち無沙汰からだろうか矢を手の中で弄び踊らせている。


与一「あぁ~暇だぁ……、つまんないよぉ~」


欠伸を噛み殺しつつ、四肢は投げ出し脱力させている。



与一「…………ふぅ、そろそろかな」


近づいてくる重量感のある足音に跳ね起きると、傍に大量に積み上げられている爆薬つきの矢を手に取り、弓に番え、壁下に射った。


風を切り50mの距離を数秒の間もなく疾った矢は、大穴から入ってきたばかりの巨人のうなじに苦もなく突き刺さり爆発した。


侵入してくる巨人は否応無く壁上の与一に背を向けることになる。そこを狙い撃ちされるのは必然だった。


与一「はぁ……楽しいのは最初だけだったなあ。それもまあまあだったけど」


静かな壁前の広場を眺める。
ところどころから蒸気があがっている。


全て巨人の残骸だ。広場に到着して早々に与一が殲滅した名残である。


信長と豊久が街の中の巨人を担当する一方、与一が任されたのは新たに入ってくる巨人の阻止、又、作戦の大詰めとなる壁前周辺の一掃だった。



信長「順調みてえじゃねえか、与一」


与一「──────信長さん」


声のした方を見ると、信長が下駄を鳴らしながら近づいて来ている。


与一「そっちは終わったようですね。どうでしたか?」


信長は首を振って嘆息する。


信長「だめだ、あいつら全然使えねえ。大砲の使い方もなっとらん。今残った奴らに対して全弾当てるように練習させてる」


与一「僕からすればこの代物さえ未知の道具なんですがね」


立体機動装置をコンコンと叩いて言う。


信長「そんなものがあったってなあ。お前ほどの移動砲台が100人いればこの戦争は終わってるぜ。お前はこの世界で最強だ。どうだ?その気分は」


与一は自嘲気味に笑って否定した。


与一「いえいえ、最強なんかじゃありません。僕は卑怯にも背後から射るのみ。それに本来巨人は弓矢だけではどうにもなりませんし」


矢を容易く握りつぶして見せる。


与一「それに最強というなら豊久さんでしょう。あれほどの修羅、弁慶さえも凌駕するやも知れぬ」


信長「ほう、そいつはかなりの高評価だな」


信長は自軍の将の有能さに嬉しそうに笑う。


信長「アイツは俺たちとも違う。退却と書いて突貫と読む人種だ。先程ちらと様子を見てきたがヤバイなアイツ。頭のネジ外れまくりだ」


与一「ふふふ、豊久さんの土地の話はたくさん聞かされました。きっと彼らは未来まで強く続いていくことでしょう」


信長「そうだな。ん、大分話がそれちまったな、すまん」


信長は思案顔に下を覗き込む。


信長「あれは何だ?」


指差した先には、他より一際多くの蒸気をあげている巨人があった。


与一「ああ、あれは暇潰しに下半分を吹き飛ばして、どれほどで元に戻るか見ていたところです」


その個体は急所を外して胸から下は消失し、腕はようやく生え替わったところに見える。


信長「なるほど。別にうなじ斬らなくても体真っ二つにすれば時間は稼げる訳か」


与一「どうするおつもりで?」


立体機動装置のワイヤーを手にとる。


信長「ふむ……これを弄ればなんとかできるかもしれん。次までになんとか考えておこう」


与一「なんとなく考えていることがわかりましたよ。趣味が悪い」


信長「原案はお前だろうが。えげつないことをする」



「それにしても」と信長が呟く。


信長「豊久ほどを望みはしないが、ここの兵士らは地上戦を想定してないのがアホだな。ガスが切れたり、装置が故障したりした時点で詰んでる」


与一「効率を突き詰めた近接用の武器ばかり発達していますからね。まあ、知恵がなければ信長さんが望むようなものは生まれさえしないでしょう」


信長「だからといって、三年かけて育てた奴らにポンポン死なれちゃたまんねえよ」


信長「お、団体客が来たぜ」


門の大穴から大小様々な巨人がまとめて入ってくる。


与一「それでは退屈凌ぎに一芸」


与一はすっくと立ち上がると、腰のガスボンベを二本引き抜きポイと壁下に投じる。


続いて鋭い鉄の鏃を弓に番え、深く引き絞る。


与一の研ぎ澄まされていく集中に、空間が張り詰める。


信長も見逃すまいと息を呑み、目を凝らす。


ボンベが巨人に到達するタイミングと矢の速度を瞬時に計算する。


ゆっくりと息を吸い、脳に酸素を送り込む。

視界がクリアになった刹那──────矢を放つ。


掌のもう一本を目にも止まらぬ速さで握り直し番え、狙いを僅かにずらし射る。

神速の矢は一瞬で50mを駆け降りると、快音を響かせてボンベを貫通し中央の巨人二体に縫い付けた。


爆薬をとり、無造作に下に放る。
まもなくそれは爆発し、漏れだしたガスに引火して巨人たちは紅蓮の炎に包まれた。


信長「流石は弓の与一。お前がいたら雑賀衆の奴らにも余裕で勝てたぜ。チクショウ、忌々しい孫市め……」


信長が拍手で与一を称える。


とその時、超大質量が大地を踏み抜く。


信長「お、やっと来たな」


巨人化したエレンが巨大な岩を担ぎ、ゆっくりと確実に歩を進めて来る。


信長「くぅ~、やっぱりあれ欲しいな」


与一「信長さん……」


信長「ん、どうした?」


与一「下の巨人まだ消えてなくてすごく邪魔なんですけど」


信長「うおいぃ!クソッ早く消えろ!」


若干焦り、二人で爆薬を滅多矢鱈に投下し、残った体を吹き飛ばす。


信長「つーかおい、巨人ついてきてんぞ。豊久死んだか?」


与一「それはないでしょう。あの人が巨人に喰われるところなんて想像すらできない」


信長「じゃあ、屋根を越えたとかそんなところか……それにしても……」


与一「巨人の追い方が少し違いますね。エレン・イェーガーとやらの巨人が他の巨人を引き付けている様に見える」


護衛班が必死に囮になって注意を逸らそうとしている。


信長「ああ、ちっとばかし誤算だったな」


与一「それでも我々の勝利は揺るぎませんよ」


そう言って与一は壁から飛び降りる。


二、三度勢いを殺し、ふわりと地上に降り立つ。


与一「豊久さんの戦闘はみなさんには見せられなかったそうですから、最強ではありませんが……ご覧あれ」


エレンに追走する巨人にアンカーを撃ち込み、ガスを噴かし低空を滑る。


巨人を軸に弧を描いて後ろに回り込み、足跡を引きながら引き絞った矢を放つ。


他の巨人の頭に飛び乗ると、そこを台座に他の巨人を狙い撃つ。


地上を走って巨人の注意を引こうとする護衛班を尻目に次々と巨人を沈めていく。



「オオオオオォオオオオォオオオオォオオオオオオオ!!!」


そして遂に、──────エレン・イェーガーは大岩を以て穴を塞いだ。


作戦完了を知らせる煙弾が撃ち上げられる。


数多の兵士たちが歓喜に湧き、失った仲間のために涙を流す。




そこに──────


信長「よぉおおおおぉいちぃぃっ!!!」


壁上から信長の声が響いた。


与一はすぐさま立体機動で壁を上る。


信長は、闘志の消えない目をぎらつかせて言った。



信長「イェーガーを回収するぞ」

後編へ続く

最後雑になってごめん語彙の貧弱さに絶望した
中二戦闘描写はもう二度と書きたくないと思いました


正面から浴びた顔の返り血を手の甲で乱暴に拭う。
蒸気に肌を焼かれながらも、その顔は狂喜の笑みを浮かべている。


首筋を駆け上がり、沈みゆく頭を踏み台にすると、片足を失って倒れている8m級の巨人の背中へ飛び降り、急所を断った。


オルミーヌ「ひゃあ~、すごすぎですよ豊久さん。これで討伐数いくつですか」


豊久「まだ来っど」


集中を切らさない豊久が通りの向こうを顎でしゃくって指す。


わらわらと巨人が集まり始めた。信長の予測は恐ろしい程に正確だったことがわかる。

豊久「斬殺の勇者!!クビカリレッド!!!」

与一「誅殺の勇者!!ゲンジブルー!!!」

信長「謀殺の勇者!!マオウブラック!!!」

豊久与一信長「漂流戦隊!!ドリフレンジャー!!!」

6歳の従弟と今朝キョウリュウジャー見ながらこんなアホなこと考えてた

投下します


二度三度アンカーを壁に撃ち込んで減速するが、先程よりは荒々しく着地する。


信長「痛ぅっ……膝が痛え……!こちとら五十路だっつうの」


信長は悪態をつきながら身体を起こす。
そこは巨人化したエレンの背中。現在は完全に沈黙し、大量の蒸気を噴き上げている。


同行者に目を遣ると、彼は別の来客と相対していた。


与一「信長さん、申し訳ありませんが、中身を回収するのは一人でお願いします」


ミカサ「あなたたちは……何をしている……!」


アルミン「いったいどういうつもりですか!?」


信長と与一の並々ならぬ雰囲気から何かよくないことが起きるかもしれないと悟ったのだろう。
立ち塞がる与一に対して、ミカサは抜剣して威嚇する。


信長「おうおう、心配すんな。イェーガー君を助けようとしてるだけだ」


ミカサ「あなたは、嘘を吐いている……!」


与一「嘘バレてますよ、信長さん」

信長「おい言うなバカ、黙ってろ」

与一「誰が聞いたってわかりますよ……」


ミカサ「やはり貴様らは……!」


信長「動くな。動けばエレンの命もない」


それで、二人の抵抗は止まった。
信長はミカサの罵倒を無視して脇差しを抜きうなじを裂いていく。


そこに────────、


信長「ったく、熱いな。むっ────────!?」


眼下の自身の影が濃くなる。頭上から降ってくる殺気の塊を目で確認するより先に後ろに飛び退いて避けた。
それは着地すると同時に信長に斬りかかる。


信長「くっ─────、なんだってんだっ」


間一髪、脇差しで受け止め、甲高い剣戟が鳴る。


アルミン「リヴァイ兵長!!?」


信長にも聞き覚えのある響き。口の中で反芻する。


信長「りばい……りヴぁい……リヴァイ……そうか、お前が“人類最強”の……」


リヴァイ「おい……どういう状況だ……」


シンボルである自由の翼がマントに閃く。
調査兵団兵士長、リヴァイ。人類最強の兵士と呼ばれる壁内最高の希望である。


信長「あれれー?なんで俺たち君らにまで敵視されちゃってる訳?俺たち人間だぜ?」


リヴァイ「……周りを見てみろ」


信長「アァン?………おいおい、あのじいさんやるな……」


巨人化したエレンを駐屯兵団の兵士たちが囲み、彼らの持つ銃は余さず信長たちに狙いをつけている。
余りに速い兵の展開から、おそらくピクシスの命令によるものと思われる。


リヴァイ「それに加えてその悪人面だ。ガキでもどっちが敵か判る」

信長「なにそれ、ひどくね?」


リヴァイは半刃刀身で信長をジリジリと押す。


リヴァイ「────────!」


何かを察知したリヴァイが突然後ろに跳んで距離をとった。


豊久「──────終わったんか」


信長「よっしゃ、いいタイミングだ!さすが空気を読めないやつ!」

豊久「褒めちょるんかそれ」


巨人の戦闘で昂った闘気をそのままに豊久が現れる。
睨み付けてくるミカサの前を平然と通りすぎ、構えるリヴァイを意に介さず、信長に話しかける。


信長「だがおっせーぞっ!おっぱい!!」

オルミーヌ「ひぃっ、ごめんなさいぃ!でもおっぱい言うな!」


事前に豊久を連れてくるように連絡をいれていたのだが、豊久の手綱を握るのはオルミーヌには色々と手間がかかったようだった。


信長「お豊にこの三人を任せて……俺がこいつを引きずりだして………与一、何人殺れる?」


与一「ひぃ、ふぅ、みぃ……彼らの腕が良ければ、こちらが倒れるまでに十とちょっとくらいかと……」


信長「うーん、まあ本当に奴等が撃ってくるとは思えんが……微妙なところだな」


この場から撤退する為の方策を考える。
駐屯兵団に囲まれ、対するこちらはたったの三人とおっぱいのみ。
こちらの戦力と相手の覚悟を鑑みれば、それほど深刻な状況ではない。しかし──────、


豊久「腹ば減った。帰るど」


信長「…………」

与一「…………」

リヴァイ「…………」

ミカサ「…………」

アルミン「…………」

「……………………」


信長と与一は顔を見合わせ、溜め息をついた。


信長「………はぁ、俺も疲れた。帰るか」

与一「そうですね。僕も早く湯浴みがしたい」


何もかも放り出して、エレンの背中から飛び降りる。


豊久「飯はあるんか」

与一「支部は壊れてませんよね?」

信長「たりめーだ。何よりもそこに被害が出ないように指揮した」


リヴァイ「おい、大人しく帰すと思ってんのか」


そこにリヴァイが立ち塞がる。


信長「………はぁ、俺も疲れた。帰るか」

与一「そうですね。僕も早く湯浴みがしたい」


何もかも放り出して、エレンの背中から飛び降りる。


豊久「飯はあるんか」

与一「支部は壊れてませんよね?」

信長「たりめーだ。何よりもそこに被害が出ないように指揮した」


リヴァイ「おい、大人しく帰すと思ってんのか」


そこにリヴァイが立ち塞がる。


リヴァイ「話はゆっくりと聞かせ──────!?」


避けることも受け止めることも出来なかった。
横に一閃、両手の半刃刀身を粉砕した。


豊久「そがいなモンで薩摩ン刀と鍔競ることができるち思うな」


信長「おー怖、腹が減ってると危険度三割増しだな」


リヴァイ「…………」


「抑えろ、リヴァイ」


刃を替え、再び戦闘体勢に入ろうとしたリヴァイを頭上の声が諫めた。


リヴァイ「──────エルヴィン」


調査兵団団長エルヴィン・スミスが姿を現す。
周りには撤退してきた調査兵団員たちが控えている。
リヴァイへの屈辱的な行為に殺気だっている団員を手を挙げて宥めた。


信長「チッ、面倒なヤツが来たな……。とっとと帰ろうぜ」

オルミーヌ「あっ、待ってください!私を置いてかないで!」


と、そこで何かを思い出したように信長は足を止め、振り返って言った。


信長「俺たちは十月機関だ。忘れんなよ」


二つの兵団に背を晒していながら、悠々と肩で風を切って帰っていく。
残された者たちは余りにも悠然としたその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。


こうしてトロスト区奪還作戦は人類の勝利を以て終結した。


扉を破られ、大量の巨人に侵入されるという絶望的な状況で、人類が勝利できたのは偏にエレン・イェーガーという人間にして巨人化の能力を持つ少年の功績に他ならない。


その衝撃的な事実は王政が情報を統制しながらも、民間の手により少しずつ周知のものとなっていった。


信長はこの状況を好機として利用した。
情報が錯綜する初期の段階で、派手にプロパガンダを行った。
市民らは情報を求めるあまり、その真偽も定かではないものさえ受け入れてしまう。


『トロスト区奪還作戦 影の英雄 十月機関』
『十月機関 駐屯兵団を束ね、巨人に反撃』
『十月機関 構成員数名で巨人200体を殲滅』


明らかな誇張も混じり、疑う者も多かったが信長にとってそれは問題ではなかった。
十月機関の名を兵団に匹敵する存在として世間に知らしめることさえできればいい。
そしてその目論見通り、世論の関心は十月機関に集まっていった。


◇ ◇ ◇ ◇


審議所の地下、エレン・イェーガーが幽閉されている牢があった。
厳重な見張りと腕を繋ぐ鎖によって自由に動くことはできない。


トロスト区奪還作戦の立役者とはいえ、巨人かする人間とは普通の人間にとっては畏怖の対象でしかなかった。


特別兵法会議にかけ、これからの処遇を決めるため、先の作戦の後すぐに拘束、収監された。エレンは太陽の光を浴びることさえできないでいた。


蝋燭の火が風に揺れる音が耳に残る程に静かな空間──────そこに近づく足音。


「おい貴様らっ!この時間の面会は…グフッ──────」


エレンの位置からは確認できないが、通路の奥に配置されていた兵士が沈黙させられる。


「何だっ、侵入者か!?」

「上の警備はどうした!!」


鉄柵の向こうにいる二人が動揺しながらも、銃を構える。


扉を蹴破り、彼らは現れた。


信長「見いつけた」

短いけどここまでキリがよかったから

次回、感動(大嘘)の最終回!!

すまぬ……すまぬ……

今月中には……いや今年中にはなんとか……

書く時間が無い…
まだ暇な時期にとっとと終わらせなかったのはこちらの落ち度です

コツコツ書きためてるので気長に期待せずに年をお越しになってください

ちょっと真面目に受験してきます
もしもスレが落ちたなら、時間に余裕ができた時にまた新しく立てて色々と書き直した改訂版を投稿しようと思ってます
本当に申し訳ないです

みなさんよいお年を

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