食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」(1000)

・いつの間にやら二期が始まったので触発されて

・禁書1~3以外未読、新約もちろん未読、なので色々違う可能性があります

・地味に暴力描写有り、不快な人はごめんなさい

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368240371

上条×食蜂です

前作は一応あり、トリで察しつく人はつくかも

この組み合わせからして外伝的な感じです

食蜂「……うぅー、どうも熱っぽいわねぇ」ボー

食蜂(起き抜け妙にだるかったし。やっぱ授業サボッとけばよかったかしらぁ)ハァ

食蜂「愚痴っててもしょうがないわね。薬局に寄って早めに寮へ――」


――ドンッ


食蜂「きゃんっ!?」ドサッ

不良1「っと、痛ってぇなぁ。どこ見て歩いてんだよ」ジロッ

食蜂「な、なにアナタぁ? そっちからぶつかって来たんじゃなぁい」

不良2「おっ、すげえ上玉じゃあん?」

不良3「……へへ、おい1。お前、あんなに強くぶつけられて、体大丈夫か?」ヘラヘラ

不良1「あ……、あーっ、やべえなこりゃ。肩外れちまってるかもしんねぇわ」

不良4「となりゃあ、この別嬪さんに責任とって」

不良5「1君の傷ついた体を癒してもらわなきゃなぁ」

食蜂「……はぁ、古典的にもホドがあるんだけどぉ」パンパン

食蜂(まったく、自分が住む街に君臨している七人の顔くらい知っときなさいよぉ)ハァ

不良2「ぶつぶつ言ってないで、ちょいと顔貸せや」

不良3「そうそう、綺麗な顔に傷つけられたくねぇだろ?」

食蜂「容姿を褒められるのは嫌いじゃないケド、お兄さんたちみたいなのは好みじゃないのよねぇ」

不良1「……あん?」

食蜂「釣り合いってモノを考えてぇ、出直してきて欲しいかなぁ」

不良4「……おーい、こいつ調子乗っちゃってね?」

不良5「ああ、こりゃいっぺんきつーいお仕置きが必要だな」

食蜂(んもぅ、体調悪いのに面倒ねぇ)チラ


通行人1「……」タッタッタッタ

通行人2「お、おい、警備員呼んだ方がいいんじゃないか?」ヒソヒソ

通行人3「ここじゃまずいよ、連絡してるとこ見られたらどんな因縁吹っかけられるか」ヒソヒソ


食蜂(――ま、5人もいるんじゃ当然の反応かしらねぇ)ポリ

不良5「何見てんだ! 見世物じゃねえぞコラァ!」

通行人2&3「う、うわっ、す、すみませぇん!」バタバタ

食蜂(そうねぇ、逃げ腰のヒトに戦ってもらうっていうのも乙かしらぁ)キョロ

食蜂(こんな可愛い女の子を見殺しにするなんてぇ、男の風上にもおけないものねぇ)ゴソッ

食蜂(それいけ、弱小戦隊、モブレンジャー☆)スッ


――ピッ


不良3「とりあえず、ちょっとこっち来いや」ガシッ

食蜂「…………」

食蜂(……あれ?)タラ

不良2「オラ、早く歩けよ!」グイッ

食蜂「痛っ、やだっ、引っ張らないでよ!」

食蜂(な、何で!? 洗脳したはずなのに!)

不良5「はいはーい、一名様ご案なーい」グイグイ

食蜂「ちょ、ちょっとっ!」

食蜂(路地はまずいっ! こ、こうなったら直接っ!)ピッ、ピッ

不良3「って、何だぁこりゃ? TVのリモコンかぁ?」グイッ
 
食蜂「え……あっ、こらぁっ! 返しなさぁい!」バッ

不良3「おっと、あっぶねぇ」

不良4「おっしーぃ、全力でジャンプすれば届くんじゃねぇ?」

不良5「もっとも、下着が見えちゃうかも知れねえけどな」ニタニタ

食蜂「……くっ」ジリ

食蜂(って、これ本気でヤバいっ。こんな狭い道幅じゃ逃げようが)サァァ

不良2「おいおい、どうしたんだぁ? さっきの余裕のある口ぶりはよ」ヘラヘラ

不良4「大方、誰か助けに来てくれるとでも思ってたんじゃねえの?」

食蜂(もぅ! こういうときに能力が使えなくてどうするのよぉ!)

食蜂「お、お兄さんたち、こんなことしてただで済むと」チラッ

不良1「ただで済まねえのはお前だよ。おい、入口しっかり見張っとけよ」

不良4「へいへい、後でちゃんと俺にも参加させてくれよ?」

不良3「わかってるって。アンタもあんま抵抗しない方がいいぜ? 痛い目に遭いたくないだろ?」

食蜂(――今だっ!)ダッ

不良5「――おっとぉ」サッ


――ガッ


食蜂「きゃあっ!?」ズダン

不良5「ザンネーン、こっちは行き止まりだぜぇ?」

不良1「おら、とっとと立てよ!」グイッ

食蜂「い゛っ――たぁいっ、髪引っ張んないでっ!」ジタバタ

不良2「へっへ、あんまり暴れるとハゲになっちまうぜ」ヘラヘラ

不良1「そーそー、服だって乱れちまうしなぁ? こんな風に――よっ!」バッ

食蜂「や、やぁっ!///」カァ

不良4「へぇ、色っぽい下着履いてんじゃねえか」

食蜂「いっ、いい加減にしなさいっ! それ以上したら、絶対後悔させてやるんだからぁ!」キッ

不良1「耳元でキンキンうっせえんだよ。ちっと黙っとけや」スッ

食蜂「こっ、この状況で黙るわけが――」


――バチィッッ!!


食蜂「う゛あ゛っっ!!」ビクン

食蜂(か、体が……痺、れ……)カクン


――ガシッ


不良5「おっと、おねんねの時間はまだですよぉ?」ニタ

食蜂「あ゛ぐっ……ぅ」ピクピク

不良1「大人しくしとかねえと、この程度じゃ済まさねえぞ」バチバチ

食蜂(……ス、スタン……ガン)キッ

不良2「ホントすげえな、マジ効果覿面」

不良1「改造して電圧を切り替えられるようにしてあっからよ。今のでせいぜい40%だぜ」カチカチ

食蜂「くっ……はぁっ……」ググ

食蜂(……っ!)ドサッ

不良1「無駄無駄、しばらくは立ち上がることすら満足にできねえよ」

不良3「はーい、セーター脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」ガバッ

食蜂「……や……だぁっ!」ググ

食蜂(……っ、声、出な……、手足も……言うこと……きかな)

不良3「ちょうどいいや、そのセーター、腕のとこで結んで縛っとけ」


食蜂(う、嘘、でしょ? が、学園都市五位の私が、こんな連中に)

食蜂「……くっ」ギシッ

不良1「へっへっへ、俺好みの格好になったじゃねえか」ジュル

食蜂「……こ、ここ、こんなことして、ただで、済むとでも」カチカチ

不良3「くくっ、歯の根が合ってねえぞ?」

食蜂「……っ」

食蜂(こ、声はもう出せそう……だけど、大声出してまたビリってやられたら……)

食蜂「こ、断っとくけど、今のうちに解放した方が身のためよぉ? 今なら、許してあげなくも」

不良1「……あー、ところでよぉ。前回スタンガンのメモリ、最大まで押し上げてやった時は見物だったよな」

食蜂「……っ」ゾク

不良5「ああ、澄まし顔の美人が白目剥いて小便まで垂れ流しやがってよ」

不良2「あの動画、ネットで流したら大うけだったよなぁ」ジロ

食蜂「……ぃ、ぃゃ」ガクガク

不良1「んで、てめえも白目剥いて泡吹きてえクチかぁ?」バチン

食蜂「……ひっ」ビク

不良5「おいおい、そんな脅かしちゃ可哀そうだろ? 今からとっても楽しいことすんだからよぉ」スッ

不良3「んだな、お待ちかね、御開帳タイムと行きますかぁ」ガシッ

食蜂「い、嫌っ……駄目っ!」ググ

不良1「お、結構頑張るじゃねえか」ググ

不良5「こ、こりゃ、すげえ力だ。全然開かねえ――なっ!」グイッ


――ガバッ


食蜂(――っ!!)ギュッ

不良5「へっ、バカが。男二人に敵うわけねえだろ」

不良1「いやぁ、太腿の白さが眩しいねぇ」ジュル

食蜂「は、放してっ! 何見てるのよぉ!」ブンブン

食蜂(こ、こんな奴らの前で、こんな格好っ!)ググ

不良2「あんまもたもたすんなよ、警備員が到着する前に終わらせねえと」

不良3「りょーかーい。っと、ブラウスが邪魔だな」

食蜂「……ひっ、……や、もういやぁッ!」ブンブン

食蜂(誰かっ! 助け――)

不良5「せーーのぉっ!」グイッ


――ビリビリビリィッ!


食蜂「きゃあああっっ!!」プルン

不良5「ひゅーっ! すっげ、この体で中学生かよ!」

不良3「肌すっべすべだわ。胸のさわり心地はどうかなぁ?」ギュ

食蜂「やぁっ、触らないでっ! んっ! やあぁっ! 放しなさいよぉ!」ジタバタ

不良1「はっ、それで抵抗してるつもりかぁ?」

不良2「んじゃ、先に一枚目いっとくか」カチカチ


――パシャッ


食蜂「んなっ!? 何勝手に撮って――くぅっ!?」パシャッ

不良2「人生諦めが肝心ってな。楽しむことに専念した方がお互い幸せってもんだ」パシャッ

不良1「そうそう、さっきよりきっつい電撃食らいたくねぇだろぉ?」ヘラヘラ

食蜂「……な、何で私が」

食蜂(私だけが、こんな目に遭うのぉ)ジワ

不良3「動画、この前みたく音声録り忘れるなよ」

不良2「うっせぇな、過ぎたこといつまでも覚えてんなよ」

不良5「ひひっ、ついてるぜ。今日は俺が一番手だったよなぁ」カチャカチャ

食蜂(……や、だ、こんな形で)ワナワナ

食蜂「――だっ、やだぁっ! 誰かあぁっ!」ポロポロ

不良3「この嫌がりよう、もしかして初めてかぁ?」

不良5「遊んでいるように見えて、かぁ? だったらいいねぇ、俺好みどストライクじゃねえか」グイ

食蜂「……助けてっ! お願い、誰かぁ!」

不良1「ったくっ、騒ぐなってんのに物分かり悪いな。んならもう一発――」


――ドガッ!


不良1「うがぁっ!?」

不良5「えっ、なッ!? ――ぐあっ!」ズンッ

食蜂「……あぅっ!」ズザッ

上条「……」クルッ

不良2「な、んだてめえ! 不意打ちとか舐めた真似――」ヒュッ


――バキッ!


不良2「がはっ!? ――うがっ!」ズダン

上条「こちとら身の程弁えてんだよ。数的不利なんだからハンデは当然だ――ろっ!」グン


――ガッ! ――ガシィッ!


不良2「グッ――ハァ……!」ガクン

不良3「く、くっそっ! いいところだったのに邪魔しやがって!」カチャカチャ

上条「おいっ、今のうちに早く――っ!」

食蜂「……うぅ……ひっく」ガクガク

食蜂(助け……て、誰でもいいから、助けてぇ……)ポロポロ

上条「――っ、……んの」ミシィ

不良5「こ、こいつ、正義のヒーロー気取りか。……ふざけやがってぇ」スチャッ

上条「……アンタだけ浅かったか。ったく、ついてねえな」ボソ

不良3「おい、用心しろよ! こいつ喧嘩慣れて――」スチャ

不良5「うるせー! 仲間がやられてんのにのんきにズボン履いてんじゃねえっ!」

上条「こちとら何度も化け物みたいなのと渡り合ってんだよ。ちゃちなナイフで止められると思ってんなら」ジリ

不良5「う、うおらああぁぁっっ!」ダッ

不良3「ば、馬鹿っ! 迂闊に突っ込むやつが――!」

上条「大間違いだッッ!!」ダッ


食蜂(……だ、誰かいるの? 視界がぼやけて……何も)


不良4「おい、さっきから騒がし――って、なんだこの有様――」


上条「――でラストか。んじゃ、悪いけどとっとと――」


食蜂「……見え……な――」ガク

――ガチャン


インデックス「あっ、おかえりとうま! ……って」

食蜂「……はっ……はっ」

上条「悪い、インデックス。帰ってそうそうすまねえけどお湯沸かしてくれ」

インデックス「ど、どうしたの、その子? すごい苦しそうなんだよ」

上条「多分風邪だと思う。帰り道でたまたま会ってさ――よっと」

インデックス「わ、わかった。すぐに沸かすね」パタパタ

上条「さんきゅ。よし、とりあえずベッドに寝かせて、と」


――ドサッ


食蜂「……んぅ」ゴロ

上条「う、うわっ」ドキ

上条(や、破れたブラウスが生々しいっつーか、……常盤台って中学だよな?)ゴクッ

上条(い、いかんいかん。さっきの背中の感触思い出しちまった)ブンブン

インデックス「すごい汗だね。拭き取らないと悪化しちゃうかも」

上条(さすがに、インデックスの寝巻を着せるのは無理だよな)ウーン

インデックス「……今、とうまからものすごい不快な波長を感じた気がするんだよ」

上条「い、いや、気のせいじゃないですか?」

上条(しゃあねえ、突っ込まれる前に俺のを用意しとくか)ゴソゴソ

インデックス「……ところでとうま。まさか自分で着替えさせる気じゃないよね?」

上条「お願いだから怖い目でこっち見ないでください! てか、お前に任せんのはいいけど前後反対とかやらんでくれよ?」

インデックス「とうま、私のこと、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」ムス

上条「い、いや、そんなことは、つうかそれくらいならインデックスにも」

インデックス「そこはかとなく馬鹿にしてるね?」ジロ

上条「じゃ、じゃあインデックスさん、着替えここに置いときますんで」ササ

食蜂「……ふぅ……ふぅ」

上条「呼吸はさっきより落ち着いたみたいだな、……と」ピピピ

上条(うげっ、39度5分!? やばいな、思ったよりずっと高い)

インデックス「とうまとうま、お隣から水差し借りてきたんだよ」パタパタ

上条「おっ、やっぱ持ってたか。さすがはメイド見習いの妹を持つ兄」

上条(シロップタイプだし冷蔵してたし、飲みにくくはないはずだけど)トクトク

上条「インデックス。枕の下に両手を入れてその子の頭を持ち上げてくれるか」

インデックス「了解なんだよ」スッ

上条「おっけー、そんなもんでいい。ほら、薬だ。飲めるか?」スッ

食蜂「……ん……むぅ」カプ

インデックス「……うん、少しずつだけど減ってるみたい」

食蜂「……すぅ……すぅ」

上条「ふぅ、顔色もさっきよりは大分マシになったか」

インデックス「みたいだね。ところで今更なんだけど」

上条「うん? どうした?」

インデックス「なんでとうまはわざわざここまで背負ってきたの? その場で救急車を呼んだ方が早かったんじゃ」

上条「いや、まぁ、それも一度は考えたんだけど。この子、野郎どもに襲われててさ」

インデックス「……っ」

上条「状況的に絶対やられるわけにはいかなくてさ、ついつい力のセーブが」

インデックス「柄にもなくやり過ぎちゃったってこと? でもでもとうま、それって正当防衛じゃないの?」

上条「相手を地面に叩きつけたとき、ぶら下がった枝が折れるような嫌ーな音がしたんだよなぁ、メキメキィッて」

インデックス「う゛ぁ……、聞くだけで痛いんだよ」

上条(ま、他にも心配事は色々あったんだよな。警備員呼ばれたら事情聴取とか避けられなかっただろうし)

上条「てなわけで、万が一にも治療費請求とかって話になるとだ。この先うちの夕飯がモヤシと卵と納豆だけに」

インデックス「すごく、すっごーく、賢明な判断だったと思うんだよ」キラキラ

上条「はい、そういうことなんで。ええ――度々すんません、お世話になります」ピッ

インデックス「小萌もう帰ってるって?」

上条「まだ仕事中だけど、姫神がいるから問題ないってさ」

インデックス「わかった。それじゃあとうま、行ってくるね」

上条「悪かったな、ベッド使えなくしちまって」

インデックス「ううん、病める者を救うのはシスターとして当然の行いなんだよ。――それより」

上条「うん?」

インデックス「とうま、あの子が寝てるからってえっちなことしちゃ駄目なんだよ」

上条「バーカ、病人襲う趣味なんざ上条さんにはありません」

インデックス「うん、だよね。……あともう一つ」

上条「……もう一つ?」

インデックス「多分その子、すごく傷ついてると思うんだよ」

上条「あ……」チラ

食蜂「……ん……んん」キュッ

上条(そうだった。この子、乱暴されかけてたんだっけ)

インデックス「だからとうま、目が覚めたらしっかりケアしてあげなきゃ駄目なんだよ」ジッ

上条「……あ、ああ、わかってる」

上条(って、待て待て。だったらインデックスにも残ってもらった方が)

上条(あぁでも、そうすっと説明がややこしくなるか。この子の口からインデックスのことが漏れないとも限らないし)

上条(とはいえ、目覚めたときに安心してもらうには女の子がいた方が――下手すっといきなり大声で叫ばれたりも)

上条(だったらいっそインデックスに全部任せちまう方が――って、ないな、ない。病状が一層悪化したらどうすんだ)

インデックス「……とうま、今なんかすっごく失礼なこと考えてない?」

…………――――


――ガラガラ


あら、教頭先生?

授業中にすまん。食蜂、食蜂操祈はいるか?

え、ええ。いったいどうなさったんですか?

すまないが急いで帰り支度を。表玄関にタクシーを呼んである。

……っ! わ、わかりました!

あ、あの、先生。いったい何が……

……詳しいことは移動中に話す、教科書はそのままでいい。

――交通事故?


ええ、大型トラックに後ろから。飲酒運転だったそうよ。

ひどいですね、罰則が厳しくなったのに何で未だ守らない人が。

本当、可哀そうにねぇ、まだ小さいのに。

トラックの運転手はどうしたんですか?

さっき現場検証に連れていかれたそうだ。あっちは額に打ち身程度で済んだらしい。

理不尽だな、こっちは二人とも殺されたっていうのに。

きっちり厳罰に処してもらわないとな。

ねぇ、ところでさ。


――あの子、誰が引き取るのかな。

「今日からここを自分の家と思って暮らしてね、操祈ちゃん」ニコ

「は、はい。――――っ!」

(まったく、何でうちなのよ。姉さんとはそれほど仲良かったわけでもないのに)


――また、聞こえる。



「なんで? なんで僕の部屋なのに半分しか使っちゃいけないの?」

「わがままいうな。操祈ちゃんは他に行くところないんだから」

(まあ仕方ない。こうなった以上、賠償金をたんまりせしめてやらんとな)


――嫌、こんな声聞きたくない。

「ちょっとアンタ、体育以外全部操祈ちゃんに負けてるじゃないの」

「ご、ごめんなさい。次は頑張るから――」

(今までこんなことはなかったのに、お前のせいで!)


――どうして? 私が悪いの?



(折角の夏休みなのに塾なんて、くそっ、全部操祈のせいだ!)

(またこんなにご飯残して、私の料理の腕が姉さんより下だっていいたいの?)

(いっそのこと、三人まとめて死んだほうが幸せだったんじゃ――)


――るさい、うるさい、うるさいッ!

食蜂「……学園都市?」


叔母「ええ、そうよ。あなた、すごい適性があるみたいなの」

叔母(まったく、いい話が舞い込んできたものだわ。この子全然私に懐かないし)

叔父「試しに行ってみるのもいいんじゃないか。もし合わなそうならすぐ帰ってくればいい」

叔父(この先なんやかんやで出費が嵩むからな。民事の支払いも決まったことだし、頃合いか)

従兄「いいないいな、操祈ばっかりずるいや!」

従兄(やった、これで元通り一人部屋だっ!)


食蜂「……わかりました、行きま――行きたいです」ニコ

食蜂(もう、どうでもいいわぁ)


――――…………

――上条宅


食蜂「…………あ、らぁ?」パチ

食蜂「……夢、かぁ」

食蜂(ここ、どこかしらぁ。見覚えがあるような、ないような)

食蜂「……ん、おでこに何か」パシ

食蜂(濡れタオル?)ホケー

上条「……う、ううん」ムニャ

食蜂(んー、この人、どこかでぇ……)ボー

食蜂「って、や、やだっ! 何で私、手なんか握って」バッ

上条「……んぁ?」

食蜂「……っ」ビクッ

上条「と、いっけね、少し寝ちまってたか」ゴシゴシ

食蜂「……っ!」ムクッ

上条「お、起きたのか。具合はどうだ? 喉乾いてたりは」

食蜂「――っ、か、上条さん!? な、何がどうなって」

上条「あれ? 確か初対面、だよな。何で俺の名前知って」

食蜂「……あ」

食蜂(……そう、そういう人だったわねぇ)

上条「てか、覚えてないのか?」

食蜂「……覚えてって」

食蜂(それはこっちの台詞――って、どういうこと?)

上条「あ、いや、むしろ忘れてもらった方がいいんだろうけど」

食蜂「……え、と」


『はっ、それで抵抗してるつもりかぁ?』


食蜂(……っ!)ゾク

上条「わっ、わりぃ! 怖い思いしたばっかりだってのに、思い出させちまって」バッ

食蜂「……わ、私」カタカタ

上条「その、もっと早く助けにいけりゃ良かったんだけど」

食蜂「……私は、何でここに?」カタカタ

上条「連中ぶちのめしてる間に意識を失っちまったんだ。救急車呼ぶか迷ったけど、寮に連れてきた」

食蜂「……そう、そうなんだ」カタカタ

上条「……とにかくすぐに夕飯の支度すっからさ。お前はもう一度体温計を」

食蜂「――バッグ」ピタ

上条「……え?」クル


食蜂「私のハンドバッグ、ここにあるのかしらぁ?」

上条「あ、ああ。路地裏に落ちてたやつなら。これ、お前のであってるか?」スッ

食蜂「……ええ。こんな可愛らしいバッグ、あんな連中が持つはずないじゃなぁい?」クス

上条「そ、そうだよなぁ」

食蜂「……」ゴソゴソ

上条「その、中身はまだ確認してねえんだ。割に重かったから空じゃないとは思うけど、財布やなんか取られてたら――」

食蜂「うん、大丈夫!」ニコ

上条「警察に――って」

食蜂「ちゃんと必要なモノは入ってましたから」

上条「そ、そっか。それなら良かった」

食蜂「だから、ごめんなさぁい」スッ

上条「……へ? 何だそれ、リモコン?」


食蜂(――私と会った時のこと、忘れてちょうだぁい)ピッ

上条「…………」

食蜂(悪いケド、あなたとの出会いがあんなひどい形だなんて許されないのぉ)

食蜂「……あとは、あの連中ねぇ。草の根分けても探し出してやらないと」ギリ

食蜂(よくも、よくもこの私に好き放題やってくれたものねぇ。絶対に生き地獄を見せて――)ギリッ


『んじゃ、先に一枚目いっとくか』


食蜂「……っ! しまったっ! 携帯!」ガバッ

上条「……あ」

食蜂(ま、まずい、まずいっ! あんな画像がネットにバラ撒かれちゃったら――)クルッ

食蜂(時間っ……も、もう二十二時!?)サァ

食蜂(絡まれた時はまだ明るかった――、今から向かっても回収できる見込みは……)ガリ

上条「あ、あのさ、連中のデータだったら心配ねえぞ?」


食蜂「…………え?」

上条「不意打ち仕掛けるときに一人携帯構えてるのが見えてさ、のした後でまとめて踏み潰しといた」

食蜂「……あ、……そ」パクパク

上条「ホントならデータ消去だけすりゃ良かったんだろうけど、そこまでしてやる義理もねえからな」

食蜂「そう、そうだったんですかぁ。気が回るんですねぇ」ニコ

上条「いや、すまん。先に言っておけば変に焦られちゃうこともなかったな」

食蜂「そんなことないです。その、ありがとうございます」ペコ

食蜂(しょ、正直いって助かったわねぇ……って)ホッ

上条「ま、今はあまり色々考えすぎずに、ゆっくり休んでくれな」

食蜂「え、えぇ。すみません、お世話になります」

食蜂(ど、どうしてぇ? 何で記憶が消えてないのぉっ?)

食蜂(猫の鳴き真似しなさい)ピッ

上条「ああ、そういやお前、梅干しは食べれるか?」

食蜂「……え、あ、梅干し?」

上条「苦手か? だったらおかかの醤油漬けでも」

食蜂「い、いえ、普通に食べれますけどぉ」

上条「了解」

食蜂(だ、だったら、ラジオ体操第二をっ)ピッ

上条「……ん、あまり熱すぎてもなんだしな。こんなもんでいいだろ」カチ

食蜂(ど、どうしてっ、何で全然効かないのっ!?)ピッピッ

上条「あとは漬物が――ああ、あったあった」ゴソゴソ

食蜂(そ、そういえば襲われた時も――――って、まさか)ゾワ

食蜂(……完全に能力が、使えなくなったとか)サァァ

上条「お待たせ。熱はどうだ? 下がってたか?」

食蜂「……あ、その」

上条「あれ、まだ測ってなかったのか」

食蜂「ご、ごめんなさい。今測りますから」ギュッ

上条「いや、いいんだ。それは後にしよう、おかゆ冷めちまうし」コト

食蜂「…………はい、わかりました」

食蜂(読心も無理、か。確かに集中力は必要だけど)

上条「少なめに入れといたけど、もっと食べれそうならおかわりも――って」

食蜂「……」グ

食蜂(――ま、万一体調不良のせいじゃなかったら)ブルブル

上条「ど、どうしたんだ? 寒いのか?」

食蜂「あ、き、気にしないでください。何でも、ないですから」


食蜂(――消したい、のに。消さなきゃいけないのに)

食蜂(何で、よりによって一番弱みを見せたくない人に、あんな)ジワァ

上条「一人で食べられそうか?」

食蜂「……まだ、若干だるいです」ホケー

食蜂(もし常盤台にいられなくなったら、次はどこにいけばいいのかしらぁ)

上条「そっか。んじゃあ、もう少し体を起こせるかな」

食蜂「……はい、わかりました」ホケー

食蜂(能力使えなかったら、完全用済みよねぇ。ま、今さらどうでもいいケド)

上条「ん、まだ少し熱いかな。ふーっ、ふーっ」

食蜂「……」ジー

食蜂(いずれにしても、またこの人に助けられちゃったのねぇ)ハァ

上条「それじゃ、はい、口開けて」スッ

食蜂「……あーん」

食蜂(――って、私何して)

上条「よっと」スッ

食蜂「」ゴックン

上条「って、そんな一気に飲み込むと」

食蜂「ゲホッ!///」

上条「普通に咽るよな。はいタオル」スッ

食蜂「えほっ、ごほっ」ハシ

食蜂(い、いきなり近距離に顔があったら、誰だって驚くと思うんですケドぉ!)

上条「もしかしてまだ熱かったか?」

食蜂「……い、いえ、ちょうどよかったです」フルフル

上条「そっか。いくら米が柔らかいとはいっても、少しは噛んだ方がいいぞ」

食蜂「そ、それくらいわかってますぅ」ブス

上条「んじゃ、今度は梅干しも一緒に」スイ

食蜂(もう、この人ってば人の気も知らないで……)ジト

上条「ふーっ、ふーっ」

食蜂「……」

食蜂(……こういうの、いつ振りだったかしらぁ)

上条「はい、ラスト一口」スッ

食蜂「……んくっ――――ご馳走様でしたぁ」

上条「お粗末さん。体、少しは温まったか」

食蜂「ええ、たくさん食べたら汗かいてきちゃいました。……ところでぇ」

上条「うん?」

食蜂「このTシャツ、あなたが着替えさせたんですかぁ?」ピラッ

上条「え……あっ」

食蜂「見たところ一人部屋みたいだしぃ。ということは、制服脱がせたのもぉ///」チラ

上条「って、違うっ! これは一緒に住んでる女の子が――」

食蜂「一緒に住んでる、って、あなたも学生ですよねぇ?」

上条「い、いやっ、そのっ、同棲ってわけじゃなくてだな。たまたま親戚の子が遊びに来てて」

食蜂「私の察知力甘く見ない方がいいですよぉ? ホラ、ベッドの下に長い銀髪が何本か」ジト

上条「まじで本当なの!なんです!なんだよ三段活用! 何なら後で電話番号教えるから確かめてくれても――」

食蜂「もぅ、そこまで必死に言い訳しなくてもいいのにぃ」クス

――ジャアアア


食蜂「……名前」ボソ

上条「うん? 何か言ったか?」ゴシゴシ

食蜂「あなたの名前、聞かせてください。危ういところを助けてもらったんですし」

上条「って、あれ、さっきお前、確か……」ジャアア

食蜂「……」ジー

上条「ま、まぁいいか。んじゃ改めまして、上条当麻だ、よろしくな」

食蜂「カミジョウトウマ、さん。どう書くんですかぁ?」

上条「ええっと。上下の上に、憲法第一条の条、当選確実の当、麻婆豆腐の麻」カチャン

食蜂「……最後の説明はちょっとおかしくないですかぁ~?」

上条「通じりゃ問題ない。ところで、お前の方は?」カチャン

食蜂「……あ、私……私は」

食蜂(……よくよく考えてみると)

食蜂(向こうから尋ねてきたのってこれが初めてね)

食蜂「常盤台学園二年、食蜂操祈っていいますぅ☆」

上条「へぇー、ショクホウか、変わった名字だな」

食蜂「そうですかぁ? 学園都市にはもっと変わった名前の人たちもたくさんいますよぉ?」

上条「じゃあ、俺のクラスは意外とまともな方なんかな。ちなみにどういう字書くんだ?」

食蜂「ショクホウは食べる蜂と書いてぇ、ミサキは操るに祈るって書きま~す」

上条「なるほどな、一度覚えたら忘れなそうだ」ウンウン

食蜂(……自己紹介、これで二度目なんですけどぉ)ウルウル

上条「そういや、常盤台っていえば、御坂のやつもそうだったよな」

食蜂「……っ」

上条「あれ、その反応、もしかして知り合いか? 友達同士とか」

食蜂「え、ええ、そんなところですねぇ」

上条「そっか、まぁ知らないわけないか。あいつも学園最強、レベル5の一人だもんな」

食蜂(……ちょっとぉ。なんで御坂さんのこと知ってるくせに同じレベル5の私のこと知らないわけぇ?)ブスゥ

寮監『わかった、そういう事情ならやむを得まいな』

食蜂「すみません。連絡が遅くなってしまって」

寮監『いや、大事に至らなくて何よりだ。ああ、減点はないから気にするな。ルームメイトには伝えておこう』

食蜂「はい、ありがとうございます」

寮監『その代わり今日はしっかり休んで、明日には寮に戻るように。タクシー代ならこちらで持つ』

食蜂「わかりました、必ず」

寮監『それじゃ、お友達によろしくな。お休み』

食蜂「はい、寮監様、お休みなさい」


――ピッ


食蜂「そういうワケでぇ、今夜はお世話になりますぅ、上条先輩☆」

上条「構わないけど、疑われなかったか?」

食蜂「いいえちっとも、日ごろの信頼力の賜物ですよぉ」ニコ

上条「23時か、んじゃそろそろ」

食蜂「ええ、ちょっと恥ずかしいけどぉ、一緒のベッドで」チラ

上条「んなワケありません。隣の部屋に友達が住んでるから、俺はそっちに泊めてもらうよ」

食蜂「……えっ」

上条「嵩張るから布団二人分も用意してないんだ。ベッドなら気にしないで使ってくれ」

食蜂「で、でも、いつもはどうしてるんですかぁ? さっき女の子が遊びに来てるみたいなこと、言ってたじゃないですか」

上条「ああ、そのときは浴室の湯船で寝てる」

食蜂「……」


食蜂(さ、さすがにそれはぁ、冗談力がきついんじゃないかしらぁ?)ヒク

上条「基本、家の物は何でも使っちゃっていいから。シャワーは、熱が完全に下がるまでやめた方がいいと思うけど」

食蜂「あ、あの、本当に行っちゃうんですか?」

上条「初対面同然の男と一つ屋根の下で寝るとか不安だろ? その、あんなことがあったばかりだしさ」

食蜂「……っ」


『んで、てめえも白目剥いて泡吹きてえクチかぁ?』

『ひゅーっ! すっげ、この体で中学生かよ!』


上条「そっちみたいに寮監なんていないけど、ここ七階だし各フロアに監視カメラもついてるから、鍵とチェーンさえかけとけば」

食蜂「だ、駄目ぇ」ヒシッ

上条「大丈夫――って、食蜂?」

食蜂「そ、そんなの何の役にも立たないわよぉ。能力使われたら一巻の終わりじゃなぁい」グスッグス

上条「い、いや、何も泣くことはねえっつうか」アセアセ

食蜂「……うぅうぅ」フルフル

上条「……ま、まいったな」

――バタン


食蜂「……ぁ」

上条「ただいま、掛布団だけ借りてきた」

食蜂「……あの、その」

上条「んじゃ、俺はこっち側で寝るから」

食蜂「ご、ごめんなさい。わがまま言っちゃって」ショボン

上条「いや、俺の方こそ気が利かなかった。襲われた上に風邪引いてんじゃ弱気にもなるよな」

食蜂「……能力さえ使えれば、何も怖くないんですけど」

上条「あぁ、そういえば常盤台って、全員がレベル3以上だよな」

食蜂「でも、私、何でか使えなくなっちゃったみたいで」

上条「へ? 使えなく?」

食蜂「最初は単に風邪のせいかと思ってたんですケド、熱が下がっても無理みたいで」グス

上条「……あー」ポリポリ

食蜂「……上条さん?」


上条「食蜂ごめん。それ、十中八九俺のせい」

食蜂「……幻想殺し」

上条「文字通り無能力ってやつだな。炎でも電撃でも念動力でも、触れただけで打ち消しちまう」

食蜂「……言われてみれば、都市伝説サイトにそんなのがあったような」

食蜂(っていうかぁ、本当にそんな能力を持ってるんだったら)

食蜂(何でこんな貧乏臭い寮に住んでるのかしらぁ? 研究者がこぞって出資しそうなものなのにぃ)

上条「ただ、部屋の中で使うこと自体問題ないはずなんだよな。もし俺に対して能力を使ったってんなら、話は別だけど」

食蜂「」ギク

上条「さっき、俺にリモコン向けてたよな。もしかして、あの行動も能力発動に関係してるとかか?」

食蜂「……抜けてるように見えて、意外と察しがいいんですねぇ」

上条「コラコラ、仮にも先輩に向かって抜けてるはないだろ」

食蜂「てへっ、ごめんなさぁい」

食蜂(そっか、そっかぁ。やっぱ消えたわけじゃなかったのねぇ)パァァ

上条「ところで、お前の能力はどういう?」

食蜂「ええっと、詳しく説明すると長くなるんですけどぉ」

食蜂(真正面から向けちゃった以上言い逃れは無理よねぇ。まさかそんなふざけた能力があるなんて思わなかったし)

食蜂(出来れば隠しておきたいけど、データベースで調べられたら一発でバレるし)フゥ

食蜂「簡単にいえば精神干渉ってヤツです。相手に自分の意図した行動を取らせたりできるんですよぉ」

上条「……それって、どんなことでもか?」

食蜂「ええ、仲の良い友人同士を仲違いさせることだって朝飯前ですよぉ」エヘン

上条「……そっか、そりゃすげえな」

食蜂「……ぁ」ズキン

食蜂(い、いくらなんでもたとえが悪すぎたかしら。つ、ついいつもの調子で)ダラダラ

食蜂(ま、まぁでも、軽蔑されるのは慣れてるしぃ? 今さら気にすることも)

上条「それじゃ、照明消すぞ」

食蜂「……は、はい」


――パチン


上条「んじゃあ、お休み」

食蜂「……あ、あのぉ」

上条「……うん?」

食蜂「えっと、訊かなくていいんですかぁ?」

上条「何を?」

食蜂「その、さっき上条さんに何をしようとしたのか、させようとしたのか」

上条「……訊いてほしいのかよ?」

食蜂「……っ」ビク

上条「……」

食蜂「……やっぱり怒ってますぅ?」

上条「なんてな」フッ

食蜂「……え」

上条「わざわざ自分で掘り返したってことは、少なからず後ろめたさを感じてんだろ?」

食蜂「……さ、さぁ、どうでしょうか」ギク

上条「前後の状況を考えれば、そういう能力を使うのが日常的なら、理解できなくもない行動だ。反省してんなら責める気はねえよ」

食蜂「……へ、へぇっ、大人なんですねぇ、上条さんって」

上条「棘のある言い方だな。もしかして詰ってほしかったのか?」

食蜂「そ、そういう風に聞こえたなら、謝りますけどぉ」

上条「んじゃ、その話はおしまいだ。あまり深く考えんなよ」

食蜂「……」

食蜂(やっぱり、無理だったわねぇ。薄々わかっていたことだけど)


食蜂(私ってばぁ、思い通りに誘導できない人が――どうにも我慢ならないのよね)ヒヤ

食蜂「……もう寝ちゃいました?」

上条「……寝てない、つか、いい加減寝ないとぶり返しちまうぞ」

食蜂「だ、だってぇ、先に寝たら先輩に襲われちゃったり――」

上条「やっぱ隣の部屋に行くわ」ムク

食蜂「う、嘘うそっ! 冗談よぉっ!」アセアセ

上条「……お前って、意外と難儀な性格してんな」ハァ

食蜂「わ、悪かったわねぇ」ムス

上条「そんで? まだ何か訊きたいことでも?」

食蜂「んもぅ、機嫌治してくださぁ~い」

上条「訊きたいことでも?」

食蜂「だ、だからぁ、何であの時私を助けたのかなぁって」

上条「……そりゃ、いったいどういう意味だ?」

食蜂「だってあんなに人数差があったんだから、あなたが返り討ちに遭うリスクだってあったわけでしょう?」

食蜂(……そうなのよねぇ。他の人が誰も助けに入ってこなそうな状況でも、この人ってば)

上条「んー、まぁ……そうだな」

食蜂「それにさっきのあなたの説明からするとぉ、幻想殺しって能力者以外には通用しない能力なんですよねぇ?」

上条「ああ、そう思ってもらって構わない」

食蜂「にもかかわらず助けに来たってことは、何か見返りとか欲しかったんじゃないのカナーって」

上条「……」ハァ

食蜂「さすがに正式なお付き合いとかは無理ですけどぉ、その、デートとかキスくらいなら」

上条「いらねえよ、んなもん」

食蜂「してあげても――ん」


食蜂(んなもん?)カチーン

上条「そういうのは恋人とでもやってくれ。お前なら選り取り見取りだろ」

食蜂「……ず、随分な口の利き方ねぇ」ヒク

上条「義理のデートやキスなんざチョコせがむより痛いっつうの。金積まれたってごめんですよ」

食蜂「ハ、ハァーーッ? ハァーーー?? わ、私これでも男子受けすっごくいいんですけどぉッ?!」

上条「そーいうめんどいイベントはとっく間に合ってんの。んじゃ、お休み」ガバッ

食蜂「んな……ぁ」ヒク

食蜂(な、なななっ、何よっ、何なのよコイツぅ!)

食蜂(あ、あなたの能力なんて穴だらけじゃない!)

食蜂(それこそ私の支配力なら、ボッコンボッコンのギッタンギッタンにできるんだからぁ!)

食蜂(どうせあなただって、表向きはどう取り繕ったところで心の中ではえっちぃことばかり考えてるんでしょ!)

食蜂(そうよ、そうに決まってる! 私に近づいてくるやつなんてみんな)

食蜂(――――み、んな)キュ



『ばぁか、お前が救われたんなら、それだけで俺の帳尻は合ってんだよ』



食蜂「……う~っ」ボフッ

食蜂(う~~っ、う~~~~っ)ボフッボフッボフッ

――翌朝


上条「……なんでうちに新聞が入ってんだ? 取ってねえんだけど」

食蜂「さぁねぇ、うっかり販売員さんが入れ間違えちゃったんじゃないかしらぁ」パラ

食蜂(寝すぎたせいか、結構早く目が覚めちゃったわねぇ)ファ

上条「……」ジー

食蜂「……な、なんですかぁ?」キュ

上条「能力、消えてなかったみたいだな」フッ

食蜂「……だ、だから?」

上条「別に、そんだけ」キュッキュ

食蜂「も、文句があるならはっきり言ったらどうなんですかぁ?」ジト

上条「文句なんてねえよ。ただ、元気になって良かったなって」ゴックンゴックン

食蜂「……は」

上条「昨日のお前、それこそこの世の終わりみたいな面してたからさ」

食蜂「……朝食って、これがぁ?」

上条「お前、実はほんっとにいい性格してんだな」

食蜂「だってぇ、牛乳と食パンとスクランブルエッグだけって、いくらなんでも栄養偏り過ぎですよぉ」

上条「食べないよりかは脳が働くだけずっとマシですよ」

食蜂「だとしてもぉ、せめてサラダとか果物くらい、ビタミン力の欠如じゃないですかぁ」ブーブー

上条「格調高いお嬢様校のぶれいくふぁすとと一人暮らしの貧乏学生の料理と比べんのが間違ってると私こと上条は思うのですが?」

食蜂「まぁ、無い袖は振れないですね。……あ、ケチャップ取ってください」

上条「ほらよ」トン

食蜂「……」パカッ

食蜂「んー」ニュルニュルニュルニュル

上条「って、かけ過ぎかけ過ぎぃ! あんま無駄にすんなよ!」

食蜂「み、みみっちぃにもほどがあると思うんですケドぉ」

食蜂「タクシー、今到着したみたいです」ピッ

上条「わかった、忘れ物すんなよ」

食蜂「それじゃあお暇する前に――はい、どうぞ」

上条「……うん? マネーカード? って、限度額二万!?」

食蜂「迷惑料とシャツのお代です。破れたブラウス着ていくわけにもいかないし」

上条「んなもん一枚千円もしねえよ。お古だしタダでやるって」

食蜂「……あなたってばいちいち勘に障る人ですねぇ。私は誰かに借りを作るのがすっごく嫌いなんですけどぉ?」

上条「だったら、今度会った時に昼飯でも奢ってくれりゃいい。それでチャラな」グイ

食蜂「あ、ちょ、ちょっとぉ!」パシ

食蜂(な、何も無理矢理返すことないじゃない! 調味料ケチるくらいビンボーしてるくせにぃ!)ムカムカ

上条「学生のうちにちったぁまともな金銭感覚身につけとけ。じゃないと、後々苦労するぞ」

食蜂「……き、昨日の今日で保護者気取りとかぁ、いー加減ウザいんですけどぉ」ピキピキ

上条「へいへい、どう思おうが食蜂さんの勝手ですよー。今さらこの性根変えられるとも思えねえし」ヘラヘラ

食蜂「……ぐっ」ギリ

上条「ほらほらぁ、下にタクシー待たせてるんですよねぇ? 時はぁ、金なりですよぉ?」

――ブオオオオオオン! ――プップーッ! ――キキィッ!


運転手「ヒャッハーーッッ!!」ギュイイ

食蜂「ホントムッカつくっ! 何なのよぉ、最後のワザとらしい喋り方わぁ! あれで似せてるつもりなのぉっ!?」ドンッ

食蜂(ど、どうにも気が収まらないわぁ。一度目に物見せてやらないと)フシューフシュー

食蜂(そうよ、目につくスキルアウト片っ端から洗脳して襲われちゃえば、私の恐ろしさだってわかってくれるわよねぇ)ニタァ

運転手「オラオラどけどけ道を開けろぉーッ! 学園五位様のお通りだぁッ!」グォォォン

食蜂「……この分だと、五分も経たずに付きそうねぇ。料金も安くなるし一石二鳥」ボソ

食蜂(って、運賃は寮持ちなんだから気にする必要なんてぇ)


上条『――時はぁ、金なりですよぉ?』


食蜂「あ゛ぁーもぅっ! ん゛ッも゛ーぅッ!!」ゲシッゲシッ

運転手「背中にぃ! 衝撃がぁ!」ガックンガックン

警備員「88キロの速度オーバーを確認。免許取り消しですね」カキカキ

運転手「……え、…………え?」ボーゼン



取り巻き「おはようございます。女王」

食蜂「ええ、おはよう」キラキラ

食蜂(街中ブッ飛ばしてたら、何かすっきりしちゃった☆)テヘペロッ

取り巻き2「昨日は寮に戻られなかったとか。私とても心配しておりました」

食蜂「ええ、ちょっと出先で熱が出ちゃってぇ。近場の友達の家に泊めてもらったの」

取り巻き3「まぁ、そうだったのですか? それで、お体の方は」

食蜂「この通り、ちゃんと回復したわよぉ」ファサ

食蜂(……一応、付きっきりで看病してくれたのよねぇ)

食蜂(数々の無礼を許したわけじゃないけどぉ、そう、借りは返さないと、人としてダメよねぇ?)テレ

本日分は以上になります
次回分は、早ければ三日後の夜くらいに投下したいと思います

前作は【黒子、上条、乾杯】とぐぐれば多分出てきます(設定の誤認が多かったですが一応完結済み)

もう一個はバリバリR18なので今回は控えておきます

っと、肝心な一行を
支援レスありがとうございました

>>88 一箇所訂正
食蜂(そうよ、目につくスキルアウト片っ端から洗脳して襲われちゃえば、私の恐ろしさだってわかってくれるわよねぇ)ニタァ

襲われちゃえば→襲わせちゃえば


レス番飛んでてびっくり
本日の21:00頃には投下できると思います

遅れてすみませんでした
ただ今より投下します
それと、R18は黒歴史なので勘弁してください

おk 18は気にしない。

――常盤台中学庭園


食蜂「……んー、麗らかな午後は紅茶に限るわねぇ」フゥ

取り巻き1「あの、女王、お伺いしたいことがあるのですがよろしいですか」

食蜂「あら、なぁに?」

取り巻き1「その、朝方に女王が仰っていたお友達って、女性ですよね?」

食蜂「当然でしょう? 男性の部屋に泊まるなんてぇ、私には怖すぎて無理っていうかぁ」テレ

取り巻き1「そ、そうですよねぇ」

取り巻き2「だから言ったでしょう? 女王が殿方と密会だなんてありえないって」

取り巻き1「ちょ、ちょっと。私はただ確認したかっただけで、決して疑っていたわけじゃあ……」

食蜂「確認って、噂の出所があるのぉ?」ピク

取り巻き3「何でも1さんのクラスメイトが、昨日街で女王に似た人を見かけたとかで」

取り巻き2「しかも男性に背負われていただなんて。私は絶対に他人の空似だって言ったんですけど、この子が――」

取り巻き1「で、ですからそれはぁ」アセアセ

食蜂「……くすん。私って、自分で思ってるより信用力なかったのかしらぁ」

取り巻き3「そ、そのようなことっ! ほらっ、1さんも早く謝罪なさってっ」

取り巻き1「も、申し訳ありませんっ! 私の失言でした!」

食蜂「ううん、誤解が解けたならいいの。さ、顔を上げてちょうだい」

取り巻き1「あ、ありがとうございますっ!」

食蜂(――さて、と。1のクラスは)

食蜂「――というわけでぇ、話した相手全員の誤解を本日中に解いておくこと。わかった?」

女子学生「……ハイ、ワカリマシタ」コクン


――ピッ


女子学生「あ、あれ、私、こんなところで何を――」キョロキョロ

食蜂(修正完了っ、と)スッ

食蜂「人の口に戸は建てられないとはいうケド、あまり手間をかけさせないで欲しいわぁ」

食蜂(……上条さんと噂になること自体は、うん、あんまり嫌じゃないけど)

食蜂(どんなペナルティが課されるかわからないものねぇ)


???「そんなとこで何やってんの?」

食蜂(……っ)クルッ

食蜂「あ、あらぁ、御坂さぁん。御機嫌よう」ニコ

ビリビリきたか

御坂「……今校舎に走ってった子。あんた、あの子に何かしなかった?」チラ

食蜂「さぁ、どうだったかしらぁ」

御坂「……はぐらかすんなら肯定と受け取るわよ?」

食蜂「ご自由に。っていうかぁ、私とあなたの仲じゃ教えてあげるほどの理由力はないと思わない?」

御坂「……ったく、そんなおっかない能力をよくも平然と使えるわよね」

食蜂「おっかない――ねぇ」クス

御坂「……何がおかしいの?」

食蜂「だって、あなたの代名詞である超電磁砲(レールガン)にしたって、人を簡単に壊せるでしょう?」

御坂「少なくとも、私はあんたみたいに能力の濫用はしてない」

食蜂「その心がけはご立派ですけどぉ、個人の価値観を他人に押し付けるのはどうかしら?」

御坂「個人の価値観、ですって? 学園都市の能力者みんなが持つべき当然の心構えよ」

食蜂「……さっすが、優等生の言うことは違うわねえ」クスクス

>御坂「少なくとも、私はあんたみたいに能力の濫用はしてない」

上条「えっ?(レールガンを右手で打ち消しながら)」

御坂「いやに挑発的じゃない。言いたいことがあるならはっきり言ったらどう?」

食蜂「それじゃあ遠慮なく。学園内では上手く猫被ってるみたいだけどぉ」

食蜂「外では結構派手にやってるみたいじゃない?」

御坂「……っ」

食蜂「ふふふっ、私の情報力、甘く見るとそのうち火傷しちゃうわよぉ?」

御坂「他人の動向勝手に探るとかっ、あんたの辞書に慎みって文字はないわけ?」

食蜂「あらぁ、御坂さんなら、無知でいることの恐ろしさを十二分に理解っているはずでしょ?」

御坂「――っ! あんた、まさかっ!」

食蜂「って、ど、どうしたのぉ? 怖い顔しちゃって」キョトン

御坂「…………」

食蜂「…………」


御坂「……な、何でもないわよ」プイ

食蜂「あら、そぉ? それじゃ、私はこれで」クル

>御坂「少なくとも、私はあんたみたいに能力の濫用はしてない」

街のチンピラ「えっ?」

自動販売機「蹴られるだけならまだしも電撃は…」

――とある高校


小萌「――というわけで、人間の体には常に電流が流れているわけですね」カッカッ

小萌「この電流のことを生体電流と呼びます。100~200マイクロアンペアという、感知することができないくらいの微弱な流量です」

上条「あの、先生」ガタ

小萌「はい、上条ちゃん。質問ですか?」

上条「いや、精神系能力者も人間に対して様々な命令が出来るんですよね。それって」

小萌「これは、大変いい質問ですね。特別ポイントを5点、差し上げますです」

上条「おっしゃっ!」グッ

青ピ「ずるいなぁカミヤン。ごくたまーに見せるちゃんと授業聞いてますアピール、あざといわぁ」

上条「黙れ青髪、普段だってちゃんと聞いてるっつうの!」

上条(入院に継ぐ入院で出席日数ボロボロだしな、稼げるところで稼いでおかないと)

小萌「はいはい二人とも、まだ授業中ですよー」

上条「あ、す、すんません」

小萌「ではでは、ざっくりと説明しちゃいましょうか」

小萌「系統別の専攻をしている人以外にはあまり知られていないことなのですが」

小萌「精神系能力者は、系統的には発電系能力者の内に含まれるです」

土御門「ええ? いや、しっかし、電撃と洗脳とじゃ大分かけ離れているような気がするにゃー」

小萌「確かに用途は全く異なります。ですけど、電流を用いて対象に干渉する点は一致してるですよ」

吹寄「それって要するに、精神系の能力を使用する際にも電流を放出しているってことですか?」

小萌「その通りです。ただし、その強さは極々微弱なものになりますけど」

吹寄「ああ、なるほど。先ほど体内にも微弱な電流が流れていると」

上条「つまり、精神系能力者は疑似的な生体電流を作り出して相手の脳を騙す、そんな感じすか?」

小萌「おおっ、上条ちゃん、今日は妙に冴えてるですね」

青ピ「なんやあ、明日は雪でも降るんとちゃうん?」

小萌「さて、お次は発電系と精神系能力が分かれている理由について説明しましょう」

小萌「まず、発電系能力は基本的にどれだけ強力な電撃を操れるかでレベルが決まります」

小萌「AIM拡散力場を展開して電流を組成し、大気に電位の高低差を作り出したり」

小萌「それに伴い発生する磁気を利用して質量に加減速をもたらすことが可能です」

上条(なるほどな。その二つを並列利用したのが御坂の超電磁砲か)

小萌「一方で、精神系能力は電気をどれだけ精緻に制御できるかに重きが置かれます」

小萌「言い換えれば、電力を極々微弱になるまで減衰させ、広範に拡散することが出来る人ほどレベルが上と見なされます」

上条「そっか。共通しているのは電流を使うことだけで、目指す方向は真逆なんすね」

青ピ「それやと、発電系能力者に精神系能力を使うことは」

小萌「ええ、まず無理です。レベル3以上の発電系能力者は微弱な電磁障壁を体に纏っていますから」

土御門「精神系能力で使う電流くらいじゃ、届く前に阻害されちまうってわけか」

小萌「どちらも高度な演算能力が必要であることに変わりはないんですけど、相性は最悪といって――」


――キーンコーンカーンコーン


小萌「っと。それじゃあ、今日の授業はここまでにしますね」

――廊下


上条「小萌先生」タッタッ

小萌「はいはーい、何ですかぁ――って」クル

上条「ども」

小萌「上条ちゃん。授業後にも押しかけて来るだなんて今日は一段と熱心ですね。先生はとても嬉しいのです」

上条「ああいえ、これから聞きたいことは授業とあまり関係ない、とも言い切れないかもですけど」

小萌「あら、いったい何なのです?」

上条「小萌先生って、心理学を専門に学んでいましたよね?」

小萌「はい、そうですよ。専攻しているのは社会心理学・環境心理学・行動心理学・交通心理学などですねー」

上条「それじゃあ、さっき言ってたような能力の研究機関にも顔を出したりしてるんですか?」

小萌「さっきって……あぁ、精神系能力ですか? 一応、何人かの子と面識はありますけど」

上条「じゃ、じゃあ――」


上条「その中に食蜂操祈って女の子、いたか覚えてます?」


小萌「……え」

上条「……先生?」

小萌「――あの、上条ちゃん」


小萌「覚えて、いないんです?」

お? 記憶喪失前での記憶か…

上条「……え? 覚えてないって」

小萌「というか、その質問以前に、上条ちゃんは特別補習をご所望です?」

上条「って、何でいきなりそんな話に!?」

小萌「何でも何も、食蜂ちゃんは学園都市第5位の超能力者です。どちらにしても名前を知らないのは問題アリアリです」

上条「げっ!? 第五位って、あの子レベル5だったんですか!?」

小萌「え、ええ。今現在の彼女は『心理掌握(メンタルアウト)』と呼ばれる、精神系最強の能力者なのです」

上条「心理掌握……」

上条(……単なる箱入りお嬢様じゃなかったのか。道理で、妙にふてぶてしいと思ったんだよ)

上条「ん、今現在?」

小萌「……本当に、記憶にないのです? 確かに当時は今よりレベルも低かったですけど」

上条(……そうか。やっぱり記憶を失う以前に面識が)

上条「いや、すんません。最近どうも忘れっぽくて」

小萌「……まだ若いのに何を言ってるですかぁ」

上条「ホント、面目ないっす」

小萌「謝ることはないです。上条ちゃんは常々忙しそうですし、そういうこともあるかもですね」フゥ

上条「……先生は、彼女とは親しいんですか?」

小萌「ええ、それなりには。ここのところ『発火能力(パイロキネシス)』の研究でご無沙汰ですけど、研究施設では顔馴染みでしたよ」

上条「そ、そうなんすか。それで、その、どんな子でした? 性格とか」

小萌「……あのぅ、上条ちゃんならわかってくれると思いますけど」

上条「……?」

小萌「教師が生徒に対し、特定の個人の印象を植え付けるような発言は出来ないのです」キッパリ

上条「ああ、そっか。そりゃそうだ」ポリ

小萌「それで、何で食蜂ちゃんのことを? 改めてお友達になったんです?」

上条「い、いえ、友達っていうか、まだ顔見知りってレベルなんすけど」

小萌「どんな子か気になるというのであれば、実際に会って話すのが早いと思いますけど」

上条「それは、そうなんですけど」

小萌「多分ですけど、上条ちゃんが会いたいと言えば会ってくれますよ」

上条「……え、マジですか?」

小萌「はい、何でしたら連絡をつけてあげましょうか?」

上条「……い、いやぁ、そいつはさすがに、問題があるといいますか」

上条(つか、相手はお嬢様校の女の子だぞ? 仮にも教師が積極的に会うことを勧めるのは)タラ

小萌「そうですか。まぁ、あんまり教え子ばかり贔屓するのもいただけないかもですね」

上条「いえ、すんませんした。変なことで呼び止めてしまって」ペコ

小萌「いえいえー。それじゃあ、また帰りのHRでです」ヒラヒラ

――バス停前


取り巻き2「――では、やはり高位の能力者なのでしょうか」

取り巻き3「そうに決まってますわ。何といいましても超能力者たる女王と親交があるんですもの」

食蜂「あら、あなたたち、何の話をしているのぉ?」

取り巻き1「ああ、女王。これからお帰りですか?」

食蜂「ううん、まだよぉ? 今日は検診日だから、研究所に顔を出してから帰るわ」

取り巻き1「そうでしたか。相変わらずお忙しいんですね」

食蜂「もう慣れたけどね。それで?」

取り巻き3「いえ、外に住んでいるという女王のご友人への興味が尽きませんで」

食蜂「友人って……あぁ」

取り巻き2「はい、その正体をあれこれと推測していたところなのでございます」

食蜂「正体って、大袈裟ねぇ。何てことない普通の人よぉ?」

取り巻き1「普通、ですか? 能力者では……」

食蜂「ぶーぶー。れっきとした無能力者(レベル0)」

取り巻き2「え……」

食蜂「あら、どうかしたの?」

取り巻き2「あぁ、いえ、その……少し意外だったものですから」

食蜂「そぉ? 私、能力至上主義者ってつもりは欠片もないけれど」

取り巻き2「も、もちろんです。不快に思われたのならお詫びを」

食蜂「別に、気にしてないケド」

食蜂(厳密にはあの人、無能力者とも言い難いものねぇ)

食蜂(ああいう特異な能力じゃ、学園都市の能力判定ではどうやったって検出されないでしょうし)

食蜂(あの人のよさを物差しで測ろうとするなんて、おこがましいわよね)クス

取り巻き3「あ、あの、差し出がましいことをお聞き致しますが、その方とはいったいどのような経緯で」

食蜂「知り合ったかって? たまたま街で出会っただけの関係だけど」

取り巻き3「ああ、やはりそうでしたか」ホッ


食蜂(――――やはりぃ?)ピク

取り巻き3「学園都市第五位の女王が、無能力者と親密な関係を持つはずがありませんものね」

食蜂「……」イラ

取り巻き2「そうですわね。こう言っては何ですけど、バランス的にミスマッチと申しますか」

食蜂「……」ゴソゴソ


――ピッ


取り巻き1&2&3「」ビクン

食蜂「……そういえば二人とも、最近やたらと体重気にしているみたいねぇ」ンー

食蜂「たまにはバスに乗らず走って帰りなさい――全速力で」ニッコリ

取り巻き2&3「――ハイ、カシコマリマシタ」ダッ


――ピッ


取り巻き1「あ、あら? に、2さん? 3さんも、いったいどちらへ!?」アワアワ

食蜂「さぁ? 帰りのバスが待ちきれなかったんじゃなぁい?」

取り巻き1「それでは女王、これで失礼いたします」ペコ

食蜂「ええ、また明日ね」フリフリ


――ブロロォォォ


食蜂(あの二人、まだ大分後ろを走ってたわねぇ。寮に到着するまであと30分ってとこかしら)

食蜂(まったくぅ、会ったこともない人を好き勝手に貶すなんてダメダメなんだゾ☆)

食蜂(……まぁ、確かにあの人はがさつで依怙地で忘れっぽくて、欠点を挙げればキリがないけど)

食蜂(あれで結構頼りがいはあるし、人並み以上に気遣いもできるし)

食蜂「……」ハァ

食蜂(体調不良だったとはいえ、昨日はらしくなくテンパっちゃったわぁ)

食蜂(いずれ距離を縮めたいとは思っていたけど、あんな形で果たされるのは心外なのよねぇ)

食蜂(記憶が消せないのなら、せめて幻滅されてないか知りたいところだけど)

食蜂(……んー、幻想殺しなんてものがあるんじゃ頭の中を覗くのも無理だしぃ)

食蜂(何よりまた忘れられちゃったら……うぅ、あんにゅいー)グテー

――研究所


研究員A「ふむ、概ね許容範囲内の数値ですが、脳波に若干の乱れが見られますね」カタカタ

食蜂「昨日熱出してぶっ倒れちゃったから、そのせいじゃない?」

研究員A「そうですか。とすると、大脳辺縁系が活性化されているのもその影響かな」チラ

食蜂「私の頭の中を覗き見ながら話すならぁ、あなたもそのヘルメットを取ったらどう? フェアじゃないしぃ」

研究員A「いやいや、誰だって考えていることを盗み見られるのは嫌なものでしょう」

食蜂「……それはつまりぃ、私みたいな存在自体が誤りってことかしらぁ?」

研究員A「まさか、とんでもない。あなたは非常に希少価値の高いデータサンプルとして――」

食蜂「ハイハイ。じゃ、今日はこれでオシマイね」カパ

研究員A「――ッ! 電源を落とす前に外すのはやめてくださいと何度も」

食蜂「ああ、ノイズ拾っちゃうんだっけ。ごめんなさぁい、すぐ忘れちゃうのよねぇ」ペロ

研究員A「……集中力が散漫になりがちなのでしたら、精神安定剤を処方しますが?」

食蜂「結構ですぅ。私だってたまには思うがままに感情を発散したいの」

>>159
心電図とか脳波出す時とかBioelectric current使ってるわけだけど

というよりもμAの測定自体、コストは様々だけど、いくらでもやりようがある。

――コツコツ


研究員B『ね、ねぇ、あの子ってレベル5の』

研究員C『……へぇ、あれが噂の』

研究員D『ちょっと、あまり近づくと思考を読み取られ――』


食蜂(まさしく珍獣扱いねぇ)ンー

食蜂(まぁでも、遠ざけたい人を遠ざけておくには有効な方法だしぃ)

食蜂(こっちにしてみれば、学園都市の研究者の方がよっぽど化け物なんだけどねぇ)ガチャ

食蜂(……さて、と。とっとと着替えて帰らなくちゃ、病み上がりは無理できないし)キィ

食蜂(あっ、いっけない。予備のブレザー借りっぱなしだった――)


食蜂「――――」ドクン


食蜂「…………」トクントクン

食蜂「……はぁー……ふぅー」

食蜂「……早いとこ、忘れなきゃね」コツン

――バス亭前


食蜂「……あら、バスの時間過ぎちゃってる。次は――40分後ぉ?」

食蜂(まだ目に見える位置にいるならバックして戻ってきてもらうのにぃ)

食蜂「となれば、即席タクシーね」ピッ


――キキィーッ!


配送業者「…………」ボー

食蜂「ごめんなさぁい、ちょっと助手席お借りするわねぇ」バタン

配送業者「……ハイ」コクン

食蜂「常盤台学生寮前まで。そろそろ混雑してくる時間帯だし、くれぐれも安全運転でお願いね☆」

配送業者「ウケタマワリマシタ」

食蜂「……さてと、到着するまで読みかけの本でも――」ヴヴヴ

食蜂(あら? 何か鳴って――)ゴソゴソ

食蜂(ああ、携帯マナーにしておいたんだっけ)

食蜂「……んー、見たことのない番号ねぇ」

食蜂「でも、私の番号知ってる人なんて限られてるしぃ」ピッ

食蜂「はい、どちら様ですか?」

???『…………』

食蜂「……もしもしぃ? 切っちゃっていいのかしらぁ?」

???『……操祈ね?』

食蜂「……あら、私を下の名前で呼ぶってことはぁ」


???『anyway、まずはお礼から述べさせてもらうわ』


食蜂(……ふぅん、向こうからかけてくるとはねぇ)クス

食蜂「――ご無事で何よりです。体調の方は、いかがですか?」

???『お陰様で、こうして話をできるくらいには回復したわ』

食蜂「それなら何よりです。くれぐれもご自愛くださいね」

???『先だっては、随分と手間を取らせてしまったみたいね』

食蜂「気にしないでください。私と先輩の仲じゃないですか」

???『……率直に言って、意外だったわ』

食蜂「何がです?」

???『……私は、あなたには絶対好かれてないものだと疑ってなかったから』

食蜂「はっきり物を言う人って、基本的に嫌いじゃないですケド?」

???『but、……オリジナルの場合は』

食蜂『だからぁ、基本的に、って言ってるじゃないですかぁ』プン

???『indeed、……何事にも例外はあるものなのね』

???『それはそうと、込み入った話をしても問題ない?』

食蜂「私としては、そちらの方が心配なんですけどぉ?」

???『盗聴妨害機を使っているわ。あなた、今どこにいるの?』

食蜂「通りすがりの車の中ですケドぉ?」

???『走行中ってことね。悟られないように、顔の向きはそのままで』

食蜂「――何ですって?」


???『併走している車、及び後続車の確認をお願い』


食蜂「……っ」チラ

食蜂(……いない、わよねぇ。サイドミラーにも……うん、映ってない)ジィ

???『……尾行はなさそう?』

食蜂「何も見えませんけどぉ? これって新手の冗談ですか?」

???『……だと、良かったのだけどね』

――通学路


――ピピッ


上条(メールの着信か)ゴソ

上条「って、小萌先生?」


――from 小萌 16:24

『もし気が変わったらこちらにどうぞ。食蜂さんが所属する研究所の所在地です』


上条「……んー。ご丁寧に地図と電話番号まで」

上条(気軽に紹介してもらえるくらいには、親しかったってことなのかなぁ)

上条(不幸でならしている上条さんにあんな可愛らしい子と接点があったなんて、到底信じがたいんですが)


『それと先ほど聞き忘れたんですけど、シスターちゃんは今日お返ししてよろしいのです?』


上条「……そういや、昨日はひっさびさによく眠れたよなぁ」

上条「安い布団でいいから来客時のために一枚くらい買っとくかな。いい加減、ユニットバスで寝るのもきつい」

上条「考えてみると、廊下で寝るのも風呂で寝るのも、距離的にはほとんど変わらねえんだよなぁ」

上条(だったら、廊下と部屋にカーテンで仕切り作って、床にマットを敷いちまえば)

上条(昨日なんか女の子が隣で寝てても全然問題なかったし、インデックスさえ了承してくれるなら、試しても)

上条(……そういや食蜂のやつ、大丈夫かな。朝には元気になってたみたいだけど)

上条(でも、変に気遣うと返って襲われたこと意識しちまうかもしれないし)ウーン

上条(……あいつ、何となく御坂に似てんだよなぁ。ちょっと陰がある感じとか)

上条(小萌先生の話じゃ能力的にも被るところがあるみたいだし)

上条(……心理掌握、か。良くも悪くも使い方次第って感じはするけど)

上条(洗脳とか、ここの研究者なら真っ先に目をつけそうな能力だもんな。御坂みたく、クソみたいな実験に巻き込まれてなきゃいいけど>

上条(そうだな、前例もあることだし、それとなく何やってるか聞いてみるくらいは……ん)


土御門「いやぁー、待っちくたびれたぜよ、カミやん」


上条「……土御門? 待ちくたびれたってお前、何でわざわざ下で待ってんだ? 隣同士なんだから」

土御門「――寮だと少々都合が悪い、ちょっと付き合ってくれ」ポン

――河川敷


土御門「……ここなら、誰もいないな」キョロ

上条「ったく、なんなんだよ。んなところまで連れてきて」

土御門「壁に耳あり障子に目ありって言うだろ。警戒するに越したことはないんだ――よっと」ドサッ

上条「……まぁた厄介事ですか。つか、その無駄にでけえスーツケース、何が入ってんだ?」

土御門「後で教える。被害を最小限に食い止めるためにも、手を貸してほしい」

上条「……被害、ねぇ? んで、今度はどちらの魔術師サンがいらっしゃるんですか?」

土御門「子供みたいな拗ね方すんなって。先に言っておくと、今回狙われるのはお前さんじゃない」

上条「……狙われる? 何で未来形なんだ?」

土御門「実のところ、事態がどう転がるかはまだわからない。が、最悪の事態に備えて保険はかけて置きたい」

上条「……悪い、話が全然見えねえんだけど」

土御門「カミヤンの見込み通り厄介事だ。もしもの時は協力を仰ぎたいんだが、相手が納得してくれるかはまだ何とも言えん」

上条「……ああ、うん、なんつうか、あれだ」

土御門「うん?」

上条「お調子モンのお前が珍しくシリアスやってるって時点で、事態が拗れに拗れそうな予感しかしねぇ」ガックリ

土御門「おいおい、不穏なフラグを立てないでくれ。こちとら出来るだけ穏便に済ませたいと思ってるんだぜい?」

上条「当たり前だ。てか、上条さんにだって安息の日々は必要なんですよ?」ブツブツ

土御門「と、ゴネるだろうと思って、繚乱家政女学校監修リゾートの宿泊券(マッサージ付)を用意した」ピラ

上条「他ならぬ親友の頼みとあっちゃあ、協力しないわけにはいかねえな」キリ

土御門「……絵に描いたような手のひら返しだにゃー」

上条「メイドさんの手料理にマッサージ……男の夢だろ?」ビッ

土御門「さすがカイミヤン、話がわかるぜい。ちなみに、ガーターベルトとフリルバンドは外せないにゃー」ビッ

上条「まぁ、ご褒美とメイド談義はさておいて――だ」


上条「あらましを手短に説明してくれるか」

土御門「……すまん、この借りはメイド見習いたちが必ず」

>>181 一箇所訂正

土御門「さすがカイミヤン、話がわかるぜい。ちなみに、ガーターベルトとフリルバンドは外せないにゃー」ビッ

カイミヤン→カミヤン

土御門「つい先日のことだが、学園都市内の研究施設からある装置が盗み出された」

上条「って、強盗窃盗は警備員の領分だろ? 俺一人じゃどうしようも――」

土御門「話は最後まで聞け。その持ち出された装置ってのが、試作品の洗脳装置(テスタメント)なんだにゃー」

上条「洗脳装置、って、どこかで……」


『我々は洗脳装置を用いてこれら基本情報を――』


上条(――そうだ! 妹達(シスターズ)のっ!)ハッ

土御門「俺も詳しいことはわからんが、要するに精神系能力者と同じことを機械で行うらしい」

上条「……脳内情報の強制インストール」

土御門「ああ、悪用しようと思えばいくらだって出来そうな代物だ。野心家なら喉から手が出るほど欲しがるだろうよ」

上条(――試作品、だ? あの実験のせいで御坂や妹達がどんだけ――)ギリ

土御門「お、おい、……カミヤン?」

上条「……何でもねえよ、続けてくれ」

土御門「で、下っ端の俺らは速やかにその洗脳装置を回収、それが出来ない場合は破壊する」

上条「……学園都市も何のためにあんなもん作ってんだかな。こういうトラブル招くのが目に見えてんじゃねえか」

土御門「あー、いずれ完成した暁には、俺たちに使うつもりなのかにゃー?」

上条「全然笑えねえ冗談だな」ムスッ

土御門「ま、まぁまぁ、そんなカリカリしなさんなって」

土御門(……大方、壮大かつ無駄なカモフラージュってとこか。尻拭いさせられてる身としては不愉快極まりない話だな)

上条「ところで、盗み出したやつの見当はついてるのか?」

土御門「実行犯は外の人間っぽいんだがな。んまぁ、そっちの方は俺たち実働部隊が処理するから問題ない」

上条「……へ?」

土御門「機械を使っての洗脳じゃあ、カミヤンの幻想殺しだって通じないだろ?」

上条「じゃ、じゃあ、俺は何をどうすりゃいいんだよ?」

土御門「カミヤンには、最悪のケースに備えて護衛してほしいやつがいるんぜよ」

上条「……護衛?」

>>184
「カミやん」だよ。

土御門「つまりだな、洗脳装置は確かに厄介な代物だが、一つわかりやすい弱点があるんだ」

上条「なんだ?」

土御門「上書きが出来ちまうってこと。幻想殺しが通じなくても、強力な精神系能力者ならいとも容易く洗脳を解ける」

上条「……裏を返せば能力者が狙われる可能性もあるってことか? だけど、学園都市にいる以上は安全だろ?」

土御門「確かに、三基の衛星に多重セキュリティ、屈強な警備員や風紀委員、半端な奴じゃ返り討ちに遭うだろうな」

上条「そんだったら」

土御門「だが、それも相手が外部犯だけだったらの話だ」

上条「って、まさか、学園都市に首謀者がいるってのか?」

土御門「獅子身中の虫がいないと決めつけるのは早計だ。理事会の網を掻い潜って悪辣な計画を立てている勢力がいたら?」

上条「……いや、だけど、学園都市に被害が出そうなら、『0930事件』の時みたく上が動くんじゃ」

土御門「……アレイスターは、あらゆる意味で信用しない方がいい。やつは自分の目的以外にはてんで関心を持たんぜよ」

上条「……ったく、どいつもこいつも」ボリボリ

土御門「よしんば動いたとして、先の侵入者騒動以上の被害が出ないとも限らない。そうなれば今度こそ――」

上条「住人に多くの犠牲者が出る、か」

土御門「とりあえず要点はこんなとこだ。現時点ではまだ確定情報が少ないんでね」

上条「護衛対象者と協力者の詳細は? 魔術サイドは当然不参加なんだろ?」

土御門「まぁな、ステイルは禁書目録が絡まないと動いてくれねぇし、神裂ねーちんの耳に入ったらそれこそ血の雨が降るぜよ」

上条「……だろうな」ハァ

上条(正義感の塊みたいなあいつのことだ。こんな機械を研究開発していること自体許せねえだろうな)

土御門「具体的には、大能力者以上の精神系能力者が護衛対象。身元の確かな警備員と風紀委員、裏からは暗部も協力する手はずになっている」

上条「……外来VIP並の扱いじゃねえか。ぶっちゃけ、俺って必要あんの?」

土御門「だから、最初に保険だって前置いただろ?」

上条「ま、その分気楽に構えていいってことか。……んで、俺が担当するやつの名前は?」

土御門「話の流れから察しはつくだろ? 一番強力な精神能力者さ」

上条「つまりは、最もさらわれたらまずい能力者か」

上条(……ん、ということは)

土御門「結構な有名人だぜい。学舎の園、常盤台中学二年、学園都市第五位の超能力者」


上条「――食蜂操祈、か」

土御門「当然、カミヤン以外にも護衛は手配されているはずだ。護衛対象自身が強力な能力者だし、戦力面に不安はない」

上条「怖いのは搦め手か。不測の、そのまた不測の事態のための緊急要員ってわけだ」

土御門「正直、カミヤンの出番がないに越したことはないんだが」

上条「……あんまり考えたくないんだけど、守りきれなかった場合はどうなっちまうんだ?」

土御門「一番ヤバイのは、食蜂が拉致られて盗み出された洗脳装置で洗脳されるってパターン」

上条「……あー、操られた食蜂が向かってきた能力者をことごとく洗脳、か。世にもおぞましいコンボだな」

土御門「広範囲で洗脳させられるような羽目になったら事態収拾は不可能に近い。最悪、第五位の殺害許可が下りることだってあり得る」

上条「……っざっけんな! んなことにさせてたまっかよ」

土御門「さっすがカミヤン、頼もしい啖呵だにゃー」

上条「……ただ、実際どうやって護衛すんだ? 学舎の園は男子禁制だし、接点が少なすぎるだろ」

土御門「そこで物は相談なんだが――カミやん」


土御門「女装とかやってみたくないか?」

上条「死んでも断る!」

土御門「やっぱりダメか」

上条「正体がバレたら三回は余裕で殺される自信があるんですが!?」

土御門「と、ちょっぴり空気が和んだところで、このスーツケースの登場だぜい」


――パカッ


上条「……うん? これ、タキシードってやつか」

土御門「燕尾服ともいうぜよ」

上条「……まさか、これを俺に着ろっていうのか?」

土御門「渋る舞香の機嫌を取って、苦労して手に入れた一品なんだぜい? 執事とメイドの禁断の恋プレイとか、くぅぅっ、堪らんぜよ!」

上条「……別に禁断でも何でもないだろそれ。単なる職場恋愛じゃねえか」

土御門「わかってないなあカミヤン。それを兄妹でやることに意義があるんだろ?」

上条「……いい加減、シスコン軍曹から曹長に格上げしとくか」

土御門「軍曹の方が響きがいいな。それと、ぬか喜びさせるのもあれだから言っとくけど」

上条「……はぁ、今度はなんだ?」

土御門「食蜂や常盤台中学が護衛の申し出を却下することは充分にあり得る話だ」

上条「……あ、ああ。そりゃそうだな」

上条(小萌先生はあー言ってたけど……、普通に考えたらそっちの方が可能性高いよなぁ)

土御門「実の所、常盤台学生寮に関しては大統領邸宅並のセキュリティだから問題ない」

上条「残るは移動中と学舎の園か」

土御門「そうだ。もし学舎の園に入れたら、カミやんは歴史の証人になれるかも知れんぜよ」

上条「んな資格は願い下げだ。外の男どもに呪い殺されかねん」

土御門「無数の呪詛がはたして幻想殺しに通じるかどうか、見物だな」

上条「笑いごとじゃねえっつうの」

土御門「冗談はさておき、本来なら警備員からバスの運転手からショップの店員まで女性で統一されている」

上条「……けど、今回は状況が状況なわけだ」

土御門「ああ、相手側が同行を認めた場合に限り、監視付きで通学路と共用施設のみ、特例的に立ち入れることになった」

上条「是非は神のみぞ知るってわけだ。肩透かしで終わってくれるならいいんだけどな」


上条(……にしても、よりによって食蜂かぁ。タイムリーっていうか、不幸だ)

本日は以上になります
言い訳させていただくと、本当は二日前に投下する予定でしたが速報が落ちてたので無理でした

次回は二日後予定、ある程度展開が予想ついちゃうかも知れません
両手花と書いてゴエツドウシュウと読むみたいな
ところでテスタメント、原作3巻だと洗脳装置ってなってるんですが、学習装置とどちらがが正しいんでしょう?


テスタメントについては、洗脳装置と学習装置とどちらも使われてるぞ
誰が誰に言ったかで違ったはず
詳細は忘れたが

洗脳装置の一環として知識を書き込むのが学習装置と考えれば、一貫して洗脳装置だな。

>>172

表現不足失礼しました、『人が』という意味合いのつもりでした

>>187 >>196 >>197

ありがとうございます、今後何度も出てくる単語なので以後は洗脳装置で統一します

乙ー!!!
つまり上条さんは一時的に食蜂の執事をするってのかー?

ビリビリ「」ガタッ
パンダ「お姉さま落ち着いてください」

土御門「次回から常盤台の食蜂操祈に仕える事になった不幸執事が活躍する「トウマのごとく」が始まるにゃー」
上条「おいまてこら」

本日22:00頃より投下します
終わりまでの道筋は見えてるんですけど、前作より長くなりそうな悪寒が……

多くの支援感謝です
やや短めですが、これより投下開始します

――常盤台学生寮前


携帯『――着信履歴、12件』

配送業者「うわわわッ! こんなところで何やってんだ俺わぁッ!」バタン


――キキキキッ、ブォンッ! ブォンッ!


食蜂「あらあらぁ、他人様の荷物をいっぱい積んでいるのに」

食蜂「あんな乱暴力極まりない運転してて大丈夫なのかしら?」ンー

食蜂「……さて、と」クル

食蜂(先ほどの忠告、どう判断したものかしらねぇ)

食蜂(一連の計画が一掃されてやっと一安心と思っていたのに)

食蜂(今度は最新型の洗脳装置か、ホント蠅みたいに際限ない連中よねぇ)ハァ

食蜂(……ほとぼりが冷めるまで身を隠すのも一つの手ではあるけど)

食蜂(また他人の思惑に振り回されるのもうんざりだし……って)


寮監「――ええ、たった今戻ってきました。――はい、よろしくお伝えください」ピッ

食蜂(りょっ、寮監!?)

寮監「……」ツカツカ

食蜂(何てタイミングの悪い……車から降りるところ見られちゃったかしら)ソォ

寮監「一応忠告しておくが」チラ

食蜂「」ビクン

寮監「能力を使用する素振りを見せたら即座に制圧する」

食蜂「……え、ええっとぉ」タラー

寮監「よもや、模範生のお前が寮敷地内での能力使用などナンセンスだとは思っているが、な」チラ

食蜂「も、もちろん、釘を刺されるまでもないですよぉ?」オドオド

寮監「そうあってほしいものだ。ただでさえ本年は寮則破りの常習犯が多くて頭を痛めている」

食蜂「……あ、あのぉ、もしかしてですけど、私を待っていたんですか?」

寮監「話は寮の中でする。ついてこい」ザッ

食蜂「りょ、了解です」ソソクサ

食蜂(なぜだか、この人だけには、干渉しようとしても本能力が全力で拒否るのよねぇ)ビクビク

――ガチャ


寮監「さ、入れ」キィィ

食蜂「し、失礼しまぁす」

食蜂(……以前に入室した時もつくづく思ったことだけど)

食蜂(外来の応接室だけあって調度品が凝りに凝ってるわねぇ)キョロ

食蜂(白磁の花瓶、ペルシャ絨毯にシャンデリア。下手するとこの部屋の家財だけで一軒家建てられそう)

寮監「どうした? 遠慮なく掛けてくれて構わないぞ」

食蜂「あ、はい、では失礼して」チョコン

寮監「さて、――最近どうだ? 学校生活や能力開発の方は」

食蜂「そ、そうですね。可もなく不可もなくといった感じですけど」

寮監「そうか。まぁ生活態度諸々も含めれば、お前は御坂以上の模範生だしな」チラ

食蜂「こ、光栄です」カチコチ

寮監「そう緊張しなくていい。それと今回に限っての話だが、さっきのは見なかったことにしてやる」

食蜂(あら……やっぱりお見通しだったのねぇ)ペロ

寮監「もたもたしていると夕飯が片付けられてしまうな、早速本題に入らせてもらうとしよう」

食蜂「……」コクン

寮監「実は、学園都市の研究施設で一悶着あったらしくてな。各学区内で警戒レベルが引き上げられている」

食蜂「……それはつまり、具体的に何かトラブルが起きたということですか?」

寮監「学区内に過激派が潜伏していたとのことだ。索敵が済むまで各自指示に沿った対応を、とのお達しが来ている」

食蜂「過激派、ですか」

食蜂(……十中八九アレ絡みか。正体不明(アンノウン)というよりは、情報が意図的に伏せられてるようねぇ)

寮監「しかしまぁ、先の『0930事件』からまだ冷めやらぬというのにこのような騒動が持ち上がるとはな」フゥ

食蜂「でも、学園都市のセキュリティを考えれば、そこまで心配することも」

寮監「普通に考えればそうなんだろうが、慎重を期して何人かの生徒に対して護衛をつけるとのことだ」

食蜂「え……護衛って、まさか」

寮監「不本意だとは思うが、食蜂操祈。お前も護衛対象の一人に含まれている」

食蜂「ど、どういうことですかッ!? 本人の許可もなくそんなこと――」

寮監「もう少し声を抑えろ。第三者に漏らしていい内容ではない」

食蜂「……あ、ありえません。学舎の園がこんな暴挙を認めるはずは」

寮監「私もそう思って確認してみたんだが、上には話が通っているようだった。担当者も不可解そうだったがな」

食蜂「……そ、そんな」ワナワナ

寮監「既に学園の各組織からは護衛に適した能力者がピックアップされている」

寮監「警備員や風紀委員が大半だが、外部協力者(ボランティア)も少数いるとのことだ」

食蜂「……まさか、学舎の園での同行を認めるんですか?」

寮監「ごく短期間という話だ。もし異性が護衛についたとして、通学路と一部の施設以外は立ち入り禁止になるだろう」

食蜂「で、ですけど!」

寮監「明日、護衛候補者が外来に来る手はずになっている。とにかく話を聞くだけ聞いて――」

食蜂「冗談じゃありません。見知らぬ人が私に張り付くなんて、気持ち悪すぎます」

寮監「おい、食蜂」

食蜂「嫌です、聞きたくありません」プイ

寮監「よく考えてから発言しろ。本当にそれでいいのか?」

食蜂「いいも悪いもありません。話し合う以前の問題です」

寮監「このまま要求を突っ撥ねたら、行動範囲を著しく狭められるかも知れんぞ?」

食蜂「……それでも、です」

寮監「……気持ちはわかるが」

食蜂「いくらなんでも非常識が過ぎます。私に対するイメージだって傷つきかねません」

寮監「それも重々承知している。しかしな、このような例外が認められたことは過去にもほとんどない」

食蜂「だったらどうだというんですか」

寮監「それだけ楽観できない状況にあるかも知れんということだ。それこそ、先の『0930事件』のような大騒動に発展しないとも限らん」

食蜂「……だとしても、私は第五位の超能力者ですよ? 自分の身くらい自分で守れます」

寮監「あまり能力を過信するな。隙のできない人間などどこにもいやしないんだぞ」

食蜂「過信なんてしてるつもりは……自分の弱点は弁えてるつもりです」

寮監「ならわかるだろう。精神系能力は利便性こそ他能力の追随を許さないが、相性の悪い相手にはとことん向かない」

食蜂「それはっ、……そうです、けど」

寮監「食蜂操祈の名誉のために言っておく。お前の才能と努力の積み重ねは誰もが認めるところだ」

食蜂「……う」

寮監「だがな、いかに能力が強力であってもそれを制御するのは大人未満の少女」

寮監「単独で隙を突かれた場合、悲惨な末路を辿る可能性だって大いにあり得る。それくらいわかるだろう?」

食蜂「……ひ、悲惨な末路って」

寮監「それを、私の口から言わせる気か?」ジロ

食蜂「…………ぅ」シュン

寮監「無論、護衛とやらが信用に値するものでなければ先方の申し出は断るつもりだ。そこは安心しろ」

食蜂「……で、でしたらせめて、私にも品定めをさせていただきたいのですが」

寮監「元より、お前がその気なら同席はしてもらうつもりだった。断るにしても本人が直接訴えた方が効果的だからな」

食蜂「……わかりました。それで手を打ちます」

――食堂


舞夏「なるほどなー、それは多分に同情するぞー」

食蜂「ホント、あんまり悪目立ちはしたくないのだけどねぇ。あ、この竜田揚げすごく美味しいわぁ」モグ

舞夏「お褒めに預かり光栄なのだー。新鮮な鯵が手に入ったので作ってみたー」

食蜂「このさっぱりした後味、何かコツでもあるのかしらぁ?」

舞夏「邪魔しない程度に柚子胡椒を混ぜてあるー。食蜂は、自分で料理したりするのかー?」

食蜂「ほとんどしないわねぇ。あえて自分で作る必要力を感じないもの」

舞夏「でも、将来のために少しはやっておいた方がいいと思うぞー?」

食蜂「んー、そうかしら?」

舞夏「食わせる得意料理のひとつもあれば、男に頼み事をしやすいからなー」

食蜂「……それって結構爆弾発言のような気もするけれどぉ?」

舞夏「お前ほどじゃあないが、私もこれで様々な秘密を抱えている身なのだー」エヘン

食蜂「ふぅん、少し興味を引かれるわねぇ」

舞夏「いやぁ、知ったら別の意味でひかれると思うぞー」ケラケラ


食蜂(もう知ってる。っていうかぁ、あなた人畜無害な顔してドロドロすぎぃ)


舞夏「あぁ、これは私の勘なのだがなー」

食蜂「ああ、うん、なぁに?」

舞夏「食蜂の場合、彼氏が出来たらかなりド嵌りしそうな気がするー」

食蜂「ええぇ? そ、そんなことないわよぉ?」

舞夏「自分でそういうやつほど危ないと思うぞー」

食蜂(って言われても、私には縁遠い話だしねぇ。心を許せる人なんてどこを探したって存在しないもの)パク

???「お話中失礼、相席よろしいですの?」

食蜂「あ、えぇ、どうぞぉ? ……って、あなた」

舞夏「おお、白井じゃないかー」

黒子「どうも、土御門さん。本日の夕食も堪能させていただきましたわ」ペコ

食蜂「確か御坂さんの取り巻……お友達の」

黒子「お顔を憶えて頂けてるとは光栄ですの。風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子と申します」

食蜂「ご丁寧に、食蜂操祈よぉ。あぁ、どうぞ遠慮なく座ってぇ」

黒子「では、お言葉に甘えまして」チョコン

舞夏「食蜂と白井かー。何だか珍しい取り合わせなのだぞー。あ、これお前の分のお茶なー」トン

黒子「あら、わざわざありがとうございます」ニコ

食蜂(……寮内で風紀委員の肩書きを出すってことは)

食蜂「……土御門さん、申し訳ないけど少し席を――――って、あら?」

舞夏「先に他の洗い物片付けてくるー、私は空気の読めるメイドだからなー」ヒラヒラ

食蜂(言われる前に退散、か。……さすがというか何というか)クス

黒子「すみません、ご歓談のお邪魔をしてしまったようですわね」

食蜂「気にしなくていいわよぉ。彼女とはいくらでも話す機会があるから」

食蜂(……さぁて、いったいどういう風の吹き回しかしらぁ?)

食蜂(そうね、先に頭を覗いておいた方が)

黒子「寮監様からある程度お話は伺っていると思いますが」

食蜂「あ、え、ええっと?」

黒子「此度、学園の治安を司る者として、任務に支障のない範囲であなたの登校に同行することになりました」

食蜂「……え? ……白井さんが?」

黒子「私は瞬間移動能力者(テレポーター)ですので。護衛兼送迎には打ってつけと判断されたようですわね」

食蜂「そ、そうなの」

食蜂(……確かに、逃走という点において彼女に勝る能力者はいない、けど)

食蜂「……ねぇ、御坂さんはそのことを知っているのかしらぁ?」

黒子「お姉様、ですか? いえ、風紀委員の業務内容を漏らすわけには参りませんもの」

食蜂「ふぅん、真面目なのねぇ。でも、そんな軽々に引き受けちゃっていいのぉ?」

黒子「それは、どういう意味ですの?」

食蜂「彼女の傍にいるあなたなら薄々気づいてるかも知れないけどぉ」

食蜂「私と御坂さんって馬が合わない――ううん、険悪力を存分に発揮しちゃっているっていうかぁ」

黒子「…………」

食蜂「だから、ほら、ね? 私と近しくしてると色々勘違いされちゃったりとか」

黒子「そのようなことでしたらご心配なく」ゴク

食蜂「……そのようなって、そんな楽観視してて平気なのかしらぁ?」

黒子「お姉様は、私の風紀委員の仕事への取り組みに対して口を挟まれたことはありません。ただの一度も」

黒子「些末な柵をいちいち気にしてたら逆にお姉様に怒られてしまいますわ」

食蜂(……なるほど、大した信頼力ねぇ)

食蜂「でもぉ、私があなたを洗脳してるんじゃないかって、彼女が疑わないとも限らないんじゃなぁい?」

黒子「お姉様がもし私の立場だったら、たとえ本当にあなたを嫌っていたとして護衛につくでしょう」

食蜂「洗脳される可能性については、否定しないのねぇ」クス

黒子「ないとは言い切れませんわね。第一に、私はあなたの人柄をよく存じませんし」

黒子「けれど、あなたがレベル5に至るまでにいかほどの努力を要し、どれほどの苦しみを以って壁を乗り越えてきたのか」

黒子「未だレベル4止まりである自分だからこそ、誰より理解しているつもりですの」

食蜂「そこまでして得た能力なんだからしょうもないことには使わないだろうって? あなた、性善説を信じちゃってる人?」

黒子「……だとしたら、何か不都合でも?」

食蜂「温い考えは改めた方がいいんじゃなぁい? 現に私は、結構際限なしに能力を使うわよ?」

黒子「……一応、そうしたことも熟慮した上でここにいますので」パク

食蜂「んもう、からかい甲斐のない後輩ねぇ」パク

食蜂(……表層心理も一致、かぁ。感心するくらいに裏表がないわねぇ)

食蜂(これだけ真っ直ぐだと友達作るのも大変そう。ま、私も人のことは言えないんだケド)

黒子「ところで、前々からお尋ねしたいと思っていたことがあるんですけども」

食蜂「あら、何かしらぁ?」

黒子「どうしてあなたとお姉様って、仲がよろしくないんですの?」

食蜂「んー、一概には言えないわねぇ。たとえば価値観の違い、異なる派閥、競争相手、色々あるじゃない?」ゴク

黒子「それはそうですけれど……」

食蜂「でも、そうねぇ。おそらく一番の理由は、お互いがお互いを脅威に感じているから」カタン

黒子「……脅威、ですの? でしたら好敵手といったような関係にも」


――ザクッ!


黒子「……ッ」ギョ

食蜂「残念ながら成りえないわねぇ。彼女と私では本質が違いすぎるもの」パク

黒子「本質、ですか」

食蜂「彼女が戦場を駆ける猛将だとすれば、私は奇策を弄する軍師」

食蜂「性格と能力は共に対極。彼女は過程を重視する故に正攻法を好むけど、私は結果を重視するからいくらでも小細工を使うわ」

食蜂「どちらが求心力を集めやすいかといえば、当然前者。自ら現場に赴いて物事を解決できるんだから単純明快」

食蜂「まぁでも、それを嘆いても仕方ないわよね? 持って生まれた適性の差違だもの」フゥ

黒子「……あなたは、お姉様の力は認められているんですのね」

食蜂「遺憾なことにね。こと行動力や戦闘力において、私は彼女に勝る術を何ら持ち合わせていないわ」

食蜂「だから私は私の強みである改竄力や発想力に磨きをかけてきた。己に与えられたものを最大限活用した上でね」

食蜂「なのに、私が苦心して獲得した自分だけの現実を、ゲスいだの姑息だのって扱き下ろされてごらんなさい?」

食蜂「同じ穴のムジナのくせして自分本位の正義感や美意識を押し付けてくる。これじゃあ不快力マシマシよぉ」

黒子「……なるほど」

食蜂「彼女と私を比較するのは、文系と理系の優劣を決めようとするようなもの。そんなの比べること自体がナンセンスでしょ?」

黒子(……正直、意外でしたわね。やや主観に依った意見であることは否めませんが)

黒子(この方はお姉様と対極の位置にありながら、常盤台の信望者よりお姉様の本質を――でも)


黒子(本質が違うと言っておきながら、同じ穴のムジナとは……いったい?)

――翌日


――ヒュン


黒子「さ、到着しましたわよ」

食蜂「…………うぅ」フラフラ

黒子「……食蜂先輩? どうかされましたの?」

食蜂「瞬間移動が、あんなに怖いものだなんて思わなかったわぁ」ブル

黒子「あら、慣れればそれほどでもありませんわよ? まぁ、適性がない方も多いようですけど」

食蜂「……空間跳躍する度に階段を踏み外しているような、形容しがたい感覚が」

黒子「仰りたいことは何となくわかりますが、今回は私の能力がどういったものか知っていただくための」

食蜂「……ええ、わかってる、あくまで予行演習よね」

黒子「緊急時と判断されない限りは、普通にバス登校ですのでご安心を。では私は、風紀委員の支部に参りますので」

食蜂「ええ、送ってくれてありがと」フリフリ


――ヒュン


食蜂「……うぅ、気持ちわる゛ぅぃ」ヨロ

――常盤台学生寮


食蜂「はぁ……水飲んだらやっと落ち着いたわぁ――って、あら?」

寮監「というわけで他にも何人か来て頂いたんだが、やはり同性の方が――」

???「あぁいえ、先生の仰ることは納得できますんで、気にしないでください」

寮監「すまない。思春期の生徒にとっては如何せんデリケートな問題でな」

食蜂(いけない、午前中から始まっていたのわねぇ。でも、白井さんがいるなら特には――)ガチャ

食蜂「すみません、ただ今戻りました」キィ

食蜂(――――っ)ピタ


上条「……よ、よぅッ」シュタ


寮監「おや、随分と早かったな」

食蜂「……ぁえ、えええ? か、上条、さん?」ポカーン

食蜂(……な、何で、こんなところにいるのぉ!?)

食蜂「あ、あなた、こんなところで何をやってるのぉ? ……それにその格好」

上条「いや、話せば長くなるんだが」

食蜂(……ええっと、待って? 落ち着いてこの状況を整理して)

寮監「何だ? もしかして二人は知り合いなのか?」

上条「ええ、まぁ、せいぜい顔見知りってレベルですけど――」


食蜂「――――」ピーン


食蜂「はい、つい先日、町で不良に絡まれているところを彼に助けていただいたんです」

上条「……って、おい!?」

食蜂「別に隠すことないじゃないですか、胸を張っていいことだと思いますよ?」ニコ

上条「い、いや、そういう意味じゃなくてだな」

寮監「ほぅ、そういう前例があるのは好ましいな」

食蜂「彼が不良たちを追っ払ってくれたお陰で徒に能力を使わずに済みました。本当、感謝してます」

上条「てか、お前、あの時能力使えな――――てぇ!」ギュッ

寮監「……なんだ? 能力がどうしたって?」

上条「い、いえ、なんでも……」ヒリヒリ

上条(い、いきなり何すんだよっ!)ヒソヒソ

食蜂(こっちの台詞ですぅッ! 一時的にでも不能に陥っていたことがバレたら侮られちゃうじゃないですかぁ!)ヒソヒソ

上条(あ、あー……そういう?)

食蜂(お願いですからこの場で軽率な言動は慎んでください。私、これでも派閥のリーダーやってるんです)ヒソヒソ

上条(ハバツ? ……ハバツ、ああ、派閥)

食蜂(まったく、苦労して手に入れた居場所を台無しにされるところだったんですよ?)ジロ

上条(わ、わかったから。言う通りにすっから、そんな睨むなって)

食蜂(……もういいです。ひとまず、この場は私に話を合わせてください)フゥ

上条(いや、いきなりそんなこと言われても、どうすりゃいいんだ?)

食蜂(適当に頷いているだけで構いません。私に対する相槌は全て肯定してください、いいですね)ギンッ

上条(りょ、了解)

寮監「……まあいい。上条君、だったか。繰り返しになるが、現時点では本人の承諾を得ていないんだ」

上条「あ、ああ、そうだったんですか」ホッ

食蜂「…………」ム

寮監「理事会から許可を得ての志願という話だし、本来なら相応の理由がないと断れないんだが」

寮監「学生寮の管理者としては、生徒の安全と自主性を同時に尊重する義務がある。だから、もし彼女の気が進まないのであれば」

上条「も、もちろんです。こっちもなるだけ無理強いはしたくないっつうか」

食蜂「――あの、寮監様」

寮監「うん、なんだ?」

食蜂「いえ、そのぉ……」モジモジ

食蜂「昨日はああ言いましたけど、もしかしたら、少し考え足らずだったかも知れないな、と」

上条「…………え?」

寮監「それはつまり、考え直すということか?」

食蜂「だって、彼って学生なんですよね? ねぇ、あなたもどちらかの学校に通われているんでしょう?」チラ

上条「あ、ああ。まぁ、一応」コクン

食蜂「そうですよね。学業だって日々の生活だってあるのに、こうして有志で名乗り出てくださったんですよね」キラキラ

上条「そ、そういうことに、なるのかなぁ」コクン

上条(……目の異様な輝きが怖すぎるんですが?)

食蜂「なのに、仮採用すらなしにすげなく追い返してしまうなんて、いくらなんでも失礼な気がして」ショボン

寮監「……ふむ、一理あるな」

上条「そんな、あの、俺のことは別に――」

食蜂「ゴホンッ!」ジロ

上条「――いや、なんでもないです」ビクビク

食蜂「……それに私、いつぞやのお礼がしたいんです」キラキラ

寮監「うん? あぁ、助けてもらったという――」

食蜂「はい。確かに能力を使えば難なくあの場を切り抜けられたでしょう、けれど」

食蜂「それでも、野次馬の中から一人颯爽と進み出て、庇ってもらえたことが、その」キュッ

食蜂「その、すごく、嬉しかったかなぁ……なんて」モジ

上条「……い、いや、そんなに大したことじゃ……はは」ポリポリ

上条(な、何だ、何ですか、何だってこんな流れに!?)

食蜂「って、や、やだ……、私ったら、何口走って///」チラ

上条(~~~っ、だあぁーーもぅッ! 演技にしたってその流し目はずるいだろッ!///)

寮監「とどのつまり、考えを改めたということでいいんだな?」

食蜂「は、はい。名門常盤台に所属する者として、恩知らずのイメージが定着してしまうのは心苦しいですし」

食蜂「それに、冷静に考えてみると――生徒がこんなことを気にするのもおこがましいかも知れませんが」

食蜂「絶大な影響力を持つ理事会の要請を全く受け入れないとあれば、常盤台の心証力が低下してしまうのではと」

寮監「……む」

食蜂「何より、寮監様のお立場が悪くなってしまいますし」

寮監「……そこでこちらのことなど気にするな、と言ってやれないのが私の限界か」フゥ

食蜂「いえ、とても感謝してます。白井さんを寄越してくださったのは、寮監様の独断でしょう?」

寮監「……やれやれ、やはり私に隠し事は向かんな」

食蜂「その、これがきっかけで寮監様が転属などということになったら私もみんなに合わせる顔がありません」

食蜂「ですから、ある程度の妥協力は必要かな、と」

寮監「お前が折れて、いや、納得してくれるなら確かに話は早い、が」

寮監「肝心の上条君はどう思っているんだ? 先ほどからこちらの都合ばかり話してしまっているが」

上条「え、あの、俺ですか?」

寮監「君も知っているだろうが、何しろ学舎の園はああいう場所だ」

寮監「中にいるのは全員女性、当然施設だって完全に女性仕様だ。お手洗いも含めてな」

上条「あぁ……なるほど」

寮監「そうした場所に護衛として同行すれば、彼女以上に君が好奇の視線に晒されることにもなる」

寮監「当然、並々ならぬ不便や気苦労をかけることになるはずだ。生半な覚悟では務まるまい」

食蜂「そ、そうですよね。行く先々で物見高い目で見られでもしたら、彼に申し訳が……」シュン

上条「いや、そんなことは大事の前の小事だろ。お前さえ無事ならぶっちゃけどうでもいいっつうか」

食蜂「――――っ」トクン

食蜂「……で、でも、もしあなたの評判に傷でもついたら……私」オズ

上条「んなくだらないこと気にしてるんだったら、わざわざこんなとこに顔出さねえって」

食蜂「……あ、ご、ごめんなさい。気を悪くさせてしまったのなら」

上条「謝らなくていい。俺は、自分なりに覚悟を決めてここにいるんだしさ」

食蜂「……ほ、本当に、ご迷惑じゃ、ないんですか?」オズ

上条「当ったり前だろ? んまぁ、どれだけ役に立てるかは怪しいけど」

食蜂「……あ、ありがとうございます!」ペコッ

上条「気にすんなって」フッ

上条(……っん、あ、あれ?)

寮監「よろしい、双方合意ということであれば申し分ないな」

食蜂「はいっ、不束者ですがよろしくお願いします。――上条先輩」ニマ

上条(……俺、知らぬ間に操られちゃってたり、してねぇよな?)

寮監「いいか、お前は模範生の一人だ。くれぐれも節度を弁えて――」

食蜂「それは心外なお言葉です。ちょっと親切にされたからといって恋心を抱くほど子供じゃありません」プン

寮監「……そうか。いや、すまない、失言だったな」

食蜂「いいえ。それと、上条先輩も勘違いしないでくださいね?」

上条「か、勘違い?」

食蜂「あくまで学舎の園でのあなたは私の護衛にすぎません。公私のケジメはちゃんとつけていただかないと」

上条「あ、ああ、わかってるって」コクン

食蜂「では、試用期間はひとまず、三日間くらいでどうでしょうか? そうすればアラも見えてくると思いますし」

寮監「……お前、彼を信用しているのかいないのか、どっちなんだ?」

食蜂「だ、だってぇ、やっぱり不安じゃないですか。殿方って時に狼になるって聞きますし」

寮監「うん? ……う、うむ、まぁ、な」ゴホン

上条(ちょっ、当人の前でそういう話されんのって超気まずいんですけど!?)

寮監「では、常盤台中学の正門から学生寮まで、下校時のみの護衛ということでいいかな」

上条「了解です。明日から下校時刻に常盤台中学前まで行けばいいんですね」

食蜂「それじゃあ、別室である程度段取りを決めましょうか、上条さん」

上条「……いや、でも、いいのか?」

寮監「外来受付の向かいの会議室が空いてる。そこを使ってくれて構わん」

食蜂「わかりにくいですから案内します。さ、行きましょう」ギュッ

上条「わ、わかった。それでは先生、失礼します」

寮監「ああ、彼女をよろしく頼む」


――バタン


上条「……ふぅ、さすがに緊張したぜぇ」

食蜂「…………」

上条「……何つうか、お前も災難続きだよなぁ。ま、この件に関しては俺も出来る限り協力を――」

食蜂「ぷ…くっ……くく」カタカタ

上条「」

食蜂「そ…その格好、すっごく、お、お似合いよぉ?」フルフル

上条「ぬぐッ、くっそッ! どうせんなこったろうと思ったんですよッ!」ウガァ

食蜂「ハー、ハァ……ぁー、苦しかったぁ」

上条「やっと収まったか……ったく」

食蜂「耐えてた分の反動がきつかったわぁ。あんなに笑ったのいつ振りかしら」

上条「あーそうですかそうですか。笑いを提供できたようで何よりですよ」フンッ

食蜂「こーらぁ、男の子ならそれくらいでイジけちゃダメなんだゾ☆」

上条「年下が何言ってんだか。つうか別に怒ってねぇし」ムス

食蜂「んもう、上条さんだってぇ、昨日家を出る時に私をからかったじゃない?」

上条「あれは単にお前のことが――」

食蜂「……?」キョトン

上条「……あー、もういい。何言ったってからかわれるネタを提供するだけだかんな」プイ

食蜂「ちょ、ちょっとぉ。そこまで怒ることないじゃない?」オズ

上条「今更上目遣い何かされたって、ちっとも心に響きません」

食蜂「あぁ、ひっどーい! 何よぉ、嬉しかったって言ったのは本心なのに――」


御坂「――あ、あんた、こんなところで何やってんの?」


上条「……うん? げっ、み、御坂!?」

御坂「っていうか、アンタと食蜂が一緒ってどういう取り合わ――ぶっ」

上条「」

御坂「……あはっ、あはははッ、な、何なのよその格好! 新手のギャグに目覚めたとか!?」

御坂「衣裳にっ、衣裳に着られちゃってる! あはッ、あのアンタがタキシードとか、あは、有り得なあはははッ!」ケラケラ

上条「……ぬぐっ、てめえもか」

御坂「ま、まさかアンタ、以前私の部屋に忍び込んだときも、はっ、そ、その格好で来たわけ?」プクク

食蜂「」ピク

上条「んなわけあるかッ! 一応白井には許可取ったぞ!」

御坂「あはっ、……痛っ、ふ、腹筋つっちゃった、じゃない! あはっ、いったぁ、ど、どうしてくれんのよ」ビクビク

上条「知るかっ! てめぇいくら何でもウケすぎだろッ!」

食蜂「そうよ、いくらなんでも失礼だわ。彼の格好、そんなにおかしい?」

御坂「あははは…………はひぇっ?」

上条「そ、そうだそうだ! もっと言ってや……てっ」

食蜂「上条さんには、『私のために』わざわざこうしてご足労いただいてるの」

食蜂「その彼にこれ以上不躾を働く気ならぁ、こっちにだって考えがあるわよぉ?」

上条「オイオイ、誰かさんもついさっきまで盛大に笑ってませんでしたか」

御坂「は……はぁ? 誰が誰のためにですって?」

食蜂「野性力旺盛な御坂さんには一生縁のない悩みでしょうけど、私はこの通りか弱い乙女なんで傍で守ってくれる人が必要なの」

御坂「うわっ、か弱いとかどの口が言っちゃってんの? あんたのゲスい能力があれば、敵なんてないに等しいじゃない」

食蜂「ゲ……っ、こっちは繊細で戦略的な能力なんですぅッ! とりあえず雷撃ぶっ放しとけばいいか的な暴力女とは勝手が違うんですぅッ!」

御坂「だ、誰が暴力女だゴラァッ! ていうか、周囲に被害をもたらさないよう高電圧を完全制御するのがどんだけ難しいと思ってんのッ!?」

上条「お、おい、二人ともこんなところで喧嘩は――」

食蜂&御坂「あなた(アンタ)は口を挟まないでッ!」

上条「……はい」


――ざわ……ざわ……


見物客A『ほら、見て見て? 御坂様と食蜂様よ?』

見物客B『まぁ、お二人と同時にお会いできるなんて!』

見物客C『ねぇ、ところであの礼服を着ているのって――』

見物客D『ええっ、何でここに殿方が!? ちゃ、ちゃんと入寮許可を得てるのかしら』


上条(って、ま、まずい。いつの間に野次馬が)

上条「……あぁ、す、すんません。はい……はーい、ちょっと通してくださいー」コソコソ

御坂「大体なんでアイツがアンタみたいな性悪と親しげにしてるワケ!?」

食蜂「誰が性悪ですってぇ!? そっちこそ部屋に入れたとか入れないとかどういう関係よぉ!?」

御坂「わ、私は別にッ! その、アイツとは何も……」ゴニョゴニョ

食蜂「あらそぉ、特に親しい仲ではないってわけね? だったら口出しされる謂れもないはずよねぇ?」

御坂「そっ、それとこれとは話が別でしょッ!」

食蜂「って、なぁにぃ? 御坂さんってば、もしかして上条さんみたいな人が好みのタイプぅ?」

御坂「ば、ばばば馬鹿言ってんじゃないわよッ! 誰がそんなこと!///」

食蜂「やだぁ、顔が耳まで真っ赤よぉ? ほんっと、あなたってわかりやすいわねぇ」

御坂「んだっ、だから違うって言ってんでしょうがぁっ!///」

食蜂「一点誤解しないでほしいんだけどぉ、これって理事会から降りてきた指示なのよねぇ」

御坂「な、何ですって?」

食蜂「だからあなた一人がどう騒ごうと決定は覆らないの! それがわかったら――」


寮監「――現在進行形で」


食蜂&御坂「」ビクッ

寮監「十に近い寮則に抵触している君らに訊こう」ギラ

食蜂&御坂「」クルッ


――ゴゴゴゴゴ……


寮監「――反省文5枚提出と仲直りヘッドバット5回、どちらがお好みだ?」ギラ

食蜂&御坂『はっ、はは、反省文で』ガクブル

――廊下


寮監「まったく、先ほどの醜態ときたらなんだ。お前たち、それでも栄えある常盤台の生徒か?」

御坂「す、すみません。ついカッとなって」

食蜂「は、反省してますぅ」

食蜂(……はぁ、私としたことが。今日中にみんなの記憶を書き換えとかないと)

御坂「そういえば、アイツはどこに」

寮監「……上条君ならとっくに帰宅したぞ? 取り込んでいるようなので明日からよろしく、と言伝を頼まれた」

食蜂「ええっ、もう帰っちゃったんですか?」

寮監「放置された上にあのような光景まで見せつけられれば、誰だって帰りたくなるだろうさ」

食蜂「……ど、どーしてくれるのよぉ! 愛想尽かされちゃってたら御坂さんのせいよぉ?」

御坂「はぁ!? 元はといえばアンタが変ないちゃもんつけてきたんじゃない!」

寮監「……これっぽっちでは罰が全然足りないという意思表示か。勇敢なことだな」

食蜂&御坂『と、とんでもありません』

御坂「って、何で真似すんのよ」ボソッ

食蜂「こっちの台詞ですぅ」ボソッ

――バタン


御坂「うわぁ、もう22:00かぁ。お風呂入って寝るくらいしかないじゃない。とんだとばっちりだわ」

食蜂「お互い様でしょ。恨み節なら心の中で呟いてくれない?」

御坂「……とことん、可愛い気のない女ねぇ」

食蜂「あなたに可愛いなんて思われたらそれこそさぶいぼが立つわぁ」

御坂「あーそーですか。――んで、どういうコトかしら?」

食蜂「それは、私に護衛がつく件について? 上条さんが関わってきたことについて?」

御坂「この際、アイツのことは後回しよ。何でアンタが狙われてるの? 誰かから恨みでも買ったわけ?」

食蜂「同じレベル5なんだから百も承知でしょうけど、私たちは学園都市のありとあらゆる感情の的よ。今回に限った話じゃないわ」

御坂「――なるほど、ね。それで、あんたは今後どうするの?」

食蜂「どうもこうも、食いつくのを待つだけよぉ? くだらない騒ぎに巻き込んでくれた礼をたっぷりとしてあげなきゃねぇ」

御坂「……、」

食蜂「……何?」

御坂「……いや、それって何か、らしくなくない?」

食蜂「らしくない? らしさなんてものを理解してもらえるほど親しくなった覚えはないわよぉ?」

御坂「…………」

食蜂「ま、あなたの方は幾分救われたみたいねぇ。祝福してあげないでもないわ」

御坂「……救われたって、一体何の」

食蜂「そうねぇ、たとえば――――量産型能力者(レディオノイズ)」


御坂「――――」


食蜂「ほーんと、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)とはよく言ったものよねぇ? 切っても切っても埒が明かない」

食蜂「あらゆる計画(プラン)が枝分かれして際限なく成長していき、絡まり合い、知らぬ間に元の鞘に納まってる。いい加減、疲れるのよねぇ」ファサ

御坂「――あ、あんた、どこまで知ってっ」

食蜂「なぁに? 引き金引かされたのが自分一人だけだとでも思ってた? だから、あなたはおめでたいっていうのよ」ガチャ

食蜂「まぁでも、重荷が減ったことは喜んでいいんじゃない? またいつどこで誰に背負わされるかはわからないケドねぇ」

御坂「……」

食蜂「それじゃ、私はここだから。おやすみなさぁい、御坂さぁん」ニコ


――バタン


御坂「…………冗、談」

御坂(あれが――あれだけの悲劇が)

御坂(枝葉の一つに過ぎなかったっていうの?)グ

本日分は以上になります
次回は学び舎の園&プチデート編、少し長くなるかも知れません

多くの乙&ご指摘感謝です、寮は原作の知識不足による盲点でした(意訳:二つあった……だと?)
この先については、設定と伏線に致命的な差異がないこと
寮までが学舎の園にあるとすると二人の接点が原作同様少なくなってしまうこと
そもそも食蜂の寮についての情報が少なすぎることを考慮し
if設定のままでいきます、ご了承ください

5/23、22:00の予定ですが一日前後するかも知りません
よろしくお願いします

>>241 訂正
食蜂(いけない、午前中から始まっていたのわねぇ。でも、白井さんがいるなら特には――)ガチャ

いたのわねぇ→いたのねぇ


予告通り、本日22:00より投下します。よろしくお願いします

お待たせしました、投下開始します


――学習障害?


『頭の病気の一つでね。文字の読み書きが出来なかったり、計算の段取りが理解できなかったりと様々な症状がある』


――なんだか大変そう。


『そうだね。多くは先天的なものだが、交通事故などによってなってしまう場合もある。今も大勢の患者や、そのご家族が苦しんでいる』


――それが、治せるようになるの? 私がおじさんたちに協力すれば?


『君の稀有な能力を開発し、その仕組みをきちんと解明することができれば、より大勢の人を救える医療機器が作れるはずだ』


――医療、機器。


『学習装置とでも呼ぶべき代物だ。それが実用化された暁には、我々の未来はとても明るいものになるだろう』


――おじさんたちは、その、ガクシューソーチってやつを作ろうと頑張ってるの?


『その通り。ただ、残念ながら我々だけでは力不足でね、どうしても君の力が必要なんだ』


――私が、必要。

『動物実験だけでは最早限界なんだ。試行錯誤を重ね、みんなに安全な技術を届けるために力を貸してほしい』


――本当に、私なんかに、そんなことができるのかな?


『出来るさ。学力や記憶力の向上はもちろん、現代病と呼ばれる躁鬱や重度のPTSDすら克服できるようになるかも知れない』


――もしそうなったら、みんな私のことを受け入れてくれるのかな?


『もちろん、すごく感謝してくれるさ。そのために、学園都市もバックアップを惜しまないことを約束する』


――う、うん。


『それに、亡くなった君のご両親だって大いに喜んでくれるだろう』


――ッ!


『頼む、我々の研究に協力してくれないか?』


――わかった、私、頑張ってみる。

――――…………



――さん、食蜂さん!


食蜂(う……うぅ…………やめ……て……)


――っかりして、食蜂さんッ!


食蜂(……違う、違うの、……私、そんなつもりじゃ……――――)


???「――食蜂さんッ!」

食蜂「――はッ!」バッ

ルームメイト「いきなり起きちゃだめ。ゆっくり息を吸って、吐いて」

食蜂「は……はぁッ…………はぁ」ツー

ルームメイト「……悪い夢でも見てたの? あなた、さっきからずっとうなされてて」

食蜂(……ッ、完璧、見られちゃったわねぇ)ゴシゴシゴシ

ルームメイト「……今かかりつけ医を呼んでくるから、少し待ってて」

食蜂「……いえ、大丈夫です」

ルームメイト「誰が見たって大丈夫じゃないわよ。すごい汗かいてるし、つい先日も熱出したばかりでしょう?」

食蜂「本当に大丈夫ですから。すみません、ご心配をおかけして」スッ

ルームメイト「……少し疲れが溜まってるんじゃないの? 今日は無理せず安静にしてた方が」


――ピッ!


ルームメイト「」ピクン

食蜂「――朝っぱらから使う羽目になるなんて、幸先悪いわねぇ」スタスタ

食蜂「ふぁ……ぁ。……さてっ、早く顔洗わなくっちゃ」ガチャ

――とある高校、屋上


上条「ってなわけで、条件付きで入園許可は出してもらったけど」

土御門「さすがはカミやん。聖域という幻想を見事にぶち壊してくれたにゃー」

上条「よせよ、お前の口利きがなければどうにもならなかったさ」

土御門「謙遜するなって。他の候補者の男どもは軒並み袖にされちまったらしいぜよ?」

上条「たまたま運よく本人と鉢合わせただけだって。俺も無駄足になる寸前だったんだぜ?」

土御門「……ちゅーことは何か? カミやんは第五位と面識があったのか?」

上条「そうみたいだな。全然覚えちゃいないけど」

土御門「……なるほど、記憶喪失以前の知り合いか。――って、オイオイ、それで許可が出たってことはまたしても」

上条「んなことより、そっちで何か進展はあったのかよ?」

土御門「あ、ああ。その話なんだが……どうも思っていたより尾を引きそうなんだ」

上条「なんだよ、偉そうに任せろとか言ってたくせに」

土御門「すまないと思ってる。まぁ、まずは経過報告から先に聞いてくれ」

土御門「先に結論から述べさせてもらうが、洗脳装置(テスタメント)は無事発見された」

上条「……へ? 発見って、つまり回収できたってことか?」

土御門「ああ、盗まれた台数分には足りていたようだな。……ただ、腑に落ちない点もいくつかある」

上条「いや、でも、最悪の状況は既に脱したと言えるんじゃないか?」

土御門「その確証を得るために、今も行方知れずの運び屋どもを捜索している最中だ」

上条「……盗んだ連中は捕まってないと」

土御門「ああ、一人としてな。せっかく手に入れた機械を全て放り出していったことも気にかかる」

上条「……その浮かなそうな顔からすると、他にも何か心配事があるみたいだな」

土御門「察しの通りだ。どういうわけか港の集積所で発見された洗脳装置は」

土御門「被害届けに記載されていた台数より、余分にあったんだと」

上条「…………は?」

上条「それって、つまり何か? 洗脳装置が盗まれた台数より増えちまってたってのか?」

土御門「被害届に記載されていた台数は全部で5台。なのに、見つかった台数は7台だ。誰がどう考えたっておかしいだろ?」

上条「まったくもって意味不明だな」

土御門「さてさてカミやん、この状況から導き出される答えとは何かにゃー?」

上条「……いや、何が何だかさっぱりなんだが」

土御門「そいじゃ、まず盗難被害者が本当のことを話していたと仮定する。数の差違が発生するのはどんな場合だ?」

上条「……盗難被害者――この場合は研究所側が――盗まれたことに気づいていない洗脳装置があったとか」

土御門「そいつは考えにくいな。洗脳装置ってのは悠に家庭用マッサージ椅子くらいのサイズはあるし、重量に至ってはその倍以上ある」

土御門「何より高額な代物だから、在庫管理は徹底されていると考えるのが自然ぜよ」

上条「……だったら、他の研究施設で作られていたやつが盗み出されてて、偶然同じ場所に集められてたって可能性は?」

上条「さもなけりゃ、施設の職員が把握していない、誰かの指示で秘密裏に作られていた装置が一緒に盗み出されちまったとか」

土御門「組立には相当なスペースと高額な器材を要するし、一線級の技術者にしか扱えないような複雑極まりないプログラムを入力する必要がある」

土御門「以上のことから、条件を満たす施設は他にないと断言できるそうだ」

上条「うーん、両方とも外れかぁ」

土御門「補足しておくと侵入された研究施設は地下にあり、搬入口は一箇所だけ」

土御門「装置の大きさや重さからして、まとまった台数を一度に運び出すには大型のトレーラーが不可欠だ」

上条「なるほど」

土御門「実際に、学園都市に点在する複数の監視カメラには盗難時刻の前後でそれと思われる不審車両が捉えられていた」

土御門「その画像を元にして洗脳装置が持ち込まれた集積所を特定し、警備員が突入したら物だけが放置されてたって流れだ」

上条「……質問。持ち込まれた現場の近くで別の大型車両は見当たらなかったのか?」

土御門「ああ、過去二週間分のデータにグラフィック検索をかけてみたが、全く引っかからなかった」

上条「つまり、トレーラーで持ち出されたのはまず間違いないってわけだな?」

上条「そうすると、やっぱり被害者側が嘘をついていたとしか」

土御門「消去法ではそうなるな。ただ、何で盗まれた台数を減じて報告する必要があったのかが謎なんだ」

上条「たとえば、研究所職員が結託して、外部組織に横流しする目的で予め余分に作っていたとしたら?」

土御門「要するに密輸か」

上条「ああ。正規の管理簿には一切登録していない、公的に存在しないはずの装置が盗まれちまった」

上条「それを勘定に入れたら生産数を誤魔化していたことがバレちまう。だから、泣く泣く数を減らして被害届を出した」

土御門「一応筋は通ってるな。金稼ぎか、誰かの命令かって疑問は残るが」

土御門「けど、それにしたって発見された時点で台数に差違があることはバレちまうぞ?」

上条「……そうだな、数を増減させる意味はほとんどない。疑念を抱かれたら結果は同じだろうし」

土御門「何分高額な代物だ。管理簿にある数だけでも回収できなければ進退問題になっちまうから、通報するのは当然なんだが」

上条「あまり納得してねえって顔だな」

土御門「以前よりかは察しがよくなったみたいだな」ニヤ

上条「それなりに長い付き合いだろ。――んで、土御門博士のご賢察を伺っても?」

土御門「……そうだな。カミやんの話を聞いていてひとつ思いついたんだが」

土御門「こんな考え方はどうぜよ? そもそも、盗難なんて最初からなかった」

上条「……それは、自作自演ってことか」

土御門「今回、奪還依頼を受けた俺たちは特定の狭い地域に大人数を動員して捜索に当たっていた」

上条「だからこそ、洗脳装置をあっさり見つけ出せたんだよな」

土御門「逆に言えば、他の区域では警戒が緩くなっていた。盗難騒ぎを囮にして、別の犯罪を目論んでいたってのはどうかにゃー?」

上条「普通にありそうだな。もっとも、そこまで考えの幅を広げちまうとキリがない気もするけど」

土御門「日々騙し騙されてることに慣れちまってるからな。まったく、因果な商売ぜよ」

上条「それは、お前自身の問題な気もするが」ジト

土御門「そもそも自作自演説が正しかったとして、台数が余分に存在することへの説明が思いつかんにゃー」

上条「…………ん」

土御門「……どうした? カミやん?」

上条「いや……あくまで思いつきなんだけどさ」


上条「自作自演はあった。けど、誰かに計画に水を差されたって可能性は考えられないか?」


土御門「……そうか、妨害した人間がいたってことなら!」

上条「たとえば研究所内部に、計画のあまりのヤバさに恐れをなした人間がいた」

土御門「そいつがわざと不可解な状況を作り出し、第三者に不信を抱かせようとした、か」

土御門「いいんじゃないか? 今の所どの説より現実味がある」

上条「最初は盗ませた数をきっちり回収する予定だったけど、洗脳装置の数があってないとなれば」

土御門「当然学園側や警備員は余剰分の出所を探ろうと動く。裏に何かあるんじゃないかと勘繰る者も出てくるな」

上条「今の土御門みたいにな。――いや、でも待てよ?」

土御門「どうした? 今の説はなかなかいい線いってると思うが」

上条「よく考えてみると、こんな回りくどいことをする必要があるのかと思って。このご時世、内部告発なんてワンクリックで済むだろ?」

土御門「……あぁ、そう……いや、そうとも限らんぜよ」

上条「んん、たとえば?」

土御門「いざ現場に行ってみて、そこで初めて自分が重犯罪の片棒を担がされていることに気づいたとしたら?」

上条「――なるほど、気づいたのが運び屋側だったとすれば全て説明がつくな」

土御門「立ち聞きでも誰かが流した情報でも、きっかけは何でもいい」

土御門「とにかく、運び屋は自分が運ばされている物のヤバさを認識した」

上条「結果、臆病風に吹かれて受け渡し前に装置を置き去りにして逃げだした、か。辻褄は合うな」

土御門「手前味噌だが、盗難騒ぎが囮だって方向は間違ってないと思う」

土御門「ともすると、外に持ち出す予定の台数が、まんま余剰分の台数だったとすればどうだ?」

上条「……集積所が引き渡し場所と回収場所を兼ねていて、そこから2台だけを持ち去る計画だったってことか」

土御門「そーゆーこと。当初の計画では被害届に記載した台数分の装置を集積所に運び、警備員に知らせて回収させる」

土御門「かくして盗まれた5台の装置はめでたく研究所に戻り、事件は解決する――ように見せかけることだった」

土御門「外部の人間なら余剰分が消えていることにそうそう気づかないだろうしな」

上条「――よしんば気づいたとしてもかなり後のことになるか。いやらしい筋書きだ」

土御門「おそらく研究所の上の人間が何者かと密約を結び、一芝居打つことでその目的を果たそうとした」

上条「だが、計画の要である運び屋が逃げ出しちまったことで計算に大きく狂いが生じた」

土御門「もしこの一連の流れが正しいとするなら、何のことはない。事件は早くも解決しかかってることになるぜよ」

上条「そうだな、行方をくらましている運び屋をとっ捕まえて、研究所の資金の流れを把握しちまえば」

土御門「おうよ、確実に尻尾を掴めるはずだ」

上条「一つ懸念があるとすれば、事件当事者の証言がないと研究所の人間をしょっぴくのが厳しい点だな」

土御門「まぁ、証拠隠滅くらいはするだろうからな」

土御門「つっても、暗部には諜報のエキスパートが複数名いる。隠蔽された情報を掘り返すことくらい朝飯前だ」

上条「運び屋が始末されてなきゃいいけどな。研究所側が真っ黒だとすれば、絶対に手を回してるだろうし」

土御門「古今東西、裏切り者の末路は決まってるからな。俺も重々気をつけないといかんぜよ」

上条「……とりあえず装置が全部回収されたんなら、精神系能力者が狙われる可能性は低くなったと見ていいのかな」

土御門「そうだな、現状では盗難品も警備員預かりになっているはずだから、少しは安心していいんじゃないか」

上条「……わかった。んじゃ、俺もそろそろ向かうとするか」

土御門「あぁ、カミやん」

上条「あん?」

土御門「これからしばらくの間、携帯の電源は常に入れといてくれ。何か動きがあったらすぐに連絡する」

上条「わかった、そうする」


上条(バッテリー切れには気をつけねえとな。念には念を入れて、携帯式充電器を持ち歩くか)

――常盤台中学、庭園内


食蜂「…………」トントントン

取り巻き1「女王、今日は妙にそわそわしていらっしゃいませんか?」

食蜂「別に、普段通りだけど?」

取り巻き1「しかし、さきほどから人差し指が忙しなく動いていらっしゃるようですが」

食蜂「ちょっと考え事しているだけよぉ」

取り巻き2「おつけになられているリップ、二日前に発売されたばかりの、この秋の新色ですよね」

食蜂「あら、目敏いわねぇ」

取り巻き3「アイライナーも、心なしかいつもより丁寧なご様子」

食蜂「……それはさすがに、気のせいじゃないかしら」

取り巻き3「……女王、まさかとは思いますが、殿方との逢引きなどと――」

食蜂「あのねぇ、あなたたちはいつから私の小姑になったのぉ?」

食蜂(それに逢引きって……今どきの女子中学生が使う言葉じゃないわよねぇ)

――教室


食蜂(そろそろ授業が終わる時間だけど)チラ

食蜂(校門前には……まだ誰もいないみたいねぇ)ンー

食蜂(やっぱり昨日顔を合わしたときに、携帯番号を交換しとくべきだったわぁ)

食蜂(あーあ、御坂さんの邪魔さえ入らなければ、待ち合わせ場所とか段取りとか決められたのにぃ)

食蜂(まぁ、上条さんも好き好んで目立ちたくはないはずだし)

食蜂(私が校門の外に出るのを見計らっているのかも知れないわねぇ)


先生「それは、今日はここまでにします。来週からは能力測定に入るので――」


食蜂(……能力測定か。第四位までの道のりは遠そうねぇ)チラ

食蜂(……ッ!)ガタッ


取り巻き2「ああ、女王。もしよろしければ放課後四人でエクレアなど――」


――ガラガラッ! ――タッタッタッタッ……


取り巻き2「…………」ポカーン

取り巻き2「じ、じじ、事件ですわッ! よもやあの女王が廊下を走られるなんて!」

食蜂「はっ……はぁ……はぁ……」ポタポタ

食蜂(こ、これ以上頑張りすぎると、肌着が汗まみれになっちゃうわねぇ)ハァハァ

食蜂(ひとまず息を整えて、校門まではなるべく優雅に――)ハァハァ

御坂「あれ、珍しい。あんた一人?」

食蜂「はぁっ、み、御坂さぁん。あなたもお早い、のねぇ」

御坂「ていうか、何でそんなに息乱れてるわけ? あんたんとこ、授業体育だったっけ?」

食蜂「う、うるさいわねぇ。あなたと違って、こっちは教室が、はっ、離れてるのよぉ」

御坂「100mも変わんないでしょうが。やっぱりアンタって相当な運――」

食蜂「その先続けたら、今この場で、能力者同士のバトルロワイヤルを、やる羽目になるわよぉ?」ギラ

御坂「……あぁ、はいはい。余計なお世話だろうけど、必要最低限の体力は付けといた方がいいわよ」

食蜂「本当、大きなお世話――――っ」

御坂「うん? …………って」


上条「よっ、お迎えに上がりましたよ」

食蜂「…………」パクパク

上条「って、御坂も一緒だったか。お前らってあれですか? 実は隠れ仲良しだったりすんですか?」

御坂「天地がひっくり返ったってないわ。てかあんた、よくまぁ堂々とここまで入って来れたわね」

上条「校門前でうろうろしている方がよっぽど不審者っぽいだろ。そっちこそ、あんまり驚かないんだな」

御坂「まぁね。昨日寮監から説きょ――じゃなかった、事情を聞いたのよ」

上条「へぇ、あの先生、話したんだ」

御坂「私もこいつと同じレベル5なわけだし、あながち無関係じゃないと思ったんでしょ」

上条「……へへ、探せばいい先生って、結構いるもんだな」

御坂「まぁ、あの人普段は相当厳しいけどね。それはそうとアンタ、ちゃんとゲートから入ってきたんでしょうね?」

上条「もちろん、抜かりはないぜ。この通り、ICタグつきの入園許可証も貰ってる」ピラ

御坂「ならいいわ。ちなみにそれ紛失したら警備ロボットに追い回されることになるから気ぃつけなさいよ」

上条「そりゃ怖いな、覚えとく。ところで食蜂、お前まだ体調が戻ってなかったのか?」

食蜂「……あ、え?」ハァハァ

上条「さっきから一言も発しないし、妙に息が荒いみたいだからさ。もし辛いんなら保健室に」

食蜂「へ、平気ですぅ。今の今まで運動していただけですから――」

食蜂(……ッ、あそこにいるのは。……グッドタイミング!)ゴソ


――ピッ


御坂「運動ってアンタ、単なる校舎の移動でへたばってちゃ――うわっ!」ダキッ

黒子「見つけましたわっ、お姉様ぁ!」ギュウ

御坂「ちょ、あんた、校舎内でテレポートしてんじゃないわよ! 風紀委員でしょうが!」グイ

黒子「んもう、お姉様のいけずぅ~」ツツ

御坂「ばっ、やぁっ! こら、変なところ撫でるなぁ! 離れ、ろ、この――っ!」グググ

黒子「そうは参りませんの。何としても、離れるわけには――ッ!」ギュウウ

御坂「は、はぁッ!? いくらあんたでも人前でやっていいことと悪いことの区別く――」


――シュンッ


上条「うぉっ、二人とも消えたッ!?」

食蜂「さ、上条さん。今のうちに」グィ

上条「って、そんな引っ張らなくたってちゃんと歩くって」

――学舎の園通用路


食蜂「こ、ここまで、来れば……」ゼェゼェ

上条「つうか、逃げる必要なんてあったのか?」チラ

食蜂(……う、息ひとつ切れてない)ハァハァ

食蜂「御坂さんは、正直苦手、なんです。何だか、四六時中ビリビリ、してる、から」

上条「ああ、はは。俺もそういう経験何度かあるよ」

食蜂「……上条さんは、彼女と、仲がよろしいんですかぁ?」

上条「んー、出会った頃に比べれば改善してきてるんじゃないかな。以前は顔を合わせるや否や電撃飛ばしてきたし」

食蜂「まぁ、野蛮ねぇ」

上条「けどさ、あれであいつにも優しいところがあんだぜ? この間だって――」

食蜂「……上条さぁん」

上条「うん? 何だ?」

食蜂「年の近い異性と一緒にいる時に、別の異性のお話を楽しそうにするのはどうかと思うんですけどぉ?」ムス

上条「そ、そか。そういうもんなのか」ポリ

食蜂「……朴念じぃん」

上条「め、面目ねぇ」


食蜂「そういえば、上条さんは甘い物はお好き?」

上条「まぁ、どっちかっていえば好きな方だけど」

食蜂「だったらぁ、寮に戻る前にあそこの洋菓子屋さんで一服しません?」スッ

上条「ええ? いや、でも、なるべく寄り道せずに帰らねえと」

食蜂「そんなにお時間は取らせないですから。ほんの少しだけ、ねぇ、いいでしょ? お願いッ」パン

上条「…………うーん」

食蜂「…………駄目ぇ?」チラ

上条「……わぁったわぁった、俺の負け」

食蜂「やったぁ! あのお店、ケーキの味はもちろん、内装も異国情緒があって素敵なんですよぉ」ニコ

上条「味にうるさそうなお前がそういうんなら、期待して良さそうだな」フッ

――カラーン


女性店員「いらっしゃいま――っ!?」ガタッ

上条「お邪魔しまっす」

女性店員「……だッ」

食蜂「こんにちわ。また来ちゃいましたぁ」ヒョコ

女性店員「あ、あら、食蜂さん? ――えっと、こちらは、もしかしてお連れ様?」

上条「どうも、初めまして」ペコ

食蜂「一応紹介しときますね、こちら上条当麻さん、私の恩人なんです」

女性店員「は、はぁ、恩人さん……」

上条「そこまで大袈裟なもんでもないです、ハイ」

女性店員「あー、びっくりした。こんなことってあるのねぇ」

食蜂「彼、事情があって、短期間だけ学舎の園にいることを認められてるんです」

上条「一応、入園許可証ももらってますんで、これなんですけど」スッ

女性店員「やだぁ、ごめんなさいね。あんな風に取り乱しちゃって」

女性店員「まさか学舎の園で男の子と出会うなんて思ってもみなかったから」

上条「いえ、こっちこそ脅かしてしまったようで申し訳ない」ペコ

女性店員「ふふ、お互い様ね。私も住まいは外だし、種明かしさえしてもらえれば全然平気」

女性店員「ただ――そうね。他のお店に入るときは、予め許可証を出しておいた方がいいかも」

女性店員「どうしたって不意打ちになるから、みんな身構えちゃうだろうし」

上条「ですね、これからはアドバイス通りにします」

食蜂(やっぱり季節限定の濃厚モンブランが……ううん、ちょっぴりビターなキルシュトルテも捨てがたい)

食蜂「あ、ねぇ、上条さんはどれにするかもう決まった?」クイクイ

上条「目下悩み中。どれもこれも美味そうで、どうしたって目移りしちまうな」

食蜂「それだったらぁ、お互い別々の物を頼んで半分コっていうのはどぉ?」

上条「ああ、悪くないな。どうせなら二つの味を楽しめた方が」

食蜂「決まりねぇ」

上条「じゃあ店員さん、俺はこのモンブランを」

女性店員「はい、かしこまりました」ガラガラ

食蜂(あら、以心伝心――って、そんなわけないか)コツン

女性店員「食蜂さんはどれにするの?」

食蜂「あ、そ、そうね。ねぇ、上条さんは、後どれが食べたい?」

上条「コラコラ、ちゃんと自分が食べたいやつを選びなさい」

女性店員「先に席についてて。紅茶とセットで持っていくから」

上条「わかりました」

食蜂「上条さん、どこに座ります?」

上条「天気もいいし、窓際の方がいいんじゃないか」

女性店員「なら、一番奥の席がおすすめね」

上条「奥っていうと、あの大きな柱の裏ですか?」

女性店員「ええ、他の客席と隔てられてるから人目を気にせずに雑談できるわよ」

上条「あぁ、すいません、わざわざお気遣いいただいて」ペコ

女性店員「いいえー、せっかくのレアイベントなんだし、ゆっくりしていってちょうだいね」

食蜂「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

上条「さっ、お先にどうぞ、食蜂サン」スッ

食蜂「え、ええ。ありがと」

食蜂(……レディファースト。エスコートじゃ男性が常に通路側、だったっけ)チョコン

食蜂(学舎の園で過ごしてる時には、絶対に見られない気遣いね)クス

食蜂(にしてもこの人、ビンボーしてるくせにマナーは一通り身についてるのね。椅子引くの自然だったし)

食蜂(もしかして、意外と育ちは良かったりするのかしら?)

上条「ここの店員さんって、押しつけがましくない程度に親しげな感じだな。フランクっつうか」

食蜂「あまり畏まられても堅苦しいじゃないですか。学舎の園はお嬢様校の寄合みたいなものですし」

上条「みんな厳格さに慣れちまってると、開放感がより好まれるのか」

食蜂「かも知れないですね。ちなみに、このお店の感想は?」

上条「こういうシックな雰囲気はかなり好き。お前、いい趣味してんだな」

食蜂「良かった、気に入ってもらえたみたいで」ニコ

女性店員「お待ちどうさま。ケーキセットになります」

食蜂「んー、美味しそう」

上条「あの、さっきから気になってたんですけど」

女性店員「何かしら?」

上条「お店の中、ほのかにいい香りが漂ってますよね。これって」

女性店員「そういえば、男の子にはあまり馴染みがないかしらね。エッセンシャルオイルって聞いたことない?」

上条「あぁ、ありますあります。通販番組なんかで耳にしますね」

女性店員「ええ、アロマテラピー何かでよく使われる物よ。ほら、あそこの金属製の燭台に蝋燭が見えるでしょ?」

上条「一本だけ火がついてますね」

女性店員「熱で蝋が溶け出す度に、中に混ぜてある何種類かのローズオイルが香りを放つの」

上条「へぇ、お洒落ですね。このアンティークショップっぽい内装もお姉さんの趣味なんですか?」

女性店員「ここじゃあどうしたって客層が偏るからねぇ。どのお店でも大なり小なり個性を出そうと悪戦苦闘してるわ」

食蜂「…………」ジー

上条「すげえな、この蝋燭も手作りなのか。こんなの貰っちゃっていいのかな」コンコン

食蜂「いいんじゃない、外へのお土産ができたと思えば」ムス

上条「……あれ、何むくれてんだ?」

食蜂「別にぃ、むくれてなんてないわよぉ」モソモソ

上条「と、そうだ。ケーキ半分コにするんだったな。ほら、先に取っちまえよ」スッ

食蜂「…………」

上条「どうした? まだこっち側は手ぇつけてないから遠慮なく」

食蜂「――違う」

上条「……へ?」

食蜂「イメージと違うのよ。こういう場では、お互いのフォークで食べさせ合ったりするものじゃないのぉ?」

上条「オイオイ、お前確か昨日、公私のケジメはちゃんとつけろとかなんとか」

食蜂「昨日は昨日、今日は今日でしょう」プク

上条「いや、にしたって、ここでやるのはさすがに……」ポリ

食蜂「何よぉ、おかゆの時はやってくれたじゃなぁい」

上条「そりゃあ、あんときはお前が病気してたし、家だったし」

食蜂「元気になったから、ここが外だから冷たくしてもいいってわけ?」ジト

上条「少し声を抑えろって。つかお前、言ってることが無茶苦茶すぎだぞ」

食蜂「…………」ゴソゴソ

上条「ったく、どうしたんだよ。何か嫌なことでもあったのか?」

食蜂「……」スッ

上条「って、何で俺にリモコン向けてんだ? 能力は通じないって――」


――ピッ


上条「いや、あのさ」

食蜂「――」ピッピッ

上条「……だから、無理だって」

食蜂「~~~~~~」ピピピピッピピピピ

上条「だぁもうわかった、わかりましたよ! 少し身を乗り出してくれ、このままじゃ届かない」スッ

食蜂「……」コクン

上条(あ、そこは素直に聞くんだ)

食蜂「ご馳走様でしたぁ」ニコニコ

上条「やばいな、ここまで美味いモンブランがあるとは思わなかった」

食蜂「でしょう? 土台に少し塩気があって、クリームの甘さと妙に合うのよねぇ」

上条(やっと機嫌を直してくれたか……それにしても)チラ

上条(さっきの駄々っ子は、いったい何だったんだろう)ウーン

上条(情緒不安定ってやつか? 自分の身が狙われてるかもって聞かされたら、誰だっていい気はしないだろうし)

食蜂「――あ、そうだ、携帯」

上条「……携帯? あれ、鳴ってるか?」ゴソ

食蜂「じゃなくて、番号交換してなかったじゃない?」

上条「あ、そういや済んでなかったっけ。じゃあ、そっちの番号教えてくれ」

食蜂「了解。私の番号は――――」

上条「――――おっけー。んじゃあ転送するぜ」カチカチ


――prrrr


食蜂「……うん、登録完了ッ」バッ

上条「いちいち見せんでもいいですよ」

女性店員「ケーキセット二点でお会計2800円になりまーす」

上条「」

食蜂「あっ、上条さんは出さなくていいわよぉ?」

上条「……え? いや、だけどさ」

食蜂「こっちが無理言って付き合わせちゃったんだし、ポイントカードもあるから」

女性店員「ポイントは貯めとく? それとも使っちゃう?」

食蜂「全部使っちゃってください」

女性店員「それじゃ、今日はお代なしね。レシートはどうする?」ピッ

食蜂「えっとぉ、残りのポイントだけ教えてくれますか」

女性店員「了解。ええっと、253ポイントね」

食蜂「わかりました、ご馳走様です」

女性店員「また来てねー。彼氏君も、いつでも歓迎するわよ」


上条「え、いや、俺は――」

食蜂「さっ、上条さぁん、行きましょ?」ムンズ

――カラーン


食蜂「それじゃあ寮までのエスコート、しっかりお願いしますね」

上条「ちゃんと誤解を解かなくていいのか?」

食蜂「馬鹿正直に護衛だなんて伝えたら出入り禁止になっちゃいますよ? だったら、彼氏の方がまだマシです」

上条「……んー、まぁ、いたずらに不安を煽ることもないか」

食蜂「心配しなくても、店員さんの記憶は今度会った時消しておくから大丈夫☆」

上条「あぁ、それなら問題ない――って大ありだ! お前の能力はそんな気軽に使っていいもんじゃ」

食蜂「冗談よぉ。その代わりに誤解はそのままになっちゃうケド、今の反応なら納得してもらえるってことねぇ?」ニコ

上条「……お前がそれで構わないってんなら、いいけどさ」

上条(にしても? 100円で5ポイント溜まるってことは)ヒーフーミー

上条(うへ、あの店だけで6万以上使ってる計算か。住む世界が違いすぎですよ)

食蜂「言っとくけど、全部自分一人で食べてるわけじゃないですよぉ?」

上条「……あれ、そうなのか」

食蜂「今日みたいに誰かに奢ることだってあるし、派閥の歓迎会何かじゃ費用は基本学校が持ってくれますから」

上条「……これが、学園都市のカースト制度なのでせうか」

食蜂(実はポイント三周り目なんだけど、黙っておいた方がよさそうねぇ)

本日は以上になります
次回までデートは続きます、あと少しエグい場面がちらほらと
今回は動きが少なめで小休止といったところですが次々回辺りから大きく動く予定です

んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

               _,|__|,_
                      ,.;x=7/>─</7ァx,
                ,ィ´///./      \//ヽ
               ,;'//////  \       ヽ/∧  安価が
               ,'//////   o|       |V∧
                  ;//////!    o!         lo}/ハ     「 'ニ)  、_
                 i//////|    o|         |o|/リ     、_,)   __) 」 だと? ルーシー
               V/////ハ__⊥ =-──┴--'--、
             ////\//|L -z、‐───=zァ7 ̄ ̄ヽ    予想外だ……
 .            //////./|ハ rテ汞ト-  ,ィァテ ∧___,ノ    この世には
           〈_//_, イ: |l:|: :〉 `冖`   /´冖'/|: |         その「安価」のために
 .              ̄ |: :|: :|l:|:/      │   ': l: :l        無償で…喜んで…
              _/l: :|: :|l:|'     -ト、ノ  / :│: ',         生命を差し出す者も
            / L:!: l : | | ヽ     --`- /l: : :l :_:_ゝ          大勢いる
      _r─‐x_ノ\l ∨ : |:l/⌒\  ー‐ ' イ┴<\
    /二二二\ \_ ∨ l:!   __` ー‐ '__|___/ ノ       たとえば
 .   /ニニニニニ∧   ヽV:/  /、   ̄二´   ,.ィ__        その者が
   {ニニニニニニハ     \/、 \____// |∧___      「女」であろうと
   /ニニニニニニニ}、 ,ィ      \_     i /  ./ ゚ \\_     ……
  r{ニニニニニニニ//。{            ̄ ̄    「 ̄\ } У \    修道女のような
  | \__二二二∠,.イ  i \_           ハ ゚ ゙ヽ 「jー-- 。〉   …………
  |ヽ.    ̄ ̄∧゚__\_l___,ノ__。 ̄了          \__厂\._/
 人 \__/  ./  / {_j       /                |  l |.l
/  \,       〈  /  /ヽ---<           -‐=   ̄ \_。_|ハ
          ∨。 ./   | |               ___|_|_∧
/`ヽ__         }/    | |        _ -‐   ̄  ̄ ̄Τl〉
ニニニ\___   l l      | |__ -‐  ̄  i:.           }ニ|

申し訳ないですが、その流れをぶち[ピーーー](投下予告)
本日22:00に投下予定です

では、ゆるりと投下開始します

『あら? あそこにいるのってもしかして』

『まぁっ、常盤台の食蜂様だわ!』

『ど、どうしましょう! 近づいてご挨拶した方がいいのかしら?』

『ちょっと待って! 隣にいる黒服の方って、どう見ても男性よね?』

『そんな、学舎の園に殿方がいるなんて』

『どういうご関係なのかしら。まさか、こ、ここ、恋人……』

『SPってやつじゃないの? 某国のスパイから命を狙われてるとか』

『映画の見すぎ乙、って言いたいとこだけど、食蜂様ほどの能力者なら普通にありそうね』

『あっ、ねぇっ、今の見た!? 私に手を振って笑いかけてくださったわ!』

『何言ってるのよ。あなたじゃなくて私に、よ』

『嗚呼、お姉様。ただこうして歩いているだけでも絵になるなんてぇ』


上条「噂ってのは、こうやって尾鰭がついていくんだなぁ」トコトコ

食蜂「想像力が豊かすぎるのも考え物ですよねぇ」フリフリ

――学舎の園ゲート前


ゲート係員「では、入園許可証をお預かりします」スッ

上条「お願いします」

ゲート係員「いかがでしたか? 初めての学舎の園は」ピッピ

上条「そりゃもう、ばっちり目の保養になりまし――てっ」ポカッ

食蜂「上条さん、ご自分の目的履き違えてません?」ムスッ

上条「やだなぁ、お茶目なジョークじゃないですか」

食蜂「だいたい、目の保養がしたいっていうのなら私を見ればいいと思うんですけどぉ?」

上条「……何つうか、実力に裏付けされた自信ほど扱い難いものはねえよなぁ」

食蜂「それって、どういう意味かしらぁ?」

上条「実際『なるほど』と納得させられちまった後じゃ茶化しにくいだろ」

食蜂「……あ、そ、そう」

上条「どうした? 顔赤いぞ?」

食蜂「べ、別に、なんでもないです」

ゲート係員「――お待たせしました、どうぞお通りください」

上条「明日もまた、入園前にこちらに伺えばいいんですよね?」

ゲート係員「はい。明日は私お休みを頂いておりますので、他の者が対応致します」

上条「わかりました」

ゲート係員「ああ、そういえば、街の建物などはゆっくりとご覧になれました?」

上条「歩いてるだけでも退屈しません。噂には聞いてましたけど、ホント外国みたいな街ですよね」

ゲート係員「それでも、セキュリティは並大抵じゃありませんけれどね」

上条「ああ、そうみたいですね。監視カメラがあちこちに設置されてるし、女性の警備員(アンチスキル)と何度もすれ違いましたから」

食蜂「警備員はともかくカメラは明らかにやり過ぎよねぇ。屋内に入らないとおちおち鼻もかめないわぁ」

ゲート係員「そのように指摘されることもままありますが、それくらいでないと親御さんも大切なお嬢様を安心して送り出せませんので」

食蜂「……あぁ、うん。それは、そうかも知れないケド」

上条「…………」チラ

上条「さてさて、食蜂さん。遅くならないうちに行きますよー」ポン

食蜂「あっ、ちょっとぉ! 気安く頭に触らないでくださいよぅ!」

上条「さて、バスまでは少し時間があるな」

食蜂「上条さん、さっきのお話の続きなんですけど」

上条「……うん? さっきっつーと」テクテク

食蜂「外国のお話です。上条さんは海外旅行の経験がおありなんですか?」

上条「ああ、つい先ごろイタリア行ってきたぞ。観光って風合いじゃあなかったけど」

食蜂「イタリアの、どちらまで? ローマ? それともナポリ?」

上条「ヴェネチア。水の都っていうだけあって町中運河とアーチ橋だらけでさ、タクシーばりに渡し船が通ってた」

食蜂「うわぁ、羨ましいです。私もいつか行ってみたいと思ってる場所の一つなんですよぉ」

上条「長期休暇中なら行けないこともないだろ? 俺と違って裕福なんだし」

食蜂「それが、何度か外出申請してるんですけど、ちっとも許可が下りないんですよぉ」

上条「……そっか、お前ほどの能力者だと出かけるだけでも面倒な手続きがいるんだろうな」

食蜂「研究ありきの待遇だから少しは我慢しますケド、ちょっとくらい自由にさせてくれたって、ねぇ」

上条「……じゃあ、その代わり――にはならないかもしれない、つーか確実にならねぇけど」

食蜂「はい?」

上条「だからさ、この一件が片付いたら」

食蜂「片付いたら?」

上条「気晴らしに少し遠出でもどうかなって」

食蜂「えっ、本当ですかぁッ!? 上条さんが連れてってくれるの!?」ガバッ

上条「おい、落ち着け! 俺の懐具合じゃ行ける場所なんてたかが知れて――」

食蜂「そんなの全然問題ないですって! 温泉旅館でも民宿でも、なんなら旅費全部こっち持ちでも――」パタパタ

上条「しーっ、声がでかいって。どこで誰が聞き耳立ててるかもわからねえんだぞ」キョロ

食蜂「ふふ、いったいどこ連れて行ってくれるのかしらぁ。楽しみぃ☆」ウキウキ

上条「頼むから人の話を聞いてくれよ……」ガク

食蜂「そろそろバス停に並びます?」

上条「そうだな。もう学舎の園の外なんだし、そんなに人目気にする必要もないか」

食蜂「上条さんの服は注目の的ですけどね」

上条「こんな青空の下じゃ目立つのも仕方ねえよな。ただでさえ学生の街だってのに」

食蜂(んー、即席タクシーを使いたいところだけど、さすがにこの人の前でやったら怒られちゃいそうねぇ)

上条「…………」クル

食蜂(……??)

上条「――って、ああ、気にしないでくれ。不審なやつがいないか見てるだけだから」

食蜂「あ、そ、そうでしたね」

上条「第七学区は良くも悪くも雑多な区画だからな。巡回している警備員の目が届かない場所も少なくないし」

食蜂(…………)ポケー

上条「……どした?」

食蜂「あ、いいえ。何でもありません」ニコ

上条「そ、そっか。なら、いいけど」

食蜂(……うん。守られるのって、思ったより悪くないのかも)

――バス内


運転手『右に曲がりまぁす。お立ちの方はご注意くださぁい』

上条「さすがにこの時間は座れないかぁ」

食蜂「ぎゅう詰めじゃないだけマシですよ。学生寮まで十分もかかりませんし――きゃっ!?」グラ

上条「おっと」ドサッ

食蜂「ご、ごめんなさい!」

上条「いや、いいよ。それよか、こっち側の吊革のが掴まりやすいんじゃないか?」

食蜂「いえ、大丈夫です。伸びなくて済む分手すりの方が安定しますし――」


食蜂「――――」ドクン


食蜂(……今、ファミレスに入っていったのって)

上条「……あれ? 食蜂、どした?」

食蜂「…………」

上条「もしもーし、食蜂サン?」

食蜂「あ、ご、ごめんなさい。何かしらぁ?」

上条「いや、沿道の方に見入っていたみたいだからさ。てっきり誰か知り合いでも見つけたのかと」

食蜂「……あぁ、いえ、人違いだったみたいです」

上条「そうか。ならいいんだ」


食蜂(少し遠目だったけど、見間違いじゃない。額に包帯巻いてるのもいたし)


食蜂「……あの、上条さん」

上条「うん?」

食蜂「今日はまだ初日ですし、常盤台に到着したらそのままバスに乗って帰っちゃっていいですよ?」

上条「え? いや、だけど、一応寮の入り口までは付き添わないと」

食蜂「このバスが行ってしまったら次来るのは最終便ですよね? そこまで迷惑はかけたくないんです」ニコ

上条「んなこと気にするこたぁねえって。走って帰れば着く時間もバスと大差ねえし」

食蜂「でもほら、常盤台の生徒は私以外にも大勢いるみたいじゃない? ほとんどは門前のバス停で降りるはずですから」

上条「……確かにそうみたいだけど、……でもなぁ」

食蜂「いいからいいから、あんまり過保護にされるのは面白くないんだゾ☆」

上条「……まぁ、そこまで言われたら引き下がるしかねえけど」

食蜂「気にかけてくれるのはもちろん嬉しいですよ? でも、この状況で先手を取らせないくらいの自負は持っていますから」

上条「確かに、第五位の能力者だもんな。本来は俺が護衛なんてのもおこがましいくらいだし」


――プシューッ


『常盤台中学校学生寮前。常盤台中学校学生寮前でございます。車内でのお忘れ物などにご注意――』

食蜂「じゃあ、今日はここで――――上条さん?」

上条「……こっから見える範囲内では、不審車両は見当たらないか」

食蜂「あっきれた。まだ心配してたのぉ?」

上条「そういう性分なんだよ、悪かったな」

食蜂「ううん、ごめんなさい。ここまで気にかけてもらえるのって、とてもありがたいことよね」

上条「俺だけじゃねえぞ。寮の先生にしたって、小萌先生だって、お前のことを案じてる」

食蜂「小萌……って、月詠先生のこと?」

上条「あぁ、話してなかったっけ。今の俺の担任なんだよ。ここんとこずっと世話になりっぱなしで」

食蜂「はいはい、一生頭が上がらない、でしょ?」

上条「……え」

食蜂「んもう、覚えてないのぉ? 上条さん、ずっと前も似たようなこと――」

運転手「お客さん。常盤台の制服ですけど、降りなくて大丈夫ですか?」

食蜂「あ、す、すみませぇん。すぐ降りま~す」ペコ

上条「…………」

――ガラガラ


食蜂「それじゃまた明日、お願いしますね」フリフリ

上条「ああ、また明日。って、ほらほら、ちゃんとみんなに遅れずついてけよ」

食蜂「そっちこそ、窓からそんな身を乗り出したら危ないですよ。子供じゃないんですから」

上条「わかったよ。何か気になることがあったら遠慮なく携帯にかけてくれな」

食蜂「ええ、そうさせてもらいます」


――プップーッ ――ブロォォォォ


食蜂「…………行ったわね」ピタ

食蜂「……」クル


――ピッ ――キキィッ!


クリーニング屋「…………」ガチャ

食蜂「――常盤台中学方面へ、限界までブッ飛ばしなさい」バタン

クリーニング屋「リョウカイシマシタ、シートベルトヲオネガイシマス」

――上条宅


上条「ただいま――っと、こりゃ誰の靴だ?」

インデックス「おかえりなさい、とうま!」

姫神「お邪魔してます」ペコ

上条「おお、姫神。来てたのか」

インデックス「一緒にスフィンクスと遊んでたんだよ」

スフィンクス「ナァウ」

上条「あれあれ、ずいぶんとさっぱりしちまってまぁ」

姫神「久しぶりにお風呂に入れたから」

上条「あー、そりゃ助かるわ。相変わらず嫌がってたろ?」

姫神「二人掛かりなら、余裕」ブイ

インデックス「なんだよっ」エヘン

上条「うぬぬぬ……どれがババだ。これか、いや、わざとらしく先の突き出ている」

姫神「駆け引きはいらない。あなたの場合、どれを引いてもババ」ウフ

上条「なんつう言い草だ、ぐれんぞマジで」


――prrr


上条「っと、電話か。ちょっと待ってくれな」

上条「……あれ、御坂?」ピッ

上条「はい、もしもし?」

御坂「あ、出た。アンタ今どこにいんの?」

上条「どこって、たった今寮に戻ってきたところだけど」

御坂「もう家に帰ってるそうです。――あぁいえ、どうもそういう感じじゃ」ボソボソ

上条(……ん? 御坂以外に誰かいるのか?)

御坂「……ごめん、一つ訊きたいんだけどさ」

上条「なんだよ、改まって?」


御坂「……食蜂操祈、アンタと一緒にいないのね?」

インデックス「と、とうま!? いきなり血相変えて、何かあったの?」アワアワ

上条「すまん、ちょっと野暮用が入っちまった! 出かけてくる!」バッ

インデックス「出かけてくるって、私たちの夕飯――」

上条「あ、ああ。すまん、そうだったな」ゴソゴソ

上条「悪いが今日は外食で済ましてくれ。ご飯代、ここに置いとくからな!」バンッ

インデックス「ちょ、ちょっと、とうま!?」


――バタンッ!


インデックス「……行っちゃった。相変わらず、主に私への配慮が足りないんだよ」ブス

姫神「……でも、あの慌てようはただ事じゃなさそうな予感」

インデックス「……ッ! ま、まさか! そんな!」ガーン

姫神「ど、どうしたの?」

インデックス「あ、ありえないんだよッ! ケチなとうまがご飯代に三千円も置いていくなんてッ!」

姫神「……なるほど、新札でぴったりくっついてたっぽい」ピラ

インデックス(……それだけ慌ててたってこと? いったい何があったんだろう)

――タッタッタッタッ


上条「はぁっ……はぁっ、不幸だ! 初日からこれかよ!」

上条(携帯――、コール音が聞こえるってことは、まだ電源は生きてるのか)


御坂『――うん、まだ寮には戻ってないみたいなの。携帯も一向に通じないって』

御坂『さっき警備員に連絡してGPS探査してもらってるから、じきに見つかるとは思う』

御坂『ええ、それは大丈夫よ。コール音は聞こえてるし、電源は切られてないわ』

御坂『認めるのも癪だけど、アイツの力って半端じゃないから、その辺の連中にどうこうされるとは思えないけど』

御坂『別に私も、心配してるってわけじゃないんだけどね。寮監がいやに気にしててさ』

御坂『だからさ、その、あんま気にしないでね。気休めにしか聞こえないかも知れないけど』

御坂『アンタが彼女をちゃんと寮まで送り迎えしてたのは、バスに乗ってた子たちから聞いてるから』



上条(……いや、やっぱり無理やりにでもバスを降りて付き添うべきだった。くっそ、自分の馬鹿加減が恨めしい!)グッ

上条(って、後悔すんのはあとあと。今は一刻も早くアイツを見つけ出さねえと)ブンブン

上条(つったって、闇雲に探したところで見つかるはずもねぇ。人数の多い警備員が見つけ出す方が先に決まってる)

上条(……そういえば、さっきバスの中で沿道の方を気にして――――)

上条「乗車から二、三分の範囲ならかなり搾れるな。行くだけいってみるか」ダッ

申し訳ありません、微妙に体調不良なので続きは明日投下します
なお、ここからはやや暴力描写注意です

昨日は中座すみませんでした、おかげ様で何とか熱も下がりました
残り投下いきます

――とあるファミレス


不良4「おう――おう、わかった、伝えとく。じゃな」パタン

不良1「5のやつどうだったって?」パクッ

不良4「全治一か月だと。やっぱあん時に折られてたみたいだな」

不良3「ウニ野郎がふざけやがっ……てて。くっそ、まだ顎が痛ぇ」ズキズキ

不良2「全部食べれそうにないんだったら何か引き受けるぜ? その魚のホイル焼きとか」

不良3「メインディッシュだぞ、ふざけろ」

不良2「魚といえば、逃がした魚はでかかったよなぁ。あんだけの美人、滅多にお目にかかれねえってのに」ズルズル

不良1「今はそれよかガキだ! 邪魔した挙句に携帯までぶっ壊しやがって!」

不良4「お前はまだマシだろ。こっちはまだ半年分も分割支払い残ってるってのに」

不良3「そんなに新しいなら保証してもらえんじゃねえのか?」

不良4「あれだけ派手に砕かれちまうと事故適用は無理だとさ」

不良1「事情が事情だし、うかつなことは言えねえかんな」

不良2「どのみち、このままただで終わらせるわけにはいかねえだろ?」

不良4「あたぼうよ。仲間内でやつの人相を広めてるから、ほどなく見つかるはずだ」

不良2「いくら強いっつったって現役軍人ってわけじゃねえ。人数集めてタコっちまえば問題ねえよな」

不良3「おうよ、草の根掻き分けてでも見つけ出して、フクロにして公衆便所に顔突っ込ませて――」

女性店員「あの、申し訳ありませんお客様」

不良3「あん?」

女性店員「周りのお客様のご迷惑になりますので、もう少しだけお声を下げて」

不良1「……なぁにいちゃもんつけてんだ?」

不良2「おいおい姉ちゃんよぉ。声かける相手はよく選んだ方がいいぜぇ?」

女性店員「で、ですが、あの――きゃっ」

不良3「こっちはちゃんと高い金払ってんだぞ? 少しくらい大目に見てくれや」

不良4「まぁ、あんたが色々サービスしてくれるってんなら、話は別だけどな」

女性店員「――――」ピクン

不良1「おいおい、そりゃ店が違うだろ――」ハハ


――バァンッ!


不良4「ぐあっ!?」

不良1&2&3「」

女性店員「…………」ボー

不良4「がぁ……いっ……てぇ」ググ

不良1「……ちょ、トレイでぶっ叩くとか」

不良2「こ、このクソアマッ! いきなり何しやが――ぁ?」

不良3「……あ、あれ?」ググ

不良1「……な、何だこりゃ? 手足が動かねえぞ!?」


――ドゴッ!


不良2「がっ!?」

男子学生「…………」ボー

不良1「2っ! このガキッ! どっから湧いて出て――」


――バキィッ!


不良1「ぐへッ!」ダンッ

不良3「…………」ボー

不良1「くっ、てめえ! 殴る相手が違うだろうが!」

不良3「…………」ググッ

不良1「……ちょ、おい、ま、待て。今度こそ冗談じゃ済まさ――ぐはぁっ!」ガッ

不良1(な、何がどうなって――ていうか、これだけの騒ぎになってるのに)


レジ店員「お会計2160円頂戴いたします」

男「おい、小銭持ってる?」

女「多分あったと思う。ちょっと待って」ゴソ


不良1(何で他の連中は、こっちの異変に気づいてねえんだよッ!)

不良2「……どう考えても尋常じゃねえ。これってもしかして、能力者の仕業か?」

???「ピンポ~ン☆」

不良1「……ッ!」クル


食蜂「先日はどうもぉ。色々お世話になっちゃったわねえ」ツカツカ

食蜂「まだお店にいてくれて良かったわぁ。また探し直すなんて面倒だものね」

不良2「お、お前……あの時の女!?」

不良4「……この状況は、てめえの仕業か」

食蜂「ええ、私の演出力の賜物よ。お店の中にいる人たちには、あなたたちの存在は一切認知されてないわ」

不良1「ば、馬鹿げてる。そんな広域で認識を誤らせることなんてできるわけが」

食蜂「そうそう、自己紹介が遅れたわねぇ。学園都市第五位、食蜂操祈でーす☆」

不良4「第五位……レベル5だと!?」

不良2「だ、だけど、今までそんな素振りはまったく――あの時だって」

食蜂「たまたま体調不良で能力が使えなかっただけよぉ? 本調子ならこんなことも」ピッ


――ゴッ!


不良4「ぐっ!?」グラ

不良2「あがっ!」ガクン

食蜂「朝飯前」ニタァ

不良1「な、殴り合わせた!?」

――ドサッ


不良2&4「」ピクピク

不良1「…………ぁ」カタカタ

食蜂「ええっと、こういうのって何ていうんだったかしら。ダブルノックダウン、であってる?」

不良1「な、何考えてやがる。先の件のお礼参りのつもりか」

食蜂「もちろんそれもあるけど、どっちかといえば本命は別」

食蜂「ほらぁ、あなたたちみたいなのって後々まで根に持つじゃない?」

不良1「……何?」

食蜂「わからない? 私を助けたことがきっかけであの人に迷惑をかけたくないの」

食蜂「せっかく距離が縮まったことだし、このさい邪魔者はきっちり排除しとかないと、ネ?」

不良1「……い、いい気になんなよ? こんだけ舐めた真似して、てめえただで済むと」

食蜂「あらやだ。あなたこそ、まさかこれだけで私の気が済んだとでも思ってるワケ?」

不良1「……あ、あぁ?」

食蜂「うーん、どうせ全部忘れちゃうんだから説明する意味もないんだけどぉ」

不良1「忘れるって、どういう意味だ」

食蜂「あなたたちの頭の中から今日の記憶を消しちゃえば、今何をしたところで問題ないでしょう?」ニタ

不良1「……なん、だと」ゾワ

食蜂「高位の精神系能力者だったら記憶の改竄くらいわけないのよ。ご存じなかった?」

食蜂「たとえば、ここにいるあなたのお仲間の頭をいじって、あなたを性欲の捌け口として見なさせることだって」

不良1(……ッ)ゾゾゾ

食蜂「咄嗟の思いつきにしては妙案かしらね。襲われた側の気持ちが少しは理解できるかもしれないし」

不良1(……こ、こいつ、まともじゃねえ)ブルッ

食蜂「前置きが長くなっちゃったけど――私を襲ったことについて許す気は全くない」

食蜂「それ以上に、あの日の私の記憶を、あなたがたが持っていることは絶対に許さない」

食蜂「言わずもがな、上条さんを害そうとしている連中を放っておく気もない」ジト

不良1「……つ、付き合ってられねえぜ」

食蜂「そうつれないこと言わないで? 今からたっぷりと地獄を見せてあげるから」

食蜂「ゆっくりと、時間をかけて、あなたたちの頭に心的外傷(トラウマ)を深く深ぁく刻んであげる」

食蜂「それが済み次第、私とあの人の記憶を消去する。残るのはいつ受けたかもわからない深刻な心の傷だけ。ご理解いただけたかしら?」

不良1「……しょ、正気かてめえ!」

食蜂「それはすぐにわかるわよ。さあ、早速始めましょうか」ニタ

調理担当「…………」スチャ

不良1(……なんだ? 手に持ってるのは……皮剥き器(ピーラー)か?)

食蜂「来たわね」スッ


――ピッ


不良3「――え、あれ、……俺、いったい?」

不良1「3! 正気に戻ったのか!?」

不良3「……1? え、これ何がどうなって、なんで一緒に飯食ってた2と4がノビて――」

食蜂「ほらほらぁ。時間が押してるんだから、あなたはさっさと手を出す」ピッ

不良3「……!?」サッ


調理担当「…………」ピタ


不良3「……ちょ、待て。……皮剥き器って……じょ、冗談だよ、な?」ブルッ

不良1「――お、おいッ!」クル

食蜂「Lets、早剥きチャレンジ☆」ピッ


――――シャッ!


不良3「い゛ッ――ぎぃやぁあああッッ!!」ガクガク

不良1「~~~~ッ」ゾゾゾ

――ゴクゴクゴク


不良1「ぷはぁっ! だ、誰か、助けっ、助けてくれッ!」ボロボロ

食蜂「まだ2本目でしょう? さぁ、遠慮せずにどんどんいっちゃって」ピッ

不良1「ストレートじゃ無理だ、頼む、勘弁してくれ! こんないっぺんに飲んだら急性アルコ――うぶっ」グビ

食蜂「最初は油とか醤油とか一気飲みさせる気満々だったんですケドぉ? ここは、私の慈悲力に感謝しなくちゃいけないところじゃない?」

不良1(……お、おかしい。これだけ時間が経ってるのに一向に助けが来ねえってことは、まさかこいつの能力は外にまで)

食蜂「はい正解、まだ少しは頭が回るみたいね。意外とお酒強い体質かしら?」

不良1「……かっ、考えていることまで、読めるのか」カタカタ

食蜂「そんなに怯えられるのは心外だわぁ。あなたたちが常日頃からやってることじゃない」

不良1「……俺たちが?」

食蜂「だってあなたたち――」


食蜂「助けてって言われて助けてあげたことなんてないでしょう?」


不良1「……ッ」

不良1(……そうか。頭の中を読めるってことは、以前の記憶まで)

食蜂「私も、さっきあなたたちを見つけた時は、ここまでやる気はなかったのよねぇ」

食蜂「だけど、今は無理。今年だけでこんなにやらかしてたなんて、心底吐き気をもよおすわ」

不良1(……や、やっぱり、こいつは、俺たちのやってきたことを全部)

食蜂「ご丁寧に写真や動画まで記録して、泣き寝入りしている被害者には同情せずにいられない」

食蜂「本当、どうしてやろうかしら。いっそ今すぐそこの車道に飛び込んでもらう?」

不良1「……ま、待ってくれ。お、俺たちが悪かったよ」

食蜂「それとも、セブンスミストの屋上からバンジージャンプする? 命綱はないけど」

不良1「た、頼むから、勘弁してくれよ、な? 何でもする、自首だってする、ほ、本当だ」

食蜂「ふぅん、この期に及んで言うことを聞いたフリして、なんてねぇ。その厚顔力には拍手を送りたいわぁ」

不良1「そ、そんなこと考えてなんか……!」ブンブン

食蜂「――あら、素敵。最寄りの緑地公園に巨大なスズメ蜂の巣があるそうよ?」

不良1「…………ぃ」

食蜂「説明するまでもないかしらね。このお店にいるお客さんの記憶を読み取っただけ」

食蜂「保健局に撤去されちゃう前に、それにしがみ付いてぶら下がってもらうっていうのも乙かしら」

食蜂「運が良ければ生き残れるかもね。どっちにしても、すっごく苦しいだろうけど――――ん?」


警備員A「こちらA、たった今保護対象を確認した」バタン

食蜂「あら、警備員の方々? 誰も通報してないはずなんだけど」

食蜂(ああ、私を探しにきたってこと? そういえば、携帯の電源入れっぱなしだったっけ)

警備員B「……お、おい、この有様は」

不良2&3&4「」グッタリ

不良1「た、助けてくれ……この女が、俺たちを」

警備員A「お、おい、この男子、テの皮が捲れて……」

警備員B「……き、君がやったのか?」

食蜂「だったらどうだっていうのぉ? 今日はお呼びじゃないんだけど」イラ

警備員A「――ッ、街中での能力の使用は禁じられているはずだ! 我々と一緒にご同行願おう」

食蜂「……肝心なときには助けに来てくれないくせに、どうしてそんなに偉そうなのかしらぁ」ボソ

警備員B「……なんだと? いったい何を言って」


――ピッ


警備員A&B「――――」ピクン

食蜂「いいわ。わざわざご登場いただいたんだから、あなたたちにも協力してもらうわね」チラ

不良1「…………ぁ」ボーゼン

食蜂「場所が割れたってことは、あんまりのんびりしてられないわね」

食蜂「一人一人別々の処分方法を考えるのも面倒だし――決めた」

食蜂「ゴミはまとめてゴミ箱にってねぇ」

食蜂「あなたたちには、一人ずつ粗大ゴミの回収車に入ってもらいましょうか」

不良1「…………」カタカタ

食蜂「うん、いい表情よぉ」パァ

食蜂「さぁ、皆さん。この連中を運び出す手伝いを――」スッ


???「食蜂ッ!」


食蜂「……ッ!?」バッ

上条「……はぁっ、はぁっ」ポタポタ

食蜂「……ぁ」

上条「……やっと、見つけたぞ」グィ

食蜂「上……条さん。あ、あなたまでどうして、ここに」

上条「はぁ……はっ……ふぅ」ググ

食蜂「……その汗の量、学生寮からここまで走って来たのぉ?」

上条「んなことはどうだっていい。お前の方こそ、こんなとこで何やってんだよ」

食蜂「それは、えっと、そのぅ」モジモジ

上条「……そいつら、つい先日お前を襲ってた連中だよな」

食蜂「そ、そうよぉ? ひどいのよこいつらったら。さっきも上条さんに報復しようとか相談してて」

上条「……俺のために、こんな目に遭わせたってのか?」

食蜂「べ、別にあなたのためってわけじゃ……その、私だってあれだけのことされたわけじゃない?」

上条「…………」

食蜂「舐められっぱなしでいられるほど、私は温厚じゃないの。だから実力で彼らのやったことの愚かさを」

上条「にしたって、ここまでやる必要はねぇだろがッ!」

食蜂「」ビクッ

上条「なぁ、わかってるはずだよな。お前は悪いやつらに狙われてるかも知れないって」

上条「俺は、お前が寮に戻ってないって聞かされて、ただただお前のことが心配で」

上条「だからいても立ってもいられず部屋を飛び出して、お前さえ無事なら後はどうなろうと構わないって……そう思ってたのに」

食蜂「……か、上条さん」

上条「……なのに、なんだよ、なんなんだよ、なんなんですかこの状況はッ!?」

上条「こんなに大勢の一般人を巻き込んで、あまつさえ犯罪に加担させて、いったいどういうつもりなんだよ!?」

食蜂「そ、そんな! 私は、ただ……」フルフル

上条「……バスを降りないでいいって言ってくれたとき、俺は単に気遣われてるものだと信じて疑わなかった」

上条「その言葉に甘えて、後で寮から不在だって連絡をもらった時、すっげえ自己嫌悪したさ」

上条「俺が目を離したせいで、お前の身に万が一のことがあったんじゃないかって、胸が潰れそうだった」

上条「なのに、当のお前は俺を騙くらかして、こんな復讐ごっこに興じてたなんて、あんまりすぎんだろ」

食蜂「だ、騙すつもりなんて! 誤解よぉ!」

上条「じゃあ一つ聞くけどよ、お前を迎えに来たはずのアンチスキルがこうやって棒立ちになってるのはなんでだよ?」

食蜂「……そ、それは」

上条「支配下に置いてるってわけだ、お前が」

食蜂「だ、だって、この人たちは私の邪魔をしようと」

上条「俺には……もう、よくわかんねぇ。お前のことも、この先お前とどうやって接したらいいかも」

食蜂「な、何よそれ! だいたい、犯罪者に罰を与えることがそんなにいけないこと!?」

上条「学園都市の治安を司っているのはお前じゃない、警備員や風紀委員だろ」

食蜂「お、おめでたいわねぇ。あなた、彼らを信用してるわけ?」

上条「少なくとも、手前勝手な能力者よりは信用できるだろうよ」

食蜂「あ、……あぁそう、それがあなたの答えってわけ?」

上条「……だったら、文句があるってのかよ」

食蜂「彼らが今まで何をやって来たのか、どんなことを考えて生きているのか知らないから」

食蜂「だから、そんな甘っちょろいことが言えるのよ」ズズ

上条「」ゾワ

食蜂「能力開発から落ちこぼれた事実に蓋をし、内在する鬱憤を晴らすために悪事を働き」

食蜂「あまつさえ欲望の捌け口にされて嘆き苦しんでる女の子を見て悦に浸っている、救いようがない連中よ?」

食蜂「……私だって、危うくその一人になるところだった」

上条「それは……」

食蜂「上条さんは、私の言葉を全面的に信用することができないかしら?」

上条「そうじゃねえ! ねえけど……こんなやり方は」

食蜂「こうやって私があなたとやり取りしている最中にだって、色々考えてるみたいよ?」

食蜂「どうにかしてこの窮地を切り抜ける方法はないのか、とか」

食蜂「駆けつけてくれたヒーローの活躍にこうご期待、とかね」クス

上条(……ッ)チラ

不良1「……う、嘘だ! 出まかせだ!」フルフル

食蜂「嘘かどうかがご自分がよくご存じですよねぇ」

食蜂「この場を切り抜けたら仲間総出で、私を再起不能になるくらいいたぶってやるとか」

上条「……お前ッ!」

不良1「ち、違……違う! 俺は……そんな……」

食蜂「反省している風を装いながら、そんなことを企んでるんですよ? 心の深ぁいところで」

食蜂「今まで襲った十数人もの被害者に対して、罪悪感なんかこれっぽっちも感じていない」

食蜂「彼らの頭にある思考は、自分さえよければいい。他人を貶められたらもっといい。その二点に尽きる」

食蜂「それを許せと? 許せるワケないでしょ? 私は、今この瞬間だって」


食蜂「彼らの頭の中で、乱暴されちゃってるんですケド?」ギリ

上条「――――」

食蜂「あの日の続きが、あなたが助けに来なかった、たらればの光景が」

食蜂「その不鮮明な映像が、私には見えているんです」

食蜂「過去、こいつらに乱暴された女の子たちの絶望力に満ちた表情が、見えてるんです」

上条「…………」

食蜂「今彼らを警備員に引き渡したところで、数年で何事もなかったかのように出てきますよ?」

食蜂「一方で、襲われた女の子たちは一生その傷を背負っていくんでしょうね」

食蜂「当事者でも女でもないあなたの尺度だけで語らないでください。はっきり不愉快ですので」

上条「…………」

食蜂「さぁ、わかったらそこをどいてください。彼らには彼らに相応しい罰を与えますから」

上条「…………」

上条「……断る」

食蜂「……上条さぁん、これ以上私を失望させないでくれません?」

上条「……お前の怒りは良くわかる。お前の話が、事実だってことも疑っちゃいない」

上条「正直、俺だって今の話を聞かされて腸煮えくり返ってる」

食蜂「そんな表現じゃ全く足りませんけど」

食蜂「御坂さんのような力があれば、それこそ消し炭にしちゃってるくらいには憤ってますよ?」

上条「……これだけやれば十分だなんて言う気はない。――だけど」

上条「それでも俺は、お前にこんなことをしてもらいたくねえんだよ」

食蜂「……あなた、何様ぁ?」

上条「俺は、食蜂操祈の護衛だ」

食蜂「…………」

食蜂「…………だから?」

上条「俺は、お前の身の安全だけを最優先で考える」

上条「お前の話が事実ならなおさら、こんな連中に関わったって百害あって一利なしだ」

食蜂「だから引き離すってわけ? それじゃあ私の気が晴れないんですけど?」

上条「そうやって鬱憤晴らして、その先に残るもんなんてあるのかよ?」

上条「お前がそうやって能力をひけらかしていたら」

上条「その能力を利用しようと企んだり危険視するやつが絶対に出てくる」

上条「お前の身にこれ以上危険が及ぶようなことはさせない。お前を犯罪者にする気もない」

食蜂「…………今さら」

上条「……?」

食蜂「残念だけど、もう手遅れですよ。私の手は、とっくに血で汚れてますから」

上条「じょ、冗談、だよな?」

食蜂「直接的ではないにせよ、大量殺人の手伝いをしたのは間違いありません」

上条「…………」

食蜂「……あーあ。朝から嫌な予感はしてたのよねぇ」クル

上条「お、おいっ、食蜂! 話はまだ終わって――」ガクン


女性店員「オキャクサマ、ソノバデシバラクオマチクダサイ」ガシ

上条(……っ! 足止めさせようったってこっちにはこれが!)バッ


――キュインッ!


女性店員「あ、あれ? 私、いったい――ッ!」ピッ

食蜂「無駄よぉ。あなたの幻想殺しじゃ、私には絶対に届かない」

上条「待てよ! ちょ、離せって!」ググ

来店客「…………」ガシッ

上条(くそっ、駄目だ! 解除する傍から洗脳されちまうんじゃキリがねぇ! あいつ、一度に何人操ってやがんだ!?)

食蜂「やっぱり距離感って大事よねぇ。踏み込もうとした途端にこの体たらくだもの」ボソ

上条「……食蜂! 待ってくれ! 俺の話を――」


――ピッ!


不良たち「」ピクン

上条「……おまっ、やったのかッ!」

食蜂「ええ。あの日の記憶と、今日の記憶を完全に消去したわ」

食蜂「もっとも、あなたの能力なら元に戻すことなんて簡単でしょうけど」

上条「……どういうつもりだ」

食蜂「言葉通りの意味よ。あなたがその右手で彼らの頭を撫でれば」

食蜂「あなたへの恨みつらみとか、私が襲われてこいつらの前でみっともない格好を晒しちゃったこととか」

食蜂「今日ここで私から受けた仕打ち全てを思い出す。その後、どういった行動に出るかは神のみぞ知るってところねぇ」

上条「……無責任だろ、俺の判断に丸投げするってことかよ」

食蜂「私は、私自身の味方が欲しいと思っただけ。もっというと、その人が味方でいてくれるっていう確信さえあればいい」

食蜂「一時の気の迷いね。何を考えているのかわからない人なんて、本来私には必要ないのに」クス

上条「…………」

食蜂「……帰ります。これ以上そんな憐れむような目で見られるのには、耐えられそうにないですし」クル

食蜂「……それと、明日からは」キュ

食蜂「もう、迎えに来なくていいですから」ニコ

上条「……まッ、食蜂ッ!」ググ


食蜂「それじゃ、上条さん――――サヨウナラ」

>>450 修正
テの皮→手の皮

昨夜分は以上になります。多くの乙と気遣いの言葉感謝です
次回は31日22:00を予定しております

結局上条さんはいつもの綺麗事だが出所後お礼参りされたらどうするの?ということはスルーしたままか

みさきちの記憶消去って消去というより封印に近いんか?
脳から完全に消したら幻想殺しでも復活させれそうにないが

>>471
記憶消去に関しては、脳細胞を直接破壊したわけではないので封印というイメージで書いてます

こんばんわ、投下ですが諸事情により30分ほど遅れます
通話が終わり次第始めますのでご了承ください

展開予想や原作に無関係な雑談、キャラの過度な誹謗中傷はなるだけご遠慮いただきたいですが
その他のことについては何ら問題ありません
かくいう>>1自身、噂の熱膨張をアニメでどう処理するのかwktkしております

――翌日 常盤台中学



上条(遅いな……もう授業はとっくに終わってるはずなのに)チラ


???「――あの女なら、さっき裏口からこそこそ出てったわよ」


上条「……え、って、御坂!」

御坂「ま、長続きしないだろうとは思ってたけど、初日で雲行きが怪しくなるなんてね」

上条「……ま、まだそうと決まったわけじゃ」

御坂「なら、そう思ってますって顔しときなさいよ」

上条「……ぐぬ」

御坂「でも、アンタも災難よねぇ。あんな我儘娘のお守りを押し付けられちゃうなんて」

上条「別に、誰かにやらされてるわけじゃねえよ。俺が好きでやってんだ」

御坂「それにしたって、向こうがそう思ってないと意味ないんじゃないかしら」

上条「……へ?」

御坂「大小の差はあれ精神系能力者ってのは疑り深いらしいわよ? あの女が被害妄想に陥ってないと言い切るのは難しいんじゃない」

上条(……不仲な割に、相手の姿がよく見えてるんだな)

上条「……その、今日の食蜂の様子、どうだった?」

御坂「べつに? 普段通りの優雅なお嬢様をやってたわよ」

上条「……そっか、そんなら」

御坂「もっとも、一人でこそこそ裏口に向かうときだけは、演技の適用範囲外だったみたいだけど」チラ

上条「……う」

御坂「それで? どっちが何をやらかしたわけ?」

上条「……悪い。ちょっと込み入った話なんで、あまり詳しくは――」

御坂「どーせ、アイツが一般人を巻き込んで能力使おうとするのをアンタが必死に止めようとした。そんな構図なんでしょ?」

上条「」ギク

御坂「って、その顔はまんま図星かい」

上条「す、すげえなお前。将来占い師になれるんじゃないか」

御坂「アホらし、あんたら二人のヒトとナリを知ってれば誰だって同じ解答に至るわよ」

上条「……なぁ、御坂。つかぬ事を聞いてもいいか?」

御坂「何よ、改まって」

上条「お前、能力者でいて良かったと思ってる?」

御坂「…………」

上条「……あ、いや、やっぱり」

御坂「いや、正直油断してたわ」

上条「……えっと」

御坂「そういえばアンタって、時折容赦なく古傷抉って来ることもあるのよね」ジロ

上条「す、すまん。考え足らずだった」

御坂「でも、ま、考えようによっては手間が省けたと思えばいいのか。私もいずれアンタに聞こうと思ってたことだし」

上条「……幻想殺しのことか」

御坂「先に聞かれたから、アンタのことは次の機会でいい。でも、私にだけ話させるってのはなしだからね」

上条「……ああ、わかったよ」

――学舎の園 通用路


御坂「――そうね、どちらかといえば悪いイメージの方が多かったかな」

御坂「私も、レベル1の頃には友達が大勢いたの。男の子のやってる遊びが大好きで、缶けりの女王と呼ばれたもんよ」

上条「ありありと目に浮かぶな。お前がいち早く缶にたどり着く光景が」

御坂「ふふっ。――だけどね、レベルが2になり、3になっていくうちに」

御坂「彼らとは自然と疎遠になっていった。いつしか遊びの仲間にも入れてもらえなくなった」

上条「……男ってのは、どんな形であれ女の子に負けるのが我慢ならないっつう、しょうもない生き物だからなぁ」

御坂「……やっぱ、アンタには自覚が足りてないわねぇ」

上条「うん?」

御坂「能力開発の競争にやっきにならないやつこそが、学園都市の異端者だって言ってるの」

上条「……そ、そんなもんかな」

御坂「常盤台への推薦が決まった頃には、レベル1からの付き合いの子は一人もいなかった」

御坂「もっとも、中学に上がってからも、腫物扱いされるまでにはそう時間がかからなかったけど」

上条「やっかみはどこにいっても付き纏う、か」

御坂「そんな簡単な話でもないわ。常盤台に所属する生徒が全員レベル3以上っていうのは知ってるでしょ?」

上条「ああ、どこかで聞いた覚えはある」

御坂「……レベル0からレベル1に上がる苦しみは、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を見出せない苦しみ」

御坂「でもって、レベル3から上位へ引き上げていく際には、未知じゃない。自分自身の限界を突き付けられるの」

上条「……なるほど。数多の天才たちが川底から引き揚げられた砂金のごとく、ふるいにかけられていくわけだ」

御坂「そうね。一口にお嬢様とは言っても、230万人の頂点を目指して死にもの狂いでレベルを上げてきた子たちよ」

御坂「だから、芯の弱い子なんて一人もいない。心のどっかでは、誰もがなにくそって気持ちを抱いてる」

上条「競争意識が高いんだな」

御坂「ええ。それだけに、他人の能力の成長には敏感すぎるくらい敏感なの」

御坂「私が一年の頃には、誰々のレベルが上がったって話が、噂であれ事実に基づく物であれ、そこかしこから耳に入ってきたわ」

御坂「私も、入った当初は周囲に遅れまいとただがむしゃらに上を目指して、それなりに充実した日々を過ごしてたけど」

御坂「超電磁砲なんて大層な代名詞を背負う頃には、新しく出来たはずの友達は周りからいなくなってたっけ」

上条「でも、今は、違うみたいじゃないか?」

御坂「……それは、黒子のおかげね。調子に乗られると困るから、本人には絶対に言わないでほしいんだけど」

上条「へぇ、白井がねぇ」

御坂「あの子がルームメイトになって、その伝手で新しく友達ができて、彼女たちの言動や悩みを間近で見てきて」

御坂「それでやっと、自分の持つ能力と向き合えた気がするのよね」

上条「……じゃあ、質問の答えは」

御坂「良かったかと問われれば、どちらでもないわ。アンタも言ってたじゃない? 能力は所詮、上を目指す過程での副産物だって」

上条(……ん? そんなこと言った覚えは……)

御坂「何より、この能力があればこそ助けられた友達もいるから。そうそう嫌いになんてなれないわよ」

御坂「まぁそれはそれとして、日頃から雑多な感情にかまけすぎてたわね」

御坂「妹たち(シスターズ)の実験に気づくのが遅すぎたことは、後悔の種のひとつ」

御坂「もっと早い段階で気づいてれば、そこには違う未来があったんじゃないか」

御坂「アンタに助けられた今でも、たまにそんな考えが頭に浮かぶわ」

上条「…………」

御坂「人間何かを目指してる時ってのはさ。周りがなかなか見えないものなのよ」

御坂「全力で走ってるとき視界がひどく狭まるように、目の前のことしか考えられなくなる」

御坂「もっとも、ある程度はそれが出来ないと一流ってやつにはなれないのかも知れないけど」

上条「はは、耳が痛いな」

御坂「ちなみにアンタの場合は、周りはよく見えてるけど足元が見えてないのよね」

上条「それは、馬鹿ってことでせうか」

御坂「ご想像にお任せするわ」

――ゲート前


御坂「で、これからどうするつもり?」

上条「どうするって……」

御坂「認めるのも少し癪だけど、あいつは相当な能力者よ?」

御坂「私のときみたいにわかりやすい窮地に陥ってるわけでもないんだし、アンタの助けがなくたって」

上条「それくらい頭の中ではわかってるよ。あいつが100だとして俺を足したところで1増えるかどうかだってのは」

御坂「だったら、どうして傍にいることにこだわってるの?」

上条「一つは、ダチの頼みだから」

御坂「ダチって、友達? そいつに、あの子を守るよう頼まれたの?」

上条「ああ、憎まれ口が絶えないやつんだけど、昔から色々世話焼いてくれてたみたいでさ。これを機に借りを返上しときたいんだよ」

御坂(ん? ……くれてた、みたい)

上条「うん? どうした? 変な顔して」

御坂「……ううん、何でもない。それで、もう一つは?」

上条「……もう一つは」

上条「食蜂の脆さを知っちまったから、かな」

御坂「脆さ? あぁ、まぁ、脆いっていうか、虚弱よね」

上条「お前は、体力並外れてるよなぁ」

御坂「その言い方はちょっと語弊があるわよ?」

上条「んなことねえよ。長距離走で俺を一晩中追い回せるやつなんて、野郎にだってそうそういねぇぞ?」

御坂「そういうことじゃなくって、高位の電撃使いは、誰より自分の体を上手く使えるのよ」

上条「……あん?」

御坂「つまりね。普通の人間って、体を動かすときにはいちいち無駄な負担をかけてんの」

上条「無駄な負担?」

御坂「端的に言えば、本来疲労にもならないはずの運動を、過剰なエネルギーを使って行ってるわけ」

上条「熱すぎるお湯に水を加えてシャワーを浴びるみたいな?」

御坂「そう、窓を開けっぱなしにして冷房を入れるみたいなね」

御坂「その点、生体電流を自在に制御できる私は、それこそ手足から呼吸器系に至るまで、必要最小限のエネルギーで最大効率を出せるって寸法よ」

上条「……なんだそりゃ、チートじゃねえか」

御坂「能力の応用の範疇でしょ。私の能力だって、元々は体の動作を補助するのが目的で……って、そうだ!」

上条「っと、今度はなんだ?」

御坂「一つだけ確認したかったの。あんた、妹たち(シスターズ)のこと、あいつに話してないわよね?」

上条「当たり前だ。あいつ以外にだって話してはねえぞ」

御坂「信じていい?」

上条「第三者に軽々しく話せるような内容じゃない」

御坂「そう、よね。アンタはそういうヤツよね」

上条「……もしかして、食蜂に仄めかされたのか?」

御坂「……うん、量産型能力者(レディオノイズ)計画のことを知っているみたいだった」

御坂「これは私の勘だけど、彼女、学園都市の研究について、およそのことは把握してるんでしょうね」

上条「能力が能力だからな。それだけに――」


『その不鮮明な映像が、私には見えているんです』


上条(知りたくもないことも……いっぱい知っちまってるんだろうな)

御坂「それだけに、何?」

上条「……ああ、いや、いつ何時、誰から狙われてもおかしくないと思ってさ」

御坂「……まぁ、不都合なことを知ってると危惧される可能性は否定できないわね」

上条「洗脳なんて能力は、諜報活動にはもってこいだからな。学園都市がアイツを囲おうとしてたって不思議じゃない」

御坂「……んで? それらのことを踏まえた上で、この先どうするか決めたの?」

上条「……ああ」コク

御坂「その目は、聞くまでもないか」ハァ

上条「陰でこそこそってのも性に合わねえからな。当たって砕けるさ」

御坂「……まー、せいぜい頑張りなさい。んじゃ、私は黒子たちと約束があるから」

上条「ああ、御坂」

御坂「何よ?」

上条「……その、ありがとな」ニコ

御坂「べ、別にいいわよ、こんくらい」プイ

――翌日


食蜂「…………」トボトボ

食蜂「……さすがに、今日は来てないみたいねぇ」キョロ

食蜂(って、これじゃ探してるみたいじゃない。もう、あんな人の事なんか)

食蜂「そうよぉ。以前と元に戻っただけなんだから落ち込むことなんて――」ハァ


上条「わッ!!」バッ

食蜂「きゃわあッッ!!?」ビクゥ


食蜂(あっ、あわっ、わわわ――)グラグラ

上条「っとぉ、危ねっ!」ガシッ

食蜂「……ッ」

上条「ふぅ、間一髪」

食蜂「ちょ、ちょっと! いきなりどういう――」

上条「こらこら、ちゃんと足元には気をつけなきゃあ。怪我しちまったら大変ですよ?」ヘラヘラ

食蜂「……だッ」ムカッ

食蜂(って、いけない。彼のペースにのまれたら駄目よ)ギリッ

上条「あれ、どうしたんですか? 顔が微妙に引きつってますけど、何か悪いもんでも食べました?」

食蜂「…………な、ん」ワナワナ

上条「おお、ナンっていうとアレですか。インドカリーの付け合せで食べる――」

食蜂「~~~ッ、一昨日私が言ったこと、もう忘れちゃったのかしらぁ?」

上条「いやいや。さすがの上条さんもそこまでもうろくしちゃいませんって」

食蜂「……だ、だったら」

上条「確かに、来なくていいとは言われた。だけど来るなって命令はされてねえ。なら俺の意志にお任せってことだろ?」ドヤァ

食蜂「バッ、バカにしてッ! そんな屁理屈が通るとでも――」

上条「どうしても嫌だってんなら、お前の能力で妨害すればいい」

食蜂「……は、ハァーーッ? あんな説教かましておきながらよくそんな台詞――」

上条「いやさ、個人の問題なら手を引くことも考えるけど、これはれっきとした依頼だし」

上条「一度受けた以上勝手にポイポイ放り出すわけにはいかねぇの。ホラホラ、帰りますよ」

食蜂「~~~~ッ」

――学舎の園 通用路


上条「しっかし、一昨日はマジで手も足も出なかったよなぁ」

食蜂「…………」ツカツカ

上条「第三位の御坂をどうにかあしらえてたから、いざとなったらどうにかなると思ってたけど」

食蜂「…………」ツカツカ

上条「あんだけの数で動きを封じられちまったらサジ投げるっきゃねえ」

食蜂「…………」ツカツカ

上条「とにかく、洗脳を解くのに頭を触らなきゃいけねえってのが地味にネックなんだよなぁ。接触ありきの幻想殺しじゃあ」

食蜂「……話しかけないでくれません? 連れだと思われたくないので」ツカツカ

上条「そうつっけんどんにしなさんなって。護衛の必要がなくなったらちゃんと消えっからさ」

食蜂「」イラ

上条「それにしてもさぁ、何でバスに乗ってる時、あいつら発見したことを知らせてくれなかったんだ?」

食蜂「…………」ツカツカ

上条「バスを降りないでいいって言ったのは、すぐにあいつらのところに引き返す気だったからだよな?」

食蜂「…………」ツカツカ

上条「……あのぉ、食蜂さぁん。いつまでぇ、だんまりなんですかぁ?」

食蜂「~~~ッ、だからその喋り方はやめてって――」クルッ


――ぷにっ


食蜂「」

上条「ぷっ……く……」

食蜂「…………は」

上条「い、いや、わり、ごめん。こんな子供だましに、あっさり引っかかるなんて……ぷっ」クク

上条「く、はは、あははは、いやぁ、お前もあんな顔するんだなぁ、まさに唖然っつうか」ケラケラ


食蜂「――――」ブチ


上条「――あ、あれ? ……あのー、食蜂さん? その大きく振りかぶったポーチはいったい――どわ!」ブンッ

食蜂「なんで避けんのよぉッ! きちんと当たりなさぁいッ!」ブンッ

上条「ちょ、当たれってっ、それリモコン入りだろ! 微笑ましい悪戯(ジョーク)じゃ――ひぃッ!?」サッ

食蜂「はっ……はぁ……はぁ……」ダラダラ

上条「そ、そんなくたくたになるまで振り回さなんでも」

食蜂「あ、あなたにだけは言われたく、ないですぅッ!」ブン


――スカッ


食蜂「――ッ!」カクン

上条「ちょ、あぶねぇ!」ガシッ


――ガクン


上条「ふぅ、ぎりぎりセーフ……」ホッ

食蜂「……も、もうっ、なんなのッ、なんなのよぉッ!」ジタバタ

上条「あれだけ振り回して当たらないって……お前、実は運動とか苦手なん?」

食蜂「アナタ本当に何しに来たのぉ!? 私を弄るのがそんなに面白いのかしらぁ!?」ウガァ

上条「と、とりあえず落ち着こうぜ? な? 通りの真ん中じゃ目立つしさ」チラ

短いですが、本日は以上です
シリアス書こうと思ってたのにどうしてこうなった
次回はやや投下量多め、明後日22:00になります、多くの乙と支援感謝です


食蜂「…………」モグモグ

食蜂(クレープ如きで懐柔されるほど安い女じゃないわよぉ。……美味しいけど)

上条「こういうクラシックな街で食べ歩きってのも、なかなか悪くないな」ハム

食蜂「……もっと他に言うことはないのぉ?」ハム

上条「す、すまんかったって。俺もちょこっと悪乗りしすぎたっつうか」

食蜂「……ちょこっと」ピク

上条「い、いや、かなりでしたか。別にお前をからかおうとか、変な意図があったわけじゃなくてだな」

上条「とにかくお前の気を引かねえことには何も始まんねえっつうか」

食蜂「なぁにそれ。苛めっ子アピール?」ジト

上条「そんな冷めた目すんなって。な? せっかくの美人がもったいねえぞ?」

食蜂「歯の浮くような台詞は間に合ってますぅ」ツーン

食蜂「そもそも話し合い自体が無意味じゃない」フキフキ

上条「なんでだよ」

食蜂「だってあなた、私の能力の効力そのものが許せないんでしょ?」

上条「い、いや、さすがにそこまでは言わねえぞ?」

上条「ただほら、無関係な人達を巻き込んだりとか、その上で特定の人間をこっぴどく痛めつけたことについては――」

食蜂「許容できないのよね? だったら物別れってことで解決じゃない」

上条「結論出すの急ぎすぎだっつうの。大体、俺が言ってるのは一般的なモラルの範疇だろ?」

食蜂「他人様に迷惑をかけるな、他人様に暴力を振るうなって?」フン

上条「……まぁ、そうだ」

食蜂「お話にならないわぁ。広域力を発揮して大多数の人間を操れなければ、能力の活用力がひどく狭まってしまうもの」

食蜂「それと同時に成長だって望めなくなる。体に負荷をかけずに筋肉がつく人なんていると思う?」

上条「いや、まぁ、……言ってることはわかるけど」

鳥無しだが…本人だよな?

>>557
失礼、気づきませんでした


食蜂「学園都市という場所において私に価値を与えてくれているのはこの改竄力よ」

食蜂「なのに、あなたはそれを捨てろって言うの?」

上条「だから、そうは言ってねえだろ」

食蜂「あなたの言う一般的なモラルとやらを守れば、自然とそうなってしまうの」

食蜂「モラルを守る精神能力者なんて、無用の長物以外の何ものでもない」

上条「……まるで能力のない自分に価値はないみたいな言い様だな」

食蜂「実際そうだもの。あなたみたいなイレギュラーに私の気持ちなんてわからないわよぉ」

上条「お前の方こそ、俺の気持ちがわかってないじゃないか」

食蜂「それは……当たり前でしょ。その右手のせいで私の能力が――」

上条「そういうこっちゃねえ。俺がお前を必死こいて探してた理由くらい、能力使わなくたってってわかんだろ」

食蜂「……そ、それは」

上条「言っとくけど、能力云々の話は俺の中じゃ二の次だ。俺が今回何より腹立たしかったのは」

上条「お前が自分の身の安全を差し置いて、あいつらを傷つけることを優先したからだ」

食蜂(……ッ)

上条「常盤台に通ってるってことは頭だって俺よりずっといいはずだろ?」

上条「安全の確保されてない場所で当人の傍にいないなら、何のための護衛だよって話になる。違うか?」

食蜂「…………」

上条「今しがたお前は、自分の価値を守ろうと真っ向から反論したけど」

上条「当のお前はあんな行動を取ったことで、自分の身の安全を軽視し、俺の価値を軽視したんだぞ?」

食蜂「……う」

上条「……だから、無事なお前を見て安堵したし、正直落胆もした。心底心配していたからこそだ」

食蜂「…………」

上条「とにかく、今後はこんな真似は勘弁――」

食蜂「そういうあなたは、常日頃から自分の身を省みてるんですかぁ?」

上条「……へ?」

食蜂「トラブルに首突っ込んで、危険な目にあったりしてないって断言できますぅ?」

上条「そ、そりゃあ、もちろん、やばいと思ったら逃げますよ? ええ、どこへだって逃げますよ?」アセアセ

食蜂「歯切れ悪い。ちゃんと私の目を見て話してない」ジト

上条「つ、つーか話挿げ替えんなよ。今問題にしてんのはお前の行動であって」

食蜂「棚上げしてる人に説教されても響かないんですケド?」

上条「ぬぐっ」

食蜂「……仕方ないじゃない。あんな展開になるなんて思ってなかったんだもの」

上条「……あんな展開?」

食蜂「私を襲った連中が、助けに入った上条さんによからぬ思いを抱いてることは予測がついてたから」

食蜂「私の能力で存分に脅してやって、少しは痛い目も見てもらって」

食蜂「あの日の記憶を消した上で解放するつもりだった。最初からあそこまでやるつもりなんてなかったわよぉ」

上条「な、なんだ。やり過ぎたことは自覚してんのか」ホッ

食蜂「やり過ぎたとは言ってないでしょ。学園都市の医療技術があれば皮膚の再生くらい余裕だもの」

食蜂「消毒して皮膚の成長促進剤を縫って抗菌パッチを貼って、骨折なんかよりずっと治りは早いし」

上条「でも、今はこういう状況なんだぞ? せめてバスの中で一言相談さえしてくれりゃ」

食蜂「周りに乗客が大勢いたのに? 聞かれた話を忘れさせるために能力使うなんてこと、あなたが許可してくれたかしら?」

上条「い、いや、それは……」

食蜂「いえ、バスの乗客がいなかったとして、どうにもならなかったわね」

食蜂「あなたはどうしようもないほどに専守防衛の人だから」

食蜂「よっぽどのことがない限り先に自分から仕掛けたりしない。後先考えずに手遅れになるタイプよ」

上条(……ひ、否定できねえ)

食蜂「たとえ連中を見つけたと明かしたところで、止めはしても後押しすることはなかった」

食蜂「それがわかりきってたから、私は」

上条「……じゃあ、お前は、本当に俺のことを心配して」

食蜂「前回否定したのは、胸の内を明かしたところであなたが喜ぶとも思えなかったのと」

食蜂「襲われたことに対する復讐も兼ねていたのは事実だったから、下手な言い訳をしたくなかった」

食蜂「だったら、このまま黙っておこうって」

食蜂「以前私がそうされたように、本人の知らぬ間に、今度は私の手で上条さんを守ればいいって」

食蜂「それで、私は密やかな満足感に浸れてめでたしめでたし――ってなるはずだったのに」

上条「……あいつらが予想以上の犯罪に手を染めてて、歯止めが利かなかったってわけか」

食蜂「……当初考えていた程度の仕打ちじゃ全く足りないと思った、いえ、思わされた」

食蜂「彼らの頭の中にあった被害者の姿が、あまりに悲惨過ぎて」

――ゲート前


食蜂「もしあなたが私と同じ光景を見たとしたら、どうしてたのかしらぁ?」

上条「……正直、何とも言えねえな」ポリポリ

食蜂「幻想殺しさえなければ記憶の一部を見せることも出来たのに、残念ねぇ」

上条「……事情はわかったよ。でも、だったらどうして誤解を解こうとしなかったんだ?」

食蜂「とっくに家に帰ってるはずの上条さんがあの場に現れたから、混乱しちゃって」

食蜂「あの状況を細かく説明できるほど、冷静でもなかったし」

上条「にしたって、護衛の俺を守るとかあべこべだろ? ぶっちゃけ立つ瀬がねえよ」

食蜂「……それは、だって、一方的よりは対等な関係に近づけかったっていうか」ボソボソ

上条「何だ? 声が小さくて聞き取れねえぞ。もっとはっきり」

食蜂「だから、助けられた借りを早く返したかっただけですぅ!」

上条「な、なんでいきなり怒んですか?」

食蜂(守り守られるだけの関係が、これでちょっとは改善されると思ったのにぃ)

食蜂(全部裏目に出ちゃうなんて、あんまりだわぁ)シュン

――常盤台学生寮前


上条(結局、バスに乗ってる間はなんも会話できなかったな)チラ

食蜂「…………」

上条(さすがに言いすぎたか。こと一昨日については、言葉の端々まで気が回ってなかったし)

上条(だけど、周囲に気を配らなきゃいけないってときに、単独行動を取ったことだけは、認めるわけにも)


食蜂「ごめん、なさい」ポツ


上条「……え」

食蜂「……軽率な行動を取って。上条さんに迷惑かけちゃって」ジワ

上条「い、いや、俺のことは、もういいって」

食蜂「……でも、せめて先に寮に一本連絡を入れておけば、心配をかけなくて済んだのに」

上条(……いやぁ、結果だけみてみると、そうとも言いきれねえんだよなぁ)

上条(もしそんな展開だったとしたら寮からの電話は来ることもなく)

上条(俺は何も知れずにインデックスや姫神と一緒にのほほんと飯を食ってたわけで)

上条(つまり、あのスキルアウトの連中は食蜂の拷問じみた仕置に長いこと苦しめられてたのか)

上条(って、結局、どうすれば正解だったんだ?)ウーン

上条(どちらにしても、俺のことを心配しての行動だったってんなら)

上条(これ以上責めようにも責めれねえな。俺自身、日がなお節介を焼いちまってるし)

上条(寮に戻ってたら、奴らが食事を終えてあの場から立ち去ってたかも知れないし)

上条(バスの中じゃ時間的に一から十まで説明する余裕もなかった、となると)


食蜂「……あ、あの」

上条「――だぁぁぁッ!」ワシャワシャ

食蜂「」ビクッ

上条「っし、過ぎたことをうだうだ引きずってもしょうがねえ! そうだな!?」

食蜂「……は、はい?」

上条「仲直りしようってことだよ。ほれ」スッ

食蜂「……えっ……と」キョトン

上条「握手だよ。手を出せって」

食蜂「……怒って、ないんですかぁ?」

上条「お前はちゃんと謝ったじゃねえか。女の子の謝罪に激情で応えるほど俺が狭量な野郎に見えますか?」ニッ

食蜂「…………」ニギニギ

上条「よしっ、これでこの話は終わりだな」

食蜂「…………」ニギニギニギニギ

上条「……ってぇ食蜂さん? もういい加減放してもいいのでは」

食蜂「あ、そ、そうよねぇ」バッ

食蜂「……と、そういえば、彼らの記憶は元に戻したんですか?」

上条「……いや、救急車を呼んでそのまま帰宅した」フルフル

食蜂「ど、どうしてぇ? あんなに消すことに反対していたのに」

上条「ただのパンピーに、誰かを勝手に裁いたり許したりする権利なんてねえよ。そいつは、俺も例外じゃねえ」

上条「あいつらの処遇について明確な回答を持ち得なかったのに、許すとか許さないとかおこがましいだろ」

上条「それに、お前の怯えきった姿を連中が覚えてんのは何となくむかつくから。以上」

食蜂「……あ、そ、そう。できれば、上条さんにも忘れていただきたいんですケド」

上条「そればっかりはなぁ。ま、そのうち記憶喪失にならないとも限らないし、じっくり待つさ」

食蜂(……んー。上条さんって、ジョークのキレは今一つなのよねぇ)

上条「ファミレスでの一件はともかく、一つ収穫はあったな」

食蜂「……収穫、ですかぁ?」

上条「昨日のお前の単独行動中に誰からも襲われたり接触されたりってことがなかった。とどのつまり」

食蜂「取り越し苦労で終わる可能性が高いってこと?」

上条「多分な。本当にお前の身柄を狙ってるやつがいるんなら、あんな絶好のチャンスに動かないはずないし」

食蜂「……そっかぁ」

上条「事件が解決するのも時間の問題だな。数日以内にはカタが付くんじゃないか」

食蜂「……だといいんですけどね」ハァ

上条「で、本題なんだけど」

食蜂「あ、はい」


上条「明後日の休日、お前暇?」

今さらだけど一昨日は寝落ちだったんだよ(禁書風に)
すみませんでした、22:00から続き(30レス前後)投下します

お待たせしました、少し早いですが始めます

――常盤台学生寮食堂


舞夏「そうかそうか、元のさやに納まったかー」ウンウン

食蜂「ええ、謝ったらちゃんと許してくれたわよぉ」パクパク

食蜂(昨日喉を通らなかった晩御飯が、今日は妙に美味しく感じるわぁ)ンフフ

舞夏「ちなみに、上条の誘いは受けたのかー?」

食蜂「それが、間の悪いことに明後日は先約があって」カチャン

食蜂(って、呼び捨て?)

食蜂「土御門さん、もしかして上条さんのこと知ってるのぉ?」ゴクゴク

舞夏「知ってるも何も、よんどころのない仲だぞー」

食蜂「」ブハッ

舞夏「なんて思わせぶりな前振りはお約束ー。ちょっと動揺しちゃったかー?」

食蜂「つ、土御門さぁんッ!」

舞夏「あいつは、そうだな、予備の兄貴って感じかー」

食蜂「……予備ぃ?」

舞夏「何を隠そう、上条は私の兄貴の悪友にしてお隣さんなのだー」

食蜂「あら、土御門さんのお兄さんって上条さんの学生寮に住んでいるの?」

舞夏「うーい。兄貴は何というか、昔から色々忙しい人でなー」

舞夏「数日くらい家を空けたっきりになることも少なくなくてー」

舞夏「私が寮生になるまでの間、ちょくちょく面倒を見てもらったり見てやったりしてたのだー」

食蜂「へぇ、意外と世間って狭いのねぇ」

舞夏「だからって身びいきするつもりもないが、あいつはあれでいいやつだぞー」

食蜂「うん、まぁ、知ってるケド」

舞夏「おぉ、知っちゃってるかー」

食蜂「ふ、深い意味はないわよぉ?」

舞夏「それはそれとして、断れない約束だったのかー?」

食蜂「一度は考えたけど、一か月近く前から予定されていたし」

食蜂「何より、私の派閥内でのお茶会だし、企画してくれたの子の面子を潰すワケにもいかないじゃない?」

舞夏「なるほどなー」

食蜂(能力を使えばなんてことないけど、あんなことがあったばかりだし)

食蜂(先延ばしにすればするほど面倒に感じちゃうのよねぇ)

舞夏「上条にはその辺の事情をちゃんと話したのか?」

食蜂「ええ、あっさり承服してもらえたわぁ。なら、日を改めてって話になって」

舞夏「おぉー、やるなー。あのやぼ天の見本が臆せずデートに誘うとは」

食蜂「ち、違うわよぉ。ただ、一緒にお出かけするだけ」

食蜂(……といいつつも、あの人がそういうつもりなら、それはそれでぇ)フニャ

舞夏「ところで、行き先はもう決まってるのかー?」

食蜂「動物園か美術館を考えてるらしいんだけど、明日までにメールで知らせてくれるって」

食蜂(二人でのんびり落ち着けるところなら、どこでもいいんだけど)フフ

舞夏「食蜂、さっきから顔緩みっぱなしだぞー」

食蜂「そ、そんなことないわよぉ?」ハシ

舞夏「んー、まだ表情にいつもの余裕がないなー」

食蜂「わ、わかりにくいニュアンスで言わないでよぉ。どこを直せばいいのかわからないじゃない」

舞夏「何か意外な感じだなー。もっとしたたかなやつだと思ってたのにー」

食蜂「だって、その、本気での交際なんて経験ないし。マージンたっぷり取っとかないと不安なのよぉ」

舞夏「意外と大胆なやつ。それだと、本気でお付き合いしたいって言ってるふうに聞こえるぞー?」

食蜂「そ、そういうことまでは考えてないってばぁッ!」ワタワタ

舞夏「ともあれ、動物園か美術館か」

舞夏「ふむ、場所的には今のお前にぴったりだ」

食蜂「え? でも、動物園と美術館って共通点があんまり」

舞夏「あるぞー、アミューズメント施設はあれで結構警備が厳しいだろー」

食蜂「……あ」

舞夏「動物園は子供連れが多いから不審なやつが近寄りにくいし、猛獣の扱いもあるから監視体制は厳しめだろ?」

舞夏「美術館も展示されてある物が高額だから言わずもがなだぞー」

舞夏「さらに言えば来客の思考も一極化する。どちらも美しさや物珍しさに感銘を受ける娯楽だからなー」

舞夏「安全面に配慮しつつ周囲の感情を気にする必要もない。グッドチョイスだと思うぞー」

食蜂「そ、そこまで気を配ってくれたのかしら」

舞夏「あいつは灯台下暗しを地で行くやつだからなー。自分以外のことには案外細やかだぞー」

食蜂(あぁ、付き合いのある土御門さんから見ても、そういう評価なのねぇ)

舞夏「そういえば、私に頼み事をしたいって話だったな」

食蜂「……ええ。土御門さんにしかお願いできそうな人がいなくて」

舞夏「お前、悩みを打ち明けられそうな友達いなそうだもんなー」ケラケラ

食蜂「……さらっと胸にクること言わないでほしいんだケド」

――港湾倉庫街


――バチバチバチッ!


警備ロボット「――◆〇※И」ガコン

エツァリ「これで全部ですかね」キラッ

土御門「さすがはアステカの魔術師。大した手際だ」

研究者A「ば、馬鹿な! ……石をかざしただけで無力化されるなんて、有り得ない」

土御門「まっ、こん世の中にはお前らの及びもつかん世界があるってことぜよ」ザッ

研究者B「ひっ、来るな!」

エツァリ「危害を加えようとした人間に対する寛大さは、持ち合わせていませんよ」ザッ

土御門「痛い目に遭いたくなかったら知ってることを洗いざらい吐け。こっちも時間が惜しいんでな」

研究員A「い、いったい何の話だ」

エツァリ「とぼけても無駄ですよ。あなた方が装置の取引をしようと……いえ、もしかしたらもう終えているんでしょうか?」

研究員B「……ッ」

研究員A「ま、待て! 私は本当に何も知ら――」

エツァリ「ああ、すっかり言い忘れていましたが」

エツァリ「こちら、あなたたちの預金通帳です」ピラ

研究員B「……なッ! なんで貴様らがそんなものを!」

エツァリ「紛失届を出した上で再発行させていただきました。ご心配なさらずとも、管理官には許可を頂いてますよ」ニコ

土御門「つまり、お前らが今持ってるカードじゃ口座からの引き落としはできないってことだにゃー」

研究員A「そ、そんなッ! 犯罪じゃないか!」

土御門「ズルをしたのはお互い様だにゃー。騙された方が悪いってのが、お前ら悪党どもの思考パターンだろ?」

研究員B「……く、くそっ。これじゃあなんのために」

エツァリ「理事会に後足で砂をかけて、タダで済むと思う方がおかしいんですよ」

土御門「くく、お前もすっかり忠犬キャラが板についてきたな」

エツァリ「お褒めの言葉恐縮です。上の方々もそう勘違いしてくれれば何よりなんですけどね」

土御門「さて、数時間前に記帳してみたところ、三か月くらい前から口座に不透明な振込みが6回」

土御門「複数のペーパーカンパニーを使っての取引とは、ずいぶんと慎重だな?」

エツァリ「むしろここまでやったのなら、二人に振り込まれる金額と回数もバラバラにしておくべきでしたね」ニコ

研究員A「……く」

土御門「悪いが、こっちも友人を騒動に巻き込んじまってる。あまり優しくはできねえんだ」カチャ

研究員B「ちょっ――ま、待てッ!」


――ダァンッ!


研究員A&B「ひいぃっ!」ビクッ

エツァリ(土御門さん、銃の使用許可はまだ――)チラ

土御門(んなことは、こいつらの預かり知らぬ話だぜい?)ニヤ

研究員A「わ、悪かった。つい、間が差してしまっただけなんだ」

研究員B「絶対能力進化(レベル6シフト)が凍結してからというもの、洗脳装置(テスタメント)開発の関連予算がぐっと減らされてしまって」

研究員A「こ、こんな大事になるとは思わなかったんだ。本当だ!」

エツァリ「……最新の振込日は、盗難騒動の翌日のようですが」

土御門「相手に何も渡してないのに、金だけが振り込まれるってことはあり得ねえよな?」ギンッ

研究員B「そ、それは」ギク

エツァリ「隠すとためになりませんよ? 温厚な僕ならともかく」

エツァリ「隣にいる彼はどんな手ひどい方法を使ってでも聞き出すつもりのようですし」チラ

土御門「オイオイ、こんないい男を捕まえて鬼か悪魔のように言うんじゃねえよ」

エツァリ「ご冗談を、鬼や悪魔に失礼でしょう」

土御門「……ったく、口が減らないやつだ」

研究員A「――こ、これで話せることは全部だ」

土御門「――やはり、取引は存在したか」

エツァリ(――しかし、弱りましたね。これ、アレイスターには絶対に聞かせたくない内容です)

土御門(……同感だ。秘密裏に回収、いや、破壊するしかないぜよ)

エツァリ(しかし、下手に僕たちが動けばほぼ確実に気取られるのでは)

土御門(ああ、どうにかして外部に応援を要請するしかなさそうだな)

エツァリ「……再度確認しますが、譲渡したものと同じ装置を作り出すことは不可能だった。この証言に偽りはありませんね?」

研究員B「あ、ああ、間違いない。あの新型のプログラムは複数のバグを直した際に奇跡的に完成したものだ」

土御門「しかし、そんな逸品をよく手放す気になったな?」

研究員A「既に一度頓挫した計画だし、どちらにしても高位の精神系能力者には及ばないだろう」

研究員B「近々研究からの撤退命令が下されるのは目に見えていた。だから、彼らの申し出は渡りに船で――」


――prrrrr


土御門「……」チラ

エツァリ「ああ失礼、僕のようです」カチャ

エツァリ「海原です。……はい、そちらも終わったんですね」

一方『正直、あンまり気分はよろしくねェけどな』

エツァリ「……何か、トラブルですか?」

一方『話は後だ。あァ、ところでよォ、そこにクソッタレ研究者どもはいンのか?』

エツァリ「クソッタレかどうかはわかりかねますが、二名ほど」

一方「ンなら、合流する前に一つ聞き出しとけ」

エツァリ「何をでしょうか?」


一方「むき出しの脳ミソが試験管内でプカプカ浮いてンのは、いったいぜんたいどういうワケですかってなァ』


エツァリ「――脳ミソ? まさか、人間の?」ヒヤ

土御門「……なんだって?」

研究員A「――ひっ」ビク

エツァリ「地下の研究施設に保管されている脳について、詳細はご存じですか?」ピッ

研究員A「い、いや、それは……」

土御門「隠すとためにならねえってのは、重々承知してるよな」

研究員B「……ぬ、布束っていう研究者のものだって、聞いてる」

研究員A「お、おい! それは機密事項じゃ――」

研究員B「遅かれ早かれバレることだ! だったら今話したところで変わらないだろう」

土御門「手前らで勝手に言い争ってんじゃねえよ。今話してんのはこっちだぜい」

研究員B「……わ、わかった。何が訊きたいんだ」

土御門「その布束さんとやらは、何で脳ミソだけの姿になっちまったんだ?」

研究員B「……絶対能力進化(レベル6シフト)の実験を妨害した罪で拘束されたって。く、詳しい経緯までは知らん」

土御門(おい、海原。絶対能力進化って、一方通行(アクセラレータ)が携わっていた実験のことだよな)

エツァリ(多分、その認識で間違いないですね)

土御門「……その研究者は、どういった素性の人物だ? 面識はあるのか?」

研究員B「かなり以前から洗脳装置の開発の根幹に携わっていたそうだ。私たちと直接的な面識はない」

研究員B「所内の噂では、捕えた後も更新のための情報を聞き出そうと尋問を繰り返していたとか」

土御門「拷問の間違いだろ。それで、全部訊き出した後は用済みってか」

研究員A「学生の身空ながら優秀な研究者で、そのまま処理するのはもったいないって話が内々であって」

研究員A「別のプロジェクトチームがそいつの脳を演算装置代わりにして、より効率の良い装置ができないか試みていたとか――」


――ズダンッ!


研究員A「ひぃッッ!!?」

土御門「……あー、おんしらさすがに調子に乗りすぎだわ。人の命を弄ぶのも大概にしとけよコラ」グググ

研究員A「や、やめっ! ぐる……じ、俺は、何も関、係な――げほっ!」ジタバタ

土御門「まだ一人残ってるんだし――いっそこのままやっちまうか?」ミシミシ

研究員A「が……あ……ぶふっ」ブクブク

研究員B「や、止めてくれ! それ以上やったら本当に――」

エツァリ「土御門さん、越権ですよ。自重してください」トン

土御門「俺はむしろ、お前の落ち着きぶりがムカつくくらいなんだがな」チラ

エツァリ「僕は、これでも合理主義者ですから」

エツァリ「地上を睥睨している奴らに冷や水浴びせる機会をみすみす逃すつもりはありません」

土御門「……小賢しいやつだ。そういう説得の仕方か」バッ

研究員A「――ぐはっ」ドサッ

エツァリ「命拾いしましたね。恩に着てくれてもいいですよ」ニコ

土御門「テメエで言ってりゃあ世話ねえな」

エツァリ「何はともあれ、彼らの身柄は抑えたんです。一度アジトに帰還しましょう」

土御門「……そうするかにゃー。まだ色々訊き出したいこともあるし、二人の到着を待ってから――」


――ズドンッ!


研究者B「…………がっ!?」グラ

エツァリ「――狙撃ッ!?」バッ

土御門「ちぃッ!」

研究員B「――――ゴブッ」ドサッ

研究員A「Bッ!? ……うわッ!」グイッ


――チュインッ!


土御門「くそっ、どっから撃ってやがるッ!」

研究員B「――――ぁ」ピクピク

研究員A「お、おいッ、待ってくれ! あいつまだ生きて――」ズルズル

土御門「もう何をやったところで助からねえよ! いいからとっとと走りやがれッ!」ダッ

研究員A「こ、こんな、嘘だ。……なんで私たちが――――うわッ!」ドサッ

土御門「口封じに決まってんだろうが。ったく、血の巡りの悪いやつだ」

エツァリ「……協力関係にあった研究者を、平然と生きた道具にするような輩ですよ?」

エツァリ「下っ端の安全を順守してくれるなどと、本気で思ってたんですか?」

研究員A「……あ……あぁ」ガク

土御門「海原、お前、狙撃場所は確認できたか?」

エツァリ「死角からの攻撃だったんですよ? 無茶言わないでください」

エツァリ「ただまぁ、第二射までの間隔が早すぎた気もしますね」

土御門「……ふん、少なくとも敵さんは二人以上か」

エツァリ「発砲音は聞こえましたか?」

土御門「いいや。消音機(サイレンサー)付きだったとして、数百メートルは離れていると見るべきだな」

エツァリ「……どうやら、僕たちだけでの鹵獲は無理そうですね。敵が狙撃手だけとも限りませんし、生き証人も」チラ

研究員A「……こ、こんなことになるなんて」カタカタ

土御門「死にたくなかったらこっから一歩も動くな。つうか逃げたら俺が殺す」

研究員A「――わ、わかった」コクコク

土御門(……さて、死体は、あそこか)スクッ

研究員B「――――」

土御門(斜めからだとちょっと見辛い、が)ノビ

土御門(左肩甲骨から侵入して――血溜まりの中心は臍の下辺り)

土御門(二発目の弾痕は……あれだな。地面に残ってる擦過傷から推察すると)

土御門「……斜角からして一匹は四時方向の建築現場にいる。もう一匹は、やや低い位置からの一撃。おそらく南西方向からだろう」チラ

エツァリ「南西って、奥のビルですか。ちょっと遠すぎますね」

エツァリ「こんな展開になるなら、あの二人にこちら側へ来てもらった方がよかったかな」フゥ

土御門「泣き言は後にしろ。俺が先に通りに出る。二十秒以内に狙撃地点の目星をつけろ」

エツァリ「了解。砲火を視認次第、『黒曜石のナイフ(トラウィスカルパンテクートリ)』で狙ってみます」


土御門「んじゃ――――行くぜいッ!」ダッ

――上条宅


配達員「では、こちらにハンコをお願いします」

上条「はい、お世話様っす」

配達員「毎度どうも、またよろしくお願いします!」ペコ


――バタンッ


インデックス「ねえねえとうま。お届け物?」

上条「…………にひっ」

インデックス「と、とうま? その笑顔はちょっといただけないんだよ?」

上条「見ろよインデックス。この大量の手延べ素麺を!」

インデックス「……おおぉッ!」

上条「損保(そんぽ)の糸ほど知名度はなくたって、手延べは外れなしに美味い。今日の晩飯は、鶏素麺だ!」

インデックス「とうま、今日のとうまは後光が差して見えるんだよ!」キラキラ

上条「いいか、これは簡単にしておいしい料理だからお前もちゃんと覚えとけよな」

インデックス「わ、わかったんだよ」コックリ

上条「市販の麺汁の元を薄めて使ってもいいんだが、ここはさっき言ったように鶏肉でダシを取る」

上条「まずは小さな鍋と大きな鍋、それぞれでお湯を沸騰させる」

インデックス「うんうん」

上条「その間に包丁で鶏肉を細かく刻んどく。量はそうだな、二人分なら100gもあれば十分だ」

上条「小さいお鍋が沸騰したら、市販の麺汁をオタマ2、調理酒大さじ1、それから細切れにした鶏モモ肉をささっと投入」

インデックス「おお、簡単なんだよ!」

上条「大きいお鍋は素麺をゆでるためのものだ。こちらも沸騰したら素麺を手早く、扇を開くように投入」

上条「この際、なるべく多めの湯で茹でないと麺同士がくっついて舌触りが悪くなるから注意するんだぞ」

インデックス「任せてとうま! 絶対記憶能力の前に不可能なレシピはないんだよ!」エヘン

上条「どうだ、インデックス?」

インデックス「要領が呑み込めてきたんだよ。解れるように菜箸で混ぜればいいんだね」マゼマゼ

上条「その通り。大体二分弱ってところだな」


――ブクブク


上条「っと、麺汁の方も頃合いかな」カパ

インデックス「わぁ、いい匂い! ピンク色だったお肉もすっかり白くなってるんだよ」

上条「細切れにすれば火も早く通るから、三分くらい沸騰させれば十分だ」

上条「ちなみにダシを取った鶏肉もそのままお椀に入れて食べられるぞ」

上条「それじゃあ、インデックスは麺汁をよそってくれ。俺は素麺をざるに上げて水にさらす」

インデックス「了解なんだよ」

上条「今日の晩御飯は鶏素麺と!」

インデックス「茹でもやし、キュウリ、細切りダイコンのシャキシャキサラダ!」

スフィンクス「ナーオ!」

上条「素麺の薬味にはミョウガとショウガ、それからシソの葉を用意した。お好みで加えてくれ」

インデックス「至れり尽くせりなんだよ」

上条「それじゃ、のびない内に――」

上条&インデックス「いっただきまーすッ!」パンッ


――ズルッ、チュルルルッ、ズゥッ!


インデックス「…………」ムグムグ

上条「…………」ゴックン

インデックス「」スッ

上条「」チャプチャプッ


――ズルッ、チュルルルッ、ズズズズッ!


インデックス「サラダも」パクッ

上条「シソをもうちょい」ヒョイ


――ズルッ、チュルルルッ、チュルルルルンッ!


インデックス「とうま。お汁、少し薄くなってきたかも」スッ

上条「あいよ」パシッ

インデックス「はぁー、お腹いっぱーい」ポム

上条「食った食った。つーか久し振りに聞いたな、その台詞」

インデックス「それはそうだよ。そもそも最近はほとんど一緒にご飯食べてくれてないし」ブスゥ

上条「わ、悪かったよ。しばらくは比較的のんびり過ごせそうだから、夕飯くらいは一緒に食おうな」

インデックス「ほ、本当?」

上条「ああ、たまにこうやって一緒に料理を作るのもいいかもな」

インデックス「うん、そうだね。にしても、鶏肉と素麺がこんなに相性ばっちしとは思わなかったんだよ」

上条「結構美味かったろ」

インデックス「文句なしなんだよ」

上条「以前、一緒に鴨南蛮食いに行ったことあんだろ? あれも肉の旨味が汁に染み出してこそのおいしさだからな」

インデックス「とうまって研究熱心なんだね」

上条(創意工夫を凝らさないと、食卓の侘しさは埋められないんですよ)

インデックス「すぅ……すぅ……」

上条「……ぐっすりだな」フッ

上条「おやすみ、インデックス」スッ


――パサッ


上条「もう少しで冬だしな。いい加減布団、買うかぁ」

スフィンクス「にゃおーん」

上条「てぇ、オイオイ。別にお前のためじゃないんだが」ナデナデ

スフィンクス「なうー」ゴロゴロ

上条「……さてと、とっとと洗い物片して――」


――prrrr


上条「っと、いけね。……ベランダでいいか」キュラキュラ

上条(……土御門か。いい知らせかな?)

上条「はい、もしもーし」


???『――こちら、上条当麻さんの携帯でよろしいですね?』


上条「……その声、土御門じゃねえな。誰だ?」

エツァリ『以前、あなたの前で海原と名乗ったことがあります。覚えておいででしょうか』

上条(……海原――海原)

上条「ああ、思い出したぞ。御坂のストーカーやってた奴!」

エツァリ『……その認識には断固訂正を入れさせていただきたいところですが』

エツァリ『生憎、今はそれどころではない。同僚の土御門さんから言伝です』

上条「言伝? あいつはどうした? 席を外してるのか?」

エツァリ『先にこちらの要件を済まさせてください。まず一つ目、洗脳装置はやはり持ち出されていました』

上条「……なんだって!? 余分にあった装置は回収したはずじゃ」

エツァリ『置き去りにされた二つの装置もフェイクだったということです。装置は、実は八個存在したようですね』

上条「って、まじかよ。たった一つの装置を取引するために、他を犠牲にしたってのか?」

エツァリ『彼らには彼らなりの、よんどころのない事情があったようです。そして二つ目ですが』

エツァリ『持ち出された新型の洗脳装置は、着脱の必要がありません。言い換えれば――』


エツァリ『無線で相手を操れます』


上条「――――ッ」ゾッ

エツァリ『彼の話によると装置の有効射程は少なくとも5m前後はあるのではとのこと」

エツァリ「それから、車のフレーム程度の遮蔽物であれば問題なく干渉波が通過するのでは、ということなので――』

上条「ちょ、ちょっと待てよ。まさか、土御門が電話に出ない理由って……」

エツァリ『…………』

上条「お、おい、何とか言えって!」

エツァリ『……土御門さんは、敵勢力との交戦時に干渉を受け、操られかけました』

エツァリ『ですが、自身の体を傷つけることで辛うじて精神干渉から逃れたようです。経験豊富な彼ならではの判断ですね』

上条「……傷つけるって」

エツァリ『具体的には、三階ほどの高さから下に飛び降りました。今は病院に搬送されています』

上条「転落したのか!?」

エツァリ『ご心配なく、命に別状はありません。彼の能力のことを考慮すれば、任務への復帰は一週間ほどで可能でしょう』

上条「……な、なんだ、驚かすなよ」ホッ

エツァリ『ですが、敵も手の内を明かした以上は形振り構わずに来る可能性があります。ご理解いただけましたか』

上条「……出来る限り警戒レベルを引き上げろってことだな」

エツァリ『話が早くて助かります。その上でもう一つだけ、あなたに留意していただきたいことがあります』

上条「……まだ何かあんのか。もう腹一杯なんだが」

エツァリ『そうおっしゃらずに。ある意味、これまででもっとも重要な忠告ですから』

上条「……なんだ」

エツァリ『あなたもご存知の通り、今までは精神系能力者が攫われるのを防ぐための善後策が講じられてきました』

エツァリ『しかしながら、相手の装置が無線で行える代物だとすれば話は大きく変わってきます』

上条「……、」

上条「……機械での洗脳は、俺の幻想殺しでも打ち消せねえ。つまり、そういうことだな」

エツァリ『そう、すなわちあなた自身が操られてしまう可能性がぐんと高まってしまったということです』

エツァリ『実際にそうなれば、あなたの精神干渉はたとえ心理掌握であろうと解くことができません。他ならぬあなたの右手が打ち消してしまう』

上条「…………」

上条「だけど、土御門は、痛みで自分の意志を取り戻したんだろ?」

エツァリ『そうですが……ショック療法はあまりアテになさらない方がいい』

上条「何か問題があるのか?」

エツァリ『干渉を受けたのがたまたま短時間だったのかも知れませんし、遮蔽物で波が減衰していた可能性だって大いにあります』

エツァリ『要するに、一発勝負で試すには不確定要素が強すぎるんです。それに、周りの人の目に毒ですしね』

上条「……そっか。あくまで最後の手段ってことだな」

エツァリ『よろしいですか。あなたが洗脳されてしまうという事態は』

エツァリ『あなたを頼った土御門さんにとって最悪のシナリオ以上に最悪です』

上条「……お前が身を犠牲にして持ち帰ってくれた情報を無駄にする気はねえ」

上条「それだけ、あいつに伝えといてくれっか」

エツァリ『……承りました。くれぐれもご用心ください』プツ

上条(……なんか、出かけるどころじゃなくなっちまったな)

上条「……不幸だ」

上条(……とりあえず、断りの電話だけでも入れとかないと)ピッピ


――Trrrrrr


食蜂『あ、上条さぁん? 早速かけてきてくれたのねぇ』

上条「夜分遅くにごめんな? 実は今後のことで相談があって」

食蜂『相談なんて。私は上条さんの決めてくれたプランならぁ、どこだってオッケーよぉ?』

上条「……い、いや、それがだな。ちょっときな臭いことに」

食蜂『動物園も美術館も、女の子同士じゃあまり行かない場所だもの。今からすごく楽しみだわぁ』

上条「そ、そうか。いや、喜んでくれているのは嬉しいんだけどさ」

食蜂『早く、当日にならないかしらぁ。って、あはは、私浮かれすぎよねぇ』

上条「……い、いや、そんなことはねえだろ」

上条(や、やばい。話し出すきっかけを見失っちまったぞ)

食蜂『……ねぇ。この一件が終わったら、小旅行って約束、まだ有効?』

上条「あ、ああ、もちろん。忘れてねえよ」

食蜂『良かったぁ! これで今夜はぐっすり眠れそう☆』

食蜂「――ええ――はぁい、おやすみなさぁい☆」ペコ


――ピッ


食蜂「…………」バフッ

食蜂(……えへぇ)フニャ

ルームメイト「あ、あの、食蜂さん?」

食蜂「…………ふぁい?」ギュウウ

ルームメイト「そんなに枕に顔を押し付けたら、窒息しちゃうんじゃ」

食蜂「……ふぁいふぉふでふぅ」ムギュウ

ルームメイト「……そ、それならいいのだけど」

食蜂「…………」


上条『俺もすごく楽しみにしてるよ。じゃあ、四日後に』


食蜂「~~~~ッ」コシコシコシコシ

ルームメイト(よ、よっぽどいいことがあったに相違ないわね)ヒク

先日寝落ち分は以上になります
次回は土曜日の22:00、投下量は未定です

>>1
何このかわいい食蜂さんw

細かいけど、確かエツァリの一人称って「自分」じゃなかったっけ?

>>655
確認してみたらそうでした、ありがとうございます

五分後より投下します
思ったより書き溜め量が少なくになりましたがご了承ください

――調理場


――ガラガラ


食蜂「おはよう、土御門さん」

舞夏「おっす食蜂、ぴったり開始時間十分前か」

食蜂「そりゃあ、私が頼んだ側だしぃ」

舞夏「殊勝な心がけだな。エプロンと三角巾は持参したか?」

食蜂「ええ、料理部の子から借りてきたわよぉ」

舞夏「うーい、ならちゃっちゃと着用してくれー」

食蜂「はーい」ファサ

食蜂(ええっと、腰でリボン結びすればいいんだっけぇ? 小学校以来で全然思い出せないわねぇ)

食蜂「……こ、こんな感じで大丈夫ぅ?」クルリンッ

舞夏「んー、少し結び目が緩んでるなー。ちょっとそのままでいろー」スッ

食蜂「え、ええ、わかったわ」

舞夏「ん、こんなところか」

食蜂「あ、もうできたの? 動いても平気かしら?」

舞夏「問題ないぞ。ひとまず、もう一度さっきのように回ってくれるかー」

食蜂「え? ……ええ、構わないけど」クルンッ


――パシャッ!


食蜂「」

舞夏「おっけー。いい土産ができたー」

食蜂「ちょ、ちょっとぉ! こんなのが私のキャラだと思われても困るんですけどぉ?」

舞夏「お前のファンに見せるだけだから案ずるなー。メイドの守秘義務は議員秘書よりずっと強固だぞー」

食蜂「その程度じゃ安心できないじゃなぁい。そもそも、あなたの学校に私のファンなんているのぉ?」

舞夏「遠くから眺めてる分にはお嬢様然としてるからな。騙されてるやつはかなり多いぞ」

食蜂「……何気にひどいこと言われてる気がするのだけど」

舞夏(しかし、エプロンドレスな食蜂か。よくよく考えてみるとこれって相当なレア物だなー)

舞夏(失血死されても困るし、用法用量を守るよう言い含めておかないとー)

食蜂「あら? 調理器具一式出しておいてくれたのぉ?」

舞夏「それは、どちらかといえば私の都合。慣れた配置の方が教えやすいからなー」

食蜂「料理で位置取りなんていちいち考えてるの?」

舞夏「まな板がどの位置にあるかで手際は大分変わってくる。大量の料理を作る場合、おざなりに出来ない要素なのだー」

食蜂「そっかぁ。考えてみたら、土御門さんたちはいつも何十人分って料理を作ってるんだものねぇ」

舞夏「10秒のロスも積み重なれば数百秒だからな。それだけあればおかずが一品増える」

食蜂「なるほどねえ」

舞夏「ただ、お前の場合はこれといって時間に押されてるわけでもないからな」

食蜂「まずは丁寧に、レシピ通りに作ることを心がける、でしょ?」

舞夏「簡単そうに言うけど、レシピを忠実に再現するのってなかなか手間だからなー」

食蜂「確かに、量や火にかける時間なんかをいちいち揃えるのは大変ねぇ」

舞夏「それにしても……」チラ

食蜂「な、何よぉ?」

舞夏「正直驚いてる。お前がお弁当の作り方を教えてほしいなどと言う日が来るとは、予想もしなかったからなー」

食蜂「まぁ、そうでしょうねぇ」

食蜂(自分自身、こんな心境になるとは思わなかったしぃ)

舞夏「今更確認するのもあれだが、上条に食わせるつもりなんだよなー?」

食蜂「……まぁ、そうなんだけど」

舞夏「それで、ただ腹を満たすだけでいいとか思ってないよな?」

食蜂「当然よぉ。美味しいって言ってもらえるかが重要じゃない?」

舞夏「わかった。短い間とはいえ、教える以上はきちきちっとやらせてもらうぞー」

食蜂「ええ、土御門先生。ご指南のほどよろしくお願いしまぁす」ペコリン

舞夏「お願いされたー」ビシッ

舞夏「昔からの格言として、男子を落とすにはまず胃袋からというものがあるが」

舞夏「上条もその例に漏れず、育ち盛りの男子高校生。生来の不幸も相まって、何かと腹を空かしていることが多い」

舞夏「なので、あいつに好感を持たせるに当たり、手製の弁当での餌付けというのはかなり有効な方策だと思われる、が」

食蜂「」ウンウン

舞夏「ここでひとつネックになるのが、あいつは人並みに料理ができるということ」

舞夏「コック顔負けというほどではないにせよ、来訪者を料理でもてなすに不足しないくらいの腕はある」

食蜂「え、と、そうなのぉ?」

舞夏「少なくとも、未経験者がにわか仕込みで上条以上の味を出すのは、難しいと言わざるを得ないな」

食蜂「うぅ、あなたの口から直接聞くと、結構厳しそうねぇ」

舞夏「とはいえ、悲観するほどのレベルじゃない。他人の作った料理というものは、不思議とそれだけでおいしくなるものだしな」

舞夏「きっちり標準の味を維持すれば十分にダメージを与えられるはずだぞー」

食蜂「私これからいったい何と戦わさせられるのかしらぁ」

舞夏「ぶっちゃけると、あいつの料理が素人料理の域を一向に出ないのは貧乏してるせいだな」

食蜂(……私ですら言葉を濁したことを平然と)ヒク

舞夏「少し言葉が過ぎたか。オブラートに包んでいうなら、使う食材が貧相でしかも変わり映えしないからだ」

食蜂(どうやらそのオブラートには穴があいているようねぇ)

舞夏「それだったら、あいつが普段あまり口にしない物を食べさせればいい、という結論に落ち着くわけだが」

舞夏「高級食材を使うというのは如何にもオリジナリティに欠けるので却下」

舞夏「身近にある割に、意外と男が自分で作らない食べ物。それを絡めたお弁当を作るのだー」

食蜂「話はわかったけどぉ、料理初心者ほやほやの私にどこまでできるのかしらぁ」

舞夏「できなくともやらせるからそこは安心しろー」

食蜂(……解釈の仕方次第ではとても怖い物言いね)ンー

食蜂(確かに、不慣れな料理なんてやめて誰かに代理で作らせちゃうという手もなくはないけど)

食蜂(今回だけは、うん、気持ちの問題ね。罪滅ぼしと、恩返しを兼ねてるんだし)

舞夏「あぁ、ところで、出しておいた宿題はやってきたか?」

食蜂「もちろんよ。お借りした料理の教習本読んで、自分なりに献立考えてきたわぁ」

食蜂「オーソドックスに炊き込みご飯と唐揚げ、それからポテトサラダを添えようかと」

舞夏「確かに定番だが、少し面白味には欠けるなー」

食蜂「べ、別に面白くする必要はないと思うケド」

舞夏「そうか? 三食そぼろでハートを作ったりLOVEって書いたりとか、考えなかったか」

食蜂「やらないわよぉ。そういうキャラじゃないし、普通でいいの。ううん、普通がいいの」

舞夏「んー、蓋を空けたときの上条の顔が色々想像できて楽しそうだと思うんだが」

食蜂「楽しい以前にこっちが恥ずかしいじゃないのよぉ」

舞夏「そんな食蜂の顔を想像する楽しみも出来て二度おいしいじゃないか」

食蜂「それって土御門さんの楽しみでしょう!?」

舞夏「さておき、外で食べるならおにぎりの方が都合がいいな」

食蜂「つまり、炊き込みご飯でおにぎりを作るってこと?」

舞夏「コンビニではしゃけ梅ツナに並んで鶏五目は定番だ。自前で作ると味も格別だぞ」

食蜂「へぇ、そうなんだぁ」

舞夏「炊き込みの具材は検討したか? 鶏肉、アサリシジミ、鮭や鯵、キノコや山菜などベースは多々あるがー」

食蜂「そのことなんだけど、上条さんって嫌いな食べ物はないのかしら」

舞夏「口に入れるものを選べるほど優雅な暮らしはしてないはずだから安心しろー」

食蜂(……そうよねぇ、ケチャップの使い方に突っ込みいれるくらいだもの)ハァ

食蜂「なら質問を替えるわぁ。上条さんの好きな食べ物ってなぁに?」

舞夏「悪食という意味合いではなく、出した料理に対しては常に食いっぷりがいい印象だが?」

食蜂「ふぅん、好き嫌いがないのねぇ」

舞夏「『何が食べたいか』と聞けば『何でもいいぞ』と返す困ったちゃんでもあるー」

食蜂「あー、ふふっ、確かにあの人ならやりそうねぇ」

食蜂「それじゃあ、鶏肉、椎茸、油揚げ、人参、ゴボウ。この五点でいい?」

舞夏「あまり入れすぎても形を保ちづらくなるからな。重要なのは素材の旨味をご飯に染み込ませることだ」

食蜂「あ、ねぇ、どうして炊き込みご飯っていうと鶏肉なのかしら。牛でも豚でもよさそうなものだけど」

舞夏「あぁ、それについては明確な理由があるぞ」

食蜂「たとえばどんな?」

舞夏「肉に含まれる脂肪の融点だ。牛の脂肪は50度以上にならないと溶け出さない」

食蜂「えー、そんなに高いのぉ?」

舞夏「人の口腔内の温度はせいぜい40度止まり。口に入れても脂が溶けないから炊き込みご飯以前に弁当には向かない」

舞夏「それから牛ほどではないにしろ、豚の脂肪も33~46度と融点は高めだ」

舞夏「だから、調理した豚肉や牛肉が冷えると白い油脂が表面に付着することがあるだろ?」

食蜂「あるあるー。あぁ、だから食感がよろしくないというワケなのねぇ」

舞夏「たとえばコンビニ弁当なんかは、レンジで温かくして食べられるから品目としてもありなんだが」

食蜂「冷えたままだと本来の味を損ねちゃうのね」

舞夏「口腔内の温度は体温とあまり差がない。だから、特に牛料理は温めて食べないと肉特有の脂の甘さを感じられない」

舞夏「そういう理由から、牛や豚の脂は人の中に溜まりやすい。なかなか溶けださないから当たり前だな」

食蜂「納得ぅ。ちなみに、鶏肉の融点は何度くらい?」

舞夏「30~32度。だからお弁当には、口に入れたときに味が変質しにくい鶏肉が定番というわけだ」

食蜂「なるほど、盲点だったわぁ。油の溶けだす温度かぁ」

食蜂(言われてみれば、ハンバーグや牛丼なんかは冷めると他の肉料理と比較して美味しさの損耗力が半端ないわねぇ)

舞夏「温かいがご馳走とは、至言だと思う。昔の人は構造を理解できないまでも、本質で物事を捉えてたんだと感心するな」

食蜂(っていうか、メイドって凄いわねぇ。こんな知識をいちいち拾ってるんだものぉ)

食蜂「それじゃあ、次は唐揚げね」

舞夏「一応聞いとくけど、作ったことは?」

食蜂「ないんダゾ☆」エヘン

舞夏「胸を張られても私は男じゃないのであまり喜べないー」

食蜂「普通に威張るなって突っ込みが入るかと思ってたのにぃ」

舞夏「ときに食蜂。お前、年齢を疑われたりしたことないか?」

食蜂「……まぁ、一度くらいはあるかもだけど」

舞夏「だろうなー。私にそれくらいの大きさがあれば、色々できるだろうなー」

食蜂「と、唐突に何を言い出すのよ?」

舞夏「重要なのは何を、誰に、といったところだな。さ、レシピの解説を始めるぞー」

食蜂(……覗きたいような、覗きたくないような)

舞夏「よし、レシピの確認は終了だ」

食蜂「わかったわ。ところで、もうそろそろ十分経つけどぉ」チラ

舞夏「そうしたら炊飯器の蓋を開けて、上に乗っている具材をざっと混ぜ合わせる」

舞夏「一応、蒸気口で火傷しないように注意しろよ」

食蜂「了解よぉ。……う~ん、いい匂い☆」

舞夏「常盤台の炊飯器は優秀だから、具と調味料だけ調整すれば問題ない」

舞夏「握る分だけ皿に取り分けとこう。冷めるのが若干早くなるし」

食蜂「って、これを握っちゃうの? すっごく熱そうなんですけどぉ?」ホカホカ

舞夏「実際熱いぞー。まあ慣れないうちは無理せずに、少し冷ましてからやればいい」

食蜂「ただおにぎりを握るのがこんなに大変だなんて」

舞夏「コンビニのおにぎり製造機は革命的な発明だと思うぞ」

舞夏「そうそう、炊き上がったご飯は米粒をつぶさぬようしゃもじで丁寧に混ぜ合わせる」

食蜂「えっと、腐敗防止のために寿司酢を少々……少々ってどれくらい?」

舞夏「酢飯を作るわけじゃないから大さじ二杯で充分だな。後は両手を冷えた塩水に浸して、ご飯をこうやって」ヒョイ

食蜂「こ、こう? って、熱っつぅ!」バッ

舞夏「こらこら、お前はまだやるな。もう少し冷めてからと言っただろ」

食蜂「何なのこれぇ、触れないじゃなぁいッ! レシピ間違ってるんじゃないのぉッ!?」

食蜂(っていうか、何で土御門さんはこんなの握れるのよぉ!)

舞夏「だから、最初は誰でもそうなるって」パッパッ

舞夏「手早く、皮膚に熱が伝道しない内に、反対の手に放り込む、その繰り返し」ギュッギュ

食蜂「て、手早くったって、ううっ、熱っ! あっつうぃっ!」ポロポロ

舞夏「ご飯零してる零してる」

舞夏「軽いやけどだな。ちゃんと冷やしとけー」

食蜂「うぅ、ヒリヒリするぅ。絶対これ、後で手の皮が剥けちゃうわぁ」ジンジン

舞夏「辛うじて形になったのは一個かー。ま、ローマは一日にしてならずだなー」

食蜂「……予定通り唐揚げの習得に進めなかった。どうしよ、このままじゃサラダが」

舞夏「そうだな、ポテトサラダは断念しよう」

食蜂「って、ええーーッ??」

舞夏「サラダは出来合い品との違いを出すのが難しいから、そこに労力をかけるのはもったいない」

舞夏「彩りと栄養が気になるならミニトマトとオレンジでもあしらっておけばいいだろ」

食蜂「……なんか、失格の烙印を押された気分」ドヨーン

舞夏「押してない押してない」

食蜂「……本当に、三日後までに間に合うのぉ?」グス

舞夏「案外心配性だなー。いいから大船に乗ったつもりでまかしとけー」

食蜂「……うぅ、汗びっしょりぃ」

舞夏「慣れないうちはそんなもんだ。あまり気を落とすなー」

食蜂「……土御門さんって、実は相当凄い人だったのね」

舞夏「私だって最初は苦労したぞ。今は楽しむことを念頭に、食べてもらいたい人をイメージして何とかやってる」

食蜂「イメージ……」

舞夏「誰かに美味しい物を作るには、相手が実際に食べてる場面を想像するんだ」

食蜂「……ええっと」

食蜂(私の場合は、上条さんが食べてるところを、ってことよね。理屈はわかるけど)ウーン

舞夏「普段から料理をしてないんだし、いきなりは難しいかな」

舞夏「百聞は一見にしかずだ。私が今考えていることを覗いてみればいい」

食蜂「……どれどれ?」

――ドドーンッ!


上条『……すげ、これ全部、お前が作ってくれたのか?』

食蜂『そうよぉ、ありがたく頂戴しなさぁい』シレッ

上条『じゃあ早速――うわっ、このおかず滅茶苦茶うまいな!』パクパク

食蜂『ふぅん、そう? なら、作った甲斐も少しはあったかしらね』

上条『ホントありがとうな、食蜂』

食蜂『まったく、こんなので喜ぶだなんて、悲しいまでに安い人ねぇ』

上条『そうかな。毎日お前の料理が食べられたら、どんなに幸せかと思うけど』

食蜂『上条さんったら、そんなこと言ってると、いずれ誰かに勘違いされちゃうわよぉ?』

上条『俺が勘違いして欲しいのは、いつだってお前だけだぜ』

食蜂『えっ――か、上条さん///』


食蜂「ストップ! ストーップよぉ!///」ジタバタ

舞夏「なんだー、ここからが盛り上がるところなのにー」

食蜂「そんな展開有り得ないしぃ! っていうか私そんなに艶っぽい声出さないわよぉ!」

食蜂「それにそれに、私あの人にはそこまで見下した言い方しないし――」

舞夏「どぅどぅ、かかりすぎだぞ。ショクホーミサキ」

食蜂「きょ、競走馬みたいな言い方しないでくれないかしらぁ?」

舞夏「ちっちっち、あながち無関係でもないんだな、これが」

食蜂「……ハ、ハァ? どういうことよぉ?」

舞夏「想像しろー。天候は曇り、馬場はやや重、お前の前にはライバルの先行馬がわんさかいるー」

食蜂「……え? ええと?」

舞夏「出遅れたお前は明らかに不利。最後の直線400メートルで末脚を発揮するには力を溜める必要がある」

舞夏「生半可な根性じゃ上条記念は勝ち残れないぞー。最近は手強い外国産駒も多いからなー」

食蜂「……要するに、上条さんって競争倍率高いってことぉ?」

舞夏「お前が思っているよりはなー。もちろん、お前にそういう気が毛筋ほどもないというなら、余計なお節介だが」

食蜂「…………」ムゥ

食蜂「なんか、うまくはぐらかされた気がする」

舞夏「うまくはぐらかせた気がしないでもない」

食蜂「……まあいいわ。今肝心なのは料理の出来なんだし」

舞夏「今度の日曜日までには間に合わせたいところだな」

舞夏「素材の厳選は、いきなりは難しいと思うが」

食蜂「それこそ、健全な能力の活用法じゃない?」

舞夏「なるほど。さっきのたとえ話も、発奮材料くらいにはなったみたいだな」

食蜂「気があるかはさておいて、戦う前から逃亡なんて私の性に合わないし、それに――」


食蜂(私は決して、出遅れてなんていないはずだもの)


舞夏「ま、そのやる気が三日続けば問題ないな。私も出来る限りフォローしてやる」

食蜂「ええ、頼りにしてるわぁ」ニコ

――最終日


舞夏『本当にすまん。まさかこんなことになるとは』

食蜂「ううん、散々無理を聞いてもらっていたんだし。お兄さんも、好き好んで入院したわけじゃないでしょう?」

舞夏『そう言ってもらえれば少しは救われるが、弁当の方は一人で平気か?』

食蜂「一応、おにぎりも見栄えが悪いなりに握れたし」

食蜂「唐揚げも温度の管理力と引き揚げのタイミングさえ誤らなければ大丈夫」

食蜂「……だと思う」

舞夏『自信持てー。この三日間、本気で頑張ってたんだから』

舞夏『お前は常盤台中学で、土御門舞夏直伝のおにぎりを作れる唯一の女生徒なんだぞー』

食蜂「わかってる。何とか足掻いてみせるわぁ」

舞夏『くれぐれも、包丁と皮むき器使うときは気をつけてなー。どっちかといえばそっちが心配だー』

食蜂「ありがとう。お兄さんの怪我、早く良くなるといいわね」

――パタン


土御門「いいのか? 約束破るのはあまり感心しないぜい?」

舞夏「怪我で入院したことを大切な妹に黙っている兄貴よりマシだろ」ジト

土御門「お、怒ってんのか?」

舞夏「この声と、この顔を見ればわかると思うが」プクー

土御門「いやぁ、そんなに大した怪我じゃねえから心配させるのも悪いかと」

舞夏「兄貴はいっつもそれだな。いくら再生能力が早いからって苦痛は普通に感じるはずじゃないか」

土御門「……わ、悪かったよ」

土御門(……ったく、恨むぜぇカミやん。余計な気ぃ回しすぎだっつうの)

舞夏「……この分じゃ、また一緒に暮らした方が――」

土御門「んなの駄目に決まってるだろ! せっかく繚乱に入れたんじゃないか」

舞夏「ならもう少しご自愛しろ。バカ兄」ギロ

土御門「わ、わかった。そう睨まないでくれって、まじ凹むだろ」

舞夏「それじゃあそろそろ帰るけど、何か不自由はないのか?」

土御門「寝巻一式に歯磨きセットに見舞いの花に携帯ゲーム機。これだけ揃ってれば残り三、四日、文句も出ないぜよ」

舞夏「ならいい。忠告しとくけど、今度同じようなことやらかしたらホントひどいからな」

土御門「ああ、何度も同じことを言うなって」

舞夏「何度も同じことを言わせるな」ジト

土御門「……わかったわかった。ほらほら、遅くなる前に戻れって」

舞夏「……明日も来るからな。勝手に早期退院とかなしだぞ」


――パタン


土御門「…………はぁあぁ」ガックリ


???「いやはや、見透かされてますねぇ」


土御門「――、」バッ

エツァリ「あれがあなたの妹さんですか。健気そうな子じゃないですか」

土御門「ウチの妹が健気で器量よしな天使なんは否定しねえが、立ち聞きとはさすがに趣味が悪いんじゃないかにゃー?」

エツァリ「自分にも妹みたいな存在がいますから。あなたの境遇や心境にいささか感じ入るところがあっただけですよ」

土御門「身内話は後あと。収穫はあったのか?」

エツァリ「一方通行が脅してみたところ、あの研究者、あっさり口を割りました。嘘か真か、木原と名乗る者の差し金のようです」

土御門「……木原って、おいおい」

土御門(学園都市トップクラスの禁則事項じゃねえか)

エツァリ「同時に、いくつか不明瞭だった点が明らかになったので報告しておきます」

エツァリ「食蜂操祈は、洗脳装置の開発に何らかの形で関わっていたようです」

土御門「……やっぱりそうか」

土御門(装置と同系統の能力だから、解析実験に関わってるかもとは踏んでいたが)

土御門(だとしたら、本人もそういう手合いに狙われてることを察していていいはずなんだがな)

エツァリ「調べていくうちに一つ疑問が生じました。量産化計画は洗脳装置なしには有り得なかったはずですよね?」

土御門「そうだな。時系列で整理するなら、絶対進化能力の初期段階と並行して進められてたんだろう」

エツァリ「彼女は、実験の趣旨を理解して協力したんでしょうか?」

土御門「それはないな。何しろここは学園都市だ」

土御門「自分の能力が何に使われるのかは聞かされなかったか、嘘をつかれていた可能性が高い」

土御門「後々になって、開発で能力が強化される過程で騙されていたことを知り、実験を潰そうと動いたと見るのが妥当かにゃー」

エツァリ「なるほど。量産型能力者(レディオノイズ)計画が頓挫したのは――」

土御門「あぁ、彼女の能力開発が予想以上に進んだためだろう」

土御門「そもそも量産型能力者は、恐れを知らぬ有能な兵士を作るためっていうのが表向きの理由」

土御門「だが、食蜂の精神系能力が上昇の一途を辿っていくうちに、新たな可能性が生まれた」

エツァリ「……敵兵そのものの洗脳すら可能ならば、そちらに予算を回した方が有用ですからね」

土御門「薄らと見えてきたな。実験を開始させ、そして終わらせたキーマンか」

エツァリ「振り回された研究者たちの心境や、これいかに、ですね。完全な逆恨みですけど」

土御門「さしずめ今回の騒動の黒幕は、二種の実験に従事した研究者一派か」

エツァリ「やれやれ、未練たらしい男は嫌われるというのが常套なのに」

土御門(……まぁ、あえては言うまい)

エツァリ「しかし、一度凍結された実験が絶対能力進化(レベル6シフト)の呼び水になってしまったというのは」

土御門「皮肉が効いてるという他ないが、それは彼女のせいでも何でもない」

土御門「いくつかの可能性が潰されても、計画に支障が出ないよう並列的に実験を進行してるわけだしな」

土御門「樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)の演算は、個人の思惑如きで覆せるようなもんじゃないぜよ」

土御門(逆に言えば、思惑外の行動を取れば裏をかける可能性もある)

土御門(それを実証し、一方通行を止めたのがカミやんだからな)

エツァリ「そういえば……」

土御門「うん?」

エツァリ「絶対進化能力の実験を止めようとした研究者も、洗脳装置に監修していたという話でしたね」

土御門「……仮に顔見知りだったとして、そいつが脳ミソだけの姿になっちまってると知ったら」

エツァリ「決して穏やかじゃいられないでしょうね。どうやって伝えればいいやら」

――デート当日


食蜂「材料の下ごしらえには苦労したけど……」フゥ

食蜂(炊き込みご飯の仕上がりは、完璧に近いわね)ペロ

食蜂(熱っ……いけど、予め手を冷やしておけば、我慢できないほどじゃ)バッ

食蜂(手のひらで底を、曲げた指で三角を支えて)

食蜂(ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ☆)

食蜂(ど、どうかしら。ちゃんと三角になってる、かな?)ジー

食蜂(一応土御門さんにメールで確認してもらおう――って、手を消毒し直すことになるわね。後にしましょう)

食蜂(そろそろ、油も温まったみたいねぇ)シュウウ

食蜂(予め調味料に漬け込んでおいた鶏肉に万遍なく片栗粉を塗す)パパパパ

食蜂(あとは、油が跳ねないよう、くっつきすぎないようそっと投入☆)ポチャン


――ジュワアアア


食蜂(温度が下がった分火力を少し引き揚げて)カチ

食蜂(後は一定の温度に……うん、おっけーね)ジー

食蜂(菜箸で油から引き揚げたときに衣が十分泡立ち、手に震えがちゃんと伝わったらキッチンペーパーに)

食蜂(……上条さん、ちゃんと喜んでくれるかしらぁ)ポワンポワン

食蜂(って、ダメダメ。最後まで気を抜かないで頑張らないと)ブンブン

今日の投下は以上になります
いつもながらたくさんの乙ありがとうございました
次回は火曜日、22:00の予定です。投下量初回並に多くなりそうですがよろしくお願いします

お待たせしました、五分後より投下を始めさせていただきます

――シャワー室


――ジャアアアァァ


食蜂「ふんふん、ふふふ~ん♪」

食蜂(お弁当の準備、早めに済ませといて正解だったわねぇ)キュッキュ

食蜂(なんてったって、念願の上条さんからのお誘いだもの)チャプン

田八(頭のてっぺんから爪先まで、しっかり身綺麗にしとかなきゃ)バシャッ

食蜂(シャワーだけで済ませてもいいけど……待ち合わせの時間まではまだ余裕あるはずだしぃ)

食蜂(うん、少しだけ温まっておこうかな)


――大浴場


――チャポン


食蜂「はぁぁー……、ふぅ……」トローン

食蜂(一仕事終えた後のお風呂って、芯まで蕩けそうになるわねぇ)クター

食蜂(……あー、そろそろ下着のサイズ変えなきゃダメかしらぁ)

食蜂(最近どうも胸回りがきついのよねぇ)ギュッギュ

食蜂(でもまぁ、昔から大は小を兼ねるって言うしぃ)

食蜂(大きいと色々できるみたいなこと、土御門さんも言ってたものね。よくわかんないケド)ムニ


???「……これ見よがしに揉んでんじゃないわよ」


食蜂「って、あらぁ、誰かと思えば」

御坂「ったく、まさか朝っぱらからアンタと鉢合わせんなんてついてないわね」

御坂(……てか、この差はなんなのよ! むしろコイツが年齢詐称してる可能性に縋りたくなるわ)ジー

食蜂「御坂さぁん、ごきげんよう」ニコ

御坂「…………へ?」

食蜂「あ、もしかして御坂さんもお出かけかしらぁ?」

御坂「……ま、まぁ、そうだけど」

御坂(……な、何、この違和感)

食蜂「ふふ、外に出るには絶好の日和みたいねぇ。頬を撫でる涼やかな風、抜けるような秋の空」

御坂「な、何言っちゃってんのアンタ? 変な物でも拾い食いしたとか?」

食蜂「んもぅ、相変わらずな物言いなんだから」

食蜂「朝っぱらからそんなギスギスしてるとぉ、寄りつく虫も寄りつかないんだゾ☆」ツン

御坂「ちょッ――!?」ゾワワワ

――ガラガラ


食蜂「ふぅ、ちょっと長湯しちゃったかしら」ポタポタ

食蜂(時間は――)

食蜂「うん、まだ全然大丈夫ねぇ」フキフキ

食蜂(ふふーん、見てなさぁい? 今までは年下扱いされっぱなしだったけどぉ)パサッ

食蜂(今日の操祈ちゃんは、一味も二味も違うわよぉ?)ドヤァ

食蜂「――ひくしゅっ!」

食蜂「ううー、さすがにバスタオル一枚でうろうろしてたら風邪ひくわねぇ」シャッ

食蜂(……下着は……さすがに赤や黒を穿く勇気は///)

食蜂(確か、路地裏で助けられた時は、白穿いてたのよねぇ)

食蜂(同じ色しか持ってないと思われるのも癪だしぃ、ピンクが無難かしら)

食蜂(……み、見せる予定なんてないケド)


食蜂「……んっ。流行ものではないけど、まぁまぁ、悪くはないわね」クルッ

食蜂「普段は制服の着用厳守だし、正直私服を選り好みする機会がないのよねぇ」

食蜂「私としたことが失敗だったわぁ。事前に上条さんの好みのタイプとか調べておけばよかったのにぃ」

食蜂「まっ、今日は時間もたっぷりあることだし」

食蜂「上条さんのこと、いっぱいいっぱ-い教えてもらわなくっちゃ」

食蜂「リップはいつものでいいとして……ヘアバンドとかつけていくのも――」

食蜂「っと、いけない、肝心なモノを持っていかないとねぇ」ゴソゴソ

食蜂「念のため、バック以外にも入れておこうかしら。いざというときのために」

食蜂(……いい加減仕掛けて来てもおかしくないし)

食蜂(完膚なきまでに叩き伏せるためにも、万全を期さないとね)

――玄関前


御坂「何なの、そのお嬢みたいな格好は」

食蜂「あら、先に上がったからとっくに出かけたかと思ってたわぁ」

御坂「つーかアンタ、その格好で外に出る気?」

食蜂「ン? 似合ってないかしらぁ?」

御坂「似合う似合わない以前の問題。常盤台は私服での外出禁止でしょ、ルールくらい守ったら?」

食蜂「大丈夫よぉ。少なくともあなたは誰かに告げ口するような人じゃないし」

御坂「今がどういう状況かわかってないとは言わせないわよ。寮監に知れたら――」

食蜂「事件云々の話だったら、上条さんがエスコートしてくれるから心配ご無用よぉ?」

御坂「……ハ、ハァッ!?」

食蜂「そ、そんなに驚かなくてもいいと思うんだケドぉ」

御坂「エ、エスコートって、アンタ、まさか、アイツと一緒に出かけるわけ?」

御坂(え、でも、今日って振替休日じゃ……え? ってことは)


食蜂「そうよぉ。上条さんからお誘いを受けてぇ、今から動物園に行ってくるのぉ♪」キャルンッ


御坂「」

御坂「ど、どういうことよ! アンタ、アイツと仲違いしてたんじゃ」

食蜂「やだ、恥ずかしいわぁ。そこまで知ってたのねぇ」

食蜂「でも大丈夫。あの人度量が大きいから、ちゃんと謝ったら許してくれたわよぉ?」

御坂「あ、そ、そう。……そうなんだ」

食蜂「それよりこの格好。ちょっと露出が少なすぎかしら?」

御坂「え、えと、べ、別に、悪くないんじゃない」

御坂(……確かに、容姿だけなら普通に清楚系よね、容姿だけなら)

御坂(つーか、能力と性格に問題がなかったら完全無欠よね)

御坂(その二つが致命的っていうか、致命傷なんだけど)

御坂(いったい何なのかしらこの状況? そもそもコイツが私に意見を求めてくること自体、不自然な話じゃ――)


――pipi


食蜂「……ッ!」シュバッ

御坂(は、反応早ッ! 運痴のくせに!)

食蜂「あっ、もう到着したんだぁ」フニャ

御坂(……こ、このしまりのない表情――お得意の澄まし顔はどこいったワケ!?)

御坂(この耳でしかと聞いたのに、まだ信じられない。自己中を地で行くあの女が)

         、、、、、、、、、、
食蜂『それじゃあ、遅れると彼に悪いから、またねぇ』フリフリ


御坂(ひ、人を待たせることを気にしたなんて)

御坂(……我ながらひどい字面っていうか、レベルの低い話っていうか)ヒク

御坂(それにしても、アイツが誰かに気を許すなんてこと、最初はあり得ないと思ってたけど)

御坂(いや、今も自覚はないのかもしれない。けど、あの表情は――)


御坂「もしかして本当に気があるんじゃ……」ボソ


黒子「お待たせしました、お姉様!」

御坂「っと、来たわね、黒子」

黒子「さぁ、いつでも、どこでも、黒子の準備は万端ですわよ!」

御坂「……そう、ねぇ、一つ頼みがあるんだけど」

黒子「はい、なんですの?」

御坂「……今日の予定、少し変えてもいいかしら?」

上条(はぁ、土御門が負傷入院してるってときに、いいのかなぁ。こんなことしてて)

上条(とはいえ、電話越しでもわかるほどウキウキされちゃあ、断れってのが無理な話か)

上条(約束破ってまた仲が拗れたら、それこそ収拾つかないし)

上条(護衛をきっちりやり遂げるためにも、少しは食蜂との関係を良好にしておかないと)

上条(って、言い訳じみたこと考えてる時点で、後ろめたさを自覚してる証拠だなぁ)


食蜂「上条さぁん、お待たせー!」タッタッタ


上条「あぁ、来たか――」

上条(………………)ポカーン

食蜂「って、どうしたのぉ? 固まっちゃって」キョトン

上条(………食蜂――――だよな?)ゴシゴシ

食蜂「上条さぁん、ねぇったらぁ」グイグイ

上条「あ、あぁ、ご、ごご、ごめん」バッ

食蜂「大丈夫? もしかして体調悪いとか――」

上条「い、いや、そうじゃない。いつもと印象が違うから、びっくりしちまって」

食蜂「それっていい意味で? 悪い意味で?」

上条「そりゃまぁ……どちらかといえば、いい意味かな」

食蜂「そう、なら良かったっ」

上条「……良かった?」

食蜂「だって私なりに気合入れてきたつもりだしぃ、反応薄かったらがっかりだもの」

上条「……そ、そうか」

食蜂「そっかそっかぁ。上条さん、私に見惚れちゃったんだぁ」クスクス

上条「ま、まぁ、その、ほんのちょっとな」テレ

食蜂(あ、え、あれ? そう返してくるのぉ?///)カァ

上条「それよりいいのか? 常盤台の制服じゃないけど」

食蜂「んもぅ、上条さんまで御坂さんみたいなこと言ってぇ」

上条「いやでも、一応校則で決められてるんだろ?」

食蜂「見つかったところで、私以外の誰にも迷惑はかけないわよぉ」

上条「ったく、お前は言い出したら聞かないからなぁ」

食蜂「……上条さんがどうしてもやめろっていうなら、着替えて来るけど」

上条「……え」

食蜂「あーっ、その反応、本気でそう思ってたってことぉ?」

上条「い、いやぁ、何つうか、はは……」ポリポリ

上条(あ、あれー、おっかしいなぁ。こいつこんな素直なやつだったっけ)

上条「ま、まぁ今日くらいは大目にみるか。ほら、荷物持つから、寄越せよ」バッ

食蜂「……なんか釈然としないんですけどぉ」スッ

上条「ところでこのバスケット、何が入ってるんだ?」

食蜂「秘密よぉ。私がいいって言うまで開けちゃダメ」

上条「んー、中からほのかにいい匂いがするような」ヒクヒク

食蜂「もう、勘ぐらないの」プゥ

上条「はは、悪ぃわりぃ」

上条(……こいつのキャラじゃなさそうだから、正直そんなに期待はしてなかったんだけど)

上条(もうこれはやっぱり、アレに決まりですか? 決めちゃっていいですか?)

上条(手作りだったら、ちょっと、いや、かなり嬉しいっつーか、中身なんだろーな?)ウキウキ

食蜂「ほーらぁ、何やってるのぉ? 時間は待ってくれないわよぉ?」

上条「お、おぅ、んじゃあ……」

上条(――って、いつの間にタクシーを)

食蜂「せっかくの休日まで混雑したバスに揺られたくないもの。たまには、ね?」パチ

上条「」ドキッ

上条(……こ、こいつのウインク、破壊力あるなぁ)

食蜂「第十一学区の動物園正面ゲートまでお願いします」

運転手「あいよ!」

上条「第十一とかあまり行ったことないんだよな。ここからだとどういうルートなんだろ」

運転手「二十二学区、十八学区を経由して向かうのが最短だな。あの辺までならしょっちゅう乗せるよ」

上条(はぁ、タクシーで遠乗りとか、料金メーター見るだけで胃に穴が空きそうですよ)

食蜂「上条さん、心配しなくても私、タクシー券持ってるから」

上条「タクシー券?」

食蜂「んー、小切手みたいなものかしらぁ。金額、乗車区間、使用者名を記入して運転手さんに渡すだけでおっけー☆」

上条「そ、そんなブルジョワチックな物を持ってんのか!」

食蜂「私だって少なからず能力開発で学園都市に貢献してるわけだしぃ、少しくらいのキャッシュバックはあるわよぉ」

運転手「いや、タクシー券使う学生さんなんてのはそういないよ? それ、どっちかっていうと深夜勤務用だしね」

上条「……はは、ですよねぇ」

運転手「こんな美人でデキる彼女がいて、兄ちゃん幸せもんだなぁ」

上条「はは、いやぁ、本当にそうだったらよかったんですけどね」

食蜂(……あら? 今の台詞って、喜ぶべきとこなのかしらぁ?)チラッチラッ

上条「あぁ、そういや、タクシー運転手さんに前々から尋ねたいことがあったんですけど」

上条(俺がタクシー乗る機会なんて、金銭的にほとんどないからな)

運転手「なんだい?」

上条「遠乗りのことです。断ったり断らなかったりとか千差万別みたいですけど」

運転手「あぁ、何か基準や線引きがあるのかって?」

上条「ええ、どこまでなら乗せてどこまではNGとか」

食蜂(うん。言われてみれば、ちょっと気になるかも)

運転手「んー、そうだね。一概には言えないんだけど」

運転手「たとえば俺みたいな個人タクシーだと、過度の遠乗りはまず断るかな」

食蜂「個人タクシーと普通のタクシーって、どこか違うのぉ?」

運転手「まったく違うよ。まず個人タクシーは、10年間無事故無違反って厳しい制約があって」

食蜂「」ギクッ

上条「……ん? どうかしたのか、食蜂?」

食蜂「い、いえ、別に、何でも」タラタラ

上条「……すごい量の汗が現在進行形で流れているように見えるんですが」

食蜂「き、気のせいよぉ」タラタラ

食蜂(あ、あの時の運転手さん、個人、じゃなかったわよね、確か。……うー、思い出せない)

運転手「……えーと、話の続き、いいかな?」

上条「あ、すんません。どうぞ」

運転手「さっき言った条件の他にも、営業所付近の地理や観光案内は完璧にこなせなきゃ駄目だね」

運転手「学園都市なんて場所だと尚更だね。全二十三学区それぞれ特色が全く違うし」

上条「学区の位置と番号も一致しないですからね」

運転手「そう、そうなんだよ。こっちに来てからしばらくはカーナビと睨めっこだったのを昨日のことのように覚えてる」

食蜂「ふぅん、個人タクシーをあまり見かけないのって取得条件が厳しいからなのねぇ」

運転手「それも大きな理由の一つだし、登録台数が地域ごとに限られてるって事情もある」

上条「定数が決まってるんですか」

運転手「そうだよ。ただ、定数が埋まっていることは滅多にないかな。取得の試験も難しめだし」

食蜂「試験もあるんですかぁ」

運転手「道交法と地理の試験がある。内容的には、学園都市の学生さんからすると釈迦に説法みたいなものだろうけど」

上条「ちなみに料金は……」

運転手「料金はあまり変わらないかな。ただ、無事故無違反じゃなきゃいけない分、人一倍安全運転には気を遣うね」

食蜂「じゃあ、刑事ドラマなんかでよく見る、前の車追ってください! とかは」

運転手「一度そういう経験してみたいのはやまやまなんだけどねぇ。追突したら生活がひっくり返るから、厳しいなぁ」

上条「それじゃあ、個人タクシーのメリットってどんな感じですかね?」

運転手「これは知ってる人も多いかもしれないけど、車種が自由に選べる」

上条「あぁ、確かに特徴的な車が多いですね」

食蜂「この車にしたって電動カーだものね」

運転手「加えて、給与制じゃないからあくせくしないで済むのが俺的にはでかい」

上条「登録料は普通に払うんですよね?」

運転手「まぁね。だけど仕事仲間の話をまとめると、やっぱり法人より個人の方が実入りはいいみたいだね」

食蜂「確かに今の話聞いちゃうと、二台止まってたら迷わず個人を選ぶわねぇ」

上条「10年無事故無違反の安心感は大きいからな」

運転手「だろう? とはいえ、学園都市はバスの運賃が高いし、大企業の人もそれなりにいるから」

上条「法人でも稼げる環境は整ってるってわけですね」

食蜂(……知らなかったわぁ。これからはぶっ飛ばさせるの控えないと)ウゥ

上条「今までの話を総合すると、長距離運転はできるだけ控えたい感じですか」

運転手「まぁ、そうだ。いくら乗車料金がたくさん貰えるとは言っても」

運転手「帰りのガソリン代と高速料金まで支払ってくれる人はそういないからね」

食蜂「それに、疲れれば疲れるほど事故の危険も高まるものねぇ」

運転手「そうそう。でも、一番の理由は長距離の乗り逃げが怖いってことだね」

上条「そんなのあるんすか!?」

運転手「話だけならしょっちゅう耳にするよ。東京から大阪まで乗せて、家からお金取ってくるって言ったきり戻って来ないとか」

食蜂「……それはちょっと、笑えないわねぇ」ヒク

上条「色々苦労があるもんだなぁ」

運転手「まぁ、そういうわけで、俺としても長距離運転は――――んっ!?」

上条「ど、どうかしました?」

運転手「……いや、一瞬、ミラーに人が映ったような」

食蜂「人くらい、どこにでもいると思いますけどぉ?」

運転手「ああ、うん、言葉が足りなかった。宙に浮いていたように見えたんだ」

運転手「毎度ありがとう! またご利用よろしく!」プップー


――ブロロロォォォ


上条「なんかフランクな人だったな」

食蜂「お喋りな人だったわねぇ」

上条「……で、さっきの発言だけど、どう思う?」

食蜂「尾行されてる可能性は、ないとは言いきれないわね」

上条「すぐ振り返って確認したけど、影も形もなかったしな」

上条(今ごろ不安になってきたな。やっぱ出かけたのは失敗だったか?)

食蜂「仮に運転手さんの見たのが本当に敵だったとして」

食蜂「尾行を悟らせるくらいにはお間抜けな相手ってことでしょ。心配することもないんじゃない?」

御坂「――ひっくしゅ!」

黒子「あら、お姉様、風邪ですの?」

御坂「ち、違うけど、この時期の瞬間移動って普通に冷えるわね」ブル

黒子「こっちはそうでもありませんの。二人乗りでの長距離は正直くたびれました」フゥ

御坂「あぁそっか。私だけ移動中もじっとしていたようなもんか」

黒子「しかし、呆れたものですわね。いくら休日とはいえ、護衛が護衛対象を外に連れ出すなんて」

御坂「ホントよね。これで本当に何かあったらどうすんのよ」

黒子(……上条さんのことが気になってるのも事実でしょうけど)

黒子(本音の方は、今言った方かも知れませんわね。今日何事かあったら、一番傷つくのは彼でしょうし)

御坂「とりあえず、あんたはそこで休んでて。何か飲み物買ってくるからさ」

黒子「黒子は、今日はスポーツ飲料でお願いしますの」

御坂「了解」

『あら、あの子どこの企業のモデルかしら?』

『くぅー、野郎つきじゃなかったら絶対声かけるのに』

『つーか見せつけるようにくっついてんじゃねえよ、じゃりガキがぁ』


上条(さっきっから周囲からの視線がちくちくと)

上条(てっきり子供ばかりだと思ってたけど、大人もかなりいるみたいだな)

食蜂「んー、ネットでHPの流し見はしたんだけど、こうして案内図見てみるとやっぱ広いのねぇ」

上条(こいつはこいつで、意にも介してなさそうだし)

上条(なんてったって第五位だからな。注目浴びるのには慣れっこか)

上条(にしても、常盤台の制服着てるときはいかにも世慣れした女子学生って感じだけど)

上条(こういうお嬢様然とした服を着てると、清楚さと大人っぽさの兼ね合いがなんとも……)

上条(って、いかんいかん。こいつは年下、あの御坂と同い年で――)ブンブン

食蜂「――ねぇ」

上条「うぉっ!?」ビクッ

食蜂「聞いてるの? 上条さん。どこから回ればいいのかしらぁ?」

上条「あ、あぁ、そうだな。とりあえず、一番近場のアフリカエリアでいいんじゃないか?」

食蜂「アフリカかぁ。うん、じゃあそうしましょう」

上条(ふぅ、超焦った)バックンバックン

上条「そこから北に回ってアジア、アメリカ、アンター……?」

食蜂「アンタークティカ、南極のことよぉ」

上条「そ、そうだったか」

食蜂「上条さんって、もしかして英語苦手な人ぉ?」

上条「面目ねぇ、横文字見るだけでもう駄目でさ」

食蜂「ふふ、一つ弱みを発見しちゃったゾ☆」

上条(嘘は言ってねえ、けど)

上条(さすがに、なぁ。後輩の、しかも女の子の前で全教科苦手です宣言は)

食蜂「ちなみに、上条さんの得意教科って何かしらぁ?」

上条「…………えーっと、だな」

上条(体育と、あれば家庭科……。駄目だ、英検準二級レベルで駄目だ)

上条「あっ、み、見ろよ。あそこの高台で象やキリンに餌あげられるみたいだぞ」

食蜂「へぇー、面白そうねぇ。せっかくだからやっていきましょうかぁ」ニコ

上条「そ、そうだな」ホッ

上条(よかった、何とか話題を逸らせたか)

食蜂(――なーんて思ってそうな顔だけどぉ、そうは問屋が)ウズウズ


舞夏『いい女の条件の一つとして、男の立て方がうまいってのもあるな』


食蜂(って、そうでしたー。あんまり急所を突くのも意地が悪いものねぇ)ペロ

上条(有料かぁ。まぁわかってはいたけど……)

上条(これっぽっちで500円……牛丼大盛りに味噌汁がつくなぁ)

食蜂「てっきり錠剤(ペレット)みたいな餌かと思ってたけど、果物の盛り合わせなんて贅沢力極まれりねぇ」

上条「量は少ないけどな」

食蜂「あまりたくさんあげたらみんなおでぶさんになっちゃうもの。そこは仕方ないわよぉ」

上条(……インデックスさんには絶対に見せられない光景だ)


飼育員「はーい、餌をもらった方はこちらの列に並んでくださーい」

飼育員「器具を渡しますので、餌を挟み込んでから台に上がり、象の鼻の前に差し出してくださいね」


上条「あの形、高枝切りバサミみたいだな」

食蜂「手渡しじゃないのかぁ、ちょっと残念かも」

上条「安全面、衛生面からみて問題あるんだろ。動物刺激することにもなりかねないし」

食蜂「あぁ、それもそうねぇ。ちゃんと私のところまで来てくれるかなー」

食蜂「お待たせ、上条さん。時間かけちゃって――」

上条「…………」

食蜂「な、なぁに? ジロジロ見て……」

上条「お前、意外と優しいとこあんだな」

食蜂「……え」

上条「あまり餌食べれてなかったやつ、ピンポイントで狙ってただろ」

食蜂「あ、あらぁ。バレてたのぉ?」

上条「あげるチャンスが何度かあったのにスルーしてたから、あれって思ってさ」

上条「お前の視線の先追ったら案の定、小さめの象がいたから」

食蜂(……ていうかぁ、よくそんな細かいところまで見てるわねぇ)

上条「いやぁ、さっきの食蜂を目にできただけでも、ここに来た甲斐があったなぁ」

食蜂「た、ただの気まぐれだってばぁ! もう、早く次に行くわよぉ!」プイ

上条「一つ訊いていいか?」

食蜂「なにかしらぁ?」

上条「お前の能力って、動物には使えねえのか?」

食蜂「無理ね。ほとんどの動物は人と脳の構造が違うし、言語力という概念も薄いもの」

上条「脳の構造……言語。――あぁ、なるほど」

食蜂「今の端折った説明で納得できるってことは、上条さんって構築力はあるのよねぇ」

上条「理系の知識だけは、担任の病的な補習のおかげで辛うじて人並みになったからな」

食蜂「病的はないでしょう。せめて献身的って言ったらぁ?」

上条「ごもっとも」

食蜂「……月詠先生、かぁ。いつかあの人にも改めてお礼しなくちゃねぇ」

上条「…………」

上条(今度、小萌先生にそれとなく聞いておかなきゃなぁ。いつボロが出ないとも限らねえし)

上条(一口に忘れるっていっても……事情を知らないやつにとっては相当失礼なことだからな)

上条「今の話の続きだけど、いいか?」

食蜂「どうぞぉ?」チラ

上条「人の言葉は動物には理解させられないってことなのか?」

食蜂「そうねぇ。まず、私たちは日常的に言語力に縛られてるでしょ?」

上条「縛られてる?」

食蜂「たとえば、単純な命令をする場合、何かの動詞が入るわよね」

食蜂「止まれ、進め、開けろ、閉じろ、もっとシンプルに、聞け、従えって具合に」

上条「そうだな」

食蜂「人の脳は右脳と左脳に分かれたことで、直感と理性を混ぜこぜにして行動してるわけ」

上条「つまり、他の動物からすりゃ、人の使う言葉は不可解極まりない?」

食蜂「多分そう。ニュアンス的には、プレーヤーが違うのよ。BDのディスクデータをCDプレーヤーで再生はできないでしょ?」

上条「あー、そういうレベルの問題かぁ」

食蜂「あとは当然、脳に働きかけるわけだから、脳の構造や役割が違うとお手上げよね」

上条「でも、ちょっと待てよ? 犬なんかは『お手』とか『待て』とか、単純な命令ならわかるよな」

上条「それに、歌を覚えるオウムだって世の中にはいるわけだし」

食蜂「それは、視覚情報と聴覚情報から飼い主に褒められる行動を記憶してるだけよぉ。オウムにしたって歌詞の内容まで理解しているわけじゃない」

食蜂「だから、経験による刷り込みと命令とでは意味合いがまったく変わってくるわぁ」

食蜂「私たちは言葉を発するとき、何らかの意味を無意識に乗せてしまっているし」

食蜂「受け取る方も、それを明確なイメージとして認識する。それが言葉のすごいところで、やっかいなところよね」

食蜂「精神能力者も例外じゃないわぁ。究極的には、本人に出来ること、本人が知ってることしかやらせられないの」

上条「イメージ通りに動かす能力じゃない以上、疑似的な生体電気では人以外に通用しないってことか」

食蜂「その認識で間違ってないわ。少なくとも現状ではね」

食蜂「あの、すみませーん」パタパタ

通りがかり「どうしました?」

食蜂「そこで写真を撮っていただきたいんですけれど、お願いしていいですか?」

通りがかり「あぁ、ええ、構いませんよ」

食蜂「ありがとうございます。さ、上条さん」

上条「あ、あぁ」

通りがかり「お二人とも、もう少し左に寄っていただけますか? ちょうど背景にキリンが入りそうなので」

食蜂「了解でーす」ムギュウ

上条「ちょ、食蜂さん、くっつきすぎですよ!?」

食蜂「端で切れたら台無しでしょ? すぐに終わるんだから固いこと言わないのぉ」

上条(いや、でも、腕に、柔らかいものがですね///)ドキッ

通りがかり「いやぁ、お二人とも仲睦まじいですね」

上条「あの、いや、俺たちは――」

食蜂「そう見えるんなら、すごく嬉しいですぅ」パア

上条「お、お前なぁ」アセアセ

通りがかり「あぁ、お二人ともすごくいい表情ですね。それじゃあ撮りますよ、ハイ――」


――パシャッ!

上条「どうも、ありがとうございました」ペコ

通りがかり「いえいえー」ヒラヒラ

食蜂「…………」ンー

上条「いやー、いい写真つーか、らしい写真が撮れたな」

食蜂「……らしいといえば、らしいのかもしれないけど」ムゥ

上条「お前のこんなびっくりした顔初めて見たかも」

食蜂「だ、だってぇ、まさかキリンが間に割り込んでくるだなんて……」

上条「なぁに、まだまだ回る場所はたくさんあるさ。行こうぜ、食蜂」スッ

食蜂(……あ……手)

食蜂「うん、そうね。いっぱい楽しまなきゃ損だものね」

上条「っと、ここはふれあい広場か、まぁ定番っちゃ定番なんだが」

食蜂(ふぅん、柵の中に小動物を放してるのねぇ)

食蜂「……あの柵ずいぶん背が低いけど、飛び越えて逃げてっちゃったりしないのかしら」

上条「係員の人もいるし、慣れてるから平気だとは思うけど」

上条「ハムスターはともかく兎は楽々超えられそうだな」

上条「と、それはともかく、どうする?」

食蜂「……そうねぇ、可愛いし、やってみたい気持ちはあるんだけど」

食蜂(か、噛みつかれないかしらぁ)ビクビク

係員『さぁ、どうぞ触ってみてください。あまり強く抱きしめるとびっくりしちゃうので気をつけてくださいねー』


上条「……おい、おい食蜂」

食蜂「な、なにかしらぁ?」オドオド

上条「いや、そんなに距離取らなくても大丈夫だぞ? こんなにちっこいんだし」

食蜂「で、でも、落としちゃったりしたら大変だしぃ」

子兎「…………」ヒクヒク

上条「赤ちゃんウサギだから片手でだって持てるって。何なら支えててやっから、一度触ってみろって」

食蜂「うぅ……か、上条さんがそこまで言うなら……」ビクビク

食蜂(そぉっと、そぉっと――)

上条「うわっ!」ビクッ

食蜂「きゃわぁッ!?」ビクビクビクゥ

上条「――なーんてな。引っかかった引っかかった」

食蜂「あっ、か、かっ、上条さんひっど――」

係員『ちょっとあなたたち、そんな大声出したら動物たちがびっくりしちゃうでしょう?』

上条「あ、す、すんません!」

食蜂「すみません……って、なんで私までぇ」ジロ

食蜂「…………」プン

上条「困った、すっかり不貞腐れてしまわれた」

食蜂「よ、よくもそんな台詞が言えるわねぇ!」

上条「コラコラ、大声出したらまた怒られちゃいますよ?」

食蜂「ぐっ……後でひどいんだから」


――プニ


食蜂「きゃっ!?」

上条「ほーら、お姉さんにも抱っこしてもらおうな」

食蜂「ちょ、ちょっとぉ」

上条「ほれほれ、もっとしっかり支えてやれって」

子兎「…………」サワサワ

食蜂「……ほ、ほんとだ、暴れないわねぇ」ギュッ

上条「ほらな? 大人しいもんだ」

食蜂「……あはっ、お腹ふかふかしてるぅ、やわらかーい☆」ムニムニ

上条「ふぅ、けっこう色々回ったな」

食蜂「そうねぇ、さすがに疲れたかも。そろそろどこかで昼食に――」


男の子『……グスッ……ヒック、……マ、ママーッ!』


上条「って、ありゃ迷子か。今日の混雑ぶりじゃさもあらんって感じだな」

食蜂「はぁ、やれやれねぇ」ゴソ

上条(――って、まさか)チラ

食蜂「…………」ツカツカ

上条「お、おい、ちょっと待て、食蜂――」ダッ

食蜂「こらぁ、あなた男の子でしょ? そうびーびー泣くもんじゃないわよぉ」ス

男の子「……ふぇ?」

上条(って、あれ? リモコン、じゃない)ピタ

食蜂「さ、早く顔を綺麗にしなさい。すぐにでもお母さんに会わせてあげるから」ニコ

男「ほ、ほんとにママが来てくれるの?」グスッグスッ

食蜂「もちろん、係の人にお願いして放送流してもらえばすぐに見つかるわよぉ」

男の子「……ほ、ほんとにほんと?」

食蜂「……今どきの子って疑い深いのねぇ」

食蜂「お姉さんの言うことが嘘だと思うなら、このお兄さんに聞いてみればいいわぁ?」

食蜂「ねぇ、上条さぁん?」クル

上条「……そうだな。園内全体に呼びかければ、お前のお母さんも気づくはずさ」

男の子「う、うん……」

食蜂「さ、またはぐれたら元も子もないから、しっかり手、握ってるのよぉ?」

男の子「あ、ありがとう!」

上条(ただの杞憂だったか。まだあの日の印象が拭いきれてなかったんだな)ハァ

上条(……つぅか心配して損した。普通に女の子やれてんじゃねえかよ、お前)フッ

母親「コラッ、あれほど勝手に歩き回ったらダメだって言ったのに!」

男の子「ご、ごめんなさい、ママ」エグッ

母親「ありがとうございます、どうもお世話をおかけしました」フカブカ

食蜂「い、いえ、別に、大したことをしたわけではないので」

母親「あなたたち、どちらの学生さん? できればお名前もお伺いして、学校の方にお礼を――」

食蜂「その、あまり大袈裟にしないでください。当然のことをしただけですから」

母親「で、ですけど――」

食蜂「すぐに解決したのは、お母様がすぐ迷子センターに駆けつけてくださったからですし」

上条「――別に、伝えてもいいんじゃないか?」

食蜂「って、上条さん。あなたまで何を――」

上条「感謝の気持ちをないがしろにするのは謙虚とは違うだろ」

食蜂「……へぇ、あなたの口からそういうご立派なセリフが出るんだぁ?」

上条「な、なんだよ、悪いかよ?」

男の子「ありがとー、お姉ちゃーん! お兄ちゃーん!」ブンブン

上条「もうはぐれるなよー!」フリフリ

食蜂「…………」フリフリ

食蜂(ホントにもぅ、どうでもいいところで強引なんだからぁ)ムスッ


係員「ご協力感謝します。さすがは名門常盤台の学生さんですね」

食蜂「たまたま見かけただけですから」

係員「だとしても、そこで困ってる人のために実際の行動に移せる人ってそうはいないですよ」

食蜂(まぁそれは確かに、一理あるけど)チラ

上条「……ん?」

係員「ああ、すみませんでした。長々とお引止めしてしまって」

上条「いえ、とんでもない。お仕事頑張ってください」ペコ

食蜂「…………」トコトコ

上条「……食蜂、あのさ」トコトコ

食蜂「なんでさっき結局、上条さんは名乗らなかったの?」クルッ

上条「……いや、俺はさ……その」

食蜂「レベル0だから、名乗るような名門校じゃないから、なんて言わないわよね?」

上条「い、いやぁ、ははは」ポリポリ

上条(み、見透かされてんなぁ)ヒク

食蜂「劣等感を持つなと言うつもりはないけど、だからって自分の行動に誇りを持たないのはどうなの?」ジロ

上条「か、返す言葉もない」

食蜂「……言葉だけじゃなく、ちゃんと反省してるんでしょうね?」

上条(これもまた、新しい発見だな。真剣に怒ると間延びした言い方が消えるのか)

食蜂「上条さん」

上条「し、してる、むっちゃしてるって」コクコク

すみません、ちょっと限界が来てたっぽいので続きは明日の夕方までに投下します

>>765
当たり前のように訂正
田八→食蜂
どう打っていたか丸わかりですね、特にハチ

――噴水広場


食蜂「……んー、この辺りでいいかしらぁ」ポツリ

上条「あ、あぁ、コアラの檻も見えるし、いいんじゃないか」

食蜂「…………」

上条(……不幸だ。念願のランチタイムだってのに)

上条(あぁ、もう、上条さんのバカバカ!)ポカポカ

食蜂「ちょっとぉ」プニ

上条「って、な、何ですか?///」バッ

食蜂「バスケット、早く寄越しなさいよぉ」

上条「お、そっか、俺が持ってたんだっけ」スッ

食蜂「…………」シュルシュル


――カパッ


上条「――おぉッ、うっまそーッ!」バッ

食蜂「」ピク

食蜂「そ、そぉ? 別に、フツーだと思うけど」モジモジ

上条「つかすっげえ、このおにぎり、炊き込みご飯で作ったのか」

食蜂「え、ええ。でも、おかずは少ないからあまり期待しないでほしいというかぁ」

食蜂「……って、上条さん?」

上条(唐揚げは、まぁ前日仕込みさえしときゃ短時間でもできないことはないが)

上条(炊き込みご飯のおにぎりか。かなり手間かかるよなぁ)ジー

上条(冷や飯をレンジでチンしたって感じじゃねえ。間違いなく今朝炊かれたご飯だ)

上条(米研いで水に浸けて、刻んだ具と一緒に炊き込んで)

上条(握った後で粗熱冷まして、諸々考えると6時起きでも間に合わねえ計算に)

上条「」チラ

食蜂「な、何よぉ? 別に変な物なんて入ってないわよぉ?」

上条(……あー、こいつはもう、あれだなぁ)

上条(ちょっと生意気な後輩の女の子が、わざわざ早起きして作ってくれたってだけで)

上条(感無量っつうか、幸せすぎじゃないっすか!)ジーン


――パンッ!


食蜂「」ビクッ

上条「――いただきますッ!」

食蜂「え、ええ、どうぞぉ」

上条「」ガブッ

食蜂(た、食べた。食べたわぁ!)

上条「」ハグッハグッ

食蜂(……早くも二個目。っていうか、さっきから無心に無言に食べてるけど)

上条「」パクッモグモグ

食蜂(け、結局どうなのよぉ? おいしいの? おいしくないの?)アセアセ

上条「」ゴックン

食蜂「あ、あの、上条さぁん? その、製作者としては、今後のために感想とかぁ――」

上条「はぁー、まいった、絶品」

食蜂「……え」

上条「ほどよく口のなかで解けるぎりぎりの密度だし、飯の一粒一粒までダシの味が染みて」

上条「おにぎりがこんなにうまいもんだとは思わなかった」

食蜂「あ、や……」

上条「こりゃ、唐揚げの方も期待大だな。そっちも早速食っていいか?」

食蜂(やったわぁッ!)ガッツ

食蜂(これっていわゆるあれよねッ!? 最高級の賛辞ってやつよねぇ!?)キラキラ

上条「……あの、おーい、食蜂さーん?」

上条「外はサクッ、中はジューシー……これまた」ホゥ

食蜂「あ、で、でもぉ、これは本のレシピまんまで作っただけだから、あまり胸張れないというか///」テレテレ

上条「調味料の分量まできっちり図ったってことだろ? 目分量でやっちまう俺よりずっとすげえって」

食蜂「ま、まぁ、大変だったことは否定しないけど」

上条「けど?」

食蜂「今の上条さんの食べっぷり見てたら、疲れなんて吹き飛んじゃうかなーって」フニャ

上条「///」キュン

食蜂(……今まで料理はそれとなく敬遠してたけど)

食蜂(こんなに喜んでもらえるんなら、うん、たまに作るのも――)


――本当に?


食蜂(――――)

食蜂(……馬鹿、この期に及んで何考えてるのよ)

食蜂(いくらおいしそうに食べてるからって、おいしいと思っているかはわからない)

食蜂(有難迷惑だと思われちゃうかもしれない。変に調子に乗らない方が)オドオド

上条「あぁ、まじ最高!」ムハァ

食蜂「……もぅ、ほっぺたご飯粒ついてるわよぉ」ヒョイパク

上条「あ、っと、わ、悪い///」テレテレ

食蜂(上条さんに限ってそんなことはないと、全部本音だと信じたい、けど)

食蜂(……この人懐っこい笑顔の裏に、何が潜んでいないかと、疑わずにはいられない)

食蜂(自分の被害妄想だと思いたいけど、世の中にはいるんだもの)

食蜂(うちの子ですと笑顔でご近所に触れ回る裏で、その子を厄介者だと思っていた人たちが)

食蜂(死ぬとわかっている子の前で、表情一つ変えずにデータを記入していた人たちが)

食蜂(……だから、彼だって、無理して食べてるのかもしれない)ギュッ

食蜂(そうよ、おいしいものならよく噛んで、味わって食べるじゃない)

食蜂(掻きこむように食べてるのは、味を感じたくないからかも)

食蜂(まずいから、一刻も早く食べ終わりたいのかも)

食蜂「ね、ねぇ、上条さん」

上条「うん? あれ、お前全然自分の分手つかずじゃないか」

食蜂「あ、う、うん。ちゃんと食べるけど、あなたももう少しゆっくり食べた方が」

上条「おっと、すまん。つい夢中になっちまって」

食蜂「いいの、その……ゴメンナサイ」ボソ

上条「え?」

食蜂「ううん、何でもないわぁ」ニコ

食蜂(……今の反応は、セーフと判断していいのかしら)

食蜂(あはっ……本当、重症、我ながら救えなすぎぃ)

食蜂(未だに、上条さんの心を、どうにかして覗けないかって考えちゃってる)

食蜂(こんな自分が、心底鬱陶しい)

上条「ふぅ、ひと心地ついた。ご馳走さん」

食蜂「あの、昆布茶だけど、飲む?」

上条「おぉ、さんきゅ。こりゃまた渋いチョイスだな」ギュ

食蜂「和食に紅茶じゃチャンポンだしぃ。それより、満足できた?」

上条「んー、正直言うと、少し物足りなかったな」

食蜂(――ッ)

食蜂「え……あ、あの……どこが」

上条「」ゴクン

上条「あぁ、味じゃなくて量の話な? 腹八分目って言葉もあるし、食い足りないくらいが体のためにはいいんだろうけど」

食蜂「あ――な、なんだぁ」ホッ

上条「お前、この分だといい嫁さんになれそうだな」

食蜂「ふふ、上条さんが引き取ってくれるなら、まんざらでもないわよぉ?」クス

上条「……、」フイ

食蜂「あー、ちょっとぉ、何で顔そらしちゃうのぉ?」バッ

食蜂「じー」

上条「」フィ

食蜂「じぃー」クルッ

上条「ま、回り込むなよ」

食蜂「ちゃんとこっちを見なさいよぉ」プン

上条「……さすがっつーか、咄嗟の切り替えしがすげえな、お前」

食蜂「ただの冗談に決まってるでしょー? こんな産廃、引き取ってくれる人なんていやしないわよぉ」

上条「産廃って――嘘でも自分のことそういう風に言うもんじゃねえよ」ムス

食蜂「ふふ、ありがと。そうやって怒ってほしい気分だったの」ニコ

上条「……あ、あのなぁ。純な男心を弄ぶなってーの」

――休憩所2階


御坂「……やっぱり、手作りの差は大きいみたいね」ボソ

黒子「いきなりですわね、何のお話ですの?」

御坂「んーん、気にしないで、こっちの話」

黒子「ならいいですけど。それにしても食蜂さんって」ジィ

黒子「あれほどに感情豊かな面がおありだったんですのね」

御坂「うん、正直驚いたわ。あの鉄面皮がねぇ」

黒子「…………」チラ

御坂「ん、どうしたの?」

黒子「いえ、何と申し上げましょうか」

黒子「お姉様が平然と、あのお二人のやり取りを見守っていますもので」

御坂「嫉妬に狂うんじゃないかって?」クス

黒子「……まぁその、歯に衣着せなければそういう言い方にもなりましょうが」

御坂「そうね、確かに自省すべき点は発見したけど」

御坂「無用の心配はしないことに決めてるから」

黒子「無用、ですの?」

御坂「これはあくまで、今まで散々あいつを追い回してきた私の推測なんだけど」

黒子「……あの、ご自分で言ってて恥ずかしくありませんの?」

御坂「う、うっさいわね! いいから最後まで話を聞きなさい!」

黒子「は、はぁ」

御坂「アイツはあー見えて、妙なこだわりを持っているっていうか、縛られてるみたいなのよ」

黒子「縛られている、とは」

御坂「人助けしようと必死になっている時のあいつは、誰かに特別な感情を持てないみたいなの」

御坂「直列思考だから、自分の感情を優先することができないんでしょうね」

御坂「そのくせそういう自覚がないんだからタチが悪いわ。鈍感というより、呪いに近いかも」

黒子「……なるほど、彼の周囲で誰かが不幸に見舞われている間は」

御坂「ええ、おそらく誰がどんなアプローチを仕掛けたってかわされちゃうわ」

御坂(じゃなかったら、とっくに誰かと付き合ってるはずだもの)

黒子「…………」

黒子(……そのことを認識された上で、お姉様はどうするおつもりなんでしょうね)

御坂「……にしたって、いくらなんでも少しべたべたしすぎね」イライラ

黒子(って、考えるまでもないことですわね。とことん一途なお方ですし)

黒子(彼の周りで不幸が起きなくなるまで、大立ち回りを続けるのでしょうね)クスッ

黒子「戻りましたわ、お姉様」

御坂「――ねぇ、黒子」

黒子「なんですの?」

御坂「あそこの木、何だと思う?」

黒子「木? ……あら、何でしょうね。白い物が大量に付着しているような」

御坂「遠目からだとちょっとわからないわね。近くに行きたいんだけど」

黒子「了解ですの、お手を拝借」シュン


――スタッ!


御坂「っと、これは、全部紙片……カードかしら」

御坂(……木の幹に万遍なく貼ってある。防虫対策ってわけでもなさそうだし――)

黒子「……お、お姉様。それ、この街路樹だけではないようですわ」

御坂「え……って」


石壁&鉄柵&標識「」ビッシリ


御坂「な、何なのこれ! 気持ち悪!」


黒子「……いたずら、でしょうか?」

御坂「にしては、手が込んでるというか、どんだけ手間かかんのよ」

黒子「まぁ、普通はやろうとすら思いませんわね。能力者の仕業と見るのが妥当でしょうけど」

御坂(……んー、全部トランプの格子模様みたいだけど)スッ

黒子「――って、お姉様!?」

御坂「あれ、意外と簡単に剥がせるわね」ペリペリ

黒子「ちょっとお姉様! そんな得体の知れないものを素手で――」

御坂「一枚くらい平気よ。裏がどうなってるか知りたくて」

御坂「って、何か書いてある。何語だろ、これ」

御坂(ロシア語に似てるけど、微妙に違う、それを崩したような)



――ドンッ!


御坂「……った!」

男「…………」ノッシノッシ

黒子「お、お姉様、大丈夫ですの!?」タタッ

御坂「ちょっ、こら! アンタどこ目ぇつけてんのよ!」ウガァ

黒子「しばしお待ちを、相手の格好をよくご覧あそばせ」

御坂「え……あれ、アンチスキル?」

警備員「…………」ノッシノッシ

黒子「防弾チョッキを着ていますし、おそらく間違いないですわ。どうかここは穏便に」

御坂「だとしてもぶつかってきたのは明らかに向こうからよ? 詫びの一言くらいあっても――」

警備員「」スッ

御坂「って、完全無視していきやがった。あんにゃろ」

黒子「うーん……なんだか目も虚ろでしたわねぇ」

御坂「あんな状態で警備なんてできるわけないじゃない。真面目にやれっつぅの」ポイッ

黒子「ちょっとお姉様ぁ。風紀委員の前でポイ捨てとかやめてください」

御坂「……今度会ったらヤキいれてやるわ」

黒子「物騒なことを仰らないで。連日の混雑でお疲れなのかも知れませんし」

御坂「それも含めて仕事でしょ。言い訳にならないわよ、そんなの」

黒子「はぁ、手厳しいですわねぇ」

黒子(どうも、お姉様って警備員にあまり良い印象をお持ちでないような。前々からでしたっけ)

御坂「あー、腹立つ。投書欄に文句の一つでも送ってやろうかしら」

黒子「……まぁ、それはそれとして、もうここにいても仕方がないのでは?」

御坂「仕方ないって、まだあの二人を――」


――キンッ!


御坂「――でも、そうね。少し汗もかいてきたし、化粧室行こうかしら」

黒子「お供しますわ、お姉様ッ!」キラキラ

御坂「今日一番の笑顔でそういうこと言われると、うん、普通に引く」

食蜂「へぇ、じゃあ上条さんも、土御門さんのお兄さんのこと親友だと思ってるのねぇ」

上条「ああ、身を挺して俺の家族を庇ってくれてさ。信頼してる」

上条(……土御門さんのお兄さんって言われると、一瞬こんがらがるな)

食蜂「あなたっていかにもお友達多そうねぇ」

上条「普通だよ。そういうお前こそ、常盤台で最大派閥のトップやってんだろ?」

食蜂「一口に派閥といっても、心を許せる人がそれほど多いわけじゃないし」

上条「まぁ、そういう能力を持ってれば、自然以上に警戒しちまうかもな」

食蜂「……上条さんだって、そんな特異的な能力を持っていたんだから、今までトラブルとかあったでしょう?」

上条「そうだな。いいこともヤなこともな」

上条「でも、納得はしているよ。この能力がなければ絶対助けられなかったやつだっているし」


食蜂「それは、御坂さんみたいに?」


上条「……あぁ。妹たちの一件、知ってるんだったな」

食蜂「……ええ。私の事情にも関わっていることですから」

上条「……少し考えれば、お前と御坂を結びつけるのは簡単だった」

上条「お前がこの前言ってた、大量殺人の手伝いをしたって文言」

上条「お前の能力と洗脳装置(テスタメント)の類似性」

上条「お前は、洗脳装置の開発に携わっていたんだ」

上条「それが絶対進化能力の実験で、御坂の妹たちを死地に駆り立てるために利用された」

上条「だから大量殺人。そういうことなんだろ?」

食蜂「……およそのことは存じているみたいですね」

上条「だったら、お前は御坂と同じ境遇じゃねえか。何も気に病むことはねぇ、利用されていただけだろ」

食蜂「……その肝心の御坂さんは、どういう風に見えました?」

上条「……それは」

食蜂「相当に罪の意識を感じていたはず――――いえ、今もそうなんじゃないですか?」

上条「お前は、御坂に負い目を感じてるのか?」

食蜂「今はありませんよ。トントンですから」

上条「トントン?」

食蜂「彼女がDNAマップを渡したために、私たちは迂遠ながら殺人に関わることになった」

食蜂「並行して、私たちが洗脳装置を開発したために、絶対進化能力の実験が可能になった」

上条(……私、たち)

食蜂「ヨーイドンでスタートしたわけじゃないでしょうけど、御坂さんもひっくるめて私たちは共犯者、そう思ってます」

上条「…………」

食蜂「それから、あなたは私を不安がらせまいと口を閉ざしてたみたいですけど」

食蜂「私、この騒動の概要は当初から把握してますから」

上条「……まぁ、薄々そうなんじゃないかとは思ってたよ」

食蜂「あなたは、この仕事が一筋縄ではいかないものだと知っていたんですよね?」

上条「まぁ、一応」

食蜂「御坂さんの件にしたって、よっぽどのことをしでかしたはずです」

食蜂「そうじゃなければ、あの手の連中が諦めるはずないんです」

上条「……」

食蜂「どうして、なんですか?」

上条「どうして?」

食蜂「どうしてあなたは自らの危険を顧みず、私を、困っている人を助けようとするんですか?」

上条「……まぁた、その質問ですか?」

食蜂「この一週間、あなたの傍にいて、あなたが見返りを気にするような人じゃないのはわかりました」

食蜂「でも、人が行動を起こすときには、そこに何らかの理由があるはずでしょう?」

上条「……多分、聞いたら『何だ』とがっかりすると思うぜ?」

食蜂「それは、教えてくれるってことですね?」

――アンタークティカエリア


警備員A「ったく、こんな場所で襲撃も何もないよなぁ」

警備員B「ぼやくな、これも仕事のうちだ――っと、本部からか」

警備員C『こちら本部。アマゾンのチェックは済ませたか?』

警備員B「既に通過しました。今はアンタークティカを回っているところです」

警備員C『予定通りだな。あとはオセアニアエリアの定時報告だけか』

警備員B「あれ、4班と連絡取れないんですか?」

警備員C『エリア内でGPSは動いているから、近辺にいるのは間違いない。受信に気づかないんだろう』

警備員C『まぁ、今日は来場者もいつも以上に多いから、そうそう滅多なことはあるまい』

警備員B「了解です。引き続き任務を続行します」

エツァリ(……ふむ、特に異常はないようですね)ジィ

エツァリ(警備員もこのペースで巡回していますし、そう簡単に手は出せないはず)

エツァリ(戦闘を織り込んでの監視は、自分より一方通行(アクセラレータ)の方が適しているんですけどね)

エツァリ(無敵の反射も時間制限つき。隙を突かれて洗脳されたらたまったものではありませんし)

エツァリ(にしても、彼も気楽なものです。こんな状況でデートとは)

エツァリ(まぁ、第五位とくっついてくれるなら御坂さんはフリーになるわけだし)

エツァリ(自分としては願ってもない展開ですが――うん?)

エツァリ(……おかしい、何故だ?)キョロ

エツァリ(オセアニアエリアの方だけ人が妙に少なく。……っと、あれは)


――ヒラッ


エツァリ「よっ、と――――これは」パシッ

エツァリ(――人払いのルーン! 魔術側の人間が加わっているのか!)バッ

エツァリ(まずい、これではほとんどの戦力が意味をなさなく――)ピッピッピッ

一方通行「はァい、もしもしィ――――あン、動いただァ?」

一方通行「――ヘイヘイ、時間制限ね。わァったわァった、ンじゃな」パチン

一方通行「つうワケでここでお開きだ。悪ィなクソガキ」チラ

打ち止め「やっぱりお仕事入っちゃったの、ってミサカはミサカは全身から滲み出るガッカリ感をアピールしてみたり!」ガッカリ

一方通行「今日はもう充分回れただろォ。んじゃあ結標、そいつの面倒ヨロシクゥ」

結標「待ちなさい」

一方通行「あン?」

結標「海原があれだけ取り乱すってことはヤバイ事態でしょ? 時間短縮のために私も一緒にいった方が――」

一方通行「お断りしまァす」

結標「な、なんでよ!」

一方通行「お前が洗脳されちまったら警備も意味をなさねェ。合図があるまで大人しくしとけ」


――ギュンッ!


結標「あっ、ちょっと! って、あぁもう!」ダンッ

打ち止め「あ、あの、あの人のことあまり怒らないであげてほしいな、ってミサカはミサカは目を潤ませて懇願してみる」ウルウル

結標「あー、ごめんね打ち止めちゃん。別に本気であいつに腹立ててるわけじゃないから」

結標(はぁ、敵が目と鼻の先にいるってのに手出しできないのって、思った以上にストレス溜まるわねぇ)イライラ

すみません、電話中です、たぶんその後晩御飯です
絶対今日中に切れ目まではいきますので

中座失礼しました、再開します

――オセアニアエリア


上条「そう、だな。さっきお前、餌をあげる象を選んでただろ?」

食蜂「え、ええ、それが?」

上条「それはつまり、お前があの象に共感したからだ」

上条「一人だけ餌を食べれないことの辛さを知っていたか想像するかして」

上条「辛さを癒すために、和らげてやるために、今できる精一杯のことを選択した」

上条「以上、説明終了☆」ピッ

食蜂「……それで納得すると思ってるぅ?」イラ

上条「あー、やっぱ無理?」テヘ

食蜂「私、からかわれるのって決して好きじゃないんですケド」

食蜂「だいたい、あなたの場合はそういうレベルを明らかに逸脱――」

上条「ま、ま、焦るなって。今のは理由その一ってとこだ」

上条「実は俺さ、昔から運が悪いんだよ」

食蜂「また、関係なさそうな話ねぇ」

上条「言っとくけど、星回りが悪いってレベルじゃねえぞ? 泣きっ面に蜂が殺到するとか、そんな感じ?」

食蜂「そ、それはそれでおぞましいわねぇ」

上条「とどのつまり、病的に不幸なわけだな。そのエピソードだけで自伝が何冊も書けそうなくらいには」

食蜂「…………」

上条「で、とある女の子によると」

食蜂「女の子?」ピクリ

上条「い、いちいち単語に反応するなって。とにかく、そいつによるとだな」

食蜂「その子、可愛いの?」ジト

上条「ま、まぁまぁ? って、話が進まないだろ?」

食蜂「ああ、ごめんなさい。――そう、可愛いんだぁ」

上条「お願いだから続けさせてください!」

食蜂「……ちなみに私は?」

上条「可愛い! 続けさせてください!」

食蜂「ええ、どうぞぉ」ニコ

きったー!!!(((o(*゚▽゚*)o)))

きったー!!!(((o(*゚▽゚*)o)))

上条「ん゛ん゛っ――で、どうやら俺の不幸の元凶は、俺の右手であるということなんだ」

食蜂「……幻想殺しに?」ピク

上条「そう、この能力が、本来降りかかる神の加護だの土地の祝福だのを打ち消しちまってる」

上条「よって上条当麻は他人に比べて不幸体質というに相応しい、とまぁこういうわけ」

食蜂「それはまた、理不尽力極まりないお話ねぇ」タラー

上条「まぁ、でも、長年不幸体質に煮え湯を飲まされ続けてきた上条さんとしては」

上条「トラブルに巻き込まれる元凶がわかっただけでも、ひとまずはホッとしたんじゃないかな、とそう思うわけですよ」

食蜂「ふんふん」

上条「それに、トラブルに巻き込まれるということは、ある意味で願ったり叶ったりでもあるからな」

食蜂「上条さんって、実はマゾなの?」ヒク

上条「違う! 断じて違う!」ブンブン

食蜂「あらそう。じゃあどういうことなのかしらぁ?」

上条「お前も知っての通り、幻想殺しは使い方次第では結構役に立つだろ?」

食蜂「それはまぁ、あらゆる異能を打ち消す能力だものね」

上条「あぁ。右手があることで厄介事に巻き込まれ、そこで他人の不幸を昇華できる機会に恵まれる」

上条「俺だって人間だからな。どうしたって不幸のままで居続けることはストレスになる」

上条「どこかでそれを解消しなきゃ、健全な精神は保てそうにねぇ」

上条「かといって、自分の不幸をどうこうしようとするのはもう諦めざるを得ない」

上条「だったら、他人の不幸を解消することで気を晴らせばいい」

食蜂「……それって、要するに」

上条「あぁ。心理学の用語じゃ、転移っていうんだっけか」

上条「お前が人の心を覗かずにはいられないのと同様」

上条「俺は、自分の力で解消できそうな不幸が存在することが、我慢ならないんだろうな」

食蜂「……ふぅん、なるほどねぇ」

食蜂(理由としては少し弱い気もするけどぉ、うん、上条さんらしいといえば、らしいかなぁ)

上条「――ってのが、表向きの理由だ」

食蜂(……え、今までの、単なる前振り?)

食蜂「だ、だったら、本当の理由は?」

上条「……そうだな、ホントのところは」


上条「誰より臆病だからこそ、助けずにはいられないんじゃないか、そう思ってる」


食蜂「臆病……って」

食蜂(か、上条さんが?)

上条「…………」クシャ

上条「……以前に一度、大事故に遭ったことがあるんだ」

食蜂「……大事故?」

上条「そう、命に関わるくらいの。まぁ、ご覧の通りこうして生きてるわけだけど」

食蜂「ちょ、ちょっと待って」

上条「ん?」

食蜂「その、死にかけたりしたらむしろトラウマになって、危険にも敏感になるんじゃ?」

上条「もちろん、それはあくまで取っ掛かりに過ぎねぇよ」

上条「ただ、その時から、妙な考えが根付いちまったんだ」

上条「実は助かった俺って、もう以前の俺とは存在からして違うんじゃないかって」

上条「上条当麻という存在が曖昧っつうか、過去と未来があやふやな、不確かなものに思えちまう」

食蜂「……それは、その、自暴自棄になってるってこと?」

上条「まぁ、そういう面も少しはあるかもしれないけど、本質的な問題はその先なんだ」

だろーな(・_・;

上条「俺は今まで、自分が不幸であるがゆえに、他人の不幸を解消できる機会に巡り合えている」

上条「そう思ってた。いや、今もその考えは捨てちゃいない」

上条「でも、命に関わるような大事故を経て、考えちゃいけないことを考えちまったんだな」

上条「もしも、その順番が逆だったらって」

食蜂「……逆?」

上条「……もし仮に、俺のこの右手が」


上条「俺の幸福を消しているだけじゃなかったとしたら?」


食蜂「――――」

上条「…………」

食蜂「そ、それこそまさかよぉ! いくらなんでも考えすぎぃ!」

上条「だな。取るに足らない考えだってことくらい、自覚してる」

上条「でも、立証する方法がない以上、断定はできない」

上条「実際問題、一度疑い出しちまったら際限がねえんだ」

食蜂(疑い出したら……それは、私も同じだけど……で、でも、だからって)

上条「もし俺の出会った不幸が、周囲から引き寄せられたものではなく」

上条「やはり俺の右手に因るものだったとしたら」

上条「周囲で起こる悲劇さえも、自らの不幸が」

上条「俺の、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)が招いていたとしたら」

食蜂(…………)

上条「そんな過酷な現実が存在するんだとしたら、折り合いをつけることさえできなくなっちまう」

上条「自分の目と鼻の先で、俺の知る誰かが不幸にも殺されたり、不幸によって壊れたりしたら」

上条「上条当麻は、確実に今の上条当麻じゃいられなくなる。それが、怖い」

上条「今の俺が消えるのが、どうしようもなく、怖い」ギュッ

上条「だから、必死にもなる。自分の存在が元で生まれたかも知れない不幸を、放置してはおけない」

食蜂(そんなの、転移なんて生易しいものじゃない)

食蜂(ただの、狂った脅迫観念じゃない)

食蜂(……だけど、この人の献身ぶりは、むしろそれくらいの理由じゃないと説明がつかない気もする)


『ばぁか、お前が救われたんなら、それだけで俺の帳尻は合ってんだよ』


食蜂(……心のどこかで、引っかかってた)

食蜂(帳尻が合ってるなんておかしな言い回しに)

食蜂(初めて助けてくれた時に口にしたあの言葉こそ)

食蜂(この人が無意識に、自責の念に駆られていた証明なのかも知れない)

食蜂(気休めから来るものでも、ましてや格好つけでも何でもない)

食蜂(自分から派生したかもしれない不幸を、払しょくできた安堵、心情の吐露だったとしたら)


上条「あー、悪い。なんかシンミリしちゃったな。せっかくの楽しいイベントだってのに」

食蜂「……上条さん」

上条「まぁ、あんなこと打ち明けられたら普通は失望するよな」ハハ

食蜂「……そんなこと、ないです」

上条「頼むからここだけの話にしといてくれな? あんま格好いい話じゃないからさ」ポリポリ

食蜂「……なんで、笑っていられるんですか?」

上条「……うん?」

食蜂「全部自分のせい。そう疑っているのがどれだけ辛いことか、私にはわかる」

食蜂「なのに、どうしてそんな顔が出来るんですか?」

上条「昔のエラい人は言いました。下手の考え休みに似たりってな」

上条「俺が、俺の右手が存在したことで、関わり、助けられた人がいるのも確かなんだ」

上条「困っている人の重荷を軽くしてやれて、晴れやかな顔を見れた瞬間」

上条「俺、すっごく幸せだなって実感するんだ」ニッ

上条「そう思えているうちは大丈夫。不幸な日だって、きっと笑って過ごせるさ」

上条「だから、もちろんお前にも不幸にならないでほしいっつーか、まぁ、そんな感じなわけだ」

食蜂「…………」グッ

食蜂(……やっぱ駄目、駄目ねぇ)ハァ

食蜂(他の男性と付き合うイメージなんて、どうしたって思い浮かばない)

食蜂(能力への執着、頼れる人への依存、そして不信)

食蜂(お付き合いする前から、破局が目に見えてそうなものなのに)

食蜂(それでも、上条さんとの距離がもっと縮まれば)

食蜂(そういう運命力だったらと、願わずにはいられない)


上条「さてさて、十分食休みもしたことだし、腹ごなしに少し歩こうぜ」スクッ

食蜂「……ええ、そうね、そうしましょう――と」コツン


――コロコロ


上条「うん? 野球ボールか?」

食蜂「みたいね、どこから転がってきたのかしらぁ?」ハシ


女の子『お姉さぁん、ごめんなさぁい』ブンブン


上条「あぁ、あの子みたいだな」

食蜂(投げ返し――は、無理ね。ノーコンがバレちゃうしぃ)

上条(――ん、何だ?)

上条(ついさっきまで混んでたのに、妙に閑散と――)


女の子「はぁ、はっ、はっ」タッタッタ


食蜂「あらあら、何もあそこまで懸命に走らなくてもいいのにぃ」

上条「……、」バッ


女の子「はっ、はっ――――すぅ」


食蜂「こーらぁ、こんなところでボール遊びなんてダメなんだゾ☆ 動物さんの檻に――」

上条「――食蜂ッ!」ドンッ

食蜂「キャアッ!?」ズザッ



――ドズッッ!!



上条「――ぐッッ!!」グラッ

食蜂「…………え」

本日は以上になります。
多くの乙とレスありがとうございました
次回は、気持ち的には日曜日と言いたいところですが、火曜日22:00にしときます

乙です!

ここ最近の禁書ssの中じゃ一番面白いです!
更新がもう楽しみで!

ところで次スレまで行きますかね?

>>904
次スレ行きは確実です(次回が終わったら誘導ですかね)
既にラスト二種以外の書き溜めが尽きてますので憶測になりますが、2レス目の半分までは消化するはずです

あと、前作では戦闘が少なかったので見送ったんですが、戦闘シーンのみ地の文を入れようか迷い中
今回魔術側の敵もいるので、台本形式だとどうしても説明台詞が多くなってしまうんですよね

遅ればせながら帰宅しました、五分後に始めさせていただきます

上条「――つッ、うッ!」ガクン

食蜂「……ッ」

女の子「――ジャマシナイデ」グリッ

上条「――イ゛ッ、こ……んのッ!」バシッ

女の子「――ッ!」ドサッ


――カララン


食蜂(……ナイ……フ……? ……う、嘘、刺されたの!?)

食蜂「や、やだっ、上条さんッ!」ダッ

上条「落ち着けッ!」

食蜂「――ッ」ビクンッ

上条「……大丈夫だ。脚だし……子供の力じゃそれほど、深くは……」ポタポタ

食蜂「で、でも、血が……血――」オロオロ

上条「後で止血すればいい! それより早く、その子の洗脳を――」チラ

食蜂「え……、あっ」バッ

女の子「……、」ググ


――ピッ!


女の子「――――ッ」ビクン

女の子「……あ、あれ? お父さんとお母さんは――」キョロ

食蜂「……どうやら、通じたみたいね」ホッ

上条「あぁ。その、いきなり怒鳴っちまって悪かった」

食蜂「ううん、完全にテンパってたし、むしろああしてくれて助かったわ」フルフル

上条(……頭から抜け落ちてた。まさか来園した子供を、平然と巻き込むなんて)

上条(いや、それよりどういうことだ)

上条(躊躇なく仕留めに来るなんて。食蜂を死なせたら目的は果たせないはずなのに)

食蜂「……よかった、動脈は傷ついていないみたい」サワサワ

上条「……って、ちょ、食蜂さん?」

食蜂「そのままじっとしてて、動いちゃ駄目よぉ」シュルッ

上条「お、おい。その長手袋、まさか」

食蜂「包帯の代わりにするわぁ。今まで付けてたやつだからあまり清潔じゃないかもだけど」クルクル

食蜂「背に腹は代えられないものね。後で感染症になったら謝るから」

食蜂「……ん、こんなところかしら」

上条「確かに、太ももに巻くとなるとハンカチじゃ届きそうにないな」

上条「……ごめん、これ、後で必ず」

食蜂「~~~ッ、そんなことより自分の心配をしてってばぁっ!」

上条「お、おぅ、そうだな」

食蜂「……失態だったわ。まさかあんな古典的な手に引っかかっちゃうなんて」シュン

上条「そんなに気に病むなって。このくらいの怪我には慣れてっから」

食蜂(……このくらいって、どう見たって軽い怪我じゃないのに)

食蜂(半日常的に、こんな騒ぎに巻き込まれてるってコト?)

上条「……さしあたっては、あの子をどうするかだな」

上条(ただでさえこんな状況なのに、護衛対象が増えたらさすがに)チラ

上条「……って、あれ?」キョロ

食蜂「あの女の子なら、とっくに走ってどっか言ったわよぉ?」

上条「へっ? 一人でか?」

食蜂「あの様子だと、あなたを刺したことも覚えてなさそうだったわねぇ」

上条「そっか。そんなら良かった」

食蜂「……ホント、お人好しなんだから」フゥ

食蜂「さ、上条さん。私の肩に掴まって」

上条「いや、大丈夫だ。一人で歩ける――つぅッ」カクン

食蜂「その足じゃ無理に決まってるでしょ! こんな時くらい私を頼ってくれたって――」

上条「……違う、そういう理由じゃないんだ」

食蜂「そういう理由じゃないって、どういうことよ!」

上条「俺に触れている状態じゃ、いざって時にリモコンを使えない」フゥ

食蜂「…………あ」

食蜂(そ、そうか、上条さんに触れた状態で能力を使おうとしても、幻想殺しで……)

上条「……ホント悪い。守るどころか、かえって足手まといになっちまった」

食蜂「私を庇っての負傷じゃない! むしろ私が地面に頭を擦りつけなきゃいけないくらいよぉ!?」

上条「す、すまん」

食蜂「んもぅ、言ってる傍からッ!」プン

上条「……あー、いや、わかった。とにかく、短い距離なら何とか――」


――ザッ!


来園客たち「――――ニガサン」ダッ

上条「くそっ、もう新手が来たのか!」

食蜂「まったく、用意周到なことねぇッ!」バッ


上条(……子供を平然と道具にする手法といい、説得が通じる相手とは思えない)チラ

上条(せめて、食蜂の安全だけでも確保しないと)

――アンタークティカエリア・オセアニアエリア中継点


「……くっ!」

渦巻く木の葉の中心から、風の弾丸が二射、三射と放たれる。
横っ飛びしてそれらを回避したエツァリが、跳ね起きざまに手に握る黒曜石のナイフを天に向けた。
金星の光を受けた黒い刃が一際強く煌めき、魔力で象られた不可視の槍が枯葉の中に飛び込む。
だがしかし、術者の体に届いた様子はない。
渦を巻く葉の数枚が葉脈だけを残してバラバラになり、風に吹き散らされる様子が目の端に映った。

「無駄だ。一属性の加護だけでどうこうされるほど私は温くないぞ」

「……どうやら、そのようですね」

(派手に動いた手前、仕掛けられるのは想定の範囲でしたが)

それにしても相性が悪すぎる。
ナイフを下ろしざまエツァリが舌打ちする。
これは自分の手落ち、失態だ。
はなから魔術サイドの人間が関わっていると疑ってかかっていれば、ここまで手詰まりになることはなかった。

エツァリが得意とする魔術、トラウィスカルパンテクウトリの槍。
金星から降る光をナイフに反射させ、標的にルーンを穿ってバラバラに分解する術式。

一度命中すれば巨獣をも一瞬にして肉片に変える強力な魔術だが
反して集合体に対しては効果が薄い。
収束した光の範囲は尖った鉛筆の先ほど。
百獣の王は倒せても、百匹の羽虫を倒すことはできない。

役割を終えて朽ち落ちた枯葉。
それが今は、敵魔術師の操る風に仮初の命を吹き込まれ、自分の術に対する堅牢な盾と化している。
先ほどからどうにか反撃を試みているものの、枯葉の繭はまったく揺るがない。
数千、あるいは数万とも思しき木の葉は、今も相手の姿を覆い隠している。
続けざまに回避行動を余儀なくされては、いずれスタミナも尽きるだろう。

(何より厄介なのは、自分の術式の性質を一目で見破り、それに対する最善手を拵えた魔術師の実力か)

接近戦は早い段階で諦めていた。
あの渦巻き状の風に突っ込んでどうなるかわからないほど馬鹿ではない。
どころか、近づくだけでもどれだけ神経をすり減らす作業になるか。

(いやはや、考えるのも億劫ですね)

ともあれ、準備を怠ったのはあくまで自分の手落ちだ。
このまま敗退してしまったら、危機感の薄い上条のことを罵ることもできない。

枯葉の繭の一部が大きく膨らむのを見止め、エツァリが再び地面を蹴り放つ。
狩る者と狩られる者。
戦闘の優劣は、この場に目撃者がいれば誰の目にも明らかなものだ。

考える暇も与えないと言わんばかりに、風の球が逃げるエツァリの影を確実に打ち貫いていく。
頭部に迫るそれを屈伸してやり過ごし、続いて膝下への軌道を見切り、そのまま全力で跳躍する。
近場の木の枝に両手で掴まったかと思えば、すぐさまその枝を強くしならせ、鉄棒の要領で離れたベンチに飛び移る。
その直後、付近一帯に耳障りな粉砕音が轟き、破砕された木の破片の一部が着地する寸前のエツァリの脇腹を掠めた。

「くっ……」

痛みに顔をしかめながらも、エツァリは先ほどと変わらぬ速度を維持し、必死に打開策を考える。
考え続ける。

「どうした? 科学に与する魔術師よ。逃げてばかりではジリ貧だぞ」

(言われるまでもなくわかっていますよ、そんなことは)

血が滲み始めた脇腹を庇いながら、エツァリは弾丸の盾になりそうな障害物から障害物へと移動を繰り返す。

防戦一方の戦いを続けながら、しかしエツァリはその場から逃走しようとしない。
自分がこの場を離れて事態が好転するとは思えなかったからだ。

人払いのルーンは護衛から防衛戦力を引き離すと同時に、第五位の心理掌握(メンタルアウト)を制限している。
操る人間が少なければ、それだけ第五位が能力を発揮する機会は失われる。

暗部に所属していない彼女の能力は、表の研究者によって事細かに解析されてきている。
こうして事に及んでいる以上、彼女の能力に対して無策とは考えにくい。
おそらくは何らかの対抗手段を備えているのではないか。
これは土御門ら暗部の面々とも一致した意見だった。

しかも不都合なことに、これほどの腕利きを贅沢にも足止めに使っているくらいには、敵陣営の戦力も整っている。
第五位の能力が当てにできない状況でこれほどの猛者を相手にして、上条当麻が彼女を守りきるのは不可能に近い。

これは、エツァリが上条の実力を侮っているわけでは決してない。
真っ当な勝負であったなら、一対一の勝負ならば、きっと彼はこの魔術師を相手にも後れを取らなかっただろう。

だがしかし、誰かを庇いながらの戦闘を強いられるのならば。
情に厚いと言えば聞こえは良いが、卑劣な者たちにとっては付け入る隙が多いということでしかない。
とどのつまり、一刻の猶予もないし、しかしこの男を放置するわけにもいかないということだ。

(上条当麻……か)

御坂美琴を巡る諍いから彼と直接対決し、敗れた日が脳裏を掠める。
ほろ苦い経験。そして一時の失恋。
あの日以来、自分は不完全だった術式を完璧に使いこなすべく、鍛錬を重ねた。
不可視の槍を標的に導けるよう、視力に頼らず、体の感覚に頼って精度を高める訓練をした。

(このようなところで手間取っている暇はない――ならば)

木の繭に注がれていたエツァリの視界が、周囲の景色に、戦いの舞台全体を俯瞰するように広がっていく。
焦点を合わすことなく、周囲に存在する被造物の位置を詳細に把握していく。

(手持ちのカードだけで敵を倒しきることはできない。認めざるを得ませんね)

敵魔術師は知識も経験も、魔法使いとしての力量も、おそらく自分より上。
慢心してくれるならまだ付け入る余地もあるが、残念ながらそういう気質でもないらしい。
頑なに、ストイックに、理詰めに理詰めを重ねて相手を圧倒するタイプだ。

ならば、今やるべきことは必然的に定まる。
この場所にある全ての物を利用し、味方にし、自分に優位な状況を作り出すほかない。
たとえ一瞬であっても構わない。

わずかな隙も見逃すまいと眼光鋭くするエツァリに対し、男は攻撃の手を休めることなく、しかし無機質な声を以って応じる。

「そういう諦めの悪い目は、嫌いじゃない」

声が終わると同時。
木の葉の繭が心臓のように大きく律動し始め――

「君の危険性を肯定する。最後の最後まで、全力で潰させてもらう」

瞬間、今までとは比較にならぬ数量の風の球が上空に吐き散らされた。

頭上から降り注ぐ数多の風切り音に、エツァリがその場から緊急退避。
逃げ場は10歩ほど後方にある石像の影。そこしかない。

そして、相手にもそれはわかりきっているはずだ。

エツァリが石像の陰に滑り込むや否や、風の弾丸が雹のように降り注ぐ。
周囲の敷石を数秒にしてズタズタにし、敷台に立っていた勤労青年の石像をあっさりと押し倒す。
場に残された、厚さ1メートルはありそうな足場が、がりがりと音を立てて侵食されていく。
風の飛礫が地面を打つ音はさながら機関銃の掃射音だ。

鼓膜に響く重い震動に晒されながらも、エツァリは晴れた空にある金星の方位と、敵の位置を素早く確認する。
重い響きは、盾の質量が少なくなるにつれて軽い響きに変調していく。
石像が完全に破壊されるまで、もう幾許もない。

冷や汗が首元を伝う。
エツァリは自らの胸を、ナイフの柄を握った拳で強く叩く。
退路は自ら絶った。
もうやるしかない。


(さぁ――――覚悟を決めましょうか!)

残り50センチ。40センチ。30センチ。
今にも崩れ折れそうな、見るに堪えない虫食いのオブジェ。
その裏にいるだろう少年に、三十半ばほどの姿勢のいい魔術師は心の中で称賛を送る。

(いささか一方的になってしまったが、それでも若さを考えれば見上げたものだ)

そして、だからこそ、手を抜くのは矜持に反する。
戦場に立っている以上、彼も死の覚悟をしていないということはあるまい。

現実的な問題を提起するならば、ここで彼を取り逃がせばいずれ強大な敵となって立ち塞がるだろう確信がある。
一部とはいえ自らの術を披露することは、魔術師にとっては危険が付き纏う行為だ。

イギリス精教の魔術師たちは『殺し名』などという文言を以って自らを律するという。
己の手の内を晒した者に対して、絶対的に冷酷であるよう努めるのだ。
その考え方は、自分も見習わない点がないではない。

「――――むっ?」

魔術師の視線が、束の間エツァリとはあさっての方角へと向けられる。
眉間には微かな皺が寄っていた。

「……どうやら、あまりのんびりもしていられないようだ」

魔術師の視線がエツァリの方に戻り、両手を合わせて祈祷の姿勢を取る。

「五大の素の第四、星の始まりを告げる原初の風よ」

重なる手のすぐ傍に風が滞留し、詠唱が進むにつれて繭の前面が大きく膨らんでいく。
釘付けにされている獲物を狩る絶好の機を見逃すまいと。
牽制のために使う飛礫と比するまでもない。破壊力を重視した、直径1mの大球を構築する。

「これで終わりだ」

自らの半身を覆い尽くさんばかりの風の塊を、壊れかけの敷台目がけて投げ放つ。
そして――


「……ようやく見えましたよ、あなたの顔が」


およそ有り得ないエツァリの異様を認め、この戦いを通じて初めて、魔術師の目が大きく見開かれた。

(馬鹿な……ッ!)

全く論理的でない行動。
魔術師らしからぬ行動。
身に迫る風の猛威を眼前に捉えながら、少年は防御姿勢も回避行動もしていない。

男の体に震えが走る。
長きにわたる戦いの日々が獲得した感覚。
生と死の分水嶺に、今まさに自分がいることを実感する。

少年はただ涼やかに男の姿を見定め、手に握る黒曜石のナイフを注意深く一点にかざしている。
石像が砕ける一瞬の空白。
攻撃の際に生じる強烈な風圧で、繭に穿たれた風のトンネルを狙って。
乱舞する落ち葉は未だ勢いよく螺旋を描いている。

風を光で遮れないのと同様、光を風で遮ることはできない。
そして光を超える速度など、物理的には存在しない。
それがわかっていても、少年の行動は常軌を逸していた。

「貴様ッ、命が惜しくないのか!」

敵から投げかけられた問いに、エツァリはただ笑みを返す。

少年を守り続けていた敷台が、風の巨大な球体に押し潰されていく。
手元で黒い刃がひび割れ、砕け、体が大きく後方に押し出されるのが見えた。

そこで、全てが途絶えた。

鉄柵を飛び越え、後方の貯水池に背中から叩き込まれた少年の姿を、その水飛沫の凄まじさを。
男は最後まで目で追うことができなかった。

(……大した、少年だ)

エツァリに風が直撃するのと同時に、針の穴を通すような正確さで。
アステカの魔術師を象徴する不可視の槍が、男の胸を貫いていた。

一方「いよォ、海原クゥン。寒中水泳にはちっと早いンじゃねェか?」

エツァリ「……格上が相手だったんですよ。労いなら、もう少しマシな言葉を選んでいただきたいですね」プカァ

一方「それだけ言い返す元気があンなら、自力で上がれンだろうな」

エツァリ「手を貸してくれてもいいんですよ?」

一方「その言い方は、つまり手を貸すなって言ってるンだよなァ?」

エツァリ「あの、いえ、体中痛んでますので、できれば助けてもらえるとありがたいです」

一方「だったら始めからそう言え」スッ

エツァリ「……すみません、ありがとうございます」ギュッ


――ザパァッ!


一方「って、オイオイ。顔が半分剥がれちまってンぞ?」

エツァリ「あぁ、これは失礼。まったく、我ながら無茶をやったものです」バッ

一方「みたいだなァ。まるであの三下のようなスマートとは程遠い戦いぶりで」

エツァリ「はは、面目もない――って、ちょっと待ってください!」

一方「ハイ、なンですかァ?」

エツァリ「あなた、まさか、あの場にいたんですか!?」

一方「最後の撃ち合いだけな。格下同士のカードでも、真剣勝負ってのは実にいいもンだ」ヘラヘラ

エツァリ「…………」イラッ

一方「しかし、弱っちぃやつは色々と大変だなァ。ひたすら逃げ回って相打ち狙いとか」

エツァリ「あっ、あなたこそ、随分と合流が遅かったじゃないですか」イライラ

一方「テメエに頼まれた仕事を優先した結果だ。文句を言われる筋合いはねェ」

???「……やはり、先ほどのは気のせいではなかったか」ザッザッ

一方「……あン?」チラ

エツァリ「……ッ!」バッ


魔術師「……何の法具もなしに我が結界を蹂躙する人材がいようとは――貴様の危険性を肯定する」


一方「結界だァ? ……コイツ、何いってやがンだァ?」

エツァリ「……馬鹿な、確かに命中したはず……何故生きて」

一方「オイ、コラ、海原」

エツァリ「……あなたに破壊するよう指示した紙屑のことです。もう気にする必要はありません」

一方「……フゥン?」

魔術師「貴様は計画の妨げになりそうだ。ここで朽ちていけ」スッ

一方「――ククッ。……イイねぇ、実にイイ、最高だねェ」

魔術師「……何?」


一方「意にそぐわねえ実験なんざやらされてるよりか、こっちの方がよっぽど有意義じゃねェか」ザッ

本日は以上になります
地の文あると文字数多いはずなのに投下量が少なく感じる不思議!

次回は金曜日か土曜日の22:00以降に、投下量50前後、一応鬱注意
それまでに950過ぎてたら二スレ目用意します
多くの乙ありがとうございました

書き忘れていたので一応、ラスト2種とはエンディングを二つ用意しているということです
『明らかなハッピーエンド』と『解釈次第ではバッド』、多分その場のノリで決めます

――茂みの中


食蜂「――さん! 上条さん!」


上条「……ん」パチ

食蜂「上条さん、しっかりしてッ!」ユサユサ

上条「あ、あぁ、平気平気。まだまだいけるから、心配するなって」ヘヘ

食蜂(……嘘、10秒近くも呼びかけてたのに、反応がほとんど)

食蜂「……汗の量が尋常じゃない」

上条「そりゃあなた、刺されたんですよ。汗のひとつも出ない方がむしろ不健康ってもんですよ」ヘヘ

食蜂「……」チラ

食蜂(口調は明るいけど、明らかに顔色がよくない……)

食蜂(縛った傷口も、完全に出血が止まったわけじゃないし)

上条「……んな悲痛な顔すんなよ。きっともうすぐ、助けがくるさ」フゥ

食蜂「本当に、ここに留まるって選択で良かったのかしら?」

上条「携帯でおよその事情は説明できたし、緊急車両なら園内にだって入ってこれる」

上条「逆に、車ですら入って来れないような状況を連中が作り上げてるなら、怪我してるこっちが動くのは自殺行為だ」

上条「それにお前も、走るのはそんなに得意な方じゃないだろ?」

食蜂「……そ、そうだけどぉ」

上条「精神系能力者の護衛任務に当たっているやつは俺だけじゃない。警備員にも通知されてるはず」

上条「それっぽい連中を見かけたら合流すればいい。それまでの辛抱さ」

食蜂(……確かに、この異変に誰も気づいてないとは思えない)

食蜂(時間を稼げれば私がこの場を凌げる可能性もぐんと上がる……けど)

上条「はっ……はぁ……」ポタポタ

食蜂(それより先に上条さんが、もたないかも知れない。それじゃあ全く意味がないのに)ギュッ

食蜂(……限界を見極めなきゃ、最悪の場合は――って)ギュ

食蜂「――ねぇ、あれ」スッ

上条「……どうした?」

食蜂「ちょっと遠いけど、あそこ歩いているの、警備員じゃない?」

上条「本当か? どれどれ……」


警備員『おーい、どこにいるんだぁ! 助けに来たぞぉー!』キョロキョロ


食蜂「ほらぁ、やっぱりそうよぉ!」クイクイ

上条「…………」

上条「一人だけ、か」ポツリ

食蜂「待ってて! すぐに呼んで――」スクッ


――ギュッ


食蜂「……か、上条さん。どうしたの?」アセアセ

上条「一応、保険をかけさせてくれ」

食蜂「……ほ、保険?」

警備員「――――」ピクン


猟犬A「……む」

警備員「…………」クルッ

猟犬A「観察対象の行動パターンに変化有り、洗脳が解けたようです」

白衣男「……ってことは、この近くに捕獲対象がいるってことだなぁ」

猟犬B「すぐ餌に食いつくかと思ったら、案外慎重っすね」

白衣男「一時は優秀な研究者たちを出し抜いてたんだぁ。甘く見ない方がいい」

白衣男「残っていた血痕からすると、あまり遠くには逃げられんだろう」

白衣男「建物に身を隠しながらあの警備員をつけるぞ。合流するつもりかも知れん」

猟犬A&猟犬B「了解」

猟犬A「傭兵どもが時間を稼いでいるうちに肩をつけないとな」

猟犬B「こっちの身が危なくなりやすしねぇ」

白衣男「対象を確保し次第速やかにこの場を離れるぅ。五分以内に終わらせるつもりでかかれ」

――お手洗い


警備員「待たせたな。さぁ、行こう」


猟犬A(女子トイレに隠れていたのか……)

猟犬B(……は、入りづらいな)

白衣男『くっちゃべってないで、とっとと女をふんじばってこぉい』

猟犬A「わ、わかりました」

猟犬B「よし、いくぞ」ダッ

警備員「――ッ!? なんだ貴様ら!?」バッ


――ゴッ!


白衣男(……随分と手間取らせてくれたなぁ、第五位)

白衣男(実験を台無しにしてくれた落とし前は、きっちりつけさせてもらうぜぇ?)クク

白衣男『もぬけの殻だぁ?』


猟犬A「ええ、個室にも鍵はかかっていません。窓から脱出した形跡も……」

警備員「……う……ぅ」ピクピク

猟犬B「どういうことだ? インプットと違う行動をしたのは間違いないのに」

白衣男『……ん? あー、わかった』

白衣男『――お前ら。急いでさっきの場所に戻るぞ』

猟犬A「え、あの、どういう」

白衣男『今連絡が入った。『帽子組』があの近辺で連中らしき人影を発見したそぉだ』

猟犬A「……ええ!? じゃあ」

白衣男『大方、連中はあの近くに潜んでいたんだろう。最初から洗脳者を使いすぎて警戒させすぎたなぁ』

猟犬A「警備員が操られていたんじゃないかと警戒したってことですか」

猟犬B「そうか。それで、離れた場所へ誘導して、マークしているやつがいないかを探ろうとしたってことっすね」

白衣男『感心してる場合じゃなぁい。これで取り逃がしたら二度とチャンスはないぞぉ』

白衣男『不要な出費は抑えるに限る。あの器械、保険は下りないからな』

上条「……追って来てるか?」

食蜂「まだみたい。かなり引き離せたとは思うけど」

食蜂「それよりどうして、さっきの警備員が洗脳されてるってわかったの?」

上条「ん? ああ……」

上条「ああいう治安部隊の人たちって、単独で行動することが滅多にないだろ?」

食蜂「……そういえば、レストランに来た人たちも二人組だったわねぇ」

上条「いくら強いったって武器持ちに不意打ちされたらやられるからな」

上条「ましてや、手持ちの武器を奪われ、悪用でもされたら一大事だ。不測の事態を想定して二人以上で行動する」

上条「100%の確信があったわけじゃないけど、助けに来たって叫んでるのに一人でいるのは不自然に感じた」

食蜂「確かに、子供を洗脳するような連中だもの。何やったって不思議じゃないわねぇ」

食蜂(……うん、頭はまだ冴えてるみたいねぇ)

上条「……ストップだ、食蜂」

食蜂「あ、えと?」


――ぞろぞろ


上条「……8人、か。全員帽子を被ってるけど、やっぱ操られてるんだろうか」

食蜂「…………帽子、……まさか」

上条「……操れないやつがいるかも知れない?」

食蜂「多分、いきなり被り物の人が増えるあたり、いかにも怪しいし」

食蜂「あの下に、洗脳の電波をシャットアウトする特殊な機器をつけてるかも知れないわぁ」

上条「ちょっと待ってくれ。それは洗脳装置(テスタメント)だって同じことだろ?」

食蜂「ええ、だから、もし金属の輪っかみたいな装置をつけてるやつがいたら」

上条「操ってる側の人間として対処する、か。……ってことは」

食蜂「他の帽子は狙われないためのダミーのつもりよぉ。ううん」

食蜂「もしかしたら、あの中には一人もいない可能性だってあるわぁ」

上条「もし全員が一般人だったら、ただ傷つけるだけになっちま――」


帽子女「」ギンッ


上条「って、やべっ! 一斉に突っ込んで来やがったッ!」

食蜂「ふぅん、私への対策は万全ってワケ、ね」

食蜂(でも、さすがにあんな高価な装置、全員分は用意できてないでしょぉ?)スッ

食蜂(――全員、その場で跪きなさぁい)


――ピッ!


一般人『』ザッ

帽子男A「え、……あっ!」キョロキョロ

上条「……あいつ、馬鹿だな」

食蜂「どうしようもないくらい、お馬鹿さんねぇ」

帽子男A「く、くそっ!」ダッ

食蜂「囲まれてるのに逃げられると思うのぉ?」クスッ


――ピッ!


女&男「」ガシッ

帽子男A「う、うわっ、くそ、放せ!」ジタバタ

上条「ハイハイ、失礼しますよっと」ピラッ

帽子男「」

上条「……なるほど。これか」

食蜂「間違いないわねぇ、この金属輪(サークレット)、研究員が使っていたものとそっくり」

帽子男「くっ、おまえさえ、いなければ」

食蜂「何よぉ? 何か言いたいことでもあるわけぇ?」ジロ

上条「食蜂、悠長に話してる暇は――」

帽子男「実験の撤退のせいで、何人もの研究者が職を失った。研究に人生を賭けてたやつだって大勢いた!」

食蜂「……、」

帽子男「全部、おまえのせいだぞ! おまえが俺たちの生活を台無しにした!」

食蜂「かっ、勝手なことを――」


――バキッ!


帽子男「ぐはッ!」ドザッ

食蜂「」ビクッ

上条「人の不幸で飯食ってたやつが被害者ぶってんじゃねえ。虫唾が走んだよ」プラプラ

食蜂「…………」ポー

上条「食蜂。これって、おまえも使えるのかな?」

食蜂「……あ、え?」

上条「この金属の輪っかだよ。これつけてれば、お前が洗脳装置に操られる心配はないんじゃないか?」

食蜂「あ、あぁ、そうねぇ」

食蜂(正直見栄えが悪いけど、このさい文句は言ってられないわねぇ)

食蜂(演算に影響がなければ持って行っても損は――)


???「今度こそ、見つけたぞ」


食蜂「……ッ!」バッ


――ピッ!


猟犬A「残念、俺たちも金属輪(それ)は装備済みだ」トントン

食蜂「……ヘッドギアの中に」ジリ

上条「――ったく、女の子相手にどこまでも大人気ねぇ連中だな」

猟犬B「ガキと怪我人にしちゃあなかなか粘ったが、チェックメイトってやつだ」スチャッ

上条「――、」ジリ


食蜂(銃ッ!? こいつら、本気なの!?)


――アンタークティカエリア・オセアニアエリア中継点


魔術師「はぁっ!」ゴォォッ


――キィンッ!


魔術師「……おのれッ、炎も通じぬか!」バッ

一方「無駄無駄ァ。火の粉の一つだって俺には届かねえよ」トコトコ

一方(しっかし、第五位はどこにいやがるんだァ? 意外と広いんだな、このエリア)


――キィンッ!


一方「言ってる傍から……懲りねえやつ」

一方(にしても、手品師みたいな野郎だなァ)

一方(風に炎、デュアルスキル何て珍しくもねえじゃ――)


――キィンッ! ――キィンッ!


一方「アー、……いい加減蠅みたいに鬱陶しいなァ、さっきから進行の邪魔なンだ――」

一方「よォッ!」


――ズガガガガガッッッ!!!


魔術師「――っ!」バッ

一方「……って、外れたか。ちょこまかと動きやがって」

魔術師「攻撃にも転じられるのか。……ならば、これならどうだ?」クンッ


――ズォォォォ!


一方「炎が駄目なら今度は水芸ってかァ? 安直すぎるだろォ」スッ


――キィンッ!


一方(何をしたって無駄だって――)


――ズガッッ!


一方「んなッ――にィッ!?」ブワッ


――ズダンッ!


一方「がぁッ……はっ!」ドサッ

一方(……この俺が、吹き飛ばされただァッ!?)

魔術師「……なるほど、少しずつ呑み込めてきたぞ」

――ズザアアアッ!


一方「ぐっ……つぅ」ヨロ

魔術師「見れば見るほどすばらしい能力だ。10年前の私なら相手にもならなかっただろう」

一方「……こん、クソ野郎がァ」ググ

一方(向かってくる水流はきっちり弾いたはず。相手が掠めるように打ったから逆流しなかった。それはいい)

一方(問題はその後だ。どうやって俺を吹き飛ばしてやがる?)

魔術師「解せぬといった面持ちだな」

一方「……、」

魔術師「おそらくだが、君は今まで一系統を極めた相手としか戦ったことがない。戦闘経験は意外と浅いのではないかな?」

一方「……ぺっ」

一方(……時間差での攻撃、……そうか、水流はあくまで目くらまし)

魔術師「おかしいとは思っていた。完全な反射とのたまう割に、君は地に足をつけて歩いている」

魔術師「地球には引力が働いているから、本来なら君は空に落ちていかねばならないはず」

一方「……」

魔術師「同様に、空気を遮断していれば生きられるはずがないからな」

魔術師「刺激の強さか種類かまでは知らないが、予め弾く力の設定はできるということだろう」

魔術師「そこから仮説を立てた。君の能力は反射ではなく、力の方角を切り替えることだと」

一方(……こいつ)

魔術師「性能といい持続性といい実に利便性が高い。魔術師ではこうはいかない。誇るべき能力だ」

魔術師「だがしかし、我々は元来君のような化け物に人の身で対抗するために、古の技能を受け継いできた集団」

魔術師「仮想の敵に対して対応するだけの技術は身につけている。能力の探り合いは、こちらが上だ」

魔術師「もう一つ気づいたことがある。飛ばされたときに耳の辺りをやたらと庇っているな」

一方「……ッ」ギク

魔術師「もしかして、そのみょうちくりんな機械に君の能力の秘密があるというのは、私の考えすぎか?」

一方「いちいちウゼぇ喋り方してンじゃねェッ!」キィン

魔術師「――ッ!」バッ


――ヒュンヒュンッ!


魔術師(――足元の地面を捲り上げて敷石をッ!)バッ

魔術師「――ぐぅッ!」ビシッ

一方(クソッ、避けるのがうめぇな。あれで一発しか当たンねえとか)

一方(……って、そうか、何も全部反射任せにする必要はねぇ。あいつみたいに避けちまえばいいのか)

魔術師「……なるほど、一つの能力の応用にかけては差があるか」

魔術師「ならやはり、見つけた突破口に頼むしかあるまいな」クン


――ズォォォォッ!


一方(……また水流か。要はあれを……)

一方(……後学のために、試してみっか)

一方「……」スッ

魔術師(この一撃で、終わらせ――)

魔術師(――今ッ!)ギュイン


――ブワッ!


魔術師(……何ッ!?)バッ

魔術師「反射ではない……水が浮遊しているだと?」


一方「フン、その突き出した手、そういうからくりか」

魔術師「……まさか、君は」

魔術師「周囲の力の加減を0にしたのか」ギリ

一方「ピンポーン、大正解。ぶっつけ本番だったが、やってみるもんだなァ」

一方「まァ、何だ。手品ってのは、種明かしをすれば何てことねェ」

一方「てめえは、先に放った水流が俺に接触する直前」

一方「俺ら二人の狭間にある大気を一気に引き戻した」

魔術師「……、」

一方「それが反射したため、俺の至近距離にあった大気がこちらに逆流し、吹き飛ばされたってわけだ」

一方「風を操れるやつならそんなに難しいこっちゃねえな。ありがとサン、一つ勉強になったわ」ポリポリ

魔術師「……頭の回転は速いようだな」

魔術師「魔術にも結界や呪い返しの概念はある。呪いに対しての拮抗措置は祈り、真逆のものだ」

魔術師「反射と銘打つからには放出の真逆、吸収に対して逆の作用が促進されると推測した」

魔術師「見破られたところで影響はない。君が不自由な二択を強いられることに変わりは――」

一方「ある」

魔術師「……」


一方「避けるってことがどれだけ大事かわかった。俺も、お前の突破口を見つけちまったぜェ?」ニタ

魔術師「……私の見た限り、君は根拠のないはったりを言うタイプではなさそうだな」

一方「ご明察だなァ」

魔術師「ならば、戦えなくしてやるまでだ」


――ズォォォ!


一方「……水か。また性懲りもなく――」

一方(……いや、違う――水で四方を閉じる気か!)

一方(電波は水で遮ると著しく減衰する。ミサカネットワークの補助器に悪影響が出ないとも)ダッ

一方(この野郎、オカルトじみたことを言ってる割りに科学の理解が浅くねェ!)キィン!

魔術師「一瞬でこちらの目論みに気づいたか。適応力は悪くない」

一方(デフォの反射と回避行動を切り替えながら戦う。問題は、バッテリーが切れるまでにケリをつけられるか)

一方「いや、やるしかねえよなァ」ニヤ

魔術師「君は放って置くと今以上に危険な存在になるな。ここで決着を――」ヒヤ


???「つけられないぜよ」ヌゥ


魔術師「――なッ!?」クルッ


――ドスッ!


魔術師「ぐふッッ!!」

一方「――つ、土御門ッ!」

土御門「おまんの敗因は、一方の能力にかまけ過ぎたことだにゃー」

土御門「ま、あれだけの能力だから無理もないがな」

魔術師「おの、れ……、不……覚……」グラ


――ドサッ


土御門「ほい、一丁あがりぃ」

一方「……オイ、コラ、テメエ」

土御門「なんで勝負に手を出しやがった、とか言わないでくれよ? 俺は味方までぶん殴りたくはねえ」

一方「……ッ」

エツァリ「待ってください土御門、その男は自分の術式を受けても生き返りました。まだ油断しては――」ヨロ

土御門「……んー、海原クンはちと科学に染まりすぎだにゃー」

エツァリ「……どういう意味です?」

土御門「生き返るよりよほど可能性の高いことがあるだろ? 名うての魔術師だったら」ゴソゴソ

土御門「護符(アミュレット)の一つくらい身につけていたっておかしくないだろ?」パラ

エツァリ(……これは、銀の破片)

土御門「ローブの下に防御術式を仕込んでいたみたいだな。役目を終えて形状(シンボル)は砕けちまってるが」

土御門(インデックスの歩く教会しかり、姫神のロザリオしかり、魔術師たるもの、己の身を守るアイテムには気を遣う)

エツァリ「……なるほど、これは責められても仕方がない」フッ

土御門「それより悪い予感が当たっちまったか。上やんたちはもう逃げたのか?」

エツァリ「まだ合流できていません。人払いのルーンは破壊したので警備員が向かっているとは思いますが」

土御門「だったら突っ立ってる暇はねえ。一方通行、予備のバッテリーは持ってるな?」

一方「……あァ」

土御門「私闘だってんなら手を出す気はさらさらなかった。だがこれはれっきとした仕事だ。勘違いするなよ」

一方通行「……ちっ、わかったよ」プイ

土御門(……なんだあいつ。珍しくへこんでんな)ボソ

エツァリ(トンビに強敵をかっ攫われて、複雑な心境なのでしょう)ボソ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月16日 (月) 08:22:57   ID: RpEagwii

完結記念
待ってた甲斐はあった

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom