京太郎「もつものと、もたざるもの」(1000)

以下に該当する方はブラウザそっ閉じ推奨です。

・京太郎SSが苦手な方
・イチャイチャ要素を期待されている方

なるべく早い段階の完結を目指していきます。 (理想は1週間以内)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361725595

そうだ。肝心な注意書きを1に書き忘れました。


本SSは拙いながらも闘牌シーンみたいなものがありますが、その中で出てくる手や状況はすべて>>1が経験したものとなっております。
「んなことあるわけねーだろタコ!」と思われるかもしれませんが事実は漫画よりも何とやら精神で温く見守ってください。

京太郎が完全に離れたせいで
麻雀部の空気が劣悪になり狂っちゃった咲さんも見てみたいなー(ゲス顔)

京太郎「皆さん、お世話になりました」つ退部届

皆「……」

京太郎「それで……麻雀部ってマネージャー募集してたりしませんか?」つ入部届

皆「……!」


こういう展開ってありそうで無いよね

京太郎「あの世でオレにわび続けろ、咲ィィーーッ!!」

 ↓

咲「私は…魔王……魔王、宮永…裂!!」

完結してくれるなら文句はないのぜー

さて、ここからどうなるのやら…

一旦投下しますー。
今日中に続きを投下するかは未定ですので今日はこれっきりかもしれません。

ところで全く関係ないですけど、すばら先輩の後輩になるとあれですよ。
最初のうちは麻雀で勝つことが目標で頑張ってるんだけどだんだんすばら先輩に褒められたくて頑張るようになる。
先輩に「すばらですね」って言われたくて頑張るようになる。そんな魅力があると思います。

「どうしたの、須賀君?」

ぼうっ考え込んでいた京太郎は久に声をかけられて我に返った。
気がつけば中学生たちも居なくなっていた。

「大丈夫です、すみません」

「ふーん……」

久はそれを聞いて何かを考えた後、いたずらを思いついた子供のように笑った。

「須賀君、あれ、やってみない?」

「えっ?」

久が指差す方向には先ほどまで中学生たちがプレイした麻雀ゲームの筐体があった。
全国のゲームセンターに設置されており、日本全国のプレイヤーと対戦できるそのゲームは
なかなかの人気を誇っている。
麻雀の内容だけを見ればネット環境が整っていれば無料でできるネト麻とさほどさほど変わらないが、
ポイントをためてアバターを着飾らせたりチームを組んで対抗戦をしたりと多様な機能が揃っている。
京太郎も何度かプレイしており対応のカードも所持していた。

「考えてみればしばらく須賀君と打ってないしね。どれぐらい須賀君が上手くなったのか見てみたいわ」

「いや、でも」

今は麻雀から離れている、そう言って断ろうとしたが久に手を引かれて言葉が打ち切られる。

「いいからいいから。あれもネト麻みたいなものでしょ? だったら気楽なものじゃない。ねっ?」

そう言いながら京太郎の腕を掴み引っぱった。流されるように京太郎は立ち上がり、筐体に向けて歩き出した
なぜか強く断れない自分に京太郎は首を傾げつつ筐体の椅子に座った。

「さっ、早く早く」

そう言いながら、久も隣に座る。
こういった筐体はに備え付けられた椅子は狭い。
詰めれば2人座れないことはないが、必然的にかなり近い距離で座ることになる。
少し身じろぎすれば肩が触れ合う距離。
京太郎は思いがけない事態に激しく動き出す心臓の音を感じていた。

(部長、やっぱいい匂いするなー……って、いやいや! なに考えてんだ!)

邪な考えを振り払いながら京太郎は筐体に100円を投入した。
そんな京太郎の心中を察しているのかしないのか、久は楽しそうに見ていた。

自分のカードを読み取らせ画面をタッチして対局メニューに進む。
10数秒ほど待つと程なくメンバーが揃い対局が始まった。
派手な演出とともに牌が配られる。2シャンテン、と小さく文字が表示されていた。

「さすがお金かけてるだけあって派手ねー。しかもシャンテン数まで出してくれるんだ」

「えぇ。というかこのシリーズ、演出がどんどん派手になってくんですよね。派手すぎて初めての人は大体驚きます」

そう言いながら手の中でポツリと浮いていた北を切り出す。
淡々と場が進み7順目。

『京太郎手牌』
456m34678s34p西西 ツモ5p ドラ9s

画面上ではリーチというアイコンが激しく点滅している。
特に悩みもせず京太郎はそのアイコンを押してリーチをかけた。

「……へぇ」

「え? 何かおかしかったですか?」

「いや、そういう手をリーチ出来る子だったのね、須賀君」

くすくすと笑いながら久は画面を指差す。

「てっきり、麻雀は三色だ、とか言いながら345の三色の手代わりを待つかと思ってたわ」

「ぶち……竹井先輩の中で俺はどういうイメージなんすか」

心外だ、と言いたげな表情をして画面を指差した。

「単純計算、手代わりの4枚とあがり牌の8枚じゃ確立が違いすぎます。確かに平和のみですけど、この麻雀赤がありますし」

そこまで言ったタイミングで画面が暗転し2索を引いてきて、手元のアガリボタンが激しく点滅した。
それを軽く叩きアガリを宣言する。

「平和手、特にこんな順子が被らない平和は」

画面の中で裏ドラがめくられる。表示された裏ドラ4萬だった。

「裏ドラの期待値が高いですからね」

メンピンツモ裏1で1,300-2,600のツモアガリ。なかなかの好スタートだった。

「はぁー、須賀君から期待値って言葉を聞くことになるとはねー」

「なんすかそれ。まぁ、和の受け売りですけど……」

そこまで言って軽く心がきしんだ。
その痛みを振り払うように画面に目を向ける。
ちょうど親番である東2局の配牌が配られたところだった。

『京太郎配牌』
12244689s45p西北北白 ドラ6p

少し手が止まった後、西を切り出す。すると隣でへぇ、久の呟きが聞こえた。

「染めに行かないのね。ぱっと見た目染め手の手配だけど?」

「一応、点数的にはリードしてますからね。確かに染めに走れば仕掛けられますけど」

場に北が打ち出される。それをスルーして話を続けた。

「北ポンしたところで形は苦しいですし、ドラの受け入れ切ってまで行くほど見込める点数が高いわけでもないですから」

だったら、といいながら画面に目をやる。3索をツモり、少し考え白を打つ。

「普通に平和なり何なり作ったほうがいいと思うんです」

これは染谷先輩の受け売りですが、と付け加えて画面を操作していく。
2順ほど端牌をツモ切り、赤5萬を引き当てた。

『京太郎配牌』
122344689s45p北北 ツモ【5】m ドラ6p

3秒間ほど考え、9索を切り出した。

「一通も見ないのね?」

「タコスにお前は一通という役を忘れろと言われましてね……」

次順で7萬を引き打2索として手配はこのように変わった。

『京太郎手牌』
【5】7m1234468s45p北北 ドラ6p

「あと一息ってところね」

「えぇ、愚形が残る可能性が高いですが……それでも」

次順、5索を引き打8索。
さらに2順ほど場に切れた字牌引きで空振るがついに聴牌となる牌を引き入れる。

『京太郎配牌』
【5】7m1234456s45p北北 ツモ3p ドラ6p

「残念。安めな上に愚形が残っちゃったわね」

「えぇ、でもこれは」

「即リーね」

「はい」

1索を場に打ち出してリーチ宣言をする。

「うん、よく捌ききったわね。偉い偉い」

まるで子供をあやすような声で京太郎を褒める久。若干むくれながらも、京太郎は口元をほころばせた。
その後、6萬を引きあがり、裏ドラも乗せて4,000オールをあがったのはそのすこし後であった。

「ほんと、大分練習したのね。かなり上手くなっていて驚いたわ」

ゲームセンターにほど近いファーストフード店で二人は向かい合って座っていた。
そんな久の言葉に京太郎はコーラをすすりながら気のない返事をする。

「そうですか?」

あのあと数回プレイしたが、結果すべて1~2位で終わることができた。
京太郎の段位が初段から2段に上がったタイミングでゲームセンターを出てこうして昼食をとっている。

「えぇ、前みたいに何でもかんでも押したり何でもかんでも下りたりってそんなこともなかったし」

久は手元のポテトを口にくわえて言葉をつづけた。

「手役を無理に追いかけることもなくて、素直に打っていたしね」

「そりゃ、まぁ、基本じゃないですか」

「その基本がちゃんとできていない人がいるのよ、意外と。きちんと自分の打牌に理由を持っている人なんてさらに少ないものよ」

それでも納得がいかなそうな京太郎は首をかしげた。

「でも、よかったわ。ほんと」

カップのふちを何気なく叩きながら久はどこか嬉しそうに言った。

「須賀君、麻雀のこと嫌いになったわけじゃなかったのね」

「えっ?」

その言葉に京太郎はぽかんと口を開けた。

「まこからいろいろ聞いたけど、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったんじゃないかって、心配だったのよ?」

「……やっぱり染谷先輩から話を聞いてたんですね」

「えぇ、そうよ」

「じゃあ、今日俺を連れ出したのも……」

俺を引き留めに来たんですか、と続けようとしたところで久は言葉を遮った。

「それは違うわ。私は須賀君と話がしたかっただけ。ここの所会ってなかった後輩とね」

「……」

どこか訝しげな表情で京太郎は久を見る。

「あら? 信じてくれないの?」

「何か裏がなきゃ竹井先輩が俺をデートになんて誘ってくれるわけないですからね」

「ははーん、裏があると思って、本当のデートのお誘いじゃなくて拗ねてるのね?」

「違いますっ!」

(だめだ。やっぱりこの人には敵わない。どうしてもペースを乱されるし、なぜか言われたことに従っちゃうんだよなぁ)

心の中で京太郎はぼやいた。無論、実際に口に出すとさらにからかわれるので言わないが。

「ふふっ、でも話がしたかったっていうのは本当に本当よ」

佇まいを直し、笑みは浮かべたままだがどこか真剣な雰囲気で言った。

「ああいうことがあって、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったらとても悲しいことだから、ね」

なんと返していいかわからず、京太郎は黙り込んだ。

「でも、さっき麻雀を打ってる姿を見て確信したわ。須賀君はまだ麻雀を嫌いになっていないって」

だって、と一拍おいて本当にうれしそうな笑みを浮かべていった。

「私に打牌の説明をするとき、裏目を引いちゃって悔しがっているとき、欲しいところを引いてきたとき」

ふふ、と久は小さく笑った。

「本当に、楽しそうだったわよ。須賀君」

(そう、だったのか?)

(嫌いになった。いや、嫌いになったはずだ?)

京太郎は自問自答する。だが、霧がかかったように自分の本心が分からない。

「『何切る』な手になった時にいろいろ説明して切った後、想定通りに引いてこれた時とか、須賀君すごいドヤ顔してたわよ」

「ま、マジですか」

全く記憶のない衝撃の事実に京太郎は思わず顔が熱くなる。
そんな様子の京太郎を見つめて久は楽しそうに笑った後、さらに言葉を続けた。

「でもね、それ以上に嬉しかったのは」



「須賀君がみんなのことを嫌いになってないっていうこと」

「それが本当にね、本当に嬉しかった」

沈黙が二人の間に流れる。
京太郎はその言葉に対して言い返そうとした。

(嫌いだ。嫌いになったはずだ)

だが、その言葉が出ない。言い返す言葉が見つからなかった。
その様子を見つめながら、久は言葉を続ける。

「須賀君が何かを説明するとき、誰々に教わったことって必ず付けていたの、気が付いた?」

「えっ?」

「ふふ、やっぱり無意識だったのね。その時、どこか誇らしげにしてたり、申し訳なさそうな顔、してたわよ」

「……そこまで、見てたんですか。俺が打ってるの見てるだけなのに妙に楽しそうだな、とは思いましたけど」

「それだけ表情がコロコロ変わってればね」

恥ずかしそうな、ばつが悪そうな顔をしながら京太郎は下を向いた。

「嫌いな人の名前をあんな風に言うはずないものね。ほんと、嬉しかったわ」

再び、沈黙。
久は京太郎の言葉を待っているようだ。

「でも……」

「うん?」

「それでもあいつらと麻雀打つのがつらいのは、事実です」

拳を握りしめる。あのときの無念さが京太郎の心に蘇ってきた。

「勝てなくて、どれだけ打っても勝てなくて」

「みんなも俺のために力を尽くしてくれて。それでも勝てなくて」

「差を、見せつけられてるみたいで、本当に、つらいんです」

絞り出すような京太郎の独白を久は黙って聞いていた。
黙りこくってうつむく京太郎を見て久は周りを見渡した。

「……混んできたみたいね。一旦出ましょ?」

「……はい」

京太郎は暗い顔のまま、久は何かを考え込むかのような顔で店を後にした。

店を出て久はどこかに向けて歩き出す。
京太郎は虚ろな表情で着いていく。
繁華街から離れて徐々に物静かになっていくが、2人とも何も言わずに歩き続けた。
しばらく歩いた後、久は手元の時計で時間を確認し、後ろを振り返った。

「……まだ少し時間あるし、ちょっと座りましょうか」

久が指し示すほうには公園があった。

「……何か予定でも、あるんですか?」

「いいからいいから」

暗い顔で尋ねる京太郎を押し切り久は公園に入って言った。
京太郎は少し立ち尽くしたのち、黙って後を追った。

「休みだっていうのにほとんど人がいないわねー。最近の小学生は外で遊ばないのかしら?」

久は公園に入るなりブランコに座って漕ぎだしながら言った。
京太郎は何も言わず隣のブランコに腰を掛けた。

「ねえ、須賀君。いくつか聞いてもいい?」

「……どうぞ?」

「麻雀って中国で生まれて日本に来て、それから世界的な競技になったけど、なんでそこまで世界的に広がったと思う?」

「なんでって、そりゃ、面白いから、とか、楽しいから、ですか?」

「ふふ、それが真理だと思うけどね」

久はブランコを小さく揺すった。きぃきぃと、金属のこすれる音が響いた。

「須賀君、貴方将棋やチェスはできる?」

「えっ? まぁ、駒の動かし方ぐらいは……」

いきなり質問の内容が変わり京太郎は動揺しながらも答えた。

「じゃあ、貴方今から今から羽生プロと将棋を指して勝てると思う?」

「何を……そんなの無理に決まってるじゃないですか」

「そうよね。私も将棋に関して駒の動かし方ぐらいだけど、8枚落ちでも絶対に勝てないわ」

久の質問の意図がつかめず京太郎は首をかしげた。

「でも、麻雀は違うわ。どんな強い人間でも初心者を負けることはある」

「……」

京太郎にとってはその言葉については納得しかねるものがあったが、口をつぐんだ。

「麻雀は運が絡むからね。そう、だからつまり」

ブランコを揺する手を止めて久は京太郎に向き直った。

「麻雀ってクソゲーなのよ」

「……えっ」

まさかの発言に京太郎は思わず声を漏らした。

「く、クソゲーって、そ、そんな」

「あら? 勝負の行方がある種運に左右されるなんてクソゲー以外の何物でもないじゃない?」

どこか楽しそうに久は言った。

「じゃあ、須賀君。さっきやった格闘ゲームなんだけど、私が振った攻撃が2分の1でガード不能になるって言ったらどう思う?」

「……クソですね」

「攻撃をガードされた時、2分の1で不利だけど2分の1で有利なら?」

「とってもクソですね」

「でしょ? まぁ、極端な例だけどね。将棋だってそうよ。最初にじゃんけんして負けたほうは飛車角落ちでやるとか、酷い話でしょ?」

「そりゃ、まぁ」

「でも、麻雀ではそれがまかり通っている。最初のスタート地点も違う。途中経過も違う。かといってカードゲームのように降りてゲームから離脱することもできない。クソゲーじゃない。これ?」

「いや、それを言っちゃうと……」

「でもね」

久はブランコから軽くジャンプして着地し、伸びをした。
そして笑みを浮かべながら京太郎に向かい合う。

「だから面白いのよね、麻雀て。クソゲーがつまらないとは限らないとはよく言ったものね」

楽しげに笑う久。京太郎は返事を返さず、そんな久を見つめた。

「麻雀って強い人が勝つとは限らない。そんな理不尽さがあるから楽しいと思うの」

「確立を超えた、計算を超えた何かがある。そこから生まれる何かがある」

そこまで言い切って、久は真剣みを増した表情で、続けた。

「その理不尽さ。それにはきっと誰にもかなわない。咲も、お姉さんの照さんも、天江衣も誰も彼も」

「……そうでしょうか? 正直、想像がつかないです」

咲が麻雀を打っていてツモが全く来なくて嘆いている、そんなシーンが想像できなくて京太郎は久に問いかけた。

「気持ちはわかるわ。彼女らのオカルトめいた『何か』はきっと人間がその理不尽に対抗するために生まれた『何か』なんだと思う」

「理不尽に、対抗する『何か』……」

「ある種の進化なのかしらね? だから通常では考えられないような手をあがる。勝ち続ける」

でもね、と一旦間を切ってどこか悲しそうに、どこか寂しそうに

「それでもきっと理不尽なそれに屈するときがある。もし、もし、強い人が必ず勝つ。そんなことがあれば」

ため息をついて、言った。

「それはもはや麻雀ではないわ」

「もちろん、技術や知識は必要よ。麻雀は確立のゲームでもあるから」

しばしの沈黙の後、久はそう言葉を続けた。

「だから強くなるためには勉強や訓練が必要なことも事実。だから」

久はブランコに座ったままの京太郎の前にしゃがみ込み、京太郎の顔を覗き込んだ。

「信じて戦い続ければ麻雀の理不尽さが味方してくれる時が、きっと来るわ」

「たとえ須賀君が対抗するための『何か』を持っていなかったとしても」

「『何か』をもっていなくても麻雀は勝てる。もたざるものでも、もつものには勝てる」

そう言って、久は京太郎の腕を優しく撫でた。

「私はそう信じているわ」

はい、一旦ここまでです。
おかしい、部長のデートだけで2日費やしている……しかもデートはまだ終わっていないという事実。
とは言ってもあとちょっとですが。

何とかデート終了まで今日中に書き切りたいけど時間的にきついのであまり期待しないでくださいー

やっぱり皆さんそこが気になりますよね……。
なのでデート終了まで書ききるのはちょっときついですけど、明日へのつなぎになる部分を突貫で仕上げました。
緊急で投下します。

「……でも、それって、残酷な話じゃないですね」

俯いていた顔を上げ、久と目を合わせる。顔が近いが、なぜか照れはなかった。

「俺みたいにもってないやつは、もってるやつに1勝するまで、どれだけの敗北を差し出さなくちゃいけないんですか?」

「百か千か万か……俺は勝つためにそれだけ負け続けなきゃいけないんですか?」

「もってないやつってのは、それを受け入れなくちゃいけないんですか?」

「そんなの、俺には……耐えられない」

ブランコの鎖を強く握りしめる。がちゃり、と音が鳴った。

「……」

久は内心歯噛みした。久自身そうは思ってはいない。自分以上の化け物はウジャウジャいる。
そう思っていても、彼からすればもっている人間なのだろう。
心を悔しさに支配されつつも久はバッグから1枚の紙を取り出した。

「須賀君、ちょっと、これを見てもらえる?」

「……なんですか」

打ちひしがれた顔でその紙を取出し、広げた。

「牌譜……?」

そう、そこに書かれいたのは見覚えのない字で書かれた牌譜だった。

「これ、だれの牌譜ですか?」

「いいから、読んでみて」

意図がつかめないまま、言われるがままに目を通した。

「……酷いですね」

5分ほどその牌譜に目を通していた京太郎がポツリと言った。

「感想?」

「えぇ、ここ」

そう言いながら牌譜を指差した。

東1局南家 6順目
『???手牌』
123m22288s12278p ツモ9p ドラ2m

「聴牌しましたけど、打1筒でリーチしてません。個人的には即リーですけどまぁ、それはいいです。問題は次順ですよ」

『???手牌』
123m22288s22789p ツモ4p ドラ2m

「ここでなぜか2筒切りリーチしてます。だったらなんで6順目でリーチしないんですかね? 同じ3筒待ちなら6順目に2筒切りでリーチできるのに」

和に見せたら絶対に叱られますね、そう結んで牌譜を久に返した。

「ふふ、ありがとう。須賀君も言うようになったわね」

牌譜をしまいながら久は笑った。

「で、結局誰の牌譜なんですか?」

「これはね、これから会う人の2年前の牌譜よ」

そういいながら久は立ち上がった。京太郎の返事を聞かずに歩き始める。

「さっ、行きましょ?」

「へっ、行くって、会うって……」

その声には答えず久は先に進んでいく。状況が理解できないまま、京太郎は久の後を追った。

「先輩、いい加減にどこに行くか、誰に会うか教えてください」

公園を出て10分ほど歩いたところで痺れを切らした京太郎は久に尋ねる。

「もうそろそろよ……ほら、あそこ。もう待ってるわね」

久が指し示す所には古めかしい雀荘が立っていた。その前に一人の髪の長い女性が経っていた。
久はその女性に近づき声をかけた。

「お待たせ。今日はごめんなさいね、急に」

「何、ついでといえばついでだ。で、そっちの彼が?」

「えぇ、私の後輩の須賀京太郎君」

髪の長い女性が京太郎に向き直った。
京太郎はその女性に見覚えがあった。

(長野県大会決勝のあの舞台、咲と戦った)

「初めまして。須賀君。私は加治木ゆみ。よろしく」

(鶴賀学園の、団体戦大将!)

京太郎は、思わぬ出会いに言葉を失った。

明日へ続く!

っていうか明日に回さず最初っからここまで書けばよかった。
読後感違いすぎやがな

乙~
麻雀だからなぁ
練習したり、誰かに話聞けばいきなり強くなれるってもんじゃないんだよなぁ

リアルな話もってない奴がもってない状態のまま、怪物級相手に勝利もぎ取るとすればもうサマしかないんじゃね?
すり替えとガンつけなら電卓でもいけるし、あとは…手術して指に電極仕込むとかよ

まぁ咲世界だから、全局役満狙い続ければいつか全局役満手が入るようになるかもだけど

イッチのゲス顔から、
咲達困る→久がまかせて→傷心中な京ちゃんが優しくされて久に惚れる→京ちゃん咲に久先輩に惚れたと相談する→咲「あれ?先輩京ちゃんを説得してくれたんじゃあ…」→覚醒→京ちゃん久に告白しようとするが久の気遣いが麻雀関連と分かり絶望→咲と久が衝突→京太郎と照結婚→HappyEND

と想像した俺はまちがいなくゲスだった

もうあえて麻雀最強に近いアラフォーと付き合うっていうショック療法でいいんじゃね
アラフォーも若い彼氏が出来て満足じゃね、知らんけど

飲んで帰ってきたらこんな時間である。
もつ鍋おいしいです。

1時過ぎてしまうかもしれませんが、投下していこうと思います。

途中なんですけどメッチャ眠いです。
寝落ちる危険性が高いので現段階で一旦投下しますー。

>>215
>手術して指に電極仕込むとかよ

個人的にバードはリメイク前のグロイやつも嫌いじゃないです

>>229
スレ立ていつですか?

>>238

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. . ..|:::::| ::!  _乂     ,′ V》.. .. .ハノ.:/   j::;′        |   |/l/  |
. . ..乂:ト、|   `    ´ ̄   }..》.. . . .V    /'′        }   o o   (
. . . . .《{. |              |..》. .{. j .}           \     )       (
. . . . . 《{`Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y´|..》.. .Y..│    \\   \ \`Y⌒Y⌒Y´
. . . . . . 《{ 爻=====}><{====|.》 . . } . |   \   \\    \ \

「おじさーん、久しぶり!」

自己紹介もそこそこに、久に導かれる形で京太郎とゆみは雀荘内に入った。
店内は若干古めかしかったが落ち着いた内装であり、8卓ほどある卓のうち3卓がが埋まっていた。

「おぉ、久ちゃん、元気にしてたかい?」

店主と思われる初老の男性が笑みを浮かべながら久を出迎えた。

(相変わらず部長の人脈は謎だな)

店主と親しげに話す久を見て前々から思っていたことを再度認識した。

「1卓だね。そっちの卓を使ってね」

「ありがと、おじさん。さ、行きましょ」

そう言いながら、店主が指差した方向に歩き出す久。
ゆみと京太郎は顔を見合わせながらもその後に続き、卓に座った。

「……とりあえず、改めて挨拶させてもらう。私は加治木ゆみ。よろしく」

「どうも、須賀京太郎です。よろしくお願いします」

そう挨拶しながらも京太郎は目の前のゆみについて思考を及ばせる。
鶴賀の大将。咲や衣相手に苦戦しつつも一歩も譲らず喰らいついていたことは京太郎の記憶にも残っている。
特に咲に対してチャンカンの一撃を当てたとことは昨日のことのように思い出せる。
インターハイを通して、咲が放縦した数少ない機会であったからだ。

「しかし、何で加治木さんがここに?」

京太郎の質問を受けてゆみはチラリと久に視線を送った後京太郎に言った。

「何、以前の私と似たような悩みを抱えている後輩が居ると聞いてな。お節介かもしれないが少し話をさせてもらいにきた」

「同じ、悩みって……」

県大会決勝のあの立ち回りを見て自分と同じ人種だとは思えない。
そういう感情が顔に出ていたのか、ゆみは軽く笑った。

「牌譜は、見てくれたか?」

「はい、一応……」

「酷かっただろ? 意味の無いダマから謎の1順まわしてリーチ」

自分のことなのに、とても可笑しそうにゆみは笑う。
その様子に多少申し訳なさを感じつつも京太郎は頷いた。

「それがわかるだけ、2年前の私より君のほうが遥かに上手い。同じ立場なのに凄い違いだな」

「同じ、立場?」

「あぁ、私も麻雀を始めたのは高校生になってからだ。雀暦で言えば2年ちょっとしかない」

その言葉に絶句する。たった2年程度であの境地に辿り着いたというのが信じられなかった。

「まぁ、当時の部員は2人だけだったからな。指導者も居なければ教えてくれる先輩も居ない。いろいろ大変だったよ」

何かを思い出すかのように、遠い目をするゆみ。京太郎と久は何も言わずに言葉の続きを待った。

「その牌譜は私が当時の風越キャプテンと打ったときの牌譜だ。1年生のときに長野県下の麻雀部が集まる交流会があってな」

ため息をつく。苦い思い出なのだろうか、先ほどよりは多少口ぶりが重くなっていた。

「酷い負けっぷりだった。3日間ほどの交流会の中での出来事だったんだが、さすがは名門。キャプテン以外も一人一人が悪魔じみた強さだった」

そのタイミングで店主が3人にグラスに入った麦茶を持ってくる。
ゆみはそれを手に取り軽く口をつけると話を続けた。

「だが当時のキャプテンの強さは異常だった。何をしても聴牌できない、アガれない、トップが取れない。1局で箱を4つ被ったときは泣きたくなったよ」

京太郎の心がざわめく。似ていた。自分の心が折れた状況と。

「一時は麻雀が嫌になった。あんな化け物たちに勝てる気がしなかった。……辞めようとも、思った」

麦茶のグラスをサイドテーブルに置く。
グラスの中の氷がからん、と音を立てて鳴った。

「だが、後からその牌譜をもらってな。落ち着いて、ゆっくりと見直してみたんだが、まぁ、酷い。自分なりにはしっかり打てているつもりだったんだがな」

一呼吸を置いて、京太郎のほうを見た。
思わずどきりとして京太郎は体をすくめた。

「自分には、まだできることが残っている。まだ足りないところが沢山あるんだと」

まっすぐな瞳だった。
凛、という言葉が非常に似合う。
京太郎はそんなことを思った。

「それからは無我夢中だったよ」

そこでゆみは若干自嘲気味に笑った。

「お宅の宮永咲やうちのモモみたいなオカルトめいた『何か』は持ち合わせていないしな」

卓に置かれた牌を1つ取り、手の中でもてあそびながら言葉を続けた

「自分に足りないものは何か。考えて模索して、試行錯誤してそれでも負けてもう一度考えて」

「戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って」

「気が付いたら2年経っていた。まったく、高校生活というのは短すぎる」

はは、と軽く笑ってゆみはふたたび麦茶に口をつけた。

そこまでゆみの話を黙って聞いていた京太郎は初めて口を開いた。

「でも……」

「うん?」

「でも、そこまで足掻いても、咲や天江衣には勝てなかったですよね」

押し殺すような声。思わぬ発言に流石の久もぎょっと口を挟もうとするが、ゆみはそれを手で制した。

「ふふ、事実とは言え君はなかなかきついことを言うんだな」

ゆみが苦笑しながら京太郎に返事を返す。京太郎は頭を下げつつも、発言を取り消すことはなった。

「……すみません。でも俺思うんです。『何か』をもっている連中には何をしても勝てないんじゃないかって」

再び、京太郎の中に暗い感情が戻ってくる。あの苦しみ、あの悔しさが京太郎を苦しめる。

「竹井先輩は信じて進めばきっと勝てる日が来るって、言ってくれました。でも……でも!」

歯がきしみ、握りしめた拳からは血が出そうだった。

「いつ来るかわからないそのために、どれだけ負けて、どれだけ耐えればいいのか……俺には、そんなの無理です」

京太郎の絞り出すような独白をゆみは真剣な顔で、久はどこか辛そうに聞いていた。

「加治木さんは……耐えられるんですか? 高校3年間を費やしても結局持ってる連中には敵わなかった。嫌にならないんですか?」

京太郎はゆみの顔をまっすぐ見て訪ねる。その縋り付いたような視線に何かを感じ、ゆみは答えた。

「耐えられないと言ったらうそになる。やはりあの日は悔しさで眠れなかった」

やっぱり、そうなんですね。そう言おうとした京太郎の言葉にゆみの言葉が覆いかぶさった

「だが」

「私はだからと言って歩みを止めるつもりはない。高校での挑戦は終わってしまったが次は大学というステージでもう一度戦い続ける」

「な、何で」

よろり、と京太郎の体がよろめいた。
ゆみのその口ぶりに一切の嘘は感じられず、むしろ強い意志が感じられた。

「なんで、そんな」

もはや、後半は言葉になっていなかった。

「進まねば、勝てない。闘わねば、勝てない。挑まねば、勝てない。」

「今の私がもう一度天江衣クラスの人間と打っても、勝つのは難しいかもしれない。それでも」

「挑まなければ、負けたままなんだ。私は、勝ちたい。『何か』を持っている連中に勝ちたい」

「私は私が望んだ勝利を手に入れたい。その勝利のために百や二百、千や万の敗北が必要ならくれてやろうと思う」

「この先、無念さに押しつぶされそうになるかもしれない。悔しさに泣いてしまうこともあるかもしれない。絶望のあまりに歩みを止めそうになるかもしれない」

「だが、一度自分が選んだ道、進んでみようと思った道だ。『何か』が無くとも戦って戦って、勝ってみせる」

「そのために、もっともっと足掻けるだけ足掻いて戦い抜こうと思う」

「それだけだ」

京太郎は言葉を失っていた。
目の前にいる女性が自分と同じ人間なのか、そうとまで思った。
余りにも凛としたその姿に京太郎の心はかき乱される。

――挑まねば、勝てない――

なぜか、その一言が心に突き刺さった。

「ところで須賀君」

「は、はい」

唐突に話を振られ、京太郎はびくりとしながらも返事を返した。

「君は今、『何か』を持っていないのかもしれない。だが、それが未来永劫そうなのだと誰が決めたんだ?」

「……えっ?」

「もしかしたら、それは厳しい修練の先にあるのかもしれない。敗北に塗れ、辛酸を舐め尽くした上で手に入るものなのかもしれない」

「い、いや、それは」

それは、考えてもみなかった発想だった。
そういった連中は生まれた時から、気が付けばもっている類のもの。
一種の才能めいたものなのだと思っていた。

「どちらにせよそれは歩み続けなければ、前に進もうとする意志がなければわからないことだけどな」

「……」

京太郎は、それに対して反論できなかった。

と言うわけでいったんここまで。
眠さがマッハだけど書き続けはします。

というか休日のため昼間とかにもふらりと投下するかもしれません。
目標は土曜日中の完結!

しまった。……やってしまった。
>> 254と>>255の間に1文を挟み忘れた。

>>254>>255の間

「簡単な理由だ。須賀君流に言うなら『何か』を持っている連中。彼らは確かに強い。だが」

肝心なところでやらかしたなぁ……

>163 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 投稿日:2012/12/23(日) 23:36:02.05 ID:2lWY1SWzo
>「否 我々の与える物は全てあの者に与えた。
>我々が奪える物はかの者から全て奪った。
>自分の人生 自分の幼馴染み 自分の信義 自分の忠義 全て賭けてもまだたりない。
>だからやくざな我々からも 賭け金を借り出した。
>たとえそれが一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしても、
>2年かけてあの男はあの宮永咲と勝負するために全てを賭けた。
>我々と同じ様にな 一夜の勝負に全てを賭けた。
>運命がカードをまぜ賭場は一度!! 勝負は一度きり!!相手は鬼札(ジョーカー)!!
>さてお前は何だ!! 須賀京太郎!」
こっちの京ちゃんはこうならなそうやね

耐えられないと言ったら嘘になるって文脈からすると耐えられると言ったらでは?

これから昼休憩に入るため一旦投下しますー。
今日中の完結に向けて頑張ります。

>>268
ご指摘の通りでございます。
うおー恥ずかしい!

しかし、本当に修正したいなぁ

「っと、すまない。若干責めるような言い方になってしまったな」

呆然とした様子の京太郎を見て慌てて小さく頭を下げるゆみ

「私の言ったことが正しいことなどというつもりは全くない。『何か』については完全に推測だしな」

京太郎は小さくいえ、と返すのが精いっぱいだった。
すると、ここまで黙って二人のやり取りを眺めていた久が口を開いた。

「そうね、須賀君。私は決して部に戻るように説得するために加治木さんを呼んだわけじゃないの」

どこか悲しそうな顔で久は顔を伏せながら言った。

「ただ、須賀君。あなたはこの先のことをどうするかきっと悩んでいると思ったから、貴方に近い人の話をしてもらおうと思ってね……」

(ただ、強烈過ぎたかもしれないわね。正直ここまでの人だとは思わなかったわ……)

久は若干後悔しつつも無理矢理笑みを浮かべて京太郎に向き直った。

「こう言い方はなんだけど……所詮は高校の部活よ。そこまでの苦しみを味わう必要はないと思う。嫌だからと言って辞めたとして、責めるつもりはないわ」

辞める、という言葉にびくりと体を震わせる京太郎。

「ただ麻雀を続けたいというのであれば、いくらでもやる環境はあるわ。なんだったらこの雀荘のアルバイトとしておじさんに紹介してあげる」

客と談笑する店主をちらりと見ながら久は話を続けた。

「もしくは、麻雀は趣味レベルに留めておいて、もっと打ち込める何かを見つけるっていうのもいいと思う。まだ1年生だもの、取り戻しは効くわ」

久は3つの選択肢を示した。

麻雀部に戻るか
麻雀部から離れ別の環境で麻雀を打つか
麻雀とは別の、打ち込める何かを探すか

京太郎の頭の中でその3つの選択肢がぐるぐるとぐるぐると回り続ける。
もはや自分でもいったい何を望んでいるのか、わからなくなってきていた。

ふさぎ込んだ京太郎を見て久は苦笑する。

「ごめんなさい、余計に惑わせちゃったわね。よし、じゃあ、せっかくだから打ちましょうか!」

明るい声で二人にそう宣言する久。

「私は構わないが……」

ゆみはその言葉を受けてちらりと京太郎を見る。

「いや、俺、麻雀は」

「1回だけ! 1回だけだから、ね?」

「でも……」

「ほら、私と加治木さんより順位が上になったらご褒美あげるから!」

「……ご褒美?」

「ふふっ」

途端に悪戯を思いついたような、とても似合う顔をして久は京太郎に顔を近づけて小さく耳打ちした。

「パンツ、見せてあげよっか?」

「!?!?!?!?!?!?」

基本京太郎は欲望に忠実な人間である。
先ほどまでの悩んでいた気持ちはまだ残っていたが煩悩というものが京太郎の中で鎌首をもたげてくる。
慌てた姿の京太郎を見て久は満足げに頷いた。

「よし、須賀君もやる気になったようだし、決まりね。おじさんに人を貸してもらえるか頼んでくるわ」

そう言いながら久は席を立ち、店主に話をしに行った。

「……一体何を言われたんだ?」

店主と何やら話している久を見ながらゆみは訝しげに尋ねた。

「い、いや、大したことじゃないですよ、は、はは」

空笑いをしながら動揺丸見えな姿で京太郎は言った。
ゆみはそれを訝しげに見つつも、話題を変えた。

「しかし、いい先輩を持ったな、須賀君」

「……えっ?」

いきなりの発言に京太郎はぽかんと口を開ける。

「先ほどはついでで来た、と言ったが実は違う。君の先輩に頼みこまれてきたんだ」

何が楽しいのか、笑みを浮かべながらゆみは言った。

「昨日いきなり電話がかかってきてな。私の後輩を助けてほしい。私の言葉では、届かないかもしれない、そう言いながら」

京太郎は黙って言葉の続きを持った。

「同じ長野県内とは言え、ここまではかなり距離があるし、いきなりだったからな。返事をしあぐねていたんだが……」

「何度も、何度も頼んできてな。ある種人を食ったようなところもある竹井があれほど必死になるとは正直想像もできなかった」

京太郎も想像ができなかった。
京太郎の中で久はいつも余裕があり、自分のペースに巻き込んでく。そんな人間だと思っていた。

「まぁ、もともと新生活に向けた下見なんかもあったしな。無理矢理予定をつけてやってきたというわけだ」

そこまで言い切ってゆみは笑いながら、どこか羨ましそうな顔をした。

「いい先輩を持ったな、須賀君。私には先輩がいなかったから、君が羨ましい」

京太郎はその言葉に返事ができなかった。

「お待たせー。メンバーの一人を貸してもらえたわー」

「よ、よろしくお願いします」

恐らく新人なのだろう、エプロンをしてどこか初々しい感じのある女性店員が久の後ろに続いた。
女性店員は全員の顔を眺めた後に、よろしくお願いします、と頭を下げた後、言った。

「全国レベルの人と比べちゃうと私の腕じゃ物足りないかもしれませんが……今日も3連続ラス引いた後ですし……」

「いいのいいの! 今日はうちの1年生も入ってるし、それに」

そこまで言って久は京太郎に向き直った。まるで、京太郎にも同意を求めるように。

「理不尽な何かが、味方してくれるかもしれないわよ」

そう、言った。

(『何か』を持っていなくても、理不尽が味方する……本当に)

(本当にそんなこと、あるのか)

思い悩む京太郎を尻目に、起親決めのサイコロが振られた。

だが、京太郎はこの対局で『理不尽なそれ』を経験することになる。実際にあることだと、痛感することになる。

このタイミング、このたった1回の対局でそれが出たのは偶然か、それとも



神が京太郎を麻雀に引き留めようとしたのか。

店員  25000(親)
久   25000
京太郎 25000
ゆみ  25000

『京太郎配牌』
129m2466s68p東南南白

(萎える配牌だな……)

京太郎は内心ため息をつきながら自分の手をいかに進めるかを考え始める。
だが、しばらく考えていても親の第1打が切られず、ふと店員の顔を見た。

「あ、えーっと、うー? え? え?」

手恰好が難しいのか酷く落ち着かない様子で悩んでいた。
何度も何度も手の中を確認し、じっと見つめた後、震える手で9萬を切り出して牌を横に向けた。

「リーチ……」

震える声で宣言する。

(ダブリーだったのか。天和チャンスだったのかな?)

自分の手を見て即ベタ降りを決定する。とりあえず9萬を切り出し、そのあとは南の対子を落とそう。
そう、京太郎が思っていた時だった。

「ろ、ロンです!」

裏返った声で店員が発声する。驚いた顔で久は自分が捨てた北を見た。

「い、いかさまじゃ、ないです、からね?」

そう言いながら、店員はその手を、倒した。



『店員手牌』
111m333888s444p北

「四暗刻単騎……や、役満です!」


一旦ここまで。

はい、皆様、「ダブリースッタンとかねーよwww」って思われるでしょう。
わかっています。わかっていますが>>16にも書いた通り、これ、実話なんすよ(震え声)

まぁ、サンマだったというのはありますが、他は実際の出来事です。
ちなみにアガったのがメンバーというのも現実の通り。
振り込んだ下家おっちゃんが「積み込みだろー!」って騒いでました。
そのあとしばらくのおっちゃんのへこみっぷりは見てて気の毒だった……

ダブリースッタンってダマでよくね?

素人ってことを強調するためじゃね?俺も昔は国士をリーチしたことあるし

よし、とりあえず一区切り付く所までできたので一旦投下します。

そしてごめんなさい、ゲーセンに格ゲーをやりに行ったら思いのほか熱中してしまってな……
今日中に終わるか怪しくなってきました。なるべく頑張ります。

>>304 >>305
現実ではフリーってこともあり、待ちもよかったからリーチしたんだと思います。
一発裏にチップがある麻雀なので。
考えてみれば話の中ではノーレートなんだからダマでよかったな……現実を反映しすぎました。

店員はそう発生したまま思わず飛び上がり、店長に向かって駆け寄っていった。

――店長、役満、役満あがりました! 四暗刻あがりました!――

――おぉ、そうか。やったねぇ――

――はい! 麻雀初めて4年間、やっと役満があがれました! 麻雀やっててよかった――

そんな嬉しそうな声が背後から聞こえてくる。
それとは対照的に3人の間には沈黙が流れていた。
京太郎はぽかんと、ゆみは何か気まずそうに、そして久は動きが固まったままだった。

「あー、その、なんだ」

沈黙に耐えかねたのか、久の様子にいたたまれなくなったのか、ゆみが口を開く。
だが、先ほど京太郎と話してきたような流麗なしゃべり方とはかけ離れた、はっきりしないものだった。

「その、災難だったな」

京太郎も呆然としていた。ダブリーで四暗刻というのも驚いたが久が一発で振り込んだのにも驚きだった。

「あ、あの、竹井先輩」

京太郎も思わず心配そうに久に話しかける。
しばしの間呆然としていた久ははっ、と意識を取り戻し、無理矢理口に笑みを作って京太郎に向き直った。

「ど、どうだったかしら、須賀君」

「へっ?」

「り、理不尽さ、見れたでしょ。ほら、ね、私の言った通りでしょ?」

本人は余裕を持っているつもりだが、何やら震えている。取り繕ったような笑みを浮かべているが、とてもぎこちない。
最初は店とグルなのかと思った。だが、どう見ても目の前のいっぱいいっぱいな久の姿にとてもそれは感じられない。
いつもは余裕たっぷりで京太郎のことをからかう部長の姿に何やらおかしくなってきて京太郎は思わず口元を抑えて。

「ぷっ、くくくくく」

何故だか、笑いが込み上げてきて、思わず噴き出した。

「ちょ、何で笑うのよ。もう……はぁ、しかし、親役打ったのなんて、いつ振りかしら」

ぐったりと椅子にもたれかかるようにのけぞる久。

「ふむ、だったら二重の意味で貴重なものが見れなたな。これは」

「ぷ、くく。何とか余裕持って言おうとしたみたいでしたけど、いっぱいいっぱいすぎますよ、部長」

「ちょ、やめてよ、もう」

京太郎の言葉を訂正する余裕もないようで慌てる久。
久しぶりに笑った気がする。京太郎はそんなことを思った。

「はー、これは久しぶりに来たわねー。自分で言っておいてなんだけど、どうしようもないときってホント酷いわね」

「あるんですね、理不尽な何かって。役満打ち込んだところなんて初めて見ました」

「まさかこんな形で証明することになるとはね……。私は加治木さんと打ってもらうことで何か掴んで貰えればとおもったんだけど」

「私と須賀君は配牌取っただけで終わってしまったぞ」

ゆみが苦笑する。

「ほんとね」

それに対して久も苦笑で返す。
2人を見つつ、笑みを沈ませながら京太郎は言った。

「でも、これって実力って言えるんですか? こんな感じで理不尽を味方につけて勝っても……」

「それは、本当の勝利と呼べるんでしょうか?」

「勝利よ。間違いなく」

久は京太郎の問いに即答する。

「……えっ?」

「運だけで買ったとしても、それは紛れもなく勝利よ」

「でも、それって……」

「いいじゃない。『何か』を持ってる子たちってのは得体のしれない何かで勝ち続けてるんだから」

久は京太郎の眼を見る。まっすぐな目だった。

「貴方が理不尽を味方につけて勝ったとしてもケチを付けられる謂れも自分の実力じゃないなんて遜る必要もないわ」

「……でも」

それでも、納得がいかない、そんな様子の京太郎に久は続ける。

「だったら、その勝利を足掛かりに自分の納得できる勝利を目指してもう一度戦えばいいじゃない」

そう言いながら、ちらりとゆみを見る。

「そう、加治木さんのいう、自分が望んだ勝利に向けてね。一度も勝てない相手に挑むのと一度は勝った相手に挑むのじゃ、大違いじゃない」

にこり、と笑った。先ほどまでのぎこちなさはない。

「それに、1度の勝利が、何かを生み出すこともあるかもしれないわよ?」

そういって、京太郎の肩を優しく撫でた。

「さて、私は加治木さんを駅に送っていくからここで別れましょ?」

その後、店を出た3人はしばし歩いて駅への分かれ道で久がそう言った。

「いや、俺も行きますよ」

「須賀君の家は反対方向じゃない。大丈夫よ、まだ明るいし」

くすくすと笑いながら久は笑った。
渋々納得した京太郎はゆみに向き直り頭を下げた。

「今日は、ありがとうございました。いろいろ、本当に……」

「いや、こちらも初対面だというのに偉そうですまなかったな」

そういうとゆみは京太郎の肩をポンとたたいた。

「君がどういう結論を下すかはわからない。だが、後悔のない決断をすることを祈っているよ」

「後悔の、ない」

その言葉を反芻する京太郎。こくりと頷いてゆみは踵を返した。

「あぁ。それじゃあ、また機会があったらな」

「須賀君、さんざん貴方をいいように使った私が言っても白々しいかもしれないけど……貴方がしたいようにしてね。自分のために、したいことをして頂戴。……それじゃあね」

そう言い残して、久も踵を返して駅へと歩いていった。

京太郎はしばらく二人の姿を見送っていたが、やがて家に向けて歩き出した。

「今夜は、相当苦しむことになるぞ。彼は」

「えっ?」

駅へ続く道でゆみは唐突にそう切り出した。

「ただ、麻雀が好きなだけというのであれば麻雀部をやめるという結論に達するだろうがな。雀荘のアルバイトを喜んでするだろう。ただ……」

「……そうね。悲しいことにね」

ゆみの言いたいことがなんとなくわかった久はそれに頷いた。

「惜しむべきは清澄の麻雀部に彼と同じレベルで話をできる人間がいなかったことだな。でなければ彼はあそこまで悩むことはなかっただろう」

「そうね、結局彼はずっと心の底でずっと孤独感やわだかまりを抱えていたんでしょうね」

「多分な。無論、竹井たちが彼を除け者にしていたとか無視したことはないだろう。仲間として扱っていただろう。彼もそれはわかっているはずだ」

ただ、と繋げてゆみは何か悲しそうに言った。

「根っこのところで、どうしても割り切れないものっていうのはあるだろう。……仕方がないことだが、悲しい話だな」

それを聞いて、久は複雑そうな顔をして、ため息をついた後苦笑した。

「……あーあ、何か悔しいな」

「? どうした」

久の真意が読めないゆみが訪ねる。

「だって、初めて、今日初めて会ったのに加治木さんはもう須賀君の苦しみを分かっている。彼に言葉をかけられる。それに引き替え」

少し早足になり、久はゆみより少し前を歩きだす。まるで顔を見られたくないかのように。

「私はだめだった。私の言葉はほとんど届かなかった」

「竹井、お前……」

「わかってる。しなくちゃいけないことは須賀君の話を聞いて、少しでも手助けしてあげること。それはわかってる。烏滸がましいことだってのもわかってるんだけど」

立ち止まって、空を見上げる久。ゆみも立ち止まって言葉の続きを待った。
そして、久の口から漏れ出した言葉には悲しさと、寂しさが込められていた

「それでも、それでも先輩として、仲間として……私が彼を救ってあげたかった」

あれから帰宅し、夕食を取りながらも、風呂に入りながらも京太郎はぼうっと考えていた。
あまりにも意識が遠くに行っているため食卓で父と母から心配をされた。
それに対してなんでもない、と答えつつも京太郎はまたぼうっと考えだした。
両親は何か腑に落ちないものを感じつつも、京太郎の様子を見守った

京太郎は枕元の時計を見た。22時を過ぎている。
一日出歩いていた京太郎の両親は疲れからかもうすでに休んでおり、家の中は沈黙を保たれている。
布団に寝っころがりながら天井を見上げる。京太郎の意識は思考の海に沈んでいく。

深く、深く

(どうするか? 今さらだろ、辞めるって決めたんだ)

(俺には加治木先輩みたいに挑み続けるなんて無理だ。無理に決まってる)

(竹井先輩のようにたった1回の勝利を目指して負け続けるなんて嫌だ)

(俺はそんな強い人間じゃない)

(でもやっぱり麻雀は好きだし、竹井先輩の言う雀荘でアルバイトをするっていうのもいいかもな)

(それか、いっそのこともうやめちゃって他の何か……何か……)

何かをしよう、と考えるも、その何かが思いつかず京太郎は苛立つ。

(……麻雀以外の何を始めるっていうんだ。やっぱり雀荘のアルバイトかな)

(あの店、雰囲気よさそうだし、店長さんも優しそうな人だったし、あの四暗刻のお姉さん結構かわいかったし)

(そうしよう。それがいい)

壁の写真が目に入る。

『京太郎、タコス! 力が出ないじぇー』

『おっ、その切り出しはなかなかいいじぇ! よくやったじぇ、京太郎』

(そうと決まれば退部届、書かないとな)

枕元の教本が目に入る。

『須賀君。結果論で語ってはいけません、最善手を打ったのですから間違っていません』

『よくちゃんとオリきれましたね。無理に突っ張るかと思って心配しちゃいました。今の局には100点満点あげます』

(退部届か、どう書けばいいのかな)

隅に置かれた麻雀牌が目に入る。

『そこから鳴いて行くのは感心せんな。愚形が残る上に面子が足らんぞ? 仕掛けるならここか、ここだけじゃ』

『おぉ、その難しい待ちをよく即座に判断できた。よくやったぞ、京太郎』

何かを強く訴える思考に蓋をし、頭の中で蘇る声に耳を塞いで京太郎は立ち上がる。
勉強机にあるレポート用紙と筆記具を手に取ろうとして、それが目に入る。

「……咲」

ぽつりと呟く。
そこには咲がコメントを付けた牌譜がある。
それを無視して、レポート用紙に手を伸ばそうとする。

(俺はもう麻雀部をやめるんだ。だから牌譜を見る必要はもう、ない)

勉強机の上の本棚に置かれたレポート用紙を見つける。

(俺は、退部届を)

そして、手を伸ばし、

(書かなくちゃいけない……ん、だ)




――牌譜を、手に取った。

牌譜は咲の丸っこい字で書かれており、それにプラスして咲のコメントがついていた。
ところどころ妙なイラストも描かれており思わず小さく笑みが漏れる。

『この5索切りはだめ! まずは8筒をきらなくちゃ! 最終形を考えていこうね』

『この6筒切りはすごいよ京ちゃん! 一番受け入れ多いところだよ!』

『京ちゃんよく見て! ドラ表示牌で1枚消えてるから、この中はラス牌だよ! 鳴かなくちゃ!」

『やったね京ちゃん! きれいな三色!』

『難しい待ちだよねー、これ。京ちゃんすぐにわかった?』

「……なんだよあいつ。後半はもはやアドバイスじゃねーじゃん」

牌譜を強く握りしめる。ぐしゃりと、音を立てて紙に皺が寄った。
その時、折れた拍子にちょうど見ていたページの裏側にも何かが書かれていることに気が付いた。
紙を裏返す。そこには4人分の筆跡での落書きがあった。





『大会目指して頑張ろうね、京ちゃん。 一緒に勝とう!』

『咲ちゃん甘いじぇ! 勝とうじゃなくて、勝つんだじぇ! 目指せ全国!』

『ゆーきもまだまだ甘いですね。目指すは全国優勝です。もちろん男子も女子もです』

『うむ。目標は高いほうがいいからな。清澄高校麻雀部一同、頑張っていこう』



「何で……」

牌譜が手からこぼれた。ばさり、と床に散らばる。
それを拾おうとせずに京太郎は立ち尽くした。

「何で……」

『でもね、それ以上に嬉しかったのは』

久に言われた言葉が蘇る。

「何で……!」

『須賀君がみんなのことを嫌いになってないっていうこと』

「何でだよっ!」

『それが本当にね、本当に嬉しかった』

「何で、俺を仲間として扱ってくれるんだよ……」

京太郎は思った。
無視されたほうがよかった。
見下されたほうがよかった。
見捨てられたほうがよかった。
弱いとなじられたほうがよかった。
居ないものとして扱われたほうがよかった。
ただの雑用係と思ってくれたほうがよかった。
体のいい便利屋として扱ってくれたほうがよかった。

だが、彼女らはそうはしなかった。
口では何と言おうとも、彼を対等の仲間として扱った。
どれだけ弱さを晒しても、どれだけ未熟さを露呈しても根気強く指導をした。
たとえ実力に天と地ほどの差があろうとも、彼女らは京太郎を見捨てなかった。

「くそっ、くそっ!」

京太郎は声を押し殺しながら床に膝をつく。
行き場のない感情が心の中を巡り、叫びだしたい気持ちだった。
牌譜に涙が零れる。一粒零れた後は止めどもなく零れ落ちていく。

「見捨てろよ、俺みたいに弱いやつ」

(でも)

「邪魔なだけだろ、ウザったいだけだろ」

(でも)

「大体おかしいだろ、女子の中で男子一人って。追い出せばいいじゃないか」

(そんな奴らだから)

「何で、あいつらは、俺なんかに……!」

(そんな奴らだから、俺も好きになった)

「弱いって笑えばいいじゃないか!」

(麻雀部の仲間が好きだった)

「弱いからって見捨ててしまえばいいじゃないか!」

(皆化け物じみて強いくせに、俺を仲間として扱ってくれた)

「なんで、なんで!」

(だから周りからなんて言われようと)

「なんで!」

(大会前になって打つ機会が減っても)

「なんでなんだよ……」

(皆が好きだったから、ここまで来れたんだった)

そこまでの結論にたどり着いた後、京太郎は押し殺したように泣いた。
麻雀が好きだから、捨てられない。
麻雀部の仲間も大切だから、捨てられない。
麻雀部に戻れば、また負け続け苦しみを味わうことになる。
麻雀をする以上、やはり勝ちたい。
そうすると、ゆみの言うようにただ一つの勝利を目指して夥しい敗北を積み上げる必要がある。
それは平易な道ではなく、苦難の、試練の道。

それでも

「くそっ」

それでも京太郎は

「くそっ……」

その両方を、捨てることはできない。そう自覚した。
何が悲しいかはわからない。何が悔しいかはわからない。何故涙が出るのかはわからない。

「くそぉ……」

それでも、京太郎は部屋で一人、泣き続けた。

はい、とりあえず以上となります。
何とかあと2回の投下で終わらせたい……

ところで>>266ってなんでしょうね。
すっごく読みたいんですけど

乙ー
これ見てると麻雀部に戻っても京太郎は辛いままなんだろうなぁ…。
誰が悪いとかじゃなくって、ホント、環境が悪すぎる…。

>>343
それがヘルカイザーじゃね?

>>344
ヘルシングパロに見えるけど
どっかのスレかねこれ

ちょっとですが24時を迎える前にキリのいいところまで投下しておきます。
結局今日中は間に合わなかったよ……というか今これから投下する分が金曜日に投下する分の予定だったのに……。

>>345 >>349

ヘルカイザーはもちろん既読なんですがああいう文章ありましたっけ?
大変気になるところです。

休日が終わりの月曜日の朝、麻雀部部室には麻雀を打つ4人の姿があった。
だが、雰囲気は心なしか重い。特に咲はひどく憔悴した顔をしていた。
その様子に和は心配そうに声をかける。

「咲さん……本当に大丈夫なんですか」

「ありがとう、和ちゃん。私は、大丈夫だから」

力のない笑みを浮かべながら咲はツモに手を伸ばす。

『咲手牌』
1112444m4567s中中 ツモ中 ドラ2m

手ごたえを感じる中引き。だが、咲の心は全くと言っていいほど弾まなかった。

――お前らと打っていても――

その言葉が蘇ってきて、咲の心がずきりと痛んだ。
何とか点箱に手を伸ばし7索を切り出してリーチを宣言した。
その順は全員現物を切り、咲は一発目の牌をツモる。

『咲手牌』
1112444m456s中中中 ツモ4m

「……カン」

力のない発声だったが、宣言をする。
新ドラ中。だが、それでも咲の心は弾まない。
そして嶺上牌で2萬を引いてくる。

『咲手牌』
1112m456s中中中 暗カン4444 ツモ2m ドラ2m、中 裏1p、8s

「……ツモ。リーチ、ツモ、中、嶺上、ドラ4。4,000-8,000です」

「うげっ、親っ被りだじぇ」

優希が悲鳴を上げたところでまこが咲の上がり形を見た。
そして何やら難しい顔をして、咲に告げた。

「咲……残念じゃが、それはチョンボじゃ」

「えっ?」

咲のあっけにとられた声を聴きつつ、和もそれに続いた。

「咲さん、よく見てください。その形、2444の聴牌形にも、取れますよね?」

「あっ……」

麻雀の基本である、待ちの変わるカンはできないというルール。
確かに見落としやすい形ではあるが、咲がこのようなミスをするということは初めてであった。

「ご、ごめんなさい」

チョンボ料の満ガンの支払いをする咲を見つつ、まこは内心歯噛みしていた。

(やはりこうなったか)

ミスはそれより、咲の全く楽しくなさそうな顔が気になった。
調子を崩すどころか、このままでは咲も麻雀部を離れてしまうのではないか。
咲に渡された2000点を点箱にしまい、そんな不安を必死に抑え込んだ。

「っと、親のやり直しかー」

重苦しい空気の中、優希が牌を落とそうとした、その時だった。

きぃという音を立てて、麻雀部の扉が、開いた。

「京……ちゃん」

一斉に開いた扉に視線をやり、真っ先に口を開いたのは咲であった。
皆が京太郎のほうを見ていた。
4人それぞれが、京太郎に対して言いたいことがあった。
謝りたいことがあった。聞いてほしいことがあった。
だが、誰も口を開けなかった。何かを言おうとしていたのに、言葉が出なかった。
しばらく無言の時が流れる。やがて、京太郎は歩き出し、咲の前に立った。

「咲」

「な、なぁに、京ちゃん?」

どこか、怯えが混じった混じった表情で咲は返事をする。
すると、京太郎は深く、とても深く頭を下げた。

「まず、お前に謝りたい。この前は言い過ぎた。別にお前が悪いわけでもないのに、責めるような言い方をしちまった」

頭を下げながら、押し殺したような声だった。

「本当に、すまなかった。ごめん」

「きょ、京ちゃん、やめて。私が無神経だったの。だから、ね、頭を上げて」

突然の言葉に慌てながらも京太郎に駆け寄り、肩を撫でた。

「……本当に、ごめんな、咲。許してほしい」

「いいの、京ちゃん。本当に、いいから」

涙を流しながら京太郎の言葉にこたえる咲。それを聞いて、ようやく頭を上げる。
そして、今度は全員に向き直ると、大きく息を吸って、何かを決意するように言った。

「この前は、すみませんでした。迷惑かけて、すみませんでした」

全員が、黙り込み京太郎の言葉の続きを待った。

「俺……弱いから、ずっと負け続けて嫌になって、麻雀も何もかも嫌になって、この部活やめようと思っていました」

重い空気が流れる。京太郎のむき出しの感情が込められた言葉に口をはさむことはできなかった。

「でも、でも……」

京太郎の眼尻に涙があふれる。それを必死に堪えようとする。

「やっぱり、俺、麻雀が好きだ。なにより」

だが、堪えられずに、ぽろりと涙がこぼれた。

「この部の、みんなが好きだ。引退した部長も、染谷先輩も、咲も優希も和も。皆のことが、大好きなんだ」

その言葉を聞いて、和が目を潤ませながら口元に手を当てて漏れそうになる声を必死で堪えていた。

「これからも頑張ります。弱い俺だけど、必死で強くなるように努力します」

「負け続けてまた逃げ出したくなるかもしれません。それでも前に進もうと足掻いて見せます」

「みんなに認めてもらえるように……頑張ります、だから、だから」

そこが限界だった。次々と零れてくる涙を隠すように京太郎はふたたび大きく頭を下げた。

「お願いします! 俺をここにいさせてください! お願いします! 散々迷惑かけて都合がいいってのはわかってます! でも、でも、俺……」





「俺は、皆と一緒に、麻雀がしたい……」




それ以上言葉にならなかった。そして何より、それを遮るようにして和が叫んだ。

「やめてください! 須賀君が悪かったとか迷惑をかけたとか、そんなことありません! 私たちが」

和は溢れてくる涙を拭いながら、必死に言葉を続けた。

「もっと貴方のことをわかろうと努力すべきだったんです!」

それだけ言って和は顔に手を当てて泣き出した。
その姿を見て優希は真っ赤な顔で、感情を爆発させた。

「何が居させてください、だ! お前はもともと麻雀部員だじぇ? なんで、そんな頭を下げる必要があるんだじぇ! いさせてください、とか、そんな、そんな」

優希はそれ以上言わず、そういって京太郎にすがりついて泣き出した。
咲もボロボロと滝のように涙を流していた。泣きすぎていて、もはや言葉も出ないようだ。

「全く、優希の言う通りじゃ。麻雀部員の京太郎がなぜここにいることを願い出る必要がある?」

まこがそういいながら京太郎の頭を撫でた。
されるがままにしている京太郎は震えながらも言った。

「だって、俺、辞めるって、もういやだって……」

「ん? わしが聞いているのは京太郎は1週間休むっていう話だけじゃぞ?」

まこは何かとぼけたような口調で続けた。

「それに……和の言う通りじゃ。わし達はもっとお互い分かり合おうとするべきじゃった」

まこは眼鏡を取り、軽く涙をぬぐった後、再び眼鏡をかけて、言った。

「わしもまだまだ未熟な部長。京太郎にまたつらい思いをさせてしまうかもしれん。だが、わしも頑張る。だから」

すうと息を吸い、佇まいを直して京太郎に向き直った。

「もう一度、ついてきてくれるか、京太郎?」

それを聞いて、言葉にならない京太郎は涙声で、震えきった声で、はい、と言った。

麻雀部部室の扉の外。扉にもたれかかる形で久は中の会話を聞いていた。
皆が皆叫んでいるから会話は丸聞こえであった。

「よかったの、かしらね。これで」

(結局須賀君はある意味辛い道を選んだ)

(これが彼にとって幸せなのかどうか)

(彼が選んだ、それを免罪符にして、納得してしまっていいのかしら)

目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら久は扉から離れた。

(あぁ、それでも)

(やっぱり、須賀君が戻ってきてくれたことがうれしい)

そう思いながら久は笑顔を浮かべた。

「酷い女ね、我ながら」

歩きながら軽く伸びをしてポケットから携帯電話を取り出した。

「さーて、加治木さんにお礼の電話を入れないとねー」

どこか楽しそうに久はその場を去っていった。

「あぁ、もう、目が腫れちゃったじぇ」

手鏡で自分の顔を見ながら優希がため息をつく
あれからしばし、しばらく泣き続けていた1年生4人はようやく落ち着きを取り戻した。
とは言え、咲はあまりにも泣きすぎて顔が無残なことになっているため和とともにトイレに向かっていった。

「ははは、すまん」

こちらも目が真っ赤になっている京太郎が苦笑を浮かべた。

「全く、犬如きに泣かされるとは一生の不覚!」

「なーにが犬如きだこのタコス娘」

軽口をたたき合う。そういった後、二人で見つめ合った後笑いあった。
こうやって、憎まれ口をたたくのも久しぶりな気がした。

「さて、京太郎も戻ってきたことだし、また部活がんばるじぇ!」

「おう! そうだ、聞きたいことがあったんだが……間四ケンって――」

「読み筋の話か? 間四ケンとかよりまだ裏筋とかのほうが信憑性あるじぇ。というか読みっていう行為自体が――」

麻雀の話をし始める京太郎と優希。
その姿を見てまこは笑いながら決意した。

(もう二度と、こんなことは起こさせん。誰もが負い目を感ずに済むよう。……理想論、無謀な話かもしれんが)

(それでもやってみせよう)





後に、京太郎は思った。
この時初めて麻雀打ちとしての自分が生まれたのだと。



それから一か月、再び京太郎は濃密な時間を過ごした。
新人戦に向け、ただひたすら麻雀を打ち続けた。

「京ちゃん、そこの急所は仕掛けたほうがいいと思うよ。ほら、ここ、ね?」

また、へこたれそうになった時もあった。

「須賀君、無駄な危険牌を引っ張りすぎです。聴牌効率が変わらないなら安牌を抱えるのも一つのテクニックです」

負けが込み、何かを呪いたくなる時もあった。

「京太郎、そこは食い延ばしに行くべきだじぇ……そう、そこだな。とっさに反応できるように頑張るんだじぇ」

それでも、それに耐え、歯を食いしばって京太郎は走り続けた。

「染め手に行くときは匂い消しなぞ考えんでええ。3枚切れの字牌でも抱え込んで染め牌以外はさっさと叩き切るんじゃ」

歯を食いしばり、耐えに耐え、泣き出しそうになりながらも必死に走り続け


「……よし、行くか!」


そして、新人戦の日を迎えた。

ここまで! 泣いても笑っても次が最終回です。


次回「京太郎死す」 デュエルスタンバイ!




なんてことにはならないのでご安心を。多分



一度ここまでになってまた同じ事繰り返すならそれはもう周りとか環境以前に京太郎の問題になるだろ

乙です

俺もちょっともやもやはするかな。
根本の解決にはなっていないような気がするし。
だけど、ここのイッチならきっとそれを晴らすエンディングにしてくれるって信じてる。

後、ID変わっちゃってるけど、>>345はイッチじゃなくて
イッチの上に返信してたんじゃ…。
紛らわしくてすまん

実はねー。まだ悩んでいるんですよ。
最初はサクサクと書き進められていったんですが、この1週間執筆しているうちに本当にこのエンディングでいいのかって考えるようになって。

今私の中で2種類のエンディングがあって、どちらで行くかすごく悩んでいます。
それによって最終回の文面も変わってくるし、話の持ってきかたも変わるし……どうしたものかと。

2つとも書いちゃえば良いじゃない(マジキチスマイル
もしくは最後に関する重大な選択だけ安価にするとか
読者が決めた事なんだし、それなら誰も文句を言えないと思う

今の段階から持ってけるエンディングにいけばええし持って行きたいエンディングがあるならそこに持っていくのに段階踏めばいい
無理矢理はよくない。
別に無理に急いで完結させんでもええで?

全部書くか、安価か……。
もう本当に決断できなかったらそうします。

いかんね、ちょいと登場人物に感情移入しすぎました。

こっちも京太郎に感情移入しまくりだからお互い様さww
だからこそ、もやもやするっていう言葉が出てくるんだろうし。
>>387の言っている通り、本当に悩んでいるんなら、すぐさま完結目指さなくても良いと思う。
保守のいらない場所なんだから、イッチが納得できる完結にもっていけるのが一番じゃよ。

京太郎「聴いてください。Mr.Childrenで、hypnosis」

咲さんとか咲キャラのテーマソング決めるとしたら何になるだろう

寧ろ、後輩が出来てからが本番じゃないか?
ここの京ちゃんは真っ当に成長してるみたいだし。
今の京太郎を場違いだって言えるのは魔物勢くらいだと思う。

自分たちが弱いのは1年だから当たり前だけどこの先輩はあの先輩より弱いよねー
実際こんなんよ

>>344
>>266は 京太郎「俺は、楽しくない」やね

>>403
いや…男子と女子で、出る大会も違うのに、比較ってするか?
ましてや、清澄は一年を中核に据えてIHに上がってきた化け物校だぞ。
自分たちが弱いのは~なんて言い訳が使えるような環境じゃないと思う。

後、まったく無関係な雑談しまくって申し訳ない。
これもイッチがグイグイと人を引き込む文章を書くからいけないんや!!
ちょっと>>404見て、思考を切り替えてくる。

これから晩御飯兼休憩をしますので現段階でいったん投下します。
なんというかすごい感想や意見をいただいて感激しております。
ケツ毛を剃る準備をしなければ……。

ちなみに投下中に大量にされるのは困りますが、合間合間にいろいろと意見とか感想を戴けるのは大歓迎でございます。


>>400
あなたとはいい酒が飲めそうだ。

新人戦、会場。
会場内は沢山の高校生でごった返していた。
1年生だけの参加者でこの人数であり、麻雀人口の多さが伺えた。
そんな中、会場の隅の小さな控室で京太郎は自分の出番を待っていた。
女子は強豪として名を知られるようになったが規模的には非常に小規模であり、
男子は無名である清澄高校にはあまり広い部屋が割り振られず、5人が入れば多少手狭だった
そんな控室の中を咲は落ち着かない様子で立ったり座ったりしていた。

「ののの、和ちゃん。お、おトイレ、行っておいたほうがいいかな?」

「落ち着いてください、咲さん。そうです、落ち着くにはまず茄子にカボチャという字を書いて人を呑み込めば」

「のどちゃんこそテンパりまくりだじぇ。とりあえずタコスでも食べておちつくじぇ」

優希はそう言いながらタコスを食べるが具がぼとぼとと横から零れていた。

「ええかげんにせい、全く。昨日は3人とも落ち着いておったじゃろう?」

そんな3人の様子をまこがたしなめた。
女子の部の新人戦は先日に行われ上位3人が全国に行けるという枠をすべて清澄が占めるという快挙を成し遂げた。
その時の3人は実に堂々としたものであり、これから3年は清澄の時代、と地方のローカル新聞に書かれたぐらいだった。

「そ、そうなんですけど、なぜか、落ち着かなくて」

「お前らがそんなんじゃ、京太郎にうつるじゃろう。まったく」

ちらり、と京太郎を見る。
何を考えているかわからないが、目をつぶって何かを考えているようだった。
それを見てまこは少し考えて京太郎に呼びかけた。

「京太郎、わしらは少し外す。試合前になったら、また戻ってくるけぇ」

まこがそう言うと目を開けて軽く笑った。

「すみません、染谷先輩。ありがとうございます」

「うむ。ではまた後でな」

そう言うと、挙動不審な3人娘を引っ張ってまこは控室を出て行った。

イッチガキタデー
おうヨツンヴァイになるんだよあくしろよ(ゲス顔

控室が沈黙に包まれる。耳を澄ませば会場内の喧騒が聞こえるぐらい、部屋の中は静かだった。

(……俺の相手)

手元の対戦表を見る。
京太郎のほか2名は無名の選手であったが、残り1名の名前を見て和が驚きの声を上げた。

―――――――

『この陽皐(ひさわ)って人……去年のインターミドル3位の人です。特徴的な苗字ですから、覚えてます』

和がそういった瞬間、控室は重苦しい空気が流れた。

『そ、その人、強いの?』

咲はある種当たり前の質問が飛ぶ。

『えぇ、かなり。直接対局した数はあまりありませんが……』

そして、何かを思い出すように少し考え込んでから言った

『かなり面前思考だった記憶があります。平均打点はかなり高めだったかと』

あまり役に立たない情報でごめんなさい、そうやって和は京太郎に謝罪する。

『いや、いいさ。そもそも新人戦なんて誰が出てくるかほとんどわからないんだから、対策なんて立てようがなかったしな』

京太郎は苦笑しながら、和にそう返した。

『それにこの予選は2位までに入ればまだ次に命がつながる。だから、まだ終わったわけじゃない』

―――――――

それからは、3人娘はあの有様であった。
苦笑しながら京太郎は対戦表を脇に置き、再び目を閉じた。

(まったく、くじ運までないとか……呪われてるのか、俺?)

(いや、持ってないからこそ、選ばれたのか?)

(もってるやつの引き立て役、噛ませ犬として選ばれたのか?)

(……やめよう、こんなこと考えても、不毛なだけだ)

そうしていると控室の扉からノックの音が聞こえた。
京太郎は首をかしげた。
出番にはまだ早いし、まこたちは出て行ったばかりだった。
疑問に思いながらもどうぞ、と答えた。

「やぁ、須賀君。試合前にすまないな」

「加治木、さん?」

そこに立っていたのはゆみだった。
思いがけない来訪者に京太郎はあっけにとられた。
そんな京太郎を見ながらゆみは京太郎に問いかけた。

「今、少しいいか?」

「あっ、はい、どうぞ」

「ありがとう」

そう言うと、ゆみは控室の扉を閉めた。

ステルス「」ガタッ

「ど、どうしてここに?」

予期せぬ来訪者に京太郎は思わず動揺した。

「いや、昨日の女子新人戦の応援に来てたんだ。うちのモモの応援にな。まぁ、一歩及ばなかったが」

どう声をかけていいのかわからず、京太郎は黙り込んだ。
その様子を見て慌ててた様子で続けた。

「いや、すまない。決して嫌みを言いに来たわけじゃないんだ。本当は須賀君の試合も見てから帰りたかったんだが」

そう言うと、ゆみはどこか残念そうな顔をした。

「今日はどうしても外せない用事があってな。もう戻らなくちゃいけない。だから、帰る前に少し激励に、な」

ゆみは京太郎に向かい合う形で座り、軽く微笑んだ。

「どうだった、あれからの1か月は?」

「はは……授業と睡眠と食事と部活以外でしたことってほかに何かあったっけって思うぐらいには麻雀漬けの1か月でした」

「そうか。……それで、どうだ? 宮永たちには」

若干聞きにくかったのか、多少言葉を濁しつつも弓は答えた。
京太郎はその問いに対して軽く首を横に振った。

「いいところまでは行くことは何回かあったんですがね、やっぱりトップは取れなかったです」

「そうか……。それで、その、大丈夫、なのか?」

まだ倒れずにいられたのか、そうゆみは尋ねた。

「そりゃ、何度か苦しい思いはしましたよ。あまりにも負けすぎて頭が痛くなったことがありました」

1か月中の出来事を思い出して、苦笑しながらも京太郎は続けた。

「でも、やっぱり、麻雀も、あいつらも捨てられないってわかったんです」

「だから苦しいときも歯を食いしばって、何とか頑張りました」

「ストレスたまった時は叫びながらグランドを走ったりして……ははっ、この1か月でなんだか体力着いた気がします」

「それに、咲たちだっていろいろ考えてくれてるみたいで」

「俺が煮詰まってるときとか、苦しんでるときとか……あいつらなりに俺を気遣おうとしてくれてるんです」


――京ちゃん。ふふ、肩でも揉んであげるよ。少し休憩しようね――

――須賀君、お茶でもいかがですか? 淹れてきますよ。なかなか集中しているようですが、ほどほどで力を抜かないと――

――京太郎! 新作のタコスだじぇ! ほらほら、口を開けろ!――

――ほれ京太郎。皆でつまめるようにと卵焼きを作ってきてやったけぇ。ほれ、あーんじゃ――

「多分、もってる奴にはもってない奴の苦しみってを理解するってのは難しいと思います」

「逆に、もってない奴がもってる奴の悩みや苦しみっていうのを理解することも難しいと思います」

ネット麻雀を初めてした咲が「これは麻雀なのか」と言って半べそをかいていたことを思い出す。
京太郎はその時、彼女が何に苦しんでいるかということは全く理解できなかった。

「多分、どうしても、埋めようのない溝っていうのはあると思います」

「でも……それでも」

「お互いがお互いを理解しようとするっていう気持ちがあれば、相手を想ってるっていう気持ちがあるんだったら」

「多分、やっていけるんじゃないかなって、そう思います」

「やっぱり皆と麻雀をやってると苦しいことも多いですけど、そう言うお互いの気持ちがあるってわかったから」

「何とか、耐えられました。多分、これからも……何とか、やっていけると思うんです」

「向こうが俺のことを考えてくれるだけじゃなくて、俺も向こうのことを考えて、思っていけば」

「やっていけるとおもうんです。この先も」

そこまで言って、京太郎は目じりに浮かびそうになる涙堪えて、軽く笑った

「麻雀が好きだからこそ、みんなに勝ちたいと思いますし、そのせいで苦しみ続けることになると思います」

「皆に勝つまでに、これから沢山負けると思いますけど、多分耐えられると思うんです」

「……すみません、『多分』とか『思う』ばっかりで。やっぱり、正直なところを言うと自分がこの先本当に耐えられるかっていうのはわかりません」

「でも、それでも、確かなことがあって」





「みんなが好きだってこと、それだけは確かなことなんです。だからこの先も頑張り続けようって、思うんです」




そこまで一気に言い切って、京太郎は息を吐いた。
そこまで京太郎の独白を黙って聞いていたゆみは何かを考えた後、軽く笑った。

「全く、15歳にしてずいぶんと悟ったな……」

「ほんと、いろいろありましたから。この2か月で」

苦笑しながらゆみの言葉にこたえた。

「麻雀か、皆か。どっちかしか好きじゃなければ話は簡単だったんですけどね」

ふと天井を見上げ、何かを思い返すように京太郎は言った。

「麻雀しか好きじゃなかったら部をやめればいい。皆しか好きじゃなかったら麻雀をやめてマネージャーにでもなればいい」

でも、とため息を吐いて、もう一度苦笑をしながらゆみに向き直った。

「両方好きだから、麻雀部にいて、皆に勝ちたいって思うっちゃうんです。ままならないですね、ほんと」

「……そうだな、本当、ままならないものだ」

ゆみはそう言って席を立った。

「邪魔をした。しっかりと、悔いの無いようにな。勝利を、祈ってる」

「はい、ありがとうございます」

「これから苦しいこともあるとは思うが……お互いにな」

「えぇ、頑張りましょう」

ゆみは拳を握り、京太郎の前に差し出した。
それを見て一瞬戸惑うも理解した京太郎は同じように拳を差し出した。
そして二人はこつりと拳を合わせた。
すると、ゆみは満足そうに笑った後踵を返した。
だが、ドアノブに手をかけたタイミングで京太郎のほうに振り返った。

「ひとつ、言い忘れていた」

「なんですか?」

「私も負けたとはいえ、君みたいに毎日毎日全国レベルの人間に叩きのめされ続けたというわけではない」

「絶望の度合いは君のほうが深かったかもしれない。だが、それでも君は立ち上がり苦難の道を選んだ」

「大切なものを捨てられないという理由があったにしろ、君は選んだ」

「だから、だからこそ」

「私は君のことを尊敬するよ、須賀君。……それじゃあ、またな」

そう言ってゆみは控室を出て京太郎一人が残された。
京太郎はその後ろ姿を見送った後、再び目を閉じて、自分の出番を待った。

それからしばらくして、京太郎の出番がやってくる。
京太郎は緊張した面持ちで対局室に入る。すでに3人は待っていた。
そしてすでに席に座っている一人の男を見た。

(こいつが……インターミドル3位の……)

陽皐は京太郎のほうに特に興味を示すこともなく、ただ目を瞑っていた。
対局室に京太郎が感じたことのない独特の緊張感が流れた。
陽皐のほかの二人も落ち着かないように深呼吸をしたり、手を握ったり開いたりしている。
やがて、審判員に声をかけられ、場決めの後、親決めが行われる。

(俺は、ラス親か)

京太郎は上家に座った陽皐を見つつ、激しくなる心臓の鼓動を感じながら必死に呼吸を整えた。

「それでは、初めてください」

審判員にそう声をかけられ、卓に座った4人はお願いします、と声を出し合う。

(ここまで来たら……やることをやるだけだ)

そう言いながら配牌を取っていった。

京太郎は自分の配牌を見た。

『京太郎配牌』
14m24689s3499p西西 ドラ7m

いい配牌とはとても言えなかったが唇をかみしめ自分の第1ツモを取る。
5萬を引き、1萬切り出す。一歩前進したことに小さく喜び、気持ちを切り替えた。
その後、特に仕掛けも入らず場は進み7順目

『京太郎手配』
45m24678s3499p西西 ツモ3m

面子オーバーの形。とは言え、京太郎は場を見て西が切られてしまっていることを
すでに確認しており迷うことなく西を切り出した。
その次の順目だった。

「リーチ」

陽皐からリーチが入る。

(来たか……)

自分の手を見て、役もない待ちも悪いこの手に行く価値なしと即座に判断する。
一発目には対子落としの片割れの西を切り出し、次順は現物の9筒を切り出したが、
その次の順目に陽皐はツモりあがった。

「ツモ」

『陽皐手牌』
678m23456s56788 ツモ1s ドラ7m 裏9m

「リーチツモ平和ドラ1。1,300-2,600」

淡々とした声で自分の点数を告げた。
京太郎は小さくはい、と返事をして1,300点を払った。
不安になる気持ちを振り払い、京太郎は自分の心に喝を入れた。

(まだ、始まったばかりだ。これからだ)

「京ちゃん、頑張って……」

清澄高校控室。
あまり広くない控室に4人は居た。
1,300点を支払う京太郎を見ながら咲はそんなことを呟いた。

「とりあえず安めでよかったと考えるじぇ」

「えぇ、まだ始まったばかりです。まだまだ、わかりません」

優希と和も食い入るようにモニターを眺めた。
そして、まこもモニターを見ながら内心では何かに祈っていた。

(頼む、初心者とは言え京太郎は凄まじい努力をした)

(負け続け、勝てなくても京太郎は頑張った)

(だから、頼む。京太郎に、証となるようなものをくれてやってくれ)

その心に悲痛な願いを抱えながら、まこは京太郎の闘牌を見守った。

はい、ここまでです。というわけでいったん休憩させてもらいます。

今見返すと>>183とか思いっきり少牌しています。本当にありがとうございました。
次の投下分の闘牌は実際に手持ちの麻雀牌を並べて確認しながら作るから流石に少牌とかはないと思いたい……。


ちなみにちなみにオリキャラを出したことにいやーな感情をお持ちの方もいると思いますが、
一応シリアスなのに「モブ」とか「そこのお前」とか使っちゃうととっても台無しになっちゃうのでご容赦ください……。
「男」と表現するのも考えましたが、京太郎のほかは3人とも男やでややこしくな……。

ちなみに『陽皐』という名前は長野県の地名からいただきました。

(名前付き程度なら)大丈夫だ、問題ない。

しかしまこさんにあーんしてもらえるとかなんなの、もげるの?

おつー。
オリキャラは特に気にならんよ。
新人戦出てくるような奴がモブじゃあ、気が抜けるし。
後、京ちゃんとかじゅの会話で、辛くても前に進む事を選んだって事がとても伝わってきたので
もやもやが晴れました。

>>430
のどっちならギルティだが、わかめの方は別に…

ちなみに優希のセリフを書いているとき

「~だじぇ!」

っていうのが時々

「~だじょ!」

ってなっちゃうのは私だけでしょうか?
個人的にこの現象を「優希山田化現象」と呼んでます

「じぇ」「じょ」「普通の話し言葉」は意識して1/3くらいにしてるけど

意外と優希は「じょ」を使っている

語尾の「ぞ」が「じょ」、「ぜ」が「じぇ」になるイメージかなぁ<タコス
寧ろ何処を話し言葉にしても良いのか迷う事が多々ある…

確か優希は疑問文は普通の話し言葉しか使ってないはず
後は「--だ!」とか「--なのか!」とか「--だからな!」とかあ行で締める文は大概普通
「--ですけど……」みたいな言葉も使う
京太郎相手だと芝居がかった物言いもする
意識すれば「じぇ」使わなくても実は結構書けるのよ、と京優メインを待ち続ける奴が言わせていただく
そして1話の敬語優希は今に劣らず可愛かった

あー、何かいろいろ考えているうちに結局今日が終わってしまう……。

あまり長くはないのですが、とりあえず切りのいいところまでかけたので投下します。
この投下の次が正真正銘最後の投下になると思います。

「ごめんなさい遅くなって! バスが事故を起こしちゃって」

そう叫びながら久が清澄高校の控室に駆け込んでくる。

「状況は、どうなっているの?」

息を切らせながら、椅子に座ってモニターを眺めた。
久の問いに、扉の一番近くに座っていた和が手元のメモ翌用紙を見せながら言った。

「今ちょうど、南1局が終わったところです。点差はこうなっています」

『南2局開始時』
上田  32,700
松本  15,200(親)
陽皐  35,700
京太郎 16,400

「少し離されているわね……」

「はい、ただ。まだ親は残っています。まだ、まだ終わったわけではありません」

「そうね」

そう言って久と和はモニターに目を向けた。
モニターの中では京太郎が配牌を取っていた。

『京太郎配牌』
34m34667s【5】678p白中 ドラ4m

(来たっ!)

手の中にドラが2枚。タンヤオも見え、跳満まで見える手恰好。
内心の動揺を顔に出さないように第1ツモを取った。

『京太郎手牌』
34m34667s【5】678p白中 ドラ5s

絶好の引き。2度受けの微妙な部分を解消し、好形が残った。
白を切り出し、2シャンテン。
高鳴る心臓を抑えようと京太郎は必死になった。

2順目に西引き。場に1枚切れていることを確認して中を先切りする。
3順目とは9萬引きと空振りだったが、4順目に8筒を引き、絶好の一向聴。

『京太郎手牌』
34m345667s【5】678p西 ツモ8p ドラ4m

西を切り出し、何を引いてもリーチを打ことを考える。
どうしようもなく、期待が高まった。

だが、そこから京太郎の手は動かなかった5順、6順、7順と空振りが続く。
そして8順目。

『京太郎手牌』
34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m

(なんでこの形で引けないんだ……!)

歯ぎしりしながら引いてきた南を見つめる。
生牌。もう中盤ということもあり、若干の怖さもあったが京太郎はその南を切り出した。
発声はかからず、ほっと胸をなでおろす。
そして次順。

『京太郎手牌』
34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m

(なんだよこの南!)

即座にツモ切りする。そして、その直後だった。

「リーチ」

陽皐がそう宣言する。
感情が全く見えないその姿にその声に歯噛みした。

(くそ、この手で先制されるのかよ!)

内心の苛立ちを隠しながら、陽皐の捨て牌を見る。

『陽皐捨て牌』
二五三⑨西9
北67r

独特の捨て牌であったが、自分が聴牌したときに出る牌は全て現物だった。

(聴牌したら追っかける!)

そう強く願いながらツモ牌に手を伸ばした。

『京太郎手牌』
34m345667s【5】6788p ツモ南 ドラ4m

(っ!)

まさかの南連続3枚引き。頭がかっと熱くなるのを京太郎は感じた。
多少強打気味になってしまいながらも、南を切り出した。

「ロン」


だが、その打牌を咎めるように。



「リーチ一発混一色七対子ドラ2」



陽皐は手を倒した。


『陽皐手牌』
11225588s東東中中南 ドラ4m 裏ドラ2p


「16,000」

上田  32,700
松本  15,200
陽皐  51,700(+16,000)
京太郎 400(-16,000)


ぐにゃりと、京太郎の視界がゆがむ。
その場に倒れこみたかった。逃げ出したかった。

「は……い……」

それを何とかこらえ、返事を返し、震える手で点箱から点棒を差し出した。
それを淡々と自分の点箱に仕舞い込み、牌を落としていった。
京太郎も牌を落とす直前に自分の手牌を見た。

『京太郎手牌』
34m345667s【5】6788p

成就しなかった跳満手。
受け入れも広く、どうしようもなく期待は高かった。

(くそっ!)

苦しい何かを振り払うように、京太郎も牌を卓に落としていった。

「インターミドル3位の成績では伊達ではない! 山を読み切っていたのか? ここで陽皐の倍満が炸裂です!」

実況席では男性アナウンサーが興奮気味に叫んだ。
沢山の高校生が打っているこの会場だが、有名選手の卓と会って実況対象をなっていた。

「この上ないタイミングだったな。これはある種試合を決定づけたか」

アナウンサーの隣で解説としているプロ、藤田靖子も感心したような声を上げた。

「しかし、これは清澄高校の彼の精神が心配だな」

「えぇ。……あぁ、手が震えています。南を暗刻被りしての倍満打ち込みですからね。これは、心が折れても無理はありません」

「あぁ。だが、折れてしまっては未来がない。最後まで戦い抜く意志を持ったやつじゃなければ……まくることはできない」

そう言いながら、必死で震えを抑えながら南3局の配牌を取っている京太郎を見ながら言った。

「ここから、彼がどう立ち回るのか。個人的にはそれにも注目してみたい」

腕を組み何かを考え込んでいるかのような口ぶりだった。

「ピンチの時、逆境の時こそ雀士の質が問われる。私はそう思っている」

京太郎の精神状態は混乱の極みにあった。

(なんだよ、なんだよあの待ち。っていうかタイミング良すぎだろ。倍満って)

(やばい、400点しかない。リーチも打てない。どうする、どうする)

(親、親は残ってる。次が親だ。そこで、なんとか、何とかしなくちゃ)

牌を取るときにポロリと1枚落としてしまう。幸い見えることはなかったが呼吸を整え、その牌を拾った。

(落ち着け、落ち着け、まだ、まだだ。終わったわけじゃない)

配牌を取り終わる。京太郎の手元には伏せられた13枚の牌があった。

(頼む。高い手じゃなくてもいい。何とか、上がれる配牌で……)

京太郎は何かに祈りながら、牌を起こしていく。

(頼むよ……)

手牌が見えてくる。手の震えから崩してしまいそうになるのを必死で堪える。

(頼む!)

もはや悲痛な叫びのような願いだった。
これほど強く願ったのは京太郎の人生で初めてだった。

だが、その願いが届くことは





『京太郎配牌』
27m336s149p東北北白中






なかった。

はい、一旦ここまでです。
次回の投下が最終回!
結局1週間という目標は守れそうになくてメゲるわ……。

そして優希のしゃべり方についていろいろ教えてくださった方々ありがとうございました!
次回以降の作品ではそれを生かしていこうと思います

補正さえあればここから理不尽を味方に付けることも可能なんだが……

アカギ「代わろうか、須賀さん」

>>474
赤木「須賀よ……いいじゃないか…!三流で…!熱い三流なら……上等よ……!」

の方が合うと思う

京太郎「……きたぜ、ぬるりと」


パタン

777m333s44p北北北白白 白


京太郎「8000は16000」


藤田(あのテンパイすら怪しかったゴミ手を役満に…!?)




こうはなりませんか、そうですか

「リーチ三暗刻……?」

京太郎「いや……俺の暗刻は……そこにある……!」

すみません……思ったより闘牌シーンがが長くなってしまい、書ききれませんでした。
本日分の投下はありません……。
明日には! 明日には本当に完結できると思うんで!

何でもするから(ry

と言うかエピローグも含めるとどう考えても当初の予定より1.5倍か2倍近くあります。本当にありがとうございました。

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   ハ:/ ∧::::::::::|                  u     ∨::::::l:::::::::::::::::ハ
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.  ,':/ / /|:::/|:::::\      マ     j      ィゝ― '::::∨:::l::::::/l |∨::l
.  {/  {/  |/ ∨::/l\     ̄ ̄ ̄    ,,.ィ':::::::::::::::/l::/∨:| j/ |} ∨|
   {     {   ∨ }人(>,,         ,,...<  |/|:::/ ,j/|::::}::|/ /  ',:|
              `  _>r-― ´     ,lア`¨ヽ_,, -‐‐-レ‐- ,,_   }
      _r‐rュ―――――'"/ }       /      //  , ==≧、
    /{| { |        /‐-、   , -―/       //  /    ヾ}|






書き溜めが無事が心配する今日仕事中の>>1

°| ・ |  、__ __ ・゚   + _  -‐‐-  _  ・。  _ ___,._  | 。
*o  ゚| '´イ`ヽ\  ̄>'´          `'< ̄ /´  j´ +|!o*
o○   |゚  !  V ゝ´/   , / 、  \  ヽ/    ′ *
 +O l   '    〉 ,     /ハハヽ\  丶 丶  /  ・゚|
。 |! ゚ + ・  V / /\ /   {     \     , / o ○i|
o。i|   ゚   ∨ /\'/´ ̄_`゙   ´_ ̄`ヽ   ' j/  |  ゚・o
 ・ *゚。i| o   ハ/ //_ -‐- 、    _ -‐-ミヽ  , ! 。|!   | *
  |*o| ・゚   /  'イ´f'_人ヽ      f'_人ヽY', ' !  ○・。 |°
 i| ・° +  i  ハ 、`Y´ノ      、`Y´ノ j! !│   *。 ○。
o゚|   o°  | /ヘ. !⊂⊃   '    ⊂⊃ ハ j j!  i|・° | ゚o
゚ |!  |     !i{' /丶      ー'^ー'     /イ V | *゚   |! ・ ゚
 *o |!   ,ハヘ{ ハ \         ,.イ/ ハヘ.l  | ゚o  i|゚
o゚i|   o°+   ` fi「ヽ,> ,_   _ <j/ノノ丿 j   ○+。
゚  ○゚i|  !・°  ハ| ′ /´!  ̄  j,ノ \´       |!。・  | o゚
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  |o°   ol くヽ // \ ! /       _ >ヘ、 |*  | ゚o
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帰宅して書き溜めが無事だったことに喜ぶ>>1

          , . : : : /: : : : : : : : : : : : : : : .` 丶 、
       , : ´ . : :/. : /.:/ : : : : : : .ヽ : : : : .\ : .`丶、
   , : ´ . : : :/. : / . :/ : : ∧: : : : : .ト、: : : : . \ : : . .ヽ.

  /. : : : : : / . //. :/|: : :/ ',: : l: : : .', \: : : : . \: : : : : .
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: : : : : :/ ,. ´                       ` ー- 、 l : : : : :
: : : : :/ ´        ___         ___         \l.: : : : :
二、/      _, 二≦ 、           _, ≧二. 、    l│: : :
: : /|   , 彳/////|ト丶        ‐彳/////|ト、   l l: l: :
: .; │  // ゙⊃. : : ;||              ゙⊃. : : ;|| \ 、 l:|: l: :
: .l l  〃  「|;_;_;_;ノリ              「|;_;_;_;ノリ  〉〉 l:l: l: :
: l  l  >-ヘ -‐⊂⊃   //,    ⊂⊃‐->ー、/ リl: : .:
:.l   l (  _ノ//´ ///// //  人 _)  / l: : ::
:ll  l ( ´「///, ´ ´ ,〈 n    〃///ハ (  / l: .:l::
: l  l 人 l し///   J !|    |l ///しl 〉/  l: .::|::
:. ',   ',  | l/// 、_ _ノ !__ 」L.、///! |/   l: l::|::
:::. ヽ  Vノ│   / ,v─‐r──‐ハ r‐v、\  ノ /   l: :l.:|::
' ,: . ヽ ヽ、l   人 ( |l _」∟ニ二」,L.、ノ ノ /(/   / : l :l::
 ヽ: . ヽ  ';> 、 ` ̄´      l | 厂 .イ : :/   ////
、  \: .丶 '; 、  ーヘ、        (ノ∠<: : :,:/    ´ /'
:.\  \  Vヽ   (_` ┐-イ´  /.: .://         /.:
\:..\  ヽ _∨\      し '′  /.:/ / ( )    /.::/
  \:. \  (__)∨/\  C    /  /      /.::/
    \:.. \   ∨/∧      /   /    /.::/


でも帰ったら冷凍庫が壊れてて部屋の中がとけた氷でびちゃびちゃ
アイスで冷凍庫がベタベタな現実に直面した>>1

というわけで、書き溜めは無事でした書き溜めは(意味深)

なんとか24時ぐらいから投下したいと思います。

原作で池田の泣き顔見た瞬間つられてマジ泣きしたのは俺だけではないはず

ゆるりと待つで、無理せんようにの

お待たせしました! 最終話、投下していきます。
いろいろ延期してすみませんでした。

>>543
ナカーマ。

対局中の一時はへこみ、それでも必死に立ち上がり抗おうとして、それでも敗れて最後は号泣する。
そんな池田が大好きです。

京太郎の心にパキパキとひびが入っていく。
理不尽なツモ、理不尽な振込み、理不尽な配牌。
大切な何かが壊れようとしている、折れようとしている。
そんな中、親の陽皐が第1打に1筒を切り出す。
京太郎はそれにつられるように漫然とツモに手を伸ばした。

『京太郎配牌』
27m336s149p東北北白中 ツモ5m ドラ西

(六向聴が五向聴になったけど、どうするんだよ、これ……)

(国士? 6種7牌で? ありえない。何が何でも聴牌取らなくちゃいけないんだぞ)

(七対子か? いや、そんなもん聴牌欲しいときに狙うもんじゃない……)

(あぁ……何も、わからなく、なって)

実況席の2人はそんな京太郎の姿を見ながら話していた。

「清澄高校須賀、第1打から長考に入ります」

「どちらかというと、これからどうすればいいのか途方に暮れているんだろうな」

「確かに、聴牌欲しい状況でこの配牌は……」

「五向聴。面前で行くには苦しすぎるが鳴くには役がない。リーチも打てないという何もかもが悪すぎる状況だが」

モニタ上で青い顔をしている京太郎をこつこつ、と指でたたいた。

「だが、もう牌は配られた。これで何とか勝負をするしかない。さぁ、どうする?」

(まだだ、落ち着け。とにかく、受け入れを、広く。広くするんだ)

京太郎は長考の末、1筒を切り出した。

(真ん中を、集めるんだ)

朦朧とする意識、折れそうになる心。
それらを必死に繋ぎ止める。

【2巡目】
『京太郎手牌』
257m336s49p東北北白中 ツモ5s 打東

(これで、向聴数アップ……っていうかこの手恰好じゃ向聴数が上がらない引きのほうが少ないか)

そういったことを考えていると、対面から北が出た。
その北を鳴くか京太郎は考えるが、この巡目で役無しには受けられず、それをスルーした。
そして、場は続く。

【3巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s49p北北白中 ツモ9s ツモ切り

【4巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s49p北北白中 ツモ6p 打中

(役牌……出来たら重ねたい)

場に2枚出てしまった中をみて京太郎もそれに倣い中を切り出す。
この苦しい手恰好では役牌は是非とも欲しいところであった。

【5巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s469p北北白 ツモ6s 打9p

【6巡目】
『京太郎手牌』
257m33566s46p北北白 ツモ3p 打2m

6巡目の打牌が終わったタイミングで京太郎は自分の手を見つめなおす。

『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 

(駄目だ……大分ましな形にはなったけど、面子ができない)

ぴしりと心のヒビが大きくなった音が聞こえる。
京太郎はその音を聞かないようにして、もう一度場を見た。
ちょうどそのタイミングで、親の陽皐から場に2枚目となる白が切りだされる。

(くそ、この白も、駄目か)

とりあえずこの白は安牌として抱えることに決め、自分のツモ牌を引いた。

【7巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ1m ツモ切り

【8巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ撥 ツモ切り

【9巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ1p ツモ切り

(この忙しいときに……!)

3連続無駄ヅモ。1筒を河に捨てながら京太郎は心の中で焦りを感じていた。
あと8順。単純に考えてあと8順の間に3枚の有効牌を引いて来なければならない。

(頼む……来てくれ)

その9巡目、現在3着目の北家、松本は力を込めてツモを取った。

『松本手牌』
【5】6m45567788s567p ツモ7m ドラ西

(持ってこれたっ!)

リーチをかければ出上がり跳満ツモり倍満確定。理想的なタンピン三色であった。
松本は手元の点数を確認しながら思案した。

(もう親はない。さすがにこの点差でトップを取りに行くのは無理だ)

(そもそも、次があるかどうかわかんねーな……清澄が飛んじまう。ならっ!)

力強く発生して、松本は7索を場に切り出した。

(リーチかけてツモなら2着だ。ここは当然っ!)

「リーチっ!」

(マジかよ……)

先制される。この手恰好から考えれば当たり前の話なのだが、余りにも苦しい状況であった。
そのリーチを受けて陽皐は手出しでリーチ宣言牌の7索を切り出す。
そして、京太郎のツモ番

【10巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ西 ドラ西

(ド……ラ?)

場を見渡す、どこをどう見ても西は切られていなかった。
超がつくほどの危険牌。吐きそうになりながらもその西を手に仕舞い込み、確保していた白を切り出した。
とりあえず1順しのぐが、あくまで問題を先送りにしたにすぎなかった。
そして、次なる試練が京太郎を襲った。

その10巡目、現在2着目の西家、上田はそのツモを見て長考に入った。

『上田手牌』
234m4【5】78s5567p西西 ツモ6s ドラ西

絶好の聴牌。ただ、親の現物は7索しかなく、それを切るということはほぼアガリを失う1打であった。

(つーか、そうした所で他の現物はないしな)

(まぁ、何とか頭を下げて清澄が飛んでくれるか松本が届かないツモをしてくれることを願うっていう手もあるけど)

上田はその思考を笑い飛ばした。

(ねーよな、そんなの。役無しドラ3だけど、それにこの待ちなら戦える。ならば)

「リーチだっ!」

(勝負しかねーだろ! 2位は渡さねぇ!)

その意思の元、5筒を卓に叩きつけ、1,000点棒を場に出した。

その二件リーチを受けて陽皐は自分の手を見た。

(何とか間に合ったか、やれやれ)

『陽皐手牌』
6789m33s999s8p西撥東

陽皐は途中で西をつかみ、その時点でこの局を諦めた。
2着目の風でドラ。生牌とあっては切れるものではない。
何事もなければ点数的にほぼ2着以上は確定している状況。
方向を修正して、安牌を抱え込んだのが正解であった。
撥も東も場に切られており、最低2順は稼げる。

ちらり、と京太郎を見る。
そこには必死に押し隠そうとしているが苦渋の色が漏れている京太郎の姿があった。
恐らく、前局の倍満振り込みが尾を引いているのだろう。

(精神状態はもう限界って感じだな。残り400点じゃ無理もないけど)

前局の南地獄単騎リーチに深い意味はなかった。
ただ、彼の中の第六感的なもの、感覚的なものが南でリーチを打てと告げていたから、打ったにすぎなかった。
デジタルとはかけ離れたカンの世界だが、陽皐はそれで勝ち続けてきた。
誰に何と言われようと譲る気はない自分のスタイルであった。

(女子チャンプの原村和がいるあの清澄高校だからどれほどの選手かと思ったけど、まぁ、全員が全員強いわけじゃないよな)

そう思いながら、撥を切り出した。
それを受けて幽鬼のような表情で牌をツモる京太郎の姿を見て、彼の第六感的なものが告げていた。

――こいつ、飛ぶな――

【11巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北西 ツモ5m ドラ西

(が……ふ……)

危険牌じゃない牌を探すほうが難しい状態。
あまりの状況に涙が出そうになる。
京太郎はもう一度場を見渡した。

『上田捨牌』
一中撥白八⑨
撥九四5r

『松本捨牌』
南北中東⑨東
六27r一

『陽皐捨牌』
①③⑨八南二
白三27撥

(なんだよ、この状況)

共通的に通りそうなのは北の対子のみ。
ただ、これを切れば当然向聴数は下がる。
もう11巡目、北を落としたところで間に合うかどうかは非常に疑問であった。
「絶望」の2文字が京太郎の頭によぎった。

(なんで、俺ばっかり……)

(無理、だったのか。やっぱり)

(もってやるやつに勝ちたいっていうのは)

北に、手をかける。それを河に投げようとする。

(そう、無理だったのか……不相応な、願いだったのか)

ひびの入った彼の心がそれを後押しする。

(北を切ってとりあえず回って、聴牌とれたらいいな)

(そうだよ、しょうがない、これはしょうがない)

(しょうがないんだ)

指に力を込めて、北を持ち上げる。

(もう諦め……)

心が、今にも折れそうだった。


そして、その北を――

(……違う!)

だが、それでも京太郎は北を切らなかった。
すんでのところで、踏みとどまった。
ヒビだらけ、傷だらけの心であったが、それでも踏みとどまった。

(闘うって、決めたんだ。最後の最後まで。諦めずに、前に進むって決めただろ!)

西に指を向ける。超危険牌だがもう迷いはなかった。

(そうだ、格好にこだわるな。みっともなくてもいい、鼻水やら鼻血垂らしながら、泣きながら、這いつくばりながらでもいい)

そして、西を河に、投げた。

(どんな姿でもいい。だから、最後まで、諦めるな!)

場に、打ち出される西。

(通ってくれっ、頼むっ!)

発声は、かからなかった。

「これは、手を膨らませたの仇になったか! 手の中が危険牌だらけの状態。これは、厳しい!」

アナウンサーがあまりの悲惨さに悲痛な声を上げた。

「藤田さん、幸い今の西を通すことはできますけど、この状況は……」

「あぁ、かなり厳しいな。面子がないのには変わりないしな」

何か面白いものを見つけたように、まくりの女王と呼ばれているプロはにぃ、と笑った。

「しかし、一瞬北の対子を落とすか悩んだようだが……腹、括ったみたいだね」

笑みが崩れない。何かを楽しむかのように、モニタを見続ける。

「うん、いいまくりが、見られる気がする。なんとなくだがね」

1枚の牌を切っただけで、京太郎の精神は大きく削れた。
通ったことが確定したのだとわかっても、動悸が激しい。

(とにかく、通ったんだ)

(まだ、行ける。まだ、戦えるんだ)

涙がこぼれそうになる。叫びだしたかった。それでも必死に歯を食いしばった。
呼吸を整え、場を見る。下家も対面もアガリ牌は引けなかった。
陽皐は対面がツモ切った6萬に合わせて手出しで6萬を切った。
そして、その6萬に反射的に飛びついた。

「チーッ!」

【12巡目】
『京太郎手牌』
5m33566s346p北北 チー567 打5m

「そこからチー? で、でも役が」

普段自分が目にしないものを見て、驚いた様子で咲が声を漏らす。
そんな咲に幾分かは落ち着いた様子で和が言った。

「もう終盤です。須賀君は形式聴牌をとりに行ったんです。さっきも言ったようにように、聴牌を取らねばトビですからね」

画面の中では京太郎が本当に苦しそうな顔をしながら危険牌である5萬を切り出していた。

「じゃが、この形は……」

まこは京太郎の手恰好を見て唸るように言った。
直後、対面が北を切る。それにも飛びつく京太郎。

「ポンッ!」

モニタの中で必死の形相で北を仕掛ける。

【13巡目】
『京太郎手牌』
33566s346p ポン北北北 チー567 打6p

6筒も超危険牌だが京太郎は何とか切った。

「あ、あぁ、この形は」

優希も気づいたようにうめき声をあげた。

『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567

『松本手牌』
【5】67m45567788s567p

『上田手牌』
234m4【5】678s567p西西

「聴牌したら、当たり牌が出ちゃうじぇ……」

暗い顔で和が頷いた。

「……9索はもう全枯れですから考えなくていいとして、3索も6索も全員の手で使い切っています」

酷な現実を告げるように、和は続けた。その表情は非常に重苦しいものだった。

「つまり、3索や6索を暗刻らせて放銃を防ぐのは無理……ですね」

「えぇ。願わくば須賀君が2筒か5筒を先に引いて5索切りのシャボ受けにしてくれることを祈るのみね」

「でも、それって、4索か7索を先に引いちゃったら……」

最後に咲が言ったその言葉に返事を返すものは誰もいなかった。

【14巡目】
『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ7m

(また危険牌っ!)

のたうちまわりたくなるほど苦しい状況だったが、そのままツモ切りしていく。
発声はかからなかったが、先ほどから京太郎が危険牌を切るたびに心臓が削り取られていくよう感覚だった。
京太郎はこの4枚連続の危険牌切りで心臓がなくなってしまったのではと思うぐらいであった。

(もう、時間がない。そんなにツモがない。そろそろ引かないと、マズイ)
そして、何も発声がかからないまま再び京太郎のツモ番が回ってきた。
そこに書かれた絵柄を見た瞬間、京太郎の心臓は跳ねた。

【15巡目】
『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ4s

(……来たっ! ようやく聴牌!)

京太郎にとって、待ち焦がれていた聴牌となる牌だった。

(よし、この牌が通せればっ!)

そう思いながら、京太郎は3索に手をかけた。

清澄高校控室では京太郎は4索を引いた瞬間に悲鳴が上がった。

「そっちを、引いてしまったか……」

まこが天を仰いだ。画面の中の京太郎は3索に手をかけていた。

「あとちょっと、あとちょっとだったのに!」

咲が悔しそうに拳を握りしめた。


実況席の2人も思わず声を漏らした。

「あー、引いてしまいました。これで聴牌ですが、当たり牌が出る形」

「あぁ……本当に、頑張ったんだがな」


そう、その対局を見ていた会場の誰もが京太郎の振り込みを確信していた。

そして、京太郎本人も3索を切ろうとしていた。
牌を持ち上げ、河に切り出そうとした瞬間、それが目についた。

『上田捨牌』
一中撥白八⑨
撥九四5r【5】九
⑧中

『松本捨牌』
南北中東⑨東
六27r一六2


『陽皐捨牌』
①③⑨八南二
白三27撥西


『京太郎捨牌』
①東9中⑨二
一撥①白西五
⑥七

京太郎はそれに気づいた。気づいてしまった。

(……いやいやありえないだろ。仮に一人に通用してももう一人には通用しないぞ)

(それに、切らないとしてもどうするんだよ。もう順目は残ってないぞ?)

(大体、止めたとしてもどっちにしろ危険牌切らなくちゃいけないんだぞ? ありえない)

京太郎は頭では必死に3索を切れと訴えかけた。
だが、体が反応しない。
気付いてしまったから、体が動かない。

(……わかったよ)

(そうだよな。最後くらい、自分のそれを、信じてみたいもんな)

(行こうか、信じたほうへ)

長考であった。そして、京太郎は散々迷い、苦しみぬいて牌を抜いた。






33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ4s 打4p





その打牌を見た瞬間、清澄高校部室では悲鳴とはまた違う驚きの声が漏れた。

「す、4筒!? なんで!?」

優希が驚きの声を上げる。

「ど、どうして? どうして?」

放銃を回避したはずなのだが、余りに不可解な打牌に咲も喜びより驚きが出ていた。

「わ、わかりません。3筒4筒が安牌というわけでもありませんし……」

「……不可解だけど、何かに気づいて、3索6索が危ないってわかったのかしら。というか、そうとしか考えられないわね」

和の動揺した声に久も自分の言っていることに疑問を感じながらそう予想した。

「た、確かに3索6索を止めると考えれば3筒4筒を払うのが一番広い、な?」

「え、えぇ。9索以外の索子を引けば聴牌ですが……」

一同は呆然としながらもモニタを見ながら京太郎の手牌の行く末を見守った。


その驚きは実況席でも同じであった。

「ふ、藤田さん。私はてっきり3索か6索を切ると思ったんですが、これは、どういうことでしょうか?」

アナウンサーが戸惑いながら靖子に助けを求めるが、考え込んだ後首を振った。

「正直、わからん。私も3索を切ると思っていた。まぁ、確かに場に索子は高いが、筒子が通る保証は全くないしな」

むしろ危険だ、そういって言葉を締めくくった。

「そうですよね……清澄高校、須賀。いったい何を考えているんでしょうか?」

「何を考えたのか、もしくは何かを感じたのか……やっぱり何か、起こりそうだな」

(通った、か)

京太郎は吐き気を堪えながら切った自分の4筒を見つめていた。
か細い理論、直感とある種の感情に任せて切った牌だったが、通った。

(だがこれからが問題だ)

余りツモは残っていない。その数少ないツモで聴牌を入れなくてはいけなかった。
心臓だけじゃなくて全身の血管が破裂しそうなほどの何かを京太郎は感じていた。
ツモ牌に手を伸ばす。

【16巡目】
『京太郎手牌』
334566s3p ポン北北北 チー567 ツモ4p 打3p

(お前じゃない!)

【17巡目】
『京太郎手牌』
334566s4p ポン北北北 チー567 ツモ3m ツモ切り

(お前じゃないんだ!)

内心のその声はほとんど悲鳴であった。
残すツモはたった1枚。ここで引けなければ終りであった。
京太郎の番が、回ってくる。

(頼む)

ツモ山に震える手を伸ばす。

(引かせてくれ)

最後の1枚に手を触れる。

(ここで、終わりたくない)

そしてゆっくりと

(まだ)

牌を、ツモった。




(麻雀がしたい!)

その後、3人とも最後の1枚をツモり、流局となった。

「ノーテン」

親の陽皐が手を伏せる。そして南家の京太郎に3人の注目が集まった。
だが、京太郎の体は動かない。

「君、宣言を」

審判員に注意を受け、その時漸く流局になったことに気づいた京太郎はびくりと体を震わせた。
そして、カラカラに乾いた口を開き、ゆっくりと牌を……倒した。



「聴牌」




『京太郎手牌』
3345668s ポン北北北 チー567m

京太郎はリーチ者2人の聴牌形をみて、内心ほくそ笑んだ。

(まさか本当に3索6索がアタりとはなぁ……麻雀の神様ってのは俺のことが嫌いなのか好きなんだか)

そう思いながら、京太郎はアガれずに若干悔しそうなリーチ者2人と、
何やら京太郎の手を驚愕の顔で見ている陽皐を見渡して、内心うそぶいた。

(どうだ、止めてやったぜ? ざまあみろ!)

上田  32,700(+-0)
松本  15,200(+-0)
陽皐  48,700(-3,000)
京太郎 1,400(+1,000)
(供託2,000点)

その聴牌形を見て陽皐は愕然としていた。
牌はもうすでに落とされており、オーラスの山が積まれていたが、それは陽皐の脳にはっきりと焼き付いていた。

(形式聴牌なのは想定通り。待ちが愚形なのはどうだっていい)

(だが、何故。何故その3-6索が止められたんだ!?)

自分の勘が外れたこと、ありえないブロックに陽皐の精神は激しく混乱していた。
まるで前局の京太郎のように若干の震えを伴いながら陽皐は配牌を取った。

(全ツッパだったはずだ。オリなど考えていなかったはずだ)

(なのに、何故そこが1点で止められるんだ!? 止めたことで切った3筒、4筒だって相当な危険牌だろ!?)

配牌を取り終わる。陽皐にとってはあるはずのないオーラス。

『陽皐配牌』
223m99s356p東西白白白 ドラ7p

面子候補は足りていないが好形。
役牌もあり、流すにはもってこいの形だった。

(とにかく、とにかくだ。さっさと蹴って終わらせる)

そう思いながら第1ツモを手に取る。4索を引き、さらに形がよくなる。
西を切り飛ばし、2巡ほど空振り4巡目。

【4巡目】
『陽皐手牌』
223m99s3456p東白白白 ツモ5p ドラ7p

磐石の形。ポンにもチーにも行ける理想的な形だった。
東を切り飛ばす。だが、1巡空振りして次の6巡目だった。

「リーチっ!」

3着目、松本からの早いリーチが入った。
捨牌を確認する。

『松本捨牌』
628北九⑧r

(また妙な捨て牌だな……)

そう思いながら自分のツモに手を伸ばす。

【6巡目】
『陽皐手牌』
223m99s34556p白白白 ツモ4m ドラ7p

ストレートな聴牌。だが2萬という危険牌を切ってまで聴牌を取る気はなかった。
何も考えず、ノータイムで9索の対子を手に取り場に打ち出した。

精神的な動揺があったのかもしれない。
万全の状態であれば勘が働き何かを察知できたのかもしれない。
だが、それはすでに場に打ち出され

「ロン!」

アガリを、宣言された。

『松本手牌』
111789m1119s111p ドラ7p

「リーチ、一発、純チャン、三色、三暗刻」

松本はゆっくりと役を数えた。
そしてゆっくりと裏ドラに手を伸ばし、めくった。
裏ドラは、9索。今ちょうど、陽皐が切った牌であった。

「……裏2! 三倍満で24,000は24,300!」


まくられた。陽皐がその現実を認識するのに多少の時間がかかった。


長かった対局が、終わった。

『終局』
上田  32,700
松本  41,500(+26,300)
陽皐  24,400(-24,300)
京太郎 1,400

それが決まったとき、実況席は一瞬の沈黙に包まれた。

「まさか、まさかの……インターミドル3位、陽皐がここで敗退です!」

あまりにドラマティックな展開にアナウンサーも最初言葉を失った。

「素晴らしいまくりだ、いい物を見れた」

隣でまくりの女王が満足そうな顔をして微笑んだ。

「藤田プロの言うとおりになりましたね……ここまで劇的な大まくりが出るとは……」

「そうだな。まず3着目の松本、南3局で大物手を潰されたのにもかかわらず、腐らずオーラスに望んだ。その執念をまずは褒め称えたい」

そして、と前置きしつつモニタの中でうなだれた表情をする京太郎をみた。

「自身は及ばなかったが、このまくりが出たのは南3局で清澄の彼が土俵際であきらめず踏ん張ったからだな」

「えぇ。普通であれば彼が飛んでこの局はなかったわけですからね」

「あぁ。無論彼は悔しいだろうが……。まだ若い」

モニタをこつりと指で軽く叩いて微笑みながら言った。

「この先もあのように諦めなければ、きっといい雀士になるな」

「ありがとうございました!」

対局後、挨拶の後喜びを隠せないように1位と2位は弾かれたように対局室を飛び出していった。
京太郎はそれを気にもせず、目の前の牌をぼんやりと眺めた。

『京太郎手牌』
456m224789s57p東東

東が鳴ければ、勝負になっていた。
だが、東は山に深く、場に打ち出されることはなかった。
結局京太郎の新人戦は一度もアガることなく、終わった。

「少し、いいかな?」

そうやって京太郎が自分の手を見続けていると声がかけられた。
京太郎ほどではないが、暗い顔をした陽皐だった。

「……なんすか?」

「いや、すまん。俺と話なんかしたくないとは思う。だけど、教えてほしいことがある」

陽皐は京太郎の返事を聞かないまま、殆どめくられることがなかった山を返し、京太郎の前に牌を並べた。

「南3局で2軒リーチが入ったてから、途中でこんな手格好があったと思うんだが?」

『京太郎手牌』
33566s34p ツモ4s ポン北北北 チー567

「あぁ、はい……」

京太郎はその手牌を見ながらあの時の状況を思い出し、頷いた。

「教えてほしい。何でここから、3筒と4筒を切り出していったんだ? 何故聴牌を取らなかったんだ?」

納得がいかないと言った顔をして陽皐は続けた。

「確かに、3索と6索は危険牌だった。だが、それまでも無筋を切り続けていたし、3筒と4筒だって安全じゃない。むしろ危険牌だ」

拳を握る陽皐。敗北の悔しさが徐々にこみ上げてきたのか、その言葉には有無を言わせない何かがあった。

「教えてくれ、頼む」

沈黙が流れる、陽皐は話すまで梃子でも動かないと言った空気が感じられた。
京太郎はそれを受けて若干悩んだ後、口を開いた。

「あの時、対面さんの捨牌……リーチの直前、確かこんな感じだったはず。全部は覚えてないけど」

『松本捨牌抜粋』
六27r一

「……確かに、そんな感じだったな」

「ほらこれ、ここ」

そういってリーチ宣言牌とその直前に切られた2索と7索を指差した。

「間四ケン。だから、危険だと思ってどうしても切れなかった」

「……はぁ!?」

陽皐は思わず間抜けな声が聞こえた。
間四ケン。今回のように2と7や3と8のように牌が切られた際に間のスジが危ないと言う読み筋である。
だが、読み筋の中では当てにならないと言われる物のひとつであった。

「あ、間四ケンって、それだけ? しかももう一人の立直にはまったく意味をなさないだろ!?」

陽皐の語気が荒くなった。
あれほどの1点読みをしたのだから何かしらのすさまじい理論か自分と同じ勘の打ち手だと考えていた。
だが、蓋を開けてみればそのどちらかでもなく、誰でも知っているか細い理論であった。

「わかってる。俺だって、馬鹿だなと思う。その証拠に切るとき、結構、迷ってただろ?」

「……あぁ、確かに」

京太郎の苦しそうに悩み、今にも死んでしまいそうな顔で4筒を打ったこととを思い出す陽皐。
それでも納得がいかなそうな陽皐をみて京太郎は天井を見上げながら、何かを思い出すように言った。

「でも、さ。間四ケンって言う知識は……」

あの日の部室での出来事を思い出す。
お互いに泣きながら、気持ちをぶつけ合ったあの日。
優希と笑いながら、話したあの日と出来事を思い出していた。

――そうだ、聞きたいことがあったんだが……間四ケンって――

――読み筋の話か? 間四ケンとかよりまだ――


「雀士としての俺が、初めて覚えたこと」

「俺が、もってなくても、勝てなくても、それでもやっていこうって決意して、初めて覚えたことなんだ」

「だから、どうしてもそれを信じてみたくなった」

それだけ、と言って京太郎は黙り込んだ。
陽皐は何かを言い返したかった。だが、何も言葉が出なかった。

(人のこと、言えないよな。俺だってありえない打牌して周りからいろいろ言われてきたってのに)

(自分が今までしてきたのに、自分が不条理な打牌をされて相手を咎めると言うのも、ないよな)

「わかった、ありがとう。また、機会があったら打とう」

軽くため息をつき、陽皐はそうやって京太郎に軽く礼を言った。

「……あぁ」

京太郎は、そう返すのが精一杯だった。
心の中に吹き荒れる激情を抑えるのが精一杯でそれ以上話すことが出来なかった。
陽皐はそれを見て何も言わず、対局室を出て行った。

京太郎もそれから少しして、ふらつきながら対局室を出た。
頭には霞がかかったようだった。
控え室に向かい、会場内の通路を歩く。
京太郎は周りは相変わらず人が多いがその喧騒が遠くから聞こえるように感じた。
すれ違う人にぶつかりそうになりながらも、京太郎は歩く。

(何も)

次のステージへの進出を決めたのか、一人の高校生が周りから撫で回されたり小突かれたり、手荒い祝福を受けていた。

(何も、できなかった)

このステージで敗退したのだろうか、一人の高校生が涙を流していて、顧問と思われる壮年の男性が何も言わずに頭を撫でていた。

(終わっちゃったんだ、な)

周りから自分はどう映っているのか、京太郎はそんなことを考えるがわかりったことだ、と即座に切り捨てた。

(俺の、新人戦)

ぼんやりとする頭の中で京太郎は自分の置かれている状況を少しずつ理解していく。
そんな時、目の前に見知った顔が居た。通路に立っている5人の顔。
まこ、優希、和、咲、久。皆それぞれ、痛ましい顔で京太郎を見ていた。

「京、ちゃん」

咲が京太郎の名を呼ぶが、その後が続かなかった。
咲は必死に慰めの言葉、励ましの言葉をかけようと頭を巡らせるが、何を言えばいいのかわからなかった。
それも至極当然のことであり、麻雀において常に強者で居た咲に、敗者に対して何を言えばいいのかわからないのは自明の理だった。
だが、ほかのメンバーも何を言えばいいのか、わからなかった。
あまりにも、一方的な敗北。善戦であれば何かが言えただろう。
だが、ここまで言い訳も出来ないほど完膚なきまでに叩きのめされれば言葉に迷うのも無理はなかった。
最後の形式聴牌で踏みとどまったことは驚きだったが、それが大した慰めにもならないことも、彼女たちは理解していた。

(なんだよ、まったく)

そんな5人の様子を見ながら、京太郎は苦笑した。

(俺以上に、つらい顔しやがって)

何か湧き出そうになる、どうしようもない感情に蓋をして、京太郎は笑った。

「すいません、負けてしまいました」

そう言って頭を下げる。
それを口に出した瞬間、感情が爆発しそうになったが、それでも京太郎は耐えて、頭を上げた。

「はは、俺なりに必死にやったんですけど、ほんと、すみません、み、みんな、一生懸命、お、俺の、た、ために」

言葉が震えてくる。笑顔が崩れそうになる。
そんな状況を必死でこらえながら、京太郎は続けた。

「そ、そうだ。な、なんか飲み物でも、買ってきましょうか。ほら、ほら、その、えっと、皆、喉でも渇いたでしょ?」

誰が見ても、無理をしているというのがわかる顔であった。
優希が顔を伏せる。和が口に手を当てて声を押し殺す。
そして、咲が泣きそうな顔で京太郎に駆け寄ろうとした。
だが、その手をまこが握り、そして、京太郎に向き直って言った。

「じゃあ、適当に頼む。金は、後で渡すけぇ」

「わ、わかりました。じゃあ、いって、きます」

もう限界だとばかりに、京太郎は顔を伏せてきびすを返した。
そして、走り出す直前の京太郎にまこがもう一度声をかけた。

「京太郎!」

「……はい」

振り返らず、押し殺した声でまこの呼びかけに反応する。
まこは、京太郎が見てはいないとはわかっていても、その背中に笑いかけた。

「会場は広いけぇ、迷うかもしれん。……ゆっくりでええからな」

「……ありがとうございます」

そう言って軽く頷くと、京太郎は駆け出して行った。

「染谷先輩、京ちゃんを、その……」

控え室に帰る道すがら、咲はそんなことを言った。
何かを言いたかったようだが言葉にはならなかった。

「京太郎も男じゃけぇ。プライドっちゅうもんがある。今は、一人にさせてやるんじゃ」

「……はい」

咲は不承不承、と言う感じで頷いた。
その様子を見て、3人を見渡しながらまこは続けた。

「なにより、今回の新人戦で勝者であるぬしらが敗者にかける言葉はなかろう」

しばらく、沈黙が続くがぽつりと優希がこぼした。

「京太郎、また麻雀がいやにならなきゃいいな」

「……そうですね。この敗北は心にくると思います。本当に、今日は巡り合わせが悪かったとしかいいようがありません」

和もそう言いながらどこか辛そうな表情をした。
まこがそんな空気を払拭するかのように、大きな声で言った。

「とにかく、京太郎を信じるんじゃ! まずは、帰ってきたら暖かく迎えてやろう。結果が伴わなかったとは言え、必死に戦ったんじゃ」

その言葉に、3人は小さく返事を返した。
そのとき、まこが何かに気がついたように辺りを見回した。

「ん? ……久は、どこへ行った?」

そういうと3人も辺りを見回したが、久の姿はどこにも見えなかった。

会場の一番はずれにあり、辺りには控え室も無い自動販売機コーナー。
京太郎はそこに全力で走り、辿り着いた。

「はぁ……はぁ……」

大した距離を走ったわけではないのだが、なぜか酷く呼吸が乱れた。
震える手でポケットから財布を取り出す。
小銭を取り出そうと財布の口を開いた瞬間に震えからか、財布を取り落としてしまう。
甲高い音が響いて、辺りに小銭が散らばった。

(何やってんだ、俺)

心の中で愚痴りながらも、しゃがみ込む。

「くそっ」

小銭を拾いながら、京太郎は言葉を漏らした。
何に苛立っているのかはよくわからなかったが、それでも何かを堪え切れなかった。

「くそっ」

目頭が熱くなってくる。

「くそっ」

鼻の奥がツンとした。小銭を拾う手が止まり、体が震えだす。
その時だった。
京太郎に影がかかる。その影は京太郎と同じようにしゃがみ込み、
一番遠くにあった最後の一枚の小銭を拾い上げた。

「はい」

そう言うと、影――久は微笑みながら手を差し出した。

「ぶ、ちょう」

「部長じゃないってば」

そう笑いながら小銭を京太郎に渡した。
京太郎はそれを受け取り、財布に入れる。

「ど、どうし、て?」

「ほら、6人分の飲み物持って帰るの大変でしょ。手伝ってあげようと思って」

久はいつもの笑いを浮かべながら京太郎に言った。
京太郎はそれに対してどう返せばいいのかわからず黙り込む。
そうしていると、久はせかすように京太郎の手を引いた。

「ほら、さっさと買っちゃいましょ?」

「……はい」

京太郎は小銭を自動販売機にいれ、適当にボタンを教えていく。

「ねぇ、須賀君」

久は自販機横のベンチに座り、京太郎の買ったジュースを自分の隣に置いた。

「なんですか?」

京太郎は自動販売機に向かい合ったまま、答えた。
久は少し間を空け、何かを迷う素振りをしたが、結局その言葉を発した。

「……麻雀、嫌になっちゃた?」

京太郎はその問いに、自動販売機のボタンを押す手を止めた。
そして、何かを考え込む。久は黙って、その返事を待った。
しばらくして、京太郎は途切れ後切れだが、久に向けて言った。

「……やっぱ、悔しいです。だけど、まだ、がんばれると思います。」

「あの南3局。たぶん、3人ともが俺のこと飛ぶって思ってたんでしょうが、なんとか、踏ん張れました」

「ただの頼りない理論、意味も無い勘でしたけど、当たり牌、止めること出来ました。その上で、聴牌できました」

「その瞬間、ちょっと、嬉しかったんです」

「苦しい苦しい対局ですけど、嬉しさも見いだせました。だから」

「だから、その、もうちょっと、がんばれるかなって、そう思います」

そこまで言い切って、京太郎は自販機のボタンを押した。
久はジュースを受け取り自分の隣に置いて軽く微笑み、そう、と言った。

「さ、行きましょうか。みんな待ってますよね」

「待って。須賀君、ちょっとこっちに座りなさい」

ジュースを手に取り歩き出そうとした京太郎に、久は自分の隣をぽんと軽く叩きながら言った。

「……なんですか? 何企んでるんですか?」

「いいからいいから」

口元は笑っていたが、どこか真剣な感じを受ける久に京太郎も何かを感じ取ったのか、言われるがままに隣に座った。

「はい、座りました。で、なんでしょうか」

京太郎が久に問いかける。すると、久は何も言わず、京太郎の頭を撫でた。

「……えっ?」

(そう、私は、あなたにとっていい部長ではなかったと思う)

「何ですか、先輩。何を企んでるんですか?」

(でも、あなたは私を責めることなく立派に成長した)

「先輩?」

(私は、あなたに対してほとんど何も出来なかった。だから)

「どうしたんで……!」

(これぐらいは、させて頂戴)

そう言いながら、京太郎の頭を自分の胸に抱いた。

「た、竹井先輩。ど、どうしたんですか? と、突然何を」

「いいの」

動揺した様子の京太郎の言葉をさえぎりながら京太郎は抱きしめた久の頭を撫でながら言った。

「あなたが麻雀を続けると言ってくれたことは嬉しい。がんばれる、といって笑ってくれることは嬉しい。でも」

さらに、京太郎の頭を強く抱きしめる。
京太郎は久のやわらかい胸の感触を感じつつも何故か下心も無く、それに身を預けていた。

「辛いときは、悔しいときは、泣いていいのよ?」

その言葉に、京太郎はびくりと反応し体を震わせた。
それでも尚、何かに耐えている様子の京太郎に久はその背中を撫でて言った。

「辛かったわね、苦しかったわね……。須賀君が苦しい中、一生懸命がんばっていたのは見たわ。あなたは、あなたは」

久の目にも涙が浮かんでいる。それを1回ぬぐい、再び京太郎の背中を撫でた。

「あなたはよくやったわ。お疲れ様、須賀君」

京太郎の精神はそれが限界だった。堪えていた何かが噴出していく。
涙が大量にこぼれ、久の制服を濡らした。

「うっ、うぅ、ぐ、ぐぅ……」

引きつった声を漏らす京太郎。
一度噴出したそれはもう堪えが聞かなかった。

「悔しい、悔しいです。あんなに、あんなに打ったのに。みんなと、あんなに……!」

「うん、うん」

「ぜんぜん、うまくいかなくて、お、思い通りにならなくて」

「うん……」

「な、なんとかしようとしたんですけど、で、でも、どうしようも、なくて」

「うん……!」

「できることをしようと、おもった、のに、たいしたこと、できなくて」

「うんっ……」

「みんな、と、みん、なとあんなに、がんばった、のに」

「えぇ……! あなたは、あなたは、頑張ったわ、須賀君」

久は京太郎の言葉に頷き、自分も涙を流しながら京太郎の背を撫でた。

「なのに、なのに、俺、俺……う、ぐ、ううううううああああああ」

それ以降は言葉にならなかった。
京太郎は久の胸の中で呻く様な鳴き声をあげた。
久の腕を掴み、子供のように泣いた。
久はそれに対して何も言わず、ただ京太郎を抱きしめて子供をあやすように背をさすり続けた。
沸き立つ会場の片隅で、京太郎の嗚咽の声が響いた。
それは、しばらく止むことはなかった。

本編はここまで1時過ぎぐらいにエピローグを投下していきます。
ちょっと休憩。

しかし投下だけで40分ぐらいかかるとか……

乙!まさに、[ピーーー]ば助かるのに・・・どうせ死ぬなら強く打って死ぬでした。京太郎も死ぬ事で死中の生を拾った。
アカギは打った理由の説明と的確な助言が出来るので、後輩の指導に向いている気がします。

部長の場合、念願の全国が手に届く位置に来て、後人の指導が頭から吹っ飛んだのは無理もないけど、出来なかったではなく、しなかったじゃ・・・

もう少ししたらエピローグを投下していきます。
(※注意 人によっては気分を害する内容かもしれません)

断罪といってもロッカーは若さ故の過ちで悪いわけじゃない。
清澄麻雀部にもう一人、戦力外がいればお互い切磋琢磨出来ただろうけど、京太郎は魔物の中に紛れ込んだ兎かハムスター一匹だし。部を続けるとしたらマネージャーに専念するしかない。
京太郎に部を続けさせる為には麻雀をさせない。麻雀をさせるためには京太郎を退部させる。究極の二択、どっちを選ぶか。

ではエピローグに行きますー

それからも京太郎はただ麻雀を打ち続けた。
毎日毎日、打ち続けた。
そして、毎日のように麻雀部メンバーに負け続けた。

久が学校から去り、新入生が入ってきたときも打ち続けた。
ほかのメンバーに比べての実力の低さを笑われるときもあったが、それにも負けずに打ち続けた。
その真摯な姿に後輩も感じ入るものがあったのか、不思議と男女問わず信頼を得るようになった。
もともと、人当たりのいい性格と言うこともあり、慕われるようになった。

夏の大会で2回戦負けしたときも打ち続けた。
男子はメンバーが集まらず団体戦には挑めず、個人戦での参加となった。
その時、初めて公式戦で1勝をあげることができた。
結局2回戦負けとなり、清澄は女子だけ、などと揶揄されることもあったが勝利に胸を躍らせた。

夏の大会後、まこから部長職を引き継いだときも打ち続けた。
京太郎は自分の実力も考えて和のほうがいいと強く固辞したが、京太郎以外の一同が京太郎を推薦した。
結局京太郎は部長職を引き受けた。
周りからは一番実力が無い者が部長はどうなのかと懸念の声もあったが、それでも周りが京太郎を盛り立てた。

秋の新人戦で後輩たちが活躍したときも打ち続けた。
数少ない男子メンバーの一人が全国への切符を手にした。
もともと中学から打ち込んでおり、京太郎が教えられることはあまり無かったが、
それでも京太郎は後輩をかわいがり、公開も京太郎を先輩として敬意を持って接した。
その後輩が全国への切符を手にしたときは自分のことのように喜び、泣き、称えた。
胴上げをした際に危うく落としかけ、まこと和に酷く叱られたこともあったが。

そして、まこが卒業を控え最後に1卓囲んだときも京太郎は全力で打った。

「あっという間の3年間じゃったな。もう打つことが無いと考えると寂しくなるのぅ」

まこは麻雀中そんなことをぽつりと言った。
京太郎はそれを聞いて、何を言ってるんですか、と前置きした後に言った。

「みんな卒業してからでも、それこそ就職してからでも、打ちましょうよ。だって」

京太郎はにっと笑いながら残りの4人に笑いかけた。

「俺、まだ皆に勝ってないんですよ? 勝ち逃げは許さないです」

そういうと、全員がとても嬉しそうに、可笑しそうに笑った。

「そうじゃな……。うん、そうじゃったな」

「えぇ、時間を見つけて、また皆で打ちましょう」

「京太郎もたまにはいいこというじぇ!」

「ゆ、優希ちゃん。それはちょっとひどいよ」

「そうね、私も大賛成よっ!」

「どわっ! 竹井先輩、どっから出てきたんですか!」

そしてその局も勝てなかった。
それでも、打ち続けた。
辛いことがあっても、苦しいことがあっても、敗北に心が折れそうになっても、ただ、ひたすらに打ち続けた。

――――――――――――――――――――

―――――――――――

――――――

「ツモ。嶺上、混一色、ドラ3。3,000-6,00です!」

「ふぅ、最後の親が終わってしまいました……」

咲の発声に和が呻いた。ここまで焼き鳥だった咲の改心のアガリで点棒状況は大きく変動した。

『オーラス開始時』
京太郎 22,300
咲   26,600
和   13,300
優希  37,800(親)

「満直跳ツモで逆転か……」

あごに手を触れ、ざらざらとした感触を感じつつ京太郎は点棒を確認した。

「さて、京太郎。私をまくれるかな?」

オーラス、トップで親を迎えた優希がどこか不遜な態度でそう言った。
それに対して京太郎は口元に笑みを浮かべた。

「言ってろ。今日こそまくってやる」

そう言いながら京太郎は配牌を取った。
全員が、トップを取るために真剣な眼差しだった。

『京太郎配牌』
24m35779s34p東西北北 ドラ北

ドラヘッド。この状態から何かしらの手役を作れば跳満が見える。
配牌を見て、こういった状況で逆転の種が来てくれたことに感謝する。

「……(今日こそ、決めるんだ)」

場は進んでいく。優希を除く3人はごく普通の捨て牌だが和は捨て牌から国士無双であることが伺えた。

【8巡目】
『京太郎手牌』
45m57799s344p北北北 ツモ6s ドラ北

(いける、か?)

手ごたえを感じるカンチャン引き。7索を切り出す。だが、まだ手役が足りない。
ドラは6巡目に暗刻らせることはできた。だが、手役は見えずツモっても裏ドラ期待の手となってしまっている。

(咲なら、ここで北を引いてくるんだろうな)

そう思いながらツモに手を伸ばす。

【9巡目】
『京太郎手牌』
45m56799s344p北北北 ツモ9m ドラ北

(4枚目……)

場に3枚見えている9萬。
和の捨て牌が露骨に国士無双を訴えかけていた。
この9萬を止めることは出来るが、それだとほぼアガリを逃すことになる。

――国士無双。32,000です――

いつかの記憶を振り払うように、大きく息を吸ってから、切り出す。
和がちらりと京太郎のほうを見るが、発声は、かからなかった。
京太郎は胸をなでおろす。

そして、和のツモ番になった。

【和手牌】
1m19s19p東東南南西白発中 ツモ北

(一手間に合わず、ですか)

自分はここまでだ、和はそう思いながら心の中でため息をつき、場切れの白を切り出していく。

(後は、3人にお任せしましょう)

そして、10巡目。

(裏期待じゃ、駄目なんだ)

そんなことを思いながら京太郎は山に手を伸ばした。
裏ドラも確率である。乗る人間、乗らない人間と言うのもオカルトな話だ。
だが、京太郎は今までの経験上、こういう状況で裏ドラ期待の手を売って乗った試しがなかった。
ただ、聴牌したらリーチを打たざるを得ない。

(だから、俺に、あれを……くれ!)

京太郎は、強く念じながら力強く牌をツモった。

【10巡目】
『京太郎手牌』
45m56799s344p北北北 ツモ【5】p ドラ北

(! お前を待ってたぞ!)

待望の赤5筒引き。これで4役。リーチをかけてツモれば文句なしの跳満である。

「リーチ!」

力強く発声して、場に千点棒を出した。

(来たね、京ちゃん)

【10巡目】
『咲手牌』
333【5】5578m45567p ツモ7p ドラ北

その同じ巡目で咲も聴牌を入れる。
ツモれば2000-3,900でトップに届く。

(私だって、負けないよ)

先も5筒を切り出し追いかける。
それを見受て、優希は自分の手を睨みつけた。

(2軒リーチか)

もとより、優希は配牌がガタガタであり、ツモも噛み合わなかったためいまだ2向聴である。

(こりゃ、流局期待だな)

即オリを選択する優希。奇しくも、咲と京太郎の勝負と相成った。
11巡目、12巡目、13巡目……。
重苦しい場が進行していく。京太郎も咲も強く、強く念じながら牌を取っていく。
よもやの流局か、と和が思った、15巡目。

勝負はその巡目に付いた。

「ツモ!」

『京太郎手牌』
45m56799s34【5】p北北北 ツモ3m ドラ北 裏ドラ 2s

「リーヅモドラ4! 3,000-6,000だ!」



『終局』
京太郎 35,300(+13,000)
咲   22,600(-4,000)
和   9,300(-3,000)
優希  31,800(-6,000)

京太郎がそう宣言した後も沈黙が包まれた。
そんな中、咲が嶺上牌に手を伸ばした。なんとなく咲はわかっていたが、そこにあったのは9萬。
京太郎の引いた3萬を自分が引けばカンして嶺上ツモアガリであった。
咲はそれを見てくすりと笑って、言った。

「京ちゃん、トップだよ。おめでとう」

最初京太郎は呆然と我を失っていたようだったが、見る見る顔が血色ばんできて、喜びを爆発させてた。

「よっっっっっっっっしゃあああああああああああああああああ!」

あまりの声の大きさに周りの卓に座っていた者たちが何事かと京太郎の達を見た。
席から立ち上がり大きくガッツポーズをする京太郎。
雄たけび、と言っても過言ではないような勝利の咆哮であった。
世界中で今一番幸せなのは自分だ、そういいきれそうな満面の笑みだった。

「す、須賀君、声が大きいです」

和は京太郎の大声に思わずたしなめた。

「あ、あぁ、す、すまん」

京太郎はあわてて周りの人間にすみませんと頭を下げた。

「まぁ、でも、無理もないなー。長かったな、京太郎?」

優希はそんな京太郎の様子を嬉しそうに、本当に嬉しそうに見ながら言った。

「あぁ、ほんと」

京太郎はその言葉に頷きつつ、天井を見上げて言った。

「ここまでくるのに、15年もかかっちまった」

最上級生になり、それぞれの進路に向けて歩き出し、別々の道を進んでも京太郎たちはこうやって集まり時たま麻雀を打っていた。
それぞれが働き始め、仕事や居住地の都合もあり学生時代とくらべれば頻度は下がった。全員集まらないことも増えてきた。
それでも、その機会が途絶えることはなかった。

そして、15年目の今日、京太郎はようやく大願を成就した。

「まったく。もうみんなそろって三十路になっちゃったじぇ」

優希はみんなといると時々こうやって昔の口調に戻るときもがあった。
本人は気づいていないようだがあえてだれも指摘しなかった。

「だな。俺らも老けたな」

そう言いながら、京太郎は伸びてきた顎髭を撫でた。

「……やめてください。現実に戻さないでください」

「和は最近、年齢の話になるとそんなんだな……」

「女にはいろいろあるんです」

ぷいっと顔を背ける和。優希はそれを見て和をからかう。
そして咲は感慨深げな顔をしながら微笑み、誰にともなく言った。

「でも、とうとう、負けちゃったね、私たち」

「えぇ。今の須賀君の実力と確率を考えれば遅すぎるぐらいですが」

「まったくだじぇ」

3人娘――今もこの表現が正しいかは疑問だが――は笑いあった。
それを見て京太郎は笑いながらも少し真剣味を取り戻して言った。

「でも、皆には感謝してるよ」

「……どうしたの、京ちゃん?」

「15年間、たくさんたくさん打った。たくさん負けて、いろいろあって喧嘩したり、気まずくなったこともあったよな」

その言葉に3人は何かを思い返すような顔をしながら、京太郎の言葉の続きを待った。

「で、やっぱり仲直りして、またぶつかったりしたりしたけど」

「麻雀に関しては一度だって、手を抜かなかった。俺のことを1人前の雀士として扱ってくれて、いつだって全力だった」

「卒業後もそれぞれがそれぞれの形で麻雀に携わり続けて」

「皆、ずっと強いままで居てくれて」

「それが、なんていうか、すごく、うれしかった」

ありがとう、そう言って京太郎は3人に頭を下げた。
それを見て和があわてた様に言った。

「やめてください須賀君……どんなときでも、相手に対して全力を尽くすのは礼儀です。当たり前のことですよ」

「そうだよ、京ちゃん。そりゃ確かに京ちゃんにも勝ってほしい、って思うことはあったけど……手を抜いて京ちゃんが勝っても、それは京ちゃんを傷つけるだけだもん」

「そうそう、ライオンはウサギを狩るのにもなんとやら、ってやつ」

「ほざけ、タコス娘」

最後の優希の発言につっこみを入れつつ京太郎は笑った。
それに対して優希も笑うが、少し寂しそうな顔をして、京太郎に尋ねた。

「なぁ、京太郎?」

「なんだ?」

「京太郎は、これで満足か? 私たちに勝てて、もう、満足か?」

優希は恐れていた。
京太郎が自分たちに勝ったことにより、満足してこうやって皆で集まる機会は失われてしまうのではないか、と。
だからここ最近、優希は京太郎の勝利を願いつつも、心の底では勝ってほしくない、そんな複雑な感情を抱え、後ろめたい気持ちだった。
だが、優希のそんな発言を京太郎は軽く笑い飛ばした。

「なーに言ってんだよ! たったの1勝だぜ? 俺がお前らに何敗してると思ってるんだよ?」

尋ねた後、数えるのも面倒なぐらいだ、自分で答えて軽く笑った。

「これから俺の逆襲劇が始まる! 勝って勝って勝ちまくって、今までの負けを取り返してやる!」

そういうと京太郎はふっと落ち着き、何か訴えかけるように、ゆっくりと語った。

「だから、さ。これからも打とうぜ。もっともっとおじさんおばさんになっても、爺ちゃん婆ちゃんになっても」

一旦言葉を切り、その先を万感の思いを込めて、言った。

「俺は、このメンバーで麻雀が打ちたいって、そう思うんだ」

優希はその言葉を聴いて涙がこぼれるのを我慢できなかった。
自分だけではなった。もっともっと打っていたい、と言うその気持ちを持っているのは自分だけではなかった。
そう思うだけで、とても嬉しくて涙が出た。

「ま、まったく、犬の癖に、な、泣かせやがって」

「ゆーき……」

和は優希にハンカチを差し出し、優希はそれを受け取って目頭を拭った。

「あー、年取ると涙もろくなっていかんじぇ」

そう言って優希がぼやくとそのタイミングで和の携帯がなった。

「あっ、染谷先輩。竹井先輩と合流できました? はい、はい……はい、わかりました。じゃあ、今行きますね」

和は携帯を切ると脇においてあった車のキーを手に取り立ち上がった。

「染谷先輩と竹井先輩が合流して駅まで来てるそうです。ちょっと迎えに行ってきますね」

「おっ、そうか。今日は久しぶりにあのメンバーが揃うから楽しみだなぁ」

「おっと、のどちゃん、私もいく!」

「和ちゃん、気をつけてね」

「はい、それじゃあちょっと行ってきます」

そう言って和と優希は店を出て行き、京太郎と咲が残された。

「さーて、ちょっと休憩だな」

京太郎は手元のウーロン茶をすすり、肩を軽く回した。

「うん……」

(今なら……聞けるかな?)

咲の心には1本の棘が刺さっていった。
15年前の京太郎とのあの1件で心に刺さった棘であった。
あれから京太郎の中は修復され、ずっと仲のいいまま過ごし続け、傷は塞がったが、その棘だけは残り続けた。
その棘は京太郎と話しているとき、麻雀を打っているときに時々ちくりと痛んだ。

「ねぇ、京ちゃん」

その棘が刺さる原因となったあの一言、今だったらもう一度聞ける気がする。
咲はそう考え、京太郎に呼びかける。

「ん、どうした、咲?」

京太郎は咲のそんな決意を知らずいつもの笑みを浮かべながら咲に向き直った。
口を開こうとするが、直前になってまた迷い始めた。

(怖い、怖いよ。また、またあんなことになったらどうしよう)

(やだよ。あんな、あんな苦しいの、もう……)

あのときの絶望感は今思い出すだけで心が引き裂かれそうだった。
それを味わうぐらいだったら、棘の痛みぐらいには耐えるべきなのか。

(……でも)

咲は一瞬そう考えたが、自分の考えを否定した。

(でも、でも、私、私はやっぱり)

(聞きたいよ)

(京ちゃんの、あの言葉が聞きたい!)

決意して、咲は口を開いた。
声が震えないように大きく息を吸い込み、ゆっくりと噛みしめるように言った。

「京ちゃん。京ちゃんは……」






「私たちと麻雀を打って、楽しい?」





その一言を聞いて京太郎はぽかんとした顔をする。
言ってしまった、もう後戻りはできない。
そう考えて咲は叱られる寸前の子供のような顔で京太郎の言葉を待った。
最初はぽかんとしていた京太郎は――満面の笑みを浮かべていった。




「何言ってんだよ咲。馬鹿だなお前、当たり前だろ」





「すっげー楽しいよ、お前らと打つ麻雀!」

(!)

それは15年前に咲が聞きたかった言葉であった。
15年間咲が聞きたいと願っていた言葉であった。

(聞け、た)

それが今日、ようやく叶った。
咲の心に刺さった小さな棘、それがようやく抜けた。

(よかった、本当に、よかった)

咲の目から涙が一粒零れた。

「さ、咲?」

びっくりしたように京太郎が咲に声をかけた。
一粒零れたらあとはもう止めようがなかった。
ぼろぼろと涙をこぼし始める咲。

(よかった……よかったよ……)

自分でも泣きすぎだと咲は自覚していた。だが、涙が止まらなかった。
堪えようとも止めようともしているのだが、まったく止まる気配はなかった。

「咲、どうしたんだよ突然、だ、大丈夫か?」

京太郎がおろおろとしながら咲に声をかける。
咲はそんな京太郎の姿を見て涙を拭いながら考えた。

(ほら、京ちゃんが心配してる。私も言わなくちゃあの一言)

「京、ちゃん……」

「お、おう。どうした?」

京太郎が動揺しながらも返事を返す。
咲は涙を流しながらも笑顔を咲かせて言った。








「私も、京ちゃんと麻雀打てて、すっごく楽しいよ!」





カン!

一度使ってみたかった、この結び。

弱者の闘牌が書きたかった。
聴牌入れるのも苦労して、焼き鳥だって嘆いて、デカい手打ち込んで凹んで、形式聴牌を取るのにヒーコラする。
そんなのが書きたかった。

咲本編に不足気味の青春物語が描きたかった。
友情があって、努力があって、挫折があって、涙があって、絆があって。
そんなのが書きたかった。

後悔はしていない

ちなみに好きな言葉は1流のバッドエンドより3流のハッピーエンド。

っていうかバッドエンドにできなかった意志薄弱な>>1

ちなみに私は友人に格ゲーで15年負け続け比較的最近ようやく1勝を挙げました。

乙!
15年後だと、酒の席で
京太郎「あの時は見限られたのかと思って不安でしょうがなかったですよ(笑)」
久「あの時、貴方に何も出来なかったのは悪かったって何度も言ったじゃない」
優希「何も出来なかったというより何もしなかった、させなかったが正しいじぇ」
咲・和「あははは・・・」
久「はう(胸を押えて蹲る)」
まこ「はは・・・耳が痛いのう」
京太郎「でも、雑用ばかり任され、何も教えて貰えず練習も余り出来なかったけど…俺の指導に時間を取られずみんなが練習に集中できて全国を取れたのは良かったと思うぜ」
とか笑い飛ばしていそうです。

あっ、おまけ投下します。

注意!)読後感を台無しにする可能性がありますので嫌な方はそっ閉じ推奨!

(ある日のこと)

「ところで竹井先輩」

「なぁに?」

「以前加治木さんと打ったこと、覚えてますか」

「忘れるわけないでしょ……あれは悪夢よ」

「よかった、忘れてないんですね」

そういうと京太郎は悪魔の笑みを浮かべる。久は思わず後ずさりした。

「あの日の結果ってこうなってたと思うんですけど、間違いないですよね?」

店員  73000
久   -23000
京太郎 25000
ゆみ  25000

「えっ、えぇ」

「はい、店員さんがトップ。先輩がラス。これはいいです」

「そ、そうだけど?」

「俺と加治木さんは当然同点ですが……俺のほうが上家なんですよ」

「……」

「つまり、俺が2位で加治木さんが3位」

「……それで?」

「先輩、あの時言いましたよね。『私と加治木さんより順位が上ならご褒美あげる』と」

「う、うぐ」



「あの時はあまりの衝撃に忘れてましたけど……まだその『ご褒美』もらってないですよねぇ」

ずぃっと久ににじり寄る。久はびくりとしながらもため息をついた。

「しっかり覚えてたのね……」

「当り前です。さぁ! パンツ! パンツ!」

「もう……。まぁ、約束は、約束だからね」

そういうと久は自分のスカートの裾を持った。囃し立てていた京太郎も思わず黙り込む。
久は、裾を持ったまま、ゆっくりとまくりあげていく。
タイツに覆われた久のふくらはぎが見える。京太郎は、思わず生唾を飲み込み瞬きもせず眺め続けた。

「す、須賀君。ごめんね、ちょっとだけ、目をつぶっててもらっていい?」

恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、久は京太郎が今まで見たことがないような羞恥の表情で言った。

「ねぇ、お願い……」

京太郎が反論しようとするが妙にしおらしい態度に思わず反射的に目を閉じる。

「ありがとう」

そういうとごそごそ、と物音が聞こえる。
京太郎は今か今かと落ち着かない気分のまま、立ち尽くした。

「はい、いいわよ」

その声とともに、京太郎の手に何かを握らされた。
目を開けた瞬間握らされたものを、見た。












それは、パンツだった。まごうことなき、一点の曇りもない、パンツであった。












咲達もピークを過ぎて相対的な差が縮んだ点、能力に陰りが生じ昔のような支配力が発揮出来ず経験による読み、技巧、ツキの割合が増してきた事も有るかと思います。
能力抜きでも充分強い訳ですから全く勝てないが、稀に勝てるに変わっただけかもしれない。京太郎も長く打っているので変化に気付き、みんな老いたなと勝って嬉しい反面、どこか寂しく感じているかも。

ロッカーの卒業前なのか、後なのか。

ただし、未開封のものであったが。



「竹井先輩……?」

思わず目の前の久を見る。さっきまでのしおらしさはどこへやら、いつも通りの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「須賀君がいつ言いだしてきてもいいように、持ち歩いていたのよ。その婦人用サービス価格の298円のパンツ」

「い、いや、そうじゃなくてですね?」

「あら? 私はパンツを見せてあげると入ったけど、私が履いているパンツを見せるとはいってないわよ?」

「へっ、屁理屈だーーーーーーーーー!」

思わず叫びながら手に持ったパンツ(未開封)を地面にたたきつけた。

「残念だったわね、須賀君! まだまだ修行が足りないわ!」

そういいながら久は笑いながら去っていく。
後には京太郎がただ一人残された。

「……どうすんだよ、これ」

そういいながら思わず叩きつけたパンツを拾い上げる。
その時、後ろから何かの気配を感じ振り返った。

「京ちゃん……何、もってるの?」

「さ、咲ぃ!?」

こんどこそカン!

最初は本編中でやろうと思ったんですけどいろいろ台無しなのでおまけに持ってきました。

卓上で咲から容赦のないオカルト役満を受け、後輩がドン引きするほど叩き潰されると。
咲にリタイア級にボコボコにされても麻雀を嫌にならずに続けられるタフさが京太郎が後輩から一目置かれる要因になったりとか。

ちなみに>>382で考えていたもう一つっていうのは京ちゃんがオーラスで「理不尽」を味方につけることに成功して
相手を蹂躙しながら新人戦を勝ち進むんだけど、その能力はOFFにすることができなくてその能力の前には
咲たちの能力も無力で逆に咲たちが麻雀を楽しめなくなって部活に不和が……

とか考えてましたけど、やっぱハッピーにしたかった。

ともかく、予定より長くなってしまいましたがこの話は無事に完結でございます。
沢山のご感想、ご意見ありがとうございました。
明日の通勤時間中、改めてゆっくりと読ませてもらいます。

しかしなんだかんだで700レスぐらい使い切れてしまった……。
このスレは次回作安価のために使用することにして、本編自体は新スレを立てようと思います。

では、また明日改めて次回作の安価を取りたいと思いますので、
お時間があれば覗きに来てくれるとうれしいです。

京太郎「49か51か……今日はどっちに風が吹くかな」




マイナーかもだが麻雀職人による指導のもと天牌色に染まった京ちゃんも見たいなと

>15年続けて一度も幸運が微笑まないなんてことがあるのか
咲の世界なら普通に有ると思う。

ちょっと妄想
20年後、咲達と勝ったり負けたり(それでも全体的に負け越し)するようになり、自分が勝ちたかったピークの彼女達がいなくなった事を実感した京太郎は麻雀に対する熱意が急速に薄れて行くのだった。それでも半生を賭した夢を捨てる事は出来ず、麻雀を辞める事は出来なかった。
晩年の京太郎「勝ちたかったな…あの頃の皆に…」
京太郎の死後、経験も記憶も虚空に消えたが、最盛期の咲達に勝つその妄執とも言える行き場をなくした思いは過去の京太郎に憑依する事になる(二週目開始)。

何となく池田ァと結婚していそう。

            l   ヽ: : : :/. : : : : : : : : .\
           l  ,≦: :, < . : : : / . : : : : : . ヽ─ 、_
        /|/: :, <   \/<丿ノ |∧: : . ',: : : . .≧
        /.: /.: :/. : .\/ \       ∨: : l: : / /
      /.: / : /. : : : :/     \      ∨: :レ'  /
     /. : : : /. : : :, イ ====、     ´ ̄ ∨:| /
   _/ イ.: : :/. : :/V            ===、/.::|
       |/l.:/: : :人    ⊂⊃      '     / .:::|
       |: ://: : >┐     トv-‐、_,  ⊂⊃ .:::|
       V /.:/.:人: :l 、    l: : : : ノ   / :八 :|
     /⌒ヽ\──∨  丶  `¨´ ,. イ: :/  l:|
    ////// 〉、\  ヽ、   >- < /|::/   〃
  /////////> ‐- 、  、 /  |   `「厂l\/
 〃///////   、_〉、 ∨⌒ヽl   // //∧    _, - 、
 レ //////     、_」│  |   │ // ////∧┌〈_,   〉

帰宅後の次回作安価が楽しみで仕方ない仕事中の>>1

         _., .,  、_
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     |\    。、    ノ ソ ノシ:;:;:;:;) ∥ /
     i  \_     _ - "   レ |:;ノ:;/ '
      |   `  /"´  \     レ
\     ー--_-/    {     ノ
\\    i  /     |
  \\  L  /  /|  ハ

部屋に入ってまず第一に異臭を感じる>>1

               ___

              ,..::';::;::::i、:::::、`ヽ
               /.._/!ハ;:、:!r:、....゙、 :: ヽ
            /ri,/フ'ハ、y | ゙、:::゙、::::...゙、
             /:::i  /  )    !::::゙、:::::::|
          i:::::|  |'   |  __ ∧:::::|:::::::|
      _ , -‐  ̄ _ノ-‐-、ヽ.  \ !:::|:::::::|

      /    ,..- ' 、`´ ̄`  \  `ー 、:|ソ
   /    / "レ'ヾiヽ__...::::'  |;\    \
.  〈   _ ノヾー-、-r‐--r-イ  / /7'   /
   `ー-、_ // ヽ i、、  /___/ ./ハヽ、. /|
     | `7/   iヽ、. | / ./=i  ヾ< iヽー┐
     |ノノ     Y\、レ/   ヾ/. `ー/ | ||
     `ー-r---、i  oY     ゙、ヽイ´  .| ||
          |    |    ハ      /-‐-、.|. ∥
          |   |   | i      |     ||
          |   |   o| ゙、      |      .||
          |..  |  |      .i       ||
          |     |   |       ゝ、    ||
          |   f-、  |      `ヽ    .||
          |   /   o|        ゙、   ||
_____ |   〈    .|       / >   ||
_____  ̄ ̄ ̄"""""ー――――-----、、、、、、、、

         ̄ ̄ ̄"""""ー――――-----、、、、、、、、

結局冷蔵室も壊れていて扉を開けてひどい悪臭にもだえ苦しむ>>1

はい、というわけで掃除とファブリーズ散布に1時間以上費やしました……。

そして30代ならもう結婚していると思い込んではいけない(戒め)
30代に近づくと、わかるで……

あ、次回作の安価はもう少ししたら出したいと思うので誰か踏んでくれるとうれしいです。

アラフォー「麻雀が結婚しないでって、引き留めてくるんだよ」

自分で振っておいてなんですが鬱になるのでこの話はやめよう(震え声)

そして次回作ですが以前提示したもの以外にも候補を足したかったんですけど、プロットがまとまらずに挫折しました。
個人的に>>730はちょっと面白そうだなって思っちゃいましたけど流石にこのSS引っ張りすぎだしね……

んでは候補を出します。

1.京太郎「悪女」
  部長が部のために京太郎のことを体よく「利用」していく話(シリアス)

2.京太郎「俺が奴隷扱いされてるっていう噂が流れてる?」
  タイトルまんま(ギャグ)

3.京太郎「やらせてください! お願いします!」 まこ「なぜわしに言うんじゃ」
  タイトルまんま(ガチエロ……を目指す)  

というわけで初安価。ちょっとドキドキするなぁ。

↓7

皆どこに隠れていたの?

7とか遠すぎワロリーヌwww そんな人来るわけねーだろwww

とか思ってたらあっという間に埋まって思わず漏らしそうになりました。

というわけで次回作は部長モノとなりました。
プロットから順次起こしていくので早ければ明日、遅くても土日中には新スレを立てたいと思います。

全部は……うん、どうだろう。
安価スレもやりたいと言えばやりたいし。

どちらにせよまずは1を書き上げてからやな……

うむ、自分でプロット眺めても思う。
これは荒れる(断定)


とは言え、本作も絶対に

「京太郎ウジウジしすぎうぜぇ」

とか叩かれることを覚悟していたんですけど同情的な意見が多くて驚いた>>1
ほんと皆様の声援で何とか書ききれました。多大な感謝を。

残りスレは小ネタでも投下できたら投下していこうと思います。

モチベーションが維持できるか不安でしたが、書き始めると意外とサクサクでした。
書ききってからの投下にすれば? という意見もありましたがある程度キリのいいところまで書くと投下したくなる衝動を我慢できない(ゲス顔)
というわけで次回作用のスレを立てていきますので立て終わったらこっちにもURLを貼ろうと思います。


ところで全く関係ないんですが、エロい話して恥ずかしがってる女の子に言われるひとことで、どの書き方が一番グッときますかね?


1.咲「……えっち」

2.咲「……エッチ」

3.咲「……すけべ」

4.咲「……スケベ」

5.咲「……へんたい」

6.咲「……ヘンタイ」


私は1がグッときます

皆好きやね(歓喜)
それぞれのこだわりが見えててすごくいいと思います。
いつかエロスレを書く機会があったときにでも参考にします。


そして次回作のスレ立て&初回投下が完了しました

京太郎「悪女」
京太郎「悪女」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1362666103/)


こちらのスレは折を見てHTML化依頼投げておきます。

変態の各自の言い方は
透華「へ、へんたい・・・(赤面)」
和「変態(絶対零度の汚物を見る目)」
姫様「へんたい(意味が解っていない)」
カンちゃん「変態(面白いネタを見つけた目」
姉帯さん「へんたい(ごく普通)」
な感じ。透華が妙に可愛く感じるのは何故だろう。

以上となります。
次回作のほうが最終回に向けていろいろ難航しているため気晴らしに。

次の作品はシリアスをやめよう。軽くかけるギャグにしよう(決意)


>>867
上手くからませられるかわかりませんがOKですよ
そして拾えるかどうかも(ry
全ては私が電波を受信するか否かで……

>>881
小ネタ乙っす。次回作の方も非常に楽しみにしてるんだが難航してるのか…
でも魅力的なんだよね「悪女」って

拾ってもらえるかわからないけど勘違い悪女てるてるをリクエスト
本人は「私は悪女」と思いこんでるけど、周りから見たらただのポンコツで…な可愛いてるてるお願い!

京太郎が清澄麻雀部を辞めて、まこの雀荘か、別の麻雀教室に通っていたら

旦那さんが応援しに来た前でタイトルを獲得し、だっこされて祝福される加治木プロ



の、試合を解説する小鍛治プロ

試合後のインタビューでなぜか試合内容そっちのけで旦那との馴れ初めについて聞かれて真っ赤になる加治木プロ

さっさとスレを埋めようキャンペーン。
>>902を見て電波を受信したため、本編のエンドの1つとして考えていたものを少し手直しして小ネタとして投下いたします。

それにしても今読み直すと本編の誤字脱字が酷い。
というか闘牌ミスも多いね……。
せめてそれだけ訂正させてください。

>>183
誤:456m34678s34p西西 ツモ5p ドラ9s
正:456m344678s34p西西 ツモ5p ドラ9s

>>455
誤:11225588s東東中中南 ドラ4m 裏ドラ2p
正:11225588s東東中中南 ドラ4m 裏ドラ2s

>>557
誤:【5】6m45567788s567p ツモ7m ドラ西
正:【5】6m45567788s【5】67p ツモ7m ドラ西

>>561
『上田捨牌』
誤:撥九四5r
正:撥九四⑤r

>>567
『松本手牌』
誤:【5】67m45567788s567p
正:【5】67m4556788s【5】67p

>>570
『上田捨牌』
誤:撥九四5r【5】九
正:撥九四⑤r⑤九

「ツモ! 1000-2000の1枚!」

上家の大学生らしい男が元気よく牌を引きアガった。
京太郎はそれをちらりと見て点数に間違いないことを確認すると軽く返事をして、1000点棒と500円玉を渡した。
点棒のやり取りが完了し、牌を落としたタイミングで京太郎は口を開いた。

「2卓オーラスです。頑張りましょう」

頑張りましょう、とほかのメンバーが続く。
京太郎が雀荘のメンバーを続けてもう3年経っており、このやり取りもすっかりと手慣れたものだった。
配牌を取りながら京太郎は点棒状況を確認した。

『オーラス開始時』
上家  50,200
京太郎 13,400
下家  34,100
対面   2,300(親)

ダントツのトップが1人。それに追随する者が1人。ダンラスだが最後の親番の者が1人。
そして京太郎はそんな順位争いから若干置き去りになっている。
2着目の下家に跳満を直撃すれば2着浮上だが、ツモならば3倍満が必要だった。
トップを狙いに行くであろう2着目はある程度は前に出てくるだろうが、直撃を取れるかどうかは別問題だった。

『京太郎配牌』
【5】78m56s2246p東西白撥 ドラ8m

(ドラ赤だけど、微妙な形だな……)

そう心の中で愚痴りながらも赤が来てくれたことに若干の安心感を感じていた。
親が牌の切り出しを悩んでいる姿を見ながら京太郎は煙草を口に咥え、火をつけた。
何気なく、ちらりと雀荘内に置かれたテレビに視線をやった。

『さぁ、タイトル戦もオーラスを迎えました。点棒状況は……』

そんな映像を他のメンバーが見つめていた。
京太郎も同じようにそれに目をやっていたが、知った顔が出てきたタイミングで目線を卓に戻した。
ちょうど京太郎のツモ番であった。

(……あれは、別世界の話だ)

京太郎はそう思いながら、ツモに手を伸ばした。

その後、京太郎の手はかなり目覚ましく伸び、10順目で聴牌を入れた。

『京太郎手牌』
【5】678m5【5】67s22267p ドラ8m ツモ8s

赤5萬を切り出してリーチをかけ、高目が出ればメンタン三色赤ドラの跳満。
一応は2位を目指せる手が完成した。
京太郎は萬子に手を伸ばし、場に切り出す寸前にもう一度テレビを見た。
見知った顔が2万点離れたトップを追うために逆転のリーチを打っていた。
それを見ると、ちらりと心の中に芽生えたモノがあった。
だが京太郎はそれを即座に振り払った。
流れるような手つきで京太郎は牌を切り、宣言した。

「リーチ」

『京太郎手牌』
【5】678m5【5】67s22267p ツモ8s ドラ8m 打8m

立直、タンヤオ、赤赤。
相当都合よく裏ドラが乗らない限りはとてもではないが跳満に届かない。
だが、京太郎にとっては必然の1打だった。

(この麻雀は一発赤裏に500円のチップ)

(つまりこの手をツモればチップが2枚×3人で3000円の収入)

(1000点100円のこの麻雀では3000円は3万点分の点棒に等しい)

(3倍満ツモなんて逆立ちしても届かない上、2着目が高目を出してくれなきゃ変わらない順位)

(だったら3確でもいいから目の前の金を拾いに行く)

(これが正しい。これが正しいんだ)

京太郎の勤めている店ではメンバーに打牌制限はない。
順位の変わらないアガリも当然認められている。
別段マナー違反を犯したわけではないのだが、京太郎はなぜか普段感じない後ろめたさを感じていた。
そんな煮え切らない何かとは裏腹に、2巡後に京太郎はツモりアガった。

「ツモ。2,000-4,000の2枚オールです」

『京太郎手牌』
【5】67m5【5】678s22267p ツモ8p ドラ8m 裏ドラ1m 打8m

結果的には、赤5萬を切れば高目がツモれていた。
だが、それでも2位にはなれていないため、最終的な収支で考えると京太郎の選んだ選択肢が最善だった。
文句なしの1手だった。
だが、大した喜びもないまま京太郎は表情を変えず口を開いた。

「ラスト。ご優勝は田中さんです。おめでとうございます」

牌を卓に落とす直前、2着目の手配が見えた。
萬子の染め手。8索を掴めば出ていた可能性は十分にあった。

(結果論だ)

京太郎はなぜか芽生えた後ろめたさや罪悪感をそう切って捨てた。
そして、淡々と自分の負け分を支払っていった。
だが、負け分を支払っても先ほどのチップのおかげでこの局だけを見ればプラス収支。
文句のない内容だったはずだったが、京太郎の心は暗かった。

(何だってんだ、クソ)

清算後、待っていた客を案内して京太郎はふたたび立ち番に戻った。
他のメンバーの横に並びテレビに視線をやった。
見知った顔が残り少ないツモに手をかけている。
京太郎はその姿を見ながら先ほどの局を思い出していた。

(昔の俺なら、あの手は赤5萬切って何が何でも2位を目指していたよな)

高校時代、まだ京太郎が麻雀部で活動している頃のことを思い出していた。
心がじくりと痛む。
そんなタイミングでテレビの中で見知った顔が逆転の1手をツモりあがった。

『決まった! 優勝は原村和プロ! これでタイトル3冠、止まることを知りません!』

アナウンサーが興奮気味にまくしたてる。
テレビの中で見知った顔――和はにこやかな顔を浮かべていた。

「最近勢いすごいな、原村プロ」

先輩にあたるこの店のチーフがタバコ片手にそうやって話しかけてきた。
京太郎はコーヒーを飲みながらさほど興味もなさげに応対する。

「大学卒業してすぐに破竹の3冠っすからね。恐ろしい恐ろしい」

テレビの中ではインタビューを受けている和の姿があった。
その姿に重なるように、画面の下に和の略歴がテロップで表示されている。
それを見ていたチーフは何かに気付いて、京太郎に向き直った。

「清澄って確か、お前の出身校だよな。麻雀の名門の。そっか、原村プロと高校一緒だったんだな。そう言えば年も同じだし」

「……えぇ、まぁ」

「実は知り合いだったりしねぇの?」

「……一応、話したことぐらいはありますけど」

「マジで!? だったら原村プロと会わせてくれよ。俺ファンなんだ」

明らかに触れてほしくないと言った態度を示す京太郎を気にも留めず、チーフは勢いよく食いついた。
京太郎は内心の苛立ちを抑えながら、無理矢理にこやかな表情を浮かべた。

「だから話したことある程度で親しいってわけじゃないんですってば。高校時代から会ってませんし」

それに、と付け加えてテレビを見ると、トロフィーを受け取り涙を流している和が居た。
京太郎はそれを見て、一瞬辛そうな顔をした後、自嘲的な笑みを浮かべて言った。

「向こうは、俺のことなんざ覚えちゃいませんよ」

決定的な訣別をしたあの日からもうかなりの時間が過ぎている。
結局京太郎は最初の決意が揺るがないまま、麻雀部を退部した。
退部届をまこに渡した時、潤んだ眼を必死にこらえながら気丈に頑張ったことを褒めてくれた
京太郎は今でもその時のことを鮮明に思い出せた。

その後、何度か優希や和から引きとめられたが京太郎の意思は変わらなかった。
咲は特に止めもしなかった。ただもう一度、ごめんなさい、と謝られた。
そして、それを最後に麻雀部のメンバーと会話をすることはなかった。
休み時間でも学校行事でも話そうと思えば話すことはできたが、全員が意図的に交渉を持とうとはしなかった。

翌年のインターハイでは規模が大きくなった清澄高校麻雀部が辛うじて全国まで駒を進め、
そこそこの結果を残したことを聞いても京太郎は詳しく聞こうとも調べようともしなかった。
ただ、前年に驚異的な成績を残した咲があまり振るわなかったことを聞いたときは少し心が騒いだ。
その後の秋季、春季大会や3年次のインターハイでは龍門渕や風越の後塵を拝することも何度かあり、
周りが期待するほど圧倒的な力を発揮しなかったという点についても少し気になった。
だが、それらの感情を京太郎はすべて他人事だと、自分には関係ない話だとして深く考えようと、関わろうとはしなかった。

京太郎はそれからしばらく、無為に高校生活を過ごした。
1年間ほど麻雀から離れ、いろいろなことにチャレンジしようと思ったがすべて長続きしなかった。
大学も推薦で決まり、3年の秋口にはさらに暇を持て余すようになった。
結局、京太郎はとある雀荘でアルバイトを始めた。
最初はまこの店の扉を叩こうとしたが結局それはできず、全く関係のない店だった。
そして雀荘でのメンバー生活は楽しく、京太郎は自分がやはり麻雀が好きなことを再確認することになった。
その後、雀荘での仕事にのめりこんでいくことになった。
それは大学に入学してからになっても変わらなかった。

最初は真面目に講義を受けていたのだが、勉強していても友人と話していてもふと麻雀がしたくなりその欲求が止められなくなった。
どれだけ打ってもどれだけ勝ってもどれだけ負けても麻雀がし足りなかった。満たされなかった。
徐々に講義に出なくなり、最終的には全く大学に行かなくなった。
雀荘のメンバーとして客と打ち、アルバイト以外でも雀荘に行き麻雀を打つ日々。
そんな生活をしていればろくに単位など取れるはずもなく2年の時に留年が確定した。
それが露見したとき京太郎は散々親と揉め、大学を辞めて勘当同然で家を飛び出した。
慣れ親しんだ故郷を離れ、隣県である静岡県に辿り着き、とある雀荘のメンバーに落ち着いて今に至る。

(お手本のような転落人生だな、我ながら)

チーフに過去をつつかれたせいか、あれからのことを思い返した京太郎はあまりの悲惨さに乾いた笑いが出た。

「そうかい。まっ、確かにプロのご友人が体一つで転がり込んできてこんな場末の雀荘でメンバーなんざやってるはずないよな」

ある種無神経なチーフの発言にも京太郎は笑いで返した。
この人間が無神経なのはいつものことであり、そして言っていることも事実であるため京太郎はさして怒りも湧かなかった。

「そうっすよ。大学中退で親からは勘当されたダメ人間ですからね。麻雀プロ様とお近づきなんてとてもとても」

「おっと、ダメ人間なら俺も負けてねーぞ。もうすぐ三十路でろくに貯金もないのにまだこんな生活してるからな」

そう言い合いながら2人は笑った。

「そういや、今日だったか? 新オーナーが来るの」

「そう言えばそうでしたね。どんな人なのやら」

チーフがカレンダーを見ながらそう言った。
京太郎が務める店は先月まで別の人間がオーナーをやっていたのだが、その男が別の事業に失敗し借金返済のため店を手放すこととなった。
それを聞いた京太郎はすわ一大事と新たな勤め先を求めて右往左往することになった。
麻雀メンバーの給料は自分が打った際の負け分を引くとほとんど手元に残らない。
つまり京太郎の貯金は殆どないに等しいため、店がつぶれ仕事を失うとすぐに干上がってしまう。
チーフと慌てて探し回る日々だったがある日、旧オーナーから店の権利をとある雀荘グループが買ってくれたことを告げられた。
最近景気のいいそのグループは現在のメンバーもそのまま雇用することを保証してくれ京太郎は胸をなでおろした。

「噂によると結構美人の女らしいぜ。しかもかなり若いとか」

「マジっすか。この業界じゃ珍しいっすね」

「できる女社長ってやつか? そそるな」

そんな話をしていると客から少し切羽詰まった声が上がった。

「すんません、リーチ代走お願いします」

「あ、はーい」

京太郎は反射的にそう返事をして声を上げた客と席を替わった。
席を替わった客は慌ててトイレに走って行った。
手を見るといたって普通のリーチドラ1。待ちも普通の1-4索待ち。
京太郎はそれを確認して牌を取っていった。

そして、そのタイミングでドアベルがチリンとなった。

「いらっしゃいませ!」

チーフが元気よく声を出す。
京太郎もそれに続きいらっしゃいませ、と声を出した。
入口に背を向けて座っているため、京太郎から客の姿は見えなかった。
先輩メンバーが客に応対する声だけが聞こえてくる。

「フリーですか?」

「いや、私は今日伺わせて頂くことになっておりました……」

「あ、もしかしてオーナー、ですか」

「はい」

噂通りの若い女性の声だった。
だが、京太郎はその声を聴いてドキリと胸が高鳴った。
聞き覚えのある声だった。
そして標準語を話しているがイントネーションが微妙に関西圏のものであった。
思わず手が止まってしまう。同卓している他家から急かされて慌ててツモを手に取った。
そうしているとトイレから客が戻ってくる。

「状況は変わらずリーチ続行中です。ツモ番です」

京太郎はそう言って再び客と席を替わった。
そして、恐る恐る入口のほうへ向きなおった。

「わざわざ長野から? お疲れ様です。俺がチーフの……」

「あぁ、伺っております。少しこれからの話をさせて……」

チーフがやってきた新オーナーを伴ってバックヤードに向けて歩き出そうとしているところであった。
チーフは噂通りの若い美人のオーナーがやってきたことに相好を崩している。
だが京太郎はそれとは対照的にその新オーナーの顔を見て驚きの表情を隠せなかった。
すると、ぽかんと立ち尽くす京太郎とその新オーナーの目があった。








「染谷、せんぱい?」

「……京太郎? 須賀、京太郎か?」







京太郎と新オーナー、染谷まこはそう言ったきりお互いしばらく立ち尽くした。







「まさか、まさか買い取った店のメンバーに京太郎がいるとはのう」

「どんな天文学的確率だって話ですね」

京太郎とまこは現在雀荘を出てほど近い喫茶店で話をしている。
京太郎はチーフからはゆっくり話して来いと送り出されたが、後で根ほり葉ほり聞かれることが容易に想像できて多少憂鬱だった。

「しかし、最近勢いのあるあのグループが染谷先輩のご実家だったとは知らなかったです」

「まぁ、のう。若干手前味噌じゃが大学に通いながらわしが色々と動き回ったら意外と上手くいってな。今では長野県下にいくつか店舗を持てるようになったんじゃ」

「若き女社長ってやつですか。凄いですね」

「やめい。親父も現役だし、わしは所詮手伝いの身分じゃ。そんな大したもんじゃないわい」

まこはそう言って苦笑しながら手元のコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜた。
京太郎はそれを見つつ手元のコーヒーに口をつけた。

「県外にも1店舗持ちたいという計画はもともとあったんじゃ。いろいろ探しとるうちに都合のいい居抜き物件があると聞いて」

「それがうちですか」

「そう。物件も設備も従業員も揃っているとあれば、1にも2にも真っ先に飛びついたんじゃ」

そこまで会話をして若干の沈黙が流れた。
京太郎もまこも話したいこと、聞きたいことはあったのだが口に出そうとすると躊躇してしまう。
たっぷり3分間ほどの沈黙が流れた後、口火を切ったのはまこだった。

「大学を辞めたというのは、風の噂で聞いておった」

「……そうですか」

「だが、なぜこんなところで雀荘メンバーをやっておるんじゃ?」

まこのその問いかけに少し躊躇しながらも結局あれからのことを正直にすべて話した。

麻雀から1度は離れたこと。
でも結局、麻雀に溺れたこと。
大学にも行かずひたすら麻雀を打ち続けたこと。
勘当同然で家を飛び出したこと。
流れに流れてこの雀荘のメンバーになったこと。

すべてを話した。

「そう、か」

「まぁ、貧乏でピーピーしていますがね。そこそこ楽しくやっていますよ」

京太郎はそう言って笑った。
だがその笑いはひどく空虚でまこは思わず目を逸らしたくなった。
まこは辛そうな、申し訳なさそうな表情をして京太郎に頭をさげた。

「すまん」

「……なんで染谷先輩が謝るですか?」

「わしがあの時、京太郎にも麻雀を楽しめる環境を作っていれば、こんな、こんなことには」

「やめてください」

まこの言葉を京太郎の言葉が遮った。
その有無を言わせぬ強い語気にまこはびくりと体を震わせた。

「全部、全部俺の責任です。俺が勝手に麻雀部をやめて勝手に麻雀に溺れて勝手に道を踏み外しただけなんです。染谷先輩の責任じゃありません」

「しかし……」

「やめましょう、この話は。それよりそちらの話を聞かせてください。竹井先輩と和がプロになったことは知ってますが他のことは全然知らないんですよ」

京太郎が乾いた笑いを浮かべてまこに向き直った。
何か言いたげにしつつもまこは麻雀部メンバーの近況を告げた。

久と和は京太郎も知る通りプロに進んだこと。
和に関しては知ってのとおり破竹の勢いで勝ち進んでいること。
優希は社会人リーグに所属していること。
そこで圧倒的な成績を残し、今年のドラフトの目玉になりそうであること。

そして咲は大学院に進み今も勉学に励んでいること。

「……咲」

最後に聞いた咲の近況に京太郎は思わずぽつりと言葉を漏らした。
まこは若干苦しそうな顔をしつつも先についての詳しい話を続けた。

「あれから、咲は麻雀に対して「何か」を失ったようでな。……あれからの大会の結果は聞いとるか?」

「まぁ、だいたいは」

「一応は麻雀部に所属し続けたのだが、前のような熱心さも楽しさも、あまり見られなくなった。そんな状態でもその辺人間じゃ手も足も出ないほど強かった。じゃが」

まこはコーヒーに口をつけ、胸にせりあがる苦い思いを無理矢理流し込んだ。
小さく息を吐き、淡々と続けた。

「全国レベルが相手となれば話は別。やはり、思うようには勝てなんだ。いろいろ期待はされていたんじゃがな」

京太郎は思わず謝罪の言葉を吐きかけた。
だが、数分前に言った自分の言葉を思い出し口を閉じた。

「結局咲は高校で麻雀を辞めた。今は大学で麻雀とは違う分野の勉強をしとるようじゃ。今でも時々会うが、楽しい大学生活を送っとるようじゃぞ」

まこがそう言った後、二人の間には再び沈黙が流れた。

そんな沈黙の中、先ほどまで昼のドラマを映していた喫茶店内のテレビのチャンネルが他の客によって変えられ昼のニュース番組に変えられた。
そこでは和が三冠を達成したことが取り上げられていた。

「和、凄いですね」

「ん? あぁ。そうじゃな」

ぽつりと呟いた京太郎の言葉にまこは若干戸惑いながら返事を返す。
京太郎はどこか遠くにあるものを見るようにテレビの画面を見つめながら口を開いた。

「一緒に麻雀打ってた時期があるとか、正直信じられないです」

「何を言う。半年間だけとはいえ、京太郎は清澄の麻雀部員じゃった。そのことに間違いはない」

「そう、ですよね……」

再び沈黙。
テレビの画面は政治家の不祥事についてのニュースに変わっていたが、それでも京太郎はテレビに視線を向けたままだった。
そんな様子を痛ましげな顔で見つめたまこは若干の迷いを見せながらも京太郎に問いかけた。

「なぁ、京太郎」

「何ですか?」

「麻雀部辞めたことを、今はどう思っとる?」

「どう、とは?」

「間違ってなかったと今でも思うのか。それとも……」

まこはそれ以上言わなかったが京太郎は言いたいことをなんとなく察していた。
京太郎は少し考え込み、若干言いにくそうに口を開いた。

「正直、少し後悔してます」

「そうか」

「最初は全く後悔してませんでした。解放されたって、喜びしかなかったんです。でも」

表情を変えず真剣に聞くまこの視線が辛くて、京太郎は視線を下げた。

「竹井先輩や和がプロに行って強い連中の中で必死に戦っているのを見ると、少しずつ考えが変わっていきました」

テレビで初めて久を見た時の感情は京太郎は今でも覚えている。
その日、徹麻明けに自宅に帰った時、気だるい体を引きずりながらテレビをつけると久が対局している姿が映った。
並居るプロに翻弄され、あの久が苦しそうな表情を浮かべながら必死に闘っていた。
それを見たとき、京太郎の心に初めて後悔の念が生まれた。

「プロの中で必死にトップを目指して戦い続けている中、俺は結局麻雀が捨てられなくて生活のために目の前の100円を拾う麻雀をしてる」

そう話ながら京太郎は、先ほど行った3確アガリを思い出す。
こうやって口に出して自分の気持ちを吐露して、ようやく分かった。
和と比較したとき余りにも惨めで、小さくて、そんな気持ちから罪悪感や後ろめたさを感じていたのだと。

「そう考えると、どうしても思っちゃうんです。あの時、麻雀から逃げ出さずに歯を食いしばって必死に戦い続けていれば」

自嘲気味に笑いながら京太郎は温くなったコーヒーを一気に流し込んだ。

「何か、違う未来があったんじゃないかって。……烏滸がましい話ですけど、俺だけじゃなくて、皆も」

「すまんな。言いづらいことを聞いてしまって」

まこは京太郎の言葉をひとしきり聞いた後軽く頭を下げた。

「いや、いいんです。俺自身誰かに話して気持ちの整理がつきました」

コーヒーカップに手を伸ばし、もう飲みきったことを思い出して水が入ったグラスを手に取り口を付けた。

「まぁ、後悔した所でどうしようもないですけどね。麻雀はやっぱり好きですから、もうちょっとメンバー生活は続けようと思ってま」

「京太郎」

そうやって自虐的に自分のことを話す京太郎の言葉をまこが遮った。
京太郎はあっけにとられながら、口を閉じた。

「確かに後悔した所でどうしようもならん。だからこれからのことを考えてみんか?」

「これから、ですか」

「あぁ、京太郎。……プロを、目指してみんか?」

「はあっ!?」

まこの突拍子もない言葉に京太郎は思わず素っ頓狂な声を漏らす。
だがまこは真剣な瞳で京太郎を見つめた。
京太郎は思わず息を飲んだ。

「冗談で言っとらん、わしは本気じゃ。うちで小さいながらも社会人リーグに参加するチームを作ろうと思っとる」

「チーム、ですか」

「あぁ。まだ紙面上の話じゃが、京太郎と話して猶更やる気が出てきたわ」

まこはそこまで言ってコーヒーに口をつけ、にやりと笑った。
京太郎はその雰囲気と笑みに気圧される。

「京太郎。うちのチームに来んか? 社会人リーグで活躍すればドラフトに引っかかる可能性もあるけぇ。そうすればプロの仲間入りじゃ」

「で、でも俺の実力じゃ」

「実力不足とは思わん。京太郎は京太郎なりに数年間必死に闘い続けてきたんじゃろう? 例え小さくとも、誰にも見られてなくとも、闘っておったんじゃろ?」

自信たっぷりなまこの問いかけに京太郎は小さく首を縦に振った。
それを見てまこは満足そうに笑った。

「自信を持ちぃ。京太郎が絶望の中、それでも麻雀が捨てられずに戦い続けて磨いてきた武器は通じるはずじゃ」

「あ……」

まこのその言葉に必死に反論しようとしていた京太郎の言葉が引っ込む。

「高校生の時、結局闘うことから逃げ出したことを後悔しとるのなら今度は後悔がないように、もう一度闘ってみんか? わしも今度は後悔のないよう、必死にいいチームを作ってみせる」

信用はないかもしれんがな、とまこはわずかに苦笑したのち真剣な面持ちに戻った。

「わしにもう一度チャンスをくれ。頼む」

京太郎はまこのその言葉に動揺していた。
余りにも突然な提案であった。
プロなど別の世界の話だとほんの数時間前まで思っていた。
だが、それに向けてもう一度戦わないかと今は誘われている。

余りにも骨董無形な話だ。
目指す頂が高すぎる。
新設チームが勝ちあがり、ドラフトに引っかかる活躍をするなど夢物語だ。
できるわけがない。

京太郎は頭の中ではそう考えていた。
だが、それとは対照的に胸は激しく高鳴った。

もう一度、戦える。
何かを目指して、戦える。
ただ目の前の生活のため、何かの渇きを満たすためにひたすらに麻雀を打ち続ける生活ではない。
何か高い頂を目指して進むということができる。

その事実が京太郎の血が熱くなった気がした。
麻雀部をやめてからずっと最低限の働きしかしてこなかった心臓が激しく動き出す。
全身に血液がいきわたり、頭が熱くなってくる。
思わず、握り拳を握った。

「染谷先輩」

「なんじゃ?」

「……こちらこそ、お願いします」

京太郎は頭を下げた。強く拳を握りながら。

「もう一度俺に、チャンスをください。もう一度、もう一度俺も闘いたい。後悔がないように、闘いたい」

京太郎のその言葉にまこは瞳を潤ませ、満面の笑みを浮かべて京太郎の手を握った。

「あぁ、あぁ! もう一度、もう一度じゃ。今度は、今度こそは……」

「……はい!」

まこはそれ以上言葉にならないようだったが、京太郎は何も言わずに大きく頷いた。

以上となります。

「もし京太郎があの時部をやめていたら」でした。
一応エンディングとしては考えていたものの一つでした。

この後、プロへの道をあきらめきれない各学校の実力が劣るメンバー達と社会人リーグで
プロへの道をかけて死闘を繰り返していくっていう展開を考えていました。

だけどオリジナル設定多すぎだしどう考えても1スレで終わる内容ではなかったのではお蔵入りと相成りました。

更におまけ。
>>921>>922の合体技で軽めにひとつ。

(実況室にて)

恒子「さぁ、このタイトル戦もいよいよ大詰め! オーラスを迎えました! トップは現在のタイトル所持者、福路プロ!」

健夜「ほかの3人のうち2人はもう総得点的に望みはないけど、加治木プロは跳満をツモれば逆転だね」

恒子「あー、すこやんまた間違えた。今はもう加治木プロじゃなくて」

健夜「そうだった、須賀プロだったね……」

恒子「すこやんもいい加減慣れなってば。もう3か月は経つんだから」

健夜「わかってるんだけど、つい……」

恒子「そう言えばすこやん、須賀プロが結婚するとは思わなかったとか言ってたもんね」

健夜「うん、何度か話したときはそういうことに興味なさそうだったし……」

恒子「すこやんとしては独身アラサー仲間が減ってしまって残念って感じ?」

健夜「アラフォーだよ!」

健夜「何言わせるの!?」


シーン


カメラマン「……(うわぁ)」

音声「……(アカン)」

恒子「……(キツッ)」

健夜「ねぇ、こーこちゃん。振ったなら振ったで最後まで責任持って拾ってよ。折角体張ったのに」プルプル

恒子「おっと須賀プロ! ここでリーチが入った!」

健夜「無視っ!?」

(対局室)

ゆみ「リーチ」

美穂子「(来ましたか……闘える体制ではないのでオリるしかありません。流局なら私の勝ちです)」

プロA「(勝ちの目はないから)」

プロB「(見守るのみ)」

ゆみ「(あと2巡だがっ……ここでっ)」ググッ

ゆみ「! ツモッ。リーヅモタンヤオ三暗刻ドラ1で3,000-6,000!」

ゆみ「……間違いないな。500点差で、逆転だ」

美穂子「っ。引かれてしまいましたか……。最後の1枚がまだ山に残っていたんですね」

ゆみ「あぁ。その1枚を掴むのにかなり時間がかかってしまったがな」

美穂子「これで2冠ですね、おめでとうございます」

ゆみ「ありがとう。これからは追われる立場ということもあるから気を引き締めないとな……」

美穂子「苗字が変わってから、調子がいいですね。愛の力とは偉大です」ニコニコ

ゆみ「っ、やめてくれ。馬鹿馬鹿しい」プィッ

美穂子「ふふふ、ごめんなさい。さっ、記者の人たちも待ってますし、行きましょうか」

ゆみ「あぁ。正直憂鬱だが、これも仕事だしな……」

美穂子「しかたありませんね。私も正直インタビューとかは苦手です」スタスタ

ゆみ「あぁ、この扉の向こうにはマスコミが待ち構えているんだな。……気が重い。」ガチャッ

(対局前廊下)

京太郎「あっ!」

ゆみ「えっ?」

美穂子「あら?」

京太郎「~~~~~~~! ゆみさーーーーーーーん!」ダダダダダダ、ガシッ!

ゆみ「ちょ、や、やめ!」ワタワタ

京太郎「居てもたってもいられずに観客席から走って来ちゃった! おめでとおおおおおおおおおおおおおお!」カカエアゲ

ゆみ「きゃっ。お、おい! 人が見て……」

京太郎「ははは、やった。やった。2冠だ! ほんとにおめでとう!」クルクル

ゆみ「わひゃ!」クルクル

ガヤガヤ

記者1「おい、須賀プロを抱き上げてるのって」

記者2「最近結婚した噂の旦那か。一般人だからメディアには顔を出さないって聞いてたが」

記者3「とにかくいい絵だ! 撮れ撮れ!」

パシャパシャパシャパシャ!

ゆみ「お、おい。撮られてるぞ!」

京太郎「えっ? あっ……」ピタッ

ゆみ「まったく、人前だというのにこんな……」マッカ

記者4「すみません、須賀プロの旦那様ですかね?」

京太郎「あっ、はい」

京太郎「(しまった……。顔は出さないようにしてたのに)」

ゆみ「(まったく。だから止めたんだ)」

記者4「この度はおめでとうございます。奥様のご活躍を見られてどんなお気持ちですか?」

京太郎「いや、ほんと嬉しいです。感動です! ほんと、自慢の妻です!」デレデレ

ゆみ「ちょ、ま!」

美穂子「(嬉しさのあまり脳がとろけきって正常な判断ができていないのかもしれませんね……)

記者4「ははは、これはおアツい。このタイトル戦に向けて夫として何か協力したことはありますか?」

京太郎「もちろん! 勝負に集中できるように家事やなんかの雑事は一手に引き受けていました。スケジュール管理なんかも……」

ゆみ「こら、あまり余計なことは……」

記者1「須賀プロ、ちょうどいいので聞かせてください。旦那様とのなれ初めなんかを聞かせてもらえますか?」

ゆみ「えっ?」

記者2「そうそう、プロポーズはどちらからどのように?」

ゆみ「えぅ?」カオマッカ

記者3「お互い普段はどのように呼び合っているのですか?」

ゆみ「」プシュー

パシャパシャパシャ
ガヤガヤ

(再び実況室にて)

恒子「(モニタを見ながら)幸せそうだねー」

健夜「うん、そうだね」

恒子「すこやん、顔が能面のようになってる……怖いよ」

健夜「そう? ごめんね」グギッ

カメラマン「(その無理矢理な笑みは映すには忍びないな……)」

音声「(アカン)」

恒子「あー、すこやん。その最近はいろんな人生を送る女性がいるから結婚だけがその……」

健夜「でもこーこちゃんは6年前に結婚したよね」

恒子「いや、それは……」

健夜「うん、大丈夫だよ。別に嫉妬しているわけじゃないよ」グギッ

健夜「でもさぁ。最近不思議なんだ」

健夜「昔は結婚とかをネタにからかわれたのに最近はからかわれなくなったの」

健夜「私は独身主義者っていうことになってるみたい。不思議だね、そんなこと言ったことないのに。思ってもいないのに」

健夜「最近はさ、お父さんもお母さんも何も言わなくなってきたんだ。むしろ一緒に老後の話をするようになったんだ」

健夜「このまえ自立した女性ってかっこいいって若い女子プロに言われちゃった」

健夜「ふふ、おかしいな。おかしいよね」グギッ

健夜「あーあ、結婚したいなー。このまま老後も一人なのかなー」

健夜「ねぇ、どうすればいいと思うこーこちゃん?」グギッ

恒子「……カメラ止めろ」

カメラマン「ウス」

音声「(アカン)」

以上となります。
ごめんねすこやん。

あと30スレ。
後は適当に埋まるかな……。

以降の小ネタは悪女スレの余りを使って書いて行こうと思います。

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