菫「やっ、やめ……やめてくれ……」(723)


深夜に立てたけど、誤字脱字の修正等も兼ねて移動しました


このスレはR18の表現・描写等が含まれているので、

ご覧になる方は留意してください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361006687


どうしてこうなったのか。

弘世菫は脳をフル稼働させて考えていた

いつものように朝を迎え、

いつものように登校し、いつものように授業を行い、

いつものように授業を終え、いつものように部活をした

いつもと変わらない、平凡な日常だった

なのに、

菫はその日常からかけ離れたところにいた

いや、場所こそ日常だったが、

いま自分の身に迫っているものは、

どう考えても非日常にほかならない。悪夢のようなものだった


菫「はぁっはぁっはぁっ……」

全力でその悪夢から逃げ出し、

乱れた呼吸を一生懸命に整える

肺が痛いし、呼吸するたびに鉄っぽい変な味がするものを、

口から吐き出しそうになる

辛い、苦しい。だが、

だが、動けなくなれば……終わる

菫「なんなんだ、なんだ。どこなんだここは!」

いつものように下校していたはずなのに、

下校途中から記憶がない。気づけば知らない建物の中。

建物を出ても、知らない場所。

彼女は――誘拐されたのだ


そして、今一番彼女を苦しめているのは、

追いかけてくる男だった

目を覚ますと、自分を襲おうとしているところで、

全力で蹴り飛ばし、慌てて逃げてきたのだ

縛られていなかったことだけが救いだった

おかげで走って逃げられる

だが、変わりに彼女は何も身に纏っていない

菫「くそっ……」

そんなあられもない姿で走り回るなど、

普通はしたくないししない。

しかし、そんな恥辱を気にしていたら、

間違いなく捕まる。そのことが何よりも恐ろしかった


菫「っう!?」

だが、裸足の足は徐々にダメージを蓄積し、

やがて。彼女は転んでしまった

足の裏は黒く汚れ、

その黒色に混じって赤色が流れ出していた

菫「くそっ、くそっ……」

立とうとすると、

コンクリートの地面の出っ張りが傷を突き、

耐え難い激痛が走って、立つことすらままならず、

逃げることは到底無理な話だった


「無駄なことするなって、言いましたよね?」

男の声がすぐ後ろから聞こえる

そう気づいたときにはもう遅かった

腕を掴まれ、縛られた

足も縛られた

菫「なんなんだ……なんで……」

ハンカチが口に当てられ、

睡眠薬でも染み込んでいるのか、眠気が襲ってきた

いやだ。やめてくれ。と、

抵抗することは……できなかった


目を覚まして、自分はまだ何もされていないことに安堵し、

逆に、これから自分はされることすべてを記憶しなければいけない

そんな恐怖に襲われた

菫「っ……お前は、お前は誰なんだ」

「誰って……そうですね。教えられません」

菫「私に恨みでもあるのか? なぜこんなことをする……」

できる限り長く、長く、時間を使う

誰かが自分がこんな目にあっていることに気づいてくれるように

「はははっ、貴女は恨まれるような記憶がありますか?」

馬鹿にした笑い、苛立った感情を抑えて、

次の質問へと移った


かちゃかちゃと何かを準備している男に対して、

延々と言葉を投げかけていた。

こんなことをするくせに、

男は男で、しっかりと質問に答えてくれた

だが唯一、なぜ菫を襲うのかだけは答えない。

やがて男の手が止まり、

菫はビクッと体を震わせた

「弘世さんに恨みはないんっすけどね、
  運がなかったと思って諦めてください」

自分ですら洗うときくらいにしか触れない恥部に、

その男は何の躊躇もなく触れた


菫「や、やめろ……触るな!」

縛られているせいで物理的な抵抗はできず、

怒鳴ることしかできない

だが、それは男を興奮させる要素でしかなかった

「そんなこと言われても止めませんよ」

菫「ふ、ふざけ――っ!?」

ピトッと冷たい何かが恥部に触れ、

言葉が止まる

菫が怯えていることに気づいたのか、

「ローションっすよ。無害なんで安心してください」

男はそう優しく囁いた


化粧品とかでよく聞くローションという名前

だが、そんなところに使うようなものは、

菫には聞き覚えも見覚えもない

「弘世さん強情ですし、無理矢理でも良いんですけどね」

無理矢理?

無理やり何をするんだ。怒鳴ろうとしたが、

男はそれを予見したのか、

それとも予めの予定通りなのか、

ギャグボールを菫にかませた

「とりあえず、そんな濃くないみたいですけど、
  これ剃らせて貰いますね。そのほうが恥ずかしいだろうし」


菫「っ~~!?」

ジョリジョリという音が聴覚を責め、

恥部の感覚が、さらに菫の精神を追い詰めていた

菫(なんで、なんで……嫌だ、嫌だ!)

普段は白糸台麻雀部部長として、

強く心を保っていても、結局は年頃の女の子で、

こんな屈辱が耐えられるわけはなく、

頬を涙が伝った

「剃り終わりましたよ。ほら」

まじまじと見つめるものでもないそこを、

男は鏡を使って菫に見せる。

彼女の羞恥心を煽り、

彼女を絶望のどん底に落とすために。

少し毛が生えていたそこは、

完全に剃られてツルツルになってしまっており、

男の思惑通り、更に菫を追い込んでいった


全裸で縛られ、

羞恥心に染め上がった顔。

瞳から流れる涙が線を描き、

ギャグボールのせいで閉じれない口からは、

だらしなくよだれが垂れ流れており、

普段の弘世菫の威厳も面影もない、

屈辱的な姿になっていた

菫(やめろ、やめろ……やめろぉ!)

次に行われるえげつない行為が想像できず、

それが怖くて体が震える

「……ん~」

男は菫を見つめそろそろ良いか。と小さく頷き、

男が本来持ち得るモノよりも、

遥かに巨大なイチモツを模したモノを菫に見せつけた


菫「っ!?」

菫(なにを、なにを、なにをっ……)

それに似たものを、

彼女だけでなく誰もが保健の教科書で見たことがある

だが、それは絵であり、

立体的なそれは初めて見るだろうし、

それをどのようにするのかも、やんわりとしか知らない

「これを、ここに挿れるんですよ」

怯える彼女に対して、

男はわざと恥部をツンツンと刺激して伝えた


菫「ぅ~っ!? うぅ゛ぅ゛ぅ~!!」

察してしまった、解ってしまった

汚い悲鳴を上げ、菫は首を激しく振った

菫(怖い怖い怖い怖いやだやだやだや嫌だ!!!)

「初めてなんですか? ですよね、綺麗に閉じてますし」

男はそう言って小さく笑い、

見せつけながらその巨大なディルドを近づけていく

菫(っや、いや……いやっ……)

果てしない恐怖が菫を襲い、

果てしない屈辱が精神を蹂躙する

やがて恐怖に堪え切れなくなり、

恥部の辺りからほんの少し黄色く、

ほんのりアンモニアの臭いが香る液体が吹き出した


修正の途中だけど中断で


「っ!?」

菫「ふっくっぅ……」

ギュッと目を瞑り、

恥辱と屈辱と恐怖に堪える

菫(くそっくそっ……私が、こんな……)

しばらくして小水が止まり、

目を開けた菫の瞳に映ったのは、

信じたくないようなものだった

「……………」

濡れた服を気にせず、

菫の屈辱的な姿をカメラに収めている男の姿だった


男の手が伸び、

菫は再び恐怖に怯えて瞳を閉じた

だが、彼はただギャグボールを外しただけで、

他には何もする様子がなかった

菫「……っぇ?」

驚きと安堵からか、情けない声が漏れる

「良いもの撮れましたし、今日は勘弁してあげますよ」

男はそう言いつつ、カメラを菫に見せた

自分のありえないほどの痴態が撮されたそれを、

彼は握っている

絶対に通報してやる。そんな睨みを向けると、

男は笑った

「これが全世界に見られたいなら、そうしてもいいんじゃないですか?」

その一言が、菫のすべてを足踏みにし、跪かせた


男が紐をほどくと、

菫は自分の漏らした液体の中へと力なく倒れこみ、

バシャッと音が鳴った

菫「っ……」

男は傍においておいた制服から携帯を取り出し、、

菫の携帯内のアドレスを全てコピーすると、

その制服の上に戻した

「また今度、お呼びしますね」

そう言い残し、男は姿を消した

菫「ぅ、くっぅぅぅあぁぁぁぁぁぁっ!!」

場に残された惨めな自分が悲しくて、

菫は大声で泣き叫んだ


泣き叫ぶたびに、

小水が口へと入り込み、

しょっぱい味が全身に回る

それはまさに、苦渋を舐めるがごとくで、

ようやく立ち上がった菫の全身からは、

ポタポタと、雫が滴り落ちていく

それは涙か、自分の浸かった液体なのか、

菫自身には判別する余裕もなく、

汚れた体に制服を纏い、

それらすべてを……覆い隠した


そして、菫が家に帰宅できたのは翌朝だった。

親を適当な言い訳で退けて、

服を脱ぎ捨て、風呂場へと入り、

体を洗おうとシャワーを全身にかけた瞬間、

自分が晒した痴態の鮮明な映像が脳を侵し、

菫は体を抱きしめその場に崩れ落ちた

菫「ふっく……ぅぅう、あぁぁ……」

シャワーは容赦なく菫の頭から全身へと降り注ぎ、

それが体から滴るたび、

あの屈辱的な姿をより酷く、醜いものとして刻ませる

菫「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声をあげ、強く強く体を抱き、

頭を抱え込み、周りにあるシャンプーのボトルなどをなぎ払う

その姿はもはや異常者。

彼女はプライドも精神も、ズタズタにされてしまったのだ


気が狂った状態からようやく回復した菫は、

自分がベッドの上にいることに気づいた

親が騒ぎに気づき、菫の体を拭き、

部屋に入れた――否、閉じ込めたのだ

菫「どうして、なんで、なんで私がこんな目に……」

身に覚えはない、

あの男も自分のせいではないと言った

ならばなぜ……なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないんだと――叫ぶ気力もない

菫は項垂れ、壁に寄りかかった


不意に、携帯が鳴り響いた

焦点の定まらない瞳で音源を探し、

机の上にある携帯を手にとった

菫「メール……?」

あの屈辱の間に溜まったメール。

それよりも一番上にある、匿名のメール

それを開くと、一瞬であの男からだと解った

『昨日というよりは今日ですね。
  楽しかったです。ちゃんと学校に行きましょうか』

もうすでに学校は始まっており、

あの男は自分が欠席していることを知っている

その恐怖に体が大きく震えた

『来なければ……ね?』

そこでメールは終わっていた

菫「………………」

いつもは行くのを楽しみしていた学校

だが、今はただただ……怖いだけだった


菫「行きたくない、行きたくない……」

ブツブツと呟きながらも、

脳はそれを容認せず、制服へと着替えさせていく

行ったらどうなるか解ったものじゃない……だが

不意に菫は血走った表情で部屋全体を見渡し、

激しく震えだした体を抱きしめた

菫「見られ……てる?」

さっきの休んでいることを知ってる犯人からのメール

もしかしたら部屋を監視しているのかもしれない

そんな恐怖が心を侵し、

痛む足を気に止める余裕すらないほどに、菫は全速力で学校へと向かった


学校につくと同時に、

菫もなんとか平静を取り戻し、息をつく

だが、その瞬間。

酷使した足が悲鳴を上げ、倒れ込んだ

菫「っ……」

靴を脱ぐと、

白い靴下が赤く染まり、

本能が消していた痛みが一気に菫を襲った

菫「っあ―――――!!」

とっさに腕を噛んで悲鳴を消す

ここで現状が明らかになれば助かる?

いや、それどころかあの映像を全国に公開され、

社会的に殺される可能性の方が高いのは明らかで、

だからこそ菫はなんの抵抗もできずにいるのだ


菫「死にたい、死にたい……」

倒れ込んだ場所から、

自分の下駄箱までのほんの数メートル

その移動の間に、菫はそんな言葉を数百回近くつぶやいていた

だが、死ねない

正義感が強いこともあり、、

周りのみんなや、大好きな親に迷惑がかかるのが怖かった

自分が死んでこの屈辱が他者にまで広がるのが、

死ぬことよりも恐ろしい。

そんな菫の長所を、男は弱点として利用しているのだ。

そんなことは知らず、菫は下駄箱を開けて、首をかしげた

菫「……?」

上履きの上に置かれた箱

そこには、昨日の自分の痴態の一部を写真化したものが貼り付けてあり、

男からのものだとすぐに解った


少ししてから教室に行くと、

全員が驚いた表情で菫を見つめてきた

菫はやや困った表情を浮かべ、

菫「少し、具合が悪くてな……」

すぐに適当な言い訳で場を取り繕った

普段は休むことなどありえない、

遅刻なんて言語道断な菫が遅刻し、

不安そうにしていたクラスメイトは安堵の表情を浮かべた


照「菫、本当に平気?」

席に向かう途中、

菫の親友である、宮永照が近づいてきた

本当に心配そうで、嘘をつきたくはない。

だが、仕方なく嘘をつこうとした時だった

菫「大丈夫だ、しんp――ひぅっ!?」

突然膣内が震え、

情けない悲鳴を上げてしまった


前みたいにちょくちょくやる。
IDはちょくちょく変わるけど、気にしないでください

またあとで


照「菫!?」

菫「へ、平気……だ」

手を貸そうとした照を払い除け、

自分の席へと座る

菫(これを……耐えきるだと……?)

それが男からの指示だった

下駄箱に入っていたうずらの卵ほどの小さなボール

それを膣内に入れて授業を乗り切れ。という指示

それくらいなら平気だと、

指示された通り、同封されていた液体をそれに塗り、

恥部にも塗りつけて中へと入れたのだ

それがまさか振動するなど、予想だにしていなかった


それもそのはずだった

そのボールはバイブローターというものであり、

一般的なもので一番近いのはマッサージ器で、

強中弱の弱さで振動して患部を刺激し、

肩こりなどを癒すのがマッサージ器だ。

だが、今回のものは完全に女性の自慰用に作られたもので、

膣内に挿入して使うのを目的としているのか、

その大きさはうずらの卵ほどで、

それよりも少し小さいとも言えるくらいのもの

そしてそれは専用のリモコンで自由に強弱を設定でき、

今の菫には対抗手段は何もなく、

できるとしたら堪えることくらいしかない


授業中も不規則的に弱い振動、強い振動が襲い、

その度に体が震え、不思議な感覚に悶え、

現在は四時間目が終わって昼食の時間

菫「はぁっはぁっはぁっ……」

図らずとも淫靡な声が漏れてしまい、

周りの生徒は心配そうに菫を見つめているだけ。

最初こそ手を貸そうとする者もいたが、

菫本人に拒絶されて見ているしかできずにいた


菫が手助けを拒んでいるのは、菫自身限界にきているからだ

誰かに不意に触られたりなんかしたら、

それだけで不思議な感覚が爆発し大変なことになる。

そう直感で理解して、だから菫は避けていた

なぜ経験も浅い菫がそんな状態になったかというと、

膣内に小さなローターを入れるときに使った液体が原因だった

それはやや強めの媚薬であり、

遅行性だったため最初は気づくことがなかったが、

ここに来て全身にそれが回ってきたのだ

そのせいで全身が性感帯のように敏感になり、

机にうつぶせになっているこの状態でさえ苦しかった


だが。

それを知らない一人の少女が、

机にうつぶせになっている菫の体に触れてしまった

その瞬間、電流でも走ったかのように菫の体がビクンッと跳ね上がった

菫「ひっ、ぁっあぁぁぁっ」

全身にほとばしる理解し難い、

だが、心地の良い感覚。

初めての感覚に声が抑えられず、

普段の菫からは考えられないような、

そんな間抜けな声が漏れてしまう

だが、そんなものを抑える余裕はない

恥部からブシュッと勢いよく液体が吹き出し、

男に指示され履いていたオムツがそれを受け止め、

そのまま、菫は気を失ってしまった

そのあとも、抑える力を失った尿道が解放されてしまい、、

少しの話し声にさえかき消されるような放尿音があふれ、

照「す、菫!? どうしたの? 菫!!」

近くにいた照だけがその音を耳にしていた。

だが、ピクピクと痙攣する菫に、

照は何もできず。ただ慌てていた


暫くして、菫は目を覚ました

菫「っ……ぅ?」

見えるのは天井

体には白い毛布がかかっており、

すぐに保健室のベッドだと解った

菫(そうか……気を失ったのか)

幸か不幸か着衣には触れられていないようで、

自分の恥ずかしいものもバレてはいない

そのことに小さく安堵してしまうのは、

自分が恥ずかしい人間であるということを自覚しているからであり、

そうだと気づき、菫はまた一つ……絶望の淵に近づいた


菫が股に触れると、

ぐじゅっという音が聞こえ、

慌ててスカートをたくしあげて見ると、

軽かったおむつはずっしりと重くなり、

自分を辱めるためか、黄色い着色が施されていた

菫「……また。か」

おもらしをしてしまうことが、

菫はなんだか当然のことのように思えてしまい、

ベッドの脇に立ち、右手でスカートの裾を持ち、

左手でオムツを持つ。そんな惨めな姿のまま、

菫「ははっ、はははっ……」

菫は乾いた笑い声を上げていた


菫「……っ」

尿が染みたせいか、恥部のあたりがむず痒くなり、

菫は耳を研ぎ澄ませて人がいないことを確認すると、

適当なタオルを濡らし、それを股間に押し当て、

軽くこすった。その瞬間、

昼間よりは少し弱い感覚が襲ってきて、

思わず声を上げそうになり、ギュッと口を結んだ

菫(なん、なんだ……?)

何か良く解らない不思議な感覚。

だが、それが気持ちの良いものだというのは、

体と本能がなんとなく理解してしまい、

だからか……手が勝手に恥部を弄り始めてしまった


タオルでこすることでは微妙な感度しか得られず、

タオルを投げ捨て、本来の目的すら忘れ、

無我夢中に股間を弄りだしていた

菫「ふっ、くっぁ……ぁはっ……」

水々しくいやらしい音が保健室に響く、

誰もいないため、

菫がそんな行為に及んでいるなど誰一人知る由もない

菫(き、気持ち……いいっ……のにっ)

一番最初の強烈な感覚が頭から離れず、

それを求めて何度も何度も弄る

みっともない格好で、ガニ股になりながら、

一生懸命弄る。しかしそれでも、その感覚は訪れない。

不慣れな手つきで弄っている事もあるが、

一番は媚薬の効果が切れてしまっていること

そのせいで快感は通常の自慰よりも弱く、

気持ちが良くても満足できず、

徐々に苛立ちさえ起こり始めていた


菫「なんでっ、なんでだっ……」

何度いじっても並以下の快感しか得られず、

苛立ちが募るばかりで、

不意に近くの直径3センチほどの棒が目に入った

菫(あれなら……)

昨日のあの凶悪な代物と比べればはるかに小さいし、

自分よりも知識があるだろうあの男が、

そんな凶悪なものを入れようとしたのなら、

その半分程度の太さの棒なら平気だろう。と、

そんな壊れた考えが頭に浮かぶ

菫「入れたら……気持ちいいのか?」

そして菫は何の躊躇もなく

棒を手に取り、自分の股間に接触させた


棒が閉じた扉を押し開けようとした瞬間、

携帯が大きく震え、床へと落ちる

菫「っ!?」

菫は心なしかあの男からであることを期待し、

携帯を開いた

『今日は白糸公園に来てくれ』

菫「あっ……」

メールが来た

そのことを喜ぶ自分に唖然とし、

絶望して、でも体が快楽を求めているという事実は隠せない。

追い討ちをかけるように、

冷静になった頭が自分の今の状況を認識させた

下着もつけず、右手に棒を握っている姿

菫(わ、私は今……今、今っ!)

カランッと棒が床に落ちて、そんな音が響く

菫(あぁぁあぁああああっっ……あああああああ!!!!)

心の中で悲鳴を上げ、その絶叫が精神をきしませる

快楽を知り、それを求めてしまう。

崩れるようにその場に座り込み、

そんな堕ちた体を、ぎゅっと抱きしめた


ここまで

夜中に時間があればまた


正気を取り戻した菫は、

自分が乱したベッド等を直し、

制服や下着もしっかりと着込む

だが、下着が股をする感覚に、

じわりと、濡れてしまった

菫「っ………」

やがてHR終了の鐘が鳴り、

照「菫、平気?」

それとほぼ同時に照が訊ねてきた

菫「あぁ、問題ない……済まないな。みっともない姿を晒してしまって」

照「ううん、良い。菫が無事なら……それで」

心配そうに言葉をつなぐ親友に菫は本当のことは言えなかったし、

照は照で、菫のあんな痴態を目の当たり、聞いてしまったせいか、

追求はできなかった


菫「そんな心配はするな、私なら平気だ」

そう微笑み、裏では口を固く結び、

親友を騙しているという罪悪感に堪えていた

話せることならどれだけ良かっただろう? だが、

そう簡単に言えるようなことではない。

自分が昨日誘拐され、

とんでもない痴態をカメラに収められてしまったこと

男の指示に逆らえないこと。

自分の膣内に異物が混入していること。

これからもまた、その男と会わなければいけない事。

そして……自分の体が快楽を求めていること

菫「……今日は、部活には出られない」

照「うん、気をつけて」

心配してくれる親友に、菫は何一つ、教えることはできなかった


街道を歩いていると、突然体の内側が振動し、

菫「ひゃっ」

間の抜けた悲鳴を上げ、

周りの人の目が集中し、何事もないのかと離れていく

もしこんなところであんな痴態を晒せば、

もはや公開処刑に同じことだった

それを理解していた菫は、

足に力を込め、なんとか堪え切った

菫(くそっ……こんな場所でまでやるか……)

必ず通らなければいけない商店街

ここでもやられるのか……と、いやでも頭がその光景を脳内に映し出した


菫「やっ、あっあぁぁあああぁああああっ」

情けない悲鳴を大きく上げ、

股から水を垂れ流しながら、膝からがくっと倒れこむ

だらしなく放心した表情で空を仰ぎ、

体はピクピクと痙攣し、

股からは止まらず水が溢れ出し、

やがてまた……漏らしてしまう

そんな姿を、商店街の大勢の前に、

衆目に晒してしまう。そんな最悪の展開

そうなったらもう生きてはいけない。

そのくらい悪いものであるにもかかわらず、

菫は微妙に紅潮し、発情した動物のごとく、

荒い呼吸になっていた


菫「ははっ……嘘、だろ……」

自分の体が奈落の底へと飛び降りていることを、

菫は再認識させられてしまった

衆目の前に痴態を晒す。

数多の人に自分のだらしない姿を見られる

そんな想像をしてしまった体は……下着を更に濡らしていた

菫(やめろよ、やめてくれ……なんの冗談だ……)

期待しているのだ。そうなることを

公開処刑されてしまう最悪の展開を、体が望む

菫「あ、ありえないだろ……ふざけるな……」

たった一度しか味わえないだろう快感が得られるに違いない

それなら、自分の未来など捨ててもいい

菫の体は、そう思っているのだ


しかし、商店街を抜けても振動が来ることはなく、

まだ心を保てている菫がそんな場所で自慰に耽る訳もなく、

体は極限に近い状態まで焦らされてしまっていた

火照っているせいで体は熱く、

頭も微妙にぼうっとしているし、呼吸も荒い

それでも、菫の足は公園へと向かう

行かなければ何が起こるか解らないから

菫はそう思っているが、心の内側、ほんの少し堕ちた心では、

気持ちの良いことが待っていることを期待してしまっていて、

だから興奮も覚めることはないし、

それどころか……下着から時折水滴が垂れるほど。濡れてしまう


そして菫は公園にやってきていた

男と会うために。

怒りと、憎しみと、期待を抱きながら、

菫は男が来るのを待ち、やがて――

菫「っぐ!?」

膣内が激しく振動し、

菫は思わず膝をついた

夕方ということもあり、

誰もいないことが救いだろうか、

菫「ひあぁっ……あぁぁああっ」

そんな声を上げても誰かに見られたり聞かれたりする心配はない。

とはいっても、菫の内側は残念に思っているかもしれないが……

菫(まずいっ……こんな場所で。こんな場所で――)

堪え切れず、菫は果てる兆候であるかのように、

腰を浮かせ、股を突き出した


だが、振動が止まり、

焦らされた体が追い求めるように腰を振る。そして、

「うわ……」

菫「っ、ち、ちが――ぁ」

後ろから声が聞こえ、

否定しようと後ろを向くと、

自分が会おうとしている男がたっていた

菫「あ、あぁ……」

現状を知る人物だったからか、

それとも、純粋に男に会えたことに。か、

菫は小さく安堵のため息をついてしまった


男は股を突き出す痴女と化した菫を見下し、

ポケットから小さなリモコンを取り出した

菫「それ、わぁっんっ」

訊ねようとした瞬間また振動が襲う

「これは弘世さんが膣に入れたやつのリモコン。
  それの強弱を俺が決めて動かしてたってわけですよ」

菫「っくっうぅぅああっぃひい……」

弱から一気に強まで引き上げ、菫の涎さえ垂れるだらしない表情を見て、

満足そうにスイッチを切った

菫「っく……」

そのせいで、菫はまた果てることがなかった


菫「き、きさまっ……」

馬鹿にされているようで――いや、馬鹿にされている

そう理解し菫は男を睨んだ

「それはどっちの怒りですか?」

菫「え……?」

どっちとはなんだ? と困惑し、

菫は男を睨んだまま呆然として、男は小さく首を振った

「こんなことされるゆえの怒りか、最後までしてくれない。怒りか。どっちですか?」

明らかに前者であるはずだ。と菫は心の中で怒鳴るが、

疼く恥部がその思考を乱してしまう

菫(まさか……そう。なのか……?)

そして、最終的にそうだと決めてしまった菫は、

怒りに染まっていた瞳を、半分近く絶望色に変えていった……


やがて俯き気味になった菫を見て、

男は笑いながら訊ねた

「気持ちよかったっすか? 飛んじゃうほど」

その質問に、菫はばっと顔を上げた

菫「なんだったんだあれは……」

極めて冷静に尋ねる。

自分はそれを求めているわけではない。という意思表示のように。

だが、ここまでの流れが、そんなものはとうになく、

快感の理由を知りたいというふしだらなものへと変えてしまっていた

「男で言うところの射精ですね、まさかオナニーすら未経験とは……」

そこを指摘することはなく、質問に答え、

驚いた様子で男は菫を見下していた


朝から……ここまで


菫「オナ……ニー? なんだそれは」

知らないがゆえに、

菫は平気でその言葉を口にする

男はそれを嘲笑するわけでもなく、

ただ。彼女を突き落とす言葉を紡ぐ

「なんだって……保健室でしてたじゃないですか」

そう言って微笑む

菫「なっなにっ!?」

あの部屋には誰もいなかったはずだ

そう思い、

見られていないことは明白だったが、

明白であるがゆえに、答えてしまう。

菫「保健室には誰もいなかったはずだ!」

何を言っている? ととぼけでもすれば済む話なのに、

いなかったはずだ。と、していたことを匂わすような発言をしてしまった

男は笑みを、菫に向けた。

言ってしまいましたね。という意味を込めて

「いませんでしたよ?
 いやぁ、いないからってそんなところ弄っちゃうなんてねえ」

そう言われ、菫はようやく自分のミスに気づいた

けれど、気づいたときには遅いのだ。いつも、いつも……


菫「っ~~~~!!」

菫の顔が恥辱に染まる

知らなかったのに教えてしまった

自らの口で、はしたない行為を告白したという、

そんな最悪な状況に、彼女の体はほんのり火照ってしまっていた

菫「なっ……」

じわっと恥部から溢れ出る感覚が襲う

そのことに気づき、菫は唖然とし、男はにやっと笑みを浮かべた

「変態ですね、弘世さんは」

プライドの高い菫の心を、その言葉は強く踏みつけた


「恥ずかしくないんですか?」

男の問いに、菫は何も返せなかった

商店街のところでも、菫は周囲に痴態を晒す妄想をし、

そのせいで股を湿らせたことは拭えない事実だし、

忘れることもできやしない

恥ずかしい。恥ずかしいのに、

菫は感じてしまう。否、恥ずかしければ恥ずかしいほど、

その状況に興奮を覚えてしまう

それを変態と言わずして、なんというのか

菫自身も、そのことを理解していたのだ

だから、何も言い返せない


「弘世さん、下着脱いでください」

菫「なに!?」

だからといって、

そんな申し出を素直に実行するほど、

心は堕ちていない

菫「ふざけるな!」

だからこそ、男はカメラを取り出した

「良いんですか?」

菫「っ……解った、脱げばいいんだろう……くそっ……」

悪態を付きながら、

菫は下着を脱ぎ、男に手渡した


スカートの下には何も履いていない、

そんな状況下に喜ぶ体に苛立ち、

菫はギュッと目をつぶった

菫(おちつけ、落ち着け――)

だが、そんな菫お構いなしに、

男は腕を強引に引き、立ち上がらせた

菫「あっ……」

「さて、とりあえず移動しましょうか」

そう言い、男はまたローターの電源を入れ、

その瞬間、また強い振動が菫を襲った

菫「ひっぃっ……ぁぁあっ」

喜びの最中にある体は、その振動をより強い快感として伝え、

菫は大きく悲鳴を上げた


菫(無理、無理無理無理だ!)

こんなの堪えられない。と、

体が崩れそうになるが、

男に支えられて無理に立たされているせいで、

腰がガクガクと震え、

足も今にも折れてしまいそうなほど震えていた

「しっかり歩いてくださいよ」

そう言って、男は菫を突き飛ばし、

菫「ぁうっ」

そのままどさっと倒れ込んでしまった


犬のように四つん這いになり、

ガクガクと震えるせいで、

なかなかその状態から戻れない

「犬と交尾したいんですか?」

男の衝撃的なセリフに、菫の体が大きく跳ねた

菫「ふ、ふざ、ふざけ……るな!」

ただでさえ汚され、壊れそうなのに、

人外、ましてや犬と交尾なんてさせられば、

それはもう完全に……

「なら、歩いてくださいよ」

なら止めろと怒鳴ろうとするが、

菫「な、にゃ、と、とめっ、とめっろぉ!」

なかなか言葉は紡げないし、

だらしなく緩み始めた表情で睨んでも、

「良いから早く歩いてください、人に見られたいんですか?」

男にはなんの意味もなかった


前のところまで戻るまでもう少しかかる……

いまはここまで


雑踏の中を、2人は歩いていた

一人は歩いているというよりは、

擦り歩いていると言うべきだろうか

ガードレールのように道路脇に立つ柵で体を支えながら、

重い足をゆっくりゆっくり前へと進めていく

菫(くそっくそっ……)

立ち止まれば動けなくなりそうで、

早く歩こうと足を開けば吹き出してしまいそうで、

他人に現状を正しく認識されるのが怖い。が、

同時に、そんなギリギリの状況を愉しんでいる自分がいることが、

何よりも怖く。

柵が支えているのは、もしかしたら菫の体ではなく、

菫の精神力だったのかもしれない


でなければ、

菫は歩くことすらままならず、

その場に倒れこみ、

みっともない顔を晒しながら、

痙攣して果てていたかもしれない

そもそも。

この状況下に置かれている人間が、

意志の弱い人間だったり、自信がなかったり、

心がもろかったりするならば、堪え抜く事なんてできなかっただろう。

そのどれもが不一致であるからこそ、菫はこんな状況になることを指示され、

その精神と、心と、体を削らされているのだ


屈辱に唇を噛み締め、

菫はただただ前へと進む

発情か、疲れか、火照りからの逃避か、

菫はだんだんと呼吸が荒くなっていく

そのおかげで淫靡な声を上げていないのだから、

それはある意味で救いだろうし、

それを心配して近寄る男性がいるのもまた救いだろうか?

いや、誰かに近寄られるのは……さらに苦しむだけだ

「だ、大丈夫ですか?」

菫「だいじょ、うぶ……だから、きに、しないでくれぇ」

通常は弱のローターを、

背後にいる男が中へと段階を上げるのだ

そのせいで、相手の顔は見れないし、

艶かしい呼吸に変わってしまう


異常な感じの菫に対し、

相手は気味悪がって逃げていく

地元であるこの場所でそんな醜態を晒しているのだから、

菫の精神や心はガリガリと掘削機に削られるかの如く、

磨り減っていく

だがそれでも、最後までいかないのはその気高きプライドのおかげだ

踏みつけられようと、

その太く高い強いプライドは支えようと佇んでいる

それが救っているのか、苦しめているのか、

答えは圧倒的に後者であることは言うまでもないが……

「あっ、ここです」

男が立ち止まった一件の家

菫「ぇ?」

ようやく着いたのかというものか、それとももう着いてしまったのか

というものか、菫はそんな間抜けな声を上げ、

男について家の中へと入った


菫「はぁっはぁっ……あっあぁぁぁ……」

情けない声を上げ、床に倒れこむ

男が指定した家のリビング

表札には名前がなかったが、

この男の家であることは間違いない

「だらしないな、真面目であることが裏目に出たって感じですね」

痙攣する菫を見下し、

男は嘲笑うかのような笑みを浮かべ、そう呟く

菫「ぅ、ぅるさぃ……」

声も枯れ、起き上がる気力もわかない

そんな菫の服を、男は勝手に脱がせ始めた


菫「にゃ、にぉっ」

それに気づき、とっさに声をあげようとするが、

あろうことか、ろれつが回っていない

「はははっ、喋れてないですよ」

快楽に緩みきった顔では、

まともに声も発せず、変な言葉しか喋れないし、

さっきまでの疲れのせいか、体に力が入らないため、

抵抗は一切できず、

菫は下着すら何も身につけていない、

生まれたままの姿へと戻されてしまった

菫「ひっ」

急に恥部に触られ、小さく悲鳴を上げてしまうが、

それはネチョッという水っぽい音にうもれて消えてしまった

「うわぁ……濡れすぎ、本当に変態淫乱ですよこれ」

男もここまでと思わなかったのか、

驚きの声を上げつつ、感じさせない程度に弄る

まるで実験結果に興味を持つ研究者のように

一方で菫は、

菫(私って、こんな変態だったのか……?)

もしかしたらそうなのかもしれない。

そう思ってしまう自分が、認めてしまう自分がいることに、

菫は動揺し、何も返せなかった


とりあえずまたあとで


菫(嘘だよな……?)

まさか自分が、

そんな羞恥の欠片もないような人間だとは思いたくはない

それでは語弊が生じるだろうか?

羞恥心あれどそれを快楽の糧にしてしまう、

そんな背徳的な人間だとは誰も思いたくはないだろう

だが、菫には否定する方法がなく、

逆に認めるためのものなら多々作られ、

現状において股を湿らせていることが何よりの証拠だった

菫のそんな葛藤を知ってか知らずか、

「ねぇ、変態さん」

弘世さんではなく、男はそう呼んだ

菫「……………」

答えてたまるものかと口を結ぶ。

それは心が折れていない証拠であり、

それは男に次の行動へのゴーサインでもあった

「弘世さん」

菫「……なんだ」

「オナニーしてください。今、ここで。俺に見せてください」

ありえない言葉だった

ふざけるなと怒鳴ろうと思った

見られた状態でそんなことできるはずがないと

だが、体は正直に……

菫「ぁ……」

見られながらするという屈辱的な行為に反応して、

期待してしまっていて、水滴を滴らせた


菫(な、なに……?)

なるべくしてなったその現象にたいして、

菫は驚いていた

そうであると認めれば早いものを、

あくまで否定的でいるがために、

心と体がすれ違い、脳が処理落ちしそうになる

菫(ふざけ、るな……なんなんだ、いったい!)

解っているくせに、そう怒鳴る

解っているからこそ、心のなかでしか怒鳴れない

そういう風に困惑していることを知っている男は、

菫の心に助言した


「ほら、早く。早くしないとあの動画が・・」

本来なら脅しのはずなのに、

今はもう、菫の大義名分の代用品になっていた

菫「解った! わかった……すればいいのだろう!」

菫は言うのが遅い。と言うように声を張り上げた

そして、

強要されているから仕方がないという理由をつけることで、

自分の行為を正常なものとしようとしていた。なのに、

男は笑う。嘲笑う

「させてくださいって言わないと。私の惨めなオナニー見てくださいって」

あろうことか、大義名分の聞かない台詞を吐けと、

男は強要したのだ

菫「な゛っふ、ふざけっ・・」

「いいんですか?」

あくまで自主的な行いだと、

意識に刷り込もうとしている。

その一言が、プライドの奮起も何もかもを挫き、

踏みつけ、蹂躙してくる

早くも涙がこぼれ落ち、だが。従うしかなかった

菫「ゎ、わた、私の……み、惨めなオナニーを、見て、ください……」

屈辱に頬が染まる。だが……

その酷く心身を削るそれにさえも、菫は股を湿らせてしまっていた


ここまで……また化けたな


だが、やれと言われてできるほど、

菫の性知識は深くも濃くもなく、

当然。達することなど到底不可能な話だった

そのため、菫の今の姿は本当に惨めで、

情けなくて、みっともない、最悪なものである

菫(なんで、どうして、こんなに……いじってるのに!)

菫は目尻に涙を浮かべながら、

ひたすら恥部を弄っていたが、

だからといって、体が感じてくれるわけではない

菫「ふっく……うぅぅぅっ」

微妙な快感だけが伝わり、達することができないため、

体は永遠に焦らされ続ける

いつの間にか強要された涙ではなく、

達することができないもどかしさの涙になっていた


不慣れな手つきで股間を弄り、

一生懸命に快感を得ようと努力をする

そんな可哀想とも言える菫の姿を見かねてか、

男はため息をついて言い放った

「下手すぎです。手伝ってあげましょうか?」

それは菫にとって、救いの言葉であり、

菫「……え?」

図らずとも、

驚きと、期待が詰まった声が漏れてしまう。

すぐに口を抑えるがもう遅い

「へぇ……手伝って欲しいんですか……」

軽蔑するような眼差しで見られ、

また、じわりと濡れる

菫「そ、そんな……こと」

否定はする。

だが、決して強く否定できない。

それこそが証明となり、菫自身にもそれを認めさせようとしてくる

だが、認めない。あくまで心までおられるつもりはないのだ


中断


暫くして、菫は自己嫌悪に陥っていた

なぜ、あそこで救いを拒絶したのか。と、

自分の無駄に高いプライドを呪い、

頭の易い馬鹿な女であればよかった。

と、過去からの自分を否定してしまう。

菫「っ、く……くそ……ふざけるな……」

なんとしてでも達してやる。と、

なぜ自分が行為に及んでいるのかも忘れ、

無我夢中に弄っている

「………………」

一方で、男はその姿をただ黙って見つめていた

まんぐり返しの姿勢で執拗に恥部を弄る悲惨な姿の少女を、

ただただ黙ってビデオカメラに写し、

達しろとは一言も言っていないのに、

馬鹿みたいに弄る少女は、その行為になど気づいてはいなかった


それから数十分が経過していたが

菫は休むことなくいじり続けていた。

しかし、まだ一度も達することができず、

疲れた手がついに恥部から離れてしまった

菫「はぁっはぁっはぁっ……できない、なんで……」

中途半端に快感を与えるだけ、

あともう少しが得られない。

料理を待つ子供のよだれのように、

恥部から水滴を滴らせながら。菫は男へと視線を送った

そんなもどかしさに答えてくれるのは――

「なんですか?」

自分を蹂躙し、屈辱と恥辱で自分を壊そうとしてくるこの男のみ。

菫は迷い始めていた。

いや、迷う以前に、相手から来てくれるのを待ち望んでいた。

委ねればあの時みたいな感覚が得られる。

だが、そうしたら心までもが持って行かれてしまう、そんな恐怖が、

菫を未だに迷わせていた


しかし、もう手は動かせそうにない。

知識があるものなら、

手を使うことなく達することもできるのだが、

菫には不可能である。

で、あるがゆえに、求めるしかないのだ

気持ちよくなるためには。

越えられない境界線を超えるためには。

菫(この……男に……)

菫は救いを求めるような視線を男に送り、

彼はそれに気づき、菫の恥部へと触れた

菫「ひぁっ……!!?」

不意に訪れた刺激に堪らず声をあげてしまう。

予測出来る自分で与える刺激には、

恐怖心からか、勝手にセーブがかかる

だが、予測不可能な他人からの刺激には、

セーブなんてかかりはしない

「ほら、やっぱり変態だ」

刺激欲しさに腰を浮かせた菫を見て、

男はぼそっと呟いた。しかし、

罵倒を気にする余裕はない

あと少しであの感覚が訪れる

菫(くる、もう一度……あの感覚が……)

その事に期待して胸が高鳴り、

菫は無意識のうちに顔をほころばせ、

笑みを浮かべていた……が、

不意に刺激が止み、空しさだけが訪れた菫は、

その表情を一瞬で驚きへと変えた


菫「ぁぇ……ぁあっ」

情けない声が洩れ、男の嘲笑が耳に響く

菫(なんで、なんでなんでなんで!)

男を睨む。だが、

それは今までとは違う怒りから来るものであり、

男もそれに気づいたのか、再び触れた

菫「あっぁぁっ」

淫靡な声が洩れるどころか、溢れだす

唾液を撒き散らし、喘ぎ声を上げる

それは獣と言えるだろうが、菫は気になどせず、

ただただ快感を求めて腰を浮かせ、

少しでも強く感じようと、股間に意識と、全神経を集中させていた

菫(もうすぐ、もうすぐっ!)

期待する。願う。希望する。

その先を、快感の先にある快楽を……

けれど、男はまた直前でその手を止めた

菫(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……)

思う心が爆発し、

心の声は現実として具現した

菫「なんで、なんで止めるんだ!」

「して欲しい。と?」

微笑が聴覚を蹂躙し、視界さえも埋め尽くす

菫「っ…………」

菫は気づいて、絶望に沈んでいく

心までもが最早片翼であることに、

それはもう、堪えきれないということに。

菫の独白の意図を知ってか、

「お願いしたら、してあげますよ」

男はそう言って微笑んだ

菫「っ、ば、馬鹿にするな!」

まだ堕ちない。その意志を強く、強く燃やした。

体はして欲しい。と今すぐにでも言いたいのに、

心と自尊心がそれを拒絶する。しかし、

片翼である以上、その抵抗が尽きるのも――目前だった


中断


そしてまた、幾度目かの寸止めを、

菫は受けていた

菫「あっあぁああぁぁぁぁ……やっ、いや……」

菫は大きく精神を揺さぶられ、

ポロポロと涙をこぼし、

訴えるような瞳で男を見つめた

だが、男はそれを無視し、

少し間を置いてからまた菫を責めた

菫「も、もうやだ………やめて、やめてくれ!」

もう壊れてしまいそうで、

菫はやめてくれるように叫んだ

だが、男はその手を止めず責めつづけ、

菫「ぁっ、やっ、いやっ、また……またっ」

菫(また――止められるっ)

達してしまう直前で、止めた


菫「はぁっはぁっ……あぁぁぁぁっ」

あれからどれだけの時間が過ぎただろうか?

現実的にはまだほんの2時間程度だが、

菫は半日以上に感じていた

菫(頭がおかしくなりそうだ……体が壊れそうだ……)

もう嫌だ、もう耐えられないと、

体と心が悲鳴をあげる

菫(イキたい……イキたいイキたいイキたいイキたいイキたい……)

男の催促を待つ

それがあればまだ仕方がないと思えるから。

だが、そう考える時点ですでに、

心もまた堕ちているのだ。それに気づいているのに、

菫のプライドが認めることを阻害する

「もう一息か」

男は疲れてきたのか、辛そうに小さく呟いた


菫(もうだめだ、もう無理……もう嫌だ……)

堪えることが嫌になる

受け入れるしかない。本能が、体が、心がそれを求める

菫「……たぃ」

か細く、消え入りそうな声で望む

だが、それでは男には届かない

数えるのが面倒になるほどの寸止めをまたしても受け、

意識がまた一歩その世界に引っ張られる

菫「ぉねぎゃい、ぃま……す」

声はもう完全にふやけ、

言葉にならず、意味もそう簡単には受け取れない、

そんな奇怪なものに成り代わってしまっていた。

だから、残った力を言葉を紡ぐことだけに、

それだけのために菫は絞り出す


菫(もう嫌だ、我慢なんてできない)

そう強く心に怒鳴り、

菫は声が出てくれるように祈った

そして――

菫「――お願い、します!」

予想以上の大声に、

男も、菫自身もビクッと体を震わせた

男は笑わず、

菫の精神を崩壊一歩手前にまでした、

その張本人であるはずなのに、哀れみの表情で彼女を見つめた

「……なにを?」

あまりにも優しい問。

神父に対して懺悔を行うように、

菫の心は穏やかに、ただその願いを告げた

菫「お願いします……イカせて、ください……」

神に願うように願う。それを聞いているのが、

悪魔であるということを、忘れてしまっているがために

そして男はまた。黙って恥部へと触れた


手加減のない、激しい刺激、感覚が、

菫の体を襲い、精神を襲い、心を蹂躙した

菫「ひぃっああぁぁっいっ」

もはや叫びのような声を上げ、よがり狂う

拒絶から受けへと転換した今、

彼女を守るものは何もない

菫(くるっくるっくるっ!!)

浮かせた腰を支える足がガクガクと震え、

割れ目から漏れる水滴は男の手により淫らな音を立てながら、

あっちへこっちへと飛んでいく

菫「あっ、いぁっ、あぁぁぁああっ」

絶頂が近づいて、

菫の淫靡な悲鳴が上がって、

菫はその感覚に身構えた。

そして、

あの待ち焦がれた快感が――

菫「―――ぇ?」

来ることはなかった……


脳は状況が飲み込めず、

体は快感を溜め込んで……

不一致な状態に脳が悲鳴を上げ、

菫「っ―――くぅぅぅ!?」

菫もまた、悲鳴を上げる。声にならない悲鳴

どうして、なんで、

プライドを捨て、意志を捨て、

屈辱に身を沈めてもなお、なぜこの男は私を辱めるのかと。

菫には理解できず、

ただ抜けていく、否、快楽への階段から落ちていく、

菫はそんな寒気に体を震わせ、

男は呆然とする菫をその文字通り、上から見下していた


またあとで


菫(なんで、なんで……?)

次第に頭がはっきりとし、

状況を飲み込んでいく。

じわりじわりと涙がにじみ出て、

視界がぼやけてしまう

菫「ぁっああぁ……なん、で……うっく、ぐすっぁあぁぁぁあああぁ――!!」

そしてついに、

菫は声を上げて泣き出してしまった

我慢していたのに、今はもう。我慢はできない

「あの……」

泣きじゃくる子供のようで、男の声をもかき消す

その状態が数分続き、

「……いい加減に――しろ!」

バシッと、力強く菫の頬を叩いた


菫「ぅあっ」

「なに、泣いてるんですか?」

痛みで我に返り、

目の前に焦点を合わせると、

やや憤った男の顔。

右手がもう一度上に上がっており、

返答しだいではまた来るということは一目瞭然だった

菫「ぁっあ……ごめ、なさい……ごめん……。なさいっ」

顔を伏せ、涙を必死にこらえて謝罪する。

それはまさに……子供のようだった


このままではまた泣かれると思ったのか、

男は困った表情で首をかしげた

正直にいえば、泣くのは構わない。

むしろもっと泣け喚いて精神も心もズタボロになって欲しいとさえ思う

だが、このまま泣かせても時間の無駄でしかない。

そして、時間を無駄にすれば予定が狂う。

だから男はとりあえず、予定通りにすすめることにした

「弘世さん。聞いてください」

あくまで軽く、声をかける

菫「ふぇ……?」

自分は怒っていないと言うように……そして、

「何をどう勘違いしたかは知らないですけど」

男は子をあやすような優しい口調で、

「お願いしたらイカせてあげるとは一言も言っていませんよ?」

衝撃的な言葉を口にした


菫「なっ……なっ……ぁぁぁあああ……」

男は言った。お願いしたら、してあげると。

だが、しかし……

確かに、イカせてくれるとは言っていない。

つまりあんな惨めなおねだりなど、

する必要は元より無かったのだ

それはつまり、身も心も。堕としてしまったという――

菫「う、そ、だ……いやだ、いやだっ!」

認めたくない。と、

頭を抱えて振り回す。

かつていた先輩に、今いる同級生や後輩に、

両親にも褒められるような長いきれいな髪を、

掻き乱し、振り回した

「……………」

男は暫く黙って見つめ、

菫の暴れたいようにさせ、菫が疲れ果て、

茫然自失としかけたところに、声をかけた

「さて――続けますよ」


それを聞いて、

菫の体はビクッと震えた

期待から? 恐怖から?

そのどちらからもだろうか

菫「やっ、やめ……やめてくれ……」

自主的におねだりするほど、

今の自分は堪え兼ねていて、

その快感を欲しているのにも関わらず、

この男はまだ、焦らし続けようというのだ

そんなことをされたら、堕ちるだけでは済まされない

菫「やだ、嫌だ……イカ、せて……くださぃ……」

その辛そうに歪んだ菫の表情を見て、

男は静かに首を横に振っただけだった


菫「ぁいひっ、やぁぁぁっあぁぁあああっ」

それから数時間が経ち、

それでもまだ寸止めされていた菫は、

瞳から光を失い、

言葉を失い、思考能力を失い、

自尊心を失っていた

「……………」

男に見下ろされる菫は、

カエルのようにまたをガバっと開ききった状態で、

やや白目になって痙攣していた


そんな姿で、

菫「……けて、助けて、助けてっ!」

少し前からずっと助けて。とつぶやき続け、

ようやく、男は訊ねた

「俺から? それとも、イケない地獄から?」

あくまでも、優しい声で。

それはその状況を楽しめているわけではない。

ということなのだろうか?

そんなことも露知らず、

菫はその問いに迷わず答えた

菫「イキたいですっ、イカせて、くださいっ!」

と、叫んだ


そろそろいいか。と、

男はポケットから注射器を取り出し、

菫に打ち込んだ

菫「へ……ぁ?」

「分かりました、イクことを許可します」

男は静かにそう囁き、

慈悲深い表情で菫の頭を撫でた

だが、

男の行為には優しさなどは欠片もない

菫「ひぐぅぅぅぅっ!?」

頭を撫でられただけなのに、

菫の体を快感が迸ったのだ


「朝より強い媚薬です」

菫「ひあぁぁっ……ぁぁああっ」

ただでさえ荒かった呼吸は、

さらに荒く、淫靡なものへと変わっていった

それにかき消されるが、

男は言葉を続けた

「ただイクだけじゃダメです」

その言葉に、

ぴくりと菫はまゆを動かした

「イキ続けてください、失神しても、失禁しても、
  永遠に、薬の効果が切れる6時間の間。ずっと」

菫「や、やらぁっ! そんなの、いやぁっ!」

逃げようとしても、体が動かせない。

疲れ果てた体にはもう逃げる余力はない。

男が狙っていたのはその瞬間だった

「快楽なしじゃ生きられない体にしてあげます。
  もちろん、心も、精神も、全て……ね?」

そう言い、男は菫の恥部に触れ――そして、

菫「ひぃぁぁっぁああああぁぁぁぁああああっ!!!?」

悲鳴とともに勢いよく液体が噴出した


ここまで、中断


菫「ひぎっぅぐ……あっ、やっやあぁぁぁぁああぁぁああああっ」

菫はまた、

かな切り声のような悲鳴を上げ、絶頂へと達する

フローリングの床は水浸しになり、

もはや癖がついたのか、

菫は漏らし、その匂いが部屋に浸透していた

「……あと5時間あるんだけど」

男はそう呟き、また菫の体に触れ、

菫は悲鳴を上げ、腰をがくんっと突き上げて絶頂し、

床に叩きつけられる腰がばしゃっと水を飛ばす

菫「ひぐっ、いぐっやっ、もう嫌、いやでず、いぎだくない!!」

「貴女に選択権なんてありませんってば」

男はそう言いながら、また責める

菫「ぅあぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛っ」

そしてまた激しくイった菫は気を失った

叫びすぎた口はヨダレを垂れ流しながらだらしなく開きっぱなしになり、

目はもう完全に光を失い、白目を向き、

股を広げた体勢のまま、ピクピクと痙攣していた

だが、男はそのままにしておいてやるような優しさはない

録画中のビデオカメラのバッテリーを確かめたあと、

頬ではなく、股目がけて平手を打った

菫「ひぎゃぁぁああんあぁあっ」

痛みと快感が同時に訪れ、また絶頂し、

ほんのり痛む恥部めがけてまた平手が打ち込まれる

菫「いぎゃぃっきもちっなに゙、これぇぇぇぇえええっ」

痛みが気持ちよく感じてしまうのは、

ただの錯覚に近いが、今の菫にはそんなことは理解できない

脳が痛みは気持ちの良いものだと誤認し、誤解し、覚えてしまう


「寝たお仕置きです、お尻の代わりに――ほらっ」

さっきよりも力を込めて、

男は菫の股間を引っぱたく

菫「いっあぁぁぁぁぁああああっ」

そして、絶頂

痛みが気持ちよくなってしまい、

菫は叩かれているにもかかわらずイってしまう体になりつつあった

全ては媚薬によって感度を上げられているせいだが、

菫は媚薬を使われたのかどうかさえ、もう記憶にはないだろうし、

痛みが快感を与えてくれるという認識が変わることはないだろう


「痛くないんですか? さすが――変態さん!」

男は菫を嬲りに嬲って罵り、

連続で菫の体のあちこちを叩き、

菫「いたぁぁぁぁあああああんぁああいぎぃぃっ」

菫は痛いはずなのに、快感を受けて混乱し、

絶頂を続けた

産まれたての仔鹿のように、

菫の体はガクガクと震え、

股からは相変わらずブシュッと液体が飛び出す

菫「ふぎぃっふぐっぅぇぇぇえええっ」

泣き出した瞬間、

またしても男の平手が打ち込まれ、

快感によって艶かしい悲鳴へと変えられていった


また1時間が経ち、

男もさすがに疲れたのか、菫から離れ、

手を休める。

だからといって菫が休めるかといえば……そんなわけがない

菫「はぁっはぁっはぁ――ぁ、ぁぁぁああああああっ!?」

少しの間を置いて、膣内が激しく振動し、

菫の体は水から出てしまった金魚のように、

体をじたばたさせてもがきだした

菫「やぁぁあぁあああああっ」

男が離れたことによる一瞬の安堵が、

隙を作り、快感を数倍にまで引き上げた


「ローター入れてるの忘れてたんですかね?」

男はほんの少し驚きながら、

恥部から液体を吹き出し、まき散らしながら、

快楽の海に溺れてもがく菫を見つめて頷いた

「あと4時間ですよ。頑張ってください」

気のない応援を囁いて、

男は乱れ狂う少女を優しく見守り、

菫「ひぎぃんなぁあぁぁああああっ」

少女はただひたすらに叫び、もがき、

そして絶頂し続けていた


そして4時間。

人によっては長く、人によっては永遠とも言えた時間。

それが過ぎて菫はようやく絶頂地獄から解放された

菫「ぇひっぁはっぁー……」

精神が保たれているかどうか疑問だが、

そればかりは翌朝にでもならないと解らない

だらしなく口を開け、

いまだに液体を恥部から溢れさせている菫の体を、

男は抱きかかえ、お風呂へと入れた


菫は今、自力では何もできないため、

入浴させたあと、男は自分の部屋に敷いた布団に寝かせ、

フローリングの掃除に移った

「……ひどいな」

室内で水遊びでもしたかのような大惨事に、

思わずため息が漏れる

水遊びと言っても過言ではないし、

今更部屋一つ凄惨なことになろうと構いやしない

だからといって、事実上無実である少女を苦しめ、

蹂躙し破壊しておきながら、

平然としていられるわけでも……なかった


菫「っ……」

男よりも先に、菫は目を覚まし、

それと同時に、

昨日の悪夢のような1日がフラッシュバックして体を震わせた

そして起き上がってあたりを見渡すと、

菫(……こいつ)

あろうことか、自分の横にあるベッドでは、

男が普通に寝ていたのだ

殺そうと思えば殺せる。そんな状況だった

だが、菫は殺せなかった。

殺そうとは思うし、殺したいとも思う。だが、

体が言う事を聞かないのだ


自分の太ももを何かが流れているのを感じ、

菫はその殺す殺せないの考えを振り払った

菫「……くそっ」

男を見ているだけで股を濡らしていては、

殺す意思があるのかどうかさえ怪しいのだ。

菫は悪態を付きながら部屋を出ていった

菫(殺したいほど憎いのに、殺せないとはな)

綺麗に折りたたまれた自分の制服を着込み、

菫は朝食を食べようと包丁を握る

そこまで来て、ふと気づく

菫「なぜ、私は逃げないんだ?」

気づく。というのもおかしいが、

逃げる。という判断を思考することすら無かったのだから、

別に間違いではない


殺せないのも、逃げないのも、

全ては自分の体があの男の手に落ちたという、

内面的ではなく、外面的な問題だった

殺しても、逃げても、

どちらもあの男の手から離れてしまう。

本来なら願ってもないことなのに、

快楽を常に欲するような、

そんな自分の体はそれを激しく拒絶しているし、

それに、心のどこかではそうしたくないと思っているのだ

だからどちらもできない。


菫自身では、

欲するほどの快楽を得ることはできず、

他者の協力が必要なのだが、

そんなことをお願いできるような相手はいないし、

快楽を拒絶し続ければ、

体と脳が互いを拒絶していつかは死ぬかもしれない、

そんな恐怖がある。

だから、菫はどうあがいても、

あの男から離れたりはできないし、

殺すことなんて、絶対にできないのだ

だからなのか、

菫「……なに、してるんだろうな」

菫はいつの間にか男の分まで朝食を用意していた


朝、昼の分 中断


菫「……確認しに行くか」

特にする必要もないのに、

菫は男の部屋へと向かう。

まるで彼女みたいだ。と、

そう思いながら、菫は部屋のドアを叩く。

菫「ふざけるな、なにが……」

おかしい。ノックをしたのに何故、返事がない?

菫は少し不安になり、また叩く

中の男はただ寝ているだけなのだろうが、

菫は万が一の可能性が脳裏をよぎり、

菫(ふ、ふざけるな!)

許可なく部屋へと入った


入るやいなや、

ベッドに横になっている男に駆け寄り、

体を揺さぶって声をかける

菫「おいっ、おい、起きろ。起きてくれ!」

目尻に涙が貯まる

純粋に、嫌だった

殺したいと思いながら、

目の前で人に死なれるのは嫌だった

菫は必死に男を揺さぶり、

菫「起きろ!」

起きろ。起きろと声をかけ、最終的には怒鳴った


深い眠りについていた男も、

耳元で怒鳴られればさすがに起きる

「っ……なんだよ」

やや不機嫌そうにうなり、そう訊ねながら目をこすり、

視界を正常に戻すと、今にも泣きそうな菫の顔が目に入った

菫「起きろって言ったら、普通はすぐ起きるだろ……なぜ起きなかった!」

「夜中まで掃除してたんだよ……
  おしっこ臭いリビングをほうっておける訳ないだろ」

男が本心でそう言うと、

菫の顔は泣きそうな顔から、恥ずかしい顔になり、

男の顔を平手が打った

菫「お、お前の、お前のせいだ! お前が……あんなこと……」

そこで、途切れる

なぜ普通に会話しているんだ。と、

菫の心が大きく揺れた


それを知ってか、

男は確認するように呟いた

「俺から逃げないのか?」

その問いに対して、

菫は静かに首を横に振った

菫「逃げれないんだ。今すぐにでも出ていきたい気持ちはあるが、
   お前から逃げるために体を動かす力が出ない」

「悔しいか?」

菫のそれを聞いて、

男は無表情のままもう一度訊ねた

菫「当たり前だ。悔しいに決まってる
   殺してやりたいほど憎いのに、殺せない」

答えつつ、菫は近くの椅子に腰掛けた

菫「私はお前がいてくれないと、体を癒せないんだ
    たとえ力を振り絞ってお前から逃げても……死ぬだけだ」

菫と男はただしゃべっているだけなのに、

だんだんと菫の呼吸は荒く、体は火照っていった


菫「……わかるだろ?」

菫は上気した表情で、

男へと視線を送る

しかし、男は解っているにも関わらず、

首をかしげた

菫「……あくまで言えと言うんだな」

悪態を付きながら、

だがそれでも、菫は従うしかない。

でなければ、体を慰めて貰えないからだ

けれど、菫も菫で心まで完全に寝返ったわけではなく、

要らない言葉まで付け足した

菫「こうして普通に話しているのでさえ、嫌なんだ。
   でもな、体は勝手に火照るんだよ……して欲しくて」


「話すのが嫌ならなんで話してるんですか?」

菫「嫌だけど嫌じゃない。
   心身が統一されてないんだよ。私は」

そう言いながら睨むのはやはり、

心が堕ちきっていない証拠だった

「……俺のせい、ですか」

菫「解ってるなら……頼む。
    あまり時間がないんだ。学校だし……」

恥ずかしそうに、

菫は男に行為をねだる

「良いんですか? 心は嫌なんでしょ?」

菫「心優先したら体が動かせないっていっただろ……」

やや怒りを含めたその声似たし、

男は優しい笑みを浮かべた

「……良いですよ、してあげます」

男は起き上がり、

椅子に座る菫のスカートの中へと手を伸ばした


やや怒りを含めたその声似たし→やや怒りを含めたその声に対し

またあとで


菫「んっ……」

初めてまっとうな思考、感情で受け入れたそれは、

昨日までの強要されるものよりもやや、気持ちが良い

水々しくいやらしい音が菫の恥部から聞こえ、

それが菫の脳を刺激し、

とっさに漏れかけた声を押さえ込む

「別に我慢しなくても……」

菫「ぅ、るさいっ……ふ、ぁっ……」

我慢しても、

快感が溜まっていくことは変わらない

かくかくと震え始めた足を見て、

男は菫のスカートを上まで引き上げた

菫「きゃぁっ!?」

「きゃぁって……スカート濡らしたくないでしょ。持ってて、というか、立ってください」


菫「ち、力が抜けるから……」

「ちゃんと支えますよ、ほら。時間ないんでしょ」

男に優しくそう言われ、

菫は素直に従って立ち上がり、

足を開いてスカートを持ち上げた

菫「こ、こうか?」

恥ずかしそうに赤面しながら、

男からほんの少し逸らした視線で訊ねる

彼はそれを確認して、頷いた

「上出来です、見事な痴女ですよ」

菫「っ……否定させろ」

「出来るならどうぞ」

男は軽く睨んできた視線に、微笑んだ


「自分ではしないんですか?」

菫「出来たらやって――……やらん!」

もう遅いというのに、

慌てて否定するところに、

男は思わず笑みがこぼれてしまう。

菫「笑うっんんっ――っぁっ」

少しの絶頂。

ガクッと倒れそうになった菫の体を、

男は抱きかかえ、ベッドに転がし、

上気し、赤みがかった表情で天井を見つめ、

菫は艶かしい吐息でなんとか整えようとしていた

「朝はオススメしませんよ」

菫「さ、先に言え……くそっ、行くのが少し怠くなった」

「休みます?」

菫「馬鹿言うな」

菫はそう言うと、もう落ち着いたのか、

ベッドから起き上がり、男の顔をまっすぐ見つめた


「……ん?」

首をかしげた男に対し、

菫は小さく首を振り、立ち上がって出口へと向かっていく

菫「私は学校に行く。朝食は作っておいた……その」

扉に手をかけた状態で止まり、

ベッドのそばの椅子にすわる男へと視線を移し、

男は続きがないことに疑問を抱き、また首をかしげた

「どうした?」

菫「いや……」

菫は少し躊躇しながらも、

なんだか不安で、言わずにはいられなかった

菫「私は恐らくここに戻る。家じゃなくて、憎いお前のもとに。だ
   頼むからいなくならないでくれ。戻ってきた私の前に、ちゃんと姿を見せてくれ」

「っ………」

彼女はそう言い、学校へと向かう。

菫の言った言葉が男の心を深く抉りとり、

前を向いていた男を、ガクンッと項垂れさせた


ここまで


もういいんじゃないか?

もうこれ以上、彼女には手を出さなくても

そこまで考え――いや、ダメだ。と首を横に振る

まだ不完全だ

彼女はまだ何も知らない。

だから教えてあげなければいけないし、

本当の辛さというものを味わって貰わなければいけない

そんな非道なことを考えながらも、

男は菫の作った朝食を食べて思わず、

美味しい。と感想を抱いてしまった


憎むべき相手であるはずなのに、

彼女は料理を作ってくれたし、

不味い料理でもなければ毒をもるわけでもなく、

しっかりと美味しい料理を作ってくれた

それがただついでだと言われればそれだけだが。

菫は男に依存している。心身ともに?

菫自身も言っていたが

それは違う。まだ体だけなのだ

だからこそ、彼女は男に対して憎い。と言える。

それさえも言えないほど、完全に、完璧に、

弘世菫という人格そのものを壊さなければいけない

でなければ、裏切られる怖さがある


男はさっさと身支度を済ませ、

仏間に一礼し、

家を出て、インターホンの前で立ち止まる。

「……ごめん」

誰への謝罪なのか、

男はそう呟くと、家から離れていった

菫が帰ってくるであろう場所。

そこにはもう、誰もいない。

菫が生きるために必要と言っても過言ではないような、

そんな大切な存在が、抜け落ちていく

彼女は知らない、まだ気づかない。

帰れば男がいると信じ、

いつものように、学校生活を送っていた……


またあとで


菫「……気になる」

そう呟いた菫は、

何度目かの受信問い合わせを行った

別に相手にメールをして、

返信を待っているわけではないが、

メールが来ないことに不満と不安を抱いていた。

今すぐにでも電話したい衝動に駆られるが――

「ここに敷を代入することによって……」

教師が言葉を止め、菫を見つめる。そう、

菫(……ばれたか?)

仮にも授業中。そんなことなど許されないのだ

暫くして教師が目を離した隙に携帯を机の中に突っ込み、

外を見つめ、不安そうに呟いた

菫「ちゃんといるよな……?」


その授業も終わった昼休み、

親友である照が近づいてくるのに気づいて、

携帯を閉じた

照「……菫、どうかした?」

菫「何の話だ?」

あくまでとぼける。

携帯を弄っている事は別に良い。

だが、男の連絡を待っているというのは知られたくない

何が言いたいのかという風に首をかしげ、

菫は照の言葉を待った。

照「今日一日、菫ずっと携帯弄ってる」

彼女はそう言いつつ、

今も右手にある携帯を睨んだ

照「朝も、1限も2限も3限も、4限も……今も」


菫「ちょっと気になることがあってな」

照「今までの好印象を台無しにしても良いくらいに気になること?」

今までの好印象。

菫はそう言われて、少し顔を顰めた

菫「今までは今まで、これからはこれからだ」

照「……どういうこと?」

どういうこともなにもそういうことでしかない。

菫は自分がもうすでに、

今までの弘世菫ではないということを自覚しているし、

戻ることが難しいことも解っていた

菫「解らないなら……知らない方が良い」

きっと傷つくことになるだろうから。

菫は申し訳なさそうに笑うと、席を立った。

菫「弁当を忘れた、学食に行ってくる」

照「ぁ、私も」

菫の後を追う照は、

結局学食に着くまで隣に並ぶことはなかった


中断


いつもは麻雀などの話題が飛び交う2人の間を、

今日は沈黙だけが鎮座し、

照「ねぇ、菫」

堪えきれず、照が口を開いた

菫「なんだ?」

照「今日、一緒にどこか行けないかな」

照のそんな誘いを、

菫「すまないが、無理だ」

菫は即座に拒否した

いつもなら、

いつもなら付き合ってくれるのに、

悪態を付きながらも、

どこどこに行こうと付き合ってくれるのに、

菫が拒絶した。その事実が、

照の心をガツンッと殴った


照「なんで?」

菫「用事がある。そう毎回は無理だ
    大星にでも付き合って貰えば良いだろう」

いつもと打って変わって突き放してくる菫に、

照は不安感を抱かずにはいられず、

納得できる理由になり得るだろう菫の言葉を、

照は受け流し、問う

照「携帯を気にしてるのと関係あるの?」

菫「あるにはあるが……」

菫が言葉を濁し、

照は菫のそれが気になり、じぃっと見つめた

菫「なんだ、言いたいことがあるならはっきりと言え」

そう言われ、彼女はまた疑問を口にする

照「昨日の今日で、ううん。昨日一昨日に何があったの?」

今までの菫が今の菫になった。そこを突くような鋭い問いだった


菫「何もない」

驚く様子もなく、

ただ平然と、まるで本当に何もなかったかのように、

菫は答えた

照「本当に?」

菫「疑うなら疑えば良い」

ここで下手に嘘を言うように見えるか? とか、

嘘をついたことがあるか? なんて言えば、

疑われることは確実だった。だからこそ、菫は自由にしろ。

それに最も近い言葉をつかった

照「……ごめん」

そうすれば、突き放されている。と、

自分を信じてくれない相手に愛想を尽かしていると、

思い込むからだ


菫がかたくなに正答を避けるのは、

純粋に男との関係が途切れることが怖いから。

菫(……悔しいが、話せないんだ)

そう思い、

申し訳なさそうな表情で照を見つめる。

突き放されていると思い込み、

気落ちしているのがひと目で解る。

それほどに、判り易い落ち込み具合だった

菫(だが、私はお前よりも、男が大事なんだよ)

菫は照から視線を外し、

食器に残ったご飯粒を箸でつついた

菫(私はお前にとっての麻雀以上に、男が必要なんだ)

考えただけで、股が濡れる

早く帰りたい、今すぐにでも帰りたい。そう思いながら、

照の肩を叩いた

菫「教室もどるぞ」

帰ったらまた慰めてもらおう。

そんな堕ちきった考えが浮かぶことに疑問を抱くことすらなく、

食器を片し、教室へと戻った


ここまで


>>216

授業も全て終了し、部活中のこと

金髪の少女大星淡は、

いつものように菫の下に駆け寄る

淡「弘世せんぱ~い」

菫「やめろ、ひっつくな」

淡に対して、菫はいつも通りに対応した、

そもそも、自分と男の関係に触れるようなものでなければ、

いつも通りに対応するのは至極当然のことだ

だが、淡は違う。強いて言うならば、菫自身も違う。

いつも通り、内面以外はいつも通りを装っている。が、しかし、

淡「あれ? いつもの良い匂いじゃない」

場所が違うとどうしても変わるものがあるのだ――


菫「た、たまたま切れてしまって――じゃない」

菫は慌てて訂正しようとして、

場を流す一手を変え、淡を引くような目で見つめた

菫「いつも来るのはそれが目的か……?」

淡「ち、違いますよ~純粋に弘世先輩を好きだからです」

目が泳ぐ、

あからさまに、そういう感じだ。

だが、淡が言う好きというのも、別に嘘ではなく、

本心なのだが、ひっつくことに関しては、

理由の8割が良い匂いのためである

菫「今度から変えることにしよう」

淡「魅力半g――」

菫「聞かなかったことにしてやる」

言いかけ、睨まれかき消す。いつもの、いつも通りのやりとりだった


菫(仕方ない……帰りに買っていくか。と、いうより)

思えば、

昨夜あんなに乱れたにもかかわらず、

朝にはさっぱりすっきりしていたのに、

何故か今まで疑問に思わなかった

菫(私を洗ってくれたのか……)

自分の髪などに触れ、匂いを確かめる

確かに違う。いつもの自分じゃない。

これはこれで、自分があの男のものになったようで、

なんだか嫌な気分になる

菫(何が洗ってくれただ……洗われた。だろ)

自分が男に感謝してしまっていることに、

思わずため息をついた


誠子「あ、おはようございます」

尭深「遅れてすみません」

二年生2人が到着し、

少し遅れて、

照「遅くなった」

お菓子を買いに行っていた照が到着した

菫「食べながらはやるなよ? 牌が汚れる」

照「うん……ごめん。解ってる」

菫「……そうか、それなら良い」

常識的に見るなら、当然の流れなのだが、

いつもの流れを知る2人以外の3人は、

揃って首をかしげた

淡(いつもなら右手で食べて左で打つ。とか言うのになぁ……)

いつもの流れとのズレが、徐々に広がっていく

だが、この程度などまだ序の口に過ぎず、

誰一人、深く考えることはなかった


ここまで


そして部活が終わってすぐ、

菫はさっさと荷物をまとめた

淡「弘世先輩、もう帰っちゃうんですか?」

菫「ああ、色々あってな」

返すやいなや、

菫はそそくさと部室をあとにし、学校をあとにした

携帯を取り出し、

男からの連絡がないことに不満を覚えつつ、

新規でメールを打つ

菫(冷蔵庫には特になにもなかったからな。
   何か買って行ってやらないと、栄養が偏るな)

何を作ってやろうかと考えながら、

作って欲しいものを訊ねるメールを送り、

菫はスーパーへと向かった


菫(野菜の高騰がきついな……
    領収書で請求するか。そもそも、あいつは働いてるのか?)

だんだんと考えが主婦のような、恋人のような、

そんなものへと変わっていくが、

菫は全く疑問には思わず、そのまま買い物を続けていく

やがて、携帯が震えた

菫「返事が遅いな。まったく、作ってやる私の身に――?」

返信されてきたメールは男のものだったが、

菫はほんの少しいらだちを覚える。

返信されてきた内容が、

『何もいらない。買う必要もない』

というものだったのだ


菫(必要があるからメールしたんだが。いや、彼が既にしてくれた可能性も……)

そんな展開に少し期待する。

だが同時に、なんだか不安になった

もう会えないから必要ない。

そんな意味があるような気がして、

菫はそう思った瞬間、買い物かごを床に置き、

中身を戻す手間すら省いて、男の家へと向かった

菫(まさか、まさか。そんなことないよな!)

息を切らしながら、走る。

初日は逃げていたのに、今は何故か追う方で

そんな矛盾に苦笑しつつ、菫は家のドアを引いた――が、

開くことはなかった


菫「おい……嘘だよな、やめてくれ……」

震える指で、

男の携帯へと電話をかける

すぐにつながり、

菫「今どこに――」

菫の言葉を遮る声が受話器から響く

「ただいま、電波の届かない所にいるか、電源が――……」

音が消える。

何も聞こえなくなって、不安に目を見開き、

また別の希望へとすがりつくように、

ドアの前に座り込んだ

菫(電源が切れただけだ、それだけだ。きっとそうだ)

朝充電しているのを見ているにもかかわらず、

菫は必死にそう言い聞かせ、

ただひたすら……男の帰りを待ち続けた


だが、夜中になっても帰っては来る気配はなく、

菫(うそだ、うそだ、うそだ……いなくなるなって、言ったのに!)

我慢も限界に達し、涙をこぼす。

親には今日も友達の家に泊まるという連絡を入れ、

たとえ朝を迎えようと待つ意志を固め、

それを表すかのように、

膝を抱え込み、冷えつつある夜の町並みを眺める。

菫(……頼むから、帰ってきてくれ)

願う、祈る。帰ってこい。姿を見せろと、

菫は強く強く、祈りながら、空を見つめ、

眠ってしまいそうになるたびに自分に鞭打ち頭を覚醒させ、

結局……そのまま朝を迎えてしまった


酷使した頭は重く、

立ち上がろうとするとふらつき、

倒れ込んでしまう。

菫「くそっ……なんで……」

辛く、苦しい気持ちになる。

いなくてせいせいするべきなのに、

解放されて喜ぶべきなのに、

菫はそのどちらも感じることはなく、

心のポッカリと穴があいたような、

そんな辛い気持ちになっていた


菫(学校……いかないと)

そう思いながら、

自分が昨日の状態から何も変わっておらず、

風呂にさえ入っていないことに気づいて、

体の匂いを嗅ぐ

菫(一応、戻るべきかな、家に)

けれど、

振り向いた場所にある男の家。

自分が帰っているあいだに戻ってきたら。

そう思うと菫は動くことができず、

結局、服も変えず、風呂にも入らず、菫は学校へ行くことになった


菫(心配だけど、さすがに戻ってきてくれるよな?)

授業を受けながら、メールを打つ

菫(お願いだ、今日は帰ってきてくれ)

そう、祈りながら。

だがしかし、現実か、男か、

あるいはその両方は、

無情にも、非情にも、

メールを送ってから4限過ぎた今も返事は届けてくれなかった

菫(なんで、なんでだっ!)

少しぼさっとしている髪をかきながら、

携帯をいじっていると、

昨日と同じように照が近づく。

照「すみ――」

菫「あとにしてくれ」

聞くよりも前に、菫は言葉を切り捨てた


照「……どうかしたの?」

照がそう聞いても、

菫は答えるどころか、反応は一切せず、

ずっと携帯をいじり、

メールの問合せをしているだけだった

流石の照もその態度には憤りを覚え、

横から腕を伸ばし、携帯を取り上げた

照「……ちょっとき――」

菫「返せ」

顔は見ず、菫は自分の携帯を握っていてを見つめたまま、

照に言い放った

照「すみ――」

菫「私は返せと言っているんだが、聞こえていないのか?」


がたっと席を立ち、

照を睨むように菫は見つめ、

そんな姿に気圧されたのか、

照はおとなしく携帯を差し出した

菫「……邪魔をするならどこかいけ」

怒った口調でそう言うと、

菫はまた席に座り、携帯を見つめる

菫(くそっ、くそっ……)

一日会えなかったという不安と、恐れと、

怒りと……様々な感情が菫の心を侵し、

依存心をさらに強大なものへと仕上げていった


そしてあっという間に放課後になり、

菫は疲れきった表情で、携帯を閉じた。

菫(……何してるんだよっ!)

未だに連絡はなく、

増大した不安が心を大きく揺さぶり、

教室で、クラスメイトたちの前であるということも関係なく、

菫の目尻に涙を貯め、そしてやはり彼女が来た

照「菫……」

菫「照、私は帰る。伝えておいてくれ」

そういうだけで菫は横を抜け、

その逃げようとした手を。照は掴んだ

照「待って」

照が話したいがために言った言葉。

その言葉が、菫の怒りを一気に引き上げ、

彼女は手を振り払い、照を睨む

菫「何も知らないくせに、邪魔をするな!」

そして怒鳴り、菫は教室から出て行った

呆然とするクラスメイト。そして親友であるはずの照を置き去りにして――


ここまで


校門を出てすぐ、

菫は男に電話をかけたが、

やはり電源が入っていないという音声が流れ、

苛立ちながら携帯をカバンに叩き込んだ

菫「災害でも起きてるのか!? 役に立たないな……」

タバコによる中毒や、薬による中毒、

それらに似たような症状が、菫には起きていた

体が震える、あの感覚が欲しい。と、

なのに、唯一くれる男がいないのだ、

そのせいで不安になり、不安定になり、苛立つ

菫(とりあえず……探す)

菫は家へは向かわず、

男を探して、街の中を徘徊することにした


気づけばまた夜

歩きすぎて疲れきった足を休めようとはせず、

街を徘徊し続け、やがて……男の家へと戻る

しかし、男はいない。鍵も、開いていない

限界に来た心と体が、

菫を崩し、その場にヘタリこんでしまった

菫(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ頼む、頼む頼むっ!)

取っ手をつかみ、何度も何度も引く。

その最中、携帯が鳴り響き、

菫「やっとか!」

相手を確認することなく、通話を始めてしまった

『菫、いい加減家に戻ってきなさい』

あの男のものじゃない、そのことに少し困惑して、思い出す

懐かしくとも感じてしまう男性の声

菫「ぁ……ぉと……ぅさん?」

さすがに連続外泊を認めてくれるほど、優しくはないのだ


『連絡もなしに朝帰り、そのあとの2連続の外泊。
  そして今日も外泊。お前は親を舐めているのか?』

怒っている、明らかに。

けれど、菫とて心中穏やかではない

菫「――ってくれ」

『なに?』

菫「放っておいてくれ!」

普段ならありえない、

いや、普通ならありえない。

だが、今は異常なのだ。菫の全てが

『お前――』

言い終わる前に電話を切る

今の菫には、

あの男以外、なにもかもが……邪魔なのだ


菫「自分で……」

堪え切れなくなり、

外だというのにも拘らず、

菫は恥部へと手を伸ばした

菫「んっ……」

触れた瞬間、軽く薄い刺激が伝わり、

ほんのりと熱い吐息が漏れる、が、

それ以上が何も来ない

菫(イキたい、イキたいっ、助けて、だれか、誰か助けてくれよ!!)

触れど触れど、快感乏しく、

果てることなど到底不可能で、とめどなく涙が溢れ出す

そして、またしても携帯が鳴り響いた


菫「お、男か!?」

今度は相手を確かめ、落ち込む

また家からだったのだ

何分経過しても鳴り止まない電話に苛立ち、

菫は通話ボタンを押すと同時に怒鳴った

菫「いい加減にしてくれ!」

『お前がいいかげんにしろ!』

菫「ひぁっ……」

自分の怒鳴り声をはるかに凌駕する声が電話から響き、

壊れかけていた心に衝撃を与え、

少しだけであれ、菫を正気へと戻した


『母さんがどれだけ心配しているか解っているのか?
 今まではこんなことなかったのに、急にどうして。と』

それはそうだ。

菫が変わった、壊されたのはほんの数日前、

しかも本人には非がなく、完全な被害者。

急な話なのは当たり前だ

菫「それは……」

言えない、関係が壊される。

菫(壊されたくない……嫌だ、絶対っ)

今でさえ崩壊寸前なのに、完全に壊されてしまう

そんなことは……堪えられない

耳に宛てた携帯をギュッと握る

菫「――寮で暮らそうかと思って」

そして切り出す。嘘の言葉を


『それが最近のお前の行動とどう関係がある』

冷静な声だが、

怒っていることは十分に伝わってくる

菫は冷静に、冷静になりきれていない頭で言葉を練った

菫(私はあいつと暮らしたい、あいつがそばにいなきゃダメだ
   かと言って、本当のことを言えば許可は出ない。なら……)

菫はもう3年。

高校に通えるのもあと1年もない。

菫はそれを利用することにした

菫「もう、1年も通えないからみんなとの思い出に寮で暮らしたいんだ」

『……なら、さっきの態度はなんだ?』

さっきの自分に内心怒りながら、菫は言葉を選んだ

菫「ごめんなさい……会えなくなるのが寂しくて」

それは本心で、真実の言葉だった。

そうであるがために、悲壮感が重々と込められ、

父親の言葉が止まり、やがて声が女性に切り替わった

『とにかく、一旦。帰って来れる?』

優しい、優しい声。だが、それでも菫の心はどうしようもない。

しかし、菫は彼らの優しさすら……利用する

菫「うん、ごめんなさい」

心無い謝罪をし、菫は本来の自分の家へと向かった


「お帰り」

出迎えてくれたのは母親

菫「ごめん、お母さん」

謝罪する。私は帰ってきたわけじゃない。と、

私はもう、貴女の娘ではなくなってしまった。と、

そんな意を込めた謝罪は、

母親の笑みでかき消された

「良いのよ、お母さんも最後の1年は別れが寂しかったもの」

優しいその言葉は、

菫を傷つけただけだった

菫(そんなこと、どうでもいい)

慰めて欲しい、体を

今すぐにでも、果てさせて欲しい

そんな菫の心を、解ってくれていないのだ

そんなこと解るはずがないのに、苛立ち、そして思う。

菫(私を解ってくれるのは――やっぱりあいつだけ)

改めてそう認識し、菫は母親のあとについて、

リビングに入った


結果、寮に移ることを、

菫は許可をしてもらえた。

というのも、

何も解っていないが、解っている母親の助力もあり、

菫は許可を得られた

菫「ありがとう」

本心からの言葉、だが。そのあとに続く言葉があった

絶対に言えない。でも、言うべき言葉

菫(さようなら)

心につぶやき、菫はリビングから出て、部屋へと戻ると、

菫「出てくれ、頼むっ」

すぐにまた男とのコンタクトを取るために、

電話をし、メールを打ち、返しがないことに、

心を強く痛めつけられていった――


ここまで

俺「1、ありがとう」

本心からの言葉、だが。そのあとに続く言葉があった

絶対に言えない。でも、言うべき言葉

俺(続きまだか)

心につぶやき、俺はリビングから出て、部屋へと戻ると、

俺「来てくれ、頼むっ」

すぐにまた1の書き込みを取るために、

リロードをし、スレを読み込み直し、更新がないことに、

心を強く痛めつけられていった――


>>285

朝が過ぎ、昼が過ぎ、夜が来ても、

菫は街をさまよい続けていた

菫は学校に行くことなく、

あの男を探し求めていたのだ

菫(いない……いない……)

だが、

男が菫の前に現れることはなかった。

彼が菫の前から姿を消してしまった。それが、

菫の心に大きく穴を開け、

大切な何かを損なわせていた


だからか、暗い路地裏。

菫は気づけばそんなところにいて、

「お~い。お嬢ちゃん何してんだこんな場所でこんな時間に」

そんなところにいればやはり、

不良たちに目をつけられるのは当然だった

菫「……なんだ?」

「なんだじゃないんだよなぁ?」

「こんなところにいるってことは……さっ!」

不良は菫の胸ぐらを掴み、

そのまま勢いよく壁に叩きつけた


菫「っ……」

「楽しもうか」

1人が菫を押さえ込み、

もう一人が菫のスカートの中に手に入れる

本来なら抵抗するべきなのに、

菫は抵抗するどころか、受け入れていた

菫(もう、こいつらでも……っ!?)

しかし、ひとりが触れた瞬間、

菫は思わず足を出し、

相手を蹴り飛ばした

「っ、な、何すんだてめぇ!」

菫「き、気持ち悪い……」

「あ!?」

あの男にされたような感じは一切なく、

ただただ、気持ち悪い感じしかしなかったのだ


菫「お前たちじゃ駄――っぶ」

腹部に強く鈍い痛みが走り、

何も食べていないおかげで吐き出すことはなかったが、

暫く呼吸が乱れた

「顔は殴んなよ? 萎える」

「いや、レイプで気持ちよくなろうとか考えてる淫売相手には、
  相応しい扱いしてやるだけだよ」

そう言い、

菫が来ていた制服を力いっぱい引き裂いた

菫「っ……」

「さて、気持ちよくなれたら良いな?」

にやっと笑う顔が、菫に近づき、

菫は恐怖から体を震わせていた


あの男にも同じようなことはされた。

けれど、あの男は一度も、

自分がそうなろうとはしなかった

ただただ性教育をするかのように、

菫だけにその感覚を与えていた。が、

この人たちは違うのだ

この人たちはただ、自分たちのためだけに、

菫を弄ぼうとしている

その違いが、菫には衝撃的で

菫「や、やめ……やめてくれ……」

「今更何言ってんだよ」

不良は菫の足を掴み、容赦なく広げた


菫「っ、やめろ!」

恥かしいだとか、

体が火照ったりもしない

ただ嫌悪感を感じるだけ、

「おっ、コイツ初めてじゃね?」

「まじ? ラッキーじゃん!」

悲しい涙がたまり、そのまま溢れ出す

菫「やめ、やめて……」

男性が持つ醜い陰部が、

菫の恥部の割れ目に触れるそして――

「なに、してるんです?」

聞き焦がれた声、

ずっと聞きたかった声が耳に届いた


ここまで


「あ? 邪魔すんなよ」

一人が男をにらみ、

近づいていく。

威嚇のつもりなのか、

無駄に動きに威厳を持たせようとしているのか、

変な動きになっている。

当然、男は怖気付くことなく、

面倒そうに頭をかいて不良に微笑んだ

「邪魔してるのはそっちなんすよ。それは、俺のものなんで」

「はぁ? 見つけたもんがちなんだよ!」

なんのためらいもなく、不良は男に殴りかかり、

「できれば嫌なんですけど……その人抱えてかなきゃいけないし」

男は簡単にそれを避け、呟く

そして、乱闘が始まった


乱闘といっても、

一方的なものだった

菫に気を取られていた一人が参加せず、

1対1になっていたため、

男は簡単に打倒し、

もう一人もまた、簡単に打ち負かされた

菫「…………」

菫はただ黙って男を見つめる

男は黙って菫を見つめる

そして、訊ねる

「平気ですか?」

そして、怒鳴る

菫「平気なものか!」

涙を、嬉しさゆえの涙を流して


菫「なんでいなくなった!」

菫は続けて怒鳴る。

男に反論の余地も、

回答の余地さえも与えない

ただただ、怒りに身を任せて怒鳴った

菫「寂しかった、悲しかった!
   私の何かが欠けたようですごく……辛かったんだぞ!」

涙ながらに怒鳴る菫の頭を、

男は優しく撫で、微笑んだ

「すみません」

続けない。続くはずの理由を、男はかき消した


菫は男に会えないことで、絶望を知った。

失う辛さをした。

だからこそ、もう二度と失いたくないと心に強く思ってしまう

だからもう二度と、菫は男から離れられない

離れることができなくなった

「帰りましょうか」

菫「ああ、帰りたい。やっと、帰れた……」

男は完全に菫を手に入れた。

身も心も、

本来の彼女を破壊し、

何よりも、誰よりも、

自分を優先してくれる従順な下僕として。

男は菫を作り替え、そして――掌握した


家に帰り、

菫はすぐに風呂へと向かった

男が抜け落ちていたせいで、

全く気にする余裕もなかったが、

いざ会えたとなると、

全く洗ってない体からは嫌な臭いしかしなかった

菫「い、いるよな!?」

「いますよ」

髪を洗いながら、

外に呼ぶと、すぐに声が帰ってきた

菫「もう、やめてくれよ?」

「……わかってますよ」

男の声は穏やかで、

菫の気持ちを安心させる十分なものだった


だが、

男はそんな優しい声で、

菫に求めた。本来ならありえないことを

「貴女が俺に逆らわなければ、ですけどね」

それは菫に届き、

菫を急に不安にさせた

菫(また、またいなくなる……?)

暖かいはずのシャワーを浴びているのに、

何故か寒い、すごく寒く感じる

堪え切れず、菫は浴室のドアを開け放った

菫「頼む! やめてくれ、そんなこと言わないでくれ」

頭を下げるどころか、

膝をつき、手をつく

男はそれを見て、

ほんの少し、心に痛みを覚えた


菫「もう、もう嫌だ……あんなのは」

大切な何かが欠けた、何もなくなってしまう苦しさ、辛さ。

菫「なんでもするから……やめてくれ」

それを堪えきる自身はなく、

もしされれば本当に自分が崩壊してしまいそうで、

菫「お願いだから……」

何度も願う。いや、請う

そして、男はそんな菫の顔を上げさせ、微笑んだ

「貴女が従ってくれるなら」

そう言い、男は扉を閉めた

「さっさと済ませちゃってください」

菫「わ、解った!」

元気を取り戻した声が聞こえ、

男は複雑なため息を吐き、どこか遠くを……見つめた


ここまで


>>334

「家に帰らなくてもいいんですか?」

菫「親には寮に移ると言ってあるし、許可も貰った」

菫の回答を聞き、

男は驚いた様子を見せながらも、

すぐにそれを隠し、菫を見つめた

「変態さんはそういうことの行動力はあるんですね」

そして、茶化す

菫「悪かったな、お前と一緒にいたかったんだ」

そう言い、彼女は男に微笑んだ

それは悪ふざけの言葉に対しては、

あまりにも切実で、あまりにも真面目なもので、

男は言葉を返すことなく、俯いてしまった


菫「な、何か悪いこと言ったか!?」

その様子を見て、

菫は慌てて男に駆け寄り、

頭を下げた

菫「す、すまない、私が悪――?」

その頭に、ポンッと手が置かれ、

それは優しく頭をなで下ろした

菫「え?」

「謝ることじゃないし、弘世さんが悪いわけでもない。気にしないでください」

男は少し寂しそうな、悲しそうな表情で言うと、

席を立った

「晩御飯が食べたいです、作ってくれますか?」

男に訊ねられ、いや、頼まれ。

菫は元気よく頷いた

菫「任せてくれ! 美味しいのを作ってやる!」


男に任されたことが嬉しくて、

菫は楽しそうに料理を作り始めた

椅子に座っていた男は、

その様子を見てやはり、

男はため息をついてしまう

「……懐かしいな」

以前も見た、見ていた。

何度も何度も、そんな楽しそうな。光景を

菫「ほら、出来たぞ」

菫が料理を盛り付け、

男は席を立ち、受け取りに行く

菫「は、運ぶから座っていても……」

「別に良いじゃないですか。俺が勝手に手伝うんですよ」

菫「そ、それもそうだな。すまない……」


菫は男に離れられるのが怖いせいか、

男の一挙一動に怯えているし、

自分の言動が相手を不快にすることを恐れている

菫「ぁ、ぁの……」

「ん?」

自分が訊ねたから向かいに座る男が見ただけなのに、

菫にはそれが食事を邪魔したように思えて、

菫「あ、いえ……」

すぐに言葉を飲み込んでしまう

それが何度か続き、

男はしびれを切らしたのか、箸を叩きつけるように机に置いた

菫「ひっ」

「……言いたいこともしたいこともして良いです
  貴女がどんな言動しようが別に良い。命令に背くことがなければ良いんです」

あまり良いとは言えない言葉。

だが、菫にとっては、

すごくありがたい言葉だった

菫「わ、解った。お前の命令を絶対に守ればいいんだな?」

「そうですよ、それに背く以外なら。俺はあんたを手放さない
  絶対に、死なせたりも……しませんよ」

そう返した男の表情は、

なぜか、哀愁に満ちたものだった


菫「私は死なないぞ。絶対」

「そうっすか。期待してます」

菫の返しに、

男は小さな笑みを浮かべて答えた

それが馬鹿にされていると思ったのか、

菫はほんの少し怒った表情で、

男の額をつついた

菫「わ、私を馬鹿にするな!」

そう言って、彼女も笑う

このリビングは初めて本当の笑い声を響かせ、

部屋の明かりは嬉しそうに明るく輝いていた


菫「そういえば、私の料理は口に合うのか?」

食器を洗いながら、

菫が不安そうに訊ねると、

隣にいた男は菫の頭に手を置き、優しく微笑んだ

「ばっちりですよ。じゃなきゃ頼みません」

菫「そ、そうかそうかっ、よかった。嬉しいっ」

菫もまた嬉しそうに笑う。

犬ならば、尻尾を嬉しそうに振っているだろうな、と、

男は思いながら菫の後ろに回り、首にネックレスをかけた

菫「な、何だ、これ? ネックレス?」

「貴女が俺のものである証。
ペットに付ける首輪とでも思ってください」

酷い言葉なのに、菫は一切の嫌悪感も感じず、

嬉しそうに頷き男の方へと振り向いた。

菫「こんなものがなくても、私はお前のものだよ」

そして、そう言い、微笑んだ


ここまで


>>358

「そっちの部屋、自由に使ってください」

男は自分の部屋の隣を指すと、

自分の部屋にはいろうとドアノブに手をかけたが、

後ろに引かれ、立ち止まった

「なんです?」

振り向くと、

裾が後ろに伸び、

それを菫が掴んでいた

菫「一緒が良い」

そう言ってから、首を横に振る

菫「一緒じゃなきゃ、嫌だ」

捨て犬のような救いを求めるような瞳だった


「……………」

そんな目をされれば、

この男が拒絶できるわけがなかった

自分がそうしたのだから

自分がこの少女を、

これほどまでに脆いものにしたのだから

菫「嫌なら――」

「いえ、どうぞ」

扉を開け、

入って。と手を差し出す

菫「い、いいのか!?」

驚き、嬉しそうに言った菫は、

男が頷くのを見てから部屋へと駆け込んだ


菫「あれ、布団……」

「向こうに移ししましたよ」

男はぶっきらぼうに返し、

ベッドへと横になった

菫「……そうか、別にいい」

なのに、

菫は嬉しそうにそう言うと、

何の抵抗もなく床に寝転んだ

「何してるんです?」

菫「床でねる。お前のとなりという条件があるなら、
   布団もベッドも必要ない」

本心で菫は言ったのだが、

男は驚き、呆れ、そして笑った


菫「な、なんで笑うんだ!」

起き上がり、菫が怒鳴ると、

男は一瞥してから、

ベッドの自分の横に空いたスペースを軽く叩いた

「こっちでいいですよ。俺を殺したりしないでしょ」

嬉しい。だが、菫はそれ以上に、

彼の二言目が響いて聞こえ睨んだ

菫「死ぬなんて許さないぞ」

「………………」

あれだけ憎いと言っていた少女は、

目の前で、悲しそうな顔をして言い放つ

菫「お前は私が守る。何があっても、絶対だ」


男は一瞬だけ驚いた表情を見せてから、

菫「ひゃぁっ!?」

すぐに無表情へと変え菫をベッドに引き倒した

「可愛い悲鳴ですね」

菫「う、うるさいっ」

しばらく見つめ合い、

突然男は訊ねた

「俺が貴女と性的行為をしたいと言ったらどうします?」

菫「へ……ぇ?」

一気に真っ赤な表情になり、

そして、首を縦にふった

菫「ぉ、お前が……望むなら私は……いいっ」

「……そうですか」

優しげな表情で答え、男は菫に背中を向けた


菫(どうしたんだ?)

不安に思い、心配に思い、

菫は後ろから男を抱きしめ、

菫「私はお前から離れないからな」

男と同じように優しく囁き、

男は小さく笑った

「そうっすか、ありがとうございます」

菫「気にするな。けど、教えてくれ」

菫がずっと気になっていたこと、

菫がずっと聞けずにいた言葉

菫「お前の……名前は? 私は名前を呼びたいんだ」

菫の言葉に、少し考えてから、

男は静かに返した。振り向かずに

「京太郎。須賀、京太郎です」

菫「そつか、ありがとな。京太郎」

抱きしめる力が一層強まり、

男はその力強くも心地いい感触に身を任せ、

静かに――眠りについた


ここまで


>>377

朝目を覚ますと、

隣に少女が寝ている。

今までなかった、光景。

「……………」

京太郎はやや辛そうな表情で菫を見て、

すぐに視線をそらした

まだ何も終わってない。

始まったばかりの破壊。

だが、京太郎は序章とも言えるこの段階でですら、

残してしまった僅かな良心に苛まれ、

進めずにいた


京太郎は昨日、

菫の優しさに触れ、安心してしまった。

彼女を拷問のように苦しめなければいけない、

そんな決意を秘めていた心を、

一瞬でも委ねてしまった

「っ……」

だからこそ、苛まれる。

わずかばかりの良心が、

その一瞬に食らいつき、隙間を広げていく

菫「ん……?」

なんの偶然か、菫は目を覚ましてしまった

菫「どう、したんだ?」

そして、見てしまう

自分を穢した男が、守ると誓った京太郎が、

泣いているのを――……


「な、なんでもないですよ」

なんでもないはずがない。

菫(そんなわけない……)

聞きたかった。

不安だし、心配だし、

怖い。だが、それ以上に、

聞くという言動が相手にとって不利益であり、

嫌悪感を抱かせるものではないかという恐怖が、

それを押さえ込み、沈めてしまう

菫「……出来ることがあったら、言ってくれ」

言えるのは、それくらいしかない。

菫は京太郎に微笑み、呟く

菫「私はお前のためなら、なんだってするから」

その言葉が、京太郎のためになると信じ。

が、現実はそんな優しくはなく、

「っ……」

ゆえにその言葉は。京太郎を傷つけてしまっていた


中断


「なんでも?」

京太郎はそう訊ね、

菫を押し倒し、

力強く押さえつけた

菫「きょ、きょうた……ろうっ」

ベッドの上であり、

打ち付ける痛みはなかったが、

掴まれている肩が痛む。

けれど、菫は微笑んだ

菫「ああ、なんでもだ。お前が私の体を望むなら捧げるし、
   お前がして欲しいというのなら、なんでもする」

純粋、されど壊れた瞳で見つめられ、

京太郎は力を抜き、菫から離れた

「朝食が食べたいです。作ってください」

今日は土曜日、学校はない

菫「といっても材料がないんだ。買い物に行こう」

半身を起こし、嬉しそうに言う彼女に背を向け、

京太郎は小さく頷いた


休日に男女2人が並んで歩いている姿を見れば、

たいていの人は、デートだと思うだろう。

もちろん、父子、母子、姉弟、兄妹など様々なものがあるが、

親子以外はそうそうわかるものじゃない。

菫「今日は何が食べたい?」

「なんでもいいです」

菫の問いに、京太郎は本心から適当に答えた

食べたいものなどない、

貴女が作る。それならなんでもいい

省略しなければいいものを、彼はする。しなければならない

菫「それが一番困るんだけどな……」

そう言いつつ、

言葉の裏に秘めたモノに気づかない菫は、嬉しそうに笑っていた


「結局何作るんです?
  冷凍ものは一切買う気ないみたいですけど」

菫「なんだ、電子レンジ調理だけがお好みか?」

会計に並びながら、

2人が話していると、

背後から声がかかった

淡「弘世先輩?」

菫「淡、奇遇だな」

淡「き、奇遇……ですね」

淡はカタコトに近い変な口調で菫に言葉を返した

と、言うのも

淡(あ、あの部長が彼氏!?)

なんていう思考に脳の99%近くを支配されているせいだ


>>414

淡は黙り込み、必死に考える。

2人の関係が、

本当に恋人なのかどうか。

聞けば一瞬で解決する話なのに、

自力で解決しようとするのは、

淡の探究心ゆえなのだろうか?

淡(というか、2人で仲良く買い物してる時点で……)

思考が途切れる。

ちょっと待て。と、淡の心がセーブをかける

買い物している

それは一目瞭然、で。何を買い物している?

淡(食料品だよねぇ?)

そこまで考え、

口元がヒクつく

淡「ちょっと待ったぁ!」

思わず声に出してしまっていた


菫「な、なんだ急に……」

衆目が一瞬集まり、

直ぐに拡散していく中、

淡は菫と京太郎を交互に見て、

深く頷いた

淡(どう考えても、兄妹とかじゃぁない)

なのにもかかわらず、

食料品の買い込み

そこから淡が考えついたのは、

菫のための食料品

男のための食料品

両人のための食料品

だが、淡は以前、

菫が実家通いだということを聞いているため、

1つ目は削除した


つぎに男のための食料品。

この線が一番あり得る、

というか、これであってくれ。と、

淡は小さくうなり、

されど、まだ決め兼ねていた

淡(男の食料なら、自分1人で買うべきだし、
   部長が通い妻なら、部長が一人で……)

そこまで考え、

一気に血の気が引いて、

思考も一緒に流されて消えていく

そして頭を振り回し否定した

淡(同棲!? うそうそうそぉ!?)


「……思ったより、個性的なんですね。大星さん」

淡「え?」

名前を呼ばれ、静止し、

そして恐る恐る男の顔を見上げる

明らかに自分の知り合いではない。

ならなぜ名前を知っているのか、

それはやっぱり、隣にいる部長からしかありえない

淡「し、知ってるの? 私のこと」

「知ってますよ。大星淡さん」

男の視線に、

淡は言葉にし難い恐怖感を覚え、

体を震わせた

菫「どうした? 淡」

なぜ、どうして平気なの?

淡は半歩後退り、

異様な空気の2人を見つめた


「男の人に見られるのは嫌ですかね」

少しして京太郎は苦笑し、

買い物かごをレジに置いた

淡「ひ、弘世先輩。あの人は……」

京太郎が少しばかり離れたことで、

緊張がとけ、

淡は菫に声をかけた

菫「私の何よりも大事な人だ」

菫は考えることなく、

迷うことも、躊躇することなどなく、答え、微笑む。

淡(なんだろう、何か違う。何か変だよ……)

普段の菫を知っているからこそ、

淡はそのなんの変哲もない回答に違和感を覚えた


しかし、

何が変かと聞かれても、

淡には何かが。としか言い様がなかった

何かが違う。

しかし、その何かを具体的に言うことができない

菫「どうした?」

淡「ぁ、いえ……」

何かが違うせいで、

彼女を弘世菫だと認識できない

だから、引いてしまう

「弘世さん、小銭あります?」

菫「ん、あぁ、淡ちょっと待っててくれ」

楽しそうに、仲良さそうにする2人

それを見つめ、淡は首を振る

淡(なんだか怖い……あれは、部長のはずなのに……)

少しずつ後退り、

気づいたときには踵を返し、走り去っていた


ここまで


>>428

菫「ん? 帰っちゃったか」

菫が振り返った時にはもう既に彼女は走り去ったあとで、

淡が自分に怯えていたことなど

知る由もなかった

「……大星淡、か」

京太郎はそう呟き、

ほかの言葉をすべて頭の中で響かせる

自分の心がどうあろうと、

プロローグに踏み込んだ以上

後戻りはできない


ならばもういっそ、

自分の心も含めて壊してしまえばいい

元々半壊しているのだから。と、

京太郎は心に鞭打ち、

消し去った言葉を紡ぎ出す

「……菫さん、月曜日にお仕事お願いしていいですか?」

菫「おしご――と?」

菫は京太郎を見つめ、

その非情な冷たさを感じ取り思わず身を震わせた

菫「な、なに……を?」

「簡単です。大星さんの家の鍵、盗んできてください」


家の鍵を盗む。それはすなわち――

菫「ま、まて! それは」

「…………………」

京太郎自身にはそんなつもりはないのかもしれないが、

菫はその視線に恐怖を覚えうつむく

菫(私だけでなく淡まで……でも)

もしも逆らって

また離れられたら堪え切れる自信はない

しかし、砕かれ再構成された心でも、

後輩を思う気持ちがなくなったわけじゃない

だからこそ辛く、苦しい。しかしながら

優先度は京太郎に対しての従順の方が上

それは自分のせいではない。という僅かなほころびがある

そして彼女は首を縦に振る。振ってしまう……いや、

振るしか道はなかった


家に帰ると

もうすでに昼に近い時間帯だった

菫「……すぐ、作るから」

「……お願いします」

菫は京太郎に怯えていた

元々植えつけられていたものが

一度は隠れ、しかしまた出てきてしまったのだ

普通に会話していたことすら、

菫は恐ろしく感じ、言葉が消える

京太郎自身も未だ消せない優しさを削り、

その恐怖心を煽るように、沈黙する空気をさらに重く暗いものへと変えていく


頼ってしまいたいと思った

委ねてしまいたいと思った

そんなぐらぐらな心ならば

いっそ、いっそ

罪悪感に押しつぶされてしまえばいい

どうやって壊す? どう壊す?

2人目を破壊することを躊躇しないように

自分自身を変えなければダメだと、

京太郎は心に杭を打ち込み

菫を見つめる否、彼女を睨んだ


自分に優しくしようとした、

いや違う。と首を振る

自分の心の隙に付け入ろうとした彼女を、

京太郎は頭の中に置き、

どうするかを思案しやがて頷く

(……まずは、利用する)

彼女をさらに深く見つめ、

その先をその内を見るかのように睨む

(なんでもしてくれるんですよね? 菫さん)

京太郎は自分の心を壊すために、

菫をさらに深く傷つけ破壊することを決めていた

中断


菫「出来――っ!?」

料理を運び、

机に皿をおいた手を京太郎は掴んだ

菫(……なんだ? なにを)

ただ掴むだけなら、

菫が警戒するわけはないし

怯えるわけもない

京太郎は黙って

しかし、鋭く睨んでいた

菫「っ……」

さんざん与えられた恐怖心が、

体を震わせ冷や汗をかかせる

「やりましょうか、俺と」

菫「やるって、なにをだ?」

何かは解っているが

なぜかそう、訊ねてしまっていた


「セックスです」

菫「よく平気でそんな言葉を――」

「そっちだって、その紅潮は恥ずかしさじゃないんでしょ?」

にやっと笑い、

伸ばしてきた手を、菫は払った

菫「お、まえ……」

図星だった。

だからこそスカートの中に触れさせるわけには行かない

「あぁそうそう。
 ただやるんじゃつまらない。勝負しましょう」

菫「勝負?」

「俺を満足させられたら、俺はあんたの願いをなんでも叶えてやる
  出頭しろというのなら。する」

だが。と、彼は言葉を続けた

「俺が勝ったら、お前を壊す」

菫「っ!?」

中断


菫(壊す? 私を……)

愕然とした表情で菫は彼を見つめ

彼は冷徹な表情で菫を見つめ返した

菫「ゎ、私は……もう」

「壊れていませんよ」

人間の生活ができている時点で

物事を考えることができている時点で

「貴女はまだ……生きてる」

超えなかった一線。

越えられなかった一線

でも、目的を達するために、

自分の中身をさらけ出してしまう前に

「俺はあんたを……壊さなきゃいけない」


菫「……だ、だが、待て」

菫は負けることはなんとなくわかっていた

自分を辱めてきた、蹂躙してきたあの数日間

この男は一度も自分に対して欲情していないと、

わかっていた

それはつまり、自分では相手として不十分であるということ

菫「お前は私相手じゃダメだろう?」

だが、彼は笑う。

「貴女が本気になれば反応するかもしれませんよ?
  少なくとも、俺は男なので」


ここまで


菫(私が本気になれば……か)

菫「っ!?」

太ももを伝うほんのり冷たい何かに気づき、

思わず視線を落とす

これほどまでに

自分がジーンズなどであり、

スカートなどの足見せではないことを喜んだことはない

しかし、

京太郎は見てなくてもわかっていた

「する前からそれで……平気なんですか?」

菫「お、お前がそういう体にしたんだろうが!」


「だからといって、何もしなくても濡れるようにはしてないですよ?」

京太郎の嫌味な視線

恥辱に頬を染めつつ、

それに隠れるようにして

体はどんどん火照っていきそして欲する

菫(今日はしてない……昨日も、朝したくらいだ)

いとせずとも体が疼き

空いた手が勝手に股間をまさぐろうと動き

理性がその手を縛り上げていた

「……ご飯食べてからのつもりだったんですけど、
  変態で淫乱な菫さんには無理な話ですね」

菫「また、私を馬鹿にしてっ!」

「否定できるならしたらどうです?
  でもできない、だから怒鳴るしかない」

京太郎は菫を見つめ、

精神的に追い詰めていく

「そこらへんの不良と同レベルの思考っすよ。それ」


菫「京太郎!」

手は京太郎の胸ぐらを掴み、

拍子にぶつかった机の上で醤油が倒れ溢れ出す

「暴力ですか?」

菫「っ……」

違う。違う。

菫は心の中で何度もそういい、

泣き出しそうになりながらそれを押さえ込み、

京太郎を見つめた

菫(なんで急に、お前は……)

信じたのに、すべてを委ねると決めたのに、

京太郎がいなければ私は壊れる宿命だというのに、

そんな思いが心を、体を、頭の中を駆け巡る


そしてその巡る思いが、

菫の口をこじ開け飛び出す

菫「わかった」

「……元より拒否権なんてありませんよ」

そんなことは解っている

菫はそういう目つきで京太郎を一瞥し、

手を離した

菫「私が勝ったらお前のすべてを私に話せ」

「……? どうしてですか?」

菫「お前に消えられても困る」

だからこそ聞く? いいや、違う

大切なのだ。かけがえもなく。

そして何よりも――そばにいて欲しい

菫(それが間違った思いなのは100も承知)

けれど

菫(いまある私が願うことなら、私はそのためにするべきことをするだけだ)

壊される以前の強い瞳、

穢れたものであるはずなのに、それを全く感じさせない

「……解りました。勝てたらですよ」

京太郎は驚きを無表情の下に隠し答えた

「では、部屋に行きましょうか」


ここまで

>>490訂正

菫(私が本気になれば……か)

菫「っ!?」

太ももを伝うほんのり冷たい何かに気づき、

思わず視線を落とす

これほどまでに

自分がひざ下までいく長いスカートであり、

ミニスカートなど、足見せではないことを喜んだことはない

しかし、

京太郎は見てなくてもわかっていた

「する前からそれで……平気なんですか?」

菫「お、お前がそういう体にしたんだろうが!」


「さて、どうします?」

部屋に入ると、

京太郎は菫にそう訊ねたが

菫がその言葉の意味を解っていないのに気づき

呆れたため息をついた

「正直勃ってすらいないんで、
 攻めも受けも何もないんですよ」

菫「勃つ……?」

菫にはまだ分からず、

京太郎は首を横に振り、自分の陰部に触れた

「これが大きくなるってことですよ
 無知な子供に言うとすれば発情させろってことです」


中断


菫「……私はそこからやれってことか?」

「そうですね、それが一つ目
  俺はもう、する必要なさそうですしね」

京太郎はそう言うと、

菫の全身を流し見て目を見つめ笑った

菫「っ……」

2人はすでに下着姿で、

菫の下着は見るよりも明らかに湿っていた

すでに期待している。

すでに準備を終えている体に対して

菫はほんの少しの憎悪を抱きながら、

菫(少しでも体が落ち着けば……)

そんなありえもしない希望にすがるように、手を伸ばした


しかしながら

知識の浅い菫にはどうしたら良いのか分からないし

相手に聞くわけにも行かず

もどかしい手つきで触れられ

気持ちがいいというよりも、

京太郎にとってはくすぐったく、

菫(くそっ、どうすれば……)

京太郎(……人に触られるのは初めてだな)

行為に及んでいるとは思えないほど

静かな思考だった


中断


菫「……こ、こうか?」

勃っていない柔らかい陰茎は

右へ左へ上へ下へと右往左往させられ

性的交渉を行うどころか、

トイレに行きたくさえなってくる

「全然違います」

冷静に対処しつつも

一旦急速でトイレに行きたいと心は焦る

相手のあんな醜態を目撃している以上

それがどんなに恥ずかしいことかは解っていたからだ


「あの」

菫「なんだ、今忙しい」

それは見てわかる。

(けど、それどころじゃない)

京太郎は若干冷や汗をかきながら

陰茎に触れる菫の手を掴んだ

「ちょっと放――っ!?」

菫「な、なにする!」

放して貰おうとしたのに、

菫は逆に握る手に力を込め、

尿道が圧迫されると先端からわずかに尿が出てきてしまった

菫「なんだこれ……ぉ、お前」

何の躊躇もなく手についたそれの臭いを嗅ぎ、

菫は京太郎を睨んだ


「だから放して貰おうとっ!? な、なにして……」

菫「私もさせられたんだ、お前もしろ!」

菫はあの一件を、

当然のことながら根に持っており

この気を逃すつもりはないらしい

「ば、馬鹿なこと言ってないで放してください!」

菫「断る!」

2人の抵抗のぶつかり合いは、

偶然にも陰茎の皮を上下させ、

男性自身の自慰と似たような効果を生み出し始めていた

中断


菫「これは、なんだ……? なんで大きくなった」

菫はまるで新しいものを見るように、

京太郎の陰茎を見つめた

「勃起です……男が性的に高ぶると、すべからくそうなります
 貴女で言うと股が濡れるようなものですよ」

そこまで言われてようやく菫はさっきの言葉を思い出した

菫「じゃ、じゃぁこれで準備はいいんだな?」

「………では」

京太郎は答えるよりも早く菫の恥部に触れ、

艶かしくねちっこい水音が響いた


菫「んぅっ!? ぉ、お前!」

「貴女があまりにも下手なので俺が攻めますよ」

だが、それはあまりにも不利だと思ったのか、

京太郎は触れていない方の人差し指を立てて菫に見せた

「俺は10分間菫を刺激します。その中でイケば菫さんは負けに近づきます」

ただし。と繋げ、視線を菫と重ねた

菫「ただし? ただしなんだ」

「菫さんには30分上げるので、その中で射精させられたら菫さんの勝ちです」

菫「えらく良心的だな、それとも私を馬鹿にしてるのか?」

(良心的。か……こんなことしてる時点でそんなのないも同然なのに)

「それじゃ、頑張って耐えてくださいよ?」

京太郎は薄く笑うと、

菫のクリトリスを強く引っ張った


菫「ひぃっ!?」

一分と持たずに菫はビクッと体を震わせ、

一度目の絶頂を迎えてしまった

(さすがに初めてでは……いや)

まだ自分が甘さを捨てきれないことは分かっていた

相手に30分自分に10分というハンディキャップを設ける時点で甘い。

いや、もしかしたら期待しているのかもしれない

菫がこの勝負に勝ち、自分を刑務所に叩き込み、

世界から切り離してくれることを。

菫が話を聞き、叱って。そして止めてくれることを

「そんなわけ……」

京太郎は言い聞かせるように津美焼き、そして怒鳴った

「そんなわけない!」

期待なんかしていないと、怒鳴った


菫「まっ、やめっ――」

京太郎は間を開けることはせず、

もう一度クリトリスを捻りあげた

菫「ひいぃっ!?」

痛みもあるが、その何倍もの快感を身に受け、

菫は少し仰け反る

それは逃げようとしているようにも見えるが、

逃げられるわけもなく

「まだ2分ですよ?」

嘲笑じみた声が耳に届き、

菫は男を睨もうとしたがそんな眼力はとうに失われていた

菫「もふゃ……」

「あと8分です」

あくまで膜は破らないようにと、

人差し指のみを菫の膣内へと挿入し、かき混ぜた


そして9分ほど経った頃、

菫「あぃっ……みゃっやっ……」

言葉にならない切れ端が菫の口から漏れて消えていく

京太郎はそれを完全に無視し、

時計をちらっと見てからまた指を素早く動かし、

菫の幾度目かの絶頂を促した

菫「ひゃっぁぁぁああっ」

ビクビクと痙攣する菫を尻目に、

京太郎は菫の恥部から溢れ出た液体を手のひらに溜めると、

空いたまま塞がらず、涎を垂れ流す菫の口の中へと流し込んだ

菫「う゛ごほっげほっ……ぉぇ……」

「どうです? 自分のを飲んだ気分は」

菫「っ……ざけ、るなっ」

菫はほんの少し戻った意識を振り絞り、京太郎を睨んだ

>>542

津美焼き→呟き



ここまで

sage進行age厳禁


「どうぞ、今度は菫さんの番ですよ」

菫「……っ」

自分の口の中に広がる、

なんとも言いがたい奇妙な味が不愉快になり、

菫は顔をしかめた

「なにもしないなら菫さんの負けですけど」

京太郎はどちらにせよ負けない

そんな余裕があるようにも見える

菫「……絶対後悔させてやる」

「へぇ、どうすーーっ!?」

菫は少し迷ってから、

京太郎の陰茎を口に含んだ


こうすることに抵抗がないわけがないし、

こういうことに関しての知識があるわけでもない

しかしながら手ではどうしようもないし、

大きいならともかく平均の胸部ではなにも出来ない

必然的に恥部か口かになるわけで、

下は嫌だった。保健体育の知識が正しいのなら妊娠するからだ

菫(……問題ない)

幸か不幸かさっき体液を飲まされたお陰で、

臭いはともかく、味は気にならなかった

「な、なにして……」

菫「ふぉんふはるは?」

上目遣いでありながら菫に睨まれ、

京太郎は押し黙った


今まで無関心であるかのように装ってはいたが、

京太郎とて男性である以上、その感覚は耐えがたいものだった

口腔は程よい温かさであり、

慣れていない相手の舌が、

剥き出しになった陰茎をぬるりと舐めて刺激する

「っ……」

まさかされると思わなかった口での行為に、

京太郎の性的な部分は抵抗しきれず反応してしまう

菫(さっきより固い……?)

(これを30分もされたら……)

京太郎は焦り、そしてある考えに至った


相手に30分も与えることを甘さゆえと思っていたが、

真剣に勝負を受けていること事態が甘さではないのか?

京太郎の思考の半分をそんな黒い考えが埋めていく

菫は少なくとも勝負に卑怯な手は使わないだろうと「信頼」している

だが、その信頼を裏切ってはいけないとは誰もいっていない

もとより悪役、悪魔で犯罪者なのだ

本当の強姦と言うものを教えてあげるべきではないのか?

「…………………」

京太郎は数分悩み、菫の頭を掴んだ

中断


菫「…………?」

菫が不思議そうに京太郎を見つめ、

彼もまた、菫を見つめていた

「……やめです」

菫は最初、もう負けを認めたのかと思った。

しかしそんな淡い期待はすぐにかき消され、

救いのない絶望に突き落とされた

菫「ん゛ん゛!?」

菫の頭を無理やり動かし陰茎をなんどもしごく

京太郎は菫の頭をまるで道具のように扱い、

「貴女がやろうとしてたことですよ」

苦しそうに呻き声を漏らし、涙を溜める菫に言い放った


菫(なんで、なんで……)

菫「う゛ぅぐぅ……う゛う゛」

陰茎が菫の喉奥にぶつかり、

顔が京太郎の股間にぶつかってパンッパンッと音を立てる

「……吐き出したら罰則ですよ?」

菫(……?)

虚ろな瞳を京太郎へと向け、

何事かと思った菫の口腔に京太郎は容赦なく射精した

菫「う゛!? ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

「ダメですよ、抜きません」

菫の頭を自分の股間部に押し当て、

喉の奥の方まで陰茎を挿入し射精したため、

飲み込む飲み込まない以前に、菫の胃の中へとそれは流れていった


菫の抵抗も虚しく、

射精し終えるまで抜いてもらえず、

菫はそれを井の中に溜め込んでしまった

菫「げほっごほっ……お、お前!」

キッと菫が睨むものの、

京太郎はそんなことはお構いなしに菫を押し倒した

菫「やめろ! フェアじゃない!」

「フェアである必要なんてないんですよ」

京太郎は薄く笑ってそう答えた

菫「お前が勝負をするといったんだぞ! だから私は……」

菫(信じていたのに)

それを裏切られたことが菫の内部を深く傷つけ、

恐怖とかではない、純粋な涙をこぼした

菫「……私を壊すのか?」

「……なぜ聞くんです?」

別に聞く必要はないだろう。と、首をかしげて尋ねると、

菫は開いていた目を閉じ、口を閉じた


数分の沈黙のあと、

菫は京太郎に言葉をぶつけた

菫「何されるのかくらい、知っておきたいからだ」

まっすぐ京太郎を見つめ、

回答をしないとか誤魔化すとかを許さない。

そんな言葉が続いているようにも感じた

しかし京太郎は答えることなく、

菫の膣内に陰茎を挿入し、膜を一気に突き破る

その優しさのない行為によって引き起こされた鋭い痛みが菫を襲った

菫「あっぁぁぁ……ぐぅぅうぅぅ……」

辛い、哀しい、痛い、苦しい、悲しい。

菫は流れる涙を拭きもせず、

京太郎をその瞳に写した

「…………………」

彼は何も言わない。しかし菫は言い放った

菫「この、馬鹿野郎……」

京太郎はそれに応えたのかなんなのか、

まだ痛みが収まっていないのにも関わらず行為を強行した


菫「……………」

「………………」

菫の恥部から鮮血が漏れ出し、

繋がっている京太郎の陰茎を流れ、

やがてそれは布団にシミを作る

菫も京太郎も何も言わず、

まるで猿のように行為に没頭していた

でも、それは京太郎であって、

菫はもう涙を流したまま死んだかのように動かず、

ただ京太郎にされるがままの人形のようで、

光のない虚ろな瞳を天井へと向けていた

裏切られたことか、純潔を奪われたことか

菫の心をへし折ったのは前者だ

もう頼れる相手が京太郎しかいない。

なのにその京太郎に裏切られたことが菫を砕いたのだ


「…………」

やがてそのつまらない性行為が終わりに近づき、

京太郎は容赦なく菫の膣内に出そうとした

それに対しては菫も抵抗しないわけがなかった

妊娠するのが嫌で口にくわえたのに、

無理やり頭を動かして口と胃と体内を汚し、

今度は強行して純潔を奪った挙句、

胎内を汚そうとしているのだから。

菫「ゃ……」

菫の頬を新しく涙が伝う

菫の手が京太郎を引き剥がそうと京太郎の体を押すが、

全く動じることはなく。

菫「やっ、やだ……」

「………………」

菫「やっ、やめ……やめてくれ……きょうたろぉ……」

菫の懇願を無視して、京太郎は容赦なく胎内に射精した

ここまで


菫「っ…………」

「良かったですよ、菫さん」

京太郎はそう言い残すと、

菫の反応を見ることなく部屋を出ていった

菫「ぅ……っく」

貞操を奪われたことは別に良かった

もう京太郎なしでは居られないし、

それ以外の相手は怖かったから。

菫「出さ、ないと……」

今まさに彼に行われたえげつない非道な行為が怖かった。

彼なら、京太郎ならそんなことはしないと信じていた

元はと言えば、

自分を改造したのは他でもない京太郎であるにもかかわらず……

菫「どうして、どうして……」

菫は壊れたようにーーいや。

壊れてしまった菫はいつの間にか動くのを止め、

呆然とどうして。と

ただただ繰り返すだけだった


甘さは捨てられたはずだ

京太郎は飲み終わり、中身のない缶を握り潰した

苛立ちか、焦りか。それともーー

京太郎は菫の意思や人権を無視して蹂躙してきた

屈辱を与えた。恥辱を与えた。絶望も与えた。

苦しかったはずだ、辛かったはずだ

悲しかったはずだ、痛かったはずだ

嫌だったはずだ、怖かったはずだ……なのに

そうあるように仕向けた。しかし、人形ではなく、

弘世菫として彼女は傍に居ようとした

「ふざけるな……ふざけんな……」

何ヵ月も苦しみ、嘆き、悲しみ、

怒り、憎み、怨み続けて到達した復讐という決意を、

弘世菫は歪めた。宥めようとし、慰めようとした。


弘世菫は無関係だった。

少なくとも復讐されるべき人間ではないのは確かだった。

しかし、宮永照という諸悪の根元の親友であるという唯一の汚点が、

復讐の矛先に選ばれる資格となり、絶対の理由となった

だが、たったそれだけなのだ

彼女自身にはなんの罪も責任もない

だから中途半端に甘さが残ってしまった

「……大丈夫、大丈夫なはずなんだ」

言い聞かせるその行為こそが否定だと。

京太郎は気づくことはなかった

ここまで


京太郎が頭を痛めていると、

2階にある自分の部屋からドサッという鈍い音が聞こえた

「っ!?」

泥棒とかはあり得ない。

つまり音源は菫以外なく、

京太郎は慌てて部屋へと戻った

「何してるんですか!」

菫「……ごめんなさい」

ベッドから落ちたのか、

菫は床に倒れ込み、小さく呻くように謝った

痛々しく、同情禁じ得ないその姿は、

まさしく京太郎が望んだものだ

しかし、京太郎には喜びもなにもなく、

黙って菫を抱き起こし、ベッドへと横たわらさせた

(……くそっ)

解っていた。判っていた。

それがどんなに虚しく、惨めで、馬鹿で、

無意味で、残酷なことかって事くらい

それでもやらずにはいられなかった。

どうしても宮永照がゆるせなかった。

菫「……どうして」

菫の手が、京太郎の頬に触れた

「……………」

菫「どうして……泣くんだ?」

菫の壊れた瞳が京太郎を見つめる

以前のような心はないはずなのに、

人形になり下がったはずなのに。

「どうしてそんなこと…………」

後悔なんてしないはずなのに。

京太郎は今まさに後悔していた。

いや、菫の宣言通りーー後悔させられたのだ


「……なんで心配するんですか?」

京太郎が訊ねると、

菫は無表情まま首をかしげた

菫「……嫌か?」

「…………すみません」

精神を壊したにも関わらず、

菫は京太郎を心配しているのだ。

それは依存させたからであり、

弘世菫としての折れることのない主軸が、

優しすぎ、暖かすぎるからだった。

たとえ心が壊れても、

人に対して優しくあるというものは歪みさえしなかったのだ。

それが京太郎を苦しめ、京太郎が壊そうとし、

壊せずに敗北したものだった


(話しても良いか……)

京太郎は菫に並んで横になると、

小さくため息をついた

人間である時の菫が望んだこと。

今の菫には話すだけ無駄かもしれない。

だが、無駄だからこそ話せる

(……いや、違うな)

結局甘さが残ったのだ。

そして期待してしまっているのだ

菫が慰めてくれることを。

「……どちらにせよ、俺の敗けじゃないですか」

菫「……そうなのか?」

菫らしくない無機質な声が響く。

そうなうようにしたのも自分だ

「……実は俺。付き合ってる人がいたんですよ」

京太郎は静かに語り始めた


「特に目立つこともない人でした」

天井に映像が見えているかのように笑った

「どこにでもいそうな文学少女で、
  俺の幼馴染みだったんですよ。小学校の時は」

小学校から中学に上がる頃、

宮永照と宮永咲は離別したのだ。

照が一方的に縁を切っただけであり、

咲は一切悪くはなく、照だけが悪いのだ

咲になにを言うでもなく、照は咲を避けるようになり、

両親はこれはダメだと仕方がなく東京と長野に別居することにした

「そこまでは許せますよ……でも」

ぎゅっと拳を作り、京太郎は続けた


ここまで


「一時期凄くネガティブだったけど、
  宮永照からのアクションがなかったからまだ良かった」

思い出すだけで苛立ち、

恐怖ではない震えが体を襲う

「でも、でも! あいつは!」

自然と語気が強まっていく。

冷静ではないと判るが、自分では止められない

そんな京太郎の手を、菫は握った。

優しく、包み込むように。

言葉のない制止が京太郎の熱を下げていった

「……すみません」

菫「………………」

菫はなにも答えず、少しだけ手に力を込めた

「……あいつは妹なんていないって雑誌に言いはなったんですよ」

咲の存在を自分の周辺から消し去ったんだ

「咲はそれで凄くショックを受けて、精神的にまいって……」

それで、それで……

「それで……自殺したんだ。全部私が悪いからって」

泣かずにはいられず、

そんな京太郎をーー菫は優しく抱きしめた

中断


「菫さん……?」

菫「……解らない。京太郎の気持ちが解らない」

菫は優しく、静かに囁く。

菫「私は他人だから、解らないんだ……すまない」

人形的な、機械的な無機質な声ではなく、

弘世菫という人間らしい声だった

自分を陵辱し、苦しめ、傷つけ、辱めたというのに、

この少女はそれらの怨みや憎しみを投げ捨てて京太郎を慰めようとしていた

菫「でも、本当に辛くて、苦しくて、悲しくて、憎くてどうしようもなかったっていうのは解るんだ」

それは短いものであったとは言え、

京太郎が依存し始めた菫を置き去りにしたつい先日の出来事からの経験だ

すがれるものがなくて、助けてくれるものもなくて、

ただ喪失感と悲しさだけがあって……。

菫「泣すがるのなら私の胸を貸そう。八つ当たりたいのなら私の体を貸そう
   私はお前が必要だ、京太郎が死ぬなら私も死ぬ。そう言えるくらいには離れられない」


菫「だから……頼む。置いていかないでくれ」

「………………」

それはまさしく、

京太郎が咲の墓前に言い放った、怒鳴った言葉だった

なんで何も言わなかったんだと。

なんで頼ってくれなかったんだと。

なんで一人で死んだのかと。

なんでなんでなんでなんでなんで……

なんで置いていったのかと。

菫「……京太郎」

「俺は酷いこといっぱいしましたよ。なんでそんななんですか……」

わずかに心を取り戻したのか、

菫は瞳に光を宿し、しかしながら恨むことも妬むことも怒ることもなくただ受け入れようとしている。

それは依存しているからであり、同じ経験をした、させられたからであり、

でもやはり一番の理由は菫がそんな相手をほうって置ける、罵倒できる性格ではないからだ

それが不思議で京太郎が訊ねると、

菫は小さく笑って答えてくれた

菫「私はお前が嫌いだ。殺したいほどに憎いと言ってもいい。でもな」

「っ!?」

菫は京太郎にキスをし、続けた

菫「私はお前といたい。間違った感情だとは解っている。それでもだ
   優しいお前が見てみたくなったんだ。だから……殺せないし、殺さない」


「それは俺が菫さんを壊したゆえの思いですよ」

京太郎は寂しそうに呟き、

菫は首を振ってそれを否定した

菫「今ある私が私だ。お前がどうこうしたから壊れたのだとしても、
  私の考えは、私の思いは……全部私がしたものだ」

それが正しいものではないと2人は解っていた。

だとしても互いにそうせざる終えなかったのだ。

大切なものを失い壊れた少年と、

壊れつつも大切なものを失わなかった少女は、

今目の前にあるそれまでも失うのが怖かった

少年は依存させようとして依存し、

少女は依存させられ、依存した。

菫「こう言うの……何て言うんだっけな……」

新聞やニュース等で手に入れた知識のなかには、

今の自分に類似するものがあったのだが、

菫は思い出せず、

目の前のそれに尽くすことだけを考えることにした

「……ごめんなさい、菫さん」

菫「……気にするな。もう気にしても遅い」

菫はそう返し、再びキスをした

ここまで


翌朝、歪なモノによって繋がりをもった2人は

まるで一般家庭の夫婦のように仲良く目を覚ました

菫「おはよう、京太郎」

「………………」

菫の明るい声に京太郎は困惑し、

しばらく沈黙していると、菫は顔をしかめた

菫「あいさつしたんだが?」

「ぁ、はい……おはようございます」

菫「あいさつはちゃんとしろ。私が馬鹿みたいじゃないか」

菫は照れ臭そうに言うと、ベッドから起き上がった

菫「私はとりあえず学校に行かなければいけない。
   出来れば……お前とは離れたくないんだが……」


菫の変貌ぶりに置いていかれ、

京太郎は唖然と菫を目で追った

菫「昨日言ったはずだ。私にはお前しかいないって」

それに答え、菫はドアノブに手をかけると、

菫「これからどうするのか決めてくれ」

そういい残して部屋を後にした

「これから……」

菫も、自分さえもを壊し、次に進もうとしていたのに

その計画は壊され、残虐であろうとした偽の自分さえも壊され、

照への復讐という意思もわずかであるが薄くなってしまっていた


咲は優しいやつだった

優しすぎて、背負い込みすぎて……死んでしまった

それは照のせいだし、照は恨むべきやつだ

しかし、冷静になった頭で考えれば、

咲が復讐を望むとは思えなかった

(これから……か……)

中卒で高校には行かず、京太郎は今に至っている

就職? 復学?

いいや違うと首をふった

いくべき場所があるのだと、京太郎は自分の体を起こした

菫を傷つけてしまった

菫を壊してしまった

その罪を償うべきなのだ


1階に降りると、菫の作った朝食が食卓に並べられていた

「何……してるんですか?」

菫「まだ寝てるのか? まず顔をーー」

正直に言えば嬉しかった

以前のような生活に戻れた気がするから……しかし、

それは気のせいでしかない

目の前の献身的な少女の心は壊れ、

その体でさえ常人のそれと比べれば壊されているし、

彼女が献身的なのは依存させられているせいだ


「俺は貴女に酷いことしたんですよ!?」

菫「そうだな」

怒鳴る京太郎にたいして菫は静かに答えた

私は無関係だ。とでも言うかのように

「貴女の体は異常だ! 心だって!」

菫「そうだな」

それでも菫は朝食の準備をし、

我慢しきれずに京太郎は菫の手を荒々しく掴み、

その手から茶碗が落ちていった

中断


菫「……放してくれないと片付けられないんだが」

「そんなのはどうでも良い!」

京太郎はが怒鳴ったにも関わらず、

菫は落とした茶碗と飛び散った食べ物を見つめていた

「っ……いい加減に、しろ!」

掴んだ手を上に引き上げ、

無理矢理に上を向かせると

京太郎は菫を睨んだ

「俺が何をしたか忘れたんですか!?」

菫「覚えているよ。心でも体でも記憶ででも」

「だったら!」

怒鳴り続ける俺を菫は悲しそうに見つめた

菫「憎いし許せないさ。でも、どうしようもないじゃないか」

ガクッと頭を下げ、菫の瞳が視界から消え

しかし声は続く

菫「私にはお前しかいない。失いたくないし、失えない。だから……」

時計の針だけが騒々しく刻んでいく

そんな空白、そしてーー

菫「傍にいて欲しいんだ。いて欲しいから、私はお前に尽くすんだ」


菫「お前は私から離れたいのか?」

いや違うか、と言葉を訂正した

菫「放れたいんだろ?」

「………………」

菫から離れること。

それはつまり自分が犯した罪から放れること

菫「苦しめたい訳じゃない、ただ私は嫌なんだ」

だから。と菫は区切り京太郎の顔を見つめた

悲しそうではないが、寂しそうな表情

菫「離れてほしいなら私を殺せ。死ねと言え、命令しろ」

「なっ……」

菫「それ以外で離れるつもりはない」


菫を殺せば照への復讐は完結したといっても過言ではない

照にとって菫は同じ部、同じチームというだけでなく、

親友なのだから。

菫「………………」

菫は黙りこみ、京太郎の動きを待った

「…………………」

菫は殺されても良いと言う

ならば、と

京太郎の震える手が菫の首へと動き、

それを掴んだ


「……絞めますよ」

菫「苦しくないのだと嬉しいんだが……お前がしたいなら」

「きっと苦しいですよ、物凄く。痛いではなく苦しいだから」

首を絞めたことも、絞められたこともない

しかしその結果だけは知っている

忘れられない傷として脳裏に焼き付いている

菫「早くしてくれ。生きているなら学校があるんだ」

菫の催促に対し、

京太郎は言葉を返すことなくその手を放した

「今は殺しません」

中断


菫「そうか、なら席についてくれ。朝食にしよう」

菫は解放されるやいなや、

すぐに落とした食器などを片付け、

京太郎に着席を促した

「……今日、部活はどうするんですか?」

言われるがままに着席し、

ただの友人であるかのように、

そんなごく普通の質問を投げかけた。なのに、

菫「そんなことは聞かれても困る。学校に行くのは学生という本業の中断が両親に不信感を抱かせるからであって、
   部活という任意参加のものは京太郎。お前の指示を仰ぎたい」

会話はそうなってはくれないのだ

「え?」

菫「部活に行けば照と会うことになるし、私はお前のことを話すかもしれない。それでも良いのか?」

菫の質問は解るが解らない

それは菫が心配するようなことではない。

京太郎自身が気にしていなかったのなら、

菫は好き勝手にしてよかったはずだ

いま、こうして食べている朝食を用意した時のように


だから当然、京太郎は訊ねた。「どうして?」と

菫「お前の話を聞いて、照にそのことを問いただしたくなった」

「………………」

京太郎も思えば、

憎むべき相手であると悪意に駆られ、

本人に問いただそうとまではしなかった

ただ同じ気持ちを味わせ、嘆き、喚かせ、

その心をへし折り、屈服させ、ゴミのように残虐に破壊したかった。それだけしか頭になかった

菫「私のその行為は京太郎に害を為すかもしれない。だから命令してくれ」

菫は箸を置き、自分の胸に手を当てた

菫「ここにいる弘世菫は学校でどうあるべきかを」

それはもはや奴隷宣言に他ならなかった


「………………」

ああしろ、こうしろ

そういえばその通りに菫は動く

それはきっと、

今までの弘世菫が築き上げたモノを破壊するとしても。だ

命令に背き、捨てられることが、

菫は何よりも怖く、恐れているから。

しばらくの沈黙の後、

菫は時計をチラッと見てから席を立った

菫「思えばもう命令を受けていたな。指示通り淡の家の鍵を持ってこよう」

「そ、それは必要ない!」

もう必要ない

もう決めたのだ。もう決意しているのだ

これからの行動を。

「俺の命令なんて気にしなくていいですよ」

菫をめちゃくちゃにしておいて、

今までの自分はどうかしていました。これからは気をつけます。

そんな簡単に普通の生活なんて送るわけには行かないから

「俺は自首します。女性を強姦しましたって、酷く傷つけ、精神までも侵してしまったって」

それこそが自分のするべきことだと、

京太郎は考えているのだ


菫「自首……だと? ふざけるな! それはつまりお前がいなくなるってことじゃないか!」

さっき言ったはずだ! と、菫の声が響く

「解ってます、本当にごめんなさ――」

最後まで言えずに、

京太郎は頬にヒリヒリとした痛みを残しながら、

床へと倒れこんだ

菫「私は何もされていないって言うからな! お前とは健全な付き合いだと証言してやる!」

「無理ですよ。俺の持つ証拠がそれをかき消します」

本来の目的とは違うが、

それは確実なものだった

菫「っ……消せ! 全部、何もかも! 自首するなら人殺しで自首しろ!」

「嫌ですよ、菫さんは殺せない」

京太郎の弱々しい声が、菫との会話を打ち切った


菫「ふ、ふざ……ふざけないでくれ。お前は今まで私に何をした!?」

菫は怒鳴りながら制服を乱暴に和捨てると、

倒れたままの京太郎に乗りかかった

菫「私の体を見ろ! なんの傷もない。でも……この中は滅茶苦茶だ!」

「俺がそうしたんですよ」

菫「ああ、そうだ。お前が滅茶苦茶にしたんだ。あげく、それらを繋ぐモノとしてお前は私の中に入った」

「それが俺の最初の目的でしたから。でももう良いんですよ。必要ない」

京太郎のそっけない返事に、

菫は瞳を開ききり、その驚きと怒りの表情で京太郎を見つめた

菫「要らない……? なら、殺せ……いや、ここで死ぬ」

「な……」

菫「お前がいないなら死んだ方がマシだ」

菫は本気だぞ。と付け足し、

食卓に置いてあったフォークを握り、自分の喉元にあてがった


「む、無理ですよ。人の自傷はセーブされてしまうんです」

だから人はリストカットでの失血死

入水自殺という水での溺死

飛び降り自殺という抵抗のできない圧死

練炭自殺という呼吸での中毒死

首吊り自殺という呼吸困難による絞死

それらのように自分の力以外の何かを利用して死んでいるのだから

だが菫は小さく笑うと、

自分の喉元にあてがったフォークを少しだけ差込み、

細い血の川を首から流した

「なっ、何して……」

菫「それができないのは常人だ。私はもう異常だから」

菫は答え、京太郎に対して微笑んだ

菫「……さようなら京太郎」

そして手に力を込め――しかし、

「やめろ!」

フォークは京太郎によって床を滑って離れていった


ここまで


「俺は貴女に死んでほしくない!」

フォークを弾かれ、宙を漂うその手を取り

京太郎は力一杯に叫び、それに反して、

これだけ滅茶苦茶にしたくせに、

今まで懇願されても傷つけていたくせに。と、

京太郎の心が悪態をつく

菫「……京、太郎?」

「菫さんに俺が必要なら、俺には菫さんが必要なんですよ……」

京太郎の犯した罪その生きた証として

それだけでなく、京太郎自身の支えとして

「菫さんに死なれたら……俺はもう抑え切れなくなる」

そしてきっと……照を冒してしまう


菫「……なら自首なんて止めてくれ」

菫は呟くように言うと、

京太郎に重なるようにゆっくりと身体を横にした

「菫さん……?」

体は零距離

顔はほんの数センチ

菫「お前が罪を償いたいっていうなら」

菫の手が京太郎の顔をなぞるように撫でていく

菫「京太郎も私に尽くしてくれ。恋人なら、今までのは全て問題ないだろ?」

「それはーー」

京太郎の答えは菫の口づけによって消え、

離れたあとも菫の指が口を閉じさせていた

菫「私がそう思うだけでも良い。だからお前はただ……罪はないと思えば良い」

菫はそう言い残しさっさと服を整えると、

学校へと向かっていった


ここまで


京太郎と菫は加害者と被害者の関係だ

だからこそ京太郎は菫の存在を残し、

一生悔やむべきなのかもしれない

でも菫はそれを良しとはせず、

自分達の関係を恋人と一新することで

その罪を赦し、消滅させ、京太郎を元の世界に戻そうとしていた

菫「…………………」

それは菫が京太郎に依存しているからであり、

それでも菫が大切なモノを失わずにすんだからだ

今の自分にとって救いは京太郎のみ

ならば京太郎の救いになってやりたいと

そう思えてしまうような、馬鹿と紙一重の優しさ

菫(……あとで電話しよう。不安でしかたがない)

そんな菫は授業中であっても

京太郎のことで頭が一杯だった


その一方で京太郎は部屋の片付けをし、

1枚のDVDを手にベッドに腰かけていた

菫の恥辱、屈辱その他の様々なものがこの中にはある

そしてこれこそが自分の罪の証明

「……俺は」

これを持ち警察に行けば京太郎は逮捕されるだろう

だが、そうしたら菫は死ぬだろう

「それは……駄目だ」

依存させるつもりがすっかり依存していることに気づき、

京太郎は笑うしかなく、しかし涙もこぼしてしまう

自分の行いがいかに愚かな行為だったのかを理解し

同時に苦しみ、悔やんでいたのだ

そんなとき、京太郎の携帯が着信を知らせた

それは言うまでもなく……菫からだ


「もしもし、なんですか?」

菫『なんですかって……いや、無事なら良いんだ』

時間的に授業の合間の休み時間

そのわずかな時間を使ってでも、

菫は京太郎が居なくなっていないことを確認したかったのだ

菫『今、私はお前を止められない。だからこうして電話したんだ』

「………………」

菫『私の気持ちは伝えた通りだ。それを踏まえろとは言わない』

だけど。と菫は繋ぐ

菫『出来るなら考えてくれ。お願いだから』

見えないことが不安なのだろう

菫の声は震えてしまっていた


「…………………」

『すみれーっ! 次移動だよー!』

京太郎が黙り、菫も黙り

そして聞こえてきたのはクラスメイトの声

菫『……すまない、時間みたいだ』

「……菫さん」

菫の声は寂しそうで、悲しそうで

それによって京太郎の言葉が引き出された

「またあとで」

菫『っ……ぁ、ああ、また。またあとで』

そこで電話は終わり、

京太郎は携帯を投げるようにベッドに置いた

「またあとで……なんて、俺は……」

警察にいくことを考える度に菫の自殺未遂が頭に浮かび、

京太郎は首を横にふった

「償いたいなら私に尽くしてくれ……か」

自ずとーー答えは決まっていた


最初が菫だったこと

それはもしかしたら幸運だったのかもしれない

照に同じ思いを味あわせるためなら弘世菫でなくてもよかった

親しい後輩の大星淡でも良かった

それなのに最初のターゲットが菫になったのは偶然としか言いようがない

いつもは一緒に帰っているのに、

その日はたまたま用事が入り、

菫は一人で下校することになり……そして全てが始まった

もし大星淡だったなら京太郎は止まることなく

そして自分の心さえも完全に破壊して最悪な結果になっていただろう

「……ごめんな、咲」

京太郎は宮永咲の仏前に座り、小さく呟いた

救えなかった少女、その為の行い

京太郎は誤ってしまったのだその選択を。

菫によって京太郎は気づき、悔やみ、

自分の行い、その罪を償おうとすることができる

「俺は間違ってたよな。あんなこと咲が望むわけがない」

それを誰よりも解っていた筈なのだ

「ごめん……ごめんっ……ごめんな、咲」

京太郎は懺悔し、恐れや不安、

悲しみではない後悔の涙を流していた


菫「なんの話だ?」


中断


菫「なんの話だ?」

照「えっと……この前、菫が辛そうだったから」

この前というのは京太郎が居なくなり、

菫が精神的に不安定だった日のことだ

菫「ああ……あの時は悪かった」

思いだし、自分でもあれは酷いと、

菫は思わず照から目をそらした

照「……もう平気?」

菫「大丈夫だ。もう解決する……はずだ」

そう、してくれるはずだ。と、

菫は照とは真逆の空を見上げながら信じていた


それが望み通りの結果であれ、

望み通りにいかない結果であれ、

菫は京太郎と全てを共にするつもりであり、

京太郎が選んだのなら、

今度はもうなにも言わずに終わらせるだろう

菫「……なぁ、照」

照「……何?」

妹はいるか? そう訊ねようとした自分を押さえ込み、

なんとか言葉を自然な形で繕った

菫「大切なモノ……無くしたことはあるか?」

照「例えば?」

菫「なんでも良いさ、人でも物でも。
  照は大切にし、失ってしまったものがあるのか?」

菫の問いに対し、

照はしばらく考えてから口を開いた

照「……いつも失っている。例えば、お菓子とか」

菫「聞いた私が馬鹿だった」

あきれ口調で呟いた菫に対し、

照は少しだけ表情を曇らせた

照「本当に大切なら」

菫「ん?」

照の唐突な呟きに驚いて視線を向けた

照「……失ってから気づくから。いつも失っていると思う」

少なくとも。と、

照は続けたものの、菫に背を向けた

照「私はそうだったから」

中断


菫「……照?」

照「……明後日の祝日だけど用事ができたから部活は休む」

照はそれだけ言うと、

次の授業の準備に移ってしまった

菫「部活……」

菫は部活参加の許可を京太郎に貰っていないが

前の命令を考えれば、

京太郎に逆らう以外なら基本的に自由が与えられている

菫「あとでまた電話して聞こう」

照の言動について少し違和感を感じたものの、

菫はあまり気にすることなく、授業へと移った


そしてようやくの昼休み

電話をしようと教室を出れば、

金髪の女の子が菫の視界に移った

菫「淡……照に用か?」

いつも照にベッタリな淡がここに来るのは大体照への用事

だからこそそう訊ねたにも関わらず、

淡は首を振り、菫の手を掴んだ

淡「部長……いえ、弘世先輩にお話があります」

珍しく真面目な声

しかも部長ではなく弘世先輩

たったそれだけ、しかし重要な違い。

それが菫を緊張させた

ここまで


淡はわざわざ人気のない教室に連れ込み、

菫と2人で向かい合った

菫「それで……?」

いつものような物静かな声

それに対して、いつもとは打って変わって淡は静かに答えた

淡「私の勘違いの方が可能性高いし、
  聞くかどうか悩んだんだけど……一応聞いた方が良いかもって思って」

淡は中々本題には移らず、

また少し悩んでからため息をついた

淡(きっと私の勘違い。それを証明して貰いたいだけ)

菫「淡、用がないなら私はーー」

それをかき消して、淡は訊ねた

淡「弘世先輩……あの男の人に脅されてたりしますか?」


菫「……あの男?」

菫と関係し、

なおかつ淡まで知っているとなると、

父親か京太郎しかなく、

父親に脅されてると誤解されるようなことはしていない

少なくともここ最近の記憶にはない

つまり京太郎のことか。と、菫は小さく笑った

菫「あれは私の彼氏、恋人だ。脅されてなんかいないぞ」

淡「えっ」

淡(あ、あれ……あれぇ? いや、もしかしたらとは思ってたけど)

淡(あっさりカミングアウトされるなんて……てっきり否定するだけだと思った)

淡のあたふたとする態度を微笑ましく思いながら、

菫はどこかを儚げに見つめていた

菫(でもそれは私だけが思ってること。一方的なものでしかない)

その心境を解らない淡は「ごめんなさい。酷いこといって」と

丁寧かつ何度も頭を下げ、

暫くしていなくなってしまった


菫「……朝はいた。でも」

一方で、菫は携帯を片手に右往左往していた

京太郎に電話をかけようとは思うが、

それが中々行為になってくれないのだ

菫はどっちでも受け入れるつもりではある

だが、つもりでしかない

自分の望まない結果であるかもしれないということが

菫はどうしようもなく恐いのだ

菫「あぁっ焦れったい!」

やがて自分に対して怒鳴ると、

押しつぶれそうな勢いで発信ボタンを押した


中断


着信音は長く続くことはなく、

すぐに京太郎の声が聞こえてきた

菫「京太郎、今どこだ?」

『家ですよ。なんですか?』

正直に心配だった。とは言えず

菫はしばらく黙りこみ、

解ってしまったのか京太郎が笑う

『心配しなくても自首はしません。加害者は被害者の上には立てませんから』

菫が聞きたかったことば。望んでいた展開

唐突だったそれに対して菫は言葉を失い、

呆然と立ち尽くし、京太郎はさらに告げた

『菫さんが良ければ償わせてください
  自首してではなく、菫さんの願い通り……菫さんに尽くすことで』

自首をすることは菫をさらに傷つけるだけ

ならばもう償う方法などそれしかなく……

菫「こちらこそ……頼む」

それが正しいと思うのはきっと当人達だけで

回りの友人や、先生、両親や警察

それら部外者はみなおかしいと思うだろう

しかし周りは知らない

知ることもきっとない

だからそう……これで良いのだ。全て


『ありがとうございます。それでなんですが……』

菫を凌辱したと証明する物的証拠は全て、

それを映した京太郎自身の手によって破壊され、跡形もなく消滅した

もう菫を脅すことはできない。脅す必要もない。

復讐は終わった。完成という終わりではなく、

その意味を失い、消滅したのだ

『明後日用事あります?』

菫「部活があるが……休めなくはないぞ」

だが、全てが終わることはない

常に世界は動いているのだから

それが良いことか、悪いことかは関係なく動く

『咲の墓に行こうと思ってるんです……出来れば一緒にーー』

菫「喜んでいくさ。お前となら……どこにだって」

そんな不条理な理は知らなければ良い。

知る必要はない、知ったところで意味がないのだから

知らなければきっと……幸せでいられるのだから

『ありがとうございます、菫さん』

菫「こっちこそありがとう。京太郎」

それが仮初めか真実かも知ることなくーー……


長く続かせておいてこんな終わりで申し訳ない

中途半端に見えるかもしれないけれど、

菫と京太郎の物語だからこのスレはこれで終わり

人によってはハッピーエンドだろうし

はたまたバッドエンドかもしれないですね


向こうもいずれ終わらせますが、全然別物になると思います

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