【R18】妃宮千早「貴方達……恥を知りなさいっ!」 (173)

【注意点】
・R18となります。この点、ご理解ください。
・今作品の内容にはBLと思われる要素が混入している可能性があります。
 苦手な方は回れ右してお帰り下さい。
(作者本人はBL要素は皆無だと判断しております)
・普段ライトノベルを執筆している為、SSに関してはほぼ未経験です。
 地の文の割合が高くなるかも致しませんご了承下さい。
・またなるべく理解している作品にて作成しておりますが
 完全に把握していない部分もありますので、一部キャラの口調やシーン
 が発生する恐れがあります。ご理解をお願いします。

※本SS題材は『処女はお姉さまに恋してる~2人のエルダー~』となります。

※一部描写に不快感を感じ取られる方が居るかも致しませんが、なるべく柔らかめに表現をします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394393422

 今日は聖應女学院、休校日――妃宮千早は聖應女学院三年生、そして第75代エルダーシスターでもある。
 日頃の学院生活の息抜きをする為、侍女の度會史や同級生の七々原薫子らと離れ一人、男性の姿に戻り学院から程遠い市街地に買い物に来ていた。 
 特にあてもなく市街地を散策している途中――明らかに柄の悪そうな男性二人組が千早に、勢い良くぶつかってきたのだ。
 誰の目から見ても不自然なぶつかりようであったが……男性二人組は千早にいちゃもんを付けてきた。

男性1「おいっ! イテェじゃねえか! こっちこいよっ!」

 男性は突然、千早の腕を鷲掴みにし人目の付かない路地裏に連れ込む。

妃宮千早「あ、貴方達っ! 突然、失礼じゃないですか!」
男性1「はぁっ? なに言ってんだこいつ? ぶつかってきといて謝りもしねぇのか?」
男性2「なぁ、お嬢ちゃん? ぶつかって来といてその言い草はないだろ? なぁ謝ってくれよ」
妃宮千早「あ、貴方達がぶつかって来たんですよ! 謝って欲しいのはこちらです」

 普段は声を荒らげない千早だったが――男性達の理不尽な要求に腹を立てていた。
 とは言うものの、無駄な騒ぎは起こしたくない。なるべく穏便に済ませようと言葉を選んでいた。

男性1「おいおい……馬鹿言うなよ。ぶつかってきといて謝りもしねぇってとんだ馬鹿女だな」
男性2「まぁ落ち着けよ。お嬢ちゃん、別に乱暴する気はないんだし、素直になろうぜ」
妃宮千早「ですからっ! 何故、謝らないと――」

 千早が言い切る前に、男性が声を荒らげ遮ってきた。

男性1「もういいわ! 言葉で分からねぇんだったら――」

 男性は――突然、千早の目の前まで接近し、千早の胸に手を伸ばしてきた。

妃宮千早「ちょ、ちょっと! 貴方なにをしているんですかっ!」
男性1「うるせぇんだよ! おい抑えとけ」
男性2「仕方ないな……お嬢ちゃんが悪いんだぜ?」

 男性一人が千早の左側に回り込み、突然抱きついてきた。
 まさかの行動に予想していなかった千早は行動を起こせない。そして男性は千早の胸に手を伸ばし弄り始める。
 千早は男性の手から逃れようと動きを取ろうとするが……しっかりと抱きつかれており動きがとれない。

男性2「めちゃくちゃいい匂いだな。顔もよく見たらメチャクチャ可愛いし、いい上玉が手に入ったわ」
妃宮千早「えっ? ちょ、ちょっと! 貴方達は今自分が何をしているか――」
男性1「喚くなよ! この馬鹿女がっ! 今からタップリと可愛がってやるからな――」

 男性は動転している千早に罵声を浴びせる――――そして千早の胸を力強く掴み揉みしだく――。

男性1「んっ? なんだ全然ないぞ」

 季節は秋、今日の千早の服装は胸が隠れるような服装だった為、一見しただけではあるのかないのか判断がつかない。 
 そして――事実、千早には本来女性にある筈の……乳房がない。胸に多少の脂肪は付いているが、あくまで男性レベル。
 誰が触ろうと、胸が全くない事ぐらいは理解が出来る。 
 普段は女装の為、胸パッドを装着しているが……運悪く、今日は男性の格好だ。当たり前だが装着している筈がない。

男性1「おいおい? こんだけスタイル良くて、まな板かよ……」

男性2「マジかよ? うわ……惜しいな……」

 不思議なことに男性達はまだ、千早が『男性』であると言うことに気づいていないようだ。

妃宮千早「い、いやだっ! 止めてっっ!」

 千早は無意識の内に胸を触る男性を突き飛ばした。
 まさに女性ではあり得ない程の力で――。

男性1「――がっっ! い、いってぇ……な、なにしがんだこの馬鹿女っ!」

男性2「お、おいっ! 大丈夫かよ?」

 冷静を取り戻した千早は、ここがチャンスだと感じ取り逃走する体勢に入る。
 ――――だが……抱きついてくる男性の力が思いの外強く、しかも千早の力を余裕で上回っていた。更に背後に回り込まれ抱きつかれている為、思うように身動きが取れない。

男性1「おいっ! ちゃんと抑えとけよ!」

男性2「あぁ大丈夫。にしてもお嬢ちゃん妙に力あるな……もしかして――」

男性1「まな板な上に、どうも言動も男っぽいよな」

妃宮千早「(そ、そうか……僕はなにを動揺しているんだ。男性だと分からせれば――っっ!)」

 千早の考えとは裏腹に……男性は予想外の行動を起こす。
 なんと――突然、千早の下半身を触り始めたのだ。お尻や更には股間にまで手を伸ばし弄り始める。
 千早はあまりに突然の事で言葉を失ってしまう。

男性1「やっぱりな。こいつ男だぞ」

妃宮千早「(い、いや……これで良いんだ。僕が男性だと分かれば退く筈だ)」

男性2「マジかよ……でもよ。この際、男でも良くないか?」

妃宮千早「(えっ? い、今なんて――)」

男性2「そんじゃそこらの野郎じゃないし……ぶっちゃけこれだけ可愛けりゃ男でも十分勃つわ」

妃宮千早「い、いや……待って。ぼ、僕男ですよ……?」

男性1「うるせぇよ! あぁー、もうこいつでいいわ。男でもこのレベルなら文句ねぇだろ」
 
妃宮千早「ま、待って下さ――」

 男性は千早の言葉が癪に障ったのか、突然に千早の下腹部を殴りつけた。

妃宮千早「がはっ! うっ……ハァ……ハァ――」

 思いの外、男性のパンチが効き……下腹部に鈍痛を感じる。これ以上、何かを言えば……身動きが取れない今、一方的に暴力を振るわれるだけだ。
 千早はそう思い。ここは一旦、相手に従うようにし機会を見て逃げ出そうと考えたのだ。

SSって改行会った方がいいのかな…
とりあえず改行ありきで書いていきます

少しゆっくり目で書いていきます

 男性達は千早を逃さぬように左右に立ち、歩き始める。
 武術や武道に長けている千早からすれば……正直、男性二人程度ならほぼ無傷で制圧出来る事も可能だ。
 だが……そうしない理由としては万が一、騒ぎになり学院に知られてしまうこと――それにより、史や薫子らに迷惑を掛けてしまうこと。
 それだけは必ず避けなければならない……千早はこう思っている。

妃宮千早「(一体、何処に連れて行かられるんだろ)」

男性1「待たせたな」

男性3「遅いってどんんだけ待たせるんだよ」

男性4「マジで、待ちくたびれたわ」

 千早が連れて来られたのは――人目のつかない路地裏の寂れたラブホテルだ。
 ラブホテル前には更に男性が二人……会話の内容から恐らく、仲間なのだろう。
 千早は内心、焦っていた――まさか仲間が居るとは思っていなかったからだ。二人程度なら最悪、どうにでもなるが
 男性が四人ともなると逃げようにも逃げられない上に立ち向かったとしても、無傷で済むとは限らない。

妃宮千早「(じょ、冗談でしょ――さすがにこの人数を相手じゃ僕も無傷では……)」
男性4「す、すげぇーな。この娘、メチャクチャ可愛いじゃん。このレベルは滅多にいないぞ」
男性3「やばい、俺結構タイプだわ」
男性1「だろ? まぁあれだけどな、とりあえず中に入らねぇか?」

 男性達は千早を目の前に好き勝手に言っている。ただそう言われるのも仕方がない話だ。
 白銀の流麗な腰まで伸びた長髪――目鼻顔立ちが素晴らしく整然と整っており、長身でウエストもくびれている。肩幅も狭く、下半身は女性の様に肉付きが良い。
 例えこの女装をしていない千早を見て、誰が男性だと信じるだろうか――。

あっ…改行忘れてる…

ん~これSSっぽくないな
まぁいいか…

 男性達は千早を囲い込むようにし、ラブホテル内に連れ込んだ。
 四人相手にどうしようもない千早は、ただ大人しく黙っているしかない。
 男性達は他愛無い話をしながら、少々興奮気味に部屋を選別し探している。

妃宮千早「(これだから……男性は苦手なんだ……)」

男性1「ここでいいんじゃね? 安いしさ」

男性4「まぁそこでいいわ」

 どうやら部屋が決まったようだ。千早は逃げられないように、両腕を捕まれラブホテル内の部屋に連れて行かれる――。
 寂れたラブホテルながらも意外と部屋は整然と片付いており、華美な装飾もなく清潔感がある。ラブホテル――と言うよりかは地方のビジネスホテルに近い感じだ。
 そして……何故か千早は男性に促されるまま、部屋の中央に立たされた。

妃宮千早「(もう既に嫌な予感がする……とは言っても――)」

男性1「実はさ……こいつ男なんだよ」

 男性は合流した仲間に千早が男性であると言うことをカミングアウトした。

妃宮千早「(どうせ……バレる事だ。気にしても仕方がない。それよりも……)」

男性4「おいおい! 冗談だろ。こんな男が居る訳ないだろうが」

妃宮千早「(はは……僕はそれ程までに男性に見えないのか――今日は普通に男性の服装なのに……)」

男性1「だろ? 俺も最初は女だと思ってたんだが……。おいっ! ちゃんと証拠見せろよ」

妃宮千早「ど、どういう事ですか?」

男性1「はっ? それぐらい分かるだろ。脱げって言ってんだよ」

妃宮千早「脱げって……本気で仰っているのですか?」

 千早は出来る限り場を荒らげず、言葉で抵抗する。当然、脱ぎたくなどない。
 ましてや見知らぬガラの悪い、男性達の前で自身の肌をさらけ出したくない。
 だが……選択権のない千早には男性の命令に従うほかに方法がなかった。これ以上の抵抗は、男性達を逆上させてしまう恐れがあるからだ。

妃宮千早「(ここは素直に脱ぐしか……何をされるにしても……乱暴にされるのだけは――)」

男性1「おいっ! 聞いてんのか? 早くしろつってんだよっ!」

妃宮千早「――分かりました。ここまで……やっておいて、今更落胆しないで下さいよ」

 千早は少々怒り気味に声を出す。
 まず千早は……羽織っている紺藍の男女兼用コートを脱ぎ始める。そして白色のセーターとワイシャツを脱ぐ。
 今日は偽パッドもブラも装着していない為、上半身があらわになる。
 まるで男性とは思えない程に、非常にきめ細やかで……そして純白の透き通った千早の肌が、男性達の眼前にさらけ出される。

妃宮千早「こ、これで……満足ですか?」

男性2「めちゃくちゃ綺麗だな……。女でもこのレベルはなかなか居ないぞ――」

男性1「おいおい。良い訳ないだろっ! 下もさっさと脱げよ」

 千早自身もこれで終わる筈がない事ぐらい分かっている
 かつて、これ程までの屈辱的な事はない。だが脱がなければどうなるかぐらい理解している。
 千早は涙ぐむものの……屈辱的な感情を必死に押し殺す。
 そして千早は――履いている、グレイのジーンズに手をかけボタンとチャックを開ける――。

読み返すとなんで…千早を犯すSS書いてんだろ…
当初の予定通り千早×薫子で良かったかも…

男性1「あははっ! なんだこいつ、女物の下着穿いてんぞ!」
男性3「うわぁ……マジかよ。いざ見ると……あれだな……」

 ジーンズを脱いだ千早は――身につけている衣類は下着一枚だけとなった。
 男性用の衣類は聖應女学院の女子寮、櫻館の自室に隠していのだが男性用下着は見つかる危険性を考えて置いていなかった。
 それ以前に人前で下着を見せる……と言う事を想定していなかった為、女性用下着で問題ないと考えていた。
 
男性2「いや……俺、この子なら十分いけるわ」

男性4「――まぁ……なっ。正直、俺も全然いけるわ。いや……むしろ犯りたいわ」

妃宮千早「えっ……ちょ、ちょっとっ! 近づいて来ないで下さいっ!」

 男性は……血走った目をして、千早に接近する。

男性1「こいつ妙に力あるから気をつけろよ。おっ! そういやあれあったよな」

男性3「あぁ……鞄に入ってるわ」

 男性は持参した鞄から……千早には中身の分からない液体が詰まっている、注射器を取り出してきた。
 当然、千早の視界に……その注射器が見える。

妃宮千早「そ、それ……なんですか――」

 普段、滅多に目にしない……注射器に千早は当然の事ながら警戒している。

男性3「んっ? あぁ心配しなくても大丈夫だから。合法の合成媚薬――」

妃宮千早「や、やめて下さいっ! そんなの絶対に嫌です!」

 さすがの千早も相当の危険を感じたのか、自然と武道の型を構える。
 ただ……圧倒的に分が悪い。恐らく一斉にかかって来られたら――どうにもならない。

男性1「なんなの? えっ? 俺らとヤル気なの?」

男性4「馬鹿かよ。今なら大人しく従ってれば優しくしてやるぞ――おいっ! 二人共押さえ付けろ」

 千早に向かって突然、男性二人が飛びかかって来た。予想外に相手も相当な手練らしく、目眩ましにシーツを投げ一瞬千早の視界を奪う。
 こうなってしまっては千早も黙ってはいない。シーツが床に落ち、視界が開けると、男性一人が千早に向けて突進してくる。
 千早は男性から数十センチ手前で左側に回避する。男性は勢い良くベッドに飛び込んでしまった。

男性3「おらっ!」

妃宮千早「(素手なら負ける筈が――ないっ!)」

 目前の男性が千早に向け、拳を勢い良く突き出してくる。千早は男性から突き出された拳を間一髪で身体を傾け回避する。
 そして――千早は男性の右腕を素早く掴み取り、肩の力を使用し背負投の体勢を取る。

男性3「――ぐ、かはっ……!」

妃宮千早「(いけるっ! ……二人も倒せば後はなんとか――)」

男性2「くそがっ! うぉらっ!」

 ベッドに突っ込んだ男性に注意を払わず、油断していた千早。再度、突進してきた男性を回避出来ず――抱きつかれ男性と共に突き飛ばされる。

妃宮千早「(し、しまった! 完全に抱きつかれて身動きが――)」

男性1「おっ! ようやった。そのまま捕まえとけよ」

 合成媚薬が詰まった注射器を持つ、男性が千早に近づいてくる。
 なおも千早は完全に拘束されて身動きが取れない。

妃宮千早「――や、やめろっ! ……やめてっ!」    

 身動きが取れない千早はただ拒否する言葉を叫ぶぐらいしか出来ない。
 男性は千早の左腕を力づくで床に固定し、合成媚薬が詰まった注射器を千早の左腕に刺し、合成媚薬を注入する。

妃宮千早「い、いやだ……やめて――」

男性1「ふぅー。数十分で効いてくるから、逃げない様に両手両足縛っとけ」

男性3「いっつ……。投げられるとは予想外だったわ……」

男性4「お前、見張っとけ。俺、先に風呂入ってくるわ」

男性1「おう。行って来い、行って来い」

妃宮千早「(大丈夫……大丈夫……合成媚薬だなんて効果がある筈ない……気をしっかりと持てば――」

うおsageちゃってる

 男性達は交代交代にシャワーを浴び――数十分が経過した。
 千早はと言うと――。

妃宮千早「(熱い……さ、さっきから……身体が熱い……)」

男性1「どうだ? 効いてきたか?」

 まだ辛うじて理性は保てているものの、両手両足の拘束を解かれたとしても……身体が言うことをきかず動けない。
 千早は焦る。乱れる思考の中……ただひたすらに絶望的なこの状況から逃れるすべを考える。
 だが……千早の考えも虚しく、状況は好転しない。為す術もなく千早は犯される他に道はなかった――。

男性4「頃合いも良いだろ。始めるか」

男性1「俺は準備するから後で参加るわ」

男性3「男とはやった事ないから、とりあえず様子見とく。先に楽しんでくれ」

妃宮千早「(――だ……めだ。思考が――安定し――ない――)」

たぶん明日には完結すると思います~

朝までに一気に上げますね

 男性一人が拘束され横たわっている千早の様子を伺う。
 もう頃合いだと感じたのか、もう一人の男性が千早の両手両足を縛っていた縄を解いた。
 千早は力を振り絞り逃げようとするが……身体が言うことをきかない。
 近寄ってくる男性達から、這いつくばりながら後ずさる。

男性4「おい、そっち持ってくれ。いくぞっ! せーのっ!」

 男性が千早の両足を掴む。もう一人は千早の両手を掴み一気にベッドに投げ込んだ。

妃宮千早「い、いや……だ――誰か……たす……け――んぐっ!」

男性4「お前そっち責めろよ。俺こっちやるわ」

 男性は突然に千早の頭を両手で押さえつけ、強引に千早の唇を奪う。
 抵抗する間もなく――いや一切の抵抗ができずに……ただなすがまま男性達に責められる。
 更に男性は千早の唇をただ奪うだけでは飽きたらず、千早の口内に舌を無理やり挿入してくる。

妃宮千早「んっ! ……んくっ……んっ……ぢゅっ……」

 千早は男性の無理矢理なキスから逃れる為、力を振り絞るが……頭が朦朧として上手く力が出ない。
 男性は執拗に、千早の唇……口内を舌を入れ責め立てる。

妃宮千早「(き、気持ち……悪い……)」

男性2「はぁ……こんなもんで良いだろ――」

 男性はキスを止め、手のひらで撫でる様に千早の胸を触り始めた。
 合成媚薬のせいで火照っている千早の身体は――軽く触れられただけでも、身をよじる程の快感が体中を駆け巡る。 

あっまた下げた…

SSっぽくなくてごめんね

妃宮千早「やっ……やめ……て――」

男性2「そんな色っぽい声で言われても説得力ないな」

 男性は胸の先端――桜色に染まる、千早の乳首を甘噛みする。

妃宮千早「っ……あっ……やっ……はぅ――んんっ!……」

 千早は甘く艶やかな音色で……必死に声を押し殺すものの喘いでしまう。
 そんな千早を尻目に――もう一人の男性は、千早が穿いている下着を脱がし下半身を――股間を露わにさせる。
 合成媚薬の効きが良いのか――それとも胸を執拗に愛撫されているせいなのか……。
 股間に付いている、女性らしかぬもの――いきり立つ肉棒からは、糸引く透明な蜜が垂れている。

男性4「イヤイヤ言いながら、結構感じてんじゃないか? えっ?」

妃宮千早「そ、それ……は……んんっ! ……貴方達が――」

男性4「ここまでやってんだし、素直になっとけ――」

 千早のいきり立つ肉棒を躊躇なく触れる……男性は右手で千早の肉棒を上下に扱きつつ、裏筋や尿道口を軽く舌で舐め始める。

妃宮千早「っ……あ、あぁっ……んっ……。や、や……だ――」

男性3「――ぢゅ……。はぁ……胸はこんなもんで良いか。どうする? 参加するか?」

男性2「じゃあ、俺は口使わしてもらうわ」

妃宮千早「(――く、くち……って……)」

 行為を眺めていた男性がベッドに上がり千早に近づいてくる。
 仰向けになっている千早を起こして、両足を外側に出させて女の子座りにさせる。
 千早の股間と弄っていた男性達は一旦、愛撫を止めて千早から離れる。そして入れ替わりで、先ほど前で行為を眺めていた男性が千早の眼前で仁王立ちをする。
 朦朧としている千早の頭を――鷲掴みにし無理やり口を開けさせる。
 そして男性は自身の肉棒を……だらしなく開口した、千早の口内に捻じ込み肉棒を咥えさせる。

妃宮千早「んぐっ! ……ぢゅっ……んぢゅ! ――んんっ!」

男性2「……そうそう、歯立てずに――舌は舐めまようにな……いいぞ……いいぞ……」

妃宮千早「んぢゅ……んぐ……ぐぢゅ――!」

男性2「あー、気持ちいいぞっ! はぁ、はぁ……」

 男性は絶頂が近いのか……鷲掴みにしている千早の頭を、更に激しく力強く前後に動かし始める。

 千早は――僅かながら残っている抵抗心からか、男性を上目遣いで睨み続ける。

男性2「……ぐっ……イくぞっ! ――うっ……イクっ!」

妃宮千早「んんー! ……んっ、ぐっ――!」

 男性は千早の口内に遠慮なく精液をぶち撒ける。
 イッたのにも関わらず――なおも精液を絞り出すように千早の頭を前後に動かし続ける。

妃宮千早「っ――んぐっ……ごくっ……うぐっ……!」

男性2「はぁ……はぁ……結構良かったぞ。その反抗的な視線も良かったわ」

 男性の一方的な行為が終わり、半勃ち状態の肉棒が千早の唾液と男性の精液が絡まり、粘り気のある糸を引きながら男性の肉棒が引き抜かれた。

ちと忙しくて…
あとちょっとなので数日中には終わります

お待たせしてすいません
暇になったので朝までに終わらせます

妃宮千早「(き、気持ち悪いのに……頭がぼーっとする……)」

男性4「おいおい、また早いな」

男性2「いやー、予想以上に上手かったからな」

男性1「アナマン解すから、その間誰か口使っとけ」

 ベッドの上で朦朧としている千早を、お尻を突き出している様な形で四つん這いにさせる。
 男性が入れ替わる。そして千早の頭を支えながら、自身の肉棒を無理矢理に咥えさせ口淫を始める。
 もう一人の男性は千早の下半身――股間をい弄り始める。
 男性は温めておいたローションを、千早の股間やお尻に垂れ流し、両手で粘り気のあるローションを伸ばす。 

妃宮千早「っ……んんぅー! んぐっ……」
 
 肉棒を咥えている為、千早はただ唸る事しか出来ない。
 男性は千早の肛門や肉棒にローションを塗りたくる。そして――千早の肛門に人差し指を挿入し解す様に弄る。
 千早の肛門を弄りながら、更にローションが塗りたくられた千早の肉棒を、ヌチュヌチュと卑猥な音を立て上下にゆっくりと扱かれる。
 合成媚薬の効果もあり、これまで感じた事がない快感が、千早の体中を駆け巡る。

妃宮千早「んんっ! んぢゅ……ぬちゅ……」

男性3「お、おっ……良いぞ、良いぞ。なかなか上手いぞ」

 男性は千早の頭を支えながら腰を前後に振り続ける。千早の唾液が男性の肉棒と絡まり合い、グチュグチュと卑猥な音が部屋中に鳴り響く。
 千早の股間、肛門を弄る男性は……僅かに解された千早の肛門に中指も合わせ二本の指を挿入し、肉壁を押し広げながら指を出し入れする。

二度ある事は三度ありましたが…
頑張って終わらせます

男性3「くっ……イ、イクっ! ちゃ、ちゃんと飲めよ!」

 男性は絶頂が近くなり、千早の頭をしっかりと両手で固定し腰を前後に振り続ける。
 
男性3「あっ! イ、イクぞ……うっ!」

妃宮千早「――んんっ! んぐっ……うぅ……」

 男性の肉棒から――ビュルビュルと脈を打ち、千早の口内に濃く粘り気のある精液が注がれる。
 射精と同時に男性は、千早の喉奥に肉棒を突き出す。息苦しさと……精液の青臭い匂いが千早の意思や思考を一気に奪う。
 男性の肉棒が抜かれると……飲み切れなかった精液が、千早の鮮やかな桜色の唇から垂れ流れる。

妃宮千早「あふっ……あ、あっ…んっ……や、やぁ……」

男性1「あっ? イキそうか? いいぞ一発イッとけ」

 

 千早の思考は奪われ、先程より更に頭が朦朧としている。
 虚ろな瞳は涙で潤み、頬はほんのりと紅色に染まる。口はだらしなく開き、混ざり合った精液と唾液が垂れ流れる。
 そんな千早を尻目に男性は執拗に千早の肉棒と肛門を責め立てる。
 
 千早はあまりの快感に身体を捩る事しか出来ない――。

男性1「おらっ! イケっ!」

妃宮千早「は、はぐっ……やっ……だ、だめぇぇ――あぁぁぁぁっ!」

 男性は手を休めない――ただこの快感に身を任せる。千早の足は緊張し、身体が震える。
 そして――千早は我慢の限界を超え絶頂した。
 千早の肉棒からはビュル、ビュルと溜まりに溜まっていた、ドロドロとした濃い精液が脈を打ち勢い良く射精される。
 肛門内の肉壁が痙攣し、挿入された男性の指をキツく締め付けられた。
 
 体験した事のない絶頂の快感が襲い来る。ベッドのシーツを強く握りしめながら、身体が幾度と痙攣を繰り返す。
 
妃宮千早「あぐっ、あぁぁっ……はっ……はっ……」

男性1「また凄い出たな。ベチャ、ベチャだぞ」

男性3「なんか……エロいな。また勃ってきた」

男性2「俺もこれは我慢できないわ」

男性1「俺が先に使うぞ、お前らは口でも使っとけよ」




  

 男性は大きく固くいきり立った肉棒を千早の色白のお尻に擦り付ける。
 千早は絶頂の余韻が収まらず、小声で嘆きながらうつ伏せの状態のまま――。

妃宮千早「っ……あ、あぁぁっ……あうっ……んんっ」

 男性は千早の上に覆い被さる様に……お尻に――肛門に、熱く硬い肉棒をゆっくりと滑らかに挿入する。
 ローションと千早から流れ出る愛液が、男性の肉棒に絡みつく。
 そして……ぢゅぷ、ぢゅぷと卑猥な音を立てながら、本能のままに男性は腰を前後に振り始める。

妃宮千早「はぅっ――あっ、あっ……んっ……い、いやぁ……」

男性1「はぁ、はぁっ! なかなか、良いケツマンだぞっ! お前も……気持ちいだろっ?」

妃宮千早「うぅっ、あふっ……こんらの……れんぜん……き、気持ろく――あぁぁっ!」

男性1「素直になれよ! ほら、ここが気持ち良いんだろっ!」

 男性は千早のお尻に腰を押し付ける。そして器用に腰を動かし、肉棒で千早の前立腺を刺激する。

妃宮千早「っ……あぁぁぁぁっ! はぅ、らめて……くださ――あっ、んんっ……!」 

遅い理由はエロシーンなんて書いた事ないんで苦戦してます…

男性1「どうだ? ここが気持ちいいんだろ」

 肉棒を千早の前立腺に執拗に押し付ける。
 合成媚薬と行為の快感が千早をメスへと変貌させる。既に千早の思考能力は完全に奪われ、呂律が回らない。
 なおも男性は千早の前立腺を責めながら、腰を特防のまま振り続ける。

妃宮千早「……らめらっ……てっ――あ、あっ……んんっ」

男性1「はぁ……うっ……。最高だわ。体位変えるからこっち向け」

 体位を変える為、うつ伏せになっている千早を仰向けにさせる。
 男性は仰向けになった千早に覆い被さる。そして……ヒクつく千早の熟れた肛門に、男性はまた肉棒を捩じ込む。
 当初の覇気は千早から消え去り――目は虚ろに、唇からは涎が垂れ伝う。快感のあまり、女性の様な喘ぎ声が口から漏れる。

男性3「完全に出来上がってるな」

男性1「ほら、舌出せ舌」

妃宮千早「んっ……んぢゅ、ぢゅ……あ、んっ……はふぅ」

 男性はゆっくりと腰を前後に振り続けながら、千早の潤んだ桜色の唇にキスをする。
 だらしなく開いた口に舌を挿入し、陵辱するかの様に千早の口内を犯す。
 唾液が絡み合い淫靡な音を立てながら、千早の舌と男性の舌とが絡み合う。

妃宮千早「っあ……ぢゅっ、んちゅ……あ、んっ」

男性1「うぢゅ……はぁ、はぁ。いいぞ、お前も……気持ちいいだろ?」

妃宮千早「――あぁぁっ……き、気持ち……いいれ……す。はふぅっ、あ、んっ!」

 キスを一旦止め、男性は千早の肛門を犯しながら、はち切れんばかりに膨張した千早の肉棒を握りしめる。
 更に、優しく握りしめた肉棒を、焦らすかの様にゆっくりと上下に擦り始めた。
 千早の苦しそうに膨張した肉棒の先からは……先程以上に透明な蜜――先走り汁が溢れ出るる。

 千早の唇から甘く艶やかな喘ぎ声が漏れ出る。
 肉壁を押し広げながら出し入れする淫靡な音、肌と肌がぶつかり合う音――。

男性1「はぁ……ふうっ……イ、イキそう」

妃宮千早「ら…らめぇ……やだぁ……んっ! あ、んっ……んんっ」

 男性が息を荒げ、更に腰使いが激しくなる。
 それに応じて、千早も絶頂が近いのか、喘ぎ声が大きく激しくなり始める。

男性1「っ……うぐっ! イクぞ、イクぞ! くっ、うっ!」

 同時に千早も――。

妃宮千早「んんっ……や、やらぁぁっ……イッちゃう! あ、あくっ……あぁぁぁぁっ!」

 千早と男性は同時に絶頂を迎える。
 男性の肉棒が脈を打ちながら、千早の肛門に――アナルにビュル、ビュルと音を立て精液を激しく解き放つ。
 そして、千早の腸内に男性の生暖かい精液が流れ込む。

 同じく絶頂を迎えた千早は……両足が緊張し、絶頂の快感によって下腹部が細かく痙攣する。
 二回目の絶頂にも関わらず、千早の肉棒から濃く粘り気のある大量の精液が、勢い良く放たれ……色白できめ細かな、千早の腹部に自身の精液が打ち付けられる。
 快感によりアナルが強く締め付けられ、男性の肉棒から精液を搾り取る。

男性1「――はぁ……はぁ……。凄い締め付けだわ。こりゃ、下手したら女より良いかもな……」

男性4「おっ? 終わったか。じゃあ次俺な」

男性2「じゃあ俺は……口でも使うか」

妃宮千早「……んっ……あぁぁ……」

 男性達は千早に近寄り――交代交代で犯し始める。
 千早はベッドの上で仰向けになり、朦朧としている。既に正常な思考能力が消失している。
 ただ千早は男性達の慰み者として、この状況に身を任せる他に出来る事はない――。

 ――そして男性達は千早を犯し始めてから、六時間程が経過した。

男性3「ふぅ……さすがにぶっ続けだと疲れたわ……」

男性2「おやー、数カ月分は出したよな」

男性1「もう俺はいいわ。お前ら風呂入ってこいよ」

 千早は六時間、休憩もなく犯し続けられた。
 四時間を超えた頃から、意識がない――そして、合成媚薬の効果が切れかけると追加で打たれ、六時間で計四本を注射された。
 精液と愛液でむせ返るベッドの上で、千早は仰向けになり……ただ虚ろな瞳で天を仰ぐ。
 肛門からは男性達の精液が大量に溢れ出し、千早自身の精液と男性達の精液が身体中にこびり付く。

 男性達はそんな千早には構わず、帰り支度を始め出した――。

男性1「おいっ! ちゃっちゃと行くぞ」

男性4「おう、今日のは久しぶりに上玉だったなぁ」

男性2「この子、大丈夫か? さっきから全然反応ないぞ」

男性1「あー、まぁその内、切れるだろ。さすがに媚薬程度で死なないだろ」

男性2「……まぁ。それなら良いが――」

 シャワーを浴び、身支度を済ませた男性達は部屋を後にしようとする。
 千早はまだ意識が飛んでいるのか、反応がない。微かに息はしている為、大丈夫だと思うが――。

男性1「じゃあな、千早ちゃん――気が向いたらまた犯しに来てやるよ」

 男性は千早の財布から現金数万円と聖應女学院の学生証を抜き取る。
 そして……男性は去り際に捨て台詞を千早に吐き、ラブホテルを後にする――。

 一時間後――合成媚薬の効果が切れ始め、朦朧としながらも千早は意識を取り戻す。

妃宮千早「お、終わった……のかな……」

 千早の身体はまだ思うように動かない。
 ただ精液と愛液が交わり、むせ返る部屋の中で仰向けになり天を仰ぐ。

妃宮千早「っ……うぅ……んうっ……ぐぢゅっ……なんで、僕が……んぐっ、こんな――」

 我に返り始めた千早は……男性達に犯された、先程の記憶がフラッシュバックする。
 千早は頬を紅潮させ、涙を流しながら……嗚咽混じりの声で『なぜ』と嘆き続けた――。

妃宮千早「……んぐっ……帰ら……ないと。薫子さんや史達が心配す……」

 僅かに残る力を振り絞り、起き上がろうとするが――思う様に脚に力が入らない。

妃宮千早「あ……れ? 脚が――」

 一意的なものかどうか定かではないが、合成媚薬の過剰摂取が下半身に影響を及ぼしたようだ。
 必死に動かそうと試みる千早だが……数分もがき続けても思うように脚に力が入らない。

妃宮千早「はは……まったく冗談きついなぁ……もう疲れた、いいや……」
 
 起き上がるのを諦めた千早は……披露の為か眠りに落ちた――。

 ――午後九時、聖應女学院女子寮、櫻館にて。

七々原薫子「史ちゃん! 千早の場所は……何処っ!」

神近香織理「――薫子っ! 少しは落ち着きなさい!」

七々原薫子「でも……千早が連絡も無しに、こんな時間まで帰ってこないなんて――」

皆瀬初音「そうですね……千早ちゃんが連絡も無しに門限を破るとは思えません」

神近香織理「初音っ! あなたも心配を煽るような事を言わないで」

 千早の侍女である度會史とも含め、四人は櫻館内の談話室にて千早の行方を調べている。
 史は自前のノートパソコンにて、千早が外出用に持ち歩いている携帯電話のGPSから位置情報を取得し、携帯電話が何処にあるかを検索している。

度會史「お、お姉さま方、千早様の場所が判明しました」

七々原薫子「ほ、ほんと史ちゃん?」

神近香織理「それで……一体、千早さんは何処をほっつき歩いているのかしら」

皆瀬初音「実は方向音痴で帰って来れない――とかでしたら良いのですが……」

度會史「……移動していない事から、恐らく建物内に居ます」

 あくまで検索結果はピンポイントで位置を特定出来る訳ではない。
 薫子達は数年前の地図を持ち出し、検索結果が示す場所付近の建物を調べ始めた。

皆瀬初音「大型駐車場にオフィスビル――」

神近香織理「後は……そうね。ここぐらいね」

七々原薫子「此処って――まっさかぁ、千早がこんな場所に……だ、だよね史ちゃん?」

度會史「確かに、千早様は性的嗜好が些か歪んておりますが……さすがに考え難いかと」

神近香織理「でも目ぼしい場所は此処ぐらいよ」

七々原薫子「……行ってみよ! 行けば分かるよ!」

神近香織理「薫子……あなた、今何時か分かっているの?」

 ダイニングにて千早の携帯電話に何度も発信を繰り返し試していた、優雨が談話室に入って来た。

栢木優雨「だめ……ちはや……つながらない」

皆瀬初音「優雨ちゃん、ありがとうね。疲れてない?」

栢木優雨「ううん……わたしも……心配だから」

神近香織理「――でも薫子、もし私達だけで行って万が一、何かあればどうするつもりよ!」

七々原薫子「――香織理さん! 千早にもしもの事があったら私は……」

 談話室内で薫子と香織理の言い争いが繰り広げられている。
 終着点の見えない言い争いに嫌気をさしたのか、薫子は談話室を後にしダイニングに置かれている固定電話である人物に連絡を取る。
 その人物は――薫子のボディーガードである、龍造寺順一だった。

七々原薫子「もしもし、順一さん……千早が――」

龍造寺順一「お嬢、話は分かりました。市崎駅で十時半に落ち合いましょう」

 薫子は香織理達との相談も無しに順一と市崎駅で合流し、千早の居るラブホテルに向かう事を独断で決める。

ちーちゃんを骨格で男と断定してしまう順一さんも掘られるのか

>>72
そ、それはちょっと勘弁被りたい…

 順一との電話を終え、談話室に戻るやいなや薫子は香織理達に説明を始めた。

神近香織理「薫子……冗談抜きで言っているの?」

七々原薫子「何度も言うように……もし千早に何かあったら私は――」

神近香織理「あぁー、もうっ! 何回も同じこと言わなくてもいいわよ!」

栢木優雨「わたしも……ちはや、心配だから……いきたい」

皆瀬初音「残念ですが駄目ですよ。もし優雨ちゃんに何かあったら、駄目ですからね」

栢木優雨「でも――ううん。分かった……はつねの言うこと聞く」

神近香織理「まったく……初音、優雨ちゃんを頼むわね。――薫子、私も同じ気持よ。だから付いて行くわ」

七々原薫子「か、香織理さんっ! 史ちゃんは――」

度會史「聞かないで下さい。史は千早様の侍女です……何かあればお助けするのが史の使命です」

 こうして千早を捜索する為に薫子、史、香織理……そして、薫子のボディーガードである順一が同行する事となった。 

正直、千早が眠りについた――と言う所で終わらせるつもりだったんですが
折角、おとボクは他にも良いキャラが居るんで続行してます
バッドエンドってのもどうかな~って思ったので、もう少しお付き合い下さい

神近香織理「ここまで遠出するのも……久し振りね」

 薫子達は聖應女学院から電車で乗り継いで、一時間程の市崎駅に到着した。
 千早の携帯電話が示す位置情報は、繁華街であるここ市崎市のラブホテルから発信されている。

七々原薫子「順一さんは……」

龍造寺順一「お嬢、こちらです」

 順一は市崎駅前のバス停前で待っていた。

七々原薫子「順一さん、久し振り。早速だけど案内して――史ちゃん、香織理さん……絶対、絶対に順一さんからはぐれちゃ駄目だからね」

度會史「了解しました、薫子お姉さま」

神近香織理「言われなくても分かってるわ。こんな……治安の悪そうな所、一人で歩いていると直ぐ襲われそうね」

 薫子達は順一から離れない様に千早が居ると思われる、ラブホテルに向かう。
 人通りの多い大通りを数十分程度、歩いていると――途中に薄暗い路地裏に繋がる脇道に曲がる。
 路地裏は人通りこそ少ないが、柄の悪そうな男性がちらほらと見受けられる。

男性5「なぁそこの娘達、メッチャ可愛くね?」

男性6「俺、あの三つ編みの娘、タイプだわ……」

 薫子達を見て、まるで品定めでもしているかと思える様な会話が漏れ聞こえてくる。

神近香織理「(まったく……ろくな人間が居ないわね)」

度會史「(香織理お姉さま、もう少しお静かに喋られた方がいいですよ)」

七々原薫子「(そう? これぐらいなら普通じゃない?)」

神近香織理「(薫子の普通は、私からすれば普通じゃないのよ……)」

度會史「(薫子お姉さまは慣れていらっしゃいますからね)」

 薫子達は周囲に聞こえないよう、小声で会話を続ける。

男性7「……なぁ兄ちゃんよ。今から楽しみに行くんだろ? 一人ぐらい貸してくんねぇかな?」

 二人組の男性が薫子達の前に立ちはだかる。
 何を言い出すかと思えば……薫子、史、香織理の中から誰か一人を貸して欲しいらしい。

七々原薫子「(順一さん、あんまり騒ぎ立てないようにね)」

龍造寺順一「(大丈夫ですよ。お嬢は周囲を警戒して下さい)」

男性8「おいっ! 聞いてんのかよ?」

龍造寺順一「んっ? あぁ……なんか用か?」

男性8「はっ? そっちの一人貸せって言ってんだよ」

龍造寺順一「あぁ? 頭イカれてんのか? さっさと帰って、ママのおっぱいでも吸っとけ」

男性7「舐めてんのか? あぁ!」

 短気な男性は順一の顔面に向けて、右拳を勢い良く突き出す。
 順一は素人同然の男性の右拳を、頭を傾け寸の所で回避する。そして……男性の右腕を掴み、順一は背負投の体勢を取る。
 ――男性の脚を引っ掛け、順一は勢い良く男性を投げ飛ばした。

男性7「おわっ! ……あがぁぁっ! かはっ!」

男性8「――このクソがっ! うおぉっらっ!」

 もう一人の男性は投げられない様に、前屈みになりながら突っ込んで来た。
 しかし――所詮は素人の浅知恵、順一は余裕で回避し、首根っこを掴み男性の動作を止める。

龍造寺順一「馬鹿がっ! おらっ……ふんっ!」

 順一は男性の顔面に容赦なく、膝蹴りを食らわす。更に追い打ちをかける様に、胸ぐらを掴み頭突きを食らわした。

 男性は口内を切ったのか、口から血液が垂れ落ちる。
 完全に意識を失い、地面にひれ伏した。

龍造寺順一「お嬢っ!」

 だが……暴力沙汰の騒ぎを起こしてしまった為に、周囲で様子を窺っていた男性達が薫子達に近寄ってくる。

神近香織理「いやっ! やめて下さい!」

七々原薫子「か、香織理さん! あなた達は――」

 男性数名が史と香織理……そして薫子を捕える為、腕を掴んできた。
 順一は駆け走り、薫子達の周りに居る男性達に殴り掛かる。

七々原薫子「順一さん! あたしはいいから、史ちゃんと香織理さんを――」

 薫子は男性に掴まれている右腕を大きく円を描くように振り回した。
 突然の事に男性の腕から力が一瞬抜ける――その瞬間に薫子は、男性の腕を掴み上げ背後に回る。
 腕を撚るような形となり、男性の口から悲鳴が漏れる。
 更に薫子は力を強め――男性の右足を引っ掛け、勢い良く地面に打ち付けた。

龍造寺順一「このクソがっ! おらっ!」

 順一は史と香織理に接近する男性の相手をしている。

七々原薫子「……順一さん!」

龍造寺順一「お嬢っ! 相手が多すぎる、二人を連れて行って下さい!」

七々原薫子「で、でもっ!」

龍造寺順一「ド素人相手に――ふんっ、はっ! 負けませんよ!」

七々原薫子「……分かった! 史ちゃん、香織理さん走ってぇ!」

 薫子が史と香織理に向け叫ぶ。二人は薫子の後を追う為、全力疾走する。
 男性達は薫子達を逃すまいと、追い掛けようとするが――順一は行かせまいと、男性達の眼前に立ちはだかった。

龍造寺順一「はぁ、はぁ……。おいおい……お前らクソ共の相手は――俺だ」

 柄の悪い男性達の相手は順一に任せ、薫子達は全力疾走で男性達から逃走した。
 幸いにも路地裏を抜けると、大型駐車場が右手にあり見晴らしも良い。更に、人通りも大通り程ではないが多い。
 薫子は後ろを振り返る――男性達は追ってこないようだ。

度會史「はぁ……はぁ……ふぅ……」

七々原薫子「ふ、史ちゃん、大丈夫?」

度會史「……は、はい……大丈夫です。でも正直……こ、怖かったです」

神近香織理「すぅー、はぁ……。薫子、あの殿方は大丈夫なの?」

七々原薫子「どうだろ……順一さんの事だから問題無いと思うけど」

神近香織理「歯切れが悪いわね。ここからは薫子だけが頼りなのよ」

七々原薫子「うん……大丈夫、大丈夫だよ!」

度會史「空元気も程々にして下さいね。薫子お姉さまに何かあれば……史は千早様に会わせる顔がありません」

 とりあえず落ち着きを取り戻した薫子達は、千早が居ると思われるラブホテルに向かう。
 ものの数分程度で左手に、古寂れたラブホテルを発見した。

度會史「地図によれば……ここのようです」

神近香織理「はぁー、まさか人生初のラブホテルが、同姓とだなんて思わなかったわね……」

七々原薫子「もうっ! 香織理さん、冗談言ってる場合じゃないってば!」

 薫子達は渋々とラブホテルに入店する。
 入ると真正面に空き部屋やランクが記載されている、大型液晶モニターが設置されていた。

神近香織理「へぇ……こう言うシステムなのね」

度會史「香織理お姉さま、感心する所ではありません」

 大型液晶モニターを通り過ぎると、受付らしき場所が見受けられる。
 薫子は受付に向かい、暇そうに座っている中年の女性スタッフに話し掛けた。

七々原薫子「あのー、すいません――」

女性「んっ?」

 中年の女性スタッフは薫子の背後に居る、史と香織理に気づく。

女性「あー……まぁ、大丈夫よ」

七々原薫子「……へっ?」

女性「だから、今回は特別に女同士でもいいわよ」

 予想もしていなかった返答に薫子は戸惑う。
 いや……戸惑うと言うよりかは思考が停止し、呆然と突っ立ている。
 そんな薫子を見かねた香織理は、代わりに中年の女性スタッフに事情を説明し始めた――。

女性「そうね……白銀の長髪、男性の格好――」

神近香織理「心当たり、ありませんか?」

女性「……んー、そう言えば……お昼頃に男性四人と女性一人のグループが来たわね」

神近香織理「どの様な格好だったか覚えていらっしゃいますか?」

女性「格好は分からないけれど、確か白銀の長髪って部分は合っていたと思うわよ」

神近香織理「お手数ですが、どの部屋香教えて下さい――」

 香織理は中年の女性スタッフから、千早と思わしき人物が居る五階の五〇三号室に案内される。

神近香織理「ふぅ……二人共、理解していると思うけれど……もし此処に千早が居るとするなら――」

度會史「――千早様が……どの様な状態か、分からないと言う事ですね」

神近香織理「そうよ。最悪の事態も、想定しなければいけないわ」

七々原薫子「千早……。だ、大丈夫だって! も、もしかしたら前の学校の友達かもだし」

神近香織理「そうね……そうあって欲しいわね」

女性「これかな、おっ合った。お嬢さん達、開いたよ」

 五〇三号室の扉が解錠された。
 薫子は扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。
 扉を開くと玄関と洗面台、お風呂場がある部屋が現れた。

七々原薫子「あれ? ここだけ?」

神近香織理「そんな訳ないでしょ……たぶん奥の扉よ」

七々原薫子「開けちゃってから言うのもおかしいけど……先に声掛けして確認した方が」

神近香織理「薫子にしてはごもっともな事を言うわね」

度會史「お姉さま方、万が一間違いであれば、笑い話で済みます。開けましょう――」

 史はベッドルームに繋がる、扉に手をかけ、中を確認する様にゆっくりと開けた――。

度會史「っ……あっ……ち、千早……さま?」

 扉を開けると――白銀の長髪……そして男性の生殖器。
 そして、外出する際に身につけていた衣類――侍女である史は、千早の服装を毎日チェックしている。
 史は即座に理解できた。ベッドの上で仰向けになっている人物が、千早であると――。

神近香織理「史ちゃん? 千早いた――や、やだっ! なにこの臭い!」

 千早が居るベッド―ルムは換気がされていない為、男性達と千早の精液や愛液による異臭が立ち込めていた。
 史は……ベッドの上で仰向けになっている人物が、千早本人だと理解すると千早の元に駆け寄る。

度會史「ち、千早様っ! 千早様、大丈夫ですか! 千早様――」

七々原薫子「ふ、史ちゃ――うっ……なにこの臭い」

神近香織理「薫子っ! 救急車呼ぶから、千早さんと史ちゃんを見てあげて!」

 香織理は一旦、ベッドルームを後にし、中年の女性スタッフに事情を説明し救急車を呼ぶように説得する。
 薫子は咄嗟に備え付けのバスタオルを手に取り、千早と史の元に駆け寄る。

度會史「あっ……あっ、ちは……千早さま」

 流麗な白銀の長髪は激しく乱れ、男性達の精液が千早の色白できめ細かな肌を犯す。
 千早のあまりの姿に史は――様々な感情と異様な状況により錯乱状態に陥っている。

七々原薫子「な、なによこれ――ち……千早ぁ! 千早……千早っ! しっかりして!」

神近香織理「ふ、二人共どきなさい! 千早さん! しっかり――」

 薫子も史もあまりの光景に錯乱しており、ただ千早と叫び続けるだけで精一杯だ。
 そんな薫子と史を見て、救急車を呼び終えた香織理が、千早の元に駆け寄る。
 千早と呼び続ける声も虚しく、千早は一切の反応も示さない。
 香織理は千早の手を触れ体温を確認するが――。

神近香織理「冷た過ぎるわ……薫子っ! 暖房を付けて、毛布を持ってきて頂戴!」

七々原薫子「……ち、千早……千早ぁ!」

神近香織理「薫子っ! しっかりして、早くなさい!」

 ――薫子は香織理の檄で我に返る。

神近香織理「脈波ある……でも呼吸が弱いわね」

七々原薫子「か、香織理さん、持ってきたよ」

神近香織理「タオル貸しなさい。私は下半身を拭くから、薫子は上をお願い! 史ちゃんはタオルをお湯で温めて来てっ!」

七々原薫子「う、うん……分かった」

度會史「あ……うっ……わ、分かりました」

 薫子と香織理は千早が裸であると言う事も構わず、千早の身体に染み付いた精液を拭き取っていく。
 そして、数分が経過した頃――遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。

神近香織理「とりあえず、これでいいわ。薫子、服を着せるから手伝って頂戴」

七々原薫子「う、うん! 分かった!」 

 香織理の指示で千早に衣類を着せる。
 脈もあり、呼吸も僅かにしている。香織理は恐らく、低体温症と行為の激しさにより、衰弱し切っていると考えた。
 ジーンズとワイシャツを着せて、上から毛布を被せる。
 史が温めて来た、タオルを千早のおでこに置き身体を温める。

七々原薫子「ねぇ…‥ねぇ、香織理さん……千早は――」

神近香織理「分からないわ。反応が無いけれど、少なくとも生きている事に間違いないわね」

度會史「……うぐっ、んっぐ……千早様……ぐずっ」

 普段、冷静な史が千早を目の前に涙を零し、泣き始める。
 千早を助けられなかった事、千早がこの様になってしまった事で、史は後悔の念に苛まれる。

神近香織理「史ちゃん……大丈夫よ。千早の事だから直ぐ治るわよ」

 泣きじゃくる史を優しく抱き締め、香織理の胸の中で泣かせてあげる。

 そして――ようやく救急車が到着し、千早は市内の救急病院に搬送された――。

一言、本編は千早が眠りに落ちた所で終了しています
その後に関してはあくまでエピローグみたいなものです
エロは?と言う方には申し訳ありません

 ――午後ニ時五〇分、市崎市内の救急病院内にて。

 香織理は櫻館に居る、初音に連絡を取る。
 勿論、千早が男性であると言う事は伏せて、初音に事情を説明し始めた。

神近香織理「――えぇ……分かってるわ。恐らく学院側にも今回の事は伝わる筈よ」

皆瀬初音「そう……ですね。私からも緋紗子先生には、公表しないよう明日にでも念を押しておきます」

神近香織理「そうね。その方がいいわね。後、陽向や優雨ちゃん達には伝えないようにね。それと薫子は一旦、帰らせるわ。それじゃね」

 初音との電話が終え、千早が居る病室に戻る。
 香織理の読み通り、医者が言うに千早は極度の衰弱状態にあるらしい。数日間は意識を取り戻さない可能性があるとの事だ。

神近香織理「後は私と史ちゃんで診ておくから、薫子は戻って休みなさい」

七々原薫子「いやだ……千早から離れたくない……」

神近香織理「気持ちは分かるわよ。でも、薫子と千早が同時に学院に居ないとなると、一部の生徒が嗅ぎ回る可能性があるわ」

七々原薫子「……どうでもいいよ。嗅ぎ回りたければ、勝手にすればいい」

神近香織理「全く、もしこの事が公にでもなれば……千早さんは学院に居られなくなるのよ? 分かってるの?」

度會史「ぐずっ……薫子……お姉さま。んぐっ、お願い……します。千早様の為にも――」

七々原薫子「史ちゃん――分かった。一旦、戻るよ」

神近香織理「正面玄関にタクシーを停めてあるわ。一旦、休んでから、三限目ぐらいに登校しなさい」

七々原薫子「それじゃ……香織理さん。後は任せるね」

神近香織理「えぇ。それと薫子、その顔で登校しちゃ駄目よ。一瞬で泣いてましたって事が分かるわよ」

七々原薫子「うん……分かった」

 後の事は史と香織理に任せ、薫子は救急病院を後にし櫻館に戻った。

エロシーン終わった瞬間書くのが早くなったでござるの巻

>>88
仕方ない…エロシーン程、難しい物はないよ…
文字の羅列だけでどうやって読む側を興奮させるかって一番難しい…

最後にワンシーンだけエロシーンを書きます
…が下記のキャラからどのキャラが良いかを選択して下さい

・七々原薫子
・神近香織理
・度會史

安価はピッタリ>>100
(まだ多少、エピローグが残っていますので
遠目の安価とします)

>>90
男バレの問題があるので既に千早が
男だと知っているこの3人に絞ります。
好きなキャラが入っていないと言う方はすいません…

神近香織理「史ちゃん、隣いいかしら?」

度會史「ぐずっ……香織理……お姉さま……どうぞ」

 香織理は史の隣にある椅子に腰掛けた。
 史は……冷たい千早の左手を固く握り締める――。
 香織理は史を心配してか、千早の左手を握り締める史の小さな手を、そっと包み込む様に握る。

度會史「香織理……んぐっ……お姉さま……」

神近香織理「史ちゃんは……千早さんの事が本当に好きなのね」

 香織理は優しく微笑みながら史を安心させようと言葉を紡ぐ。

度會史「当たり前……です。史は千早様の侍女ですから……」

神近香織理「そうよね。千早さんも史ちゃんの事を一番、好きな筈よ。だから史ちゃんが泣いていると、千早さんも悲しくなると思うの」

 普段、滅多な事では感情を露わにしない史が、これ程までに泣きじゃくる様子を見ていると、香織理は居た堪れない気持ちになる。
 香織理はハンカチを取り出し、垂れ伝う史の涙を優しく拭う。

神近香織理「(千早さん……何故、この様な事に……)」

度會史「んぐっ……香織理お姉さま……ありがとうございます。少し落ち着きました」

神近香織理「良かったわ。史ちゃんが悲しんでいると私も千早も薫子も初音達も……悲しいからね」

 香織理は史の頭を優しく撫でながら、言葉にする。

神近香織理「史ちゃん……千早さんを苦しめた人間を、私は許せないわ」

度會史「史も……香織理お姉さまと、同じ気持ちです……」

神近香織理「私は千早さんに味方――だから薫子達と相談してどうにか犯人を見つける。だから、今は千早さんの回復だけを祈りましょ」

度會史「はい、香織理お姉さま――」

 その後、珍しくも史と香織理は一時間程、千早の話題や他愛のない会話を続けた。
 ――泣きつかれたのか、話つかれたのか……史は千早の左手を握り締めながら、眠りについた。
 香織理は風邪を引かないよう、史にそっと薄手の毛布を被せてあげる。

神近香織理「(あまりに突然の事で今もまだ……動揺しているけれど……私は千早さん、貴方をこの様にした人間を許さないわ)」

>>90
安価変更>>110に変更致します

 ――午前七時二五分、雲ひとつ無い晴天、太陽の光が病室内を照らしつける。

 当初、医者に言われてた以上に、千早の回復は早かった。
 千早は――朦朧とした意識の中でゆっくりと目を開く。

妃宮千早「(んっ……んん……此処は……何処だろ)」

 意識を取り戻したものの、まだ自由に身体が動かない。

妃宮千早「(……あぁ、病院かな)」

 千早の左手が誰かの、小さな手で強く握られている。
 痛みはないが、この柔らかい手の感触が千早の思考を取り戻させてくれた。
 力を振り絞り、柔らかい手の感触の方に視線を向ける。

 そこには……前屈みになりながら、眠りつく史の姿と――史に寄り添うように、眠る香織理の姿が映り込む。

>>110
遠いので>>101>>106の間で
一番、名前が上がったキャラにします
今更ながら女性キャラとの絡みは趣旨趣向に反してる様な
気もしますが言ったからには書きます

香織里

まさかの香織里ばかり…
では香織里でいきます

妃宮千早「(そうか……昨日、助けてもらってここに居るのか――恥ずかしい所、見せちゃったな~)」

 千早はか細い声で話しかける。

妃宮千早「香織里さん――香織里さん――」

神近香織里「……んぅ、んっ……千早……さん?」

妃宮千早「そうですよ。お休みの所、すいません」

神近香織里「っ――ち、千早さん……千早さんっ! 大丈夫なの?」

妃宮千早「か、香織里さん、落ち着いて。史が起きちゃしますから」

神近香織里「あっ……えぇ、ごめんなさい。そ、それで身体は――」

妃宮千早「全快……とは言えませんが、ある程度は――と言ったところでしょうか」

神近香織里「はぁ……それなら良かったわ。まったく、千早さんと言う人は――」

 相当心配をしていたのか、それともお小言でも言わなければ気が済まないのか――回復も間もない、千早に香織里は薫子や史、初音達はどれだけ心配したかを説教混じりで伝える。

妃宮千早「ははは……ごもっともです……」

神近香織里「――あっ……えっと……疲れてらっしゃるのに、ごめんなさいね」

妃宮千早「いえ……ぐうの声も出ません。――くすっ、でも香織里さんがお説教だなんて珍しいですが」

神近香織里「はぁ……まったく、もういいわよ。済んだ話を永遠と言っても仕方がないし……」

 香織里は千早との会話も程々にし……薫子に千早が無事に回復した事を伝える為、病室を後にし連絡を取りに行った。

妃宮千早「(あぁ……結局、薫子さん達に迷惑――心配を掛けちゃったなぁ。こんな事なら多少、傷を負ってでも――後悔先に立たずか……)」

 千早の左手を優しく握り締めながら、眠っている史の頭を撫でながら千早は考えにふける。

 ――十分後、薫子や初音達に千早の回復を伝える為、連絡を取りに行った香織里が病室に戻る。

神近香織里「……とりあえず、授業が終わり次第、薫子と優雨ちゃんが先に来るわ。初音は怪しまれない様に生徒会の仕事を済ませてからね」

妃宮千早「分かりました。ただ気掛かりな事が……学院側にこの事は――」

神近香織里「少なくとも、小母さまには病院側から連絡済みだから……恐らく小母さまから経由して――と言う可能性はあるでしょうね」」

妃宮千早「母さんに……大事にならな――」

度會史「千早様、それは難しいかと史は思います」

妃宮千早「ふ、史? 起きてたの?」

度會史「はい、千早様が史の頭を撫でる快感に浸っておりました」

妃宮千早「はは……そうだったんだね。君らしいや」

神近香織里「でも……実は史ちゃん、一番心配していたのよ。号きゅ――んんぐっ!」

 史は咄嗟に香織里の口を両手で塞ぐ。

香織里「か、か、香織里お姉さまっ! それは禁句です!」

妃宮千早「ふ~ん、へぇ~……史にも意外と、可愛らしいところあるじゃ――」

 千早と香織里が史をからかっていたその時――千早の病室の扉が勢い良く、開かれた。
 その扉の扉の先からは――。

御門妙子「はぁ……はぁ……ち、千早ちゃん!」

妃宮千早「か、母さん……は、はや――っ!」

 妙子は千早に全力で駆け寄り、千早の両肩を掴み激しく前後に揺さぶる。

御門妙子「ち、千早ちゃん! 千早ちゃん! 大丈夫、大丈夫なの? どうなの?」

妃宮千早「っ……か、か、母さ――お、落ち……落ち着い……てっ!」

神近香織里「お、小母さま! 千早さんなら大丈夫ですよっ!」

度會史「奥さま、落ち着いて下さい。ち、千早様の口から泡が――」

 千早の事が心配で心配で、気が気ではない妙子をなだめる為に、数十分もの時間を要した。

御門妙子「はぁ、はぁ……。千早ちゃんごめんなさいね。お母さん、心配で心配で――」

妃宮千早「心配し過ぎですよ……母さんは。――それより……史? 喉が乾いて仕方がないから、何か買ってきてくれない?」

度會史「えっ……ですが――」

神近香織里「史ちゃん? 千早さん、私が買ってくるわよ?」

妃宮千早「いいえ、史に行って欲しいんですよ」

度會史「分かりました。千早様がそう言うなら、行ってきます」

 史は飲料水を購入する為、千早の病室を後にした。

御門妙子「千早ちゃん、本当に大丈夫なの? 何処か怪我は……」

妃宮千早「大丈夫ですよ。ほら、顔色も良いでしょ? 身体も傷ついてませんし」

御門妙子「そうなのね。お医者様から昏睡状態と聞かされた時は……私、生きた心地がしなくて」

妃宮千早「ふふ、お医者様は大袈裟ですからね。それより――史の事。叱らないで下さいね」

 千早は先ほど病室を後にした、史の事を切り出す。

妃宮千早「これは私の独断で行動した結果です。史は史なりに……私の事を想い、一生懸命になって助けてくれました。正直……史には頭が上がりません」

御門妙子「――史も頑張っているのは、私も理解しているわ……でもね、代々妃宮家――今は御門家ね。に仕えてきた度會家の品位や名誉にも関わる事なのよ」

妃宮千早「それは私も理解しています。なら……私と母さまが史に罰を与えれば、問題ないでしょ?」

度會史「(千早様――いいえ、こうなる事ぐらい分かっていた事です……)」

 史は両手に千早が好物な炭酸飲料水を抱えて、病室前の扉で立ち聞きをしていた。

御門妙子「それで、度會の名に泥を塗った史を……度會の方々が許すかどうか、私も分からないわよ」

妃宮千早「――万が一、史が許されなくても構いません。もし……この事で、史が度會家から勘当される様な事態になれば――」

 千早自身の独断で、招いてしまったこの結果――史が万が一にも、度會家を追い出された場合の処遇について、千早は責任を持って言葉にする。

妃宮千早「簡単な話です。私達の家――史を御門家で、引き取れば良いだけの話し。御門史……良い響きじゃないですか」

御門妙子「……え、えっと……千早ちゃん? 言っている意味は分かっているの?」

妃宮千早「母さん、至って正常な判断だと思いますよ? ねっ……史?」

度會史「(ち、千早様――っ!)」

 史は両手に抱えていた、炭酸飲料水を床に落とし、病室の扉を開け千早の元に駆け寄る。

度會史「千早様……千早様っ! 史は……ぐずっ、史は――」

妃宮千早「――え、えっと……史、落ち着いて」

 まさか史が泣きながら千早に抱きついて来ると、予想もしていなかった千早は少々戸惑ってしまっている。
 千早は、史をなだめる様に優しく頬を擦る。

妃宮千早「(感謝の意を述べられる程度だと思っていたけど……史にしては意外だなぁ)」

御門妙子「史、落ち着いて……ね?」

 千早と妙子は泣きじゃくる史をなだめる。
 数分もすれば史は落ち着きを取り戻した。

度會史「お、奥さま……千早様。お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」

妃宮千早「いいよ、いいよ。史の意外な一面が見れて、得した気分だから」

御門妙子「史も女の子だから、千早ちゃんにあんな事、言われたら込み上げてくるよね」

妃宮千早「ちょ、ちょっと母さん……っとそれより――」

御門妙子「そうね。事は急を要すものね。千早ちゃんもそれだけ元気なら、心配なさそうだわ。史、行きましょうか?」

度會史「え、えっと――」

御門妙子「到着する前、度會家の方から連絡があったのよ。『史を迎えに来る』とね」

度會史「……大婆さまも含めた、処遇会議――と言ったところでしょうか?」

御門妙子「そうだと思う。千早ちゃんに会うまで、史一人で……と思っていたけれど、千早ちゃんがそこまで言うのなら、私も同席して史の味方になるわ」

妃宮千早「母さん……ありがとうございます」

御門妙子「いいのよ。千早ちゃんが悲しむところ見たくないもの。――香織里ちゃん、ごめんなさいね。千早ちゃんを見てあげてね」

神近香織里「はい小母さま、お気をつけて……史ちゃんもね」

度會史「千早様、香織里お姉さま……行って参ります」

妃宮千早「行ってらっしゃい史。帰ってきたらちゃんと結果教えてね」

 妙子は史を連れ、大婆さまの居る度會家の屋敷に向かう為、千早の居る病室を後にする。

妃宮千早「なんだか、お恥ずかしい所をお見せしてすいません」

神近香織里「気にしないの、良い小母さまじゃない」

妃宮千早「……そう……だと思いたいですね」

 香織里は史が落とした炭酸飲料水を拾い上げ机に置く。

神近香織里「千早さん、どれがいいの?」

妃宮千早「えっと、それじゃ。スプラッシュで」

 香織里はスプラッシュの缶の蓋を開けようとした、その時――。

神近香織里「きゃっ! ――あぁ、嫌だわ……折角、買ったばかりなのに……」

 中身が落とした時の衝撃で振られていたせいか、蓋を開けると勢い良く中身が飛び出したのだ。

妃宮千早「ふふっ……あっ、え、えっと……笑ってないですよ」

神近香織里「まったく……人事だと思って」

妃宮千早「わ、笑ってないですよ。それより、これ使って下さい」

 千早は掛け布団の上に置いてある、手拭を手に取り香織里に渡そうと身を乗り出したが――。
 体勢を崩してしまい、ベッドから転落してしまう。

妃宮千早「痛た……」

神近香織里「千早さん、だ、大丈夫?」

妃宮千早「だ、大丈夫ですよ。それより、これで拭いて下さい」

神近香織里「えぇ、千早さんありがと」

妃宮千早「いえいえ、これぐらい。――よっ……あれ? ふんっ、えいっ!」

 千早はベッドに戻る為、立ち上がろうとするが……両足になかなか力が入らない。
 いや……それどころか、両足に全くと言っていい程、感覚がない。
 まるで――他人の足でも見ているかのようだ。

神近香織里「千早さん? 本当に大丈夫? 手を貸すわよ」

妃宮千早「い、いえ……これぐらい――」

看護師1「失礼致します。御門千早さん、香月先生よりお話が――」

看護師2「御門さん、大丈夫ですか!」

 看護師二人が千早が転落したのに気付き駆け寄ってくる。
 千早の稜形を支えながら、看護師二人は千早をベッドに戻し横にさせた。


妃宮さん「ありがとうございます」

香月医師「御門さんの担当医をさせて頂きます。神奈乃大学附属病院、第一内科の香月芳樹と申します」

妃宮千早「はい、こちらこそ……」

香月医師「重要なお話が御座いますが――そちらの方はご同席されても?」

妃宮さん「――はい、問題ありません。あと私の事は出来る限り、妃宮とお呼び頂けますか?」

香月医師「畏まりました。他の者にも周知徹底を行います。ではお話しですが――」

 香月医師が重要な話とやらを始める。
 数十分にも及ぶ、長々とした前置きと回りくどい説明に、嫌気が差した千早は――。

妃宮千早「っ……もう説明は結構です。早く結論を申し上げて下さい!」

 香月医師は歯切れ悪く、結論を述べ始める。

香月医師「――現在、両足の自由がきかない状態かと思われます」

妃宮千早「ですから……その原因と期間を聞いているのです」

香月医師「更に精密検査を行わなければ、断定は出来かねますが――恐らく、薬物が原因かと」

妃宮千早「ですが、私の記憶が正しければ、合法がどうとか――」

香月医師「まだ血液検査の結果が出ておりませんので、断定は出来ませんが……劇薬指定の違法薬物が混入していた可能性があります」

看護師1「また昨日の出来事が、原因の一端を担っている可能性も」

香月医師「期間に関して言えば、結果次第とはなりますが……私が見込むに、数日数週間の短期間ではなく中・長期間レベルかと」

妃宮千早「――まさか……いえ、そうですか……とりあえず、数日内に精密検査と結果をお願いします……」

香月医師「迅速に対応を致します。ではこれにて失礼致します。遠崎君、まず血液検査の結果を早急に――」

 香月医師と看護師二人が千早の病室を後にする。

妃宮千早「……はは、最近の医師は冗談がきついなぁ」

神近香織里「千早さん……」

妃宮千早「聞きましたか香織里さん? 散々、犯された挙句に置き土産がこれですよ。なかなか傑作ですよねぇ?」

神近香織里「――そうね。ふふっ、笑えるわ。千早さん、なかなかの傑作よ」

妃宮千早「……へっ? か、香織里さん?」

 香織里の予想外の返しに、千早は面食らう。
 千早が想像していたのは、同情の眼差し――だが香織里は違う、逆に便乗し千早をあざ笑う。
 千早の傍で数ヶ月間、過ごして来た香織里なりの返しだ。
 予想外の返しで面食らわし、正論をぶつける。

神近香織里「ふふっ……いいじゃない。両足が使えない? だから何よ? そんな事で、千早さんの周りから人が居なくなるとでも? あり得ないわね!」

妃宮千早「……ですが――」

神近香織里「違うとでも言いたいの? 私の言った事が事実で現実よ。薫子や史ちゃん、初音達や学院生徒達――」

妃宮千早「香織里さん――」

神近香織里「そして……私もよっ! 千早が歩けないのであれば、みんな全力でサポートするわ」

妃宮千早「……ですが、香織里さん! 人は……人は香織里さんが言う程、出来てはいない!」

 千早は意地を張る。
 香織里の言葉全てがとは言わないが……正しい言葉であると、心の底では理解している。
 ――この学院生活で多くの友人に恵まれ、支えてくれる人達が大勢居る。
 悪意を持つ人間ばかりではない――そんな簡単な事、この学院生活で既に分かっている。

神近香織里「そうよ! 出来たな人間なんて存在しないわ。だからこそ、悩み苦しみ人を思いやる事が出来るの。貴方は……これまでの学院生活、全否定でもするつもり?」

妃宮千早「そ、そんな事は言っていません! でも迷惑を――」

神近香織里「迷惑? 掛ければいいのよ。千早さんは、私や薫子達の目から見て完璧過ぎる。千早さんの『人は出来ていない』と言う発言には、千早さん自身が入っていないわ。『完璧と言う枠組みから抜け出しなさい千早』」

妃宮千早「えっ……」

神近香織里「千早さんは私達と同じ位置にまで落ちていない。だからこそ、人を信頼出来ず、信用をしない。私達と同じ位置にまで落ちれば、私の言っている事が理解出来る筈よ」

妃宮千早「――仮に香織里さんの言葉が正しいとして……落ちる術を知らない人間には落ちようが……」

神近香織里「当たり前よ。それに私が完璧だと言ったのは、あくまで表面上の部分。完璧と言う殻から抜け出せば、落ちれるわよ」

妃宮千早「でも……どうやって」

神近香織里「そうね……千早さんの本性を少しでも曝け出せばいいんじゃないかしら。とは言っても体面を気にする、千早さんには難しいでしょうから……まず私を信頼し信用しなさい」

妃宮千早「か、香織里さんを……ですか?」

神近香織里「そうよ。私が千早さんを私達と同じ位置にまで、落としてあげるわ」

妃宮千早「ふふっ……言い包められた気分ですが――分かりました。香織里さんを……信用します」

 香織里は千早に背を向けた状態だったが……千早の信用すると言う言葉を聞き振り返る。

妃宮千早「っ……ええっ? ちょ、ちょっと香織里さん! な、なんで泣いてるんですか?」

神近香織里「さ、さあ何故かしら? 正直、自分でも途中から何を言っているのか、分からなかったわ」

妃宮千早「い、いえ……聞いているのはそこではなくてですね。なぜ泣いてい――」

神近香織里「千早さん! 女性の涙に深い意味を求めちゃ駄目よ」

妃宮千早「そ、そう言うものでしょうか?」

神近香織里「えぇ、そう言うものよ」

 香織里は千早に寄り添うように、ベッドの端に座り千早の肩にもたれ掛かる。

妃宮千早「か、香織里さん……?」

神近香織里「千早さん、殿方ならここはそっと抱きしめるところよ?」

妃宮千早「――ですね。長く女性として、生活して居たからでしょうか」

神近香織里「ふふっ、それは言い訳ね。史や薫子、更に私からの色仕掛けが何回もあったでしょ」

妃宮千早「そうでしたね。香織里さん――」

 千早は香織里の瞳から垂れ伝う、涙を拭いながら、頬を優しく撫でるように擦る。
 それに呼応するかの様に、香織里は千早を両腕で抱き締める――。

宮藤陽向「(こ、こ、ここれは……! み、み、見ていて良いのでしょうか! どうする私っ!)」

梶浦緋紗子「宮藤さん、なにやってるのよ」

宮藤陽向「は、はわわ――!」

 陽向は緋紗子のなんて事のない言葉に驚き、勢い良く前方に転ぶと同時に――千早の病室の扉が開いた。

妃宮千早「――っ!」

神近香織里「っ……えっ? ひ、陽向?」

妃宮千早「それに、梶浦先生も?」

梶浦緋紗子「おはよう千早さ――って……お、お邪魔だったかしら?」

妃宮千早「い、い。いえ。そんな事は……それより、どうされたんですか?」

宮藤陽向「ちょい、待ってくださ~い! はぁ、はぁ……千早お姉さまとお姉さまとのご、ご関係は? い、いえそれ以上に千早お姉さまがとのが――」

神近香織里「は~い! 陽向は向こうで、香織里お姉さまと一緒にお遊戯(と言う名の教育)しましょうね~」

宮藤陽向「まだ、お聞きし――ってお姉さまの目、こわっ! わ、私、この大地を再び、踏みしめる事が出来るのですか? 答えて下さい、お姉さ――」

 香織里は陽向の首根っこを掴みながら、恐ろしい力で陽向を病室から引き摺り出して、お遊戯(と言う名の教育)をしに行った。

妃宮千早「か、梶浦先生? 何故、陽向ちゃんも一緒に――」

梶浦緋紗子「寮母さんや皆瀬さんが、朝一番から『お姉さまが居ない!』って宮藤さんが五月蝿い。と言う事で特例として仕方なくね……」

妃宮千早「それより、私が男性だと――」

梶浦緋紗子「大丈夫でしょ。神近さんのお遊戯とやらで、どうにかなるんじゃないかしら」

妃宮千早「また適当な――まぁいいです。とりあえず梶浦先生はどの様な御用で?」

梶浦緋紗子「どの様なって……もちろん千早くんの事よ」

 緋紗子は病室内の椅子に腰掛ける。
 それと――お見舞いの菓子折りを千早に手渡した。

妃宮千早「急な事なのに、有難うございます」

梶浦緋紗子「いいのよ。それで……単刀直入に聞くけれど、事実なの?」

妃宮千早「――はい、事実です」

 やはり妙子は既に学院側に連絡済みだった様だ。
 ただ疑問点が……まるで内容まで知っているかの様な口振りだ。もちろん、学院が事の内容を調べようと思えば、直ぐに分かる事だが……。

梶浦緋紗子「そっか……千早くんのお母様から連絡を貰った後。皆瀬さんが内容の報告と公にしない様にと、念を押しに来たのよ。ごめんなさいね辛い事を聞いて――」

妃宮千早「いえ、大丈夫です。済んだ事を思い返しても、仕方ありませんし。それで……」

梶浦緋紗子「えぇ、千早くんの処遇よね。学院側――いいえ、現段階では私の所で情報をストップさせているから、私の判断からすれば――」

妃宮千早「梶浦先生の判断から……」

梶浦緋紗子「――何もなかった……と言う事にして、千早くんにはちゃんと聖應女学院を卒業してもらう」

妃宮千早「梶浦先生……有難うございます。――ですが失礼なお話しをさせて頂くと、梶浦先生の『何もなかった』と言う所までは予想しておりました」

梶浦緋紗子「私も千早くんなら予想していたのよ。そこで、問題点を書いてきたわ」

妃宮千早「その前に、梶浦先生には重要点をお話し、させて頂きます」

 緋紗子は千早が語る重要点を追記した上で、問題点を書き並べた、プリントを手渡しする。
 内容はと言うと――。

 一、警察沙汰にするかどうか。
   (追記:問題点として、男性達に千早さんの学生手帳、身分証明書類が抜き取られている)
 ニ、何らかの身体的外傷を負っていた場合、学院生徒達に隠し通せるか。
   (追記;既に両足不全の為、隠し通す事は不可能)
 三、万が一、ニが知れた場合、学院内で事の内容を追求する者が居るかどうか。
 四、追記:一の追記から判断するに、男性達が千早さんに接近する可能性がある。
      この事により、他生徒に危害が及ぶ可能性があるかどうか。
 五、追記:一の追記および四から、警察または警備会社の学院警備を強化しなければならないかどうか。
      また学院生徒および学院側にどの様な、説明を行うかどうか。

妃宮千早「梶浦先生、申し訳ありません……私のせいで人員、予算――そして学院生徒にまで危険が及ぶ可能性が――」

梶浦緋紗子「謝らなくてもいいわよ。千早くんもれっきとした聖應の生徒ですもの。学院が生徒を守るのは当然の義務よ」

妃宮千早「分かり……ました。――では、まず四と五の事から、一は必須だと思います」

梶浦緋紗子「そうね。警備会社レベルが何処まで、踏み込んだ事をやってくれるか、分からないものね」

妃宮千早「ニに関しては交通事故とでも、でっち上げれば済みます。ただ……やはり一と五の問題から、少なからずとも三を実行する者が現れる筈です」

梶浦緋紗子「特に新聞部と、新設された報道部辺りが嗅ぎ回りそうね」

妃宮千早「とは言うものの……やはり取り急ぎ、実行するべきは四の問題から見て一と五ですね。男性達が四人のみなのか。以上のグループなのか全容が掴めませんし……」

梶浦緋紗子「分かったわ。学院に帰った後、直ぐに手配するわね。あと警察には外部への情報漏れが無いようにとね」

妃宮千早「はい。とりあえずニと三に関しては、こちらで何とかします」

梶浦緋紗子「じゃあ千早くんに残りは任せるわね。超特急で帰って、取り掛かるからそれじゃ――」

妃宮千早「はい。お願いしま――って梶浦先生っ! 陽向ちゃ――って行っちゃった……」

 緋紗子が千早の病室から出て行くと同時に、香織里が陽向を引き連れ戻ってきた。
 至って正常に見え――なくもない陽向が――。

宮藤陽向「千早お姉さま! お体、大丈夫ですか? 私、心配で心配で……気が気じゃなくて――」

妃宮千早「あ、ありがとうね陽向ちゃん」

宮藤陽向「ち、千早お姉さまが……私にあ、ありがとうだなんて、感謝感激ですぅ!」

妃宮千早「(ちょっと、香織里さん? 何だろ陽向ちゃんがおかしいきがするよ)」

神近香織里「(もちろんよ。まず千早さんが殿方である事実を記憶から抹消させた上で、私と千早さんが抱き合っていた場面もね)」

妃宮千早「(そんなご都合主義って……それより、なんで陽向ちゃん、僕にベッタリ何ですか?)」

神近香織里「(仕方ないわよ。副作用だもの)」

宮藤陽向「千早お姉さま~。私の事、離さないで下さいね! だから……えへへぇ、私をギューってしてっ!」

妃宮千早「(か、香織里さん……も、もういいですから、戻して下さい……)」

神近香織里「陽向~こっちに来て、お姉さまとギューってしましょ?」

宮藤陽向「は~い、お姉さま~っ!」

 陽向は香織里の胸元に飛び込んで行った。
 香織里は陽向を強く抱きしめ、陽向の耳元で囁く――。

神近香織里「陽向……愛してるわ」

宮藤陽向「お姉さま~、私もで……す? はっ! はぁ、はぁ……な、何事ですかっ!」

妃宮千早「(なんだ……この茶番劇……)」

 香織里の一言で、陽向は急に我に返り、香織里から遠ざかる。

宮藤陽向「な、な、なんでしょうか……この胸の高鳴りと――吹き出る冷や汗はっ! はっ! お姉さまのその目……こわっ!」

神近香織里「まったく……陽向は失礼ね。ねぇ? 千早さん」

妃宮千早「え、えぇ……」

 この後、陽向を落ち着かせる為と、我に返り思い出した千早が殿方である件、千早と香織里が抱き合っていた件に関して、一部を端折りながら陽向に説明をする。

宮藤陽向「な、なるほどですねっ!」

神近香織里「陽向、本当に理解してる?」

宮藤陽向「いえ、さっぱりですっ! 衝撃事実、過ぎて右から左ですっ!」

妃宮千早「ま、まぁ……それならいいかな?」

神近香織里「いいのかしら? まぁ陽向なら他言はしないでしょうし、問題はないでしょうけれど」

 千早と香織里、そして陽向を含めた三人で話をしていると――。
 病室の外、廊下から複数人の足音が聞こえてきた。

七々原薫子「(ふぅ……落ち着け、あたしっ!)」

栢木優雨「はつね? かおるこ……顔がへん」

皆瀬初音「それはね。薫子ちゃんが緊張しているからだとお思うよ」

 薫子は千早の病室の扉前で深い深呼吸をし――。

七々原薫子「――た、頼もう! 薫子お姉さまのお出ましだー!」

 勢い良く病室の扉を開いたのだ――。

香織里って千早をさん付けで呼んでたっけ?

>>122
あー…よく考えたら男バレ後は
二人の時とか千早でしたかね…
自然と移行させます…

まぁ…初音や陽向等が何時来るか分からない状況
って事でさん付けって事にしといて下さい

妃宮千早「か、薫子さん、ごきげんよう」

神近香織里「薫子……見事な滑りよ。見ていて気持ちが良いわ」

宮藤陽向「薫子お姉さま――私、感動しましたっ! 見事な滑りっぷりですっ!」

 別に受けを狙う為のものではなかったが――薫子はその場で呆然と立ち尽くす。

栢木優雨「かおるこ? なにを……たのむの?」

皆瀬初音「わ、わぁ~! 薫子ちゃん、武士さんみたいでカッコいいよ!」

神近香織里「初音……それは傷口に塩を塗る行為よ」

 我に返った薫子は一つ、お願いをしてきた――。

七々原薫子「も、もう一回、やり直してもいい?」

妃宮千早「――いえ、止めておいた方が、薫子さんの為かと……」

七々原薫子「だ、だ、だよねー! あははっ……」

 薫子が滑ると言う一悶着があったものの……薫子と初音、優雨が到着し病室内が一気に賑やかになる。
 香織里は薫子に少し用事があると言う事で千早の病室を後にし、同階の休憩室に向かった。

七々原薫子「えっと……どしたの?」

神近香織里「二つ聞きたい事があるわ。一つ目は、あなたのボディーガードさんは無事なの?」

七々原薫子{んっ? あぁ、順一さんの事ね。なら問題なしっ! 朝方に連絡が入って、二十人切りだーっとか、自己新記録だーっとか、意気揚々に語ってたよ」

神近香織里「そ、そうなのね。では、怪我はされていないと言う事かしら?」

七々原薫子「うん、無傷なんだって――しかも、『武勇伝にします』だなんて言っちゃうぐらいだよ」

神近香織里「なんだか……心配して存した気分だわ。楽観的と言うか、危機感が欠如していると言うか――何となく薫子に似てるわね」

七々原薫子「えっ? 香織里さん、なにか言った?」

神近香織里「――何も言ってないわよ。それじゃ、二つ目ね。学院内と此処に来るまでの間、特に気になる事はなかったかしら?」

七々原薫子「んー、やっぱり千早は? ってのは聞かれるけど……適当にインフルエンザで寝込んでる。って事にしてるから大丈夫だよ。それに此処に来るまでの間、何もなかったよ」

神近香織里「……なら数日間は問題なし、と言う事にしておきましょうか」

 香織里は薫子との会話を切り上げ、千早の病室に戻る。

栢木優雨「ちはや……だいじょうぶ? いたくない?」

妃宮千早「大丈夫よ、優雨ちゃん。心配掛けてごめんなさいね」

 千早の傍に座る、優雨の頭を千早は優しく撫で、優雨を安心させる。
 優雨の隣に立っている初音が、鞄の中からお見舞い品を取り出し、千早に手渡しした。

皆瀬初音「千早ちゃん、大した物じゃないけど――」

妃宮千早「わざわざ気を使わなくても……でも、ありがとうご――『超激辛ワサビ柿の種』……ですか」

皆瀬初音「え、えっとね。たまたま寄ったお店にこれしか置いてなくて……」

妃宮千早「――い、いえ、嬉しいです。柿の種大好きですから――う、嬉しいですよ」

皆瀬初音「それなら良かったです!」

宮藤陽向「――あんぅ……それより、お腹ペコペコですぅ……お姉さまぁ」

神近香織里「陽向、少し空気を読みなさい。本当、姉として恥ずかしいわ……」

妃宮千早「仕方ありませんよ。もう十四時過ぎですから」

宮藤陽向「さっすがっ! 千早お姉さまはお話しが分かる! この病院、最上階に洋食屋があるんですよっ!」

神近香織里「それより……陽向? 制服のままだけれど、お財布はちゃんと持って来たの?」

宮藤陽向「――へっ? お、お財布……はうわっ! 緋紗子先生のお車で連れてきてもらったので――」

神近香織里「はぁ……手の掛かる妹ね……。帰ったらちゃんと返しなさいよ」

宮藤陽向「も、もちろんですっ! さすが私のお姉さまっ!」

妃宮千早「薫子さん達も行ってらしたら?」

栢木優雨「ちはや……お腹へってないの?」

妃宮千早「大丈夫よ。それに病院食が来る筈ですからね」

七々原薫子「ち、千早……あたし、大丈夫だから残っちゃ駄目?」

妃宮千早「ごめんなさい薫子さん。少し、一人で考え事がしたくて――」

七々原薫子「だ、だよねーっ! 無理言ってごめんねっ!」

妃宮千早「(香織里さん、何となくでいいので状況の説明だけお願いします。それと……食事持ってきて貰える様に言っといて下さい)」

神近香織里「(えぇ、分かったわ)」

 香織里、薫子達は最上階の洋食屋にて食事をする為、千早の病室を後にした。
 千早は一人、病室で今後の諸問題を、どう迅速に解決するか考え始める――。

妃宮千早「(僕がまともに動けない以上、香織里さんや薫子さん達の安全は学院側に附託するしかない――)」

 ものの数分、考えに浸っていると病室の扉を叩く音がする。

看護師1「妃宮さん、申し訳ありません。配膳係が忘れていたもので……」

 看護師は手際よく、千早のベッドの上に小机を置き食事を配膳していく。
 牛肉のソテーにスープ、パンとサラダにコーヒーとデザートまで――病院食にしては些か豪勢な気もするが――。

妃宮千早「えっと……これ通常メニューですか?」

看護師1「別で用意されていたメニューと聞いておりますが……」

妃宮千早「そ、そうですか。次回から通常メニューで良いとお伝え下さい」

看護師1「はい、畏まりました。では失礼致します」

 看護師は配膳が済むと、千早の病室を後にした。

妃宮千早「(それに、畏まりましたって……僕なんて大層な身分でもないのに……はぁ)」

 千早は心の中で愚痴を言いながら、配膳された病院食に手を付け始める。
 そうして――食事を終え、三十分後――。

宮藤陽向「いやぁ~、食べ過ぎま――うぷっ……お姉しゃま……気持ち悪いですぅ……」

神近香織里「はぁ、呆れるわね……陽向、何しに来たのよ。ソファで横になってなさい」

妃宮千早「まぁまぁ、陽向ちゃんらしくて可愛いですよ」

栢木優雨「ひなた……よしよし――」

 優雨は横になった陽向の傍にちょこんと座り、食べ過ぎで気持ち悪そうにしている陽向の背中を擦り始めた。

妃宮千早「陽向ちゃんは優雨に任せるとして――初音さん、ただお見舞いに来ただけではありませんよね?」

皆瀬初音「そうですね……既に喫緊の問題は梶浦先生より伺っています」

妃宮千早「初音さん、まだ貴方一人しか内容は知らないですよね?」

皆瀬初音「はい。内容に関して私からではなく、千早ちゃんの口から説明した方が……と思いましたので」

妃宮千早「――薫子さん。他の問題が山積しています。ですから、私の今の状態を簡潔に言いますと――」

七々原薫子「う、うん……」

 千早の真剣な表情に、場の空地が急に重くなり始める。
 薫子の目を見て、千早は言葉を紡ぐ――。

妃宮千早「担当医の判断からして、私は当分……歩けないようです」

七々原薫子「――えっ? ちょ、ちょっと千早……冗談だよね?」

妃宮千早「具体的な内容は精密検査次第との事で――現段階では医師の推測ではありますが」

七々原薫子「それって……えっ? ちょっと待って、突然過ぎて整理が――」

妃宮千早「現状で推測ですから、外れれば直ぐに回復する事も考えられますが……」

七々原薫子「か、香織里さんも初音もこの事……知ってるの?」

神近香織里「えぇ、今朝聞いたわ」

皆瀬初音「私はここに来る前に梶浦先生から」

七々原薫子「ね、ねぇっ! 香織里さんも初音も――なんであたしに……先にっ!」

妃宮千早「お二人に責はありません。薫子さんには直接、私自身からと思い……ごめんなさい」

七々原薫子「っ……そんな言い方ずるいよ。怒ってるあたしが馬鹿みたいじゃん……」

妃宮千早「怒りに震えるのは当然の事です。この事態を招いた要因は、全て私の独断行動による結果ですから」

 病室内の時間が停止しているかの様な、静けさに数分間もの間、包まれる。

妃宮千早「――ですが……だからと言って……此処で立ち止まっていてはいけません」

神近香織里「そうね。薫子にとっても、私や初音達にとっても辛い現実……でも私達以上に、千早は苦しんでいる筈よ」

皆瀬初音「当たり前ですけど……誰も薫子ちゃんを除け者にだなんて、思ってないですからね」

七々原薫子「……うん、分かってる……。でも突然過ぎて――少し、頭冷やしてくる……」

 薫子はそう言い残し、千早の病室を後にした。

妃宮千早「私がもっと、手際良くすれば良かったのですが……」

神近香織里「はいはい。薫子なら直ぐ元に戻るわよ。それより――立ち止まっている場合じゃないんでしょ?」

妃宮千早「そ、そうでしたね。では本題に――」

 千早と香織里、初音の三人は緋紗子と千早が追記作成した、問題手が記載しているプリントを見ながら解決方法を探り始めた。
 
 ――――――――――
 一、警察沙汰にするかどうか。
   (追記:問題点として、男性達に千早さんの学生手帳、身分証明書類が抜き取られている)
 ニ、何らかの身体的外傷を負っていた場合、学院生徒達に隠し通せるか。
   (追記;既に両足不全の為、隠し通す事は不可能)
 三、万が一、ニが知れた場合、学院内で事の内容を追求する者が居るかどうか。
 四、追記:一の追記から判断するに、男性達が千早さんに接近する可能性がある。
      この事により、他生徒に危害が及ぶ可能性があるかどうか。
 五、追記:一の追記および四から、警察または警備会社の学院警備を強化しなければならないかどうか。
      また学院生徒および学院側にどの様な、説明責任を行うかどうか。
 ――――――――――

皆瀬初音「結局、私達が協力出来る内容は――」

神近香織里「実質的に項目のニと三ぐらいね。ニに関しては事故とでもでっち上げておけば済む話よ」

皆瀬初音「そうですね。薫子ちゃんと香織里ちゃん……私の三人ならニを事故として広める事は容易いと思います」

妃宮千早「問題は三、でしょうか?」

神近香織里「そうね……極少数と言えど、千早や薫子、初音に反感を持っている生徒が居る事も確かよ」

妃宮千早「反感を持つ少数の生徒が裏で嗅ぎ回ると?」

神近香織里「そう言う事ね。厄介なのがそういう生徒は、新聞部や報道部に集まり易いと言うこと」

妃宮千早「だとしても、事故と処理すれば……不審に思わないのではないでしょうか?」

神近香織里「少し調べれば、記録にない事故だって分かるわよ」

皆瀬初音「そして四と五の事から、犯人の方々が捕まるまでの間、警察の方々も含めた厳重な警備体制となる筈です」

神近香織里「――ともなれば、どうして警備が強化されたのか? と疑問に思う生徒が出て来る筈よ。特に新聞部と報道部からね」

妃宮千早「そうですね……。それが原因で万が一、今回の事件が公になれば……学院側も公表を迫られるでしょうね」

皆瀬初音「――学院内で公表される程度なら……まだましです。万が一、外部に漏れた場合はマスメディアの方々が騒ぎ立てる可能性も――」

神近香織里「そうなれば、退学処分で済めば良い方……最悪、千早の家柄にまで問題が波及するわね」

妃宮千早「それ以前に部活動レベルの、新聞部と報道部にそれ程の調査力があるとは――」

神近香織里「それは希望的観測ね」

 千早の周りで、あれじゃないこれじゃないと、三人で問題の解決方法を探っていると――。
 陽向を寝かしつけた、優雨が加わってきた。

栢木優雨「はつねは、生徒会長さん……だからだいじょうぶ」

皆瀬初音「うんっ? 優雨ちゃん、私が生徒会長だから大丈夫なの?」

栢木優雨「うん、はつねは……すごいお姉さま、だから……」

神近香織里「――そうね。そうだわっ! 初音は生徒会長だもの、さすが優雨ちゃんね」

妃宮千早「ちょ、ちょっと待って下さい。どう言う意味ですか香織里さん?」

神近香織里「千早のくせに分からないの? 簡単な事よ……初音――生徒会の長として、新聞部と報道部を抑え付ける」

妃宮千早「……んな……滅茶苦茶な……」

皆瀬初音「――いえ、意外と滅茶苦茶ではないかも知れません」

妃宮千早「でも生徒会が理由なく、部活動を抑え付けるのは問題では?」

皆瀬初音「思い出したんです。元々、新聞部は過激な調査内容から、前代……前々代の生徒会から問題提起されていたんですよ」

妃宮千早「でも現生徒会でも解決出来ていないんですよね。なのに急にどうにかなるものでは――」

皆瀬初音「それは……新聞部の規模が大きくて、反発が――でも何れ手を付けないといけない問題ですし、解決出来れば一石二鳥ですよ!」

神近香織里「なら決まりね。新聞部と報道部に関しては初音に一任するわ」

七々原薫子「――やいやい、者共、控えおろう!」

妃宮千早「ですからこの問題は――」

神近香織里「そうね。私はその方面で手を――」

皆瀬初音「香織里ちゃん、出来る限り穏便にお願い――」

栢木優雨「じー……かおるこ、さむい」

宮藤陽向「むにゃ……うにゃ……。はっ! はは~……うにゅ……」

七々原薫子「ちょ、ちょっとぉ……無視しないでよぉ」

神近香織里「あら? 薫子、早かったわね」

妃宮千早「ふふっ、香織里さんの言う通り心配は杞憂でしたね」

皆瀬初音「優雨ちゃんは、薫子ちゃん見たいな大人になっちゃ駄目だよ」

七々原薫子「ちょっと、初音っ! さり気なく失礼!」」

 こうして先ほどの問題経穴方法を薫子にも理解出来るように説明する。

神近香織里「――と言う事で……って分かってるの薫子?」

七々原薫子「う~ん……う~ん。分かんにゃ――へぶっ!」

 香織里は小机の上に置いてあった、雑誌を丸めて薫子の後頭部を軽く叩いた。

神近香織里「へぇ……分からないのねぇ。薫子くんは出来が悪い子なのね……ふふっ」

宮藤陽向「うにゃ……んんっ……はっ! お姉さまのその目……こわっ!」

七々原薫子「は、はいっ! 香織里さんに懇切丁寧に説明して頂いたおかげで、理解出来ましたぁっ!」

神近香織里「まったく……そこの二人は浮かれ過ぎよ……」

妃宮千早「いいじゃないですか。あまり気負い過ぎても仕方ありませんから」

神近香織里「まぁ……そうね」

妃宮千早「――あっ、忘れる前に一点。長くても一週間程で学院に戻ります。その間に回復するとは思えませんが……皆さんで諸問題を解決致しましょう」

皆瀬初音「千早ちゃん、一週間で退院して大丈夫なんですか?」

妃宮千早「恐らく大丈夫です。それに皆さんに任せっきりではいけませんし、どの様な形であれ、エルダーとして役目を全うしなければいけません」

神近香織里「千早――分かったわ。隊員までの間に出来る限り、私達で片付けておくわね」

七々原薫子「あたしと千早――二人で一つじゃないと、ダブルエルダーの意味がないもんねっ!」

皆瀬初音「千早ちゃん……私も頑張ってみるからね!」

宮藤陽向「さっすがですっ! 千早お姉さまは、やはりとのが――んんぐっ!」

神近香織里「あら? 陽向――もっとお遊戯(と言う名の教育)がしたいのかしらぁ?」

栢木優雨「ちはや、わたしも……がんばる」

妃宮千早「優雨……ありがとうね。では皆さん……ご迷惑をお掛けしますが――宜しくお願いします!」

 ――午後十七時、香織里や薫子、初音達は聖應女学院に戻る為、帰宅の途に付く。
 千早の長く、忙しい入院一日目が過ぎようとしていた――。

度會史「――千……様。千早様――お……て下さい――」

妃宮千早「……んんぅ……文かい……?」

度會史「ご名答です。お休みの所、申し訳ありません」

 千早は壁に書けられている掛け時計に視線を向け、時刻を確認する。
 ――真夜中、午前二時を過ぎた頃だった。

妃宮千早「――って、史なんでこんな時間に!」

度會史「いえ、報告を千早様が仰っていたので……」

妃宮千早「いや……言ったけどさ。別にこんな時間に来なくても……まぁいいや。それでどうだったの?」

度會史「はい。お足気に到着し、車から降車しまして、玄関を靴を脱ぎ――」

妃宮千早「――ねぇ、史? その説明じゃ物凄く長くなるよね?」

度會史「六時間程度の長編映画並には長くなります」

妃宮千早「はぁ……じゃあ、過程の一部分と結論だけ言って」

 史は千早に今日の出来事で、重要な部分を説明し始める。
 本日、史が屋敷に呼び出されたのは、予想通り大婆さまと度會家一堂が会した、処遇会議であった。
 当初は史の御門家での侍女を解任、及び正式決定が下るまでの間、謹慎処分と言うのが賛成多数で可決され様としていたが――。
 だが、同席していた妙子の説得の甲斐もあり、解任に関しては取り下げられる。
 最終的な処遇は――さすがに処分不要、とはならなかったが……主人である千早への一週間接近禁止命令のみで済んだ。

妃宮千早「って……今、会ってるじゃないか……」

度會史「ですから、人目を盗んで夜中に来たのです」

妃宮千早「史は悪い子だなぁ。悪い子に育てた覚えはないけど」

度會史「(千早様ほどではありませんよ)」

妃宮千早「んっ? なにか言った?」

度會史「いえ、気のせいです」

妃宮千早「まぁでも……その程度で済んで本当に良かった。でも謹慎は良いけど――何処で?」

度會史「千早様のお屋敷です。警備システム等は史が管理していますので……必然的に」

妃宮千早「はは、謹慎っぽくない謹慎だね。一週間程度なら、大人しくしてるんだよ」

度會史「事情に関しては全て、香織里お姉さまからお聞きしております。……千早様も無理はしないで下さい」

妃宮千早「大丈夫、分かってるよ。――それじゃ、史……また一週間後に」

度會史「たまに来るかもしれませんが……それでは千早様、おやすみなさいです」

妃宮千早「おやすみ、史――」

 ――入院二日目、午前九時四〇分。
 今日は至って普通の病院食メニューだ。
 そして……病院食を丁度、食べ終えた頃――背広姿の男性二人が千早の病室を訪れる。

背広男性1「――御門千早さんでしょうか?」

妃宮千早「はい、そうですが……どちら様でしょうか? ――いえ立ち話も失礼ですから、お入り下さい」

背広男性1「では失礼致します」

背広男性2「朝早く、お休のところ申し訳ございません」

 一人は五十代の中年男性、もう一人は三十代の男性。
 どちらも身なりはしっかりとしており、清潔感や信頼感もある。

背広男性1「私共は、こう言う者です」

背広男性2「同じく」

 男性二人は背広のポケットから警察手帳を取り出し、千早に見せる。
 五十代の中年男性は、『神奈乃県警察・刑事部・捜査第一課の安藤警部』
 もう一人の三十代の男性は、『神奈乃県警察・刑事部・捜査第一課の飯上警部補』

妃宮千早「(警察の方か……梶浦先生は手配が早いなぁ)」

安藤「お疲れのところ申し訳ございません。先日の事件に関して、お伺いしたく参りました」

飯上「……失礼を承知でお聞き致しますが……宜しいでしょうか?」

妃宮千早「はい。問題ありません。」

飯上「では、二日前の――」

 千早は記憶に残っている限りの事の内容を、懇切丁寧に数十分にかけて男性二人に説明を行う。

安藤「――なるほど。実を申し上げますと……以前にも数軒、同じ手口で強姦事件が発生しておりまして」

飯上「ただ、今回の様に薬物が使用されておらず。恐らく、犯人グループに薬物関係者が加わった可能性あります」

妃宮千早「僕としては、誰が加わろうとどうでもいい話です。ちなみに犯人の目星は付いているのですか?」

安藤「い、いえ申し訳ございません。今回は事の重大性から、御門本部長の直接指示の元、神奈乃県警の総力を上げて犯人逮捕に全力を尽くします」

妃宮千早「(しまった……御門本家の人間が神奈乃県警察に居たんだ……)」

飯上「それでは進展があり次第、ご連絡をさせて頂きます」

妃宮千早「理解されているかと思いますが……必ず、外部に情報が漏れないように――」

安藤「御門本部長より、耳が張り裂ける程にキツく注意されておりますので、ご心配いりません」

飯上「――では失礼致します」

 男性二人は千早の病室を後にする。

妃宮千早「(んー、大丈夫だと思うけど……心配しても仕方ないか)」

 ――同日、午後十二時、聖應女学院にて。

下級生1「お、お姉さまは大丈夫なのですか?」

下級生2「私も気になって……昨日は夜も眠れず――」

七々原薫子「千早は……ちょっと事故にあってしまってね。あっ! でも大丈夫、全然平気だか――」

下級生1「じ、事故ですかっ? どういう事ですかお姉さまっ!」

同級生1「お姉さまが事故に? ほ、本当なのですかお姉さま?」

七々原薫子「え、えっと……でも大丈夫で――」

上級生1「――お姉さまが事故ですって? どういう事なの?」

上級生2「どの様な事故に? 様態は……お怪我の程度はっ!」

七々原薫子「い、いやぁ……ちょっと両足を――」

下級生3「ま、ま、まさか……両足が使えない状態なのですかっ!」

下級生4「そ、そんな……お姉さまが――はっ――!」

下級生2「遠音さんっ! 大丈夫ですか? しっかりしてぇっ!」

同級生2「は、早く保健室に連れて行きなさい――っ!」

七々原薫子「だ、大丈夫っ? 私が連れて行くわね!」

 薫子はこれを絶好の機会と判断し、下級生を抱き抱え保健室に逃走するように駆け走る。

上級生1「あっ! お姉さまがっ! お待ちになって下さい――!」

下級生3「お姉さまが逃げたわよっ!」

下級生2「と、遠音さん! す、少し羨ましいですわ……」

七々原薫子「(はぁ、はぁ……な、なによこれっ! だ、誰か……千早ぁ助けてぇっ!)」

 こうして薫子は一日中、下級生から上級生まで大多数の生徒に、千早の様態や怪我の程度を質問攻めにされる。
 そして瞬く間に、千早が事故に合ったと言う事実が学院内に知れ渡る――。

 ――その頃、千早の病室内では……香織里が学院を休み、お見舞いに来ていた。

妃宮千早「……そんな簡単に休んでもいいんですか?」

神近香織里「大丈夫、許可は取っているわ。――はい千早、剥けたわよ」

 香織里はお見舞い品の梨の皮を向き、千早に手渡す。

妃宮千早「この梨、甘くて……美味しいです!」

神近香織里「私がわざわざ、買ってきてあげた物だから当然よ」

妃宮千早「――それにしても……今頃、薫子さん大丈夫でしょうか?」

神近香織里「さぁね。薫子なりに上手いことやっているでしょ」

妃宮千早「良くも悪くも――と言った感じでしょうか?」

神近香織里「ふふっ、そうね。良くも悪くも薫子なりに……ね」

 雲一つない晴天の午後、病室内に柔らかい日差しが照らし込む。
 千早と香織里は他愛ない会話も交え、ゆったりと心地よい時間を過ごし始めた――。

>>133
上級生じゃなくて同級生です

 ――入院三日目、午後十六時。

香月医師「妃宮さん、失礼致します」

 本日は朝方から精密検査の為、検査の連続だった。
 血液検査やその他の検査結果が出たと言う事で、報告の為に担当医の香月が訪れたのだが――。
 大名行列の様に教授や助教授、看護師が並んでおり、香月は左寄りの後ろ側に立っていた。

妃宮千早「(総回診でもないのに……こんなに来なくても……ね)」

教授「お疲れのところ、申し訳ございません」

妃宮千早「いえ、構いません」

安住教授「神奈乃大学医学部、第一内科の安住高気と申します。この度、妃宮様の担当医を努めさせて頂きます」

遠見教授「私は神奈乃大学医学部、第一外科の遠見です。同じく、妃宮様の担当をさせて頂きます」

妃宮千早「では、そちらの香月医師、いや教授か助教授ですか? どちらでもいいですが」

安住教授「今回、過去に例がない為、全力で治療をさせて頂きます」

妃宮千早「要は大学病院の威信に関わる為、変更しましたと……まぁいいです」

安住教授「では……今回、使用された薬物は、アポシン125と呼ばれる第一級劇薬指定を受けている薬品となります」

内科講師「簡潔に申し上げますと、作用は媚薬作用、拘束作用の一時的発生です」

安住教授「問題は副作用でして……一部身体の機能不全、神経遮断を引き起こす可能性あり――」

妃宮千早「その副作用が見事に発生した――と」

安住教授「その通りです。動物治験例しかなく、この副作用が人体に対してどの程度の期間作用するのか……」

妃宮千早「副作用だとかを、長々と話す気分ではありません。方法と結論を」

安住教授「早急の手術また投薬治療の二択かと」

妃宮千早「過去に例がない状態であるのに、手術で解決を?」

安住教授「はい。検査の結果、両足の骨組織に何らかの異変が現状、発生しております」

妃宮千早「異変とは?」

内科講師「推測ですが、薬品による影響で骨が溶かされている……と言う可能性ですね」

安住教授「手術に関しては、薬品の死滅および骨の外郭を削り取る。そして骨組織の再生を待つ。この様な過程になるかと」

遠見教授「但し、完全に治癒するかどうかは保証できませんが……」

妃宮千早「……なんにせよ、直ぐには決めかねます。とりあえずお伝えした通り、一週間後には退院をし熟考します」

安住教授「畏まりました。では失礼させて頂きます」

遠見教授「お疲れのところ申し訳ありませんでした」

 教授や助教授、看護師等を含めた集団は足早に千早の病室を後にし去っていった。


 ――入院四日目、午後十五時三〇時、聖應女学院・生徒会室。

皆瀬初音「――内容はお伝えしている通りです。別働隊は報道部部長……私を含めた本体は新聞部部長を拘束し、会議室に連行します」

 再三の呼び出しに応じない、新聞部部長と報道部部長を強制的に連れて来る為、初音は思い切った行動に出る。

烏橘沙世子「めずらしい……私がやりそうな事を初音が実行するなんて」

皆瀬初音「そうですか? ――ふふっ、由佳里お姉さまに似ちゃったのかもしれませんね」

烏橘沙世子「でも、そんな初音も嫌いじゃない」

立花耶也子「ちょっとワクワクする! 絶対にこれ、聖應の歴史に載るって! ねっ、つっちー?」

土屋さくら「ややぴょん、うるさい! あぁ……聖應生徒会史上、初めてじゃ――」

皆瀬初音「くれぐれも皆さん……怪我だけはしないように。気配を感じ取られたら、直ぐ逃げちゃいますからね」

 報道部部長捕縛別働隊は耶也子が指揮の元、さくら含め生徒会執行部五名が参加。
 新聞部部長捕縛本隊は初音が指揮の元、耶也子含め生徒会執行部七名が参加。

 本隊と別働隊が同時に生徒会室を後にし、新聞部および報道部部室に向かう――。

 ――同日、午後十五時五〇分、聖應女学院・新聞部部室前。

皆瀬初音「(どうだった、耶也ちゃん?)」

立花耶也子「(ばっちり居ました。部員数も出払って様で少ないです)」

皆瀬初音「(ありがと。耶也ちゃんと二人は右側の扉から、残りは私と左側からね。一分後に突入よ)」

 新聞部部室内――。

部員1「七恵お姉さま、報道部が騒がしくないですか?」

七恵部長「まぁ遊んでるんじゃない? ほっときゃい――っ!」

 ――午後十五時五一分、初音率いる本隊が新聞部部室に突入。
 初音と耶也子が一斉に、扉を開け新聞部部長である七恵を拘束する為、一直線に突っ込む。

部員2「な、なにっ!」

生徒会役員「動かないでっ!」

七恵部長「きゃぁぁっ! ――いつっ……な、なにすんの! 貴方達っ!」

立花耶也子「いててっ……か、会長っ! 捕まえましたよ!」

七恵部長「っ……生徒会か……」

皆瀬初音「はいはい。動かないで下さいね~。素直に付いてきて下されば、手荒な事は致しませんので……」

七恵部長「はぁ……まぁいいよ。なんの用か知らないけど」

 耶也子と生徒会役員達は七恵の腕を拘束し、逃げれないように取り囲む。
 そして――生徒会が貸しきった会議室に到着した。
 途中、他の女生徒達が何事かと野次馬の様に集まってきたがどうにか――。

皆瀬初音「沙世ちゃん、お疲れさま。みんな怪我してない?」

烏橘沙世子「なんとかね。少し抵抗されて、二人がかすり傷で保健室に行ったぐらい」

三条部長「七恵お姉さま……」

七恵部長「し、静、大丈夫だったか?」

三条部長「はいぃ……なんとか」

 無事、新聞部と報道部の部長を捕まえた生徒会は会議室の扉を開く――。
 そこには、残りの生徒会役員と各部活動の部長が四方に座っていた。

七恵部長「な、なによ……これ?」

皆瀬初音「円卓会議……と言った所でしょうか?」

烏橘沙世子「どちらかと言うと、現代版の魔女裁判じゃないかしら」

 新聞部部長の七恵と報道部部長の三条を、円卓に囲んだ机の輪の中央に座らせた。
 初音と沙世子は……七恵と三条の前方に置かれている椅子に腰掛ける――。

皆瀬初音「ふぅ……では――皆さん、お忙しいところお集まり頂きまして感謝致します」

 初音が立ち上がり、深々と頭を下げると同時に、生徒会役員達も立ち上がり、部活動の部長達に深々とお辞儀をする。

烏橘沙世子「早速ですが、今回お集まり頂きましたのは――かねてより問題となっていた、新聞部と報道部に関する事です。まずお手元の資料1、2ページ目を御覧下さい」

 資料の題名は『新聞部・報道部のあり方』と記載されている。
 資料1、2ページ目には、これまで新聞部と報道部が公表、取材を行ってきた内容が記載されていた。

烏橘沙世子「この聖應において、皆さんご存知の通り新聞部は古くからある、由緒正しき部である事は資料をお読み頂ければ分かるかと思います」

皆瀬初音「――ですが近年、新聞部の取材目的および内容に過激性が増しております。資料下部に記載の数ヶ月前の記事を御覧下さい」

 その記事には――聖應女学院・新聞部発行と記載の新聞紙面中央に、大きく『聖應女学院生徒、学院外で淫行か!」と記載された内容が掲載されている。

皆瀬初音「この号の学院新聞は発行を中止致しましたが……あまりに風紀から逸脱した内容です」

七恵部長「そ、それは……部員が私念で――」

皆瀬初音「部員が勝手にやった事だから……と? 生徒会にて紙面に掲載されていた、該当生徒にお聞きした。『あれは父親です』と笑顔を浮かべ、返されました」

烏橘沙世子「事実、詳細に生徒会にて調査した所、該当生徒の父親である事が判明。当時、記事作成者の生徒を厳重注意しました」

皆瀬初音「他の問題ある内容に関しては、全て記載しております。それは後ほど、ご覧頂くとして……次のページを開いて下さい」

 次の資料の3、4ページ目には『過激な調査スタイル・報道部の目的』と記載されている。

皆瀬初音「過激な調査スタイルは現在も変更されておりません。調査中ですが中には、情報を対価に男性と淫行を繰り返した部員も居ると伺っております」

烏橘沙世子「もはやこれは犯罪行為です。その弾性に関しては逮捕、部員の女生徒は退学処分となったと――」

七恵部長「こ、これだけの規模の人数を……抑えきれるとでも?」

烏橘沙世子「抑えきれる、きれないの問題じゃないの。事の重大さに気付いていない辺り、貴方は役立たずの部長ね」

皆瀬初音「そうですよ。私達も全てが駄目だと言っていません。ただ……やり過ぎである事を理解するべきです」

七恵部長「――中には……過激な部員が居る事も事実よ。でも……殆どが新聞部として誇りを持って、活動しているっ!」

皆瀬初音「それでは駄目なのです。一部の過激な部員を放任している事実がある以上、生徒会は放置しておけません。では次を――」

 『報道部の目的』と記載されたページに全員、目を向ける。

皆瀬初音「報道部は昨年、新設された部です。部の設立目的は『公平公正な報道』です」

三条部長「…………っ!」

皆瀬初音「ですが……実体は新聞部の部員が半数を占めており、表立った活動が行われておりません」

烏橘沙世子「――ここに一本のビデオがあります。風紀上、お見せ出来ませんが……内容は学院生徒同士の淫行映像です」

皆瀬初音「内容については言及しませんが……何処かから、盗撮している様な映像となっています。耶也ちゃん?」

立花耶也子「はい~。えっとですね……ビデオを所持していた、生徒によると――『報道部に依頼した』とか言ってましたっ!」

皆瀬初音「皆さん、お聞きになりましたか? 『報道部に依頼した」ですよ。実は押収したのは、この一本だけではありません」

烏橘沙世子「自責の念に駆られ、自白しに来た生徒から押収したビデオ本数は――現在で十五本にもなります」

皆瀬初音「更に依頼の対価として、学院内で金銭のやり取りをしていた。との調査結果が出ております。皆さんに問います……これは正しい事でしょうかっ?」

 会議室内がざわつく。
 新聞部と報道部に関する噂を耳にした者、今回こうして知った者、このお嬢様学校である聖應女学院でこれ程の事が行われていた事実に生徒会役員や各部の部長達は驚きを隠せない。

皆瀬初音「――では……ここで新聞部、報道部の部長による弁明の機会を設けます」

烏橘沙世子「(は、初音っ! もう私達の完全勝利なのよ。わざわざ、弁明だなんで――)」

皆瀬初音「(確かに現状で可決出来ます。ただ……より確実にする為には弁明が必要です)」

土屋さくら「では……えー、三年E組、新聞部部長の七恵莉花子さん。えっと、弁明の時間は……何分ですか会長?」

皆瀬初音「――無制限でね。何分でも喋ってもらってもいいよ」

烏橘沙世子「(初音、さすがにそれは――)」

皆瀬初音「(良いんだよ。沙世ちゃん。たぶん殆ど話せないと思うし)」

 新聞部部長の七恵莉花子が渋々、席から立ち上がり喋り始めた。

七恵莉花子「えっと……三年E組、放送部部長の七恵莉花子です。――わ、私はこれまで部員達の為にと思い、行動してきました――」

 七恵が弁明を始めて、二分も経たずに言葉が詰まり出す。

七恵莉花子「――えー、私は部員達の事を信じます。これは……新聞部と報道部を疎み嫌う、生徒会が仕組んだ事だと――私の弁明は……以上です」

烏橘沙世子「(これだけ証拠を提示されて、仕組んだ事ですっ! だなんて通用しない。ねぇ、初音?)」

皆瀬初音「(どうでしょうか……。数ページの資料に視聴出来ないビデオ――不十分と言われれば不十分ですね)」

土屋さくら「七恵莉花子さん、ありがとうございます。次に……一年A組、報道部部長の三条静羽さん、お願いします。会長? この人も無制限ですか?」

皆瀬初音「うん。無制限でね」

 次に報道部部長の三条静羽が、おどおどしながら立ち上がった。
 図星なのか……ただこの状況に緊張しているのか、少々顔色が悪い。

三条静羽「うぅ……え、えっと……一年A組、報道部部長の三条静羽で……す。私は――」

 三条静羽はおどおどしながら、言葉を紡ぐ。
 だが……相当言葉を選びながら喋っているのか、断片的過ぎて非常に聞き取りづらい。

三条静羽「――私は……報道部の誇りと、信念を持って……えっと――」

七恵莉花子「(静っ! どうせ生徒会の持ってる証拠なんて全部嘘よ。思っきり言いなさい!)」

三条静羽「(は、はいっ!……七恵お姉さま)」

 静羽は初音を直視し、息を整えて……聞き取りやすい声で喋り始めた。

三条静羽「はぁ、ふぅ……わ、私は報道部の皆を信頼しています! 生徒会のこの行為は……私達、報道部への侮辱行為ですっ!」

烏橘沙世子「はぁ? な、なに言ってんのよ! 生徒会が嘘を付いていると?」

三条静羽「はいっ! こんな紙切れの資料なんて、誰でも捏造出来ます!」

烏橘沙世子「生徒会が……捏造だなんてする訳ないでしょ!」

三条静羽「で、では初音お姉さま……沙世子お姉さま――そのビデオを見せて下さい」

 正直、誰も予想にしていなかった事態だった。
 初音はてっきり、静羽は臆病風に吹かれて早々に弁明を切り上げると思っていたからだ。
 それが……まさかの抵抗、しかも上級生――お姉さまに対して強気の反抗――。

皆瀬初音「(え、えっと……まだ肝心の証拠が来ないし……このビデオ、中身空っぽ――)」

烏橘沙世子「そ、それは……風紀上、見せられないわ」

三条静羽「では私だけにも見せて下さいっ!」

皆瀬初音「し、静羽さん。もし見せたら依頼者の方が悲しむから……分かってもらえない?」

三条静羽「――嘘ですね。その動揺した表情は……実はビデオの中身なんて無いんですね?」

烏橘沙世子「(どうするのよ初音?)」

皆瀬初音「(ど、どうしよう沙世ちゃん……)」

 静羽は次に、この会議室に居る生徒会役員に目を剥けた。

三条静羽「各部の部長さん方……おかしくないですか? この会議室の生徒会の方の人数――」

烏橘沙世子「な、何がおかしいのよ」

三条静羽「おかしいですよっ! だって――部長さん、十五人に対して……生徒会の方は、初音お姉さまと沙世子お姉さま除いても十六人……」

皆瀬初音「(う、迂闊でしたね……)」

三条静羽「……これは、生徒会単独で強行採決出来るじゃないですかっ!」

烏橘沙世子「(初音……バレちゃったけど、どうするの?)」

皆瀬初音「(強行採決……しちゃったら、生徒会の名に泥を塗る事に――)」

三条静羽「どうなんですかっ! 初音お姉さま、答えて下さい!」

 その時、遠くから廊下を駆け走る足音が聞こえてくる。
 その姿は――。

七々原薫子「はぁ……はぁ……。お、お待たせ初音っ!」

 会議室の扉を勢い良く開くと、そこには発禁処分の学院新聞と報道部のビデオが山盛りに入った、箱を抱えている薫子が立っていた。

皆瀬初音「(さ、さすが薫子ちゃん! グッドタイミングだよ!)」

 薫子は初音の目の前の机に箱を置いた。

皆瀬初音「皆さん、ごめんなさい。生徒会が事前に用意したビデオは、風紀上お見せできませんが……この大量の証拠から見せれる物をお見せします」

 さくらと耶也子がビデオ視聴の為、液晶テレビとプレーヤーの設定を始める。
 初音は……大量の証拠の中からほ、報道部に依頼されたビデオを探す。
 報道部は律儀な事に、依頼者のビデオを一つ一つ、複製し保管していた。

三条静羽「あっ……あうぅ……」

七恵莉花子「(まさか……見つかるだなんて――終わったわね)」

三条静羽「(七恵お姉さま、ご、ごめんなさい……)」

七恵莉花子「(口を酸っぱくして、依頼者のビデオは処分しさないって言ったのに……まったく静は……)」

皆瀬初音「沙世ちゃん、これはどうですか? あれ……駄目? そうですか――」

 初音が手にとったのはニ〇〇一年のエルダーと下級生の淫行を盗撮した映像だった。
 もちろん、沙世子からストップが掛かる。
 とりあえず、初音は見せれる様な物を探し――見つけたものは……薫子の更衣室での着替えを盗撮したものだ。

皆瀬初音「沙世ちゃん、これはどう?」

烏橘沙世子「いいんじゃないかしら。私はあまり興味ないけれど」

皆瀬初音「薫子ちゃん……ごめんねっ!」

七々原薫子「……へっ?」

皆瀬初音「――では皆さんには、一ヶ月前に盗撮された……二年○組、○○様依頼品の『エルダー・七々原薫子・体育館更衣室での生着替え』をお見せ致します!」

七々原薫子「――え、えぇぇっ! ちょ、ちょっと初音っ! ストップ!」

 不穏な空気が漂っていた、会議室内が一気に湧き上がる。
 薫子の必死の抵抗も虚しく、ビデをはプレーヤーにセットされ映像が流れ始める――。
 何とも……絶妙な位置から、盗撮された映像だ。

七々原薫子「――まったく……千早ったら、んしょっ……あたしの気も……んんっ、知らないで――」

 映像は五分程度あり、薫子が体操服に着替える姿が淡々と映し出されている。
 全て見るのも、薫子が可哀想なので初音は切りがいい所でビデオを切った。

皆瀬初音「皆さん、これで真実は判明したかと思います。またここには、数十年分の発行禁止処分が下った、学院新聞もあります」

烏橘沙世子「また投票には、私と初音、さくらと耶也子は無投票と致します。代わりにお姉さまが投票を行います」

皆瀬初音「これにより、生徒会側十四名に対し、各部の部長さん側は十六名となります。これで人数の不公平性は覆されたと思います」

烏橘沙世子「――では、皆さんお手元の用紙に処罰に賛成または反対かを記載し、目の前の投票箱に――」

立花耶也子「……んしょ、これで最後っと――結果出ましたっ!」

皆瀬初音「では投票結果を申し上げます。処罰に賛成――二十三票。反対――七票……。以上を持って、本議題は仮可決と致します!」

 こうして新聞部、報道部に対する処罰の仮可決が行われた――。

皆瀬初音「では……皆さん、資料の最終ページを御覧下さい」

 資料の最終ページには今回の処罰内容と……新聞部、報道部の活動改善命令。
 また記載されている項目に違反した場合の、部および部員に対する処分対応内容が記載されている。
 項目は十五項目以上――違反した内容によるものの、最悪の場合は新聞部および報道部の即時解体。
 その上、部員の他部への移籍を原則禁止すると記載されており、相当厳しい内容となっていた――。

七恵莉花子「な、なによ……これ……厳しすぎる」

三条静羽「……む、無理ですよっ!」

烏橘沙世子「貴方方や部員、そして以前の生徒が行って来た事の対価が――これよ」

皆瀬初音「勘違いしないで下さい。私は新聞部や報道部を潰したい訳ではないです。そして――これは所詮、仮決定です」

七恵莉花子「――か、仮決定?」

皆瀬初音「はい。この議題は次回の生徒総会にて再提起します。そこで全校生徒からの投票を行った上、可決した場合は正式決定となります」

烏橘沙世子「勘違いしないで欲しいけど、仮決定とは言っても効力は正式決定時のと変わらないから」

 莉花子と静羽は諦めたのか、黙りこんで椅子から動かない。

皆瀬初音「では――皆さん、ありがとうございます。この資料は一部、黒塗した上で掲示板に即日掲示されますので置いて行って下さいね」

烏橘沙世子「本当に……お姉さまが来なければ終わってたわ」

皆瀬初音「薫子ちゃん、ありがとうございます!」

七々原薫子「――あははっ……どう致しまして……なんで到着して早々に、盗撮映像晒されないと――」

烏橘沙世子「(この、お姉さまどうするのよ?)」

皆瀬初音「(その内、元に戻りますから行きましょ)」

 上の空のまま、小言を嘆いている薫子を尻目に初音や沙世子、生徒会役員達は撤収の準備を開始する。

七恵莉花子「……静、行きましょうか――」

三条静羽「はい……七恵お姉さま……」

 部室に戻り、部員達に説明をしなければいけない二人の気分は沈みがちだ。
 重い足取りで、会議室を後にする静羽を初音は呼び止めた――。

三条静羽「――初音お姉さま……何か用ですか?」

皆瀬初音「ごめんね。静羽ちゃんって呼んでいいかな?」

三条静羽「お好きに呼んで下さい……」

七恵莉花子「し、静、放っといて行こ?」

三条静羽「初音お姉さまに言いたい事もあるので……七恵お姉さま、先に戻っていて下さい」

七恵莉花子「――分かった。……皆瀬さんっ! もし静に手を出したら……ただじゃ済まさない!」

 七恵は初音に忠告をし、足早に去っていった。

三条静羽「それで……早く用件を」

皆瀬初音「――あっ、そうだったよね。単刀直入に聞くけど……生徒会に興味ない?」

三条静羽「ありませんっ! さっきのでどうすれば生徒会に好感を持てるんですかっ!」

皆瀬初音「ご、ごめんね。そうだよね……でも静羽ちゃんのあの弁明――凄かったから」

三条静羽「一つだけ言っておきます。私が凄い訳ではなく――生徒会が弱すぎるんですよ」

皆瀬初音「えっ……」

三条静羽「こんな甘くて優しい温室で……温々と育まれた花々に――私が負ける筈がないっ! それでは失礼しますっ!」

皆瀬初音「静羽ちゃん……ま、待って!」

 静羽を追いかけようとした初音だったが――足が止まる。

烏橘沙世子「初音、何やってんのよ。早く行くよ」

皆瀬初音。「――えっ、あ、うん……今行くから――」

立花耶也子「沙世子お姉さまっ! これ生徒会の歴史に残りますよね?」

烏橘沙世子「さぁ、知らない」

立花耶也子「えぇ~、そっけないですよ。じゃあ会長のお心はっ!」

皆瀬初音「んー、私がこの事、書き残しておくから残るかな……?」

土屋さくら「もう……耶也子はうるさいっ!」

立花耶也子「だって、だってぇ~。つっちーも気になるでしょ?」

土屋さくら「私はどっちでもいいってばっ!」

皆瀬初音「さくらちゃんも耶也ちゃんも楽しそうだね」

立花耶也子「まったく……浮かれ過ぎよ。滅多にないからって」

 こうして千早を救う為でもある、新聞部および報道部の押さえ付けは、薫子の力もありどうにか無事に成功を収めた。
 ただ……一点、初音の中で『三条静羽』と言う下級生の存在が消えずに残り続けた。
 そして……後にこの生徒会と新聞部、報道部との事件は――『聖應の円卓裁判』と呼称される様になる――。

 ――入院五日目、午前八時五分、神奈乃県警察本部、捜査一家。

 捜査開始から本日まで既に四日が経過していた。
 今回の事件は、神奈乃県警察の長である御門本部長の直轄事件とし、御門本部長自ら指揮命令を行っている。

警部補1「――となり、現状で判明しているのは以上となります」

安藤「次に、被害者である御門千早さんに、投薬された薬物が判明致しました」

飯上「……アポシン125と呼ばれる。第一級劇薬指定がされている薬物となり――」

 飯上警部補はアポシン125の成分と効果、そして保管場所の説明を始める。
 それを聞いていた、御門本部長の顔色が悪くなっていくのが目に見えた――。

飯上「――アポシン125は国外への輸出はなく、国内にて保管している場所は一箇所のみです」

警視正「それでその場所は何処だ」

飯上「日本薬品研究センターの第三保管棟です」

御門本部長「……では客員、早急に調査を開始してくれ。安藤班は日本薬品研究センターに向かい捜査。大賀班は――」

 ――同日、午前九時一〇分、日本薬品研究センター。

研究員1「――ですね。確かに保管してあります」

安藤「案内して頂けますか?」

研究員1「……ではこちらで滅菌服を――」

 数分程度、日本薬品研究センターを歩くとアポシン125が保管されている第三保管棟に到着した。

研究員1「管理番号125……125は――あっ、ありましたね」

飯上「これが直近で使用された記録はありますか?」

研究員1「なかったと……あれ? 寮が減ってるな……少し調べてみます」

 数十分後、調べに行っていた研究員が、不思議そうな表情で戻ってくる。

研究員1「使用履歴がありませんね……」

安藤「一つお聞きしますが、この薬物は此処と後、何箇所あります?」

研究員1「いえ、恐らく現状では世界でこの一瓶のみかと。使用禁止令が出ていますので」

安藤「……一度、ここの第三研究棟に勤務する方々を全員、ロビーに集めて頂けますか?」

研究員1「――分かりました」

安藤「但し、私達が居る事を伏せて下さい。坂野、作成した似顔絵とデーター持ってきたか?」

坂野「先輩の言う通り、ここにちゃんと――」

 数十分後、警察が来ている事を伏せて、ロビーに研究員全員を集め終えた。

安藤「(もしこの中に居るとするなら、警察が来たと言えば……動揺する筈、ちゃんと見とけよ)」

飯上「(分かってますよ)」

安藤「――皆さん、お忙しい中、お集まり頂き申し訳ございません。私共は神奈乃県警の者です」

 一瞬、どよめきが起きる。
 当たり前と言えばそうだ――突然、警察が来たとなれば驚くのも無理は無い。

男性1「(おいおい……冗談だろ……)」

安藤「ある事件を操作中でして――お気分を害されるかも知れませんが、少し顔と体を確認させて頂きます」

 飯上と坂野が研究員、一人一人の顔と表情、体格を似顔絵とデーターとで照らし合わせ確認していく。
 男性は逃げるか、逃げまいか……迷っている。
 このまま素通りされる事を祈り、男性は静かに平静を装いながら立ち尽くす。

飯上「安藤さん、ちょっと――」

安藤「――うん。まぁそうだな。失礼ですがお名前は?」

男性1「(大丈夫だ……まだ分かっちゃいない)」

安藤「顔色が悪いですが……大丈夫ですか?」

男性1「はい、大丈夫です。芳田と云います」

安藤「芳田さんですか……。失礼、ご年齢と六日前のお昼からどちらに?」

男性1「二十四です。六日前は……自宅で休んでいました」

安藤「ほう……自宅に居た事を証明出来る方は?」

男性1「独り身ですので居ませんね」

安藤「そうですか。なら質問を変えます、この女性をご存知ですか?」

 安藤は胸ポケットから千早の写真を取り出し、男性に見せ問いかける。
 あえて男性とは言わずに――。

男性1「い、いえ……まったく知りませんね」

安藤「そうですか……いえ、ご協力感謝致します」

男性1「(な、なんだよ。バレてねぇのか……肝冷やしたわ)」


 安藤は男性から離れていく振りをする。
 だが……ポケットに入れておいた、小瓶に入れた砂糖を中身が見えない様に取り出す。
 そして――安藤は咄嗟に振り向き、男性に剥けて小瓶に入っている砂糖を顔に剥けて勢い良く振り掛けた――。

男性1「うわっ! な、なんだよこれ!」

安藤「す、すいません――」

 安藤は男性に見えるよう、持つ場所を変え中身が少し見えるように小瓶を持つ。

男性1「っ……そ、それ……アポシン125じゃ……っ!」

安藤「あれそうでしたか? まぁ私には何か分かりませんが……お顔を汚してしま――」

男性1「ど、どけっ!」

 男性は青ざめた顔をし、お手洗いに駆け走る。
 安藤は男性を追いかけ、惚けながら言葉にする。

安藤「先程のは砂糖ですよ。ご心配お掛けしてすいません……」

男性1「――はっ?」

安藤「いやー、それにしても凄いですね。砂糖の粒子と酷似した薬品なんて、ごまんとあるのに……貴方は迷いなく、アポシン125と答えた」

男性1「そ、それは……この第三保管棟は劇薬ばかりで――」

安藤「確かに、でも記録上では……アポシン125は一度も使用されていないですよ? アポシン125がどの様な薬品かを理解していないと当てる事なんて到底――」

男性1「だから……ここは――」

安藤「そう。劇薬ばかりを取り扱う第三保管棟ですね。でも使用記録がない……と言う事は誰も使用した事がない」

 安藤は男性の隣に近寄る。

安藤「おかしな話ですよね。使用した人間なんて存在しないのに、一発でアポシン125だと分かるのは……」

男性1「っ……だけど……」

安藤「そうそう――それと他の薬品と一緒にアポシン125を持ち出す貴方の姿がバッチリ映ってましたよ。こんな茶番をしなくても、分かっていましたよぉ」

男性1「はぁ……なんだよそれ。なら最初から分かってたんじゃねぇか……」

安藤「ははっ、こんなベタなドラマ展開をやってみたかったもので――飯上、坂野……連れて行け」

 ――同日、午後十ニ時、神奈乃県警察本部に戻る道中。

安藤「そうそう、一つ忠告を――」

男性1「な、なんだよ……」

安藤「到着したら、さっさと他の仲間の居場所を白状した方が貴方の為ですよ」

男性1「はっ? なに言ってんの?」

安藤「本日の取調室に『法治国家日本は存在しない』と言う事ですよ」

男性1「いや、なに言ってんのか分からねぇって」

安藤「ははっ……今に理解しますよ」

 ――同日、午後十四時、神奈乃県警察本部、第五取調室。

 窓も無く、ただ机と椅子が置かれている程度の簡素な取調室だ。

飯上「なぁ? ちょっと居場所を教えてくれるだけで、助かるんだけど……無理かな?」

男性1「だから、知らねぇって。知ってても言わないけどな――あははっ」

御門本部長「どうだ?」

 御門本部長は直々に取り調べを行うつもりで、この第五取調室を訪れた。

安藤「本部長っ! 一切、吐く気が無いですね」

御門本部長「そうか……記録音声の停止と調書は後で書かせろ。後一人来い」

 御門本部長は取調室の扉を開き、男性と対面する。
 取り調べを行っていた、飯上に対して退室する様にと説明を行った。

男性1「おっ? お偉いさん、なんか俺もおおも――」

 御門本部長は躊躇なく、男性の髪の毛を引き千切るかの様に鷲掴みし、机に顔面を打ち付けた――。

御門本部長「おらっ! さっさと吐け……ふんっ!」

男性1「ちょ――があっ……ま、まっ――かはっ……!」

 御門本部長は容赦なく男性の顔面や頭、身体を殴りつける。
 傍から見れば……もはや取り調べではなく、痛めつけているだけにしか見えない。

御門本部長「お前らの――お陰で……おらっ! どれだけの人間が――」

男性1「ま、待って……ぶはぁ……分かった――」

御門本部長「おいっ! 押さえとけ――」

 同室している警部が男性を羽交い締めにする。

御門本部長「おいっ! ちゃんと押さえとけよ……」

 御門本部長は男性の口に照準を合わせて、金槌を勢い良く打つ動作を取る。

男性1「ま、ま、待ってくれっ! 分か……分かった居場所言うから――やめ……」

御門本部長「……そうか。なら次からは最初から吐けよ。安藤、後は任せる」

 御門本部長と同室している警部が第五取調室から早々に立ち去った。
 机や椅子に、男性の血液が飛び散っている。
 男性はと言うと、顔は腫れ上がり……露出している部分は打痕や生傷で埋め尽くされている。
 ものの十分程度でこれ程にまで痛めつけられるのか……と逆に感心してしまう程だ。

飯上「もはや取り調べじゃないですね。これ」

安藤「だから忠告してやったのにな、記録は取るなよ――それじゃ居場所は?」

男性1「あぁ……あっ……神奈乃――市崎市……稲森町――」

 ――同日、午後十七時、神奈乃県市崎市稲森町六丁目七番地。

 男性が喋った通り、連続強姦および強盗を行う犯人グループが潜伏していた。
 神奈乃県警察は総勢四十人の集団で――犯人グループの潜伏先に突入を行う。
 結果は――十三人中十一人を現行犯逮捕、また千早含め複数の女子生徒の生徒手帳や身分証明書を押収。
 残りの二人に関しても、後日――他県にて逮捕が確認された。

 迅速な犯人フループの逮捕により、同日中に聖應女学院の警備体制は縮小し、半数以上の警察官が撤収、警備会社も通常人員に変更となる。
 これにより、従来通りの警備体制へと戻された――。

 ――同日、午後二十ニ時、神奈乃大学附属病院。

妃宮千早「そうですか。これで心配事はなくなったと言う訳です。はい……順太朗おじ――いえ御門本部長に感謝しています。とお伝え下さい」

 神奈乃県警察の安藤からの電話だった。
 内容は……無事、犯人グループの逮捕および学生手帳や身分証明書の押収が完了したとの事だ。
 梶浦先生と千早とで追記作成した、問題点が記載されているプリントを手に取り確認する。

妃宮千早「とりあえず……全て解決――と言っていいかな」

 千早は考えこむ――。

妃宮千早「まさか……本当に一週間以内で全て解決するとは思わなかった。いや……僕自身の問題が残ってるか」

院内アナウンス「消灯時間となります。院内に残られている方は――」

妃宮千早「もうそんな時間か。今日は安心して寝られる……良かった――」

 千早は問題が一通り解決した事に安心したのか、直ぐに眠りに落ちた――。

 ――入院六日目、午前五時五〇分、神奈乃大学附属病院前。

神近香織里「私ったら、なんでこんな早朝から来てるのかしら」
 
 香織里は小言を言いながら、病院行きのバスから降りる。
 
 まだ完全に日が登っていないが、病院内には入れた。
 千早の病室に向かう途中、炭酸飲料水を自動販売機で購入し千早の病室に向かう。

 静かにゆっくりと……千早を起こさない様に病室内に入る。

神近香織里「(さすがに寝てるわよね――ふぅ、私もさすがに眠い……)」

 目を覚まさないように細心の注意を払いながら、千早が眠るベッドに潜り込んだ。
 到着して早々香織里は千早が眠る隣で眠りにつく――。

 ――空は薄暗く……太陽も雨雲に隠れてしまっている。
 土砂降りの雨が地面や壁面に激しく打ち付ける。
 退院前日と言うのに、あまり気分が優れない空模様だ。

妃宮千早「(っ……んんぅ……ふぁぁ……雨か――んっ?)」

 千早は寝起きのせいもあり、頭が回らないが……なにか違和感を感じている。
 そして、かすかに梔子の様な香りと、香水の香りを混ぜ合わせたかの様な匂いが漂ってくる。

 この匂いは香織里のものだと、頭が回らない千早でも直ぐに理解出来る。

妃宮千早「(って――か、香織里っ! なんで僕の隣で――)」

 声に出そうに鳴ったが、千早は寸の所でどういか抑える事が出来た。

妃宮千早「(……色々ありましたし、香織里さんもお疲れでしょうから……仕方ない――ですよね)」

看護師1「妃宮さん、朝食をお持ち――あっ……お、お邪魔でしたか」

妃宮千早「し、静かにお願いします。それと構いませんから――お気になさらず」

 相当、深い眠りに落ちているのか……幸いにも香織里は目を覚まさない。
 朝刊を読みながら、物音をなるべく立てずに千早は朝食を食べ始めた――。

 ――そうして数時間が経つ、土砂降りだった雨も終わりを告げる。
 空は雨雲が覆っており、まだ薄暗いが――時折、雨雲の間から覗く太陽が病室内に光を齎す。

神近香織里「――うぅん……ふぁぁっ、あら……千早? おはよう……」

妃宮千早「おはよう、香織里さん。そんな、大きな欠伸なんてして……端ないですよ」

神近香織里「……んんぅ……人間だもの仕方なわいよ」

 香織里は寝惚け眼を擦りながら身体を起こす。
 ベッドからは出ずに――何故か千早の肩にべったりともたれ掛かる。

妃宮千早「ちょ、ちょっと……香織里さん、今日は何だか――へ、変ですよ」

神近香織里「あら、そうかしら? 至って……いつも通りよ――」

 突然――香織里は千早の眼前に顔を出し、千早の目を黙り込みながら直視してくる。

妃宮千早「っ……か、香織里さん? え、えっと……ぼ、僕の顔に何か?」

神近香織里「――はぁ……千早ったら……意外と空気が読めないのね。なら、いいわよ……」

妃宮千早「(び、びっくりした。香織里さんがこれ程、積極的だとは……これまで悪戯程度なら何度もありましたけど……)」

 香織里は千早から離れ、ベッドから降りると備え付けの椅子に腰掛けた。
 鞄から櫛を取り出し、寝癖が付いてしまった自身の髪を、不機嫌そうな表情で梳かし始める――。

この六日目で香織里との話を書いて…
七日目で退院、そしてENDで後日談を数行付け足して終わりって感じです

妃宮千早「(香織里さんのあの表情、目は……本気だった。なら僕は――)」

神近香織里「それで千早? 現状はどうなのよ」

妃宮千早「――えっ?あっ……あ、あぁそうでした」

神近香織里「動揺してるのバレバレよ。――まぁいいけど」

妃宮千早「実はですね。昨日の夜、警察の方から連絡があり、無事犯人グループの一斉逮捕に成功したとの事です」

神近香織里「ふぅ……そうなのね。それにしても結構なスピード逮捕ね」

妃宮千早「僕も驚きました。でもそれもその筈ですよ。学院警備にも相当、人を割いてますし――」

神近香織里「それだけ、警察も本気だったと言う事ね。まぁ日本有数のお嬢様学校で内かあれば、大問題ですものね」

妃宮千早「そう言う事です。とりあえず……これで喫緊の問題とやらは解決ですね」

神近香織里「そうね。千早の事を嗅ぎ回る様な輩も、居ないようだし――安心して帰ってきていいわよ」

妃宮千早「なら良かったです……唯一、問題とするなら後は僕の事でしょうか」

 千早は急に声のトーンを落とし、深刻そうな表情で俯く――。
 だが一方……香織里は特に表情を変えず、ただ淡々と千早に喋り始める。

神近香織里「――千早ったら、一体なにを迷う必要があるのよ?」

妃宮千早「――――えっ?」

神近香織里「手術を受けるも受けないも、貴方の勝手よ。でもね……成功しても失敗しても、亡くなる訳じゃないでしょ」

妃宮千早「そ、そうですか……当事者としては、そんな楽観的には――」

神近香織里「そうね。私は当事者ではないもの」

妃宮千早「では尚の事、簡単に言わないで――」

神近香織里「私は簡単な話を言っているの。前にも言ったわよね? 千早が歩けなくなるからって、周囲から友人や知人……更に千早に関わる人間が離れて居なくなるとでも? そんな事はあり得ないとね」

妃宮千早「…………ですが――」

神近香織里「確かに千早からすれば、自由に歩けない事への煩わしさや苛立ちは――だからこそ、深く考えこむのは仕方ないわ」

 香織里は立ち上がり、俯いている千早に近寄る。
 そして――千早を優しく包み込むように……身を乗り出し、そっと抱き締めた――。

妃宮千早「っ……か、香織里さん?」

神近香織里「だから……千早の全てを……私が――いえ、皆で受け止めて支えてあげる」

妃宮千早「香織里さん……」

神近香織里「そしてもし、離れていく人間が現れたとしても――私は……千早に嫌われても、突き放されても……しがみついて離れて上げないから――」

 香織里は千早を更に強く抱き締める。
 表情は窺えないが――微かに、香織里のすすり泣く声が千早には聞こえた。
 千早は――心から分かり合える人間なんて存在しないと、これまで思い続けてきた。

 その思いは――今も不変だ。
 ただ……香織里の言葉、涙――そして千早を思う行動。これが香織里の冗談――嘘だと受け流す程、千早は出来損ないの人間ではない。 

読み返しても誤字脱字+抜けが酷い…
よく考えたら殆ど校正してな――

妃宮千早「(香織里さんの言葉、涙――僕は……僕はっ!)」

 すすり泣く香織里に腕を回し、抱きしめ返す。
 自身も不思議だと思う程、千早の瞳は潤み……眼から一筋の涙が零れ落ち頬を伝う――。

神近香織里「ちは……や?」

妃宮千早「――ふふっ、香織里さんの気持ち……少し重いですよ。でも――」

 ――夕刻、既に日が沈み始める。空を覆っていた雨雲は消え……千早と香織里を、夕日が優しく包み込む様に照らす。
 涙を香織里に隠す為、千早は顔を少し上向けていた――。

妃宮千早「――僕は『香織里さんを信用する』と言った。香織里さんの言葉を――信じます。ですから……」

 千早、呼吸を整え香織里に一言告げる――。

妃宮千早「ですから……僕の傍から……何があっても――『僕から離れないで下さいね』」

神近香織里「――――っ! 千早っ!」

妃宮千早「香織里さん……ほら、泣かないで――ね?」

神近香織里「――千早だって……泣いてる……じゃない」

妃宮千早「それは……香織里さんの言葉が――嬉しかったから……でしょうか?」

神近香織里「ふふふっ……なによそれ――」

 千早と香織里は向い合って、お互いの顔をじっと見合う。

神近香織里「千早の泣き顔って面白いわね」

妃宮千早「ぷっ、なんですか……それ――」

 優しく香織里の頬を――垂れ伝う涙を拭う様に触れる。
 千早と香織里の唇は自然と……時の流れに任せるかの様に触れ合う――。

神近香織里「っ……んんっ、ぢゅっ――千早……」

妃宮千早「――香織里……さん。ふふっ、可愛いですよ」 

すいません…
少し忙しいもんで遅くなってます
見ている方も少ない方と思いますが
書ききりますので少々お待ちください…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom