上条「摂り憑かれた………」(885)





上条(小さい頃、俺、上条当麻は夏休みを利用して母方のじいちゃん家に遊びに行った)



上条(する事も無いから暇つぶしにと、庭にある大きな蔵を一人で探検して――――そして)



上条(『あいつ』と出会った)






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1356789548





この作品は東方project×とある魔術の禁書目録のクロスです。


*上条さんと、東方のあるキャラが主役。

*双方の原作における、設定の大幅改変(特に上条さんの幻想殺し)

*キャラ崩壊

*他の作品のネタ多数


幽々子様かしら




―少女 説教中―




御坂「私は自分より強い奴が存在するのが許せないの。それだけ有れば理由は十分」

???「だから何度もいっとるじゃろう!!そのような考え方ではいつか身を滅ぼす!神罰が下る!!」

御坂「私を誰だと思ってんの?学園年でも7人しかいないレベル5なのよ?」

???「まずはその傲慢な考え方を直すべきじゃ!小童ゆえ仕方ない事もあろうが自信と慢心はわけが違うぞ!!」

御坂「弱者の料理法ぐらい心得てるわよ」

???「お主!まだ言うか!!」

上条「………あのさぁ」

???「当麻は黙っとれ!我はこの思い上がった鳴神(なるかみ)娘に説教を―!!」

上条「いや、だから―――」


























上条「お前、おれ以外の人に見えないし、声も聞こえないだろ」

???「………………………あ;」



御坂「さっきから何1人でぶつくさ言ってんだゴラアァァァアアア!!」





――――――――バチバチィ!!



上条「おわぁ!!」バキン!

布都「当麻!!?大丈夫かの!?」

上条「あ、ああ………―――――――――っ!!」






ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――!!






御坂「ん?何よ?急に風が強く………」

???「………お主、越えては成らぬ一線を越えたな………」

上条「お、おい!ちょっと待て――――!」











???「―――ついておらぬな………」



















???「今日は竜脈の調子が良い―――」




天符――――――――――――雨の磐舟!!







―7年前―






―竜神家―蔵―



ショタ条「じっちゃんちの蔵って本当に色んな物があるなぁ………」ゴソゴソ


バキッ!!


ショタ条「な!ゆ、床が………!!う、うわあぁぁぁあああああああああ!!」ヒュルルルルルル………


ドスン


ショタ条「うう………不幸だ………」サスサス

ショタ条「ここは………地下室?こんな所あったんだ………」

ショタ条「ん?なんだろこれ?」

ショタ条「木箱………?ずいぶん古そうだなぁ………お札があちこちに貼ってあるし………」スッ


バキン!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


ショタ条「………へ?」

???「おおお………幾年月………どれほどの時が経ったじゃろう………」

???「待ちわびておったぞ、この時を………」

ショタ条「な、何だよ!誰かいるのか!?幽霊!!?」

???「違う。………落ち着いて聞くのじゃ、少年。我は」




桜の花びら<ヒラヒラヒラヒラ………



――――――ブワサアァァ………………………




???「『尸解仙』『物部 布都(もののべ ふと)』」




布都「我を復活させるとはお主………仙人………じゃな?」

ショタ条「………へ?」

布都(ニコッ)「子供なのに大したものじゃ!!」



上条(これが俺、幻想殺し、上条当麻と、尸解仙、物部布都の出会いだった………)

>>3 幽々子様だと思った?残念!布都ちゃんでした!!

本当は神裂戦辺りまで書き溜めてあるけどキリが良い(プロローグ)のと、今日俺の誕生日なのでここまで。
わーい!ケーキだケーキだ………ハッハッハッ;;

ちなみに布都ちゃんとの出会いは『う○おと○ら』と『ヒ○ルの○』のパロディ

桜の花びら<ヒラヒラヒラヒラ………

――――――ブワサアァァ………………………


こういう、あとになったら恥ずかしくなるのはやめといたほうがいいんじゃない?


応援コメありがとうございます。続きをどうぞ。

>>15
いや、その………サ○の初登場演出に合わせるのが一番しっくりきたので………




一月二十日から二月十八日生まれの水瓶座のアナタじゃ恋も仕事もお金も最強運!全くありえない事にどう転がってもイイ事しか起こらないので宝くじでも買ってみろ!あんまりモテモテちゃうからって三股四股に挑戦、なんてのはダメダメなんだぞ♪



物部「な、なんじゃこのちんけで確実性も無ければ陰陽の良い部分だけを取り入れた占いは!!こやつは星霊術を馬鹿にしておるのか!!?」

上条「………あのさぁ。お前それ毎朝言ってるし、つーか怒鳴るの止めろって。今の時代の「占い」なんてこんなもんなんだよ。何度も言ってるだろ?」




七月二十日、夏休み初日。

上条当麻は学園都市の学生寮の一室で朝食(ご飯、味噌汁、野沢菜の漬物、生卵)を口に運びながら、物部と物議をかもしていた。

普通なら、エアコンが壊れてうだる様な熱気が部屋を支配するのだが、上条当麻の部屋は『そんなもの』を必要としなくとも非常に快適な温度に保たれていて、クソ暑い夏の日でも氷が解けるような暑い討論をすることが出来る

物部としては、星霊術の基礎すらなってないテレビの占いが許せないらしいのだが、今時の、天気予報みたいに流れるテレビの星占いなんてこんなモンだろと思う。
と、いうより占いは必ず外れ、おまじないは成功した例がない。ギャグとして消化しても大丈夫なレベルの不幸に見舞われるのが日常の上条当麻にとっては正直どうでも良い事だった。



物部「し、しかしじゃな………我はこれでもかの陰陽五行の源流における―「あ、それにしても今日の味噌汁うまいなー。出汁変えたのか?」 ! うむ!!天日干しにしたにぼしと昆布を………」


ちょっとした褒め言葉に、物部は先程までのむすっ、とした表情をコロッと変え、嬉しそうに話し出す。
上条としては味噌汁の出汁のことなど全く気づいて無く、ようするに完全なあてずっぽうだったのだが、沈黙は金である。



物部「それでじゃな―」

上条「あー、わりぃ布都。俺、これから学校で補修だから続きは外でな」

物部「む………そうか、仕方ない………食器はいつも通り水につけて置いて後で洗えば良いじゃろ。本当は良くないがの」

食べ終わった上条の食器をテキパキとまとめ、台所へと運んでゆく物部を見送りながら、さて、学校行く準備すっかー、と上条はパジャマ代わりのTシャツを脱いで夏服に着替える。


上条「あ、そうだ。いーい天気だし、布団でも干しとくかなー」

物部「む、それなら我のも頼む」

上条「はいはい、最初からそのつもりですよっと」

上条は両手でベットの上にある布団と、床に敷かれている布団の二つを纏めて手に持つと、器用に足でベランダに繋がる網戸を開けた。実に手馴れているのが見て取れる




―――ガララッ




物部「………まあ今の時期いきなり夕立が降ってこないか心配じゃがの」

上条「縁起でもねぇ事いうんじゃねぇよったく―――――――――へ?」

上条「はあ!!?」

上条の素っ頓狂な声に驚いて、物部が台所から飛び出してきた。


物部「ど、どうしたのじゃ当麻!なにがあっ―――――」




???「」




物部「ふ、布団に良く似た女子が干されとる………じゃと!?」



物部「と、当麻、これは一体………」

上条「か、上条さんが聞きたいですよ!網戸開けたらいきなり外国人シスターがこんにちはー。ってどこのドッキリですか!!」



謎だ。しかも意味不明だ。
女の子は何か鉄棒の上でぐったりとバテてるみたいに腰の辺りにベランダの手すりを押し付け、体を折り曲げて両手両足をダラリと真下に曲げている。



物部「………布団のような見た目の少女………そ、そうか!」

上条「知っているのか!布都!!」
















物部「うむ!きっとコヤツは我のペルソナなのじゃ!!髪も服装もどこか似とるし、なにより布都と布団。布都ん………洒落もきいとるじゃろう?」










物部(ドヤァ………)







上条の中指のつめ部分が物部のひたいのど真ん中に命中し、ビシィ!と弾ける様な音を奏でる。




物部「い、痛いのじゃぁ………」

上条「俺の話し聞いてたか?どうみても 外 国 人 だ ろ う が !!お前ゲームのやりすぎだ!つーか今のお前の状態から考えてお前が、こいつの、ペルソナだって方がまだ納得するわ!!」

物部「そ、そうか………ならコヤツは地上を征服しに来た海からの侵略者という可能性が」

上条「ねぇよ!!」






ムクッ………





上条・物部「「!!?」」




上条(ど、どうすんだ!?俺、ゼンッ、ゼン英語出来ねぇぞ!?布都!お前は―――)

???「………あの」

物部(うむ………中国語ならだいぶ分かるが………英語は全く持って分からん………)




上条・物部((………詰んだ!!))



???「あの!!」



緊急会議を開いていた二人の耳に間違いなく聞こえたその声に、上条と物部はその意識を布団少女へと向ける。


誰がどう聞いても、日本語だった。





上条・物部「「………へ?」」

???「さっきからなに一人で喋ってるのかな?」









そして上条は忘れていた。昨日の夜、自分で言ったにも拘らず忘れていた。













物部布都の姿と声は、自分にしか見えず、聞こえないという事に。


















???「あとおなかへった」


続きは出来たら今夜。ダメならまた明日。



ふとちゃんドヤ顔かわいい
なんだか布都ちゃんが味噌汁作ったような描写があったけど、見えない聞こえないというだけで物には触れるのか?
上条さんも触れられるみたいだし、実体はあるのかね?
取り憑かれたっていうからてっきり幽霊みたいなものかと思ってたんだが

布都ちゃんは魔翌力とかが感じられれば、存在自体は察知出来そうな気がする。ねーちんとか聖人や特殊な人は見えそうな気もする

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。



………まぁそれはさて置き………



すみません>>20の布都ちゃんが


「食べ終わった上条の食器をテキパキとまとめ、台所へと運んでゆく」

っていう描写は無かった事にしてくだふぁい;;考えている設定的におかしいので;;


>>26「誰か一人はツッコンでくるだろうなぁ」と思っていました。>>27を含め、その辺りは今後の設定で明かされると思います。





上条「ふーん。で、あれか。お前はイギリス清教のシスターで、何か重要な魔道書を持ってて………」

物部「それを狙っとる悪党共に追われておって、向かいのビルの屋上から飛び移ろうとして失敗したという事じゃな?」

???「ふぁあそうひふほほはほ」モグモグ

物部「これこれ、口に物を含みながら喋るでない。行儀が悪いぞ?」

上条「あー、口に物を含みながら喋んなよ。飯は逃げないからさ」


布団少女はそんな事どうでも良いと言うように、朝食(の残り)を口に運んでいる。
そしてそんな少女に対し物部は注意を促すのだが、少女の耳に物部の声は聞こえない為、上条が通訳として代わりに喋るのだ。


???「………ん(ゴクゴク)………ぷふぁあ!おいしかったぁ………ゆっくりご飯を食べるなんて久しぶりかも」

物部「ただの朝食の残り物じゃが………そこまで喜んでくれると作った甲斐があるというものだな!」

上条(………作ったのは『お前であってお前じゃない』けどな……)


まあ料理の腕を褒められて嬉しそうな相方の顔を見るとそんな事どうでも良くなってしまう為、口には出さない事にした。


上条「さて、目次ことインデックスさんに質問があるのでせうが?」

物部「うむ。その『10万3千冊の魔道書』とやらはどこに有るのじゃ?それに繋がる鍵でも持っとるのか?それとも簡易版のコピー誌でも有るのかのぉ?」



上条と物部は、少女の話に出てきた十万三千冊の本を所有しているという事について当然の疑問を口に出すのだが―――














インデックス「ううん。そんなの要らないよ。だって『ここにあるもの』」





上条(………おい、布都さんよ。こいつ本当に魔術関連の関係者なんだろうな?)

物部 (う、うむ………専門外な所も多いから詳しくは分からんが………少なくともこ奴の言っておる知識は間違いなく………)

物部と出会ってから結構色んな「オカルト」に関わっている上条だが、それでも相方の言葉が無ければ頭がおかしくなった厨二病少女としてインデックスを病院に連れて行くか風紀委員に引き渡している所だった。


上条「………なぁインデックスさんよ?一体どこにあんだよ、んな図書館レベルの大量の本」

インデックス「だからこの部屋に一つ残らず持ってきてるよ?10万3千冊全部」

上条(………んな事言われてもなぁ………今この部屋にある本なんてゲーム雑誌と漫画の本と夏休みの宿題くらいだぞ………?)

物部「………………………!!」






物部「ああ!そうか!!そういう事じゃったのか!!」






突然声を上げた物部に対し上条は



(いつもの的外れな意見じゃないだろうな………?)

と思いながらも相方の意見を聞くと、その意見を代わりに口に出してみた。










上条「なぁインデックス。10万3千冊の魔道書ってもしかしてお前の『頭の中』に在るのか?」

インデックス「………………………………」

言葉にしたとたん突如として黙りやがった。
なんとなくこちらを警戒しているようにも見える。



上条(………おい布都ぉぉおおお!!あいつ黙りこくったぞ!!?テメェどうしてくれんだこの空気!!上条さんがひたすら痛い奴になっt)














インデックス「どうして分かったの?」



先程までとは違う視線と口調に上条はギョッとした。
インデックスの声は低くなり、視線はキツくなっている。明らかにこちらを警戒していた。



上条「………あれ?ビンゴ?」

物部「やはり、の………昔もあったんじゃよ………敵に知られてはならぬ、その力を使ってはならぬ、されどその力を使わなければ敵が倒せぬ………そういう危険な術、穢れているとされている術を全て記憶し、忌みや穢れ。罪や悪を一手に引き受ける者達がの………と、言うより大きく言えば陰陽師はそれが始まりじゃしの」


少し悲しそうに語りだした物部を見て、話を聞いて、上条は背筋が凍った。
じゃあなにか?インデックスは十万三千冊の本を無理やり押し付けられ、そしてその影響で魔術師に追われているというのか?



インデックス「………………………」

上条「ほ、本当にそうなのかよ!!?あ、あれ?でもそれなら魔術でも何でも使って敵をぶったおしちゃえば良いんじゃ………」

物部「………いや、恐らく無理じゃろう。目次のからは一切の魔力が感じられん………魔術の知識を除けば唯の一般人なんじゃな。その方が『制御する側』としても都合が良いんじゃろう。下手に反乱を起こされたら困るからの」


布都は、顔をさらに悲しそうに歪めてそう言った。



上条「んな―――!?」

インデックス「………もしかして本当に当てずっぽうだったのかな?」

上条「あ、ああ!そうそう!!俺も今はじめて聞いたし………(嘘は言ってないぞ、うん)」


インデックスとしては物部の声が聞こえないため、上条が自分で言った事が当たっていた事に驚いているように見えている。それはかえって好都合だった。
こんな学園都市(科学の町)に住んでいる学生が魔術(オカルト)の知識を持っていると知られれば、それだけで警戒されかねない。



インデックス「そ、そうだよね!この街に住んでる人が、魔術師なわけないもんね」

物部「………目次の………」


インデックスはそう言うと、少し寂しそうに笑った。
その笑顔の裏に垣間見える辛さに、上条と物部は無意識に自分の歯を食いしばっていた。



インデックス「さて、と。そろそろおいとましようかな?」


インデックスはスッ、と立ち上がるとスタスタと玄関の方へ歩いていく。
幽霊(?)である物部より幽霊っぽく上条の横をすり抜ける。頭の上からフードが落っこちている事さえ気づいている様子が無い。



上条「は?いやいや!しばらくここに隠れてた方が良いって!敵がうろついてるって分かっててお前を外に放り出せるかよ!!」
















インデックス「………じゃあ、私と一緒に地獄の底まで一緒に付いて来てくれる?」




にっこり笑顔だった。
それは、あまりにも辛そうな笑顔で、上条は一瞬だけ、全ての言葉を失ってしまった。
インデックスは、優しい言葉を使って暗にこう言っていた。




こっちにくんな。




上条「………いいや、嫌だね。」




上条当麻は、迷わずそう言った。




インデックス「そうだよね?それじゃ………」

物部「勘違いしてはならぬぞ?目次の。確かに当麻はお主と共に地獄に落ちるのも嫌じゃが………」

上条「でもそれ以上に、今のお前を放っておく事なんて出来ないんだよ」




上条は、引き止めるようにインデックスの肩に右手を置いた。

行かせない。暗にそう言っていた。









かつて自分を助けてくれた相方のように。何度拒絶しても、何度否定しても、傍に居てくれたこいつのように
















物部「うむ。地獄の底にお主がいるというのなら、そこから救い上げてやるまでじゃ!!」










物部はあの時と同じ、少々ウザったくなる位の、優しい笑顔でそう言った。



インデックス「………そう、君は優しいね………」






インデックスはもう一度にっこり笑うと上条の手を取って―――







インデックス「―――――――――でもごめん」

上条「―――――ッつ!!」


両手で思いっきり捻り上げ、ついでに軸足を大きく払う。



上条「う、おぉぉぉおおおおお!!??」


床に手を着き、そのままバク中するように空中を一回転。
体操選手並みのウルトラCをかましたが、そんな上条に賞賛の拍手を贈る者は誰一人として―――





物部「うむ、流石当麻じゃ!すごぃのお!!」パチパチ




―――訂正、一人だけ居た。



上条「んな事してる場合か!インデックスは!?」

物部「む、騒ぎに乗じて部屋から飛び出したようじゃな………なかなかヤンチャなことをする」

物部が喋り終わると同時に、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。


上条「っく!おい追うぞ!!」

物部「うぬ!しかし鬼ごっことは………久しぶりに腕がなるぞよ!」


上条はスグに、物部は念の為、隠し場所から『あるもの』をいくつか取り出すと、脱走した少女を保護する為に動き出した

















物部「ところで当麻。小萌殿の補修はどうするつもりじゃ?」

上条「………不幸だ………」

今回はここまで。布都ちゃんは良い子

原作なぞるだけだと、布都の存在感がなくなる…

続き。眠いです………

>>47 原作はなぞりますが、それだけではないのでご安心を





―完全下校時刻―







学園都市の学生に定められた下校時間を過ぎてなお、上条と物部はインデックスを探し続けていた。






―どうじゃ?目次のはおったか当麻?―

上条「いや、全然………布都!そっちはどうだ!?」


現在二人は別々に行動している。


封印を解いたことに関係するのか、上条と物部は脳内で会話をする事が出来るのだった。
最初の頃は戸惑ったが今となっては慣れたもので、お昼休みに弁当の感想を言ったり、逆に上条が学校から帰る時に物部が夕食のリクエストを尋ねてきたりする。

脳内で常に連絡を取り合っているため、行き違いになると言う心配がないのが救いだった。


―うむ、相変わらずじゃ。ちっとも反応せん………そもそも我は探索系の術式は苦手じゃしの………―

上条が自らの足を使って探索を行い、物部がビルの屋上から術を使って索敵(サーチ)を掛ける。
効率が良い様に思えるが、学園都市は東京の半分を占めるほどに広く、なおかつ物部は探索形の術式を苦手とする。

そして何より、普段殆どの行動を共にする二人が離れられる事には「距離」「時間」「相性」と色々と制限があり、想像以上に困難な作業となっていた。

それ以外にも小萌先生から補修をサボった事への呼び出し電話(携帯越しでも涙ながらになっているのが分かる)が掛かってきて必死に言い訳をする破目になるわ、武装した無能力者たちが結託したギャング『スキルアウト』に絡まれるわともう散々だった。


上条「だー、くそ!インデックスの奴一体どこに………」

???「あっ、いたいた。この野郎!ちょっと待ちなさ………ちょっと!アンタよアンタ!止まりなさいってば!!

―………当麻、無視するぞ―

上条「………言われなくても」


意見一致で無視。
一体どこの電撃系常識ぶっとびお嬢様だか知らないがかまっている暇など無い。


御坂「アンタ今すっごく失礼な事考えたでしょ!?いい加減にしなさいよ!今日という今日こそ電極刺したカエルの足みたいにひくひくさせてやるから遺言と遺産分配やっとけグラァ!」

上条「やだ」

御坂「なんでよ!?」

上条「シスターさん(インデックス)がいないから」

御坂「こ―――――――――の。っざけてんじゃねーぞアンタぁ!!」

上条としては至極全うな理由(色々と付け足し忘れているが)なのだが、どうやら相手の女子中学生にとってはその発言が何かのトリガーを引いたらしい。
御坂は己が鬱憤を込めた一撃を歩道のタイルにぶつけようとして―――









―――!―――当麻!!―






御坂「――――っ!」

上条「………………………」





一瞬、本当に一瞬の出来事だった。

ガシッ!! という何かをつかむ音と共に、御坂の顔上半分が上条の右手で覆われた。
その途端何故か、学園都市でも7人しかいない超能力者である彼女の電撃がかき消され、無へと消える。電撃はおろか、静電気一つ出ていない。




上条「………おいビリビリ」



上条は、御坂の顔面を捉えながら、声を低くして言った。



上条「………悪いけど今日は時間がないんだ。また今度にしてくれよ?」

御坂「な、なによ?そんな事関係な―――」

上条「―――そっか。じゃあ………」







上条は、はぁ、と小さく溜息を付くと。


















上条「マジメにやるから覚悟しろ―――」














数分後、そこには子犬みたいにビビッている御坂美琴がひとりでポツン、と立っていた。






上条「いやマジでナイス!布都さんマジ尸解仙!!もう見つけたのか!早い!!」

―ふふん!そうじゃろうそうじゃろう?(ドヤァ……)しかしあの小娘、何を考えとる………当麻が止めに入らなければド豪い事になっとったぞ………―



まったくだ。と上条は思う。仮にもここは科学の街『学園都市』だ。
至る所に科学技術が使用されている都市のど真ん中で超能力者級の電撃を放ったら有線放送や警備ロボットはおろか、道行く人々の携帯まで破壊されていただろう。
上条の対応があと少しでも遅ければ、間違いなく警備ロボとの追いかけっこが始まっていたに違いない。

―いや、しかし迫真の演技じゃった。あの鳴神娘、ビクビクと震えていたぞ!これで少しは大人しくなってくれると良いんじゃが………まぁ少しばかりかわいそうな気はするがの―


確かに少し強引な手に出たかもしれないと少し思うが、まともに相手をした場合間違いなく日が暮れるし、そもそも今はそんな事を気にしている場合では無い。



上条「それで!?インデックスは一体どこに―――」

―………うむ………それが………―

物部は少しばかりバツが悪そうな声を出して




―………どうやら、その………我らの家の近くらしぃのじゃ………―

上条「………は?な、何で今更?」

あんな事をしてまで上条を巻き込むまいと家を飛び出したインデックスが、再び上条の部屋の近くにいる………?
どう考えてもおかしな事だった




―さ、さぁ………我にも分から―――――――――!!?―



物部が急に息を呑んだのが分かり、上条は戦慄する。







上条「おい、どうした!?」

―これは………竜脈の歪み………我の『人払い』によく似とるが、術式が、いや、構成が違う………これは、西洋の術式―!―









「「魔術師!!」」







離れた場所で、上条当麻と物部布都は全力で同時に走り出した。

ここまで。………眠い


PS・書き忘れましたがこのSS内での『歩く教会』は原作と性質が違います。破壊されたのは『歩く教会』の効果だけです。『全裸の少女』『いません』

続きです。




上条の住んでいる学生寮は、見た目は典型的なワンルームマンションだ。
四角いビルの壁一面に直線通路とズラリと並ぶドアが見える。


鉄格子の様な金属の手すりに『ミニスカ除き防止用』のプラ板が貼ってないのは、ここが『男子寮』だからだろう。(まぁ今も昔も上条の部屋には尸解仙の少女が同棲しているが)

御坂美琴(ビリビリ女)を追い払い、物部と合流した上条は、日の落ちた学生寮の前まで戻って来た。


上条「布都!インデックスは!?」

物部「我らの家の前…………血の香り………まずい!どうやら怪我をしとるようじゃ!」

上条「なっ!?―――――――――ッツ!」

衝撃の事実に、すぐにでも――を駆け上がってインデックスの元へと駆け寄りたい上条だったが、どこからか感じた背筋を凍らすような気配に足を止める。
それは、いつも上条の傍にいる相方の使う力の流れと少しばかり似ているが、やはり決定的に違う。


物部「感じたか?………近くに『人払い』を張った魔術師もおる………」

どう足掻いても一悶着ありそうだったが『その程度』で上条当麻と物部布都は止まらない。
インデックスの怪我の具合がどれ程の物か知らないが、相方の焦り具合から見て転んですりむいた―程度の者ではない事は明白だった。






一秒でも時間が惜しい。






上条「………行くぞ」


上条はそう言うと、七階にある自分達の部屋の前へと急行する。






そして、ひどく驚愕した。





上条「………は?………」






自分の家の前で、床に張り付いたガムだって一瞬で剥がすほどの破壊力を持ったドラム缶ロボが三台もたむろしていると言う状況に。






目を疑った







その三台にガッツンガッツン、まるで都会カラスに小突かれているかのように体当たりをぶちかまされているインデックスに。








心臓が止まるかと思った。








背中の腰の辺りをバッサリと横に一閃され、血だまりの中に沈んでいるインデックスに







事前に物部から忠告されていなければここで大きなタイムロスがあっただろう。





上条「う、うおぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

物部「待て当麻!」

湧き上がる激情に任せて清掃ロボットをぶち壊そうとする上条よりも先に物部が前に出て、清掃ロボットに力を流し込むと、それだけで清掃ロボットはその場を離れ、廊下の奥へと去って行く。


後で思ったのだが、もし上条がこの時清掃ロボットを破壊していたらおよそ三百六十万の弁償をしなければならない所だった為、上条のお財布事情的には超ファインプレーだった。



上条「―――っつ!布都!!」

「わかっとる!しかし………!!」

インデックスの傍に座り、竜脈を操作。
術式を使い、意識と、痛覚を伝える電気信号を断ち、治療しようとするがなにぶん怪我が大きい上、インデックスが弱りすぎている為、あまり強い治療術は使えないのだった。

『怪我を一瞬で塞ぐ』様な術が使えれば使っているが、物部の使う治療術は体内に力を注ぎ、操作する事で『自然治癒力』を大きく高める様な物だ。学園都市の能力風に言うと『肉体再生(オートリバース)』だろうか?

とにかく一瞬での完治は出来ない上、術を掛ける対象が極度に弱っていると力を注いで操る段階で注いだ力に耐え切れず事切れてしまう為、あまり大きな力を注ぐ事が出来ないでいた。



















―――――――――だがそれでも
























「よし。出血は止まったぞ」



物部の腕は、そんな事を苦にもしないほどだった。
流石だ。上条は素直にそう思う。




「もう大丈夫なのか!?」

「『大丈夫だ、問題ない』………とは言い難いが、少なくともこれであと数時間で事切れる―なんて事は無いじゃろう。一番良いのは蛙翁に診せる事だが………この街の部外者では後々面倒そうじゃし、取り合えず今は傷口を塞ぎ、神酒を飲ませて体力を回復。多少良くなれば秘薬を使うのがベストじゃな」

「ああ。―――――――――誰だ?」

「うん?僕達『魔術師』だけど?」



上条は、ゆっくりと後ろを振り返った。



男は自分達とは別の、エレベーターを使ってここまでやって来たようだった。


白人の男は二メートル近い長身だったが顔は上条より幼そうに見えた。
歳は………恐らくインデックスと同じ十四、五だろう。その高い身長は外国人特有のものだ。

服装は教会の神父が着ている様な漆黒の修道服。
ただしコイツを『神父さん』と呼ぶ人間は世界中を探しても一人として存在しないだろう。


物部「………邪悪、じゃな。そういう魔術を使う為じゃろうが少々気を使いすぎな気もするな。恐らくこやつは―――」


物部は冷静に男を分析している。
強い香りの香水に、髪染め。全ての指にはめられた銀の指輪に、耳に付いた毒々しいピアス。極め付けには右目まぶたの下にあるバーコードのような形をした刺青。

神父と呼ぶにも不良と呼ぶにも奇妙な男。
通路に立つ男を中心とした辺り一帯の空気は明らかに『異常』だった―――が


魔術師「おや、宗教観が薄いこの国の人間にしてはあまり驚いてないみたいだね?もしかして『それ』から全部聞いちゃってるのかな?」

上条「………色々あんだよ。色々な」


上条は全く動揺していないように見える。


実際はそう見えるだけで、上条から言わせれば十分過ぎるほど動揺しているのだが、今までにも結構奇妙な冒険を色々している為、『異常』に対する耐性が出来てしまっているのだった

魔術師は「まあどうでも良いか」と吐き捨てるように言って



魔術師「まったく、よっぽど君を巻きこみたくなかったのかな?」

上条「………?どういう―――」

魔術師「『それ』がここまで戻って来た理由だよ。知らないのかい?彼女が着ている修道服は通称『歩く教会』と言ってね。法王級の絶対防御を誇る霊装なのさ。僕達はそれから出ている魔力をサーチしてた訳だけど………なんの因果か今日その霊装の効果が消え失せた。まったく、聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り法王級の霊装が敗れるなんてありえないんだけどね………」


そこまで聞いて、唐突に全てが繋がった。


上条の右手には『幻想殺し』と言う異能の力が宿っている。それが異能の力であれば、十億ボルトの電撃だろうが、あたり一面を吹き飛ばす爆撃だろうが。挙句の果てには神様の奇跡だって打ち消すことが出来る―――――――――いくつかの『例外』を除いて。


そんな上条の右手は、数時間前確かにインデックスの肩に触れた。


『歩く教会』を通して。


そして魔術師は言った。その『歩く教会』から滲み出る魔力をサーチしていたと………


そしてインデックスは上条の家に忘れ物をしていった。歩く教会の残骸(フード)を………


つまりインデックスは、自分を危険な目に合わせないために、残骸を探知して魔術師がやってきてしまうかもしれないと考えて、わざわざ危険を冒して戻って来た。

そして、上条の右手で絶対防御の霊装の効果が破壊されてしまっていた為、大怪我をおってしまった………?




―すまん、当麻。我のせいじゃ………滲み出ている魔力が微小だったゆえ、まさかあれがそんなとんでもない霊装だとは気づかなかった………否、違うな………魔力が滲み出ている時点でもっとよく探るべきだった………―


もっと自分が優秀だったら気づけた、否、あの時『借りて』いれば間違いなく気づけた………物部は、悔しそうに顔を歪ませながら言った。
違うのに、そんな訳が無いのに。不注意にインデックスの肩に右手で触れた自分が何よりも悪いと言うのに。




上条「くっそ………!」





上条には分かる。物部は上条に歩く教会を『壊させてしまった』事を謝っているのではい















自分が『気づかなかった』所為で上条を苦しめてしまった事を謝っているのだ。












上条「クッソおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」



上条は叫んだ。
自分の不注意でインデックスだけではなく、大切な相方まで傷つけてしまった己の未熟さと不甲斐なさが、堪らなく悔しかったから。



上条「………なんで、だよ」

少し間を置いてから、思わず、答えを期待していないのに上条の口は動いていた。


上条「何でだよ。お前達にも正義と悪ってモンがあんだろ?守る物とか護る者とかあんだろ………?」


上条当麻は、叫ぶように言った。


上条「こんな小さな女の子を、寄ってたかって追い回して、血まみれにして。これだけの現実を前に!テメェまだ自分の正義を語ることが出来んのかよ!!」





自分の中の信念に従い。
今まで歩んできた道を信じて。


正しいと思った事を、殴りつけるように言葉にして放った。






魔術師「だから、血まみれにしたのは僕じゃなくて神裂なんだけどね」





なのに、魔術師は一言で断じた。微塵も欠片も、響いていなかった。



魔術師「もっとも、血まみれだろうが血まみれじゃなかろうが回収するものは回収するけどね」

上条「回収………?やっぱりインデックスが持ってる十万三千冊の魔道書が目的なのか!?」

魔術師「ああなんだ。『そっち』は聞いてたのか」


魔術師は笑っているのにつまらなそうな声で



魔術師「そうさ、でも勘違いしないで欲しいね。僕達はあくまでも彼女を保護する為にやってきたんだから」

上条「………」





これだけ真っ赤な光景を前に、この男は今なんて言った?






魔術師「そうさ。保護だよ保護。ソレには魔力を練る力は無いけど、それでも十万三千冊の魔道書ってのは十分過ぎるほど危険な代物でね。使える連中に連れ去られる前にこうして僕達が保護しにやって来たって訳さ。ソレにいくら良心と良識があったって拷問と薬物には耐えられないだろうしね。そんな連中に女の子の体を預けるなんて考えたら心が痛むだろう?」

魔術師は挑発するように言った。否。それは上条をインデックスから引き離す為の紛れも無い挑発だった。
上条(焼き殺す人間)の傍にインデックス(保護するべき対象)がいたらそれだけで巻き込みかねないし、もしインデックスを盾にされたら厄介な事になるだろう。

余計な手間を掛けない為には、向こうからこちらに来てもらうのが一番だった。









上条「………」








だが、上条当麻は動かなかった。その目を瞑り、時が流れるのをただ静かに待つように、ただただそこに立っていた。



魔術師(………?動揺しすぎて動けない、って訳じゃなさそうだけど。挑発が足りなかったかな?)

ふむ、と魔術師は考えて、だったら取り合えず魔術を使って少々強めに脅しを………



上条「―――あー、名前。聞いとくぜ」

まるで初めて出会った人に挨拶をするように気軽な口調で話しかける上条。








だが、その瞳は闘志と怒りで満ちていた。



こいつをぶちのめす。内にある心が、しっかりと読めた。




ステイル「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここは『Fortis931』と名乗っておこうかな?」



なのに、魔術師は口の端を歪めてタバコを揺らしているだけだった。
口の中で何かを呟いた後、まるで自慢の黒猫でも紹介するかのように上条に告げる。




ステイル「魔法名だよ、聞きなれないかな?僕達魔術師って生き物は、なんでも魔術を使う時に真名を名乗ってはいけないそうだ。古い習慣だから僕には理解が出来ないんだけどね。―――Fortis日本語では強者といったところか。ま、語源はどうだって良い。重要なのは魔法名を名乗り上げた事でね、僕達の間ではむしろ―――――――――」

魔術師は笑みを崩さない。上条では笑みを消す相手にもならないとでも言うように。





魔術師、ステイル=マグヌスは口の煙草手に取ると、指で弾いて横合いへと投げた。






火のついた煙草は水平に飛んで、金属の手すりを越え、隣のビルの壁に当たる。







オレンジ色の軌跡が残像の様に煙草の後を追い、壁に当たって火の粉を散らす。














ステイル「―――――――――殺し名、かな?」




















上条「ああ、分かった。『もういい』」




上条は本当につまらなさそうに言うと、『魔術師を床に叩き付けた』

ここまで。現在話の見直しをしながら三巻の構成を考え中。

PS・上条さんと布都ちゃんが活躍する場面以外端折っていいでsうか;;ちょと話し多すぎでしょう………?一冊分が三、四ヶ月に一度ペースとか鎌地先生凄すぐる;;

短いですが………

皆様ありがとうございます。オリジナルの部分以外はそつなくカットしていく事にしました。






ステイル「―――――――――な、ばぁあっ!?」




ステイルはその身を襲う痛みと、湧き上がる疑問に襲われていた。


どういう事だ?自分と上条の距離は十五メートルもあったはずだ。魔術を使って消し炭にするだけの時間はあったはず―――
しかし現にステイルは通路の床に肩を捕まれて仰向けに叩き伏せられている。

『一瞬で距離を縮められた』そう考えるしかなかった。

どんなトリックを使ったか知らないが、まだ自分には十分過ぎるほど余裕がある。
と言うかこの程度で魔術師を捕らえた気でいるのならとんだ大馬鹿野郎だ。
ステイルはニヤリと笑うと右手に力を集中させ













ステイル「―――巨人に苦痛の贈り物を!!」













魔術師はついに吼えた。けれど

















シーン………………………








上条「………………………」

ステイル「―――――――――は?」





そう言葉を発するのが精一杯だった。



どんなに強く念じても、魔力を込めても、世界は何も変わらない。


魔術が使えない?発動しない?なぜだ、どうしてだ??ルーンは間違いなくこの寮に張り巡らせたはず………と、そこまで考えて





上条「言ったよな?『もういい』って」

ステイル「―――あ」



最後に言葉を聞いて、魔術師ステイル=マグヌスは、言葉を発する間もなく気絶した。













上条「―――おい布都、こっちは片付いたぞ」

上条はステイルが気絶したのを確認するとゆっくりと立ち上がり、布都に連絡を入れようとするが、肝心の布都は何時の間に戻ってきたのか、自分の後ろ五メートル辺りの所に突っ立っていた。

上条がこちらを向いたのを確認すると、トコトコと歩いて上条の傍へと寄ってゆく。


布都「うむ―――キチンと顔、心臓、鳩尾、水月に掌打が二発ずつ打ち込まれておるな。これなら数時間は動けんじゃろう―――良い腕になったのぉ」

ステイルの様子を見て、物部は感心するように頷いた。

事実、自分でも随分と化け物じみてきたなぁとは思う。
能力を使ってもいなければ、学園都市製の駆動鎧も使用していないにも拘らず一瞬で四箇所に二回ずつ、計八回も人体の急所に正確に打撃を打ち込む事が出来るなど、最早人間のカテゴリーではない。
まあ物部曰く、幻想殺しがある為、どれだけ成長しようが上条は『人間』のカテゴリーから出られないらしい(まあ上条自身出る気も無いが)


物部「しかしこやつは実力と戦闘技術が平行しておらぬな………修行が足りんぞ?」

上条「見た事も無い術式だったんだろ?大丈夫だったのか?」

布都「なに、我は出来る子なのでな!ルーン文字は知っていたが………むしろ見た事が無い法則と術式に感心してタイムロスをしたな!」


研究用にいくつか拝借してきたぞ。と、物部はステイルがこの寮に張ってあったルーンカード(コピー紙)を自慢げに見せ付けてくる。
こう言ってはなんだが、物部はこう見えて勤勉家で、出会ってばかりの頃は図書館でそれこそ一日中本を読む事を許容されたものだ。

上条には書いてある意味が殆ど分からないがつまり………


上条「『ちょっと待ってあとちょっと!』とか必死に言ってたのはそう言う事かテメェ!!俺はアイツの『お喋りに付き合ったり』『ワザワザ話を引き伸ばしたり』して必死に時間稼ぎしてたんだぞおい!!」










布都「術者が気絶してしまった後では力の観測と保存が出来んのじゃよ………それに」




























布都「当麻なら大丈夫」





























ニッコリ笑顔でそう言った。

















………反則だと思う。










それは、まるで主人に絶対の信頼を寄せる、甘えたがりやの子犬の様な、物部から寄せられる、無償で全面的な信頼の証。






お前の心配はしていない、むしろ後ろで怪我をしているインデックスが魔術師の使う魔術に巻き込まれないか心配だった。








物部はそう言っていた。






上条は溜息を付いて「不幸だ」と言いながら、






























右手で顔を覆い隠して、笑った。




取り合えずここまで。布都ちゃんは犬耳が似合うと思う。

続きです。






夜。表通りから消防車と救急車のサイレンが鳴り響き―――通り過ぎた。





当然、それは上条の学生寮に向かってなどいなく、さらに遠くの方へと向かって行く。





上条当麻は路地裏で舌打ちした。




「まぁそこまで心配する必要も無いと思うぞ?それに関わらせる人間が多ければ多いほど二次災害が酷くなる場合もあるからの」

そしてそんな上条をよそに、物部は先程からずっと傷ついたインデックスにゆっくりと力を注ぎ続けていた。こんな時、少しも力になってやる事が出来ない自分が嫌になって、上条は奥歯をかみ締める。

あれだけ苦しそうだったインデックスの顔は随分と良くなり、出血は完全に止まり、小さく寝息を立てていた。



「いや、別にお前の腕を疑ってる訳じゃなくてさ。その………出来ればゆっくり休ませられるような場所が無いかって話」

「………ふむ、確かに傷が塞がったとしてもこれだけの傷を負ったからのぉ。体内にダメージは多少残るし、間違いなく翌日は熱が出るだろう………」


敵に自分達の居場所が割れている以上、自分達の寮に戻る訳にはいかない。物部曰く『相手はプロだから今更隠れようが大した差など無い』らしいのだが、今は焼け石に水だろうが掛けておきたい。



取り合えず目下の目的は『インデックスが安全に休める場所』の確保なのだが、それにしたって良い場所が思い当たらなかった。




学園都市の『外』ならとっておきの場所が幾つか在るのだが、外出パスが無い事は勿論、怪我を負っているインデックスを抱えているこの状況では話にすらならないのだった。

この際多少の金には糸目をつけずにホテルの一室でも借りようか、ああでもインデックスの事なんて言い訳すれば………と言うかID確かめられたら一貫の終わりだし………そう上条が考えていると、突如として物部が声を上げた。




「そうじゃ!こう言う時こそ頼るべきじゃろう!!」

「な、何を頼るって?」

「安心せい『風紀委員』や『警備委員』などではないわ」



物部は月を見上げて指を刺し、嬉しそうにその名を口にした。


上条のクラス担任。身長百三十五センチ、教師の癖に赤いランドセルが良く似合う一人の先生














「当麻の担任『月詠小萌』どのじゃよ!!」







一夜明けると、インデックスは本当に風邪と良く似た症状が出たが、その症状は凄く軽い物で、明日になれば元気に歩ける程度の物だった。
あれだけの傷を負っていた筈なのに、その痕は殆ど残ってはいない………全く、本当にこいつには叶わないと思う。








で、それはともかくとしてだ………











上条「何でビール好きで愛煙家の小萌先生のパジャマが、お前に合っちまうんだ?年齢差、いくつなんだか」

小萌「なっ………!」

物部「と、当麻!それは一体どういう意味じゃ!!?」

上条(いやお前関係ねーだろ………)

インデックス「………みくびらないでほしい。私も、流石にこのパジャマは胸が苦しいかも」

小萌「なん……、馬鹿な!バグってるです、いくら何でもその発言は舐めすぎです!」

上条「て言うかその体で苦しくなる胸なんてあったのか!?」

「「「………#」」」


物部を含めたレディ三人に睨まれた。上条、反射的に魂の土下座モードへと移行。


その後も、小萌先生をこれ以上巻き込まない様にする為、誤魔化すのに相当苦労した。

明らかに事件性を漂わせる形で小萌先生の家に上がりこみ『暫くの間泊めてくれ』だ。物部がインデックスの血の跡やら傷やらを誤魔化してくれなかったらもっと厄介な事になっていただろう。






当然であれだが、小萌先生は良い先生だ。





何の能力も、何の腕力も、何の責任も無いのに、ただ真っ直ぐに、あるべき所にあるべき一刀を通す名刀の様な『正しさ』とその一刀を持つ『覚悟』が備わっている。






この人の教え子で良かったと心から思う。日ごろから不幸に見舞われる上条当麻だが、『あの人達』といい、小萌先生といい。なぜか『導師』には恵まれているのだった。





だからこそ




まあなんやかんやあった後、小萌先生は


小萌「執行猶予です。先生スーパーに行ってご飯のお買い物してくるです。上条ちゃんはそれまでに何をどう話すべきかきっちりかっちり整理しておくんですよ?それと」

上条「それと?」

小萌「先生、お買い物に夢中になってると忘れちゃうかもしれません。帰ったらズルしないで上条ちゃんから話してくれなくちゃダメなんですからねー?」


そう言って笑って、スーパーへと買い物へ行った。
この調子だと上条が状況を説明しようがしまいがあの人は自分達の力になってくれようとするだろう。



物部「うむ!やっぱり小萌殿は良い導師じゃのぉ………」


いたずらっぽく笑う物部に、上条は激しく同意した。





上条「………悪りぃな。なりふり構ってられる状況じゃねぇって分かってんだけど」

インデックス「ううん。あれで良いの。これ以上巻き込むのは悪いし………君も、これ以上関わると厄介な事になるかもよ?分かってるでしょ?」

上条「………」




上条は、眉を潜めて黙った。











インデックスは、確信したように告げる。




























インデックス「………だって君は―――――――――」






六〇〇mほど離れた雑居ビルの屋上で、ステイルは双眼鏡から目を離した。






「禁書目録に同伴していた少年の身元を探りました。………禁書目録は?」



ステイルはすぐ後ろまで歩いてきた女の方も振り返らずに答える。



ステイル「生きているよ。………だが生きているとなると向こうにも魔術の使い手がいるはずだ」


女は無言だったが、新たな敵よりむしろ誰も死ななかった事に安堵しているように見える。



ステイル「それで、神裂。アレは一体何なんだ?」

神裂「それですが、少年の情報は特に集まっていません。………今の所、魔術師でもなければこの街の異能者でもないという事になるのでしょうか」

ステイル「何だ、もしかしてアレがただの高校生だとでも言うつもりかい?………やめてくれよ。僕はこれでも現存するルーン文字24文字を完全に解析し新たに力ある六文字を開発した魔術師だ。不意を付かれたとは言え、何の力も持たない素人に一瞬で敗北するほどヤワじゃないつもりなんだけど」



防御術式も張ってあった、少し殴られたくらいではビクともしない筈だった、なのに一瞬で気絶させられた上、何故か魔術が使えなかった。




神裂「そうですね………むしろ問題なのは、アレだけの戦闘能力が『少々運動が得意なだけのダメ学生』という分類になっている事です」

ステイル「情報の意図的な封鎖、かな。しかも禁書目録の傷は魔術で癒したときた。神裂、この極東には他に魔術的組織は存在するのかい?」

神裂「この街で動くとなれば、何人も五行機関のアンテナにかかるはずですが」


神裂は目を閉じて


神裂「敵戦力は未知数、対してこちらの増援はナシ。難しい展開ですね。最悪、組織的な魔術戦に発展すると仮定しましょう………」

ステイル「安心してくれ、今度は建物のみならず、周囲二キロに渡って結界を刻む。防御用結界もさらに強靭な物に変える………使用枚数は十六万四千枚、時間にして六十時間ほどで準備を終えるよ」



それは少し勘違いだった。上条の幻想殺しは『異能の力』にしか反応しない。つまり学園都市の能力測定器でチカラを測る事が出来ない。


よって、不幸にも上条当麻は最強クラスの右手を持っているのに無能力者扱いなのである。










―――まぁ上条の『強さ』はそれとあまり関係が無い所にあるのだが。






加えて、上条はどこの魔術組織にも所属などしていない。そもそも『そんな事はできない』のだ。
まぁ強いて言うなら物部が信仰している『神道』に所属しているという事になるのだろうが、殆ど関係の無い話だった。




ステイル「………、楽しそうだよね」


と、不意にルーンの魔術師は双眼鏡も使わず六〇〇m先を見て呟いた。


ステイル「楽しそう、本当に楽しそうだ。あの子はいつでも楽しそうに生きている………僕達は、一体何時まで、アレを引き裂き続ければ良いのかな」

神裂はステイルの後ろから、六〇〇m先を眺める。

双眼鏡や魔術を使わなくても、視力八、〇の彼女には鮮明に見える。何か激怒しながら少年の頭に噛り付いている少女と、両手を振り回して暴れている少年の姿が窓に映っている。















神裂「複雑な気持ちですか?かつて『あの場所にいた』あなたとしては」

ステイル「………いつもの事だよ」














炎の魔術師は答える。まさしく、いつもの通りに。



ここまで。

上条さんと布都ちゃんのスペックですが、もう少しで鮮明な描写が出来ると思います。

短いです。関章みたいな感じ






夕刻、上条当麻はアパートの屋根に登り、ゴソゴソと準備を行っていた。





上条「あ痛っててててて………ったくインデックスの奴、思いっきり噛み付きやがって………」


上条は頭を優しくさすろうとするが、そこに突如として現れた仙人娘が上条の手よりも先に頭に伸び、よしよしと頭を撫でる。

上条はすぐに頭を振ってその手を振り払うと、物部は不満そうに頬をぷうっ、と膨らませた。
飼い猫にかまってもらえない小学生みたいなその仕草はずっと前から変わらなくて、上条は頬を緩ませる。



物部「いやしかし見事な説法じゃった!当麻もなかなか貫禄が付いてきたのぉ」


物部はやたら嬉しそうに笑った。
その姿は弟の成長を喜ぶ姉と言うよりは、やはりペットか何かの躾の成功を喜ぶ小学生みたいに見える。

だが正直上条としては『説法』なんて大層な物をした覚えなど無い。
上条の導師なら間違いなく『説法』と呼ぶにふさわしい言葉をインデックスに掛けるんだろうが、今の自分では役者不足だ。

せいぜい彼女の中に溜まり溜まった何かを、吐き出させた位だが、それにしたってそんな程度の言葉も掛けてもらえなかったインデックスの今までの境遇がそうさせたんだと思う。













それに―――













上条は、声に出そうとして踏みとどまった。















もし、自分がインデックスに掛けた言葉を『説法』と呼ぶのであれば、無意識の内に参考にしている―――















七年前、物部が上条に言い放った言葉を




















『ふっ、ざけるでない!!!』











『不幸を呼ぶ右手!?異能の力を問答無用で消し去る!!?確かに瓢箪から駒が出るような荒唐無稽な話じゃよ!!正直今でも信じられんし何故そんな力を持つお主に今の我が憑いていられるのかも分からぬ!………じゃが!!』









『『たったそれだけの事』でこの尸解仙、物部布都が恐れおののくとでも思ったか!お主に目覚めさせられた事を不幸だと言ったか!?お主に憑いてしまった事を不幸だと言ったか!!?人の価値と想いをお主の手前勝手な物差しで推し量るでない!!!』









『我の意思で我の為にお主の傍に居るのじゃ!お主の傍に居たいからいるのじゃ!!』









『………お主がどう思ってるかは知らぬが、我はお主を気に入っておるからな。まだホンの僅かな時間しか関わりは無いが、少なくともそう思うことが出来たからの………だから』























『………少しくらい、頼っては貰えぬか?『当麻』』








物部「―――うま………当麻!聞いておるのか!?」





先程から話しかけてきていた物部の声にやっと気づいて我に返った上条は慌てて物部の方を向いた。









ずいぶん懐かしい出来事を思い出したものだと思う。確かあの後自分は今のインデックスと同じように大粒の涙を目に止め切れず、泣き出してしまった。











そして、物部は上条が泣き止むまでずっと、愛しい人形を抱きしめる少女のように自分をぎゅっ、優しく抱きしめてくれていた。















そして俺は………………………
















………と、そこまで思い出したら羞恥心やらなんやらで顔が赤くなってきた。
幾ら今の自分を構成している大切なアイデンティティとは言え、改めて思い出すと恥ずかしくて堪らない。今なら顔で茶が沸かせそうだ。




上条「なななな、なんだよ布都。………もしかして敵に何か動きが―――!」

物部「ちがう!さっきから物思いにふける様な顔をして黙り込んでしまったから心配しておったのじゃ。何をボサッとしとる?」

上条「ベベベベ、ベツニボサットナンカシテナイデスノコトヨー」


上条があからさまに片言になっているのを不審に思ったのか、物部はさらに上条の近くへと寄ってくる。























物部「………ん」




具体的には肌と肌が触れる位置まで、と、いうか顔と顔がぶつかりそうになって………

























上条「どおぅわっとおおぉぉ!!」



奇声を上げながら顔を反らして正面衝突を避け、後ろ足で物部と距離を取る。
心臓が色んな意味でバクバクと高鳴っているのが嫌でも分かった。


物部「何故避ける、体温を測ろうとしただけじゃろう。顔が真っ赤になっとるし、体温にも上昇が感じ取れるぞ?」

上条「自分の体温くらい上条さんは分かります!平均36,8度!平常です平常!!てかそもそも無言で顔を近づけてくんじゃねぇ!!」

それからしばらくの間、意地になった物部と、そもそも熱を図るのってオデコである必要なくね?という事にも(テンパって)気づかない上条による激しい戦い(と言う名のオデコ争奪戦)が巻き起こったが、小萌先生のニッコリ笑顔で屋根から引き摺り下ろされて、しっかりと断罪をくらいましたとさ


ここまで。まぁ上条さんにも普通に心折れるような事があったんですよ、って事と、聖女布都ちゃんの話し。

遅れましたが続きです。皆ありがとう………




インデックス「おっふろ♪おっふろ♪おっふっろー♪」




と上条の隣で、病人をやめました、と言わんばかりにパジャマから修道服に着替え、両手に洗面器を抱えたインデックスは歌っていた。
そんな彼女に影響されたのか、同じく上条の隣にいる物部も同じように歌っていて、なんだか奇妙な二重奏を醸し出している。




上条「なんだよそんなに気にしてたのか?正直、匂いなんてそんなに気になんねーぞ?」

インデックス「汗かいてるのが好きな人?」

上条「そういう意味じゃねえッ!!」

物部「お、お主、そんな趣味があったのか………?」


ちッがあぁぁあああああう!!!と言う上条の訴えが辺りに響きわたる。


あれから一日経って、普通にあちこち出かけられるようになった彼女の願いが風呂だった。………が。
小萌先生のアパートには『風呂』などという概念は存在しなかった。管理人室のモノを借りるか。アパート最寄にあるボロッボロの銭湯に行くという究極の二択しかなかった。

………まぁ上条と物部としては時々大きな風呂というものが恋しくなって稀に足を運ぶ事があるので「じゃあ銭湯行くか~」と駆り出してみたものの、肝心の銭湯が時期外れの大掃除をするだとかで二日間休業中になっていた為、こんなに遅くなってしまったのだ。




インデックス「とうま、とうま」


人のシャツに二の腕を甘く噛みつつインデックスはややくぐもった声で言う。
噛み癖のある彼女にとって、どうやらこれは服を引っ張ってこっちを向かせる、位のジェスチャーらしい。











………なぜか物部が対抗するようにもう片方のシャツの二の腕を甘噛みしているのが気になるが。









上条「………何だよ?」


上条は呆れたように答えた。『そういえば名前知らない』と言うインデックスに一昨日の朝自己紹介してからかれこれ十八万回くらい名前を呼ばれまくったからだ。












………なぜか物部が対抗するように自分の名前を呼びまくってたのが気になるが。





インデックス「何でもない。用がないのに名前が呼べるってなんかおもしろいかも」


たったそれだけで、インデックスはまるで初めて遊園地に来た子供みたいな顔をする。

インデックスの懐き方が尋常ではない。まぁ、原因は三日前のアレだろうが………上条は嬉しいと思うより、今まであんな当たり前の言葉すらかけてもらえなかったインデックスが過去の自分と重なって複雑な気持ちを抱いてしまう。



インデックス「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるってこもえが言ってた。コーヒー牛乳って何?カプチーノみたいなもの?」

上条「んなエレガントなモン銭湯には」

物部「うむ、それだけではなくフルーツ牛乳と言うのも有っての!いやまさに日本が生んだ――」


どのみち物部の声は自分以外聞こえないため何の意味もないのだが、それでも上条は話がややこしくなるから黙ってろと言いたくなってしまう。



上条「んー、けどお前にゃデカい風呂は衝撃的かもな。お前んトコってホテルにあるみたいな狭っ苦しいユニットバスがメジャーなんだろ?」

インデックス「んー?………その辺は良く分かんないかも。私、気がついたら日本にいたからね。向こうの事はちょっと分からないんだよ」








地雷を踏んだ。一瞬でそう分かった。





























インデックス「私ね、一年位前から記憶が無くなっちゃてるから」





インデックスは、笑っていた。本当に、生まれて初めて遊園地にやってきた子供のように。





油断してた………と、上条は自分を責め立てる。
直接的に地雷を踏んでいなくても、その地雷の上にある土を踏んでしまえばそれだけで爆発するというのに。








この数日間、上条は物部と今後の事を徹底的に話し合った。






そして、告げられた。インデックスには恐らく『記憶がない』と。







その時の確信めいたような彼女の表情に、彼女の過去にあった出来事と何か関係があるのかもしれないと上条は思ったが、物部は好みや、料理。学園都市の科学技術の感想などといった、思った事や感じた事はそれこそ親に今日学校であった事を話したがる小学生みたいに素直に、愚直に言ってくるくせして、過去の出来事の話になるとまるで話術師のように巧みに話題をすり替えてしまう。
ようするにあまり過去の話をしたがらないのだった。






だから上条はもう七年以上彼女と一緒にいるのに、物部の過去をあまりよく知らない。






導師達から口止めされている事もあり、上条自身なるべくそのての話題に触れないようにしてきたが、なんだか『お前じゃ話す事はできない』と言われてるみたいで、酷くイライラするのだった。





インデックス「むむ?とうま、なんか怒ってる?」

上条「怒ってねーよ。………いや、イライラはしてるけどお前にゃかんけーのねー事だよ」

ギクリとしてシラを切ろうとしたが、そもそもインデックスとは関係のない話だと思い、開き直る事にした。


インデックス「なんか気に障ったなら謝るかも。とうま、なにキレてるの?思春期ちゃん?」

上条「………その幼児体系にだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント」

インデックス「む、なんなのかなそれ。やっぱり怒ってるように見えるけど。それともあれなの、とうまは怒ってるふりして私を困らせてる?とうまのそういう所は嫌いかも」

上条「あのな、元から好きでもねーくせにそんな台詞吐くなよな。いくら何でもお前にそこまでラヴコメいた素敵イベントなんぞ期待しちゃいねーからさ」

インデックス「………」

上条「て、アレ?………何で上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫?」


超強引にギャグに持っていこうとしてもインデックスはまるで反応してくれない。

おかしい、何か変だ。何でインデックスは胸の前で両手を組んで、上目遣いの目じりに涙が浮かびそうな傷ついたっぽい顔をして、あまつさえちょっと甘く舌唇を噛んでいるんだろう。


何かとてつもなく嫌な予感がした為、上条は反射的に物部に助けを求めようとするが





物部「………」

上条(ふ、布都………さん?)


上条は戦慄した。



物部がまるで天使のような完璧な笑顔を顔に貼り付けつつ、胸の前で両手を組んで鬼神のようなオーラを放っていたからだ




「「とうま」」


はい、と少女二人に名前を呼ばれたのでとりあえず返事をしてみる。


















インデックス「だいっきらい」

物部「断罪(しね)」



物部が親指を下に向けた瞬間、上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりにされるというレアな経験地を手に入れた。


ここまで。次回、ついにねーちん戦。

続きです。





インデックスと物部は二人でさっさと銭湯へ向かってしまった。




一方、上条は一人でトボトボ銭湯を目指していた。

二人の後を追いかけようと思ったのだが、お怒りの白いシスターは上条の姿を見るなり野良猫みたいに走って逃げてしまうのだ。
そのくせ、しばらく歩いているとまるで上条を待ってたみたいにインデックスの背中が見えてくる。後はその繰り返し。なんかホントに気まぐれな猫みたいだった。


もう片方の白い尸解仙は、インデックスと同じように歩いてはいるのだが、主人がちゃんと付いて来ているかどうかを確認するリードを手放された犬みたいにしきりに後ろを振り返っている。
チラッ、チラッと面白そうに後ろを向き、上条の存在を確認してはキャッキャと駆けて行く。なんかホントに遊び盛りの子犬みたいだった。





まぁ『予定通り』だよな。と上条は追いかけるのを止めたのだった。




本来は銭湯に着いてから色々と準備をする予定だったのだが、これはこれで安全に時間稼ぎが出来るし、向こうもいつ動き出しても不思議じゃないんだし。と、上条は立ち止まって屈伸をし、アキレス腱を伸ばし、軽く体を馴らせる。


なぜここで唐突に準備運動をする必要があるのかと問われれば、その答えはただ一つ。






上条「………」


上条はデパートの電光掲示板を見る。午後八時ジャスト。まだまだ人が眠る時間でもないはずなのに、なんだか辺りが夜の海みたいにひどく静まり返っている。
二人と歩いていた時から誰ともすれ違ってはいないが、上条は特に違和感を感じる事無く片側三車線の大通りに出た。






『誰もいない』






コンビニの棚に並ぶジュースみたいにずらりと並ぶ大手デパートには誰も出入りしていない。いつも狭いと感じる歩道はやけにだだっ広く感じられ、まるで滑走路みたいな車道には車の一台も走っていない。路上駐車してある車はそのまま乗り捨てられたように無人。








まるでひどい田舎の農道でも見ているようだった。………まぁこの異常な光景も、上条にとっては見慣れたものなのだが












???「ステイルが人払いの刻印を刻んでいるだけですよ」




ゾン、と。いきなり顔の真ん中に日本刀でも突き刺されたような、女の声。



物陰に隠れていた訳でも背後から忍び寄ってきた訳でもない。上条の行く手を遮るように、十メートルぐらい先の、滑走路のように広い三車線の車道の真ん中に立っていた。

暗がりで見えなかったとか気がつかなかったとか、そんな次元ではない。確かに一瞬前まで誰もいなかった。だが、たった一度瞬きした瞬間、そこに女は立っていたのだ。



???「この一帯にいる人に『何故かここには近づこうと思わない』ように集中を反らしているだけです。多くの人は建物の中でしょう。ご心配はなさらずに」



いや知ってたし。と返してやりたかった。




そもそも上条はこの女の存在に『気づいていた』



インデックスと歩いていたときからだろうか、敵意とも悪意とも違う、寂しいような虚しいようななんとも言えない気配が自分達を視ていた………。
真っ先に気づいたのは物部なのだが、今は放っておく。




上条(………ハズレ引いたなぁ)


上条としてはあの炎の魔術師がリベンジにかまけて自分を潰しに、この女がインデックスを回収に向かってくれると色々と助かったのだが、そう旨くはいかないらしい。
やはりどこまでいっても自分の不幸体質が災いするようだった。




???「神浄の討魔、ですか―――――良い真名です」

上条「そりゃぁどうも。テメェは?」

神裂「神裂火織、と申します。………できれば、もう一つの名は語りたくないのですが」

上条「もう一つ?」

神裂「魔法名、ですよ」


ああ、そりゃ結構。上条は言った。
そもそも上条は博愛主義者という訳ではないが、なるべくなら争いや面倒ごとには巻き込まれたくないタイプだ。導師の一人みたいに「こぶしとこぶしで語り合う」なんてのは好きじゃないし(嫌いでもないが) 話し合いで決着が付くならそれに越した事はないと思っている。



神裂「率直に言って」



神裂は片目を閉じて












神裂「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

上条「嫌だ」






即答した。退く理由など、どこにもなかったから。



神裂「仕方ありません」



神裂はもう片方の目も閉じて






神裂「名乗ってから彼女を保護するまで」






ドン!!という衝撃が地震のように足元を震わせた。
まるで爆弾でも爆発したようだった。視界の隅で、青い闇に覆われたはずの夜空の向こうが夕焼けのようなオレンジ色に焼けている。どこか遠く―――何百メートルも先で、巨大な炎が燃え広がっているのだ。







上条「………チッ!!」



誰よりも物部の実力を知っているつもりのくせに、欠片ほどの心配も、する必要は無いくせに、上条はほとんど反射的に炎の塊が爆発した方向へ眼を向けようとして、







瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってきた。






上条と神裂の間には10メートルもの距離があった。加えて、神裂の持つ刀は二メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回すことはおろか鞘から引き抜くことさえ不可能に見えた




















――――――はずだった。






なのに、次の瞬間。巨大なレーザーでも振り回したように上条の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。




上条のすぐ後ろ―――斜め右後ろにある風力発電のプロペラが、まるでバターでも切り裂くように斜めに切断されてゆく。




神裂「やめてください」


10メートル先で、声。




神裂「私から注意をそらせば、辿る道は絶命のみです」


すでに神裂は二メートル以上ある刀を鞘に納めている。
上条は動かなかった。



上条「………」



ドスン、と音を立てて上条の後ろで風力発電所のプロペラが地面に落ちた。
本当にすぐ側にプロペラの残骸が落下したというのに、それでも上条は動かなかった。



神裂は閉じていた目をもう一度開いて、







神裂「もう一度、問います」



神裂は僅かに両の目を細め




神裂「魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

上条「いや、だから嫌だって」



上条の声には、よどみがない。
まるで、この程度の事でいちいち驚いてられないと言わんばかりの呆気らかんとした声だった。

一般人にしてはあまりにも余裕に見える上条の言動に神裂は顔をいぶしかめるが、それも一瞬の事にすぎない。


神裂「何度でも、問います」

瞬、とほんの一瞬だけ、何かのバグみたいに神裂の右手がブレて、消える。
轟!という風の唸り声と共に、恐るべき速度で何かが襲いかかってきた。




上条「………」




まるで、四方八方から巨大なレーザー銃を振り回されるような錯覚。


それは、例えるなら真空刃で作り上げた巨大な竜巻。

上条当麻を台風の目にして、地面が、街灯が、一定感覚で並ぶ街路樹が、まとめて工事用の水平カッターで切断されるように切り裂かれた。宙を舞った握り拳ほどもある地面の欠片が右肩に当たりそうになるが、上条はそれを体を小さく右に反転させてかわす。

上条は首ではなく視線だけで辺りを見回す。

一本。二本、三本四本五本六本七本――――都合七つもの直線的な『切り傷』が平たい地面を何十メートルに渡って走り回っていた。様々な角度からランダムに襲う『切り傷』は、鋼鉄の扉に生爪を剥がす勢いで傷を付けている様にも見える。



チン、という刀が鞘に収まる音。




神裂「私は、魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」



右手を鞘の柄に触れたまま、神裂は憎悪も怒りもなく、本当にただの『声』を出した。




上条「………あんた、強いな」



上条は「不幸だ………」と深くため息を付くと、机に向かいすぎたサラリーマンの様にコキッ、コキッ、と右手で肩周りを軽く撫でる。
神裂にはそれが、見た通り緊張しすぎて動かなくなった体をほぐす作業にしか見えなかった。




神裂(身体能力が良い………と言っても、やはりこの程度ですか………当たり前ですが)


本来ならあの握り拳ぐらいの大きさの欠片が上条に直撃する思ったのだが、上条はそれを避けた。

………ただ、それだけだ。本当に、普通の人間より少し身体能力が良かったと言うだけなのだ。ステイルに勝てたのも、彼が肉弾戦が不得手なのが災いしたのだろう。





神裂は、落胆した様にため息を付いた。















何に対して落胆しているのかも、何で落胆しているのかも、そもそも自分が落胆している事も、気づく事無く。






神裂「私の七天七刀が織り成す『七閃』の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。人はこれを瞬殺と呼びます」



あるいは必殺でも間違いではありませんが―――と、神裂は続けようとして、止まった。




神裂が使う『七閃』は厳密に言えば、魔術でなければ刀をもちいた居合い切りでもない。
ホンの僅かに鞘の中で刀を動かし、再び戻す。この仕草で、七本の鋼糸を操る手を隠し、気づかれること無く相手を切り刻む。まるで奇術師のように。

断っておくが、神裂は何も自分の実力を安っぽい『七閃(トリック)』で誤魔化しているわけではない。
七天七刀は飾りではなく、様々な宗教の術式を織り交ぜる事で天の使いとも渡り合える『唯閃』を放つ事もできるし、そもそも切り刻むだけでなく、鋼糸を駆使する事で様々な魔方陣を作り出し、普通の魔術師ならば一撃で葬る事ができる七閃自体、十分過ぎるほど強力な物だ。










そんな神裂の手に現在握られた七閃用の鋼糸は














一本。二本、三本四本五本六本――――




























『あと一本はどこに行った?』








上条「やめろよ、余所見すんなよ」








上条の声がふいに頭に響くように聞こえて






























上条「瞬殺されたくねぇだろ?」





その直後、神裂の胸元に鬼のような衝撃が襲い掛かった。


ここまで。

続きです。





バオォン!!




という空間を無理やり引き裂いたような音があたりに響く。



上条「へぇ………」

神裂「つッッ!!?」

上条が放った瞬速の一撃は、神裂の胸元に届かなかった。届く瞬間、神裂がとっさに片手を使って受け止めていた。だが無理やり体を動かし、不安定な体制で受けた為か、神裂の手からはゴギッ、という嫌な音が響く。

神裂はそのまま握った上条の手を捻り、地面に捻じ伏せようとするが、上条は神裂の股下に足を滑り込ませ、体制を大きく崩させる事で逆に神裂を投げ飛ばそうとする。当然それに対抗しようと体を動かした神裂だが、まるでそれを分かっていたような上条の妨害に合い、結果、肩から地面に叩き付けられてしまう。



神裂「がッ………はっツ!!?」


痛みに呻き声を上げる暇も無く、神裂は自分の頭を踏み砕こうとする靴の底を見た。
避けようと全力で横に飛んだ所で、神裂はありえない台詞を聞いた。












「七閃」













耳を疑う声と同時、七つの圧倒的な衝撃が神裂目掛けて襲い掛かった。



当然、上条は七天七刀を持っていなければ、鋼糸も無い。

その見よう見まねの、と言うか合っているのは数だけの『七閃』の正体は異常な速さと力が込められた『蹴り』だ。
しかも「この技、俺にも出来ないかなー」と言う発想から、たったいま生まれた完全な『付け焼刃』だった。



腕、足、鳩尾。まるで直接爆弾を撃ち込まれたような衝撃が神裂の体を貫いて










神裂「おおっ、………ぁあああああああああ!!」





上条「っ!?」


そこまでだった。
神裂は神の子としての性質が似ている『聖人』である自分の力のリミットを外し、驚異的な速度と力で放たれる上条の蹴りを、同じく蹴りで弾き飛ばす。
もちろんそれをよしとする上条ではないが、神裂から放たれる力を垣間見て、弾かれた力を利用して反射的に後ろへと下がった。


神裂は、よろよろと、それでも常人からしてみれば驚異的な速さで立ち上がって




神裂「手を………抜いていたのですか………?」

上条「お互い様だろ」




上条は何を今更。と言ったように告げる。




上条「アンタ、俺を程度良くボコボコにするだけで殺すつもりなんか無かったんだろ?初めの一撃も、その次のも、完全に俺を狙ってなかった。『相手に自分との実力差を知ってもらって諦めて貰う』暗黙の『降伏勧告』だったんだろ?」

神裂「………」



神裂は、動かない。
上条の鋭いとは決して言えない、それでも全てを真っ直ぐ貫くような眼光に睨まれて『動けない』




上条「………何でだよ」


上条は、小さく呟いた。
一瞬、上条がこれだけの実力があるのに自分が手を抜いた事を怒っているのかと神裂は思ったが


上条「アンタ、そもそもすごくつまんなそうな顔してたじゃねーか。敵を殺すのをためらってたじゃねーか。最初から全力で俺を殺しに来る事だって出来たくせに、殺そうとしなかった………アンタはまだ、そこでためらってくれるだけの常識がある人間なんだろ?」


神裂は、何度も何度も聞いてきた。
魔法名を名乗る前に全てを終わらせたい、と。
ステイル=マグヌスと名乗ったルーンの魔術師は、そんなためらいなど微塵も見せなかった。


神裂「………」

神裂火織は黙り込むと同時に、顔を歪めた。

余計な考えを振り払い、必死になってこの少年の術式を解析しようと試みるが、そもそも『魔術を使ったような痕跡もなければ、何か特別な事をしたような感覚もない』

だとすればこの少年は本当にただの人間?いや、違う。ありえない。何かがおかしい。
そもそも魔術師でも能力者でもないただの人間が学園都市の兵器も持たずに聖人である自分と戦(や)りあえるなど、ありえる筈が無い


上条「なら、分かんだろ?寄ってたかって女の子が空腹で倒れるまで追い回して、刀で背中切って、そんな事、許されるはずないってもう分かっちまってんだろ?」

血を吐くような言葉に、神裂は思考を遮られ、耳を傾ける事を余儀なくされる。


上条「知ってんのかよ?アイツ、テメェらのせいで一年位前から記憶が無くなっちまってんだぞ?一体全体、どこまで追い詰めりゃそこまでひどくなっちまうんだよ」

返事は、無い。
上条には、分からない。不治の病の子供の為でも良い。死んでしまった恋人の為でも良い。何か『望み』があってインデックスを狙うなら、十万三千冊の魔道書を手に入れて世界の全てを歪める『魔神』になろうと言うなら、まだ分かる。


他でもない上条自身が『そうだったから』。




守りたいと思うものを守れるように、そう願った他でもない自分の為に、師匠達の『この世界ではありえない修行』を重ね続ける。


今もまだ絶賛修行中で、師匠達とは比べることすら出来ないほど力の差があるが、それでも前の自分と比べれば及第点があげられる位には強くなれたと思う。


だからこそ、分かる。
コイツは『自分の望みでインデックスを追い回してない』


コイツは『組織』の一人なのだ。言われたから、仕事だから、命令だから。そんな一言で、たった一言だけで、一人の女の子を追い掛け回して背中を切るなんて常軌を逸している。
人質でも取られていると言うのなら分からないでも無いが、いくらその『組織』が強力なものであるとは言え、コイツほどの実力者が、敵を切るのをためらってくれる人間が、素直に従っていると言う事に違和感を覚える。




上条「何で、だよ?」



だからこそ、聞いた。
まるで人を導く導師のように。




上条「アンタ、メチャクチャつえーじゃねぇか。そんな力があれば、少なくとも誰かを守ることが出来る筈なのに、誰かを救う事が出来る筈なのに」



自分の内から沸きあがる虚しさを吐き出すように




上条「………何だって、そんな事しか出来ねぇんだよ………」



言った。

悔しかった。

死にもの狂いで修行して、死にもの狂いで戦って、ようやく少しばかりの力を得られたから。





悔しかった。

自分と同じように力がある人間が、女の子一人を追い詰める事にしか力を使えない事が。





悔しかった。


まるで『自分の力の使い方(師匠たちの教え)』を否定されているみたいで。











沈黙に、沈黙を重ねた沈黙。
それを破ったのは神裂の方だった。





神裂「………、私。だって」



神裂は、追い詰められていた。
あれからお互いに一切の動きは無いくせに、あれ以上のダメージは少しももらって無いくせに、たった一つの言葉だけで、ロンドンで十本の指に入る魔術師は追い詰められていた。



神裂「私だって、本当は彼女の背中を切るつもりは無かった。あれは彼女の修道服『歩く教会』の結界が生きていると思ったから………絶対傷つくはずが無いから斬っただけ、なのに………」


上条は、神裂の言っている言葉を一文字一句逃さぬように耳を傾け続ける。





神裂「私だって、好きでこんな事をしている訳ではありません」




神裂は言った。





神裂「けど、こうしないと彼女は生きていけないんです。………死んで、しまうんですよ」





神裂火織は、泣き出す前の子供みたいに言った。





神裂「私の所属する組織の名前は、あの子と同じ、イギリス清教の中にある―――必要悪の教会」




血を吐くように、言った。





神裂「彼女は、私の同僚にして―――――――――大切な親友、なんですよ」


















上条「どういう事か、説明しろよ」


上条は、真っ直ぐと神裂を見据えながら言った。

ここまで。

早い所ほかの東方勢を出したい今日このごろ

続き





神裂「………と、言う訳です。あの子は、あの子は記憶を消さなければ生きていけないんですよ!!」


泣き出す前の子供のような声で必死に上条に訴える神裂。
その姿は大切な親友の為に涙を流し、身を引き裂かれるような苦痛に耐えてきた彼女の必死の訴えで、普通であれば同情を禁じえない様なシリアスなワンシーンが醸し出されるのだが






















上条「………」









上条は呆れかえっていた。その右手を額に当て「うわぁ………」という一種の哀れみを含んだ表情と、疲れきった様なため息を吐く。









何だコイツは。馬鹿なのか?アホなのか?

インデックスの脳の八十五パーセントが十万三千冊の魔道書で埋まっている?完全記憶能力があるインデックスは記憶を忘れられないから残り十五パーセントで一年分の記憶しか出来ない脳が破裂する前に記憶を消す?

あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて言葉も出なかった。




何だこいつらは。もしかして自分達は魔術師だから何でも出来る。自分達にすらインデックスが救えなかったんだから他に方法などある訳が無い。とでも思っていたんだろうか。だとしたら傲慢にも、馬鹿にも、慢心にも程があると思う。

上条としてはもっとドロッドロの、思わず拳を握り締め、奥歯を嚙み締めてしまう様な悲劇的な事情でもあるのかと思ったが、蓋を開けてみればこれである。
否、神裂達からしてみれば十分すぎる事情なんだろうが、まさか『外の高校や大学でも普通に習う一般常識』すら知らないとは。
無知は罪だと歴史上で誰かが言ったが、なるほどこれは笑えない。



いや違う。これは最早知識が有るとか無いとかそういう問題ではない。そもそも『十五パーセントで一年分の記憶しか出来ないなら完全記憶能力者はみんな小学生にもなれず死んでしまう』という小学生でも気づきそうな違和感にすら気づいていない。



やベー、怖えー………無知って怖えー………。いや、頭が良い奴が頭が悪い奴を馬鹿にするのは良い事じゃないし間違ってると思うけどここまで来るともうシャレにならねー………テメェらガチで定時制高校入って常識学べよコラ。






神裂「分かって、頂けましたか?」


と上条が脳内で怒涛のツッコミを入れる中、神裂は声のトーンを変えずに話を続ける。
どうやら上条の表情や行動を「苦悩して頭を抱えている」と思っているらしい。


神裂「私達に、彼女を傷つける意図はありません。むしろ、私達で無ければ彼女を救う事は出来ない。引き渡してくれませんか、私が魔法名を名乗る前に」


いや、むしろあんた達のせいでインデックスが苦しんでるんだけど。


そう言いたい気持ちを抑え、何とか事情を説明しようと口を開こうとして


神裂「それに、記憶を消してしまえば彼女はあなたの事も覚えていませんよ。今の私達を見れば分かるでしょう?あなたがどれだけ彼女を想った所で、目覚めた後の彼女には、あなたの事は『十万三千冊を狙う敵』にしか映らないはずです」

上条「………」

止まった、わずかな違和感を捉えたからだ。


神裂「そんな彼女を助けた所で、あなたにとって何の益にもなりませんよ」

上条「………、何だよ。そりゃ」

違和感は、怒りに変わり、一瞬で爆発した。さながら、ガソリンに火を放つように。


上条「何だよそりゃ、ふざけんな!あいつが覚えてるか覚えてないかなんて関係あるか!いいか、分っかんねぇようなら一つだけ教えてやる。俺はインデックスの仲間なんだ!今までもこれからもあいつの味方であり続けるって決めたんだ!テメェらお得意の聖書に書かれてなくたって、これだけは絶対なんだよ!!」

神裂「………」

上条「なんか変だと思ったぜ、単にアイツが『忘れてる』だけなら、全部説明して誤解を解きゃ良いだけの話だろ?何で誤解のままにしてんだよ、何で敵として追い回してんだよ!テメェら、何勝手に見限ってんだよ!アイツの気持ちをなんだと





神裂「―――――――――うるっせえんだよ、ド素人が!!」





上条の怒りを押しつぶすような神裂の咆哮が轟いた。
言葉遣いも何も、全てを剥ぎ取った剥き出しの感情が上条に襲いかかって























上条「黙れこの大馬鹿野郎がぁぁああああああああああああああああ!!」


それを上回る上条の圧倒的な咆哮によって打ち消された。





神裂「な………」

上条「テメェらがドンだけ頑張ったかなんて知らねぇ、ドンだけ苦しんだかなんて分からねぇ!でもその頑張りも苦しみも守りたいものの為だったんだなって事は分かる!!だったら何でもっと強くなろうとしねぇんだ!何で誰もが笑って誰もが望む最っ高な結末(ハッピーエンド)を求めようとしねぇんだ!! ああ、俺も修行不足だな、テメェ程度を敵って認識しちまうんだからな!!」



上条はようやく分かった。コイツは耐えられなくなったんだろう。記憶を失い続けるインデックスの側に居つづける事が。

どんなに思い出を作っても、またゼロになってしまうと言う恐怖に耐え切れなくなった。

『記憶を失わなくてもすむ方法』をずっと探し続けて、それでも叶わなかった。叶える事が出来なかった。

だからこそ、敵に回った。インデックスの思い出を真っ黒に塗りつぶす事で、インデックスの地獄(さいご)を少しでも軽いものにするために







―――――――――だけど






そもそも、こいつらがもう少し強ければ全てが丸く収まった話なのだ。

失う痛みに耐え続けるだけの強さがあれば良かっただけの話なのだ。

インデックスに幸せな記憶を与え続け、自分たちが地獄を見続ける覚悟があれば良かっただけの話なのだ。









インデックスに『誰にも頼れずたった一人で逃げ続ける(圧倒的な孤独)』という別の地獄を見せると言う事が一番正しい選択だったなんて認めない、認めてたまるかこのクソヤロウ!






上条「おい、魔術師(よわむし)」

神裂「―――っツ!」


地獄の底から響くような上条の声に、神裂はまるで幼子のようにビクリと体を震わせる。







これが終わったら、全てを話そう。
インデックスが記憶を失う必要なんて無いって事も、最高の結末がすぐ目の前に転がっているって事も。







でもその前に、インデックスに合わせるその前に








上条「もうテメェは俺の敵じゃねぇ」















コイツの捻じ曲がった性根を叩きなおす必要がある




































上条「ただの「的(しゅぎょうだい)」だ」






















そして、圧倒的な蹂躙が始まった





ここまで。戦闘シーンどうしよう………

続きです。神裂戦決着。そしてついに師匠(?)の一人が明らかに!







最初の異変は、上条の姿がまるでテレビが故障した時に映る砂嵐のように乱れ、ずれた事だった。





次の異変は、上条の姿が目に映るよりも早く自分の目の前に現れ、お腹の下辺りにポン、と左の掌を置いた事だった。





最後の異変は圧倒的な力で自分の体が吹き飛ばされた事だった。











神裂「ごっ………がッ!」



上条が放った一撃を、その勢いを、何故か『全くいなす事ができず』体をつ、の字に折り曲げさせられ、ノーバウンドのまま十メートルも吹き飛ばされた神裂は、ダイナマイトの爆発音に負けず劣らずの轟音を立てて風力発電の塔に激突した。


意識が揺らぐ、体に全く力が入らない。
それでも何とか力を振り絞ろうと、神裂は己の体に鞭を打って体勢を立て直そうとして


神裂(な………!?)

そして驚愕した。
あれだけの威力で、あれだけの轟音で激突した風力発電の塔には『ひび一つ入っていなかった』


神裂(どう、なって………あれだけの威力、あれだけの速さ、あれだけの一撃を受けて何の損壊も無い訳が………)

肺に溜まった空気を一気に吐き出された神裂の頭に疑問が浮かぶが、冷静に考える暇は無かった。
上条はすでに神裂の目の前に現れ、次の一撃を放とうと左足を神裂の右足へと迫らせる


神裂「ッ!?」

とっさに横へ転がる神裂。それが失敗だったと気づいたのは、脇腹に次の一撃を食らった後だった。
ズドム!!という筋肉を強制的に圧し斬るような感触が体を貫いて、神裂はその体を再び十メートルほど吹き飛ばされる。


今度は街路樹に身を激突させるが、塔と同じく、樹皮の一つも剥けてはいなかった。




神裂「うっ、が………」


急所に上条の蹴りを直撃させてしまった神裂は、もはや立つことすら出来なかった。―――だが。


神裂(お、かし、い………体の力が、全く入らない………)


それにしてもおかしかった。

神裂は『聖人』だ。十字教における『神の子』と似た体質を持って生まれたため、その力の一端を振るう事ができる世界で二十人といない、魔術世界における『核兵器』だ。

上条の一撃は、その力は、その速さは、もしかしなくても今の自分を上回るものだが、それにしても『もらうダメージがあまりにも多すぎる』そして『自分の体に限界が来るのがあまりにも早すぎる』




いや、それ以外にも疑問は尽きない。



『何故聖人としての体質(テレズマの力)』を全く無視できるのか』

『何故この少年は人間としての限界を超えて力が使えるのか』

『何故回りの無機物が傷一つ付いていないのか』



さまざまな疑問が神裂を襲うが、体の隅々まで走る激痛が思考の邪魔をする。
上条はゆっくりと神裂の元に歩み寄り、まるで解説をするように口を開く。




上条「言っとくけど『魔術』なんかじゃねーぞ。『科学(超能力)』でもねぇ。つーか、俺にはそういう『異能の力』は使えねーんだ。信じてもらえるかは分かんねーけどな」

神裂「ッ!!」



神裂は応じず、行方不明になった一本の鋼糸をストックから足し、放つ。






















七閃

























上条「………悪いな」





上条は動じない。彼は空中に手をやると、自らの手で放たれた鋼糸を全て掴み取り、そして強引に『左手で』引きちぎった。





上条「こういう『奇襲』には気を付けろ。って師匠が口をすっぱくして何度も言ってんだよ!!」


驚愕する神裂を尻目に、上条は『左手』に力を込め、手を離す。
上条の側に落ちたそれはもはやワイヤーではなかった。あまりの腕力で圧縮され、銃弾のような一つの塊となってしまっていた。

あの時、行方不明になったワイヤーも、神裂が認識できない速度で今のように強引に引きちぎったのだろう。
あるいは目をつぶっていた為、単純にその瞬間を見逃しただけか。



神裂「そ、の………力………いっ、たい………」


何の意味も無いのに、相手が答えるわけが無いのに、最早考える余裕すらないほどの朦朧とした頭で神裂は問う。問わずにはいられなかった。
この少年の言葉を信じる義理は無いが、もし「異能の力じゃない」のならこの力の正体は一体なんなのか。




そして、朦朧とした頭に電撃を流し込まれたような、衝撃的な回答が帰ってきた。


























上条「単なる『武術』だよ」



目を見開き、口をポカンと開け、上条を見る。
体を無理やりにでも動かして戦闘態勢を築かなければいけない筈なのに、今度は体どころか頭までもそれを止めてしまった。












この少年は今なんと言った?







上条「ただの武術だよぶーじゅーつー。空手、柔術、拳法………その他にも色々あんだけどな。世界中にあるありとあらゆる武術さ。さっきお前が横っ飛びに避けた時のは『虚実』………まぁ簡単に言えばフェイントか。お前がそっちに避けるように誘導して想定していた一撃を入れたんだ。まぁ『かなり特殊な鍛え方』をしてるからその恩恵もあんだけどな」



言っている言葉すら理解出来ない。『ありえない』の一言が神裂の脳内を支配していた。


普通の人間が武術を習えば、習っていない人間と戦った場合、勝つ確率が大きく上がる事は分かる。単純に『経験』『知識』『力』が違う。

だが神裂は『聖人』なのだ。
ただ単に武術を習ったから、程度で勝てる相手ではないし、その道を極めた『達人』であったとしても互角にやりあうのがやっとの筈だ。

そもそも『人間の限界』を超える方法が無ければ聖人に打ち勝つ事は難しい。

なのにこの少年は、圧倒的な差で神裂を蹂躙する。まるで『何の力も持たない普通の女の子を追い詰める』かのように。





ザッ、と言う地面を擦る靴の音が響く。上条がまた一歩、神裂の側に寄った音だった。





神裂「ッ!!」



神裂が最後の力を振り絞り、全力で抜き放った真説の『唯閃』を内した刀の鞘は、上条の鳩尾に向かって正確に放たれる―――が




上条「遅い」




神裂が振るうよりも一瞬早く、上条の蹴りが七天七刀を真横に蹴り飛ばす。
あまりの威力に余波を受けただけのはずの神裂の手にかなづちで思いっきり殴られたような痛みが走る。




神裂「がッ………!!」

上条「俺を『殺してでも』止めたいんならせめて刀を抜くべきだったな。刀が鞘から抜けないように調整するのに一瞬動作が遅れた。まぁお前が刀を抜いたところで負ける気はしないけどな」


神裂はもう一度立ち上がろうとするが、どうしても力が入らない。
まるで体の間接一つ一つに杭を打ち込まれたかのように、体が全く言う事を利いてくれない。


神裂「ッ!?」


次の一撃が来る………!そう考え、身構えようとしたが











神裂「………?」


こない。来るはずの一撃が、いつまで待っても来ない。





上条「………」




何とか力を振り絞ろうとする神裂に対し、上条は相変わらず神裂の前に立っているだけだった。


だが上条の体から放たれる見えない筈の圧倒的な威圧感が、全てを物語っていた。




神裂「………あ」

上条「………逃げてみろよ」



上条は、言った。





上条「今からお前達がインデックスにやってきた事をそのままお前達にやってやる。一年中追い回して、見つけるたびにボコボコにして『圧倒的な敵に追い回されて、巻き込めないから誰にも頼れない』って言うあいつが見続けてきた地獄を見せてやる」





神裂は、震えた。
親に悪戯を見つかった子供のように、先生に叱られる小学生のように

だがその身を震わせる恐怖は、上条に蹂躙される、と言う認識からではない。




自分達がインデックスに見せてきた『偽りの幸福(地獄)』を知ったからだ。




神裂「―――ッ!?」

上条「逃げろよ『聖人』」

神裂は、動かない体を無理やり動かして後ずさろうとしたが、やはり体は動かない。

『戦う』と言う意思は、もはや無かった。
魔術師という仕事をこなし続け、数々の修羅場をくぐってきて、強いはずだと認識していた神裂の力は、そして精神は、粉々に砕けそうになっていた。












上条「それがアイツにとって最高の幸福(ハッピーエンド)だってんなら、今すぐここで証明してみろ!!」














その言葉を引き金に、神裂はガクリと下を俯き、ひとつ、またひとつと、大粒の涙をポロポロと流し始める。




分かっていた筈だった。気づいていた筈だった。こんなものは偽りの幸福に過ぎないと。


喪失する苦しみを幾ら減らした所で、幸福な出会いを与えない限り意味はないと。

記憶を無くさなくてすむ方法を見つけない限り、インデックスは苦しみ続けるだけだと。


だが喪失が与える痛みは、あまりにも耐えがたいもので、あまりにもこらえ難いもので、いつの間にかインデックスから逃げていた。彼女が纏う不幸に巻き込まれまいとするように、逃げた。実際に追っていたのは自分達だと言うのに。


















そして、彼女は孤独になった。一番側にいなければいけなかった筈の親友(自分達)からも逃げられて。






















神裂「う、ああ………ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」








神裂は吼えた。
それは後悔による懺悔か、それともインデックスと同じように、こらえ続けて来た何かが溢れ出たのか。


………どれほどの時間がたっただろう。一時間にも思えるし、一分も経ってない様にも思える。


やがて、声が嗄れるまで叫び、涙腺が嗄れるまで泣き腫らした神裂は、完全に全身の力を抜いた。
気力など、とっくの昔に無くなっていた。






上条「………」



上条は、そんな神裂に上から手を伸ばす。
敵の攻撃は避けなければならないのに、ある程度体力は回復しているのに、神裂はまるで亡者のような目で上条を見つめるだけだった。





そして、その手が神裂の頭上に置かれ




















上条「やっと叫んだかこの大馬鹿野郎」












頭を撫でられたと認識するのに、数秒かかった。






神裂「………え」



頭を上げようとするが、上条の強い力に押さえ付けられ、うまく上げる事が出来ない。



上条「ったく。そんだけ後悔してるなら、そんだけ溜め込むモン溜め込んでんなら、とっとと吐き出せってんだ。そんな状態でアイツの事を想ったって、最高の結末(ハッピーエンド)を望んだって、旨く行く筈ねぇだろ?」



上条は、言った。


それは、導師やアイツの言葉を借りた、ただの受け売りに過ぎない。
その場に、その時に適した言葉を選んで、なんて事もしないし出来ない。

上条が言いたい言葉を、感情を旨く表現できない時『あ、そういえばこんな事言ってたっけ』程度に参考にしているだけの、説法とはとても言いがたい言葉の紡ぎ。

だが、今この場で神裂の耳は、心は。上条の言葉を、まるで砂漠で何日も遭難した遭難者に突然降り注いだ神の恵み(スコール)の様に、何日も取っていなかった水をゴクゴクと飲むように、素直に取り込んでいった。






上条「辛かったんだろ?怖かったんだろ?だったらその矛先をインデックスに向けちゃダメだ。アイツはもっと辛いし、もっと怖い筈だからな―――だから」



神裂は、見た。


上条は、自覚できたら、自分でもビックリする位に優しく微笑んでいた。








上条「救ってやろうぜ、今度は俺達の番(ターン)だ。今からお前に見せてやる。インデックスは記憶を失わなくても良いんだって事を。あいつの幸福は、親友に敵として追われ続ける、なんてくだらないモンじゃないって事を。誰もが笑って、誰もが望む最っ高な幸福な結末(ハッピーエンド)なんだって事を!!」







神裂には、理解できなかった。

上条の言葉が、ではない。

この少年だったら捻じ曲がった運命さえ変えてゆける、そんな根拠も確証もない期待に胸が溢れそうになっていた事が。




上条「だから、今は寝てろ。体を休めろ。俺が言うのもなんだけど、インデックスが最初に目にする親友の姿がそんなボロボロじゃあアイツも辛いだろうからな」


そう言うと、今度こそ神裂の後ろ首に手刀を浴びせ、その意識を奪う。
倒れ付した神裂の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていて、とても綺麗、とは呼べた物ではなかったが






神裂「………」




笑っていた。


明日への期待に、まだ見ぬ最高の結末への期待に、まるでセイント=ニコラを待ち続け、結局寝てしまった子供のように




笑いながら、気絶していた。








上条「………で?いつまで見てる気だよ布都」


『何もないはずの空間』に向かって声を掛けると、まるで最初からそこにいたかのように物部布都が姿を現す。
その左手には炎の魔術師、ステイル=マグヌスの襟首が握られていて、布都が歩くと平行してその身をコンクリートの地面にズルズルと引きずらせる。


どう見ても気絶していた。





物部「う、うぅむ………やはり気づかれたか………」

上条「あたりまえだボケ。『無機物が一切傷つかない』時点でおかしいだろうが」



そう、神裂とあれだけの戦闘をおこなって、途中から周りに一切被害が出ていなかった。


物理的に考えてありえない。ではどういう事か。答えはありえないほど単純で『第三者の魔術的割り込み』に決まっている。
今この場を支配しているのはステイルの人払いではない。物部の『人払いを含めた空間支配系術式―無機物保護タイプ』だ。

なんでも『重要な建造物や書物を守りつつ戦闘を行わなければならなかった』為に開発した風水術で、物部布都のオリジナルらしい。
師匠いわく『『そちら』の魔術師ではそう簡単に再現できないとても高度なもの』だそうだ。

『風水士』という職業(?)も理由なのか、物部は空間支配系の術式が得意だった。



上条は物部に引きずられても気絶したままの不良神父(馬鹿)を指差して言う。




上条「大方、そいつのルーンカードの術式の解析や応用に夢中になって『う~ん、とりあえず補助術式かければあとは大丈夫だよな~』ってとこか?」




ったく、だったらもっとサポートをだな………と上条が続けようとして、気絶した神裂に何枚かお札を貼っていた布都が割り込んだ。




物部「違う!もう解析も応用術式の開発もとっくの昔に終わっておるわ!!我は当麻がどうやって人を導くのかじっくり観察を………あ」

上条「おい、ふざけんなテメェ!手が空いてんならもっと力貸せ(サポートしろ)ゴルァ!!つーかおまえ『速攻でケリが付いた』癖にしばらく『遊んでた』だろ!!」




物部の肩がビクリと振るえ『ななななななななな何の事じゃ!?』と呂律をまわす事すらできない状態におちいるが、上条はお構いなしに続ける。




上条「最初に舞い上がって爆発したような炎の渦。あれはコイツがやったんじゃなくて『お前がコイツの魔術を暴走させて自爆させた』んだろ?確かお前炎系の術式も使えたよな?それの応用で割り込んで、インデックスを追い込もうと死角からコイツが術式を発動させた途端ドガァアン!ってな具合か。多分初撃でケリが付いたんじゃないのか?」

物部「」ギックゥ


なにが「ギックゥ」だ、と上条は思う。と、いうかよっぽどの馬鹿ではない限りそういう結論にたどり着くだろう。


(恐らく)自分自身の術式ではそう簡単には燃えないようになっていたであろうステイルの修道服は炭となり、八割以上が消え失せていて、その白い肌のほとんどが露出している。赤髪に染めた金髪は見るも無残な事に、まるでスポーツ刈りのように頭皮の根元ギリギリまでススになっていた。


おまけに(何故か)下着である白いブリーフは一切損傷しておらず、今のステイルの状態を一言で表すと『スポーツ刈りで白ブリーフ一丁のまま胸の辺りにお札を貼り付けられて聖童女に引きずられる変体』となる。








ギャグマンガなら『チーン』という効果音でも付いてきそうな勢いだった。









上条「はぁ………で?ちゃんと『遊びの成果』は出たんだろうな?」

物部「う、うむ!ばっちり『ぱーふぇくと』じゃ!我にかかればお茶の子さいさいじゃよ!」


ステイルの姿をあらためて見て色々と気がそがれた上条は、ため息交じりに物部に尋ねる。

(当麻だって『力の本質』を『武術』でごまかしておったくせに~)とぼやいていた物部は、ホッとしたように五枚のお札を右手に広げた。その仕草はトランプの手札を見やすいように展開させるのに似ていた。




物部「『力』も『制御』も『時空』も『結界』も『調律』もばっちりじゃ!いつでも出来るぞ!!相手が『魔神』という事もあって作るのにホンの少しばかり手こずったが………こやつらの情報を得て調整したのでな。間違いないはずじゃ」


物部は自信満々の笑みで胸を張って告げる。
自分の腕に正々堂々自信を持って答える事ができる物部のあり方が、実力が、どちらかといえば謙虚で自分の腕に自信が無い上条には羨ましかった。



まぁ彼女も『一応(強調しておく)』上条の師匠なので当然といえば当然である。これでもホンの少しも本来の実力を発揮してはいないのだ。いや、正確には『出来ない』のだが。





上条「結構な事で。んじゃ、行くか」

物部「うむ!」




今頃一人で銭湯に入っているはずのお姫様(インデックス)は預けておいたお金で銭湯にある飲料や軽食などを食い尽くしている頃だろう。結果的に大遅刻した形になるわけだが、さて、どんな言い訳をしたら頭を齧られずにすむだろうか。




神裂をおぶり、風呂桶を片手で持った上条はそんな事を考えながら目的地へと向かって行く。





























上条「あ。でもやっぱお前一人だと不安だから師匠達にも相談するわ」

物部「ひどいのじゃぁ;;」













ポケットに仕舞ってあった携帯電話を器用に片手で取り出し、短縮番号から「1」をプッシュする。










上条「………あ!師匠ですか?俺ですけど………あ、はい………え!?知ってたんですか!!?」

上条「あ、はい………ゲ!!?ちょ、ちがうでしょ!?完全に正当な力で………」

上条「ふ、不幸だ………あ、はいそうです代わってください………」










































上条「あ!『教授』ですか?上条ですけど。ちょっとお聞きしたい事が………」










ここまで。

ついでですが、特定の人物が出て来たからと言って『その人(?)が所属している勢力が全員上条の師匠とは限りません』

『この人なら上条さんの師匠にしたら面白そう』な人にやってもらっている為、原作では全く面識がない人達が集まってたりもします。ご了承ください。

続き。今回は布都ちゃんの出番






上条「………で?なんだって『ここ』なんだ?」

物部「仕方あるまい、一刻も早く目次ノの苦痛を取り除く為に最適な術式の形成場所が『ここ』だった………これでも学園都市全体を探索(サーチ)したんじゃが」



上条当麻は明らかに面倒臭げな、ゲッソリとした不満げな声を出す。

物部も居心地の悪さに近い罪悪感を感じている為か、顔を困ったように歪ませながらも床に方膝と両手を着き、セッせと『下準備』を入念に重ねていた。
ボロボロの畳に空となったビールの缶がいくつも転がり、灰皿にはタバコの吸殻が山盛りにされていたその空間は、いまや完全に物部布都の術の支配下にあった。










だが………











上条「なんだって『小萌先生の部屋』なんだか………」

物部「じゃから我に聞くでない!!」



神裂達が上条を襲撃し、返り討ちにあってからまだ数時間しか経っていないが、物部曰く、今すぐにでもインデックスの呪術を解く必要があると言う。

早々早急すぎると思った上条だが




物部「目次ノが記憶を失う呪術の余波を受けるまで待つ………と言うのも良いし、むしろそれが一番安定するが、それだと『この呪術を仕掛けた術者の脚本(シナリオ)通りに事が進む危険性があるのじゃよ』」

上条「えっと………」

物部の思考の根本まで読む事ができない上条が困惑の声を上げると、物部はご丁寧にも作業を止めて座ったまま上条のほうを振り返り、まるで先生のように解説をする。




物部「魔術師たちが何も知らなかったとすると、こやつら『魔術』側の頂点………『必要悪の教会の長』がこの残酷な首輪(システム)を目次ノに掛けたと考えるべきじゃろう。………そして、目次ノに十万三千冊の魔道書を記憶させた後か前かは分からぬが、とにかく呪術(首輪)を施し、手綱を握った………分からぬか?『そもそもなんでそんな面倒臭い回り道をする必要がある?』自分の手元においておくのが一番安全なはずなのに」





そう言われて、上条はようやく気づいた。




もし本当にインデックスの脳内に十万三千冊の魔道書が記憶されていのならば、世界を歪めてしまうほどの力を持った魔道書があるならば、その力を用いて自衛に徹した方が良い筈だ。『首輪』なんて面倒臭いものをつけなくても、否、例え付けたとしても手元においておくのが一番安心できるはずだ。『敵』に持ち去られて利用されると言うリスクは、それだけでグーン、と減る。




なのに教会はインデックスをわざわざ異国の地へと逃がしている。一年周期で回収できるとは言え、そもそも異国の地に行かせるだけのリスクを背負う必要がない。








そう考えると、色々と疑問がでてくる。




教会がインデックスの手綱を握った程度で安心しているのは何故だ?

教会がインデックスを自分たちの手元に置いておかないのは何故だ?

教会がインデックスを本気で捕まえようとしないのはいずれ手元に帰ってくるからだとして、わざわざリスクを背負ってまで異国の地にインデックスを追い詰める理由は何だ?

わざわざ『魔術(自分達)』と相反する『科学』側の頂点である学園都市に………








上条「学、園都市………?」









その単語が上条の中で疑問符を浮かべた途端、脳内に電流が走ったような気がした。






物部「気づいたか?科学の最先端を行く学園都市などに目次ノを放てば『一年周期で記憶を消さなければいけない』などという嘘がばれてしまう可能性がある。これは決定的じゃな。いや、そもそも学園都市の外でも普通に知られているものじゃったか」



つまり、だ。

一年周期で記憶を消さなければいけないなどと言う嘘がいずればれる事を『分かっていて』教会はインデックスを野に放ち続けていた。と言う事になる。




『例え嘘がばれたとしても構わない理由』とは何だ?





物部「………いくつか仮説は立てられるが、どれもこれも推測にすぎぬ。確実に言えるのは『いずれ首輪が壊されると言う事を教会は分かっとる』と言う事じゃ」


そして、ここからが肝になる。と、物部は一泊おいた後、布団に寝かせてあるボロボロの(原因は自分達だが)魔術師二人を見て(炎の魔術師を見て噴出しそうになるのをこらえながら)言った



物部「もし仮に、目次ノが記憶を失わなくとも良い。と言う事実を目次ノの親友であったそこの二人が知ったらどう動くと思う?」



質問の意味が分からなかった。

そんなの助けるに決まっている。神裂はインデックスを救う為に己を見失うほどの苦痛を抱え続け、ステイルにおいてはインデックスを守る為なら例えどこの誰だろうと躊躇いも無く焼き尽くす位の覚悟を持っていた。

上条は双方と戦ったからこそ、その思いの丈を知っている。『直に肌で感じた』

例え教会に反旗を翻したとしてもこの二人はインデックスにとって最高の結末を用意する為に奮闘するだろう。






物部「そうじゃの。じゃからこそ『最も相応しいタイミング』で助けようとするじゃろう………具体的には『記憶を消すように言われていた三日後の午前零時』にの」

上条「いや、だったら俺達もそのタイミングで助けるべきじゃねーの?」

上条は軽口を叩くような口調で言った。
物部の実力を誰よりも分かっているからこそ、自分の否定的な意見をぶつける事で解説を要求し、話を先に進める為に。


物部「先程も言ったじゃろう?『首輪を掛けたのは教会の長』で『いずれ壊される事を前提に入れておる』そして」

上条「そして?」


物部は懐から二枚の札を取り出す。
一枚はまるで血の様な色で呪文が何十にも書かれた札。もう一枚は中央に刀の絵が描かれていて、その周囲がまばゆく光っている札。













物部「そして、目次ノの呪術を解く確率が一番高いのは『教会が意図して監視に付けたこの二人』だと言う事。そしてこの二人は目次ノを助ける為に『必ず指定日の午前零時に呪術の解除を行うだろうと言う事』そしてこれら全てが『教会の脚本(シナリオ)通り』だとしたらどうなる?」


上条「―――ッ!?」


物部「考えてみれば不可思議な事だらけじゃ。そもそもの話をすれば『なぜ目次ノに十万三千冊もの魔道書を記憶させたのか』と言うのも気になるの。完全記憶能力があるから、と言う単純な話だけではないような気がするんじゃよ。もっと何か教会………いや『魔術サイド全体を震撼させるような事実』が隠されとる様な気がする」






一瞬、本当に息が止まりかけた。インデックスを取り巻く環境に絶句して、では無い。普段はそこらの小学生のようなリアクションしかせず、思考も子供並みの物部の『一瞬でそこまで看破した圧倒的な実力に舌を巻いて』だ。








一体この聖童女は何者なのか?というもう何回考えたかも分からない疑問が上条の頭に浮かび上がってくるが、結局いつもの様に消化不良で消えてしまうだろう事が伺える。









今までが、ずっとそうだったように












物部「結論を言おう。本当の意味で最高の結末を導くならば目次ノの呪縛を解くだけではなく『目次ノを縛り付けている教会を出し抜く』必要がある。いくら救ったところでそれが奴らの思惑通りでは何の意味も無い、それどころか今以上に厄介な事になる可能性すらあるからの。目次ノにここまでの積と枷を強いた『ねせさりうす』という者共の長がまともな人間であるとはとても思えん」





物部は人差し指と中指で挟んでいた二枚の札を放って、血の色の札を天井に。刀が描かれた札をたたみの上に貼り付ける。
瞬間、部屋の中が異様な空気に包まれた。立っている場所も、周りの風景も、何一つ変わっていないのにここでは無い何処かズレた場所にいる様な『曖昧な感覚』が部屋を、上条を、世界を支配してゆく。





物部「ゆえに『奴らが計算に入れていない日付に』目次ノを救出する。我の予想が正しければ、我が術で解呪して、もしくはお主の右手で壊してそれで終い。なんて簡単な事にはならぬはずじゃ。きっと何か奴らなりの策がある………『一応』そう簡単には首輪を壊されぬ様な仕掛けがの。そしてそれを破られた上で『教会が余裕でいられる理由』がある。それを探し出す………それさえつかめば教会が何を考えておるか、その全貌が少し位は見えてくる」





そこまで言うと物部は懐から新たな札を取り出す。描かれているのはカッ!と開かれた一目と、一耳。
物部はそれを部屋の中心で寝ているとある人物へと投げる。まるで紙飛行機を飛ばすように滑空した札はその人物の真上でピタリと止まると、ムクリ、と起き上がるようにその身をタテに起こした。それと同時に、部屋が青白い光で包まれる。





物部「さて、ではそろそろ始めよう」



いつの間にか物部はその身を起こし、その右手に数枚の札を挟んでいた。
上条には分かる。その札一枚一枚に込められた、途方も無い力のうねりが。










何度も何度も上条を助けてくれた、物部布都の力の鼓動が











物部「行くぞ当麻!我ら全員で目次ノを地獄の底から引きずり上げて見せようぞ!!」











それを合図に、まだ見ぬ敵との、インデックスをめぐる戦いが、幕を上げた。







ここまで。このSSを書くに当たって(どうやって布都ちゃんをかっこ良く演出しよう………)と一番悩んだ。

大幅に遅れてしまいすみません………;;

今回も(つーか多分次回も)布都ちゃんの回





物部「まずは首輪の誘発から始めるかの―神霊『耳ノ壁、目ノ障子』」


物部は札を挟んだまま、右手を寝ているインデックスの方へ向けると、そのまま目には見えない「何か」を送る。
目に見えない何かは、寝ているインデックスの真上―空中に起き上がるように浮かんでいる目と耳が書かれた札にスッ、と入り、速やかにその効果を発揮する。


パァアアアン!!


という風船が破裂したような音を響かせて札がその身を無に帰したかと思えば、次の瞬間にはインデックスが札の放っていた青白い光に包まれてその身を今まで札があった場所へと浮かした。

物部が今行っているのは首輪の探索、ならびに術式の解明。それも、インデックスには一切の負担を掛けずに済ませ、さらに、どんな手を使おうが逆算する事は不可能、というとんでもない物だった。

おまけに「可能ならばこのまま情報を抜き取れるだけ抜き取った後、一気に破壊してしまうか。手順を踏んだら踏んだで面倒臭い事になりそうじゃからな」などと余裕な表情で物部は言っている。


これほどまでに高度な魔術となると、普通の魔術師は勿論、専門の魔術師でも出来るかどうか分からない。



上条「………行けるか?ふt………布都?」

物部「………」


物部は、一瞬だけ目をスッ、と細めると溜息を付き、やれやれ………、と言った風にその身を起こし、そして、上条が知る彼女にしては珍しい一言を言った。





物部「やはり、そう簡単には行かんか」






物部がそういった瞬間、バオォォオオオオオン!!という轟音と共に物凄い衝撃が上条と物部に向かって襲い掛かかる。


だがそれも、師匠達の手で鬼のように鍛えられている上条にとってどうと言う事はない。立ち眩む事さえない。空間自体も、物部の術式で支配、補強されている為か、軋む音さえしなかった。
そして、物部の術で浮いていた筈のインデックスの体が、まるで骨も間接も無い、袋の中にゼリーが詰まっているかのような不気味な動きでゆっくりと起き上がる。

インデックスはその両目が静かに開く。その目は赤く光っていた。それは眼球の色ではない。

人間らしい光は無く、少女らしい温もりが存在しないそれは



『眼球の中に浮かぶ、血のように真っ赤な魔方陣の輝きだ』



「―――警告、第三章第二節。Index-Lidrorum-ProhiBitorum―――禁書目録の『首輪』第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備………失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、十万三千冊の『書庫』の保護の為、侵入者の撃退を優先します」

上条「………予想通りって奴か?」

物部「うむ………我等の『敵』は相当小細工が好きらしいの………」

物部はまるでハチマキを巻くかのように気合を入れて、頭上の烏帽子を深くかぶり直す。



物部「………目次ノに『歩く教会』以外の魔力が全くと言って良いほど感じられなかった理由がおそらくこれじゃ!『完全記憶能力』の秘密について知り『首輪』を外そうとした者。もしくは『十万三千冊の魔道書』を無理やり手に入れようと企てた者を、文字通り『禁書目録』として口封じするための『自動迎撃術式』!それに全ての魔力を奪われておったのじゃ!!」


そしてそれは同時にそれ以外の用途で不用意に魔術を使えなくするための『第二の首輪』として機能すると言う事を示している。


ペンデックス「―――『書庫』内の十万三千冊により、防壁に傷を付けた魔術の術式を逆算………しっp………」

機械的な動きを突如として止めたインデックスに、?、と言う疑問符が上条の頭に浮かぶと同時









































ペンデックス「失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗」



上条「は!?」










インデックス(?)はただ一つの単語『失敗(error)』を物凄い高速で連呼し続けている。



どう見ても様子がおかしい。まるで失敗したからくり人形のようにカクカクとしたぎこちない動きで、なのに高速で、インデックスは必死に言葉を紡ごうとしていた。




上条「ちょ、!?おい、これって………!!」

物部「対象の動きを色んな意味で完全に止める『無限洗脳術式―――月読命(ツクヨミ)』じゃ。………安心せい。これでもかと言うほど入念に準備を重ねたからの、目次ノに影響は無いはずじゃ………即発動させられる様な物ではないと言うのがこの術のネックかの?対象も一人が限界じゃからな」



月読命(ツクヨミ)――日本神話の国生み神話に登場する二神から生まれたその月の神は、ありとあらゆる物を『読む』力があったという………
それをヒントに生み出し、改良に改良を重ねた物部の『月読命』は、相手のありとあらゆる行動、思考、心理、魂の動きでさえも先読みし、相手よりも先にその行動に反発する魔力を割り込ませる事でエラーを誘発させると言うものだ。


簡単に言えばイス取りゲームで相手が座ろうとしている席に相手より先に座ってしまうのに近いだろう。


それを連続で、何十回何百回何千回、ありとあらゆる事にそれを行う事で、相手の動きは勿論、思考、魂でさえも縛る事ができる、物部布都の奥義の一つ。これを応用すれば、相手に自分の思い通りの行動を取らせる事も可能となる。



だが最も恐ろしいのは、十万三千冊の魔道書を有する禁書目録の力をもってしても対応は勿論、逆算、解析すら出来ないという事だろう。





上条はあらためて自分に憑いている少女も『あちらの世界の住人(本人は全く自覚が無いようだが)』なのだと言う事を思い知らされる………





まぁ師匠達いわく『お前も十分過ぎるほど『こっち』に浸かってる』らしいが、やはりいつまで経っても慣れる気はしない。と、いうかなるべくなら慣れたくない。








物部「ふっふーん♪どうじゃ?どうじゃ?すごかろう凄かろう!!………ほめても良いんじゃぞ(チラッ)」

上条「ドヤ顔ヤメロ!つーかとっととどうにかしろ!この先考えて無かった。とか言ったらぶっ飛ばすぞテメェ!!」

物部「む、失敬な………ならば見るが良い!出来る子な我のさらなる秘策を!」


言うが早いか、物部は両の手に挟んでいた白紙の札に力を込めると自分の目の前に集め、まるで没になったページをゴミ箱に捨てようとする漫画家のようにグシャグシャに握り潰す。
両の手を放しても宙に浮かんだままのそれは、なんだか不恰好な脳に見えた。



物部「当麻!我はこれから直接あの『首輪』の中に入って情報を抜き取れるだけ抜き取った後『内側から首輪を破壊する』!不完全な月読命だけでは少々不安じゃからの。それまでの時間稼ぎを頼むぞ!!」


どうやら物部はインデックスに仕掛けられた首輪の中に入って直接的な強診(ハッキング)と破壊を行うつもりらしい。

それは、学園都市の電気系能力者の行う電子信号による物や、精神系能力者のやるような精神操作ともまた違い『その機能に間接的に摂り憑いて、強引に主導権を奪い取る』という物だった。



上条「でもそれって………!」

だがそれは当然、精神、魂、体、さまざまなものを危険に晒すと言う事になる。
最悪、物部布都と言う存在が『首輪』の中にあるであろう迎撃システムで消去されてしまうかもしれない。






だが





物部「平気じゃよ」




物部は、いつも通りの笑顔で言った。












物部「大丈夫じゃ」













そして、物部布都の姿が、上条当麻の前から、消えた。





ここまで。今更ですがここの布都ちゃんを含める東方キャラは、原作に無い力や技、術を使います。ご了承ください。

続きです。






物部「………………………」




真っ黒い稲妻で覆いつくされた暗黒の世界の中心。


人では表現のしようが見つからない『暗黒物質(ダークマター)』の様な不気味な原始と分子(そう表現して良いのかどうかすら定かではない)で支配されつくされているその空間は、まるで一つの宇宙のようだった。


四方八方見渡しても『それ』しかない。上下左右の感覚も無い。


普通ならば聞いただけで発狂しかねない様な音とも歌ともとれる『何か』がギシギシと脳を破壊する様に辺り一面に響き渡っている。


ここは、禁書目録の少女に科せられた『首輪の世界』。物部の術で首輪の中の構成(システム)に合わせて自分を具現化、調整し、あいまいな状態で均衡させる事でよりリアルに認識できるようになった空間。

常人の頭では理解できない、理解してはいけないものだらけのその世界にたった一人で現れた物部は、その歪んだ世界を認識して、なおも平然としていた。




行く先などどこにも無いとも思えるその空間で、それでも物部は確信を持つかのように一歩前へと踏み出して













瞬間、物部の右腕が闇に食むまれた。












物部「ツッ!?」


物部の右腕を肩の部分まで食いちぎって前方へと飛んだ獣のような匂いを漂わせる『それ』は、文字通り不恰好な姿をした貪欲な獣にも、童話や神話でしか見ないような凶暴な竜にも思える姿をしている。
そのグジュグジュと蠢く中途半端に液体化した腐りかけの肉みたいな体を作り上げている物質が、この世界を構成しているものだと同質だと気づくのに一瞬。




餌を求める猛獣の如く、再び獣が物部に襲い掛かるのにも一瞬。




物部「ッ!?」


物部は残った左腕で一枚の呪符を眼前に投げつける。獣のひたい部分に当たったその呪符は、すぐさまその効力を発揮し、獣を破裂させた。ドッ、プァアアアン!という大きな水風船を割った時のような音が響く。


そして、その破裂音が終わるよりも早く、今度は何十何百何千という数え切れない位の白い閃光が、物部目掛けて襲いかかって来た。





物部「!?」


その閃光が物部の肢体を貫く前に、左手でありったけの呪符を掴むと、自分の頭上へと放り投げた。

桜吹雪のように物部のあたりを舞う数多の呪符は、襲い来る閃光を鋭角な角度であちらこちらへ飛散させてゆく。さながら、キューで打たれたビリヤードの球が盤の角に勢い良くぶつかって跳ね返るのに似ていた。




そうしている間にも、次々と十万三千冊の魔道書で構成された侵入者撃退システムが、物部を排除せんと襲いくる。




蝿の王をモチーフにした巨大な杖から放たれる、巨大な虚球の闇炎が物部を焼きつくさんと迫り

審判を司る四大天使が持つ剣が、天罰を与えるべくその刀身から放たれる絶海不可避の斬撃を浴びせ

海の神がもつ三叉の槍が、神の子を処刑するかの様に物部に向かって直進する。




勿論、それを黙ってみている物部ではない。




相反する属性と性質を持つ呪符に込められた力をレーザーのように束ね、虚球だけでなくその直線状にある杖まで貫き

絶対不可避の斬撃を呪符の力として吸い取り、挙句の果てには裁きの剣にすら呪符を放ち、本来無尽蔵なはずのエネルギーすら枯渇させ

迫りくる三叉の槍には逆に力を送り込んで制御を乗っ取り、己が術として利用する。

それだけでなく、一瞬でも隙を見つければ空間に力の楔を打ち込み、首輪の制御を乗っ取らんとする。



観客も、明確な敵も味方も、いつも側にいる相方の姿も無い舞台(ステージ)で、少女はただ一人戦い続けていた。

少年と共に、たった一人の少女を地獄の底から救う。ただそれだけの為に、右腕を失った少女は、死力を振り絞って己が術を振るい続ける。





少し、また少しと、首輪の制御化が徐々に物部の支配下に置かれ――――――そして―――




















――――――物部布都の力が、内側から破裂した。










物部「ッ!?」


考えてみれば当然の事だった。物部はこの空間に赴く前にも常識はずれの術を何回も駆使し、首輪の中に乗り込んでからは右腕を失った状態で魔神級の術式に対応し続け、挙句の果てにはこの首輪の制御を乗っ取ろうと首輪の内にある力を取り込み、自らの力を符に宿して放出し続けていたのだ。

口内に湧き上がる大量の力の逆流に、ガクリとその膝を付く。



物部「………」


だが、それでも少女の瞳はその力を失っていない。


力を符に宿し、首輪の制御を乗っ取ろうと魔神級の術式に対応しながら空間を己が制御下においてゆく。
が、その勢いはまるで限界がきたマラソン選手がなおも走ろうとする様にみるみる弱っていき、いつしか物部の呪符の力は、首輪の防衛機能のそれを下回っていた。





そして、物部を何十という魔神級の術式が取り囲み





その力の矛先を、容赦なく物部へ向けて解き放った





この世のものとは思えないほどの閃光と、もはや音にもならない轟音が響き渡る。




首輪の中で戦い続けた物部布都は、最終的に何十何百という魔神級の術式に貫かれ、切り裂かれ、打ちのめされ、今やその動きを完全に止めていた。虫の息、という単語を表す状態にこれほど相応しいものはないだろう。




物部「………」


獣の臭いを感じた物部が倒れ伏したまま顔を上げると、目の前に最初に自分の右腕を食いちぎった獣が立っていた。

ただ、その大きさは、最初とは尋常ではないほど桁違いだった。

制限など無いと思える空間において、それでも空間そのものを満たしてしまうのではないかと思わせるほどの巨大な獣。
知る者が見れば北欧神話に伝わる『神喰らいの獣(フェンリル)』を脳内で想像しただろう。


獣は、そのあまりにも大きな顎を開け、餌へと喰らいつかんと下を向く。


飲み込まれるその瞬間。







物部(ニッ)




物部布都は、確かに笑っていた。







上条「………ったく。布都のやつ、勝手に行っちまいやがって………そりゃ上条さんは首輪の中に潜り込むなんて事出来ませんし?こうするのが一番良いって事も分かるけど………分かるけどさ」


未だに訳の分からない単語を高速で連呼し続けるインデックスの側にあぐらをかいて座っている上条当麻は、誰に言う訳でもないにも拘らず、先ほどからブツブツと不満を漏らしていた。目の前には物部の作り出したグシャグシャの紙束がふよふよと宙に漂っている。

儀式場として固定されたオンボロアパートの一室(使用人、月詠小萌)にいるのは自分と、物部の貼った護符が効いているのかあれだけの騒ぎがあっても一向に起きる気配の無い魔術師二人(片方ハゲ)。そして、物部inインデックス(の首輪)。

物部布都がインデックスに科せられた首輪の中に潜ってからまだ十分も経ってはいないのだが、この少年はどうしても少女が自分を置いて行ったのが不満らしい。
勿論、物部の行動が最良に程近い線を行っている事も、自分がここにいなければいけない理由がある事も分かるのだが、なんというか『そういうのとはまた別の所』で憤りを感じられずに入られなかった。






だが、その怒りの矛先は、最終的には物部ではなく






上条「………クソッ」






自分に向けられる事になるのだ。





それから少しして、憤った所でノドが渇くだけだと認識した上条は水でも飲もうと台所(という名の極小スペース)へと赴いて、自分の背丈の半分ぐらいしかない小さな冷蔵庫を開ける。中に入っていたのは大量の発泡酒とおつまみ。申し訳ばかりのパック牛乳と、中途半端に消費されている調味料の数々。



上条「………」


もうなんかツッコむのも面倒臭くなった上条は、奥のほうに一本だけあったミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。すでに小萌先生が口をつけているのか、中身は三分の一ほど無くなっていた

ため息を付きながらペットボトルの蓋を開け、その口を付けて中に入っている水を一口、二口飲んだところで







ドォン!!と、何かが爆発したような音が儀式場に響いた







上条「ゴホッ!ゲボほっ!!」


驚いた上条は思わず口に含んでいた水を畳の上にブチマケてしまう。

何かとてつもなく嫌な予感がして、全力でインデックスへと視線を移す。



インデックス「………」


少女の姿には何の変化も無く、その魔方陣が映し出された虚空なる目も変わってはいない。








ただ、あれだけ魔術的な単語を連続して紡いでいたインデックスの口は、今や一言も言葉を発しなくなっていた。




背筋に氷を突っ込まれた様な感覚が上条を震え上がらせて、その動きを停止させる。





上条(―――ッ! 布都?おい布都!おい!!)



作業の邪魔になってはいけないと、今まで呼ばなかった尸解仙の少女の名を脳内で連呼するが、返事は無い。



あの小憎たらしいまでに明るい声は、ホンの少しも聞こえてこない。



最悪の想像をしてしまいそうになる思考を、姐(あね)さん直伝の拳を己の額に当てる事で撃ち払う。
ドガッ!という音と共に自分の頭が体ごと後方によろめく代わりにわずかばかりの平静さを取り戻した上条に







ペンデックス「ヨハネのペン(自動書記)への攻撃の対処に成功。引き続き、侵入者の破壊を続行します」








白い紅茶のティーカップみたいな修道服を着た少女の機械的、業務的な一言と








ペンデックス「―――侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」







バキン!という音と共に部屋の端から端まで届く巨大な黒い雷のような亀裂が現れ、その中から『何か』がこちら側を覗き込んで








ゴッ!! と。 亀裂の奥から光の柱が襲い掛かってきた。





ここまで。布都ちゃん大ピンチ

続きです





それはもうたとえるなら直径一メートルほどのレーザー兵器に近い。
太陽を溶かしたような純白の光が襲いかかって来た瞬間、上条は思わず右手を自分の顔の前に突き出した。



じゅう、と熱した鉄板に肉を押し付けるような激突音。だが、痛みは無い。熱も無い。まるで消化ホースでぶち撒かれる水の柱を透明な壁で弾いているかのように、光の柱は上条の右手に激突した瞬間、四方八方へと飛び散っていく。

だがそれでも『光の柱』そのものを完全に消し去ることは出来ない。しくった、と上条は思った。

いくつかの例外を除き、異能の力を問答無用で消し去る上条の右手だが、実は『一度に消せる量』に制限がある。そしてこの光の柱は単純な物量だけではなく、光の一粒一粒の質さえもバラバラなのだ。


『以前それで痛い目を見た事があるからこそ』、上条は苦悶の表情を浮かべながら畳につけた両足に力を入れてその場に押し留まる。


おそらくこの光の柱は元を断たない限り幾らでも無尽蔵に上条を襲い続ける。右手で抑えるのではなく、高速で移動し続けてインデックスを翻弄するべきだった。と、上条がそこまで考えたところで、視界の端に物部の術で未だに眠っている二人の魔術師が映る。



上条(ッ!?ダメだ………そんなことしたらあいつらまで巻き込んじまう!!ただでさえ弱ってるのにこんな攻撃が少しでも掠ったりしたらそれだけで命に関わっちまう!!)


別にあの魔術師たちを助ける義理は上条には無いはずだ。
恐怖に負け、自分に負け、少女の側から離れて今日の日まで騙し、襲い続けてきた魔術師を気に掛ける義理など無いはずだ。






上条(………ッけんな―――)





だが『そんなちっぽけな事』はお構いなしに、上条は左手で光の柱を消し続ける右手の手首を巨大な砲台を固定するようにしっかりと支える。




上条(ふざッけんな!!ンなもん最っ高の結末(ハッピーエンド)なんかじゃねぇじゃねぇか!!)



そうだ、あの二人はたった一人の少女を助ける為に死に物狂いで頑張っていた。一人は残酷な段罪人に、一人は何よりも甘い奇術師になる覚悟を決め、手を伸ばしたいのに伸ばせない、側にいたいのにいられない自分の無力さと弱さを呪いながらインデックスを助けてきた。

結果的に、それは歪んだ妥協案でしかないものだったが、それでも間違いなくたった一人の女の子の為に苦しんできた。頑張ってきた。今日まで生きてきた。


ならばこそ、彼らは見なくてはいけない。見る権利があるはずだ。




上条(悪りぃな………)





ずっと望んでいたであろう結末を




上条(『見せ場だけは』全部、俺とアイツで山分けさせてもらうぜ!!)




インデックスの記憶を奪わなくても済む、インデックスの敵に回らなくても済む。そんな誰もが笑って、誰もが望む最っ高に最っ高な結末(ハッピーエンド)を!!








上条「うお、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




上条は腹の底から声を出すように吼えると右手を左手で固定したまま大相撲の力士が踏む四股の様にドガァ!と大きな音を立て一歩大きく前へ出た。インデックスが放つ光の柱の正体『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』を知る魔術師がいれば間違いなく驚いていただろう。


ズドム!


今度は反対側の足でもう一歩あゆみ、上条はインデックスへと迫る。

そのたびに右手に掛かる負担は重くなっていくが、そんなことは関係ない。



上条(あいつ等も、俺も、望んでるんだ。最っ高な結末(ハッピーエンド)を!!)






こんなの『師匠達の修行に比べたらどうという事はない』!!






上条(………だけど情けない事に上条さん一人じゃ無理なんですよ、そんな結末を導くなんて………だから)

ペンデックス「―――『聖ジョージの聖域』は侵入者に対して効果が見られません。他の術式に切り替え、引き続き『首輪』の保護のため侵入者の破壊を継続します」







上条(だから早く帰ってきやがれ!布都!!)


上条はまた一歩、インデックスへと近づいて行く












首輪の中の世界で物部布都を咀嚼し終わった神喰らいの獣は、肉塊となったであろう物部を己が中へと取り込んでいた。

そもそも『彼』は十万三千冊の魔道書によって作り出された偶像にすぎないのだが、元となった獣の性質をほぼ完全に再現されている為、見た目は完全に一つに生き物に見えた。







侵入者を無事撃退し、わずかばかりの餌にありついた獣は、その身を再び無に返そうとして




ピタリ、と、唐突に動かなくなった。





より正確に表すならば、唐突に『動けなくなった』頭の鼻先から尻尾の先まで。
魔術的な意味でも物理的な意味でも『全く身動きが取れない』




そして、その元から巨体だったからだがさらに巨大に、空気を入れすぎた風船みたいに膨らんで













「ふむ、やはりこの程度が限界か」







ドッパァァアアアアアアアアン!!という音と共に神喰らいの獣の体が弾けた。腹の中から出て来たのは人型の形をした一枚の呪符。








「ここでは我に掛けられた枷も解かれるようじゃから、こちらの『魔神』と呼ばれる存在に我の「こすとぱふぉーまんす」が良い万能術『呪符分身』がどこまで通じるか見てみたかったが………やはり『以前よりずっと強くなっておるな』これならもう少し改良を加えても大丈夫か………?」




声の主は紛れも無い『物部布都』その人だった。



彼女は良いデータが取れたと言わんばかりの満足げな笑顔で宙に浮いている。




今の今まで十万三千冊の魔道書を退け続け、空間を支配しようとしていた物部は、ただ力を分け与えただけの分身(デコイ)にすぎなかった。




物部「さて、目的も果たせた。データも取れた。興味があることが沢山あり、我の色んな欲をくすぐらんとするこの十万三千冊の空間から離れるのは少しばかり名残惜しいが、当麻を待たせるわけにもいかんしそろそろおいとまするとしようかの………おっと」


再び襲ってきた閃光の魔術を、物部はなんでもないようにヒラリとかわす。


剣、槍、杖、獣、竜。他にもさまざまなものを、形どる魔術が物部の排除しようとその力を放ち









物部「ふむ、まだやるか?………主らが気づいておらぬかどうかは知らぬが」













物部は、懐から一枚の札を取り出して















物部「我はまだ『術符の宣言すらしておらぬぞ』」












何百という魔神級の術に向かって放つ。
















―――投皿「物部の八十平瓮」

















瞬間、世界の全てが消え去った。









上条「おおッ、っぁあああああああああああああ!!」




上条は両の手と足に力を込めて踏ん張っていた。インデックスとの距離はもう一メートルも無いが、このまま前に進み続けて魔方陣を破壊してしまった場合、中にいる物部も一緒に消してしまう可能性があるため、安易に動く事が出来ずにいる。



上条(くっ、そ!マジであの馬鹿なにやってんだ!!限界って訳じゃないけど辛い!ああもうなんて言ったら良いんだろこの感覚!!そう!重量挙げで自己記録一歩手前のダンベルを永遠に挙げさせられている様ななななな)


踏ん張るのをやめた途端、一気に後ろに弾き飛ばされてしまうような気がするため、上条は声を荒げて必死に耐える。
あのアホこれで十万三千冊の魔道書の解析に夢中になってたらマジでどうしてくれようかと考えている上条の体が『一気に後ろへと吹き飛ばされた』壁に勢い良く激突した背中に鈍い痛みが走る。


上条「がッッ………!!?」


あまりにも予想外の一撃に、上条は思わず自分の右手を見る。右手にかかっていた負担は、もう無かった。それはそうだろう。上条を襲っていた光の柱そのものが『綺麗に消え失せていたのだから』


一瞬送れて、上条はインデックスの方を向いて、そして、その目を大きく見開いた。


インデックスが立っていた場所に今あるのは、上条を襲っていたものとは比べ物にならないくらい巨大な光の柱。だがその光の柱が向くのは上条の方ではなく、文字通り真上。




物部が張った結界の一部を吹き飛ばして、夜空に漂う漆黒の雲を引き裂き………ひょっとしたら宇宙まで届いてもおかしくないように思う光の柱。




その巨大な光の柱が少しずつ少しずつ細くなり………そして、完全に消えてなくなる。




光の柱の跡から現れたのは、抱きかかえられた修道服を着た少女と………






上条「よう、おかえり馬鹿野郎」






うざったい位に明るい笑顔を浮かべた、古代から蘇りし尸解仙の少女。
















物部「ただいまなのじゃ!」


ここまで。ピンチかと思ったらそんな事は無かったぜ!的な。

一週間以上経過してしまい、申し訳ありません。(こんな調子で書きたい場面までちゃんといけるのか………?)

投下します






上条「と、まぁこんな所かな?他に何か質問は無いよな?無いよな??最初に言ってるけどどうやってあいつの首輪を壊したかは明言できかねます………だからそんなに睨むなって。少なくとも後遺症が出たりすることは無いよ。保障する。つーかそれを言うならお前らだって話してない事があるだろ?お互い様だよ」




小萌先生のオンボロアパートの一室で、上条当麻はもう何回告げたかも分からない言葉を口にした。まったく、説明だとか解説だとかは師匠だとか教授だとかそういう人向けの仕事だと改めて認識させられる。

誰かに分かりやすく物を教えたり解説したりすると言う事は苦手だった。古代日本の尸解仙が横にいればまた違ったのかもしれないが、彼女はインデックス救出作戦が終了した直後から、首輪に仕掛けられていた術式や、その目で見て、耳で聞いて、鼻でかいで、体で感じたと言う『十万三千冊の魔道書』の解析や応用やらで不眠不休で作業し続けている。(時々「えへ、えへへへへへへ」と言う不気味な笑い声が聞こえてくるのが凄く怖い………と、思っていたのは数年前までで、今ではもう慣れたものだが)


まぁ作業に入る前に、首輪の中であった事や仕掛けられていた術式。告げるべきこと、告げないべき事を(彼女にしては)分かりやすく解説してくれた為、想像よりはずいぶんうまくいったと思うのだが………





ステイル「………」

上条「あのさぁ………いい加減その警戒心丸出しの視線は止めてもらえませんかねぇ、お前はあれですか、最近の切れやすい若者ですか?カルシウム不足はイライラの原因になるので効率よく採取する事をお勧めします。お勧めなのは朝昼晩一杯の牛乳ですが、猫よろしくニボシという手もじつに………」


机を挟んで上条の向かいに座る炎の魔術師は、今にも炎剣を振り上げて襲い掛からんとする勢いで上条を睨みつけている。まったく、率先して質問してきたのはそっちだろうにと上条は思うが、気持ちは分からんでもない。




上条「だから何度も言うけど俺は本当にあの夜、お前には関与してないんだって。そりゃあ目が覚めたらハゲ化してたのは不幸だしショックだとは思うけどでもだからって自爆を人のせいにするのは筋違ってもんだろ」


何かがブチッ、と切れる音が聞こえ、炎の魔術師は問答無用で立ち上がって手を振り上げ炎剣を顕現させようとするが、横に座る聖人に目線でたしなめられやむなく振り上げた手を下げて畳へと座りなおす。


どうでもいい事かもしれないが、あの夜、物部がステイルに小細工を仕掛けて自爆させた際に燃え尽きた髪は、魔術を使っても何故か全く、一ミリも戻る事はなく、現状で(ほぼ)ハゲかけているという事と、意識を取り戻した際に神裂に爆笑された(神裂としては堪えたつもりらしい)と言う事実をここに記しておく。

(それと、念の為に言っておくが、上条は決して『嘘』は付いていない。実際「上条は」あの夜、ステイルには一切関与していないのだから)





質問→答える→雑談→キレる→たしなめ→質問………




もう一時間以上前からこの繰り返しだった。

ステイルは話を始める前からキレかけていたし、神裂は接触してきた人物が危険か安全かを確かめる犬のようなオドオドとした視線を上条に向け続けていて、上条はいい加減この停滞した状態にうんざりしてきたのか、ゲッソリとした表情を浮かべている。



上条「にしてもさぁ。学園都市の中で行動するならせめてゲストIDくらいは取っとけよ。いくら科学側(俺ら)のトップに許可を取ってるとは言え、事情を知らない風紀委員や警備員に見つかったらどうするつもりだったんだか」


あんたらこの街を舐めてるだろ。という上条の視線に、ステイルは問題ないとでも言いたげに鼻息をしながらそっぽを向き、神裂は「こ、こちらにも色々と事情があるのです!それに私が元所属していた魔術集団は隠れる事や周りの風景になじむ事を主としていたのでそういう魔術には長けて………いえ、そういう認識がいけないのでしょうね……急いていたとは言え、軽率でした………」と、ションボリと俯いている。

はぁ、と疲れたように溜息を付いた。どちらか片方だけならまだ対応のしようがあるものの、こうも反応(リアクション)が違うとどうも調子が狂ってしまう。
二人だけでこれなのだから、この約十五倍の人数をまとめ上げる「先生」って凄いんだなー、と、上条はランドセルがこれでもかと言うほど似合う自分のクラス担任に尊敬の念を向けた。





上条「んじゃ、最後にもう一回確認するぞ。


まず一つ目。インデックスが一年に一度記憶を消さなきゃ生きていけないってのは真っ赤な嘘だ。


つーか確かお前らの話じゃインデックスが十万三千冊の魔道書を頭に叩き込まれたのは確か歳が二桁に突入してからだったよな?もし人間の脳が一年で十五パーセント分の記憶しか出来ないんだったら完全記憶能力者はみんな七歳ちょっとで死んじまう計算になる。

こっからは科学側の分野になるんだけど、そもそも人間の脳ってやつは知識を記憶する「意味記憶」運動の慣れを司る「手続記憶」思い出を司る「エピソード記憶」ってな具合にだな、そもそも記憶しておく為の容器が違うんだよ。十万三千冊の魔道書を「意味記憶」に入れたとしてもそれが原因で「手続記憶」や「エピソード記憶」が圧迫されることは脳医学上絶対にありえねーし、そもそも人間の脳が何かを「忘れる」のは別にその記憶を「消失」した訳じゃなくて、単に「容器の中のどこにしまったか忘れている」から取り出せないだけなんだ。文字通りな。そういう意味じゃ俺もお前も完全記憶能力を持ってるって言えるな」



本当は続けて「これくらい学園都市の外の高校や大学でも普通に習う内容だぞ」と言いたい上条だったが、己の中の良心に従い、言わないでおいてあげることにした。別に恥をかかせる為に話している訳ではないのだから。



上条「二つ目、お前らの上司………イギリス清教の事情なんて知らねーから大幅に省くぞ。その上司はインデックス、十万三千冊の魔道書の手綱を握り続ける為に「なんの問題もなかったインデックスの脳に細工をした」………これが真相ってとこだな。んで三つ目、これが一番重要なんだけど………」







ガチャリ





と、上条が話している途中で玄関のアパートのドアが開く。オンボロアパートの木製ドアのギイィィィ………という軋む音と共に







インデックス「ただいまー!!」






禁書目録の少女のご機嫌度MAXの喜声が聞こえてきた。すぐ後ろに両手でスーパーの袋を持った小萌先生の姿も見える。




上条「おう、おかえりー。で、どうだった?」

インデックス「ふっふっふー♪じゃーん!女性限定販売の豪華焼肉セット「Elegant」!!私と小萌で二つキチンと確保してきたんだよ!」

上条「おお、ナイスだインデックス!これで今日は焼肉パーティが開けるぞ!!」

インデックス「焼肉パーティ!?もしかしてこれ今日全部食べていいの、全部食べていいの!!?」

上条「おお!全部だ!全部食っちまえ!!つーか足りなかったら買い足しに行く勢いで大盤振る舞いだワハハー!!」

おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!と言う歓喜の声を上げ、インデックスは自分の頭よりも大きい焼肉セットを頭上に掲げながらキラキラとした視線で上条を見上げる。

その後ろからは小萌先生が呆れたような目で「シスターちゃん、お野菜もキチンと食べてくださいねー。先生の推測ですがシスターちゃんはお野菜に少しも目をくれずにお肉を食い尽くそうとしそうなのでー、と言うか先生苦労してここまで運んだのですから食べてもらわないと困るのですよー。って、か、上条ちゃんなんなのですかー?え?ちょ、ちょっと外に出ててくださいって、わ!わわわ!分かりましたから両脇に手を差し込んでたかいたかいするのはやめてくださいー!!」と必死に何か叫んでいた。



そしてそんな三人のやり取りを、二人の魔術師は呆然とするように眺めていた。


話が違う。あの子が帰ってくるなんて聞いてない。


そんな魔術師二人を見て、上条はいたずらっぽく笑う。瞬間、仕組まれた、と気づいた。










三つ目、その『首輪』を上条が破壊した為、インデックスはもう記憶を失う必要など無いと言う事。






最初は、歓喜に震えた。




ずっとずっと、何があっても守りたかった大切な人が、何に苦しむことも無く笑っている。




次の瞬間、自分達を騙し続けてきた教会に対する怒り、インデックスを助けられなかった自分に対する失望と、いとも簡単にそれをやり遂げた(ように見える)上条に対する羨望、嫉妬が心を歪ませ、こんなときにそんな事しか考えられない自分に苛立ちがつのり




最後に、今この場面でどうしていいのか全く分からず、二人の魔術師は動きも思考も止まってしまったのだ。





あ………、と、そんな二人に気づいたインデックスは少しばかり表情を引き締めて二人へと近づいていく。



ビクリ、と二人の魔術師は体を震わせた。


今の今まで自分達はインデックスを何度も追い回し、傷つけ、そして記憶を消してきた。それが、インデックスを救う唯一の方法だと信じて。
いくら教会の差し金で、騙され続けていたとは言え、とてもではないが許される行為とは思えないし思わない。




だからこそ、震える。




記憶を消す必要も、敵に回る必要も無くなり、インデックスがすべてを知った今、彼女から下される判決は、絶対に覆すことが出来ない文字通り『最後の審判』なのだ。


インデックスの記憶を消し続けていた時は死ぬほど望んだ展開なのに、体が震えて動いてくれない。頭の芯まで真っ白になっていくような感覚に呑まれそうになる。


覚悟なら、とっくの昔に決めたはずだったのに、決意は、決して揺らがないと思っていたのに、ああ、自分の精神(こころ)とはこんなにももろい物だったのかと思い知った二人の魔術師の目の前に座る白い修道服を着た少女は残酷な判決を下した。














インデックス「………えっと、は、はじめまして!私の名前は、インデックスって言うんだよ!!」









は?、と呆けた風に、声とも言えない声を出す。自分達の中に溜まっていた緊張感やら動揺やらが一瞬完璧に凍りついた。





インデックス「もう何回も会ってるならはじめましてはおかしいかな………」




インデックスは困ったような表情を浮かべ、下を向きながら何かをブツブツと呟いている。
まるで面接官の前に立たされた新入社員のようだった。




インデックス「で、でも私は覚えてないし………だけど私が覚えてる記憶の中でも会ってるし………う、うーん………ど、どうすれば一番良いのか分からないかも………」




相手の顔色や仕草を伺いながら上目遣いで話すその様は、紛れも無く自己紹介だった。




まるでこれから長い時を共にするクラスメイトに自分の事を説明するように




これから「友達」になる人、「友達」になりたいと思ってる人にする最初の挨拶のように




インデックス「う、う~………と、とうま!こ、こんな感じで良いのかな?何か間違ってない?」

上条「あ~?んなもん個人のさじ加減だろ。つーかお前から言い出したんだからほれ、最後まで頑張りなさい。上条さんは生暖かい目線を送りながら応援します」

インデックス「む!今の言葉からそれとなく馬鹿にしてる感覚を感じ取ったんだよ!!とうまはあれなの?ひょっとして調子に乗ってるのかな?」

上条「んな事ねーっての!つーか、んな細かい事はあとあと!!ほらほら、兼愛なシスターであるインデックスさんは自分で言った事を曲げたりしませんよねー?」


ぐぬぬぬぬぬ、という威嚇寸前の子犬みたいな表情と声で上条を睨みつけていたインデックスだが「………だからほら、な?」と、急に声のトーンが真剣になった上条に促され、再び魔術師たちの方へと体を向けた。
















インデックス「………わ、私と―――もう一度私と、友達になってくれる?」





その言葉で、二人の魔術師は今度こそ本当に、体の芯まで完全に固まった。









インデックス「私はあなた達の事をこれっぽっちも覚えてないし、いきなり元親友だったって言われてもいまいちピンと来てないんだけど………」





でも、と、白い修道女を着た少女は言葉を区切って。





インデックス「とうまから話を聞いて、よく考えて、悩んだの。私と、あなた達の、今までの悲しい記憶を全部清算するにはどうすれば良いのかなって」




魔術師を見つめるインデックスの少女の瞳には、明確な光が宿っていた。
有無を言わさないその輝きは、強者と評される者のみが宿す事が出来るもので、二人の魔術師にはそれがとても眩しく映る。




インデックス「それでね、決めたの。全く同じものを作ることは無理かもしれないけど、出来る限り、やれる限り、もう一度、ちゃんとやり直したいなって―――だから」




二人の魔術師と、しっかりと視線を交わせて







インデックス「私と、友達になってくれますか?」






少女は、言った。かつて自分を追い回し、傷つけ、何度も何度も記憶を奪ってきたであろう二人の魔術師に。


恐怖はあった。違和感もあった。だけど、それでも告げた。


それは、少女が持つ優しさや、今まで自分が当然だと思っていた行為で深く傷つけてしまった二人の魔術師への贖罪で、無くしてしまった大切な物と引き換えになる物を手に入れるというとても強い決意の表れで








「「………」」






だが、二人の魔術師は何も答えない。
これだけの決意を見せたインデックスの前で、迷いと痛みで顔を歪める彼らはどこまでも弱者だった。








そんな二人に、上条は「はぁ………」と軽くため息を付いて「俺からも少し話があるから」と、返事をまだ聞いてないと駄々をこねるインデックスを半ば強引に外へと追いやる。




上条「お前らあれか?「この子にあれだけの事をしてきた自分達にそんな資格は無い」とか「助ける事も出来なかったから」とか「またこの子を危険な目に合わせてしまうかもしれないから」とか、んなどうでもいいつまんねー事でインデックスの決意を無駄にする気か?」



その声は二人の魔術師の耳にこれでもかと言うほど良く聞こえた。




上条「ふざけやがって………俺を無視するってんならそれでも良いけどよ。これだけは答えてもらうぞ魔術師」








上条は、息を吸って








上条「―――テメェは、インデックスを助けたくなかったのかよ?」







魔術師の吐息が停止した。





上条「テメェら、ずっと待ってたんだろ?インデックスの記憶を奪わなくても済む、インデックスの敵に回らなくても済む、もう一度「友達だ」って胸を張って言えるような、そんな関係に戻りたかったんじゃねぇのかよ?」



畳の上にあぐらを掻いて座り、インデックスと同じように二人の魔術師をじっと見つめる。



上条「ずっと主人公になりたかったんだろ?絵本みてえに映画みてえに、命をかけてたった一人の女の子を守る、そんな魔術師になりたかったんだろ?」



そうだ。でも自分たちは教会に誑かされてインデックスを傷つけ続けてきた。ずっと助けたいと思っていた少女を、助ける事ができなかった。
それこそ、なんでもないかのように一人の少女を救いあげた、目の前の少年のような本当の主人公に―――なれなかった。―――だから



上条「だったらそれは全然終わってねぇ!!始まってすらいねぇ!!ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!!」



魔術師の声が、消えた。




―――まだ、終わってない?






上条「考えてもみろ。インデックスに仕掛けられてた「首輪」が壊されたと知った協会が「とりあえず様子見」なんて甘い判断をすると思うか?ありえねぇ。何か策を考えてるに決まってる」



そうだ。あの残酷なシステムを作った教会が、今の現状を良しとし続ける訳が無いのだ。

もしかしたらもう動き出してるかもしれない。今すぐじゃなくても、数ヵ月後でも、数年後でも、インデックスをこのままにしておく理由など無いし、もしかしたらインデックスを放っておいても余裕でいられるだけの「別の理由」がある可能性だってある。




そしてそれは、彼女を苦しめるようなものでないと言う保障など、どこにも無いのだ。





上条「答えろ魔術師。お前はどうしたい」





上条は、もう自分が今どんな表情をしているのかすら分からなくなった魔術師に語りかける。





上条「インデックスと友達になって、無くしたものを取り戻す為に、あいつの笑顔にする為に、どんなに惨めでも、プライドを捨ててでも、もう一度あいつを守る為に頑張るのか!あいつの気持ちを押し殺してでも、傷つけても、教会に戻って裏方役に徹して陰ながらあいつを守るのか! それとももうたった一度成功しただけのどこの馬の骨とも知れないようなパッと出の奴に見せ場も出番も全部譲っちまうのか!!お前ら本当にそれでいいのか!!?」




その姿は、上条がずっとずっと師事を仰いできた、とある人物の説法に良く似ていると言う事を、上条は全く自覚していない。





上条「決めろよ魔術師。ためらう必要なんかねぇ、悩む必要なんかねぇ!テメェらが思い描いてる幻想を、テメェらの口で言ってみやがれ!!」




もう上条は、自分の選択を決めているのだろう。迷ったかもしれない、悩んだかもしれない、誰かに相談したかもしれない、それでも最後にはしっかりと自分の手で決めたのだろう。そして、そんな事を繰り返し続けてきたのだろう。

だからこそ、揺らいでいる二人の魔術師には、嫌というほど響く。


そんな姿が、とても眩しく映る。









やがて、二人の魔術師は、どちらともなく口を開き―――











それぞれの選択を、告げた。


ここまで。次回でやっと一巻終了………二巻をどうするかは考え中。漫画みたいにオールカットする事も視野に………どうしましょう?

禁書映画公開おめでとう。と言うわけで投下。









新約聖書に措いて、人という生き物が神に食す事を許されたのは六本足で現れ、悪魔の使いとも例えられる事もある害虫「いなご」のみであった。






だが、人という業の深い生き物は、意図も簡単にその禁忌を犯す。最初の人とされるアダムとイヴでさえも、知恵の実を食した事により楽園を追放された。







そして、彼らの子孫である人も、当然のようにその掟(ルール)を守るはずなど無い








その熱された鉄の大地に下ろされた、二本の雄雄しき角を持つ異形なる物の肉は、すぐさまその桃色の鮮やかな肉質を茶色く濁った白色へと変える。







やがて、熱され続けたその白色の一部が、すっかり暗くなった外の景色と同じ、少しばかりの黒色で彩られたタイミングで
























インデックス「あーん♪」






一人の修道女の口へと吸い込まれていった。









上条「んなっ!?おいこらインデックス!テメェその上カルビは俺の取り分だろうが!!」

インデックス「ふっふーん!とうま、知らないの?小萌が言ってたんだよ「一人だけでは孤独に沈み、人が集えば戦が起こる。これ即ち焼肉の摂理なり」つまり、この鉄板を主としてすでに戦争が起こっているわけであってつまりこれは当然の略奪(ジャスティス)なんだよおおぉぉぉぉぉ!!」ババババババババ!!



戦争における常。虐殺、陵辱、そして略奪。



インデックスと言う名の悪夢は、瞬く間に上条の国(領域)の物品(肉)を己の口へと放り込んでゆく。


(ちなみにインデックスに焼肉の極意を教えた幼児体型先生(年齢不詳)は、ビールのを飲みすぎて倒れ、上条の介抱マッサージを受けた結果、それこそ小学生の様にヨダレを垂らしながら気持ち良さそうに熟睡してしまった為、別室にそっと寝かせてある。)




ぎゃぁぁあああああああああああ!!という敗北国の王の絶叫が部屋に響いた。ただ、その絶叫はたった一人の少女のみの手によってもたらされるような物なのではない。




ステイル「………ほら。こっちも食べごろみたいだ」

上条「テ、テメェ、ステイル!お前最初は「こんなくだらない事………」とか言ってイラついてたくせに………!!あと取った肉をインデックスの皿に盛るのはギリ納得できるけどテメェで食うなら上条さんは徹底抗戦を」

神裂「はい、インデックス。でも野菜もキチンと食べてくださいね?それと、食べすぎにも要注意です」

上条「神裂ぃいいいい!!お前に関してはもう論外だよ論外!聖人の力をこんな事に使ってんじゃねぇよ!!(たっく、あの夜といいインデックスとの仲直りの時といいピーピー泣いてやがった神裂はどこに)ぐおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」



ボソボソと小声で愚痴っていた上条に、神裂が放った音速を超える拳が迫る。バシン!という音を立てて神裂の拳が上条の手の平と激突した。空気は勿論、ちゃぶ台に乗っているホットプレートや数多の食器。挙句の果てには畳までビリビリと振動し、食事中の面々の行動が一瞬ピタリと止まる。





瞬速の拳を上条に向けて放った神裂の顔面はホンの少し赤くなっていた








上条(テ、テメェなに考えてやがる!!まともに決まってたら顔面が見るも無残な事になってるぞゴルァ!それでも大和撫子か!!)

神裂(うるっせえんだよ、怪物が!あなたならマトモに食らったところで大したダメージになるとはとても思えないんだよおぉおおおおおおおおお!!)



勿論、主に上条に非が有るであろう事は認めるが、それにしたって常人だったら間違いなく顔が陥没するであろう一撃を、何の躊躇もなく放つことは無いと思う。

全く、クラスメイトのオデコが広いアイツ(頭突き女)といい神裂といい………何故自分の周りの黒髪ロングはバイオレンスチックな奴が多いのだろうと考えるが、当然のように答えは分からない。









………あれだけ渋っていた二人が、なぜこうもアッサリともう一度インデックスの友達になることを決めたのかも、分からない。









自分の言葉が原因だという事の可能性など、この少年は微塵も計算に入れてはいない。









あれからすぐに神裂は深々と、ステイルもギコチなくではあるがしっかりとインデックスにこれまでの事を謝罪し、感謝の言葉を告げ、三人とも元の鞘である『友人』に納まった。





神裂はポロポロと嬉し涙を流し、ステイルはキャラが崩壊している位の優しい笑顔を浮かべ、インデックスは面白そうにクスクスと笑う。








そして上条はそんな三人を見て多少の疎外感を覚えつつも、脱力したように、ホッとしたように、ゆっくりと微笑んだのだった。








インデックス「とうまー。さっきから何の話?」

ステイル「………気にしないであげるほうが良いんじゃないかな?おもに彼女の為に」



ステイルにしては珍しい同僚を全面的に守ろうとする言葉に、神裂は感謝の言葉を送ろうとするが、いつの間にかインデックスに物凄く(肩が触れるどころの騒ぎではない)接近していたステイルに気づいてその拳を放つ。

当然、上条のように身体能力が高くないステイル(スポーツ狩りハゲ)はその拳をまともに食らってしまい「ぐぶぉぁあああああ!」という悲鳴を上げながら仰向けに倒れて気絶した。









物部「ふわぁ~………よく寝たぁ………ん?………な、なにぃ!なぜじゃ!なぜもう宴が始まっておる!?」



そのままステイルを寝室に引っ張っていった神裂にしばらく呆れていた上条だが、遅れてようやくやって来た物部に気づいて顔を上げる。


上条(おお、やっぱお前寝てたのか。おはよう)

物部「おはよう、ではないわ!お主、我を放っておいて勝手に宴を始めるなどと………それでも相方か!弟子か!パートナーか!!というか目次ノの呪縛を直接的に解いたのはこの我じゃろう!!」


上条としては、何度連絡しても出てくれなかったし、そもそも寝てたっぽかったから起こすのもアレかなと思っての行動だったのだが。
物部は座る上条の元に駆け寄り、同じように座ると半ば押し倒す勢いで顔をグイッ、と近づけた。


彼女にしてはキツイ口調とは裏腹に、目はウルウルと潤いを纏い、自分より身長が高い上条を睨みつけるために必然的に上目使いになっている物部は、いまいち(と言うか圧倒的に)迫力に欠ける。なんだか全く別の、なんというか不純な感情を刺激しそうな勢いだ。




上条(い、いや、だってお前さぁ………)

物部「なんじゃ!何の理由があって我を除け者にする!!」ウルウル






上条はため息を付きながら、言った。















彼女はどうやら一番肝心な事を忘れているらしい。




















上条「お前、そもそも飲み食い出来ねぇだろ」

物部「………………………………あ;;」















???「………え、なにがですか?………………まさか。あの程度で力を使うなど修行が不足している証拠です」











???「布都も布都でしょう。初見とは言え、歩く教会に気づかないなど、少々気が緩みすぎています」












???「これは、今度の修行内容は少々キツメにする必要がありそうですね………」













???「彼ら、特に当麻には自覚を持ってもらわなくては………」











???「結果的とは言え、あなたもそれを望んでいるのでしょう?―――――――――夢美?」






はい!と言う事で一巻分はこれにて終了です。見てくださって本当にありがとうございます!!

二巻の事なんですが、モチベーション的な事と、アウレが一瞬で敗北する姿しか想像出来ない事と、考えている設定的な事で『やらない事にします』。

ただし、それではあまりにも■■さんが可愛そうな為、彼女には別のスポットライトを当てます。役得………な筈です。



期待してくださってた肩には申し訳ありませんが、ご了承ください。






次回は三巻冒頭。どれだけ早く事件を解決できるかが今後の鍵です。



アウレ「‥‥‥」トオイメ

ポン

アウレ「?」←肩に手を置かれている
冴月麟「‥‥」フルフル
アウレ「!?」
冴月麟「‥‥‥」←自己紹介
アウレ「」←絶句せざるを得ない

大変遅れてしまい、本当に申し訳ありませんorz

言い訳をさせてもらうと、高熱とのどの痛みと鼻水で約一週間ほど寝込んでました;;(皆様もお気お付けください)










八月二十日、午後六時十分。








真夏の夕暮れ、補修を終えた上条当麻はぐったりと帰り道を歩いていた。
例えどんな理由があっても、この長い夏休みに一人学校補修へ行くのは精神的によろしくない、と彼は思う。


だが相方である尸解仙の少女はそんな上条の意見を「そんなものかの?小萌殿の話は面白いし聞いていて退屈せんのじゃが………もしかして一人で授業を受けるのが寂しいのか?」と、不思議そうな顔と口調で一掃した。


通常『夏休みの補修』と呼ばれるモノは夏休みの初日に行われるものだし、実際の上条のクラスも補修は十九日から二十八日にかけて行われたのだが、例の『自動書記破壊事件』とその後始末で本来受けるはずだった補修を丸々サボった上条は、今になってそのツケを支払わされているという訳である。





で、何故か。





そんな上条は、路上にポツンと立つジュースの自動販売機の前で呆然と立ち尽くしている。






理由を説明するのは簡単だ。




上条が確かに入れたはずの二千円札(大金)に自動販売機は何の反応も見せず、黙りこくったまま微動だにしないからである。


半分以上諦めの表情でお釣りのレバーをガチャガチャと動かしてみるが、やはりウンともスンとも言わない。そりゃあ二千円札が今時珍しいのは百も承知だが、仮にも科学の街である学園都市にある機械なんだからもう少しマトモな反応(リアクション)をしてくれても良いのではないだろうか。


と、ここで何か視線を感じた上条が目線だけで隣を見ると、そこにはジッ、と自分を見つめる相方の姿が。『我の出番か?出番なのか??』という屈託のない期待の眼差しで自分を見つめる布都に、上条はサッ、と瞬速で目線を逆方向へと動かす。


確かに上条ではこの手の機械を下手にいじった所で間違いなく警報が鳴るに決まっていた。そんな展開は読めていた。でもだからと言ってここで布都に頼って二千円札を取り戻してもらうのもなんとなく癪に障る。





どうする………?と、頭を悩ます上条の後ろから、カッっと革靴の足音が聞こえた。





「ちょろっとー。自販機の前でボケっと突っ立ってんじゃないわよ。ジュース買わないならどくどく。こちとら一刻でも早く水分補給しないとやってらんないんだから」




と、いきなり後ろから声を掛けられた。
それと同時に女の子の柔らかい手が上条の腕を掴んで横にぐいぐいと押そうとするが、女の子の手が上条の腕を掴むより前に上条はほとんど条件反射的にその身を反転させて女の子と向かい合う。そのあまりのスピードに、むしろ女の子の方がビックリしたみたいだった。





上条・物部「「はぁ………、なんだ、ビリビリ(鳴神娘(なるかみむすめ))か」」」

ビリビリ「わったしっしはー、御坂美琴って名前があんのよ!いい加減に覚えろド馬鹿!!」


少女が怒鳴った瞬間、その茶色い前髪から青白い火花がパチンと散った。瞬間、ヤッバイ!と上条は物凄い速さで近づいてその右手を美琴の眼前にかざす。それだけで10億ボルトに達する高圧電流は槍のようにまとまる事すらなく消滅してしまう。


チッ!と露骨に舌打ちする彼女は理解できていない。今、自分は上条という一人の少年によって「守られた」という事実に気づいていない。




物部「………」



チラッ、と一瞬後ろを見ると、そこにいる尸解仙の少女は眉間に皺を寄せながらいつの間にか取り出したいくつかの呪符をシブシブと服の中へしまっている最中だった。とりあえずは矛を収めた相方を確認して、ホッとしたようにため息を吐く。




ここだけの話、布都は御坂の事がどうしても気に入らないらしい(無理もないが)



いくら御坂美琴が学園都市で七人しかいない「レベル5(超能力者)」の一人とはいえ、物部とマトモに戦闘を行った場合、確実にギッ、タギタのボッ、コボコにされてしまうだろう。最近でいえば七月十九日の夜が一番ヤバかっただろうか?まさか「宣言」までするとは予想外だった。術が完全に発動する前に上条が術式の妨害をしたため、そもそも何も起こる事はなかった(そのかわり、家に帰るまで終始不機嫌だった物部をなだめるのに苦労したが)し、そもそも「宣言」をしたとは言え物部が本気で彼女をボコろうとするなどありえないと上条は思うのだが、それでも心臓によろしくない事には間違いない。



上条「………」

御坂「なに泣きそうな顔でこっち見てんのよ?」美琴は両手を腰に当てて

御坂「とにかく用がないならどけどけ。私はこの自販機にメチャクチャ用があるんだから」

上条「あー」


上条は美琴と自販機を交互に眺める。目の前の少女は情状酌量の余地もなく殺人未遂な訳だが、かと言って確実にお金を飲み込むと分かっている自販機の事を教えない、なんてことは許されるのか。

いや美琴のがっかりする顔が見たくないというより、その後に確実に襲いかかるであろう殺人急の八つ当たりが怖い。そしてなによりその八つ当たりによって今度こそキレた物部を止めなければならないのが恐い。



上条「その自販機な、どうもお金を飲み込むっぽいぞ」

御坂「知ってるわよ」



と、美琴は一言で答えた。逆に上条と物部のほうは美琴の意図が分からない。



物部「???呑まれるのが分かってて金を入れるのか?………は!もしやこの自販機は仮の姿で実際は賽銭箱的な役割を果たす霊装なのでは………!!」



と、そんな思いっきり的外れな推理をする物部を尻目に(見えてはいないが)






御坂「常盤台中学内伝、おばーちゃん式ナナメ四十五度からの打撃による故障機械再生法!」





ちぇいさーっ!というふざけた叫びと共に、あろう事か美琴はスカートのまま自販機の側面に上段蹴りを叩き込んだ。
ズドン!という轟音。次いで、自販機の中でガタゴトと何かが落下する音が響いて、取り出し口に缶ジュースが出現する。




上条(つーか「内伝」って事はまさか常盤台中学の「お嬢様」は皆こんな事やってるのか?いやそんな馬鹿な………)

完全に否定できないのが恐い。少なくとも一人、彼女と全く同じ事をしそうな女性を上条は一人知っている。


物部「………えっと、警備員へ通報するための連絡札は………っと」

一瞬唖然としていたが次いで非常にナチュラルな動きで当然のように警備員へ通報しようとする物部を必死になだめる上条。

目の前の少女は情状酌量の余地もなく窃盗犯な訳で、物部の行いは至極当然なものの筈だが、かと言って何の躊躇いもなく中坊(「一応」お嬢様)を警備員に付き渡すことは果たして正しいのか?




いや美琴がかわいそうだからと言うより、自分が共犯者(と言うか最悪主犯)と認識されてしまいそうで恐い。




だから上条はとりあえず自分の言葉でこの不良少女を更正させてみることにした。


上条「あのな。もしかしなくてもテメェらが毎日毎日よってたかってこんな事してっから自販機が壊れちまったんじゃねーのかと問いかけたい!」

御坂「いいじゃんよー。なに怒ってんのよ、別にアンタに実害あるわけじゃないでしょ?」



あっさりと失敗した。どうやら自分には教師の才能はないらしい。



御坂「あん?そういや何でアンタこの自販機が金食い虫だって気づ」言いかけて、美琴はちょっと黙った。

御坂「………ひょっとして、呑まれた?」

上条「………」

上条は助けを求めるように物部へと目を配せるが、彼女は呆れたようにため息を付いただけだった。その表情は「もっと早く自分を頼っていればこんな事態にはならなかったのに」と暗に語っていた。

美琴は美琴で「一体いくら呑まれたの!?」と目をキラキラさせながら問いかけている。






上条「………二千円」




上条が正直に言ったとたん、美琴に爆笑された。「二千円?ひょっとして二千円札!?うわ見たい、超見たい!まだ絶滅してなかったんだ二千円札!くっく、あははははは!!そりゃ自販機だってバグるわよ、あっははっはっはっははははははは!!」という、いわゆる「馬鹿笑い」が辺りへと響き渡る。その反応を見て上条は『うそつきーっ!』と叫んで頭を抱えた。


だから二千円札なんて言いたくなかったのだ。自販機で使ったのも両替の意味が強い。


そもそもあの二千円札は「禁書目録争奪戦」で「勝利(と言う事になるらしい)」を収めた上条の家に居候する事になった白い修道服の少女に花火でも買ってやっかなー、と思って財布に入れていたモノだ。こんな事になるなら物部の言うとおり、面倒くさくても「自分で一から作るべきだった」と落ち込むが、そんな事を今考えても仕方がない。






そんな上条を見てさすがにいたたまれなくなったのか、美琴は「あー、ごめんごめん。じゃあ笑わせてくれたお礼にこの美琴さんがその二千円札を取り返してあげよう」美琴は自販機の正面に立ち、右手の掌をゆっくりと投入口へと突きつける。


と、ここで物部はふと疑問に思った。



物部「ちょっと待て。お主、一体どうやって金を取り返すつも―――ッ!?」





次の瞬間、美琴の掌から雷じみた青白い火花が飛び出て自販機に直撃した。





美琴が自販機に近づいていた事もあってか、流石に今回は止める暇など無かった。ズドン!と言う凄まじい轟音と共に、メチャクチャ重たそうな自販機が相撲取りに体当たりされたようにグラグラと揺れた。自販機の金具と金具の隙間からもくもくとギャグ漫画みたいに黒い煙が噴き出てくる。


上条は青ざめた。物部の顔は真っ白になった。



御坂「あれー?おっかしいわね、あんま強く撃つつもり無かったのに。あ、なんか一杯ジュース出てきた。ねぇ二千円札出てこなかったけど間違いなく二千円以上ジュース出てきたからこれでオッケー?―――ってなんでいなくなってんのよ!ちょっとー!!」



美琴が上条の方へ向き直った時、二千円札を自販機に呑まれた少年Kの姿は跡形も無く消え失せていた。持ちうる全力の脚力でその場を離れ、その時すでに自販機のスグ近くにある公園の林の中に身を潜めていたのだから当然である。



常日頃から様々な不幸を体験している上条には分かる。一秒先の未来(オチ)が明確に見える



物部「ふ、ふざけるなあの鳴神娘!あやつ本当に「御坂」の血筋か!?」


思わずと言った感じで叫んだ物部に、上条は木々の陰に身を隠しながら何度も頷き、大いに同意しそうになって―――






















物部「やるにしてももう少し上手いやり方と言うものがあるじゃろう!!」

上条「おい!!」




上条がツッコんだ瞬間、公園の外。はるか後方の路上で、散々溜め込んだものを吐き出すように自販機の警報が鳴り響いた。





ここまで。どの部分ををどうはしょればテンポが良くなるのか悩み中………

続きです。

上条さんと布都ちゃんの過去バナばかり思い浮かぶ今日この頃。







上条「なぁ………どうすんだこれ?」

物部「………」




うまい具合に不幸(トラブル)を避けた上条だったが、問題なんていくらでも沸いてくるものだと思い知らされていた。



美琴からうまく(?)逃れた後、寮近くのスーパー(タイムセール中)に寄って「今日は豪勢にしゃぶしゃぶでもすっかー」なんて軽い気持ちで食材を大量に買い込んでしまったのがいけなかった。


何故か今日に限って野菜もお肉も質の高いものが並んでいた。もちろん最高級のものではないし、いつもに比べたらマシ。程度のものだったが、普段は自分と物部が共に厳選を重ねた「まぁこの中ではマシな方」な一品をその時に必要な分だけ買い込むのだが、今日は「あれもいいこれもいい」と、両手に握る計四つのレジ袋。その一つ一つががパンパンになる程に買い込んでしまったのだ。


いや、これだけならば良い。そもそもこの程度の重さなど、上条にとっては一枚のちり紙と大差ないのだから。






では何が問題なのか。






物部の足元にある大きな段ボール箱に上条は目を向ける。ダンボールの中には世界一有名な炭酸飲料が2リットルのペットボトルで半ダースぶん入っていた。




スーパーやデパートなどでよく見かける、ありきたりなクジの景品。




上条が当てたのかと言えば当然、そうではない。そもそも不幸体質の上条が、しがないスーパーのクジ引きで、三等とはいえ「幸運にも」当たりを引ける、筈がないのである。(「力」を使い、工夫を凝らせば「必然的に」出来なくもないが、そんな事はしない)
















「幸運にも」当たりを引いたのは、上条に憑いている尸解仙、物部のほうだった。










上条以外、触れる事も、声を聞くことも、認識する事さえ出来ないのが今の物部だ。


ゆえに、クジ籠のなかに「二人同時に」手を突っ込む。


普通は異常な光景であっても、物部の姿が見えないのだから不思議に思うはずも無い。そして、物部が選んだクジを籠の中で掴み取り、手を抜いて、さも自分で選んだかのように店員に渡す。これで、本来引く事が出来ない物部でもクジが引けると言う訳である。



不幸体質である上条に憑いている筈の物部だが、どうやらそれが原因で彼女の運まで落ちるといったことは無いらしい。



ゆえに、彼女と出会ってからの上条は商店街で使えるクーポン券を引き当てたり、ジュースの自動販売機で連続で当たりを引いていたりするのである。もちろん、他人からは上条が当てたように「見えるだけ」であり、本当に幸運なのは物部の方なのだが、そんな事はどうでも良いのである。







まぁその「物部の幸運」が、上条にとっても「幸運」であるかと言えばまた別なわけだが。







物部「し、仕方ないであろう!これは我のクジ運が良かった恩恵であり、運命と言う一つの歯車がこの一品を我等の元に運んできたいじょうその恩恵をありがたく受け取るのが………」


必死に弁解の言葉を喚き散らす物部を無視して上条は考える。もちろん、この大量の荷物、もしくはこの莫大な量の炭酸飲料のどちらかを放置して一度学生寮に戻る、と言う選択肢は無い。再びここに戻ってくるまでの間にスキルアウトの不良どもに持ち去られるのが落ちである。

かといってこのまま纏めて持ち帰っては、明らかに不自然な格好、もしくは行動で学生寮までの道を歩くことになってしまう。例を挙げるなら、両手でレジ袋をそのまま持ち、余ったダンボール箱(中に2リットルペットボトル×6)を「片足で持ち上げ」もう片方の足でケンケンパをしながら学生寮まで戻る。という方法がある。常人にはとても出来そうに無い芸当だが、上条にとっては馬鹿馬鹿しいくらい簡単なものだ。




が、もし仮にその姿を誰かに目撃された日には「なんか妙な格好で歩く怪人物」として警備員か風紀委員に通報されてしまうだろう。そうなっては不味い。








大量の荷物(不本意)、人の目、迫る下校時刻………










さて、どうするべきか………
















???「夢美、夢美?」





四方八方を真っ白な金属のような物体(正確にはなんと言うのか、そもそも「理解」できる物体であるのかのかも分からない)で囲まれた、文字通り真っ白なその部屋の中に、どこか凛とした声が響く。

発した声と同じく、どことなく、なんとなく、清楚で気品あふれる立ち振る舞いを見せる彼女は、その部屋の主の名を呼んだ。自らの足で、目で「見つける」のではなく「呼んだ」

理由は簡単。この部屋の中では自分から彼女を見つけるなど「絶対に出来ないから」だ。自分を蔑んでいる訳でもなく、相手を過大評価しているわけでもない。ただこの白玉の空間の中に措いて彼女を上回るような行動をする事など、例え九十九の神々を束ねもう術者であろうとも出来はしない。否、あのいけ好かない賢者なら「裏技」を知っているかもしれないが、と思い直したところで








「あら、いらっしゃい。珍しいわね、あなたの方から「ここ」に来るなんて」







その声が、唐突にその部屋に響いた。








気づいたときは、当然のようにそこにいた。







声がするその時まで。ホンの少しの気配も感じられなかった。時空間移動術を使ったのだとしても「その程度」なら、感覚で捉えることができる。


「本人ではない(デコイ)」では、無いと思う。いや「そう思わせられているだけ」と言う事も十分過ぎるほど考えられるが。



「ちょうどお茶の時間にしようと思っていたのよ、あなたもどう?」


パチン、と指を鳴らすと同じくどうやって現れたのか全く分からず、理解出来ない法則に従いって彼女の傍に一人のメイドが現れる。



「今日のお茶菓子はマドレーヌが良いわ、もちろんイチゴ味の」

「はい、マスター。紅茶はどうしましょう」

「そうねぇ………ミルクティー、と言いたいところだけど気が変わったわ。レモンティーをお願い。マドレーヌも紅茶も二人分ね」

「Yes my Lord(はい、ご主人様) ただいまお持ちします~」


彼女はスカートの裾を両方掴んで少しばかり上に上げ、丁寧にお辞儀をすると再びその姿を虚空へとかき消す。
人間と何も変わらない様に見える彼女は、しかして人「ではない」






「マスター」によって創られた「超高度なAIを保持したアンドロイド」である。正確にはそれも違うらしいが、詳細はわからない。




「本当の意味で」限りなく人間に近いロボット、と認識していれば十分。と彼女は言うが、果たしてその理解であっているかどうか………


マスターによって創られた。と言ったが、ロボットやアンドロイドの場合、適切な表記や表現は「造られた」であるべきだ。
が、彼女に関しては「創られた」という表現の方が合っていると思う。そのくらい高度な技術で創られた………いや、もはや「技術」と言う表現でさえ適切かどうかすら分からない。



メイドの少女にしても、この空間にしても、彼女が使う無数の不思議な技術にしても、それは言えることだった。




「さ、立ち話もなんだし、座って頂戴?」


ふと気づくと、さっきまで目が痛くなる位に真っ白だったその空間は、いつの間にかどこまでも広がる高原になっていた。
太陽光が優しく降り注ぎ、そよ風が心地よく吹き抜けてゆく。竜脈や地脈も当然のように在った。その在り方に関しても、不自然なところなど何一つ無い。





目の錯覚や、幻術などでは決して無い。










文字通り、あの真っ白な空間が「高原と言う一つの世界」に「なった」のだ。











高原の中心にはたった一本だけ大きな樹が佇み、その巨体を天へと伸ばしている。その根元には、大きくて白い日除け傘が中心に刺さる事で一体となった丸くて白いテーブルと、二組のイスがあり、そのうち一つに彼女は座って自分の着席を促している。

はぁ、とため息を付いて指示に従う。

別にお茶会に付き合う義理などないのだが、今日はなんと言うか彼女と話がしたい気分だった。











ありとあらゆる科学を窮めつくした結果、魔術(オカルト)に気づき、その圧倒的な探究心で再び一から勉学を重ね、神々の領域にまでたどり着き、最終的には独自の御技でとある一つの分野を「創って」しまうほどの探究者












自分の目の前に座り、フッ、と掴み所の無い笑みを浮かべる、見た目18才の少女。















「夢幻伝説」 岡崎 夢美(おかざきゆめみ)・種族「人間」

















とある不幸な少年が「教授」と呼ぶ、その人である。

















岡崎「さて、お話を聞こうかしら?不器用で優しい妖怪さん?」






ここまで。

>>1で言っていますが、東方キャラの設定などは大幅に改編している場合があるキャラがいますのでご了承ください。

東方ってアニメ?
アニメなら全話見れるとこ教えろ下さいm(._.)m

お待たせしました。

>>315 原作だけでなく、同人ゲーや音楽、某動画サイトの手書き劇場やMADから入るのも手





散々迷ったあげく上条がとった行動は、ダンボール箱を一旦放置して数十メートルぶんレジ袋だけを運び、その場に片方の腕に掛けていた二つのレジ袋を下ろして箱を放置した場所に戻り、こんどは箱を片方の手で持ち上げて運ぶという、比較的安全(見た目的にも)な代わりに結構な手間を食うものだった。



上条「たっく、修行でもないのになんだってこんな面倒くさい事を………」

物部「とうま、逆転の発想じゃよ。修行を重ねたおかげでこんな面倒臭い作業でも楽々と………」


当たり前だが、上条があの思い出すことすらしたくない修行の数々を積んだのはこんな馬鹿馬鹿しくどうでも良い作業をする為などではない。


もっと簡単な方法もあるといえばあるのだが、こんなくだらない事に使ったと知れれば間違いなく「師匠」にボコボコにされてしまうため、このような原始的で面倒くさい作業を強いられる破目になっているのだ。

路上にパンパンに膨らんだレジ袋を置き、放置したダンボール箱のある場所へ戻ろうとする途中で、路上に転がっていたテニスボールが風に煽られて地面と上条の足の隙間へ滑り込むが、その程度の「不幸」に負けるような鍛えられ方などされてはいない。





上条に思いっきり踏まれたそのテニスボールはなぜか全く歪まなかった。上条が地面と同様に踏みつけて、もう片方の足が地面に付き、再びその足を動かすまで、一ミリも動く事はなかった。





当の上条はそんな事を少しも気にしていない様子でダンボール箱を放置した場所へと戻ろうとして













その目を大きく見開いた。














目の前にダンボール箱(2リットルペットボトル半ダース入り)を抱えた御坂美琴が立っていたからだ。















上条(………は!?)


ギョッ、として思わず一歩下がりかけた上条だが、直後に異変に気づいて逆に足を前へと進める。

おかしい。上条は直球にそう思った。

外見は衣服を含めて完璧に御坂美琴その人なのだが、違う。






「魂の波長」が違う。






「魂の波長」と言うのは文字通り、人が持つ「魂」から発せられている特定の「波長」の事だ。人によって弱かったり強かったり、広かったり狭かったりするそれは、「人」であるなら持っていて当然のものだ。

物部と出会う前であれば「魂」なんて概念自体半信半疑だったのだが、今となっては、少なくとも「人間」と言うカテゴリにある生物には(いくつかの例外を除き)当然のように在るもの。と思っている。

その波長自体、普通の人間には感じ取る事ができず、学園都市の最新鋭の機械を使っても計測できるか分からない幻想(オカルト)チックなモノなのだが………


上条には分かる。美琴が電子線や磁力線の流れを目で追う才能(スキル)があるように、上条は「魂の波長」を感じ取る事ができる。


そして、この少女から感じ取れる「魂の波長」は、御坂美琴に比べて弱く、危うい。それに………なんと言うか妙な感覚を覚えるのだった


もちろん、魂に依存する波長な為、体の調子が崩れたり、精神が不安定になっていたりした場合、通常とは違う反応を見せるのだが、そもそも上条にはそんな繊細な部分まで感じ取る事はできない(師匠達や物部なら出来るらしいが)。



そんな「未熟者」の上条でも分かる。



この少女は御坂美琴「ではない」



極度に似てはいるが、それでもこの少女は自分や物部の知っている御坂美琴ではない。




上条「お前………誰だ?美琴、じゃ、ないよな?」

「………、美琴、ですか、とミサカは問い返します。ああ、お姉さまの事ですか」



お姉、さま………?

上条は謎の少女から出てきた単語を頭の中で繰り返し、コンマ数秒で一つの、一応の、結論へとたどり着いた。



上条「お前、御坂の血縁者なのか?一卵性の双子、とか」



そうでなければここまで似ているなど考えられない。

「肉体変化(メタモルフォーゼ)」の能力者なら外見上は何とかなるかもしれないが「魂の波長」まで真似る事などできない。
しかしてこの少女が放つ魂の波長は御坂美琴本人と驚くほどまでに似ている。


今の上条では計測を行い違和感を感じ取ることが限界である為、それ以上のことは分からなかったが。





上条「そっ、か、「お姉さま」って事は妹か何か?」

ミサカ「………まぁ、そうなりますね。と、ミサカは一定の間を置いて答えました」






………ずいぶんマイペースな子だな、と上条は考える。なんと言うかこういう性格の知り合いは「あっち」でも一人も出来なかった為………








上条(って、あれ?なんだろう、誰か忘れている様な………なんかこういった物静かな知り合いが一人いたような………)







ん?あっれー?と、首を捻ってもの思いにふける上条に御坂妹はため息を付く。その瞬間、ガシャン!と言う、何かの精密機械が地面にぶつかったらしき音が聞こえた。

何事かと下方向を見ると、そこにはなにやら大きな暗視ゴーグルらしきものが転がっている。どうやらダンボール箱と自分の体で挟むようにして持っていたらしい。




上条「軍用ゴーグル………?」


怪訝な顔をしてそれを見つめる上条に御坂妹は



御坂妹「ミサカはお姉さまとは異なり電子線や磁力線の流れを目で追う才能が無いのでそれらを視覚化する器具(デバイス)が必要なのです、とミサカは懇切丁寧に説明しました」



そう説明を受けた上条は「ふーん。そっか」と素っ気無い返事を返す。別に、理解できなかったからどうでも良い。と言う訳ではない。逆だ。「一瞬で理解出来てしまったから」素っ気無いのだ。




上条は、外より2、30年は科学技術が進んでいる学園都市に来てなお「能力開発」以外の単位で一度も赤点を取った事がない




常に百点満点かと言えばそうではなく、本当に分からない問題もいくつかあるのだが、上条はこれでも中間や期末に待ち構えているテスト(地獄)で、常に学年内トップ10に入るぐらいには好成績を残す「優等生」なのだ。中学時代だが、学年一位を取った事もある。

そしてそんな理由から、能力開発ではあまり成績が良くないの上条でも普通のレベル0よりかは多く奨学金を貰えていたりした。(あまり、と言うのは筆記などに関しては好成績を残している為である)



あんなにお馬鹿だった上条さんがここまで成績優秀な生徒になれたのはあのイチゴ好きの「教授」のおかげだなー、と心の中で感謝する。



御坂妹「気温と湿度が高かったので装備を外していましたが、必要性を感じるなら装着しましょう、とミサカは提案します」


御坂妹は一人でブツブツ言いながらゴーグルをおでこに引っ掛ける。




























御坂妹「ところで、数十メートル先にあるあなたが放置したであろうと思われるレジ袋と、その中にある数々の物品が、今まさに風紀委員と思われる女学生に落し物として回収されようとしている最中ですがよろしいのですか?とミサカは確認を取ります」









それを早く言え!!と上条は叫ぶと踵を返して目にも止まらぬ速さで現場へと直行してゆく。




























物部(こやつ………)











先ほどから一言も喋らない自分の相方の怪訝な様子にも気づく事無く。






ここまで。

禁書映画を見て制作意欲は上がったものの、肝心の上条さんの説教シーンの内容があまり印象に残らなかった………どんな説教かましてましたっけ?

一時間後くらいに投下します

投下します。






見ていられない。 そんななんとも情けない理由で上条は御坂妹に荷物を持ってもらっていた。



学生寮も近い事だし、門限とか大丈夫ならお礼になんかご馳走すっかなー。と上条は両手にレジ袋をぶら下げながら考える。
学生寮は御坂妹と出くわした場所から歩いて五分の所だったし、最悪、お茶くらいなら出す余裕はあるだろう。


上条と物部が住んでいる学生寮付近は同じ建物が並んでいるだけの殺風景な場所だが、実はビル風が同じ向きに統合された学園都市で一番の風力発電スポットだったりする。
ビルとビルの感覚は二メートル強。まるで裏路地みたいな隙間に潜り込み、上条と御坂妹は本当に防犯の役に立っているのか疑問な入り口をくぐって学生寮のエレベーターへと向かう。

と、エレベーターに向かう上条の前方から清掃ロボットがやってきた。全長八十センチ、直径四十センチ程度のドラム缶にタイヤと回転モップがついたような代物だ。

ここまでなら学園都市では不思議でもなんでもない光景だが、ここからが少し違った。清掃ロボットの平たい上部に、十三、四歳ぐらいのメイドさんがちょこんと正座している。





その少女は上条を発見するなり待っていたように近寄ってきて。







「うーい、上条当麻(ししょう)」

物部「おお、土御門の妹君!」



土御門舞夏。上条の隣人・土御門元治の義理の妹で、家政婦(メイド)学校に通っているからメイド服が制服らしい。何か嫌な事があると気分転換に女子寮から逃げてくる家出少女で、上条の弟子でもある。


一応言っておくが、別に上条がこの可愛らしいメイドさんに化け物じみた体術を教えているのかと言えばそんな訳があるはずも無い。



舞夏「今日はエアコン壊れたから泊まりに来たー。今晩は兄貴ともども騒がしくなると思うけど堪忍なー」

上条「おう、了解。………つーかおまえも大変だよな。家政婦学校って夏休みねーんだもん」


その点は、上条にも良く分かっているものだ。「修行時代」の自分にも、よっぽどの事が無い限り休みなど無く、毎日毎日様々な………とここまで思い出した上条の目尻に何も悲しくないのに涙が浮かんできた。



舞夏「む。真のメイドさんには急速はいらないってのがウチの校訓だからなー。土曜も日曜もないのでメイドさん見習いとしてはゲリラ的に週休二日を実行せねば倒れてしまうのだ」

上条「サボり癖のついたメイドさんなんてこの氷河期に需要あんのか?我が弟子よ」

舞夏「むしろ完成したメイドさんよりある程度未完成なメイドさんの方が需要が高いわけだがー、っと。時に上条当麻(ししょう)。はい。ここ最近の修行成果」



どこに隠していたのか、土御門舞夏はたて十二センチ、よこ十センチ程度のタッパーを上条へと献上する。
中身はまだホンノリと温かく、その微熱がタッパーを受け取った上条の手の平へと伝わってくる。中身はどうやら肉じゃがのようだった。




そう、土御門舞夏は上条当麻の「料理」の弟子だった。




とは言っても上条自身の料理の腕前は舞夏と比べても大した差などなく、全く同じ料理を作って二人同時に「どっちがおいしいですか?」と待ち行く人々に差し出して感想を聞いた場合に「メイド服を着た可愛らしいメイドさん」というスターテスがあるぶん舞夏が勝ってしまう。程度のものでしかない(味やなんやらでは僅かながらに勝っている………と思いたい)











物部「うむ、どうやらまた腕を上げたようだな。このまま努力を続ければ、お主ならきっと一流の従者になれるはずだぞ!」




そう、彼女が憧れているのは上条ではなく物部の料理の腕なのだ。




分かりやすく言うと、同じスーパーで同じ材料を買って同じ料理を作っている筈なのに、舞夏はもちろん彼女と長年一緒にいる上条ですらも話にならないくらい高次元な料理が出てくるのである。
上条当麻はめったに「外食」と言うものをしないのだが、その理由がこれだ。安上がりかつとても美味しい料理が出てくるのだからそもそも「外食」なんてものをする必要がないのだ。



上条「うむ、また腕を上げたようだな我が弟子よ。これからも精進するように………つーかいつも悪ぃな。ありがたく頂いとく事にするよ」

舞夏「おう、それじゃあ私はこの辺で………あとでもっと詳しく感想聞かせてなー」

舞夏は満足そうな顔で上条に告げる。と、清掃ロボットの進路が上条達から逸れた。正座していた舞夏はバイバイするように大きく手を振り




舞夏「………上条当麻(ししょう)が言うんだったらそれこそ毎日夕食を作りに来てあげても良い訳だがー………も、もちろんそれは私の修行を効率的に進める為であって………」




上条でも聞き取れないくらいの小声でなんかブツブツ言いながらどこかに行ってしまった。どことなく頬が赤く染まっていたような気がしない事もない。

















御坂妹「メイド奴隷趣味があるのですか、とミサカは少々真剣に尋ねてみます」

上条「真剣になるな。あいつは家政婦学校に通っていて、俺は高校生で、ただの師弟関係だ」





上条はきっぱりという。きっぱりと言うのだが………あいつの兄貴を含めずに考えても一般的にはどう映るんだろう?未成年略取とか呼ばれない事を切に願う上条だった。











横綱が一人乗ったらワイヤーが千切れます、という感じのオンボロエレベーターに乗って上条と御坂妹は七階に向かう。


いつもなら入り口に入らず、外からちょっと跳ぶだけで自分の部屋の前へと到着するのだが、今日は連れがいるためそうもいかない。
キンコーン、というチャチな電子音と共にエレベーターが七階に到着する。上条の学生寮はまんま長方形なので、エレベーターを出ると直線通路しかない。


と、上条宅のドアの前にインデックスが三毛猫に手を伸ばしてじゃれ付いていた。二本の手に挟まれた三毛猫はワシャワシャー、と撫で回されて床の上を転がっている。



上条「………っつか、何やってんだアイツ?おい!どうしたん、部屋のカギでもなくして締め出されたのか?」


上条が声を掛けると、少女は上条の方を見た。




「あ、とうまだ。ううん、三毛猫(スフィンクス)にノミが付いたからとってるん―――って何!とうまが知らない女の人連れてる!」

物部「な!お主、いつの間に我の事が「視え」る様になるまでに成長した!?もしや」


お前じゃねぇ座ってろ。と、上条の言葉を真に受けた物部はチョコンと床に膝を抱えて座る。

絶叫したのはインデックスという十四、五歳の少女だ。100%偽名な女の子は、見た目は紅茶のカップみたいな白地に金刺繍の豪勢な修道服に身を包んでいる。どうも、魔術世界において「禁書目録」などと呼ばれているらしいのが「人あらざるもの」の知り合いが多い上条にとっては「普通の女の子」にしか思えないし見えない。




「ミャー」



おかえりー、といった具合に鳴いた三毛猫は「スフィンクス」と言う。



別に猫の品種であるあの「スフィンクス」ではなく、正真正銘本物の三毛猫だ。




今日の朝。そう、今日の朝だ。気が付いた時にはインデックスが部屋の中で三毛猫とじゃれあっていた。
自分でも気づかなかったところを見ると、どうやら連れ込む際に物部が協力したらしい。



最初こそ、動物の、誰かの命を預かると言うことがどういう事かインデックスを正座させて三十分ほど説いた上条だが、それでもインデックスが決意を揺らがず、里親を探すとも言わず、はっきりと自分の口で「飼う」と告げたとき、上条はあっさりとOKを出した。





二学期になって自分が学校へと向かっている間、彼女は感覚的には一人になってしまう訳だし、遊び相手が必要だったと言うのが一つ。



上条も修行時代に体験している事だが、彼女にとって動物と触れ合うと言う事が一種の成長になってくれればと言うのが一つ。






そして、何よりの理由。





迷える子猫を里親を探しもせず保健所送りにしたなんて事が師匠に知れれば私怨を含めて200パーセントの確率で見る影も無いほど再起不能になるまでぶん殴られてしまうからである。
良くも悪くも、師匠は動物が大好きだった。それはもう自らを構成するアイデンティティが崩壊してしまうほどに。





上条「それより聞き捨てならねー事言ってなかったか?三毛猫にノミがついてるってどういう事?」


うん、とインデックスはこっくり頷いて



インデックス「拾ってきた三毛猫がノミだらけ。きっととうまの布団の中とか大変なことになってると思う」

上条「思うじゃねーよ!テメェ俺が学校行く前にあれほど拾ってきた三毛猫ごと風呂入っとけ、つっただろーが!!そもそも猫とか布団の中にいれてんじゃねぇ!!」


うわぁああああああああああ!!と上条は絶叫する。



物部「てゆーか部屋の中はほったらかしか、増殖した蚤の魔窟になっておるじゃろうな………なるほどそれで外にいたと言うわけか………ってちょっと待て目次ノ。お主何をおもむろに袖から「せーじ」を取り出しておる」


学園都市の能力開発では薬物使用など基本である。薬に関する知識など歴史年表みたいに頭に入っているし、上条の頭の中には学園都市の中では絶対習わない「異界の知識(パラレル・テクノロジー)」な薬草学の知識が物部を含めた師匠達に叩き込まれている。




セージ。―――シソ科の多年草で地中海地方原産。葉はサルファ葉と呼んで薬草として用い、また香辛料や観賞用として栽培されることもある………とこんな具合である。




上条「で、薬草なんか取り出して何すんの?HP回復の為にもぐもぐ食べるの?」


えいちぴー?インデックスは首を傾げ



インデックス「とうまの不思議言語は良く分からないけど、セージには浄化作用があるんだよ。これを浸かって魔女学っぽくノミを追い払う所存です」

上条「いや待て。セージにそういう効果があるのは知っているがあえて聞こう。つーか嫌な予感しかしないから聞こう。どうやってノミを追い払うつもりなんだ?」

インデックス「セージに火をつけてスフィンクスを煙で燻してノミを追い払う」

上条「……………………………………………………………………………」

インデックス「流石に部屋の中で物を燃やすほど非常識じゃないもん」

上条「……………………………………………………………………………」


上条は超真剣かつ超純粋に真っ直ぐ答えるインデックスの顔を見る。インデックスの言動は始めて上条と出会ってからしばらくの日々(あいだ)色々なものに夢中だった物部を想起させてきて、ホンの少しだけ懐かしいようなホンワカとした感覚に包まれる。


と、そんな物部は自分の目の前で手をパタパタと振ると



物部「黙っとる場合か。このままでは今夜の夕餉の「めにゅー」が「三毛猫の香草蒸し」になってしまう。我は部屋の中の蚤を駆除してくるから何とかして目次ノをとめろ」


ドアをすり抜けて部屋の中に入っていった物部の言葉に、深層に潜りかけた上条の意識が再び浮上してくる。



上条「………はっ!そうだよそうそう、火災で一番恐いの何だか知ってるかインデックス?三毛猫を煙に巻いてノミなんか落としてたら一緒に猫まで死んじまうわ!」





というかその前に学生寮に常備されている火災警報機がなってスプリンクラーでズブヌレになるのが落ちだと思う。









御坂妹「見ていられません、とミサカはため息を付きます」

上条「あ~………悪ぃ御坂妹。こんなしょーもない事につき合わせて。あ、ダンボール床において良いし、もし良かったら中にあるやつ一本やるから」

御坂妹「前者には、了解しました。後者には、必要ありません。とミサカはそれぞれ返答します。ようは猫に危害を加えずに害虫を駆除する方法があれば良いのですね、とミサカはダンボール箱を通路に置いてから確認を取ります」

上条「………いや、インデックスも悪気があってこんな真似してるわけじゃねーと思うんだ」

御坂妹「むしろ悪意がない方が救いようがありません、とミサカは呆れ顔で返答します」


全くの無表情のまま御坂妹は答え



御坂妹「重ねて問いますが、ようは猫に危害を加えずに害虫を駆除する方法があれば良いのですね、とミサカは最終確認を取ります」

上条「そりゃそうだけど、どうやって?」

御坂妹「こうやって、とミサカは即答します」



御坂妹は丸まっている三毛猫に向けて掌をかざす。





瞬間、御坂妹の掌からバチンと静電気が散るような音が炸裂した。パラパラと埃を落とすように三毛猫の毛皮からノミの死骸が落ちる。全身の毛を逆立てたスフィンクスはバタバタと暴れ―――――――――七階の空からダイブする直前に上条に首根っこを掴まれた。






御坂妹「特定周波数により害虫のみを殺害しました、とミサカは報告します。このタイプの虫除け機は大手量販店などで普通に市販されているので安全面も支障ないでしょう」


ミサカは一度、ドアの方を眺め。



御坂妹「室内の方は、煙が出るタイプの殺虫剤を使えば簡単に駆除できるかと思います、とミサカは助言を与えておきます」


それでは、用が済みましたら―――――――――と御坂妹は感謝の言葉も聞かずに背を向けて立ち去ってしまう。




少女の後姿を視線で追っていたインデックスはやがてポツリと呟いた。



インデックス「とうま、とうま。あれこそパーフェクトクールビューティーなんだと思う」



もののついでなので、上条もポツリと呟いてみる。



上条「無茶を承知で注文するけど、お願いだから少しでも見習ってください」









物部「うむ、とうま!部屋の中の駆除は終わったぞ………と、あの鳴神娘の血縁者はどこへ行った?」


ここまで。上条さんがつっちーでは話にならないぐらい強いんで舞夏ともフラグを建てれるようになりました。

PS・原作でもアニメでもなく、漫画派です。時々出てくるネコデックスさんが可愛い。つーかそれ以外にもインさんの可愛さが三割り増しで書かれてると思う。

十時半ぐらいに投下するかも(寝るかも………)

たとえば10点満点中7点の娘がいたとする。
その娘が猫を頭に乗せることで10点満点になる。

ネコデックス「なら私は?」

3点

猫布都「なら我は?」

13点

原作1:とある魔術の禁書目録
ライトノベルであるが、アニメ化済みであり漫画版も存在する。外伝もある。映画化もした。
このssはこの物語を基にしている。
ちなみに原作では上条はインデックスの『首輪』を壊した直後に記憶を失くした。

原作2:東方Project
PCの同人ゲームである。ジャンルは弾幕シューティングまたは格闘。書籍版もいくつか存在する。
二次創作が盛んであり、同人界隈において最大級の規模を誇る。
なお、物部布都(もののべのふと)が登場するのは13作目の「東方神霊廟」、
岡崎夢美(おかざきゆめみ)が登場するのは3作目の「東方夢時空」である。
また、原作ではこの2人に接点はない
(というより1~5作目とそれ以降では設定等を大幅に改変しているため、
 同じ世界と考えない方が適切かもしれない)。

すみません思いっきり寝てました(昨日)

投下します


>>356 詳しいご説明ありがとうございます。





次の日も補修だった。





夕暮れの教室の真ん中に一人、ポツンと生徒が座っている様はなかなかに哀愁を誘う。始めの方こそ『うわー過疎化の進んだ村の小学校かよ』とか皮肉っていた上条だが、直後に『そういえば修行時代もこれとほぼ同じ様な感じだった』ことに気づいてうんざりとした気持ちになった。

だがその補修も今日で終わる。八月二十一日にもなってようやく夏休みスタートかーっ!という絶望的な気分にならなくもない上条だが、それでも補修から解放されるのはやっぱり嬉しい。


上条は真正面の教卓を見る。


そこには見た目十二歳、身長百三十五センチの女教師、月詠小萌が教卓から顔だけ出す形で立っている。
教卓の上にテキストを置いて喋っているのだが、あれなら自分の手で持った方がはるかに読みやすいのでは?と思う上条だった。



小萌「1992年にアメリカで再制定されたEPSカード実験の必須条件ですがー、カードの素材がビニール樹脂からABS樹脂に変更していますー。これはカードの表面に付く指の油、指紋によって裏返したカードの種類が分かってしまうというトリックに対するモノで―――って上条ちゃん、ちゃんと聞いてるんですかー?」

上条「………いや先生、ちゃんと聞いてるけどさー、これって『力』と何か関係あんですか?」


上条は無能力者(レベル0)である。


成功無比な機械で測った結果、あなたは頭の血管千切れるまで頑張ったってスプーン一つ曲げられません。と言われているのに『力』が弱いから補修です、と言うのは何事かと上条は思う。

いや、正直言ってしまうと『限界を超える』だの『才能の壁をぶち破る』だのいった事を上条は『すでに何度も経験している(と言うかさせられている)』ので「もしかして右手の力を受けないとんでもない能力に目覚めるかもしれない………!!」と淡い期待はしているのだが、少なくともこの『学園都市の科学技術』では『上条当麻』を『科学的』に『能力者にすることは』不可能。だと思う。教授こと岡崎夢美だったら何とかなるだろうか?


馬鹿にしているわけでも蔑んでるわけでもなく、これが上条当麻の冷静な評価だった。


と、思考に駆られている上条に小萌先生は口をへの字に曲げて



小萌「でもでも。力がないからといって諦めてしまっては伸びるものも伸びないのです。ですからまずは『力』とはどういうものか、初歩の初歩から知識を学ぶ事で、自分なりの『力』の御し方が発見できるのではないかなー、と小萌先生なりにですね」


と、まあもっともらしく、上条が納得出来るように話す小萌先生だが



上条「先生」

小萌「はいー?」

上条「いや、それで俺がキチンと学んでなくていつもダラダラと授業を受けてるだけなダメ学生だったらまだ分かりますけどね―――夏休み前の期末も!その前の中間も!!筆記だったら上条さんは学年内トップクラスの成績だったでしょうがぁぁああああああああああああああああああ!!」


そう、前にも言ったが上条は学校で定期的に行われるテスト(地獄)で常に学年内トップ10に入るほどの優等生だ。『筆記だけ』ではあるが、それは能力開発も例外ではない。

『努力しない人に成功は訪れない』と言うのは分かるが、じゃあ『努力しても成功しない』場合はどうすれば良いのか?






師匠ならこう言う『努力の『仕方』が悪い』

姐さんならこう言う『得手不得手が人にはある。大切なのは実際に習得できるか出来ないかじゃなく『やるかやらないか』だ』

教授ならこういう『調整と分析と発想が足りない。』

童師ならこう言う『まぁ、臨機応変に素敵に楽しくやれば良い。諦めるも諦めないも『お前の自由だ』』











そして………






物部「………まぁ、すぐにそれが発揮される事は無いかもしれんがの。努力し続ける―――つまり『諦めないこと』『信じ続けること』に意味があるのだと思うぞ?」




物部はニッコリと笑って、一言告げる。たったそれだけで、ぐっ………!と上条は押し黙ってしまう。
それが上条当麻と言う人間を作っている重要なアイデンティティなのだから無理もないだろう。

その謳い文句は修行時代に何度も何度も言われたそれで、物部のその小さな後押しの言葉があったからこそ、あんなに弱かった自分が、あんなに辛かった修行の数々に挑むことが出来たのだ。








あんなに恐かった数々の敵に立ち向かうことが出来たのだ。









信じ続け、諦めずに、強さを求めることが出来たのだ。












諦めなければ、諦めた、事にはならないのだから。












信じなければ、諦めない、事など出来ないのだから。













上条当麻は軽くため息を付くと教卓の前で「ううううううううう」と唇を噛んでうなっている小学生体型先生を見る。きっと彼女は諦めていない。いつか、いつか上条に能力が発言するであろう事を何の根拠もないのに信じてくれている。
上条が頑張っているのを知っているからこそ『何の能力も発現しない』と言う現実に、教師である彼女は上条以上に苦しめられているのだろう。


だからこそ、上条はこう言った。


上条「うー、ってしないでください、うーって!そんなんじゃ俺困りますから!!」

小萌「そーですか?と言うかなんで上条ちゃんは成績にそこまで影響する訳でもないのにきちんと補修に来てくれるんですか?」

上条「え、あ………そりゃ、上条さんがですね………好き、だからですよ―――」

小萌「ぶっつ、ふぇえええ/////////」

物部「と、とうま!お主なにを―――!!」

上条「―――小萌先生の授業。なんだかんだでこの学校の先生達がする授業の中では一番理解しやすいと思うし」

物部「………………………」

小萌「………、あー。そうですね、授業ね。びっくりしましたー………って、あっ!そうそう授業です授業!補修です補修!!ほら上条ちゃん、テキスト百八十二ページの犯罪捜査における読心能力者(サイコメトラー)の思考防壁の所から読んで下さいー」








そんなこんなで今日も補修の時間が過ぎていく。




































ちなみに、今日の補修のあいだ、小萌先生は何故かとってもご機嫌で、物部は何故かとっても不機嫌だった。



































そうして夏休み最後の補修が終わった。





時刻は午後六時四十分。完全下校時刻に設定された終電に乗り遅れた上条は、夕暮れの商店街をのんびり歩いていく。
『夜遊び防止』との事で、学園都市の終電バスは基本的に午後六時三十分なのだ。交通機関を眠らせることで深夜の外出を押さえ付ける方針らしい。

あー、やっと終わりか、とにかく長かったなー、ちくしょー海でも行って夏の開放感を―、とか考えながら上条は夕暮れの帰り道を歩いてゆく。風が吹いているようには見えないが、風力発電のプロペラがくるくる回っていた。



と、上条は思い出す。発電機のモーターはマイクロ波をあびせると回転すると言う話を―――




物部「とうま!」


ん?と物部の声に反応して人込みを見ると、その中に見慣れた後姿がある。常盤台中学の夏服を着た茶色い髪の女の子―――御坂美琴だ。ああ、もしかして彼女が無意識に放っている微弱な電磁波に反応して風力発電のプロペラが回転しているのかもしれないな。と上条は思う。



上条「で、どうしろってんだよ、避けろってか?いや上条さんとしても反対する理由はないんですがそこまで徹底して避ける必要………」

物部「ちがう」


と、物部は上条の言葉を途中で強引に遮った。


その声が、ひどく真剣なものに変わっている事に気づいて、上条は息を飲む。
本人に自覚はないだろうが、かくいう上条の表情や目つきも、物部の声を聞いた途端、一瞬で引き締まったものに変わっていた。










物部「今日はむしろ会いたかったくらいじゃ。とうま、昨日の………あやつの『妹君』について尋ねてくれんか?さりげなく、少しで良い。普通に「見かけたから一緒に帰ろうと思って話しかけた………ところで昨日お前の妹にあったんだけど………」くらい気楽な感じで構わん」






ここまで。この世界の上条さんは若干の余裕があります(色んな意味で)

・師匠(体術の師匠?)
・姐さん
・教授(岡崎教授)
・童師(導師の間違いか?)

なんか急に増えた‥
このssにおける幻想郷がどうなってるのかわからんが(少なくとも禁書世界とは別な様だが)
向こう側の知り合いがこの4人だけとは限らないよな‥

東方で「教授」っつったら1人しかいないからさっさと公開したのか?
「師匠」はちょくちょくヒントが出てるし(ちなみに体術の師匠としてありそうなキャラは複数いる)
「導師」も多分あの人だろうけど‥

急に出てきた「姐さん」は誰だよ!?(何人か候補はいる)

続きです。 三巻分が予想以上に長くなってる件について;





御坂「なーんちゃって!あーちょっと詩人になっちゃったわ、あはははは!」





ずびし、と美琴は理由なく上条にチョップするが、上条の身体能力は中坊のおふざけを許すほどやわに作られていない。体を反転させて難なく避ける。



御坂「けどアンタも夢がないわよねー。人の心を持った高度なSFコンピューターと人間の友情ドラマ、なーんて結構ロマンがあると思ったりしないのかしら。例えばメイド型戦闘ロボとか………あ?何いきなり固まってんのよ」


いや、流石にここで「限りなくそれに近い人と知り合いですが何か?」とは言えない。


沈黙する上条に若干の違和感を覚えつつも、美琴は『じゃ、私こっちだから』と言ってさっさと立ち去ってしまった。
と、そんな二人の会話を、ただ静かに聴き続けている人物がいた。
目を細め、片方の手で口元を隠すようにして、あからさまに『何か考えています』と言わんばかりの格好をした物部布都である。



物部(………)




妹の話になった時の御坂の様子

夕空に浮かぶ飛行船

飛行船に取り付けられた大画面(エキシビジョン)に浮かんだ「筋ジストロフィー」とか言うものの研究施設が二週間で三件ほど相次いで撤退を表明したと言う事実

それを忌々しげな表情で見つめた御坂

学園都市が打ち上げた人工衛星

今後二十五年は誰にも追いつく事が出来ないと言われているスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)』

『樹形図の設計者』は「天気予言」だけではなく、研究の予測演算にも使用されている

それが嫌いだと告げた御坂





そして





『―――――――――なんて言われてるけど、実際そんなばかげた超高度並列演算器(アブソリュートシミュレーター)なんて存在するのかしらね』





美琴の雰囲気がいつも通りに戻る前に放った一言。





それらを頭の中で半濁し、演算し、考え、それをもう一度半濁………その作業を繰り返し続け、物部布都の脳内はたった一つの真実に限りなく近い答えを得る為のカギのありかを高速で見つけ出した。










上条「にしてもアイツ様子おかしかったよな。テンションが不安定だった事もあるけどなんつーかこう………あー………」

物部「不穏な空気を他人に見せないように、触れさせないように、丸ごと自分で抱え込んでるみたいな、か?」


そうそうそれそれ!と、様子を上手く表現する事が出来ずに唸っていた上条は叫んだ。まるで喉の奥で突っかかっていた魚の小骨が取れたような気分になる。


上条「で、何か気づいた事があったんだろう名探偵物部君?というか一体君は何がしたかったんだい?」


と、英国一有名な探偵の助手風に尋ねる上条。



そんな上条のネタ振りを完全にスルーし、物部はいつもの調子で上条に尋ね返す。




















物部「とうま『筋ジストロフィー』って何の事だか分かるか?」








上条が『筋ジストロフィー』の説明をしてすぐ、物部は「確かめたい事がある」とか言ってさっさとどこかへ行ってしまった。

最初はそれにならうつもりだったのだが「いや、良い。お主がいるとややこしい事になりかねんし、そもそも我の思い過ごしかもしれんしな。なに、確実に『制限時間』内には戻れるから安心せい」―――と突っぱねられた上条は、一人寂しく寮への道を歩いていると言う訳である。



―――後になって思ったのだが、このとき、変な意地を張って物部に付いて行かなくて本当に良かったと思う。
そうでなければ上条は、『幸運にも』巻き込まれずに『すんでしまった』かもしれないのだから。



物部と分かれた場所から少し道を進んだ所で、道路脇にしゃがみこんだ美琴を発見した。そこは風力発電所のプロペラの真下で、支柱の根元にはダンボール箱が置いてある。

ヤバイ、なんか嫌な予感がすると上条の脳内が警報を発した瞬間、ダンボール箱の中に黒猫が突っ込んであるのが見えた。

美琴は黒猫に餌を与えようとしているのか、菓子パンを持った手を黒猫にゆっくりと近づけているが、怯えきった黒猫はなんかゲンコツでも振り上げられているように耳を伏せて丸くなってしまっている。



先ほど分かれたばかりの、それも上条とは違う方向へと向かって行った美琴と再び遭遇?と、この『魂の波長を見る』能力(スキル)が無かったら困惑していたかもしれない。



しゃがみ込んでいる自分の足元に暗視ゴーグルを置いているその人物は、もちろん美琴ではなく



上条「うっす。昨日はジュースとノミの件、さんきゅーな『御坂妹』」


とうぜん、『妹』の方である。




ミサカ「………、特に謝礼が目的ではありません、とミサカは返答します」


無表情の中にムッとしたものをにじませつつ、御坂妹は地面に置いていたゴーグルを額に引っ掛けた。菓子パンを持っていた手も引っ込めてしまう。


ミサカ「ゴーグルを外していたのは、猫はレンズを嫌う特性を持っているという事前情報に従っただけです、とミサカは説明します。………ところでなぜあなたはお姉さまと遺伝子単位で同じなミサカを見てもすぐにミサカだと分かるのですか、とミサカは問いかけます」


言いながら、何故か御坂妹は無表情のまま菓子パンを後ろ手に隠してしまう。今まで怯えていたくせに黒猫がみーみーと不満そうな声を上げた。

御坂妹の問いに対し、上条は、う~ん、と困ったように唸る。
『俺、魂(の波長)が見えますから』とドストレートに言っても私的にはなんら問題ないし、学園都市には本当にそういった能力者がいそうなのだが、師匠達や『あちら』側の都合などを考えると言わない方が賢明だと思う。



上条「いや、普通に見りゃ分かんじゃねーの?ゴーグルをさ」


もっともらしい答えを返す上条に、御坂妹は一瞬だけ間を置いて「………そうですか」と返答した。
なんというか色々と素っ気無い御坂妹に上条はため息を付いて。



上条「でも、猫がレンズ嫌いって知ってんならわざわざゴーグル掛けなおしてどーすんだよ?何、ひょっとして個人的に見られたくなかった訳?」


そう、無表情で動作に落ち着きが無いから分かりにくいが、上条にはなぜか、御坂妹は人に見られて慌ててゴーグルを掛けなおしたように見えた。



ミサカ「………別に、そういう訳ではありません、とミサカは答えます」


答える声は即答だったが、何故か表現は曖昧だった。

上条は『?』と首を傾げる。

その昔、動物好きな上条の師匠がにへら、という効果音が付きそうなだらしない笑顔で子猫を文字通り猫かわいがりしている姿を見てしまい、その直後に「勝手にプライベートを覗いた」とかいうわけの分からない理由でボッコボコにされている
(恥かしさで顔を真っ赤にして固まるというかなりレアで可愛い姿を拝めたのだが)
上条としては、もしかして言動に表さないだけで実は御坂妹は今物凄くお怒りなのでは?と内心ビクビクしてしまっていたりしたのだが、どうやらそれとは違うらしい。



上条「なら猫を撫でるなり菓子パン与えるなりすりゃ良いじゃん。猫、嫌いじゃない………」






と、ここまで言って上条はようやく自分が失言しているという事に気がついた。






上条「………わりぃ。姉貴と同じでお前も発電能力者 (エレクトロマスター)だったな」



地震の兆候として計測されるモノの中に『動物達の奇怪な行動』と言うのがある。
地域一帯から野生の鳥類が一匹残らずいなくなっていたり、飼い犬が急に小屋から出てこなくなったり、普通は絶対掛からない筈の深海にすむ貴重な魚が網に掛かっていたり、とまあこんな具合だ。

そして、その動物達の奇怪行動は『地殻変動により発生する特殊な電磁波』が大きな原因となっている。普通の人間には感知できないような微弱な電磁波でも、動物達にとっては大きな異変という訳である。

話を戻すが、御坂姉妹は双方共に『電撃使い(エレクトロマスター)』だ。
強能力者(レベル3)以上のほとんどの発電能力者に言える事だが、彼らは自分の意思とは関係無しに常に体の周囲に微弱な電磁波を形成している。



つまり『発電能力者(エレクトロマスター)』はごく自然に動物達に嫌………避けられてしまいやすい体質になってしまうのである。


>>386 の前飛んでないか?




ミサカ「はい。ミサカには致命的な欠陥があります。とミサカはあなたが脳内で思い描いているであろう事実を認めます」

上条「欠陥って、やな言い方すんなよ」

ミサカ「いえ、お姉さまを含めた他の発電能力者の方はともかく、ミサカの場合はこの表現が適切です、とミサカは説明します」

上条「………」


上条は考える様に僅かばかりにその瞳を細めた。
昨日、帰り道で始めて会ったその時から、御坂妹から放たれる何だか妙な空気を感じ取っていたのだが、今の御坂妹の発言でそれがさらに強まったような気がした。もっとこう、なんだかキナ臭い感じへと。


そうだ!こんなときは情報を整理してみよう、と上条は脳内の中に御坂妹と出会ってから得た数々の情報を広げてゆく。




美琴の妹

ミサカ

青と白のシマパン

美琴と同じ発電能力 (姉は超能力者(レベル5)妹は異能力者(レベル2))

表情や感情を表に出さない

電子線を見ることが出来る軍用ゴーグル

パーフェクトクールビューティー

上条に見られて慌てて掛け直した軍用ゴーグル

黒猫

美琴と遺伝子単位で同じ

(おそらく)猫が好き

電撃使いが放つ微弱な電磁波

欠陥発言



………だめだ、あと一歩、何かが足りない。これ以上頭を使っても無駄だと判断した上条は頭の回転を止めてはぁ、とため息を付く。まるで推理ゲームで先に進む為の重要な手がかりを見逃している様な気分だった。



ミサカ「と、いうわけです。餌はあなたが与えなさい。というかあなたがこの黒猫を飼いなさい、とミサカは促します。ミサカはこの欠陥だけでなく、居場所や生活環境も一般とは異なりますから、とミサカは理由を述べます」

上条「お、俺が?ちょ、ちょっと待て!お前が拾う………こ、とは出来ないかもしんないけどでも上条さん家も結構狭いんでせめて里親を探すとかじゃだめでせうか!?つーか個人的な面でも結構訳有りな身でございましてですね」


狭い、というのは昨日インデックスが拾ってきた三毛猫が入り、上条の部屋は元からいた二人に加え銀髪シスターと三毛猫が住んでいる状況になっているため、物部が見える上条としては一人暮らし用の部屋に三人+一匹という視覚的に物凄く狭い空間に住む事を強要されている様な気分なのだ。





ミサカ「訳あり、とは昨日清掃ロボットに乗っていたメイド奴隷の事ですか?それとも銀髪の修道女(シスター)の事ですか?とミサカは交渉材料を提示してみます」

上条「ぶふぉあ!て、テメェいきなり何をっ………つーか昨日説明しただろうが!あのメイドは時々料理を教わりにくる師弟関係であのシスターはただの居候だ!!それに、それにも色々と複雑な事情と言うものがあってだな………」

ミサカ「TVなどで放送されるさまざまなニュースは実は断片的な事実でしかないという認識が出来ていますか?とミサカは質問します。例えばとある場所で殺人事件が起きて犯人が捕まって、しかし犯人に同情を禁じえないような悲劇的な事情があったとして『殺人事件が起きた事とその詳細』はニュースで伝えても『犯人の思いと苦痛』などを事細かに放送したりする事はないでしょう?とミサカは説明しました」

上条「ふっざけんな!それって単に『事情や詳細なんて知るか』って言ってるようなもんじゃねーか!!」


やましい事など何一つ無いはずなのだが、一般的で客観的な視点で見れば、可愛らしいメイドさんを弟子に取りしょっちゅう家に上げ、白いシスターにいたっては同姓までしている(本来ならもう一人、尸解仙の少女がそこに入るのだが見えなければ意味など無いので省略する)上条の所業はどう映るだろう?





周りから白い目で見られる自分を想像して思わず身震いする上条。





そんな上条を御坂妹は無表情なまま、ホンの僅かだがしかし確実に悪意を含めた眼差しで。ダンボールの中の黒猫は、何かに期待するようなあどけない眼差しで、それぞれジッ、と見つめ続ける。




































今思えば、なんでこの時もっとよく考えなかったんだろうと思う。ヒントは全部出ていたはずなのに、アイツはとっくに気づいて行動を起こしていたのに










俺がもっとシッカリしていれば、御坂妹は………






ここまで。 >>389 上条さんと御坂が原作通り駄弁ってただけだったんでカット。

最近気づいたんですが、どれだけカットしてもその分オリジナルの展開が入るんで文章量があまり変わらない不具合;修正されて;;

あやや?まだですか?

続きです

>>398 げぇえ!?ま、待ってください文さん!締め切りには間に合わせますから!!






空の色はオレンジから紫色に変わっていた。
上条は腕の中の黒猫に目を落としながら、てくてくと大通りを歩いていく。




上条「なんつーかさ、何かがパターン化してきてるような気がすんだよな。いやインデックスが拾ってきた三毛猫を受け入れちまった時からなーんか嫌な予感はしてたんだけどさ、一匹拾えば二匹拾う事になって二匹拾えば三匹四匹と増えていくような気がしてたんだよなちくしょう」


別に動物は嫌いではないし、むしろ好きな方だと思っている上条だが、さすがに瀬戸内海に住む某魚の名前をした動物先生みたいに動物王国を建設するつもりなどさらさら無い。今の部屋に住ませられるのも一匹が限界だ。
まぁそもそも論を言えば上条の寮はペットを飼う事自体禁止されているのだが、そんな事を言ってしまえばインデックスを同じ部屋に住まわせている時点で立派に違反行為なのでこの際気にしないことにする。




ミサカ「………」



………あと後ろから付いてくる御坂妹が時々羨ましげに自分を見つめてくるのも気にしない事にする。



磁場のおかげで猫に嫌われてしまいやすい体質の御坂妹は、本当はメチャクチャ撫で回したいのに黒猫の気持ちを優先して、その感情を押さえ付けているらしい。
立派な事だと素直に思う。上条の師匠ならばそのいたいけな行為に感動して猫か御坂妹に何らかの細工をして普通に触れるようにしてしまうかもしれない。



上条「ってそうだ、名前!こいつはお前の猫なんだから、責任もってお前が決めろよ!」

ミサカ「………、ミサカの?」

上条「そう、お前の」


上条が腕の中の黒猫を見下ろすと、黒猫はびくびくした視線を上条に返す。そんな黒猫を落ち着かせるために優しく撫でてやる上条(と言うより腕の中にいる黒猫)を御坂妹は無表情のままジッ、と見つめて、その後ちょびっとだけ夕空を見上げ



ミサカ「いぬ」

上条「は?」

ミサカ「この黒猫には、いぬと命名します。………猫なのにいぬ、ふふ」


何か思い出し笑いみたいになっている御坂妹の顔がちょっと恐い。



上条「………いや、だから。お願いだから生き物関連には真面目に、もっと威厳のある名前をさ」

ミサカ「では徳川家康と、とミサカは再考します」

上条「偉すぎ!ってか考えてるフリして何にも考えてないキャラかお前!」

ミサカ「ではシュレディンガーと―――」

上条「ふざけんな!ものの例えとはいえ毒ガスの噴出す箱ん中に猫を突っ込むような話を聞きとして話す博士の名前なんか付けてんじゃねぇ!その名前は猫にとっちゃ禁句だよ禁句!!」

ミサカ「………、―――(´・ω・`)」





すみません 聞きとして→喜々として、です。




上条「はあ、ハァ………っ!あ、本屋だ本屋」

ミサカ「なにか用があるのですか、とミサカは尋ねます」

上条「まーな。別に新品ばっか売ってるとこじゃなくてもあらかじめ欲しい本を注文しておけば入荷したとき連絡してくれんだぜ?しかも当然お値段もリーズナブル」


いや別に新品でも構わないのだが、物部が夢中になっている本と言うのが二十年くらい昔の、なんというか絵柄が特徴的なバトル漫画で、新品ではなかなか手に入りにくい品なのだった。
ゆえに、こういう古本屋の方が掘り出し物として見つかりやすかったりする。上条が今日ここに来たのも、物部が読みたがっていた漫画が入荷(売られて)したという連絡を受けたからだった。



上条「あ~、そういや猫を抱えたまま本屋に入っても大丈夫かな?いや大丈夫じゃないよなうん大丈夫じゃない」

御坂妹「………果てしなく説明臭く棒読みな台詞なのですがこちらに預けるのはご遠慮ください、とミサカは先手を打ちます」

上条「磁場の出る体質のおかげで猫に嫌われてるからってか?ならばその壁を乗り越えてこそ真の友情が芽生えるというもの。食らえ必殺猫爆弾!」


上条はすぐ隣にいる御坂妹に向かって(彼女が受け取る事を予想して)黒猫をゆっくりと放り投げた。
当然、猫の反射神経や運動能力を考慮すれば放っておいても華麗に着地するのは目に見えている。………見えているが、御坂妹は(上条の計算どおり)反射的に手を伸ばしてしまった。動物愛好家の悲しい性である。






御坂妹が何か文句を言おうとした時には、上条はもう古本屋の中に入っていた。













その直後。御坂妹に訪れる決定的な異変に気づく事は、当然のように出来なかった。












冷房の利いた店内は大勢の少年少女であふれかえっている。



ここは大型チェーンの古本屋で、値段の安さもさることながら立ち読みOKを前面に押し出している。店の中にいるのも『漫画読みてーけど買うまでじゃねーんだよなー』という人間が大半だった。



上条「………」




そんな中、上条は呆然と立ち尽くしていた。



普通に予約していた本を買ってさっさと御坂妹の所に戻ろうとしていたのだが、なんか上条がレジに赴いて事情を説明しても「そんな予約は受けていない」と言われてしまっては呆然とするしかない。

これがパソコンや携帯からのネット予約だったら電子機器の誤作動や不調という事も考えられるのである程度の許容をする事ができるが、上条はこの店舗に来て自分の手で書類を書いて本を注文したのだ。よっぽどの事がない限り手違いなんて起こるはずがないし、そもそも昨日の夜に電話をよこされたばかりなのにこの対応はどういうことだろう。


ムツゴロウが生息しているのは瀬戸内海ではなく有明海や、八代海ですよ




上条「ちょ、ちょっと待ってくださいよ定員さん。上条当麻です上条当麻!上下左右の上に零条の条、当選の当に植物の麻って書いて上条当麻!!予約したんですよ二週間くらい前に!!」


上条の目の前の女性定員はまだ入りたてのアルバイトなのか、身分証明の学生証を出して必死に訴える上条にわたわたと困ったようにいくつもの予約用紙に目を通し、レジカウンターに常備されているパソコンを必死に操作している。
彼女は最終的に「申し訳ありません、しばらく店内をご覧になってお待ちください」と、涙目ながらに正規定員にSOSを求めに行った。

不幸だ、と小さく呟く。

これはもう「もう一度予約をし直すはめになる」という未来も視野に入れなくてはならないかもしれない。いや、それもそうだが物部になんて説明すれば良いのだろう。

ここだけの話、彼女は自分の表したい感情を言葉ではなく表情やオーラ示すような人間だ。しかも意識してそれをやっているのではなく、完全に無意識(てんねん)だ。

怒っている時は低度の物ならばその不満を隠す事無く顔面に出し、ぷく~っ、と頬を膨らませるし、真剣に怒っている時は無表情のまま背後に圧倒的な力を持つ鬼神のようなオーラを漂わせる。

喜んでいる時は「えへへ」と頬を緩ませて笑い、楽しんでいる時は遊園地にはじめて来た子供のように目を万面の星でキラキラと輝かせる。

とまあこのように、物部は一言で言えばすごく「分かりやすい」性格をしている。素直、純粋、天真爛漫………彼女から発せられる穢れを知らない子供のような雰囲気は、これらの要素が関係しているのだろう。
だからこそ容易に想像できる。昨日電話があったその時からもう楽しみで仕方がないという表情をしていた物部が、哀しみのどん底に叩き落され、目を伏せてZU~Nとしたオーラを漂わせながらも上条に心配を掛けまいと笑おうとするその健気な姿が何の苦も無く想像できる

これがインデックスだったら頭に齧り付かれて終わりだし、ぶっちゃけ上条もそういう直接的な制裁があった方が精神的にも肉体的にも(鍛えているので)楽なのだが、物部は「大丈夫だぞ?」と健気に笑いかけてくる為、それはもう罪悪感が半端ではないのである。自分が穢れきったダメ人間にしか思えなくなってきて、何かありとあらゆるものに「生きててすみません………」と謝罪したくなって―――――――――






―――とうま!聞こえるかとうま!!

上条「は、はぃいいいいいいいい!い、生きててすみません!!」



は?と突如として上条の脳内に話しかけてきた天真爛漫な尸解仙の声が一瞬停止した。
同じく、突如として叫んだ上条の声が古本屋の店内に響き渡り、他の客がいっせいに上条の方を向くが、上条はそんな事を少しも気に止めずに物部への弁解を始める。



―――ちょ、ちょっと待て。お主何を言って

上条「だ、大丈夫だって!もし予約が失敗してももう二度と手に入らない訳じゃないし、最悪今度の修行合宿の時に外の本屋で買っても良い!だからその笑顔という名の破壊光線で上条さんを見つめ続けるのはどうかご勘弁を―――!!」

―――だから何を訳の分からぬ事を言っておる、落ち着けド阿呆!


言うが早いか、上条の頭にハリセンで叩かれたような痛みが襲い掛かり、上条は頭を抱えて床に蟹股で座り込む。物部が何らかの術式を使って脳内にダメージを与えたらしい。まるで西遊記の孫悟空の様だと上条は思った。
















―――任務―――『みっしょん』だ
















その言葉を認識した途端、上条の中で何かが動いた。





まるで通常通り動いている警備ロボを非常用の戦闘モードに切り替える時のように、リミッターを外すように、上条当麻という人物のマニュアルがそのギアを別のものへと変換してゆく。




―――と、言っても『いつもの』ではない。『こちら側』の事情だし、ほとんど我個人のわがままだからそう身構え無くても良い。



物部がそう言っても上条の対応は変わることは無い。ただ静かに次の言葉を待つ。

これが別の人物、師匠や教授だったらもう少し別の対応をするのだが、普通は、というかめったな事で上条に『任務(ミッション)』を通達することの無い物部が、それでも上条に『師』としての立場からそう告げた。






―――が、事は一刻を争う。





純粋で素直。天真爛漫で健気。






そんな彼女が上条に『任務(死地)に赴け』と命令してくるという事がどういう事か。











―――『みっしょん』を通達する。今すぐ第七学区の古本屋と雑貨ビルの隙間の路地に赴き、ミサカ10031号を保護してくれ。










上条「………漫画、買ってけなくても文句言うなよ?」






その意味を理解している上条はホンの少しも迷う事無く、すぐさま本屋を飛び出した。





ここまで。遅筆ですみません;;

>>404 オウフ;先生ごめんなしゃあ;;

投下






靴が片方脱げた。




片足だけで履いていても走るのに邪魔だと感じた少女―――御坂美琴に良く似た少女は、もう片方も脱ぎ捨てて、なお走る。

暴れ狂う心臓の鼓動、不規則極まりない呼吸、明滅し混乱する思考。その一つ一つは、確実に彼女が狩られる側の人間である事を証明している。
背後に迫る影。
ほんの10mも無い距離まで接敵した白い少年は



「はっはァ!ンだァその逃げ腰は。愉快にケツ振りやがって誘ってんのかァ!?」


その狭い直線の路地で、逃げる場所も隠れる場所もない直線の路地で、それでも丸腰のままに『狩る側』の狂熱に溺れていた。


少女が手にした学園都市製のアサルトライフル―――F2000R『オモチャの兵隊(トイソルジャー)』の赤外線センサーにより分析、電子制御された五・五ミリの弾丸は、少年の体に当たった瞬間に四方八方に弾かれた。


おまけに弾かれた弾丸の一発が少女の肩に命中する。途端、びずっ、と肉を潰す音が響いた。



「………い…ぎ!」


少女の体がよろめく。とっさに壁へ手を突こうとしたところで足がもつれ、頭からコンクリートの汚い壁へ激突した。そのままずるずると地面へ崩れ落ちた所へ、


「ほらほら退屈しのぎに一丁ナゾナゾでもしてやろォか?さァって問題、一方通行(アクセラレータ)ははたしていったいナニをやってるでしょォかァ!?」



狂笑。少女が頭上を見上げれば、飛び上がった少年の足が全体重を掛けて少女の頭蓋骨を踏み潰そうとしている所だった。



「!」


とっさに汚れた地面を転がり、振り下ろされる足を回避。そのまま頭上を見上げるようにF2000Rを構え、引き金を引く。
ほとんどゼロ距離で、それも眼球に正確に当たったにも拘らず、やはり弾丸は柔らかい眼球に触れた瞬間横合いへと弾かれる。

白い少年は瞬きすらしない。

その白濁した顔に浮かぶのは、焼け爛れたような笑み。
その白い手が振り上げられる。一体どんな効果があるかも分からない手が。



「………っ!」


少女はとっさに空になったF2000Rを少年の顔へと投げつけ、同時にまだ動かす事のできる左手を振り回し、そこに『力』を集約させ、光の速度で突き進む雷撃の槍を解き放ち――――







その雷撃の槍が少年に激突した途端、文字通り光の速さで跳ね返って少女の胸を貫いた。
投げ付けたアサルトライフルは、粉々に砕け散っていた。









「が………っ!?」


ドン!と胸に木槌でも打ち込まれたかのような衝撃が走り、少女は地面を転がる。呼吸が止まり、全身の筋肉が不規則に動いた。
少女は震える唇で、とっさに言葉を紡ぎだす。



「反、射………!?」

一方通行「いや残念。そいつも合ってンだけど俺の本質とは違うンだよねェ!」


少女は何とか少年から遠ざかろうとする。だが、自分ではなった雷撃のせいで体が全く言う事を聞かない。



一方通行「答えは―――」


少年が歪んだ笑みを顔に浮かばせてナゾナゾの答えを少女に告げようとして、止まった。









この『実験』が始まって以来、はじめての出来事だった。









あからさまに動きを停止した事はあっても、それはその残虐性を示す為、より相手を恐怖させる為にあえて動きを停止した訳であり、今みたいに『驚愕して』動きを停止する事は今までに一度も無かった。












「『反射』じゃないのか。じゃあ『向き(ベクトル)』変換か?」














彼は『実験』におけるイレギュラー要因の対処法など、知らされてはいないのだから。












「はァ?」、と少年は突如として割り込んできた声に答える様にその体ごと後ろを振り返って―――



それと同時に、学生服を着たツンツン頭の少年が自分のすぐ真横を通り抜けて行った



一方通行「あァン?」


再び体を反転させ、先ほどの声の主であろうツンツン頭の少年を目線で追う。改めて少年の容姿を確認した彼の脳内に、ふと『不相応』という言葉が浮かびあがってきた。



この薄暗くキナ臭い路地裏にあの少年がいるのが『不相応』

この、ネジが飛んだ研究者ばかりが集っているイカレた実験に、どう見ても一般人にしか見えないあの少年が関わる事が『不相応』

この学園都市最強の超能力者である自分に少しも興味を示さず、緊張もせず、恐怖も感じていないあの様子が『不相応』



その、何もかもが『不相応』な少年は地面に仰向けに転がる少女の傍に素早くしゃがみ込むと、顔が驚愕一色で染まった少女の首と膝の裏に地面を掘るシャベルの様に両手を入れ、掬いあげる様にそのまま持ち上げて抱きかかえた。


ボロボロになった少女をいたわる様に、優しく、そっと。


そんな少年の様子を見た一方通行は先ほどまでの驚愕の表情を一瞬にして狂笑へと塗り替えた。



一方通行「ギ、ギャは、ぎゃはははははッ、なンだなンだよなンですかァ!もしかして不幸な少女のピンチに颯爽と現れた英雄(ヒーロー)ですかァ!?喜べ人形!一応、お前らみてェなのにも『助けよう』って思ってくれるような物好きがるみたいだぜェ!!」


都合良く現れる、それが当たり前の英雄の登場。突如として沸いた、映画や漫画であるような超展開。面白くないはずが無かった。



一方通行(何秒持つか分かッたもンじゃねェがな。まァせいぜい―――)


と、新たな狩りの獲物を発見した一方通行はそこで気づいた。







少年の学生服のズボンにある小さなポケット。そのポケットから野球ボール位の丸い形をした何かが地面に転げ落ちようとしている事に。
ズボンのポケットを離れ、地球が発する重力に従いゆっくりと落下していく野球ボール位の丸い球体は











地面に接触したその瞬間、大量の煙を路地裏へとばら撒いた。










一方通行「は?」


煙の色は白色。量は路地裏を埋め尽くすだけではあき足らず、表通りまでに及ぶほど。
あまりにも莫大な量のその煙は、上条と少女だけではなく、白い少年も今以上の白で覆い隠してしまう。





『まるで狩人の目から逃れるみたいに』





一方通行「………ッ!?」


二拍おいてようやく少年の意図に気づいた一方通行は大急ぎで『空気』の向き(ベクトル)を操り、周囲を取り巻く大量の煙を一瞬でなぎ払う。

が、当然のように少年と少女はそこから消え失せていた。



一方通行「あンの野郎ォ………!」


冷静になってみれば当たり前の事だ。学園都市最強のレベル5。運動量、熱量、電気量。あらゆる『向き』を皮膚に触れただけで変換可能。
弾丸、火炎、雷撃、核ミサイルでさえも傷を付ける事など不可能な一方通行に、真っ向勝負を挑む訳が無いのだ。


ならばどうするか―――その答えが『絡め手(これ)』だ。『戦わない事』が最善なのだ。
そもそもあの少年の目的は『あの少女を助ける事』であって『一方通行を倒す事』ではないのだろう。


『実験』や、時々自分に突っかかってくる馬鹿などあくまでも『自分を倒そうとする相手』との戦闘しか行ってこなかった一方通行だからこそ、対応が遅れた。一方通行が少しでも戦法というものを学んでいた場合、こうは上手くいかなかっただろう。少年が少女の下へ駆け寄った時点で逃げられることを警戒したはずだ。


苦虫を噛み潰したような顔をする一方通行は、そこで自分の耳に入る様々な雑音に気づいた。



一方通行(ちッ!さっきの煙で表通りにまで騒ぎが広がりやがったか………あの三下、ここまで計算に入れてやがったな………)


この程度のイレギュラーなど研究者達や学園都市の上層部がどうとでもするだろうが、だからと言って人の目が集まりつつある路地裏から堂々と出て行く訳にもいかない。面倒なことになる前にとっとと退散することにした。

連れ去られたあの人形を回収するにしろしないにしろ一方通行にとってはどうでも良い事でしかなかった。『実験』に使う『人形』のストック追加などいくらでも出来るだろうし、なにより―――






一方通行「だーッ、クソッ!消化不良すぎンぞ!!」









このどこから来るのかも分からないイライラを何かにぶつけて消さないと自分がどうにかなってしまいそうだったから。





















イラついている一方通行は自分が大きな勘違いをしているという事に気づかない。



ツンツン頭の少年は『戦えなかった』のではなく『戦わなかった』のだという事に。









ここまで。

メインキャストやシナリオはほぼ決まりつつありますが、東方キャラの皆さんはここで主張をしてくれると出番を増やすかも、そうかも………(謙虚な心でお願いします)

>>449
なお、年は1000と400歳ほど離れてる模様
物部ちゃん人妻じゃなかった?

上条さんの爺さんの家に封印の木箱が有ったのは偶然か

一週間以上空いてしまい申し訳ありませんorz
続きです

>>450 らしいですね。東方のキャラは元ネタを調べていくだけで設定や話が浮かぶので助かります。他の作品のキャラだとこうはいかないと思います。





上条「ふっざけんなちくしょう………ッ!!」


上条が古本屋の裏にある路地裏であの一方通行とか言う学園都市最強のレベル5から御坂美琴そっくりの少女を助け出してきてからもう一時間が経っていた。
第七学区の路地裏には物部の「人払い」の術が発動している為、あたりには自分と物部、そして少女を除いて誰もいない。
物部と合流した上条は、彼女が単独で収集した情報と『実験』の詳細を聞いてこれでもかと言うほど奥歯を嚙みしめる。物部は先ほどから上条が抱えて連れてきた気を失っている少女に得意の符術や仙術を使って治療を施していた。


なんだこれは。確かに学園都市では「記憶術」と表して人間に薬を飲ませまくり科学的に「超能力」を開発している都市だ。外と科学技術が2,30年進んでいる事も手伝い、この都市ではいわゆる『黒いウワサ』が絶えない。





学園都市に敵対する勢力を殺しつくして回るという四人一組の『秘密組織』



上層部の犬で、どんな残虐な命令でもこなすという『猟犬部隊』



学園都市最初の研究所で、こことは違う次元にあるという『虚数学区・五行機関』








………そして








物部「学園都市に七人しかいない超能力者の第三位。御坂美琴のDNAを用いて造られた軍用クローン『妹達(シスターズ)』………そしてそのシスターズを二万体殺害することで一方通行をレベル6にする『絶対能力者(レベル6)への進化(シフト)計画』………」




だからこそ、それはただの『ウワサ』だと思っていた。否、思いたかった。




上条は、地面に横たわって物部による治療を受け続けているミサカ10031号を見た。彼女がこんな大怪我を負ってしまった理由には、間違いなく自分が一枚噛んでいる。

御坂妹(あの固体はミサカ10032号らしい)と昨日初めて出くわした時から感じていた妙な違和感。そして捨てられていた黒猫を前にしての会話で御坂妹に感じた様々な不自然さ。
それだけで学園都市で行われている異常な実験に気づけというのは少々酷で悲観的かもしれないが、少なくとも物部は美琴との会話で得た情報と彼女から感じた「不」の感覚。そして「筋ジストロフィー」というキーワードを元に情報を探索してあっさりと真実にたどり着いている。一方でそれをみすみす見逃したばかりか、御坂妹とのん気な会話を交わし、あまつさえ彼女に黒猫を押し付けて一人にしてしまった上条。


無能、の一文字が脳内を駆け巡る。


少なくとも上条が美琴と会話した時に得た情報を想起し、物部が質問した「筋ジストロフィー」というキーワードに何かがあると気づけていれば10031号の実験が始まる前に彼女を助け出せていたかもしれない。


ここまでの大怪我を負わせることは無かったかもしれない。






自分の観察力と推理力の無さに、上条は悔しさで体が引き裂かれるかと思った。









「筋ジストロフィー」とは「病名」のひとつだ。



その病に掛かった人は、全身の筋肉が徐々に低下していく。




走る事も、歩く事も、ベットから起きる事も、最終的には「呼吸」という生きていく為に最低限必要な行為さえする事が出来なくなってしまう。

そんな恐ろしい病なのだが、未だに決定的な治療法は見つかっていない。(と、されている)


が「例外」はある。


人間の脳が筋肉に伝える各種命令は「電気信号」となって伝えられている。

つまり超能力である「発電能力」を研究し、その力を、生体電気を自在に操る力を患者に植えつけることが出来れば通常の神経とは違う法則で筋肉にを動かす事が出来る。そしてその為には―――







学園都市最強の発電能力者、御坂美琴のDNAからヒントを得るのが最適………







が、ここで一つ疑問が残る。







そもそも超能力者を開発している学園都市には、発電能力者(エレクトロマスター)なんて『腐るほどいるのだ』。少なくとも、研究に困らない程度には。




そして発電能力者の研究なんてしなくても筋ジストロフィーの患者を治療する方法なんて「いくらでもある」。

例えば普通の人間千人の体内にナノデバイスを打ち込んで四六時中三百六十五日電気信号を計測し続ける。そしてそのデータを元に、その時その時に応じて筋肉細胞を動かすのに最も適した生体電気を発電する機械を作り患者に埋め込むなど。何の変哲も無い普通の人間を研究しても対策なんてゴロゴロ沸いてくる筈なのだ。

もちろん、御坂美琴にDNAマップを提供してもらい、それを研究するというのも手だが、それはつまり裏を返せば「超能力者御坂美琴のDNAマップを正規ルートで手に入れることが出来る」という事になる。





そしてこの結果に「悪意」が加わるとどうなるか





貴重な超能力者(レベルファイブ)のクローンを大量に造る事が出来る―――




それは、科学者にとって一つの病気の撲滅よりもずっとずっと興味深い事なのかもしれなかった。









物部「嫌な予感がしたんじゃ………くそ!」


御坂美琴のDNAを基に造られたクローン、妹達(シスターズ)。その内、10031番目に造られたという固体「ミサカ10031号 (呼びにくいので今後はミイ(31)号と呼ぶ)」に治療を施しつつ、上条以上に悔しそうに顔を歪めながら吐き捨てるように物部は言った。

上条の知らない世界を、知らない時代を生きている彼女には、上条以上に思う所があるのかもしれない。



物部「これだけ肥大した組織が持っているのが善の一面だけ、というのはまずありえん………分かってはいた、しかし………!」


こめかみに皺を寄せる物部に、上条は違和感を覚えた。半人前で未熟者の上条だって内から沸きあがる『正しいと思う感情』にのみ身を任せていると言う訳ではない。上条なりの、ちゃんとしたいくつかの『理由』があり、このふざけた実験を止めたい。という意思に拍車を掛けている。
しかし今の物部からは『信念』だとか『明確な理由』以外にも、なんというか鬼気迫るものがヒシヒシと感じられる。


それは怒りや悲しみなどといった単純なもので例えられるようなものではなく、上条のような「子供」では少しも理解することが出来ないようなとても複雑なもので、物部布都という人物(おとな)の知られざる一部分だった。









だが、それでも物部を、今の上条でも表現できるたった一言で表すのだとすれば―――









何かの痛み耐えているように感じられた。








物部「………潰すぞ」


やがてミイ号の治療を終えた物部は、ゆっくりと立ち上がりながら言った。
大量に血を失い、いくつかの骨が砕け、今にも息途絶えそうだったはずのミイ号は、物部の符術により血を補充され、仙術によって骨を接がれ、驚くほどの回復ぶりを見せていた。

ミイ号に施したのはあくまでも彼女なりの「緊急処置」でしかないのだが、そんな事は誰も信じないだろう。



物部「このふざけた実験を必ず潰す」


稀にしか見ない、稀にしか聞けない、彼女の真剣な表情、真剣な声は「禁書目録事件」の時と同じく、間違いなく彼女なりの思惑と信念がそこにあるのだという事を伝えてくる。




物部「命を手前勝手な理由で造り、弄ぶ。それだけでなく死ぬことを強要し、それが当然だと教え込むなど言語道断………」



彼女から感じ取れるのは怒り、悲しみ、嘆き。そして、そういった一時の感情には決して振り回されないという、とてもとても強い意志。






それを、上条は『強い』と思った。






自分の中の正義にただ従い、やるべき事を戸惑わず行い、躊躇う事無く前に進むことが出来る。






彼女が、物部布都こそが。あの一方通行とかいう超能力者よりもずっとずっと―――











物部「いくぞ、当麻!我らが住まう領域で外道な行いをすると言う事がどういう事か、このふざけた実験を執り行おうとするうつけ共に思い知らせてくれる!!」













『最強』に相応しい。と思った。





ここまで。布都ちゃんや神霊組みの構想を練っていたらいつの間にか歴史の勉強をしていた。何を言っているか(ry

>>284 (今更ですが気づいたので)あ、すみません麟さん。あなたの出番は『あるんですよ(作者補正)』スタンばっといてくださいね………ずっと後ですけど(ボソッ)

追記 

>>454 の筋ジストロフィーに対しての作者の考察ですが「ぶっちゃけ美琴を研究しなくても学園都市なら余裕で対策立てられるだろうし、やっぱりDNAマップ欲しかっただけだよなぁ」という事に上条さんと布都ちゃんが気づいているという事を示したかっただけであり、あれで本当に筋ジストロフィーという病気へと対策になるとは思えません、あしからず。

>>457

これはまた無謀なことを

某絵師様の名状しがたい魔改造ならともかく
存在のほとんどが二次設定(とファンの補完)のキャラ
(公式で台詞皆無、だからこそ台詞を書くわけにはいかなかった)
をssで起用とは

‥一応言っときますと
クロスssでオリキャラ(特にオリキャラ無双)は取り扱い注意です
お気をつけて

大変遅くなってしまい、申し訳ありません;;続きです

>>469 ご忠告、ありがとうございます。『完全なオリキャラ』については存じておりますし、登場させる気はありません。ただ、『有名な』二次創作キャラ(麟やその他釣りキャラ)は出します。







空の色は闇夜の海のような黒色へと変わっていた。



今宵は三日月。嘲笑う口に似た細い月の光は弱すぎる。町の中心部から離れた鉄橋は街灯もなく、眼下の川の黒と重なってそこだけ黒色に沈んでいるように見えた。

御坂美琴は一人手すりに両手を付いて、ぼんやりと遠い街の明かりを眺めていた。
少女の周りにパチパチと青白い火花が散る。

雷撃と聞くと恐ろしいイメージがあるが、彼女にとってそれは優しい光だった。初めて力を使えるようになった夜の事は今でも忘れない。布団の中に潜って、一晩中パチパチと小さな火花を散らしていた。
それは星の瞬きに見えた。大きくなって、もっと強くなったら、いつか星空を作ることができるかもしれない、と本気で考えていた。




そう、大きくなる前の美琴なら。




御坂「………」


今となっては、自分には夢を見る資格も無いと美琴は思う。



御坂「どうして、………」


………こんな事になっちゃったのかな、と。美琴は震える唇で呟いた。
もちろん決まっている。筋ジストロフィーの研究の為、という大義名分にそそのかされた幼い美琴が不用意にDNAマップを提供してしまったせいだ。

あの白衣の男が最初から嘘を付いていたのか、それとも健全な研究が途中で変質したのかはもう分からない。
かつて、困っている人を助けたいと願った少女がいた。
しかし、そんな少女の願いは、結果として二万人もの人間を殺すことになった。



御坂「………たすけて」


脅え、傷つき、ボロボロになった呟きは、ただ闇に消えてゆく。



御坂「たすけてよ………」


決して誰にも届かない叫びが、耐え切れずに少女の口からこぼれていく。
と、その時




カツ、という足音が、聞こえた。




御坂「………」


美琴は、顔を上げる。
灯り一つ無く、針のように細い三日月の光だけが、ただ少女の取り巻く環境を表現しているかのような、闇吹く夜の鉄橋に




上条「………おっす。何やってんだよ、お前」


その少年は、闇を引き裂くように、やってきた。
暗闇に飲み込まれる少女の叫び声を聞いて駆けつけてきた主人公(ヒーロー)のように、やってきた。





美琴は夜の鉄橋に一人、ぼんやりと立っていた。



遠くから見えた少女の姿に、上条は正直、胸が潰れるかと思った。あまりにも弱く、もろく、今にも消えてしまいそうなほど、疲れきった少女の横顔。
やはり、というかなんと言うか。誰かのこういった表情は『何度見ても見慣れない』と上条は思う。
そして同時に、それで良いんだと思う事が出来た。ああいった表情に何も感じなくなってしまったら、それこそ『終わり』だ。



上条「こーんな遅くまでたった一人で夜遊びするなんて上条さんは許しません!今すぐそこに正座してごめんなさいするならいつかのように夜通しナイトフィーバーに付き合ってあげても良いんですがいかがでせうか?」


ふざけてるようなその声に、美琴は上条の顔を見た。
そこにいる美琴は、いつもの通り活発で、生意気で、自分勝手な御坂美琴だった。



御坂「ふん。私がどこで何してようが勝手じゃない。私は超能力者の超電磁砲なのよ?夜遊びした程度で寄って来る不良なんて危険の内にも入らないわよ。つーかナイトフィーバーって何よ?そもそもアンタになんか言われる筋合いなんてないけど」


しかし、その姿が完璧だからこそ、上条はその裏側を見たような気がした。
だからこそ、こっちが先に演技を崩す訳にはいかなかった。




上条「んー。そりゃそうなんだけどさ。一人より二人、二人より三人の方が『宴会』は楽しいし『ごっこあそび』は盛り上がるし………」

御坂「は、はぁ?アンタ一体何を言って―――」










だから、上条は言う。










上条「お前の妹達を使ったふざけた『実験』を止めるのも、楽になるだろうからさ」

御坂「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」









その瞬間、御坂美琴の日常は木っ端微塵に砕け散った。
恐らく自分でも顔の筋肉をどう動かしているのか分かっていないのだろう、美琴の頬が壊れたように引きつっていた。

上条の胸がズキンと痛んだ。

恐らく彼女が自分を押し殺してでも守ろうとした何かを、上条はその手で破壊した。
それでも上条は前に進もうとするが














御坂「あーあ、なんでそこまで首つっこんで来ちゃうのかなぁ?」









まるでそれを遮るように、美琴は言った。











御坂「アンタ何者よ?昨日私のクローンに会ったばっかでここまで辿りつくなんて探偵になれるわよ………ってか、まさかとは思うけど私の部屋に勝手に上がり込んで家捜ししたりしたんじゃないでしょうね?もしそうだとしたら死刑よ死刑」


美琴は何の気なしに、いつものように笑いながら言った。言葉から察するに、もしかしたら『実験』に関するレポートの一つや二つ入手して隠し持っていたのかもしれない。
まるで何か吹っ切れたような笑みが、上条には余計に痛々しかった。



上条「………ンなこと(少なくとも俺は)してねーよ」


『あいつ』はどうだか分かんねーけど。と美琴に聞こえないように語尾にボソッと付け足す。
あっそ、と美琴は言うと



御坂「それで、一つだけ聞いても良いかしら?」


ほとんど強制的な美琴の明るい声。上条が反射的に『何だよ』と聞くと









御坂「結局、実験を知って、事実を見て、あんたは私が心配だと思ったの?私を許せないと思ったの?」









美琴は妙に明るい声でそう言った。
まるで、糾弾しに来たのは分かっているとでも言っているような、世界中のどこにも自分を心配してくれる人などいないとでも言っているような―――









上条「心配したに決まってんだろ」









そんな美琴の声に、上条はとうとう『仮面』を脱いだ。




押しつぶすような低い声に、美琴は少しだけびっくりしたような顔をして



上条「で、お前は何をしてるんだ?いや、何をしてたんだ、ってのが正確か」


上条は一拍置いて



上条「確か筋ジストロフィーって病気を研究してる施設がここんとこ立て続けに撤退を表明してる、って飛行船のニュースでやってたよな?ほら、今日の夕方、お前と偶然鉢合わせた時だよ。ま、その時は『実験』の事なんて少しも知らなかったんだけどさ………なぁ、それってさ―――」

御坂「………アンタの予想通りだと思うわよ?」


ゾッとするほど、感情の消えた声。
それまでの彼女を知るものならば、それだけで凍りつくような透明な声。



御坂「あってるわよ、それで。ま、っつっても馬鹿正直に超電磁砲ぶっ放したって訳じゃないけどね」


美琴は歌うように続ける



御坂「研究所の機材って一台数億とかするでしょ。そいつを、ネットを介して私のチカラで根こそぎドカン、ってね。結果として機能できなくなった研究所は閉鎖、プロジェクトは永久凍結………」

上条「しなかったんだろ」


上条は謳(うた)うようにそれを止める。



上条「じゃなきゃお前がこんなとこでくすぶってる訳ねーもんな。大方、どれだけ研究施設を潰そうが『実験』は次から次へと他の施設に引き継がれちまう、ってとこか」

御坂「………」

上条「ンでもって、人工衛星で常に監視されている学園都市(このまち)でそんな外道な実験を平然と行ってるって事は統括理事会………まぁ一部だと思いたいけど、その馬鹿野郎達はこの『実験』を黙認、最悪推奨してんのかもしんねーな」


だから実験に関する決定的な証拠を掴んでいても、警備員(アンチスキル)に駆け込むことも、統括理事会に密告する事も出来ない。そんな事をすれば逆にこっちが捕まりかねない。
美琴は、はぁ、とため息を付いて。



御坂「アンタ、本当に何者よ。まさか学園都市の薬で体が縮んだ中高年探偵とかじゃないでしょうね」


どこの漫画だよそれ。と上条は呆れたように言った。
実際、学園都市ならそういった類の薬があるだろうから笑えた事ではないのだが。



御坂「ええ、そうよ。きっと、お偉い研究者さんには前人未到の絶対能力(レベル6)ってのがよっぽど美味しく見えるのね」


少女の声は、本当に疲れきっていた。
まるで、千年を生きて人間の闇を全て見つめてきたような、達観した絶望がそこにあった。



上条「………」


そんな美琴を見て、上条はつい考えてしまう。



本当にそれだけの長い時間を生きている者が見てきた、体験してきた『闇』は、一体どれ程の物なのだろう、と。






上条も、美琴も、何も言わない。
暗闇に解けて消えてしまうようなその沈黙を破ったのはカッ、という美琴の靴が地面を踏みしめて鳴る音だった。



上条「どこへ行く気だ?」

御坂「『実験』は今夜も行われる」


美琴は、まるで戦地に赴くような表情で





御坂「これは私の引き起こした問題よ。私自身の手でケリをつけてやる―――!!」





そう勇みこむ美琴の前に





上条「………」





上条は立ち塞がった。





御坂「………何よ」

上条「………」

御坂「どいて」

上条「いやだ」


びっくりしたような顔をする美琴に、上条はさらに言い放つ。



上条「俺は言ったんだ、この俺が言ったんだぜ。『知ってる』って。お前に一方通行は倒せないよ。だって、そんな事が出来りゃお前は真っ先に向かってるだろ。ちょっと怒っただけで俺にビリビリを飛ばしてきたお前が、ここまでされて黙ってるはずないだろ」

御坂「………」

上条「研究所を潰すとか、理事会に報告するとかさ。お前にしちゃ考えてることがどうも回りくどいとは思ってたんだ。お前は気に入らない奴がいたら正面から殴りあうタイプだろ。証拠を見つけて先生に密告するようなタマじゃねーだろうが」







上条は一拍、息を吸い。



上条「ま『皮膚に触れただけでありとあらゆる力のベクトルを操る事が出来る』なんて、一見誰にも勝てなさそうな能力持ってる奴が相手じゃしょうがねぇと思うけどさ」


それに、そんな理屈はなくても美琴には一方通行は殺せないと上条は思う。
御坂美琴は、妹達(シスターズ)が死ぬのが許せなくて立ち上がった人間だ。
そんな彼女が、誰かが死ぬのを止めるために、別の誰かを殺すことを良しとする筈がない。



でも、と上条は





上条「それでも上条さんは、少しくらい相談して欲しかったなー、って思うわけですよ」





上条の言葉に、美琴は少しだけ黙り込んだ。
夜の鉄橋には、風鳴りの音すら聞こえない。








御坂「………超電磁砲を128回殺せば、一方通行は絶対能力へと進化することが出来る」



美琴は闇の中で、ポツリと呟いた。






御坂「けれど、超電磁砲を百二十八人も用意することは出来ない」



美琴は孤独の中で、歌うように言った。






御坂「だから、超電磁砲の劣化コピーとして二万人の妹達を用意する」


だとしたら、と美琴は楽しい夢でも語るように下を滑らして。











御坂「もしも、私にそれだけの価値がなかったら?」







上条は、息を呑んだ。





御坂「128回殺しても、絶対能力になんか辿り着けない。研究者達にそう思わせることができたら?」


そう言って、少女は笑っていた。





御坂「実際『樹形図の設計者』は一方通行と超電磁砲が戦えば逃げに徹しても185手で私が死亡する、という結果を出している。けど、もっと早くに勝負が決まってしまったら?最初の一手で私は敗北し、後は地を這って尻を振って無様に逃げ転がることしかできなかったら?」


そういって、少女は本当に楽しそうに笑っていた。





御坂「その結果を見た研究者たちは、きっとこう思う。『樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)』の予測演算は素晴らしいけど、それでも機械のやる事にはやっぱり間違いだってあるんだ、ってね」


そう言って、少女はボロボロの笑みを浮かべていた。





『実験』を行う研究所をいくつ潰しても、他の研究所が『実験』を拾ってしまうのでは意味がない。彼らを止めるには、そもそも『実験』が何の利益も生まない、無意味なものだと思わせなけばならない。
だから、美琴は一方通行と八百長の勝負を仕掛けようとした。
ハッタリでも演技でもして、とにかく研究者達に『実験』の根幹となる『演算結果(シミュレーション)』が間違っていると思い込ませようとした。



たとえ、自分の命を犠牲にしてでも。












そんな美琴の決意と思いを












上条「馬っ鹿じゃねぇの?」




上条は、たった一言で打ち砕いた。







上条「そんなもん、何の意味もねーだろうが。肝心の『樹形図の設計者』でもう一度演算されちまったら終わりだろ」

御坂「………ああ、大丈夫。それはないわよ。『樹形図の設計者』はね、実は二週間ぐらい前に地上からの原因不明の攻撃で撃墜されているの。上はメンツを守る為に隠し通そうとしてるみたいだけどね。てか、アンタこっちは知らな―――」

上条「それに」



美琴はホッとしたような顔で何かを言おうとしたが、上条はそれを許さない。



上条「もし『樹形図の設計者』が誰かに破壊されていてもう演算をする事ができねぇとしても、研究者達の誰かがお前の演技に気づいちまえばそれでアウトだろ。つーか、もっと間抜けな展開として『予測演算はどこか間違ってる』って判明してもそのまま『実験』を続行しちまう場合だってあると思うんでせうが?」

御坂「っつ―――!」


上条の的確な矛盾の論破に、美琴は小さな子供が親に悪戯がばれた時のような表情を浮かべる。





上条「………つーかさ」


上条は、ポツリと呟いた。














上条「言ったよな。知ってるって」



それこそ、子供がした悪戯を、最初から全て知っていたと告白する、親のように。




ここまで。暑かったり寒かったり困った気温ですね。春告精さんはなにやってるんでしょうか?

すみません、本当にすみませんorz ちょっと私的な事で二週間以上遅れてしまいました。書き溜めてたって事もあるんですが、なにぶん、キリが良い所まで一気に投稿しちゃいたいと思っているので………ゆえにいつもよりも少し大目です。




上条「一応確認しとくぞ『お前、死のうとしてるんだな』」


宵闇が覆い、三日月が照らす鉄橋の中心で、上条は言った。
ええ、と美琴は頷いた。
即答だった。上条に自分の願いを否定された直後にもかかわらず、だ。



上条「お前が死ぬ事で、残る一万の妹達が救われるって、本気で信じてるんだな」


ええ、と美琴は頷いた。
苦しそうに、寂しそうに頷いた。
そっか、と上条は寂しそうにポツリと呟いた。

そうして、美琴は一歩だけ足を動かし、改めて上条と向かい合った。



御坂「さあ、そこをどきなさいよ。『知ってる』んでしょ?あんたの主張には一理あるけど、もうこれ以外に手はない。私はこれから一方通行の元へ行く。すでにデータを盗んで二万種の『戦場』の座標(ばしょ)は調べてある。だから、妹達が戦場で戦う前に、私が割り込んで戦いそのものを終わらせてやるわ」


だからそこをどきなさい、と美琴は言った。



上条「………」


上条は歯を食いしばる。
確かに、世の中には殴り合いで解決できない問題なんて腐るほどある。上条はそれを知っている。
社会が作り出す『組織』という名の力は、たとえ上条の師匠達であっても『良い方向に変える』事は至難の業だ。
ましてや未熟者で子供の上条では話にすらならない。今までだってそうだった。

上条は、もう一度歯を食いしばる。

脳裏に浮かぶのは御坂妹の事だった。無償で散らばったジュースを集めてくれて、三毛猫のノミを取ってくれて、けどどこか無防備で、猫に嫌われる自分の体質を気にしていて。彼女は何も悪い事をしていないのに、このままでは確実に殺されてしまう、という事実を奥歯で嚙みしめて




上条「どかねぇよ」




上条の言葉に、美琴は心底驚いたように上条の顔を見た。



御坂「どか、ない。ですって?」


ああ、と上条は立ち塞がるように、言った。
こんな美琴を前に、あんな話を聞いて。いまさらどくことなど、できるはずがない。
上条は思い出す。路地裏でミイ号の治療を行い、カエル顔の医者がいる病院に(こっそり)預けたあとの事を。



物部は上条にこう告げていた「いますぐ鳴神娘を探せ『あやつが心配だ』」と。



その言葉を聞いた瞬間、上条は一瞬だけ固まった



美琴が上条に電撃を浴びせるだけでこめかみに皺を寄せ、怒りが頂点に達した時は符術で撃退しようとしていた物部が
何かあるたびに見えもしなければ声も聞こえないくせに美琴に説教をかまそうとしていた物部が
上条に「あの娘は好かん!」とぷりぷりと不機嫌そうに言っていた物部が、何の迷いもなくそう告げてくれた。


その意味を理解した瞬間、上条は自分でもビックリするくらい笑っていた。





そうだ。考えてみればそうなのだ。


本当に好かない人に対し、関わろう、とは思わないはずだ。本当にどうでもいいと思っている人物に、説教をしてやろう、とは思わないはずだ。


上条としてもまずいま美琴が何をしているかが気になったのだが、言った途端に反対されると思っていた。
『実験』を止める方が先決だと、そんな事は後で幾らでもできると。

実際そうだと思うし、自分たちはこれ以上の『実験』が行われるのを、妹達が殺されるのを防ぐ為に動こうとしているのでそれが最優先事項であるという事は分かるのだが、そういった理屈を理解しても、上条はそれを受け入れたくなかった。妹達と同じくらい、美琴のことも心配だったから。


感情的で、考え無し。どうしようもないくらい子供な意見を物部は肯定してくれた。


もちろん、彼女は上条のように何の考えも無しに美琴のところに行けと言った訳ではない。
『御坂美琴』という人物がこの『実験』の事を知っていた場合、何をしでかそうとしているのかが安易に想像できたからこそ、彼女は上条を美琴の元へと向かわせたのだ。理由は馬鹿馬鹿しいくらい簡単で、上条のそれと同じもの。







物部も、美琴が死ぬという結末(デッドエンド)は、絶対に認められなかったから。







美琴が、妹達の為に命まで捨てようとするような人が、自分より他人の事を思う少女がボロボロに傷ついて、誰も知らないところで一人、殺されて―――そんな結末だけは絶対に見たくなかったから。







だが、美琴は納得しない。
わなわな、と。怒りに唇を震わせながら



御坂「じゃあなによ。アンタには他に方法があるって言うの?」


暗く、怒りに満ちた表情が美琴の顔に浮かぶ。



御坂「何も出来ないくせに綺麗事や理想論で語らないで」


虫唾が走る。と、美琴は言った。

それはそうだろう。例え今どれだけ力や知識があった所で上条に出来る事など限られている。

上条に様々な教えを説いた師匠達にも、それを言われた。
安易に綺麗事や理想論を吐くなと、そんなに生易しいものではないと。



上条「………それでも、嫌なんだ」


それをキチンと理解した上で、上条は告げた。

迷い無く、ハッキリと。
それが当たり前のように言った。


美琴は一瞬、ほんの一瞬、何かびっくりしたような表情を顔に浮かべたが、その表情は、すぐに怒りの中へと消えていった。





御坂「………話にならないわね。まさか、クローンだから死んでも構わないとか言うんじゃないでしょうね」


勿論、そんな事は欠片も思っていない上条だが、美琴の帯電から来る青白い火花は止まらない。



美琴「私の邪魔をしようってんならこの場でアンタを打ち抜く!嫌ならそこをどきなさい!!」


上条は、黙って首を横に振った。
美琴の唇の端が、歪む。



御坂「ハッ、面白いわね。それじゃ、力づくで私を止めるって言うの?良いわよ、それならこっちも遠慮はしない。アンタがどんな力を持ってるかは私には分かんないけど、今回ばかりは負ける訳にはいかない。だからアンタも死ぬ気で拳を握りなさい―――」


バチン、と美琴の肩の周りからひときわ大きな青白い花火が散った。



美琴「―――さもなくば、本当に死ぬわよ」


溢れ出た火花はブリッジを描き、鉄橋の手すりに繋がって霧散された。

上条と美琴の距離はわずか七メートル。
上条としては瞬間的にその距離を0に出来る範囲だが、美琴にしてみれば光速の雷撃の槍をいくらでも放てる射程距離圏内。
どちらにとって有利で、どちらにとって不利な間合いなのかは一目で分かる。

きっと、目の前の少女には、もう上条の言葉は届かない。
言葉が届かない以上、もう止められる方法なんて一つしかない。



上条「………」


上条は、その右手を横合いへ突きつけた。
握った拳を開く。まるで右手の封印を解くような仕草。
上条は、一度開いたその右手を『もう一度しっかりと握り締めて』










そして、自分の胸の前で両の腕を∞の字に組んだ。










まるで天下の宝刀を、唯一無二の鞘に納めるかのように。しっかりと握ったその右手は、左の脇の間にスッポリ収まっている












御坂「なに、やってんのよアンタ………」

上条「………仁王立ち?」

御坂「ッ、そういう事言ってんじゃない!!」


美琴は激昂して



御坂「アンタ、本当に馬鹿じゃないの!無抵抗(そうして)たら私が手を出さないと思ってんの?私にはもう他に道なんて無い!無抵抗だろうと邪魔をするなら撃ち抜くわよ!!分かってんの!?」

上条「ああ、分かってる。………それでも『戦わない』」


地獄が口を開いたような美琴の罵倒は、しかし上条の言葉にかき消された。



御坂「フッザけんな!!」


瞬間、美琴の前髪から雷撃の槍が生み出された。

自然界で生み出される雷の最大電圧は10億ボルト。
美琴のそれは雷に匹敵する。

10億ボルトもの壮絶な紫電で生み出された、青白い光の槍、空気を突き破る雷撃の槍は空気中の酸素を分解してオゾンに組み替え、一瞬にして七メートルの距離を詰めて上条へと襲い掛かる。


ズドン!という轟音。
青白い雷撃の槍は、上条の顔のすぐ横を突き抜けた。



御坂「闘う気があるなら拳を握れ!戦う気が無いなら立ち塞がるな!半端な気持ちで人の願いを踏みにじってんじゃないわよ!!」


バチン、という凶悪な咆哮と共に美琴の前髪から火花が炸裂する。
まるで、さっさと拳を握れと催促している様な、美琴の攻撃。
上条は、それでも拳を握らない。







御坂「………戦えって、言ってんのよ―――――――――ッ!!」







そして、凶暴に吼える雷撃の槍が、上条の心臓へと直撃した。







御坂「え?」


初め、目の前の光景に一番驚いたのは、上条よりも美琴の方だった。

美琴は、上条の力がどんなものかを分かっていない。けれど、これまでのケンカでは一度だって攻撃が当たる事は無かった。その正体不明の力にこちらの攻撃を打ち消されるたびに、ドンドン美琴の攻撃はエスカレートしていって、いつしか上条はどんな攻撃だって簡単にあしらっていくような、そんな無敵の存在に見えていた。

だからこそ、美琴は雷撃の槍を撃ったのだ。
これぐらいの攻撃なら、あの少年はあっさり打ち消すはずだと。
歪んではいるものの、ある意味で上条を信頼して。




御坂「なのに………」


………、こんなの、何かの間違いだ、と。美琴は思った。
十億ボルトもの高圧電流をまともに浴びれば、人間の体がどうなるかぐらい美琴だって分かっている。あの少年は砲弾に薙ぎ倒されるように地面に叩きつけられていなければおかしいはずだ。









………、それなのに。









上条「………」

御坂「なんで、アンタは平気なのよ………!」




美琴の雷撃の槍は、上条の不思議な力に打ち消された訳ではない。間違いなく上条の体に直撃した。

だが動かない。地面を踏みしめるその二本の足は一センチも動いてはいない。
だが倒れない。こんな事で倒れる鍛え方はされてはいない。

平然としている上条を見て美琴が脳内に思い浮かべたのは、何週間か前、公園で自分と激突(といっても美琴から一方的に決闘を申し込んだのだが)した白い学ランを着た不思議な男子学生だった。
やはり同類なのか―――とも思ったが向こうは面識などなさそうだったし、なにより目の前に立ちはだかるこの少年の力は、何かもっとイレギュラー的な存在に見えた。



上条「お前が毎晩駆けずり回って一方通行をぶっ倒す手段を探してたってんなら、今からあいつを本気でぶちのめすつもりで戦いに行くから邪魔するなってんなら、もっと迷ったかもしんねぇよ」


少年は、懐かしそうに橋の下にある河川敷に視線を移して



上条「なぁ、覚えてるか?いつか、この下にある河川敷でケンカした時の事………ははっ、なんだかずいぶん昔の事みたいに思えるけど、つい数週間前のことなんだよなぁ………」

御坂「………」

上条「………正直さぁ」


上条は、少しだけうつむきながら



上条「お前が本気の本気で俺と試合する事を望んでるってんなら、ちょっと位相手してやってもいっかなぁ………とも思ってたんだ。気乗りはしないし、嫌だけど、それでもお前が真剣に相手をしてほしい、ってんならな」

御坂「っ!!なら―――」


でもな、と。上条は区切って





上条「少なくとも『今の』お前とは戦えない。一方通行の所へは『行かせない』。少なくとも、最初から全部を諦めて死のうとしているような、それで全てが解決すると思っているような子供(おこちゃま)と戦うことは出来ない」


な………、と美琴は思わず絶句した。



御坂「アンタ、やっぱり私を馬鹿にしてるの!?私のどこが子供だっていうのよ!!」

上条「子供だろうが!!」


突然大声で怒鳴った上条に、美琴はそれこそ親に叱られた子供のようにビクリと肩を震わせた。



上条「………お前だって気づいてんじゃねーのか?こんな方法じゃ、誰も救われないって。例え、お前が死んで、一万人の妹達の命が助けられたとして、そんな方法で助けられて残された妹達がお前に感謝するとでも思ってんのか?お前が助けたかった妹達ってのは、そんなにちっぽけなもんじゃねえだろ!」

御坂「うるさい!もう黙って戦いなさいよ!私はアンタが思ってるような善人じゃない!十億ボルトもの雷撃の槍を浴びて、一体どうしてそんな事にも気づけないのよ!」


美琴は威嚇するように、さらに雷撃の槍を放つ。
だが、やはり上条は組んだ手を解かない。直進した雷撃の槍は、真っ直ぐ上条の胸に直撃する。
それでも、上条は倒れない。どれだけ攻撃を食らっても、上条は絶対に倒れない。

………気づくのはテメェの方だ、と上条の口が動いた。

美琴は訝しげに眉を顰めたが



上条「妹達はどうする気だ?」


え?と美琴は思わず呟いた。



上条「お前が死んで、その後の事はちゃんと考えてあるんだろうなって言ってんだ。………今もそうだけど、学園都市の研究者たちが超能力者のクローンをまともな人間として扱ってくれると思うか?普通の生活を送れる様にしてくれると思うか?今よりもっとヤバイ実験に付き合わされたりする可能性だってあるんだぞ」

御坂「―――ッ!!?」


美琴はそれこそ頭を雷を打たれたような気がした。


そうだ。普通に考えればすぐにでも思いつくような事だ。
妹達にここまでの実験を強いた研究者たちが、今更、妹達に普通の学生と同じ様な生活をさせるだけの博愛あふれるような行為など、行ってくれる訳がない。

妹達はクローンだ。ただでさえ国際法に違反している存在であるのに、加えて超能力者である御坂美琴のクローンとなれば、どのような結末を辿るかなど、想像に難しくない。最悪、証拠隠滅の為に全員殺処分にされてしまうかもしれない。

そうなったら、どうする?泣き叫ぶ事すら出来ない妹達すら助けてくれるようなヒーローが登場するのに賭けるのか?



御坂「―――ッ!!?」


そうだ。美琴の行おうとしている事は、結局そういうことなのだ。
責任を放棄し、自分だけ逃げてしまうような、人の都合を考えず、自分の主張のみを無理やり押し通すような、我侭で自分勝手な子供同然の行いなのだ。



上条「本当に妹達の事を考えるなら、死んでほしくないって願ってるってんなら………」


あ、う………、と美琴は混乱するように上条を見た。
その目は、まるで道に迷った小さな子供のように揺らいでいた。




かつて、誰にも聞かれないように『たすけて』と呟いた少女がいた。


その少年は、少女の叫びに答えるように現れた。


でも、自分にはそんな資格すらないと思っていた。


自分のせいで、もう一万以上の妹達が殺された。


だから、今更そんな優しい言葉をかけてもらえる資格などないと思っていた。仮に、誰もが笑って、誰もが望む、そんな幸せな世界があったとして。そこに自分の居場所なんかないと思っていた






だが仮に






上条「妹達の事を誰よりも考えられるお前が、あいつらのそばにいなきゃいけねぇはずだろうが!」






そんな世界に少女がいなければ、少女が生きていなければ、妹達は『決して救えない』としたら






御坂「………よ」






それ以外に妹達を救う方法が残されていないとしたら






御坂「………ってのよ」






妹達に残っているのは残酷な終わり(バットエンド)だけだとしたら―――










御坂「じゃあ、どうしろってのよ!!」






ついに耐え切れなくなったかのように、美琴は叫んだ。


美琴の体から周囲にあふれる紫電の火花の音色が、重く鋭く変化していく。
まるで得体の知れない兵器が起動したように、音階がどんどん上がっていく。



上条「………」

御坂「計画を!今!すぐに!中止に追い込む!!妹達も殺させず、私も死なない。それしか他に方法がないってんなら、あの子達を救えないってんなら………!」


どうしろっていうのよ、と。美琴は叫んだ。


理屈は分かる。
理由も分かる。
でもだからと言ってどうしろというのか。


皆で笑って、皆で一緒に、元の居場所へと帰る。
そんな夢のような世界を作り出すことなど、美琴には出来ない。





上条「頼れば良いだろ」





上条の言葉に、美琴は心底びっくりしたように息を呑んだようだった。



上条「友達や先生、後輩や先輩。親御さんに………恋人、はまだいねぇか。そういう人たちに頼って良いんだよ。力だけじゃねぇ。知恵を借りても良いし、支えになってもらっても良い。………お前は危険な事に自分の大切な人達を巻き込めない、って思ってるんだろうし、その判断も決して間違いなんかじゃないと思うけど………」



上条は、ゆっくりと語りかけるように



上条「一人じゃ解決できない問題があるなら、頼って良いんだよ。どうしようもないくらい辛いなら、誰かに泣きついて良いんだよ。お前が死ぬ事が、いなくなる事が、辛いって思ってくれる人は、なんの理由もなく立ち上がってくれる人は、お前が考えてるよりずっと多いと思う」

御坂「や、めて………」


少年の言っている事が、かけてくれる言葉が、美琴の凍りついた涙腺を、まるで温かい太陽の光を浴びせるかのように溶かしていく。

だが美琴は必死に堪える。



上条「俺だってそうさ。お前の味方で良かったな、って思ってる。………だから」



泣くなよ、と。いつの間にか近づいてきていた上条が、その手が、美琴の頭を優しくなでて。





今度こそ、とうに枯れ果てたと思っていた涙腺から、錆付いた涙がこぼれ落ちた。




自分には、もう誰かに頼る事が出来る資格なんてない。
そう思っていた美琴の幻想は、完膚なきまでにぶち壊された。


ここまで。

三巻を読んだ時から思っていた事ですが、美琴は自分が死んだ後、妹達がどうなるかとか少しも考えなかったんでしょうか?少なくとも普通の生活なんか送らせてもらえるとは思えないのですが………そういったことから考えるに、やっぱり美琴はまだ「子供」なんだなぁ、と思います(ディスってる訳じゃありませんよ?)

私情により、今後の更新ペースは一週間に一回かそれ以下になってしまいますが、もしよろしければ今後もお付き合いいただけると嬉しいです。

上条「よし、じゃあプランBで行こう!
……プランBはなんだ?布都」


布都「あぁ?ねぇよンなもん」

お待たせしてすみません、続きです。




御坂妹がたどり着いたのは列車の操車場だった。



路線バスで言うなら車庫に当たる。沢山の電車を整理したり、終電を走り終えた列車を置いていく場所だ。学校の校庭くらいの広さの大地には路線と同じ様な砂利が一面に敷き詰められ、10本以上のレールが平行にズラリと並んでいる。

線路の先には港の貸し倉庫みたいな、大きなシャッターのついた車庫が並んでいて、操車場の外周をぐるりと取り囲むように、貨物列車に使う金属コンテナが大量に置いてあった。まるで積み木のように何段にも重ねられたコンテナの高さは三階建ての建物に匹敵するほどで、乱雑に山積みされたコンテナのおかげで操車場の周りはさながら立体迷路のように入り組んでいた。コンテナが山ならば、その中にある操車場は盆地のようなものだろう。

操車場に人気は無い。終電が完全下校時刻という学園都市では、操車場からも早々に人気が無くなる。作業用の電灯も落とされ周囲には民家も無い状態なので光も無い。そこは二百三十万もの人間が住む大都市にも拘らず、夜空を見上げると普段は見えない星の瞬きまで見えるほどの闇に包まれていた。




そんな無人の闇の中心に、それは立っていた。




学園都市最強の能力者、一方通行。




周囲の闇と同化するその姿を見て、御坂妹は自分がまるで操車場という、一方通行の巨大な贓物の中に放り込まれたような、そんな感覚を覚えた。

黒い闇の中、白い少年は笑う。
まるで目玉を熱湯の中に放り込んでグツグツ煮たような、そんな不気味な色の白色が。


一方通行「時刻は八時二十五分ってトコかァ。ンじゃ、オマエが次の『実験』のダミー人形(ターゲット)って事で構わねェンだな?」



引き裂かれる笑みの口から、白い闇が吹き出したような一方通行の声。
しかし、御坂妹は眉一つ動かさず



御坂妹「はい、ミサカの検体番号は10032号です、とミサカは返答します。ですがその前に実験関係者かどうか、念の為に符丁(パス)を確かめるのが妥当では?『あんな事』があった後ですし、とミサカは助言します」

一方通行「………チッ」


『あんな事』ねェ、と一方通行は吐き捨てた。


『あんな事』とは勿論、数時間前の実験でミサカ10031号がとある少年に強奪された件についてだろう。
あの人形が今どこで何をしているのか、一方通行には分からない。あのツンツン頭の少年が病院に運んだのかもしれないし、結構な大怪我をおっていたから(負わせたのは他でもない一方通行なのだが)その途中で息絶えてしまったのかもしれない。はたまた上の連中に回収されたか、それとも少年ごと抹殺されたのか。

いずれにせよ分かるのは、あの程度のアクシデントでは実験は止まらないと言うことだ。まぁこれは『本物の第三位(御坂美琴)』が実験に絡んできた時からすでに分かっていた事なのだが。


一方通行「まァ、俺が強くなる為の『実験』に付き合わせてる身で言えた義理じゃねェンだけどさ、平然としてるよなァ。ちっとは何か考えたりしねェのか、この状況で」

御坂妹「何か、という曖昧な表現では分かりかねます。とミサカは返答します『実験』開始まで後三分二十秒ですが、準備は整っているのですか、とミサカは確認を取ります」



一方通行はわずかに目を細める。うんざりしたような顔で、口の中で噛んでいたガムを横合いに吐き捨て―――












「おう、いつでもいいぜ」








危うく、そのガムを飲み込むところだった。



突如として操車場に響いた年若い男性のものと思われる声は、とうぜん一方通行のものではない。
だが、その声に、音程に、暗く深い闇が支配する操車場にふと射した一筋の閃光のように響いたその声の主に、一方通行は、御坂妹は、覚えがあった。


すぐさま声がした方へと視線を向ける。
操車場の外周付近―――山積みとなったコンテナの隙間の辺りに、誰かが立っていた。
そこには、『実験』と何の関係もない一般人が立っていた。









上条当麻が、立っていた。










今一度言うが、一般人に『実験』に介入されたときのマニュアルというものを一方通行は知らない。
が、つい先ほど自分の獲物を横取りされているという事実から来る怒りはまだ少し収まっていないようで


一方通行「……よォ。またきやがったかコソドロ風情。で?今度はそいつをお持ち帰り、ってか?はっ!どうせ何体でも「追加」されるだろォから俺としちゃァどォでもいいンだけどさァ。こうも毎回EXP(けいけんち)獲得の邪魔されちゃア流石にただで返すって訳にもいかなくなってくるンだけどよォ。お前そこンとこ分かってンのかァ?」



一方通行は凶悪な笑みを浮かべて上条の方に歩み寄ろうとするが、御坂妹がそれより早く、上条をかばう様に一方通行の前に出てそれを止めた。


御坂妹「お待ちください。本『実験』に一般人と思われる人物が介入した場合、被験者ならびに妹達(シスターズ)は一旦、すみやかにその場を離れる事が第一項とされています、とミサカは戦略における撤退を促します」



今まで見た事がないくらい力強く、さもすれば「命令」にと表現できかねない勢いで目の前に立ち塞がる御坂妹を見て、一方通行はわずかに感心したような声を上げた。

一方通行に一万回以上殺害されてきた『実験』の最中。文句も、泣き言も、憎まれ言の一つも言わなかった筈の人形が、初めて………否。超電磁砲の時を含めるなら二度目かもしれないが、ともかく、何かに恐怖するかのように自分の前へと立ち塞がった。
思えばこの前の『実験』の際、黒猫を抱えた御坂妹は路地裏から出てきた自分を見て、ゾッとしたような表情を浮かべていたし、もしかしたら彼女達は自分の命はともかく、無関係な人間が巻き込まれるのは許せないのかもしれない。


一方通行は面白くなさそうに舌打ちをすると


一方通行「分かった分かった分かりましたよ。おい三下ァ。そういう訳らしいから今回は見逃してやンよ。おいおい、ついてンなァ。この一方通行を前にして二回も生きながらえるなんてお前どんだけ幸運ってやつに恵まれてんだァ?」



興ざめした、と言う顔を浮かべ、くるりと身を翻した一方通行を見て、御坂妹は安堵したように息を吐いた。






はずだった






上条「わりぃ、御坂妹。そりゃだめだ。―――――――――だって、俺はお前を助ける為にそいつをぶっ飛ばしに来たんだからな」


静かな、だが確かに、まるでダイナマイトが爆発したかのような衝撃がその場を支配する。
まるで信じられないものでも見るかのように、一方通行と御坂妹は上条の顔を見た。


少し間を開いて先に口が動いたのは一方通行の方だった。


一方通行「オマエ、ナニサマ?人がせっかく見逃してやるっつてンのによォ。つゥか誰に牙剝いてっか分かって口開いてンだろうなァ、オイ。学園都市でも七人しかいない超能力者(レベル5)、さらにその中でも唯一無二の突き抜けた頂点って呼ばれてるこの俺をブットバス?オマエ、何なンだよ。カミサマ気取りですか、笑えねぇ」






低い、静かな声に混じって静電気のような殺気が周囲の空気へ漏れていく。
夜の闇の全てが何億もの眼球となって上条を睨みつけるような、絶大なる殺気。






上条「―――――――――」



それを、少年は平然と受け流していた。
それどころか「こんなものか」と言わんばかりの、ある意味で失望したような視線すら向けていた。






一方通行「………、へェ。オマエ、面白ェな―――」


一方通行の赤い瞳が凍る。
『最強』と『無敵』は違う。『無敵』が戦う前から勝負が決まっているのに対し、『最強』は実際に戦ってみて始めて強さが分かるものだ。
つまり逆に言えば





一方通行の最強は、試しにケンカを売ってみよう、と思われる程度のものでしか―――





一方通行「―――オマエ、本当に面白ェわ」


一方通行の視界は、その標的は、改めて上条へと定められた。『実験』の事などさておき、とにかく上条の視線を潰す方が100倍先決だといわんばかりに。

白い少年の瞳に、赤い狂熱が宿る。
その笑みが薄く広く―――まるで溶けたチーズが左右に伸びるように引き裂かれていく。


上条「………」



それでも、上条はたったの一歩も下がらない。
それどころかその足を前へと突き進める。


御坂妹「な、にを―――」



御坂妹はギョッとした。
あの少年は、これから一方通行と戦おうとしている。あんな、たった一人で笑顔のままに軍隊と敵対して潰し回れるような人間を相手に、何の武器も持たずに。





あの少年は、御坂妹に言った。


お前を殺させないために、こいつをぶっ飛ばしにきたと、そう言った。


つまり、あの少年が戦場へとやって来た理由は。


あの少年が、命を懸けて戦おうとする理由は。





御坂妹「―――――――――やっているんですか、とミサカは問いかけます」

御坂妹は震える声で呟いた。
この『実験』で命に価値のない御坂妹がいくら死のうが知ったことではない。

だが、『実験』と全く関係ない、量産する事も出来ない
世界にただ一人の一般人(オリジナル)が『実験』のせいで傷つくなんて事は―――





御坂妹(なん、ですか………これは、と―――)


御坂妹の中で、何かがじくりと痛んだ。
御坂妹はどれだけ考えても、その痛みの正体が分からない。



御坂妹(―――ミサカは、自分の心理状態に疑問を、抱きます)


御坂妹は思考を切り替え、また一歩自分に、そして一方通行へと近づいていく上条を止めるために言葉を紡ぐ。



御坂妹「何をやっているのですか、とミサカは再度問いかけます。いくらでも替えを作る事の出来る模造品のために、替えの利かないあなたは一体何をしようとしているのですか、とミサカは再三にわたって問いかけます」


論理に矛盾はない。口調に乱れはない。まるで定規で測ったような、仕掛け(プログラム)通りに動いているだけのような台詞に、御坂妹は自分の心理状態は正常値(オールグリーン)だ、と結論づける。
にも拘らず、心臓は恐ろしく早い鼓動を刻んでいた。呼吸は信じられないほど浅く、何度吸っても酸素を取り込めない。

あの少年が『実験場』に入ってくる事を、御坂妹は止めたい。
あの少年が一方通行と激突してしまう事を、御坂妹は阻止したい。



御坂妹「ミサカは必要な機材と薬品があればボタン一つでいくらでも自動生産できるんです、とミサカは説明します。作り物の体に、借り物の心。単価にして十八万円、在庫にして九千九百六十八も余りあるものの為に『実験』全体を中断するなど―――」


だが、いくら御坂妹が言葉を紡いでも少年は止まらない。もうこうなれば強行な手段に出るしかない、と御坂妹は左手を振り上げ、そこから強能力者級(一千万ボルト)の電撃を放とうとして―――



ガシッ、と少年の右手にその手を掴まれた。
その途端、左手に集中していたはずの力が、跡形もなく虚空へと消える。



上条「………うるせえよ」


動揺する御坂妹に、少年はポツリと呟いた。
な、に?と御坂妹が聞き返すと、上条は御坂妹の胸倉を掴み上げて自分の元へと引き寄せて



上条「うるせえんだよ、お前は。そんなもん、関係ねえんだよ。作り物の体とか、借り物の心とか。必要な機材と薬品があればボタン一つでいくらでも自動生産できるとか、単価十八万円とか。そんなもん、知った事じゃねぇ!そんな言葉はどうだって良いんだよ!」


少年は、烈火のような怒りを、夜空に向かって吼える様に叫んでいた。
それでいて、少年の声は、冷たい雨に打たれたように、痛々しかった。



上条「もしも………もしも俺が、お前と同じ誰かのクローンだったら、何万体失ったところで補充できる程度の存在(モルモット)だったら、お前は今みたいに止めなかったのか?」

御坂妹「―――ッ!?」


御坂妹は、なぜか言葉に詰まった。
御坂妹はボタン一つでいくらでも自動生産できる存在だ。一人欠けたら一人補充して、二万人欠けたら二万人補充すればすむ、たったそれだけの存在な筈だ。





そのはず、なのに





自分に当てはめた論理に矛盾は一つも無いはずなのに、同じ境遇(クローン)だったとしても、それを他人にまで当てはめる事は出来なかった。







御坂妹「あ、う………」

上条「それと同じだよ。くっだらねぇ。何が作り物の体だ何が借り物の心だ何がボタン一つでいくらでも自動生産できるだ、ふっざけんじゃねえ!そんな小っせぇ事情なんかどうでも良い!!」





少年は、御坂妹の目を、ジッと見つめる。





上条「例えどんな境遇で生まれようが、例え誰かのクローンだろうが、DNA単位で同じ存在だろうが、そんなもん理由にすらならねぇんだよ」





まるでその中にいる、御坂妹と繋がっている九千九百六十九の妹達に呼びかけるように











上条当麻「―――お前は、お前達は、ひとりひとりが世界でたった一人しかいないんだよ!何だってそんな簡単な事も分っかんねぇんだよ!」












血を吐くように叫ぶ少年の言葉は、御坂妹に届いた。



別に少年の言葉が、世界で一番正しい物だと認識した訳ではない。
御坂妹は、やっぱり自分の命なんていくら失っても問題ない、と思っている。
それでも、そんなちっぽけな存在でも、失いたくないと叫んでくれる人が、確かに存在した。



あの少年が、どれほどの力を持っているかなんて、御坂妹は分からない。





上条「今からお前を助けてやる。お前は黙ってそこで見てろ」





だが、その生き方は、他の何者よりも『強い』と思う事ができた。
















同刻――操車場の隅。一番高く詰まれたコンテナの頂上に、物部布都はいた。





物部「うむ、御坂妹達(シスターズ)の方は何とかなりそうか。それにしてもとうまの言霊は何の力も無いのに確実に人の心を、その芯を無意識の内に捉えるな」


物部は感心したように頷いた。上条がまだ小さい頃から一緒にいる物部は、上条の『強さ』と言うものを、多分、『こっち』でも『むこう』でも、誰よりも良く知っている。

恐らく、学園都市最強の能力者である一方通行と普通にぶつかっても、負ける事はまず無いだろう。










そう、『普通に』ぶつかり合ったら―――











物部「さて、ここからが本番じゃぞ―――とうま」








ここまで。


二週間も遅れてしまい、すみませんでした。

理由、という訳ではありませんが、少し………もともとここに投稿しようと書いていたのは、とある(と言うより上条)と俺妹のクロスだったんです。
が、あまり進まず(キャラは勝手に動いてくれるんですが、話の展開ががが)別のものも書いていこう………としたら、なぜかこちらの方が先に出来てしまい………未練たらしくとある×俺妹の方を書いているのでいつか投稿するかも………


まぁ上条さんと桐野や黒猫のからみが見たかっただけなんですけどね。(誰か書いてくれないかな~(チラッ)

右手で一方さんの体掴んだままでいれば終わりそうだけど、これは~~~号の分!これは~~~号の分って殴り続けるのもいいな

そういえばニコニコに上条さんと俺妹のMADがあった

続きです。

>>553 超電磁砲六巻のカバー裏ですかww




上条「―――さてと。この辺りで良いか」


上条は周囲の状況を見る。
辺り一面、周囲100メートルにわたって広がるのは砂利と鋼鉄レールの敷き詰められた大地。隠れる場所のない平面に立つのは、上条当麻と一方通行のみ。そこに御坂妹の姿は無かった。

一方通行とぶつかり合った場合、上条はともかく、御坂妹まで巻き込んでしまう可能性がある為、場所を変えたのだ。「サシで勝負したい―」という上条の提案を、一方通行は笑いながら受け入れてくれた。ありがたい、と上条は思った。ここで一方通行が提案を受け入れずに襲い掛かってきた場合、まず確実に乱入しようとする御坂妹を気絶させなければならなかっただろうから。

先ほどの場所から三百メートルほど離れた場所に、二人は向かい合って立っている。

お互いの距離は十メートル。全力で駆ければ、三歩か四歩で詰められる程度の距離しかない。


上条は呼吸を止め
全身のバネを縮めるように、わずかに身を低く沈め



上条「お、―――――――――ォおおっ!」

一方通行「はァ?」


アスリートの選手のような速さで、まるで爆発するように、一方通行目掛けて駆け出す。
だが、一方通行はその場を動かない。どころか、拳の一つも握らない。両手はだらりと下がったまま、両足もろくに重心を計算に入れず、顔には引き裂かれたような笑みを浮かべ











たん、と。



一方通行は、まるでリズムを刻むように、足の裏で小さく砂利を踏んだ。











ゴッ!!と。











瞬間、一方通行の足元の砂利が、地雷でも踏んだかのように爆発した。
四方八方へと飛び散る大量の砂利は、言うならば至近距離で放たれる散弾銃を連想させた。



上条「………ッ!」


上条が両腕で顔を庇った瞬間、ドン!という鈍い轟音と共に大小10を越す小石が上条の全身を叩いた。あまりの衝撃に上条の足が地面からふわりと離れる。と思った瞬間、上条の体が勢いよく後ろへと吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がる上条は、何メートルも後方へ吹き飛ばされてようやく止まる事ができた。





一方通行「………遅っせェなァ」


上条は立ち上がることも忘れてぼんやりと声のした方を見ると



一方通行「全っ然、足りてねェ。お前、そンな速度じゃ100年遅せェっつってンだよォ!」


一方通行が地を踏みつける。

その衝撃の向きを変換し、一方通行の足元に寝かされていた鋼鉄のレールが一本、バネに弾かれるように直立した。一方通行は裏拳で目の前のクモの巣でも払うように、直立したレールを殴り飛ばす。

まるで聞き分けのない子供を軽く叩くような仕草。

にも拘らず、ゴォン!!と教会の鐘のような轟音が操車場に響き渡った。くの字に折れ曲がった鋼鉄のレールが、まるで砲弾のような勢いで上条の元へと一直線に飛んでくる。



上条「チッ!」


上条は地面を転がり、跳ね飛ぶようにその場を離れる。

直後、ひしゃげた鋼鉄の塊がついさっきまで上条の寝ていた地面に聖剣のように突き立つ。
間一髪避けられた―――ように見えるかもしれないが、実際は重要何100キロという鋼の塊が地面に直撃した瞬間に辺りへ大量の砂利を巻き上げた為、上条はその莫大な余波を纏めて食らう事になる。



上条「がっ………!」


地面を転がる上条へ、一方通行はさらに2発、3発と鋼鉄のレールを飛ばしてきた。
宙を舞う鋼の砲弾は、拳銃の弾と同じく人に避けられるものではない。
直撃すれば確実に死に、例えぎりぎりで避けた所で巻き上げられる大量の砂利が散弾の雨となって少しずつ着実にダメージを重ねて死へ追い詰める。

そんな中で上条に出来るのは、地面を転がり続ける事だけだった。砲弾が地に突き刺さる事で巻き上げられる砂利の方向を読み、それと同じ方向へ自ら跳ぶことで少しでもダメージを軽減する………それぐらいの事しか出来ない。



一方通行「はッ!」


そんな上条に対して、一方通行は笑っていた









一方通行「ははッ!あははははッ!!アハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハ!!」









悪魔のような、子供のような、狂気の笑みを、浮かべていた。







上条が一方通行とぶつかり始めたのと同時刻、御坂美琴は一人、鉄橋に座り込んでいた。



御坂「………、ばっかみたい」


美琴は一人、暗闇の中で呟いた。

彼女は上条を止めたかった。せめて、上条と一緒に『実験場』へ向かいたかった。
だが、上条はダメだと言った。

上条が見つけた実験を止める方法。の肝は、上条が『一人で』一方通行を倒すこと、だ。

その現場に超能力者の美琴がいて、なおかつ上条の味方をすると『一方通行を超能力者を含む複数人で倒しただけ』と言う結果しか得られないから。

御坂妹を助けたければ、ここは俺に任せてくれ、と少年は言った。
絶対に、御坂妹を連れて帰ってくるから、と少年は約束した。
美琴は少年の消えた鉄橋の先を見た。
理屈では分かる。美琴が『実験場』へいったところで何も出来ない。それどころか、少年がようやく手に入れた『解決法』を壊してしまう可能性すら出てくる。だから、美琴はここで待つべきだ。そんな事は分かっている。理屈の上なら誰でも分かる。

だけど、

理屈以外の何かが、理解したくなかった。
美琴は、ギッと奥歯を嚙みしめて









御坂「―――――――――、ンな事が、できるとでも思ってんの、アンタは!」



結局、美琴は上条の後を追っていった。
放っておく事など、できるはずがなかった。







一方通行(………なンだコイツ?)


上条と一方通行が激突してから、およそ三分と少しが経過しようとしていた。

今上条と一方通行を取り囲んでいるのは、一方通行の圧倒的な力によってトランプのカードで作ったピラミッドが崩壊するかのように崩れた、一つ一トンはあるコンテナと、その衝撃によって周囲に巻き上げられた砂煙だ。
いや、これは砂煙ではない。どうやらコンテナの中身は小麦粉か何かだったらしい。霧のように白い粉末の白煙が、うっすらと周囲の視界を奪っている。



上条「………」


だが、そんな白く薄いカーテンが取り囲む中においても、上条のその鋭く、射るような視線は、まっすぐに一方通行を射抜いていた。



一方通行(なンなンだ、気に入らねェな)


一方通行の脳内を支配するのは、疑問。そして不快感。

一方通行が「格下」の相手からケンカを売られるのは珍しい事ではない。『自分なら一方通行『学園都市最強』を倒せる』とか『一方通行『ベクトル変換』の能力には穴がある』とか、そういう馬鹿な思考を持ってしまった三下の襲撃が、今までだって数え切れないぐらいあったし、今日も上条が乱入してきた夕方の実験前に『スキルアウト』の馬鹿共に絡まれている。

そういう馬鹿共は手足の一本でもハジ(叩き折れ)ば、おのれの愚かさを理解し、表情も後悔と恐怖、そして絶望に塗りつぶされるのが落ちだった。例外なく、そうだった。
が、今目の前にいる少年には、どれだけダメージを与えても、身の毛もよだつような攻撃をしても、全く効果が見られない。



一方通行(………コイツ、自分が最弱だって事、理解出来てねェのか………?)


一方通行には分からない。なぜ上条がまだ立ち上がってこれるのか。
『最弱』である少年が、なぜ『最強』である自分に立ち向かえるのか。





一方通行(いいぜェ。そンなに死にてェなら望み通り愉快な死体(オブジェ)に変えてやンよ)


まるで、わざわざ自らの居場所をアピールするかのように一方通行は



一方通行「ふン。どうやらコンテナの中身は小麦粉だったみてェだが。今日はイイ感じに無風状態だし、こりゃあひょっとすっと危険な状態かもしンねェなァ?」


?と上条は訝しげに相手の出方を窺ったが、そんな暇もなく一方通行は靴の裏で地面を叩く。すると、なぜか一方通行のすぐ傍にあったコンテナの一つが、まるでスーパーボールを地面に叩きつけた時のように宙を跳んだ。



上条「ゲ」


上条は一方通行が何をしようとしているのかを悟り、体を動かしてこの粉末が覆い尽くす巨大な空間から逃げる。
走って走って、走り続けて。
宙を舞ったコンテナが、別のコンテナに激突する直前、一方通行の声が上条の背中に突き刺さった。













一方通行「なァ、オマエ。粉塵爆発って言葉ぐれェ、聞いたことあるよなァ」













直後、あらゆる音が消し飛ばされた。













小麦粉の粉末が撒き散らされた半径三十メートルもの空間そのものが、巨大な爆弾と化したのだ。まるで空気中に気化したガソリンに火がつくように、辺り一面の空間が爆発して炎と熱風を撒き散らす。

その時、上条は小麦粉のカーテンから脱出していた為、大したダメージは負わずにすんだ。強いて言うなら空気中の酸素を燃料にする粉塵爆破の影響で周囲の気圧が下がり、その影響で内臓をぎりぎりと絞り上げられた事ぐらいだろう。



上条「………」


上条は炎の海のせいで昼間のように明るくなった操車場で、後ろを、自分が逃げてきたコンテナ置き場を振り返る。
一方通行が歩いてくる。
自ら作り出した紅蓮の煉獄の中を、一方通行は平然と歩いてくる。



一方通行「………おいテメェ。まさかコレを狙ってたンじゃねェよなァ」

上条「?」

一方通行「チッ。な訳ねェか………なンだかンだ言って俺は人間だしよォ、酸素吸って二酸化炭素吐き出すっつっー定義はそこらの三下と大差ねェンだわ。だから空気中の酸素を根こそぎ奪われちまった場合、かなり苦しい状況になっちまう………あ―――ァ。死ぬかと思った。喜べ、オマエひょっとして世界初じゃねェのか。一方通行を死ぬかもしれねェトコまで追い詰めるだなンてさァ」


本当に世間話みたいに、声は歌った。



一方通行「くっくっ。こりゃ核を撃っても大丈夫ってキャッチコピーはアウトかなァ?ま、酸素ボンベでも持ってくりゃ良いンだが。なァ、確かヘアスプレーサイズのボンベって合ったよなァ。あれっていくらぐらいするか分っかンねェ?」

上条「確か千円以上はしなかったと思うぜ。ダースで購入するってんなら少しは安くなんじゃねぇの?」

一方通行「………ご丁寧にどうもォ」


が、それは上条も同じだった。



一方通行「―――――――――、で?身構えてどうすンの、オマエ?」


ふぅ、と息を吐き、再び身構えようとする上条に、一方通行は小首をかしげた。



一方通行「死に物狂いで努力しても一歩も近づけねェ、かと言って近づいた所でオマエになにができるってンだ?」


一方通行は業火の中で涼しげに両手を広げ



一方通行「俺の体に触れたモノは例外なく『向き』を操られる。それって人の血の『流れ』すら例外じゃねェんだぜ?さっきから馬鹿の一つ覚えみてェに拳ぶン回してるけどよォ。つまりオマエが不用意に俺の体に触れたら最期、お前は全身の血管と内臓を根こそぎ爆破して果てるって意味なンだけどさァ。そこントコ正しく理解してたのか?」

上条「………」


一方通行の解説に、上条は絶望するかのように顔を下に向ける。



一方通行「ま、っつってもそンなに気にする事じゃねェンだぜ。実際、お前は結構頑張ったと思うしな。この一方通行にケンカ売って、今こうして呼吸してる事そのものが奇跡なンだよ。それ以上を望むってのは贅沢ってモンじゃねェの?」


この殺し合いの最中、涼しげに笑っている。



一方通行「まったく。元のポテンシャルが低いのが幸いしたよなァ、そンな弱っちィンじゃ逆に『反射』が上手く働かねェ。ホント、お前は俺の弱点をついてたンだ。なまじ下手に強い風紀委員やハイテク兵器を持ち出す警備委員だったら、恐らく最初の一撃を『反射』して終わりだからなァ」


炎の海の中で、ぱちぱちと一方通行は拍手した。
心の底から、相手を労うような声で












一方通行「オマエは頑張ったよ。オマエは本当に頑張った。―――――――――だからイイ加減楽になれ」













炎の中で、一方通行の体が低く沈む。
業!と炎の海すら蹴散らして、白い少年は砲弾のように上条へ向かって駆け出した。両者の距離は何十メートルとあったのに、そんなものは、ものの2、3歩でゼロまで縮められた。
まるで水面を跳ねる飛び石のような動きで、一方通行は上条の懐へと潜り込む。

右の苦手、左の毒手。

触れただけであらゆる『向き』を変換するその手は、同時にあらゆる生物に死を与える暗黒の手だ。例えば皮膚に触れただけで毛細血管から血の流れを、体表面から生態電気の流れを、片っ端から『逆流』させれば人間の心臓はそれだけで内側から弾け飛ぶのだから。

一方通行の両手が合わせられる。
まるで手錠に繋がれたように手首を合わせた両の双拳(そうしょう)が、上条の顔面目掛けて勢い良く突き出される。


魂を握りつぶす両の手が、上条の眼前へと迫り、その時になってようやく顔を上げた上条は


















上条「―――――――――この時を、待ってたんだ」


















三日月のように裂けた口で笑い、



その右手で、ぐしゃり、と。一方通行の顔面を殴り飛ばした。











一方通行「あ、あぁあ!?」

上条「―――さて、『準備運動』おーわりっと」






ここまで。


オマケ


とある×俺妹の没ネタ


①上条さんが再び冷戦状態になってしまった高坂兄妹に説教(京介にはそげぶ)

没理由・上条さんと高坂兄妹以外キャラがうまく動かなかった


②京介を上条さんに置き換えて原作再現

没理由・原作内容が少し変わっただけ


③桐野が彼氏として上条さんを家族に紹介

没理由・桐乃のブラコンが消失し、京介が(色々と)可哀想な事になった

続き。最近セブドラ2020というゲームが気になるが、買ってしまったら確実に更新速度が落ちるorz





一方通行が操車場で起こした粉塵爆発の爆炎を見て、駆けつけた御坂美琴、ならびに御坂妹は、口をポカン、と開けてそれを見ていた。


















一方通行「ごぶぁ!?」

上条「敗因①自分の持ってる『力』の理解力不足」

一方通行「おぶぅ!?」

上条「敗因②その『力』の過信」

一方通行「かはっ!?」

上条「敗因③『力』が失われた、使えなくなった、効果が無い敵に当たった場合の対策………おーい、聞いてる?」



これは、夢か何かなんだろうかと思い、美琴は自分のほっぺを思いっきり抓ってみるが、痛いだけで目が覚める事は無い。
身の毛もよだつような『実験』が行われるはずだった場所で、まるで友達か何かに話し掛けるような口調と気楽さで、上条は一方通行の顔面を右手一本でボコボコにしていた。



一方通行「ちっくしょ、何だ?オマエ何なんだよその変な動きは!ウナギじゃねェンだからウネウネウネウネ逃げてンじゃねェ!」


せめて顔面に突き刺さる拳を逆に捕らえてやろうとする一方通行だが、それこそ穴を出入りする蛇のように滑らかな動きをする上条の手はそれを許さない。
ありとあらゆる力の向き(ベクトル)を操る為、触れればそれだけで血液や生態電気の流れを逆流させて人を殺すことができる一方通行を前に、上条はとある修行を想起していた。



『相手から触れられたら即死亡(ゲームオーバー)』と言う条件の元に行われた修行を。




一方通行「ぶばぁあ!?」


まるでギャグマンガか何かのように上条から、それこそ一方的に顔面をボコボコされている一方通行だが、当の上条本人は『まだ少しも力を使ってはいない』
もっと正確に言うと『容赦』はしてないが『手加減』をしている。









上条(ったく、面倒臭ぇなぁ………)








―上条と一方通行が激突する数刻前―




上条「で?それで何とかなんのかよ」

物部「うむ。おそらく『コレ』が一番上手く事を収められるだろうかならな」


いや分かる。途中までは上条も分かっているし、納得も出来る。


『超能力者の第三位、御坂美琴のクローンを、学園都市最強の能力者である一方通行が二万回殺害すればレベル6に進化(シフト)する』


樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)によって導き出されたこの結果が正しいものである事を前提に、この『実験』が行われているならば、無能力者(レベル0)である上条が超能力者(レベルファイブ)である一方通行を倒せば………つまり、一方通行は学園都市最強の能力者でもなんでもない、と研究者達に思い込ませる事ができれば、実験は止まる。そもそもの前提が間違っていた。と思い込ませる事ができれば、この殺人劇に幕を下ろすことができる―――




と、ここまでは分かるのだが………




物部「やれやれ………お主も鈍いのぉ」


物部は呆れたような、自慢する時にするようなドヤ(ひじょうにムカつく)顔を浮かべ



物部「良いか?この『作戦』の肝は『無能力者が超能力者を倒す事』つまりは『一方通行が『最強』の能力者などではない事の証明』だぞ?」

上条「んなこと分かって」


いいや、分かってない。物部はそう言いたそうに首を軽く振って、上条の目の前に立てた二本の指をバッ、と突き出す。



物部「この『作戦』が失敗してしまうかもしれない要因は二つ。一つ目は一方通行が演技をしていた、と研究者達に思われてしまった場合。いくら一方通行が『最強』の能力者だとしても『手加減をしていた』と思われては意味が無い。だからこそ『本気を出させた上で叩き潰さなくてはいけない』」


一つ目の条件を言うと、物部は立てた指を一つ折り曲げる。



物部「二つ目はとうまが特別な能力を持っている人間だと研究者達に思われた場合。学園都市の能力判定などではお主の力は決して量れんが………それでも摩訶不思議な術を使った場合、お主が最強の能力者を破って当たり前の人間だと思われてしまう」

上条「んな事分かってるよ。だからこそいつも通り力は使わない………『枷を着けたままにしとけ』ってんだろ?」


上条は、何も無いはずの自分の右腕――その二の腕部分を凝視する。そこには物部と同じく、普通の人間には決して見えない腕輪がはめられていた。
白銀の月のように光り輝く特別製の枷であるそれは、上条の師匠達が作ったものだ。
修行中は勿論、その枷を外す必要性を、力を使うだけの必要性を見出したとき以外、外さないようにと言われ続けてきた。
これがはめられているあいだ、上条は修行で得た様々な術や力を振るう事が出来ず、力や素早さは大幅に下がって(ステータスダウン)しまうという、まさに強すぎる力を持つものがその強大な力を制御する為にはめる枷だった。


勿論、力を使うべき時にはそれを外す。


実際、上条は七月の終わり頃に、神裂火織という聖人に襲撃されているが、その時も身につけていた枷を解き放ち、それを迎撃。返り討ちにしている。
(まあその後で師匠から『力を使いすぎだ』と説教を食らったのだが)





物部「うむ。だからこそ、そこに念を押す………具体的に言うなら、一方通行が最強でないことの証明=お主が無能力者だということの証明を持ってそれを成すと言う………ええと、何だったか………『ヘンテコなカラス』?」

とぼけたよう言う物部に上条は呆れて


上条「それを言うなら『ヘンペルのカラス』だ………対偶論法………「AならばB」を証明するときに、対偶である「BでないならAでない」=「AならばB」を使うこと、だろ」


つまり、上条は無能力者=それに倒された一方通行は最強ではない。と言う対偶論である。
そうそうそれそれ!と、理解しているのかしていないのか物部は頷いて。



物部「耐久訓練など嫌と言うほど受けたじゃろう?軽いものではないか」


物部は軽く、簡単に言うが、それはつまり………









物部「良い事を思いついた。お主、一方通行に五分間ボコボコにされろ」









上条(確かに一時的とは言え一方的にボコボコにされりゃあ(勿論演技なのだが)俺が無能力者だって事の証明にはなるかもしんないけどさぁ………)


上条は何かを哀れむように閉じた目を開いて



一方通行「おぶっ!ごぶぁ!!バッ、ブアァああああ!!!」

上条(『さっきまでボコボコにしていた奴(さいじゃく)から逆にボコボコにされている』って状況を作るためとは言え………なーんか可哀想になってきたなぁ………)


言いようの無い罪悪感を覚えながら、ボコボコに(しているのは他でもない上条なのだが)されている一方通行を見た。



一方通行の攻撃をヒラリと蝶のように避けては、蜂のような鋭い一撃を入れる。


右手一本、右手一本だ。たったそれだけで、上条は一方通行という最強(さいじゃく)を圧倒する。枷をはめられているとかそんな事は関係ない。
何十週も何百週もクリアしたゲームのセーブデータが消えても、プレイヤーの腕は決して衰えないように、上条は力を制限されていても余りある、圧倒的な経験の差で今の状況を作っている。

それは、最早殺し合いはおろか勝負や試合という綺麗なものなどではなかった。圧倒的な力を持つ大人が、か弱い子供を、それこそ一方的にボコボコにしているような、完璧な弱い者いじめだった。

そして、その事実が一方通行には一番良く分かるからこそ、耐えられない。
学園都市で最強というプライドが、現実に揺れてギシギシと音を立てる。ズキズキと。鼻を潰すような未知の痛みが、一方通行の集中をさらに削ぎ落とす。




一方通行「クソ。クソォ!クソォオオオオオオオオオ!!何でだ!?何だって最強の、学園都市の頂点に立っているオレが、オマエみたいな三下に………!!お前の能力は何だ!?一体どンなスゲェ力を持ってやが―――」


上条が小刻みに与えたダメージが蓄積し、一方通行の膝からカクン、と力が抜けた瞬間。


ゴッ!!と。上条の、それまでに無い本気の一撃が、一方通行の顔面に突き刺さった。


例えるなら、ゴルフクラブで思いっきりボールを打つような一撃。腰の回転を使い重心を載せた必殺の一撃は、一方通行の体をなぎ倒し、ごろごろと地面の上へと転がした。



一方通行「はっ………ハァ………!?」

上条「大した力なんて、持ってねぇよ」


一方通行は上半身を起こし、前を見る。そこにゆらりと近づく上条当麻の姿を確認して―――








そして、固まった。








上条の顔は、怒りではなく、虚しさと悲しさで染まっていた。


その事に、上条は気づいていない。










上条「なんか勘違いしてるみたいだから言うけどさ。俺、大した力なんて持ってないぜ?もう数え切れないぐらい『負け』てるし、師匠からは『未熟者』って呼ばれるし、できる事なんてたかが知れてる………もしお前が俺の事を『強い』って感じるならそれはお前が『弱い』からだ」





一方通行は、手だけを使ってズルズルと後ろへと下がる。





上条「俺の師匠がいつも言ってる。強さの定義の一つは、そいつが一番自慢できる『力』を失った時『他に何が残っているか』だってな」





上条は、ゆっくりと一方通行を追い詰めていく。





上条「自分の能力が、力が、知恵が通じない相手と戦う時、初めてそいつの真価は試されるって」



そうだ、言ってしまえば一方通行を含めた学園都市の能力者達の超能力は、一発芸に近しいものだ。一人につき能力は一つ。中には例外もいるかもしれないが、能力という『根本』は変わりようが無い。

ならばその一発芸を封じられたら?

学園都市に何らかの『異変』が起こり、全ての能力者の能力が使えなくなったら?



上条「お前の『能力』が、他と比べて『ちょっと便利』ってだけだろ。『お前が強い』んじゃない」


そんなもの、強さとは言わない。
最強?無敵?笑わせるな。

上条は、そう言いたげな表情の中に、虚しさと悲しさ以外に




上条「なぁ………」




『憐れみ』を加えて、一方通行を見た。










上条「弱すぎだろ、お前」



まるで、罪を犯してしまった自分の友人を見るかのように、寂しそうに。









嫌だ、と一方通行は首を横に振った。一方通行には『負ける』という事がどんなものか分からない。生まれてこの方、一度も負けたことの無い一方通行には『負ける』という事にたいする耐性が一切ない。当たり前だ、今の今まで『負けるかもしれない』と思う事すらなかった人間なのだから。

しかし、それでも上条は止まらない。
その前髪が夜風になぶられ、まるで墓場に咲く名もなき花のように揺れていた。



一方通行(………、風?)




















一方通行「く」


一方通行は笑う。上条は思わず立ち止まった。何か得体の知れない危機を感じ取ったのか、一方通行はそう思ったが気にしない。気づいた所でもう遅い。



一方通行「くか」


一方通行の力は、触れたモノの『向き』を変えるというもの。運動量、熱量、電気量、それがどんな力であるかは問わず、ただ『向き』があるものならば全ての力を自在に操ることができる、ただそれだけの力。上条が言っていたように



一方通行「くかき」

物部「―――ッ!?とうま、マズ――――!!」


ならば、同様に。

この手が、大気に流れる風の『向き』を掴み取れば。
世界中にくまなく流れる、巨大な風の動きその全てを手中に収めることが可能―――――――――ッ!!





一方通行「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか―――ッ!!」





一方通行は見えない月を掴むように、頭上へ手を伸ばす。

轟!!と音を立てて風の流れが渦を巻く。

一瞬前から目の前の少年は何か焦ったような顔をしていたが、今さら気づいた所でもう遅い。すでに一方通行の頭上には、まるで地球に穴が開いたような巨大な大気の渦が、球形を取って砲弾のように待機している。
バチバチと辺りの砂利が舞い上がり、直径数十メートルに及ぶ巨大な破壊の渦が歓喜の産声を上げる。

一方通行は笑いながら、殺せと叫んだ。

世界の待機をまとめあげた破壊の鉄球は風を切り、風速120メートル―――自動車すら簡単に舞い上げるほどの烈風の槍と化して、見えざる巨人の手はいとも容易く少年の体を吹き飛ばした。



ここまで。あと二回で第三巻終わり(予定)

四巻の話なんですが、原作の話を完無視して、オリジナル編をやります。いよいよ書きたかった場面の一つ&東方キャラが出せる………(一応言っておきますが『あちら』に行くとは限りません)



ま、本当に書きたいとこはまだまだ先なんですけどねorz


続き




風が死に、音が死に、大地が死んだ。



一方通行は己が作り上げた惨状を見渡す。操車場の地面を覆っていた砂利は風の塊に舞い上げられ、所々は土の地面が見え隠れしていた。


風速120メートルもの風で吹き飛ばされた少年は、文字通りどこかへ吹き飛ばされてしまったようだが、そんな事は気に留めるような事ではない。
砂利の上を転がっていようが自由落下で地面に激突していようが、コンテナや風力発電のプロペラに激突していようが、風速120メートルで何かに激突するのは、交通事故で自動車にノーブレーキで撥ね飛ばされるのと大差ない。


生きているかどうかも分からないような虫の息である事はまず間違いない。



一方通行「………ふん」


とっさに考え付いた事とはいえ、想像以上の威力だった。
だが、これはまだ未完成だろう。自動的な『反射』と違い、『向き』を自分の意思で変更させる場合は当然『元の向き』と『変更する向き』を考慮しなければならない。

風―――大気の流れとは、カオス理論が絡む複雑な計算を必要とする。『樹形図の設計者』でも使わない限り完全な予測など出来ない。

人間一人の頭で、世界中の大気の流れを計算できたとは思えない。
今のはせいぜい、学園都市の中の風をそこそこ操った程度だろう。

だが、それにしてもこの威力。もはや絶対能力など必要ない。より完璧に、より正確に風の流れを計算できれば、それこそ世界を滅ぼす事さえ可能な力を手に入れられる。





世界はこの手の中にあった。





その感動が、一方通行の全身を駆け巡った。
自分が敗北の縁まで追い詰められたからこそ、その勝利の感覚は、胸が詰まるほど生々しく伝わってきた。

改めて確信する。一方通行を止められるものなど、この世のどこにも存在しない。核爆弾だろうが正体不明の右手だろうが、そんなものはなんの障害にもならない。



一方通行「く、―――――――――」


一方通行はついに笑い出した。



一方通行「何だ何だよ何ですかァそのザマは!結局デカい口叩くだけで大した事ねェなァ!おら、もう一発かましてやるからとっとと出てこい三下ァ!!」


一方通行は夜空を抱くように両手広げて頭上へ吼える。



一方通行「空気を圧縮、圧縮、圧縮ねェ。はン、そうか。イイぜェ、愉快なこと思いついた。おら、立てよ最弱。オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねェンだっつの!」





だが、上条は現れない




無数の鋼鉄のレールが砂利の上へ十字架のように突き立つ景色の中、暴風と狂笑だけが墓地に流れる死風のように吹き抜けていた。







美琴は途中から御坂妹と共に上条の戦いを見ていた。



何度も何度も一方通行との間に割っていこうと考えた。
だが、それは上条の『計画』の失敗を意味している。結局、美琴は今の今まで傷つき、ボロボロになっていく上条の姿を黙って見ている事しかできなかった。


けれど、もう限界だ。


これ以上あの少年を一人で戦わせては、本当に死なせてしまう事になる。美琴は御坂妹に吹き飛ばされてしまった上条の捜索を頼むと、その瞬間、一方通行の前へと現れた。



御坂「止まりなさい、一方通行!」


美琴は何十メートルも離れた場所から、その手を突き出した。握り締めた手の親指にはすでにコインが乗せられている。美琴の全身から紫電が溢れる。後は親指を軽く弾くだけで、美琴の異名となった超電磁砲は音速の三倍もの速度で打ち出される事になる。

だが、一方通行は超電磁砲のことなど見向きもしない。

やれるものならやってみろと言わんばかりに、さらに暴風が力を増す。
攻撃すればした分だけダメージは跳ね返る。
強力な一撃を浴びせれば浴びせるだけ、その衝撃は舞い戻る。



御坂「………っ」


美琴の指が震えた。超電磁砲など返されれば、美琴の体は音速の三倍で粉微塵にされる。

超電磁砲と一方通行が戦えば、185手で御坂美琴は惨殺される。
冷たい機械が打ち出した決して変える事のできない演算結果が、美琴の心臓へ氷の破片のように突き刺さる。


それでも、美琴は顔を上げる。


敵が勝てる相手だから、誰かを守りたいのではない。
誰かを守りたいから、勝てない敵とも戦うのだから。


御坂「………、ごめん」


美琴は最後に上条に謝った。

上条の計画では『無能力者が超能力者に勝たなければ』研究者を騙す事は出来ない。美琴が手を出してしまった時点で、その計画は必ず失敗してしまう。

美琴が手を出さなければ、実験を止められず、美琴が手を出せば上条の計画は失敗してしまう。仮に美琴が犠牲になってこの実験を止めた所で、妹達が普通の生活を送れるようになるとは思えない。





それでも、美琴は黙ってみていることなどできなかった。





御坂「だから、ごめん―――」





勝手かもしれないけどさ、と美琴は歌うように謝った。











御坂「―――――――――それでも私は、きっとアンタに生きて欲しいんだと思う」



美琴は、決して勝てない敵へと右手を突き出し―――そして












上条「痛ってて………あの野郎、こんな土壇場であんな大技を………」


上条は一方通行と激突した場所から90メートルほど離れた場所、崩れたコンテナの山の中に埋まっていた。

いくら風速120メートルもの強風に浚われたとはいえ、ここまで距離を離すことなど不可能なのだが、上条は巨大な風の手が自分を捉えるその一瞬前、自らの足で地面を蹴って宙を跳んでいた。
風の流れに逆らわず、あえてその方向へ跳ぶ事でダメージを最小限に抑える。
着地場所にコンテナの山があったのは予想外だが、師匠達によって徹底的に『受身』の練習をさせられている上条にとってはなんの障害にもならない。さて、とっとと一方通行の場所へと戻らなければ―――と、吹き飛ばされてきた方向の空を見上げると。





そこには直径二十メートルほどの白色の太陽があった。うっ!?と、上条は思わず戸惑う。





あれは恐らく、一方通行が風の『向き』を操り、圧縮し、空気中の『原子』を『陽イオン』と『電子』に強引に分解し、作り出した高電離気体だ。
ディーゼルエンジンなどはコレを利用した内燃機関で、あまりの圧縮率で凝縮された町中の空気は、摂氏一万度を超える高熱の塊と化す。



上条(おいおいどうすんだよこれ!?)


上条はこの時になって初めて真剣に慌て始めた。

妨害する術はある。あるが、それにははめている枷をとき、力を解放しなければならない。そんな事をしてはせっかく物部が立てた『作戦』を台無しにしてしまう事になる。
物部に頼むのも無理だ。偶然にも何らかの力が働いて高電離期待が消滅しました―――なんてあまりにも不自然すぎる現象では研究者たちは納得しないだろう。御坂美琴に頼んで高電離気体を分解させてもらうというのは勿論論外だ。



万事休すか―――!?と、上条が歯噛みして、それでもこの場を切り抜けられないよりはマシだと、枷を外すよう物部に脳内で話しかけようとしたところで―――











ザッ、と砂利を踏みしめる足音がした。











上条「―――――――――あ」



宿す力は、異能力者(レベル2)程度。オリジナルの百分の一ほどの実力しかなく、機械によって生み出された、一体十八万円のちっぽけな命。





だが、それは希望だった。





上条「―――――――――頼みがある」





このふざけた実験を止めるための、最後の希望だった。





ミサカ10031号。とある少年からミイ号と呼ばれているその個体は、とある病院の個室でその声を聞いた。


とある少年の完璧とも言える処置と、とあるカエル顔の医者の天才的な治療によって、数時間前まで生と死の間際をさまよっていた筈のミイ号は、今や普通に歩けるまでに回復していた。

しかし当然のよう万全の体調ではない。走ればそれだけで全身が悲鳴を上げるし、安静にしていなければ再び倒れてしまうかもしれない。

だけど、それでもミイ号は自分の体にムチを打って個室を出る。病院から抜け出す。
少年の言葉は理不尽なぐらいまっすぐで、その目はどこまでも最高の結末が待っていることを信じていた。



ミイ号「………」


ミイ号も、御坂妹も、他の妹達も、自分の命になんの価値も見出せない。
ボタン一つで作り出せる肉の体に、プログラム通りに注入される無の心。単価十八万円の命など、壊れた所でいくらでも替えが利くと本気で信じている。





けれど、嫌だな、とミイ号は思ってしまった。





あの少年は、ミイ号のために一方通行から、あの絶体絶命の状況からミイ号を救い出した。
妹達全員を助ける為に一方通行(さいきょうののうりょくしゃ)に戦いを挑んだ。


確かに自分の命には何の価値もないけど、そんなちっぽけなものが失われたぐらいで哀しむ人が出てくるなんて事を知ってしまったら、もう死ぬ事などできなかった。

そして、例えこのちっぽけな存在でも、誰かの『夢』を守れるのならば、それはとても素晴らしい事だと、そう思うことができたから。

やるべき事があった。
守るべきものを見つけた。



上条『お前にやって欲しい事がある。お前にしか出来ない事がある』

ミイ号(その言葉の意味は分かりかねますが―――――――――)


ミイ号は、ゆっくりとその四肢に力を込め










ミイ号(―――――――――何故だか、その言葉はとても響きました、とミイは素直な感想を述べます)




きっと、そういってくれる誰かがいるから。
ミイ号は、まだ立ち上がる事ができた。






美琴が絶望するように頭上を見上げる中、轟!と言う風の唸りと共に、いきなり一方通行の頭上に浮かぶ球体の高電離気体の形が崩れた。



「「な………?」」


美琴と一方通行は思わず頭上を見上げた。あの高電離気体は街中を流れる風を一点に凝縮させることで作り出されたものだ。その風の流れが、一瞬だが確実に揺らいだ。そのせいで空気の圧縮率に誤差が生じて高電離気体が揺らいだのだ。

風の計算を誤ったか、と一方通行は新たに計算式を組みなおす。単純な「反射』と異なり『操作』には『変更前の向き』と『変更後の向き』の両方を計算しなければならないので面倒臭い。

とはいえ、一方通行はわずか十秒足らずで膨大な計算式を完全に修復する。これくらい、脳を開発された彼には問題にもならない。教育方法に能力開発を取り入れる学園都市にとって、学園都市最強の能力者とはつまり学園都市最高の優等生のことなのだから。





だが。





完璧な頭脳に組み上げられたはずの計算式から逃れるように、街中の風の流れがいきなり動きを変えた。ただの偶然ではなく、まるで風そのものが意思を持って計算式の隙間をかいくぐるように。


頭上で圧縮されていた空気の塊が拡散し、高電離気体が空気に溶けるように消えていく。



一方通行(何だァ?何が起こってンだ!俺の計算式に狂いはねェ、大体今のウナギみてェ名不規則な動きはどう考えても自然風じゃねェぞ!)


まさか間が悪く、本物の風使いが街のどこかで力でも使っているのか。いや、不規則な風の流れは街の隅々にまで及んでいる。一方通行の能力と計算式の上を行く処理能力を持つ風使いがいるとすれば、そいつは間違いなく超能力者に認定できる。だが、一方通行の知る七人の中に、そんな能力者は存在しない。





一体何が………、と焦る一方通行はそこでカラカラという乾いた音を聞いた。





風力発電のプロペラが回る音を。





一方通行(待、て。聞いた事あンぞ。たしか発電機のモーターってなァ特殊な電磁波を浴びせっと回転するって話が………ッ!)


一方通行は美琴の方を見るが、彼女が能力を使っている様な様子はない。

そもそも町全体の風を制御できるほどの風力発電のプロペラを操れたとして、一方通行の計算式を確実に乱すような統率性など―――『脳内でネットワークでも構成しているような』―――


とそこまで考えた一方通行が気づくのが先か、










がさり、と一方通行の背後で何か物音がしたのが先か。







一方通行「………」


一方通行は恐る恐る振り返る。


そこに、信じられない光景が広がっていた。風速120メートルもの暴風に吹き飛ばされてどこかへ吹っ飛んでいったはずの少年が、今夜の実験で殺しているはずだったはずの御坂妹が、一方通行の敵として、立っていた。



上条「………ありがとな、御坂妹。『あれ』は俺じゃあ無理だった。ははっ、情っさけないよな。あれだけカッコ付けといて、結局お前らの手を借りちまった」


上条は、御坂妹の頭をポンポンと撫でると、御坂妹は少しだけ顔を赤らめ、くすぐったそうに首を振った。

この状況で、あれだけのダメージを負った(と、一方通行は思っている)後で、こんな気楽な会話をしている少年に、一方通行の喉が、理性が、砂漠のように干上がった。


さて、と。上条は呟いて



上条「覚悟は、良いな?」


獰猛な獣のような笑みを浮かべて一方通行の元へと歩いていく。



一方通行「面白ェよ、オマエ―――――――――」


一方通行は叫び












一方通行「最っ高に面白ェぞ!!」














そうして、夜空に吼えるように絶叫した一方通行は、上条当麻を撃破する為に拳を握って駆け出した。
例の、地面を蹴る足の力の『向き』を変換した、砲弾じみた速度であっという間に距離を縮めてくる。ありがたい、と上条は思った。そろそろ決着をつけないと、流石に研究者たちが無事でいられる自分に不信を抱く危険性がある。もしここで一方通行が上条を近づけさせないような攻撃をしてきた場合、かなり厄介なことになっていたかもしれないのだから。

上条は拳を握る、視線を上げる。一方通行は弾丸のような速さでまっすぐに上条当麻の懐へと飛び込んできていた。
右の苦手、左の毒手。

共に触れただけで人を殺す一方通行の両の手が、上条の顔面へと襲いかかる。









瞬間、時間が止まった。









上条は一方通行の左手を右手で、そして――――――――『右手を左手で受け止めていた』









一方通行の心臓が凍ったように止まる。今まで上条が自分を殴ってきたのは、いつも右手だった。だからこそ、右手以外の場所は自分の能力を無効化する事は出来ないと考え、まず右手で右手を封じ、次に左手で確実に止めを刺す。


二重の必殺で、確実に上条を人間爆弾のように内側から破裂させてやろうと考えていた。



―――が、待っていたのはあまりにも理不尽な力と



上条「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)―――――――――」


一方通行を押さえる左手を話し、上条は笑う。





上条「―――――――――俺の最弱(さいきょう)は、ちっとばっか響くぞ」





あまりにも最っ高すぎる結末だった。




瞬間。上条当麻の左の拳が、一方通行の顔面へと突き刺さった。

即座に右の手を離す。

その華奢な白い体が勢い良く砂利の敷かれた地面へ叩きつけられ、乱暴に手足を投げ出しながら、ゴロゴロと転がっていった。




ここまで。次回、第三巻終わり。

PS・この上条さんの特殊な力は『幻想殺し』だけじゃないんだぜ………?

一方通行(能力無制限)に対処できそうな東方キャラ一覧
(弾幕や封印術が効くかどうかは保留)

・フランドール・スカーレット
「きゅっとして(脳を直接)ドカーン!!」

・古明地さとり
能力を身につける前、もしくは能力開発過程を「想起」させる攻撃

・八雲紫
反射膜の内側から攻撃
または
空間ごと胴体真っ二つ
もしくは
宇宙空間or異次元へポイー

確実かつ簡単にいけそうなのはこのくらいか

続き。心綺楼の布都ちゃんが予想以上にロリっ娘(というかあれはもはやペd)で実に興h………けしからんと思いますはい。




ミイ号が目を覚ますと、そこは病室だった。


昨日の夜、こっそり抜け出したはずの病院の一室に寝かされていた。
麻酔が効いているせいか、唇の辺りにおかしな感触を感じながらも、ミイ号は目だけを動かして辺りを見渡した。今はどうやら朝方を少し過ぎた頃らしい。
ただ弱い冷房の音だけが静寂の病室に響き渡る。当然といえば当然なのだが、着替えも、お見舞いの果物も置かれてはいない。あたりまえだ。自分はクローンなのだから。病室にあるものといえばベッドの横のイスに座っている上条当麻ぐらいだし。



ミイ号「!?」

上条「お、目ぇ覚めたか。よかったぁ」


上条は安心したような声を上げる。対称的に、ミイ号は思わず飛び上がりそうになるが、麻酔の効いた体はピクリとも動かなかった。
そしてさらに、上条はミイ号の手を左手で優しく握っていた。



ミイ号「すみません、非常にどうでもよく、いえどうでもよくは無いのですがなんと言うかその、なぜいわゆる異性との対人コミュニケーションによる快感を得るための電子遊具に出てくるような展開になっているのでしょうか、とミサカは冷静かつ分かりやすい例えで質問します」


ミイ号の慌てたような言葉に上条は首を傾げ。



上条「いや、なんか座ってたらお前が手を握ってきたからさ。払いのけちゃうのも悪いかなー、と思って手を握ってたんだけどその分なら問題なさそうだな」


ぱっ、と。それこそ何の気無しにミイ号の手を握っていた手を放してしまう上条に、ミイ号はむっ、とした表情を浮かべる。
あれ、なんかまずったか?と、不安になる上条だが、伝えなければならない事があるという事実がそれを打ち消した。



上条「あ、そうそう『実験』の事だけど」

ミイ号「一方通行の敗北と共に中止に向かう事が決定したようですねとミサカは把握します」

上条「いや、その事じゃなく」

ミイ号「御坂の体はお姉さまの体細胞から作り出されたクローンであり、そこへさらに様々な薬品を投与する事で急速に成長を促した個体であるため、ただでさえ寿命の短い体細胞クローンがさらに短命になっているという件ですね?とミサカは納得します」

上条「………ああ、だかr」

ミイ号「そういう訳で学園都市の中や外の研究機関を頼り、急速な成長を促すホルモンバランスを整え、細胞核の分裂を調整する事である程度の寿命を回復させることになったようですね。とミサカは」

上条「ええい!人の台詞をとるんじゃありません!お前はあれですか、効率厨ですか!?テレビゲームとかで操作だけ確認してシナリオとかスキップしちまうタイプ!?」


ああ、そういえば御坂妹たちは脳内でネットワーク的なものを繋いで情報とかを共有してるんだっけ。と上条は頭を抱えながらため息をつく。確かに便利だとは思うが、コレではプライバシーも何もあったものではないだろう。上条と物部も脳内で会話ができるが、それだって一定の制限を掛け合ってお互いの機密を保護している。今後はそういったネットワーク的な部分も『調整』されると良いなぁ。と思いながら上条は立ち上がった。



上条「んじゃあ俺、そろそろ行くわ。待たせちまってる奴もいるし」

ミイ号「………あの、もう行ってしまうのでしょうか、とミサカは」



「大丈夫」上条当麻は振り返らず



上条「きっとまた会えるさ」


………そうですか。と言って、ミイ号は目を閉じた。

それが良い。特別な約束や何かを残しては、もう二度と会えないような気分になる。
すぐに会えるならば、本当にそう信じているならば、いつものように何でもない風に別れた方が『もっともらしい』

物語はここで終わった訳ではない。いつか今日の日が何でもない思い出になるぐらい、これから先も続いていくのだから。
目を閉じた暗闇の中、ドアが閉まる音が聞こえた。薬によって作られた眠気が襲いかかってくる。
しれでも、いつの日か再開できるその時を夢見て、ミイ号は笑っていた。





御坂「あ、き、奇遇ね」


上条が病院の敷地を出ると、そこには御坂美琴がいた。その顔には疲労の色が強く現れていたが、それでも彼女は笑っていた。



御坂「ほい、あの子達のお見舞いのついでだけど、アンタにもおすそ分け。それ、デパ地下でなんか高そうなクッキーだったから買ってみたんだけど………ま、そこそこ美味しいんじゃないかしら?後で感想聞かせなさいよ、まずかったら二度とあそこの店は使わない事にするから」


俺は毒見かよ、と上条は思いながら



上条「でもクッキーというなら手製がベストですな」

御坂「………アンタ、私にどんなキャラ期待してんのよ」

上条「いやいや。あえて不器用なキャラが不器用なりに頑張ってみたボロボロクッキーっていうのがね、わっかんねーかなぁ?」

御坂「だからナニ期待してんのよアンタは!」


上条と美琴はぎゃあぎゃあ騒ぎながらいつもの時間を過ごした。いつもの時間にいつもの世界が立っている事が、上条は嬉しかった。



上条「あ、そうそう。あいつらのこれからの事なんだけど………」


上条は昨日の夜に御坂妹から教えてもらった事を話した。妹達「シスターズ)は自分の体質を治すために他の研究機関の世話になる事、そしていつかまた、また上条の元に戻ってくると約束した事。


御坂「そっか」


美琴は、それだけ言った。
何か大切なモノを見守るように目を細めて、けれどどこか翳りのある瞳を浮かべて。






美琴は、確かに「実験」を止める事ができた。
そして、一万人近い妹達の命を救う事ができた。
しかし、それ以外の妹達の命を救う事はできなかった。



上条「けどさ」


上条は呟くと、美琴は黙って上条の顔を見た。
まるで知らない街に取り残された子供のような瞳を、上条は見ていられなかった。



上条「お前がDNAマップを提供しなければ、そもそも妹達は生まれてくる事もできなかったんだ。あの『実験』は確かに色々間違ってたけどさ、妹達が生まれてきた事だけは、きっとお前は誇るべきなんだと思う」


美琴はしばらく黙っていた。
やがて、ポツリと泣き出しそうな子供みたいな声で、言った。



御坂「………私のせいで、一万人以上の妹達が殺されちゃったのに?」


それでもだよ、と上条は答えた。
苦しい事に苦しいといって、辛い事に辛いと思って。そんな、誰にでも出来る当たり前の事だって、生まれてこなければ絶対にできない事なんだから。



上条「だから、妹達はきっとお前の事を恨んでない。あの「実験』では色々と歪んだ所があったけど、それでも自分が生まれてきた事だけは、きっとお前に感謝してたと思う」



―かつて、物部や師匠達と出会う前の上条が、例えどんな不幸にさいなまれようが、どんな困難に立ちはだかられようが、それを父親と母親のせいにはしなかった、せいにしたくなかったように―



上条の言葉に、美琴は息を呑んだ。
そんな彼女の顔を見て、上条は小さく笑いかける。









上条「だからお前は笑って良いんだよ。妹達は絶対に、お前がたった一人で塞ぎ込む事なんか期待してないから。お前が守りたかった妹達ってのは、自分の痛みを他人に押し付けた満足するような、そんなちっぽけな連中じゃねーんだろ?」
















上条「………で、何さっきからふてくされてんだよ布都」


美琴と分かれた後、ようやくといった感じで上条はため息を付いた。
視線の先には、何か面白くなさそうな顔で頬をハムスターみたいに膨らませる物部がいる。



物部「別に、ふてくされてなどおらぬ」


ずっと前から思っていたが、物部は考え方や頭の回転は凄く大人っぽいのにその容姿や言動、思考回路的な部分で、物凄く子供っぽくなってしまっている気がする。
物部はその足で上条のふくらはぎ辺りをゲシゲシと蹴るが、あまり、というか全然痛くない。なんと言うか本当に構ってほしい子供みたいだった。



上条「何か言いたい事があるなら言ってほしいんでせうが?」

物部「特にはない………ないが、その、ずいぶんとあの鳴神姉妹達と仲が良くなったものだなと思っただけじゃ」


は?と聞き取れなかった上条は聞き返すが、物部は、なんでもない!と、まるで意地になった子供のように叫んだ。
少しびっくりしたような上条の顔を見て、物部は翳りのある顔で、すまん。と謝った。



物部「その、今回も今回も今回もお主一人に戦わせてしまっていた事に気づいてな。なんというか、その、色々と不安になってしまって………」

少し、恐かったんじゃよ。と物部は告白した。

確かに今回の件は、物部が気づかなければ上条はかかわる事すらなかったかもしれないものだ。『実験」をとめるための作戦も、その作戦を成功させるための条件も、物部が考え、提案したものだ。それは間違いない。

だが、一方通行を倒して実験を止める作戦を成功させたのは、他ならぬ上条だ。妹達に言葉を叩きつけ、生きようと思わせる事に成功したのは上条だ。
物部は、それが、それ以外の方法で『実験』を止める術があったのに何もしなかった。上条のサポートすらできなかった。

上条が一方通行に負けるなど、欠片ほども思ってはいなかったが、それでも上条を容赦なく戦場に送り出したのに、自分は戦いにおいて何の助力もできなかったという事実が、物部の肩にのしかかってくる。









上条「はぁ?何そんなちっぽけなこと気にしてんだお前」




なんでもないように言う上条に、物部は息を呑んだ。






上条「お前が御坂の不信さに気づいて行動を起こしたから、こんなに早く『実験』を止める事ができたんだろ?むしろ、あいつの翳りや暗さにほとんど気づいてなかった俺の方が責められるだろ普通」


それに上条は知っている。物部布都の事情を知っている。

彼女は、否、『あちら側』に住んでいるものは『こちら側』では表立って力を使ってはならないという決まりを知っている。禁書目録争奪戦の時でさえ、物部は大した術式を使ってはいないのだ。(上条は物部と共に『首輪』の中に入っていないため、物部がとあるスペルを宣言した事を知らない)


確かに物部が秘術を使えばもっと楽に、上条たちだけでなく、一方通行さえも傷つずに事を収める事ができたかもしれないが、それとこれとは別の問題である。



上条「お前の事だから『力があるのに何もしなかった』『最良の展開にする力があるのに何も出来なかった』って思ってんのかも知んないけどさ。それが最良の展開、なんかじゃ無くたってみんな無事で、俺ももミイ号も御坂妹も、それからお前も、ちゃんと帰ってこれたんだから何の問題もないじゃんか。お前があいつらを助けようって言ってくれなかったら、力を貸してくれなかったら『何一つ失う事なく皆で笑って一緒に帰る』って言う俺の夢は叶わなかったんだからさ」





一人なんかじゃなかった。物部がいたから戦えた、俺は、俺達は一緒に戦ってた。





だからほら、と上条は笑って物部に手を差し伸べる。









上条「帰ろうぜ、布都」



………うむ!と物部は上条の手を取って子供のように笑った。




























上条当麻は忘れていた。すっかり忘れていた。




明日から合宿という名の、地獄の一週間が始まるのだという事を。


>>627 訂正



上条「お前が御坂の不信さに気づいて行動を起こしたから、こんなに早く『実験』を止める事ができたんだろ?むしろ、あいつの翳りや暗さにほとんど気づいてなかった俺の方が責められるだろ普通」


それに上条は知っている。物部布都の事情を知っている。

彼女は、否、『あちら側』に住んでいるものは『こちら側』では表立って力を使ってはならないという決まりを知っている。禁書目録争奪戦の時でさえ、物部は大した術式を使ってはいないのだ。(上条は物部と共に『首輪』の中に入っていないため、物部がとあるスペルを宣言した事を知らない)


確かに物部が秘術を使えばもっと楽に、上条たちだけでなく、一方通行さえも傷つずに事を収める事ができたかもしれないが、それとこれとは別の問題である。



上条「お前の事だから『力があるのに何もしなかった』『最良の展開にする力があるのに何も出来なかった』って思ってんのかも知んないけどさ。それが最良の展開、なんかじゃなくたって俺も御坂もミイ号も御坂妹も、それからお前も、ちゃんと帰ってこれたんだから何の問題もないじゃんか。お前があいつらを助けようって言ってくれなかったら、力を貸してくれなかったら『何一つ失う事なく皆で笑って一緒に帰る』って言う俺の夢は叶わなかったんだからさ」





一人なんかじゃなかった。物部がいたから戦えた、俺は、俺達は一緒に戦ってた。





だからほら、と上条は笑って物部に手を差し伸べる。









上条「帰ろうぜ、布都」



………うむ!と物部は上条の手を取って子供のように笑った。




























上条当麻は忘れていた。すっかり忘れていた。




明日から合宿という名の、地獄の一週間が始まるのだという事を。





次回予告



上条「行きたくねぇ………」

物部「やはりここは最高の場所じゃな!」



合宿場はどこに!?



???「当麻?少しお話が」

???「ふふっ、お久しぶりです」

???「おかえりー」


次々と登場する人在らざるものたち!




そして現れる、上条当麻にとって最強最大の敵!!





???「久しぶりだな、当麻ぁぁあああああああああああああああああ!!」





次回、消し炭になった幻想殺し





古の封印が解かれしとき、物語は始まる。





(ほとんどウソ予告です)

三巻終了。次回はオリジナル要素満載の四巻。

注意。四巻からはオリジナル設定や、原作の崩壊、改変などがさらに多くなります。

続き。第四巻「修行合宿編」






『前に進みますか?』





『人とは異なる物』まさしく『異形』の存在でありながら一見すると『普通の人間』にしか見えない彼女は、いつもと変わらぬ調子で、いつもと変わらぬ声で、いつものように問いかけてきた。



『避けることの出来ない深い絶望を知るかもしれません、絶対で残酷な運命を変えることが出来なかった己の無力を恨むかもしれません』



彼女が問いかけている相手の体はどこもかしこも傷だらけ。心は深海よりも深く暗く沈み、その意思は霧散して消えかけていた



『大切な人に裏切られるかもしれません、無常な戦いを強いられるかもしれません、納得できない現実を突きつけられるかもしれません』



地面に無様に横たわっている一人の少年に対して彼女は冷酷に、残酷に、非情に、刻々と限りなく正しい事実を述べる。
近い未来、とある少年が立ち向かう事になるであろう途方もない試練の数々を告げ続ける。



『断言しましょう。今のあなたの意志ではたとえ神の加護があろうと悪魔が味方しようといずれ『何か』に無様に敗北し、その魂は黄泉の国へと旅たつのが落ちです。―――あなたは、とても弱い。『最弱』と言っても良い』



まだ年端も行かない『子供』である少年に対して問いかける彼女は、そこまで言うと不意に口を閉じて間隔を開ける。数刻経ったあと、再び口を開いた。








『それでも―――前に進みますか?』





それは、どこまでも『問い』だった。



『『不幸にも』私が言った数々の事象が、とめどなく、無限に、何度退けようと襲い掛かってくるという事を知って、それでもなお自分の『意思』を消さない覚悟がありますか?強くなる事ができますか?』



その問いが、少年を修羅の道へ突き落とす事になるだろうと知って、それでもなお、知った事ではないという風に。どこまでも問い続ける。



『あなたが正しいと思った事を、貫き通すために。間違っていると思った事象を、殺し尽くす為に。たとえ何度失敗して、その度に己を憎悪しようが、たとえ何度無様に敗北して、その度に己が傷つく破目になろうが』



彼女は問い続けて、そして最後にこう纏めた。









『何度でも起き上がり、諦めずに、躊躇わずに、たとえ何があろうが前へ前へと進み続けることが出来ますか?』









それは、どこまでも『問い』だった。



そして、ゆっくりと少年が告げた『答え』に―――



『及第点です』



と彼女は言った。













「おきなさい!この、馬鹿弟子がぁぁあああああああ!!」

夢が与えるまどろみの中の記憶に思いを寄せる暇もなく、上条当麻は布団から蹴り飛ばされ、勢い良く遥か彼方へと転がっていった。





八月二十二日。



夏休みも後半に差し掛かるというこの時期に、上条当麻は学園都市を離れ、その身をとある山の中に潜ませていた。


電車で三時間、バスで二時間。合計五時間かけて、群馬県の山中にある『とある場所』を目指す。
本当は自分の足で走った方が速いのだが、むしろ『目的地についてから』嫌と言うほど、というか嫌でも体力を消費しなければいけないため、最も体力を温存できるであろうルートを選んでいた―――筈だった。



上条「………」

物部「………とうま?」

上条「………………」

物部「とうまー」

上条「………………………」

物部「と!う!ま!」

上条「………………………………」

物部「と♪う♪ま♪」

上条「………………………………………」

物部「とうまぁぁ………;;」

上条「だぁぁああああ!もう分かってるよ分かってますよ分かってるんですよ落ち込んでたってしょうがないって事くらい!!しかしだね、突如として沸いた不幸に落ち込む孤独で侘しい一人っきりの時間位あったって良いだろうが!や、やめろ!もう乗る電車を間違えて特急で東北まで行きかけた事なんか気にしてないからそんな捨てられた子犬みたいな目で俺をみるなぁぁああああああああ!!」


うわぁぁあああああああああ!!と叫びながら地面に蹲る上条。昔っからなのだが、上条は物部のこの期待を裏切られた子供の泣き顔に似た表情が苦手である。なんというか、逆らえない。乗る電車を勘違いした原因は間違いなく物部なのだが、何故だか少しも責めることができない。
そのため、あえて責めたてずに一人、不幸という事象に落ち込んでいたらコレだ。なんというか、良くも悪くも、この少女に憑かれてから『不幸』に落ち込んでいる暇など無くなった上条である。





上条(ふ、不幸だ。不幸だと叫べない事が不幸だぁ………)


思えば今日はわずか半日で散々な目にあった。

インデックスを小萌先生に預けるさい、散々駄々をこねられるは(修行場所が『世界で一番遭難者が多い山)だと知った途端手の平を返されたが)
学園都市のゲートをくぐる時に許可証のIDがズレているとかで揉める事になるは(結果的に通してもらえたのだが)
物部が持ち前のアホの子を炸裂させ、乗る電車を間違えた結果、特急で東北方面まで行くことになるは、最後には乗ったバスがテロリストにジャックされたため撃退する事になるはともう、なんと言うか色々とボロボロだったのだ。

朝早く。お天道様も昇らない夜明け前に出発したというのに、現時刻はもう夕方の午後四時。平地と比べて日の沈みが早い山の中は、日が長い夏だというのにもうすでに薄暗くなっていて、辺り一面に生えている数々の大木が作り出す細長い影が不気味な雰囲気を醸し出している。

あと一時間もすれば日は完全に暮れ、辺り一面に漆黒の帳が落ち、この辺り一帯は獣の通り道にでもなるのだろう。この山は野うさぎや鹿だけでなく、熊まで出るのだった。



ちなみに、目的地の到着予定時刻はお昼ちょうどの午後十二時。
そして、今この場所から上条が全力で走ったとしても、合宿場までは最低一時間かかる。



将棋で言う詰み、チェスで言うチェックメイト。



殺される。師匠に殺される。


わけを話したところで納得する人ではないし、そもそも『体力を温存する事を目的に遠回りをした』上条の行動理念そのものに説教をかますだろう。
それだけならまだ良い。今日の分だけならまだどうとでもなる。規律に厳しい人だが堅物ではないし、柔軟で広大な器の持ち主である彼女は、上条にとってかけがえの無い恩師だ。間違いなくそう断言できる人だ。

しかし、彼女はここ最近の上条の行いに、多分、きっと、間違いなく苛立ちを募らせている。

禁書目録事件の時、神裂火織という聖人と戦った際の『枷』の過錠解除や、つい昨日の妹達の救出作戦における誓約違反など、最近の上条の行動は目に余るものがある。
それらの禁則事項も上条にとっては『理屈は分かっても納得できない』ルールなのだが、師匠達がそれに従っている以上、弟子である自分も従わないと、師匠達にまで迷惑がかかってしまう。

加えて、今日の大遅刻だ。もはや半殺しは確定と言っても良いかもしれない。



上条(行きたくねぇ………行きたくねぇけど行かなかったらそれこそ物理的に地獄に送られる………)


頭を抱えながら上条は山道に蹲る。
どうせ前へと進む以外に道はないと分かっているのだが、絶大的な恐怖に打ち勝つための心構えにある程度の時間が掛かる程度には、上条は未熟なのだった。












純和風の清楚感漂う一室で、彼女は一筆の筆を持ち、さらさらと文を書いていた。



筆についた墨が、真っ白な和紙に乱れる事無く文字を描いていくその様は言い表す事が出来ないほど見事なもので、まるで極上の水墨画ができていくようすを一瞬の速さに編集したものを見せられているかのような錯覚を覚える。

加えて、その文を書いている彼女はその両目を瞑想するかのように閉じていた。そう、目を閉じたまま、文字を乱す事無く、異常なスピードを保ちながらその文を書いていた。
これがどれだけとんでもない芸当かは、言わずとも分かるだろう。

と、彼女はとある文章の終わりに句点をつけると、今まで瞬きすらしなかった両目を開き。



「でてきなさい」


と、静かに言った。





「おうおう、相変わらず堅苦しい仙人様だこって」


と、どこに隠れていたのか、彼女の後ろから当然、本当に当然に別の女性の声がした。
澄み切った極上の空気のような声をしている彼女と違い、まるで色艶そのものを再現したかのような女性の声が部屋に響く。



「何の用ですか?もしかしてようやく当麻の前にその醜態を晒す事にしたので?生憎当麻はまだ来ていませんが」

「………相変わらず、あんたは私が嫌いみたいだねぇ」


自分の方を振り向きもせずに机に向かう澄み切った女性が放つ辛辣な言葉に、ま、いいけどさ。と色艶溢れる女性は笑い返す。
それは、彼女達二人が顔を合わせた際に必ずと言っていいほど繰り返されるやり取りでもあった



「ってか、まだ着いてなかったのかい、到着は十二時のはずだろ?」

「いつもの事でしょう」


彼女は疲れたようにため息をつき



「大方、小さいトラブルが二つ。大きなトラブルが二つ。それによって到着予定時刻に間に合わなくなってしまった当麻(あの馬鹿)の苦悩。合計五つのロスといったところですか。全く、この程度の事で師を待たせるなど、そもそもあの子には………」


ブツブツ、と。まるで後輩のミスを友人に愚痴るOLのような彼女に、色艶溢れる女性は薄く苦笑いを浮かべる。
他と比べれば圧倒的に少ないロスであろう事など分かりきっているのだが、それでも容赦なく弟子の苦悩している時間も自己責任としてロスに加えるところが容赦ない彼女らしいなぁ、と思った。



「はいはい分かった分かった。可愛い可愛い愛弟子に一刻でも早く会いたい気持ちはよーく分かったから私に愚痴をぶつけるのはやめ」









言葉を紡ぎ終わる前に、ドゥオン!!という音や空間という概念そのものすら破壊してしまいそうな衝撃の塊が色艶溢れる女性に襲い掛かる。









が、その衝撃が当たる直前、パチン、と色艶溢れる女性が指を鳴らすと、それだけで山一つは消し去ってしまいそうな圧倒的な衝撃の塊は、もともと何も無かったかのように消え失せてしまう。









「………あのさぁ。山一つ消し飛ばすような術を何の躊躇も無く撃つ仙人ってどうよ?あ、無視かいそうかい」


ここまでされてもやはり何の敵意も悪意も無く、まるで腐れ縁のクラスメイトにあいさつするかのような気楽さで話しかけてくる色艶溢れる女性に、澄み切った女性は観念したかのように後ろを振り返る。





「で、本当に何の用ですか?暇つぶしの『弾幕ごっこ』ならお付き合いできませんが」

「いやいや、大した事じゃないさね」


色艶溢れる女性はケラケラと面白そうに笑いながら。





「ただ、当麻の到着があまりにも遅いってんで痺れを切らしたうちの弟子が迎えに(ケンカしに)行った、ってだけさ」

「………」

「あんたは弟子の到着が遅い、ってイライラしてたみたいだけど、無事にここまでこれるかも怪しくなったってだけのことさ」


下手したら死ぬかもね、と。女性は言った。
ニヤニヤと、さもすれば邪悪とも呼べるような笑みを浮かべる女性に、彼女は









なんだ、いつもの事か。
くだらないと言わんばかりに再び女性に背を向けて机に向かい、筆を執る。










「『結界』を超えない範囲でしたら、どうぞご自由に。ああそうそう、あなたは無事にたどり着けるかどうかも怪しいといっていましたね。もしあなたの弟子に今からでも連絡が取れるならばこうお伝えください」


彼女は顔だけを後ろへ向ける。
その表情は、ニコニコと笑っていた。








「私の弟子でよければ遠慮も容赦もいりません、どうぞ、コテンパンのボッコボコのメッタメタのギッタギタにしてやってください、と」

「………本当に、容赦ないねぇ」







物部「ふぅ、ようやく着いたのぉ。やれやれ道中色々あったが、ここまで無事につけたのも、我らが道教の大いなる………」

上条「………ああ、そうだな………」

物部「お願いだから少しは元気出して;;」


日が二割ぐらい沈み、もうすっかり薄暗くなり始めているとある山の山道から少しずれた、荒れに荒れた獣道のような場所の真っ只中に上条はいた。

物部はため息をついて、とりあえずこれいじょう上条のテンションが下がる前に合宿場近くまで運んでしまおうと、物部は懐から一枚の札を取り出し、宙へと投げ放つ。
空中でピタリ、と見えない何かに張り付いたように止まるその札に、さらに別の札を重ねるように投げると、バキバキバキバキバギン!!という木材を無理やりへし折ったような音とカンコントンカン!という何かが組み上がっていくような音が連続して辺りへと響き渡る。






『結界』とは






聖なる領域と俗なる領域を分け、秩序を維持するために区域を限るものであり、古神道や神道において、一定範囲の空間に設定されたタブー(禁足)を視覚化したものとも言える。
それらは、その中の空間に入るのに適しているものしか通さず、通れないように出来ている。普通の人間には見る事もできなければ感じる事もできない。
ゲームで言うRPG的に言うと、通行証的なものが無いので中に入れません。と言うシステムメッセージが出るような、古来からある高度なセキュリティの一つだ。


それは聖なる領域(常世)と俗なる領域(現世)という二つの世「界」を「結」びつける役割をも持つ。



つまり『ここではないどこか別の世界への通り道』にもなっている訳なのだが………



上条(なんでこんなもんが通り道として機能するんだかなぁ………)


上条は呆れたようにそれを見上げる。
辺り一面の草木を押しのけるように出来たそれは、高さ二メートル、幅は三メートル弱の巨大な『障子』だった。


空間を仕切る意識が希薄な日本においては、他にも日常レベルでさまざまな場面で「結界」が設けられる。例えば、「暖簾(のれん)」がそうである。これを下げることで往来と店を柔らかく仕切り、また時間外には仕舞うことで営業していないことを表示する。このような店の顔としての暖簾は、上記の役割を超えて、店の歴史的な伝統までも象徴することとなる。

とまぁ『結界』というものと日常レベルで関わってきた日本ならではの術式なのだが、こんな山奥に巨大な障子が一枚、ポツンと立っているさまは、どうしてもシュールな光景にしか思えなかったりする。


ちなみに、この『通り道』万能というわけでもない。


一つ一つの結界にあわせたものを用意しなければならないし、その度に出来上がる形も大きく変わる。(そもそもこの術式は『あちら』と『こちら』を繋げるものではなく、『あちら』と『こちら』を繋いでいる結界を開くための『鍵』を作るようなものだ)
神社などでよく見る『鳥居』の形をしていたり、『暖簾』だったり、『衝立』や『襖』だったりと、その時のその時で形や大きさも違う。
今回は障子だったところを鑑みるに、物部は恐らく『木』属性の札を使ったんだろう、と上条は察する。


障子の材料は枠や和紙を含めて当然『木』から作られる。その木から作られる紙に術式を込めておけば、『紙』は『木』となり『木』は障子になる。持ち運ぶ際の状態は『紙』なので携帯にも便利という訳だ。


ちなみに、彼女が最も得意とする『とある術式』も、これの応用で―――



物部「とうま、我が言うのもなんじゃが絶望する前の余計な思考というのはせっかく決めた覚悟を狂わせるぞ?」

上条「うっせぇな、分かってるよ!」





上条は観念したように、術式に影響を与えないよう右手ではなく左手を障子へ伸ばす。
プルプルと震える手で、修行時代に咽び泣くほどのトラウマを植えつけられた場所へと自らの意思で進む。

そうだ、あの時誓ったではないか。師匠の前で子供ながらに啖呵を切ったではないか。



上条はふぅーっ、と深く息を吐き。



上条「ただいまー!」


実家へ戻ってきた一人息子のように障子の内へと足を踏み入れる。





上条が障子の内の世界に足を踏み入れた瞬間
ゴオオオオオオオオオッ!!と、何かが上条の前方上空から襲いかかってきた。





上条「う、うおぉぉおおおおおおおおおおおお!!?」


迷わず右手で迎撃する上条。

お帰りなさい、死ね。といわんばかりに襲い掛かってきたそれは、超極太で、巨大な光の柱。

禁書目録事件の際にインデックスが『ヨハネのペン』常態の時に使った『竜王の吐息(ドラゴンブレス)』を思わせる極太のレーザーのようなそれは、しかして威力が比べ物にならない。
光の柱を押しとどめる右手がベキリ、と嫌な音を奏で、体を支える鍛え上げられた両足が、ズブズブと地面の土に埋まっていく。



上条「こん、の!物部!!」

物部「うむ!」


物部は大きく頷いて、手の平に術符を乗せ、それをグシャリと握りつぶす。
バキン!と
その途端、ガラス細工が砕けるような音を立てて、術符と、上条にはめられていた左腕の枷が同時に砕け散った。





上条「う、お、おぉぉぉおおおおおおおおおらぁああああああああああ!!」





上条は迫りくる光線を右手で支えながら、左手で真横へと殴り飛ばす。
上から見てL字に折れ曲がった光の柱は、上条の真横、遥か彼方まで飛んでいった。数瞬の間を置いて、山が崩れるかのような凄まじい轟音が聞こえてくる。







上条「テンメェ………何しやがる」


上条はこの殺人光線を何の躊躇もなく放った犯人がいる上空を睨みつける。









上条は知っている。










「ははっ!流石に耐えられるか。修行は怠ってなかったみたいだな、安心したぜ。そうこなくっちゃな」










この術(スペル)を、この声を、この無茶苦茶な言動を、子供の頃から知っている。










誰よりも努力家で、誰よりも高みを目指し、誰よりも上条当麻という人物にとって天敵であろう少女―――――――――『普通の魔法使い』













上条「霧雨………魔理沙!!」

魔理沙「久しぶりだな、当麻ぁぁあああああああああああああああああ!!」



最高の玩具を目の前にした子供のような笑みを浮かべ、戦いに飢えた獰猛な獣のような目をしたほうきに乗って空を飛ぶ魔女が、勢い良く襲い掛かってきた。


ここまで。レギュラー化を一番最初に決めた子、それが魔理沙。上条さんの定義があれなら、魔理沙は一番の天敵になるだろうなぁ、と思ったので。

書き溜め中………


雑談も予想も構いませんが、ケンカ腰になるのは辞めてくだしゃあ;

すみません、本当にごめんなさい。投稿出来るのは最低でも来週になりそうです。

こちらのミスなんですが、四巻中盤まで書き終わっていたデータが消えたorz

速攻で書き直していますのでもうしばらく待っていただけると幸いです。



あと、東方を知らない人も見てくれているらしいので各投稿の終わりに簡単な解説を入れたいと思いますがどうでしょう。

お待たせしました、少ないですが続きを。



関係ないんですが、俺妹の最終巻を読みました。
禁書風に感想を言うと「理性や理屈では理解できたがそれ以外の何かが理解できない」
といった風………そりゃあ、ああいう終わり方にするのが良い方法だとは分かるんですが………なんと言うか、現実を突きつけられた気分、欝です;;

仕方ないので別のスレ(例のとある×俺妹)で発散しようと思います。

………つーかだれかやって;;





~その時、師匠は自室でただ静かに書物を記していた。



~その時、姐さんと悪霊は縁側で酒を飲み交わしていた。



~その時、童師は河童の隠れ家へと足を運ぼうとしていた。



~その時、河童は様々な発明品が転がる小屋で何かを必死に造っていた。



~その時、教授は秘密の場所でメイドの入れた緑茶とイチゴ大福に舌鼓を打っていた。






そして、山全体へ轟音が鳴り響く。






それを聞いて、この空間に住まう異形なる者達が抱いた感想は皆同じ。


















「「「「「「「なんだ、いつもの事か」」」」」」」

















あまりに激しい閃光と、それを弾き飛ばすとんでもない爆音と共に、合宿場での日常が始まった。










魔理沙「さて、まずは小手調べだなっ、と!」


魔理沙は、まるでクモの巣を払うかのように右手を大きく振るう。

次の瞬間、魔理沙の背後で何かが光った。光は消える事無く、まるで陣のようにドンドン彼女の周りへと広がっていく。
大きいものは一メートル以上、小さいものは10センチ以下。色は光と共に黄金に煌き、形は皆統一されて五亡星。



魔理沙「ストラトフィラクション!!」


普段は夜空に瞬き光る幾千ものホシ星が、ほうきに跨った魔女の指示に従い流星群となり常人では到底認識できないような、音速を超える速さで上条へと襲い掛かった。



上条「―――――――――ッ!」


眼前はおろか、自分の上下左右にいたるまで展開された大小様々な大きさの星展(せいてん)を避けきるなど不可能に思える。
大きめの星はとても威力が高いがその巨体がゆえに避けやすい。一方、小さい星は小回りが利き、とても扱いやすいが威力は低い。
大きい星と星の隙間に出来る小さな隙間を小さな星が埋める事で、標的はいかなる回避行動を行う事も出来くなる。





が、「そんな小手先の術では上条当麻にはとどかない」





上条「うぉぉおおおおおお!!」


上条は迷わず星屑の壁へと突っ込んでいく。
避けられないと分かってやけになった?いや違う。



―――――――――避けられない弾幕など、ない。少なくとも上条は師匠達にそう教わった。



突如、カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ!!という何かを削るような音が連続して響く。



上条が弾幕に当たってぶざまに地面に転げまわる音………「ではない」



上条「………」

魔理沙「ちっ!やっぱこれじゃだめか」


上条は健在だった。あの星屑の雨をかいくぐり、魔理沙との距離をドンドン縮めていく。
憎まれ口を叩いているわりにはニヤニヤと、面白くも嬉しそうにも見える表情で魔理沙は笑う。





「グレイズ(掠り当たり)」


「弾幕ごっこ」において最も重要な要素の一つ。

相手の弾幕に少しだけ、肌を擦らせるように当たる事により発生するそれは、相手の弾幕が持つエネルギーを少しだけ吸収する力を持つ。
加えて「弾幕」というのはまともに当たらなければダメージは無いものだ。(正確には「ダメージが発生しない」のではなく「その程度のダメージなど数に入らない」だけなのだが)





どんなに早くても、どんなに力があっても「当たらなければ意味はない」




もちろん上条は魔理沙が放つ洪水のような数の弾幕を全て避けているというわけではない。
時に右手の幻想殺しで弾幕を消し、起動をズラす。時に四肢に力を込めて振るい、弾幕を弾き飛ばす。辺りに生えている樹や、そこらにある岩なども利用して弾幕や自分の体の軌道を変える。

それによって星と星の間に出来たわずかな隙間に身を潜らせ、グレイズを発生させつつ魔理沙へと近づいていく。





―――が





(クソッ!だーもうちくしょう!!あいつますます弾幕の構成が上手くなってねぇか!?)


余裕に見えて結構内心では焦っている上条である。
「ますます」というのは上条は魔理沙と、それこそまだお互いが子供だった頃から付き合いがある所謂「幼馴染」であり「宿敵」でもあるからだ。知り合ったのは上条が師匠達に弟子入りし「曖昧な空間」であるこの場所に来てからだが、すぐに、というか半ば無理やり彼女と―――――――――


と、上条がそんなことを考えていると、スッ、と。まるで虚空に消えるかのように四方八方覆っていた星達が消えていく。



上条(弾幕の時間切れ(タイムアップ)か!)


しめた!とばかりに上条は左手に右手を重ね、力を練っていく。

魔理沙はちっ!と舌打ちして胸元から「スペルカード」を取り出そうとするが、遅い。先程みたいな宣言のいらない弾幕ならばともかく「スペルカード」に記された弾幕………いわゆる格闘ゲームで言う必殺技を出すには、それを使用すると相手に「宣言」しなくてはならない。
勿論魔理沙が選んだのは彼女の「スペルカード」の中でも最も軽く、使い勝手が良いものだろうが、それでもこちらの方が早い、絶対に早い。




―――キュォォオオオオオオオオオオ!!という何かを圧縮するような音が上条の手から一瞬響いた次の瞬間、バッ!、と上条は魔理沙の方へ両手を突き出す。





まるで手錠に繋がれたように手首を合わせた上条の両の双掌の中にあったのは、青白い輝きを放つ、バスケットボールぐらいの丸い球体―――






―――――――――上条が力を練り始めてから、ここまで約二秒。







上条「波旋弾(はせんだん)!!」








上条がその名を叫ぶと同時、彼の基本にして主力とも言える「力」を込めた弾幕が、魔理沙目掛けて吹き飛んでいった。

ここまで。>>691 現実を突きつけられたというより幻想を殺されたという方が正しいかも、そりゃあよくあるエロゲみたいな終わり方なんて期待してませんでしたけど………



はどうだん(ポケ○ン)+螺旋丸(ナ○ト)×「何か」=波旋弾(はせんだん)


ブ○ーチのセンカイ門(漢字わかんない)みたいな入口は「山」につながってたか
どっかの2柱が結界をこじ開けた痕を加工したのか?

あと「悪霊」が酒飲んでるってどうやって‥?

遅くなりすぎだぜ!俺!!こんなんじゃ三年掛けても終わるかどうか怪しいぜ、俺!!



本当すみませんorz









~5年前~





~上条がまだ師匠達の下で毎日毎日修行の日々を送っていた時のこと~






???「だ~か~ら~!ああもう一体何度説明すれば理解できるんですか!?」


ここが声の通りやすい静かな山奥だということを差し引いても、彼女の、上条にとっての師匠であるその人の声は、とてもデカく、よく響くと思う。現に彼女のすぐ傍で説教を受けている上条の耳にはもう嫌というほど聞きなれた師匠の声が入ってきていた



???「まったく………この『力』の練り方はあなたにとっていち早く習得すべき最重要事項だというのに、この覚えの悪さは一体どうしてくれましょうか」


はぁ、と忌々しそうにため息をつく師匠の口から「いっそ夢美に頼んで『強制入力装置(ファックベル・インストーラー)』を借りて………いやいやそれはさすがに」と言うなんだか嫌に恐ろしげな単語が聞こえてきた気がするが気にしないことにする。



上条「………すみません。で、でも!その、『気力』ってやつの概念と、それを体全体に行き渡らせるための循環方法はなんとな~く分かったんですが」


姿勢を正したまま、それだけではダメなんでせうか?、恐る恐るといった感じで自らの理解力をアピールしてみる上条だが、彼女は呆れたようにため息を付いただけだった。



???「言ったでしょう?それはあくまでも「その場凌ぎ」にしかなりませんよ。『気力を操る』程度の能力を手にしたところで特に役立つ場面はありません………『幻想殺し』を持つ貴方にとってはね」



彼女は手の平を上向きにした腕を、座ったままの上条のほうへグイッ、と近づける。
押し付けるようにした指先が上条の鼻先にぶつかろうかというその瞬間、彼女の手の平には野球ボール程度の大きさの黄金色に輝く宝珠が形成されていた。

しかしてその宝珠の輝きと美しさは実際の宝石などとは比べ物にすらならない。





これは、師匠の内にある『気』の塊だ。






心、意識、気構え、理念といった意味を持つそれは、相互関係を無にして使う事もできれば、纏めて使う事もできる。
例えば日本語では「精神」と「理念」と「スピリット」などと別表記にして相互に関連が無いと思い込んでいても、元のインド・ヨーロッパ語族の話し手は同一語を使っており、なんらかの語感を意識して込めている場合が多い。

これを逆手に取れば、必要なときに必要な『力』だけを使い、逆に全部一纏めにして使用する事もできるという訳だ。



???「あなたがこの世に生まれた時から宿すその右手の影響を無視できる唯一の『異能』………まぁ、正確には『異能』の力では無いんですが………とにかく、その『例外』なる力の一つが」

上条「つまり『人が人として最初っから持っていて当然の『力』人ならば誰しも持つ「生命の輝き」………つまりは『生命力』でしょ?」


師匠は頷くと



???「あなたのその右手はあらゆる『異能の力』を善悪関係無しに問答無用で打ち消しますが『生命力』だけは別です。西洋では『マナ』と呼ばれる事もありますが、あれは『竜脈』の力の一部と自らの『生命力』を混合する事で得られる力の………話が逸れました。つまり『誰でも持っていて当然の力』ですからね。ゆえに、あなたにとって私は天敵です。何せ私の能力はあなたの幻想殺しの影響を一切受けないんですから」




普通の魔術師や錬金術師、魔神は、基本的に自らの内にある生命力(大地を走る『竜脈』の場合もある)を魔力へと還元して様々な異能の力を振るう。
しかしてそれは紛れもない『異能の力』。上条の右手に宿る『幻想殺し』はそれが異能の力であれば、例え神の奇跡だろうと例外なく食い殺す。





………が、そんな無敵とも思える右手の効果にも、いくつかの『例外』がある。




その一つが『生命力』生きとし生けるもの全てが持つ、異能の力。





それは『幻想殺し』をその身に宿す上条でも扱える力という事で



???「加えて、『普通の生命力』ならあなたの幻想殺しに『中途半端』に反応して………まぁ、それはいいでしょう。今はそれで構いません」





ならばこそ、その『生命力(例外)』を極限まで昇華させた場合、何に『成る』のか。





???「早く覚えてください。『幻想殺し』を宿すあなたにとって一番最適な『力』」























???「『波動』の力をね」















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





ズバシュン!という何かが弾け飛ぶ音が聞こえた。

ギョッ、と上条は目を大きく見開く。
上条の特技にして主力でもある力を纏めた青白い光を放つ宝珠は、







魔理沙「………んなモンかよ」







黒白の魔法使いがその手に持つ箒で、まるでプロ野球選手がホームランを打った時のようにはるか彼方へと弾き飛ばされていた。



上条「―――ッ!? 『連・波旋弾』!!」



ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



先ほどの弾と比べて一回り小さい、りんごほどの大きさの弾が、まるで乱雑なマシンガンを放ったかのように魔理沙へと襲い掛かり――――――――






ズバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババシュン!!







一つ残らず四方八方へと吹き飛ばされた。







上条「ん、な」


驚愕する上条に、魔理沙は「わざわざ驚くような事かよ」と軽く笑い。



魔理沙「射撃の精度、力の密度、装填(リロード)までの速さ………ああ、お前はよくやってると思うぜ?明らかに前より『強くなってる』」



けどな、と魔理沙は言葉を区切って。



魔理沙「お前、まさかとは思うけど―――この私が一度見た技、一度食らった技、一度『負けた』技の『対策』を怠ってるとか思ったんじゃねぇだろうなぁ!!?」



箒は魔理沙を中心に円を書くように超高速で乱回転をしている。
その様は、昔の遊びの独楽や、ジャイロ効果を利用した発電機。そして――――――――







魔理沙「星符『ミリ秒パルサー』!!」







電磁を纏う星天体そのものに見えた。








上条「防御用の………スペカ!?お前が!!?」


自分の知らない、しかもこれまでの魔理沙なら考えられないような効果を持つスペルカードを使ってきた事に、上条は驚きを隠す事が出来ない。



魔理沙「さ、てと。お前さっき私に対して『遅い』とか何とか言ってやがったよなぁ?」


上条は実際にそれを口に出して言った訳ではないが、『魔女』という存在は正確や個性はどうあれ人の思考を読むのに長けている者が多い。
魔理沙のように『他人へのリスペクト』を常日頃から心がけているものならばなお更だ。

加えて、彼女は対策をしていると言った。それはつまり――――――――





反撃の準備も済んでいるということではないのか?





上条「―――ッ!?」

魔理沙「そのまま返すぜ………遅っせぇんだよ!!」





―――――――彗星『ブレイジングスター』!!






今度こそ、上条のよく知る彼女の。

『弾幕は力(パワー)』が持論の魔理沙の、まさしく『力技』のスペルカードが発動する。




箒にまたがり、膨大な魔力を宿した黒白の魔女が数多の星を撒き散らし、それこそ宣言したスペカの名前である彗星のような勢いで、そのまままっすぐに上条の元へと突っ込んできた。


相も変わらず誤字脱字が酷いですが仕様だと思っていただけると助かります;;(需要があれば誤字脱字を極限まで無くし、地の分や会話を追加した完全版をup出来たらいいな~と思っています。何年先になるか分かりませんが;;)





ssは長く書かれるほど更新に間が開く
慣れた読者なら続くことも終わることも期待しない
そもそも趣味で作るものなんだから
更新されれば「続きが来たらラッキー」
更新が無い場合「これも2ヶ月経過で終了かあ」
程度に構えるのが普通

この作品はどうなるかな?

遅くなりましたが続きです。


>>718 一応、最後まで話の構成は出来ているのでやりきりたいなぁ。と思ってます。





Blazing (ブレイジング)



直訳すると、燃える、あざやかな、焼けつくような。または、激高した。という意味を持つそれは、当然、その名を冠する『魔法(スペル)』にも活かされている。

『こちら』の住人が『決闘』を行う際に使う「スペルカード」というものは、その見た目や威力から想像、連想されるものがそのまま単純にスペルの名前として使われる場合が多いのだが、黒白の魔法使いが使うそのスペルも、まさにその鮮やかで美しい見た目からつけられた物だ。





すなわち、激高炎星(Blazing star)





だがその実態は、とてもではないが弾幕『ごっこ』とは言えない。



美しさは流れ星とは比較にならず、その威力は大気圏すら突破する隕石が格下に見えるほど。
速さは音速のそれを遥かに上回り、辺りにはただならぬ衝撃と共に多数の星たちをばら撒いて。



箒に乗った魔法使いが、その身を箒ごと青白い炎に包ませて、上条の元へと突っ込んできた。










これを直接受け止めたりすれば、まず間違いなく――――――――『負ける』。



















魔理沙「ん、な………!?」

上条「う、ォォおおおおおおおおおおらァァああああああアアアアアアア!!!」



が、上条はあえてそれを真正面から受け止める――――――――ッ!!



ド、ッ、ガァァァァアアアアアアアアアアアアぁぁアアアアアアん!!というまるで巨大な彗星同士が激突したような音が響き渡った。



幻想殺しの力だけでは打ち消す事が出来ないような膨大な魔力を、流水に身を任せるかのようにあえて逆らわず『ほんの少しずらす』事で自分の体ごと後ろへと受け流していく。『波動』の力も併用させる事で効率はさらに加速した。

力に逆らわず、受け流し続けるというのは、すなわちあえて全力を出さずにウマい具合に威力を相殺し続けるという事だ。

立派に根を張った大樹が台風であっけなくその身を折られてしまうのに対し、一見ヒョロッ、とした貧弱そうな印象がある柳は、その頭を垂れたかのような力の無い枝は、力に逆らわないからこそ、よほどの風では圧し折られなる事はない。





――――――――が、所詮そんなことは理屈でしかない。





上条「ごっ、がぁぁアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアア!!」


箒の柄を受け止めた両手が面白いぐらいプルプルと震える、圧倒的な空気抵抗で背中が焼ける。
足が凄まじい勢いで地面の土へと埋もれ、なおもそのまま、摩擦という物理法則など無いかのように凄まじい勢いで体が後ろへ滑っていく。当たり前だ。例えるなら全力で空を飛ぶ軍用戦闘機に生身の人間がブチ当たるような物なのだから

それでも上条は箒から手を離すのをやめようとしない。
ここで手を離して回避行動などに移ればその瞬間、蒼く燃える巨大な彗星にその身を打ち砕かれる事になる。






魔理沙(こん、の野郎………ッ!)


魔理沙は驚愕していた。

まともに直撃してくれると思わなかった。そして見た目通り、否、見た目以上の威力を持っている事がはたから見ても分かるこの一撃を真正面から受け止め、迎撃されるとは思ってもみなかった。

魔理沙は上条の攻撃のほとんどを弾き飛ばした直後にこのスペルを発動した時は上条の『詰み』即ち、自らの勝利を確信していた。
なんども上条と戦った事のある魔理沙だが、その戦いの時も『ブレイジングスター』を発動した事があるからこそ、勝利を確信していた。

前に戦った時とは違う。

宣言する前にちゃんと相手の隙を作り、警戒される事がない程度の距離を保ち続け、上条の力が練り終わる前に、以前よりずっと強化されているこのスペルを発動した。


上条が一度見た事がある、一度かわした事があるこのスペルだからこそ、発動した。


逃げ場を無くすため、多少本命の一撃の威力を落としてでも自らの周囲を囲むように弾幕を展開し、後方にも退避する事が出来ないよう、進めば進むほど、ドンドンスピードが上がっていく術式に切り替えた。

以前のように立体的な動きで回避する事も出来ず、そらから振ってきた隕石(災厄)のようなこの一撃に当たったが最後、どんな屈強な戦士だろうが、全身を鉄なんかよりずっと硬い鱗で覆う悪竜だろうが、遥か彼方まで吹き飛ばされ、打ちのめされる事になるはずだった。

しかし、進めば進むほどスピードが上がっていくというのは、即ちもともとあった膨大な魔力を、威力(パワー)ではなく速さ(スピード)に変換してしまうという事なのだ。
威力とスピードは通常の物理法則において比例するものだが『魔法』ならば話は別になってくる。

ただでさえ逃げ場が無いように周囲や自分の通った後に星型の弾幕をばら撒いて本命の威力が落ちてしまっているこのスペルは、進めば進むほど『威力が落ちていくスペル』になっているのである。


加えて上条は『師匠』から『上手い力の受け流し方』を徹底的に叩き込まれている。






結果――――――――





上条の体を何キロも後ろへと引きずらせたそのスペルは、その魔力は、突如としてバキン!という何かが砕けたような音と共にその力を失った。
魔理沙のスペルにやどる魔力が上条の右手に宿る幻想殺しの許容範囲を下回った事で破壊された音だと悟った二人の動きは早かった。



上条「お、らぁあ!!」


上条は右手で箒の柄を掴んだまま左手で魔理沙の顔面目掛けて拳を繰り出す。



魔理沙「お、っとっと!」


魔理沙はそれを全身のバネを使って宙に浮いたままの箒の柄の上に両足を乗せて立つ事で交わし



上条「ッ!?」

魔理沙「おらよっ!」


そのまま上条の頭目掛けてかかとを落とす。上条が左手で受け止めると、待ってましたとばかりにもう片方の足を使って上条の顔を横薙ぎに蹴り飛ばそうとする。

『魔法使い』というと、魔法には長けていても身体能力はからきしなイメージがあるが、それは大きな間違いだ。
『身体能力の強化系』の魔法を使えば元々の『差』など殆ど気にならないし、そもそも本物の魔法使いというのは、本来覆せないような圧倒的なスペックや能力の『差』など、たった一回の『魔法』で大きく覆す。

加えて、魔理沙が『得意』なのは遠距離~中距離でも、『好き』なのはモロに近距離。拳と拳で語り合う、文字通り肉弾戦だった。

魔理沙のスペルが砕け散ってから、ここまで僅か三百分の一秒しか経過していない。まさに神速と言っていいこのやり取りに反応できる人間は、恐らく『向こう側』には両手で数えるほどしかいないだろう。







が、肉弾戦ならば上条のほうに分がある。






上条は魔理沙の片足を掴んだまま、顔を直撃した蹴りの威力に逆らわず、逆にその力を利用して風車のように横へと勢いよく回転して――――――――











魔理沙「しまっ――――――――ッ!?」

上条「『螺旋追走(らせんついそう)』!!」










そのまま鞭を打つかのように魔理沙の体を地面へと叩きつける。



一瞬、この空間から音が消えた。



何百分の一秒という間をおいて、とんでもない轟音が鳴り響く。土が、地表が、その下に何重にも重なっている地層がまるで爆発したかのように弾け飛ぶ。
直接影響を受けた訳ではないのに、その衝撃だけであたりに生えていた巨木や大岩さえも軽々と吹き飛ばされる。

山そのものを打ち砕くかのようなその一撃は、文字通り、周囲一体の地形を大きく変えた。
はたから見ると、まるで巨大な隕石が落下してきたかのようにさえ思えるその威力に上条は(やっ、べ、加減間違えたか!?)と一瞬慌てて
























そして、違和感に気づいた。





おかしい。





自分の技の威力が『あまりにも高すぎる』





先ほど布都に外してもらったのは『肉体強請ノ枷(パワー・ド・ギプス)』という上条の身体能力を本来の数百分の一にするとんでもないものだ。常人ならば、これを嵌められただけで一ミリたりとも動く事が出来なくなる。
が、逆に言えば上条はまだいくつかの枷を『体に嵌めたまま』だ。身に付けた枷の一つを外した程度でこの威力の技が放てるほどの実力があると思い込むほど、上条は自分を過信しない。


そして気づく。


何回も戦っている上条だからこそ分かる事だが、いくら想定外の威力だったとは言え、魔理沙が今の一撃で戦闘不能に陥るとは、ましてや死んでしまうとはとてもではないが思えない。むしろ今この瞬間にも平然とした顔でお返しとばかりに錬脚を上条の腹へと直撃させようとしてくるか、隙を突いて次のスペルを発動してくるような奴だ。



高すぎる技の威力

周囲を覆う土煙の中、なかなか姿を現さない魔理沙

――――――――スペルカードによって偶然ここまで運ばれてきたと思っていた上条だが、もしかしてそれは偶然などではなく――――――――



はっ、として未だに自分の左手が掴んでいる魔理沙の足を凝視する。手に力を入れて引っ張ると、それは驚く位軽く足の付け根部分あたりから『引っこ抜けた』
げ!?と一瞬心臓が止まるかと思った上条だが、よく見るとそれは人間の足によく似た『何か』でしかない事に気づく。






上条「デコイ人形!?」






上条が叫んだと同時











魔理沙「大正解だ馬鹿野郎」











自分の背中に八角形の形をした何かがピタッ、と押し付けられた感触がした―――――――





――――――――上条は、そこでようやく『嵌められた』と気づく事ができた。

『ブレイジングスター』で上条がここまで運ばれてきたのは本当に偶然なのか

あの高すぎる技の威力の正体は、誰の視界と判断力を奪わせるためにどこの魔法使いが用意したものなのか


上条を嵌める『罠』を作った魔法使いは、もういつでも必殺の一撃を、『あの』スペルを上条に直撃させる事ができる。



正真正銘『詰み』だ。





上条はため息を付くと素直に両手を上にあげた。





上条「………わーったよ………俺の負けだ」


それは、修行日初日に突如として吹っかけられた『決闘ごっこ』に、上条が敗北した事を意味していた。
これだけ問答無用で暴力を振るわれ、悲惨な目にあったと言うのに、上条の顔には苛立ちがあっても怒りは無く、呆れはあっても憎しみはない。むしろ、自分を敗北させた魔理沙に敬意を払うような、そんな雰囲気さえも感じることが出来る。



上条「………流石だな、魔理沙」

魔理沙「当ったり前だろぉ?まさか勝てるとでも思ってたのかお前?この前『偶然』勝ったからって調子に乗んなよな」

上条「半年前の事を根に持ちすぎだろお前!つーかまさか奇襲しかけてきたのってそれが理由!?」

魔理沙「は?んな訳ねーぜ。気分だよき・ぶ・ん。………ま、少し位はマシになってるみたいだし?修行も怠ってなかったみたいだしな。拍子抜けしちまうような実力に担って無くて安心したぜ」

上条「………お前のその性格も本当に代わり栄えのないようで上条さんも安心しましたよ」


魔理沙が押し付けていた『八卦炉』を下げると同時、上条はゆっくりと魔理沙の方へと向き直った。
そこにあったのは、物部に負けずとも劣らない、自分の事をトコトン信じているものしか出せない、自信満々の『いい』表情を浮かべた『魔法使い』と――――――――




魔理沙「久しぶりだな当麻………いや」










『幼馴染』であり『パートナー』でもある少年と再会出来た事を喜ぶ、一人の『少女』の姿だった。












魔理沙「My buddy?」





buddy


意味

①パートナー
②相棒


ここまで。次は少し時間をすっ飛ばして師匠sの紹介と修行を

正直、東方キャラは布都ちゃん一人で良かった気がする


せめて某耳とやってやんよで十分かなとは俺も思う


夜明け前に見てる人結構いるみたいだな

力量のイメージとしては
東方強キャラ(例:各勢力の長)≧とあるの強キャラ(例:アレイスター)
>東方の中堅キャラ(例:自機組)≧とあるの強めキャラ(例:オッレルス)
>上条
程度に考えていたが‥
イマジンブレーカーの限界を軽く上回る描写が出るなら考え直そうかね

続き

>>734
>>735
すみません、東方キャラと上条さんのからみが見たかったので……

ネタバレですが上条さんの現在の強さはとある禁書キャラと互角。










――――――――夢を見た――――――――


















――――――――まだ、自分が『――』才だった、あの暑い夏の日――――――――










――――――――あの頃の自分は、当然のように幼く、無垢で、馬鹿で、子供だった――――――――










――――――――大切な人達とすごす事が出来る日常が、時間が、世界が、空気が――――――――










――――――――例えどんな瞬間であろうと、それら全てがかけがえのない大切な物であるという事を子供ながらに理解し――――――――










――――――――それがずっと続けばいいのにと子供ながらに願い――――――――










――――――――しかし決して叶わぬ願いだと言う事を子供ながらに理解しながらも、それでも願わずにいられなかった――――――――


















――――――――もう、二度と戻れない――――――――


















遠い、遠い記憶




































「おきなさい!この、馬鹿弟子がぁぁあああああああ!!」

上条「ひでブギョるぅわぁあ!!?」


夢が与えるまどろみの中の記憶に思いを寄せる暇もなく、上条当麻は布団から蹴り飛ばされ、勢い良く遥か彼方へと転がっていった。






第二章―修行して辿りつくべき場所―As unhappy as absolute happiness―





『修行』という用語は元々、仏教における精神の鍛錬に関する鍛錬をさして言う言葉だった。



特に厳しく苦しい修行は苦行。特別重要で中心的な修行を指して正行(しょうぎょう)。補助的な修行を助行(じょぎょう)と呼び、遥か太古の昔から『仏教』は勿論『神道』そして『道教』の修行者達が『人の身にて天上と等しく並び立つ者』を目指し、行ってきた。

が、やはり『人』が『人』として『人』に伝える修行などで天上の高みにたどり着けるはずも無い。『人』としての限界を超え、その領域を完全に抜けるという業を成し遂げるのはそう簡単なことではないのだから。

しかしながら世界各地の伝説や神話では、ただの農民や年端も行かない子供などが、ある日突然人としての領域を抜け、数々の奇跡を起こした伝承が数多く伝わっている。










『人に伝わりし業では人の限界を超えられない』というのが前提なら話は簡単だ









『人在らざる者に教えを請えば良い』


















まぁもっとも


















上条「ぎゃああああああああああああああああああああ!!死ぬ、死ぬ!!死ぬぅぅううううううううう!!!」





その異形の業に『人』が耐える事ができれば、の話ではあるが。





上条「ひっ!」



獄炎に燃え盛る炎



上条「ひょうぁ!」



極低温の氷



上条「アババババ!」



光速の電撃



色々な属性(エレメント)が弾に、剣に、槍に、槌に、斧に、砲撃に………数え切れないぐらい様々な形を成しながら、上条へと襲い掛かかる。





「後3分………」





上条「どぉおおおお!」



ありえないほど硬い鉱物の槍



上条「すぃああああ!」



向かってくる途中でも形を、温度を、水質を変える水



上条「おうぁああ!」



察知するのが一番難解な真空音



加えて上条が立っている場所の周りには決して消えない円(半径僅か三十センチ)が描かれていて、もしこれの外に一ミリでもはみ出すと、その時点で円の外にいる師匠から鉄拳を食らい、強制的に円の内へと戻される。



一歩たりとも動かずにありとあらゆる攻撃をかわすための修行――――――――








「残り一分」





上条「ぼぉおおおお!」



突如として地面から飛び出してくる木に



上条「あぁあああ!」



そもそも形を成すことがない闇



上条「ぐぁああああ!」



圧倒的な輝きを放つ光



それら一つ一つが次々と形を変え、性質や速度さえも一発ごとに変化させ、時に相乗し威力を高め、時に相克して上条の迎撃タイミングをずらす。


相乗
相克
融合
同調
超変異


合わさり、別れ、変質し、それでも唯一変わらないのは上条を襲ってくると言う事だけだ。
まったく予想の付かない存在の、常識ではありえない攻撃への対処を上条はそれこそ死にもの狂いでこなしていく。

上条に備わっている力の、何か一つだけでなすことが出来る修行ではない。
これは、ありとあらゆる攻撃を避けるための修行であると同時に、ありとあらゆる攻撃を、その性質を『見切る』ための修行でもあるのだ。

幻想殺しを使って消し、弾く。
幻想殺しが効きそうにないなら『波動』の力を使って見切り、防ぎ、迎撃する。
それでもだめなら鍛えに鍛えた身体能力で素直に避ける

動きをよみ、性質を解析し、対処順番を決め、それぞれの攻撃に対する選択をおこなう。
それらを一つでも、少しでも誤ればその時点で上条の体は幾百もの術式に打ちのめされ、見るも無残な肉片になるだろうが、上条はそれらの選択を攻撃が体に当たるまでの僅かな時間で予想し、見切り、対処行動へと移す。
その、ある、とすら認識できないような数百分の一秒単位で、上条は攻撃を弾き、交わし、消し続ける





「残り三十秒」





上条「が、ぁあああ!」

しかしそれでも、修行に用いられる術式から放たれる攻撃のほうが上条の防御を上回る速さで、威力で、性質で、鬼のような攻撃を浴びせ続けている。
上条は『何とか』対処し続ける事ができているだけで、その気力と体力はもはや限界寸前。正直いつ倒れてもおかしくないのだが、上条は搾りカスのようになった最後の気力を振り絞り、必死に攻撃を受け流し続ける。





「残り十秒」



何故そこまで必死になるのかと誰かに聞かれれば、上条はきっとこう答えるだろう









ここでダウンなんかしたら後の『修行』で師匠達に殺される、と。





「残り五秒」





仕上げとばかりに四方八方から周囲を覆い、逃げ場を完全に埋め尽くすような攻撃群を





上条「う、ぉおおおおおおおおああああああああ!!」





真・回天!!




上条は勢いよく自分の体を回転させ、独楽のように勢い良く回ることでそれら全ての攻撃を纏めて弾き飛ばす。魔理沙のスペル「星符『ミリ秒パルサー』と同じ様な原理だが、そもそも魔理沙の『ミリ秒パルサー』は上条のこの技をリスペクトした物なのだから当然と言えば当然である。
弾き飛ばされた攻撃が一斉に消滅すると同時に「終了」と言う師匠の声が耳に入った。

それと同じく、上条は力尽きたようにバタリ、と地面に仰向けに倒れこむ。正真正銘の気力切れ、体力の限界。脳が上手く回らず、ヒューヒューと息も絶え絶えになりながら必死に肺へと酸素を取り込んでいく上条スタスタと近づき



「………まぁ『及第点』と言ったところでしょう。しかしながら回天を行うタイミングが最適ではありません。技術も足りない。本当に『一応』実践レベルですので気を抜かないように」


と、平坦で冷静な声を浴びせる。
慰めや賞賛の一つもない、むしろ上条を貶すような言葉だが、しかしてその評価は間違いなく適切なものだ。



「ああそれと『とりあえず』あなたのレベルが上がったみたいなので、今後の修行内容のレベルも少し上げますから。気を抜いたら死にますよ?まぁあなたが一人くたばる分には何の問題もないんですが『一応』あなたは私の正式な『弟子』ですので、私の顔に泥を塗るようなことはしないように」









「ああ、それと。鍛錬の後に体を休めるのは必要ですが、朝食の時間に遅れた場合問答無用で主菜を無くしますので。嫌なら十分後には食堂へ来る様に」



師匠は言った。



鬼か。と上条は返した。



そうですが何か?と師匠はさらに返した。










上条当麻の『師匠』



動物を導く程度の能力



仙号『茨華仙』の継承者



仙人にして………『鬼』









片腕有角の仙人『茨城華扇』









彼女は少しだけ上条の方を見ると、そのまま音もも無く鍛錬場を後にした。












去り際、鍛錬場の入り口に、霊水が入った竹筒の水筒を置いて。



ここまで。
美鈴(美琴の母親ではない)じゃなくてもこの人なら『気』くらい余裕で使えそうだなぁ、と。
『気』やらなんやらはミスリードのつもりでした。

お待たせしました




上条「だ、ダリぃ………」


朝の修行を終えた上条はウンザリしたような顔をしながら道場から食堂までの渡り廊下を歩いていた。


今のも十分すぎるぐらいキツかったのに、今後の修行内容はさらに一段階上がると言う。
『修行』というものは『完全に収める』事など出来ず、自分のレベルが上がったらそれに平行して修行のレベルも上げなければならない。と言う理屈は分かるのだが、それにしたってリアルで死ぬ寸前まで追い詰め、体も心もボロボロになるまで修行をさせられては反感の一つもわいてくるというものだ。

『根性がない』とか『最近の若者は~』とかそういう問題ではない。異形なるものが指導しているのだから当然と言えばそうだが、ここでの修行はハッキリ言って『まともじゃない』
いっそ殺してくれ、と真剣に思った事も数え切れないぐらいあるし、辛すぎて逃げ出した事もある。

正直に言おう。まだホンの十六年と少ししか生きてはいないが、上条当麻と言うただでさえ不幸に好かれる人間の人生において一番の不幸は『安易に師匠達の弟子になってしまったこと』だと。
間違いなくそう断言できる。ここでの『修行』に比べれば、身に降りかかる大抵の不幸がちっぽけな存在に見えてしまいそうに成る程度には、上条は師匠達の手でとんでもない目に合わされていた。


まぁその『とんでもない目』を一つ一つ話していくと本当にキリが無いので省略する。


顔に滴る汗を肩に掛けた白いタオルで拭い、師匠が道場の入り口に置いていってくれた竹筒に入った霊水をガブガブ飲みながら、上条は表廊下へと続く木目の引き戸を開け放つ。ガラガラガラ、というレールに沿って走る木製のドアの音が聞こえた。

建物としての外見は、飛鳥時代の日本の御殿と古代中国の皇帝でも住んでいそうな宮殿を融合させた上で収縮したような場所で、食堂や道場、師匠達の各個室や風呂トイレなどを含め、ほとんどが渡り廊下で繋がれた離れ仕様になっている。
その為と言うかなんと言うか、すごく迷いやすい。実際、上条も始めてこの場所を訪れてから一週間くらいは普通に屋敷の中で迷子になることがあった。





当然と言えば当然だが、今はそんな醜態を晒す事などありえない。





この場所は、いや、この屋敷は、弟子入りしてから学園都市へ転入する前までの約五年間、上条が師匠達と共に暮らし、同じ時を過ごしてきた『家』でもあるのだから。







茨華仙教訓、礎ノ一二二九。「朝の挨拶は活気良く」





上条「おはようございまーす!」


上条はキレの良い声を出して朝の挨拶をしながら食堂の引き戸を横にスライドさせた。
普段は殆ど意識しない教えも、ここではキチンと意識する(というかしないと後が怖い)

食堂に入った上条が真っ先に感知したのは炊き立ての、それも厳選された一級品でなければ出せないような白米のほのかに甘い香り。
そして、次に鼻腔を潜り抜けたのが香ばしく、一瞬で食力を掻き立てるような焼き魚(恐らくシャケだろう)の風味のある臭い。
ほっと一息つきたくなる様なふんわりとした湯気に乗って漂う、僅かな味噌(汁)の香りが心を落ち着かせる。

それらは、朝食の準備がすでに整っている事を意味していた。
が、まだ朝食の午前が運ばれてきてはいない、となると最後の仕上げ中だろうか。







「おう、当麻。お疲れさん」


気さくに話しかけてきたその人物は、上条が決して座る事がない、五つある上座の席(と言っても座布団が敷いてあるだけだが)の内の一つに座っている。
それはつまり、上条にとって『師』同然の人物である事を示していた。





上条「あ、『姐さん』。どうもっす」





怪力乱神(かいりょくらんしん)を持つ程度の能力



勝負が好きな戦闘狂その2(1は魔理沙)



破滅的な金剛力(こんごうりき)






鬼の四天王の一人『星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)』





額に立派な真紅の一本角を生やした昭和初期のスケ番のようなイメージがある姿の鬼にとって、上条は弟子というより本当に自らの舎弟のようなものとして扱っている節があった。



上条「ってあれ?華扇師匠は?俺より先にこっちに来てる筈なんすけど」


食堂に見当たらない華扇の事を口にする。
彼女は上条に十分後には食堂に来ているようにと言ったはずだ。





勇儀「ああ、華扇なら」

「あの鬼仙ならひない鳥の生みたて卵を取りに行ったわ。」


割り込むように質問に答えた声の主は食堂上空にある大きめの木製窓の枠に座り、ポチポチと携帯を弄っていた。
その姿は、その容姿は、一見チャラついた感じがする最近の若者にしか見えないが、たったそれだけの事に、上条は開いた口を閉じる事が出来なくなってしまう。







上条「引きこもりが部屋から出てきた!!?」

「誰が引きこもりだコラァアアア!!つーか私が引きこもりってんならあのイチゴ博士はどうなんのよ!!」


声の主はなんか上条をキッ、と睨みつけながら下へと飛び降りてきた。
地面に足が付く一瞬前、彼女の体がまるで羽毛のようにふんわりと空中に『浮いた』
それはそうだろう、何せ彼女の背中にはその羽毛が何千何万と合わさった立派な『羽』が生えているのだから。





念写をする程度の能力



花果子(かかし)念報の記者



今時の念写記者






鴉天狗『姫海棠(ひめかいどう)はたて』





ここに住んではいるものの、実は住居暦は上条より少なかったりする、職業新聞記者の鴉天狗の少女である。





はたて「ってか、アンタいつになったら私にも敬語というか敬いの精神を見せるようになるわけ!?私これでもあんたの軽く六十倍以上は生きてるんですけど!人生の先輩に対するなんていうかその、あれよ。もっと………」


はたては自分の感情を上手く表現できる言葉を見つけられないのか、若干イライラしたように頬を掻いた。
ちなみに上条が「引き篭もり」といったように、彼女はめったな事では自室から外に出てこずに、何か用事があるときは手下であり自分の分身でもあるカラスを遣っている。



上条「いや、お前別に俺の師匠でも先生でもねぇじゃんか。つーか、お前が最初に好きに呼んで良い、つったんだろうが」

はたて「ぐっ………で、でも!アンタに『念写』の技術とその応用法の数々をわ・ざ・わ・ざ・時間を掛けて教えてあげたのは私でしょうが!!」

勇儀「それだって当麻が習得した『波動』の力があってこそだけどな。それと確かにお前の念写やその応用技術は大したモンだが、ぶっちゃけ当麻の戦闘スタイルには合ってないしなぁ………」

はたて「なっ………!?」

上条「そうそう。つーか今の俺に出来る事なんて力の射程範囲内でどこかの誰かが撮った写真の光景を脳裏に思い浮かべる事ができるってだけだし。それに『むこう』だと『枷』をはめなきゃいけないからそもそも『念写』使えねーし………つーか、あれ?使った事あったっけ?『念写』?」


などなど超失礼な言葉を吐き出し始めた上条の傍で、はたてはなんか悔しそうに上唇を噛みながら………





あ、れ?



おかしい、上条はここにきてやっとその異変に気がついた。
はたてが何かうっすらと目じりに涙を浮かべながらちょっと傷ついたっぽい表情を浮かべ、キッ!と鋭い視線で上条の方を睨んでいるという事に。



まずい、まずい、非常にまずい。



何か似たような展開が前にもあった気がするが、今回のは比べ物にもならなければ洒落にならn









はたて「死ね!この無限旗立節操皆無男(インフィニティ・フラグメイカー)!!」


と、次の瞬間、はたては問答無用で上条へと襲い掛かった。
俊足で放たれる風の属性を纏った左足、上条の顔へと放ったそれがあっさりかわされ、次の右手で繰り出される疾風の刃を幻想殺しで防いだと同時







カシャッ!



というシャッター音が食堂に響き







上条「ぶっ、ぼぅぅうううわぁあああああああああ!!」


上条の全身を、目視できない『何か』が襲った。
それは、まるで透明で巨大なゴルフのドライバーのように、上条の体を遥か彼方、食堂の天井辺りまで勢い良く吹き飛ばす。


このまま天井の屋根をぶち抜き、空高くへ飛んでいってしまうかとも思わせる勢いで上空へ向かう上条の体は





ジャラララララ!!





天井に当たる直前で、銀色に輝く鎖に巻き取られた。







上条「ぐ、うぅえええ!!」


斜め上方向にあった力の向きがまったく逆方向からの力の引力に相殺される。おかげで吹き飛ばされずにすんだ上条だが、受身が取れない状態で鎖に巻き取られ、力を加えられたせいで体が大きく軋んだ。





『不幸』だが、本当の地獄はここからだった。





その上条の体を巻き取った鎖を放った持ち主が、そのままぶんぶんと、まるで西部劇に出てくる輪縄投げのように鎖を振り回し始めたのだ。



上条「ちょ、まっ!うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「あっ、はっ、はっ、はっは!!」


鎖の持ち主は何がおかしいのか馬鹿みたいに大きな声で笑いながらまるで竜巻でも作るかのように上条を振り回し続ける。上条はあまりの遠心力に体が引きちぎれるかと思った。



「あっれ~?当麻だとうまだトウマだ!!あっ、はっ、はっ、はっ!!なんで、なんでこんなトコにいるのさ~?」

上条(昨日合宿のためにここに戻ってきたでしょうが!!つーか『童師』!あんたまた酔っ払うまで酒呑んでやがりましたね!?)


自分をぶん回し続けながら笑い続ける『童師』に怒声を浴びせたい上条だが、体が引き千切れるかと思うくらいの遠心力で振り回されているため、肺や声帯が乱れ、あばばばばばばばば!!としか声が出ない。







『密(みつ)』と『疎(そ)』を操る程度の能力


鬼の四天王の『リーダー』


萃まる夢, 幻, そして百鬼夜行





酒呑童子『伊吹萃香(いぶきすいか)』





一応、ここに住む者たちにとって『長』でもある鬼だが、その実態は誰がどう見ても幼女にしか見えない。最初に会った時など、普通に鬼の子どもか何かだろうと勘違いし、完璧に子供として扱ってしまった。(まあその様な経験があるため、小萌という小学生(に見える)先生に初めて会った時はあまり動揺せずにすんだのだが)

そして鬼という種族にとっては当然なのだが、彼女は物凄い酒豪だ。
人間では絶対に飲む事が出来ない濃度、量の酒を滝のように飲むし、いつでもどこでも酒が飲めるように、無限に酒が湧き出てくる瓢箪を常に腰にぶら下げている














萃香「あっ、はっ、はっ、はっ、はっ!!とうま~、な~に遊んでんのさ~」


上条は必死に「降ろしてくれ」だの「助けてくれ」だのと訴えるが、当然のように声は届かない。
いや、まともに対話できたとしても今の萃香には言葉が通じるかどうか怪しい。

また、勇儀は「あ~あ………」とばかりに呆れ顔を浮かべはたては「いい気味だ」とばかりにニヤ付いた表情を浮かべている。
助けてくれる様子は、無い。むしろ自分達にまで飛び火が行かない様に静観している様子さえ見受けられる。



いくら酒に強いとは言え、酔っ払うときは酔っ払う。それもまた『鬼』という種族である。

































その後、朝食を運んできた物部が半分泣きそうになりながら慌てて
ひない鳥の卵をとってきた華扇がため息をつきながら呆れ顔で


萃香を(物理的に)止めてくれるまで、上条は一人、スカイブランコ(人力、ならびに上下逆転)を満喫するはめになった。




おまけ。

このスレにおけるキャラ紹介①





上条当麻  幻想を殺す程度の人間(?)





―物部布都に摂り付かれている―



・9歳の夏、夏休みを利用して遊びに行った祖父の家の庭にある蔵で、封印されていた箱を幻想殺しで触ってしまい、物部布都に摂り付かれる。


・数ヶ月ほど普通の生活をするが、とある事件がキッカケで『鬼の四天王』に弟子入りする。


・伊吹萃香を頂点とする『鬼の四天王』や、その他東方キャラ達の弟子






物部布都 古代日本の尸解仙





―上条当麻に摂り付いている―



・6年前、上条当麻が封印を解いた事で彼に摂り付いてしまった尸解仙。何故だかは分からないが、長時間のあいだ、上条と離れている事ができない。


・温和で優しい彼女は、上条(幼少期)の淡く、脆く、それでも立派な強さと覚悟に胸を打たれ、彼の力になることを決意する。


・上条当麻に「とある力」の「操り方」と「観測の仕方」「そのコントロール方法」を教える師匠でもある。


・「幻想殺し」を持つ上条当麻になぜ異能的な存在である布都が憑いていられるのかは不明


・現在の彼女は振るう事が出来る力に大幅に制限が掛かっていて、実力を発揮できない状態にある。(それでも禁書世界の人間からしてみればあまりにも大きな力であることに変わりは無いが)






霧雨魔理沙 普通の魔法使い




―上条当麻の幼馴染―



・10歳の頃から上条と付き合いがある、いわゆる「幼馴染」。


・面白い事を見つけては、何かと上条を(強引に)連れまわして遊んでいる為、上条からの印象は低い………という訳でもない。


・最初こそ弱かったが、ドンドン強くなっていく上条に関心を覚え、いつしか「ライバル」「buddy」宣言をする様になった。



投下完了。

とりあえず今できるキャラ紹介はこの程度

age忘れた;

次回は一週間以内に


「童師」は誤字じゃなかったのか?>>186付近で言及のある「導師」とは別?

ちなみに東方では能力は自己申告制だ
そのため「~程度の能力」以上のことができる奴も結構いる
(例:「死体を運ぶ程度の能力」の持ち主は死体を操ることもできる)

続き






修行一日目~『仙人』茨木華扇の修行~





指導者・茨木華扇





修行内容………















「だぁぁあああああああああああ!!くそっ、くそっ!一体どうなっていやがるんですかぁ!?」






上条は絶叫して両腕を振り上げ、気力を使い果たしたかのように、立ったままの状態から勢い良く地面に向かって仰向けに倒れこむ。

寝転がったまま全身の力を、針で穴を開けた風船の空気ように思いっきり抜く。今まで張り詰めていた緊張の糸が一気にほぐれる感覚がした。
体中に張り巡らされている神経の糸を一つに束ね、水で濡らした雑巾を両手で絞りとるような、ギリギリとした束縛的苦痛から開放される。そのまま「はぁ………」とため息をつく。

上条が今いる場所は人の数倍はあろうかという巨大な大岩の上なのだが、もうお昼過ぎくらいからたった一人でそこに突っ立っている。


なぜ?と聞かれれば、答えはもちろん『修行だから』


では何のための修行なのか?と聞かれると答えは様々で、主だったものが『精神統一』と『瞑想』。そして、このあたりに流れる豊富な『自然エネルギー』と上条の『生命力』の調整、融合。


古来より多くの修験者や仙人見習いたちが行ってきた、更なる高みに立つための鍛錬である。


では具体的にどのような修行なのか?


上条は大岩の上に寝転がったまま、まるで仇敵でも見るかのように、恨めしそうに『水面』を睨みつけて







上条「なんで一匹も釣れねぇんだよぉおおおおおおおおお!!?」



叫ぶ上条の傍には、一メートル半ほどの木製の釣竿があった。



まぁ、早い話が魚釣りである。





しばらく経って、上条は頭を右手で掻き毟りながら、まるで機械人形のように上半身だけを起こした。
落ち着きを取り戻すように首を回してあたりの景色をぐるっ、と見渡す。

周辺を木々や岩で囲まれ、少し歩けばそこは清い水が溢れる「渓流」
さらに足を運べば、夏でも肌寒い空気が噴出す風穴がいくつもある「谷」がある。
合宿上の地形を一言で表すならば、まさに『大自然に囲まれた渓』だろう。絵柄で言うならまさに『日本風の仙人でも住んでいそうな場所』だ。正確には『住んでいそう』ではなく実際に『住んでいる』のだが。


もちろん、上条も小さい頃からこの場所で修行をしているため、今では合宿上周辺はほとんど庭みたいなものだ。
が、ではこの『空間』の事を全て把握しているのかといえば当然そうではない。

突然、今まで無かった道(と言ってもほとんど獣道に近い)を発見したりするし、見た事もない植物や動物を見かけることもある。
まぁ、それも当然といえば当然かもしれない。そもそもこの空間は………








「あれ?当麻じゃん。なになに修行サボリかい?………ってか、いつも金魚の糞みたいにお前さんに引っ付いてる戸解仙はどこいった?」





と、突然どこかで聞いたことのある声が耳に入ってきた。声は上条の眼前



上条「札の生産と術式の試用で忙しいんだと。お前も知ってるだろ?『ここ』なら俺と布都が離れられる距離や時間も大幅に広がるって事………『ここ』くらいしかあいつが自由に動ける場所ねぇからな。俺が修行してる時くらい自由にしてやりてぇんだよ」


「ふ~ん………!だったらさ~、私の発明…」


上条「断る」


「………まだ全部言ってないじゃんよ~。ってか、たまに帰ってきたなら顔見せに来いってば。寂しいだろ『盟友』~」


正確には眼前斜め下………渓流を流れる水、その下から聞こえてくる。
突如として穏やかだった水の流れがそこだけ止み、そこから緑色の帽子をかぶった女の子の顔が姿を現した。









『水を操る』程度の能力



才能溢れる?『発明家』



水棲の『技師』



『河城にとり』



………ちなみに、上条はこの『河童』の少女の事が少々苦手である。


彼女は水面下に顔だけ出した状態のまま、上条と会話を続ける。





河城「で、今日は何の修行………ああ、魚釣りかい。『一日目』だもんね。ってか、あの仙人は本当に基礎の基礎ばかり鍛え上げようとするねぇ」


もうちょっと色々教えてやればいいのに、とぼやくにとりに上条は



上条「………別にその事自体に不満はないけどな。最近は応用的なのも教えてくれるようになってきたし。つーか、そもそも上条さんとしては、為す事をキチンと為せるのなら、そのための『修行』ならぶっちゃけなんでも構いませんよ」


と返す。上条の返事に「そんなもんかねぇ」と、にとりは興味無さそうに呟いた。

別にカッコイイ技や華仙の編み出した仙人の奥義を習得したくて修行をしているわけではないのだし、そもそも身の丈にあわない術を習得しようとしたところで、実力はもちろん、基礎がなっていなければ自滅するのが落ちだ。
そのあたり、RPGゲームで言う『経験地』をためてキャラのレベルを上げなければ『技』を習得できないシステムと良く似ていると思う。いや、ゲームが現実(リアル)に似せたのか。


あらゆる技能にいえる事だが、キチンと鍛練を積み、基礎を学ばなければ応用や発展には至れないのだ。



にとり「………その様子じゃもしかしてまだボウズ(釣り用語で一匹も連れていない状態の事)なのか。調子悪そうだねぇ」

上条「うっせーな。色々と『指定』があるんだから仕方ねーだろうが」


上条はふてくされた子供みたいに言う。
いつも思うが、水中を自由自在どころか己の手足同然に扱う種族にだけはこの『修行』に関してとやかく言われたくない。

そもそも魚を『捕まえる』だけならば餌も針も糸も、そもそも『釣竿』なんていらない。水底に潜り、直接素手で捕まえるのが一番手っ取り早いし、簡単だからだ。(ちなみに上条の枷の内、とある一つが解かれれば、そもそも『潜る』必要すらない)

しかし、魚を『釣り上げる』となると少し話が違ってくる。
仕掛けに天候。場所に時間。季節やその日の湿度や気温などといった『自然』という不確定要素が絡んでくる上、肝心の魚との知恵比べを行わなければいけないからだ。

加えて、この『空間』に存在する動植物の持つ潜在能力は『外』の世界のそれと比べて半端ではなく高い。魚で例えるならば、その警戒心は、外の世界の渓流魚の約十倍以上にもなる。

だからこそ、心を静め、精神を研ぎ澄まし、『無我の境地』や『自然との一体化』を成さない限り、決して魚を釣り上げる事は出来ないのだ。








………それでまともな仕掛けならばまだマシだが







上条はいつの間にか自分が座っている大岩から程近くの川岸に泳ぎつき、トテトテとこちらに向かって来るにとりを見て、ひょいっ、と垂らしていた釣り糸を回収する。



釣り糸の先にある針には、餌が付いていなかった。魚に取られてしまったのかといえばそうではない。毛ばりやルアーなどといった、いわゆる疑似餌を使っているのかと言えばこれまたそうではない。







そもそもこの『仕掛け』に餌など最初から付いていないのだ。








にとり「まったく。釣り糸の先にある針から水中の様子を感じ取って魚が寄ってくるように、興味を持ってくれるように『力』をほんの少しだけ流し続ける……つまり『力』を『餌』の代用に使ってるわけだけどさぁ。華扇さんも半人前に無茶言うよねぇ。『無我の境地』や『自然融合』をしながら『力』を、それも繊細かつ丁寧に使え。だなんてさ」


にとりは上条の横に腰を降ろし、同情する様に言った。



上条「まぁなぁ。ただでさえ俺は『自然エネルギー』をそのまま使えないからそれだけで一苦労だってのに、それと相反する行動を同時にやれ、だぜ?しかも本当の意味で『一人で同時に』やんなきゃ意味無いからもし分身~系統の術を使えても意味ないし」


『自然エネルギー』というのは文字通りこの星にある大自然を育んでいる力のことだ。竜脈や地脈とも呼ばれているそれは、ところどころによって多かったり少なかったり、深かったり浅かったりと、色々な『流れ』となってしてこの星のいたるところにある。



上条当麻も『力』の内の一つとしてそれを揮ってはいるのだが、上条当麻には彼ならではの『問題』があった………『幻想殺し』だ。



師匠達いわく上条の『幻想殺し』は、この星を循環している『竜脈』や『地脈』といったものも無意識の内にまとめて消してしまっているらしい。
『調和の取れた破壊』であるため何の問題もない。とは言うのだが、もしそれが事実であるならば上条には『自然エネルギー』を体内に取り込めない、ということになる。









が、逆に言えば『それを逆手にとって利用する事』も出来るというわけだ。









例えばそう。『ワザと』自然エネルギーを『破壊』して己の生命力を高めやすくするための『場』を作る………といったように









にとり「それにしても本っ当に釣れないねぇ………いっそ」

上条「嫌だ」

にとり「………まだなにも言ってないじゃん!私の発明した釣竿なら魚釣りなんてすぐに」

上条「ふっざけんな!テメェ前にその発明品で「ビリ」漁モドキやって俺もお前も師匠にボッコボコにされた挙句五時間説教コース食らったの忘れたのか!?」

にとり「なっ!あれは結果的にそうなっただけで………ってかそもそも当麻が『ビリビリ君33K号』を壊したからあんな事に」

上条「お前の言うとおりに釣り糸を川ん中投げ込んだらそれだけでオジャンになったんでせうが!?つーかあの時も誤魔化してたけどちゃんと実践前に検証やら実験やら必要最低限の事ちゃんとしたんだろうな!?ちなみに上条さんはやっていないに五百円!!」




ぎゃぁぎゃぁぎゃぁぎゃぁと、




やかましく、鬱陶しい騒言が渓流へと響き渡っていく。




荘厳な景色も、溢れ出る風情もあったものではないが、これもまた『いつも通り』の光景だった。











にとりとの口論が一段落付いた所で上条は疲れたようにため息を付いて









上条「それにしても一体どうしたら釣れんだろうな。この『黄金魚』ってやつ」

にとり「………え?」

上条「え?」


にとりに黄金魚の詳細を知らされた上条が絶叫して華扇の元に殴りこむまで、残り一分三十秒。



>>789さん含め、皆さんがしてくださっている『導師』についてなんですが………すみません。
『童師』は萃香の事で間違いないんですが、たびたび出てくる『導師』は『童師』の『誤字』です。もし『導師』なるキャラがいるとすれば、それは布都ちゃんのことだと思ってます。




「導師」の方が誤字か
正直その発想はなかった

神?「(この分なら出番来ないな‥)」
?神「いつまで経っても。出番が来る気がしない。」
神?「(まだチャンスは尽きてない‥!)」

本当にすみませんorz ガチのシナリオ創作系の依頼に取り掛かりちゅう………もう少しお待ちを

少し時間が出来たので投下。

依頼と言っても小さなものです。が、なにぶん金銭が絡む上自分一人で作るわけじゃないのでおろそかにできない。







~修行二日目~






姐さんこと、鬼の四天王、星熊勇儀の修行………





指導者・星熊勇儀





修行内容………


















ドォォォン!!





音が、響いた。




古の時代。この国がまだ内戦をしていたころにあった、見張り用の高台………『櫓』から放たれたその爆音は、水面に石を落とした時のように辺りの山の斜面へと広がっていく。



ドォン!!


音に驚いた辺りの木々に止まっていた鳥達が一斉に両翼を広げて大空へと飛び立つ。バサバサバサバサーッ!!という鳥達の羽音が一斉に



ドォン!!


という響に纏めて打ち消された。
ニトロやダイナマイトといった危険物の爆発音とも、風船やクラッカーのような破裂音とも違う『それ』は、独特の『響』を、荘厳な『音』を持っている。



ドォォォ……ン!!ドォォォォ……ン!!


今度は、連続した。

耳というよりも腹の底から音の響きを聞いている様なこの感覚は、この極東の島国に出身のものならば、驚きよりも先に、本能と遺伝子に刻まれた『懐かしさ』を覚えるであろう一種の『伝統』だ。

と言ってもやはり一般人が連想するのはお祭りだとか縁日だとかを盛り上げる為に奏でられる物、という認識が強い。それは仕方のないことだろうと上条は思う。
事実、そういう役割も勿論ある。だがもう『あちら』の世界では専門の魔術師の間でしか『それ以外の意味』は伝えられていないらしいし、そもそも………いや別に『あちら』の『響』の質が低い、という訳ではないのだが、正直師匠達の奏でる『それ』に比べれば「月とすっぽん」ということわざが当てはまる程度には見劣りしてしまうのだった。

そりゃあ『人外』が奏でるものと比べれば、荘厳も感心も音色も力強さも、全てにおいて見劣りしてしまうのも当たり前といえば当たり前なのだが、



ドンドンドン、チャカチャッチャ!!


今度は連続して響いた爆音に続き、打って変わったように軽快な、それでいて前の爆音に劣る事のない『響』が走った。
一見すると全く違う楽器が奏でた様に思わせる二色の音色は、この二つの異なる音色の発信源は、たった一つの楽器を演奏する際に自然と奏でられるものでしかない。





ドドドドドドドドドドドドド!!





『大太鼓』



古におけるこの国において、非常に重要な意味を持っていたこの楽器を響かせる為、上条が大きく気合を入れたその瞬間―――――――――









上条がハデに大太鼓を鳴らし続ける櫓から六キロほど離れた場所で、星熊は「はぁ」とため息をついた。


星熊「………悪いがちょっかいは出さないでおいてくれよ?」

伊吹「え~?いいじゃん別にさー」

星熊のすぐ後ろで同胞の………自分にとって「親友」と呼ぶべき小鬼の声がした。
星熊がため息を付くその直前、否、その直後まで後ろには誰もいないはずだった。どこかに隠れていた、とかそういう次元ではない。人には為しえないほどの超高速で一瞬でここまでやって来たんでもない。


瞬間移動(テレポート)とも違う『それ』に最も的確な表現は『ここにいるはずの無い存在が姿を現した』に近い。



伊吹「んで?『さっきから』しかめっ面してたけどどうしたの。当麻の音響に何か問題でも?」

星熊「………ん~、いや悪くは無いね。むしろ大切な要素はキチンと押さえられてるよ」


星熊はまさに『しかめっ面』と呼ぶべき表情で頭をポリポリと掻いて



星熊「ってか、お前だって気づいてるだろ?」


つーかお前が気づいてない訳無いだろコラ。という視線を送る星熊に、伊吹はどこ吹く風といった非常に気軽な口調で「解説の星熊さんどう思われますか?」と、スポーツを実況するアナウンサーのテンプレを口にした。
なぜだか「してやったり」といった表情を浮かべ、ニヤリ、と得意げに口元を歪ませた伊吹に星熊は面倒臭そうにため息を付きつつも、小鬼の戯れに乗ってやる。



星熊「………一つ一つの挙動にまだ無駄がある。力強さも足りない。かといって軽快という訳でもなければ整ってる訳でもない」

伊吹「ほうほう。ですが私から見ても大事な要素は押さえられてるように思えますが」

星熊「いつまでそのふざけた口調を続けるつもりだコラ。………大事な要素が押さえられてるってだけだ。無意識的にな。基本が出来てるってわけじゃないさ」


まぁこれは太鼓に限った話じゃないが、と星熊はボソッと言った。
長年上条の師匠をやっている自分や同胞達はすでに気づいているのだが、上条当麻と言う少年はどうも『無意識的』な状態の方が力を発揮しやすいタイプだ。

超電磁砲というものがある。学園都市で第三位の超能力者であるとある少女の異名となったそれは、放たれるほんのコンマ数秒前に、その『余波』として電磁波を当たりに撒き散らすという特性がある。
光速の速度で放たれる超電磁砲を直接避ける事ができなくても、その余波を、その前兆として起きる現象を察知する事さえできれば、異能の力を打ち消す幻想殺しを持つ上条にとって、対処はそれほど難しくない。

他にも武術では目で追えない速さの拳の突きを、拳その物ではなく、それよりも先に動く肘、肘よりも先に動く肩の挙動を見て予知し、結果的に突きをかわす、『観の目』というものがある。
『見の目狭く観の目広く』集中して一点を見つめるよりも、力を抜き、なんとなくでも全体を把握した方が予知はしやすい。


その『予知』とも『空間把握』とも『危機察知』とも言える類稀なる能力に似た力を、上条は自分達が様々な事を教える前からすでに持っていた。
空間全体を把握し、自らに降りかかる危機を予知する………武術の達人でもなければ出来なさそうな芸当を、その才能を、上条は持っていた。





が、それはあくまでも上条が『無意識』に行動している時の話。





自分たちが上条が持っているその才能を指摘し、意識的にそれをやらせようとした途端、今まで出来ていたはずのそれが、まるで歯車が狂ったかのように出来なくなってしまったのだ。
意識すると言う事は考えるという事。今まで当然のように出来ていたそれをキチンと認識してこなすのはなかなかどうして難しい。
昨日の早朝に茨城がやっていた、地獄のような猛攻をただひたすらに避け続ける、という修行の目的は、上条の長所である『前兆の予知』の補強とその強化。そして『無意識』がもたらす弱点を埋めるようなものだ。


無意識というのは自分の仲に潜在する意の現われ。悟られる事がないということ。
意識するというのは自分の意思でしっかりと考え、選択をするということ。



勇儀(ったく………『あいつら』に会わせる事が出来りゃもう少しスムーズにいくと思うんだがなぁ………ああまったく、歯痒いもんだよ本当)


星熊がなんともいい難い表情でポリポリと頬を掻いた瞬間










ドォォォオン!!!









という今までにないくらい気合の入った、なんというか『良い』響きが轟く。
物事の真を穿つようなその響に、おっ、今のは良かったねぇ。と星熊が感心したように何キロも先の櫓を見上げ


次の瞬間


それこそ今までとは比べ物にすらならない、山が崩れるような激音が、六キロも先にいる自分達にまでハッキリと聞こえてきた。

正確に言えばその激音は今までの響とは根本的に音の性質が違うもので、文字通り山が崩壊して崩れた時のようだった。
と、言うか実際に崩れていた。
山ではなく、櫓が。
まるで頂上部分を物凄い力で真上から押し潰したみたいに、まっすぐ真下に向かって崩れていく。



伊吹「うわぁwwすっごく綺麗な崩壊場面wwwwギャグマンガみたいwwwww」

星熊「あ~………あの櫓、もう建ててからだいぶ経ってたっけ………しゃーない、行くか。当麻の奴、神木の下敷きになってのびてるだろうし、新しい稽古櫓も造ってやんないとな」


星熊はやれやれといった感じで、面倒臭そうに崩れた櫓の方へつま先を向ける。



伊吹「どうせならもっと近くにいればよったwwそうすれば不幸に襲われた当麻のなんとも言えない表情と奇声が拝めたのにwwww」

星熊「ヒドイなおい………まぁ私も少しそう思うけどさww」


あっ、はっはっはっ!!と、太鼓の音にも櫓が崩壊する音にも負けないぐらいの大声で笑いながら、二人の鬼は弟子の元へ歩いていく。



その様はなんとも豪快で、『鬼』という種族を色々な意味でよく現していた。


















そして、案の定二人の鬼が思ったとおり。上条当麻は一本何百トンもある大量の神木の中に、それこそギャグマンガのように埋もれていた。





ここまで。ペースを保つ持久力がほしい……

や、やっとこれた……とりあえず何とかなるかも

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月26日 (日) 17:32:42   ID: cX0hIb0f

原作よりチートで調子乗った上条さんが説教してボコるだけでたいして面白くもないな。
一応最後まで読んだけど読む気が失せそうなほどの産廃。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom