女戦士「元・勇者を探す旅へ」(1000)

―――城内 訓練場

戦士(あとは素振り1000回ほどで終わりに―――)

兵士長「ここに居たか」

戦士「はい。どうかされましたか?」

兵士長「休息も大事だと何度言ったら分かるんだ?」

戦士「何度か言っていますが女の身では腕力を鍛えるのに限界がありますから」

兵士長「だから、技術を磨いているんだろ。それは知っているがな。兵士は体が資本だ。常日頃から体調は万全にしておいてだな」

戦士「えっと、それを言いに来たのですか?」

兵士長「あ、いや。いかんな、お前に対してはいつも説教臭くなってしまって」

戦士「それは私としては嬉しいことだけど……」

兵士長「そ、そうか?それなら俺も嬉しいが……」

戦士「で、なんです?」

兵士長「ああ、そうだったな。王女様が呼んでいる。謁見の間まで大至急行ってくれ」

戦士「王女様が?」

兵士長「お前に頼みたいことがあるそうだ。とにかく行ってこい。王女様がお待ちだ」

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―――謁見の間

戦士「お待たせしてしまって申し訳ありません、王女様」

王女「来ましたか」

戦士「私に頼みたいことがあるということですが……」

王女「そうなのです。貴女に是非ともやってほしいことがあるのです」

戦士「はっ。何なりと仰ってください」

王女「私ももう齢20となりました。そろそろ身を固めなくてはなりません。そこで貴女には私に相応しい殿方を探してきて欲しいのです」

戦士「あの、私が探さなくてもお美しい王女様ならば殿方のほうから話を持ちかけてくるのではないのですか?」

王女「そうですね。確かに私は美しい。故に私に釣り合う殿方は中々いないのですよ。高貴であり、容姿も端麗となれば私の他にどれほどのいるのか。少なくとも指で数えられるほどしかいないでしょう」

戦士「はぁ……」

王女「縁談を持ちかけてくるのは近隣国の者ばかり。その中には一人として私と釣り合う者はいなかったのです」

戦士「そうなのですか?隣国の王子は評判が良いと聞いていましたけど……」

王女「駄目です。顔は確かに宜しいですが、どうにも弱弱しい体つきですし……」

戦士「体つきも重要なのですか?」

王女「勿論です。殿方は強くなければなりませんからね。魔物も大人しくなったとはいえ、まだまだ油断はできませんし。それに国家間での争いもいつかは起こるでしょう。我が夫は心身共に強くなければなりません」

戦士「王女様の言うことも一理ありますが……」

王女「高貴かつ美しい私に相応しい殿方となればそれは勇者しかいないと思うのです」

戦士「勇者、ですか?」

王女「3年前の戦乱を治めた者。あなたのも噂ぐらいは知っているでしょう?」

戦士「魔王を討伐したのは例の民間人が作った大艦隊ではなかったのですか?それにどの国の勇者も魔王討伐には失敗したはずです」

王女「世間ではそうなっているようですが、私は知っています。その艦隊で孤軍奮闘したと言われる者がいることを」

戦士「……」

王女「噂では千を超える魔物を切り捨て、万の民を率いて魔王を討伐し、その後は魔族を従えてどこかの国で王になっているとか……」

戦士「それは魔王ということでは?!」

王女「いえ。きちんと多くの人間が魔物を奴隷にしているようですよ」

戦士「そ、そうなのですか」

王女「聞くところによれば、その勇者様は強く、また類稀なる美貌の持ち主で、出会う者全てを恋に落とすほどらしいです」

戦士「それほどですか」

王女「ええ。人間、魔族併せて100もの側室が存在しているとも聞きました」

戦士「あの……あまりイメージが良くないように思えるのですが……。そんな人物が王女様に相応しいのですか?」

王女「明眸皓歯の私には眉目秀麗な勇者しか居ない。私はそう思いますが」

戦士「それに側室がいるということは正妻も存在しているのではないですか?」

王女「私の美貌ならば、簡単に心変わりするでしょう。それにこの国まで手に入るのですから、断る理由がないはず」

戦士「……」

王女「それほどの魅力が私にはある。そうでしょう?」

戦士「え、ええ。王女様の美しさには圧倒されますから……」

王女「ふふ、貴女も私には及びませんが中々美人ですよ?兵士にしておくのが勿体無いほどに。できることなら侍女として私の傍に置いておきたいのですけどね」

戦士「ありがとうございます」

王女「そうすれば貴女にも私の美の秘密を教えてあげてもいいのですが……。残念です。私の付き人になる者にも究極の美を与えねばなりませんからね」

戦士「はぁ……」

戦士(王宮の戦士としては失格だけど、やっぱり私はこの人が苦手……)

王女「話が逸れてしまいましたね。とにかく貴女に勇者を探してもらいたいのです」

戦士「至極光栄ですが何故、私に?他にも屈強な者は……」

王女「同じ女として貴女に期待しているのですよ。他の兵士からも貴女の評判はよく耳にしますしね。貴女の活躍、楽しみにしています」

戦士「……勿体無いお言葉です。死力を尽くし、王女様のために勇者を探しましょう」

―――酒場

兵士長「そうか……。婿探しのために」

戦士「ええ。あまり気乗りはしませんが」

兵士長「だが、名誉なことだ。王女様からの勅命なのだからな」

戦士「そうだけど……」

兵士長「俺も鼻が高い。小さかったお前が王女様から勅命を受けるまでに成長するなんてなぁ……」

戦士(あ、また始まりそう……)

兵士長「あの大雨の日、魔王の軍勢に滅ぼされた村でお前だけが傷だらけで生きていて、もう駄目だと誰もが思っていた。だが、俺だけは―――」

戦士「助かると思って助けた。もう何回も聞いた」

兵士長「言わせろって。俺は父親としてお前を厳しく、時には優しく育てて」

戦士「それは感謝してるって何度も言ってるでしょ」

兵士長「まだまだ感謝しろって。お前は親孝行してねえぞ」

戦士「はぁ……」

兵士長「そもそもだ。あれはお前が兵士になりたいって言い出したときだったな。強くなって魔王をやっつけるなんて一丁前の口をきいたんだ。その時点で親心ってものをちっとも理解してない」

戦士(酔うとこれだから……。まぁ、今日ぐらいはいいか。先代の王に忠誠を誓った義父さんからすれば、今回の任務は本当に嬉しいんだろうし)

兵士長「―――いいか?お前はまだまだひよっこだ。王女様から直接任務を仰せ遣うなんてなぁ、10年早いんだよ」

戦士「うん」

兵士長「外はまだまだ危険が多い。魔物による被害だって3年前より少なくなったとはいえ、看過できないぐらいには起こってるんだ」

戦士「うんうん」

兵士長「そんな世の中にお前を出すなんて俺にはできねえよぉぉぉ!!」ギュゥゥ

戦士「ちょっと、やめて」

兵士長「どこにもいくなぁぁ……むすめよぉぉ……」ギュゥゥ

戦士「酒くさい……」

兵士長「なんだとぉ!?父親に向かってなんてこといいやがる!!」

戦士「はいはい」

兵士長「昔は素直でもっと可愛かったのによぉ……」

戦士「……義父さん?」

兵士長「どうした?」

戦士「勇者のこと、わかる?」

兵士長「勇者?それがどうした?」

兵士長「―――そうか、王女様は婿候補に勇者をなぁ」

戦士「私、知らなかったんだけど魔王を倒したのは勇者なの?」

兵士長「それは俺も知らないな。各国の勇者は例外なく途中でおっちんだか、背中を向けたって聞いていたからな。この国の勇者もそうだからな」

戦士「だよね……」

兵士長「だが、探してみればいいんじゃないか?王女様が出鱈目な情報なんてよこさないだろうしな」

戦士「でも、そんな雲を掴むような話で旅に出ても、城下町を出た瞬間に路頭に迷うと思うんだけど」

兵士長「そうだなぁ。お前、方向音痴だからなぁ」

戦士「それは関係ないでしょ」

兵士長「なら……これをもってけ」スッ

戦士「なに、これ?」

兵士長「旅立ちの日にこの住所のとこを訪ねてみろ。きっと力になってくれるはずだ」

戦士「誰がいるの?」

兵士長「古い友人だ。信頼できる奴だし、傭兵としても腕が立つ」

戦士「ふぅん……。ありがとう、行ってみる」

兵士長「あいつと一緒なら俺も安心だからなぁ」

―――数日後

戦士「では、行って参ります」

兵士「がんばれよ」

戦士「はいっ」

兵士長「薬草は持ったか?」

戦士「はい」

兵士長「防具はどうだ?不備はないだろうな?」

戦士「ないです」

兵士長「ハンカチは?ちり紙は?きちんと持っているんだろうな?」

戦士「あの……」

兵士「隊長。あの……他の兵士もいますので……ほどほどに……」

兵士長「む……。ごほん。えー、勅命ということは、国の威信を背負っていると考えんだぞ。いいな?」

戦士「はい」

兵士長「俺から言えるのは生きて帰ってこい。これだけだ」

戦士「任務を遂行し、必ず生きて戻ってきます」

―――民家

戦士(義父さんのメモによると、ここだけど……。いるのかな?)

戦士「ごめんください」ドンドン

『―――誰だ?』

戦士「とうさ―――いえ、城の兵士長からの紹介でここに腕利きの傭兵がいると……」

『あいつの娘か』

戦士「はい、そうです」

『話は聞いている。ちょっと待ってろ』

戦士「はい」

戦士(一体、どんな人なんだろう……?)

賢者「あー……頭いてぇ……完全に二日酔いだぁ……」

戦士「えっと……うっ……!?」

賢者「おう。こう見えても魔法が得意だから、よろしくなぁ」

戦士(酒くさい……)

賢者「あーケツかゆい……」ボリボリ

戦士「あの、大丈夫ですか?」

賢者「なにがぁ?」

戦士「いえ、体調が悪いのでは?」

賢者「いつものことだから心配すんな」

戦士「……」

賢者「それにしても別嬪だなぁ。あいつの娘とは思えないぜ。俺の嫁になるか?」

戦士「あの……」

賢者「なんだ?胡散臭いか?」

戦士「あと、お酒臭いです」

賢者「あっはっはっは。あいつの娘らしく辛辣じゃねえか」

戦士「す、すいません……」

賢者「まぁ、長い旅になりそうだし、仲良くしようや」

戦士「そうですね。では、握手を―――」

賢者「いくぞぉ」

戦士「あ、ちょっと待ってください!!」

賢者「買い物は済ませてるのか?」

戦士「はい。支給品もありますし」

賢者「そうかい」

戦士「あの、魔法が得意だと言っていましたけど……」

賢者「おう。相手を呪うモノから癒しのモノまで何でもできるぜぇ」

戦士「それって、ヒトの身でありながら魔を極めた所謂『賢者』と呼ばれる人のことですよね?」

賢者「そうだぞぉ。俺は賢いんだぜぇ?」

戦士「……」

賢者「そうは見えないってか?」

戦士「いえ……。人は見かけで判断するなと義父からも言われていますから」

賢者「ほーぉ?あいつがそんなことをねぇ……」

戦士「ですから、貴方のことも―――」

賢者「お、酒買っていくぞぉ」

戦士「え?!」

賢者「やっぱ、酒がねえとはじまんねぇからなぁ」

賢者「これだけありゃあ、なんとかなるかな」

戦士「……」

賢者「なんだよ?借りた金はちゃんと返すって」

戦士「酒代は貴方に支払うはずだった給金から引いておきます」

賢者「ひぇぇぇ……!!こんなところに悪魔がいやがるとは……!!」

戦士「あのですね……」

賢者「これだからションベンくせえガキは。大人の嗜みってものをしらねえからなぁ」

戦士「もういいですから。行きましょう」

賢者「あいよぉ」

戦士(大丈夫なの……)

賢者「心配すんなよ」

戦士「え?」

賢者「仕事はきっちりする。それが俺のポリシィだからよ」

戦士「……よろしくお願いします」

賢者「おぅ。まかせとけぇ」

―――フィールド

賢者「で、なにすんだ?」

戦士「義父さんから何も聞いていないのですか?」

賢者「うん」

戦士「うんって……」

賢者「もったいぶらずに教えろよぉ」

戦士「王女様から3年前に魔王を倒した勇者を探して欲しいといわれたのです。王女様は勇者を婿にしようと考えているそうですよ」

賢者「そりゃあ、すごいなぁ。あの絶世の美女に見初められた男がいようとはなぁ」

戦士「王女様は恐らく勇者の顔を見たことなどないと思いますけど」

賢者「そうなのか?トロルみてえなツラだったらどうするんだろうな?」

戦士「100人の側室がいるみたいですし、それはないんじゃないでしょうか」

賢者「へえ。勇者ってそんなこともできるのかよ。かぁー、いるとことにはいるんだなぁ、そんな奴も」

戦士「個人的にそういう男性はあまり良いとは思いませんけどね」

賢者「英雄色を好むっていうだろぉ。世界を救ったっていうなら当然の権利でもあるとおもうぜ。あと優秀な遺伝子は沢山残したほうがいいしな」

戦士「知りませんよ、そんなこと」

賢者「あー、喉がかわいたなぁーっと」グビグビ

戦士「まだお昼前ですよ?」

賢者「かてーこというなよぉ。仲間だろぉ?」

戦士「そのような状態で魔物に襲われたとき対処できるんですか?」

賢者「うぃー」

戦士(義父さん……信頼していいんだよね……この人のこと……)

賢者「それにしても勇者かぁ……」グビッ

戦士「何か知っているんですか?」

賢者「嫌な肩書きだよなぁ……。国の、世界の命運を双肩にのっけられるんだぜ?肩こりにも限度があるっつーの」

戦士「それだけの実力があるからこそ、勇者に選ばれたのではないのですか?誉れ高いものです」

賢者「ははっ。それで四十肩になったら責任とってくれんのか?」

戦士「それはただの持病でしょ」

賢者「ああ、そうかい?」グビグビ

戦士「お酒はほどほどにしてくださいね」

賢者「あいよー。でも二日酔いには酒がきくんだぜぇ」

―――街

戦士「今日はここまでにしましょうか。情報も集めなければいけませんし」

賢者「お、じゃあ、酒場にいってくるぁ」

戦士「あ、ちょっと!!」

賢者「難しいこたぁ、お嬢ちゃんに任せた!!」

戦士「もう!!」

戦士(幸か不幸か、まだ戦闘はしていないし、あの人のことは分からない。見掛けで判断するなといわれても……)

戦士(でも、ああいう人ほど内に秘めた実力は素晴らしいものかもしれないし……。義父さんの紹介でもあるから大丈夫なんだろうけど)

戦士「さてと、勇者の手がかりがあるとは思えないけど、一応調べてみないと」

戦士「どこから聞いてみようか……。―――あの、すいません」

「なにか?」

戦士「この街で人が良く集まる場所はどこでしょうか?」

「それはやっぱり傭兵登録所じゃないかな?」

戦士(なるほど。確かに自然と冒険者が集まる場所だ。そこに行ってみよう)

戦士「ありがとうございます。そこへ行ってみます」

―――傭兵登録所

戦士(色んな人がいる……。誰がいいかな……)

少女「いらっしゃいませ。傭兵登録をご希望ですか?」

戦士「い、いえ。違うんです」

少女「では、傭兵を雇うのですね。どうぞこちらへ」

戦士「それでもないんです」

少女「それでもない?―――データにないお客様ですね。困りました」

戦士「人を探しているんです。ここなら色々な人もいるから情報が集まるかと思って……」

少女「なるほど。理にかなった行動です」

戦士「すいません。困らせてしまって」

少女「いえ。あなたのような人も来るということが学べてよかったです。感謝いたします」

戦士「そ、そうですか」

戦士(可愛い店員さん……)

少女「ところでお探しの人物は誰なのでしょうか?私のメモリーにある人物ならば照会できますが」

戦士「実は3年前に魔王を倒した勇者を探しています。何か知っていますか?」

少女「勇者……」

戦士「はい。って、知りませんよね」

少女「何故、その勇者を探しているのですか?」

戦士「色々とわけがありまして……」

少女「……」ジーッ

戦士「な、なに……?」

少女「残念ですが、貴女に有益な情報を提供することはできそうにありません」

戦士「そ、そうですか……」

少女「ここから西の山を越えた先にある国へ行ってみてはどうでしょうか?」

戦士「え?」

少女「貴女のいう勇者を輩出した国はそこだと思われます」

戦士「ねえ、魔王が勇者を倒したって話を信じるの?」

少女「なにか?」

戦士「だって、魔王は大艦隊が……」

少女「その真偽を確かめるために探しているのではないのですか?」

戦士「いえ、そういうことでは……」

少女「そうですか」

戦士「とにかく、行ってみます。ありがとう」

少女「いえ。真実を見ることができればいいですね」

戦士(勇者本人を見つければそのまま真相が見えてくるのかな……)

少女「私はこれにて仕事に戻ります」

戦士「はい。話を聞いてくれて助かりました」

少女「それでは。―――いらっしゃいませー!!」テテテッ

戦士(少し不思議な子だけど、いい子そう)

戦士「よし。情報も手に入れたし、合流しないと。もう出来上がってそうだけど……」

戦士「はぁ……。前途多難……」

店主「ああ、ちょっと」

戦士「なんですか?」

店主「旅してるなら、これ一応もっていってよ」

戦士「これは……」

―――酒場

賢者「うぃっぷ……」

戦士「いた。―――あの、大丈夫ですか?」

賢者「おっ。お嬢ちゃんかぁ。なんか耳寄りの情報でもあったかぁ?」

戦士(酒くさ……。これから街に着くたびにこうしなきゃいけないの……?)

戦士「一応、勇者の手がかりらしいものはありました。さ、そろそろ宿のほうへ」

賢者「おう?そうかい。そりゃあ、よかったなぁ」

戦士「どうして他人事なんですか」

賢者「おぉ?なら、なんていえばいい?―――うひょぉぉぉ!!やったぜぇぇぇ!?」

戦士「……とにかく宿へ戻りましょう」

賢者「うん」

戦士「素直ですね」

賢者「お嬢ちゃんみたいな別嬪に介抱してもらえるなら、どこでもついてくぜぇ?」

戦士「ちょっと、はなれてください……」

賢者「あっはっはっはっは。さぁ、行こうぜぇ」

―――宿屋

賢者「なるほどねぇ……。西の国に勇者が生まれた場所があるのかぁ……」グビグビ

戦士「そこでなら痕跡というか足跡を追えるような気がするんです」

賢者「ぷはぁ。なるほどねぇ」

戦士「魔王を倒した勇者がいるなんてまだ信じられませんけど」

賢者「大艦隊の一員ってだけかもしれないしなぁ」

戦士「そうですね」

賢者「お嬢ちゃん、勇者になんか思い出でもあんのかい?」

戦士「……勇者は好きではないんです」

賢者「100人も側室がいるからかぁ?」

戦士「いえ……。いいじゃないですか」

賢者「そうかい?まぁ、誰にでもあるわな。話したくないことぐらいは」

戦士「ああ、そうです。もう一つ、注意して欲しいことが。最近、各地で行方不明者が増加傾向にあるようです。行方不明者を見かけたら然るべき場所へ連絡を―――」

賢者「んごぉー!!んごぉー!!」

戦士「はぁ……。おやすみなさい……」

―――寝室

戦士「ふぅ……。今日は疲れたなぁ。1日目からこれで大丈夫かな……」

戦士(義父さんは古い友人だって言ってたけど。明日にでもどこで知り合ったのか聞いてみようかな)

戦士「さっ。もう寝よう。明日は山越えになるんだし。魔物との戦闘もあるだろうし……」

戦士「んー……はぁ……」

戦士「寝よう」モゾモゾ

戦士「……」

『んぐぉー!!!んごぉー!!!』

戦士「……っ」

『んぐぐぐっ……んんっ……ぐごぉー……』

戦士「もう!!寝れない!!」

戦士「隣の部屋なのに。壁が薄いの……?」

戦士(義父さん……私……くじけそう……)

『んがぁー!!!』

戦士(もう……寝かせて……)ウルウル

―――翌日

戦士「……」

賢者「おーぅ。いい天気だなぁ」グビグビ

戦士「ええ……」

賢者「どしたぁ?目の下にくまができてんぞぉ」

戦士「なんでもないです」

賢者「そうかい?さーて、今日は山越えになるんだろぉ?大変だなぁねぇ」

戦士「ホントにそうですね」

賢者「うしっ。いくぞぉ」グビグビ

戦士「そんなにお酒飲んでいたら、体を悪くしますよ?」

賢者「ははっ。いらない気遣いだな」

戦士「ああ、そうですか。それより―――」

賢者「はいはい。行方不明者には気を配ればいいんだろぉ?わかってるよぉ」

戦士「……な、なら、いいんですが」

賢者「おっと。もう酒がねえな。新しいの買ってくるぁ。瓶で」

戦士(アルコール中毒なのかな……。それだと本格的にまずいような)

賢者「よーぅ。お嬢ちゃん。またせたなぁ。いくぞぉ」

戦士「……」

賢者「なんだぁ、その訝しい視線はぁ?俺はかしこいんだぜぇ?」

戦士「あの、私の義父さんとはどこで知り合ったんですか?」

賢者「あぁ。何も聞いてねえのか?」

戦士「古い友人とだけしか。義父はずっと王族に仕えて30年、遠征以外では外界に出たことのない人です。貴方のような人と知り合うタイミングはないと思うんですけど」

賢者「あの堅物がこんなアル中と友人だっていうのが信じられないってか?まぁ、そうだなぁ」

戦士「貴方も昔は城に?」

賢者「そんなときもあったな。もう何十年も前のことで忘れちまったけどよぉ」

戦士「何故、今は傭兵暮らしを?」

賢者「お嬢ちゃん、俺に気なんてつかわなくてもいいんだぜぇ?」

戦士「え?」

賢者「俺も伊達に年取ってねえからなぁ。お嬢ちゃんがきちんと言葉を選んでることぐらいわかるんだぜぇ?」

戦士「そ、そんなことは……」

賢者「まぁ、道中でゆっくり離してやるぁ。長い旅になるんだし、話題は残しておいたほうがいいだろ?」

戦士「これぐらいのこと今、教えてくれても」

賢者「年取るとなぁ、色々あんだよぉ。一言でいうなら、城に居たくなくなったからだけどな。でも、そういうとお嬢ちゃんは何故ですかぁ?って訊くだろ?」

戦士「それは当然です」

賢者「一気に喋るには、時間を食いすぎてんだよ。全部吐き出すにはそれだけの時間がいる。わかるだろぉ?」

戦士「確かにそうですね。申し訳ありません」

賢者「いいこだぁ。あいつの娘ってのが信じられんぐらいだぁ」

戦士「では、貴方のことは道中で時間を掛けて知っていくことにします」

賢者「おぅ。そうしてくれぇ」

戦士「それでは改めて出発しましょうか」

賢者「あいよぉ」

戦士(元は城に仕えていた神官か術士だったんだ。それなら義父さんと友人でもおかしくないし、義父さんが信頼しているっていうならきっと凄腕に違いない)

賢者「頭いてぇ……酒飲むかぁ……」グビグビ

戦士(そんな感じはないけど……。きっと戦闘になれば人が変わるはず)

賢者「うぃー」

―――山道

賢者「お嬢ちゃん、ちょいと待ってくれ」

戦士「どうしましたか?」

賢者「つかれた」

戦士「……」

賢者「あー。俺こと、お荷物とか思ってるなぁ?」

戦士「そんなこと思ってません。休憩するには少し早いと思っただけです」

賢者「それって、同じ意味じゃねぇかよぉ」

戦士「疲れたというなら休息にしましょう」

賢者「たすかるぅ」

戦士「しかし、油断はしないでくださいね。この山は魔物の巣窟になっているのです。いいですか?3年前、魔王が倒されてから魔物の生息域に変化がありました」

賢者「うぃー?」

戦士「以前、この山は特別注意するような魔物も居ませんでしたが、今では手ごわい魔物も―――」

賢者「おぉ。それって、今、お嬢ちゃんの後ろにいる熊みてぇなやつかい?」

戦士「え……?」

グリズリー「ウゥゥゥゥゥ……!!!!!」

戦士「くっ……。少し前の調査ではこんな魔物、居なかったのに……」

賢者「魔物も居場所を求めてフラフラしてやがんだなぁ」

戦士(私の実力で叶うかどうか……。でも、こっちには仮にも魔を極めし『賢者』がいる)

賢者「うぃっぷ」

戦士(勝てる……!!)

グリズリー「オォォォ……!!!」

戦士「行きます!!」

賢者「おっ。がんばれぇ」グビグビ

戦士「何を言っているのですか?!貴方も戦ってください!!」

賢者「いや、俺さぁ、二日酔いで」

戦士「何を言って―――」

賢者「くるぞぉ」

戦士「くっ!?」

グリズリー「グォォォォ!!!!」

戦士「でぁぁぁ!!」ザンッ

グリズリー「グォ!!」

戦士(くそ……!!攻撃はかわせても、こちらの剣では殆ど傷を負わせられない!!皮膚が堅すぎる!!)

グリズリー「グォォォ!!!」ブゥン

戦士「きゃっ?!」

賢者「あぶねぇなぁ、お嬢ちゃん。突っ込みすぎじゃねえかい?」グビグビ

戦士「そう思うなら援護を!!」

賢者「おっ。火でも放てばいいのかい?」

戦士「それでお願いします!!」

賢者「おっし。まかせなぁ。―――もーえろよ、もえろーよぉ、炎よもーえーろぉ……ありゃ、火がでねえや。最近、魔法なんて使ってなかったから、腕がさび付いたかな?」

戦士(駄目だ……この人……)

戦士「なら、私の後ろにいてください!!!」

賢者「あいよぉ。薬草はあっから、だいじょうぶだぁ」

戦士「くっそぉぉぉぉ!!!!」

グリズリー「オォォォォ!!!!」

戦士「はぁ……はぁ……はぁ……もう……だめぇ……」ヘナヘナ

賢者「すっげぇなぁ。非力なのにあの凶暴な熊を倒しやがった」

戦士「はぁ……はぁ……。さぁ、ここは危険ということは分かったでしょう……。先を急ぎます」

賢者「あいつも生半可な鍛え方はさせてねえわけか。くっくっくっく……溺愛している割にはスパルタだなぁ……」

戦士「何が言いたいんですか?」

賢者「いや、なぁに。心の底から関心してるんだよぉ。お嬢ちゃんの強さにな。一端の戦士じゃねえか」

戦士「いえ。まだまだです。実力でいうならば私なんて下の下ですから」

賢者「そうかい……。いい性格してんなぁ、お嬢ちゃん」

戦士「なんですか?」

賢者「んや、何でもない。あぁー、お嬢ちゃんの言うとおり、ここに留まるのはあぶねえな。さっさと峠を攻めて、下山しようぜ」

戦士「はい……はぁ……」

賢者「疲れてるなぁ。元気の素でもいるか?」

戦士「なにか癒しの魔法を?」

賢者「じゃーん。酒だ。未成年だからって気にすんな。みんなのんでるだろぉ?」

戦士(帰ったら義父さんに文句の一つぐらい言おう……)

―――城下町

戦士「情報収集は明日にしましょう……」

賢者「そうか?なら、俺は心置きなく酒場にいけるなっ」

戦士「……私に遠慮なんてしてないですよね?」

賢者「んじゃな!!」

戦士「もういや……」

戦士(今からでも傭兵の契約を無かったことにできないかな……。ここにも傭兵登録所はあるし、代わりの人でも……)

戦士「……いや、流石にそんなことできないか」

戦士(それにしても……。この街から勇者が……)

戦士「勇者……」

戦士(私情は捨てないと。これは任務なんだから)

「あの。旅の方でしょうか?」

戦士「はい。そうですが」

「途中、この子を見かけませんでしたか?うちの娘なんです……」

戦士「いえ、申し訳ありませんが見かけていません。力になれず、すいません」

「いえ、見かけたらご連絡お願いいたします」

戦士「はい」

戦士(この国でも行方不明者は増加傾向にあるんだ……。一体、誰が……)

戦士(一度、徹底的に調査するべきことも知れない。もし獰猛な魔物が人を食っているとしたら、ようやく安定してきた交易にも影響が出るし)

戦士(この任務が終わったら王女様に陳情しないと)

戦士「今はとにかく宿へ……。疲れちゃったし……」

「野郎どもぉ!!!今日の稼ぎをキャプテンに報告するぞぉ!!!」

「「おぉー!!!」」

戦士「ん?なんだろ……あの人だかり……」

戦士(まぁ、いいか……。それにしても人相の悪い人たち……。キャプテンって海賊とかかな)

「キャプテン!!本日の成果です!!!」

キャプテン「そうかい!!よくやったよ、お前たち!!ゆっくり休みなぁ!!」

「「へい!!」」

戦士(眼帯の女の人まで……。この街、海賊が幅を利かせてるってこと?治安はあまりよくなさそうだけど、本当にここから勇者が……?)

キャプテン「こんだけありゃあ、十分だね。さてと持ってくか」

―――宿屋

店主「では、二部屋を使用ということですね。料金はこちらになります」

戦士「はい。では、これで」

店主「どうも。こちらが部屋のキーです」

戦士「分かりました。……あの、いいですか?」

店主「なんです?」

戦士「この街、海賊がいるんですか?」

店主「あれ?あんた、あの人たちのこと知らないのか?」

戦士「え?」

店主「魔王を倒した大英雄の一団だぞ?」

戦士「あ!!そうだ!!あの人たちは大艦隊の!!」

店主「3年前のことは言え、英雄の顔を忘れちゃいかんだろうに」

戦士「あの!!あの人たちはこの時間帯ならどこにいるんですか?!」

店主「郊外に大きな屋敷があるんだけど、今ならきっとそこで―――」

戦士「あ、ありがとうございます!!少し出かけてきます!!」

―――屋敷

戦士「ここだ……。あの人たちなら、きっと勇者のことを―――」

船員「誰だ!?ここは大漁船団の屋敷だぞ!!」

戦士「あ、あの。私は隣国の兵士で……とある任務のためにここへやってきました」

船員「任務だと?」

戦士「3年前、魔王を倒したという勇者を探しているんです」

船員「なんでだ?」

戦士「我が国の王女が勇者を夫として迎え入れたいと言っていて……」

船員「……ちょっと待ってな」

戦士「は、はい」

戦士(居場所は分からなくても足取りは終えるかもしれない……)

船員「おう。入ってきな」

戦士「はい」

戦士(勇者……。こんなにも早く手がかりを掴めるなんて)

船員「キャプテン。この女です。勇者のことを知りたいと言ってます」

キャプテン「ふぅん。アンタみたいな奴、もうこの世にはいないと思っていたけど、まだしぶとく生き残ってたのかい」

戦士「え?」

キャプテン「勇者なんてものはいないよ。魔王はあたしがぶったおしたからね」

戦士「……」

キャプテン「魔王が死んだときはよく居たんだよね、アンタみたいに海賊を信用しようとしなかったバカは。まぁ、もうめっきり見なくなったけど」

戦士「勇者は居ないんですか?」

キャプテン「そう言ってるだろ?強いていうなら、あたしが勇者だねっ」

「キャプテン!!かっこいいっす!!」

「マジ、サイコー!!」

キャプテン「あっはっはっはっは!!もっと言いな!!」

戦士「やはりそうだったのですか」

キャプテン「ん?」

戦士「この世に勇者は居なかったのですね」

キャプテン「やけに嬉しそうだね。どういうことだい?」

戦士「勇者なんて存在しないって、私は知っていますから」

キャプテン「ほう?根拠はあるんだろうね?」

戦士「勇者も人間です。敵わないと思えばすぐに逃げ出す」

キャプテン「なっ……!?」

戦士「自分の身が一番大事なんですから、当然と言えば当然のことなんですが―――」

キャプテン「このアマ……」チャカ

戦士「!?」

「キャプテン!!銃はやばいっす!!」

「押さえてください!!」

戦士「な、なんですか……」

キャプテン「それはダーリ……じゃなくて、あたしを小馬鹿にしているということでいいんだね?」

戦士「ち、違います。貴方のように自分の身を省みず、畏怖すべき者へ銃口を向けることのできる人は確かに勇者と言えるでしょう」

キャプテン「……」

戦士「ですが、後に勇者と呼ばれる人は居ても、最初から勇者と呼ばれているような人はいないんです」

キャプテン「昔から色んな国から勇者ってのがポンポン出ていた気がするけどねぇ」

戦士「勇者は選ばれるものではない。選ばれた者たちは皆、普通の人間だった。残酷なまでに弱い人だったんです。私はそんな勇者を知っているんです」

キャプテン「勇者に親でも殺されたのかい?」

戦士「ある意味ではそうです」

キャプテン「……聞きたいねぇ。あんたの知っている勇者がどんなものだったのかを」

戦士「長くなりますよ」

キャプテン「長くなるっていってるよ、お前たち」

「飲み物は!?」

戦士「み、水で結構です」

「キャプテンは?!」

キャプテン「いつものにきまってんだろ?!」

「マンゴージュースですね?!」

キャプテン「そうだけど、言うな!!」

戦士「……」

キャプテン「……あん?海を叉にかけるあたしが酒飲めないって思ってるのかい?」

戦士「別に……」

キャプテン「アルコールは子を身篭ったときに悪影響が出るってきいてね。それ以来、断ってんのさ。昔は樽ごと飲んでたんだけどね」

戦士「―――10年前のことになります。私は小さな農村に住んでいました。父と母、歳の離れた姉と一緒に」

キャプテン「戦火に巻き込まれたのかい?」

戦士「そうですね。正確には村の近くに魔物が住み着いたのです。私たちはその魔物に怯える日々でした」

キャプテン「よく聞く話さね」

戦士「農作物を荒らされることは日常茶飯事で、時には村人が食われたときもあります」

キャプテン「世界に無数といる孤児はそういう経験をしてるよ」

戦士「そうですね。ですが、直接勇者一行が救いの手を差し伸べてくれたことを経験した人はあまりいないはずです」

キャプテン「アンタはその経験者なのかい?」

戦士「はい。ある日、勇者が村に訪れ、魔物を倒すと宣言してくれました。私も両親も姉も……村人全員が喜びました。これで平和が戻ると」

キャプテン「だが、叶わなかった」

戦士「数日後、勇者一行が村に戻ってきて言いました。「私たちでは倒せなかった。魔物たちは傷つけられたことに腹を立て、この村を襲うでしょう。今すぐに逃げてください」と」

戦士「勇者たちは私たちが逃げる時間を稼ぐわけでもなく、真っ先に逃げ出しました。そのすぐ後、村は襲われ、私を残して皆殺されてしまった」

キャプテン「アンタはなんで助かったんだい?」

戦士「両親が守ってくれたんです。地下室……といっても子供でも窮屈なぐらいの物置でしたけど。その中へ入れと……」

キャプテン「それで勇者のことを弱いと決め付けているわけだね?」

戦士「勇者はいません。勇者とは貴女のように結果を残した者に送られる称号でしかないのですから」

キャプテン「でも、一度は村のために戦ってくれたんだ。なのに勇者を責めるなんて酷な話じゃないかい?」

戦士「それでも勇者が少しでも勇気を見せ、時間を稼いでくれたなら家族を失うことはなかった。勇者も普通の人間なんです。勇者という肩書きを持たせるから、己も周囲も勘違いするんです」

戦士「勇者は優れている、と。優れた勇者などいないのに。ただの人間が勇者という鎧を身につけただけなのに……」

キャプテン「ふっ……ふふふ……あはははははは!」

戦士「なんですか?」

キャプテン「アンタの気持ちは分からなくもないし、優れた勇者なんていないっていう考えは合っているけどね。けど、それだけで弱いと決め付けるのは視野が狭いんじゃないのかい?」

戦士「なにを……!!」

キャプテン「気が変わっちまったね……。アンタ、女で一人旅ってわけじゃないんだろ?」

戦士「え、ええ……」

キャプテン「連れはどこにいるんだい?」

戦士「街の酒場にいると思いますけど……」

キャプテン「今すぐ、連れてきな」

戦士「何故ですか?」

キャプテン「会わせてやろうじゃないか。アンタの大嫌いな勇者にさ」

戦士「は、はい?」

キャプテン「なんだい?」

戦士「い、いえ、勇者に会わせるって……貴女が勇者なのでは……?」

キャプテン「ぅんや、違うけど?」

戦士「でも、さっき……!!」

キャプテン「いやぁ、ダーリンは恥ずかしがりやだからね。本当のことはなるべく言わないでほしいって言われてんのさ」

戦士「本当のこと?」

キャプテン「まあ、緘口令を敷いているわけでもないから、どうしてもいうとき……つまり、今みたいなときは言ってもいいってことになってるんだよ」

戦士「魔王を倒した者がいると?」

キャプテン「そうさ。勇者に選ばれた男がね」

戦士「……」

キャプテン「今はちょいと野暮用である国にいるんだけど、会おうと思えばいつでも会えるってわけだ」

戦士(勇者に会える……)

キャプテン「あたしが会わせてやるって言ったんだ。文句はないね?」

戦士「……はい。お願いします」

―――酒場

戦士「起きてください!!」

賢者「んぁ?なんだぁ?俺ぁ、まだ寝てねえぞぉ」

戦士「寝てましたよ!!それよりも早く起きてください。今から出発しますよ」

賢者「どこに?」

戦士「勇者のところに行くことになったんです」

賢者「ほぅ?そうなのか。そらぁ、びっくりだなぁ」

戦士「全然、驚いてないですよね」

賢者「んじゃ、行くか」グビグビ

戦士「そんな状態で大丈夫なんですか?」

賢者「俺は賢いんだぜぇ?」

戦士「それは、はい」

賢者「火とか氷とかも手の平からだせるってんだよ。調子が良ければ」

戦士「とにかく行きますよ。しゃきっとしてください」

賢者「俺はただの酔っ払いじゃねえんだよぉ」

―――港

戦士「お待たせしました!!」

キャプテン「おそいよ!!何してんだい!?」

戦士「すいません!!」

キャプテン「まだ出港準備できてないからいいけどさ」

戦士(謝って損した……)

賢者「うぃー。おぉ、誰かと思えば有名人じゃねえかよ」

キャプテン「その男がアンタの連れか」

戦士「え、ええ」

キャプテン「年上好きなのかい?」

戦士「そ、そんなんじゃありませんから!!」

賢者「おーぅ。つれねえなぁ、お嬢ちゃん。一夜を共にした仲だろぉ?」

キャプテン「二人は相部屋でいいね?」

戦士「やめてください!!!貴方も変なこと言わないでください!!」

賢者「あっはっはっは。あと5年経ったら相手しやるよぉ、お嬢ちゃん」

キャプテン「おい。二人を客室に案内してやりな」

船員「アイアイサー」

戦士「はぁ……疲れるなぁ……もう……」

賢者「そんなに気を張ってても疲れるだけだろ?」

戦士「これは任務ですから。もう少し緊張してください」

賢者「はいはい」グビグビ

戦士(契約きりたい……)

キャプテン「アンタ、大酒飲みみたいだけど、船酔いはしないだろうね?」

賢者「するわけないだろぉ?俺は賢者なんだぜぇ?」

戦士「貴方、そればかり言ってませんか?」

賢者「これしかアピールするとこねえからよぉ」

戦士「あぁ……そうですね」

賢者「そうですねって、なんだよぉ?お?燃やしちゃうぜ?」

キャプテン「愉快な相棒だねぇ」

戦士「今なら破格でお譲りしますけど」

―――甲板

戦士「星が綺麗……」

キャプテン「こんなとこに居たのかい。飯はどうする?」

戦士「頂きます。何から何までありがとうございます」

キャプテン「なぁに。ダーリンのことを勘違いしたままにされるとこっちとしても癪だからね」

戦士「……」

キャプテン「うちの旦那はとっても強くて、かっこよくて、頼りになる男の中の男なんだよ。魔王との戦闘で傷ついたあたしをギュっと抱きしめてくれたときの温もりは、忘れられないねえ」

戦士「あの、貴女と勇者の関係って?」

キャプテン「ん?あぁ、ダーリンは恥ずかしがって表にしないけど、一応、あたしは許嫁なんだよね。って、バッカ!!あたしに恥ずかしいこと言わせんじゃないよぉ!!!」バンバン

戦士「ご結婚されているんですか?」

キャプテン「ダーリンにはまだやるべきことがあるから、そういうことはもう少し先になるね」

戦士「聞いた話なんですけど、勇者には100人の側室がいるとか。貴女はそれを許容しているのですか?」

キャプテン「100人もいるのかい?」

戦士「私が知りたいんです」

キャプテン「さぁ、最後にあったのは半年前ぐらいだからね……。まぁ、ダーリンならそれぐらい増やしてそうだね!!なんていっても、かっこいいからさっ!!」

戦士「何人も愛人を作るような男性はかっこいいと言えるのですか?私はそうは思えないですけど」

キャプテン「良妻っていうのは細かいことに目を瞑るもんさ」

戦士「決して細かくないことですよ?」

キャプテン「あたしの知る限りでは、ダーリンの周りにいる女はあたしを含めて9人しかいないけどけどね」

戦士「9人でも多いですよ」

キャプテン「あの人は世界中を飛び回ってるから、仕方ないね」

戦士「どうして半年も会っていないんですか?会おうと思えばいつでも会えるんですよね?」

キャプテン「こっちにはこっちの仕事があるし、ダーリンにもあるんだよ。それにダーリンの邪魔はしたくないのさ。そりゃね、どうしても寂しくなるときもあるし、シーツを濡らしたくなる夜もあらぁね」

戦士「……」

キャプテン「それでもぐっと堪えて旦那の帰りを待つのが、良い妻の条件ってもんさ。知らないのかい?」

戦士「古い考えだと思いますけど」

キャプテン「ふん。それだけ尽くせる男に抱かれたことがないだけだろ、小娘が」

戦士「なっ!?」

キャプテン「一度、男に抱かれてみな。世界が変わるよ?」

戦士「不潔なこといないでください!!!」

キャプテン「不潔って……ギュっと抱きしめられることはそんなにやらしいかい……?あたしには良くわかんないねえ」

戦士「もういいです!!食事にしてきます」

キャプテン「おう、行ってきな。おかわりも自由だからね」

戦士「はい」

キャプテン「ちょいと、待った」

戦士「なんですか?」

キャプテン「勇者のことはどこで聞いたんだい?やっぱり、姫様からかい?」

戦士「え……」

戦士(どうしてそのことを……。ああ、そういえば船員の人には説明していたっけ)

戦士「そうですが、それが何か?」

キャプテン「ああ、いや。それならいいんだよ」

戦士「……?」

キャプテン「早く食堂に行ってきな。冷めた飯は不味いからね」

戦士「はい。頂きます」

キャプテン「……」

―――食堂

賢者「お嬢ちゃん、来たか。早く食っちまえよ」

戦士「ええ。って、貴方は酒場で済ませたんじゃ……」

賢者「馬鹿なこというなよ。酒場はお食事処じゃねえぞ?酒場なんだからよ」

戦士(意味が分からない……)

賢者「おーぅ、船員さんよぉ。酒あるだろ?出してくれぇ」

戦士「あるわけ……」

賢者「お嬢ちゃん、水を積んでいるほうが珍しいぞ?陸戦ばかりしないで、海でも戦ったほうがいいんじゃねえか?」

船員「船旅には酒しか積まないんだよ。水は腐るからな」

戦士「それは知っています。でも、キャプテンはお酒は控えていると言っていたので」

船員「おう。そうだぜ。キャプテンはなぁ……キャプテンはぁ……もう……あの忌々しい野郎に……寝取られて……うぅぅ……くぞぉ……!!」

戦士「あ、あの……ごめんなさい……」オロオロ

賢者「キャプテンはいい女だからなぁ。船員たちのアイドルらしいぜ?そんな女を惚れさせちまうなんて、勇者ってやつはすげぇなぁ」

戦士「そ、そうですか……?」

船員「いつか殺してやるぜ……あの野郎だけは……!!」

戦士「ごちそうさまでした」

船員「もういいのか?」

戦士「はい。船上の食事も悪くないですね」

船員「ま、荒波のように豪快な料理だけど、味は格別だろ?なんていっても食材が産地直送にも程があるからな」

戦士「釣ったものを料理に?」

船員「漁船員の特権ってやつだな」

戦士「へぇ……」

賢者「美味い酒と肴があれば世はこともなしって言うしな。ここは俺にとっては楽園かもしれない」

戦士「楽園って。海の上ではやることが限られていますし、危険が迫っても逃げ場がないじゃないですか。楽園っていえますか?」

賢者「だからいいんだろ?」

戦士「はい?」

賢者「さてと、もう寝るかな。港についたらおこしてくれ」グビグビ

戦士「分かりました。おやすみなさい」

船員「不思議な奴だな。俺の知ってる勇者と似てるぜ」

戦士(ただの酔っ払いじゃないのかな……)

―――船内

戦士(結構、内部が入り組んでる。元海賊船だけあって、設備もしっかりしているし……)

キャプテン「まだ寝ないのかい?」

戦士「あ、どうも」

キャプテン「漁船が珍しいかい?」

戦士「もしかして不快にさせましたか?初めての場所は巡察するようにと言われていて……」

キャプテン「別に見られて困るようなもんな積んでないし、いいよ。……今ンところは」

戦士「密漁等をしているなら、私も一兵士として見過ごせませんが……」

キャプテン「これだから役人は苦手だよ。糞真面目っていうかさぁ」

戦士「それも職務ですから」

キャプテン「はいはい。別に何もやっちゃいないよ。今ンところは」

戦士「その今のところはが気になりますけど、証拠がないのでは逮捕ができませんね」

キャプテン「もう寝な。客人に風邪を引かせるわけにはいかないからね」

戦士「はい。失礼します」

戦士(見た目と違って、良い人そう……)

戦士(ここは……お手洗いか……)

戦士「巡回はこの辺でいいか……。んー……明日はいよいよ……」

賢者「……お」

戦士「あ。寝たんじゃなかったんですか?」

賢者「便所ぐらい言ってもいいだろうがよ」

戦士「それはそうですけど……」

賢者「お嬢ちゃん、よく寝ないといい女にはなれないぜ?」

戦士「……」

賢者「男と寝るのが一番だけどな!!」

戦士「セクハラはやめてください!!契約破棄しますよ!!」

賢者「それは困るぜ。酒が飲めなくなる」

戦士「なら、私にそういうことをいうのはやめてくださいね」

賢者「もしかしてそういうのはお嫌いか?」

戦士「やめてください。絶対に」

賢者「くっくっく……可愛いじゃねえの」

―――翌日 港

キャプテン「ダーリンはこの先の街にいるはずだ。特別に案内してやるよ。別に行きたいわけじゃないんだよ?」

戦士「分かりました」

賢者「おーぅ」

キャプテン「アンタたちぃ!!しっかり船番してんだよ!!いいね!!」

船員「「アイアイサー!!!」」

キャプテン「よし」

戦士(惚気ているときは駄目そうな感じだったけど、やっぱり大艦隊を纏めていただけあってカリスマはあるんだ)

キャプテン「なんだい?あたしの顔になんかついてるかい?」

戦士「いえ、なんでも」

賢者「かっこいいって思ってたんだろ?」

戦士「え?!」

キャプテン「え?そうかい?そうはっきり言われると嬉しいけどさぁ」

賢者「どんなやつでも真の意味で強い奴には惚れるからな」

キャプテン「うんうん。確かにそうだね。ダーリンは最高だよ」

戦士「勇者に相当惚れこんでいるんですね」

キャプテン「ダーリン以上の男はいないからね。いくつもの海を制覇したあたしが言うんだから、間違いないよ」

賢者「そりゃすげえなぁ」グビグビ

戦士(こんな大人にだけはならないことをここで誓おう)

賢者「勇者はこんな別嬪さんを放っておいて何してんだよぉ?」

キャプテン「3年前と比べて魔物が大人しくなったといっても、それは表面的なことでしかないとか言ってたね」

賢者「……」グビグビ

キャプテン「魔王が居なくなってから、魔物たちは魔物たちで好き放題やってみるみたいだからねえ。人間が住めないような場所を根城にしたりなんかはもう珍しくないね

戦士「生息域の変化ですね。3年前までは被害の無かった地域でも魔物が出没するようになったと聞いています」

キャプテン「そうなんだよね。海も普段は見なかったヘンテコなやつも見るようになっちまって、大変だよ。全く」

賢者「で、勇者はなにしてんだ?」

キャプテン「どこにどんな魔物がいるのかを調査してんのさ。で、悪さをする魔物にはお説教するんだよ」

賢者「それはすげえな」

戦士「何故、そのようなことを?」

キャプテン「愚問だねえ。平和になった世界のために決まってるだろ?」

戦士「……」

賢者「信じられないってよ」

キャプテン「あってみりゃあわかるさ。どれだけの器を持っている男なのかってね」

戦士(無償でそんなことをする人なんているわけがない……。きっと何か得るものがあるから……)

キャプテン「あ!!いた!!!」

戦士「え?」

賢者「お?ついにご対面か?」

キャプテン「―――だぁーりーん!!!」テテテッ

青年「おや?」

キャプテン「あいたかったよぉ!!!」ギュゥゥゥ

青年「僕もです。まさか、こんな場所で会えるなんて奇跡ですね。やはり、僕と貴女の間には赤い側室の糸があるようです」ギュッ

キャプテン「そうだね!!」

戦士「あの人が……」

賢者「なんだ、えらい普通だな、おい。どこにでもいそうなにいちゃんじゃねえか」

青年「ん?お客様ですか?」

キャプテン「ああ、そうなんだ。ダーリンに会いたいって奴があたしのとこに来たんだよ」

青年「ほう……?」

戦士「貴方が、勇者なのですか?」

青年「困りますね。サイン会の予定はないのですが」

戦士「そんなものは欲していません」

青年「では、愛が欲しいと?」

戦士「違います!!」

キャプテン「悪いね、ダーリン。ダーリンのこと話しちゃったよ」

青年「いえいえ、良いんですよ。特別内緒にして欲しいことでもありませんし、この麗しい女性に会わせるべきだと判断したのでしょう?貴女の判断は間違っていませんよ」

キャプテン「そういってもらえると、うれしいね」

賢者「お前さんが勇者か……」グビグビ

青年「貴方は?」

賢者「俺はお嬢ちゃんのお守りだ」

青年「そのお守りには僕のような人材も必要ではないですか?お姫様だっことかできますよ」

戦士「け、結構ですっ。それよりもお話があります。いいですか?」

―――民家

青年「狭い場所ですが、どうぞ」

戦士「お邪魔します」

賢者「独り暮らしか?」

青年「ええ。本来ならベッドの上で両脇に花を添え、ワイングラス片手にピロートークでもしているのですが。―――貴女のような人と」

戦士「ちょっと!!やめてください!!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんはそういうことが苦手なんだよ。やめてやれ」

青年「そうですか。大変失礼いたしました」

キャプテン「ダーリン、あたしでよかったら……」モジモジ

青年「なんて魅力的なお誘い。ですが、今はお客様がいるので……。またの機会にとっておきましょうか」

キャプテン「そうかい?」

戦士(本当にこんな人が魔王を倒した勇者なの……?)

青年「それでお話とはなんですか?縁談なら即諾しますが」

戦士「察しが良いですね。では、すぐに我が国まで来てもらえますか?」

青年「え!?」

賢者「……」グビグビ

戦士「なにか?」

青年「いや、まさか……。しかし、まぁ、わざわざお会いに来ていただいたのですから、貴女の生まれたままの姿を見てから側室候補にするかどうかは決めさせていただくとして……」

戦士「こちらの写真を見てください」

青年「この女性は……確か、ここから南にある国の王女様ですね?」

戦士「良くご存知ですね」

青年「僕の側室にお姫様がいまして。その方は色々な国を積極的に交流しているのです。そうした関係で各国の王は大体把握しています」

戦士「ならば話が早いですね。王女様は勇者を夫にしたいと言っています」

青年「そうですか……。モテる男は辛いですね」

戦士「……ですが、その前に貴方が本当に勇者なのかどうか確かめさせていただきます」

青年「脱げばいいんですか?まぁ、確かに勇者サイズですけどね」

戦士「違う!!!―――ごほん、剣を取ってください」

青年「そんなハードプレイは……」

戦士「何を勘違いしているのですか?!貴方の実力を見させてくださいと言っているんです!!!」

キャプテン「あたしの話が信じられないってかい?」

>>72
青年「僕の側室にお姫様がいまして。その方は色々な国を積極的に交流しているのです。そうした関係で各国の王は大体把握しています」

青年「僕の側室にお姫様がいまして。その方は色々な国と積極的に交流しているのです。そうした関係で各国の王は大体把握しています」

戦士「当然です。見た目で判断できない以上は、実力で証明していただきます。元よりそのつもりでした」

キャプテン「いい度胸だね、小娘」

青年「―――いいでしょう」

キャプテン「ダーリン?良いのかい?」

青年「はい」

賢者「……」グビグビ

戦士「よし。では、表に出てください」

青年「出る必要などありません。この場で結構です」

戦士「え?でも、屋内では剣を振り回すことなどできませんよ」

青年「暫く、僕と付き合いませんか?」

戦士「なっ……?!」

キャプテン「ダーリン!?」

青年「丁度、人手が欲しいと思っていたところなんですよ。貴女のようにお美しい方が隣に居れば、僕はそれだけでもう一度世界を救えそうです。はい」

戦士「ふ、ふざけないでください!!ど、どうして私が今日知り合った貴方と付き合わないといけないんですか?!」

賢者「くっくっくっく……」

青年「何か問題でも?」

戦士「貴方は女なら何でもいいんですか!?」

青年「ええ。無論です」キリッ

戦士「がっ……!?」

青年「そもそもですね。今の僕はご覧のようにただの爽やかな青年なんですよ。僕が『魔王が俺が倒したんだ。その力をベッドの上で証明してやる!!』と言ってもイマイチ説得力がないでしょう?」

戦士「何を言っているんですかぁ!?」

青年「どのようにして僕が勇者であると貴女に信じてもらえるのか……。それは行動で示すしかないと思うのです」

戦士「行動……?」

青年「僕の隣に居れば、自然と僕がどのような人物でどの程度の強さなのか分かる筈。それに3年前の戦いの生き証人たちに会えば、完璧でしょう?」

戦士「会わせてくれるのですか?」

青年「僕の腰の上で乱れるか、それとも僕と付き合って舐め回すように観察するか、手ぶらで帰って王女様をがっかりさせるか。どれがいいんです?」

戦士「そ、そんなの……」

青年「さぁ。貴女に選択肢なんてないでしょう?」

戦士「……っ」

賢者「あー、兄ちゃん。ちょっと待ってくれよぉ」

戦士(え……?)

青年「なんですか?」

賢者「行動で示すって言ってもな、魔王はもういないんだぜ?その辺の魔物を狩って、俺が勇者だぁって主張するつもりか?そんなのはなんの証明にもならない。兄ちゃんがお嬢ちゃんと仲良しなるだけだろ?」

青年「……む」

戦士「そ、そうです!!」

賢者「勇者らしい行動をとるっていうのも却下だ。俺たちは本物の勇者なんて見たことねぇからよ。兄ちゃんの行動が正しいかどうかなんてわかりゃしねえ」

キャプテン「なんだってぇ?」

賢者「あー、アンタが気に食わないのもわかる。大艦隊を率いていたほどの女が惚れこんでるんだ、この兄ちゃんが強いのは確かなんだろう。でも、強いから勇者か?違うだろ?」

勇者「ええ……そうですね」

賢者「兄ちゃん、今までは卑猥な語句も混ぜつつ論調を段階的に勢いづかせて、女の思考を停止させてきたんだろうが、おっさんには通じないぜ?」

勇者「貴方を口説いた記憶はありませんが」

賢者「まぁ、とにかくだ。もっと具体的に証明してくれないとお嬢ちゃんが困っちまうんだよ。こいつの親父がとんでもない堅物でな。王族の命令は絶対って考えを持ってる」

戦士「……」

賢者「その娘も似通った思考回路なんだよ。だから、任務は死んでもこなそうとする。わかるだろう?任務が失敗しそうになれば、自害するかもしれねえ」

勇者「それは、大変ですね。貴重な美少女が命を絶つなどあってはならない」

>>76
訂正
勇者→青年

賢者「そうだろう?勇者って言うなら、手を差し伸べてやらないとなぁ。ほら、お嬢ちゃんもしっかり考えろよ。どうしたら勇者って認めることができるのかを」

戦士「え、ええと……どうしたら……」

賢者「それは俺が決めることじゃねえよ。お嬢ちゃんが「このスケベこそ勇者だ」って思える条件を叩きつけてやんねえとなぁ」

青年「ふふ……。やはり脱ぐしか……」

戦士「や、やめて!!」

キャプテン「ったく、折角会わしてやっても信じないんじゃ話にならないじゃないのさ」

賢者「確認作業は大事だろ?イワシをマグロと偽られて納品されたらどう思うよ?」

キャプテン「そんなの鉄拳制裁に決まってる」

賢者「こっちも同じなんだよ。国を背負ってる分、慎重にもなる」

戦士(この人……)

青年「分かりました。そこまで言われては僕から条件提示するのもおかしな話ですね。貴女の出す条件を飲みましょう」

戦士「いいのですか?」

青年「構いません。貴女が火の中へ飛び込めというなら飛び込みましょう。元ではありますが勇者ですから」

戦士(どうしよう……。どうしたら……)

賢者「うぃー……」グビグビ

青年「条件が決まらないのであれば、是非とも僕の仕事を手伝って欲しいのですが」

戦士「魔物の調査ですか?」

青年「それもありますが……。最近、各地で増加している行方不明者については知っていますか?」

戦士「はい」

青年「それはどうやら人攫いが原因のようでして、僕は今、その人攫いを追っているところなのです」

戦士「人攫い……!?」

青年「国に仕える兵士としてもこの事件を解決することは有益なことではないですか?」

戦士「それはそうですが……」

賢者「ここでじっとしてても逃げられるぞ。とりあえずは首肯しておいたほうがいいんじゃねえか、お嬢ちゃん?」

戦士「……そうですね。貴方を勇者であると認められる方法は思いつきませんし、暫くは貴方の行動を監視させて頂きます」

青年「助かります。もし僕を連行して王女様が認めてくれなかったら、貴女が死んでしまうかもしれませんし」

戦士「そこまで自分を追い込むかどうかは疑問ですけど、何らかの処罰はあったでしょうね」

賢者「あいつの娘なら自傷行為ぐらいはやりかねないなぁ」

戦士「義父さんを馬鹿にしてませんか?」

賢者「してねえよ。呆れてるんだ」

キャプテン「ダーリン、本当にいいのかい?得体の知れない奴らだよ?」

青年「来る者は拒みませんし、貴女は良いと思ったからここまで連れて来たんですよね?」

キャプテン「ああ……まぁ……」

青年「では、問題はありません。貴女がいいと思ったのなら、それだけで信頼に足る人たちです」

キャプテン「……胸の奥がズキズキする……これが罪悪感……」

青年「それに……」

キャプテン「なんだい?」

青年「あの人、少し気になりますね」

賢者「うぃっぷっ。お、空になっちまったか。お嬢ちゃん、次のとってくれぇ」

戦士「これ以上飲んだら、死にますよ?」

賢者「望むところだぁ」

戦士「はぁ……」

キャプテン「ただの酔っ払いにしちゃ、確かに隙がないね」

青年「あの人をどうにかしないと、僕は彼女と仲良くできませんからね」キリッ

キャプテン「ダーリン……。その横顔も素敵だよ……」

キャプテン「名残惜しいけど、そろそろいくよ。仕事があるからね」

青年「そんな。行かないでください」ギュッ

キャプテン「ダーリン!!……でも、ダーリンにも使命ってやつがあるんだろ……あたしは……あたしは……ダーリンの使命が終わるまで待ってるよ!!」

青年「ありがとうございます……。とても嬉しいです」

キャプテン「未来の嫁として、当然のことさ。でも、たまにはダーリンから会いに来てくれると……あたしは嬉しいよ?」

青年「分かりました。必ず、迎えにいきますね」

キャプテン「ダーリン!!!すきだよぉ!!!」ギュッ

青年「僕もです!!!」ギュッ

賢者「若いって……いいなぁ。お嬢ちゃんはああいう相手、いないのか?」

戦士「興味ないですから」

賢者「青春の無駄遣いかぁ……。勿体無い」

戦士「余計なお世話ですっ」

キャプテン「じゃあね、ダーリン!!必要になればいつでも呼んでおくれよ!!南極にいたって駆けつけるからね!!!」

青年「僕も貴女に危険が迫れば、いつ如何なるときでも助けに行きます!!!」

キャプテン「ダーリーン!!!またねー!!!」

賢者「兄ちゃん、もっと優しくしてやれよ」

青年「はい?」

賢者「何人の女をはべらせてるのかしらねえけどよ、あんないい女をほったらかしにして、行き遅れたらどうすんだ?責任とるのか?」

青年「僕のキャパシティはまだ余裕があります。彼女たちの行く末に問題はありません」

賢者「そうかい」

戦士「これからどうするのですか?」

青年「今日のところは宿でもとって休んでください」

賢者「なんだ、なんだ?俺たちは泊めさせねえってか?」

青年「まぁ、一つのベッドに3人仲良く寝るというなら話は別ですが」

戦士「私は床で寝ます。気遣いはいりません。戦士として野営の経験もありますから、床で寝るぐらい障害にはなりません」

青年「僕の知っている側室ちゃんたちなら、ベッドに喜んで入ってくるか、断固拒否なのですが。貴女は新手ですね。これは楽しみだ」

賢者「そういうことなら宿にいくか」

青年「なに?」

賢者「姿を消したらこいつは勇者じゃなかったってことだろ。そのほうが調査する手間も省けていいだろぉ?」

戦士「それもそうですね。勇者ならまず逃げる必要がありませんからね」

青年「……ちょっと待ってください」

賢者「なんだ?」

青年「僕の監視を疎かにしていいと思っているのですか?」

戦士「え?」

青年「もしかしたら、何気ない仕草の中に勇者だと感じる部分があるかもしれないのに。素の僕を見ることで得るものも多くあるはずですよ?」

戦士「それは……」

賢者「例えばなんだぁ?」

青年「気遣いとか、振る舞いとか」

賢者「そりゃあ、兄ちゃんが色男っていうことしかわかんねえからなぁ。な?」

戦士「ええ。そうですね。意味の無いことです」

青年「くっそぉ……!!どうしてこう僕が気に入った女性は鉄壁なんだよ……!!」

賢者「さてと、兄ちゃん。酒場はどこだ?」

青年「ここを真っ直ぐ行けば右手に見えてきますよ」

賢者「おぅ、サンキュ」

戦士「では、私も宿のほうへ向かいます。また明日」

賢者「ふんふーんふふふーん……」

戦士「あの」

賢者「どうした?宿屋なら、通り過ぎただろ?」

戦士「いえ、お礼を言っておこうと思いまして」

賢者「礼だぁ?」

戦士「もう少しで彼の言いなりになるところでしたから」

賢者「あぁ……。いや、別に俺が口出ししなくてもあいつはお嬢ちゃんを悪いようにはしなかっただろうけどな」

戦士「え?」

賢者「あいつはただ、困っている顔を見て楽しみつつ、お嬢ちゃんに嫌われようとしていたからなぁ」

戦士「私に嫌われようとしていた?」

賢者「第一印象で好きになって欲しくないってことだろうな。なんでそんなことしているのかは知らないけどよ」

戦士「……」

賢者「気になるか?あいつのこと」

戦士「彼が勇者なら連れて帰らないといけませんから。それが私の任務です」

賢者「そうか。勇者だといいな。俺も自宅でゆっくり酒が飲めるようになるしな」

戦士「結局、お酒なんですね」

賢者「女と金と酒があれば世の中は回るんだよ」

戦士「それは貴方の世界だけでしょう」

賢者「そうかい?」

戦士「ところで、彼が嫌われようとしているなんてどこでわかったんですか?」

賢者「俺ぁ賢いんだぜぇ?それぐらい分かる」

戦士(賢者って読心術でもあったりするのかな……)

賢者「もういいか?酒がのみてぇんだが」

戦士「え、ええ、引き止めてすいませんでした」

賢者「明日からは忙しくなるな。勇者に同行するんだからよ」

戦士「まだ仮です」

賢者「あぁ、そうか。悪かった」

戦士「あまり飲みすぎないでください」

賢者「俺の金だろぉ?気にすんな」

戦士「言っておきますが、給金以上飲んでも前払いなんてしませんからね」

―――夕方

戦士「ふっ!ふっ!!」

戦士「ふぅ……」

青年「トレーニングですか?」

戦士「はい。何か御用ですか?」

青年「飛び散る汗っていいものですよね。更に夕日に照らされて輝くそれは、雪原で舞う細氷のようです」

戦士「……宿に戻りますね」

青年「僕も多少、剣の心得はあるんです」

戦士「……」

青年「どうでしょう。この木刀で打ち合いでも」

戦士(勇者なら相当な技量を持っているはず。彼を見定める良い機会だ)

戦士「ええ、喜んで」

青年「よし、漲ってきました」クイックイッ

戦士「その腰の動きはなんです?」

青年「我が流派です」クイックイッ

戦士「はぁぁぁ!!!」

青年「……」ヒラリッ

戦士(なんて身のこなし……!!無駄がない……!!)

戦士「せいっ!!」ブゥン

青年「っと」カンッ

戦士(これも受け止められた!?)

青年「なるほど」

戦士「なんですか?」

青年「―――貴女はとても美しい」

戦士「隙ありぃ!!!」ドゴォ

青年「いでぇ!?」

戦士「はぁ……はぁ……」

青年「おぉ……このままでは死んでしまう……。抱きしめて癒してください」

戦士「……頭、大丈夫ですか?」

青年「僕は女性に抱きしめられると傷が癒える特異体質なんですよ」

戦士(戦いに慣れているのは間違いないし、どこかで訓練を受けたように綺麗な型だし……。素人ではないみたいだけど、ただの元兵士かもしれない……)

青年「ギュッとされると、主に股間が元気になりましてね」

戦士「不潔なことは言わないでください!!」

青年「はい」

戦士「素直ですね」

青年「元勇者ですからね」

戦士「関係あるんですか」

青年「嘘つきな元勇者って嫌じゃないですか?」

戦士「さぁ、よくわかりません」

青年「はぁ、それにしても疲れた。久々に貴女のような兵士さんと剣を交えることができて楽しかったです」

戦士「そうですか。そう言っていただけるなら光栄です」

青年「さてと。明日は正午に街の中央にある噴水前で恋に落ち合いましょう」

戦士「わかりまし―――何を言っているんですか?」

青年「おしい。もう少しで自然と貴女が僕に恋をするところだったのに」

戦士「私に勇者と認められる気はあるんですか?」

青年「ありませんよ?」

戦士「え……?」

青年「認めてもらおうなんて微塵も思っていません」

戦士「どうして!?」

青年「僕の目的はただ一つ。貴方を僕に惚れさせて最後の側室にすることです」

戦士「そく……!?」

青年「3年間、ずっと僕はこのときを待っていたのです。僕の体の上を過ぎ去っていった女は夜空に輝く数多の星ほどいましたが、どの人も僕の側室としては相応しくなった」

青年「具体的に言えば、どの人もタイプが似通っていたってことなんですが。貴方のような人を僕は求めていたのです」

戦士「……そういえば勇者は100人もの側室がいるらしいですね。その真似でしょうか?」

青年「側室100人は勇者という肩書きを捨てた僕には少しばかり荷が勝ちすぎているんですよね。やろうと思えばできますけど」

戦士「……」

青年「なので正妻プラス側室10人で我慢しようと思っています。そして何分、10人分の椅子しかないわけですから選ぶのも慎重になります」

戦士「選ぶって……」

青年「一人として同タイプがいてはいけない。同年代が偏ってはいけない。みんなエロい。この大前提のもと僕は側室集めをしています。その所為で3年経ってもまだ成就していないのですが。まさに皮肉ぅ」

戦士「本気でそんなことができると考えているのですか?」

青年「貴女で僕の長年の夢は達成されました。本当にありがとう」

戦士「残念ですが、私はそういう男性は嫌いです」

青年「嫌いって……。好きってことですか?」

戦士「違います!!」

青年「そう恥ずかしがらず」

戦士「貴方は一体なんですか!?魔物の調査をしているんじゃないんですか?!」

青年「何故、そのようなことをしていると思いますか?」

戦士「国から依頼されているとかですか?」

青年「残念。魔物の調査をしているという口実で旅をしながら、側室候補を探していただけです」キリッ

戦士「とんでもない屑人間ですね!!」

青年「ぬほほぉ。もっと言ってください。最近、責められる快感にも目覚めまして」

戦士(なにこの人……本当に頭おかしいんじゃ……)

賢者「―――兄ちゃん、あんまりいじめんなって」

青年「む?」

戦士「どうしてここへ?酒場に居たのでは……?」

賢者「兄ちゃんの考えには賛同するけどよぉ。お嬢ちゃんには手をだしてほしくねえな」グビグビ

青年「これはこれは可笑しなことを。年頃の男女が猥談をして何が悪いのでしょうか」

戦士「猥談なんてしてませんっ!!」

賢者「兄ちゃん、嫌われたいなら話さないって手段もあるぜ?本性を知られたくないなら、それが一番だ。喋らなきゃ相手も知りようがないからなぁ」

青年「……何を言いたいのか分かりませんね」

賢者「わざわざ別嬪を探すより、その辺にいる情婦でも抱けばいいだろ?」

青年「傷物に興味などない」

賢者「まだまだガキだなぁ。いいかぁ?初物も確かにいいが、リードされるのもいいもんなんだぜ?何より楽だからな」

青年「老兵の考えですな。元気なうちに色々仕込んで、自分好みに調教し、そして数年後は自分の上で躍らせる。これが理想郷でしょう?」

賢者「ハハッ。なるほどなぁ。だが、誰もが手前好みに出来上がるとは限らねえだろぉ?完成前に壊れるリスクってものもあるんだからな」

青年「その点は心配無用。僕は元勇者ですからね」

賢者「おぉ。そうかい。すげえ、説得力だぜぇ」グビグビ

戦士「……」

青年「どうして耳を押さえているのですか?」

戦士「耳が腐るからです」

青年「ああ!!申し訳ありません!!そういう意味ではないんですよ!!僕としたことが言葉選びを誤ってしまった」

戦士「……」

青年「僕のいう傷物とは非処女と言う意味ではなくてですね、体を売ることでしか自分をアピールできないような心身に大きな傷がある人ということです。未亡人とかむしろウェルカムですから。安心してください」

戦士「私はまだ未成年ですし未婚ですっ!!!」

賢者「へぇ……。そうなのか。てっきり初物以外はお断りだと思ったのに」

青年「何を馬鹿な。下は6歳、上は49歳までいけますし、人妻でも構いません」

賢者「ほぅ……。兄ちゃん……やるじゃねえか」

青年「むむ?ほう……僕の嗅覚が告げていますね。貴方は、同業者だと」

賢者「あっはっはっは。酒は飲めるか、兄ちゃん?」

青年「人並みには」

賢者「よっし!!行こうぜ!!」

青年「貴女もどうですか?」

戦士「行きません!!!」

青年「おや。何故?」

戦士「どうしてこの話の流れでついてくるって思えるんですか!?」

青年「貴女を酔わせて色っぽくさせる僕の作戦が破綻するので、断らないでください」

戦士「お断りです!!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんには大人の遊戯はまだはええよ。熟練した女でもひっかけようぜ」

青年「そうですね。一夜限りの飯事ならば、そちらのプロを呼びましょうか」

賢者「話が早くていいなぁ。うし、いくか。兄ちゃんの側室話も聞かせてくれよ」

青年「いいですが、僕と側室ちゃんの赤裸々な日常はある種、精力増強剤になりますからね」

賢者「望むところだ。ところでさっき下は6歳とは言ってたけど、そんな側室もいるのか?」グビグビ

青年「ええ。もうすぐ4歳になる女の子もいますよ」

賢者「ぶふっ!!」

青年「あと2年は待たなければならないのが辛いところですね」

賢者「そこまでたぁ……おめえはやっぱり、勇者の器だなぁ……」

青年「当然です」キリッ

戦士「……」

戦士(男って変態ばっかり……)

戦士(義父さんの言ったとおり、男は魔物より怖い……)

―――宿屋

戦士「さっぱりした……。いいお湯だったな」

戦士(あの二人、今頃……)

戦士「……っ」

戦士「もう!!変な想像しちゃった!!あの二人の所為だ!!!」

戦士「……はぁ」

戦士(そういえば、あの人、どうしてあの場に来たんだろう?ずっと酒場に居たんじゃ……)

戦士(散歩ぐらいはしたくなるのかな……)

戦士(彼も急に現れて、いきなり打ち合いをしようなんて……)

戦士「変態の思考なんてわからないし、どうでもいいかな」

戦士「ふぅ……」

戦士(彼が勇者とは思えないし、早々に見切りをつけて別の場所に行ったほうがいいかな……)

戦士(勇者なんて……いないだろうし……)

戦士(でも、王女様を裏切ることなんてできない。義父さんのためにも)

戦士「頑張ろう」

―――翌日 噴水広場

戦士(遅い……)

青年「申し訳ありません。お待たせしました」

賢者「おーぅ。またせたなぁ」

戦士「いえ、気にしていません」

賢者「嘘つくなよ、お嬢ちゃん」

戦士「嘘ではないです。さぁ、行きましょう。人攫いは本当にいるんですね?」

青年「ええ。その点は大丈夫です。現地に調査員もいますからね」

戦士「調査員?」

青年「頼りになる仲間ですよ。―――そうそう、こちらを渡しておかなくては」

戦士「これは……防寒具ですか」

青年「今から向かう場所は万年雪原になっているところですから」

戦士「え?」

青年「最近の魔物は慎重なんですよ。人が寄り付かない場所に住み、秘密裏に動いているような奴らばかりでして」

戦士「人では踏み込めない大地にいるのは知っていますが……。気付かれないように行動するためだったのですか」

青年「ええ。以前の魔王のやり方を模範しているのでしょうね」

戦士「以前の魔王も慎重な行動を?」

青年「度が過ぎるほどに。故に手ごわかったです」

戦士「……そうですか」

賢者「信じられねえってよ。あれだけ派手に攻め込んでこられたらなぁ」

青年「攻め込んでくるときは勝つ確信を得てからですからね。それまでは身を隠しているわけですから、そういう印象を持った人なんて皆無でしょう」

戦士「……」

青年「やはり僕が腕枕をしないと耳に入ってきませんか?」

戦士「関係ないです!!」

賢者「あっはっはっは」グビグビ

戦士「笑わないでください!!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんにこの手の冗談は禁止だっていっただろぉ?」

青年「すいません。それだけ彼女は魅力的で」

戦士「……で、ここからその雪原地帯までどうやって行くんですか?キャプテンの力を頼るんですか?」

青年「いえ。その地域は流氷も多いので、普通の船では行けません。それに寒すぎて陸路も難しい……。そこでこの笛です」

―――郊外

戦士「あの、こんな場所まで来て何を?」

青年「かなり目立つので街中では吹けないんですよ。彼女も人目に触れるのは嫌だと言っていましたしね」

戦士「はい?」

賢者「その笛はあの角笛か」

青年「良くご存知ですね」

賢者「俺ぁ賢いんだぜぇ?でも、持っている奴はおろか、存在しているなんて思わなかったけどな」

戦士「あの、なんですか?いい加減、その笛の意味を教えてください」

青年「まぁ、見ていてください。すぐに分かりますよ」

戦士「……」

青年「では―――」

青年「……」ピィィィィ!!!!

戦士「……」

賢者「……」グビグビ

青年「さてと、来るまで談話でもしていましょうか」

戦士「来るって、何が来るんですか?」

青年「焦らない。せっかちなのは夜だけでいいんですよ?」

戦士「不潔!!!」

賢者「兄ちゃん」

青年「すいません。これはもう癖のようなものでして」

賢者「なら、仕方ねえけどな」

戦士「仕方ないってなんですか?!」

賢者「俺も多少のフォローはしてやるけどよぉ、こいつの攻撃を全部庇うのはちょっと難しいなぁ。昨晩でそれは全部わかったからよ」

戦士「昨日は何をしていたんですか?」

青年「おや。臆面もなくそれを訊ねるとは、痴女ですか?好都合です」

戦士「違う!!!」

賢者「兄ちゃん、もっと違う方法を思いつかなかったのか?今まで兄ちゃんに惚れた女ってぇのは随分と頭がお花畑なのか?」

青年「俺の女を馬鹿にするのは許さないぞ。みんなとてもいい子だ。この野郎」

賢者「そうかい。悪かったな」

戦士「……ん?何か、空から来る……?」

ドラゴン「―――少し遅れたか」ズゥゥゥン

戦士「きゃぁぁぁ!?!?!」

賢者「ドラゴンか……。初めてみたぜ」

青年「粗相の最中でしたか?」

ドラゴン「相変わらずだな。ん?その者たちは?」

青年「今回の協力者です」

ドラゴン「新しい側室候補か?」

青年「それも兼ねています」

ドラゴン「ふむ」

戦士「な、なんですか……!!」

ドラゴン「乗れ。行き先は……」

青年「例の雪原地帯へ」

ドラゴン「情報は正しかったのか」

青年「そのようですね。魔物による蛮行はとめなければなりません。急ぎましょう」

ドラゴン「そうだな」

青年「さ、行きましょう。優雅な空の旅へ」

賢者「うぃー」

戦士「の、乗るって言われても……」

ドラゴン「振り落としたりはしない」

戦士「そ、そういうことではなくて……」

青年「安心してください。この子はとても優しいですから。気になるなら尻尾に抱きついてもいいですよ。たまに艶っぽい声を出すときがいいんですよね」

ドラゴン「急に抱きつくからだ」

青年「性感帯なんですよね」

ドラゴン「違うと言っているだろう。いい加減に学べ」

青年「照れちゃって」

ドラゴン「振り落とすぞ」

賢者「仲いいなぁ」

青年「僕の側室ですからね」

ドラゴン「……」

戦士「ま、待ってください!!どうして貴方があのドラゴンを従えているのですか?!」

青年「まぁ、色々とありまして。この子も僕の体を過ぎ去っていった一陣の風でして」

ドラゴン「俺の翼が起こした風を受けたことがあるだけだろうが」

青年「そうでしたね」

戦士「貴方……本当に3年前に魔王を倒した……勇者なんですか……?」

青年「どうでした?」

ドラゴン「そうだな。お前は勇者だったのだろう。普段のお前からはそんな雰囲気など一切無いが」

青年「今度、ベッドの上で分からしてやるよ」

ドラゴン「頭から食うぞ」

戦士「……」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんは疑ってるぜ。―――人攫いはお前なんじゃないかってな」

戦士「どうして!?」

賢者「図星だろぉ?」

戦士「それは……」

賢者「ホットな話題が人攫いの今、ここで魔物を、それもあのドラゴンを操る男がいる。人攫いの犯人として疑うなってほうが難しいし、そもそもお前は人間なのかも怪しくなるわなぁ」

青年「僕が魔物が化けた人間だという可能性ですか。そうですね、それは否定できません。貴方達の疑念は尤もです」

ドラゴン「普通の人間だな。お前の周りにいる奴らは皆、寛容すぎる者ばかりだと思っていたがそうでもないのだな」

青年「こういうタイプは居ませんでしたからね」

ドラゴン「それで、どうする?乗るのか、乗らないのか?」

戦士「私は……」

青年「……そうですね。この状況で信じろというほうがおこがましい。ここでドラゴちゃんとまぐわっても、僕が変態ということになってしまうだけで何の解決にもならない」

ドラゴン「変態なのは知っている」

青年「おや?本当に?では……」

ドラゴン「それ以上、俺に近づいてみろ。燃やすからな」

戦士「あの……」

青年「冗談はさておき、信用できないのも無理はありませんね。僕の浅慮で貴女を怖がらせてしまい、本当に謝罪の言葉もありません。貴方達に同行を頼んでおいてあれですが、残ってくれても構いません」

戦士「……」

賢者「どうすんだ、お嬢ちゃん?」

戦士「……行きます」

賢者「……」グビグビ

戦士「本当に勇者ならそれでいいですし。人攫いを行う魔物だというなら私が討伐すればいい。それだけです」

ドラゴン「俺に勝つつもりか。何処かで見た愚者を思い出すな」

青年「誰のことですか?」

ドラゴン「お前だ」

青年「誰が愚か者だ?!あぁ?!勝つ算段しかなかったつーの!!」

ドラゴン「お前一人では無理だっただろ?」

青年「ええ、そうですよ。我が側室がすごい美人で有能だっただけの話です。それが何か?」

ドラゴン「潔いな」

青年「……本当について来るのですね?」

戦士「はい」

賢者「だってよ。なら、俺も行くしかないな」

戦士「貴方はここに居てくれても」

賢者「馬鹿いうなよぉ。俺ぁ傭兵だぜ?どこまでも行くよ。酒が飲めなくなるからな」

戦士「分かりました……お願いします……」

賢者「おぅ。任せてくれやぁ」グビグビ

ドラゴン「では、乗れ。行くぞ」

―――上空

戦士「た、たかい……」

賢者「うぅぅ……」

戦士「どうかしたんですか?」

賢者「きもちわるいぃ……」

戦士「な……」

賢者「ドラさん……どうしてもときぁ、もどしてもいいよなぁ?」

ドラゴン「俺にはかけるなよ」

賢者「うーぃ」

戦士(そういえばこの人、魔法使えないんじゃ……)

青年「防寒具をそろそろ来てください。気温が低くなってきますから」

戦士「はい」

青年「あと、これも」

戦士「これはランプですか」

青年「暗い場所なので火は必要になるかと。こちらのマッチも持っておいてください」

戦士「風が冷たい……」

賢者「火照った体には丁度いいやぁ」

青年「ハーピー姉さんとリビンちゃんはどうしてます?」

ドラゴン「何も変わらん。お前に会いたがっていたがな」

青年「そうですか」

ドラゴン「たまには顔を見せてやれ。あの戦いのあと、一度も会ってないだろう?」

戦士「その人は誰ですか……?」

青年「僕の側室です。ハーピーとリビングデッドなんですけどね」

戦士「今から、そこへ行くんですか?」

青年「あとで行きましょう」

戦士「魔物の巣窟へ、ですか?」

青年「いえ。魔王の住む城ですよ」

ドラゴン「……」

戦士「魔王……?!あなたは……やっぱり……!!」

青年「ふふ……」

賢者「兄ちゃん、魔王は死んだんだろ?」

青年「魔王も勇者と同じで称号でしかないですよ。魔物の王か人の希望か。それだけです」

賢者「そうかい」

青年「どちらも受け継がれるものであることですからね」

戦士「魔王が復活しているというのですか?」

青年「新しい魔王は2年前に誕生しました。最初は魔王も勇者もいらないだろうと言う事になったのですが、魔物を制御するものがいないと混沌とすると言われまして」

賢者「だからこそ、今は人目に触れないところで悪さする魔物が多いのか?いいねえ」

青年「恥ずかしい話です」

戦士「……魔王……なんですか?」

青年「それは後ほど。―――着きました」

戦士「え?」

ドラゴン「あの古城だな?」

青年「ええ、この辺りで降ろしてください。このまま進めば相手方が逃げてしまうかもしれませんし」

ドラゴン「分かっている。俺は近くで待機していよう。何かあれば呼べ」

青年「はい。頼りさせてもらいます」

―――雪原

賢者「ぶはっくしょん!!!―――うぅ、さむいなぁ。酒でも飲んで暖まらないとなぁ」グビグビ

戦士「……」

青年「では、後ほど」

ドラゴン「気をつけろよ。もし、奴なら……」

青年「それは無いでしょう。こんな分かりやすい場所を選ぶとは思えませんから」

戦士(勇者なのだとしたら、彼はどうして……)

賢者「とりあえず人攫いを捕まえてからにしようぜぇ、お嬢ちゃん」

戦士「え?」

賢者「アイツは悪い奴じゃねえよ。俺が保障する」

戦士「そうですか」

賢者「そうやって相手の発言を聞き流すのはどうかと思うけどなぁ」

戦士「そんなことありません。きちんと聞いています」

賢者「そうかい?」

青年「お待たせしました。出発しましょう」

賢者「そういえば現地の奴がいるんじゃなかったのかい?」

青年「はい。勿論、合流します」

戦士「魔物ですか?」

青年「人間ですよ。安心してください」

戦士「安心とかそういうことでは……」

青年「震えていますね。愛に飢えているのなら、僕が無限の慕情を貴女に贈りますが」

戦士「……」ズンズン

青年「足下には気をつけてくださいね」

賢者「よかったな、嫌われてよ」

青年「ドラゴちゃんと仲良くしただけで嫉妬されるとは想定外でしたね」

戦士「嫉妬なんてしてません!!!」

賢者「耳はいいんだなぁ」

青年「でも、彼女……」

戦士「きゃぁ!?」ズボッ

青年「実戦経験があまりなさそうですね。実力はあるのに勿体無い」

戦士(くっ……なにこれ……落とし穴……!?)

「大丈夫ですか?」

戦士「え?」

僧侶「どうぞ、手を」

戦士「ど、どうも……」ギュッ

僧侶「ふーん……ふーん……」ググッ

魔法使い「なにやってるのよ。一人じゃ無理でしょう」

僧侶「そ、そうですか?」

魔法使い「ちょっとこの辺を溶かせば……」ジジジッ

戦士(触れたところが溶けていく……。火の出さずにどうやって……)

魔法使い「もう動けるかしら?」

戦士「は、はい。助かりました。えっと、貴方達は?」

魔法使い「私たちは後ろにいる馬鹿の仕事仲間よ」

青年「どーも、馬鹿です」

僧侶「勇者様!!会いたかったですっ!!」テテテッ

魔法使い「走ると危ないわよ」

僧侶「きゃぁ?!」

青年「危ない!!」パシッ

僧侶「あ……。どうも……」

青年「お怪我は?」

僧侶「だ、大丈夫です。ごめんなさい」

青年「よかった……。少し焼けましたか?」

僧侶「はい。雪焼けしてしまって……」

青年「魅力が90割増ですね」

僧侶「もう、勇者様ったら」

魔法使い「随分と遅かったじゃない。またどっかで女のお尻でも追っかけてたの?」

青年「はい!」

魔法使い「元気よくいうことじゃないでしょうが!!!」

戦士「この人たちが現地で調査していたという?」

青年「はい。紹介します。僕の麗しの側室ちゃんたちです」

戦士「側室……?!」

僧侶「どうも。今年、側室ランクが雌家畜になった者です」

戦士「はぁ?」

魔法使い「あんた!!それは忘れなさいっていったでしょ!?」

僧侶「でも、側室ポイントが一万を超えた証だと勇者様が……」

魔法使い「バカ!!そんなのなんの自慢にもならないでしょうが?!」

青年「嫉妬ですかな、マドモアゼル」

魔法使い「だれがこんなのを羨ましがるのよ!!!」

青年「あ、な、た」

僧侶「いくら貴女でもポイントの譲与は……」

魔法使い「頭痛い……勝手にして……」

戦士(この人とは気があいそう……)

賢者「おーぅ。乳繰り合うのもいいけどよぉ。寒いんだよぉ。進むか休むところへ案内してくんねえかなぁ。おっさんには堪えるんだぜ」

青年「古城へは入れそうですか?」

魔法使い「外壁を融解させておいたからいつでもいけるわ。でも、まだ主がどこにいるのか分かってないのよね」

青年「相手のことは?」

僧侶「どうやら吸血鬼がこの辺一帯の魔物を率いているようです。それとやはり何人か人間を拉致してきているのも確かみたいで」

戦士「吸血鬼ですか。この地は夜行性の魔物にとっては恰好の住処なんでしょうか」

賢者「だろうなぁ。晴れる日自体が少なそうだもんな」グビグビ

青年「あいつのことを知っていれば良いのですが……」

魔法使い「それは直接訊いてみるしかないわね」

青年「それもそうですね。行きましょう」

魔法使い「で、貴女は誰?」

戦士「え!?」ビクッ

青年「協力者です。実力もありますし、なにより美人です」

魔法使い「ふぅん。美人は関係ないけどね」

戦士「私はとある任務で彼を―――」

僧侶「最後の側室さんですか?勇者様、10人の側室が揃わない限り身を固めないとか言っているので、助かります」

戦士「違います!!私は側室になる気もありませんし、あの人のことなどなんとも思っていません!!」

僧侶「そうなんですか?でも、そう言いつつも勇者様のことが大好きな人を私は知っているので、大丈夫ですっ」

魔法使い「誰のことよ!!!あぁ!?」

僧侶「きゃっ!?」

青年「やめろ!!僕を取り合うな!!僕はみんなのものさっ!!」

魔法使い「取り合って無いわよ!!自惚れるなぁ!!!」

賢者「兄ちゃん、本当にモテてるんだなぁ」

青年「元勇者ですから」

魔法使い「アホ」

青年「誰がアホだ!!?おぉ!?」

戦士「……あの」

魔法使い「アイツに関わらないほうがいいわよ。これっきりにしておきなさい。何をされるか分からないんだから」

戦士「彼は何者なのですか?」

魔法使い「見ての通りのスケベだけど」

青年「知らないんですか?性欲が世界を救うことを」

魔法使い「本当に救ったからすごいわよね」

戦士「彼が魔王を倒したと?」

魔法使い「倒したと言えば倒したことになるのかしら……?マーちゃんが居なかったら負けてたし……」

戦士「マーちゃん?」

魔法使い「ああ、なんでもないの。でも、世界を救ったのは間違いなくアイツね」

戦士「……信じられません」

魔法使い「私もよ」

戦士「え?」

魔法使い「3年前から何も成長してないんだもの。どうやって魔王を倒したのか分からなくなりそう」

戦士「貴女もその場に居たんですか?」

魔法使い「何もできなかったけどね。私はポンコツだから」

戦士「ご謙遜を。魔王と戦うだけの技量があったからこそ、貴女は一緒に戦ったのでしょう?」

魔法使い「私もあの子もそんな実力は無かったわ。ただ、あの馬鹿が私たちをその気にさせたのよ。乗せられたってやつね」

戦士「……本当の話ですか?」

魔法使い「信じなくてもいいわよ。世間では海賊艦隊が魔王を倒したことになってるし、実際あんなただのエロ馬鹿が魔王を倒したなんていうよりは説得力もあるしね」

戦士「彼や貴女が世界の英雄になれたのに?」

魔法使い「そういうのは似合わないのよ。魔法もろくに使えないし。ほら、実情を知ったらがっかりする人も出てくると思うから」

戦士「どうして……そんな……」

賢者「人それぞれだ、お嬢ちゃん」

戦士「……」

賢者「富や名声を渇望する者もいれば、あの兄ちゃんみたいに何がしたいのかさっぱりな奴もいる」

魔法使い「アイツのしたいことは明確ですよ?」

賢者「そうかい?」

魔法使い「正妻と10人の側室を作って、悠々自適に暮らすことですからね」

賢者「そらぁ聞いたけどよぉ、だからってうちのお嬢ちゃんを10人目にされたらそらぁ困るぜぇ?こっちは保護者の立場だからなぁ」

戦士「そうだったんですか……」

賢者「そうだよぉ?」

魔法使い「貴女も苦労してるみたいね」

戦士「実は……。といってもこの人とは出会って間もないんですけど……」

賢者「でも、もう仲間だろ?お嬢ちゃん?」グビグビ

戦士「お酒臭い……」

魔法使い「ホント、大変そうね……」

―――古城前

青年「侵入路は?」

魔法使い「こっちよ」

戦士「融解させたといっていましたけど?」

僧侶「はい。爆破すると感付かれてしまうので」

戦士「いえ、そういう意味ではなくて。融解させるってどうやって?」

賢者「高温の炎を持続的で放出させるなんてこと、普通の魔法使いにゃできねぇぞ?」

僧侶「はい。普通じゃないんです」

戦士「普通じゃない?」

僧侶「彼女は一般的な魔術師とは違い、手の平や指先から魔力を放出できないんです」

戦士「それって……」

僧侶「魔法の効力がゼロ距離でしか発揮できない特異体質なんです。対象に触れていないとダメージを与えられません。その代わり高威力の魔法を放出し続けることができるんですけどね」

賢者「なるほどねぇ。だから、さっきも触れた箇所の雪だけが綺麗に溶けていたわけかぁ。おもしれぇ体だな」

僧侶「実は私も特異体質で、魔法は一般的な使用法ではあまり効果がないというか、魔力がもたないんですよね。ずっと魔力が垂れ流しになっていて」

戦士「垂れ流し?常に魔力が放出しているということですか?」

僧侶「はい。今はこの魔封じの腕輪で魔力漏出を防止しています」

賢者「なら、魔法はつかえねえのかい?」

僧侶「利点はあるんですよ。この腕輪を外して、魔力を流します。その状態で私に触れると傷が癒えますから」

戦士「な……」

僧侶「私自身、傷ついたその瞬間に治りますから。便利と言えば便利なんですよ?」

賢者「それでも有効な効果範囲がゼロだから、大変だなぁ。歩くヒーリングスポットっと思えばいいんだろうけどよぉ」

僧侶「あはは、そうですね」

戦士「そのような体質で魔王と戦ったのですか?」

僧侶「え?だ、駄目でしたか?」

戦士「駄目というか……よく死ななかったなと思って……」

僧侶「それは、勇者様がいてくれたので」

戦士「勇者……」

青年「裏手に穴が?」スリスリ

魔法使い「きゃ?!どこ触ってるのよ!!!」

青年「え?貴女のふとももは僕のものでは?」

魔法使い「……もう」

青年「ぬほほぉ」スリスリ

魔法使い「ここよ」

青年「ここですか」キリッ

賢者「おぉう、もう入ろうぜ。寒くてしょうがねえよぉ」

青年「入る前に確認しておきたいことが」

戦士「なんですか?魔物との戦闘は何度もあります」

青年「今、好きな人は?」

戦士「……」

魔法使い「今、訊くことじゃないでしょ!?」

青年「あぁん?!大事なことだろうがよぉ?!」

戦士「特定の男性は居ません」

青年「よし。行きましょう」

戦士「……なんなの」

魔法使い「気にしちゃ駄目だからね。いちいち相手にしてたら胃に穴があくから」

―――古城 内部

賢者「うぅ……!!さぶぃ……!!中もかわんねーな、おい……」

青年「吸血鬼は暑がりでしたっけ?」

僧侶「にんにくは苦手らしいですけど」

魔法使い「それはおとぎ話よ。実際のバンパイア族の弱点は強い光と暑さぐらいね」

賢者「人間も強い光と暑さには弱いぜぇ?」

青年「確かに。では、吸血鬼には弱点などないと考えたほうがいいでしょうね」

戦士「炎とかあるじゃないですか」

青年「マッチでどうにかなるとでも?」

戦士「いえ、ここには魔術師と賢者がいるんですから」

魔法使い「吸血鬼を縄かなにかで縛ってくれれないと、私じゃダメージを負わせることはできないわよ?」

賢者「俺も腕がさび付いてて、火もでやしねえ」

戦士「貴方は酒場に行かないで勘を取り戻すことに専念してください!!!」

賢者「わりぃな」

戦士(帰ったら契約切ろう……)

賢者「そんな厄介者を見るような目で見るなよぉ。居た堪れなくなるだろぉ?」グビグビ

戦士「ふんっ」

賢者「荷物ぐらいはもってやっかよ。な、お嬢ちゃん?」

戦士「知りません」

青年「では、僕も負けじと貴女をだっこしましょう」

僧侶「わーい」

魔法使い「下らない事しないの。どこに吸血鬼がいるのかもわかって無いのに」

青年「どこに居ますか?」

賢者「ん?うーん……上のほうじゃねえか?」

青年「では、上を目指しましょう。魔物だけではなく、拉致されてきた人たちも探さなくてはなりません。この寒さです。命の危険もあるでしょう」

戦士(今は人攫いの吸血鬼を倒すことに専念しないと)

青年「拉致された人たちを見つけたら、状況を見て介抱してあげてください」

魔法使い「そうね」

僧侶「がんばります」

戦士(意外としっかりしているんだ。やはり、勇者……なのかな?)

―――中層

青年「ドアノブが凍っていますね」

戦士「どいてください。壊します」

青年「駄目です」

戦士「どうしてですか?」

青年「今は隠密行動中ですから。なるべく音を立てないようにしなくてはなりません」

戦士「そ、そうですか」

青年「お願いします。ザ・側女」

魔法使い「はいはい。―――ふっ」ジジッ

賢者「すげえなぁ。特異体質が為せる技だな。普通なら火の玉ぶちあてて、ぶっ壊すしかねえんだが」

青年「彼女に触れると蒸発しますよ」

賢者「こえぇ、こえぇ」

魔法使い「開いたわ」

僧侶「誰もいませんね……」

青年「次へ行きましょう」

魔法使い「―――よし、開いたわよ」

戦士「あ!」

「うぅ……ぅ……」

「あぁ……ぁ……」

青年「なんてことだ!!こんなのにも弱った麗人たちが!!うーむ……順番に頂きましょう」

賢者「俺にもおいといてくれよぉ」

戦士「何いってるんですかぁ?!真面目にやってください!!」

魔法使い「体温が下がってる……。このままじゃ危ないわ」

僧侶「血を吸われているようですね。このままでは……」

青年「なんとかなりますか?」

僧侶「やってみます」

魔法使い「私も何とか暖めてみる。吸血鬼は任せるわよ?治療が終わったらすぐに行くから」

青年「はい」

賢者「おっし。腕がなるぜぇ」

戦士「戦ってくれるのですか?」

―――上層

青年「くっ……開かないか……」

戦士「壊しますよ?」

青年「そうですね。吸血鬼もいるすればこの部屋ぐらいでしょうし」

賢者「お!お嬢ちゃん、がんばれよ」グビグビ

戦士「せぇぇい!!!」ガキィィン

戦士「……っ。硬いですね」

青年「大丈夫ですか?」

戦士「は、はい。もう一度、行きます。―――でぁぁぁ!!!」ガキィィン

青年「よし。開けましょう」

戦士「はい」ギィィ

賢者「さぶぃ……なんだぁ、ここぁ?」

青年「……」

「―――これはこれは。誰かと思えば。いえ、ここまで来ることができる人間は貴方しかいませんね」

戦士(天井に何かいる……。コウモリ?)

賢者「ありゃ、コウモリじゃねえよ。吸血鬼だな」

戦士「え?」

吸血鬼「ようこそ、勇者殿。我が古城へ」

戦士「……!!」

戦士(魔物が勇者って……!?)

青年「貴方が姿を消してから随分と探しましたよ。さあ、帰りましょう」

吸血鬼「帰る?我輩に帰る場所などありはしませんよ、勇者殿。貴方のおかげでね」

青年「何を言っているのですか」

吸血鬼「我々の居場所はすっかり変わってしまった。人間と手を取り共存などど言う……。エルフが犯した過ちをもう一度、繰り返そうとしているではありませんか。それも今度は魔王自ら」

青年「共存といっても共依存ではありません。互いに不文律を守り、生きていこうと―――」

吸血鬼「そんなことは出来ない。歴史がそれを証明しているでしょう、勇者殿?」

青年「もう魔王は消えたし、勇者もいない。世界はこれから生まれ変わるんです」

吸血鬼「魔族の我らが住処をニンゲンごときに譲り、世界の端へと追いやられて、ですかな?ふっふふふ……。我輩の同志はこういっていますよ?―――魔族と人間の立場が入れ替わっただけだと」

戦士「私たちがお前たちと一緒だっていいたいの?!」

吸血鬼「その通りです。今や人間は魔族の住処を荒らしている。侵略しているのと一緒でしょう。いいですね。そちらには勇者という『魔王』がいて。さぞ、心強いでしょう?」

青年「……」

賢者「そう来るかい……。酒がまずいぜぇ」

戦士「自分たちがやったことを棚に上げて何を言って……!!」

吸血鬼「やられたらやりかえせばいい。そういうことなのでしょう?」

戦士「それは……」

吸血鬼「ならればこそ!!我輩もこの雪原に佇む小さな古城から、人間たちをもう一度恐怖の渦へと叩き込むことも許されるはずです!!!」バサッ!!!

青年「貴方が魔王になろうというのですか?」

吸血鬼「それもいいでしょうね。今はまだ血が足りないですが」

戦士「血……?」

吸血鬼「そうですよ、お嬢さん。―――血があれば、こんなこともできます!!!はぁ!!!」シャッ!

戦士「え?」

青年「あぶない!!」バッ

吸血鬼「くっくっくっく……。忌々しいですが、人間の血は我輩の活力となる。今のように氷の刃も簡単に飛ばすことができる」

賢者「そりゃぁ、やべえぇな。あんな天井から攻撃されちゃあ、手も足もでねえわ」

青年「飛び道具はないのですか?」

賢者「あったら、真っ先につかってらぁ」

青年「ですよね」

戦士「あの……どいてください……」

青年「惚れました?」

戦士「いえ。でも、ありがとうございます」

青年「いえいえ。さてと……どうやって、追い詰めましょうか」

戦士(追い詰めるって……この状況で勝つつもりなの……?)

賢者「うぃー……しっかりかんがえろぉ」グビグビ

戦士「どうして今、飲むんですか?!」

賢者「飲まなきゃやってられねえよぉ。おっとと、こぼれちまっただろぉ?」

戦士「知りません!!帰ったら契約切りますからね!!」

賢者「殺生な」

青年「あ。いいのあるじゃないですか」

賢者「なに?」

青年「それ、ください」

賢者「あぁ、そういうことかぁ。ほらよ」

青年「かんぱーい」

戦士「真面目にやってぇ!!!」

吸血鬼「我輩を油断させようとしているのでしょうが、無駄なことです。ここからどうやって―――」

青年「この布に酒を湿らせて……それから、酒瓶に布をつめて……マッチで火をつければぁ……」

戦士「それって……!?」

青年「よぉーし。さぁ、いくぞぉ」

吸血鬼「何を……」

青年「くらえ!!!火炎瓶!!!!」ブゥン

吸血鬼「無駄に決まっているでしょう!」シャッ

パリンッ

青年「あぁー」

賢者「なにやってんだよぉ。貴重な酒をぉ」

青年「すいません」

戦士「……私が相手だ!!」

吸血鬼「ほう?」

戦士「降りて来い!!」

青年「勝てる見込みは?」

戦士「吸血鬼なら倒せます!!」

吸血鬼「よくみれば中々の美をお持ちですね、お嬢さん?」

戦士「……」

吸血鬼「貴方の血ならさぞ、上質でしょう。貴方の血肉を我輩の美貌と魔力に変えてあげましょう」

戦士「お断りだ!!」

吸血鬼「くらえ!!」シャッ!

賢者「あぶねえなぁ」ゴォォ

吸血鬼「……!」

戦士「今のは炎……?!」

賢者「杖の先端を燃やしてみたぜぇ?」

青年「炎の杖ですね。なるほど、先端に酒を湿らせた布を巻きつけてマッチで火を……。うーむ、さすが賢者」

賢者「これでお前の氷刃は無効化されたぜぇ。打つ手なしだ、おりてこいやぁ」

吸血鬼「待てば杖ごと燃え尽きるでしょう?」

賢者「そこに気がつくとは、やるなぁ」

戦士(私、ここで死ぬのかな……義父さん……)

青年「なら、最終手段しかないですね。―――吸血鬼よ。僕たちがどうやってここまで来たと思う?」

吸血鬼「なに?」

青年「この陸の孤島とも呼べる雪原へ」

吸血鬼「……」

青年「それはこれだ―――」ピィィィ

吸血鬼「くっ!?ドラゴン様が来ているのか!?」

青年「まだドラゴンと戦えるだけの力はないでしょう?」

吸血鬼「今すぐ逃げれば―――」

ドォォォォン!!!!

吸血鬼「ひゃぁ!?」

戦士「て、天井が落ちてくる!!!」オロオロ

ドラゴン「―――人間が来た時点で逃げ出すべきだったな」

吸血鬼「ひゃぁぁぁ!?!!」

ドラゴン「逃がさん」ガシッ

吸血鬼「あぁ……我輩の野望がぁ……」

ドラゴン「……」

青年「よし。作戦完了」

戦士「さ、作戦って……?」

青年「ドラゴちゃんに外で待機してもらったのは、吸血鬼を陸と空から挟み撃ちするためだったんです」

賢者「……」グビグビ

戦士「挟み撃ちって……私たちが古城へ侵入した時点で吸血鬼が逃げ出してもいいようにということですか?」

青年「そうです」

戦士「今の茶番は……?」

青年「相手が馬鹿をしていれば自分は優位にいると勘違いして最悪の展開を想像しなくなるでしょう?」

戦士「はぁ……」

青年「誰かを人質にされたらたまったもんじゃないですからね」

戦士(魔物の性格も考慮していないと成立しない作戦のような……。それに私たちを連れてきた意味は……?)

吸血鬼「くっ……」

ドラゴン「さてと、話してもらおうか。キマイラはどこにいる?」

吸血鬼「……知りません」

戦士「キマイラ?」

青年「僕たちが3年前に戦った前魔王です」

戦士「もしかしてその魔王がどこにいるかわからないんですか!?」

青年「一瞬の隙に逃げ出しまして。3年間探しているんです。僕の側室候補のついでに」

戦士「ついでで探すようなことではないですか!?」

青年「失態ですね。面目ありません」

戦士「あぁ……」

ドラゴン「知らないはずはないだろう?」

吸血鬼「確かに我輩はキマイラ様の思想に賛同し、こうやって外界に出ました。だが、それは我輩が魔王になり、世界を手中に収めるため」

ドラゴン「魔王になってどうする?」

吸血鬼「人間の血は魔力を生み、生への伊吹と成ります。特に美女のは」

ドラゴン「なるほどな。世界中にいる人間の女の血を吸い、永遠の力と美を得ようという腹積もりだったのか……。だが、それは不可能だな」

吸血鬼「でしょうね。こうなってしまっては……」

ドラゴン「それ以前の問題だ」

吸血鬼「どういうこ―――」

青年「ふっ……。この元勇者を差し置いて、そんなことができると思ってるのかぁ!!!!」

吸血鬼「ひぃぃぃ!!」

賢者「ドラさんたちが世界を飛び回ってるのは、そういうことだったのか」

ドラゴン「ああ。キマイラは魔王の座にいることを許されるほどの実力者だ。それを野放しにはできない」

賢者「ふぅん……」グビグビ

戦士「各地で増加している行方不明者はこの吸血鬼が首謀者だったってことでいいんですか?」

青年「美女ばっかり狙いやがって!!!おぉ?!幼女や少女もいるんだろぉ?!俺にも分けろ!!」

吸血鬼「知りません!!我輩は美女にしか興味はない!!!完成していない女など我輩の美的感覚からいえば、醜い!!!」

ドラゴン「となれば他にもいるのだな……。人間を拉致している者が」

賢者「行方不明者にゃあ、男もいるからなぁ」グビグビ

戦士「仲間の魔物の仕業でしょう?」

吸血鬼「そうやって全てを魔族の所為にするのですね。人間が人間を攫うことは考えもせずに」

戦士「このっ!!」

青年「待ってください」

戦士「どうして?!こいつは私たちを馬鹿にしたんですよ?!」

青年「残念ながら、前例があります」

戦士「え……」

青年「3年前にも人間が人間を誘拐し、魔物に譲渡していることがありました」

戦士「……」

青年「魔物の勢力が強く、行方不明になっても魔物の所為にできるため、国も真剣に捜索することはありませんでしたから、その事実を知るものは少ないでしょう」

戦士「そんな……」

賢者「お嬢ちゃんだって、行方不明者が出ても魔物に襲われたんだって、真っ先におもってたんだろぉ?真実を知らなきゃ人間を疑うなんてできねえよ」

戦士「……」

ドラゴン「心当たりはあるのか?」

吸血鬼「そこまでは流石に。我輩は美女を攫うことしかしませんからね」

青年「とにかく貴方は連行します。いいですね?」

吸血鬼「どこへなりとも行きましょう……」

青年「―――二人とも。救護のほうは?」

魔法使い「手の施しようが無い人が何人かいるわ」

僧侶「勇者様……」

青年「分かっています。運べるだけ運び出しましょう」

魔法使い「ええ」

青年「申し訳ありませんが貴方達にも手伝ってもらいます」

戦士「は、はい」

賢者「あいよぉ」

青年「先に吸血鬼を連行して応援を呼んできてもらえますか?」

ドラゴン「よかろう。行くぞ」

吸血鬼「……」

戦士「少しいいですか?」

青年「どうかされましたか?」

戦士「……何故、私たちをここへ?同行させる必要がなかったと思いますが」

青年「それは勿論、貴女と仲良くしたいからですよ?」

戦士「それだけ?!」

青年「はい。期待していますよ、側室候補として」

戦士(狙いがさっぱりわからない……)

賢者「気にするだけ無駄だって」

戦士「しかし……」

賢者「いいじゃねえか、もうあいつは勇者だ。それは間違いないだろ?」

戦士「ええ……。信じなくてはいけませんね。魔物を従えていることに加えて、魔物が彼を勇者と呼んだのですから」

賢者「あとはとっとと用事を済ませて、兄ちゃんを連れて帰るだけだ。そうすりゃ親父も王女様も大喜びのハッピーエンドだろぉ?」

賢者「早期解決だな。いいことだぜぇ」

魔法使い「こっち手伝って!!」

賢者「あいよぉ」

戦士(勇者……)

青年「これも僕の所為ですね。またこうして戦火が広がろうとしている」

僧侶「そ、そんなことありません!!勇者様!!」

戦士(彼はどうして……)

―――雪原

ドラゴン「この者たちを城まで運べ」

魔物「ギー!!」

戦士「城?」

青年「魔王の城です。無論、貴方達も招待します」

戦士「え?!」

青年「こっちに来る前に言ったではないですか。行きましょうって」

戦士「そ、そうでしたか?」

賢者「おぅ、兄ちゃん。俺たちゃぁもう十分だ。兄ちゃんが勇者であることは確認できた。ありがとよ。次は俺たちの番だぜぇ」

青年「おや?そうなのですか?まだ、僕の魅力は1割も発揮されていないはずですが」

魔法使い「夜まで分からないとか言うんでしょ?」

青年「ご明察」

魔法使い「バカ」

戦士「そうです。私は一刻も早く貴方を本国へ連れ帰らねばなりません」

青年「もうハネムーンですか?まいったなぁ」

戦士「そうではありません!!最初に言ったはずです。王女が貴方を夫として迎え入れたいと」

青年「待ってください。貴女はもう僕を勇者と認めたわけですか?」

戦士「疑う余地などないでしょう?そもそもドラゴンを呼んだ時点でほぼ決まりでした」

青年「人攫いの犯人と疑っていたのにですか?」

戦士「人攫いなら私が貴方の家に入った時点で攫っているでしょう?」

青年「その考えで至りましたか」

戦士「あの時は混乱していて考えが及びませんでしたが……。疑って申し訳ありません」

青年「いえいえ。いいんですよ」

戦士「ですから、本国へ―――」

魔法使い「待って。そんな話、聞いてないけど?どういうこと?」

青年「言っていませんでしたか?彼女が結婚してほしいと、押しかけ女房的な展開になりまして」

魔法使い「へぇ……?」

戦士「違いますから!!!どうして私が嫁入りに来たってことになるんですかぁ?!」

僧侶「雪ダルマ作ってみたんですけど、お城まで運べますか?」

ドラゴン「溶けないようにすればな」

青年「ともかく。まだまだ僕の魅力は伝わっていないはずですし、勇者としての振る舞いもできていません」

戦士「そんなことはありません」

僧侶「そうです。勇者様はご立派ですよ」

青年「いつもありがとうございます。流石はナンバーワン側室。僕のことをよく理解していらっしゃる」

僧侶「そ、そんな……。どうぞ、雪ダルマです」

青年「これはどうも。貴女の肌のように白く美しいですね」

魔法使い「バカにしてない、それ?」

ドラゴン「早くしろ。無駄な時間だ」

青年「ですね。いくぞ!!可愛い側室ちゃんたちぃ!!」

戦士「話が!!!逸れてます!!!!」

賢者「兄ちゃんのペースだな。まだまだ俺たちを引っ張りまわすってか?」

青年「いけませんか?……僕としましても色々とお話を聞きたいのですけどね」

賢者「そうかい……」

戦士「そうはいきません。私にも使命があるのです。貴方には本国へ来ていただきます」

青年「モテる男は辛いですね。さて、どうしましょうか」

ドラゴン「できることならこちらを先に処理しておきたい。キマイラの行方を奴から吐かせなければならないからな」

戦士「キマイラ……前魔王でしたね」

青年「ええ。キマイラの捜索が我々の急務ですので。僕個人の急務は貴女を側室に迎え入れることなのですが」

戦士「軟派な男性は好みではありませんから」

青年「元勇者な僕ほど硬派は男がどこにいるのですか。パードゥン?」

魔法使い「あんたが硬派ならゴーレムの硬さは豆腐か何かなわけ?」

青年「彼は別格でしょう。比較するだけ無駄です」

戦士「……」

賢者「兄ちゃんの言い分にも一理あらぁな。魔王にもなれる魔物がどこかで虎視眈々と世界征服を狙ってるなら、一大事にもほどがあるぞ」

戦士「分かっています。―――魔王の城で用件が済み次第、我が本国へ来てもらいますから。いいですね?」

青年「ええ。そうしましょう。僕のホームでなら貴女も惚れずにはいられないはずっ」

戦士「……早く行きましょう」

ドラゴン「よし、乗れ」

賢者「うぃー」グビグビ

戦士(いつになったら帰られるのかな……)

―――上空

僧侶「雪ダルマが溶けてしまいます」

魔法使い「だから、こんなことで魔力を使えないでしょ?」

僧侶「……」

魔法使い「はいはい……キンキンに冷やせばいいのね……」

僧侶「ありがとうございます!!」

賢者「ねえちゃんが触ってるだけで溶けねえのか?」

魔法使い「はい、そうです。今は人間冷蔵庫なの」

賢者「ならよぉ、この酒を抱いてたら冷酒にできるのかい?やってくれよぉ」

魔法使い「人をなんだと思ってるの!!!」

青年「肉便器」

魔法使い「黙れ!!」

戦士「……っ」

僧侶「どうかされました?」

戦士「え?あ、ああ。古城で少し怪我をしたようで」

僧侶「怪我?」

戦士「恐らく、扉を開けようとしたときでしょうね。無駄に力が入っていたから」

僧侶「手を貸してください」

戦士「なんですか?」

僧侶「今、治してあげますね」ギュッ

戦士「な……」

僧侶「どうですか?」

戦士「痛みが引きました……」

僧侶「良かった。怪我をしたらいつでも言ってくださいね」

戦士「本当に触れるだけで治癒ができるのですね」

僧侶「はいっ」

賢者「その体質、治せないのか?」

僧侶「できるのかもしれませんが、今はこの体質に誇りを持っていますので」

戦士「失礼な発言になってしまいますが、それは欠陥なのでは……」

僧侶「でも、この体質のおかげで勇者様と一緒に旅ができましたし、大切なことも学べましたから」

戦士「大切なこと、ですか?」

僧侶「はい。できることは必ずあるということです」

戦士「できること……」

僧侶「勇者様に出会うまで役立たずと切り捨てられてばかりでしたけど、勇者様だけが私たちの力を必要としてくれました。それが本当に嬉しかったんです」

戦士(彼が……)

青年「くっくっく……今はその雪ダルマを持っている所為で何もできまい……」

魔法使い「変なことしたら凍らせるわよ」

青年「最近、貴女のいう変なことのハードルが良い意味で上がってるから、分からないんですよね。素っ裸ぐらいまではセーフですか?」

魔法使い「アンタの頭はアウトね」

戦士(信じられない)

賢者「でもよぉ、必要とされることは時として残酷だぜぇ?」

戦士「え?」

僧侶「それはそうですね。勇者様が『勇者』という肩書きを無くしたのはそのためでもありますし」

戦士「必要とされたくなかったと?」

僧侶「勇者という存在はそれだけ人々にとって大きいものですから」

戦士「それは選ばれた者の宿命です。逃げることは許されない」

僧侶「ご、ごめんなさい」

賢者「お嬢ちゃん。この姉ちゃんにいっても仕方ねえことだろ」

戦士「ですが……」

青年「……そろそろ見えてきますよー。魔物の大本山。魔王の城です」

戦士「あれが……」

賢者「おーぅ。すげえじゃねえかよぉ。あそこに踏み込めるたぁ、光栄だねぇ」グビグビ

僧侶「雪ダルマは?」

魔法使い「溶けてないわよ。で、これなに?」

僧侶「お土産です」

魔法使い「誰に?」

僧侶「魔王様に」

魔法使い「あぁ、喜ぶかもね」

戦士(雪ダルマを喜ぶ魔王……?)

ドラゴン「降下するぞ。しっかりつかまっていろ」

―――魔王の城

魔物「グルル……」

戦士「……っ」

青年「大丈夫ですよ。この城にいる魔物は人間に対して友好的ですから」

魔物「ガルルル……」

戦士「睨まれてますけど……」

僧侶「ごめんなさい。目つきが悪いだけなんです」

戦士「殺気が出てますよ」

賢者「気のせいだろぉ」

戦士「そんなバカな?!」

ドラゴン「全員、魔王に挨拶をしていけ。特にお前は3年ぶりだろう?」

青年「ですね。ドラゴちゃんとはよく会っていますが、彼女は外に出ませんからね。会う機会がありませんでした」

ドラゴン「そうだな。連れ出すわけにもいかないからな」

青年「現魔王を連れ出すなんてとんでもない。玉座で堂々としていてもらわなければ」

ドラゴン「堂々とか……そうだな……。少しは威厳を見せて欲しいところだ」

―――謁見の間

青年「ただいま戻りましたよ!元勇者が!!」

ハーピー「おお!!」バサッバサッ

青年「ハーピー姉さん。お久しぶりです」

ハーピー「わらわに食われる決心はついたのか?」

青年「いつでもどうぞ」

ハーピー「では、頭から」

ドラゴン「食べるな!!!」ガシッ

ハーピー「は、はなしてたもれぇ……!!」

戦士「な、なんですか……?」

青年「ハーピー姉さんは僕を食べたくて仕方がないんですよ。だから、あまり会いたくはないんですけどね」

戦士「あのハーピー族が魔王なのですか?」

青年「いえいえ。彼女は魔王の側近です。―――向こうの玉座に座っているでしょう?」

青年「玉座に……!?」バッ

「ぁうー……」

>>170
青年「玉座に……!?」バッ

戦士「玉座に……!?」バッ

僧侶「魔王様、献上品をお持ちしました」テテテッ

ゾンビ「けんじょうひん?」

僧侶「雪ダルマですよ。とっても冷たいんですよ」

ゾンビ「おぉー、ゆきだるまあぃしてるぅ」

戦士「……え?あの……あの子が魔王……ですか?」

青年「はい」

ゾンビ「お?あぁー!!」

青年「ただいま」

ゾンビ「うぅー!!あぃしてるぅー!!」テテテッ

ドラゴン「魔王は座っていろ。何度言えばわかる」

ゾンビ「あぅ」

魔法使い「かわいそうでしょ?」

僧侶「そうですよ、ゴンちゃん」

ドラゴン「しかしだな……。魔王になってから一向に自覚が芽生えていないのだぞ」

戦士「……どうして、この子が魔王に?」

賢者「可愛らしいじゃねえかぁ。おぅ」

ゾンビ「ありがと、うー」

賢者「おぅ?」

ゾンビ「あぅ?」

賢者「おぉん?」

ゾンビ「おぉん」

青年「いやぁ、ドラゴちゃんから伝え聞いていた以上に和みますねー、この魔王」

戦士「あの。この子が魔王って嘘ですよね?すぐに倒せそうですが」

青年「倒さないでくださいよ。僕の大事な側室なのですから」

戦士「側室!?」

ハーピー「なんじゃ、何もきいとらんのか?」

戦士「9人ほど側室がいるのは聞きましたけど……」

ハーピー「この男はメスならなんでもいいというておっただろうに」

戦士「でも、これは……」

青年「魔王の側室……。いいじゃないですかぁ」

ドラゴン「それよりも奴はどうした?」

ハーピー「拷問室に連行した。土塊が見張りをしておる」

ドラゴン「一緒に来るか?」

青年「ええ。聞きたいことは山ほどあるので」

ハーピー「わらわも行こう」

ゾンビ「いくー」

ドラゴン「魔王は?」

ゾンビ「イスへ」

ドラゴン「それでいい」

ゾンビ「あぅ」

戦士「待ってください!!私も行きます!!前魔王の行方は気になりますから!!」

魔法使い「それじゃあ、私たちはここで待たせて貰いましょうか。すぐに他の地域へ行かなきゃならないだろうし」

僧侶「そうですね。一緒に遊びましょうか?」

ゾンビ「うー!!」

賢者「おれぁ、酒が欲しいなぁ。酒、あるかい?」

―――廊下

青年「尋問なんて見ていてもつまらないですよ?彼女たちと談話をしていたほうがいいのでは?」

戦士「兵士として魔王の情報は耳に入れておくべきです」

青年「真面目ですね。そんな君が大好きだ」

戦士「質問があるのですが」

青年「何でも聞いてください。ちなみに僕の好きな料理は女体盛りです」

戦士「あのリビングデットが魔王とはどういうことですか?」

ドラゴン「何か問題でもあるのか?」

戦士「それほどの実力者だと?」

ハーピー「いいや。あの者に魔王の器などありはせん。見ればわかるであろう?」

戦士「なら、どうして魔王の椅子に?」

ドラゴン「それは―――」

青年「民主主義に則って、人気投票を行ったんですよ」

戦士「人気投票?」

青年「ええ。この城にいる魔物の中で一番の人気者を選び、その者を魔王にしようと決めたのです。結果、あの子になった。それだけの話です」

ドラゴン「端的に言えばそうなるがな」

戦士「馬鹿げている……」

ハーピー「わらわもそう思う」

青年「ダブルスコアで負けたことまだ根に持っているのですか?」

ハーピー「彼奴はどんなやつにでも『あいしてる』と言いふらしておったではないか!!あんなもの人気が出て当然であろうに!!!」

ドラゴン「お前も投票日前に様々な魔物を誘惑していたのは知っているぞ?」

ハーピー「……」

青年「ハーピー姉さん……。僕と言うものがありながら……」

ハーピー「ええい!!そもそも、何故ドラゴン様まで負けたのに悔しくないのかえ?!」

ドラゴン「俺は魔王の側近で構わない」

ハーピー「……」

青年「僕が愛してあげますよ。悲しまないでください」

ハーピー「ならば、はよ、くわせぇ。お前で腹を満たしたいわ」

戦士(駄目だ……。知れば知るほどこの人が分からなくなる……。魔王を決めることにも関与しているなんて……)

ドラゴン「地下に向かうぞ。足下に注意しろ」

―――地下 牢獄

ゴーレム「……」

青年「お疲れ様です」

ゴーレム「うム……」

戦士(大きい……)

ゴーレム「な、ンだ……にンゲん……」

戦士「いえ、なんでも……」

青年「レムくんは人見知りなんで気にしないでくださいね」

戦士「人見知り……?」

ゴーレム「……」

ハーピー「さてと、尋問を始めるとしようか」

吸血鬼「我輩は何も知らないと何度言えばわかるのですか?」

ドラゴン「何も知らないということはないだろう?お前は外で活動していたのだからな」

吸血鬼「ふん……」

ハーピー「おぬし、その態度では後悔するぞ?」

戦士(キマイラ……。前魔王か。あのリビングデッド族よりは確実に強いんだろうな)

青年「キマイラの居場所、知っているんですよね?」

吸血鬼「そこのゴーレム殿はキマイラ様の共鳴者でしょう?そちらを尋問すればいいのでは?」

ゴーレム「……」

ドラゴン「残念だが、こやつはキマイラに見捨てられたときにこちら側についた。もう関係はない」

吸血鬼「さて、それはどうでしょうかねぇ……?」

ハーピー「何がいいたい?」

吸血鬼「あの腑抜けた魔王に不満を持っている者は多いということですよ」

戦士(そうだよね。あんな何も分かってない無邪気な子が王だなんて、不満がでないほうがおかしいし)

青年「彼女のおかげで不毛な争いがなくなったのも確かです」

吸血鬼「支配者を皆の偶像にしたことで、住み分けをはっきりさせただけではないのですか?―――貴様たちの温い考えに賛同する者とそうでない者を明確にしただけだ!!」

戦士(そんな意図が?)

青年「誤解ですよ。皆、おっかない上司には嫌気が差していただけでしょう?」

吸血鬼「ドラゴン様を支持していた者は納得したのですか?していないでしょう?その者たちはどうなりましたか、ドラゴン様?」

ドラゴン「中にはこの城を去った者もいるな」

吸血鬼「ふふ……。そうでしょう。あのような小娘に魔王は似つかわしくない。誰もがそう思うはずです」

戦士(この人は悪戯に被害を拡大させただけなんじゃ……)

青年「だからこそ、皆は魔王を頼らず、自分の意思で歩み始めている」

吸血鬼「なに……?」

ドラゴン「僻地にて魔物の集落を作っている者もいる。我々のやり方に不満があるなら去れ。人間の領域を荒らさないのならば追う事などしない」

吸血鬼「何を……。人間が我々の領地を奪っているこの状況でそのような世迷いごとを!!」

青年「元々は魔物と人間は互いの領域に踏み込もうとはしなかった。あるべき姿に戻してなにが悪いのですか?」

吸血鬼「エルフの一件が全てでしょう?人間は力を手にすればまた我らを襲う。魔物が全ての悪ですからね。そうでしょう?!お嬢さん!?」

戦士「……!」

青年「彼女は関係ない」

吸血鬼「古城で我輩に放った言葉、忘れたとはいわせませんよ?あれが人間の総意!!!そうでしょう?!」

戦士「……」

ハーピー「ええい。話をこじらせるな。おぬしはキマイラの居場所を吐けばよい」

吸血鬼「知りません」

青年「強情ですね……。なら、こちらも最終手段です」

吸血鬼「最終手段?」

青年「レムくん!!」

ゴーレム「……」

青年「やっておしまい」

ゴーレム「うム」

吸血鬼「な、なにを……!?」

ゴーレム「カタたたキ……ヲ……する……」

吸血鬼「か、肩たたき!?」

ゴーレム「アンしんシろ……タだノ……マッサーじダ……」

吸血鬼「やめてくださいぃぃ!!!」

ゴーレム「フんっ」ゴンッ

吸血鬼「アァァァ!!!!」

ゴーレム「ふンッ」ゴンッ

吸血鬼「ギャァァ!!!」

ハーピー「ほら、知っていることを吐け。出なければ、死ぬぞ?」

吸血鬼「いいます!!いいますからぁ!!!肩たたきをやめてくださいぃぃ!!!」

ハーピー「そうそう。素直が一番」

戦士「むごい……」

青年「僕もこんなことはしたくないのですが」

ドラゴン「ただのマッサージだ。気に病むことなど何もない」

ハーピー「それで、何を知っておる?」

吸血鬼「キ、キマイラ様のことは本当に知らないのです……ただ、ここよりはるか南の大地にある遺跡でキマイラ様を見たと……我輩の同胞が……言っていました……」

青年「南の大地……遺跡……」

ドラゴン「遺跡があると言えば、砂の国だな」

青年「砂漠地帯か……。そこには何かあるのですか?」

ドラゴン「前々代の魔王様が最も警戒していた地域だな。真実を映し出す鏡があるらしい」

青年「鏡ですか?」

ドラゴン「どのようなまやかしも打ち破る鏡が眠っているといっていたな」

青年「そうか。前々代の魔王が勇者に追い詰められたとき、広域に幻覚を見せる魔法を施し、勇者を海の藻屑にしたとありましたね。そのためにその鏡を警戒していたのでしょう」

戦士「あの。今からそこへ行く気ではないですよね?」

青年「行く気ですよ?」

戦士「それは困ります」

青年「魔王と肩を並べる魔物がいるかもしれないのですよ?」

戦士「それは……」

ドラゴン「構わん。先にその王女とやらに会って来たらどうだ?」

青年「良いのですか?」

ドラゴン「現地の調査のために暫くは時間が掛かるだろう。乗り込んだ先が爆心地だったら困るからな」

青年「そうですね。キマイラが居座っていたら、大きな戦闘になりかねませんし……」

ドラゴン「調査はこちらに任せろ。お前は客の声に応えてやればいい」

青年「そうですね。いつまでもお待たせするわけにも行きませんし。とはいえ……」

戦士「なんですか?」

青年「どうですか?貴女から見て、僕は勇者ですか?」キリッ

戦士「この状況下で勇者であることを疑えるはずがないでしょう?」

青年「そういうことではありません。―――貴女から見て、僕は勇者ですかと訊ねたのです」

戦士「ですから、勇者であると私は認めています」

青年「僕は勇者だと?」

戦士「そうです」

青年「多くの街を破壊し、殺戮の限りを尽くしてきた魔物と仲良くしているのに、ですか?」

戦士「……!」

青年「そこまで貴女が僕にフォーリンラブだというなら、仕方ないですけどね。よろこんで側室としてお付き合いを」

戦士「勝手に決めないでください!!」

青年「僕が何をしていても勇者だと認めてくれる人は中々いないんですよね。側室ちゃんたちは除いて、ですが」

戦士「個人的な感情は関係ありません。私は王女様に勇者を連れてくるように言われているのですから」

青年「私情は挟まない。ということは、僕が勇者であることに疑問を持っているわけですね?」

戦士「それは……そうですが……」

青年「あぁ!!それは大変だぁ!!!僕ほど勇者力が溢れる男などこの世には存在しないというのに!!!」

戦士「私は認めていますよ!!!」

青年「客観的な答えを出さないでください。僕は貴女に勇者だと認めてもらいたいわけです。それはつまり、僕に惚れたことを意味するので」

戦士「はい!?」

青年「僕を愛していない女性を側室にするわけにはいきませんからね。誰も幸せになりませんから」

戦士「側室になんてなりません!!」

青年「そういい続けていた女性も今では立派に僕の側室なんですよね。ふっふっふっふ、つまり、貴女も……」

戦士「勝手に決めるなぁ!!!」

青年「とにかく、これではっきりしましたね。まだ僕は勇者ではないようです」

戦士「貴方、私に認められる気はないって言っていたではないですか?!」

青年「少し違いますね。あのときの返答は「任務のために動いている兵士に認められるつもりはない」という意味です」

戦士「どう違うんですか?!」

青年「僕が認めて欲しいのは、美しい貴女にですから。意味がまるっきり違うでしょう?」

戦士「一緒ですよ!?」

青年「なら、貴女は僕のことが好きなんですかぁ?」

戦士「嫌いです!!」

青年「なら、好きになってくれるまで君の任務は終わらないと思え!!!」

戦士「どうして?!」

青年「僕が君に恋をして、君が僕に恋をするからだぁ!ぬははぁ!!」

ドラゴン「久しぶりに見たな……お前の暴君ぶりを……」


>>186
青年「なら、好きになってくれるまで君の任務は終わらないと思え!!!」

青年「なら、好きになるまで君の任務は終わらないと思え!!!」

戦士「縄で縛ってでも貴方を連れて行く……!!私の任務の邪魔をしないで!!」

青年「ほう?では、ロウソクの準備をお願いします」

ハーピー「おぬしも好きよなぁ」

戦士「不潔なこと言わないで!!!」

青年「さぁ、あの拷問室をあけろぉ!!俺が縛られるぞぉ!!」

ゴーレム「うム」

戦士「了解しないで!!!」

ゴーレム「……ナに?カタたたき……スる、か……?」

戦士「ぐっ……す、すいません……失礼な口をきいてしまって……」

ドラゴン「不毛な時間だな。俺はキマイラを追うぞ」

青年「砂漠地帯は雪原と同等の危険性があります。彼女らに協力してもらわないといけませんね」

ドラゴン「あいつらも呼び戻すのか?」

青年「キラちゃんはそのまま調査を続行させます。かなり怪しくなってきましたからね」

ドラゴン「そうなのか?」

青年「ええ、とても……」

戦士「待ってください。確かにキマイラのことも大事ですが、調査をするというのなら時間に余裕があるはずです。一度、我が本国に寄って下さい」

青年「ですから、それはまだ早いと言っているではないですか」

ドラゴン「言ってやれ。こういう輩は納得しないぞ」

青年「そうですか?」

ドラゴン「それに気になっていることもあるのだろう?」

青年「まぁ、そうですけど」

戦士(何を言っているの?)

青年「……分かりました。行きましょう。ただし、少し時間を頂きます。それなりに身だしなみも整えなければなりませんので」

戦士「どの程度ですか?」

青年「三日ほど」

戦士「随分と長い身支度ですね」

青年「申し訳ありません。でも、貴女を退屈にはさせませんよ」

戦士「……話は終わりですね。謁見の間に戻ります」

青年「分かりました」

ハーピー「難儀な小娘だな」

―――謁見の間

ゾンビ「まおぅ!」

僧侶「ははー」

ゾンビ「まおぅはつよい!」

僧侶「そうですっ!」

魔法使い「長い拷問ね……。あのバンパイア、生きてるかしら?」

戦士「―――生きてますよ」

魔法使い「おかえり。どうだったの?」

戦士「砂漠地帯に行くそうです。そこにキマイラが潜伏している可能性が高いようで」

魔法使い「今度は砂漠地帯か……」

僧侶「帽子が必要ですね。あとサンバイザーも」

魔法使い「また日焼けしちゃうのね……シミになりそう……」

ゾンビ「さばくはあつい!」

僧侶「そうです!!」

戦士「……はぁ」

ゾンビ「どうかしたの?」

戦士「いえ……」

魔法使い「あの馬鹿のことなら気にするだけ無駄よ」

戦士「……貴方達は彼を信頼しているのですか?」

魔法使い「ええ。そうよ」

僧侶「はい」

戦士「あんなにも言動が支離滅裂なのにですか?」

魔法使い「そうだけど」

僧侶「あれでも勇者様は筋の通った人ですから」

魔法使い「間違ったところにね」

ゾンビ「スジって?」

僧侶「心のことです」

ゾンビ「うー、わかった」

戦士「側室扱いされているのに、どうしてそこまで……?」

魔法使い「それを言われるとどう答えていいのか分からないのよね……」

僧侶「私は勇者様のお傍にいることができれば満足ですから」

魔法使い「そういってるのはアンタだけよ?」

戦士「私には理解できません」

魔法使い「理解はしなくていいわよ。アイツのことなんて誰にも理解できないんだし」

戦士「……そうですか」

僧侶「そんなことないですよ。勇者様はいつだって私たちに愛情を注いでくれていますし」

魔法使い「わざと怪我してアンタの胸とかお尻に触りに行くのが愛情なわけ?」

僧侶「違うんですか?」

魔法使い「3年前から言ってるけど、それはセクハラなのよ?もっと嫌がりなさい」

僧侶「勇者様に触られても不快ではないですし……」

魔法使い「あー、はいはい。ごちそうさま」

戦士「……好きなんですね。あの人のことが」

僧侶「はいっ。大好きです」

魔法使い「なんで、あんなのに惚れたのかわかんないわね……ホント……」

ゾンビ「おにいちゃん、あぃしてるぅ!」

戦士「……本当に理解できない」

魔法使い「なに?」

戦士「何でもありません。……あの」

魔法使い「あの酔っ払いなら食堂のほうへ行ったわよ。お酒が欲しいって言って」

戦士「またですか……。食堂まで案内してもらえますか。今後のことを話しておきたいので」

僧侶「わかりました。こちらです」

戦士「ありがとうございます」

ゾンビ「うー……?」

魔法使い「どうしたの?」

ゾンビ「あのひと、こまってた」

魔法使い「そうね」

青年「―――聞きましたよぉ?今、僕のこと好きとか言っていましたねぇ?」

魔法使い「どっから沸いたのよ?!」

青年「ぬほほぉ。貴女からそんな言葉が聞けるとは。もう一回、言ってください。録音して目覚ましにしますから」

魔法使い「い、言うわけ無いでしょ!!!バカ!!!」

―――食堂

戦士「えっと……」

僧侶「あそこにいらっしゃいますよ」

賢者「おーぅ。そうかい」

戦士「本当ですね。でも……」

賢者「ありがとよぉ」

宝箱「……」

戦士「あの、箱に話しかけて何をしているんですか?」

賢者「ん?おぅ、姉ちゃん。おつかれぇ」

戦士「はい。で、どうして箱に話しかけているのですか?さては、相当酔っていますね?」

賢者「そうかい?」

戦士「そうかいって、そうじゃないですか。お酒はほどほどに―――」

僧侶「この子、生きてますよ?」

戦士「え?」

宝箱「……ガァァァァ!!!!」

>>210
賢者「ん?おぅ、姉ちゃん。おつかれぇ」

賢者「ん?おぅ、お嬢ちゃん。おつかれぇ」

戦士「きゃ!?」

賢者「あっはっはっはっは。どうしたぁ、可愛い声だしてよぉ」

戦士「な、なんですか……?」

僧侶「こうして宝箱に擬態して旅人を捕食してきた魔物なんです」

戦士「捕食……」

宝箱「……」

賢者「ミミック族だな。普通はお嬢ちゃんみたいに騙される。で、食われる」

戦士「そうですか……。で、そのような危険な魔物がどうしてここに?」

僧侶「ミミーちゃんはご覧のように自分で移動ができないので、きっと誰かに運ばれてきたんだと思います」

宝箱「……」

戦士「そう……なんですか?」

宝箱「……うん」

戦士(しゃべった……)

賢者「生態的に対話することに慣れて無いから、無愛想な魔物みてぇだな」

僧侶「人と会話できる魔物のにそこだけが残念ですね」

賢者「全くだぜ。ま、良い話し相手になってくれたからよかったけどよ」

戦士「……あの、今後のことでお話があります」

賢者「おぅ。なんでも言ってくれや。その前に、姉ちゃん」

僧侶「はい?」

賢者「その宝箱、もう自分の部屋に戻りたいみたいだ。戻してやってくんねえか?俺ぁ場所がわかんねえからよ」

僧侶「そうなんですか?」

宝箱「……うん」

僧侶「では、行きましょう。よいしょ」

宝箱「……」

僧侶「それでは失礼します」

戦士「案内、ありがとうございました」

賢者「よろしくぅ」

僧侶「どうして食堂にいたんですか?」

宝箱「……」

僧侶「……ああ、食事のためですよね。それしかないですね」

賢者「で、なんだぁ?」グビグビ

戦士「3日後のことになりますが、私たちは勇者を連れて本国に戻ります」

賢者「そうかい」

戦士「はい。貴方との契約もそこで終わります。お疲れ様でした」

賢者「お嬢ちゃんはどうすんだい?」

戦士「次の任務が言い渡されるまでは通常業務に専念することになるでしょうね」

賢者「城の警備か?」

戦士「はい」

賢者「これだけの世界を見ても、心はうごかねえか」

戦士「……余計なものを見てしまったと思っているぐらいです」

賢者「ほぅ?」

戦士「……話は以上です。あまり羽目を外しすぎないようにしてくださいね」

賢者「腸煮えくり返ってるみてぇだなぁ」

戦士「……」

賢者「どうして勇者とその仲間たちが、自分の肉親を殺した魔物と仲良くしているんだ。許せない。そう思ってんだろぉ?」

戦士「言ったはずです。私情は組織に生きる人間にとってなんの意味もない、余分なモノだと」

賢者「真面目だねぇ。お前の親父そっくりだ。あいつも命令には絶対だからなぁ。特に王族の命令には」

戦士「……」

賢者「お嬢ちゃんは結構珍しいタイプかもなぁ。魔物を憎み、勇者までも憎むたぁ、中々いねえよ」

戦士「なんですか、先ほどから。私の心でも読めるんですか、貴方は?」

賢者「……」グビグビ

戦士「……おやすみなさい」

賢者「兄ちゃんたちのこと、知ってるのか?」

戦士「……」

賢者「兄ちゃんも取り巻きの姉ちゃんたちも、孤児らしいぞぉ。お嬢ちゃんと同じように、魔物に村を襲われたらしい。まぁ、珍しいわけでもなんでもないけどよ」

戦士「だからなんですか?」

賢者「別になんでもねえけど」

戦士「彼らに共感を持てというのですか?」

賢者「そこまでは言ってねえよぉ。ただ、お嬢ちゃんが混乱してたから保護者として導いてやろうって―――」

戦士「私が混乱している?そんなわけないでしょう。私は冷静です。混乱していることがあるとすれば、全く魔法が使えない『賢者』と自称する厚顔無恥な人が居たことに対してぐらいです」

賢者「おーぅ。言ってくれるじゃねえかよぉ。おーぃ。酒くれぇ」

戦士「契約も残り三日ですからね。貴方と仕事をすることはもうないでしょう」

賢者「だから、言いたいことは言うのかい?」

戦士「雇った立場ですから、今後の雇用はない理由を述べても問題はないはずです」

賢者「おぅ。一理あるな」

戦士「魔法を使える者が必要だと義父さんは考え、貴方を紹介してくれたのでしょうが……。腕が錆び付いて魔法が使えないのであれば、今後貴方を雇うような物好きはいないでしょうね」

賢者「くくく……そらそうだ」

戦士「どうして義父さんが貴方を選んだのか、私には分かりません」

賢者「そして、どうしてあの女好きな兄ちゃんをみんなが慕い、勇者と言っているのかも分からないんだろぉ?」

戦士「……!」

賢者「わからないことだらけだなぁ、お嬢ちゃんは。はっはっはっは」グビグビ

戦士「言いたいことはそれだけですか?」

賢者「こえぇ顔すんなよ。可愛い顔が台無しだぜぇ?」

戦士「さようなら」

賢者「……つれねえなぁ。年取ると一人酒がつらくなるっていうのによぉ」

―――廊下

戦士(あの人はどうしてあんなことが言えるの……。もう……イライラする……)

戦士「素振りしたい……!!」

宝箱「……」

戦士「……」

宝箱「……」チラッ

戦士「ふん……」スタスタ

宝箱「……」パカッ

戦士「……なんですか?!」

宝箱「……」ビクッ

青年「彼女の習性ですよ。通る人間をああして誘惑するんです。彼女はまぁ、それが下手なんですけど」

戦士「貴方は……」

青年「その下手さ加減が可愛いんですけど」

宝箱「……」

戦士「そうですか。私には分かりませんね、その感覚は」

青年「魔物を可愛いと思うような人は稀少でしょうね。僕も最初は苦手でした。ドラゴちゃんのおかげでしょう」

戦士「……おやすみなさい」

青年「貴女にお願いがあるんです」

戦士「側室の話なら丁重にお断りします」

青年「おや?これは異なことを。それはもう決定事項ですよ?今更、キャンセルなんて僕と僕の股間が許しません」

戦士「不潔なことを言わないで!!!」

青年「おっと。紳士な僕としたことが。そうでしたね、貴女は露出プレイがお好きではないのでしたね」

戦士「……おやすみなさい」

青年「待ってくださいよぉ。もう少し、僕に愛をください。今なら買い取ります」

戦士「なんですか?」

青年「王女様に謁見したあと、僕と一緒に砂漠地帯までついて来てもらえないでしょうか?」

戦士「理由がありません」

青年「ありますよ。貴女を僕に惚れさせるという極めて重大な理由が」

戦士「貴方に惚れるようなことは、ないです」

青年「言い切りますか。落とし甲斐があるじゃないですか。―――子供は何人ぐらい欲しいですか?」

戦士「いい加減にしてください。女性を道具のように見て……貴方は何様のつもりですか?」

青年「勇者ですし、僕の傍にいるのは皆、肉奴隷ですが」

戦士「気持ち良いこといいますね」

青年「もっと気持ちよくなるコツを知っていますが、どうする?たたかう?」

戦士「逃げます」

青年「良い判断だ」

戦士(やっぱり頭のネジがないんだ……この人……)

青年「いやぁ、是非ともご一緒してほしいんですけどね。美人で可憐でエロくて、しかも戦力になる人ってそうそういなくて」

戦士「過大評価、感謝します。ですが、私は軍人です。命令がなければ動けません」

青年「そうですか。なら、僕が命令しましょう。僕の側室になれ」

戦士「……」

青年「ダメですか?」

戦士「ダメですね」

青年「分かりました。でも、僕は諦めませんよ。元勇者としてのプライドがあります。貴方を最後の側室にし、そして我が野望を実現させてやる!!フハーハハハ!!!」

戦士「まるで魔王ですね」

―――二日後 謁見の間

ゾンビ「とけつほー!!―――おぇー」ドロッ

ハーピー「これ!!新技の開発はやめてくれといったろうに!!」

ゾンビ「だって」

ハーピー「掃除が大変だというたろう?!」

ゾンビ「ぁい」

戦士(昨日と今日と見てきたけど、やはりあの子は魔王として働いている様子はない。実質的な魔王は……)

ドラゴン「砂漠地帯にいる同胞の情報にはそれらしいものはなかったな。遺跡の中は元から管轄外だ。どういった種族が住んでいるのかも分からん」

青年「なるほど。つまり、裸の女性が息巻いていても不思議はないと?」

魔法使い「そうね」

僧侶「そうなんですか?!」

青年「そうなんですよ」

僧侶「そんな……。いくら砂漠地帯でも、夜は冷えるのに……。寒くないんでしょうか?」

ドラゴン「……早く、調査に向かいたい。メンバーを選出するぞ」

戦士(あのドラゴンで間違いない。でも、そのドラゴンも彼に従っているようだし……)

青年「先行する人はもう決めています。僕の可愛い可愛い、側室1号、2号、6号!!君たちに決めた!!」

僧侶「はいっ!!がんばります!!」

魔法使い「ゴンちゃん、よろしくね」

ドラゴン「俺たちしかいないか。お前も早く用事を済ませて合流するんだぞ」

青年「分かってますよ。浮気はしないでくださいね」

魔法使い「こっちの台詞だってば……」

僧侶「私は……勇者様以外の人なんて……」モジモジ

青年「ふふ。年々、防御力が下がっていますね。そろそろもう一枚、脱いでみますか」

僧侶「は、はい……」

魔法使い「ダメ」

ドラゴン「お前も、冗談が通じない相手にそんなことを言うな」

青年「あん?遊びでやってんじゃねえんだよ、こっちはなぁ!!!」

ドラゴン「わかった、わかった。いつでもお前は真剣だったな」

戦士「……」

戦士(何も分からない……。部屋に戻ろう)

―――通路

戦士(何が勇者だ……。結局は自分の好きなことをするだけで、何も考えていない)

戦士(魔物の調査もつまるところは、側室集めの一環みたいだし……)

戦士(あの人も私が知っている勇者だった。魔物までそう言う対象にしている点で言えば、最も劣悪な部類だけど)

「はぁ……つかれた……」

戦士(うわ、綺麗な人……)

「あれ?誰?」

戦士「私は客人として招かれました」

「そうなんだ。よろしく」

戦士「あ、はい……」

「もしかして側室候補?」

戦士「違います!!」

「そっか。知らない人間がいるとどうしてもそっちかなって思っちゃって」

戦士「……あの、貴女は?」

「あれ、ボクのこと聞いてないの?まぁ、まだまだ受け入れられてないし、仕方ないか……」

戦士「貴女も魔物……なんですか?」

エルフ「うん。―――この耳がその証」

戦士「エルフ!?」

エルフ「そうだよ。やっぱり珍しい?」

戦士「ええ……おとぎ話の世界ですから……」

エルフ「ボクたちが魔王を倒したことを知っている人なんて稀だしね。もっと公に情報開示していれば存在も知られてたんだろうけど」

戦士「何故、そうならなかったんですか?」

エルフ「あいつが色々と便宜をね。エルフ族のことは10年以上、隠すべきだって」

戦士「あいつ?」

青年「おぉ!!側室3号!!待っていましたよ!!マイディアー!!」

エルフ「ただいま」

青年「そろそろ来ると聞きまして、出迎えにいこうと思っていたんですよ」

エルフ「そうなんだ。なら、入り口で待ってればよかったかな?」

青年「さ、久しぶりにキスを」

エルフ「したことないじゃん」

青年「おや、もう新しい側室と挨拶を?」

エルフ「あ、やっぱりそうなんだ」

戦士「違うって言っているでしょう?!」

青年「またまた、ご冗談を」

エルフ「それで、ボクをこの城まで呼んだってことは……緊急事態なの?」

青年「そうなんです……」

エルフ「キマイラが見つかったとか?」

青年「いいえ。もっとすごいことです」

エルフ「なに……?」ゴクリッ

青年「実は……彼女で目標の側室10人が達成されたんですよ!!!これは一大事です!!!宴だぁ!!!」

エルフ「……あのさぁ」

青年「さ、こっちへ」グイッ

エルフ「あ、ちょっと、引っ張るな」

青年「ぬほほぉ!!やっと全員集合ですねー!!」

戦士(同じ人間として恥ずかしいかも……)

―――食堂

戦士「……」モグモグ

戦士(食事は美味しいけど、誰がつくって―――)

ガイコツ「おかわりもあるぞー!!!」

戦士「……ある意味、清潔か」

賢者「おぅ。お嬢ちゃんも昼間から酒でもあおってるのか?」

戦士「貴方と一緒にしないでください」

賢者「さっき兄ちゃんから聞いたけど、明日は船に乗っていくそうだぞ」

戦士「そうですか」

賢者「肩の荷がおりるなぁ」

戦士「そうですね」

賢者「お嬢ちゃん的には、現状をどうかんがえてるんだぁ?キマイラっつーヤバいやつがどこかに潜伏していることをよぉ」

戦士「その件については王女様に見聞きしたことを伝え、然るべき対策を練ってもらいます」

賢者「王女様にか。お嬢ちゃんは何もしないのかい?」

戦士「王女様に伝えればすぐに全兵士に向けて言い渡されるでしょう。魔物討伐の任を。そのとき、討伐部隊に志願しますよ」

賢者「信じてくれるかねぇ」

戦士「こちらには勇者がいます。流石に勇者の言葉を信じないわけないでしょう」

賢者「そうかい?お嬢ちゃんは信じるかい?」

戦士「ええ」

賢者「……そうかい」

戦士「ごちそうさまでした」

ガイコツ「ありがとぉー!!!」

賢者「お嬢ちゃん」

戦士「なんですか?」

賢者「お酌でもしてくれねえか?」

戦士「……嫌です」

賢者「おーぃ。いってくれるじゃねぇかよぉ」

戦士「……魔物にしてもらえばいいじゃないですか」

賢者「おぅ?それもそうだな。おーぃ、そこの、お酌してくれぇ」

魔物「グルルルル……!!!」

賢者「そう怖い顔すんなよぉ?」

魔物「グルルルル……!!」

賢者「肉ならやるからよぉ」

戦士(どうして魔物と仲良くできるんだろう……)

賢者「こいつらにも心はあるからなぁ」

戦士「……!?」

賢者「きちんと目を見てよぉ、向き合えば……おー、よちよち」

魔物「……」

賢者「わかってくれるんだ―――」

魔物「ガァァァァウ!!!!」ガブッ!!!

賢者「ぎゃぁぁぁ!!!!」

戦士「きゃぁぁぁ!駄目じゃないですかぁ!!」

魔物「ウゥゥゥゥゥ!!!!!」

賢者「いてぇよぉ!!たすけてくれぇ!!!」

ガイコツ「大変だぁー!!!誰かぁ!!!誰かぁ!!!きてー!!!ニンゲンがオレと同じ骨にされちゃうよぉー!!!」

戦士「ここは力づくで!!」

青年「やめろ!!」

戦士「え?」

ハーピー「なにごとだ」バサッバサッ

魔物「グルルル……」

ドラゴン「離してやれ」

魔物「ウゥゥゥ……」

賢者「ふぅー……たすかったぁ……」

ゾンビ「うー?だいじょうぶぅ?」

賢者「おぅ。なんでもねえよ。これぐらいは、唾でもつければなおらぁね」

戦士「そんなわけないでしょう?」

青年「治癒は?」

賢者「だから、心配すんなって」

青年「全く。食事に来てみれば、こんなことになっているとは。噛み付いたら駄目でしょう?」

魔物「……」

戦士「今の魔物はどうして……?」

ドラゴン「ニンゲンを良く思っていない者も少なくはない。多くの同胞を殺されたのだからな」

戦士「何を言って……」

ハーピー「ほれ、持ち場へもどらんか」

魔物「……」

ゾンビ「だいじょうぶ!まおーはきみもあぃしてるぅ!」

魔物「……ガゥ」

ゾンビ「うー」

魔物「……」タタタッ

戦士「それよりも治療を―――」

賢者「もう大丈夫だよ。兄ちゃん、あんがとよ。助けてくれてよぉ」

青年「いえいえ。たまたま通りかかったら惨事に出くわしただけです。僕がハラペコでなければ死んでいましたね」

戦士(彼が癒したみたい。よかった。腐っていても勇者なんだ……)

ガイコツ「魔王ちゃん!!何たべますか?!」

ゾンビ「なまにく」

ゾンビ「うー、まいっ」

ガイコツ「そうですか。ただの生肉ですけど、嬉しいです」ナデナデ

ハーピー「これ、魔王に対して気安いぞ」

ガイコツ「可愛いですよねぇ」ナデナデ

ゾンビ「うー♪」

ハーピー「わらわがこやつの可愛さにいち早く気付いたというのに……」

青年「姉さん、一番先に気がついたのは僕ですよ?」

ハーピー「開拓したのはたしかにおぬしだが、ファン1号はわらわだ。そこは譲らん」

ゾンビ「なまにく、うまっ」モグモグ

ドラゴン「すまなかったな」

賢者「いいってことよぉ。俺だって、数え切れないぐらい魔物を殺してきたしなぁ」

戦士「貴方が?」

賢者「信じられねえってかい?おぅ、俺にだってお嬢ちゃんぐらいのときはぁ、そりゃあ血気盛んでよぉ、バリバリだったんだぜ?」

戦士「……その話がもう信じられません」

賢者「ひでぇじゃねえかよぉ。こうなったら、昼間からやけざけだぁ」

戦士「いつものことじゃないですか」

賢者「そうかい?」グビグビ

戦士「もういいです」

青年「お二人とも。明日のことですが」

賢者「あのかっこいい姉ちゃんの船に乗るんだろ?」

青年「明日の正午にはこちらに到着するようなので、それまでに支度は終わらせておいてください」

戦士「ドラゴンの背に乗せてもらえば……」

青年「すいません。色々と皆さんも忙しくて。本当なら快適な空の旅を堪能していただくところなのですが」

ドラゴン「砂漠の遺跡調査があるからな」

戦士「他にも飛べる魔物はいるでしょう?」

ハーピー「小娘よ。わらわたちを乗り物と勘違いしておるのか?」

戦士「そういうことではないですが……」

青年「あくまでも船や徒歩でいけない場所へ行くときや、迅速な移動が要求されるときに協力をしてもらっているだけですから。奴隷というわけではないので」

戦士「……そうですか」

青年「でも、ドラゴちゃんとかは側室なので肉奴隷ではありますけどね。ハハハハ」

ハーピー「なにぃ!?」ガブッ

青年「あ、痛い痛い。痛気持ち良い」

ドラゴン「やめろ」

ゾンビ「うー……」ガブッ

青年「あー!!!君は色々とまずいな!!!」

賢者「面白い連中だなぁ」

ドラゴン「騒々しいのは認めるしかないな」

戦士「……自室へ戻ります」

ドラゴン「そうか。色々、迷惑をかけたな」

戦士「なんですか?」

ドラゴン「もう会うこともないだろうからな。挨拶をしておく」

戦士「そうですね。お世話になりました」

ドラゴン「理解しろとは言わない。だが、こういう世界があることを否定はしないでくれ」

戦士「……」

ドラゴン「俺もそれになりに愛着がでてきたんだ。今の世界にな」

―――夜 廊下

戦士(否定はするな……って、私は別に……)

エルフ「まだ、寝ないの?」

戦士「……ええ」

エルフ「寂しいとか?」

戦士「何故ですか?」

エルフ「ボクはここでは厄介者だから、分からないけど。意外と多いらしいんだ、出戻り組」

戦士「出戻り?」

エルフ「今の魔王になってから多くの魔族がこの城を離れたんだ。あるやつは魔族の復古を願って。あるやつは新しい世界を創るために。色々ね」

戦士「……」

エルフ「でも、ここの賑やかさが寂しくなるやつもいたみたいで。毎月、出入りがあるみたいだね」

戦士「貴女は違うのですか?」

エルフ「エルフは魔族からは疎まれ、人間からは身柄と知識を狙われている種族だからね。今のところ居場所はないよ」

戦士「人間に身柄と知識を狙われているとは?」

エルフ「エルフ族の歴史、知らないの?」

戦士「大昔、人間に魔法の知識を与え、魔王を共に追い詰めたというのは知っていますが」

エルフ「本当はちょっと違うんだ。最初は火を起こすだけの簡単な魔法を教えた。教えたのも人間に命を救ってもらったお礼からだった」

エルフ「本来、魔族はそこまで人間に歩み寄ってはいけなかった。互いの領域を侵してはいけないって不文律もあったぐらいだし」

戦士「……エルフは人間に協力したわけではないと?」

エルフ「そう。一度魔法を教えてしまったことが原因で、人間は更に多くの知識を求めてきた。文明が大きく進歩するんだから当然なんだろうけど」

戦士「言われるがまま魔法の知識を……」

エルフ「命を救ってくれたということもあるからね。で、気付いたときは魔王すらも追い込むことができるぐらいの技術提供をしていた。その所為で魔族からは裏切り者扱い」

エルフ「ボクたちが余計なことをしたから、戦火が広がったようなものだしね」

戦士「……なら、人間は?」

エルフ「その一件で身を隠したボクらは、人間たちにとっては伝説の存在となった。だから、高値で取引されることもあるんだ」

戦士「取引?」

エルフ「君たちは魔物を狩って、毛や肉、素材になりそうなものを売ってるんでしょ?それと同じ」

戦士「……」

エルフ「だから、何百年も人目に触れないところにいた。今も里を魔法を隠しているぐらいだよ。魔族からも人間からも逃げているんだ」

戦士「そうですか……」

エルフ「だから―――」

戦士「今の話で分かるのは、諸悪の根源が貴女の一族であるということですね」

エルフ「……」

戦士「貴方達が情に流されて、魔法を教えなければ……私の家族も……」

エルフ「……ごめん」

戦士「なっ……」

エルフ「ごめんね」

戦士「あ、謝らないで!!!」

エルフ「でも、ボクにはこれぐらいしか……」

戦士「せめてずっと人間と一緒にいたらよかったのに!!!そうすれば私たちが辛酸を舐めることもなかったのに!!」

エルフ「ボクたちも同族を殺したくなかったから……」

戦士「貴女たちも一緒だ」

エルフ「一緒?」

戦士「勇者と一緒だ。求められることから逃げて、その先の責任を負うとしない。その先でどういうことになるのか考えてない!!!」

エルフ「……ごめんなさい」

戦士「謝らないでって言ってるでしょう?!」

エルフ「……」

戦士「はぁ……はぁ……」

エルフ「……」

賢者「おーぅ。お嬢ちゃんたちぃ。こんな夜更けになにやってんだぁ?」

戦士「……何でもありません」

賢者「うそいうなよぉ。寝れないなら、俺の相手でもしてくれやぁ」

戦士「申し訳ありません。もう休みますから」

エルフ「あ……」

賢者「そうかい?―――お嬢ちゃん、昔のことで今生きているやつを責めるのは間違ってねえかい?」

戦士「……」

賢者「可哀想だろぉ?責めるなら、今生きているやつがやらかしたことだけにしてやれよ」

戦士「あなたに……私の気持ちは……わからない……」

賢者「……そうかい」

戦士「そうですよ」

戦士「おやすみなさい」

賢者「……わりいな。親も姉も亡くしたんだよ」

エルフ「責められるのは慣れてるから」

賢者「しかし、お前さんも勇気あるなぁ。嫌われてるってわかってんだろぉ?」

エルフ「ボクだってできれば一定の距離を保っていたいけど。明日からのことを考えて話しておいたほうがいいって言われて」

賢者「兄ちゃんにか?余計なお世話だっていってやれよ」

エルフ「でも、どうしてボクと話をさせようとしたのかは今ので分かった」

賢者「……」グビグビ

エルフ「両方を恨む気持ちは分かるからね」

賢者「両方から恨まれてたからかい?」

エルフ「うん。今は、もう事情が違うけど」

賢者「お嬢ちゃんのことを汲めるのはお前さんだけかもなぁ」

エルフ「そんなことないと思うけど?」

賢者「おっさんには若い子の気持ちはわかんねえんだよぉ」

エルフ「嘘ばっかり。『賢者』なら容易のはずだよ。エルフから伝わる全ての魔法を熟知しているんだから」

―――自室

戦士「はぁ……」

戦士(私らしくなかった……。少し、気が立ってるみたい……)

戦士(殆ど初対面の人にあんなに声を荒げちゃうなんて……)

戦士「明日、出発前に謝っておかないと」

コンコン

戦士「はい?」

賢者「俺だぁ」

戦士「……なんですか?」

賢者「明日は早いからもう寝ろよぉ?」

戦士「分かっています。貴方と一緒にしないでください」

賢者「そうそう、エルフのお嬢ちゃんは気にしてないってよ。こっちが悪いんだからお嬢ちゃんの怒りは尤もだ。って言ってぜぇ?良い子だなぁ」

戦士「……そうですか」

賢者「おーぅ。おやすみ、お嬢ちゃん。また、明日なぁ」

戦士「おやすみなさい……」

―――翌朝

青年「その耳なんですけど、そろそろ甘噛みさせてくださいよ」

エルフ「嫌だ」

青年「そんなこといわずぅ……ふぅー」

エルフ「うわぁ!?」ゾクッ

青年「やはり性感帯なんですね」

エルフ「やめてってば」

青年「嬉しいくせにぃ」

エルフ「急にされたらびっくりするんだって」

戦士「あ……」

青年「おはようございます。早いですね」

戦士「え、ええ……」

エルフ「おはよう」

戦士「あの……昨日は……」

エルフ「ボクたち今から朝食取りに行くんだけど、一緒に行く?」

―――食堂

青年「裏メニューを」

ガイコツ「はいよ。パンティー丼はいりましたぁ」

エルフ「なにそれ?布なんて食べるの?」

青年「冗談です。そんなのありませんよ」

エルフ「……」

青年「3年前から腕上げましたね、大将」

ガイコツ「アンタには敵わないね」

戦士「……」

エルフ「はい」

戦士「ありがとうございます」

エルフ「昨日のことなら……」

戦士「いえ……私のほうこそ……」

ガイコツ「旦那、何かあったんですか?」

青年「この雰囲気……側室同士で愛を確かめあったようですね。これはいけない。僕の興奮度が200ポイント上昇しましたよ」

ガイコツ「ほほぅ……なるほど、なるほど……」

エルフ「違うから」

戦士「……」

青年「冗談はさておき。これからのことを話しましょうか」

ガイコツ「冗談ですかぁ!?ひぇぇ!!だまされたぁ!!くぞぉ!!これだからニンゲンは信用できねえ!!!」

青年「騙されるほうが悪いんだよぉ!!」

戦士「こ、これからってなんですか?」

青年「我々は貴方の国へいき、王女様と謁見。その後、砂漠地帯へと向かいます」

エルフ「……なんか、ボクだけ働いてるような気がするんだけど」

青年「何を仰いますか。キラちゃんのがんばりを見習ってください」

エルフ「スタミナの概念がない子を引き合いに出されても……」

戦士「我々って……あの……」

エルフ「ボクも一緒。理由はよく分からないけど」

戦士「そうですか……」

エルフ「うん」

青年「―――ご馳走様でした」

ガイコツ「ありがとぉー!!!」

戦士「……」

エルフ「あと何時間後ぐらいになるの?」

青年「そうですね、2時間ほどではないでしょうか」

エルフ「そっか」

戦士「部屋に戻ります」

青年「では、僕たちも愛の巣へ行きましょう」

エルフ「どこにあるの、それ?」

戦士「……それでは」

青年「はい」

エルフ「大丈夫かな……。色々、溜め込んでるみたいだけど」

青年「大丈夫ですよ」

エルフ「どうして?」

青年「僕が選んだ女性にハズレはないですからね」キリッ

―――港

キャプテン「ダーリン!!!」ギュゥゥゥ

青年「よしよし。可愛いやつめ」

ゾンビ「うー、おにーちゃん、あぃしてるぅ」ギュゥゥ

キャプテン「ぎゃぁ?!」

ガイコツ「姉さん、船に乗せてくださいよ」

キャプテン「やだやだ!!!やだよぉ!!」

青年「いい加減慣れてあげてはどうですか?」

キャプテン「そ、そんなの……できるわけ……ないだろぉ……」ガクガク

ゾンビ「うー?」

キャプテン「ひぇぇぇ!!ダーリン、守ってぇ……」

青年「困りますね。将来、同じベッドで寝るかもしれないのに」

キャプテン「それだけはやめておくれよぉ……」

エルフ「相変わらず、アンデッドの魔物は駄目なんだ……」

戦士「あれ……あの人は……?」

賢者「おーぅ。まってくれぇ」

戦士「何をしていたんですか?」

賢者「酒が無いと船旅は盛り上がらないだろぉ?」

キャプテン「酒ならいっぱいあるのに」

賢者「マイ酒もいるんだよぉ」

キャプテン「そんなもんかい」

戦士「さぁ、行きましょう。王女様も待っているはずですから」

青年「そうですね」

ゾンビ「うー!」

ハーピー「魔王!!どこに行くつもりかえ?!」

ゾンビ「えー?」

ハーピー「全く……魔王は座していなければならぬと何度いえば……」ガシッ

ゾンビ「あー!?」

青年「またね……。すぐに会えるから……」

ソンビ「あぅー!!おにぃちゃーん!!!」

ガイコツ「魔王ちゃーん!!まってくれー!!!」テテテッ

キャプテン「はぁ……助かった……」

戦士「彼らのことが苦手なんですか?」

キャプテン「見た目、怖いだろ?」

戦士「まぁ……」

キャプテン「これでも好きになる努力はしてんだけどねぇ……。あの見た目がどうしても……ねえ……」

戦士「努力?……何故ですか?」

キャプテン「良い子なのは十分知ってるからね。悪い子じゃないんだよ」

戦士「彼女らも人間を殺したのにですか?」

キャプテン「昔の話は好きじゃないのさ」

戦士(どうしてこの人たちは、そう簡単に割り切れてるの……。おかしいよ……)

賢者「……」グビグビ

青年「さぁ、出航です!!」

エルフ「おー」

キャプテン「錨をあげろぉ!!帆をはりなぁ!!!―――出航!!!」

―――甲板

戦士「……」

エルフ「風が気持ちいいね」

戦士「昨日のことは……謝ります」

エルフ「いいって。歴史的に見ても、ボクたちに原因があるのは明白だから」

戦士「でも、私はどうしても貴方達を好きになることはできません」

エルフ「……」

戦士「いくら貴方達に害がないと言っても……」

エルフ「当然だよ」

戦士「……」

エルフ「戦争してたんだしね。家族を亡くしたのなら、尚更じゃないかな」

戦士「……そのこと、誰から?」

エルフ「君の相棒だけど?」

戦士(話した覚えなんて……ないけど……)

エルフ「……昨日の続きってわけじゃないけど、ボクもニンゲンは嫌いだよ。今でも」

戦士「え……」

エルフ「大嫌い。というか、殆どの魔族は今でもニンゲンのことは嫌いだと思う」

戦士(噛み付いた魔物もいたし……)

エルフ「ボクの場合は、小さい頃から「ニンゲンは最低な生き物だ」って言われて育てられてきたからっていうのもあるけど」

戦士「……私がこうして兵士になったのは、仇を討ちたかったからです」

エルフ「……」

戦士「家族を殺した魔王をこの手で……。そう思って、私は剣を握った……。だから……」

エルフ「ニンゲンはボクたちの技術を貪欲に欲して、そして力に溺れた。その上、ニンゲンはエルフを商品にまでする。だから、ニンゲンは最低だ」

戦士「そのような輩ばかりでは―――」

エルフ「知ってる。向こうにいる奴がそれを教えてくれた」

青年「あー、キャプテンの膝枕最高ですねー」スリスリ

キャプテン「ふふ、そうかい?」

勇者「いい匂いもしますし」クンクン

キャプテン「ダーリンったら……もっと嗅いでくれていいんだよぉ?」

エルフ「……今はなんか駄目な奴だけど、でもニンゲンが全部悪いんじゃないっていうのは3年前に知ったから。だから、こうしてここに居る」

>>257
勇者「いい匂いもしますし」クンクン

青年「いい匂いもしますし」クンクン

戦士「だから、憎むなと?」

エルフ「憎んでいいよ。嫌いでもいい。でも、信頼はしてほしい」

戦士「……」

エルフ「難しいと思うけど。そうしてくれたら、ボクも嬉しいかな」

戦士「私が貴女を信頼したら、何かあるのですか?」

エルフ「ボクたちを信頼してくれる人が増えたら、エルフ族も隠れて過ごさなくていいからね」

戦士「どうして?」

エルフ「信頼してくれる相手を信頼しないわけにはいかないじゃん」

戦士「……そうですね。努力してみます」

エルフ「うんっ。それじゃあ、また後で」

戦士「ええ……」

青年「あ、貴方の膝枕も堪能したいのですが」

エルフ「やだよ」

青年「おねがいしますよぉ」

戦士(憎んでいてもいい……嫌いでもいい……でも、信頼してほしい……。難しいな……)

―――街 港

キャプテン「ダーリン、あたしらは今から漁に出るけど、帰りはいつになるんだい?」

青年「今のところ未定です。なので、迎えに来て欲しいときは連絡しますから」

キャプテン「そうかい?わかったよ。気をつけてね」

青年「はい」

賢者「あー、久々だなぁ、おい。お嬢ちゃんと最初に寝た街じゃねえか」

青年「貴様……我が側室に手をつけたと申すか……?」

戦士「一緒の宿で寝ただけでしょう?!」

エルフ「あれ?この街って……」

青年「少し休憩にしましょう。僕は正妻探しに行ってきます」

戦士「正妻をナンパする気ですか?」

青年「なにか、問題でも?側室は既に揃ったので、あとは妻だけです」

戦士「別に……。って、私もカウントしてますよね?!」

青年「待っていて!!将来のお嫁さん!!!」

賢者「おれぁ酒場にいってくらぁ」

戦士「もう……。男はどうして……」

エルフ「ボクたちはどうする?」

戦士「あ……」

エルフ「買い物も別にする必要ないしね」

戦士(気まずいなぁ……)

エルフ「そうだ。傭兵登録所にいこ」

戦士「どうしてですか?」

エルフ「今、知り合いがそこで働いてるから」

戦士「知り合い?」

エルフ「こっちだよ」

戦士「あ、ちょっと……」

エルフ「どうかした?」

戦士「人間のこと嫌いなんじゃ……」

エルフ「嫌いだけど、貴女のことを嫌いになるかどうかはまだわかんないよ」

戦士「そ、そうですか……」

―――傭兵登録所

エルフ「ここのはずだけど……」

戦士「同じエルフなんですか?」

エルフ「ううん。違うよ。すごく可愛い子。名前は色々あるけど、私はガーちゃんって呼んでる」

戦士「が、がーちゃん?」

エルフ「どこかな……?」

青年「へぇ、そうなんですかぁ」

戦士「え?」

エルフ「あ」

青年「それからどうしたんだ?ん?」

少女「えーと……そんなこといわれてもぉ……」

青年「しっかり、教えてくれ……もっといやらしく言うんだぞ……」

少女「実はぁ……私ぃ……」モジモジ

戦士「注意してきます」

エルフ「あ、ちょっと待ってよ」

戦士「店員が困っているではないですか」

青年「おや?」

少女「いつぞやの。勇者とは会えたようですね」

戦士「ええ。ありがとうございます」

エルフ「ガーちゃん、久しぶり。3ヶ月ぶりかな?」

少女「お久しぶりです。正確には最後に会話してから2ヶ月と25日が経過しています」

戦士「え?この店員がガーちゃん……?」

少女「はい。正式名称はキラーマジンガ。通称、キラちゃん、ラーちゃん、マーちゃん、ジーちゃん、ンちゃん、ガーちゃんです。お好きな名で呼称してくれてかまいません」

戦士「えっと……」

青年「簡単に言えば僕の娘です」

少女「こちらが私のパパです」

青年「娘ぇ!!」ギュッ

少女「パパァ!!」ギュッ

青年「ほらね」

戦士「意味が……わかりません……。って、貴方、子持ちだったんですか!?」

青年「まぁ、そんなところですね」

戦士「正妻がいるんじゃないですか……?」

青年「キラちゃん、ありがとう。引き続き、お願いしますね」

少女「了解しました」

戦士「……全然、似ていませんが」

青年「貴女の目は節穴ですか?」

戦士「はい?だって、似ているところがどこも……」

青年「ふっ。親子は見た目じゃないんですよ。どれだけ心で繋がっているかです!!な?!」

少女「はい。その通りです。親子の真髄は以心伝心です」

青年「おーい、あれだ、あれ、とってくれよ」

少女「また?もう……はい、脱ぎたての下着」

青年「よくわかってるじゃねえか」

少女「3年も貴方の娘をしていますから」

戦士「……あの」

エルフ「気にしないで。ガーちゃんは素直だから、言われたことをそのまま実行するの」

戦士(素直っていうか……機械的な……)

青年「では、そろそろ出発しましょうか」

エルフ「ガーちゃん、メンテナンスは大丈夫?」

少女「はい。問題はありません。それよりもマスターが最近、会ってくれないのが不安です。私は廃棄されていませんか?」

エルフ「大丈夫、大丈夫。忙しいだけだから」

少女「よかった」

青年「あの人は酒場ですね?」

戦士「ええ。そこしか行くところはないと思います」

青年「よーし。迎えにいきましょうか」

戦士「あの……一体、貴方がいくつのときに生まれたんですか?見た目は10歳前後っぽいですけど……」

青年「キラちゃんはまだ3歳ですよ?もうすぐ4歳になりますけど」

戦士「は……?」

青年「また会いに来るからなぁ!!娘ぇ!!!」

少女「まってる!!私、ずっとまってるからぁ!!パパぁ!!すきだよぉ!!!―――別れの投げキッス!!」チュッ

戦士(もしかして勇者って……人間じゃないのかな……?)

―――フィールド

賢者「なにぃ?4歳になる側室があの街にいたのかよぉ!?みたかったぜぇ……」

戦士「すごく大きいですよ?」

賢者「へえ。巨体なのか」

戦士「そういうんじゃないですけど」

エルフ「で、何か新情報はあったの?」

青年「胸が膨らまないことに違和感があるそうです。今度、増量してあげてください。少しだけでいいですよ?」

エルフ「ほかには?」

青年「なんでも、人攫いの組織の拠点が近くにあるそうです」

エルフ「……人攫い……」

戦士「ここの地域に吸血鬼のような魔物がいるんですか?それは放ってはおけません。王女様に報告しないと」

青年「残念ですが、違います」

戦士「え?」

青年「今度は人間が人間を攫っているようですね。その目的は不明ですが」

戦士「な……」

エルフ「売買目的じゃないの?」

青年「キラちゃんもその筋を当たったそうですが、人間が裏で流通している事実はないそうです」

賢者「えらくきなくせえなぁ」グビグビ

戦士「待ってください。それは……」

青年「吸血鬼のときとは違い、老若男女分け隔てなく攫われているようですね。隣国でも同じように行方不明者の数は増大しているようです」

戦士「……」

青年「人間も魔物と変わりません」

戦士「そんなこと言わないでください。貴方は人間の代表なのに」

青年「代表?」

戦士「勇者でしょう」

青年「そうでしたか?」

エルフ「違うんじゃないかな」

青年「らしいです」

戦士「あの女の子が勇者って言っていたじゃないですか!!」

青年「キラちゃんは僕を勇者と認めてくれています。何せ、愛娘ですからね。当然です。でも、こちらの側室3号室は僕のことを認めていません。悲しいことです」

賢者「もう部屋割りは決まってるのか」

青年「はぁい」

エルフ「部屋は広くしてくれないと嫌だから」

戦士「何が言いたいんですか」

青年「勇者なんてただの肩書きです。魔王もそうです。誰もが認めているわけではなかったでしょう?」

戦士「それは……」

青年「貴方が決めてください。僕は勇者か。それともただの爽やかな紳士か。それとも貴方だけの王子様か」

賢者「ハハ……兄ちゃん、やっぱり諦めねえんだな」

青年「側室10号室は、貴女しかいません。エロいし」

戦士「エロいってなんですか!?」

青年「見た感じですよ」

戦士「はぁ?!」

エルフ「でも、まぁ王女様にお願いできるならそうしよう。捜索も楽になるし」

青年「ですね。では、陳情する際はお願いします」

戦士「はい……」

青年「しかし、王女様も随分と美人なんですよね。これはもしかして、正妻候補になるやもしれません」

エルフ「ふーん」

青年「興味なしですか?」

エルフ「うん」

青年「そんなバカなぁぁぁ!!!おのれ!!エロフ!!!1年前、君が酒に酔って不覚をとったこと言いふらすぞ!!」

エルフ「それ言ったら、絶交するけど」

青年「嘘ですよぉ。僕がそんな軽薄が男に見えますか?」

エルフ「別に見えないけど、一応釘は刺しておかないと」

戦士「……」

賢者「兄ちゃんはただの肩書きだってことを理解してるな」

戦士「なんですか、いきなり」

賢者「あいつはお嬢ちゃんが思い描いているような勇者じゃない。そんなのここ数日の行動をみてりゃあ、わかるだろ?」

戦士「……」

賢者「今はまだ受け入れるのが怖いんだな。恨んできたはずの悪者たちが、みんないい奴に見える。恨みだけで強くなったお嬢ちゃんにとっては、怒りの矛先が折れちまうんだから、そら怖いわな」

戦士「……貴方は誰ですか?」

賢者「賢い酔っ払いだぜぇ?」

戦士「私のこと、どこで知ったんですか?義父さんから聞いたんですか?」

賢者「それもある」

戦士「それも?他にもあるんですか?」

賢者「さぁ、どうだろうなぁ」

戦士「……」

賢者「分かってるだろぉ?俺がどうしてここまでお嬢ちゃんのことを知っているのか」

戦士「ずっと疑問でした。何故、心で浮かべた問いに貴方が答えるのか……。そうですか、貴方は……」

賢者「賢いだけじゃ、ねえんだぜぇ」

青年「流石は『賢者』。全ての魔法に精通しているというのは伊達じゃないですね」

賢者「まぁな」

戦士「他人の心を読むのは、貴方の趣味ですか?」

賢者「……そんな悪趣味はもってねえよ」

戦士「なら、何故」

賢者「年取ると、色々あるんだよ……色々なぁ……」

戦士「……」

賢者「気持ち悪いっていうのはよくわかる。俺も自分でそう思うしなぁ」

青年「待ってください」

戦士「なんですか?」

青年「これには訳が―――」

賢者「おーぃ。兄ちゃん。余計なこというなぁ」

青年「しかし」

賢者「いいんだよぉ。どうせ、街に着けばお役御免だからなぁ」

青年「いいのですか?」

賢者「おう」

エルフ「……」

賢者「お、街が見えてきたな。そろそろ、俺ぁ失礼させてもらうぜぇ。兄ちゃん、お嬢ちゃんをよろしくなぁ」

青年「……はい」

戦士「……」

賢者「あー、ケツが痒いぜぇ。早く帰って、酒をたらふくのむかぁ」

―――城下町

戦士「あの人が心を読んでいること、知っていたんですか?」

青年「はい」

戦士「そうですか……」

青年「咎めないのですか。貴女に黙っていたこと」

戦士「深い事情があったのでしょう?」

青年「いえ。貴女に嫌われたくなかったかららしいですよ?」

戦士「はい?」

青年「心を読まれていると分かれば普通の人は怖がり、気持ち悪がるでしょう?」

戦士「当然じゃないですか」

青年「そうなったら、契約を即打ち切られる。そう判断したから話さなかったんですよ。契約を切られたらお酒が飲めなくなりますからね」

戦士(私の性格を読み取っていたから、話さなかったわけか……)

エルフ「でも、どうして心を読む魔法を使ってたの?スパイかなにかだったとか?」

青年「呪いの影響だそうです。昔、魔物にかけられた呪いの所為で、周囲の心の声が聞こえてくるようになったと言っていました」

エルフ「『賢者』でも解呪できない呪いか……」

青年「でも、心の声が聞けるって悪いことばかりではないように思うんですよね」

エルフ「なんで?」

青年「貴女のような人の心は覗いてみたいですからね」

エルフ「ボクの心?」

青年「きっと貴女のことだ。子供には聞かせられないほど淫猥な側室ライフを想像しているのでしょう?ああ、覗きたい。聞きたい。貴女の破廉恥な心の叫びを」

エルフ「あっそ」

戦士「でも、どうしてそのような残酷な呪いを受けたんですか?」

青年「それだけ魔物の恨みを買ったんでしょうね」

戦士「恨みを……?」

青年「さあ、そろそろ行きましょうか。王女様も待っていますし」

戦士「そ、そうですね。急ぎましょう」

青年「僕のダッチワイフになってくれる王女様なら、いいなー」

戦士「不敬ですよ!!」

青年「おっとっと。申し訳ありません。気が早いですよね。僕ったらうっかり者なんだから」

戦士「王女様の前でそんな発言だけは絶対にしないでくださいね……」

―――城門

戦士「私です。王女様の任を終えて戻ってきました」

兵士「お疲れ様。兵士長も心配していたぞ」

戦士「今から王女様に謁見できますか?」

兵士「暫く待ってくれ。今、他国の姫君が来賓中でな」

青年「姫君ですか?」

兵士「近隣国との交友関係を重視している姫様のことです。戦争の無い世界の実現を掲げている姫君は知っているでしょう?」

青年「なるほど……。側室7号か」

エルフ「お姫様を側室っていうのやめたほうがいいんじゃないの?」

青年「だって、姫様が側室でもいいと」

戦士「お知り合いですか?」

青年「以前、お話したでしょう?僕の側室には一国のお姫様もいると」

戦士「ああ……そういえば……」

エルフ「会ってく?」

青年「いえ。向こうは公務中ですし、会っても無視されて終わりです。無視されるのは悲しいので、ここは姫様が帰るまで待ちましょう」

戦士「では、城内で待っていてください。良ければ案内もしますが」

青年「いいのですか?やったー。貴女の生まれたままの姿が拝める部屋に案内してください」

戦士「行きましょう」

エルフ「うん」

青年「待ってくだいよぉ」

戦士「……」キョロキョロ

エルフ「誰か探してるの?」

戦士「え?ああ、その……兵士長を……。帰還の一報を入れておきたくて」

エルフ「なら、まずはその人から探そうか」

戦士「ありがとうございます」

エルフ「いいよ」

戦士「……」

青年「わぁー。すごーい。メイドさんがいっぱいいるぅー」

エルフ「珍しくないじゃん」

青年「メイドさんですよ、メイドさん。貴女も将来はああいう服を着てくださいね」

エルフ「はいはい」

青年「よっし。今、はいって言ったから、これは確定ですよ」

エルフ「わかったってっば」

戦士「あ……。兵士長!!」

兵士長「ん?おぉ!!いつ戻ったんだ!?」

戦士「今、戻りました」

兵士長「そうか、そうか!!怪我はないか?風邪引いて無いか!?」

戦士「うん。あ、いえ。大丈夫です」

兵士長「それで、勇者は見つかったのか?」

戦士「一応……。あの方です」

兵士長「あの方……」

青年「うわぁ、女の兵士さんもいっぱいいるー。でも、ビキニ鎧じゃないなぁ。わかってないなぁ」

エルフ「他の人も見てるから、あまりジロジロ見ちゃ駄目だってば」

兵士長「あの方……か?」

戦士「そう。信じられないだろうけど……」

兵士長「勇者殿、とお呼びしても?」

青年「今は元勇者ですが、呼びやすいのであればそれでも構いません」

兵士長「元とはどういう意味でしょうか?」

青年「この世にはもう勇者という肩書きを持った人間は不必要だ。ということですね」

兵士長「なるほど。その考えには共感できます」

青年「ところで、貴方は?」

兵士長「この城で兵士長を務めている者です。そして、この娘の父親代わりも兼任している」

青年「ほう……。では、貴方に言いたいことがあります」

兵士長「なんですかな?」

青年「娘さんを僕にください!!!」

兵士長「な……!?」

戦士「義父さん!!この人のいうことに耳を傾けないで!!!」

青年「僕は真剣です!!!娘さんをください!!!もう相思相愛なんです!!!」

兵士長「むむ……。まさか、この短い期間で娘が大きく成長して帰ってくるとは……!!」

エルフ「ふわぁ……ねむい……」

戦士「相思相愛ってなんですか?!」

青年「熱い夜も過ごしたじゃないかぁ!!!マイハニー!!!」

戦士「過ごしてない!!!」

兵士長「くっ……。わが子のように育ててきて……大切に大切に成長を見守ってきたが……とうとうこの日が来てしまったか……」

戦士「義父さん、違うから!!」

兵士長「勇者殿に見初められるとは……。勇者殿」

青年「はい」

兵士長「真剣なのですね?」

青年「はぁい」

戦士「嘘だ!!側室にするって言っていたでしょ!?」

兵士長「側室?……どういうことだ?」

青年「僕は勇者ですよ?女の10人ぐらい手篭めにできないで、どうするというのですか?勇者の価値は女の数で決まるんですよぉ。常識でしょう」

兵士長「ぐぐ……しかし、娘がそれで幸せになるのか……?!」

青年「なりますよ。もう、僕のテクニックなら毎晩のように昇天ですし。顔も幸せそうな感じに歪むこと請け合い」

戦士「何を言っているんですか!!義父さんの前で!!!」

兵士長「お前はそれでいいのか?」

戦士「側室なる気なんて更々ないから!!」

青年「嘘ばっかり。でも体は正直ですね。その洗練されたプロポーションは僕と添い遂げるために用意したのでしょう?」

戦士「違う!!」

王女「―――騒々しいですね。大切なお客様もいるのですから、城内では静粛に」

兵士長「お、王女様!!失礼いたしました!!」

戦士「王女様。ただいま戻りました」

王女「あら、貴女……。勇者は見つかったようですね」

戦士「は、はい」

王女「初めまして」

青年「……どうも。噂に違わぬ、美貌ですね。ペロペロしたいです」

王女「ふふ。噂通り面白い方ですね。後ほど大切なお話があります。私の部屋まで来ていただけますか?」

青年「仰せの通りに」

姫「王女様。私はそろそろ―――あ」

青年「やぁ」

兵士「姫様、お時間です」

姫「……っ」プイッ

青年「お」

姫「参りましょう」

兵士「はっ」

エルフ「無視されたけど、良かったの?」

青年「公務中ですからね」

王女「本日は我が城まで足を運んでいただき、ありがとうございます」

姫「いえ。永続同盟の話をどうしても聞いていただきたかったので」

王女「私としましても争いのない世界は是非とも実現させたいので、前向きに検討させていただきます」

姫「感謝いたします。それでは、ごきげんよう」

王女「はい。道中、お気をつけて」

戦士(あの姫君も側室……?それにしては一瞥もなかったけど。みんながみんなが慕っているわけでもないのかな)

王女「貴女も勇者様と一緒に私の部屋まできてください。お礼もしなければなりませんからね」

戦士「そんな。私は王女様の命に従ったまでのことです」

王女「労いは必要でしょう」

戦士「身に余る光栄です」

王女「では、勇者様。後ほど」

青年「はい」

兵士長「俺も鼻が高いなぁ……うぅ……王女様から労いを賜るなんて……くくぅ……」

戦士「義父さん、大げさなんだから」

兵士長「大げさなものか。兵士としてこの上ない褒美だぞ。よくやったな」

戦士「……ありがとう」

エルフ「ボクはどこに居たらいいかな?流石にボクまで一緒にはいけないだろうし」

青年「その辺でも見ていてくださいよ。見学ぐらいはいいですよね?」

兵士長「ええ。構いません。ご自由にどうぞ。ただ、王族と側近以外入れない場所もありますのでその点はご了承ください」

エルフ「うん。わかった」

青年「それでは散歩しながら行きましょうか」

戦士「散歩って……」

エルフ「いってらっしゃい」

―――通路

青年「実はあまり城内を散策などしたことがなくて」

戦士「国選ばれた勇者ならば自由に出入りできるでしょう?」

青年「昔は訓練場と宿舎の往復でしたね。任務といえば近場の魔物を狩りに行ったり、城門の見張りとかそういうのだけでした」

戦士「……」

青年「あまり、城には良い思い出がありません。ですが、今日は貴女と一緒に城内デート。これは一生の思い出になるでしょうね」

戦士「それはどうも」

青年「嬉しいですか?」

戦士「別に」

青年「僕は君のことが大好きだぁ!!!!だから嬉しいです!!」

戦士「な?!」

ザワザワ……

青年「うおー!!」

戦士「何をいきなり叫んでるんですか!!」

青年「こうして既成事実を作ってしまえば、貴女は側室にならざるを得ないでしょう?」

戦士「馬鹿ですか?!」

青年「馬鹿です」

戦士(この人、嫌い……)

兵士「勇者さま」テテテッ

青年「え?」

戦士「貴女は……?」

兵士「私です」

青年「な?!なんて恰好を!!」

戦士「姫様ですか!?」

兵士「しーっ。側近のかたに頼んでお忍びでここまできたので」

青年「兵士の鎧を着て、警備の目を盗んだんですか?」

兵士「だって、勇者さまが居たんですもの。公務でなければ先ほど飛びついていたところですよ」

戦士(すごい惚れよう……。この人が一番、彼のことを好きなんじゃ……?)

青年「姫様。あまり側近を困らせるようなことはしないでください。怒られるのは結局、自分ですから」

兵士「でも、私だって好きな人の傍に居たいのです。分かってください」

青年「姫……」

兵士「勇者さま……」

戦士「あの。いくらその恰好でも、ここでは目立ちますから」

兵士「あ、申し訳ありません。勇者さま、以前のお話は考えてくれましたか?」

青年「まだやるべきことがあるので。答えはすぐに出せません。ですが、必ず貴女を側室に」

兵士「待ってます。絶対に迎えに来てくださいね。ペガサスとかそういうのに乗ってきてくれるんですよね?」

青年「ええ。ペガサスの馬車にのって、ハネムーンです」

兵士「ふふ、楽しみです」

戦士「……」

兵士「では、そろそろ戻りますね。私も勇者さまが迎えに来てくれるまでは、自分にできることをします」

青年「ええ。貴女ならできますよ。永続同盟もきっと」

兵士「勇者さま、愛しています」

青年「はい」

兵士「それではっ」テテテッ

戦士「あそこまで言われているのに、側室扱いなんですか?」

青年「姫様が側室でもいいというので」

戦士「正妻にしてあげては如何ですか?」

青年「確かに姫様の執念というか、僕への愛は凄まじいんですよね」

戦士「何かあったんですか?」

青年「世界でただ一人、勇者を自力で探し出した人ですからね」

戦士「え?」

青年「貴女も王女様に探すように言われるまでは海賊艦隊が魔王を討ったと信じていたでしょう?」

戦士「ええ……。当時からそのように報道されていましたし」

青年「そのあと僕は最後の側室を探しながら脱走したキマイラを追うために各地を点々としました。まぁ、僕の顔を知っている人は限られていたので、普通に過ごしても指をさされることもありませんでしたけど」

戦士「世間一般の英雄は海賊のほうですからね」

青年「勇者でなくても魔王を倒せるそう世界に伝えることに意味がありましたから」

戦士「……それで貴方は隠居を?」

青年「隠居ではないですよ。素性を隠して側室を探し、魔物の調査も行っていました。故に僕の居場所を知っているなんて、姫様を除く可愛い側室たちぐらいでした」

戦士「姫君に教えなかったんですか」

青年「彼女も魔王は滅びたと信じていた人です。キマイラという不安要素を伝えないための措置だったんですよ。ですが、僕は姫様を甘く見ていた」

青年「兵力の過半数を僕の捜索のためだけに使ったのです。兵士たちも姫のためならばと躍起になっていたというのもあるのですが。当時はキャプテンのところにすごい数の兵士が来たとか」

戦士(ああ。それでキャプテンは私と会ったとき、私みたいなやつがよく居たって言ってたのか……)

青年「今から1年前ぐらいですか。小さな山村に居た僕を見つけた姫様は、こういいました」

青年「『勇者さま。お怪我はないですか?』と。涙を流していましたね」

戦士「……」

青年「流石に心配をかけすぎたなと反省しました。それからは定期的に連絡を入れています。無論、僕の存在は世間には伏せてもらっています」

戦士「結婚してあげてください。お願いですから」

青年「でも、今から王女様との縁談がありますからねえ」

戦士「それはそうですけど……でも……」

青年「……それに聞きたいこともあります」

戦士「え?」

青年「貴女が僕のところへ来たときから、王女様にはどうしても質問したいことが一つだけありました」

戦士「それは……?」

青年「行きましょう」

戦士(顔つきが変わった……。あんな真剣な顔もできるんだ……)

―――王女の部屋

王女「遅かったですね。城内の散策でもしていたのですか?」

青年「ええ。とても美しい城ですね。王女様の前には霞んでしまいますが」

王女「ふふ。お上手ですね、勇者様。それにやはり私に相応しいほどの美をお持ちです」

青年「何を言いますか」

王女「それから、貴女も。大変でしたでしょう?」

戦士「いえ。そんなことはありません」

王女「そうなのですか?」

戦士「はい」

王女「そう……」

青年「王女様。自分を夫にしたいというお話ですが……」

王女「ええ。私の美しさに釣り合う殿方は、勇者様以外いませんからね」

青年「ほほぅ。光栄の極みですね」

王女「異論はないでしょう。さぁ、私と契を……」

青年「その前に関白宣言をさせて頂きたいのですが。よろしいでしょうか?」

戦士「何を言っているのですか!?」

王女「聞きましょうか」

戦士「王女様!?」

王女「勇者様ですもの。それぐらいの発言権は与えても構いません」

青年「それはどうも。では、言いますよ?メモの準備はいいですか?」

王女「メモ、お願いできますね?」

戦士「は、はい!!」

青年「一つ、俺よりも先に寝てはいけない。一つ、俺より後に起きてもいけない」

戦士「……」メモメモ

青年「一つ、メシはうまく作れ。一つ、いつも綺麗でいろ」

戦士「えっと……メシは……って、王女様に料理をさせる気ですか!?」

青年「一つ、つまらない嫉妬はするな。一つ、浮気はする。覚悟しておけ」

戦士「あ、えっと……嫉妬はするな……って、何を言っているんですか!?!王女様になんて無礼な!!!」

青年「貴女も。俺の側室になるなら、これぐらいは守れ!!!いいな!!!」

戦士「はい!?どうして?!」

青年「あーん?当然のことだべ?」

戦士「私は関係ないでしょう?!」

青年「あれですよ。もう、貴女を椅子に縛り付けて、目の前で他の側室とイチャイチャとかしますからね」

戦士「それに何の意味が?!」

青年「それぐらいで嫉妬されては困るので、訓練です」

戦士「なんの訓練にもならないでしょう?!」

青年「なりますよ。その内、私も旦那様とチュッチュしたのですぅ~、っていいながら僕に迫ってくるんですよ」

戦士「どういう過程を辿ればそうなるんですかぁ?!」

王女「……勇者様?」

青年「なんですか?」

王女「その発言は、私との婚姻はない。そう解釈してよろしいのですか?」

青年「いえいえ。貴方ほどの美しいかたとなら即座に子作りに励み、この国を勇者の子孫で埋め尽くしてもいいと思っていますよ」

王女「なら、貴方のいうことは却下です。何故、私がそのような制約を課せられねばならないのですか」

戦士「その通りです。いくら勇者だからと言っていいことと悪いことが……」

青年「そうですか。では、これだけは守ってもらえますか?―――僕のことを誰から聞いたのか、教えてください」

戦士「え……」

王女「……」

青年「僕が勇者であることも初めから知っていたようですが。どこかでお会いしましたか?」

王女「何を言っているのですか?」

青年「先ほど、貴方は迷いなく僕に挨拶しました。あれは顔見知りで無いと起こらないでしょう。彼女の後ろには僕ともう一人、美人な女性がいたんですから」

戦士(なに……どういうこと……)

王女「貴方のことは本日来られていた姫様から聞いていました」

青年「残念ながら、姫様は僕の側室です。そして僕が魔王を討伐したことをずっと伏せていた。それは僕の考えを察してくれていたからです。今更誰かにしゃべるようなことはないでしょうね」

青年「魔王と倒した英雄とは無関係の、勇者の話を振らない限りは」

王女「……」

青年「どこからの噂ですか?」

王女「そのようなことどうでも良いではないですか」

青年「そうは行きません。魔王の一件は意図があって隠していたことです。誰かに教えてもらったのなら、その誰かを教えてください。噂で聞いたというならどこでその噂を聞いたのか教えてください」

青年「でなければ、非常に残念ですが、貴方と婚姻を結ぶことはないです。とても恐ろしいので」

戦士「もうやめてください!!不敬罪になりますよ?!」

青年「どうなのですか?」

王女「……」

戦士「やめろといっている!!」

青年「……」

戦士「……やめてください……私は……ここの兵士なんです……」

青年「……では、もう一つ。各地で増加の一途を辿っている行方不明者のこと。王女様はご存知でしょうか?」

王女「ええ。当然です」

青年「何か対策は?」

王女「無論、とっていてます。貴方に言われるまでもなく」

青年「効果が出ているようには思えませんが」

王女「……貴女」

戦士「は、はい」

王女「勇者様はおかえりになられるそうです。お見送りを」

戦士「しかし……」

青年「……失礼しました。では、お元気で」

―――廊下

青年「ふむ……」

戦士「なんてことを言うのですか?!」

青年「申し訳ありません。ずっと気になっていました」

戦士「ああいうことは事前に話しておいてください!!」

青年「前もって貴女に告げていれば、僕を王女様に会わしてくれましたか?」

戦士「……!」

青年「貴女がとても真面目なのは知っています。きっと謁見の場すら設けてはくれなかったでしょう」

戦士「貴方は何を疑っているんですか……」

青年「王女様の後ろには何かがあるのでしょう。勇者のことを知っている誰か、あるいは組織が」

戦士「それで……?」

青年「その組織は誘拐を―――」

戦士「それ以上、言うなら……私は貴方を斬らないといけなくなります……」

青年「でしょうね。だから、今まで言えませんでした。本当に申し訳ありません」

戦士「……」

青年「気になるとすれば、見知らぬ相手は何故この状況を作りたかったのか。ということですね」

戦士「……」

青年「僕と王女様が会うことで事態が発覚することを想定していなかったとは思えませんし。王女様で僕を篭絡できるとか思っていたのでしょうか……?」

戦士「もうやめて……」

青年「……」

戦士「王女様を侮辱するのなら……」

青年「そうですね。貴方の立場ではそうするしかない」

戦士「……帰ってください」

青年「彼が居れば、王女様が何を想っていたのか分かるんですけどね」

戦士「二度は言いません」

青年「すいません。……では、失礼いたします」

戦士「……」

戦士(聞いてみないと……王女様に……)

戦士「……!!」

戦士(何を考えてるの……私……。王女様を疑うなんて……馬鹿げてる……)

兵士長「おう。どうだった?」

戦士「義父さん……」

兵士長「どうした?顔色が悪いぞ?」

戦士「義父さん、あの……」

兵士長「なんだ?」

戦士(違う……そんなわけない……。あんないい加減な人が言ったことを真に受けるほうがどうかしてる……)

戦士「な、なんでもない。王女様から褒めて貰ったから」

兵士長「そうか!いやぁ、自慢の娘だ。うんうん」

戦士「私……長旅で疲れたから休むね……」

兵士長「そうか。ゆっくり休めよ。3日ぐらいは休暇でいいからな」

戦士「ありがとう。それじゃあ」

兵士長「ああ」

戦士(勇者は自分かわいさに私の故郷を見捨てるような人だもの……)

戦士(魔物と仲良くしているやつの言うことなんて……信じない……)

戦士(信じられるわけ……ない……)

―――民家

戦士「……」

戦士(何で、こんなところに。用なんてないのに……)

賢者「―――おーぅ。お嬢ちゃん。どしたぁ?」

戦士「……!」

賢者「そうか……。ま、中に入れよ」

戦士「結構です」

賢者「お酌ぐらいしてくてもいいだろぉ?」

戦士「……違う……」

賢者「年取ってからよぉ、肩がよくこるんだ。肩たたきしてくれると助かるなぁ」

戦士「私は……」

賢者「一緒に酒でも飲もうぜぇ」

戦士「貴方はどこまで知っているんですか?」

賢者「少なくともお嬢ちゃんよりは、色々しってるぜぇ?無駄に歳食ってるし、賢いからなぁ、俺ぁ」グビグビ

戦士「お邪魔します……」

戦士「……」

賢者「信じてきたものが一気に裏返る……。それほどつれぇもんなねえ」

戦士「私は……」

賢者「俺もよぉ、そういう経験がある」

戦士「経験……?」

賢者「兄ちゃんから聞いただろぉ?俺の呪いことはよぉ」

戦士「心の声が聞こえてしまうんでしたよね」

賢者「ああ、そうだぁ。お嬢ちゃんくらいの歳の頃は血気盛んでなぁ。色んなやつに期待された。なんていっても、俺ぁ賢者だからなぁ。だから、そんな呪いも逆に利用してやってた。しばらくはな」

戦士「心が読めるなら、戦闘でも有利になるでしょうからね」

賢者「ああ。つっても、この呪いの恐ろしさはすぐに理解していたぜぇ。羨望や賞賛の裏では、妬み嫉みしかねえことたぁ、城に戻れば嫌でもわかった。それでも中には心から俺を応援してくれている奴もいた」

戦士「……」

賢者「そう言う奴がいたから、俺ぁやれた。人助けもした。街一つ救ったことだってある。だけど、たった一度の失敗で全員が手の平を返した。心の中でな」

戦士「失敗?」

賢者「救えなかったんだよ。助けを乞う連中をな……。信頼していた連中も評価をあっさり変えやがった。まさに今のお嬢ちゃんと同じ状態だ。信じていたものが覆った瞬間だったなぁ……」

戦士「貴方は……」

賢者「信じられるものは酒と自分だけ……。それが俺の行き着いた答えだ。笑えるだろぉ?」

戦士「……」

賢者「つまんなかったか?」

戦士「私を勇気付けようとしてくれたんですか?」

賢者「年取るとなぁ、昔話を若い奴らに話したくなるんだよぉ」グビグビ

戦士「私も酒に溺れろと?」

賢者「ちげえよ。俺みたいに腐るなってことだ。後悔するぜぇ?」

戦士「貴方は後悔をしているのですか?」

賢者「俺ぁ、逃げちまったからな。お嬢ちゃんが一番嫌いな人種だ。期待されることから逃げちまった男だ。逃げなかったらよかったと、今では想うね」

戦士「何故ですか?」

賢者「お嬢ちゃんみたいな別嬪に、尊敬されるだろぉ?それっていいことじゃねえか」

戦士「貴方は違うでしょう。期待から逃げたのではなく、誹謗中傷が耐えられなくなって……」

賢者「ちがうなぁ。期待されて、失敗した後のことが俺ぁ怖かったんだ」

戦士「あ……」

賢者「お嬢ちゃんもそうだろ?尊敬する親父に期待されているから、そうやって迷っているんだぁ。嫌だよなぁ……期待されるってよぉ……いっそ、期待なんて持たないで欲しいぜぇ……」

戦士「……」

賢者「どうすんだ?」

戦士「私は……」

賢者「兄ちゃんのことを信頼しているなら、兄ちゃんのところに行け。親父の期待に応えたいなら残ればいい」

戦士「そんなの選べません!!!」

賢者「俺みたいにだけは絶対になるな、お嬢ちゃん。絶対にだ」

戦士「どうしたら……」

賢者「信じていなかったものを信じるのもいいと思うぜ。少なくとも、兄ちゃんは信頼できる」

戦士「そんなことは……!!」

賢者「そう。お嬢ちゃんはもう毒されてんだよ、とっくの昔になぁ」

戦士「……っ」

賢者「あれだけ多くの奴から慕われる男だ。言動が多少おかしくても、その行動には惹かれるものはあらぁね。俺だって兄ちゃんのことはたった数日で気にいったぜぇ。お嬢ちゃんもだろぉ?」

戦士「……王女様は何をしようとしているのですか?」

賢者「それを聞けば兄ちゃんのところに行くっていうなら、言ってやる。ただし、親父の期待に応えるっていうなら俺ぁ絶対に言わないぜぇ?賢いからなぁ。お嬢ちゃんを無駄死にさせたくねえしなぁ」

戦士「くっ……!」

賢者「どうする、お嬢ちゃん?」

戦士「このまま城を離れたら……」

賢者「そらぁ、あれだ。最悪、親父とも戦うことになる。城に残るっていうなら兄ちゃんと戦うことになるかもな」

戦士「……!!」

賢者「酷な選択だぁ。……酒に逃げるっていう手もあるけどよ。俺ぁオススメしねえ」

戦士「……」

賢者「アル中のおっさんから言えるのは、これぐらいだな……わりいけどよ」

戦士「貴方なら……」

賢者「俺を期待するなって……魔法も使えないんだぜ?」

戦士「うっ……」

賢者「でも、俺ぁ、救いてぇよ。お嬢ちゃんみてえな若い奴らを」

戦士「どうしたら……いいんですか……」

賢者「けど、敗残兵にそれだけの資格も度胸もねえときた。ハハッ。なけるぜぇ」グビグビッ

戦士「あの―――」

賢者「そらぁ駄目だ。俺が真実を叫んだって、無意味だ。こんな飲んだくれの話なんざぁ、誰も耳をかしてくんねえって。国家反逆罪で死刑になるなぁ」

戦士「……」

賢者「お嬢ちゃん。兄ちゃんのとこにいきてぇんだろ?」

戦士「でも……!!そうしたらまた私は……家族を……失っちゃう……!!」

賢者「おぅ……そうだな……」

戦士「義父さんは……私を……今まで育ててくれて……だから……」

賢者「期待は裏切れねえか……」

戦士「……!」ガタッ

賢者「お嬢ちゃん、早まるな」

戦士「私は義父さんとは戦いたくない!!」

賢者「やめろ……」

戦士「そして……あの人たちとも……!!」

賢者「わかった……わかったから、落ち着け」

戦士「私は……逃げません。王女様は非人道的なことをしている。そうなのでしょう?それが分かれば十分です」

賢者「そらぁ勇気じゃねえよ、お嬢ちゃん。とりあえず、俺の肩でも揉んでくれよ。頼むからよぉ」

戦士「こうするしかないじゃないですか……!!戦わないようにするには……こうするしかっ!!」

―――城内 謁見の間

王女「……なんですか?」

戦士「王女様。国民に対して隠していることがあるのでは……?」

王女「勇者様から何を聞いたかは知りませんが……」

戦士「私は何も知りません。誰も教えてくれませんでしたから」

王女「ほう……」

戦士「だから、私は貴女に直接訊きます。何をされているのかを」

王女「知ってどうするのですか?」

戦士「償えることならば償いましょう、王女様」

王女「フフフ……フフフ……」

戦士「王女様……?」

王女「勇者様とあの馬鹿なお姫様が恋仲だったとは予想外でしたね。勇者のことはあの子から聞いたことにすれば納得すると聞いていたのですけどね」

戦士「……」

王女「さて、貴女はこう言いましたね。償えるなら償いましょうと。奉仕活動でもするのですか?」

戦士「それは王女様の罪によります……」

王女「私は美しい」

戦士「……は?」

王女「私の美貌はどうやって保たれているか、ご存知?」

戦士「いえ……」

王女「血です」

戦士「血?」

王女「人間の血ですよ……フフフ……」

戦士「王女様!!あなたはぁ!!!」

王女「人の生命力を吸出し、己の体に取り込むと永遠の美が約束される。そう教えていただきました。吸血鬼のように美女には拘らなくていいそうですが……」

戦士「貴方が……人を……!!」

王女「誤解しないでください。私は人の血を浴びるだけ。掴まえてくるのは、魔族です」

戦士「……!!」

王女「いずれはこの玉座に座る魔の王。全ては彼らがしたこと。私はその甘い蜜を吸っているだけです」

戦士「なんて……ことを……」

王女「さぁ、どのようにして罪を償いましょうか……?私にはいい案が浮かびません」

戦士「この場で……!!」

王女「斬るのですか……?」

戦士「貴女は私たちを裏切りながら生きていたのか?!」

王女「勝手なことを。私はお前たちのことなど、知らない」

戦士「なに……?」

王女「私は確かに国を統べる者。ですが、その前に人間です。したいことをして何が悪いというのですか?」

戦士「何を言っている!!人の上に立つのが王の務めでしょう?!」

王女「都合の悪いことを押し付ける対象が欲しいだけのくせに」

戦士「え……」

王女「王は……いや、英雄に対してもたった一度の失敗すらお前たちは許さない。成功して当然だと思い込んでいるだけ」

戦士「……王女様……あなたも……」

王女「うんざりですよ。馬鹿な民を導くのが王の責務?そういうのなら、導きましょう。私の都合の良いように」

戦士「やめ……て……くださ、い……」

王女「貴方がいるということは勇者様もまだ街にいるのですね。では、貴方を始末してから勇者様を殺しましょう。勇者様は今、この世でもっとも危険な存在ですから……」

戦士「やめろ!!!」

王女「ずっと探していたのですよ。勇者様を。美人になら食いつくと言われたので、貴女に頼んだのですが……正解でしたね」

戦士「今、この場で貴方を斬る!!!!」

王女「フフフ……」

戦士「あぁぁぁぁぁ!!!」

王女「炎よ」ゴォッ

ドォォォン!!

戦士「なっ……!?魔法……!!」

王女「さて、もう貴女の負けですね。今ので来ますよ。憲兵たちが」

戦士「まだ間に合う!!貴女を殺さないと!!私は戦わなくちゃならない!!」

王女「人間の血を浴び、私は力を得ました。貴女の刃が私に届くことはありません」

戦士「でぁぁぁぁ!!!!」

王女「無駄ですよ」ゴォッ

戦士「がっ……!?」

王女「話になりませんね」

戦士「そんな……いや……戦いたくない……私は……!!」

兵士長「何事ですか!?王女様!!」

兵士「なにがあったのですか?!」

戦士「あ……」

王女「この者が私に刃を向けました。捕らえなさい」

兵士長「……了解しました」

戦士「義父さん……」

兵士長「お前は重犯罪者だ……。私を父と呼ぶな」

戦士(終わった……やっぱり……何もできなかった……)

王女「すぐにこの者の刑を―――」

青年「―――すいません」

王女「?!」

兵士長「勇者……どの……?」

青年「この辺に僕の連れがいませんでしたか?探しているのですが見つからなくて」

王女「……貴方からやってくるとは好都合です。怪しまれたので警戒されていると思ったのですが」

青年「いいえ。貴方のことは随分と前から警戒していましたよ。だから、この地域に最強の側室を配置していたんですからね」

王女「なんですって?」

青年「姫様が以前から言っていたんですよ。この国の王女様は私と同じ目をしていると」

王女「目?」

青年「気付きませんでしたか?姫様もまた、王族に縛られず自分勝手に生きたいと考えている駄目な人なんですよね」

王女「それは気がつきませんでしたね……」

青年「あの姫様がそういうので、失礼とは思いつつも貴方をマークしていました。行方不明者の多い地域でもありましたしね」

王女「何を仰りたいのかわかりませんが、私を侮辱したことには違いありませんね」

青年「そうなりますか」

王女「あの不届き者を捕らえなさい」

兵士長「はっ!!」

戦士「やめて!!義父さん!!」

兵士「大人しくしろ!!」グイッ

戦士「がっ!?」

青年「てめぇぇぇ!!!俺の側室になにしてくれんじゃぁぁぁ!!!!!うおぉー!!!!」ダダダダッ

兵士「うわぁ?!」

青年「せいやぁ!!!」ドガァ

兵士「ぐあぁ!?」

青年「大丈夫ですか?」

戦士「は、はい……」

兵士長「お前は勇者ではないのか!!」

青年「今はただの国賊ですね。どうぞよろしく」

兵士長「ならば、容赦はしない」

青年「こっちには人質もいるんですよ」グイッ

戦士「私?!」

兵士長「……どうせ二人とも死刑になる。ここで仕留めても問題はない」

青年「中々の忠誠心ですね。感服します」

兵士長「行くぞ!!」

青年「ここに居れば兵士が集まってきますね……。ならば……逃げます!!」

戦士「ま、まって!!」

王女「あの者たちを必ず捕らえなさい!!」

―――廊下

兵士「その者を捕らえろ!!王女様を殺害しようとしたものだ!!!殺しても構わん!!!」

青年「無茶苦茶ですね。何故、このような騒ぎに」

戦士「私が時間を稼ぎます。貴方は逃げてください」

青年「はい?」

戦士「……貴方が王女様を止めてください」

青年「何を言っているのか分かりません。この星では人語しか通じませんよ?」

戦士「このままでは殺されますよ?!」

青年「側室3号、おいでぇ」

エルフ「―――よっと」スッ

戦士「何もないところから……!?」

エルフ「不可視の魔法。里を魔法で隠してるって言ったでしょ。ボクでも人一人を隠す魔法はできるからね。何かあるといけないからって待機させられてたんだ」

戦士「エルフって……すごいんですね……」

青年「ええ。すごいんですよ。僕の側室は。では、いっぱつでかいのお願いしますね」

エルフ「それはいいんだけど……。このまま連れていっても良いの?」

青年「……どうしますか?」

戦士「……私は……」

兵士長「逃がすな!!」

戦士「……連れて行ってください」

青年「良かった」

戦士「え?」

青年「残ると言われたらどうしようかと思いました」

戦士「どうして……?」

青年「そんなの、貴女のことが好きだからに決まっているでしょう?」

戦士「なにをこんなときに……!」

青年「さあ、行きましょう!!」

エルフ「よし。いくよ。―――大爆発!!!」

兵士長「まてぇ!!」

戦士「義父さん!!王女はもう人間じゃないの!!だから私はこの人たちと―――」

兵士長「捕らえろ!!王族への侮蔑は万死に値する!!!」

―――民家

賢者「こっちだ。入れ」

青年「はぁ……はぁ……。どうも」

エルフ「あー、危なかった」

賢者「すげえ、爆発音だったなぁ」

青年「混乱の乗じて逃亡しました」

エルフ「疲れた……」

戦士「……」

賢者「お嬢ちゃん、腹は決まったみたいだな」

戦士「……いえ。こうするしかなかっただけです」

青年「今から港に行きたいのですが……」

賢者「そらぁ無理だな。ガチガチの包囲網をしかれてらぁ」

青年「どこか抜け道は?」

賢者「あるわけねえだろ。……ドラゴンを呼ぶのか」

青年「そんなことをすれば完全に魔物の侵攻になります。3年前に逆戻りですね。今度は僕が魔王になっちゃうんでしょうけど」

戦士「逃走経路を一つも用意していなかったんですか……?」

青年「面目ありません」

戦士「……私の所為ですね。ごめんなさい」

青年「そんなことはないですよ」

エルフ「でも、どうするの?このままじゃ本当に危ない。ここだってすぐに見つかっちゃうだろうし」

青年「角笛を使うしか……」

戦士(やっぱり私が囮になって……)

賢者「まてまて、どうしてそう若いやつらは、突っ走ろうとするのかねぇ。おっさんには眩しくてしかたねえよぉ」

青年「何か策が?」

賢者「おっさんの出番だろ。ここはよぉ」グビグビ

青年「駄目です」

賢者「……」

戦士「え?」

青年「誰の犠牲も許しません」

賢者「兄ちゃんよぉ。なら、3年前みたいに魔物と人間がいがみ合う世界にするのか?おっさんと世界なんてよぉ、天秤にかけるまでもねえだろよ」

青年「俺にとっては平等だ」

戦士(なに……この剣幕……)

エルフ「ちょっと……」

賢者「兄ちゃん。もうそんなことに拘るな」

青年「何のために俺が強くなったのか、貴方にはわかるはずです」

賢者「だから、もう拘るなって……」

青年「俺は守る。手に届く範囲なら」

賢者「調子にのるなよ、若造」

青年「な……!」

賢者「お前の考えは立派だが、今までもお前の見えないところでは犠牲はあったんだぜ?てめえに救えるのは、てめえ両手分だけだ。三人はちと多いだろうが」

青年「待ってください!!貴方の力も必要なんです!!」

賢者「俺ぁ老兵よ。てめえらの背中を見送ることぐらいしかできねえよ。気ぃなんてつかうな、兄ちゃん」

青年「そんなことはない!!」

賢者「ようやく見つけたんだぜぇ。俺の花道をよぉ。最後ぐらいいいだろ?かっこよく、歩かしてくれてもよ」

戦士「待ってください!!私が余計なことをしたから状況が悪化したんですよね?!なら、私が囮になります!!その隙にみなさんは逃げてください!!」

青年「黙っててください」

戦士「え?」

賢者「お嬢ちゃんは生きろ」

戦士「で、でも……」

青年「とにかく全員で港へ行きます。絶対に」

賢者「なら、もう一度戦乱をおこそうってんだな?兄ちゃんの努力は水の泡だぜ?兄ちゃんが救えなかった者たちも無駄死にだな」

青年「……!」

エルフ「そんな言い方しなくても!!!」

賢者「エルフ族も無関係じゃねえだろう?もう一度、戦争になってみろぉ。今度は言い逃れはできねえだろ。人間と一緒に魔王をやっちまったんだからなぁ」

エルフ「それは……」

賢者「どきなぁ。酔いがさめねえうちにいってくるぁ」

青年「……どうやって兵を止めるつもりですか?」

賢者「俺ぁ賢者だぜぇ?賢いんだぁ。いくらでも方法はある」

青年「魔法……使うんですね?」

戦士「え……使えるんですか……?」

賢者「あーあ……いっちまったぁ……。最後の最後でびっくりさせようって思ってたのによぉ」

戦士「使えるんですね!?どうして使えないフリを……!?」

賢者「わりぃな、お嬢ちゃん。使えるのは人間に対してだけなんだぁ」

戦士「え……」

賢者「俺が最後に戦った魔物が呪いをかけやがった。魔封じの呪いだ……」

エルフ「呪いが二つもかけられている状態なの……?」

賢者「おうよ。すげえだろぉ?魔法が使えるのは人間にだけ。魔物に対しては俺の魔力が反応しちまって、でやがれねえ。困ったもんだろぉ?笑ってくれぇ」

戦士「……どうして何も言ってくれないんですか」

賢者「いやぁ、ほら、正直にいっちまうと契約切られちまうだろ?そうなると酒がのめなくるしよぉ」

戦士「言ってくれれば、考えましたよ!!!」

賢者「そうかい?」

戦士「そうですよ……」

賢者「信頼してなかったんだぁ、俺ぁ。お嬢ちゃんのことすらも……。ひでぇ男だろ?」

戦士「そんなこと……」

賢者「さぁてと、いってくるかぁ。あー、ケツが痒いぜぇ、まったくよぉ」

青年「……」

エルフ「行っちゃったよ……?」

戦士「あの……」

青年「行きましょう」

戦士「え?」

青年「さぁ、彼の想いを無駄にしないために」

エルフ「いやだ」

青年「……」

エルフ「ボクはいかない。助けたいなら、助けに行こうよ」

青年「しかし」

エルフ「ボクの大好きな勇者なら、絶対に助けに行く」

青年「……そこまで言われたら行かないわけには行きませんね」キリッ

戦士「ドラゴンを呼ぶのですか……?」

青年「全員で生きてここから出るにはそれしかないです」

エルフ「うん……。それしかないよ」

―――城下町

兵士「まだ町の中にいるはずだ!!探し出せ!!!」

「「おぉー!!」」

賢者「まちなぁ」グビグビ

兵士長「お前……」

賢者「よぉ。お嬢ちゃん、立派なになってんじゃねえかよぉ。いい女だ。あと20歳若けりゃ、手がでてたな」

兵士長「どこにいる?」

賢者「あぁ?なんのことだぁ?」

兵士長「どこにいるのかと訊いた」

賢者「おぅ、おぅ、おぅ。親しき中にも礼儀ありじゃねえかぁ?あぁ?」

兵士長「逃がしたのか?」

賢者「まだ、これからだ。みりゃあわかんだろぉ?」

兵士長「逃がすのか……」

賢者「お嬢ちゃんのためだ。俺ぁ死ねる。それは10年前から決めてんだよぉ。だからよぉ……邪魔すんなよぉ!!」

兵士長「くっ!!この者を止めろ!!暴れさせるなぁ!!!」

……ドォォォン……

青年「始まったみたいですね……」

エルフ「急がないと……」

戦士「……本当にやるんですか?」

青年「やるしかありません。あの人には生きてもらわないと」

戦士「……」

青年「では……」

エルフ「……」

青年「……」ピィィィ!!!!

青年(これでやり直しか……。3年……もったほうか……)

戦士「ごめんなさい……」

青年「いずれはこうなったでしょう。魔物も力を蓄えていたみたいですし」

戦士「どうして……そんなこというんですか……。貴方は人間と魔物の共存を願っていたんでしょう?!」

青年「……」

エルフ「あ。きたみたい……」

―――砂漠地帯 オアシス

竜娘「む?呼ばれたようだ。行ってくる」

僧侶「勇者様にですか?」

魔法使い「ふぅーん……」

ドラゴン「すぐに戻ってくる」

魔法使い「最初はグー!!」

僧侶「じゃんけんぽん!!」

魔法使い「よしっ!!」

僧侶「まけた……」

ドラゴン「なんだ、どうした?」

魔法使い「ちょっと休憩よ。こんなところに居たら干上がっちゃうし」

僧侶「ゆうしゃさまによろしく言っておいてくださいね……」

ドラゴン「ここに来ることになるだろうから安心しろ」

僧侶「本当ですか?!では、全速力でお願いします!!」

ドラゴン「分かっている。―――いくぞ!!」ゴォォォ

―――上空

ドラゴン「―――あそこだな」

魔法使い「うぅ……ちょっと、はやくない……?」

ドラゴン「角笛の効果で飛行速度が上がること、行ってなかったか?」

魔法使い「ああ……そうだったわね……」

ドラゴン「降りるぞ」

魔法使い「待って!!」ペシペシ

ドラゴン「頭を叩くな!!」

魔法使い「様子が変よ?」

ドラゴン「……多くの人間相手が争っているな」

魔法使い「あんな緊張状態で降りていったらまずいでしょ?」

ドラゴン「そうだな。よく止めてくれた」

魔法使い「とりあえず遠くに降りて、こっそり行きましょう」

ドラゴン「それがいいな。では、行くぞ」ゴォォ

魔法使い「ちょっと急降下はこわい!!」

―――城下町

青年「な……?!ドラゴちゃんはどこに消えたんですか?!」

エルフ「急降下していったみたいだけど……」

戦士「もしかして……撃たれた……?」

青年「それはまずい!!助けにいかなくては!!」

エルフ「まってまって!!ドラゴン様も心配だけど!!向こうにも助けなきゃいけない人がいるんだよ?!」

青年「ちっ……」

戦士「そんな……打つ手なしですか……?」

青年「こうなったら、僕が加勢に行ってきます。二人はドラゴちゃんのもとへ」

エルフ「それならボクが助けにいくよ。魔法も使えるし」

戦士「私も行きます。ここの兵士の戦い方なら熟知していますから」

青年「そんな危険なことを貴女たちには……」

竜娘「―――ここにいたか」バサッバサッ

戦士(女の子が飛んでる!?)

青年「ドラゴちゃん!!その姿で来てくれたんですか!?―――流石、できる側室は違いますね」

魔法使い「私もいるけど」

青年「これはこれは……。なるほどぉ、貴女の差し金ですねぇ?」

魔法使い「あんなに人がいるところにそのままの姿で降ろせないでしょ?」

青年「よし。現状は逼迫しています。急ぎましょう」

竜娘「何をすればいい?」

青年「二手に分かれます。僕と側室1号と3号、側室6号と10号で街の中心で暴れている酔っ払いを救出しに行きます」

魔法使い「酔っ払いって……」

エルフ「いこ」

魔法使い「はいはい」

竜娘「全く。後で説明を要求するぞ」

青年「分かっています」

戦士「あの側室10号って……」

青年「貴女のことですよぉ」

竜娘「今更だな」

戦士「な……そんな勝手に……」

賢者「俺とやりたいきゃぁ、全兵力を投入しろぉ!!」

兵士長「お前!!何をしているのかわかっているのか?!」

賢者「分かってるぜぇ?俺ぁ賢いからなぁ」

兵士長「呆れるばかりだ……。勇ましいことだな」

賢者「10年もくだまいてたんだ。俺だってなぁ―――」

ゴォォォ……

兵士「なんだ……?!この土ぼこりは……?!」

兵士「うわぁ!!視界が……!!」

兵士長「うろたえるな!!!」

賢者(なんだ、これぁ……?こんな魔法はつかってねえぞぉ……?)

青年「さ、こっちへ」

賢者「兄ちゃん……!!」

青年「彼女の翼で風を起こしています。さぁ、行きましょう」

賢者「どうしてきちまうんだよぉ……!!」

竜娘(早くしろ。こう数が多くては十分な目くらましにならないぞ)バサッバサッ

エルフ「こっち!!」

魔法使い「急いで!!」

青年「よし」

賢者「兄ちゃん……俺ぁ、うらむぜぇ……?」

青年「恨んでください。貴方の死に場所はここではないんです」

賢者「くっ……」

竜娘「次はどこに向けて土ぼこりを撒けばいい?」

戦士「義父さんのことだから、北側と南側から攻めてくるはず……」

竜娘「よし。南北にだな」バサッバサッ

戦士「凄い……」

兵士「くそ!!何も見えません!!」

兵士長「だめだ!!追跡はするな!!出入り口を固めろ!!」

青年「出入り口には兵が集まっているはずです。外壁を溶かしてください。そこから出ましょう」

魔法使い「りょーかい」ジジジッ

賢者(そうか。あの姉ちゃんなら音を出すことなく壁を破壊できるんだな……。隠密行動には向いてるなぁ……)

―――上空

ドラゴン「砂漠地帯に向かうが、いいんだな?」

青年「お願いします」

魔法使い「はぁ……。で、何があったの?」

エルフ「えっと……」

賢者「お嬢ちゃん……また、あったなぁ」

戦士「そうですね……」

賢者「どうして俺の気持ちを汲んでくれねえんだ。こんなリスキーなことまでしてよぉ。兄ちゃん、人助けやるならもっと広い目でものをみねえとな」

青年「目の前で死んでいく人なんて見たくない」

魔法使い「……」

エルフ「ふぅ……」

戦士「どうして……そこまで……?」

賢者「兄ちゃん……いつもギリギリで生きいて、たのしいかい?それはジジイになってからやりなぁ」

青年「行きましょう」

ドラゴン「分かった」

エルフ「ボクは反対だよ、そんなの。―――そんなことするなら、軽蔑する。ボクの好きな勇者じゃないもん」
エルフ「ボクの大好きな勇者なら、絶対に助けに行く」

エルフタンがやべえ

―――砂漠地帯 オアシス

僧侶「あ!!ゆーしゃさまー!!!こっちですよー!!」

ドラゴン「……」ズゥゥゥン

青年「ここは暑いですね」

僧侶「勇者様っ。どうぞ、これで汗を拭いてください」

青年「新品じゃないですか。貴女が使用したタオルをください」

僧侶「不衛生では……?」

青年「僕にとっては清潔の極みです」

僧侶「では、少し臭いますけど……」モジモジ

魔法使い「駄目だって!!」

賢者「お嬢ちゃん、よかったのか?」

戦士「こうすることを勧めておいて、そんなこと言わないでください。それに貴方は分かるんでしょう?」

賢者「まぁな。あらぁ、酒が空じゃねえかよぉ。兄ちゃん、俺を生かした罰として酒がある街まで運んでくれやぁ。年取ると暑さもだめでなぁ」

青年「そうですね。今日は久々にパジャマパーティーをしたいですし、状況を整理しましょう。デヘヘヘ」

エルフ「本音が漏れてるよ」

―――砂漠の街

青年「しかし、貴女もついて着てくれるとはとても嬉しいです」

戦士「あの状況は仕方ないじゃないですか」

青年「側室としての自覚が芽生えてきたのですね。とっても嬉しいです」

戦士「あの、私は側室になる気なんてありませんから。そこははっきりさせておきます」

青年「ホワイ?」

戦士「私がついて来たのは王女様から真実を聞いたからです。でも、私一人ではその真実を国民に伝えることはできない。いえ、伝えることができても信じてはもらえないでしょう」

賢者「まぁ、そうだろうな」

戦士「でも、貴方たちとなら打開策が生まれるかもしれない。そう思っただけです」

竜娘「一理あるな」

青年「生まれるのは打開策だけではないでしょうね」

戦士「え?」

青年「子供も生まれる」キリッ

戦士「真面目になってください」

魔法使い「こいつが真面目になるわけないでしょ?諦めなさい」

―――宿屋

主人「えーと、7名様の宿泊でいいんですか?」

青年「いえ、5名で」

主人「分かりました。それにしても貴方、若いのにやりますねぇ」

青年「もう腰痛で大変です」

主人「ベッドを壊さないでくださいね」

戦士「破廉恥なこと言わないでください!!」

青年「これは生物として当然の行動ですが」

戦士「……」

賢者「兄ちゃんに何言っても無駄だ」

戦士「分かってますけど……」

魔法使い「いちいち注意するのも面倒なのよね。つっこんでたらキリがないし」

エルフ「そうだね」

竜娘「あれは病気みたいなものだ」

僧侶「あの……あまり勇者様の悪口は……」

―――寝室

魔法使い「疲れたでしょ?」

戦士「え、ええ……」

僧侶「ところで、王女様が話した真実とは?」

戦士「各地で発生している人攫いは王女様……いえ、あの王女に関係していることでした」

僧侶「どういうことですか?」

魔法使い「なんでも王女のバックに魔族がいるらしいわ。そいつが人を攫っては生命力を奪い、力を蓄えている。そのお零れを王女は貰っているみたいね」

僧侶「それって……」

魔法使い「3年前、魔道士が行っていたことを一緒ね」

僧侶「……人の命を……なんだと……」

魔法使い「抑えて。それを止める為に今から動くんだから」

僧侶「……」

戦士「ですが、この砂漠地帯に来たのはキマイラを追うためでしょう?キマイラがいるのはあの城の中だと思います。ここに居る理由が薄いのですが」

魔法使い「こっちが拠点で城が支部ってこともあるでしょ?まだ調査中だし、何も分かっていないもの」

戦士「そうですか。そういえば、遺跡には真実を映す鏡があると聞きましたが、それはどうなったのですか?」

魔法使い「それもまだ調査中。でも、キマイラらしき影が何度も遺跡に出入りしているのは確かみたい。何かはあるのよ」

僧侶「真実を映す鏡は幻を打ち消す鏡ですからね。もし、それを警戒しているということは……」

戦士「王女は……幻……。あるいは……」

青年「キマイラが超絶美少女の可能性もありますね」ガチャ

戦士「なっ!?なにノックもせずに入ってきているんですか?!」

青年「君たちの着替えに遭遇するためだ」

戦士「非常識でしょう?!貴方達も何か言ってください!!」

僧侶「いつものことですから」

戦士「……」

魔法使い「二人は?」

青年「キラちゃんを連れてくるように言いました。もうあの国の調査は必要ありませんので。それにもう一国に喧嘩を売っちゃいましたからね、戦力は揃えておきましょう」

戦士(義父さん……)

青年「……さてと、みなさん。重大なお知らせがあります」

魔法使い「なぁに?」

青年「今日、正式に10人目の側室が誕生しました。これであとは僕が嫁を貰うだけとなったのです。拍手」パチパチパチ

僧侶「わー」パチパチパチ

魔法使い「嫁って誰?あてでもあるの?」

青年「やだなぁ。これから探すんじゃないですか。王女様は生憎とご縁がなかったで」

戦士「はぁ……」

青年「大丈夫ですよ。みんな平等です。愛に偏りがあってはならないのです」

戦士「そんな心配してません」

青年「それで、遺跡に関して何か分かりましたか?」

魔法使い「まだ何も。キマイラが何度も出入りをしていたことぐらいね」

青年「内部の様子は?」

魔法使い「ゴンちゃんが潜入したけど、ミイラが一匹いるだけみたい。宝を守ってるって言ってたらしいわ。キマイラについては知らないって」

青年「敵か味方かわかりませんね」

戦士「そのミイラを掴まえなかったのですか?」

魔法使い「その子自身は何も悪いことしてないからね。近辺の街や村を襲ったっていう事実も今のところはないし、侵入者も危害はくわえないで脅かして追い出すだけみたいだから」

戦士「それは信じていいんですか?」

魔法使い「ゴンちゃんは会えばわかるって言ってたけど……」

青年「では、会いに行ってみましょうか」

僧侶「これからですか?」

青年「そう。5人で」

戦士「あの人はまた酒場ですか」

青年「そうでしょうね」

魔法使い「もしキマイラがいたらどうするの?私たちだけじゃ太刀打ちできないわよ?」

戦士「いえ、それはミイラに話を聞けばわかるはずです」

魔法使い「……そういうこと」

青年「ただ、危険なことには代わりはありません。注意していきましょう」

僧侶「あ、勇者様。また、お一人でご準備を?」

青年「これぐらいさせてください。いつも貴方達には苦労をさせてしまっていますし」

僧侶「もう……そんなことないです」

魔法使い「……ありがと」

青年「もっと、ツンっとしてくださいよ」

魔法使い「バッカじゃないの?」

―――フィールド

賢者「うーぉ……あつぅーい……」

魔法使い「ホントに……」

戦士(汗も出ない……鎧が熱をもってあつい……)

僧侶「はぁ……はぁ……」

青年「みなさん。辛そうですね」

魔法使い「あんたは元気そうでなにより……」

青年「この状況を打破するいい方法があるんですが」

戦士「なんですか?」

青年「ふっふっふっふ……」

魔法使い「却下」

青年「貴女が氷の魔法を使い、みんなに抱きついていく。完璧な暑さ対策です」

魔法使い「だから、却下だってば」

戦士「いいですね……そうしましょう……」

魔法使い「なにいってんのよ……」

魔法使い「……」コォォ

僧侶「あぁぁ~……生き返ります……」ギュゥゥ

戦士「きもちいぃ……」ギュゥゥ

魔法使い「ちょっと!!変なとこ触らないで!!というか抱きつかれてるんだけど!?」

青年「……いい画だ」

賢者「兄ちゃんは色んな趣味があってうらやましいね」グビグビ

青年「褒めないでください」

賢者「真実の鏡。あったとして、兄ちゃんにはとれんだろ?」

青年「何故ですか?」

賢者「真実が映っちまうからな」

青年「問題ないでしょう。僕はいつでも全裸で生きていますから」

賢者「よくいうぜ。厚い皮で覆われてるくせに」

青年「……いつになったら一皮剥けるんでしょうね……僕は……」

賢者「そっちじゃねえよ」

魔法使い「きゃぁ?!胸をもむなぁ!!」

―――遺跡

戦士「あぅぅ……」ギュゥゥ

僧侶「もっと……」ギュゥゥ

魔法使い「もうお終い!!」

賢者「おーぅ……異様な雰囲気だぜぇ」グビグビ

青年「ごめんください!!!」

ミイラ「―――はぁーい!!ようこそぉ!!砂漠の楽園、我がミイランドへ!!!」

僧侶「きゃ!?……びっくりしましたぁ」

ミイラ「おっほぉ!!これはこれは可愛らしい人間さんだこと!!ささ、どうぞ!!!こちらへぇ!!」

戦士「(侵入者は脅して追い返すのではなかったんですか?)」

魔法使い「(いや、でも十分怖いでしょ?)」

ミイラ「お茶もすぐにお出ししますねぇ!!」

賢者「おーぅ。酒はねえのかい?」

ミイラ「お酒もありますよー!!!飲んでいってくださいなぁー!!!」

賢者「んじゃ、およばれするかぁ」

青年「そうですね。折角ですし」

戦士(危険はないということなのかな……)

青年「(何か意図はあるんですか?)」

賢者「(いや、ねえな。あのミイラのお嬢ちゃんは俺たちを本気でもてなそうとしてるぜ)」

青年「え?今、なんと?」

賢者「だから、本気で俺たちを―――ああ、あのミイラはメスだな。包帯でわかんねえけど」

青年「失礼ですが、ミーちゃんとお呼びしても?」

ミイラ「いいですよぉー!!」

青年「素顔を見せてくださいよ」

ミイラ「やでーすっ!」

僧侶「賑やかなかたですね。なんだか楽しくなります」

魔法使い「そうね。悪い子ではないんでしょうね」

戦士「……」

青年「貴方の内面を見せてください」

ミイラ「やです!―――さぁ!!こちらで歓迎パーティーをしまーす!!!遠慮は結構!!無礼講でいきましょー!!!」

ミイラ「どうぞ、どうぞ!!お肉もあるんですよぉー!!赤ワインによくあうと思いまーす!!!」

青年「これは……」

戦士「うっ……!?ひどいにおい……!」

僧侶「なんだか……お肉の色が鮮やかなんですけど……」

魔法使い「これ……腐ってるわね……」

賢者「おぅ、ミイラのお嬢ちゃん」

ミイラ「おかわりですか!?」

賢者「ちげえんだ。これは食えねえなぁ」

ミイラ「なんで食べられないんですかぁ!?美味しいですよぉ!?」

戦士「それは貴女にとってはでしょう?私たちが食べれると命の危険さえあります」

ミイラ「そんなこといわずに食べてみてくださいよー!!ぜったい、ぜったい!!おいしいですからぁ!!」

青年「食べたいのは山々ですが……流石に……」

ミイラ「ほらー!!くえー!!!」

僧侶「ひっ」ビクッ

ミイラ「折角用意したんですから食べて行ってくださいよぉー!!!」

青年「なるほど。侵入者が逃げ出すわけですね」

賢者「純真もここまでくれば恐怖だなぁ」

ミイラ「ほら、ほら。この部分なんてほっぺがおちるほどおいしいですからぁ!!」

戦士「や、やめ……」

ミイラ「食べさせてあげますねー!!!」ググッ

戦士「んー?!」

青年「やめてください!!」

ミイラ「貴方が食べますか!?」

青年「な……!?」

ミイラ「どーぞ!!どーぞ!!ほら、いっぱいありますからぁ!!!」

青年「ちょっと、まって……」

ミイラ「うへへへへ」ググッ

青年「なんて……力だ……!!!」

魔法使い「ちょっと!!いい加減にしなさい!!もてなしはいいから!!」

ミイラ「なら貴女がお肉たべますか?!」

僧侶「……はむっ!」パクッ

戦士「な、なにを?!」

賢者「おいおい……」

僧侶「……」モグモグ

魔法使い「なにやってるの!?早く吐いて!!」

僧侶「……」モグモグ

青年「美味しい……ですか……?」

僧侶「うっ―――」

戦士「あー!!だから、言ったのに!!」

賢者「いくら自動的に治癒ができるからって、無茶しすぎだぜぇ?」

青年「大丈夫ですか?」

僧侶「……食べないほうがいいです」

魔法使い「見りゃわかるわよ」

ミイラ「どーですか!?美味しかったですよね?!」

僧侶「ごめんなさい……私の口には合いませんでした……」

ミイラ「嘘ですよー!!!どうしてそんな嘘をつくんですかねー?!」

僧侶「ご、ごめんなさい……私の味覚が悪いんです……」

ミイラ「貴方達も食べて!!食べて!!ほら、ほら!!」

青年「……どうしますか?」

賢者「食わせるまで退く気は微塵もないみてぇだな」

青年「では、退却しましょうか」

賢者「賛成だ」

ミイラ「どこいくんですかぁ?!料理はまだ残ってますよー!!!」

青年「ちょっと、お手洗いに」

ミイラ「そーですか」

青年「さ、みんな連れションですよ」

賢者「おーぅ」

戦士「立てますか?」

僧侶「な、なんとか……」

魔法使い「もう、ああいう無茶はしないでよ。いくらアンタでも即死したら生き返ることはできないんだから」

―――砂漠の街 酒場

賢者「ん……んっ……んっ……」グビグビ

賢者「ぷっはぁ……うめぇ……」

青年「彼女を何とかしないと遺跡の調査は進みませんね」

戦士「あの、他に目的がなかったんですか?あの腐った料理で侵入者を殺そうとしているとか」

賢者「ねえな。あの子は純粋に手料理を振舞って、客人を喜ばそうとしているだけだぁ」

魔法使い「あの様子じゃ話もまともに聞いてもらえそうにないわね」

戦士「ドラゴンが言っていたことは正しかったんですね」

魔法使い「危害はくわえてないけど……でもね……」

僧侶「でも、どうしてあそこまで必死になっていたんでしょうか……」

賢者「……ミイラのお嬢ちゃん、嬉しそうだったろ?」

戦士「まさか、ずっと遺跡に一人で……寂しかったからとか……?」

賢者「違うなぁ。あの子はあの遺跡で生まれ育った魔物みてえだ。あそこに一人でいることには不満もなにもねえんだろうよ」

青年「キマイラが出入りしてたんですよね。ということは……彼女は……」

賢者「正解だ、兄ちゃん。あのミイラのお嬢ちゃんはキマイラの指示に従っているんだ。従えることが嬉しいんだな」

魔法使い「でも、それがなんでおもてなしなの?」

賢者「あのミイラっ娘は……バカだ」

戦士「馬鹿って……」

青年「可愛いじゃないですか。何か問題でも?」

賢者「キマイラにこう言われたんだ。侵入者は丁重にもてなせとな」

魔法使い「あの子、言葉の意味をそのまま受け取って……?」

青年「ほぅ……?」

僧侶「いい子ですね、とっても」

賢者「故に厄介だ。魔王の眷属でもあったキマイラからの指示を受けられる。それはミイラっ娘にとっては至極の喜びになっちまってる」

青年「つまり、彼女はどんな手を使ってもおもてなしを遂行しようとする」

賢者「単純に腕力もあるみてぇだしなぁ。ありゃあ、手ごわいぜ。心が読めても意味がねえ」

戦士「思考と行動が直列なら貴方にとっては天敵ですか」

賢者「いや……俺ぁああいうタイプが好みだけどなぁ」グビグビ

戦士「は?」

青年「困りましたね……。愛のパワーを持ってしても、あれほど腐敗が進んだ肉を飲み込むのは無理ですし……」

戦士「魔王に協力を願うのは?ゾンビですし」

青年「腐った肉は食べません。あの子もグルメですからね」

戦士「リビングデッドなのにグルメって……」

賢者「殴ってやめさせるかぁ?」

青年「それは乱暴すぎますよ」

賢者「そうかい?」

青年「一線を超えてはなりません」

賢者「……」

戦士「あの、キマイラの情報を聞けないならあまり拘る必要もないのでは?」

青年「何を言っているんですか。あのミイラは女の子なんですよ?嫁になるかもしれないのに拘らないでどうするんだ!!!言ってみろ!!!」

戦士「……どうなんですか?」

賢者「真実の鏡がありゃあ、王女がしていることを国民に信じさせるのもわけねえだろぉ?」

戦士「なるほど」

魔法使い「鏡を手に入れるためにも、あの子をなんとかしなきゃね」

僧侶「ですね……」

戦士「でも、あのお持て成しを突破する方法なんて……」

青年「うーん……」

少女「お困りのようでございますね、ご主人様」

青年「……む」

戦士「貴女は……!」

少女「ここは私のご奉仕が必要でしょうか?」

青年「何をしてくれるのかね?」

少女「お料理、お洗濯、お掃除……なんでも」

青年「では……お料理からやってもらおうか」

少女「畏まりました」

青年「くくく……」

少女「出来上がりましたわ、ご主人様」

青年「なんだこれは?」

少女「え……?」

青年「体に盛れよ。そんなこともできないでなにがメイドだ?ふざけるんじゃない」

少女「ですが、それは……」オロオロ

青年「さあ、盛れ」

少女「わ、わかりました……。も、盛らせていただきますわ……」

青年「ああ、それでいい」

少女「―――では、ご主人様の股間にマグロのお頭を乗せます」

青年「分かってるじゃないか」

少女「では、採点をお願いいたします」

青年「……74点だ」

少女「くっ……。何故ですか……」

青年「メイドたるものもっと慎ましくしていないとダメだ。まだ秘書としてのプライドが抜けていないのか、上から目線だぞ。そんな高圧的なメイドなんて、一部のご主人様にしか評価してもらえない」

少女「精進、します」

戦士「……」

魔法使い「おかえり。随分とゆっくりだったわね」

エルフ「ガーちゃんのメンテナンスに手間取っちゃって」

竜娘「何か進展はあったのか?」

賢者「兄ちゃん、この子が噂の4歳児か?」

青年「貴方は初対面でしたね。キラちゃん、挨拶を」

少女「キラーマジンガです。性別は美少女。スリーサイズは秘密です」

青年「僕の自慢の娘であり、秘書であり、メイドであり、良き側室です」

少女「キラちゃんとお呼びください」

賢者「いいねぇ……。キラちゃんか。よろしくぅ」

少女「はい。よろしくお願いします」

賢者「キラちゃん。何か食べるか?」

少女「いえ。私は食物を口にすることはありません」

賢者「なら、何か飲むか?」

少女「飲食はできません」

賢者「そうかい?残念だなぁ」

少女「お気持ちだけで十分ですので」

竜娘「―――お前たちもミイラにやられたか」

魔法使い「ということはゴンちゃんも?相当手ごわいのね」

青年「そうだ。年上の男性との接し方を学ぶチャンスだな」

賢者「おぅ?なんだい、そりゃぁ?」

少女「私は様々な人と接しながら、感情の揺らぎを学んでいます」

賢者「へぇ」

少女「また、同じ状況を何度か経験し、感情の平均化を常に図っています」

賢者「面白そうだなぁ。どんな感じでやってんだ?」

青年「それはですね―――」

僧侶「一口食べてみたんですけど……。ダメでした」

竜娘「あの肉は数年前の肉だ。食べれば死ぬぞ」

僧侶「……」

戦士「あれほど腐敗していれば、飲み込む前に体が拒否して吐き出しますよ」

魔法使い「とはいえ、食べないと前へは進めないしね」

エルフ「焼いてもダメなのかな?」

竜娘「無駄だ。焼いて誤魔化したにしろ、食べれば無事ではすまないぞ。それでもするなら、止めはしないがな」

僧侶「そうですよね。お腹痛くなっちゃいますし……」

竜娘「そういう問題ではないんだがな」

僧侶「そうですか?」

戦士「腐った肉も貴方なら食せるのでは?」

竜娘「俺を何だと思っている?」

魔法使い「まぁ、無理よね」

エルフ「だよね。そうだ。ガーちゃん?」

少女「父さん、今日は私の大切な人を紹介します」

青年「なんだって?」

賢者「うぃーす、パパさん。この娘、俺にくれぇ」

青年「俺より年上じゃないか!!却下だ!!」

少女「そんな!でも、とっても優しいの!!」

賢者「そうだぜぇ?俺ぁ、優しいんだぜぇ?」

青年「そういう問題じゃない!!お前は親の心がわからないのか!?」

少女「歳の差なんて関係ないじゃない!!父さんのわからずや!!」

賢者「パパさんよぉ、娘を俺にくれよぉ」

青年「親の気持ちも考えない不良はこうしてやる!!こうしてやる!!」ペシンッ!!ペシンッ!!

少女「あんっ、あんっ」

賢者「パパさんよぉ……なにやってんだぁ?あぁ?」

青年「なんですか?他人の教育方針に口を出さないでくれますか?」

賢者「俺もまぜろよ」

少女「そ、そんな……やめて……」

青年「てめえはのもう袋のネズミだ。覚悟しろ」

賢者「くっくっくっく……たっぷりと可愛がってやるぜぇ?」

少女「いやぁ!!」

戦士「彼らは何をしているのですか?」

エルフ「ガーちゃんの勉強会」

戦士「べ、勉強?」

エルフ「ガーちゃんは機械兵士だからね。ああやって、感情を学習してるんだよ」

戦士「機械兵士!?」

エルフ「あれ、言ってなかったっけ?」

青年「おらっ!おらっ!」

賢者「でへへへ、もっといい声でなけよぉ」

少女「……もう……こんな生活は……いやです……」

青年「なんだと?」

少女「どうせ……こんなところで嬲られ続ける一生なら……殺してやるっ!!」

賢者「お、おい……やめろ……やめろぉ!!ぎゃぁぁぁ!!」

少女「はぁ……はぁ……」

青年「わ、わかった……。許してくれ……。俺は実の父親だぞ……」

少女「お前なんて!!父親じゃない!!!」グサッ

青年「あぁ……ふふ……お前は……この業を一生……背負って……生きて……」ガクッ

少女「私は……殺人機。キラーマジンガ」キリッ

魔法使い「スカっとしたわ」

僧侶「感動巨編でした」

戦士「あれでどのようなことを学習しているのですか?」

エルフ「さぁ。でも、楽しそうだからいいじゃん」

青年「いやぁ。流石だな。200点だ」

少女「100点をこえた……!?」ガクガク

賢者「なるほどなぁ。こういう場面を疑似体験させて、人間ならどういう風に行動するかを学ばせているわけか」グビグビ

青年「ええ。とはいえ、キラちゃんはもう人間ですからね。自分で考えて自分で行動できます。人間のように」

少女「に、にひゃく……まさかのオーバーフロー……」

僧侶「よかったですね」

少女「次は300点を目指します」

僧侶「わー」

戦士「……」

竜娘「それでミイラの対策は練れたのか?」

エルフ「そうそう。ガーちゃん」

少女「なんでしょうか?」

エルフ「ガーちゃんが一時的に腐った肉を体内に入れるっていうのはどうかな?」

竜娘「壊れないのか?」

少女「マスター、私の心配を?嬉しいです」

竜娘「違う。お前には利用価値があるから、壊れたら困るだけだ」

少女「マスター、もっとこき使ってくれても構いませんよ?」

竜娘「俺ではなく奴の指示に従えと言っているだろ?」

少女「ですが、マスターの直接指示ならば最優先します」

竜娘「そうか……」

青年「キラちゃん、こっちおいで」

少女「はい」テテテッ

青年「で、その作戦は巧くいくんですか?」

少女「……」

エルフ「ガーちゃんの中に袋を入れて、そこに肉が収まるようにすればなんとかなるかも」

戦士「バレませんか?」

賢者「ミイラっ娘は多分気がつかないだろなぁ。あくまでも個人的な見解だがよぉ」

青年「魔物の心も読めるだけでこうもスムーズに事が進むのはいいですね」

賢者「だろ?俺ぁ、賢いからなぁ」

戦士「……」

魔法使い「なら、その方法で行ってみる?」

青年「試す価値はあるかもしれませんね」

エルフ「ガーちゃん、こっち」

少女「優しくしてください」

エルフ「するする」

竜娘「俺も付き合おう」

賢者「俺もいいかぁ?」

僧侶「私たちは明日の準備をしておきましょうか」

魔法使い「そうね。また砂漠を行軍するわけだし」

戦士「……」

青年「どうかされましたか?」

戦士「え?ああ、いえ……」

青年「大丈夫ですよ。別に露出を強要したりはしませんし」

戦士「何の話ですか。あっち行ってください」

青年「冷たいですね。まぁ、そういう人ほど体温は生暖かいんですけど」

―――道具屋

僧侶「日焼け止めはいりますか?」

魔法使い「うーん……」

青年「恥ずかしい日焼けでも作りますか。貴女の背中に『ゆーしゃLOVE』とか」

魔法使い「するわけないでしょ?」

僧侶「私はどこにしましょうか?」

青年「そうですねぇ……。胸とお尻とおでこにしましょう」

僧侶「頑張ります」

魔法使い「頑張らなくていいから」

戦士「……仲がいいですね」

青年「貴女も我々の仲間ですよ。華の側室組です」

戦士「嫌な響きですね。何度も言いましたが、私は側室になる気はありません」

青年「貴女に拒否権はないですけど」

戦士「浮気をする男性なんて、好きになれませんから」

魔法使い「普通はそうよね……普通は……」

青年「何かご不満でも?」

戦士「今、言いました」

僧侶「あ、あの、勇者様は皆さんを平等に愛してくれると言っていますから、浮気ではないかと……」

戦士「は?」

青年「そうです。浮気というのは……貴女が一番好きだ」グイッ

魔法使い「な?!ちょっと!!なにしてんのよ!?」

青年「貴女は二番目に好きだ」ギュッ

僧侶「私は一番好きです……勇者様ぁ」

青年「これが浮気です」

戦士「……で?」

青年「僕の場合はこうです。―――貴女も貴女も大好きだ!!みんな、幸せにするからな!!」

魔法使い「……バカ」

僧侶「おねがいしますっ」

青年「これを硬派と言わずなんと言いましょうか」

戦士「軟派って言いましょう」

青年「分かっていませんね……。ふぅ、まだ側室としての自覚がないのですね」

戦士「だから……」

青年「気になることがあれば何でも言ってください。旦那として相談にのりますから」

戦士「もういいです」

青年「気になること、あるんじゃないですかぁ?」

戦士「……いえ。もう私は貴方達を信じるしかないですから」

青年「嬉しいこと言ってくれますね」

僧侶「私も貴女のことを頼りにさせてくださいね」

戦士「え?」

魔法使い「私たち前衛で戦える人があんまりいないのよね。ゴンちゃんやマーちゃんは規格外だけど」

青年「キャプテンはアンデッドを前にすると乙女になっちゃいますしね」

戦士「そうですか……」

魔法使い「私たちは補い合いながら生き延びてきたから。貴女には私たちにできないことをしてほしいわ」

戦士「あるでしょうか。貴方達を見ていると不安です」

青年「何を言っているのですか。その逞しい足を僕専用の枕にするとかあるじゃないですか。大丈夫ですよ」

戦士「斬りますよ?」

青年「これを」

戦士「これは……」

青年「小剣ですよ。もしかしたら、貴女にはこちらのほうが相性がいいかもしれないと思いまして」

戦士「……」

青年「その剣に拘りでもあるんですか?」

戦士「義父さんが……くれたものだから……」

青年「そうですか。でも、その小剣は僕からのプレゼントです。受け取ってください」

戦士「プレゼント?」

青年「側室入りを祝して」

戦士「……はぁ」

魔法使い「そうそう。諦めが肝心よ」

戦士「分かってます」

青年「よーし。首輪でも買いましょうか。側室たちに似合いそうな首輪を」

僧侶「だったら、私はこのオレンジのがいいです」

―――宿屋

僧侶「ふふ……可愛い首輪……。どうですか、似合いますか?」

青年「とてもよくお似合いで。語尾にワンを付けてください」

僧侶「はいワン」

青年「側室ランクを雌犬にしましょう」

僧侶「ありがとうございますワン」

戦士「止めなくてもいいんですか?」

魔法使い「いつも危ないって思ったら自分からやめさせるから問題ないわよ」

戦士「そうなんですか?」

魔法使い「あいつはいつもそうよ。本気じゃないの」

戦士「本気じゃないって?」

魔法使い「アンタが側室になるなら教えてあげてもいいけどね」

戦士「……なら、別にいいです」

青年「お手」

僧侶「ワンっ」

―――廊下

戦士「……」

青年「どうしたんですか、こんな夜中に。流れ星でも探しているのですか?」

戦士「なんですか」

青年「こちらに来たこと後悔し始めているとか?」

戦士「いえ……」

青年「勢いで来てしまったところはありますからね」

戦士「義父さんを裏切った形になりましたし、それに……」

青年「何も心配はいりません。僕が助けます」

戦士「……一つ、いいですか?」

青年「はい?」

戦士「貴方は言いましたね。手に届く範囲なら全て守ると」

青年「言いましたね」

戦士「守る対象は、貴方の守る基準はあるんですか?敵も味方も守るなんてことはいいませんよね?」

青年「僕が大切だと思ったものが守る対象です。貴女のような存在のことですよ」

戦士「では、仮に私が敵になったとしたら?」

青年「ロミオとジュリエットですか」

戦士「私が貴方の大切な側室を傷つける立場になったら、どうするつもりですか」

青年「それはいつか僕たちを裏切るかもしれないということですか」

戦士「……」

青年「問題はありません。そのときが来たら遠慮なく、貴方を斬る」

戦士「……!」

青年「明確に敵となったらのなら、そうしなければならないでしょう」

戦士「そうですか。よかった。ただの軟派者ではなかったみたいですね」

青年「これでも元勇者ですから。決断するべきときはしますよ。でも、そんなことは起きませんが」

戦士「何故ですか?」

青年「僕の側室ちゃんが僕を裏切るわけないからですよぉ」

戦士「……おやすみなさい」

青年「おやすみなさい」

青年「……でも、迷われると俺も迷うんだろうけど」

戦士(そういえばあの人は……?)

賢者「へぇ、そうなのかぁ。キラちゃんも大変なんだなぁ」

少女「私はまだ恵まれているほうです」

賢者「んなことねえよ。4歳で各地を点々としてんだろぉ?」

少女「私の使命は魔王と倒すことですから」

賢者「そうか」

戦士「こんな時間まで何をしているのですか?」

賢者「おぅ、お嬢ちゃんもどうだ?」

戦士「まだ未成年ですから」

少女「どうも」

戦士「……まだきちんとお礼をしていませんでしたね。貴女のおかげで私は勇者と出会えた。ありがとうございます」

少女「いえ。この時代、勇者のことを訊ねてくるかたは特殊な人物だけですから、教えたほうがいいと判断したまでです」

戦士「え?」

少女「勇者の存在を知っているのは世界でも限られています。そして、わざわざ捜索するともなると範囲は一気に絞られます」

戦士「私のことを最初から怪しいと思っていたんですか?」

少女「キマイラの手がかりに繋がるかもしれないとは思考しました」

戦士(実際、繋がってしまったんだよね……)

少女「利害の一致です」

戦士「そうですね」

賢者「おぅおぅ。お嬢ちゃん、そういう腹の探りあいはやめようぜ。酒がまずくなっちまう」

戦士「いえ、別にそういうつもりは」

賢者「それよりよぉ。キラちゃんはすげえんだぜぇ?」

戦士「何がすごいんですか?」

賢者「こんな容姿で世界を渡り歩いていたんだとよ。でな、色々変な連中にも絡まれたことがあるらしくってよぉ」

戦士「それって……」

少女「何度か誘拐されそうになったことがあります」

戦士「よく無事でいられましたね」

少女「並みの人間では私に手も足も出ませんから」

賢者「それでそういう組織をいくつも潰してきたんだとよ。いやぁ、立派じゃねえか」

少女「潰してしまったが正しいですね。私の任務にはそのような内容は含まれていませんから」

戦士「任務って?」

少女「魔物の生態調査及び、キマイラの捜索でした」

戦士「でした?」

少女「キマイラの捜索は終了していますので」

戦士「見つけたんですね」

少女「いえ。終了するように言われました。これからはこちらの隊と行動するために」

賢者「ずっと一緒かぁ、そりゃおっさんも嬉しいねぇ」

少女「貴方は心を読めるそうですね」

賢者「おぅよ」

少女「では、私の繊細な感情も読み取ってくれるのですか?」

賢者「キラちゃんは純粋だから読み意味がねえな。心と行動が直結してる」

少女「それは人間らしいと言えるのでしょうか……」

戦士「遺跡にいるミイラと同じということですか」

賢者「まぁな。といっても向こうのほうが純粋さでは勝ってる」

少女「そうなのですか。一度、会ってみないといけませんね」

戦士「そういえばミイラ対策のために体を弄られたんですよね」

少女「はい」

戦士「どのように?」

少女「見ますか?」チラッ

戦士「なっ……!!」

賢者「おぉぅ。キラちゃん、大胆だなぁ」

少女「ここは恥じるところでしたか。―――やだ、恥ずかしいですぅ」モジモジ

戦士「遅いです」

少女「そうですか」

戦士(確かにあのミイラと似ているかも……)

賢者「キラちゃんは可愛いなぁ。俺の娘にしてぇよぉ」

少女「二人目のパパですか。複雑な家庭環境に生まれた私」

賢者「そういうこともあらぁな」

少女「分かりました。では、その場合の状況もインプットします」

戦士(この人がこんなにもはっきりとした愛情表現をするなんて。もしかして、小さな女の子が好み……?)

少女「ねえ、もしかして……私のパパですか?」

賢者「ちげえよ……俺ぁただの酔っ払いだよ、キラ」

少女「嘘!!絶対に私のパパよ!!」

賢者「何を根拠にいってるんだよぉ?」

少女「だって……私は名前を言ってないのに、キラって……」

賢者「……酒が回ると、舌まで回りすぎてどうにもな」

少女「パパ!!パパなんでしょ?!」

賢者「ちげえよぉ」

少女「その隣にいるのは、私のママなの!?」

戦士「え!?」

賢者「……そうだ」

少女「どうして……今まで……」

賢者「お前の幸せのためだ」

少女「そんなの嬉しくない!!」

戦士「勝手に母親にしないでください!!」

賢者「おーぅ、娘なら父親のお酌ぐらいしろよぉ」

少女「もうやめて!!お酒はダメ!!」

賢者「だまれよぉ!!」バシッ

少女「うっ……こんなことなら……前のパパのほうがよかった……。ママは助けてくれないし……」

戦士「……え、えっと……あなた?」

賢者「なんだこらぁ?!」

戦士「お酒はもうやめてください。娘が泣いてます」

賢者「てめぇで稼いで来た金をてめぇ使ってなにがわりぃんだよ!!」

少女「ママァ……もうやだよぉ……」ギュゥゥ

戦士「そうね……。出て行きましょうか」

少女「うん」

賢者「待てよ!!勝手なことはゆるさねえぞ!!」

少女「前のパパのところにいこうよぉ」

青年「―――おかえり、二人とも」

戦士「きゃ!?いつからそこにいたんですか?!」

少女「パパぁ!!」

青年「優しくしてあげるよ……やさしくね……」

少女「うん……抱いて……」

戦士「……何をこの子に吹き込んだんですか」

青年「キラちゃんは父親に恋する少女っていう設定ですから」

少女「近親相姦も側室には必要不可欠らしいので」

戦士「……」

賢者「兄ちゃんの教育が行き届いているなぁ」

青年「キラちゃんは初めからこの程度のことはできますよ?舐めないで頂きたい」

賢者「マジかよぉ」

戦士「こんな純粋な子にまで毒牙にかけるとは……」

青年「自分の側室を自分色に染めて何が悪いのか」

戦士「染めすぎです」

少女「貴女も近いうちに染まります」

賢者「もうすっかりそめられてるよなぁ、お嬢ちゃんはよぉ」

戦士「そんなことはありません」

青年「明日は決戦です。もう休んでください」

戦士「そうですね……」

青年「ほら、キラちゃんも」

少女「了解しました」

戦士「戻りましょうか」

少女「はい」

戦士「そういえば、寝るときってどうなるんですか?」

少女「スリープモードに入ります」

戦士「どんな感じ?」

少女「では、おやすみなさい―――」ガクッ

戦士「こ、ここで寝ないで!!」

賢者「キラちゃんはいい子だなぁ」グビグビ

青年「……」

賢者「……話があるなら、きいてやるぜぇ?」

青年「では、少しだけ」

賢者「いいねぇ。若い奴と飲めるのが嬉しいなぁ。綺麗な姉ちゃんを隣に置くのもいいけど、若い奴を説教したくなるときもあるんだよなぁ」

青年「貴方のこと、少しだけ分かった気がします」

賢者「同業者だからな……」

青年「貴方は僕と正反対の考えを持っていますよね」

賢者「年取った分、考え方も変わる」

青年「以前は違ったのですか?」

賢者「救えねえ命もある」

青年「同感ですが、初めから切り捨てるのは……」

賢者「明日、鏡が取れたら、どうせ俺のことも全部わかるだろぉ?」

青年「僕のことも……そして……」

賢者「お嬢ちゃんには見せたくねえけどなぁ」

青年「どうしてですか?」

賢者「兄ちゃんも年食えば分かる。若い自分なんてもんなそりゃもう赤面ものだからよぉ」グビグビ

青年「僕は毎日、後悔しないように生きていますよ。見返したときに恰好が悪かったら嫌ですから」

―――翌日

竜娘「いけそうか?」

少女「問題はありません。やれます」

魔法使い「期待しているからね」

少女「していてください」

僧侶「頼もしいです」

エルフ「ま、ガーちゃんだしね」

青年「準備はいいですか?」

賢者「おぅ……若干一名、体調不良だぁ……」

戦士「二日酔いでしょう?」

賢者「まぁなぁ……うぃっぷ……。酒飲んで治すか」グビグビ

戦士「治るわけないでしょう?!」

青年「……さ、行きましょう」

戦士「はい」

戦士(鏡を手に入れて、国を……義父さんを救わないと……)

―――フィールド

魔法使い「ふぅ……やっぱり、砂漠は辛いわね……」

僧侶「ですね……」

エルフ「ガーちゃん、大丈夫?」

少女「私に苦手な地域はありません」

竜娘「海は?」

少女「あれは地域とは呼べません。魔境です」

賢者「ほーぅ。キラちゃんにも苦手なもんながあるんだなぁ」

少女「苦手ではありません。地面のない場所では戦闘などできないでしょう?」

戦士「それを苦手というのでは……」

少女「違います。私は錆びるのが嫌なだけです」

青年「まだ船だけは乗らないんだよな、キラちゃんは。将来、船で側室と行く世界一周の船旅なんていうものも予定しているのに」

少女「それはいけませんね。空の旅に変更してください。私を殺す気ですか?」

戦士「そこまで嫌なんですね」

少女「貴女、錆びる恐怖を知らないからそう言えるんです」

―――遺跡

少女「いいですか?錆びると間接部分の動きが鈍くなってですね……」

戦士「泳げないんですか?」

少女「水に浸かれと?!正気ですか!?」

竜娘「静かにしろ。来るぞ」

少女「……センサーに反応があります。数は1」

ミイラ「―――どーも!!皆さん!!こんにちはー!!!」

僧侶「わぁ?!」

魔法使い「ど、どうも」

ミイラ「長いお手洗いでしたね!!ささ、料理も温め直しておきましたよー!!」

ドラゴン「―――食事をしている暇はない。通してもらうぞ」

ミイラ「いけません!!!折角、用意したんですから!!!食べてってください!!!うおー!!!」

ドラゴン「俺の命令が聞けないのか?」

ミイラ「はいっ!!!」

青年「これだけ力いっぱい言われたら怒るに怒れませんね」

ドラゴン「キマイラに命令されたのだろう?」

ミイラ「キマイラって誰ですか?」

ドラゴン「……」

ミイラ「さ、料理が冷めないうちに食べてくださいねー!!!」

エルフ「やっぱりここは食べるしかないみたいだね」

賢者「キラちゃん、本当にやるのかよぉ?」グビグビ

少女「それが我が務めです」

魔法使い「カッコいいわ……」

僧侶「ンちゃんに全部任せてしまうのは忍びないですね……」

戦士「しかし、状況を打破できるのは彼女しかいませんし」

青年「頼みます」

少女「はっ」

ミイラ「はぁーい!!!どうぞぉー!!!」

少女「頂きます」パクッ

ミイラ「どーですか?!美味しいですよねぇ!?ねっ?!ねっ!?」

少女「……」パクパク

ミイラ「おぉー!!こんなに食べてくる人、初めてぇー!!」

ドラゴン「(本当に危険はないな?)」

エルフ「(恐らく……)」

ドラゴン「(それでは困るんだが)」

エルフ「(すいません……)」

少女「はむっ……はむっ……」

ミイラ「どーだ!!この料理はこの通り美味しいんですよー!!!みなさんも遠慮せずに食べてください!!」

戦士「いえ。それよりもそろそろ先に進んでも―――」

ミイラ「料理が残っているのにどこに行く気ですかぁ!?」

戦士「え……」

ミイラ「席に着け!!おらぁー!!!」

魔法使い「料理が片付かないと通してはくれないのね」

ミイラ「さ!!まだまだありますからねー!!!」

僧侶「ま、まだあるんですか……?」

少女「はむっ……はむっ……」

ミイラ「おかわりですね!?少し待っていてください!!」

青年「いつまで出すつもりですかね?」

賢者「さぁな」グビグビ

戦士「流石に無茶ではないですか?」

エルフ「うん。あくまでも袋の中に溜め込むだけだから……」

ドラゴン「吐くか……」

魔法使い「今のうちに先に進むのは?」

青年「あの扉を開けることができればいいんですが」

僧侶「開かないんですか?」

青年「無理でした。少なくとも腕力でどうにかなるものではなさそうです」

魔法使い「溶かす?」

ドラゴン「壊すか?」

戦士「そんなことをしたら戦いになりますよ」

青年「ええ。僕らは侵略者ではないです。飽く迄もミーちゃんには協力をしてもらいたいですからね」

ミイラ「はぁーい!!おかわりでぇーす!!!」

少女「どうも。はむっ……はむっ……」

ミイラ「ふふふー。おいしいですかぁ?」

少女「ふぁい」

エルフ「限界きてそう……」

魔法使い「ねえ、もう十分でしょ?」

ミイラ「え?」

魔法使い「お持て成しはもう十分だって言ってるの」

ミイラ「まだまだこれからですよぉー!!!さー、みなさんも召し上がってください!!!」

僧侶「うっ……」

戦士「どうするんですか?料理は無尽蔵ですよ」

ドラゴン「まて、お前……。その肉はどこから調達した?」

エルフ「そうだね。ここは砂漠だし、そんなに大量な肉を……」

ミイラ「べつにいーじゃないですか!!!そんなことー!!!」

青年「……ここに何度もキマイラが来ているんですよね」

賢者「……なるほどなぁ」グビグビ

戦士「なんですか?」

青年「ミーちゃん、この肉が何の肉か聞かされているんですか?」

ミイラ「知りませんけどぉ?」

ドラゴン「キマイラ……」

魔法使い「ちょっと……そんなわけないわよね……?」

青年「ここに捨てにきていた……のかもしれませんね」

ミイラ「ほーら、たべてくださーい!!!」

戦士「……まさか……この肉……」

賢者「お嬢ちゃん、考えるな」

戦士「でも……!!こんな残酷な!!」

青年「魔道士もゴミ箱と称する場所に生命力を吸い上げた人間を放り込んでいましたね……」

僧侶「うっ……?!」

魔法使い「大丈夫!?」

僧侶「わ、たし……なんことを……」

ミイラ「まだまだありますよぉー!!」

少女「ふぁい」パクパク

僧侶「もうやめて!!」

少女「ふぁ!?」

僧侶「全部吐いて!!お願い!!!」

少女「ふぃふぁふぃ……」

僧侶「おね……がい……」

少女「……りょうふぁいしふぁふぃた」

エルフ「知ってたんじゃないの!!何の肉か!!」

ミイラ「知りませんよぉ!!」

ドラゴン「貴様、キマイラからこの肉のことをどう聞いていた?」

ミイラ「産廃だから好きにしろって言われましたけど?」

ドラゴン「ということはここにキマイラが来ていたのだな?」

ミイラ「それは言えませんけど」

ドラゴン「言っているようなものだろう」

ミイラ「いいから、食えばいいんですよぉー!!!」

僧侶「残念ですが……どのように調理しようとも……食べることは……できません……」

ミイラ「おいしいですよぉー!?」

戦士「魔物が美味しいと思うのは……当然でしょうね……」

ドラゴン「腐った肉は流石に食えんがな」

ミイラ「どうしてたべてくれないんですかぁー!!!プンっプンっ!!」

青年「キマイラに命令されたことをそこまで守ろうとするのは、どうしてですか?」

ミイラ「キマイラなんて知りません!!」

魔法使い「いい加減にしないとその包帯燃やして、素顔を晒してやるわよ」

ミイラ「それだけはやめてくださーい!!!」

戦士「……」

賢者「ミイラっ娘に罪はねえよ」

戦士「でも……」

ミイラ「分かりました……そこまで食べることを拒否するなら……無理やりお持て成しさせていただきまぁぁす!!!!」

青年「な……!?」

ミイラ「うへへへへ。たべろー、たべろー」ググッ

青年「まって……!!ダメだ……なんてパワー……!!」

戦士「……斬ります」

青年「待ってください!!」

戦士「しかし、このままでは!!」

ドラゴン「キマイラに何を言われた?」

ミイラ「だから、キマイラって誰ですか?」

魔法使い「もう白を切る必要はないわよ。全部分かってるの」

ミイラ「なんのことやら」ググッ

青年「肉をおしつけるなぁ……!!」

少女「―――この肉はどうしますか?」

エルフ「えっと……」

僧侶「私が……供養します」

エルフ「……」

少女「お願いします。私は加勢に向かいます」

少女「その手を離してください」グイッ

ミイラ「いたたたたた!!!!」

青年「た、助かった……」

ミイラ「なにするんですぅ!?」

ドラゴン「ここにキマイラは来たんだろ?正直に言え」

ミイラ「いやです!!ドラゴン様は敵になったと言われましたから!!!」

青年「敵……まぁ、そうですね」

魔法使い「ちょっと」

ミイラ「だから、私はもてなします!!!さぁ、食べてください!!!」

戦士「貴方は自分が何をしているのか、分かっていないんですね」

ミイラ「はい?」

戦士「貴方がしていることは―――」

少女「全てが間違いというわけではないでしょう」

戦士「え……?」

少女「素材を活用している点では間違いではありません」

戦士「素材……?」

少女「この子からすれば、こちらにある肉塊はただの食材です」

戦士「どうしてそんな言い方が!!」

少女「魔物にとってニンゲンは食材にもかわります」

青年「そうですね。生き物ととるか食材ととるか。その場その場で変化するのは人間も然りでしょう」

戦士「だからって……」

ミイラ「ふんっ!!ドラゴン様!!どーしてニンゲンと一緒にいるんですかぁ?!おかしいですよぉ!!」

ドラゴン「お前は何故、ここにいる?」

ミイラ「ここで生まれて育ったからですけど?!それがなにかぁ!?」

エルフ「キマイラに侵入者はもてなせって言われたから、こうしてたんだよね?」

ミイラ「そうですよ?だから、貴方達ももてなします!!!」

少女「暴れないでください」グキッ

ミイラ「いたたたたたた!!!!いたい!!いたいよ!!!」

魔法使い「ねえ、貴女。もしかして外で何があったのか、知らないの?」

ミイラ「外?外で何かあったんですか?」

戦士「魔王は勇者によって倒されたんです」

ミイラ「はい?でも、キマイラ様が魔王になったと言っていましたけど?」

賢者「今、この世界に魔王はいねえよ。厳密にはいるけど、魔王としての仕事はしてねえなぁ」

ドラゴン「している。あれでも全員の士気を高めることには貢献しているぞ」

賢者「必死だなぁ」

ドラゴン「黙れ」

ミイラ「魔王がいないって……。そんな嘘でミーをどうにかできるとでも?」

青年「君は……」

ミイラ「ミーはここの番人を任されたのです!!あの魔王様に直接!!勅命ですよ!!勅命!!!それを守らずしてどうしますかぁ!!!」

僧侶「だから、キマイラが持ってきたお肉を使っておもてなしを……」

ミイラ「そーですよ!!!」

少女「どうしますか?」

賢者「こりゃぁ、キラちゃんより、どっかのバカに似てるなぁ。お嬢ちゃん?」

戦士「ここは通してもらえないんですね?」

ミイラ「お持て成しが済んだら帰ってもらいますよ!!絶対に通すなって言われてますからー!!!」

青年「ミーちゃん、聞いてください」

ミイラ「なんですかー!!?」

青年「一人でこんなところにいて、寂しくないですか?」

ミイラ「寂しくないですけど!!」

青年「……この扉の向こうになにがあるのかは知っていますか?」

ミイラ「鏡っ!!」

青年「正解。えらいね」

ミイラ「えへへ。って!!ミーを懐柔しようなんて無理ですからね!!!さっさと、お肉食べて帰ってください!!」

ドラゴン「押し通るか」

青年「鏡は必要……ですからね」

賢者「そうかぁ?別にいらねえだろ」

戦士「鏡がなければ王女のしていることを信じてもらえませんよ」

賢者「確かにそうだが。手に入らないなら入らないでやりようもあるだろぉ、兄ちゃん?―――何も国民を信じさせることはない」

青年「……」

戦士「それだけはダメです!!!」

青年「分かっていますよ」

戦士「……っ」

賢者「親父だけでも救おうってか」

エルフ「でも、このままじゃ何も解決しないよ」

青年「ミーちゃんを説得するしかないですね」

ドラゴン「どうやってだ?」

青年「あの子の弱点はなんだと思いますか?」

魔法使い「それは……あの包帯?」

青年「正確には素顔を晒されることですね」

ドラゴン「お前……」

青年「もう、それしかありません……。ホントはこんなこと……こんなことしたくないのに……!!」

魔法使い「見たいだけでしょ?」

ミイラ「な、何をするつもりですかー!!!やめてー!!!やめてぇー!!!」

青年「キラちゃん、絶対にミーちゃんを離さないでくださいね」

少女「了解しました」

青年「よいではないか、よいではないか」

ミイラ「ぎゃぁぁぁぁ!!!!それだけはぁぁぁ!!!!!」

青年「なら、協力してくれますか?」

ミイラ「……い、いやです」

青年「なら、仕方ないですね……。よいではないか、よいではないか」

ミイラ「あぁぁぁぁぁ!!!!!」

少女「大人しくしてください」

魔法使い「なんだか、罪悪感が」

エルフ「うん……」

賢者「ひでぇことしやがるなぁ」グビグビ

戦士「……大丈夫ですか?」

僧侶「……はい」

戦士「あの……」

僧侶「今は……その……一人に……」

戦士「は、はい……」

ミイラ「みないで……みないでください……」ウルウル

青年「おや……」

魔法使い「……」

エルフ「あ……」

少女「扉の解錠をお願いします」

ミイラ「はい……あけますから……みないで……みないでください……」

青年「こうなっているのですね」

ミイラ「いやぁ……みちゃやだぁ……」

賢者「おーぅ。もうやめてやれよぉ」

青年「そうですね」

ミイラ「ひどいよぉ……ひどいよぉ……」

青年「あの、僕の正妻に」

魔法使い「こら、鬼畜野郎。何をこんな状況で言ってるの?悪者は完全に私たちよ?」

青年「しかし、責任を取るのも僕の務めです」

戦士「何を言っているんですか……こんなときに……」

ドラゴン「こんな時だからだな」

戦士「え?」

ドラゴン「この一件でつまらぬ諍いの種が撒かれてしまったのも事実だ。奴なりに場を繕おうとしているのだろう」

戦士「……そんなことをしなくても」

ドラゴン「ああ、しなくてもいい。所詮は人間と魔族だ。分かり合えないときもある」

戦士「彼女……大丈夫でしょうか……」

僧侶「……」

ドラゴン「聖職者としては厳しいな。禁忌を犯したといってもいいからな」

戦士「なんて声をかければ……」

ドラゴン「奴がうまくするだろう」

ミイラ「うぅ……ぐすっ……あけましたよぉ……はやくいってくだい……」

青年「こんなに傷つけてしまうとは……。貴女の傷を一生かけて癒します。是非とも正妻に」

ミイラ「こっちをみないでぇ……あっちいってくださいぃ……」

戦士「信じていいんですよね?」

ドラゴン「やるときはやる男だ」

青年「行きましょうか」

魔法使い「私も行くわ」

少女「マスターはどうしますか?」

ドラゴン「ここに残ろう。こやつにも聞きたいことがあるしな」

ミイラ「みないでぇ……みないでよぉ……」

エルフ「今、巻き直してあげるから」

ミイラ「うぅ……ふぅぅ……」

戦士「待ってください」

青年「なんですか?」

戦士「彼女はどうするんですか?」

青年「彼女?」

僧侶「……」

戦士「このまま放っておくつもりですか?」

青年「……鏡が先です」

戦士「なっ……ちょっと!!」

賢者「俺もいくぜぇ、兄ちゃん」

青年「分かりました」

戦士「貴方の側室でしょう!?」

青年「……」

魔法使い「抑えて」

戦士「だって!!」

青年「この先にあるはずです」

戦士「……!!」

魔法使い「待って」

戦士「なんですか!?」

魔法使い「一人にしてって言われなかった?」

戦士「言われましたけど……!!」

魔法使い「いいから、あいつを信じてあげて」

戦士「しかし!」

魔法使い「あいつだって苦しんでるから」

戦士「……」

魔法使い「ね?」

戦士「私は、彼女のところの傍にいます」

魔法使い「……分かったわ。お願い」

戦士「はい」

青年「どのような鏡でしょうね」

賢者「さぁな」グビグビ

戦士(逃げるんだ……やっぱり……)

戦士「……あの」

僧侶「はい?」

戦士「水、いりますか?」

僧侶「いえ、今は……」

戦士「そ、そうですか……」

僧侶「申し訳ありません。お気を遣わせてしまって……」

戦士「いえ……そんなことは……。誰だって辛いですから……」

>>485
戦士「私は、彼女のところの傍にいます」

戦士「私は、彼女の傍にいます」

僧侶「どうして一度、口に入れてしまったんでしょうね……。みなさん、口に近づけようともしていなかったのに……」

戦士「……」

僧侶「本当に私は駄目です……。貴女にも心配をかけてしまって……」

戦士「あの……」

僧侶「ありがとうございます。少しだけ、元気がでました」

戦士「そ、そうですか……。よかった……」

ドラゴン「キマイラはどこへ行った?」

ミイラ「言う訳ないですよー!!!ふざけんなー!!!!」

少女「マスターになんて言葉を」シャキン

ミイラ「ひぃぃー!!!」

エルフ「まぁまぁ……」

ドラゴン「奴の居場所を吐け。でなければ、もう一度その巻き付いている布を剥ぐぞ」

ミイラ「それだけはー!!!キマイラ様の居場所なんてしりませんよー!!!たまにお肉を持ってくるだけですー!!!最近は見ませんでしたけどー!!!」

ドラゴン「そうか……」

戦士(みんなどうして平気な顔を……。もっと心配したりするものじゃないの……?)

青年「みなさーん!!ありましたよー!!」

ドラゴン「見つかったか」

賢者「立派な鏡だぜぇ」

青年「これが真実を映し出す鏡ですね」

エルフ「へー。綺麗だね」

少女「しかし、鏡としての機能は損なわれているようです。何も映りません」

青年「キラちゃんは裏表の無い子だからですよ。これをこっちに向けると……」サッ

ミイラ「こっち向けるなー!!!うおー!!!」

ミイラ『顔……みられちゃった……もう……生きていけない……。お嫁にもいけない……どーしよー……』

ミイラ「わー!?なんですかぁー!?」

賢者「真実が映るっていうのは怖いなぁ」

青年「全くですね」

ミイラ「わー!?わー!?素顔だけじゃなくて心の包帯まで剥がれたぁー!!!」

青年「あっはっはっは」

戦士(あの鏡が……)

魔法使い「目的のものも見つかったし、行きましょう」

青年「そうですね」サッ

魔法使い「ちょっと!こっちに向けないで!!」

魔法使い『早く元気付けてあげて。アンタのこと待ってるんだから』

青年「……」

魔法使い「やめてって言ってるでしょ!」

青年「申し訳ありません」

魔法使い「まったく、もう……」

青年「危険な鏡ですね……」

ドラゴン「こいつを城に連れていきたいのだが、いいか?」

青年「そうですね。この鏡を用いて色々と聞き出しましょう」

ミイラ「これ以上、何を訊くつもりだぁー!!!こんちくしょー!!!!」

エルフ「少し可哀想だね」

少女「貴重な情報源ですから、致し方ありません」

ミイラ「うわぁーん!!!外にでたくなーい!!!」

―――砂漠の街

竜娘「船で城に行くだと?」

青年「ええ。尋問はドラゴちゃんに任せます。キャプテンともそろそろ合流しておいたほうがいいと思うので」

竜娘「そうか」

青年「キラちゃんはどうする?」

少女「マスターの護衛をします」

竜娘「必要ない」

青年「……」サッ

竜娘『こいつだけはどうしていつもいつも可愛げのある言動をするんだ……』

竜娘「おい!!!おいっ!!!」

青年「キラちゃん、どうしますか?」

少女「マスターの護衛をします」

竜娘「好きにしろ……」

少女「はい」

賢者「兄ちゃん、やりすぎだぜぇ?」

竜娘「なら、近くの港まで来るように伝えておこう」

青年「助かります。では、鏡を。尋問に使ってください」

竜娘「ああ、責任をもって預かろう。行くぞ、木偶人形」

少女「はい」

ミイラ「やめてぇぇ……いえにかえしてぇぇ……キマイラさまぁぁぁ……」

青年「……キラちゃんについていかなくてよかったんですか?」

エルフ「メンテナンスはやったし、大丈夫。ボクも連日動いて疲れたから、ちょっと休みたかったし」

青年「そうですか」

戦士「……船が来るまでこの街に滞在ですか?」

青年「急いては事を仕損じるといいますし」

戦士「分かりました」

魔法使い「疲れたわね。宿にいきましょ」

僧侶「そうですね」

賢者「俺も酒場にいってくるぁ」

青年「しばらく自由行動にしましょうか。街の外には出ないでくださいね」

―――夜 宿屋

戦士「……」

エルフ「ふわぁ……」

戦士「……彼女は?」

エルフ「ボク、そんな趣味はないけど」

戦士「何を言ってるんですか?」

エルフ「冗談だよ。外の空気を吸ってくるって言って出て行ったけど」

戦士「そうですか……」

魔法使い「……」

戦士「一緒に行きませんか?」

魔法使い「ん?」

戦士「彼女は大切な人なのでしょう?部外者の私でもそれぐらいはわかりますよ」

魔法使い「そうね……」

戦士「掛ける言葉が見つからなくても、傍に居てあげるべきだと思います」

魔法使い「なら、行ってみましょうか」

―――中央広場

戦士「どこにいるんでしょうか……」

魔法使い「てっきり、宿屋の前で空でも仰いでると思ったんだけど」

戦士「まさか……街の外へ……?」

魔法使い「バカなこと言わないで。不安になるでしょ?」

戦士「申し訳ありません……」

魔法使い「バカと言えば、あのバカもいないし……」

戦士「そうですね」

魔法使い「もしかして……二人で……」

戦士「え?」

賢者「おーぅ。お嬢ちゃん、姉ちゃん」

魔法使い「泥酔してるわね、相も変わらず」

賢者「ほめんなよぉ」

戦士「あの……」

賢者「向こうにいるのをみたぜぇ?寂しそうにしてたなぁ」

魔法使い「あいつも一緒?」

賢者「兄ちゃんならさっきまで俺と飲んでたぜぇ」

戦士「な……」

魔法使い「どこに行ったの?」

賢者「そこまではしらねえよぉ。宿に戻るって行ってたけどなぁ」

戦士「……はぁ。少し期待してたのに」

魔法使い「そう……」

戦士「行きましょう。あの人はアテになりません」

魔法使い「行く必要はないと思うけど」

戦士「何故ですか?!」

魔法使い「だって……」

賢者「行けばヤキモキしちまうもんなぁ?いや、ヤキモチか?」

魔法使い「うるさいわね」

戦士「急ぎましょう」グイッ

魔法使い「わわっ!?」

戦士「この辺りでしょうか……」

魔法使い「こっち」

戦士「居ましたか?」

魔法使い「しー」

戦士「え……?」


僧侶「……」

青年「ここに居られましたか」

僧侶「勇者様……。どうかされましたか?」

青年「犬の姿が見えなかったので、心配しました」

僧侶「あ、ごめんなさいワン」

青年「そう、それでいい。お手」

僧侶「はいワン」

青年「立派な雌犬だな。愛おしいぞ」


戦士(何やってるんだ……あの人……!!!)

青年「よしよし」ナデナデ

僧侶「勇者様ぁ、もっと撫でてくださいワン」

青年「……僕は人を見殺しにしたことがあります」

僧侶「……え?」


魔法使い「……」

戦士「何の話を……」


青年「僕も罪深い男です。貴方をこんなにしてしまったし」

僧侶「勇者様……?」

青年「初めから僕は勇者の器ではなかった」

僧侶「そんなことは」

青年「……」

僧侶「そんなことはありませんワン」

青年「いえ。自覚しています。魔法も使えない、人一人自力では助けることも覚束ない。俺には初めから勇者と呼ばれるだけの資格なんてなかったんですよ」

僧侶「でも、勇者様は私たちを救ってくれました。心も体も」

青年「どうでしょう。今、貴女がこんなにも苦しんでいるのに俺は何もできない」

僧侶「ち、違います。私は別に……」

青年「思えば、貴女にはいつも無茶なことをお願いしていた」

僧侶「いいえ。私がタフだから……」

青年「俺が強くなろうと決めたのは、好きな人を失いたくなったからでもあるんです」

僧侶「……」

青年「自分を守るために強くなって欲しいと言われたのに、結局俺は守れなかった」

青年「でも、同時に大切な人が傍に居れば強くなれるということも学んだ。だから、俺は君たちの盾になりたかった」

僧侶「それは、初めからですか?」

青年「出会ったときにそう思わせてくれるほど、魅力的だったんですよ」

僧侶「ありがとうございます……」

青年「でも、守れなかった」

僧侶「え?」

青年「貴女が無理をして食べようとしたときに、俺は止めなければならなかったのに。できなかった」

僧侶「私が勝手にしたことです。勇者様が気に病むことなんて……」

青年「あのとき、誰かが口にしなければミイラに失礼だと思ってしまったんだろ?」

僧侶「……はい」

青年「君の考えが分かってしまったから、止められなかった」

僧侶「いえ……」

青年「すまない」

僧侶「やめてください……そんな……」

青年「君の優しさに甘えた俺の所為でもある」

僧侶「違います……」

青年「君はいつも誰にでも分け隔てなく接していたから」

僧侶「違います、勇者様……」

青年「……」

僧侶「私はただ何も考えていないだけで……その……ご迷惑をかけているのは……私のほうで……」

青年「もし今日のことを後悔して、自分を責めるぐらいなら、俺を呪え」

僧侶「で、できません!!」

青年「そのほうが楽になれる」

僧侶「ど、どうして勇者様の所為にしなければならないんですか!!」

青年「どうして君が苦しまなきゃいけない?」

僧侶「それは、私の所為だから……で……」

青年「そうですね」

僧侶「え?」

青年「貴女にそんな芸当ができるはずもない。自分を責めて責め抜いてみたらいいんじゃないですか?」

僧侶「……」

青年「それで辛くなったら、俺に君の心を守らせてくれ。俺にはそれぐらいしかできそうにないから」

僧侶「……うぅ……うっ……じゃぁ……いま……おね……がい……します……」

青年「任せてください。守るのは大得意ですから」

僧侶「うっ……うぅ……」

青年「すまない……」


魔法使い「帰りましょう」

戦士「彼はどうしてあそこまで……」

魔法使い「さぁ……あんまり昔のことは喋ってくれないからね……アイツ……」

―――宿屋 寝室

エルフ「おかえり」

魔法使い「ただいま」

戦士「……」

エルフ「どうだった?」

魔法使い「もう大丈夫じゃないかしら。帰ってくるときにはきっと落ち着いているわ」

エルフ「そっか。よかった。流石にどう声をかけていいか分からなかったもんね」

魔法使い「そうね。結局、アイツを頼っちゃったわ……」

エルフ「こういうときはいつもだね。そろそろなにかお礼でもしておいたほうがいいかも」

魔法使い「それすると調子に乗って大変なのよね」

エルフ「あはは。でも、ボクたちが支えられているのは間違いないんだし」

戦士「あの」

エルフ「なに?」

戦士「彼はその……かなり自己犠牲の考えが強いみたいですけど、3年前からなんですか?」

エルフ「そうだよ。死ぬならボクたちを守って死ぬって言い切ったぐらいだから。ちょっとカッコいいけど、同時に急に消えそうで怖いんだ」

戦士「そうですか……」

エルフ「なに?やっぱり、気になる?」

戦士「普段の言動からは見えなかった部分ですから」

エルフ「意図的に隠してるし、初めて見たときは面食らうっていうか、どっちが本物なの?って感じになるね」

魔法使い「ギャップで女を釣ろうとしてるんでしょ」

エルフ「それもあるかもしれないけど、やっぱり見せたくないんじゃないかな?」

魔法使い「まぁ、そうね……」

戦士「見せたくない?」

魔法使い「ちょっとだけ昔のことを話してくれたことがあるけど、そのときも大事な部分は伏せていた感じはあったわね」

戦士「何かあるんでしょうか……」

エルフ「聞いた事あるんじゃないの?側室1号さんなら」

魔法使い「側室3号も結構可愛がられるじゃないの」

エルフ「ボクはそこまでだよ。だって単独行動させられるほうが多いし。そっちのほうがよく一緒に行動してるじゃん」

魔法使い「それは貴女が信頼されているからでしょ?信頼されている貴女になら色々語ってるんじゃないの?」

戦士(いけない。おかしな空気に……)

エルフ「ボクには殆ど……あ、でも、1年前のあの日は……」

戦士「貴女が不覚を取ったときのことですか?」

エルフ「あ、あぁ……うん……」

魔法使い「なんだっけ、酔っ払って何か告白したんだっけ?」

エルフ「わー!!!!!」

戦士「告白?何をですか?」

魔法使い「さぁ。私も詳細を知りたいんだけどねぇ。当事者たちは口を閉ざしてるのよ」

エルフ「それ墓まで持っていくって約束だから!!」

戦士「まさかとは思いますが……」

エルフ「想像に任せるよ。絶対に言わないから」

戦士「そ、そうですか……。それでそのときに何かあったんですか?」

エルフ「あ、ええと……。失言してボクが落ち込んでるときに、ならこっちも失言しますって言ってからちょっとだけ昔のことを話してくれたんだ」

魔法使い「どんなこと?」

エルフ「ええと……。昔は兵士としての自覚が芽生えなくて、いくら訓練しても強くなれなかったとか。あとは勇者に選ばれた友人がいたこととか。あとは……初恋の話もしてくれたよ」

魔法使い「最後の詳しく教えなさいよ」

エルフ「詳しくって言っても昔、その年上の綺麗な女性に憧れていたらしくて、今現在の女性の好きなタイプに影響が出てるって言ってたけど」

魔法使い「ふぅん。それだけ?」

エルフ「それだけ」

魔法使い「……」ジーッ

エルフ「本当だってば」

戦士「無類の女性好きではないのですか?」

エルフ「美人な女性ならなんでも良いみたいだけど、多分美人の基準がその初恋の人なんじゃないかな」

戦士「なるほど……」

魔法使い「ふぅん……」

エルフ「それだけ。そっちはどうなの?」

魔法使い「私はえっと……兵士時代のことと、あとはどうして側室を集めることにしたのかっていうぐらいね」

エルフ「そういえば、どうして集めてるの?詳しく聞いた事ないんだけど、理由あるんだ」

魔法使い「表向きは美人な人と老後を楽しく暮らすっていうのだけど」

エルフ「うんうん」

戦士(私は退室しようかな。なんだか、二人とも楽しそうだし……。こういうとき部外者はいないほうがいいよね)

―――廊下

戦士(そういえばあの二人、今頃何して……)

賢者「そりゃあ、若い男女がすることっていったら、一つだけだろぉ?」グビグビ

戦士「不潔です。あと急に話しかけないでください。一応、驚いてるんですよ」

賢者「そりゃあ、悪かったなぁ。うーぉ、お嬢ちゃん。何してんだぁ?」

戦士「順序が逆です」

賢者「そうかい?」

戦士「全く……」

賢者「船が港に着いたら、魔王の城に行って……そして、決戦だな。王女様とキマイラとお嬢ちゃんのオヤジとな」

戦士「そうですね」

賢者「勇者探しがどえらいことに巻き込まれたなぁ。つっても俺たちは、兄ちゃんたちが行き着いた終点間際に乗り合わせたってだけだがなぁ」

戦士「ええ。彼女たちは彼を……人知れず世界を救い、その後も守り続けてる勇者のことを厚く信頼しているようです。絆も強い」

賢者「俺たちじゃあ入り込めないぐらいになぁ」

戦士「……だからかもしれませんね。彼のことを少しでも知りたいと思うのは」

賢者「城の一件で兄ちゃんの本性を見ちまったからだろ。特に有名人や偉人奇人と呼ばれた奴らの頭っていうのは見てみたくなるもんさ。大概はつまんねぇもんが詰まってるだけだがなぁ」

戦士「彼もそうだと?」

賢者「俺から言わせりゃな」グビグビ

戦士「……」

賢者「知りたいか。言ってもいいけどよぉ、他人の心ほど悪い方向に期待を裏切るもんはねえぜ?」

戦士「……」

賢者「そうかい。なら、口を紡ごう。俺ぁ心の代弁者を気取るつもりはねえからなぁ」

戦士「心を読んでしまうことを不便だと感じたことはあるんですか?」

賢者「そうだな……。酒に逃げずに済んだだろうな。この呪いがなければよぉ」

戦士「そうですか」

賢者「だが、感謝もしてるぜぇ」

戦士「そうなんですか?呪いなのに?」

賢者「お嬢ちゃんと出会えたからなぁ。これだけは呪いに感謝しとかねえとぉ!!かんぱぁーい!!!」

戦士「はいはい」

賢者「つめてぇなぁ。お酌しろよぉ」

戦士「早く寝てください」

>>568
賢者「そうかい。なら、口を紡ごう。俺ぁ心の代弁者を気取るつもりはねえからなぁ」

賢者「そうかい。なら、口を噤もう。俺ぁ心の代弁者を気取るつもりはねえからなぁ」

賢者「おーぃ。なんだよぉ。昔話もきけよぉ。おっさんになると語りたくなる呪いを受けてるんだからよぉ」

戦士「知りませんよ」

賢者「この呪いも結構きついんだぜぇ?魔力だって常に消費してるしよぉ」

戦士「そうなのですか?」

賢者「おぅ。心を読むのもタダじゃねえんだぜぇ。だから、もっと敬ってくれていいだろぉ?」

戦士「……まぁ、貴方は命の恩人ですから、マッサージぐらいは」

賢者「命の恩人……か」

戦士「何か?」

賢者「あの鏡が手に入った時点で、いずれはバレちまうし、今言っとくか。嫌われるのは早いほうがいいしなぁ」

戦士「なんですか?」

賢者「10年前のことだ」

戦士「……!」

賢者「さっき呪いのおかげでお嬢ちゃんと出会ったって言っただろ?ありゃぁ冗談でもなんでもねえよ。マジモンの話だ」

戦士「……」

賢者「おぅ、そうだ。怪しめ怪しめ。俺ぁお嬢ちゃんとは10年前にも会ってるんだ。あの小さな農村でなぁ」グビグビ

戦士「……貴方、誰なんですか?」

賢者「お嬢ちゃんが最も嫌いな人種だって、前にも言っただろ?」

戦士「……勇者?」

賢者「そう。あの国で4代目の勇者だ。剣術よりも魔法が得意な、な」

戦士「……」

賢者「俺ぁあの村を見捨てたぁ」

戦士「何故、今それを?ずっと黙っていてもよかったのでは?」

賢者「そう思ったけどよぉ、鏡が手に入っただろ。あれに隠し事はできねえからなぁ」

戦士「映らなければいいだけです」

賢者「そうはいかねぇ。何かの拍子で映っちまうこともある。それを持ち歩くとなれば尚更だ」

戦士「それでも……」

賢者「いい機会だったんだよ。いつかは話そうって思ってたからなぁ。―――あの城の一件で生き延びちまった直後にそう思った」

戦士「死んで真相を語るつもりはなかったってことですか」

賢者「10年ぶりに会ってよぉ、心の底から村を見捨てた勇者のことを恨んでるんだぜぇ?そりゃ言えねえよ。こえぇもの。ただ、今なら兄ちゃんのおかげかちょっと穏やかになってるけどよぉ」

戦士「……そっちが本音ですね」

賢者「お嬢ちゃんにだけは殺されたくなかった。すまなかったなぁ」

戦士「……」

賢者「話、きくか?」

戦士「聞かせたいのでしょう」

賢者「おぅ」

戦士「……どうぞ」

賢者「まぁ、殆どはお嬢ちゃんも目撃してたことでもある。農村が魔物に襲われてあぶねえ。颯爽と俺が登場。見事に敗戦。そして逃亡。その後、村が壊滅。これだけの話だ」

戦士「呪いのおかげで私に会えたというのは?」

賢者「途中、お嬢ちゃんの姉さんに出会った。姉さんの心の声を聞いたんだよ。妹が隠れている。どうか見つかりませんようにってな」

戦士「……」

賢者「で、ほとぼりが冷めたあとにオヤジさんとお嬢ちゃんの捜索に向かったわけだ。そのときに小さな収納スペースで気を失っていたお嬢ちゃんを見た。それだけだ」

戦士「心の声が聞こえていなかったら……」

賢者「捜索なんてされずお嬢ちゃんは餓死してたかもなぁ」

戦士「義父さんはそんなこと一言も……」

賢者「黙っててくれって言ったんだよ、俺が。恐らく勇者のことを恨んでるはずだからってな。10年で見事に憎悪が気球みたいに膨らんでたけどなぁ」

戦士「……」

賢者「……俺の所為だ。悪かった」

戦士「どうして、逃げたんですか……?」

賢者「勝てないって判断したからだ」

戦士「どうして村を見捨てたんですか?」

賢者「残っても何もできねえ。無残にやられ、敗走してきた勇者を村の連中は心から罵ってた」

戦士「……!?」

賢者「まぁ、当然だな。下手に喧嘩を売って、村が危険に晒されただけなんだからよ」

戦士「だから……」

賢者「そこまで言われりゃあ戦う気力もなかったし、そもそも勝ち目もなかった。だから俺ぁ逃げたね」

戦士「……っ」

賢者「我ながら天晴れな遁走っぶりだぜぇ」

戦士「貴方は村の人たちを恨んで……?」

賢者「村の連中を俺は恨んじゃいねえよ。当たり前の罵倒だったからなぁ。負けた勇者は例外なく失望されるもんだ。―――とは思えなかったのが俺だ」

戦士「だから、村を見捨てたと?」

賢者「そーなるな」

戦士「……」

賢者「おお、怒ってるなぁ、くくくく……」

戦士「……貴方が私の命を二度も救ったことは事実なんですね。感謝いたします」

賢者「お嬢ちゃん、言いたいことは口にだせ。お肌が荒れるぜぇ?」

戦士「……いいんですか?」

賢者「おぅ。こいよ」

戦士「ふぅー……」

賢者「よっし、俺も気合いれるかぁ」パンッパンッ

賢者「こい!!お嬢ちゃん!!」

戦士「お酒臭いですよ」

賢者「……お嬢ちゃん」

戦士「私の本心は伝わっているはずです。口に出すまでもないでしょう?」

賢者「おっさん、マゾだから罵倒してくれたほうが嬉しいんだけどなぁ」

戦士「貴方のことは許せませんよ。村を見捨て、逃げ出したことは事実ですからね。でも、逃げ出した原因の一端が私たちにあるなら、貴方を責めることは今の私にはできません」

賢者「そうかい?」

戦士「エルフ族のこと、魔王のこと、勇者のこと……そして、ここ数日経験したことがそうさせています」

賢者「そうかい……」

戦士「それに、貴方は全部を話していない」

賢者「……お」

戦士「何故、話さないのかは知りませんが、そんな貴方にとって都合のいい部分だけど話されても判断に困ります」

賢者「どうしてそう思うんだ?」

戦士「貴方と姉さんが出会っているからです」

賢者「……」

戦士「確か、姉さんは迎えに来た二人の男の子と一緒に両親よりも先に村を出ました。無論、それでも貴方が逃げ出したあとになりますが」

戦士「どうして姉さんと貴方が出会えるんですか。戻ってきたんですか?」

賢者「そりゃぁ道に迷ってよぉ……」

戦士「既に伝わっているでしょうけど、私はこう考えています。勇者は一度逃げ出したのではなく、応援を呼びにいったのではないかと」

賢者「そうかぁ?臆病風に吹かれただけじゃねえかなぁ」

戦士「さっきから、なんですか。私に恨んで欲しいんですか?」

賢者「……ああ。このタイミングで話そうと思ったのも、もう一度お嬢ちゃんには勇者を心から恨んで欲しかったからだ」

戦士「何故?」

賢者「俺ぁ賢い。そりゃあ賢い。だから、色んなことが分かっちまう」

戦士「……」

賢者「お嬢ちゃん、この先必ず勇者に失望するだろうな」

戦士「理由はなんですか?」

賢者「わからねえか?―――この先よ、兄ちゃんが進む先にはお前のオヤジさんがいるんだぜぇ?そしてあの堅物は王女を命がけで守る。となれば、わかるだろ?」

戦士「……」

賢者「そうだ。オヤジを殺すことになる」

戦士「そんなことには……」

賢者「分かってるくせに強がるなよ」

戦士「……!」

賢者「あの堅物が娘がいるからって退くか?手を抜くか?なわけねえよなぁ。全力で殺しにくる。王女が殺せと言ったらな。そう言う奴だ、あいつはぁよ」

戦士「だから、今勇者に失望しておけと。親の仇になるまえに」

賢者「心の準備って奴だ。いきなり目の前でオヤジが殺されてみろ、お嬢ちゃんは冷静でいられるか?敵になったから仕方ないで済ませられるか?」

戦士「でも、殺さなくても……」

賢者「甘えたこというんじゃねえよ」

戦士「な……!」

賢者「オヤジの強さはお嬢ちゃんが良く知ってるだろうが。こっちも殺す気でいかねえと、死ぬぞ?」

戦士「それは……」

賢者「まぁ、魔物の軍勢でも引っ張ってくるなら、生かしておくこともできるだろうが、それをしちまうとまた3年前に戻る。魔王を狩る為に勇者が生まれる」

賢者「兄ちゃんが描く最も最悪の時代が来る。だから、人間の手でやるしかねえんだよ」

戦士「王女の後ろにはキマイラがいるんですよ!?」

賢者「表向きには魔物が人間の集落を襲うんだ。世間にとっては立派な侵略行為。報復しても許されることになるだろうなぁ。そもそも何もしらねえ善良な市民までいるんだから、魔物を使う時点で終わりだ」

戦士「……」

賢者「今ならまだオヤジ側にいけるぞ。極刑になるだろうけど、オヤジが兄ちゃんの側室たちを殺す場面や、勇者がオヤジを殺す場面は見なくて済む」

戦士「どうしてそんなことを言うんですか……」

賢者「それが戦いだからだよ。覚悟がねえなら逃げろ。逃げる勇気がねえなら死ね。ちなみに俺ぁどっちも失敗したがなぁ」グビグビ

戦士「私は……」

賢者「勇者に失望できるだけの覚悟を持ちな、お嬢ちゃん。今、お嬢ちゃんの中で兄ちゃんの株が上がってるのはよく分かるが、これから兄ちゃんが戦う相手の殆どは人間だ。それを忘れるな」

戦士「……っ」

賢者「すまねえな。説教臭くなってよぉ。死ねとはいったけど、お嬢ちゃんには生き抜いて欲しい。まだ、死ぬには若すぎるしなぁ」

戦士「わかっています。彼は言いました。側室の敵は斬ると。強く断言してくれました」

賢者「そうだ。兄ちゃんは容赦しないだろうぜ。本当に敵ならな」

戦士「……」

賢者「さてと、酔いがさめちまったなぁ……一杯煽ってねるか」グビグビ

戦士「あの」

賢者「……ん?」

戦士「私に何ができるのかわかりませんが、戦います。彼らと共に」

賢者「……最後に一つだけいいか?」

戦士「なんですか?」

賢者「兄ちゃんはすげえ男だ。青臭けぇけど、やるときはやる男だ。だから……期待だけはしてやるな」

戦士「え……」

賢者「兄ちゃんでも救えないものはあるんだからよ。結果で落胆するぐらいなら最初から憎んでてやってくれ。そのほうが楽だ。……おやすみ、お嬢ちゃん」

戦士(そうか……。私は期待していたんだ。多くの魔物を従え、多くの仲間に頼られて好かれている彼に……。彼なら義父さんぐらい救えるだろうって……)

戦士「……」

青年「どうかされましたか?」

戦士「え?……いえ、別に」

青年「僕の帰りを待っていてくれたんですか?側室度が2ポイント上がりました。やったね」

戦士「彼女は?」

青年「随分前に部屋に戻ったはずですが。見ませんでしたか?」

戦士「ここで話をしていたので……」

青年「そうですか」

戦士「あの」

青年「おやすみのキスですか?」

戦士「貴方のこと教えてくれませんか?」

青年「いいでしょう。まずは下半身の王者度から」カチャカチャ

戦士「……話、聞いてしまいました。過去に見殺しにした人がいると」

青年「やっぱり、貴女でしたか。もう一人は側室1号ですね?匂いでわかりましたよ」

戦士「それが貴方の汚点なら、聞かせてもらえませんか?」

青年「何故ですか?」

戦士「貴方を嫌いになっておこうと思いまして……」

青年「今もそれほど好きではないでしょう?」

戦士「そうですけど……。その好きと信用は別物ですから」

青年「面白くないですし、そこまで僕を嫌いになれるようなエピソードではないですよ」

戦士「それでも」

青年「僕が住んでいた小さな村に魔物が攻めてきました。そのとき憧れていた女性と親友と一緒に逃げ出し、途中、その女性が足を怪我して動けなくなったんです」

戦士「それで、その女性を……?」

青年「すぐ傍まで魔物は来ていましたからね。あの場で回復を待っていたら三人とも食われていました」

戦士「なるほど……」

青年「ほら、白けました。どうしてくれるんですかねぇ?これはもう、ベッドで運動会ですかぁ?あーはん?」

戦士「確かに嫌いになれるほどではないですね。戦時中ならよくある話です」

青年「……確かに」

戦士「つまらない時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした。おやすみなさい」

青年「もしかして、10年前に貴女の村で起こったことを聞いたんですか?」

戦士「ええ。話してくれました」

青年「僕のことは?」

戦士「は?」

青年「僕のことは何も言っていませんでしたか?」

戦士「な、なにを……」

青年「貴女の姉を見殺しにしたのはこの僕だと、言っていませんでしたか?」

戦士「……!!」

青年「そうですか。意外と口が―――」

戦士「あなたは……!!ずっと隠して……わたしに……!!」

青年「貴女には姉さんの面影しかない。初めて会ったときから、貴女とは同郷だと気付いていました」

戦士「姉さんを……知っているの……?」

青年「貴女の家族を殺した勇者はずっと傍にいたんですよ」

戦士「……」

青年「……僕の汚点は貴女の姉を置き去りにしたことです」

戦士「どうして……なにも……言って……くれないの……」

青年「正直に言いましょう。情報が欲しかったからです」

戦士「情報……」

青年「そう。貴女が仕えていた王女の」

戦士「……」

青年「真実を語れば貴方は僕の元の去る。だから言わなかった。それだけの話です」

戦士「……そうですか」

青年「ええ、そうです」

戦士「やはり、私は貴方のことを好きになれそうにありません」

青年「それは無理ですね。貴方は僕の側室ですし」

戦士「……初恋の女性に似ているからそういうのでしょう?」

青年「手厳しいですね」

戦士「……もう休みます。それでは」

青年「ええ。おやすみなさい」

青年「……これでいい」

青年「でも、絶対に死なせない……。絶対に……」

―――翌日

魔法使い「買い物行くけど、どうする?」

戦士「私は遠慮します」

魔法使い「そう……」

青年「準備できましたか?」

魔法使い「え、ええ……」

青年「何か?」

魔法使い「彼女となんかあったの?」

青年「泣かしてしまいました」

魔法使い「なっ!!なにやってんのよ!!!こんなときに!!!」

青年「さー、レッツ、ショッピング」

魔法使い「ちょっと!!何をしたのか言え!!このド変態!!」

青年「貴方のドMっぷりには負けますよ」

魔法使い「マゾじゃないって言ってるでしょ!!!」

戦士「……」

僧侶「勇者様ー?」ガチャ

戦士「……彼なら買い物に出かけましたよ」

僧侶「あ、そうですか。なら、追いかけないと」

戦士「誘われなかったのですか?」

僧侶「ちょっと寝坊してしまって……」

戦士「今、出かけたところですから追えば間に合うと思います」

僧侶「……あの」

戦士「はい?」

僧侶「えっと……何か、ありましたか?」

戦士「いえ。気になさらないでください。それよりも貴女のほうこそ、大丈夫ですか?」

僧侶「あ、はいっ。勇者様にいっぱい励まされましたから」

戦士「そうですか」

僧侶「やっぱり勇者様はとてもお優しいのだと改めて実感しました。いえ、どんなときでも勇者様は素敵なんですけど」

戦士「……彼が嘘つきだと感じたことはないのですか?」

僧侶「え……?」

戦士「あの人はいつも何かを隠している。そう思ったことはないですか?」

僧侶「ありません」

戦士「な……。はっきり言いますね」

僧侶「だって、勇者様はいつも後ろにいる私たちを想ってくれていますから」

戦士「そうでしょうか……。自身の利益のことしか考えていないのでは……」

僧侶「側室のことですか?」

戦士「それもありますが、彼は常に打算的に生きている。他人を利用して自分が得するように物事を運んでいるように見えるときがありますから」

僧侶「そんな人が命を捨てようとしてまで他人を救おうとはしません」

戦士「……!」

僧侶「あ、もう行かないと。すいません。それでは」

戦士「え、ええ……」

僧侶「失礼しました」タタタッ

戦士(彼女たちを見ていると、本当に分からなくなる……)

戦士(昨日の彼の言動は……)

戦士「……」

―――商店

青年「うーん。この水着は布地が少ないですなぁ。貴女に着せたいので買いますね」

魔法使い「それ、子供用でしょ。着られないわよ」

青年「着れますよ。局部を隠すことを省みなければ」

魔法使い「省みなさいよ!!一番大事なところでしょ!!」

青年「そうですかね?もう3年ですよ。そろそろ僕に貴女の体温を測らせてくれてもよいのでは?」

魔法使い「アホ」

青年「誰がアホじゃ!!肉便器の分際でぇ!!!」

僧侶「あ、勇者様ー」タタッ

魔法使い「あ……」

青年「どうも。宿にいてくれても良かったのですが」

僧侶「いえ、買出しに出とたと聞いたのでお手伝いできればと思っ―――」

魔法使い「……」

僧侶「でも、やっぱり宿に戻りますね」

魔法使い「あー!!ちょっと!!別に戻らなくていいわよ!!」

僧侶「え……でも……」

魔法使い「荷物持ちが多いほうがいいでしょ?」

僧侶「いえいえ、私は昨晩たっぷりと勇者様とご一緒できましたから……」モジモジ

青年「楽しい夜だったね、ハニー?」

僧侶「はい……」

魔法使い「よかったわねっ!!」

青年「おやおや、ジェラシーですか?珍しくもない」

魔法使い「珍しいっていいなさいよ!!!」

青年「まぁまぁ。両手に花で買い物にしましょう。そして他人から羨望の眼差しをたっぷりと受けましょうぞ」

魔法使い「アンタはそれでもいいでしょうけどね!!」

僧侶「私も得ばかりなんですが……」

青年「貴方達は僕の傍にいるだけでオールハッピーなのですから、いいじゃないですか。ねえ?」

僧侶「はい」

魔法使い「勝手にしてよ……もう……」

青年「勝手にしまぁーす。さてと、雌犬ちゃんには犬用の服でも買いましょうか」

―――港

エルフ「……」

賢者「おーぅ、エルフの姉ちゃん。こんなところでなにしてんだぁ?」

エルフ「分かってるくせに」

賢者「そりゃあ、どうかな?」

エルフ「今日ぐらい船が迎えに来るかもしれないから、一応待ってないと」

賢者「大変だなぁ。兄ちゃんも人使いが荒いなぁ」

エルフ「貴方こそ、彼女の傍にいなくていいの?」

賢者「お嬢ちゃんは心配ねえよ」

エルフ「どうして?」

賢者「俺なんかと違って強えからなぁ。羨ましいぐらいだ」グビグビ

エルフ「そう……」

賢者「でも、気にかけてくれると嬉しいねえ。俺としてはよぉ」

エルフ「保護者は貴方じゃなかったっけ?」

賢者「お嬢ちゃんに俺の手助けはもう必要ねえよ。全部、話ちまったからなぁ」

エルフ「全部って?」

賢者「俺が隠していたことだよ」

エルフ「そうなんだ。でも、本当に隠しておきたいことは黙ってるつもりでしょ?」

賢者「なにいってんだよぉ」

エルフ「ボクだってエルフ族だからね。貴方がどういう人なのかはもう理解しているよ」

賢者「お?心を読んだのかよぉ?はずかしぃじゃねえの!!」

エルフ「違うよ。貴方はボクの知っている勇者とそっくりだから、すぐに分かった」

賢者「……兄ちゃんと俺がかぁ?」

エルフ「自分よりも他人。大切な人のためなら簡単に命を投げ出す愚か者、でしょ?」

賢者「愚か者だとぉ?俺ぁ賢者だぜぇ?」グビグビ

エルフ「それはどうかな?」

賢者「よせよぉ。俺ぁもうそういうことには疲れたんだ。ただ酒を飲めれば世はこともなしだぁ」

エルフ「なら、どうしてここにいるの?」

賢者「そりゃあ、あれだ。兄ちゃんが強引にここまで連れてきたからだろぉ」

エルフ「嘘つき」

賢者「嘘じゃねえよぉ。ったく、最近のエルフ族はこわいぜぇ」

エルフ「最近って、昔会ったことでもあるの?」

賢者「長生きしてりゃあ、色んな奴と会うからなぁ」

エルフ「ボクの故郷とか、知ってるの?」

賢者「いや、探したことはあるが結局は見つけられなかったな。でも……」

エルフ「なに?」

賢者「エルフの姉ちゃんがそんなにやらしいとはおもわなかったけどなぁ……ひひひ……」

エルフ「なっ!!!」

賢者「どうしたんだぁ?ずっとそれが頭でグルグルと回ってるようだけどよぉ?」

エルフ「こ、これは……!!昨日、言われて思い出したからで……!!」

賢者「くくく……それで思い出してメランコリーになってたわけかぁ?普段はクールなのに可愛いじゃねえのぉ」

エルフ「読むな!!よむなぁ!!!よまないでぇ!!!」

賢者「読めちまうんだから、仕方ねえだろぉ?キラちゃんならよめな―――お、ありゃあ、キャプテンの船じゃねえか?」

エルフ「え?本当だ。随分早いなぁ……」

賢者「兄ちゃんのために全速力で来たんだろ。ドイツもコイツも兄ちゃんのことが大好きなのはいいけどよぉ。心を読むほうの身にもなってほしいもんだぜぇ。聴いているこっちが恥ずかしい」グビグビ

―――宿 寝室

戦士(時間を持て余してる……。一緒に買い物行けばよかったかな)

『お嬢ちゃん、いるかい?』

戦士「はい、どうぞ」

賢者「おーぅ、すまねえな」

エルフ「……」

戦士「どうしたんですか?」

エルフ「見張り」

戦士「は?」

賢者「いわねえっていってんだろぉ?」

エルフ「信用できない」

賢者「冗談のつもりだったんだけどなぁ……」

戦士「それでなにか?」

賢者「おぅ。船が来たんで港に行こうと思ってな」

戦士「もうですか?分かりました。支度をします」

賢者「兄ちゃんはどうしたんだ?」

戦士「知っているんでしょう?」

賢者「お嬢ちゃん。なら、俺はお嬢ちゃんと会話できねえことになるぞ。一方的に喋りかけて終わりじゃねえか」

戦士「……」

賢者「拗ねてんなぁ」

エルフ「……」

賢者「睨むなって……。若いやつに睨まれるほどおっさんは震え上がるんだからよぉ」

戦士「よく言いますね。飄々としているくせに」

賢者「そうかい?うれしいねえ」

戦士「褒めてません」

賢者「兄ちゃんは買い物かぁ。お嬢ちゃん、呼んで来てくれよ」

戦士「何故私が……」

賢者「ダメか?」

戦士「……いえ。断る理由もありませんね。私が呼んできましょう」

賢者「いい子だな。ホントによぉ……」

―――商店

戦士(買い物できる場所はこの辺りか……)

僧侶「あら、どうしたんですか?」

戦士「どうも。船が来たとのことなので呼びにきました」

僧侶「そうですか。勇者様なら、あっちですよ」

戦士「……」

魔法使い「だから!!こんな下着なんて穿けないっていってるでしょ!!」

青年「どうして?貴女によく似合うと思うんですけどね、この黒は」

魔法使い「布の面積が全く無いじゃない!!」

青年「これは可笑しなことを。普段穿いてない貴女が布面積を気にするのですか?」

魔法使い「はいてるにきまってるでしょ!?」

戦士「……なにをやってるんですか。公衆の面前で」

僧侶「仲がいいですよね。ほっこりします」

戦士「感性がズレているとよく言われませんか?」

僧侶「え!?どうしてそのことを知っているんですか!?」

青年「では、見せてくださいよ。本当に穿いているのか、我が眼で確認します」キリッ

魔法使い「こんなところでみせるかぁ!!」

青年「言いましたね?」

魔法使い「な、なによ……」

青年「こんなところでは見せない。言い換えれば、場所を変えればいいのですね?」

魔法使い「……」

青年「さぁ、路地裏に参りましょう」

魔法使い「……いいわよ。行きましょう?」

青年「え……」

魔法使い「……」

青年「僕の脳内ステータスを書き換えておきますね。ドM痴女と」

魔法使い「しなくていいわよ……」

僧侶「勇者様、船が来たみたいですよ」

青年「本当ですか?流石はキャプテン。迅速で助かります」

戦士「なので、早く宿に戻って支度を整えましょう」

青年「ええ。そうですね」

戦士「……」

青年「まだ、昨日のことを怒っているのですか?確かに強引だったかもしれませんが……」

魔法使い「……なにしたの?」

戦士「誤解を招く言い方はやめてください!!!」

青年「誤解だなんて。僕の愛は本物ですが」

戦士「……っ」

僧侶「あ、あの、落ち着いてください。何があったのか知りませんけど……」オロオロ

戦士(ホント、調子が狂う……)

魔法使い「まだ慣れないの?この前は軽く流してたから扱い方を学んだように感じてたけど」

戦士「いえ……」

僧侶「(何かあったのでしょうか。勇者様との間に溝のようなものがある気が……)」

魔法使い「(あの馬鹿がなんか怒らせるようなこと言ったんじゃないの?)」

青年「どうも馬鹿です」

魔法使い「盗み聞きしないでって言ってるでしょ」

戦士「……」スタスタ

魔法使い「何があったのかは訊かないけど、謝ったの?」

僧侶「勇者様を一方的に責めるのはおかしいです」

魔法使い「でも、9割9分こいつに原因があるでしょ」

青年「はい。原因です」

魔法使い「ほらね」

僧侶「あ、あの……でも、勇者様なりの考えがあるからで……」

魔法使い「困ったらそうやって擁護するのやめなさいってば」

青年「いえ。今回は僕が悪いですよ。弁明の余地はないほどに」

僧侶「勇者様……」

魔法使い「……」

青年「……心配はいりません。解決できますから」

魔法使い「別に、アンタの心配なんてしてないけど」

僧侶「あの、力になれることがあればなんでも言ってください」

青年「ありがとうございます。でも、こればかりは力の借りようがないんですよね」

―――港

キャプテン「ダーリンは?」

エルフ「もうすぐ来るよ」

キャプテン「はぁ……。あたしもあんたらと同じように、ダーリンに付きっきりでいたいねえ」

エルフ「この前、ミイラと戦ったけど」

キャプテン「あたしは海に生きる女さ!!陸のことはダーリンに任せているからあたしはいらないね!!」

賢者「はははは。おもしれえ姉ちゃんだなぁ」

青年「お待たせしました」

キャプテン「ダーリーン!!」ギュッ

青年「よしよし」

魔法使い「さて、今から魔王の城に行くのね」

青年「ええ。……そして、決戦の準備をします」

戦士「……」

賢者「決戦かぁ……」グビグビ

青年「お二人の力も是非とも貸して頂きたいのですが」

賢者「俺ぁ別に構わないぜ?」

戦士「私も異存はありません」

青年「……まぁ、詳しいことは城に着いた後でということにしましょう」

賢者「そうだな」

戦士「……」

僧侶「久しぶりの船旅ですね」

魔法使い「キャプテンには英雄としての職務もあるからね」

キャプテン「あんなもん最近じゃあってないようなもんさ。3年もあれば英雄もそこまで注目されないしね」

賢者「そんなもんだ。勇者も常に誰かを何かを救ってねえと感謝はされねえ。一度きりの奇跡は英雄の身を滅ぼす」

青年「含蓄ありますね」

賢者「歳とってるからな」

戦士「……」

キャプテン「どうかしたのかい、あの子?元気ないみたいだけど」

エルフ「さぁ……」

キャプテン「ふん。少し見ない間に、覇気がなくなったねぇ。初めてあったときは暑苦しいぐらいだったんだけど」

―――船上 甲板

戦士「……」

キャプテン「あんた、ここが好きだねぇ」

戦士「外の空気を吸っておきたんです」

キャプテン「魔王の城に着くのはどんなに飛ばしても明日の昼すぎだよ」

戦士「どういうことですか?」

キャプテン「あせんなってことさ」

戦士「焦ってなど……」

キャプテン「あたしは3年前に見たからね。いつも甲板で考え事をしている奴をさ」

戦士「え?」

キャプテン「そいつは見た感じ何も考えてないように振舞ってんだけど、その実いつも自分の身を削ってるようなやつでさぁ」

戦士「……」

キャプテン「船の進む先を戦局でも見据えるかのように鋭い目つきで見つめてんのさぁ。それがまたかっこよくてねぇ……」

戦士「惚気話ですか……。貴方達は本当に好きですね……」

キャプテン「なんだい?海の女が惚気ちゃいけないって言うのかい?!ええ!?」

戦士「そうは言っていませんが……」

キャプテン「全く。小娘の分際で。あんた、恋愛とかしたことないんだろ?」

戦士「は?」

キャプテン「男に惚れたことがないからそういう発言をする。誰でもいいから好きになってみな。世界が変わるよ」

戦士「結構です」

キャプテン「うちのダーリンとか好きになってもいいよ?」

戦士「は!?」

キャプテン「好きになるだけだよ?その先はNGだからね。あたしでもまだなんだから」

戦士「……そう言う話はもういいです」

キャプテン「勇者嫌いは治ったのかい?」

戦士「故郷を……家族を殺した原因を好きになれるはずないでしょう」

キャプテン「……あっそ。人生、損してるね」

戦士「ほっといてください」

キャプテン「素直になりな、お嬢ちゃん」

戦士「……」

―――夜 船内

戦士「寝れない……。また甲板に……」

賢者「おぅ、お嬢ちゃん。まだおきてんのか」

戦士「何か?」

賢者「いや、もう寝ろよ」

戦士「……少し話しませんか?」

賢者「嫌だって言ったら?」

戦士「それでも構いません」

賢者「兄ちゃんのことを俺に訊くつもりか」

戦士「貴方とも無関係ではないのでしょう?」

賢者「……」グビグビ

戦士「私の姉のことを……二人が知っている……なら……」

賢者「城についたらゆっくり話してやるよ」

戦士「今、答えてくれても……」

賢者「城に着いたら鏡があらぁね。兄ちゃんもその覚悟はあるみたいだぜぇ?」

戦士「鏡……!?」

賢者「兄ちゃんも言ってた。鏡を使うと言えば諦めるってな」

戦士「やはり何かを隠しているのですね。貴方達は」

賢者「隠してるんじゃねえよ。言わないだけだ」

戦士「同じです」

賢者「お嬢ちゃんは何を知りたいんだ?」

戦士「わかっているのでしょう?」

賢者「お嬢ちゃん。俺が心を読むからって何でも人のことが分かると思ったら大間違いだ」

戦士「何故ですか?」

賢者「お嬢ちゃんのように混濁した心は読めねえよ」

戦士「……!」

賢者「正確に言えば何を読んでいいのかわかんねえ状態だ」

戦士「そんなの……」

賢者「お嬢ちゃんはいつも優等生の答えを持っていたが、今は出す言葉と胸中の答えがかみ合ってねえしなぁ」

戦士「そんなのずっと……そうですよ……」

賢者「……」グビグビ

戦士「本音と建前が違うのは誰でもそうでしょう?」

賢者「魔物である奴らと、人間と魔族の争いを生んだエルフ族とも仲良くしてたのはなんでだ?我慢でもしてたのか?」

戦士「それは……」

賢者「お嬢ちゃんは初めから優等生だったぜぇ?自分が間違えと思えばすぐにそれを反省してただろ?」

戦士「……違います。今後、行動を共にするのに険悪なままではいけないと思ったから」

賢者「そうかい?」

戦士「……」

賢者「嫌いなら嫌いのままでいいじゃねえか。険悪のままでもいいだろうよ。どうして困ってんだよ」

戦士「だって……」

賢者「お嬢ちゃん。昨日、俺が言ったこと覚えてるよな?」

戦士「そ、それがなにか?」

賢者「ここまで見てきたんだ。結果だけで判断はしてくれるなよ」

戦士「結果だけで……」

賢者「全てを見た上で判断してくれ。鼻先の結果で判断するような人間にはなってくれるな。勇者だって人間だ」

戦士「善処します」

賢者「それでいい。城で決戦の準備をしようぜぇ?」

戦士「はい」

賢者「戦う準備も心の準備もな」

戦士「分かっています」

賢者「そうかい。ならいいんだ。おやすみ」

戦士「おやすみなさい」

賢者「あーケツかいぃ」

戦士「……準備か」

戦士(私に必要なのは……)

戦士「……」

戦士「よし。素振りして寝よう」

戦士(あ、そういえばアレも振っておこうかな、一応)

戦士「義父さん……私は……」

戦士「きっと……」

―――翌日 魔王の城

青年「ただいま戻りました」

ソンビ「おにぃーちゃぁーん」テテテッ

青年「魔王ちゃん」

ゾンビ「あぃしてるぅ」ギュッ

ハーピー「今回は早かったな」

青年「色々ありまして。そちらのほうは?」

ハーピー「鏡のおかげで捗ったぞ。奴らを丸裸にしてやったわ」

青年「それはエロチックな」

ハーピー「やはり相当隠し事をしていたな、奴らは」

戦士「キマイラの居場所ですか?」

ハーピー「長い話になる。中へ入れ」

キャプテン「あたしはここで待ってるよ」

青年「それは無理ですね。貴女にも話を聞いてもらわないと」グイッ

キャプテン「やだ!!やだ!!勘弁しておくれ!!!」

―――謁見の間

キャプテン「ひぃ……だーりぃん……」ガタガタ

青年「大丈夫ですよ。食べたりしませんから」

キャプテン「そうだけどさぁ……」

ガイコツ「お茶ですぅ」

キャプテン「ぎゃぁー!!!」

ガイコツ「ぎゃぁー!!!」

キャプテン「何大きな声出してんだぁ!!」

ガイコツ「貴女が大声出すからでしょ!?」

魔法使い「なにやってるのよ……」

ドラゴン「―――来たか」

青年「はい。色々判明したんですよね?」

ドラゴン「ああ。吸血鬼とミイラもキマイラの計画に加担していたようだな」

青年「ミーちゃんもですか?」

ドラゴン「奴は知らずに加担していたほうだ。とはいえ、ミイラはキマイラの意図に気がつかなかったばかりに見捨てられたようだがな」

青年「ゆ、ゆるせん!!おのれキマイラ!!あのような可愛い子を見捨てるなど……!!俺が拾う!!!」

魔法使い「それで、吸血鬼のほうはどうだったの?

ドラゴン「キマイラは各地に散らばる自身のシンパに攫ったニンゲンを与えていたようだ」

僧侶「それって……」

ドラゴン「生命力の抽出だな。ニンゲンが自力ではこれないような場所でひっそりと力を蓄えさせようと考えたのだろう」

僧侶「なんてことを……」

エルフ「キマイラ様も堕ちるところまで堕ちたか……」

ドラゴン「最も簡単に力を得られる方法だからな」

賢者「……」グビグビ

戦士「それで居場所は?」

ドラゴン「お前のいた街にいる可能性が高い。もしいなくても確実に痕跡は見つかるだろう」

戦士「……そうですか……」

青年「それは確実ですか?」

ドラゴン「吸血鬼のところにもミイラのところにも最近は姿を現していないようだから現在いるかは不明だ。ただ、数ヶ月前まではあの城に呼ばれることがあったらしい」

戦士「数ヶ月前まで……そんなことが……?」

青年「どちらにしてもあの城には何かがあり、それはキマイラに繋がるモノも残されている。そういうわけですね」

ドラゴン「そうなる。だが、今回の目的はキマイラ討伐よりも王女のほうを優先させるのだろう?」

戦士(え……?)

青年「王女が人攫いを率先して行っている可能性もありますからね。鏡を使って、とりあえずは兵士と国民に王女の本性を晒しましょう」

戦士「キマイラ討伐が最優先では……」

青年「キマイラは逃げ足が早いですからね。先日の一件で逃げ出しているかもしれませんし」

戦士「そうですか……」

青年「それに貴女とキマイラは何も関係がありませんから」

戦士「……」

青年「それにしても変な話ですね」

ドラゴン「そうだな」

僧侶「どうしてですか?」

青年「数ヶ月前まで自身の配下を招集していたのに、それを止めたこと。そして他の魔物の前に姿を見せなくなったこと。そして僕をあの城に誘い出したことです」

戦士「単純に吸血鬼やミイラのことを見限った。あの城に貴方を誘い出して殺害するつもりだった。その程度のことでしょう?」

青年「ミーちゃんはともかく、吸血鬼は能力も高そうでした。見限る理由はないでしょう。それと力を蓄えている相手が標的を呼びつけるということは準備が整ったということです」

魔法使い「待って。それ不自然ね」

青年「ええ。準備が整ったのならあの場に姿を現して然るべきです。何故、姿を見せなかったのか」

戦士「整っていなかったからじゃ……。それかキマイラが城にいなかった」

青年「奴は鉄の橋すらも叩いて渡るような先々代魔王の忠実な僕でした。99%の準備では実行には移さないでしょう」

青年「いなかった可能性もあるにはあるのですが、それだとあの手際の悪さは頂けませんね。キマイラが戻ってくるまで拘束するべきですからね、普通は」

戦士「しようとしていたじゃないですか」

青年「一度、僕たちを城から出したじゃないですか。本当にキマイラが指示を出していたのなら城に入った時点で僕らを取り囲んで、牢屋にでもぶち込んでいたでしょう」

エルフ「ボクが城内に残ったのもそのときのための保険だったしね」

戦士「ということは、あれは王女の独断?」

青年「でしょうね。僕らの能力を熟知しているキマイラらしい行動とは言えません」

戦士「キマイラはどうなっているんですか?」

ドラゴン「他地域も調べなければ吸血鬼が見限られたどうかははっきりしないが、もし他の魔物にも姿を見せていないのなら……」

青年「動けない、と考えたほうがいいかもしれませんね」

戦士「動けない……?」

ドラゴン「あまり想像したくはないな」

青年「どうですか?」

賢者「……なにがだ?」

青年「何も知らないとは言わせませんよ?」

戦士「……まだ何か隠しているんですか?」

賢者「勘弁してくれぇ。年寄りをいじめんなよぉ」

魔法使い「どういうこと?」

青年「貴方はあの街で大人数に囲まれた。一人ぐらい真相を知っている人も混じっていたのではないのですか?」

賢者「あの状況で多人数の心の声を拾えるわけねえだろ。そこまで万能じゃねえよ」

青年「……そうですか」

賢者「……」グビグビ

僧侶「勇者様、キマイラがいると思って攻め込んだほうがいいのですか?」

青年「それは勿論。こちらの出せるものを全て出しきりましょう」

エルフ「よし。ボクはガーちゃんのメンテナンスでもしてこようかな」

ドラゴン「木偶人形ならこっちだ」

戦士「私も準備を始めないと……」

キャプテン「ダーリン、あたしはもう船に帰っていいかい?」

青年「まだ作戦会議をしていませんから、ダメです」

キャプテン「でもぉ」

青年「僕が傍にいても怖いですか?」

キャプテン「ダーリン……。ううん、怖くないよ」

ゾンビ「おねぇーちゃぁーん」

キャプテン「いやぁー!!!」

青年「では、少し休憩しましょうか」

魔法使い「んー……そうね。ちょっと横になりたいわ」

僧侶「はい。では、休ませてもらいますね」

青年「ええ、ごゆっくり」

賢者「んじゃ、俺も酒でも飲みにいくかぁ」グビグビ

戦士「あの……」

青年「なんですか?」

戦士「鏡はどこにあるのですか?」

青年「鏡をどうするんですか?」

戦士「真実を見ます」

青年「貴女には全部話しましたが」

戦士「自分の目で見ることができるのなら、そちらを見たほうがいいでしょう?」

青年「どうやら本気で嫌いになろうとしていますね」

戦士「隠されるのはもうたくさんです」

青年「……」

戦士「それに貴方は嘘つきだから」

青年「分かりました。といっても鏡の場所は知りません。ドラゴちゃんから聞いてください」

戦士「はい」

青年「見てもきっと苦しむだけだと思う」

戦士「どうしてそう思うんですか?」

青年「今から戦うからだ」

戦士「それでも見ないことには、私は進めない。今は自分のことも分からないから」

青年「僕のことを信じられないのですね。嬉しいことです」

戦士「なにを……」

青年「一昨日の話、普通ならそれが真実だと考え、その奥を知ろうとなんてしませんから」

戦士「……」

青年「貴女は見込みどおりの女性です。是非とも側室でいてほしいですね」

戦士「それは真実の内容次第です」

青年「そうですか」

戦士「それでは、また後ほど」

ハーピー「魔王!!なにをしておる!?」

ゾンビ「おねーちゃんにあそんでもらってたの」

キャプテン「うぅ……うぅぅ……」

ハーピー「泡を吹いておるではないか。やめてやれ」

ゾンビ「あぅ……ごめんなさぃ」

キャプテン「……ダーリン……」ガクッ

ハーピー「む。死んだか?では、いただこうか」

青年「あー!!ダメですよ!!おなか壊しますよ!!」

―――客間

ドラゴン「真実の鏡?」

戦士「はい」

ドラゴン「構わないが悪用はするなよ?」

戦士「しません。私にとって大事なことなんです」

ドラゴン「本当にか?」

戦士「勇者のことを私は知りたいんです」

ドラゴン「……そうか。お前は元々勇者を探すために旅に出たのだったな」

戦士「もう探すの意味が違ってきていますけど」

ドラゴン「しばし待て」

戦士「はい」

エルフ「勇者の何を知りたいの?」

戦士「……私は勇者のことが嫌いです。助けを求める人たちから目を背け、逃げ出すような人種ですから」

エルフ「ふぅん……」カチャカチャ

少女「私個人の見解ですが、そのような人物ではないと思われます」

戦士「貴方達は共に戦ってきたからそう確信しているのでしょうが、私は違います」

戦士「勇者という脆弱な者をこの目で見ました」

少女「数多くの勇者が生まれた時代です。そのような勇者もいたのかもしれませんね」

エルフ「そんな奴だったら一緒に旅をしてなかったかも」

少女「同感です」

戦士「……だから、あのとき何があったのか私はこの目で見たいんです」

少女「それは私のパパを好きになりたい、ということでよろしいですか?」

戦士「よろしくないです」

エルフ「好きになるんじゃなくて、信用したいんだね。変な感じだけど」

戦士「簡単に言えばそうなりますね」

エルフ「……」

少女「パパは鏡を使うことを許可してくれているのですか?」

戦士「みたいですね」

エルフ「……ボクも見に行こうかな」

少女「恐らくですが、私たちが見に行けば上映会は中止になるかと」

エルフ「わかってるよ」

少女「依頼したいことがあります」

戦士「なんでしょうか?」

少女「パパの過去をみることができれば、後ほど掻い摘んで説明をお願いします」

戦士「え、ええ、それぐらいだったら」

エルフ「ホントに!?」

戦士「え?」

少女「他の方には内密にお願いします」

戦士「直接聞けばいいのでは……」

少女「何度も聴取の挑戦を試みていますが、いつも逃亡を図られますので」

エルフ「絶対、鏡を手に入れたときみんなが同じこと考えていたと思うんだ」

戦士「そ、そうですか……。分かりました、言える範囲で説明します」

エルフ「ありがとう。楽しみにしてる」

少女「パパの秘密がついに……。あまりのことでオーバーヒートしそうです」

戦士(そういえば気にしている人が多かったな。確かにどのような人生を送ればあのような人格が形成されるのか、興味はあるけど)

ドラゴン「―――これだ。扱いには注意しろ。使用しないのであれば布を被せておくように」

戦士「分かりました」

少女「マスター。ついにパパの秘密が明るみにでるのです」

ドラゴン「……そういうことか」

エルフ「ガーちゃん!!」

少女「私が気になっていることは、マスターが気になっていることですから」

ドラゴン「気にはなるがそこまでして聞き出したいものでもない」

戦士(今、鏡を向けたらどうなるんだろう……)

ドラゴン「喋りたくなれば奴から喋る。それまで待てばいい」

エルフ「そうだけど……」

少女「マスターがそういうのであれば」

戦士「……では、お借りします」

ドラゴン「ああ、お前がつい喋ってしまう分には、仕方がないがな」

戦士「はぁ……」

ドラゴン「いや、なんでもない。早くいけ」

―――謁見の間

青年「吐血砲ってどういう技なんだ?」

ゾンビ「ちをはきかけるわざ」

青年「うーむ。相手によっては単なるご褒美か……」

戦士「あの」

青年「……来ましたか」

ゾンビ「おねぇーちゃん、あぃしてるぅ」

戦士「どうも……」

青年「この子のは挨拶ですから、気にしないでください」

戦士「持って来ました」

青年「始めますか?」

戦士「あの人も同席させないと意味がありません」

青年「分かりました。僕が呼んできましょう。食堂で酒を飲んでいるでしょうから」

戦士「はい。お願いします」

青年「では」

ゾンビ「うー?」

戦士「なんですか?」

ゾンビ「それ、なにー?」

戦士「鏡ですよ。真実を映し出す鏡」

ゾンビ「みてもいい?」

戦士「え、ええ……」

ゾンビ「どれどれー?」バッ

戦士(この子は鏡に映るのかな……)

ゾンビ「おー?おぉー?」

ゾンビ『おなかすいたー!!!おにくたべたいー!!!おにぃちゃんとあそびたいー!!!』

ゾンビ「わぁ!?」

戦士「本物みたいでよかった」

ゾンビ「これ、こわいぃ……」

戦士「そうですね。本当に怖い鏡だと思います」

ゾンビ「うぅ……」

賢者「よぉ、お嬢ちゃん。待ったか?」

戦士「いえ」

青年「では、鏡を……」

賢者「その前にちょっといいか?」

戦士「なんですか?」

賢者「兄ちゃんにとっても知らなかったことが分かるかもしれねえ。それがどんな事実でも受け入れられるな?」

青年「……」

賢者「兄ちゃんも友人の敵討ちから始まったクチだろ?もし―――」

青年「心配はいりません。既に僕の守るものは過去の思い出はなくなっていますから」

賢者「そうか。お嬢ちゃんは?」

戦士「……私は決断するためにここにいます」

賢者「分かった。で、この魔王は?」

ゾンビ「うー!!」

青年「魔王ちゃんは見ないでくださいね」

ゾンビ「えー?」

青年「これは僕たちだけの秘密の会だから」

ゾンビ「あぃ」

賢者「ま、あの魔王になら見せても問題はないだろうけどな」

青年「……寧ろ見て欲しいぐらいですが、今はこの3人だけということで」

賢者「そうだな」

戦士「鏡を置きます」

青年「お願いします」

賢者「おーぅ、ひとおもいにやってくれぇ」グビグビ

戦士「……」ゴトッ

青年「……」

賢者「兄ちゃんなら大丈夫だ」

青年「貴方はいつもそう言っていましたね。初めて会ったときから。俺なら真実を知っても問題はないと」

賢者「こういう日はいつか来るとも言っておいただろ?お前も俺もいつまでも逃げているわけにはいかねえのさ」

賢者「俺ぁ過去を語り、兄ちゃんは過去を知る」

賢者「そしてお嬢ちゃんは―――」

―――農村

「魔王の軍勢が近くまできているらしいな」

「やだわ……。この村は大丈夫かしら……」

妹「お姉ちゃん……」

姉「大丈夫よ。こんな小さな村を襲うなんて意味のないことだもの。魔物も通りすぎちゃうわ」

妹「ほんとぉ?」

姉「本当よ」

友「―――今日も僕の勝ちだったな」

少年「お前に勝てるわけないだろ」

姉「あら、お疲れ様。今日も剣の特訓?」

友「はい。今日もお綺麗ですね」

姉「ふふ、ありがとう」

少年「姉さん、こいつの軽薄な言葉は聞き流したほうがいいよ?」

姉「そう?」

友「美人は大切にしないとダメだ。何度も言っているだろう?」

少年「姉さんは大事にするさ。俺が守るんだからな」

友「そうそう、その調子だ」

姉「私を守ってくれるのは嬉しいけれど、妹のこともよろしくね」

妹「……」

友「ええ。無論です。お姉様の妹も10年後にはさぞかし美人になるでしょうからね。僕が守りますよ」

姉「ありがとう。頼りにしているわね」

友「してください。というわけで、そろそろ僕とも仲良くし―――」

妹「きらいっ!」サッ

友「……」

少年「嫌われてるなぁ」

友「お前もだろ」

姉「ごめんなさいね。男の人が苦手みたいで」

友「それはいけない。今のうちから調教を―――」

姉「変なことはしないでね?」

友「……はい」

―――数日後

姉「お父さん、大変!!」

父「どうした?」

姉「魔物がこっちまで近づいてきているって!!」

父「なに!?」

妹「ひっ……」

母「貴方達は家の中にいなさい。いいわね?」

姉「え、ええ……」

父「急ごう」

母「はい」

妹「お、おねえちゃん……」

姉「大丈夫よ。心配いらないわ。お父さんはお城で兵士もしていたんですもの。魔物なんてやっつけてくれるわ」

妹「う、うん……」

姉「大丈夫……大丈夫だから……」

妹「おねえちゃん……」ギュッ

魔物「こんなところにはニンゲンの集落があるとはな……」

友「何が目的だ?」

村長「こ、こら!!やめなさい!!」

少年「おい!!」

魔物「命が惜しくば食料をよこせ。今はそれで生かしておいてやろう。こちらも近く大きな戦を控えているからな。食糧の調達は急務なのだ」

友「人間を喰らうお前たちがか」

少年「もうよせって!!」

魔物「クソガキが吠えてくれるな。耳障りだ」

友「……っ」

魔物「食糧を出せ。出なければニンゲンを文字通り食っていってもいいんだぞ?」

村長「わ、わかりました……。好きなだけもっていってください……」

友「村長!!」

村長「この村にあの魔物と戦えるだけの者などおりはせん……」

友「僕が……!!」

少年「何いってんだ!!やめろ!!」

―――村長宅

村長「魔物の要求は食糧だけだ……。今のうちに逃げる算段を立てるべきだろう」

父「無理だな。小さな魔物がこの村を取り囲んでいた。恐らく逃げようとすれば即座に食い殺される」

村長「……」

「戦うしかないのか……」

「こんなとき勇者様が着てくれたら……」

母「……あなた、どうにか連絡をとれないの?」

父「昔の伝手を頼ってみたいが、この状況では外と連絡を取るのは難しい。時間がかかるだろうな」

友「どうにかできないんですか……」

少年「無理だろ。力の差が大きすぎる」

友「でも、僕なら」

父「やめてくれ。君のような子どもを危険になど晒したくは無い。勇気と無謀は違う」

友「……」

少年「無理だって。どうにかして逃げることを考えたほうがいい」

友「……そうだな」

―――数日後

魔物「では、今日はここから調達するぞ」

「あ、あぁ……そんな……」

魔物「何か文句でもあるのか?」

「い、いえ……」

姉「……」

妹「お姉ちゃん……」

姉「行きましょう」

妹「う、うん……」

少年「姉さん、何してるんだ。早く家に戻らないと」

姉「え、ええ……どうなるのかしら……この村は……」

少年「今、どうにかして外と連絡を取っているところだからもう少しの辛抱だよ」

姉「そうね……。勇者様が来てくれれば……」

妹「ゆうしゃさまなら助けてくる?」

姉「ええ。だって、勇者様は世界を救う人だもの」

―――村長宅

村長「勇者様が来てくれるのか!?」

父「ええ。魔王の軍勢が近くにいることは向こうでも知っていたようで、連絡を取る前から動いてくれていた」

村長「そうか……。これで助かるのだな」

父「ああ……」

「よかったな。勇者様なら安心だ。国一番の実力者なんだろ?」

「魔王を倒す為に訓練を受けてきた人だからな」

「助かったぁ……」

少年「これで一件落着か」

友「村長、一応逃げる準備はしておいたほうがいいのではないでしょうか」

村長「なに?」

友「勇者が万が一魔物の討伐に失敗した場合を想定しておかないと……」

村長「勇者様の力を信用していないのか」

友「信じていますが……」

村長「何も心配はいらんだろう。我々は勇者様のために温かい料理と寝床を用意していればいいのだ」

   ∩___∩         |
   | ノ\     ヽ        |
  /  ●゛  ● |        |
  | ∪  ( _●_) ミ       j
 彡、   |∪|   |        J
/     ∩ノ ⊃  ヽ
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /

友「……」

少年「おい、どうしたんだよ?」

友「いや、保険は必要だと思う。勇者も絶対じゃない」

少年「まぁ、確かに多くの勇者がやられたとは言われているけど、それは魔王の側近とかにだろ?」

友「僕は心配しすぎだと思うか?」

少年「……お前がそこまで言うなら、みんなに呼びかけるか?」

友「村長はもう助かった気でいるようだし、他の大人も既に安心しきっているからな……。まともに話を聞いてくれるかどうか」

少年「姉さんには言ってみてもいいんじゃないか?」

友「そうだな。お姉様なら耳を傾けてくれるかもしれない。行ってみよう」

少年「よし」

友「まぁ、お前の場合、お姉様に会う口実が欲しいだけなんだろうけどな」

少年「ち、違う!!お前と一緒にするな!!」

友「いいか?男はな、女に対して臆病になったらお終いだ。もっと積極的にならなきゃ向こうは好きになってくれないぜ?」

少年「恋人のいないお前に言われても説得力ないぜ」

友「この村にはお姉様以外、眼中になしっ」

―――城下町

兵士長「一人で大丈夫なのか?」

勇者「ああ。心配するな。聞けば軍勢とはいえ小規模のようだしな」

兵士長「お前がそういうなら……」

勇者「……ありがとよ。心から心配してくれて」

兵士長「当然だ。お前と国を守るために働き始めた時期はほぼ同じだし、大事な飲み相手だからな」

勇者「帰ってきたらまたいつもの店で一杯やろうぜ、相棒」

兵士長「当たり前だ。早く行って来い」

勇者「あいよ」

兵士長「何かあったらすぐに戻ってこい。いつでも兵を動かせるように手配しておく」

勇者「おーぅ。助かるぜぇ」

(勇者だ。また戦いに行くんだな)

(早く魔王討伐にはいかないかな。周辺のザコを倒して名声と報酬だけセコセコ稼くつもりか)

(腰抜け勇者だ)

勇者「……」

―――農村

姉「勇者様が戦っているうちに逃げる?」

友「そのほうがいいかもしれません」

姉「でも、この村は囲まれているのでしょう?」

友「相手は勇者です。魔物たちもそちらに気が逸れるはず。その間に……」

姉「お父さんがそれを許してくれるかどうか……」

少年「そうだな。それに村を出ようとした瞬間、食い殺される可能性もあるぞ」

友「……」

姉「貴方の考えは間違っていないと思うわ。けれど、勇者様を信頼してあげない?」

友「お姉様……。分かりました、ですが逃げる準備だけはしっかりとお願いします」

姉「ええ。やっておく」

少年「俺も一応やっとく」

友「頼む。もし勇者が討伐に失敗したらすぐに逃げよう」

少年「……なぁ、やっぱり村のみんなにも言っておいたいいんじゃないか?そういうことは」

友「そのときになるまで分からないんだ。勇者のことを心から信用している村長たちに言っても無駄なことだ」

少年「だからって、もしお前の予想が当たったとき、俺たちだけで逃げ出そうっていうのかよ!?」

友「なら、全滅することになる。この村で何があったのか誰かに伝えないといけないだろ」

少年「そうじゃない!!見捨てて逃げるのはどうなんだっていってるんだよ!!!」

友「僕たちに大人たちを説得するだけの力も、助け出せるだけの能力はない!!」

少年「でも!!」

姉「やめなさい。こんなときに」

友「ごめん……」

少年「……」

姉「確かに村の人たちを置いて逃げ出すのは心苦しいことね」

少年「姉さん」

姉「私のほうでも呼びかけてみるから諦めないで」

友「お願いします」

少年「ありがとう、姉さん」

姉「うん。任せておいて」

友「勇者か……」

妹「おねえちゃん……?どうかしたのぉ?」

姉「あら、起きちゃったの?」

妹「誰かとお話してたの?」

姉「ちょっとね、ほら、家に戻りましょう」

妹「うん……」

姉「……」

父「……彼らは何か言っていたか?」

姉「勇者様をあまり信頼しないほうがいいって」

父「そうか……」

姉「私もそう思う」

父「……」

姉「お父さん。確か、地下の収納あったよね。あまり使ってないけど」

父「物置になっているけどな」

姉「あそこ、使おう。最悪のことがおきても一人だけでも生き延びないと」

父「そうだな……」

―――数日後

勇者「燃えろ!!」ゴォォ

魔物「ギャァァイ!!!」

勇者「……そこか!!」

魔物「!?」

勇者「悪いなぁ。俺ぁお前らのことは嫌でもわかっちまうんだよぉ!!!」ゴォォォ!!!

魔物「ギィィ……」

勇者(ふぅ……。魔物の数が多いな。奴らの卑しい声が聞こえてきやがる……)

勇者(いや、卑しいのは魔物だけじゃないか)

勇者「……あそこが入り口か」

魔物「……」ウロウロ

勇者「見張りの魔物は一体……。完全に油断しているとくらぁ……」

魔物「……」

勇者「先手必勝だぁねぇ。―――いくぜ!!」ダダダッ

魔物「……ギ!?」

村長「勇者様がきてくださったか!!」

「勇者さま!?勇者さまー!!!」

勇者「おーぅ。もう安心だぁ。俺に任せとけ」

(勇者様がきたー!!これでもう大丈夫だ!!)

(助かったぁ!!助かったよぉ!!)

勇者「……」

(勇者でも絶対勝てるとは限らない。みんなは勇者を過大評価している)

勇者(お……?)

友「……」

勇者(ちょっとはマシな奴もいるな……)

姉「勇者様!!がんばってください!!」

(きっと大丈夫。村の人たちを裏切ることはしなくていいはず……)

勇者(えらい別嬪さんだなぁ。こんな呪いがなきゃ俺もあんな女と懇ろになりてぇな)

少年「勇者!!魔物を退治してくれ!!」

妹「あれが……ゆうしゃさま……」

勇者「では、みなさん。今から魔物討伐にいってくる。ただ、ここに来る途中やむを得ず何匹か魔物を倒してしまった」

勇者「そのため、向こうは警戒を強めている。俺が戻ってくるまで村からはでないようにしてくれ」

村長「分かりました」

勇者「それから。これが一番大事なことだ。よぉくきけよぉ?」

友「……」

勇者「俺がズタボロで戻ってきたら全力で逃げてくれ。時間稼ぎぐらいはする」

父「なんと……。勇者様それは……」

「そのときは俺たちも戦います!!」

「そーだそーだ!!妻と子供ぐらいは守らないといけませんから!!」

勇者「そうかい?」

「勇者様だけを置いて逃げられませんよ!!逃げるときは一緒に逃げましょう!!」

勇者「そりゃあ助かるな」

姉「勇者様。がんばってくださいね」

勇者「おーぅ。まかしときな、お嬢ちゃん」

姉「はい」

勇者「よし、行くか」

友「勇者様。待ってください」

勇者「どしたぁ?」

友「必ず、戻ってくるということですか?勝っても負けても」

勇者「ああ。それだけは約束する。ここには戻ってくる。四肢が千切れていようがな」

友「それはグロテスクなのでやめてください」

勇者「わーったよ。ただ、血だらけは仕方ないぜ?」

友「はい」

勇者「……ボウズ、兵士になる気はないか?」

友「今のところはありません」

勇者「そうか……。生きろよ、若人」

友「……?」

勇者「それじゃあ、ちょっくら、いってくらぁ!!」

村長「お願いします!!勇者様ぁ!!!」

妹「がんばってー」

―――農村の外れ

勇者「……ここかぁ」

勇者「……数は10。まぁ、奇襲かけりゃあ、一発だな」

勇者「ふぅー……。行くか」

勇者「―――爆ぜろ!!!」

魔物「なん―――」

ドォォォン!!!!

勇者(よし、4にまで減ったな。こりゃあ、美味い酒が飲めそうだぜぇ)

魔道士「―――あっひゃっひゃっっひゃっひゃ~!!」

勇者「そっちか!!―――爆ぜろ!!!」カッ!!!

ドォォォン!!!

魔道士「……いいですよぉ!!!貴方!!!ニンゲンにしては素質がある!!いやぁ!!素質の塊といっていいでしょう!!!」

勇者(こいつの心の声が上手く聞き取れねえ……!!雑音だらけだ……)

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!何を困惑しておられるのですかなぁ!?勇者様ぁ?心を読めないのが不思議ですかなぁ?」

勇者「なに……!!」

魔道士「貴方のことは調べさせていただきましたよ。今から数年前に我が同胞に呪いをかけられたとか」

勇者「それがなんだ?」

魔道士「貴方のことを魔王様は警戒しておるのですよぉ。妙な呪いを逆手に取る勇者様のことをね」

勇者「魔王が、俺を……」

魔道士「そこで、私がこうしてこの辺鄙な場所まで出張ってきたわけですよぉ。貴方の呪いにも興味がありますからねぇ」

勇者「なんだそりゃあ、まるで俺を誘い出したみたいな言い方だな」

魔道士「聡明で助かります、勇者様。貴方は私の実験場にまんまと足を運んでしまったのですよ。あっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

勇者「なに……?」

魔道士「私の可愛い子供たちは勇者相手にどこまで戦えるのか……試してみたくて仕方がなかったのですよ!!!」

勇者(こいつ……どうして心が上手く読めないんだ……)

魔道士「しかし、魔王様も慎重なお方で、この新兵器を試す機会を中々下さらなかった。しかし!!!勇者様のおかげでそのチャンスが巡ってきたわけです!!!!」

勇者「なんのことだ!?」

魔道士「私の子供たちは貴方の弱点を的確に狙える存在ですからねぇ!!!あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!」

勇者「弱点だと……」

魔道士「試作段階でとても醜い姿をしておりますが、ご了承ください。いでよ!!!殺人機!!!キラーマジンガ!!!!」

勇者「キラー……?」

マジンガ「オォォォォォォ!!!!!!」

勇者「な……!?なんだ……こりゃぁ!?」

魔道士「どうですかぁ?醜いでしょう?ニンゲンの肉が何十と重なり合った姿はぁ!!!あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!」

勇者(ただの肉の塊じゃねえかよ……)

(くる、しい……)

勇者「!!」

マジンガ(ダレか……ころして……いたい……シナせてくれ……シにタいヨう……)

魔道士「ニンゲンを殺すことに特化した私の可愛い子供たちです……ふふふ……あはははは……あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!」

勇者「お前!!まだ生きてる人間を使ったのか!?」

魔道士「私の新技術です!!生命力を抽出することで新たな魔力とする!!!すごいでしょう!?すごいですよね!!?あっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!」

勇者「外道がぁ!!!―――爆ぜろ!!!」カッ!!!

ドォォン!!!

マジンガ「オォォォォォ!!!!」

勇者「邪魔すんじゃねえ!!!どきやがれぇ!!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ。確かにすごい魔力だ。是非とも貴方を私の研究の糧にしたいですねぇ」

勇者「てめぇ……」

魔道士「ふふ……。私に協力してくれれば、その忌まわしい呪いも解いてさしあげますよぉ?」

勇者「なに……」

魔道士「貴方の呪いは消え、私の研究は捗る!!一石二鳥!!!一挙両得!!!実にお得!!!お得ですよ!!!」

勇者「断る!!てめえのイカれた研究に付き合うことはしねえよ!!」

魔道士「おや?そうですか。残念ですね。なら、あの小さな村からサンプルを採取して帰りましょうか」

勇者「何言ってやがる!!おめえはここで死ぬんだよ!!!」

魔道士「貴方が私の思考を上手く読めない理由、教えて差し上げましょうか」

勇者「……」

魔道士「この対魔法に特化した鎧を着ているためです。貴方の思考解読の魔法が上手に作用しないのですよ」

勇者「なら、その鎧を壊せばいいんだ」シャキン

魔道士「物理的に鎧を破壊ですか。いい方法ですが、果たしてキラーマジンガを倒し、私のもとに来ることができますかねぇ」

勇者「やってやるんだよ!!!これからなぁ!!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!身の程をしれぇ!!ニンゲンがぁ!!!」

マジンガ「オォォォォォ!!!!」ゴォォォ

勇者「ぐっ!!やめろぉ!!!」ザンッ!!!

魔道士「ほら、ほらっ!!肉塊すらお前は越えられない!!!あーっひゃっひゃっひゃ!!!」

勇者「……」

マジンガ(オねが、イだ……コろし……テ……クレ……)

勇者「すまんっ!!―――雷よ!!!」バンッ!!!

ゴォォォォ!!!!

魔道士「ほう……。貴方、勇者というより賢者としての資質があるようですね」

勇者「はぁ……はぁ……」

マジンガ(イタい……ヤめて……シニタくない……コロサないデ……)

勇者(何人の人間がこの中にいるんだ……!!くそっ……くそっ……!!!死にたいやつと生きたいやつが混ざってやがる……!!)

魔道士「魔王様の心配が当たりましたねえ。貴方に思考を読まれては厄介です。我々の脅威になる」

勇者「なんだと……」

魔道士「とはいえ、貴方には利用価値があることも確かです……。そこで、こんなのはどうでしょうか?」スッ

勇者「てめえ、何を……!!」

魔道士「呪詛の力を与えて差し上げましょう……」

勇者「なんだと!?」

魔道士「マジンガ、捕らえろ」

マジンガ「オォォォォ!!!!」ガシッ

勇者「くっ!!てめぇ!!!」

魔道士「二重の呪詛を受けるなんて人間にしては珍しいでしょうねえ。あーっひゃっひゃっひゃ」

勇者「やめろぉ!!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!呪われなさい!!」

勇者「うっ……!?」

魔道士「……マジンガ、もう離してもいいぞ」

勇者「……な、なんだ……?」

魔道士「あひゃひゃひゃ。貴方の魔力に細工を施しました。我ら魔族には魔法を放つことができなくるようにね」

勇者「なんだと!?」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ!!でも、心の声はちゃんと聞こえますよねえ!?私たちがすることを貴方はもう指を咥えて見ている事しかできないわけですよぉ!!!!苦しいですね!!!!」

勇者「なっ……に……」

魔道士「勇者失格ですね!!あーっひゃっひゃっひゃ!!!!」

勇者「このやろう!!!―――爆ぜろ!!!」

魔道士「無駄ですよ。もう放てません」

勇者「……」

マジンガ「オォォォォ!!!!」

勇者「てめえも大人しくしてろ!!!―――爆ぜろ!!!」カッ!!

ドォォン!!

勇者「……!!」

魔道士「何を驚いているのですか、勇者様」

勇者「……まさか」

魔道士「その子はニンゲンの肉で出来た存在。とても醜く、化け物のような容子ですが立派なニンゲン。魔法は使えますよぉ?あーひゃっひゃっひゃ!!!」

勇者「はぁ……」

魔道士「貴方ばかりにハンディがあっても不公平ですからね。あひゃ、あひゃひゃ」

勇者「ふぅ……ふぅ……」

魔道士「さて、今から村の連中を我がサンプルとするため、採取に向かいますか」

勇者「させるかぁ!!!」

魔道士「マジンガ」

マジンガ「オォォォォ!!!!」

勇者「どけぇ!!!」ザンッ

魔道士「ほう……」

勇者「おぉぉぉ!!!行かせるかぁぁぁ!!!」ダダダッ

魔道士「魔法が使えなければと思いましたが、剣術もそれなりの腕前とは。流石は勇者。しかし、私にはその剣は届かない。―――爆ぜなさい」カッ!!

勇者「うぁ!?」

ドォォォン!!!

魔道士「ああ、申し訳ありません。鎧を脱ぎましょう。私の思考を心を読み取ってください」

勇者「……!!」

魔道士(あの小さな村民にいるニンゲンは大よそ50人。これだけいれば新しいマジンガを造ることができる。まだまだ醜悪な肉塊でしかないが、その内にニンゲンなような容姿に―――)

勇者「やめろぉぉぉぉ!!!!」

魔道士「とめますか?とめたいですよね!!!でも貴方には私を止めるだけの力がなぁい!!!あーっひゃっひゃっひゃ!!!残念!!!無念!!!痛恨の極みぃ!!!!」

勇者(こいつには勝てねえ……!!!村民をにがさねえと……!!)

勇者「……風よ」ゴォォ

魔道士「む?」

勇者「俺の負けだ。認めてやるぜ、外道」

魔道士「逃げるのですか?勇者が」

勇者「俺がここでやられたら、てめえに食われる奴が大勢いるだろうが!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ!!その心を読む呪いの恐ろしさが浮き彫りになるだけです!!!死んだほうがマシですよ!!!」

勇者「んなことは十分にしってる!!一度、任務に失敗したときに痛いほどこの呪いの恐ろしさを味わったんだからな!!」

魔道士「おや?でも、そのときと今回は趣きが違うと想いますけどねぇ」

勇者「なに……」

魔道士「あの小さな村は貴方のことを本当の英雄として信じていたはず。それが逃げ帰えってきたとなれば、貴方に届く怨嗟は二重ですよ」

勇者「……」

魔道士「任務の失敗と言いましたね。そのとき批判をしたのは故郷の者たち、同僚たちでしょう?心の中で罵られただけ。でも、今回は心だけで治まりますかねぇ……?」

勇者「風よ。俺を運べ!!」ゴォォ

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!早くしないと私が村民を採取してしまいますよぉ!!!あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!!」

勇者(いそがねえと!!!)

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ!!!マジンガ!!!捕らえろ!!」

マジンガ「オォォォォ!!!!」ガシッ

勇者「なに?!」

魔道士「ほら、急がないと……勇者様……?あーっひゃっひゃっひゃ!!!」

勇者「離せ!!!くそ!!!」

魔道士「では、これで……」

勇者「待て!!!」

魔道士「……なにか?」

勇者「……村民だけは……」

魔道士「……ならば、私のサンプルになっていただけますかな?」

勇者「……」

魔道士「貴方一人で50人の命が助かるのです。迷うことはないでしょう?」

勇者「くっ……」

魔道士「それに、戻ったところで待っているのは罵詈雑言の乱舞。貴方に選択の余地はなぁい」

勇者「……わかった……協力する……」

魔道士「それでいいのですよ。勇者様。あーっひゃっひゃっひゃ」

マジンガ「オォォォォ!!!」

勇者「もういいだろ。村の連中は解放してやれ……」

魔道士「できませんねえ。私の実験が成功するまでは」

勇者「実験だと……」

魔道士「心の抽出がしたい」

勇者「心……?」

魔道士「そう!!!私の子供に足りないのは心なのです!!!心さえあればより完全なニンゲンに近づく!!!!」

勇者「……」

魔道士「ニンゲンの中で最も心を見て聞いてきた貴方にしかできないことですよ……」

勇者「なら、さっさとしろ……。それで村民は解放されるんだな!?」

魔道士「ええ。約束しましょう……」

魔道士(ふふ……。約束しますよ。実験が成功したら、私たちはここから立ち去りましょう)

勇者「……やれ」

魔道士「流石は勇者様。では、始めますか。あーひゃっひゃっひゃっひゃ」

―――数日後 農村

村長「あれから数日か……。勇者様が戻ってこないな」

父「様子を見に行ってみるか」

村長「やめろ。勇者様を信じろ」

父「しかし、もし勇者様が魔物にやられていたら……!!」

友「……」

少年「勇者はどうなってんだよ……」

友「準備は整っているか?」

少年「あ、ああ……」

友「勇者が戻ってきたら、逃げる。村を捨てるしかない」

少年「どうして?」

友「人間が数日間も戦い続けることなんてできない。勇者が戻ってくるときは……」

少年「でも、勇者なら」

友「勇者は人間だ。ドラゴンでもエルフでもない」

少年「……!!」

魔道士「―――あっひゃっひゃ……これぐらいでいいでしょう……。やはり、貴方は多くの心をもっていましたねぇ」

勇者「……」

魔道士「苦しかったですか?休みなく心と記憶を覗かれるのは」

勇者「……さっさと……村民を……」

魔道士「随分と衰弱していますねえ。それでも尚、他人の心配とは勇者の鑑です!!!あーっひゃっひゃっひゃ!!!」

勇者「はやく……しろ……」

魔道士「これだけ人間の思考パターンが取れれば、十分です。約束通り、解放しましょう」

勇者「はぁ……はぁ……」

魔道士「……」

勇者「……!!?」

魔道士「どうしました?さぁ、早くお行きなさい」

勇者「おま……え……やくそくがぁ……」

魔道士「私たちは立ち去りますよ。心の底からそういったではないですか」

勇者「じゃあ……周囲にある……魔物の声はなんだよ……」

魔道士「増援でしょうねえ。貴方が村に来た時点で私が呼んでおいただけです。あひゃひゃひゃ」

―――農村

勇者「あぁ……はぁ……」

村長「おぉ!!勇者様!!!心配していましたよ!!!」

勇者「はぁ……はぁ……」

友(失敗したのか……)

勇者「……」コクッ

友「……!」

姉「勇者様……」

妹「ゆうしゃ……?」

少年「おいおい、すげーボロボロだぞ。傷の手当をしたほうが」

友「逃げるぞ」

少年「え?」

勇者「き、きいてくれ……俺では倒せなかった……。だが……お前たちは村に、いてくれ……俺が増援をよんで……くる……」

父「なんですって……」

村長「おぉ……なんてことだ……」

「ふざけんな!!そんなことしている間に魔物がきちまうだろうが!!」

勇者「分かってる……分かってる……。だから、逃げる準備を……すぐによんでくるから、よぉ……」

(この腰抜けめ!!お前が囮になれよ!!!)

「ただ魔物の怒りを勝っただけじゃないか!!どう責任とるんだい!?」

(身代わりになれ!!)

勇者「……」

村長「皆の者!!逃げる準備を!!!」

村長(こいつはとんだハズレだった!!なんて能無しをよこしたんだ!!)

父「……」

勇者「てめえらは……ここにいろよ……いま……そとにでたら……食われるだけだ……。俺が……いま、増援を……つれてくる……からよぉ……」

姉「勇者様、その傷では」

勇者「触るな」

姉「え……」

勇者「死にたくなきゃ……ここにいろ……」

姉「で、でも……」

「俺たちを逃がす為に時間稼ぎしてくれるんだろ!!」

(勇者のくせに俺たちを囮にして逃げるのかよ!!!)

勇者「違う……!!!違うんだ……!!やつらの条件で……!!」

姉「条件?」

勇者「村から出なけりゃ……お前らは助かるんだ……やつらはそういった……」

村長「信じられるものか!!」

勇者「……!!」

村長「おおかた、臆病風に吹かれて戻ってきたのだろう!!何が勇者だ!!」

勇者(腐ってやがるなぁ……)

父「村長!!我々のために戦ってくれた者に対する言葉ではない!!」

村長「お前が呼んだのだ。この責任はお前にもとってもらう!!」

父「な……」

勇者「おれぁ……いくぞ……」

村長「勇者よ!!村民が逃げるまで時間を稼げ!!それぐらいのことはやってもらうぞ!!」

勇者「……だまれ!!俺ぁいく!!」

村長「逃げることは許さん!!」

勇者「……なんとでもいえやぁ……!!」

村長「まて!!」

勇者「風よ……俺を運べ……」ゴォォ

姉「勇者様!!」

勇者「お嬢ちゃん、すぐに来るからよぉ……まってろ……」

姉「……」

妹「おねえちゃん……ゆうしゃは……?」ギュッ

姉「行こう。こっちよ」

妹「え?え?」

姉「貴方は絶対に守ってあげるからね」

妹「こわいよ……おねえちゃん……」

姉「大丈夫、大丈夫だから」

村長「どうしてくれる!?このままでは村は!!私たちは!!」

父「村長!!いい加減にしてください!!!」

友「用意はできたか?」

少年「もう出るのか?!村の人たちはどうする!?」

友「考えている時間はない!!」

少年「でも!!」

友「早くしろ!!死ぬぞ!!」

少年「……っ」

友「僕たちは勇者じゃない。誰も守れないんだよ」

少年「そんなこと!!」

友「なら、お前に魔物が倒せるのか!?」

少年「……!!」

友「行こう。お姉様と一緒に村を捨てるしかない」

少年「……わかった」

友「強くないと……誰一人守れないんだ……」

少年「分かってる……」

友「……」

妹「こ、ここに入るの……?」

父「ああ、ここなら魔物も分かりはしない。大丈夫だ」

妹「でも、おねえちゃんは……おとうさんは……?」

父「心配ないよ。すぐに迎えにくるから」

妹「ほんと?ほんとに?」

父「ああ。お前を見捨てたりしない」ギュッ

妹「おとうさん……」

姉「いいって言うまで出てきちゃだめだからね」

妹「うん……」

少年「姉さん!!行こう!!」

姉「うん。お父さん……先に行くね」

父「分かった。君たち!!娘を頼む」

少年「はい……」

友「お任せください」

姉「行ってきます……」

妹「こ、ここに入るの……?」

父「ああ、ここなら魔物も分かりはしない。大丈夫だ」

妹「でも、おねえちゃんは……おとうさんは……?」

父「心配ないよ。すぐに迎えにくるから」

妹「ほんと?ほんとに?」

父「ああ。お前を見捨てたりしない」ギュッ

妹「おとうさん……」

姉「いいって言うまで出てきちゃだめだからね」

妹「うん……」

少年「姉さん!!行こう!!」

姉「うん。お父さん……先に行くね」

父「分かった。君たち!!娘を頼む」

少年「はい……」

友「お任せください」

姉「行ってきます……」

>>737
投下ミス

父「では、閉めるな」

妹「迎えにきてね!!ぜったいに!!」

父「ああ、勿論だ」

母「あなた!!急いで!!」

父「おやすみ―――」

妹「おとうさん!!」

母『本当に大丈夫なの?』

父『気付かないことを祈るしかない』

母『そうね……』

妹「おとうさん……くらいよ……こわいよ……」

村長『お前まで逃げる気か!!責任も取らずに!!』

父『村長!!そんなことを言っている場合ではありません!!』

村長『分かっている!!だが、お前は我々が逃げおおせるまで時間を―――』

父『話にならない!!貴方がそんな人とは思わなかった!!』

村長『まて!!』

友「お姉様、忘れ物はありませんか?」

姉「ええ、大丈夫よ」

少年「姉さんは俺とこいつで守るから」

姉「……ありがとう」

友「行こう。もう勇者の力は当てにできない」

少年「……村のみんなは」

友「無事を祈るしかない」

少年「……っ」

友「行きましょう」

姉「うん」

少年「くそぉ!!」

魔物「ギィィィ!!!」

友「魔物か!!」

少年「どけ!!」

姉「……っ」

友「よし!!今のうちだ!!」

少年「姉さん!!行こう!!」

姉「う、うん……」

魔物「ギィィィィ!!!!!」

少年「くそ!!まだいるのか!!!勇者は何をやってたんだよ!!!」

友「構うな!!逃げられればそれでいい!!!」

少年「来るやつはどうにかしないとだめだろうが!!おらぁぁぁ!!!」ザンッ

魔物「ギャァァ……」

友「お姉様!!こっちです!!」グイッ

姉「……はぁ……はぁ……」

少年「本当に勇者は……!!」

友「もう言うな。英雄も人間。負けるときは負ける。彼は精一杯戦っただろ」

少年「だけど……」

姉「―――あっ!!」ドタッ

少年「姉さん!!」

友「お姉様!?」

姉「いっ……!」

少年「怪我したんだね?!今すぐ回復を!!!」

姉「ダメ……魔物がすぐ傍まで来ているわ……行きなさい」

少年「姉さんを置いていけるわけないだろう!?」

姉「言うことをきいて……いい子だから……」

少年「いやだぁ!!!姉さんも一緒だ!!!」

姉「魔物はいっぱいいる。弱い貴方じゃ……無理よ……。これ以上、お荷物の私を守ることはできないわ」

少年「え……」

姉「女の子を守りたかったら……強くなりなさい……」

友「おい!!何してる!!いくぞ!!」グイッ

少年「姉さん!!!いやだぁぁ!!!うわぁぁぁぁ!!!!!離せよぉ!!これ以上見捨ててたまるかぁ!!!」

姉「強くなって……どんな人でも守れるぐらいに……強く―――勇者様のように……なって……」

友「……お姉様……あなたは……」

少年「なんで!!なんでだよ!!!」

『オォォォォォ!!!!!』

友「何かが来ている……」

少年「姉さん!!」

姉「私が囮になるから」

友「……!!」

姉「それに……勇者様が戻ってきたとき、誰もいなかったらやっぱり寂しいと思うから……」

友「お姉様……」

少年「勇者が帰ってくるわけないだろ?!」

友「いい加減にしろ!!!」

少年「うっ……!!」

友「逃げるだけで精一杯だ。僕たちは。誰かが囮になれば……」

少年「おまえぇ!!」

友「お姉様の気持ちを考えろ」

少年「……」

友「行くぞ」

少年「なんで……どうして……姉さんが……姉さんがぁ……うぅ……」

友「走れ!!」

『オォォォォォォォ!!!!!』

少年「やっぱり、俺は戻る!!」

友「させないぞ」

少年「姉さんだけは死なせたくないんだ!!!」

友「僕も同じだ!!」

少年「俺とお前ならやれるだろ?!」

友「勇者ですら敵わなかった相手がいる!!小物だけならまだしも、無理だ!!」

少年「でも!!!」

友「絶対に行かせないぞ。お姉様が生きろといった。僕たちにだ。だから、僕はお前を守る、お前は僕を守れ。それぐらいならできるかもしれない」

少年「……わかった……」

友「ありがとう……。行こう」

少年「……」

友「強くなろう……一緒にな……」

姉「……」

勇者「はぁ……はぁ……お嬢ちゃん……」

姉「勇者様……」

勇者「待ってたのか……?」

姉「貴方が待っていろと言ったので」

勇者「怪我ぁしたんだな……待ってろ……」

姉「どうして戻ってきたのですか?」

勇者「え……」

姉「負けたのに……」

勇者「援軍を呼んできた……もうすぐ傍まできている……」

姉「勇者様、お願いがあります」

勇者「妹が村に残ってるんだな。分かった、今からいってくらぁ」

姉「どうしてそれを……」

勇者「俺ぁ賢いからな」

姉「……ダメです。落ち着くまで村には行かないほうがいいです」

勇者「舐めんなよ。ガキ一人くらい―――」

姉「貴方が救うべき人はもっといるはずです」

勇者「な……」

姉「行かないでください」

勇者「なら、お嬢ちゃんの手当てを」

姉「結構です」

勇者「なにいってんだ!!」

姉「私はここで死にます」

勇者「そんなことできるか!!」

姉「勇者様……逃げてください」

勇者「……」

「オォォォォォォ!!!!!」

勇者「あの肉だるまがきてるのか……」

姉「増援も村には入らせないようにしてください」

勇者「お嬢ちゃん……なんで……死にたくねえって訴えてるくせに強がってんじゃねえよ!!」

姉「私が逃げたら、勇者様も逃げますか?」

勇者「……!」

姉「勇者様は強いかたです。そのような体でも私のために戦おうとしている……」

勇者「大丈夫だ。傷は魔法で誤魔化した。いける」

姉「こんな小さな人間のために世界を救える力を散らさないでください」

勇者「お嬢ちゃん!!!」

姉「妹だけをよろしくお願いします……」

勇者「いや、逃げるぞ!!お嬢ちゃんを連れてな!!」

マジンガ「オォォォォ!!!」

姉「!?」

勇者「きやがったか……!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ!!30人目のサンプルは貴方にしましょうか!!!」

勇者「させるかよ」

魔道士「おやおや。勇者様。よくもまぁ罵倒されてもニンゲンを守る気になりますねえ……。もう心の中では憎悪が渦巻いているはずなのに」

勇者「黙れ!!!」

姉「魔物……」

勇者「立ち去るって言ってなかったか?」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ。一度、立ち去ろうとしたんですがね。キマイラ様が皆殺しにしろと言うもので。上の者には逆らえません」

勇者「キマイラ……」

魔道士「さあ、マジンガ。勇者の動きをとめろ」

勇者「なんだと!!!」

マジンガ「オォォォォ!!!!」ガシッ

勇者「ぐぁ……!!!」

魔道士「さあ、ニンゲン。私の糧になってもらいましょうか」

姉「……勇者様」

勇者「にげろ……!!」

姉「妹だけはお願いします……」

(貴方が……負けなければ……)

勇者「あぁぁぁぁ―――!!!!」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!そうだ!!!勇者様!!!いい考えがあります!!!我々に協力するなら―――」

賢者「―――ここまで、いいだろ」

戦士「……」

賢者「どうだ、お嬢ちゃん。俺たちの言っていたことは全部真実だろ?」

戦士「まだ、続きがあるようでしたが」

賢者「……」グビグビ

青年「僕が知りたいのはそこから先です」

賢者「兄ちゃん。もういいだろ?」

青年「ずっと、気になっていた」

賢者「なんだぁ?」

青年「貴方が過去にあれだけの苦渋を舐め、人間に蔑まされ、裏切られてきた。勇者をやめるきっかけになったのもあの村での一件があったからなのでしょう」

賢者「……」

青年「……何故、貴方はそうやって酒に溺れるだけで済んでいるのか。恐らく心を読んでしまう分、貴方は世界で一番、人間を嫌っているはずだ」

戦士「え……?」

賢者「おいおい、言いがかりはよしてくれよぉ。俺ぁ兄ちゃんたちのこと大好きだぜ?」

青年「なら、どうして……砂漠の遺跡で人の肉だと教えてくれなかった?」

戦士「……」

賢者「そらぁ、ミイラっ娘が人肉だと認識してなかったからで―――」

青年「そうは行くか」

賢者「……」

青年「前の晩、貴方は事細かにミイラのことを話してくれた。キマイラの指示に従っていると言いましたね」

賢者「言ったなぁ」

青年「どんな肉なのか説明してなかったのか?」

賢者「してなかったなぁ」

青年「だけど、吸血鬼もミイラにもキマイラは生命力の抽出について語っている。ミイラが理解できていなくても、説明された記憶は残っていたんじゃないのか」

賢者「まてまてまて。兄ちゃん、俺ぁ心を読むだけで記憶は読めねえよぉ」

青年「吸血鬼に会ったときも、貴方は口を噤んでいた。実際、キマイラは多くの情報を持っていたのに。僕たちがキマイラのことを探していることを貴方はあの時点で知っていたでしょう?」

賢者「……」

青年「どうして貴方は何も言わなかった?教えてくれるんですね?」

賢者「ふふふ……。黙ってりゃあわからねえと思ってたのになぁ……。兄ちゃん、どうして言っちまうんだ?それは心の中に仕舞っとけよ」

戦士「貴方は……」

>>750
青年「吸血鬼に会ったときも、貴方は口を噤んでいた。実際、キマイラは多くの情報を持っていたのに。僕たちがキマイラのことを探していることを貴方はあの時点で知っていたでしょう?」

青年「吸血鬼に会ったときも、貴方は口を噤んでいた。実際、吸血鬼は多くの情報を持っていたのに。僕たちがキマイラのことを探していることを貴方はあの時点で知っていたでしょう?」

訂正

賢者「兄ちゃんは途中から俺のことをずっと疑ってたなぁ……」

青年「でも、あの城の一件で貴方のことを見直した。この人は本当の勇者なのだろうと。だが、遺跡で貴方に対する信頼は瓦解した」

賢者「……傑作だったぜぇ?あの姉ちゃんが人の肉を美味しそうに食ってる光景はなぁ」

戦士「な……!!」

青年「……お前」

賢者「過去の続きだろ?見せてやるよ……見とけ見とけ。今から、俺ぁ、お前たちの敵だ」

戦士「待って!!貴方は私のことを真剣に!!!」

賢者「おぅ。真剣に守った。お嬢ちゃんのことはなぁ」

戦士「え……」

賢者「10年前から決めていたことだ。俺にとって最後の人間はお嬢ちゃんだけ。だから、守るってな」

青年「どういうことだ?」

賢者「俺が好きなニンゲンを教えてやるよ。心が読めない奴、それから勇者のことを心底嫌っている奴だ。お嬢ちゃんは助け出したあのときから、勇者のことを恨んでたからなぁ」

戦士「それだけ……?」

賢者「今でもお嬢ちゃんは勇者のことを許せていない。だから、俺ぁ好きなんだ。お嬢ちゃんのことが。死なせたくねえんだよ。お嬢ちゃんはな」

戦士「意味がわかりません……」

青年「僕のことは……どう思っていたんですか……」

賢者「兄ちゃんも好きな部類だ。何せ、勇者とか英雄っていう肩書きに嫌気が指してるほうだからな……」

青年「……」

賢者「けど、目に映るニンゲンは全て守るって言ったときは吐き気がしたなぁ。ああ、兄ちゃんは本質的に俺とは分かり合えそうにないとは感じてたぜ」

青年「貴方も一緒でしょう」

賢者「一緒にすんじゃねえよ、若造。俺ぁ好きなものしか守らねえよ。酒と金と女。これだけありゃあ、世はこともなしだ」グビグビ

青年「お前は……」

賢者「ああ、そうだ。ニンゲンのクズだ。笑えよ」

戦士「……やめてください!!!」

賢者「さぁて、兄ちゃんの思惑通りになったなぁ。過去を知った感想はどうだ?」

青年「ここを去る前に貴方の過去を見ておかないといけない」

賢者「おう、見とけ。そしてお嬢ちゃんは過去と決別するか共倒れするか選ばないとなぁ」

戦士「え……」

賢者「ほら、始まるぜ……」

青年「……っ」

魔道士「あーっひゃっひゃっひゃ!!!我々に協力するなら、命だけは救ってあげましょう!!!」

勇者「なにを……」

魔道士「もういいでしょう。ニンゲンの味方をするなんてバカらしいと思うでしょう!?」

勇者「……」

魔道士「どれだけ貴方が傷だらけになっても上辺の感謝だけを並べて、心の中では自分の身が安全ならそれでいいと思っている」

勇者「……」

魔道士「それがニンゲン!!!まだ魔族のほうがきもちいいでしょう?!裏表がないモノたちばかりでぇ!!!」

勇者「……そうかもな」

魔道士「どうしますか、勇者様?私たちのために働いてくれますか?」

勇者「おぅ……なにすりゃ……いいんだ……」

魔道士「貴方のいる国を裏から支配してもらえますか?」

勇者「支配……?」

魔道士「そう。魔王様の秘密の拠点です。表立って襲うだけでは激しい抵抗にも遭いますからね。内部から侵食し、支配するのもいい手段だと思いませんか?」

勇者「……報酬はあるのか……?」

魔道士「自身の命だけでは足りないと?傲慢な人ですね。でも、私は嫌いではありません。貴方が協力し続ける限り、生活は保障してあげましょう」

勇者「そうか……酒を頼むぜ……」

魔道士「いいでしょう……」

勇者「そろそろ援軍が来る……どうする?殺すか?」

魔道士「いえ、将来の傀儡たちを無闇に壊すこともないでしょう。サンプルも十分に手に入ったことですし、我々は退散します」

勇者「……」

魔道士「指示は追って伝えます。それでは、勇者様」

勇者「もう俺ぁ勇者じゃねえ……失せろ……」

魔道士「そうですか。それは失礼しました。あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!!!」

姉「……」

勇者「……」

姉(最低……)

勇者「てめぇらが……勝手に俺に……期待してただけだろうが……」

勇者「なんでもかんでも……勇者なら……勇者ならって……!!!」

兵士長「―――おい!!大丈夫か!?」

勇者「……おぅ。平気だぜぇ。それより、村に少女が一人いる。助けにいくぞ」

―――農村

兵士長「ここか」

勇者「ああ。ここから声がする」

兵士長「うむ……」ガチャ

少女「うぅ……うぅ……」

兵士長「良くこの子だけ無事だったな……」

勇者「……」

少女「う……?」

兵士長「気がついたか?」

少女「お……とうさん……は……おねえちゃんは……?」

兵士長「それは……」

勇者「死んだ」

少女「え……」

兵士長「おい!!」

勇者「隠したってしょうがねえだろ?」

少女「どうして……ゆうしゃが……ゆうしゃは……」

勇者「勇者がお前の家族を殺したんだ」

少女「……!!」

兵士長「やめろ」

勇者「事実を教えてるだけだ……」

少女「そ、んな―――」

兵士「隊長!!魔物の残党がいたのですが私たちでは倒しきれませんでした。魔物たちは傷つけられたことに腹を立て、この村を襲うでしょう。今すぐに逃げる用意を」

兵士長「そうか。よし、このまま退却する」

兵士「はっ!!」

兵士長「この子が目を覚ませば全てを伝えるぞ」

勇者「やめろ。これでいいんだよ。勇者のことを心底恨ませとけばな」

兵士長「しかし……」

勇者「いいじゃねえか、憎悪が人を強くすることもある」

兵士長「……」

勇者「このお嬢ちゃんのこと、任せるぜ。最後のニンゲンだからな……」

賢者「―――以上だ。質問はねえな?」

戦士「……」

青年「姉さんは生きていた……。そして……貴方が……」

賢者「殺した」

戦士「―――うわぁぁぁぁ!!!!」ダダッ

賢者「お嬢ちゃん、俺に勝てるとでも思ってるのか?―――爆ぜなぁ」カッ!!

戦士「え―――」

青年「危ない!!」

ドォォン!!!

賢者「やるじゃねえか」

青年「貴方は……最後の良心まで捨てる気か!!!」

賢者「俺ぁニンゲンが大嫌いだ。だから、敵になるなら容赦なく殺す」

戦士「王女がおかしくなったのも……お前が……!!」

賢者「ああ。王女が何を欲し、そして心に何を溜め込んでいるのかが分かれば、落とすのは容易かった。この呪いに感謝しねえとなぁ」

戦士「私がこうなったのも……全部……お前が……!!!」

青年「……あの城での一件、あれは貴方の本心だったはずだ。あそこまで真剣になれたのに……どうして……」

賢者「期待すんなよ、兄ちゃん。あのときに守りたかったのは勇者嫌いのお嬢ちゃんと、兄ちゃんのバックにいる魔族たちだけだ。エルフの姉ちゃん込みだ」

青年「だから、ドラゴンを呼ぶなと言ったのか」

賢者「おうよ。あと、言ったよなぁ。俺を死なせろってよぉ。俺ぁあそこで死んでもよかった。もう魔王もいなくなって、あの城にはキマイラとかいう肉団子しかいねえ」

賢者「魔王の隠れ家としても機能してねえ。魔道士も死んで俺を縛るものはなかった。俺の役目は終わってたんだよ」

青年「どうやって死のうか模索でもしていたのか」

賢者「最後のニンゲンであるお嬢ちゃんを守って死ねるならそれでもいいかなって思った。でも、兄ちゃんは生かしちまった。俺のことを」

賢者「そうなると、面倒だよなぁ。ニンゲン嫌いの俺は何をしていいのかわかんねえんだからよぉ……」

青年「ただ、流されるままついてきたのか」

賢者「心の読めないキラちゃんや、エルフの姉ちゃんもいたしなぁ。居心地はよかった。まぁ、鏡を手に入れた時点でもう諦めたけどなぁ」

青年「妨害をすることもないが、大事なことも貴方は言わなかったな」

賢者「俺ぁ賢いからなぁ。居心地のいい場所を壊すようなバカな真似はしねえのさ」

青年「なら!!どうして遺跡で言ってくれなかったんだ!!!あれで彼女がどれだけ傷ついたかわかっているだろう!!!!」

賢者「俺の嫌いなニンゲンのことなんて知るかよ。苦しめばいい。俺みてぇになぁ」

戦士「貴方はずっとそうやって……私たちを心のなかで見下して、嘲笑って……!!!」

賢者「てめえの村にいた連中も似たようなことしてただろ。今、見たじゃねえか」

戦士「……!」

賢者「便利なもんだよな。王とか王女とか魔王とか勇者とか英雄とか。それらの肩書きにお前らは妬みや恨みをぶつけるだけでいいんだ」

賢者「なぁ、兄ちゃん?期待されて辛かっただろ?期待に応えても1日たてばケロリと忘れる連中ばっかりだっただろ?宿意は持ち続けるくせになぁ」

青年「分かった……もういい……何も言うな……」

賢者「目に映る連中を全部守る。いいことだけなぁ、どこに守る価値があるっていうんだぁ?!えぇ!!おい!!兄ちゃんよぉ!!!」

青年「……」

賢者「悪いことはいわねえよ。兄ちゃんも、側室たちだけを守れ。それでいいじゃねえか。世界飛び回って魔物の調査だなんだなんてくっだらねえことしてねえで、女と寝て、酒のんでの毎日でも過ごせ、な?」

青年「本気で、言っているんですか?」

賢者「さっき、見ただろ?あれだけのことされて、壊れないわけがねえんだよ」

戦士「だからって!!」

賢者「お嬢ちゃんの姉は自ら死を望んだ。俺ぁ何も悪くない。なのに、最後に最低とかぬかしやがる。怒りを通り越して呆れちまうぜぇ!!!ははははは!!!」

青年「もうやめてください……」

賢者「これ以上はやばいな。魔物たちが集まってきたら、洒落にならねえ。俺はこの辺で帰るわぁ。おー、ケツかいぃ」

戦士「全部……全部、嘘だったんですか!!私に語ってくれたことはとても勇者らしかったのに!!!それも全部……!!!」

賢者「……勇者らしいだぁ?違うなぁ、お嬢ちゃん」

戦士「え……」

賢者「勇者が大嫌いだから、ああいうことが語れたんだよ。それを間違えるな」

青年「どこに行く気だ」

賢者「自宅だよ。ほかに行くとこねえしなぁ」

青年「それは―――」

賢者「それじゃあな、お嬢ちゃん。兄ちゃん。来るならこい。俺の死に場所はもう決まってるんだからよぉ」

戦士「何をするきですか?!」

賢者「キマイラを倒しにくるんだろぉ?ちっぽけなニンゲン数人で」

青年「それはどうでしょうね」

賢者「できるわけねえよなぁ。大々的に魔物を連れて街一つを襲うなんて暴挙を、兄ちゃんが」

青年「……」

賢者「まぁ、一応準備だけはしとくぜ。全面戦争の準備だけはなぁ」

戦士「貴方は!!義父さんも裏切っていたのかぁ!!!」

賢者「何度も言わせんな、小娘。俺はニンゲンが大嫌いなんだぜぇ。10年前のあの日からなぁ!!」

青年「―――行ってしまったか」

戦士「早く追わないと!!」

青年「彼は曲りなりも賢者だ。正面からでは勝てない」

戦士「でも……」

青年「……」

ゾンビ「おにぃーちゃぁーん!!!すごいおとしたけど、なにー?!」テテテッ

青年「なんでないよ、ハグっ」ギュッ

ゾンビ「おぉぉーぉー!!はぐっ」ギュッ

青年「みんなを呼んできてくれますか?」

ゾンビ「うー!」テテテッ

戦士「どうするんですか……?」

青年「僕たちの行動は筒抜けになりましたからね……。とりあえず」

戦士「とりあえず……?」

青年「側室会議をしましょう。貴方も側室ですから参加してくださいね」

戦士「側室ではないですけど……参加はします……」

>賢者「兄ちゃん、嫌われたいなら話さないって手段もあるぜ?本性を知られたくないなら、それが一番だ。喋らなきゃ相手も知りようがないからなぁ」

>青年「……何を言いたいのか分かりませんね」

>賢者「わざわざ別嬪を探すより、その辺にいる情婦でも抱けばいいだろ?」

>青年「傷物に興味などない」

>賢者「まだまだガキだなぁ。いいかぁ?初物も確かにいいが、リードされるのもいいもんなんだぜ?何より楽だからな」

>青年「老兵の考えですな。元気なうちに色々仕込んで、自分好みに調教し、そして数年後は自分の上で躍らせる。これが理想郷でしょう?」

>賢者「ハハッ。なるほどなぁ。だが、誰もが手前好みに出来上がるとは限らねえだろぉ?完成前に壊れるリスクってものもあるんだからな」

>青年「その点は心配無用。僕は元勇者ですからね」

>賢者「おぉ。そうかい。すげえ、説得力だぜぇ」グビグビ


読み返してすげえってなった

ハーピー「なんじゃ、わらわたちを呼んでからに」バサッバサッ

ドラゴン「何かあったのか?」

青年「ええ。緊急事態が発生しました」

ドラゴン「緊急事態だと?」

青年「なのでみんなで会議をしましょう」

ゾンビ「うぅー!」

青年「第23回円卓の側室会議を!!!」

僧侶「わー」パチパチ

キャプテン「おっしゃぁー!!!あたしは誰をぶちのめしたらいいんだい!?」

魔法使い「そんな会議、したことあったっけ?」

エルフ「ボクの記憶ではないかな……」

少女「ついに円卓の側室会議がそのベールを脱ぐのですね」

青年「その通り。残念ながら一人欠けてしまっていますが、姫様は立場上ここに来ることができませんからね」

少女「残念ですね。でも、9人の側室がいるので問題はないでしょう」

戦士「私を頭数に入れないでください」

魔法使い「―――そう、あの人がね」

僧侶「……」

魔法使い「大丈夫?気分が悪いなら退席してもいいのよ?」

僧侶「いえ。平気です」

魔法使い「そう……」

ドラゴン「吸血鬼やミイラが知らなかったことだな。いや、俺ですら知らなかったことだ」

青年「10年前から魔道士主導で行われてきたことですからね。無理もないかと」

ドラゴン「だが……」

ハーピー「あの気狂いは打倒先代魔王を狙っていた革新派の主軸。何故、わらわたちに黙ってそんなことをしておったのかわからん。それに保守派のキマイラが奴の計画を知っていたのも気になる」

ドラゴン「何か聞いているか?」

少女「私のメモリーにはないことです」

ドラゴン「そうか……。可能性としては……」

青年「今は魔道士のことは関係ないでしょう。大事なのはこれからどうするかです」

ドラゴン「そうだな」

戦士(これから……どうするか……か……)

エルフ「どうするも何もキマイラが動いているならボクたちも動かないと」

キャプテン「そうさね。魔王はもうこの世界にはいらないんだ」

青年「僕たちの真の敵は、ずっと傍にいた賢者でしょうね」

戦士「……」

少女「その通りです。彼は我々の戦力を事細かに把握しています。各人の性能は勿論、弱点まで知り尽くしている」

少女「そのような者が敵に回ったとなると、危険です。海路を旅するぐらい危険です」

キャプテン「あんまり危なくなさそうだねぇ」

少女「危険です」

ドラゴン「キマイラはどう動くと思う?」

青年「正直、キマイラはそこまで脅威ではないでしょう。彼は肉団子と呼称していましたからね」

ドラゴン「……やはり、力に溺れたのか」

魔法使い「肉団子ってどういうこと?」

青年「それは……」

僧侶「……?」

青年「とにかく、敵ではないということですよ。恐らくあの美人の王女の傍で隠れている間に幸せ太りでもしたのでしょう。あー、羨ましいですねー」

魔法使い「何いってるのよ」

青年「僕も幸せ太りしたーい!!」

僧侶「勇者様、でも不摂生は長生きできませんよ?」

青年「それもそうか。僕は100歳まで女の子をはべらせて死ぬか、側室ちゃんたちのお尻で顔を挟んでもらって窒息死することを望んでいますからね」キリッ

エルフ「……」

戦士「真面目にしてください……」

青年「貴女の胸に包まれて窒息死でもいいんですけどね」

僧侶「そ、そんな……私は勇者様を殺したくないです……」ウルウル

青年「あ、いえ……本気にしないでください……」

魔法使い「学習しない奴」

青年「まぁ、貴女の場合はこう犬の恰好をさせて街中を闊歩したいとか思っているのでしょうから、僕の希望は叶えてくれそうにありませんね」

魔法使い「文脈が繋がってないし、勝手なこといわないで!!!そんな願望なんてない!!!」

ドラゴン「おい」

戦士「は、はい。なんですか?」

ドラゴン「簡単でいい。街と城の平面図を描いてくれるか?」

戦士「大体、こんな感じですね」

ドラゴン「……」

ゾンビ「うー?これおうちー?」

戦士「うっ……」

ハーピー「平面図は平面図だが、一言で言うと下手糞だ」

戦士「うぅ……」

少女「城の間取りが把握できません。修正を希望します」

戦士「魔物は嫌いだ……」

僧侶「えっと!!味があっていいと想います!!」

魔法使い「マーちゃんはお世辞を覚えないとダメよ?」

少女「申し訳ありません。善処します」

戦士「フォローになってないんですが……」

エルフ「いや、別にいいと思うけど……」

戦士「……もういいです。勝手にしてください」

キャプテン「拗ねちまったじゃないか。全く」

青年「―――キラちゃんによる修正が入りました」

少女「再現率は230%です」

戦士「……」シャキン

魔法使い「逆立ちしたってマーちゃんには勝てないから。おさえて」

ドラゴン「街への侵入経路は三箇所か」

青年「西と東、そして南からですね。あとは外壁がぐるりと囲んでいます」

キャプテン「一点突破するってわけかい?」

青年「まぁ、それもありなのですが」

ドラゴン「まて、俺たちもこの戦いに参加するのか?」

青年「……」

ハーピー「わらわは別に構わんぞ?」

ゾンビ「うー!!がんばるぅ!!」

戦士(でも、魔物の軍勢が人間の街を襲ってしまったら、今安定している情勢が一気に暗転する)

青年「そうですね……」

戦士(彼はどうするつもりなのかな……?城には幾多の兵士もいるし、義父さんもいる。そしてキマイラと王女も……。戦力は多いほうがいいけど……)

青年「……戦力は必要最低限に抑えましょう。僕らで十分でしょう」

戦士「待ってください」

青年「何か?」

戦士「これは一国との戦争ですよ?この面子だけでなんて……」

青年「だからと言って、魔物たちを動かすわけにはいきません。それでは僕たちが何のために戦ったのか分からなくなる」

戦士「今回だって王女のしたことを鏡を用いて世間に広めれば民衆は納得するはずです」

ドラゴン「火に油だろうな」

戦士「え?」

青年「王女の影に魔物が潜んでいた。そして街に魔物が襲ってきた。扇動したのは僕と王女ということになります」

戦士「でも……」

青年「無論、ここにいる面子を連れて行ってもそのような事態に陥る可能性はあります。ただ、軍団で向かえば弁解の余地など誰も与えてくれないでしょう」

青年「少数精鋭ならまだ融通が利く。かもしれない」

戦士「……救えるんですか?何も知らない民を」

青年「僕が誰か忘れたのですか?……貴女の大嫌いな勇者ですよ?元、ですけど」

戦士「そうでしたね……」

少女「ところで、この城のこの空白部分が建築技法的にとても不自然です。何か部屋があるような気がするのですが」

戦士「そこは王族でないと入れない部屋がなんです。昔からそこに入ることが出来るのは王族と一部の近衛兵だけのようで」

キャプテン「ここにいるのは間違いないね」

エルフ「でも、何があるかわからないね。罠だってあるかもしれないし」

魔法使い「そこしかキマイラを隠すところはないんじゃないの?」

青年「でしょうね。他に怪しいと思う場所はありましたか?」

戦士「私は城でずっと生活していたので、これといって違和感を覚えるようなことはありません。あの中が私の常識でしたから」

エルフ「ボクがうろうろしたときも他に気になるところはなかったかな。この開かずの間ぐらいだよ」

青年「なら、ここに突入するしかないでしょうね」

ゾンビ「おにぃちゃん。まおーはどうしたらいいー?」

青年「吐血砲で場をかき乱してくれたらいいよ?」

ゾンビ「うー!!」

ハーピー「こら!!変な指示を出すでない!!」

青年「では、詳しい戦略等は僕とドラゴちゃんと蜜月を過ごしながら決めますので」

ドラゴン「可笑しな言い回しはよせ」

青年「このこのーはずかしがっちゃってー」

ドラゴン「燃やすぞ」

青年「あ、キャプンテン」

キャプテン「なんだい、ダーリン?」テテテッ

青年「貴女に頼みたいことがあるんですよ」

キャプテン「なんでもいっておくれ。準備は万端だよ、ダーリン」

戦士「……はぁ」

僧侶「どうかされたのですか?」

戦士「いえ。貴女のほうこそ、嫌な話だったのでは?」

僧侶「そんなことはありません。歴代の勇者様たちも私は素晴らしい人だと思っています」

戦士「……」

僧侶「ただ、今回は私の運が悪かっただけですから」

戦士「そんな……」

僧侶「あの人の心の闇を私は理解できていなかった。悪があるとすればその点だけです」

戦士「違う……。あの人がああなったのも……貴女が傷ついたのも……元を辿れば……」

魔法使い「ちょっと、鏡出しっぱなしにしてるわよ?」

エルフ「ホントだ。危ないね」

魔法使い「片付けないと……」

エルフ「あ、正面から持ったら―――」

魔法使い『こんなときになんだけど、そろそろアイツに―――』

魔法使い「きゃぁ!?危ない!!」クルッ

エルフ『またお酒の勢いで―――』

エルフ「こっちに向けないで!!」

魔法使い「ああ!!こっちね!!」クルッ

戦士「危ない!!」

僧侶「え?」

僧侶『わんわんわん!!』

戦士「な……」

僧侶「や、やめてください!!」

魔法使い「わざとじゃないの。ごめんね……」

僧侶「もぅ……」

エルフ「片付けないと……本当に危ないから……」

魔法使い「そ、そうね……」

戦士(どうして彼女はあんなにも強いんだろう……。私なんて……)

ハーピー「その鏡、色々と面白いなぁ。わらわが覗くとどうなるやら」

魔法使い「覗くの?やめたほうが……」

ハーピー「構わん。わらわは恥ずかしくない生き方をしておるからなぁ」

魔法使い「なら……はい」サッ

ハーピー「うーむ……。相変わらずの美しさよ」

ハーピー『魔王様の吐血砲を頭から浴びたい……いや、もう、血の風呂にはいり―――』

ハーピー「おっと!!用事を思い出した!!!」バサッバサッ

魔法使い「結構、危ない趣味もってるのね……ハーピーさん」

ハーピー「ち、ちがうぞ!!その鏡は嘘つきだ!!わらわはそんなことちっともおもっとらん!!!」

魔法使い「……」

ハーピー「わらわはそんなことおもうとらーん!!!」バサッバサッバサッ

エルフ「逃げちゃった」

僧侶「えっと、素敵ですよね。魔王ちゃんが愛されている証拠ですから」

魔法使い「ハーピーさんはもっと生真面目かと思ってたけど、割と変態だったのね」

エルフ「魔王の側近で頼れるのはドラゴン様だけかもね」

魔法使い「まぁ、ゴンちゃんは別格だけど」

ゾンビ「うー。すわろ」

戦士「では、私はこれで」

魔法使い「ゆっくり休んでね」

僧侶「貴女の力がきっと必要になるときがありますから、休息はしっかりととってください」

戦士「……私がいなくても貴方達がいれば事足りるでしょう?」

エルフ「そんなことないって。指揮官である君のお父さんの戦略を読むのは、君の仕事じゃん」

戦士「私にはそんな大それたことなど」

魔法使い「期待されたくない?」

戦士「それは……私にはそれだけの能力がないので……」

魔法使い「私たちも同じよ。どっかの馬鹿勇者に無茶なことばかりお願いされてきた。期待に応えるだけの能力なんてないのに」

戦士「嫌ではなかったのですか?」

魔法使い「でも、やれっていうから。無茶でもなんでもやったわ」

戦士「それで貴女は彼の……勇者の期待に応えてきた。それだけの力があったから」

魔法使い「違うわ。私たちにできることをアイツが教えてくれたの」

戦士「できることを……」

魔法使い「だから、貴女も……」

戦士「私に……希望をなんてありません……」

魔法使い「どうして?」

戦士「だって……」

僧侶「あの……」

戦士「失礼します」

エルフ「あ。待ってよ」

魔法使い「……やっぱり何か思い詰めてるわね。ずっと顔色も悪かったし」

僧侶「勇者様と何かあったのでしょうか」

ゾンビ「うー。おなかすいたー」

>>828
戦士「私に……希望をなんてありません……」

戦士「私に……希望なんてありません……」

―――食堂

戦士「はぁ……」

ガイコツ「よぉ!!」

戦士「……どうも」

ガイコツ「元気ねえなぁ。どうかしたのかい?」

戦士「色々ありまして……」

ガイコツ「なら、これ見てくれよ。元気でるよぉ?」

戦士「なんですか?」

宝箱「……」

戦士「ミミック族の……」

ガイコツ「ミミーとガイコツの一発芸。腹話術」

宝箱『ワタシ、脱ぐと美人なのよー?』パカッパカッ

ガイコツ「どうだ?」

戦士(これから私は義父さんと戦う……。それだけじゃない、王女とも……そして、姉を殺した勇者とも……。でも、それは……)

ガイコツ「いまいちだったか。なら、次。びっくり箱」

ガイコツ「最終一発芸。食べられる私」

宝箱「……」パカッ

ガイコツ「よっこいしょ」

宝箱「……」バクッ!!

ガイコツ「やべー!!!骨の髄までむしゃぶられるぅー!!骨だけにぃー!!」

戦士「はぁ……」

ガイコツ「ダメか」

宝箱「……ゴメンね」

ガイコツ「お前さんの所為じゃねえよ」

戦士「……どうしてそんな芸をその子に?」

ガイコツ「楽しいだろ?」

戦士「ええ、まぁ、ありがとうございました」

ガイコツ「で、なに食う!?」

戦士「えっと……魚料理を……」

ガイコツ「任せな!!」

戦士「……」

宝箱「……」チラッ

戦士「ん?なんですか?」

宝箱「……」

戦士(そういえば、以前も同じようなことを……)

戦士「開けますよ?」

宝箱「……」パカッ

戦士「へえ、中はこうなって……ん?」

宝箱「……アナタに」

戦士「これは……手紙……」

宝箱「……ずっと、もってた」

戦士「誰から……」ペラッ

『前略 この手紙を読んでるってことは俺はお嬢ちゃんの傍には居ないんだろう。ミミーちゃんにしっかり頼んでおいたからな』

戦士「な……」

宝箱「……」

俺がお嬢ちゃんの隣にいない理由は二つしかない。一つは俺がどこかで死んだとき。そして、過去のことをお嬢ちゃんが知ったときだ。

俺が死んでいた場合はこの先は読まなくていい。死んでるなら燃やしてくれ。俺の遺言だ。

さて、俺が生きているという場合はあまり考えたくはないが書いておこう。

俺のことはもう知っていると思うが、お嬢ちゃんの家族を見殺したにした勇者だ。そしてその後は生まれ故郷の街を裏で支配していた。

賢者は幸運なことに様々な魔法が使えるからな。権力者を骨抜きにして玉座の背後に回りこむのは難しいことじゃなかった。

お嬢ちゃんが剣術を磨いているときも俺は着々とあの街を侵略していたわけだ。

魔道士からは全ての人間を傀儡にしろと言われ、俺は酒と金のために従った。

魔道士は同じようなことを各地で行っていたようだ。自分が魔王になったとき、一気に人間を支配するための布石のつもりだったんだろうな。俺には興味のないことだが。

ここまで書いたら頭のいいお嬢ちゃんのことだ、もう分かるよな。お嬢ちゃんが兄ちゃんと一緒にこっちにくるなら、俺は傀儡人形化させた人間たちを戦わせる。

無論、オヤジも一緒だ。俺の敵となったお嬢ちゃんを倒す為に利用させてもらう。魔道士に甘い汁を吸わせてもらっていた手前、キマイラは守らせてもらうぜ。悪く思うなよ。

そもそも俺は人間が大嫌いだからな。俺の居場所を奪うっていうなら容赦はしない。

ただ、優しいお嬢ちゃんを俺は殺したくない。だから、取引しようぜ。お嬢ちゃんは兄ちゃんたちの立てた作戦を聞いてから俺のところにこい。そうすればオヤジも救ってやるし、街の人間も戦わなくて済むぜ。

誰も殺したくないだろ。お嬢ちゃんだって城にも街にも友人がいたはずだ。仲のいい兵士も少なくなかっただろ。

俺みたいに罪の無い人間を、友人を、家族を見殺しにするような真似はお嬢ちゃんにできないはずだ。

必ず一人で来い。楽しみにしてるぜ、お嬢ちゃん。
                                  早々

戦士「……」

宝箱「……」

戦士「これを……受け取ったとき……何か言っていましたか……?」

宝箱「……ナカマになれって」

戦士「仲間……」

宝箱「……でも、断った。今の魔王が好きだから」

戦士「そうですか……。この手紙は貴方が持っておいて下さい」

宝箱「……うん」パカッ

戦士「……っ」タタタッ

宝箱「……」

ガイコツ「おまたせぇー!!!あれ?」

宝箱「……」

ガイコツ「料理つくったのにぃぃ!!!……いるか?」

宝箱「……うん」パカッ

ガイコツ「全く、常識知らずのニンゲンだなぁ」

―――港

青年「では、お願いしますね」

キャプテン「任せときな、ダーリン」

青年「頼りにしています」

キャプテン「ああ!!まかせときなぁ!!!―――いくよぉ!!お前たち!!!錨を上げなぁ!!!帆をはれぇ!!!」

戦士「あの!!」

青年「どうかしたのですか?」

戦士「さ、作戦……決まったんですか……」

青年「ええ。キャプテンには今から動いてもらいます」

戦士「……作戦概要を教えてもらえますか?」

青年「概要?」

戦士「はい……」

青年「何故ですか?」

戦士「……」

青年「鏡を使いましょうか?」

戦士「それは……」

青年「答えてもらわないと―――」

戦士「いいから、答えてください」スッ

青年「……!!」

戦士「でなければ、首を落とします」

青年「……」

戦士「ふぅ……ふぅ……」

青年「どうぞ」

戦士「え……」

青年「貴女がそこまでするということは、譲れないものがあるのでしょう。それと同じように僕にも譲れないものがあります」

戦士「……」

青年「ですので、僕は最後の抵抗として貴女に何も言わずに殺されます」

戦士「やめて……」

青年「その代わり、僕を殺したあとはすぐに逃げてください。ドラゴちゃんやキラちゃんに狙われたらひとたまりもありませんから」

戦士「やめてください!!!貴方は私に喋るだけでいいんです!!!」

青年「……」

戦士「こんなこと……したくないのに……」

青年「そうですか」

戦士「街に行くのをやめましょう……それで……いいですから……」

青年「それはできません」

戦士「何故!?」

青年「今も尚、人がキマイラに食われているからです」

戦士「……」

青年「彼はキマイラのことを肉団子と言った。これは嘲罵の呼称ではなく、そのままの意味なのでしょう」

戦士「そのまま……」

青年「彼の過去を見たでしょう。その中に出てきた、キラちゃんとは似ても似つかない醜い肉塊。今のキマイラは同じ状態になっていることが考えられます」

戦士「それって……」

青年「生命力を取り込むために、人を喰らい続けたが故でしょうね。専門家の魔道士がいないのに無理な強化を図ったのでしょう」

戦士「……」

青年「もし歯止めが利かなくなっているとしたら、キマイラは延々と人を喰らい続ける。それが分かっているのに、動かないわけにはいかない」

戦士「……では、問います。見知らぬ誰かを救うために、貴方は友人や家族、恩人を殺せますか?」

青年「脅されているのか……?」

戦士「答えて!!勇者として貴方はどうするのかを!!!」

青年「……」

戦士「答えろ……」

青年「側室たちに置き換えてもいいですか?僕には家族と呼べるのが側室たちしかいないので」

戦士「構いませんが」

青年「なら、殺しません」

戦士「……」

青年「見知らぬ誰かを救うのに自分の大切な人たちを殺すなんて、ナンセンスでしょう?」

戦士「それが貴方の答えですね」

青年「目に映る者は全て守る。見知らぬ誰かは僕の目に映っていませんから」

戦士「……では、私もそうします。私を本国に帰してもらえますか?」

青年「何故?」

戦士「家族を守るためにです」

青年「なるほど……。あの賢者様は、貴方の家族を盾にしてきたのか」

戦士「要求に応じなければ……首を……」

青年「殺すなら殺せ」

戦士「……っ」

青年「そんなことをしても、誰一人守れない。そんなこと分かっているはずだ」

戦士「傀儡にされているんです……みんな……が……」

青年「魔道士も言っていたな……」

戦士「私は貴方達とは違う!!!誰も見捨てない!!!」

青年「……それを言われると、何も言えないないな」

戦士「早くしろ!!」

青年「……」

戦士「私も救う!!大事な人を!!!もう誰も失いたくない!!!」

青年「俺も同じだ」

戦士「なにを……!!」

青年「言っただろう。側室は守る。みんなだ。君も含めた、全員だ!!」

戦士「私は……違う……!!側室じゃない!!」

青年「……世迷い言を。もう決定事項だと言ったでしょう?」

戦士「勝手に決めないで!!」

青年「決めますね!!貴女はもう僕の虜だから!!!フハーハハハ」

戦士「ふざけないで!!!早くして!!!本当にこのまま首を……!!」

青年「……」

戦士「私は……勇者のことなんて……信じない……誰も救わない……勇者はただの人間だ……から……」

青年「そうですね。非力な人間に過ぎない」

戦士「守るためには誰かを犠牲にしないといけないんです……」

青年「確かに」

戦士「貴方が私を守るのは勝手です!!でも、そうすることで私の家族が……友人が……殺されるなら……!!」

青年「なら、全てを救えば問題ないのでしょう?」

戦士「……え?」

青年「貴女の目に映る者も僕が守る。それなら文句ありませんよね?」

戦士「そんなことできるわけが……!!」

青年「それはどうでしょうね……。やってみないとわかりません」

戦士「戦いになれば必ず誰かが死ぬ。そうでしょう?」

青年「もう見捨てるわけにはいかないんだ。俺は、誰も」

戦士「そんな実力もないくせに……!!」

青年「……なんだと?」

戦士「貴方は彼女たちを守ることしか出来ない!!そう認めたじゃない!!」

青年「……」

戦士「もう……私を失望させないで……。これ以上……勇者を嫌いになったら……私……」

青年「……」

魔法使い「ちょっと、何してるの?部屋で待ってたのに」

僧侶「勇者様?」

青年「どうも。アレは見つかりましたか?」

僧侶「はい。こちらに。温めておきました」

青年「貴女の温もりが……ぬほほぉ」

戦士「……こうなったら」

青年「……待て。何をする気だ」

戦士「大切な者を盾にされたら……貴方だって……」

魔法使い「……何をするつもりか知らないけど、やめて」

僧侶「……」

青年「お前では二人に勝てないぞ」

戦士「……っ」

青年「提案ですが。もう一度だけ、勇者のことを信じてみませんか?」

戦士「勇者……?」

青年「そう。かつて貴方の家族を殺してしまった勇者のことを」

戦士「……」

青年「あの日の償いを俺にさせてくれ。頼む」

戦士「……本当に……救ってくれるんですか……。目に映る者……を……」

青年「ええ……。一度は捨てたこの鎧と剣に誓いましょう……」スッ


勇者「―――君のことを。君の家族を。君の友人を。勇者が守護することをここに誓う!!!もう裏切ったりしない!!!信じてくれ!!!」

戦士「……勇者……が……」

僧侶「勇者様ぁ……」

魔法使い「やっぱりそれを身に付けているほうが様になるわね」

勇者「惚れましたか?」キリッ

僧侶「ずっと前から惚れています」

魔法使い「……知らない」

勇者「今のかっこよかったでしょう?ねーねー?」

魔法使い「それで台無しなの!!」

戦士「……あの」

勇者「はい?」

戦士「絶対に助けてくれますか……」

勇者「はい」

戦士「期待しても……いいんですか……」

勇者「僕は貴女にとって理想の勇者になりましょう。それに……」

戦士「……」

勇者「側室一人の期待にも応えられないようでは、ハーレムなんて作れないと思いませんか?常識的に考えて」

戦士「それは……」

勇者「甲斐性の見せ所です!!!ムアッハー」

僧侶「素敵ですっ」パチパチ

魔法使い「調子いいこと言って……。ほら、行きましょう」

戦士「……」

勇者「何があったのか話してくれますか?」

戦士「もう想像がついているのではないですか?」

勇者「まぁ、概ね」

戦士「手紙を受け取りました。そこに書いてありました。街の民、城の兵士、全てが傀儡だと」

魔法使い「なるほどね」

勇者「全面戦争とはそういうことですか。民も巻き込むとは……」

僧侶「……」

勇者「心配することはありませんよ」

僧侶「は、はい……」

勇者「では、対策を練りましょうか。全員を救うために」

―――謁見の間

勇者「どうも、おまたせしました」

エルフ「あ、きたき―――ぶふっ!?」

勇者「おや、どうしましたか?」

エルフ「ご、ごめん。いきなりその姿だから驚いただけ……」

勇者「こっちのほうがかっこいいでしょ?」

エルフ「……」

勇者「ん?」

エルフ「……うん」

勇者「さー!!みなさん!!集合してください!!」

ゾンビ「うー!!!」テテテッ

ドラゴン「どうした?」

ハーピー「はぁ……そんな気分ではないぞ……」バサッバサッ

勇者「第142回側室で誰が一番エッチなのか会議を始めます」

少女「それは間違いなく……」

エルフ「ガーちゃん!!!こっちみるなぁ!!」

少女「……しかし」

エルフ「しかしもかかしもない!!メンテナンスしてあげないから!!!」

少女「それは困ります」オロオロ

魔法使い「真面目にする」

勇者「貴女もムッツリ部門ではナンバーワンですよね」

魔法使い「燃やすわよ?」

ドラゴン「で、なんの会議だ?もう大体のことは済ませただろうに」

勇者「いえ、予定を変更します」

ドラゴン「お前……」

勇者「当初の予定に戻します。犠牲者はなし。倒すのはキマイラだけ」

戦士「……」

勇者「それでいいでしょう?」

戦士「……はい」

勇者「ありがとう。細かいことを伝えます。皆さん、よく聞いてください」

―――通路

勇者「要は空まで持ち上げていって、上空から撒き散らす感じですよ」

ハーピー「それは有効なのかえ」

勇者「血の雨を浴びる勇者ってかっこよくないですか」

ハーピー「おぬしが浴びたいだけだろうに」

勇者「結構名案だと思うんですけど」

戦士「何をしているんですか?」

勇者「どうも、ハニー」

戦士「誰がハニーですか」

勇者「では、マイワイフ?」

戦士「……おやすみなさい」

勇者「待ってくださいよ。僕とピロートークをしたいがために話しかけてこられたのでは?」

戦士「違います」

ハーピー「では、わらわは失礼する。また明日」

勇者「はい。お疲れ様です、ハーピー姉さん」

戦士「貴方が会議後も一人一人と話しているのが目に入って少し気になっただけです」

勇者「ああ、そうですか。なに、側室たちに僕から溢れ出る愛を振りまいていたのですよ」

戦士「そうですか……」

勇者「無論、最後には貴女の耳元で静かに、濃厚な愛情を囁こうと思っていましたが」

戦士「……」

勇者「怒っていますか?貴女に全てを語らなかったことを」

戦士「いえ。出会ったときに貴方の過去を聞いたところで、ただ困惑……いえ、恐らくは激昂し、感情をぶつけていただけでしょう」

勇者「……」

戦士「今のように、落ち着いて貴方と話せるのは、この短い間に勇者という存在がどのようなものだったのかを知ったからでしょうね」

勇者「どうでしたか、実物の勇者は」

戦士「悪い方向でイメージが崩れましたね。一人は救いようのない女たらしですし」

勇者「そのたらしに誑し込まれた女性がここにも」

戦士「私は貴方に篭絡されてなどいません!!」

勇者「これは摩訶不思議ですね。こんなにも内も外もカッコいい、しかも勇者の男性がいて、惚れないなんて……。うーむ、貴女には体の隅々まで男性を教え込む必要がありそうです」

戦士「それ以上近づいたから斬る」

>>860
戦士「それ以上近づいたから斬る」

戦士「それ以上近づいたら斬る」

勇者「相変わらずの男嫌いですね」

戦士「違います。不潔な男性が嫌いなだけです」

勇者「昔から僕は嫌われていましたからね」

戦士「それは……」

勇者「いつも姉さんの後ろにいた貴女がそうして勇ましく剣を握る様は、中々感慨深いものがありますね」

戦士「年寄りみたいなこと言わないでくださいよ」

勇者「いえいえ。お兄ちゃんとしてはそう思いますって」

戦士「誰がお兄ちゃんですか、誰が」

勇者「そう呼び合う仲になっていたかもしれない。今は、お前、アナタと呼び合う仲ですから、いやはや、人生とは何があるか分かりませんね」

戦士「……やっぱり、勇者は嫌いです」

勇者「……もう一人も?」

戦士「もう一人の勇者は外道でした。私が幼少に見た勇者とは比べ物にならないほどの、下衆です」

勇者「僕もそう思います」

戦士「……ですが、彼を変えたのは私たちでした」

勇者「……」

戦士「私は……あの人も救いたい……」

勇者「……」

戦士「貴方はキマイラだけを倒すといいました。それは……」

勇者「ええ。殺すのはキマイラだけです」

戦士「よかった……」

勇者「ただし」

戦士「……え?」

勇者「それは僕らが殺すのは……という意味です」

戦士「どういうことですか?」

勇者「全力を出します。最善も尽くす。それでも、僕の知らないところで死んでしまった者は救えない」

戦士「……!」

勇者「僕は神ではない。勇者ではあるけど、ただの人間。貴女の家族、友人、全てを守る。それは約束する。けれど……」

戦士「もう死んでいたら……」

勇者「殺人兵器にされているのだとすれば、心が破壊されているかもしれない。そうなっては手立てはない。10年もの時間をかけて操作していったのなら、尚更だ」

戦士「……っ」

勇者「ですが、悲観することはないでしょう」

戦士「何を根拠に」

勇者「俺が居るからな」

戦士「な……」

勇者「心配はいらない。全て救う。絶対にな」

戦士「……絶対ですよ?」

勇者「ああ。期待しててくれ」

戦士「もし約束が守られなければ?」

勇者「それはまずないですけど……。貴女を側室にするのを諦めましょうか」

戦士「……は?」

勇者「これは大英断です!!!もし!!!貴女を諦めないといけなくなれば!!!僕はまた!!!!世界を飛び回り!!!貴女と同格以上の美貌の持ち主を探さなければいけない!!!」

勇者「うーむ!!これは困ったぞぉ!!貴女以上の美人なんてこの世に何人いるのか……。一人もいないんじゃないかなぁ……」

戦士「何を言っているんですか。あの捕らえたミイラを側室にしたらいいでしょう」

勇者「ミーちゃんは確かに抜群の美貌をあの包帯の下に隠していましたが、あの子にはきっぱり断られてしまいましたからね。残念です」

戦士「私もずっときっぱり断っていますが」

勇者「義妹に拒否権なんてねぇよ、カス」

戦士「……」

勇者「妹キャラは既にリビンちゃんこと魔王ちゃんがいるんですが、僕のことを鬱陶しいと蔑み、扱う妹は居ませんからね……。貴女には僕のマゾ魂を擽ってもらいます」

戦士「私にそんな趣味もないし、別に蔑んでなんていませんから」

勇者「おや、そうなんですか?お尻ペンペンもダメですか?」

戦士「不潔なことは言うなって言っているでしょう!?」

勇者「不潔って……これほどまでに真っ白な心を持っているのは世界広しといえど僕ぐらいだと思うんですけど」

戦士「随分と色褪せた白ですね」

勇者「おやおや、さっそく頂きました。もっと苛めて」

戦士「キモイです。本当に村にいたときのお兄さんなんですか……」

勇者「僕がかっこよくなりすぎて実感がわきませんか?白馬ぐらい飼っておくべきでしたね」

戦士「付き合ってられません」

勇者「ああ、そうそう。これは言っておかないと」

戦士「なんですか?」

勇者「俺が君を幸せにする」

戦士「……」

勇者「さぁ、側室になろうよ。楽しいよ。夜とか」

戦士「……幸せにできるのなら、お願いしたいところですが」

勇者「お」

戦士「生憎、私は勇者が嫌いです」

勇者「そうですか」

戦士「私が見た勇者は臆病者か軟派者かアル中のどれかでした。好きになれるほうがおかしいでしょう」

勇者「素直になりなよ、ベイビー」

戦士「黙れ」

勇者「不安なのは分かります。僕も出来れば戦いたくはないですよ。勇者なんかと」

戦士「……!」

勇者「それに貴女の場合は家族が人質になっている。本心はここを出て、親の顔を見たいはずです」

戦士「私はもう決めましたから。戦うことを」

勇者「いえ、迷ったままでいてください。もし決断してしまうと、貴女は誰かの血を見ることになるかもしれませんし」

戦士「どうしてですか?迷いがあっては戦場で戦えません」

勇者「では、戦うと決心し、戦場へ赴いたとしましょう。戦場では襲い掛かってくるものは全て敵です」

戦士「ええ」

勇者「貴女のお父さんが襲ってきたとき、容赦なく斬ってしまうかもしれない。友人が牙を剥いた時、貴女は躊躇いなくその剣を喉笛を切り裂くかもしれない」

戦士「そんなことはしない」

勇者「いえ。自分の身が危ないと感じたとき、或いは仲間を救うとき、その決断は悲しい選択をする」

戦士「どうして……そんなことがわかるんですか……」

勇者「僕の側室に一人、そういう決断をし続け、仲間を見殺しにし、そして自分を殺してきたやつがいるんで」

戦士「……」

勇者「決意すると結構なんでもやれちゃうみたいです。そして、あとになって自分が何をしてきたことに絶望する」

戦士「絶望……?」

勇者「今、前線に出ているのはなるべく部下に辛い想いをさせたくないという気持ちの表れだと思います。世界中を飛び回っているのも、自分が殺してきた同胞の弔いと償いのようですし」

戦士「それって……ドラゴ……」

勇者「あ、これ内緒にしておいてくださいね。怒りますから」

戦士「は、はい……」

勇者「まぁ、斬るのではなく、逃げる。それを心がけていれば大丈夫ですよ。あとは僕たちに任せて、貴女は貴女の仕事をしてくれたらいい」

>>868
勇者「貴女のお父さんが襲ってきたとき、容赦なく斬ってしまうかもしれない。友人が牙を剥いた時、貴女は躊躇いなくその剣を喉笛を切り裂くかもしれない」

勇者「貴女のお父さんが襲ってきたとき、容赦なく斬ってしまうかもしれない。友人が牙を剥いた時、貴女は躊躇いなくその剣で喉笛を切り裂くかもしれない」

戦士「私の仕事……」

勇者「はい」

戦士「私はキマイラと関係ないですからね」

勇者「何か不満でも?」

戦士「……関係ないわけないでしょう。私はキマイラの所為で貴方を探すことになり、ここにいるわけですから」

勇者「まぁ、そうですけど……」

戦士「私にもできること、させてもらえませんか?ただ、兵の動きを予測して、貴方達に指示を出すだけなんて……」

勇者「重要な仕事ですが」

戦士「そうかもしれません。でも……私も……」

勇者「直接、戦うことになってもいいのですね?」

戦士「……足止め役は多いほうがいいでしょう」

勇者「分かりました。考えておきます」

戦士「ありがとうございます」

勇者「それでは。……一緒に寝ます?」

戦士「寝言は寝てから言うものです」

―――食堂

戦士(ああはいったけど、私にできることはどれぐらいあるんだろう……)

魔法使い「だから。あんたは私と手を繋いでいればいいの」

僧侶「でも勇者様がお怪我してしまったとき大変です」

魔法使い「繋いだままだとアイツが動き難いでしょ?」

僧侶「確かにそうですけど。あ、私が背中にくっついておくってどうですか?以前の魔王との最終決戦でもゴンちゃんにそんなことしてました」

魔法使い「胴体のでかさを考えなさいよ!!」

戦士「楽しそうですね。打ち合わせですか?」

僧侶「はい。勇者様のお役に立ちたいですから。それに……」

戦士「それに?」

僧侶「……どうしても倒したいんです。キマイラだけは」

戦士「え……」

戦士(この人、こんな怖い顔するときもあるんだ……)

魔法使い「もう話は聞いているでしょうけど、キマイラがやっていることは生命力の抽出っていう殺戮。みんなそうだけど、この子はとくにそういう奴が大嫌いでね」

僧侶「人だけでなく、生き物の命を玩具のように扱うことだけは絶対に、絶対に許せません。私が天罰を与えますっ」

魔法使い「はいはい。熱くならないで」

僧侶「でも」

魔法使い「その所為で何回、私に迷惑かけたか覚えてるの?」

僧侶「……」

戦士「何かあったんですか?」

魔法使い「この子、普段は魔封じの腕輪で魔力漏れを防いでいるからいいんだけど、この腕輪をとって攻撃用の魔法を使うものなら例外なく暴走しちゃうのよね」

戦士「まぁ、魔力を止められないというなら、そうでしょうね」

魔法使い「止められないならまだしも、全魔力を放出するから威力も桁違いなのよね。敵味方関係なく危険なのよ」

戦士「なるほど」

僧侶「昔のことはいいじゃないですか」

魔法使い「昔って。こっちが死に掛けたことだってあるでしょ?」

僧侶「それは、ごめんなさい」

魔法使い「もう」

戦士「お二人はまるで姉妹のようですね。付き合いは長いのですか?」

魔法使い「んー。孤児院からだから……もう10年くらい経つわね」

戦士「孤児院……。あ、すいません……」

魔法使い「貴女も同じような境遇でしょ?」

戦士「それは……」

僧侶「そうですかぁ。もう10年ですかぁ」

魔法使い「まぁ、そのうちの半分以上は魔法の修行に費やしたけど」

僧侶「よかったですね。勇者様に出会えて」

魔法使い「なんでよ」

僧侶「逃した青春を取り戻せたって言ってませんでしたか?」

魔法使い「が……」

戦士「なるほど」

魔法使い「それは!!あれよ!!こう、ほら!!汗を流すことができるからで!!!」

戦士「不潔な話ですね?やめてください」

魔法使い「ちっがうわよ!!!もっと爽やかなほうよ!!!」

僧侶「勇者様の汗はいつでも爽やかですもんね」

魔法使い「あんたも変なこと言わないで!!」

戦士「私は魔法を扱える素養がないのでよく分かりませんが、やはりかなり苦しいものなのですか?」

魔法使い「師匠によるわね。私の師は厳しい人だったけど、最後まで面倒を見てくれたわ。体質的に欠陥だらけなのに」

戦士「どうしてその体質で魔法を……?」

魔法使い「そもそも師匠が私を誘ってきたのよね。君には才能があるって。なかったけど」

戦士「でも、結果的に貴女は世界を救うほどの魔法使いになった。その師は間違いなく慧眼だったのでしょう」

魔法使い「そうなるのかしらね」

僧侶「私の先生は私のこと褒めてくれていましたよ。貴女は聖母の生まれ変わりだーって」

戦士「触れた者を癒すと聞けば、何となくそんな感じですね」

僧侶「いえ、当時は誰もそのことに気がついていませんでした。ただ、自然治癒ができるからすごいって言っているだけでしたね」

戦士「はぁ……」

僧侶「僧侶としての仕事をこなしたことなんて、勇者様と出会うまではありませんでしたし」

魔法使い「私もよ。そう言う意味では、アイツは第二の師匠なのかもしれないけど」

僧侶「違います。ご主人様です」

魔法使い「それ、外で言ってないわよね?」

戦士(私も剣の技術は義父さんに教えてもらった……。孤児の私にとって、義父さんは父親であり、師匠だった……)

僧侶「さぁ……」

魔法使い「さぁって……」

戦士「あの、その師匠が敵になったら、貴方達はそうされますか?」

魔法使い「え?」

戦士「その師匠が大切な人を傷つけるとしたら、どうしますか?」

魔法使い「それって……」

戦士「聞かせてもらえますか?」

魔法使い「……」

僧侶「私はどちらも救う方法を探します」

戦士「それでもなかったら」

僧侶「見つけるまで探します。どちらも失いたくないですから」

戦士「貴女らしいですね」

魔法使い「私は……師匠を殺めるかもね……」

僧侶「何故ですか?」

魔法使い「勿論、両方を助けられるならそれに越したことはないけど、どちらかを選べと言われたら……」

戦士「大切な人を選ぶ理由は?」

魔法使い「私にとってそれだけの存在だから、かもね」

戦士「……」

僧侶「ほぉー……」

魔法使い「え?なに?」

戦士「ご馳走様です」

魔法使い「な!!勝手な勘違いしないで!!別にそういうのじゃないから!!」

戦士「では、なんですか?」

魔法使い「えーと……。ほら、生き方を教えてくれたか、それとも生きる希望を与えてくれたかで言えば、後者のほうが私にとって凄くプラスだからで……」

戦士「……」

魔法使い「それだけじゃなくて、私自身も変えてくれたっていうか……」

僧侶「そうですよね。とても魅力的ですかね」

魔法使い「馬鹿のことは関係ないでしょ!!」

戦士「誰も彼のことだと言っていません」

魔法使い「と、とにかく!!色々と考えて、共に生きていくうえでり、利用価値があるほうを選ぶのが現実的だと思わない?そういうことよ」

僧侶「また語弊のある言い方を……」

魔法使い「なによ?」

僧侶「一緒にいたい人だって素直に―――」

魔法使い「その口を溶接してあげるわ……」

僧侶「ひぃ」

戦士「……なるほど。参考になりました」

魔法使い「そう?なら、よかったけど」

戦士「それでは失礼します」

魔法使い「気負わないでね」

僧侶「私たちも頑張りますから」

戦士「……はい」

魔法使い「おやすみ」

戦士「おやすみなさい」

僧侶「……辛そうですね」

魔法使い「そうね……。私がうまくフォローできればいいけど」

―――客間

戦士「……」

戦士(共に生きて生きたいと思うほう……)

戦士(彼のことを疑っているわけじゃない。寧ろ、私は……勇者に全幅の信頼を寄せている……気がする)

戦士(でも、もしも……)

戦士(傀儡となった義父さんが、私に……ううん、みんなに刃を向けたなら……)

戦士(私が……義父さんを……この手で……この剣で……)


戦士『こうですか?』

兵士長『筋がいいな。やるじゃないか』

戦士『でも、まだまだです。何より私には筋力が……』

兵士長『それを補うだけの技量がある。自信を持て』

戦士『技量だけでは限界もありますよ』

兵士長『確かにな。なら、この剣をやろう。俺が昔、愛用していた剣だ。これを自在に振り回せるようになることを目指してみるっていうのはどうだ?目標があるほうがいいだろ?』


戦士「……素振りでもしようかな」

―――翌日 謁見の間

ゾンビ「くるしゅうーない」

戦士「今朝から城内が騒がしいようですが、何かあったのですか?」ナデナデ

ソンビ「しらなーい」

戦士「……本当に魔王なの?」

ゾンビ「うー」

戦士「……」

ドラゴン「―――魔王様。ご報告が」

ゾンビ「うー?」

ドラゴン「牢屋に閉じ込めておいたキマイラの一派が逃げ出した」

ゾンビ「うー!?」

戦士「なんで……!?」

ドラゴン「脱獄の手引きをしたのはゴーレムのようです。奴の姿もなくなっています」

ゾンビ「うー……レムにぃ……」

戦士(まさか……これもあの人が……?)

ドラゴン「行方はすぐに追わしているが、恐らく……」

戦士「……私のいた城ですね」

ドラゴン「そこしかありえないだろうな……」

戦士「……」

ゾンビ「おにぃちゃんは?」

ドラゴン「ハーピーと共に事実確認に向かっている。他の者は待機しているのでどんな事態にも対応は可能です」

ゾンビ「じゅんびはできてるぅー?」

ドラゴン「船団からの報告がまだのため、あと1日以上は攻め込めない」

ゾンビ「うー……。おねぇちゃん、どうするぅ?」

戦士「私に言われても……」

ドラゴン「お前にも決定権があるぞ」

戦士「え?」

ドラゴン「数人の隊ではあるが前線指揮官はお前のようだ。勇者がそう言っていた。向こうの戦術を把握し、地の利も理解しているのあれば妥当な配役だと思うがな」

戦士「指揮官って!!私は基本的には後方支援で……!!」

ドラゴン「それでもお前は前に出て戦いたいと言ったそうだな。父を止めるためか。それとも誰かが誤って殺害してしまうのを防ぐためかは知らないが」

戦士「それは……」

ドラゴン「俺を顎で使える好機だぞ」

戦士「そんなつもりはありません」

ドラゴン「そうか」

ゾンビ「とにかくうー。おにぃちゃんがかえってくるまで、まつ?」

ドラゴン「それでいいか?」

戦士「しかし、1日も待っていたら余計な猶予を与えてしまうのも確かですね……」

ドラゴン「ほう?」

戦士「こちらの準備はほぼ整っているわけですから、今から攻め込めば相手の意表をつけるかもしれません」

ドラゴン「つまり、今から総攻撃をかけたいわけか」

戦士「え……?いえ、そんなつもりは……」

ドラゴン「実は言うと俺もそう考えていた。ただ、一つ懸念があるとすれば……。あの男の罠ではないかという線も捨て切れない」

戦士「ゴーレムたちの離反が挑発だと?」

ドラゴン「ああ。我らの行動を読みきった上でのな」

戦士「どちらにせよ、各地に散らばるキマイラの一派を呼ばれては戦力差が大きくなり、戦火は広がってしまうばかりですから、その挑発に乗るのも手ではありますが」

ゾンビ「なら、いくー?」

戦士「でも、私の一存では」

ドラゴン「一つの工程を省く程度のことだ。無謀な試みではない」

戦士「火の中に飛び込む虫になるかもしれないのですよ」

ドラゴン「危ない橋の向こうに光明もある。お前の家族も友人もまだ正気のうちに救えるかもしれない」

戦士「……」

ドラゴン「……」

ゾンビ「うー?ううー?」

戦士「彼は今どこに?」

ドラゴン「合流する気か」

戦士「総指揮官は彼でしょう?」

ドラゴン「違う。お前の隣に居るお方だ」

戦士「え?!」

ゾンビ「……おなかすいた」

戦士「……とにかく、みなさんとも相談しましょう。失敗は許されないんですから」

エルフ「ボクはいいと思うよ」

戦士「え?」

エルフ「君に従う。そう言われているから」

戦士「……いえ、私は……もっと慎重に……」

魔法使い「ゴーレムまで敵に回ったんなら、さっさと動かないとね。放っておいたら隣国まで危険なことになるわよ」

僧侶「それはダメです!!姫様だっているのに!!!」

戦士「……」

少女「どうされますか?」

戦士「え……」

少女「あなたのパパが危険です」

戦士「どうして煽るんですか……」

少女「パパが既に戦場へ赴いているからです」

戦士「それは……」

少女「貴女に全権を委ねたのは、恐らくできるだけ私たちを安全圏に留めておこうとしているからでしょう」

戦士「なら、彼は……一人で戦いに……?」

ドラゴン「そうではない」

戦士「じゃあ、どうして……」

ドラゴン「ゴーレムと一対一で話したいのだろう。あいつが考えそうなことだ」

戦士「話す……?」

ドラゴン「奴も同じ釜の飯を食った仲だ。できれば刃を交えたくないのが我々の本意。だが大人数で行けば、ゴーレムも戦闘態勢にはいる」

魔法使い「でも、どっちにしろ無理よね。ゴーレムはキマイラのこと好きだったし」

ドラゴン「ああ。一度は捨てられた身であれど、呼ばれれば応じる。見た目通り愚直な奴だからな」

少女「今となっては見捨てられたかどうかも疑わしいですが」

ドラゴン「我々を欺く為にそうしただけだったのかもしれないな。ともかく、行かねばなるまい。ハーピーも一緒ではあるが、心許ない」

少女「指示を」

戦士「しかし……」

魔法使い「貴女に決定の権利を譲ったのは、時間稼ぎだったのかもしれないわね。きっと迷うだろうからって」

エルフ「酷いやつ」

少女「貴女に従うように言われています」

戦士「……」

―――草原

ゴーレム「……」

ミイラ「ここからまーっすぐ行けばお城みたいですよぉー!!!!」

吸血鬼「ふふふ……。我輩たちはやはり見捨てられては居なかった」

ミイラ「あの酔っ払いさんから頂いた手紙は間違いなくキマイラ様からでしたからねー!!」

吸血鬼「ああ。キマイラ様の魔力が込められた筆跡……。我輩たちが見紛うはずはなし!!!」

ミイラ「キャッホー!!!!キマイラ様ー!!!!だーいすきー!!!!」

ハーピー「―――ならば、殊更お前らたちを奴のもとへはいかせられんなぁ」

吸血鬼「な……!?」

ハーピー「探したぞ、土塊。お前に与えられた仕事をわすれたのかえ?」

ゴーレム「ロう、ノ……ミハりな、ド……ダレにデもデきル……!!!」

ハーピー「随分と大人しくしているとは思うておったが、やはりこういうことだったのだな」

ゴーレム「やクそく……キマイラとノ……。スベてがトトノエば……ワレらヲショウカんし……ニンゲンをセイあつする……ト……」

ハーピー「やはり、処刑しておくべきだったのではないか?のぉ、勇者よ?」

勇者「―――ミーちゃん!!!!俺の正妻になってください!!!!」

ミイラ「やでーす!!」

勇者「おのれ!!!キマイラ!!!もう許さん!!!フォォォォ!!!!」

勇者「こんな……こんな……可愛い子を……独り占めにするなんてぇぇぇ!!!!!!」

ハーピー「……ふん」ペシッ

勇者「いって!!なにするんですか、ハーピー姉さん!!」

ハーピー「真面目にやらんか」

勇者「僕はいたって真面目ですけど!!!」

ハーピー「おのれは……!!」

吸血鬼「これはこれは勇者殿も一緒とは……。ご自慢の金魚の糞はどうしたのですか?」

勇者「俺の側室を排泄物に例えるとは、死ぬ覚悟があると見えるな」

吸血鬼「ニンゲン一人と元幹部とはいえすっかり腑抜けたハーピーだけ、追いかけてくるとは自殺でもしにきたのですかな?」

ハーピー「いってくれる。下等種族め」

勇者「レムくん。本当にいくのか?」

ゴーレム「イッテ……おく……。イまのマオうも……オマエのことモ……ミトめてイナイ……マッサつすべキ……タイしょう、だ……」

勇者「僕のことはどうでもいい。嫌いでも構わない。だけど、他のみんなのことも嫌いなのか?」

ゴーレム「キマイラガ……ヤラ、れて……カラ……クジュウをナメる……マイニち、ダった……!!」

ゴーレム「ニンゲンごとキと……オナジばしょ……に、イルことが……タエ……られない……!!!」

勇者「なら、どうして出て行かなかった。今のやりかたに気に入らないのであれば、城を出て、新たな集落を―――」

ゴーレム「シハイだ……!!!ゼンぶ……!!!オマエたちの……シハイかダ……!!!!」

勇者「そんなつもりはない!!!」

ゴーレム「マオウ……ガ……タオれ……まゾクは……ニンゲンに、シハい……サレた……!!!」

勇者「違う!!」

吸血鬼「違わないでしょう。その集落も所詮はニンゲンの犬に堕ちたドラゴンの監視下にある。わかっていますとも、我輩たちがニンゲンにした事を我輩たちにも強いるつもりなのでしょう?」

ハーピー「捻くれておるなぁ……」

ミイラ「よくわかんないけどぉー!!ニンゲンに従う気なんてないでーす!!!もうこっちにくるなぁー!!!!」

勇者「それは叶わない。だって、僕は今すぐに君のとなりへいくからー!!!」ダダダダッ

ミイラ「ぎゃぁー!!!!!イヤァー!!!」

ゴーレム「クルか……!!!ニンゲンがァァァァ……!!!!」

勇者「俺のハーレム完成の邪魔をすんじゃねえええ!!!!」

ハーピー「ええい!!おぬしが何をしにきたのかわからんわ!!」バサッバサッ

勇者「ハーピー姉さん!!レムくんを!!」

ハーピー「わかっておる」

勇者「出来るだけ、傷つけないであげてください」

ハーピー「無茶な注文を……」

吸血鬼「雪原の城では不覚をとりましたが、我輩と戦うなど愚の骨頂。火すら灯せないニンゲンに我輩に触れることは不可能!!!」

勇者「オォォォ!!!」ダダダッ

吸血鬼「その矮小さをかみ締め、己の非力に嘆き、如何に惰弱で脆弱で不撓の欠片もないか思い知ればいいのです!!!!くっくっくっく……あーっはっはっはっはっは!!!!」

勇者「まてまてー!!!」

ミイラ「こっちにくるなぁー!!!」

勇者「逃げてばかりじゃ俺には勝てないぞー!!!」

ミイラ「いやぁー!!!だれかぁー!!!」

吸血鬼「……」

勇者「おーら、つかまえたぁー!!全部、剥いでやるぅ……!!」

ミイラ「やめてぇー!!!」

吸血鬼「……氷の刃よ!!あの愚鈍で蒙昧なニンゲンを切り裂け!!!」コォォォ

勇者「おっと!!」サッ

ミイラ「ひぃ……ひぃ……たすかったぁ……」

吸血鬼「あのときの焼き直しですかな、勇者殿?」

勇者「さぁ、どうでしょうね」

吸血鬼「どうやら、一人ではなさそうですね……。まぁ、所詮は弱きニンゲンだ。群れなければなにもできない」

勇者「まぁ、そうですね」グイッ

ミイラ「わわ!!ミーの布をひっぱらないで!!!」

吸血鬼「なんの真似でしょうか?」

勇者「この子がどうなってもいいのか?この場で素顔を晒してやるぞ」

ミイラ「ヘンターイ!!!」

勇者「どうする?抵抗はするなら―――」

吸血鬼「氷の刃よ……」コォォ

勇者「ミーちゃんごと貫く気か」

吸血鬼「大義のためですよ。オマエも、キマイラ様のためなら死ねるだろう?」

ミイラ「キマイラ様が死ねっていうなら!!」

ゴーレム「オぉぉォォォ!!!!!」ブゥン

ハーピー「そんな大振りな拳では、わらわに当てることはできんな」

ゴーレム「ナゼだ……!!!ナゼ……オマえは……ニンゲンのシハ、いに……ヘイゼんとしてイラレる!!!」

ハーピー「支配ではなく、共存だからだ。間抜け」

ゴーレム「ナにがキョウぞんだァァァ!!!!」ブゥン

ハーピー「もう疲れたであろう?憎み憎まれ、恨み恨まれ、殺し殺され、欺き欺かれ……。そんな歴史に終止符を打つ」

ゴーレム「ゲンそうだ……!!!」

ハーピー「うむ。土塊にしては的を射ておるな。全くもってその通り。至極当然の意見だ」

ゴーレム「ナラ……ドウシテ……おまエはァァ……」

ハーピー「理想は夢幻でもなぁ、少しくらい改善はできる。理想通りにならずとも、近づくことはできる」

ゴーレム「キべん……ヘリくつ……」

ハーピー「何とでも言うがよい。わらわは力で解決する時代にはうんざりしておる。時には力も必要ではあるが、それでも部下がニンゲンに殺されるところなどもう眼に入れたくはないのでなぁ」

ゴーレム「ぎ、ゼンまデ……!!!オチるとこ、ろマデ……オチたな……!!!!」

ハーピー「変わろうとする時代に目を背け、犬のように吠えるだけのお前よりは幾分かマシな生き方をしていると自覚しておるが?」

ゴーレム「オォォォォ!!!!!!はァァァァピィィィィ!!!!!」

ハーピー「こやつ……!!地面を抉るつもりか!?」

ゴーレム「オォォォォ!!!」ブゥン

ドォォォォン!!!

勇者「な!?」

ミイラ「わわぁ!!!」

吸血鬼「馬鹿力め……!!戦場を隆起させてどうするつもりですか!!」

ゴーレム「マずは……オマエからダ……!!!」

勇者「こっちに照準を合わせたか……」

ゴーレム「オマえサえ……イナけれバ……!!!」

ハーピー「にげろ!!」

勇者「足場が悪くなければ逃げたいんですけど……」

ゴーレム「オォォォォ!!!!」

勇者「ミーちゃんがどうなってもいいのか!?」

ゴーレム「カマワな、イ!!!トモ、ニシねぇぇぇェェェ!!!!」

ミイラ「ウソー!?」

勇者「ミーちゃん!!そっちに!!!」ドンッ!!

ミイラ「わっ!?どうして!?人質じゃぁ!!」

勇者「惚れた相手を守るのは当然のことでしょう?」

ミイラ「え……」

ゴーレム「おォォォォ!!!!」ブゥン

勇者(避けきれない……!!)

ゴーレム「クだケロォォォ!!!!」ドゴォ

勇者「ずっ……!!!」

ハーピー「馬鹿者!!!まともに受け止めてどうする!!!」

勇者「がっ……はっ……あぁ……!?」

ゴーレム「ウおぉぉぉぉ!!!!!」

勇者(くそ……体中が熱い……!!一撃でここまで……なんて……やっぱり、ドラゴちゃんを連れ来るべきだった……)

ハーピー「くっ!!おぬしが死んでどれだけ悲しむ者がいると思う!!!」

吸血鬼「行かせませんよ、ハーピーさ―――」

ハーピー「邪魔だ!!!無様に地に伏せておけ!!!畜生風情め!!!」

吸血鬼「我輩を畜生……!?この駄鳥め!!!」

ハーピー「聞こえなんだか?」

吸血鬼「……!」ゾクッ

ハーピー「失せろとわらわは言うたのだぞ?―――去ね!!!」ゴォォォ!!!

吸血鬼「この風は……!!カマイタチ……!!!アァァァ!!!」

ゴーレム「コロす……こロス……コろす……!!!」

勇者「はぁ……はぁ……。本当にキマイラのところにいくのか……?」

ゴーレム「シね……しね……シネ……しネ……」

勇者「誰も君のことを恨んでもいない。大切な仲間だと思っていたのに……。全員を裏切るんだな?」

ゴーレム「ニンゲ、ンに……ゲイごう、した……まゾク、ナド……ヒツよう……ナい……!!」

勇者「なるほど……なにを……言っても……無駄……だった、か……」

ゴーレム「ウラみ……はキエなイ……!!!オマえヲ……ウらミ……ツヅけ……ル……!!!」

勇者「……」

ハーピー「―――死のうとするな!!!馬鹿たれ!!!」バサッバサッ

勇者「ハーピー姉さん……」

ゴーレム「ゴおォォォ!!!!」ズンッ

ハーピー「ぎっ……!!ええい!!馬鹿力め!!!」

勇者「逃げましょう……」

ハーピー「馬鹿を言うでない。お前は土塊を説得するためにここまでやってきたのであろうが……」

勇者「もう……」

ハーピー「わらわの知っておる勇者はやるときはやるニンゲンであり、そして素敵なオスだったはずだがぁ……」

ゴーレム「モウ……イチゲき……だぁ……!!!」

ハーピー「この……!!もう耐えられんぞ……!!」

勇者「……」

ハーピー「おぬしを止めなかったのも、誰にも告げ口せなんだのも……お前がこの土塊を力ではなく……心で従わせるというたからだぞ……」

勇者「そうですね」

ハーピー「それで無理なら諦めるのか。見損なったな。心底。嫌いじゃ。死ね」

勇者「そこまで言いますか。―――僕を空へ!!」

ハーピー「いわれずとも!!!」ガシッ!!

ゴーレム「こ、ザかシィ……!!!」

ハーピー「ふぅ……。流石の土塊も上空までは……」バサッバサッ

勇者「油断はしないでください。レムくんがどうやって城からここまできたのか考えれば……」

ハーピー「なに……」

ゴーレム「トバ、せ……」

吸血鬼「ぐ……うぅ……今……風の力で……」ゴォォォ

ミイラ「ゴーレム……」

ハーピー「なるほど……そういうことか……」

勇者「とにかく、レムくんには勝たないといけません……」

ハーピー「話し合いはなしか」

勇者「それでもこちらは大幅に戦力を削って臨んでいますからね。勝てばレムくんの心もこちらに傾くはずです」

ハーピー「なるほどなぁ……。それで、おぬしはその体でなんとかなるとおもうておるのか?」

勇者「貴女がいるなら余裕ですよ」

ハーピー「強がりをいうてからに」

ゴーレム「コレで……オワり……だァァァ!!!!!」

ハーピー「来たぞ。あの巨体が飛んでくるのは怖いのぉ」

吸血鬼「風よ運べ!!」ゴォォォ

ゴーレム「ウオぉぉぉぉ!!!!」

ハーピー「往くぞ!!」バサッバサッ

勇者「はい!!」

ゴーレム「ユウしゃ……!!!!コレで……!!!!」

ハーピー「残念だったなぁ。勇者が死ねば魔王様が悲しむ。ファン1号のわらわにとってそれは部下の死に匹敵する悲哀!!!」

ハーピー「故に勇者は死なせはせん!!!絶対になぁ!!!」

勇者「いまです!!離して!!」

ハーピー「うむ」パッ

勇者「あぁぁ~おちるぅ~」

ゴーレム「ナ……に……!?」

ハーピー「余所見をするとは余裕だのぉ!!土塊!!!」

ゴーレム「……!!」

ハーピー「貴様が対峙しておるのは!!!魔王の側近であるハーピーなるぞ!!!この虚けが!!!」

ゴーレム「オまえ……ダケ……でも……コロす……!!!」

ハーピー「空で勝てるとおもうてか!!」ガシッ

ゴーレム「クっ……!?」

ハーピー「このまま叩きつけてやろう!!!」

ゴーレム「が……ハーピー……!!!!」

ハーピー「ゆっくり話そう……。お前は大事な仲間だからな」

ゴーレム「ダま……レぇぇ……!!!」

ハーピー「―――落ちて眠れ!!!!」ブゥン!!

ゴーレム「ハァァァピィィィ―――!!!!」

ズゥゥゥゥン!!!!

ハーピー「よし!!」

勇者「はやくー!!拾ってくださぁぁい!!マジで死ぬ!!!」

ハーピー「待っておれ!!!」

吸血鬼「―――空中ではいい的ですねえ……くっくっくっく……!!」

勇者「……な」

ハーピー「おのれ……死にぞこないめ……」

吸血鬼「氷の刃よ―――」

勇者「どうして攻撃しようとするんですか……」スッ

吸血鬼「え……」

勇者「俺も攻撃しないと駄目になるのに」

吸血鬼(まさか、空中で剣を飛ばす気だったのか……!?)

勇者「残念だ。―――せぇぇい!!!」シュッ!!

吸血鬼「氷の刃よ!!とべぇぇ―――」

ザンッ!!!

吸血鬼「ガ……あ……?!」

ミイラ「あぁ……あぁ……そんな……ゴーレムも……吸血鬼もやられた……」

ハーピー「―――よっと」ガシッ

勇者「どうも……」

ハーピー「よく投げた剣が届いたな」

勇者「正直、当たるとは思いませんでした」

ハーピー「ぞっとすることをいうでない。寿命が縮む」

吸血鬼「ぐ……ぁ……」

勇者「怪我のほうは?」

ハーピー「重傷だが死にはせん。今すぐ運べばな」

勇者「では、お願いします」

ハーピー「鳥遣いか荒いな」

勇者「側室でしょう?」

ハーピー「黙れ」

ミイラ「……」

勇者「さてと……。ミーちゃんはどうする?」

ミイラ「え……」

勇者「このままキマイラのところに行くというなら、僕は止める。アイツはもう魔族でもなんでも―――」

ミイラ「あ……うし、ろ……」

勇者「え?」

ゴーレム「―――シ……ね……!!」

勇者「な―――」

ドラゴン「―――ふんっ!!!」ドゴォ

ゴーレム「ガ……!?」

勇者「ドラゴちゃん!!!」

ドラゴン「説得は失敗か。来て正解だったな」

勇者「どうして……」

僧侶「勇者様!!!」タタタッ

勇者「ああ……来ちゃったんですか……」

僧侶「こんな……酷い怪我……を……うぅ……ぐすっ……」

勇者「すいません……」

僧侶「勇者様……ご無事でよかったぁ……」ギュゥゥ

勇者「……あ、胸がいいかんじにあたって……」

魔法使い「……」ギュッ

勇者「え?」

魔法使い「ふんっ」ジュゥゥ

勇者「あぁぁ!!!あつい!!!」

ハーピー「ドラゴン……」

ドラゴン「大変だったな」

ハーピー「そうでもない。ニンゲン一人ぐらい運べる」

吸血鬼「ふふ……やはり……そういうこと……でしたか……」

エルフ「喋らないで。今、治療を―――」

吸血鬼「触るな……穢れた種族め……。魔族の汚点が……」

エルフ「喋るなってば。手元が狂う」

吸血鬼「くっ……屈辱です……」

ゴーレム「オナじ……だ……ニンゲ、ンも……マぞく……とオナじ……ヨうに……チカらで……シハい、スる……」

ドラゴン「ハーピー、ともかく運ぶぞ。ゴーレムは少し重いがな。このままにはしておけん」

ハーピー「応急処置はおわったかえ?」

エルフ「はい。あとは城で手当てをしたら大丈夫かと」

ハーピー「ご苦労、エルフの術士よ。感謝するぞ」

エルフ「いえ……」

ドラゴン「すぐに戻ってくる。お前たちはここで待っていろ。……肝心の勇者が暫くは動けんだろうがな」

勇者「行ってらっしゃい……」

僧侶「痛いところはありますか?」ギュゥゥ

勇者「貴女のおかげで股間ぐらいしか痛くないです」

僧侶「そんな……!!ここですか……?」

魔法使い「やめなさいってば」

勇者「それにしても……」

少女「貴女を拘束します」

ミイラ「ひぃーん……なんでぇー……」

ゾンビ「おぉー!!ミーちゃん!!げんきー?!」

ミイラ「あー!!リっちゃん!!たすけてよぉ!!」

ゾンビ「だーめ」

ミイラ「あーん」

勇者「どうしてみんなで……?」

戦士「―――このまま、攻め込むつもりだからです」

勇者「貴女が指示を……?こんな大胆なことをするとは思いませんでしたね」

戦士「私は慎重になるべきだと言ったのですが……」

勇者「え?」

戦士「とくにキラちゃんが行きたいと駄々をこねまして」

勇者「はぁ……」

少女「パパ、だいすきぃだからぁー」

勇者「貴方達の所為でレムくんに余計な疑念を抱かせてしまいましたが、キラちゃんが可愛いから許します」

少女「わぁーい」

勇者「それで、ドラゴちゃんとハーピー姉さんが戻って来次第、突入ですか?」

少女「はい。そのような計画になっています」

勇者「それでいいんですか?もう少し気持ちの整理を……」

戦士「相手にむざむざ時間を与えることもありませんし、あの人に深謀を巡らせるわけにはいきません」

勇者「……彼はもう10年も前から準備をしていた。今更でしょう」

戦士「それでも……」

勇者「父親のためですか?」

戦士「自分のためです」

勇者「自分……?」

戦士「彼を変えたのは私たちの所為です……。だからこそ、彼を救わないと……私の気が済みません」

勇者「独善的ですね」

戦士「貴方も同じでしょう」

勇者「まぁ、そうなんですけどね……」

エルフ「ゴーレムに単身で突っ込むなんて、どうかしてるよ」

勇者「ハーピー姉さんもいましたから」

エルフ「心配するっていってるの」

勇者「心配してくれたんですか?」

エルフ「当たり前だって!!何言ってるの?!」

勇者「ああ。しあわせぇ」

僧侶「勇者様!!目を瞑ったら死にますよ!!」

魔法使い「え?そうなの?」

ゾンビ「おにぃちゃん、あぃしてるぅー!!」

少女「パパ、立て!立ってください!!」

勇者「すぅ……すぅ……」

ゾンビ「うー?おにぃちゃーん」

僧侶「しー、ですよ」

ゾンビ「しー?」

戦士「街の様子を見てきたほうがいいでしょうか?」

少女「鳥瞰するならまだしも、我々だけで行うのはリスクが大きいと思われます」

戦士「街に入った途端、攻撃を受けるかもしれないということですか……」

少女「はい」

魔法使い「私が外壁に穴を開けて覗き見るっていうのはどうかしら?」

エルフ「うーん……。そうだね。それなら―――」

賢者「そこの綺麗な姉ちゃんたちよぉ、ちょっといいかぁ?」

少女「……」ザッ

戦士「貴方は……!!」

賢者「この辺でゴーレムと吸血鬼を見なかったかぁ?待ち合わせしてたんだけどよぉ、見当たらねえんだよ。どこで油売ってやがるのかねぇ、全くぅ」グビグビ

ミイラ「あー!!!酔っ払いさん!!!早くキマライ様にあわせろぉー!!!」

魔法使い「まさか、あんたから姿を見せてくれるとはね」

戦士「……」

賢者「おー、気持ち悪い志しをもっちまったなぁ、お嬢ちゃんよ。俺の大嫌いなニンゲンに成り果てたな」

戦士「貴方を狂わせたのは―――」

賢者「俺の過去を知っただけで逆上せ上がりやがって、ガキが」

エルフ「何をしに来たの?」

賢者「今言っただろぉ?待ち合わせだってなぁ。ミイラっ娘よ、他はどうしたんだよぉ?お?」

ミイラ「つかまったんですぅー」

賢者「かぁー、つかえねえなぁ、おい」

ゾンビ「うー……!!」

僧侶「大人しく投降してください。貴方に勝ち目はありません」

賢者「顔に似合わず言ってくれるなぁ。人の肉が口に合いすぎて、饒舌になっちまったか?」

僧侶「……!」

魔法使い「悪役もそこまで行くと心地いいわね」

賢者「嫌いなやつを蔑んで何が悪いってんだよ、おーぅ。お前らの周りにもいたはずだぜぇ?」

魔法使い「なんですって……」

賢者「特異体質のおかげで馬鹿にされ、卑下され、虚仮にされてきたんだろぉ?」

僧侶「……」

賢者「同族から疎まれ、怨嗟すらも受けることになったんだろぉ?」

エルフ「……」

賢者「魔王になったことで少なからず恨まれ、当て付けのように多くの魔物が城を後にしたんだろぉ?」

ゾンビ「うぅ……」

賢者「全員一緒だ。俺のような奴がどれだけいると思ってやがる?言ってみろよぉ?」

戦士「もういい。ここで貴方を倒し、キマイラを葬り、全てを終わらせる」

少女「加勢します」

賢者「くっくっく……。できるとおもってるのかよぉ?俺ぁ、賢者なんだぜぇ……?」

エルフ「だけど、魔族に魔法は使えない」

賢者「優しい優しいあんたらが俺を殺せるのか?」

僧侶「貴方は人によって裁かれるべきです……」

賢者「くだらねえ……。全員、俺を本気で救おうとしてやがるとはなぁ……。そこで眠りこけてる兄ちゃんの所為か」

勇者「すぅ……すぅ……」

賢者「確かに不利だな。俺ぁ魔族に対しては攻撃できねえし、キマイラも頼りにはなんねえし、王女様は何もできねえし……」

賢者「けど……何も手がないわけじゃあ、ねえよ……」グビグビ

戦士(今なら……)

賢者「やれるってか?」

戦士「心が読まれようが、避けられなければ意味はない!!」

少女「はい」

賢者「あーあ。やっぱり、こうなっちまうか……。多少は期待してたんだけどなぁ……。お嬢ちゃんよぉ」

戦士「期待?」

賢者「勇者を捨てて、人間側に来ることをなぁ。今でも迷ってんなら、こっちにこいよ。親父だって助けてやるよ」

戦士「私は全員を救う」

賢者「兄ちゃんの受け売りか?くくく……あーっはっはっはっはっは!!!!」

戦士「何がおかしい!!」

賢者「何か勘違いしているようだからいっておくけどよぉ、兄ちゃん自身は俺を救おうなんて思っちゃいねえぜ?」

戦士「な……」

賢者「最初から兄ちゃんは俺を殺す気でいる。それだけじゃねえ、王女もお嬢ちゃんの親父だって殺す気でいる」

戦士「……!」

僧侶「でたらめを!!」

賢者「少し頭を使えばわかるだろうに。俺が何したと思うんだ、あんたによぉ?」

僧侶「それは……」

賢者「兄ちゃんが許すわけねえだろ、俺のことよぉ。だから、俺ぁ逃げたんだぜぇ?親友と王女を守るためになぁ」

戦士「義父と王女は関係ないでしょう」

賢者「俺が操っている時点で、兄ちゃんにとっちゃあ倒すべき敵でしかねえよ」

戦士(まさか……)

勇者「すぅ……すぅ……」

賢者「くくく……。言っておくが、飽く迄も兄ちゃんが守るのは傍にいる姉ちゃんたちだけだ」

戦士「彼は約束をしてくれた」

賢者「お嬢ちゃんは貴重な戦力だ。指揮官の能力と兵力を知り尽くしてるわけだからなぁ。兄ちゃんが手放すわけねえだろぉ?」

戦士「……」

エルフ「そんなニンゲンじゃないよ。ボクの知っている勇者は」

賢者「まぁ、俺が言っても側室の姉ちゃんたちは納得しないだろうけどなぁ……」

戦士「……」

賢者「お嬢ちゃんは、どうかな?」

戦士「私は……」

少女「勇者だけが戦力ではありません」

戦士「え?」

少女「彼女には我々がいます」

エルフ「そうだね。ボクたちが力を貸せば……!!」

ゾンビ「うぅー!!!」

魔法使い「賢者様?あまり見下していると、足をすくわれるわよぉ?」

僧侶「……」

賢者「……魔物もいる時点で戦乱の世に逆行するわけだが、いいんだなぁ?」

エルフ「もし勘違いされたら戦いのあと誤解をとけばいいだけじゃん」

賢者「エルフ族はそんなこと言っても説得力は皆無だな。何百年も同族にすら誤解をといてもらえなかったんだからよぉ」

エルフ「ボクはそうでも、勇者は違う。貴方みたいに逃げたりしないからね」

賢者「……てめえ、何を知ってんだ……?」

エルフ「貴方のことは大体聞いた」

賢者「そうかい……。そらぁ、難儀だなぁ」

僧侶「だから、もう……戦いは……」

賢者「なら、話は早いな。俺ぁはそういう男であり、ニンゲンだ」

魔法使い「死にたいわけね?」

賢者「俺はもうあの日から生きちゃいねえよ。心を弄くられ、折られ、嬲られ……もう残ってるのは記憶と器だけだ……」

少女「そうでしょうか。私には貴方がまだ人間であろうと見苦しくもがいているように見えますが」

賢者「人形にゃあわかねえだろぉ?」

少女「そうですね。貴方のような人生はインプットされていませんから」

賢者「けっ……」

戦士「観念してください」

賢者「わーったよ。俺を救うなら勝手にしてくれ。ただ俺ぁご存知の通り、ニンゲンが大嫌いだ。そんな俺がニンゲンの世話になりたいとは思うはずねえ、そうだろぉ?」

戦士「何がいいたいんですか?」

賢者「これ以上、来るならてめえらを消す。街の住人も兵士も王女もキマイラも使ってなぁ。俺だって死にたくはねえんだからよぉ」

戦士「だから、殺すつもりはない!!」

賢者「お嬢ちゃんになくても、兄ちゃんにはあるんだから仕方ねえよ」

戦士「何を根拠に!!」

賢者「俺ぁ心を読める。それで十分だ」

戦士「くっ……」

賢者「それに兄ちゃんだって決して聖人ってわけじゃねえ。魔王討伐も私怨だけが兄ちゃんの原動力だったからな」

魔法使い「……!」

賢者「姉ちゃんはしってるみてぇだな」グビグビ

魔法使い「それは前の魔王に対してだけで……」

賢者「人は誰かを恨むことでしか生きていけねえよ」

僧侶「そんなことはありません!!」

賢者「黙りなぁ!!綺麗ごとはうんざりなんだよぉ!!―――出て来い」

戦士「え……!」

兵士「……」ザッ

賢者「立ち話はやっぱり疲れるなぁ。それじゃあな、お嬢ちゃん。……傀儡兵士たちを倒してこい。城で酒を煽りながら待ってるぜぇ」

戦士「待て!!」

兵士「ここは通さない」

戦士「どいてください!!」

兵士「我々に歯向かうなら処刑する」

戦士「くそ!!」

兵士「ふん!!」ブゥン

戦士「つっ!!」ギィィン

僧侶「どうして……理由もなく人と戦わなければ……」

魔法使い「マーちゃん!!手加減よ!!手加減!!」

少女「はい」

エルフ「凍れ!!」コォォ

ゾンビ「とけつほー!!!―――おぇぇ」ドロォ

賢者「殺さないようにするのは大変だぜぇ?あはははははは!!!」

勇者「―――おらぁ!!!」ブゥン

賢者「おっと、あぶねえなぁ」ヒラッ

勇者「殺し損ねた!!!」

戦士「何を言っているんですか!!!」

勇者「冗談ですよ」

賢者「そらぁ、どうかなぁ?」

勇者「逃げるんですか?」

賢者「ったりめえだろ。死にたくねえんだよ」

勇者「言うことがコロコロ変わる人ですね。死に場所を探しているのではなかったんですか?」

賢者「大嫌いなニンゲンに殺されるなんて最悪のシナリオだからよ」

勇者「彼女を守って死ぬのはアリなのにですか?」

賢者「好きな奴を守って死ぬのはかっこいいだろ?……もう吐瀉物よりもきたねえもんになっちまったけどな」

勇者「魔族どもは俺の側室を汚物に例えるのが好きだなぁ。いい加減にしろよ」

賢者「魔族だと?」

勇者「あんたは人間じゃないからな」

賢者「俺にとっちゃぁ褒め言葉だ。ありがとよ」

勇者「罵倒されてお礼なんて……。僕の第1側室と同格の変態っぷりですね」

魔法使い「だれがよぉ!!!」

兵士「うごくな!!」

魔法使い「さわるなぁ!!!」ゴォォ

兵士「ぐあぁ!?」

賢者「やるじゃねえか」

勇者「……覚悟しろよ。お前だけは絶対に許さない。俺の大事な人を傷つけたんだ。彼女がどれだけ泣いたか分かっているのか?」

僧侶「勇者様……」

賢者「しらねえなぁ。その後、兄ちゃんがシーツを濡らしたのは知ってるけどよぉ」

魔法使い「え!?」

エルフ「……!!」ピクッ

僧侶「はい?」

兵士「ふん!!」ブゥン

ゾンビ「わー!!!」

少女「危ない!!」」ギィィン

戦士「邪魔だぁ!!!」

勇者「まぁ、男してはあの日の夜に彼女を一人きりにさせるのは―――」

魔法使い「どういうことよ?」

僧侶「え?あの?」

エルフ「ふーん?」

僧侶「な、なんのことですかぁ……?」オロオロ

戦士「ちょっと!!戦ってください!!」

賢者「兄ちゃん、希望は捨てな。所詮は人間だ。全部を救うなんてこたぁ、無理なんだからよ」

勇者「その自信はどこからくるんですか?」

賢者「各地の魔物を呼びよせたっていやぁいいか?」

勇者「こっちだって総力戦だ」

賢者「人と魔が渦中に身を投じることになってもいいんだな?俺としてはニンゲンが困る様をもう一度見れるのはありがたいことだけどなぁ」

勇者「何でも思い通りになると思うな」

賢者「なるな。クソガキに何ができるってんだよ。俺ぁ賢者なんだぜぇ?」

勇者「俺は勇者だ。老兵が諦めたことを俺は実現してやる」

賢者「きにくわねえ……。てめぇ……もうちょっとマシなやつだとおもってたのによぉ……!!」

勇者「勇者が理想を捨てたら終わりだからな」

賢者「……なるほどな。兄ちゃんらしいと言えばらしいか。結局は俺と同類だ」

勇者「……」

賢者「この辺で退却するか。大物も着たみたいだしなぁ」

ドラゴン「―――貴様!!」

ハーピー「おぬし。よく姿を見せられたものじゃな」

賢者「もう行くって。邪魔したな」

勇者「待て」

賢者「キマイラに餌をやらなきゃいけねえんだよ。わりぃな。続きは城で聞いてやるよ」

勇者「貴方は何をしにここまで……!!いや、こんなことを―――」

賢者「じゃぁな、兄ちゃん、お嬢ちゃん」ゴォォォ

戦士「逃げるな!!!」

兵士「おぉぉぉぉぉ!!!!」

少女「眠っていてください」ゴスッ!!

ゾンビ「とけつほー!!!!」ドロォ

ドラゴン「そうか……。予想通り兵士も敵か」

勇者「正気を失っている感じではなかったですが……」

戦士「傀儡にしたといっても……これは……」

勇者「あたかも自分の意思で行動していると錯覚させているとすれば厄介ですね。半端に自意識が残っているなら、戦う際に僕らは躊躇せざるを得ない。完全に気が狂っているならまだ……」

戦士「でも、義父さんの戦術は把握しやすいです」

勇者「そうですね。今はプラスに考えましょうか。ドラゴちゃん、上空から街の様子を見てきてもらえますか?もちろん、目立たないように可愛くなって」

竜娘「―――承知した」バサッバサッ

ハーピー「わらわも行こう」バサッバサッ

ミイラ「うぇーん!!ミーはいつになったらキマイラ様にあえるのぉー!?」

ゾンビ「すぐにあえるぅー!!」

ミイラ「ホントにー!?」

ゾンビ「うー!!」

ミイラ「よーし!!!生きる希望がわいてきたー!!!」

魔法使い「さっきの話なんだけど」

僧侶「だ、だから……知りません……」

エルフ「どちらにしても兵士たちは殺さないようにするんでしょ?一人一人戦闘不能にさせるしかないね」

勇者「当初の予定通り、一般兵の相手はキラちゃんに任せます」

少女「はい」

勇者「圧倒的な実力差がないと相手を制するのは難しくなりますからね」

戦士(力が拮抗していれば、勢い余って相手を殺してしまうかもしれない……)

勇者「城までの兵の動きについては逐一指示をお願いしますね」

戦士「は、はい」

ゾンビ「もういくぅー?」

ミイラ「はやくキマイラ様のところへ!!!」

少女「貴方は拘束された身。自由に行動できると思わないように」

ミイラ「ひーん」

勇者「そういえば、肝心要の鏡は誰が持っているんですか?」

戦士「それなら、キラちゃんが持っています。意外と重いのでアレを持って戦闘ができるのはキラちゃんかドラゴンだけでしょう」

魔法使い「正直に言いなさい。なにしたのよ?」グニッグニッ

僧侶「いふぁい、いふぁいでふぅ。にゃにもしてふぁふぇん」

少女「鏡は背負っています」クルッ

勇者「分かりました。あとは……」

竜娘「―――待たせたな」バサッバサッ

ハーピー「彼奴ら、何かを警戒しておる様子はないな」

勇者「ということは、あえて僕達のことを教えず、完全なる強襲を待っているというところですか」

竜娘「なんとしても我等に非を持たせようとしているわけか」

ハーピー「面倒なだの」

戦士「……義父さんは強襲、奇襲に対応する場合、人民の安全を最優先させます」

勇者「なるほど。では、兵士たちは自然と民家が密集している居住区に集まるわけですね」

戦士「無論、全兵というわけではないですが城の防衛もあります」

勇者「僕達の目的は飽く迄もキマイラの討伐です。兵を城から引き離すことが出来れば……」

ハーピー「あれを試して見るか?」

勇者「それしかないでしょうね」

魔法使い「縄で縛られたり服を脱がされて放置させられたりとかないのね?」

僧侶「そもそも勇者様はそんなことをする人じゃないです!」

勇者「よし。ドラゴちゃん、キャプテンとは合流できそうですか?」

竜娘「予定より早く俺たちは行動しているからな。間に合うかどうかはやってみないと分からん」

勇者「キャプテンの力量なら瑣末な問題でしょう。―――みなさん!!」

勇者「今から戦いに赴きます。これは三年前から……いえ、何百年も前から続いていた怨恨を無くすための戦いです」

竜娘「そうだな……」

ハーピー「力だけの時代はもう終わっておるはず。恨むのも恨まれるのももういい」

勇者「全てを終わらせるために今一度、力を貸してください。お願いします」

エルフ「うん。ここまでやってきたんだから、最後までこき使ってよ」

魔法使い「ま、そこまで言われたら、仕方ないわね」

僧侶「勇者様が傍にいろと仰るなら、この身が滅びるまで……私は共に歩み続けます……」

少女「パパの御心のままに」

ゾンビ「あぃしてるぅー!!」

ミイラ「ミーは関係ないのにぃー!!!」

勇者「そして僕は貴女の力になります。―――姉さんに託された。貴女を守る理由はそれでいいでしょうか?」

戦士「……はい。お願いします」

ハーピー「往くぞ、魔王様」ガシッ

ゾンビ「うー!?」

ハーピー「頃合を見て突撃しろ」バサッバサッ

勇者「よろしくお願いします」

ハーピー「わらわと魔王様にまかせ」バサッバサッ

ゾンビ「うー!!たかいー!!!すごーい!!!」キャッキャッ

竜娘「大丈夫か……」

勇者「さあ、僕達も行きますか」

僧侶「はい」

魔法使い「ええ」

戦士「……」

エルフ「大丈夫だよ」

戦士「え?」

エルフ「誰も死なせない。死んでほしくないから」

戦士「はいっ」

―――上空

ハーピー「うむ。この辺でいいか」

ゾンビ「うー」

ハーピー「魔王様はどう考えておる?」

ゾンビ「うー?」

ハーピー「あの賢者のことをな」

ゾンビ「おにぃちゃんをこまらせる、わるいやつー」

ハーピー「ふふ……そうだのぉ……」

ゾンビ「でも、いつもなきそうだった。かわいそぅ」

ハーピー「……敵にも同情できる魔王か。ふふっ。おぬしが魔王でよかったかもしれんな」

ゾンビ「うー?」

ハーピー「では、やろう。わらわたちの合体技。血の雨をなぁ!!」

ゾンビ「とけつほー」ドロォ

ハーピー「ふっふっふっふっふ!!!!ニンゲンども!!!魔王様によって齎された血の雨に恐れおののくがいいわぁ!!!」バサッバサッ

ゾンビ「おろろろろっ」ドロォ

―――城下町 外壁付近

「キャー!!!なにこれぇ!!!」

「血だ!!血の雨だ!!!」

「なんだよこれぇ!!!くせぇ!!!」

「皆さん!!家の中に避難を!!急いでください!!!何があるかわかりません!!!」

エルフ「塀の向こうでは大混乱しているみたい」

勇者「よし。侵入しましょう」

魔法使い「待ってて、溶かすから」ジジジッ

僧侶「私たち、悪いことしてますよね……」

少女「撹乱戦術です」

竜娘「無血で終わらすためには住民たちや兵士には大人しくしていてもらうしかない」

戦士「血の雨は以前として降っていますが」

勇者「まぁ、あとで謝っておけば問題ないでしょう」

ミイラ「ミー……キマイラ様を裏切ってるんじゃ……」ガタガタ

魔法使い「―――よし、通れるようになったわよ」

勇者「キラちゃん、先行してください」

少女「はい」タタタッ

竜娘「おい」

少女「はっ」

竜娘「鏡を渡せ」

少女「そうでした。どうぞ、マスター」

竜娘「いらぬ心配だが、無理はするな」

少女「兵士の足止めは任せてください。戦況を見て、私もマスターの下へ向かいますので」

竜娘「ああ。期待している、木偶人形」

少女「木偶人形、キラーマジンガ。はりきります」

魔法使い「もう少し優しくしてあげてもいいんじゃないの?」

竜娘「黙れ」

僧侶「ふふ……」

エルフ「照れ屋」

戦士「……」

>>935
賢者「勇者を捨てて、人間側に来ることをなぁ。今でも迷ってんなら、こっちにこいよ。親父だって助けてやるよ」

賢者が忌み嫌うのは「ニンゲン」
賢者自身は「人間」
ということなのかな

勇者「どうかしましたか?」

戦士「義父さんの姿がありません」

勇者「……そういえば。以前、あの人は先陣にいましたね」

戦士「こういう異常事態の場合、必ず義父は市民のために前に出てきます。その義父さんの姿がないとなると……」

勇者「……」

ミイラ「あれ?向こうでなんか起こってますけど」

魔法使い「もうなによ?」

兵士「市民の安全を最優先だ!!!」ザンッ!!!

「ギャァァ!!!」

兵士「市民を守れ!!!」

戦士「何を……!?」

僧侶「兵士たちが……人を……斬っている……!?」

竜娘「木偶人形!!」

少女「制圧に向かいます!!」

勇者「まさか、彼が兵士を操って……!!」

少女「意味の無い行動です。今すぐに静止を」

兵士「市民を守るんだぁ!!!」

少女「止むを得ませんね。活動を強制的に止めていただきます」ドンッ

兵士「あぐっ!!」

少女「数は凡そ70ですか」

兵士「民を守れぇぇぇ!!!!」

兵士「「オォォォォ!!!!」」

竜娘「奴は兵士を操り、我等と戦うつもりはなかったのか」

勇者「どうやら、彼の狙いがはっきりしましたね」

魔法使い「狙いって……」

エルフ「ボクたちと戦いってことだね。多分」

勇者「早く殺しにこいってことなんでしょう」

戦士「どうして……」

勇者「急ぎましょう。このままでは市民は皆殺しです」

戦士「あの人は……何を考えて……」

勇者「キラちゃん!!お願いします!!」

少女「了解しました!」

兵士「オォォォォォ!!!!」

少女「何人束になろうとも」ドガァ

兵士「うっ!?」

少女「私に勝つことは不可能です」

兵士「うぅ……ウゥゥゥ……!!」

少女「生命反応に異常確認。無理やりに体組織を駆動させている」

兵士「ガァァァァ!!!!!」

少女「生命を奪うしか彼らを助ける術が……」

ハーピー「なんじゃ。どうなっておる?」バサッバサッ

少女「傀儡兵士たちはもう手遅れだと判断します」

ハーピー「勇者たちがあの飲んだくれを討つまで耐えろ」

少女「私も永久に戦えるわけではありませんが」

ゾンビ「うー!!だれもころさずになんとかするぅー!!」

市民「助けてくれ……あぁ……」

ゾンビ「たすけるぅー!!」

ハーピー「魔王!!下手に近づくな!!」

ゾンビ「うー?」

傀儡市民「タスケテクレェェェ!!!」ブゥン!!!

ゾンビ「うー!?」

少女「ふっ!!」ギィィン

ゾンビ「キラー!!ありがとぅー!!」

少女「後ろからきていますよ」

ゾンビ「うー?」

傀儡兵士「オォォォォォ!!!」

ゾンビ「うー?!」

ハーピー「ええい!!うっとうしい」バンッ

ゾンビ「ありがとぅー!!」

ハーピー「魔王様を守りながらでは少々骨が折れる。はよしてれ、勇者よ……」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月02日 (火) 21:07:36   ID: nSoo339Z

まさかの続き…
やっぱ面白い

2 :  SS好きの77Cさん   2019年04月09日 (火) 18:22:53   ID: s1YjBa2X

続きこっちね
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=352

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