上条「……なんでもう布団が干してあるんだ?」C.C「腹が減った。ピザをよこせ」(565)

とある魔術の禁書目録×コードギアス(C.C)

 ・禁書原作1巻から
  
 ・原作とは大きく異なる設定あり

 ・コードギアスの世界の延長が禁書の世界というトンデモ設定

 ・『魔王』は死亡設定


のんびりやってくつもりです
ギャグあり、シリアスあり
禁書、コードギアスに関する独自解釈、ネタバレを多分に含みます
基本、会話文ですが、まれに地の文が入るかもしれません
途中、面倒だと判断した事件は、軽くすっ飛ばすかもしれません
以上のことに注意して、興味のある人は、ごゆっくりお読みください






「 歴史は繰り返す 」
               
                    ――― トゥキュディデス―――





とある世界の、とある時代の、とある何処か

C.C「私はあれから長い間、ずっと見てきた。人間の世界を、その有様を。

   人間は、世界を無意味に壊し、また無意味に創り、また壊す。
   何度、世界は、歴史は廻ったのだろうな。
   やはり人間はどうしようもなく愚かな生き物のようだ。
   どんな世界、どんな時代でも、人々は争い、憎しみ合い、奪い合い、殺し合う。
   そして、最後は何も残らず無に還る。
   ……私は、もう疲れてしまったよ。世界を見続けなければならないことに。
   ……お前はあの時、確かに私に笑顔をくれた。でも、今ではその笑顔も思い出すことができない。
   お前が壊し、お前が創った世界には、本当に意味なんてあったのか?
   ……なぁ、答えてくれ、私の『魔王』……」



7月某日
イギリス『必要悪の教会』



ローラ「大問題が起こりたるのよ!ステイル!」

ステイル「まったく騒がしい。一体どうしたというのですか、最大主教?」

ローラ「実は、我ら『必要悪の教会』の最大機密でありける『魔女』が脱走したりけるようなのよ」

ステイル「なっ!」

ローラ「故に、ステイル。神裂火織と共に『魔女』を連れ戻しに行きてほしいの」

ステイル「しっ、しかし!僕にはインデックスの監視と監理の義務が!」

ローラ「その心配はなきにつきよ。その間の『禁書目録』の世話は適当に手配しておきたるから。
    自体は一刻を争うの」

ステイル「ぐっ!でっ、ですが、『魔女』がどこにいるかもわからず、闇雲に探したところで、
     そう簡単に見つからないのでは?」

ローラ「その心配もなきにつきよ。幸いにも、彼女は『アレ』を持って行きたようなのよ。
    故に、向かった場所は特定したるの」

ステイル「その場所とは?」

ローラ「科学が統べる都市、『学園都市』のようなの」

ステイル「なっ!そ、そんなバカなことを!」

ローラ「……もしも、『魔女』が学園都市に捕まりでもしたら一大事。  
    科学者など、狂喜乱舞して彼女を研究したりけるのが見え見えなのよ。
    そうなれば、『禁書目録』も悲しむのではなくて?」

ステイル「……チッ!わかりました。すぐに神裂と『学園都市』に向かいます」

ローラ「頼みたるのよ、ステイル」

ローラ(……何よりもまず、アレイスターに捕まるのだけは避けたきこと。
    彼女が研究されれば、世界が大きく歪んでしまいたるもの)



――――――――――

―――――――

――――

7月19日
日本『学園都市』



上条(私、上条当麻は、不幸に愛されているとしか思えない青春を送っている)

上条「くっそーーーーーー!不幸だーーーーーー!」ダッダッダッ!

不良集団「「「「待ちやがれ!このウニ頭!」」」」ダッダッダッ!

上条「待てと言われて、素直に待つ奴なんていませんことよ!」ダッダッダッ!

上条(畜生!俺はお前らを『あいつ』から助けてやろうとしたのに!)



――――――――――

―――――――

――――

上条「ふぅ……、やっと撒いたか……」ハァハァ

御坂「……ったく、何やってんのよ、アンタ?
   不良を守って善人気取りか。熱血教師ですか?」

上条「お前は……。まさか、あいつらが追いかけてこなくなったのって……」

御坂「うん、めんどいから、私がヤっといた」

上条「はぁ、やっぱり……」




御坂「ねぇ?『レールガン』って知ってる?」

上条「レール……ガン……?」

御坂「別名『超電磁砲』。フレミングの運動量を借りて、砲弾を撃ち出したりできるもんなんだけど……。
   こういうのを言うらしいのよね!」ピンッ

ズッドォオオオオオオオオオオン!

上条「うわ!」

御坂「こんなコインでも、音速の三倍で飛ばせば、そこそこ威力が出るのよね」

上条「まさか、連中を追い払うのにそれを?」

御坂「バカにしないで。レベル0の無能力者どもの調理法くらい、心得てるわよ」

   

上条「……ったく、お前がこの『学園都市』に7人しかいないレベル5の超能力者なのは、
   よくわかってるけどさ、人を見下すような言い方、やめた方がいいぞ?ほんと」

御坂「……まったく、強者のセリフよね」バチバチッ!

上条「おいおいおい、俺だってレベル0!」


バリッ、バリバリバリバリッ!


上条「くっ!」


キュイーン!


御坂「……で、そのレベル0のアンタが、なんで傷一つ無いのかしら?」
                           ・・
上条「……なんて言うか、不幸、つーか、ついてねーよな。お前、ほんとについてねーよ」

御坂「……ッ!」バリバリッ!


ドッ、ガァアアアアアアアアアアアン!


――――――――――

―――――――

――――


7月20日
第七学区・学生寮



上条「……うっ、うっ!……暑い」ガバァ

上条(ったく、ビリビリのせいで、クーラー使えなかったから暑いし……)

上条「はぁ、冷蔵庫の中身も全滅かよ……。この後、補修も待ってるし……。
   よーし!天気も良いし、気分転換に布団でも干すかー!」ヨット


ガラガラガラッ!



上条(つか、いきなり夕立とか降ったりしねーよな?……んっ、あれ?)




上条「……なんでもう布団が干してあるんだ?」


C.C「腹が減った。ピザをよこせ」



上条「……えっ?」

C.C「聞こえなかったのか?ピザをよこせ、と言ったんだ」

上条「」

上条(えっ、ちょ、このいきなりな展開はなんなんでせうか!?)

C.C「私の日本語が通じてないのか?」

上条「いや、通じてはいるんだけど……」

C.C「なら何をしている?早くピザを準備しろ。チーズたっぷりのやつをな」ニヤッ

上条「はぁ……不幸だ……」



―――――――――

――――――

―――

数十分後



C.C「……ふむ、この都市のピザは初めて食べたが、随分と独特なようだな」モグモグ

上条「はぁ、そうですかい」

C.C「なんだ?お前も食いたいのか?だが、このピザは私のだ。やらんぞ?」モグモグ

上条「いや、それ上条さんの金で頼んだんですがね!?」

C.C「ふん、随分と懐の小さい男だな」ペロッ

上条「レベル0の上条さんはお金に余裕がないんだよ!貰える奨学金も少なぇし!」

C.C「そんなことはどうでもいい」ゴクンッ

上条「どうでもよくねぇよ!つか、お前なんなんだよ!?どこの国の人!?名前は!?
   なんでいきなり人ん家のベランダに干されてるんだよ!?それとその人形は何!?」


C.C「相手に名を尋ねる時は、まず自分からと教わらなかったのか?坊や?」ニヤッ

上条「ッ!……ああ!はいはい!俺の名前は上条当麻!とある高校の1年で、レベル0の無能力者だよ!
   で!?お前は何者なんでせうか!?」

C.C「いちいち大声を出すな。まったく、騒がしい奴だ」

上条「こ、この野郎……」ピキピキッ

C.C「まぁいい。私のことはC.Cと呼べ。ベランダにいたのは、上から落ちたからだ。
   あと、この人形は『チーズ君』だ」フンスッ

上条「C.C?なんだそりゃ?思いっきり偽名じゃねぇか。それに落ちたって?」

上条(……あの人形には触れないでおこう)ナンカスゴクボロイ…




C.C「正確には、屋上から屋上に飛び移ろうとしたんだが、少し滑ってしまってな」

上条「ここ、8階建てだぞ……?怪我するだろ、というか、下手すりゃ死ぬぞ……?」

C.C「仕方がないだろう?どうやら追われていたようだからな。それに私は死なん。怪我も治った」

上条(治った……?)

上条「……ああー、えーと、追われてた?なんで追われてんだよ?」

C.C「私という存在が重要なのだろう。この地上で唯一の『コード』の保持者だからな。
   まったく、いちいち追ってくるとは、忌々しい奴らだ」

上条(『コード』?なんかの線か……?)

上条「……はぁ、で?誰に追われてんだよ?」

C.C「魔術結社だ。そこの魔術師にだ」

上条「『魔術』?」

C.C「ああ、そうだが?」








上条「それって、新興宗教かなんかか?」

C.C「……おい、お前、私をバカにしているのか?」

上条「……ごめん。でも無理だ。俺も色々と異能の力は知ってるけど、『魔術』は無理だ。
   この『学園都市』じゃ『超能力』なんて珍しくもなんともないからな。
   科学の力で誰だって開発できちまう」

C.C「『超能力』は信じるくせに、『魔術』を信じないとは変な話だな」

上条「じゃあ、『魔術』ってなんだよ?なんなら見せてみろよ?」

C.C「私には魔翌力がないから使えない」

上条「使えないんじゃ、『魔術』があるかないかなんて、わかんないだろうが……」

C.C「ふん、お前がどう言おうが、『魔術』は存在する。……といっても私も最初は信じられなかったがな。
   だが、『ギアス』が存在するくらいだ。そういう力が私の知らぬ間に作られても不思議ではない」

上条「『ギアス』?おいC.C、お前、さっきから何言ってるんだ?さっきも『コード』がどうこう言ってたし。
   そりゃなんなんだよ?」

C.C「……」

C.C(おっと、ついしゃべりすぎたか。……だが、この話をするのも随分と久しぶりだな。
   最後に話したのは、あの女狐にだったか……)



上条「C.C?」

C.C「知りたいか?」

上条「えっ?」

C.C「お前が疑問に思ったことに答えてやろうか?と聞いているんだ」ニヤッ

上条「……まぁ、そりゃ知りたくないわけじゃないけどさ」

C.C「ならば教えてやろう。ピザも貰ったことだしな」フフフ

C.C(話したところで、意味はわからないだろうし、信じないだろう。こいつはただの一般人のようだ。
   それに、私も、もう誰かに『ギアス』を与えるつもりはないからな……)



C.Cだと確かに不幸になりそう。期待

C.C「いいか、『ギアス』とは、簡単に言えば、ある特殊な力のことだ。

   それを手に入れれば、人の世に生きながら、人とは違う理で生きることになる。
   異なる時間、異なる摂理、異なる命。
   そう、それはまさに王の力だ。絶対的な力故に、孤独だがな」

上条「……」

C.C「そして『コード』とは、『ギアス』を与える能力、もしくはその保持者に刻まれた刻印のことだ。
   わかったか?」

上条「……」

C.C(まぁ、当然の反応か)フフフッ

C.C「おい、聞いていたのか?」

上条「あ、ああ……」

C.C「で、どうだ?感想はないのか?」ニヤニヤ

上条「……いや、なんつーか、とんでもなくスケールのでかい話だな」

C.C「ッ!……信じるのか?」

上条「いや、まぁ、完全に信じたわけじゃねぇし、というか、普通は信じられる話じゃないんだろうけどさ……」

C.C「けど、なんだ?」

上条「……なんつーか、その話してるお前が、なんかスゲー悲しそうだったからさ……」

C.C「!?」


C.C(私が、悲しそうだった?何をバカな……)

C.C「ふん、それはお前の気のせいだ。私はC.Cだぞ?悲しい顔などするものか」

上条「いや、どんな理由だよ……」

C.C「……ところで、お前は、そういう力が欲しいか?」

上条「は?」

C.C(少し、仕返しにからかってやるか)フフフ

C.C「もし欲しいなら、その力、お前に与えてやろうか?」ニヤニヤ

上条「……」





C.C「王の力はお前を孤独にする。それを受け入れる覚悟があるか?」



上条「……いや、上条さんは王様になんか興味がありませんのことよ?」



C.C「……」

上条「……」

C.C「……ふふふ、お前は面白い奴だな。上条当麻、といったか。
   絶対的な力というものに、まったく興味がないようだな」

上条「まぁ、力があるに越したことはないんだろうけどさ、それにも限度があるだろ?
   過度な力ってのは、誰かを傷つけることもあるんだろうし。……実際、いい例を知ってる。
   それに、上条さんは孤独なんて嫌ですし」

C.C「そうか……。ああ、そうだな。孤独は辛いものだ」

上条「?……まぁ、それに、俺にだって生まれた時からの妙な力があるんだけど」

C.C「妙な力?」

上条「この右手で触ると、異能の力なら、電撃だろうが、レールガンだろうが、たぶん、その『ギアス』ってのも打ち消せます、はい」

C.C「……にわかには信じがたいが、そういう力もあるのかもしれんな」フフフ

上条「まぁ、それでもレベルは0ですけどね……」ハァ…



―――――――――

――――――

―――



―――

――――――

―――――――――


上条「あっ、いけね!俺、補習があるんだった!……てか、お前、どうする?このまま家にいるか?」

C.C「……お前は随分とお人好しなようだな。だが、連中もここまで来るかも知れんぞ?
   お前もこの家ごと爆破されたくはないだろう?」スタスタ

上条「あっ、ちょ、待てよ!あっ!?」ポロッ



ベキッ!



C.C「……」

上条「俺の携帯が……」

C.C「……もしかしたら、お前の右手は、幸運や神の加護といったものを全部まとめて消してしまっているのかも知れんな。
   それがある限り、お前はずっと不幸なのかもな」

上条「うぉ……不幸だ……」

C.C「それを持って生まれたこと自体が不幸だったようだな」クククッ




この世界ではCCのオデコのあれ消えてないんだな
上条さんの右手で触ったらどうなるんだろうか

上条「はぁ……。まぁ、それよりお前、追われてるんだろ?どこか行く当てあるのかよ?」

C.C「いや、特にはない。だが、ここにいれば敵が来る。
   どういう方法か、私もわからないが、何か私を追跡する術があるのだろう」

上条「ちょっと待てよ!それがわかってて、放り出せるかよ!」

C.C「ならば、私と共に永遠の地獄を歩むか?」

上条「……」

C.C「ふっ、心配するな。私はC.Cだぞ?」ガチャ

上条「おい!困ったことがあったらまた来てもいいからな!」

C.C「なら、腹が減ったら、またピザを食べに来よう」スタスタ

上条「……あいつ、一体何者なんだろ?……あっ!あいつ、人形忘れていきやがった!」



―――――――――

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―――



第七学区・窓のないビル



アレイスター「ふむ、これは面白い。『魔女』と『幻想殺し』が接触したか。
       『魔女』がここに来たのは予期せぬ偶然だが、利用しない手はない。
       上手くことが進めば、プランも大幅に短縮できそうだ。
       ……さて、『猟犬部隊』木原数多」

木原『……こちら、木原』

アレイスター「今から送る画像の女を早急に捜してくれ。
       生きたままの捕獲が望ましいが、殺してもかまわない。
       だが、その際、『死体』は必ず回収するように」

木原『……了解』

アレイスター「さて、久方ぶりの楽しい楽しいショータイムだ」ニヤッ



―――――――――

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―――


     

とりあえず、ここまでー
今日中にまた来ますが、一旦、寝ます
更新スピードはなるべく早くしたいですが、休日が中心になると思います
平日はちょっと忙しいもので

>>20
C.Cの、あのC.Cっぷりが今後、上条さんに多大な影響を与えていくつもりです
なんかC.Cって、インデックスと変なとこで似ていそうですし

>>26
自分としては、普段は見えないつもりなんですが……
すいません、文章力がゴミなので、そう伝わってしまったのかもしれません…

それではー
てか、こんな時間なのに、読んでくれている人が1人でもいてくれて、嬉しい限りです

小ネタのやつホントに来てた―――(°∀°)―――!!!期待

コメントありがとうございます
なんか目が覚めてしまいましたので、少しだけ投下します

>>32
はい、来てしまいました
小ネタに投下した時は、誰か書かないかなー的な完全に他人任せのつもりだったんですが、
コードギアスとか見直してたら、ちょっと構想が湧いてきてしまいまして……
とりあえず、書いてみました、サーセン……orz
  
それでは、投下します

第七学区・とある高校



小萌「はーい。それじゃあ、補習の授業を始めますー。先生、気合を入れて小テスト作ってきたので、
   さっそく配るですー。成績が悪かったら、罰ゲームに『スケスケみるみる』ですよー」

生徒達「「「「えーーーー」」」」

土御門「『スケスケみるみる』って、目隠しでポーカーするやつだったかにゃー?」

青ピ「10回連続で勝つまで帰っちゃダメー、ってオイタな企画」

小萌「上条ちゃんは『開発』の単位が足りないので、どの道『スケスケみるみる』ですよー」

上条「げぇ……」

青ピ「小萌ちゃんは、かみやんがかわゆうてしゃーないんやなー」

上条「青髪、お前はあの背中に悪意を感じられんのか?」

青ピ「あないなお子様に、言葉で責められるなんて、カミやん、経験値高いでぇー」

上条「ロリコンの上に、Mかよ。救いようねぇな……」

小萌「はーい、そこ。これ以上一言でもしゃべりやがったら、『コロンブスの卵』ですよー?」

上条「はぁ……不幸だ……」



―――――――――

――――――

―――


上条(あいつ、どうしてるかな?部屋に人形忘れてったし。でも、何だったんだ?
   あいつが話した『コード』とか『ギアス』ってのは?ほんとにあんのか?
   ……ふっ、まぁ、そのうち戻ってくるかな?)ボー

青ピ「センセー、上条君が女子テニス部のヒラヒラに夢中になってまーす」

小萌「うっ、ぐすっ……」

生徒達((((ギロッ!))))

上条「うっ……不幸だ……」



―――――――――

――――――

―――


カンゼンゲコウジコクヲスギテイマス ガクセイノミナサンハスミヤカニキタクシテクダサイ

上条「結局、この時間まで居残りか……。不幸だ……」トボトボ

御坂「いたいた!いやがったわね、アンタ!」

上条「」スタスタ

御坂「って、ちょっと!アンタよアンタ!」

上条「」スタスタ

御坂「むっ!止まりなさいってば!」

上条「んぁ?またか、ビリビリ中学生」

御坂「ビリビリ言うな!私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ!
   ……はぁ、アンタ、初めて会った時から、ずっとビリビリ言ってるでしょ!」

上条「で?ビリビリ。お前も補習か?」

御坂「うっさいわね!今日こそ電極挿したカエルの足みたいにヒクヒクさせてやるんだから!
   遺言と遺産分配やっとけやコラァ!」

上条「……やだ」

御坂「何ですってーーーー!」ドンッ


バチバチッ!


通行人達「「「「うわ!なんだ!?」」」」


御坂「ふんっ、どうよ?腑抜けた頭のスイッチ切り替わった?」

上条「ふざけんな!昨日、テメーがド派手に雷落としたおかげで、家の電化製品とか冷蔵庫の中全滅だぞ!?」

御坂「アンタがムカつくから悪いのよ!」

上条「い、意味のわかんねーキレ方しやがって……。大体!俺はテメーに指一本触れてねーだろうが!」

御坂「そうよ!一発も殴られてないもん!ってことは、お互い様で引き分けってことでしょ?」フフン

上条「はぁ、じゃあもういいよ、お前の勝ちで……」ヤレヤレ

御坂「ちょっとアンタ!マジメにやりなさいってば!」

上条「……じゃあ、マジメにやってもいいんかよ?」

御坂「ッ!」

上条「はぁ……。朝は妙なピザ女、夕方はビリビリ中学生ときたもんだ……」

御坂「ピザ女?」


ピーーーーーー!メッセージ!メッセージ!システムノイジョウヲカクニンシマシタ!ウォンウォンウォン!


上条・御坂「「!?」」

御坂「うわぁああああああ!」ダッダッダッ!

上条「バカ野郎!お前があんなとこでビリビリするから!」ダッダッダッ!

御坂「いいから早く逃げなさいよもうーーーーーー!」ダッダッダッ!



―――――――――

――――――

―――


第七学区・学生寮



上条「はぁ、まったく、なんつー1日なんだ今日は……。ただいまっと」ガチャ バタン!

ステイル「やぁ、勝手に上がらせてもらってるよ、能力者」

上条「ッ!なっ!お、お前誰だ!?なんで俺ん家に!?」

ステイル「ああ、僕はただ、『コレ』を追って来たまでだけど?」ヒョイ

上条「そ、それは、C.Cのボロ人形!」

ステイル「そう、これには発信機が付けられていてね。持ち主の居場所を特定できるんだ。
     あの女は、このボロ人形をどういうわけか、とても大事にしているようでね。
     どこかに行く時は、いつも持っていってるようだったからね」ポイッ

上条「じゃ、じゃあ、お前がC.Cの言ってた……」

ステイル「やはり聞いていたか。そう、僕は魔術師だよ、能力者」

上条(こいつが、C.Cを追い回してた奴か!)ギリッ!

ステイル「では、単刀直入に聞くよ?あの女はどこにいる?」

上条「は?」

ステイル「日本語がわからないのか?彼女の居場所を教えろと言っているんだ。
     素直に話した方が、身のためだよ?痛い思いはしたくないだろ?」


上条「いや、ちょっと待て!……俺はC.Cの居場所なんか知らないぞ?」

ステイル「何?」

上条「C.Cはその人形忘れて、どっかに行っちまったよ。俺に行き先もなんも告げずに」

ステイル「なっ!き、君は行き先くらい尋ねてないのか!?」

上条「聞いたけど、当てはないって言ってたからな。
   その人形を忘れたから、すぐに取りに戻ってくると思ってたんだけど……」

ステイル「……くそっ!」

上条「おい、魔術師。お前はなんであいつを追ってんだ?……理由次第では、ここで止めさせてもらうぜ?」

ステイル「くっ!本来ならこの場で焼き払ってやるところだが、今は生憎と時間がない。僕はこれで失礼する」スタスタ

上条「おい、ふざけんな!あいつを追ってる奴をみすみす見逃すわけねーだろうが!」ザッ!

ステイル「……お前がこうして僕の足を止めている間にも、彼女に危険が迫ってるんだぞ?
     それでも僕の邪魔をするのか?」

上条「おい、それ、どういうことだよ?詳しく教えろよ!」
 


ステイル「そんな時間もない。僕は行く」スタスタ

上条「くそっ、待て!……なら、なら、俺も行く!俺もC.Cを捜す!
   そんなに時間がないんなら、人手は多い方がいいだろ?」

ステイル「……君は何を考えているんだ?僕に協力すると?」

上条「勘違いするな。俺はお前をこれっぽちも信じちゃいねぇ。でも、確かにC.Cはここにいない。
   それにこうなったのは俺のせいでもある。俺があそこで引き止めてれば、こうはならなかったはずだ。
   だから捜しに行く。それだけだ」

ステイル「……気に入らないが、それで妥協しよう。実際に、人手は欲しいところだしね」

上条「よし……。でも、もしC.Cが見つかって、お前が何かしようとしたら、魔術師だかなんだか知らねぇけど、
   俺は全力でお前と戦うぞ?」

ステイル「ふん、まぁいい。僕も無駄に人を殺したくはないからね」



―――――――――

――――――

―――


神裂「ステイル、彼女の居場所はわかりましたか?……おや、あなたは?」

上条(なんだこの女は!?日本人か!?どんな服装してんだよ!?それに刀!?)

ステイル「すまない、神裂。彼女の居場所はわからずじまいだ。
     そして、この能力者に足止めをくらいそうになったから、仕方なく彼女を捜すことだけ
     協力してもらうことにしたよ」

神裂「そうですか。事情は話したのですか?」

ステイル「いや、それは話していない。話す時間もないし、何より信じないだろう?」

神裂「そう、ですね……」

上条「お前も魔術師、なのか?」

神裂「はい、私は神裂火織と申します。事態は一刻を争うので、ことの詳細は行動しながらにしましょう。
   ただ、一つあらかじめ言いたいのは、私たちは彼女を傷つけるために追っていたわけではありません。
   ……彼女も、傷つけられる、とは言っていなかったのではありませんか……?」

上条「ッ!……確かに、言われてみればそうだけど……」

神裂「……良かったです。とりあえずは、彼女の保護を優先しましょう。えーと……」

上条「上条。上条当麻だ」

神裂「では、よろしくお願いします、上条当麻」

上条「ああ」


上条「それで、どうやって捜すんだ?」

神裂「それは、その……」

ステイル「……チッ!」

上条「……まさか、闇雲に走り回る気でせうか?」

神裂・ステイル「「……」」

上条「……マジかよ」グダッ

土御門「にゃー、カミやん、その心配はないんだぜぃ」

上条・神裂「「なっ!つ、土御門!?」」

上条「えっ?」

神裂「えっ?」

土御門「まぁ、予想通りの反応だにゃー」

上条「なっ、おい、土御門!?これはどういうことだよ!?なんでお前が!?」

土御門「何、簡単なことぜよ。……俺も、魔術師なんだよ」

上条「な、なんだって!?それはどういう!?」

土御門「まぁ、待て、カミやん。今、優先すべきは『魔女』の保護だ。質問なら後だ」

上条「……『魔女』?なんだそれ?」

土御門「おっと、それも聞いてなかったか。まぁいい、行動中に教えてやる。  
    とにかく、今は急いで第二二学区に行く。ねーちん、ステイルも行くぜよ」

上条「第二二学区?なんでまた?」

神裂「そこに彼女が?」

土御門「ああ、おそらくは」



ステイル「何故わかるだい?」

土御門「俺が手に入れた情報によると、まず、今現在、第二二学区のほんの一部を除いて、ほぼ全域が閉鎖されているらしい。
    大規模な地下の地盤の緩みの調査と、それによる一時的な断水、停電が理由みたいだな」

上条「地盤の緩み?全域が閉鎖?」

土御門「そう、通常ありえないことだ。なんらかの事件ならまだしも、調査のために全域を封鎖なんてするはずがない。
    普通、こういう工事は何日かにわけて、場所も何ヶ所かずつやるものだ。
    それを一日で、こんな時間帯からやるなんてあまりに不自然なことだ」

上条「確かにな……」

土御門「それと、これはちょっと危ない橋を渡って得た情報なんだが……。
    どうやら『学園都市』の暗部組織『猟犬部隊』が総出で動いているらしい。偶然とは思えない。
    そして、これが一番の理由だが、第二二学区で彼女らしき人を見たという証言とその姿が実際の監視カメラで
    確認されている。しかも、どうやらそこに居座っているらしく、そこから出た形跡もない。
    というより、出れなかったようだな。封鎖の外に出る時に、IDチェックがあったらしくてな」

神裂「なるほど、彼女は当然IDを持っていませんね」

土御門「ああ、捕まるわけにもいかないのは、自分でもよくわかってるだろうからな。
    だから、あえて中で身を潜めている、と俺は推測している」

上条「なるほどな……。ところで、『猟犬部隊』って?」

土御門「カミやん、『学園都市』は、表向きは世界最先端の科学都市、学生に対する能力開発を 
    唯一行える最新技術の粋を集めた都市だ。だが、その裏側は、とっても汚いところなんだぜぃ?
    非人道的な実験、倫理性を無視した研究、果ては要人の暗殺、なんでもござれ。
    そういったことを先陣切って行うのが暗部組織なんだ」

上条「……」

土御門「そして、今回動く『猟犬部隊』は、その中でも折り紙付きの部隊だ。
    ……カミやん、はっきり言うぜ?下手な気持ちや感情で首を突っ込むと、死ぬぞ?
    今回はそこら辺のスキルアウトとかの喧嘩じゃない。命の奪い合いだ。
    それでも、行くのか?」

上条「……ああ、俺は行く。もし、そんな連中に命を狙われてるっていうのなら助けないといけない。
   あの時、俺が引き止めてれば、こうはならなかったはずだから。
   それに、あいつ、なんか寂しそうだった。だから、一人にはしたくねぇ。
   つまらない理由かもしれないけどさ、俺はあいつを助けたい。
   まっ、死ぬつもりも、[ピーーー]つもりもないけどさ」

土御門「……はぁ、まぁ、カミやんならそう言うと思ってたけどにゃー」ヤレヤレ

上条「はっ、単純で悪かったな」

土御門「……後悔するなよ?」

上条「ああ。むしろ、ここで動かなかった方が、後悔するさ」



―――――――――

――――――

―――


ああ!saga入れ忘れた……orz
>>49の[ピーーー]は「殺す」で頼みます……

とりあえず、ここまでです
また後で、来れたら来ます
期待しないで、待っていてください
それでは

お疲れー。若干描写が薄く感じるのは俺だけ。
期待して待ってます。


全裸で。

ただいまです
コメントして下さった方、ありがとうございます
稚拙な文章ですが、期待に応えれるよう頑張りたいと思います

>>52

描写が薄いのは、勘弁してください……orz 
まだまだ文章下手だなぁ…… 

それでは、また投下します


第二二学区・入り口付近



上条「あれは、アンチスキルか……」

土御門「そうみたいだにゃー。出入り口付近くらいはそういう表の職業の人間を置いても、
    差し支えないってわけだ」

上条「えーと、じゃあどうするんだ?」

土御門「もちろん突破するぜよ。ステイル、人払いの『ルーン』は使えるか?」

ステイル「ああ、もちろん」

土御門「じゃあ、頼むぜぃ」 

アンチスキル「んっ?なんだお前は?ここは立ち入り禁止だ」

ステイル「いや、すみません。道に迷ってしまって……。見ての通り、外の人間でしてね。
     えーと、第七学区はどっちに?」

アンチスキル「第七学区なら、そこの道を直進すればいいだけだ」

ステイル「ありがとうございます。……あっ、いけね!カードが!」バラバラ

アンチスキル「おいおい……。にしても、随分と変わったカードだな?」



ステイル「『これよりこの場は我が隠所と化す』」



アンチスキル達「「「「……」」」」スタスタスタ…



上条「す、すげぇ……。アンチスキルがいなくなっちまった。これが『魔術』か?」

土御門「ああ、あくまでその一種だけどにゃー。これは『ルーン』を用いた、初歩的な『魔術』だ。
    もっともっとすごい『魔術』も存在するんだぜぃ?」

上条「……ほんとに存在するんだ。なんつーか、無茶苦茶な力だな」

神裂「私たちからすれば、『超能力』の方が余程、無茶苦茶な力なのですが……」

土御門「まぁ、『科学』と『魔術』は基本的に交わることのない世界だからにゃー」

ステイル「……ふぅ、さて、人払いは終わったよ。……それで、どうするんだい?」

土御門「さっそく突入する。それぞれが別々に行動するのが望ましいが……。カミやんはどうする?
    一人で行動できるか?なんなら俺たち3人の誰かと組んで動くか?」

上条「……ほんとはそれがいいんだろうけどさ。俺なら大丈夫だ。
   それに、俺の身の安全を考えて、C.Cを救えなかった、なんてことにはなりたくないからさ」

土御門「……わかった。それじゃあ、4人別々に動こう。ステイル、通信用の『魔術』は?」

ステイル「ああ、少し感度が悪いが、『ルーン』のカードを利用して、作れるよ」

土御門「よし、各自、連絡しながら動こう。……それと、カミやん、これを持っていけ」スッ

上条「なっ!これって、拳銃じゃねーか!」

土御門「そうだ。なに、別に人を殺せとは言わない。ただ、万が一のために、護身用に持っておけってことだ。
    脅すくらいには、使えることもあるはずだ。あと、これはその予備の弾」スッ

上条「……わかった。一応、貰っとく」パシッ

土御門「撃ち方は大体わかるな?……ここをこうすると、安全装置が解除される。
    あとは弾を装填していたら撃てる。でも、極力、戦闘は避けろ。あっちはプロだ。
    遭遇しそうになったら、まず身を隠せ」

上条「ああ、わかった」

土御門「そし、それじゃあ、行こうぜぃ」



―――――――――

――――――

―――


第二二学区・地下街



土御門『ああー、こちら土御門。カミやん、聞こえてるか?』

上条「ああ、ちゃんと聞こえてる。にしても、『魔術』ってほんとすげぇな……」

土御門『まぁ、そうだにゃー。……さて、行動しながらになるが、少し事情を説明するぜぃ。
    まず、俺たち3人は、さっき話したように魔術師だ。イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会』所属のな』

上条「『必要悪の教会』?」

土御門『まぁ、イギリス清教内でも、対魔術師に特化した人材が多く集まってるところだにゃー。
    『魔術』は本来、『穢れた力』、と見なされているのに、それを習得している。
    そうして、『汚れ』を一手に引き受けるから、必要悪、なんだにゃー。
    でも、同時に最も強い力を持つ部署でもあるわけぜよ』

上条「ふーん……。じゃあ、お前たちがC.Cを追ってる理由は?」

土御門『彼女はもともと、ここに来る前は『必要悪の教会』の中にいた。彼女の意思と最大主教の計らいでな。
    まぁ、彼女自身はイギリス清教所属ってわけじゃないみたいだけどにゃー。
    ……だが、数日前、彼女は突然失踪した。彼女は『必要悪の教会』では、『魔女』と呼ばれている。
    詳しくはわからないが、かなり重要な存在らしい。
    だから、早急に発見、保護せよ、っていう命令が与えられたわけだにゃー」

上条「……そうか、よくわかった。でも、お前には悪いが、全部を鵜呑みに信じることはできない。
   C.Cにも、ちゃんと事情を聞いてから判断するぞ?」

土御門『それでかまわないぜぃ。そっちの方が、むしろ自然だにゃー』

上条「でも、ありがとな土御門。お前がいなかったら、もっとゴタゴタしてたろうし、
   何より、C.Cの居場所の特定すらできなかったよ」

土御門『ははは、礼なら今度、妹モノのエロ本でも買っ』

上条「それじゃあな」

土御門『冗談だ。……カミやん、死ぬなよ?』

上条「……ああ、お前もな」



―――――――――

――――――

―――


上条「……にしても、さすがに地下街は広いな。一向に見つかる気がしない……」フゥ


バタバタバタッ! ガチャガチャガチャ! 


上条「ッ!……なんだ?足音?……ッ!近づいてくる!?もしかして、土御門の言ってた『猟犬部隊』って奴らか!?」


バタバタバタッ! ガチャガチャガチャ!


上条「って!やべっ!向こうからも!?挟まれた!?どっ、どうする!?どっか、隠れる場所を……ッ!うわっ!」グイッ

??「声を立てるな。こっちだ」グイグイッ



―――――――――

――――――

―――



地下街・ゲームセンター内



上条(おい!おい、ちょっと待て!そんなグイグイ引っ張んな!……って、C.Cか!)

C.C(いいから少し落ち着け)

上条(はぁ、やっと見つけたぞ。……ずっとここにいたのか?)

C.C(ああ、そうだ。まったく、この私がいるのに、よくも閉鎖などしてくれたものだ。

   見つかるのもまずかったからな。とりあえず隠れていた。一度、ここにも奴らが来たが、
   上手く隠れてやったよ)フフン

上条(はぁ、なんにせよ、とりあえず見つかって良かったよ。捜したぞ?)

C.C(……私を捜していた?何故だ?)

上条(何故って、心配だったからな)


C.C(心配だった?私がか?)

上条(お前以外に誰がいんだよ?)

C.C(……そんなことを理由に、私を捜していたのか?)

上条(まぁ、そうだよ。……それに、俺が補習から帰って来たら、部屋に魔術師がいて、あいつらから事情を聞いた
   まぁ、完全に信じたわけじゃないけどさ)

C.C(……本当に、呆れるほどのお人好しだな、お前は。それともバカなだけか?)フフフ

上条(どーせ、上条さんはバカですよー)

C.C(ふふふ、まぁ、そう拗ねるな。一応、感謝はしてやろう)ニヤッ

上条(……そうですかい)ハァ


上条(それでさ、お前が魔術師に追われてるのって……)

C.C(あいつらから聞いたんだったな。そう、あいつらは別に私に危害を加えるつもりはないようだ。
   ただ、連れ戻しに来たみたいだな)

上条(……どうして逃げ出したんだ?そんなに不自由だったのか?)

C.C(……いや、そういうわけではない。なに、たまには外に出たくなってな。
   大した理由などない。散歩のようなものだ)

上条(随分と遠くまで散歩しに来ましたね!?)

C.C(事実、世界全体が私にとっては庭のようなものさ)フフン

上条(はぁ、そうですかい……。よし、まず、土御門たちに連絡しよう。
   できれば、今の状況もなんとかしてほしいな。  
   ……こちら上条、土御門、聞こえるか?)

土御門『カミやんか?どうした?いやに小声だな?』

上条(C.Cを見つけた。今、一緒にいる)

土御門『おお!本当か!さすがカミやんだにゃー!』

上条(……だけど、状況があんまり良くない。お前が言ってた奴らかわからないけど、
   さっき挟み撃ちにあって、今、俺たちもよく遊びに行く、あのゲーセンの中に隠れてるんだ)

土御門『なんだと?大丈夫なのか?』

上条(今のところは。C.Cの隠れ方が上手かったみたいで、敵もあまりここをマークしてないみたいだ。
   一人はまたどっか行ったみたいだけど、まだ一人残ってる)

土御門『そうか。……じゃあ、これからこっちでド派手に騒ぎを起こす。
    その隙にこっそり脱出しろ。騒ぎがあるまで隠れてろよ?』

上条(わかった。頼んだぞ)

C.C(なんと言っていた?)

上条(……とりあえずは、ここでこのまま隠れてるしかない。
   向こうで騒ぎを起こすから、その隙に逃げ出せって)フゥ

C.C(そうか。なら、ここでこのままじっとしていればいいんだな?)

上条(ああ、そうみたい……ッ!やべっ!こっち来る!?)ササッ

猟犬部隊員「……こちらオーソン。……やはりこの付近にはいないようだ。
      ……まったく、『嗅覚センサー』が使えないと面倒だな」クルッ スタスタ

上条(……ふぅ、助かったみたいだな。ひとまず、このまま……ッ!やべっ!椅子にぶつかっ……!)グラッ


ガッターーーン!


猟犬部隊員「むっ!誰だ!」ガチャ!

上条(……くそっ!)

C.C(……)



―――――――――

――――――

―――




バキッ! ドガッ!


上条「……がっ!ぐっ!」

C.C「おい!手荒な真似はよせ!……ッ!くっ!」グイッ!

猟犬部隊員「まったく、よくもまぁ、てこずらせてくれたな、学生君?」

上条(くそ!どうする!?一人くらいならなんとかなるか!?あっちも銃持ってるけど、俺にも拳銃があるし……)

猟犬部隊員「こちらオーソン。ターゲットを発見、確保した。至急、集まってくれ。
      場所はD-9のゲームセンターだ。また、一般人と思われる学生も同時に確保した。リーダーに報告してくれ」

猟犬部隊員『……こちらロッド。了解した』ブツッ

上条(会話で銃口を逸らした!……くそっ!もう、やるしかねぇ!)スッ

上条「動くな!」ガチャ!


猟犬部隊員「!?」

上条「……まず、C.Cを放せ!……余計なことをすれば、撃つ!」

猟犬部隊員「……ふっ、はははっ!おいおい、学生君。俺は完全武装してるんだぞ?
      もちろん防弾対策もしてある。これはそういうスーツだからな。
      それに対して、そんな小さな拳銃が役に立つのかな?」

上条「なら、あんたの顔を狙えばいい……」

猟犬部隊員「……君に、人を殺す覚悟があるとでも?とてもそうは見えな」



バァアアアアアアアアン!



猟犬部隊員「!?」

上条「……次は、当てる」

上条(頼む!これで怖気づいてくれ!)

猟犬部隊員「……ふんっ、仮に俺をここで殺そうが、逃げられはしないぞ?」

上条「無駄口を叩くな!早く言われた通りにしろ!」

猟犬部隊員「……断る。仮にここで俺がお前を逃がしたら、俺はどっちみちリーダーに殺されるからな」フゥ…


上条(くそっ!駄目かよ!……こうなったら、足でも狙って!)

C.C「おい、何もする必要はないぞ」カッ!

上条「えっ?」

猟犬部隊員「ッ!……うわっ!な、なんだこれはっ!や、やめろっ!来るな!来るんじゃない!
      ……がっ!うぉおおおおおおおお!ああああああああああ!……ッ!」バタッ!

C.C「……ふぅ、久しぶりだったが、上手くいったようだな」

上条「なっ!おいC.C!今のは!?」

C.C「なに、少し『ショックイメージ』を見せてやっただけだ」

上条「『ショックイメージ』?」

C.C「私は、その人間のトラウマや恐れているものを、強制的に幻覚のように見せることができる。
   まぁ、どんなものを見たかはわからないがな」

上条「……なんにしても助かった。サンキュー、C.C」

C.C「それよりも、早くここを出るぞ。敵が集まってくる」

上条「ああ、そうだな」



ガチャリ!



木原「残念だがぁ、そいつはもう無理だ」

上条・C.C「「!?」」



―――――――――

――――――

―――



とりあえず、ここまでです
ほんとはもうちょっと進みたかったんですが……
サーバーも重いし、瞼も重いので、今日はおしまい

更新は、のんびりと待っていてください
あと、ここが駄目、こうすればいい、などの技術的な指摘、アドバイスも頂けたら幸いです

それではー

C.C.いきなりコード云々喋りすぎじゃね?

薄っぺらいな

こんばんわー
コメントして頂いた皆様、ありがとうございます
休日ではないですが、地の文を書いたやつを少しだけ、試験的に投下したいと思います
正直、自信がまったくないので、非常につまらないかもしれません……
投下後、またコメントを頂ければ幸いです

>>75
確かにそうですね……
自分で読み返しても、C.C.の口が軽すぎました……
上条さんには事件に巻き込まれる前に、話しておきたくてつい……
以後、気をつけます

それでは投下します


二人が動き出そうとしたその時、唐突に気だるげな声が響いた。
特別、敵意を含んではいない声音だが、二人の動きを凍らせるには十分だった。

上条「なっ!あ、あんたは?」

そこには、顔の左側に刺青のある、白衣を纏った男が、左手をポケットに突っ込み、
右手で銃を構え、立っていた。

木原「んぁ?ああ、俺はこの部隊のリーダーだよ。ったく、こんなクソつまらねぇ任務なんざ、
   さっさと終わらせたかったんだがなぁ。予想以上に時間がかかっちまった。
   つかえねぇ役立たず共だぜ」

二人は知る由もないが、この男、木原数多は、『木原一族』と呼ばれる、学園都市でも有名な科学者一家の血縁者である。
優秀な科学者である一方で、部下を平然と使い捨てにし、使えない者は容赦なく切り捨てる。
また、なんの躊躇もなく人を[ピーーー]ような残酷非道な性格の持ち主である。

上条「くっ!」スッ

木原「おっと、無駄なこたぁ、やめるんだな。お前らは完全に囲まれてんだよ」

猟犬部隊「「「「ガチャ、ガチャ」」」」

木原がそう言うと、彼の背後から10人程度の『猟犬部隊』と思われる者たちが現れ、
二人に向けて、一斉に銃を構えた。


上条(くそっ!どうする!どうすれば!)

店内には他に出入り口はなく、裏をかく術も存在しない。あるのはちっぽけな拳銃が一丁のみ。
まさに絶体絶命のこの状況、上条は自分がどう動けばいいかわからなかった。


だが、その時……。


C.C.「おい、お前、用があるのは私だけだろう?そこの坊やは偶然会っただけだ。殺す必要もないだろう?
   さっさと私を連れていけ。その坊やを見逃せば、今なら抵抗もしないぞ?」フフフ

突如として、妖しい笑いを含んだ、淡々とした声が、その緊張を切り裂いた。

上条「なっ!C.C.!やめろ!」

C.C.「世話になったな、学生君。今回は私と出会ったのが不幸だったようだが、私のことは気にするな」

もちろん、上条にはそんなことができるはずがない。必死に捜して、ようやく彼女を見つけたのだ。
それをみすみすあきらめる……?
冗談ではない。

上条「そんな簡単に諦めれるかよ!」

C.C.「まったく、お前はバカだな。さっさと家に帰りな、坊や?」ニヤッ

上条の声に返す、C.C.のそれは、どこまでも澱みのないもだった。
この状況下でも、別段、無理をしている風でもなく紡がれる言葉に、どこまでも高飛車かつ傍若無人な行動。
それは、まさに『魔女』と呼ばれるにふさわしいものだった。


C.C.(これで、こいつは大丈夫だろう。私さえ手に入れば、文句はあるまい)

C.C.はそう考えていた。……しかし、彼女は甘かった。『学園都市』の闇はそこまで優しくできてはいない。
そしてそれは、次の一言で証明された。

木原「ああー、悪いが、黙って帰すわけにはいかねぇんだよなぁ」

C.C.「何?」

C.C.は耳を疑った。こいつらの狙いはあくまで私ではないのか?何故、『学園都市』の一般人まで巻き込む必要がある?
そう疑問に思ったが……

木原「今回の任務は、標的一人の捕獲、あるいは殺害なんだけどよ、誰にもみつからずってのがついてるんだわ。
   だから、見逃せないんだよなぁ」

C.C.「なっ!こいつは無関係の一般人だぞ!」

木原「もう関係しちまってるんだよ。この騒ぎに巻き込まれた時点でな」

めんどくさそうに返す木原の声には、何の感情も篭っていない。



木原「……そんなわけで殺すわ。じゃあな、クソガキ」カチッ

そして、木原は指に力を込め、引き金を引こうとする。
その動作には、まったく躊躇がなく、どこまでも作業的だ。
……ただ、一瞬だけ、肌を刺すような殺気が漏れる。

上条「ッ!」

上条は動けない。
今、確実に、自分の死が、足音を立て近づいてくるのを嫌でも感じる。
……しかし、上条は動けない。
まるで、自分の体が石にでもなってしまったかのように、まったく動けなかった。


そして、その時は訪れる……。


C.C.「ッ!殺すなっ!」ダッ!



バァアアアアアアン!



―――――――――

――――――

―――




ドサリッ



銃声の後に響いた、その鈍い落下音。それが上条の耳に、いやに大きく響いた。

上条「……C.C.?……おい、C.C.!?おい!おい!?起きろよ!?」

C.C.「」

ここにきて、ようやく上条の体は機能を取り戻す。
そして、恐る恐る目の前で倒れている彼女へと手を伸ばす。
上条は揺する。揺する。血溜りに仰向けに倒れる彼女の体を。
……だが、彼女はなんら反応しない。反応するはずもない。何故なら、彼女は、もう……

上条「ッ!C.C.ゥゥゥゥゥ!」




上条の叫びが辺りに響いた





木原「あーあ、できれば生きたまま捕獲しろってことだったんだがなぁ。
   まぁ、殺しても構わないって言ってたから、気にするほどでもないかねぇ」

上条「なんだよ!なんなんだよこれは!?」

木原「まぁ、気にすんなよ、クソガキ。どうせお前もすぐ死ねるって」ガチャ

そうして木原は、再度銃口を上条に向ける。

上条(どうしてだよ!?なんでC.C.が死ななきゃなんないんだよ!?
   ……そして俺も終わるのか!?こんな、こんな風に!)

一瞬、上条の目の前に、今までの出来事が、走馬灯のように浮かんで消えていった。
そして、最後に見えたのは、幼い頃の自分。『疫病神』と呼ばれていた頃の、孤独な自分の姿だった。
……だが、上条は感傷に浸ることはできなかった。何故なら……。



ガシッ!



上条「!?」

突如、掴まれた自分の腕。掴んだのは、一体?……それを考えるよりも前に、
上条の意識は『そこ』へと引きずり込まれた……。



―――――――――

――――――

―――


短くて申し訳ないですが、ひとまずここまでです
やっぱり、地の文は難しい上に、時間がかかりますね…… 
文才のある人がうらやましい限りです

見てくださった方、できれば、コメントの方をよろしくお願いします
また、技術的なアドバイスなども頂けると幸いです

あと、次の投下は今週の休日にはなんとか……
期待せず、待っていてください
それでは


あっ、あと最後に>>77の[ピーーー]は「殺す」で脳内保管、お願いします……orz

こんばんわー
コメントして頂いた皆様、ありがとうございます
感想、アドバイス共にしっかりと吸収していきたいです

今日中に、切りのいいところまでいきたいですね……

それでは投下します


この世界の言葉で言い表せない、なんとも形容しがたい空間。その色は言うなれば、白、なのか?
それすらもはっきりしないところに上条はいた。……そして、声が響く。



C.C.(……終わりたくないのだな?お前は)



上条(なん、だ、これ?C.C.、なのか?)



C.C.(……お前には生きる理由があるのか?)



上条(生きる、理由?)



C.C.(そうだ。生きる理由と生きる意志が、お前にはあるのか?)



上条(……生きる理由、か。……正直、わからないよ。何故、どうして自分が生きているのかなんて、
   あんまり考えたことないからさ。……でも、死にたくはない。
   俺は、自分を含めて、この世界に、なくなったっていい命なんてないと思ってるしさ)



C.C.(生きる理由はわからない。でも、死にたくはない、か……)



上条(そもそも、生きる理由を明確に持ってる人の方が珍しいと、俺は思う。
   別に、俺がそれを持ってないから言ってるわけじゃないぜ?
   たださ、生きる理由が、生きる理由を探すため、ってのもあるんじゃないか?
   ……人ってのはさ、生き続ける限り、常に生きる理由を探すものなんじゃないかな?
   それが見つからない内は、死にたくはない。
   ……だから、人は死ぬのを怖がって、生きたいと思うんじゃないかな?
   まぁ、俺はバカだから、よくはわからないけどさ)



C.C.(……生き続ける限り、生きる理由を探す……。それが、永遠であっても、か……?)



上条(永遠に生きる、なんてことは多分ないんだろうけどさ、それでもだと思う。
   生き続けたら、多くの辛いこと、悲しいことがあると思う。
   でもさ、それ以上に楽しいこと、嬉しいことを積み重ねていけばいいさ。
   そうしながら、生きる理由とかってのも探していく。少なくとも、俺はそうやって生きていきたい。
   ……だから、このまま死んでもいいとは、思えない。……いや、俺は死にたくない)
   



C.C.(そうか……。ならば、私と『契約』しろ)



上条(『契約』?)



C.C.(私が与える力、『ギアス』があれば、お前の望み通り生き残れるはずだ。
   だが、その代わり、お前には私の『願い』を一つだけ叶えてもらう)



上条(『願い』?)



C.C.(そう、私の『願い』。……心からの『笑顔』を取り戻したいという願いだ。そして、出来ることなら……)



上条(……出来ることなら?)



C.C.(……いや、なんでもない)



上条(……)



C.C.(……前に言ったように、王の力はお前を孤独にする。その覚悟があるのなら……)



上条(……ははっ、笑顔なら、いつでも俺がやるよ。
   ……それにさ、絶対的な力が、必ず孤独に結びつくなんてことはないはずだ。
   要は使い方の問題だろ?だったら、正しく使えばいい。
   自分のためとかじゃなく、誰かのためとかさ。
   C.C.、もし、お前が、お前の与える力『ギアス』が、必ず孤独を生むって思ってんのなら……)



C.C.(……)



上条(まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!)



C.C.(……ふふふ、ならば……)



上条(ああ!結ぶぜ!その契約!)



そして、運命の歯車が噛み合わさり、世界は圧倒的な光に包まれる……。



―――――――――

――――――

―――



木原「んぁ?なんだぁ?」


死体に縋り、叫んでいた上条が、突如として黙ったと思ったら、今度は何も言わずに立ち上がった。
それを見て、木原は僅かに首を傾げ、怪訝な目を向けた。
その立ち上がった上条は、何故か左目を左手で押さえている。


上条「おい、あんた、なんでそう簡単に人を殺せるんだ?」


上条は問う。人の命を軽視し、それをこうも簡単に奪う理由を。


木原「別に理由なんかねぇよ。ただ命令されたからだな。
   まっ、それに人の命なんざ、湧いて出てくるもんなんだよ」


木原は答える。何の感情も篭らぬ声で。


上条「そうか……。なら、俺はもうあんたに人を殺させない」

木原「何言ってんだ?おめぇは?」

上条「もし、あんたが、人の命をそんなに軽いものだと思ってんのなら……」

木原「?」

上条「そんなふざけた幻想は、俺が跡形もなくぶち壊してやる!」

木原「ッ!」


そう言い放つと同時に、上条の顔からその左手が外される。
その露わになった左目を見て、木原は気づいた。


木原(なんだぁ?あの左目は?)


そう、そこには、普通の人にはあるはずのない『赤い鳥のような紋様』が刻まれていた。
そして、それが一際妖しく輝き……






上条「上条当麻が命じる!お前たちは帰れ!そして二度と人を殺すな!」




上条がそう叫ぶと、一瞬、世界からありとあらゆる音という音が消え去ったような、奇妙な空気が辺りを包んだ。
そして……


木原「ああ、わかったよ。おい、テメェら、撤収だ。帰んぞ」

猟犬部隊「「「「……了解」」」」


木原のその言葉を皮切りに、木原を含め、『猟犬部隊』は上条の言う通り、その場から去っていく。
まるで、初めから何の用もなかったかのように。
……そして、いつの間にか、その場には上条と、未だ血を流し倒れるC.C.だけが残されていた。



―――――――――

――――――

―――


すいません、ちょっと一旦休憩とります

とりあえず、上条さんに発現したギアスは、『絶対遵守の力』です
ええー、と思う人もいるとは思います
自分も、初めはオリジナルで作ろうかなと思ったんですが……
『魔王』との接点を持たせたかったこと、『ルール』が定まっていたことを理由に、このようにしました
まぁ、上条さんが『不幸すぎて、思い通りにならない世界を思い通りにできたらな』的な願望があったということで……

あと、>>93ではわかりやすくするため、便宜的に『上条当麻が命じる』と言わせました
こんなこと、普通の上条さんは言いませんよね……

>>100
ありがとう、納得した
つまりルルーシュは視覚、ライは聴覚に働きかける絶対遵守のギアスって事だな
前者は目を見なきゃ効かないが耳を塞がれても問題ない
後者は目を見なくても良い代わり、耳を塞がれたらアウトか

上条さんは……どうなんだろ

お待たせしました、再開します
また、コメントありがとうございます

自分も「LOST COLORS」のライもいたので、構わないかなと思っていた次第です、はい

>>102
言われるまで考えていませんでした……orz
うーん、一応、上条さんのギアスは、ルルーシュ型ということでお願いします
もしかしたら、違う設定にするかもしれませんが……

それでは、投下します





『猟犬部隊』が去ってから少しの間、上条は呆然とその場に佇んでいた。
自分は助かったのか?あの状況から、生き残ることができたのか?
今、こうしてこの場で、未だに息をしているという事実を、彼は受け止め切れていなかった。


上条「……これが、『ギアス』、なのか?……なんというか、凄まじいな……」


呆然としながら、上条は言葉を吐く。
そうして、ようやく現実へと戻ってきたのだが……。


上条「……はっ!そうだ、C.C.!おい!C.C.!」

C.C.「」

上条(ッ!……だめだ。頭、撃たれてる……)


思わず顔を背ける上条。そして、彼女も何も答えない。弾丸は額から後頭部へと突き抜けたようだ。
その頭部から流れ出る血こそ今はもうあまり広がってはいない。
しかし、誰が見ても、絶命しているのが容易にわかる状態だった。


上条「……くそっ!俺だけ助かったって、意味ねぇだろうが!
   お前は、俺に力だけ渡して死んじまったのかよっ!
   ……俺は、俺はまだ、お前の『願い』を叶えてねぇのによ!」


上条は、地面に己の拳を叩きつけ、吼えた。自分の無力さ、不甲斐なさに。
彼女を救えなかった。その事実が、上条の身を引き裂いていく。そんな時……



土御門『カミやん!カミやん!聞こえるか!カミやん!?』


はっと我に返れば、聞こえてきたその声は、間違いなく土御門元春のものだった。
それはステイルから、互いに持っていれば交信できる、と言われていた、『ルーン』を応用した通信用の擬似的な護符によるものだ。


上条「!つ、土御門か!?」

土御門『ああ、やっと通じたか!一体何があった?』

上条「奴らに、見つかったんだ……。俺はなんとか無事だけど、C.C.が……」

土御門『……死んだ、のか?』


上条の声が、普段、一緒に過ごす時に聞く声とはまったく異なった、いやに暗く、小さいものだったことから、
土御門は状況を察した。これは、最悪だ、と……。


上条「頭を、撃たれた……」


そして、上条は、決定的で、絶望的な事実を土御門に告げた。


土御門『そう、か……。とりあえず、今そこにねーちんが向かってる。
    ひとまずは合流してくれ……。カミやん、あまり自分を責めるなよ?』

上条「くそっ!……ごめん、ごめんな、C.C.……」

C.C.「」


土御門の掛けた慰めの言葉も、今の上条にとっては、自分の無力さを思い知らすだけのものだった。



―――――――――

――――――

―――





土御門との交信から僅か数分後、彼から連絡を受けた神裂火織が上条の前に現れた。


神裂「無事でしたか、上条当麻。……彼女のことは、もう聞きました」

上条「……すまない、神裂。俺、守れなかった……」


上条は苦痛に満ちた声を漏らした。
多少歪んだ協力関係ではあったが、皆で探し、守ろうとした彼女は死んでしまった。
その事実を伝えることが、上条の心を締め付ける。
だが、神裂の口から漏れた言葉は、予想だにしないものだった。


神裂「……大丈夫です。彼女は死んではいません」

上条「……えっ?」


上条は耳を疑った。C.C.が死んではいない?……そんなわけない。
現に、彼女はこうして頭を撃たれ、血を流し倒れているではないか。
どこをどう見ても、誰がどう見ても、彼女はその命を灯してはいないのだ。
だが、神裂は続ける。


神裂「別に慰めで言っているのではありませんよ?とにかく、彼女は大丈夫です。
   彼女は、この程度では死にません」

上条「……何を、言ってんだよ……。頭、撃たれたんだぞ……?」

神裂「これは本来、機密事項なのですが……。彼女には、常人をはるかに超える治癒力が備わっています。ですから大丈夫です。
   ……それに、私は、以前に、これよりもっとひどい怪我をしたのを、見たことがありますから……」

上条「……」


とても信じられない。
仮に、常人をはるかに超える治癒力が備わっていたとしても、死んでしまったら何の意味もない。
『治癒』というのは生きている人間の起こす身体的な現象だからだ。
死人となってしまっては、それも機能するはずがない。
もし、神裂の言うことが事実なら、彼女は、人間では……。


神裂「とりあえず、ここを出ましょう。皆と合流して、どこか休めるところへ」

上条「……わかった。ひとまず、俺の家に行こう」


ここにいても埒が明かない。詳しく話を聞くにしろ、一旦、どこか落ち着ける場所に。
そう判断した二人は、その場をあとにする。
神裂が、C.C.を運ぶのは私に任せてください、と言ったが、上条は頑なに譲らなかった……。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、ここまでです
一旦寝て、明日、というかもう今日ですが、また来ます
思いの外、進めなかった……orz
進行遅くてほんとすみません……
とりあえず、次の投下で、自分の中での第一章の部分が終わります、終わらせます!

いつものように、感想、または技術的なアドバイス等があれば、書いていただけると幸いです

それでは、また後ほど

こんばんわー
遅くなってすみません

上条さんが、ギアスを今後どのように使っていくかも含めて楽しんで頂けると幸いです
といっても、あまり期待しない方がいいかもですけど……

それでは、投下します


第七学区・学生寮



あれから上条と神裂は、ステイル、土御門と合流し、第七学区にある上条の部屋へと戻ってきた。
C.C.を上条のベッドに横たえ、一息つく。
結局、部屋に来るまで、誰一人、一言も話さなかった。


土御門「カミやん……」

上条「……」


土御門は、未だかつて見たことがない程沈む上条を見て、声を掛けるが、上条は反応しない。
土御門も、掛ける言葉が見つからない。そんな二人の間に、ステイルが割って入った。


ステイル「……はぁ。まったく、何を辛気臭い顔をしているんだ、能力者。
     彼女なら大丈夫だ。神裂からも聞いているだろう?」

土御門「……ステイル、それは、どういうことだ?」


土御門は、ステイルの言っていることが理解できなかった。
先ほどの上条と同様、彼女が大丈夫などというのはありえないと。
土御門は自分の仕事、役目上、多くの人間の怪我、そしてその死を目の当たりにしてきた。
そして、彼女の傷は間違いなく死亡、それも即死であろうものだから。
だが、そんな土御門にステイルは語る。


ステイル「さすがの君でも知らなかったか。まぁ、見てればわかるさ。なぁ、神裂」

神裂「ええ。今は、彼女が目覚めるのを待ちましょう」


二人はそれきり、彼女については、何もしゃべらなくなった。
……ならば、とにかく言うとおりに様子を見ようと、土御門も思い、ふぅと息を吐いて、沈黙した。



―――――――――

――――――

―――



約1時間後



C.C.「……ぅん……」


上条を除く3人が、今後の方針と行動を話している時、突如として、上条のベッドの方から小さな声が漏れた。


上条「!?C.C.!?」

C.C.「……ああ、お前は……。どうやら無事に、生き残れたようだな……」


上条は、すぐさま彼女のそばに駆け寄った。
そこには、未だに顔色は優れないが、確かに目を開き、自分に声を掛けるC.C.の姿があった。
撃たれた時にできたはずの頭の傷も、今はもうほとんど見えない。


上条「ああ!お前もよく、無事で……!」


良かった!生きていてくれた!そして、そんな彼女を見て、上条は思わず涙腺が緩む。


C.C.「ふふふ、なんだ、泣くのか?坊や?」ニヤニヤ

上条「うっ、うるせぇ!」


上条はC.C.に指摘され、その目元を袖でゴシゴシと拭う。
目覚めてすぐにこれか、と思いながらも、上条は喜びと、安堵を隠せない。
そんな二人の会話に、神裂が割って入った。



神裂「……さて、お久しぶりですね、C.C.」

C.C.「ああ、追っ手はお前たちだったのか。神裂火織、ステイル=マグヌス。
私をこのまま連れ帰るのか?」


C.C.は別段、驚くこともなく二人を見る。
それはどこか、予想していた通り、という印象を受ける言い方だった。


神裂「いえ、ひとまずは貴女に休んでもらいましょう。イギリスに帰るのはその後でも十分でしょう」

C.C.「そうか。だが、私は帰るつもりはないぞ?」

神裂「そうもいきません。最大主教からの命令です。
……『あの件』などで、恩人であるあなたの願いなら、叶えて差し上げたいのですが……」

ステイル「……ふん」

上条(『あの件』?)


3人の会話が、何を指しているかわからず、さりげなく土御門を見やるが、彼も肩を竦めるだけで、詳しくはわからないようだった。



C.C.「なら、後で、あの女狐と話をさせろ。連れ帰るかどうかは、その後にでも決めるんだな」

神裂「……わかりました」

ステイル「ふん、僕としては、一刻も早くイギリスに帰りたいんだけどね?」


3人の会話が一段落したのを見計らって、上条はC.C.に尋ねる。


上条「……ところで、C.C.。お前は一体……」

土御門「そいつは俺も聞きたいにゃー」


土御門も、上条に便乗して会話に入るが……


C.C.「……なんだお前は?」


C.C.は突如話しかけてきた見知らぬ男に、冷たい視線を送る。
金髪に、アロハシャツという、見た目はひどく飄々としていて、サングラスをかけて隠れたその瞳は窺えない。


土御門「俺は土御門元春。この二人と同じ、『必要悪の教会』の魔術師だ」

C.C.「ああ、お前が学園都市内のスパイ、というやつか」

土御門「おや、それも知ってたか。まぁ、『魔女』なら別に驚くことでもないのかにゃー?」

C.C.「ふん、まぁいい……。それで私のことが知りたいんだったな?」

土御門「ああ、是非教えていただきたいにゃー」

C.C.「ふぅ……」


C.C.は、自分の体質を話すことに、あまり気が向いていなかった。
しかし、あれだけの傷を負いながらも生還したこの状況を見られてしまっては、どうしようもない。
ひとまずは、適当に答えておこう、全てを話す必要などない、と彼女は判断した。



神裂「土御門、彼女は……」

C.C.「いい、神裂火織。私が話そう。
   ……私はな、どんなに命に関わる傷を負ってもすぐに治り、傷や出血が原因で死ぬことはない。
   そういう体質なんだよ」

上条「……は?」ポカーン

土御門「……不老不死、というやつか?」


不老不死。
古代中国の仙人が作ったという霊薬。西洋における錬金術。日本の昔話に登場する秘薬。
数多くの、それにまつわる伝説が世界中に存在するが、そんなものが有り得るのか?
土御門は、怪訝な顔で尋ねる。


C.C「さあ、それはどうかな?」フフフ

土御門「詳しく教えるつもりはない、か。……まぁいい。
    だが、そういうことなら、『魔女』と呼ばれるのにも、納得できるな」

上条「いや、そんな体質、ありえないだろ……?」


上条は言う。人は当然、老いるものだし、誰だって最後は死ぬものだ。
それは人が人である限り、絶対普遍の真理であるのだ。
……だが、この時の上条はまだ知らなかった。
人という枠を外れて生きざるを得なくなった者が、確かに存在していることに。


C.C.「じゃあ、私はなんだ?何故、まだ生きている?」

上条「いや、それは……」

C.C.「お前は今日、見ただろ?『魔術』を、そして、あの力を。
   そういうものがあっても、なんら不思議じゃないんだよ」

上条「……」


C.C.の言うことは確かにわかる。そして事実、目にしてしまった。
自分の今まで知りえなかった世界を。その片鱗を。
だが、それでもそう簡単に納得がいくはずもなく、上条は、ふぅ、と小さく溜め息えをこぼした。




土御門・神裂・ステイル「「「あの力?」」」


二人の会話に出てきた、なんとも不審な言葉に、三人は首を傾げた。


C.C.(おっと、『コード』や『ギアス』に関しては、神裂たちにも何も教えていないんだったな。
   ……魔術師であるこいつらに、簡単に教えるのはよくないな。まぁ、適当にごまかして……)


C.C.は『コード』や『ギアス』に関する情報を、最大主教ローラ=スチュアート以外の『必要悪の教会』の者たちに与えてはいない。
そして、ローラも同様に口外していない。
もし、『必要悪の教会』にその情報が出回れば、そこにいる数多くの魔術師がそれを求め、
そこから確実に周囲に広まることがわかりきっていたからだ。
だが、C.C.がそんな思考をしているのをよそに……。


上条「ああ、それはな……」

C.C.「!?……ふんっ!」ゴッ!

上条「ぐぇ!痛っーーーーーー!なにすんだよC.C.!」


C.C.は上条の腹を思いっきり殴った。それはもう全力で。
しかしながら、やはりまだ体調が優れないのか、その勢いは万全の体調のときには程遠いが。


C.C.「ちょっと耳を貸せ」

上条「な、なんだよ?」

C.C.(私との『契約』や『ギアス』のことは、人には話すな。隠しておけ)ボソボソ

上条(はぁ?なんで?)ボソボソ

C.C.(悪用されれば、どうなるか、想像がつくだろう?)ボソボソ


上条はそう言われて、はっとした。
もし、あんな力が知れ渡り、悪用されることになれば、とんでもないことになる。
実際にそれを使い、その力を目にした自分だからこそ、その凄まじさがわかる。


上条(……そうだな。わかった、黙ってるよ)ボソボソ



急にC.C.が上条を殴ったと思ったら、今度はヒソヒソと話し始めた彼ら二人に、土御門が声を掛ける。


土御門「おい?カミやん?どうしたんだ?」

上条「……ああ、いや、その、だな……」


上条は言葉に詰まった。
どうやって、この状況を逃れようかと考えた。
だが、上条の頭では、パッとこの場を切り抜ける案など浮かぶはずもなく……。


C.C.「なに、私の『魅了』の力のことだ」ニヤッ


そんな、上条を見て、C.C.は、はぁ、と溜め息をこぼしながらも、不敵に笑って答えた。


神裂「『魅了』ですか?」

C.C.「そうだ。この私の美貌で、男を一人、骨抜きにしてやったんだ。文字通り、骨抜きにな……」フフフッ


いかにも冗談っぽく、妖しく笑いながら話すその姿は、他人をバカにしているようにしか見えない。


ステイル「……ふぅ、馬鹿馬鹿しい。そういうところは相変わらずか」

C.C.「人のことが言えるのか?『禁書目録』命の、童貞坊や?」ニヤッ

ステイル「なっ!」

C.C.「やはり図星か」

ステイル「ち、違う!僕はあくまで彼女の管理と監視をしているだけだ!他意はない!」

C.C.「それは本当か?」ニヤッ

ステイル「くっ!相変わらず、たちの悪い女だ!」

土御門(……いつの間にか、話がすりかわってるにゃー。まぁ、気にする程でもないのかにゃー?)

上条(『禁書目録』命?なんだそりゃ?)


突然、騒ぎ始めた二人を尻目に、土御門と上条は内々でひとりごちた。
そうして、上条にとって、C.C.にとって、その後の人生において、大きな分岐点となった7月20日は過ぎていった……。



―――――――――――

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―――



第七学区・窓のないビル



アレイスター「ふむ、『魔女』の捕獲には失敗したが、予定通り、『幻想殺し』が彼女の影響を色濃く受けたようだ。
       本来ならば、彼女の体と力も研究したかったが、これはこれで、実にいい。
       『猟犬部隊』を餌にした甲斐があったというものだ」


赤い液体で満たされた、ビーカー状の巨大な生命維持装置。
その中で、逆さまに漂う存在、『学園都市』統括理事長アレイスター=クロウリーは一人考える。


アレイスター「『魔女』も目論見通りに、このままここに残るなら、いつでも手は打てる。
       私のプランも大きく短縮できそうだ」


誰もいないその場所で、アレイスターは一人不気味に笑っていた……。



―――――――――

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―――






『 第一章:邂逅編・契約編 終了 』




はい、とりあえずここまでです
やっと第一章が終わった……
とりあえず、『出会い』と『契約』はこんな感じです
文章力がない自分が悲しくなってきます……

いつものように、コメント、アドバイス等、頂けると幸いです

第二章の開始は、来週の休日にでもできたらいいんですが……
続きが気になる人が、もしいれば、あまり期待せずに待っていてください

それではー

そういや上条さんは自分がかけたギアスをそげぶ出来るの?

そこだよな
絶対遵守+ギアスキャンセラーとかマジ洒落にならん

この世界のインデックスさんに首輪はついてるんだろうか?

右手で発動中の左目触れたりしたらギアスなくなったりするんかな?

えーとですね、今後の物語で明かしていくと思いますが、事前にちょっとだけ説明します

>>128>>129
ご想像の通り、上条さんは自分でかけたギアスを打ち消すことができる設定です
独自解釈ですが、ギアスも異能の力といえばそうなので、いいかなと……
ただ、某オレンジ君とはちょっと仕様が異なる設定にするつもりです
まぁ、でも上条さんなら、むやみやたらと使うこともないだろうし、いいかなぁ、とも思いますが……

>>130
それも物語の中で明かされていきますので、期待して待って頂けると幸いです

>>131
C.C.から受け取った『王の力』及び『赤い鳥のような紋様』そのものは消せません
『契約』の証ですし、何より、消せたら物語が詰んでしまいますので……

あと、更新はやっぱり休日になりそうです
すみませんです……


こんばんわー
コメントしてくれた方々、ありがとうございます

それでは、これより第二章を投下します
禁書1巻とは随分かけ離れますが、ご了承ください

それでは投下します





       「 記憶はあらゆる物事の宝であり 守護者なり 」
                
                ―――マルクス・トゥッリウス・キケロ―――






数年前

イギリス・聖ジョージ大聖堂



C.C.「まったく、あの女狐め、よくも私のピザを……」


そう呟いたC.C.は、今、イギリス清教本拠地、聖ジョージ大聖堂にいた。
彼女は数十年前、現イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートとひょんなことで知り合い、その頃から、この場に身を寄せていた。
ここでは、最大主教の許可のもと、自身の思うがままの行動ができ、好きなだけピザも食べられた。
正にC.C.にとっての理想郷とも言える所だった。
……しかし、その傍ら、C.C.にかかる費用を国民の血税でまかなうわけにもいかず、ローラ自身の懐から多くの金が出されているのだが。


C.C.「何が、金がない、だ。あの女狐のことだ。人知れず貯めている金などいくらでもあるのだろう」


C.C.は一人、文句を言いながら、大聖堂内を歩く。
そのローラも、無償でC.C.に衣食住を提供しているわけではなかった。
彼女たちの間にはある『約束』があった。お互い、それに一応は従って行動している。
C.C.が守る約束の一つには、勝手にイギリスを出ない、というものもある。
許可をもらえば構わないから、大した拘束にはなっていないが、C.C.はここ十年程、イギリスを出てはいない。


C.C.「ふぅ、まぁいい。……さて、今日も『あいつ』は来ているのか?」


C.C.はそう言うと、大聖堂内の礼拝堂へと足を向けた。



―――――――――

――――――

―――



聖ジョージ大聖堂、その礼拝堂。神聖な空気をかもし出す空間。
そこには、金の刺繍が施された白い修道服に身を包み、腰まで届きそうな長く美しい銀髪をした少女が一人、神へ祈りを捧げていた。
その様子を黙ってC.C.は見つめていた。
その姿は、C.C.にあの『シスター』を思い起こさせるが、今となっては、別段、気にする程でもない。
そう考えながら、しばらくその様子を見ていたが……


??「来てるなら、まず先に声を掛けてほしいかも」

C.C.「私はお前の祈りの邪魔しないようにしているだけだ、インデックス」


その名を呼ばれ、少女は、インデックスは目を開きC.C.へ向き直った。


インデックス「おはよう、しーつー。今日は早いんだね」

C.C.「ああ、今日は早く起きた上に、朝食のピザが少なかったからな」

インデックス「そんなにピザばっかり、よく食べれるね?」

C.C.「……あれほどの量を食べるお前には言われたくないな」

インデックス「むぅ~!あっ、ご飯の話してたらお腹空いてきちゃったんだよ!」

C.C.「お前はほんとに変わらないな」


そう、例え、その記憶が何度消されようとも……



―――――――――

――――――

―――



7月21日

第七学区・学生寮



チュンチュン チュンチュン


上条「……うぅ!……暑い……」


上条はうだるような暑さのため、いつもより早く目が覚めた。
まったく、寝起きは最悪だ。体のあちこちも固まって痛い……。あれ?痛い?なんでだろ?
上条は自身の体の違和感を探るべく、辺りを見渡した。


上条「……あれ?ここどこだ?……風呂場?なんで?」


そう、上条は風呂場の浴槽の中にいた。丁寧にその中にちゃんと布団も敷いてある。


上条(……!あっ、そうだ。俺のベッドはC.C.が使ってんだった。
   ……にしても、昨日は色んなことがあったな。『魔術』やら『ギアス』やら、一体どうなってんだろ?
   科学の力では解明できそうにないな。……いや、ただ上条さんがバカなだけか?)ハァ


上条は昨日の出来事を振り返る。
C.C.と出会い、魔術師に遭遇し、『魔術』を知り、『ギアス』を使った。
自他共に認める不幸体質である上条にも、さすがに昨日はかなり刺激の強い、というより強すぎた一日だった。


上条「……さて、と。それじゃ、あいつらが来る前に、さっさと飯でも食うかー」



―――――――――

――――――

―――



数時間前



いつの間にか、7月20日は終わりを告げ、時刻は午前1時を刻んでいた。


神裂「それでは、私達は一旦失礼します。日が昇ったら、頃合いを見てまたここに伺います。よろしいですね?」

上条「ああ、わかったよ」

神裂「C.C.もそれで構いませんか?」

C.C.「ああ、あの女狐と連絡できるように準備だけしてくれればそれでいい」

神裂「わかりました。それではステイル、土御門、行きましょう」


神裂はそう言って立ち上がると、残り二人にもそれを促す。


ステイル「それじゃあ、失礼するよ」

土御門「それじゃあな、カミやん。とはいっても、俺は隣の部屋に行くだけだけどにゃー。
    ああ、あと俺は明日の朝は来ないぜい。野暮用があるからにゃー」


そう言って、部屋を出ようとする三人。


上条「ああ、またな」


上条は三人を見送る。そして、部屋には上条とC.C.だけが残された。



C.C.「さて、私はまた寝るぞ。このベットはこのまま私が使う。男は床で寝ろ」

上条「あ、ああ……」


元々、上条も当然C.C.にベットを使わせるつもりだったが、こうも当たり前のように言われると……。
そしてそのC.C.はというと、服を脱ぎだし……。んっ?服を、脱ぐ?……ッ!


上条「な、何してんだよ!C.C.!」

C.C.「何、とはなんだ?」

上条「なんで俺の目の前でいきなり服を脱ぐ!?」

C.C.「寝にくいし、血で汚れたからだが?……なんだ?お前、また照れているのか?呆れるほど初心な奴だな」フフフ


突然のC.C.の行動に、顔を赤らめ背ける上条に、C.C.はいやらしい笑みを浮かべた。
この男は、まったく女という生き物に慣れていないのだろうと、この時C.C.は思っていた。
しかし実際は、この男ほど数多くの女とフラグを建てまくる奴はいない……。
彼女がそれを知るのは、もう少し先のことだ。



上条「と、とにかく!そういう事を女の子が男の前でしちゃいけません!」

C.C.「まったくうるさい奴だ。私は別に気にしない。だからお前も気にするな」

上条「気にするっつーの!」

C.C.「黙れ。私は寝たいんだ」

上条「ぐっ!自分の都合ばかりッ!」

C.C.「おやすみ、当麻」

上条「……」


上条の話を遮り、そう一方的にC.C.は告げ、ベットに潜り込む。そして、すぐに聞こえ出す寝息。
上条は、はぁ、と溜め息をついて、その矛を収めた。
その場に残ったのは彼女が脱ぎ捨てた、彼女の血で汚れた服。
どうしたものか、と考えた末に、ひとまずそれを畳んで置いておいた。
すぐに洗濯した方がいいのだろうが、彼女の着る物を勝手にいじるのは躊躇われた。



上条「まったく、なんつーか、ほんと自分勝手な奴だよな……。
   あと、服くらい自分でちゃんと畳めよな……。はぁ、俺も寝るか……」


体力には割と自信のある上条も、さすがに今日は疲労困憊だった。
肉体的にも、精神的にも、ここまで大変だった日は久しぶりだった。
というより、あそこまで『死』を明確に意識したのは、生まれて初めての事だったかもしれない。
C.C.と出会ったからこそ巻き込まれた事件だったが、C.C.がいなければ、自分は今、こうして生きていなかっただろう。
だから、上条は彼女に感謝していた。


上条「……C.C.、ほんとありがとな」


最後に、上条は一人そう呟いて、自身の寝床はどこにしようか、と思案し始めた。そんな時……。


C.C.(……感謝されたのは、お前で二人目だよ……)


寝息を立てているはずの彼女の口元が、わずかに笑みを浮かべている事に、上条は気づかなかった……。



―――――――――

――――――

―――



そして、場面は7月21日の朝へと戻る。
朝食を食べようと、リビングにやって来た上条は、まずC.C.に声を掛けたが……。


上条「おーい、C.C!飯でも食お……ッ!」

C.C.「」スースー


上条は急に口を噤んだ。そう、彼女はまだ寝ていた。すやすやと気持ち良さそうに。
顔色を見ると、昨日よりは大分良くなったようだ。
神裂の言っていたように、彼女の驚異的な回復力が窺える。


上条(なんだ、まだ寝てんのか……。そういえば、顔色も大分良くなったみたいだな。ほんと安心した)

C.C.「……ぅん……ル……シュ……」


上条がそんな事を考えていたその時、C.C.の口から僅かに声が漏れた。


C.C.「……お……ピザ…が……こんな…に……」フフフッ ジュルリ

上条(……夢にまで、ピザが出てくるのか)


不敵な笑みをしていると思ったら、ピザという単語が聞き取れ、彼女は寝ながら唾を啜った。


上条(まったく、どんだけ好きなんだか。……昼はピザにでもするかー)ヤレヤレ


そう考えながら、上条はしばらくC.C.の側に座っていたのだった。



―――――――――

――――――

―――


数分後



上条(さて、今日の朝食はと……)


上条は朝食の準備をしようと、冷蔵庫に手をかけようとしたが、突如、その動きを止めた。


上条(あっ!しまった……。冷蔵庫の中身、全滅してたんだ……。どうしましょう?)トホホ


その事実に項垂れていた時、声が掛けられた。


C.C.「おい、そんなところで固まって、何をしている?」


突然、声を掛けられて後ろを向けば、いつの間にか起きて、服を着たC.C.が立っていた。
昨日のままの服なので、血塗れなのが不気味ではあるが……。


上条「んぁ?おお、起きたかC.C。おはようさん。てか、その服……」

C.C.「ああ、おはよう、当麻。これは仕方がないだろう?これしか持ってきていないんだ」


そう言うC.C.の服装は、今は血に濡れて赤く染まっているが、元はほぼ全体が白であった。
……それにしても、改めてみれば妙な服だ、と上条は思う。
所々に黒いバンドが付いてあり、それを服に止めれば、着ている人の自由を奪うことができるようだ。そう、それはまるで拘束衣。
なんでそんな服を……?と上条は疑問に思う。



C.C.「……なんだ、その顔は?」


C.C.は、急に黙って、怪訝な顔を向けてくる上条に尋ねる。


上条「いやー、お前が着ている服が随分と独特だったもので……」ハハハ…

C.C.「ああ、これは元は拘束衣なんだ。とは言っても、今着てるのはそのレプリカのようなものだがな」

上条「……何故にそんなファッションを?」

C.C「昔からのお気に入りなんだよ。昔からの、な」フッ

上条「……ふーん。まぁ、趣味は人それぞれだけどさ。でも、とりあえず洗濯しねーとな」

C.C「ああ、そうだな」

上条「洗濯してる間は、俺の服を着てくれよ。身長も同じくらいだから、サイズも大丈夫だろ?」


そう上条は言い、とりあえず、代わりの私服を出してC.C.に渡した。
身長も大体同じくらいなので、特に問題もなかった。
さて、残された問題は朝食だ。
どうしたものかと思い悩んだ上条は、まずC.C.に尋ねる。



上条「C.C.、朝食は何がいい?」

C.C「そんなの決まっているだろう?私は」

上条「ピザはだめだ」

C.C「……何故だ?」


上条はC.C.がそれを発する前に拒否した。
そのC.C.は眉を曇らせ、やや不機嫌な声で問う。
そして、やっぱり、と溜め息を吐きながら、上条はC.C.に語る。


上条「C.C、お前、日本でピザが一枚どんくらいするかわかってんのか?」

C.C「そんなもの知らん」

上条「はぁ、やっぱりか……。いいか、宅配ピザってのはな、日本では割と高額なものなんだよ。
   外国のそれよりずっとな。いつだったか、外国人が日本のピザが高すぎる、って騒いでたようだし。
   上条さんは、そんなにお金の余裕がないんですよ?」

C.C「それがどうした?私には関係ないぞ」


自分勝手、自己中心、傍若無人、傲慢無礼、ここに極まれり。
どこまでも自分勝手な物言いに、さすがに上条も声を荒げる。


上条「おい!ふざけんな!お前にはなくても、俺にはあるんだよ!誰の金で払うと思ってんだよ!
   たった一食で2000円、下手すりゃ3000円近くトバしたら、ひと月で餓死するくらい上条さんは貧乏なんだよ!」


事実、上条に金銭的な余裕はほとんどない。
親からの仕送りもあまり多くなく、貰える奨学金も、レベル0の無能力者である上条は極めて少ない。
だからこそ、彼はスーパーの特売という名の戦いを日夜繰り広げ、その生活費を抑えているのだ。
しかし、そんな彼の努力を知らない彼女は、ただ告げる。



C.C「金がないなら、稼げばいいだろう?」


言っている事はもっともな事なのだが、そう言う彼女はというと、働く事など一切しない。


上条「簡単に言ってんじゃねぇ!お金を手に入れるってのはな、すげぇ大変なんだよ!」

C.C「まったく、呆れた男だ。たかが一食分のピザを、そこまで渋るとはな」


その魂の叫びに、C.C.は溜め息をついて、冷たい視線を送る。


上条「……はぁ、わかったよ。なら昼飯はピザにしよう。元々そう考えてたからさ。それで妥協してくれ……」


度重なる彼女の傲慢な態度にも、ほんの少しずつ慣れが生じ始めた上条は、妥協案を提示する。
……しかし、こういった慣れが、妥協が、上条の生活に今後大きな影響を与えることになるのを、彼はこの時気づいていなかった。



C.C「……ふん、まぁいい。我慢してやろう。私は優しいからな」クククッ

上条「はいはい……。それで朝飯なんだけどさ……」


上条が、改めて朝食についてC.C.に尋ねようとしたまさにその時……。



ピンポーン!



上条「んっ?」


玄関から呼び鈴の音が響いた。
現在、時刻は午前7時30分。……神裂たちだろうか?
確かに、日が昇ったら来るとは言っていたが、朝食を食べた後少ししたくらいの時間に来るものだと思っていた。
……いささか早くはないだろうか?



ピンポーン!



それでも呼び鈴は鳴り、誰かの来訪を告げる。
これは下手すりゃ朝食抜きかな、と思いながらも、上条は玄関へと向かっていく。


上条「はいはいっと。今開けますよ!」


そうして上条はドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開けようとする。
……その先に、また新たな厄介ごとが待っていると知らずに。そして……



ガチャ!



上条「ってか、随分と早……い……?あれ?」





上条「……あの、どちら様?」



インデックス「私の名前はインデックスっていうんだよ。ここにしーつーがいるんだね?しーつーに会いに来たんだよ!」




上条「……はい?」


突如として現れた、銀色の美しい髪を腰まで伸ばし、白い修道服に身を包んだ少女。
名前をインデックスというらしい。『目次』?偽名だろうか……?
だが、今はそんな事はどうでもいい。


インデックス「……あれ?私の日本語、間違ってるかな?」


そう言う彼女は首を傾げ、上条へと疑問の眼差しを向ける。


上条「いや、言ってる事はわかりますが……。って、最近このパターン多いな……」


C.C.といい、ステイルといい、この少女といい、
何故こうも自分が日本語を理解できていないというような事をまず言うのだろうか?そんなにバカそうですか?
そもそもいきなり見知らぬ人が現れて、なんかよくわかんない事言われたら、誰だって呆然とするだろ、と心の中でひとりごちる上条。


インデックス「とにかく、しーつーに会わせて欲しいかも!」

上条「ああー、いや、そのだな……」


目の前で、C.C.に会わせろと言うこの少女は何者なのだろうか?
服装から察するに、あいつらと同じ魔術師なのだろうか?
上条は色々と考えるが、昨日の『猟犬部隊』の襲撃を考えると、迂闊にC.C.に会わせるのも気が引ける。
そうして悩んでいると、後ろから声が掛かる。



C.C.「おい?お前、何をして……ッ!」


そうして、彼女も玄関に近づいていく。そこで彼女は気づいた。
今まで上条の背中で見えなかった相手の姿は、自分もよく知る少女のものだということに。


インデックス「あっ!しーつーだ!」

C.C.「……インデックス?お前、どうしてここに?」


何故こんなところにいる?こいつはイギリスにいるはずでは?
C.C.は首を傾げながらも、彼女に尋ねるが……。


インデックス「しーつーに会いに来たんだよ!」

C.C.「会いに来た?何故?どうやって?」


そもそも、彼女はイギリスからそう簡単に出れる存在ではない。
彼女の特殊な記憶術、『完全記憶能力』によって、彼女は10万3000冊もの魔道書を記憶する『魔道書図書館』だ。
故に、その呼び名が『禁書目録』。
その頭に眠る知識を利用すれば、世界の常識、ルールを作り変える事もできるだろう。


インデックス「ふふん!それには語り尽くせないほどの壮大なドラマがあるんだよ!」


そう言って、無い胸を張る彼女。
上条はそれを横目で見つつ、C.C.にまず尋ねる。


上条「C.C.の知り合いか?」

C.C.「ああ、そうだが……」


さすがのC.C.も随分と歯切れが悪い。
いまいち状況を掴みきれていないようだ。


インデックス「それよりも、ずっと歩いてたからお腹が空いたんだよ。何か、お腹一杯食べさせてくれると嬉しいな」ニコッ

上条「こりゃ、なんつーか……不幸だ……」


これが、上条とインデックスの最初の出会いだった。



―――――――――

――――――

―――


はい、今日はここまでです
とりあえず、第二章の開始、そしてインデックスの登場です
明日も来れたら来たいですが、あまり期待しないで下さい……

いつものように、読んで下さった方がいれば、感想、アドバイスをよろしくお願いします

それではー

そういえば昔、ホッカルが建てたやる夫スレで「他人の記憶に偽の記憶を植え付けるギアス」や「やる夫がコードギアスの世界に行くようです」で「人やものを操るギアス」、「おもいこみをさせるギアス」(うろ覚え)があったけど、この話じゃそういうオリジナルギアスはでないの?

こんばんわ
量はあまり多くありませんが、これから投下します

>>158
一応、ギアスユーザー候補とオリジナル能力は考えてはいます
しかし、物語の展開上、出すか出さないか悩んでおりまして…
とりあえず、今のところ未定ということで…

それでは投下します


ステイル「で?これは一体どういうことなんだい?」

神裂「……」

インデックス「す、すている、なんかちょっと怖いんだよ……。か、かおりも何か言ってほしいかも……」


現在、時刻は午前9時。

あれから、上条、C.C.、インデックスの三人は軽い自己紹介を済ませ、まず朝食の代わりに、
一応は上条の非常食であるクラッカーを別け合って食べた。
その際、こんなものが朝食だと?私を舐めているのか?とC.C.が文句を言えば、
ううー、こんなものじゃ私のお腹は満たされないんだよ!と不満を言うインデックス。
そんな二人に溜め息をつきながらも、とりあえずインデックスから事情を聞いた。

それによると、まず彼女は突如としてイギリスから消えたC.C.を探しに来たということ。
彼女は元々、『聖ジョージ大聖堂』というところにいたらしいが、ある日を境に、同じようによくそこにいたはずのC.C.の姿を見なくなった。それを不思議に思っていたら、今度は自分の世話係、といっても本来は自分の監視役だが、自身は友達と思っているステイル=マグヌスと、
そしてよく遊びに来てくれる親友、神裂火織もイギリスから離れていることを代わりの世話係から聞いた。
次々といなくなる自身の友達の行方が気になり、不安になった彼女は、こっそりと調査し始めた。
幸い、彼女はその性格故に、イギリス清教内でも数多くの知り合いがいる。
色々と聞き回った結果、彼らはとある『機密』を調査、回収しに行ったということ。
インデックスは、C.C.がイギリス清教の『機密』であることを知っている数少ない人間の内の一人だ。ステイル、神裂もまた同様にだ。
だから、今回の一連の友人失踪事件は、何らかの理由で失踪したC.C.を、ステイル、神裂の両名が追ったことで起こったのだと確信した。

そして、それを最大主教ローラ=スチュアートにそれとなく尋ねると、返ってきた答えはイエス。
彼らは、脱走したC.C.を追って、『学園都市』に向かったらしい。
彼女には発信機を取り付けてあるから、見失うこともなく、すぐに三人とも帰って来るから何も心配はないと、
ローラはステイルたちが持つのと同様のその信号受信機を振りながら言うが、インデックスは不安だった。
彼女には『あの日』が刻々と近づいていたのだから。
このまま、彼ら三人に会えずに『あの日』を向かえたくはない。



そこからの彼女の行動は凄まじかった。
初めに、イギリス清教の自分と親しいシスター達に『学園都市』への行き方を聞き、できれば秘密裏に行かせてほしいとお願いした。
お願いされた者達は困惑したが、彼女は次第に涙声になり、仕舞いには泣きながら頼み込んできた。
彼女に涙を見せられて、断れる者はいなかった。
彼女の代わりに日本の学園都市近くのとある都市行きの飛行機のチケット、ビザを用意し、ある程度のお金と一緒に、彼女に渡した。
『学園都市』に入るためのIDはさすがに準備はできなかったが、そこは自分でなんとかすると彼女は言って、
協力してくれた彼女達に、涙を流しながらお礼を言った。
もし、これがバレれば、下手をすれば彼女達は破門、そうでなくとも大きな罰を受けるはず。
それを顧みずに、笑いながら協力してくれた彼女達に、心の底から感謝した。
さらに彼女は、最大主教ローラ=スチュアートが持っていたもう一台の信号受信機を、
彼女の楽しみである入浴中に探索、発見、これを奪取し、そのまま持ち去った。
そうして、彼女は『学園都市』に向けて旅立った。

その話を聞き終えた上条は、なんともすごい少女だ、と率直に思った。
友達を探しに、色んな危険を冒しながら、ここまで辿り着いたのだ。その行動力は桁外れだろう。
自分の隣に座るC.C.もさすがに唖然とし、彼女の金色の瞳が驚きの色に染まっていた。
そして、その話を聞き終えて数分後、ステイルと神裂がやってきて、今に至る。

上条たちに話したことと同様のことをステイルと神裂にも話すインデックス。話し終えたその直後……。



バチンッ!



なんとも痛々しい音が部屋に響いた。



神裂「……あなたは、あなたは何を考えているのですか!?」

インデックス「か、かおり……?」


その音は、神裂がインデックスの頬を打った音だった。
そして、神裂は声を荒げてインデックスに語る。


神裂「あなたは自分の立場がわかっているのですか!?あなたは多くの魔術師などからその身を狙われる存在なんですよ!?
   もしも、もしも襲撃でもされ、大事になったらどうするつもりだったのですか!?」

インデックス「それでも!それでも、私はしーつーに!かおりに、すているに会いたかったんだよ!
       ……私には、私にはもう時間がないから……。最後に、三人に会えないままなんて嫌だったんだよ!」


そう悲痛な声で叫ぶインデックスの目から、大粒の涙が零れた。


上条(時間がない……?)


一体どういうことだろう、と上条は思ったが、続く神裂の言葉にそれは掻き消された。


神裂「だとしても!そうだとしても!もし、あなたの身に何かあったら、私はどうすればいいんですか!?
   親友であるあなたが、私の手の届かないところに行ってしまったら!私は!私はッ!」


そう訴える神裂の目にも僅かに涙が滲む。


インデックス「かおり、かおりぃ……」

神裂「インデックス……」


そうして二人は抱き締め合う。互いの無事と再会に歓喜して。
互いの言葉は、互いの涙は、互いが想い合えばこそのもの。
二人の絆は形ある、そして美しい、確かなものなのだろう。



―――――――――

――――――

―――



神裂「お見苦しい所を見せてしまいましたね……」


数分後、落ち着きを取り戻した神裂はまず上条たちに詫びた。


上条「いや、そんなことないさ。ほんとに仲良いんだな」


上条は先ほどの二人の様子を見て、ある種の感動にも似た気持ちを抱いていた。
ここまでお互いを心配できる関係など、そう簡単には作れないだろう。
さらに横目で見れば、脇でステイルが甲斐甲斐しくインデックスの世話を焼いている。
彼もまた、彼女と強い絆で結ばれているのだろうと上条は思った。
この時点で、上条の心にあった魔術師達への疑念、疑惑の感情は綺麗に氷解していたのだった。


C.C.「ふふふ、ここまでくると、ある種の依存にも見えるがな」

神裂「べ、別に彼女に依存しているわけでは……」

C.C.「ほう?だが、そんな赤い眼で言われても、説得力がないな」ニヤニヤ

神裂「ッ!……べ、別に良いではありませんか!大切な親友なんですから!」

C.C.「そうだな。久しぶりにお前の泣き顔も見れたからな」フフフ

神裂「ぐっ!貴女という人は……」


からかうC.C.。それに翻弄される神裂。
その会話に、上条は、やれやれ、と言いながら入った。


上条「まぁ、いいことじゃないか。お互いに心配してのものだしさ。
   歳もけっこう離れてるみたいだし、神裂から言わせれば、妹か子供を見るような心境なんだろ?」


上条がそう言ったその瞬間、部屋の空気が一気に凍りついた。



ビタリと動きを止めるステイル。目を大きく見開いて固まるインデックス。何やらニヤニヤと笑うC.C.。
……そして、俯いて肩を震わせている神裂。


上条「……あれ?俺、なんかマズイこと言った?」


上条がそう疑問の声を漏らすと、俯いている神裂が僅かに声を震わせながら尋ねてきた。


神裂「……あなたは、あなたは私が何歳に見えているのですか?」

上条「えっ?」

神裂「ですから、私が何歳くらいに見えるのですか、と聞いているのです」

上条「いや、ええーと、その……」

神裂「早く答えなさい」

上条「は、はい!」


口調こそ丁寧なものの、普段の物腰柔らかそうな態度とは打って変わって、有無を言わさぬ様子で尋ねてくる神裂。
上条は背筋が凍る思いをしたが、ここで下手な嘘をつけば、何をされるかわからないと思い、素直に自分の思うままを告げた。



上条「ええーと、俺の倍くらい?」

神裂「私は18です」

上条「…………………………は?」グリグリ

神裂「何故そこで信じられない顔をするのです?その耳掃除のジェスチャーは何ですか?」


上条は耳を疑った。
この目の前の女が18歳、だと?


上条「……うっそだぁ!そりゃいくらなんでもサバ読みすぎだろー。
   お前、どう考えたって結婚適齢期過ぎちゃってるようにしか見えなひいいぃぃぃっ!?」


言い終わる前に、超高速の神裂のパンチが上条の顔面のすぐ横を突き抜けた。
身構えることすらできず、ぶるぶると震える上条に、神裂はいつも通りの平静な顔のまま言う。


神裂「18です」

上条「18ですよね!女子学生なのに攻略可能なアダルティ!神裂センパーイ!」


がちがちと歯を鳴らしながら必死に笑顔を作る上条に、神裂はものすごく疲れたような溜め息をついて、その拳を引っ込めたのだった。



―――――――――

――――――

―――



年齢詐称騒ぎがひと段落して、上条は先ほど自分が疑問に思ったことをふと尋ねた。


上条「そういえばさ、さっきインデックスが言ってたけど、もう時間がないってどういう意味なんだ?」


上条のその問いかけに、またも室内は沈黙に包まれる。
しかし、今回のそれは、とても重く、暗い空気を纏ったものであった。


上条「ど、どうしたんだよ……?」


上条は再度、彼らに尋ねる。
そして、その問いかけに、ステイルが不機嫌さを滲ませながら言った。


ステイル「上条当麻、君は何か勘違いしていないかい?僕らは君の仲間でもなんでもない。
     確かにC.C.の件では一時的な協力関係を結んだが、あくまでもその件だけだ。
     それ以外のことは、一切こちらの事情に首を突っ込まないでほしいね」

上条「な、なんだよ、いきなり……」


突如として、その態度を硬化させるステイルに困惑する上条。
確かに、彼の言うことはわかる。
しかし、彼の言葉は自分を遠ざけるというより、何かへの苛立ちをぶつけているように思える。
そのように考えていると、今度は神裂が声を掛けてきた。



神裂「……上条当麻。今回のC.C.の件では、あなたに大きな借りができてしまいました。
   本当に感謝しています。私個人としても、今後、何らかの形で受けた恩を返したいと思っています。
   ……ですが、これ以上、私達イギリス清教の、『必要悪の教会』の内部事情に関わらないほうがいいでしょう。
   これは、あなたの身のためでもあります」

上条「俺の、身のため?」

神裂「はい。私達『必要悪の協会』には、敵対魔術結社、及び敵対魔術師が数多く存在します。
   その私たちと繋がりを持つということは、彼らに狙われる可能性も生じるということです」

上条「……」

神裂「さらに、今回、あなたが出会ったC.C.とインデックスは、私達『必要悪の教会』でも機密とされるほど重要な存在なのです。
   彼女たちを狙う輩が、彼女たちと接点を持つあなたを狙わないとは言い切れません。
   だから、あなたはこれ以上、私達に関わってはいけません」


そう自分に伝える神裂の口調から感じるのは、彼女の善意のみ。
彼女は本当に、自分の身を案じてこう言ってくれているのだろう。
……だが。


上条「……神裂、お前がそう言って俺を心配してくれんのは嬉しいよ。ありがとな。
   ……でもさ、俺は目の前で困っている人を黙って見過ごせるような人間じゃないんだよ。
   もし、インデックスが何か大きな問題を抱えているのなら、それを取り除く手伝いをしたいんだよ。ただ、それだけだ。
   例え、自分に危険が降りかかろうともさ」


僅かに笑いながらそう告げる上条のその言葉に目を丸くし、唖然とする神裂。
この少年は、他者を救うためならその身を顧みないのか?会ったばかりの赤の他人の為に、その命を賭けるというのか?
自分のように『力ある者』ならば話は変わるが、彼は今まで見てきた限り、ただの一般人に過ぎない。
一体、彼はどういう人間なのだろうか?そう神裂は疑問に思っていると……



ステイル「おい、いい加減にしろよ、能力者。
     ……君は、彼女の事情を、その身に抱えている絶望を知らないから、そんなことが言えるんだよ」

上条「だったら、まずその事情を教えてくれよ」

ステイル「部外者に教えることなど何一つない。これは僕らの問題だ」

上条「俺はもうこいつらと知り合っちまったんだ。無視は出来ない」


イライラを募らせるステイルと、断固として退こうとしない上条。
その二人を物凄く困った顔をして、オロオロと見るインデックス。
もう取っ組み合いでも起こりそうだという雰囲気になったその時。


C.C.「その娘は、あと一週間もすれば、全ての記憶を失ってしまうんだよ」


突如、二人の言い争いに割り込んだ声。
その言葉を吐いたC.C.は、ヤレヤレといった顔をして、二人を見ている。


上条「……それ、どういうことだよ?」

ステイル「C.C.!君は何を!」

C.C.「いちいち騒ぐな。この男はもうすでに私やお前たちと深く関わっているんだよ。……お前たちが思う以上にな。
   そして、おそらくこれからも関わっていくだろう。なら、前もって事情を知っていた方がいいこともある。
   それに、ここで事情を話したところで一体何が変わる?この男が何かするとでも?」

ステイル「確かに、そうだが……」


彼女の言う通りではある。
インデックスの事情を話したところで、この男には何も出来ないし、無害であるのはほぼ確実だろう。
だがそれでも、彼女の最大の悩みであり、避けられない悲しい運命を、彼女の前で刺激されるのは我慢できなかった。
そのステイルの心情を汲み取ったのか、彼女は、インデックスは微笑みながら語る。


インデックス「すている、私は大丈夫だから……。もう、とうまとけんかしないで?」

ステイル「……」


そう言う彼女のその微笑は、どこか悲しげなものだった。
それを見ながら、上条は幾分か遠慮がちに尋ねる。



上条「一週間後に記憶を失うって、どういうことだよ……?なんでそんなことがわかんだよ……?」

C.C.「簡単なことだ。インデックスの記憶を消すのはこいつらだからな」


そうC.C.が告げると、ステイルと神裂の二人は押し黙り、さっきよりも一層と陰鬱な雰囲気を醸し出す。
その顔色も青褪めているようにも見える。
インデックスもそんな二人を見て、口元をぎゅっと引き結んで、何かに耐えているようだ。


上条「な、なんだって……?な、なんでそんなことするんだよ!」

C.C.「そうしなければ、この娘は死んでしまうんだよ」

上条「……は?」


意味が、わからない。そうしなければ、インデックスが死ぬ?一体、何を言っているんだ?


C.C.「何を言っているのかわからないといった顔だな。まぁ、当然といえば当然か」

上条「……どういうことか、説明してくれ」

C.C.「それを話すのは、私よりこいつらの方が適任だろう。なぁ、神裂火織、ステイル=マグヌス?」


C.C.が声を掛けた二人を、上条は改めて見る。
二人はしばし重苦しい沈黙を保ったままだったが、しばらくして、ついにその沈黙を破り、神裂は語り始めた。



神裂「……彼女は、インデックスは、その頭の中に10万3000冊もの『魔道書』を記憶している、『魔道書図書館』なんです」

上条「魔道書、図書館?」

神裂「はい。……あなたは、『完全記憶能力』という言葉に聞き覚えはありますか?」

上条「『完全記憶能力』?」

神裂「『完全記憶能力』というのは、『一度見たものを一瞬で覚えて、一字一句を永遠に記憶し続ける能力』だそうです。
   簡単に言ってしまえば、人間スキャナのようなものです」


そう語る神裂のその声はひどく弱々しい。
そんな神裂に代わり、ステイルが続ける。


ステイル「……彼女のそれは僕達みたいな魔術でも、君達みたいな超能力でもなく、単なる体質みたいでね。
     それによって、彼女の頭には、大英博物館、ルーブル美術館、バチカン図書館、モン=サン=ミシェル修道院……。
     これら世界各地に封印され持ち出す事のできない『魔道書』を、その目で盗み出し保管しているんだよ。
     ……それ故に、『禁書目録』、『魔道書図書館』などと呼ばれているんだ。
     尤も、彼女自身には魔力を練る力がないから無害ではあるけどね」


ステイルはそう吐き捨てるように語った。
……そして、それに対する上条は言葉を失った。
『魔道書』?『禁書目録』?『完全記憶能力』?普通はそう簡単に信じられることではない。
……しかし、信じないわけにはいかなかった。
何故なら、それを語る彼らの顔が、あまりにも苦渋に満ちていて、まるで血を吐くかのように紡いだ言葉だったからだ。
そして、彼らの話は尚も続く。



神裂「……ですが、その一方でインデックスのスペックは凡人と変わりません」

上条「……?」

神裂「彼女の脳の85%以上は、10万3000冊の『魔道書』に埋め尽くされてしまっているんですよ。
   ……残る15%をかろうじて動かしている状態でさえ、凡人とほぼ変わらないんです」


上条は考える。
インデックスは、脳の85%以上を『魔道書』なんていう怪しいモノに埋め尽くされて、
残った15%をなんとか利用して、こうして過ごしている……?


上条「……そうだとしても、それがなんで、インデックスが死ぬことに繋がんだよ?
   なんで記憶を消す必要があるんだよ?お前、残る15%でも、俺達と同じだって……」

神裂「はい。ですが、この子には私達と違うモノがあります」

上条「……『完全記憶能力』」

神裂「……その通りです。彼女はその体質のせいで、『忘れる』ということができません。
   街路樹の葉っぱの数から、ラッシュアワーで溢れる一人一人の顔、雨粒の一滴一滴の形まで……。
   彼女の頭は、そんなどうでも良いゴミ記憶であっという間に埋め尽くされてしまうんですよ……。
   元々、残る15%しか脳を使えない彼女にとって、それは致命的なんです。
   だから、自分で『忘れる』ことのできない彼女が生きていくには、誰かの力を借りて、『忘れる』以外に道はないんです。
   ……そしてそれは、きっかり一年周期で行われます。それがちょうど一週間後、7月28日の午前0時なんです……」


そこまで言って神裂は口を閉ざした。
その顔は今にも泣き出しそうで、苦痛に歪んでいる。
すぐ傍にいるステイルも口を固く結び、その拳は血が滴り落ちるのではないかというほど強く握り締められている。



上条「そ、そんな……。ほ、他に方法は!?」


そう叫ぶ上条だが、神裂は首を横に振る。


神裂「……私達も、色々な方法を試しました。……それでも、ダメだったんです。
   私達では、彼女の頭の中にある10万3000冊の破壊は不可能です。
   『魔道書』の原典は異端審問官でも処分できませんから。
   だから、残る15%、彼女の『思い出』を抉り取る事でしか、私達は彼女の頭の空き容量を増やす事はできませんでした……」


なんということだろう。こんなことがあっていいのか?
『魔道書』なんていう怪しげなモノを覚えさせられ、それ故に記憶までもが消される……。
たった一年で、家族や友人といった存在、楽しかった事、嬉しかった事、悲しかった事、辛かった事、笑った事、泣いた事……。
過ごしてきた日々全てが無に帰る……。
それは本人にとってどれほどの絶望なのだろうか。
そして周りの人間にとって、いかに辛く、悲しいのだろうか。
……だから、簡単には諦められない。諦められるはずがない。


上条「……なら、俺達ならどうだ?お前達、魔術側で無理ってんなら、俺達、科学側なら?」

神裂「……そう、思っていた時期もあったんですけどね。
   絶対と信じていた自分達の世界では、インデックスを救う事ができない。
   ならば、ワラをも掴む気持ちでそう考えた事もありました。
   ……ですが、だからといって科学側に彼女を渡す事は、簡単にはできません」

上条「な、なんでだよ!」

神裂「まず、彼女は『禁書目録』です。そう簡単にイギリス清教の下からは出られません。
   イギリス清教は『学園都市』と友好関係にはありますが、私達の世界とは対極に位置するあなた方に、
   彼女の身を預けられるほど、私達はお互いを信用しきってはいませんから。
   ……それに、魔術側にできなかったことが、科学側にできるはずがないという自負もあるんでしょうね。
   得体の知れない薬を打って、体の中をメスで切り刻んで……。
   そんな雑な方法では、この子の寿命を削るだけだと思ってしまうんです」

上条「そこは『上』にお前らが掛け合えよ!それに神裂、お前、ちょっと科学をなめてるぞ?
   何もそんな極端な方法で治療するわけじゃねぇよ。
   お前は記憶を殺すって簡単に言ってるけど、そもそも、記憶喪失ってのが何なのか、わかってんのかよ?」


その問いに対する答えはなかった。返答に詰まる、というのが正しいようだが。
その様子を見ながら、上条は床に散らばる『記録術』に関する教科書を取り寄せた。



上条はパラパラとページをめくりながら話す。


上条「えっとな、一言で記憶喪失っつっても色々ある。老化、まぁボケもそうだし、アルコール、アルツハイマー病、TIA。
   ハロセン、フェンタニールなんかの全身麻酔とか、ベンゾジアゼピン類なんかの薬の副作用で記憶を失うこともあるみたいだな」

神裂「?えーと……?」

上条「簡単に言えば、人の記憶を『医学的』に奪う方法なんていくらでもある、って訳だよ。
   お前達にできない方法で、10万3000冊を抉り取る方法がさ」


しかし、これは『記憶を取り除く』というより『脳細胞を傷つける』ようなものだ。
上条は敢えてそれを告げなかった。魔術側でできなかったことなら、科学側で何とかしたい、何とかできるという想い故に。
ひとまずは、彼らを納得させたかった。


上条「それに、ここ『学園都市』には『読心能力』やら『洗脳能力』なんていう『心を操る能力者』なんてのもたくさんいるし、
   そういう研究をやってる機関もゴロゴロある。常盤台には触っただけで人の記憶を抜き取れる超能力者だっているらしい」


そう語る上条だが、そこにステイルが割り込む。


ステイル「例えそうだとしても、君達にこの子を預けることはできないね。君が言うそれは『賭け』だろう?
     それは『無謀』とも変換できるんじゃないのか?それに、『魔道書』はとても危険なんだ。
     宗教観の薄いこの国の住民が一冊でも見てしまったら、廃人コースは確定だよ。
     ……そして僕達には、少なくとも、僕達には彼女の命を繋ぎ止めてきた信頼と実績があるんだ」

上条「だからどうした!可能性なら確かにある!目の前にある、僅かな可能性にでも縋ってみようとは思わねぇのかよッ!?」

ステイル「君はまだ、彼女の苦しむ姿を見てないからそう言えるんだ。
     ……これから数日の内に、彼女に予兆となる強烈な頭痛が現れる。
     というより、もういつ現れてもおかしくない。
     激痛でもう目も開けられないような、寝たきりの状態が続くんだ。
     そんな彼女に、得体の知れない薬、得体の知れない能力、得体の知れない治療、そんなモノを試すのか?試せるのか?
     それができたら君は大したバケモノだよ。
     ……僕はやらせない。彼女の体をいじくり回し、薬漬けにするなんて認めない!」

上条「……」



そう叫ぶステイルに、上条はすぐには言い返せなかった。
そのインデックスの頭痛がどれほどのものかはまだわからないが、彼女にとっては耐え難い苦痛なのだろう。
それに、ステイルの言う通り、上条が話したことは全て何の確証もない『賭け』だからだ。
もし失敗すればどうなるか……。考えたくもない。
……でも、それでも。


上条「……確かに、お前の言う通りかも知れない。
   でも、そんな理屈や理論を抜いて、この質問にだけは答えてくれ。
   ……お前は、お前達はインデックスを、本当の意味で助けたくないのかよ?」

ステイル・神裂「ッ!」

上条「インデックスの記憶を奪わなくても済む、その先ずっと笑って過ごしていられる、
   そんな誰もが望む最っ高に最っ高なハッピーエンドってヤツが、欲しくないのかよ!?」


そう言い放った上条の言葉で、二人の吐息は停止した。
自身の言葉に何を思っているのかはわからないが、確かにその心には響いたようだ。

……そして、その脇では、インデックスがポロポロと涙を零していた。


インデックス「……私は、記憶を失わなくても済むの?」

上条「ああ、俺達が絶対になんとかしてやる」

インデックス「……しーつーも、かおりも、すているも、忘れなくても済むの?」

上条「ああ、もちろんだ。これからは、ずっと死ぬまで覚えていられる」

インデックス「……もう…みん、な…悲し、まなくて、済むの?」

上条「ああ、みんなでずっと笑っていられるよ」

インデックス「うぅ…うわぁああああああああああん!」


彼女は、インデックスは泣いた。みっともないくらい大声で。
神裂もそんなインデックスを抱きしめ、涙を零す。
ステイルは目を瞑って、天井を見上げるような格好をしている。
そして今まで傍らで黙っていたC.C.の顔にも、いつもよりも穏やかな笑みが広がっていた。



―――――――――

――――――

―――


はい、今回はここまでです
感想、アドバイスなど頂けたら嬉しいです
あと、途中、もの凄く見づらい箇所があり、申し訳ございませんでした……orz

次回の投下ですが、来週からテスト勉強やらでかなり忙しくなるので、来週は来れるかわかりません……
読んで下さっている方々には申し訳ありませんが、ご了承ください……

バイバイ、8単位!してきたわ

とりあえず生存報告と再開について

えーと、テストが月曜日で終わるので、火曜日には投下できると思います
しかも月曜日が一番重いんですよね…
それが終わるまで少々お待ちください

>>180
自分も必修科目で随分とやらかしました…orz

こんばんわー
昨日はちょっと忙しく、投下できませんでした、すみません……orz

テスト終わって大いにワロタwwwwww

ワロタ……


それでは、気を取り直して、投下します


数分後、ようやく落ち着きを取り戻したインデックスが、泣き腫らした目をしたまま、
目をグシグシと擦って、上条に近づく。


インデックス「……とうま、ほんとにありがとね。私のためにそこまで言ってくれて。
       ……私も、諦めない。諦めたくない!だから、可能性があるなら、それを試してみたいんだよ」

上条「ああ、わかった。俺も科学側からできる限りのことをやる。期待して待っててくれ」


彼は、上条は、ここで弱気なところなど一切出さない。
自分は『偽善使い』。何の確証もなくとも、目の前にいる女の子を不安にさせ、悲しませるようなことはしない。
嘘なら、彼女の前ではそれを貫き通す。そして、自分は影でそれを本当にするように努力すればいい。

そう上条は思いながら、インデックスの肩に右手を置いた。そう、右手を。
……少し間を置いた後。



ストンと彼女の服が床に落ちた。



上条「……え?」

ステイル「」

神裂「」

C.C.「」


皆、言葉を失った。そこには、完全無欠に素っ裸のインデックス。
彼女は目を擦っていたため、自分では気づいていない。


インデックス「……あれ、皆、どうしたの?」


突如として、黙り込んだ皆を不思議に思ったインデックス。
……それにしても、何かさっきよりやたらと涼しい、といか風通しがいい気がする。なんでだろう?
目を擦るのをやめ、ふと目線を下にやると、そこには自身の肌が見える。ついでに自身の控え目な胸も。


インデックス「……………………………ッ!」


彼女の絶叫が部屋に響いた。



―――――――――

――――――

―――



神裂「……それで、あなたは一体何者なのですか?
防御機能に関しては最高を誇る『歩く教会』を触れただけで壊してしまうなんて……。
正直、まだ信じられません」

上条「ははは……はぁ……」


あの後、まずインデックスは近くにいた上条に思いっ切り噛み付いた。
神裂は上条のベッドから高速で毛布を引き寄せ、インデックスに駆け寄り、それで包んだ。その際、上条を突き飛ばして。
ステイルはそんな様子をしばし呆然と見ていたが、我に返ると、上条に向き直り、何かの呪文のような言葉を紡ぎ始めた。
結局、それは神裂に止められたが、もしそうならなかったら、大変な事になってた気がする……。
そして、C.C.はそんな様子を一人だけニヤニヤ笑いながら見ていた。


インデックス「うぅ!人の裸を見ておいて、なんで溜め息なんてつくんだよう!」

上条「あっ!いえ!その、なんと申しましょうか……。
   私も大変ドギマギしたというか、青春というか……。と、とにかく悪かった……」


インデックスは毛布で包まったまま、上条をジトッと睨んでいる。
そうしながら、彼女はは安全ピンを使い、服の形だけはなんとか直す作業をしているようだ。
『歩く教会』は、その布地を縫っている糸という糸が綺麗に解け、ただの布地に逆戻りしていた。


インデックス「ふん!バカにして!」

ステイル「……まだ、こうして消し炭になっていないだけありがたく思うんだね」


ステイルはドスを利かせた声で話したが、それに対してC.C.が笑いながら言う。


C.C.「ふふふ、お前にとってもラッキーだったんじゃないのか?」

ステイル「なっ!何を言う!僕はただ、彼女の『歩く教会』を壊したことに!」

C.C.「なら何故、顔を赤くする?童貞坊や?」ニヤッ

ステイル「黙れッ!この『魔女』がッ!」


騒ぐ二人を見て、神裂は、はぁと溜め息をついた。
そして、気を取り直して、もう一度上条に問いかける。



神裂「それで、上条当麻、あなたの力は一体……?」

上条「えーと、俺の力っていうかさ、この右手。
こいつで触ると、それが異能の力ならなんだって打ち消しちまうんだ。
俺はこいつを『幻想殺し』って呼んでる」

神裂「『幻想殺し』……」

上条「ちなみに、俺のこいつは生まれた時からあるもんで、『身体検査』でも感知されない。
   まぁ、だから、こんな右手があっても、上条さんはレベル0の無能力者なんですよね……」

神裂「……にわかには信じがたい話ですが、あなたのその右手。
   それがインデックスの『歩く教会』を破壊したのは紛れもない事実みたいですね。」


『歩く教会』
トリノ聖骸布、ロンギヌスの槍に貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたものであり、その強度は法王級。
物理、魔術を問わず、全ての攻撃を受け流し、吸収する最高の防御結界。
それを触れただけで破壊した上条の右手に、神裂だけでなく、そこにいた誰もが驚きを隠せなかった。
自分達、魔術師にとってはまさに最悪の相手だ。



上条「その『歩く教会』ってのは、そんなに凄いの?」

神裂「はい。私はロンドンでも十指に入る魔術師ですが、その私でもあれを破壊するのは難しいでしょう」

上条「マジですか……」


そう考えると、この男の、上条当麻の右手はなんと恐ろしいモノなのだろう。
ただの学生だと思っていたが、とんでもない話だ。


神裂「神浄の討魔、ですか……」

上条「んっ?なんか言ったか?」

神裂「いえ、何も……」


こんな力を持つ少年が、今後、どのような人生を歩むのか、神裂は少しばかり心配になったのだった。



―――――――――

――――――

―――



数分後。



インデックスの『歩く教会』は何十本もの安全ピンで留められ、なんとか形だけは取り戻していた。
その様を見てインデックスがあからさまに落ち込んでいたが、仕方なく、彼女は今、それを着ている。
そして、そうこうしていると、C.C.から声が掛けられた。


C.C.「それで?インデックスの記憶に関して、具体的にはどうするんだ?」

上条「うっ!そ、それはだな!」


あれから少しして、皆がようやく落ち着きを取り戻した頃。
まずC.C.は上条に具体的な方法について尋ねた。
しかし、彼から漏れた声は、何とも頼りないというか、痛いところを突かれたといった感じであった。


ステイル「……まさかとは思うけど、あれだけのことをのたまっておきながら、何も考えがないなんて言わないだろうね?
     実際にやるかどうかは置いておいて、僕もとりあえずは君の話を聞いてみたくなったんだけど。
     ……もし、さっきのが、行き当たりばったりで、何の計画性もない上でチラつかせただけの希望だ、なんて言ったら……。
     燃やすぞ?」

神裂「……私の『七天七刀』の錆にしますよ?」

インデックス「わわ!二人とも、ちょっと怖いかも……」


そんな上条に凄みを利かせる二人。
そんな二人の様子に冷や汗を流しつつも、上条は考える。
それに彼も自分が言った事を実現しようと、実現できると思っている。
いい加減な気持ちなんかでは断じてない。


上条「……と、とりあえずは、今すぐにでも情報収集、というか、そっちの道に詳しそうな人に話を聞かなきゃいけないな。
   俺みたいな脳医学に関してまるっきりのド素人じゃ、話にならない事も多い。……時間もないから、さっさとやっちまおう」

そう上条は言うと、家の電話と電話帳を引っ張り、受話器を手に取った。



上条(さて、まずは誰に聞こうかね?やっぱそっちの道に詳しい医者とか研究者か?
   とはいっても、どう話したらいいもんかね……。うーん、まずは俺の知り合いの方がいいか?
   インデックスの事をペラペラ喋るわけにもいかねーし。
   もしばれても、そこら辺が信頼できて、尚且つそっちの知識がありそうな人っていうと、かなり限られそうだな……)

うーん、と悩む上条。
その時、部屋の片隅に置かれていた、自分の学生鞄が目に留まった。


上条「学校……!そうだ!『あの人』に聞こう!」


そう言うと上条はひとまず電話帳をほっぽり出し、自分の高校の連絡網を取り出して、ある番号へと電話を掛ける。


ステイル「一体、誰に掛けているんだい?」

上条「俺の学校の先生、というか俺の担任にだ。あの人なら、教師だし、そっちの方面に知識があるかもしれない。
   それに、スゲー優しくて、気も利く人だ。インデックスの事情がもしバレちまっても、上手くやってくれるはずだ。
   相談相手にはもってこいだよ」



相手を呼び出すコール音が続く。
そして6回目のコールの後、ブツッという音と共に電話が繋がった。


小萌『はーい。月詠ですー』

上条「先生!俺です!上条です!」

小萌『あれ?上条ちゃんですか?先生に電話なんて、一体どうしたんです?』

上条「えーとですね、ちょっと『記憶術』に関して質問したいことがあって……」

小萌『か、上条ちゃんが勉強の質問を!?やっと勉強の大切さがわかってくれたんですね!
   ……うぅ~、先生は今、ものすごく感動してます!』


興奮気味にそう言う小萌に、上条は妙な罪悪感を感じながらも尋ねた。


上条「えーとですね、人間の記憶に関する質問なんですけど。
   ある特定の、それも脳に深く刻まれた記憶だけを狙って、それを消すことってできますか?
   例えば、なんか強いトラウマかなんかで忘れられない記憶を消したいって時、医学的に、それだけを都合良く消せますか?」


10万3000冊の『魔道書』さえ消せれば、彼女は普通に生きていける。
大切な『思い出』を消すことなく、ずっと……。


上条「……んっ?あれ?」


だが、そこまで考えた時、上条はある違和感を覚えた。
それが何かはっきりしないが、妙に頭に引っかかる、確かな違和感を。
その違和感が何かを考えている時、小萌から答えが返ってきた。



小萌『うーん、医学的に記憶を消す方法は色々あるんですけど、それを故意にやるのはそもそも危険ですねー。
   まず、医学的に記憶を消すというのは、簡単に言えば、脳細胞を傷つけることなんですよー。
   それによって脳や他の記憶に影響が出ないとは言い切れません。
   そういうことなら、むしろ『精神感応能力』、『読心能力』系の能力者の方がいいかもしれませんねー。
   例えば、常盤台中学の超能力者、『心理掌握』こと食蜂操祈さんとかならあるいは』


『心理掌握』
自分も名前くらいは聞いた事があるが、能力者に頼るのは最後の手段だろう。
無闇に、インデックスの頭を覗くのは、インデックスにも、覗いた本人にも、どんな影響が出るかわからない。


上条「……あー、そうですか。……えーと、じゃあ、『完全記憶能力』ってあるじゃないですか?
   それって、どういったモノなんですかね?」

小萌『『完全記憶能力』ですか?
   えーとですね、『完全記憶能力』とは簡単に言えば、一度見たものを決して忘れない能力のことですねー。
   どんなゴミ記憶、例えば、去年のスーパーの特売チラシとかも忘れることができないそうですー。
   知的障害者や自閉性障害を持つ人が、稀に常人をはるかに越えた能力を発揮する、『サヴァン症候群』などで見られるんですよー。
   『映像記憶』、『直観像記憶』とも言いますねー』

上条「なるほど。……うーん、じゃあ、忘れることができない人達ってどういう風に生きているんですかね?」

小萌『というと?』

上条「いや、忘れることができないなら、普通に過ごしてたら、いつの日か脳がパンクしちゃうんじゃ……ッ!」



突如、言葉を切った上条。ここで彼は気づいた。先ほど、自分が感じた違和感の正体に。
そう、『完全記憶能力』を持つ人間は、どんなゴミ記憶も忘れることができない。
そうだとしたら……。


彼らの寿命はどうなってしまうんだ?


そう、仮に10万3000冊の『魔道書』だけを上手く取り除けたとしても、
普通に過ごした1年で、脳の15%も使ってしまえば、インデックスの余命は6、7年ってことか……?
それじゃあ『完全記憶能力』を持つ人は6、7歳で死んじまうって事なのか……?そんな不幸じみた体質なのか……?
いや、待て。そもそも、1年で脳を15%も使うなんて、誰が言ったんだ……?

そう考えていると、小萌がヤレヤレといった感じで答えた。


小萌『あのですね、上条ちゃん。いくら『完全記憶能力』があったとしても、覚え過ぎて脳がパンクするなんて事はありませんよ?
   彼らは100年の記憶を墓まで抱えて持っていくだけです。人間の脳は元々140年分の記憶が可能ですからー』


その言葉を聞いて、上条の心臓は、ドグンと大きく脈打った。



上条「そ、それでも、もし仮に、図書館にある本を全部記憶しちまったりとかしたら……?」

小萌『はぁ……、上条ちゃん『記憶術』は落第ですねー。そもそも人の記憶とは一つではないんです。
   言葉や知識を司る『意味記憶』。運動の慣れなんかを司る『手続記憶』。
   そして思い出を司る『エピソード記憶』ってな具合に色々あるんですよー』

上条「えーと、つまり?」

小萌『つまりですね、それぞれの記憶は容れ物が違うんです。
   だからどれだけ本を覚えて『意味記憶』を増やした所で、思い出を司る『エピソード記憶』が圧迫されるなんて事は、
   脳医学上絶対にありえませんー』

上条「じゃ、じゃあ、一年間だけで脳を15%も使って、たった6、7歳で死ぬなんてこともありえない……?」

小萌『当たり前ですよー。そんな事、誰が言ったんですー?』


頭に雷が落ちたかのような衝撃が上条の体に走った。電話もつい落としてしまう。
だが、今の上条には、そんな事を気にする余裕はなかった。


インデックスの『完全記憶能力』は人の命を脅かすようなモノではなかったのだ。


ならば何故?何故こんな状況になっているんだ?
……考えられる理由など一つしかない。そう、それは、つまり……。


神裂「一体どうされたのですか?あなたの先生は何と言っていたのですか?」

ステイル「何を呆然とした顔をしているんだい?」

インデックス「とうま?」


上条の尋常ではない様子を不思議に思い、彼に問いかける三人だが、上条は反応しない。


C.C.「まったく……。おい、お前、聞いているのか?」


そう言いながら、C.C.は上条を軽く叩く。
それで、ようやく上条は、はっと我に返った。そして、そのまま神裂達に尋ねる。



上条「……なぁ、お前達が所属するイギリス清教の『上』ってのは、どういう奴らなんだ?」

ステイル・神裂・インデックス「え?」

上条「……お前達の上司ってのは、自分達に都合が悪い事が起こった時とか、機密を守ったりするためには、
   どんな方法でも取るような連中なのか?」


そう聞かれた三人は困惑した。一体、いきなり何を聞き出すんだ?
質問の意図がわからず、答えあぐねていると、C.C.が代わりに答えた。


C.C.「ああ。あの女狐なら、自分の都合を良くするためなら、どんな手も使うだろうな」


それを聞いた上条は、そうか、と吐いて、一瞬、怒りを含んだ表情をしたが、それをすぐに収め、神裂へと声を掛けた。


上条「神裂、今すぐ俺ん家の風呂場で、インデックスの体をよく調べてくれ。
   なんか妙なモノが仕掛けられてないか、探してくれ」

神裂「え?あの、それはどういう……?」

インデックス「と、とうま?」


困惑をさらに深める二人。そこにステイルが割り込む。


ステイル「上条当麻、君はさっきから何を言っているんだい?少しは事情を説明してほしいね?」


そう尋ねるステイルに、上条は言った。



上条「……嘘、だったんだよ」

ステイル「何?」

上条「お前らが言ってた『インデックスの頭の85%は『魔道書』で占められてる』とか、
   『残りの脳の容量が15%』とか、『一年置きに記憶を消さないとインデックスは死ぬ』とか、
   そういった情報全部、教会がついた嘘だったんだよ!」

ステイル・神裂・インデックス・C.C.「「「「ッ!」」」」


上条がそう叫んだ瞬間、上条を除く4人に衝撃が走った。
そんな中で、ステイルが信じられないといった顔をしながら呟いた。


ステイル「な、何を言ってるんだ、君は……?現に、彼女は毎年、ひどい頭痛で苦しんで……」

上条「脳医学的に考えて、いくら『完全記憶能力』を持ってたとしても、記憶のし過ぎで脳がパンクするなんてことはないらしい。
   ましてや、頭痛なんかとなんも関係なんかねぇんだ。だから、元々、インデックスは健康に生きていける体だったんだよ。
   ……なら、どうしてそんな風になっちまうのか?考えられる理由なんか一つだけだ」


誰かがゴクリと唾を飲んだ。……そして、上条は言い放つ。


上条「教会が、元々何も問題なかったインデックスの頭に何か細工したんだ!」



沈黙が支配する空間。誰もがその驚愕の事実に、発する言葉を失っていた。


上条「……そもそも、冷静になって考えてもみろよ?
   『禁書目録』なんていう残酷なシステムを作るような連中が、おいそれとお前らに真実を全部話すと思うか?
   ……インデックスが10万3000冊の『魔道書』を持って、自分達の下を離れないようにするために、奴らは『首輪』をつけた。
   多分、それが、その頭痛とやらの正体だ」


そう締め括った上条の言葉に反論する者はいない。
むしろ、彼の言う通り、教会の『上』なら躊躇なく、そんなことでもやるだろうと思った。


上条「だから神裂、まずはインデックスの体を調べてみてくれ。
   俺は『魔術』に関してはド素人っつーか、何も知らないからよくわからないけど、もしそういった何か細工があれば、
   それは多分『魔術』だろ?だから、そいつを確認するために、服脱がせて調べてくれ」


そう言う上条に、神裂は静かに頷き、インデックスを連れて、上条に案内された風呂場へと入っていった。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、今日はここまでです

テストが終わってほんとに嬉しい限りです
今は、今だけは、この開放感に酔いしれたいッ!

次の投下は、3日以内にできればいいなと……

それでは、また次回ー

こんばんわー

短いですが、少しだけ投下します


数分後



神裂達が風呂場に入り、その場に残された三人。

上条が電話を落としたため、通話が切れた小萌から、かなり焦った様子で電話が返ってきたが、そこは上手くごまかした。
そして彼らは、先ほどよりかは、幾分落ち着きを取り戻していた。


C.C.「それにしても、さすがの私でも驚いたな」

上条「ああ。正直、俺もまだ戸惑ってる。まさかこうも簡単に色々判明するとは思ってなったし。
   まぁ、それでも、確証が得られるまでは、あくまで推論だけどさ」

ステイル「……僕としては、とても複雑な気持ちだけどね」

上条「ん?どういうことだ?」


ステイルが吐いたその言葉の真意を、上条は問いかける。


ステイル「もし、君が言った事が本当だとしたら、僕達は今まで一体、何のために彼女の記憶を奪ってきたんだろうね……」

上条「……」


そう呟くステイルの顔は、どこか暗い影を帯びていた。

今までの自分達のしてきた行いが全て教会側によって仕組まれていた事だったら。
自分達はなんて愚かで、滑稽だった事だろう。


ステイル「……まったく、魔術師の名が聞いて呆れるね」

上条「……それでも、お前らは、お前と神裂はスゲーと思うぜ?
   だって、一年置きに記憶を消してきたってことは、一年置きに今までの関係がリセットされるってことなんだろ?
   それがどれだけ辛い事か、俺には想像もつかねぇよ。
   それにも関わらず、何も覚えてないインデックスとお前らはずっと一緒にいて、友達としてあり続けたんだろ?
   それって誰もができる事じゃないと思うぜ?」

ステイル「……」

C.C.「ふふふ、耳が痛い話だな?ステイル?」

ステイル「……ふん」

上条「?」


そんな時、風呂場の扉がガチャと開いて、神裂とインデックスがそこから出てきた。


上条「終わったか!……それで、どうだった?」


期待と不安を込めて尋ねる上条に対し、神裂はおもむろに口を開いた。


神裂「インデックスの体をよく調べましたが、特にそういった『魔術』の痕跡は見受けられませんでした……」

インデックス「……」


やや暗い顔でそう話す神裂と、同様にして落ち込んでいるインデックス。
長年探し求めた答えが、突破口が、ようやく見つかるかも知れなかった。その期待が打ち砕かれ、二人は沈み込む。

しかし、諦めるのはまだ早い。少なくとも、諦めてはいない、可能性を捨ててはいない男が、ここに一人いた。


上条「……神裂、お前はインデックスの体のどこを調べたんだ?」

神裂「えーと、私は彼女の全身を調べましたが……?」

上条「それは体の表面だよな?」

神裂「え?……はい、そうですが?」

上条「そうか。……よし、インデックス、ちょっとこっち来てくれ」


そう言うと、インデックスを手で招き寄せる上条。
インデックスは不思議な顔をしつつも上条に近づく。


ステイル「一体何をするつもりだい?」

インデックス「とうま?」

上条「ちょっと待ってくれ」


問いかける二人を静め、上条は考える。



上条(インデックスの体表面には、それらしいモノはなかった……。
   だったら、『中』はどうだ?普段、誰の目にもつかない、見つかる可能性が低い場所……。
   うーん、さすがに頭蓋骨の内側とかだったら手の出しようがないけど……)


そこまで考えて、顔を上げてインデックスを見る。

そこで上条は、はたと思い当たる。目の前に立つインデックスの口。正確にはその奥の咽頭、つまりは喉の奥。
そこならば、頭蓋骨がない分、脳に最も近く、人にも見られず、誰にも触れられないのでは?


上条「インデックス。ちょっと、あーん、って大きく口開けて少し上を向いてくれ」

インデックス「?……わかったんだよ」


そう言って、上条の言うとおりにするインデックス。
上条はそこを覗き込む。

そして……


上条「!……おい、神裂、ステイル。……『これ』、なんだ?」

ステイル・神裂「え?」


上条に声を掛けられ、二人もまたインデックスの喉を覗く。
そして、彼らも『それ』を見つけた。


神裂「こ、これはッ!?」

ステイル「初めて見る刻印だけど……。これが彼女を苦しめている可能性は高いだろうね」


インデックスの口腔と喉の間には、不気味な紋章がただ一文字だけ、真っ黒に刻み込まれていた。



―――――――――

――――――

―――



上条「それで?どうする?インデックスを苦しめている原因と思われるモノは見つかった。
   早速、俺の右手でぶっ壊すか?」


そう問いかけ、自身の右手を差し出す上条。

それに対し、神裂は首を横に振る。


神裂「いえ、今すぐは止めておいた方が良いでしょう。この『魔術』がどのようなモノなのかよくわからない以上、
   下手に弄るのは危険です。……本来ならば、教会にどのような術式なのかを聞きたい所ですが、
   このような仕掛けを私達に隠していた以上、もう教会を信用する訳にはいきません。
   私達がこれに気づいた事が下手に知られれば、この子に何をするか、わかりませんから」

上条「ならどうすんだ?」

神裂「まずは、それ相応の準備をしましょう。どんな事態にも対応できる状況を整えた上で、あなたの右手の力を借りて、
   インデックスの『首輪』を破壊しましょう。……それで構いませんか?ステイル?」

ステイル「ああ、構わないよ。僕もこんな妙な術式、今すぐにでも消し去りたいからね。
     ……でも、その前に確かめたい事がある」


そう言うと、ステイルは小声で何かの呪文を唱える。
すると、手のひらに浮かぶように、ソフトボールくらいの大きさの火の玉ができた。




上条「……それも魔術か?俺達でいう『発火能力』みたいなモノか」

ステイル「ああ、まぁ、そんな所だよ。……さて、じゃあ、こいつをその右手で触ってみてくれ」

上条「は?」

ステイル「君の右手の力とやらが、本当に僕達の『魔術』を消せるかどうか、試しておきたいんだ。
     本番になってできませんでした、なんていうのはごめんだからね」

上条「なるほど。それじゃあ……」


そう言って、上条は恐る恐る右手をそれに伸ばす。

正直言って不安だ。火の中に手を突っ込むなんて自傷行為、普通の人はやりたくはないだろう。
それに、インデックスの『歩く教会』を破壊したとはいえ、ちゃんとした『魔術』に触れるのは初めてだ。

そう思いながらも、上条は手を伸ばしていき、その火の玉に右手が触れたその瞬間。



バギンッ!



ガラスが割れるような音と共に、ステイルが作った火の玉は跡形もなく消えた。


ステイル「……なんとも信じがたいが、どうやらその右手の力は本物みたいだね。一体どんな能力なんだか……」

上条「ははは……」


驚きとも、呆れとも取れるステイルの言葉に、上条は渇いた笑いで答えた。


ステイル「まぁ、とりあえず君の右手を信じよう。それで、準備の事だけど、ここら辺であまり人気が無くて、
     割と広い場所はあるかい?」

上条「えーと、確か、第十七学区に人気の無い操車場があったっけな……。
   元々、第十七学区は工業製品の製造に特化した学区で、人口が極端に少ない所だし。
   そこで何するんだ?」

ステイル「そこでこの子の『首輪』を破壊しよう。どんな事が起こるかわからない以上、人が周りにいるのは危険だからね。
     それに、僕の魔術は一ヶ所に拠点を作って守る方が得意なんでね。そこら辺一帯をその拠点にすれば、色々と都合が良いのさ」

上条「なるほど……」

ステイル「準備にはそんなに時間は掛からない。だから今夜にでもやろう。
     この子の体にこんなものがあるなんて忌々しくてしょうがない」


そう吐き捨てるように話すステイル。それに上条は頷く。


上条「インデックスもそれでいいか?」

インデックス「……うん。とうまを、みんなを信じるんだよ」


そう尋ねる上条に、インデックスは微笑を浮かべながら頷いた。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、ここまでです
短くて申し訳ないです…

次の投下は一週間以内には必ず
次で禁書目録編が終えられるよう頑張ります

それではー

こんにちわ

ageやsageに関しては、自分は特にこだわりはないので、どうぞ気にしないで下さい

それでは投下します


第十七学区・操車場



現在、時刻は午後11時。
今日という日も後1時間で終わるその時間。第十七学区のとある操車場に、5人の男女がいた。


ステイル「さて、準備はもうできている。念には念を入れて、人払いの『ルーン』も刻んである」

上条「あれ?そういえば、土御門は?」

神裂「彼にも連絡はしましたが、忙しい上に、今回は自分がいても力にはなれないと言って、来ないそうです。
   一体、何をしていることやら……」

上条「ふーん……」


隣人、土御門元春がイギリス清教所属の魔術師であった事は今でも驚きだが、彼は自分の親友だ。
C.C.の件でも助けてもらったので、この場にいないのは少々心細い。


ステイル「この場にいない者を嘆いても仕方ないさ。……それじゃあ、始めようか」

神裂「そうですね。……大丈夫ですか?インデックス?」

インデックス「うん。大丈夫だよ。……ちょっと緊張するけど、みんなを信じてるから」

C.C.「心配するな。すぐに終わる。終わったら、ピザでも食べるぞ」


やや緊張気味のインデックスに、C.C.がいつもの調子で声をかける。


上条「ああ、すぐ終わるさ。みんなでインデックスを助けて、みんな揃って帰ろうぜ?」


上条も彼女を安心させるよう、笑みを浮かべながら、自信満々で言い放つ。


朝の話し合いの後、それまでの空気を払拭するかのように、彼らは大いに話し、大いに笑い合った。
昼も、C.C.とインデックスの要望により、美味いピザがあるファミリーレストランへ行った。

その後、『学園都市』の色々な所を見て回った。人目に付く異様な五人組だったが、彼らは気にしなかった。
途中、ステイルは下準備のために抜けたが、皆、大いに楽しい時間を過ごした。

そして今、それぞれが、それぞれの想いを持って、それぞれの決意を胸に、ここに立っていた。


上条「それじゃあ、やるぜ?」


上条の言葉に、皆が頷く。


上条「……よし。それじゃあ、インデックス。ちょっと気持ち悪いとは思うが、口の中に指入れるから、大きく口開けてくれ」

インデックス「うん、わかった」


そうインデックスは言うと、口を大きく開いた。


上条「……もうちょっと上を向いてくれ。……よし、見えた。……じゃあ、入れるぞ?」


インデックスはコクリと僅かに頷いた。

そして、上条は自分の指をインデックスの口の中へと入れていく。
入れた時、インデックスの表情が歪められたが、今は我慢してもらう。
指を入れた口の中は生暖かく、ぬるりとした感触はどうにも不気味だ。


上条(口の中に指入れられてるのも苦しそうだな……。よし、ここは一気に……)


上条は思い切って、一気に指を奥に押し込む。そして……



バギンッ!




上条「がっ……!?」


指先が喉の奥に触れたと同時に聞こえたガラスが割れるような音。指先に感じた静電気が走ったような感覚。
……そして、勢い良く後ろへ吹き飛ばされる自身の右手。


上条(な、何が……)


あまりの衝撃に、自身の右手を見やる。右手の指先からはポタポタと血が滴り落ちている。
右手を弾き飛ばされた時に傷ついたのだろうか。

……しかし、今はそんな事はどうでもいい。問題なのは、彼女、インデックス。

自身の目の前に立つ彼女。先ほどまでの純粋無垢な瞳は消え失せ、その眼は異様なほどに赤く染まっている。
それは眼球に浮かんだ、真っ赤な魔法陣。


上条(あれはやばい……ッ!)


本能的に、その危険性を悟った上条。弾き飛ばされ、血が滴る自身の右手を彼女に向けて突き出そうとする。
しかし、それよりも前に、彼女の瞳が一層赤く輝く。同時に、何かが爆発した。

その衝撃に、今度は体ごと吹き飛ばされる。


上条「ぐぁ……!」

神裂「上条当麻!」


衝撃で吹き飛ばされた上条を、神裂が何とか受け止める。10m近くは飛ばされただろうか。


神裂「大丈夫ですか!?」

上条「ぐっ!お、俺は大丈夫だ!それよりも今は……ッ!」


すぐさま、自身を吹き飛ばした元凶と思われるインデックスを見やる。

……しかし、そこにいた者は、もはやインデックスではなかった。


インデックス「―――警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum―――禁書目録の『首輪』、第一から第三まで
       全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、10万3000冊の『書庫』の
       保護のため、侵入者の迎撃を優先します」


冷たく、単調に、機械的に言葉を紡ぐ『それ』。
元のインデックスの面影どころか、人間味をまるで感じない。


インデックス「―――『書庫』内の10万3000冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。
       術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組み上げます」

神裂「イン、デックス……?」


呆然と『それ』の名だったモノを神裂は呟く。しかし、『それ』には響かない。届かない。


インデックス「―――侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。
       これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」


そして、その直後。
バギン!という凄まじい音を立てて、『それ』の両目の二つの魔法陣が一気に拡大した。


さらにそこから、四方八方へと真っ黒い雷のようなものが飛び散る。
それはまるで空間を引き裂いた亀裂のようで、『それ』の周囲に広がっていく。


ステイル「ば、ばかな。何故、この子が魔術を……」

C.C.「それも、あの女狐の嘘だったということだな……」


広がりを見せるその亀裂の隙間から、獣のような匂いが鼻をつく。
その向こうから、そこに潜む『何か』に覗かれているような、奇妙で、おぞましい感覚がその場の四人を包み込む。


上条「あ……」


上条は悟る。
その亀裂の奥の『何か』は、自分の存在そのものを侵し、破壊する、決して見てはならないモノであると。


ステイル「くっ!上条当麻!あれの奥は決して覗くな!君のような人間が見れば、一発で廃人決定だぞ!」


ステイルの叫びが、自身の本能的な危機察知能力に拍車をかける。

……しかし、彼はそれを理解しつつも、前へと駆け出す。ただ、インデックスを救いたいがために。



上条(確かにあの奥の奴はやばい……。でも!でも、そいつさえ倒せば、それでハッピーエンドなんだ!
   だったらやるっきゃねぇだろ!上条当麻!)


己に言い聞かせ、上条は拳を握り締め、『それ』に向かって駆ける。
空間に生じた亀裂と、それを作り出しているであろう魔法陣を破壊するため。

だが、その時。突如、周囲に広がっていた亀裂が開いた。そして……。



ゴッ!



凄まじい音と共に、巨大な『光の柱』が一直線に襲い掛かってくる。


上条「ッ!」


それを目で認識するのとほぼ同時に、光の柱に向けて右手を突き出す。
魔術なら自身の右手に宿る『幻想殺し』で打ち破ることができる。
上条は『光の柱』を迎え撃つが……。


上条(き、消えねぇ……ッ!)


自身の右手をもってしても、光の柱は消しきれない。
それどころか、徐々にだが、確実に押し込まれてきている。


上条(くそっ!『幻想殺し』の処理能力が、追いついてねぇのか!)


自身の右手で打ち消しきれない異能の力に上条は驚愕する。だが、彼はまだ冷静だ。
何故なら今回は、彼には共にインデックスを救おうとする仲間がいるからだ。

自身の力だけではどうしようもないと判断した上条は叫ぶ。


上条「くっ!神裂!ステイル!」

神裂「―――Salvare000!」

ステイル「―――Fortis931!」


上条の声に反応し、二人は何かを叫ぶ。上条は知り得ないが、それは魔術師の『魔法名』。
『魔術』を使い、自身の力を全力で振るう時に名乗る名。


神裂「はぁああああああああ!」


まず神裂が雄叫びを上げながら、彼女の愛刀『七天七刀』を振るう。
七本の鋼糸による『七閃』が、『それ』の足元の砂利を大きく抉る。

体勢を崩した『それ』は後ろへ倒れ込む。上条を狙っていた光の柱も大きく逸れ、夜空を切り裂いた。


神裂「先ほどの攻撃は『竜王の吐息』!伝説の聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です!
   たとえあなたの右手に不可思議な力があっても、人の身でまともに取り合おうとはしないで下さい!」


神裂の叫びを耳に入れつつ、上条は『それ』の元へ一気に駆け寄ろうとする。

しかし、それよりも先に、倒れ込んだ『それ』は視線を巡らし、再び上条を捕らえ、『光の柱』を叩きつけようとする。


上条(くっ!また!)


再度、目前に迫った『光の柱』を受け止めようと身構える。


ステイル「―――『魔女狩りの王』!」


突如割って入ったステイルの叫びと、それと同時に出現した巨大な渦巻く炎の塊。否、それは人の形をしていた。
それが『光の柱』を真正面から受け止める。破壊と再生を繰り返しながら、上条を守る。


上条「ステイル!?」

ステイル「行け!上条当麻!君が走る道と辿り着くまでの時間くらいは確保してやる!」


叫ぶステイルに上条は頷き、『光の柱』と『魔女狩りの王』がぶつかり合っている所を迂回し、『それ』の元へと駆ける。


インデックス「―――警告、第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。
       現状、最も難度の高い敵兵『上条当麻』の破壊を最優先します」


言葉を切ると同時に、再び上条へと『光の柱』が向けられる。
しかし、同時に上条の盾になるように動いた『魔女狩りの王』がそれを許さない。

その間にも、上条は走る。亀裂の奥の『何か』を排除し、魔法陣を破壊し、『それ』をインデックスへと戻すために。

距離は残り、3m。


インデックス「―――警告、第二二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義を
       ルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。
       命名、『神よ、何故私を見捨てたのですか』完全発動まで十二秒」


『それ』が言葉を紡ぐと、『光の柱』は純白から血のような赤へと色が変化する。
それにより、『魔女狩りの王』がどんどん押され、削られていく。

距離は残り、2m。


神裂「頼みます!上条当麻!」

ステイル「急げ!上条当麻!」


魔術師二人の叫ぶ声が聞こえる。上条は拳を握り締め、駆ける。

距離は残り、1m。


しかし、その時。

『それ』が『魔女狩りの王』に向けていた視線を、迂回して接近した上条へと、ギリギリの所で戻す。


上条「くっ!」


右手を亀裂へ、その奥の魔法陣へ振り下ろそうとするが、既の所で『光の柱』に邪魔をされる。


インデックス「―――警告、第二一章第五節。最優先標的の最終防衛線の突破を確認。対十字教用の術式の発動を中止。
       最優先標的『上条当麻』を破壊し、最終防衛線外へ押し出します」


自身に向けられた『光の柱』によって、先ほどと同様に、またじりじりと押し返される形になる上条。


上条「ちっ、くしょう!」


届かない。僅か一歩が届かない。自分の力だけではどうしても踏み込めない僅か一歩分。


上条(この、至近距離じゃ、あの炎の巨人も、俺の右手のせいで下手に割り込めねぇ!
   ……くそ!俺が、俺が何とかしなきゃいけねぇのに!)


と、その時、自身の背中に何かが触れた。


C.C.「やれやれ、結局、最後は私が手を貸す事になるんだな」

上条「C.C.!?」


自分の背中に手を当てながら呟くC.C.。
彼女は戦闘の余波に巻き込まれないよう、ゆっくりとだが、着実に戦闘の中心点へと接近していた。


上条「あ、危ねぇ、から!離れ、てろ……ッ!」


『光の柱』を受け止めながら、上条はC.C.に叫ぶ。


C.C.「断る。……お前一人の力では、これ以上は進めないのだろう?
   なら、お前の力では足りないあと一歩分は、私が押してやる」

上条「んな、こと、言っても!……ぐっ!」


そうしている間にも、『光の柱』は徐々に自分の右手を押し返していく。


C.C.「……それに、お前も言っただろう?『みんなでインデックスを助ける』とな」


C.C.のその言葉に、上条は、はっとする。


上条(……そうだ、そうだよ!何俺は最後の最後で独り善がりになってんだ!今の俺には仲間がいるんだろ!
   そいつらを信じなくてどうすんだよ!)


そして、上条は振り返らないまま、背中のC.C.に向かって叫ぶ。


上条「C.C.!合図したら、俺の背中を思いっきり押してくれ!頼む!」

C.C.「ふふふ、ああ、わかった」


こんな時でも、C.C.は笑った。
それは頼られる事への喜悦か、それともインデックスを救える事への歓喜か。
それは『魔女』である彼女のみぞ知る。

……そして、その時は訪れる。


上条「今だ!押してくれ!」


返事は必要ない。上条の声が聞こえるや否や、何も言わず、C.C.は目一杯の力で上条の背に抱きつく形で彼を押す。

残された距離は僅か一歩分。しかし、一人では届かなかった一歩分。でも、二人なら。
背中を押してくれる仲間がいるなら、その僅か一歩分先に届き得る。

上条は、最後の一歩を踏み出す。


上条(いいぜ。こんな物語が、こんな女の子が苦しみ続ける世界がなきゃいけないって言うのなら……)





上条「―――まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!」





そして、上条はその必殺の右手を、受け止めていた『光の柱』ごと前へと押し切る。

空間に生じた亀裂が、その先の魔法陣が、その右手によってあっさりと引き裂かれた。
受け止めていた『光の柱』も、亀裂も、魔法陣も、初めから何も無かったかのように跡形も無く消え去る。


インデックス「―――警、こく。最終……章。第、零――……。『 首輪、』致命的な、破壊……再生、不可……消」


『それ』は尚も言葉を紡ごうとするが、ブツンと言葉を切り、ついに沈黙する。
そして、後ろ向きに、地面へと倒れ込もうとする。


上条「インデックス!」


倒れるその体を、すぐさま接近した上条が支える。
まるで糸が切れたマリオネットのように体に力が入っていないその体。永遠の眠りについたかのように閉じられるその両目。


上条「おい!インデックス!インデックス!?」


上条は彼女の名を呼び、彼女の体を揺らす。
後ろから、神裂とステイルがこちらへと近づいてくるバタバタという足音が聞こえる。

そして……


インデックス「……うぅん……」

上条「!インデックス!?」


彼女の口から僅かな呻き声が漏れ、そして、その両目が開かれた。


インデックス「……とうま……?」

上条「インデックス!?大丈夫なのか!?」

インデックス「……うん?私は大丈夫だよ?……あれ?私、何してたんだっけ?」


きょとんとした顔の後、急に難しい顔をするインデックス。
どうやら記憶が少々とんでいるようだ。


神裂「ああ!インデックス!」


感極まった神裂がインデックスに抱きついた。


インデックス「わわ!か、かおり!ど、どうしたの?」

神裂「もう!この子は心配かけてばかりッ!」


そう言ってインデックスを力強く抱き締める神裂。

しかし、彼女は『聖人』であるわけで……。


インデックス「か、かおり!い、いくらなんでも、つ、強すぎるかも!い、痛いんだよ!」ジタバタ

神裂「あっ!す、すみません!」


そう謝ると、慌ててインデックスの体を離す神裂。その目は若干赤い。


ステイル「……とりあえず、無事で何よりだよ」

上条「ああ、一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな」

C.C.「……それにしても、あの女狐め。今度会ったらただじゃ済まさん。
   イライラするから、さっさと帰ってピザでも食べるぞ」

上条「お前、またピザかよ……」ハァ


こうして、彼らは一人の少女を過酷な運命から救い出し、7月21日は終わりを告げた。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、ここまでです
禁書目録編を終わらせるつもりだったんですが、この後の話が思いの外長くなり、終われませんでした……orz

ここで、作中の説明というか、言い訳をさせて下さい
上条さんは記憶を失いませんでした
『光の羽』が登場しませんでしたが、これは『竜王の吐息』が破壊するような物質が近くになかったということです
操車場を場所に選んだのが、功を奏したということにさせて下さい

それでは、次もできれば一週間以内に
それでわー

乙!
あと念の為「竜王の殺息」ですぜ

こんにちわ
お盆で割と忙しく、時間が掛かってしまいました

>>233
うぉ……
ミスりました、すみません……orz

それでは投下します


7月22日・午前1時



インデックスの『首輪』を破壊した後、五人は上条宅へと帰ってきていた。
誰一人大きな怪我を負う事無く、無事帰還できたのは、あらかじめの準備と各々の心構えのおかげだろう。


上条「いやー、それにしてもみんな無事で良かったな!特にこの私、上条当麻があれほどの事態に遭遇しながら、
   かすり傷程度で済むなんて、なんと奇跡的な事でしょう!」

C.C.「お前、自分で言っていて悲しくならないのか?」

上条「こんな時くらい素直に喜ばせてくださいッ!」


上条の部屋に帰って来た五人は、まず初めにインデックスの体を心配した。
操車場で軽い確認もしたし、ここまでの道中でも、特に気に掛けるような事はなかった。

しかし、あれほど強力な魔術を行使し、かつ、『首輪』も破壊された今、彼女の体に何か異変が起こっていないか。
それを正確に調べるため、神裂が再度、風呂場でインデックスの体を見た。
結果として、特に目立ったものは無く、とりあえずは大丈夫という事だった。

その後、お腹が空いたと言うインデックスと、ピザが食いたいと言うC.C.により、ピザを注文。Lサイズ2枚。
上条が泣く泣く財布から紙幣を取り出し、ピザ代を払った。

そして、今はそれを食べ終え、皆で今後について話しているところだった。


ステイル「さてと、気は進まないが、まず初めに『最大主教』に連絡をしないといけないね。
     時差を考えても、いい頃合だろう。ここに来た本来の目的はC.C.の保護だった訳だし、
     その報告もまだ出来ていないからね」

神裂「……ええ、そうですね」

ステイル「それに、今回のインデックスの『首輪』についても、色々問い詰めたいことがあるからね……」


二人の顔には怒りが滲んでいる。それは当然と言えば当然だろう。
自分が長いこと所属する組織であっても、自分達を騙し続けた事、インデックスの記憶消去という辛い役目を負わせた事。
何より、インデックスを苦しめ続けた事への憤怒は消えるはずも無い。

ステイルは立ち上がり、携帯電話をポケットから取り出すと上条の部屋を出て行く。
それは、教会の内部事情を上条にあまり聞かせないようにするための配慮であった。


インデックス「……それにしても、正直、まだ実感が湧かないんだよ。
       ほんとに私は記憶を消さなくても良くなったのかな……?」


インデックスのその問いに答えられる者はいなかった。
彼女の言うとおり、現時点では記憶を消さなくてもいいという保障はどこにもないのだから。


上条「それに関しては、俺からは何とも言えないな……。神裂はどう思う?」

神裂「……確かに、現時点では確かめようがありません。ですが、記憶に関して、医学的に元から何の問題も無かった事。
   私達、プロの魔術師でも見たことも無い刻印が『首輪』として刻まれていた事。そして、それが破壊された時、
   強制的に『自動書記』が発動し、魔術を使えないと言われていたこの子が魔術を使った事。それらを考えると、
   全ての元凶がその刻印であった可能性が高いですから、それが無くなった今は、もう大丈夫でしょう」


神裂はそう言うと、インデックスに向けて微笑んだ。


インデックス「……うん、そうだね!かおりがそう言うんなら、たぶんもう大丈夫なんだよ!」


神裂の微笑みに、インデックスも同様の笑みを浮かべる。

たとえまだ不安が残っていても、自身を心配し、励ましてくれる相手の気持ちを汲み取り、笑うことが出来る。
それは、彼女、インデックスの才能であり、本質なのだろう。


上条「それにしても、インデックスが使った魔術はとんでもなかったなー。
   魔術って、あんなのがゴロゴロあんのか?」


思い出すのは、あの『光の柱』。
異能の力に対しては絶対を誇る『幻想殺し』でさえ、処理が間に合わず、完全に消すことが出来なかったもの。
そんな経験は初めてだった。

そして同時に、そんなものが存在する魔術の世界に恐れも感じる。


神裂「いいえ、『竜王の殺息』ほどの威力を持つ魔術など、そうそうあるものではありません。
   あれはこの子が『禁書目録』だからこそ成し得たものでしょう」

インデックス「……私がそんな魔術を使ったなんて、自分では信じられないんだよ」


インデックス本人は、先ほどの記憶がすっぽりと抜け落ちており、何が起きたのかを上条らの口から聞いたのみなので、
いまいち信じられなかった。

今でも、自身の意思では魔術を使おうと思っても使えない。


C.C.「それもあの女狐の仕業だろうな。普段、お前が魔術を使わないように、何か細工をしているんだろう。
   どんな理屈かは知らんがな」

上条「……とんでもねぇ奴だな。その女狐さんとやらは」


インデックスに『禁書目録』という過酷な運命を背負わせ、神裂達を騙し、友達の記憶を消す役目を負わせる。
非人道的な事を平気な顔で指示するその姿を想像して、上条はその拳を強く握り締めた。



―――――――――

――――――

―――



数分後



連絡を終えたステイルが、憤然とした様子で上条の部屋に戻って来た。


ステイル「……とりあえず、『上』が下した判断は、大至急『禁書目録』を本国へ連れ戻すようにとの事だったよ。
     この子の意思ではなかったとはいえ、10万3000冊もの魔道書を操った『魔神』が、自分達の仕掛けた
     『首輪』から解き放たれて、手の届かない所にいるのは恐ろしいみたいだね」

神裂「まぁ、そうなるでしょうね……」

上条「『魔神』……?」

インデックス「魔術を極めすぎて、神様の領域に足を踏み入れちゃった人達のことをそう呼ぶんだよ」


インデックスの解説を聞きながら、上条は憤る。
勝手な都合で10万3000冊もの魔道書をこんな少女の頭に叩き込んで、尚且つ、モノ扱いする。
そんな行いに反吐が出る。


上条「ふざけやがって……」

インデックス「とうま……」

ステイル「……それと、仕掛けられた『首輪』について、向こうで『最大主教』から直接話があるそうだよ」

神裂「話、ですか……」

ステイル「まぁ、今更何を、とは思うけど、無視する訳にもいかないからね」


ステイルは、ふぅ、と溜め息をつき、胸ポケットからたばこを取り出そうとする。
しかし、インデックスを見て、何を思ったか、渋々とそれを仕舞う。


C.C.「それで?私について、何か言っていたか?」


C.C.はまるで興味無さそうに、明後日の方向を見ながらステイルに尋ねた。


ステイル「当然、君も一緒に帰ってくるようにとの事だよ。元々、そのために僕達はここに来たんだからね」

C.C.「まぁ、そう言ってくるだろうな」


C.C.は眉一つ動かさない。
そして、溜め息をつき、ステイルに目を向ける。


C.C.「おい、ステイル。電話を私に寄越せ」

ステイル「何?」

C.C.「あの女狐と話をさせろと言っているんだ。元々、そういう話だっただろう?」

ステイル「……別に構わないけど、話して納得するような相手じゃないと思うけどね」


そう言って、最大主教に繋がる番号を押し、C.C.に携帯電話を渡す。
C.C.はそれを受け取って、スタスタと部屋を出て行った。



―――――――――

――――――

―――



上条の部屋前の通路



夜風にその緑の髪をなびかせ、C.C.は携帯電話を耳に当てながら佇んでいた。

しばらくすると、その電話がある者と繋がった。


ローラ『あー、あー。こちらはイギリス清教、ローラ=スチュアートでありけるのよ』

C.C.「……お前は相変わらずその馬鹿口調なのか」

ローラ『そ、その声はC.C.でありしことね!?まったく!何をしてくれたるのよ!
    貴女の勝手気ままな行動で、私がどれほどの気苦労をしたるか想像できて!?』


電話の相手がC.C.とわかるや否や、早口で文句を並び立てるローラ。


C.C.「まったく、騒がしい奴だな。お前の気苦労など知らん」


それらの文句をC.C.はバッサリと切り捨てた。


ローラ『な、何を言うているのよ!?貴女は自分の存在が理解できているの!?
    そもそも『約束』を違えたるのはどういうことなのよ!?』

C.C.「私はC.C.だ。それ以上でも、それ以下でもない。それに今回、私がここに来る事になったのはお前のせいだ」

ローラ『わ、私の所為?』


C.C.のその物言いに、ローラは怪訝な声を漏らす。


C.C.「そうだ。私は知っているぞ?お前が私に、『学園都市』に関する情報を意図的に隠していた事をな」

ローラ『……C.C.、貴女は一体何を言ふているのかしら?』

C.C.「とぼけるのはやめろ。お前が『学園都市』の『上』と繋がりがあるのも知っている。それにもかかわらず、
   私が尋ねた時には、お前は詳細をまったく話そうとせず、簡単にどういう都市なのかを説明しただけだったな。
   それに『外出』の許可も与えない。どんな思惑があったかは知らんが、お前がそうするなら、私は直に、
   自分の足で見に来ざるを得ないだろう?」


その言葉に、ローラは押し黙る。


C.C.「……それに、私が『約束』を破る以前に、お前は『学園都市』との関係を私に秘密にしようとした。
   これは世界の情勢、パワーバランスを私に知らせようとしなかったという事だろう?これこそ、
   『約束』を違えているんじゃないか?」


C.C.がそう言い切ると、両者の間に沈黙が降りる。

そして、やや間を空けた後、溜め息と共に、ローラがそれを破った。


ローラ『……C.C.、確かに貴女の言ひしとおり、私は『学園都市』の報を貴女に隠さんとしたわ。
    でもね、それは貴女のためを思ってのことなのよ?』

C.C.「ほう?」

ローラ『『学園都市』は世界で最も優れたる科学都市。そこで働く科学者もまた然り。そのような者達が『不老不死』たる
    貴女の体に興味を持たぬはずがないでしょう?それに貴女の事よ。そのような都市があると知らば、興味を持ちて、
    訪れんとするのが目に見えたるもの。C.C.、貴女は私の『友』とも呼ぶべき存在。故に、心苦しく思いたるも、
    黙っていることにしたのよ』

C.C.「ふん、よくも言ったものだ。本当の所は、私の『コード』や『ギアス』を知られ、
   調べられるのが嫌だっただけだろう?」


C.C.は憮然とした様子で答えた。


C.C.「……まぁいい。とりあえずそういうことにしてやろう。それに、向こうが襲ってきたのも確かだからな。
   だが、それとは別にもう一つ話がある」

ローラ『何かしら?』

C.C.「インデックスの事だ。何故、私に黙っていた?」

ローラ『簡単なことよ。知らせる必要なしと思ったからよ』

C.C.「何?」


ローラのその言い方に、C.C.は眉を曇らせる。


ローラ『仮に、貴女にそれを教えたるところで、何ができたというの?言ふておくけど、『首輪』を外せ、というのは
    できぬ相談よ?『首輪』の役割は、『禁書目録』の管理と保護。10万3000冊もの魔道書を記憶せしめた者に、
    勝手に何処かへ行かれるのは困るもの。それに、『禁書目録』の知識を無理矢理に得んとする輩から守るための
    措置でもあるのよ?それを一個人の望みで外すことなど、できようはずがないでしょう?我々はイギリス清教
    という組織でありたるのだから』


確かに彼女の言うとおりである。
通常の組織体であれば多少事情は変わるが、彼らが属するのはイギリス清教という、言わば『裏』に存在する組織だ。
個人よりも組織、組織よりも国を優先する彼らにとって、組織に携わる人間は、どちらかというと『物扱い』される。

尤も、その集団を作る各々には、人によっては組織よりも優先すべき事がある。
それを『魔法名』として己に刻み付けている場合があるのも事実だが。


C.C.「……だが、説明くらいあっても良かっただろう?」

ローラ『……そうね。貴女のように物分かりの良き者には、教えても問題は無しにつきよ。でも、あの神裂火織や
    ステイル=マグヌスはどう?『首輪』の存在を知らば、躍起になって『首輪』を外さんとするでしょう?
    そのようなことをすれば、イギリス、ひいては世界全体の脅威になりたる可能性があったのよ。
    ……まぁ、『首輪』の存在が知られるところとなり、壊れてしまった今となってはどうしようもなき事だけれど』

C.C.「……インデックスに新しく『首輪』を付ける気はないのか?」

ローラ『それは無理というものよ。『首輪』が表沙汰になりし以上、『禁書目録』に何ぞしようとすれば、
    先の二人が黙ってはいないでしょう?特に、相手があの神裂火織となれば色々と面倒事になりたるもの』


あくまでも事実を客観的に分析し、淡々と今後の方向を述べるローラ。
その姿は、確かにイギリス清教の『最大主教』にふさわしいものだろう。


C.C.「そうでなくとも、今回の件であの二人は黙ってはいないと思うがな」

ローラ『それに関しては心配するべからずなのよん』


ふふん、と胸を張っている姿を想像し、C.C.は溜め息を付いた。


C.C.「……そうか。とりあえず、今回の事は、私もこれ以上何も言わん。お前とはそれなりに長い付き合いだ。
   あの二人にも特に何も言わないでやろう。だが、次は無い。今後もし、私の気に入らない事があれば、
   私達の関係もそれまでだ」

ローラ『もう、そのような硬き事言わないの。私とて今回の事は反省したるのだから』


そう話すローラの口調が妙に癇に障るが、これ以上は言ってもしょうがないと、C.C.は悪態をつくのをやめた。

そして、最後とばかりに言葉を紡ぐ。


C.C.「……さてと、では私はここに残るが、まぁ、元気でやれよ。……ではな」


そう告げて、通話を終えようとするC.C.に、慌ててローラが声を掛ける。


ローラ『ま、待ていなのよC.C.!今、さらりと由々しき事を言ひたわよね!?』

C.C.「私はここが気に入った。だから私はここに残ると言っただけだ」

ローラ『それが由々しき事と言ふているのよ!……貴女は我らイギリス清教の機密でありし『魔女』、C.C.なのよ?
    なれば、そんな貴女を『学園都市』などに置ひておける訳がないでしょう?』


元々、今回、ステイル=マグヌスと神裂火織を送ったのも、彼女が『学園都市』に捕らわれるのを防ぐためだった。
事実として、その『学園都市』に狙われた彼女をそんな所に置いておけるはずがない。


C.C.「まぁ待て。私がここに残る事は、お前にとってもメリットがある事だと思うぞ?」

ローラ『……件の『幻想殺し』の少年の事ね?』


C.C.は電話越しに頷いて、言葉を続ける。


C.C.「そうだ。あいつの力は『どんな異能の力も打ち消す能力』らしい。お前達、魔術師にとっては天敵となる存在だ。
   それに今回の件で、あいつはお前の事を相当嫌っているようだぞ?敵に回すのは得策とは言い難いだろう?
   逆に、味方であればそれなりに心強いと思うがな」

ローラ『……それで貴女が『足枷』として残りたると言ふの?』

C.C.「私自身は『足枷』とは思っていないがな。私はただ、あいつを敵に回すのはやめたほうがいいと言っているだけだ。
   そうならないように、私がここに残るのも、お前としては悪くはないだろう?」

ローラ『……C.C.、貴女まさかその『幻想殺し』に『ギアス』を与えたのかしら?』

C.C.「……ああ。仕方なく、だったがな。それも含め、私が傍にいた方がいいだろう?」


そうC.C.が告げると、両者の間に再び沈黙が訪れる。
電話の向こうでは、『必要悪の教会』の『最大主教』としてどうすべきか、色々と考えを巡らしていることだろう。
C.C.はそう思いながら、ただ静かに待つ。

そして、何十秒かの沈黙の後。


ローラ『……はぁ、『幻想殺し』なる異な力を持ちて、さらには『ギアス』まで手に入れたと言ふの?
    何故その者に力を与えたのよ?』

C.C.「深い意味はない。ただの気まぐれだ。強いて言うのなら、あいつが『生きたい』と願ったからだな」

ローラ『貴女の気まぐれには本当に困りたるものね。……言ってはおくけど、貴女の身の安全を完全には保障できぬわよ?
    それでも構わないと言ふの?貴女が捕われたれば、困るのは私なのだけれど?』


そう尋ねるローラに対し、C.C.は不敵な笑みを浮かべながら、堂々と言い放つ。


C.C.「ふん、私を誰だと思っている?私は『魔女』、C.C.だぞ?」



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、ここまでです

会話の追加やらなんやらで、禁書目録編が終われない……orz
しかも、ローラの口調が難しい……
なんとか次こそは終わらせたい!

次も一週間以内に来たいと思います

それでわー

こんばんわー

投下していきます


7月22日・午前10時
第七学区・とある公園



ステイル「それにしても驚いたね。まさかあの『最大主教』が、君がここに残るのを本当に許可するとはね……」

神裂「ええ……。本当に大丈夫なのですか?」

インデックス「しーつー……」


三者三様の言葉を漏らすが、C.C.は平然としている。


C.C.「心配するな。私はC.C.だぞ?そう簡単に捕まって、どうこうされるものか」


C.C.の電話の後、神裂とステイルはインデックスを上条宅に預け(インデックスが他人の家に泊まってみたいと言ったため)、
朝にまた来ると言い、ひとまず去った。その際、ステイルは上条を凄まじい形相で睨んだが。その後、約束通りに朝に再び集まり、
ファミリーレストランで朝食を食べ、今は近くの公園で話しているところであった。


上条「……つい一昨日、捕まりかけたのはどこの誰でしたかねぇ」

C.C.「黙れ。そもそも私一人ならやり過ごせたんだ」


そう言って、C.C.は上条を睨みつける。


上条「な、何を!つまりは上条さんの助けはいらなかったということでせうか!?」

C.C.「むしろ邪魔だったな」

上条「て、テメェ、人様が命懸けで……」


上条は拳を顔の前まで持ち上げて、握り締める。
そんな上条の様子を見て、C.C.は何とも厭らしく笑った。


C.C.「ふふふ、冗談だ、冗談。一応、感謝はしているさ」

上条「一応かよ……。まぁ、俺も感謝してほしくて助けた訳じゃないからいいけどさ……」


溜め息をつき、肩を落とす上条。それをさらに笑うC.C.。
そんな二人の様子を見ていたインデックスが、さっきまでの心配そうな顔を払拭して、笑みを浮かべた。


インデックス「二人とも楽しそうだね。しーつーがそんな風に笑うのなんて久しぶりに見たんだよ」

C.C.「私が楽しそう?……まぁ、確かにこいつをからかうのは面白いがな」

上条「あの、上条さんはおもちゃではないのですが……」


まるで漫才をしているような二人の様子に、インデックスはさらに笑みを深める。


インデックス「しーつーととうまってすごく相性が良いみたいだね。これならC.C.がここに残っても安心だね」

上条「?なんで?」

インデックス「だってとうまがいればしーつーも楽しそうだし、もし、しーつー何かあっても、
       とうまが助けてくれるでしょ?」


そう言って上条に笑い掛けるインデックスに、上条は何ともむず痒い思いをした。
それでも上条は頬をぽりぽりと掻きながら頷いた。


上条「まぁ、知り合いがホントに困ってんなら、そりゃ助けるよ」

インデックス「うん、私の事も助けてくれたしね。……ほんとにありがとね、とうま」

上条「はは、もういいって。お前は何回それ言うんだよ」


深夜から数えて、もう百回近くは『ありがとう』と言われたのではないだろうかと上条は思う。


インデックス「……いくら感謝してもしきれないんだよ。私じゃ、どうしようもなかったから……。
       それを救ってくれたのがとうまなんだよ?だから、とうま、ほんとにありがとね」

上条「……ああ、どういたしまして」


もういいと言っているにもかかわらず、再三にわたって感謝の言葉を述べるインデックスの様子に苦笑いを浮かべながらも、
上条はその言葉を受け取った。


神裂「……それでも、やはり寂しくなりますね。貴女がいなくなるというのは。まだ受けた恩も返せていないというのに……」


神裂は寂しそうな声でそう呟き、目を伏せた。


上条「そういえば前にも、C.C.は恩人だ、とか言ってたよな?それってどういうことなんだ?」


上条は何の気なしに神裂へと尋ねた。

すると、その脇に立っていたステイルの顔が僅かに曇る。
尋ねられた神裂も何処となく申し訳なさそうな顔をした。


C.C.「私は恩などどうでもいいし、それに私は特別何かをしたつもりもないと言っているのだがな。
   まったく、頭が固い奴だ」

上条「何があったんだよ?」


上条が尋ねると、神裂はおずおずと話し始めた。


神裂「……彼女には、C.C.には、大きな恩があるんです。一つはインデックスの命を救ってもらった事。
   もう一つは、私達が道を踏み外しそうになったのを止めてもらった事です」

ステイル「おい、神裂……」

神裂「ステイル、彼には話すべきでしょう。彼にはC.C.の件で手伝ってもらいましたし、それに彼はインデックスの、
   延いては私達の恩人なのですから」

ステイル「……チッ!」

上条「?どういうこと?」


何やら言い合う二人に、上条は怪訝な顔を浮かべた。

まぁ、とりあえず、神裂の言っていた事を考えると、その一つ目の意味は、まぁ、わかる。
何か事件でもあって、危なかったインデックスをC.C.が助けたのだろう。

だが、二つ目は?道を踏み外すってのはどういうことだ……?


神裂「今から一年以上前の話ですが、一度、インデックスの命が狙われた事があるんです」

上条「……なんだって?」

神裂「この子は『禁書目録』です。10万3000冊にも及ぶ魔道書の知識を手に入れようとする者が数多く存在すると同時に、
   その危険性から命をも狙おうとする輩も存在するんです。……私もステイルもその場にはいなかったので、あくまで
   聞いた話なのですが、その時、『黄金系』に属する、私達も名前くらいは聞いた事のある魔術師が単身、インデックスを
   暗殺しようと試みたんです」


暗い顔で話す神裂と目を瞑って黙っているステイル。
その様子からも、インデックスがいかに悲しい運命の元にあったのかが窺い知れる。


上条「でも、結局は失敗したんだろ?その時にC.C.が何かしてくれたのか?」

神裂「……彼女は、C.C.はその身を挺してインデックスを救ってくれたんです。二日前、彼女が頭部を撃たれた時、
   私はこれよりひどい状態を見たことがあると言いましたが、それがその時の事なんです」


そう言われて上条が思い出すのは二日前のC.C.の姿。
額を撃ち抜かれ、血で己を染め上げる彼女。
今でも思い出したくない光景だが、それ以上に酷い状態とは……。


神裂「この子がいた『聖ジョージ大聖堂』は幾重もの強力な防護魔術が施され、そう簡単に攻め入ることはできません。
   しかし、その魔術師は自身の命を捨ててまで、インデックスを暗殺しようとしました。捨て身の人間というのは
   恐ろしいもので、彼は外縁部の幾重にも仕掛けられた防護魔術を掻い潜り、『聖ジョージ大聖堂』内で、この子が
   無防備になる時をただ黙って待っていたんです」

上条「でも、インデックスには『歩く教会』ってのがあったんだろ?だったら……」

神裂「ですから、その魔術師は隙を狙っていたんですよ。この子が『歩く教会』をどうしても脱がなければならない時を……」

上条「……風呂、か?」


上条の答えに、神裂は頷いた。


神裂「インデックスが水浴びをするその時を狙って、その魔術師は大規模な魔術を使い、浴場の天井を壊したんです。
   当然、彼はその攻撃魔術に反応した防護魔術によって、すぐさま捕らえられましたが、落ちてきた天井の残骸は
   当時の防護魔術ではどうしようもありませんでした……」

上条「……それで、どうなったんだ?」


尋ねる上条だが、その先の展開はさすがの自分でも予想がつく。
おそらく、インデックスを助けるためC.C.は……。


神裂「近くにいた者が言うには、天井の残骸がこの子を押し潰そうとしたその時、突然現れたC.C.がインデックスを
   突き飛ばして助けたそうです……。そして代わりに、彼女が潰されました……」


神裂は苦しそうに言葉を紡ぎ、顔を伏せ、拳を握り締めた。
その場の五人の間に沈黙が降りる。その中で、C.C.だけはただ単に黙っているだけだったが。

そして、やや間を取った後、その沈黙を破って、神裂は続ける。


神裂「インデックスが襲撃を受けた事を聞いた私達は、仕事を放って、すぐさま『聖ジョージ大聖堂』に向いました。
   到着したその場で見たのは、地面に積もった瓦礫の前で泣きじゃくるこの子の姿でした……」


そう言って、インデックスの頭をフード越しに撫でる神裂。
その顔は依然暗いままだ。


神裂「事情を聞いた私は急いで瓦礫をどけていきました。今思えば乱暴なやり方でしたが、その当時から親交があった
   彼女の身が心配でなりませんでした……。そして、瓦礫の中から見つけた彼女の体は……ひどい、有様でした……」


上条はその状態を見てはいないので、その姿を想像することしかできない。
しかし、神裂の言い方からして、本当に悲惨な状態だったのだろうと推察する。


神裂「私達の誰もがC.C.は死んでしまったと思いました……。ですがその時、『最大主教』がその場に現れて、
   C.C.を『部屋で休ませるように』と言ったんです。私達はその言葉を理解しかねました。だって彼女は、
   誰がどう見ても死んでしまっているんですよ?用意するのは部屋ではなく、棺桶の類ではないか、と。
   すると『最大主教』は笑いながら、大丈夫、と言ったんです。私達はしょうがなくその命令に従いました。
   ……そしてその三日後、私達の目の前に、まるで何事もなかったかのようなC.C.が現れたんです」


上条はその話を聞きながらC.C.をそっと見る。
彼女は神裂の話などまるで知らぬというように、目を瞑り、腕を組んで佇んでいた。


神裂「そしてその後、私達は彼女自身の口から彼女の体質の事を聞いたんです」

インデックス「……でも、私にはその時の記憶がないんだよ。しーつーが私を助けてくれたのに、
       私は何も覚えてないから……」


インデックスはそういうと表情を歪め、今にも泣きそうな顔になった。
そんな彼女を見て、神裂はその頭を優しく撫で続ける。


上条「そんな事があったのか……」


上条は再度、そこに佇んでいるC.C.を見る。
相変わらず目を瞑って、沈黙を保っているが、その姿が何処となく照れ隠しに見えて、上条は思わず苦笑した。


上条「えと、それで、もう一つの恩ってのは……?」


そう尋ねると、神裂はまたも目を伏せた。


神裂「……私達は彼女に誤った選択をするのを止めてもらったんです」

上条「誤った選択?」

神裂「はい……。今回のこの一件があるまで、インデックスは一年おきに記憶を消さなければならないように、
   教会に仕向けられていました。それはつまり、一年おきに全ての人間関係がリセットされるという事です。
   彼女自身が全てを忘れてしまうのと同時に、周囲の人間は誰一人の例外なく、彼女に忘れられてしまうんです……」

上条「……」


上条は言葉を発する事ができなかった。
常に一緒にいた親友が全てを忘れ、そして全てを忘れられるというその悲しさ、辛さは、想像を絶するものなのだろう。


神裂「春を過ごし、夏を過ごし、秋を過ごし、冬を過ごし、思い出を作って忘れないように、たった一つの約束をして、
   日記やアルバムを胸に抱かせて……。それでもダメだったんです……。一から思い出を作り直しても、何度繰り返しても、
   家族も、親友も、恋人も、全てがゼロに還ってしまう……」


自分に語る神裂はどこまでも悲しげで、苦しげだ。
思い返すだけで泣きたくなるほどの悲運を背負い、今まで過ごしてきたのだろう。

でも、だからこそ、上条は思う。


上条「……お前らは強いな」

神裂「え?」

上条「お前とステイルは強いよ。さっきステイルにも言ったけどさ、インデックスが自分達との思い出を全て忘れても、
   インデックスの傍に居続けて、友達としてあり続けたんだろ?だからそれは」

神裂「違うんです……」

上条「え?」


上条が言い切る前に、神裂はとても小さく、か細い声でその言葉を遮った。


神裂「違うんですよ……。私達は強くなんかありませんでした……。私達は弱かった。どうしようもなく、弱かったんです……。
   だから、私達は、最悪の選択をしようとしました……」

上条「最悪の選択……」


神裂はインデックスの頭を撫でていた手を下ろし、両方の手を強く握り締めた。


神裂「私達は耐えられなかったんです……。自分達がどんなに思い出を作っても、この子がそれらを全て忘れてしまう事に。
   日記を見ても、アルバムの写真を眺めても、この子が、ごめんなさい、と申し訳なさそうに言うその姿に。そして、
   それでも尚、この子が笑顔を見せようとする事に……」

上条「……」


その神裂の、悲痛を訴える姿に半ば茫然とする上条。
その姿は、普段見せる、日本刀のように研ぎ澄まされたその凛々しい様からは微塵も想像できなかった。


神裂「そして、私達は、その苦しみから逃れるために、この子の『敵』になることを決めたんです……。
   初めから『敵』であれば、この子が私達をそのように認識していれば、私達に笑顔を向ける事もない。
   初めから『敵』であれば、辛い思い出を作る事もない、と……」

上条「……」

神裂「今思えば、なんて愚かな選択をしようとしたのでしょうね……。ですが、それほどまでに、
   私達は追い詰められていたんです……」


自嘲的に言葉を吐く神裂。
その脇では、インデックスが辛そうな顔で神裂を見上げている。


神裂「そんな時、C.C.が私達の前に現れて、彼女は言ったんです。その程度で逃げるな、と。
   お前達の都合をインデックスに押し付けるな、と。一年分の記憶を失う事が悲しいなら、
   その次の一年をさらに楽しいものにすればいいだけだろう、と……」


神裂がそう呟くと、今まで沈黙を保っていたC.C.が溜め息をついて、口を開いた。


C.C.「私はただ、追いかけ回される奴の身にもなれ、私が身を挺して救った事を無駄にするな、と言っただけだろう」

神裂「貴女は言葉を省略し過ぎですよ」


そう言って苦笑いを浮かべる神裂。そしてさらに言葉を続ける。


神裂「彼女の言葉が正しいという事は分かってはいたんです。しかし、最初はそう簡単には頷けるものではありませんでした……」


神裂は一度目を伏せたが、すぐに顔を上げ、上条を真っ直ぐ見て話す。


神裂「ですが、彼女が、私達よりもこの子と長い付き合いをしているC.C.自身が、記憶を失い、何もかもを忘れたこの子と
   何一つ変わらない態度で、一から自己紹介をし、話をする姿を見て、私達も逃げてはならないと思ったんです。
   そして何より、彼女の言葉で、この子を追いかけ回し、苦痛を与える事が大きな間違いである事に気付いたんです。
   私達の臆病のツケをこの子に押し付けてはいけないと」


そう話す神裂の瞳には、いつの間にか力強さが戻っていた。
その瞳の奥に確かな強い意志が宿っているのが分かる。


神裂「そして、私達はもう一度インデックスの傍にいる事を選ぶことができました。今、私達がこの子の傍にいられるのは、
   C.C.のお陰なんです。ですから、いつかその恩を返したいんです」


そう言って神裂は微笑を浮かべ、インデックスとC.C.に交互に顔を向けた。


インデックス「……ありがとね、かおり、しーつー、すている。ずっと私の傍にいてくれて……。これからは私もみんなの事を
       忘れないんだよ!だから、これからも傍にいてくれると嬉しいかも!」

神裂「ええ、もちろんです。もう二度とあんな愚かな選択もしません」

ステイル「……今、僕は君の保護者であり、監視者だからね。まぁ、傍にいるよ」


そのインデックスの言葉に、神裂は微笑みながら、ステイルは素っ気なく答えた。


C.C.「ふっ、お前は傍にいたくてしょうがないのだろう?なぁ、ステイル?」

ステイル「……燃え散らすぞ?」


上条はその四人の様子を見ながら、その場で静かに笑みを浮かべていた



―――――――――

――――――

―――


今回はここまでです
2、3日以内にもう一回来て、その時に『禁書目録編』を終わらせます

謎の『黄金系』魔術師は完全にオリキャラですので、そういうのが苦手な人はすみませんでした……
どうしても、この事件を起こすキャラが必要だったので……

それではまた次回に

遅れてどうもすみません…

更新したいんですが↓の表示がちょっとあれなので、少し待ってください自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

こんにちわ

↓の表示が気になるかも知れませんが、投下しますね
上手く改行します自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


数分後



ステイル「……さて、話も終わったことだし、そろそろ行こうか」

神裂「そうですね。……上条当麻、この度の件では本当に助かりました。
   今後、何らかの形で必ず恩を返したいと思います。……ステイル」

ステイル「……上条当麻、とりあえず世話になったね。彼女達を助けに動いてくれた事には礼を言うよ」


頭を下げて礼を述べる神裂と、そしてその神裂に促されながらも感謝を述べるステイル。
先ほどのインデックスの時と変わらないな、と上条は内心思いながらも頷いた。


上条「恩を返すとかは別にいいよ。……また何か困った事があったら、手貸すぜ?」


上条のその言葉に二人は最初目を丸くしたが、神裂は僅かに笑みを浮かべ、再び頭を下げる。
対するステイルは、ふん、と顔を逸らし、明後日の方向を見たが。

そして、顔を上げた神裂は最後にC.C.に向き直った。


神裂「C.C.、最大主教が許可したという事は、この『学園都市』の上層部と対話して、何かしらの安全措置が施されるとは
   思いますが、あまり無茶はしないで下さい」

ステイル「君に何かあったら、また僕達が派遣される事になるだろうからね。あまり問題も起こさないでほしいものだね」

インデックス「……あれ?そういえば、しーつーはここのどこに住むの?」


インデックスは疑問を浮かべ、C.C.に尋ねる。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


C.C.「心配するな。あの女狐と話して、どこに住むかは決まっている」

上条「へぇー、そうなのか。……なんか困った事あったら手伝うからな」

C.C.「ああ、頼むぞ」


そう言うと、ニヤリと笑みを浮かべる彼女。
その様子を見ていた上条を除く三人は……。


神裂・ステイル・インデックス(((何か良からぬ事を企んでる……)))


今までの付き合いから、彼女が何かを企んでいるのが容易にわかったが、上条はそれに気づかなかった。


神裂「……えーと、それではそろそろ時間ですので、私達はこれで失礼します。上条当麻、あなたに頼むのは少しおかしな
   話なのですが、彼女を、C.C.を頼みます。彼女にとっては不慣れな場所ですし、この学園都市で頼りになるのはあなた
   ぐらいしかいませんので……」

上条「ああ、わかったよ」

神裂「よろしくお願いします。……では、二人とも、行きましょう」


神裂がそう言うと、ステイルとインデックスも頷いて、三人は歩き出す。
上条とC.C.はそんな三人を黙って見送った。

そして、やや離れた所からインデックスが一度振り返った。


インデックス「とうまー!!しーつー!!元気でねー!!ありがとうー!」


そう叫んで二人に手を振るインデックス。
その様子を見て、二人は笑みを浮かべ、片手を上げて応えた。

インデックスは手を振り続け、上条とC.C.の二人は三人の姿が見えなくなるまで、黙ってそれを見送っていた。



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上条「……行っちまったな」

C.C.「ああ、そうだな」


三人の姿を最後まで見送った二人は、名残を惜しむかのようにそのまま公園に佇んでいた。


上条(にしても、不思議なもんだな……)


今思い返せば、上条にとってこの三日間は自身の世界観、常識を大きく変えるものだった。

『ギアス』、『コード』、『魔術』、『必要悪の教会』、『禁書目録』。

今まで『非常識』と思っていたものが存在することに、自身に大きな衝撃を与えた。
自分は『無能力者』だが、今回の件で、自分の『自分だけの現実』も影響を受けたんじゃないかと思う。


上条「……さてと、お前はこれからどうするんだ?住む場所決まってるって言ってたけど、今日からもう住めんのか?」

C.C.「ああ、問題ない」

上条「ふーん……。どこに住むんだ?」

C.C.「なんだ?私の住む場所が知りたいのか?」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、逆に聞いてくるC.C.に、上条は居心地が悪くなる。


上条(さすがに女性の住所を聞くのはマズかったですかねぇ……)


そもそも上条には住所まで知っている女友達などいなかった。
女子寮に住んでいるとかそういうのをちらりと聞いた事がある者はいるが……。


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上条「あー、いや別にそういう訳じゃないけど、なんかすることあったら手伝おうと思ってたからさ。
   ほら、神裂達にもよろしくって言われたし」

C.C.「ふふふ、心配するな。何かあったら私の方からお前に言うさ」


C.C.はそう言うと、公園の出口の方へと歩き始めた。


上条「お、おい、どこ行くんだよ?」

C.C.「ただの散歩だ。まだこの街をほとんど見ていないからな。その後、私の住む場所に行く」


一度立ち止まって上条の問いに答えたC.C.だが、またすぐさまスタスタと歩き始めた。
それを上条はその場から見送る。

そして最後に……。


上条「C.C.!」


叫ぶ上条の声に、C.C.はゆっくりと振り返った。


上条「なんか困った事あったら、いつでも相談しに来いよ!」


そう叫ぶ上条に、C.C.は妖しい笑みを浮かべた。
そして彼女はまた歩き出し、今度こそ立ち止まる事も、振り向く事もなく、上条の視界から消えていった。



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第七学区・学生寮近くの道路



現在の時刻は午後7時。
完全下校時刻を過ぎたこの時間、上条は食料品の入った買い物袋を手に提げ、自宅へと向かう道をトボトボと歩いていた。

上条は朝の別れの後、目的もなくぶらぶらと街を彷徨っていた。
補習があったような気もしたが、何故だか行く気にはなれなかった。
時折、ゲーセンを覗いてみたり、店に入って商品を眺めてみたりと、上条はそんな事を繰り返し、今日一日を潰していた。

どういう訳か、自身の不幸スキルが発動する事も珍しく無かった。


上条(はぁ、なんだかなぁ……)


しかし、C.C.と公園で別れて少ししてからというもの、上条はなんとも言いようのない虚脱感、脱力感に襲われていた。


上条(やっと上条さんの日常が戻ってきたってのに、一体なんなんでしょうかねぇ……)


C.C.と出会ってからの三日間は、『常識』から外れた『非常識』の日々だった。
不幸ながらも割と平穏(?)であった日常は一転し、あと少しで本当に死ぬような目にもあった。

この虚脱感はそのギャップのせいだろうか?
しかし、自分は決してマゾヒストではないし、そんなスリルに満ちた生活を欲している訳でもない。

では何故か?

上条は上手く自覚できていないが、それは多分、寂しさ、なのだろう。

C.C.と出会い、神裂やステイルと協力し、インデックスと過ごした日々。
結局のところ、そんな『非日常』も、悪くはなかったのだ。


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上条「はぁー、なんか疲れたな……。今日はさっさと寝てしまいましょうかね?」


あーだ、こーだとウダウダ考えている内に、自身の住む学生寮へと辿り着いた。
まったく防犯の役には立たなそうな入口をくぐり、これまた随分と古いエレベーターに乗り込み、7階のボタンを押す。

キンコーン、という電子音が響き、ドアが開く。
エレベーターを降り、自分の部屋に伸びる直線通路をだらだらと歩く。
自分の部屋のドアの前に立ち、鍵を開けようとする。

……しかし、鍵を回した時の手応えがない。


上条「あれ?鍵開けっぱなしだったか?」


朝、部屋を出た時の事を思い返す。
鍵を掛けなかった気がしないこともない。


上条「まっ、上条さんの部屋に盗まれてマズイものなんて一つも無いとは思いますがね!はははっ!……はぁ」


無理矢理気分を上げようとしても、やはりどうにもならなかった。
そして、溜め息をつきながら、上条はドアを開けた。


上条「……ふぅ、ただいまっと」


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C.C.「おかえり、当麻」




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上条「………………………………」


C.C.がいる。
朝に別れたはずのC.C.が自分の部屋にいる。

……何故だ?


C.C.「おい、何を呆けている?この私が出迎えてやったんだぞ?泣いて喜ぶくらいはしろ」


C.C.はあのボロボロの人形、チーズ君を抱えながら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
服も自分が貸したものから、あの白い拘束衣のような服に着替えている。
その服には、まだ薄く血の色が残っていたが。


上条「……あー、えーと、C.C.さん?ここで一体何をしているのでせうか?」

C.C.「見れば分かるだろう?」


そう言って自分から目を切り、彼女は点けていたテレビへと視線を戻した。


上条「いや、よく分からないんですが……。あれか?その人形取りに来たのか?それとも俺の服、返しに来たのか?」

C.C.「お前は何を言っている?」

上条「はい?」


そして、C.C.はもう一度、自分へと目を向けて、言い放つ。


C.C.「今日からここが私の住む場所だ」


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上条「……はい?」


C.C.の言葉を脳内で反芻する。
『今日からここが私の住む場所』……?つまりどういうこと?C.C.はここに住むの?

えっ、ここは上条さんの部屋なんですが?


上条「……えっ?じゃあ上条さんはどこに住めば?」


事態に混乱した上条の頭は変な方向へと繋がってしまった。


C.C.「何を言っている?元々、ここはお前の部屋だ。お前もここに住むんだろう?」


そのC.C.の言葉に上条はついに言葉を失った。


C.C.「それとも何だ?追われている私を追い出すのか?私はお前以外にこの街に知り合いはいない。
   それに、野宿したら補導される。私が捕まったらお前も嫌だろう?」

上条「ええと、それは、そうなんですが……」

C.C.「だからここで我慢してやるよ。それと、これからベットは私が使う。男は床で寝ろ」


言い終わるとC.C.は再びテレビを見始める。


上条「……つまり、C.C.は俺と一緒に暮らすことになるのでせうか?」


上条は茫然と呟いた。
これは何かの冗談なのだろうか?
そうあってほしいと願うが……。


C.C.「この私と暮らせるんだぞ?光栄に思え。それよりも、そろそろ腹が減った。ピザが食いたい」


そのC.C.の言葉に対してか、それとも自身の今後の生活を思ってか、上条はいつものように叫ぶ。


上条「ふ、不幸だぁああああああああああッ!」



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イギリス・聖ジョージ大聖堂



グリニッジ標準時間で現在は7月22日午後4時。

日本を出たのがちょうど昼頃。
イギリス行きの通常便で約12時間のフライトを経て、神裂、ステイル、インデックスの三人はイギリスへと戻ってきた。

そして今、三人はイギリス清教の総本山、聖ジョージ大聖堂にて、『最大主教』、ローラ=スチュアートを前にしていた。


ローラ「さて、三人ともよく無事に帰りたるわね」


ローラは笑みを浮かべながら、三人に言葉を掛けた。


ステイル「……『最大主教』、早速、話を聞かせてほしいのですが?」


ステイルはいきなりローラに尋ねた。
その声音には、隠し切れない怒気が含まれている。


ローラ「そう憤るでないのよ、ステイル。確と話したるから。……でも、その前に、『禁書目録』?」


ローラが名を呼ぶと、インデックスはビクッと肩を震わせた。


ローラ「何か私に言ふべき事があるのではなくて?」


そう尋ねるローラに対し、ステイルと神裂は彼女に鋭い視線を送った。
しかし、ローラはそれを受け流し、インデックスを見つめる。

そして、インデックスはおずおずと言いだした。


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インデックス「ええと、『最大主教』、その、勝手に抜け出したりして、ごめんなさい、なんだよ……」


そう申し訳なさそうにインデックスは謝った。

今まで自分を苦しめてきた相手を前にしながら、激怒するでもなく、糾弾するでもなく、まず自分の勝手な行いを謝る、否、
謝ることが出来るそれは稀有な才能だろう。

しかし、インデックスの内心はそれどころではなかった。

彼女は勝手にイギリスを出たのだ。
自身が『禁書目録』という最大級の機密であり、その知識は世界を覆すほどのものであることを理解しながら。
それは本来、どんな事情があろうとも許されるものではない。

そして、インデックスが最も危惧しているのは、自分がこの国を出る時に協力してもらったシスター達の事だ。
彼女達には自分の『悪事』の片棒を担いでもらったのだ。
自分のために罰を受けることを覚悟して行動してくれた彼女達がどんな罰を受けるのか、インデックスは気が気でなかった。

しかし、ローラの口から出たのは予想もしない言葉だった。


ローラ「一体何を言ふているのかしら?『禁書目録』、私は今回の『仕事』の報告をしなさいと言っているのよ?」

インデックス「……え?」


インデックスは目を丸くした。
仕事?報告?……どういうこと?
『最大主教』の言っている事が理解できない。


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ローラ「あら?私の記憶では、私がお前に直に仕事を与えたと思ふのだけれど?
    『魔女』を追って学園都市に行きたる神裂火織らを補佐せよとね」

インデックス「え?私は……」


もちろん、そんな事は言われていない。
今回の件は完全に自分の勝手な行動だ。

それなのに、『最大主教』はそれを咎めることはない。
むしろ、自分の行動を自身の命令として処理しようとしている。

これは一体どういう事なのだろうか……?


ローラ「然るから、お前が学園都市へと向かいし時にそれを手伝ったシスター達も労わなければね」

インデックス「ッ!」


どうやら今のところ、『最大主教』は自分の出国を手伝ったシスター達になんらかの処罰をするつもりはないようだ。
ただしそれは自分が彼女の話に合わせた場合に限っての話で。

つまり簡単に言えば、シスター達は人質なのだ。

自分と彼女達を不問に処す代わりに、自分は余計な事を言わず、彼女の言う事に黙って頷く。
自身の『首輪』について聞きたい事が無い訳ではないが、彼女の機嫌を損ねる訳にはいかないのだ。


ローラ「『禁書目録』、報告を終えるまでが『仕事』なのよ?ちゃんと『仕事』を終えなさいな」


そう言ってローラはインデックスに笑い掛ける。


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インデックス「……えと、無事にかおりとすているに会って、しーつーを探し終わったんだよ……。
       でも、連れて帰って来れなかったけど……」


ローラに合わせ、インデックスはボソボソと『報告』した。
そして、ローラは一度頷いて、さらに笑みを深めた。


ローラ「ご苦労様。『魔女』を連れ帰ることができなかったのは仕様がなしにつきよ。気にする必要はないの。
    ……さて、シスター達がお前の事を心配したるようなのよ。今すぐ会いに行ってやりなさいな」


インデックスをシスター達の所に行くように促すローラ。
インデックスは一度、神裂やステイルを見たが、彼らも事情を察して首を縦に振った。

そしてインデックスは、行ってくるだよ、と言ってその場を去っていった。
実際、彼女はシスター達の事が心配で、一刻も早く様子を見たかったのだ。

そして、そこに残された三人。
口火を切ったのは、やはりステイルだった。


ステイル「さて、『最大主教』。そろそろ話を聞かせていただけますか?」

ローラ「神父ともあろう者がそう急き立てるものでないのよ、ステイル?」


そう言ってステイルを笑うローラ。
それを見てステイルは顔を歪めた。


ローラ「……さてと、ではまずは逆に聞こうかしら。お前達は何を聞きたいの?」


自分から話すのではなく、まずはステイルらに質問を促したローラ。
それに対し、顔に不満を浮かべながらも、この際ということでステイルは口を開く。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


ステイル「……それでは聞きましょう。まず、あの子に仕掛けてあったあの妙な『刻印』は何ですか?
     僕達はまったく知らなかったのですが?」


インデックスの喉の奥に刻まれていた謎の印。
『幻想殺し』、上条当麻の謎の能力によって破壊されたが、あれが元凶と思われる以上、問い質さない訳にはいかない。


ローラ「あれは『禁書目録』を管理、保護するためのものよ。あの娘が『禁書目録』と為りし時から存在する『首輪』。
    そもそも、10万3000冊もの『魔道書』を記憶せし者を何の安全措置もなく、野ざらしにするはずなどないでしょう?
    あの娘の『禁書目録』としての知識の恐ろしさは、お前達もよく分かっていると思うのだけれど?」

神裂「ですがッ!」


語気を荒げる神裂を見据え、ローラはさらに言葉を続ける。


ローラ「あの娘を、『禁書目録』を狙わんとする輩が多いことはお前達も身をもって知りたるでしょう?
    そのような者達からあの娘を守るために、当時では仕様のなき事だったのよ。それとも、あの娘の
    身の安全などどうでもよかったとでも言ふの?」


そう言われ、神裂とステイルは言葉に詰まる。
インデックスの身の安全、命は何よりも大事なものだ。
それを危険に晒すことなど認められるはずもない。


ローラ「あの娘を『禁書目録』とせし私達ができる事。其れがあの娘の命だけは最低限守る事なのよ。
    それを可能とするのが、あの『刻印』だったの」


そう言って言葉を切るローラ。
神裂とステイルは沈黙する。

そしてやや間を開けた後。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


神裂「……何故、私達に話してくれなかったのですか?」


沈黙が三人を支配していたが、それを破って神裂が絞り出すように尋ねた。


ローラ「……其れに関しては、まず謝るべきかしらね。けれど、其れをお前達に話したところで事態は何も変わらぬのよ。
    『禁書目録』、『魔神』の力を振るう者の『首輪』を、お前達の一存で外すことなどできようはずもないでしょう?
    それでも、お前達は事態を知らば、なんとかせんとするでしょう?それは『必要悪の教会』、延いてはイギリスに
    対する反逆と同じ。そのようなことになれば、お前達を処罰しなければならなかったの。それ故に、お前達には
    言わずにいたのよ」


神裂とステイルは苦々しく思いながらも、彼女の言った事をよく考える。

確かに、初めから事情を全て知っていれば、あの『刻印』を消すために自分達は動いただろう。
あの子の、そして自分達の呪われた運命を変えるために。

だが、それは命懸けの行動だ。
それはイギリスという大国そのものに楯突くも同然のことだから。

そして、そうなれば、インデックスの身も危うくなるかもしれなかった。


ローラ「……けれど、事態がこのように為りし今、再び『禁書目録』に『首輪』をつけるような事などせぬわよ?」


そのような言葉が『最大主教』の口から出た事に、神裂とステイルは目を見開いた。


ローラ「今は昔ほどイギリス清教に余裕がない訳ではないのよ。使える人材もここ数年で多いとは言えずとも、
    少しばかりは増えたるし。然るから、『禁書目録』を守るために、より多くを割けられるのよん。
    そして何より、お前達があの娘を守るのでしょう?なれば『首輪』をつける必要もないのではなくて?」


ローラはそう言って二人に笑みを向けた。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


ステイル「……当然だよ。あの子は僕達が守る。どんな奴らからもね」

神裂「ええ、そうですね。あの子は何があっても守ります」


そう言ってローラに強い視線を送る二人。
それを見て、ローラは笑った。


ローラ「うむうむ、良き返事よ。……さてと、私はまだ仕事があるの。お前達も『禁書目録』が世話になったシスター達の
    所に行くのが良いのではなくて?」


ローラは二人を促す。
二人は一度目を合わせ、ローラに一礼して、その場を去っていった。

そして、ローラはその場に一人残される。


ローラ(……さてと、これであの三人はこれからもここに残るでしょうね)


ローラは三人と話す前からずっと考えていた。

神裂とステイルが憤る主な理由は自身が騙されていたからではない。
もちろん、それに対する多少の苛立ちはあったに違いないが、彼らにとって何よりも重要で、見逃し難かったのは、
『禁書目録』の扱いに関してだろう。

あの娘を大切に思い、あの娘のために力を振るっている彼ら。
ならば、『禁書目録』をこちらから離れられなくし、そして表向きでは『禁書目録』を守る体制を強めてやれば、
彼らはある程度満足するだろう。

そして今回のケースでは、『禁書目録』にはシスター達を、神裂とステイルには『禁書目録』を。
それぞれの性格を考慮し、それぞれにとって有効な駒で手を打ったのだ。

それに、無理にイギリス清教に歯向かう事が得策ではないことなど彼らは百も承知しているはず。
だから、これであの強力な駒である三人を失うことはない。

それに、いざとなれば『あれ』を使うまで。
あの人道無視の、悪魔の霊装を。

そうして彼女は、鼻唄を歌いながら浴場へと消えていった。



―――――――――

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―――


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


学園都市第七学区・窓のないビル



土御門「……さて、どうだ、アレイスター?お前の計画通りに進んでいる感想は?」


窓のないビル内部にある、コードばかりが巡らされた空間。
そこで金髪、サングラスで、アロハシャツというふざけた格好をしている学生、もとい魔術師、土御門元春は、
赤い液体の詰まったビーカー内を逆さまに浮かぶ存在、学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーを前にしていた。


アレイスター「実に心地いいさ。何でもこう順調に進んでくれると私も楽なのだが。
       もっとも、面白味という面では少しばかり物足りない気もするがね」


赤い液体の中を漂いながらもこの学園都市の状況を全て把握し、情報を掌握している彼に死角は存在しない。
今回のインデックスとの接触も何もかもが彼の手の上の事なのだ。


土御門「ふん、そう油断しているといつか寝首を掻かれるぞ?」

アレイスター「問題無い。セキュリティーは完璧だ。それに、この街で起きたこの住人の問題であれば、それを解決、
       隠蔽する手法など7万と632程度、この街の外部の者の問題にも1万と351程度の手段は揃えてある」


アレイスターの最大の強みはその情報力。
それを破らない限り、この学園都市で彼を出し抜くことなどできるはずもない。

だがそれでも、アレイスターにとっても予想外な事が起こるならば、起こせる者ならば。


土御門「……カミやんを、『幻想殺し』を甘く見ない方が身のためだぞ?」

アレイスター「甘くなど見ていない。それにあれにはまだまだ成長してもらわなければ困る。そのための今回の接触だ」


アレイスターは薄い笑みを浮かべながら呟いた。


アレイスター「私の理想にはまだまだ遠い」



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自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中





『 第二章:禁書目録編 終了 』




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

とりあえずここまでです

ああー、長かった…
これにて『禁書目録編』は終了です
次回はちょっと日常回を挟んでから、次の章にいきます
更新は一週間以内に来れればなと…

それではまた自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

予告上げ

えー、ちょっと忙しかったせいで、キリのいい所まで書けていません…
なので、もう3、4日程お待ちください

どうもすみませんです…

こんばんわー
遅くなってすみませんでした

それでは投下します


幕間『 魔女との日常 ~ギアスの実践~ 』 

7月25日
学園都市・学生寮



突然だが、私こと上条当麻は有り得ないくらいの不幸体質である。
あっちへ行けば不良に絡まれ、こっちへ行けばビリビリ中学生に追い回される。
財布を落とすなんて日常茶飯事だし、怪我をするのも当たり前。

日頃から大小様々な厄介事、揉め事に巻き込まれる私ですが、目下、最大の不幸となっているのが……。


C.C.「おい、何をしている?早く朝食を作れ」


……これだ。

自分の目の前で、床に足を崩して座り、テーブルに頬杖をつき、自分に朝食を作れと命令しているこの女の子(?)。
名前をC.C.という。どう考えても偽名だが、本人はそう名乗ってる。

彼女と出会ったのは五日前。出会った場所は家のベランダ。そこに引っ掛かってた。
その後、まぁ色んな事がありまして、彼女を助けに行って、殺されかけて、なんとか生還して……。

それで一件落着だなー、と思ったら、今度はシスターさんが突然やって来て。
名前をインデックスという、これまた偽名としか思えない女の子だった。
そして、またもや色んな事がありまして、その女の子を助けようとして、なんか凄い攻撃されて、それでもまたもなんとか生還して……。

それで今度こそ終わったー、と思ったら、C.C.が上条さん家に住み始めて……。

もうここ最近の不幸指数はかなり凄いことになっているんです……。



C.C.「おい、当麻。聞いているのか?」

上条「……はぁ、聞こえてますよ」

C.C.「なら早く朝食を作れ。それが嫌ならピザを注文するぞ?」

上条「それだけはやめて下さい……」


彼女と本格的に同居し始めて三日。
まず最初に問題になったのが食費だ。

無類のピザ好きである彼女は、一日に少なくとも一枚はピザを食べないとダメらしい。
何と言うか、食事というよりはお菓子感覚っぽい。

しかし、上条さんのお財布には、贅沢が出来るほどの余裕はありません。
この街でピザは一枚約2000円から約3000円。
上条さんの家計を圧迫するには十分な額なんです。

しかも、彼女は三食全部ピザでも構わないという。
もしそんなことされたら、一ヶ月と持ちません。そういう訳なので……。


C.C.「まったく、この私がピザを二日で一枚で我慢してやっているんだぞ?これ以上、私に窮屈な思いをさせるな」


心からお願いして、なんとかピザは二日で一枚と我慢してもらった。
まぁ、それでも十分苦しくなる訳なんですが……。

ていうか、俺がお願いすること自体、間違ってません……?


上条「……はぁ、だったらイギリスに帰ればいいだろ……」


彼女がイギリスに帰れば、上条さんにも余裕ができる。彼女も我慢しなくて済む。
最高のハッピーエンド、なのだが……。


C.C.「お前もわからない奴だな。この前から言っているだろう?私は帰るつもりはないと。
   それに、お前は私と『契約』したはずだ。お前は一方的にそれを破るのか?」


こう言われると、何も言い返せないんだよな……。

あの時、『ギアス』をC.C.から貰った時、確かに俺はC.C.と契約を結んだ。
それで自分も助かった訳だし、それについて文句なんか言えない。


C.C.「それと、お前は『ギアスユーザー』となった訳だが、『ギアス』に関して何も知らないだろう?
   だったら私が傍にいた方が色々と都合が良いはずだ。違うか?」


C.C.の言うとおり、上条さんは『ギアス』の事をまったく知りません。
使ったのもたった一回だけだし、どういう効果なのかも、その使い方も、なんとなくしかわかっていません。

ただ、あの力が危険なのはわかってる。使い方を誤れば、大きな問題を引き起こす事も。
だから、C.C.が傍にいるのはありがたい事なのだ……と、思う。

さらに言えば、C.C.と話したりするのは割と楽しい。
どういう訳か、色んな知識を持っているし。

うん、なんと言うか、退屈はしないんですよ。


上条「……はぁ、悪かった。確かにお前の言うとおりだよ」

C.C.「わかったなら早く朝食を作れ」


……後はね、こんな性格でなければなぁ。



―――――――――

――――――

―――



朝食は白米、味噌汁、野菜炒め、玉子焼きと簡単に作った。
C.C.はやっぱりどこか不服そうな顔をしていたが、それでも今は普通に食べている。
彼女はピザが大好きだが、それ以外の食も嫌いという訳ではないらしい。

それにしてもだ……。


上条「C.C.、お前さ、前に日本にいたことあんのか?」


食事中の突然の問いに、C.C.は怪訝な顔を浮かべた。


C.C.「突然なんだ?」

上条「いやさ、お前、外国人なのに箸の使い方上手いからさ。前に日本にでもいたのかと思って。それに日本語も上手いし」


ここ数日、C.C.と一緒に飯を食べているが、彼女の箸の使い方は日本人と何ら遜色ないものだった。
外国人は箸を上手く使えない、と自分が思い込んでいるのもあるが、それにしても彼女の箸の使い方は使い慣れた者のそれだ。


C.C.「ああ、これか。……そうだな、昔、日本にいたこともあるが、まぁ、長く生きてると自然に覚えるものだ」

上条「長く生きてるって、お前な……」


何処か遠い目をしながら語るC.C.に上条は呆れながら呟いた。
C.C.の年齢はわからないが、その見た目から、自分とそう変わらない歳だと思うのだが……。


上条「……なんかおばあちゃんみたいだな」


つい言ってしまったその言葉。それがC.C.の逆鱗に触れた。


C.C.「お、おお、おばあちゃんだとッ!」


C.C.は、バンッ!と両手をテーブルに叩きつけ、身を乗り出して大声で叫んだ。
その目は鋭く、自分を射殺さんばかりのものだ。


C.C.「と、取り消せッ!今すぐその言葉を取り消せッ!」


烈火の如く怒るC.C.は前言の撤回を訴えている。この怒り様はただ事じゃない。


上条「い、いや、じょ、冗談ですよッ!?」


軽い冗談のつもりで言った事に、ここまで怒るとは……。
彼女がここまで感情を昂ぶらせた姿は初めて見た。


C.C.「き、貴様ッ!冗談でも言って良い事と悪い事があるだろうッ!」

上条「す、すみませんッ!すみませんッ!」


そして即行で土下座をする。
ここまでする必要はないかもしれないが、そのあまりの剣幕に、土下座しなければならないと、体が動いてしまった。


C.C.「謝って済む問題じゃないッ!さすがの私も怒ったぞ!目に物見せてやるッ!」ダッ


そう言うと彼女は部屋の電話を手に取り、覚えたばかりのある所へと電話を掛ける。


C.C.「おいッ!第七学区の○○学生寮にピザを五枚ッ!一番高いヤツでいいッ!」

上条「ちょっとC.C.さん!?それはマジでやめてぇええええええッ!」



―――――――――

――――――

―――



数十分後



上条「C.C.さん?あの、ご機嫌はいかがでしょうか?」

C.C.「ふん、私がピザ一枚程度で釣られるとでも思っているのか?」モグモグ


上条は相当遠慮がちに尋ねてはみるものの、彼女のツンとした態度は軟化しない。
それでも、ピザは美味そうに食べているのだが。

あの後、何とか電話をC.C.から奪い取り、上条はピザの注文をし直した。
注文しない、という選択は彼女の様子からできなかった。
泣く泣く3000円級のピザを一枚注文し、彼女の機嫌を取る事にした。

その彼女は今、脇にチーズ君を置き、何故かテーブルではなく、上条のベットの上でピザを食べている。
前に上条が、ベットの上で食べるのはやめろ、と言ったのだが、彼女曰く、ピザはベットの上で食べるのが良い、とのこと。


C.C.「……まぁいい。私は優しいからな。許してやろう」


その言葉に、上条は人知れず、ホッと胸を撫で下ろした。

彼女の機嫌を損ねる事は、実生活に大きな弊害をもたらす。
というより、割と本気で生死に関わる問題に発展する可能性があるのだ。

今回は事前にピザの自棄食い、もとい自棄注文を阻止できたが、阻止できなかった時を想像すると、身も凍る思いだった。


C.C.「……さてと、それでは少し話をしよう」

上条「何だよ突然?俺、今日も補習がある……」


上条はふっとC.C.を見やる。

しかし、ピザを食べる手を止め、自分を真っ直ぐ見据えたその眼は真剣そのものだった。
先ほどの様子から一変したそのC.C.の態度に、上条も何かを感じて、真剣に話を聞く態度を取る。


C.C.「話すのは『ギアス』に関する事だ。他言は無用だ。いいな?」


いつもと違い、重く、威圧するかのような声音に上条はさらに身を引き締めた。

ここから先は『非日常』の世界。
慎重に、丁寧に、確実に、語られる言葉を咀嚼し、反芻し、吸収しなければならない。
C.C.の目を見据え、上条はコクリと頷いた。

それを見て、『魔女』は話し始める。


C.C.「まず、『ギアス』の事をもう少し詳しく教えておく。とは言っても、この私自身、『ギアス』の全てを
   理解している訳ではないがな」

上条「おいおい、お前がくれた力なのに、お前自身がわかってないのかよ?」


彼女が与えた驚異的な力であるにも拘らず、彼女自身がそれを理解していない?
そうなると、その力の強さ故に、一気に不安になってくる。


C.C.「大体の事はわかっているがな。ただ、私は『ギアス』発現の鍵となる『コード』を保持しているが、言ってみれば、
   保持しているに過ぎない。『コード』や『ギアス』が何故存在するのか、いつ現れたのか、そういった事はわからないんだ」

上条「ふーん、そういうことか。……じゃあ、その『コード』ってのは、いつ手に入れたんだ?」


上条がそう聞いた時、スッとC.C.の顔から表情が抜け落ちた。

だがそれは一瞬のことで、注視していなければ見逃してしまうほど僅かな間の変化だった。
そして、C.C.は目を細め、何かを思い出しているのか、天井付近をじっと見つめている。


上条(な、なんだ?なんか気に障ることだったのか……?)


刹那の時間にも拘らず、上条はC.C.の表情の変化を見逃していなかった。

普段から無表情である事も多いが、それでも良く見せる意地の悪い笑みや、不敵な笑みを浮かべる時とはかけ離れた、
その一切の感情が削ぎ落とされた表情。それは上条の心を妙にざわつかせた。

そして、寸刻の間の後、C.C.はフッと息をついて、上条へと視線を戻した。表情も既に元へと戻っている。


C.C.「別に手に入れた訳じゃない。押し付けられたんだ。ずっと昔にな」

上条「……ずっと昔って、小さかった頃とかか?」

C.C.「……まぁ、そんなところだ」


何処かぶっきらぼうに答えたC.C.の姿に、これ以上の追求は悪い気がして、上条は尋ねるのをやめた。
本当はC.C.の過去に興味があったのだが、この雰囲気ではさすがに聞く気になれなかった。

それに、誰にでも一つや二つ人には聞かれたくない事、知られたくない事があるだろう。
上条自身も、自身の幼少期を人に語ったところで良い気分はしない。

でも、それでも。いつか、お互いの事を話せれば良いと思う。


C.C.「……話が逸れたな。元に戻すぞ」


上条は黙って頷いた。


C.C.「……それでだ、前にも言ったが『ギアス』は『王の力』だ。その力の前では何人たりとも歯向かうことはできない。
   この私を除いてな」

上条「?……C.C.には『ギアス』は効かないのか?」

C.C.「私には、というより、『コード』保持者には、と言った方が正しいがな」


C.C.の説明に、上条は、ふーん、と相槌を打った。
少なくとも、この『ギアス』が彼女を傷つける事だけはないらしい。

まぁ、しかし、彼女だけ良ければそれで良いなどということはないが。


C.C.「ただ、昔、一人だけ例外がいた」

上条「例外?」

C.C.「それはあまりにも特殊なケースだったがな。そいつは『ギアスキャンセラー』と呼ばれていたが、
   そんな人間はまずもう現れないだろう」

上条「『ギアスキャンセラー』、ねぇ……」


またしてもC.C.の『昔』のようだが、上条は深く聞かない事にした。
それよりも気になるのは、如何に特殊なケースと言えども、『ギアス』が効かない事もあるということだ。

……それならば、やはり。


上条「俺の右手でも、何とかなるのかねぇ……?」


そう言って自身の右手を見る上条。

外見上は特別なところがある訳でもなく、日常生活でも他人と何ら代わり映えのないそれ。
しかし、それには確かに他人には無い力が宿っている。

『幻想殺し』

それが異能の力なら、どんなモノでも打ち消してしまう能力。
しかし、実際に使えるのは能力者のいざこざを収める時や、『超電磁砲』、御坂美琴の電撃を止めたりする時くらいだが……。


C.C.「そういえば、お前のその右手も不思議な代物だったな。……ふむ、それが『ギアス』に対してどんな作用をするのかも、
   お前は知る必要がある。お前は知らなければならないだろうな」

上条「え?」


確かに知るに越したことはないだろう。
知識はいくらあっても邪魔にはならないものだから。

しかし、彼女の言い方からは、それが強制されているように聞こえる。
いや、間違いなく彼女自身そのつもりで言ったのだろう。

困惑の表情を浮かべる上条を余所にして、C.C.は話し始める。


C.C.「私が今日話したかったのはそこのところだ。お前は自身に発現した『ギアス』の事をもっと知れ」

上条「?……だから今、お前が教えてくれるんじゃないのかよ?」

C.C.「私が教えられるのは『ギアス』の共通概念だけだ。『ギアス』の発現はその人間が持つ素質に影響され、
   その本質は心の奥に潜む願望そのものだ。だから、発現する『ギアス』は人によって違う」

上条「願望……」


それを聞いて、上条は眉を顰めた。
もし、C.C.の言うとおりなら、自身に発現した『ギアス』、あれは自分の願望だったというのだろうか……?


C.C.「そういえば、当麻、お前には一体どんなギアスが発現したんだ?お前はあの時どんな力を使った?」


C.C.の問いに、上条はギクリとした。

自分に発現した『ギアス』は、おそらく他人に命令を下せるというモノだ。
一度しか使った事がないから確信を持っては言えないが、初めて『ギアス』を使ったあの時。
『猟犬部隊』が自分の言うとおりに動くような気がして、自分の思うままに命令したら、彼らはその通りに動いた。

つまりは、相手の意思を無視した『絶対遵守の力』。それが自分に発現した『ギアス』。

しかし、それが自身の願望だと言われた上条の心は穏やかではなかった。
自分は心の奥底で、そんなことを望んでいたのかと。

そして、それをC.C.に話す事は、自分の醜い部分を彼女に晒してしまうのと同じ。
彼女に知られれば、たちまち嫌悪される気がして、上条は思い切って話せなかった。


上条「あー、えーっと、だな……」


急に暗い顔になった上条を見て、C.C.は初め怪訝な顔を浮かべた。
だが、上条が何を考えたのか思い至り、C.C.はニヤリと笑みを浮かべた。


C.C.「なんだ?私に自分の願望を知られるのが嫌なのか?」

上条「ッ!……お前に知られるのが嫌っていうか、その……」

C.C.「ふふふ、安心しろ、坊や。私はお前がどんな願望を持っていようが気にしないし、それでお前を厭う事もない。
   人間誰しも心の奥には人には言い辛い願望の一つや二つあるものだからな。それに、お前は言っただろう?
   要は使い方の問題だと。願望を実現できる力があっても、正しく使えばいいだけなのだろう?」


上条はそんなC.C.の言葉にはっとした。そして彼女の言葉を深く噛み締める。
噛み締めると同時に、自分をさりげなく助けてくれる彼女に、感謝の気持ちを抱く。

そして、上条は一度大きく息をついた。


上条「……俺に発現した『ギアス』は、たぶん、自分の思うように他人に命令できるモノだと思う」

C.C.「……何?」


上条の言葉にC.C.は目を見開いた。その表情は驚きに染まっている。


上条「……やっぱ、こんなの、おかしいよな」


上条はC.C.の反応を、自身の『ギアス』、上条自身から言わせれば、異常な願望に対する驚きと捉え、自嘲的に笑った。


C.C.「……いや、私が驚いたのはそういう事じゃない。……お前の『ギアス』は他人に命令を下せる『絶対遵守の力』。
   それで間違いないのか?」

上条「ああ、まだよくわからないけど、たぶん……」

C.C.「そうか……。そんな事も、あるのか……」

上条「?」


C.C.の様子に困惑の表情を浮かべる上条。
一方でその彼女の表情はどこか苦しげで、悲しげだった。


C.C.「……昔、お前と同じような『ギアス』を持った奴がいたんだよ。
   同じような『ギアス』が発現した人間を見たのは私も初めてだ」

上条「そうか……」


C.C.の話を聞いて、上条はその顔も知らぬ誰かを想う。
自分と同じような『ギアス』、願望を持った者はどんな人だったのだろうか。
何を思い、どんな風にこの力を使ったのか、非常に気になるところだった。


C.C.「……お前の『ギアス』が『あいつ』とまったく同じかどうかはまだわからないがな。……参考までに話すが、そいつの
   『ギアス』はお前と同じ『絶対遵守の力』。そいつの『ギアス』は光情報で、使うには相手の目を直接見る必要があった。
   眼鏡程度の透過率なら問題はないが、バイザーなどのレンズだと効果はない。有効距離は270m程。『ギアス』を掛けた前後、
   発動中には記憶の欠落が見られ、一度『ギアス』を使った相手には、もう『ギアス』は効かなかった」

上条「ふーん、随分と詳しいな」

C.C.「……鬱陶しいくらい几帳面な奴だったんだよ、あいつはな」


目を細め、何処か遠くを見つめながら話すC.C.。
先ほどの哀愁が漂う様子といい、彼女にとって大切な人だったのだろうかと上条は思う。

しかし、彼女は全て過去形で語っていた。それはつまり……。


上条「その人、今は……?」

C.C.「死んだよ。世界を壊し、世界を創ってな」

上条「……その、ごめん」


上条は予想していただけに、聞かなければ良かったと深く後悔した。
しかし、自分と同じような『ギアス』を持った人間に対する興味、関心が僅かに勝ってしまった。

さすがにこれ以上は聞く気になれないが、彼女は尚も気になる事を言った。

『世界を壊し、世界を創った』

それは一体どういうことだったのだろうか?
疑問は残るが、しょうがない。


C.C.「……気にするな。それよりも、お前も自分の『ギアス』を少し試して、どんなモノかをちゃんと知っておけ」

上条「試すって……」

C.C.「『ギアス』は強力だ。誰かを傷つけないためにも、早々に知っておいた方がいいだろう?」


確かに彼女の言うとおり、自分の身に着いた力は知っておいた方が良いに決まっている。それが強い力なら尚更だ。
知識がなかったせいで、誰かを傷つけてしまう事もあるかもしれない。それを避けるために、敢えて不確定なその力を試験する。

矛盾するかもしれないが、そうやっていくしかないのだろう。


C.C.「何、試験といっても、まずは一回きりの簡単な命令でいいだろう。何かを取って来いとか、そういう類のものでいい。
   それだけでも色々とわかる事もある」

上条「……ああ、そうだな」


自分の力の確認に他人を巻き込むのは申し訳ないと思うが、今回は痛む良心を抑えて、付き合ってもらおう。
自分は所詮、『偽善使い』だし。

最初は、まぁ、青ピとか土御門らへんがいいかねぇ……?


C.C.「ただ、使い過ぎには気をつけろ。『ギアス』は使えば使うほど強くなっていく」

上条「え?」

C.C.「『ギアス』が強くなれば、『ギアス』を使用する時としない時の切り替えができなくなる可能性がある。
   そうなれば無差別に『ギアス』を掛けてしまう恐れがあるんだよ」

上条「それってマズイだろ!?」

C.C.「だから使い過ぎるなと言っている。まぁ、そうなった時の対処法もあるからそこまで深刻ではないがな」


そう言うC.C.だが、そうならないに越したことはないという事なのだろう。
この力が制御不能に陥ったらどうなるか、想像したくもない。


上条「……わかった。気をつける」

C.C.「とりあえず私が話せるのはこのくらいだ。何か疑問があったら聞け。この私が優しく答えてやろう」


そう言って、あの不敵な笑みを浮かべるC.C.。どうやら根暗い話はここで終わりのようだ。
だったらその流れに今回は自分も乗ろうと上条は思った。


上条「じゃあ、一つだけ」

C.C.「何だ?」

上条「お前、何歳?」

C.C.「……何?」

上条「いやさ、話してる内容とか、話し方とか、もう完全におばあちゃ……ぐふッ!?」


上条が、おばあちゃん、と言おうとしたところでC.C.はベッドから上条に接近し、強烈な蹴りを腹部にお見舞いした。
上条は吹っ飛び、本棚に頭をぶつけ、その衝撃で本棚から大量の本が降り注いだ。

蹴ったC.C.はそれを前に仁王立ちしている。


上条「……い、痛い。な、何を、するんだ、よ……」


蹴られた衝撃がまだ残っていて、上条は息も絶え絶えに話す。
ちなみに動けない。それほどの蹴りだった。


C.C.「お前の頭には反省という言葉がないのか?わかるまでこの私が体に叩き込んでやろうか?」

上条「ほ、ほんとに、す、すみませんでし、た……」


そんな上条をふんっと一瞥し、C.C.は残りのピザを食べ始める。

こうして、おばあちゃん、は禁句になったのだった。



―――――――――

――――――

―――


とりあえずここまでですー

一部、ネタをパクってないか?的な箇所がありますが、実際にC.C.だったらそうするだろうと思い、このように書きました

次は一週間以内に来れればいいなぁ…

それでは、また次回



ナデナデさせろ、が元ネタか?



上条さんは不幸から逃れたかったから人を思い通りに出来る力が出たって事か?

>>315
そうです

>>316
そうですね
ルルーシュが『思い通りにならない世界を思い通りにしたい』という願望だったので、
上条さんも『不幸過ぎて、思い通りにならない世界を思い通りにしたい』という願望くらいあるかなと…

こんばんわー

遅れて申し訳ないです…
しかも今回はあまり話が進まないと思います…

とりあえず投下します

第七学区・とある高校



小萌「それじゃ今日の補習はここまでですー。明日もちゃんと来て下さいねー。特に上条ちゃん?」

上条「へーい」


朝のC.C.との一件の後、何とか行動可能となった上条はいそいそと補習へと向かった。
若干の遅刻はしたものの、そこは学園都市七不思議とされている上条の担任、月詠小萌に大目に見てもらった。

先日、補習を無断でサボった時はさすがに怒られた(とは言っても別に怖くはなかったが)が、その前にインデックスの
完全記憶能力に関して電話で聞いた事が、事情を知らなかった小萌から見れば、上条が勉強に目覚めたように見えたため、
この間から彼女の機嫌が良いのだ。


小萌「もうー!先生にはちゃんと、はい、と返事をして下さいー!」

上条「はーい」


そして、こんな自分達に、ここまで誠心誠意付き合ってくれる教師はなかなかいないだろう。

高度に科学が発達したこの学園都市。
各学校指定の『時間割り』に従って教育を受けるが、教師と生徒が直接向き合うのはこの都市でも変わりはしない。
故に、良き教師に巡り会えるかどうか、それも学生生活を送る上で重要な要素だろう。
そんな中で、自分は良い教師に出会えたものだと思う。

そんな感慨に耽っていると、横から突然声が響く。


青ピ「あっはーッ!小萌先生に名指しで注意されるなんて、カミやんは幸せ者やねー!
   ボクも小萌先生に説教くらってハァハァしたいわー!」

上条「お前はホントどうしようもねーな……」


この身長180cmを超え、青髪でピアスでエセ関西弁、そして世界三大テノールもびっくりの野太い男ボイスを持つまさに
怪人と言うに相応しい自身の友人は、その中身もまた変態だ。


土御門「カミやん、青ピの変態っぷりはいつものことだにゃー。気にしちゃダメぜよ」

上条「……土御門、お前が言えんのか?」


先日の一件で、この友人、土御門元春がイギリス清教の魔術師と知った訳だが、こうして普通に学生生活を送っていると、
とてもそうは思えない。

普段は、義妹義妹メイド義妹、と煩いこの友人が何故、どうしてイギリス清教の魔術師などをやっているのだろうか?
疑問は数多く残っている。

それでも、繰り返すが彼は自分の友人だ。
そこは彼が何者だろうと断じて変わる事はない。

だから、普段の生活では彼と今まで通りの付き合いをしようと上条は心に決めていた。


青ピ「カミやんもつっちーもボクを舐めたらあかんで?ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩
   同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテール
   ポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さん
   メイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス
   白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ
   目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を
   受け入れる包容力を持ってるんよ?」

上条「……とりあえず、お前が女だったらなんでも良い事はよくわかった」

土御門「今の時代は広範囲に攻めるよりも狭く深くぜよ。つまりはメイドや義m」

上条「うん、もういい」


青髪ピアス、土御門元春、上条当麻。

このデルタフォースは変わる事はない。一緒にバカやって、一緒に笑って、一緒に怒られて。
そんな学生生活をいつまでも送りたいと思う。

そんな事を考えていた上条だったが、その時、ふと朝のC.C.とのやり取りを思い出した。


上条(……っと、そういえば、C.C.から『ギアス』を試せって言われてんだったなー)


早急に自身に宿った『ギアス』の力を知る事。
『ギアス』が自分以外の誰かに害をもたらす前にそのリスクを潰す。

それが、この不幸だが、平穏で、愉快な日常を守る事にも繋がるのだ。


上条(心苦しくない訳じゃないけど、ここは我慢してもらうとするかぁ……)


そう心の中で呟くと、上条はまず青髪ピアスに普通に声を掛けた。


上条「……なぁ、青髪。外に超絶美女が立ってるんだが?」

青ピ「な、なんやて!?」


上条のその言葉に、青髪ピアスはいち早く反応し、窓に駆け寄った。
身を乗り出さんばかりの勢いで、窓の外を凝視している。


青ピ「?……カミやん、美人さんなんて、おらんけど?」


未だに外を見続けている青髪の背に向かって、上条はさらに声を掛ける。

今度は、その左目に『赤い鳥のような紋様』を浮かべながら。


上条「……青髪、なんか飲み物買ってきて」


その言葉が青髪ピアスに届く。

そして、彼がこちらを振り向いて……。


青ピ「……カミやん、ボクを騙した挙句に飲み物こうてこい、やて?いくら温厚なボクでも怒るで?」


振り返って、ジロリと上条を睨む青髪ピアス。
上条が『ギアス』を使ったにも拘らず、青髪ピアスは言うとおりに動かなかった。


上条(……つまり、C.C.が参考に言ってくれた人と同じように、相手の目を直接見なきゃダメなのか?)


内心そんな事を考えながら、上条は苦笑いを浮かべて、悪かった、と謝った。

そして、それを見て、青髪は溜め息をついた。


青ピ「……まぁ、ええわ。カミやんがそないな事言うんも珍しいし。うん、昼飯奢るって事でチャラにしたるわ」

上条「おい待て!上条さんのお財布事情は今極めてマズイ状態にあるのですがッ!?」

土御門「それじゃ、俺の分も奢ってくれにゃー」

上条「土御門!お前はまったく関係ないだろうがッ!」


C.C.との同居によって、食費など諸々が単純に二倍となった事で、元々あまり余裕のなかった生活がさらに苦しくなった。
だから上条としては無駄にお金は使いたくない。

つまるところ、他人に飯を奢る余裕などまったくない。

そうこう三人で騒いでいると、その様子を教壇から笑って見ていた小萌が横から声を掛ける。


小萌「あのー、補習は終わったんですけど、帰らないんですかー?もし帰らないんだったら、このまま午後も追加講座に
   しちゃいますよー?」


今日の補習は珍しく午前で終了の予定であった。
午後は学生らしく夏休みを謳歌できる良い機会。

それを潰されては堪らない。


上条「そ、それはゴメンだ!私、上条当麻は至急帰らせていただきますッ!」ダッ!

土御門「ここは俺もカミやんに続くぜい!」ダッ!

青ピ「くっ!小萌ちゃんとのマンツーマンの補習には惹かれるんやけどッ!今日のところはボクも帰るわ!」ダッ!


脱兎の如く教室から逃げ出す三人を、教壇から見送る小萌。
微笑みを浮かべながらも、同時に僅かな哀愁も漂っていた。


小萌「先生の授業はそんなに嫌なんですか……?」


教壇で吐いたその言葉を聞いた生徒はいなかった。



―――――――――

――――――

―――



現在の時刻は午後1時。

夏休みに入ってのこの時間帯、ここ学園都市の飲食店は学生で溢れかえる。
上条達がいるここ『Joseph’s』も例外ではなく、多くの学生で賑わっていた。

あれから学校を出たデルタフォースの三人は、午後はそれぞれ暇ということで、昼食を食べてからゲーセンなど遊ぼう、
という話になっていた。

ちなみに上条は、朝、家を出る前にC.C.に昼食代として1000円札を置いていった。
当初、彼女を無闇に外に出歩かせるのは危険とも思ったが、彼女自身が、大丈夫だ、と言うので、上条の補習がある
ここ何日かはそのような形をとっていた。


青ピ「そういえば、昨日はなんや大変な事件があったようやね」

上条「大変な事件?」


頼んだスパゲティを食べながら話す青髪のその内容に上条は食いつく。
ちなみに青ピはミートソーススパゲティ、土御門はハンバーグ、上条は安上がりなサンドイッチを注文していた。


土御門「ああ、あれかにゃー?第十学区の原子力施設近くで派手なドンパチがあったっていう……」

青ピ「それや。なんや謎の巨大生物が出て、『警備員』とやり合ったらしいで」

上条「巨大生物、ねぇ……。あれ?そういえば、昨日、街中に変な音楽っつーか、音が流れたよな?それって……」

青ピ「そういえばそんな事もあったね。もしかしたら、それも関係あるかもしれんねー」


昨日、7月24日に起こった事件。通称『幻想御手』事件。
彼らは知り得ない事だが、その事件の解決には学園都市第三位、『超電磁砲』御坂美琴らの活躍があった。


上条(うーん、やっぱC.C.を一人歩きさせるのは危険か……?)


話を聞きながら、上条は一人考える。

C.C.は上条が学校などで家にいない時、基本的に学園都市をうろうろしているらしい。
本人曰く、ただの散歩、だそうだ。

しかし、もしその道中で学園都市で起こる物騒な事件にC.C.が巻き込まれるような事があれば、それは自分の責任だ。
それに、先日の件で学園都市の暗部を土御門から僅かながら聞いた今となっては、この学園都市の治安も疑わしい。

いくら彼女が『ショックイメージ』を見せる能力を持ち、不死身に近い再生能力を持ち、そして彼女自身が大丈夫だと言っても、
巨大な力の前では成す術はないだろう。

それでも、だからといってずっと家に押し込めておくのも気が引ける、というかできない。それではまるで監禁だ。
それに、仮にやろうとしても、彼女が断じて認めないだろうし、下手をすれば、否、ほぼ間違いなく脱走する。
そっちの方が厄介だ。

そんな風に頭を悩ませていると。


青ピ「カミやん、どしたん?そない難しい顔して」


何やら悩む上条の様子を怪訝に思った青髪ピアスは上条に声を掛けた。


上条「えっ?ああ、いや、何でもない何でもない」


笑って誤魔化す上条を尚も不審に思った青髪ピアスだったが、元々楽天的な性格のため、まぁいいか、と気にするのをやめた。

一方、上条はそのまま水を飲もうとした時、自身のコップが空になっている事に気づいた。


上条「ありゃ、空だったか……」

土御門「ん?カミやん、ドリンクバーに行くなら俺の分も頼むぜい」


上条のその呟きを聞いた土御門が、同じく空のコップを上げ、自分の分も頼む。

三人の席は、上条が片側に一人で座り、向かい側に青髪ピアスと土御門が座っている。
そして、通路側に青髪ピアスが座っているため、土御門が席を立つには青髪ピアスが一回席を立たなければならない。
だから、土御門は上条に頼んだのだった。

上条はそれを了承しようとしたその時、ふとある事を思いつく。


上条(……そういえば、土御門っていつもサングラスしてるよな。C.C.の言ってた人はバイザーとか透過率の低いレンズには
   『ギアス』は効かなかったんだよな。……俺はどうなんだろ?)


学校で試した時に、相手が背を向けていては『ギアス』が効かなかった事を考えると、自分とC.C.が話した人との『ギアス』は
限りなく近いモノのようだ。

そして自身の『ギアス』も光情報なら、サングラスを装着している人間には効かない可能性が高い。


上条(……ここは、試してみますか)


上条が一人考え込んでいると、急に黙り込んで動かなくなった彼を不思議に思った土御門が声を掛ける。


土御門「カミやん?どうかしたか?」


その土御門の横では、青髪ピアスも不思議な顔をして見ている。

そして……。


上条「……なぁ、土御門。自分で水汲んでこいよ」


土御門に向けて言葉を発する上条。その左目は赤く染まっていた。

そして土御門はというと……。


土御門「……カミやん、そんなに行くの、嫌なのかにゃー?」


土御門は溜め息をつきながらそう呟いた。
また、それとは逆に、彼がこんな事を断るとは何か訳があるのでは、と思ってしまう自分もいるのだが。


土御門(それにしても、今、一瞬、目が赤く光ったような……?)


スパイ活動をしているだけあって、そういう些細な変化もあまり見落とすことはない自分だが、今の状況に特に変化や異常が
ある訳でもないし、今、彼の目を見ても至って普通の黒い瞳だ。彼自身も変化がある訳でもない。

ただ、何やら自分を観察している風ではあるが……。一体、何だったのだろうか……?

そう土御門が考えていたその時。


青ピ「……わかったわ」

上条・土御門「「え?」」


そう呟いて、突如として席を立とうとする青髪ピアス。手にまだ少し水が残ったグラスを持って。
その彼の突然の行動に、上条と土御門は困惑した。

上条は特にだ。


上条(ど、どういうことだ?俺は土御門には『ギアス』を試したけど、青髪にはやってねーぞ!?)


慌てる上条を余所に、青髪ピアスは水を汲みに行こうとする。
それを狼狽しながら見ていた上条だが、我に返って青髪を慌てて追いかける。


土御門「お、おい!カミやん!」


土御門の声も今は気にしていられない。それよりも青髪を追う。


上条「お、おい!待てよ、青髪!」


駆け足で彼を追った上条は簡単に追いつき、彼の肩を掴んで彼を止めようとする。

だがしかし。


青ピ「……放してや。ボクは水を汲みに行かなアカンのや」


そう言って、自分の手を振り払おうとする青髪ピアス。
機械的に自分の行動を話す彼からは『自分の意思』というものが感じられなかった。

これは明らかに自分の『ギアス』が掛かってしまっている。

そう思った上条は咄嗟に。


上条「……これで、目を覚ませッ!」


上条は自身の右手を青髪の頭に突き出した。

『幻想殺し』

それが『ギアス』に対して本当に効くのかはわからなかったが、そうせずにはいられなかった。そして……。



バギンッ!



まるでガラスが割れるような音が響いた。
店内の喧騒にそれは掻き消えたが、確かにそれは、自身の『幻想殺し』が発動した証拠だった。

そして、青髪ピアスはというと……。


青ピ「……あれ?ボク、何してんのやろ?なんで席立っとるんや?……って、カミやん!?なに人の頭鷲掴んでんのや!?」


ジタバタと暴れだす青髪ピアスを見て、上条は『ギアス』が解けた事を確信し、安堵の息をついた。
右手を放し、彼に話しかける。


上条「……わ、悪い悪い。……それよりも、お前、今、自分がした事、覚えてるか?」

青ピ「え?……うーん、おかしいね。自分がなんで席立っとるのかわからんわ……」


顎に手を当てて、一人、うーん、と考え込む青髪ピアス。
どうやらC.C.の言ったように、自分の『ギアス』も発動中、及びその前後の記憶はなくなってしまうようだ。

また、今ので『幻想殺し』は『ギアス』に対しても有効だということがわかったが、記憶を戻す事はないということもわかった。


上条(……せっかくだし、もう一つ試すか)


目の前で尚も疑問の顔を浮かべる青髪ピアスに対し、上条はもう一度『ギアス』を使う。


上条「……なぁ、青髪、水汲んでこいよ」


自分と同じような『ギアス』を持った人は、一度『ギアス』使った相手には、『ギアス』はもう効かなかった。
先ほどのようなイレギュラーがあるなら、これはどうなるのだろうか……?


青ピ「……はぁ?なんでカミやんに命令されなアカンのよ?」


……どうやら、二度目は通用しないらしい。これは同じようだった。


上条「い、いや、だってお前が席立ったのって、水汲みに行くためだっただろ?
   ほ、ほら、お前だって自分のグラス、手に持ってんじゃん!」


冷や汗をかきながらそう言ってグラスを指差す上条。


青ピ「……マジで?……アカンわ。ボク、ボケたんかなー。全ッ然、記憶にないんやけど……」

上条「ま、まぁ、そういう事もあるって!さっさと水汲んで席戻ろうぜ!」


そう言って青髪を急かす上条。
青髪は納得がいっていない顔をしていたが、渋々と水を汲みに行った。

一方の上条は、その場で突っ立ったまま、一人思案する。


上条(……一体どういうことだ?なんで土御門に掛けたはずの『ギアス』が、青髪に掛かったんだ?
   土御門に効かなかったのは、たぶんあのサングラスのせいだろうけど……。うーん、わからん……)


一人悩む上条だったが、結局はわからずじまい。
帰ってからC.C.に話してみた方がいいと結論づけた。

そしてその時、背後から店内の他の客から、邪魔、と言われ、自分が通路を邪魔していた事に気づき、上条はいそいそと
自分の席へと戻っていった。



―――――――――

――――――

―――



数分後



青ピ「カミやん、ホンマに帰ってしまうん?」

土御門「今日は暇なんじゃないのかにゃー?」

上条「わ、悪い悪い。ちょっと用事思い出してさ。今日は勘弁してくれ」


昼食を食べ終えた彼ら三人は、今、『Joseph’s』の前の道路で話していた。

あれから席に戻った三人は、青髪ピアスの不思議な行動と出来事を、彼が狂った、ボケた、女の子の考え過ぎでおかしくなった、
という笑い話とし収まった。

事の元凶となった上条はそれに表面上は笑いながらも、冷や汗をかいていたが……。

そして、今日の自分の『ギアス』の実践結果とC.C.の事を不安、心配に思った上条は、ご飯を食べている時に、今日は帰るという
旨を二人に伝えていた。


上条「すまん、この埋め合わせはいつかするからさ」


そう言って、二人の前で手を合わせる上条。


青ピ「……まぁ、用事あんのやったらしょうがないね。また今度にしようや。でも、そん時こそ、カミやんの奢りやでー?」

土御門「そうだにゃー。その時は豪遊するぜよ」

上条「ははは……。善処します……」


そう言って項垂れる上条。それを見て二人は笑った。

そして、青髪ピアスが別れの言葉を掛ける。


青ピ「そんならカミやん、また学校でな」

上条「おう、またな」


別れの挨拶をし、上条は歩きだそうとする。

しかし、その時。


土御門「カミやん」


急に呼び止められる。声を掛けたのは土御門。


上条「なんだ土御門?……ッ!」


振り返って見る彼の雰囲気は、何処か真剣なものだった。
普段のおちゃらけた感じではなく、それはまるで、数日前、彼が魔術師だと言った、あの時の……。


土御門「……カミやん、何か隠している事がないか?」



ドグンッ!



土御門の問い掛けに、上条の心臓が大きく脈打った。
彼の目はサングラスに阻まれ、直接見ることはできないが、彼の鋭い視線が自分に突き刺さっているかのような感覚を覚える。

土御門元春という人物は紛れもなく自分の友人だ。
それと同時にイギリス清教の魔術師である彼だが、上条は彼を信頼している。
彼になら『ギアス』について話してしまっても構わないとも思う。

だがしかし。

C.C.はこの力が人々に知れ渡り、悪用されるのを恐れていた。もちろん自分もそう思う。
彼を信じていない訳ではないが、ここはやはり……。


上条「……いや、別に隠してる事なんかねーよ、土御門」


黙っているのが、一番なのだ。

それが、誰も巻き込まない最善の方法でもあるのだから。
秘密はいつかバレるものだと言うが、それならばバレるまでそれを隠し通す。
何故なら自分は『偽善使い』だから。

そして、少し間が空いた後。


土御門「……そうか。それなら別にいいんだけどにゃー」


そう言って笑う土御門。
さっきまでの雰囲気は消え失せ、元のお気楽な、友人、土御門元春としてのモノに戻っていた。

たぶん、彼は自分が何かを隠している事を確信しているのだろう。でも、彼はここで引いてくれた。
それが、ありがたかった。


上条「ははは、上条さんに隠し事なんでありませんのことよ?」

土御門「そうだにゃー。隠すほどの事もない、つまらない人生だからにゃー」

青ピ「……つっちー、それはちゃうで?カミやんの人生は、常に女の子とフラグを建てるバラ色人生やで?
   ……つまり、ボクらの敵や」

土御門「そうだったぜい……。ここはやっぱ、爆破するべきかにゃー?」

青ピ「そうやね……」


そしてギロリと上条を睨む二人。
その目は、嫉妬、羨望、憎悪、など様々な負の感情が渦巻いている。


上条「ちょ、ちょっとお二人さん?目が、目がおかしいですよ?」

土御門・青ピ「「問答無用ッ!」」

上条「ふ、不幸だぁああああああああああッ!」


叫び声を上げながら逃げる上条。それを追う二人。
ドタバタとしてはいるが、確かな友情と青春がそこにはあった。



―――――――――

――――――

―――


とりあえずここまでです

上条さんの『ギアス』に関しての説明は次にでも

次の更新は今回よりは早く来れると思いますので
それではまた次回に

こんばんわ

書いている途中で重大なミスを発見し、そこを白紙に戻してしまいました…
そのため、まだ更新できません…
本当に申し訳ない…

しかも、これから学校が始まるので更新速度はさらに遅くなると思われます…
しかし、エタるつもりはありませんので、どうかのんびり待って頂けると嬉しいです

それでは、またいつか

こんばんわ

やっと投下できる…
今回は幕間の最後で短いですが、ご了承下さい…

それでは投下します


第七学区・学生寮



C.C.「……つまり、お前はその男には『ギアス』を掛けたつもりはないのに、その男に『ギアス』が掛かった。
   そういうことだな?」

上条「ああ、間違いない」


あれから寮に帰ってきた上条だったが、部屋にC.C.はいなかった。

残しておいた1000円札もなくなっており、昼食を食べたり、街を散歩しに行ったのだろうと思ったが、
ファミレスで土御門達と話した事件の事が頭をよぎり、上条は彼女を探しに行った。

だが、東京都の三分の一ほどの面積を誇るこの街で、散歩しに行った者など早々に見つかるはずもなく、
午後5時を過ぎた頃に上条は捜すのを諦め、買い物をして寮に帰った。
すると、C.C.はすでに部屋に帰ってきていたので、上条は安堵と疲労の溜め息をついた。

そして、時刻は午後6時。夕焼けの色で街が染まるその時間、上条とC.C.は部屋で今日の出来事を話していた。

内容はもちろん今日、上条が試した『ギアス』について。
相手の目を見なければならなかったり、サングラスには効かなかったり、一度『ギアス』を使った相手には
もう効かなかったりと、C.C.が話した人との共通点、類似点が多い事がまずわかった。

しかし、多少の相違点も見られた。

それが、ファミレスでの一件。
今、それを二人で話しているところであった。


C.C.「お前は相手の目も見ていなかったんだな?」

上条「ああ、俺はそいつじゃないもう一人の目を見てたからな」


それを聞いたC.C.は目を閉じ、何やら考え込む。
自分では考え付かない事が、昔から『ギアス』に精通する彼女であれば思い当たるのだろうか。

そうしてしばらくの間黙っていると、C.C.は目を開け、上条に話し始める。


C.C.「……これはあくまでも推測だが、もしかしたら、お前の『ギアス』は、『自分が相手の目を見る』のではなく、
   『相手に自分の目を見られる』なのかもしれないな」

上条「……俺が見なきゃいけないんじゃなくて、相手が俺を見てなきゃいけないのか?」


彼女の予想通りだとすると、自分と彼女が参考に話した人物はほとんど『ギアス』に違いはないが、
その人は自分よりも能動的で、自分はその人より受動的なようだ。


C.C.「確証はないが、その可能性が高いということだ。お前の『ギアス』に掛かったその男は、ちょうどその時、
   お前の目を見ていたんじゃないか?」

上条「うーん、どうだったんだろ……」


あの時、自分は土御門にばかり気を取られていて、青髪の事をまったく見ていなかったが、
自分が水を汲みに行こうとした時だったため、彼が自分を見ていた可能性は十分にある。


C.C.「確証を得るには、もう一度試すしかないだろう。……だが、もし予想通りなら、今後『ギアス』を使う時は
   さらに注意が必要になるだろうな」

上条「?……なんで?」

C.C.「考えてもみろ。お前が『ギアス』を使った時、『ギアス』を掛けたい相手以外の誰かがお前の目を見ていたら、
   そいつにも『ギアス』が掛かってしまうんだぞ?」

上条「あ」


今回のファミレスでのような事が『ギアス』を使う度に起こったのでは、それこそ最悪の事態になりかねない。
自分の意図しないところでの『ギアス』の暴走は危険極まりない事だ。

そういった点を考慮すると、自分の『ギアス』はC.C.の話した人より不便と言えば不便なようだ。


上条「……そうだな。そうなると、やっぱ『ギアス』はあんまり使わない方がいいよなぁ……」

C.C.「まぁ、そうだな。『ギアス』など使わないに越した事はないだろう。
   お前のような『命令型』はキャンセルできない分、特にな」


C.C.のその言葉を聞いて、上条はまだ自分が『ギアス』に対する『幻想殺し』の影響について話していなかった事に気づいた。


上条「あっ、そうだ。C.C.、その事だけど、俺、『ギアス』を右手で無効化できたぞ」

C.C.「……それは本当か?」


C.C.の尋ね方こそ至って冷静だったが、表情には驚きが表れている。


上条「ああ、間違いない。俺が掛けちまった『ギアス』は『幻想殺し』で打ち消されたよ」


そう言って自身の右手を顔の前まで上げる上条。その右手をC.C.は目を細め眺めた。


C.C.「……本当に『ギアス』を無効化できるとはな。そんな事ができる奴がまた現れるとは思わなかったぞ。
   一体何なんだ、その右手は?」

上条「いやー、これが上条さんにもわからなくてですね……。初めて会った時に話したように、
   こいつは生まれつきだから俺には何とも……」


ははは、と渇いた笑い声を上げる上条。C.C.はそんな上条をじっと見つめている。


C.C.(……『ギアスユーザー』にして『ギアスキャンセラー』か。生きていれば色んな人間に出会うものだな……ふふふ……)


『幻想殺し』と『ギアス』

この二つの交わりが、後に世界に大きな影響を及ぼす事になるのを、この時まだ二人は考えてすらいなかった。



―――――――――

――――――

―――



数時間後



話の後、二人は夕食を食べたり、風呂に入ったり、テレビを見たりして過ごし、現在、時計の針はちょうど12時を指していた。


上条「ふぁ……。C.C.さん、もういい時間だし、そろそろ寝ませんかね?」

C.C.「ああ、そうだな」


そう言うと、C.C.はそのままチーズ君の待つベッドに潜り込む。

ちなみに、彼女は寝る時、薄手の両肩ギリギリまで口の開いたワンピース風の服を着ている。
これは同居し始めた最初の夜に、彼女が例の拘束衣の下に着ていたインナー姿だけで寝ようとしていたのを見た上条が、
それは(自分の精神衛生上にも)良くないと思い、翌日二人で買い物に出掛け、買い与えたモノだった。
またその際、下着など、他にC.C.が必要とする品も幾つか買っていた。

一方の上条はというと、布団を持っていそいそとバスルームへと向かおうとする。
C.C.と同居し始めてからというもの、ユニットバスが彼の寝室となっていた。

そしてそれを見たC.C.は溜め息をついて、上条に声を掛ける。


C.C.「おい、何度も言うが、私はお前がこの部屋で寝ても別に構わないぞ?」

上条「……いや、何度も言いますが、上条さんが構うんでせう」

C.C.「ほう、何故だ?」


ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら尋ねるC.C.。

それを見て上条は溜め息をついた。
ここ数日で、上条は彼女の事が少しずつだがわかってきていた。

彼女がこういう笑みを浮かべる時は、まず間違いなく自分をからかって、その反応で楽しんでいる時である、と。


上条「……だからですね、健全な男女が同室で寝るというのはちょっと問題があると上条さんは思うのですが」


上条が同室で寝るのを断るのは、別に彼女が病的に寝相が悪いとかそういう理由ではない。
ただ単に『常識』というものを考えた結果だ。


C.C.「ふっ、『男女七歳にして席を同じうせず』とはよく言ったものだな」

上条「へぇー、よくご存知で」


どう見ても東洋系ではないにも拘らず、このようなことわざを知っているC.C.。
彼女が偶に見せるその知識の多さに、上条はいつも驚きを覚える。

対するC.C.は相変わらずニヤつきながら、上条へと言葉を掛ける。


C.C.「まぁ、つまり簡単言えば、私に欲情しているのか、坊や?」

上条「なっ!?ち、ちげーよッ!?俺はただ常識的に考えて……」

C.C.「そんなつまらない事をいちいち気にするな。お前がそういった劣情を抱かなければいい話だろう?
   それとも自信がないのか?」


上条の意見を一蹴し、尚且つ挑発するC.C.。
明らかに彼女は上条の反応を見て楽しんでいた。


上条「べ、別に俺はお前に劣情なんざ抱いてねーよ。ただ俺はそういう常識が気になんの。
   ……ったく、お前な、上条さんは紳士だからこうして言っt」

C.C.「しつこいのは嫌いだ。早く寝るぞ」

上条「……」


言葉を一方的に切られた上条は項垂れながら思う。理不尽だ、と。

そして一度、深く、大きな溜め息をついて目線を上げる。
するとそこには、もうすでにベッドに横たわって目を瞑るC.C.の姿があった。

上条は再び溜め息をついたが、ついに諦めたのか、ちゃぶ台をどかして、そこに布団を敷き始める。


上条(……ったく、こいつは俺を男として見てねーのか?それとも上条さんを信頼してくれてるんですかねー?)


そう思いながらも、上条は部屋の電気を消す。
すると部屋の中は真正面の建物のカーテンから僅かに漏れた光で薄く照らされた。

上条はベッドに横になっているC.C.を見る。

タオルケットからはみ出して見える彼女のその陶器のような肌は、薄暗闇の中で青白く浮かび上がっている。
また、彼女のエメラルドグリーンの髪も薄明の中で普段とは違った幻想的な光彩を放っていた。

そして、その光景を見た上条は息を呑んだ。


上条(……やっぱ綺麗だよなー。お人形さんみたいだ。……はっ!?お、俺は一体何を考えているんでせうか!?
   か、上条さんは紳士ですのことよ!?)


上条は頭をぶんぶんと振って、煩悩を退散しようとする。
そして、余計な事を考えないように、自身もさっさと床に就く。



その後、数分の時が経ち……。


……だが、上条は寝付けるはずもなかった。

上条にとって、女の子と一緒の部屋で、しかも二人きりで寝るなんていう状況を体験したのは、母である上条詩菜や、
従妹の竜神乙姫くらいなものだ。


上条(うぐぐ、寝れない……。やっぱ今からでも風呂場に……)


上条がそう思い立ったその時。


C.C.「……おい、まさか今更ここから移動するなんて事は考えてないだろうな、童貞坊や?」

上条「んなっ!?……C.C.、お前まだ起きてたのかよ」


すぐに身を起こし、ベッドを見る上条だったが、C.C.の姿に変化はない。
どうやら彼女は横になったまま声を掛けてきたようだ。

寝たと思っていたC.C.に、恐ろしくタイミング良く声を掛けられ、上条は少しばかし驚いた。
そして同時に、自分の考えを見事に読まれ、なんともばつが悪かった。


C.C.「その様子だと考えていたようだな。そろそろ頃合だとは思ってはいたが……。くっくっくっ、お前はホントにお子様だな」

上条「うぐっ……」


余りにも見通され過ぎて、上条は何も言い返せない。


C.C.「ふふふ、お前はホントにからかい甲斐のある奴だな。……さて、私は眠いんだ。今度こそ寝るぞ。お前も大人しく寝ろ」

上条「……だったら俺は風呂場で寝r」

C.C.「おやすみ、当麻」

上条「……」


C.C.は一方的にそう告げると、それからは一切言葉を発することはなかった。
聞こえるのは規則正しい呼吸音のみ。

一方の上条は深い溜め息をつくと、再び布団へと横たわる。
今日一日で、自分は一体どれほど溜め息をついたのか、そう考えるのも億劫だった。

そして、代わりに考えるのはC.C.の事。
それは、どうせ眠れないなら、何か考え事でもして、いつの間にか寝てるようにしようという上条の策でもあった


上条(……ったく、ホントにこいつは。どういう風に育てられたらこんな性格になるんだか……。
   まぁ、別に嫌いじゃないけどさ……。ってか、C.C.ってホントどこで、どんな風に育ったんだろ?)


彼女と出会って、一緒に過ごす内にわかったこと。
それは、彼女はかなり複雑な過去を持っている、ということだけだ。


上条(俺、C.C.の過去とか、そういう昔話は一切聞けてないからな……)


『ギアス』の話をした時によく見せた、あの物悲しい表情と雰囲気。
彼女が『昔』を語る時、彼女から自然と醸し出されるそれは、上条にそれ以上の事を聞くのを躊躇させていた。

それに、彼女の持つ特異体質や『コード』という、普通の人間は持ち得ない特殊なモノ。
それらが、彼女の人生に常に良い様に働いているとは思えない。

いや、むしろそれは彼女を苦しめているのだろう。
でなければ、過去を語る時、あんな風にはならないはずだ。

そして、上条自身が『幻想殺し』などという特異な能力を持ち、凄惨な過去を味わったことがあるからこそ、
その傷を抉るような事は彼にはできなかったのだ。


上条(一体、どんな、過去なんだろうな……)


単なる好奇心からではなく、出来る事なら、彼女の苦しみを少しでも和らげてやりたい、彼女の背負う重荷を
少しでも減らしてやりたい、そういった想いがあるからこそ気になった。

自分は彼女と『契約』したのだ。心の底から笑わせる、と。
それは必ず守ってみせる。

そうして長く、深い思考に沈んでいた上条だったが、いつしかその意識も深い眠りへと沈んでいった。



―――――――――

――――――

―――


今回は以上です

次からはいよいよ第三章に入ります
どうぞ温かく見守ってくだされば幸いです

ちなみにC.C.の寝姿はピクチャードラマのturn 0.923を参照してください

それでは、また次回

どうもお久しぶりです…

後期から実験のレポートやら、部活やらで書く時間が極端に減ってしまいました…
以前に増して、亀更新になると思いますが、よろしくお付き合い下さい

では、第三章の始まりです
とはいっても、今回は導入部分だけで、かなり短いです…
本当に申し訳ありません…

それでは、投下します





       「 人は善をなさんとして悪をなす 」
    
             ―――ロバート・ストレンジ・マクナマラ―――






三年前
イギリス・聖ジョージ大聖堂



ロンドンの最中心部からやや外れた場所に位置する、イギリス清教の実質的な本拠地である聖ジョージ大聖堂。
そこに一人の男が訪れていた。


???「……存外、この場所にも慣れたものだな」


長身細身で、修道服を身に纏い、髪を緑に染め上げ、それをオールバックに整えている。

その男の名は、アウレオルス=イザード。
パラケルススの末裔、チューリッヒ学派の錬金術師である。

しかし、彼はイギリス清教の人間ではない。
彼はローマ正教に属する人間であり、その中でも数少ない『隠秘記録官』と呼ばれる役を担っている。
その道においては『最速』と言われるほどに、有能な人物である。

そんな彼が、何故ここ聖ジョージ大聖堂などにいるのか。

その理由はただ一つ。

彼自身が書いた魔道書を以って、とある二人の少女を救うためであった。

一人は、世界中に存在する10万3000冊もの魔道書を記憶し、その毒に侵されながらも無邪気に笑う白き童女。
少女はその魔道書の毒を抜くために、一年置きに記憶を消去しなければならなかった。

一人は、万人に等しく与えられるはずの『死』を許されず、悠久の刻を孤独に歩み続ける事を余儀なくされた、異例の『魔女』。
彼女は永遠の『生』に囚われながらも、それを受け入れ、あるいは諦観し、この世界を見守り続けている。


アウレオルスがそんな地獄の中で生きる二人の少女と出会ったのは、今より半年以上前の事であった。

彼は、自身の書き記す魔道書は、この世の全ての人々に伝えられ、この世の全ての人々を救う力があると信じていた。
しかし、彼の所属するローマ正教は彼の書き記した書物を、あくまでも自分達だけの『切り札』とし、一般大衆を救うために
それを広める事はなかった。

彼は許せなかった。

『魔女』の脅威から救われる術を自身が見出していながら、それで救われる者があまりにも少ない事が。
それを広めようともしないローマ正教が。

そんな彼が選んだ道。

それは自身の記した本を、秘密裏に外部へと持ち出す事だった。
彼が目指したのは、最も『魔女』の被害が多い魔術の国、イギリス。
彼は細心の注意を払いながら、偽装を重ね、内密にイギリス清教の者と接触する事に成功した。

そこで出会ったのが先の二人の少女だった。

白き修道女、Index-Librorum-Prohibitorum。
緑髪の魔女、C.C.。

初め、イギリス清教を訪れた彼は『禁書目録』の事情しか知り得なかった。
というのも、後者の『魔女』の事情は、『禁書目録』のそれをも上回るほどの機密であったがためだ。


出会ったそのたった一日で『禁書目録』を救う事などできないと悟ってしまった彼は、それからというもの、
彼女一人を救うためだけに魔道書を書き始めた。
この少女を救えずして、世界を救う事などできるはずがないと。

彼は魔道書を一冊書き終えてはイギリスの地を訪れるようになった。

そして、そんな風にイギリスを訪れていたある日。
彼は偶然にも、イギリス清教『最大主教』、ローラ=スチュアートと緑髪の『魔女』の会話を聞いてしまう。

そこで彼は知ってしまった。
その『魔女』が抱える『禁書目録』をも上回るほどの深い闇を。

その日から、彼は『禁書目録』を救うためだけでなく、『魔女』を救うためにも魔道書を書き始めた。
彼は今まで以上に自身の時間と能力を費やした。
体力の限界まで、不眠不休で作業する事など当たり前の生活になっていった。

そんな彼を案じたのも先の二人だった。

『禁書目録』は心から心配そうな顔を浮かべながら、『魔女』は呆れながらもそれとなく示唆するように。
また後者は、アウレオルスに最初からはっきりと、救ってほしいとは思っていない、無意味だ、と明言もしていた。


しかし、彼は諦める事なく、魔道書を書き続けた。
二人のために何十冊と失敗に終わっても、彼は筆を走らせ続け、今に至るのだった。

アウレオルスが、そんな自身の行動を思い返していたその時。


C.C.「……お前、また来たのか。お前もずいぶん諦めの悪い男だな。」


突如後ろから、若干の呆れを含む、聞き馴染んだ声が響いた。
振り向けば、そこには一人の女性が佇んでいた。


アウレオルス「当然。我が真の目的は、君達を救えずにして成せるものではないからな、C.C.」


自身の究極の目的。世界の全てを救済する事。
それを成し遂げるのに、この程度の障害で躓く事は許されない。


C.C.「お前の真の目的とやらが何かは知らんが、あまり気負わない事だな。それに何度も言うが、インデックスはともかく、
   私を救うなどということはやめるんだな。今の私はそれを望んではいないし、それほど困っている訳でもない」

アウレオルス「……では、君は永遠に生き続けなければならない事を受け入れるのか?」


永遠の命。死ねない身体。
それがどのような事なのか、自分には想像する事もできない。


生き続けられる事に歓喜するのか、それとも生き続けなければならない事に絶望するのか。
それは人による事かもしれないが、大多数の人間はまず後者であろう。

少なくとも自分はなんとも恐ろしい事だと思う。
錬金術の究極の到達地点、『黄金練成』の研究にはうってつけかもしれないが、それでも永遠に生きるなど御免被る。
人の『生』とは、『死』があってこそのものだからだ。


C.C.「……遠い昔に、私は決めたんだよ。ある男が、その命を捨ててまで残した世界の行く末を見守ると。
   結局、その世界も最後には滅んでしまったが、それでも人はまた一から、いや、ゼロから世界を創り直した。
   ……私は、私という存在がある限り、そんな人間達をこれからも見続けるつもりだ」

アウレオルス「……死にたい、とは思わんのか?」

C.C.「……昔は思っていたさ。ただ『死』だけを望みながら生きた事もある。だが、それが間違った望みである事を
   教えてくれた奴がいた。それからは、自発的に『死』を望む事はほとんどなくなったよ」


そう語る彼女の目は、何処か遠くを見ているかのようだった。
彼女の歩んできた道の中で、彼女に大きな影響を与えた人物でも思い出しているのだろうか?


アウレオルス「……ほとんど、ということは、そう望む事もあるのだろう?」

C.C.「……ないとは言わない。私も『限りある生』というのに興味がない訳ではないからな」


彼女が言った事は、半分が嘘で、半分が本当だろう。
興味がない訳ではない、のではなく、『限りある生』を手に入れたい、と彼女は思っているに違いない。

それならば。


アウレオルス「自然、私がそれを君に与えよう。『限りある生』、そして『死』を」


そう告げ、彼は歩き出す。もう一人の救われぬ少女の下へと。
確たる信念と強い意志を持って。

そして、その場に残されたC.C.は彼のその背を見送った。


C.C.「……それを達成できなかった時、お前は一体どうなってしまうんだろうな」


小さく呟いたその言葉が、アウレオルスに届くことはなかった。

この三ヵ月後。
彼の努力は実る事無く、『禁書目録』は全ての記憶を失う事になる。

そしてさらに、その一ヵ月後。
ローマ正教『隠秘記録官』、アウレオルス=イザードは世界から忽然とその姿を消した。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず、今日はここまでです

もう、ほんと短くて、ほんと申し訳ありませんです…
次の更新もいつになるかわかりませんが、どうか気長に待っていただければと思います

それではまた

こんばんわ

やっと投下できる…
読んで下さってる方には、お待たせしてしまってホント申し訳ないです…

それでは投下します


8月8日
学園都市・駅前付近



上条「まさか参考書がこんなに高いとは……。不幸だ……」


その日、上条当麻は珍しく参考書という物を買いに出掛けた。
しかし、それは別に彼が勉強に目覚めたとか、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差してとか、そういう理由ではない。

彼がそんな物を買いに出掛ける起因となったのは、隣を悠々と歩く彼女である。


C.C.「しかも昨日まで参考書は全品半額だったらしいな。お前の『不幸』とやらも極まったものだ」

上条「そんなもの極めても、まったく嬉しくありませんの事よ……」


彼女の名はC.C.。
7月の下旬のとある日に上条と出会い、紆余曲折を経て、今現在上条の家に居候となっている少女である。

その彼女が昨日上条に対し、お前の本棚は漫画しかないんだな、という何気ない一言を零した。
その際、軽い嘲笑を浮かべて。

そこで上条は僅かな見栄を張るために、参考書を買いに駅前に出掛けた訳だったのだが、一冊3600円と思いの外高額だった。
ちなみに、C.C.の言うように昨日までは夏の受験勉強フェアで参考書は全品半額だったらしい。

そして、今はその帰り道。上条は一人うだうだと文句を垂らしているのである。


上条「……ったく、冷静に考えてみりゃ、別に参考書なんて買う必要ねぇじゃねーか。はぁ、何やってんだか……」

C.C.「だから私も言っただろう?下らん見栄は張るなと。……ああ、3600円もあれば美味いピザが食べれたものを」


溜め息をついて僅かな落胆を示すC.C.。
上条はそんな彼女をジト目で見る。


上条「……あんな人をバカにした目して、嘲笑浮かべてた奴がよく言いますね」

C.C.「私は事実を言っていただけだ。目つきやら嘲笑やらはお前の被害妄想だな」

上条「いやいや!あなた、あれ確実にバカにしてたでしょ!?」

C.C「私はしているつもりはなかった。お前自身が思い当たる事があるから、そう見えただけだろう?くっくっくっ……」

上条「……はぁ」


上条は溜め息をついてジト目でC.C.を睨んだが、彼女は飄々としていて、まったく意に介さない。
ただ上条を見てニヤニヤと笑うだけである。

彼女と過ごし始めて二週間が経ったが、こんなやりとりがほぼ毎日繰り返されている。
そのため、上条もある程度の慣れというか、耐性がついてきていた。
かといって、黙って言われ続ける訳ではなく、ある程度の反論もするにはするが、彼女を言い負かした例がなかった。


上条「……わかった。わかりましたよ。上条さんの勘違いでしたー」


大抵はこうやって上条が折れるか、いじけるかで勝負はつく。
それは上条自身がそれほど大事な事を議論している訳でもないと理解しているからであった。

また、それはC.C.も同様である。
彼女から言わせれば、こうして上条を馬鹿にするのはただの遊びだ。

上条もC.C.の物言いに辟易しているように見えても、意識していないところでは彼女との会話を楽しんでいた。


C.C.「ふふふ、そうかそうか。だが、私を疑った罪は重いぞ?今なら、そこのアイスクリームで許してやらんこともない」


そう言って、近くに見えたアイスクリームショップの看板を指差すC.C.。
上条としてもこの暑さの中で、冷たいアイスでも食べて気持ち良くなりたいという思いはある。

だがしかし……。


上条「C.C.さん、上条さんも食べたいとは思うのですが、ここでお金を使ってしまいますと帰り賃が消滅してしまうのでせう……」


本日、財布に入れてきた金は4000円とちょっとだけ。
参考書が上条の予想を超えて高かったのだ。


C.C.「なら歩いて帰ればいいだろう?」

上条「そうは言ってもですね、学園都市は東京都の約三分の一もの広さがあるんですよ?
   実際歩くのがそこまでの距離でないにしても、さすがに歩いて帰るにはちょっと……」


仮にもC.C.は女の子だ。
本人は散歩を趣味としているようだが、さすがに距離がありすぎた。

……というのは建前で、上条としては、この暑い中、長い距離を歩くのは嫌だった。


C.C.「私にとってはその程度の距離などなんでもない。格好も普段と比べればずいぶんと涼しいものだしな」


そう話すC.C.の服装は、膝下までのやや暗い緑色のカーゴパンツに、ヘソが見え隠れする黒のチューブトップと、
中々に色っぽいというか、セクシーな服装だった。
彼女がエメラルドグリーンの髪を持ち、外国人特有の透き通るような白い肌であることも、その色っぽさを高めている。

先ほどから街ですれ違うほとんどの学生が、ちらちらと彼女を見ているのが、さすがの上条でもわかっていた。
それほどまでに、目立つ。

ちなみに、当然その洋服も上条の金で買ったものである。


上条「……なんつーかさ、お前、目立ち過ぎじゃないのか、それ。そんなんでまた狙われでもしたらどうすんだよ?」

C.C.「問題はない。こんな人前で、白昼堂々手を出してくるような連中など、この街にはまずいないだろう。
   それに、あの女狐がここの『上』の人間と掛け合ったはずだ。それなりの身の安全は保障されているだろうさ」


彼女の言う事は確かに当たっていた。

あの件の後、イギリス清教『最大主教』ローラ=スチュアートは、学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーと特別回線を開き、
C.C.のIDの『臨時発行』とその身の安全を依頼していた。
もちろん彼女の裏の事情は秘密のままで、単に留学生的な扱いとしてだが。

それをアレイスターは快諾。
どういう訳か、彼女についてはあまり深く追求する事もなく、二人の回線はなんの差し障りなく終了した。

当然、互いに思う所はあったが、そこは共に巨大な組織を率いる者、そして明晰な頭脳を持つ者同士、穏便に済ませたようであった。

そんなやりとりがあって、C.C.は今、こうして堂々と外を歩けているのである。


C.C.「それともなんだ?私が他の男に見られるのがそんなに嫌なのか?」


ニヤリと笑みを浮かべて上条を伺い見るC.C.。
対する上条は、その視線を横目で受け流すようにして話す。


上条「いや、別にそんなことはありませんけど?」

C.C.「照れ隠しする必要はないぞ?」

上条「してねぇよ!つーか、どんだけ自分に自信持ってんだよッ!?」


街中で、大声を上げてC.C.に突っ込む上条だったが、彼女のその黄金の瞳は揺らぐ事なく、冷ややかなままだった。
その笑みも変わる事はない。

そして、二人がそんなやり取りをしていたその時。


???「そないな大声出して何してんのやカミやん?んでもって、その人誰なん?」


突然後ろから聞こえてきた、聞き覚えのある野太い声のエセ関西弁。
上条の知る限り、そんな人物は一人しかいない。


上条「……青髪、お前のそのアホ口調はなんとかならんのか?」


溜め息をつきながら後ろを振り向けば、そこには上条の同級生であり、上条、土御門と共にデルタフォースの一角とされる、
青髪でピアスの友人が立っていた。


青ピ「アホ口調とは心外やね!ボクぁ生粋の大阪人やねんな!関西弁使うのは当たり前やないの!」

上条「米どころ出身が何を言ってんだ」

青ピ「こ、こここ米どころちゃうで!それにカミやんがボクの出身を知っているはずがッ!」

上条「いや、前に聞いたし。しかも、それ言うって事は、関西出身は嘘って事だろ」

青ピ「あー、あー、あー、聞こえへん、まったく聞こえへんなー!」

上条「……もうメッキ剥がれてんじゃねーか、関西モドキ」


両手で両耳を塞ぐ青髪に対し、冷たい視線を送る上条。
その脇ではC.C.が訝しげな顔を浮かべている。


C.C.「おい当麻、どうでもいいが、こいつは一体なんだ?」


そう言って、C.C.は青髪へと目を向ける。
それは何か妙なモノを見ているかのような視線であった。

対する青髪も、再度C.C.へと意識を移す。


青ピ「そや、カミやん。結局、この美少女さんは誰なん?カミやんの従妹と……違うよな?」

上条「当たり前だバカ。この緑髪に俺と同じ遺伝子があるとでも思ってんのかよ?」

青ピ「せやねー。じゃあ、リアルな話、道案内ってとこ?英語の成績鎖国状態のカミやんには無理ちゃう?
   ……あれ?といか日本語話す人なん?」

上条「ああ、こいつは日本語を……いてッ!?いててててッ!?ちょ、ちょっとC.C.さん!?み、耳を引っ張らないでッ!」


上条と青髪が話をしているその途中で、突如C.C.が上条の耳を摘んで引っ張った。
上条が彼女を見ると、彼女は不機嫌そうな、というか不機嫌な顔をしていた。


C.C.「この私を無視するとはいい度胸だな?お前はいつからそんなに偉くなった?」

上条「い、いや、無視なんてしてないって!」

C.C.「なら先に私の質問に答えろ。こいつは一体何者だ?」

上条「こいつは俺のクラスメイトだよ!友達だ、友達!だから耳を引っ張らないで!」


上条がそう説明すると、C.C.は、ふん、と鼻を鳴らし、耳から手を放した。

その様子を見ていた青髪は何やら信じられないといった驚きの表情を浮かべている。


青ピ「そ、そんなアホな……。こちとら人生16年にも及ぶ負け犬組のはずやのに……ッ!
   こんな美少女と楽しくコミュニケーションできてるなんて……ッ!」

上条「これが楽しそうに見えんのかよ……?」


そう言って、痛そうに耳を摩る上条。
しかし、青髪はその言葉に反応し、キッと鋭い視線を上条へ送る。


青ピ「カミやん、冗談も程々にしてや……?こんな、こんな美少女に!そんな風にいじられて、いびられて、攻められて!
   幸せやない訳がないやろッ!?」

上条「……うん、お前が平常運転なのはよくわかった。ただな、お前の価値観と俺の価値観を一緒にすんなっつーの」


暴走し始める青髪に、上条は呆れ顔を浮かべる。
脇のC.C.も今まで以上に引いた視線を送っている。


C.C.「……お前、こんな変態しか友達がいないのか?」

上条「俺もなんでこんな奴と友達になったのか、たまに疑問に思う事がある……」


言いたい放題の二人を見ながら、青髪はふっと真面目な顔に戻る


青ピ「それで、カミやん?その美少女さんとの関係は何なんよ?事と次第によっては……ヤるで?」

上条「ヤるって何をだよ……。はぁ、こいつはただの」

C.C.「将来を誓い合った仲だ」

青ピ「……………………は?」


上条の言葉を遮って言い放ったC.C.の言葉。
それに青髪はポカンとした表情を浮かべる。


上条「ちょ、ちょっとC.C.さん!?何を言っているんでせうかッ!?」


上条は慌ててC.C.を見ると、彼女はいつものあの意地の悪いニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


上条(ぐっ!こ、こいつ……ッ!)


上条はそのC.C.の様子を見て、顔を引き攣らせる。
例によって、彼女の悪ふざけが始まったようだ。


青ピ「……カミやん、これは一体どういう事や?説明してもらうで……」


呟くように話す青髪。
その様子からは確かな敵意と殺意を感じた。


上条「いや、あのな、こいつは冗談というか、嘘が」

C.C.「嫌いだな」

上条「」


どうしてこいつはこうして人を困らせる事しかしないのだろうか、上条はそう思い泣きたくなった。


青ピ「……カミやん?」


青髪はその大柄な体躯を力ませ、いよいよ戦闘態勢に入ったようであった。


上条「ちょ、ちょっと待てって!こいつはただの居候だ!」


思わず告げてしまった事実。
出来る事なら周囲の人間には秘密にしておきたかった事だったが……。


青ピ「いそうろう……?居候!?テメェ、こんな美少女の居候に『ただの』なんて言いやがりましたか!?」

上条「そういう関係でも何でもねーんだから、『ただの』以外に表現できるか!」

C.C.「ほう?夜はあんなに激しくするくせに、『ただの』居候か……」

上条「C.C.ッ!あなたはもう黙ってて下さいッ!」


C.C.に怒鳴る上条だが、その冷ややかな笑みを浮かべた表情は揺らがない。

そして……。


青ピ「……もう堪忍できん!カミやん……天誅!」

上条「ふ、不幸だぁああああああああああっ!」


上条の絶叫が、街中に響いた。



―――――――――

――――――

―――



学園都市・とあるファーストフード店



あの後、まったくもって理不尽な攻撃を青髪ピアスから受けた上条は、その無駄な疲労からか、何もかもどうでもよいといった
心境になってしまったため、もうアイスクリームの自棄食いでもしようかと考えた。

しかしながら、看板の見えていたアイスクリーム屋は店舗改装で休業となっていた。
その後、C.C.の我侭もあり、上条達は急遽、近くにあったこのファーストフード店へとやって来た。やって来たのだが……。


上条「……夏休みの午後。よく考えたら、こうなってんのは当たり前じゃねーか……」


バニラのシェイクがのったトレイを持ったまま、上条は呆然と呟いた。

店内は恐るべき満員状態で、空いてる席など一つもなかった。
上条としては、この際飲食はあまり重要ではなく、まず冷房の効いた所で座って休みたかったので、この状態は残念極まりない。

するとそこに、上条と同じように、マンゴーのシェイクがのったトレイを持ったC.C.が現れた。
何やらきょろきょろと周囲を見渡した後、その表情が曇る。


C.C.「……おい当麻、なんとかして席を取れ。私は座って休みたい」

上条「無茶言うなよ。こんな状態で席なんか取れねーよ……」


溜め息をつきながらそう呟くと、C.C.は一層険しい顔をした。

彼女は今、確実にイラついている。
このままでは自分に何か良からぬ被害が出そうで、上条は非常に心配だった。

二人がそんなやりとりをしていたその時。


青ピ「座るんやったら、相席するしかなさそうやね。ボク、ちょうど相席できそうなトコ見つけたで!」


遅れてやって来た青髪が二人にそう話す。

しかし、どうもその目の輝き方がおかしい。
上条が不審に思い、どういう事かと目で訴えかけると、青髪はトレイを持ちながら、ある一点を指差した。

上条がスッとその指差す先を見ると……。


上条「ッ!?なんだ、ありゃ……?」


人が溢れかえる満席の店内でただ一ヶ所、まったく人を寄せ付けていない、そこだけ異空間と化している四人掛けテーブルがあった。


そこに、そのテーブルに――――――巫女さんがいた。


その巫女さんは机に突っ伏して眠っており、その長い黒髪はテーブルにバサッと広がっている。当然、顔は見えない。


上条「……」


自身の不幸を知らせる警鐘が、これ以上ないくらい大きな音を立てている。

上条は自身がとてつもない不幸体質である事を自覚している。
それ故に、わかる。

あれに関わってはならない、と。
あれに関わったら絶対に不幸になる、と。


上条(……よし、帰ろう。あれに関わるくらいなら、この暑い中、シェイク片手に歩いて帰った方が絶対にいい。
   その後、家でいくらでもゆっくりしよう……)


そう決断し、上条は視線を戻し、傍にいるC.C.に声を掛けようとする。
さすがの彼女も、あれには関わろうとは思うまい、と。

だがしかし、すぐ傍にいたはずの彼女の姿がいつの間にか消えている。


上条「ま、まさか……」


上条が慌てて周囲を見渡せば、彼女は件のテーブルに向かってスタスタと歩いていた。


上条(マズい、マズいマズいマズいマズい……ッ!?)


完全に見込み違いだった。
彼女が、C.C.があの程度の事を気にするような細い神経の人間ではないということを、改めて思い知らされた。

しかし、だからこそ、なんとしてもこの相席だけは避けなければならない。

あんな格好のまま店に来る巫女さんと、この『魔女』C.C.が組み合わさったら、どんな化学反応を起こすかわかったもんじゃない。


上条「ちょっ!ちょっと待て、C.C.ッ!」


慌てて彼女を追いかける上条。
一方のC.C.はその巫女さんの座るテーブルのもう目と鼻の先まで来てしまっている。


なんとしても彼女を引き止めなければならない。

こうなれば、彼女を無理矢理に引っ張ってでもその席から遠ざけようと上条は決意する。
そして、C.C.に急接近し、彼女の腕に手を伸ばす上条。

……しかし、彼は不幸だった。ただただ、不幸だった。

上条の伸ばした手は、そのぶつからんばかりの勢いで急接近する気配を感じたC.C.に体ごと避けられ、空を切った。
上条はまさか避けられるとは思っておらず、その勢いそのままに、前へとつんのめる。

普通なら、この程度のバランスの崩れなど造作もなく立ち直せる。
しかし、C.C.を捕まえるために右手をトレイから放し、そのトレイを左手一本で持っていた事が災いした。

上条がつんのめるように止まったため、左手に持ったトレイの上から、買ったシェイクが慣性の法則に従って前へと飛び出す。

そう、目の前の巫女さんが座るテーブルへと。

上条は、マズい!、と飛び出したシェイクを慌てて右手で取ろうとする。
これが巫女さんにかかりでもしたら、確実に関わりを持ってしまうのに加え、下手をすればクリーニング代なども請求されてしまう
可能性だってある。
巫女装束のクリーニングなどいくら掛かるかわからない。


一瞬の内に様々な思考を働かせた上条の試みは――――――成功した。


なんとかシェイクを右手で上手く捕らえる事ができた上条。しかし、それを取ろうとさらに前に突っ込んだ結果……。



ドンッ!



上条は巫女さんが突っ伏しているテーブルにぶつかった。かなり強い勢いで。
当然、テーブルは揺れる。


上条(……ああ、結局はこうなるんですね。うん、もういいです……)


上条はシェイクをキャッチし、テーブルにぶつかった姿勢のまま、一人半笑いを浮かべてる。
その横では、C.C.が怪しい人を見るような目を上条に送っていた。

と、その時。



ピクン!



ぶつかった振動を感じた巫女さんの肩が僅かに動き……。


???「く、………………」


何か言葉を紡ごうとする巫女さん。

一方の上条はこれからを思う。
果たしてこの巫女さんとは、どんな素敵な不幸イベントがあるんだろうなぁ、と。

そして、ついにその巫女さんは言い放った。



???「………………食い倒れた」



―――――――――

――――――

―――


今回はここまでです

また次回の更新がいつになるかはわかりませんが、気長に待って下されば……

それでは、また

お久しぶりです
とりあえず生存報告を

今現在、リアルがマジで忙しすぎて執筆もほとんどできていない状態で…
しかも冬休みがろくな休みじゃないという…
読んでくれている方々には申し訳ないですが、更新はもう少し先になりそうです…
年内にあと一回更新できれば良い方かと…

本当に申し訳ないです…

どうもお久しぶりです…

まずは呼んで下さってる方々に謝罪をさせて頂きます…
私用でたいへん長い間放置してしまって申し訳ありませんでした…

短いですし、物語もあまり動きませんが、とりあえず投下できる所を投下します

学園都市第七学区・窓のないビル



学園都市のほぼ中心に位置する、この街でも殊更に異質な建造物。
そこには一切の窓がなく、それどころかドアも、階段も、エレベーターも、通路も存在しない。
核シェルターを越えるの強度を誇る『演算型・衝撃拡散性複合素材』で覆われ、侵入するにしても大能力者の空間移動が必要不可欠。
まさに最硬の要塞。

その中に、イギリス清教『必要悪の教会』の魔術師、ステイル=マグヌスはいた。

本来、彼のような生粋の魔術師はこの街にいるべきではない。
『魔術』と『科学』、『非現実』と『超能力』。
古来より交わるべきでない、交わるはずのない二つの領域。

そんな異物とも言うべき彼がここにいるのには訳がある。
彼は今、『イギリス清教代表』として、『学園都市』と対話に来ているのである。
今回の対話は『学園都市』側の緊急の要請で、それに『イギリス清教』が応えた形で実現したものであった。


ステイル(……まったく、ついこの間来たばかりだというのに、またすぐにこの街に来ることになるとはね)


正直、ステイルはこの街が好きではない。

自分のいる領域とあまりにも違った領域に身を置く事は、仕事といえど彼にとってはストレスとなる。
また、街を歩けばその身なりから多くの者に好奇の視線を浴びる。
それから逃れるために、隠密行動をするのもまた疲労が溜まる。

そしてもう一つ、彼がこの街を嫌う理由が、目の前の光景である。


アレイスター「……さて、まずは今回呼び出しに応じてくれた事に感謝する」


自身の目の前、ビーカーの中に逆さまになって漂う一人の人間。
ステイルにとって、その姿は『人間』という言葉でしか表現できないものであった。

人間の持つ生命活動の全てを、装置で補う事ができるから、と機械に任してしまう、その精神性。
人間という枠における限界を体現してみせる、その姿。

ステイルは恐ろしい。
人間で在りながら、人間として歪みきった、この人間が。


ステイル「……いえ、お気になさらずに。我々、イギリス清教もそちらには世話になっているのですから。
     ……それに先日の件もあります。こちらとしてはその恩を返したいと思っていたところです」


ステイルが言った先日の件というのは、主にC.C.の学園都市在住の許可についてだ。
この人間が許可したからこそ、C.C.は学園都市に堂々といることができ、またその身の安全も多少は約束されている。

100%の、とは言えないのが問題と言えば問題ではあるが、それは致し方のないことだった。


アレイスター「そうか、そう思ってくれているのであればこちらもありがたい。動いた甲斐もあったというものだ」


ビーカーの中で笑みを浮かべるアレイスター。
ステイルはアレイスターとローラのやり取りを断片的に聞いてはいたが、その二人のホットラインというのを想像して寒気を感じた。


ステイル「……イギリス清教を代表し、心より感謝致します」


ステイルは一度深く頭を下げ、最大の謝辞を述べる。

彼がここまで丁寧な物言いをするのは、彼が『イギリス清教』の代表だからではない。
そうするのは、この場において彼の命は目の前の人間の手の上にあるからだ。

ここは『学園都市』。
世界最高の科学都市にして、230万人もの能力者を操る場所。

その頂点にいる人間に少しの敵意でも感じられたら、命はない。


ステイル「……それでは、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」

アレイスター「ふむ、そうだな。お互い忙しい身だ。手早く済ませよう」

ステイル「お心遣い感謝します」

アレイスター「……ふむ、誰にでもわかるよう、ありたいていに言ってしまえば――――――まずい事になった」

ステイル「……『吸血殺し』、ですね」


ステイルはこの人間でも弱音を吐く事があるのかと思いながらも言葉を返す。


『吸血殺し』。
能力の実体は不明、真偽も不明の、異端の能力。
ただそれは『とある生き物』を殺すための能力と言われている。

魔術師の間では『カインの末裔』という隠語で語られるその生き物は――――――吸血鬼。

それは不死身と言われる存在。
抉り取られても動き続ける心臓。無尽蔵の魔力。生ける魔道具。

魔術師であるならば、その神秘に触れてみたいと思う反面、決して出会いたくはない存在。
それが吸血鬼。

誰も見た事がない、否、見たら死ぬと言われる、その生き物。
故に、今までその存在が確認された事はなく、多くの魔術師達の間でもただの伝承として扱われている。

……だが、もしも『吸血殺し』などという能力が本当に存在するのなら。
それはすなわち殺す相手の存在を、吸血鬼の存在を証明する事になる。

吸血鬼が存在するからその能力が在るではなく、その能力が在るから吸血鬼が存在するという逆証明。


アレイスター「ふむ、能力者だけなら問題はない。あれは私が保有する超能力の一つなのでね。
       ……問題なのは、今回この件に本来立ち入ってはならない君達が関わった事だ」


君達、つまりはステイルら魔術師の事だ。
今回、問題となっているのは件の『吸血殺し』が、魔術師に監禁されているということだった。


アレイスター「魔術師の一人や二人をただ排除するのは、私が有する230万の能力者を使えば造作もないことだが、
       問題なのは科学者が魔術師を倒してしまうという点だ」


科学者と魔術師、科学と魔術という世界の二大領域の交戦。
それは優劣や勝敗という点でも、お互い秘技の情報漏洩という点でも問題のある事だ。


ステイル「そうなると、そちらの増援を迎えるのも難しいですね……」


そしてそれらの問題は、同時に能力者と魔術師との統合部隊というのも現実不可能にしていた。

協力し合っていても、所詮は違う領域に住む人間同士。
故に、相手の技術を盗み見る、盗み取るにはまたとない機会となってしまうからだ。


アレイスター「だからこそ、私は君を呼んだ。君ならば、はぐれ魔術師の一人や二人倒すのに問題はないのだろう?」

ステイル「……そうですね。確かに、その通りです」


科学側の人間が魔術側の人間を倒すのは問題があるが、魔術側の人間が魔術側の人間を潰す分には何の問題もない。
それに彼、ステイル=マグヌスはイギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会』に所属する、若年ながらもルーンを極めた天才魔術師だ。

所属、実力含め、魔術師を狩る人間としてはこれ以上ない存在とも言えるのである。


アレイスター「それで、問題となる『戦場』の縮図だが……」


アレイスターの言葉に呼応して、暗闇に透視図のようなものが浮かび上がる。
正方形の4つの角に配置された4棟のビル。それぞれは渡り廊下で結ばれている。
見取り図の端には『三沢塾』という名が振ってあった。


アレイスター「建設時の設計図と衛星の各種映像から内部分析したものだ。魔術的な仕組みは一切不明」

ステイル「……」

アレイスター「『三沢塾』が『吸血殺し』を監禁しただけなら、対処する方法は無数にある。しかし、件のはぐれ魔術師が
『吸血殺し』を確保し、そのまま建物を乗っ取ってしまうとはな。……まったく厄介な事だ」


学園都市内部の問題に、外部の魔術師が闖入した事。これが今回の問題の全てだった。


ステイル「……つまり、私は単身この建物に乗り込み、魔術師を排除すればいい訳ですね?」


そして、ステイルに求められるのは、言わば特攻。
領域の違う場所で、増援もなく、ただ一人孤独に戦う事。

それが今回の任務。


ステイル(……要するに、今回もまたいつものように生きるか死ぬかを賭けた戦いになるって事か。
      ……まぁ、能力者が溢れかえるこの街で、ただ一人の孤独っていうのも愉快なものだね)

アレイスター「いや、そうでもない」


ステイルの思考に割り込むかのように、アレイスターは淡然と言葉を告げた。


アレイスター「先ほどはああ言ったが、今回は私の有する能力者を一人貸し出そう。君達、魔術師にとって天敵となる能力を持つ者を」


その言葉で、ステイルの脳裏に先月の出来事が思い起こされた。

先月、この学園都市に来た時に出会った一人の高校生。
イギリス清教の秘蔵たる『禁書目録』の『歩く教会』を破壊し、『首輪』を無理矢理外して、あまつさえ『竜王の殺息』を受け止めた。

その男が持つ謎の能力――――――『幻想殺し』。

確かに、あれほど自分達、魔術師にとって厄介な存在はなく、まさにジョーカーのようなものだ。



ステイル「……しかし、いいのですか?魔術師を倒すのに、能力者を使ってしまうのは……」

アレイスター「なに、問題はない。アレは無能力者であり、価値ある情報は何も持っていない。
魔術師と共に行動したところで、魔術側に科学側の情報が漏れる事はない」

ステイル「……」

アレイスター「そしてその逆も然り。アレには魔術側の技術を理解、再現する脳もない。故に、科学側に魔術側の情報が流れる事もない」


アレイスターの言うように、出会ったあの少年はあまり頭が良さそうではなかった。
とても魔術の秘奥を理解できるとは思えない。

だが、あの稀有な能力が役立たずの無能力者、というのはどういうことだろうか?

確かに、あの能力を教会に持ち帰る事はステイルには不可能だ。
あれを理解する事さえできていないのだから。

だからこそ恐ろしい。理解を超えた能力。神秘を触れただけで壊すという異常性。

それをぞんざいに扱おうとするこの人間の意図が、思考がまったく読めない。


ステイル「……『幻想殺し』に、『吸血殺し』、か」


ステイルはポツリと呟いた。

今回、関わる事になる二つの能力。どちらも稀少であり、理解の範疇を超えた力。
それがどのように作用するのか、現状では予想する事すらできない。

そして、さらにステイルにはどうしても憂慮しなければならない事がある。

それは、今現在この学園都市に在住し、件の『幻想殺し』の傍にいる、C.C.の事だった。

『幻想殺し』の少年、上条当麻と関われば、まず間違いなくあの魔女も首を突っ込んでくるだろう。
除け者にされるのを黙って見過ごすような性格ではない。

そして最大の問題となるのが、今回の事件を起こしたはぐれ魔術師――――――アウレオルス=イザード。
この男とC.C.、そしてインデックスの間には深い因縁がある。

できるなら、秘密裏に上条当麻とコンタクトを取って、C.C.が関わる前に事を終えたいと思うが、
あの鼻の良い魔女がそれを許すとも思えなかった。


ステイル(……やれやれ、今回の仕事も、楽じゃなさそうだね)


そしてその後もステイルはアレイスターと会話を続けながら、内心では深い考えを巡らせ続けた。



―――――――――

――――――

―――


短いですが、とりあえずここまでで…

2月の1、2週はテストやらなんやらでまた書く暇もないと思います…
ですが、それが終わったらかなり時間に余裕ができるので、できる限り早く更新していきたいと思っています
どうぞこれからもよろしくお願い致します

……こんなに長い間書けなかった全ての原因は化学の実験のせいだ
一回の実験でレポート20枚近く書かせるとかおかしいだろjk…

お久しぶりです
生存報告と予告アゲをば

2月が思いの外忙しく、また3月も忙しくなりそうです…
頑張って書いていくつもりですので、気長に待って頂ければ幸いです

とりあえず今週中に一度投下できそうなので、読んで下さっている方々はしばしお待ち下さい

一気読みした

もしかして偽善使いってあのSSからか?

こんばんわ

長らくお待たせしました
また短いですが投下していきます

>>422
『とある星座の偽善使い』さんの事ですか?
意識してないとは言いませんが、正直あまり関係はありませんよ?
ただあの文章力は常々参考にさせてもらっています

学園都市・とあるファーストフード店



???「――――――食い倒れた」

上条・青ピ「……」


そこには異様な空間が広がっていた。

夏休みの昼時、ファーストフード店の二階、満員満席の中の窓際の一角にあるテーブル。
他の席は人の往来が激しいというのに、そこだけは何故か人通りが異様に少ない。

そんな場所に上条、C.C.、青髪ピアスの三人は座っていた。
その彼らの前には、机に突っ伏した、一人の巫女さんがいる。

巫女装束に身を包み、長い黒髪をテーブルに広げて突っ伏しているその姿は、嫌でも人目を引く。
そして同時にこの学園都市で、こんな服装をしてファーストフード店に入るなど普通ではないと。

それ故に、人々はそこを避けている訳だが……。


C.C.「……おい、それで?食い倒れたとはどういう事だ?」

上条「なに普通に会話しようとしてるんですか、C.C.さん……」


どうやらこの魔女には興味の対象にしかならないらしい。



C.C.「別におかしくはないだろう?せっかくの相席だ。会話の一つや二つしたところで何も問題はない」

上条「……相手が、普通、ならな。上条さんの第六感はものすごい警鐘を鳴らしているのですが……」


そもそも上条当麻は不幸な人間である。
彼はそれを自分で十二分に自覚している。

アクシデントに巻き込まれる事は多々あっても、自分から巻き込まれたいと願った事など一度もない。
とは言うものの、彼のお人好しな性格故に、自分から面倒事に突っ込むことはしばしばある訳だが。

そんな風に二人が会話していたその時。

今までテーブルに顔を突っ伏していたその巫女さんが、むくりと起き上がった。


???「その言い方は。すごく失礼」

上条「うおッ!?」


突然声を掛けられた上条は慌てる。

一方、顔を上げたその巫女さんはなんとも眠そうな目で、上条をジトーと見つめている。
その目には僅かばかりの非難が込められていたが、攻撃的なものは一切なく、どこか安心すらできるものだった。

そして何より……。



上条(……メチャクチャ美人じゃねーか)


テーブルから上げられた顔は、上条の予想に反してかなりの美人だった。

日本人らしい白い肌、大和撫子と言うに相応しい長い黒髪と黒い瞳。
それらがさっきまでは奇抜と思われた巫女装束を自然なものにしていた。

ただ、あくまでもそれを着る姿が自然なのであって、このような場所では明らかに浮いていたが。


???「……その言い方は。すごく失礼」

上条「いや、二回も言わなくてもわかりますよ……。あー、まぁ、確かに悪かったな。ごめんなさい……」

???「うん。わかれば。別に構わない。……それにしても」


言葉を漏らしながら、視線を上条から緩やかに外し、またしてもテーブルに突っ伏そうとする巫女さん。


上条「……それにしても?」


上条がその様子を見ながら、言葉の続きを促すと……。



???「――――――食い倒れた」

上条「どうしてもそこに突っ込んで欲しいみたいだなッ!?」


先ほどから度々呟かれる、聞かれるのを待っているかのようなそのフリに、上条は反射的に激しい突っ込みを入れた。
そしてそれを横で見ていた青髪ピアスは目を見開き、呆然とした様子で両者を交互に見やる。


青ピ「か、カミやんが、会って間もない女の子と楽しく会話しとる……。そのフラグ建築能力に際限はないんかッ!?」

上条「お前はこれが楽しい会話に見えんのかッ!?それにフラグなんて立ててねぇ!」

青ピ「黙らっしゃいッ!こんな短期間で妖艶系美少女と不思議系美人巫女さんと知り合いになっといてよく言うわ!」


ギャーギャーと騒ぐ二人を、C.C.は鬱陶しそうに横目で流し見ながら、テーブルに突っ伏す巫女さんへと視線を移す。


C.C.「……それで?食い倒れた、とはどういうことだ?」

???「1個58円のハンバーガーの。お徳用の無料券がたくさんあったから」

C.C.「ふむ」

???「とりあえず30個ほど頼んでみたり」

C.C.「……バカなのか?」


思わず口に出してしまったが、本心でそう思っているのだから仕方がない。
インデックスのように驚異的な胃袋の持ち主なら話は別だが、普通は一人でそんなに一気に注文はしないだろう。



上条「……なんつーか、お徳すぎだろ、それ。しかもそれ全部は食えないの目に見えてただろ?」


青髪ピアスと口論しながらも、二人の会話を聞いていた上条も突っ込みをいれる。
ハンバーガーを一気に30個も頼めるほど無料券があった事に対して、そしてそれを実行するこの巫女さんに対して。


???「……」


二人の率直かつ正確な突っ込みを受けて、巫女さんは一切動かなくなり、全身から悲しいオーラが漂う。
そのあまりにも露骨に悲しいオーラをひしひしと感じる上条の方も何ともバツが悪くなった。


上条「……あー、そんなに落ち込まなくても。……な、なんか理由があったのか?三日三晩何も食わなかったとか?」

???「……やけぐい」

上条「はい?」


不意に聞こえてきたそんな言葉に、上条はポカンとした。


???「帰りの電車賃。400円」

上条「……それで?」

???「全財産。300円」

上条「……その心は?」

???「買いすぎ。無計画」

上条「……」

???「だからやけぐい」


上条は思った――――――バカだ、と。
自棄になる気持ちはわからなくもないが、学園都市の賃金事情を知っていればそこまで無計画な買い物はしないだろう。


上条(しかし上条さんは紳士ですのことよ?女の子に真っ正直に『バカだろ?』なんて言いまs)

C.C.「どうやら真正のバカのようだな」

上条「……っておいC.C.!?せっかく上条さんが飲み込んだセリフを…………はっ!?」

???「……」


上条が目を向けると、そこには先程にも増して真っ暗に沈んだオーラを醸し出す巫女さんの姿があった。
ここまで来ると、さすがにもう掛ける言葉も思いつかない。



上条「……C.C.さん、これは明らかにあなたのせいだと思うのですが?」

C.C.「私は客観的事実を述べたまでだ。そう言うお前も同意していただろう?」

上条「うっ……。確かに、それは、そうですが……」


確かに普通の人間から言えば、些かおかしな行動であろう。
上条は、自分はあり得ないくらい不幸な人間だとは思うが、常識から逸脱した人間ではないと思っている(そう信じている)。


C.C.「それにだ。300円分だけでも電車に乗って、残りは歩くことだってできるだろう?もしくは乞食のように、
   誰かの下に這いつくばって100円くらい請うとかな」

上条「なんでお前の言葉はそう悪意が篭もるんだよ……。しかも初対面の相手だぞ?
    ……いや、そういやお前は初対面の俺にも図々しかったなー」

C.C.「ふん、私はC.C.だぞ?初対面の相手だろうがなんだろうが遠慮などしない」

上条「……さいですか」


さすが『魔女』と言われるだけの事はあると、上条は改めて思う。
彼女の、良く言えば豪胆、悪く言えば傍若無人な所に、一体どれほどの人間が振り回されたのだろうか。



上条「……まぁ、でも良い案だよなそれ。……あの、どうですか?それでなんとか帰っては?」


テーブルに突っ伏している巫女さんに提案すると、巫女さんはその表を上げる。
そして上条の目をまっすぐに見て、おもむろに右手を上条に突き出した。


???「じゃあ100円」

上条「は?」

???「あなたたちの案は。良いと思う。だから100円」


その差し出された右手を見ながら、上条は目を丸くした。
この巫女さんは、C.C.に勝るとも劣らない図々しさ、傍若無人ぶりだった。


上条「……無理だ。貸せない。貸せる金が無い」

???「……チッ。たかが100円も貸せないなんて」

上条「お前の方こそ、そのたかが100円も持ってねーだろうが」


上条はジト目で巫女さんを睨むが、巫女さんはどこ吹く風といった様子だ。
一体どこまでマイペースなのだろうかと上条は思う。



青ピ「か、カミやん。一体どうしてしまったん……?以前のカミやんなら、こんなナチュラルに女の子と話せるはずが……ッ!」

上条「……青髪。お前はもう黙ってろ。てか、お前が貸してやれ」

青ピ「残念なんやけど、僕ももうお金ないんよ。あとは帰りの電車賃だけや」


ポケットの中をひっくり返し、金が無いことアピールする青髪ピアス。
上条はそれを見てまた溜め息をついた。


上条「……まぁ、そういうわけだから、300円分歩いて、残り100円分は頑張って歩いてください」

???「……チッ。使えない」

上条「て、テメェ…」


頬を引き攣らせ、ギリギリと拳を握る上条。
さらなる文句でも言おうとしたその時、横に座っていたC.C.が何やらくつくつと笑みを浮かべているのに気づく。


上条「おい、C.C.?何がおかしいんだ?」

C.C.「いやなに、中々見所のある奴だなと思ってな。ここまで自然にふてぶてしい態度をとれる奴はそうはいない」

上条「……お前が言うのか?それ」

C.C.「ふん、私だから言うんだ」

上条「……はぁ」


今日もう何度目になるかもわからない溜め息をつく上条。

なけなしの金を叩いて買った参考書、暑い日差しの中の徒歩、そして巫女さんとの遭遇。
上条はもう色々と限界を感じていた。

とその時。


C.C.「――――――なんだお前達は?」


すぐ隣から突如聞こえてきた、C.C.の鋭い声。
それは今までの軽薄で、遊びのある声音などではなく、明らかな敵意を持った声質だった。

上条はその声にハッとし周囲を見渡すと、いつの間にか自分達のテーブルを取り囲むかのように、10人ほどの人間が立っていた。


上条「……ッ!」


それを見てまず上条の脳裏を過ぎったのはC.C.の事だった。
以前、『猟犬部隊』に襲われた時のように、C.C.を目的としてやってきた者達なのかと。

自然と上条の体は緊張する。
両拳を力強く握り締め、鼓動は自然と速まり、神経は尋常じゃなく鋭敏に。

それと同時に、あの時の、拳銃を突きつけられた時の恐怖が蘇る。

そしてさらに恐ろしいのは、この者達の接近にまったく気づかなかった、否、気づけなかった事だった。
注文を取りに来たウェイトレスほどの距離しかないのに、C.C.の声を聞くまでまったく気づく事がなかった。

そんな暗殺者のような連中に、上条の背筋は凍る思いだった。


上条(こいつら、一体……。すぐ、C.C,を連れて逃げるべきか?でも、青髪やこの巫女さんはどうする……?)


上条が内心焦りながら打開策を見出そうとしていたその時。
目の前に座っていた巫女さんがスッと席を立った。

そして、その表情はこんな状況だというのに、何の色も浮かんではいない。


???「あと100円」


巫女さんが告げると、上条たちを囲んでいた男達の内の一人が、律儀に巫女さんに100円を手渡す。
その両者の動作には一切淀みがなく、限りなく自然であった。


上条「え、な、お前の、知り合い、なのか……?」

???「……そう。塾の先生」


一瞬、彼女の目線が泳いだように見えたが、上条にその真意はわかりようがなかった。

そしてそのまま巫女さんは一階への階段に向かう。
そのあとに、ぞろぞろと男達はまるで護衛のように続き、やがて階下へと消えて行った。

一方、その場に残された上条だったが……。


上条(……とりあえず、目的はC.C.じゃなかったんだな。良かった……。はぁ……)


男達が消えたのを確認すると、まず安堵の溜め息をつく。

とりあえずC.C.の危機ではなかった事。
それが確認でき、上条の体からようやく緊張がとれる。


上条「それにしても、一体なんだったんだ……?」

青ピ「塾のセンセ言うても、限度があると思うんやけどねぇ……」


巫女さんと男達が消えて行った階段を見つめ、上条と青髪は呟く。

あの異常とも言える集団は、一体なんのために巫女さんを迎えに来たのだろうか。
青髪ピアスの言うとおり、塾の先生、というにしても、あれは限度を越えているだろう。


C.C.「……いけ好かない連中だったな。良い気分だったのが台無しだ」

上条「……」


容器に入った残りのシェイクを飲み干しながら、C.C.は不機嫌さを隠そうともせずに言葉を吐く。

上条はC.C.のその呟きを耳に入れながら、静かに階段から視線を外した――――――。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず今回はここまで

中々進めないなぁ……
でもこれからももっと頑張って書いていきますので、よろしくお願いします

それではまた次回に



>>上条「……まぁ、そういうわけだから、300円分歩いて、残り100円分は頑張って歩いてください」

酷いよ上条さんw

>>439
oh…
間違えた…
正しくは『300円分電車に乗って』です

どうもお久しぶりです

一ヶ月以上放置とか、遅筆にもほどが…
読んでくれた&くれている皆様には本当に申し訳なかったです…
もっと努力していくので、どうかこれからもよろしくお付き合い下されば幸いです

それでは、続きを投下します


夏の夕暮れ。

ファーストフード店での休憩後、モヤモヤとした気分を取り除くかのようにあちこち遊び倒した上条達は、
完全下校時刻を告げる声に従い帰路についていた。

共に遊んでいた青髪ピアスも先刻別れを告げ、夕暮れの街へと消えていき、今は上条とC.C.の二人きりである。
二人の間に会話はなく、ただ足並みを揃えて二人の住む学生寮に向かってトボトボと歩いていた。

しばらくして、駅前の大通りをそうやって歩いていたある時。


上条「……なぁ、C.C.」


不意に上条は口を開き、隣を歩くC.C.に声を掛ける。


C.C.「……なんだ?」


声を掛けられたC.C.は、歩みを止める事なく、視線は前へと向けたまま静かに答えた。


上条「……昼間のアレ、何だったんだろうな」


思い起こすのは、昼に出会った謎の巫女さん。
そして、彼女を取り巻き、連れ去ったスーツ姿の男達。

結局、この日いくら遊ぼうとも、上条は忘れようにも忘れる事などできなかった。


C.C.「私が知るものか。ただ一つ言えるのは、あの男達はただの塾の先生などではないという事だけだ」

上条「……やっぱり、そう思うよなぁ」


腕を組みながら、うーん、と唸って首を傾げる上条。
それを横目に見て、C.C.はピタリとその歩みを止め、上条に向き直った。


C.C.「……気になるのか?」


C.C.のその問いに対し、上条もまた歩みを止めて彼女へと向き直る。


上条「……そりゃあ、な。どう考えてもアレは普通じゃなかったし。気にするなっていう方が無理な話だろ」


不思議な雰囲気を持つ巫女さん。異常な空気を纏った男達。
そして、消える間際の一瞬の視線の揺らぎ。


上条「……なんつーか、嫌な予感がすんだよ。あの巫女さんの事もそうだけど、なんかもっと、無視できない、
    無視しちゃいけないような、さ……」

C.C.「回りくどい言い方はやめろ。結局、お前は一体どうしたいんだ?」


問いかける彼女のその黄金の瞳は、真っ直ぐに上条へと向けられている。
対する上条も、それを正面から受け止め、口を開いた。


上条「……あの巫女さんを探したい。それで何か事件に巻き込まれてるんだったら―――――助けたい」


決意と覚悟をその目に宿し、上条は力強くそう答えた。
C.C.は少しの間そんな上条をジッと見つめていたが、やがて溜め息をついて、その視線を外した。



C.C.「……ふっ、お前のお人好しには、呆れを通り越して笑えてくるな」

上条「俺は別にお人好しって訳じゃ……」

C.C.「いや、お前はお人好しだ。ある種、異常とも言えるくらいにな。普通の人間は、多少気にする事はあっても、
   お前のように実際に行動する奴は中々いない」

上条「……」

C.C.「私はそれを悪い事とは言わない。だが、あまりにそれが過ぎると、いつか身を滅ぼす事になるぞ。
   日頃、お前は不幸不幸と嘆いているが、それはお前自身が厄介事に首を突っ込むからだ。
   ……まぁ、それだけが原因とは言わないがな」


彼女の言うことは至極真っ当な事である。
上条自身の不幸体質に加え、さらに他人の不幸までも上乗せすれば、それは碌な事にはならないだろう。


上条「……肝に命じておくよ。でも、俺は困ってる人がいるなら、出来る限り助けたい。俺は所詮、『偽善使い』だからさ。
    そして、誰かを助けるためになるんだったら―――――『力』だって使う」


『幻想殺し』、『絶対遵守のギアス』。
ただの高校生である上条当麻に宿った、世界を揺るがす力。

誰かのためになるというのなら、彼はそれを使う事を厭わない。



一方のC.C.は、真剣な眼差しを向け、上条の宣言を聞いていた。
そしてしばらくすると、彼女はやれやれと肩を竦め、静かに口を開いた。


C.C.「……まぁ、結局はお前の勝手だ。好きにするがいいさ」

上条「……ありがとな、C.C.」


いつも自分に助言をくれ、口は悪いながらもそれとなく心配をしてくれる。
そんな彼女には感謝してもしきれない。


C.C.「礼など必要ない。……だが、勝手に行動する前に、―――――気づいているか?」

上条「え?……ッ!」


突如として、C.C.の目つきが変わる。
その瞳には今までのような真剣さではなく、警戒、敵意といった感情が宿っていた。

それを見た上条は、瞬時に自分達の周囲に目を向ける。
―――だが、怪しい人影や、おかしな様子は見当たらない。


上条「?……えーと、別に何もおかしな所なんてないよーな……?」

C.C.「もう少し周りを気にするんだな、坊や。今日の昼の男達にも、私が気づかなければ,
   お前はずっと気づかないままだっただろう?……まぁ、この場合は逆か」

上条「えーと、C.C.さん……?」


尚もわからないといった様子の上条に対し、C.C.は一度溜め息をついてから口を開いた。


C.C.「……ここは、こんなに人気がない場所なのか?」

上条「ッ!」


彼女に言われて初めて気づいたその異常。

怪しい人影や、おかしな様子など探して見つかる訳がない。

何故なら、そもそも周囲に人など誰一人存在していなかったから。
何故なら、自分を含めたこの空間そのものが異様なものだったから。


上条「……なぁ、C.C.。これって、確か……」

C.C.「ああ、これは間違いなく、―――――人払いだ」





???「ご名答。まさにその通りだよ」





二人の背後から突然聞こえてきた声。
それは、上条にとっては少し前に聞き覚えた声であり、C.C.にとっては聞き馴染んだ声であった。

二人が振り返った先にいたのは、予想通り、タバコを燻らす黒衣の神父。


ステイル「やぁ、久しぶり……でもないか。……まぁ、とりあえず、また会ったね。C.C.、上条当麻」


ステイル=マグヌス。
イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会』所属、ルーンを極めた天才魔術師が、夕焼けを背に立っていた。


上条「す、ステイル……?なんでまたココに?また何かあったのか?」


突然の再会に驚きを顕わにする上条。
それに対し、C.C.は冷ややかな表情を浮かべていた。


C.C.「お前、一体何をしに来た?まさか、私を連れ戻しに来たとは言わないだろうな?」

ステイル「……まったく、随分な言い様だね。今回は君の件の謝罪と感謝をイギリス清教を代表して述べるのも
      仕事に含まれてたんだけどね」

C.C.「そんなこと私が知るか。文句ならあの女狐に言うんだな」


不機嫌さを隠そうともせず、嫌味を言うステイル。
だがしかし、その程度の事を魔女が気にするはずもなかった。

ステイルはいつもの事だとわかってはいても、彼女のその態度に溜め息をついた。


ステイル「元々は君が起こした騒動だろう。……まぁ、それは今はいいとしておいて。今回はそれとは違った用もあってね」

C.C.「ほう、こんな人払いまで敷かなければならないほどの事なのか?」

ステイル「この人払いは念のためさ。僕や君は目立つからね。こうでもしなければゆっくり話もできない」


そう言ってステイルは一度タバコを吹かしてから、それを道端へと投げ捨てた。


C.C.「……それで?その話とはなんだ?」

ステイル「ああ、いや、今回主に話があるのは君じゃない」

上条「…………………………えっ、俺?」


ステイルの視線は、C.C.の脇に立つ上条へと注がれていた。
その上条はというと、ステイルの視線を受けてなんとも間抜け面で自分を指差していた。


C.C.「おい、どういうことだ?」


怪訝な顔を浮かべながら問うC.C.を一瞬流し見て、ステイルは切り出した。


ステイル「簡単な話さ。今回の仕事は上条当麻にも協力してもらう」


一瞬の間の後―――。


上条「……は?はぁあああああああああッ!?」


上条の叫び声が、辺りに響いた。


ステイル「なんだい?君は僕達に困ったことがあったら、喜んで手伝ってくれるんじゃなかったのかい?」

上条「いや、確かにそうは言ったけどさ!いきなり過ぎやしませんかねッ!?」

ステイル「困った状況というのは得てして唐突に起こるものだよ。……まぁ、という訳で、手伝ってくれるね?」


そんな感じの軽い態度で協力を仰ぐステイル。
手伝う事がさも当然の事と錯覚してしまうほど、彼の物言いは図々しかった。

それに対し、上条は……。


上条「……………はぁ、わかったよ。俺自身が言った事だし。手伝うよ」


溜め息交じりながら、了承の返事を返す上条。

ステイルは、その返事を聞いてやや驚いた表情を浮かべていた。
横に立つC.C.も、やれやれといった風に額に手をあてていた。


上条「?……なんだよ?なに驚いた顔してんだ?」

ステイル「……いや、正直こうもあっさりと承諾してくれるとは思っていなかった。
      もう少しごちゃごちゃと文句でも言うものと考えていたからね」

C.C.「こいつはこういう人間なんだ。この私でさえ驚かされる」


二人から呆れ顔で見られた上条は、なんとも居心地が悪そうに顔を顰めた。

上条自身は、ただ自分の言責を取ったつもりだった。
だが、どうもそれは他者から見れば『お人好し』の行動にしか見えないようだ。


上条「……まぁいいや。それで?俺は何すればいいんだよ?」

C.C.「……おい、少し待て。こいつの手伝いをするのは勝手だが、お前、巫女装束の女の方はどうするつもりだ?」


後先を少しも考えてなさそうな、目前のことにのめり込もうとする姿を見かね、C.C.は先に問いかける。

しかし、問いかけられた上条の方は、彼女の予想に反して思いのほか冷静に返答した。


上条「もちろん、そっちだってちゃんと探すつもりだ。だから、そうだな……。
    ステイル、お前の仕事の手伝いってのはどのくらいで終わるんだ?」

ステイル「そんなに時間は掛からないと思うよ。今日一日あれば片が付くだろうね」

上条「よし、それなら大丈夫だな」

ステイル「……ところで、その巫女装束の女っていうのは一体何の話なんだい?」

上条「んー、まぁ、大した事じゃないさ。俺がちょっと気になってるだけだし。
    ……それでステイル、そろそろ仕事の内容を教えてくれ」

ステイル「……まぁ、僕には関係ないし、別にどうだっていいんだけどね」


言いながらステイルは、懐から大きな封筒を取り出した。

そして彼が何かの呪文のようなものを唱えて封筒を弾くと、封筒は上条へとくるくる飛んでいき、その手に綺麗に収まった。
その封筒の口には何かの文字が刻まれている。



ステイル「受け取るんだ」


その呟きが合図だったのか、封筒の口が綺麗に切れた。
封筒の中からは幾つかの書類が飛び出して、上条とC.C.の周囲をふわふわと浮遊している。

そして、その中の一枚が上条の目の前にひらりと飛んでくる。


上条「えーと、……『みさわじゅく』?」

ステイル「そう、『三沢塾』。なんでもこの国では一番のシェアを誇る進学予備校みたいだね。
      今回はその支部校で問題が起こってるのさ」

C.C.「……その問題とはなんだ?」


それまで上条と共に書類を覗き込んでいたC.C.が先を促す。
上条も書類から目を放し、ステイルからの言葉を待つ。

二人の視線を受けながら、ステイルは事も無げに言った。



ステイル「そこに、女の子が監禁されてるんだ。それを助け出すのが今回の僕の仕事さ」


上条「……それ、ホントなのか?」

ステイル「その真偽に関しては、資料を見てもらえばわかると思うけどね」


ピン、とステイルは人差し指を立てる。
すると上条とC.C.の周りに浮かんでいた幾枚かの書類が、紙吹雪のように舞って二人を取り囲む。


一つは、『三沢塾』の見取り図。
一つは、『三沢塾』の電気料金表。
一つは、『三沢塾』を出入りする人間のチェックリスト。


赤外線などで計った実寸と見取り図との違いからわかる、いくつもの隠し部屋。
学校運営に使用したとされる電気量の合計料金とは合わない、過剰な電気消費量。
学生や教師によって持ち込まれた食料とそのゴミの食い違いから判明する、第三者の存在。


―――そして、最後の一枚。

今から約一ヶ月前、とある一人の少女が校内へ入っていくのが目撃された。
その少女の住む寮の管理人が言うには、それ以降一度も部屋には帰って来ていないとの事。


ステイル「今の『三沢塾』は科学崇拝を軸にした新興宗教と化しているんだそうだよ。
      その教えについては不明だけどね」

上条「じゃあ、監禁されてるその女の子は、そこで洗脳でも受けてるのか……?」

ステイル「さぁね。それに関しては僕の知る所じゃない。それに正直、『三沢塾』がどんなカルト宗教に変質していようが
      知った事じゃないんだ。現在はもう潰れている事だしね」

上条「?……どういう事だよ?」


今回のステイルの任務は、『三沢塾』に監禁されているその少女の救出のはず。
にも拘らず、その『三沢塾』がすでに潰れているとは一体どういう事なのか。


ステイル「簡単に言ってしまえば、『三沢塾』は乗っ取られたのさ。とある一人の魔術師、もといチューリッヒ学派の錬金術師にね」

C.C.「何?」


ステイルの告げた事実にいち早く反応したのは、C.C.。
彼女にしては珍しく、強く、鋭い反応だった。

                                                        コンナトコロ
ステイル「そう、まさに君の考えている通りだよC.C.。……今回、魔術なんかとは相容れない『学園都市』で、
      『三沢塾』なんていう一予備校を乗っ取ったのは、―――――あの、アウレオルス=イザードだよ」


C.C.「それは確かなのか?間違いなくアイツなのか?」

ステイル「ああ、間違いないよ。『教会』の方でも、『学園都市』の方でも確認は取れてるからね」

C.C.「……そうか」


ステイルに確認を取ったC.C.は、腕を組み、静かにその瞼を閉ざした。
その表情からは、彼女が何を考えているのか読み取ることはできない。

そんな二人のやり取りを見ていた上条は、怪訝な顔を浮かべる。


上条「なんだ?知り合いなのか?その、あう、あうれるす……?」

ステイル「アウレオルス=イザード。……まぁ、昔、色々あってね。特に彼女は」


ステイルがC.C.を一瞥するのに釣られて、上条もC.C.の様子を窺う。
……どうやら今回もまた、C.C.の過去が大きく関係する出来事なようだ。

上条が少しの間そうして様子を見ていると、やがてC.C.は徐に口を開いた。


C.C.「……それで?アイツの目的は一体何なんだ?」

ステイル「アウレオルス=イザードは『三沢塾』そのものには毛ほどの興味もないよ。
      今はせいぜい、建物を要塞として使う程度にしか考えてないだろうさ」

上条「じゃあ、なんでそいつは『三沢塾』を乗っ取ったんだよ?」

ステイル「奴のそもそもの目的は、そこに監禁されていた少女―――――『吸血殺し』の方にある」

上条「『吸血殺し』?」


上条の呟きにステイルは頷く。


ステイル「元々『吸血殺し』を狙っていたアウレオルスだったけど、それを『三沢塾』に先取りされてしまった。
      それで奴は乗っ取りなんていう強硬手段に出たのさ」

上条「なんでそいつは『吸血殺し』を狙ってたんだ?」

ステイル「さぁ?アウレオルスが『吸血殺し』を使って具体的に何をしようとしているのかはわからないけど、
      『吸血殺し』の獲得は奴の、ひいては全ての魔術師の悲願ではあるからね」

上条「?どういう事だよ?」

ステイル「『吸血殺し』っていう能力は、僕らで言うところのカインの末裔―――――吸血鬼を殺す能力なのさ」

上条「……は?」


上条はそのステイルの言葉に呆気に取られた。


吸血鬼。
        オカルト                    カガク
そんなまさに『非科学』の代表が、何故に学園都市の『超能力』と結びつくのだろうか?


ステイル「しかも殺すだけじゃない。それがあれば、吸血鬼の捕獲さえできる可能性だってあるのさ。
      吸血鬼は謂わば無限の魔力炉。件の錬金術師は、たぶんそれが狙いだろう」

上条「……お前さ、吸血鬼とか本気で言ってんのか?」


あまりにも突拍子のない話に、上条は疑いの声を掛ける。

しかし、当のステイルは至って真面目な顔で、首を横に振った。


ステイル「……もしこれが冗談だったなら、僕も気が楽だったんだけどね」


ステイルは苦笑した。

しかし彼のその苦笑には、どこか怯えのようなものを感じる。
冗談では済まされなかった、というそんなどことない恐怖、怖気、戦慄。

上条はそんなステイルの様子を初めて見た。


ステイル「……吸血鬼を殺すための能力が存在するなら、殺す対象である吸血鬼が存在しないといけないのさ。絶対にね」


上条は何も言えず、閉口する。

というのも、この『学園都市』で公式に認められた異能が、何の根拠もないモノというのは上条自身思えなかったからだ。


ステイル「……まぁ、そうは言っても実際はわからない事だらけなんだ。どこにいるのか、どれくらいいるのか、どのくらい強いのか、
      何もわかっちゃいない。実際、誰も吸血鬼なんて存在を目にしちゃいないんだからね。……いや、もしかしたら目にした
      人間はいたかも知れないけど、証明できなかったのかな?」

上条「?なんでさ?」

ステイル「簡単な理由さ。吸血鬼を見た者は死ぬからだよ」

上条「……」

ステイル「だからこそ、アウレオルスは『吸血殺し』を手に入れたんだろうね。自分にとっての生命線、
      奴らにとってのジョーカーを持っておくために」


そこまで言うと、ステイルは大きく息をついた。
そして懐からタバコを取り出し、口に咥える。


ステイル「そうそう、言い忘れたけど『吸血殺し』の本名は姫神秋沙。元々は京都のとある山村に住んでいたそうだけど、
      村はある日、彼女一人を除いて全滅したらしい」

上条「全滅って……一体何があったんだよ?」

ステイル「……そこで何が起こったのかは今でもまだ判明していない。ただ、最後に通報をしてきた村人は随分と錯乱した様子で、
      化物に殺される、と電話越しで喚き叫んだそうだよ」


ステイルはタバコに火を着け、ゆっくりと吸った。
そして一呼吸置いてから、また話を続ける。


ステイル「駆けつけた人間がそこで見たのは、無人の村と、その中に立ち尽くす一人の少女。
      そして、――――吹雪のごとく吹き乱れる、真っ白な灰だけだった、って話だよ」

上条「……吸血鬼は、死ぬと灰になるって、まさか……」

ステイル「……それと、『吸血殺し』の顔写真もその封筒に入ってる。助けに行く前にちゃんと確認しておきなよ」


ステイルの言葉に従い、封筒の中から一枚の写真が滑り落ちた。

それを見た上条とC.C.の目は驚きに染まる。


上条「こ、こいつは……」

C.C.「……ああ、間違いないな。どうやらお前の探す手間も省けたようだ」



そこに写っていた顔は紛れもなく、昼に出会ったあの巫女さんのものだった。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず今回はここまでです

次回はもっと早く来れるように頑張ります
今後ともよろしくお願いします

それでは、また次回に

せ、生存報告…

できるだけ早く更新できるようにと言っておきながら、2ヶ月近く放置とか…
読んで下さっている皆様には本当に申し訳ないです…

言い訳させてもらえるならば、5月は部活が忙しすぎました…
平年なら早々と負ける春なのに、今年はかなり良い感じ勝っていってしまって…

来週中には必ず更新します
それまでもう少しだけお待ち下さい…

どうもこんばんわです
読んでくださってる方々にはお待たせして申し訳ありません

今回は短い上に、あまり進展もしませんが、とりあえず投下します

第七学区・とある大通り



夕焼けに染まった街に、これからいよいよ夕闇が訪れようという時分。
その影を伸ばしながら、足並みを揃えて歩く三人の男女の姿があった。


ステイル「……それでC.C.。本当に君は付いて来る気かい?今回の仕事はさっき言った通り、
      僕と上条当麻の二人でやればいいんだけど?」

C.C.「何を言っているんだお前は。私も行くに決まっているだろう」

ステイル「……まぁ、そう言うと思ってたけどね」

C.C.「そもそも、今回私にアイツの事を話したのはお前だ。初めから私に関わらせるつもりがなかったなら、
   お前は『人払い』でもして、私の知らない内にコイツと接触すれば良かったはずだ。何故そうしなかった?」


C.C.は人差し指を上条へと向けながら、鋭い視線でステイルに問う。
対するステイルは、まるでその質問を待っていたかのように淡々と答えた。


ステイル「そうしなかった理由は三つ。まず一つは、君にばれずに行動する、というのがすでに至難の技だからね。
      君の、こういう事件に対する嗅覚が異常なのはよくわかってる。隠していてもしょうがないと思ったからさ」

C.C.「ほう、よくわかってるじゃないか、坊や」


フフン、と胸を張り、笑みを浮かべるC.C.。
そんな彼女の様子を冷ややかに流し見て、ステイルは言葉を続ける。


ステイル「……二つ目に、初めから君も連れて行けば、僕の戦力を分散させる必要がなくなるから。
      君を独りにさせると『色々と』不安だからね。そうなった時は、突入前に『魔女狩りの王』を
      君に付けて行く事も案としてはあったんだ」

C.C.「……『色々と』、を強調したのは、今回は聞かなかった事にしてやろう」


皮肉げに言葉を強調したステイルに、C.C.の冷たい視線が突き刺さる。
それを軽く受け流し、ステイルは尚も続ける。


ステイル「そして三つ目。それは今回の事件を起こした相手が、行方不明だったあのアウレオルス=イザードだったから。
      インデックスはともかく、君には奴の事を話すべきかなと少し思ったからね。まぁ、理由としては一番弱いけど」

C.C.「……お前にしては気が利いた行動だったな。そこは褒めてやろう。……それでだ」


C.C.はそこで一度間を取った後、真っ直ぐにステイルを見つめて―――。


C.C.「それで、お前はあいつをどうするつもりだ?」




ステイル「……別にどうとも。ただ仕事の邪魔をするなら、その時は遠慮なく殺すよ」


なんの感情の起伏もなく、ステイルはあっさりと答えた。


ステイルにとって今回の一件はあくまで学園都市と清教から要請された仕事だ。
彼個人としては、アウレオルス=イザードという一個人に対して毛ほどの興味もない。

対象がイギリス清教やその協力関係である学園都市などに対して、何らかの害をもたらそうものならば、
命令に従い、ただこれを排除するのみ。

彼、ステイル=マグヌスは、今までそうやって生きてきた。


―――だが、そんなステイルの言葉を無視できない者がいた。


上条「……殺すって、お前、それ本気で言ってんのか?」


上条は、普段、彼が出す声よりも幾分低い声音で、ステイルに問い詰める。


ステイル「うん?もちろん本気だけど?それともなにかい?テーブルにでも着いてお茶でも飲みながら
      平和的解決でもするつもりかい?」

上条「……なにも殺す事はないだろ」

ステイル「……君はまだ意識できてないかもしれないけど、今回は魔術師同士の、正真正銘の殺し合いだよ。
      相手は仮にもこんな所で施設の乗っ取りなんてする奴だ。生半可な覚悟じゃないだろうし、相手は
      こっちを殺すつもりで来るさ」

上条「……だから、こっちも殺すつもりで行くって?」

ステイル「まぁ、そういうことだね」


ステイルは視線を上条から外し、一度タバコを吹かす。
ぼんやりと空を見上げるその表情からは、何も読み取ることはできない。

そして、再度上条へと視線を向け、口を開く。


ステイル「……それに、あっちは『吸血殺し』なんていうものを監禁、従えてるんだ。……最悪の状況、
      これは考えたくもないけど、もしかしたら『吸血鬼』さえも飼い慣らしているかもしれない」

上条「……」

ステイル「つまるところ、『吸血殺し』を助け出し、尚且つ僕たちが生き残るためにはこっちだって、
      手加減してる余裕はないってことさ―――――ほら、戦場も見えてきたよ」


ステイルに促され、上条とC.C.もそちらの方向へと目を向ける。


C.C.「……やれやれ、随分と血気盛んなことだな。お前も、そして、向こうもな」


その視線の先には、夕日に照らされ、まるで血に染まったかのように佇む『三沢塾』の姿があった。



―――――――――

――――――

―――



学園都市・三沢塾前



そのビルは何とも奇妙な形をしている。

ビル一つ一つは別段おかしなものではないが、『三沢塾』は全部で四棟のビル群から構成されており、
それらのビルは十字路を中心に据えられ、漢字の『田』を形作っていた。


ステイル「……さてと、それじゃあこれから特攻をかける訳だけど、中は錬金術師によって要塞化されてるだろうし、
      罠を含めて何らかの攻撃も予想されるから、油断しないようにね」

上条「……見た感じじゃ、そんな怪しい建物には見えねーけどな」


外見を観察する限りでは、ビルには目立って怪しい所はない。
時折出入りしている生徒達を見ても、ただの進学予備校にしか見えなかった。


C.C.「言った傍から油断か。馬鹿かお前は?」

上条「別に油断してる訳じゃねーよ!」

ステイル「……まぁ、気持ちはわからなくもないけどね。図面を見ても、わかるのはいくつか隠し部屋があることくらいさ。
      その他には怪しい所なんて見当たらない。……専門家であるこの僕が見てもね」


タバコを口に咥えながら、目を細めてビルをジッと見つめるステイル。
表情からは、何か釈然としない様子が見て取れる。


上条「……俺は隠し部屋なんてもんがある時点で十分怪しいとは思うんですけど」

ステイル「僕が言ってるのはそんな単純な構造の問題じゃない。魔術的な視点で見て、
      別におかしな所が見られないってことさ」

C.C.「無能め」


C.C.の呟きに、ステイルは「黙っていろ魔女」と短く言葉を返した。

専門家が見ても、おかしな所、怪しい所は見られない。
それはある意味で安全だと示されているとも捉えられるが―――。


上条「……逆を言えば、ただこっちが見つけられないだけで、もしかしたらとんでもない地雷が
    埋まっている可能性もあるということデスカ?」

ステイル「まぁ、否定はできないね。でもどっち道、僕達は行くしかないだろう。目的は錬金術師の
      殺害じゃなくて、あくまでも『吸血殺し』の救助だしね」

上条「俺としては否定して欲しかった……って、ちょっと待て。行くしかないって、まさか正面から
    突入するつもりか!?」

ステイル「そのつもりだけど?要塞化されてる以上、どこから入ろうが、あまり変わりないだろうしね。
      それとも君には何か相手の裏を掻くような良い策でもあるのかい?」


今更何を、というような表情を浮かべながら尋ねるステイル。
上条は一瞬言葉を失ったが、すぐに声を荒げてステイルに突っ掛かった。


上条「お、お前なッ!敵の本拠地に無策で突入する馬鹿があるかッ!」

ステイル「無策?何を言っている?何のために君を呼んだと思っているんだ」

上条「……?」


ステイルの言葉の意味を図りかね、上条はキョトンとした顔を浮かべる。
それを見たステイルは薄く笑って、さらに言葉を続ける。


ステイル「あの子の『歩く教会』を一撃で破壊し、『竜王の殺息』を受け止め、押し切り、尚且つ教会が
      用意した『自動書記』を修復不可能なレベルで損壊させたその右手があれば、恐れるもの
      なんて何もないじゃないか」

上条「……おい、じゃあお前が俺に協力頼んだのは……」

                     イマジンブレイカー
ステイル「うん、頼りにしてるよ、『都合の良い盾』」


つまり、上条に要求された役割は『幻想殺し』による絶対防御。
端的に言って、『盾』。あるいは『壁』であった。



C.C.「なるほど。確かに『盾』というのはお前に最適な役割だな」

上条「お、お前ら……」


せせら笑いを浮かべながら話すステイルとC.C.に対し、上条はこめかみをぴくつかせた。
上条自身、相手が魔術師である以上、『幻想殺し』の使用は当然想定していたが、
最初からただの『盾』としてだったとは考えていなかった。


―――上条はこの時、この性悪神父との付き合い方を改めて検討しようと心に決めた。


ステイル「さてと、それじゃあ最初の目的地はここから一番近い隠し部屋、南棟五階の食堂脇だね」


そんな上条を無視し、ステイルはゆっくりとビルの自動ドアへと近づいていく。

……が、彼は不意に立ち止まり、半身になって上条に声を掛けた。


ステイル「それと言い忘れたけど、君の『幻想殺し』の影響でこっちはビルに入った瞬間から奴に
      常に位置を捕捉されるだろうからそのつもりで」

上条「……は?」

ステイル「相手の魔力が充満してる空間に、その魔力をごっそり消してしまう君がいるんだからね。
      しょうがないだろう?まぁ、僕も僕の魔力で魔術を使えば同じことだけどね」

C.C.「……やれやれ、つまりお前達は歩く発信機という事か」


C.C.は一度溜め息をついて、二人を白い眼で見た。
一方の上条はステイルの言葉を聞いて黙ってはいられない。


上条「お、お前ふざけんなよ!?何なんだよその無理ゲーは!?
    スネークでも尻尾巻いて逃げ出すレベルだぞッ!?」

ステイル「だから油断するなと言った。……それとも、どうする?やっぱり行くのやめるかい?」

上条「ッ!」


上条当麻は至って普通の人間だ。
あまりにもこちらに不利な状態で、罠が張り巡らされた敵の本陣になど突入したくはない。


―――だが、しかし。


上条「……行くよ」


そんな危険な所に、女の子が一人閉じ込められている事など見過ごせるはずがない―――。



―――――――――

――――――

―――



今回はここまでです

ホント進むのが遅い……
もっと頑張らなければ……

次回からは戦闘に入れればいいなと思っています
それではまた次回に

二ヶ月以上放置とか…
ホント申し訳ありませんでした…

とりあえず生存報告です
やっと部活やらなんやらが一段落しましたので、これから頑張って書いていきたいと思います
ただ、諸事情によりバイトを増やさないといけなくなり、忙しさはあまり変わらないことに…
それでも頑張って書いていくので、皆様どうぞよろしくお願いします

あ、酉つけ忘れてましたね

今週は過ぎてしまいましたね…

とりあえず長いことお待たせしました
これより投下します


学園都市・三沢塾南棟



自動ドアを抜けた先にあったのは、至って普通の予備校の風景であった。
その広く豪華な造りのロビーからは清潔感が溢れ、訪問者に対し好印象を与えている。


上条「これが、『三沢塾』、か……」


現在、玄関ロビーにはこれから帰宅、あるいは講義を受けようという生徒が多数見られる。
友達同士談笑しながら歩く姿を見れば、その様子からはとても魔術師に乗っ取られた状況だとは思えない。


上条「なんつーか、魔術師に乗っ取られたっていう割には通常営業してるんだな。
    ……なんかこっちがスゲー浮いてるみたいだ」


言いながら上条は隣にいるC.C.とステイルにチラリと視線を向けた。
緑の髪と赤い髪の外国人が二人。


……目立つ。とにかく目立つ。


それに加え、二人の風貌はどう見ても進学を望む学生のものとは思えない。


C.C.「……なんだその目は?」

上条「イエ、別ニナンデモアリマセンコトヨ?」


C.C.の威圧的な目を前に、上条は明後日の方向を見て答えた。

二人がそんな緊張感の欠いたやり取りをしていたその時。
横を歩いていたステイルが、不意にその足を止めた。


ステイル「……どうやら無駄口を叩けるのは、ここまでみたいだね」

上条「え?」


脇に立つステイルを見ると、彼は目を細めて、ある一点を見つめている。
その視線の先、そこにはこの場にそぐわない、奇妙なモノがあった。


上条「なんだありゃ……?」


視線の先にあるのは、備え付けられている四基のエレベーター。
その右から一基目と二基目の間の壁に、何か金属の塊が立てかけられていた。


否、よく見るとそれはロボットのようで、元は人の形を成していたのが分かる。

しかし、その四肢はひしゃげ、全身を覆う鎧のような装甲は大きく損傷している。
そして、その内部からは赤黒い液体が流れ出ており、その一帯の床を汚していた。


上条「なんであんなぐしゃぐしゃなロボットが置いてあるんだ?つーか、なんで誰も気にしてないんだよ?
    元からあるオブジェってことはないだろうし……」

ステイル「何を言っている?あれはただの―――」






C.C.「死体、だな」






上条「……は?」


すぐ横に立つ彼女が呟いた言葉の意味を、上条は一瞬理解できなかった。
呟いた本人を見ると、一見して金属の塊にしか見えない、変わり果てた姿をしたその人間を感情の宿らぬ目で見つめている。



ステイル「何を呆けているんだい?ここは戦場だよ?死体の一つや二つ転がっていたって不思議じゃない。
      もっとも、君みたいな一般人には珍しいかもしれないけどね」


タバコを咥えながら、別段何でもない事のように話すステイル。
その後も続けて、その人間の武装や所属する宗教などについて考察しているようであったが、上条の耳にはほとんど入ってこなかった。


C.C.「おい、お前大丈夫か?」


呆然とする上条に対し、C.C.はその顔を覗き込むようにして声を掛ける。
上条はそれにさえ気づかずに、その変わり果てた人の姿をただ見つめていた。

ステイルの言うとおり、ここは戦場だ。
上条も、建物全体の乗っ取り、少女の監禁などという強硬手段を取った相手に対し、説得で全部が解決できるとは思ってはいない。
だから上条自身も、それなりの『戦う覚悟』をしてきたはずだった。



だがしかし――――――。



上条「……ふざっけんな!」


人の『死』を易々と認め、黙ってその横を通りすぎる事など、上条当麻にはできない。


声を上げると同時に、上条はそこに向かって走り出す。
何ができるかはわからない。もう既に手遅れなのかもしれない。

だが、まだ死んでいない、という僅かな可能性に賭ける事はできる。
この学園都市の医療技術ならば、死んでさえいなければ何とかなるかもしれない、と。

ものの数秒程で近づいた上条は、まず全身を覆う西洋の鎧に目を向ける。
近くで改めて見ると、その関節はひしゃげ、装甲は所々へこみ、破損した部分からは赤黒い血が流れている。


上条(こんなんじゃ、脱がし方もわからねぇ……。とりあえずは生きてるかの確認を……)


そう思った上条は、兜に耳を近づける。
すると僅かにだが、空気が漏れる音、呼吸音が聞こえてくる。


上条「!おい!まだ生きてるぞ!もしかすれば助かるかもしれない!」


上条はステイルとC.C.に向けてそう叫ぶが、二人の返答は上条の期待するものではなかった。


ステイル「……上条当麻。残念だけど、そいつはもう助からない。とてもじゃないが助かるような状態じゃない」

C.C.「……同感だな。そいつはもう、死んでいるようなものだ」


感情の起伏を感じない、ただ冷酷な事実のみを告げる二人。
希望云々ではなく、もう助からない、という現実を見つめている答え。


上条「な!?ふ、ふざけんな!まだ息が――――――」



と、その時。


上条に一番近いエレベーターが音を立てて開いた。
中からは何人かの塾生と思われる学生たちがぞろぞろと降りてきて、友人と談笑しながらそこを歩き去ろうとする。



そう、そのすぐ横に倒れている、今まさに死の淵に瀕している者を一瞥することもなく。




瞬間、上条の頭が沸騰した。


上条「て、めぇ……!何やってんだッ!早く救急車を――――――ッ!」


叫びながら、上条は歩き去ろうとする一人の男子生徒の肩を掴む。

だがその瞬間―――。


上条「がっ―――!?」


上条の伸ばした腕に信じられない程の衝撃が走った。

それはまったく予想していなかった、凄まじい衝撃だった。
肩が外れてしまうのではないかと本気で思う程の。


上条「い、一体何が……」


驚きの表情を浮かべたまま、上条は自分が肩に手を置いた男子生徒を見る。
するとその生徒は、まるで何事もなかったかのように友人と笑いながら歩き去っていた。

上条はその光景に一瞬言葉を失った。


上条「……なん、なんだよ、今のは」

ステイル「……ふむ、そういう風に作られた結界なんだろうさ」


いつの間にか上条のすぐ後ろに立っていたステイルが、神妙な顔をして口を開いた。


上条「結界……?」

ステイル「言うなればコインの表と裏さ。何も知らない一般人は表側。外的として侵入した僕らが裏側。
      彼らは僕らに、僕らは彼らに、お互い干渉できないんだろうね。だから、君が触ったという事
      にさえ気づかない」


ステイルは結界の構造を説明しながら、おもむろに傍の壁に近づき、咥えていたタバコをそこに押し付けた。
にもかかわらず、壁には焼けた後どころか汚れも残らない。


ステイル「なるほど。この建物自体は表側みたいだね。要塞としてはいかにも魔術師的だ。
      ……となると、これで僕達は扉の一つも開けれなくなった訳だね」

C.C.「……やれやれ、お先真っ暗とはよく言ったものだな」

上条「……」


結界。魔術的構造。異能の力。

それならば。
上条は自身の右手の拳を握り締める。


上条「俺の『幻想殺し』なら……」

ステイル「無駄だと思うよ。結界を壊すには、その『核』を潰さないとダメだろうし。それにその『核』も、
      おそらくこの建物の外にあるだろうね。魔術師の定石だよ」

上条「でも、それじゃあこの人が……ッ!」

ステイル「そこまで言うなら、試しにやってみればいいさ。十中八九、君のその自慢の拳が砕けるだけだろうけど」

上条「……くそっ!」


上条は拳を振り上げ、地面へと叩きつける。


―――痛い。


だが、ただ痛いだけだ。
結界自体には何の影響も見られない。


上条「……ちっ、くしょう。じゃあどうすりゃいいんだよ……」

ステイル「どうする必要もないさ。さっきも言ったように、彼はもう助からない」

C.C.「ああ。今、奴に必要なのは押し付けがましい同情や憐れみなどではなく、見送りと弔いだろう」


そう言うと、C.C.はステイルへと視線を送る。


ステイルは、わかっている、とでも言うように、何も言わずに騎士の前へと向き直り、床に片膝をついた。
その姿、所作は普段の彼の様子からは想像できないほど、どこか神聖で厳かなものだった。


ステイル「――――――、―――――――」


ステイルが騎士に向けて何かを告げた。

それが外国語だったため、上条に意味はわからない。
しかし、ステイルの言葉が届いたのか、今までピクリとも動かなかった騎士の右手がよろよろと動く。

そして、ステイルに向かってそれを伸ばして―――


「……――――、――――――――……」


彼は、何かを呟いた。

ステイルは一度だけ小さく頷く。
それを見届けたのか、騎士の体から一切の力が抜け、伸ばしていた右手はふっと床へ落ちた。

ステイルもそれを見届け、最後に胸の前で十字を切った。
そこには魔術師ではなく、紛れもない神父としての、ステイル=マグヌスの姿があった。


ステイル「……さぁ、行くよ二人とも。僕らは僕らの、仕事をしよう」


厳然とした声で、『魔術師』、ステイル=マグヌスはそう告げた。



―――――――――

――――――

―――



三沢塾南棟・5階



ステイル「……ふぅ、どうやら、ここが目的の階、みたいだね」

上条「……はぁ、やっと、着いたのか。……そっちは大丈夫か、C.C.?」

C.C.「……ふん、お前が素直に私を背負っていれば、こんなに疲労を感じることはなかったんだがな」

上条「無茶を言わないで下さい……」


あの後、ロビーから隠し部屋があると思われる階へと移動してきた上条達。
『コインの裏』にいる彼らが、『コインの表』の住人と共に密閉されてしまうエレベーターを使える訳もなく、
彼らは仕方なく階段を使って上の階へと上ってきていた。

しかし、このビル自体が『コインの表』に属するため、階段を登る時に自重により発生する抵抗、衝撃は、
作用反作用の法則に従い、全てそのまま自分に跳ね返ってきてしまう。

そのため、三人の疲労の色は普段階段を登るそれよりもずっと濃い。


C.C.「そもそもだ。そもそも私は、私だけはエレベーターを使っても構わないと言ったはずだ。
   それを、どこかの誰かが無理矢理階段を登らせたんだろう」

上条「お前な、ステイルの話聞いてただろ?エレベーターなんか使ったら、最悪俺達は乗ってきた生徒達でぺちゃんこだぞ?」

C.C.「だから、私はそれでも大丈夫だと言ったんだ。お前も知っているだろう?」


C.C.は若干の呆れを含んだ目をして、上条に文句を言った。


しかし一方の上条は、C.C.のその発言を聞いて、ふいと黙り込む。
そして、少しの間を置いた後、上条はどこか物悲しい表情をしながら口を開いた。


上条「……なぁ、C.C.。そういう風に、『自分は傷ついても構わない』って考え、やめないか?」

C.C.「……何?」

上条「……確かにお前は、普通の人より治癒能力が高いのかもしれないけどさ、俺はお前が傷つく所なんて見たくない。
    だから、もっと自分を大切にして欲しい」

C.C.「……」


上条はC.C.の目を真っ直ぐに見つめて話す。
対するC.C.も、上条の目を、その冷たく揺らぎのない目で捕らえて放さない。



そして、両者僅かな沈黙の後―――。



C.C.「……ふっ、口説き文句にしては随分と陳腐なものだな、坊や?」


開かれた口から出たのは、彼女らしいからかいの言葉だった。



上条「お、お前な……」

C.C.「……だが、お前の言いたいことはわかった。そこまで言うなら、―――お前が私を守ってみせろ」

上条「……はい?」

C.C.「私が傷つくのが嫌なのだろう?なら、そうならないようにお前が私を守れ」


彼女の言葉に一瞬言葉を失う上条だったが、すぐに頭を振ってC.C.に再度向き直り―――。


上条「……いやいや、お前、俺の言ったことちゃんと聞いてた?」

C.C.「ああ、もちろんだ」


傲岸不遜な笑みを浮かべながら、C.C.は上条を見やる。
そんな彼女の様子を見て、上条は、はぁーと深い溜め息をついた。


上条「……俺がお前を守るのは別にいいけどさ、とりあえず自分で自分を大切にしてください、切実に」

C.C.「努力はしよう。私だって傷つきたい訳じゃないからな。まぁ、いざとなったら、お前を盾にするよ。せいぜい役立ってくれ」

上条「はは、それはそれで問題あるけどな……」


不敵な笑みを浮かべながら話すC.C.に対し、上条は困ったように苦笑いを浮かべる。

しかし同時にこの時、上条は、『C.C.を守る』という確かな決意を人知れず抱いた。


ステイル「……まったく、イチャつくのは時と場所を考えてやってくれないか?」


二人のやり取りを横目で見ていたステイルは、呆れた様子で声を掛けた。
突入する前にも、油断するな、と念を押したはずなのだが、どうにも彼らは緊張感に欠けているように見える。


C.C.「ああ、すまなかったな。どうやら童貞坊やには、些か刺激が強すぎたようだな」


そして、そんなステイルの忠告にさえ、冷やかすようにして言葉を返すC.C.。
ステイルは、頬をピクつかせながらC.C.を睨むが、彼女は涼しい顔をしたままだ。


上条「えーと……と、とりあえず、その隠し部屋とやらを探そうぜ。このままじゃ捗るものも捗らない」

ステイル「……捗らないのは、主に君達のせいなんだけどね」


そんな緊張感を欠いた様相で、彼らは歩を進めていく。



各々、確かな想いを抱えながら―――。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず今回はここまでです
長いこと更新できなくてホントすみませんでした…

次回の更新は再来週までにはなんとか…

それではまた次回に

生存報告

えーと、どうもお久しぶりです
再来週っていつだっけ?というか、はい…
いや、本当にすみませんでした…

言い訳をさせて頂きますと、レポート課題多すぎワロエナイ…
週4でレポートっておかしいだろ…
しかもどんどん難しくなるって…

とりあえず2月の山を過ぎれば時間できるので、そこで投下します

本当に申し訳ありません…

えー、どうもお久しぶりです…

お待たせしてしまいホント申し訳ありません!
なんとか投下できる状況になったので投下したいと思います!


しばらくして、彼らは学生食堂へと足を進めていた。

道中、隠し部屋があると思われる壁を発見した上条達であったが、そこはあくまでも『壁』。
中に入るためのドアなど見当たらないし、そもそも『コインの裏』にいる彼らは、どうやっても干渉できない。

とりあえずは、隠し部屋の場所を特定し、把握しておこうというのがステイルの考えだ。
結界を敷いたアウレオルスさえ何とかすれば、いずれそこにも行けるようになる、と。

そして今、隠し部屋のおおよその場所、形状を確認するため、そこから最も近い空間のこの学生食堂に赴いている訳である。


ステイル「……とは言っても、正直この中には入りたくないね」

上条「……同感。お前の話がホントなら、俺達にとってこいつらみんな猛牛みたいなものなんだろ?下手すりゃ弾き殺されるくらいの」

ステイル「まぁ、そうならないように慎重に行くとしよう」

C.C.「図体ばかり無駄にデカいお前には中々に酷な場所だな」


C.C.の嫌味に、黙れ魔女、とステイルが短く切り捨てた後、彼らは歩を進める。


学生食堂は塾の生徒達で賑わい、多くの生徒がトレイを持って場を行き来している。
その合間を縫うようにして移動する上条達であったが、それにはかなりの神経を使う。

というのも、学生達には上条達が見えていないのだ。
つまり『避ける』という考えを持たず、その行為も当然しない。
日常的に人ごみを歩く時、他人がいかに自分を認識し、避けてくれているのかがよくわかる。

そうして気を使いながら進んでいくと、やがて隠し部屋のある面の壁を確認できた。


C.C.「……それにしても、随分と気分の悪い所だな、ここは」


C.C.は軽蔑するような眼差しで食堂を見渡しながら呟いた。

C.C.がそう言うのも無理もないと上条は思う。
食堂内を移動している時、学生同士の会話が少しばかり耳に入ってきたが、彼らの会話は不愉快なものが多かった。

やれあいつより成績が上だっただの、やれあの問題を理解できない馬鹿は居る価値がないだの。

彼らは学業競争という名の下、誰かを蹴落としたり、蔑んだりすることで自分の位置を確立しようとする。


上条から言わせれば、そんな会話で笑い合っている彼らの気が知れない。
と、そこで上条ははたと思い当たる。


上条「……なるほど、これが『新興宗教』の姿かよ」

ステイル「毒気に当てられたかい、上条当麻?悪いけど、本来の目的を忘れちゃいないだろうね?」

上条「あ、ああ、わかってる」


そう、本来の目的は『吸血殺し』、姫神秋沙の救出である。
アウレオルス=イザードやその他諸々の障害は、最悪それを阻害する場合のみ潰せば良い。


―――だが、上条は忘れられない。あの一階ロビーで死に絶えた騎士の姿を。


何故、彼はあそこで死ななければならなかったのか。
何故、アウレオルスはあそこまでしなければならなかったのか。

ステイルの言うように、ここは戦場だ。
それを理解はできても、決して納得はできるものではない。


上条(……考えてもしょうがない。とりあえず今は、あの巫女さんを助けなきゃな)


淀んだ思考を覚ますため、上条は目を閉じて一度両手で頬を叩いた。
頬の神経から伝わる痛みをじんわりと感じながら、上条はゆっくりと瞼を開ける。

その時。



C.C.「―――どうやら、向こうも動き始めたようだな」


上条「え?」


唐突に聞こえたC.C.のいやに平坦な呟き。
何事かと思い見ると、彼女はまるで睨むかのように食堂フロアをジッと見つめていた。
それに釣られ上条も食堂に目を向けると―――


そこにいる全ての学生が、自分達を無言で見つめているのに気が付いた。


上条「な、なんだ……?」

ステイル「……第一チェックポイント通過、ってところかな?『コインの表』の彼らが、『コインの裏』の僕らを
      認識したってことは……まぁ、そういうことだろうね」

上条「……つまり、それは簡単に言うと―――」


そこで、上条達の会話を遮るように、ポツポツと声が聞こえ始めた。


 「……熾天の翼は輝く光、輝く光は罪を暴く純白。純白は浄化「の証、証は行動の結」果。結「果は未来、未来」は
 「「時間、時間は一」律。一律は」全て、全てを創「るのは過去。過」去は原因、原「因は一つ。一つは罪、罪」は人。
 人は「「罰を恐れ、恐れる」は罪悪。罪悪とは」己の中に。己の「「「中に忌み嫌うものがある」ならば」、熾天の翼に
 より己の罪を」暴き、内から弾け飛ぶべし―――ッ!」


C.C.「……迎撃態勢に入った、ということだな」


何十人という単位、否、建物にいる全ての人間が紡いだ大合唱のような言葉の渦。
それらがまるで嵐のように巻き起こり、戦場全てを揺るがしていた。


唐突に、上条の近くにいた一人の生徒の眉間から、ピンポン球大の青白い光の球が現れた。

それは狙いも確かではないようで、ふわふわと宙を彷徨った後、上条の横の床へと落ちた。
その光の球が落ちた床からは、強酸性の薬品を零した時にするような、ジュウ、という焼ける音と煙が上がる。

それ一つを見る限りでは、別段大したことはないと思われた。


ステイル「そら、君の出番だ!」

上条「は?………なっ!?」


だが、ステイルの声に促され振り返った先にあったのは、視界を覆い尽くすほどの、何百という数の光の球。

一個一個の質などまったく問題にならないほどの、圧倒的物量。
それが目と鼻の先に迫ってきていた。


上条「う、おまっ!……こ、こんなもん、いちいち相手にしてられっか!」


叫ぶやいなや、上条は食堂の出口へ向けて走り出した。


ステイル「な……、おい!上条当麻!何故逃げる!『竜王の殺息』をも止めた君の右手なら、
      この程度どうとでもできるだろう!」


上条の逃走を想定していなかったのか、ステイルは虚を衝かれた様子で、慌てて自身も出口へと走り出す。
ちなみにC.C.はこの状況を見越していたのか、いつの間にか食堂を出て、廊下で待機している。


上条「逃げるに決まってんだろ!俺の右手一本で裁き切れる量じゃねぇ!」

ステイル「ふざけるな!じゃあ僕は何のために君を連れてきたんだ!」

上条「ふざけてんのはお前の方だろッ!?」

C.C.「お前達はこんな時に何をしている!黙って早く来い!」


お互いを罵倒しながら、上条とステイルはC.C.の待つ出口へと一目散に向かう。
そのまま食堂を抜け出し、合流した三人は元来た通路に向かって駆け出す。

背後からは、食堂を抜けた何十という数の光の球体が、尚も執拗に上条達を追ってきていた。


長い直線通路を走っている最中、ステイルからアウレオルス=イザードが生徒達を使って作り上げた、
『グレゴリオの聖歌隊』という大魔術の説明を受け、上条は戦力の違いを改めて感じていた。
そして、ようやく三人は階段の付近へと到着したが、さらに正面からも大量の青白い球が押し寄せてくるのが見えた。

すなわち、前後からの挟み撃ち。


ステイル「くっ……、階段、行くよ!」

上条「行くったって、上下どっちに!?」

ステイル「二手に分かれる!僕が上で、君達が下!依存はあるか!?」

上条「二手に分かれる!?この状況下で戦力分散させるのかよ!?」


上条の言うように、こちらとあちらの兵力を単純比較すれば、約2000対3。
戦力差は圧倒的だ。
それをさらに削るなど、正気の沙汰とは思えない。


ステイル「僕には『魔女狩りの王』があるし、君にはその自慢の右手があるだろう!僕らの目的はあくまでも『吸血殺し』、
      姫神秋沙の救出だ。こいつら全員を相手にする必要はない!」

C.C.「……それに最悪、あいつ一人を倒せば、それで終わるだろうからな」


小さく呟いたC.C.にステイルは一瞬目を向けたが、何も言うことはなかった。


ステイル「術者か魔術の『核』のどちらかを潰せばこれは消える!どちらかが成功すればそれでいい!さぁ、どうする!?」

上条「くっ……、わかったよ!でも俺は魔術に関しては素人だから、そういうのわかんねぇぞ!?」


階段の上下へと分かれながら、上条は大声で叫ぶ。
階段を駆け上がり、少しずつ遠ざかっていくステイルからの返答はというと―――。


ステイル「ははは!元から期待しちゃいないさ!君はせいぜい、敵を引き付けてくれればいいよ!後は僕がなんとかするさ!」


聞こえてきたのは、少し楽しげな、けれど最低の返答。
上条は一瞬頭が真っ白になったが、すぐに状況を把握して―――。


上条「……は、嵌めやがったなぁあああああああああああああああああああああああッ!」


上条の叫びが、ビル全体に響き渡った。
そして、傍らのC.C.はというと。


C.C.「……良い度胸だ。この借りは必ず返すぞ、ステイル」


ステイルの消えた方向を睨みつけ、確かな復讐を誓っていた。


自分達を捨て駒にしたステイルに色々言いたいことはあれど、とりあえず下の階へと全力で駆ける上条とC.C.。
その背後からは数多くの青白い球体が迫る。


上条「ってかよ!ステイルより俺達の方がなんか追ってきてる球数多くないか!?」

C.C.「お前を追っているんだろう。ステイルの言うとおりなら、お前の存在そのものが発信機なんだからな」

上条「そ、そういうことかーっ!?」


依然、洪水のような勢いで二人を追う大量の光の球体。
それを背に逃げ続ける二人だったが、階段の下から新たな足音が聞こえてきた。


上条「……っ!」


下を見ると、階段の先に一人の少女が立ち塞がっていた。
知り合いでもなく、着用する制服にも見覚えはないが、見たところ上条より一つ二つ上の受験生だろう。
だが、その彼女の口から紡がれるのは、先程食堂にいた生徒達と同じ不気味な呪文。


 「罪を罰するは炎。炎を司るは煉獄。煉獄は罪人を焼くために作られし、神が認める唯一の暴力―――」


言葉を紡ぐたび、彼女の眉間に作られた青白い球体は大きさを増し、獲物に向かって飛び出すのを今か今かと待ち望んでいる。


しかし、対する上条もそれを黙って見ている訳ではない。

元々、自分達は『コインの裏』の人間であり、『コインの表』の生徒達にはこちらを感知することはできなかったはずである。
だが今現在、彼らは上条達を明確に認識し、攻撃を加えようとしている。

それはすなわち―――。


上条(あの人はもう、俺達と同じ『コインの裏』の存在ってことだよなッ!)


何十、何百という数なら手に負えるはずもないが、目の前の彼女一人分だけなら、自分の右手で十分に防げるはず。
攻撃を無力化した後、彼女を押し倒すなり、体当たりでもして脇へどかすなりすればいい。

そうして、上条が右の拳を力強く握り締めたその時。



ばじっ!



破裂音と共に、少女の頬が内側から弾け飛んだ。


上条「なっ……!?」


突然の出来事に目を見開いて、驚きの声を上げる上条。
彼女の頬からは大量の血が流れ出し、その整った顔は血で塗れてしまっている。

しかもそれは顔だけに留まらず、指、鼻、足と体中に広がっているようだ。


上条「い、一体何だ!?何が起こって―――」



C.C.「―――超能力者に、魔術は使えない」



C.C.の呟きを聞いて思わず振り向く上条。
C.C.は振り向いた上条に一瞬目を向けた後、階段の下に佇む血塗れの少女に視線を送る。


C.C.「科学によって開発された超能力者には、魔術は使えない。私も詳しい理由はよくわからないが、
   能力を使うそもそもの『回路』が違うらしい。……それでも、無理矢理に魔術を使おうとすれば―――」


上条はC.C.の説明を聞き、すぐさま下の階へと視線を送る。


 「暴力は……死の、肯定。肯、て―――は、認識。に―――ん、し―――」


そこには、体中至る所から出血をしながらも、途切れ途切れに言葉を紡ぐ少女の姿。



C.C.「……その肉体は崩壊し、やがては死に至ることもあるようだ」


少女が言葉を紡ぐたび、その体は内側から次々と破裂していく。
しかし、少女は止まらない、否、止められない。
それはまるで、壊れて制御を失ってしまった機械のように。


上条「や、やめろ!あんた自分の体がどうなってるかわかってんだろッ!?」


自身の危機も忘れ、上条は思わず叫び、制止を促す。
しかし、対する少女はその言葉にも僅かな反応さえ見せず、ただ言葉を紡ぐ。


上条「おい!もうやめろって!」

C.C.「……無駄だ。あの娘には、自分の意思など存在しないのだろう。
   自分に与えられた『侵入者の迎撃』という役割をただ演じるだけだ」

上条「なら、無理矢理にでも止めてやる……ッ!」

C.C.「止せ!お前、私達の状況を理解しているのか?あの娘は巻き込まれただけかもしれんが、
   今は私達の敵であることに変わりはない」


確かにC.C.の言うように、今現在、彼女は間違いなく上条達の敵である。
現に今、こうして彼女は上条達の前に立ち塞がっている。


……だが、ここで彼女の様子が変わった。


 「……き、は――己の、中に。中、とは―――世界。自己の内面と世界の外面、を、繋げ」


ブチン、という本能的に嫌悪感を抱く音が少女から発せられた。
それを境に、少女は呪文のような何かを紡ぐのをやめ、遂にその口を閉ざす。
そして、限界を迎えたのか、力を失った少女の体がぐらりと階段の段差に向かって今まさに倒れ込もうとする。

上条は考える。

体の力を失った人間の体は重いだろう。
たとえそれが小柄な少女だとしても。
それを支えながら、後ろの球体から逃れることなど不可能だ。

それに所詮、この少女は敵なのだ。
今まさに銃を撃ち合っている戦場で、倒れた敵兵を助け起こす馬鹿がどこにいる。

見捨てて、踏み付けてでも、自分の身のために先を急ぐのがここでは普通なのだ。

そう、それが普通。普通――――。


上条「……う、るっせえっ!」

C.C.「おい!お前、何を!」


自身の危機だから。敵だから。助かりそうもない怪我だから。

上条当麻という人間にとって、それらは少女を見捨てて良い理由にはならなかった。


―――だから、手を伸ばして、少女を胸に抱き止めた。


受け止めた少女の体は予想よりは軽いものだったが、やはりこの危機的状況においては余計な荷物である。
しかも階段の途中であったこともあり、その重さのせいで踏ん張りも利かず、そのまま転げ落ちそうになる。

それでも何とか階段を駆け下りようと、足に力を入れて走り出そうとした結果―――。


上条「……ッ!」


上条の体は少女を抱えたまま前方へと倒れ込んでいった。

元々不安定な体勢であったにもかかわらず、二倍近くになった重力が足を前に出すのを遅らせた。
焦っている中、上半身が先行し下半身の運動が遅れれば、階段で転倒するのは必然だった。

それでも何とか少女を守ろうと、上条は自分が下になるように咄嗟に体の体勢を入れ替える。


そして、そのまま強かに階段下の床へと背中を打ちつけた。


上条「かは……っ!」


一瞬、呼吸ができなかった。
残りの段数が少なかったのもあって、怪我自体はしていない。

だが、この状況で転倒したのは致命的だった。

上条は痛みを我慢し、すぐに階段の方に視線を向ける。
するとそこには―――。


C.C.「……」


C.C.が腕を広げ、上条と少女を守るように立っていた。


上条「な!?C.C.ッ!?」


上条は叫び、手を伸ばす。
だが、転倒直後で、上には少女が覆い被さっているのもあり、その手は届かない。

そうしている間にも、C.C.に向かって無数の青白い球体は迫り、そして遂に―――。


上条「しぃいいつぅううう―――っ!!」










C.C.「……うるさい。近くでそんなに叫ぶな」


そこには火傷も、他の怪我も一切していない、普段通りのC.C.の姿があった。


上条「え?……あ?」

C.C.「何を呆けている。よく前を見てみろ」

上条「……え?これって……」


C.C.の言葉に従って前を見ると、そこには不思議な光景が広がっていた。

先程まで洪水のような勢いで迫っていた無数の青白い球体。
それらが全て、C.C.の目と鼻の先で静止していた。


上条「一体、どうなって……?」

C.C.「おそらく、ステイルが上手い事やったのだろう。あいつはあれでも魔術師としては有能だからな」


その直後、空中に留まっていた全ての球体は床へと落下し始め、そのまま空気に溶けるようにして消えていった。
まるで全てが幻想だったかのように、そこにはもう何も残っていなかった。

と、その時。


 「憮然、理解できぬ行動だな、少年。必然、敵ならば見捨てるのが自然だろうに」


背後から響いた男の声。
振り返った廊下の先には、今回の事件の首謀者、『錬金術師』アウレオルス=イザードが立っていた。



―――――――――

――――――

―――


とりあえず今日はここまでで…

お待たせしてしまってホントすみませんでした…
引越しやら、バイトやら、海外やらで意外と忙しく、ここまでかかってしまいました…
もっと計画的に投下できればいいんですが…

再来週にはまた投下できると思います、はい
いえ、今度こそ、間違いなく

ふう、なんとか間に合いましたね

短いですが、投下します


その頃、ステイルはC.C.の予想通り、『グレゴリオの聖歌隊』の核を破壊し終えていた。
彼がいるのは何の変哲も無い廊下だったが、その壁の向こうに『グレゴリオの聖歌隊』の
核が隠されている事に気付いていた。

何百、何千という数の人間の魔力が『核』には集まっているのだ。
異常なまでに魔力が濃縮されている場所を、魔術師であるステイルが感知できぬはずはない。

さらに、彼が『炎』を使う魔術師であったのも幸いした。

何度も言うが、『コインの裏』の人間は『コインの表』には干渉できない。
この『三沢塾』の建物そのものは『コインの表』にあるものだから、壁の中などに完璧に『核』を
埋め込んでしまえば『コインの裏』からは手の出しようが無い。

しかし、ステイルの使う『炎』に形は無い。
故に、極々僅かな穴や空洞さえあれば、そこから核の破壊に十分な炎を送り込める。

斯くして、ステイルは形すら見ないままに、『グレゴリオの聖歌隊』の核を破壊することに成功したのである。


ステイル「……それにしても、錬金術師も悪趣味になったものだ。こんな形で『血路』を開くなんてね」


超能力者に、魔術は使えない。

もし使えば、使った者の体は確実に崩壊する。
それでも、錬金術師は自分の迎撃手段として彼らを利用していた。


その結末が、今、ステイルの足元で倒れ伏している生徒達である。


僅かに動く者もいれば、すでに動かなくなった者もいる。
さらに、ステイルのいる廊下に面したある部屋からは、よく嗅ぎ慣れた濃密な鉄の臭いが漂ってくる。

そこにはこの廊下の惨状など比にならない程の地獄絵図が広がっていることだろう。


ステイル「……さてと、とりあえずは探索の続きと行こうか」


気分転換のつもりだろうか、誰に言うでもなく、ステイルは独りそう呟いた。
犠牲者へのほんの僅かな同情を背に、ステイルは自分の任務へと戻る。

今現在、ステイルがいるのは上条達のいる階から三つほど上の階。
囮として彼らがどれほど役に立つかは未知数であるが、いずれにせよ専門家であるステイルが仕事を
しなければ話にならない。


記憶したビルの図面を頭に浮かべながら、ステイルは歩を進める。
今現在、辺りに人気は感じないが、周囲への警戒も怠らない。

そして、そのまま進むこと数分。

ステイルは自分のいる南棟から西棟へと繋がる渡り廊下に辿り着いた。
渡り廊下の周囲には一切の人気がなく、洗脳された生徒達の姿も見られない。

とりあえず、ステイルは南棟の探索を終え、別棟に移動しようと渡り廊下を進もうとした。

だが、その時。


―――――カツン。


渡り廊下の向こう側から、足音が響いた。

前方に目を向けると、そこには夕闇色に染まりつつある廊下を静かに歩む、一人の人間の姿。
向こうはステイルの姿を視認していないのか、それともその存在を別段気に留めていないのか、
堂々と、ゆっくりと、しかし着実にステイルに歩み寄ってくる。


互いの顔がはっきりと視認できる位置まで近づいたところで、ようやくその人間は足を止めた。
対するステイルは、目の前に佇む人間の顔を自身の記憶と照らし合わせ、しっかりと確認する。

そして、僅かな沈黙を挟んだ後、重々しく口を開いた。


ステイル「……君が、『吸血殺し』―――――姫神秋沙、だね?」

姫神「そういうあなたは。一体誰?」


今回の最重要人物にして救出対象。
『吸血殺し』、姫神秋沙。
三沢塾、錬金術師の双方に監禁、利用されていると思われた少女。


そして、カインの末裔、伝説の生物――――吸血鬼を[ピーーー]能力を持つ存在。


ステイルの背筋を嫌な汗が伝った。
それは彼女の今の行動、つまり、

                      
彼女が、周囲を警戒する様子もなく、自由に動き回っている。


その事実に、考慮していたある可能性が現実味を帯びたからだった。

それはすなわち、彼女は錬金術師に監禁、利用されているのではなく、進んで協力しているという可能性。



それは、ステイルにとって最悪の事態以外の何物でもない。

何故なら、それは『吸血殺し』という正体不明の異能が、自身に直接牙を剥く事に繋がるからだ。
『吸血鬼』を殺すとされる程の絶大な力など、どう対処すればいいか見当もつかない。

それにもし、『吸血鬼』を殺すために、『吸血鬼』を呼ぶことさえできるのなら。
最悪、『吸血鬼』という伝説の生物が、自身の目の前に現れる可能性だってある。

そんな事を考えるステイルに対し、一方の姫神秋沙は怪訝な顔を浮かべる。
見覚えもない妙な大男からいきなり名前を確認され、その後一言も発することなく沈黙されたら、
それも仕方ないことだが。


姫神「……もう一度聞くけど。あなたは誰?」

ステイル「あ、ああ、………僕はステイル=マグヌス。……君を、助けに来たんだ」


姫神の再度の問いを受け、思考の海に沈んでいたステイルがようやく言葉を返した。
ステイルは相手を下手に刺激しないよう、慎重に言葉を選んでいるようだ。

そしてその返答に対し、今度は姫神はきょとんとした顔を浮かべる。


姫神「助けに来たって。どういうこと?」

ステイル(……やはり、そうなるか)


『吸血殺し』、姫神秋沙は、本当に、本当にその意味がわからないといった風な表情を浮かべ、
ステイルにその真意を尋ねていた。


対するステイルにとっても、少女のその問い掛けはもう既に想定の範囲内であった。


『吸血殺し』が、自分の意思で錬金術師に協力している。


この可能性が濃厚な以上、『吸血殺し』を救出せよ、という自分の任務は根底から破綻する。
自分は進んで協力しているのに、「救出しに来た」、と言われても訳がわからないのも当然だ。


ステイル(……まったく、厄介なことになった。あの統括理事長め、『吸血殺し』のスタンスくらい、
      前もって調査して欲しいものだ)


内心で、あの恐ろしく気に食わない学園都市のトップに対して無茶な悪態を吐きながら、
ステイルは目の前の少女に視線を送る。


ステイル「……僕はこの学園都市の上の人間から、君がここ『三沢塾』に監禁されている、
      という話を聞いたんだけど。それは違うのかい?」


彼女の神経を逆撫でしないよう注意しながら、できるだけ情報を集める。
それが今のステイルにとって最も重要なことであり、優先すべきことだった。


姫神「……確かに。私はここに監禁とまではいかないまでも軟禁はされてた。
    でもそれは前の話。彼が来てからはそんなことはない」

ステイル「……『彼』、とは?」

姫神「私の力を人のために使おうとしてる人。私の力を抑えてくれる人。私の協力者」


その姫神の言葉を聞いたステイルには、もはや聞くべきことなどなかった。


―――協力者。


本人からそう断言されてしまえば、もはや打つ手などない。


ステイル(……なら)


ステイルは姫神に気づかれないよう、服の下を探る。

あくまでも『救出』という任務故に、『殺害』など論外。
下手をして『吸血殺し』を傷つければ、『魔術』と『科学』の戦争に発展しかねない。

故に、ステイルは自身の得意とするルーンで先制、気絶を狙おうとした。


その時。



 「自然、何をそんなに焦っている?ルーンの魔術師」



ステイル「……」


自身の背後、ほんの僅かな距離から唐突に響いた声。
ステイルは驚愕と戦慄のあまり、身動きどころか一瞬呼吸すらできなくなった。


―――有り得ない。


ステイルの思考を埋め尽くすのはこの一言だけだった。

自分は一切、このフロアとここまでの道の警戒を怠ってはいない。
それに、目の前に『吸血殺し』などという未知数の力を持った相手が立っており、
多少彼女に気を取られていたとしても、この距離まで接近に気づかないなど普通ではない。

そして、この距離で背後を取られたという事実。

それが何を意味するのかわからないほど、彼は戦場を経験してない訳ではない。


アウレオルス「当然、何が起こったのか理解できぬという顔だな。尤も、貴様如き魔術師には、
         およそ理解できぬ領域ではあるが」

ステイル「……アウレオルス=イザード。君は、この三年間で一体何をした?」

アウレオルス「答える義理はない。だが、かつて同じ目標と苦痛を持ち、味わった『同志』として、
         せめて苦しまずに終わらせよう」


言い終わると、アウレオルスは懐から大きな鍼を取り出した。
そして、それを自分に向けて突き立てようとした時。



姫神「待って」


正面に立つ姫神秋沙が、ステイルの後ろのアウレオルスを制止した。
アウレオルスも、鍼が首元に刺さる直前で止める。


姫神「その人を殺すことは私達の目的にとって必要ではないはず。たとえあなたが『彼ら』を
    傷つけないとしても。他の誰かを無駄に傷つけるようなら。私はもうあなたに協力できない」

アウレオルス「……それでは君も救われないが?」

姫神「その時は。最後の手段を取るまで」


アウレオルスと姫神の間に、僅かな緊張が走る。

そして、その二人の間に挟まれたステイルは、この状況に混乱する。
『吸血殺し』姫神秋沙と錬金術師アウレオルス=イザードが協力関係にあるのは確定している。

だが、その姫神秋沙が、協力関係を壊すのを覚悟してまで、自分を助ける意味がわからない。


アウレオルス「……必然、この程度の魔術師など問題にならん。それにかつての『同志』ならば、
         一度の温情を与えるのもまた良し」


アウレオルスはそう言うと、鍼を再度自身の首筋にあてがい、今度こそ突き刺した。

そして。



アウレオルス「―――今回の事件の全てを忘れよ、ルーンの魔術師」



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短いですが今日はここまでで

全然進まない…
一体どうしたものか…

次回の更新がいつになるか皆目見当がつきませんが、なるべく早くできるよう頑張ります
では、また次回に

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