沢木口美崎「やっ! 探偵くん!」奉太郎「お久しぶりです」 (50)

奉太郎(今日は休日…いつもは会社にいる時間も、おもいっきりハメを外せる)

奉太郎(はずなのだがそんな気力が全く湧いてこない…いやもともとそんなタチじゃないんだが)

コポコポコポ ズズーッ

奉太郎「ふぅ」


奉太郎(最近の社会人はすぐに会社を辞める、という論調は俺が学生のころからあった)

奉太郎(せっかく苦労して入った会社なのになぜ辞めるのかと疑問だったが今ならなんとなくわかる)

奉太郎(GW明けが新社会人の退職ラッシュらしいが俺もその一人に加わるのかもしれない)

ワハハハー ナンヤネンソレッ ツーカコレカッショ

奉太郎「笑えねぇ…」

奉太郎(笑うためにもエネルギーが必要とは…人間の体はちとひどい仕組みだ)

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奉太郎(だれかに連絡してみるか……)

ピッ ピッ ピッ

奉太郎(適任者が誰もいない…)

奉太郎(真っ先に思い浮かんだ里志は県外で就職した。)

奉太郎(千反田はなんと省庁に就職した。どの省かは言うまでもない)

奉太郎(伊原も県外の会社に就職した。働きながらマンガ家を目指すらしい。)

奉太郎(その夢を聞いた時、気恥ずかしい思いも我慢して、応援してるぞ、と言ってやったら)

奉太郎(あんたは別に応援しなくていいわよ、別に嬉しくないし。と返された。 忌々しいやつだ)

奉太郎(職場の同僚は休日にひっぱりまわすような仲じゃないし…)

奉太郎(外に出てぶらぶらするか…)

ガチャ バタン ガチャリンコ

奉太郎(と…昼飯の買い物も兼ねてスーパーにでもいくか…)

実は俺は県内就職だ。だが神山市じゃない。なんせ市内には就職口がなかったんだから仕方ない。

土曜の朝とだけあって、親子連れや学生がちらほらと見える。談笑しながら歩く彼らを横目に

俺は近所のスーパーへと入った。

目当ては弁当なのだがそこに直行するのは味気ない。

野菜や果物を冷やかしながら店内を歩く。 と後ろから肩を叩かれた。

俺、何か盗んだっけ? 反射的にそう思った。振り向くと

「あっ、やっぱり!」

スーパーのロゴが入ったエプロンをつけた女が驚いている。

奉太郎「えっと……」

「いや~ こんなとこで会うとは! こりゃすごい偶然だ!」

思い出した。そのおかしな髪型と高いテンションはあの人しかいない。

奉太郎「沢木口先輩…ですか?」

沢木口「ピンポーン!」ビシッ

沢木口「探偵の折木くん、だよね? 君もこの町に住んでたんだ?」

奉太郎「ええ、まあ」

沢木口「ふーん」

奉太郎(やべ…さっきからこの人がしゃべってばっかだな)

奉太郎「先輩は、ここで働いてるんですか?」

沢木口「見ての通りだよ。 アルバイトしてるんだ! 本業は大学院1年目」

奉太郎「大学院行ってるんですか?」

沢木口「そうだよー。 高校の時は卒業したら普通に就職すると思ってたんだけどさ、大学進学して結局院までいっちゃった。まさか学問にハマるなんてねー」

奉太郎「すごいっすねー」

奉太郎「じゃあ俺、弁当買いに行くんで」

沢木口「あっちょっとちょっと待ちなって~」ガシッ

奉太郎「はい?」

沢木口「せっかくだし、お昼ご飯一緒に食べよー? あたしお昼前にはあがるから」

奉太郎(まあ…どうせ暇だしな…)

奉太郎「いいですよ」

沢木口「うん! さすがだ探偵くん!」バシバシ

俺はしばらく家で時間をつぶした後、沢木口先輩に指定された店の前で待っていた。

出入りする人間に、いぶかしげな目で見られるのは居心地が悪い。早く来てくれ先輩。

見た目的には、時間にルーズな人に見えるがその予想に反して12時前には現れた。

沢木口「探偵くん、ちゃお!」

奉太郎「さっき会ったじゃないですか」

沢木口「もうノリ悪いなぁ。ちゃお!って言われたらちゃお!って返すの! はいもう一回。ちゃお!」

奉太郎「ち、ちゃお」

沢木口「うん。よろしい」

奉太郎(なにが)

沢木口「とゆーわけで早速レッツゴー」ガチャ イラッシャイマセー

注文を待っている間、近況を報告し合う流れになった。いや、俺は8割方聞き役でほとんどは

先輩がしゃべっていたが。

沢木口「あ! あたしさっき大学院一年目っていったけど間違いね。もしそうだったら君と同級生ってことになっちゃうし」

奉太郎「浪人したかと思ってましたけど」

沢木口「浪人は無理だよ~ うちそういうの厳しいもん」

奉太郎「先輩は」

沢木口「うん?」

奉太郎「何を専攻してるんですか?」

沢木口「そりゃ当然天文学! と言いたいとこだけど…心理学だよ」

奉太郎「はあ…」

沢木口「あっ! いま似合ってないとか思ったでしょ?」

奉太郎「いえそんな…あっじゃあ俺の心も読めるんですか?」

沢木口「…あの探偵の折木くんですら俗説に踊らされちゃってるわねー」チッチッチッ

奉太郎「俗説…ですか?」

沢木口「うん。心理学っていうのは心を読むための学問じゃなくて、人の行動を科学的に観察していく学問なんだよ」

奉太郎「そうなんすか」

沢木口「うんうん。 人の心が読めたらみんなやってるよ」

オマタセシマシター カレーライスデース

沢木口「はいどうもー!」

沢木口「あっ、先食べちゃっていい? 腹ペコなんだ」

奉太郎「どうぞ」

食べ終わった後、俺はもう少し話していたかったが

沢木口先輩はレポートがあるということですぐに店を出た。大学院生はほとんど授業がないかわりに

膨大なレポートを書かなければならないそうだ。

暇だったのも手伝ったのかもしれない。交友関係を広めることに消極的な俺だが

もっと先輩と話がしたいと感じていた。

真っ黒な社会人生活はほとほとうんざりだ。



ピッポッパッ

プルルル

ガチャ

里志「はい?」

奉太郎「里志か」

里志「どーしたんだいホータロー」

奉太郎「いや…まあ暇だからかけてみた」

里志「はははっ! ホータローの暇つぶし相手がぼくに務まるかな」

奉太郎「まあ頑張ってくれや」

里志「どうも」

奉太郎「そっちは…どうなんだ…」

里志「僕かい? いやーなかなか楽しいよ。しゃべるのは好きだし」

奉太郎「しゃべるって…いいのか?社長秘書が雑談ばっかしてて」

里志「ははは…いいんだよ。仕事の話は社長に任せて僕は場の雰囲気を盛り上げれば」

里志「学校の勉強よりはこっちのほうがいいや」

奉太郎「そうか…」

里志「ホータローは?」

奉太郎「普通だ。今のところ大きなミスはしてない。」

里志「変わってないねー ああ見えても要領はいいからねホータローは」

奉太郎「うるせ」

里志「で、なんか言いたいことがあるんだろ?」

奉太郎「ああ…ゴールデンウィーク、会わないか」

里志「えーっと…ちょっと待って」







里志「ごめん。GWは接待が入ってる。僕も秘書だから同行しないと」

奉太郎「そうか」

里志「ごめんっ! 埋め合わせは絶対するよっ!」

奉太郎「倍返しにして返せよ」

奉太郎 カタカタカタカタ

オイオレキー チョットキテクレー コッチテツダエー ツーカコレカラッショ

奉太郎「はい」

奉太郎 テキパキテキパキ

オレキー コレタノムワー ツーカコレカラッショwwww

奉太郎「はい」

奉太郎 テキパキテキパキ 

ツーカコレカッショ

同僚「おれきー 飲みにいかねー?」

奉太郎「悪い。今日は予定が」

同僚「そーなん? じゃまた今度な」

奉太郎「おう」

スタスタスタ

奉太郎(さていくかあそこへ…でもいるかな)

ウィーン

スタスタスタ


沢木口「やあ探偵くん!」

奉太郎「先輩」

沢木口「今から晩御飯?」

奉太郎「ええまあ」

沢木口「そーかそーか。しかし栄養のバランスも考えないといかんぞ」

奉太郎「毎日同じ弁当ですからバランスはいいですよ」

沢木口「そうきたか。確かにバランスがいいっちゃいいけどね」

奉太郎「あ、あの先輩」

沢木口「なにかな?」

奉太郎「もう一度…あのおひるごはんご一緒していいですか」

沢木口「? うんいいけど」

奉太郎「マジですか」

沢木口「マジですよ」

奉太郎「あっ…じゃあ今週の土曜は大丈夫ですか?」

沢木口「ふむしばし待て。脳内スケジュールを調べる」ポクポクポク

沢木口「うん大丈夫だよ。決まりだね」

奉太郎「それでもしもの時のためにメアドを交換するべきだと思うんですが」

沢木口「んっいいよ!」

ミサキチャーン カレシトイチャイチャスル ホカノバショにシテクレルー?

沢木口「わっ! 店長。探偵くんちょっとこっち」グイッ

奉太郎「ここ倉庫じゃないですか。いいんですか俺がはいっても」

沢木口「店長が言ったのは場所変えろってことなの。店長さんやさしいから大丈夫」

ピッ 

ピッ

沢木口「うん。できた。 将来の心理学者のメアドだよ!大事にしな」バンバン

奉太郎「へいへい」

土曜

沢木口「やっ! 探偵くんちゃお!」

奉太郎「…ちゃお」

沢木口「はいごーかーく!」

奉太郎「ちゃおにこだわる必要はなんなんですか」

沢木口「ふふふ、お得意の推理をしてみたら~?」

奉太郎「やらなくてもいい推理はしないんです」

沢木口「ほーかほーか」

沢木口「そういえば君のことをぜんぜん聞いてなかったねー」モグモグ

奉太郎「ああ俺は出版社の事務員やってます」パクパク

沢木口「しゅ、出版社!? あたしが読んでるジャンプとかマガジンとかつくってる?」

奉太郎「いえ、零細出版社ですよ。それに事務員ですから製本にはかかわってません」

沢木口「ふーんでもすごいじゃん」

奉太郎「まあこのご時世に就職できたっていうのは幸運でしたね」

沢木口「院に進んだあたしは高見の見物をしてましたー」

奉太郎「沢木口さんは院出たらどうするかは決めてるんですか?」

沢木口「そうだねー。 教員免許は一応持ってるから採用試験受けよっかなって。でも理想的には大学の先生になりたいな」

またあしたーーーーーーーー

奉太郎(確かに教師は似あう)

沢木口「で、どうする? もう少しダベってく?」

奉太郎「そうしましょう」

沢木口「そうしようか」

奉太郎(そうだ!)

奉太郎「先輩、映画でも見に行きませんか」

沢木口「ふーん、いいじゃん。 何の映画?」

奉太郎「……万人の死角」

沢木口「懐かしいねーあったあった」

奉太郎(俺はあれでトラウマを植えつけられた…だから入須みたいな女は苦手だ…職場にいる上司みたいな)

沢木口「あれ、商業化してもいけたかもしれないねー」

奉太郎「単発ドラマとかならいけるかもですね。2-fの誰かがテレビ業界に入っていればあわよくば」

沢木口「うーん聞いてないなー」

沢木口「で、何の映画にする?」

奉太郎「ちょっとまって下さい」スマホピコピコ



奉太郎「ちょうどミステリー映画がやってますね」

沢木口「ふーんいいじゃん。探偵くんの腕の見せ所だね」

奉太郎「しませんよ推理は。 もうあの頃の俺じゃないんですから」

沢木口「うーん? なんか意味ありげなセリフだねー」

ワイワイガヤガヤ

沢木口「映画館なんて久しぶりだよ~ 探偵くんは?」

奉太郎「中学の時以来です」

沢木口「え~~? かなり久しぶりだねー? 映画好きなんじゃないの?」

奉太郎「えっ? あっ……まあまあ好き…ですよ…」

沢木口「……」

沢木口「ふーん、そうなんだ…」

奉太郎(映画館に入ると先輩の口数が少し減った気がした)

奉太郎(俺は何か失礼なことを言ったのだろうか…まったく覚えがない)




上映終了後

奉太郎「先輩、今日はありがとうございました」

沢木口「ううん、あたしも暇だったし気にしないで」

奉太郎(やっぱ何かが違う)

その夜

テレクーササノーウラガエシー♪

奉太郎(メール? 珍しいな)

ピッ

奉太郎(沢木口先輩からだ)


折木くん!今日はありがとうね
よかったらでいいんだけど今度はあたしんちこない?
お店じゃなくてあたしが料理しておひるごはん食べようよ

奉太郎(これは…良い方向に向かってるぞ…)

同僚「折木さー、最近気合い入ってねー?」

奉太郎「む? そうか?」

同僚「うん、なんか目つきが変わったっていくかさー、彼女でもできたのかー?」コノコノー

奉太郎「まさか」

奉太郎(偶然…だよな? 思考が顔にでるなんて…非科学的だ)

土曜日

プルルルル

沢木口「ちゃお!」

奉太郎「おはようございます」

沢木口「いやーまだ家の場所教えてないよねー。 えっとねー」カクカクジカジカ

奉太郎「はい。わざわざありがとうございます」

ガチャリンコ

沢木口「やっ折木くん!」

奉太郎「どうもです」

沢木口「あがってあがって~」

奉太郎「おじゃまします」


沢木口「いやーこの部屋一人じゃずいぶん広くってさーいろいろと大変だよー」

奉太郎(一人暮らしか…)

沢木口「あっ! ちょっと待ってて!」スタタタッ



沢木口「お待たせ。ジャジャーン!」

奉太郎「白衣…ですか」

沢木口「一応科学者の卵だからねー。こういうのも大事にしなきゃー」

奉太郎「めちゃくちゃ似合ってますよ」

沢木口「えっ…そ、そう?」

奉太郎「はい」







奉太郎(なんだこの空気は…)

沢木口「わ、わたしご飯つくってるね。テレビでも見ててよ」

奉太郎「は、はい」











奉太郎(落ち着かねえ…テレビの内容ぜんぜん入ってこない)

沢木口「はい!できたよ」ドンッ

奉太郎「チャーハンですか」

沢木口「あっ、あのこれからもっと練習してさ、引き出し増やそうかなーって」

奉太郎(これから、か…)

奉太郎(言うのは…今しか…ない…)

奉太郎「沢木口先輩!」

沢木口「え! あ、どうしたの?」

奉太郎「食べるまえに、少しいいですか」

沢木口 コクリ

奉太郎「沢木口先輩のことが好きです!」



先輩は顔を真っ赤にしてうつむいていた。

あのエキセントリックでハイテンションな人がこんな顔をするのは初めて見たし

その、結構、可愛かった。

彼女は頭をかきながら顔をあげると、微笑みながら言った。

ーーーーー


残念ながらテレビの音と、先輩の遠慮がちな声で、はっきりとは聞こえなかったが、その表情と口の動きから、何を言っているのかはわかった。

お わ り

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