美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」2(1000)

・初SSです。

・学園都市のレベル5、トップ3が主役です
その中でもメインは垣根と美琴

・時系列? なにそれ美味しいの?
完全なパラレルワールドだと考えてください

・上条さんはびっくりするくらい空気
登場するけど本筋には一切絡まない

・キャラ崩壊・キャラブレあり

・脳内補完・スルースキルのない方はバック推奨

・独自解釈・捏造設定あり

・ストーリーが無理やり

初めてなので文章の拙さ、設定の矛盾などあると思いますが読んでいただけると嬉しいです。

このスレは以下から続く2スレ目です。

前スレ
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」 - SSまとめ速報
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では投下します










「うっわ……酷でえなこりゃ」

「手加減はしたわよ」

二人は乱闘のあった倉庫のところまで戻ってきていた。
中を覗いてみると、美琴に倒されたスキルアウトがごろごろごろごろとそこら中に倒れている。
まだ目を覚ます様子はなく、完膚なきまでに敗北したようだ。
いくら頭数を揃えても、相手が美琴では仕方なかったと言えるだろう。

「どうすんだこの惨状。また放置か?」

「黒子に来させるわ。その時にデータも渡せばいいでしょ」

「パシリかよ。お前いつも白井パシッってんのか?」

「んな事してないわよっ!!」

美琴が白井に連絡し、ここの倉庫の場所を伝え来るように言うと、垣根にも聞こえるような白井の大声が返って来た。

『お姉様!! そのような往来のないところに黒子を呼び出すなどと遂に黒子の想いが届いたんですのね!?
今行きますわすぐ行きますわ全速力で行きますわお姉様そして黒子とめくるめく二人の愛の世界へと!!
二人の初めてが野外というのもあれですがだがそれもまた一興!! 黒子はどんなプr』

そこで美琴が耐え切れなくなったのか、通話を強引に切断する。
一方垣根は完全にドン引きしていた。
過去にも白井の変態っぷりは幾度か目撃していたが、ここまでとは思っていなかった。
一体何がどうなったら中学一年生でここまで高度な変態になれるのだろう。
もしかしたら空間移動という能力は発現するべくして発現したのかもしれない。
発現する能力は個々人の性格に依存する、という話は案外本当かもしれない。
変態に空間移動は相性抜群だ。美琴の話によると、シャワーを浴びてるところに突撃されることも稀ではないらしい。

「うわあ……うっわあ……」

もはや言葉を失っている垣根。
そんな垣根を見て美琴は苦笑する。

「よくあんなのと一緒にいられるなオマエ……貞操の危機を感じたことも一度や二度じゃねえだろ、あの分だと」

「うん、それはたしかにそうだけど。
あの子、何だかんだでやっぱり一線は越えてこないのよ。
お風呂に突撃してきたり下着がなくなったり朝起きたらベッドに侵入されてたり私がつけてる下着の柄を毎日把握されてたりはするけど」

「大問題じゃねえか!! やっぱり重度の変態だろアイツ!!」

もしかしたら美琴は感覚が麻痺してきているのではないだろうか。
慣れとはおそろしいものである。
変態の恐ろしさに、我が事のように身を震わせる垣根だった。

お嬢様学校マジ怖い。

「っつうかレズって時点で普通じゃねえよな……。
やっぱ女子校には多いのか?」

「そんなことないと思うわよ?
少なくとも私は黒子しか知らないわ」

「そんなに異端なのかあのパンダ……」

二人が話していると、突如としてすぐ側に現れた人影があった。
白井黒子の参上である。空間移動の連続使用により猛スピードでやって来たのだろう。
あまりにも早すぎる到着である。

「おっねえさまー!! さあ黒子と今こそ楽園(エデン)へ!!」

「出やがったな妖怪変態テレポパンダ!! 死に腐れやあぁぁぁあぁぁあ!!」

「何ですのその妖kぶへえぇぇえええぇぇぇえ!!!!」

垣根がその右腕で満身の力を込めて白井を容赦なく殴り飛ばす。
見事に吹き飛んでいく白井。
自らを悪党と称する垣根だが、この時ばかりは悪者を退治したヒーローの気分だったという。

「何やってんのよアンタ!?」

「ああ御坂。これでお前の平和な日々が帰ってくるぞ」

「……甘いわ。スイッチの入った黒子はあれくらいじゃ倒れないわよ。ほら」

美琴が白井が飛ばされた方向を指差す。
そこには五体満足で立っている白井の姿があった。

「ば、馬鹿な!? そんなにすぐ立てる訳が……」

「わたくしの、お姉様への愛を甘く見たことが貴方の敗因ですわ。垣根帝督」

「……面白え。常識が通用しねえのはお前も同じって訳かい」

「かぁぁぁぁきぃぃぃねぇぇぇさぁぁぁぁぁん!!」

「パァァァンダァァァァァァァ!!」

二人は地面を蹴り、駆け出す。
その動きはもはや音をも超え、あたりに衝撃波を生み出す。
二人の体が交差する。おそらく、勝負は一瞬。






「え? 何これ?」





「全く……落ち着いた?」

「クソッ、俺としたことが熱くなりすぎてたか……」

「限度ってもんがあるでしょ。で、黒子にはこのスキルアウトたちを回収して欲しいんだけど」

「あら、言われてみると大勢倒れてますわね。何事ですの?」

「今気付いたのかよ。遅せえよ。何人倒れてると思ってんだ……」

「まさかこれ、お姉様が犯人ですの?」

白井がジロリと呆れたような目を美琴に向ける。
美琴がこうしてチンピラたちを倒してしまうのはままあることだ。
その度に白井は風紀委員に任せるように、と口を酸っぱくして言っているのだが。
美琴はう、と少したじろいだがすぐに言い返す。

「何よ、ケンカを売ってきたのはこいつらよ?
何か俺たち三〇〇人と決闘しようぜ、とか言ってさ」

「買ったのはお前だけどな」

「アンタどっちの味方よ!?
そもそも私だけじゃなくてアンタもノリノリだったじゃない!!」

「記憶にねえな。ちなみに俺はどちらの味方でもない、第三勢力だ。
どちらにも与することなく、ただ観察するだけの第三者。
そんな立場に、俺はなりてえなあ」

空、というか天井を見上げしみじみとする垣根。
その顔は憑き物が落ちたように爽やかで―――

「いや、何言ってんのアンタ」

けれど、あっさりと切り捨てられた。
本気で何を言っているのか分からない。
そんな二人を見て白井ははぁ、と大きくため息をついた。

「大体分かりましたわ。些かやりすぎではありますが、正当防衛ということでいいですわね。そうしますわ。
ていうかこんなに大勢わたくし一人で運べる訳ないですの。本部から応援を……」

「あ、待って黒子。これ渡しとくわ」

そう言って美琴が取り出したのは駒場の携帯。
彼との約束は果たさなければならない。
白井は変態だが、風紀委員としては優秀で、また風紀委員であることに誇りを持っている。
仕事はしっかりとこなしてくれるだろう。
こと風紀委員に関しては、美琴は白井を信頼していた。

「なんですの? 携帯?」

「ほら、最近無能力者狩りが増えてるって頭悩ませてたじゃない?
その携帯に犯人たちのリストが入ってるらしいわ。
とある有志からの情報提供、ね」

「この中に? ……分かりましたわ。
とりあえず預かっておきますの」

「んじゃ、俺たちは帰るか。後は任せたぜ風紀委員さん」

そう言って垣根と美琴は倉庫を後にした。
白井が何かギャーギャー騒いでいたが、やはり風紀委員の仕事を投げ出すことは出来ないようだ。
普段から仕事モードでいてくれれば、美琴の彼女に対する対応もだいぶ変わるのだろうが。

「そういやカズとかいう野郎とは会わなかったな。
所詮はモブキャラか」

「いや、いたわよ? 私の最初の一撃でのされてたけど」

「やっぱモブだな。時間は……もう完全下校時刻だな」

「んじゃ、帰りますか。送っていってくれる?」

「必要なのか?」

「いや、別に」

「俺も面倒だから却下。じゃあな」

「ん、また今度ね」










翌日、午前一一時ごろ、御坂美琴は風紀委員第一七七支部を目指していた。
理由は特にない。単に手持ち無沙汰だったというだけだ。
今日は文句なしの快晴で、気温的には肌寒いが燦々と降り注ぐ日光のおかげであまり寒さを感じない。

美琴も冬服を着ているだけで、行き交う人たちを見ても皆比較的薄着だ。
第一七七支部まであと少しといったところで、美琴は見知った顔を見つけた。
とあるファミレスの窓際の席で食事をしている垣根帝督である。

つい先日一緒に遊んだばかりだが、特に声をかけない理由もない。
すっかり垣根と顔を合わせるのが日常になっていることに気付き、美琴はふと顔をほころばせる。
悪い気はまるでしなかった。

垣根にメールを送ると、彼はそれを確認するとすぐに顔を上げた。
窓越しに笑っている美琴と目が合う。
今から一七七支部へ向かうため、ファミレスに入って食事を一緒に、という訳にはいかないので電話する美琴。

「もしもし?」

『なんだよ? 俺の食事を邪魔するたあ相応の報いを覚悟しな』

「そんなに怒らなくてもいいでしょ……。
今から風紀委員の支部に遊びに行くんだけどさ、よかったら来ない?
友達もいるし、黒子もいるわよ」

『なんで俺がそんな場所に行かなきゃならねえんだ、ふざけんな……。
と言いてえところだが。パンダがいるのか……。ツラくらい拝んでやるかな』

どうやら白井はすっかり垣根のいじる対象となってしまっているようだ。
哀れ白井黒子。

垣根は食事をしていたが、既に完食しかけていたのですぐに食べ終えた。
さっさと会計を済ませ、店外の美琴と合流する。

ところで垣根帝督は非常に整った顔立ちをしている。加えて高身長であり、まさしくイケメンだ。
そして御坂美琴もまたかなり整った顔立ちで、女子中学生ということを考慮すれば身長も高い。
誰が見ても可愛いといえる顔に加え、常盤台という超名門お嬢様学校の制服を着ている。
そんな二人が並んでいれば、周りの注目を引くのも当然だった。

お似合いの、美男美女カップル。そのように周囲の目には映っていた。
そんな視線に二人はとっくに気付いていて、そそくさと逃げるように第一七七部へと向かうのだった。










「ちわーっす。お邪魔しまーす」

軽い挨拶をして支部の扉を開ける美琴。
中には既に四人の人がいた。
パソコンで何かをしている初春飾利。
ソファに座って紅茶をすすっている白井黒子。
その隣で何らかの雑誌を、白井と言葉を交わしながら呼んでいる佐天涙子。
何かのデスクワークをこなしている固法美偉。

彼女は一番の年長者であり第一七七支部のトップを務めている。
能力値もそれなりに高く、透視能力(クレアボイアンス)の強能力者だ。
どうやら今はあまり忙しくはないらしく、オフィスの一室のようなここは溜り場のようになっていた。

「あ、御坂さん! どうしたんですか?」

作業を一時中断し、回転式の椅子をくるりと回し初春が聞いたが美琴ではなく佐天が胸を張って答えた。

「何を言う初春くん。ここに集まるのに理由はいらないのだよ?」

えっへん、と言った様子で答える佐天に固法がはぁ、と大きなため息をつく。
どうでもいいことだが、固法はその胸もまたかなり大きい。

「ここは遊び場ではないのだけど……。
本当なら佐天さんだって駄目なのよ?」

「本当なら、というあたり若干諦めてますわね固法先輩」

「お、元気そうじゃねえかパンダメント」

優雅に紅茶を飲む白井に、美琴の背後から現れた垣根が声をかける。
不意をつかれた白井は思わずブファ、と盛大に紅茶を噴出してしまった。
初春が「何嘔吐してるんですか白井さーん」とか言っているが、それを無視して白井は垣根の方に顔を向ける。
垣根は白井の紅茶を噴出す様を見てケタケタ笑っていた。

「おお、ついに芸も覚えたかレッサーパンダ。
そうだよなあ、パンダとして観客を退屈させちゃいけねえよな?」

突然の見知らぬ来訪者に硬直している佐天と固法。
初春も一応驚いてはいるようだ。

「な・ぜ・に、貴方がここにいるんですの!?
ここは神聖な風紀委員の支部ですの! 貴方のような方の来るところでは……」

「私も風紀委員じゃないけどね」

美琴が一言言うと、白井はう、と言葉に詰まってしまった。
助けを求めるかのように固法に声をかける。

「固法先輩! 先輩からもこの不逞の輩に何か言ってやってくださいまし!」

「……もう、別にいいんじゃないかしら? 何でも」

「諦めの境地に達してますの……」

固法は乾いた笑みを浮かべている。
風紀委員の責任者として問題発言だったような気もするが、彼女がそう言うのならそれでいいのだろう。
というか、止めてもこの支部へやってくる人間はやめてくれないのである。
ここでようやく硬直のとけた佐天が身を乗り出してきた。
その目は輝いており、好奇心いっぱいの笑顔を浮かべている。
これは何か面白いものを見つけた時の顔だ。

「御坂さん! その超イケメンさんはもしかして……!?」

「まさか……ぬっふぇ!?」

初春も一緒になって食いついてきた。
女子中学生、その中でも特にこの二人はこういった話題に敏感だ。
美琴は二人の言っている意味が一瞬分からずポカンとしていたが、すぐに気付き両手をパタパタ振って否定した。

「ち、違うわよ。こいつは友達。名前は」

そこまで言ったところで、垣根が割り込んで美琴の言葉を遮った。

「自己紹介くらいは自分でさせろよ。
初めましてだな。俺は垣根帝督だ。御坂の知り合いみてえだな」

そう言って前髪をかきあげる垣根。
この動作は狙ったものではなく本当に前髪が鬱陶しかっただけなのだが、彼のルックスの良さと合わさり非常に決まっていた。
佐天もその姿に思わず一瞬動きが止まったが、すぐに答えた。

「初めまして、垣根さん! 私は佐天涙子っていいます!」

「あ、私は初春飾利です。よろしくお願いしますね」

「何? 自己紹介の流れなの? ……こほん、私は固法美偉です。
ここの支部のトップを務めさせてもらっています」

「……わたくしは……」

「風太だ」

「そう言われると思っ……風太!? 誰が風太ですの!? わたくしはレッサーパンダじゃありませんの!
そもそもパンダじゃありませんの! 普通に直立二足歩行出来ますのよ!?」

「へえ、そりゃ今世紀最大の驚きだな」

「ぬがああああああああああ!! イライラしますのおおおおおお!!」

頭を抱えムキーッ!! と暴れる白井を無視して、初春と佐天がすぐに再び追及を始めた。
余計に好奇心をくすぐられたらしい。

「垣根さんは御坂さんのお知り合いなんですか?」

「まあな」

「でもホントイケメンさんですよねー。
アレですか? やっぱり付き合ってたり? それとももっと深いところまでいってキャー!!」

テンションをあげて黄色い声を出す佐天を指指して垣根は美琴に聞いた。

「……こいつっていつもこんななのか?」

「いやまぁ、そういう時も多い、かなぁ? あははは……」

乾いた笑みを浮かべる美琴。
佐天は一度エンジンがかかると中々止まれないのだ。
好奇心旺盛な年頃なのである。

「一つだけハッキリさせとくが、俺と御坂は付き合ってなんかいねえからな。何の冗談だよ」

「えー、つまんないですねぇ」

「お前らを楽しませる必要がねえからな」

そう言って垣根は強引に会話を打ち切り、辺りを見回す。
美琴に、白井に、佐天、初春、そして固法。
見事なまでに女ばかりだ。

それも揃いも揃って可愛い者ばかり。
これが一般的な男子だったら夢のような状況なのだろうが、あいにく垣根には違ったようだ。

「よく見たら俺ハーレムじゃねえか。別に嬉しくも何ともねえがな」

「……ハッ!? 初春、佐天さん! その狼から離れなさいな、食べられてしまいますわよ!?」

「黙ってろババァ。別にお前らガキ共に興味はねえよ。
そこの姉ちゃんくらいなってから出直してきな。……固法っつったか」

「え? わ、私?」

急に名前を呼ばれ、慌てる固法。
よく見ると彼女は少し緊張しているようだった。
もしかしたら垣根に多少なりとも興味を覚えているのかもしれない。
彼のルックスを考えれば、女性なら程度の差はあれ興味を感じるのは仕方ないようにも思える。

「アンタ、見たところ俺とタメくらいだろ。
あいつみてえな同世代ならともかく、お前らに興味はねえ」

大事なことなので二回言った垣根に食いついたのは美琴だった。

「な、何よ。じゃあアンタは私も子供だって言うわけ?」

「いや、だってお前セブンスミストと携帯ショップで……なあ?」

「何よぅ……ゲコ太可愛いじゃない……。
ふんだ、いいんだもん、分かってくれなくても」

趣味を誰とも共有出来ず、一人拗ねる美琴。
彼女は未だに同志を見つけられずにいた。

御坂妹が若干近いが、彼女はあくまで理解があるだけであって美琴ほどにゲコ太にはまってはいない。
白井は今さら言うまでもないだろう。
だが可愛らしくぷくーっと頬を膨らませて拗ねる美琴を見て、白井のスイッチが切り替わる。
風紀委員の白井黒子はログアウトし、変態空間移動系能力者がログインする。

「おっねえさまああぁぁぁぁぁん!!」

みっともなく鼻血をダラダラと流しながら美琴に飛び掛る。
淑女を自称する白井にはあるまじき姿だ。
これを見て一体誰が彼女を常盤台のお嬢様だと思うだろう。
両手を広げ飛び掛ってくる白井に対し、美琴は努めて冷静に対処する。
白井の腕を掴み、そのまま一気に一本背負いを繰り出す。
背中から強かに床に叩きつけられ、ピクピクしながらそれでも尚白井は変態的な笑みを浮かべていた。

「超能力者舐めんな」

床に倒れている白井をビシッと指差す美琴。
能力を使わなくても自身の貞操を守る術はとっくに習得していた。
シャワーを浴びている時などに突入された場合、水場なので電撃は使えない。
となると徒手格闘で対処する必要に迫られるからだ。

「本当に歪みねえなこいつ……」

垣根は一歩二歩白井から距離をとっていた。
その顔は珍しく引き攣っている。
暗部に所属している以上、様々な人間を見てきた彼だが、こういうタイプとは完全に初めましてのようだ。

「いつもの発作ですよ。白井さんの持病です」

初春が顔色一つ変えずに言い放つと、倒れていた白井がむくりと起き上がった。
その顔は凶悪に歪んでいる。
子供が見たら泣き出すこと間違いなしだろう。

「うぅ~い~は~る~?」

「きゃ、きゃああ! やめてください助けてください御坂さん!」

白井が両の拳で初春の頭をグリグリする。
対初春用の、白井の得意技だ。
初春に助けを求められた美琴は白井の襟首を掴んで初春から引き剥がす。

「はいはい。大人しくしてなさい。
ねえ黒子、そういえば無能力者狩りの件はどうなったの?」

ふとそのことを思い出した。
駒場と約束した以上、どうしても結果は気になる。
何となく垣根に目をやると、佐天に問い詰められていた。
どうやら佐天は未だに美琴と垣根が付き合っていると思っているらしく、垣根は彼女を捌くのに忙しいようだ。
そんな中で、一瞬垣根と目が合ったが、彼はどうでもよさそうにすぐに目を逸らしてしまった。
彼は無能力者狩りについてはさほど興味がないようだ。

「昨日のうちにあのデータを各支部へ送り、風紀委員の大半を動員して捕らえましたの。
まあ数が多かったので一部取り逃がしはあるようですが、それらも他支部が協力してくれているので捕まるのも時間の問題だと思いますの」

「風紀委員も無能力者狩りについては頭悩ませてましたからねー。
みんな凄く協力的なんですよ」

白井から解放された初春が頭をさすりながら付け足す。
初春の頭にある花飾りはとれていないようだ。
一体あの花飾りは何なのか、これまで何人かの人間がその正体に迫ったが、未だ解き明かされていない。
佐天涙子も一度聞き出そうとしたことがあったが、初春の「好奇心猫を殺す」という脅迫染みた言葉に身の危険を感じたという。
結局その正体は不明ではあるが、ある一説によるとあの花飾りが彼女の本体らしい。

「実は、今もここと繋がりの深い支部の風紀委員が進行形で取り逃がした能力者の確保に当たっているの。
もう残党は多くないし、うまくいけば今日中に掃除し終わるわ」

そう説明したのは固法。
どうやら無事事はうまくいっているようだ。
駒場との約束は守れたらしい。
何だか他力本願な気がして何とも言えない気持ちになった美琴だったが、自分にこれは風紀委員の仕事だからと言い聞かせる。
風紀委員とは非行に走った能力者を鎮圧するための能力者による組織。
そしてそれは無能力者や下位能力者にとっての頼みの綱でもある。
駒場たちスキルアウトも、風紀委員に頼ればよかったのだ。

スキルアウトとはいえ、何か仕出かしていなければ風紀委員に捕まることはない。
仮に後ろ暗いことをしていても、能力者に襲われていると言えば風紀委員たちはきっと動いてくれただろう。
もっとも、この場合その後再び風紀委員のお世話になるだろうが。

力が弱いのは仕方ない。それは罪などでは決してない。
弱いなら弱いなりに、やり方はあったはずなのだ。
だが、そこで彼らは暴力に暴力で対処するという選択肢を選んでしまった。

(……その気持ちは分からなくない。けど……)

何だか釈然としない。
小難しい顔をする美琴とは対照的に、佐天が明るい声で、

「でも、これで安心できますよね。ほら、私ってば無能力者だし何となく不安なところはあったんですよ」

「私は気をつけるようにって何度も言ったじゃないですか。
なのに佐天さんときたらいつもと変わらずフラフラして……。心配だったんですよ?」

「まあ、そんなことがあったらすぐに連絡してちょうだい。
私が光速で行って電撃で痙攣させて動けなくして……」

「わたくしが鉄釘を空間移動させて磔にして……」

「最後に私がゴキッ、としちゃうから♪」

美琴、白井、固法の恐ろしい言葉。
彼女たちなら本当にやってしまいそうなのがまた一段と恐ろしい。
いつか現れるかもしれない佐天に手を出すスキルアウトに、今から冥福を祈る。
きっと世にも恐ろしい体験をすることになるだろうから。

「つかよ、意外と風紀委員って大したことねえのな。
あんな雑魚一掃するのにこんな時間かかるかよ」

不意に垣根の漏らした言葉をしっかりと聞いていた白井が即座に反論した。
彼女は紛れもなく変態だが、風紀委員としての誇りも持っている。
そんな彼女にとって、風紀委員を侮るような発言は許しがたいものだ。

「聞き捨てなりませんわね垣根さん。
風紀委員が……なんですって?」

微妙に声の感じが変わっていた。
だが垣根はそれでも発言を撤回しようとはせず、挑発ともとれる言葉を続ける。

「風紀委員も大したことねえなって言ったんだよこのオセロ。
パンダにゃ聞き取れなかったか? 風太じゃ立つことは出来てもそこが限界か」


「オセロだのパンダだの風太だの……!
もはや誰のことを言っているのか分かりませんわよ!?
と・に・か・く! 貴方なんかに風紀委員の何たるかが分かってたまるものですか!
貴方に風紀委員など務まるはずがないのですから」

「……吹きやがったな?
風紀委員ごとき、この俺にこなせねえとでも思ってんのか」

「ええ、ええ思っておりますとも。
だってそれが事実なんですから」

「……テメェ」

無言で睨み合う両雄。
バチバチと視線で火花を散らしながら、どちらも退くことはない。
もはやこういった光景に慣れてしまった美琴ははぁ、とため息をつく。

そう。この二人、とことん相性が悪い。気が合わない。
とはいえ、垣根から吹っかけることが大半だが、白井も白井ですぐに乗ってしまうのだ。
白井からちょっかいを出すことも少なくはない。
喧嘩するほど何とやらがこの二人にも多かれ少なかれ当てはまっている気はするのだが。

一方、これを初めて見る佐天と初春はどこかハラハラしているようだった。
それもそうだろう、なにせ二人は今にも戦いを始めかねないオーラを出しているのだから。

残った固法はといえばどこかから連絡が来たようで、その応答でこっちのことなど全く気にしていなかった。
相変わらずガンを飛ばしている二人だったが、その雰囲気を連絡を終えた固法が一変させる。

「面倒なことになったわ」

大きく息を吐く固法に初春が反応する。

「どうしたんですか?」




「さっき言った、スキルアウトの残党を捕まえに行った風紀委員。
……返り討ちにされちゃったらしいわ」

投下終了
新スレ最初の投下ということで、少し多めに

    次回予告





「ジャーッッッジメントだあああああああああああ!!
さっさと縛につけクソボケがああああ!!
それともあの世への片道切符をプレゼントされてえかコラァッ!!」
『スクール』のリーダー・自称風紀委員(ジャッジメント)・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「…………駄目だこりゃ」」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴

すみませんが>>46訂正

残った固法はといえばどこかから連絡が来たようで、その応答でこっちのことなど全く気にしていなかった。
相変わらずガンを飛ばしている二人だったが、その雰囲気を連絡を終えた固法が一変させる。

「面倒なことになったわ」

大きく息を吐く固法に初春が反応する。

「どうしたんですか?」




「さっき言った、無能力者狩りを行ってる能力者の残党を捕まえに行った風紀委員。
……返り討ちにされちゃったらしいわ」

さて、二日連続で投下しますぜ

「か、返り討ちですの!?」

「中々危険な相手のようですね……」

風紀委員が返り討ちにあうということはたしかに起こり得る。
風紀委員は決して無敵などではないし、垣根帝督や御坂美琴のような超能力者でもない。
ただ、今回討伐に駆り出されていた風紀委員は強能力者だった。
強能力者といえば常盤台への入学が許されるレベルで、一般にエリート扱いされる。
加えて風紀委員に所属しているので当然訓練も受けている。
ちょっとやそっとでどうこうされるはずのない人物だった。
しかも大能力者になる日も近いと言われるほどで、その戦闘能力は文句なしだった。

そんな人間がやられたとなれば、必然的に相手の実力の高さも分かる。
並の人間ではまた返り討ちにされてしまうだろう。

「ど、どうしましょう固法先輩。このまま放置するわけには……」

「……他の支部にデータを送って、対処してもらうことは出来るわ」

固法は何か考えながらそう呟いた。
くるくると片手でペンを回し、物思いに耽っている。
そう。対処してもらうことは出来る。
だがそれにはどうしても時間がかかる。
対応できる支部を探して、事情を話して、請け負ってもらって、それから、だ。

「ただ、どうしても二、三日はかかるわね。
その間にまた被害が出る可能性はもちろんある。
一度風紀委員とかち合っている以上、向こうもしばらくは大人しくすると思うけど……」

もし、そうならなかったら。
この相手はスキルアウトと違い力があるだけに、被害も大きくなるかもしれない。
一刻も早く捕まえておきたいところではある。

「わたくしが行きますわ」

やはりというべきか、白井が名乗りをあげる。
たしかに白井なら実力に関しては何の問題もないだろう。
空間移動の大能力者は、学園都市全域に二〇人もいない。
だが、今回は白井は動けない。何故なら、

「駄目よ。私もあなたも、やらなければならない別の仕事がある。
こっちのことはどうでもいいなんて言わないけど、この仕事はどうしても外せないもの。
……やっぱり、他の支部に頼みましょう。それが一番だわ」

固法はこの支部のトップだ。
最終的には白井も初春も、固法の下した決断に従うほかない。
二人、特に白井は苦々しげな表情を浮かべてはいたが、結局何も言わなかった。
だがこの会話を聞いていた御坂美琴は思う。
いるじゃないか、ここに。
その能力者を十分に鎮圧出来て有り余る戦力を持った人間が。

「ねえ、なら私が……」

やろうか。美琴はそう続けようとした。
御坂美琴は学園都市の第三位。その実力は折り紙つきだ。
たしかに美琴は風紀委員ではないが、手が足りないこの状況なら自分が動いてもいいのではないか。
そう考えてのことだったが、美琴が言い終わる前に予想外の人物に割り込まれた。

「なら、俺に任せろコラ」

垣根帝督だった。
垣根はこういったことは面倒くさいと一蹴するタイプなので、これには美琴も驚いた。
そういえば垣根は過去、白井からの風紀委員加入のスカウトを蹴ったことがなかったか。
なのに一体どういう風の吹き回しか、と思ったがおそらく先ほどの白井との言い争いが理由だろう。

垣根に風紀委員は務まらない、という発言を受けてのことだろうと美琴は思ったが、

「俺がそいつらを片付けてやる。風紀委員の出番はないぜ」

どうやらその通りだったらしい。
それに白井も即座に反論する。

「何を言ってますの。風紀委員は遊びじゃないんですのよ」

「じゃあ聞くが、このままその危険な能力者を何日も放置しとくつもりか?
一刻も早く捕まえるべきじゃねえのかよ?」

「そ、それはたしかにそうですが……」

言葉に詰まる白井。
だがそんな彼女に固法が助け舟を出す。

「垣根さんの言っていることは正しいわ。
でも、それでも一般人を巻き込むことは出来ないのよ。
これは風紀委員の仕事だもの」

「なら私がついていきますよ」

そう言ったのは美琴だが、それを聞いた白井はため息をついた。

「……お姉様? お姉様も一般人ですのよ」

全くである。
一般人の付き添いに一般人とは何事か。
何の解決にもなっていない。

だがここで、何故か固法があっさりと意見を一八〇度変えた。

「……なら構わないかしら」

「え!? こ、固法先輩? あの、それは一体どういう……」

「御坂さんがついていってくれるならまだ良いかなってこと。
そりゃ本来は駄目よ?
でもね、ほら。もう垣根さん行っちゃったし」

「はぁ!?」

首が痛くならないのだろうか、と思える速度で振り返る白井。
見てみれば、いつの間にか垣根の姿が消えていた。

一体どこに行ったのか、そんなことは分かりきっていた。
美琴も垣根がいなくなったのには気付かなかったようだ。

「アイツ、いつの間に……」

「さっき出て行ってましたよ?」

平然と、何でもないことのように答える佐天。
どうやら佐天は垣根が消える瞬間を目撃していたらしい。

「佐天さん!? なんで止めてくれなかったんですの!?」

「え? いや、別にいいのかなーなんて。あははははー」

「笑ってる場合じゃありませんのよ!?
……いえ、よく考えてみれば垣根さんは場所を知らないはずですのね」

白井が安堵の息をつく。
とりあえず安心、といったところだろうか。
だがそんな白井の考えは同僚であるはずの初春飾利にぶち壊される。

「す、すみません。……場所、教えちゃいました」

テヘ、と笑う初春。
それを聞いた白井は修羅のような表情へ一変し、荒く息巻いて初春に迫った。

「うーいーはーる? おかしいですわねぇ、わたくしはアナタは風紀委員だと思っていたのですけど……」

「やだなぁ白井さん。何言ってるんですか」

「だったら軽々しく情報漏らしてんじゃねぇですのぉ!」

初春に掴みかかる白井。
たしかにあっさり場所を教えてしまうのも風紀委員としていかがなものか。
白井が怒るのも無理はない。
ともあれ、垣根が既に消えてしまった以上美琴について行ってもらおうというのが固法の決定だった。

「……てわけで御坂さん、引き受けてくれないかしら?
多分垣根さんも能力者なんだろうけど、やっぱり一人じゃ心配だし。
その点、超能力者の御坂さんがいてくれれば私も安心できるわ」

美琴に断る理由はなかった。
もともとそのつもりだったのだから。
グッ、と力強く握り拳を作って意気込む美琴。

「っしゃ! 任せてください!」

「お姉様? そんな試し斬りしてやろうみたいな考えで軽々しく……」

「あ、ははは……じゃ行ってくるわ!」

白井のお小言を聞き流し、初春から場所を聞いた美琴は支部を飛び出した。
時間は丁度お昼時で、あたりは昼食目当てと思しき学生で溢れていた。
学生たちは美琴や固法のようにルームシェアすることも多いが、上条のように一人暮らしのことも多い。
そういった学生たちは大抵自炊を覚えるか、面倒くさがって外食や冷凍食品に走るかの二パターンに分類される。
今この場にいるのはその多くが後者の学生たちなのだろう。

美琴はそんな学生たちに混じって初春に言われた場所へと向かっていた。
ここからそれなにり離れていて、歩いていくことは可能ではあるが時間がかかる。
公共の乗り物を使用するべきか考えていると、美琴の視界にもはや見慣れてしまった後ろ姿が映る。
先ほど忽然と姿を消した垣根帝督だ。

「垣根!」

その声に反応し、垣根がこちらを振り返る。
美琴の姿を認めると、彼は小さく息を吐いた。

「何だ。お前も来たのかよ」

「アンタのお目付け役よ。それに」

「面白そうだったから?」

「分かってるじゃない」

美琴も風紀委員が遊びじゃないということくらいよく分かっている。
今から戦う相手も風紀委員を返り討ちにしたくらいだし、それなりの相手だということも分かっている。
だがそれでも、美琴は僅かに感じる高揚感にも似たものを隠し切れなかった。
普段その力を振るえる機会が存在しないせいなのか。
今から戦う相手にしたって、美琴は第三位なので結局はだいぶ手加減しなければならないだろうが。
それでも普段絡んでくるようなスキルアウトと比べれば、遥かに手ごたえのある相手に違いない。

「にしても、ずいぶんと人が多いな。やっぱアレのせいか」

「一端覧祭ね。もう近いしねー。私のとこももう準備は始まってるし」

一端覧祭。
学園都市の超大型文化祭で、超大規模体育祭である大覇星祭と対を為すものだ。
大覇星祭は学園都市においては非常に珍しく、というより唯一のテレビ放送を通す形で外部へ公開されるイベント。
その他にも生徒の保護者や親族は学園都市への立ち入りが許可され、その進んだ科学力に瞠目することになるのだが。
なるのだが、この一端覧祭は毛色が違う。

一端覧祭は大覇星祭と違い、外部の人間の関われない内部向けのイベントだ。
各学校は志望率向上のためにあれでもないこうでもないと頭を悩ますことになるのだ。
なにせ、一端覧祭は内部向け。
それはつまり学園都市の技術力に見慣れた者たちを、更に驚かすような何かを用意しなければならないということだ。

だが、あれこれと頭を使って忙しく動き回るのは大人たちだけではない。
学生たちもそれぞれ一般の文化祭のように屋台を出したり、お化け屋敷を作ったりなど色々やることがあるのだ。
特に売店を出すところは多く、そういったクラスの間では食料の争奪戦が勃発しており、大きなスーパーではあっという間に空になってしまうらしい。
もっとも、今日は一〇月二三日。
一端覧祭までまだ幾分か日数があるため、流石にまだ食料争いは起こっていない。
だがその他の準備に学生たちは大忙しで、どうやら昼食目当ての他にもそういった学生たちがこの混雑を作っているようだ。

「それにしても……一端覧祭、ねえ」

「何よ。何だか興味なさげじゃない」

「事実興味ねえからな。
わいわいがやがや騒がしいだけじゃねえか、下らねえ」

多くの学生や教師たちが時間と労力を費やしているものを一言で一蹴する垣根。

「バッサリ斬り捨てるわね……。やってみると意外に楽しいもんよ?
特に今くらいはね。ほら、祭りは本番より準備してる時のほうが楽しいって言うじゃない」

「そんなモンかねえ……」

「そんなもんよ」

腕を組んでうんうんと頭を縦に振る美琴。
何だかんだで美琴も学校で行っている一端覧祭の準備をエンジョイしているのだった。

だが思い出してみれば垣根は「長点上機学園所属ではあるが、通ってはいない」と言っていた気がする。
いつから通っていないのか知らないが、もしかしたらあまりこういったイベントを楽しんだことがないのかもしれない。
なんと勿体ないことか。

「ねえ、なら一端覧祭の時一緒に色々巡らない? きっと楽しいわよ」

「断る」

「即答かい。けど私は諦めないわよ。
アンタがうんって言うまでずっと誘うわよ。アンタの後ろにぴったりくっついて耳元でぼそぼそ囁き続けるわよ」

「何のホラーだコラ!? 分かった、分かったからそれは勘弁しやがれ!」

垣根から早くもOKをとった美琴は満足気に笑い、「言質GET♪」と親指を立てた。

垣根はそんな美琴を見て、こころなしか少しげっそりしたような顔をして「クソが……」と呟いた。
何だかんだで彼も美琴に押されると弱いのだろうか。
というより、美琴の押しが強引すぎると言うほうが正しい気もする。
それにしてもこれから危険な能力者と戦いに行く二人とは思えない会話である。

ざわざわと騒がしい大通りを何度もすれ違いざまに肩をぶつけそうになりながら歩いていると、ふと美琴が思い出したように呟いた。

「てかアンタ、よくこれ名乗り出たわね。やっぱ黒子にああ言われたのが悔しかった?」

それを聞いた垣根は途端に機嫌が悪くなったように見えた。
明らかに表情が先ほどと違う。
プライドの高い彼のことだ、美琴の指摘は事実だったのだろう。

「そんなんじゃねえ。ただ単に、あの腐れパンダに見せつけて証明してやるだけだ。
この俺にかかりゃあ風紀委員なんて簡単にこなせるってことをなぁ!」

……一体何が違うというのか。
どう見ても、白井に侮られたことを悔しがっている。
垣根はいつもと違い何故かやたらとテンションが上がっていた。
数秒前まではいつも通り冷静だったというのに。
グッ、と握り拳を作る垣根。その瞳には炎が燃え盛っている。
何やら変なスイッチが入ってしまったようだ。
というか美琴が入れてしまったのか。

しばらく歩き大通りを抜け、とある路地裏の入り口までやって来た二人。
この奥が送られた風紀委員が交戦し、返り討ちにされたという場所だ。
初春に教えられた座標を頭の中で再び確認し、間違いのないことを確認する美琴。

「うん。どうやらここで間違いないようね」

「そんなことは分かってる。
さあ行くぞ御坂! 今こそあのパンダメントに思い知らせてやらぁ!
どっからでも何人でもかかってこいや雑魚共がぁっ!!」

「……あ、あははは。頑張ろうね……」

普段の垣根からは考えられない熱さである。
いつもいじっている白井に侮られたので余計に腹が立っているのだろうか。
そもそも白井は垣根を侮ったわけではなく、単に一般人だから引っ込んでいろ、という意味で言ったのだが垣根にとっては関係ないらしい。
それにしても白井の呼び方が全然安定しない。どうでもいいことではあるが。

「さあ行くぞ今すぐ行くぞ」

「そんな焦らなくても。……ん? アンタ、それどうしたの?」

美琴は垣根の腕にあるものを指差した。
それは風紀委員の腕章。

当然ながら垣根は風紀委員ではないので、腕章を持っているはずがない。
だが、現実にこうして垣根はそれをいつの間にか腕に装着していた。

「これか? あの花飾りのガキから借りた。っつうか拝借してきた」

「何やってんのよアンタ……」

花飾りのガキとは初春のことだろうか。
きっとそうだろう。そんな特徴的な人物は彼女しかいない。
もしかしたら今ごろ初春は腕章がなくなっていることに気付き、白井あたりに説教されているかもしれない。
美琴は離れたところにいる初春に思いを馳せながら、どんどん進んでいく垣根に遅れないようについていく。

あたりが途端に汚くなった。
壁にはスプレーで落書きが為され、あちこちに廃材や金属片が転がっている。
この辺りは既にスキルアウトの縄張りなのだろう。
無能力者狩りを楽しんでいるというだけあって、直接スキルアウトの溜り場に乗り込むくらいのことはやっているらしい。

「おいおいおいおい、敵さんの登場はまだかよ!
俺はいつだって準備OK受け入れ体制バッチリなんだぜ!?」

「アンタ、ちょっと落ち着きなさいよ。全く……」

熱くなっている垣根を美琴が諌める。珍しい光景だ。
認めるのは癪だが、どちらかといえば普段はこの逆パターンのことが多い。
即ち垣根が美琴を諌めるパターン。

だが今の垣根は美琴の言葉に耳を貸さず、イライラし始めていた。
しかし、この時途端に美琴の目が鋭くなる。

(……来たわね。反応は二。後方三m地点から上方二m地点に一人。
もう一人は前方僅か一m地点、そこから上方二m。二人とも廃ビルに身を隠してるわね)

美琴の電磁波レーダーが反応を捉えた。
美琴は電磁波の反射の具合などから位置を割り出すことが出来る。
超能力者なだけあり、その精度もピカイチだ。
向こうは身を潜めているつもりだろうが、美琴には全て筒抜けだ。

「垣根」

「ああ。“分かってる”」

二人がそんな言葉を交わした途端、前後から能力が襲い掛かってきた。
能力者の奇襲だ。
だが事前に察知していた二人はそれを容易く回避する。
その直後、少し前まで二人が立っていた場所をATMの残骸と強烈な風が通り過ぎた。

(一人は空力使い、もしくは風力使い(エアロハンド)ね。もう一人は……)

「念動能力者。もしくはお前と同じ電撃使いだな」

「でしょうね。出力はそれなりね。
強能力者ちょいってとこかしら。大能力者はまだ遠いわね」

垣根はふー、と大きく深呼吸してから能力者の潜んでいる廃ビルに向き直った。
一体何をするつもりなのか。
大技でも放つのか、と考えていただけに、次の垣根の行動に言葉を失ってしまった。
垣根は左腕につけた風紀委員の腕章を右手で引っ張り、それを大きく示す。
その姿は白井が風紀委員だと名乗る時の姿そのものだった。

「ジャーッッッジメントだあああああああああああ!!
オセロに一泡吹かせるためにさっさと縛につけクソボケがああああ!!
それともあの世への片道切符をプレゼントされてえかコラァッ!!」

「…………駄目だこりゃ」

美琴は左手で頭を押えはぁ、とため息をつく。
もう垣根は止まらないだろう。一度スッキリさせてやらなければきっと戻らない。
というかそもそもお前は風紀委員じゃないだろうが。
そんな突っ込みを心の中にしまい美琴は垣根を正常に戻すことを諦め、廃ビルに目をやった。
見ると、中から二人組みの能力者が出てきたところだった。
年の頃は高校生から大学生くらいか。
見た目は意外と普通で、髪を染めているわけでも悪趣味なアクセサリーをジャラジャラさせているわけでもなかった。
この二人はスキルアウトではないので驚くことでもないかもしれない。

「風紀委員だぁ? さっきボコッってやったばっかりだぜぇ?」

「大したことなかったぜ? 今度はお前らが俺たちのストレス発散に付き合ってくれるのか?」

能力者たちが下品な笑みを浮かべる。
だが美琴には戦う前に聞きたいことがあった。

「一つ聞かせて。アンタたちはなんで無能力者狩りなんてしてるの?
アンタたちの能力はそれなりだし、何の問題もなく真っ当に暮らしていけるはずよ」

「なんで、だぁ? そりゃ決まってんだろ。なぁ?」

話を振られたもう一人の能力者は、笑いながら何でもないことのように答えた。

「楽しいから」

たった、それだけだった。

「お前らも能力者なら分かんだろ? 弱者を力で甚振るあの快感ときたら!
そいつがみっともなく逃げて、逃げ切ったと思ったところにそれをぶち壊した時の絶望の表情ときたら、もう病みつきになるぜぇ?」

美琴はそれだけで悟った。
こいつらは、最悪だ。
駒場のような自分の正義があるわけでもない。
ただただ自分の歪んだ欲望を満たすために他者を犠牲にしているのだ。
まさに駒場の言うところの「強大な力を弱者に振りかざして、悦に浸ることしか出来ない醜い人間」だ。
故に、容赦をしてやる必要はない。

「それで? それが許せないとか偽善振るつもりかな」

「違げえよ。全然違げえよ」

答えたのは垣根だった。
異様なテンションのままの垣根は、その戦う理由を能力者たちに突きつけた。

「テメェらがこのままのさばってると、オセロパンダが図に乗るんだよ!
だから俺のプライドのためにねんねしてやがれ!」

そんな理由で戦うのもどうなのだろう。
美琴は一気に冷えた頭でそんな疑問を感じたが、この能力者たちはいずれにせよ倒さなければならないので気にしないことにした。

「まずはテメェからだ。ウォーミングアップの相手くらいにはなれよ?」

「言うじゃねぇか。ならウォーミングアップでお終いにしてやるぜ」

二人の間には埋めがたい戦力差があるのだが、何となく強者同士っぽい会話をする二人。
垣根帝督と空力使い(もしくは風力使い)が対峙する。
それを見た美琴も、もう一人の能力者に向き直る。
念動能力者もしくは電撃使い。強度は強能力者に毛が生えた程度。
第三位たる美琴の敵ではない。
だが向こうは彼女を恐れている素振りを見せていない。
不本意ながらも美琴は学園都市第三位の超電磁砲、常盤台のエースとして有名人なのだが知らないのだろうか。

「さ、こっちも始めましょ。アンタみたいなどうしようもない奴には容赦しないわよ」

「それはこっちの台詞だ。泣いても許してやらねぇぞ!」

投下終了
超電磁砲二期決定のテンションのおかげで連続投下しましたが、次回は一週間ほど空く……と思います

次回はミコっちゃん無双かもしれません

    次回予告




「何やってんだあのクソシスター」
『スクール』のリーダー・自称風紀委員(ジャッジメント)・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「楽しかったかしら?
力のない人間を上から押し潰して、指差して笑い者にして。
それがそんなに楽しかったの? 愉快で仕方がなかった?
……どうだって……聞いてんのよッ!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「またごはん奢ってくれるとうれしいな!」
禁書目録を司るイギリス清教のシスター ―――インデックス

乙~
空力使いと風力使いの読み方は
空力使い(エアロハンド)
風力使い(エアロシューター)
だったと思う

乙乙
垣根にも是非愉快なあだなをつけてやってくれ

楽しいけど垣根さんが丸くなりすぎてる気がする

さて投下しに参りました

>>90
そんな馬鹿なアッハッハッハ! と確認しました
……すみませんでした

>>92
垣根についてはメルヘン野郎やていとくんでもう完成されてる気がしますw

>>97
これからの展開的にある程度は仕方ないんです
ただ一つはっきり言っておくと、ていとくんはこのままでは終わりません
ずっとこのギャグていとくんでいるわけではないです

「さ、こっちも始めましょ。アンタみたいなどうしようもない奴には容赦しないわよ」

「それはこっちの台詞だ。泣いても許してやらねぇぞ!」

能力者が地面にその右手を向ける。
するとあたりに落ちていた細かいガラクタや金属片が宙に浮き上がった。
金属ではないものも操っているので、どうやら電撃使いではなく念動能力者のようだ。
だがそんなことはどうでもいい。
どちらであっても、結果は変わらない。
能力者が美琴の勢いよく右手を向ける。
それを合図に、浮き上がった物がそれなりのスピードと威力でもって美琴に迫った。

「はいざんねーん」

美琴が軽くそう言った瞬間、一瞬青白い閃光が走った。
光が収まった時には能力者の射出した物は消滅していた。
能力者の撃ち出した物を美琴の電磁波レーダーで捉え、自動迎撃を行ったのだ。
美琴の次元の違う火力によって跡形もなく消え去ってしまったということだ。

「あの程度の質量じゃ私に届く前に消えてなくなっちゃうわよ」

「な、何が起きたんだ……? クソッ、これならどうだ!」

能力者は一際大きい鉄柱を数本持ち上げると、そのまま美琴に向け撃ち出す。
今度は先ほどより遥かに重く、威力も高い。
並の能力者には出来ないだろう。
だがこの能力者は強能力者上位で、世間ではエリートレベルだ。
よって美琴も特別驚くこともなく、冷静に対処する。

ガキィン、と突然放たれた数本の鉄柱が空中で静止する。
美琴の目の前まで来たところで不意に動きが止まってしまった。
これは美琴が磁力で干渉しているためだ。
この程度なら先ほどと同じ手法で防ぐことも容易だったが、何となく芸がないと思った。
つまり、そんな理由で手段を選べるだけの余裕が美琴にはあるということだ。
初めから分かりきっていたことではあったが、やはり第三位は第三位だった。
どうひっくり返っても強能力者にどうにかできるレベルではない。

美琴が磁力をとくとガラガラと音をたてて鉄柱が地面に落ちる。
能力者の顔には焦りと恐怖が見えた。
自分の力が通用しない相手と相対したのは初めてなのだろう。

能力者は自らを鼓舞するように叫びながら次の攻撃に出る。
最初に奇襲をかけた時に使ったATMの残骸を持ち上げようとするが、何故か持ち上がらなかった。

「なんだぁ!? 何がどうなってやがんだ!?」

能力者は必死に能力を行使するが、ATMは一向に動く気配はない。
能力自体は問題なく発動できているのだが、まるで上から押さえつけられているように動かせない。
そしてこの場にそんなことをするのは一人しかいなかった。

「テメェの仕業かこりゃ!?」

美琴が磁力をかけて能力者の念動能力を押しつぶしているのだ。
持ち上げようとする念動能力に対し、動かさせまいとする磁力。
能力値では圧倒的に美琴が上なので、こういう結果になっているのだ。

「ほらどうしたのよ? 頑張りなさい」

「うぐ、うぐぐぐぐっ……。ぬおおおおおおお!!」

必死に能力をかけ続けるが、ピクリとも動かすことは出来ない。
対して美琴は涼しい顔で立っている。

「ほらほら。もっともっと頑張りなさい」

「ちくしょおおおおおお!」

普通に立っている女子中学生と、何やら必死に力んでいる能力者。
傍から見れば念動能力が発動していることなど美琴が抑えているせいで分からない。
何ともシュールな光景が繰り広げられていた。

だが美琴がこの硬直状態を破った。
前髪から紫電を放ち、ATMの残骸を破壊したのだ。
すっかり焦げ付いてバラバラになってしまったそれを見て、能力者は息を飲んだ。

「格上に圧倒的な力で弄ばれる気分はどうかしら?」

「ひっ……!」

最初の威勢はどこへやら、能力者はその顔を恐怖に歪めた。
美琴は全身に電撃を纏っている。
彼女は怒っていた。弱者を甚振ることに快感を見出すこの男に。
大嫌いなタイプだった。なまじ力があるだけに、スキルアウトよりもよほど厄介だ。
それは風紀委員が返り討ちにされたということからも分かる。
もしこの能力者たちが無能力者のスキルアウトだったら、その時点で捕まってそれで終わりだっただろう。

能力者はみっともなく敗走を始めた。
美琴に背を向けて、走る。少しでも美琴から離れるために。逃げるために。
普段の美琴だったら、見逃したかもしれない。
わざわざ追撃しようとは思わなかったかもしれない。
だが、今回は違った。見逃せない理由があった。

美琴はその場で前方へ向かってジャンプする。
ここは建物に挟まれた一本の路地。
当然壁になっている建物には鉄骨が使われている。
左右にある鉄骨を使い磁力をかけることで、美琴はふわ、と宙に浮かぶ。
かつてどこにいても謎の視線がつきまとってくるという事件があった時にも一度やったことだ。

宙に浮かんだ美琴は自身の体をカタパルトのように射出する。
猛スピードで宙を駆ける美琴はあっという間に能力者に追いついた。
背後から電撃を能力者の前方に放ち、足止めする。
能力者が思わず足を止めた隙に美琴は能力者の眼前に降り立った。

「ぅあ、ああ、マジかよ……」

恐怖のあまり完全に顔が引き攣っていた。
それを見ても美琴は容赦してやる気はやはりなかった。

「逃げ切ったと思った希望を砕かれる気分はどうかしら?」

美琴は能力者の胸倉を掴み、壁に押し付ける。
能力者はもはや抵抗する気力を失ったのか、されるがままだ。

「どうなのよ。楽しかったかしら?
力のない人間を上から押し潰して、指差して笑い者にして。
それがそんなに楽しかったの? 愉快で仕方がなかった?」

能力者は必死に声を絞り出す。

「った、たす、助けて……」

ただ弱者を甚振ることしかしてこなかったこの男は、初めて出会った格上に完全に屈服していた。
だがそんな答えは美琴の聞きたいものではない。

「そんなことは誰も聞いてない。質問に答えなさい」

能力者は答えない。
その口からはただヒューヒューと息が漏れるだけだ。

「ッ、どうだって……聞いてんのよッ!!」

美琴はその横っ面を殴り飛ばす。
能力など使わずに、ただその拳で。
殴ると同時に掴んでいた襟元を離したため、能力者は僅かに飛びされ地に這いつくばった。
何人もの人間をそうさせてきたように、今度は自らが。

「アンタたちがやってるのがただの喧嘩だったり、自衛のためならこんなことはしない」

美琴が倒れている能力者の眼前に立って言う。

「けどアンタたちは違う。アンタらはただ自分が楽しむためだけに他人を甚振っている。
他人が苦しんでいるのを見て笑っている。
しかも無能力者っていう抵抗する力のない人間だけを選んでね。
はっきり言って卑劣もいいところよ」

能力者は何も言えずに震えていた。

「他人を力で食い物にするような奴は必ず違う力によって押し潰される。
丁度アンタみたいにね。覚えときなさい、次にまた誰かを傷つけて楽しむような真似をすればその時は覚悟してもらうわ」

美琴は能力者に電撃を放った。
勿論手加減はしていたが、それを食らった能力者はあっさりと気を失った。
後は風紀委員の仕業だ。
美琴は最後に気絶している能力者を一瞥して、もと来た道を戻り始めた。


戻ってきた美琴の視界に入ってきたのは、無傷で立っている垣根と土下座している能力者の姿だった。
どうやら余裕ぶっていた割には手も足も出なかったらしい。
男の顔はあちこちが腫れており、余程痛めつけられたのだろう。
垣根はこういう時容赦をしない。

「今まで何人もの人間をこうさせてきたんだろうが。
その報いぐらいテメェで受け入れな」

垣根も美琴と同じようなことを言う。
垣根にわき腹を蹴り飛ばされた能力者は仰向けに転がっていった。
立ち上がる気力もないようだ。
美琴に倒された能力者と同じく、心が折られているのだろう。
垣根は倒れている男の腹を思い切り踏みつける。
するとぐぇ、という苦しそうなうめき声をあげたきり能力者は動かなくなってしまった。

「終わったみたいね」

「ああ。お前の方も片付けたのか。よし、なら風太を呼ぶぞ」

「あ、まだ覚えてたんだ」

白井への対抗心はいまだ健在らしい。
どちらにせよ風紀委員は呼ばなければならないので、美琴は白井に電話をかける。
白井は何らかの仕事を固法に任されたはずだが、意外とすぐに電話に出た。

「あ、黒子? こっちは終わったわよ」

白井が答えを返す前に、勢いよく垣根が美琴の携帯をひったくった。

「おいコラオセロ! 楽勝でやってやったぞ!
俺には風紀委員は務まらねえなんて舐めた口ききやがって」

対する白井は突然の垣根の乱入にも慌てず、冷静に言葉を返した。

『あら。風紀委員の仕事はただドンパチするだけとでも思ってますの?
そんなことだから貴方には務まらないと言ったんですの』

美琴は一度そんな話を垣根にしたことがあるのだが、忘れているのだろうか。
垣根、美琴、上条、白井の四人でカラオケに行き、銀行強盗に出くわしたあの日。
美琴は一日風紀委員をしたが、地味な仕事ばかりだったという話をしたのだが。
垣根はその白井の言葉にカチンときたようで、持っている携帯がビキッ、いう音をたてた気がした。
余程強く握っているのだろうか。というかちょっと待てその携帯誰のだと思ってる。

『もし貴方がそれでもというなら、今日一日しっかり風紀委員してみせなさいな。
あ、わたくしは今ちょっと動けないので、そちらへは他の支部の風紀委員を向かわせますの。
ただ回収するだけならすぐに動いてもらえるので。では、そうお姉様にもお伝えくださいな』

そう言って、白井は一方的に通話を切ってしまった。
白井は垣根を働かせて自分たちの仕事を減らすことにしたらしい。
垣根は呆然としていたが、やがて不気味に笑いだした。
美琴に携帯を返すと、

「くは、はっははははは!
……面白えじゃねえか! いいぜ、やってやらあ! 見てろよパンダ野郎が!」

どうやら垣根のハイテンションはまだ続くらしい。
風紀委員が分かりやすいように、離れたところで倒れている美琴が仕留めた能力者をここに運んだ後、二人は路地裏を後にした。

「それで、どうするの?」

「そこらへん適当にブラブラしてれば何かあるだろ」

「ホント適当ね……」

そういうわけで、二人は何の目的もアテもなく街をブラブラすることになった。
一端覧祭が近いということで、いつも以上に賑やかな第七学区を散策しているとある少女の声が聞こえてきた。
それは垣根も美琴も、どちらも聞き覚えのある声だった。
見てみれば、動き回る清掃ロボットにしがみついている少女がいた。
浮きに浮いている修道服を纏っている銀髪の少女。
それはイギリス清教に属する魔道書図書館、インデックスだった。
彼女も二人に気付いたようで、

「あーっ! ていとくに短髪なんだよ!」

決して清掃ロボットから離れはしなかったが、そう叫んだ。

「何やってんだあのクソシスター」

「何やってんでしょうね。ってかアンタ知り合いだったの?」

「知り合いたくもなかったがな。二度と会いたくはなかった」

「酷いわね……」

揃ってため息をつく二人。
何だか最近ため息をついてばかりじゃないか、と美琴は思った。
ため息をつくと幸せが逃げるとよくいうが、それが真実でないことを祈るばかりである。
もし本当ならどれほどの幸せを逃がしているか分からない。
あの馬鹿みたいな目に合うのだけは勘弁してほしい、と思う。
というか、このシスターは清掃ロボにへばりついて何をしているのだろうか。

「アンタ、何やってんの?」

「どうもこうもないかも! 私のアイスをこの使い魔にとられちゃったの!」

……察するに、インデックス、アイスを入手→落とす→清掃ロボ回収→現在、ということだろう。
使い魔とかいうおかしなワードは聞かなかったことにする。
何も突っ込まないあたり、垣根も同じような判断に至ったらしい。

「とりあえず、その清掃ロボから離れなさい。
それめちゃくちゃ高いし、風紀委員とか警備員に目つけられちゃうわよ。
ほら、アイスなら私が買ってあげるから」

「ほんと!? 短髪はとうまと違って太っ腹なんだよ!」

「なら短髪って呼ぶのいい加減やめなさい。
私の名前は御坂美琴。いい?」

「ありがとなんだよ、みこと!」

ニコッ、と笑って清掃ロボから離れるインデックス。
解放された清掃ロボはどこかへと去っていった。
どうやら壊れたりはしていないらしい。
その笑顔に、思わず美琴の表情も柔らかくなる。
だがここでインデックスの矛先が、沈黙を守っていた垣根へと向いた。

「それで、ていとくは何をくれるのかな!?」

それを聞いた途端、垣根の表情が不機嫌そうに歪んだ。

「テメェにやるもんなんて何もねえよ。消えて失せろ」

「またごはん奢ってくれるとうれしいな!」

「コ…イツ……ッ!!」

垣根がギリギリと歯軋りする。
美琴はそんな垣根を慌てて諌めた。

「ま、まあまあ。落ち着きなさいって。
気持ちは分からなくないわ。
インデックス、アンタもいきなり『奢れ』はないでしょ」

だがインデックスはお腹減ったと騒ぎ、垣根は自分を抑えるのに精一杯だ。
結局この場を丸く収めるために美琴が昼食を奢ることになってしまった。
だが何だかんだでよく言い争いをしていたインデックスとの仲が進展した。
その事実に、美琴は一人笑みを浮かべるのだった。










そして、やはりこうなった。
二人の目の前には山積みになった皿。
更に時間を追うごとに、どんどんその枚数も増えていく。
これに唖然としているのは美琴だ。
美琴はインデックスの大食いっぷりを知らなかったのである。
一方、それを経験している垣根は呆れたような視線を向けていた。


「……これは、アンタの能力か何か?」

「そういう考えに至るよな、やっぱ。俺もそう思ったわ」

「……え? 違うの?」

「それが、現実だ」

「なんてことなの……」

愕然とする美琴。これが当然の反応だろう。
当のインデックスはそんな二人の会話など全く意に介さず、黙々と食べ進めている。
垣根に奢らせた時にも披露した、ページ単位での注文を何度も繰り返す。
それでいてペースは全く落ちる様子を見せず、もはや美琴は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。

何となく厨房の方へ目を向ければ、大忙しで料理人たちが動き回っていた。
あまりの食事スピードと注文頻度の短さにフル稼働で何とか対応しているようだ。
これに勝てるのはサイヤ人くらいだろ、と少年的思考をしてみる美琴。

店内にいる他の客たちからの視線も感じる。
これだけのことをしていればそれも仕方ないとは思う。
すると一人の男が三人のいるテーブルへとやってきた。
何事かと思って見てみれば、その男の表情は非常に焦っているように見えた。

「あ、あの、失礼ですがお客様。お支払いの方は大、丈夫ですかね……?」

おそるおそると言った風に訪ねてくる。何故か垣根に。
この三人の中で一番年長者だったからだろうか、と思う美琴。
だがその答えは違っていた。
実際男が垣根に声をかけた理由は、彼が風紀委員の腕章をつけているからだ。
垣根は腕章を装着したままだったので、男は垣根を風紀委員だと思ったのである。

よく見てみれば、この男はレジを打つような人ではない。
おそらくここのトップなのだろう。
つまり本気で会計が心配なのだ。
それはそうだろう、と思う美琴。
これだけ食っといて金ありません、なんて言われた日には赤字もいいとこだ。

「はあ? なんで俺に聞くんだよ。
払うのは御坂なんだがな……ほらよ」

そう文句を言いながら、垣根は財布から一枚のカードを取り出し男の眼前に突きつける。
それは一枚のカード。いわゆるクレジットカードだった。
だがそれはただのクレジットカードではない。
クレジットカードというものは、クラシックカード、ゴールドカード、プラチナカード、ブラックカードの四つに大別される。
クラシックカードが一般的なクレジットカードであり、ゴールド、プラチナ、ブラックとグレードは高くなっていく。
垣根が取り出したのは、最高グレードであるブラックカードであった。
それを見た男の顔が、驚きの一色に染まる。

「あ、会計するのは私です。はい」

そして美琴も財布を取り出して男に見せる。
その財布からは一枚のブラックカードが顔を覗かせていた。
とんでもないセレブ共である。これが超能力者の、常盤台の実力だった。
その財力においても他の追随を許さない。
ブラックカード所有者が二人、ブラックカードが二枚並んでいるという凄まじい光景を見た男は、

「当店をご利用いただき誠にありがとうございます!
どうぞごゆっくり!」

一八〇度態度を変えた。
その顔は笑顔一色で、完璧なスマイルを浮かべている。
そして男は厨房の中へと入っていった。

「ていとくとみことのそのカードは一体何なのかな?」

インデックスが口周りに食べカスを大量につけて質問する。
美琴が苦笑しながらお手拭をインデックスに渡してやる。

「口元が汚れてるわよ、みっともない。
ちゃんと拭きなさい」

僅かに顔を赤らめながらインデックスは口元を拭った。
そんなインデックスに垣根が簡単に説明した。本当に簡単に、だが。
あまりにも簡潔すぎたので、美琴が少し付け加えると、ようやくインデックスは理解したようだった。
インデックスは顔を輝かせて、

「つまり、それがあれば何でも食べ放題ってことかも!」

それが彼女なりの結論だった。
いや、たしかにブラックカードならあまり間違っていないかもしれないが。
彼女は物欲しそうな目で垣根と美琴を見ていたが、

「残念だが諦めろ。お前に持てるシロモノじゃねえ」

「残念だけど……ね?」

二人にそう言われ、インデックスは不満そうに頬を膨らませた。
だがブラックカードはそうそう手に入れられるものではない。
インデックスは勿論、上条当麻もだ。
というか上条がブラックカードなんて夢のまた夢、そのまた夢くらいだろう。
おそらく一生無理だ。

不満そうな顔をしていたインデックスだが、新たに料理が運ばれてくるとすぐに食らいついた。
美琴に奢ってもらうはずだったアイスもしっかり注文している。
今は一〇月下旬なのだが、そんなことはお構いなしだ。
それにこころなしか料理の運ばれてくる速度がアップした気がする。
不思議に思った美琴が厨房に目をやると、明らかに料理人たちの動きが早くなっていた。
どうやら二枚のブラックカードは相当効いたようだ。
一応二人も昼食はとったのだが、目の前でこれだけがっつかれると垣根も言ったように食欲もなくなるというものだ。
いつもより少ない量で満足してしまっていた。

「それで、二人は何をしていたの?」

インデックスに聞かれ、答えに詰まる美琴。
何とも説明しにくい。
単に遊んでいたということにしようか、と考えているとその前に垣根が答えた。

「俺は風紀委員だからな。その関係だ」

サラッと嘘を吐く垣根。

「アンタは違うでしょアンタは……」

その垣根はコーヒーを飲みながら美琴の言葉をスルーする。
そんな突っ込みなどどこ吹く風だ。

「そのじゃっじめんとっていうのは食べられる仕事なのかな!?」

「んなわけないでしょ。風紀委員っていうのは警察みたいなもんよ。
いや正確に言えばだいぶ違うけど、そう考えるのが一番分かりやすいと思うわ」

「ならていとくは凄いお仕事してるんだね!」

「そうだ。もっと褒めろ」

「いや、だからアンタは……」

はぁ、とまたしてもため息をつく美琴。
もう今日だけで何度目だろう。
垣根はとにかく風紀委員を名乗り続けるつもりらしい。
腕章をつけているので、説得力が増しているのも厄介だった。

その後もとりとめのない雑談を楽しんだが、ついにインデックスが満腹になる時がやって来た。

「ふう。おなかいっぱいかも」

「ようやくかよこのクソシスター」

「もうどれだけ食べたのか測定不能なレベルね」

メニュー全制覇、とまでは流石にいかないだろうが、それでも途方もない数を平らげたことに変わりはない。
本当に、この少女の一体どこにこれだけの量が入っているのか。
もはや呆れるしかない。
美琴や垣根ではこの五分の一も食べられないだろう。

「それじゃ、そろそろ出る?」

「んだな。ちょっと便所行ってくるから待ってろ」

「ん」

そう言って垣根はトイレへと向かった。
白井あたりがいたらもっとオブラートに包めなどと騒ぎそうだが、美琴はそれほど気にしない。
水を飲んで待っていると、インデックスがこちらをジッと見つめていることに気付いた。
ただ、様子が少し違う。
さっきまでの暴食シスターの姿はどこにもなく、真剣な顔つきをした彼女の姿があった。
その目には強い決意のような色が見える。

「みこと。聞いてほしいんだよ」

「……何かしら?」

この少女は、何か途轍もなく大事なことを言おうとしている。
そう美琴は直感した。

美琴は持っていた水の入っているコップをテーブルに戻し、次の言葉を真剣な面持ちで待った。

「ていとくのこと、お願いしたいんだよ」

「え?」

思わずそんな声が出てしまった。
いまいち言っている意味が分からない。

「私じゃ無理なの。ていとくは心を開いてくれない。
でも、みことには少しだけ心を許してるようにみえるの。だから、お願い。
きっとみことにしか出来ないの」

「ちょ、ちょっと待って。何の話をしてるのよ。順を追って説明……」

「何の話してやがんだ?」

不意に、垣根の声が聞こえてきた。
気付けば早くも戻ってきた垣根が二人のいるテーブルのすぐそばまでやってきていた。
どうやら美琴とインデックスの会話は聞かれていないようだが。

「うん、みことに食べ放題やってるお店知らないか聞いてたんだよ」

あっさりとインデックスは切り替え、話を終わらせてしまった。

「あっ……」

だが垣根は戻ってきてしまったし、もう話を続けられる雰囲気ではなかった。
結局インデックスは何を言っていたのだろう。
何を頼みたかったのだろう。
うやむやのまま終わってしまった。

「おいクソシスター、たしか七つの大罪の一つに暴食ってのがあったと思うんだが。俺の記憶違いか?」

垣根とインデックスは何やら言い争いを始めていた。
その間美琴はインデックスが何を伝えようとしていたのか、自分なりに分析してみたがよく分からない。
垣根が、一体どうしたというのだろうか。

「おい御坂、何ボケーッとしてんだ。もう出るぞ」

「えっ、あっ、うん。分かった」

とりあえず今はいいか、と頭のスイッチを切り替える。
どうやらもう出る方向で決定したようだ。

レジでブラックカードを使い会計を済ます。
レジ係が珍しそうにブラックカードを眺めていたように見えたのは気のせいではないだろう。
一般人はブラックカードなんてものを見る機会はまずない。

外に出るとインデックスが、

「それじゃ、私はもういくんだよ。
みこと、ご馳走してくれて本当にありがとう!
ていとくも、じゃっじめんとのお仕事頑張って!」

「うっせ」

「じゃあね、インデックス。気をつけなさいよ」

投下終了
終わってから気付きましたが、今回やたら量多いな
ミコっちゃんとインデックスが仲良いとほっこりするのは>>1だけでしょうか

第三章がようやく終わり、書き溜めが第四章に突入したんですけど……
第三章マジ長い 序章から第二章までの倍以上あるとかとんでもねぇ

    次回予告




「でかしたぞ御坂。早くもフラグが効果を発揮した」
『スクール』のリーダー・自称風紀委員(ジャッジメント)・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「ね、ねぇ垣根、フラグって何よ?」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴

乙!

ちなみにファミレス全メニュー食べても
餃子の王将…3万いかないくらい
サイゼリヤ…3万5千円くらい
ガスト…2万7千円くらい
ココス…5万5千円くらいらしい
高級店でのディナー1人分でガストなら全メニュー食えるんだな

     ____________
    ヾミ || || || || || || || ,l,,l,,l 川〃彡|
     V~~''-山┴''''""~   ヾニニ彡|       全制覇はしていない・・・・・・!

     / 二ー―''二      ヾニニ┤       していないが・・・
    <'-.,   ̄ ̄     _,,,..-‐、 〉ニニ|       今回 まだ 一種類の注文数や合計注文数の
   /"''-ニ,‐l   l`__ニ-‐'''""` /ニ二|       指定まではしていない

   | ===、!  `=====、  l =lべ=|

.   | `ー゚‐'/   `ー‐゚―'   l.=lへ|~|       そのことを
    |`ー‐/    `ー――  H<,〉|=|       どうか諸君らも
    |  /    、          l|__ノー|       思い出していただきたい
.   | /`ー ~ ′   \   .|ヾ.ニ|ヽ
    |l 下王l王l王l王lヲ|   | ヾ_,| \     つまり・・・・
.     |    ≡         |   `l   \__   >>1がその気になれば
    !、           _,,..-'′ /l     | ~'''  一種類の注文数が
‐''" ̄| `iー-..,,,_,,,,,....-‐'''"    /  |      |    10枚 20枚ということも
 -―|  |\          /    |      |   可能だろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!
    |   |  \      /      |      |


垣根と美琴のコンビの書き方がいいな
性別も歳も違うのに友達っぽさが出ててグッド

さて今日も投下します

>>145>>149
ブラックカードが使われない範囲での最高級店で、かつ同じメニューを二度も三度も頼んでいたんです、きっと

>>150
ありがとうございます、レス励みになりますです

彼女はいつも不幸で、けれど幸運で。

「じゃあね、インデックス。気をつけなさいよ」

美琴は既に走り去っているインデックスの背に向かってそう言うと、僅かに「分かってるんだよ!」という声が返ってきた。
果たして本当に分かっているのか疑問である。
また清掃ロボにはりつくようなことがなければいいのだが。
時間を確認してみればもう二時を回っていた。
ずいぶん時間が経つのが早く感じる。

「全く、本当に明るい子ね」

「ああいうのはうるさいって言うんだ」

「そういう割にはまんざらでもなさそうだったわよ?」

「その口を縫い付けてやろうか」

「それは流石に御免被るわね」

そんな会話をしながら、二人はまた大通りを歩き始めた。
相変わらず目的も何もない。ただただ無計画にブラブラしてるだけだ。
何らかのイベントの発生に期待して歩いていた二人だが、人通りの多さは全くと言っていいほど変わっていなかった。
一端覧祭は学園都市の一大イベントであるため、学生たちも気合が入っているのだろう。
だがこれだけ人通りが多いと、風紀委員の出番が回ってきそうな出来事など起こりそうになかった。
あるとしたらせいぜい迷子の案内くらいのものではないか。
いや、それだって風紀委員の仕事ではあるのだから構わないのか。
垣根の基準は美琴にはよく分からない。

だが、

「……何にも起きねえな」

「そりゃあ往来のド真ん中だし。
だいたいいくら学園都市だっていってもそう日に何度も事件に出くわすわけが……」

「よし、なら期待出来そうだ」

「? どういうこと?」

「今のお前の台詞はフラグだってことだ」

「フラグ?」

首をかしげる美琴。フラグとは何なのだろう。
だが垣根はそれきり黙ってしまったため、美琴は脳内でフラグというワードを検索する。
その億単位での価値がある頭脳内での検索の結果、三件がヒット。

一つ目、フラッグ(flag)。
旗や信号機といった意味の他、プログラム上における識別のための符号というような意味もある。
これはフラグとも言うのだが、いまいち文脈に合わない。
おそらく垣根の言った「フラグ」はこれではないだろう。

二つ目、フラグメント(fragment)。
これは普通の英単語で、欠片や断片といった意味で、文章の一部という意味もある。
だがこれも一つ目と同様いまいち意味が通じない。

そして三つ目、フラグ。
一三世紀にタブリーズを首都とするイル・ハン国を建てた建国者で、チンギス・ハンの孫でもあるのだが……
論外だ。完全に問題外。
だがこうなると、結局垣根の言う「フラグ」なるものの正体は分からないままなのだが。

「ね、ねぇ垣根、フラグって何よ?」

微妙に知的好奇心を刺激されたのか、垣根の袖をちょいちょいと引っ張る美琴。
垣根はそんな美琴に何か言おうとしたが、その目が急に細くなる。
どうやら何か見つけたらしい。

「でかしたぞ御坂。早くもフラグが効果を発揮した」

そう言うと垣根は人混みを押しのけ、ある一点を目指し歩き始めた。
美琴は急に動き始めた垣根を追おうとするが、人が多くて思うように動けない。

「だ、だからフラグって何なのよー!?」

何とか置いていかれないようにしながら、そう叫ぶ美琴だった。
だが垣根は既にだいぶ進んでおり、このままでは見失ってしまう。
無理やりに体を押し込んで進んでいく。
一応体がぶつかる度に一言謝罪していたのだが、キリがなかった。

美琴が人の壁に進路を阻まれているころ、垣根は目的の人物のところまで辿り着いていた。
垣根が目をつけたその人物は高校生くらいの女だった。
その髪は完璧なまでの金色に染まっており、化粧も異常に濃い。
スカートの丈もやたらと短く、いわゆるギャルである。
当然ながら、垣根の知り合いにこんな女はいない。
垣根はこの女を追っていた理由は、ただ女が一人の男子学生から財布をスッているのを目撃したからだ。
垣根の見た限り、中々手際もよく常習犯であることが推測できる。
とはいえ、暗部でトップを張っていた垣根の目を誤魔化せるわけはなかったのだが。

「おいそこのケバいクソアマ。止まりな」

垣根が無遠慮に声をかける。
すると女がゆっくり振り返った。
見れば見るほど厚化粧だ。
学園都市にこんな人種いたのか、と思えるほどだ。

「はぁー? マジうざいんですけどー」

もしかして外から来た人なのか、と本気で考えるほど学園都市では見ないタイプだった。
そんなふざけた返答を受けた垣根は隠しもせずに舌打ちしたが、すぐに実力行使に出ることはなかった。
左腕につけているかっぱらった腕章を示し、名乗る。

「風紀委員だ。窃盗の現行犯で拘束する」

その様は、何の違和感も感じられない光景だった。
完全に風紀委員にしか見えない。
垣根はすっかり風紀委員として様になっていた。
だがギャルはそれを見てもそれほど動揺したりはしなかった。

「風紀委員とかヤバくね? マジヤバイんだけどー」

頭の程度が知れる台詞を吐きながら、ちゃっかりギャルは逃走を始めていた。
垣根は一瞬呆然としたが、すぐに動き出す。

「ったく、何なんだよあのクソアマ! 今まで一度も会ったことのねえタイプだぜ。
わけの分からん台詞吐きやがって。文章が成立してねえんだよ。上条の方が遥かに喋れるぞ」

だが垣根も人混みのせいで思うように進めない。
対してギャルはというと、何故かスルスルとすり抜けて既に垣根とだいぶ距離が空いていた。
どう考えてもこの人混みの中で出せるスピードではない。

「チッ、マジで何なんだアイツ。オラオラどけ一般ピーポー共!
風紀委員だ! 道を空けろ、逃がしちまうだろうが!」

それを聞いた人たちは何とか道を空けようとしてくれてはいたが、いかんせん人が多すぎる。
思うように道を空けられずにいた。
このままでは本当に取り逃がしてしまう。
別に実際は風紀委員ではないのであまり問題はなさそうだが、プライドの問題のようだ。
だが垣根はここで逆転の一手を思いつく。
垣根の視界に、人混みのせいで離れてしまった美琴が映ったのだ。
幸い美琴はギャルのすぐ近くにいる。

「御坂ぁ! お前から見て右に四歩、そこから前に五歩ほど進んだところにいる女!
ドギツイ金髪でケバい化粧、異常に短いスカートはいてるその見るに堪えねえギャルをひっ捕らえろ!」

垣根は決して間違えぬように、やたらと細かく情報を美琴に伝える。
その叫びを聞いた美琴はほんの一瞬だけ逡巡するような間があったが、すぐに反応した。
指示されたあたりを見てみると、垣根の言っていた特徴がぴったりと当てはまる女が一人。
美琴はダッ、と駆け出し、ギャルの腕を掴んで背中に捻って回した。
これで身動きはとれない。周りの人だかりがざわざわとうるさくなったが、気にしていられない。
ただ美琴は電撃を放ったりはしなかった。
周囲の人たちに気を使ったというのもあるが、何よりこのギャルが何をしたのかまだ分からないからである。
もし垣根の機嫌を損ねたとか、そんな下らない理由だったら解放しなければならない。
そして今日の垣根のテンションなら本当にあり得そうで怖かった。

(いやぁ、流石に大丈夫だとは思うけど……
明らかに今日のアイツはおかしいからなぁ)

「おう、よくやった御坂!」

垣根が歩いてくる。
人だかりがようやく距離をとってくれたので、道が空いていた。
垣根は美琴がギャルを捕らえているのを見て満足そうに笑った。

「で? この人は何をしたの?」

「窃盗。いわゆるスリだな。現行犯だ現行犯」

「有罪で確定?」

「ああ。ソイツの鞄の中に盗んだ財布が入ってるはずだぞ」

そう言われた美琴は確認のためにギャルの鞄を奪い、ゴソゴソとあさった。
ギャルは抵抗したが、完全に抑えられているためどうしようもない。
鞄の中にはこのギャルのものらしき財布があった。
見た目通り、財布までやたらと派手なものだったためすぐに予想がたった。
だが、その財布とは別にシンプルなデザインの黒い財布が一つ。
悪いと思いつつも、確認のため中を見てみると学生証が入っている。
それは柵川中学校の所属であることを示すもので、一人の少年の顔写真が貼り付けられていた。
当然ながらどう考えてもこのギャルの財布ではない。

「なるほど。黒ね」

「ああ。真っ黒だ。真っ黒くろすけだ」

「アンタトトロ派?」

「トトロも悪くねえが、俺は特にラピュタとナウシカ、もののけ姫を推す」

「私もその三つは好きだけど、トトロや魔女の宅急便も好きね」

「俺だって大体全部好きだぜ。だがゲド戦記、テメェは駄目だ」

「もう許してあげなさいよ……」

なんとも場違いな会話を繰り広げる二人。
だが会話しながらも美琴はしっかり能力を使ってギャルを拘束していた。
流石に先ほどの能力者たちのような相手ではないので気絶まではさせていない。
が、筋組織や生体電気の流れなどを完全に美琴に掌握されているため、ギャルは全くと言っていいほど動くことが出来ない。
サラッととんでもないことをしているが、これが超能力者である。
無論障害が残るようなことは万に一つもない。

後はこのギャルを風紀委員に引き渡せば終わりなのだが、風紀委員の姿は見えなかった。
あたりは人だかりなので誰かが呼んでいるかと思っていた美琴だが、すぐにその原因に気付いた。正確に言えば思い出した。
今美琴の隣にいる垣根が風紀委員の腕章をつけている。
だから周囲の人間は垣根を風紀委員だと思い、誰も通報していないのだ。
ならばこちらで通報しなければならないのだが、そうすると風紀委員が風紀委員に通報するというよく分からない光景が出来上がってしまう。
だがこのままでいるわけにもいかないので、美琴が携帯を取り出そうとしたその時、不意に誰かに声をかけられた。

「お前たちか、増援ってのは」

「……何してるの貴方たち?」

二人組の男女。年はどちらも垣根と同じくらいだろう。
見てみればその腕には風紀委員であることを示す腕章がある。
もしかして垣根の腕章に気付かなかった誰かが通報したのだろうか。
だとしたらありがたい。このギャルを引き取ってもらおう。
そう考えた美琴が二人にその旨を伝えた。

「なるほど、それはお手柄だったな。後はこちらで引き受ける」

「貴方たちは予定通りこっちに来てきょうだい」

「人手が足りないからな。俺もそいつを運んだらすぐに戻る」

「え?」

話が見えない。
というか今の会話から考えるにこの二人は通報があってやって来たというわけではないようだ。
誰かと勘違いされているという可能性が一番高いか。

「何ボサッとしてるの。早く来てちょうだい。
交通整備、人手が足りないって言ったでしょ。本当に応援はありがたいわ」

「こ、交通整備?」

どうやらその交通整備とやらの応援と勘違いされていたらしい。
これも垣根が風紀委員の腕章をつけているせいだろう。
外してくれると美琴としては大変助かるのだが、言っても聞いてくれないだろう。
とにかく交通整備なんて面倒なことをやらされるのは御免被る。

「あ、いや、本当は私たち……」

「了解ッ! ちょっくら行ってみようか!」

垣根はこれである。
何としてでも白井に自分を認めさせたいらしい。
普段の垣根なら交通整備なんて鼻で笑って蹴っただろうに。
垣根がやるのは一向に構わない。
だが美琴は嫌だった。何と言っても面倒くさい。
美琴は風紀委員でも警備員でもないのだ。

「な、なら私はこれで……。垣根、頑張って」

グッ、と親指を立てる美琴。
垣根を一人残し、巻き込まれないようにその場を離れようとする。
だが、突然腕をガッ、と何者かに掴まれた。
咄嗟に確認すると、やがりというべきかそれは垣根帝督だった。

(……何か、いや~な予感がするのは気のせいでありますように)

「あ、コイツも応援の風紀委員だ。迂闊にも腕章忘れちまったらしいがな」

(やっぱりぃぃぃぃぃ!!)

こういう時の嫌な予感の的中率は異常である。
恨むよ神様、と内心愚痴る美琴。別に神様なんて信じてはいないけど。
とにかく垣根は美琴を逃す気はないようだ。

「そう、じゃあついてきて。離れないようにね」

先行する風紀委員にしっかりついていく垣根。
もはや逃げられそうにない。
腹を括るか、と美琴は仕方なく決意を固めるのだった。
垣根が一人でやればいいのに、と思わずにはいられない。

「で、交通整備ってやっぱ原因はこれ?」

聞くと、先行している風紀委員が快く答えてくれた。

「そう、一端覧祭ね。毎年の恒例イベントよ、風紀委員にとっては。
後大覇星祭もね。大覇星祭の方はまだ警備員が動いてくれるから楽な方なんだけど」

「まあ、大覇星祭は部外者が入ってくるからな。それに風紀委員は競技があるしな」

別に一端覧祭の時は警備員が動かないというわけではない。
だがあくまで内部向けに開かれる一端覧祭と、外部から人を招く大覇星祭ではやはり警備の固さも変わってくる。
どうしたって後者の方に力を入れなくてはならなくなるのだ。
それにしたって大覇星祭中は学園都市のガードが一番弱くなる時なのだが。
実際、今年の大覇星祭には垣根や美琴は知る由もないがオリアナ=トムソンという魔術師の侵入を許している。

だが一端覧祭は内部のイベントなので、大覇星祭のようにガチガチに固める必要がない。
更に警備員に所属する教師たちは、各々の学校の志望率を上げるために学生より必死に準備にかかる。
風紀委員だって学生なのだから準備はあるのだが、どうしても風紀委員に仕事が押しつけられがちになるのだ。

「さて、ここよ。人の数が多いからしっかり捌いてね」

「俺を誰だと思ってやがる。任せろ」

「……ここまで来たらやってやるわよ、こんちくしょう」

風紀委員から詳しい解説を受け、やり方を早くも完全にマスターした二人。
その飲み込みの早さに風紀委員は心底驚いたような顔をしていた。
だが、学園都市の誇る第二位と第三位の頭脳にかかればこのくらいなんてことはなかった。

「凄いわね、貴方たち。じゃあ、早速お願いね!」










「……疲れた」

「なにせ数が多かったからな」

ぐったりと肩を落とす美琴。
何だかんだでもう完全下校時刻近くだ。
本当に人が多かった。一端覧祭パワー恐るべし、である。
それでも垣根と美琴はしっかりと交通整備をやっていた。
信号無視した学生に垣根が凄みをきかせたり、垣根がウィンカーをつけなかった車を能力で停止させて運転手を震え上がらせたり。
すぐ近くのコンビニから飛び出してきた万引き犯を垣根がボコボコにしたり、子供が轢かれそうになった時、むしろ垣根が車を轢いたり。

垣根は結構フリーダムだったが、美琴は至極まともに仕事に取り組んでいた。
正直いって面倒で仕方がなかったが、やると決めたことはやるタイプなのだ。
主に垣根が一部とんでもないことをしながらも、何とか仕事を完遂した二人は人通りのあまり多くない通りへ移動していた。

「アンタはまだ大丈夫そうね」

「お前だって何だかんだ言いながら全然大丈夫そうじゃねえか」

「精神的に疲れたのよ」

美琴は上条と一日中追いかけっこをしたり、大覇星祭での借り物競争で余裕の一位をとったりしている。
要するに並の女子中学生の範疇から外れた身体能力の持ち主なのだ。
そんな美琴だから、体力的には実はまだ大丈夫だった。
だが慣れないことをするのは疲れるものである。肉体的にも精神的にも、だ。

「で、どうするの? もうすぐ完全下校時刻だけど。
風紀委員の仕事も十分したんじゃない?」

「あー……たしかにな。
もう一件くらいあると嬉しいんだが。時間が時間だな」

完全下校時刻が近いということで、あれだけいた人は驚くほど少なくなっていた。
一端覧祭直前期には完全下校時刻そのものが取り払われるのだが(授業もなくなる)、今はまだ完全下校時刻は生きている。
これを過ぎると電車のような公共機関も止まってしまうため、一気に人気がなくなるのだ。
学生がいなくなれば学園都市は急に静かになる。

「御坂、時間大丈夫か?」

「門限はまだまだだし。一応大丈夫だけど」

先ほどは散々交通整備から逃れようとしていたが、もはやここまでくると美琴は開き直っていた。
いくらでも付き合ってやる、という気分だった。
いや、既に朝からもうかなり付き合っているのだが、本来なら無能力者狩りをしていた能力者を鎮圧すた時点で美琴はお役御免だったのだ。

(それに、何だかんだ言って垣根とこうしている時間はとても楽しいしね)

恥ずかしいので決して言葉にはしないが。
というより出来ないが。

「お前は門限破ってばっかだろ、最近。
たまには早めに帰った方がいいんじゃねえの?」

「う、それはたしかに」

美琴は完全にあの寮監に目をつけられている。
あの思い出しただけで体が震えるようなアレは出来れば二度と食らいたくはない。
それに、そう何度も白井に誤魔化しを頼むのも些か心苦しかった。
ここらへんで一度寮監のイメージを改善しておくのも悪くないだろう。

「それじゃ、今日はもう解散?」

「そうした方がいいんじゃねえの? 主にお前の首のために」

「いつかもげそうだしね。今日はちょっとポイント稼いどくわ」

「そうしろ。じゃあな」

「うん、またね」

別れ、美琴は寮へと歩き出した。
が、美琴はふとあることを思い出す。

(そういえば垣根、あの腕章どうするんだろう?)










佐天涙子は己の迂闊さを呪っていた。

(ど、どうしようどうしよう)

垣根と美琴が第一七七支部から飛び出した後、白井や初春が忙しそうに動き始めたので邪魔にならないように佐天も支部を出ていた。
その後、同じ柵川中学の生徒とばったり遭遇し、遊んでいた。
そしてその帰り道。
佐天はいつもの道で帰るか、近道をするかで悩んでいた。
前者は大通りを通るルートだが、遠回りで時間がかかる。
後者は路地裏を通るが、道のりではなく距離で行けるので大幅に時間を短縮できる。

ただ、路地裏を通るといってもすぐに抜けるし大丈夫だろうと佐天は思ったのだ。
学園都市は路地裏に入ると世紀末なので回避することに越したことはないのだが、佐天はそれでも後者を選んでしまった。
その結果が、現在の状況である。

「おいおいガキんちょ、ここは俺らの縄張りだぜ?」

「通りたかったら通行料払いな」

「あ、戻るにしても通行料かかるからそこんとこよろしく。体での支払いも可」

佐天涙子は壁に背を向けている状態で、三人のスキルアウトに絡まれていた。
背は壁に預けているので後ろに下がることは出来ない。
そして三人に前、右、左と囲まれているため正に八方塞だった。

風紀委員や警備員に通報しようにも、この状況で通報など出来るわけもない。
大声で悲鳴をあげれば誰かが来てくれるかもしれないが、佐天の体は恐怖で思うように動いてはくれない。

(御坂さん、白井さん、固法さん……)

佐天は朝の会話を思い出す。
美琴が、白井が、固法が自分を守るとそう言ってくれていた。
きっと、言えばすぐに駆けつけてくれるだろう。
だがそもそも連絡することが出来ない状況に彼女は置かれていた。
仕方ないとは思う。彼女たちとて、一日中自分にべったり張り付いているわけではないのだから。
だが、今はそれがどうしようもなく致命的だった。

「おいおい、何黙ってんだこっち向けオラァ!」

「ひっ」

一人のスキルアウトが佐天の髪を乱暴に掴み、強引に引っ張る。
強い痛みに目を固く閉じて耐えながら、彼女はもう一度自分の迂闊さを呪った。
そもそもこんな路地裏に入らなければこんな状況はなかったのだから。

「何の力もねぇ奴は、大人しく俺たちの犠牲になってりゃいいんだよ!
弱ぇ奴にあれこれ言う資格はねぇ!」

スキルアウトのその言葉に、佐天の何かが反応する。
聞き逃せなかった。だから黙っていれば安全だったかもしれないのに、彼女は言う。

「……がう」

「あぁ?」

「違う、って言ったんです」

体が震える。怖い。それでも。

「あなたたちは強くなんてない! 人の強弱を決めるのは力の強さなんかじゃない!
力が強い人なんて学園都市にはたくさんいる。でも、本当に強い人はそういない。
ただ力を振りかざすだけのあなたたちは……弱い!」

これが、佐天涙子が『アイテム』に攫われた時、絹旗最愛とのやりとりを通じて学んだことだった。
何故御坂美琴があれほど慕われているのか。ただ超電磁砲という圧倒的な能力を持っているからだけなのか。
それは違った。彼女は心が強い。
他人を思いやることが出来る。自分と違う相手を理解しようとすることが出来る。
だからこそ御坂美琴は強いのだ、と。佐天はそう考えた。

そして、佐天がこれだけのことを言うのにどれだけの勇気が必要だっただろう。
どんな理屈を並べても、彼女が無能力者であることは変わらない。

どんなに踏ん張ったって彼女には一〇億ボルトオーバーどころかその一万分の一の電撃だって出せないし、右手には異能を消す力なんて宿っていない。
この世に存在しない物質を生み出すことも、一一次元を介し物体を転移させることも、ベクトルを逆向きにして『反射』することも出来ない。
静電気一つ発生させられないのが佐天の現実だ。
だから、

「きゃっ!?」

「ずいぶんと舐めた口をきくじゃねぇか、アァ!?
もう容赦しねぇぞこのクソアマが!!」

スキルアウトの振るう薄汚い暴力一つで、屈服させられてしまう。

ところで、佐天涙子は何とも巻き込まれやすい体質を持った少女である。
幻想御手事件の時も、幻想御手を使用した時も、『アイテム』に誘拐された時も、そして今も。
だが同時に、佐天涙子は何とも幸運に恵まれた少女でもある。
幻想御手事件の時も、幻想御手を使用した時も、『アイテム』に誘拐された時も、そして今も。
最後には必ず、どこからか救いの手が伸ばされるのだから。
白井黒子に。御坂美琴と初春飾利に。御坂美琴に。そして、

「……何、これ」

佐天が思わず呟いた。
何か、得体の知れないものが宙を舞っている。

「何だぁこりゃ?」

スキルアウトたちも呟いた。
ヒラヒラと、何枚もの純白の羽が宙を舞っている。
この汚れた学園都市の路地裏にあって、美しい光景だった。
羽の枚数はどんどん増えていく。幻想的な嵐の中、佐天は腕を伸ばした。
佐天がその羽の一枚を手で掴む。するとその羽は光の粒子となって消滅していった。
その時。

……ザンッ!! と。無数の輝く純白の羽を散らしながら。
一人の青年が、空から勢いよく降り立った。




「―――……よく言った」




美しき純白の嵐の向こうで、青年が口を開く。
その姿に佐天は見覚えがあった。今日、会ったばかりだ。
朝、あの風紀委員第一七七支部で。

「後は俺に任せて下がってろ佐天涙子。目もつぶっておけ。
―――とりあえず死体決定だクソ野郎共」

投下終了
車を轢く垣根くんマジパネェ

    次回予告




(俺が望んでこんな力を持ったと、本気でそう思ってやがるのか)
『スクール』のリーダー・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「え? だって、慰めてくれてるんですよね?」
学園都市・柵川中学の無能力者(レベル0)の学生―――佐天涙子




「え、いや、あの、その、えぅ、っと……」
学園都市・常盤台中学の学生・美琴の友達―――泡浮万彬



ていとくん、風紀委員ライフを満喫してやがる・・・ww

乙っす
垣根くんマジで風紀委員になっちゃいなYO

待たせたなお前ら!!
……いやちょっとマジですいません。思ったより遅くなってしまいました。
どうしてこうなった

>>193,>>194
垣根が風紀委員になったら面白いですよね
それだけでその学区の犯罪は半減しそうです
誰かこの設定でSSを書くんだ! 間に合わなくなってもしらんぞー!!

垣根帝督はこの手の連中が気に入らなかった。
ただ弱者を甚振って愉しむのは、下衆い三下のやることだ。
だからこそ垣根は敵対する者であっても目的の障害にならない小物は見逃すのだ。
朝、風紀委員を返り討ちにした能力者と戦った時もそうだ。
垣根は本来あの能力者を殺していてもおかしくなかった。
殺さなかった理由としてはあの場に美琴がいたこと、そして圧倒的なまでの格下だったからだ。

と言っても、垣根は今のように絡まれてる人間を見る度に助けるような人間ではない。
この手の連中は気に入らないが、大抵誰かが絡まれていても無視する。
それが垣根帝督という人間だ。絡まれている人間がどうなろうと垣根には関係はない。
だが今のように、今朝のように、一度そういう連中と敵対することを選べばそこに一切の容赦はなくなる。
なにせ相手は救いようのないクズ共だ。気にかけてやる必要なんてない。

(救いようのないクズって点では俺も同じだがな。
さっきあの女が言った基準に則って考えれば、俺も弱者だろうよ)

垣根はたしかに小物は見逃す。
だが逆に言えば小物でなければ殺すし、また小物であっても目的を邪魔するのであれば躊躇いなく殺す。
また仕事で殺すよう言われれば、やはり小物でも殺す。
つまり、垣根は佐天の言う弱者ということになるだろう。
だが、それでも構わない。
自分はヒーローなんてなった覚えも名乗った覚えもない。どうしようもない外道だと自分で認めているのだから。

垣根帝督はその右腕を振るった。
すると一体どんな非常識が働いたのか、突然一人のスキルアウトの肩口から血が噴出した。
悲鳴をあげるスキルアウト。残りの二人も何が起きたのか分からず戸惑っている。

一応確認してみれば、佐天は言いつけ通りしっかり目を閉じていた。
だがやたらと目に力が入っている。
きっと怖いのだろう。今目の前で何が起きているのか見てしまうのが。
いきなりスキルアウトの悲鳴が聞こえたものだから仕方ないと言える。

垣根は身を低くして一人のスキルアウトの懐に素早く潜り込んだ。
男が反応するより早く、垣根の掌底が男の顎を下から突き上げるようにとらえた。
全く反応出来ずに吹き飛ばされるスキルアウト。
その歯は何本か折られていて、口周りが真っ赤に染まっていた。
男はそのまま蹲り、動かなくなってしまった。

残り一人。
垣根の冷たい目が、最後の男を映す。
男は金縛りにあったかのようにぴくりともしない。
おそらく恐怖のあまり言葉さえ発せないのだろう。

そんな男の顔面を、垣根の掌底がグシャッ、という音と共にとらえた。
鼻の骨を折ったたしかな感触を掌に覚える。
男が咄嗟に鼻を手で覆った瞬間、剥き出しになった腹に膝蹴りを食らわせた。
男はエビのようにくの字に折れ曲がり、倒れこんだ。
だが垣根は攻撃の手を休めない。その頬を力の限り殴り飛ばす。

「げほ、うぇっ……」

うめき声をあげて転がる男。
垣根は容赦なくその男の顔面を踏みつけようとした。が、

「も、もうやめてください!」

突然佐天涙子が飛び掛ってきた。
不意のことに思わず体勢が崩れる。

「おわっ!?」

「もうやめてください! もう十分です!」

佐天が必死に垣根の腕を引っ張ってそう訴えてくる。
見ると、佐天は泣きそうな顔をしていた。
なんでそんな顔をするのか垣根には分からなかった。
自分が怖いのかと思ったが、それなら何故自分にしがみついているのか分からない。
だがとにかく佐天涙子は必死だった。それだけは伝わってくる。

「……分かったから離れやがれ」

既にスキルアウトは全員倒れている。
たしかに十分と言えば十分かもしれない。
なんとなくまだすっきりしていない部分はあったが。
どちらにせよ佐天に見られているこの状態では殺す、というのは無理があるだろう。

「怪我、してねえか」

「はい。あの、助けてくれてありがとうございます」

ニコリと笑う佐天。
美琴やインデックスの笑顔と同様、全く邪気の感じられない純粋な笑い。
思わず垣根は顔を背けてしまった。
どうもこの手の笑顔は刺激が強すぎる。

「別にお前を助けたわけじゃねえ。この手の手合いが大嫌いなだけだ」

「ツンデレってやつですかねぇ」

「潰すぞ」

ははは、と明るく笑う佐天。
そんな彼女の姿に思わず舌打ちする。
からかうのは好きだが、からかわれるのは趣味ではない。
何とも自分勝手なことだが、事実そうなのだから仕方ない。

「お前、無能力者なんだろ。なんでこんな路地裏に入った。
学園都市の路地裏は世紀末。知らないとは言わせねえ」

「……あはは。ちょっと近道をしようと思って。
危ないとは思ったんですけど……やっぱり危機意識が足りませんでした」

そう言って、佐天は黙り込んでしまった。
垣根も何も言葉を返さなかったため、二人の間に微妙な沈黙が流れる。
だが見てみれば佐天は何かを言おうとしているようだった。
だが一歩踏み出せないのか、言葉がまとまらないのか、中々言い出せないでいる。
それを感じ取った垣根は、何も言わずに黙って佐天の言葉を待った。

「……垣根さん、は」

決心がついたのか、佐天がポツリと呟いた。

「能力者、なんですよね」

「ああ」

「それも、結構高位の」

「……ああ」

素直に認める垣根。
流石に第二位ということまでは話す気はないが、この程度問題ないだろう。
超能力者は学園都市に七人しかいないので、基本的に高位能力者と言ったらそれは大能力者を指す。
だが何故こんなことを聞くのか。
やはり無能力者だから、というコンプレックスがあるのだろうか。
実際、彼女は過去にミスを犯しているから。

「幻想御手って知ってます? 使うだけでレベルが上がるっていう。
私、あれ使っちゃったんですよ。御坂さんや白井さんみたいに力がある人に嫉妬しちゃって。
……結果は、散々でしたけど」

知っている。
佐天が『アイテム』に攫われた時、佐天に関する情報を上層部から渡された。
そのデータの中にあったのだ、幻想御手の使用履歴が。
やはり無能力者は超能力者のような高位能力者に憧れるものなのだろう。
その気持ちは理解出来る。垣根もこれまで数え切れない程の妬みを受けてきた。
だがその度に、垣根帝督はこう思うのだ

(俺が望んでこんな力を持ったと、本気でそう思ってやがるのか)

望んでなどいない。
どこの物好きが好き好んでこんな化け物になるというのか。
たしかに垣根帝督という人間を支えているのはその圧倒的な力だ。未元物質という唯一無二の能力だ。
だがそれは、化け物になってしまった以上それしか縋るものがなかったというだけで。
もし垣根がこんな力を持っていなければ、彼はどこにでもいるような平凡な学生でいられたのかもしれない。

「別に今はもう能力への執着は……ないと言ったら嘘ですけど、ほとんどありません。
能力なんかより大切なものに気付けたから。でもそれでもまだ時々思っちゃうんですよ。
もし私が超能力者だったら、もっと何か変わってたのかなって」

それも、佐天にとっては考えずにはいられない話だった。
絹旗と話した時、彼女は無能力者には決して分からない超能力者であることの悲劇を悟った。
この街の『闇』の片鱗を垣間見た。
真の強さというものを知った。
でも。ここまで来て、それでもそう考えてしまう自分にいい加減嫌気が差す佐天だった。
全く学習していないじゃないか、と。

「いいんだ」

唐突に、垣根が言った。

「え……?」

「無能力者で、いいんだ。下から上を見上げて吠えているのが一番いい。
超能力者なんていいものじゃねえ。お前が思ってる何倍も酷いもんだ。
毎日毎日イカれた実験に付き合わされ、薄汚ねえ仕事ばっか回され、大事なモンは全部壊される。
お前はそんなヘドロの底に行きたいのか? 必死に努力しても、行き着く先が掃き溜めなんだぞ」

それは垣根の実体験だった。
もう二度と思い出したくないような思いを何度もした。
心が砕けてしまいそうになるほど辛い思いだってした。
学園都市の『闇』は、かつて垣根の想像していた以上に深かったのだ。

「……以前の私は本当に視野が狭くて。
でも今は自分なりに分かってるつもりです。超能力者には、無能力者には分からない苦しみがあるってこと」

「そうか。まあ気にするな。七人しかいない超能力者と違って、無能力者は住人の六割。
珍しくもなんともない。恥ずかしがることもねえよ。……能力者にこう言われても、難しいと思うが」

「いえ。ありがとうございます」

「は?」

「え? だって、慰めてくれてるんですよね?」

「何だその愉快な勘違いは?」

「えー、慰めてますよ」

「ならもう何も言わねえ!」

ははは、と笑う佐天の顔を見て、思う。
多分この少女はとっくに乗り越えている。
本当に大切なのは能力なんかじゃないと気付いた、と言っていたから。

(そう。能力なんかより大切なものがある……。
そう思えた時点で、テメェにはまだまだいくらでも救いがあるんだ)

全てを失い、能力以外に自分の支えになるものがなかった垣根と違って。

「あ、風紀委員に通報しないと」

佐天が倒れている三人を指差して言った。
このまま放置、というのも悪くないとか考えていた垣根だが、どうせならこれまでのことを白井に報告してやりたい。
垣根は携帯を取り出し、美琴から聞いた白井の番号にかける。
ピリリリ、というコール音が数秒鳴ったところで、白井の特徴のある声が聞こえてきた。

『はい、もしもし』

「白井か? 佐天に絡んでるチンピラ三人のしたから、風紀委員の回収部隊回せ」

『あら、垣根さん? お話は聞いてますわよ。
朝話していた能力者を捕まえただけではなく、スリの犯人を逮捕し、交通整備にも協力したとか。
しかも今度は佐天さんを助けた、と。……ふむふむ。正直かなり見直しましたわ、垣根さん』

ついに白井に自分を認めさせた。
このためだけに今日一日あちこち走り回ったのだから。
自然と顔がニヤけてしまう。

「ようやく俺の凄さが分かったかコラ」

『ええ。風紀委員は務まらない、という発言も撤回させていただきますの。
貴方、やっぱり風紀委員になりません?』

「あ、それは遠慮するわ」

あっさりと辞退する垣根。
何と言うか、白井に認めさせるという目的を達成した瞬間はテンションが上がったのだが、すぐに頭が冷えてきた。
異常に高かったテンションが急速に下がり、今日の一連の行動が冷静に思い出される。
思い出してみれば、まさに柄でもないことばかりやっていた気がする。

(だぁぁぁぁぁ、ちくしょう! 正直言ってこれはかなり恥ずかしい!)

ここの場所だけをさっさと伝え、一方的に通話を切断する垣根。
恥ずかしい。まるで中二病に罹っていたころの黒歴史を思い出して悶絶するようなものだ。
垣根は左腕につけていた腕章を外す。よくもまあこんなものをつけていられたものだ、と自分に感心する。
その腕章をずい、と佐天に突き出して、

「これ、あの花畑に返しといてくれ。あいつのだから。俺はもう帰る!」

「花畑って……初春の? って、帰っちゃうんですかー!? まだちゃんとお礼言ってないのにー!」

佐天の叫びを無視して、垣根はどこかへ消えてしまっていた。
そして垣根は自宅へ一直線に向かっていた。

(クソッ、なんて黒歴史だ。俺のキャラじゃねえっつの)

今日一日やったことは主に人助けなので、誇っていいはずだが。
残念ながら垣根帝督はそういう人間ではない。
ここに来てドッ、と疲れを感じる。美琴はこれと同じ疲れをあの時に感じていたのだろうか。
慣れないことをするのはやはり疲れるものである。肉体的にも精神的にも、だ。

がっくりと肩を落とし、まるで給料を落としたサラリーマンのような雰囲気を醸し出しながらとぼとぼ歩く垣根。
そんな垣根の視界に、もういい加減にしてくれと本気で言いたくなる光景が飛び込んできた。
一人の女子生徒にガラの悪いチンピラが絡んでいる。おそらくはスキルアウトだろう。

今さっきこんな光景を目撃して解決してきたばかりである。
いくらなんでももう少しインターバルがほしいと思わずにはいられない。
何のフルコースなのだろうかこれは。

その女子生徒をよく見てみれば常盤台の制服を着用している。
常盤台のようなお嬢様学校の生徒は目をつけられやすい。
あの学生は運がなかった、ということだろう。
ただ常盤台生ということは強能力者以上のはずなのだが。
強能力者といえば十分に派手な戦闘が行えるレベルだ。スキルアウトを追い払うくらい造作もないことだと思うのだが。

(戦闘に向かない能力なのか、あるいは人に能力を使えないとか日和った考えしてんのか。
……なんかこの状況と俺のこの思考にデジャヴを感じるぞ)

少し考えて、思い出す。
そういえば前にこの学生と同じチンピラに絡まれていた常盤台生を助けたことがあった。
あの学生も能力で追い払おうとはしていなかったはずだ。
やはり本物のお嬢様というのはああいう実に平和的な考えを持ち合わせているようだ。
垣根からすれば自衛すらろくに出来ないというのはいかがなものか、と思うのだが。
常盤台では護身術も教えているのだが、全く使う様子がない。
もしあの学生が非暴力を貫けばどうなるか分からない。だが、

(俺には関係ねえな)

こっちやけにテンションがあがって一日風紀委員などやったばかりで、疲れきっているのだ。
もう今の垣根は風紀委員ではない。いや、もともと違うのだが、とにかく風紀委員と自称していない。

どころかガラでもないことをしたとそれを黒歴史認定したばかりである。
更にはついさっき似たような状況に陥っていた佐天を救出しているのだ。
流石にもう御免被りたい。

…………。

「……オイコラ。通行の邪魔だ、どけ。
盛ってんじゃねえぞ猿が。目障りなんだよ」




「ありがとうございます! 本当になんとお礼をしたらいいか……。
あ、あの、わたくし泡浮万彬といいます」

「別にいいけどよ、何でアンタ自衛しねえんだよ。最低でも強能力者はあるんだろ?」

髪を三つ編みにした常盤台生―――泡浮万彬はペコペコと垣根に頭を下げていた。
垣根はそれを軽く流し、疑問をぶつける。

「あ、はい。強能力者です。流体反発(フロートダイヤル)っていうんですけど……」

「へえ。聞いたことねえな。どんな能力だよ、聞かせてみろ」

「自分とその周囲の浮力を増減させるという能力です。ちょっと分かりづらいですよね」

「……中々面白え能力じゃねえか。ならなんでそれを使わなかったんだよ」

簡単に言ってしまえば重力操作のようなものか。
増減させる、ということは浮力を増加させれば重圧攻撃のようなものも可能だろう。
また自身の浮力を軽減させればジャンプで何mもの跳躍も出来るはずだ。大能力者くらいになれば擬似的な飛行くらいは出来そうだ。
車や巨大な鉄塊であっても浮力を軽減させれば投げることも可能。肉体強化的な側面もありそうだ。
やはり中々に面白い能力だと思う。これだけの力ならば先ほどのチンピラから逃げることも倒すことも出来たはずだ。

「なんというか、わたくし喧嘩したことがなくて。それどころか怒ったこともないんです。
ですからああいう悪意を向けられた時どうすればいいか分からなくて……」

「簡単だよ。叩き潰して身の程を思い知らせてやりゃあいい」

「そ、そんな、出来ません!」

どうやら本物のお嬢様らしい。
そうやって遠慮して自分の身が危うくなったらどうするつもりだったのか。

「まあお前の好きにすりゃあいいさ。危ねえ考えだとは思うがな。
んで、お前ん家って当然常盤台の寮だよな? 送ってってやる」

「え、いや、あの、その、えぅ、っと……」

「頼むから言葉を話してくれ。そんなうめき声じゃ何言ってっか分かんねえ」

「あ、すみません。えと、そんな迷惑をかけることは……」

「気にすんな。もうここまで来たら乗りかかった船だ」

垣根がそう言うと、泡浮は僅かに顔を赤らめた。
思い出したようにバッと顔をあげ、垣根に問う。

「あの、お名前を伺っても……?」

「ただの通行人Bだ。常識の通用しねえ送迎を、見せてやるよ。
目ェ瞑れ。絶対に開けんな」

そして二言三言交わした後、垣根は翼を広げ固く目を瞑っている泡浮を抱えて夜の学園都市を飛んだ。










交通整備を終え、垣根と別れてすぐ。
御坂美琴はまっすぐ寮へと向かっていた。
彼女はここ最近の日々に非常に満足している。
新しい友人、いや親友が増え、毎日のように馬鹿みたいに騒いで過ごす。
そんな毎日が送れていることに感謝していた。誰にかは分からないが。

今日というか、今日も上機嫌な美琴は鼻歌でも歌いだしそうな様子だった。
だがよく上条と遭遇する公園―――札を飲み込む自販機のある公園だ―――まで来た時、彼女の足がピタリと止まった。
そこに知り合いの姿を見受けたからだ。

「やっほー。こんなとこで何してんの?」

美琴が声をかけた相手は妹達だった。
首にネックレスがあることから、一〇〇三二号だろう。
彼女は美琴の呼びかけに反応し、応答した。

「こんにちはお姉様。ミサカはただ散歩をしていただけです、とミサカは返答します」

「アンタ散歩とかして大丈夫なの?」

「体のことでしたら調整は受けているので問題はありません、とミサカは言葉を返します」

「ならいいけどさ。体は大事にしなさいよ」

「あのカエル医者が必要以上に気を回してくれているので心配ありません、とミサカは彼への感謝の気持ちを口にします。
それよりも道行く人にお姉様と間違えられるのですが」

それは仕方のないことだった。
遺伝子レベルで同一である美琴と妹達は間違えられて当然だ。
加えて美琴は有名人であるため、なおさらその率は高くなるのである。

「まあ仕方ないわよ。双子だと解釈してくれるでしょ。
それより、アンタももう帰りなさい」

「ミサカは丁度これから帰るところでした、とミサカは説明します。
明日の約束はちゃんと守ってくださいね、とミサカは念押しします」

「分かってるわよ。そんな何度も念押ししなくても忘れないって」

笑顔でそう返す美琴。
明日は美琴は御坂妹と遊ぶ予定だった。
約束をしたのはずいぶんと前だが、何だかんだで先送りになっていたのだ。
御坂妹はよほど楽しみにしてくれているのだろう。
あれから何度も釘を刺されている。

(なんかずいぶんハードル上がっちゃったなぁ。
ちょっと不安になってきた……)

美琴が考えているプランは特別大層なものではなかった。
ただちょっと買い物をして、ご飯を食べる。そんなものでしかなかった。
だが目の前でソワソワと体を動かし、こころなしか少し目も輝いている遠足前の子供のような御坂妹を見ると、少々罪悪感を感じる美琴。

(ま、まぁ気持ちが大事、よね? …………そうよね?)

気持ちならバッチリだから問題ない、と自分に言い聞かせる美琴。
結局御坂妹と別れ寮へと帰り、寝る時まで不安な心を消し去ることが出来なかった美琴だった。

投下終了

頑張って完結させるよ! 別にフラグでも前フリでもないよ!

    次回予告




「なるほど……気付いてしまったわよ。発想の勝利ね」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「ただ、この目玉焼きはどう処理するべきなのでしょう。
そのまま食せばいいのか、それとも黄味を割ってハンバーグにまぶすべきか。
どちらがより正しいのでしょうか、とミサカは二つの考えに板挟みです」
欠陥電気(レディオノイズ)・御坂美琴の生体クローンであり妹―――ミサカ一〇〇三二号




はははフラグ立てちゃってまぁイケメルヘンめ


こういう垣根好きだぜ!

垣根はゲイ

こんな時間ですが、投下します

>>230
イケメンは正義ですw

>>235
そう言っていただけると嬉しいです
そろそろ垣根も変わってきますが……

>>236
なん……だと……?

レスありがとうございます
感想もらえるとやる気のあがる単純な>>1です
では投下

お姉ちゃんと妹と。

翌日、一〇月二四日午前一一時三〇。
今日は月曜日だが、この土日月は三連休なので問題はない。
御坂美琴は昨日御坂妹と出会った公園へやってきていた。
待ち合わせ時間は一二時だが、楽しみにしてくれていたようなので、三〇分前でももう来ているかもと思ったからだ。
美琴本人も妹と存分に遊べる今日という日を、不安と同時に楽しみにもしていた。
常盤台というお嬢様学校にいることもあってか、時間にルーズではない美琴は絶対に遅刻をしない。

「こんにちはお姉様、とミサカは昼の挨拶をします」

美琴の予想通り、御坂妹は既にやって来ていた。
三〇分前行動と言うのはいささか早すぎる気もしたが、美琴も上条関連ではそれくらい、いやもっと早く動いている。
だがそれを認めることは出来ない。彼女はツンデレだからである。

「よーっす。アンタちょっと早くない?
まだ時間まで三〇分もあるけど」

「お姉様も早いじゃないですか、とミサカは本当は一時間前から待っていたことを巧みに隠しながら切り返します」

「いや、全く隠せてないからね?」

「しまった、とミサカは嘘をつけないこの口調に嘆いて見せます」

「でも、一時間前……一一時から待ってたのアンタ?
それはまぁ、待たせて悪かったわね」

「いえいえ、ミサカはただ飲み物を買いに来ていただけです、とミサカは昨夜楽しみでソワソワしていたことを隠し切ります」

「うん、だから全く隠せてないって」

「シット!!」

「!?」

突然豹変した御坂妹に驚きながらも、そんなに楽しみにしてくれていたことに喜びを感じる美琴。
こう言われて悪い気がする人はまずいないだろう。
笑みを浮かべながら、頭の中で今日のスケジュールを確認する。
一つ目は、

「それじゃあ行きましょ。まずはセブンスミストね」




―――第七学区の大型スーパー、セブンスミスト

二人は衣服類の売られている四階にいた。
いつだったか、以前垣根と上条を入れて三人で来たところだ。

「ところで、ミサカの衣装はこの制服なのですが他に買う必要はあるのでしょうか、とミサカは疑問を投げかけます」

「私は校則があるから駄目だけど、アンタたちは自由でしょ。
その制服もいいけど、もっとオシャレしてみなさい?」

「ですが、お姉様のセンスだとミサカには少々合わない可能性があります、とミサカは不安を露にします」

「やかましいわッ!!」

自らのクローンにまで馬鹿にされた美琴。
最近ルームメイトがゲコ太グッズを集める美琴を、生暖かく見守っていることには気付いていない振りをしている美琴である。
彼女にはあの視線はキツかったのである。
今までのように、ため息をついて「まぁたですの?」と呆れられるのならまだ良かった。
しかしあの、何も言わずに送られる生暖かい視線は何よりも美琴にダメージを与えているのであった。

「なんで分かってくれないかなぁ?
あんなに可愛いのに……」

「安心してください、ミサカはゲコ太趣味に理解のあるミサカです、とミサカはミサカの中でも様々な趣味嗜好を持つミサカがいることを仄めかします」

「……そっか。うん、良かったわよ」

美琴がそう言ったのは御坂妹がゲコ太趣味に理解があるということに対してではない。
様々な趣味嗜好を持つ妹達がいるということだ。
以前も感じたことだが、やはり全ての妹達は個性を持ち、日に日に人間らしくなってきている。
それが、やはり嬉しく感じられるのだ。
生まれた時は定規で計ったように体重も、身長も、見た目も、何もかもがぴったりと一致していた。
だがその後の生活次第で彼女たちは『自分』を手に入れている。

星占いで転職のチャンスを得る妹達もいれば、あらゆるミサカを押しのけ超AB型であると宣言する妹達もいる。
どころかAB界の覇者を目指す妹達すら存在する。
彼女たちはもう、明らかに人形ではない。

ただ、この時彼女は何か胸につっかかりを覚えた。
御坂妹が「自分はゲコ太に理解がある、妹達には個性がある」と言った時だ。
そのつっかかりが何なのか、この時彼女はまだ気付かなかった。
気付くことは出来なかった。
この後、もう一度つっかかりを覚えることになるのだが、その時もその正体に気付くことはない。


結果、彼女は最悪な思い出し方をすることとなる。


「ところで、アンタはこんな服が着たい~とか、そういうのないの?」

「お姉様に一任します、とミサカはお姉様に丸投げします」

「うっ……責任重大ね、これは」

美琴は大量に掛けられている服をひとつひとつチェックしていく。
何か絶対に失敗できないプレッシャーを感じる。

(私のセンスで選ぶのは……駄目なんだろうなあ、多分)

既に美琴が「良いな」と思える服は何着かあった。
だが、それはあくまで美琴のセンス。白井や佐天は微妙な反応するんだろうな、と思えるデザインだった。
つまりそれは客観的に見て子供っぽいのだろう、と美琴は判断する。
彼女とて成長しているのだ。胸囲を除いて。

しばらくして、佐天や白井の言っていたことを参考にしながらようやく美琴はある一着に目をつけた。
おそらく馬鹿にされることはないであろう、御坂美琴イチオシの一着である。
それを手に持ち御坂妹に見せる。

「どうよ? この美琴サマが苦心して選んだものよ!
絶対似合うと思うわ」

というか、見た目が全く一緒なのでそれは美琴が着て似合うなら御坂妹にも似合うということだ。
逆に言えば、御坂妹に似合う服は美琴にも似合う服、ということになる。

(……ハッ! ならゲコ太パジャマや子供っぽいと言われるものでも、私に似合うんだからこの子でも似合うんじゃ!?)

御坂美琴、閃く。
ゲコ太ものの服が自分に似合っていると思っているらしい。
脳内でゲコラー量産計画を展開し始める美琴。
傍から見ればどう見たって無理のある服装なのだが。
それは白井や以前の垣根の反応からも推し量ることが出来る。

美琴の差し出した服を見た御坂妹は、しばらくジーッとそれを見つめていたが、やがて口を開いた。

「正直、お姉様にこれほどまともなものを選べるとは思っていませんでした、とミサカは隠しもせずに本音を吐露します」

「……おい」

そこまで壊滅的なセンスではない。
といっても、常盤台は制服着用が義務。

美琴がこうして服を買う機会はあまりないので、多少センスがないのは仕方ないのかもしれない。
もっとも、彼女はセンスがないというよりお子様趣味なだけだが。

「ま、とりあえず試着しなさいよ。
…………おい、何してんだアンタ?
ちょ、ちょっと待ったここで脱ぐんじゃないわよこの馬鹿ぁ!!」

あろうことか御坂妹はその場で服を脱ごうとしてしまった。
恥じらっている様子は一切なく、一目も全く気にしていない。
既にスカートが腰のあたりまで下ろされていて、縞々模様のパンツが丸見えになっている。
顔を赤くした美琴が慌てて御坂妹のスカートを戻す。
こんなところで堂々とトリップショーされたらたまったものではない。

(私と同じ顔して……。
個性が芽生えてると言っても、こういう常識はまだ欠けてるところがあるみたいね)

不思議そうな顔をしている御坂妹を半ば強引に試着室へと押し込み、着替え終わるのを待つ。
美琴自慢の選択だけに、早く見てみたかった。
少し経つと、御坂妹の着替えが終了したようで、ついにお披露目タイムがやって来た。

「お待たせしました、とミサカは僅かな緊張を隠せません」

カーテンが開かれ、指をモジモジさせている御坂妹が現れた。
彼女が着用している服は上はほんのりとピンクがかったブラウスで、襟の部分には花柄の刺繍がいくつかあしらわれている。
下は上より少し濃い程度の淡いピンク色のスカートだ。
はっきり言って、めちゃくちゃ似合っていた。

(わぁお……)

これは想像以上だ。
少し見惚れてしまったが、これは考え方によってはナルシストになるのではと気付き、頭をブンブンと左右に振った。

「う、うん。似合ってるわよ、ホントに。想像以上ねこれは」

「……その発言は遠まわしに自らを褒めているのですか、とミサカはお姉様がナルシストであるという新発見をします」

やはり突っ込まれた。

「違う違うッ! そういうつもりで言ったんじゃないわよ!
ていうか、そんなこと言ったらどうアンタたちを褒めればいいのよ!?」

必死に否定しながらも、先ほどの考えを思い出す美琴。
自分と全く同じ姿形をしている御坂妹がここまで似合っているのだから、自分がこの服を着ても似合うのでは?

「なるほど……気付いてしまったわよ。発想の勝利ね」

それほど捻った発想でもない、というかむしろ当然の発想なのだが、美琴は不敵に笑う。
そんな美琴を見て、御坂妹が美琴を可哀想な人を見るような目で見ていたのは内緒である。
それを言ってしまったら一四歳の乙女の心に傷を残してしまう。
言葉は時として刃になるのだ。

「む……」

その時御坂妹のお腹がグゥ~と音をたてた。

「……お腹減ってるの?」

「どうやらそのようです、とミサカは自身の体が栄養素の摂取を求めていることを報告します」

仕方ない、と息ついた美琴は元の服に着替えた御坂妹を連れてレジへと向かう。
本当はもっと色々な服を選んであげたい美琴だが、彼女が空腹なようなので切り上げることにしたのだ。
先ほど御坂妹に試着させた服を“二着”購入する。

「はいこれ。大事に着なさいよね。
正直今の季節これだけじゃ寒いだろうけどね」

「プレゼントしていただけるのですか、とミサカは内心のドキドキを隠せません」

「そのために買ったんじゃないの」

「ありがとうございます、とミサカは……ふにゅ」

下手糞な笑顔を浮かべる御坂妹。
何だかんだで美琴に服を選んで、そして買ってくれたことが嬉しいのだろう。
それを見て、本当の妹や娘に向けるような柔らかい笑顔を見せる美琴。
妹達の喜びは美琴の喜びだ。

「別にそんな程度だったら、いつでも買ってあげるから。
ほら、行きましょ」

美琴は“妹”と手を繋ぎ、歩き出す。
彼女の手は温かかった。人の温もりが感じられる。
笑顔を浮かべる二人は、誰が見ても姉妹だった。










彼女たちは同じ第七学区にあるとあるファミレスにいた。
店内には流行の曲がかかっていて、客もそれなりに入っているいたって普通のファミレスである。
関係ないことだが、こうしたBGMというのはその選曲によって客の行動に影響を与えるらしい。
テンポの遅い早いだったり、音量の大きい小さいだったり、クラシックだったり。
それによって客の滞在時間などが変わったという研究結果がある。

さて、何故二人がここにいるのかといえばそれは御坂妹が要望したからだ。
最初、美琴は「せっかくなんだから美味しいものを食べさせてあげたい」と思い、少々高級な店へ連れて行くつもりだった。
だが御坂妹は道中にあった一軒のファミレスに目を奪われ、ジーッとそのまま動く様子がなかったので、仕方なくここにしたというわけだ。

「で、本当にこんなファミレスでいいの?」

美琴は先ほどからずっとメニューを見つめている御坂妹に声をかける。
品数の多さに悩んでいるようだ。

「構いません、ファミレスというものに興味があります、とミサカはメニューを凝視しながら答えを返します」

「アンタ、ファミレス来たことないの?」

「はい。今回が初めての体験です、とミサカは目玉焼きハンバーグに決めました」

「散々頼んで結局頼むのは超王道かい。
……でも来たことないのね」

ファミレスに来たことがない、という返事に少々驚きはしたものの、美琴はすぐに考えを切り替えた。
彼女は今日始めてファミレスを経験する。おそらく彼女たちはまだ知らないもの、経験したことのないものがたくさんあるだろう。
だが、これから少しずつ色んなことを知って、経験していけばいい。彼女はそう考えたのだ。

(そして、出来れば私がその手助けをしてあげたいな。
この子たちがもっと世の中のことを知っていけるように)

彼女たちはまだ知るべきことがたくさんある。
こうしている現在も、御坂妹は早速運ばれてきた目玉焼きハンバーグを絶賛経験中だ。

「ふむふむ……。ファミレスの料理ということを考えれば、これは中々のものですね、とミサカは冷静にジャッジを下します」

「ファミレス初めてなんじゃないの?」

「実際に来るのは始めてですが、ファミレスそのものやその料理に関する知識は学習装置(テスタメント)によってインストールされています」

「いやいや、そんな知識学習装置使ってまで入れる必要あるの?」

「それだけではありません。ハンバーガーの頼み方からキャッチセールスの断り方まで習得済みです、とミサカは自己の優秀性をアピールします」

「なんでアンタの知識はそう偏ってるかな……」

もともと妹達は絶対能力進化計画のために量産された。
最初に作られたのは超能力者量産計画の時であるが、これはすぐに中止されている。
学習装置を使うのはクローン体として生まれた妹達は会話も歩行もままならないからである。
だが、どう考えたって絶対能力進化計画においてキャッチセールスの断り方やら紅茶の正しい入れ方やらが必要になるとは思えない。
一体学習装置でインストールする知識の選定は誰がそういう基準で選んだのか若干気になる美琴であった。

「ただ、この目玉焼きはどう処理するべきなのでしょう。
そのまま食せばいいのか、それとも黄味を割ってハンバーグにまぶすべきか。
どちらがより正しいのでしょうか、とミサカは二つの考えに板挟みです」

「そうですか。ではミサカは黄味を割ってまぶしてみます、とミサカは……
おおっ、これは……卵のまろみがいい感じにハンバーグの味を引き出しています、とミサカは卵の底力に震撼します」

いちいち大げさなリアクションをとる御坂妹に微笑ましげに見つめる美琴。
チャレンジ精神旺盛な御坂妹は、口の周りに黄味がついていることにも気付かず、
「むむっ、ポテトにハンバーグのデミグラスソースをつけるとまた違った味が感じられます」とか言っている。

「ああもう、ちょっと落ち着きなさいって。
ほら、口の周りが汚れてるわよ。動かないで、ジッとしてて」

キリが悪いですが投下終了

次回はなるべく早く……

    次回予告




「私だったら、友達やアンタたちと毎日笑って過ごせたらそれでいいと思ってる。
ただそれだけよ? 私の目的なんて。ずいぶんちっぽけなもんでしょ」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)・妹達(シスターズ)のオリジナル―――御坂美琴




「空気読めよこのクソ上司が、とミサカはKYなファッキン上位個体に悪態をつきます」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号にして美琴の妹―――御坂妹




「なんで突然罵られてるのってミサカはミサカは地団駄を踏んでみたりーっ!
というか悪口のレベルが半端じゃないことになってる気がするんだけど!?」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)

おい妹wwまろみwww

>>260
それは……偶然ですね
>>1も言われて初めて気付きました

さて、一つ書き忘れたのですが今回美琴が御坂妹に着せた服ははいむらーの書いた私服絵美琴の服です
新約三巻の表紙のやつですね

更に更に訂正が一箇所
>>256>>257の間にこの一文が抜けていました

「どっちでもいいのよ、そんなの。個人の好みによるしね」

うっす投下しにきました

レスありがとうございます、やっぱりたくさんレス貰えるとモチベが全然違いますね

その男の名前は、禁忌。










食事を済ませた二人は、その近くにあった公園のベンチに腰掛けていた。
あれからも御坂妹は「ミサカはこの山盛りポテトフライなるものが気になります、とミサカは」
「ドリンクバーというものはどれを選ぶのが賢明なのでしょう、とミサカは」「このお子様ランチに付属するものはどのような兵器なのでしょう、とミサカは」
「この呼び出しボタンを押すのは中々に爽快です、とミサカは」 といった風に暴走気味だった。

だがこの公園についてからというもの、それとは対照的に御坂妹の表情は暗いものになっていた。
先ほどから会話もなくただ時が流れるだけであったが、最初にそれを破ったのは美琴だった。


「どうしたの? 何か悩みがあるのなら相談してよ。
妹の悩みを聞いてあげるのも姉の役目の一つなんだから」

「ミサカは……
ミサカは、生きるということの意味が分かりません、とミサカは心中を吐露します」

「生きることの意味、か」

御坂妹から飛び出した、突然の哲学的テーマに美琴は考え込む。
人生の目的というのはありきたりなテーマであるが、じっくり考えることは普通ない。
実際美琴も、常盤台でそういう授業を受けることもあるが、本気で考えたことなどなかった。

「お姉様は、『実験』が終了した翌日にミサカと交わした約束を覚えていますか? とミサカは問いかけます」

「……うん、覚えてる」

忘れる訳がない。
あの時、御坂妹はただ殺されるだけの人形ではなくなった。
一歩踏み出したのだ。
そして美琴はそれを全力で支えると約束している。



    ――『ミサカたちは殺されるために造り出されました』――


    ――『ただそれのみが存在意義であり、生み出された理由でした』――


    ――『しかしお姉様とあの少年によってその目的が失われました』――


    ――『だから、ミサカにも生きるということの意味を見出せるようこれからも一緒に探すのを付き合ってください、とミサカは精一杯のワガママを言います』――


そして、美琴は。


    ――『うん、よろしく』――


「ですが、ミサカは未だにその意味が分かりません。
何の目的もなく、日々を漠然と過ごしているだけです、とミサカはこれでは死んでいるのと大差はないと考えます。
せっかくお姉様が死以外の道を示してくれたというのに、こんなミサカにも優しく接してくれているというのに、これでは……ッ」

泣き出しそうになっている御坂妹の頭にポン、と手が置かれる。
美琴は優しくその頭を撫でていた。
あの時、約束した。御坂妹を支えると。
そして今、彼女は道が分からないと苦しんでいる。
ならば、今こそ自分が支えてあげなくてはならないのではないか。
この妹を救ってやらねばならないのではないか。

「そんなに考え込むことはないのよ。アンタは難しく考えすぎなの。
ハッキリとした目的があって、そのために生きているなんて人間はほんの一握りよ。
私だってそこまで考えちゃいないわ」

「…………」

「何でもいいの。私は、友達やアンタたちと毎日笑って過ごせたらそれでいいと思ってる。
ただそれだけよ? 私の目的なんて。ずいぶんちっぽけなもんでしょ」

人生の目的。生きることの意味。
これについて真剣に考えて日々を暮らしている人間がどれだけいるだろう?
それはもはや哲学の分野であって、普通の人間は美琴のように毎日楽しければそれでいい、そんな考えをしているのではないか。

だが、御坂妹は違う。
あまりにも特殊すぎる生まれ方をした彼女たちは、生を受けたその瞬間から明確な目的があった。
いや、“その目的のために作られた”。
だからこそ、その目的がある日突然失われ、彼女たちは困惑した。
新たな目的を探すとはいっても、実際にはそれは想像以上に難しく。
生い立ちが生い立ちであり、人生経験もないと言っていい御坂妹には特にだ。
結果、御坂妹は曖昧な状態で今日まで生きてきた。
そして、彼女はそれに対して罪悪感を感じているのだ。

美琴や上条によって彼女たちは自由になった。彼らが死ぬしかなかった御坂妹を自由にしてくれた。
そんな恩人たちの願いは、彼女が人並みに生きること。
だが、せっかく機会をもらったというのに彼女は代わりとなる目的を見つけることができなかった。

恩人たちの思いに報いたいと思う。だがどうしてもそれが出来ない。
目的が見つからず、恩人たちの思いに応えられない焦りによりある意味で、“死”という明確な目的があったあの時よりも不安定になってしまった。
自分が生きている意味も、はっきりした生の実感も感じられずにただ日々を過ごしてきた。

ずっと苦しんできたのだろう。
彼女は、誰にも頼らずずっと一人で。
しかし、ここに来てようやく彼女は“お姉様”に頼ることにした。
あの時、交わした約束を信じ、美琴に初めてその苦しみを吐き出した。
そして美琴はそれを拒絶せず、優しく受け入れる。

「まだ今日は終わってないけど、アンタは今日私と遊んでどうだった?
楽しめた? 退屈した? 正直ちょっと不安だったのよね。
大した計画でもないし、アンタをがっかりさせるんじゃないかって」

「そんなことはありません! ミサカはとても楽しいひと時を過ごしています。
この苦しみを忘れてしまうほどに、とミサカは本音を告白します」

「ならさ、それでいいじゃない?」

「……?」

「今日買った服、気に入ってくれたみたいじゃない?
でも服はまだまだ数え切れないくらいの種類がある。色々着てみたいと思わない?」

美琴は、路頭に迷う御坂妹に優しく手を差し伸べる。

「目玉焼きハンバーグ以外にも、美味しいものはたくさんあるのよ?
私がよく行ってるクレープ屋さんなんかも美味しいし、学び舎の園の中にはもっと凄いのもいっぱいある」

一言一言、諭すように、導くように。

「この世界には、アンタの知らないこと、経験したことのないものが山ほどある。
今日ので楽しめたっていうなら、黒蜜堂のプリンを食べたり、第六学区の遊園地に行ったり。
そんな新しい体験をすれば、もっと楽しいと思うわよ?
つまりさ、そんなんでもいいのよ。
毎日楽しく過ごしたい。美味しいものが食べたい。オシャレがしたい。
結構じゃない、十分よ。私も協力するから、これからも色んなことを知っていきましょう。
それがこれからの目的でいいじゃない。そして、毎日楽しく笑って過ごしましょう?」

そんな“姉”の温かい言葉の数々は、たしかに“妹”の胸を打ち。

「うっうっ……ミサ、ミサカは……」

「私はアンタたちの姉なの。
アンタたちはそう思ってないかもしれないし、私が姉を名乗るのはおこがましいかもしれないけど。
それでも、私はアンタたちの力になりたい」

「ミッ、ミサ、ミサカは……ミサカ……」

嗚咽を漏らす御坂妹は、美琴の胸に顔を埋め、声もなく号泣した。

「――――――ッ!!」

御坂妹の目から涙が溢れている。感情のない人形だと言われていた御坂妹が泣いているのだ。
美琴はそんな妹の頭を撫で続ける。
少しでも妹の力になりたいと願う彼女の気持ちは本物だ。
聖母のような笑みで、妹を受け入れた美琴。
それによって道を見失いかけていた御坂妹がどれほど救われたことか。

しばらくの間そうしていると、徐々に御坂妹が落ち着きを取り戻してきた。
未だに肩が上下しているものの、涙は止まったようだ。

「……落ち着いた?」

「……はい、とミサカは…でも、もう少しだけ、このままでもいいですか、とミサカはお願いします……」

「……うん」

御坂妹は既に落ち着いているのだが、姉から離れようとはしなかった。
美琴も黙ってそれを受けいれている。
だがそんな優しく流れる姉妹の時間に、水を差す者が現れた。
だがそれはスキルアウトのような無粋な相手ではない。

「あーっ、お姉様だーってミサカはミサカはダッシュで駆け寄ってみたり!」

打ち止めだった。
それに気付いた御坂妹は光速で美琴から離れて目元を袖で拭い、平時と変わらぬ表情を作った。
駆け寄ってきた打ち止めが無邪気な笑顔で笑いかける。

「お姉様も一〇〇三二号も、こんなところで何してるの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

「空気読めよこのクソ上司が、とミサカはKYなファッキン上位個体に悪態をつきます」

「なんで突然罵られてるのってミサカはミサカは地団駄を踏んでみたりーっ!
というか悪口のレベルが半端じゃないことになってる気がするんだけど!?」

「……え? いや、は? え、何これ?」

一方、突然の幼女の登場に言葉が出てこない美琴。
彼女が絶句するのも致し方ないことだろう。なにせ、その姿は幼少時の美琴にあまりにも酷似しているのだから。

「あ、お姉様、初めまして!
ミサカの名前は打ち止め、正式にはミサカ二〇〇〇一号だよってミサカはミサカは自己紹介してみる!」

「へ? いや、ミサカ?
二〇〇〇一号……この小っこいの、妹達なの!?」

美琴の知っている妹達は美琴と全く同じ姿形をしている。
こんな幼女の存在など彼女は知らなかった。
だがこの打ち止めと名乗る幼女も幼少期のではあるが、美琴とそっくりだ。
まるで美琴が黒ずくめの男に薬を飲まされて小さくなった、みたいな。
タイムマシンで過去に戻って、昔の美琴を連れて来ました、と言われても違和感はない。
そっくりさんな幼女というよりは妹達と言われる方が納得できる。

「むーっ、小っこいは余計かもってミサカはミサカは抗議してみたり!」

「少し黙っていてください、上位個体。
お姉様は上位個体と会うのは初めてなのですね、とミサカは懇切丁寧に解説を始めます」

そして御坂妹は語った。時折打ち止めの注釈を受けながら。
打ち止めは最終信号とも呼ばれ、妹達の最終ロットとして製造されたこと。
彼女は実験用ではなく、妹達の反乱防止のための安全装置として製造されたこと。
そのため、彼女は全てのミサカの上位個体となっていること。
上位個体たる彼女は下位個体である妹達に命令を送ることが出来ること。
また彼女は全ミサカのホストというよりはコンソールに近いことなど。

「ふーん。小さい割には重要な役目を担ってんのね、アンタ」

「だから小さいは余計なのってミサカはミサカは憤慨してみるんだけどー!」

「それより上位個体は一体何の用があってここに来たのですか、とミサカは今さらながらに邪魔された怒りをぶつけます」

「ただ見かけたから来ただけだよ? ってミサカはミサカは小首を傾げてみたり」

「うっ……」

「どうかしましたかお姉様、とミサカは呼びかけます」

「いや、大丈夫、何でもないわよ」

(何この子……可愛いじゃないッ!)

大丈夫などではなかった。
美琴は思いっきり打ち止めの可愛さにやられていた。

(で、でもここでそれを言ったら、またこの子に「お姉様はやはりナルシストだったのですね」とか言われそうだし……)

「? 本当にどうしたのお姉様? ってミサカはミサカはスカートの裾を引っ張ってみる」

「ぐはっ!!」

全く邪気のない表情で、上目遣い(というより身長的な問題で自然とそうなる)で見つめてくる打ち止めにノックアウトされる美琴。
ついに我慢の限界を迎えた美琴は、思い切り打ち止めを抱きしめた。
打ち止めも特に抵抗といった抵抗はしなかった。

「ああもう、可愛いーっ!」

「うわ!? いきなり何するのってミサカはミサカは驚くけど結構嬉しかったり!」

「……いかに上位個体といえど、お姉様の懐はこのミサカのものです、とミサカはそこからの離脱を要求します」

「えへへ~、お姉様の温かさはミサカのものだってミサカはミサカは譲る気は一切なかったり!」

「いいでしょう、ならば戦争です、とミサカは上位個体に反旗を翻します!」

「ちょっとアンタら落ち着け!
うわっ、マジモンのマシンガンなんて取り出すんじゃないってかまず持ち歩くなこの馬鹿!」









「う~ん、美味しい!
やっぱりクレープって偉大な発明かもってミサカはミサカは感激してみたり」

「ミサカはクレープなるものを食すのは初めてです、とミサカは期待に胸を震わせます」

三人のミサカは第七学区のクレープ屋『RABLM』に来ていた。
公園で打ち止めが「お昼ご飯は食べて来たけどデザートが欲しいかもってミサカはミサカは」等と言い出したためだ。
御坂妹は若干不満気だったが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
多くの学生たちが溜まっているこの広場で、一部注目を浴びながら三人はベンチに腰掛け、クレープを堪能している。

「ねえ、打ち止めってあのリアルゲコ太の病院にいるの?
一回も見たことないけど」

「いえ、上位個体は一般人の家に居候という形で保護されています、とミサカは解説します」

「……大丈夫なの? この子は妹達で……」

「その点は問題ありません。
保護者は警備員ですし、信用するに足る人物であるとミサカは安心と信頼をお届けします」

「ヨミカワもヨシカワも優しいんだよ! ってミサカはミサカは教えてあげる!」

「警備員かぁ。なら大丈夫、なのかな?」

「それにあの人もいるしねってミサカはミサカは打ち明けてみる!」

それを聞いた途端、美味しそうにクレープを頬張っていた御坂妹の動きがピタリと止まった。
しかし打ち止めはそんなことに気付いていないかのように天真爛漫に話し続ける。
美琴も笑顔で小さい妹の話に耳を傾けている。
こうした時間は美琴にとって心地いいものだった。

「あの人はね、ぶっきらぼうで口は悪いけど本当はとっても優しいのってミサカはミサカは語ってみたり。
でもミサカのためならどんな危ないことでもしちゃうから心配なのよってミサカはミサカは人妻気取りしてみたり」

「へぇ~。素直じゃないのね、その人」

打ち止めの話を聞いている美琴は、その人はきっと良い人なんだろうな、と思った。
この打ち止めが、満面の笑顔で楽しそうに話す人が悪人な訳がない。
それに、聞けば打ち止めのためならどんな危険も冒すというではないか。
そのどこかのツンツン頭のようなスタイルの是非はともかく、そうまでして打ち止めを守ろうとする人が悪人なわけがない。



悪人な、わけがない。


対照的に、御坂妹は震えるように声を絞り出した。
隣にいる二人にも聞こえないかもしれないなような、そんな小さな声だったけれども。

「……上位個体」

「それでね、口では色々言うんだけど、最終的には結局きいてくれるツンデレさんなのよってミサカはミサカはあの人のツンデレ具合を話してみたり」

「その単語にはあまり良い思い出がないわ……」

御坂妹は、もう一度繰り返す。
先ほどよりも、少し大きな声で。

「上位個体」

「あの人は寝起きはすごく機嫌が悪いんだけど、何だかんだでミサカのことは受け入れてくれるのってミサカはミサカはあの人はツンデレだと再確認してみたり」

「たしかにいるわねー、寝起き機嫌が悪い人って」

御坂妹は繰り返す。
今度はハッキリとした声で。

「“上位個体”」

それを聞き、打ち止めはビクッと大きく体を震わせた。
おそらく先ほどからの御坂妹の声にも気付いていたのだろう。
御坂妹と打ち止めの視線が交差する。
打ち止めの目は楽しそうに話していた時とは違い、全く笑っていない。
むしろ、悲しげにも見えた。
打ち止めは御坂妹の言わんとしていることが分かっているのだろう。

「…………」

「…………」

二人に間に沈黙が流れる。
一人事態についていけていない美琴が急に変わった空気に慌て始めた。
何が起きているのか全く分からないが、とても穏やかではない空気が漂っているのは肌で分かった。

「えと、アンタらどうしちゃったの?
なんで急に黙り込んじゃうのよ」

「…………」

「……ねえ、どうしちゃったのよ」

美琴の表情が歪む。
二人を心配している表情だ。
そして打ち止めも美琴にそんな顔をさせてしまっていることに気付いたのだろう。
数瞬前までの陰鬱な空気を吹き飛ばし、思い出したように喋り始めた。

「……あ、お姉様! ミサカ今度はあのクレープが食べたいかもってミサカはミサカはおねだりしてみたり!」

「……ええ。よっしゃ、美琴さんに任せなさい! 何でも食べさせてあげるわ!」

美琴はそれを見て、御坂妹も打ち止めも自分に話す気がないことを悟った。
姉として、頼ってくれないのは少し悲しい。
だが、だからといって無理に根掘り葉掘り聞くような真似は絶対に出来なかった。
妹達を深く傷つけてしまう可能性が孕んでいるなら、美琴はそこで立ち止まる。

(いつかこの子たちが、話してもいいと思える時まで待つしかないかな)

美琴も打ち止めに合わせ、とりあえず今は気にしないことにする。
本当は気になって仕方なかった。妹達の事情を考慮せず、自分の気持ちだけを優先するなら全てを聞きだしたかった。
だがそんなことは美琴には出来ない。ならば美琴に出来るのはただ待つことだけだった。
一緒にクレープを買いに行く二人を、御坂妹は黙って見つめていた。

彼女は、美琴に話していないことがある。
公園で打ち止めについての話をした時も、そして先ほどの会話でも。
本来なら打ち止めを語る上で絶対に欠かせない一つの要素を、彼女は徹底的に排除していた。
一人の名前を。その通称を。

“ある一人の男”を。

彼女はそれについて、全く口に出そうとしない。
何を思ってそうしたのかはまだ分からない。
ここで御坂妹が、打ち止めが“ある男”について話して聞かせていたならば、これからの展開は違った様相を見せていたかもしれない。
予備知識を持った上ならば、少しは悲劇も和らいでいたかもしれない。
だが、彼女は、彼女たちは話さなかった。

     レール
よって、物語は変更されず、列車はそのまま走り続けることとなる。

投下終了

>>1はこの姉妹が仲良くしてるのを見るとほっこりします

    次回予告




(いつかお礼言わなくちゃね。ヨミカワっていう警備員の人にも、ヨシカワって人にも、勿論「あの人」にも。
打ち止めを守ってくれて、幸せにしてくれてありがとうって)
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)・妹達(シスターズ)のオリジナル―――御坂美琴




「帰ってしまうのですか、とミサカは垣根さん改めていとくんとの別れを惜しみます」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号にして美琴の妹―――御坂妹




「それでていとくんはお姉様のお友達なの? ってミサカはミサカはていとくんに興味を示してみたり」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)




「その呼び方は流行らねえし流行らせねえ」
『スクール』のリーダー・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督

原作のエピを丁寧に拾ってるなー
乙 ていとくんと妹達の交差も楽しみにしてる

今だかつてこれほどまでにかっこいい表紙があっただろうか
背中で語る垣根マジクールかっこいい
これは神巻の予感だわ……

>>299~301
な、なぜその邂逅に期待を……?
そう言ってくれるのは嬉しいけど、垣根と妹達の間には何もないからあっさりなんだぜ


では表紙パワーで投下しますぜ

「御坂、か?」

「?」

美琴と打ち止めがクレープを新たに購入している間、御坂妹はある男に声をかけられた。
長身で、茶髪で、ホストのような格好をしている垣根帝督だ。
しかし彼女は美琴ではなく御坂妹。垣根のことなど知るはずがない。
よって、御坂妹は至極一般的な対応をとる。

「どなたですか? とミサカは確認を取ります」

「どなたですかってお前……ああ、お前そういうことか」

垣根は一人何か納得していたが、御坂妹は気にしなかった。

「もしかしてお姉様のご友人ですか? とミサカは再度確認を取ります」

「そう、“知り合いだよ”。お前、妹か何かか?」

「はい、とミサカは肯定します」

「俺は垣根帝督。……よろしくな」

垣根の表情は優れなかった。
いつもの軽薄そうな色はどこにも見られない。
そこにクレープを買った美琴と打ち止めが戻ってきた。
美琴は垣根の姿を認め、最初は呆然としていたが、彼が御坂妹と接触したと分かると途端に慌て始めた。
必死に頭を回し何か言い訳を搾り出そうとするも、そう都合のいい言い訳は思いつかない。

「か、垣根? なんでこんなところにってか違うのよ、その子は私の双子の妹でね?」

「誰も聞いてねえよ。そこの小っこいのも妹だと?」

「その通りよ!」

「ああそう……。うん、いいんじゃねえの?」

「あなたは誰? ってミサカはミサカは新キャラの登場にびっくりしながら訊ねてみたり」

「新キャラっておま……垣根帝督。さっき名乗ったばっかなんだが」

美琴は垣根の登場に焦っていた。
なにせ今まで妹の話など知り合って約一ヶ月、一度もしていないのだ。
それに超電磁砲として有名な美琴に妹、それも双子がいるなら知れ渡っていてもいいはずである。
更には常盤台の制服を着ていること。
そして極め付きに美琴そっくりな幼女である打ち止めの存在である。
はっきり言って大ピンチだ。

だがかと言って垣根に真相を話すわけにはいかなかった。
何故ならクローンである御坂妹のことを話せば、それは自然に学園都市の『闇』についても話すことになる。
何も知らない一般人である垣根を『闇』に巻き込むことは絶対に駄目だ。
しかし垣根は意外にも美琴の嘘を信じてくれたようで、美琴は内心ホッとする。
はっきり言って誤魔化すことは難しいと思っていただけに、安堵感も大きかった。

「それでていとくんはお姉様のお友達なの? ってミサカはミサカはていとくんに興味を示してみたり」

「誰がていとくんだクソガキが。……俺は御坂の“知り合いだよ”。
っつかこれも二度目だ。テメェらはなんで同じ質問するんだ」

「ではミサカは上位個体と同じくクレープを再度要求します、とミサカは垣根さんをジッと見つめます」

「あぁ!? 何で俺を見んだよ奢れってかぁ!?
ざけんな、そこの姉ちゃんに奢ってもらえよ!」

その姉ちゃんは打ち止めと談笑しながらベンチに腰掛けクレープを食べていた。
垣根の視線に気付いた美琴が顔を上げ、二人の目線が合う。

(おいこいつ何とかしろ具体的に言うと助けろ)

(諦めなさい。クレープぐらい買ってあげなさいよ)

(俺がこいつに奢ってやる理由は小指の甘皮ほども存在しねえ)

(まあそう言わずにさ。ほら、あの子ずっと待ってるわよ)

といった精神感応必須の会話をアイコンタクトだけで交わす二人。
美琴は助け舟を出す気はサラサラなかった。
といっても奢るのが嫌とかそんな理由ではなく、垣根に御坂妹の友人になってほしかったからだ。
彼女には同じ妹達を除けば、美琴と上条しか話せる相手がいない。
垣根という友人が出来れば、彼女も喜ぶだろうと思ってのことだ。

その垣根はジッと見つめてくる御坂妹の視線に耐えかねたのか、ようやくその気になり、

「分かった分かった奢ってやるよ、クレープの一つや二つくらい。
だから粘つくように俺を見んな」

上条とは違い、クレープ程度ではいくら買っても彼の財産にダメージはない。
垣根には収入源が三つある。
一つは、超能力者としての奨学金。
一つは、裏方の実験に協力する報酬。
一つは、暗部組織『スクール』としての活動により得る報酬。

まず超能力者としての奨学金だが、学園都市ではレベルによって奨学金の額が決まる。
大能力者であれば遊んで暮らしても余裕が持てるほどの額になるのだ。
だが七人しかいない超能力者ともなれば、その額は大能力者とは比較にならないレベルにまで跳ね上がる。
一般人が見れば目玉が飛び出すどころか、そのまま落ちて転がっていきそうなくらいである。

そして残りの二つだが、こういった非合法なものは基本的にハイリスクハイリターンである。
非合法な実験に一回協力するだけで、とんでもない額が手に入る。
それは垣根が七人しかいない超能力者だからだ。
その希少さから、超能力者を調べられるということはマッドサイエンティストにとっては金に代えられないものなのである。
金で超能力者の体を調べられるなら、彼らはいくらだって払うだろう。

そして暗部で活動していればいつ死んでもおかしくない。
そんな暗部で、『スクール』という組織に属していて、そのリーダーで、超能力者である垣根。
垣根はその圧倒的な力で敵は全て粉砕してきた。
彼に任された仕事で、失敗などあり得なかった。
そんな彼の報酬はもはや上条あたりが見たら失神くらいは間違いない額だ。
これら全てを有する垣根の財力は、もう一生遊んで暮らしてもまだ残るくらいなのだ。

「! ありがとうございます、とミサカはニヤリと笑って勝利宣言します」

「こいつマジうっぜえ……。なあ、こいつ一回だけ張り倒していいか?」

「いいわけないでしょうが」

一回だけ! 一回だけだから! と頼み込む垣根と、あっさり拒絶する美琴。
傍から見たら大変な誤解を受けそうな光景だった。
というか実際に広場にいた何人かがそれをみてコソコソ話をしているのに気付いていなかった。
観念してクレープを買いにいく垣根と、それについていく御坂妹。
そんな二人を見つめながら、美琴はある違和感を抱いていた。
それは垣根のことだ。
先ほど会った時は、妹達をどう誤魔化すか必死だったので気付かなかったが、よくよく見てみれば明らかに様子がおかしい。
はっきりとどこがおかしいと分かるわけではない。
だが何となく分かる。今の垣根は明らかに変だ。それが判断できるくらいの付き合いはしてきたつもりだ。
まるで何か重大な悩み事があるような、何かに苦しんでいるような、そんな印象を受ける。

(……どうしたのかな)

放っておけなかった。
御坂美琴とはそういう人間だ。
誰かが目の前で苦しんでいれば、放っておけない人間だ。
ましてやそれが友達ならなおさらだ。

だからと言って、無理に聞き出そうとは思わない。
美琴には分かる。八月に『絶対能力進化計画』を止めようとした時は誰にも言わず、誰にも頼らなかった。
一度意思を固めた者は簡単にはブレないのだ。
だから、何もかもを今聞く必要はない。
今彼に何があったのか聞いても、彼は絶対に答えないだろう。

そんなことを考えていると、打ち止めから声がかかった。

「ねえ聞いてるのお姉様~ってミサカはミサカは早く続きを話したかったり」

「ああ、ごめん、それで何だっけ?」

「むぅ~。やっぱり聞いてなかったってミサカはミサカはガックリしてみる」

「ごめんね? もう一回話してくれるかしら」

もともとクレープを食べながら打ち止めの話をきいているところだったのだ。
美琴は謝罪し、満面の笑みで楽しそうに話す打ち止めの話に耳を傾ける。

ヨミカワという人が何でも炊飯器で作るとか、ヨシカワという人は毎日堕落した生活を送っているとか。
打ち止めが幸せに日々を過ごしているのがよく分かる。
先ほど御坂妹と何かあってから「あの人」は話に登場しなくなっていた。
何があったのかはやはり気になるが、「あの人」の話をする打ち止めは今以上に幸せそうだった。
「あの人」は打ち止めにとって絶対に不可欠な人なのだろう。

(いつかお礼言わなくちゃね。ヨミカワっていう警備員の人にも、「あの人」にも。
打ち止めを守ってくれて、幸せにしてくれてありがとうって)

ここで少しだけ離れたところで御坂妹といた垣根がこっちへ向かってきた。
やはりその表情は優れない。

「俺、帰るわ」

「……どうして? 何か用事でもあるの?」

「そんなところだ」

「帰ってしまうのですか、とミサカは垣根さん改めていとくんとの別れを惜しみます」

「その呼び方は流行らねえし流行らせねえ。じゃあな」

会話もそこそこに、垣根はその場から去ってしまった。
直後は御坂妹も打ち止めも手を振りながらその背を見送っていたが、すぐに視線を外す。
だが美琴はしばらくすると、意を決したようにその後を追った。
二人に「すぐ戻ってくる」とだけ伝え、走って追いかける。
幸い彼は徒歩だったため、すぐに追いつくことが出来た。
彼も美琴に気付いたようで、振り返って怪訝そうな目を向けた。

「……何やってんだお前」

「ちょっと聞きたいんだけどさ、構わないかな?」

「……聞くだけなら勝手にしろ」

美琴はここで再び躊躇った。
聞いてもいいのか、それが垣根を傷つけないか。
時刻は午後三時ごろ。
まだまだ人通りは多く、話し声やら何かの機械の音やらもする。
どんなところでも風の音なり生活音なり、何らかの音はするものだ。
だが、二人のいるここはまるで空間を切り取られたかのようだった。

他から隔絶され、明らかに違う空気が漂っている。
話し声も雑音も、その全てが美琴の耳には入っていない。
そんな無音の世界でたっぷり一〇秒は悩んで、ついに美琴は口を開いた。

「アンタ、何かあったの?」

それでも聞き方は柔らかかった。
何かあったの、ではない。間違いなく何かあったのだ。
それは間違いないと美琴は確信している。
だがそれが具体的に何なのかを聞くのはやはり躊躇われた。
今の美琴にはこの質問が限界だったのだ。
だが垣根の返答は美琴にとって予想外のものだった。

「……へえ、そう見えるか。
ちなみにもっと言えばどんな風に見える?」

彼の答えはYESでもNOでもなかった。
美琴の目には自分はどう映っているか、それを問うてきた。
その返しに驚きながらも、彼女は正直に答える。

「何かに悩んでいるように、苦しんでるように見えるわ」

それを聞くと、垣根は一言、「そうか」とだけ言って立ち去ってしまった。
彼女は、後を追えなかった。足が、体が、動かなかった。
何があったのかは分からないが、想像以上に垣根は追い詰められている。
そう感じた美琴は、親友の救いになれない自分の無力さに歯噛みする。

(どうしたのよ、垣根。どうしちゃったのよ。
なんでそんな顔をするのよ。
なんで“自分でも何が原因か分からない”みたいな顔をするのよ。
もっと頼ってよ。友達を頼りなさいよ。
……いや、頼ってもらえない私が問題なのか。情けない)

しばらくその場に立ち尽くしていた美琴だが、通行人の一人と肩がぶつかると正気に戻った。
無音の異世界から目覚め、音に溢れる学園都市へと帰ってくる。
一言謝り、複雑な気持ちを抱え御坂妹と打ち止めの待っている広場へと戻っていった。










美琴と別れた垣根はある路地裏へとやって来ていた。
彼は今すこぶる機嫌が悪い。

美琴に言われた「苦しんでいるように見える」。
それを聞いて彼が思ったことは「そうか、俺は苦しいのか」であった。
何に苦しんでいるか分からない、どころではない。
苦しんでいるということすら彼は分かっていなかった。

今彼を襲っている感覚は人生で一度も体験したことのないものだった。
一度も風邪をひいたことがなく、また風邪に関して一切知識を持たない人間がいるとしよう。
その人間がある日突然風邪にかかったら、すぐに「今自分が苦しいのは風邪をひいたからだ」と分かるだろうか?
分かるわけがないだろう。今まで一度も風邪になったことがなく、かつそれの知識も全くないのだから。
垣根は今それに近い状態なのだ。
ただ、彼の場合そもそも苦しんでいるということすら分かっていなかったわけだが。

(はは……未知を生み出す俺が、未知に苦しむとは何の皮肉だよ。全く上手くねえ)

これじゃ座布団はやれねえな、と笑う垣根。
そもそも彼が最初に感じた異変は苛立ちだ。
ある時から、上層部からの連絡に異様に苛立つようになった。
以前から気に入らない手合いだったとはいえ、連絡が来ただけであそこまで怒りを感じることはなかった。
まず、この原因が分からない。

そして垣根は自分を襲っている感覚は苛立ちだけだと思っていた。
だが美琴と、そして銀髪シスターのインデックスには「苦しんでいる」と言われた。
これに関しても全く心当たりがない。
だが二人に、初対面のシスターにすら指摘されたのだからそう見えるのだろう。

(なんだってんだよ。
全くわけが分からねえ。何が起きてんのか、欠片も分かりゃしねえ)

原因が分からず一層苛立つ垣根。
超能力者第二位の、スーパーコンピュータをも超えかねない頭脳を持ってしても手がかりすら見つからない。
そんな彼を更に追い詰める電話がかかってきた。
予想通りだったら殺す、と思い相手を確認もせずに出て、そして―――

『仕事です』

ミシッ、と垣根の携帯が嫌な音をたてた。
この程度で済んでいるのが奇跡だろう。

今の彼はとにかく不機嫌だ。そこにこの電話。
あまりにも予想通りすぎた。
垣根の気分が少し違えば、このあたり一帯が壊滅してもおかしくなかった。

「今の俺は機嫌がすこぶる悪い。プッツン行っちまう数歩手前だ。
下らねえ内容だったらテメェのハラワタ引き摺り出して磔にすんぞ」

『これは手厳しい。ですが貴方以外に動ける方がいないので仕方ないのですよ。
こちらとしても貴方にこんな仕事をやらせるのは役不足だとは思っているのですが』

「そのおべんちゃらは誰に習った。いいか、俺は道具じゃねえんだ。
いつまでもテメェらに従順な飼い犬でいると思うな。
上から目線で人様を管理してんじゃねえよ、抉るぞ」

『肝に銘じておきましょう』

投下終了

次回投下は初の本格バトルとなります
あくまでこのSS内での力関係ということでひとつ

    次回予告




「ゲームオーバー」
『スクール』のリーダー・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「見せてやるよ、本物の根性ってヤツを!!」
世界最大の『原石』・学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇




「お前の服、異常にダサいな。正直見苦しいけど」
統括理事会のブレインを務める天才少女―――雲川芹亜

そろそろ山場が近いので、少し急ぎ足に

投下します

『未元物質』の正体とは?










「ぐぁ、あ、あああ……!」

「ひぃっ……! わ、悪かった、俺たちが悪かった!
負けだ、降参する! だから命だけは……がっ!?」

「勝手なこと言いやがって。
今までお前はそうやって命乞いした者を一体何人殺したんだ? さっさと死に腐れ」

それは下らない仕事だった。
学園都市のデータを外に流そうとしている連中の殲滅。
そのデータを奪う際、何十人もの研究者たちを殺したらしい。
そのあまりの下らなさに本気でキレそうになった垣根だが、すぐに考え方を変えた。
ストレス発散に利用させてもらおうと考えたのだ。

いつもの垣根ならそんな小悪党のような真似はしない。
普段なら見逃すような、目もくれないようなそんな小物たちだ。
だが今の垣根はいつになく凶暴だった。
その眼はいつも以上に鋭く、とにかく容赦なかった。

この路地裏で行われているのはまさに虐殺だった。
垣根の目の前には三つの死体。
腕が千切れ、足が潰れ、腹は裂かれ臓物が飛び出し、目玉も潰れている。
そんな地獄絵図が展開されている。
やはりいつもの垣根なら、殺すにしてもこんな汚い殺し方はしない。
いつもの垣根なら。

一人、またその両腕が吹き飛んだ。
垣根がただその右腕を一振りしただけで、説明できない現象により男の腕は宙を舞った。

「がっ、ぎゃああぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!!
頼む、俺たちが悪かった!! だ、だからっ、もう、やめっ……!!」

「どうしたよ……。そんなに痛てえか? あ?
テメェらはその痛みを今まで何度も他人に味あわせてきてんだろうが!
どの面下げて命乞いなんてしてやがんだ、クズが」

背を向けて逃げ出す男の体を背後から何かが貫いた。
男を貫いたのは、垣根の展開する翼の一枚だ。
純白に輝く翼が血に塗れ、その相反するコントラストがかえって翼の神秘さを引き立てていた。
男は口から血を滝のように吹き出した。
垣根は男の体を貫いたまま、一息に翼を振り下ろす。
男の胸のあたりから股下までが一気に切断され、男は一瞬で絶命した。
夥しいほどの血と、ブヨブヨした何らかの臓器を撒き散らしてその体が血の海に沈んだ。

スプラッタ映画でも見ないような地獄が、一般人が見たらショック死しかねないようなそんな地獄が一人の男によって作り出される。
全滅。
データを流そうと目論んでいた者たちは、揃って凄惨な結末を迎えた……はずだった。

「ああ?」

あたり一面は血の海だ。
当然その上を歩けば、靴底に血がべったりと付着する。
そして血の足跡が、伸びている。
ここから離れるように、血の足跡が伸びている。

「脱走したネズミが、一匹か」

垣根は見るものをゾッとさせるような笑みを浮かべた。
聞いたものを凍りつかせるような、冷たい無機質な声を放った。
獲物を追う狩人のそれ。
足跡を沿っていくと、逃亡者はすぐに見つかった。
焦りと恐怖のあまり、方向感覚が失われていたのだ。

見つかれば、終わる。

その事実が逃亡者から冷静さを奪っていた。
加えてこのあたりは道が入り組んでおり、気がついたら一周して元の場所に戻っている、なんてことも珍しくない場所なのだ。
それでも逃亡者は逃げる。難易度MAXの鬼ごっこ。捕まれば死ぬ命がけのゲームだ。
クリアする方法なんて最初からない。
だがそれでも、システムのバグか何かで一%くらいは可能性があるかもしれない。
その一%を求めて、逃亡者は逃げる。
そんな逃亡者の眼前に、白い翼を背負う垣根がトン、と降り立った。
その意味するところは―――。

「ああ、あ、うあああ……!!」

「ゲームオーバー」

翼を一振りする。
それは正確に逃亡者の首を、頚動脈を切断した。
鮮血を面白いくらいに噴出して逃亡者は絶命し、今度こそ彼らは全滅した。

「……駄目だな」

駄目だ。全然駄目だ。
少しはストレス解消になるかと思ったが、駄目だ。
あまりにも弱く、あまりにも脆すぎる。
こんなことでは解消など出来はしない。
期待の外れた垣根は舌打ちし、その場から離れようとした。
だが、そんな彼を大声で呼び止める者がいた。

「……おい!! お前、何してやがんだ!!??」










護衛が必要だ。
統括理事会の一人である貝積継敏はそう告げた。

「はぁ?」

何を言っているのか分からない、といったような声をあげたのはそのブレイン、雲川芹亜。
彼ら、そして貝積の協力者である親船は第三次製造計画について探っていた。
第三次そのものについての情報は全く見つからなかったが、潮岸という手がかりは得ることが出来た。
潮岸は第三次製造計画について知っている。そしてそれを知ってしまったものを消そうとしている。
現に、貝積が第三次の破壊を依頼した『グループ』は依頼の通信中に襲撃を受けたし、一方通行も同様に襲われていたようだった。
となると第三次を止めようとしている貝積や雲川、親船も狙われると考えるべきだ。

だが同じ統括理事会の人間を二人も殺すとなると、政治的にも問題が生じる。
よってこちらが狙われることはまずないだろう、あるならそれは『グループ』の排除が終わってからだ、というのが雲川の考えだ。
しかし貝積はそうは思わなかった。あの男は何をしでかすか分からない。
必ずしも安全とは言えない、と思っている。
だというのに、雲川はあっちにフラフラこっちにフラフラと歩き回っている。
いつその命を狙われても不思議ではないというのに。
それがあまりにも無警戒に思えてならなかったのだ。

『君はあまりにも無防備すぎる。
潮岸がどう動くか分からない以上、警戒はしておくべきだ』

携帯の向こうから貝積が注意している。
そういう彼も今は安全なところに避難しているのだろう。
仮にも統括理事会の正式メンバー。そういった『避暑地』を用意していてもおかしくない。
だが雲川は何を下らないことを、といった風にあっさりと両断した。

「馬鹿が。私が何も策を用意していないとでも思ったか」

『何?』

「私はただ無防備に日々を過ごしている訳ではないと言っているのだけど」

『ほう。どんな策だ?』

「お前の言った通りだよ。護衛だけど」

『護衛か。自分で言ってなんだが、そう護衛役が見つかるとも思えんな。
こちらの事情を明かす訳にはいかないし、暗部の連中は論外だ。
潮岸の息のかかった者がどこにいるか分からんからな』

「心配するな。ちゃんと腕利き兵を置いているけど」

『誰だ?』

「削板軍覇。第七位の超能力者だ。
超能力者なら戦力的にも何の問題もあるまい」

削板軍覇。雲川の言った通り第七位の超能力者。
世界最大の原石である彼は、自分でもその能力について全く理解していないというとんでもない男である。
貝積は何事かまだ言っていたが、雲川は「そういうことだから」とだけ言って通信を切断してしまった。

「あの男は本当に頼りになるよ。さて、今日は買い物に行く予定だけど」

当然、護衛役である削板も一緒に。
それを世間一般ではデートと呼ぶのかもしれないが、雲川にも削板にもそんな認識は全くなかった。










削板軍覇は今日も根性に満ち溢れていた。
どれくらい前だったかは彼の残念な頭はもう覚えていないが、雲川という少女に護衛役を頼まれた時、彼は二つ返事で了承した。
もともと彼は頼まれたら断れない性格であり、しかも少女に守ってくれと言われれば愛と根性のヲトコである削板は引き受けないはずはなかったのだ。
といっても、護衛となってから今日まで彼の出番が回ってきたことは一度しかない。
雲川に絡んできたスキルアウトを、無駄にカラフルな技で無駄に煙を巻き上げながら追い払っただけ。

だが彼は律儀に雲川の護衛役を続けていた。
そして今日は彼女の買い物に付き合わなくてはならない。護衛だから。

(途中で投げ出すなんざ根性無しのすることだ!!)

彼は恋愛経験など皆無だが、それでもなんとなく彼女と過ごす日々も悪くないと思っている削板だった。

もはや何度目か分からない勝負を挑んできた内蔵潰しの横須賀を、何度目か分からないすごいパンチで吹き飛ばす。
途中にいたスキルアウトに根性を教え込んでやる。
そんな寄り道をしながら、彼は雲川との待ち合わせ場所を目指していた。
だがその途中で、彼はピタリと動きを止めた。
すぐ近くにある路地裏への入り口に、財布が落ちているのを見つけたのだ。

「いけねぇな、財布を落とすなんて根性が足りてない証拠だ!!」

根性がどう関係しているのか全く分からないが、それが彼の基本スタンスなのであった。
だが財布を拾おうと手を伸ばした瞬間、削板の動きが止まる。
この路地裏の奥から“臭い”を感じる。
とはいっても、別に嗅覚で認識する臭いではない。ただ、感じる。『闇』の臭いを。
そして決定的な出来事が起きた。
路地裏の奥から、僅かに、本当に僅かにだが悲鳴のようなものが聞こえたのだ。
こうして意識していなければ、学園都市の喧騒に掻き消されてしまっていただろう。

彼は暗部にいるわけではないが、その存在は知っているし、何度か関わったこともある。
立ち位置としては美琴のものに近い。
ただ彼の場合は実際に散々体と脳を調べられ、いじくられているが。
ともあれ、彼がそれを見過ごすことなど出来るわけもなく、躊躇なく路地裏へと進んでいった。
奥に進むにつれ、どんどん『闇』も濃くなっていく。
近い。近くにこの『闇』の元がいる。
彼はそう感じ、自然と気を引き締めた。
いつもは何も考えていない彼だが、暗部との戦いとなると気を抜くわけにもいかない。
一度スイッチが入れば、彼も超能力者らしい姿を見せるのだ。

そして、彼はついに辿り着いた。
惨劇の元へ。思わず目をそらしたくなる光景だった。
一人の人間が倒れている。
どうやら喉元を掻き切られているようで、既に息はない。
あたりは血の海と化している。
そして、そのすぐそばに立っている青年。
おそらくこの光景を作り上げた人物であろう。
正義感の強い彼がそれを見過ごすことなど出来るはずがなかった。

「……おい!! お前、何してやがんだ!?」

削板の声に応えるように、その男はゆっくり振り向いた。
当然といえば当然だが見覚えのない顔だ。

「……誰だテメェ?」

「削板軍覇!! 根性溢れる根性の男だ!!
……それにしても何だこれ。お前がやったのか?」

「その名前……第七位か。ククッ、やっと面白そうなのが来たな。
俺だって言ったらどうするよ?」

「決まってる。弱えぇ奴を一方的に虐殺するような根性無しは一度ブッ飛ばす。
お前、暗部の人間なんだろ? その根性を鍛えなおしてやるよ」

「仕方ねえだろ。俺だって好みじゃねえが、仕事なんだよ。
さて、もういいだろ。いつかのスキルアウトじゃあるまいし、いつまでもガタガタ言ってねえでかかってこいよ」

会話を一方的に打ち切った男は、削板に向き直る。
強い。彼は直感的にそう感じた。とても油断の許される相手ではない。
この雰囲気は只者ではない。だが削板とて超能力者。
負けるつもりは微塵もなかった。

「…………」

彼は無言で動いた。
本気でやらねば勝ち目はない。そう感じたから、彼は本気で叩き潰しにかかる。
地面を蹴り、駆け出す。
ただそれだけの動作で、地面が砕ける。
音速の二倍という常識離れしたスピードで、彼は男―――垣根帝督へと向かっていく。

(一撃で、決める!!)

その掌を突き出し、垣根に突き刺す。
それで垣根の体はボロクズのように吹き飛ばされ、勝負は決するはずだった。
だが、

(なんだ……?)

彼が感じたのは違和感。
垣根の体と掌底の間に何かが滑り込み、その体を守っていた。
見たこともない、白い物体。今までに経験したことのない感触が手から伝わってくる。
反撃を恐れたこととその物体を見極めるため、学園都市第七位は一度距離をとる。
そしてそれを見たナンバーセブンは呆然と立ち尽くした。

垣根の背中に白い翼が出現している。
純白の翼が六枚展開されている。
その姿はまるで―――

(天使……)

お伽噺にでも出てきそうなその姿に、削板の思考がフリーズする。

「……なんだよ。捻じ曲がってるとはいえ中々の根性じゃねぇか。
お前、本当に何者だ?」

「超能力者第二位、未元物質。
本気でかかってこいよ、第七位。じゃねえと―――」

ふと垣根の姿が視界から消える。
否、消えたのではない。あまりの速さにそう見えただけだ。
とてつもないスピードではあるが、先ほどのナンバーセブンほどの速さではない。
背後に回り込んだ垣根に反応し、削板は振り返る。
振り返った削板の目に映ったのは、迫りくる白い翼。
垣根の振るった翼は猛スピードで削板の頭に迫る。

「―――死ぬぞ」

思ったより垣根の攻撃速度が早い。
翼はもう目前だ。回避は間に合わない。
とっさに頭を両腕で固め、防御に専念する。

「超すごいガード!!」

あの白翼がどれほどの破壊力なのか分からないが、第二位の攻撃だ。
軽いものであるはずがない。
ふざけた技名(?)を叫び、衝撃に備える。

だが、

「ぅぐ……ッ!? ガハァ……!!」

とてつもない激痛が彼の全身を走りぬける。
頭部への一撃を食らったのではない。
見てみれば、三枚の翼がナンバーセブンのわき腹へと叩き込まれていた。
垣根帝督の白翼は一枚ではない。
頭部を両腕でガードしたことによって、隙だらけとなったところを狙われたのだ。
彼のわき腹にめり込んでいる翼は、しかしそこで止まらず、そのまま削板を猛烈に薙ぎ払った。
無様に吹き飛ばされ、廃ビルに突っ込むナンバーセブン。
鉄骨を食い破り、壁を破壊するまで飛ばされ、ようやくそこで動きが止まる。

無防備に晒されていた上、まさかそんなところに来るとは考えておらず虚をつかれたことにより、たった一発で甚大なダメージを受けていた。
銃弾を撃ち込まれようと刃物で刺されようと、痛いで済んでしまう彼の強靭な体が、だ。
肋骨が間違いなく折れている。
だがそれで済んでいるのがそもそも異常だった。
学園都市第七位。伊達に超能力者をやってはいない。

呼吸が止まる。苦しそうに口をパクパクさせていたが、やがて呼吸が出来るようになると深く深呼吸した。
たしかに効いた。体を動かすだけで折れた肋骨がどこかに当たるのか、激痛が走る。
だが、ナンバーセブンはまだ戦える。白旗を上げるにはあまりにも早い。

(あの翼はヤバい。六枚もあっちゃ絶対に対応が遅れちまう)

垣根の翼は六枚。
その内一枚でも打ち込まれれば、削板はガードするしかない。
まともに食らえば今のように大ダメージは免れないからだ。
ところが、狙われた箇所を固めれば必ず他の防御が疎かになる。丁度今さっきのように。
そこをもう一枚の翼で狙われれば対処のしようがない。
仮に出来たとしても、更に四枚ある翼までも全て防ぐなど出来るはずもない。

つまり、あの状況に持ち込まれたらその時点で削板は打つ手なしということだ。
一方垣根は、その状況に運べれば確実に一撃を打ち込むことが出来る。
翼を叩きつけ、ガードすれば他の部位を残りの翼で、ガードしなければそのままで。
垣根は戦いの駆け引きとでもいうべきものも体得していた。

「凄げぇな。流石はナンバーツー。はっきり言って想像以上だ。
でもな、俺は負けねぇ。根性さえあれば、どんな敵にだって怯まず立ち向かえるんだ!!」

「本当に暑苦しい野郎だなテメェは。
でもまぁ、今の一撃で臓器まで破壊されなかっただけでも自慢できるぜ?
流石は第七位。気持ち悪ぃ体してやがる」

そう言って垣根は翼を軽く一振りする。
人間など飛ばされる程度の烈風が巻き起こる。
だがここはナンバーセブン。
両腕を上に掲げると小規模な爆発が起き、烈風をかき消した。

口の中を切っているのか、鉄の味が広がる。
口元に流れている血を右手で拭い、しっかりと身構える。
垣根に主導権を握られるのは非常にマズい。
ならばこちらから仕掛けるべきだ。
ギュッ、と拳を握り締め、そして

「すごいパーンチ!!」

「……は?」

突然わけの分からないことを言い出した削板に、思わず変な声をあげる垣根。
だが垣根は長年の暗部での活動のおかげか、直感的に危険を感じたのだろう。
未元物質の翼でその身を繭のように包み、防御体制に入る。
そこにナンバーセブンの拳から飛んできた何かが直撃するが、その衝撃は未元物質に触れると四散していった。
白い繭のような翼の中から無傷の垣根が現れる。

「おいおい、何だかずいぶんめちゃくちゃなことやってくれんじゃねえか」

「目の前に敢えて念動力の壁を作り、それを拳で破壊することによって爆発の余波を遠くまで飛ばしている……はずだぞ!!
通称念動砲弾(アタッククラッシュ)。何か変な奴に否定されてしまったがな、はははは!!」

「どんな頭してんだ。そんな現象は間違っても起こらねえよ。
俺の未元物質じゃあるまいし、めちゃくちゃすぎるぞその理屈。
超能力者の品位を下げてくれるなよ」

「うむぅ……。なら俺は一体何をどうしているんだ!?」

「知るか死ね。テメェのことを俺に聞くんじゃねえよ死ね」

「まぁいい!! 俺は燃え滾る根性を拳と共に放っているだけだからな!!」

削板軍覇は超能力者ではあるが、他六名とは少々異なる。
超能力者は演算能力を始め凡人とは比較にならない頭脳を持つ。
それは演算能力だけではなく、脳を開発されている他の学生と比べても全てが異常なのだ。
記憶力や理解力、応用力。更には語学や物事の知識といったところまで、他とは一線を画す。
並のコンピューターを凌駕し、外のスーパーコンピューターくらいなら超えるほどだ。

だが削板軍覇は違う。
原石である彼は時間割り(カリキュラム)を受けて超能力者になったのではない。
超能力者判定を受けた後は時間割りも受けているのだが。
そんな彼は他の超能力者とは違い、その頭脳はとりわけ優秀という訳ではない。
むしろ上条のような頭脳の持ち主である。一言で言ってしまえば馬鹿なのだ。
よって、彼は自分の述べた理屈がめちゃくちゃであることにも気付けない。
ちょっとかじっただけのただの学生でも気付けるというのに。
削板とは違い優秀すぎる頭脳を持つ垣根は、すぐに削板の言う理屈が成り立たないことに気付いたようだが。
しかしそんな瑣末事など気にしないのが愛と根性のヲトコ、削板軍覇なのである。

「すごいパンチ!! すごいパンチ!! もっとすごいパンチ!!」

そんなことを叫んでいる姿はヤケクソになったようにしか見えない。
しかし一発一発確実に衝撃波が飛び、そして確実に垣根に防がれ、あるいはかわされていた。
とはいえ、それは並大抵の威力ではない。垣根が異常なのだ。

「どうやらテメェはそれなりの力があるようだが、全く使いこなせてねえ。
手に銃があるのに、撃たずにそれで殴ってどうする」

ナンバーセブンの力は少々特殊なものだ。
そして本人はその力を全く理解出来ていない。
かつて彼が戦った魔術師、オッレルスにも言われたことだ。
説明の出来ない力。もし削板がそれを正しく理解出来ていたなら、もう少し違った展開になっていたかもしれない。

だが自らの力について理解出来ていないのは垣根帝督も同じだ。
彼の能力、『未元物質』。
それは一体どこから引き摺り出してきたものなのか、それが何を意味しているのか。

そして、“何故能力を発動すると天使のような翼が展開されるのか”。
科学とは対を成すもう一つの法則、魔術サイドでは天使とはどういう存在なのか。どれほどの力を持った存在なのか。
何故科学的に発現した未元物質が魔術的要素を孕んでいるのか。
彼の未元物質は謎が多すぎる。
科学によって発現し、魔術によって説明される。
とはいっても魔術だけでは未元物質の全てを説明することは出来ない。
科学と魔術、その双方の知識を掛け合わせなければ未元物質を真に理解することなど出来ない。
どちらか一辺倒では駄目なのだ。

いや、もしかしたら双方の知識を組み合わせても未元物質を理解することなど出来ないかもしれない。
科学的に発現する天使の力など前代未聞。
それに未元物質は天使の力をそのまま振るうわけではない。
もしその全てを理解出来たなら、垣根帝督は想像もつかないような高みにまで上るかもしれない。
だが、それも理解出来たらという仮定の話。
現時点では垣根帝督は不完全なのだ。

無自覚に力を振るうナンバーセブンが再度突進する。
念動砲弾が効かない以上、その肉体で打ち倒すしかない。
迎え撃つは無限の可能性を秘める垣根帝督。
左側の三枚の翼で烈風を巻き起こすが、ナンバーセブンはそんなことでは止まらない。
そのまま拳を打ち込むのか、というところで不意にナンバーセブンの動きが止まる。

(な、んだ、今のは……っ!!)

垣根帝督の巻き起こした烈風はただの風ではなかった。
まるでドライヤーを何十倍にもしたような強烈な熱風。
削板の体を異常な熱波が襲い、一瞬にして全身に火傷を負った。
体が思うように動かせなくなり、思わず動きが止まってしまった。
だがこれが普通の人間だったら、この時点で重傷を負い最悪死に至っていただろう。
それがこの程度で済んでいるのは、ひとえに削板の頑丈すぎる体のおかげだ。

「そらそらぁ!! 縮こまってる場合じゃねえぞ第七位!!」

その隙に右側の翼を叩き込む垣根。
だがナンバーセブンはそれを見越していて、振るわれた翼を何とか両腕で受け止める。
ギリギリと押し込まれる翼を、そうはさせんと全力で押さえ込む削板。
だがここでまたしても不可解な現象が起きた。
突然垣根の白翼が、まるで熱せられた鉄板のような異常なまでの熱を発し始めたのだ。
ジュッ、と肉を焼いたような音がし、掌に激しい痛みを覚える。

「……ッ!?」

脊髄反射的に手を放してしまった削板。
押しとどめるものがなくなったことにより、白翼は猛然と削板に迫る。

「ぐぁ……ッ!!」

だが今度はギリギリで左腕を盾にし、最初の一撃ほどのダメージはない。
それでも数メートルは吹き飛ばされ、左腕の骨が砕ける嫌な感覚を覚えた。
フラフラと立ち上がり掌を確認してみると、なんと焼け爛れていた。
それほどの熱が発せられていたということだ。
加えて先ほどの風攻撃により全身に火傷を負っている。

一体垣根の力はどういう能力なのか。
天使のような翼や焼け付くような熱風、突如発せられた異常な熱。
だが考えてもその正体は掴めなかった。
削板でなくとも解明することなど出来なかっただろう。
なにせ、この世に存在しない法則なのだから。

「……っあ?」

ここで削板は左手が動かせないことに気付いた。
どれだけ力を入れようとしても全く動いてくれない。
まるで左手だけが自分の体から切り離されたようだった。
そしてそれはある意味ではあながち間違いでもなかった。腱が切断されていたからだ。
先ほど食らった三枚の翼での一撃。
その内一枚の翼は鈍器としてではなく、刃物として振るわれていたらしい。
腱が完全に切れた以上、左手は使い物にならない。
利き腕である右手が残されているのが不幸中の幸いだが、それでも既に彼は満身創痍だった。

「もう諦めろ。所詮第七位じゃ第二位には勝てねえ。そいつがよく分かったはずだ。
訳あって半端じゃなく苛立ってたが、テメェとの戦いで多少はストレスも解消された。
もう手を引け。今退くってんなら見逃してやる」

「諦めねぇよ。諦めるわけがねぇだろ!!
根性のある男は敵がどんなに強くたってまっすぐ立ち向かえるんだ!!
男・削板軍覇!! 尻尾を巻いて逃げ出すような根性なしになった覚えはねぇ!!」

「……そうかい」

「それに、お前だって苦しんでるんだろ?」

「またそれか。どいつもこいつも苦しんでる苦しんでるって……。テメェに何が分かる?」

「分かんねぇよ。けど、戦うと相手の心情が何となく、曖昧にだけど分かるんだ。
何かこう、その、根性の繋がり的な? うん? ……とにかくだ!!
お前の攻撃からは苦悩しか感じねぇんだよ!!」

「黙れ。もう聞き飽きた。少年漫画みてえな吐き気のする台詞吐きやがって。
しかも全体的に曖昧ときたもんだ。
それにテメェの言葉は御坂やあのクソシスターと違って全く響いてこねえ」

「俺は諦めない。
根性の力でお前を倒し、そしてその苦しみから根性で解放してやる!!」

瞬間、ゴォ!! と何らかの力が彼の体を包み込む。
目の前にいる男を倒すため。目の前の男を救うため。
ナンバーセブンは、ナンバーツーへ下克上を図る。
既に体はボロボロで、立っているのがやっとの状態だ。
それでも、負けるわけにはいかない。

「見せてやるよ、本物の根性ってヤツを!!」

ナンバーセブンは念動砲弾を放つ。
先ほどよりも、更に強力な一撃。

「遅い」

だがそれが当たるよりも早く、垣根はその翼を大きく広げ空へと回避する。
美しい翼を広げ空を舞うその姿はまさに天使そのものだった
自在に空を翔る垣根に対し、削板には打つ手がない。
空を飛べるというのは絶対的なアドバンテージを生み出すのだ。

だが削板はグッ、と足を折りたたみ、空中の垣根を見据える。
次の瞬間、思い切り地面を蹴飛ばし一直線に上空へと跳んで行くナンバーセブン。

「すごいバネジャンプwith根性!!」

その衝撃で地面は砕かれ、弾丸のように垣根へと迫っていく。
上空とは言っても、現在垣根のいる高度は大した高さではない。
精々四メートルあるかないか、どれほど大きく見積もっても五メートルといったところだ。
そのおかげで削板でも手を届かせることが出来る。

「無駄だ」

唯一使い物になる右の拳を力の限り叩きつけようとするナンバーセブン。
だが垣根は更に上空へと舞い上がることで、これをいとも容易く回避する。
飛べることと跳ぶことはまるで違うのだ。
垣根が高度を上げたことによりナンバーセブンの拳はむなしく宙を切り、そのまま重力へ引かれ地上へと落下していく。

しかし垣根はそんな削板に追撃をかけるべく、その六枚の翼を更に巨大化させる。
彼の翼の大きさは自在に変えることが可能だ。
先ほどまでは大したことのない大きさだったが、今は違う。
一枚一枚が一〇メートル程度の大きさにまで肥大化している。
あまりの巨大さに太陽の光が遮られ、二人のいる路地裏が暗くなる。
垣根がその翼をバサァ、と優雅に広げた瞬間、削板の体に異変が起こった。

「な、ん……っ!! 何ィ……!?」

突然彼の全身を激痛が貫く。
先ほどの白翼を受け止めた掌のように、全身が焼けている。いや、溶けているというべきかもしれない。
もちろん日焼けなどというレベルではない。服が、皮膚が、肉が、焼け爛れていく。
ナンバーセブンの強靭な肉体をものともせず、焼き尽くしていく。
先ほどの熱風を遥かに超える熱が彼を襲う。
体中の肉が爛れ、ほんの少し動くだけでとてつもない痛みが走る。

これは垣根の未元物質の翼で回折したことにより、この世のものならざる法則に従い変質した太陽光だ。
未元物質の影響を受けた太陽光は、人間を焼き殺せるレベルの殺人光線と化す。
加えて彼の翼は一枚一〇メートル程度のものが六枚。
極めて広範囲に殺人光線が照射されている。回避は不能だ。
殺人光線を食らったことにより、彼はうまく着地することが出来ずに数メートルの高さからコンクリートに叩きつけられる。
常人ならばそれだけでこの世に別れを告げることになっていただろう。
いかなナンバーセブンといえど、流石にこれは堪えた。
熱、熱、熱。何重もの執拗な熱攻撃を食らったことにより、ナンバーセブンの体は目をそらしたくなるような重傷を負っていた。

「終わりだな、第七位」

降りてきた垣根は、しかし二メートルほど浮いている。
空から見下ろされる形になった削板はなんとか立ち上がろうとするが、もう限界だった。
高層ビルを縦に両断できる白翼を二度叩き込まれ、熱風で全身に火傷を負い、殺人光線によって全身を焼かれ、数メートルの高さから落下。
生きているのが不思議なくらいだ。

少し動くだけで全身が悲鳴をあげる。
腕や肋骨を始め、いたるところの骨が折れている。
むしろ、最初の一撃をまともに受けた時点で削板はリタイヤしていておかしくなかったのだ。
全身のいたるところの骨が折れ、体を焼かれ、それでもこれまで戦っていた方が異常なのだ。

「第三位以下の五人なんて、所詮は団子だ。どんぐりの背比べなんだよ。
テメェが俺と『戦闘』するなんて不可能だ。結果はただ一方的な蹂躙でしかねえ。
俺と『戦闘』が出来る奴がいるなら、それはクソ忌々しい第一位しかあり得ねえ」

そしてそれは逆もまた然り。
第一位の一方通行と『戦い』が出来るのは第二位である垣根帝督にしか不可能だろう。
力の強い弱いの話ではない。
そもそも垣根以外では強弱の問題まで持っていけないのだ。
超能力者の中でも飛び抜けた力を持つ第一位と第二位。その片割れ。
未元物質。天界との仲介者。天使の力。スペアプラン。アレイスターに唯一、一方通行の代わりと成り得るとされた者。

「ぐ、クソッ……!!」

削板はオッレルスと戦ったときのことを思い出していた。
あの時、彼は何が起きているのか全く分からない攻撃によって完封された。
今も同じだ、と削板は思った。
得体の知れない天使のような翼。全てを焼き尽くしそうな熱風。突如発熱した翼。
そして不可視の正体不明の攻撃。
彼はそれが太陽光を変質させたものであるとは当然分かっていない。
太陽光は視認できないから、彼からすれば突然自分の体が焼けたようにしか感じられないのだ。

もちろんオッレルスと比べれば未知の程度は垣根の方が低いだろうが、実感としては変わらない。
理解の出来ない力によって、何が起きているのか理解も出来ず一方的に叩き潰された。
ナンバーセブンの攻撃は何一つとして垣根に通用していない。
一方、削板は既に限界だ。だが、

「負け、るかよ……。
俺は……お前を救うためにも、負けられねぇんだ!!」

「またそれか。言っただろ、テメェの言葉は響かねえって。
俺は外道のクズだが、テメェなんざに救ってもらうほど落ちぶれた覚えはねえよ」

「俺は……諦めねぇぞ!!」

「誇りと死を天秤にかけたか。感傷的だが、現実的じゃねえな」

体に鞭打ち、再び立ち上がらんとしたナンバーセブンを得体のしれない力が襲う。
再び地面に倒れこむナンバーセブン。
理解不能の不可視の力が、彼の全身を均等に押しつぶしている。

(なん、だ……ッ!?
重力が、いや違う!! 見えない何かが、俺の上に……踏み、潰されて……!?)

理解が追いつかない。
まるで重力が何倍にもなったかのように、彼の体が潰されていく。
見えない何かに踏みにじられていく。
重力ではない、と削板は思う。うまく説明できないが、何となく違うと感じる。
では何なのか。全く説明が出来なかった。
肺が圧迫され、呼吸が乱れる。全身にかかる重圧に思わず吐血する。
謎の力が傷を負った削板の体を容赦なく襲った。

垣根はそんな彼の側に歩み寄り、笑った。

「でもまあ、感謝はしてやるよ。
お陰様でだいぶスッキリした。ま、原因をはっきりさせねえことには当座凌ぎでしかねえが」

最後に役に立ってよかったな、と垣根は笑う。

「だから、ここでお別れだ」

言った瞬間、彼を中心にゴァ!! と大規模な正体不明の爆発が巻き起こる。
フレンダ=セイヴェルンを始末した時に使ったのと同じものだ。
ナンバーセブンの体はボロ切れのように何メートルも吹き飛ばされていった。
垣根帝督は死体の確認もせずに、興味がなくなったといったように背を向け、その場から立ち去っていった。










ナンバーセブンが目を覚ました時、最初に目に入ったのは雲川芹亜の顔だった。

「よう。護衛がやられてれば世話ないのだけど」

「雲川……? そうか、また負けちまったのか、俺は」

「全く。お前の頑丈さと生命力には呆れたけど。
常人なら四回は死んでるぞ。ああ、救急車は呼んでおいた。
もうすぐにでも来るから安心するといいけど。
それにしても私が来なかったら間違いなくお前は死んでいたぞ」

削板の体は直視するのは憚られるほどの重傷を負っていた。
全身の骨が細かいものも含め何本も何本も折れ、砕け、それが臓器に刺さっていた。
更には体中の肉が焼かれ、爛れ、溶けている。
これで生きて、意識があり、かつ喋れているというのだから雲川の言う通り呆れるしかない。

「一体どこのどいつにやられたんだ?
超能力者であるお前をここまで見事にコテンパンにのせる奴など、同じ超能力者としか思えないけど」

「ああ。あいつは強かった。曲がってはいたが、根性もあった。
でも俺はまだあいつを救えてない」

「何を言っているのかまるで分からないのだけど。
……ておい何してる大人しくしろたわけ!」

立ち上がろうとした削板を雲川がたしなめる。
削板の顔は苦痛に歪んでいたものの、まだ立とうと思えることが異常だ。
しかしヘタに動けば、誇張なしに死んでしまうかもしれない。

「全くお前という奴は……。
自分の体がとうに限界を迎えていることに気付け。
たとえお前が根性がどうだのと言って立ち上がろうとしても、所詮それは精神論。
肉体は精神論だけで動いてはくれないのだけど」

「……おう」

「全く。お前がいなくなったら私は……」

それっきり削板はやたらと動かなくなった。
雲川の言葉が効いたのか、あるいはもう限界であることに本当は気付いていたのか。
二人の間に沈黙が流れる。
救急車は間もなくやってくるだろう。
だがその前に、雲川が再び口を開いた。

「なぁ、削板」

「……ん?」

甘い雰囲気が漂う。
まるで恋人の間に流れるような、無言でありながら気まずさの存在しない雰囲気。

だが、

「お前の服、異常にダサいな。正直見苦しいけど」

雲川は見事にその雰囲気をぶち壊したのだった。

「な、何だとぉ!? 俺の服装にまで滲み出る根性が分からんのか!?」

「いやいや、流石にそれはないけど。昭和か」

「俺のファッションセンスを馬鹿にすることは俺の燃え滾る根性を侮辱することと同義ッ!!
いくらお前でも見過ごすわkグハアァァアァ!!!!」

「そりゃーそれだけの大怪我でそんなに叫び倒せばそういうことにもなるけど。以後気をつけろ」

その後すぐに救急車がやって来たが、担架に乗せられ運ばれる時も根性が云々と言って騒いでいたため、雲川のお叱りを受けることになったという。

投下終了
雲川先輩と微妙にフラグをたてやがったもげいた

垣根に翼が生えるのと、それが六枚なのは何か意味があると思うんですよね
一方通行と対比されているのも気になります
六枚の翼、というとルシフェルが出てきますが、ルシフェルと対を為すものというとミカエル?
ですがミカエルは一方通行ではなくフィアンマが対応してましたし……
新約6巻で何か触れられることを期待します

    次回予告




「気にしないでいいわよ、このくらい。
アンタたちの姉名乗るならわがままくらい聞いてあげないとね」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)・妹達(シスターズ)のオリジナル―――御坂美琴




「この冷蔵庫……。とても美しいフォルムです、とミサカは何故か垣根さんの顔が脳裏をよぎりましたが気にしません」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号にして美琴の妹―――御坂妹




「……また、一緒に遊んでくれる? ってミサカはミサカは勇気を振り絞って質問してみる」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)

……と思ったら、ルシフェルの翼は12枚でしたね
間違えたわけじゃないんだからね! ちょっと記憶違いしてただけだい!


熱い戦いの裏で仲良し姉妹デートが続行してたんだな   でもこっちもそろそろ……

>>377 師走だしテスト期間だし、今回は慮って、ってのもあるかも

>>1 描写乙! 削板の再登場待ってる

この苦しきこと多かりき時期に面白いSSが読めるのは幸でございますよ
乙です

投下しますぜ

>>376
いよいよです

>>378~379
やはり書き手としては反応をもらえると嬉しいものです
やっぱりモチベも違いますので、よければ一言でもくださいな

>>380
そう言ってもらえると嬉しいです
ただあなた様はローラなのかオルソラなのか……

そして、再会。










垣根と削板が出会う少し前。
美琴は御坂妹や打ち止めと合流していた。
広場に戻ってきた美琴の姿を認めると、打ち止めがパタパタと走りよってきた。
彼女の体が幼いせいか、実際はそんなことはないだろうが躓いて転んでしまう姿が容易に想像できる。
打ち止めがむくれるのは目に見えているので、それを口にすることは決してないが。
それとは対照的に御坂妹はあくまで無表情に歩いてくる。
それだけ見るとはしゃいでいる妹(打ち止め)を見守る姉(御坂妹)のようにも見えた。

「どこ行ってたのってミサカはミサカは訊ねてみたり」

「ちょっと垣根に言い忘れたことがあっただけよ」

そう言って頭を優しくなでてやると、「えへへー」と緩みきった顔を見せる打ち止め。
それを見ていた御坂妹が少々ムッとしたように口を挟んだ。

「お姉様、もともと今日はこのミサカと遊んでくださる日のはずです、とミサカは約束の続行を要求します」

「ん、それはいいけどどっか行きたいとこあんの?」

「ミサカはゲームセンターなるところへ行ってみたいです、とミサカは提案します」

「ミサカも行きたいーってミサカはミサカは可愛くおねだり!」

「自分で言うなし、とミサカは聞きかじった言い方を早速用いてみます」

「じゃあ三人で行きましょ?」

御坂妹は若干不満気だったが、特に文句は言わなかった。
美琴は内心またゲーセンか、と思っていたが今回は垣根と上条のコンビとではなく妹と行くのだ。
人が違えばまた違う楽しみがあるはず。
それにたとえそれがゲーセンという遊びでも、新しい体験をさせてやりたいと彼女は思う。

「それじゃ、行きますか」

「オー! ってミサカはミサカは出発の掛け声をかけてみたり!」

「オー、とミサカはやる気はありませんがとりあえず乗っておきます」

「ふふ」

そんな幸せな思わず笑みがこぼれる。
まさに美琴が望んでいた平和そのものだった。
見たかった、そして守りたい光景。
これを破壊しようとするものがあるならば、美琴は絶対の盾となってそれの前に立ち塞がるだろう。
体の底からこみあげる幸福感に頬を緩ませて、三人は最寄のゲームセンターへと向かった。





―――第七学区・とあるゲームセンター

「むむむ~、もう少し! ってミサカはミサ……あぁ!!」

「貸しなさい、このミサカが華麗なアーム捌きを見せてやります、とミサカは意気込みます」

「そう、もうちょっとよ! 後二センチ奥! いいわよ、その調子!
……っしゃあ!! とったぁ!!」

「わーい!! 二個目のゲコ太人形だってミサカはミサカは喜んでみたり! あとはお姉様の分だね!」

「私にかかればこんなものッ!!」




―――第七学区・とある娯楽施設

「お姉様ダーツうまいね! ってミサカはミサカは褒めちぎってみたり!」

「ありがと。重心とか角度とか計算して投げればなんとかなるもんよ」

「一九〇九〇号……。一四五一〇号……。一七六〇〇号……。一〇〇三三号。
二〇〇〇〇号……。全ての妹達、少しずつでいいのでこのミサカに演算能力を分け与えるのです、とミサカは必殺技の準備をします」

「アンタはどこぞのサイヤ人かい」





―――第七学区・とあるスイーツ店

「さっきクレープ食べたのにまだ食べたいわけ?」

「ミサカはこのレアチーズケーキに一目惚れしました、とミサカは内に秘めた恋心を暴露します」

「ミサカはショートケーキ! ってミサカはミサカはあえて王道をチョイスしてみる!」

「ほんとよく食べるわねアンタら……。私はモンブランでいいかな」

「モンブラン……上から読んでも下から読んでもモンブラン……とミサカは……」

「何言ってんのアンタ」




―――第七学区・とある家電量販店

「こんなとこ来て楽しいかな?
面白いものはないと思うわよ?」

「この冷蔵庫……。とても美しいフォルムです、とミサカは何故か垣根さんの顔が脳裏をよぎりましたが気にしません」

「このイスブルブルするってミサカはミサカカカカ」

「遊具じゃないのよ打ち止め。
……でもたしかにこれは気持ち良いかも」

「お姉様、オバサンみたいってミサカはミサカは爆弾発言!」

「分かってるのなら自重しようか打ち止めちゃ~ん?」

「痛い痛い! グリグリしないでってミサカはミサカはぁー!!」










二人の妹にとことん付き合い、ようやく彼女達が満足した時は完全下校時刻間近だった。
御坂妹と打ち止めの行きたいと言った所は余すことなく行った。
それだけ遊べば時間が遅くなるのは至極当然であった。
終電の時間ということもあり、あたりの人の動きが激しくなる。

「お姉様、今日はたくさんわがまま聞いてくれてありがとう! ってミサカはミサカは元気にお礼を述べてみる!」

「気にしないでいいわよ、このくらい。
アンタたちの姉名乗るならわがままくらい聞いてあげないとね」


「あの……」

少し不安げな顔を見せ、指をモジモジさせている打ち止め。
言いたいことがあるのに中々踏ん切りがつかないようだった。
今までとは違う雰囲気に、美琴が緊張を和らげようと明るく訊ねる。

「どうしたの? 何かあった?」

「……また、一緒に遊んでくれる? ってミサカはミサカは勇気を振り絞って質問してみる」

美琴は一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みを浮かべ打ち止めの頭をなでる。

「当ったり前でしょ。私の方からお願いしたいくらいよ」

そう言ってにしし、と笑う美琴に、打ち止めも無邪気な笑顔を見せる。

「うん! それじゃ、ミサカは帰るね! ってミサカはミサカはさようなら!」

そう言うなり打ち止めはすぐに走り去ってしまった。
美琴は打ち止めを送って、ついでに保護者の警備員や「あの人」と会おうと考えていたのだが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。
まあいいか、と美琴は思う。
何もそんなに慌てなくとも、打ち止めの言う「あの人」に会う機会はそう遠くないうちに作れるはずだ。

「それではお姉様、ミサカもこれで失礼します。
今日はとても楽しかったです、ありがとうございました、とミサカは感謝の気持ちを伝えます」

「うん。アンタも、また遊ぼうね」

「……そのことなのですが、実はミサカネットワークが今大変なことになっているのです、とミサカは一見シリアスな話を切り出します」

「え? ちょっと、それ大丈夫なの?」

ミサカネットワークは全ての妹達の脳波を利用して構築されている。
そのネットワークに異常が出るということは、妹達にも問題が出る可能性があるのではないか。
そう考えた美琴は最悪の可能性を思い浮かべたが、御坂妹はあっさりとそれを否定した。

「他のミサカたちから大ブーイングが届いています、とミサカはぶっちゃけます」

「はい?」

シリアスなことばかり考えていただけに、その御坂妹の言葉に反応が遅れる。
妹達からブーイングとはどういうことなのか。
その意味するところが全く分からず、思わず間抜けな声をあげてしまう。

「一〇〇三二号や上位個体ばかりお姉様と遊べてズルい。
自分だってお姉様に会いたい。お姉様とケーキ食べたい、といったような内容です、とミサカは報告します」

「……おぉう? えーっと、つまりどういうこと?」

「皆お姉様と遊びたいのです、とミサカは一言でまとめます」

機会があったら遊んでやってください、と言う御坂妹に美琴は考える。
妹達は一万人ほどいる。そのほとんどが外国住みだし、その妹達とは流石に接触はできない。
だがせめてこの学園都市にいる妹達とくらい会ってもいいのではないか。
というか美琴自身も会ってみたかった。御坂妹以外にも、あの病院に何人かいたはずだ。
個性が芽生え始めているのだから、妹達間でも大なり小なり差異は生まれているだろう。
なるべく多くの妹達と会いたかった。

「分かった。私もたくさんの妹達と会いたいしね」

「そうしてあげてください。ではミサカもこれで失礼します。
あの医者が心配しますので、とミサカは後ろ髪を引かれながらも別れを告げます」

「そんな永遠の別れじゃないんだから……ま、とにかくまたね」

「はい。ではさようなら、お姉様」

「……ッ!?」

美琴は思わず息を飲んだ。
御坂妹の後ろに何かがあった。いや、いた。
どこまでも黒く、生理的な嫌悪感を引き立てるそれ。
黒いフードを被った死神―――そうとしか表現できない―――が、巨大な鎌を構えて御坂妹の後ろにいた。
その鎌は大きく振りかぶられていて、今にも御坂妹の首に向けて振るわんとしていた。
命を刈り取る死神。そして御坂妹は、自身の首に迫る大鎌の存在に気付いていない。

(駄目―――!!)

「……どうかしましたか? とミサカは様子のおかしいお姉様に問いかけます」

「―――えっ?」

ふと気がつけば、死神の姿は消えていた。
まるでそんなものなど最初からいなかったというように、僅かな痕跡すら残さず消滅していた。
あるのは全く変わらぬ御坂妹と帰路を急ぐ学生たちだけ。
いや、本当にいなかったのだろう。
だって冷静に考えて、この世に死神なんてものがいるわけがない。
あんな幻覚を見るなんてよほど疲れているのだろうか。

「あ、ううん、何でもないの。ちょっとボーッとしちゃっただけ。
うん、気をつけて帰りなさいよ?」

「はい、ではまた、とミサカは丁寧に頭を下げて踵を返します」

御坂妹は帰っていった。
しかし美琴は呆然とその場に立ち尽くしていた。
死神の幻覚は勿論、それとは別に何かつっかかりを覚えた。
デジャヴ、とでもいうのだろうか。うまく説明のつかない既視感を感じた。
それは気持ちの悪いドロドロとしたものとして、美琴の心に粘つく不快感を残している。
まるで喉に引っかかった魚の骨のように、それはどうしようもない異物として存在している。
すっきりしない。気持ち悪い。
そしてそれはこれが初めてではない。

今朝セブンスミストで御坂妹がゲコ太趣味に理解がある、と告げた時も同様のつっかかりを覚えた。
その一度だけなら流していただろうが、二度目となると気にならないはずがない。
美琴は何とか頭を回転させ、解答を探り出そうとしたが、中々出てこない。
そこで美琴はじっくり考えるため、かつて上条と対峙したあの鉄橋を目指すことにした。

特に理由はなかった。
自室だと騒がしいルームメイトがいて、落ち着いて考えられないだろうと思ったこと。
たまたま鉄橋のすぐ近くにいたので、ほんの少し歩けばすぐに着ける距離だったこと。
あの鉄橋は静かなので、何者にも邪魔されず思考の海に飛び込めると思ったこと。
強いて理由を挙げるならこんなところだが、何も鉄橋でなくてもよかった。
近くの公園でも何でも良かった。何も今、このタイミングで、そこに向かう必要性は全くなかった。


だが、彼女は何かに操られたように最悪のタイミングで鉄橋に向かった。向かってしまった。




終わったはずの悪夢が、再び待っているとも知らずに。




もしこの世に神様なんてものが本当にいて、それがこういう偶然、もしくは運命を仕組んだのだとしたら。
神様という奴はどこまでも残酷で、どうしようもなく嫌な奴なのだろう。



前述の通り美琴は鉄橋のすぐ近くにいたので、ほんの二、三分程度で到着した。
思った通り、ここには誰もいない。
人の話し声や機械の音など、そういった物音がほとんどしない空間。
あたりは静寂につつまれていた。
僅かに街中の音が届くのを除けば、美琴の髪を揺らし頬を撫でる風の音くらいしか聴覚を刺激するものはなかった。
冷たい風は吹く度に美琴の体から体温を奪っていたが、だからこそ頭が冷える気がした。

時刻は一八時を過ぎたところ。もう一一月も間近であり、加えてここには明かりになるものがほとんどない。
太陽が沈むのもだいぶ早くなっており、そんな薄い闇の中を美琴は歩いていた。
コツ、コツ、と常盤台指定の革靴、いわゆるローファーがアスファルトを叩く音が響いた。
誰もいない夜の鉄橋を見て、美琴は八月のあの日を夢想する。

(そういえばここであの馬鹿とぶつかったんだっけ。
全く、あの時は私も大概だったけど、アイツはもっとおかしかったわね。
あの状態で第一位に挑んで、勝っちゃうんだから)

自分で考えておいてなんだが、第一位という言葉に強い不快感を感じ、思わず顔を顰める。
あれだけのことがあったのだ、当然だろう。
あの『実験』のことは絶対に忘れてはならないと思っているが、同時に思い出したくないとも思っている。
考えを切り替え先のつっかかりについて考えようと思った時、彼女の視界に僅かに一人の人間の姿が映った。
流すことは出来なかった。その人間が視界に入った途端、彼女の視線はその一点で固定され全てが頭から吹き飛び、そして








世界が、止まった。








時の停止したたった一人の世界で、心臓の鼓動がうるさいくらいに大きくなる。
あまりにも激しく活動する心臓は張り裂けそうで、その心音が御坂美琴の聴覚を埋め尽くす。





    ドックン




その人間は白かった。
だが清純、清廉というウェディングドレスのようなイメージの白ではなく、どこまでも淀み濁り白濁し腐敗した白。




    ドックン




その人間の眼は紅かった。
距離があるためはっきりとは見えないが、夜行性の動物の眼が暗闇で光るように、血の如く紅く輝いて見えた。




    ドックン




その人間は杖をついていた。
彼が『彼』であるなら、絶対必要にはならないだろう変わったデザインの杖をついていた。




    ドックン!!



美琴はその人間が誰か分からなかった。
―――違う。本当は分かっていた。一目見た瞬間に分かっていた。
忘れられるはずもない人間。美琴の脳裏に、網膜に焼きついて消えないその姿。
御坂美琴という人間の頭蓋を掻き分け、右脳と左脳を切り開いた奥底にまで叩き込まれている存在。
ある意味で上条当麻以上に美琴に影響を与える人間。
美琴の骨の髄まで恐怖という感情を刷り込んだ男。

だが彼女の心が、体が、視覚が、頭が、全てが、それを理解することを拒んだ。
そんなはずはない、と彼女の全てが叫んでいる。
見間違い、精神系能力者の幻覚、自身の視覚の異常。
考えうるありとあらゆる言い逃れを展開して自分を騙し、目の前の現実を否定する。

だが、どんなに見ても、どんなに逃げても、やはりその人間は『彼』だった。
その事実を理解した時、理解させられた時、まるでパラパラ漫画のように、アルバムを一ページ一ページ捲っていくように。



                                          が
彼女の脳内に八月の、あの地獄のような日々の記憶が一つ一つ鮮明に  
                                  よ             え
                                                            た。
                                     み

                                                    っ




           『君のDNAマップを提供してくれないだろうか?』

  『アンタ何者?』    『お姉様はあの生物が地面に叩きつけられても一向に構わないと言われるのですね』

        『ミャー』                『お姉様から頂いた初めてのプレゼントですから』

     『さようなら』           『お姉様』

          『まだ見ぬ絶対能力者へとたどり着ける者は一名のみと判明』    『超電磁砲を複数確保することは不可能』

                           『二万体の妹達との戦闘シナリオを以って絶対能力者への進化を達成』

   『うそ、うそっ そんな……』    『やめっ……!!』              『ああああああああああああ!!!!』

        『タネが割れたらどーってことねェがな』       『オマエオリジナルかァ』

             『まさかこンなシケたもンだと思わなくてよォ』               『絶対的なチカラを手にするため』

                『そんなモノのためにあの子を殺したのかーッ!!!!』

    『生きてるんでしょ!?』      『命があるんでしょ!? アンタたちにも……あの子にもッ!!』

      『作り物の体に借り物の心』                『単価にして一八万円の実験動物ですから』

          『これで残るは……』    『お子様のケンカ程度でこの街の「闇」をどうにかできると思ってんのかァ!?』

             『計画より先に私が止まる訳にはいかないのよっ!』    『コイツは私に殺されるために生まれてきたんだ―――ってね』

         『どうしたらいいの?』              『どう…すれば……』

      『ッざけんじゃないわよ!!!!』       『私が撒いた種だもの、自分の手で片をつけるわ』

           『お姉様が原因だったのですね』     『ミサカが造られたのも ミサカが殺されるのも』 『全部―――』

   『ターゲットのAIM拡散力場は記憶した』
                            
                             『お姉様』
                                             『お姉様』
             『お姉様』

                      『お姉様』


    『やめてっ…… やめてよ……』               『その声でっ…その姿でっ…もう……私の前に現れないでッ……!!』

         『最っ低だ……』      『もし私が学園都市に災難をもたらすようなことをしたら』

                             『それがこの街の治安を脅かすなら、たとえお姉様が相手でも黒子のやることは』

         『計画の中止と引き換えに黒子につかまるなら、それも悪くない』    『小さい頃、私が泣くようなことは』

 『眠っている間にママが全部解決してくれた』          『何でも解決してくれるママはここにはいない』

   『あの実験もあの日の出来事も全部悪い夢で』                         『目が覚めたらなかったことになればいいのに』

                 『困った時だけ神頼みしても奇跡が起きるわけじゃない』

                           『泣き叫んでいたらそれを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんていない』

 『あなたには止める術などないのだから関わるなと言ったはずなのに』         『やだっ、や…やめ……』

          『機械が決めた政策に人間が従ってるからよ』          『計画を! 今! すぐに! 中止に追い込む!』

   『どんな方法があるっていうのよッ!!』        『助けてよ……』

        『君も私と同じ』                     『限りなく絶望に近い運命を背負っているということだ』

              『私が殺したんだ』     『こんな私にもまだ使い道が残ってるんじゃない?』

 『戦う気があるなら拳を握れ!! 戦う気がないなら立ち塞がるな!!』    『ハンパな気持ちで人の願いを踏みにじってんじゃないわよ!!』

     『誰もが笑っていられる幸せな世界があったとしても』     『そこに私の居場所はないんだからっ!』

                『私一人の命で一万人が助かるならそれはとても素晴らしいことでしょ!!』

        『あの子たちだって私が死ねば少しは気が楽になるわよ』                     『いやああああああッ!!!!』

     『……それでも私は、きっとアンタに生きてほしいんだと思う』       『なんで私は……こんなに弱いの?』

                             『ゴメン、アンタの夢は叶えられないけど私が死ねば実験はそれで終わり』

      『アイツの夢を……守ってあげて……ッ!!』   『何故だか……その言葉はとても響きました……』

            『姉妹ごっこかよ、下らねェ』                     『空間全てを支配していく―――感覚っ!!』

    『……理解できねェな』       『なンで人形を庇う?』    『自分より先に絶対能力者が生まれンのが許せねェのか?』

           『それともこンな実験の発端を作っちまった事への罪滅ぼしかァ?』

              『妹だから』

                    『この子たちは私の妹だから』

                                                       『ただそれだけよ』
 
     『歯を食いしばれよ最強(さいじゃく)』

                            
                          『俺の最弱(さいきょう)はちっとばっか響くぞ』







「あ、ああ、ああああ……」

忌まわしい記憶が蘇る。
                            アクセラレータ
自らを実験動物と平気で言う妹達の言葉が。それを嗤って殺す史上最悪の虐殺者の顔が。

蘇る。
                                アクセラレータ
目の前で足を千切られた妹達の姿が。瀕死の妹達に平然と止めを刺した史上最悪の悪魔の嗤いが。

蘇る。
                            アクセラレータ
モニター越しに弾け飛ぶ妹達の体が。全身の血液を逆流させた史上最悪の殺人鬼の姿が。

蘇る。蘇る。蘇る。








そして、世界が再び動き出した。







「ぅくっ……うぁ、げほっ、おぇ……」

御坂美琴の体を駆け抜ける不快なものがあった。
胃から逆流したそれは、唯一の出口へと殺到する。
口の中に酸っぱい味が広がった。
口を手で押さえ、何とかそれを押さえ込む。

なんで、あいつがここにいる。
なんで、あいつが生きている。

考えてみれば当然だ。あの日上条は、そして美琴は一方通行を殺したわけではない。
一方通行は生きていたのだ。よって、彼がこうして動いていてもなんら不思議はない。
だがそれでも、美琴はただそれだけで酷く取り乱す。

(なんで……だって、あの、実験はもう……ッ!!
終わった、んじゃないの? あの地獄の日々は、苦しみは、終わったんじゃないの?)

御坂美琴にとって一方通行はあの地獄のような夏を象徴する存在だ。
一方通行は一片の慈悲もなく、嗤って一万人もの妹を殺した殺人鬼だ。
絶対能力者になるため。絶対的な力を得るため。最強から無敵になるため。
たったそれだけのために動いていた男だ。
一方通行という存在は簡単に御坂美琴という人間の根幹を揺るがし、奥底まで入り込み、毒していく。
何者も入り込むことの出来ない美琴という人間を支える柱にまで容易に到達し、恐ろしいほどの毒で以って溶かしていく。

(なんで、あいつがまた私の前に……、なんで……ッ!)

だから、美琴が一方通行を見てまた『実験』を始める気か、と思ったのはむしろ当然だった。
あれだけのことをした人間が、平然と雑草をむしるような感覚で妹達を殺してきた人間が。
また不意に現れれば、どうしてもそういう最悪のシナリオを浮かべてしまう。
自分の妹を殺した人間が目の前に現れて警戒しない者がいるだろうか。
恐怖を、怒りを感じない者がいるだろうか。
そしてその予感が的中してしまった場合―――。
だから、ここで一方通行を何とかしなければならない。
一%でも妹達に再び害なす可能性があるなら、放置はしておけない。

何とか体を動かそうとする美琴。
だがまるで全身が金縛りにあったかのように動かない。
脳からの電気信号は正常に体を駆け巡っている。
コマンドは確実に各部位に届いている。
なのに、そういったこととは全く別の要因で体は脳という絶対の司令塔に逆らった。

もうすぐ一一月だというのに汗が流れる。膝がガクガクと震える。
思わずその場にカクッと膝をつく美琴。
ねちゃりと、ドロドロして酷く冷たいものが首にかかった気がした。
何か見えないものに首を絞められている気がした。
それが錯覚か否かはともかく、首という酸素の出入り口が塞がれ、事実として息が上がった。

「はっ、はっ、はっ……」

美琴の体を縛っているのは恐怖だ。
一方通行は彼女にとって、何よりもその恐怖を駆り立てる存在となっていたのだ。
見ただけで、吐きそうになるほどに。見ただけで、立っていられなくなるほどに。見ただけで、呼吸困難に陥るほどに。

御坂美琴は超能力者だ。学園都市の三番目だ。
そんな美琴だからこそ、一度敗北を喫している美琴だからこそ、そこいらの人間より遥かに一方通行の恐ろしさを理解していた。
全てのベクトルを操作するということがどれほどの意味を持つのか、彼女のずば抜けた頭脳は正確に理解していた。
一方通行と自分が戦った場合、どうなるかは自分が一番分かっている。
美琴は自身の実力を必要以上に過小評価はしない。
努力の果てに掴み取った力にはむしろ自信さえある。
だがそれでも、御坂美琴という人間は相手との力量差を正確に計れないほど愚かでもなかった。

(でも、このままにしておいたら、またあの子たちに危険が及ぶかもしれない。
あいつが、あの男が、また……)

それだけは食い止めなければならない。
かもしれない、という可能性があるだけで大問題だ。
たかが可能性。ifの話だ。
だがあの男が一万人以上の妹達を嗤って殺したという事実が、そのifにどうしようもなく信憑性を持たせる。

狼少年という話がある。
日ごろから嘘をついていたせいで、真に危機が迫っても誰にもそれを信じてもらえなかった哀れな少年の物語だ。
過去に前科があれば、ただそれだけで人は信用をゼロとは言わないまでも失う。
ましてや一方通行のやったことを考えれば尚更だ。嘘をついた少年と、一万人を殺した一方通行。その重さは比べものにもならない。
しかも最悪なのは、御坂美琴はその遺族であるということ。
妹を殺された姉だからこそ、一層そのifを考えてしまう。それが実現することを何より恐れる。
だがそれを止めるためには一方通行に再び立ち向かう必要がある。
彼女の体はそれを全力で拒絶していた。
だが、


    ――『プレゼントしていただけるのですか、とミサカは内心の喜びを隠せません』――


    ――『むーっ、小っこいは余計かもってミサカはミサカは抗議してみたり!』――


思い出す。
今日見せてくれた彼女たちの顔を。感情の色が見え始めた御坂妹のヘタクソな笑顔を、天真爛漫な打ち止めの笑顔を。
彼女たちの身が再び脅かされることなどあっていいはずがない。
そんなことはたとえ神様とやらが認めたとしても、御坂美琴が絶対に認めない。
そんなことを認めるクソッタレな神様がいるのなら、一度ぶん殴ってやりたい。

美琴は骨の髄まで染みついた恐怖を振り払う。
膝に力が戻る。立てる。

忌まわしき記憶を彼女たちとの思い出で上書きする。塗りつぶす。
腕に、足に力が戻る。動ける。

美琴は覚悟を決め大きく一歩を踏み出し、駆け出す。
こちらには気付かず立っている男の元へ。


絶対に勝てない敵へ。


一方通行へ。


全身に帯電させ、一〇億ボルトオーバーの雷撃の槍を生み出す。
『反射』のことなど考えから抜け落ちていた。
ただ、再びまとわりついてきた粘着質な恐怖を振り払うために。
自分自身を奮い立たせるために。


御坂美琴は、獣のように大きく吠えた。













「一方通行ァアァァァアァァあああああああああああああああああッ!!!!!!」













投下終了

ついにここまで……
それにしてもルビがずれる現象は何なのだろう
回避する方法はあるのだろうか

    次回予告




「う、あ、ああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「クカカ、傑作だなァオイ。俺を殺す?
オマエがか? ハッ、何のギャグだそりゃ。
格下が俺相手に何が出来るってンだ? 自惚れてンじゃねェぞ三下」
『グループ』の構成員・学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)



ルビに関してはAAのズレをチェックするやつとか使えばいいんじゃね?

上条さんいい感じに空気になってるな

投下しに来ました

>>414,418
ありがとうございます
ルビに関しては解決できた……かもしれません

>>415
このスレではそれが上条さんの運命です

レスありがとうございます、では以下から

もし許されざる罪だと世界中の人間が非難するのであれば、自分は甘んじてそれを受け入れよう。
もし仕方のないことだったと世界中の人間が慰めるのであれば、自分は一人永遠に自らを罰し続けよう。

腕を大きく振りかぶり、そして雷撃の槍を射出する。
一方通行がその叫びに反応し、振り返った。
咄嗟に一方通行は首元に手をやり、何か操作した。
それが何かは美琴には分からなかったし、またどうでもよかった。

超能力者の第三位の生み出した天をも穿つ雷撃の槍は、しかし一方通行に当たった途端逸らされてしまった。
河の流れを変える岩のようだった。怒涛の勢いで迫る電撃という水は、一方通行という岩に触れた途端に動きを変える。
まるで彼だけを避けるように不自然に軌道が変わり、空へと流されていく。
一直線に夜天へと駆け抜ける雷撃は、徐々に空気に溶けるように失速しやがて消滅する。
だが美琴はそれだけでは止まらなかった。

「ああああああああ!!!!」

叫び、二人のいる鉄橋が大きく揺れる。
彼女の磁力操作だ。今の彼女はその有り余るその力に一切の制限をかけていない。
ここまで全力で力を振るうのは初めてかもしれない。それほどに、全力だった。
鉄橋が揺れる。バキバキバキッ、と嫌な音をたて鉄橋を構成するパーツがいくつも強引に剥がされていく。
いくら暴走寸前とはいえこの橋を落としてしまうほどに暴走しているわけではなかったので、剥がしたパーツはある程度の選択はされていた。
それでも数メートルはある鉄塊がいくつも宙を漂っている。一つではない。相当数の巨大な鉄塊が彼女の頭上に浮かんでいる。

「…………」

一方通行は無言だった。
明確な敵意を持った美琴のそれを見ても何も語らず、黙してただそれを見ているだけだ。
そして美琴はそれを一方通行に向け躊躇いなく射出する
それだけで橋が崩落するのではというほどの衝撃が走った。
まるで地震が起きたかのように足元が大きく揺れる。
轟音を立て、次々と鉄塊がコンクリートの地面を抉り取り突き刺さっていく。
その内の一つが一方通行のすぐ近くに刺さり、一方通行はその衝撃の余波で後ろへと吹き飛ばされた。
絶対の『反射』を持つ彼が、だ。
核さえ跳ね返す最強がこんなにもちっぽけな力で尻もちをついた。

「え……?」

美琴はそれを見て呆然とした。
そこに違和感を覚えた自分に違和感を感じ、しかしすぐに答えにたどり着く。
『反射』の存在。呆気なく飛ばされた一方通行を見て美琴は第一位の誇る絶対防壁を思い出す。

だが今、確かに一方通行は吹き飛んだ。『反射』が起動しているのならあんな無様な姿は絶対に晒さないはず。
一方通行の『反射』は文字通り絶対の防御。それを破れるのはあの右手しか美琴は知らない。
もしかして何らかの理由で『反射』が機能していないのでは、と美琴は考えたがすぐに考え直す。

(アイツは私の電撃をそらした。能力が使えないならあんなことは出来ない。
でも考えれてみればおかしい。アイツはそのまま『反射』すればよかった。
わざわざ手間のかかる『操作』をする必要なんてないはずなのに……)

何か腑に落ちなかったが、とりあえず今はどうでもいい。美琴は吹き飛ばされた一方通行へと歩み寄っていく。
理由は全く思いつかないが、もしかしたら彼の能力は何らかの制限がかかっているのかもしれない。
彼の持っている杖もそのせいとも考えられた。

一方通行はゆっくりとした動作で立ち上がる。
やはり一言も喋らない。その目線は戸惑うように所在なく動いていたが、美琴はそれに気付かない。
美琴が、口を開いた。
最狂最悪の殺人鬼と言葉を交わそうとしている。
二度と会うことはないと思っていた男と対話をしようとしている。

「……なんで、アンタがこんなところにいるの」

「…………」

一方通行は答えない。
頑ななまでに沈黙を守り続けていた。
やはりその目線は落ち着きがなく、安定していなかった。

「なんで、アンタは私の前にまた姿を現したの」

美琴の声は震えていた。
一方通行は意図的に美琴の前にやってきたわけではない。
そんなことは分かっていても、止まらない。

「また、馬鹿な『実験』でも始めようっての?」

こうしている今も美琴は恐怖を感じている。
振り払ったつもりでも、やはり感じてしまう。
分かっているから。今、彼が第一位としての力を振るえばどうなるか分かっているからだ。

自身が“吹き飛ぶ”光景を一瞬想像してしまい、苦々しげな表情を浮かべる。
当然自分がそうなったことなどあるはずもないが、それと同じ光景を美琴は目にしている。

「また、あの子たちを傷つけようっての?」

そんなことは許さない。誰が認めても、自分だけは絶対に認めない。
どんな恐怖をおしてでも、それだけは食い止めなければならない。

「…………」

一方通行は喋らない。ただの一言も話さない。
目線すら美琴に合わせはしない。
彼は美琴の問いに対し一切の否定をしない。否定しないということは、そうなのだろう。
この男は、またも妹達を脅かそうとしている。
何の罪もない彼女たちを傷つけようとしている。
ここで一方通行が否定していれば。
勿論たとえ否定しても、美琴はそれを鵜呑みにはしないだろう。必ずその言葉の真偽を疑ったはずだ。
だがそれでも、気休めくらいにはなったかもしれないのに。
自分の行動理由を全て一方通行に押し付けるわけではないが、否定されなかったからこそ御坂美琴はそれをしなければならなくなる。

「……沈黙は肯定と受け取るわ」

美琴はスカートのポケットからコインを取り出す。
それが意味するところは、超電磁砲。
彼女の代名詞でもある超電磁砲を撃つということ。
それを右手に構え、必要に応じて即座に発射できる体勢を整える。

「だったらアンタは、アンタだけは、私が、この手で―――」

一方通行は先ほど鉄骨の落下の衝撃で吹き飛んだ。
今も彼の体には汚れが付着しているし、吹いている冷たい風も彼の白い髪を揺らしている。
今は、きっと『反射』が働いていない。
理由は分からないが、つまり今の彼は細身の非力な少年でしかない。
ならば超電磁砲を食らって生き残れる道理はない。
間違いなく死ぬ。あっさりと何の抵抗もなく吹き飛んで、真っ赤な華を咲かせグロテスクな肉片へと変わってしまうだろう。

今なら、抵抗なく一方通行を仕留めることが出来る。
今なら、殺された一万人もの妹達の仇をとることが出来る。
今なら、これから妹達に降り注ぐ災いの種を枯らすことが出来る。

指をちょっと弾くだけで全てを終わらせることが出来る。
しかし、それは同時に―――。

(私も、終わる)

相手がどんな極悪人だろうと、殺してしまえば殺人だ。
心情的には納得のいかないところは多々あれど、人間が長い歴史の中で作り出した司法ではそう決められている。
コミュニティにはルールが必要だ。所属する者全員に等しく効果を及ぼす決まりが必要不可欠だ。
そうでなければ強盗や強姦、殺人に暴行。あらゆる暴力が蔓延する地獄になってしまうからだ。
そのような社会では己の欲望を抑えておく必要がない。
ストッパーとなるものがないのだから、欲望を理性で抑えるという人間らしさが損なわれる。
人が人を殺し、殺された者の家族、あるいは知人が復讐し、今度は復讐された者の家族や知人が復讐し返し―――。
終わらない負の連鎖だ。そこで必要とされたのが今で言う法律というもの。
人間としての尊厳と倫理に則り掟を決める。それを破る者には等しく罰を、そこに例外はあるなかれ。

だからこそ、たとえ何人が御坂美琴の行動を正当な権利に基づくものであると考えたとしても、それが法を犯しているなら等しく裁かれる。
一方通行を殺せば御坂美琴はその瞬間から人殺しへと変わってしまう。
一方通行は裁かれることなく美琴の妹を一万人殺したのに、美琴が一方通行を殺せば罰を受ける。理不尽極まるがそれが現実。
そして当然人殺しの烙印を押された者に今までのような生活は出来ない。
白井や初春、佐天と下らない会話をして、垣根や上条と馬鹿なことして盛り上がって。
そんな生活には二度と戻れなくなる。それは間違いなく御坂美琴の『死』だった。
そして美琴はそんなことを考えている自分に呆れてしまった。

(ここまで来て、まだ保身を考えるなんてね。
どこまでも救えない女ね、私)

自分がたった一人殺すだけで、生きている全ての妹達は一方通行という恐怖から永遠に解放される。
何かを得るには対価として何かを犠牲にしなければならない。
それが昔からのルールであり、一種の取引だ。

そして一方通行という恐怖を取り除く代償に、自分を差し出せと言うのなら。
その程度安い代償ではないか。自分は妹達に笑顔で過ごしてほしいのではなかったか。
そもそもあの悲劇の発端は自分ではなかったか。ならば、

(何を躊躇うの、御坂美琴)

罪悪感など感じる必要すらない。
一方通行はそれだけのことをしてきている。どれだけ惨たらしく殺されても文句一つ言えないことをしてきている。
そして自分は一方通行を殺す正当な権利を有している。
そう思う一方で。

だが同時に、人を殺すことを恐れている自分もいた。
人を殺せるのが強さだというのなら、そんな強さは必要ない。弱いままでいい。
いつもの美琴ならそう考えるだろうし、今だってそう思っている。
だがそこに妹達が絡むと分からなくなってしまう。
本当にそれでいいのだろうか、と。

(……ああ、やっぱりそういうことね)

一方通行と御坂美琴の間に誰もが笑って誰もが望む、最高のハッピーエンドなんてものは存在しない。
こうなってしまっては何も失わずに場を収めることは出来ない。
突きつけられた選択肢は次の二つ。


人間としての尊厳や倫理に則り、不殺を貫くか。
妹達の安全の保証をとり、ここで殺すべきか。


前者を選べば将来に最悪の禍根を残すこととなる。
後者を選べばそれは自身の破滅を意味する。

美琴はいつかの麦野との対話を思い出す。


    ――『私は簡単には堕ちてやらない。躊躇いなく人を殺せるアンタや……第一位みたいには絶対なってなんかやらない』――


    ――『ハッ、笑わせんな。知ってんだぜぇ、超電磁砲?
       テメェが不用意に提供したDNAマップのせいで二万体ものクローンが製造され、その半分ほどが死んだ。
       これだけの悲劇の元凶であるテメェが何を今さら善人ぶってやがんだ。
       第一、テメェはその力のたった一%でも振るえばあっさりと人を殺せる化け物なんだよ。
       そんな大量殺人犯が、化け物が、人並みに生きようなんて夢をみてんじゃねぇ』――

(そう。私も一緒。偉そうなこと言っても、何も変わらない。
私も第四位や第一位の、同類。私も所詮は人殺し)

美琴は麦野からこう言われた時、これに対して返す言葉がなかった。
あまりにもその通りだったから。今ならあの言葉がよく理解出来る。
悪党に、ハッピーエンドはあり得ない。
一方通行という最悪の絶望と再度対峙して、究極の二択を迫られて。
ついに、御坂美琴はこう自覚した。




もう、諦めるしかないのか。




今まで御坂美琴というヒーローはどんな時でもバッドエンドを許さなかった。
絶対に最後にはハッピーエンドを掴み取ってきた。
だが今、この時はそんな選択肢は存在しない。作り出すことも出来ない。

どちらも、なんてことは絶対に不可能。どちらか片方は確実に破滅する。
ならば。美琴は悲壮な決意を固めた。
それは自らの手で一方通行を葬り、妹達の安全を確保する道。
自らの生活、尊厳、矜持、それら全てを捨て人殺しに身を落とす決断。

どうしてこうなってしまうのか。
彼女は超能力者だが、まだ中学生だ。
何を言っても一四歳の女の子でしかない。そんな子供が、人殺しになる決意をする。
こんな子供が、ここまで重い決断を迫られる。
異常だ。どう考えても普通ではない。
この世界は、学園都市は、どこまでも残酷だった。
かつて彼女に『死』を選択させ、そして今度は『殺人』を選ばせている。
こんな狂った世界で、しかし彼女は自らの意思でそれを選んだと思っている。
選ばされているのだと気付かずに。他の選択肢がない選択は、選択ではない。

彼女の目つきが変わる。伸ばしている右手に紫電が走った。
超電磁砲の射出は文字通りいつでも可能だ。
一方通行の命は美琴の手の中にある。


(あの『実験』は私のせい)

自分が不用意にDNAマップなど提供しなければ。



(妹達を殺したのは、私)

あの時、もっといい最高の一手を打てていたら。



(そんな人殺しが、人並みに生きようなんて思うな)

図々しくも、自分だけ綺麗なまま生きるなんて。



(人殺しは、人殺しが殺す)

自分が一方通行を殺せば、それで全てが終わる。


(殺す。殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス―――!!)

自己暗示のように何度も頭の中で繰り返す。
それが自分の為すべきこと、自分の義務なのだと言い聞かせる。
まともな精神状態で人を殺せるほど、少なくとも御坂美琴という女の子はネジが外れてはいない。
漫画を立ち読みする御坂美琴。可愛いもの好きの御坂美琴。上条当麻に恋する御坂美琴。友達と馬鹿騒ぎする御坂美琴。
どれも、もはや必要ない。邪魔なだけだ。
自分を作り変える。人を殺せるような冷酷な人間に自分を変化させる。

覚悟を決めて、そして超電磁砲を撃とうとするが、何故か中々狙いが定まらなかった。
標準がブレる。当然こんなことは普通ならあり得ない。
原因を確かめて、気付いた。

腕が、超電磁砲を構えている右手が、小刻みに震えている。





……あれ。
あれ、あれ、あれ、あれ、あれ。




震えは止まらない。
それどころか一層震えは激しくなり、ガクガクと痙攣したかのように揺れ始めた。




……あれ。あれ、あれ、あれ、……あれ。
おかしいな。あれ、なんで。……あれ。




意味が分からなかった。
ついさっき、殺すと確かに決断したはずなのに。
殺人に手を染める決意を固めたはずなのに。



どうして、ここまで腕が震えているんだろう。


超電磁砲を構えている右手だけではなかった。
気付けば足もガクガクと力なく震えていた。歯もガチガチと音をたてている。
彼女の瞳は涙を湛えていた。

殺人という行為は、やはりそう軽いものではなかった。
これから自分のすることに対しての恐怖。
これから自分がなってしまうものへの恐怖。
それが御坂美琴の決意を圧倒的重圧ですり潰す。
美琴の意識がいくら殺そうとしても、恐怖という人間の根源的感情が邪魔をする。
少なくともそれを超えて殺人が出来ない程度には、美琴はまともな人間だった。

(だ、め。何、を都合の、いいことを考えて、いるの、私は。
私は、もう、既に人殺し。一万人以上の、人間を殺した、本物の人殺し。
な、のに、何を今さら。今の生活を、失いたく、ない、なんて。
やっぱり、人を、殺したくないなんて。人殺し、に、なりたく、ない、なんて。
私は、どこ、まで救えないの? 本当に、どうしようも、ない女)

それは、彼女の偽らざる本心だった。
それでいいのだろう。人を殺す決断など、出来なくていいのだ。
おそらくそれが一般的な解だろうし、普段の美琴の考えでもある。
そもそも、あの『実験』は本当に彼女こそが悪かったのか。

DNAマップの提供を持ちかけられた時、美琴はまだ六歳か七歳程度だった。
そんな幼い彼女に研究者は「君の力があれば、筋ジストロフィーに苦しんでいる大勢の人たちを救える」と言った。
そして美琴はその言葉を信じて、良かれと思って自らのDNAマップを託したのだ。
それは幼い少女の善意。誰かの助けになりたいという、小さな子供の純粋な気持ち。
何の邪気も打算もない。真っ白な願いそのものだった。

だがその気持ちは最悪の形で裏切られた。
最初からそれが目的だったのか、健全な研究が途中で変質したのかは分からない。
だが結果として少女の願いは悲劇をばら撒くこととなってしまった。
これは、果たして彼女がこうまでして背負わなくてはならない業なのか。
分かるわけがない。誰がそれを決められよう。
単なる殺人事件とはわけが違う。そういった事件なら犯人が悪い。それで終わる単純な構図だ。
だがこの『実験』はそうはいかない。

なるほど、見方によっては騙されたとはいえ確かに美琴に非があるとも言えるのかもしれない。
ならば実際に妹達を虐殺した一方通行は? 彼こそが最大の重罪人なのではないか?
美琴のDNAマップからクローンを作り出した研究者はどうか。この者こそが諸悪の根源とも言えるだろう。
『実験』を発案した研究者はどうだ? 一方通行に『実験』を勧めた人間は?
それらを推し進めた統括理事会はどうなる?

あまりにも多くの人間の陰謀が入り乱れすぎていて、明確な一人の悪がいないのだ。
強いて挙げるのならやはりそれは一方通行になるのだろうが。
なら誰がその悪を決めるというのだ?
一方通行など論外だ。ならば研究者? あり得てたまるか。なら神?
哲学的な罪の概念など美琴は詳しくは知らないし、神なんてものに許されたとしても美琴は救いなど何ら感じない。
美琴は十字教徒ではないし、科学の雄である彼女は敬虔な信仰心も持ち合わせていない。
だがその答えが何であれ、美琴はその罪の多くが自分にあると考え、それを背負うと決めていた。

もしこれが許されざる罪だと世界中の人間が非難するのであれば、自分は甘んじてそれを受け入れよう。
もしこれが仕方のないことだったと世界中の人間が慰めるのであれば、自分は一人永遠に自らを罰し続けよう。

だが、だ。たしかに『実験』の発端を作ったのは美琴だ。
美琴が不用意にDNAマップを提供してしまったせいだ。
その罪は自覚しているし、背負っていくつもりでもいる。

だがそれは事実として妹達を虐殺した一方通行を許す理由には、見逃す理由には決してなり得ない。
やろうと思えばいつでも放棄できた『実験』を続け、妹達を殺した一方通行を糾弾せずにはいられない。
美琴本人がどう考えるかはともかく、御坂美琴と一方通行の罪の重さを天秤にかけた場合後者の受け皿の方が限界まで沈むだろうから。
そして何より妹を殺された人間の情として納得できるはずがなかった。

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

震えが、止まらない。
殺したくない。殺さなくてはならない。
そんな相反する感情が彼女の中で濁流のようにせめぎ合う。
決して交じり合わず相克し、そしてどちらか一方に大きく傾くこともなく拮抗する。
全身が震え、歯はガチガチとうるさい。
瞳に浮かんでいる涙は、今にも流れ落ちてしまいそうで。

極限まで追い詰められた状況で、彼女は見た。
今まで一言も喋らず、たた立っているだけだった一方通行が動きを見せたのを。
その口が裂けたように歪む。

一方通行がその場でつま先でトン、と地面を叩くとアスファルトがいとも容易く粉砕される。
その砕けた破片の一つを彼が蹴飛ばすと、それは恐るべき速度で美琴へ向け射出された。
美琴は咄嗟に磁力を働かせ近くの金属片を無理やり引き千切り、前方に盾として展開する。
盾にコンクリート片が衝突し、バゴン!! と音を立てて双方が砕け散った。

一方通行は嗤った。あの時のように。
妹達を殺していたあの時のように。
彼の狂ったような嗤いだけがあたりに響き渡り、美琴の脳内を支配していた。
その哄笑がより鮮明に八月の地獄を思い起こさせる。
一方通行は、初めて口を開いた。

「なァ、オイオリジナル。ちょっと様子を見てたらずいぶン愉快なこと考えるじゃねェか。
俺を殺すかどォか迷ってンだろ?」

図星だった。
けどそれを認めてしまうのがどうしようもなく悔しくて、美琴は黙って下唇を噛んだ。
思い切り一方通行を睨みつけてやるが、彼はそんなものは意にも介さない。

「クカカ、傑作だなァオイ。俺を殺す?
オマエがか? ハッ、何のギャグだそりゃ。
格下が俺相手に何が出来るってンだ? 自惚れてンじゃねェぞ三下」

一方通行の髪は風に揺られていなかった。
その程度の自然現象でさえ彼は拒絶する。
『反射』が起動している。
核が直撃しても傷一つ負わない最強の超能力者が君臨している。
こうなってしまっては御坂美琴に勝ち目はなかった。

「…………ッ!」

何一つ言い返せない。
一方通行の言っていることは事実だからだ。
それが理解できてしまうからこそ、美琴は押し黙るしかない。
先ほどは何らかの理由により―――もしかしたらただの気まぐれだったのかもしれない―――『反射』が働いていなかった。

だからこそ美琴でも傷つけることが出来たし、殺すことだって出来るはずだった。
だが今は違う。彼は紛れもなく学園都市第一位だった。
雷撃の槍だろうと超電磁砲だろうと砂鉄だろうと磁力だろうと、一方通行にはかすり傷一つつけることも叶わない。
自分の無力さと矮小さを思い知らされ、美琴はギリギリと砕けてしまうのではというほどに歯噛みする。

「運が良かったなァ、格下。
今の俺は忙しいンでな。今回は見逃してやる。
俺を前にして生き残った自分の幸運を泣いて喜びやがれ」

それだけ言うと、一方通行は脚にかかるベクトルを操作したのか忽然と姿を消した。
残されたのは、破壊の爪痕の残る鉄橋に一人立っている御坂美琴。
彼女は緊張の糸が切れたかのようにその場に膝から崩れ落ちた。
堰を切ったように涙がボロボロと流れてくる。

考えてしまった。安堵してしまった。
一方通行が能力を使用した時、姿を消した時、思わず思ってしまったのだ。





人殺しにならなくて済んだ、手を汚さずに済んだ、と。




どこまで行っても保身を考えてしまう自分が。


妹達のためであっても人一人殺す覚悟すら決められない自分が。


妹達を助けられなかったばかりか、機会があったのに仇討ちすら出来ない自分が。


あまりにも情けなくて、惨めで、悔しくて。


御坂美琴は、みっともなく大声をあげて慟哭する。


「う、あ、ああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」


あたりに少女の悲痛な叫びが響き渡った。

投下終了

ようやく第三章のテーマまで来ました
こりゃ3スレ目行くわ

    次回予告




「…………もう、放っておいて」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




(こういう時にお姉様はわたくしを頼ってはいただけないのですね……)
学園都市・常盤台中学の生徒―――白井黒子

乙  納得の展開でした   ところで全部で何章を予定?


レベル6を作るのが学園都市の至上目的で上が後押ししてた以上
実験開始した後は一方さんでも拒否権はなかっただろうな
「やろうと思えばいつでも放棄できた」と思ってるあたり美琴は恵まれてるというか
表の世界で愛情受けて育ってる子だなあと思う

せやなアレイスターが悪いな
テッラを殺したのも建宮さんを殺したのもフレンダを殺したのもアレイスター
猟犬部隊を殺したのも博士を殺したのもヴェントの弟を殺したのもエリスを殺したのもアレイスター
闇坂さんの惚れた呪われ女性を呪ってたのがアレイスターなのはもはや言うべくもなくて
上条さんが不運なのもインデックスの出番が少ないのも美琴や妹逹が動物に避けられるのも一方通行がロリコンなのもアレイスターが原因
禁書の三期が始まらないこともアレイスターの工作
結論、アレイスターは真の邪悪

>>459
勝手に建宮[ピーーー]なww
白刃取りならきっと成功しただろ

今年はまさかのリア充クリスマスでした
ディズニー綺麗だったけど混みすぎワロタ

今回が今年最後の投下となります

>>448
全五章構成……ですが、序章と終章があるのでそれを入れれば七章ですね

>>451~454
多分放棄は出来たと思います、能力全盛期ですし。ただアレイスターが動いたらもう知りません
ただここで問題となっているのは一方通行が実験をやめようともしなかったことです
一万人の妹達を殺したという結果は同じでも、それがやりたくない、嫌だと否定したのに無理やりにやらされたものだったとしたら
美琴の反応もだいぶ違っていたでしょう

>>459
アレイスターさんカワイソス

>>461
建宮さんは生きてるよ、そう、俺たちの心に……

御坂美琴と白井黒子










「ほう。門限を破っておきながら正面からかかって来るとは……。
ん? おい御坂、どうした? 何があった?」

美琴が寮へと帰ってきたのは夜九時近く。門限は既に過ぎている。
門限破りを見過ごす寮監ではないので、当然美琴も寮監に声をかけられた。
だが寮監は美琴の姿を見てギョッとした。

全身埃だらけで汚れている。
髪もすっかり埃を被っており、いつものサラサラ感は失われている。
膝にはすり傷が出来ている。
この程度ならそこまで動揺はしなかっただろう。
過去にもこの程度なら幾度かあった。
何より寮監を驚かせたのは、美琴の眼。そこには僅かほどの光もなく、虚ろになっていた。
その眼は一体何を映しているのか。それとも何も捉えてはいないのか。
今の美琴からは生気が一切感じられない。
いつものあの明るく元気な姿は微塵も残っていなかった。

人間、ここまで壊れるものなのか。そう思わずにはいられないほど美琴は死んでいた。
足元はフラフラとしていておぼつかない。その足が本当に地面をつかんでいるのかすら曖昧に思える。
顔には一切の感情というものがなく、まるで人形だった。
眼はドロリと濁っていて死んだ魚の目すら思わせる。その心は空っぽで、がらんどうだった。
八月の時の妹達とよく似ている。いや、それどころではなかった。
あのころの妹達が人間らしいと表現できる程度には、今の美琴は壊れている。

基本的にはどんな理由があっても門限破りを許すことはない寮監だが、今回は例外だった。
美琴の様子がどう見ても普通ではなかったからだ。
異常も異常。相当に危険な状態に見えた。
彼女は寮監にかけられた言葉を無視し、そのまま部屋へ向かおうとしたが寮監にその肩をつかまれた。

「待て、御坂。一体何があった。
今のお前は明らかに異常だ。話しづらいことかもしれないが、私には生徒の安全を守る義務がある。
どうか私を信用して聞かせてもらえないか」

美琴はまるでロボットのようにゆっくりと振り返った。
美琴と目が合った寮監は再度驚く。近くでみると本当に異常だ。
完全に眼が死んでいる。死者が歩いているのだと言われて納得出来てしまうほどに。

(御坂に……御坂に一体何があったというのだ?)

そんな寮監の思いをよそに、美琴はボソリと耳を澄ましていないと聞き取れないほどの小声で呟いた。

「……放っておいてください」

平坦で、起伏のない声だった。
それでいて追求を一切許さないような色も含んでいる。
寮監は更に追及すべきか迷ったが、結局何も言わずに美琴を通した。
おそらく何も言ってはくれないだろうし、無理に聞き出そうとすれば彼女を更に追い詰めることになるかもしれないと考えたからだ。。
美琴はフラフラとしたおぼつかない足取りで、自室へと戻った。

「お帰りなさいませ、お姉……!?
そ、そのお姿は一体!? 何があったんですの!?」

部屋へと戻ってきた美琴を待っていたのは、白井からの質問攻めだった。
もともと門限は過ぎていて、しかも今の美琴の姿を見れば当然とも言える反応だった。
だが美琴は寮監の時と同様まともに取り合おうとはせず、無言のまま浴室へ向かった。

「……私、お風呂入るから」

「お姉様!?」

「…………もう、放っておいて」

その言葉に含まれる様々な感情や意図を感じ取った白井は思わず言葉に詰まった。
白井は何も言えなくなり、美琴は浴室へと消えた。
この日は何も聞けないまま就寝したが、白井は美琴の力になれない自分を呪った。
美琴の邪魔になるまいと白井は逸る心を抑えて美琴が風呂に入っている間に就寝したので、美琴がその後眠りにつけるまでどんな風だったかは知らない。
そして、間違いなく永遠にそれを知ることもないだろう。










翌朝、白井が起きた時には美琴は既に起床していた。

「あ、おはよう黒子」

昨日の様子とは一変し、いつものように振舞っている美琴。
だが白井は彼女が無理して普段通り振舞おうとしていることに気付いていた。
眼には僅かに生気が戻っているが、それでもまだ光がない。
そしてそれがどこか空恐ろしかった。
あれほどまでに死んだような顔をしていたのに、表面上だけとはいえここまで普段通りに振舞えてしまうことが。

おそらくどんなに追求しても彼女は事情を話してくれないだろう、ということを白井は感じていた。
もう短くはない付き合いだし、その密度も相当なものだから。
だがだからこそ、それがたまらなく悔しかった。

(こういう時にお姉様はわたくしを頼ってはいただけないのですね……)

それは白井の未熟さ故か。
もちろん美琴はそれは違うと言うだろう。
白井とてそれは分かっている。
それでも頼ってくれたなら、それだけ信頼されているという証になるのに。
九月、結標淡希という能力者と交戦した際に美琴を頼らなかった自分を思い出して白井は心の中で笑った。
あの時、自分はこんな心労を美琴に押し付けていたのか、と。
だがそれでも白井は似たようなことがあれば、きっと同じ行動をとるだろう。
自分はいいがお前はするな。とんでもない自分勝手ぶりだが、どうしてもそれを望まずにはいられない。

表面上はいつもと変わらぬやりとりをする二人。
朝食を食べ、登校の準備をしていると白井は寮監から呼び出しを受けた。
まさか昨日の美琴の門限破りの件で連帯責任を問われるということもあるまい。
十中八九、美琴についての話だろう。

「あ、お姉様。わたくしちょっと寄らなければならないところがありまして。
先に向かっててくださいですの」

「ん、わかった。じゃあまた後でね」

今の美琴が登校などするかどうかが疑問で仕方なかった白井だが、二階の窓から美琴が学校へ向かったのを確認し安堵の息を吐いた。
やはり傍目にはいつもと変わらぬ振舞いだ。とりあえずの心配が消えた白井は目的の部屋へと向かった。
途中通りすがる度丁寧に挨拶をしてくる常盤台生を、同じくきちんと挨拶を返してやり過ごす。
美琴に隠れて悪事をしているようで、僅かな罪悪感にも似たものを覚えたが、この際それは無視することにした。

もしかしたら、その可能性はほとんどゼロだと分かってはいるが、それでも寮監が美琴の変化について何か知っているかもと期待してしまう。
目的の部屋の前までやって来た白井はコンコン、とドアを二度ノックする。

「入っていいぞ」

扉の向こう側から僅かにくぐもったような寮監の声が返ってくる。
それを合図に白井は真鍮のドアノブを回した。

「失礼いたしますの」

お嬢様らしい丁寧な仕草で入室し、音をたてずにドアを閉める。
室内はいかにも常盤台らしい豪華な洋風のデザインで、他の部屋と比べても一際広く、金色が多く高級感があった。
壁の一辺には金で装飾された非常に大きな窓がとりつけられていて、日中は大きく太陽の光が差し込む作りになっている。
他にもいかにも高価そうなオブジェが室内に置かれており、壁には流石にオリジナルではないが大きな絵画が掛けられている。
主に写実主義よりも印象派の絵画が多く、創始者とされるマネを始めドガやルノワールといった有名どころの作品が目に付く。
だがまた違う壁を見てみると、そこにはあまり知られていない作品も多数掛けられており、この部屋自体が小さな美術館のようだった。

この部屋がここまで豪華に作られているのは、この部屋は来賓室だからである。
常盤台にやって来る客となるとそれなりの重鎮ばかりなので、そういった客をもてなすのがこの部屋なのだ。
寮監は接客用であろうソファに腰掛け、コーヒーを飲んでいた。
白井はガラスの机を間に挟んだ反対側へと座った。
その机も金で縁取られていて、四つの角の部分は何らかの動物を模した飾りが取り付けられており、その高価さが覗える。
寮監がこの来賓室に白井を呼び出したのはおそらく寮監の部屋が何らかの理由で使えないからだろう。
ここは文字通り来賓のための部屋であって、こうした場として使うところではない。
あまり慣れない部屋に白井がどこか落ち着かずにいると寮監が口を開いた。

「コーヒーと紅茶、どちらがいい?」

「あ、では紅茶を」

「分かった。少し待っていろ」

寮監は立ち上がり、違うデスクの上にあるポットに茶葉を入れ、蒸らし始めた。
蒸れるまでの数分の間、寮監はソファには戻らずその場に立ったままでいるつもりのようだ。
話はゆっくり落ち着いてしたいのだろう、と白井は思った。
だがそこで白井はふと思い出したように、

「そういえば寮監様、わたくし学校が……」

「そのことなら問題ない。私が白井は訳あって遅れると連絡しておいた。
安心しろ、私の個人的な用事だとも伝えておいたから、お前が減点されるようなことにはならん」

「はあ、そうですの」

「待たせたな」

寮監は蒸らし終えた紅茶をティーカップに淹れ、白井の前に置いた。
カップとガラスの机がぶつかり、カチャリという音をたてる。
一口飲む。美味しい、白井は素直にそう思った。
とはいえ、それだけだ。
この紅茶をそれが分かる舌を持っているが、飲む機会のない者に飲ませればその味に仰天することだろう。
だが白井の舌は常盤台での生活によりあまりに肥え過ぎていた。
白井や美琴を心の底から美味しいと唸らせるには、生半可なものでは到底不可能だろう。

カップを置き、寮監が話し始める。
それに合わせたように白井もカップを戻し、話を聞く体勢を作った

「さて、白井。もう分かっているかもしれないが、話とは御坂のことだ。
昨日帰ってきた時の御坂の様子はあまりにも異常だった。それはお前も見ただろうと推察するが」

白井は部屋へと戻ってきた美琴を思い出す。
まるで抜け殻のようになっていた彼女からは、以前の快活さは欠片も感じられなかった。
美琴を知る者なら誰もが異常だと言うだろう。
いつも美琴の隣にいた白井だからこそ一層その違いを認識する。

「はい。わたくしもそう思いますの。
昨日のお姉様は明らかに普通ではありませんでしたの。
あれはいつものお姉様ではありませんわ」

「やはりそう思うか。
私が今日お前を呼んだのはその原因にルームメイトであるお前に心当たりがないかと思ったからなのだが……。
その様子では、なさそうだな」

「申し訳ありませんの。
わたくしには分かりませんわ。……寮監様も分からないのですね」

もともと期待はしていなかったはずだが、それでも寮監は何も知らないと分かると内心気落ちしてしまう。
白井は寮監に、寮監は白井に、相互に期待していたが双方共に何も知らなかった。
だが寮監は少なくとも表面上は落胆した色は見せなかった。
紅茶に砂糖を入れ、カチャカチャとスプーンで混ぜながら次の質問をする。

「ああ。だからこそお前ならと思ったわけだが。
時に白井。今朝の御坂の様子はどうだった?」

白井は一口紅茶を飲み、カップを戻してから答えた。

「朝起きてからのお姉様は昨日のような異常さは一見見られませんでしたの。
ですが、わたくしには分かるんですの。お姉様は無理して何でもないように振舞おうとしているのだと。
本当はそんな元気など全然ないでしょうに、友人を、先生方を、寮監様を、わたくしを心配させまいとして」

「……大馬鹿者だな、あいつは」

「同感ですの。そんな気遣いなどしてほしくありませんのに。
本当につらい時こそ頼っていただきたいですのに。
しかしそれもお姉様の信頼を真に得られないわたくしの不徳の致すところですの」

白井は美琴のパートナーとして過ごしてきた。
美琴のパートナーを務められるのは自分だけだと信じているし、彼女もまた自分を信用してくれていると思う。
そんな彼女だからこそ、いざ隠し事をされると悲しくなるのだ。
思えば八月にも、明らかに何か大変なことがあったのに今のように無理して明るく振舞っていたことがあった。
結局最後まで白井が事情を聞かされることはなかった。
他にも、木山春生らと共にテレスティーナ=木原=ライフラインと戦った時も、彼女は独断専行を働こうとしていた。
白井も『残骸』事件で美琴に隠れ一人戦いに臨んだことがあるが、やはり自分が隠される側に回ると悲しいものだ。
しかも今回は美琴の様子から鑑みるに、相当の事があったのだろうと推察できた。

「……まぁいい。本当に御坂の変化について思い当たる節はないのか?
どんな些細なことでもいい」

「やはり残念ですが、わたくしには分か……!
……いえ、心当たりが一つありますの。お姉様にあれほどまで劇的な影響力を及ぼせる人物に、心当たりが」

「ほう。では白井、その人物に会って話を聞いてきてもらえないだろうか。
聞くにお前とその人物は知り合いなのだろう?」

「ええ、一応は。それではわたくしはすぐに向かいますので、これで」

そう言って白井は残りの紅茶を一気に喉に流し込むと立ち去ろうとしたが、寮監に止められてしまった。

「待て白井。お前には学校があるだろうが」

寮監が学校に遅れるという連絡はしてくれたが、欠席するとは言っていない。
ならば一人の学生として白井には登校する義務があった。

「この非常時に学校など……」

「登校は絶対にしろ。学校の大切さは今は分からんかもしれんが、後になってみればよく分かる。
サボることは私が許さんぞ」

「は~い、ですの……」

いかにも渋々といった様子でそれを受け入れ、白井は来賓室を後にした。
やはり学校には行かずに目的の人物のところへ、と考えたが寮監の制裁が怖すぎたので止めておいた。
それに、考えてみればその人物とて今は学校に言っているはず。
今白井が向かったとしても会えないだろう。
結局白井は大人しく登校することにしたのだった。

投下終了

次回は本当に久しぶりにみんなのヒーロー上条さんが帰ってきます
ただしほんの少しだけ

    次回予告




「貴方にとても重要なお話がありますわ」
学園都市・常盤台中学の生徒―――白井黒子




「あれれ~? おっかしいぞ~?」
学園都市の無能力者(レベル0)の少年―――上条当麻


前スレ開始からもう半年か…乙  長く楽しませてもらってありがとう 年明けの投下も楽しみに待ってる

>>1
そして爆ぜろ


来年も楽しみにしてる
よいお年を

そういや蒸し返すことになるんだけど[ピーーー]気満々だった妹達ってあんま言及されないよね
反射知らない時点で銃で撃ったり狙撃したり

乙でした

そしてもげろ

>>1
シリアスは読みごたえあるぜ
来年も更新楽しみにしてます

あけましておめでとうございます
皆さんはどんな一年でしたでしょうか
ちなみに>>1はろくな一年じゃなかったです
では今年もよろしくお願いします

>>483
もうそんなに経つんですね……
もしかして最初から見てくれているのでしょうか?
だとしたらもうありがとうございますとしか

>>484>>487
フヒヒww
クリスマスはディズニー、元旦は明治神宮でに初詣に行ったのでもしかしたら皆さんとすれ違っていたかもしれませんね

>>486
妹達も一方通行を殺そうとしてましたからね
とはいえ絶対に妹達では勝てないことを分かった上でのあの実験ですから……
ヤムチャがフリーザに挑むようなものでしょう

>>485,>>488
ありがとうございます
何とか完走してみせます

では今年一発目いきます

容疑者、上条当麻。










授業が全て終わるや否や白井はすぐに空間移動を行使してその姿を消した。
といっても探し人がどこにいるか分からないので、とりあえず美琴が回し蹴りを繰り出す自販機のある公園を目指している。
理由としては比較的そこで彼を見ることが多いからだ。
次から次へ、連続で空間移動を行い途轍もない速さで虚空を渡る。

(あの類人猿……お姉様をおかしくしたのが貴方なら、冗談抜きで体内空間移動を食らわせますわよ……!)

上条当麻。
美琴にあそこまでの影響を与えることのできる人物は、白井には彼以外考えられなかった。
気に入らないが、美琴が彼にベタ惚れなのは嫌でも分かってしまう。
あの馬鹿があの馬鹿がと、毎日のように聞かされれば分からないはずがなかった。
それに美琴は上条と一緒にいる時は一際輝いて見えた。
白井黒子が言うのだ、それに関しては間違いない。
だからこそもしその上条が美琴をあれほどまでに追い詰めたのなら、白井は本気で空間移動攻撃も辞さないつもりでいた。
敬愛してやまない御坂美琴を害する者から彼女を守るのが、露払いたる自分の役目なのだから。

幾度もの空間移動を繰り返し、目的の公園へ辿り着く。
上条の姿は見えない。
彼の連絡先も、学校も分からない白井にはこうして偶然出くわすことを祈るしかない。
メールアドレスや電話番号の一つも知らないというのはこういう時に不便なものだが、それでもあの上条と連絡先の交換をしようとも思えなかった。
自販機の側面に背中を預け、ジッと待つ。
来なかったらどうしようか、と考えつつもとりあえず今は大人しく待つことにする。

今日はやけに肌寒く、ブレザーも着ているとはいえだいぶ冷える。
時々吹く風もいよいよ冬といった感じで、思わず身を固めずにはいられない。
両手をこすり合わせ、時に白い息を吐きかけて温める。
時折通りがかる学生の姿は見られるものの、目当ての人物は一向に現れない。
そうして待つこと二〇分、三〇分。すっかり体も冷え切ってしまいそろそろ白井も見切りをつけ始めていた時、特徴的なウニ頭が視界に映る。
ようやく上条当麻が現れたのだ。
偶然だったのか、彼は下校時にはいつもここを通る必然だったのか。
いずれにしろ目的の人物と会えたことに変わりはない。
上条の姿を認めた白井が駆け寄ると上条も彼女に気付いたようで、

「げ、白井」

「人の顔を見てげ、とはずいぶん教育のなっていないお猿さんですこと」

「あなた様には言われたくないですのことよ。白井は風紀委員の仕事か何かか?」

「違いますの。貴方にとても重要なお話がありますわ」

「なんですか? 上条さんは風紀委員のお世話になるようなことは何もしてないはずでせうが……。
それに今日はスーパーの特売があるんですが」

「とても重要なお話がありますわ」

白井がいつになく真面目な顔をして繰り返した。
上条にも何となく伝わったのだろう、彼もスイッチを切り替えたように真面目な表情へ一変した。
普段は馬鹿だが、いざという時の頭の切り替えは早い。それが上条当麻だ。
あらゆる事件に巻き込まれたり飛び込んだりしている内に、そういう癖が染み付いたのだろう。
だが同時にどうしようもない鈍感でもある。
たとえ無自覚でも美琴の変化の原因がこの男にあるのなら、白井は許す気は一切なかった。

「……立ち話もなんですの。近くのファミレスにでも行きましょう」





二人が向かったのは公園から最寄りのファミレスだ。
学校が終わった時間帯ということもあって、学校帰りと思われる学生が多数見受けられた。
流行の曲がスピーカーから流されていて、入った途端に外の寒々しい世界から抜け出した気がした。
冬というのは気分の滅入る季節である。やはり人というのは寒さより温かさを好むらしい。
適度に効いている暖房のおかげで冷え切ってしまった体が徐々に熱を取り戻すのを感じる。
二人は店員に進められるまま窓際の隅の席につき、白井はパフェを、上条は唐揚げを注文した。
何も頼まずに店内に居座るのはどうかと思ったからである。
中には何も頼まないどころか弁当などを持ち込む人物すらいるのだが、白井は常識的な人間なのでそういった行動をとることはない。

だが中には料理を全て食べ終えているのに中々出ようとしない学生の姿も多かった。
ただ喋っているだけではなく、大方外に出たくないのだろうと白井は当たりをつけた。
暖房により快適な温度が保たれている店内から一歩出れば、いかにも冬といった風な冷たい風が容赦なく吹き荒ぶ。
今日は一〇月二五日。まだ一一月にもなっていない。厳密に言えばまだ冬ですらない。
しかし天気や気温というのは気まぐれなもので、今日の寒さは間違いなく真冬のそれと同等であった。
一度炬燵に入ると中々出れなくなるのと同じようなものだ。

「最初に確認しておきたいのですが、貴方はお姉様の変化には気付いていらして?」

最初に口火を切ったのは白井。
上条と白井の二人だけという妙な空間がそこにあった。
まずは前提条件の確認から始める。
だが上条はきょとんとした表情を浮かべて答えた。

「へ? 御坂が? 何のことだ?」

「……知らないんですの?」

白井は驚いていた。
嘘をついているようには見えなかった。白井は風紀委員としてそれなりの目は持っていると自負している。
それに上条当麻という人間がそこまで嘘がうまいとも思えなかった。
美琴に良くも悪くもあれほどの変化をもたらせるのは、悔しいがこの男しかいないはずなのだ。
その上条が違うとなると、皆目見当がつかなくなる。

(いえ、決めつけるのはまだ早いですの。
無意識的にという可能性も残っておりますわ)

「初耳だぜ。御坂がどうなったって?」

「……いえ、少し元気をなくされているご様子でしたので。
また貴方が何かやらかしたのではと思っただけですわ」

少し考えたが、誤魔化すことにする。
もし上条が本当に関係ないなら、今の美琴と関わらせるのは危険かもしれない。
『残骸』の時に実感したが、上条は苦しんでいる人がいれば助けずにはいられない男だ。
あの美琴を見れば、大人しくはしていないだろう。
もしかしたら上条なら美琴を戻せるかもしれないが、今の美琴の内にあまり踏み入るのは良くないだろうと白井は考える。
もちろん原因が上条であるのなら話は別だが。

「またって何だよ上条さんは何もしておりませんことよ!?」

「持ち前の鈍感さで気付いていない可能性もありますの」

「鈍感って……分かった、ちょっと待ってくれ」

そう言うと上条は何事かブツブツ呟きながら考え事をし始めた。
おそらくここ最近の美琴関連の記憶を探っているのだろう。

思い出してくれないと困るのだ。
上条以外に思い当たる節はないのだから。

「……いや、やっぱりないと思うぞ。
一つ一つよく思い出して考えてみたけど、何もなかったはずだ」

一分ほど過ぎたころ、上条は心当たりはいないという結論を白井に告げた。
それを聞いた白井は何も追及はせず、ただ一言だけ言った。

「そうですの。分かりましたわ。では私はこれで」

席を立とうとする白井を今度は上条が呼び止める。

「ちょっと待ってくれ。御坂の変化ってどういうことなんだ?」

その眼にふざけた色は一切なく、真剣に聞いていることが覗えた。
やはり上条当麻とはこういう人物なのだ、と白井は再認識する。
美琴と同じく、困っている人間を放っておけないタイプ。

「別に、さっき言ったようにちょっと元気がないというだけですの。
とりたてて騒ぐほどでもありませんわ。
貴方が出てくるとまたこじれるかもしれませんので、しばらく放って置いてあげてくださいな」

「……分かったよ。お前がそう言うならそうするよ」

おそらく上条は白井が嘘をついていることに気付いているだろう。
ちょっと元気をなくしただけで、白井がわざわざ上条のところまでやってくるだろうか。
だが上条は何も言わず、大人しく引き下がってくれた。
彼なりに色々と察したのだろう。
白井は内心そんな上条に感謝していた。
今の美琴と上条を会わせるのは一種の賭けだ。大博打でしかない。
勝利すれば大団円だが、敗北すればバッドエンド。
しかも賭けるチップは御坂美琴。白井はそんな危険な賭けに乗る気は毛頭なかった。

「では、そういうことで。さようなら類人猿」

「最後の言葉がそれ!? ってもう消えちゃったし。
…………あれ? でも白井はパフェを頼んで……?
あれれ~? おっかしいぞ~?」

領収書を握り締めて思わずどこぞの名探偵のようなことを言う上条。
そんな上条の嘆きなど露知らず、白井は寮へと引き返していた。
上条ではないなら白井にはもう心当たりがない。手詰まりだ。
それに、今の美琴を長時間一人にするのが怖かったのだ。
普段の美琴の行動ならある程度予測は出来る。
だが今の美琴となると全く行動が読めない。

(お姉様……。本当に、どうされてしまったんですの?)

突然白井の携帯がなった。
見た目だけはやたらと近未来的な、ハッタリSF携帯を取り出し相手の確認もせずに応答する。
美琴かもしれない。白井のその期待はあっさりと破られてしまった。
電話口の向こうから聞こえてきた声は白井の敬愛する美琴の凛々しい声ではなく、飴玉を転がすような甘ったるい声だった。
初春飾利。白井と同じ風紀委員の人間であり、それが故に同僚だ。
用件は至極シンプルなもの。仕事。たった二文字で表されるものだった。
だが白井にしてみればこの上ない最悪のタイミングだ。
しかし仕事を投げ出すわけにもいかない白井は、一度帰って美琴の様子を確認した後に仕事に向かうという妥協案を採用するのだった。

短いですが投下終了
何かもうすでにヤバいことになってるミコっちゃんですが、これからミコっちゃんには
大きな落としを更に三回ほど用意してあります
次回投下で早速その一回目が発動します

では今年もよろしくお願いしませう

    次回予告




(ごめん、ね。ごめ、なさ、い。本当に、ごめん、ねぇ……っ!)
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「どぉしたのかしらぁ?
浮かない顔してるわよぉ? みさきち気になっちゃったゾ☆」
学園都市・常盤台中学の最大派閥を統べる女王にして第五位の超能力者(レベル5)―――食蜂操祈

6巻の発売が近いですね
さて、では投下します

その苦しみは、きっと少女の優しさ故。










御坂美琴はふらふらと校内を歩いていた。
授業中も完全に上の空で、授業内容など全く頭に入っていない。
全ての授業を終え、彼女は寮へと帰ろうとしているところだった。
途中二度も人とぶつかった。最初は友人である婚后光子と、その次は湾内絹保と。
美琴の異常に気付いたのか、その度に何かあったのかと聞かれたが、美琴は何でもないと答え二人にそれ以上の詮索を許さなかった。
向こうもそれ以上無理に追及してくることはなかった。

彼女たちも今の濁った目をした美琴とはあまり関わりたくなかったのかもしれない。
理由は何であれ、詮索されないのは美琴にとってはありがたかった。

そんな彼女が、三度すれ違い様に肩をぶつけた。
美琴がのろのろとそちらに目をやると、それは美琴の関わりたくない人間ベストスリーに入る人物だった。
腰までもある派手な金髪、肩から鞄を下げ、中学生とは到底思えない豊かな胸に、整った顔立ち。

『心理掌握(メンタルアウト)』、食蜂操祈。
学園都市第五位の超能力者だ。

食蜂は何も言わない美琴を見て、悪戯っぽくくすりと笑った。
それは本人にとっては純粋な笑みだったのかもしれない。
だがそれは他人からすればどう見ても悪意が感じられる、人を小馬鹿にしたようにしか見えない笑みだった。
長い髪を揺らし、わざとらしく肩をすくめて、

「ちょっとぉー、御坂さぁーん?
人にぶつかっておいて謝りもしないのかしらぁ?」

「……悪かったわよ」

ありていに言って、美琴は食蜂が嫌いだ。
もともと関わりたくない人物であるのに、今この状況で遭遇したことは美琴にとってみれば最悪だった。
食蜂の『心理掌握』は精神系最高の能力で、精神に関することなら何でも出来る、その分野での万能だ。
記憶を読み取ったり、消したり、操ったりと食蜂はその能力を使うことに躊躇いを覚えない。
彼女は自身の取り巻きに対してさえ何かあればすぐに能力を使う。
美琴がそんな彼女を、その力を、「とびっきりに下衆い」と評したほどだ。

彼女が能力を使えば美琴の変化の原因などすぐに調べられる。
一方通行のことも、妹達のことも、全て。
美琴は絶えず能力を用いた電磁バリアを張っているため、実際には彼女が美琴に干渉することは出来ない。
それでも記憶を探られそうになって良い気分になるはずがない。
加えて彼女は美琴を目の敵にしており、丁度今のように顔を合わせれば必ずと言っていいほどに絡んでくる。
本当に、今は見たくない顔だった。

「どぉしたのかしらぁ?
浮かない顔してるわよぉ? みさきち気になっちゃったゾ☆」

「……お願い。今は本当にアンタと関わってたくないの。
余計なことをしないで。これ以上ややこしくしないで」

「流石の私もそんなストレートに言われると傷つくわよぉ?
でもでも、そんなこと言われると余計気になっちゃうわぁ。えい♡」

食蜂は鞄の中に手を入れ、中にしまってあるリモコンのボタンを押す。
詳しくは知らないが、食蜂は能力の発動時にいつだって必ずリモコンを使う。
結標のように能力の補助に使っているのかもしれないし、あるいはリモコンがないと能力は使えないのかもしれない。
だがそんなことは委細どうでもいい。とにかくそのリモコンが押されたということは結果は一つ。

食蜂操祈の有する能力、『心理掌握』が発動する。
人の心を犯しつくす最悪の力。
少し視点を変えれば一方通行よりも未元物質よりも、よほど極悪と言える能力。
絆も信頼も恋慕の情も信念も記憶も、何もかもが食蜂の前では無意味と化す。
だが美琴にはそんな反則的な能力も通じない。
美琴が展開している電磁バリアが心理掌握を遮断するも、頭にビリッとした痛みが走った。

「んー、やっぱり無理なのかぁ。厄介よね電磁バリア。
面白いものが見れるかと思ったのになぁ、残念☆」

「……いい加減にしなさいよアンタ。それともホントに一戦やらかす?」

美琴は叫ばず、静かに怒りを滲ませる。
自分の奥底まで侵入され、挙句の果てには好きにいじられるところだったのだ。
しかもただ面白そうというだけの理由で。
これで怒るなという方が無理がある。

そして食蜂ではどう足掻いても美琴には勝てない。
第三位は第五位より確かに上だった。
食蜂もそれは心得ており、引き際も分かっていた。

「そんなに怖い顔をしないで。悪気力があったわけじゃないのよ?」

「もういい。さっさと失せなさい」

美琴はもはや取り合わず、ただ消えろとだけ告げた。
食蜂も大人しく引き下がり、どこかへと姿を消した。
最後に「まったねぇー、みっさかさぁーん」と言い残して。
出来ればその「また」が二度と来ないことを祈らずにはいられなかった。

彼女の登場により一気に疲労感の増した美琴は、足早に自室へと戻った。
白井はまだ帰ってきておらず、一人だけだ。
鞄を適当に放り投げ、自分のベッドに背中から倒れこむ。

ギシ、とベッドが軋む。制服にしわが出来るかとも思ったが、どうでもよかった。
今の美琴に制服のしわなどにまで気を払う余裕などない。

こう落ち着いてしまうと、色々なことが頭の中をぐるぐると廻ってしまう。
今彼女を悩ませている原因は何と言っても一方通行だ。それは間違いない。
だが厳密に言えば少し違う。一方通行がその原因だが、今一番美琴の心を占めている人物は違う。
だが一方通行と再会してしまった時、あの八月の記憶が鮮明に蘇った時、思い出した。
いや、気付いたというべきか。

そもそもあの時美琴が鉄橋に向かったのは、御坂妹との会話の中で感じた二度のつっかかりの正体を掴むためだった。
一方通行との遭遇は完全な偶然だ。
だが皮肉にも彼と会ったことでそのつっかかりが分かったのだ。



    ――『安心してください、ミサカはゲコ太趣味に理解のあるミサカです』――


    ――『いやいやねーだろ、とミサカはお姉様のお子様センスに愕然とします』――


昨日のように一緒に遊んだ妹達は御坂妹が初めてではなかった。


    ――『ではさようなら、お姉様』――


    ――『さようなら、お姉様』――


絶対に忘れてはいけないはずだった。
自分が一番覚えていなければならないはずだった。
美琴が初めて会った、最初の妹達。



さようなら、お姉様。

さようなら、お姉様。

さようなら、

さようなら、

さようなら、

さようなら―――。


(九、九八二号)

御坂妹とは違って、美琴のゲコ太趣味を一刀両断した妹達。
御坂妹とは違って、もう会うことも出来なくなってしまった妹達。

あの時、彼女の言った「さようなら」に美琴は挨拶以上の意味を感じていなかった。
まさか死にに行くなんて、思いもしなかった。
またいつかどこかでばったり会って、彼女の我が侭に振り回されるんだろうなんて考えていた。
もし美琴が無理やりにでもついていっていれば。
生まれたばかりの彼女の言葉の真意を汲み取れていれば。
もしかしたら、彼女は死なずに済んでいたかもしれないのだ。

御坂妹の言った「さようなら」という言葉が、九九八二号のものと被った。
だからこそ、死神の幻覚なんてものが見えたのだ。
さようなら。これから死にに行く九九八二号の言った言葉。
一体彼女はどんな気持ちでその言葉を発したのだろう。
あの時も九九八二号の背後には鎌を持った死神がいたに違いない。
ただ美琴がそれに気付かなかったというだけで。
彼女に迫る『死』を見過ごしていただけで。
結果、本当に九九八二号は永遠に会えないところへ行ってしまった。

挙句、そんな彼女を忘れていたなど。
どの面を下げて姉を名乗っているのか。
美琴は自嘲気味に力無く笑った。
死者は生者の記憶の中にしか生きられない。
命が尽きてもそれを覚えている者がいる限り死んではいない、などとは美琴は口が裂けても言えない。

死ねば終わりだ。
たった一つの命が尽きればそれで終わりなのだ。
物好きな一部の哲学者は小難しい話をこねくり回して言葉遊びをして、それは違うというのかもしれない。
だが現に殺された一万人もの妹達は二度と帰って来ない。

しかし、たとえば自分が死んだ後、誰も自分を覚えていなかったらどうだろう?
命が尽きた後、家族も友達も始めから自分なんていなかったかのように振舞っていたらどうだろう?
少なくとも美琴にはそんなのは耐えられない。

忘れられることは死よりも辛い。美琴はその片鱗を経験したことがあった。
大覇星祭中、白井黒子と初春飾利、佐天涙子の記憶が食蜂操祈によって改竄されたことがあった。
御坂美琴に関する記憶だけが消されたのだ。
美琴はその時の衝撃を、ショックを、未だに忘れらない。


    ――『人の名前を気安く呼ばないでいただけますか? 馴れ馴れしいですわね』――


    ――『白井さんのお知り合いですか?』――


    ――『わー、有名人じゃん。たしか「超電磁砲」って呼ばれてるんですよね!』――


まるで自分なんて存在してなかったような反応。
この時はその原因が食蜂だと分かっていたし、婚后のような覚えてくれている人もいた。
だから美琴は平静を保てた。

だが九九八二号の知り合いは、きっと美琴しかいなかった。
『実験』のために生み出され、最初から死ぬことが決まっていた少女。
他に知り合いなどいるはずもないだろう。妹達を知り合いと言うならともかく。

つまり九九八二号が死んだその瞬間から、彼女が生きていたことを覚えているのは美琴だけになってしまった。
美琴が忘れれば彼女は本当の意味で死んでしまう。
だというのに、御坂美琴は彼女のことを忘れていた。
死んでしまったのなら、せめて自分という人間が確かに存在したことを覚えておいてほしい。
忘れないでほしい。美琴はそう思う。なのに。

九九八二号と会い、共に行動したのはおそらく美琴だけだ。
理想の美琴と現実の美琴を比べ、「ま、世の中こんなもんですよね」と幻滅したり。
美琴のアイスを高速で横取りしたり。
ハンバーガーを美琴と半分こしたり。
「もっと不摂生しなくては!」とよく分からない決意表明をしたり。
美琴から貰ったゲコ太バッジを大切にしたり。
最後にはそのバッジを大切そうに抱きしめながら―――。

(どうして、忘れてたんだろう。
ごめん、ね、九九八二号。ごめ、なさ、い。本当に、ごめん、ねぇ……っ!)

心の中で幾度も届かぬ謝罪を繰り返す。
忘れてしまっていたことと、助けられなかったこと。
九九八二号は美琴の目の前で殺された。
助けられなかった。彼女だって生きていれば、御坂妹のように人間らしく生きられていただろう。

彼女はどんな服が好きだったのだろう?
目玉焼きハンバーグはどのように食べるのだろうか?
クレープは何味が好きだったのだろう?
ダーツはうまかったのだろうか?

その答えは永久に出ないままだ。
もう彼女の未来は永遠に閉ざされてしまったのだ。
これからの無限の可能性も、全てが失われた。

(でも、思い出せた。もう忘れない。
誰が忘れても、私は九九八二号が生きていたことを覚えているから)

それは償いなのだろうか。
さようなら。九九八二号のその言葉が頭から離れない。
あの時にその言葉の真意に気付けていれば。
もう何度同じ後悔を繰り返しただろう。たらればの話に意味はないと分かっていても、やはりせずにはいられない。
時間は常に不可逆で、過去から未来へ流れるだけの一方通行。
如何な学園都市でもタイムマシンで過去に戻るなんてことは出来はしない。

いつしか美琴はそのまま眠ってしまった。
精神的疲労が大きすぎたのだろう。
後輩が帰ってきたことにも気付かずに深い眠りの中へと沈んでいった。










美琴は一人立ち尽くしていた。
あたりは一面真っ暗で、何も見えない。ここがどこなのかも分からない。
しばらく呆然としていた彼女だが、とりあえず状況を把握しようとする。
そこで突如として闇を切り裂いて一人の男が現れた。
どこまでも白い、白いその少年は一方通行。
美琴が何か反応するより早く、続いて一人の少女が現れる。
大型の銃を構え、常盤台の制服に身を包んだ妹達だ。

何が起きるのか察した美琴は急いで駆け寄ったが、突然壁にぶつかって動きが止まった。
両手で触ってみると、二人と美琴の間に不可視の壁があった。

壁に隔てられた向こう側では、妹達が引き金を引き戦闘が始められていた。
ドガガガッ!! という銃声と共に貫かれたのは一方通行ではなく妹達の方。
『反射』。殺傷力に長けた銃弾はあっさりとそれの餌食となり、妹達の体を抉った。
血を噴出し倒れる妹達。美琴が悲鳴をあげるが、それは壁の向こうには決して届かない。
邪魔だ。そんな思いを込めて思い切り壁を殴りつけるが、壁は僅かほども動かない。
能力は何故か使えなかった。よって美琴は何も出来ずただそれを眺めることしか出来ない。

『反射』された銃弾を浴びた妹達が死ぬと、入れ替わりに次の妹達が姿を現す。
一方通行に頚動脈を裂かれたその妹達は、首から血の噴水を撒き散らして死に至った。
するとまた次の妹達がやって来る。そしてすぐに一方通行の右手に腹を貫かれ絶命する。

美琴は壁を叩いて、殴って、蹴って、叫んで。しかしどうやっても壁の向こうには干渉できない。
それからは地獄だった。延々と美琴は妹達が死ぬ様子を見せ付けられた。
目を瞑っても頭の中に直接イメージが飛び込んでくるのでどうしようもない。
目の前で体が弾けた。四肢をもがれた。首が落ちた。

もはや美琴は発狂寸前だった。
自分と同じ姿、自分と同じ顔、自分と同じ声、自分と同じ服装、自分と同じ遺伝子の人間が無残にも殺されて、解体されていく。
まざまざとそんなものを見せ付けられて平気でいられるはずがなかった。
妹達が殺されていることに対して、というより『御坂美琴』が何度も何度も目前で繰り返し死んでいく光景に心と精神が耐えられない。
発狂しない方が不思議だった。あまりのおぞましさに我慢し切れず何度も吐いた。胃の中のものを全て吐き出して、それでもまだ収まらない。
頭をガリガリと爪をたてて思い切り掻き毟る。すぐに頭皮が破れ、両手に血が付着する。
だがそんなことなどお構いなしにおかしな声をあげながら頭を掻き毟る。傷口が更に抉られ、やがて顔にまで血がダラダラと流れてきた。
自分と同じ姿かたちをしている人間の顔がぐしゃり、と潰れ目玉が飛び出し脳髄が撒き散らされた時、ついに美琴はこの世の全てを否定するように、喉が裂けるほど腹の底から絶叫した。

気付いたら、美琴はまたも真っ暗な空間にいた。
ただもう不可視の壁はなく、一方通行も妹達もいない。
破れたはずの頭皮も、そこから流れたはずの血もなくなっている。
それに伴って痛みも綺麗になくなっている。
だが今度は足が全く動かない。不思議に思い、下を見てみた美琴は驚愕した。
美琴が今立っているところだけを孤島のように残し、全てが海のように水に沈んでいたのだ。

それもただの水ではない。真っ赤に染まった、血の海だった。
その粘つくような、鼻腔を刺激する独特の臭いに吐き出しそうになる。
それだけではない。血の海から人間の腕が伸び、美琴の足首をしっかりと掴んでいた。
ねちゃりと、どこまでも冷たい手。掴まれた瞬間冷水を浴びせられたかのように背筋をゾッと冷たいものが走った。
思わず悲鳴をあげる美琴。だが事態は何も変わらず、それはどんどん水中から這い上がってきた。

一人だけではない。気付けば美琴の足を掴んでいる手はいくつにも増えていた。
美琴の足首から太ももを掴み、太ももから腰を、腰から腕を掴み……少しずつ這い上がってくる得体の知れぬ幾人もの何か。
何かの体はとても冷たく、触られる度に脳髄まで凍り付いてしまいそうになる。
能力は何故か使えない。必死に腕を振り、蹴り飛ばし、抵抗する美琴。
その時彼女は見てしまった。それの顔を。

それは御坂美琴だった。
いや、正確には妹達だ。何人もの、数え切れないほどの妹達が美琴の体を掴み這い上がってくる。
その体を見ると一人として無事なものはいなかった。
片手がなかったり、腕が弾けていたり、中には臓器がはみ出ている者まで。
美琴はまたもや吐きそうになるが、目の前にいるのは妹達。
一体誰を見て吐こうとしているんだ、と言い聞かせ何とか踏みとどまろうとする。
何とか耐えられたのは先のように殺されている光景ではなかったからか。
もはや美琴は彼女たちを足蹴りにすることなど出来なかった。

そこで、妹達が言葉を発し始めた。



『お姉様が原因だったのですね』

『ミサカが生まれるのも、ミサカが殺されるのも、全部』

『お姉様が全ての元凶』

『ミサカたちだってもっと生きてみたかった』

『ミサカだってオシャレをしてみたかった』

『ミサカだって美味しいものを食べてみたかった』

『ミサカだってダーツをしてみたかった』

『ミサカだって―――』

『お姉様のせいで』

『ミサカたちの命を返して』


まるで呪詛のように次々と、延々と怨嗟する妹達。
美琴は先ほどとは違う意味で吐き気を催した。
もはやただごめんなさい、ごめんなさい、許して、と頭を抱えて繰り返すことしか出来なかった。
罪悪感に悶え苦しみ、再度発狂寸前に陥る美琴。
そんな美琴の眼前に、一人の妹達の穏やかな顔があった。その他の妹達と違い、血に塗れてはいなかった。
優しく美琴に微笑みかけている。それにつられて美琴の顔もほんの僅かに緩んだ。
だがその妹達は片足がない。そしてよく見れば、着ている常盤台の制服にはゲコ太のバッジが―――。
美琴が九九八二号だ、と認識した途端、九九八二号の穏やかな顔が突如剥がれるように消失した。
その光景に絶句している美琴をよそに、穏やかな仮面の下から本当の顔が現れる。
血塗れだった。他の妹達と同じだった。九九八二号はその顔を醜く歪め、汚いものを吐き出すように言った。













「あ、な、た、の、せ、い、だ」











「ああああああああああああッ!!」

絶叫した美琴の視界に映ったのは血塗れの妹達ではなく、見慣れた常盤台寮の天井だった。
息は全力で疾走した直後のように大きく乱れ、全身汗びっしょりだ。
いつの間にか被っていた布団を思い切り跳ね除け、左手で頭を押さえて息を整える。

(……夢、か)

初めて見たわけではない。
一部違うものの、ほとんど同じ夢を『実験』当時に見たことがある。
彼女を何より苦しめる内容。妹達に糾弾される夢を。
机の上にあるそれなりに高価な電波時計に目をやると、どうやら一時間以上寝ていたようだ。
ルームメイトの姿は見えない。
何かの用事で出かけているのか、風紀委員の仕事でも入ってまだ帰ってきていないのか。

とにかく美琴には幸いだった。こんなところは絶対に白井には見せられない。
汗びっしょりになってしまった美琴は、汗を洗い流すため浴室へと向かおうとしたが今見た悪夢がどうしても鮮明に思い出されて。
こみ上げる吐き気を今度こそ抑えきれなくなった美琴は、口元を手でふさぎながらトイレへと駆け込んだ。

そして、御坂美琴は吐き出した。
ポロポロと涙を流しながら、ありとあらゆる感情を乗せて。
吐寫物と共に、全て。
あらかた吐き出した後、彼女は声をあげて泣き崩れた。





ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。




あなたのせいだ。その九九八二号の言葉は、何度も御坂美琴の脳内で再生される。


    『あ、な、た、の、せ、い、だ―――』。


壊れたテープレコーダーのように、終わりのない謝罪をいつまでもし続ける美琴の声が常盤台寮の一室に響いた。

投下終了

反転や赤字は最初からここで使うと決めてました
なのでおそらくもう使うことはないでしょう

    次回予告




「だがオリジナルに人を殺すなンて不可能だった。
アイツはそォいう種類の人間じゃねェンだ。誰もが憧れるヒーローを具現化したみてェな奴だったからな」
『グループ』の構成員・学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)




「……はい。お姉様は、とても優しい方です。
そして、強い。力だけではなく、何よりも心が、とミサカは呟きます」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号にして美琴の妹―――御坂妹




もう一人のメインの存在が完全に空気

悲惨だなぁ……
打ち止めが一方通行側につかなきゃいいけど

応援してますよ!

垣根強すぎワロリンヌwwwwww
何あの無敵性能、チートってレベルじゃねえぞ
一方通行超えたわあれ 細胞一つ残さず消さなきゃいけないとか……元気玉が必要だな

美琴も聖人相手に大健闘だったし、個人的には大満足でした
ただ悪垣根が消えてしんとくんになったのだけが納得できませんね……
>>1が好きなのは軽口を叩くチンピラみたいなあのていとくんなんだ!!
では投下します

>>541
ていとくんのことでしょうか?
たしかに軍覇を圧倒したのが最後ですから、もう200レスくらい登場してませんね

>>542
それは近いうちに明かされます

>>543
ありがとうございます

美琴が悪夢に苦しんでいるのと時を同じくして、一方通行もまた悪夢を見ていた。
内容は美琴のものとほぼ同一。
殺す部分はなかったものの大勢の血塗れの妹達に囲まれ、命を返せと糾弾される夢だ。
飛び起きた一方通行は美琴と同様、息が乱れ発汗もしていた。
ハァ、ハァ、と乱れる息を整え自室の扉に目をやるが、同居人たちがやって来る気配はなかった。
どうやら声をあげたりはしていなかったらしい。
チッ、と大きく舌打ちする。部屋を出て、足早にシャワーを浴びに向かう。
服を乱暴に脱ぎ捨て、芳川や打ち止めに何か言われる前にさっさと入浴した一方通行は、熱いシャワーを全身に浴びながら思案していた。

御坂美琴との再会。
あれは美琴と一方通行、双方にとって完全に予想外の出来事。
彼女が突撃してきた時はどこかの馬鹿かと思ってあしらおうとした。
だがその顔を見て、急遽『反射』から操作へと変更。ギリギリ間に合わせることが出来た。
一方通行は一体どんな顔をして彼女と対面すればいいのか分からなかった。
どんな顔をして、何をして、どんな事を言えばいいのか。何も分からない。

一方通行は最低最悪の虐殺者で。
御坂美琴は絵に描いたような善人で。
美琴は怒りをぶつけてきた。
怯えも感じていたようだったが、それでもしっかりと怒りを叩きつけてきた。
何も言い返せるはずがなかった。彼女の怒りはどこまでも正当なものだ。

彼女には一方通行を糾弾する正当な権利がある。
彼女には一方通行を裁く正当な権利がある。
そして彼女には一方通行を殺す正当な理由がある。

だから。
彼女になら、御坂美琴になら殺されても構わないと思った。
もちろん未練はある。彼は打ち止めと一緒にいたいと、そう願っているからだ。
一方通行は紛れもなく悪人だが、悪人が善人を救ってはいけないのか。
悪人が善人と一緒に過ごすことを望んではいけないのか。
そもそもの話、悪党などという括りにこだわることに意味などあるのか。

しかしだ。御坂美琴を前に、打ち止めと一緒にいたいなんて言えるだろうか?
打ち止めは「昨日お姉様と遊んだ」と嬉しそうに何度も何度も黄泉川たちに語っていた。
その表情は幸せに満ち溢れていた。それはつまり、美琴は打ち止めに対しても姉として優しく接してくれたということ。
御坂美琴と一方通行。どちらが保護者として適任かなど考えるまでもないだろう。
悪党であることにこだわらないとはいえ、美琴相手ではどうしてもいつものようには考えられなかった。

御坂美琴以上に、打ち止めの、妹達の保護者として適任者がいるだろうか?
御坂美琴以上に、妹達を心から想ってくれる者がいるだろうか?
御坂美琴以上に、一方通行を糾弾するべき人間がいるだろうか?
そして御坂美琴以上に、一方通行の処刑人として相応しい者がいるだろうか?

御坂美琴が一方通行を断罪する。
何もおかしいところなどない。極めて自然な、本来あるべき流れだ。
だって、一方通行は紛れも無く加害者で。
一万人以上もの美琴の妹を殺した殺戮者で。
美琴は間違いなく被害者で。
一万人もの妹を殺された姉で、遺族で。

だからこそ、彼は未練はあれど美琴に殺される覚悟を固めた。
彼女なら自分以上に打ち止めを、妹達を守ってくれるだろうから。

だが、ここには一つの大きな誤算があった。
それは御坂美琴は所詮どこまで行っても善人であるということ。
美琴に人を殺すことなんて出来なかった。たとえ相手が一方通行であっても。
彼女がガタガタと震え、今にも泣きそうになっているのを見た時、一方通行の考えは一八〇度変わった。
もし美琴が一方通行を殺そうとするなら喜んで殺されよう。
だがそれは御坂美琴を、あの善人を自分と同じ殺人者にしてしまうということで。
自分が、彼女を『闇』に引き摺り込んでしまうということで。

美琴は躊躇っていた。殺すという選択を取れずに苦しんでいた。
やはりそれで良かったのだ、と一方通行は思う。
人を殺す決意なんて、そんな力は彼女には必要ない。

だから、やはり殺されてやることは出来ない。死ななければならぬと言うのなら、その時は己の手で命を断つと決めた。
美琴を人殺しにしないために、あの場は立ち去った。
己の能力は未だ健在であることを示して、自分を殺すことは出来ないということを示してから。

ハンドルを回してシャワーを止める。
一方通行の真っ白な髪を水滴が伝い、ポタ、ポタと音をたててタイルを叩く。
その水音は反響し、浴室によく響いた。
熱いシャワーは体の汚れは落としてくれるが、染み付いた血までは流してはくれない。
どれだけ洗っても、とれるはずがない。それほどに一方通行は血に塗れ過ぎている
御坂美琴とは、対照的に。

事態は何も解決はしていない。
決着の刻を先延ばしにしただけで、何一つ好転はしていない。
いつかまた、彼女と相見える時が来るだろう。
その時どうするべきか。美琴はどうするのか。
何も分からない。分からなかった。

(……チッ。情けねェな、俺も。
最強とか言ってもこンな問題一つ解決出来ねェンだからよ)

学園都市最高の頭脳の名が泣くぜ、と自嘲しながら彼は風呂場を出た。
簡単にタオルで体を拭きリビングに向かうと、打ち止めが何度目か分からない美琴と遊んだ話を芳川に繰り返していた。
本当に幸せそうな笑顔で話し、芳川も笑顔で耳を傾けている。
今打ち止めが思い浮かべているのは美琴だ。打ち止めの心を満たしているのは打ち止めの大好きなお姉様だ。
美琴はたとえこの場にいなくても、あれだけ打ち止めを笑顔にしている。
何となくいたたまれなくなった一方通行が白いジャケットを着て外出しようとすると、打ち止めが話を中断し彼の元へとてとてと小走りにやって来た。

「どこ行くのってミサカはミサカは訊ねてみたり」

「なンでもねェよ。ちょっとコンビニにコーヒー買いに行くだけだ」

「……大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみる」

「何の話だ」

「昨日あなたが帰ってきた時、絶対おかしかった。
何か、あったんでしょ? ってミサカはミサカは核心を突いてみたり」

「オマエが心配するよォなことは何もねェよ。
クソガキに気を使われるほど落ちぶれた覚えもねェ」

一方通行はそれだけ言うと、打ち止めの返事を待たずに玄関を出、扉を閉めた。
冷たい空気が一方通行の皮膚をぴりぴりと刺激する。
マンションを下り、フゥ、と息を吐く。
白くなった息は風に乗って運ばれ。やがて儚く霧散した。
その儚さが自分が殺してきた妹達の命と被るように思えて、一方通行はハッ、と嗤った。
いつになく詩的な自分が馬鹿らしかった。自分はそんな感傷的な人間ではない。
自嘲するのももはや慣れてきたな、と一方通行は嗤った。

それにしても、と一方通行は打ち止めの言葉を思い出す。
やはり昨日の美琴と遭遇したことによる動揺は完全には隠せていなかったようだ。
打ち止めはこういう時には意外と聡い。それが一方通行のこととなるとなおさらだ。
一方通行はもう一度ため息をつき、どこへ行くでもなく歩き出した。

散歩と言うのが適切だろうか。いや、それもどこか違うかもしれない。
当てもなく、ただ気ままに杖をついて歩き回る一方通行。
街中を歩く人々も厚めの防寒着に身を包んでいる。
今日はいつになく寒い。これで雪が降っていても違和感はないだろう。
空を見上げれば天気は曇りで、くすんだような灰色をしている。
白にはなれず、かといって完全な黒にも成りきれないどっちつかずなその色は、どこか一方通行の心境を彷彿とさせる。

道行く学生たちは楽しげに冬休みの予定や期末テストのこと、あるいは取り留めのない談笑に花を咲かせている。
この寒さのせいか、たい焼きや石焼芋を売る屋台も繁盛しているようで、それなりの人が並んでいる。
大きく両手を振って声を張り上げ集客に勤しむ男に反応し、小さな子供が母親のコートを引っ張っておねだりしている姿もあった。
どうやらあの屋台に並ぶ客は更に増えていくようだ。

平和な光景だった。
御坂美琴と一方通行がどうなっていようと、それとは無関係に世界は廻り続ける。

当然のことなのだが何故かそれがやけに気に障り、一方通行は大通りから外れた道へと向かった。
道中、スキルアウトにも絡まれたが電極をオンにしたので勝手に自滅していった。
いつもならチンピラ如きに使うバッテリーが勿体ないと能力は使わないのだが、今はそんな気分ではない。

何もかもを度外視し、ただふらふらしていた彼だったがそんな彼の体がピタリと止まった。
そして、何かに怯えているように小さくその細い体が震えだした。
彼の紅い眼が大きく見開かれている。
一方通行の視線の先にいた人物。それは肩にかかるくらいの茶髪に、常盤台の制服を着た少女。
御坂美琴。学園都市第三位の超能力者にして、一方通行が最も恐れる人物でもある。

まさか、こんなに早く再会してしまうなんて予想外だ。
心の準備も何もあったものではない。
黙って立ち去ってしまおうか、と真剣に考えていると彼女が一方通行の存在に気付いてしまった。
だが、振り返った少女が発した言葉は怒りでも、恐怖でもなかった。
電撃が飛んでくることも、超電磁砲が放たれることもなかった。

「……あなたですか。『実験』終了以後こうして顔を合わせるのは初めてになりますね、とミサカは挨拶します」

少女は御坂美琴ではなかった。
妹達。その事実に一方通行は心底安堵した。
そしてそんな自分に複雑な気持ちを感じ顔を顰める。

「……妹達か。何号だ?」

「ミサカの検体番号(シリアルナンバー)は一〇〇三二号です、とミサカは名乗ります。
『実験』最後の個体ですね」

一方通行は思い出す。
この妹達との戦いが『実験』の終わりとなったのだ。
あの操車場でいつものように妹達を圧倒し、止めという時にあの無能力者がやって来て、そして―――。

「覚えてるぜ。そォいやオマエは俺と戦った妹達の中で唯一の生存者になるわけか」

「まぁそうなりますね、とミサカは簡潔に答えます。
ちなみに言っておくとミサカはあなたを恨んではいませんよ、とミサカは先手を打ちました」

「ッ」

その言葉に思わず息が詰まる。
一方通行は彼女たちを一〇〇三一人殺した。
目の前にいる一〇〇三二号、御坂妹にも散々暴行を加えた。
だというのに、この少女は一方通行を恨んでいないという。
打ち止めもそうだ。彼女は許しはしないとは言ったが、糾弾はしてこなかった。
妹達の命が失われたことに嘆き悲しみ、そして怒るのは御坂美琴ただ一人。

「……何言ってンだオマエ。
俺が何してきたか、忘れちまったわけじゃねェンだろォが」

「はい、一生忘れることはないでしょう。そしてあなたを許すことも。
ですが、あなたがいなかったらこのミサカが生まれてくることもなかった。
それもまた事実なのです、とミサカは補足説明します」

「……オマエはそォ思っても、オリジナルは違げェ。そンな簡単な話じゃねェだろォが」

「お姉様と、会ったのですか」

「あァ、会った。会ったよ、オリジナルとな」

そう言うと、御坂妹はうつむいて黙り込んでしまった。
その体を僅かに震わせ、両手でスカートの裾をギュッと握り締めている。
寒いから、ではないだろう。この少女なりに何か思うところがあるのだろう。
御坂妹とて一方通行と御坂美琴が遭遇した場合、喜ばしい事態にならないことくらい理解できる。
一方通行もそんな御坂妹を見て黙り込んでしまい、無言の時間が流れる。
だがすぐに御坂妹がまた言葉を紡ぎ始めた。その声も僅かに震えているようにも思える。

「お姉様は、」

「あン?」

「お姉様は、どういった反応をしましたか。
お姉様は、何と言っていましたか」

一方通行は少しの沈黙を挟んで、答えた。
取り繕う必要も意味もない。ただありのままを話す。

「予想通りだったよ。俺を糾弾して、殺そォとした。
何とも常識的な反応じゃねェの?」

「…………」

「だがオリジナルに人を殺すなンて不可能だった。
結局アイツは俺みてェなゴミクズ相手ですら、殺すか否かを最後まで決められずに悩ンでた。
考えてみりゃ当然だな。簡単に人を殺せるオリジナルなンてオリジナルじゃねェ。
アイツはそォいう種類の人間じゃねェンだ。誰もが憧れるヒーローを具現化したみてェな奴だったからな」

「……はい。お姉様は、とても優しい方です。
そして、強い。力だけではなく、何よりも心が、とミサカは呟きます」

それが御坂美琴の魅力なのだ。
何者にも恐れず立ち向かう勇気。
他者のために命すら投げ出そうとする優しさ。
それでいて絶対に手を汚さない気高さ。
これらの強さが、彼女を彼女たらしめている。
御坂美琴の周囲に人が集まるのは必然だっただろう。
たとえ美琴が無能力者でも多くの人間に慕われていたに違いない。

「……それで、お姉様はあなたの事情を?」

一方通行の事情。
打ち止めと暮らしていること。
彼女を幾度も救っていること。
その際に演算能力を失ったこと。
今は妹達の代理演算に頼っていること。

わざわざ自分からそれを話すのは、どう考えてもただの言い訳だ。
少なくとも一方通行はそう考えていた。
美琴から話すよう要求されれば話は別かもしれないが、そんなことは知らなくていい、と一方通行は思う。
別に隠したいわけではない。その方が美琴のためだと思うからだ。

そんな話を聞かされれば美琴は酷く混乱するに違いない。
そしてあの心優しい少女は、全てを知れば一方通行を心の底からは憎めなくなるだろう。
ならば美琴の抱える怒りや悲しみはどこへ行けばいい? きっと行き場をなくして破裂してしまうに決まっている。

だから、怒りや殺意を容赦なくぶつけることの出来る分かりやすい相手がいるべきだ。
御坂美琴にとってのそれは一方通行をおいて他にいない。
だから、自分はRPGの魔王のような絶対悪でいるべきなのだ。
魔王に可哀想な過去や中途半端に改心する話は必要ない。プレイヤーが興醒めするだけだ。
魔王は魔王らしく、ただ勇者に倒されればいい。分かりやすい勧善懲悪。

ただ今回魔王は殺されてやることは出来ない。勇者からその称号を剥奪することになってしまうから。
そして勇者にもまた、その優しさ故か絶対悪の魔王を殺すことが出来ない。
それがこのゲームの難易度を飛躍的に跳ね上げる。

「……そうですか」

御坂妹の様子が少しおかしい。
一方通行は先ほどからそう思っていたが、話している内容が内容だ。
そのせいだろう、と彼は考え特に追求することはなかった。









「……お姉様」

一方通行が去った後、御坂妹はポツリと呟いた。
美琴は遂に一方通行と悪夢の再会を果たしてしまった。
こうなれば、美琴が“あのこと”を知るのもそう遠いことではないだろう。
それを知った時、彼女は何を思うのか。

(これはミサカたちのことを想ってくれているお姉様への、重大な裏切り行為である、とミサカは……)

御坂妹が打ち止めを交えて美琴にクレープを奢ってもらった時。
途中、垣根帝督が現れたあの時。
一方通行をあの人と呼び、楽しそうに美琴に一方通行の話をしていた打ち止めを制止した理由。
それは、美琴に一方通行のことを思い出してほしくなかったから。
苦しんでほしくなかったから。
勿論それもあったが、一番の理由はそんな綺麗なものでは決してなかった。

美琴が一方通行と再会したら、きっと“あのこと”も知られてしまうから。
きっと、大好きなお姉様を裏切り、傷つけてしまうから。
……きっと、大好きなお姉様に嫌われてしまうから。

それが嫌だから、嫌われたくないから、という至極個人的理由で美琴に一方通行の情報を渡したくなかった。
だがこんな独善的なことを考えていると知られたら、それだけでどうなるか。

(ミサカは、とても自分勝手です。
お姉様はミサカたちを人形ではないと言ってくれました。ミサカたちのために命を捨てようとまでしてくれました。
あの日も、ミサカに付き合っていただいて悩み相談にまで乗ってくださったのに……。
そんなお姉様に嘘をついている。騙している、とミサカは自己嫌悪に陥ります)

それはそれだけ御坂妹が美琴を想っているということでもあるのだが。
ここまで来たらいつまでも隠し通すのは不可能だろう、と御坂妹は思う。
ならばせめて、自分の口から伝えよう。
隠していたことも、その理由も全て話そう。
たとえ、優しい姉に見放されてしまうとしても。

それに、御坂妹にはそれは極めて低い可能性に思えてならなかった。
嫌われる覚悟はもう決めた。たとえそうなったとしても、それは仕方のないことだ。
だがあの優しすぎるほどに優しい姉のこと。きっと許してしまうのだろう。
それは御坂妹だけではなく、ミサカネットワークで繋がっている妹達全員の共通の見解だった。
一万人近くの妹達の全員が御坂美琴の優しさを信じていた。
しかしだからといって、美琴にそれを隠し続けていいというわけではない。
御坂妹は不退転の決意を固めた。

投下終了

次回投下はかなり短いかもしれませぬ
もう原作ではこの問題は終わったことになってるんだろうなぁ……
たった数行だけで終わりなんて流石になぁ……

    次回予告




「そォだな……どォしたいンだろォな。どォすりゃいいンだろォな、俺は」
『グループ』の構成員・学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行




「ミサカは……ッ、ミサカはどっちかなんて選べない!!
ミサカは、二人に仲良くしてほしいよって、ミサカはミサカは絶対に叶わない願いを、口に、してみる……」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)

おっつー

>>564
逆に考えるんだ、原作で足りなかったぶんをSSでやっちゃえばいいさと


絶対叶わないなんて悲しいこと言うなよう・・・!

乙  御坂妹の口から聞く方がまだしもだよね  うまく伝えられたらいいけど

>>568 電磁通行って言うとカップリングになるんじゃ 

やっべ>>547>>548の間に以下が抜けてました
補完お願いします


以前の一方通行は悪党であることに固執していた。
悪を突き詰め、悪の王となるまでにいけば救えるものがあると思っていた。
だが次第にその考えは変わっていた。そんなことでは本当に守りたいものは守れないと気付いたのだ。

乙です。つか一方がぬるいこと言って甘えてないで
あの家出て、今すぐ演算切って自殺でもすりゃ
万事解決なんだけどねえ…

やっべぇ、なんでこんなことになってんだ
またまた抜けがありました、本当にすいません
もっと気をつけねばな……

>>556>>557の間

口にする気はなかったのに思わず漏れてしまった、というようなその呟きを聞いた御坂妹はビクッ、と体を震わせた。
叱られた子供のような反応。大きく動揺しているようだった。

>>559>>560の間

「なンにも話してねェよ。
言ってどうなる。言い訳並べて帳消しにしてくださいってかァ?
勘弁しろよ。いくらなンでもそこまでのカスになった覚えはねェぞ」

地涙ってなんだと思ったらあれか、血涙(けつるい)か

着席! 気をつけ、礼! これから投下を始めます!

>>567,568
美琴・一方通行問題を描いたSSってそんなにありますかね?
ちょっと触れただけとか、すぐに流しちゃうやつなら見たことありますけど
しっかり描かれたSSは>>1は一つしか知りません。知らないだけ?

>>569
美琴と一方通行が仲良くできるかと言えば……厳しいと言わざるを得ないでしょうね

>>>>570,571
御坂妹が上手く伝えられるよう応援してやってください

>>573
一方通行自殺→黄泉川とか芳川悲しい、打ち止め後追い自殺しかねないレベルで悲しい→打ち止め悲しいと美琴もすごく悲しい
なので、万事解決とは言えませんね。偶然にも今回の投下にそんな内容があります

>>582
やだ「ちなみだ」だと思ってた恥ずかしい///

多くのレスありがとうございます
おかげでモチベあがりますです

理想とは、叶わぬもの。
だがそれを目指して力を尽くすことは大切である。










「……おかえりなさい、一方通行ってミサカはミサカは出迎えてみる」

帰って来た一方通行を待っていたのは、玄関前で待機していた打ち止めだった。
だがその表情はどことなく沈んでいるように見えるし、いつものように抱きついてくることもない。
彼女の特徴とも言える明るい笑顔がなく、明らかに様子がおかしかった。
そして一方通行にはその理由は分かっている。
この少女たちにはミサカネットワークというものがあるのだから。

一方通行は打ち止めを無視してリビングへ向かい、冷蔵庫から缶コーヒーを一本取り出して呷った。
打ち止めは一言も発さず、そんな彼をジッと見つめている。
黄泉川はまだ帰っていないようだ。
芳川はリビングでテレビを見ていたが、一方通行と打ち止めのいつもとは違う雰囲気を感じ取ったのか、「コンビニに行く」と言って出かけていった。
ニートでも空気は読めるのか、と下らないことを考える一方通行。
現在この家にいるのは二人だけ。
一方通行が缶コーヒーを飲み終えると、ほぼ同時に打ち止めが口を開いた。

「……お姉様に、会ったの? ってミサカはミサカは確認してみる」

一方通行は空き缶をゴミ箱に投げ捨てると、ソファにドカッと無遠慮に座り込む。
打ち止めは立ったまま、彼の紅い目に視線を合わせて外さない。
退くつもりは一切ないのだろう。
ここまで来れば無理に隠す必要も意味もない。

「ミサカネットワークってのは便利なモンだよなァ、オイ?
情報伝達の速度がハンパじゃねェ」

「お姉様が、あなたを殺そうとしたって……聞いた、ってミサカはミサカは事実確認を行ってみたり」

「まァ俺のしたこと、オリジナルのされたこと考えりゃ当然だろォな」

「お姉様に人は殺せないよ。殺してほしくもない、ってミサカはミサカは打ち明けてみる」

「あァ。それについては同感だ。人殺しは俺だけでイイ。何もオリジナルが俺なンかのために手を汚す必要はねェ」

一方通行は素直に正直な気持ちを晒した。
やはり御坂美琴には綺麗なままでいてもらいたい。
真っ白な手で、真っ当に妹達を守ってほしい。
ましてや自分が原因で彼女が堕ちてしまうなど、決して容認できることではなかった。

「お姉様は、優しいから。
優しくて、強くて、気高い。お姉様はそんな人だからってミサカはミサカはお姉様の凄さを再認識してみる」

「……あァ。そォだな」

「それであなたは、どうするの? ってミサカはミサカは訊ねてみる」

「どォするか、か。そォだな……どォしたいンだろォな。どォすりゃいいンだろォな、俺は」

そう言って、一方通行は首をあげて天井を見上げた。
だがその赤い瞳が見つめているのはきっと天井などではない。
御坂美琴の怒りはあまりにも正当なものだ。
会ってしまえばこうなることは予想できた。
だがそうなってしまった場合どうすればいいかは全く分からなかった。

そしてそれが実現してしまった今も、未だ答えは見つからない。
そもそも答えなんてものは存在するのだろうか。
一方通行の優秀すぎる頭脳を持ってしても、その手がかりすら掴めなかった。
ふと打ち止めを見てみると、彼女は泣いていた。
服をギュッと掴み、俯きながらその頬を瞳から流れる一筋の透明な液体が伝っていた。

「オイ、オマエ」

打ち止めは嗚咽を漏らしながら、その胸の内をぶちまける。

「嫌だよ……。あなたが死んじゃうのも、いなくなっちゃうのも!
でもお姉様が人殺しになっちゃうのも、お姉様が苦しむのだって絶対に嫌だよ!!」

それは矛盾した希望。
美琴も、一方通行も、何も失わずに事を収束させることなど出来ない。
そしてそんなことは打ち止めも理解していた。
だが、それでも打ち止めはこう願う。

「ミサカは……ッ、ミサカはどっちかなんて選べない!
ミサカは、二人に仲良くしてほしいよって、ミサカはミサカは絶対に叶わない願いを口にしてみる……」

そう、絶対に叶わない願い。
けれど、願わずにはいられない願い。
ポロポロと涙を零しながら、打ち止めは必死にそう訴えた。
一方通行は何も答えられず、ただ黙っていた。
自分のとるべき選択も、打ち止めの願いへの返答も、何も分からない。

打ち止めにこんな顔をさせているのも、苦しませているのも、自分がその原因だ。
ならばどうすればいい? 美琴に「あなたの妹を一万人殺しましたが、もう反省したのでこれからはよろしくしましょう」と言って手でも伸ばしてみるか?
想像しただけで吐き気がした。
ならば大人しく殺されてみるか? だがそれは美琴を人殺しにしてしまう上に、打ち止めをも深い闇に落としてしまうことになる。
じゃあもう自殺でもするか? 今死ぬのは逃げでしかないし、同じく打ち止めを悲しませてしまう結果となる。
それに、第三次製造計画を潰すまでは死ぬわけには行かない。

だったらどうすればいい? どう行動すればいい? 何を言えばいい?

(学園都市第一位サマもずいぶンと情けなくなっちまったなァ。
いや、これは元からか?
……本当に、情けなくて、笑っちまうくれェだよ、クソッタレが)

しばらくリビングを静寂が支配する。
黄泉川がつい先日買ってきた、無駄に豪華な装飾のなされた電波時計のたてる規則的な針の音だけがBGMとして効果する。
どれだけそうしていたのか、それは数分にも、数十分にも感じられた。
打ち止めが、ごめんね、と呟いて涙を袖で拭ったことでようやく音が帰ってくる。
彼女はそれから一言も言葉を発さず、洗面所へと消えていった。

もはや打ち止めにいつもの天真爛漫な笑顔は一切ない。
彼女の表情に浮かんでいるのはただ苦しみだった。
彼女が洗面所へと姿を消した後、一方通行は無言でテーブルを力の限り殴りつけた。
ガン、という鈍い音がし、彼の拳の皮が剥がれたが痛みなど一切感じられなかった。









洗面所。
冷たい流水で涙の跡を洗い流しながら、打ち止めはある決意を固めていた。
それは御坂美琴へ会いにいくこと。
美琴は一方通行の悪性しか知らない。
ただ嗤いながら妹達を虐殺した悪魔としか思っていないはずだ。

だが、それだけではないのだと教えてあげたい。
彼にはたしかに善性も存在するのだと。
脳天を銃弾でぶち抜かれても自分を救ってくれた。
最強の能力を失うとしても、彼は自分を救うことを選んでくれた。
自分の我が侭をいつも聞いてくれている。
自分を誰よりも気にかけてくれている。

御坂美琴はこういった側面を知らない。
だから、教えてあげるんだ、と打ち止めは考えていた。
知らないのなら知ればいい。
一方通行という人間の良いところをたくさん教えてあげたい。
そしたら、もしかしたら、万が一にも、あの願いが実現するかもしれない。
即ち、一方通行と美琴が仲良くするという願い。
当然そううまくいくはずがないということは分かっている。
だがその可能性がほんの僅かでも、それこそ〇、〇〇〇〇……と続いても。どれほど〇に近くても。
決して“〇”ではないのだ。

それを目指して尽力するのは、きっと悪いことではない。
少しでも理想に近づくために自分に出来ることをしよう。
決めた。目指すのはハッピーエンド、だ。

「お姉さまに、教えてあげよう。
あの人のことを。お姉様ならきっと分かってくれる」

ミサカネットワークによると、御坂妹……一〇〇三二号も美琴に会いにいくという。
いいタイミングだ。打ち止めは自分も会いにいくことをネットワークを通して伝える。
会いにいくのは明日。一〇月二六日だ。
きっと、全てうまくいく。
打ち止めはそう自分に言い聞かせる。
二人で話せば分かってくれる。あの優しい姉なら人の良い面も理解できるはず。
彼女は希望を胸に、洗面所を出て行った。













―――ソノ行動ガ、最悪ノ事態ヲ引キ起コストモ知ラズニ。












投下終了でごんす

クソ短いけど、結構早めに投下できたのでそれで許してくださいですの
そろそろこのテーマも折り返し地点となってきました……なってきましたの

    次回予告




「ずいぶん焦ってるみたいねぇ、御坂さん。
何があったのか……想像するに、大覇星祭の時みたいに妹達に関わることかしらぁ?
たとえば『絶対能力進化計画』みたいな、ね。それとも……『一方通行』とか?」
学園都市・常盤台中学の最大派閥を統べる女王にして第五位の超能力者(レベル5)―――食蜂操祈




「アハッ。―――……殺すわよ」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴

打ち止め本当余計なことしかしねーな


打ち止めどっちも手放したくないってのが、欲深いってか図々しいというか
おかげでお姉さまだけが辛い目に会うという理不尽…
ミコっちゃんかわいそう

なんか空気悪いんだゾ
助けてカブトムシさん

ともあれ乙です
これからどうなるんだ…

再会したら、美琴は過剰反応して一方通行は真摯に反省している
そんな風に考えてた時期が俺にも(ry
ただ考えてみれば原作通り、和解(ましてや仲良く)する必要なんてないんだよな、この2人

ていうか美琴が犠牲になった方の妹達のことで心痛めてるのに、肝心の妹達(特に打ち止め)は自分の都合や理想押し付けようとしてるだけってのが・・・

正直、一方遭遇編になってから同じSSとは思えない
ノリも違うし、美琴がいきなりかわいそうな被害者遺族お姉様辛すぎるオリジナルマジ天使悲劇のヒロイン状態で
急に他キャラ達から持ちあげられだして読んでて戸惑う

作者が思い入れのあるテーマで入れ込んでるのはわかるんだけど
唐突過ぎて別なSSになったみたいだ

投下はまだで、ネタバレにもなりそうですがここらで説明しないと誤解が生まれそうなので少し説明をば

美琴が一方通行を殺そうとしたのは、「また実験をする気か」という問いに一方通行が無言の肯定を返したからです
いやその前にも思い切り攻撃してますが、それだけ一方通行は美琴の中で大きくなっていたんですね(そういう設定です)
実際妹を一万人殺した相手が急に現れたら仕方ない気もします、現実にそんな経験をしたことは皆ないと思いますので分かりませんが

打ち止めや御坂妹の行動に疑問を感じている人がいるようですが、これについては次の次の次の投下くらいで明らかになると思います
ただ一つだけ言っておくと、打ち止めたちの行動については「ある狙いがあって、意図的にやっています」とだけ

唐突に雰囲気が変わったというのは意識していませんでしたが、たしかにそうかもしれないですね
ただここ(美琴・一方通行問題)あたりから第四章までが起承転結で言う「転」となります
結以上に盛り上がるところとなるかもしれません 雰囲気についてはこの問題が終わった後も完結までずっとシリアス一色です

美琴可哀相については正直どうしようもないです
何故なら>>1はこの実験に限っては美琴は100%被害者だと思っているからです
あんなのどうしようもないですよね、まだ幼かったわけですし ただこの考えはあくまで>>1個人の考えであり、それを無理に押し付けるつもりはありません
だからこのSSではそんな扱いになります……やっぱり作者の考えやキャラの好みは書くSSに強く出るものですね

あるキャラを持ち上げるためにあるキャラを落とすのは絶対にやらないよう気をつけているつもりです
ただ美琴に対する他キャラからの持ち上げや評価の乖離ですが、これは上記と同様「ある狙いがあって、意図的にやっています」とだけ言っておきます

助けてカブトムシさん

乙   展開によっては抑制して短いレスしかしてないけど毎回興味深く読ませてもらってる
完結するのを楽しみにしてるからな

これだけは言いたい
ずっと>>1を応援してる
完結まで読ませてくださいお願いします

>>1頑張ってねー

超電磁砲Sが春から放送…だと……?
こいつ……迅いッ!!
そしてこのテンションを投下で発散するしかねぇ!!

>>600,>>602,>>615
打ち止めはまだ九歳くらいで、実年齢にしたら0歳の子供なんでこんなもんではないでしょうか
慕っている二人をどっちか選べと言われても大人でもすぐに決めるのは難しいと思いますし
両親が離婚するからパパかママかどっちがいい? って九歳の子供に迫るようなものかと
……あれ、もしかして全然違う? とにかく打ち止めはただ諦めきれず、ハッピーエンドが欲しいだけなんです

>>605,>>624
もうそれも定着しつつありますねw

>>618,>>624
>>622でも言ってますが、美琴の評価についてはある意図の下わざとやっています
美琴がマジ可哀相状態になるのは正直避けられないとも思ってます
原作超電磁砲でもそんな感じでしたし、一巻再構成とかやるとインデックスが悲劇のヒロインになるのは避けられないのと似たようなものかと
……あれ、もしかして全然(ry
ただ>作者が思い入れのあるテーマで入れ込んでるのはわかるんだけど
それが伝わっただけで嬉しいです

>>625,>>636>>638
ありがとうございます
これからもレスしてやってください
>>1は単純なのでそれだけでやる気が出ます

少女の決断、魔道に落ちる覚悟。
全ては運命を翻弄された妹達のために。










一〇月二六日。
御坂美琴は傍目には元気を取り戻していた。
だがそれはあくまで周りに気を使っての空元気であり、一部の人間には隠しきれていなかった。
相変わらずその目には光はない。
とはいえ、それでも昨日や一昨日と比べると格段に良くなっているように見える。

「おっは、黒子。ちょっと急がないと遅刻しちゃうわよ」

「おはようございますの、お姉様。もうこんな時間でしたの……。
少しばかり寝すぎたようですわ」

「私歯磨いてくるから。アンタは身支度済ませときなさい」

美琴は既に身支度は済んでおり、制服へと着替えも済んでいた。
美琴が洗面所へと消えたのを確認してから、白井は一人ため息をつくのだった。

「お姉様が苦しんでいるというのに……。
何も出来ない自分が情けないですの……」

白井は美琴の変化の原因を密かに調べた。
だが全く原因は見つからず、最有力候補であった上条当麻が消えた時から完全にお手上げ状態だった。
昨夜思い切って少々遠まわしに訊ねてもみたのだが、やはりはぐらかされていた。

寮監にも結局何も掴めなかったことは報告してある。
寮監は「お前は何も悪くない」と言っていたが、白井は自身を責めていた。
テキパキと身支度を済ませ、美琴と交代で歯磨きを済ませる。
その後、二人は時間が押しているので急ぎ足で食堂へと向かうのだった。










だいぶ改善されたとはいえ、未だ美琴が授業などに身が入るわけがなかった。
数学の時間も、家庭科の時間も、語学の時間も、どこか上の空。
時折教師に指摘されることもあったが、彼女はいつも文句のつけようがない成績を収めているせいか、彼女が超能力者だからか、強く言われることはなかった。
こういう時には成績優秀で良かったと初めて思う。

午前の授業が全て終わり、昼食の時間。
食堂へ向かおうとしていた美琴に声をかける者がいた。
振り返ってみれば、特徴的な髪型に豊満な胸、明らかに時期外れの扇子。
婚后光子。大能力者の空力使い(エアロハンド)であり、美琴の大切な友人でもある。

「御坂さん、よろしければ昼食をご一緒しませんこと?」

流石に婚后を邪険にすることも出来なかった。
婚后には大覇星祭の時に仮もあるし、何より彼女は美琴に対等に接してくれる数少ない人間なのだ。
美琴の性格や行動に問題があるわけではない。また周囲の人間に悪意があるわけでもない。
ただ美琴が超能力者だから、という理由だけで他の人は遠慮してしまう。
原因も悪意もないだけに性質が悪く、美琴も既にこれについては解決を諦めてしまっている。
だが婚后光子はそんな状況で変に遠慮することもなく、友人として付き合ってくれている。
そんな婚后からの誘いとなると、結局美琴は承諾するのだった。




「いいの? 私なんかと一緒で。
いつも湾内さんとかといるじゃない、婚后さん」

「構いませんわ、わたくしが望んだことですもの。
それに御坂さんは、その、わたくしの、おと、お友達ですから」

「婚后さん……ありがとう」

美琴はにっこりと笑った。
一方通行との遭遇以後初めて浮かべた、純粋な笑みを。
婚后はその笑顔を見ると、顔を赤くして慌てて顔を背けた。
やはり婚后はどうしても美琴に弱いようだ。
大きな噴水のある中庭のベンチに腰掛けたまま、購買で買ってきたサンドイッチ―――勿論素材にも拘った高級品―――にかぶりつく。
いくら高級とはいえ、婚后がこういった庶民的なものを口にするのは至極珍しい。

「で、ですので、よろしければその……相談なども、あの」

「……へ?」

思わず間抜けな声を漏らす美琴。
婚后は照れ隠しなのか、いつもの上品な仕草はどこへやら、思い切りサンドイッチを頬張っている。

「ですから! 御坂さんが何やら悩んでいるご様子でしたのでこの婚后光子が相談に乗ってさしあげてもよろしくてよ!?」

婚后が大声で叫ぶと、美琴は何事かと目をぱちくりさせる。
同じく中庭で昼食をとっていた他の生徒たちも二人に視線を向ける。
それに気付いたのか、婚后は顔を真っ赤にして丸まってしまった。

「あぅぅ……も、申し訳ありませんわ御坂さん」

「いや、別にいいけどさ……ありがとね」

「はい?」

「心配してくれたんでしょ、婚后さん。だからありがとうって」

「……は、はい!」

美琴が笑いかけると、婚后は相変わらず顔は赤いが、嬉しそうに頬を緩ませる。
もう冬になるというのに変わらず持ち歩いている扇子を広げ、やたらとパタパタさせている。
丸まって、顔が真っ赤で、右手にサンドイッチを、左手に扇子を持っているという何とも奇妙な常盤台生の姿がそこにあった。
美琴は婚后と同じサンドイッチをかじりながら、微笑ましそうにそんな彼女を見つめていた。

「でもさ、私の悩みって別に大したことじゃないのよ。
それに他人に相談してどうにかなるタイプでもないのよね。
心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫だから」

元気が有り余っている様を見せるためか、美琴が片手でシャドーボクシングのようにシュッシュッ、と拳を空へ何度も放つ。
当然これは空元気であり、実際の美琴は極限まで追い詰められていた。
ただある程度回復しているのも事実である。何故回復してきているのかと言えば理由は簡単なのだが。
婚后に相談するという選択など有り得なかった。
そのためには一方通行のことや絶対能力進化計画のことまで話さなければならなくなる。
完全な一般人である婚后に話していい内容では決してない。

それに、そういったことを抜きにしても個人的な感情としてあまり話したい類のものではない。
話しても空気が死に、気分は最悪になり、誰も笑顔にはなれないだろうから。

「……そう、ですか。分かりましたわ。御坂さんがそう言うのでしたら」

そう言って空を見上げた婚后の目が、ひどくさびしげに見えたのは気のせいだったのか。

(これでも隠してるつもりなんだけどなぁ)

白井と寮監は一方通行と再会してすぐ会ったから仕方ないとして。
婚后や湾内にまで何かあったことを見抜かれてしまっている。
美琴は心配かけまいと隠しているのだが、そんなにバレバレなのだろうか。

極め付きには食蜂にまで気付かれてしまったこと。
たしかにあの時は今より不安定ではあったが、あんな奴にまで気付かれるほど無防備だったのか。
能力を使われたのではとも一瞬考えたが、食蜂では美琴に手を出すことは出来ないので、やはり素で気付かれたのだろう。

だが考えてみれば食蜂操祈は学園都市最強にして最高の精神系能力者。
能力を使わずとも他人の心の機微や感情を読み取るのは難しくないのだろう。
普段ならともかく、あの時の美琴からならば容易く読み取れたかもしれない。

「婚后様ー! こちらにいらしたのですか。あ、御坂様まで!」

「あ、湾内さん」

その声に反応し、首を横に振って確認してみればそこには湾内絹保がいた。
校舎から中庭まで忙しなく駆け寄ってくる。
その息はほんの僅かだが上がっていて、婚后を探し続けていたらしいことが伺えた。

「どうしましたの? そんなに慌てて」

「泡浮さんが婚后様に用事があるとのことでしたので。
二人で探していたのです。ですが何やらお取り込み中のようですので……」

「いえ、構いませんわ。もう用は済みましたので」

「では御坂様、少し婚后様をお借りしますわ」

「あ、うん。分かった」

ベンチから立ち上がった婚后は、すぐに去ろうとはせずいつになく真剣な様子で美琴と目を合わせる。
美琴の眼を見て力強い声で婚后は言った。

「御坂さん。一人で抱え込むのはよくありませんわ。
わたくしがお力添え出来なかったのは残念ですが、誰かお友達にでも溜まったそれを吐き出してしまいなさいな」

やはり完全に見抜かれていた。
無理して「何でもない」と言っていたことも。
だがこんなことが話せる相手などいるはずもない。
親友と言って最初に思い浮かぶのはやはりあの二人と、いつもの三人だが。

「そういえば垣根も何かおかしかったわね。
アイツも、私と同じなのかな」

こんなことになってすっかり忘れてしまっていたが、垣根も様子がおかしかったことを思い出す。
美琴と同じ、即ち何か人には話せない悩み。
たとえ友達だろうと話せない、むしろ友達だからこそ話せないような悩みを、彼も抱えているのかもしれない、と美琴は思った。
あくまで推定でしかないが、もしそうだとしたらやはり無理に聞き出すようなことをしなくて正解だった。
小さく呟いた美琴の言葉を拾った湾内が、それを聞いた途端に目の色を変えた。

「か、垣根様をご存知なのですか、御坂様!?」

「へ? なんで湾内さんがアイツのこと……ああ、あの時ね」

いきなり食らいついてきた湾内に驚きながら、美琴はふと思い出す。
一〇一八日、垣根は美琴、上条と訪れた書店帰りにスキルアウトに絡まれていた湾内を助けたことがあった。
途中からそれを見ていた美琴は、二人に面識があることも知っていた。

「あの、もしお知り合いなのでしたら、もう一度感謝と『早くお礼をさせて欲しい』と伝えていただけませんか?」

「分かった。伝えとくわ」

そう言ってやると、湾内は嬉しそうににっこりと笑って婚后と姿を消した。
残された美琴は、一人になった途端表情から色が消える。
意外と疲れるものなのだ、平常を装うのは。

本当は美琴はボロボロで。何をどうすればいいか分からない状態なのだ。
だが少しずつ、少しずつだが美琴の心は固まっていた。
彼女の答えに。自分のとるべき行動に。

美琴が回復してきている理由は、至極単純なものだ。
それは単にこれからどうするべきか、自分は何をすべきかが定まったからで。
一つの答えを導き出した美琴に、もはや迷う必要などなかった。

(……最初から選択肢なんてなかった。なのに私が見苦しく『表』に縋り付こうとしただけで。
私がアイツを殺せば、それで終わりよ。ははっ、なんだ。簡単な話じゃない。ははは)

あの『実験』が始まったのは、妹達が殺されたのは自分のせいだと考えている美琴。
自分が人殺しになり、破滅する。それが報いになるのではないか。
自分の手で一方通行を殺せば、抵抗しようと思うことすら出来なかった一万人もの妹達も少しは浮かばれるのではないか。
自分が今の生活を手放すだけでこれから妹達の安全が保障されるのなら、安いものではないか。
そんな考えばかりが美琴の中をぐるぐると回る。
もはやどうやって、とかそんなことは頭になかった。ただ、殺す。重要なのはそれだけだ。
それ以外の一切は頭の片隅に留めるにも値しない瑣末事。

だがこれにはかなりの覚悟が必要となる。
言うは易いが為すは難し。
中途半端な覚悟では、またあの時のように土壇場で躊躇うことになってしまう。
それでは駄目だ。刹那の迷いすらなく、たとえ一方通行が命乞いしてきたとしても、無慈悲にその命を刈り取ることの出来る覚悟が必要だ。
人を殺すというのは想像以上に重い。それを美琴は身をもって実感している。
だがだからこそ、今度は躊躇わない。それだけの覚悟を得てからそれを以って事に及ぶ。

一方通行と次に会うのはいつになるのか。
もしかしたらまた偶然に任せることになるのかもしれない。
美琴は一方通行の居場所など知らないし、向こうから接触してくるとも思えない。
しかし美琴は、それでもそう遠くない内に再び相見えるという確信染みた予感を感じていた。

その時までに、完全に腹を括る。
一切の躊躇いを見せずに一方通行を殺す。
自分の手で全てに決着を着ける。
そのための犠牲も厭わない。

御坂美琴は気付いているだろうか。
この時の美琴の目は、紛れもなく殺人者のそれだった。

「あらぁー? 御坂さんじゃなぁい」

そんなことを考えていた美琴の耳に、猫撫で声が飛び込んできた。
……危うく反射的に雷撃の槍をお見舞いするところだった。
このどこまでもカンに触る声。御坂美琴の関わりたくない人物ベストスリーに堂々のランクインを果たしている人物。
学園都市第五位の超能力者、食蜂操祈。
前回遭遇時と同じく、取り巻きはおらず彼女一人だけだ。
その長い髪を片手で後ろに流しながら食蜂は悪戯っぽく笑った。

美琴ははぁ、とため息をついて表情を崩し、心底鬱陶しそうな顔で返す。

「アンタ、ちょろちょろちょろちょろして一体何なのよ。
いい加減にしないと本当にブチ抜くわよ」

美琴がその気になれば食蜂はあっさりとやられてしまうだろう。
食蜂に直接的戦闘力は皆無。その能力も美琴には通用しないのだから。
だが食蜂はそんなことなど委細気にせず、くすり、と幼子のように笑った。

「だぁってぇ、こんな面白そうなこと見逃す手はないでしょぉ?
御坂さんには私の干渉力が効かないから、話してくれると嬉しいわねぇ。
大丈夫よ、御坂さん。アナタの悩みを学園都市最高の精神系能力者、心のプロフェッショナルの相談力で一発解決しちゃうゾ☆」

「黙りなさい。アンタなんかがほじくり返していいもんじゃないわ」

そんな下衆い好奇心で探られてはたまったものではない。
結局のところ、食蜂は楽しんでいるだけなのだ。
自分よりも格上の美琴が苦しんでいるのが。
食蜂は言っている通り心のプロフェッショナル。
やはり美琴のそれを見抜く程度わけはないようだ。

相変わらず下衆な女、と美琴は思った。
他人が苦しんでいるのを眺めて愉悦に浸るなど、文字通り下衆のやることだ。
ましてやそれを聞き出して弄ぼうなど言語道断。
大覇星祭の時には一時的な共闘……ではないが、情報の共有くらいはしたことがある。
だがやはりこの女はどこまでも自分本位で、ある意味では一方通行以上に人格破綻者だった。
一方通行とはまた別ベクトルの嫌悪感を感じる。
こんな女に妹達や一方通行の記憶を読み取られ、それを玩具にされることだけは絶対に駄目だ。

「だって、ねぇ? 御坂さんがそこまでになるってことは、『あの子たち』のことでしょう?」

そう言って、食蜂は意味ありげに口の端を吊り上げ、その端整な顔を歪めた。
美琴もそれを見て、その言葉を聞いて、顔つきを変える。

「食蜂……っ」

二人の間に一触即発の緊迫した空気が流れる。
それを感じ取ったのか、同じく中庭にいた生徒たちが二人を恐る恐るといった様子で見つめている。
それだけではなかった。
校舎から覗いている者もいれば、二階や三階から窓を開けて見下ろしている者もいる。
覗いている生徒たち全員に共通して浮かんでいる感情は、恐怖。
ここ常盤台中学は学園都市の中でも名門中の名門。
大能力者を四七人擁し、入学条件に強能力者以上であることが含まれるとんでもない中学だ。

だがこの常盤台中学の真に凄まじいところは、学園都市に七人しかいない超能力者を二人も擁している点にこそある。
超能力者。一国の軍隊と単独で渡り合える常識外れの怪物。
今、その内の怪物二人があろうことか学内でぶつかろうとしているのだ。

超能力者同士の戦いともなれば、“たかが”強能力者や大能力者ではどうすることも出来ない。
最新の兵器をぶつけあっている戦場に時代遅れ甚だしい剣と弓で突っ込むようなものだ。
彼女たちは肝を冷やし、どこか祈るような面持ちで二人を見つめていた。

睨み合う第三位と第五位。超電磁砲と心理掌握。常盤台のエースと女王。
二人の間で極限まで高まっていく緊張は冷戦を彷彿とさせた。
直接はぶつからない。だが何か一つでもトリガーが引かれれば即座に総力戦。
だがそこに、その空気を壊す者たちが現れる。

「お姉様!?」

「御坂さん!」

やって来たのは白井と婚后。
このぴりぴりとした空気を感じ取ったのだろうか、慌てた様子で二人駆けつけてくる。
やって来た白井と婚后は一目見て状況をおおよそ把握したようだった。
常盤台の教師たちも美琴と食蜂という二人の超能力者が衝突しないよう、常日頃最大限に気を使っているという。
そんな二人が対峙していれば状況の理解は難しくない。

ところが来訪者は白井と婚后の他にもう一人いた。
美琴は名前を知らないが、どうやら食蜂の派閥に属しているらしく、慌てて駆けつけてきたその少女もまた状況を理解したようだった。
その顔に浮かんでいるのは混乱。食蜂派閥所属とはいえ決して美琴を敵対視しているわけではない。
むしろほぼ全員が美琴に対しても敬意を持って接している。
だから、その二人が一触即発になっていることに驚きを隠せないでいるのは当然だった。

「女、女王? これは一体……」

人だかりは大きくなる一方で、教師たちがやって来るのも時間の問題だろう。
もっとも、教師が来たところでこの二人を止められるかと言えば甚だ疑問だが。
美琴は白井と婚后を後ろに下がらせた。
彼女たちでは美琴とは違い、食蜂の力に抗うことは出来ない。
食蜂はそれを見てくすりと笑い、肩から下げている鞄の中に右手を入れた。
それは即ち、能力を行使する合図。

その意味を知る者は一斉に顔を青くし、また知らない者も何か感じ取ったのか、恐怖に慄いた。
体をガタガタと震わせている者、体が固まったかのように身動きのとれなくなっている者、涙を流している者さえいる。

彼女たちは標的になっていないというのに、その威圧感に完全に気圧されていた。
彼女たちの大半は箱入りのお嬢様であるということも一因かもしれない。
ついに引き金が引かれようとしている。このまま食蜂が美琴に対して能力を行使すれば、その先に待っているのは超能力者同士の戦争だ。

食蜂のその動きを見た美琴から、ゾン!! と圧倒的な威圧感が放たれる。
あまりにも凄まじいそれは、もはや威圧感ではなく殺気と言う方が正しい。
普段の明るい美琴を知っているだけに、それはとりわけ異様に映っていた。
本当に、本気なのだという。
今まで幾度かあったような小競り合いではなく、本当に激突するのだということを嫌でも周りに理解させた。

白井でさえ、美琴の異常な気迫に瞠目している。
美琴から放たれるその気迫に押されて息が上がってしまっている生徒さえいた。

そして食蜂の手が動く。
ピッという僅かな音が、異常なほど静まり返っていた中庭に二回響いた。
心理掌握が、発動する。




「――――――!!」




周囲にいる女学生たちの表情がより強い恐怖の色に塗りつぶされる―――はずだった。
そうでなければおかしかった。食蜂が能力を行使したということは、戦闘が始まることと同義なのだから。
だがしかし実際がそうはならず、彼女たちは一瞬だが呆然と立ちつくしていた。
“まるで、今の出来事の一切を記憶から消去されたように”。

「お姉様、そろそろ昼休みが終わってしまいますわよ?」

「そうですわ。早くしませんと……」

「あ、うん。すぐに行くわ。黒子も婚后さんも戻ったほうがいいわよ?」

美琴は慌てず、何が起きたのかを即座に理解する。
何事かぶつくさ呟く白井、そして婚后を半ば無理やりに追い払う。
食蜂の取り巻きの少女も、食蜂に何か言われてその場を去っていった。
つい数秒前までこちらを見つめていた大勢の学生たちがほとんどいなくなっていた。
たまに側を通る生徒の顔を見てみても、怯えたような色は一切なく普段通りの表情をしている。
ほとんど人のいなくなった中庭で、超電磁砲と心理掌握は変わらず対峙していた。
先に口を開いたのは美琴。

「で? そうやって人の心や記憶を好き勝手に弄くれて楽しいかしら?
まるで神様気取り。はっきり言って気分悪いのよ、アンタのやり方」

「もぉ御坂さんったらぁ。私は初めから本気でやり合うつもりなんてなかったわよぉ?
むしろ上手く場を収めた私の鎮圧力を褒めてほしいくらいよぉ」

食蜂操祈の行った操作は二つ。
一つはこのいざこざを全員の記憶から抹消すること。
相当数の生徒がいたにも関わらず、見事に生徒たちの記憶の改竄に成功している。
そしてもう一つが抜けた記憶を補う偽の記憶の植え付け。
たとえば白井や婚后なら、中庭にやって来たのは二人のいざこざに反応したからではなく、美琴を呼びに来たというように記憶が改竄されている。
その他の大勢の生徒たちも、消えた記憶の代わりに何か適当な記憶が埋め込まれているのだろう。

学園都市第五位の超能力者、食蜂操祈の有する能力『心理掌握』。
その力はやはり圧倒的で、最強最高の精神系能力者の名は伊達や酔狂でついているのではない。
その牙に抗う術を人は持たず、ただひれ伏すのみ。抗うことなど不可能。
それが許されるのは美琴のような極々一部の例外のみ。
人の記憶や思想を夕飯の献立を考えるような気楽さで自在に操作できる彼女は、ある意味ではまさに神の如き力を保持している。

「ずいぶん焦ってるみたいねぇ、御坂さん。
何があったのか……想像するに、やっぱり大覇星祭の時みたいに妹達に関わることかしらぁ?
たとえば『絶対能力進化計画』みたいな、ね。それとも……『一方通行』とか?」

「黙りなさい」

「私は何も知らないけど、また何か起きてるみたいねぇ?
御坂さんは教えてくれないみたいだしぃ、妹達あたりに“質問”すれば教えてくれるのかしらぁ?」

美琴は普段の彼女からは想像もつかない程恐ろしい目つきで食蜂を睨んでいるが、食蜂の方はこれ以上張り合うつもりはないようだった。
童のような笑みを浮かべ、相変わらずの悪戯っぽい声で、

「ほらぁ、早く戻った方が良いんじゃないかしらぁ?
大事な後輩さんが言ってたじゃない。もう昼休みが終わるまで三分ないわよぉ?」

「あの子たちに手を出してみろ。身の安全は保障しないわ」

「あらぁ、怖い怖い。一体どうされちゃうのかしらぁ?」

「あは、ははははは。そんなことも分からないのかしら?」

突然笑い出した美琴に、食蜂は怪訝な目で見つめる。
明らかに美琴の様子がおかしかった。普通ではなかった。

食蜂の中を得体の知れない化け物と遭遇したかのような感覚が駆け抜けていた。
目の前にいるのはよく知る御坂美琴であるはずなのに、食蜂の知る美琴と一致しない。
正体不明のアンノウンだった。

「ははは、ハハハハハ」

壊れてしまったかのように笑っていた美琴は、唐突に押し黙った。
不意に美琴が笑いを止めたために中庭を不気味な沈黙が席巻する。
そして、御坂美琴は笑って言った。

「アハッ。―――……殺すわよ」

殺す、という部分だけが恐ろしい程に無表情だった。
それはまるで感情のない機械のようにも見えて。
妹達を傷つける者は全部、全部全部壊して叩いて潰して千切って殺せばいい。
一方通行だろうが食蜂操祈だろうが。
そんなことは関係ない。手を出そうというのならそれより早く自分がそいつの息の根を止める。
そのためになら修羅になろう。魔道に落ちよう。道徳を捨てよう。自らを殺そう。

美琴はもはや何も言わず、最後に見る者を凍てつかせるような目を食蜂に向ける。
その視線だけで人が殺せそうだった。
まさに修羅の如き表情で睨みを利かせた後、美琴はどこかへ去っていった。










一人残った食蜂は考える。
どう見ても美琴の様子がおかしかった。
普段の、よく笑う明朗快活な彼女の姿はどこにもなかった。
最後の、彼女が去り際に見せた眼。
食蜂はあれを見て、初めて恐怖というものを感じた。
御坂美琴は食蜂に冷や汗を流させるほど、恐怖を感じさせるほどに恐ろしかったのだ。
あの人を凍らせる絶対零度の目は、明るい美琴のものというよりむしろ―――。

(あれは人殺しの目よ。ああいう炯炯とした目。
何度もそういう人と会ったことがあるから分かる。あれは違う。
御坂美琴がしていい目じゃない。一体何があったっていうの?
この私に恐怖を感じさせるなんて……)

そして美琴が言った「殺す」という言葉。
これもまた異常以外の何物でもなかった。
あの美琴が人に向けてそんなことを言うことがまずあり得ないのだ。
しかもあの「殺す」は子供が軽く言うようなそれではなく、まさに本気の、文字通りの意味だった。

あり得るはずがなかった。あっていいはずがなかった。
あの御坂美琴が人殺しの眼をするなんて。人に本気で「殺す」という言葉を口にするなんて。
そもそも食蜂はたしかに美琴を挑発するようなことを言ったが、それでもあそこまで美琴を怒らせるものだったか?
いや怒らせるには十分なものだったかもしれないが、あれほどまでの殺意を向けられるほどだったか?

何か過剰反応な気がした。何か決定的なものが美琴の中でズレ始めているような気がした。
食蜂は自分が触れようとしていた美琴の抱える闇が、想像を遥かに超える暗いものであると理解した。
そして同時に、もう決してそれに触れまいと決意するのだった。

投下終了

超電磁砲二期に劇場版禁書……禁書始まってるな
後は禁書3期と劇場版超電磁砲が来れば完璧だ!!

超電磁砲に出てた水滴をカメラに出来る能力がほしい
バードウォッチングとかのためにほしい

    次回予告




「お前みたいなお嬢様には上条さんのつらさは分からんでしょうね!
特売はまさに神の恵みなんですのことよ?」
学園都市の無能力者(レベル0)の学生―――上条当麻




(さようなら、私の初恋。最愛の人。
結局素直になれなかった。いつも照れてばっかりで、一回も気持ちを伝えられなかった。
アンタが他の女の子と一緒にいるのが嫌だった。アンタと一緒に過ごす時間はなによりも楽しかった。
―――アンタが、好きだったから。愛していたから。おかしくなっちゃうくらいに、好きだったよ。
今までありがとう。私は、あなたのことが好きでした。
―――……バイバイ、当麻)
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴

乙です

垣根もそろそろ絡んでくる頃合いか!
次回も楽しみにしてます

水滴の能力はプールサイドで使うと無敵

乙カレー
婚后さん百合ってますね
美琴がイケメンすぎるのが原因か
前回の引きもあってgkbrとともに次回も期待してます

次回予告の美琴のセリフ切ないのう…
また上条さんや垣根とバカやって遊んだ日常に帰れるといいんだけど
乙です

投下しまふ

今回は予定より多く投下することになったので、予告にいないあの二人も登場します

っと、忘れてた

>>669
垣根は……うん

>>672
美琴にイケメンさは異常
あんなん誰でも惚れますわ だから黒子は正常と言えるのではないだろうか

>>673
きっとそこに戻るのが美琴の最終目標です

ヒーローというものは概して損な役回りである。
誰もが好き勝手に期待を寄せるくせに、それに応えられないと勝手にヒーローを悪とする。
忘れてはならない。ヒーローとて人間なのだ。










食蜂とのいざこざの後、何とか間に合った午後の授業を受けた美琴。
相変わらず授業に身は入らず、右から左だったが。
全ての授業を終え、また食蜂あたりに絡まれないようにさっさと学校を去ることにする。
本当にあの女が絡むとろくなことにならない。
伊達に関わりたくない人物ベストスリーにランクインを果たしてはいなかった。

だが校門、正確には学舎の園の出口付近に見知った顔があった。
ツンツン頭が特徴的なその少年の名は上条当麻。
学舎の園は複数のお嬢様学校の集まる共用地帯だ。
当然、内部には一部の教員を除けば女生徒しかいない。

そんな学舎の園の入り口に張っていれば多くの生徒に注目されるのは当然だった。
警備担当も上条を疑うように見つめている。少しでも不審な動きをすればすぐに動けるようにだろう。
上条はそれらの視線に気付いていながら決して動こうとはしない。
そこまでするからには当然何らかの理由があるはずだ。

美琴はその理由は知らないが、想像なら出来た。
おそらく、自分だろうと思う。
白井あたりが何か漏らしたのかも知れない。
だとしたら相変わらずのお人好しっぷりだ。
そういうところに魅かれたのだとは断じて認めるつもりはないが。

美琴は上条にもあの話をする気は一切なかったので、なんとかやり過ごすことにする。
壁に背中を預け、寒そうに両手をポケットに入れて上条はおそらく美琴を待っていた。
わざとらしくならない程度に明るく、あえてこちらから話しかける。

「ちょろっと、アンタこんなとこで何してるわけ?
まさか女子校に侵入してあんなことやこんなことをするつもりじゃないでしょうね?」

そんな学舎の園の入り口に張っていれば多くの生徒に注目されるのは当然だった。
警備担当も上条を疑うように見つめている。少しでも不審な動きをすればすぐに動けるようにだろう。
上条はそれらの視線に気付いていながら決して動こうとはしない。
そこまでするからには当然何らかの理由があるはずだ。

美琴はその理由は知らないが、想像なら出来た。
おそらく、自分だろうと思う。
白井あたりが何か漏らしたのかも知れない。
だとしたら相変わらずのお人好しっぷりだ。
そういうところに魅かれたのだとは断じて認めるつもりはないが。

美琴は上条にもあの話をする気は一切なかったので、なんとかやり過ごすことにする。
壁に背中を預け、寒そうに両手をポケットに入れて上条はおそらく美琴を待っていた。
わざとらしくならない程度に明るく、あえてこちらから話しかける。

「ちょろっと、アンタこんなとこで何してるわけ?
まさか女子校に侵入してあんなことやこんなことをするつもりじゃないでしょうね?」

声をかけられた上条は驚いていた。
まさか美琴から声をかけられるとは思っていなかったのだろう。
多少どもりながらもすぐに言葉を返す上条。

「み、御坂か? だ、誰がんなことするかっての!」

「どうだかねー。アンタは色々と前例があるから……」

「完全には否定出来ない自分が悲しいですよ上条さんは……」

「ある程度は自覚あるんだ?
驚いたわね。アンタみたいな底なしの鈍感が」

「うっせー。……にしても良かったよ、元気そうで」

その言葉を聞いて、美琴の眉が注意深く見ていないと見逃してしまいそうなほど僅かに動く。
やはり白井が何か話していたのだろう。
自分が元気がない理由を調べてくれと白井に頼まれたのか、あるいは話を聞いた上条が自発的に調べに来たのか。
どちらも十分にあり得る話だったが、どちらであれ問題はない。
ただ少し―――ほんの少しだけ、後者であったら嬉しいと思う。

「黒子にでも何か言われたのかしら?
……たしかにちょっと色々あったけどさ、もう大丈夫よ。解決したわ」

嘘を吐く際、一〇〇%嘘を吐くのは愚行だ。
嘘しかない嘘など、僅かな綻びから簡単に瓦解する。
重要なのは真実と嘘の割合。
ある程度事実を織り交ぜ、本当に隠したい部分のみ嘘を吐く。
これが嘘を吐く時の基本である。

美琴の場合、本当に隠したいのは不安定になった原因だ。
不安定になっていたこと自体は知られてもあまり問題はないし、もう隠すことは出来ない。
もしここで美琴が元気をなくしていたことそのものを、そんな事実はないと否定すれば上条は彼女が嘘を吐いていると見抜いたかもしれない。
そうなれば美琴が嘘を吐いてまで隠したいことがあると気付き、やがて全てが知られてしまっていたかもしれない。

だが美琴は白井の話を肯定する事実を認めた。
その上で、明るくもう解決したと話した。
その美琴の表情は無理をして作ったものとは違う、自然な笑顔だった。
だからこそ上条は美琴の話を信じ、それ以上追及してくることはなかった。

「ならいいけどさ。何かあったら相談しろよ?
頼りないかもしれないけど、必死に考えるからさ。
俺じゃ不満なら白井とか垣根に頼ってもいい」

「うん、分かってる。
また何かあったらね。そこまで豪語するならさぞご立派な模範解答をしてくれるんでしょうね」

「うっ……あ、あははー、やっぱりあまり期待しないでほしいかなーなんて」

「男に二言はない。口は災いの元」

「おぉう……分かったよ。こうなったらどんな相談にも対応してやろうじゃねぇか!!」

グッ、と拳を握り締めてメラメラと燃え始めた上条を見て、美琴は笑う。
ごくごく自然に、年相応の笑顔を。
一方通行のことなど忘れてしまったかのように。
今だけは、この瞬間だけは全てを忘れていたかった。
何の悩みもない、ただの御坂美琴でいたかった。
……これが上条との最後の会話なのだから。

「それじゃ、私はもう帰るわ。アンタも特売とか言ってないでたまにはさっさと帰りなさい」

「お前みたいなお嬢様には上条さんのつらさは分からんでしょうね!
特売はまさに神の恵みなんですのことよ?」

「はははっ、そっか。これからも頑張りなさいよ。
……じゃ、じゃあね。バイバイ」

「おう。また垣根と三人で遊ぼうな!」

そう言って上条は走り去って行った。
美琴が元気そうなのを見て安心したのだろう。
美琴もそれで安心していた。
上条とあまり長く話していたくはなかった。
彼は自分の覚悟を、いとも簡単に砕いてしまいそうだったから。

(また三人で、か。それが出来たらどんなに……)

美琴はフッ、と自嘲気味に小さく笑った。
もうそんな未来はないと分かっているからこそ虚しかった。

美琴が上条に気付かれない程に自然だったのは理由があった。
それは実際に、無理をしているのではなく美琴は安定してきていること。
一方通行と会い、どうすればいいか何も分からなくなった時、美琴は酷く不安定となった。
だが現在、その問題に一つの答えを出したために落ち着きを取り戻してきているのだ。

一方通行を、この手で殺す。

それが御坂美琴の出した答え。もう腹は決めている。
後は一方通行と再度相見える時までに、土壇場になって揺らぐようなことがないよう幾重にも決意を塗り固めていくのみだ。
絶対に揺らぐことない鋼の意思となった時、初めて美琴はその手を汚す。
そうなれば美琴は当然人殺しとなり、法の下に裁かれることになるだろう。

それとも一方通行という『闇』の人間を超能力者である美琴が殺せば、出てくるのは暗部なのか。
いずれにせよ上条とも二度と会うことはない。
だから、さっきの会話が上条との最後の会話。

一方通行と会うのはいつになるか分からない。
三日後か、一ヶ月後か。もしかしたら今日かもしれない。
いつになるとしても、美琴はもう二度と上条に会うつもりはなかった。

ツコイノヒト
上条当麻と、本当はもっと話したかった。お別れなんて絶対に嫌だった。
今日が最後だと思うと、しがみついて子供のように泣いてしまいたかった。
だがそんなことをすれば、きっと覚悟は砕ける。

サイアイノヒト
上条当麻ともっといたいと。人殺しになんかならずに、このまま日々を送りたいと叫びたかった。
だが、それでは駄目なのだ。
妹達の仇をとるためにも、妹達のこれからの安全を確保するためにも、自身のケジメのためにも。
一方通行を殺さなくてはならない。
だから覚悟が砕かれぬ様、気持ちを押し殺しあっさりと会話を打ち切った。
長く話せば、それだけ別れが耐え難いものとなってしまうから。

去り際にも、「またね」なんて言えなかった。言えるはずもなかった。
だって、美琴はもう二度と上条に会うつもりはない。
もしまた会えば、やはり決意を壊されるかもしれない。
だから、会うわけにはいかない。
だから、「さようなら」。だから、「バイバイ」。

ハツコイノヒト
上条当麻と、本当はもっと話したかった。お別れなんて絶対に嫌だった。
今日が最後だと思うと、しがみついて子供のように泣いてしまいたかった。
だがそんなことをすれば、きっと覚悟は砕ける。

サイアイノヒト
上条当麻ともっといたいと。人殺しになんかならずに、このまま日々を送りたいと叫びたかった。
だが、それでは駄目なのだ。
妹達の仇をとるためにも、妹達のこれからの安全を確保するためにも、自身のケジメのためにも。
一方通行を殺さなくてはならない。
だから覚悟が砕かれぬ様、気持ちを押し殺しあっさりと会話を打ち切った。
長く話せば、それだけ別れが耐え難いものとなってしまうから。

去り際にも、「またね」なんて言えなかった。言えるはずもなかった。
だって、美琴はもう二度と上条に会うつもりはない。
もしまた会えば、やはり決意を壊されるかもしれない。
だから、会うわけにはいかない。
だから、「さようなら」。だから、「バイバイ」。

かつて九九八二号が美琴に別れを告げた時と同じように。
きっと上条は美琴の言った「バイバイ」に単なる挨拶以上の意味を見出してはいないだろう。
気付いているのなら何も言わずに去るわけがない。
それでいい。もし上条が追いかけでもしてきたら、それを振り払える自信は正直ない。

事が済んだ後ならどうか。
暗部ではなく、然るべき機関に正当に裁かれれば面会くらいは出来るだろう。
だがそこでも美琴は上条に会うつもりはない。
人を殺した自分が、人殺しに成り果てた自分が一体どんな顔して上条当麻と会えるというのか。
だからこそ、「じゃあね、バイバイ」と言ったのだ。
もう会えない。だから、さようなら、と。

かつての九九八二号が美琴にしたのと同じ。
御坂美琴は、この時上条当麻に別れを告げた。

(さようなら、私の初恋。最愛の人。
結局素直になれなかった。いつも照れてばっかりで、一回も気持ちを伝えられなかった。
アンタが他の女の子と一緒にいるのが嫌だった。アンタと一緒に過ごす時間はなによりも楽しかった。
―――アンタが、好きだったから。愛していたから。おかしくなっちゃうくらいに、好きだったよ)

絶対に言葉には出来なかった気持ちを、心の中で吐き出す。
愛しい少年への想いを。これが、最後だから。
そう思うと、沸々と想いが沸き立ってきた。
超能力者の絶対的強固さを誇る自分だけの現実を砕くほどの想い。
言葉になんてし切れない。何をしたってこの感情を表すには足りない。
それほどに莫大な上条への恋慕の情。

ただ、美琴は上条当麻に謝らなければならなかった。
かつて上条に救われた身でありながら、自らを滅ぼそうとしているのだから。
上条当麻といるとこの上なく楽しかった。視線が合えばどきりとさせられた。
メールや電話があればそれだけで心拍数が上がった。他の女と一緒にいれば嫉妬した。

そして、八月二一日。
とある鉄橋で、丁度今と同じように悲壮な決意を固めた時。
上条当麻がやって来て、救ってくれた時。
どうしようもなく、嬉しかった。



    ――『何やってんだよ、お前』――


    ――『お前の味方で良かったと思ったからさ』――


(ごめんね。アンタは私を救ってくれたのに。
私は近い内に、人を殺します。きっとアンタがこれを知ったら、叱って、説教してくれるんでしょう。
でも、私はもう退けない。退くわけにはいかない。だから、もうお別れ。
今までありがとう。私は、あなたのことが好きでした。
―――……バイバイ、当麻)

ただの一度も口に出来なかった少年の名前を。
美琴はついに正直な気持ちを全て吐き出した。
決して言葉には出来ないけれど。自分はその資格をこれから失うけれど。
御坂美琴は走って逃げるようにその場から去った。
一つの適当な路地裏を見つけ、躊躇なくそこに駆け込む。

そして御坂美琴は泣いた。
涙をポロポロと流し、声を噛み殺して泣いた。
これが、最後の涙だから。
だから今だけは、許してください。
その姿は恋に破れた少女そのものだった。










ひとしきり泣いた美琴は、ふらふらとある公園へやって来ていた。
その公園は非常に小さく、ベンチと滑り台、ブランコくらいしか遊具は置かれてない。
後は水飲み場と街灯が一つあるくらいで、何とも寂しげな公園だ。
子供もほとんど来ないのだろう、遊具も錆び付いていて最近使われた様子がない。
場所も場所だろう。あてもなく彷徨って辿り着いたここは街から離れたところにある。
周囲にあるビルも使われなくなったようなものばかりで、人気がない。
そのせいか、現在この公園にいるのは美琴一人だけだった。


    ――『いたいたいたクソいやがったわねアンタ!』――


    ――『またかビリビリ中学生』――


    ――『ビリビリ言うな!』――


    ――『罰ゲームよん!』――


    ――『とりあえず鼻についてるマスタードは拭いとけよ』――


    ――『おっしゃー! つっかまえたわよ私の勝利条件!』――


    ――『テメェ絶対嫌がらせだろそれ!』――


    ――『お願いだから少し気持ちの整理をさせて!』――

たしかに先ほど振り切ったはずなのに、どうしてもあのツンツン頭の少年の顔が頭に浮かんでしまう。
こんなに好きだったのか、と自覚すると同時に末期だな、とも思う。
未練たらたらではないか。
出会い方は運命も何もあったもんじゃなかった。
それから自分の力が通用しなかったことから、何度も絡んでいた。
あの『実験』が終了した後もことあるごとに絡んでいたが、それはただ単に構ってほしかっただけで。
自分を無視してほしくなくて、あんな態度をとってしまっていた。


   『会えば喧嘩してたね 長く居過ぎたのかな』


   『意地を張れば 尚更隙間広がるばかり』


   『もう一度思い出して あんなにも愛したこと』


   『「アリガトウ」が言える時が来るまで Time goes by……』


ふとこんな詞が思い浮かんだ。

何かと思い、すぐに辿り着く。
これは上条や垣根、白井と行ったカラオケで自分が歌った曲だ。
考えてみるとまるで自分のことを表しているかのような歌詞だ。

一度も素直になれず、ただ照れてばかりだった自分。
結局しっかりとした礼も出来なかった自分。
もともと、自分なんかと上条当麻では釣り合っていなかったのかもしれない。
そう考えた方が幾分か気持ちが楽だった。

いずれにせよ、もう上条とは会わないのだから今さら何を考えても無駄だ。
それは分かっているのにどうしても考えてしまうのは何故なのだろう。
決別したつもりでいて、やはり完全には決別できていない。
完全に割り切るにはある程度時間がいるかもしれない。
ただ、もう上条とは会わないという一点だけは覆すつもりは皆無だった。

「お姉様」

そんな美琴に、声をかける者がいた。
上条のことを考えていたのでまさかと思い一瞬ギョッとしたが、幸いそれは上条ではなかった。
それは二人組だった。一人は打ち止め。もう一人は妹達―――ネックレスを付けていることから御坂妹だろう―――だった。

こんな辺鄙な場所に何の用なのだろうか。
こんな場所で偶然なのか、それとも自分を探していたのか。
だが重要なのはそんなことではない。

美琴は考える。彼女たちに一方通行のことを話すわけにはいかない。
ただ怖がらせるだけだろう。
折角一方通行という恐怖から解放されているというのに、その笑顔を失わせることは出来ない。
自分たちを殺した男のことなんて思い出したくもないはずだ。
そうなるとやはり上条の時のように適当にあしらうべきか、などと考えていたために、次の打ち止めの一言は美琴を驚愕させるには十分過ぎた。

御坂妹も打ち止めも、最初の一言からただ立っているだけで何も話さない。
だがすぐに打ち止めが恐る恐るといった様子で口を開いた。
その体は小刻みに震えているようにも見える。
御坂妹もどこか様子がおかしい。体が強張っていて、緊張しているように見えた。
まるでこれからする行為に怯えているかのよう。

「お姉様……あの人に、会ったんでしょ? ってミサカはミサカは不安を隠して一歩踏み出してみる」

「……え?」

美琴は混乱した。あの人とは一体誰のことなのか。
そういえば以前打ち止めや御坂妹と遊んだ時、打ち止めはずっとあの人とやらの話ばかりしていた気がする。
打ち止めを保護してくれている人の一人で、優しいけど素直になれない、とか言っていたはずだ。
その人に会った? 自分が?
美琴はそんな人と会った覚えはない。打ち止めが何を言っているのか分からない。

いや、本当は分かっていた。
第三位の優秀過ぎる頭脳は、即座に答えを弾き出していた。
だがその答えが理解出来なくて。意味が分からなくて。認めたくないだけなのだ。
それを認めてしまったら、大事な何かが壊れてしまう気がした。

美琴が最近会った人。それでいて日常的に顔を合わせるような相手ではない人。

検索。

ヒット。

該当者、一名。

―――名称、一方通行。

「え、ちょ、何言ってるのか分からないわよ? あの人って……」

「お姉様も本当は分かっているのでしょう? ここまで来たら隠し通すことは不可能。
ミサカが、ミサカたちがお姉様に全てをお話します、とミサカは告白します」

御坂妹が口を開く。
だが美琴がほしかった言葉は出て来なかった。
むしろ最悪の想像を肯定するような言葉で。
美琴は思わず身を震わせる。

あの人とは、一方通行なのだろうか?
一方通行が妹達である打ち止めを保護していると?
そんな馬鹿なことはあり得ない。あの悪魔が妹達を保護するなど、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ない。
もしかしたら何らかの理由で打ち止めは脅されているのだろうか。
だとしたら早く助けなければならない。いつ見切られて殺されるか分かったものではない。
そんなことを考える美琴の脳裏に蘇るのは、『あの人』のことを話す打ち止めの笑顔。

あの時の打ち止めは本当に楽しそうだった。
無邪気で、純粋な笑みを浮かべていた。
美琴も本当にあの人とやらのことが好きなんだな、と思ったくらいだ。
あの笑顔は脅されている者が浮かべられる表情ではない。強制されて作れる笑顔ではない。
きっと本当に、心の底から幸せなのだ、打ち止めは。



―――何が?


一方通行と一緒にいる現在が。






意味ガ、分カラナイ。






「お姉様は、一方通行のことを『実験』当時の様子しか知らないはずです。
ですから、お話します。ミサカたちの知り得た一方通行の全てを、とミサカは前置きします」

美琴は混乱していたが、説明してくれるということで話を聞く体制に入った。
もう本当に意味が分からない。聞いてはいけないことを聞いてしまったような気さえする。

そして、御坂妹は話し始めた。時折打ち止めに補完されながら、『実験』後の一方通行のことを。
『実験』後、一方通行に変化が訪れたこと。
打ち止めとの出会い。
天井亜雄によって打ち止めに打ち込まれた、妹達全員に広がるウィルス。
それを一方通行が自身の演算能力と引き換えに食い止め、打ち止め、ひいては妹達全員を救ったこと。
現在はそれが原因で能力に制限がかかり、杖つきの身となっていること。

「一方通行は脳天に銃弾を受け、脳に障害が残りました。
前頭葉に傷がついたことにより、計算能力と言語能力が破壊されました。
本来一方通行は、自力では立つことも喋ることも出来ないのです、とミサカは解説します」

しかし、実際にはそうなっていない。
御坂美琴は確かに二本の足で立つ一方通行を見ているし、喋るところも、どころか能力を使用しているところさえも目撃している。
それは何故か。それこそが御坂妹がもっとも伝えたくて、伝えたくなかったこと。
御坂妹はそこで言葉に詰まり、僅かな沈黙が流れたがすぐに口を開いた。
隠していた真実を伝えるために。

「一方通行の言語能力と計算能力はたしかに破壊されました。
しかしあの医者は冥土帰しの名にかけて、それを良しとしませんでした。
そして出来たのが一方通行が首につけているチョーカー型の電極です。
あれはミサカネットワークを利用したもの。一万人の妹達の脳波をリンクさせ、一方通行の失われた言語能力と計算能力を補っているのです。
ミサカたちが代理演算を行っていることにより、今の一方通行は三〇分のみですが能力の使用も可能となっているのです、とミサカは真実を打ち明けます」

御坂妹は、言った。
自分たちが、あの一方通行を助けているのだと。
妹達のために命を捨てようとし、絶対に勝てない一方通行へと立ち向かい。
妹達のために手を汚す覚悟まで固めた御坂美琴が。
その妹達が一方通行に演算補助を行っていると知ったら、果たしてどう思うか。

御坂美琴に対する裏切り行為を、遂に白状した。
だがその美琴は現在混乱の極地にいた。
本当に、わけが分からない。
第三位の頭脳をして、情報の細部にまではとても処理が行き着かなかった。
とにかく分かったことは二つ。

一方通行は、たしかに妹達を救ったということ。
そして御坂妹は、打ち止めは、その他全ての妹達はあの悪魔に手を貸しているということ。

意味が分からない。理解が出来ない。
一方通行は史上最狂最悪の殺戮者だ。
彼に善性など存在するわけもない。まさに文字通りの、唾棄すべき殺人鬼。
そうであるはずだった。そうでなければおかしかった。

なのに、ここに来てそれが覆ってしまった。
しかも妹達が一方通行を補助しているという。
妹達からすれば自分たちを一万回以上殺した相手を。
美琴を地獄の底に叩き落とした相手を。

今までとは全く相反する情報の流入により、美琴の脳はパニックに陥りかけていた。
処理が追いつかない。オーバーヒートしてしまいそうになる。
つい数分前まで一方通行を殺す覚悟を固めていたのに、それが根底から揺るがされる。
これまでの美琴の中にあった大前提が、決してブレるはずのなかった部分が崩壊を始める。
心の安定が急速に失われ、世界の色が生気のない白黒へと塗り変わっていく。
だがそんな美琴の内情を露知らず、御坂妹は続けた。

「この演算補助がお姉様への裏切り行為であることは承知しています。
お姉様が望まれるのでしたら、このミサカは今すぐにでも演算補助を打ち切りたいと思っています。
……お姉様がこのミサカを非難するのは当然のことです。嫌われても、……仕方がないのです。
ですがお姉様は優しい方。演算補助をやめろとは言わないだろう、というのが他のミサカたちの総意でした」

御坂妹に悪気はなかった。

彼女はただ事実を言っただけだった。
妹達はお姉様を信じている、ということを伝えたかっただけだった。
裏切るような真似こそしたが、本当は好きなのだ、一万人もの妹達の全員がお姉様の優しさを知っているのだ、と伝えたかっただけ。
別に美琴が演算補助をやめろと言うと思っているわけではない、御坂美琴の強さと優しさを本当に信じていると。

ただこの時御坂妹もまた動揺していたのだろう。
やはり美琴に嫌われるのは怖かったのか、嫌だったのか。
あるいはまだ感情が芽生えきっていないせいか。仕方ないのかもしれない。
何せ御坂妹は生まれてまだ二ヶ月程度しか生きてはいないのだ。
むしろそれを考えると御坂妹はよほど人間らしくなっていると言える。
だが理由は何であれ、御坂妹はこういう言い方をしてしまった。

それが御坂美琴を追い詰める。

こう言われてしまっては、もう美琴に演算補助をやめろ、と言うことは出来ない。
たとえ本当はやめてほしいと思っていたとしてもだ。
この時点でその選択肢は消えてなくなった。

だって、妹達は自分を信じてくれている。
自分は優しいから、と思っていてくれている。
それを壊すことなんて出来はしなかった。
自分は、お姉様なのだから。

引き継ぐように打ち止めが口を開く。
彼女が教えたかったことの最後の一つを、話す。

「あの人は、本当はミサカたちを殺したくなんてなかったの。
あの人は、実験開始前に必ずと言っていいほどミサカたちに話しかけていた。
黙ってさっさと殺してしまえばいいのに、そうしなかった。
しかもあの人の言うことはミサカたちを怖がらせるようなことばかりってミサカはミサカは分析してみたり。
……まるで、ミサカたちにもうやめてくれ、と言わせようとしているように。
もし、ミサカたちが一度でももう戦いたくない、と言っていたら。
あの人の出していたサインに気付くことが出来ていたら……ってミサカはミサカは後悔してみる」

打ち止めに悪気はなかった。

彼女は単に美琴の一方通行へのイメージをほんの僅かでも改善させたかっただけ。
あの人は本当はこんな人なんだ、と話すことで平和的な未来を目指したかっただけ。
美琴ならきっと分かってくれると思っていた。
人の気持ちが分かる美琴の強さを、信じていたから。

それが御坂美琴を追い詰める。

分かっている。打ち止めは自分と一方通行の仲を少しでも改善させたいというだけなのだ、ということくらい。
だがこの時、美琴の脳内にあったのは混乱ではなく怒りだった。
いや、怒りなどという言葉では生温い。
先ほどまで全てが揺らぎ迷っていたのに、今は混乱など欠片もなかった。
あらゆる感情を、憤怒という黒い色が全てを塗りつぶしていく。
頭が沸騰しそうになる。血液が沸き立ちそうになる。

御坂美琴の全身を貫くような憤怒が焼き尽くす。
あまりにも強く握り締められた拳からは今にも血が流れそうだった。
ドス黒い醜いものが美琴を支配していく。

(本当は、殺したくなかった、ですって……ッ!? ッざけんな!!!!)













なら、何で殺した。












御坂美琴の抱いた怒りと疑問は極真っ当なものだ。
殺したくなかったのなら殺さなければよかった。
当時の一方通行は能力に制限などなかったし、今の打ち止めや黄泉川のように弱点となる人物もいなかった。
当時の彼が『実験』を放棄すればそれで終わったはずだ。
今と違って、彼を無理やり従わせるような手段は存在しなかったのだから。

実際にはこの『実験』は統括理事長アレイスター=クロウリーにとっても重要なものだったので、それで『実験』が本当になくなったかは分からない。
だが少なくとも一方通行自身や他の研究者たちはそんなことは知る由もない。
そういう裏の事情を知らない彼らにとって一方通行の拒否は『実験』中止に他ならなかった。
全盛期の学園都市第一位という怪物に、力押しは罷り通らない。

だが、彼は引き受けた。
誰に強制されたわけでもない。放棄するという選択肢は常にあったにも関わらず、一方通行はそうしなかった。
ただ嗤って、嗤って、嗤って。


   ――『愉快にケツ振りやがって、誘ってンのかァ!?』――


   ――『追いつかれたらゲームオーバーだぜェ』――


   ――『しっかし人間てなァあンなに血が詰まってンだな。あァ、ありゃ人形だったか』――


   ――『ちょっと拝借してみたンだけどよォ、人肉ってのはそれほど美味いモンでもねェンだな』――


   ――『そろそろ死ンじまえよ。出来損ないの乱造品』――


それでもか。
妹達を引き千切り、切り裂き、圧死させ、体内から破裂させ。
御坂美琴は思い切り、砕けるほどに歯噛みする。
それでもまだ、本当は殺したくなかった、などとほざくつもりなのか。
本心からではなかったのだ、と本気でぬかすつもりなのか。
一体どの口が。

ふざけるな。
美琴の中をその一言が支配する。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!!
一万人もの妹達をあんなに楽しそうに虐殺しておいて言うのがそれか。
本当はやりたくなかった。なのに誰も止めてくれなかった。でも今は反省している。
それで済ますつもりなのか。
殺された妹達の命は、九九八二号の命はそんなに軽いものだったとでも言うのか。

(そりゃ―――そうよね。アンタにとっちゃボタン一つでいくらでも製造できる人形なんだもん、ねッ!!)

あの『実験』の存在を知った時と同じ―――いや、もしかしたらそれ以上の怒りが美琴を襲う。
激しく荒れ狂う暴力的な衝動を何とか抑えるのが精一杯だった。
少しでも気を抜けばこの黒いモノに支配されて、自分が自分でなくなってしまうようにさえ感じられた。
家族を、妹を殺した人間に「本当は殺したくなかった」と言われて怒らない姉などいるものか。
だったらどうして殺したんだ、と。

腸が煮えくり返る。血管が切れてしまいそうになる。
今ならば、数瞬の躊躇いもなく一方通行を撃ち抜ける確信があった。
だが、問題なのはそれをやると間違いなく打ち止めが悲しんでしまうこと。
それを再認識した途端に怒りが薄まり、再び迷いが強くなってきた。
いや、迷いや戸惑いの方が怒りを超えたのだ。
どれほど一方通行が憎かろうと、それが打ち止めを悲しませるとなるとどうしても……御坂美琴は躊躇ってしまう。

御坂妹と打ち止めに悪気はなかった。
二人はただ美琴に真実を伝えたかっただけ。
だが、少しくらい考えるべきだったかもしれない。
今の御坂美琴は極限まで追い詰められている状況で。
美琴は一度一方通行を殺そうとしているのだ。そして今そのために悲壮な覚悟を決めているのだ。
そんな美琴が、突然こんな話を聞けばどうなるか。
今までの覚悟全ての意味を剥奪するような、全てを水泡に帰するような話を聞けばどうなるか。

一方通行は史上最悪の殺戮者。だが打ち止めを命がけで救い、少なくとも今は殺戮者ではないという。
妹達は被害者。だがそんな妹達が一方通行を支えているという。
一方通行は憎むべき怨敵。だが打ち止めはそんな彼が大好きなのだという。

全てがガラガラと音をたてて崩れる。美琴はもう限界だった。
たしかに御坂美琴は上条当麻と同様のヒーロー性を有している。
どんな絶望的な状況でも、彼女さえいればそれだけで何とかなるのでは、と皆に希望を抱かせる。
どんな絶望的な状況でも、彼女が「大丈夫」と言えば本当に大丈夫なのだと皆に思わせる。
それでも美琴ならきっと何とかしてくれる、とそんなことを周囲に本気で思わせることが出来る。
それが御坂美琴という人間だ。

だが御坂美琴とて人間なのだ。どこまでいってもまだ一四年しか生きていない中学生なのだ。
どれほど強くても、その強さに限界はある。
そして今、御坂美琴はその限界を迎えようとしていた。
もう、何も分からない。理解しようとすることさえ放棄しそうになる。
何が正しくて何が間違っているのか。何を為すべきで何を為すべきでないのか。
一方通行を殺せばそれで全て終わるはずだったのに。

なのに今更になってそれが否定され、打ち止めに至っては一方通行が好きだとまで言う。
なら一体どうしろと言うのか。そもそも答えなどあるのか。
事ここに至ってあまりにも膨大な、しかも今までと対立する情報が流れ込む。
まるで出口のない巨大な迷路を延々と彷徨っているような気がして、吐き気がした。
出口など初めから存在しないのに、必死に出口を求めて右往左往している気がした。

一方通行は唾棄すべき最悪の殺人者で、善性など欠片もない。
これが美琴の中で大前提としてあった。
一+一は二であるように、いちいち確認などする必要もない最低限の基盤だった。
それを基とし、その上に複雑な感情や思考が積まれていたのだ。
それは土台だ。建築物で言えば骨組みにあたる、全てを支える重要なもの。

そしてついに殺すか殺さないか、という二択まで答えを絞り、ようやく一つの答えを掴んだところで、これだ。
一方通行に善性は存在した。勿論それはイコールで一方通行が善人であるということではない。
だがそれでも絶対に崩れてはいけない大前提が崩されてしまったのだ。
どんなに複雑で難解な数式も、一+一=二というような超基本的な前提が壊れれば成り立たなくなってしまうだろう。
もっとも下層にあり、もっとも重要な基盤を完全に破壊されてしまったことにより、連鎖的にその上に積まれた全てもまた崩壊する。

あれだけ苦しんで、悪夢に魘されて、食蜂操祈に啖呵を切って、上条当麻に別れを告げてまで得たものが。
この数日の苦難の末にようやく導き出した答えの価値が、一瞬にしてゼロになってしまった。

美琴は頭を抱え込み、しゃがみ込んでしまった。
妹達の期待には応えなければならない。自分はお姉様なのだから。
かといって、一方通行を許すことなど絶対に出来ない。
そんな二律背反に苦しんでいる美琴に、御坂妹が話しかける。
彼女はまだ気付いていなかった。自分たちのしていることの意味を。

御坂妹と打ち止めは、御坂美琴に期待しすぎた。
御坂美琴なら大丈夫だと、御坂美琴なら受け入れられると、御坂美琴なら乗り越えられると。
そんな根拠のない身勝手な幻想を美琴に押し付けすぎていた。
それが一体どれほど美琴の負担になっているか知らずに。
美琴なら一方通行の事情も汲み取れる? 美琴なら手を汚さずに解決出来る?
そんなものは所詮打ち止めや御坂妹の希望でしかない。


    ――『……お姉様は、とても優しい方です。
      そして、強い。力だけではなく、何よりも心が、とミサカは呟きます』――


    ――『お姉様は、優しいから。
      優しくて、強くて、気高い。お姉様はそんな人だからってミサカはミサカはお姉様の凄さを再認識してみる』――


    ――『お姉さまに、教えてあげよう。 あの人のことを。お姉様ならきっと分かってくれる』――


おそらく、間違ってはいない。
美琴が強いのも、優しいのも、気高いのも。
でなければクローンのために命を捨てようなんて思えないだろうし、これまで折れずに『闇』に堕ちずにいることも不可能だっただろう。
ただ、二人は―――それが高ずるあまり一種の神聖視をしてしまったのだ。

彼女たちはまるで漫画に登場するヒーローのように美琴を特別視しすぎた。
全てを超えていくヒーローのように。完全無欠な聖人君子のように。
それは常盤台の学生たちがやっていることと同じ。
色眼鏡で美琴を見て、特別視する。
自分の中で勝手に組み上げた理想の美琴像を、実際の美琴に求める醜い行為。

御坂美琴が超能力者だから? 第三位の超電磁砲だから?
何度でも言おう。美琴は中学生だ。一四歳の女の子だ。
漫画は立ち読みするし、好きな人が他の女といれば嫉妬するし、趣味は子供っぽい、どこにでもいるような女の子だ。
上条当麻や白井黒子なら絶対にそう言うだろう。
別に美琴はシスターをやっているわけでもなければ聖人なんかでもない。
完璧を求められたって出来るわけがない。

そもそも一四歳というのはもっとも難しい年頃で、思春期真っ只中。
学園都市の人間は親と離れて生活しているせいかその傾向はあまり見られないが、普通なら第二次成長期で反抗期にいるはずだ。
そんなただの中学生に多くを求める方が無茶。
ましてや今回の問題は酷くデリケートなのだから。

それでも美琴が「自分はヒーローじゃない」と一言言っていれば、もしかしたらそれで済んでいたかもしれない。
そんな期待されても困ると言っていれば、御坂妹や打ち止めも気付けただろう。
けれど美琴はそうしなかった。

そうするには御坂美琴は優しすぎた。
押し付けられた身勝手な幻想に、それでも必死に応えようとした。
常盤台のエースとして美琴を特別視する学生の期待に応えているように。
もう限界はすぐそこだというのに、それでも美琴は妹達の期待を裏切りたくなかった。
自分の心を押し殺し、妹達を優先してしまっていた。
その結果、自分の心がボロボロに成り果てても。

もし美琴がもっともっと強ければ、あるいはもっと弱ければこうはならなかっただろう。
そうであれば屈することなく進めただろう。そうであれば弱音を吐けただろう。
だが現実はそのどちらでもなく。

「お姉様。聞きました。
お姉様は、……一方通行を殺そうとしたのですね。
お姉様は優しい方です。人を殺せるような方ではありません。
お姉様は、手を汚すべきではないのです。
死んでしまった一〇〇三一人の妹達もそう望んでいるはずです、とミサカは……」

御坂妹のこの言葉が、最後のトリガーを引いてしまった。
あまりにも大きくなりすぎた負に心という容れ物が耐えられなくなり、ピキッ、と音をたて美琴の心に亀裂が走る。
今までずっと耐えてきた精神の崩壊が始まる。
ピキピキパシッ、とそのヒビが更に大きくなり、その隙間から御坂美琴の押えきれぬ負の感情が漏れ出す。爆発する。
一度漏れ出せば後は早い。パンパンに膨らんだ風船に穴を空けたように、猛烈に感情が弾けた。

「うるさいッ!!!!」

落雷のような咆哮だった。

「分からないのよ、もう!! 死んでしまった一万人もの妹達が、あの子が何を考えていたかなんて!!
アイツをどう思っていたのか、私をどう思っていたのか、私にどうしてほしかったのか!!
生きていたら私に何を望むのか!!
何も、何も分からない!! 好きな食べ物一つ分かりゃしないのよッ!!
だって、あの子たちは死んだ!! 死んでしまった、殺されてしまった、あの人の皮を被った悪魔にッ!!
私はもう一万人の妹に会うことも出来ない、死んでしまったから、アイツのせいで!!
あの子たちはもう喋れない、もう笑えない、気持ちを伝えることだって出来はしない!!
アイツのせいで、あの悪魔のせいで、人を殺すことなんて屁とも思わない殺人鬼のせいでッ!!
あの子たちにだって一人一人に未来があったのに!!
もう、あの子たちのことは何も分からないのよォォオォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

頭を抱えて、御坂美琴は吠える。
溜まりに溜まったものが爆発的に弾けてしまった。
声という空気の震えが取り返しのつかない溝を作り出す。

分かっている。こんなことを妹達に言うべきではない。
ただの醜い八つ当たりだ。
でも、もう止まらない。止められない。
御坂妹と打ち止めが怯えたように大きく体を震わせる。

―――何をやっているんだ。あの子たちをあんなにも怖がらせているじゃないか。

そう思うが、やはり無駄だった。
一度噴出した黒い感情はすぐには止まってくれない。
もはや途中で止めることなど本人にも不可能だった。

「お姉様、」

打ち止めが意を決したように何か言おうとするが、無言のままに御坂妹がそれを制す。
その御坂妹の顔は、酷く悲しげで。
そして後悔の色に塗りつぶされていた。
おそらく御坂妹は気付いたのだろう。何故こうなってしまったのかに。
御坂美琴を、お姉様を一番追い詰めたのは誰なのか。
一方通行以上に苦しめたのは誰なのか。
自分たちがいかに、無意識に美琴に負荷をかけていたのかに。

今美琴にかける言葉に意味などない。
謝罪をしたくても、今の美琴にそれは余計苦しめるだけだ。
御坂妹は美琴から目をそらし、打ち止めの手を引っ張った。

「……行きましょう、上位個体」

そう言って御坂妹は頭を抱え込んでいる美琴に背を向け、打ち止めと共に公園を出て行った。
打ち止めは何か言いたいことがあったようだが、打ち止めもまたその様子から美琴を追い詰めたのは誰なのか理解したのだろう。
打ち止めは意外と他人の心の動きに敏感なところがある。
苦々しげな表情を見せながら、大人しく御坂妹についていく。

その御坂妹は公園の出口付近で一度立ち止まったが、決して振り向きはせずにどこかへ走り去っていった。
その際、彼女の瞳から涙が零れていたように見えたのは、きっと見間違いではない。
打ち止めもその後を追って走り去る。
やはりその顔に浮かんでいるのは罪悪感一色で。

一人残された御坂美琴もまた後悔していた。
彼女たちは自分なら受け入れられると信じて話してくれたのに。
自分なら大丈夫だと思ったからこそ打ち明けてくれたのに。
妹達の期待を裏切ってしまった。
折角期待してくれていたのに、自分はお姉様なのに、大切な妹を裏切ってしまった。
最後に見た御坂妹と打ち止めの表情は暗かった。

守るべき大切な妹達に、あんな表情をさせたのは誰だ?
自分の感情すらろくに制御出来ずに、妹達に当り散らしたのはどこの馬鹿だ?

美琴を負の感情が蝕んでいく。
先ほど走った心の亀裂がバキバキとどんどん大きくなっていく。





そして遂に、




美琴の心は、




完全に砕けた。




(私は負けられない負けるわけにはいかないだって私は姉なんだからあの子たちのお姉様なんだからあの子たちの手本なんだから私は強くあらないといけない弱音を吐いてはいけない救いを求めてはいけない揺らいではいけない完璧でないといけないだって私は姉なんだからお姉様なんだから姉だから姉だから姉だから姉だから―――ッ!!!!!!)


御坂美琴が闇に飲み込まれる。
人一倍気丈な美琴が限界を超えた。
誰もが認めるヒーローは皆から寄せられる期待という重圧に押し潰され、遂にその膝を折った。
これが普段寄せられるような期待だったら問題なく対応できていただろう。
美琴を超能力者として神聖視している人間にそのように応えてやるのはよくやっていることだ。
だが、今回だけは違った。一方通行に関するそれはあまりにも重すぎた。

御坂美琴と一方通行。
もしこの二人の物語を神の視点で見ている、客観的に観察している人間がいるなら。
そんな存在がいるとしたら、その人間には一方の歩んできた道が分かっているだろう。
一方通行がどんな気持ちで、どれほどの覚悟で打ち止めを救ったか。
どれだけのものを懸けて妹達を守ろうとしているかも。

だが当事者はそんな存在にはなれない。
人はいつだって主観の世界に生きている。
自分以外の人間がどこで何をしているかなんて分かるはずがないし、その心情も読み取れるわけもない。
それこそ食蜂操祈のような力を持つ人間でない限りは。

だからこそ、物事を真に客観視するというのはたとえ大人であっても難しい。
ましてやそれをまだ中学生に過ぎない美琴に求めるのはあまりにも残酷だろう。
いや、そもそもの話。御坂美琴に一方通行の事情を汲み取らなければならない義務などあるのだろうか。
一方通行がどんな思いで何をしていようと彼が美琴の妹を殺した事実は決して変わらない。
妹を殺された姉に、その妹を殺した人間の心情を汲み取れと言う方が無理がある。

御坂美琴は御坂妹や打ち止めの思っていたほど素晴らしい人間ではない。
天使でもなければ聖人君子でもない。ましてや神なんかでもない。
他より少々優しいだけの、中学生だ。

御坂美琴と一方通行。
もしこの二人の物語を神の視点で見ている、客観的に観察している人間がいるなら。
そんな存在がいるとしたら、その人間には一方の歩んできた道が分かっているだろう。
一方通行がどんな気持ちで、どれほどの覚悟で打ち止めを救ったか。
どれだけのものを懸けて妹達を守ろうとしているかも。

だが当事者はそんな存在にはなれない。
人はいつだって主観の世界に生きている。
自分以外の人間がどこで何をしているかなんて分かるはずがないし、その心情も読み取れるわけもない。
それこそ食蜂操祈のような力を持つ人間でない限りは。

だからこそ、物事を真に客観視するというのはたとえ大人であっても難しい。
ましてやそれをまだ中学生に過ぎない美琴に求めるのはあまりにも残酷だろう。
いや、そもそもの話。御坂美琴に一方通行の事情を汲み取らなければならない義務などあるのだろうか。
一方通行がどんな思いで何をしていようと彼が美琴の妹を殺した事実は決して変わらない。
妹を殺された姉に、その妹を殺した人間の心情を汲み取れと言う方が無理がある。

御坂美琴は御坂妹や打ち止めの思っていたほど素晴らしい人間ではない。
天使でもなければ聖人君子でもない。ましてや神なんかでもない。
他人より少々優しいだけの、中学生だ。

だから、美琴は一方通行や打ち止めの事情など下手に汲み取ろうとするべきではなかったのかもしれない。
ただ一方通行に対して憤怒を露にする方が主観に生きる人間らしく、中学生らしかっただろう。
だが御坂美琴は優しかった。そしてこういったところだけは下手に大人びてしまっていた。
だからこそ美琴は年相応にわめき散らすことも出来ず、ただただ自分を殺すしかなかった。




そして、異変があった。





美琴の内面の話だけではない。誰が見ても一目で分かる変化が訪れる。
ズガガガァンッ!! と耳を劈く轟音と共に網膜を焼き尽くすような閃光が迸った。
御坂美琴に落雷が落ちたのか、御坂美琴から天を穿つ光の槍が空へと放たれたのか。
全身に青白い光を纏った美琴からは近寄りがたい威容があった。
続けてゴァッ!! と美琴を中心に雷撃が荒れ狂う。
ただ無造作に、全方位に。

それは普段決して放つことないほどの超威力。
人間一人を消し炭にしてなお有り余る力。

だから、美琴は一方通行や打ち止めの事情など下手に汲み取ろうとするべきではなかったのかもしれない。
ただ一方通行に対して憤怒を露にする方が主観に生きる人間らしく、中学生らしかっただろう。
だが御坂美琴は優しかった。そしてこういったところだけは下手に大人びてしまっていた。
だからこそ美琴は年相応にわめき散らすことも出来ず、ただただ自分を殺すしかなかった。




そして、異変があった。





美琴の内面の話だけではない。誰が見ても一目で分かる変化が訪れる。
ズガガガァンッ!! と耳を劈く轟音と共に網膜を焼き尽くすような閃光が迸った。
御坂美琴に落雷が落ちたのか、御坂美琴から天を穿つ光の槍が空へと放たれたのか。
全身に青白い光を纏った美琴からは近寄りがたい威容があった。
続けてゴァッ!! と美琴を中心に雷撃と光が荒れ狂う。
ただ無造作に、全方位に。

それは普段決して放つことないほどの超威力。
人間一人を消し炭にしてなお有り余る力。

美琴を中心に、電撃が炸裂する。
制御も何もない、ただただ純粋に放たれるだけの一〇億ボルトを優に超える電撃。
それらは美琴の周囲にあったものを悉く焼き払い、尚止まらない。
舞い上がった埃や葉がそれに触れた途端に灰燼と帰した。
空気は悲鳴をあげ、その圧倒的な力で以って己が存在を主張する。

変化はそれだけには留まらなかった。
辺りにあるブランコなどの巨大な遊具が地面から引き抜かれる。
まるで磁力で強引に引き抜かれたように。
捨てられた空き缶などの金属も宙に浮き上がり、めちゃくちゃに暴れ始めた。
それどころではない。公園の近くにあった使われていないビルさえも揺れる。
ビル一つを丸ごと磁力で引き抜かんとしているのだ。

御坂美琴から放たれる電撃も限界を超えて激しさを増していく。
そして、変化はまだ続く。
学園都市全域を、突如地震が襲った。
最初は震度二ほどしかなかったが、急速に揺れは大きくなっていった。
更に天は黒雲に覆われ、太陽からの光を完全に遮断する。

学園都市が深夜のように闇に包まれた。
もはやこの公園にある遊具は全て破壊され、その大量の部品は磁力で激しく暴走。
そして学園都市全域を地震が襲っている。

それは、世界の終わりさえ思わせる光景だった。
実際、学園都市の住人の何割かは世界の終わりだと考えたことだろう。
突如として空が漆黒に染まり、同時に大地震が発生すればそれは当然とも言えた。
地震はどんどん大きくなっていく。
今は震度五程度だが、このまま放置すればすぐに震度七にも達するだろう。
更に黒雲から雷が落ちる。稲光が激しく瞬いて闇を照らし、存在を主張していた。

まるで神の怒りを代弁しているかのように、雷鳴を轟かせながら巨大な雷が大量に発生する。
全てを無に帰す破壊の嵐。
これほどの災害という渦の中心にいるのは、たった一人の哀れな少女。
数日前まで普通に笑えていたはずの少女。
自身の力を抑える術を持たず破壊を撒き散らしている少女。
美琴は何かを求めるように絶叫しながらその力を際限なく炸裂させていく。

「――――――、」

鳴り響く雷鳴も、怒れる落雷も、染められた黒天も、迸る閃光も、全てを突き崩すような地震も。


その全てが御坂美琴の心を映していた。


何もかもを見失い、膝を折った一人の少女の嘆きであり悲しみであり慟哭であり怒りであり虚無だった。


この光景を少しばかりの学のある者が見れば、皆一様にこう言うだろう。
心理的に不安定になった能力者が、能力を無意識的に暴走させる現象。
更に今回に限って言えば、学園都市に七人しかいない超能力者の引き起こした大災害クラスのそれ。













―――通称乱雑解放(ポルターガイスト)。能力の暴走、RSPK症候群、と。












投下終了

ここは一番書きたいところの一つでした
いやー、にしてもなんつー量投下してんだ
一回の投下で46レス、37kbとか……

多すぎて読むのだるいんだよカスとか思った方はすみませんでした

    次回予告




「――――――けてよ」
学園都市・心の折れたただの中学生―――御坂美琴

>>717はたぶん俺ら読者に対しても訴えかけてるんだろうね
俺らは神の目線で見てるから一方通行に対しての理解はある程度あるけど、客観的にみたらこれほどひどいキャラもいないもんな
本当はやりたくなかった()、残虐に殺したのは死にたくないと言わせたかったため()、不幸な過去()とか作中キャラからみれば「はぁ?」としかいいようがない屁理屈にしか見えないし
ましてや美琴の立場からすればなおさら

>>739
本当はやりたくなかった→止めに入った上条と美琴、それを助けようとする御坂妹を殺してでも押し通そうとしたのは・・・
残虐に殺したのは死にたくないと言わせたかったため→猟犬部隊の時は純粋に虐殺を楽しんでたようですが・・・
不幸な過去→不幸な過去を持っても頑張ってる他キャラから見れば言い訳でしょ・・・
一方通行の場合、主観・客観の問題かなぁ・・・神の視点で見てるからこそツッコミ所満載なんだが

>>1は受験生なんでしょ?
26日までは書けなくても仕方ないだろ
むしろ今までが驚異的だった

すいません>>1です生きてます

すっかり遅くなってしまって申し訳ないです
近いうちに投下できると思いますのでとりあえず生存報告ということで

     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i~^~^~^~^~^~^~

そ し て こ の ト リ 忘 れ で あ る
>>791でトリをつけ忘れていることに気付き改めて生存報告させていただきます
投下は数日中にできるよう前向きに検討したいと思います

しかしエンデュミオンの奇蹟は良かったですね
最後は尻切れトンボな感じはありましたがバトルとかヌルヌル動いて感動しましたよ……
美琴も思ったより活躍しましたしね、ただ一つ、製作スタッフにステイル好きがいるに違いない
神裂さんのアレは、特に帰っていくところは高度なギャグ
そして言わせて貰おう、あわきんもむぎのんもみさきちもみんな譲ろう、だが美琴とアリサだけは決して譲らないとッ!!
ただし上条さんには譲る

アンサンブルの方は個人的には微妙でしたね
魔術表以外はかまちーが書いていないせいですかね
何故あんなに既存キャラの扱いが悪いんだ……

皆さんがレスしてくれるのは非常に嬉しいしモチベも段違いなんですけど、できればSSと全く関係のないagesage闘争はご遠慮下さい
無用な言い争いをさけるためにもsage進行でお願いします

>>739,>>744
一方通行は大好きなキャラなんですが、実験に関してだけは擁護できないと個人的には思っています
でもあの実験があったからこそ、今の魅力的な一方通行があると思うわけですよ

>>768
実は10月ごろから書き溜めが一文字も進んでいなかったのは内緒である
ずっと書き溜めを崩し続けてきていました

>>800
お待たせしてすみません……もう少し時間をば

あ、そういえばアンサンブル科学裏は普通に良かったよ!
良い話だったよ! 最後のビンタして泣いて説教する佐天さんがね、もうね、やばかったのよ……
不覚にも泣きそうになってしまったよ……

久しぶりに投下しますぜ

世界の終わり?
―――少女の終わり。










「白井さーん。はい、これも追加でお願いします」

「げぇっ」

風紀委員第一七七支部。
そこに三人の少女がいた。白井黒子、初春飾利、固法美偉。
淑女らしからぬ声をあげた白井の眼前に、ドサッと初春の手によって何らかの書類が置かれた。
先ほどからこうした多くの書類と格闘し続けている白井なのだが、これが中々に捗らない。
とはいえこれも風紀委員の仕事に違いないので投げ出すことも出来ずにいた。
白井は力なくテーブルに突っ伏し、いかにも弱った声で文句を垂れる。

「うぅ……処理しても処理しても全然減りませんの……。
こんな世界は間違っていますわ。どうしてこんなことに……」

「自業自得じゃないですか? でも大丈夫ですよ、苦労するのは白井さんだけですから」

そう言ってにこりと笑う同僚の姿に、白井は書類をその顔に投げつけてやりたくなる衝動を覚えた。
初春飾利という少女はこういうことを平気で言うことがある。
何とかその衝動を抑えた白井は、しかし溜まったそれを発散させるべく立ち上がりずかずかと大股で初春へと迫る。
荒々しく息巻く白井がいつものように頭をぐりぐりしてやろうか、それとも花飾りを空間移動させてくれようかと考えていると、

「白井さん? 自分の仕事は終わったのカナ?」

上司にあたる固法美偉からの、言い知れぬ重圧が襲ってきた。

「いっ、いえ、その、これからやる予定と言いましょうか……」

「はい着席。勝手に席を立たないこと。いい?」

「……はいですのー」

固法にあっさりと抑えられ、泣く泣く椅子に座りなおして再度書類と格闘する白井。
いつまで経っても固法には頭があがりそうにないな、と思う。
白井のトレードマークとも言えるツインテールも、こころなしかいつも以上に垂れているように見えた。
チラッと初春に目線を流してみればそこにはやはり変わらずにこにこ笑う初春の姿。
固法の陰に隠れてまんまと難を逃れた同僚にせめて何か言ってやろうと口を開きかけた、その時だった。

「……地震?」

固法美偉の一言。
その言葉に白井も初春も各々の作業を一時中断し支部内に目を走らせる。

「本当ですね。とは言ってもかなり小さい地震ですけど」

初春がテーブルの上に置かれているコーヒーを見て言った。
その水面は小刻みに揺れ、カップの中に僅かな波を刻んでいる。
初春の言う通り、本当に小さい地震だ。この程度なら少し動いていれば気付かないだろう。
そう思って白井が何事か言おうと口を開きかけた時、何かに下から突き上げられ白井は僅かに身を揺らした。

それが何かなど確認するにも及ばない。
今まさに地震が起こっているのだから。だが少し、その揺れが強くなっていたような気がした。
咄嗟に机の上にあるコーヒーカップを確認する。
その水面の揺れはより大きく、机とカップがぶつかりカタカタと独特の音をたてていた。

「……待って。これは―――」

その固法の言葉は、ドン!! と先ほどとは比べ物にならない強さで下から突き上げられることで阻害された。
白井には一瞬自分の体が浮いたようにさえ感じられた。
揺れが唐突に激しくなり、建物がミシリと嫌な音をたてる。
机上のカップがあっさりと倒れコーヒーが机を伝い床にまで零れるが、一人としてそれに意識を向ける者はいなかった。


「ひゃ、きゃあぁぁぁあぁぁあぁぁ!!」

初春が思わず悲鳴をあげた。
あまりに激しい揺れに椅子に座っていることさえ困難になり、白井は弾かれたように勢いよく立ち上がった。
まず状況の確認。大地震の際一番気を付けるべきは上からの落下物である。
デスクに並べられている書類が倒れ、更に資料を並べている棚が倒れそうになっているのを見て叫ぶ。

「ッ!! 初春!! 固法先輩!! 落下物に注意を―――!!」

だが遅い。
白井黒子の、精々一〇年ちょっとではあるが、その人生で経験したことのない規模の大地震だ。
その揺れにより棚がバランスを崩して倒れこむ。そしてその先には、縮こまって動けなくなっている初春飾利、の頭。
棚の大きさからしても死ぬことはないだろうが、大きな怪我を負う可能性は十分にある。
頭、というより脳は複雑で繊細だ。打ち方や運が悪ければ弱い衝撃で重大な結果を招くこともあり得る。

チッ、と思わず舌打ちをして白井はその場を駆け出した。
もともとがそう広くない一室だ、それこそ数歩で初春のところまで辿り着ける。
空間移動は―――もはや走った方が速いだろう。
それにあらゆる物が倒れ散らかっている現状では埋め込みが起きる可能性すらある。
だからこそ白井は激しい揺れによりもつれそうになる己のその両足をただひたすらに動かした。

だが、間に合わない。
どれだけ急いでも、あとほんの僅かが届かない。
やはり空間移動は間に合わない。もともと演算式の複雑な能力なのだ。
こういった一秒単位が争われる状況ではその使用はむしろ悪手にさえなり得る。

「初春ぅぅぅぅぅ!!」

だから白井はただ親友の名を叫ぶことしか出来なかった。
届かないものを掴もうと伸ばされた手はやはり届かない。
そして、ガシャァン!! という棚が倒れた音が響いた。
白井は息を呑み、その現実を拒絶するように思わず目を瞑った。

「……せ、んぱい?」

初春の気の抜けたような声。
棚に頭を殴られたはずの初春が怪我を感じさせない調子の声を発したことに疑問を抱き、白井はゆっくりとその目を開いた。
視界に飛び込んできたのは、覆いかぶさるようにして初春を庇っている固法美偉の姿。

「固法先輩!?」

「……ッたた……。大丈夫? 初春さん。白井さんも」

白井が半ば狂乱気味に叫ぶと、固法はいつもと変わらずにっこりと笑ってみせた。
どうやら肩で棚を受け止めるようにして庇ったらしく、肩を痛めた程度で済んでいるようだ。
しかしそれでも固法が危険な目に遭ったことに変わりはない。
初春ははっと我に返り、瞳に涙を湛えて叫んだ。

「ご……ごめんなさいごめんなさい、固法先輩!! わたっ、私のせいで……!!」

変わらず続いている地震を無視して、固法は初春の頭を撫でた。
慈愛に満ちたような微笑みを浮かべ、

「大丈夫よ。ちょっと肩を打っただけ。それに」

「初春。こういう時は謝るよりも先に言うことがあるんじゃなくて?」

「あ……。あの、ありがとうございます、固法先輩」

「どういたしまし……て……っ!?」

突然言葉に詰まった固法に、怪訝な目を向ける白井と初春。
固法の視線は窓の外に固定されいていて、その目は死者でも見たかのように大きく見開かれていた。
二人がその視線を追って窓の外に目を向けた時、白井は突き刺すような悪寒が全身を駆け抜けたのを感じた。
ドッと汗が流れたようにさえ感じられる。

初春もやはり瞠目していて、信じられないといったような表情を浮かべていた。
それほどに、三人の風紀委員の眼前に広がっている光景は異常だった。

「何て、こと……」

黒だった。
空が真っ黒に染まっていて、太陽からの暖かな光の一切が遮断されていた。
当然今は深夜などではない。いくら冬が間近とはいえ、まだ暗くなるには早い。
だというのに、外は明らかに深夜の光景だった。

「どういう、ことなんですか、これは……!?」

それだけではない。
雷が轟いている。触れてはならぬ神の逆鱗に触れてしまったかのように、耳を塞がずにはいられないほどの轟音をたてている。
空を覆い尽くす黒雲からそれが現れる度、圧倒的な閃光と音圧を伴って闇を裂く。
白井はあまりの轟音に鼓膜が破れたような気さえした。

「何なん、ですの、一体、これは、何が……!?」

何だ。何なんだ、これは。
一体何がどうなればこんな異常事態が起こり得る。
これほどの地震が発生したというだけで問題だというのに、これはどうしたことだ。

もはや言葉も出て来なかった。
ただ、白井の脳裏をありきたりで、陳腐な言い回しになるが―――世界の終わり、という言葉がよぎった。

そしてそれはこの状況を表すには的確な表現かもしれない。
先ほどから変わらず揺れている地面などもはや意識の外。
白井の、そして初春の、固法の視線は外に向いている。
ただし。彼女らの注意を一番に引いているのは、黒雲に覆われた空でも恐ろしいほどの雷でもなかった。

光の柱が立ち昇っていた。
ある一点から、地上と天上を繋ぐ架け橋のような光が天へと伸びて、あるいは天から降りていた。
異常だった。地震よりも、空よりも、何よりも異常だった。
あの柱が一体何なのか想像することさえ出来ない。
まるで神話の一ページ。
ただ一つ彼女たちが理解出来たのは、現在この学園都市で途轍もないことが起きているということだけだった。










「――――――!」

誰かの助けになりたいと思った少女がいた。

筋ジストロフィー。
筋線維の破壊・変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく病で、未だ治療法は確立されていない。
そんな恐ろしい病に苦しむ人が、世界には大勢いる。
その人たちが何かしたわけではない。病気というものは善人にも悪人にも平等に降りかかる。

そして、少女はそれを治療する鍵になり得る。
ある研究者からそう告げられた。
嬉しかった。自分の力で誰かを救えると思うと、学園都市に来て良かったと思えた。
誇りだった。人を救うことの出来るこの力が。
誰にもそれを否定させはしないと、当時まだ本当に幼かった少女は胸を張った。

「――――――!!」

これで、筋ジストロフィーの研究が進む。
いずれは根本的な治療法が確立し、その病は不治のものではなくなる。
自分の力がその一端となり多くの人が救われる。

そう、信じていた。

なのに。

故に少女は絶望する。怒って嘆いて自身を壊す。










「こ、これは一体何が起きているのでしょう……!?」

「こん、な、こと……」

学園都市第七学区、通称学舎の園と呼ばれるお嬢様区域にある喫茶店。
その場所や客に合わせて高級感漂う作りになっており、用意されている料理も相応のものとなっている。
そんな場所に三人の少女がいた。

湾内絹保、泡浮万彬、婚后光子。
名門常盤台中学に通う一年生で、学校終わりに二年の婚后を誘ってこの店に立ち寄っていた。
別に大した理由があったわけではない。
何となく立ち寄った、ただそれだけだった。

そしてそこで三人は見た。感じた。
突然の大きな揺れ。染まる空。煌く稲光。鳴り響く雷鳴。立ち昇る光の柱。
何もかもが異常で、常識外だった。
能力なんてものが開発されている学園都市にあってもおかしかった。

「お、お、落ち着きなさいなお二人とも。こっ、この婚后光子が―――」

そこで婚后の言葉は途切れる。
店内は完全にパニックに陥っていた。
悲鳴が止まらない。
逃げ惑う者もいれば、テーブルの下に身を潜めている者もいる。
厨房にあったものだろうか、皿が割れる音が先ほどから連続して聞こえている。
これほどの地震だ。皿など簡単に落ちてしまうに決まっている。

婚后光子は見栄を張りがちな少女だ。
それは家柄からか、幼少期からの環境からか、大能力者であることからか、常盤台生であることからか。
いずれにせよ婚后はそういう人間であり、それはまたこの時も同様だった。
だが流石の婚后もこれほどの異常事態を前にどうすればいいのか、何を言えばいいのか分からなくなっていた。

婚后は超能力者でもなければ、暗部にいるわけでもない。特別な訓練を受けたわけでもない。
この状況で平然としていられるはずがなかった。
それでも慌てふためく二人の後輩の姿を見て、婚后は一つ深呼吸をして動く。
それは先輩としての意地なのかもしれなかった。

「落ち着きなさい! 皆さん落下物にご注意を!! 決してテーブルの下から出ないように!!
泡浮さん、貴女の能力をお借りしてもよろしくて?」

その言葉に泡浮は一瞬何を言われたのか分からないといった表情を浮かべたが、すぐに力強く頷いた。
流体反発。浮力を自在に操るその力により落下物による被害を食い止める。

止まらない地震に足をもつれさせながら、湾内が不安そうに呟いた。

「しかし、これは……本当に何が起きているのでしょうか……!?」

「残念ですが、わたくしにも分かりかねます。こんなもの、見たことも聞いたことも……!!」

鼓膜が破れるのではというほどに唸る落雷に、黒い空。そして大地震。
婚后光子、湾内絹保、泡浮万彬の三人は世界の終わり、という鼻で笑えるようなことを本気で考えざるを得なかった。










「―――――――――!!!!」

妹想いの少女がいた。

妹達。とある実験のためだけに生み出され、生まれた時から死ぬことが決定されていた少女たち。
結果的に彼女たちは救われた。無能力者の少年と、超能力者の少女によって。
機械的に、淡々と妹達を殺していた殺人鬼は打倒され全ては終わった、はずだった。

しかしその悪魔はいかなる因果か再び少女の前に現れた。
少女は己の手で今度こそこの悪夢を終わらせることを選択する。
自分という人間を作り変え、人殺しの決意を固めたその時。
事態は急変した。

妹達。悪魔に一万回以上殺されてきた妹たちの一人が、悪魔に好意を持ってしまっていた。
そして散々楽しそうに少女たちを殺してきた殺人鬼は、その少女たちの命を幾度か救っていた。
悪魔は、悪魔でなくなってしまっていた。

「――――――――――――!!!!!!」

どうすればいい? 赦すか赦さないか。殺すか殺さないか。
殺された一万人の妹たちか生きている一万人の妹たちか。
そして自分のこのやり場のない黒い衝動はどこに流れればいい?
妹への愛情。殺人鬼への憎悪と殺意。自らへの自罰の意識。
あらゆる要素がめちゃくちゃに絡み合い、一つの形を成すことなく崩壊する。

自分が魔道に落ちて殺人鬼を殺せばそれで終わりだと、そう信じていた。

故に少女は狂う。天を染まらせ大地を揺るがせ、崩れて壊れてゼロへと帰る。










「―――おい。これは一体何なんだよ。何が起きてるっていうんだ!?」

第七学区、とある学生寮。
そこに暮らしている少年、上条当麻はこの異常な光景に瞠目していた。
上条はこれまで何度も何度もまともではない事態に遭遇してきた。
魔術、科学問わずに死にそうな目にだって何度か遭った。
だが、それでもこれは。

上条は覚えていないが、インデックスが自動書記(ヨハネのペン)として起動した時。
あの時は竜王の殺息(ドラゴンブレス)なんてとんでもないものが容赦なく放たれたが、こんな風に全てを壊すような雷の嵐が襲ってくることはなかった。

学園都市最強の超能力者である一方通行が高電離気体(プラズマ)を生成した時。
暴風が吹き荒れ、光が視界を焼き尽くした。
だがこんな風に空の色が変わるなんてことは起こらなかった。

上条刀夜によって御使堕し(エンゼルフォール)が発動した時。
神の力(ガブリエル)の入ったミーシャ=クロイツェフが『一掃』を発動した。
今と同じく夜になったように空が暗くなり、巨大な魔方陣が空に展開された。
だがこんな風に大地震が発生することはなかった。

今まで経験したことのない事態。
今学園都市を襲っているのは一体どんな大魔術なのだろうか。

前方のヴェント、後方のアックア。
ローマ正教最暗部、『神の右席』に属する者たち。
この二人が学園都市を襲った時―――特に前方のヴェントの時は大混乱に陥った。
つまり今学園都市に起きているのは神の右席クラスの大災害である可能性が高い。
そして魔術のことならば、誰よりも詳しい人間がすぐそばにいる。

「インデックス!! 何が起きてんだ!? 一体どんな魔術か分かるか!?」

インデックス。禁書目録。Index-Librorum-Prohibitorum。
一〇万三〇〇〇冊もの魔道書を一身に引き受け一言一句違わず記憶している、生きる魔道書図書館。
その性質上彼女は世界の魔術のほぼ全てを隅々まで知り尽くしている。
よってインデックスにかかれば、今発動している大魔術だって成り立ちから術式の構造まで全て丸裸にされる、はずだった。

「―――知らない。こんな魔術、……私は知らない!!」

インデックスは地震を無視して、食い入るように窓の外を見つめている。
空は黒く、雷が荒れ狂い、正体不明の光の柱が立ち昇っている。
それらを観察した上でインデックスは「知らない」と言ったのだ。

「知ら、ない、だって?」

思わず掠れた声が漏れる。
インデックスの一〇万三〇〇〇冊は膨大な知識を与えてくれる。
あらゆる魔術を知り尽くす魔道書図書館を以ってして分からないというのは異常だ。

魔道書図書館の真に素晴らしきはその知識ではなく解析力と応用力にこそある、と上条当麻は考えている。
今までもインデックスでも初見では見破れない魔術はあった。
たとえば先ほどあげた前方のヴェント。
神の右席でも前方と神の火(ウリエル)を司るヴェントの振るった術式は天罰術式。
神に唾する者を許さないその魔術は一〇万三〇〇〇冊には記載されていなかった。

だがそれでもインデックスは術式を解析し、既存の知識を分解し組み直し応用してその正体を明らかにしてみせた。
もともと頭の回転は速い方なのだろう、その程度のことはあっさりやってのける。
だから、たとえ今発動している大魔術が未知のものだったとしても、彼女ならその正体を逆算して暴き出せるはずなのだ。
完全には分からなかったとしても全く分からないなどあり得ない。

しかし、インデックスは。
こんな魔術は全く知らないという。

「何……? 何なのこれは……!? こんな超大規模魔術……!!
雷、地震……北欧神話―――トール、ロキ……ううん、違う。
ならポセイドン……魔術的な意味を抽出して……違う、違う、違う!!
何もかも全然違うんだよ!! 全くの的外れ!! だったらこれは何!? いや、そもそも―――」

インデックスは、もはや悲鳴をあげるように叫んだ。

「―――そもそもこの空にも、雷にも、地震にも!!
魔術的要素も、魔術的意味も、魔術的記号も!! 何一つ存在しないんだよ!!」

「どういう、ことだ?」

魔術的なものが一切ない魔術?
そんなものがあり得るのだろうか。
だって、魔術的なものが存在しないのならそれはもはや。

「こんなものは―――魔術じゃない!!」

インデックスの分析が正しいなら、そういうことになるだろう。
どんな魔術だってそれが魔術であるなら必ずインデックスは尻尾を掴む。
ただし、それがそもそも魔術ではないのなら。
一〇万三〇〇〇冊も、それを使った分析も応用も何の役にも立ちはしない。
そして魔術ではないというのなら、可能性は一つ。
それは、

「なら―――『科学』か!!」

そもそも何故魔術と決め付けてしまっていたのだろうか。
魔術サイドの事件に巻き込まれてばかりだからなのだろうが、世界には魔術の他に科学というもう一つの馴染みのある法則が存在する。
それにここは科学の総本山である学園都市で、上条は科学サイドに位置する人間だ。
もっと早くその可能性に気付くべきだったのかもしれない。

しかし科学とは言ってもこんな事態を引き起こしているものの正体まで分かったわけではない。
魔術のことならインデックスがいる。こと魔術に関しては彼女以上のアドバイザーは存在しないだろう。
だがそれが科学となると全く彼女は当てに出来ない。
悪意のある言い方になるが、魔術脳であるインデックスはその領分においてのみの万能だ。

だが上条自身も科学サイドの人間であるとはいえ、それほど科学に精通しているわけではない。
起きている現象からその原因を辿るなんて高等技術は持ち合わせていない。
それでも考えてみる。他に方法は思いつかなかった。

学園都市、ひいては科学サイドの軍事力は兵器に拠っている。
この学園都市では能力者、なんてものまで存在しているが彼らは戦力にはカウントされない。
たとえそれが単騎で軍隊と伍する超能力者であっても、だ。
事実、特殊な右手を持つ右方のフィアンマが世界を救うために始めた第三次世界大戦においても、学生たちが戦力として動員されることはなかった。
科学力が群を抜いているこの学園都市では、特に兵器の発展が著しい。
世界大戦中も超音速爆撃機、地殻破断(アースブレード)といった馬鹿げてるとしか言い様のない兵器群が大国ロシアを一方的に蹂躙した。

だが如何なる兵器を以ってしても、こんな異常事態を引き起こせるとは上条には思えなかった。
そうなると能力者。しかもこれだけの現象を起こせるとなるとおそらく大能力者では足りない。
超能力者でもないと出来ないだろう。

(つっても一体どんな能力なんだよ!?
天候操作? いや、それだとこの地震に説明がつかないか)

先ほどから強い地震のせいで建物全体がミシ、という音をたてている。
いくらなんでも倒壊することはないだろうが、かなり大きい地震だ。
天候操作なんて能力者がいたとしてこんなものまで起こせるとは考えにくい。

(それにあの柱だ)

地上と天上を繋ぐ光の階。
それはかつて存在した宇宙エレベーター、エンデュミオンを思い出させる。
神秘的とも言えるその光景は、しかし異常以外の何物でもない。
神降ろしの儀式と言われたら納得してしまうような状況だった。

一体どんな能力をどんな風に使えばあんなものが出来るのだろうか。
あるいは美琴のような優秀な超能力者なら分かるのかもしれないが―――。

(そうだ!! 御坂!!)

きっと美琴なら何か読み取れるだろう。
美琴は学園都市第三位、即ち世界最高峰の頭脳の持ち主だ。
少なくとも自分のような補習ばかり受けているような無能力者よりは当てに出来るに決まっている。
上条は即座に携帯を開き、アドレス帳から美琴を探し出して電話をかける。
トゥルルル、というコール音が鳴る、ことはなかった。

おかしなノイズが走っていてそもそも繋がりすらしない。
その事実が上条の焦燥を掻き立てた。

(もしかして御坂に何かあったんじゃ……!?)

御坂美琴という少女はどこか危なっかしいところがある。
凛とした瞳、強固な意志、堂々とした立ち振る舞い、揺るがない信念。
それらを持っていながらも同時に弱さも持っている。
何でも一人で抱え込んでしまう、というのもその一つだ。
あの『実験』の時などは自らを責めすぎるあまり自殺なんて本気で考えていたくらいだ。

何となく放っておけない少女だった。
いつもは自分に絡んできて、いつだって強気で電撃を撃ってくるくせに。
ちょっと油断するとその陰で身や心を削っていたりする。

それが単純に友人を心配する気持ちなのか、それとももしかしたら本人も気付いていない、心の奥底では御坂美琴に恋心を抱いているからかもしれない。
それは上条当麻自身にも分からない。
そもそも酷く鈍感な上条は、仮に後者だったとしてもその気持ちに気付くこともないだろう。


ただ上条が美琴に、美琴が上条にどんな意味合いであれ興味を覚えるのは。
おそらく二人が似た者同士だからだ。同じ眼をしているからだ。

揺るがない信念に、誰かの助けになろうとする心。
正義であろうとするのではなく、自分の正しいと思ったことに尽力する主義。
そして何でもかんでも一人で背負い込もうとする考え方。
他人には自分を頼ってほしいと言うくせに、自分のこととなると自分だけで解決しようとしてしまう傾向。
上条当麻と御坂美琴は本当に似た者同士だ。

だから、もしかしたら今この瞬間も御坂美琴は一人苦しんでいるのかもしれない。
この異常事態を解決しようと一人奔走しているのかもしれないし、犯人と一人対峙しているのかもしれない。

(御坂。お前は今どこで何をしてるんだよ……!!)










「――――――――――――!!!!!!」

天上と地上を繋ぐ光のエレベーター。
その発生地点。そこに少女は―――御坂美琴はいた。
苦しい。泣き叫びたい。全てを投げ出して楽になってしまいたい。
だが、そんなことは。ああ、でももう限界を超えている。
こんなにも世界は絶望に満ちている。もういいじゃないか。
自分はよく頑張った。ここで投げ出したって誰も文句は言うまい。
文句を言われる筋もない。そうだ、全てを放り投げろ。諦めろ。そうすれば解放される。

そんなことは分かっている。
たしかに投げ出せばこの苦しみからは逃れられるかもしれない。
それでもやはりそんなことは出来ない。馬鹿な女だと笑えばいい。
何がどうあっても彼女たちだけは。
ああ、だがせめて。せめて、これくらいは言わせてほしい。
誰に向けるわけでもない、ただの独り言だから。

大切な妹たちを、守りたかった。
これからも笑って過ごしてほしかった。
ただ、それだけだった。

「―――――――――て」

美琴が、言葉を紡いだ。
意識は薄れ視界も揺らいでいてほとんど何も視認できない。
唇を動かすという単純極まる動作でさえ簡単にはいかない。
それでももうほとんど無意識のうちに、美琴はその言葉を口にしていた。
吐き出さずには、いられなかったのかもしれない。

「――――――――――――……けてよ」

懇願するような、弱弱しい声。
このままでは学園都市全域に甚大な被害が出る。
先ほどからずっと地震が続いているせいか、風紀委員や警備員の姿も見えない。
あたりに響き渡る悲鳴。逃げ惑う人々。
絶望的な状況だった。このまま学園都市を一人の少女の闇が飲み込むのかと思われた。

だがその時、御坂美琴の前に一人の男が現れた。
それが誰かは美琴には分からなかった。もはや人の顔を識別できるほど意識は残っていない。
その男は暴走している美琴を見て、驚愕の色を浮かべた。

「―――テ、メェ……!! 何してやがる!?」

意識が完全に絶たれる瞬間、純白の輝きを視界に捉えた、ような気がした。
御坂美琴はそれを見て、綺麗だ、と思った。
それが美琴の最後の思考だった。

投下終了

メイン()が470レスぶりに登場
謎の男は一体どんなイケメルヘンなのか……?

そろそろ美琴・一方通行問題も終わりが見えてきました
次スレに食い込むか微妙なところだ……

    次回予告




「じゃあこの滑稽な悲劇の終幕を教えてやるよ。
―――優しい優しいお姫様は最後には耐えられなくなって、狂乱して大切なものみんな壊してしまいました、だ」
『スクール』のリーダー・学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「…………ッ!! 私は―――!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴


乙ですよぅ
イケメルヘン…一体何者なんだ
そう言えばタイトルに出てるのに消息不明になった殿方がいらっしゃいましたが…
カキなんとかさんだったでしょうか
カキ…柿原徹也?柿島伸次?柿本人麻呂?
いやカキの字が違う気がするな
かき…かき…かきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききく
くくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかかーーーッ!


しかしこんだけの現象を起こす程の出力があっても、
単純な強弱だけじゃ第一位・第二位には届かないんだろうなーってこと考えると本当にあいつらチートだな

乙!
スレタイと対になってるんだな、今回の話

>>847
神裂さんは強いよな。でもすぐに翼出そうになる一方さんと新生工場長を見てると「……うん」って気分になる

みこっちゃん原作を超える出力を放出しおった

どんなに出力上がっても電気には変わりないからイケメルヘンがなんとかしてくれるさ

エンデュミオンの奇蹟の特典フィルムで全裸のアリサを手に入れた>>1は間違いなく勝ち組
ところで劇場版超電磁砲はまだですか?

>>842
オーケェ、まずは落ち着こうぜセロリ

>>843,>>848
あの二人は何ていうかもう駄目だよ
二人とも魔術サイド入れても相当上位層だし……白翼とか魔人ブウとか

>>844
ほんのちょっとだけ意識してたりします

>>849,>>850
ミコっちゃんは今暴走してるから……
もしミコっちゃんがこの力を制御して垣根と戦ったらていとくんも流石にちょっと危ないかもしれません
美琴は普通に聖人に食らいつけますからね
でもきっと最後にはメルヘンパワー全開で何とかしてくれるよ

希望を胸に。










「う……ん?」

「目ェ覚めたか」

完全には覚醒していない意識の中で、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
寝起きのような気だるさの残る体を動かして確認してみると、それは垣根帝督だった。
何故垣根がいるのか全く分からない。
そもそも自分はあの公園にいたはずだ。
いつの間にこんなところに移動したのだろうか。
状況を見るに垣根が運んだのは間違いないとは思うのだが。

「……垣根? 何があったの……?」

「覚えてねえのか?」

「うん……途中から。でも……」

それでも想像は出来る。
あの時、美琴は酷く不安定だった。
そして能力が暴走したような感覚も僅かながら残っている。
つまり、それは。

「RSPK症候群。一つ聞くが……お前、学園都市を滅ぼすつもりだったのかよ」

「…………」

美琴は答えない。答えられない。
すると突然自分の体が大きく揺さぶられ、鉄橋の落下防止用の鉄柵に背中から叩きつけられた。
ガシャ!! という金属音と共に背中に小さな痛みが走る。垣根にやられたのだ、と気付くのに少し時間がかかった。
だがそれが分かっても美琴は抵抗しようとは思わなかった。

目の前にある垣根の顔は、何とも形容し難い様相だった。
垣根は美琴の襟元を掴んだまま、その手に更にグッ、と力を込めた。

「分かってんのか?」

「…………」

やはり美琴は言葉を返せない。
ただ暗い表情のまま、垣根の鋭い視線から逃げるように顔を背けた。

「テメェが何をしたのか、何をしようとしたのか。分かってんのかって聞いてんだよ!!
RSPK症候群だと? 馬鹿かテメェは!? それを超能力者が起こすってのがどういうことか、テメェほどの奴が分からないわけねえだろうがッ!!
今回は何とかなったからいい。だがそれは所詮結果論でしかない。
一歩間違えば、何か一つでもズレていれば本当に学園都市は滅んでいたかもしれねえんだぞ……!!」

美琴の体は小さく震えていた。
それを指先に感じていながら垣根は言葉を止めない。

「テメェに何があったのか俺は知らない。だがな、御坂。
何もかもを一人で背負い込んで、抱えて、苦しんで。それでかっこいいつもりかよ?
ハッ、下らねえ。いいか、よく聞けよクソガキが」

垣根は鋭く射抜くように美琴を見る。
対して美琴はその視線から逃げるように顔を背けたまま。
垣根の一言一言が重かった。

「テメェは悲劇のヒロイン気取ってるつもりかもしれねえがな、他の奴らには大迷惑なんだよ。
全部自分が悪い、全部自分の責任。他人の重荷まで背負い込んじまう。
いい話だな。立派な美談だ。ああ、大いに良しとしようじゃねえか。
じゃあこの滑稽な悲劇の終幕を教えてやるよ。
―――優しい優しいお姫様は最後には耐えられなくなって、狂乱して大切なものみんな壊してしまいました、だ」

「…………ッ!! 私は―――!!」

美琴がついに声をあげた。
拳は固く握り締められ、垣根の言葉に初めて抵抗を見せる。
だが、それも垣根の一睨みですぐに消えてしまった。

「私は、何だよ。何か違げえのか? 言ってみろよ。
……テメェの起こしたRSPK症候群は、テメェの大切なモンをみんなぶち壊すところだったんだぞ。
テメェはあれだけ慕ってくれてる白井を殺したかったのか? 初春飾利や佐天涙子、固法美偉に湾内絹保。あいつらに笑っててほしいんじゃねえのか?
あのクソシスターの命なんて知ったことじゃねえってか? 上条を、死なせたかったのかよッ!?」

「そんなこと、絶対にないッ!!」

大声で即答する。その一点だけは絶対に断言出来る。
白井も、佐天も、初春も。みんなみんなかけがえのない大事な友人たちだ。
そんな友人たちに死んでほしいなんて気持ちは欠片もない。どれだけ僅かにだってあるわけがない。
上条は勿論、目の前にいる垣根だって大切な友人なのだから。

「だってそうだろうがあッ!!!!」

垣根の怒号に美琴は体を震わせた。
垣根は怒っていた。事実はどうあれそれは見方によっては、美琴のためを想っているからこそのようにも見えた。

「理解しろ、御坂!! テメェはその手で全てを殺して壊すところだったんだ!!
馬鹿がッ、ふざけんじゃねえッ!! テメェはそういう奴じゃねえだろうが!!
……耐えられなくなったのはいい。何もかもを一人で背負込みゃそうなって当たり前だ。
じゃあ何でテメェは一人で抱え込んだんだよ? 世界に自分の味方なんていねえとでも思ったのか?
白井たちや上条の存在が、テメェには見えなかったのよ御坂ぁッ!!」

「……巻き込みたく、なかったのよ」

美琴は観念したようにその場に崩れた。
垣根に掴まれている襟だけが美琴の体を支える。

白井も、佐天も、初春も、上条も。自分の起こした問題に巻き込みたくなかった。
自分と妹達の問題であり、自分と一方通行の問題。
そこに他の人間を巻き込ませたくなかった。
たしかに白井や上条は自分が助けを求めれば一も二もなく即座に応じてくれるだろう。
だが、だからこそ。美琴はそれが怖かった。
助けに応えてくれると分かっていたから、頼れなかった。

「その結果そいつらを殺しかけてりゃ世話ねえな。
そいつは自分だけが、なんて思いあがった野郎の台詞だぜ。
―――……だからテメェはクソガキなんだ、クソボケ。
真っ当な人間であるテメェには支えてくれる奴らがいるんだろうが。俺なんかとは違―――ッ、チ」

垣根はそこで不意に言葉を切り、何かを振り払うように頭を振り手を離して続けた。

「……とにかくだ。お前が勝手に抱え込むのは好きにすりゃいい。
お前がどうなろうと俺は知ったこっちゃねえ。
だがRSPK症候群なんて引き起こすんなら何でも背負い込むのはやめろ。迷惑だ。
お前がそんなことしてると困る奴だっているだろ。
俺は家がなくなるのは勘弁だし、コンビニがなくなんのも困る。
コーヒーの一つも買えなくなるだろうが」

垣根の言葉はそこで止まったが、声には出さずその唇が「それにお前の妹も、な」と動いた。
顔を背けている美琴はそれに気付くことはなかった。

RSPK症候群。かつてある子供たちの引き起こしたRSPK症候群を経験したことがあるが、今回はレベルが全く違った。
超能力者の引き起こすそれは、まさに天災。
自分が学園都市とそこに暮らす人たちを壊しかけたという事実に、美琴は歯噛みする。
この街には白井も、佐天も、初春も、婚后も、垣根も、湾内も、上条も、妹達だって住んでいるというのに。
本当に情けないな、と思った。

(本当に、何をやってるんだろう、私)

「まあ、一つ朗報だ。
幸い症候群が起きて割とすぐに止まったから大して被害は出てねえ。
地震も震度五止まりだったらしいぜ?
加えて学園都市は地下街を初めとして耐震性が高いからな。
今のとこ人的被害もあまりねえっぽいしな」

美琴は自分の愚かさを自覚すると、それに続いて喜ばしい感情が内から湧いてくるのを感じた。
それを感じて自然と顔に笑みが浮かんでくる。どうしようもなく嬉しかった。

(垣根は、私を叱ってくれたんだ)

今までこんな風に叱られたことはあまりなかった。
勿論全くないわけではないが、おそらく他の人と比べるとだいぶ少ないだろう。
叱ってくれる人がいるというのは良いことだと美琴は思う。
間違った時に正してくれる。そんな人がいればまた正しい道に戻ってこれる。
だがそんな美琴を見て垣根が、

「何一人で笑ってんだ気持ち悪ぃ。……しっかしガラじゃねえことしちまったな俺も」

「うっさい女の子にそういうこと言うな」

流石に気持ち悪いと正面から言われては傷つくというものだ。
美琴は襟を正しながらふと思いついたように垣根にある質問をした。

「アンタ、どうやって私をここまで運んだの?
私は暴走してたのに……」

二人がいるのは第七学区にある鉄橋だった。
かつて上条と対峙し、一方通行と悪夢の再会を果たした場所。
正直あまり進んでいたいところではなかったが、垣根はそんなことは知らないのだし文句は言えないだろう。
そもそも文句をつけられるような立場でもない。
美琴が派手に破壊した後がところどころに残ってはいるが、だいぶ綺麗になっていた。
原因がどういう扱いになっているのは知らないが、風紀委員や警備員が片付けたのだろう。

「知らねえよ。俺がお前を見つけて、何度も呼びかけてたら突然糸が切れたように倒れたんだよ。
それを俺が運んできただけだ」

その言葉に美琴は違和感を覚えた。
勝手に倒れた? 一体何故なのだろうか。
詳しいことは意識が絶たれかけていたせいで覚えていない。
だが何であれ垣根には感謝しなくてはならないだろう。

あのまま放置されていたらRSPK症候群が収まっていても警備員なり風紀委員なりがやって来ていたはずだ。
取調べされても美琴はどうせ何も言うことは出来ない。
一方通行や妹達のことを話すわけにはいかないからだ。
結果として垣根のおかげでそうした手間は省けたわけだが。

「……そう。本当にありがとう、垣根」

一度暴走という形であれ吐き出したせいか、幾分気持ちはすっきりしていた。
少なくとも、暴走前と比べるとだいぶ落ち着いている。
そこには垣根に言われた言葉も多分に影響していた。
思考もずっとクリアになっている。

「んなことより、だ。俺が聞きてえことは分かってんだろ?」

「…………」

RSPK症候群というものは何の原因もなく突発的に起こるようなものではない。
能力者が精神的心理的に不安定となり、自律を失った際に起こるものだ。
今回の美琴にも当然それは当てはまる。
つまり美琴には極度の精神的心理的なストレスがあるということだ。
症候群を引き起こすほどの。超能力者の強固な自分だけの現実が揺らぐほどの。

話すわけにはいかなかった。
それを話すということは、必然的に学園都市の『闇』についても話すことになる。
一般人である垣根をそちらに引き込むことは出来ない。
だが、同時に隠し通すのも無理があった。
垣根には暴走していた瞬間を見られているし、でっちあげようにもRSPK症候群が起きるほどの理由がすぐに出て来るはずもない。

「ま、あんなことになるくらいだ。無理に聞き出そうとは思わねえさ。
話し辛いってんならそれでいい」

「いや、……アンタは」

ぽつり、と。
美琴は観念したようにうな垂れ、弱弱しい声で小さく話し始めた。

「気を悪くしないで聞いて。ただのたとえ話だから。……そう、たとえ話。
もしアンタに妹が、いや、家族がいて。その人は自分の命より大切な人だったとして。
その人が理不尽に殺されたら……どうする?
ごめんね、こんな縁起でもないこと話して。冗談でも言っちゃいけないことだけど……」

「殺す」

即答だった。

「殺した奴を見つけ出して、殺す。それ以外にあり得ねえ」

美琴は少し驚いた。こんなにもあっさりと殺すと言えるものなのか。
もしかしたら垣根にもそんな人がいるのかもしれない。
あるいはいたのかもしれない。命を賭してでも守りたい人が。
とにかく、垣根の答えは美琴の出した答えと同じだった。
だが、ここからが問題で。

「じゃあ。その人が本当は殺したくなかったとしたら?
その人が改心して、今は無害な人になっていたら?
……自分の家族―――殺されなかった生き残りね―――が、改心したその人を慕っていたら。
アンタは、どうするの?」

「殺したくなかった、ねえ。もしそいつがんなことほざくカスなら最大の苦しみを与えて八つ裂きだな。
たとえそいつが今更生してようと関係ねえな。
そいつが反省すれば殺された奴は帰ってくるのか? 違げえだろ。
人を殺した時点で殺される覚悟も出来てるはずだしな。
そして家族がそいつを慕ってようと、それも関係ねえ。
俺だったら有無を言わさず死刑執行。まあ、これは俺だったらの話だ。
普通の奴だったらその家族とかと腹割って話し合ったりするんじゃねえの?」

その普通は俺には分からんが、と垣根は肩をすくめた。
今の垣根帝督は『スクール』のリーダーとしての垣根帝督に近かった。
普段の彼なら、美琴の前で「殺す」なんて言ったりはしないだろう。
だがそんな物騒な発言を聞いても美琴は全く気にしていなかった。
美琴も垣根と同じく殺すという結論に至っていたからか。
垣根の言った通り、一方通行がたとえ改心して善人になったとしても殺された一万人の妹達は一人として帰っては来ない。

だが垣根の言った「腹を割って話し合う」。
この言葉は胸に響いた。
そう、逃げていないでしっかり話し合うべきなのではないか。
打ち止めと。御坂妹と。
彼女たちの本心を聞いて。自分も溜め込んでいないで本心を吐き出して。

そしてそれから結論を出すべきなのだ。
でなければ、きっと何も解決しない。
彼女たちが話さなかったから、こちらが溜め込みすぎたから、こうなってしまったのだから。

「……そう。分かった。ありがとう、垣根」

「何でもいいけどよ。気を付けろよな。
またRSPK症候群なんて起こされたら俺としてもたまったもんじゃないんでな」

「分かってるわよ。……それじゃ、私は行くわ。
本当にありがとね、垣根」

「しつけえよ。さっさと行け」

実際、美琴は垣根に救われていた。
無論垣根にその自覚はないだろうが、たしかにその言葉は美琴を救った。

『腹を割って話し合え』

美琴はその言葉を胸に、寮へ向かって歩みを進めた。
その足取りはしっかりとしていて、背中は希望に満ちていた。
一度は諦めた。何をどうしても待っているのはバッドエンドだと諦めた。
だが今、御坂美琴は再度立ち上がった。










垣根帝督は考える。
御坂美琴の引き起こしたRSPK症候群。相当のことでないと超能力者の自分だけの現実が揺らぐことなどあり得ない。
そこまで彼女を追い詰めたのが何なのか垣根は分からなかったが、今は分かる。
先ほど彼女のしたたとえ話を考えれば、推測するのはそう難しいことではなかった。
美琴は垣根は知らないと思ったからこそああいう話をしたのだろう。
だが垣根は知っていた。そっち側の人間だった。
だから分かる。

殺された家族、妹。これは妹達と見てまず間違いない。
絶対能力進化計画という実験の存在を垣根は知っている。
そして殺した人間。これは言わずもがな。一方通行だ。
それを慕っている人間。これも言わずもがな。一方通行と一緒にいる妹達、即ち打ち止め。

そしてあんな話をし、RSPK症候群まで引き起こしているところを見ると、美琴は一方通行と遭遇したのだろう。
だが美琴は一方通行を殺せなかった。あるいは未だに殺す決断をしきれない、と言ったところか。
御坂美琴は間違いなく善人だ。すぐに決断出来なくて当然である。
そしてそこに打ち止めという存在が絡んでより複雑になっているのだろう。
垣根はこの推測は限りなく正解に近いと確信していた。

(だがよクソ第一位。本当は殺したくなかったって、ありゃ一体何だ?
テメェの意思で一万人殺しといて、そうほざくってならテメェは本当に大したクソッタレだよ。
俺がかわいく見える程に救えねえ。まさかそこまでたぁな。
流石第一位サマは言うことが違げえなあオイ)

自分のやったことを言い訳して正当化し、誤魔化そうとするならばそれは下衆の行いだ。
殺したというだけで外道なのに、更にそれを上回る垣根の言うところのクソッタレとなる。

美琴がそんな一方通行を殺すというのなら、それも悪くない。
構図的におかしいところは何もない。
一方通行は自分と同様、どれだけ無残に殺されても文句は言えないことをしてきている人間だ。
そして御坂美琴は一方通行を殺す権利を持った人間だ。
それはどこから見ても正当な復讐劇。当然の帰結と言える。

(一方通行。テメェの処刑人に、御坂以上の適役がいるか?
むしろテメェみてえなクソッタレの悪党には上等すぎる処刑台じゃねえか。
……因果応報。地獄へ落ちやがれ第一位。
これ以上ない程の、最上の極刑でな)

垣根帝督は空を見上げる。
これであの忌々しい第一位が破滅するというのだから、垣根としては大歓迎だ。
一方通行が死ぬ。これほどまでに愉快なことはない。
その様を思い浮かべて垣根帝督は誰もいない鉄橋で顔を歪め、凄絶に笑った。

(罪の標に押し潰されて死ねよ、第一位)

―――極僅かにあった、ある一つの気持ちに気付かなかったふりをして。

投下終了

後三、四回の投下で美琴・一方通行問題は終わります
それにしてもやはり第三章の長さは異常だなぁ……

あ、ていとくんはお疲れ様でした。また当分出番はないので

   次回予告




「……一方通行がどれだけ悔いようと変わろうと、殺された私の妹はたったの一人だって帰ってはこない。
私はアイツが廃人になろうが野垂れ死のうが、自業自得だとしか思えない。
私はアイツを許せない。未来永劫許すことは出来ない。それでも。
―――もう一度一方通行に会う」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「ミサカは、一方通行に僅かながら感謝しているからです。
どんな生まれ方てあったとしても、一方通行がいなければミサカが生まれてくることはなかったのですから。
そして生まれていなければ、ミサカは目玉焼きハンバーグの味を知ることも出来ませんでした、とミサカは本心を吐露します。
それが、ミサカの理由です」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号にして美琴の妹―――御坂妹




「あの人は血塗れになりながら、ボロボロになりながら、能力を失ってでもミサカのために戦ってくれたから。
それにあの人は弱いんだよ。手の中の物を守れなかったばかりか、それをすくっていた両手もボロボロになっちゃってるの。
だから今度はミサカが守ってあげたいのってミサカはミサカは打ち明けてみる。
それが、ミサカの理由」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)

ぶっちゃけていとくんの過去にいったい何があったんだろうな?
原作じゃ星の数ほどある悲劇の一つに触れて壊れたみたいに言われてたがこの先原作で語られることはあるんだろうか?

生まれて数年の幼女に何期待してるんだよ

キチガイが死んでも嘆くのはクソガキしかいない
ならいっしょに逝ってしまえば問題ない
美琴は心痛がすべてなくなり ていとくんは大喜び

うんスッキリ解決するな

アンチ発言は該当スレで書べきだと思ふなりけり
以下スルーでよろしう頼みます

罪から逃げてないのなら、何故美琴に向かってお前も加害者などとほざけたのか

打ち止めなんて原作からして頭のおかしい子なんだからしょうがない
所詮は人形よ
一方が言う通り

乙。シリアスな垣根かっこよすぎる…!
垣琴という新しいジャンルに目覚めそうだ

垣琴・・・いいなww