京太郎「俺は、楽しくない」(298)

・京太郎が主人公です。

・出来るだけ原作準拠で作りたいと思いますが、オリジナル要素は挟むつもりですので、そういうのが苦手な方はごめんなさい。
 性格とか喋り方がおかしいだろ! というのは作者の力不足なので、ツッコんでいただければなるだけ直します。

・スレ立てどころか書き込みさえ初めてなので、なにかマナー違反などがあれば教えていただければ幸いです。
 あと、麻雀の方の腕もちょっと自信が……って状態なので、モノローグとかで変な推察してたらごめんなさい。

・それではよろしくお願いします。
 時期は全国大会終了後、部長が引退した後の話です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1354765709

 全国大会で激しい戦いを繰り広げた夏も過ぎ、残暑の中に涼しげな風が混じり始めた9月上旬。休み
明けのテストも終わり、清澄高校麻雀部は落ち着きを取り戻し大会前と変わらない普段の日常へと戻っ
ていた。

「ローンっ、だじぇ! 12000!」
「うげっ。……はい」

 そして相変わらず不注意な打牌で点棒を毟り取られる少年が一人。麻雀部唯一の男子部員――須賀京
太郎は残った自分の持ち点を眺めながらガックリと肩を落とした。

 『麻雀をしている姿よりも雑用している姿の方が板についてる』と揶揄される不憫な扱いの少年は、
夏の大会が終わり、時間的余裕が出来て最近ようやく卓に混ぜてもらえるようになった。ただ経験を積
むことが何より必須な初心者の段階で雑用という役割につき、麻雀牌に触れる機会が乏しかった為にい
まだ素人同然の状態。全国大会を戦い抜いた面々を相手に、嬲られ続ける毎日である。

 東4局にして残りは5000点と少し。京太郎が指で弾くと、点棒はカラリと寂しい音を立てた。

「こりゃあ勝てるかどうかより、跳ぶか跳ばないかの話になってきたなぁ……」

 弱気な京太郎の発言に、上家に座る桃色髪の巨乳少女――原村和の目がキラリと光る。

「須賀君は攻めと守りの線引きが曖昧過ぎます。今の手も、親リーに突っ張るような手には見えません
し」
「うっ、返す言葉もない……」

 前局、条件反射のように京太郎が鳴いた發を横目に、和が冷やかとも取れる口調で京太郎を刺した。
 ドラが親に集まっていたという結果を踏まえると、今の京太郎の手では和了れても1000点。いつで
も冷静なデジタル打ちの名手である和の言葉は、文句のつけようもない程に的確だ。

「だいたい、このメンツで打ってるときに京太郎は1位になったことないんだから、最初から勝つなん
て未来はありえないじょ!」

 たった今京太郎に満貫を当てた対面の親が、麻雀卓に身を乗り出すように追い打ちをかける。
 ロリツインテールな麻雀部の元気印――片岡優希が落ち込む京太郎を愉快そうに眺めて八重歯を見せ
た。

 大会中は優希の好きなタコスを調達したり、遠征ではしゃぐ優希のお守をしたりと、高校生にしては
落ち着きのない彼女の面倒を根気よく見てやってきた京太郎だが、麻雀卓の上でそんな情に流される程
彼女は甘くはない。むしろ、京太郎にちょっかいをかけてその反応を見るのが好きな彼女は、今のこの
状況を前に、乗りに乗っていた。

 雀力には大きく開きがあるとは言え、京太郎にも意地がある。優希のあんまりな言い方に、しょげ返
っていた京太郎もグググっと首をもたげる。

「お、俺だってなぁ! 家でネト麻やったり本読んだり努力してんだぞっ! ちゃんと、役と点数計算
も覚えたし」

 と、ついつい立ち上がり声を大きくして反論するが、

「そんなのイッパシの高校生雀士なら知ってて当たり前だじょ」
「というか、今さら過ぎます……。流石にそれでは勝てる訳ありません」
「うぅ、そりゃそうだろうけどさ……」

呆れ顔の両者共に一蹴され、ヘナヘナと椅子にへたり込んだ。

 実際に彼が牌効率などを全く考えずに打っているというわけではないが、それは京太郎が浅い麻雀経
験の中で感覚的に考えた拙い理論。基礎からして違う自分以外の麻雀部員に「ちゃんと考えて打ってい
る」というのは気が引けた。

 一人槍玉に挙げられる京太郎の様子を見かねてか、下家に座るショートボブの少女が「まぁまぁ二人
とも」と助け船を出す。
 少し苦笑気味に人の良さそうな笑顔を浮かべる少女の名は、宮永咲。京太郎の中学時代からの同級生
で、少々おっちょこちょいな面のある読書が好きな女の子である。


「京ちゃんだって頑張ってるんだし、あんまり言い過ぎるとかわいそうだよ」
「まったく、咲ちゃんは犬に甘すぎるじぇ」
「同感です。甘やかし過ぎても本人の為にならないかと」

 つれない二人の返事に、生来気の弱い性質である咲はたじろぐ。しかしすぐに持ち直し、大袈裟に両
手を広げながら力説した。

「だ、大丈夫だって! 京ちゃん、やる気と元気はあるんだし大会終わったから私たちも教えてあげら
れると思うし、すぐに強くなれるよ!」

 ねっと顔を向けられた当の本人は、力なく麻雀卓に突っ伏して撃沈中。先程の二人の指摘がよほど効
いた様子である。

「はぁー……」

 そんな4人のやり取りを眺めながら、卓から離れて読書をしていた眼鏡を掛けた緑髪の少女が気怠そ
うに溜息をついた。

 染谷まこ――現在の麻雀部で唯一の2年生であり、前部長の竹井久から大会後に部長職を引き継いだ
麻雀部の新部長である。本来は割と面倒見の良い先輩である彼女なのだが、優希がはしゃいで京太郎が
落ち込むというのは最近の麻雀部のお決まり。いささかうんざりとした雰囲気がその顔から見て取れた。

 彼女は、パタン、と読みかけの本を閉じ京太郎の背後へと忍び寄る。

「ったく、ちょっと言われたくらいで情けないのう。男だったらシャキッとしんさいっ!」

 バシッ!

 まこの容赦ない喝は気持ちのいい音を京太郎の背中で鳴らした。
 堪らず京太郎は悲鳴を上げる。その様子に誘われ、麻雀部はしばしの笑いに包まれた。


 平和で明るく、活気に溢れたいつも通りの部活風景。


出かけるので、とりあえずここまで。

ちょっと制作方針として誰かの意見を聞いてみたいところが出来ましたので、書き溜めも1章の1/3程度で止まっております。
プロットがある物語ですしダラダラするのは悪いから、完成してから投下した方がいいんでしょうが……ごめんなさい。

とりあえず今日はそこまで投下するつもりです。

原作準拠ってあるけど大会終わってるじゃん
原作の何を準拠してんの?性格?対人関係?

安価スレじゃないならやりたいように書くのが一番だと思うよ

ただいま戻りました。遅くなってすみません。

>>6 確かに、おかしなこと言ってますね…ww 自分としては原作の設定+αで、原作の設定自体を変更することはないよって意味で
原作準拠と書いてあったのですが、よく考えるとそんな線引きに何の意味もないことに気付きました。というかその考え自体がかなり曖昧ですね。


後出しになってすみませんが、『オリジナル要素アリ』ということで。
そういうのが苦手な方はごめんなさい。


キャラ間の呼称や一人称は一応復習して抑えたつもりなんですが、間違っていたら容赦なく叱責して下さい。

コメント、どうもありがとうございます! では続きから。

 優希に囃されてから僅か数時間後。

「つ、ツモっ!」
「じょ!?」

 南3局、優希の親番で声を震わせながら和了宣言をしたのは、京太郎。

「え、えっと、リーヅモ断ヤオ一盃口――裏2! ハネマンっ。6000、3000!」
「は、跳満……。と、いうことは――」

 京太郎が指を折りながら覚束ない点数申告をする中、麻雀部の面々は驚きに包まれる。
 それもその筈、

「もしかして俺、トップ……?」

優希の親を流しオーラスを迎えた段階で、京太郎が咲を抜いて1位に躍り出たのである。悲しいことに、
いつも開始から数局で戦線離脱してしまう京太郎にとって、リードをしたままオーラスを迎えることは
初めての快挙であった。

 自分の計算が信用できない様子で、京太郎は確認するように周りを見渡す。優希が親被りになったこ
とを小声で嘆いているのを尻目に、いち早く冷静さを取り戻した和が頷いてみせた。

「そう、ですね。このまま須賀君の最後の親で逆転が無ければ、ですが」
「ま、マジか……。うおぉ、緊張してきた!」

 京太郎以外の三人が潰し合っている隙に上手く抜きん出ることが出来た、まさに千載一遇のチャンス。
優希の言う『ありえない1勝』がその日の内に現実となりそうになっていることに、京太郎は緊張と興
奮に震えた。

「ふふっ、頑張ってね京ちゃん。でも、そんな簡単に初勝利はあげられないかな?」

 喜ぶ京太郎に笑顔で応援の言葉を贈る咲。しかしその含みを孕んだ言い回しに、京太郎は即座に冷静
さを取り戻した。

 ――そう、だよな。相手はあの咲や和なんだ。ここで気を抜いたらすぐにまた抜かれることは目に見
えてる。
 でも、あとはこの1局だけなんだ! 食いタンでも特急券でも、なんでもいいから和了るだけ。それ
なら俺にだって勝機はあるはず!

 希望を胸に覚悟を固め、京太郎は真剣な面持ちで自動卓のボタンに手を掛ける。

 オーラスの開始を告げる2つのサイコロが、カラカラと乾いた音を立て始めた。


 配牌。京太郎の手牌は、索子の順子が一つ、筒子の両面塔子が一つ、辺張塔子が一つ、そして東の対
子。ドラ表示牌は、九萬である。

 理牌をしながら、京太郎は頷いた。

 ――悪くない、むしろ良い。はず。ドラはないけど今点数は要らないし、とりあえず東を鳴けば役は
出来る。あとはどっかで塔子が面子になってくれれば……。

 京太郎は、この局での方針を自分なりに固めながら、第一打を打つ前に今一度状況を確認する。

東 京太郎:30700
南 和:23900
西 咲:26300
北 優希:19100

 ――優希が1位になる為には、俺に5800点以上の手を直接ぶつけるか満貫ツモ。ほとんど満貫手以
外にない状況だから手作りには時間が掛かるはずだ。南場だし。
 和の条件は、6800点以上の手で他家からロン和了りするか、5100点以上のツモ和了り。俺に直接ぶ
つけるならば3400点以上。十分有りえそうだけど、俺も早さなら負けないはず……。
 一番怖いのが、咲だな。4400点以上の他家からのロン和了りに3300点以上のツモでいい。直接なら
2200点以上。ドラでも絡ませれば簡単に越えられそうだ。こりゃ運頼みだな。

 神様お願いします、と祈りながら京太郎は最初の一打を打ち出した。

 11巡目、京太郎は焦っていた。2巡目に和から出た東を早々に鳴けたのは良かったのだが、それから
思うように手が進まない。雀頭はすでにできているので、両面か辺張のどちらかの塔子が埋まれば聴牌
なのに、それが出ない。

 ――くそっ、優希からどっちかもらえると思ってたんだけど、甘かったかな。ツモれもしねぇし……。

 優希の切った萬子を苦々しげに見つめ、京太郎は密かに顔をしかめた。

 早く和了れる算段であったのに、気が付けばもういつ他家がリーチしてもおかしくない巡目。京太郎
の鳴き以外に場に動きはないが、焦燥感と恐怖が胸を締め付ける。

 ――頼むっ!

 祈るように引いた12巡目の牌。
 それは京太郎が待ちわびた『聴牌への最後のピース』であった。しかも嬉しいことに辺張の方が埋ま
り、両面での聴牌。
 京太郎は顔に出ないようにしながらも、喜びを隠せない。いつも最下位になって弄られている自分が、
1位を目前にしているのである。意図せず、麻雀部の面々の驚く顔が頭に浮かんでくる。

 やにわに浮いた牌に手を伸ばす。

 ――よし、よしよしよし! もっと早く聴牌できると思ってたけど、でもまだ間に合うはず! 中張
牌だけどまだ全然出てないし、和了る目はある!
 ふっふっふ。悔しがる優希の顔が目に浮かぶようだぜ。いっつもタコス買いに行かされてるし、今日
くらいは俺がパシってやってもいい――



「――ごめんね、京ちゃん」


 唐突な咲の言葉に、逸っていた京太郎の心が一瞬で呼び戻される。背筋に、ゾクリとした悪寒が走っ
た。

「カン」

 手牌から3つの牌を晒し、咲が右端に寄せる。それはつい今しがた、京太郎が捨てた牌に他ならない。
 確信を持った堂々とした手つきで、咲が嶺上牌を掴む。ここまでくると、清澄高校麻雀部の人間であ
れば嫌でも予見できる。

 やられた――!

「ツモ。嶺上開花、役牌。2600点の責任払いです。これで私が再逆転して1位かな」

 大明槓からの嶺上開花は責任払い。この和了りで咲は28900点、京太郎は28100点となり、咲の逆
転勝利である。

「は、ハハっ……」

 京太郎の口から、思わず乾いた笑いが漏れた。それから脱力してずしりと背もたれに寄り掛かる。
 対面の咲は、イタズラが成功したような充足感のある顔で首を傾げた。

「残念、でした?」
「い、いや、残念ってか……」

 点数にだけ目を向ければ一歩及ばずといったところだが、京太郎は咲との大きな差を見せつけられた
様に思った。先程まであんなに勝てそうだと気が逸っていたのに、終わってみると自分が捲られるのは
必然の出来事であり最初から1位になれる可能性などなかったとさえ思えてしまう。
 嶺上開花で和了る時の咲は、そう感じさせる程の魅力のようなものを放っていた。


 とは言え、悔しいものは悔しい。

「あ、あーもうなんだよー! 今日こそは勝てると思ってたのになぁ!」

 内に湧くモヤモヤとした感情を隠すように、京太郎は大袈裟な動きで天を仰ぐ。

「えへへ、ごめんね京ちゃん。初勝利は次の機会におあずけってことで」
「……はぁ。毎度のことだけど、つくづく恐ろしい奴……」

 人懐っこく笑う同級生にそれ以上言い立てる気も起きず、口を突いて出そうになる恨み言を飲み込ん
で京太郎は溜息を一つだけ吐いた。

 確かに悔しいには悔しいが、普段から負け慣れているだけあって、京太郎は意外に飄々としている自
分に気が付いた。1位にこそなれなかったものの、2位にはなることができた。それだけでも自分にと
っては大金星だ、とむしろ良い方向に考えて自らを鼓舞する。

「まぁあんなに接戦できたこと自体初めてだし、俺もちょっとは上手くなったってことかな」

 よしもう一半荘、と京太郎が気持ちを切り替えようとしたとき、



「――そんなことはないじょ!」


と突然優希が捲し立てた。

「京太郎は役と点数計算覚えただけで全然知識足りてないし、今回はたまたま高い手で和了れただけで、
麻雀の腕はシロート同然だじぇ!」

 むっと、京太郎も顔をしかめる。

「なんだよ優希。その言い方は酷いだろ?」
「いーや、酷くないじょ! オーラスの手だって、私から鳴こうとしてるのが丸分かりだったし、自分
の手作りに必死で全然のどちゃんと咲ちゃんのテンパイに気付けてなかったし」
「う……。っていうか、和も聴牌(テンパ)ってたのか」

 話を静観していた少女は、目を向けられてコクンと頷く。

「はい。平和ドラ2で、ツモか須賀君からのロンで逆転ですし、二人から出ても2位にはなれましたか
ら、黙聴(ダマ)っていました。須賀君は流す気が無さそうでしたし、出てくるならそっちかな、とは思
っていましたけど」
「あっ! そうか、ノーテンでも1位で終われたのかぁ……。それに点数状況によってはみんなが1位
を狙ってくる訳でもないんだよな。そこまで頭が回ってなかった……」

 自分が状況確認さえ出来ていなかったという事実に、情けないような、やるせないような気持ちを抱
き京太郎は肩を落とした。折角運が味方をしてくれたのに、自分で勝利を逃したようなものである。そ
れが、大負けした時よりも強く京太郎の心には堪えた。

 和はまだまだミスがあると示すように、麻雀卓に身を乗り出す。

「頭が、と言うより、気持ちだけが空回りしていたようですね……。ちょっと手牌を見せてもらっても
いいですか。――ほら、例えばここの牌を捨てずに持っていればここで両面になっていますし、ここで
優希から鳴いて聴牌出来ていましたし……」

 己の未熟さを実感させられたところに、和からのありがたくて的確で辛辣な講釈を頂戴し、京太郎の
背中はどんどん小さくなった。眼前で忙しなく動く和の細い指先を、京太郎はボンヤリとした目で眺め
ている。

 ――じゃあ今の勝負、和なら1位になれたってことか?
 そりゃあそうだよな、俺なんかとは違ってしっかり状況も見れてるし、切る牌も的確だし。あんなチ
ャンスを棒に振る俺が、てんで見てられない素人ってことなんだろうな。
 ……でも、なんでだろ? 放っておいてほしい、と思うのは……。

 徐々に京太郎の眉間に皺が寄ってくるが、顔を伏せている為周りの人間にそれを知る術はない。

 思考が鬱屈とし始めた京太郎を見下ろし、4位に終わった少女が薄い胸を張り得意気に語り始めた。

「ふふーん、これで分かったか京太郎! 貴様はまだまだ修行が足りないのだ!」
「優希も、須賀君程ではないにせよ、お世辞にも足りているとは言えませんが……」
「そこ、うるさいじょ!」

 デキる女教師の如く和を指差し静止させ、優希は項垂れる京太郎の頭をグリグリと弄る。

「ほーらほーら、これに懲りたら負け犬は負け犬らしく、この私に勝とうなどとは夢にも思わないこと
だな――」


 ――うるさいんだよっ!


 瞬間、体が動いていた。反射的に手を跳ね除け、卓を叩くように立ち上がった。

 手がジンジンと痛み、耳の中で自分の出した騒音が響いている。

 スッと頭の中の血が抜けた京太郎が見たのは、静まり返ってしまっている部室。全員が、絶句して京
太郎を見ていた。

 ――やべぇ。つい頭に血が上っちまった、何やってんだ俺。みんな呆気に取られてるし、どうにかし
ないと。

 京太郎は苦笑いで頭を掻き、軽口を言うように声のトーンを上げた。

「アッハッハ、ごめんごめん。実は対局中からずっとトイレ我慢してて、結構厳しかったりなんだよね
ー……」
「な、なんだ。まったく、しょーがない犬だじょ、お前は!」
「そうですよ。……それに、麻雀部は須賀君以外みんな女子なんですから、言動は配慮してもらわない
と困りますっ」

 不安そうな目から一転、優希が勝気な瞳で京太郎を囃し立て、視線を逸らしながらもしっかりと和が
女の子らしい繊細な指摘をしてくる。

 ――なんとか誤魔化せた、のか?

 苦しい言い訳ではあったが、この場が丸く収まるのであれば何も問題はない。

「いやースマンっ! じゃあ行ってくるから。あ、染谷部長、俺に構わないでいいんで、次卓に入っち
ゃってください」

 早口でそれだけ伝えて、京太郎は足早に部室を出た。背中からまこの声が追いかけてきたが、それに
耳を貸すほどの余裕は今の京太郎にはなかった。



 部室棟のシンとした廊下で、驚くほど大きな自分の鼓動の音だけが耳の中で響いた。

 ――全く、どうかしてるぜ。確かに優希の言い方はあんまりだったけど、アイツは見た目並に幼いと
ころがあるし、第一いつも聞き流してるようなことであんなに腹立てるなんて……。
 それに、勝負に負けてあんなキレたような態度取ってちゃ、印象悪すぎだろ。俺が未熟なのは事実な
んだから、もっと謙虚な気持ちでいないと。……あんな乱暴なことするなんて、最悪すぎだ!

 ガツッ、と拳を強く額にぶつけ、京太郎は長く溜息を吐いた。壁に背中を預け、人の気配のない廊下
で独りごちる


 ――でも、なんだろうなこれ。

「負け犬は負け犬らしく、か……」

 めちゃくちゃ悔しい。


 京太郎が部室へ戻るには、もう少し時間が掛かりそうだった。

ここまで。

やっぱり、ヘルカイザーの話と被ってますかね…?
まぁ、こういう話書きてー! ってなった作品の一つで、その欲求がこの話を作り始めた原点なんで、影響はめっちゃ受けてると思います。
「パクリだ!」って騒がれる声が大きくなったら流石に止めますが、一応書きたい欲求がありますのでとりあえず許せる範囲までは見逃していただけると嬉しい…。


と、聞きたいのはそこではなく。
このシーンの麻雀ってどうでしょうか?
どの程度麻雀描写しようかっていうので物凄く悩んでたんですよね…。

京太郎の手牌。もしかすると対戦相手の手牌。みんなの捨て牌。
そのあたりをこと細かく描写すると、非常に長くて野暮ったくて分かりにくいものになりそうで…。
かと言ってあんまり手を抜きすぎると、このシーンみたく結果ありきで進んでる感が酷いんですよね…。
1章の麻雀シーンはデモンストレーションみたいなものなのでよかったのですが、このまま続けるのも不安なので、
意見を聞かせていただけないでしょうか。

ここって安価とるの?

>>27 安価は今のところするつもりないです。もう大まかな流れは出来てるのでそれに沿って書いていくだけですね。
 ただ誤字脱字、単純なミスなどは指摘していただければその都度訂正します。

麻雀の描写は、特に問題無いという意見が多いですね。
では、何が壁になってるとか何が筋だとか、点数差とか、そういう読みの描写が必要な時だけ書くことにします。
今の所は、三人称だけど全部京太郎側についた描写って感じで書いてますが、シーンに応じて誰の側について描写するかは変わると思います。
あんまり移動させまくると分かりにくいので自重しますが、まぁちょっとくらいは。

大変参考になりました。どうもありがとうございました!
今日で書き溜め大分減っちゃったから、次の投下は時間空くと思います。遅筆でごめんなさい。

>>39
タコスはともかく、和は手牌から反省点を教えてくれてるじゃん(内容は置いといて)
京太郎がちょっと落ち込んでたから捉え方がアレになっちゃっただけで、対局後の反省・復習は上達に不可欠だろ
叩きのめすとか、すぐにそういう方向持っていこうとするのは止めて欲しい(スレタイ的には仕方ないかもしれないけど)

っつーか東場で残り5000点から南3局時点で一時的とはいえトップになるとか、点配分にもよるけど十分凄いと思う

見直ししてたら気付いたんですが、 >>22 の

> ガツッ、と拳を強く額にぶつけ、京太郎は長く溜息を吐いた。壁に背中を預け、人の気配のない廊下
>で独りごちる

のところ句点抜けてますね…。大した間違いじゃないけど、完璧にして投下したと思ってただけにショック。

>>43
すみません、それはこちらの描写不足です。
最初のシーンと、京太郎がキレるシーンは、別の半荘になってます。
それを表す描写が『数時間後』しかないので勘違いされてもしょうがないですね…。今後はもうちょっと丁寧に描写します。


あー、やっぱり優希と和ウザ過ぎますかね?
ここまで見ただけでも、咲アゲと優希和サゲが著しい展開ですし、今後の展開でもそういう流れがありますので
優希ファンと和ファンの皆様には不快な思いをさせるかもしれません。ごめんなさい。あとまこファンの方も、口調が自信なくて微妙にハブってる感じになってごめんなさい。


いや、優希も和も悪い子じゃないんですよっていうか僕がそう書いているだけです。
例えば優希が京太郎にあれ程ひどいことを言ったのは、親被りでラス目引かされて悔しかったからってのがありますし、
京太郎を弄るのがいつもの流れですから、ちょっと行き過ぎて踏みとどまるべきところを越えちゃったってだけで。
小さい頃なら誰でもそんな経験はあると思いますし、優希は異性との距離感が上手くつかめてない程精神的に成長段階ですので、そうなってもしょうがないかなーと。
和の方は、逆に意識し過ぎてどこまで近づいていいものか測りかねてて、普段から京太郎に話しかけるという行為を躊躇して
しまうので、このようにミスを指摘するという名目で体よく話し掛けられるときに張り切り過ぎてしまう、とか。
まぁ読者の皆様が恐らく考えているように、「京太郎夏まで何やってたんだよ! 部内で打てなくてもネトマとかあるだろ!」って
思って弱気な発言に辛辣な言葉で返す面もあるかも。あとマホに対する態度を見ると、結構教え子には厳しいのかなーと思ったり。
本来みんなを見ていないといけないまこも、あれ程頼りになった前部長が抜けた穴を埋めないといけないという重責で余裕がなくなっている、んじゃないかと。高校生ですし。
京太郎に感情移入してほしい作者の身としては、優希と和の態度にこんなフォローを入れると話がブレてしまってあんまり良くなさそうだと思い悪役のままで描写してますので、
こんなふうに登場人物の心情を作品の外で語るのは御法度というか、逃げのようなものだとは思うのですが、あんまりな描写で読んでくれている方々を不快にさせる前に、ここでフォローさせていただきます。
要は、上手くキャラクターのすれ違いを表現できない僕の実力不足です。まぁ上手くできそうにないから一方だけの視点にして逃げたってのもありますし。

長文とかちょっとどころではなくイタイ感じですが、このSSを不快に思う方が減ってくれれば幸いです。友達にこのSSを見つけられてしまった以上にイタイことなどあるものか。
次の投下で1章の一つの区切りが終わりかな。二つ目の区切りの書き溜めが終わった頃に投下します。

あんまり人の意見を気にし過ぎるのもいけないみたいですね。
というか何度もそう言ってくれているレスがあるのに変えようとしてなかったのだから、
最初から人の意見なんて聞けてなかったっていう…ww

まぁ、自分の書きたい話を書きたいように書こうと思います。
気に入ってくれた方はどうぞ見て下さい。気に入らない方は申し訳ないけど、さようなら。
そんな感じで。

無駄なレス多くて申し訳ない。これからは極力投下だけにしますね。
早くて明日、遅くとも明後日には続き投下します。では。

和のアドバイスで、これ捨ててなかったらこうだった、ってのは普通にムカつくわなww
不要牌だと思って捨てたのが裏目になることなんて普通にあるんだから、たらればの助言されましても

3万点以下で西入はしないの?




「わっ、もう結構暗くなってる」
「そうだな。早く帰らないとまた親父さん心配するぞ」

 日没刻。
 京太郎たちが学校を出ると、もう星々が目視できるほどに夜が迫っていた。

 二人は何か言う訳でもなく、帰路を並んで歩き始める。京太郎が部活後の片づけを引き受け、咲がそ
れに付き添った為、他の部員は先に帰ってしまっていた。

 高校に入って少し珍しくなった、咲との下校。
 咲が麻雀部に溶け込んでいくにつれて、咲と京太郎が共に登下校する機会は減り、代わりに咲が和や
優希といった同級生の麻雀部員と共に登下校する機会が増えた。それ自体は咲の環境の変化であるので
京太郎も納得していて文句もないのであるが、このように気の置けない仲の友人と共にゆっくりと帰路
に着くことは、京太郎は嫌いではなかった。

 月の出ない夜なので、夜空の黒を背景に無数の星の煌めきがよく映えていた。

 何気なく空を見ていた視線を落とし、京太郎は小さく口を開く。

「別に、手伝ってくれなくてもよかったんだぜ? いつもやってることだし」
「うん?……うん、ちょっとね」

 歯切れの悪い返答。

「ちょっとって?」

 前方を向いたまま、京太郎が続きを促した。

 先程追い抜いた街灯に照らされ、彼らの影がゆらゆらと揺れている。

 咲は言葉を探すように沈黙し、ややあって京太郎を見上げた。

「……京ちゃん、今日は残念だったね」
「ん?」
「ほら、あのオーラスまでトップだった半荘」

 あぁ、と気のない声を上げ、京太郎は自嘲的に笑って頭を振る。

「あんなの、マグレだよマグレ。優希や和に指摘されたように、全然状況も見えてなかったし」
「そんなこと……」
「っていうか、最後の最後でキッチリ捲ってくれた貴方が言ったら嫌味っぽいですよ。宮永さん?」
「そ、それはそうだけど……」

 おどけてみせる京太郎の言葉に、シュンと咲は俯いた。

 そのまま横目で京太郎を見て、ポツリと、



「でも京ちゃん、『アレ』本気で怒ってたでしょ?」


呆気なく京太郎の真意を見抜いた。

「っ……」

 京太郎は言葉に詰まるように固まり、立ち止まった。それを見て、咲の足も止まる。
 目の前に立つ咲の確信を持った目を見て、京太郎は言い逃れ出来ないことを悟った。

 京太郎は軽く息をついて、苦笑いを浮かべた。

「ハハ、やっぱ気付かれてた?」

 咲は頷く。

「そりゃあ。一番長い付き合いだしね」
「まぁ、我ながら苦しい言い分だとは思ってたけどな」

 笑いながら、京太郎はバツの悪さを感じていた。

 麻雀部にいる間、京太郎は怒りなどの負の感情を極力周りに見せないように努力をしてきた。唯一の
男子部員なので、怖がられたり警戒されたりして孤立するのを恐れていたからである。
 優希のジョークが琴線に触れてしまったのは、たまたま起きた事故のようなもの。京太郎自身二度と
繰り返すまいと心に誓ったものであった。

 京太郎の苦しい言い訳でその場が丸く収まり、円満解決。そう考えていただけに、今さら咲にそのこ
とを蒸し返されるのは気分が滅入った。

「……あんなこともうやらないように気をつけるからさ、今日のところは見逃してくれ――」
「優希ちゃんは」

 無理矢理会話を断ち切ろうとした京太郎を、咲が遮る。

「言い方はちょっと酷かったけど、アレは京ちゃんなら許してくれるだろうって信頼してる証だし、本
当は京ちゃんのことを、気に入ってるんだと思う」
「和ちゃんも。京ちゃんならきっと分かるだろうって思っているから、厳しいことや難しいことも言っ
てるんだよ」

 咲は京太郎の1歩先の位置から、真摯な目でまっすぐに見つめてくる。
 京太郎は気恥ずかしさともどかしさを覚えた。些細ことで腹を立てた自分が、まるで聞き分けのない
子供のようだと言われているように思えた。

「……分かってるよ。優希は子供っぽいところがあるし、和も自分が正しいと思ったら結構ズバズバ言
ってくるタイプだしな。あのくらいで腹立てちまった俺が悪かった。ごめんなさいっ!」

 素直に京太郎は頭を下げた。咲が説教をして、京太郎が反省をして、終わり。これでこの気まずい会
話は終わりにしたい、そう思った。

 しかし、咲はゆっくりと頭を横に振り、



「それでも京ちゃんは、それが嫌だと思ったんだよ」


そう続けた。

 アスファルトを見ていた目を咲に向けて訝しむ京太郎に、咲は屈託のない笑みを返す。

「二人の言葉に悪意がないのは本当だけど、それでも京ちゃんはそれが嫌だと思ったんだから、二人の
気持ちだけを尊重して、『悪意がないのだから京ちゃんは我慢しなさい』なんてそんなのおかしいと思う」
「怒りたかったら、変に我慢や遠慮なんかしないで怒ってもいいんだよ。友達ってそういうものでしょ?」

 それは京太郎にとって、全く想像のつかない言葉であった。
 怒った人間だけではなく、怒らせた方にも問題がある。考えてみればそうなのだろうが、果たしてそ
れは男女の差がある場合でも成り立つものなのか。

 京太郎は少し考え、首を振った。

「いや、やっぱり俺が悪かったよ」
「そんな……」
「咲だって、俺がいつもあんな乱暴な行動してたら怖いと思うだろ?」
「確かにああいう風にされるとちょっと怖いけど……」

 京太郎に言い含められるように咲はスゴスゴと引き下がる。
 咲の言い分が分からないでもない。しかしだからと言って感情に任せて怒ることはあまりにも幼稚過
ぎたし、男のプライドとして、そんなストレスにすら耐えられない人間にはなりたくなかった。

 引き下がった筈の咲はあっと小さな息を漏らし、何かを思いついたのか顔を上げてニンマリと笑った。

「京ちゃん。乱暴なのは確かにいけない」

 大袈裟にうん、と頷き、

「だからやり方を変えてさ――」

咲はギュッと胸の前で両手の拳を握り、爛々と瞳を輝かせる。

「麻雀で借りを返すっ! なんてどうかなっ?」




 しばしの静寂。

 呆れ顔で京太郎が溜息をついた。

「はぁ……。それが出来たらとっくにやってるよ」
「むっ。それだよ京ちゃん! 麻雀の知識や腕よりも先に、勝とうという気持ちがないと!」

 いい?――と人差し指を立てて得意気に咲が続ける。

「京ちゃんは確かに麻雀歴も浅いし知識も足りてないけど、裏を返せば一番伸び代があるってことなん
だよ? 麻雀は運が絡むゲームなんだから、すぐに実力で追いつくのは出来なくても1半荘で1位を取
るくらいなら絶対出来るようになるよっ!」
「正々堂々と1位になって、『へへーん1位になってやったぜ。どんなもんだい』って言って見返して
やればいいんだよ。その方が平和的だし、麻雀部員らしいでしょ?」

 いやそんなガキ臭いこと言わないけど、とツッコミながら京太郎は考える。

 ――言わないにしても……。そっか、『麻雀部員らしい』か。

 県予選の個人戦でも早々に敗退し全国出場する女子部員の面々を外から応援していた、麻雀部員とい
うよりただの雑用として働いてきた京太郎にとって、それは得も知れぬ魅力のある響きだった。学校生
活でも、友達にマネージャーだと弄られる程の京太郎は、自分が麻雀部の一員だという自信が日々薄れ
つつあったのである。

 ――そうだよな、俺だって麻雀部の一員なんだ。

「……うん、その通りだ」

 ――大切なのは、気持ち。既に実力で負けてるんだ、その上気持ちも劣ってるなんて、カッコ悪すぎ
だろ……!

 ニ、三度頷き、勢いよく拳を空に掲げる。

「よーっし、明日から本気で1位を狙ってやる! 優希に負け犬って言ったことを訂正させてやるぜ!」
「ふふっ。その意気だよ、京ちゃん」

「――咲っ」

 突然話を向けられた少女は目をまんまるに見開き、

「分かんないとこ聞いたりとか……その、色々と協力してもらってもいいか?」

「うんっ、もちろんいいよ!」

気恥ずかし顔の京太郎の提案に、笑顔で大きく頷いて見せた。

「サンキューな!――うおぉ、なんだか燃えてきたぜー! 絶対1位取るぞー!」

 沸々と湧き出す希望とやる気のままに、京太郎は両腕を大きく開いて叫ぶ。

 街灯の少ない暗い帰り道が、京太郎には光で満ち溢れているように感じられた。

ここまで。
ようやく一つの区切り終了って感じですね。ついでに当初の書き溜めも終了……。

>>63 実はこれは自分自身の体験談なんですよねー……。
「もうパーツ出来てるんだし、鳴けば聴牌余裕やん!」って何も考えずに中張牌切りまくってたら
先にリーチされてにっちもさっちも行かぬ状況に。
巡目早いなら中張牌残してた方が……という後悔の結果。

>>65 それって原作の大会のルールになってましたかね。
 賭け麻雀の時に動く金額が少なすぎて面白くないからっていうルールだと思ってたので
 競技麻雀だしケチがつくといけないから延長とかしないかなって思って勝手に良しとしてたんですが……。
 手元に咲原作ないので、また今度調べてみます。

*オマケ*

京太郎「ほら、見てくれよ咲! 打ち筋の参考にしようと昨日3つも麻雀本買ったんだ」

咲「おー。やる気だね、京ちゃん! どんなの買ったの?」

京太郎「うん、これなんだけど――」


『速攻で逃げ切る麻雀理論』 著者:藤田靖子

『完璧にわかる麻雀』 著者:三尋木咏

『後悔しない人生設計~婚期を逃さない為に今出来ること~』 著者:小鍛治健夜


咲「うん……今日の帰りに一緒に選んであげるから、今すぐ捨ててきなさい」

京太郎「ファ!?」


―――――

不遇な京太郎を見て荒んだ心を癒す、小ネタTimeでございます。
ほら、あの、漫画の巻末についてる4コマみたいな感じで。まぁジコマンですごめんなさい。

先日は遅くなるかもーとか言ったくせに今回結構早くに投下したけど、次は流石に遅くなると思います。
大事なところだから、じっくり書いて後で心残りにならないようにしたいですし。

調子とか詰まり具合によって変わりますが、1週間くらいかな? その分文章は長めにしますので。

それでは。おやすみなさい。

 やる気になった京太郎は今までの生活を一変させた。
 若さを盾に体に無理を聞かせながら、麻雀の為に時間を惜しまず使い四六時中麻雀のことを考えて過ごす。それは、一般的な
高校生にとって必要な時間すら犠牲にする程の思い入れ様であった。

 授業中では――

「須賀ァ! 最近のお前は寝てるか授業に関係ない本を読んでるかのどっちかだな! そんなに先生の授業がつまらんかぁ!?」
「あ、アハハ。やだなぁ先生。集中してないようで、ちゃんと聞いてますってー」
「ほぉ。じゃあこの問2の解説をしてもらおうか……?」
「……あー、そうくるかぁ。それは、その……ごめんなさいっ」
「授業態度は減点しておくからな!!」

教師に咎められながらも麻雀解説本を熟読した。

 昼休みには――

「ふぁぁあ……」
「……京ちゃん、なんだかいつも眠そうだけど、ちゃんと睡眠取ってる?」
「あー……。毎日朝方近くまでネト麻やってるからなぁ」
「だ、ダメだよちゃんと眠らなきゃ!」
「大丈夫だって。足りない分は授業で補ってるし」
「それ全然大丈夫じゃないよ……」
「それより咲、ここの部分でちょっと聞きたいんだけど」
「もぅ。……そこは、この牌が3枚切れてるから――」

「……なんだか最近、二人の距離が近くなった気がするじょ」
「そう、ですね……。須賀君が麻雀本を学校に持ち寄るようになってからでしょうか?」
「おい犬っ! このやさしくてかわいい優希ちゃんがいつも躾けてやってるのに他の人に質問するとはどういう了見だ!」
「んー?……いや、お前に聞いたら『ドーンと切ればいい!』とか『なんとなくこっち』とか出てきそうで怖いからパス」
「なんだとー!」
「い、いいんだよ。私も教えるのは勉強になるし、この前手伝ってあげるって言ったばかりだから……」

1年生4人で弁当を囲みながら、咲に解説を頼んだ。

 家では――

「いつまでゲームをやってるの!? もう夜遅いんだから寝なさい!」
「これは部活の一環だっての!――ふむ、受け入れ枚数的にどっちを切るべきか……」
「もう! お母さんはもう寝ますからね!?」
「はいはいおやすみー。――うわ、七対子だったのか。これは要注意だな」

 母親に小言を言われつつも毎晩遅くまでネット麻雀に勤しみ、本で得た理論を実践しつつ経験を積んでいった。

 当然周りから心配する声は上がったが、京太郎は聞く耳を持たなかった。否、周囲も本気で止めようとはしなかった。一心不
乱に一つのことに打ち込む京太郎の姿は、確かに危ういものがあったが、それ以上にまっすぐで見ていて気持ちのいいものだっ
たからである。



 そして一週間後。

「ツモっ! タンピンツモ赤1で、2600、1300!」
「うっ。ってことは……」
「和を抜いて俺がトップだよな!――っしゃあぁぁ!!」

 南4局、31900点の和を28100点の京太郎がこの和了りで逆転し、京太郎は1年生同士で囲む半荘でついに念願の1位を手に
入れたのである。ここ最近無理をしながら詰め込んだ努力が、意外にも早く実を結んだ。京太郎の胸の中に達成感が溢れる。

 思わずガッツポーズを取ってしまった京太郎に、咲が祝福の言葉を贈った。

「おめでとう、京ちゃん! この前よりずっと強くなってたよ!」
「あぁ、ありがとうな! お前が毎日教えてくれたおかげだよっ」
「い、いやぁ、私なんて。京ちゃんが頑張ったからだよ……」

 続けて和も立ち上がり、京太郎に声を掛ける。

「須賀君、初勝利おめでとうございます」
「おう、ありがとう! 和!」
「これを続けていかないと意味がないのですから、気を抜かないように」
「は、ハハハ。お手柔らかに……」


「――むむむっ」

 と、談笑する三人を見て膨れっ面をするタコス好きの少女が一人。優希は勢いよく椅子の上で立ち上がり、京太郎をビシッと
指差した。

「やいやい京太郎! 貴様、まさかたったの一勝で満足してやいないだろうな!? もう一半荘やるじょ!」
「ん?――おう、望むところだ!」

 浮かれ顔で京太郎が椅子に腰かけ、二つ返事でサイコロを回す。その仕草と表情から、自分への自信が見て取れた。

 掲げていた、1年生で卓を囲む半荘で初めての1位を取るという目標の達成。京太郎が喜んでいるのはそれだけが理由ではな
かった。

 京太郎は今までの対局を経て、麻雀部の一同と自分との比べ物にならない実力差を痛感し、それを内心引け目に感じてきた。
 こうやって卓に混ぜてもらい上級者と打つことで自分は大きな経験を積めるだろうが、果たして部のみんなはどうだろうか。
何度やってもツキが向いても1位になることさえ出来ない自分と打つことで、何かを得ることなど有り得るのだろうか。染谷部
長が代わりに入った方がみんなの為になるのに、気を遣わせてみんなの練習の時間を自分の為だけに削っているのではないか。
 彼にとって、周りを犠牲にして自分だけが得をする状況は好ましいものではない。部内にそういったことを言うような人間は
いないが、京太郎は常にその不安を持ち続けていた。

 だが今日、たった1半荘だけとは言え京太郎は1位になった。それは、京太郎でも他の部員の脅威となることがあるというこ
との証明。根拠は薄いのかも知れないが、これで自分は麻雀部のみんなの練習相手くらいにはなれる実力を身に付けたのだと京
太郎は納得出来ていた。
 ようやく、おんぶにだっこの状態を脱却出来た。実力は未だ足りないものの、一人の麻雀部員、一人の仮想敵としてみんなと
の練習に参加できるのだ。京太郎は何よりもそれが嬉しかった。


 そんな思いに胸を膨らませる京太郎の対面にむくれ顔で優希が座り、常備しているタコスに齧りついた。慌ただしく咀嚼し、
ゴクリと飲み込んで京太郎に吠え掛かる。

「さっきの私はタコス力が切れてたんだじぇ。今度は最初っからフルパワーだ、光栄に思えっ!」
「あぁ、本気で来てくれるなんてありがたいな。でも俺だって日夜努力して雀力鍛えてきてんだ、そう簡単に行くと思うなよ?」

 起家が優希に決まり、京太郎の真価を問われる第二戦が始まった――!



 筈だったが。

「ロンっ、親っぱねっ(18000)!」
「マジか!?」

 喜び勇んで挑んだ二戦目は親の優希に追っかけリーチをしてあえなく撃沈。そのまま鳴かず飛ばずの4位。

「ロン。ザンク(3900)」
「うぐっ!」

「ツモ。ゴミ(500・300)」
「お、俺のラス親……」

 三戦目は和の早さに挑むも勝負にならず、成す術なくじわじわと削られてまたもや4位。

「……よし、通らばっ!」
「ごめん、通らないよ。ロン!」
「え!?」
「混一役牌、符跳ねして12000です」
「ええぇぇ……」

 四戦目は逆転を狙ってリーチを掛けたところで咲に親の満貫を当てられ、やはり4位。


「だ、駄目だぁー……」

 流石に全国出場した麻雀部員だけあって、本気を出せば所詮付け焼刃の京太郎など相手にはならない。

 完膚なきまでに叩きのめされた京太郎は力なく諦めの言葉を発し、顎に強烈な一撃を貰ったボクサーのようにグデッと卓に倒
れ込んだ。
 けたたましく鳴り響くゴングの代わりに、先程まで息巻いていた筈の優希が気抜けしたように鼻を鳴らす。

「てんで話にならないじょ」

 グサリ。
 手痛い言葉が京太郎を貫いた。威勢のいいことを言っていただけに、とても決まりが悪い。

「結局、犬は犬のままだったってことだじぇ!」
「ほうじゃねぇ……。ちっとはマシになったと思ったんじゃが」
「だから気を抜かないように、と伝えたのに……」
「京ちゃん……」

 四者四様の反応。しかしいずれも呆れたような雰囲気の面々を前に、京太郎はますます縮こまった。

 ――いや、そりゃあ1週間かそこら頑張っただけでみんなに追いつける訳ないって思うけどさぁ……。こうも連続してラス目
引かされるとはなぁ。
 ……ホントに、何が変わったんだ俺は。みんなの練習相手なんて、夢のまた夢じゃねぇか。

 自虐的な言葉が頭の中に浮かんでは消える。

 先程は確かに1位を取れたが、それはみんなが自分用に打っていたからではないのか。手を抜く、とまではいかないものの、
一人実力のそぐわない者が混ざるだけで気持ちの入り様は大会での対戦の時とは全く変わってくる筈だ。結局、自分とみんなと
の間にはまだまだ如何ともしがたい壁があったのだ。
 京太郎の胸の内にあった、『みんなの練習相手になれる』という自信は、にわかに薄れていった。

 ポン、と落ち込む京太郎の肩に小さな衝撃。次いでまこの声が降ってきた。

「ほれ、いつまでもそうしておったら邪魔じゃあ。打つ気がないんならはよう代わりんさい」
「……はい」

 呟くように返事をしてフラッと立ち上がった京太郎の姿を目で追いながら、満足げな顔をする優希が跳ねるような声で茶化す。

「京太郎っ! 3連続ラス目の罰として、学食でタコス買ってこーい!」
「アンタは罰でも何でもなくとも、いっつも行かせとるじゃろ……」

 優希が京太郎を学食までお使いさせることは珍しいことではないので、四人は気に留めることもなく次の半荘を始めてしまう。
文句の一つも言う元気の出なかった京太郎は、どんよりとした空気を纏いながら背中を丸めて部室を後にした。


 学食で優希のお使いを済ませた後、京太郎は部室のある最上階までの階段を歩いていた。
 険しい面持ちで、頭から離れない先程の醜態に思いを巡らす。

 ――ホントに俺、強くなってるのか? このまま頑張ってたら、みんなと肩を並べて戦える日が来るのか……?

 京太郎は麻雀部の中で自分だけが初心者だということで、自分を軽んじている節があった。
 たった一人雑用に専念して大会に出場する部員たちの為に尽力し、大会からその前後の合宿に至るまでの長期間ずっと牌に触
れなくとも不平不満を漏らさなかったのは、京太郎が類い稀なる雑用好きだった訳でも何でもなく、ひとえに彼の『麻雀部の負
担にはなりたくない』という自己卑下からくる自己犠牲の精神の為である。

 須賀京太郎という人間にとって、『素人である自分が全国区レベルの麻雀部に迷惑を掛けること』は罪に等しかった。だからこ
そ、他の麻雀部員の練習時間を削っているかもしれない自分の現状を恐れ、自分が練習相手になれるかどうかに執着してしまう。

 ――迷惑を掛けているかもしれないのは怖い。
 でも卓に入らないように、なんてしたくない。麻雀から離れるなんて、絶対に嫌だ。

 それでも京太郎は、もう一度雑用だけに始終する生活には戻りたくなかった。京太郎は麻雀が好きだった。

 実は麻雀とは何の縁もなかった京太郎が麻雀部に入部した動機は、品行方正で見目麗しく、加えて体つきがとても女性らしい
和となんとかお近づきになりたい、という下心あってのものだった。しかしズブの素人で何度もダメ出しを受けながらも人と卓
を囲んで麻雀に興じる時間はとても充実していて、京太郎は次第に麻雀自体に魅力を感じるようになっていった。

 そして今の彼には、『麻雀で誰よりも強くなりたい』という人並みの願望が芽生えていた。麻雀から離れ、強くなることを放棄
することは、彼の中で選択肢と成り得なかった。

 ――もし俺がみんなの練習相手になれる程強くなれば、誰に負い目を感じることなく、みんなと切磋琢磨していくことが出来
る。
 それが仲間ってもんだろ。それが麻雀部員ってもんだろ。

 そしてそれが、ささやかな彼の理想。

 自分の理想は未だ遥か遠いところにある。三連続の最下位で、それを自覚させられてしまった。
 もしかして今の自分は雑用係の時と何も変わっていないのではないか。そんなことを、どうしても考えてしまう。

 ――夏の大会中、俺は雑用だった。いたらいたで助かるけど、俺じゃないといけない仕事じゃない。あの時の俺は清澄高校麻
雀部の一人じゃなくて、ちょっと便利な部外者の内の一人だった。
 でも夏の大会が終われば、俺もまた卓に入れてもらえるようになると思ってたし、そうすればきっと麻雀だってもっと上手く
なれると思ってた。麻雀部の一員として、みんなと一緒に競え合える日が来るんだって。

 だが、それは過程を度外視した楽観的希望に過ぎなかった。
 自業自得だと京太郎の理性が言い聞かせるのに反発して、理想を語る京太郎の欲の声が大きくなる。

 ――俺だって、麻雀が好きだ。牌に触れた時間は一番短いけど、この気持ちだけはみんなにだって負けないって思ってる。
 いつも平気なフリしてるけど、ホントは勝ちたいに決まってる。
 弱い弱いって弄られて、大負けしてんのにヘラヘラ笑って。そんな自分、認めたくなんてなかった。
 みんなは立派な舞台で活躍してんのに俺だけせっせと雑用スキル磨いて、部外者扱いされてんのに「俺は役に立たないからい
いですよ」なんていい子ぶって。これまでの自分がどれだけ情けない人間だったかなんて、ずっと分かってたんだよ……!

 ギリッと歯を噛みしめ、拳を握る。

 抑え込んでいた感情の奔流。言葉にならない思いが京太郎の中で暴れ、零れていく。


 その時、ふと、


「大切なのは、気持ち……」


京太郎の口から洩れたある言葉。
 それは先日の咲との会話で京太郎自身が悟った、子供のように愚直で、しかし眩しい程に一途な信条。

 気付くと京太郎は階段を昇り終えており、部室のある最上階の床の上に立っていた。

 神の啓示を受けた敬虔な信者のように、荒れていた京太郎の様々な思いが一つの方向へ迷うことなく向かっていく。

 ――そうだよな、気持ちなんだよな。勝とうという気持ち。絶対に追いついてやるって気持ち。
 俺はみんなと戦えるようになりたい。その為には実力が必要。だったら――!

「こんなところでウジウジいじけてる暇なんか、ないよなっ」

 ――そうだよ。結局俺の理想の為には、頑張り続けるしかなかったんだ。
 大体今日だって、なんだかんだ言っても1位にはなれた。俺が強くなってるって証拠じゃねぇか。
 言われたことのないことを心配しててもしょうがない。迷惑を掛けてると思うなら、すぐにでも追いついてやって何遍でも練
習相手になってやりゃあいいだろうが。
 前に進む。ちょっとずつでも。悩むことなんて、何もない!

 弱った心を奮い立たせ、京太郎は力強く部室へと足を進め始めた。その眼光は鋭く、彼の強い意志が見て取れる。
 もう迷ったり落ち込んだりするものか、そう思った。

 部室の扉の前に立ち手を掛けようとした、その時、


〈――まったく、犬の急成長にはビックリだったじぇ!〉

甲高い優希の声が扉を突き抜けて耳に届いた。


 京太郎はハタと手を止め、部室の外から会話に耳を傾けた。扉の向こう側で、優希が更に続ける。

〈アイツには自分の立場というものを教えてやる必要があるじょ!〉

 ――くそっ、優希の奴好き勝手言ってくれるぜ。

 優希の何気ない軽口が、京太郎の心をざわつかせる。

 ここで怒ったらこの前と同じだ、そんなこと出来ない。京太郎は無邪気な言葉の痛みをグッと堪えた。

 ――大したことじゃない、いつものことじゃねぇか。
 むしろありがたいぜ、あの優希がこんな俺の成長を認めて対抗心を燃やしてくれてるんだから。

 決して折れず曲がらず努力を続けると志したばかりの京太郎。今の彼の心は優希の言葉にへこまされることはなく、ストレス
を跳ね除けて自らを励ます程の力強さを持っていた。

 だから彼はこの状況にもある程度落ち着きを保っていて、部室の前を離れることもしなかったし、会話に乱入することもしな
かった。



 不幸なことに。



〈ほぉー。優希に出来るかねぇ……〉
〈なっ!? センパイ酷いじょ!〉

 優希の言葉に茶々を入れるまこの声。過剰に反応する優希をよそに、大袈裟に抑揚をつけた調子で続ける。

〈アンタは最近気が抜けとるようじゃけぇね? 部活中でも京太郎なんかに後れを取ることもしばしば〉
〈そ、それは、油断してただけで……〉

 ドクン。京太郎の心臓が嫌に跳ねた。

 ――京太郎『なんか』ってなんだよ。まるで俺が負けるのが当たり前みたいに……。

 いつも後ろから京太郎たちの姿を見て、世話を焼いてくれていた先輩の言葉は京太郎の心の深くに刺さった。
 まこは京太郎がいくら弱くとも、卓から外すようなことはしなかった。だから染谷部長は自分のことを一人の部員だと認めて
くれているんだとまこを信頼していた京太郎にとって、京太郎を貶めるまこの姿は酷い裏切りのように感じた。

〈油断なんて言い訳にはならん。そんなようじゃ、その内京太郎にも追いつかれてしまうじゃろうねぇ〉
〈そ、そんなことはないじょ! あんなパシリのシロート雑魚雀士が私に追いつくなんて、1万年掛かってもありえないじぇ!〉

 まこに焚き付けられるままに優希が京太郎をこき下ろす。
 しかし彼の顔に浮かぶのは、怒りではなく、戸惑い。

 ――染谷部長、俺は確かに弱いです。でも、それをネタになんかされたくはなかった。特に、あなたには……。

〈優希、流石に言い過ぎです〉
〈うぅ……〉

 優希が罵詈雑言を喚き続けそうだったのか、和がぴしゃりと釘を差す。

 だが、語調は弱まるものの言葉が止むことはなく。

〈だいたい、最近の京太郎は、犬の癖にナマイキなんだじょ……。私が話しかけても無視したりあしらったりして相手にしない
し、麻雀麻雀っていつもそればっかりだし、つまんないじょ……〉
〈優希……〉
〈別に、私は――〉

 紡がれる少女の言葉は、


〈京太郎が麻雀強くなったって、全然嬉しくなんかないのに……〉


己の非力にもがく少年を、どん底にまで突き落とした。


 ――なん、だよ……それ。
 俺はお前らに追いつきたくてこんなに頑張ってるのに、お前らがそれ否定するのかよ。
 俺はずっと弱いままでいいって、そう思ってたのかよ。

 麻雀部のみんなは仲間だから、自分の努力を肯定してくれている。京太郎はそう思っていた。
 だがそれは自分の思い上がった考え、勘違いだった。
 息が止まる程の衝撃。自分の立っている地面が急に無くなったかのような、絶望感。

〈……まぁ、須賀君の今日の1勝もたまたま運が向いていただけのようでしたし、まだ私たちの練習相手が務まるようなレベル
ではないことは確かです〉

 自分では、練習相手にならない。

 ――和、やっぱり俺はお前らの練習の邪魔してたんだな……。
 言ってくれればいいのに。「練習にならないので抜けて下さい」って。いつもの自分に絶対の自信を持ったあの顔でさ。
 余計な気なんか使ってくれんなよ。おかげで、罪悪感でいっぱいだ……。

 今まで自分がやってきた行動は、彼女たちの優しさにつけこんで、独りよがりに立ち振るまっていただけ。
 それは、まさしく後悔だった。彼女たちとの時間が好きだったからこそ、自分が許せない。

 ――最初から、俺は独りだったんじゃないか。誰も、俺を仲間となんか見てなかったんじゃないか。
 雑用役としてじゃなく、『俺自身』が必要とされたことなんか今までに一度でも有ったか……?

 脳裏によぎる最悪の疑惑が消えてくれない。
 今まで必死に否定して、認めないように抗ってきた京太郎の闇の声が、じわじわと思考を蝕んでいく。


〈ちょ、ちょっと待ってよ。京ちゃん、強くなりたいって思ってずっと頑張ってたのに、言い方が酷いんじゃ……〉

 その時、小さいながらも京太郎を擁護する咲の声が聞こえた。
 地の底に沈む京太郎に射した、一縷の光。

 ――咲、お前は俺の味方なのか……?

 伝説級の一戦となった、県予選団体戦決勝の大将戦最後の光景が、京太郎の目に浮かぶ。
 それは京太郎もよく知る、麻雀が嫌いだった筈の同級生が放った、とある言葉。

〈咲ちゃんは、最近楽しそうだからいいじょ……〉

 ツキに愛され、人の愛を忘れてしまった悲しき少女。
 彼女の人生観さえ変えたそれは、決して京太郎に向けられた言葉ではない。

〈そ、そんなんじゃ――〉

 しかし京太郎は、その言葉に幾度となく救われてきた。

〈お昼休みとか〉

 それは一種の免罪符。麻雀の弱い自分でも麻雀部にいてもいいのだと思えた理由。

〈うっ……〉

 揺れる京太郎の根底で、最後の支えとなっていたその言葉は――。

〈……分かったよ。今度京ちゃんにそれとなく伝えておく〉



 『麻雀って、楽しいよね』



〈――私も、最近の京ちゃんはどうかと思ってたし〉



 今度こそ、彼を助けることは出来なかった。




「は、ハハハ……。どういう、ことだよ……」

 後ずさりをしながら、フラリと扉から離れる。表情こそ笑っているものの、その姿はあまりにも痛々しく、危うい。

「どうかと思うって、何がだよ……? 俺みたいな雑魚が、みんなの練習の邪魔してたこと? みんなに勝とうなんて思い上が
っちゃったこと?」

 人気のない廊下に呟くような京太郎の問いを聞く者はいない。ましてや、答える者などいやしない。

 どんなに自分に嫌気が差しても、心が折れそうになっても、最後の最後にいつも京太郎を踏み止まらせてくれた言葉が、人が、
京太郎を否定した。

 自分に残っているものは、もう何もない。

 麻雀部と扉一つ挟んだこの場において、京太郎は完全に孤独だった。

 ――咲。お前の言葉は、俺の勘違いだったのか……?
 麻雀が楽しいなら、麻雀が好きなら、誰でも麻雀を楽しむことが出来るんじゃなくて。
 麻雀を楽しんでいいのは、『お前たち』だけで――。

「弱い人間は、俺は、ダメなのか……?」

 その声は誰の耳にも届かず、彼の震える瞳の前で空しく霧散する。

 からっぽになった京太郎の頭の中で、彼が大切に思ってきた『仲間たち』の声が延々と響き続けた。



 その日、家に帰った京太郎は、あの後自分がどんな顔をしてどんなことを話し、どうやって帰ってきたのか、何も覚えてはい
なかった。


ここまで。

余韻というものも大事だと思うので今回はKYな小ネタは無し。というかそんなふいんきじゃ…。
吟味に吟味を重ねたけれど、こんなんでいいのかなーって感じですね。悩めば悩むほど文章が独りよがりになるし、
謎の詩的表現が出てくるし、ある程度はしょうがないね(ガッカリ

しっかし、なんで僕は地の文をこんなに固くしてしまったのか。ただ『しかもおっぱいが大きい』って書けばいいのに
『加えて体つきがとても女性らしい』ってなんか青少年の清らかなエロっていうかただの変態みたいに……。
でも『である』とか『否』とか書いてある文でいきなり『おっぱいが大きい』なんて、それはそれでアレだし。

まぁこんな感じで1章の2つ目の区切り終了。チマチマやると盛り上がりに欠けるし、一気に投下したかった場面。
次回辺りからオリジナル要素モリモリになってまいりますのでー、という予告&警告をしておきます。

余談ですが、少しでも京太郎の感情をリアルに表現したいと思い、「俺だって勝ちたい! 負け続けるなんて嫌だ……!」とか
「っなんでだよ、咲……!」とか、やたら情感を込めて朗読していたらマッマが心配そうな顔で部屋を覗き込んできました。
僕はもうだめかもしれません。

それでは。


ざっと読んで丁寧に書いてるのは好感が持てるわ
でも正直展開が陳腐というか、すれ違わせて云々を描写したいにしても
扉越しに盗み聞きとか安直過ぎるのは気になった

予想外の反響の大きさにビックリ。

なにこの浸り過ぎた文章引くわー(^^; とか言われたら「ォウフ…」ってなってたから投下怖かったけど、
楽しんで(?)いただけたようで何よりです。
>ツキに愛され、人の愛を忘れた悲しき少女。
のところとか、衣ちゃんの能力の象徴である『月』と化け物染みた彼女の『強運』(運と言っていいのかはさておき)を掛けた
我ながらナイスな言い回しだと思ったり思わなかったりいやなんでもないですすいません。


>>128
あー、これは痛いところ突かれましたね…。
実際これからの展開もありきたりっていうかなんていうか、
読んでくれてる方の何人かに言い当てられてて無理矢理スルーしてたし…(目逸らし)

予想を裏切らない展開は読者を裏切ることになるのかどうかは分かりませんが、
それでもこの話を書こうと思ったのは、人のSS読んで浮かんだ妄想の中で滅茶苦茶悶える羽目になった
とあるシーン(キャラの心理描写?)を自分の手で実現させたいって思ったからで、
僕の構成力じゃその流れに持っていくには王道のど真ん中通るしかなかったんで、それもしょうがないかなって感じです。
どんなに陳腐になっても、どんなに展開読まれても、そのシーンだけは絶対に面白くなるぞ!っていう自信がありますので
今さらストーリーをどうこうする気もありません。
まぁこれで「いやそのシーンもつまんねーよ」ってなっちゃったら「サーセンサーセン」って言いながら
背中を丸めて敗走するっきゃなくなる訳ですが。

つまるところ、「ストーリーは陳腐だけど、ウチは心理描写に自信アリ(笑)だから」ってことで。
(核爆)とかにならないように朗読頑張ります。


と、威勢のいいことを言いましたが次の投下の目途はまだ立っておりません…。
いや、ほら、選挙とかあるし大掃除とかクリスマスとか年末年始は忙しいから…(震え声) どうして声が震えるのかはお察し。
物語の大筋であるプロットを基に、1節毎をどういう流れにするか細かく箇条書きする小プロットなるものも用意して書いているんですが、
今回はそれの作成があんまり思わしくないんですよね…。
まぁ皆さんにモチベ上げていただいていますし、エターナることはないと思います。
目途が立った頃に、生存報告も兼ねて何か書き込みでもしようかな。

それでは。おやすみなさい。

そういえばまだ元部長は出ないのか?

1です。先程小プロットを書き終えましたので報告。

ネット上ではお喋りってなタチなのでついつい話し過ぎてしまうのですが、
まぁ自分の書いたSSを楽しんでほしいっていうのが本懐ですし、それで興を削がれる方がおられるならば本末転倒。
これからは無駄だと思うものは極力省こうと思います。

>>138
 元・部長には後々出演していただく予定です。
 僕としては、辞めてからは時々部室に顔を出しつつ進学の為に受験勉強してるっていうイメージなんですが、
 原作で引退後の進路について言及されているのかが不安ですね。
 どうせなら原作の設定に合わせたいのですが、まぁどうであれ大した問題ではないです。

今回は一気に投下する気はなく、区切りがいいところでちょくちょく投下しようと思いますので、
そんなにお待たせすることはない筈です。
それでは。おやすみなさい。


 薄暗い室内。
 閉じられたカーテンは光を遮断し、今が昼なのか夜なのかも分からない。外界から完全に隔絶された部屋で、僅かな物音だけ
が静かに響く。

 冷たいフローリングの床には数冊の本が乱雑に転がっている。ページの紙は真新しいにも関わらず、いくつも癖がついてしま
っている様子が、それらが幾度となく乱暴に扱われたことを物語る。

 その中で、部屋で唯一の光源である、学習机の上に置かれたパソコンの青白い光が、この部屋の持ち主――京太郎の生気の感
じられない顔を照らしていた。

 学校にはもう数日行っていなかった。それどころか、部屋から出ることすらほとんどなく、せいぜい軽食を取る時と用を足す
時くらいのもの。
 あとはひたすらインターネットの世界で相手を探し、体力が尽きるまでオンラインの麻雀ゲームをプレイする。ふと気が付い
たら眠ってしまっていて、意識を取り戻すやいなや中毒者のようにパソコンに齧りついた。

 誰が見ても病的で、異常な生活。
 先の一件で自暴自棄になってしまった彼は、己を破滅へと導くが如く執拗に麻雀を打ち続けていた。

 当然両親は心配し、京太郎に学校で何があったのかを問い質した。また、学校にも来ていない彼を心配してか、麻雀部の面々
からも数度連絡が来ていた。
 だが京太郎は全く耳を傾けず、孤独な部屋の中でネット麻雀に逃げ込んだ。彼は自分がこれ以上傷つくことを恐れ、そして前
へ進む気力も失っていた。


 カチ。カチ。
 マウスを操作し無機質な音を立てながら、京太郎は淡々とゲームを進行させる。流石に慣れてしまったのか、一打に要する時
間は以前と比べ格段に短い。

 振り込もうが、和了ろうが、彼の表情に変化はない。何の感動もなく、気概もなく、ただ効率と精度を突き詰めるだけの作業。

 ――今更こんなことをやったって、何になるっていうんだ。

 対局の合間に、何度も弱った心が京太郎に囁いた。

 ――邪魔者、お荷物、自惚れ野郎。その現実を突き付けられただろうが。俺は誰からもあそこにいることを望まれていなくて、
誰からも必要とされていなかったんだ。
 唯一役に立てていたと思える雑用だって、あれだけの実績を残した部活なんだ。代わりなんていくらでも集められる。もうあ
そこには、俺の居場所なんてどこにもないんだよ。
 未練がましく、まだこんなことやって。地道な努力が実を結ぶなんて、まだ本気で思っているのかよ。


 強くなることも、卓に入ることも、勝利を目指すことさえ、望まれてなかったのに……?


 女々しくて、情けない。根暗で、惨めだ。そうやって、彼は自らを酷く追い詰めた。

 自分には誰かを責める権利はないと理解していたし、その気もなかった。溢れ出すやり場のない感情は、全て自分への罵倒と
なって表れた。

 それは自傷行為そのものであったが、そうでもしないとどうにかなってしまいそうだった。ただただ苦しくて、消えてしまい
たいと思った。

 だがそんな状態にあっても、京太郎には麻雀を捨てることがどうしてもできなかった。いっそ辞めてしまおうと思うと、必ず
彼の中で美しく残っている記憶が京太郎の邪魔をした。

 初めて麻雀部を訪れ、麻雀牌に触った時の感動。
 ルールも知らない自分に優しく手ほどきしてくれた元部長の竹井先輩。
 その一挙一動で京太郎をドギマギさせた和。
 初めて和了した喜びに震える京太郎に、からかいつつも笑顔を向けた優希。
 自分の拙い打ち筋を決して笑わず見守ってくれた染谷部長。
 自分と同じくらいのレベルかと思えば、実は部内で一番の実力を秘めていた咲。

 思い出の中の彼はどれも笑顔に満ち溢れていて。
 それらを思い出す度に喉の奥から込み上げてくる感情を、京太郎は歯を食いしばって押し殺さねばならなかった。

 ここ数日の慢性的な睡眠不足と栄養失調により、頭の回転が非常に悪くなっているのは彼にとって幸いだった。ネット麻雀を
している時はそれに集中するだけで精一杯で、余計なことを考えずに済んだからだ。

 傷つくことを恐れて独り闇に逃げ込み、膨大な絶望と憤りを抱え込み、それに耐え切れず自らを傷つける。

 負の螺旋の中で、誰にも止められることなく、京太郎は堕ちていった。



「んっ……」

 小さく呻いて、京太郎は微睡から目覚めた。机に突っ伏していた体を起こし、痛む節々を伸ばす。

 時計の時刻から察するに、どうやら十五分程眠っていたようだった。ネット麻雀の途中であった為、眼前のパソコンの画面に
は一定時間操作のなかったことによる強制敗北を告げる文字が表示されている。

 ぼんやりとした様子でそれを眺めていると、何度も繰り返した筈の自問が膨らんで頭の中を満たしていく。

 ――どうして、俺はこんなことしてんだろう。

 ――どうして、こんなつらい思いをしてるんだろう。

 ――どうして、居場所を失ってしまったんだろう。

 ――どうして、仲間になれなかったんだろう。

 どうして。どうして。どうして……。


 それは疑問と言うよりも、後悔。
 失ってしまったものは大きい。いや彼は失いさえ出来てはいない。最初から何も持ってなどいなかったことに気付いただけ。

 なおも尽きることなく湧き上がる失意の念。

 京太郎は顔を歪ませて机に拳を激しく叩きつけた。怒りで体を震わせながら、声を絞り出す。

「分かってんだろうが、そんなの……」

 ――どうして?
 決まってる、弱いからだよ。どうしようもなく。
 強くなろうとする努力すら最近ようやく始めたばかり。遅かったんだよ、何もかもが。
 甘かった。大会が終わった後の先の見通しも、ただ一人の未経験者なのに危機感が無かったことも、何も言わないあいつらに
甘え切っていたことも。全部。
 自分のせいだろ。自業自得だろうが。
 自分の行動が招いた結果で不平を言って、不満を持って、閉じこもって、逃げて。最低じゃねぇか。
 麻雀歴とか関係なく、俺自身の人間性が。醜くて、小さくて、弱くて。
 最初っから、俺はあいつらとは『違う方の人間』だったんだよ……。

 それは心の延命措置。自らを傷つけて溜飲を下げ、一時的に爆発の瞬間を遠ざけるだけのじり貧の逃亡戦。

 彼の精神はもう限界だった。

「俺なんかが居ていい場所じゃなかったんだよ。あんなに、明るくて、元気で、まっすぐで……。そんな所だから――」


「……そんな所、でも」


 ――それでも。


「……ずっと、あそこに居たかった」


「みんなと一緒に、麻雀やっていたかった……!」


 感情は怒りから悲しみへ。自身を叩き伏せようとする理性の殻が破れ、紛れもない彼の本当の願望が顔を出す。

 もう抑えることは出来なかった。嗚咽と共に涙が零れ、京太郎は椅子の上で背中を丸めて袖に顔をうずめた。

 ――なんでだよ……。
 いいじゃねぇか。弱くたって。
 もの凄く出遅れたけど、頑張ってたじゃねぇか。
 雑用しか出来なかったけど、役に立ってたじゃねぇか。

 ――ダメな俺でも、受け入れてくれよ。

「今更、突き放さないでくれよ……。見捨てないでくれよ……!」

 ――最初から優しくなんかするなよ。余計につらいんだよ……。

 先に光が全く見えない状況で、思い出と理想だけが膨らんで、そのギャップで押しつぶされる。

 自分にはない、彼女たちの強さが羨ましい。
 自分に優しくしてきた、彼女たちの好意が恨めしい。
 自分を拒絶した、彼女たちの言葉が憎い。

 だが一番憎いのは、どうしようもない自分自身。

 優れた能力もなく、人並み外れた強運もなく、積み重ねた経験もなく、決して折れない強靭な精神もない。そんな自分が憎い、
自分の過去が憎い、その存在すらも。

 ――ダメだ、もう。何も考えたくない。

 過去のことも、未来のことも、考えたくはなかった。

 京太郎は涙を拭い、目先の苦しみから逃げ出すように再びネット麻雀を始めた。

ここまで。

うーん、この文章量…。そんなに待たせることはないとは一体なんだったのか。
自分の伝えたい感情ばかり先走って、うまく文章に表せているのか不安ですね。

それでは。もうちょっとペースを上げていきたい。

これは互いの為にも一時的でもいいから清澄メンバーと離れたほうがいいな

じゃないと気持ちのすれ違いが置きそうだ

「否 我々の与える物は全てあの者に与えた。
我々が奪える物はかの者から全て奪った。
自分の人生 自分の幼馴染み 自分の信義 自分の忠義 全て賭けてもまだたりない。
だからやくざな我々からも 賭け金を借り出した。
たとえそれが一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしても、
2年かけてあの男はあの宮永咲と勝負するために全てを賭けた。
我々と同じ様にな 一夜の勝負に全てを賭けた。
運命がカードをまぜ賭場は一度!! 勝負は一度きり!!相手は鬼札(ジョーカー)!!
さてお前は何だ!! 須賀京太郎!」

*小ネタ*





熱いぜ!SuGA


京太郎「おう咲!」

咲「京ちゃん!ど、どうしたのその指!!」

京太郎「覚悟の表れ!いいだろう?飛ばされるごとに指を一本ずつ自分で折っていくんだ」(まぁ、昨日突き指しただけだけど)

咲「!!」

京太郎「お前たちに追いつけるように、俺ももっと頑張るから、一緒に麻雀部盛り上げていこう!」

優希・和「京太郎(須賀君)・・・!私たちのせいで・・・・・!」


~~数日後~~


京太郎「なんか最近麻雀の調子いい感じ! 順位は変わらないけど飛ばなくなったし」

一同「・・・・」(((と、飛ばせないって!!)))



京太郎「やったぜ」

――――

>>163 は何の台詞なのか知らないけどなんか熱いな!って感じで思いついた小ネタ。

>>155 これが一般的な高校生須賀京太郎君の心の成長を描く青春ストーリーならそれでも良かったんですけどね…。


時間があれば今日の夜辺りに続き投下します。


 抑え込んできた心情を吐露した後、京太郎は頬杖をついて脱力した様子でディスプレイを眺めていた。どことなく気の入って
いない瞳は充血し、再び感情を覆い隠してしまった表情からは達観とも言うべき雰囲気が漂う。

 ――あんなに泣いたの、何年ぶりだろ? もう高校生なのに、カッコ悪いな……。

 年甲斐なく幼さを見せてしまった自分を憫笑し、目の前の対局に集中する。

東 対面:36900
南 上家:23000
西 京太郎:23000
北 下家:17100

 場は東3局。13巡目。ドラは六萬。
 どうやら親である対面に流れが向いているらしく、東1局では下家から3900点を直取り、東2局では満貫をツモ和了りと、2
連続和了を見せた彼(又は彼女)は開幕から僅か2局で37000点弱と大きく勝ち越していた。

 そしてこの局でも勢いは衰えていないようで、親でありながらかなり高い手を狙っている様子。ここまでの捨て牌はオタ風の
字牌と索子と筒子だけで、萬子が一切見えていない。

 捨て牌から察するに、十中八九萬子の染め手。

 ドラ色とも一致している上に鳴きは一萬の明刻だけ。もし清一色で聴牌まで持っていかれて振り込もうものなら、痛いどころ
ではない一撃を貰う可能性は高い。役牌とドラを絡ませた混一色でも1位は決定的だろう。

 ――俺の手牌はかんばしくない。となると萬子を抱えて、他家が親流ししてくれるのを期待するしかない訳だけど……。

 本来なら対面を警戒しなければいけないこの状況。しかし何故か京太郎は下家が気になった。

 前2局においても、無警戒に対面を鳴かせて勢いづかせた要因の一つである下家。攻め負けているのか素人なのか、無筋の危
険牌でも平気で捨ててくる打ち手だった。

 勢いに乗れば怖いだろうが、現状注意すべき相手とは言い難い。そう判断しても頭の片隅で何か引っかかるものがあった。

 ――なんだろう、コイツ。何かおかしい気がする。

 京太郎は違和感の正体を探る。まるでたった今初めて感じたような新鮮さと、かなり前からよく感じてきたような馴染み深さ
のある、不思議な感覚だった。

 今までずっと近くにあったのに、その存在を知らなかったような。

 考えている間に京太郎の順番になり、制限時間は刻々と迫っていた。

 京太郎は無言でディスプレイを注視する。

 画面から分かる情報は、他家の鳴きと捨て牌などの牌の情報。卓の外に各プレイヤーの名前と段位、現時点での点数。卓の中
央にそれぞれの自風、局数などの場の情報。それだけであり、彼自身もそれは熟知している。

 ――でもこれはそういうのじゃない。目で見て、頭で考えて分かるようなものじゃなくて、もっと抽象的な……。

 たどり着いた答えは。


「なんか。光ってる、ような……」

 そう彼が呟いたと同時に制限時間が切れ、強制的にツモした索子の牌を切られてしまう。凡ミスにあっと息を漏らすが、幸い
なことに場は動かない。

 ――何やってんだっ、集中しないと。

 無茶な生活習慣にとうとう視界にまで影響が出始めたか、そう思い京太郎は目を擦った。が、一向に治る様子はない。

 視覚的な輝きではない何かが、表示される下家のプレイヤー名――その向こうの人間から発せられている。ように感じる。

 京太郎が注目する中、下家は不注意にも三萬を切り、対面は待ってましたとばかりに飛びついた。二三四萬で順子を作り、四
萬が手牌から捨てられる。

 14巡目、二副露した後に出てきたのは萬子のいいところの中張牌。もう聴牌されたと考えた方が自然な状況。

 内心で下家を責めながら、京太郎は眉を寄せた。

 当然上家は降りたようで、1枚切れの自風の南が即座に手牌から出てくる。思考時間が短いのは、重なっていた為だろう。

 そして時間を空けずに、京太郎のツモ番がくる。

 ――安牌は、二索……。

 対面が早い内に切った二索を切ろうと考えたところで、京太郎の手が止まる。
 やはりどうにも、対面よりも下家の方に目をやってしまう。

 下家の捨て牌からはあまり情報は読み取れない。
 この対面の手に対して暴牌とも呼べる捨て牌が多いのは気になったが、そもそも序盤から他色の使いやすい中張牌を切ってい
てツモ切りも多い。結果それが裏目に出ている牌もある。

 ――ただ単に、この下家が初心者っていうだけじゃないのか。

 もしくは七対子、チャンタ系の決め打ち。最悪この点差にやる気を無くして自棄になっている可能性もある。ただツモ切りが
多い割には張っている訳でもなさそうで、先程鳴かれた萬子も手牌から飛び出してきたもの。

 警戒する理由は一つもない。京太郎の経験からはそう思わざるを得なかった。

 ――七対子を狙っているのだとしたら萬子を持っていても良かったはず。決め打ちにしたって、今の状況じゃあまりにもリス
クが大きすぎる。降りた方が賢明だ。
 親が明らかな染め手で、ドラ絡みの清一色の可能性すら残っているのになんでここまで……?

 どうしたものかと手をこまねいていると、再び制限時間が無くなってきていた。京太郎がこの巡にツモした牌は、先程下家が
切った三萬。下家へは安牌であるが、対面へは違う。既に鳴かれた牌とは言え当らない保証などどこにもなく、コンピュータに
強制的に切られる訳にはいかない。

 しかし京太郎はフッと頬を緩ませ、

 ――まぁ、どうせ何度もやる内のたった1局だ。少しくらい遊んだっていいだろ。

カウントが0になるよりも早く、自分から三萬を捨てた。




 通った。



〈ロン〉

 飲み込んだ息をホッと吐き出そうとした矢先、PCから機械音声で和了宣言が発せられた。

 振り込んだのは対面。

 和了ったのは、下家。

「なっ、嘘だろ……」

 画面が切り替わり、暗い荒野が表れる。

 瞬間、地の裂け目から這い出た龍が雷鳴轟く雲を突き抜け、空を翔け上がった。
 踊るように暴れ回り、プレイヤーを睨み付けて大口を開ける。

 この仰々しいエフェクトは、役満和了り時限定のもの。つまり下家が和了ったのは――。

〈四暗刻。役満〉

 無機質な機械音声が和了り役を告げた。和了り牌は、京太郎の捨てようとした二索。
 あのまま二索を切っていれば、振り込んでいたのは京太郎だった。

「役満って……」

 32000もの点が対面から下家へ移り、場の状況が大きく変わる。対面が稼いでいたからこそ半荘は続くが、振り込んでいたの
が他の人間であれば既にゲームは終わっている程の点数である。

 自分の想定を遥かに超えた展開に、京太郎は唖然とするしか出来なかった。

 役満は手牌を大きく制限されるため捨て牌に特徴が出やすいが、四暗刻はその中でも比較的読まれにくい手。
 事実、京太郎は全く考慮していなかった。

 だが、彼の胸中には違和感だけがあった。三萬が切れることが分かった訳でも、二索が切れないことが分かった訳でもない。
それはもっと根本的な――。

 ――コイツが何かをしでかす、そんな気がした。

 何の根拠もない、己の直観。

 デジタル打ちの和であれば、馬鹿馬鹿しいと一刀の下に切り捨てるような考え。京太郎自身も今までの人生において自分の第
六感が優れていると感じたことなどほとんどなく、麻雀を打つ時にもそれに頼ろうとはしようとしてこなかった。

 それでも、今の局で京太郎を救ったのは『なんとなく』という感覚。

 ――気のせい、だよな。ただ単に俺が気まぐれを起こして、それが上手く回っただけ。大体、四暗刻って分かっていたら下家
と対面どっちも躱せるような牌だってあった訳だし、ベストな選択をしていた訳でもないだろ。
 こんなこと、一度きりだ。何回も続くようなことじゃない、よな。

 現実的な意見を自分に言い聞かせつつも、心が揺れる。
 そうしている間に次の局が始まり、京太郎は気を引き締め直した。

 ――有り得ないとは思うけど、試すだけだ。それだけ……。



「ホントに、何かが見えてんのか。俺……」

 結論から言うと、京太郎の違和感は単なる気のせいや偶然ではなかった。

 数半荘試して得られた情報を、自分なりに整理して考えてみる。


 まず京太郎が『光っている』と感じたプレイヤーは、その局必ず和了する。そしてその飜数が高ければ、輝きは一段と増す。

 また、注意して見てみれば局の最初、それこそ親の第一打前から和了るプレイヤーは分かるようだった。

 ただ誰も『光っていない』と感じる局もあり、その時は流局するか、京太郎が和了るかのどちらか。


 上級者のように聴牌気配を悟るでもなく、場の流れを読む訳でもなく、和了り牌を察知する訳でもないのに、そんな過程の情
報を越えて『誰が和了るのか』という結果だけを何故か見通せる。

 ――十数局やって、一つも例外はなかった。むしろ、この法則を外れてやろうと行動しても全て無駄だった。
 結果を知る俺の意思や行動でも影響を及ぼすことが出来ない、強固な未来視。
 それに……。

 京太郎の感覚は、麻雀卓以外のところでも適用出来るようだった。

 同じ麻雀ゲームの観戦モードで試してみた結果、東1局から南4局までの全ての局で四人の内誰が和了るかを完全に予知。
 麻雀以外でも試してみようとポーカーなどのトランプゲームにも手を出してみたが、京太郎の感覚が使えないものは一人でプ
レイするゲームなどのプレイヤー間での勝敗がないゲームだけであった。

 何半荘したって外れることのない程正確なのに、その根拠は自分の勘という心許ないものだけという不思議な情報。

 ――これが、オカルトってやつなのか。

 京太郎はそう結論づけた。

 それは彼にとって、自分のような凡人の枠を超えた別格の存在の象徴だった。
 もちろん、強力なオカルトの能力を有するだけが全国区で活躍する雀士たちの強さではないと理解しているが、どうしても羨
望の眼差しを向けてしまう、何かに選ばれた者だけが持つ圧倒的な才能。



「そんなものが、俺にも……?」

 自分の身に起きた変化に、京太郎は震えた。覇気を失っていた瞳が光を取り戻し、臥せっていた心に小さな希望が湧いてくる。


 ――これで俺も、アイツらに追いつけるんじゃないか。


 京太郎は大会の間麻雀部の面々が戦う姿をただ一人だけ外から眺めてきた。

 自分が同じ舞台に立つ姿を切望し、その度に自分の現状に苛立ちを覚えて。

 憧れ、羨み、諦め、耐え。彼の中ではずっとそれらの感情が激しく巡り、締め付けてきた。

 いわば、彼は第三者。思い焦がれながらも当事者になることが出来ず、身を焼く程の思いを抱きながらも仲間たちの晴れ舞台
を眺めるしか出来ない傍観者。

 だがそんな彼だからこそ芽生えたもの。

 当事者たちでは決して見ることの出来ない卓の外から、俯瞰的に場を見渡す神の視点。
 狂おしい程の思いと共に主観を全て押し殺した、達観の境地に至るからこそ見える何か。
 第三者の――いやそれをも超越した視点から、流れや実力、運といった打ち手たちの感覚や才能や知識に左右されない、ただ
一つの結果だけを見据える能力。

 それが彼の身に起きた奇跡だった。



 ――いや、駄目だ。

 浮かれそうになる自分に待ったをかけ、京太郎は現実を見つめ返した。

 ――俺の能力は、ただ結果が分かるだけ。
 確かに攻めと引きの判断が出来ることは有利に違いないだろうけど、優希みたいに手の進み方に影響はしないし、咲みたいに
狙った牌をツモれる訳でもないし、染谷部長みたいに自分に有利な状況にすることも出来ない。

 ――あくまで補助としてしか使えない。それ以外は全部俺の実力だ。
 一週間と数日、本を読み漁ってネット麻雀で経験を積んだけど、それでも知識でも経験でもアイツらには勝てない。
 これで多少マシになるとは言っても、アイツらに追いつき、追い越すまでにはまだまだ時間が掛かる。


「それじゃあ、結局一緒じゃねぇか」


 ――俺はもう戻りたくない。
 誰からも目を向けられず、役に立ってるっていう自己満足だけで自分を納得させる雑用にも。馬鹿にされて軽視されて、拒絶
される、『楽しめない側の』人間にも。


 ――もう一度たりとも負けたくない。

 ――絶対に勝てる人間になりたい。

 ――誰にも馬鹿にされたくない。誰かに見ててほしい。

 ――見限られたくない。認めてほしい。

 ――離れたくない。

 ――そばにいたい。

 だから。


「勝つしかないんだ……」


 ――その為には、それしかない。勝って、己の存在を示すんだ。
 誰からも目を向けられるように、誰からも下に見られないように、誰からも必要とされるように……!

 ――強くなることは、勝つ為の過程の一つに過ぎない。道は一つじゃない、実力で負けてるなら他にやりようがある。

 ――求めろ、結果を。結果だけを見据えろ。


 ――それが俺の能力だろ!


「大切なのは――」


 ――迷うな。折れるな。諦めるな。
 たとえそれがどんな苦しくても、どんなに非難されようとも、自分の気持ちだけを信じろ。


「俺はもう、戻らない」


 ――俺のどうしようもなく情けない過去と、決別する。


 薄暗い室内。
 強大な決意を湛えた瞳をギラつかせる青年は、思いつめた表情で拳を握り締めた。

ここまで。ここまでの話が第1章となります。


自分の表現力に限界を感じたので妥協して補足。

京太郎の能力は、『勝利フラグが分かる能力』というメタい能力です。
第三者に徹してきた京太郎が、ホントに第三者である僕ら読者(三次元の人間)の視点を手に入れた、とかそんな厨二臭い感じにしたかった。
しかしあんまり深く考えると結論の出ない議論に発展しそうですから、『和了る人が分かる』と本文中の通りで納得していただけるとありがたいかもです。
たぶん問題ないし。

2章から闘牌シーン満載になってきます。気合入れないとな…。


それでは。よいお年を!

明けましておめでとうございます。


いやはや、1ヶ月経ってしまいましたね…。
今はようやく2章の小プロットを終わった程度の進行具合で、まだまだ投下には時間が掛かりそうです。
やはりにわか雀士では、闘牌シーンに説得力を出すのに苦労しますね…。
本当に申し訳ありません。

2章は一気に投下したいので、正直いつ頃完成するのか分からない状態です。
また、凝り性で飽き性でズボラという創作においての三重苦を有する人間が最後まで諦めずに頑張り続けるにはどうすればよいのか
友人に尋ねてみたところ、粗製でいいから予め最後まで完成させておく、とありがたいアドバイスをいただきましたので、
次の投下分を作成するのと並行して3,4章の話も書こうと思っています。その為、恐らくその分更に遅くなるかと…。

読んでくれる皆さんが忘れた頃にひっそり投下していると思いますので、一旦このSSを忘れていただいた方がいいかも知れません。

それか。
完全に別シリーズとなりますが、もう一つ書きたかった話のネタがあるので、そっちを投下してお茶を濁しながら時間を稼ごうかなぁと悩んでいます。
こちらは若干ギャグテイストになると思うので、このSSに興味を持ってくれる人の需要と一致していないだろうというのが引っかかる所ですが。


久しぶりの書き込みなのに良い報告が出来ず申し訳ありませんでした。では。

すいません、更新じゃないです。

1ヶ月も音沙汰なしだったので、台詞のみSSの練習がてらとりあえずの小ネタ書いてみました。

本編との繋がりはないです。雰囲気も正反対。

ギャグって才能、改めてそう思った。(T並感)

京太郎「俺もオカルト能力手に入れたい!」久「え?」



久「何? いきなり」

京太郎「何って、オカルト能力ですよ! ハイテイツモったりリンシャンツモったり!
 俺も『バカな、有り得ない…!』とか『なんだコイツ…!?』とか、恐れられて警戒されて華々しく活躍したいっ!」

久(なんて子どもっぽい欲求…)

和「はぁ…。全く、何を言い出すかと思えば。能力なんて、そんなもの有りませんよ」

京太郎「いや、あるって!」

和「いいですか? あんなのは少ない対局で牌の偏りが大きくなっているだけ、偶然です。
 須賀君はまだまだ知識も経験も未熟なんですから、そんな夢を見てないで得点期待値に則した牌効率やオリの技術などしっかりとした理論に基づいた打ち方を――」

京太郎「そんなカッコ悪いの嫌だっ!」

和「かっ…!?」

咲「うーん…。でも私は、特に何かしたから嶺上開花しやすくなった、なんて思いつかないなぁ…」

久「生まれつきってことね」

優希「そうだじょ犬、あれは神に選ばれし者にしか与えられない究極の才能。
 お前のような凡人には到底手に入れられない高嶺の花なのだ!」

京太郎「お前だって東場に強いっていう妙な能力あるじゃねぇか。っていうか、よく考えると――」


咲「手に入れたいって言われてもなぁ…」←言わずもがな

久「そうねぇ」←悪待ちで和了りやすい

まこ「手に入れるとか、そういうもんじゃないと思うんじゃが…」←染め手で和了りやすい+α

優希「さいの~さいの~♪」←東場にめっぽう強い


京太郎「ほとんどじゃねぇか!」ガタッ

京太郎「もういい、こんなところに居られるか! 俺は俺のやり方で強くなってやるっ!」ダッ

咲(京ちゃんそれ死亡フラグ…)

久「ちょ、対局中よ!?」

バタン、タッタッタッ…

まこ「行ってしもうた…」

優希「ふ、ふん! どーせすぐに帰ってくるじょ!」






和(カッコ悪いって言われた…)ズーン




京太郎「と、部室を飛び出してきたのはいいけど、何も思いつかないな…」

京太郎「いや、よく考えてみよう。みんなの能力にはそれぞれ基づいた何かがある。名前とか、イメージとか」

京太郎「咲は名前。嶺上開花という役の意味と名前が一緒。
 染谷先輩は名前と、実家が雀荘っていう経歴。
 部長は…悪女っぽいから? イメージ、かな…?
 優希は、タコス…東場……、わっかんねー」

京太郎「まぁいいや。それで俺に応用できそうなのって言えば…」


須賀京太郎←特に無し

経歴←特に無し

イメージ←雑用

ペットがカピバラ←?


京太郎「なんてこと…」シクシク

京太郎「いや、嘆いていても仕方がない。今から出来ることをやるんだ」

京太郎「そういやさっき優希が神に選ばれるとかどうとか言ってたな…。
 咲も『牌に愛された人間』とか称されてたし――ハッ!」



ピーン

京太郎「神……愛される……名前……」

京太郎「そうか、分かったぞ。俺がやるべきことが!」



~ 一週間後 ~



優希「今日も京太郎は来ないのか…」

咲「学校にも来てないみたいだし、心配だね…」

??「そうか、それは誠に申し訳ない」

久「そ、その声は!」

ポクポクポクポクポク…

まこ「なんじゃこの音!?」

チーン

京太郎「須賀京太郎、ただ今戻りましてございます」ナムアミダブツー



久(なんかスゴイ恰好してるー!)

まこ「袈裟着とる…」

咲「スキンヘッドの…かつら?」

優希「念仏唱えてるじょ…」

和「え、何これは…」

京太郎「一週間前、私は気付きました…。オカルト能力を手に入れる条件とは、自らの名前との関係性、イメージとの関係性。
 そして、神に愛されること…。だから思ったのです――」




京太郎「そうだ、仏門に入ろう」




久(え、なんで…?)

和(い、意味が分かりません…)

京太郎「そして一週間、近所のお寺に世話になっていた訳です」

優希「神の加護を手に入れる為に仏門に…? な、なんか凄そうだじぇ…!」

久(ああ優希、なんて流されやすい子…)

京太郎「ふふふ…実際にご覧に入れましょう。さあ、対局の準備を」

まこ「いいからその変な口調を直しんさい」



~ そして ~



京太郎「ブツブツ」ナンマンダー

咲(今のところ京ちゃんに動きはない…けど)

優希(ずっとお経唱えてるじぇ…)

和(ナンマイダーとしか言ってませんけど…)

まこ(覚えられんかったんか…)

久(よく考えると一週間だけの仏門入りに何の意味が…)



――カッ!

京太郎「来た…!」

京太郎「咲。悪いけど、お前のお株奪わせてもらうぜ――カン!」

咲「!」

京太郎「そして、もう一つ、カン!」パー

咲(2連続でカン!?)

和(合掌した!?)

まこ(京太郎の背中から後光が…!)

久(な、まさか…!)




――有難い。




パタタタタタ…

京太郎「ツモ。四暗刻。

 素 戔 嗚 (スサノオ)!!」




優希「す、四暗刻…!」

久「いや、むしろその後のは何…?」

京太郎「そう、スサノオとは伝承において八岐大蛇を討伐し、天叢雲剣を手にした人物…。
 そして、この手牌を見てくれ」

咲「こ、これは…!?」


888m999s22s(白白白白)(1111p)


京太郎「九つの頭(九索)を持つヤマ(八萬)タノオロチを打倒し、天叢雲剣(二索)を手にしたスサノオの姿が見えるだろ…?」

咲「か、感じる…。八岐大蛇の断末魔…天叢雲剣の輝き…スサノオの息づかいまでも…!」

京太郎「仏門入りというイメージ作り。そして須賀京太郎→須賀神社→スサノオという名前との関連性。
 これこそが、俺が目指し手に入れるべきオカルト能力だったんだよ!!」

まこ「な、なんじゃってー!!」

和(何を言っているのか全然分からない…!)

優希「い、言われてみれば確かにそんな気がしてきたじょ…!」

久「いや、いやいやいや! 流されちゃ駄目よ!
 っていうか、さっきから須賀君が言ってるのは神道の話、仏教とは関係ないわ! 神仏習合ってレベルじゃないわよ!?」

優希「神仏習合…!? それが京太郎の力…!」

久(優希はもっと勉強しなさい!)

まこ「神道と仏教の垣根を越えた神仏習合を、もういっちょ越えてみるか…!」ヘヘッ

久「まこ!?」

和「ま、待ってください! とりあえずそれで納得するとしても、白と一筒のカンは何なんですか!?」

京太郎「何って…。

 神 (槓) 無 (白) 月 (一筒) だけど?」



※今は10月ではありません。

和(も、もうダメ…)バタッ…

優希「のどちゃんが倒れた!?」

京太郎「やれやれ…。己の長所も短所も全て認め受け入れて、ようやく悟りへの第一歩だってのに修行が足りないな」

久(修業期間7日の癖に…)

咲「ひ、酷いよ…! そんな言い方…!」

優希「許せないじょ…!」

まこ「アンタ、仏に魂まで売ってしもうたんか…!?」

久(いや、あなた達も要因の一つだと思うけど…)

京太郎「くくく…、仏様にとって、仏教徒こそが至高! 異教徒や無宗教家のことなんて知ったこっちゃないのさ!」

久(おい修行し直せ)

咲「そっちがそういう態度なら、こっちも相応の対応をするよ…!」ゴッ!

京太郎「お、オカルト能力を手に入れた俺は無敵だ! 咲にだって負けない!」

咲「こんなの麻雀じゃない! その思い上がりを正してあげる! カン!」

京太郎「!」

咲「もいっこカン! もいっこ、カン! 最後に、カンッ!」

京太郎「な、バカな…!」



咲「ツモ。四暗刻四槓子字一色大三元。

 四 倍 役 満 !」


ピピピピピピ…

京太郎:57000→-7000


京太郎「ぐああぁぁっ…!」

バタン…

咲「京ちゃん、私待ってるからね…。元の心優しいあなたが帰ってきてくれることを…」




和「」←脳内フリーズ

京太郎「」←跳び
優希「」←跳び
まこ「」←跳び

久(気絶者が4人……)



仏教徒京太郎編、カン。

こういうぶっ壊れたギャグを面白おかしく書ける人って尊敬します。

あ、ちなみにこれは先日書きたいって言っていたネタじゃないです。

そっちは結構長くなるだろうから自重しました。

テスト

書き込めてたらご飯食べた後で投下開始。


『発端』

 その日は、よく晴れた一日だった。それはもう、文化系の部活に所属している人間なんかは、少々辟易してしまうような。

 ただ校舎から部室棟へ移動するだけで額に汗が滲んでしまうような暑さ。部室へ到着してすぐに、嬉しいことにコーラなんか
用意されているもんだから、俺は一も二もなくそれに飛びついた。

 誰が持ち込んだのか、嬉しい差し入れに気を良くした俺はそのまま誘われるままに対局へ。コップ一杯をすぐに飲み干し、1.5L
のペットボトルから2杯目を自分で注いで、席の右側へと置いた。

 そしてそれから約15分後。俺は脇に見えるその黒い液体に恨みがましい視線を送りながら、後悔の念に苛まれていた。

 喉を潤した時の充足感はとうの昔に消え失せて緊迫感を伴った強烈な衝動へと形を変え、今現在俺の体内でその存在を主張し
ている。

 まぁ、要するに。




 トイレ行きたい。




『決意』

 状況は、1年生4人で卓を囲んだ半荘の、東2局。どっかで聞いた話によると、1半荘の平均時間は大体1時間半だというこ
とだ。

 その情報を信用するなら、この半荘が終わって俺がトイレに向かうことが出来るのは約1時間と十数分後。

 それまで、我慢し続けられるか。


 ……ギリギリ、か?

 もしかするとアウトかも知れない。


 こんなことに頭を悩ませている俺だが、別に清澄高校麻雀部の規律に『対局中は席を立つべからず』なんてもんがある訳では
ない。つまりここで席を立ってしまっても非難を受ける謂れはない。

 しかし、部室棟のトイレは一階にしかない。そして麻雀部の部室は最上階。ただ行き来するだけでも結構時間が掛かる。

 その間、自分の為にみんなに待ってもらうというのは心苦しい。この面子の中で俺が一番弱いってのもある。

 それに、なにより。

 あんなに勢いよくジュースを飲んでおいて、催してしまって我慢できませんなんて、あまりにもカッコ悪すぎると思う。

 自己管理が出来ていない子どもみたいな人間と思われるかもしれない。

 それか、耐えることの出来ない軟弱な男だと思われるか。

 お子ちゃまガールの優希とポンコツ少女の咲にそう思われるのはまだいい。しかし和に思われたら……?

 それは、考えるだに恐ろしい展開だ。


 ――そう。

 俺は、男として、そう簡単にこんなKYな尿意の奴に屈してやる訳にはいかないのだ……!


「ん? どうかしたのか、京太郎?」
「……いや、別に?」

 と思った矢先、『奴』の圧力を誤魔化そうと身をよじったことを対面の優希に見咎められた。

 落ち着け、俺。あまり変な動きをすると目立つ。

 あんまり動かないように、普通に。

 普通に。


 ……きっつい。


 こんなに動かないでいることが辛いとは思ってもみなかった。

 ど、どうなんだ俺、これ我慢とか出来るのか。なんかいつもより『奴』の勢力が強力な気がするんだけど。

 当者比1.5倍。耐えがたい欲求がどんどん脳内を埋め尽くしていく。

 まずいまずいまずい……! これをあと1時間?


 ――出来るかっ!


「ロン! 平和断ヤオドラ1、5800(ゴッパ)!」

 自問と自答がグルグル渦巻いていた思考に、不意打ちのように声が入り込む。

 ハッとして河を見れば、俺がほぼ無意識に切った二筒がダマで待ってた優希に当たったらしい。

「ほらほら、早く有り金を差し出せっ!」
「お、おう」
「まいどー♪ さぁ連荘だじぇ!」

 半ば動かされるように点棒を渡し、卓の中心へと牌を落とし込む。

 機械的にそれらの動作を行っていると、ぼんやりとある考えが浮かんできて徐々に形作っていく。

 考えてみれば、俺の振り込みのお蔭で今の局はたった7巡で終わったんだよな。

 ってバカか俺は。結局連荘になってるんだから、長引いてるんだっての。


 じゃあ。

 別の奴なら振り込んでも良かった……?

 俺が率先して振り込みまくれば、この半荘の時間を短縮することが出来る……?

 その後で堂々とトイレに立つことが出来るんじゃないか。


 いやいや、麻雀部員が負ける為に打ってどうする。麻雀に対する冒涜だろ。


 そう良心が切り捨てようとするのだが、その誘惑が大き過ぎてどうしても捨てきれない。


 たった1半荘だけじゃねぇか。構いはしないって。

 どうせいつも負けてるし。


 自分から負けるのと勝負して負けるのとを同一視する程バカじゃないだろ。

 みんな真面目に部活やってるんだ。それを邪魔するなんて、部員としての禁忌を犯してるようなもんだ!


 綺麗ごとだろ。実際にこの半荘1回真面目にやることで何かを得られるなんて思ってないし、期待してもないじゃねぇか。

 大体、部員としての禁忌を犯すだなんて言いますけどね……。



 ――『高校生にもなって公衆の面前でお漏らし』なんて、人としての禁忌を犯してるようなもんじゃないんですか!?



 ……決着は、ついた。

 俺も冷静に考えた結果、部員としての面子よりも人としての面子を守る方が重要だという結論に落ち着いた。

 決してこの衝動に惑わされた訳ではない。両者を天秤に掛けて、どうしても捨てきれない方を選ぶ為の苦肉の策だ。

 確かに褒められた行為じゃない。それでも、何かを守る為に、捨てなければいけないものだってあるんだ。

 落伍者の烙印を押され、蔑まれて、後ろ指を指されても、構うものか。

 それでも俺は人として生き、人のままで死ぬ。


 だから。

 俺は、この半荘を早く終わらせることだけに全力を尽くす……!



『僥倖』

 東2局。優希の連荘。

 現状最も困るのは、優希の連荘が長く続くこと。

 親が続く条件は、親が和了ることと、流局した時に親が聴牌していること。

 正直、東場の優希が聴牌を逃すとは思えない。となると、優希が和了る前に子の誰かが和了らなければいけない。

 俺にその役目が務まるかと言えば、恐らく無理だと思う。

 こんなところで意地を張っても仕方がない。悔しいが、雀力の劣る俺が優希と速さで勝負したって話にならないだろう。

 分の悪すぎる賭け。突っ込む意味は、まるでない。

 幸い、俺の両隣の二人は共に超高校級のスーパー雀士だ。

 ならば俺がやるべきは一つ。彼女たちの和了りをアシストすること。

 俺に上手く欲しい牌を流す程の能力があるだろうか?

 いや、やるしかないんだ。

 やれる人はいる。それ知る方法はどこかにある。

 頭をフル回転させろ。思考、推察、予測、それらを駆使して、その人たちに少しでも近づけ。

 と、意気込んでみたはいいものの。

「ちっ……」

 軽く舌打ち。

 アシストと言っても、勝手も知らないことだ。どうすればいいのか、見当もつかない。

 とりあえず無難に字牌から処理しながら、下家の和に視線を移す。

 玄人ともなると目線や表情で相手の狙いが読めると言うが、流石に全国レベルの選手。和の端正な顔から俺が読み取れる情報
はない。

 和の河は、やはり字牌。最初はセオリー通りに浮き牌処理。

 いつもの和なら、やはり作りやすい平和や断ヤオが多い。あとはリーチ。

 その中で俺がアシスト出来るのは断ヤオだけ。しかし、もし鳴ける牌を俺が捨てたとして、和が狙い通りに鳴いてくれるのか。

 恐らくそれはない。

 鳴いて作った断ヤオ、役牌はたった1飜にしかならない。それならリーチのみと変わらないし、リーチの方がツモや裏ドラで
飜数が和了る可能性がある。

 そう考えれば、得点期待値をしっかり考慮に入れる和が最初から鳴いて安く早く和了ろうとする訳がない。

 俺が和にアシスト出来るとすれば、そのタイミングは最後の1牌を流す時だけ。

 出来るだけ和への安牌を残さないように、和がリーチするのを待つしかない。

 じゃあ、咲は――。

 と上家の咲に目をやったところで、その様子に違和感を覚えた。

 妙に顔を赤らめながら、その表情を強張らせる嶺上少女。

 視線は手牌のもっと下、自分の足元に向けられて、その両腕は突っ張る様に腿の上に置かれスカートをしっかと掴んで、小刻
みに震える全身にはとても麻雀を打つには必要ない程の力が入っているように見える。

 一瞬訝しんで――



 即座に理解した。


 大きく吸って吐かれている割には荒い息づかい。時折チラリと場を確認して、再び下を注視する。

 きっとそれは、足元に興味を引く何かが落ちているからではない。

 出来るだけ時間を掛けずに場を進めつつ、俺の胸にとてつもなく大きなシンパシーと安心感が溢れ出してきた。

 そうだよ。俺がこんなんなってんのに、お前が平気なのはおかしいよな。

 あぁ、なんて奇跡的なめぐり合わせ。

 ありがとう、咲! お前がここにいてくれたことこそ、俺にとっての『神のご加護』に違いない。

 たぶん。いや絶対に、そうだ。


 なぁ、咲――?



 お前も、トイレを我慢してんだろ……?



 いつもの俺だったら、絶対に辿りつけなかったであろう答え。

 この特殊でおかしな惨状の渦中にいるからこそ、咲の変化にいち早く気付け、その真意を察すことが出来た。

 考えてみれば、なんてことはない。

 咲はその筋の人たちからは有名な『おしっ娘』属性の女の子。

 一般的高校生の俺でさえこの強大な尿意に晒されてんのに、まさか同じジュースを飲んだ咲が平気な訳があるだろうか。


 いや、ない。


 それならば、話は早い。咲と協力して、この半荘を手早く終わらせる方向へ動かせばいい。

 今までの俺の立場は、一人で俺の目標を達成する為に他の3人を上手く動かさなければならないという、孤軍奮闘状態。

 それが今度は、二人でこの目標に立ち向かえる。

 しかも、相方は全国でも有数の――いやもう最強と言っても過言ではないウルトラ麻雀少女と来たもんだ。

 これでダメな訳があるだろうか。


 いや、ない!


 焦燥と不安に押し潰されて張りつめていた精神が、一気に弛緩する。

 代わりに安堵と希望が湧いてきて、俺の後押しをしてくれる。

 今の咲に、俺の誘いを断る程の余裕があるようには見えない。

 ここにもう一人『仲間』がいることを伝えられれば、進んで協力してくれるだろう。

 しかも、咲の得意役は嶺上開花。俺がポンやカンでアシストを出来る可能性は高い。

 親の優希が得意とする東場で、いつ聴牌するか分からない和を待つよりも、より確実性が増す。

 ただ問題は、どうやって咲へと俺の意思を伝えるか。

 思案しながら咲へと目を向けるが、ショートヘアーの文学少女は周りを気にしている暇はないのか、下を向いたまま。

 一応他家が牌を捨てる度に目を通しているみたいだけど、この分じゃあただ牌を鳴かせてやっただけで俺の狙いを悟ってくれ
るとは思えない。

 ということは、だ。



 ――俺が動くしかない。




『伝心』

 東2局1本場の6巡目。

 今俺の手牌の中に、まだ場に出ていない生牌は4つ。一索、七索、三筒、五萬。

 一枚切れなら、二索、四萬、南、の3つ。

 中張牌は生牌と言っても他家が持っている可能性の方が高い。

 じゃあ、この三つかな。

「ふぅ……」

 と、一つ深呼吸。

 上手くやれよ、俺。

 軽く理牌をするフリをして、一索、二索、南を右端に寄せる。

 そしてテキトウに牌を手にし、右腕を伸ばす――

「あっ」

 パタタ。

 俺の袖に引っかかった右端の3牌が倒れる。倒した。

 ハッと息を飲むような声。

「っと!――悪い」

 慌てて牌を戻しながら、咲の反応を伺う――

「ぁ……」

 ――反応した!

 目線の先には、南。

「まったく、何やってるんだじょ!」
「いや、ごめんごめん。ついうっかり」

 優希の指摘に、腕を上げて軽い謝罪で返す。

 すると怒ったような口調が一転。からかう様な声色で優希はにやけた。

「まぁ見せ牌したところで、犬が損するだけだけどな! ふむふむぅ、6巡目までオタ風の南を抱えてて、索子の辺張塔子が有
ってぇ?」
「すいません、人の狙いを口に出すのは勘弁してくださいませんか……?」

 降参だと言うように下手に出るが、そんな狙いは毛頭ない。

「ったく、見せちまったもんはしょうがない。じゃあこれは要らねぇよ」
「ぁ……ぽ、ポンっ!」

 捨て鉢な態度で捨てた南に、咲が反応する。

 よし、狙い通り! 咲の風は南、これで役が出来た。

「にゃは! 踏んだり蹴ったりだな、京太郎!」
「うるせー!」

 踏んだり蹴ったり? まさかまさか。

 『願ったり叶ったり』だよ。ナイスフォロー、優希!

 お前がいい反応返してくれてなかったら、この怪しい動きを看破されて今頃疑われていたかも知れないぜ。

 なんて感謝の念は置いといて、咲の近くへ鳴かれた牌を滑らせながら、その素朴で慎ましい顔を見つめる。



 切羽詰まった瞳が俺の視線に気づき、かち合う。

 周りにバレれないように、軽くウィンク。


 咲は一瞬目を見開き。

「……」

 再び俯いてしまう。

 そのまま何事もなかったように、打牌。


 ……あれ、これ伝わってる?

 いや、いやいや。

 大丈夫だろ。自分で言うのもなんだけど、俺も相当余裕がない顔をしてる筈。

 同じ状態の咲なら察してくれる!

 ……たぶん。

 大丈夫だよな? 『何あのウィンク。京ちゃんキモい……』とか思ってないよな!?

 だって、うっかり見せ牌して、ヤケクソ気味に捨てた牌で鳴かれて、その上謎のウィンクって……。


 ――ダサすぎじゃねぇか!!


 途端に別の不安が湧きあがる俺の心境など知る由もなく、場が淡々と進んでいく。

 咲からのアプローチは、未だ何も無い。

 ……え、マジで伝わってないのか? 俺、センスのズレたナルシーなキャラになっちゃってんの?

 2つの意味で絶望的な気分になりながら咲の切った二筒を眺める。

 俺のツモった牌は一筒。

 三筒と一筒の嵌張塔子。その二筒が有ったら面子出来てたなーなんて意味のないことを思いながら。



 ――あれ?



 今更ながら、気付いた。

 咲の捨て牌の、その奥。

 咲の手牌。

 二筒が出てきた左から4つ目の位置が、牌が抜けたまま隙間になっている。

 なんでだ。普通、左端の3つを寄せて隙間を無くさないか。

 咲の癖……? 違う、今までこんなことやってるのを見たことはない。

 どういうことだ。なんで今日に限って。


 ――『特別』。



 ゾクッと背筋に走る感覚。空回りしていた歯車が、カチッと噛み合ったように脳みそが回転し始める。

 これは、サイン。

 天啓にうたれたような、閃き。

 伝わってなかったんじゃない。咲は咲で、俺に意思を伝える方法を探してくれてたんだ。

 周りに悟られてはいけないあの場で、怪しげな反応を返す訳にはいかなかった。だから、咲はチャンスを待っていた。

 出来るだけさり気なく、俺だけが気付けるようなサインを送れるチャンスを。

 気付いてしまえば、あとは行動。

 俺のすべきこと、咲の望んでいることを、考え抜く。


 一つ分空いた隙間、その意味するものは。

 ――そこに、入れてほしいという合図。


 左から4番目という位置。

 ――咲の得意役は嶺上開花。左から3つ目までは同じ牌だということ。


 限界まで高速回転させた頭が、少ない情報を繋ぎ合わせていく。

 半ば決めつけ。確証はないが、確信がある。

 それでも、まだ足りない。

 俺の捨てるべき牌は……?

 生牌は3つ。三筒と一索と五萬。

 当てずっぽうで捨ててみるか?

 いや、もう10巡。そう悠長にしている暇はない。

 優希のリーチが入ってしまえば、俺もそう簡単に牌を捨てられなくなる。

 それに俺の手牌に入っていない生牌だっていくつかある。

 もし咲が待っている牌がそれだったら、俺が悩んでもしょうがない。

 よく考えろ、俺。

 咲程の雀士が、俺の考えることぐらい考慮出来ない筈がない。

 この14牌の中に、俺の捨てるべき牌があるんだ。

 何か、他にヒントは?


 ……二筒。


 咲の手牌の隙間。そこに入っていた二筒。

 ということは、あの3つの牌は、『二筒に隣接する牌』なんじゃないか……?

 そう考えると、候補は一筒か三筒。

 一筒は、手牌と河で2枚見えている。これで嶺上開花は出来ない。

 つまり、俺の捨てるべき牌は。


 ――三筒!


「カンっ!」

 良くできました、という言葉の代わりに、咲が気力を振り絞った声を上げる。

「ツモ。嶺上開花、役牌。2600の1本場は、2900」
「……はい」

 必死に気落ちしたような顔を作り、咲に点棒を差し出す。

 目が合う。

 パチリ。

 ぎこちないウィンクが返ってきた。

 以心伝心。

 持ち上がりそうな口角を隠し、達成感を味わう。

 伝わった。この上ない味方を手に入れた……!

 苦悶の表情をしながら慣れないことなんかするもんだから、まるで「腹痛にでも耐えているんですか」って聞きたくなるよう
なウィンク。

 が、今の俺には世界で一番信用できるアイコンタクト。

 もう恐れるものなど何もない。

 俺一人じゃ何もできなかった。

 でも、二人なら。

 コイツとなら、どんな難関だって越えられる……!


 この瞬間。



 『トイレ行きたい同盟』が、結成された。



『順境』

 東3局は、咲の親番。

 親のノーテンでも流局で、俺が優希か和に振り込んでも流局。

 何もしなくても良さ気な局だったが、少しでも早く終わらせたい俺はどんどんクサいところの牌を切っていった。

 しかしそれがかえって他家の調子を崩したのか、結局振り込むことなく流局。

「……ノーテン」
「ノーテン」
「聴牌」
「テンパイっ」

 これで-1500点。2回の振り込みも合わせて原点から-10000点以上の失点。

 咲をアシストすることで場を進めつつ、自分の跳び終了の目も残しておく。

 同じ結果をもたらす2つのルート。どちらかに届けば、俺たちの勝ち。



 東4局。俺の親。

 俺が聴牌しなければいいだけの局。

 考えてみれば、俺と咲は連荘する気がないので、普通に打っている和と優希が親の時だけしか連荘の可能性はない。

 東場のラストのこの局と南場の4局で、合計5局。しかしその内『同盟員』が親の局は3つ。

 つまり俺らの勝負は、優希と和が親の2局だけだ。

 もちろん、俺たちが親の時も、流局するよりかは早く終わってくれた方がいいけれど。

 とりあえず他家のリーチでも待とうかということで、無難に浮き牌から切って行っていると。

 ――カチ。カチ。

 また来た。咲からの合図。

 捨て牌を考えているかのように手牌を見下ろしながら、手持無沙汰な右手を遊ばせるように右端の2牌を器用にクルクルと入
れ替え続けている。

 俺がそれを視認したのを確認すると、ハタと動きを止めてそのまま手にしていた九索を捨てた。

 ツモりながら、考える。

 確かあれは、小手返しという技術だった筈。

 本来ならツモ切りを分からなくさせる為の技。あまりマナーがいい行為ではないとされてるから、部内でやる人間はいない。

 だから咲からの何らかのサインなのは間違いない。

 しかし、どういう意味だったんだ。

 ……九索の隣だから、八索?

 いや違う。それなら小手返しの意味がない。

 というか、俺がサインに気付いてからすぐに手を止めてたけど、あれじゃあ捨てたい牌と残したい牌が入れ替わってもおかし
くなかったんじゃ――


 ハッとする。

 そうか。あの2つは『入れ替わっても問題ない牌』だったんだ。

 即ち、対子。

 アレは九索の対子の内一枚を落とした、というサイン。

 対子から1枚捨てて聴牌。それが待ち牌に関係するなら、それは順子の待ちでしか有り得ない。

 咲の待ちは、七索待ちの辺張か、八索待ちの嵌張。


 八索が欲しいのであれば、さっきみたいに九索を捨てた後に右端から2番目に隙間を開けていれば良かっただけの話。

 右端に1枚しか残っていなかったら、その待ちは単騎待ちか嵌張待ちのどちらか。でも単騎待ちにしても嵌張待ちにしても、
九索の隣というヒントでどちらも八索に確定する。

 右端に2牌残して七索待ちのヒントと出来なかったのは、それで辺張待ちだと確定出来ないから。

 2牌が残っている場合、八索と何かの双ポン待ちの可能性を否定できない。

 それか、九索を捨てたってことで九索は手牌に使ってないと俺が思い込む可能性が高いと考えたのかもしれない。

 だから咲は、やり方を工夫しなければならなかった。


 つまり咲の待ちは、七索の辺張待ち――!


「ロン。純チャン、一盃口。8000」
「……はい」

 達成感などおくびにも出さず、素っ気なく点棒を手渡す。

 これで東場が終了。あとは南場を残すのみ。

 計画は、順調過ぎるくらい。

 最後に時計を見たのが、優希に振り込んだ東二局開始前。それから4局を終えるのに25分も経っていない。

 その上、今の振り込みで俺の点棒は残り7000点程度。4飜以上で跳べる位置。

 流石だぜ、咲。やっぱりお前がいてくれて良かった。



『異変』

 なんて、先走って勝利を確信した瞬間。


「須賀君。今日はまた、とても調子が悪そうですね」


 右前方から、掛けられる声。

 清澄の誇るアイドル麻雀少女が、まっすぐな眼差しを俺に向けていた。

 ドクン。

 心臓が跳ねる。

 バレてる……!?

 いや、落ち着け。東場だけで3回の振り込みで跳び寸前まで落ち込んでるんだ。そりゃ調子が悪くも見えるだろ。

 俺が全く振るわない局なんて、そう珍しいもんじゃない。

 怪しまれる要素は無かった筈。

 これはただの、雑談。

 下手を打つな。

 表情を作れ、気持ちを偽れ。

 隠し通せ――!

「いやぁ、お恥ずかしいことになー。まぁ修行が足りないってことかな」

「まったくだじょ!」

 そう和に重ねてくる真正面のタコス娘。

「ATM化して、見せ牌して、いまだに焼き鳥。犬から鴨まで退化しちゃったんじゃないか?」

 随分な言い分だけど、今の俺にはありがたい助け舟。

 優希との掛け合いで、うやむやにしてしまえ。

「そこまで言うかー?」
「言うじょ! ただでさえ初心者のダメダメ雀士の癖に、『ついうっかり』なんて言語道断っ! 態度がなっとらんじぇ!」
「ちょっとマジで凹んでくるんで、ご容赦いただけませんかね……?」
「ふん。容赦してほしかったら、もっと集中するんだじょ!?」

 集中してるとも。この上なく。

「はいはい、分かってるよ。全く、耳が痛いぜ」

 なんて軽口で話を流そうとした時。


「まぁまぁ、京太郎もわざとやっとる訳じゃないんじゃろ。言わんでやっときんさい」

 なんて声。目を向けると、麻雀部随一の常識人である染谷先輩の姿。

 いつの間に部室に……? いや、俺が対局に夢中で気が付かなかったのか。

 染谷先輩はスタスタと俺の後ろまで来て。

「わしが後ろから様子見とってやるけぇ、好きに打ちんさい」


「……え?」

 後ろから? 俺の手牌を?

 思考停止。

 ちょっと待て。

 さっきまで俺が牌を好き勝手に流せてたのは、面子になってる牌も塔子になってる牌も関係なく捨てられたからであって。

 後ろから俺の手牌を覗かれてたら、そんな妙な打ち方出来るわけない。

 ……断固阻止しなければ!

 首を回し、傍らに立ってる先輩を見上げる。

「いや、わざわざ先輩のお手を煩わせるのも悪いかなーって」
「何遠慮しとるんじゃ。先輩が後輩の面倒を見るのは当然。煩わせるも何も、最初からわしの仕事じゃあ」


 ……この人、すっごく面倒見がいい!

 ありがたいけど、ありがたくない!

「その、俺だけ見てもらうのもフェアじゃないですし」
「一番必要なのはアンタじゃろうが。それに、心配せんでも集中しとるところに後ろから口出ししたりはせんよ。対局後に、悪
いところと直すべきところだけ教えちゃる」


 ……この人、すっごく気が利いてる!

 いや利いてるけど、利いてない!


「あ……じゃあ、お願いします」
「うん。きばりんさい」

 これ以上言っても、怪しまれるだけだ。

 俺は前に向き直り、上家に座る同級生に一縷の望みを掛ける。

 あとは頼んだぜ、咲。

 最初から、咲に頼ってしかいなかったけれども。


『暗雲』

 南一局。和の親。

 今のところ咲のトップ。安手で和了ったって怪しまれない。

 咲の早和了りに期待するしかない。

 ただもうサインは期待できない。

 そして俺から無理に牌を流そうにも、後ろの染谷先輩の存在がそれを許さない。

 どうするか。

 と悩んでいる間に配牌。

 とりあえず普通に打たないと、と覚悟をする直前に気付く。

 配牌の13牌の中に、対子が4つ。

 そうだ、これだ。

 七対子狙い。

 これなら面子や塔子を崩すような打ち方をしても違和感はない。

 それに生牌じゃない牌を切って生牌だけ集めるのも、セオリーに合う。

 咲が聴牌した頃を見計らって、上手く生牌を切って和了ってもらう。

 行ける、筈。いやこれしか方法はない。

 決断を下せば、あとは行動。

 さっきよりも形勢は悪い。だが、現状で最良の選択ではあると思う。


 配牌から二向聴。全力で七対子を狙う!


 しかし俺にとって最良の選択だった七対子。

 予想に反して、最良過ぎた。

 6巡を過ぎたところから切り始めた生牌だが、未だ咲の手牌に届くことはなく。

 そればかりか、10巡目にして聴牌。

 最後の牌は二萬。一枚切れではあるものの、三萬が壁になっている。

 あぶれた牌が出てきてもおかしくない、割と良い待ち。

「ほぉ……」

 なんて後ろからも聞こえてくるし、リーチを掛けなければおかしいよな。

 でもリーチを掛ければ、咲へのアシストが出来なくなる。

 それに、現在三位の和だって先制リーチが入っただけで簡単に降りるとは思えない。

 もしめくり合いになれば、単騎待ちの俺は不利。それで和の連荘になってしまったら最悪だ。

 和了ればいいだけだから、点数は要らない。むしろ跳びにくくなってしまう分邪魔だ。

 しかしこの条件で、黙聴で待つ奴がいるだろうか。

 点数差を考えれば、ダマで待って1600点稼いだって何にもならない。裏が乗って満貫。

 リーチを掛けるメリットがないのに、リーチを掛けない理由がない。

 くそっ、仕方がない。

「……リーチ」

 苦渋の選択。

 咲、それか優希。どうか和了ってくれ。

 俺からのロンが理想だけど、別にツモでもいい。

 最低でも、和の聴牌と和了りを阻止。そして出来れば俺が和了るのも阻止してほしい。



『破綻』

 なんて都合のいいようには、世の中いかないもので。

 13巡目。

 和の手牌から飛び出したのは、二萬。俺の当たり牌。

「っ、ロン」

 和了った。親流れ。

 しかしこの和了りの点数によっては、俺が跳んで終わるのが相当難しくなる。

「リーチ、七対子、裏は――」

 乗るな。

 要らない。

 乗るな――!



「……ウラウラ。満貫」

 乗ってしまった。

 親は流せたものの、13巡目なんて特に早くもない巡目。

 俺の持ち点は一気に増えて、跳満直撃でも跳べない圏内まで浮上。

 順風満帆に思えた計画の流れが、少しずつ淀んでいく感覚。

 時計を見る。

 今の1局で、10分近く。

 確実に遅くなっている。勝負処を迎えて慎重になり、みんなの打牌のペースが下がっているのか。

 あと乗り越えるべきは次の優希の親だけ。

 とは言え、このペースで進んでしまうと流局でノーテン親流れ狙いなんてのんびりしたことやってられないかもしれない。

 俺はまだいい。元からギリギリ我慢できるかどうかってところだったから。でも咲は……。

 目をやる。

 もういくつか越えちゃいけないライン越えてしまっちゃっているような少女は、一周回って固まったように無表情。

 元々色白な方だけど、これは青ざめてるとしか言えない。

 ……限界だろ、色々と。

「須賀君。早く、点棒を」
「あ、あぁ。悪い」

 動きが止まっていたからか、和から急かされる。

 点棒を受け取ろうと右手を差し出し――


「えっ」

 そっと。

 俺の右手の下に左手を添えて、柔らかな両手で包まれるように点棒が手渡される。

 ドキリと、先程とは違った意味で心臓が跳ねる。

 思わず俺が目線を上げると、和の大きな目が俺を見ていて。

 パチッ。

 綺麗なウィンク。

 なんでもないような自然な仕草。でもそれは俺に向けられたウィンク以外の何物でもなかった。

 どういうことだ。

 思案して、一つの推論に辿りつく。

 もしかして、和も『仲間』じゃないのか。

 いや、それ以外にあるか。

 あんなに丁寧に点棒を渡されたことはなかったし、しかも咲と俺に合わせてのウィンク。

 もしそうなら、『同盟員』はこの卓に3人いることになる。多少の不利など問題にならない程の圧倒的戦力。

 ……試してみるか。



『光明』

 南2局。優希のラス親。

 ここを越えれば、終わりは見える。

 開始から数巡を浮き牌の処理に費やし、染谷先輩の監視へのカモフラージュ。

 5巡目の捨て牌。浮いているが、ドラ傍の四索を切ってみる。

「んん?」

 怪訝そうな声が聞こえるが、無視だ無視。

 今の俺は麻雀ベタのノータリン、ドラにくっ付きそうな中張牌だって切っちゃうんです。

「チー!」

 鳴いた。

 ドラの二索を使った234索の面子。

「むっ。チー!」

 負けじと、優希も鳴き始める。

 まだだ。まだ足りない。


 次巡、打牌。二萬。

「チー!」

 再び和が動き、234萬の面子。

「むむっ。チー!」

 同時に優希も親を流されてなるものかと動く。


 6巡目。ようやく2段目に差し掛かったところなのに、もう全体で4副露。とんだ空中戦だ。

 でも、これで確信した。

 和も、早和了りを目指してくれてる。

 優希もそれに追い縋っているのが怖いけど、和ならやってくれる筈。

 いい加減、俺も変な打ち方ばかりをしてられない。

 どうにか和了ってくれ、和!

 と望みを託すものの、10巡目。

「チー!」

 もう一度優希が和から鳴いて、恐らく聴牌。俺も降りなければならない局面。

 咲の方をチラリと見るが、その余裕の無さそうな目から聴牌臭はしない。

 優希の安牌を切りながら、和をアシストするしかない。

 そう思って牌を選び、もう一度和を鳴かせることが出来たものの、結局流局。

「テンパイっ」
「っ、ノーテン」
「ノーテン」
「聴牌」

 くそっ、十数分を無駄にした……!

 苦い顔をしていると、すまなそうな顔で和が頭を軽く下げてきた。

 ……いや、和を責める気はない。ツモが悪ければ和了れないんだから。

 しかしここにきて、咲の調子が下がってる。

 二人のどちらかが和了ってくれれば、と思っていたけど、和に頑張ってもらうしかなさそうだ。

『孔明』

 そうして迎えた南2局2本場。

 前局のリプレイのように、優希と和が鳴きまくる空中戦。

 俺も必死に応援を送るが、それが功を奏することはなく。

 流局間近の16巡。

「っ。ろんっ! 平和のみ。1000は1300」

 和了ったのは、咲。鬼気迫る形相で、優希の親を流す。

 これで、残りは南3局と南4局。

 しかし南2局が長引いたせいで、南場に入って既に30分以上経過している。

 手早く南3局を開始するものの。



 もう咲は、限界だった。

 額には脂汗が滲んでて、唇が白くなる程強く噛まれ、全身プルプル震えてて、涙目だ。

 見てられない。

 脱力。そして自重気味に笑う。



 俺なんかより、咲はずっと辛い状態で。


 俺なんかより、ずっと頑張ってくれたんだ。


 そんな咲が、一刻を争う様な陥ってんのに。


 何も出来なかった俺が、さ。


 動かない訳には、いかないだろ。


 ゲームオーバー。

 俺のつまらない意地を張る戦いは、ここで終了。

 恥なんて、いくらかいても構わない。

 ここでこいつを見捨てる方が、よっぽど嫌だ。

 咲、見てろ。

 活路は、俺が開く――!

 パタッ。手牌を隠す。

「悪いんだけどさ、長引いちゃったしちょっとト――」


 がしっ。

 トイレに、と続けようとしたところで牌に掛けていた手を止められる。

「須賀君。簡単に勝負を諦めては駄目です。最後まで、何があるか分からないんですから」

 なんてお手本のような優等生発言は、右側から。

 手牌を倒す動作がもう打つ気はないという意思表示とでも思ったのか。

 いやでも和は味方だろ。なんで止めるんだよ、と視線を送り。


「っ……」

 言葉を失う。

 和の目は、確かに俺に向けられているのに、俺を見ていない。

 俺を励ますのではない、空虚な声。

 俺の存在を視認してないかのような、虚ろな目。

 それはまるで。



 『ただ一つの目的の為にそんなキャラクターを演じているかのような』。





 腹の底が持ち上がるかのような、強烈な違和感。

 頭を強かに殴られたかのような、苛烈な衝撃。


 俺が部室に入った時に出ていたコップはいくつだった?

 咲と優希の、2つだけだ。

 和はもう先に飲んでしまって片づけたのかと思ってた。

 でも、そうじゃなかったら――?


 そう言えば。

 咲が『その筋では有名』だという、その情報源はどこだったか。

 俺の目の前の、彼女ではなかったか――?


 思い出せば。

 俺らの計画に綻びが生じたのは、ちょうど彼女が俺に声を掛けたからではなかったか。

 俺に協力するフリをしていたのは、咲へのアシストをさせない為。

 そして咲の調子を下げる為。

 その早さと正確さから機械とさえ例えられることもある彼女は、『慎重に打っている』から打牌ペースが落ちるような選手だっ
ただろうか――?


 様々なピースが、噛み合わさって、何かを形作っていく。

 それはとても、禍々しく。


 彼女の狙いは――?





 『そういえば、iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです。』



 最後のピースが、嵌る。

 そうだ。

 だから、和は。

 和の狙いは、今現在のこの場の状況。それ自体。


 咲がトイレを我慢しているという光景を見たいが為に、この状況を作り上げたんだ……!

 そして、あわよくば――


 がちゃ。

「いやー。参っちゃったわー」

 なんて、この場にそぐわない様な気の抜けた声を出しながら、部長が入ってくる。

「参ったって、何がじゃ?」
「んー? そうそう、みんなも気をつけなさい?」

 話し掛ける染谷先輩に、部長は答えて。



「今日は部室棟のトイレ、故障中で使えないわよー」



 世界が止まった。



『終宴』

 嘘、だろ……。

 真正面の少女の瞳が、勝利を確信したかのように輝く。


 ちょっと、待て。待ってくれ。


 部室棟1階のトイレが使えないとしたら、俺たちが使える最寄のトイレは、グラウンドに隣接した屋外トイレ。

 普通に歩いても、片道5分はかかる。

 あまりにも、遠い。

 今の状態で、咲が普通に歩いていけるとは思えない。

 いや、俺だって。


 じゃあ、本来の制限時間は俺の考えていたものよりもずっと短くて。




「――そうだね」


 思考を遮る声。


「諦めちゃ駄目だよ、京ちゃん」

 ゾッとする程冷たい手が、俺の左腕を掴む。

 一体何を。

 顔を向け、固まる。

 濁りきって、光を失った瞳。

 口は笑ってるのに、感情が一切伝わってこない。

「ほら、京ちゃん。頑張ろうよ」

 優しげで思いやりのある、その言葉。

 でもそれは、悪魔の誘いに他ならない。


「ね? 一緒に――」



 『一緒ニ、堕ちチャオウヨ……?』



 なんで……?


 咲、お前――?


 諦めちゃってるんだよ……!



 体が、震える。


 ふざけんな。こんな結末って、アリかよ……!


 怒りが体中を駆け巡る。

 こんなバカげた、計画に。

 俺自身の、力不足に。


 なんでだよ。

 ふざけんなよ。

 こんなおかしな有り様は、仕組まれた罠だったのに。

 必死で頭を回して、ここまでようやく、こぎつけたのに。

 本当なら、俺たちはこんな辛い思いもせずに部活を楽しんでいた筈なのに……!

 なんで、こんな――!





「んー! 長引きそうだし、ちょっとお花を摘みに行ってくるじぇ!」





「あ、犬っ! 勝手に牌を弄ったり見たりするんじゃないじょ!?」





 がちゃ。ばたん。



『離別』

 静寂が、その場を支配していた。


 救済と慈悲を与えた女神が去り、残された者は後悔と苦痛に苛まれる。


 やがて。


「じゃあ俺も、ついでに行ってきます……」


 少年が立ち上がり、呟くように言葉を零す。


 傍らに座る少女が震え、少年を見上げる。


「京、ちゃ……」


 恐怖に晒された瞳が揺れ、小さな唇が戦慄く。


「た、助け……」


「――うん」


 無理。


 優しげな口調で紡がれた言葉は、残酷に少女の希望を潰えさせた。


 見開かれた瞳から、透き通った液体が零れ落ちる。


「ごめんな」


 少年はそう言い残し、少女の脇を通り抜ける。


 それが彼らの、別れ。


 そして後には、何も残らず。


 振り返ることなく、その場を後にした少年の後ろ姿は――。







 内股であった。






京太郎(トイレに行きたいっ…!)カン


色々ごめんなさい。


こういう、ふざけたことを大真面目にやるネタってのは前々から興味あったので挑戦してみました。

しっかし、書きたいことだけ書いてたら収集つかなくなるよっていう典型みたいなSSになっちゃいましたね…。

安直な淫ピオチだとか、のどっちがオカルト雀士になってるだとか、和ちゃんのキャラ崩壊がちょっと酷い。

本編の進行具合がかんばしくないので、また時間空いたら小ネタ投下すると思います。


本編だけ読みたい人は2,3ヶ月くらいこのスレの存在を忘れちゃっても全く問題ないと思いますよ、って感じ……。

おつ
途中にスマン

>>269あぁいや、神タイミングってのはバレンタインデーに鯖落ちしたのがっていう意味でして…

オチ投下したかったけど、今はキツいので後にします。

『オチ』

和「……ふぅ」

和(まさか染谷先輩が咲さんをそのまま担ぎ上げるなんてパワフルな手を使うとは思いませんでした)

和(まぁでも、あんなに可愛らしい咲さんが見れましたし、それで満足しておきましょうか♪)

久「なーんか、みんな出てっちゃったわねー…」

和「え?…あぁ、そうですね」

和(しかしあの分では、須賀君には気付かれてそうですね。少し勿体ないかも)

和(まだ――) 久「『まだ例のクスリ残っているのに』なんて顔してるわね?」

和「えっ?」

久「学生議会長の情報網を甘く見ちゃいけないわ。色々と調べようと思ったら出来るのよ? 例えば…」

久「2年生の誰々さんは家で猫を飼ってるようですよーとか、1年生の誰と誰は喧嘩中みたいですよーとか…」



久「『麻雀部の誰かさんが、ネット通販で怪しげなクスリを買っていましたよー』とかね?」

和「っ!?」

久「あぁ後、今日は売店でジュースを買って行きましたよーとも聞いたわね。ふふっ、まったく詰めが甘いんだからー!」

和「…知っていたんですか」

久「そうそう。その上で黙っていたって訳」

和「なんで…?」

久「そりゃあ」

カチッ

久「そっちの方が都合が良かったんだもの?」

和「な、なんで鍵を――」久「ねぇ和?」

和「っ」ビクッ

久「和って、とっても可愛いわよね? 私前からずっと思ってたのよ?」

久「…和と、もっと『仲良く』なりたいなーって」

ガタッ

和「な、なっ…!?」

久「みんなにはわざわざ遠くまで行ってもらってるから、十五分弱ってとこかな?――ん、じゅうぶん♪」

和「行ってもらってるって…」

久「あぁ。アレね、嘘」

和「嘘!?」

久「いやー、みんな簡単に信じてくれるんだもの。信用は作っておくべきよねー」

久「…ね。いいでしょ、和? 和だって『こっちの人間』みたいだし」

和「わ、私は誰でもいいって訳じゃ――」久「ほら、私って悪待ちが好きじゃない?」

久「アレって別に麻雀に限った話じゃなくって…」


久「元々自分に向いていない矢印を、無理矢理に自分の方向に向けさせるのが大好きなのよねぇ…?」

和「え、え…。そんなっ…」


イ、イヤアアアァァァァ……


本当の本当に終わり

安心と信頼の勧善懲罰オチ。

染谷先輩と部長と永水女子が合わされば、ぶつりのほうそくがみだれる!

言い訳をさせていただくと、ちょっといろんな要素がトガり過ぎてて綺麗に纏まりませんでした…

まぁコンセプトと冒頭の状況だけしか考えずに突っ走ったんで、残念ながら当然ってやつです。



>>258 の39行目

  > そんな咲が、一刻を争う様な陥ってんのに。
訂正: そんな咲が、一刻を争う様な危機に陥ってんのに。

推敲中に同じ単語使い過ぎてることに気付いて修正したんですが、その時抜けたっぽいです
もう一度推敲しておけばよかった…


では。

お久しぶりです。
長い間更新出来ず、本当に申し訳ない。

出来れば記号的表現を使わずに対局を書きたかったのだけど、そのせいで話がなかなか進まなくなってしまいました。
現在の近況報告をさせていただきますと、新生活が始まって慣れないことが色々あり、制作に割く時間もモチベも足りない状態です。
しかも新年度直前に慌ただしく引っ越ししてネット回線もないので、今ある分の投下すら難しい…。

今のままでは自然消滅してしまうのは必至ですし、そうなると罪悪感とかで色々煩わしくなって僕は二度とこの話に触ろうと思わなくなると思います。
ですのでその前に自分の手で「中断」という形で終わらせて、また書けるようになった時に戻ってきたいと考えています。

まことに勝手な言い分で大変恐縮なのですが、どうか許していただきたい。

長い間待たせた挙句、このようなことになってしまって申し訳ない。
次戻ってくるのは、作品を完結させてからにします。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月24日 (月) 22:52:51   ID: VfPJrc6m

シリアスでいい流れだったのにギャグ連続は萎えるね。たとえそれがすごく面白くても、なんでそうやっちゃうのってなるよ。

2 :  SS好きの774さん   2016年04月04日 (月) 14:19:46   ID: kVjY7f2K

関係ない小ネタはいらないから本編をちゃんと書け

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