さやか「奇跡も魔法も……」ほむら「私のは技術よ」(964)






多時間軸の間を「戻る」ことができるのは暁美ほむらとその能力「盾」だけである。

その他の物は「盾」がそうしない限り過去へ遡行できない。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1346077712


しかし……自然界においてこの「盾」の能力以外のものでひとつだけ時空を移動しているものがある。

それは「重力」という力である。

もし「重力」という「引っぱる力」がなければ暁美ほむらの肉体が過去へ遡行した時――その人間としての形や心の力のつながりが

保つことが出来なくなってバラバラに崩壊して色んな時空に飛び散ってしまうからである。


つまり暁美ほむらと「盾」が過去へ遡行する時――目には見えない――「重力」という力も暁美ほむらといっしょに移動していると考えるべきだ。

ここで仮に……異次元空間に存在する概念が彼女と出会うことのできる力が、この世にあるとしたなら……

それは「重力という力」であるはずなのである。



「人の出会いとは『重力』であり、出会うべくして出会うもの」とある人は言う。

これは出会うはずのない人間同士が重力に導かれるように出会ってしまった、奇妙な冒険――


「………………」

「また、勝てなかった……」


我々はこの少女を知っている! いや! このまなざしと、この黒い長髪を知っている!


ほむら「…………」

ほむら「敗因は……私の力不足」

ほむら「全て私が弱いのがいけない……」

ほむら「他の戦力でカバーはできない。一ヶ月というタイムリミットで巴マミ達を鍛錬の類はできない」

ほむら「佐倉杏子に美樹さやか……特に巴マミはプライドが高いからそういうこと自体反感を買う」

ほむら「そもそも仲間にならないこともあるし、それ以前に死んでしまうこともある」


ほむら「故に、全ては私の力にかかっている」

ほむら「勝利を求めるなら、私が強くならねば……」

ほむら「……でも」

ほむら「どうしろと言うのよ……」

ほむら「既存の武器や力では限界がある」

ほむら「新しい『武器』が欲しい。新しい『力』が欲しい」

ほむら「…………」

ほむら「新しい『武器』か……」


ほむら「ミサイル、バズーカ、タンクローリーで特攻、重機関銃、爆弾……どれもまともにダメージを与えられなかった」

ほむら「なのに今更何を武器にしろと言うの? 魔法武器は素質の問題で論外として……」

ほむら「ステルス機を乗り回して突撃する? 戦艦大和の主砲を再現する?」

ほむら「そこまでやっても……やはり奴を倒せる自信がない」

ほむら「まだ勝てない。今の私の装備では……今の人間の科学では……奴には勝てない」

ほむら「…………」

ほむら「……私、何言ってるの? 何が戦艦大和よ。バカじゃないの」

ほむら「ハッ……思わず自嘲しちゃうわ」

ほむら(新しい『武器』か……そううまくいかないわ……)


――帰路



ほむら「…………ハァ」

ほむら「鹿目さん……」

ほむら「私、自信なくなってきちゃった……」

ほむら「本当に私はあなたを救えるのかな……幸せにできるかな……」

ほむら「…………」

ほむら「……ダメよ。暁美ほむら。落ち込んではいけないわ」

ほむら「でも溜息ぐらいついても罪はない……ハァ」


ほむら「――ッ!」ピクッ

ほむら「この気配……ッ!」

ほむら「魔女……ッ! この時期に現れるのは初めてね……」

ほむら(バタフライエフェクトのように……何かが影響した? 私は何もしてないけど……)

ほむら「……どの時間軸でも、あってはならないのは『精神力』の消耗」

ほむら「くだらないストレス。それに伴う『体力』へのダメージ。死んだら元も子もないわ」

ほむら「私はこの『時間軸』で『やるべき目的』がある」

ほむら「必ずやりとげてみせる。そのためにはくだらない消耗があってはならない……!」

ほむら「悩むよりも戦いましょう」



――結界


ほむら「……やはり初めて見る結界ね。どんな魔女がいるのやら」

ほむら(ん……? 何やら人の気配がする……。誰かいるの?)

ほむら(巴マミが既に駆けつけている……?)

ほむら(使い魔と……あれは……)


使い魔「KUWAAAA!」

「何だこいつ……ッ!」


ほむら(男……?)

ほむら「何……あの人……?」 

ほむら「結界に巻き込まれたといったとこかしら」




ほむら「それにしても変な格好ね。何よあのマント。美樹さやかじゃあるまいし」

使い魔「KWAHHHHH!」バッ

男「ッ!」

ほむら(……ハンドガン)チャキッ

ガァン! ガァン!


男「!?」

バスッバスッ

使い魔「SYAAAAAAAAAッ!」

ほむら「……」ザッ

男「今度は何だ! お、おまえはッ!?」


ほむら「逃げて」ファサ

男「……何だと?」

ほむら「逃げろと言ったのよ。100mも走ればこの結界から抜け出せる」

男「100m……こいつの射程距離か」

ほむら「いいから早く逃げて。危ないわ」

男「逃げろ……か。それもいいかもな」

男「だがよォ~……。こんな嬢ちゃんに庇われるってのは男が廃るってやつだぜ」ザッザッ

ほむら「!?」

男「よォ――……俺とやるかい?」

使い魔「NUGAAAAABAHHHHHH!」

ほむら「ちょ、ちょっと! 私は退けと言ってるのよ! そいつは危険ッ!」



ほむら(この距離だと爆弾の爆風に巻き込まれるから邪魔だと言うのよ!)

ほむら(無鉄砲な……仕方ない。時を止める)

ほむら(魔力を浪費したくなかったのに余計なこと……)

男「……」パチン

ほむら(? ……ホルスターから何かを取り出した……あれは……)

ドゴンッ

使い魔「!!」

ほむら「え!?」



ほむら(あ、あれは……『球』……? 鉄球を投げつけたの?)

ギャリギャリギャリギャリギャリ

ほむら「な、何ッ!?」

ほむら「か、『回転』してるッ! 鉄球が……!」

ほむら「あの回転は、あまりに不自然ッ! どういう摩擦をしてるのよ!?」

使い魔「GYAAAAHHHHHHHHHHH!」

ボゴンッ

使い魔「」

ほむら「使い魔を貫いたッ!?」

ほむら(な、何……!? 今、使い魔は何をされたの……?!)




ほむら「――ハッ!」


ガォンッ!


「――!」

ほむら「ま、魔女!」

魔女「――」

男「ッ!」

ほむら(逃げていく……。一般人がいる以上、無理に追わない方がいいわね)

男「おいコラァッ! また逃げんのかテメ――ッ!」

ほむら(また……? 既に……会っている……?)


スゥ――


男「チッ……逃げちまった。だが薄ら気持ち悪ぃ空間が解かれたな。まぁいい」

男「どうだ嬢ちゃん。おまえさん俺に逃げろっつったけどよォ~~。俺も捨てたもんじゃねーだろ。ニョホホッ」パシッ

ほむら(鉄球が……意思があるかのように戻っていった……)

ほむら(そしてあの鉄球……高速回転して、使い魔の体を貫いて……)

ほむら(あれは……魔法? 理解を超えている……)

ほむら(あまりに一瞬で、状況がよく理解できない……鉄球……そして回転……)

ほむら「ちょっとあなたっ。その鉄球はなんなの?」

男「ん?」

ほむら「もう一回見せ――」スッ

男「おい触るな! まだ回転している!」


ズギュゥ――z___ッ



ほむら「ほむッ!?」

カクンッ!

ほむら(……ッ!? な、何!? 私は確かに立っていたはずなのに……何が起こったの?)

ドサッ

ほむら(何で私は膝をついてるの……足に力が入らない……!?)

男「足に力が入らないのは一瞬だ。すぐ立てる」

ほむら「私の足に……何をしたの……?!」

男「子どもはとっととお家に帰りな。じゃな」

ほむら「まっ、待って!」スック


ほむら「あなたは何者なの!? その鉄の球は何なのッ!?」

男「……そうだな。名乗ってはおこう。……俺は『ジャイロ・ツェペリ』だ」

ほむら「ジャイロ・ツェッペリン……」

ジャイロ「ツェペリだ」

ジャイロ「一応、助けて貰った礼があるな。……そうだな」

ジャイロ「さっきテキトーな場所から摘み取ったこの花をやるよ。これ食えるんだぜ?」

ほむら「いらないわよ」

ジャイロ「ニョホホ、冗談だ。苦いだけだからな。この手の野草は」

ほむら「……」


ほむら(鉄球という鈍器……。そして、使い魔を貫く謎の回転……)

ほむら(あの回転に……肉体を強化するとかの魔法と兼ね備えれば……)

ほむら(これは直感だけど、奴に対抗する力になりうる……!?)

ほむら(新しい『武器』……!)

ほむら「今、何が起こったのか私は知りたいッ! その回転が原因なのでしょ!」

ジャイロ「妙な期待をするな。おまえさんの事情がどんなものか計り知れないが、脚の力が抜けたのは、単なる肉体の反応でそれ以上のものは何もない」

ほむら「使い魔をブチ抜いておいてそれ以上ないはずがないッ!」

ジャイロ「やれやれ、それを言うか。……使い魔?」

ジャイロ「おい、今、何て言った? 使い魔?」

ほむら「え? えぇ……」


ジャイロ「今のはあの馬鹿でかい奴のスタンド能力の一部かと思っていたが……?」

ジャイロ「それともスタンドの地域限定の呼び方か?」

ほむら「スタンド? 何それ?」

ジャイロ「わからないか? まあ、特別な能力って奴だ。……ほれ、その盾がスタンドの像じゃないのか?」

ほむら「スタンドが何なのかわからないけど、違うわ。盾は能力の要ではあるけど。それにさっきの大きい奴は魔女よ」

ジャイロ「魔女……」

ほむら「あなたこそ、それはスタンドって言うやつなの? その鉄球のことよ」

ジャイロ「俺のは『技術(ワザ)』だ。人間には未知の部分がある」

ほむら「技術……」



ほむら「なら訓練すれば私にもできるわよね?」

ジャイロ「……何だって? おい今なんて言った?」

ほむら「今の鉄球の回転。私はそれを習得したい」

ジャイロ「おいおいおいおい……」

ほむら「……ダメかしら」

ジャイロ「とんでもねーこと言い出すガキだな。何なんだよおまえさんは」

ほむら「私? 私は魔法少女。名前は暁美ほむら」

ジャイロ「魔法……少女? なんだ、ラリってんのか?」

ほむら「失礼ね」



ジャイロ「で、その魔法少女とやらが、何故、鉄球の回転を学びたいって?」

ほむら「私には命を賭して救わないといけない人がいる」

ほむら「そのためには、絶望に立ち向かう必要がある」

ほむら「私はそれに……鉄球の回転に希望を見出した」

ジャイロ「…………」

ジャイロ「おまえさんの事情は計り知れねーが……これはそう易々を教えられるもんじゃあない」

ほむら「どうしてもダメかしら……?」

ジャイロ(……命を賭して、だと? あんなガキが? 冗談じゃねー)

ジャイロ(と、言いたいところだが……)チラッ

ほむら「…………」



ジャイロ(俺は既に夫のために命を賭す14歳を知っているからな。年齢的先入観を抜きに考えても……)

ジャイロ(「命を賭して」……こいつの今の言葉は嘘やハッタリなんかではない。それはマジだ。経験でわかる)

ジャイロ(あのリンゴォやジョニィが宿していたものとは劣るが……目的のためなら人殺しもやりかねない『目』をしている)

ジャイロ(そしてあの正確な銃撃。腕は本物だ。相当の訓練、時間が必要なはずだ。絶望に立ち向かう……か)

ジャイロ(……少し興味が沸いた)

ほむら「…………」

ジャイロ「……まあ、いい。話だけは聞いてやろう」

ほむら「……本当? ……ありがとう」



ジャイロ「話を聞くってのは、教えてやるって意味じゃねーよ」

ほむら「期限は一ヶ月よ」

ジャイロ「聞けよ。……っておい、何つった? 一ヶ月ゥ? マジで言ってくれちゃってんの?」

ほむら「一ヶ月でないといけない理由があるの。例えば……死ぬとか」

ジャイロ「……俺が話を聞くと言ったのは『そーゆーこと』だ。事情を話せ。何故一ヶ月なのか、おまえさんの救いたい人とやらはどんな奴なのか」

ほむら「……」

ほむら(言ったところでそれを信じてくれるかどうか……)

ほむら(嘘をついてもいいけど、後が面倒くさそうだ。正直に言ってしまいたいが……しかし……)


ほむら「……あまりにも突飛すぎて、信じてもらえないと思うわ」

ジャイロ「あのなぁ……俺にとっては、既に何もかもが突飛なんだよ」

ジャイロ「日本にいることもそうだし、遠い未来にいることもそうだ。そして使い魔とかいうわけのわからねー化け物ときたもんだ」

ほむら「……? 何を言ってるの?」

ジャイロ「まず、俺は1891年に死んだはずなんだよ」

ほむら「し、死んだ……? 死んだってどういうこと!?」

ジャイロ「言葉通りだ」

ほむら「それに1891年? 百年以上前じゃない!」

ほむら(どういうこと……? 過去から……私と同じ時間遡行者? いや……だとしても死んだ? 死んだですって?)



ジャイロ「死んだってことは死んだんだ」

ほむら「か、過去に死んだ人間がここにいるなんてありえないわよ」

ジャイロ「なぁ、おい。……ここで一つ、確かめたいことだある。おまえさん『スティール・ボール・ラン・レース』って知ってるか?」

ほむら「……何?」

ジャイロ「スティール・ボール・ラン・レース。およそ6000kmを馬、あるいは脚、もしくは自動車で行われる北米大陸横断レースだ。1890年9月25日スタート。俺は死ななかったら1981年1月19日にはゴールする予定だった」

ほむら「……聞いたことないわ。何? アメリカを6000km?」

ほむら「6000kmといったら東京からウズベキスタンのタシュケントくらいの距離よ。それを馬で? しかも1890年。まだまだ未開拓地が多いはず」

ジャイロ「そうだ。かなり過酷なレースだ。死者も大勢出た。参加料1200ドル。途中で馬を乗り換えたら失格。本当に聞いたことないか?」

ほむら「あるならこうして驚いてないわよ……とんでもない話だわ。そんな大会なら聞いたことがないってのはありえない」


ジャイロ「存在しないんだな? ならここは『あっち側の世界』だ」

ほむら「は? あっち側? 何を言ってるの?」

ジャイロ「俺もよくわからん。異次元っつーやつだな。とにかくそういうことだ」

ジャイロ(……最初はD4Cの能力の後遺症か何かが死後までついてきているのかと思ったものだが……D4Cなんかよりも理解が超えている)

ジャイロ「さっきのデケー奴いただろ。魔女って言ったよな。気が付いたら死んだはずの俺はそいつの目の前にいたんだ」

ジャイロ「そして気が付けば未来の日本にいるときたもんだ」

ジャイロ「そこで死んだはずの俺は、俺の魂はあのクソッタレ魔女にここに連れてこられた。そうだと決めつけている」

ほむら(パラレルワールドとか……そういう話? いや、それなら死んだとか過去だとか……『並行世界』と言うには何かと食い違う……)

ほむら(魔女の影響で……か。あっち側の世界……異次元を操る魔女がいても不思議ではない……・)

ほむら(信じがたい一方で、嘘は言っていないだろうという確信がある)

ほむら(きっと本当に、冥土とかそういう意味でなく『あっち側の世界』というものがあって……)

ほむら「…………」



ほむら「……異次元からの来訪者、か……」

ジャイロ「信じるのか?」

ほむら「魔女が関わっているとすれば、あり得ない話じゃないわ。前例は聞いたことないけど」

ジャイロ「よし。なら俺もおまえさんの話は何でも信じるぜ。どんな突飛な内容でもな」

ほむら「……ありがとう」

ジャイロ「さ、話せ」

ほむら「……私は、大切な友達を救うために、多数の時間軸を――」


今回はここまで。帰ってきたよ!


前作(マミ「もう何も怖く……」ほむら「勇気とは怖さを知ること!」)と比べて長くなってしまっていることもあって、細かいチェックとかできてないかもしれないです。

誤字脱字や文章が変になってるなんてことが起こりうる。ということです。

内容が前作を似てる所がありますが、その辺はまぁリンクしてるなー、そういうこともあるよなーみたいな感じで……よろしくおねがいいたします

このペースだと八月に投下しきれない可能性もあるかも



前もって言っておきますが「ほむほむの玉いじり」みたいなことを言うの禁止の方向でお願いします



わたしの名前は――(まぁどうせ覚えてもらう必要はないですけど)鹿目まどか中学二年生……。

わたしは……ただの中学生だった。普通の人々と同じように……

家族を愛し友人を愛し国を愛し学業に一生懸命のただの中学生だった。……魔法少女というものに出会うまでは。



先生「二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めた時……」

先生「ひとりの囚人は壁を見ていた」

先生「もうひとりの囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた……」

先生「中沢くん……あなたはどっち?」

中沢「もちろん星を見ます……僕は星の光を見ていたい」

さやか「何だこいつら」

先生「と、いうわけで……はい。転校生が来た」

仁美「転校生……どんな方でしょう……」

まどか「仲良くなれるといいなぁ」



ガラッ

ほむら「……」

カツカツ

ほむら「……暁美ほむらです」

仁美「あら美人」

先生「暁美さんは東京の病院に入院していましたが、色々あって見滝原の病院に移り、ここに越して来ました」

先生「前の学校とは全く異なる環境でわからないことも多いでしょう。皆さん仲良くしてあげて下さいね」

先生「ルックスも美少女です」

先生「……暁美さんの紹介はこんなもんで」

先生「あぁ~イイッすかねェェェ~~~~、と」

さやか「ブッ」

中沢「ガッ」

仁美「やってしまわれましたわ……」

まどか(暁美さん……カッコイイ人だなぁ) パチパチ



ほむら「…………」ジッ

まどか(……あれ? わたしの方見てる?)

ほむら(ジャイロから回転の技術を学ぶようになって……流石にまだ何も成果はない)

ほむら(一ヶ月で果たして勝てるのか……正直、不安なとこでもある。それでも……まどか)

ほむら(今度こそあなたを救ってみせる。今回はいつもと違う。新たな希望がある……回転の力!)

まどか(ん――……どこかで……夢? 夢かなにかで会ったことがあるような、ないような)

ほむら(早く回転をマスターしたい。グルグルしたい。グルグル)

まどか(クールビューティーな雰囲気……きっとインテリジェンスなことを考えてるんだろうな)

ほむら(グルグルグルグル……)



ワイワイ

仁美「何だか、鹿目さんのことを見てましたよね」

さやか「なんつーか、どっちかと言えば睨んでたね」

まどか「そ、そうかな?」

仁美「漆黒の意志が瞳に宿ってますわ。仁美だけに」

まどか「ちょっと何言ってるのかわからないよ!」

さやか「あたしの嫁にガン飛ばすとは気に入らねぇ~」

さやか「ちょいと挨拶にいってこよう」

まどか「ちょ、ちょっと……さやかちゃん……」

さやか「ヘイッ! 転校生!」


ほむら「…………」スック

スタスタ

さやか「お? お? ど、どうした。あ――」

スルゥ―z__

さやか「さやかちゃん素通りされるの巻」

ほむら「…………」

ピタァ…

まどか「…………」

仁美「…………」

さやか「…………」

ほむら「…………」ジ…

まどか「えーっと……あ、暁美さん?」



ほむら「グ……鹿目まどかさん」

まどか(グ……?)

さやか(グ……?)

仁美(グ……?)

ほむら「保健室へ……連れてってくれる?」

まどか「あ、うん……」

ほむら「……」ツカツカ

まどか「あっ、待ってっ」

仁美「ミステリアスな方ですわ」

さやか「うん」

――廊下


まどか「…………」

ほむら「…………」ゴソゴソ

まどか(何か……何か手に持ってる……何だろう)

まどか「あの……えっと、暁美さん……」

ほむら「ほむらでいいわ」イジイジ

まどか「じゃあ、そ、その……ほむらちゃん。……えぇっと……か、かっこいい名前だよね!」

まどか「何というか……燃えよドラゴンズドリーム! って感じで」

ほむら「…………」ニギニギ

ほむら「鹿目まどか」グリグリ

まどか「は、はいっ」

ほむら「あなたは家族が――」モジモジ


ほむら「――ということで、自分を大事にして」コロコロ

まどか「え、えーっと……うん。……それで、ほむらちゃん?」

ほむら「何かしら」モゾモゾ

まどか「さっきから何を手持ちぶさたにイジってるの?」

ほむら「右手のこれ? ビー玉だけど」スッ

まどか「う、うん……何で?」

ほむら「別に」ビシビシ

ほむら「………………」

まどか「……?」



そう……一人目はこの女の子だった。暁美ほむらちゃん……。

この人にわたしは恐怖は感じなかった。炎という意味の名前ではあるけれど、知性と、氷のようなクールな態度があった。



ほむら「…………」

まどか(何だろう……黙り込んじゃった。手も止まっちゃったし)

まどか(この顔……よく見てみれば……)

まどか(クール……と、言うより何か、迷いのある表情をしているように見える……)

ほむら「……か、鹿目まどか」

まどか「なぁに?」

ほむら「…………」

まどか「…………」


まどか(何だろう……急に家族の話をしてたけども……)

まどか(もしかして、家族のことで悩んでいるのかな……)

まどか(真剣な表情……。何かしら悩んでいるに違いないよ)

まどか(悩んでいることがあるのなら……力になれるといいな)

ほむら「……ハ」

まどか「うん?」

ほむら「ハッ……」

まどか「はっ?」




ほむら「ハッピーうれピぃ、よ、よろピクねぇんっ」ピース



まどか「…………え?」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「…………」

ほむら「ま、前の学校で……」

まどか「…………うん」

ほむら「流行ってたのよ……」

まどか「……そ、そうなんだ」



ほむら「…………お願い。今の忘れて////」プイッ

まどか「う、うん……」

ほむら「誰にも言わないでね……////」プルプル


まどか(あの……クールそうなほむらちゃんが……ピースして……ウィンクして……恥ずかしくなって俯いてほっぺ真っ赤にして……)

まどか(ああ……ピースした手がプルプル震えながらフォークボールを投げるみたいになってるよ!)

まどか(これが萌え!? 萌えってやつなのかなー!?)

まどか(打ち解けようとしたのかな? だとしても唐突すぎる! 不器用すぎるよほむらちゃん!)


ほむら(前の学校で流行ってたって……嘘をついた……でもこのくらいの嘘許されるハズ……)

ほむら(……うあああああああやってしまったああああああああ!)

ほむら(絶対に絶対に絶っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~対に!)

ほむら(変に思われたぁぁぁぁぁ! 冒険しすぎたぁぁぁぁぁ! やっぱりやめときゃ良かったぁぁぁぁ!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ほむら「――だから、私はまどかを救うことだけを考えて生きている」

ほむら「それが私の全てだから」

ジャイロ「……」

ほむら「以上」

ジャイロ「……なるほどねぇ。まどかっつー、お友達を」

ほむら「…………」

ジャイロ「……いいだろう。回転を教えてやる」

ほむら「本当?」

ジャイロ「おまえさんは、俺が『教えてやってもいーか』と思えるような……覚悟と目を持っている」

ほむら「覚悟はある」

ジャイロ「それに魔法少女というものに少し興味が沸いた」



ジャイロ「どうせこの世界で何をすればいいのかわからんからな」

ジャイロ「おまえに回転を教えるためにつれてこられた神のお導き、とポジティブに考えるぜ。神っつーか魔女だけどな」

ほむら「…………ありがとう」

ジャイロ「二つ確認させろ」

ほむら「何かしら」

ジャイロ「マミ、サヤカ、キョーコ……どんな奴かは知らんが、そいつら全員、救おうとはしていたんだろう?」

ジャイロ「そしてそのまどかさえ救えれば、そいつに嫌われようが構わない。そう考えているんだろう?」

ほむら「……諦めたと言えば聞こえが悪いでしょうけど、そうよ。犠牲も孤立も仕方ないと考えている」

ほむら「何度やっても無駄だった。無理だった。なら、そう考えている方が気が楽だから」

ジャイロ「……そうか」


ジャイロ「なら俺から一つ条件を出す」

ほむら「……条件?」

ジャイロ「全員救うぞ。まどかだけだなんて考えるな。もちろんおまえ自身もだ」

ほむら「……」

ジャイロ「無理だとか無駄だとかは生前に聞き飽きた。いいか。全員生きてワルプルギスとやらを超え、みんな仲良く丸く収めやがれ」

ジャイロ「まどかとさっきの三人と仲良かった時間軸もないことはないんじゃないか? あるならそれをやりつつでいいんだよ」

ジャイロ「できないかも、とか考えてしまうのも無理はないが、とにかくやれ。できる限りなら協力してやる」

ジャイロ「友達として守ることを誓ったのなら、友達として生きるのが筋ってもんだろう。だからそう努力すると誓え」



ほむら「ジャイロ……あなたって人は……」

ジャイロ「最悪次の時間軸とやらに学んだ技術と経験を持ち越せば何かの役に立つだろう。ま、次だなんて考えるのは野暮なことだが」

ほむら「わかったわ……頑張ってみる」

ジャイロ「ニョホホ」

ジャイロ(俺はマルコ少年。ほむらは鹿目まどか。俺とほむらには「救いたい」という、似た心がある)

ジャイロ(俺はリタイアしちまったから……それができなかった。決して、それだからというワケではないが――)

ジャイロ(こいつの、その心を叶えてやりたい。そういう気持ちは多からず少なからず存在する)




ジャイロ「そんじゃ、早速なんか教えてやるかな」

ほむら「ええ。お願い」

ジャイロ「じゃあ、まずは……そうだな。これを俺から奪ってみろ」

スッ

ほむら「ビー玉……?」

ジャイロ「拾ったものだ」

ほむら「これを奪えばいいのね?」

ジャイロ「ああ、さぁ取ってみな。この握りこ――」


カチッ


ジャイロ「――ぶしの中から……ん?」

ほむら「取ったわ」

ジャイロ「なッ!? 無いっ!?」

バァ――ン

ジャイロ「テ、テメーッ! 今何をしたッ!」

ほむら「言われた通りに取ったのだけど……」

ジャイロ「おまえやっぱスタンド使いだろッ!」

ほむら「スタンドじゃないわよ。私は魔法少女よ」

ジャイロ「……あぁ、そうかよ」

ジャイロ(一瞬で消えた……。子どもの頃、俺は父上に「握った鉄球を取り上げてみろ」と言われて気付かぬ内に鉄球を手の中に入れられたことがあるが……これは違う)

ジャイロ(リンゴォの時と同じような……まるで時間を操っているかのような……)

ジャイロ(まあ敵じゃねーから別にどうってこともないか)


ジャイロ「とにかく……だ。どうやって取ったかいいとして、そのビー玉で練習してな」

ほむら「れ、練習? ちょっと待って。練習くらいいくらでもしてやるわよ」

ほむら「でもまず基礎を教えてもらわないと。練習もなにもないわ」

ジャイロ「いいからその『球』で練習してろってんだ。見て学べ、だぜ」

ほむら「見て学べ? わかったわよ。何にしても、もう一度見せてよ。その回転を」

ジャイロ「既にお披露目してるぜ」

ほむら「え?」

ジャイロ「手を開いてみな」

ほむら「……」スッ

シルシルシルシルシル

ほむら「なっ!?」



ほむら「び、ビー玉が回転してる……い……いつの間に……なんで気付かなかったのかしら……」

ジャイロ「いいか……。例えば腕をこうやって強く掴もうとすると……『筋肉』はこの力をふりほどこうと理解して反応してくる」

ジャイロ「肉体が本能的に身を守ろうとするのは筋肉に気づかれるからだ。それが生物の体だ………」

ジャイロ「鉄球の回転はそれを悟らせない! 皮膚までだ。だからおまえの筋肉は回転に気付かない」

ジャイロ「レッスン2……『筋肉には覚られるな』だぜ。皮膚と筋肉を支配しろ」

ほむら「……わかったわ。……やってみる」

ジャイロ「よし。じゃあ、今日はもう解散だ。次はどこで会える?」

ほむら「そうね……。時計と方位磁石とこの街の地図をあげるわ。それで……」

ガサッ キュッ

ほむら「明日は今書いた赤丸のところにいてちょうだい」

ほむら「出歩くときはせめてその帽子とマントは外してちょうだい。目立つから」

ほむら「それで時間は、そうね――」


ほむら「――と、いうわけで、よろしく」

ジャイロ「ああ。……時間遡行者は大変なんだな。色々指定しやがって」

ほむら「ええ。大変よ。まぁ未来の世界を散歩でもしていくといいわ」

ほむら「……ところで、ジャイロ。異世界人のあなたはどこで寝泊まりするの?」

ジャイロ「ん? その辺はまあ、テキトーにだな」

ほむら「一人暮らしの女の子の家にお邪魔しようだなんてやらしーこと考えないでよ」

ジャイロ「ねーよ。ちなみに死んだ身だからか、『そーゆーの』は一切『湧か』ないんだよ」

ジャイロ「回転の防御技術に皮膚を硬くするものがあるが、『そっち』のは……」

ほむら「…………」

ジャイロ「俺なりにオブラートに包んだ表現だったんだが、お気に召さなかったようだな」

ジャイロ「思春期の少女は扱いに困るぜ。とにかく、今夜はここでグータラしてるぜ」

ほむら「……えっと、まあ……そうね。取りあえず授業料ということでこの時代のお金も餞別するわ」

ジャイロ「お、気前いいな。ありがとよ。3キュー、4ever」




ジャイロ「よし、じゃあ礼にギャグを教えてやる」

ほむら「は?」

ジャイロ「これを自己紹介と時にすればホームラン間違いなしよ!」

ほむら「私そういうキャラじゃないんだけど……」

ジャイロ「じゃあそのまどかにだけやればいい」

ほむら「だからそういうキャラじゃないってば」

ジャイロ「守れれば嫌われようがどうでもいいとか言って、本当仲良くしたいんだろ?」

ほむら「……いや、それとギャグは関係ないでしょう」



ジャイロ「仲良くならなきゃいけねーんだよ。俺との契約だからな」

ほむら「……まぁ、仲良くしたいけども」

ジャイロ「よし。それじゃあ教えるぜ。なに、簡単なことさ」

ジャイロ「今イチパクリっぽいんではあるんだがよォ~……こうやって構えてだな……」

ジャイロ「ハッピーうれピーよろピくねーーー!」

ほむら「…………」

ジャイロ「おまえにはキャラ的に今のモーション……ハードル高そうだな」

ほむら「キャラ関係なしに十分高いわよ……」

ジャイロ「適当にピース突き出すとかウィンクするとかしとけ。ガハハニョホ」

ほむら「…………何か頭痛くなってきた」


~~~~~~~~~~~~~~~~



――保健室

ほむら(ジャイロからビー玉を渡されて、ずっとビー玉を弾いてみたり転がしてみたりしてみたけど……)

ほむら(う~ん……回転、か……)マジマジ

ほむら(イメージはあるのよねぇ……。木の葉がバレエダンサーみたいにクルクル舞い降りるような……)

ビシッ

ほむら「ん?」

グルグルグルグルグル

ほむら「おっ、おぉっ!? おっと、っとっと!」

グルグルグルッ

ほむら「ま、回った……!? お、おあぉっ」

シルシルシル……コツンッ…カラカラカラ…

ほむら「落としちゃった」


ほむら「……でも、回ったわね」

ほむら「回ったわよね……今……。こう回っちゃうの? で、できた……」

ほむら「とにかく……やっと一段階ってとこね……」

ほむら「……ふふ」

ほむら「やったっ♪」グッ

ほむら「これは順調だわ」

ほむら「ビー玉……どこに落ちたのかしら?」

ほむら「えーっと? あれ? どこ……? ベッドの下かし……」


まどか「…………」ジー

ほむら「あ……」

まどか「…………」

ほむら「鹿目まどか……」

まどか「…………」

ほむら「…………こ、これは、あれよ。水晶玉が、こう……宙に浮いてるように見えるっていうアレ、あるでしょ? あれの……練習、よ……ええ、うん」

まどか「そ、そう……なん、だ……。……はい、ビー玉」スッ

ほむら「ありがとう……」

まどか「お、おあぉっ!」

ほむら「!?」

ほむら「……だ、誰にも言わないでよ///」

まどか(かわいい)

まどか「……んー、鹿目まどかじゃなくてまどかって呼ぶなら秘密にするよ?」

ほむら「わ、わかったわよ……まどか」

まどか「やったっ♪」グッ

ほむら「…………」

まどか「ウェヒヒッ」


――廃墟


QB「なかなか鹿目まどかに接触する良い機会がないなぁ」

QB「それはそうと、今日はここに魔女が現れる」

QB「先回りだよ。キュップイプーイ」



QB「ん……?」

QB「なんだ……?」 

QB「こ、これは一体……?」

QB「昨日までは……こんなものは無かったはずだ……」

QB「な、何が起こったんだ……?」



ゴゴ ゴ ゴ ゴ

QB「コンクリートの壁や床……いたるとこにある半球型の『穴』は……」

QB「えぐり取った跡? あるいは削り取った?」

QB「どれも完全な球形だ……」

QB「どうやったんだ? 歪んだ部分が全然ない……どれも『完璧な球』の跡」

QB「魔女の影響か……魔法少女の力か……」

QB「……ん?」


ガリガリガリガリガリ…


QB「な……何の音だろう……?」


ガリガリガリガリ


ほむら「……っと。どう、ジャイロ。よく回るようになったでしょう」

ジャイロ「ビー玉でコツをとらえたようだから鉄球を実際に回転させてみたが……飲み込みが早すぎるんじゃあねーか?」

ほむら「そうかしら?」

ジャイロ「そこら中に穴ぼこ開けちまったが……この短期間でこれはマジに上出来だぜ」

ほむら「あなたにとっては教えるのは二度目なのでしょ? なら、教え方がいいのよ」

ジャイロ「嬉しいこと言ってくれるねェー。ニョホホ」

ジャイロ「だがほどほどにしとけよ。ボコボコにしやがって」

ほむら「どうせ廃墟なんだもの。いつの間にか取り壊される運命よ」

ほむら「私だって必死だからね」


ジャイロ「そうか。そんじゃ、次は実際に投擲してみるか」

ほむら「次のステップね」

ほむら「でも、ちょっと待っててくれる? 少し、用がある」

ほむら「今日、ここに奴がくるはず」

ジャイロ「奴……まどかのことか?」

ほむら「私がまどかを奴呼ばわりするワケないでしょう」

ジャイロ「キュゥべえって奴のことか?」

ほむら「そう。本当ならまどかと奴との接触は避けたいのだけれど……」

ほむら「何にせよ、先回りというものよ」

ほむら「どうせこの元工事現場はずっとほったらかしのままだから回転の特訓場にもいいわ」

ジャイロ「ほー……そういう理由があったんだな」


QB(な……なんだ、あの二人は……!?)


QB(何をしているんだ!? 何やら丸い球のようなものを回転させている……)

QB(このたくさんの穴はあの二人が……!?)

QB(魔法……? いや、違う。あの男も鉄球のようなものを使っているから……)

QB(それに……インキュベーターだって!? 僕の本当の名を……)

QB(しかも話の流れからして、僕がここに来ることを知っている。そして僕を狙っている)

QB(助けを呼ぼう……)

QB(……あの制服は、マミとまどかが着ている物と同じじゃないか)

QB(丁度良い。ここにまどかを呼ぼう。ここには魔女が来るからマミも呼ぶまでもなくすぐに来てくれる)

QB(話の流れからしてまどかと知り合いらしい。僕と契約をさせたくないのだろうけど、危害は与えないだろう)



QB「…………」

QB「まどかは心優しいタイプの人間だ。助けてと言えば、必ず現れる」

QB「いかにも弱っている風を装うことにしよう」

QB「そうすれば、もし彼女がまどかと接触しても、まどかは衰弱しているように見える僕を優先してくれる」

QB「狙われているのは間違いないからね。嘘はついていない。これは生存戦略の一つ、擬態のようなものさ」

QB「……そこで魔女・使い魔……魔法少女の存在を知ってもらって……あわよくば身の危険からその場で契約……なんて」

QB「そうでなくてもここはマミのテリトリー。すぐに来てくれる。仲間を求めているマミと接触させれば……」

QB「ただ気になるのは、僕とまどかを接触させたくないというような感じだったということだ」

QB「……何にしても、呼ぼう」


QB『まどか……助けて……狙われている……助けて……』フラ…フラ…


――
――――


まどか「確か……ここから声が……したんだけど……」

まどか「うぅ、ちょっと怖い……かな?」

QB(来た……!)

まどか「う、うわぁっ!? な、何これ!?」



まどか「壁や床、そこら中ドーム状の穴が空いてる……」

まどか「ど、どうやったらこんな風に……削った……のかな」

まどか「ケフンッ!」

まどか「や、やっぱり削ったものなのかな……すごい粉が待ってるよ……」


「ごめんなさい。そこまで配慮してなかった」


QB「?!」

まどか「へ?」


ほむら「まどか。ここは危ないわ。今すぐに帰った方がいい」

まどか「ほ、ほむらちゃん!? そ、その格好は……?!」

まどか「それに、どうしてここに……」

ほむら「それより足下に気をつけて。床にもいくつか空けたと思うから。躓いて転んじゃうわよ」

まどか「う、うん……ほむらちゃんは、この穴ぼこ、ほむらちゃんが……?」

ほむら「ええ」



QB(こんなところにまで穴が……そして彼女……)

QB(遠くからだったからよくわからなかったが……)

QB(初めて見る魔法少女だ。少なくとも僕は契約した覚えがない……本当に何者なんだ?)



まどか「ど、どうやって……こんな穴ぼこだらけに……」

ほむら「とにかく帰りなさい」

まどか「で、でも……助けて、って助けを呼ぶ声が聞こえて……」

ほむら「それならこいつの嘘よ」

ほむら(まどかと出遭わせないことがベストだった。しかし、それをしてもどうせ出遭う時期がズレるだけ)

ほむら(今回は常に監視することはできない。ならば……敢えて会わせる)

QB「!」

まどか「え? 何? この子……」

まどか「フラフラして弱ってるみたい……! 手当しなくちゃ……!」

QB(ど、どういうことだ……接触させたくなかったんじゃないのか……!?)



ほむら「その衰弱風が嘘なのよ。あなたに心配させようと……」

QB「た、助けて……」

まどか「ほ、ほら……助けてって……すごく苦しそう……」

ほむら「だから、それは嘘なのよ。演技なの」

QB「助けて……助けて……」

まどか「え、えーっと……わ、わたしどうすればいいのかな……?」

ほむら「さっきも言ったけど、ここは危ないから帰って! 気になるなら私が介抱しておくわ!」

QB「……助けて」

ほむら「まどか……!」

まどか「うぅ……」

QB「さやか……」

ほむら「……ッ!?」


ブシュゥゥァァァァ―――z___ ッ!


ほむら「ウッ!?」

まどか「消化器ッ!?」


さやか「まどかァッ! それを連れて逃げるんだァ――ッ!」

まどか「さやかちゃん?!」

ほむら「し、しまっ……!」

ほむら(くっ……まさかさやかに助けを求めるような機転を……ッ!)



ほむら「…………」

ほむら「……チッ」

ジャイロ「おい、何騒いでんだよ。うるせぇな。……で、今の白いのがキュゥべえって奴か」

ほむら「あら、キュゥべえが見えるの? まあ何となく想像してたけど」

ジャイロ「何だそれ」





さやか「はぁ……はぁ……な、何だよ転校生!」

まどか「さやかちゃん、どうしてここに……?」

さやか「まどかがこんなとこに入ってったからついてきたんだよ!」

さやか「そしたら頭の中に助けてって声がして……」

まどか「そ、それって……わたしを同じだ」

さやか「何なんだろう。これ……犬? でも、弱ってるようなのは間違いない」

さやか「あいつ……砲丸みたいなのを持ってた! 確実に危険人物!」

まどか(……ほむらちゃんの方が嘘をついていたのかな)

まどか(わたしはさやかちゃんに言われるがまま逃げちゃったけど……)


グニャァ…

さやか「え……?」

まどか「く、空気が……いや、空間が……!?」


――結界

まどか「な、何……?! 何が起きたの!? ここは……!?」

さやか「どういうことだよこれ……? ゆ、夢? 夢なのかな?」

使い魔「――」ユラァ…

まどか「え……?」

さやか「何……こいつ……!」

使い魔「!」

まどか「襲いかかってきた!?」

さやか「うわぁ!」


バギュゥンッ!



「大丈夫かしら? 二人とも……」


まどか「あ、あなたは……」

マミ「私は巴マミ。あなた達と同じ学校の三年生よ。安心して。私はあなた達の味方よ」

さやか「そ、それは……銃?」

マミ「キュゥべえ……ぐったりとして……」

マミ「あなた達が助けてくれたのね?」

まどか「え、えーっと……」

さやか「まぁ……はい、キュゥべえ……って言うんだ。コレ……」

マミ「落ち着いてってのも無理な話だと思うけど、私が守ってあげるからね」


使い魔「――」

マミ「さっさと倒してあなた達の親玉を殲滅してあげるわ!」


――結界最奥


魔女「――――」

ジャイロ「あれが魔女か? キモイねえ」

ほむら「薔薇園の魔女よ。あぁ見えて割と温厚な性格よ。薔薇園を荒らさない限りはね」

ジャイロ「魔女にも色々いるってわけだ」

ほむら(巴マミとまどか達の接触を確認した……)

ほむら(使い魔は巴マミに任せるとして……これで安心して魔女を倒せる)

ジャイロ「この薔薇、本物か? ……まあいいか」

ジャイロ「丁度いい。投げてみろ」

ほむら「……へ?」


ジャイロ「筋肉に覚られるなとは言ったが……投げるには筋肉を使うからな」

ほむら「ちょ、ちょっと……! 今!? 今レッスンするの!?」

ジャイロ「回転を維持したまま投げるにはちとコツがいるぜ。さあ、投げろ」

ほむら「そのコツは!?」

ジャイロ「おまえはこんな短い期間で鉄球を回転できたんだぜ。できるできる」

ほむら「む、無茶よ! まだ何もわからないのに!」

ジャイロ「一ヶ月しかないんだ。百聞は一見にしかず。百見は一辺にしかず。なんてな」

ほむら「何よそれ……」

ジャイロ「つべこべ言わず、レッスン2。『回転の力を信じろ』だ! さあ、実際に投げな!」

ほむら「う、うぅ……」

ジャイロ「温厚な性格ってんならよォ~、時間は取れるぜ。大丈夫だって。感覚で何とかなるぜ! 多分」

ほむら「ま、まずは回転させて……今小さく多分って言った?」



ほむら「…………」

シルシルシルシルシル

ジャイロ「いいぞ」

ジャイロ「さ、そのまま投げてみろ。まずは回転を維持することを考えろ」

ほむら「…………」ドキドキ

ジャイロ「手首のスナップだけで投げるわけじゃない。全身にまわるエネルギーが手先に集中するイメージだ」

ほむら「…………」

ザッ

ほむら(ワルプルギスを倒す希望として見出したからには……タイムリミットが一ヶ月と言うのなら!)

ほむら(やれるようにならなければならないっ! 頑張れ私!)

ほむら「え、えぇいっ!」ブンッ




ドゴンッ

魔女「――!」

ジャイロ「ダメだ。回転していない」

ほむら「くっ……やっぱり難しい……」

魔女「――」

グアッ

ほむら「来るッ!」

ジャイロ「オラァッ!」

ドギャッ

魔女「!」

ほむえ「うあっ!」



ギャルギャルギャルギャルギャルギャル

魔女「キィィィィィィィィィコエェェェェェェェェェェ」

ほむら「ど、どうやったらあんな回転と威力が……」

ジャイロ「俺はどこからあんな声が出てるのかが気になるね。口どこだよ」

ジャイロ「ま、いいか。何にしたって、回転を学んでいく内におまえもいつか理解する時が来るさ」

ほむら「だといいけど……」

ジャイロ「ただ、俺は今ちょっとだけ手を抜いた。トドメはおまえが刺せ」

ほむら「何を考えてるのやら……」

ほむら「……」

ジャイロ「どうした?」

ほむら「いえ、ちょっと思い立った」

ジャイロ「は?」

ほむら「それじゃ、行ってくるわ」


ほむら「と、いうことで……トドメを刺してあげるわ。薔薇園の魔女……」

ほむら「……回転の投擲、今度こそ成功させてみせるわ」

シルシルシルシルシルシルシル

ジャイロ「おい! ほむら! 前を見ろ! 前を!」

魔女「――!」

グアァッ

ほむら「喰らえェェェッ!」

ガォンッ!

ほむら「ッ!」

ドコォッ

ほむら「グヘァッ……!」



ジャイロ「ほむらァッ!」

ほむら「ガ……ごほっ」

ほむら「流石に……魔女の直撃は喰らうわね……グッ」

ほむら「私の回転の方は……?」



魔女「――――ッ」

ベキャ

魔女「」

ほむら「…………」

ジャイロ「…………」

ジャイロ「おい、ほむら。大丈夫か?」

ほむら「ハァ……ハァ……吐血したわ……」

ほむら「それで……どうだった? 魔女は倒したけど」


ジャイロ「……俺の言う回転は一切してねぇのに体を貫通しやがったぞ」

ほむら「思わず肉体強化の魔法でそのままやっちゃったわ……」

ジャイロ「……」

ほむら「テヘッ。ってやつだわ」

ジャイロ「…………怖ぇ女だなおまえさん」

ジャイロ(逆鱗に触れないよう気をつけるか)

ジャイロ「――だが、まあ、投げ方自体は85点ってとこだな。なかなかいいフォームだ」

ほむら「手榴弾で慣れてるから」

ジャイロ「おまえは一体何なんだ」

ほむら「魔法少女だけど」

ほむら「それはそうと……まどか達のとこに行くわよ……ゲフッ」

ジャイロ「おい、大丈夫か?」


ジャイロ「おまえにしては冷静じゃあねぇぞ。おまえなら躱せないような攻撃じゃないように見えたが……」

ほむら「敢えてヤツの攻撃を喰らったわ」

ジャイロ「は? ……何を言ってるんだテメー」

ほむら「キュゥべえと同じことをしたのよ」

ほむら「奴が怪我だとか弱った体で接触して同情を惹こうっていうなら……」

ほむら「私はわざと怪我してまどかに心配してもらう」

ほむら「こうすることで魔法少女の危険度をまどかと美樹さやかに突きつけて契約をさらに踏み止まらせる」

ジャイロ「……無茶苦茶なヤツだぜおまえは」

ジャイロ「何を考えているのやら……」

ジャイロ「で、その傷、魔法とかで何とかなるんだよな」

ほむら「できるけど、そういう理由で今はしないわ……」

ほむら「ごめんなさい……肩貸してくれる?」

ジャイロ「ああ」




グニャ…


マミ「……あら、結界が……魔女を逃がしてしまったようね……」

さやか「景色が元に戻った……」

まどか「な、なんだったの……?」

マミ「ふぅ……」

マミ「二人とも、怪我はない?」フワッ

さやか「それにしても……か、かっこいい……」

まどか「ありがとうございます……」

マミ「ふふ、大丈夫よ。もう怖くないからね」


さやか「あ、あたしは美樹さやかって言います。こっちは鹿目まどか」

さやか「同じ学校だったんですね。ビックリ&ホッと安心ですよ」

マミ「ふふ、そう?」

マミ「……それで、キュゥべえが見えるということは同じ魔法少女の素質があるということね」

まどか「魔法少女……?」

マミ「えぇ。私、魔法少女なの。ふふ、いきなり何を言ってるのって感じ?」

マミ「それにしてもキュゥべえ……大丈夫かしら。使い魔にやられちゃったのかしらね……」

さやか「違います! 転校生がやったんです!」

マミ「転校生?」

マミ「ちょっと詳しく聞かせてもらえるかし――」

コツコツ…



まどか「あ! 床に穴があるから気をつけ……」

カクッ

マミ「ら?」

ベチィッ

マミ「グピィ!」

さやか「!?」

まどか「あ~……転んじゃった」

さやか「な、なんだこの穴は!? よく見たらあちこちに……気付かなかったよ……」

マミ「いたたたた……」


さやか「あ! 見てまどか!」

まどか「どうしたのさやかちゃん?」

さやか「あの人の見事なソフトマシーンが半球の穴にハミ出んばかりにINしてる!」

まどか「…………」

マミ「なっ……!?」

マミ(は、恥ずかしい……転んだ上に何て醜態を……////)

まどか「…………」

さやか「どうしたのまどか?」

まどか「…………」ペタペタ

まどか「…………」ジー

さやか「そ、そんな切なそうな顔で見ないで……あたしが悪かった……!」



ほむら「……何してるの?」

ジャイロ「……」


まどか「あ、ほむらちゃん……」

さやか「転校生……! って……誰? その人」

マミ「転校生……?」

ほむら「二人とも大丈夫? 怪我はない?」

まどか「うん……この人が助けてくれて……」

マミ「…………」



ほむら「そう……」

まどか「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら「どうしたの?」

まどか「く、口から血が出て……!」

ほむら「あら、本当……吐血してたのね……気付かなかった」

ほむら「でもこれくらいなんてことないわ……」

まどか「でも……こんな怪我をして……」

ほむら「心配してくれるの? ありがとう」

さやか「ほ、ほんとに大丈夫なの……?」

マミ「……結構鈍くさいのかしら?」

ほむら「…………」


ほむら「そうね……足下不注意で転んじゃうこともあるわ」

マミ「……そう、それはそれは」


ドド ド ドド ド ド


さやか(な、何だ……このプレッシャーは……!)

まどか「あ……あの……ほ、ほむらちゃん」

ほむら「何かしら」

まどか「あの……この人は……」

ジャイロ「……ん、あぁ、俺か。俺はジャイロ・ツェペリ」

ほむら「私の……まぁ、味方みたいなものよ」

まどか「そ、そうなの……?」


ジャイロ「おまえさんが鹿目まどかかい? ほむらから聞いてるぜ。そっちは美樹さやか? で、巴マミと」

まどか「は、はい……」

さやか「…………」

マミ「…………」

さやか(めちゃくちゃ怪し――――ッ!)

さやか(何あの帽子! 何あのマント! 怪し――ッ!)


マミ「……それで?  肩を借りてる転校生さん。あなたは?」

ほむら「あ、ジャイロ。もういいわ。肩、ありがとう」

ほむら「私は暁美ほむら。そこの二人の同級生。あなたの後輩にあたるわ。最近転校してきた」

ほむら「よろピ……こほん、よろしく」

さやか(ピ?)

マミ「……あぁ、そう。……よろしく。……まさか噂の転校生が魔法少女だったなんてね」

まどか「噂?」

さやか「うん……見かけがいいから他学年でも話題になってる」



ほむら「あぁ、そうだ、言うまでもなく、魔女は私達が倒したわ」

マミ「そのようね。でも、ここは私のテリトリーなの。勝手なことされたら困るわねぇ……」

まどか「ほむらちゃん……じゃあその怪我は魔女に……」

さやか「魔女……さっきのやつの親玉か」

マミ「……それで?」

マミ「あなたは……何をしたの……?」

ほむら「……ん?」

マミ「何をしたのかと聞いているのよ」

ほむら「…………ああ」

ほむら「そこの穴に躓いて転んてカッコ悪いとこ見せさせてプライドを傷つけちゃったことを謝るわ」




ほむら「訓練のために削ったのは……まぁ軽率だったと思う」

ほむら「でもいつまでも埃をつけっぱなしで小汚い姿でいるのは私のせいじゃあないわよ」

マミ「違うわよ。キュゥべえに何をしたと聞いているのよ」

マミ「…………」ポン ポン


マミ「あなたがキュゥべえを襲ったのでしょう?」

ジャイロ「おいおい……怖いネエちゃんだな」

ほむら「別に、何もしてないけど」

マミ「美樹さんに聞いたわ」

さやか「キュゥべえがあたしに助けてって言ったんだ!」

さやか「まどかは転校生に何か言われてたんだろ!?」

まどか「あ、あうぅ……」オロオロ



ほむら「……違うと言ってもどうせ信じないでしょう」

ほむら「でも一応言っておくわ。私はやっていない」

ほむら(今回はやってない。一応本当に)

マミ「……フン」

マミ「さっきの言い方からするに、この穴を空けたのはあなたよね」

ほむら「そうだけど」

マミ「建造物等破壊罪」

ほむら「そうなるわね」

マミ「それに、最近変な格好をした西洋人風の男が不審者が出るって聞いているわ」

マミ「不審者と行動を共にしている犯罪者のあなたは信用できないわ」




ほむら「ジャイロ。不審者ですって。そういえば先生言ってた気がするわ」

ジャイロ「面と向かって不審者呼ばわりか……肝っ玉がでかいタイプか?」

ほむら「後輩の前だから見栄張って啖呵を切ってるだけよ」

ほむら「怒っちゃダメよ。あなたが不審者なのは変わらないんだから」

ジャイロ「気にしちゃいねーよ」

ほむら「出かける時にマントと帽子を脱いだ?」

ジャイロ「あぁ、そういや忘れてたわ」

ほむら「あなたねぇ……」

ジャイロ「以後、忘れない限り胸に留めておくぜ」

マミ「何ぶつくさ喋っているの! 聞いているの?!」

ジャイロ「はいはい。っと、で、何の話だったっけ?」

ほむら「私達が犯罪者だって」

ジャイロ「やべぇ。俺の鉄球、廃材からパクッたもんなんだよな。窃盗だわ」

ほむら「それを言ったら私は銃刀法違反もしてるわ」

ジャイロ「そりゃ怒るわな」

ほむら「そうね……」

マミ「……人の話を聞きなさいよ」イラッ



ほむら「まあそれはいいとして、これ」

ほむら「さっきの魔女のグリーフシードよ。折角だし、お近づきの印ということであげるわ」

ポイッ

マミ「…………」パシッ

マミ「……犯罪者から施しを受ける程落ちぶれてないわよ」ペイッ

マミ「それとも何? グリーフシードをあげるから見逃してほしいと?」

ほむら「……返却、と。別にそんなつもりじゃないのに」

ジャイロ「面倒なヤツもいたもんだな」

ほむら「全くね」



まどか「…………」

さやか「…………」

ほむら「ああ、そうだわ。あなた、もしかしてそこの二人を魔法少女に勧誘するつもり?」

マミ「……彼女達には素質がある。魔法少女になる権利と資格があるわ」

ほむら「でしょうね。なら二人とも。忠告するわ」

ほむら「やめたほうがいい。危険すぎる」

ほむら「ちょっと吐血するくらいで済むと思ったら大間違いだからね」

マミ「何を吹き込んでいるのかしら? そんなに脅かして」

ほむら「事実を言っているだけよ」

まどか「…………」

さやか「…………」


ほむら「もう遅いから帰りなさい」

ほむら「行きましょ。ジャイロ」

ジャイロ「ああ」

マミ「ちょっと、待ちなさいよ」

ほむら「余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

マミ「……そう。逃げるのね」

ほむら「今のあなたとは何を話しても無意味だと思っただけよ」

マミ「……ふん」

マミ(……今の私? 日を変えようとでも?)

ほむら「アリーヴェデルチ(また会いましょう)」

ジャイロ「チャオ(じゃあな)」



まどか「ほむらちゃん……」

さやか「……んっがー! 何だよあの上から目線で人を馬鹿にしたような態度!」

マミ「まぁまぁ落ち着いて」

マミ(何となく馬鹿にされた気分になるのもわかるわ)

マミ「……二人とも。明日、屋上で一緒にお昼でもいかが?」

マミ「そこで魔法少女のことについて詳しく教えてあげる。今の不思議な空間のこともね」

さやか「はーい」

まどか「……はい」

マミ「あの子の言うことなら気にしないで」

マミ「確かに危険なのは否定しないけど、魔法少女ってのは、街を守る誇らしきものなのだから」

マミ「それに、強くなればいい話よ。仲間を増やすとか……ね」





ジャイロ「めっちゃ敵意持たれてたな」

ほむら「そうね。ちょっとおちょくり過ぎたわ。犯罪者なんて頭の悪そうな暴言初めて聞いたわ」

ジャイロ「普段がわからないから過ぎも何もわからんが」

ほむら「フォローしておくと後輩思いのいい人なのよ。ちょっと自惚れ入ってるけどね」

ジャイロ「そうかい」

ほむら「しかし、わざわざわざと怪我したのにあんまり触れてくれなかったわ。ちょっと血を吐くだけじゃダメみたいね」

ジャイロ「まぁ、ドンマイだぜ」

ジャイロ「しかし、本当に大丈夫なのか?」

ほむら「巴マミに敵意を抱かれるのは想定済みよ」

ほむら「巴マミは仲間を欲しがっている。だからまどかと美樹さやかを魔法少女に勧誘する」

ほむら「言い方を変えればここで出会う前に学校で共闘を結べば誘わないかもしれないということ」

ほむら「だから共闘を結んでおくのもよかった。……でも、今回は仕方がない」

ジャイロ「仕方がないことなのか?」



ほむら「だって、ゴールドラッシュを目指す鉱山夫みたいな格好して歯にゴーゴーツェペリとか書いててマントをつけてる男と同行しているのよ?」

ほむら「魔法少女とは別のベクトルで怪しいわ」

ほむら「あなただって、その、スタンド使い? に出くわしたら警戒するでしょう。レース参加者で見かけがアレなら尚更よ」

ジャイロ「それは……仕方ないな」

ほむら「そうでなくとも、結果論だけどキュゥべえに危害を与えた疑惑のある人間にもなってしまったわ」

ほむら「もし巴マミと仲良くしていたら裏切られたとして余計に仲が険悪になる。彼女はキュゥべえを信頼しているから」

ほむら「何より共闘を結んでいたらあの赤目のボロ雑巾とも仲良くしなくちゃならないのよ!? 冗談じゃないわ!」

ジャイロ「……おまえも大変だな」

ほむら「まぁね。第一印象は多分今までで最悪だけど、その代わりあなたがいる」

ほむら「あなたは24歳……私達より10年分人生経験が豊富。期待しているわ」

ジャイロ「なんだそりゃ。……まあ、何とかなるならなるように努力はするけどよ。不審者と思われるようなことした俺にも責任があるしな」



ジャイロ「……で、あの二人は大丈夫なのか?」

ほむら「どの時間軸でもあの二人は、危険が多い、どんな願いでもたった一つだけ、……ということでなかなか契約の決心はできないはずよ」

ほむら「不本意だけどしばらく巴マミに二人を任せるわ。もちろんそれなりに監視はするけど」

ほむら「彼女は実力者。少なくとも危険な目には遭わせない。それは私が保証する」

ほむら「ただし、そんな悠長なことを言ってられるのはお菓子の魔女までだけれどね」

ジャイロ「強いらしいな」

ほむら「強いだけならいいんだけどね」


ほむら「……ところでジャイロ。あなた、巴マミを見てどう思った?」

ジャイロ「あ? いや、別に何とも……」

ほむら「鉄球よりも体積があろう二つのフワフワしたものよ。私にはないやつ」

ジャイロ「あ、ああ……」

ほむら「今のは自虐ネタというものよ」


ほむら「……で、どうだった? あれで中学生よ」

ジャイロ「すごいな」

ほむら「すごいでしょ? 羨ましいわ」

ほむら「で……『そーゆーの』が『湧か』ないって言ってたけど、あれを見ても何も感じない?」

ジャイロ「ああ、全く。ちなみにそーゆー病気じゃないし非性愛者でもない」

ほむら「なるほど……。これであなたが死人であることを101%信じられたわ」

ジャイロ「…………」





不思議な半球の穴だらけの廃墟ビルがある。コンクリートの壁柱床そこら中にドーム状の穴がぽっかりと、多量に開いている。

ミステリーサークルの類と噂され、専門家によると宇宙エネルギーが流れ込んでくるらしい。パワースポットである。

――見滝原の七不思議。その①





――翌日


廊下


まどか「ね、ねぇ。ほ、ほむらちゃん……」モジモジ

ほむら「あら、まどか。何かしら」

まどか「さやかちゃんやマミさんはほむらちゃんのこと……」

まどか「その、嫌い……みたいで……」

まどか「あ、いや! わたしは嫌じゃないんだけど……何て言ったらいいか……」

ほむら「……そうね。仕方ないわ」


ほむら「だったらこうして私と無理に会わない方がいいわ」

まどか「だ、だからなかなか言うタイミングがなかったの。えっと、その……」

ほむら「大丈夫。ちゃんと距離はおくから心配しないで」

まどか「そ、そうじゃないの! 何て言えばいいか……」

ほむら「……どうしたの? 魔法少女のこと?」

ほむら「だったら昨日も言った通り、危険だから――」

まどか「これ、受け取って!」

スッ




ほむら「? これは……?」

まどか「すぐしまって!」

ほむら「え、えぇ……」

まどか「ほっ……」

ほむら「?」


さやか「まどかッ!」

まどか「ひゃうッ!」ビクゥッ

ほむら「美樹さやか……」


さやか「大丈夫!? 何かされてない!?」バッ

まどか「え、えと……」

さやか「今……あんた何を渡した?」

まどか「ッ!」

まどか「……」チラッ

ほむら「…………」

まどか「えっと……き、気のせいだよ……」



さやか「転校生。まどかから何を受け取った……?」

ほむら「何って言われても……」

さやか「見たんだからな。ポケットに何か入れてたのを……」

さやか「出してみろ!」

ほむら「ポケット……そんな必要はないんじゃないの?」

さやか「……言えないようなものを受け取ったのか?」

ほむら「……わかったわよ。見せればいいのでしょう?」ゴソ

まどか「あ……」

まどか(ダメ……)

ほむら「……」

ほむら「勘違いしないで、美樹さやか」

スッ


ほむら「千円札」

まどか(え?)

さやか「……お金?」

ほむら「まどかから借りたのよ」

さやか「は!?」

ほむら「私、一人暮らしでしょ? 下校途中で買い物に寄って食材を買う必要があるのよ。それで、持ち合わせが足りなくて」

ほむら「他に頼れる人いないから」

さやか「…………本当なの?」

まどか「……う、うん」

さやか「本当なの!? あたしとマミさんがついてる! 正直に言っていいんだよ!?」



さやか「まどかオドオドしてたし、あいつは急いでポケットに入れてた! カツアゲじゃあないでしょうね!?」

ほむら「あなたがそうやって露骨だからまどかが怯えちゃうんでしょう。そう誤解されないかって」ファサ

さやか「うっさい!」

ほむら「…………あなたは冷静さが足りないわ」

まどか「と、とにかく……そういうことだから。ね? さやかちゃん。クールダウンだよ」

さやか「……わかったよ」

さやか「ほら、行くよ! まどか!」

グイッ

まどか「あ、そのっ、ほ、ほむっ……」

ほむら「…………」




さやか「……あのね、まどか」

まどか「……」

さやか「転校生は……マミさんの友達であるキュゥべえを襲ったやつだよ」

さやか「それに、不審者と一緒にいたし、廃墟をそこら中穴だらけにした……何とか罪だ」

さやか「さらにまどかを砲丸みたいなので襲おうとしていた!」

まどか「お、襲うだなんて誤解だよっ」

さやか「それにキュゥべえも言ってたでしょ?! 契約した覚えのないイレギュラーだって!」

さやか「何をするのかわからないから近寄らない方がいいって散々言われたじゃん……」

さやか「マミさんも言ってたじ。グリーフシード強盗だとか、魔法少女の素質のある人間を潰しちゃう魔法少女もいるって」



まどか「でも……ほむらちゃんがそうだとは限らないもん」

さやか「あんたねぇ……。マミさんに助けてもらっといて何を言うか」

さやか「あたしはまどかが心配なんだよ……。あんたは優しすぎる子だからね」

さやか「まどか。転校生と話しちゃダメだかんね!」

まどか「う、うん……」

さやか「わかればよろしー。それじゃ、今日もマミさんとこ行こうよ!」

まどか「うん……」

まどか「……ごめん。さやかちゃん。あたし、お手洗い行ってくるね」

さやか「行っトイレー」

まどか「…………」



――女子トイレ


まどか「…………」

まどか「はぁ……」

まどか「ほむらちゃん……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ほむら「ハッピーうれピぃ、よ、よろピクねぇんっ」ピース

ほむら「誰にも言わないでね……////」プルプル


ほむら「……ふふ」

ほむら「やったっ♪」グッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



まどか(あの恥じらい……あの笑顔)

まどか(わたしには、どう捉えても悪い人には見えない)

まどか(確かに最初はちょっと、怖そうな人かなぁ? なんて思ったけど)

まどか(キュゥべえに本当に酷いことをしたのか、結局確定的じゃない)

まどか(キュゥべえの話をほとんど聞かないでマミさんとさやかちゃんが結論づけた感も否めないし……)

まどか(それに悪いことするような人が、よろピくねーなんて言うだろうか)

まどか(あの時だって、魔女と戦って、怪我をしてたにも関わらずわたし達を心配してくれた)

まどか(穴に躓かないよう気をつけてって気遣ってもくれた)

まどか「……今だって、わたしのことを気遣って嘘をついてくれた」



まどか「ほむらちゃんは、何て言うか……誤解されやすいタイプなんだと思う」

まどか「と、言うよりマミさんはそれ以上に勘違いしやすいタイプな気もするし……」

まどか「さやかちゃんはたまに周りが見えなくなるとこがあるからなぁ……」

まどか(……マミさんもキュゥべえも、ほむらちゃんのことをイレギュラーだと言った。何をするかわからないから危険だと言った)

まどか(一理ある。あの「クールさ」と「よろピくねー」にはギャップがありすぎる。二重人格を疑うレベルだよ)

まどか(だけど、直感だけど、わたしはほむらちゃんをきっと理解できると思う。そんな気がする)

まどか「思う。きっと。……か」

まどか(……どうしてわたしはそういう言葉を使って保険をかけてしまうんだろう。無意識の内にそう言ってしまった)

まどか(何で断定して言えないんだろう)

まどか「ほむらちゃん、いい子のはずだよ。そう、意識しないでも言えるようになりたいなぁ」

まどか「…………」

まどか(ジャイロさんって人は……よくわからないし、はっきり言ってわたしも不審者だと思ったけど……)

まどか(ほむらちゃんの知り合いなら、その人も、いい人だよね)

まどか(接していく内に、ほむらちゃんはいい人だって、確信ができる……きっと、いや、絶対!)



ほむら「…………」

ほむら(別に、美樹さやかに拒絶されることは珍しくない)

ほむら(まどかは強く言われて萎縮し、引っ張られていく。そして取り残される私)

ほむら(こんな光景……珍しいことではない。正直、慣れたわ)

ほむら(慣れたと言っても……寂しくないと言えば嘘になる)

ほむら(おのれ美樹さやか。相変わらずこういう所はやたらと過信するというか客観的でないというか……)

ほむら(どうせあれこれ言っても言い訳と思われそうだし、そんなこと思っても仕方ないことだけれども)

ほむら(まどかにどっか寄らない? って誘われたいなんて思ってないんだからねっ)


ほむら(……ま、今日はジャイロに呼び出されているんだけどね)

ほむら(いいのよ別に。仕方ないもの。鉄球の回転が優先だもん)


ほむら(そういえば、まどかは何を渡してきたのかしら)

ほむら(……メモ用紙?)ガサッ



『ほむらちゃんへ 

 突然ごめんね。さやかちゃんやマミさんはほむらちゃんに近づくなって言うけど…

 
  やっぱり私、どうしてもほむらちゃんが悪い子とは思えないの

 何かワケがあるなら、それと魔法少女のこととか、こっそり聞かせてほしいな

 裏にわたしのケータイのアドレス書いたから、空メールをくれるとうれしいなって

 
  PS.もしイヤだったらわたしの下駄箱の中に返してね。よろピくねーん!      まどか』



ほむら「まどか……」

ほむら「……ふふ、もう、まどかったら。忘れてって言ったのに」

ほむら(まどか……)

ほむら(このアドレス、やっぱりいつのも時間軸と同じね)

ほむら(もしイヤだったら? イヤなものですか! あなたは私の大切な……)

ほむら(……本当に、どの時間軸でも、まどかはとっても優しくて……)

ほむら(まどかのそういうところも大好きよ)

ほむら(ふふ……早速今夜メールしよう……楽しみだなぁ……)ニヘラ



仁美「あら、暁美さん」

ほむら「……ハッ!? あ、あら、し、志筑仁美さん……何かしら?」

仁美「いえ……用もなにも……」

仁美「何をニヤニヤしてたんですか?」

ほむら「へっ……?」

仁美「ふふっ、暁美さんもこういう顔するんですね。ラブレターですか?」

ほむら「うぅ……違うわよ……」

仁美「そうですか。……ところで、美樹さんと何かあったんですか?」

ほむら「別に何も?」

仁美「そうですか。それでは、また明日」ペコリ

ほむら「えぇ。さようなら」




ほむら「あぁ、ビックリした……」

ほむら「……さて、と。ジャイロのとこに行きましょう」



一方その頃



マミ「3つ? 穢れたの3つ欲しいの? 3つ……このイヤしんぼっ!」

マミ「いい? 投げるわよ」

QB「いいよ。マミ」

マミ「ティロッ☆」

ドヒュゥ――――z___ッ!

QB「キュップイ。キュップイ。キューップイ」パクッパクッパクッ

QB「キュプー」

マミ「良ぉお~~~~~~~しッ! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」ナデナデ

マミ「ナイスキャッチよキュゥべえ~~~」

QB「普通に渡してくれればいいのに……」

マミ「いいじゃない別に~。鹿目さん達が来るまでの間、お茶の用意ができたら暇なのよ~」

QB「わけがわからないよ」



――廃墟


ほむら「お待たせジャイロ」

ジャイロ「ん? おぉ、早かったな」

ジャイロ「……何かあったか?」

ほむら「ん?」

ジャイロ「さやかやマミにあれこれ言われてムスッとしてると思ったが」

ほむら「そうね。あの二人、私はキュゥべえに何もしてないのに勝手に結論づけちゃって……ムカッ腹が立たないこともないわ」

ジャイロ「機嫌がよさそうだな」

ほむら「あら、そう見える?」

ジャイロ「まどかのことか?」

ほむら「ふふ、正解。この時間軸のまどかとメル友になれるのよ」

ジャイロ「ああそう……めるともって何だ? あ、やっぱいい。説明しなくていい」



ほむら「……で? これからどこに行くの? 学校帰りの中学生を呼び出すだなんて、通報されるわよ」

ジャイロ「あのなぁ……これはおまえのためでもあるんだ」

ほむら「私の?」

ジャイロ「これからおまえ用の鉄球を用意する」

ほむら「本当? 私用の鉄球くれるの?」

ジャイロ「正確には材料を集める。色々この辺りを歩き回って、丁度いい廃材置き場を見つけた」

ほむら「廃材置き場?」

ジャイロ「ああ」

ほむら「私に廃材の窃盗の片棒を担げと」

ジャイロ「おまえがそれを言うのか?」

ほむら「冗談よ」

ジャイロ「でも俺は死人だから逆に罪はねぇーんじゃねぇの?」

ほむら「……廃材置き場なんてこの辺りにあったかしら」

ジャイロ「スルーかよ。ああ、ここからだと結構歩くぜ」

ほむら「それにしたって、出かけるならそうと言ってくれればいいのに。着替えて来るのに」

ジャイロ「早い方がいいだろ? 暗くなると補導されるだろ。おまえ」

ほむら「私にそれを言うの?」

ジャイロ「冗談だよ」



――
――――


ほむら「……ねえ、兄さん。何か食べる?」

ジャイロ「兄さんンン?」

ほむら「兄さん。兄上の方がいいかしら?」

ジャイロ「何だよその呼び方は」

ほむら「私は女子中学生よ。制服のままだし。そういう設定でないとまあ間違いなく通報されるわ。ええ、通報されるわね」

ジャイロ「世知辛ェ世の中だな」

ほむら「これが未来よ。で、どうなの? 未来の食べ物を食べない?」

ほむら「これはあなたはこの世界で何食べているのかという好奇心でもあるのよ」


ジャイロ「あー……悪いが、何も食う気がないんだ」

ほむら「そう。口に合わない?」

ジャイロ「違うんだよ。ほら、この前俺が『そーゆー欲望』が湧かないって話しただろ? 三大欲求の一つ。下がスタンドしない方」

ほむら「…………」

ジャイロ「今の言い方は悪ふざけが過ぎたわな。続けるぞ? 実は、その三大欲求のどれも湧かないってわかったんだ」

ほむら「……何ですって?」

ジャイロ「眠くならないし、腹も減らないし、不能なわけよ」

ジャイロ「食指が動かないんだ。『二つ』の意味で」

ほむら「……あなたって遠慮とかしないタイプ?」

ジャイロ「死人だから許せ。どういう理屈だってのは聞くな」



ジャイロ「とにかく三大欲求が湧かないんだ。いや、別に食おうと思えば食えるぞ。でも食おうと思わなきゃ食わないんだ」

ほむら「……難儀な体ね」

ジャイロ「死んでるからな。でも味覚はある。ワイン程度は飲むぜ」

ほむら「そう」

ジャイロ「東洋で言う所の仙人ってやつなんじゃないか? 俺は」

ほむら「あなたみたいな仙人がいてたまるもんですか」

ジャイロ「ガハハニョホ。おい、ついたぜ」



――廃材置き場


ほむら「ある意味では長いこと見滝原に住んでいたけど、こんなとこがあったなんて知らなかったわ」

ジャイロ「もしかしたらその見滝原を出てるかもしれないがな」

ジャイロ「シビル・ウォーを思い出していい気はしないが、これだけあれば十分すぎるだろう」

ほむら「しびる・うぉー? 何それ」

ジャイロ「前に話したスタンドだ。まぁ過ぎたことだ」

ほむら「……しかしほんと、ずいぶんと遠くに来たものね」

ジャイロ「他にも廃材置き場、あったのかもしれねーがな」

ジャイロ「ところで今気付いたんだが、女子中学生が廃材置き場にきて廃材を頂戴するのは世間体的にマズイんじゃないか?」

ジャイロ「まあもう手遅れだろうけど。制服だし」

ほむら「あなたって人は……」


ほむら「でもまぁ大丈夫よ。廃材置き場に行くって聞いてから、せめて顔はバレないよう気を遣ってたもの」

ほむら「ストーキングには慣れているから、死角だとか気配だとか、よ~くわかる」

ジャイロ「大変だな」

ほむら「色々あってね。なんだかんだでバレたことは一度もないわ」

ジャイロ「ストーキングする方かよ。され慣れてるのかと思ったらおまえがするのかよ。テメーが通報されちまえよ」

ほむら「私だって本当はそんなことしたくないものよ。心が痛むったらありゃしないんだから」

ほむら「変身……っと」パァッ

ほむら「さ、鉄を集めるわよ」



ジャイロ「本当はわざわざそんなんしなくとも、別に拳銃を削って鉄球にすることもできるんだけどな~」

ほむら「勿体ないわ」

ジャイロ「そう言うと思ったぜ」

ほむら「鉄球の材料に……廃材なんかでほんとにいいの?」

ジャイロ「武器は鉄球じゃあなくて、回転そのものだ」

ジャイロ「ただその回転に一番適した造形というものが真球で、ぶん投げるなら鉄がなおさらいいんだがな。素材に拘る必要はない」

ほむら「そういうものなの……? まあいいわ。たくさん作ってたくさんストックするわよ。頑張ってね」

ジャイロ「おまえが作るんだよ。作り方はレクチャーしてやる。その後は無くなり次第勝手に作れ」

ほむら「はいはい。いくつ作ろうかしら……ほむ、二十個は欲しいわね」

ジャイロ「多すぎだ。それに持ちきれねぇだろ」



ほむら「大丈夫よ。盾の中に入れるから」

ほむら「ほら、そこの鉄骨だってこの通り」ズリズリ

ジャイロ「…………」

ほむら「私の力は時を止めるだけじゃあないのよ。驚いた?」

ジャイロ「……いや、それよりもあのサイズをさも当然のように片手で持ち上げるおまえの姿に驚いてる」

ほむら「魔法パワーよ」

ほむら「鉄球を投げる際にこの力をプラスするつもりでいるわ」

ジャイロ「ふーん……。まぁ俺にはそういう魔法がないから何とも言えないが」

ほむら「なんやかんやで鉄球は持てるだけ持つに越したことない。さ、材料を集めるわよ」

ジャイロ「おうよ」



「……?」

「何してんだあいつら……こんなとこで……怪しい奴らだな」



「ッ! 変身した……魔法少女かッ」

「……何をしてるんだ? まあいい。後で尾行してみるか」

「見滝原の中学だかどっかの制服だよなアレ……」

「見滝原……あそこもいつかはあたしのテリトリー。下見がてら、行ってみよーかね」

「たい焼きうめぇ」ムシャムシャ




見滝原のとある中学校の制服を着た少女が廃材を集めに廃材置き場に出没する噂。

回収した廃材はその場で何らかの方法で消滅させてしまうらしい。

一説によるとその少女は金属を体内に取り込んで食べるエイリアンであるとのこと。

――見滝原の七不思議。その②

今日は多分、ここまで。多分というのはその気になったら続けるかもしれないからです。


「キャラが変」等のご指摘をいただきましたが、どっちかと言えば原作よりも二次創作とかジョジョの空気を基準にしてる部分があるからですかねぇ


ついさっき前作がまとめに載っていたことに気が付いた+夜のテンションでアレ+お菓子の魔女までは終わらせたくなったので二三時四十分くらいに再開します。




――数日後


さやか「おっ、見てよまどか」

まどか「なぁに?」

さやか「双眼鏡だよ~~~っ。双眼鏡が道端に落ちてるよ~~~っ」

まどか「さやかちゃんは落ちてる物にすぐ興味示すね。ばっちぃから拾っちゃダメだよ」

『ワタシはバッチくなんかありませんよ!』

まどか「!?」

さやか「残念! さやかちゃんの裏声でした!」

まどか「うん。知ってた」

さやか「なんだ。つまんない」


ティロッ♪

さやか「およっ」

まどか「あ、ごめんね。メール来た」

さやか「そういやまどか。最近ケータイをイジること多くない?」

まどか「そ、そうかな?」

さやか「どうした~? 出会い系にでも登録したのか~?」

さやか「リアルで会おうだとか写メ送ってとか言ってくるやつは信用するなよ!」

まどか「そういうのとは違うよ……」

さやか「違う? 保険係のお仕事? 別のクラスの友達? まぁなんでもいいけど」

まどか(ほむらちゃんとメル友になっただなんて言えない……)



まどか(あ、ほむらちゃんからだ。えーっと……タイトルは「無題」……)



『電話では話しにくい。

 巴マミや美樹さやかが近くにいるかもしれないからね。今一人?

 状況は良くわからないけど、病院でグリーフシードを見つけることでしょう。

 今向かっている。でもジャイロは少し遅れてくるかもしれない。

 結界に入ったら巴マミを足止めしてほしい。ジャイロがそこへ行くまででいい。

 おそらく巴マミは「お菓子の魔女」に敵わない。だから助けたい。     暁美ほむら』



まどか「………………え?」



まどか(グリーフシード……? お菓子の魔女……? マミさんが……敵わない……?!)



さやか「……ハッ! ま、まどか! これ!」

まどか「うん? ……あ!?」

さやか「グリーフシード……!」

まどか(お菓子の……魔女……!)

QB「すぐに孵化するね。この様子だと」

まどか「キュゥべえッ!」

さやか「まずいよ……まどか! マミさんを連れてきて!」

まどか「さ、さやかちゃんは!?」

さやか「あたしは見張ってる!」

まどか「そんなっ。危ないよ!」

QB「魔法少女でないのに……結界の中に巻き込まれたら確かに危険だ」


さやか「なぁに! いざって時は契約しちゃえばいいのさ。キュゥべえ。一緒にいて」

さやか「願い事の候補がないわけじゃないからね。そん時はそれを叶える」

まどか「なっ……!」

QB「それは本当かい?」

まどか「で、でも……! ダメだよさやかちゃん!」

さやか「な~に、いざって時はだよォ! マミさんが来れば問題ない」

まどか「うぅ……わ、わかった! でも! 無茶しちゃだめだからね! すぐマミさんつれてくるからね!」

ダッ


さやか「まどか……頼んだよ……!」

さやか「……恭介」



――結界



まどか「お……お菓子……!」

まどか(もうちょっとメルヘンな感じを想像してたけど……)

マミ「……差詰めお菓子の魔女と言ったところかしら?」

マミ「思春期の女の子にはナーバスになりそうな結界ね」

マミ「それで? 美樹さんはグリーフシードを見ていると言ったのよね」

まどか「はい」

マミ「全く……無茶をするわ。その勇気は称賛に値するけども」

マミ「急がなくっちゃねっ」

まどか「……マミさん」

マミ「なぁに?」


まどか「今更なこと言うんですけど……一人で大丈夫なんですか?」

マミ「ん? どういう意味?」

まどか「あの……一人で、魔女と戦うのは……」

マミ「……そうね。勿論怖かったわ。でも、大丈夫。要は慣れよ」

マミ「それに今は、一人じゃないもの」

まどか「え?」

マミ「鹿目さんや美樹さんがいるじゃない」

マミ「私、嬉しいの。魔法少女という共通の認識のある友達ができて……」

まどか「…………」

まどか(わたしが言ったのは……そういうことじゃないのに……)

まどか(ほむらちゃんがメールで、お菓子の魔女はマミさんと相性が悪いって言っていたから……)



まどか「マ、マミさん。わたし、そういうことで言ったんじゃないんです」

マミ「あら? 早とちりしちゃったかしら」

まどか「その……ほむらちゃんと一緒に戦って欲しいなって」

マミ「……何を言ってるの?」

まどか(そりゃ、そう言われるよね……。早く来て。ほむらちゃん。ジャイロさん)

まどか「……実はわたし」

まどか「ほむらちゃんとメル友なんです!」

マミ「!」

まどか「ほむらちゃんは、わたし達を心配してくれています。勿論マミさんも!」

まどか「わたしは、マミさんと同じように、ほむらちゃんを信頼しています! だから……!」

マミ「……鹿目さん。あなた、何を言っているのかわかっているの?」

まどか「わかっています! あの穴ぼこだらけのとこの時だって、ほむらちゃんはわたしを案じて……」


「まどか」


マミ「!?」

まどか「?!」

まどか「ほ、ほむらちゃん!」

ほむら「仲裁させたいという気持ちは嬉しいけど、彼女を戸惑わせるようなことを言っちゃだめよ」

ほむら「……巴マミ」

マミ「……何か用? 私達、今急いでいるの」

ほむら「この魔女は強いわ。だから共闘をしましょう」

マミ「…………」

ほむら「別にまどかがそう言ったからじゃない。単純にここの魔女はあなたと相性が悪い」

ほむら「言いにくいけど予言させてもらうわ。あなた独りではお菓子の魔女に殺される」

マミ「…………」

まどか「マ、マミさん……協力してくださ――」



シュルッ

ほむら「!?」

ガシィッ

まどか「え!?」

ほむら「なッ――!」

マミ「リボンで縛り付けた」

ほむら「な、何を……! 離しなさい!」

マミ「大人しくしていれば、あとで解放するわ」

まどか「ほ、ほむらちゃん!」

まどか「マミさん! ほむらちゃんを離してください!」

マミ「……ずいぶんあなた。暁美さんに肩入れするわね」

まどか「うっ……ほ、ほむらちゃんは悪い子じゃないです!」



マミ「……何なのかしら? もしかして暁美さんに何か言われたの?」

マミ「例えば……私達の動向を監視して報告して自分のことをよく言わないと酷い目に遭うと脅されたとか」

まどか「いっ、いくらマミさんでもそんな言い方……!」

マミ「例え話よ。た・と・え・よ」

まどか「だって……わたしと打ち解けようとハッピ――」

ほむら「まどかッ!」

まどか「あ、う、うぅ、そうだった。言っちゃダメだった。と、とにかくっ、ほむらちゃんはほんとは優しいんです」

マミ「……いい? 鹿目さん。魔法少女において、共闘において最も大事なことは『信頼』なの」

マミ「援護だと協調性だとか、互いの欠点をどうフォローできるか、とかじゃあない……」

マミ「あなたが彼女を信頼できても、私はできない! 戦いにおいて『不信』は少しでもあってはならないのよ! その差は命を食いつぶす!」

マミ「鹿目さんは、私とあの人、どっちを信じるの? 心理テスト風に言えば『どっちか一人しか助けられない状況でどっちを助ける?』ってヤツよ」

まどか「う、うぅ……」



マミ「私の友達であるキュゥべえを狙って、不審者と同行する人からいきなり、あなたは魔女に殺されるですって?」

マミ「そんなこと、いきなり言われてハイ、そうですか。と信じられると思って?」

まどか「で、でもわたしは……」

ほむら「やれやれ……ずいぶんとまあいきなりの不意打ちね」

ほむら「……巴マミ。まどかを攻めてはいけない。この子の優しさを知っているでしょう」

マミ「……えぇ。わかっているわ。だからあなたの言うことに従わざるをえなかったのよ」

まどか「ち、違っ……これはわたしが勝手に言ったことで……」

ほむら「一応もう一度警告するわ。ここの魔女は強力。あなたの実力は認めるけど……」

ほむら「あなたじゃここの魔女には勝てない」

マミ「それを私に信じさせてみなさいよ。あなたが着いてきても問題ないと信じさせられるものなら」



ほむら「…………」

ほむら(「思い込む」ということはなによりも「恐ろしい」ことね)

ほむら(しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い)

ほむら(巴マミの能力、才能は実際に優れてはいる……ただ過信している)

ほむら(勝てるという自信、負けるはずがないという思い込み、自分をよく見せたいという欲が、彼女を言葉通り食い潰してしまう)


マミ「あなたの実力がどうかは知らないけど、あなたが魔女と一緒に私を葬るなんてことを決してしないという根拠がない」

マミ「信頼できない相手と共に戦うだなんてできない」

ほむら「……やれやれだわ」


「じゃあ俺が行こう」


マミ「!?」

まどか「!?」

ほむら「……ジャイロ」

ジャイロ「待たせたな」

ほむら「ずいぶんとまぁ、遅かったじゃない」

ジャイロ「おまえは何で縛られているんだ?」

ほむら「色々あったのよ。……肩に葉っぱついてるわよ」

ジャイロ「抜け道をしたからな。遅れて悪かったよ」

まどか「あ……えっと……ジャイロさん」

ジャイロ「よぉ、まどかじゃあないか。しばらくぶりだな」

まどか(ほむらちゃんがメールでよく話してる人……)

まどか(この人はほむらちゃんに「技術」を学んでいるらしい。あの鉄球みたいなのでグルグルするやつ)

まどか(ほむらちゃんはこの人を、変わり者だけどいい人だと言っていた)

まどか(ほむらちゃんがそう言うなら、いい人なんだ)


マミ「……『俺が行こう』ってどういう意味?」

ジャイロ「言葉通りだ」

ジャイロ「おまえさんがほむらを信用できないっていう気持ち……わからないでもない」

ジャイロ「だが、信用できないという理由だけで、試験終了チャイム直前まで問題を解いている受験生のような必死こいた気分で警告するほむらの言葉を軽視するのもどうかと思うぜ」

マミ「それが嘘である蓋然性。私をついでに葬ろうとしている疑惑の方が強いわ」

まどか「も、もしそうだったらわざわざ警告しに現れないと思いますっ!」

マミ「……そうね。それも一理ある。でも、敢えてということもある」

ジャイロ「だから、俺と共闘しろと言っているんだぜ」

マミ「何でよ」


ジャイロ「おまえさんがほむらを信用ならねーってんなら……」

ジャイロ「身動きの取れない所を使い魔に襲われるなんてことがないというなら、ほむらをそのままにしてくれてかまわない」

ほむら「……ジャイロ。私を助けてくれるんじゃあないの?」

ジャイロ「んなこと言ったってよォ、こいつがヤダって言うんだぜ? 仕方ねー」

マミ「……そのリボンには使い魔を寄りつかせない効果がある」

ジャイロ「よし。決まりだな」

マミ「あなたと共闘するつもりはないわ」

ジャイロ「そうだな……なんならまどか達の護衛を引き受けよう」

ジャイロ「いざって時は……魔法少女のおまえさんなら一般人の俺なんてどうにでもできる。違うか?」

マミ「……」

まどか「わ、わたし、それがいいと思いますっ。ねっ! ほむらちゃん」

ほむら「え? え、えぇ……まぁ、いいんじゃないかしら」


マミ「…………」

マミ「あなた……『覚悟して来てる人』……ですよね」

マミ「魔女を『始末』しようとするってことは……」

マミ「逆に『始末』されるかもしれないという危険を、『覚悟して来ている人』ってわけですよね……」

ジャイロ「おう」

マミ「わかったわ。ツェペリさん。鹿目さんに免じて、あなたに鹿目さん達の護衛を任せるわ」

ジャイロ「任せな」

マミ「魔女がもう孵化してしまう。時間がない。だからこれは妥協案よ」

ジャイロ(全く……慢心して殺される奴の言う台詞か、これは……)

ジャイロ(後輩の前では大人ぶっているが、結局はまだガキだ。プライドが無駄に高い)



マミ「行くわよ。鹿目さん」

まどか「あ、はい……」

まどか「……ほむらちゃん。ごめんね。わたし、余計なことを……」

ほむら「何を謝ることがあるのよ。あなたはちゃんと巴マミを足止めしてジャイロと合流させてくれたわ。ありがとね」

まどか「で、でも……わたしが変なこと言わなかったら縛られたりなんか……」

ほむら「大丈夫よまどか。不安かもしれないけど、大丈夫……」

ほむら「あなたが私のことをそう思ってくれて、嬉しかったわ」

ほむら「あなたはとても優しい……。今回はちょっとその優しさが空回ししちゃったのよ。私の言い方も悪かったのよ」


ほむら「いつかメールで書いたと思うけど、私はジャイロを信頼しているわ。回転の力を信じてる」

ほむら「だから私はこうして冷静でいられるのよ。さぁ、行って。まどか。美樹さやかが危ないわ」

まどか「う、うん……わかった。ほむらちゃん……ほんとにごめんね」

ほむら「いいのよ。でも、その心遣いだけでも嬉しいわ……」


マミ「鹿目さんっ!」

まどか「はいぃっ!」

ほむら「さぁ、早く行ってあげて。……気をつけてね。まどか」

まどか「うん……!」




――結界最奥


まどか「さやかちゃん!」

さやか「あ!」


さやか「もー! やっと来たぁ! もう、心細かったんですからね!」

マミ「ごめんなさい。ちょっと一悶着あってね」

QB「……彼は」

さやか「あ……! あの時の……ふ、不審者……!」タジ…

ジャイロ「よぉ」

さやか「マミさん! なんで転校生の仲間が!?」

マミ「不本意だけど、この人にあなた達の護衛を任せるわ」

QB「何だって?」



まどか「さやかちゃん。大丈夫だよ。この人、悪い人じゃないから……」

さやか「まどか。あんたまさか……転校生に何か……」

ジャイロ「この魔女は強いらしいからな。念には念を、だ」

さやか「マミさんに敵うやつなんかいないさッ!」

ジャイロ「だといいんだがな」

さやか「マミさんを妨害して消そうだなんて考えてないだろうね……?」

ジャイロ「同じようなことさっきマミが言ってたな。断言する。俺は、ンなことはしない。神に誓うぜ」

まどか「使い魔から守ってくれるからマミさんは魔女に専念してくれるよっ」

さやか「魔女に専念……ね。いつあたしらに手を出すかわからないよ。むしろ集中できないっしょ」

ジャイロ「ほむらがある意味で人質になっているんだがな」

さやか「え? どういう意味?」

マミ「……話は後よ。グリーフシードが孵化するわ」




ゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴ

魔女「…………」


さやか「あ、ありゃ……何だかかわいいのが出てきましたね」

マミ「でも魔女よ」

ジャイロ(この魔女が……マミの頭を食っちまうのか)

まどか(見た目は弱そうだけど……ほむらちゃんが言うには、マミさんと相性が悪い強力な……)

マミ「さ、戦闘開始よ」

タッ



ベキッ

マミ「ツェペリさん。あなたの出番はないわ。一瞬で終わらせる」

ジャイロ「そうかい」

マミ「ボラーレ・ヴィーア(飛んでっちゃいなさい)!」

ゲシィッ

マミ(まずは吹き飛ばし、銃で迎撃するのが定石)チャキィ

ツェペリ(あれは……マスケット銃)

マミ「ティロ・ボレー!」

ドバッ ドバッ ドバッ ドバッ

魔女「!」


まどか「あ、圧倒してる……!」

さやか「すげー! 流石マミさん!」

ジャイロ「……」

さやか「どうだ! マミさんは強いんだ!」 

ジャイロ「ああ。確かにそうかもしれねぇな」

まどか「うん。とっても強いけど……」

さやか「けど、何?」

まどか「う、ううん……何でも……」

まどか(ほむらちゃんが言っていた……一人でどうにかなるやつじゃないという言葉……)

まどか(引っかかる……。何か、秘密があるはずだよ)

さやか「無敵のティロフィナーレで決めちゃってくださいよォ――――ッ!」




ジャイロ「…………」

ジャイロ(無駄な動きが多いな)

ジャイロ(後輩にカッコイイところを見せようとわざとオーバーなアクションをしている)

ジャイロ(あの小さい体に油断しているのか? それとも経験による慢心からか? いつから魔法少女やってんのかは知らねーがな)

ジャイロ(何にしても、謙虚に振る舞う気はさらさらないって感じだな。隙が多いし大きい)

ジャイロ(そういう奴が早死にするんだよな……。一概には言えないが)


ジャイロ(……さて、あの魔女だが)

ジャイロ(ほむらからの情報。あのぬいぐるみみてーな体は見せかけだ)

ジャイロ(何でもエホーマキという食べ物に似ているらしいが……見かけはまぁいいとして)

ジャイロ(警戒すべきはその『速さ』だ。熟練の魔法少女が、油断していたとは言え全く反応できずに頭を食いちぎられてしまうらしい)

ジャイロ(その速さに俺は対応出来るか? 不安ではあるが……)

ジャイロ(特に問題はない)

ジャイロ(その本性を現す「合図」がある。いや、現させる合図か。ほむらからの情報だ……「それ」がある)

ジャイロ(どっち道俺がやることは一つ)

ジャイロ(魔女から目を離さないことだ)



マミ(私は……ある魔法少女と仲違いしてから、ずっと一人だった)

マミ(でも……私には、魔法少女のことを知る友達が……本当の私を知ってくれる友達がいる!)

マミ(鹿目さんと美樹さんがいる!)

マミ(体が軽い……こんな気持ち初めて!)

マミ(この私の戦いっぷりを見て、憧れて欲しい! 魔法少女という誇り高き使命に!)

マミ(魔法少女となって共に戦うもよし、私の理解者でいてくれるのもよし)

マミ(私……もう一人じゃない! もう何も怖くない!)

マミ(勝った! これでとどめッ!)



マミ「ティロ・フィナーレッ!」

ズギャァ――z__ンッ!



ジャイロ「マミの銃が巨大化した……」

QB「マミの最も得意とする、所謂必殺技だね」

さやか「これを喰らって倒れなかった魔女、使い魔は一体としていない!」

まどか「あっけなさすぎる……」

まどか(簡単に越したことはないけど……やはりほむらちゃんの言葉が……)

さやか「決まった!」

ジャイロ(よし! 『今』だッ!)

ザッ

QB「? 急に立ち上がって何を……」



ジャイロ(「ティロ・フィナーレという技を使った時が"合図"だ」ッ!)

ジャイロ(ギャラリーのいる自信たっぷりのマミは、トドメの大技を得意げに使う。ほむらからの情報!)

シルシルシルシルシルシルシルシル

まどか「え?」

まどか「……ハッ!」

さやか「な、あんた何を――」

まどか「さやかちゃんっ! 止めちゃダメッ」ガシッ

さやか「え?」

ジャイロ「オラァッ!」

ブォンッ

さやか「あっ!」




さやか「ま、マミさんに鉄球みたいなのを投げたッ!?」

さやか「や、やっぱりあんたは敵だ! 危ない! マミさん!」

まどか「さやかちゃん! 落ち着いて! ジャイロさんは敵じゃない!」

さやか「あんたに何がわかっ――」




マミ「……決まった」

魔女「――」プクッ

ニュルンッ

魔女「――」

グアァァァッ

マミ「えっ?」

まどか「あ……!」

さやか「な……ッ!?」


ガブンッ!



ボトンッ


さやか「う……うそ……ま、マミさ……た、た、食べら……れ……」

さやか「い、今、お、落ちた音って……ま、ま、マミさんの、くっ、くっ、首……!?」

さやか「うあ……あ……あああああああああ……ッ!」ガクガク


まどか「あ……ああ……あ!」

まどか(これだったんだ……! ほむらちゃんが言ってた……マミさんが敵わない理由……!)

まどか(わ、わたしのせいだ……わたしが、もっと、ちゃんと、止めていれば……ほむらちゃんがいてくれたら……)

まどか「ひっ……ひぃぃぃぃぃいいやああああああ……ッ!」

QB「な、何と言うことだ……マミがやられてしまうだなんて……」

QB「まどか! さやか! 契約をするんだ! 自分を守るために――」



ジャイロ「その必要はねーぜッ!」

QB「!」

ジャイロ「おいテメーら! 震えてる場合じゃあねぇっ!」

まどか「わ、わたし……わたしのせいっ……わたしが、もっと……ああ……!」

さやか「な、な、なにを言ってんだよ! あ、あんたが! あんたがマミさんを! 今のてっ、鉄球で……!」

さやか「鉄球で襲ったッ! マミさんが死んだッ!」

ジャイロ「おいおい魔女に食われたのが何で俺のせいになるんだよ。まぁ動揺してるってことで許してやるか」

ジャイロ「よく見ろ。マミは『生きてる』ぜ」


さやか「……え?」

まどか「……へ?」


ドスン! バタン!


ビターン!ビターン!

魔女「――――!」

バタンッ!  ドッタン!


QB「魔女が……悶えている?」

まどか「ど、どういうこと……?」

ジャイロ「今のボトンッて音はよォ――……」

ジャイロ「魔女の『牙が折れて地面に落ちた音』だぜ」

QB「……! あの魔女の牙が……な、何故……?」

マミ「…………」

ドサッ

まどか「あ……! マ、マミさん……! マミさんが倒れた!」

さやか「首が……『ある』ッ!」

マミ「…………」

ジャイロ「俺が触れて後々痴漢だって騒がれたくねーからよー……」

ジャイロ「魔女が悶えてる内におまえ達がマミを避難させろ」

まどか「……う、うん! さやかちゃん! 早く!」

さやか「え? え? え? え?! ま、待って!」



まどか「マミさん! しっかりしてください!」

さやか「ま、まどかは脚を持って! あたしはおっぱい揉むから!」

まどか「落ち着いてさやかちゃん!」

さやか「ハッ!?」

さやか「ま、まどかッ!」

まどか「なに!? さやかちゃん!」

さやか「おっぱいが『硬い』ッ!」ツンツン

まどか「なにをするだぁぁああ!」


シルシルシルシルシルシルシル

まどか「あれ? ……マ、マミさんの腰に」

さやか「……鉄球?」


ジャイロ「俺がマミに鉄球を投げたのは――」

まどか「ジャイロさん……」

ジャイロ「マミを助けるためだ」

さやか「マ、マミさんを……?」

さやか「今ので……助けたの? 確かに噛まれて……」

ジャイロ「鉄球の回転は人体を支配できる」




ジャイロ「鉄球の回転でマミの皮膚を『硬質化』した」


ジャイロ「テロリストの改造銃の弾丸を弾いたりできる回転の防御術の一つだぜ」

ジャイロ「試したことはないがどんな強力で鋭いギロチンも首の皮一枚『だけ』で防御できる」

さやか「皮膚を硬く……」

QB「まさか……それじゃあ、魔女はマミを噛んだ故に牙を折ったということかい?」

ジャイロ「Exactly(その通りだぜ)」

さやか「何をどうやったら、あの巨大な魔女の噛みつきを皮膚で……」

ジャイロ「説明した通りだが。ちょっとした鉄の塊よりは硬くさせられる自信があるぜ」

さやか「り、理解を超えてるよ……あたしは頭悪いからわかるように説明してよ……」




マミ「ハッ!」

まどか「マ、マミさん!」

マミ「ギ……」

マミ「ギニャァァァ――――――ッ!」

さやか「!?」

まどか「!?」

ジャイロ「いまごろ恐怖で麻痺していた痛みがもどったのか」

マミ「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イィィ――――ッ!」ジタバタ

マミ「首がッ! 首がもげるゥッ! 首がァッ! もげるゥッ! いやもうもげた! 見えないけど絶対もげたッ!」

マミ「あばばっばばばばばば」

ジタバタ

魔女「><」

ドタンバタン




まどか「マミさんと魔女が悶えてる……」

さやか「何この光景……夢でも見てるのかな?」

ジャイロ「ちょっと首を見せてみろ」

マミ「痛いよぉ……」メソメソ

ジャイロ「んー……よし、大丈夫。傷跡は残ってないぜ。傷がついても治せるだろ?」

QB「他に方法はなかったのかい?」

ジャイロ「この魔女がこういう攻撃をすることはほむらから聞いていたが……」

ジャイロ「実際にどれくらいの速さかわからないし頭を狙うとは限らないからな」

ジャイロ「魔女本体を狙うのもよかったが、呆然と棒立ちしてるマミを狙う方が確実だぜ」




ほむら「…………ぅゎ」


まどか「あ! ほむらちゃん!」

さやか「!」

ジャイロ「おい、今マミの惨状を見て引かなかったか?」

ほむら「気のせいよ」

マミ「……」

ほむら「大丈夫? まどか。怪我はない? 可哀想に……怖い思いをしたのね」

まどか「ほむらちゃん……リボンは……」

さやか「……リボン?」

マミ「……」

ほむら「ジャイロに助けてもらったようね。なら、私も少しは信頼してもらうわ」


ほむら「それにしてもジャイロ。あなたずいぶん無茶な策をしてくれるわね……」

ジャイロ「確かに素人目に見ても奴は今まで見た魔女と比べたら力はあるかもしれない」

ほむら「……硬質化に賭けたの?」

ジャイロ「まさか。俺としては一手、上へ行かないとな。じゃないと化け物相手に救済なんてできやしない」

ジャイロ「今のは普段とはちょっと特別な回転だ。確実な手を取ったぜ」

ほむら「特別?」

ジャイロ「あぁ、特別だ」

ほむら「そう……。それは私もできるの?」

ジャイロ「いつかはな……多分。きっと」



魔女「――」フラッ

QB「魔女が……」

ほむら「牙が折れてる……マヌケな顔がさらにバカっぽくなったわね」

ジャイロ「あとはおまえがやれ。牙の折れたこいつを倒せないようじゃあ……」

ほむら「心配ご無用」


ほむら「さて、今度こそ肉体強化+鉄球の回転を実戦してみせるわ」

ジャイロ「油断するなよ。マミみたいに」

ほむら「大丈夫。巴マミみたいにかっこつけようとは思わないから」

ジャイロ「案外素早いようだから棒立ちのままで襲われるなよ。マミみたいに」

ほむら「大丈夫よ。死亡フラグは建てないし調子こかないから。巴マミみたいに」

マミ「……クスン」

さやか「苛めんな! マミさんを苛めんな!」



ほむら(牙を失ったこいつには時を止めるまでもないわ)

ほむら(時か……)

ほむら(そういえばこの時間軸……ジャイロからビー玉を取り上げて以来、時を止めてないわね」

ほむら(こんなこともあるのねぇ)


魔女「――」フラッ

魔女「――!」

グアァァッ

まどか「来るッ!」

ほむら「…………」

シルシルシルシルシルシルシル

ほむら(回転は手首だけでさせるものじゃあない……)

ザッ



ほむら(地面を踏ん張る脚、腰、体幹、肩、腕、全身からのエネルギーが鉄球に集中する)

ほむら(そこに、魔法のエネルギーが加われば……!)

魔女「!」

ほむら「喰らえッ!」ブンッ

メメタァッ

さやか「鉄球を投げた! あの鉄球……ジャイロが投げたのと同じだ……」

魔女「ッ!」

ボゴォ!

魔女「――――!」

ギャルギャルギャルギャルギャルギャル

まどか「回転している……!」

ジャイロ「よし、回転がはいった。基礎中の基礎をマスターしたな」



ほむら「もいっぱああああつッ!」

魔女「――――――ッ!」

ボォンッ

シルシルシルシルシルシルシル

魔女「」

ドグシャァ

まどか「ま、魔女が……!」

マミ「鉄球が魔女を貫通した……!? そんなッ! ありえない! 鉄球を投げつけただけなのに……!」

ジャイロ「これが回転の力だ」


ドオォ ――z__ ン

グニャァ…




まどか「結界が解けた……」

さやか「た、助かった……」

ジャイロ「よくやったな。ほむら」

マミ「…………」

ほむら「巴マミ。グリーフシードは私が貰うわ。文句はないわね?」

さやか「…………何でだよ」

ほむら「ん?」

さやか「なんであんなに強いのにマミさんを助けてくれなかったのさ!」

さやか「あんな変な助け方されて……! あんな痛い思いをさせて……!」

ほむら「随分虫のいいこと言ってくれるわね。散々信用ならないとか言っておいて」ファサ

さやか「ぐぬぬ……」




マミ「美樹さん……」

さやか「マミさん?」

マミ「私が、暁美さんをリボンで縛って、身動きが取れないようにしたのよ……」

さやか「え……」

マミ「信用できないから……どさくさに紛れて狙われる可能性があったから……」

まどか「…………」

マミ「今回ばかりは私が一方的に突っぱねたことが起きたこと……謝るわ。暁美さん」

マミ「そして、助けてくれてありがとう。ツェペリさん」

ジャイロ「何、気にするな。礼を言うならほむらの方に言うんだな」



ほむら「巴マミ。謝ることはない。……仕方ないもの。魔法少女は危険と隣り合わせ。あなたのそういう気持ち……わかるわ」

ほむら「でも、お願いだから……無茶はしないで」

ほむら「リボンが溶けた時……間に合わなかったんじゃないかって……死んじゃったんじゃって思ったんだから……」

マミ「あ、暁美さん……?」


ほむら「……も、もう帰るわ。それじゃ」クルッ

ジャイロ「そういうことだ。じゃあな」

マミ「あ、待って……」

マミ「…………行っちゃった」

まどか「ほむらちゃん……」



マミ「……鹿目さん。美樹さん。ごめんなさい。怖い思いさせちゃって。私、自惚れていたわ」

マミ「こればっかりは、私の油断が起きたこと……」

さやか「マミさん……」

マミ「私、先輩失格ね……」

まどか「そんなことないですよ。マミさんは、ずっと一人で戦ってきて……」

さやか「マミさんは、あたしの憧れなことには変わりないですよ」

マミ「……二人とも……。……本当にありがとね」



マミ「今日はもう解散しましょう。それじゃあね」

さやか「はい! それじゃ、また明日」

まどか「さよならです。マミさん」



QB「…………」

QB(何故ほむらは、今日生まれたこの魔女のことを知っていたのだろう……)

QB(僕があの廃墟に来ることもわかっていた。まさか、予知のような能力を……)

QB(いや、それだとマミがリボンで縛ることも予想できたはず……)

QB(イレギュラー過ぎる……一体何者なんだ……?)


「あれ? あいつら……ゴミ捨て場にいたやつだ」

「何だ。あいつこの辺の魔法少女だったのか。あの怪しいヤローは結局何者だよ?」

「まあいいや。……お、マミがいる。そこのピンクと青は……仲間か? ゴミ捨て場の奴はサーッと帰っているとこから少なくとも仲間ではないかね」

「さて、と。……そうだな。久しぶりにマミの家にでも行ってみるか? 別に話すことはねーけどよぉー」

グゥー

「……何か食おう。駄賃はあるし、ちょいと贅沢してファミレスにでも行ってみるか?」

「ジョナサンだかジョセフだかそんな感じの名前のファミレスがどっかにあったよな……どの辺だったっけ?」





クン クン

「ふむ……この『におい』……。間違いない。近くではないが遠くでもない……あっちだな」

「そうだ。何か手土産でも持っていってやるか」

「……ウェッジウッド。紅茶でも持っていってやるか」

この辺で今回は寝ます。お休みなさいです。お疲れさまです。

次回、魔女とは違う戦闘が出てくるので効果音が多くてアレかもですが、次回もよろしくおねがいします



――翌日



さやか「マミさん、今日学校お休みしてたんだね……」

まどか「うん。さっき、マミさんから風邪ってメールがきたんだけど……」

さやか「ふ~ん。あたしには来なかったんだけど……。それはさておき、お見舞いに行こっか。マミさんちに」

まどか「あ、でもね?」

さやか「うん?」

まどか「マミさん、わたし達に『病院に来て欲しい』んだって。メールに書いてた」

さやか「へ? 病院? 何で? 風邪ひいてるから? 点滴でももらってるの?」

まどか「ううん。何だか『紹介したい人』がいるんだって。佐倉……あんず? ちゃんって子」

さやか「マミさんの友達?」

まどか「魔法少女なんだって」


さやか「えぇっ? 魔法少女の知り合いがいるなんて聞いてないよ? なんでまた……」

まどか「わたしも疑問に思って聞いてみたんだけど、メール、返ってこなくて……」

まどか「やっぱり昨日のことで色々あったから……かな?」

さやか「…………」

さやか「病院、か……。じゃあ病院行こうか。ついでに恭介のお見舞いもしとこうかな。昨日できなかったし」

さやか「でもマミさん。すごいね。食べられそうになったとこにわざわざ呼び出しちゃうだなんて」

まどか「杏子ちゃんって子が入院してるんじゃないかな? 待ち合わせ場所も病室に指定してるし」

さやか「あぁ、なるほど……返信がないのは律儀に電源を切っている可能性があるね。じゃあお見舞いになるのかな?」

まどか「じゃあお花でも買ってこっか」

さやか「せやな」




さやか「……ねぇ、まどか」

まどか「ん?」

さやか「転校生は?」

まどか「ほむらちゃんなら先に帰ったよ」

さやか「……そう。昨日のことなんか言ってた?」」

まどか「ううん。特に何も」

さやか「メールでも? あたしのこと何か言ってた?」

まどか「……さやかちゃん。ほむらちゃんに謝りたいんだよね?」

さやか「……あたし、ちょっと誤解してたから……結局、今日は話すことはあってもそれは言えなかったし」

まどか「それなら、また今度謝ればいいよ。ね?」

さやか「……うーん。でもなぁ……キュゥべえがあたしに助けを呼んだのは事実だし……」



さやか「とか何とか理由付けてどっちとも言えないウジウジしてるさやかちゃんなのであった」

さやか「転校生はそれに呼び出されてたりは?」

まどか「わかんないけど、ほむらちゃんは特に何も言ってないし、わたし達だけで話したいのかも」

まどか(……マミさんはほむらちゃんのアドレスを知らない。でもメールにはほむらちゃんを連れてきてとか書いてないからね)

まどか(わたし達限定で言いたいこと……か。何を……言うんだろう。それともテレパシーってやつで既に呼び出されてたりして)

まどか「……佐倉杏子ちゃん……か。どんな子だろう」

さやか「マミさんの友達と言えば、何かお淑やかでのんびりしているイメージがあるよ。あるいはその逆」




帰路ほむ


ほむら「何とかお菓子の魔女で巴マミを助けられたわね……」

ほむら「一日経って巴マミも冷静になった頃でしょう。巴マミの家にでも行ってみましょう」

ほむら「できれば共闘を結びたい。話くらい聞いてくれるでしょう」

ほむら「……しかし、彼女が無断欠席だなんて珍しいこともあるわね」

ほむら「昨日のことで色々悩んでいるのかしら。だとしても無断でっていうのも……」

ほむら「なおさら巴マミの家へ行ってみ……」

ほむら「……ん?」


杏子「……」テクテク


ほむら「あれは……佐倉杏子?」

ほむら「……何故?」

ほむら「何故ここにいる?」

ほむら「まだ見滝原に来るような時期じゃない……」

ほむら「ジャイロの件もあるし、この時間軸はよくわからないことがつくづく多いわね……全く」

ほむら「…………」

ほむら「いつの間に来てたのかしら……。そして、どこへ行くつもり?」

ほむら「彼女が見滝原で行くところを言えば……」

ほむら「ゲームセンターか巴マミの家くらい……ね」



ほむら「巴マミ……まさか佐倉杏子を密会するために学校を欠席し、佐倉杏子はその帰り……?」

ほむら「しかしそれなら仮病を使うなりして少なくとも無断欠席は避けるはず……」

ほむら「…………わからない」

ほむら「何を考えているの? 巴マミ……」

ほむら「まさか昨日の一件で自信を無くしてテリトリーを譲ろうだとか……」

ほむら「……やめましょう。無駄な推測は余計な先入観を生む」

ほむら「取りあえず……ついてってみましょう」

ほむら「場所によっては……接触して、直接聞いてみる」





――病院


杏子「……」


ほむら「病院に入ってった……?」

ほむら「何故? 佐倉杏子までこんなとこに来る理由がないわ……」

ほむら「ますますわからない。でも……何か、嫌な予感がする」

ほむら「一応ジャイロにここに来るよう伝えておきましょう」

ほむら「持たせてよかった通信機」



ほむら『もしもし、ジャイロ? えぇ。私よ』

ほむら『すぐに来てもらいたいのだけど……ええ、そうよ。場所は昨日と同じ』

ほむら『今度は病院の中にいるから……ええ。早くね』

ほむら「……佐倉杏子。あなた、何が目的なの?」



――院内


ほむら(あれから佐倉杏子は、病院内をうろついた)

ほむら(突然Uターンしてみたり、追っ手を避けているように見えたけど……)


杏子「……」コンコン

ほむら(病室……何の用? 誰かの見舞い?)

ガチャッ

杏子「……」

「あ、佐倉杏子ちゃん……かな?」

杏子「……あぁ、そうだ。きょうこって言うんだがな」

「あっ、ご、ごめんなさい……」


ほむら「……まどか?」

「え?」



まどか「あっ、ほむらちゃん! ほむらちゃんも来たんだねっ」

まどか「ほむらちゃんもマミさんにここに呼ばれてたんだ?」

ほむら「え?」

まどか「へ?」

まどか「……えっと、マミさんにここに来るように言われたわけじゃない……の?」」

ほむら「私は、そこのポニーテールの子にちょっとした用があって」

杏子「……」

まどか「あ、そうそう。この子、マミさんの知り合いらしいの。魔法少女の佐倉杏子ちゃん!」

杏子「……よろしく」

ほむら「……えぇ、こちらこそ」

まどか「さやかちゃんも来てるよ。それで先に上条くんのお見舞い……あ、ほむらちゃんは上条くんに会ったことあったっけ?」

ほむら「名前だけは知っているわ。確かに会ったことはないけど」



ほむら(佐倉杏子……何故まどかと接触を? それに、巴マミに呼ばれたですって? 何故?)

ほむら(巴マミが佐倉杏子といつの間にか接触していて、紹介するためにここに……?)

ほむら(いや、だとしても巴マミなら自宅に招くはず……佐倉杏子は巴マミの家を知っているはずだし……)

ほむら「あら、まどか。その花かごは?」

まどか「あ、これ? 病院に来てっていうから実は杏子ちゃんのお見舞いなのかなーって思って用意したんだけど……」

まどか「違うみたいだね」

ほむら(見舞い……。巴マミがお見舞いに行くような人はいた? 同級生か教師が怪我をしてそのお見舞い?)

ほむら(まどかは佐倉杏子が入院していると勘違いしていたようだけど……)

ほむら(誰であろうてまどか達を呼び出す理由がない。佐倉杏子も呼び出されているとすればなおさらあり得ない)



まどか「ちなみにキュゥべえも来てるよ。今はいないけど」

ほむら「キュゥべえまで?」

ほむら(……魔法少女と、その素質のある者、そしてキュゥべえが揃った。やはり巴マミ……何かする気だ)

ほむら(……まさか、巴マミ、何らかの理由で魔法少女の真実を知ってしまって心中しようと?)

ほむら(だから知り合いを呼び寄せて、キュゥべえもろとも……)

ほむら(いや、どっち道病院である理由がない)

ほむら「……それで? 当の巴マミは?」

ほむら(こうなったら本人に聞くしか……)


まどか「まだ来てないみたい」

ほむら「そ、そう……」

ほむら「その様子だとまどかは聞かされていないのよね。呼び出された理由」

まどか「紹介したい人がいるって。マミさんは杏子ちゃんを紹介しようと……」

ほむら(それは病院でやる必要がない。だから多分、嘘だ)

ほむら(……わからない。巴マミの意図は……?)

ガチャ


「やあ、揃っているようだね」

ほむら「!?」



男「ごめんよ。ちょっと迷ってしまった」

まどか「え、えーっと……」

まどか(わぁ……外国人さんだ)

ほむら(何……この男……? 誰?)

杏子「……」

男「ああ、初めまして。僕はマミの遠い親戚だ」

まどか「マミさんの親戚……?」

男「やあ、君はマミのお友達のまどかちゃんだね。マミから聞いている。そこの子は杏子ちゃん」

男「この花かごは……そうか。お見舞いだと思ったんだね。ごめんよ、気を使わせちゃって」

男「おや? 聞いた話ではさやかちゃんて子がいるはずなんだが……君はほむらちゃんだよね?」

ほむら「…………」


ほむら(巴マミの親戚……)

まどか「あ、あの、さやかちゃんはここに入院してるお友達のお見舞いしてます」

男「そうか……。それは厄介」

まどか「え?」

男「おっと、この言葉は違った。いやぁ日本語は難しいね」

男「それはそうと、マミは残念ながら風邪が悪化して欠席だ」

まどか「え? そ、そうなんですか? マミさん。そうだったらメールくれればいいのに……」

ほむら「…………」

まどか「それで……マミさんは何の用だったんですか?」



男「いやね、親戚である僕は、たまたま日本に来てたんだけど……」

男「何でもマミが、ついでにみんなに僕を紹介したいって。おめかしとしてスカしたコートを着てきた」

まどか(やっぱりマミさんは誰かを紹介したかったんだ……)

まどか「あの……暑くないですか? それ」

男「ノープロブレム」

男「さて、と……本題に入ろうか」

男「マミの友達になってくれてありがとう。彼女の両親は事故にあってね、ずっと独りぼっちだったんだよ」

まどか「そ、そうだったんですか……」

ほむら「……何故病院に?」

男「……元気そうに見えるだろうけど、これでも僕は、その、色々あったからね」

ほむら「……まどかはあなたのことを知らなかったようですが」

男「……マミなりのサプライズじゃあないかな」

ほむら「…………」



男「やれやれ。結構歩いたんで疲れたよ」ドサッ

男「お、いいね。このベッド。フカフカだ。マットに挟まって圧迫されたいくらいだよ」

杏子「…………」

ほむら(テレパシー)『ねえ』

杏子「…………」

ほむら(テレパシー)『ねぇ、ねえってば。聞こえてるんでしょう?』

杏子「…………」

ほむら(テレパシー)『ちょっと、無視しないで。佐倉杏子』

ほむら(テレパシー)『……あなたは巴マミを師事していたが仲違いして独立し現在風見野でテリトリーを張っている。槍を操り幻術の固有魔法を持っている』

杏子「!」ピクッ

ほむら(テレパシー)『何故知っているんだって感じね。何よ。ちゃんとテレパシー聞こえてるじゃない』



ほむら(テレパシー)『あなたが何故見滝原にいるの? そしてこの病院に何の用?』

ほむら(テレパシー)『この男は誰? あなた、巴マミと付き合い長いはずよ』

ほむら(テレパシー)『巴マミにこんな親戚がいるなんて私は知らない。あなたは何か知ってるんじゃないの?』

杏子「…………」

ほむら「…………」

ほむら(だんまり……か。喋る気はなし、あるいは何も知らないか……)

ほむら(巴マミにこんな親戚がいるのは……知らないだけで、本当はいたのかもしれないわね)

ほむら(……いや、仮にそうだとして何故ここにいる? そして何故このタイミング会う必要がある?)

ほむら(……ジャイロと同じ、異次元の人間という可能性がある。いや……だとしても、巴マミの親戚を名乗るか?)

ほむら(佐倉杏子を呼び出せるのか? 何故巴マミの家庭事情を知っている?)

ほむら(そして肝心の巴マミは何が理由で無断欠席して連絡が取れないのか)



男「あ、そうだ。ほむらちゃん。事情はよくわからんが、何でもマミを助けてくれたらしいね。ありがとう」

ほむら「……はあ」

男「よろしく。さっきも言ったけど、僕はマミの遠い親戚。……ホント、国籍を超えるくらい遠い遠い、ね」

ほむら「……」

男「シャイな子だな。まあ、いい。よろしく」

ほむら「……どうも」

スッ

ほむら「……?」

男「ほら、握手だよ。握手。是非。内気な子には積極的に接することにしてるんだ」

男「……それとも見知らぬ外国人と握手するのは嫌かな?」

ほむら「……い、いえ、別に」

ほむら(本当に私が知らなかった人間か、否か。判断できない。ただ、握手の拒否をするには不自然に見えるか……)



杏子『罠だッ!』

ほむら「ッ!」ピクッ

杏子『この男は危険すぎるッ!』

ほむら「!?(今のは……テレパシー! ……佐倉杏子?)」

杏子「……」

ほむら(この男……!)

男「……チッ」

ほむら(ヤバイ! 何かヤバイッ! 今すぐ退――)サッ




ズパンッ  







ほむら「……え?」


ボトン

まどか「……な、なに? 今……何か……落ちたよね?」

ほむら(……何? 何が……起きたの?)

まどか「あれは……何? そこに落ちてるのって……?」

杏子「…………」

まどか「見覚えがある……何だっけ……どこで見たっけ?」

ほむら「あ、あれは……あそこに落ちているのは……!」

ゴゴ ゴ ゴ





ほむら「私の……『腕』……?!」

ボタッボタッ

ほむら「う、うぐ……ッ! う、ああぁ、あ……!?」ガクッ

ほむら「血、血が……ッ! クッ……!」

まどか「う……で……? ほむらちゃ……の……腕?」

まどか「腕……腕って? ほむらちゃんの腕? 腕が……え? あの赤いのって……血?」

まどか「……」

まどか「」クラッ

ドサッ

ほむら「まどかッ!」



ほむら「き……気を失って……ぐくッ……!」

ほむら(佐倉杏子……何故、私のテレパシーを無視していたのに……今……)

ほむら(確かに今……『警告』……したわ。な、何なの……? この男……。この男が……私の腕を……!)

ほむら「ハァ――ハァ――……」

ほむら(佐倉杏子……こいつを知って……いる……)

ほむら(手刀で腕を……。これで確信した……奴は異次元の人間だ)

ほむら(警戒はしていたが……迂闊だった)

ほむら(佐倉杏子の警告がなかったら私は……死なないにしても、左肘から先がなくなる以上の負傷を強いられていた!)


男「……やっぱ暑いな。コート、脱ぐか。まぁ、格好のおかげで警戒されるよりはマシさ」バサッ


ほむら(……! あ、あれは……あの、いかにもさっきまで馬を乗ってましたと言わんばかりの格好は……!)



「……なんだ? おい」

男「ム」

杏子「……」

ほむら「ジャ、イロ――」

ガクッ

ジャイロ「何なんだよ。おい……」


ド ド ド ド ド ド





ジャイロ「…………状況を整理するぜ」

ジャイロ「俺は、ほむらに呼び出され、ここに来た。で、ここの職員によォ~……」

ジャイロ「制服を着た黒い長髪の女子中学生を知らないかって聞いたらよォ~……この病室にいるらしいと聞いた」

ジャイロ「で、来てみた。そしたら……なんだ? これは」

ジャイロ「何でほむらの片腕がフッ飛んでんだ。何でまどかは倒れてんだ。そこの嬢ちゃんは誰なんだ」

杏子「…………」

まどか「」

男「…………」

ジャイロ「そして……なんでテメェがいるんだ?」

男「…………」



ジャイロ「Dioッ!」





Dio「ジャイロ……久しぶり……になるのか? 1891年以来になるか?」

Dio「そんなことよりおまえ……その踏みつぶしたくなるような帽子を着けてここにきたのか?」

Dio「俺はヘルメットを自重してきた上に目立たないようにスカしたコートを調達したのに……ナンセンスな奴だ」

ジャイロ「耳クソが詰まってて俺の言ったことが聞こえなかったのか? あん?」

Dio「おまえがいるということは……やはりおまえも大統領に殺されたんだよな?」

ジャイロ「テメー! どういうことだッ! まずは俺の質問に答えろ!」

Dio「だから答えてやるんだよ。……どうやら俺らにとって見れば、この世界は異世界ってやつだ」

Dio「かと言ってあるべき未来でもない。23代アメリカ大統領がファニー・ヴァレンタインじゃあなかったからな……」

Dio「そこで、だ。俺の推測では……」

Dio「大統領の能力――D4Cによって殺された奴が、この世界に、異次元に来ているんじゃあないかと考えている。というよりそれ以外に理由がない」

Dio「おまえもそうなんじゃあないか? え? ホット・パンツもジョニィ・ジョースターもウェカピポも探してみたがいなかったぜ」

Dio「ウェカピポはD4Cによって死んだのは確認したが、他二人はそれ以外で死んだか生き延びているのかもしれない。おまえは知らないか?」



ジャイロ「……Dio。テメーは馬鹿でかいキモイ化け物は見てないのか?」

Dio「化け物? ……何を言っているんだ?」

Dio「俺が本当に気が付いた時にはこの世界にいたんだよ。化け物ってなんのことだ。スタンドの話か?」

ジャイロ「じゃあ折角ドヤ顔で話してるとこ悪ぃけどよォォー……おまえの推測は間違っている」

ジャイロ「スタンドじゃあねー……魔女だ」

Dio「魔女……? 歴史の上では既に狩り尽くしたと思うんだが……」

Dio「どういうことだ。教えろ」

ジャイロ「うるせえッ! 答えるのはテメーだ! 俺の質問は異次元がどーこーとか、そんな大規模なことじゃあねぇ!」

ジャイロ「何故この病院にいて、ほむらの腕が吹っ飛んでいるのかを聞いているッ!」

Dio「ああ、なんだ……そんなクラッカーの歯くそにも満たないどうでもいいことか……」

Dio「フン、言うまでもないだろ」

Dio「……そういえば俺とおまえってそんな会話したことないよな」



Dio「そんなことより……」クルッ

杏子「……」

Dio「杏子……貴様、テレパシーを送ったな」

バッ!

杏子「ッ!」

ガシィッ!

杏子「グッ……!」

ジャイロ「!」

Dio「あと少しでそこの小娘のハラワタをえぐり出せたかもしれなかったものを……」

Dio「結局、片腕を切断する程度の傷しか負わせられなかったぞ。半歩、退きさえしなければなァ……」

ジャイロ「おい! 何するつもりだッ! キョーコ……佐倉杏子か! そいつを離せッ!」

Dio「余計なことをするなと言っただろうが。全く……」

Dio「おまえが反省するより早く首の骨を折っちまいそうだから、まぁ『こうする』のも仕方があるまい」

ジャイロ(余計なことをするなと言った……? 何があったかわからんが、既にDioと出会って……利用されているのか?)


ジャイロ「Dio! テメーこそ余計なことをするんじゃあねーぜッ!」

Dio「そういうおまえも余計なことをするなよ。こいつを即死させたくなければな」


杏子「ク……や……やめ……」

Dio「スケアリー・モンスターズ」

ズギャンッ

杏子「あ……が……」メキッ

メキメキメキ…

ジャイロ「……!」

杏子「や……だ……ガ……」

杏子「グ」

グググ…


杏竜「ガアアアアァァァ――――ッ!」


ジャイロ「こいつ……! 恐竜に……! こんな所でッ!」

Dio「『スケアリー・モンスターズ』……。杏子を『恐竜化』して完全な支配下においた。頭脳は間抜けだが従順な配下。これでもう余計なことはしない」

Dio「やはり俺の部下とするには恐竜か利害が一致しているスタンド使いがいい」

ジャイロ「Dioォォォッ!」バッ

ジャイロ(杏子……つったか。すまねえ。おまえにも鉄球をぶつけるつもりで投げるぜッ!)

シルシルシルシルシル

ジャイロ「オラァッ!」

ブンッ

シルシルシルシルシル

Dio「鉄球なぞ無駄だ。おい杏子、角度的におまえにも当たるかもしれないぞ」サッ

杏竜「!」サッ


ドゴンッ


ジャイロ(くそ……避けられて壁に……。死後でもスタンドの性能には影響はないのか……)

Dio「行け! 杏子!」

杏竜「ギャアァ――!」ダッ

Dio「ジャイロォッ! 俺がいることを忘れるなよッ!」ダッ

Dio「URYYYYYYYY!」バッ

ジャイロ「ッ!」

ジャイロ(鉄球は一球しかない……! 狙うのはDioか? 杏子か? どっちだッ!)


ガァンガァンッ!


Dio「ムッ!?」サッ

杏竜「ガゥ!」サッ



ジャイロ「ほむら!」

ほむら「ハァ……ハァ……気を失ったフリをしてみた」

ほむら(佐倉杏子がまどか達を襲撃することを想定して……銃を予め用意しておいてよかった……)

ほむら(今の銃声を聞けば、他の患者や職員や美樹さやかは避難するはず……)

Dio「拳銃。……フン、鹿目まどかと同じように、気絶したままでいればよかったものを」

Dio「しかし――拳銃も時代の変化につれて進化していたようだな。弾速が速くなっている。だが我が恐竜(スケアリー・モンスターズ)の動体視力の前には無駄……」

ジャイロ「ほむら……。無茶……すんじゃねーぞ。さっき投げた鉄球が戻ってきた。腕を出せ。回転で痛みを和らげてやる」パシッ

ほむら「心配には……及ばないわ。あなたは二つしかない鉄球は大事に使って」フラッ

ジャイロ「そうか……。ああ、そうだ。これがDioの『スタンド』だ。恐竜の動体視力と身体能力。そして他の生き物を恐竜にして配下にする能力」

ほむら「そう……やっかいね。恐竜の動体視力と言われてもパッとしないけれども」




ほむら(気絶したまどかは部屋の隅に寝かせておいた……が、今、非常にまずい問題がある)

ほむら(私は変身するとソウルジェムが左手の甲に埋め込まれて左腕に盾が発現される)

ほむら(しかしその腕が吹っ飛んだ)

ほむら(変身はできても……『盾が発現されない』……。つまりそういうこと。とにかくそういうこと)

ほむら(盾がない。時を止められなければ鉄球もなし。弾丸のリロードも片手じゃあどっちみちできない)

ほむら(とにかく切断された腕の止血は魔法で何とかするとして……どうする?)

ほむら(ハンドガンの残り弾数もあとせいぜい6発程度)

ほむら(これはかなりヤバイ……わね)


ほむら「…………」

ほむら(佐倉杏子が恐竜にされた)

ほむら(……どうしてなの? 佐倉杏子……。警告したということは目の前の男……Dioのことを知っていたということ)

ほむら(何故黙っていた? 何故警告した? 何を考えている?)

杏竜「グルルゥ……」

ジャイロ「二つ……わかんねーことがある」

ジャイロ「まず、杏子。何故、お前さんはDioの味方をしているんだ?」

杏竜「ガゥ――」

ジャイロ「恐竜化してたら話は通じねーか。後回し。二つ目は……Dio。テメーの目的は何だ。とっとと答えろよクソッタレトカゲヤロウ」

Dio「フン」

ジャイロ(ほむらを攻撃したということは……魔法少女を知っていて、警戒しているということだぜ……)

ジャイロ(しかしほむらは盾が吹き飛んでしまったか……。かなりマズイ)

ジャイロ(流石の奴でもほむらに時を止める能力があることは知らないはずだ……。それを覚られてはいけない)



ほむら「戦うしかないわ。ジャイロ」

ジャイロ「ああ……」

ほむら(まずは吹き飛んだ腕を拾うことだ……)

ほむら(治癒魔法で失った腕を復元するのは時間がかかるし、隙が大きい……)

ほむら(魔法少女になった美樹さやかでもない限り、こうなったら腕を作り直すよりも拾ってくっつけた方が早い)

ほむら(しかし……切断された腕を拾うだなんて妙な動き、奴が不審に思わないだろうか。いや思う)

ほむら(一瞬でいいからとにかく隙を作る……)

ほむら(盾さえあればハンドガンの弾数を気にする必要は全くないんだけれど……)

ジャイロ「おい……」

ほむら「……なに?」

ジャイロ「投げるぞ」

ほむら「…………えぇ。わかったわ」




Dio(……これは試練だ。ジャイロ・ツェペリと魔法少女を超えろという……神の課した試練と捉えよう)

Dio(この閉鎖的な空間。ここはスケアリーモンスターによる接近戦が有利だ)

Dio(だが、奴の鉄球にはまだ未知の部分がある。迂闊には動かせたくない。なるべく見極めたいところ)

Dio(暁美ほむら。奴の能力は、聞いた話には……兵器を操ることだ)

Dio(先ほどの片腕が吹き飛んでいながらの銃撃。腕は確かだ。女の方が射撃の上達が早いと言うが……)

Dio(そしてわざわざ本物の銃を使っていることから杏子の槍やマミのマスケット銃のようなことはしない)

Dio(D4Cと違って射程も能力も弱点も理解していない。鉄球も魔法少女も未知。一気に攻め込んでもいいがここは慎重になりすぎるということはない)

Dio(……未知が多いとは言え、今言えることは……)



ジャイロ「オラァッ!」

Dio「鉄球を寄越しても……」

ほむら「……!」チャキッ

Dio「なまっちょろい銃で狙ってもな……」


Dio「スケアリーモンスターの動体視力の前には『無駄だ』ということだッ!」

シルシルシルシルシルシル

ガァン!ガァン!

Dio「鉄球も銃弾も避けるぜ。杏子も同様に――」



チィンッ キィンッ

杏竜「――!」

Dio「ムッ! 弾丸の軌道が……」

Dio「何ッ! 跳弾!」

Dio「……だがッ!」

 サッ 

ジャイロ「躱したか……」

Dio「……正直に告白しよう。今、ほんのちょっぴりヒヤッとしたぜ」

Dio「まさか貴様のような小娘がここまで正確な跳弾を撃てるとは思わなかった」

Dio「だが、それも覚えたぞ」

ほむら「人間の知能と恐竜の力……まるで最強に見える。……しかし」

ほむら「勝ち誇っているところ悪いけど、私はあなたを狙ったわけではないわ」

Dio「……何?」

ジャイロ「ああ、跳弾の狙いはおまえじゃねー……」

ジャイロ「跳弾で、鉄球への注意と、鉄球の軌道を逸らした」

Dio「軌道……」

Dio「――ハッ!」




バサァッ


杏竜「ガッ?!」

Dio「何ィッ!?」

ジャイロ「俺達が狙ったのはベッドのシーツだ。シーツは軌道が逸れた鉄球の回転に巻き込まれ、背後から……視界外から覆い被さるぜ」

ほむら「動体視力が優れていても、視界外なら、ましてや目の前の私達に集中していれば気付かないんじゃない? という発想」

シルシルシルシルシル

Dio「クッ……目くらましか! だが!」

杏竜「グギャグバァ!」

Dio「シーツなど無駄無駄無駄無駄無駄! 劈いてくれる!」




バリバリバリッ


Dio「…………」

ジャイロ「…………」

Dio「……何故だ。ジャイロ・ツェペリ」

ジャイロ「…………」

Dio「何故だ、と聞いているのだ」

ジャイロ「何のことだ?」

Dio「何故今の隙に攻撃しなかった。予備動作さえ、全くない……。攻撃しないということは、今の跳弾からの目くらましに何の意味があったのだ」



ジャイロ「なんだ……そんなことか」

ジャイロ「隙を作るのが目的だ……何も急いで攻撃することもねェーからな……」

Dio「……どういうことだおい」

ほむら「今の隙に……あなたに切り落とされた腕を拾ったわ」

ほむら「そして応急処置程度に腕をくっつけた……!」ニギニギ

Dio「!」


Dio「……成る程な。今の隙に腕を治したか。治癒魔法」

Dio「回復を優先したようだが……不完全だな。ちょっと切れ込みを入れたら落ちそうだぞ」

ジャイロ「確かにちょっと引っ張ればまた筋肉がちぎれて取れそうだな。だが、十分だぜ」

Dio「その盾に兵器を格納していると聞いている。ダイナマイトでも出すつもりか?」

ほむら(……聞いている?)

ほむら「とにかく十分なのよ。目的を達成する分にはね」

サッ

ほむら「これ……なんだと思う?」

Dio「……ハッ!」


Dio「ば、馬鹿なッ! それは……!」

Dio「おまえの手にある『それ』はッ!」

ほむら「いざという時の道具として……持ち歩いていると思ったわ」

Dio「それは……ソウルジェム……おまえのか……?」

Dio「いや違う……『やはり』だ……この色は見間違えるはずがない」


Dio「何故おまえが『俺の』ソウルジェムを持っているッ!」

ほむら「あなたのじゃあない……これは『巴マミの』ソウルジェムよ!」


ほむら(腕を治したことで盾が使えるようになって……)

ほむら(さらに時間を止めて奴のポケットやコートの中を探して、取り上げた)

ほむら(ジャイロが攻撃しなかったのはシートを被った佐倉杏子やソウルジェムに当たるかもしれなかったからだ)



Dio「何故……俺が持っているとわかった……!」

ジャイロ「ソウルジェム……つゥ――と……魔法少女の魂なんだよな。……マミはそのことを知らないと聞いていたが?」

ほむら「えぇ、知らないはずよ。でもあいつは知っている。巴マミから奪ったそれを持っているということはそういうことよ」

ジャイロ「なるほどな……杏子は何故Dioに協力しているのかってのはどうなんだ?」

ほむら「彼女はそこまで悪い子ではない。私も彼女のことはなんやかんやでよく知っているからわかるわ」

ほむら「少なくとも病院を襲撃するような無駄なことも、あんな乱暴者を味方にすることもしないし取引もしない」

ほむら「そこで私は彼女が『脅迫』されてDioに味方していると推測した」

ほむら「どういう事情かはさておき、彼女は巴マミを助けるために味方をしたのだと。さっぱりしてるけど根は優しくて人情に厚い子だから」

ジャイロ「……なるほど。辻褄は合うっちゃ合うか。俺は杏子のことを知らないがな」



ほむら「脅しているのなら、Dioは巴マミの命を握っているという証明になるものを持っていると思った。それこそ、ソウルジェム。これは命そのものだけど」

ほむら「最悪私達を脅す手段としても、あるいは動揺を誘うため……」

ほむら「そういう目的で使うためにすぐにでも取り出せるような場所に隠していたのよ」

Dio「……いい推測だな」

ほむら(しかし、巴マミに佐倉杏子、二人のベテラン魔法少女がDioに敗北したことになるわね……。巴マミは不意打ちをくらったとして……)

ほむら(佐倉杏子は前の時間軸で、ソウルジェムが魂であることを知った時、かなり動揺してた……。だからきっとその動揺を突かれた)

ジャイロ「……Dio。テメーの目的は結局何だ。何故マミのソウルジェムで杏子を脅して病院を襲撃する?」

ジャイロ「俺やほむらを殺すためだけならわざわざ誘い込まずとも奇襲をかければいいはずだからな。答えろ」


Dio「…………」  

ゴ ゴ ゴ ゴ

Dio(やれやれ、ちとマズイな。この状況……。どういうことだ? 何故取られた?)

Dio(俺の服から奴の血の臭いがする……近づかれて直接ポケットを探られたのは間違いない。だが……この俺が気付かないはずが……)

Dio(……超スピードとか瞬間移動だとかチャチなものじゃあない。まるで、時を止められたかのような――)

Dio(時を……止める……)

Dio(……そうか! ほむらは時を止められるんだ!)

Dio(時を止めたのでなれば俺のポケットからソウルジェムを奪えた時に近寄られた気配がなかったのも説明がつく)

Dio(どうしたものか……クソッ! 油断をしたつもりじゃあないが、いざという時のソウルジェムで脅すということを封じられた……!)





~~~~~~~~~~~~


――昨夜


ピンポーン

『はい、巴です』


「やあ、こんな時間に申し訳ない」

マミ『あのー、どちら様でしょうか』

「明日越して来る者なんだけどね、引っ越しの挨拶にでもと思って」

マミ『えっ……? い、今開けますっ』

「あー、余計なお世話かもしれんがチェーンは開けなくていいからね。世の中は危ない」

マミ『は、はい……』

ガチャ ガチャッ



「やぁ、こんばんは。お嬢ちゃん。もしかしてお勉強の邪魔をしたかな?」

マミ「い、いえ……」

マミ(わぁ……外国人だ……)

「これ、よかったら。イギリス生まれが一押しする紅茶ギフトだ。ドアの隙間から失礼するよ」

マミ「あ、これって……ウェッジウッドの紅茶っ!」

マミ「ありがとうございますっ。私この紅茶大好きなんです!」

「そうか。気に入ってもらえてよかった」

「盗品だがな」




マミ「え?」

ガシィッ!

マミ「むぐッ!?」

ゴトンッ

「チェーンなぞ、無駄無駄」

バキィ

マミ「ン、ンンンーッ!」キッ

パアッ

「何だ? そのふざけた衣装は。スタンドか? ……だが、いいか。口を塞いだってことは騒ぐなってことだぜ」

「俺の名はディエゴ・ブランドー。初めまして。通称Dioだ」



マミ「ンッ!」チャキッ

Dio「マスケット銃を出すのがスタンドか? ……だが、騒ぐなと言っただろうが。二度も同じ事を言わせるな」

Dio「一度でいいことを二度言わなけりゃあならないってのはそいつが頭悪いってことなんだぜ」

ギリッ

マミ「ん゙……んぐぐ……ッ!」

Dio「いいか。三度目はないぞ。次ンーンー言ったらその綺麗な頬に親指を貫通させて紅茶飲んだらこぼれでてしまうような穴をあけてやる」

マミ「……ッ!」

「マミを離して!」

Dio「む?」




QB「何故マミを襲うんだい!?」ヒョイ

Dio「何だ、こいつは……」

QB「僕が見えるようだね。僕はキュゥべえ。もう一度言うけど、マミを苛めないでおくれよ」

Dio「スタンドではないようだが、こんな生き物見たことがない」

クン、クン

Dio「しかし、感じるぜ……『臭い』を」

マミ(テレパシー)『キュ、キュウべえ……こいつは……き、危険よ……逃げて……』

QB(このままだと……マミが危険だ。逃げるってのはできないよマミ。今、マミを失うのは大きな損失だ……)

QB(それにしても、何者なんだこの男。ジャイロ・ツェペリ同様に僕が見えるようだが……手刀でドアのチェーンを切るあたり、人間と言えるのだろうか?)





Dio「……それと、マミと言うらしいな。おまえから感じたのだ。『ジャイロ・ツェペリの残り香』を。だから居場所を突き止めた」

マミ「ッ!」

Dio「その反応……偶々通りすがったとかでなく、やはり、どこかでジャイロ・ツェペリと出会っているな……」

QB「……ジャイロ・ツェペリ。確かに会ったけれど……彼の知り合いなのかい?」

Dio「全て教えてもらうぞ。ジャイロのことと、この世界のこと……そしておまえらのこともな」

Dio「さぁ、殺されたくなくば、全てを話せ。ひとまず離してやるが、妙な真似はしないことだ。無駄なことだからな。邪魔するぜ」

マミ「うぅッ……!」




Dio「ああ……君もレディだものなぁ。野蛮な男を家に入れるのは不安だろうな。仕方ない」

Dio「安心しろ。『そーゆー事』はしない。神に誓う。そもそもできないからな」

Dio「不能だし湧かないんだ……いや、生前は違うぞ? 今は『こういう身』だからな……」

QB(生前? 何を言っているのかわからない……。何にしても話すだけで済むとは思えないけど、今は従うしかない)

QB「……わかったよ。何から話せばいい?」

Dio「そうだな。まずはマミが何者かを問おうか。スタンド使いか?」


~~~~~~~~~~~~~




Dio「俺は……マミとキュゥべえとかいう生き物からジャイロ、おまえの残り香を恐竜に記憶させて、捜させた」

Dio「そしてジャイロと行動しているほむらの存在を知り……おまえの推測通り、俺は、ひょっこり現れた杏子を脅して利用した」

Dio「おまえ達と『ある人物』をここに誘き寄せるよう仕向けたのだ」

ジャイロ「ある人物……?」

Dio「疑問に思ったはずだ。俺がこんな消毒液臭いところを戦いの場所に選んだのをな……」

ほむら「もう目的なんてもうどうでもいいわ。さっさと倒して恐竜化を解除してやるわ。時を止め――」

Dio「まあ、待てよ。この時代の日本人はどうしてこうもみんなせっかちなんだ? 少し考えてみろよ」

Dio「俺が……いや、何故俺達『だけ』でおまえら二人を相手してるのか、疑問に思わなかったのか?」

ジャイロ「……何が言いたい」

Dio「その気になればこんな病室を埋め尽くすくらいの恐竜を支配下にできるのに……だぜ?」

ほむら「…………ッ!」



「ギャァ――――スッ!」


ほむら「ッ!?」

ジャイロ「ッ!?」

Dio「この時を待っていたッ!」

ドガァッ!

恐竜「ギャァ―――!!」

ほむら「恐竜がドアを突き破って……まさかッ! 既にッ!」

Dio「既に病院にいる職員患者見舞客……全員とまではいかないが少し『恐竜化』しておいた」



ジャイロ「な、何だと……ッ!?」

ほむら「……なッ?!」

ほむら「そ、そんなッ!」

Dio「ある人物のおでましだぜ」

ジャイロ「何でそこの恐竜は『さやか』をくわえてるんだッ!」

恐竜「ウウゥ――」

さやか「う……く……」

QB「た、助けてっ」ジタバタ

ほむら「キュゥべえも……」



Dio「美樹さやかとキュゥべえを連れてこさせた。まどかとマミとほむらに共通してついている臭い……」

Dio「つまり、さやかの臭いを恐竜に探させていた。だから今まで時間がかかった」

Dio「全く……ここに来いと呼び出したのに勝手にうろちょろしやがって……。キュゥべえには常に恐竜の監視があるから逃げられない」

Dio「色々あってたくさんの怪我人が出たが、まあ仕方あるまい。多分死んだ奴はいないだろ」

QB「わけがわからないよ……。あの中には魔法少女の素質を将来持ちうる子もいたかもしれないのに……」

恐竜「ブハァ――……!」

ほむら「み、美樹さやかを離し――」チャッ

Dio「そしてジャイロにほむら。おまえらは躊躇した。俺らの接近を許してしまった」

ほむら「――ハッ!」バッ

ジャイロ「ッ!」



杏竜「ギャァ――!」

ガリッ!

ほむら「あぐッ!? う、うああああぁぁぁッ!?」

杏竜「ガウゥゥゥ――!」

ギリギリギリッ……

ジャイロ「ほむらァッ!」ブォンッ!

ブチィッ!

ほむら「あぐッ!」

QB「ほむらの腕が……」

Dio「よし、いいぞ。腕はいただいた」ガシィッ

シルシルシルシルシルシル



Dio「ジャイロ……時を止める寸前、腕をくっつけたな。だからその腕を狙う。盾が時間停止の鍵だ。そうでないなら既に何度も時を止めているはずだからな。そして――」

ドゴォッ

Dio「俺がほむらに追い打ちをすると思って俺の動きを予測して投げたな。俺は追い打ちしない。だから避けるまでもなかった」

ジャイロ「クッ……!」

ほむら「うああ……う、グクク……!」ガクッ

恐竜「ガァーッ」ポポイッ

QB「わぁ」

さやか「ク……」

杏竜「ガゥーッ」カプッ

Dio「さやかとキュゥべえをパスさせた。杏子、ナイスキャッチ。そして退け。……おまえはもう少しこっちに来い」

恐竜「グハァー……」ノシノシ




ジャイロ「もういっぱ――」

Dio「もう一球よこすと見せかけて……ジャイロ」

Dio「おまえは俺が躱すことを読んでいた。二球目の投擲に意識を向けさせた所に……」

Dio「実はわざと外して投げた一球目が死角から飛んでくるというわけか」

ジャイロ「ッ!」

グアッ

Dio「さやかの救出が最優先。狙うのは俺でも杏子でもない。杏子じゃない方の恐竜だった。俺はそれを読んでほむらの腕を狙い……」

ギャンッ

恐竜「ガウ」

Dio「さっさとさやかとキュゥべえをパスさせて、看護師を鉄球の軌道上に移動させた」

杏竜「ギャウ」




ドゴッ

ギャルギャルギャルギャルギャル

恐竜「ギャアァ――スッ!」

恐竜「」

スッ

看護師「……」

ドサァッ!

ほむら「元に戻った……? 気を失うと元にもどるのね……」

ジャイロ「くそっ……!」

Dio「狙い通りの標的に当てさせてやったぞ。倒れた時に鉄球を下敷きにしてしまったがな……」

Dio「流石だとしか言えない。今の一瞬で俺の行動をここまで先読みするだなんてな。ただ俺はさらに一手読んでいたが」

ジャイロ「テメェ……!」

ほむら(応急処置程度に繋げてたとは言え……左腕を二度も……やれやれ、厄日だわ)



Dio「よし、降ろせ」

杏竜「グルルルルゥ――」

ボトッ

さやか「あうっ……グ……」

Dio「いいぞ。よくやった。牙が刺さって結構傷だらけだな。災難だなさやか。……聞こえていないようだが、まあいい」

Dio「そして腕は……盾が邪魔して余計に肉を食いちぎるという芸当はできなかったか」

Dio「む……? 手の甲に宝石が埋め込まれているな……」

QB「ほ、ほむらのソウルジェム……」

Dio「これがほむらのソウルジェムか? ほほう、いいことを聞いた。まさに一石二鳥ってやつだ」



Dio「ところでおい、貴様。ほむらの能力は兵器を自在に出すものだと聞いていたが、さっき時を止めたぞ。どういうことだ。聞いてないぞ」

ジャイロ(聞いて……ということはあいつ、Dioに情報を流しやがったな)

QB「時を……? 彼女に時を止める能力があるなんて知らなかった……。彼女は本当にイレギュラーな存在だ……」

Dio「何故知らないんだ」

QB「知らないものは知らないよ。僕だって常にほむらを見ているわけじゃあないんだ」

ほむら(確かにこの時間軸、一度もキュゥべえの前では時を止めていない……)

ほむら(知られていたところであんまり関係はなさそうだけど、丁度良かった)

Dio「イレギュラーな存在だと? そう思っただなんてことも聞いてないぜ」

QB「聞かれてないからね」

Dio「……チッ、使えんやつめ。まあいいだろう」



ほむら(出血しすぎたからか……なんだかボーっとしてきた……)クラッ

ジャイロ「大丈夫か、ほむら……。血がヤバイんじゃあねーのか」

ほむら「大丈夫……よ。一個しかない鉄球で……Dioを倒すことだけを考えて」

ジャイロ「……ああ。わかった」

ほむら「それより……マズイわ。ソウルジェムが奪われた……!」

ジャイロ「そうだな……スゲーヤバイな」

Dio「さて……なぜここにさやかを連れてきたか、わかるか? 人質なんてチャチなモンじゃあないぜ――躊躇させるための餌でもない」

QB「僕もということは……まさか」

Dio「ご明察だ。誉めてやる」

さやか「…………」



Dio「……さて、こいつ曰く――さやかとまどかには魔法少女の素質があり……未契約だ、という」

ほむら「ッ!」

Dio「契約することでどんな願いも叶えられる……。だからさやかとまどかを戦いの舞台に呼ばせたのだ」

Dio「魔法少女とかいうふざけた能力に頼るのは癪だが背に腹は変えられないからな。いいかよく聞けよ美樹さやか」

さやか「ぇ……?」

Dio「契約の力で願え! 『ディエゴ・ブランドーを生き返らせろ』とッ!」

さやか「っ!」

Dio「そのためにこの小汚い小動物も連れてきた」

QB「……」




QB(さやかの素質では、犬や猫はまだしも、人間なのかどうかさえいまいちわからない知的生物の蘇生は無理だ……。Dioはそのことに気が付いていない)

QB(素質によって叶えられる願いの限界があることは聞かれてないからね。聞かれてないことは言ってない)

ジャイロ「生き返る……だと?」

Dio「元の世界に生きて戻れるというのならそれがベスト。この世界で暮らすはめになるのであればそれもいいだろう」

Dio「案外こういう世界にこそ俺の求めた平穏な暮らしがあるかもしれないからな……」

Dio「どちらにしても、俺はとにかく死んだという汚名を返上したい」

さやか「あ、あんたが……この怪物達を……ッ!」

Dio「さあ願え。もう一度言おう。俺の名はディエゴ・ブランドー。さぁ、俺を生き返らせてくれるよう願え」

さやか「だ、誰がそんな願いをッ!」

Dio「嫌か? ……仕方ない。踏め」


杏竜「グルゥゥ」

ズシィィィ

さやか「ギャァッ?! お、重いッ! 重いッ!」

ジャイロ「さやかッ!」

ほむら「クッ……!」

さやか(な、何があったの!? まどかは気絶してるし、転校生はこの角度からだとよく見えないけど、何か腕を負傷したっぽいし……)

QB「まずいよさやか。このままだと全員……」

さやか「キュ、キュゥべえ……! いてててっ!」ギリギリ

Dio「ほれ、おまえが願えば全員助かるぞ」



さやか「え、えぐいことしてくれる……ッ! いちちちっ!」

さやか(そ……そんな願いを……叶えてなるもんかぁ……! きょ、きょうす――)

杏竜「ギャウ」グッ

さやか「クヘェ?!」

Dio「早くしろ。今はまだ加減してやってるが、もたもたしてると杏子の爪が筋肉を裂くかもしれん」

さやか「あだだだだッ! いだだだだだッ!」

Dio「いいか、俺はほむらをいつでも殺せるんだぞ」

さやか「ッ?!」

ほむら「うぅッ……ひ、酷い……!」

ほむら(美樹さやかは生身なのに……容赦がないッ!)

ジャイロ「……!」

スッ



ほむら「やめて! ジャイロ!」

ジャイロ「ッ! ほ、ほむら……」

ほむら「今、鉄球を投げてはいけない……」

ほむら「ジャイロ! 感傷に流されてはいけない! 抑えて……!」

ジャイロ「だがおまえのソウルジェムが……!」

ほむら「それでもよッ!」

ほむら(必ず……必ずチャンスは訪れる!)

ほむら(Dioを……奴を出し抜く方法があるはず!)



Dio「そうだぞジャイロ。下手に攻撃をすればさやかをさらに苦しめることになるし……」

Dio「鉄球がうっかりソウルジェムにあたるかもしれないぜ?」

ジャイロ「テメェ……!」

Dio「おいさやか。苦しいか? 魔法少女になったら助けてやるよ。さあ、契約しろ!」

杏竜「ガルル……」

さやか「う、ぐぐクゥ~~~……ッ!」

Dio「……そこの気絶してるガキも素質がある。もし俺が生き返ったとして……」

Dio「この世界に留まるようであったら、そいつの契約の力も俺のために使ってもらう」

さやか「ま、まど……」

Dio「そして杏子にもまだ利用価値はあるな。そして紫色と黄色のソウルジェム……こいつをどうするべきか」



Dio「ほむら。そいつを返してもらおうか。何なら……おまえと、『それ』の持ち主の命までは取らないでやらんこともないぜ」

ほむら(やはり言うと思った。巴マミのソウルジェムを渡せと……!)

QB(契約するならするでいいけど……僕でもわかる。魔法少女が殺される。まどかもきっと殺される)

QB(魔女になってこそのエネルギー……無駄になってしまう。そういう損失は避けたい……僕には契約しか出来ないけど……)

さやか「てんこぉ……せぇ……」

ジャイロ「…………」

ほむら「…………くッ!」ギリッ

Dio「ほら、死にたくはないだろ? 痛いのは嫌だろ? 願えよ」

さやか「やぁ……だぁ……! やだぁ……!」

Dio「病院中で待機している恐竜、一気に招集してやろうか? せいぜい五、六匹だがな」



ほむら「……!」ギリギリ

ツ…

Dio「フッ、おいおい……下唇を強く噛みすぎて血が出てるぞ?」

Dio「女の子がそんな顔をするなよ。悩みすぎじゃあないか? 別に死ねと言ってるわけじゃあないのに」

ほむら「…………」

ほむら「……わかったわ」

ジャイロ「なッ……!」

Dio「フフフ……」ニヤリ

ほむら「美樹さやかを離して……。渡すわよ。巴マミのソウルジェムを……」

QB(ほむら……いけない。そんなことをすれば……君は手札を失うことになる!)




ほむら「……ジャイロ」チラッ

ジャイロ「…………!」

ジャイロ「ほむら……おまえ……」

ほむら「渡すしかないじゃない……ッ!」ポイッ

ほむら「さあ! 巴マミのソウルジェムは返した! 美樹さやかを離して!」

さやか(て、転校生……)

Dio「よし。良い判断だ」パシッ

さやか(転校生が……あたしを助けようと……でも、あれはマミさんのソウルジェム……? ど、どうしてここに?)

さやか(どうして転校生が持ってるの? マミさんもいるの? いるとしても……どこに?)

Dio「もうおまえらは用済みだな」



ほむら「ッ!」

さやか「な!?」

Dio「最早ほむらは死んだも同然! まずはジャイロを殺すッ!」

杏竜「KISYAAAAAAAAAAA!」

さやか「そ、そんな! 約束が違うッ!」


ジャイロ「…………」

ほむら「…………」

ほむら「……恐竜の動体視力を持ってしても」

Dio「!?」

Dio「ま、待て、杏子。まだ行くな! ……今、何て言った」

杏竜「ガゥ……」

ジャイロ「人間の心がある以上、それには抗えねぇわな……」

Dio「おまえら……何を言っている」

ほむら「私はずっと待っていたわ。あなたが巴マミのソウルジェムを渡せと言うのを……」




ほむら「あなたは私に油断した。当然よね。武器を奪った『つもり』だったものね」

ほむら「だから何の疑問もなく、私の行動を受け入れた」

ほむら「取るに足らない小娘が……使えるとは思わないでしょうからね」


ド ド ド ド ドド ド ド

Dio「何を言っているんだ……?」

ジャイロ「テメーは油断したんだ。無敵の動体視力も必殺技も、油断しちゃあ意味がないんだよ」

Dio「貴様らッ! 何を言っているんだと聞いているッ!」

ほむら「レッスン3……『筋肉に悟られるな』……気付かなかったわね。『私』の回転に」

ほむら「よかったわジャイロ……。あなたが空気の読める人で……。もし私にも『それ』ができるって知られていたら警戒されていた」

ジャイロ「まあな。おまえの『それ』は隠し球ってやつだぜ」

Dio「ま、まさか……暁美ほむらッ!」


ほむら「私が既に回転させたわ。巴マミの『ソウルジェム』を!」


さやか「!」



Dio「――ハッ!」


シルシルシルシルシルシルシルシルシル

Dio「なっ! 何ィ~~ッ!? 俺の手でッ! 回転しているのは……! す、既にッ!」

ほむら「狩りをする本物の恐竜なら、獲物に対して決して油断はしないでしょうね」

ジャイロ「訂正が一つ……レッスン3は『回転の力を信じろ』だぜ。今おまえが言ったのはレッスン2だ」

ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「あ、そうだ。キュゥべえ。会話の流れから、あなたが私の能力をDioにリークしていたと見受けられるわ。回転の事をよく秘密にできたわね」

QB「……僕は暁美ほむらの魔法少女としての能力を言わされたんだ。時間停止は本当に知らなかったし、回転は魔法少女の能力ではないからね」

ジャイロ「ニョホホ、融通が利かないというか都合がいいというか……まあ、助かったな」

Dio「ふ、ふざけやがっ……!」

ガクッ



Dio「ぐっ!?」

ドサァッ

Dio「ち、力が入らないッ……?! こ、このDioが……奴の回転をくらって、た、立つことができないだとッ……!」 

ほむら「回転が腕を伝って肩、体幹、腰……脚に……。動かそうとしても動かない」

Dio「グッ! クッ……! た、立てないッ! 脚が……思うように……!」

シルシルシルシルシル

Dio(くそ! ソウルジェム! 握りつぶ……)

ピクピクッ

Dio(ダメだ! 体全体が! 自由に動かないっ! く……! 回、転……!)

ポトッ コツンッ

ほむら「よし、ソウルジェムと私の腕を落とした」



Dio(くそッ……! ソウルジェム……! ブチ壊しておくべきだった……ッ!)

Dio(……いや、それだと杏子をここまで利用できなかったか。……クソッ! どっちみち……ッ!)



ほむら「後は任せるわ」

ジャイロ「ほむら。俺はおまえの行動に敬意を表すぜ……。後は俺に任せな」

ジャイロ「……さて、Dio」

シルシルシルシルシルシル

Dio「グ……クッ……ううっ……!」

ジャイロ「『生前』は苦労したぜ……テメーに鉄球を当てるっつーのはよォ――。だが、今ならどうだ?」

ジャイロ「差詰め、トラバサミに足をとられた灰色熊といったところか」

Dio「うおおおおお! 俺を守れ! 杏――」

ジャイロ「オラァッ!」

ドッゴォッ

Dio「URYッ!」


ドガシャァ――z__ ンッ


さやか「ま、窓がッ……ここ、何階だったっけ……」






ゴオォォォォ――z___



Dio「お、落ちるッ! ヤバイ!」

Dio「だ、だがッ! 恐竜化ッ!」ズギャンッ

Dio「恐竜の脚力で着地して、衝撃を耐えてや……」

Dio「…………」

Dio「……ダメだ! この高さ……コンクリートのような硬い地面ではその衝撃に耐えられない……!」

Dio「そ、即死する……」

Dio「おのれ……! あの取るに足らぬ小娘の分際で……このDioが……」

Dio「このDioがアァッ!」

Dio「ウオオオアアァァァァァアアァッ!」

――――
――






杏竜「――」

スッ

杏子「……」


ほむら「佐倉杏子の恐竜化が解除されたということは……Dioは倒した……ようね」

ほむら「奴の最大の不運は……ジャイロが私と出会ったことかしら……それとも窓際で余裕ぶっこいてたことかしら……」

ジャイロ「そもそも上に立つことにこだわるからか、舞台を高い階にしたことだな」


ほむら「くっ……!」ガクッ

ほむら「ハァ――ハァ――……」

ジャイロ「おい、大丈夫か?」

ほむら「ちょっと……血を失いすぎた……わ。でも、心配には及ばない……」


杏子「」

ドサッ

さやか「ぐへっ!」



ほむら「佐倉杏子は……気を失ってるようね。それで、美樹さやかの上に落下」

さやか「ゲホッ、ゲホッ……」ズリズリ

さやか「踏んだり蹴ったりだよもう……でも、なんかよくわかんないけど助かった……!」

ジャイロ「大丈夫か? 手を貸すか?」

さやか「あ、ありがと……ジャイロ。でも大丈夫だよ……」スクッ

さやか「いたたた……まったく、全身がジンジンするよ。酷いことをするもんだ」

さやか「助けてくれてありがと。転こ……せ……」

さやか「ヒィッ!?」ビクッ

ほむら「ん?」



さやか「て、て、てんこっ……せっ……! ……う、腕ェェェェェッ!?」ガクガク

ほむら「えぇ……そうよ。色々あって二回も腕を切り落とされたのよ」

ほむら「気付かなかったの? 私も踏んだり蹴ったりよ……ふぅ。大分落ち着いた」

ほむら「拾ってくれるのかしら? だったらまどかが体育の時間に具合の悪くなった友達に濡れタオルと冷たいドリンクを持ってきてくれるかのようにね」

さやか(て、転校生の……腕。断面が角度的に見えないだけラッキーだ。……腕を持ってくる? ……あたしぃ? 助けてもらっといて何だけど……)チラッ

さやか「や、やだよぉ……」

ほむら「そうよね。私もソウルジェムをそう簡単に他人に触られたくない」

ジャイロ「それにしても冷静だな。うっおとしくなくていいぜ」

さやか「まぁ……魔女の結界とかで修羅場くぐり抜けてるつもりだからね。イチチチ……痛いのは嫌だけどさ」



パァッ

ほむら「腕を治してっと……。美樹さやか。あなたの擦り傷も治してあげる」

さやか「あんがと……」

さや「……ね、ねぇ、それで……あの……こんな時だけど」

ほむら「ん?」

さやか「…………」

ほむら「何よ」

~~~~~~~~~~~~

まどか「さやかちゃん……ほむらちゃんに謝りたいんだよね?」

さやか「あたし、ちょっと誤解してたから……」

まどか「それなら、また今度謝ればいいよ。ね?」

~~~~~~~~~~~~

さやか「ご……」

さやか「…………ご」



さやか「……ご覧の有様なまどかは本当に大丈夫なの?」

まどか「」

ほむら「えぇ。私の腕が一回目に吹っ飛んだ時からずっと気を失ったままよ」

ジャイロ「そりゃぁ目の前で友達の腕が吹っ飛んで血を吹き出したらそうなるだろう」

さやか「うはぁ……」

さやか(……言えなかった。何故かはよくわからないけど、言えなかった)

ジャイロ「そろそろ起こすか?」

ほむら「無理に起こすこともないわ。腕もまだ完治ってわけでもないし」

ほむら「それにこの病院内、そこかしこに恐竜に襲われた人でいっぱいでしょ?」

さやか「……うん。たくさん、噛みつかれたり引っ掻かれたりしてた」

ジャイロ「そうか……」



ほむら「きっとまどかはショックを受ける。SAN値だだ下がり。だからまだ起こすべき時ではないわ」ファサ

さやか「うん……たくさん……血が……みんな、恐竜に襲われて……」

ジャイロ「……やれやれだぜ」

さやか「それで……恭介も……標的であるあたしの側に……いた、ばっかりに……」ギリッ

ほむら「…………そう」

ほむら「でも……美樹さやか。自分を責めてはいけないわ。まずは巴マミにソウルジェムを返して、その後は治癒魔法で何とかする」

ジャイロ「俺も治療はできるぜ」

ほむら「現代の医師免許がない人の縫合はノーセンキュー。三人の魔法で何とかするわ」

さやか「三人……あぁ、そうか。そこのも、魔法少女なんだってね……」



さやか「杏子って言ったっけか……。こいつが、一枚噛んでたってわけだ」

杏子「」

ほむら「利用されていただけよ。色々事情があったから」

さやか「……許されることじゃあないよ」

ジャイロ「かもしれねーな。だが、攻めてやるな」

さやか「…………」

さやか「……あたしの目の前で、恐竜が、たくさんの人を襲ったんだよ」

さやか「エグいのを見せつけられたし、転校生は腕を食いちぎられるし……。たくさんの人がケガして……」

ほむら「美樹さやか……?」



さやか「キュゥべえ」

QB「何かな」

さやか「あたし、契約する」

ジャイロ(…………)

ほむら「……やめなさい」

さやか「無理だよ……。まどかは無事だけど、あんたも医者もナースも近所の悪ガキも、みんな大怪我して、放ってられない」

ほむら「美樹さやか。既に巴マミ、佐倉杏子も知っていると思うから、言わせてもらうわ」

ほむら「ソウルジェムは、魔法少女の魂そのもの。契約をすると、あなたの魂はソウルジェムに変換されてしまうわ」

QB「!」

さやか「え……?」



ほむら「早い話が、ソウルジェムが破壊、あるいは100mくらい距離を離すと、肉体は死体となる。そういう体になる」

QB「ほむら……君は、どうしてそのことを……」

さやか「……そ、そんな! そうなの……? キュゥべえ……」

QB「……訂正するような所はないね」

さやか「う、嘘だよ……! そんなのってないよ……!」

ジャイロ「残念だが事実だ。だからマミはどこかで死体になっている」

さやか「…………」

ジャイロ「だから、やめておけ」

さやか「…………」

ほむら「それだけじゃないわ。ソウルジェ――」

さやか「治癒魔法って完璧なの?」

ほむら「えっ……」



さやか「……後遺症とか残らない? 記憶は? トラウマになるよね?」

さやか「それに……今はかろうじて生きているけど、血がたくさん流れて、もう時間が残っていないって人もいるんだよ?」

さやか「一旦マミさんの家に行って、マミさんを生き返らせて戻ってきて……その間にも……」

さやか「それに、恭介だって……相当ヤバイと思う」

ほむら「……」

さやか「あたしが、今、契約すれば……誰も死なないで済む。誰も、苦しまなくて済む……」

ほむら「そんな……あなたって人は……!」

ジャイロ「……さやかは、受け入れられるのか? 戦いの運命に。覚悟はできているのか?」

さやか「…………ん」

ジャイロ「そうか。なら仕方ねぇな。なぁほむら」

ほむら「でも……」




ジャイロ「抜き差しならない状況っていうのもあるんだぜ」

ほむら「…………」

ほむら(もし……契約させずに、結果として誰かが亡くなったとしたら……)

ほむら(仮に、上条恭介が亡くなったら……)

ほむら(上条恭介や大多数の人を見捨てさせたら……美樹さやかは……)

ほむら(……そして、そんな美樹さやかを救おうとまどかは……)

ほむら(だからと言って今、契約させても結果的には……しかし契約しなかったら……)

さやか「…………」

ほむら(……全員を救う、か)

ほむら「…………わかったわ。美樹さやか。どうしてもってんなら、止めはしない」

さやか「……ありがと」




さやか「キュゥべえ。あたしの願いは、Dioのせいで傷つけられた人たちを元に戻してほしい。怪我とか記憶とか失った血とか……。今すぐに」

QB「それが君の願いだね」

さやか「うん」

さやか「……ねぇ、ジャイロ。病院に残って上条恭介……あたしの幼なじみなんだけど、伝えて欲しいんだ」

さやか「あたしが『ゴメン』って言ってたって。それと、理由は聞かないでくれって……」

ジャイロ「さやか……おまえというやつは……」

ほむら「…………」

ほむら(決して言い訳するつもりじゃあないけど……仕方がない、わね)

QB「君の願いはエントロピーを――」







――マミ宅


マミ「……ハッ!」

マミ「…………え? わ、私……」

まどか「マミさん!」

QB「マミ、大丈夫かい?」

さやか「おはようございます。夜だけど」

ほむら「…………」

マミ「……え? キュゥべえ。それに鹿目さんに美樹さん。それに……暁美さんまで……」

マミ「そ、そうだ! 佐倉さんはッ!? Dioはッ!? それに私は……」

ほむら「落ち着きなさい。Dioは私達が倒して、あなたのソウルジェムを取り返した。佐倉杏子も無事よ」

マミ「そ、そう……! よかった……」


ほむら「ジャイロはまだ病院に残っているわ」

マミ「病院?」

ほむら「あなたは死んでたからわからないでしょうね。まあとにかく何とかなったのよ」

マミ「佐倉さんは?」

ほむら「わからない。気が付いたらいなくなっていたわ」

マミ「そう……」

さやか「マミさん……」

マミ「鹿目さんと美樹さん……あなた達に話さなくてはいけないことが……」

まどか「ソウルジェムって、魔法少女の魂なんですよね……」

マミ「!」

さやか「転校生から聞きました」

マミ「……そう、なのね」



QB「ほむらは本当にどうして知ってたんだい? 話してないのに。イレギュラーだねほんと」

ほむら「…………」

マミ「キュゥべぇ……どうしてそのことを黙ってたの?」

QB「聞かれてないからね。その体は嫌かい? 便利だろう?」

マミ「……キュゥべえ。どっかに行ってくれないかしら」

QB「君達はいつもそうだね。本当にわけがわからないよ」

QB「それじゃ」ヒョイ


マミ「…………」

マミ「……何にしても、私、Dioにソウルジェムを奪われて、気が付いたら死んでいた」

マミ「かなりショックなはずなのに……何故か今、不思議と冷静なのよね。ソウルジェムは魂。これが魔法少女の真実」



マミ「それで……私、美樹さんと鹿目さんをを魔法少女に誘ったけど、こんな事情があったと知った以上、魔法少女になるのは……」

まどか「…………」

さやか「あたしは……」

マミ「……美樹さん?」

さやか「あたしは既に、なりました」サッ

マミ「なッ!? ……そ、それは、ソウルジェム……!」

ほむら「美樹さやかの願いはDioのせいで惨状となった状態を元に戻すこと、よ」

マミ「そんな……」

マミ「その事実を知った上で、契約したの?」

さやか「……あたし、契約しないわけにはいかなかったんです」



ほむら「病院内はDioや恐竜に傷つけられた人々であふれかえっているという惨状だった」

ほむら「できることなら、あなたと佐倉杏子、三人で何とかしようと思ったのだけれど……」

まどか「わたしは、気を失っていたからよくわかりませんが……一刻の猶予人もいるというか……」

ほむら「私達がどんな傷を魔法で治せても、命が終わってしまってはもう戻せなくなる」

ほむら「時間がなかったのよ」

マミ「…………」

さやか「マミさん。あたし……魔法少女として戦います」

さやか「だから、戦い方を教えて下さい」

マミ「えぇ……。えぇ、もちろんよ」

まどか「さやかちゃん……」




さやか「まどか、心配しなくていいよ。あたしの願いで多くの人が救えた。その事実だけでも、あたしは救われる」

まどか「うん……」

ほむら「願いが反映されて美樹さやかは治癒魔法が得意よ」

まどか「さやかちゃんが怪我を治すのが得意だなんて、ちょっと意外だよね」

さやか「どういうことよそれ」

ほむら「美樹さやかが治癒って……ねぇ?」

さやか「何だよそれ?!」

マミ「美樹さんって青いからこう、スピードがどうとか」

まどか「あ、あるいは氷とか水とか……」

さやか「色で決めないでよ……」


さやか「……いや、でもさ、どこぞのRPGの僧侶は青いよ?」

ほむら「魚と言えば青ね」

さやか「何でそこで魚が出るんだよ!」

マミ「ま、まあ何にしても、仲間ができて心強いわ。ビシバシ鍛えてあげる」

さやか「お願いしますっ」

ほむら「私も鍛えてあげるわ」

さやか「ゲッ……何であんたまで」

ほむら「巴マミと共闘を結ぶからよ」

まどか「え?」



マミ「……聞いてないわよ?」

ほむら「巴マミ……いえ、マミと呼ばせてもらうわ。別に構わないでしょ」

マミ「…………」

ほむら「もうそろそろ私を信頼してくれてもいいんじゃない?」

マミ「でも……」

ほむら「あなたは仲間が欲しかった。願ったり叶ったりじゃない。共闘ぐらい結んでもいいでしょう」

ほむら「お菓子の魔女に食われかけるわDioにソウルジェムを奪われるわ……あなたには不安要素が多すぎる」

マミ「……私」

マミ「……あなたと友達になれるのかしら。こないだまでお互い敵同士だったのに」

ほむら「敵だったらソウルジェムを取り返すなんてしないわよ」




ほむら「あなた個人の話をしている。私、あなた個人には敵意を向けた覚えがないし」

ほむら「それでも嫌? あなたのお友達のことを言いたいなら……」

ほむら「私はそーゆーことを知っていたから阻止したかった。という解釈をすればいい」

ほむら(そもそも本当に何もしてないし、勝手にあなた達が自己解決して私が襲ったって決めつけただけだし)

マミ「…………」

マミ「……ねぇ、あの、暁美さん」

ほむら「何かしら」

マミ「その……ありがとう」

ほむら「……お礼を言われる覚えはないわ」


マミ「私は一方的に敵意を向けていたのにあなたは私のことを助けてくれた……」

マミ「……私に、断る理由がないわ」

さやか「マミさん……」

マミ「私、お菓子の魔女の時に助けられてから……本当は、謝りたかった……」

マミ「そして、私の方から、仲間になって欲しいと言うべきなのに、あなたは、こんな私に仲間になれと言ってくれた……」

マミ「すごく嬉しい……本当にありがとう」

マミ「暁美さん。改めて、これからよろしくお願いします」ペコリ

ほむら「……えぇ。わかったわ」

まどか「やったっ! ほむらちゃんとマミさんが仲直りした!」

ほむら「……そういうわけだから二人でビシバシ絞ってあげるわ。美樹さやか」

さやか「甘口で……妥協して中辛程度でお願いします……」

まどか「ウェヒッ、頑張ってさやかちゃん!」

さやか「他人事だと思ってあんたは……!」

まどか「ウェヒヒッ」



さやか(……しかし、まあ何だね。本当にあたし、ゾンビみたいな体になっちまったんだよねぇ……いまいち実感が沸かないよ)

さやか(ソウルジェムが魂……ねぇ。参ったねこりゃ)

さやか(……こんな体じゃあ、恭介に顔向けできないよ)

さやか(ちきしょう)

さやか「……まぁ、なっちまったもんは仕方ないね! 二人とも、ビシバシよろしくお願いしまぁーすっ!」

マミ「ふふ、元気ね」

さやか「あははのはー」

まどか「…………」

まどか(さやかちゃん……明るく振る舞おうとしてる)

まどか(だけど……)





とある病院の壁や床は、不自然な傷がそこら中にあるらしい。その傷はまるで、肉食獣……恐竜の爪痕のよう。

多種多様の傷があるにも関わらず、職員も入院患者もそれらがいつ刻まれたのかわからないという。

――見滝原の七不思議。その③


Dioのコレジャナイ感が否めませんが、ほむほむの腕が二回吹っ飛んだりしつつ今回はここまで。

効果音の多用は結構好き嫌いが別れるらしいのでチト読みづらいとこもあったかと思います。



前回戴いたレスにもありましたが、このさやかちゃん思ったより賛否両論な子になってたようですね。

次回のさやかちゃんがちょっぴり不安です。お疲れさまでした。おやすみなさいです。




――

――――


杏子「…………」

杏子「Dioの一件からしばらく身を引いていたが……」

杏子「……また、来てしまった。見滝原」


杏子(……マミ)

杏子(あいつがいつどこで死のうがあたしには関係ない……とは頭で思っていても……)

杏子(マミが生きていてよかったと、心からホッとして……安心している奇妙なあたしがここにいるんだよな)

杏子(……それはまあいいとして……キュゥべえ曰く、さやかってやつが、契約したとの話だ)

杏子(他人のために一度きりの奇跡を使うなんて、馬鹿なことだ)

杏子(だが……Dioがそれをさせてしまった。いや、あたしのせいでもある)



杏子(あたしはDioに言われるがまま、ほむらって奴を誘導してしまった)

杏子(そしてDioをはたくさんの人を傷つけた。あたしも、記憶にはないがほむらを負傷させてしまったらしい)

杏子(そのせいでさやかは契約した)

杏子(マミを救うには、従うしかなかった)

杏子(いや、本当にそうなんだろうか。今思えば他に何か手だてはあったんじゃなかろうか)

杏子(……そもそも何故救おうと思ったのか、そこんとこだが……あたしにもようわからん)


杏子「…………やれやれだぜ」


~~~~~~~~~~


――Dioがマミを襲撃した夜。


ガチャ


Dio「全く……あの部屋はどうも落ち着かん。芳香剤というものか、文字通り鼻につく」

クンクン

Dio「ん……外の空気、良い匂いだ。空気がどうとかではなく、他の住人の料理の匂いがプンプンする。集合住宅だからな」

Dio「スパゲティ、ステーキ、ピッツァ……む、この匂いはシチューか。くそ忌々しい」

Dio「食指は不気味に動かないな……」

Dio「とは言え、食欲関係なく何か食っておかないと死んだ事実を突きつけられてるようで気持ち悪い」



Dio「……魔法少女、か。あらかた理解した。スタンドの類かと思えばお伽噺とかとんでもない領域だ」

Dio「素質のある奴が願えば願いを叶えてくれる……それは本当らしい。……契約、か」

Dio「……鹿目まどかと美樹さやか。その二人が今のところ未契約な魔法少女の卵」

Dio(どちらでもいい。どちらかの契約の力を利用してやるとするか)

Dio(都合の良いことにあの二人は友人らしい。一石二鳥というやつだぜ)

恐竜s「シャ――!」

ドシュンッドシュンッ

Dio(恐竜共にジャイロの残り香を記憶させた。まずはジャイロ・ツェペリを捜せ。そして監視しろ)

Dio(もし仲間――ジョニィ・ジョースターとかホット・パンツとか――がいれば……いたらいたらでその時に考えよう)

Dio「色々確かめたいこともあるし、さてこれからどうするか……」



「……テメェ……そこで何してやがる……!」

Dio「ん?」

杏子「マミの家の前で何をしていると聞いてるんだよッ!」チャキッ

Dio「…………」

杏子「キュゥべえからマミが危険だと聞いてきてみれば……! たまたま見滝原に来ていたからよかったものの……」

Dio「……確かにあの白い奴は帰したが、他言が過ぎるな。……フン。まあいい」

Dio「それで、おまえは槍を生み出すスタ……魔法少女だな? ということは佐倉杏子、か? おまえは?」

杏子「質問を質問で返すなッ!」

ブンッ

Dio「……」



サッ

杏子「なっ!? こ、この距離で避け……!」

Dio「無駄だ」ブンッ

ガシィッ

杏子「グッ!? く、首を……!」

Dio「恐竜の動体視力。……いいか、忠告してやる。命が惜しければ俺のいう通りに行動することだ」

杏子「う……うるさいっ! マミに何をした!」

Dio「敢えて答えてやるなら、一つだけ借り物をしただけだ」

杏子「嘘をつくなッ! さっきから話しかけても返事がねーんだぞ!」

Dio「……テレパシーのようなことまでできるのか……ほう、そこまでは聞いていなかった。そして返事がない、か。成る程」




Dio「スタンドに射程距離があるように……ソウルジェムという宝石にもそういうのがあるらしい」

Dio「ソウルジェムが本体から100mばかり離れると『死ぬ』ことが証明された」

杏子「……は?」

Dio「俺の恐竜にマミのソウルジェムを持たせて走らせてみた」

Dio「そして、返事をしなくなったということは……そういうことだ。シカトする理由がないからな」

Dio「俺はてっきり魔法が使えなくなるだけかと思ったんだがな」

杏子「ソウルジェムが……離れ……死ぬ……え? ……え?」ワナワナ

杏子「ど、どういうことだ! テメーッ! つ、つ、つまらんハッタリはよしゃーがれ!」




『さ、佐倉さん……? そこにいるの……?』

杏子「マ、マミッ!?」

Dio「そして再び特定の範囲内にソウルジェムが戻ると、息を吹き返す」

マミ『に、逃げてッ! そいつは危――』

Dio「範囲外だと死ぬ」

杏子「マミッ!? マミッ!」

杏子「…………くそっ!」

Dio「おまえは今、恐怖した。そして頭だけでなく心でも理解した。ソウルジェムは魔法少女の魂であると」

杏子「……ッ!」

Dio「取引しよう。マミの魂と……」




杏子「と、取引……」

Dio「俺には野望がある。願いがある。だがそれを叶えるには邪魔者がいる……願望の成就と邪魔者の排除を両方やるにはチト荷が重い」

Dio「そこで、俺に従ってもらいたい。俺の目的が達成されれば、こいつの『魂』を解放してやる」

杏子「…………」ギリギリ

Dio「……範囲内だと息を吹き返す」


マミ「――佐倉さんを離しなさいッ!」

ダッ

杏子「マミッ!」

マミ「トッカ――」

Dio「フン」

シャッ



マミ「ッ!?」

ガシィッ

マミ「グッ!? ガッ、く……首が……!?」

Dio「リボンも出せるのか……。そして接近し、俺を縛って杏子の救出を優先した」

Dio「……だがな、最初から殺すつもりで来ない奴が俺に一泡吹かせられるはずがない」

マミ(く、首を掴まれたッ! な、何に……?! なにか、蛇のような物に……死角を突かれた……!)


マミ(……ッ!?)

マミ(う、嘘……!? あれは……尻尾!? この男……尻尾が生えているッ! まるで、リザードマンのような……)

杏子(ま、まずい……! 完全にパニックになってる……こ、怖い……! あたしは今……こいつに恐怖を抱いている……!)

Dio「恐竜の身体能力。いいか。この俺にいたいけな少女の首を掴ませるんじゃあない。それも尻尾で」

マミ「ぐく……ふ……恐、……竜」



ギリッ

杏子「グク……ウ……」

マミ「ガフッ……うぅ……」

Dio「圧倒的な力の差に怯えているな。空いてる左手で頭でも撫でてやろうか」

杏子「マミに……ッ! 触るなァ!」

ゲシィッ

Dio「……フン。まあいいだろう。離してやるか」

パッ

マミ「ケホケホッ! ケホッ!」

杏子「ゲホッ! ゲホゲホッ!」

Dio「その汚い靴で俺の脚を蹴るんじゃないと怒鳴りたいトコだが、許してやる。おまえは『仲間』だからな。だから離した」

Dio「ただしこいつは『餌』だ」スッ

マミ「ふ、触れないで――」

メキメキッ

マミ「ッ!?」

杏子「んなッ!?」

Dio「保護色か? コートハンガーは好きか? コートはないがな」

メキメキメキ

マミ「あ、ああ……?! あ……」

杏子「ま、マミが……マミが変形していく……!?」

Dio「スケアリーモンスターズ……マミを恐竜っぽい家具にした、いや、家具っぽい恐竜に……どっちでもいいな」


バァ―z_ン

マミ「」

Dio「インテリアとしてのセンスは最悪だな」

杏子「く、くそやろうが……!」



ガチャリ

Dio「ム?」

Dio「おや……お隣さん? ……騒がしかった?」

Dio「ハハハ、いやぁ、申し訳ない。聞き分けのない親戚の子を教育しなければならなくなってね……」

Dio「ほれ、おまえも頭を下げろ」グググッ

Dio(騒いだら頭握りつぶして頭蓋骨と脳をシェイクしてやる。その後に口封じとして無関係なあいつも殺す)ボソッ

杏子「……ッ!」




Dio「いや、人様から見たらほんのつまらない理由なんでね……はい。あと数十秒ほどしか……かからないから……」

Dio「はい。まことに申し訳ない。はい。済みしだい……すぐ静かに……はい。させるから……はい」ペコペコペコ

Dio「すいませんでした」ペコォーッ

バタン


Dio「……フン! 集合住宅なんかのどこがいいんだ? 気苦労の方が多いのに」

杏子「…………」

Dio「さあ、中に入れ。今日はもう遅いから寝ろ。俺は適当な場所で野宿する」

Dio「おまえはベッドでゆっくりと眠るのだ。戸締まりしろよ」

Dio「コートハンガーはちゃんと片付けておけよ。居間にでも置いておくといい」

Dio「電話がかかってきたら留守番を頼まれてるだとか言っておけ」

Dio「それと、キュゥべえって奴にも言ったが、妙な真似はするなよ。俺はマミの命を握っているんだからな」

Dio「その気になればおまえも殺せる。いいな。返事は?」



杏子「……」

Dio「フン、まあいい。とにかく逃げようだなんて思うなよ」

Dio「明朝、また来るぜ。その時にケータイのメールという機能を使ってまどかとさやかを呼び出すつもりだ」

Dio「いいか、俺がわざわざ予定を話したのは、おまえは妙な動きをするなという釘刺しでもある」

Dio「恐竜におまえの監視をさせることにしている。いいか、どういうことかわかっているな? ……それじゃあな」

杏子「…………」

Dio「……ああそうだ。あともう一つ。年頃の女の子に言いたかないことだが……」

Dio「風呂入れ。臭うぞ」

バタン






杏子「…………」

杏子「………くそぅ……ちくしょう……!」

杏子「マミィ……グスッ」

杏子「どうしろってんだよぉ……あたしどうしたらいいんだよ……」

杏子「あたしに何をすればいいのか教えてくれよ……前みたいにさぁ……うぅ……ヒック」

QB「……今は従うしかない」

杏子「キュゥべえ……」




QB「Dioの目的は魔法少女じゃなくて、魔法少女の素質がある人間だ。……鹿目まどかと美樹さやかって言うんだけどね」

QB「二人を、ある場所に誘い込むという計画らしい。それに君も加えさせられる」

杏子「……それは、今聞いた」

QB「そうかい。それで、何故かは知らないけど、まどかの側には、大抵、暁美ほむらという魔法少女がいる」

QB「彼女は聡明で実力がある。そしてジャイロ・ツェペリという仲間がいる」

QB「……彼女達が助けてくれることに期待して、今は言う通りにしよう。マミを救うためにも」

杏子「…………うん」


~~~~~~~~~~




杏子「…………」

「…………」コツコツ

杏子「……」

「…………」コツコツ


杏子「……何者だ」

ド ド ド ド ドド


さやか「マミさんだと思った? 残念、さやかちゃんでした!」



杏子「……何か、用か?」

さやか「あははっ」

杏子「あ?」

さやか「それにしてもほんと。マミさんのソウルジェム取り返せて、よかったァ~~」

杏子「あ、ああ……」

さやか「ソウルジェムって、魂なんだってね。マミさん生き返ったんだよ」

さやか「魂を、ソウルジェムに詰め込んで……ってね。すごいシステムだねぇ~」

さやか「これなら心臓を貫かれてもソウルジェムさえ無事ならオッケ~」



さやか「マミさんは実際にDioに盗られて、ほむらは何かわからんけど、あんたもまあそういうわけで、そのことを知ってるはずだ」

さやか「ほら見て。あたし、魔法少女になりました。以後よろしくぅ」

杏子「…………」

さやか「魂のない体……か。……ゾンビだね。魔法少女って、ゾンビなんだねぇ……。ゾンビ……か。あはっ。こりゃ傑作だァ~~。ゾンビ、ゾンビィ」

さやか「……ねぇ、魔法少女になって、あんたは後悔してる?」

杏子「…………」

さやか「あたしは正直、後悔してる。マミさん師匠と転校生先輩にゃあ悪いけど」

杏子「…………」

さやか「だって、しんどいもん。魔女狩り」


さやか「ねぇ聞いてんの?」

さやか「あのさ、あたしさァ~~~……『恭介の腕を治す』っつー……願いだったんだよ」

さやか「事故で動かなくなって、バイオリンが弾けなくなった、幼なじみの腕をね」

さやか「こないだ、絶望的だって、もう二度と腕は動かないだろうって診断されたらしい……」

さやか「いやー……治したかったなぁー。恭介の腕……」

さやか「でも結果的にィ、あたしが叶えた願いは……『Dioに傷つけられた人達を治す』ことだった」

さやか「その人達の中には、その恭介も含まれてたからまだいいか……。仕方がない。と、思ってた、けど……」

杏子「……」



さやか「実際はッ! 違ったァッ!」 

杏子「!?」

さやか「あたしの願いは『あんたの尻ぬぐい』でしかなかったッ!」

さやか「あんたのせいだッ! あの騒動ッ!」

杏子「なッ!? ……ち、違うッ!」

さやか「違くないッ! Dioを味方につけて、魔法少女とその芽を潰すのが目的だったと考えるのが自然じゃねーかッ!」

さやか「魔法少女を皆殺しにすれば、グリーフシードの取り分が増えるからな! 見滝原をテリトリーにもできる!」

杏子「ち、違うッ! あれはDioに……」




さやか「あたしゃこんなゾンビみたいな体になって……ッ! こんな奴のために……ッ!」

さやか「最初から恭介の腕を治していればッ! あたしは後悔なんかしなかったッ!」

さやか「魔女と戦うことも! こんな体になることも! 受け入れた!」

さやか「恭介に顔向けさえできないッ! こんな体のあたしは何を言えばいいのやらだッ!」

さやか「たった一つの奇跡を、無駄にして……冷静になればなるほど時間が経てば経つほどムカっ腹が立ってくる! イライラがイライラを呼ぶゥ!」

さやか「」プッツン

さやか「あたしの無念は全て……あんたのせいだ! 晴らさせろォ――ッ!」

パァッ

杏子「ッ!? お、おい! こんなとこで変身して……!」



さやか「あたしは人間をやめさせられたぞ杏子ォ――――ッ!」ジャキィ

ダッ!

杏子「なッ!?」

杏子(ま、マズイッ! 変身して防御しなくてはッ!)

ガキンッ

杏子「グゥッ!?」

さやか「あんたって強いらしいねぇ。一人で魔女を狩れるんだってねぇ……そりゃ欲望丸出しで見滝原を狙うわけだ」

さやか「……でもね、あたしも強くなったよ。マミさんの教育と転校生の戦いっぷり、バトル物の漫画とかを見て戦い方を覚えた!」

さやか「あたしはこれから、正義のために戦う! だから使い魔をわざと逃がして人を襲わせるようなことするあんたは悪だッ! あたしが知らなかったと思うか!?」

杏子「ッ!」

さやか「使い魔を放つということは、一般人を間接的に殺すことッ! 人殺しめッ!」



さやか「あんたの罪は、法律では裁けない……。だから、あたしが裁くッ!」

ギリギリギリ

杏子(お、遅れをとってしまった……! この姿勢では押し負けるッ!)

杏子(嘘だろ……! あたしは、こいつよりも経験があるのに……なんで、不利な姿勢とは言えあたしが押し負け……ッ!)

杏子(違う……力じゃない! 力で負けているのではないッ! スゴ味だ。あたしは、精神的に圧されてる……ッ! このままだとヤバイ! 行動せねば……ッ!)

さやか「あんたの反射神経を覚えた!」

さやか「ほらほらほらほらほらァ――ッ!」

ガキッガキンッガッ

杏子「う、うおっ! くっ! は、早いッ!」

さやか「あんたがどれだけ踏み込めるか覚えたッ!」

杏子「グッ……ナメんなッ……!」

杏子(剣をはじき落としてやるッ!)

バッ

さやか「ッ!」

ザシュッ



さやか「ゲハッ!」ドバッ

杏子「あ……!」

さやか「あ……あぁ……? ……え?」

さやか「生……生ァ……ナマッ、生暖っかいものが……あたしのお腹から……血、なのか……?」

ポタポタ

さやか「血っ……血がァ~~~! 血が出てるゥ……」ガクッ

さやか「ひでぇ……こ、こんなに血が……」

さやか「う……うぅぅ……ふえぇぇぇん……あんまりだぁ……」ポロポロ

杏子「さ、さや……」

さやか「あんまりだアァァ……! ひどい……ひどいよぉ……そんなのってないよぉ……!」エグエグ

杏子「そ、そんなつもりじゃ……」



さやか「……フフッ」ニタァッ

杏子「え?」

さやか「……フフフックックックッヒヒヒヒヒケケケケケ」

杏子「ひィッ?!」

さやか「ノォホホノォホ、ヘラヘラヘラヘラ、アヘアヘアヘ」ケタケタ

さやか「ウクハハハハ……その気になれば、本当に痛みなんて消せちゃうんだぁ……! ウヒヒヒヒヒヒヒ! ハハハハハハハハーッ!」

杏子「……ッ」ゾクッ

杏子(狂ってやがる……! こいつには勝てない! 本能的勘がそう告げ――)

杏子「……か、勝てない? あたしは今、こいつに勝てないと思ってしまったのか?」

杏子「う、嘘だろ……?」

さやか「ブツクサうっせぇ――! 既にあんたの槍の間合いも覚えたッ!」

さやか「安心しろよ……殺しはしないさ。ただちょっとめちゃくちゃ痛い思いをしてもらう!」



さやか「血液スプラッシュ!」

ブシャァッ

杏子「うあッ!? ち、血が……」

さやか「どうだ! この血の目つぶしは! 勝った! くらえぃ!」

杏子「しまっ……!」

さやか「正義は行われた! あんたが放した使い魔のせいで犠牲になった人の無念を晴らすッ!」

杏子(あたしはいつか……マミを超えたかった……のに……さやかなんかに先を行かれてしまっ――)


ズアァァッ

さやか「手応えがない」

さやか「……後ろかッ!」バッ



杏子「っ!?」

ゴシゴシ

杏子「あ、あんたは……」




ゴゴ ゴ ゴ ゴ

ほむら「……」

まどか「……」

さやか「まどか! ……それに、転校生」ギロリ

まどか「…………さやかちゃん」

まどか(い、一瞬……ほんの一瞬。わたしは……目の前にいる魔法少女がさやかちゃんであることを疑った)

まどか(人違い……そう思って、いや、そうだと期待してしまう程だ……)

まどか(あの目はまるで……だ、ダメ! さやかちゃんを「それ」で例えたくない!)



さやか「なんで、転校生は杏子を抱えてるんだァ……?」

ほむら「降ろすわよ。佐倉杏子」スッ

杏子「ほむら……あたしを助……」

さやか「無視をするなッ! 転校生ィ! ……あんたはそいつの味方をするってのかッ!?」

ほむら「どうかしら」

さやか「あんたは……マミさんもあたしも助けてくれたじゃん……戦い方も教えてくれた。だからさァ……信頼してたんだけどなァ~……」

さやか「何でそいつを助けた? そいつはね……人でなしだよ。悪よ。悪ゥ。あんたはどっちの味方だ! 答えろ! 暁美ほむらッ!」

まどか「さ、さやかちゃん! 落ち着いて!」

さやか「あんたは黙ってろィ! どうなんだコラッ!」




ほむら「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵」

ほむら「あなたはどっち? 美樹さやか。冷静に自分の行動を省みなさい」

さやか「……どう考えても、あたしは『正義』だね。……そして奴は『悪』……いや、邪悪だよ」

さやか「吐き気を催す邪悪とは……自分のために何も知らない他者を利用することだ」

さやか「奴は自分だけの都合で何も知らない一般人の命を餌にした……」

杏子「うぅ……」

ほむら「…………」

ほむら(上条恭介の腕は……)

さやか「転校生ッ! あんたはどうなんだァッ!? 正義か! 悪か!」

ほむら(現段階で『治っていなかった』……ということは美樹さやかの治癒魔法では治せなかったということだ)

ほむら(恐らく、例えば『三日以上経過した傷は治せない』ような……そういう規定があったのだろう)

ほむら(美樹さやかがプッツンしている理由は『正義』ではなく完全に『復讐』ね。……全く、不憫な子。でも同情はしない)



ほむら「人から教わった戦い方を、そんなことに使う恩知らずにとやかく言われる筋合いはないわ」

さやか「あんたはあたしの心を裏切ったッ!」

ほむら「あなたはどうしてそんなに愚かなの」

さやか「謝るなら今のうちだ!」

ほむら「魔法少女に正義も悪もないわ」

さやか「今なら許してやらんこともないッ!」

ほむら「許す? あなたが今しているのは復讐に過ぎないのよ?」

さやか「あたしを再起不能にするつもりだなッ!」

ほむら「さやか・Eとでも名乗ったらどう? Eってのは復讐(エリンニ)を意味するわ」

さやか「返り討ちにしてやるッ!」

ほむら「もう喋らなくていいわ。話が通じない」

さやか「ウオォォォォォォッ!」ダッ




まどか「さやかちゃんッ! やめてッ!」

さやか「まどかァッ! 退けェッ! 巻き添えになるぞッ!」

杏子「くっ……!」

ほむら「ほむ……。やれやれだわ。二人とも、離れて」

まどか「うぅ……」

杏子「…………」

ほむら「……ねえ、まどか。こういう自我を失った人とか自棄になって暴れる死刑囚やらなんらかを大人しくさせるにはね……」

まどか「ほむらちゃん! 危ないッ!」

ブワッ

さやか「うげっ!?」

ドサッ

杏子「!」

ギュッ ギリリッ

さやか「……ッ!? なっ……!」




さやか「マ、マントが! 捻れて……!? し、締め付けられる……!」ギリギリギリ

ほむら「……言葉よりも、力づくで取り押さえるのがてっとり早い。倫理的にどうかってのはさておいてね」

シルシルシル

杏子「て、鉄球……!」

ほむら「時を止めて鉄球をマントに仕組んだ。鉄球の回転はあなたのマントを巻き込んで己の体を締め上げる。回転が続く限りね」

さやか「離せェェェェェッ!」ジタバタ

ほむら「冷静になりなさい。あなたが言っていることは、佐倉杏子にマミを見殺しにしろと言っているようなものなのよ」

さやか「う、うるさいッ! 嘘だ! 奴はDioに協力していたんだ! 敗北したから寝返ろうと嘘をついている!」

ほむら「恐竜化されたのは? 味方だというのなら恐竜になんかされないはず」

さやか「そ、それは……」

さやか「な、何にしてもこいつはグリーフシードのために使い魔を野放しにするような奴ッ! それは間違いない事実ッ!」

さやか「あんたが言ったことだろうがッ! だからあいつはDioを味方につけて素質のあるあたし達と転校生皆殺しにしようとした悪だッ!」

さやか「そうに決まっている! 動機がある!」


まどか「うぅ……」

まどか(今、目の前で倒れている少女が……さやかちゃんじゃないことを、必死に願っている。さやかちゃんだと認めたくないわたしがいる!)

杏子「…………」

ほむら「あなたは次に『みんな騙されている』と言う」

さやか「目を覚ますんだ! みんな騙されてい――――ハッ!」

ほむら「そういう理由で佐倉杏子の事情を話したんじゃあない。あなたに彼女のそういう所も理解してほしかったのよ」

ほむら「あなたならその事実を受け入れられると思って話した。反省をしているようなら許容できる」

ほむら「……あなたの器を過大評価していたわ」

さやか「あんたがそう言うなら……マミさんまで……そうなんだな。……あの人も、奴の味方なんだな……!」

ほむら「不本意な契約をしたこと、あなたの言うゾンビになったこと。そのことで幼なじみと顔を会わせ辛いってこと……理解はしてあげる」

ほむら(だから私はあなたを救ってあげたい。……と、言いたいとこだけど、何を言ってもどうせあなたは私を信用しない)

ほむら(どうしてそんなことになってしまったの……美樹さやか)



シュッ

ほむら「理解はすれど、憐れみはしない。……解放するわ。家に帰って頭を冷やしなさい」

さやか「…………あんたもあの人も信頼してたのに」スック

ほむら「してもいいわよ。しなくてもいいけど」

さやか「…………」

さやか「いいか。これは忠告でもある。あたしは『独り立ちする』と、あの人に伝えろ」

まどか「さ、さやかちゃん……!」

さやか「あたしは、あんたやあの人の誰とも違う。あたしが望むのは正義。正義は勝つ」

さやか「真の正義とは、悪を許さない心だ。悪に同情するのは中途半端な奴のすること」

さやか「器の広さをアピールしたいのかは知らんが、あたしは正義の味方ごっこじゃなくて……真の正義。救世主(メシア)となる……。悪は滅す」

ほむら「……そう」



さやか「……行くよ、まどか」ツカツカ

まどか「え、えっと……」

さやか「まどかァッ!」

まどか「ひっ!」ビクッ

ほむら「……行ってあげなさい」

まどか「……う、うん」トコトコ

まどか(さやかちゃん怖いよぉ……)



ほむら「……ふぅ」

杏子「…………」

ほむら「ケガはしてないわね」

杏子「……あたしに、助けられる資格なんか、ねぇ……」ボソッ

ほむら「……」

杏子「魔法少女なんてのは、いつ死んだっておかしく……ねえんだ」

杏子「だから……別にマミを見捨てたって、よかった……むしろ、その方がよかったんだ……」

杏子「マミのソウルジェムをDioに奪われて……動かなくなって……動揺しちまって……」

杏子「Dioに屈しなければ……ッ! あたしのせいで……」

ほむら「……佐倉杏子。自身の罪に酔ってるとこ悪いけど、私はあなたが襲われていたから助けたんじゃあない」

杏子「…………」



ほむら「近い未来。ワルプルギスの夜がやってくる」

杏子「な……え……? ……ど、どうして、それを」

ほむら「私と共に、ワルプルギスの夜と戦って欲しい。だから、あなたを助けたし、探していた」

杏子「…………」

ほむら「マミも一緒よ。既にマミとも共闘を結んでいる」

杏子「マミが……!」

ほむら「佐倉杏子……私達と共に戦いましょう。ワルプルギスの夜に」

杏子「でも……」




杏子「……あたしは、さやかの言う通り……邪悪なのかもしれねぇ」

杏子「ほむらが来たのは偶然だ……まさに偶然。あたしは全ての意思が断たれていた……勝っていたのはむしろさやかの方……」

杏子「あたしなんかより……さやかを仲間にした方がいい。あいつと和解してくれ。あたしがいたら、それができなくなる……」

杏子「それにあいつは……一人だとダメになるタイプだ」

杏子「あたしはずっと一人だからいいけど、あいつには仲間が必要なんだ。だから……」

ほむら「全ては『結果』よ。佐倉杏子。あなたは選ばれたのよ。何かの力が。だからこうして今生きている」

ほむら「マミはソウルジェムの真実をさやかに伝え、まどかがさやかの感情の濁りに気付いた」

ほむら「私はここにあなたが来るだろうと思ったから、急いで来てみた」

ほむら「あなたが助かったという結果が残っている。杏子……、杏子と呼ばせてもらうわ。自分を責めないで。美樹さやかは私達が何とかする」

杏子「……あたしは『悪』だ」


ほむら「善とか悪とか関係ないわ。私達にはあなたが必要なのよ」

杏子「……ほむらぁ」

ほむら「それで? あなたの答えは?」

杏子「力に……なりたいよ」

ほむら「よろしい。私はあなたを受け入れる。マミの家に行きなさい。マミもあなたを受け入れる」

杏子「ああ……わかった……うん」



ほむら(Dioによって……既にソウルジェムが魔法少女の魂であることが割れてしまったけど、ひとまず、マミと杏子を仲間にはできた)

ほむら(しかし、美樹さやかは暴走状態に入ってしまった。このままでは……きっと、いえ、確実に魔女になる)

ほむら(魔法少女が魔女になるかもしれないことまで知られたらどうなるだろう? 少なくとも、今言えることは……美樹さやかには、それを知られるには非常にまずい)

ほむら(美樹さやか……これは推測だけど、上条恭介の腕を治せなかった後悔を、八つ当たりすることで誤魔化している……)

ほむら(杏子はDioに利用されていたこと事実を、杏子が使い魔を放していた事実に食い潰されてDioへの憎悪が杏子へ向かってしまった)

ほむら(不本意な契約を交わしてすぐに上条恭介の腕に治る見込みがないと宣告された無念、抱きしめてと言えない体になった悲嘆)

ほむら(様々な負の感情が入り乱れ、日を経るごとに増幅し、杏子が姿を消していた故に本人からの弁明がないことでさらに助長して、爆発してしまった。……そんなとこかしら)


ほむら(上条恭介の腕……か)





さやか「…………」ツカツカツカ

まどか「…………あ、あの……」

さやか「何」ジロ

まどか「う……。い、いや、えっと……その……」

さやか「何さ」

まどか「あ、あのね、その……きょ、杏子ちゃんは何も悪気があったんじゃないかなって……」

さやか「何で」

まどか「え、えっと……杏子ちゃんはさ……脅されてたんだよ……?」

さやか「まどかは、気絶してたんだよね。事実はわからない。転校生は脅されているその場を見たわけじゃない」

さやか「あの人もあいつを助けるために嘘をついてる可能性がある。そういう嘘をつける人だ」

まどか「そ、それが嘘かもしれないってことはさ……逆に本当かもしれないって言えないかな」

さやか「……何が言いたいの?」



まどか「な、何も杏子ちゃんを襲うことは――」

さやか「あたしがゾンビになったのにッ!?」

まどか「ひっ!」ビクッ

さやか「人質を救う唯一の方法!? 馬鹿言わないで! みんなを罠に嵌めて! 転校生の腕を吹き飛ばさせて! 恭介を負傷させて! たくさんの人を傷つけて!」

さやか「救うためだとか、絶対嘘だッ! Dioの願いを契約の力で叶わせるという条件で味方につけてグルになっていたと考えた方が自然なんだよッ!」

さやか「使い魔を野放しにして人を襲わせて! 魔女を量産しようとしているような奴!」

さやか「グリーフシードの取り分が減るから皆殺ししようとしたに違いない! そんなのに悪気もヘチマもない!」

さやか「あの一件以来ッ! 人間じゃなくなったあたしは恭介を顔向けできない! ゾンビが見舞いだなんてちゃんちゃらおかしいからだッ!」 

さやか「そんなあたしにまどかまでそういうことを言うのか!? あんたもみんなみんな騙されてるッ!」

さやか「あんたも魔法少女の素質があるから殺されるッ! まどかァッ! 目を覚ませよッ!」

まどか「あ、あぅ……」ジワッ



さやか「ハァ……ハァ……」

さやか「……ごめん……怒鳴っちゃって。ちょいと、興奮した」

まどか「うぅ……グスッ」

さやか「まどか……あの二人はあたしにとっては……杏子の味方だから敵だ……」

さやか「でも、あの二人とあたしは、まどかの味方という共通点がある。だから二人の側を離れちゃあいけない。それで杏子には近づくな」

さやか「あたしは救世主だ。どんな悪の手からもあんたを、善良な一般人を守ってみせる。今はあんたを転校生に任せるけどね」

さやか「まどかが二人の目を覚まさしてあげて……。あんたにはそれができる……あたしにはできない……」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「まどかはさ……契約できる? ゾンビになってでも」

まどか「…………」



さやか「……そりゃそうだよ。そうなると知ったらむしろする方がおかしい」

さやか「絶対に後悔するからね」

さやか「知らないからこそ、魔法少女がいるんだろうね」

まどか「……そう、かもしれないね」

さやか(……でも、あたしは、恭介の腕を治せていれば、後悔なんてあるわけがなかった。本心からの望みだからだ)

さやか(もし叶えられていたら、あたしはこんな体でも顔向けできたはずだ)

さやか(本心からの望みだから……自信が持てたに違いない)

さやか(こんな体じゃ……あたしは……)

さやか「それじゃ……またね」

まどか「…………うん」




まどか「…………」

まどか(わたしはいつだって無力だ……)

まどか(見ていることしかできない)

まどか(落ち込んでいるさやかちゃんに、気にきいた一言をかけることさえできなかった……)

まどか(わたしは……魔法少女になるとしたら、誰かを救いたい。自信を持ちたい。そう考えてはいた)

まどか(今は……まるで契約する覚悟がない)

まどか(ほむらちゃんとの約束があるというのもそうだけど……その事実は……わたしには受け入れられない)

まどか(わたしなんか……誰も救済なんかできやしないんだよ……)

今回はここまで。今夜また再開します。

さやかちゃんのキャラが圧倒的にアレになりましたが、個人的にはそういうキャラのイメージなんですよね……
人間をやめさせられたぞーって言わせたいからこんな展開にしたわけじゃないですよ。人間をやめさせられたぞーって言わせたいからこんな展開にしたわけじゃないですよ。


前作は500レス程度で終わったのにここで400って何かヤバイような気がしてる


――翌日


教室


ほむら「おはよう」

まどか「あ、おはよう、ほむらちゃん」

仁美「おはようございます。暁美さん」

まどか「今日は遅かったね。お寝坊さん?」

ほむら「えぇ。色々とね。折角待っててくれたのにごめんなさい」

仁美「いえいえ、一人暮らしは大変ですものね」

ほむら「そうでもないわ。要は慣れよ。明日からは一緒に登校できるよう善処するわ」

ほむら「寝坊と言えば……美樹さやかは来てないようね」

仁美「えぇ。メールを送ったのですが、返ってこないのです」

まどか「…………」

ほむら「そう。美樹さやかが……珍しいわね」

ほむら「メールを見る余裕がないくらいに重い風邪なのかしら」



仁美「昨日まで元気そうでしたのに……」

ほむら(昨日の今日だから学校に来れるとは思っていないけど……)

ほむら「放課後みんなで寄ってみましょうか」

仁美「丁度いいと言ってはなんですが、今日はお稽古がないので大丈夫ですわ」

ほむら「そう。それにしてもいつも大変ね」

仁美「ふふ、要は慣れですわ」

まどか「…………」

ほむら「まどか?」

まどか「…………」

仁美「? ……どうかなかさったのですか?」

まどか「あのね、二人とも。落ち着いて聞いてくれるかな」

まどか「実は……さやかちゃんは……」



ほむら「……!」

仁美「え……?!」



――昼休み

屋上


まどか「今朝……パソコンのメールをチェックしたんです」


まどか「そしたら……さやかちゃんからメールを受信してました。予約送信システムで今朝届くようになってたんです」

まどか「普段はケータイからメールするので、何か妙に思ったんですが、昨日のことで何かあったのかなと思って開いたら……」

まどか「……要約すると、一人で戦うから探さないでという内容でした」

まどか「何かの冗談かと思って、さやかちゃんのケータイに電話したんだけど、出てこなくて……」

まどか「三回かけたくらいで、さやかちゃんのママが出て……」

まどか「『恐らく夜中の寝ている間に、書き置き一枚を残して家を出ていったようだ』って話を聞かされたの……」

まどか「……ケータイは家に置きっぱなしで、わたしにメールだけ送って……さやかちゃん、本当に家出したみたい」

まどか「昨日……わたし以外は敵だって言ってたから……それで……」



マミ「……美樹さんが、行方不明……」

まどか「はい……」

マミ「昨日、何があったの?」

ほむら「マミはその時いなかったわね。昨日、美樹さやかは杏子を闇討ちしようとしたのよ」

マミ「な、何ですって?! 今までそんな様子はなかったのに……」

ほむら「彼女は杏子がDioとグルだったと勘違いしていて、杏子を庇う私達も敵という認識をしている」

ほむら「ずっと、私達への不信感と憎悪を隠しながら鍛錬して……昨日爆発した。つまりは、私達はさやかに利用されていたのよ」

マミ「……そう、なの」

マミ「昨日、美樹さんと佐倉さん。そんなことがあったのね……」



マミ「私、先輩失格だわ……美樹さんがそんなことをしてたなんて……」

マミ「暁美さん、どうして私を呼んでくれなかったの?」 

マミ「鹿目さんも、どうして美樹さんの異変に気付いていたのに教えてくれなかったの?」

まどか「ほむらちゃんが内緒にしといてって……」

ほむら「あの場にあなたがいたら余計にややこしくなるわ」

マミ「そ、そんなこと……!」

ほむら「あの場面だとあなたは説教をするでしょうね。でも、あの状態になった人間には逆効果なのよ」

マミ「そんな……」

ほむら「ジャイロはジャイロで何するかわからないし」

マミ「…………」

まどか「マミさんは昨日何してたんですか?」

マミ「そのツェペリさんからかっこいいイタリア語を教えてもらってたわ」

まどか「…………」




まどか「あの、杏子ちゃんからは何も聞いてなかったんですか?」

マミ「えぇ……いきなり佐倉さんが家に来て、これから世話になるって……」

マミ「私としては嬉しいんだけど……何で言ってくれなかったのかしら」

杏子「聞かれなかったからな」

マミ「だって落ち込んでたから……」

ほむら「杏子が説明すること前提で連絡しなかったのだけど」

マミ「だとしても一応連絡をくれるのが筋ってもんじゃない?」

ほむら「ごめんなさい」

マミ「……あれ?」



杏子「どうかしたか? マミ」

マミ「…………」

マミ「な、何で学校に佐倉さんがいるのよォッ!?」

杏子「不法侵入したんだよ」

マミ「あ、あなたねぇ……!」

マミ「志筑さんがこの場にいなくてよかったわ……個人的に面識ないけど」

ほむら「大丈夫よ。マミ。私が呼んだようなものだからその辺考慮してる」

マミ「……いやいや、全く大丈夫じゃないわよ」

まどか「杏子ちゃんにも、話しておくことがあるみたいです」

マミ「美樹さんのこと?」



ほむら「ええ。今、取りあえずにね」

ほむら「三日後。みんな予定をあけておいてちょうだい」

杏子「……三日後? 何で?」

ほむら「とにかくよ。三日後、美樹さやか対策会議を開く」

まどか「対策会議?」

ほむら「行方不明になったからといってがむしゃらに探しても埒があかないわ」

ほむら「だから全員で集まって、その時までに私が方針を決めるから……三日後に捕獲作戦を実行する」

まどか「ほ、捕獲?!」

マミ「方針を決めるって……暁美さんが独断で?」

ほむら「当てがあるのよ」



杏子「手札が見えないとあっちゃ信用するしかないね」

ほむら「マミはどうせアレでしょうし杏子も遊ぶのが仕事みたいなもんだし、構わないわよね?」

マミ「勝手にそういうキャラにしないでくれる? 一緒に遊びに行くとかはしないけどクラスメートとしてのお付き合いくらいあるんだからねっ」

杏子「魔女狩りが本職だからな」

まどか「……ねぇ、会議ってどれくらい時間がかかるかな?」

ほむら「そうね……。確か……あ、いえ、結構遅くなると思うわ。だからまどかは家庭のこともあるし……」

杏子(確か?)

まどか「わ、わたしだけ途中退席なんてやだよ!」

まどか「わたしもさやかちゃんを迎えに行きたいよぉ!」

マミ「でも……ご家族が心配するわ?」

まどか「う~……」



杏子「なぁ。その集会はどこでやる予定なんだ?」

ほむら「私の家」

杏子「じゃあ泊まればいいんじゃね?」

ほむら「えっ」

まどか「!」

まどか「ほむらちゃんのお家にお泊まり……それはとっても嬉しいなって」ニッコリ

ほむら「えーっと……」

まどか「……ダメかな?」

ほむら「三日後の明日は学校あるけど……まどかがいいなら、私は別に。構わないわ」



まどか「ウェヒヒッ、よろしくお願いしますっ!」

ほむら「え、えぇ……」

杏子「案外元気だな。まどか」

マミ「少しでも空気を和ませようとしているのよ」

マミ「さて、方針も決まったことだし、今日の放課後は私の家に集まっ――」

ほむら「私はジャイロに会う予定があるの」

まどか「ごめんなさい。わたしもちょっと……」

マミ「…………」

杏子「しょうがねーな~~~あたしが付き合ってやるよ」

マミ「あなた同居人じゃない。でも、一人じゃないって嬉しい」



放課後

――ファストフード店


仁美「ずっと前から私……上条くんのこと、お慕いしておりました……」


仁美「それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません」

「……えーっと」





まどか「それをわたしに言われても……」

仁美「…………そうなんです」

まどか「え?」

仁美「鹿目さんに言っても仕方ないって私もわかっているんです……」



仁美「美樹さんに言わなくちゃいけないのに……」

まどか「さやかちゃんに……」

仁美「当の美樹さんがいなくなってしまって……!」

仁美「美樹さんは上条くんをそう思っているはずなんです……私にはわかるんですから……」

まどか「…………仁美ちゃん」

まどか「……わたしでよければ、全部はき出して」

まどか「仁美ちゃんが抱えてる悩みを、誰かに聞いてほしかったんでしょ?」

まどか「だから、わたしを誘ってくれたんでしょ?」

仁美「……ごめんなさい。気を使わせちゃって」


まどか「気にしないでっ。ため込んでるもの全部はき出してスッキリして欲しいなって」

仁美「鹿目さん……! ありがとうございます……」

まどか「ウェヒヒッ、さやかちゃんが上条くんの事好きなのかなってのは前々から思ってたけど……」

まどか「まさか仁美ちゃんも好きだったなんて……オッたまげたよぉ」

仁美「秘密にしてくださいね」

まどか「うん」

まどか「それで……さやかちゃんに、宣戦布告っていうのかな? 言いたかったんだね」

仁美「……はい」



仁美「ずっとずっと、美樹さんに言いたかった。私はあなたの恋敵だと、宣言したかった」

仁美「しようと思った矢先に! 連絡がつかなくなるだなんて……」

仁美「美樹さんがいないのに、私の思いを伝えるのは……卑怯なんです」

仁美「もし私が美樹さんより先にこの思いを伝えたら、結果がどうあろうとも、私が後悔する……」

仁美「……美樹さんが戻ってこないと、私の恋が前へ進めない」

仁美「……私、美樹さんの事情も知らないで、実際いなくなってしまったというのに、自分のことばっかり……」

仁美「今、美樹さんのことを心配している上条くんに、私という人間は、どうよく思われようかと考えて……」

仁美「あろうことか、あろうことか美樹さんがいなくてチャンスと思っている私も少なからず存在している……」



仁美「自己嫌悪しているんです……」

まどか「そうなんだ……」

仁美「……こんな私の愚痴に、どこまで付き合っていただけるのですか?」

まどか「無論、仁美ちゃんがスッキリするまでだよ。わたし達、親友だもん」

仁美「鹿目さん……!」

まどか(さやかちゃん……どこに行っちゃったんだろう)

まどか(そんな……親にも仁美ちゃんにも上条くんにもクラスのみんなにも。わたし達にまで心配させてまで……どこで何をしているんだろう)


――――
――





――廃墟


ジャイロ「…………」グータラ

「よぉ、こんなとこにいんのか、あんた」

ジャイロ「ん……? ああ、おまえは……」

杏子「あーっと……ジャイアンだっけ?」

ジャイロ「ジャイロだ。ジャイロ・ツェペリ。で、杏子。どうしてここに?」

杏子「いや、そのぉ……まぁ何だ。ほむらからこの辺にいるだろうって言われてさ」

ジャイロ「まぁ、橋の下とか路地裏とか、色々移り移りしてる暮らしているぜ」

杏子「あたしもそうだったよ」




杏子「食うかい?」

ジャイロ「ん?」

杏子「ま、あんたにも迷惑かけたからな……迷惑料ってわけじゃあないが」

ジャイロ「Dioが全て悪いんだ。気にするな。それにほむらと仲間になったってことは、俺ともそういうわけだ」

杏子「……んー、まぁ、その辺はケジメってことで」

ジャイロ「そうか」

ジャイロ「そうそう。おまえさんのことはほむらから聞いているぜ」

杏子「……なんて?」

ジャイロ「浮浪少女」

杏子「間違っちゃあいないが……今はマミの家に世話なってるんだぜ。帰る家があるっていいな」

ジャイロ「ああ、帰る場所があるってのはいいもんだ」


ジャイロ「よかったな。師弟関係だったが仲違いしてた、とも聞いているぜ」

杏子「限られた資源を食うにはテリトリー張って一人で狩るってのが一番だからな」

杏子「世話好きでお節介で……挙げ句に共闘だなんだって、甘ちゃんだからな。まーそこが好きなとこでもあるんだけどさ」

杏子「過程はどうあれ仲直りできてよかっ……何言わせんだテメェ!」

ジャイロ「自分で言ったんじゃあねーか」

杏子「そ、それで、あんたの方は何してるんだ?」

ジャイロ「何って……別に何ってこともないが……」

ジャイロ「おまえは何の用なんだよ」

杏子「ん、ちょっとした相談事」

ジャイロ「相談?」

杏子「……あのさ」

杏子「実は昨日、色々あった後……さやかの家の場所を聞いて……行ってみたんだ」

杏子「そしたらこっそりと家から飛び出るさやかを見つけたんだ」

ジャイロ「さやかを見たのか?」

杏子「ああ。思わず隠れて尾行したんだ。その頃には深夜だったと思う」

杏子「あたしは感じなかったが、使い魔か何かの気配でも感じたのだろうか魔法少女の姿になって、夜の公園を覚束ない脚でフラフラと……」

ジャイロ「それで、どうしたんだ?」

杏子「話しかけようとしたんだが……」



杏子「さやかが、前を歩いてた男二人組の片方と肩がぶつかって……」

杏子「肩が折れたーとか叫んでたからまぁそういう奴なんだろう」

杏子「助けにいこうかと思ったんだけど、突然、さやかがそいつの脚を『斬った』んだ」

ジャイロ「!」

杏子「脚の肉がベロンってなって、そいつは悲鳴をあげて、どっから湧いたのか人が集まってきた。……その時にはさやかは既にいなかった」

ジャイロ「……それ、マジか? 見間違いでなく?」

杏子「マジだ。完全にプッツンしてって感じだったぜ」

杏子「野次馬に紛れて斬られた奴のとこに行ったら暗くて顔がよく見えなかった、日本刀のようなものを持っていた、変なコスプレをしていたってサツに喚いてた」

ジャイロ「…………」

杏子「で、さやかは見失っちまったし、しゃーないからあたしは帰った。そして、今朝……。単刀直入に言う」



杏子「さやかが失踪した」

ジャイロ「……どういう理由で?」

杏子「その反応。まだほむらから聞いてなかった?」

杏子「昨日から家に帰っていない。ケータイも家に置きっぱ。……家出少女と言えば可愛げはあるがな」

ジャイロ「いや、失踪したこと自体は聞いた」

ジャイロ「俺が聞いたのは、『何故、今なんだ』ってことだ。こないだまでは至って普通だったぞ」

杏子「……Dioが原因だろうな」

ジャイロ「昨日、さやかとおまえが喧嘩したって聞いたんだが?」


杏子「……さやかはDioのせいで本当に望んでいる願いが叶えられなかった」

杏子「その恨みを胸に、あたしがDioとグルだと思い込み、あたしを襲撃した」

杏子「それまでのことはあたしは誰とも会ってないからよくわからんが、あたしを殺すためにその憎悪を押さえ込んで鍛錬していたっぽいんだ」

杏子「で、その憎悪が爆発してさやかはあたしを殺そうとして、ほむらに助け垂れた。偽善者なほむら達とはこれ以上一緒にいられないってな。で、今」

ジャイロ「なるほど。わかりやすいな」

杏子「なぁ、ジャイコ」

ジャイロ「ジャイロだ! 二度と間違えるな! 俺の名はジャイロ! ジャイアンでもジャイコでもない!」

杏子「すまんね。……で、あたしはどうすればよかったんだ?」

杏子「やっぱあの時追った方がよかったのかな」

杏子「ほむら達は今日知ったが、あたしはさやかが失踪する瞬間を見ていたんだ」

杏子「マミにどうして黙ってたんだ、って怒られたらどうしようって思って言えなくてさ……」

杏子「あんたなら冷静に聞いてくれると思って、話した」



ジャイロ「……そうだな。追わなかったという選択が正解だ」

ジャイロ「もし下手に動いてさやかに気付かれてたら何されたか……」

杏子「…………」

ジャイロ「怖いのか?」

杏子「いや……経験はあたしの方がある。本気で戦うとなれば、あたしは負けるはずがない」

杏子「あの時は……気圧されたというか、油断したというか、人殺しの目をしてたというか……とにかく躊躇しちまったんだよ」

杏子「あたしらしくねーことだけど、怖いというより心細い」

ジャイロ「何でもいいが、黙っていたのはいただけないがな」

杏子「……そうだな」

ジャイロ「それで? 話はこれだけか?」

杏子「ん、それだけだ。まぁ、挨拶しておきたかっただけさ。じゃあな」

ジャイロ「おう」



――
――――


ほむら「こんにちは、ジャイロ」

ジャイロ「今日は来客が多いな」

ほむら「杏子が来たの?」

ジャイロ「ああ。心配してるようだった」

ほむら「そう……。根は優しい子だからね」

ジャイロ「……それで?」

ほむら「なに?」

ジャイロ「それで? と言ったんだ。俺にどうしてほしい?」

ほむら「話が早くて助かるわ」




ほむら「あなた、確か医者なのよね」

ジャイロ「本職は法務官だがな」

ほむら「手術で回転の技術って使うのよね。前に言ってた気がする」

ジャイロ「回転は処刑と医術のために発展したモンだ」

ほむら「確か回転で視神経を繋げて失明を治す手術とかあるのよね」

ジャイロ「……何が言いたい?」

ほむら「断裂した腕の神経を何とかすることは?」

ジャイロ「回りくどいこと言ってないでとっとと言え」

ほむら「上条恭介の腕を診てほしい」

ジャイロ「さやかの大切な幼なじみのことだな。Dioの襲撃の後、一度だけ伝言のために会った」

ほむら「そうよ」



ジャイロ「ダメだ」


ほむら「…………」

ほむら「それは……治せないという意味? したくないという意味?」

ジャイロ「よく診てみないとわからんからな。後者の意味合いで言った」

ほむら「何故?」

ジャイロ「『納得』しないからだ。納得は全てを優先する」

ほむら「……納得?」

ジャイロ「今、そいつの腕を治したとして、さやかはどうなる?」

ほむら「喜ぶ?」

ジャイロ「いいや、余計に話が拗れるな」



ジャイロ「仮におまえは『まどかを守るとかどーでもいーや』と思って何も対策をとらないとする」

ほむら「…………」

ジャイロ「これは例え話だ。……で、もしマミと杏子が二人でまどかとさやかを契約させずにさらにワル何とかを倒しちまったらどうなる?」

ほむら「……私はいらなかったんだって思う」

ジャイロ「そうだ。壁越推量だがその後おまえは無力感に悩まされて生き続けるだろう」

ほむら「いえ、多分自殺するわ。時も止められないし、何も出来なかった最弱の魔法少女になるし」

ジャイロ「所詮例え話だしどうでもいいわ。で、本題はさやかだ」

ジャイロ「さやかの望みは彼の腕を治すことだ。それが叶えられなかったからといって俺が治してしまえば……」

ほむら「美樹さやかは自分の存在価値を見失うと?」

ジャイロ「そういう解釈もアリだ。願う必要がなかったんだからな。さやかは無力感に精神が押しつぶされる」

ジャイロ「……いや、あいつのことだから悪者が大切な幼なじみに手を加えたとキレて治すどころじゃないな」



ジャイロ「そもそも一番大事なのは患者の意志だ。いきなり現れたこんなナリの奴が腕を治すなんて言ったらどうなる?」

ほむら「どうみても医者じゃないものね。歯にゴーゴーとか書いてある人……もう色々とアレだし」

ジャイロ「喧嘩売ってんのか。まぁ、自称さやかと面識があるらしき不審者だからな。彼にとっての俺は」

ジャイロ「そんな奴が医者でも……信頼している幼なじみの後押しがあればまた変わるはずだ」

ジャイロ「何にしてもさやかが納得する選択をしなければならない」

ジャイロ「俺達が自分勝手に満足してはいけないんだ。納得しなければ先へと進まない」

ほむら「……三日後」

ジャイロ「ん?」

ほむら「三日後、進展させるわ」

ジャイロ「それならいいんだがな」





三日後


――屋上


マミ「美樹さんが行方不明になって三日……。美樹さんから接触はあった?」

まどか「ありません……。マミさんはどうでした? ほむらちゃんは?」

マミ「特にないわ。暁美さんも無理に捜さないほうがいいと言ってるし……」

ほむら「キュゥべえが言うには少なくとも生きてはいるみたいよ」

ほむら「そういうキュゥべえはさやかに口止めされているし、そもそも一定の場所に留まっていないらしいわ」

まどか「……わたしがあの時、励ましの言葉なり言えてれば……」

ほむら「まどか、あなたが気にすることはないのよ。引きこもるならまだしも、失踪するなんて誰も予想できなかった」

まどか「はぁ……」

杏子「捜しだして無理矢理しょっ引いてやりたいな。あたしじゃ刺激するだけだけど……あいつには家族がいる。心配してくれる奴がいるから……」

マミ「佐倉さん……。あなたが行けば私達が心配するじゃな――」



マミ「って佐倉さん……」

杏子「よっ」

杏子「忍び込んできた」

マミ「もう! 佐倉さんったら。学校に来ちゃダメって言ったでしょ?!」

杏子「いいじゃん。バレなきゃ」

ほむら「心細いんでしょ」

杏子「…………」

ほむら「いつも通り外を出歩いてもどこかで美樹さやかにエンカウントするかわからない」

ほむら「かと言って家にいても落ち着かないしマミの家ということで美樹さやかが尋ねてくる可能性がある」

まどか「……怖いの?」




杏子「ちげーし! ちっげーし! 何馬鹿言ってくれちゃってんの!?」

マミ「まぁ……ごめんね。気を使ってあげられなくて」

杏子「違うっつってんじゃん!」

マミ「ギュッてあげるわ」

杏子「バーカ! バーカ!」

まどか「あ、あはは……」

マミ「あなたはもう独りぼっちなんかじゃないんだから、いつでも頼ってくれてもいいのよ」

マミ「学校に忍び込むのはいただけないけども」

杏子「う、うん……」


杏子「いや、まぁ……何て言うか」

杏子「元はと言えばあたしのせいだし……」

マミ「大丈夫。美樹さんと絶対仲直りさせてあげるから……」

杏子「……うん。あたし……実は、ほんとは「マミパイで圧迫祭りして」ほしかったり……」

杏子「アフレコすんな」

ほむら「ダメかしら」

まどか「……今のはないよ。ほむらちゃん」

ほむら「ちょっと妬いちゃったわ」ファサ

杏子「なんだよ……からかうなよ……」

マミ「あらまぁ。それじゃあ、暁美さん、ギュッてしてあげる」

ほむら「……いいの?」

まどか「!」

ほむら「ほんとに抱きしめてくれる? 頭も撫でてくれる?」

マミ「えぇ。もちろん」

ほむら「でも断る」

マミ「……」



まどか「じゃあわたしがっ」ギュッ

ほむら「ちょ、ま、まどか、じょ、冗談のつもりだったのに……っ」

まどか「わたしも力になりたいなって」ナデナデ

杏子「……」ジー

マミ「……」ジー

ほむら「は、恥ずかしいからやめて……///」

ほむら「そっ、それよりも美樹さやかのことよ」

マミ「それもそうね」

ほむら「取りあえず、三日前話したでしょ。今日、集まって話し合うわ」

杏子「おう」

マミ「ええ。ちゃんと予定を空けておいたわ」

まどか「わたしもパパとママに言っといたよ」



まどか「ほむらちゃんちにお泊まりっ♪」

マミ「メインは美樹さんのことなんだけど……」

まどか「ウェヒヒッ、もちろんわかってますよぉ~」

杏子「それで? 具体的に何を話すんだよ」

マミ「私も日にちを設定したあたり、少し気になってたわ」

ほむら「今日がタイミングいいという意味合いよ」

杏子「タイミング?」


ほむら「美樹さやかを迎えに行くわ」



――ほむら宅


ほむら「――と、言うわけで、みんなに集まってもらったわけだけど」

まどか「ほむらちゃんのおうちー」

マミ「な、何だかすごい部屋ね……」

ほむら「魔法でちょっと……ね」

ジャイロ「……こいつがワルプルギスの夜ってやつか?」

ほむら「えぇ。そうよ。……そうね」

ほむら「本題は美樹さやかだけど、予めワルプルギスの情報でも見ておいて」

ほむら「これがワルプルギスの資料よ。渾身の出来」

マミ「へぇ……」

ほむら「その間にお茶を淹れるわ」

杏子「お茶菓子はあるのか?」

ほむら「開口一番にそれなの? ちゃんと用意してあるから座ってなさい」

まどか「ほむらちゃん。手伝うよっ」

ほむら「いいのよ。まどか。お客さんなんだから」

まどか「お泊まりしてお世話になるんだからそれくらい……」

ほむら「いいのよ。座ってて」

まどか「むー」



ジャイロ「出没地……戦場ではビルが宙を舞う。大きさ……攻撃パターン……」

ジャイロ(何度かループしただけある。悪くない情報だな)

杏子「何かほむらの秘密はないだろうか」ゴソゴソ

マミ「こらこら、人の家の物を漁ろうとしないの。でも私も気になっちゃう」

ジャイロ「他人のものを盗み見る教育を受けて育ったのか?」

杏子「学校行ってない」

ジャイロ「行けよ」

杏子「行ったらマミに怒られるもん」

まどか「そういう意味じゃないよ杏子ちゃん……」

杏子「お、眼鏡発見。そういや視力は悪いんだってな」

まどか「ほむらちゃんは赤渕派なんだね」

マミ「眼鏡っ子時代の写真とかないかしら」

まどか「アルバムとか見てみたいなって思ってしまうのでした」

ほむら「実家にあるわ」



杏子「げっ」

マミ「あっ」

まどか「ぎくっ」

ほむら「人の部屋を漁ろうだなんて余計なことを考えないで」

ほむら「はい。お茶とクッキー」

まどか「い、いただきまーす」

杏子「うめぇ」サクサク

ほむら「さて、と、美樹さやか対策会議開催よ」

ほむら「まぁ、こうやって集まって話す機会もなかったし、ついでに色々話しておきたいことを話したいわね」

ほむら「……ところで、ワルプルギスの資料を見て何か思ったことはあるかしら?」

杏子「すまん。見てない」

ほむら「だと思ったわよ」

マミ「残念ながら、私も強力であることしかわからないわ」

まどか「マミさんも見てないけどね」

マミ「ギクリ」



まどか「ほむらちゃん。そういう話はさやかちゃんを加えてから話し合うべきじゃないかな」

まどか「さやかちゃんを迎えにいってから……」

ほむら「それはそうだけど……やっぱり、気になって落ち着かないのね」

まどか「うん」

ほむら「ワルプルギスの話も大事だけど、まずは本題である美樹さやかのことね」

マミ「はーい」

杏子「うーい」

ジャイロ「…………」


ジャイロ「……なあ、ほむら。今……歌思いついた。考えたのよ。作詞作曲、ジャイロ・ツェペリだぜ」


杏子「は?」

ジャイロ「聴きたいか? 歌ってやってもいいけどよ」

ほむら「ずいぶんあなた……暇そうじゃあないの……」

ジャイロ「聴きたいのかよ? 聴きたくねーのか? みんなはどうなんだ? ……俺は二度と歌わねーからな」

まどか「…………」

マミ「…………」

ほむら「…………じゃあ、聴きたい」

ジャイロ「そうか。いいだろう。タイトルは『魔法少女の歌』だ。オホン、ン、歌うぜ」

まどか(何を考えてるんだろう……)



ジャイロ「ほむら☆マギカ♪ ほむら☆マギカ♪」

ジャイロ「ほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむ♪」

ジャイロ「ほむら☆マギカ♪」



ジャイロ「……つぅ――歌よ。どォよ? 歌詞の2番は『巴☆マギカ』で繰り返しよ」

ジャイロ「マミマミマミマミマミマミ……♪ ちなみにマギカっつーのはラテン語で『魔法の』って意味ね」

ほむら「…………」

杏子「…………」

まどか「…………」

マミ(ラテン語! そういうのもあるのね!)




ジャイロ「……どよ? どうなのよ?」

ほむら「いいわジャイロ。気に入った」

ジャイロ「マジすかッ!?」

ほむら「あっ……ヤバイわ! スゴクいい! 耳にこびりつくわ! ほむほむのとこが」

ほむら「傑作って言うのかしら……癖になる! 動画投稿サイトなら視聴回数ミリオン越え間違いないわ!」

ジャイロ「マジすか! マジそう思う? 実は俺も密かにそう思うのよ。だろォ~~~!? 譜面にできる?」

ジャイロ「ただよォ~……杏子はどうするか考えてないんだよ。三番の歌詞な。キョーキョーじゃ言いづらいし、佐倉からとってサクサクってのも気に入らねー」

ほむら「あんあんでいいわ。あんあん」

杏子「おい」

ジャイロ「何でだ? キョーコって名前だろ」

杏子「うん」

ほむら「あんあんでいいのよ」

杏子「おい」



まどか「…………ねぇ、真面目にやろうよ」

ほむら「ほむほむほむほむ♪」

まどか「……」

マミ「…………」

マミ「マミマミマミマミ♪」

まどか「!?」

杏子「…………」

杏子「あんあんあんあん♪」

まどか「!!??」

まどか「…………遊んでる場合じゃないのに」

まどか(……まどまどまどまど♪)

ジャイロ「さやかはどうしようかねぇ」

マミ「で、その美樹さんは今どこにいるのかしら」

まどか「急に本題に回帰したよ。流石マミさん」

杏子「ほむら、今夜迎え行くって言ったよな。居場所、知ってるんだろ?」



ほむら(今までの時間軸からすれば、居場所は全く分からないということもない。時期や動機が違うから確証はない……が、ただ一つだけ確かなことがある。それは……)

ほむら「……『シートン動物記』の著者E・T・シートンは『追跡不可能な動物はいない』と言ったわ」

杏子「動物扱い!?」

マミ「プロファイリングとかと言ってあげて……」

まどか「そ、それで……さやかちゃんを追跡できるの!?」

ほむら「簡単なことよ。魔女と使い魔が現れるとこにいるわ」

ジャイロ「さやかにとっては、魔女・使い魔退治が正義の形。その正義が……今の美樹さやか唯一の心の支えみたいなもの。先回りしようってことだな」

ほむら「Exactly(その通りよ)」

杏子「……で、でもよ、魔女も使い魔もどこに現れるかなんて……」

ほむら「私にはわかる」

マミ「え? どういうこと?」


ほむら「使い魔はちょっと自信ないけど、魔女の出現位置は大体わかる。今日がその日」

杏子「ワルプルギスのことも言ってたし……予知の能力でもあるのか?」

マミ「……ま、まあわかるならそれに越したことはないとして、……でもそこに美樹さんも現れるとは限らないわ」

まどか「もしかしたら……もう遠いとこに行っちゃったのかも」

ほむら「美樹さやかには迷いと未練がある。だから少なくとも見滝原にいるはずよ。多分」

まどか「未練? ……ってちょっと待って、今小さく多分って言わなかった?」

ほむら「大丈夫よ。美樹さやかは大体でいいの。見滝原にいるなら、見滝原の結界に現れる」

ジャイロ「で、何故いると言えるんだ?」

ほむら「彼女の上条恭介に対しての思いはなんだかんだで私はよくわかってる。本人自身が口で否定するようなことまでね」

ほむら(それに今まで幾多の時間軸で、何が起こっても美樹さやかが探せないほど遠くへ行くことはなかったもの。確か……多分)



ジャイロ「ほう」

まどか「いつの間にそんな仲良くなってたの……?」

ほむら「別に仲良くないわ」

ほむら「それじゃ、美樹さやかの捕獲は魔女・使い魔待ちということで……。みんな。『二つ』話しておくことがあるわ」

杏子「話しておくこと?」

ジャイロ「……あの話か?」

ほむら「えぇ。そうよ」

まどか「あの話?」

ジャイロ「前もって言っておくが……。これから話す二つのことは全て事実だ。誰にも真偽を証明する術はないがな。俺は信用したが」

ほむら「だからみんなも信じて欲しい。もしも、実は私は吸血鬼でしたとか言い出しても信じてちょうだい」




まどか「……? よくわからないけど、今更わたしはほむらちゃんのこと疑わないよ」

マミ「……重要なことなのね。わかったわ」

杏子「何かヤバそうな話って感じだな……」

ほむら「一つ目は、もし美樹さやかが無茶をしてて、見つけた時には既にソウルジェムが穢れきっていた場合を想定してみんなを混乱させないよう予め話しておきたいこと」

ほむら「二つ目は、私の目的……もとい、私が何を願って魔法少女になったか教えてあげる」

ジャイロ「三つ目として俺のことも話していいか」

ほむら「好きにしてちょうだい」

まどか「ソウルジェムが穢れきると……?」

マミ「それなら別に……穢れきったら魔法が使えなくなるんでしょ?」

ほむら「キュゥべえにそう言われたの?」

マミ「……いいえ」

ジャイロ「わかんねーか。ソウルジェムはおまえ達の魂だ」



まどか「ま、まさか死――」

ほむら「死ぬだけならまだいいわよ」

マミ「……あ、暁美さん。何を隠しているの?」

ほむら「私は隠してなんかいない。言えなかった、ってより言わなかっただけ。あなた達にとって辛く厳しい現実だから」

杏子「……言えよ」

ジャイロ「もし錯乱して暴れるようなら……ちょっと手荒なことをするかもしれねー」

まどか「ど、どれだけの……秘密が……」

ほむら「本当は前もって言っておきたかった。でも、なかなか言い出せなくて……」

マミ「……いいから言ってッ!」

ほむら「……いい? マミと杏子。覚悟を決めなさい。これから美樹さやかを捕まえにいくんだから絶望しないでよ」

マミ「……」ゴクリ

杏子「……お、おう」

ほむら「ソウルジェムが完全に穢れると――――」






――
――――


さやか「うおおおおおおお!」

使い魔「」スカッ

使い魔「」スカッ

さやか「スティンガァ――――ッ!」

ザシュッ

魔女「」ブシャッ

さやか「ゲフッ……よし。全滅」ボタボタ

さやか「脇腹を貫かれて……向こう側の景色が見えそうだな……」

さやか「……途中で左目を犠牲にしたのはまずかったかな。まあ治すからいいけど」

パァッ



さやか「……ふぅ」

QB「さやか」

さやか「キュゥべえ。……何の用?」

QB「グリーフシードを回収にきたよ」

さやか「へぇ……今度はあの人から戻ってくるよう言えと言われたとかそういう伝言じゃないんだ」

QB「どうせ聞く耳持たないだろう」

さやか「まあね」




QB「……君の戦い方は合理的ではない。マミ達から教わった戦い方も無視している」

さやか「うっさいな。関係ないでしょ」

QB「その代わりと言ってはなんだけど、君は僕が見てきた中で最も早く成長している」

QB「この短期間でよくここまで強くなったものだと舌を巻くよ」

さやか「あたしは強くならないといけないんだよ……ほむらとあの人を超えて……本当の意味での救世主になるんだ……」

さやか「それに、治癒魔法を極めないといけないの。でも、負傷した人は見たくない。だから、こうして自分をたくさん治して熟練度をあげる」

さやか「今のあたしの治癒魔法じゃ、恭介の腕は治せない。だから、極めないと。頑張って熟練すればきっと、あれくらい治せるようになるはずだ……ならないといけない」

QB「可能性はあるかもね。でも……」

さやか「何」



QB「僕にはグリーフシードの無駄遣いに見えるね」

さやか「あっそ。はい、使用済み」

QB「キュップイ」パクッ

QB「この様子だとちゃんとソウルジェムの穢れの管理はできてはいるようだし……僕はあれこれ口だしはしないよ」

さやか「…………」

さやか「……そういやさ、ソウルジェムって濁りきるとどうなるの?」

QB「濁らせないに越したことはないよ」

さやか「仮に、だよ、もしもだよ」

QB「魔女になるよ」

さやか「は?」



さやか「……今、何て言った?」

QB「ソウルジェムは持ち主が絶望するなりして穢れきると、グリーフシードになる。つまり魔女になるんだ」

さやか「う、嘘……」

QB「本当だよ」

さやか「嘘! だ、だって……そんなこと……聞いてない」

QB「言ってないからね」

さやか「じょ、冗談、だよね……?」

QB「本当だよ」

さやか「そ、そんな……なんで……」

QB「いやなのかい? ソウルジェムさえ無事なら死なない。便利な体じゃあないか」

さやか「…………」



さやか「あ、あはは……」

さやか「ゾンビ……だけじゃなかった……」

さやか「魔法少女って……魔女の卵だったんだねぇ……」

さやか「……そりゃそうだよね。あたし、死なないことに託けてあんなに無茶して……それくらいの代償……あるよね」

さやか「じゃあ今まであたしが殺してきた魔女って……」

さやか「……人殺し、か……。はは、なにそれ……あたしが言えたことじゃないじゃん」

さやか「…………」

さやか「魔女になるなら……死ぬしか…………ないかなぁ…………」

さやか「あはは………もうあたし、ヤバイかなぁ……あははは」

さやか「ははは……はは、は……」

さやか「………………」








「そこちょっとシ・トゥ・レィ~~~」0 ← レイ


さやか「…………」

ジャイロ「よっ。探したぜ」

さやか「…………」

ジャイロ「おいおい。何シカトしてくれちゃってんのよォ~……まあいい。隣座るぞ」

さやか「…………」

ジャイロ「黒いなぁおまえさんの魂。これ、グリーフシードの土産。使いかけだけど」

さやか「…………」

シュゥ…

ジャイロ「浄化完了、と」



QB「ジャイロ。どうして君がここに……」

ジャイロ「おい、どういうことだキュゥべえ。こいつは何で落ち込んでいる?」

QB「僕は事実を話しただけだ」

ジャイロ「……そうかよ。ほれ。使用済みだ。くれてやるぜ」

ポイッ

QB「キュップー」パクッ

QB「……うん?」

グルゥッ

QB「あれ? どうして僕は後ろを向いているんだ?」

トテットテッ

QB「あ、あれ? 何が……? どうして僕の体は……」

ジャイロ「グリーフシードを回転させておいた。そのまま回転に操られて失せな」

QB「ぼ、僕は邪魔って、わけ、かい?」

ジャイロ「ああ。邪魔だ」

QB「わけがっ、わからっ、ないよっ、そうならっ、そうとっ、言ってっ、くれればっ、いいのにっ」トコトコ



ジャイロ「……」

さやか「……何の用?」

ジャイロ「魔女化を防いでやった感謝の言葉は?」

さやか「何の用、と聞いているのよ」

ジャイロ「…………」

ジャイロ「んー、なんだ。ちょっと聞きたいんだけどォ~」

さやか「…………」

ジャイロ「『さやさや』と『みきみき』……どっちが良いよ?」

さやか「…………」

ジャイロ「おいおいおい、聞いてんだろォ~がよォ~。もしもォ~し?」



ジャイロ「あのな? 魔法少女の歌があんだよ。作詞、作曲ジャイロ・ツェペリね」

ジャイロ「んで、おまえも魔法少女だから4番の歌詞として追加しようと思っているんだが……オホン、ン」

ジャイロ「さやか☆マギカ♪ さやか☆マギカ♪ ……の後が問題でよォ~~」

ジャイロ「さやさやさやさやさや……♪ もしくは、みきみきみきみきみきみき……♪」

ジャイロ「……どよ? どっちが良い? 美樹さやか。ちなみに1番の歌詞はほむら☆マギカとほむで繰り返しよ」

さやか「………馬鹿じゃないの」

ジャイロ「ノリが悪ぃな。じゃあ俺が勝手に決めるぜ。さやさやな。さやさや」


ジャイロ「さやさやさやさやさやさや♪」

さやか「……空気読んでよ」

ジャイロ「空気は吸うモンだ」

さやか「一人にしてっつってんの」

ジャイロ「嫌だね。家出少女は家に帰れ」

さやか「……魔法少女が魔女になるなら……みんな死ぬしかないんだよ。だったら、誰にも迷惑をかけずに……」

ジャイロ「魔女にならなきゃいい話だろうが。ほむらもマミも杏子も、全員そうやって生きてきた」

ジャイロ「大体、それを覚悟して契約したんだろうが。抜き差しならない状況だったとは言え、覚悟があるとおまえ言ったじゃあねーか」

さやか「他人事だと思って……!」

ジャイロ「つっても俺は既に死んでるからな」


さやか「死ん……? え?」

ジャイロ「不思議に思わないのか? 俺にキュゥべえが見えるのは」

ジャイロ「俺はな……『異次元の人間』だ」

さやか「ハァ?」

ジャイロ「今から百年以上前、俺は死んだ。そして魔女の力でこの世界に呼び出されたんだ。あの世からじゃあないぜ。多分」

さやか「……馬鹿じゃないの」

ジャイロ「じゃあ魔法少女でない俺にキュゥべえが見える理由を説明してみろよ」

さやか「……あんた、使い魔なの?」

ジャイロ「わからんね。ひょっとしたらそうかもな」

ジャイロ「異次元の死んだ魂を呼び寄せる魔女とかいても不思議じゃない」



さやか「…………怖い?」

ジャイロ「ん?」

さやか「死ぬって怖い?」

さやか「……あんたはどんな思いで死んだわけ?」

ジャイロ「……そうだな」

ジャイロ「…………」

ジャイロ「俺にはよォ……気の置ける奴がいるんだよ。生前の話な」

ジャイロ「そいつは俺の親友でもあり、回転の弟子でもあり、ライバルでもあった……。俺はそいつにできる限りのことを教えた。そして俺はそいつから多くのことを学んだ」

ジャイロ「はっきり言って凄い奴さ。俺はそいつを死後の今でも尊敬している。そいつとの出会いは偶然だが、今でこそそれは運命で、なるべくしてなったのだと信じている」

ジャイロ「で、話を戻すと……俺は自分の運命全てに納得していた。彼に出会えて、そして技術を託せたからな」


ジャイロ「だから、死ぬことそのものは、別に恐怖ってわけじゃなかったな」

さやか「…………ふぅん」

ジャイロ「おまえはどうなんだ」

さやか「…………」

さやか「……あたしが怖いのは」

さやか「あたしが怖いのは……魔女になること。あんなのと同じに……なること……」

さやか「だけど……それよりもっと怖いことがある」

さやか「それは未練があるということ。その未練ある限り、あたしは死にきれない」

さやか「それを解消さえできれば……死ぬのも魔女になるのも別に怖くないかもしれない」

さやか「その未練を克服する……今のあたしは、それが生き甲斐。それ以降なら……案外魔女になるのも受け入れられるかも」

ジャイロ「寂しい奴だねぇ」

さやか「うるさい! こんなゾンビみたいな体になって! あたしは! あたしは……!」

さやか「こんなことなら『魔法少女』なんて最初から知らなければよかったッ!」

さやか「奇跡も魔法も、なければよかったッ! 期待しなけりゃよかったッ!」

さやか「こんな体じゃキスしてなんて言えないよ……」



ジャイロ「…………」

ジャイロ「魔法はさておきだが」

ジャイロ「ツェペリ一族は奇跡の存在を信じている」

ジャイロ「おまえが魔法少女の素質を持ち、願いを叶える資格を得たことは奇跡だと思う。Dioにその奇跡を食いつぶされたがな」

ジャイロ「俺がこの世界に来れたのも、おまえ達と出会えたのも、奇跡だと思うし俺はそれに感謝しているんだ」

ジャイロ「俺はその奇跡に敬意を表して、その奇跡に報いたいと考えている」

さやか「…………?」

ジャイロ「俺は、医者でもある。手術の経験がある」

さやか「……だから、なに」

ジャイロ「恭介って坊主の腕を治せる可能性がある」

さやか「ッ!」ガタッ



ジャイロ「座ってろ。これは俺個人の気持ちだが……」

ジャイロ「Dioが潰した『感謝すべき奇跡』を何とかしてやりたいと思っているんだ。同じ異次元の者の責任としても、な」

さやか「……ほ、本当?!」

ジャイロ「回転の力で、断裂しているであろう神経を繋げるんだよ。実際に診てみないとわからんが……鉄球の回転があれば、可能性はある」

さやか「……ほ、ほんとなの!?」

ジャイロ「あくまで『可能性』だ。できないってことも考えられる」

さやか「そ、それは、まあ……失敗も……あるかもだし」

ジャイロ「それだけじゃあない。俺には障害が多すぎる」

さやか「……それって、どういう……?」

ジャイロ「まず、手術をするにあたって俺は無免許医師ってことになる。そりゃー生まれた世界が違うからな。闇医者ってやつ?」

ジャイロ「そんでもって『借りる』必要がある。器具や薬品やらをな。手術室だってねーし」

さやか「…………」



ジャイロ「何が言いたいかっつーと、ほむら達の協力は不可欠だ。おまえ一人じゃそれができない」

ジャイロ「……そしてそれを頼むのはおまえなんだ」

さやか「……ど、どうして!」

ジャイロ「理由を言わないといけないのか? 言わなきゃわからんのか?」

さやか「…………」

ジャイロ「おまえが頼めばほむらは動く。ほむらが動けば俺は動ける」

ジャイロ「さやかが治してくれって言ってたぜと俺がほむらに伝えて……それを誰が証明する?」

ジャイロ「ま、一番大切なのは彼の意志なんだが、とにかくおまえが言わなきゃならん」

ジャイロ「それと、闇医者の仲介人が必要だ。そいつは信頼される奴でないとならない」

さやか「…………」

ジャイロ「さぁ、どうする」


さやか(…………)

さやか(あたしが治癒魔法を極めれば……いつかは治せるようになるはずだ)

さやか(だけど……)

さやか(それはいつ?)

さやか(あたしはいつまで戦える? それまでに生きていられる? いつまでこんな生活できる?)

さやか(でも、頼めば……手術を依頼すれば……恭介の腕が……近い内に治る可能性がある)

さやか(手術ができない、失敗する確率と……あたしが死ぬ確率。どっちが上だ?)

さやか(いや……待て)

さやか(どうしてあたしは、手術をすること前提で考えているんだ?)

さやか(こいつが……あたしを懐柔しようと嘘を……可能性はある)

さやか「…………」

さやか「……転校生の差し金なんだな」

ジャイロ「あ?」

さやか「危なかったよ。魔女化の事実を聞いて衰弱した精神に、治せるかもという甘い言葉に……騙されるとこだった」

ジャイロ「…………」



まどか「もう、やめようよさやかちゃん……」


さやか「っ!?」


ほむら「美樹さやか。あなたはどこまで愚かなの」ファサ

マミ「美樹さん。あなたの戦い方、しっかりと見させてもらったわ」

さやか「ま、まどか……?! それに転校生……マミ、さん……!?」

まどか「さやかちゃんを……迎えにきたんだよ」

さやか「む、迎えに……? あたしを……?」

ほむら「あなたがここに来ることはわかっていた。だから先回りしたのよ」

さやか「…………」




マミ「美樹さん。帰ったら説教よ。不登校の件も含めてね」

さやか「……何が、説教ですか」

マミ「…………」

さやか「あなたは杏子の仲間でしょ!?」

さやか「あいつは間接的に人を殺している!」

さやか「鉄球の材料は廃材を盗んだもので!」

さやか「転校生は、魔法武器じゃない、本物の銃を使う。あれはどこかから盗んできたもの!」

さやか「銃器の窃盗なんて重罪じゃないですか!」

さやか「犯罪者! あなたはそいつらに味方してるッ! まどか! あんたもだ!」

まどか「さやかちゃん……」

ジャイロ「前の時間軸の持ち込みってんならよお――逆に罪はないんじゃあねーのォーッ」

さやか「は? 時間軸? 何を言って……」

マミ「美樹さん」

さやか「ハッ……」


パシンッ

さやか「……!」

まどか「ビンタ……」

ほむら「…………」

マミ「いい加減にしなさいよ。美樹さん」

マミ「あなたが勝手なことをして、どれだけの人が迷惑を被っているの?」

マミ「あなたのご両親、友達、幼なじみ、みんな心配しているのよ」

マミ「もちろん私達だって」

マミ「やむを得ない理由でゾンビみたいな体になったから幼なじみの子に顔を合わせられない?」

マミ「私は小さい頃、事故に遭って……死にかけたところをやむを得ず生きたいと願った……」

マミ「あなたも知らないはずはないわよね」

マミ「それって、生きたいと願った私を侮辱しているって解釈しちゃっていいの?」

さやか「…………」



マミ「私にはあなたが……自分が悪いことをしていると自覚していない真の邪悪に見える」

さやか「…………」

マミ「確かに、私の仲間のやったことは誉められたことじゃないわ。法では決して裁けない」

マミ「決して正当化するつもりで言うんじゃあないけれど、少なくともあなたがそれ攻める資格はないわ」

マミ「でもそうじゃない。魔法少女は誇り高きものだって話したのに……今のあなたときたら……」

マミ「イラっときたからって一般人に怪我をさせるし、何も知らない私達を利用して魔法少女の基本を身につけた」

マミ「しつこいようだけど、あなたはみんなを心配させて、気を使わせた」

マミ「あなたのご両親はきっと、娘を知らぬ間に傷つけてしまったのではないか、内なる悩みに気づけなかった……と心を痛めていることでしょうね」

マミ「両親がいるだけでも幸せなことなのに」

マミ「……ついでに言うとさらっと私のテリトリーを好き勝手に使ってくれたわよね」

マミ「私が言えたことじゃないけど、中学生だし、そういう自分で自分がわからなくなるのは仕方ないとは言え……」

マミ「何が救世主よ。笑わせてくれるわ」

さやか「…………うぅ」



さやか「……ってますよ」

マミ「何?」

さやか「わかってますよそんなの……」ポロポロ

まどか「涙……」

さやか「あたしがやってることが……間違ってるって……」

さやか「少し冷静になりゃあたしみたいな馬鹿でもわかりますって……」

さやか「でも……あたし、所詮馬鹿だから……気付いたところでどうすればいいのかわからない……」

さやか「恭介の怪我を、腕を治す気満々だったのにそれができなくなった途端、あたしは自信がなくなって……」

さやか「この体になったから、奇跡を起こせなくなったから……あたしは、何だか恭介が怖くなって……」

さやか「後悔しそうだから! 人を救ったことを後悔したら……! そんなことしたら……!」



さやか「あたしは覚悟をして、した契約なのに……『救わなきゃよかった』と考えちゃったら……」

さやか「後悔する前に誰かのせいにしないと、正当化しないと……あたしは……」

さやか「Dioはもういないから、杏子を否定しないと! あたしは、あたしは自分が最低最悪な存在だと認めてしまいそうで怖かった!」

さやか「あたしは救世主でいたかった! 正義の味方でいたかった! 悪者にはなりたくなかったんです!」

さやか「……マミさんも転校生もジャイロも……みんな否定しないとあたしの精神が耐えられない……!」

さやか「もう……もう本当は限界なんです……!」

さやか「魔女になるって知って……本当に、あたしはもうダメだって……ジャイロがいなかったら、みんながいなかったらあたしは本当に魔女に……!」

ジャイロ「…………」

さやか「ごめんなさい……許してもらえるとは思ってないけど、とにかくごめんなさい!」

さやか「ぐすっ……ごめんなさいぃ……うああぁぁぁ……うぅ……」

マミ「美樹さん……」



さやか「お願いします……あたしを、あたしを許してください……」

さやか「反省します……! 反省しています……!」

まどか「さやかちゃん……」

ほむら「…………」

マミ「……私達は、あなたを迎えに来たのよ」スッ

マミ「もし、あなたを見捨てるのだったら、魔女になる様を眺めてグリーフシードとして使わせてもらっていたわ」ナデッ

さやか「うぅ……本当に、申し訳ありませんでした……グスッ」

まどか「さやかちゃん。これ、使って……ハンカチ」

さやか「ぅん……まどか……ほんとにごめん……」



さやか「転校生……いや、ほむら……」

ほむら「何?」

さやか「ジャイロが医者って……本当? グスッ、信じていいの……?」

ほむら「えぇ。ジャイロは優秀な医者よ」

ジャイロ「モーチョー手術できるぜ」

さやか「どうか……どうか!」

さやか「恭介の腕を治して!」

さやか「……ください!」バッ

さやか「あたしの無念を……晴らすチャンスを……!」

さやか「お願い……します……!」



ほむら「…………」

まどか「…………」

ジャイロ「…………」

ほむら「……どうしましょっか」

マミ「暁美さん。あなたの意見を聞きましょう」

ほむら「…………」

ほむら「……私達が環境を用意しジャイロが手術する。美樹さやかはその代償に共闘する」

さやか「!」

ほむら「つまり、交渉するという形になるわ」

さやか「な、仲間……!?」




ほむら「近い将来、この街にワルプルギスの夜という魔女が現れる」

ほむら「簡単に言えば伝説の魔女。その強さは計り知れない」

ほむら「私は、その魔女を倒さなければならない」

ほむら「そこで、あなたを戦力として引き入れるということよ」

さやか「ワルプルギス……」

さやか「…………」

さやか「あたしが……仲間?」

ほむら「そう。戦力よ」

さやか「…………」



さやか「……あたしはあんたを殺そうとした。それに、魔女に簡単になりうるよ……さっきだって、下手したら……なってた」

さやか「そんなあたしが……仲間だなんて……」

ほむら「あなたが『NO』と言うなら、取引は無かったことになるし、そもそもあなた、それからどうやって生きるの?」

さやか「そ、そんな……!」

さやか「あ、あたしは召使いだろうがパシリにだろうが、何にだってなってやるさ! だけど……共闘は……!」

ほむら「あなたが躊躇する理由は覚ってあげるけど、私は、あなたを見捨てることに躊躇はない。ここは私達のテリトリーだけど、街を出ていくつもり?」

さやか「う、うぐぐ……」

まどか「……わたしも、同意見だよ。さやかちゃんは友達だけど……そういう交渉だもの。さやかちゃんが、今のままでいいなら……止められない」

さやか「ま、まどかまで……」

マミ「厳しいことを言うようだけど、私もよ。迎えに来たとは言ったけど、それと仲間にするしないは別の話」

さやか「うぅ……マ、マミさん……!」

さやか「あ……あたしは……」



さやか「あたしなんかが……入ったら……」

さやか「杏子に……きっと恨まれてるんだよ。あたし」

さやか「だから……必ずみんなに迷惑をかける……。派閥内で啀み合いが発生すれば……」

さやか「不信は……命取りになる。あたしはそれがイヤなんだ。足手まといになりたくない」

さやか「今更踏み込めないよ……みんなの輪に入れない……乱したくない……!」

ジャイロ「おまえの心情はどうでもいいが……俺ら四人はおまえができないと言うなら仕方ないという意見だ」

ジャイロ「四人は……な」

さやか「よ、四人『は』……?」


「……さやか」



さやか「え……」

杏子「……久しぶり、だな」

さやか「きょ、杏子……」

杏子「あたしも確かに、誉められるようなことは一切していない」

杏子「あんたの言う邪悪だという自覚がある」

杏子「別にあんたに許してもらおうだなんて思わないし、許してやるだなんて言わないけどさ……」

杏子「あたしは反省したんだ。使い魔を見逃したのも、見滝原を乗っ取ろうと考えてたことも」

杏子「……半歩だ」

杏子「さやかが一歩を踏み出せないと言うのなら、あたしの方から――半歩だけ近づくよ。ほむらもあたしに半歩だけ近づいてくれた」

さやか「…………」

杏子「全てはさやかの決断にかかっているが……それでも無念がさやかの脚を重くするってんなら、あたしもそれを共に背負っていく」

杏子「信用するしないわどっちでもいい。だが、ほむらに、あたし達に力を貸してほしいんだ」

さやか「うぅ……」



ほむら「彼女は使い魔を見逃すなりしてきてまで溜めたグリーフシードを全て私達に提供した」

さやか「……!」

マミ「そして佐倉さんは私の家に暮らす……帰る場所を手に入れた」

マミ「彼女は命を賭けて戦ってくれると誓ってくれたわ」

マミ「私達は絶望的と言われた幼なじみのための手術の場を提供する。その代わりにあなたは何を捧げてくれる?」

ジャイロ「俺は、Dioのヤローで無駄になっちまったおまえの無念を晴らしてやりたいと、思ってはいる」

ジャイロ「だが、じゃあ手術しようっつってしちまったら、誰も納得しない。だからしなかった」

ジャイロ「納得しなければ前へ進めないんだ。俺達もおまえも」

まどか「さやかちゃん。さやかちゃんを迎えにいくって言い出したのはほむらちゃんなの」

まどか「この場所のことも知っていた。そこにさやかちゃんがいることも……」

まどか「ほむらちゃんは、さやかちゃんを救いたいって思ってくれてるんだよ」

まどか「……ううん、『を』じゃなくて『も』……。マミさんも杏子ちゃんもわたしも……みんなを助けることを考えてくれている」

まどか「だから、今度こそ、謝ろう?」



さやか「…………」



さやか「みんな……あたしのために色々やってくれてたんだね……」

さやか「それなのにあたしってば……」

さやか「あたしって、ホント馬鹿……」

さやか「みんな……特にほむら。本当に……ごめんなさい」ドゲザ

ほむら「…………」

さやか「好き放題やったから、今、許してもらおうだなんて思わないけどさ……謝らせて」

さやか「あんたのこと誤解してたし……すぐにあんたをやっぱ敵だって思ったり……迷惑ばかりかけて……」

さやか「本当にごめん」

ほむら「…………」

ほむら「……あなたの失踪は『誘拐事件も視野にいれた家出』ということになっている」

ほむら「今すぐに帰りなさいと、言いたいところだけど今日はマミの家に泊まって、明日病院に来なさい」

マミ「え? 私の家? 聞いてない……。いえ、別にいいんだけど……」

ほむら「もう一日、学校をサボってもらう」

ほむら「病院で手術の話をしてもらうから。それと、ご両親に連絡の一つでも安心させておくように」

さやか「……うん」



――ほむら宅



まどか「さやかちゃん……誤解が解けて本当によかったね」

ほむら「そうね。手遅れにならなくてよかった」

まどか「さやかちゃん、今どうしてるかなぁ」

ほむら「説教を受けてるところじゃないかしら」

まどか「マミさん心配してたもんね」

ほむら「いえ、両親のことよ。電話か何かで延々と」

まどか「そっちなら……家出ってことで色々悩みを聞いてたりしてるんじゃないかな」

ほむら「さやかの両親を知らないから何とも言えないわ」

まどか「ウェヒヒ、それもそうだね」



まどか「これからどうするの?」

ほむら「そうね……。さっき話した通り、明日さやかとジャイロが手術の話をするわ」

まどか「どんな感じにするの?」

ほむら「まずジャイロが闇医者ということになる。だから闇医者、患者、依頼人の三人で話をさせるわ」

まどか「そ、そうなの……」

ほむら「まどかは普通にお見舞いしてちょうだい」

まどか「う、うん……。ほむらちゃんは?」

ほむら「見舞いするしないはともかく、私も病院に行くわ」

ほむら「さやかをつれてくから目立たせないためにも早退することにするわ」

ほむら「手術の予定の有無とか監視カメラの場所とか調べないといけないものね」

まどか「……へ、へぇ~」




ほむら「そろそろ寝ましょうか?」

まどか「そうだね」

ほむら「まどかは私のベッドを使って」

ほむら「私は隣でお布団敷いて寝るわ。でも室内で寝袋を使うのも一興かもしれないわね」

まどか「寝袋?」

ほむら「杏子と一緒にホームレス生活してみた時間軸があったからよ」

ほむら「ちなみに今はベッド置いているけど、お布団で寝たい気分になればベッドを盾にしまってお布団で寝ることもできる」

ほむら「実はたくさんの時間軸を遡行する上でこういう変化を持たせたりしてるのよ」

ほむら「ハンモックを自作しちゃったりして」

まどか「なるほど……スゴイうらやましいね……ところでほむらちゃん」

ほむら「なに?」



まどか「一緒に寝よ?」

ほむら「へ?」

まどか「だからぁ、ほむらちゃんのベッドに二人で……」

ほむら「そ、それはちょっと……」

まどか「えぇ~でも寝袋はどうかと思うよ? ほむらちゃんちなのに」

ほむら「一緒に寝るとなると恥ずかしいわ……そもそも寝袋で寝るだなんて言ってないし」

まどか「……えいっ!」

ギュッ

ほむら「あっ、ちょっと……」



まどか「えへへ……わたし、ぬいぐるみとかに抱きついて寝るの好きなんだ」

ほむら「えぇ……知ってるわ」

まどか「不安な時とか、何かに抱きついてると落ち着いて……」

ほむら「そう……」

まどか「…………」

ほむら「……わかったわ。一緒に寝ましょう」

まどか「ウェヒヒ、やったぁ。うれピー」

ほむら「もう……。電気消すわよ」

まどか「うん」


ほむら「大丈夫? 狭くない?」

まどか「大丈夫だよっ。わたし小さいもん」ギュー

ほむら「そう? ならいいけど……さも当然のように抱きついてくるのね」

まどか「……ほむらちゃんあったかい」

ほむら「何だか……やっぱり恥ずかしいわ……」

まどか「ウェヒッ」

ほむら「……ふふ」

まどか「……ほむらちゃんってほんとに優しいよね」

ほむら「ん? 急にどうしたの?」

まどか「だって、いつも気遣ってくれるもん」

まどか「さやかちゃんをマミさんの家に泊まらせて二人きりにしてくれるし……」

ほむら「ふ、二人きりって……私は別に杏子との親睦を深めさせるつもりで……」

まどか「ウェヒヒ、わかってるよ。ちょっとからかってみただけ」

ほむら「もう……」


ほむら「言っておくけど、私は優しくなんかないわ……まどかが特別なだけよ」

まどか「そんなことないよ。だって、さやかちゃんのことだって、色々頑張ってくれたじゃない」

まどか「杏子ちゃんだって面倒見てあげてたし、マミさんを助けようと戦った」

ほむら「この時間軸だって、ジャイロから言われなかったらマミも杏子もさやかも、いざという時は見捨てるつもりだったのよ」

ほむら「あなたを救うことを一番に考え、あの三人は、犠牲になるというなら、それはまあ仕方がない……」

ほむら「その程度のとらえ方しかしていなかったのよ」

ほむら「私は一つの目的のためにその人間性までも捨てる」

まどか「ううん……。そんなことない……」

まどか「そういうことを言っていても、本心ではみんなを救いたいって……」

ほむら「……望むだけなら誰にでもできる」

まどか「…………」



まどか「ねぇ、ほむらちゃんは、どこにも行かないよね?」

ほむら「……え?」

まどか「……たまに、ほむらちゃんが遠くへ行っちゃうそうな気がするの」

まどか「みんなで一緒にいたいのに、ほむらちゃんだけ、何も言わずにスッと消えてっちゃいそうな、そんな感じがするの」

まどか「どこかで、そんな感じの夢を見た気がするからかな……」

ほむら「…………」

ほむら「……大丈夫よ。今はあなたの側にいるから」

まどか「今は……?」

ほむら「さっ、明日は色々忙しい、学校だってあるんだからもう寝ましょう。私も疲れてるし」

まどか「えっ、あっと……」

ほむら「おやすみなさい。まどか」

まどか「……う、うん。おやすみ……」

まどか「……」

まどか(むぅ……せっかくのお泊まりなのに……。もっとお喋りしたいかったなぁ)



ほむら(……ごめんね。まどか)

ほむら(今の流れで……これ以上、これ以上話すと……)

ほむら(弱い私をさらけ出してしまいそう……。あなたに弱い私を見せたくない)

ほむら(だから、せっかくのお泊まりなのに、お喋りを無理にうち切って……本当にごめんね)

ほむら(あなたの優しさは……本当に、美しい、誇るべきものよ)

ほむら(でも……今の私には……それが辛いの)

ほむら(ジャイロに言われなかったら……最初から見滝原を去るつもりでいた私にとっては……)

ほむら「…………」





夜の見滝原には、剣(一説には刀)を持った中学生くらいの少女が現れる。という噂がある。

切り裂きジャックならぬ、スクワルタトーレ・アズーロ(青い切り裂き魔)と呼ばれ、無闇に絡まなければ危害はないとされる。

いくつか目撃情報があり、怪我をして血まみれだったり、無傷であったりとその姿は極端。

べっこう飴が好物だとかポマードと言うと逃げるだとか、多様な噂が尾ひれに付いていく。

見滝原の七不思議。その④



さやかちゃんを普通に一般人斬らせちゃったりと大変な扱いしつつ、今回はここまで。お疲れさまでした。

気持ち展開が早い気がする。次回、上条恭介どきどき☆オペレーションの巻


あとはちょっとしたネタバレになりますが手術してワルプってエピローグすれば完結です。

1スレで収められる、と、思う。何か収めたい。



ちなみに七不思議がどうこう書いてますが、ボヨヨン岬的なのをイメージしてたけどそれは実は「新名所」で、

七不思議なのは刑務所の方だったと今気付きました。勘違いしてました。おやすみなさい。


ジョジョ知らないが前作から楽しめてる


あと>>493の仲がいい表現は
気のおけるじゃなくて気のおけないだと思う
勘違いならすまない

1です。>>529さんの言うとおりでした。

やっべーです。「気の許せる」から「気の置けない」に書き直した際のミスです。気付かなかった……
と、いうことで

×ジャイロ「俺にはよォ……気の置ける奴がいるんだよ。生前の話な」
○ジャイロ「俺にはよォ……気の置けない奴がいるんだよ。生前の話な」

に脳内変換お願いします。

ジャイロは日本人じゃないから仕方ないですよね(震え声)



――病院


恭介「…………」

コンコン

恭介「……誰?」


「可愛い女の子と思った? 惜しい。さやかちゃんでした」

恭介「!?」

さやか「やっほ」

恭介「さ、さやかッ!?」

さやか「……えへ、久しぶり」

さやか「はい。お見舞い。抹茶クリーム団子」



恭介「さやかッ! 行方不明になったって聞いて心配したんだよ!」

恭介「どこに行ってたのさ!? 今まで何を……」

さやか「……恭介も心配してたの?」

恭介「当たり前じゃないか!」

さやか「そっか……うん。色々あってね」

恭介「説明してくれないかな。その色々を」

さやか「ひと口サイズのお餅で蜜のようなごまとかクリームがくるんであるんだよね」

さやか「ごま蜜団子が王道だけど抹茶クリーム味買ってみた。『敢えて』だ……敢えて別の味にした」

恭介「その説明じゃないよッ!」

さやか「あはは……冗談だよ」

恭介「誘拐事件かもしれない」

恭介「……って言うもんだから、警察の人に何か知らないか聞かれたよ」

さやか「そっか……迷惑かけてほんとにごめんね」



恭介「……さやか」

さやか「うん? 何?」

恭介「ごめん……ってどういう意味なんだい?」

さやか「え?」

恭介「いつだったかな、髪の長い人が尋ねてきて……」

恭介「さやかが謝ってたって言ってたんだけど……あれからさやかは見舞いに来てくれなくなったね」

恭介「いや、何だかその辺の記憶が曖昧なんだけど……」

さやか「じゃあ夢じゃないかな」

恭介「そ、そうかい? うーん……」

恭介「それよりも、学校でも大騒ぎだっただろう」



さやか「あ、学校には行ってないよ。実を言うとまだ家にも帰ってない」

恭介「な、何だって!?」

恭介「だったらすぐに帰るべきだよ!」

さやか「もちろん帰るけど、今は色々あるんだよ」

さやか「ところで恭介、あたしがお見舞いに来れなくてボッチ生活だった?」

恭介「いやいや……クラスの友達も来てくれたよ。中沢くんとか……。特に志筑さんは本当気を使ってもらったし」

さやか「仁美が……仁美にも心配かけたなぁ」

恭介「彼女には会ったかい?」

さやか「いや、まだだよ」

さやか「次からちゃんと学校に行くからね。うん。もう大丈夫」

恭介「そうかい……? ならいいんだけど」



さやか「……ねぇ、恭介」

恭介「何だい?」

さやか「その腕、さ……」

恭介「……言わないでくれ。もう、望みはないって言われたんだ。希望もないし、奇跡も起きない」

恭介「さやかも知らないことはないだろう……?」

さやか「もし、治るとしたら……それは本当に恭介の望み?」

恭介「……当たり前じゃないか」

さやか「治るなら……何でも捨てられる?」

恭介「ばっ、馬鹿にしないでくれ……。音楽は僕の全てだからね」

恭介「僕は今マイナスなんだ。……ゼロに向かって行きたい」

恭介「せめてチャンスを手に入れて、自分のマイナスをゼロに戻したい」

さやか「そう。わかってるよ」

恭介「さやかは僕を苛めているのかい?」



さやか「……もし」

さやか「もし、その腕が治るとして……」

さやか「それが誰かの魂とかと引き替えに、とかだったら……どうする?」

恭介「え……?」

さやか「例えば……そうだな。あたしでいいか。あたしが化け物か何かになる代わりに、腕が治るとしたら……どうする?」

恭介「……な、何を言っているんだい?」

さやか「例え話だってば。『た・と・え・』だよ」

恭介「……へ、変な話はしないでくれ! 所詮は例え話じゃないか……ッ。気分が悪いよ。ほんと」

さやか「そだね……ごめん」



さやか「……こっからが本題なんだ」

恭介「え?」

さやか「たった一つだけ、あるんだ」

恭介「一つ? 何が……?」

さやか「ただ、覚悟が必要になるね。恭介に、そういう覚悟はある?」

恭介「……何が、言いたいんだい?」

さやか「あたしの知り合いの知り合いにさ……まぁ、なんつーか……」

さやか「うーん。良い言葉が思いつかないけど……闇医者がいるんだよね」

恭介「!?」

さやか「あたし馬鹿だから詳しくないけどさ……無免許だけど……それはもう何かすごい技術があるの」

さやか「もう見込みがないと言われた恭介の腕も……可能性がある。あくまで可能性」



さやか「今の段階で、腕を治せるかもしれない唯一の方法だよ……」

恭介「……!」

さやか「どう? 賭けてみたい?」

恭介「ま、まさか、さっきの例え話って……」

さやか「…………」

恭介(あの失踪は……その人を捜して……?)

さやか「答えて」

恭介「…………」

恭介(闇医者……さやかを犠牲にしてまで、この、腕を……?)

恭介(さやかが犠牲だって……? 想像するだけで怖気がする)

恭介「じょ、冗談はよしてくれ……」

さやか「冗談なら、こんな話はしない」

恭介「…………冗談と言ってくれ」

さやか「マジだよ」

恭介「そんな冗談は笑えないって!」

さやか「冗談なんかじゃないッ!」

恭介「……ッ!」



恭介「…………」

恭介「……それなら、いい」

さやか「……え?」

恭介「卑怯だよ……。さやかを犠牲にしろなんて……。さやかは大切な友達だ」

恭介「そこまでして、さやかに辛い目を合わせてまで腕を治すだなんて……」

恭介「僕は必ず後悔する。……そこまでして腕は、いいよ」

さやか「恭介…………」

恭介「ごめんよ……せっかく捜してくれたのに」

さやか(……え? 捜す? 何を?)

恭介「さやかを失うくらいならこの腕を受け入れるさ。……そんなこと、できるわけがない」

恭介「……まさか、さやかをそこまで心配をかけさせていたなんて……本当にごめんよ」

さやか「そっか……。ありがとう……」



さやか「だってさ。ドクター」

恭介「え?」

「失礼するぜ」

恭介「え、え……!?」

ジャイロ「勝手なことを言うようだけどよォ~……別の生き甲斐を見つけるとか……そういう意志はないのか?」

ジャイロ「俺はQ太郎・ジョースターだ。もちろん偽名だ。で……さやかが言った通り、俺らはちょいとした知り合いだぜ」

さやか「クラスのみんなには内緒だよ」

恭介「…………」

恭介「……あれ?」

恭介「失礼ですが……あの……ジョースターさん。どっかでお会いしたことありませんでした?」

ジャイロ「……覚えがないならないんだろ」

恭介「は、はぁ……」

恭介(夢か何かで、会ったような……)


ジャイロ「さて、俺は『納得』が全てを優先すると考えている」

ジャイロ「おまえさんの腕を治すこと、それは正しいのか、納得する必要がある」

ジャイロ「おまえが自分のためなら他人を省みないような野郎か否かとか、覚悟があるかとかを判断する」

ジャイロ「そしておまえはそれなりの覚悟があると見受けられた」

ジャイロ「ちなみに今の例え話の下りはそういう冗談だ。嘘も方便ってな」

恭介「そ、そうなのか? さやか」

さやか「うん」

ジャイロ「部分的にはな」

恭介「え?」

ジャイロ「いや、何でもない」


ジャイロ「いいか、ミスター上条」

ジャイロ「この手術。保険がなければ、成功する保証もない。失敗すればそれなりのリスクを負うかもしれねぇ」

ジャイロ「それこそ、今後の『表』の医学が発展してやっぱり治すことができるようになったとして……」

ジャイロ「その治療が受けられないかもしれない」

ジャイロ「それにしつこいようだが、治せる可能性があるだけだ」

ジャイロ「実際によく診てみないことには治せるか否かはわからない」

ジャイロ「やっぱ無理だったとなったら、おまえさんを『一度希望を持たせておいて突き落とされた』と落ち込ませるだけかもしれねぇ」

ジャイロ「どうだ? それでも、受けてみっか? あぁ、費用は心配しなくていい」

恭介「…………」

さやか「あたしは……受けてみてもいいと思うな」



さやか「他人事みたいにって思うかもしれないけどさ……もし無理なら無理で途中でやめてもらえるんだし……」

さやか「あたし、こないだまで恭介がまたバイオリンを弾けるようになることが一番の望みだっ

さやか「でも……やっぱり恭介が元気なのが一番なんだなって気付いたよ」

さやか「受けないのもいい。受けて失敗したとしても。あたしは恭介を支えるよ。依然変わりなく」

恭介「…………」

恭介「……さやか」

さやか「何?」

恭介「ネットにひっかかったボールはどちら側に落ちるのか?」

恭介「……何もしなければ永久に闇に浮かんだまま。どちらにも落ちない」

恭介「かと言って、結局のところネットに弾かれたテニスボールはどっちに落ちるのかだれにもわからない」

恭介「そんな時こそ……いてほしいのが女神なんだよ。それならどっち側に落ちても……納得がいく」



恭介「さやかを女神と言うには誤用の方の役不足だけどさ……」

さやか「何だよそれぇ! さやかちゃん女神だろ!」

恭介「も、もし……もし治せなかったら……手術に失敗して本当に望みが絶たれたら……」

恭介「ボールが自分のコートに落ちた時……別の生き甲斐を探すのを手伝ってくれないかな……」

恭介「引っ張ってほしいんじゃあない。支えてほしいとも言わない」

恭介「手伝ってくれれば……後押ししてくれればそれでいい」

さやか「あぁ……うん。わかってるよ」

さやか「でも、失敗したら、でしょ? 祈ろうよ。ネットに弾かれたボールが相手のコートに落ちることを」

恭介「……ああ。僕は奇跡の存在を信じることにする」




さやか「奇跡も魔法も、あるんだよ」

ジャイロ「俺のは『技術』だがな。で、手術を受けるつもりなんだな?」

恭介「……はい!」

ジャイロ「それじゃ、準備を今からするとして……今夜にでも」

恭介「こ、今夜!? いくらなんでも急すぎじゃ……!?」

ジャイロ「とにかく今夜だ。これからおまえさんのお友達が来るけど、そいつらにも秘密だぜ」

ジャイロ「じゃあな」

恭介「は、はぁ……よろしくお願いします」

さやか「うん。ありがとう。ドクター」




「あっ」



ジャイロ「おっと、しつれい。ぶつかっちまったかい?」

「い、いえ……」

ジャイロ「そうかい」


さやか「およっ」

恭介「この声は……」

仁美「し、失礼します」

仁美「こんにちは、上条く……」

さやか「…………」

仁美「え……!?」

仁美「み、美樹さんッ!?」

恭介「志筑さん……」



さやか「や、やぁ、仁美……心配かけたね……」

仁美「い、いつ……! いつ帰ってきたんですか……!?」

さやか「昨夜……だね」

仁美「みんな心配してたんですよ!? 何をしてたんですか!?」

恭介「志筑さん!」

仁美「!」

恭介「さやかにも……色々考えることがあったんだ。十分反省しているようだし……攻めないであげて」

さやか「恭介……」

仁美「……か、上条くんがそうおっしゃるなら……」

仁美「あの、上条くん。来て早々申し訳ないのですが、少し美樹さんと二人で話したいことが……」

さやか「え?」

恭介「ああ、僕のことは気にしないで。ゆっくり話しておいで」

仁美「ありがとうございます。そんな時間はかけませんので……」

さやか「仁美……」

仁美「美樹さん。ちょっとツラ貸してくださいまし」

さやか「お、おう……。もしかして怒ってる?」





廊下


ジャイロ「――と、いうわけだ」

ほむら「えぇ。わかったわ。それじゃ、よろしく頼むわね」

ジャイロ「おまえこそな。じゃ」

ほむら「えぇ」



ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんっ!」

ほむら「まどか。来てたのね」

まどか「うん! 仁美ちゃんも来てるよ~」

まどか「それで……さやかちゃんは?」

ほむら「今夜の患者とお話してるんじゃないかしら」

まどか「患者……と、いうことは……」

ほむら「ええ……。しゅじちゅ決定よ」

まどか「あ、噛んだ」

ほむら「///」

まどか(かわいい)




まどか「それで、大丈夫なの?」

ほむら「え、ええ。話をつけたわ。彼も覚悟を……」

まどか「そうじゃなくて、しゅじゅちゅの準備……わ、わたしも噛んじゃった///」

ほむら「ふふ。可愛らしいわ」

ほむら「とにかく、その辺り大丈夫よ。監視カメラや間取りを把握したわ。流石に中までは入れなかったけど」

ほむら「今夜はしゅぢゅちゅの予定はないし、急患が五、六人一気に搬送されない限り問題ない」

まどか「そっか。ねぇ……わたしに力になれること、何かないかな?」

ほむら「そうね……。……成功を祈る。それでいいんじゃない?」

まどか「……そうだね。わたし、上条くんのしゅずちゅが成功するようお祈りする!」

ほむら「それがいいわ。……それじゃ、私は帰るわね」

まどか「えー、もう帰っちゃうの?」

ほむら「ジャイロ達と打ち合わせするのよ」

まどか「そっか……。しゅじつ、頑張ってね!」

ほむら「ええ、もちろん」




さやか「えーっと……」

仁美「美樹さん……」

さやか「いや、ほんと、みんなには迷惑かけて申し訳ないと思ってるよ……」

さやか「本当に面目ない」

仁美「ち、違うんです……私が言いたいことは……」

さやか「うん?」


(ずっと前から私……上条くんのこと、お慕いしておりました……)

(それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません)


さやか「……? 仁美?」

仁美「…………」

仁美「わ、私……」

仁美「私……!」



仁美「さ、寂しかった……」

仁美「……んですから」

さやか「そ、そっか……ほんっ……とに、ごめんね」

仁美「…………」

さやか「し、しかし、寂しかったか……あはは、仁美ったら可愛いねぇ!」

さやか「仁美もあたしの嫁になるのだぁ~」ナデナデ

仁美「……っ!」

仁美「やめてくださいッ!」

さやか「えっ……」ピタッ

仁美「あ……そ、その……鹿目さんはともかく、私には……」

さやか「そ、そっかぁ……ご、ごめんね?」

さやか「えーっと……話って終わり?」




さやか「あたし、恭介に挨拶もしたし、今日はもう帰ろうかなって……親も心配してるだろうし」

仁美「え、えぇ……あの、まぁ……すみません。わざわざ引き留めて」

さやか「あはは、気にしない気にしないっ」

さやか「じゃあ、その……また、学校でね」

仁美「は、はい……さようなら」

さやか「うん……」



仁美「…………」

仁美「…………思わず、大声出しちゃった」



仁美(……何故)

仁美(何故、私は言えなかったのでしょうか。上条くんが好きであることを……)

仁美(もしかして、美樹さんに引け目を感じている?)

仁美(私は、美樹さんを心配していた上条くんを見ていた。美樹さんがいない間、告白は絶対にしないと誓っていたけど……)

仁美(本気で心配している上条くんに、美樹さんがいない間に少しでも良く思われたいと考えてしまっていた背徳感?)

仁美(美樹さんが帰ってきたことがわかって……一瞬だけ、美樹さんがいない状況を惜しんでしまったという罪悪感?)

仁美(……何故言えなかったのか。冷たくしてしまったのか。そこのところがよくわからない……)

仁美(親友である美樹さんが戻ってきた。とても嬉しいことなのに、心から喜べていない奇妙な私がここにいる)



仁美(……必ず)

仁美(必ずいつか、宣戦布告する)


仁美(……ただし帰ってきて慌ただしい中、思いを伝える猶予を一日だけ与えましょう。というのも卑怯な話……。美樹さんも動揺するだろう……)

仁美(予定を変更する)

仁美(全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。告白は「その全てが落ち着く日」が過ぎてから早い者勝ち)

仁美(そのルールを持って、宣戦布告をする。私と美樹さんは恋敵という関係だということを宣言する)

仁美(全てが落ち着く日は……美樹さんに決めさせる)

仁美(これは失踪した美樹さんを差し置いて上条くんに少しでもよく思われようとした、上条くんに心配されているのに少しでも嫉妬してしまった自分への罰)

仁美(ルールは絶対。私は絶対破らないし、美樹さんもそういうルールは必ず守るという性格)

仁美(……たまに美樹さんは私の知らない世界で生きているような気がするけど……そういう性格であることは胸を張って言える。親友だから)




仁美「……しかし」

仁美「お見舞いに持ってきた……抹茶クリーム団子16コ詰めセット」

仁美「まさか美樹さんが同じ物を買ってきていただなんて……しかも味まで」



――深夜の病院


ほむら「マミ」

マミ「えぇ」

シュルッ

カチャ

マミ「リボンを窓の隙間から通して鍵を開けた」

ほむら「マミは彼を抱えて。時を止めて待ち合わせ場所に一気に行くわよ」

マミ「えぇ。わかったわ」

ほむら「それにしても、いつぞや私を犯罪者呼ばわりしてたあなたが建造物侵入罪と誘拐紛いだなんてね」

マミ「懐かしいわね。でもこれは人助けだからいいのよ」

ほむら「……あぁ、そう」




――外


ジャイロ「さやか。来たか。遅いじゃあねーか」

さやか「ごめんごめん。親に色々言われてさー。お話終わってそく抜け出して来たよ」

杏子「……よぉ」

さやか「あ、うん……」

ジャイロ「おい、さやか。持ってきたか?」

さやか「う、うん……これでいいかな」

ジャイロ「ああ。悪くない」

杏子「……何だそれ?」

さやか「花」

杏子「それは見て分かる。……何でだ?」

ジャイロ「見舞いだ。見舞い」

杏子「その意図は何となくわかるけど……」

さやか「あたし、力になりたくて……でも、医療とかさっぱりだから……せめてと思って、ジャイロがじゃあ持ってこいって……」

杏子「そうかよ。何でもいいけど。ほら、忍び込むぞ」


さやか「……大丈夫なの?」

杏子「鍵はほむら達が何とかしてくれている」

さやか「そうじゃない。監視カメラとか……」

杏子「あたしは何度もホテルに忍び込んでいし、あんたの学校にも忍び込んだこともある」

さやか「へぇ……って学校にも来たの!? まぁいいけど……で、どうするの?」

杏子「あたしの固有魔法は幻影・幻覚だ。魔法の力で監視カメラや警備員は侵入者に気付かない」

杏子「本当は幻術なんか使いたくないんだけどな……とにかく、そのまま堂々と歩けばいい」

さやか「……」

ジャイロ「だ、そうだ。ほれ、いくぞ」



――手術室前


ほむら「揃ったわね」

マミ「こんばんは。みんな」

さやか「マミさん……」

ほむら「……さやか、何よ。その花は」

杏子「ジャイロが持ってこさせたらしい」

ほむら「ジャイロは……まぁ何するかわからないからいいわ。美樹さやか。あなたはどうして愚かなの」

さやか「え、この花ダメなの? でもジャイロが葉っぱが大きければなんでもいいって……」

ほむら「花のことじゃない。鉢植えよ。お見舞いに鉢って、常識というものが……」

マミ「まあいいじゃない」



マミ「胡蝶蘭ね」

さやか「花言葉は『幸福が飛んでくる』だそうです!」

マミ「ピンク色だから『あなたを愛します』って意味もあるわよ」

さやか「!?」

ほむら「お熱ね」

さやか「そ、そんなつもりじゃ……///」

さやか「あぅ……おのれまどかめ……! お見舞いの花を聞いたら『胡蝶蘭のピンクがいいよ』とか言いよって……!」

マミ「鹿目さん……」




ガチャ

ジャイロ「おい、準備できたぜ」

さやか「え、あの……その格好でやるの? なんか、そういう服あるじゃん。緑色の」

ジャイロ「大丈夫。普段着でも魔法で無菌状態だ」

マミ「手術着のロッカーの鍵はリボンじゃこじ開けられないの」

ほむら「ピッキングもずっとやってないからやり方忘れちゃったわ」

さやか「…………」

ほむら「……さて、杏子。引き続き幻影を使って私達の存在を覚らせないようにして」

杏子「ああ。わかった」

マミ「グリーフシードはここに置いておくわ」



さやか「あたしは……何をしてればいい?」

ジャイロ「特にすることはないな。来たいっていうから来させたに過ぎないし」

ジャイロ「まあ強いて言えば……魔法を使えば切開した後の縫合の手間が省けて助かる。痕も残らない」

マミ「美樹さんがわざわざやる必要もないとは言わないわ」

さやか「…………」

ほむら「それじゃ、さやかは出番まで待機。その間は……祈ってればいいんじゃないかしら」

さやか「ほむらとマミさんは?」

ほむら「私とマミはジャイロの助手につくわ」

さやか「えぇっ!? ふ、二人が助手ゥ!?」



ほむら「仕方ないでしょう。ねぇ?」

マミ「えぇ。私には医術も回転の心得もないけどね」

さやか「だ、大丈夫なの? 一気に不安なんだけど……」

マミ「助手と言っても執刀とかしないから大丈夫よ」

マミ「多分」ボソッ

さやか「何それ? ……ってちょい待て! 今小さく多分って言いませんでした!?」

ほむら「大丈夫よ。魔法だってあるんだし、問題ないわ」

ほむら「きっと」ボソッ

さやか「きっとォッ!?」

ジャイロ「おい、うるせーぞ」

ほむら「杏子の魔法で何とかなってるとは言え……大声でのツッコミは関心しないわ」

さやか「う、うぅ……誰のせいだと……」



ほむら「安心しなさい。こんな格好だけど、魔法の力で消毒とかしなくても大丈夫だし」

マミ「髪の毛一本落とすような真似しないわ」

マミ「ツェペリさんも魔法パワーで消毒済みよ。と、いうわけで感染症のリスクはゼロ!」

さやか「へ、へぇ……」

ジャイロ「おい、さっさとしろ。いつ急患が来るかわからないんだからな」

ほむら「焦りは禁物よ」

マミ「それじゃ、待っててね。佐倉さんと二人で……」

杏子「……」

さやか「はい……」


さやか「…………」

杏子「…………」

さやか「……手術中のランプは流石につかないか」

杏子「…………」

さやか「…………」

杏子「…………」

<メス!

<アセ!

さやか「あ、手術が始まったみたい……」

杏子「あぁ」

さやか「……ね、ねぇ、どんぐらいかかると思う?」

杏子「知らん」




さやか「…………」

杏子「…………」

さやか(き、気まずい。……和解したとは言え、やっぱり……一度襲った相手だもんなぁ)

さやか(昨日もマミさんの家で杏子と三人で過ごした)

さやか(トランプとかして遊んだんだ)

さやか(マミさん加えた三人だと普通に話せるんだけど……)

さやか(二人きりだとこんな感じになっちゃうんだよなぁ……)

さやか(くはー……手術終わるまでじっと黙ってるわけにはいかないしなぁ……)

杏子「…………」



ゴソゴソ

杏子「食うかい?」

さやか「え、あ、う……」

さやか「えーっと……」

さやか「びょ、病院で飲食はマナー違反だよっ」

杏子「うっせぇ食え」

さやか「……ん」

シャクッ

さやか「何だこれ! ンマイなァー!」

杏子「うるさい」

さやか「……ごめん」

さやか「…………」



さやか「あ、その袋のロゴマーク……」

さやか「これって、見滝原ふるうつ屋の……そこそこ有名どこのじゃん」

杏子「そうなのか」

さやか「……とってもおいしい。ありがとう」

杏子「ふん……」

さやか「…………」

杏子「…………不安か?」

さやか「そ、そりゃ……ね。失敗したらどうしようとかさ……」

杏子「そん時はそん時で考えな」

さやか「……はぁ、あたしの魔法で治せればいいのに」

杏子「そういやそうだよな。ダメなのか?」

さやか「……とにかくできなかったの」

さやか「だから一人で修行したんだから……」

杏子「……そうか」



杏子「なあ……さやか」

さやか「うん?」

杏子「あたし達がほむらからソウルジェムが魔女になる話を聞いた時だが……」

さやか「あぁ、大変だったらしいね」

杏子「あぁ、マミがなかなか泣きやまなかったな」

杏子「まぁそれはいいや。で、実はあの後、ほむらの話を聞いたんだ」

杏子「あんたはまだ知らないよな」

さやか「……ほむらの話?」

杏子「ほむらが何を願って魔法少女になったのか」

さやか「あれ以来ほむらとは手術のこと以外ではあまり話してないんだよね……」



さやか「ほむらの願いってどんなの? 病気だったっていうから退院したいとか……」

杏子「ほむらが魔法少女になったその理由と覚悟を聞いて……」

杏子「マミは魔女化の真実を受け入れたんだ。と言っても過言じゃあない」

さやか「……え」

杏子「暁美さんがそんな過去があっただなんて……私、こんなことで泣いてて情けないわ(裏声)」

杏子「ってな」

さやか「……ほむらの覚悟」

杏子「ほむらには『使命』があったんだ。肉体的な『命』を超越した大いなる『使命』がな」

杏子「二度も同じことをほむらに言わせたくないから、あたしがあんたにそれを伝える。あたしはその役を買って出た」

杏子「手術中に湿っぽい話になるかな。だが、聞いてくれ。どうせ時間を持てあますんだからな」

杏子「正直突拍子もないことだが、あたし達は疑わない。本当のことだと受け入れた。いいか?」

さやか「……教えてよ。杏子」

杏子「ほむらは未来から来た」

さやか「へ?」



――手術室


パタン…

ジャイロ「よし。準備はいいかおまえら」

ほむら「ええ」

マミ「ところで、上条くんは寝ているの?」

ジャイロ「ああ。回転でな。まぁどっちかと言えば気絶に近いんだが」

マミ「き、気絶……」

ほむら「魔法の麻酔はするけどね」

マミ「魔法の麻酔って何か怪しい響きね」



マミ「それにしても、しゅじちゅちちゅの中ってこんな風になっているのねぇ~」

ほむら「噛んだのをそのまま話を続けて誤魔化すのはやめなさい」

マミ「///」

ほむら「それで、しゅじゅちゅ……」

マミ「あなたも噛んでるじゃない」

ほむら「……の準備はいいんでしょうね///」

ジャイロ「ああ、大丈夫だ」

マミ「ツェペリさん、美樹さんのお花は?」

ジャイロ「ああ、ここでいい」

ほむら「……何で持ってきたのよ。無菌でないといけないのに」

マミ「いいじゃない。魔法で無菌よ」

ほむら「もう……」

マミ「…………」



マミ「……暁美さん」

ほむら「何?」

マミ「メス!」

ほむら「え? あ、はい」サッ

マミ「えへへ……一度やってみたかったのよねこれ」

ほむら「そ、そう……」

ほむら「…………」

ほむら「汗!」

マミ「はいっ」スッ


ほむら「マミ……」

マミ「暁美さん……」


ピシガシグッグッ



ジャイロ「コントはよそでやれ」



ほむら「堪能したわ」ホムッ

マミ「それで、しゅ、じゅ、つ……の手順は?」

ジャイロ「まずは神経の損傷具合を確認しないことには始まらないわな」

マミ「レントゲン? この機械かしら?」

ほむら「これが電源ボタン? 何にしても使い方わからないのだけど……」

ジャイロ「そんな機械は使わない。バットを持ってきてくれ」

マミ「バット? えっと……これでいいの?」ガチャ

マミ「何に使うの?」

ジャイロ「そこに水を注ぐんだ」

ほむら「ミネラルウォーターとかでもいいのかしら?」

ジャイロ「清潔なものならなんでもいい」




マミ「あ、そういえば暁美さん。器具の消毒は?」

ほむら「ウォッシャーディスインフェクターっていうのを映画で見たことあるわ」

マミ「映画情報なの……」

ほむら「まあ器具も魔法で滅菌すればいいでしょう」

マミ「それもそうね。手ぇ洗う?」

ほむら「私達には必要ないわ。気持ちはわかるけど」

マミ「そうよね。消毒不要と言っても洗いたくなるわよねぇ」

ジャイロ「おい早くしろよ」

マミ「落ち着いてツェペリさん」

ほむら「そうよ。最近のしゅづっ……オペはリラックスするためにBGMを流したり雑談しながら執刀するものなのよ」

ジャイロ「……やれやれだぜ」



マミ「で、バットに水を張ったけど……それをどうするの?」

ジャイロ「ここに置いてくれ。そして、俺は鉄球の回転を患者の腕にあてる」

ドシュゥゥゥゥ

シルシルシルシルシル

ほむら「あ……」


ブワァァァ

マミ「水面に何か……地図のようなものが浮かび上がった……。これは?」

ジャイロ「回転で彼の神経の正確な配置を図として浮かびあがらせる」

ほむら「エコーのようなもの?」

ジャイロ「まぁ似たようなもんだろ。知らんけど。……見ろ、腕の神経のここの部分。一つだけじゃない。いくつも損傷している」

マミ「神経が断裂しているのね……」

ほむら「でも、治るんでしょ?」

ジャイロ「ああ。確かに難しい傷だ。だが鉄球の回転なら手術できる。この程度なら修復は可能だ」


マミ「回転をどう使うの?」

ジャイロ「ああ。損傷箇所が何カ所もあるからとりあえずまず腕を切開して……」

ジャイロ「損傷した神経に針をあてるだろ。そしてその針に鉄球の回転を伝わらせ……神経を一本一本つなぎ合わせるんだ。それの繰り返しさ」

マミ「き、緊張するわ……」

ジャイロ(この「針」による手術法は……失敗したことがある。視神経を繋ぎ止める手術だったが、回転が乱れて……)

ジャイロ(一度や二度の失敗を引っ張って次の手術に悪影響を与えるなんてことはないが、あの時は……)

ジャイロ(マミ……俺もだぜ。俺も今、緊張している。だが、必ず成功させてみせる)

ジャイロ「マミはバットをリボンか何かで固定してくれ。そしてメス」

マミ「はいっ」シュルッ

ジャイロ「ほむらは鉄球を回転させて患者をそのまま麻酔させておいてくれ」

ほむら「わかったわ」シルシルシル





マミ「……それで、美樹さんが持ってきたお花は何の意味が?」

ジャイロ「……手術が長引くほど赤色をよく見ることになるからな。補色の緑を見ないと目が疲れる」

ジャイロ「胡蝶蘭は葉が大きい。緑を見る必要がある」

ほむら「……緑なら何でもいいじゃない。布とか」

ジャイロ「……いいだろっ。花でも何でも」

マミ「お花が好きなの? 案外ロマンチスト?」

ジャイロ「うるせー。切るぞ。吐くなよ」

ほむら「そうは言っても……」

マミ「美樹さんのアレな状態を見たからこれくらい大したことないわ」

ジャイロ「…………」




――
――――


さやか「…………」

杏子「あんたの恭介って坊やへの思い、よくわからんけど……」

杏子「ほむらのまどかへの……いや、あたし達への思いは……多分それを上回ってるんじゃないかな」

杏子「あたしは自分が情けなくなったよ」

杏子「なんつーか、あたし……結構最近まで、自分の事だけ考えて生きてきたんだなって……」

杏子「さやかに襲われた時、ほむらから共に戦ってくれと頼まれた時……」

杏子「神様って言うとおおげさだけど、そんな感じのが救いの手を差し出してくれたような感覚だった」

杏子「で、ほむらの覚悟を聞いた時……メラメラとわきのぼってくる気持ちがあった」

杏子「これが『仁』ってやつか……って思ったよ」

杏子「あたしは、生きるためとかグリーフシードのためとか……そういうの関係なく戦う理由を見つけられた」

杏子「あたしは……ほむらに感謝している。その報恩のためにあたしは命をかけられる」

さやか「…………」




さやか「あたし……」

さやか「あたしは……恭介の腕を手術をする、っていう交換条件で……共闘を結んだ」

さやか「だけど……だけどさ……」

さやか「そんな話聞かされて『それだけ』で済むわけないじゃん……!」

杏子「…………」

さやか「ほむらの覚悟が言葉でなく心で理解できた!」

さやか「あたしはほむらを誤解していた……その浄罪のためにも、あたしもほむらに命を預けるよ!」

杏子「……へっ、あの坊やに振られて魔女になるような真似すんなよ」

さやか「何をぉーっ!」

杏子「さやか……」

さやか「杏子……」


ピシガシグッグッ





――AM 0:00


さやか「…………眠い」

杏子「寝ろよ」

さやか「やだー」

杏子「リンゴ食うかい?」

さやか「夜食は太っちゃう~」

杏子「早く食わないと傷んじまう。元々売り残りを安くしてもらったやつなんだからな」

さやか「あぁ……そうだね。勿体ないもんね」

杏子「ああ。傷むとマズイからな。美味い内に食わないと勿体ない」

さやか「食べるのかよ……勿体ないってそういう意味で言ったんじゃないんだよ……」



杏子「ほら食え。まだマミんちの冷蔵庫を1/4は占領してる程あんだからな。怒られたんだかんな」

さやか「はいはい……」


コツコツ

さやか「ん?」

警備員「…………」

さやか「ふぇーふぃひんふぁ」

杏子「飲み込んでから言え」

さやか「……ん。警備員か……、魔法でバレないとは言えこんな近くを通られると……ねぇ?」

杏子「ビクビクすんな。堂々としてりゃあいいんだ。そんなんじゃ忍び込んだホテルでゆっくり眠れないぞ」

さやか「あたしは忍び込むとかしないし……」

警備員「? ……なんかリンゴの匂いがするな」ボソッ

さやか「!?」



さやか「ちょ! きょ、杏子! やばい!」

杏子「何だよ? うるさいぞ」

さやか「リンゴの匂いがするって! バレた!」

杏子「あぁ、そりゃこんだけ食べれば匂いくらいするだろ。この魔法、匂いは誤魔化せない」

さやか「や、やばいよ! バレたってマミさん達に伝えなきゃ……!」

杏子「落ち着けっての。その必要はない。座ってろ」

さやか「へっ? な、何を言ってるの杏子! 流石にバレるって!」

杏子「匂いが何だってんだよ……よいしょっと」




杏子「よっ! 名札曲がってるぞオッサン」

警備員「…………」

さやか「きょ、杏子!?」

杏子「西の戸って書いてサイコ……変わった読み方って言われないか? ニシドって呼ばれない?」

警備員「…………」

杏子「あたしの名字はサクラっつーんだ。読み間違えはされないけど、下の名前と勘違いされたことがあるぜー。桜な」

警備員「…………」

さやか「え……?」

杏子「お勤めごくろうさ~ん」

警備員「…………気のせいか?」

コツコツ…

杏子「……な? こんだけやっても気付かない。言ったろ? 監視カメラにも警備員にも侵入者に気付かないって」

さやか「あの警備員……気のせいで済ませた……。マジに気付かれてない……。あんなに近づかれたのに……いくらなんでも」

杏子「匂いがしたから何だってんだよ。ビビりすぎ」

さやか「だってぇ……」



杏子「黒い琥珀の記憶――メモリー・オブ・ジェット」

さやか「え? 何だって?」

杏子「今、あたしが使ってるこの技の名前。解説してやるよ。昨日、いや、一昨日名付けた」

杏子「ジェットってのは宝石の名前……。琥珀ではないが、黒琥珀とも呼ばれている。宝石言葉は『忘却』だ」

杏子「特定の人間以外から決して『認識』されない魔法。この技が発動している間、あたし達の存在感は『無くな』っている」

さやか「存在感……? よくわからないけど、早い話が『そーゆー幻術』なんだよね」

杏子「まあな」

杏子「とにかく、要するに誰にも気付かれないってことさ。もうちっとあたしを信頼しろということが言いたいんだよあたしは」

杏子「今のオッサンはせいぜい『何か人の気配がする気がするなぁ、夜の病院って怖ぇなぁ』くらいの認識できてないぜ」

さやか「……そ、そっか」

杏子「あたし達は今、誰にも見えないし声も聞かれない。勿論、蹴り飛ばしたり名札を引きちぎったりとかしたらヤバイ」

さやか「う、うん……」

さやか「ふ~ん……誰にも気付かない、ねぇ……」



さやか「……お?」

さやか「今度はあっちに患者っぽい人と看護師が一緒に歩いてるよ? ちょっと行ってみていい?」

杏子「盗み聞きか? ほどほどにしろよ」

さやか「おうよー」


コソコソ

さやか「バァ!」 

さやか「おばけかと思った!? 残念! 美少女でした!」

患者「まさか君が働いてる病院に入院するだなんて、これは運命だね」

看護師「んもォ~ショウくんたらァ~ん」

さやか「すげぇ、ほんとに気付いてない。何か面白い」

患者「最近お店に来てくれなかっただろう? 俺がいなかったから? ハハッ、じゃあ俺が退院したらすぐ店来てよ?」

さやか「ホストか何かか? こいつ。ホストってのはどうも気にくわない」

さやか「こういうタイプのツラは似たようなのがうようよいるからさやかちゃん区別できないぃ~」




看護師「んねぇ~、ここってぇ~、変な傷跡があるのォ~~恐竜のおばけが出るって噂なのォ~~~」

患者「怖いのかい?」

看護師「さっさと改修して欲しいのに院長がァ~、オカルトとかァ、そういうの好きなヤツでぇ~」

看護師「残すって言うのよォ~~~ちょっとした名物みたいになってるけどォ、ワタシこわぁ~~い!」

患者「騒ぐなよ……。夜の病院は響くんだ。黙らないとシタ入れてキスするぜ?」

看護師「きゃ~~~。……でも、いいのォ? だってショウくんは……」

患者「君が一番さ……。この体は売り物だけど、この心は君だけのものさ……」

看護師「どうせお客さん全員に同じ言ってるんでしょぉ……? でも、嬉しい……」

イチャコラ イチャコラ


さやか「…………」イラッ



ドゴォッ!


看護師「!?」

患者「!?」

杏子「なっ! 馬鹿ッ!」



患者「ヒ、ヒィィィ――ッ! お、おばけェェェ――! ゲピィ―――ッ!」

看護師「ギニャァ――! さ、先行かないでェェェショウくぅぅぅぅぅん!」



さやか「ちっ……壁殴っちまった……イライラするわ……」

杏子「バッカてめぇ! 声は聞こえないけどよぉ! こんなことしたら響くに決まってるだろ!」

さやか「けっ! ざまぁみろ!」

杏子「どうするんだよ!?」

さやか「うん?」




杏子「幽霊が出るって噂になったら営業妨害だぜ! ましてや病院!」

さやか「大丈夫だよ~。あんなチャラ男とサボリ女の言うことなんかまともに聞かれないさ!」プンスコ

さやか「すぐ風化するよ!」

杏子「いやいやいや……」


ガチャッ

マミ「ねぇ? 今の何? おばけって聞こえたけど」

さやか「え?」 

さやか「あ、あぁ、いや~、えへへ……丁度うとうとしてよく見てなかったからわかんないです~」

さやか「ね、杏子?」

杏子「お、おう。な、何かとみ、見間違えたんじゃあねーの?」




マミ「……? まぁいいけど……。美樹さん。疲れてるようなら仮眠してていいのよ?」

さやか「いえいえ、みんなが頑張ってるのにあたしだけ寝てなんかいられません!」

マミ「ふふ、そう? 無理しないでね。佐倉さんは寝ちゃダメよ? はい、グリーフシード」

杏子「おう。さんきゅ……」

マミ「あと一時間くらいで終わるそうよ」

さやか「……! は、はいっ」

杏子(そういやさっきの患者の顔、どっかで見たことあるような……気のせいだな)




とある病院の深夜0時17分。患者と看護師イチャついていると大きなラップ音が発生したらしい。

近くにはリンゴの匂いがし、別の警備員の話ではその場所で人の気配を感じたと語る。

その病院の第五手術室には壁ドンをするリンゴが好物の霊がいるとされ、リンゴを供えると手術が成功すると噂されている。

ちなみにその霊はファンタズマ・ロッソ(赤い幽霊)と呼ばれている。


――見滝原の七不思議。その⑤




――AM 1:22


ガチャ

ほむら「…………」

さやか「先生……恭介の様態は……」

ほむら「…………」

さやか「何とか言ってください! 先生!」

ほむら「…………」

さやか「先生……!」

さやか「あ、ああぁぁ……」

さやか「ああああぁぁぁ……!」ガクリ

さやか「返して! 恭介を返してよぉ!」




ほむら「その台詞は決めてたのね?」

さやか「うん」

杏子「馬鹿だよな」

ほむら「愚かね」

さやか「んなっ!?」

さやか「……それで、どうなの?」

ほむら「まだ終わってないわよ」

杏子「さやかの縫合のターンだぜ」

ほむら「ほら、いいからさっさと来なさい。縫合するから」

さやか「はぁい」

ほむら「マミに消毒してもらいなさい」

さやか「はぁい」




マミ「ディシンフェジオネ(消毒)!」

ズギャンッ!

さやか「……ど、どうも」

さやか「あの、それで……手術はどうなの?」

ジャイロ「ああ……」

ジャイロ「ま、やるだけのことはやった。切れた神経は全て繋げた。いつかは事故以前と同じようになるだろう」

ジャイロ「それがいつになるかは後のリハビリ次第だぜ」

さやか「……!」

さやか「じゃあ……成功したの!?」

ジャイロ「そうだな」

さやか「よ、よかったぁ……」

ほむら「よくないわよ。まだ終わってないんだからね」

さやか「あ、う、そうだった」

さやか「わぁ、エグイなー。あたしの腕もこんなんなったわー」

マミ「そういうのいいから……」

さやか「はい。ザ・キュア~」パァ…



ジャイロ「――さて、これで手術は完全に終わった」


マミ「お疲れさまでした先生」

ほむら「結構なお手前で」

さやか「おあいそ」

ジャイロ「コントはよそでやれ」

マミ「それじゃあ、どうする?」

ほむら「まずは片付けるわ。さやかは杏子と待ってなさい」

さや「はーい」

ほむら「それが終わったら患者を病室に戻して、解散ね」







杏子「……どうだった?」

さやか「成功したって……」

杏子「そうか! よかったじゃあねぇか」

さやか「うぅ……」

杏子「おい、どうした」

さやか「よかったぁ……グスッ、治って……ずっと、ずっと不安だったよぉ……エグッ」

杏子「そうか……」

杏子「よかったな。これでおまえの願いは報われたんだな」

さやか「……うん」

杏子「もう後悔はないか?」



杏子「後はあの坊やは、リハビリってやつをするんだな。支えてやれるな?」

さやか「……うん」

杏子「ならよし」

さやか「…………」

さやか(恭介……。もし、あたしが最初から恭介の腕を治していたとすれば……)

さやか(あの時は、後悔しないって、後悔なんかあるわけないと胸を張って言える自信はあった)

さやか(なのに……魔女になるかもしれないと知ってから、ソウルジェムと魂の関係を知ってから……)

さやか(後悔するか、しないか。今、何とも言えないんだよね……。何か、わかんなくなってきた)




杏子「……さやか?」

さやか「え? 何?」

杏子「何ボケっとしてるんだよ」

さやか「いや、何でもないよ……」

杏子「……これからは悩みがあったらあたしが、みんなが一緒に背負ってやるからな。遠慮なく言えよ」

さやか「ん。ありがと……」

さやか(あたしは馬鹿だから、難しいことを考えると頭がこんがらがる)

さやか(何にしても、恭介の腕が治ったという結果がある。それでいいんだ。今は)






ジャイロ「…………」

ジャイロ(……感傷だ)


ジャイロ(俺が彼の腕を治したのは、完全に感傷によるものだ。……感傷。父上を思い出すな)

ジャイロ(ウェカピポの妹の手術に失敗してしまった時……父上は「もし成功していたらもっと悲劇的な事が起こっただろう」と言った)

ジャイロ(……気がかりではある。俺の行動は正しい判断だったのか。本当に治してよかったのだろうか、と)

ジャイロ(俺というイレギュラーな存在が……招かれざる存在の俺が手術したことで、「そういうこと」が起きないだろうか、と)

ジャイロ(こればっかりは……未来のことだからわからねえ。そう考えるのは無責任かな……?)

ジャイロ(だが……さやかが本来叶えたかった願いは、Dioのせいで叶えられなかった。だからさやかの奇跡が今、報われたという真実がある)

ジャイロ(俺は納得している)




――翌日


昼休み 屋上


杏子「それでストロベリー&チョコチップスのアイスがさー」

杏子「あ、それで思い出したんだけど、今朝大変だっただろあんたら」

まどか「唐突すぎるよ杏子ちゃん!」

ほむら「さやかが上条恭介の腕に奇跡が起きたみたいなこと言ってやかましかったわ」

杏子「違う違う、そっちじゃなくて、家出家出」

まどか「あー……もう大変だったよ。みんなからどうしてたんだーって聞かれまくってて」

マミ「それはもうお昼に私達で集まることができないくらいに大変みたいよ」

ほむら「今頃生徒指導室で色々言われてるところじゃないかしら」

杏子「ふ~ん……」



杏子「家出した生徒のフォローってどんななんだ? 覗いてっていい?」

マミ「ダメよ……あなた、さも当然のように侵入してるけど校舎内はまずいわよ」

杏子「案外バレないよ? ここのジャージでも拝借すれば校舎内も確実に歩けるんだけどなぁ」

杏子「まぁ、マミがそう言うならやめとくよ」

マミ「そういや美樹さんは家出中どこで寝泊まりしてたのかしら」

杏子「聞いた話ではあたしと同じようにホームレス生活をして、病院の屋上とかで寝てたそうだぜ」

ほむら「えぇ。流石にそれは色々まずいから表向きはその間は口裏を合わせて私の家に世話になっていたということにするのよ」

まどか「えっ……それって大丈夫なの?」

ほむら「放課後、私も呼び出されるかもしれないから今日は一緒に帰れないわ」

まどか「えぇー……」



マミ「私の家ってことにしてもよかったのに……」

ほむら「マミは受験生だからね」

杏子「……なんだかんだでほむらもアレだよな。お人好しっていうか」

ほむら「さやかの人としての尊厳を配慮した結果よ」

ほむら「私も本当は嫌よ。よりによってさやかと同居していたことになるんだから……」

まどか「さやかちゃん、調子に乗って変なこと言わなきゃいいんだけど……」

杏子「バイセクシャルキャラになっちまうかもな」

マミ「暁美さんと美樹さんが数日間同棲してたという第三のニュースがおこるかもね」

ほむら「…………」

マミ「ごめんなさい」

マミ「その時は私達がフォローするわ」

ほむら「……えぇ、そうね」



――放課後



さやか「いやー、今日は色々と大変でしたわー!」

まどか「も~、調子いいんだから」

さやか「ちょっと方向性が違うけど、ほむらが来た初日もこんな感じだったよね」

まどか「うん。ちょっとどころじゃないよね」

さやか「ほむら~、ありがとねぇ~ん」

ほむら「チッ」

さやか「舌打ちされた!?」

ほむら「家出中のあなたを匿って黙っていた私が生徒指導室に呼び出されたことはわかっているわよね」

さやか「う、はい……反省してます」



ほむら「まぁ、調子に乗って『同棲してました』とかほざかなかっただけいいとするわ」

さやか「それはもう、さやかちゃんはそういう分別できますから! あははー!」

ほむら「何故舌打ちしたかわかるわよね?」

さやか「……はい。ほんと、ご迷惑をおかけして申し訳なく存じてございましてであります」

ほむら「それじゃあ、私は先生に尋問されてきます」

さやか「ごめんなさいでした……」

まどか「さやかちゃん……」

ほむら「それじゃ」

まどか「うん、バイバイ。ほむらちゃん」

ほむら「えぇ、さよなら。まどか」

さやか「頑張れよー」

ほむら「チッ」

さやか「舌打ちされた!?」




さやか「ほむらには悪いことしちゃったなぁ……」

まどか「さやかちゃんには自業自得なところ、あるんだよ」

さやか「わかってますってば……」

まどか「それじゃあ、わたしマミさんのとこ行ってくるね」

さやか「うん」



さやか「…………」

さやか「お待たせ。仁美」

仁美「…………美樹さん」



――ファストフード店


仁美「ずっとあなたに言いたかった」

仁美「美樹さんがいなくなってから、なおさら言いたかった」

仁美「ずっと前から私……」

仁美「上条くんのこと、お慕いしておりました」

仁美「側にいて、支えてあげたい。そう考えております」

仁美「それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません」

仁美「宣言します。私は、あなたの恋敵になります」



さやか(……仁美から呼び出された。内容は、恭介への思いを伝える宣戦布告)

さやか(仁美が恭介のことが好きで、あたしをライバル視している。……正直驚きだった)

さやか(ほむらが、いや、杏子から聞かされた。前の時間軸の話)



さやか(別の時間軸では……あたしは魔法少女になって恭介の腕を治して……)

さやか(魔法少女の体になったことで、仁美が恭介が好きであることを告白して……)

さやか(何かまぁ色々あって、あたしは自棄になり、魔女になったらしい)

さやか(ほむらは、そんなあたしも救おうとしてくれた)

さやか(きっと、多くの時間軸でほむらは影ながらあたしの恋を応援してくれていたのだろう)

さやか(いや、恋の応援をしたんじゃあない。あたしが絶望しないように頑張ってくれたんだ)

さやか(……そして、あたしはそれを何度も無駄にしてしまったのだろう)

さやか(挙げ句に魔女のあたしは杏子と共倒れするとか色々やっちゃって……)

さやか(あたしはこの時間軸でも自棄になった。前の時間軸のあたしと動機が違うからどっちの方が自棄ってるかはわからないけど……)

さやか(きっとそんな感じに、何度も暴走してほむらの願いを邪魔したんだ)

さやか(もう、あたしは……これ以上ほむらに迷惑かけたくない)



さやか「そうか……仁美、恭介が……そうなんだね……うん」

仁美「美樹さんも、好きなのでしょう?」

さやか「…………」

さやか「仁美……」

さやか(仁美は、どの時間軸でも恭介が好きだったのだろうか)

さやか(仁美は今まで何度恭介と付き合ったのだろう)

さやか(その一方で、あたしは何度恭介に怯えていたのだろう)

さやか(あたしは何回絶望して何回後悔して何回失恋したのだろう)

さやか(後悔なんてあるわけない。あたしは、何度同じ事を言ったんだろう)

さやか「……あたし」


さやか「あたしは……」


さやか(これは……ほむらに迷惑をかけたくないから言うんじゃあない)

さやか(紛うこと無きあたしの本心だ。多くの時間軸でしまい込んでいたであろう気持ちだ)

さやか(こんな体じゃキスしてなんて言えない……それでもいい)

さやか(あたしは馬鹿だからあれこれ考えるのは後回しだ)

さやか(あたしはただ、後悔しない生き方をして、絶望して魔女にならない、素直なあたしになる)

さやか(今、言わなければ後悔する。そして、ここで宣言しなければ、あたしは仁美に負ける)


さやか「あたしは……恭介が好きだ」


さやか(あたしはあたしの心に決着をつける義務がある!)



仁美「…………」

さやか「仁美、あんたがいつから、そしてどれだけ恭介が好きかなんてのは興味ない」

さやか「それはあたしの方が前から好きだとかそんなことを考えたくないからだ」

さやか「親友からライバルになるのに心苦しいとか思わない」

さやか「後悔なんかしたくない。もう退きたくない。受けて立つよ」

さやか「……それで、恋敵って具体的にどうするの?」

仁美「…………」

仁美「正直……」

さやか「ん?」

仁美「正直なところ、私は美樹さんを見くびっていました」

仁美「上条くんへの気持ちがあやふやで、あたふたしながら私に一方的に言われ、取り残される」

仁美「そういう展開を予想しておりましたわ。失礼ながら」

さやか「へぇー……言ってくれるね」


さやか「あたしはあたしがいない間にずっと仁美が恭介にいたと思うと、そういう気持ちになる」

仁美(今、私のこの気持ちを伝えたら……有名バイオリン奏者の腕が治る見込みができたから告白するみたいで癪で仕方ない)

さやか(恭介にとってみればあたしがジャイロ……医者を紹介した存在。恩着せがましい感じで告白なんざ言いにくいったらありゃしない)

さやか/仁美((しかし、その差が、躊躇が、自分自身を食いつぶすことになる))

さやか「…………」

仁美「……ルールを考えておきました」

さやか「ルール……」

仁美「全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。『全てが落ち着く日まで』は形式上停戦です」

仁美「これが『ルール』ですわ」

仁美「その『全てが落ち着く日』は美樹さんが指定してください。その言葉はどう解釈しても構いません」

仁美「もし、このルールを破って先に告白をすれば……私はあなたをその程度の人間として、絶交いたします」

さやか「……その逆も然りだよ。仁美」

仁美「ええ……。上等ですわ」

>>616の冒頭の一文を抜かしちゃいました……修正。



仁美「今の私は、上条くんの腕が治りつつあることを知らなかったのに、敗北感を覚えています」

さやか「あたしはあたしがいない間にずっと仁美が恭介にいたと思うと、そういう気持ちになる」

仁美(今、私のこの気持ちを伝えたら……有名バイオリン奏者の腕が治る見込みができたから告白するみたいで癪で仕方ない)

さやか(恭介にとってみればあたしがジャイロ……医者を紹介した存在。恩着せがましい感じで告白なんざ言いにくいったらありゃしない)

さやか/仁美((しかし、その差が、躊躇が、自分自身を食いつぶすことになる))

さやか「…………」

仁美「……ルールを考えておきました」

さやか「ルール……」

仁美「全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。『全てが落ち着く日まで』は形式上停戦です」

仁美「これが『ルール』ですわ」

仁美「その『全てが落ち着く日』は美樹さんが指定してください。その言葉はどう解釈しても構いません」

仁美「もし、このルールを破って先に告白をすれば……私はあなたをその程度の人間として、絶交いたします」

さやか「……その逆も然りだよ。仁美」

仁美「ええ……。上等ですわ」


さやか「……その指定した日までに、恭介から告白されたら?」

さやか「あるいは……考えたくはないことだけど、恭介があたし達以外に惚れたら?」

仁美「前者は受け入れてもいいでしょう。相思相愛ということになりますから祝福します」

仁美「後者は考えてません」

さやか「はは……そん時は振り向かせようと努力すればいいさ。あるいは、縁がなかったということで吹っ切っちゃえ」

さやか(今までの時間軸ではどうなのか聞いておく必要があるな。恭介はバイオリン以外にベタ惚れになることがあるのか)

仁美「……ですね」

さやか「……さて、全てが落ち着く日か。……ふむ」

さやか(全てが落ち着く日……。……そうだな。今はワルプルギスの夜のことも考えたい)

さやか(ワルプルギスが現れるまでは、恭介は学校に通えるようにもなるんじゃないかな)

さやか(ワルプルギス。恭介の退院。全てが落ち着いた時と言うのは……こんなものかな)




さやか「今から一ヶ月後。全てが落ち着く日はそれがいい」

仁美「わかりましたわ」

さやか「それまでの間、恭介のリハビリの手伝いは交代交代で行おう」

仁美「えぇ。そうしましょう」




動かなくなった少年の腕を無償で治した現代のブラックジャックが見滝原にいるらしい。

中学生が闇医者の話をしていたのを看護師がたまたま聞いていたのだが、実際その次の日に「奇跡的に」治ったのだという。

噂には尾ひれが付く。実際は無償ではないし現代人でもない。

――見滝原の七不思議。その⑥


――
――――



ほむら「――と、まぁ先生に色々言われたけれど、さやか失踪事件は完全に解決したわ」

ジャイロ「大変だなぁ」

ほむら「全くよ。何を言われたか覚えれないけども」

ジャイロ「だがまぁ、これでやれることはやりつくしたんじゃあないか?」

ほむら「そうね。まどかも未契約だし、あとはワルプルギスを越えるだけだわ」

ジャイロ「そうか」

ほむら「この日のためにどれだけ苦労してきたことか……」

ほむら「みんなあなたのおかげよ。ありがとう。今度こそ、私はこの回転の力で奴を越えてみせるわ」

ジャイロ「…………」




ジャイロ「なあ……お互い秘密を言い合おうぜ」

ほむら「え? どうしたのいきなり?」

ジャイロ「人に隠してること、ひとつくらい……あるだろ? 今……この場所で言い合おう」

ほむら「……」

ジャイロ「俺から言うぞ。俺がこの世界にやってきて最初に仕入れた物をおまえに教える」

ジャイロ「それは服でも食い物でも車軸油でもなくてよォ……」

ジャイロ「俺が最初に用意したのは『クマちゃん』だ。クマのぬいぐるみ……。一人の時はいつもそばにクマちゃんを置いている」

ジャイロ「俺の親友は何とも思わなかったようだがおまえ達には馬鹿にされるだろうから言わなかった」

ジャイロ「さあ……オマエの番だぜ!」

ほむら「…………」



ほむら「……おったまげたわ! 今年最大のヒットよ。『クマちゃん』!?」

ほむら「おもちゃ屋さんとかに置いてあるやつ? 可愛いの? 超ブッタマゲNo1! まどかも好きなやつ?」

ほむら「それ本当なの? ジャイロ。いい歳してどうかしてるわ」

ジャイロ「おいッ! 早くしろ! てめーの番だろッ!」

ジャイロ「まどか達……特にさやかなんかにはそのことを口にするな! おめーこそそーゆー趣味あるんじゃないか?」

ほむら「可愛いのは好きだけど……女の子だし別に問題ないでしょ……そうね」

ほむら「……言うけども……でも……言ったら引くと思うわ」

ジャイロ「引くから秘密なんだろ! さっさと言えッ!」

ほむら「……実は……なんて言うか……コホン。エヘン」



ほむら「……『パッド』ってわかる? その……もりあげるやつ。AAからCになる」

ほむら「何て言うか……実は、かなり前だけどいくつかの時間軸中……それをずっと着けて生活してたことあるのよ」

ほむら「ある時、片方ズレ落ちた。そしてみんなの前で片方だけCカップ状態になった」

ほむら「それ以来、二度と着けないと誓った」

ほむら「以上ッ! 誰にも言わないでよ! あっ! やっぱり引いてるッ! だから引くって言ったのよ///」

ジャイロ「それを人にしゃべったら俺がヤバイくらいに引かれるわ。通報されても仕方がないレベル」

ほむら「女子の秘密を聞こうだなんて行為がそもそもデリカシーがないのよ。全く」

ジャイロ「……」

ほむら「……」

ジャイロ「絶対に言うなよ」

ほむら「あなたこそ」



ほむら「…………」

ほむら(後は、ワルプルギスの夜が訪れ、戦うだけだ)

ほむら(マミは生きている。そして信頼を得た)

ほむら(杏子はその時ばかりの共闘なんかでなく、完全な仲間となった)

ほむら(さやかは自分の気持ちに素直になり、仁美の宣戦布告を受け入れるだろう)

ほむら(まどかは未契約。そして私には新しい武器がある)

ほむら(さらにジャイロ・ツェペリという強力な味方がいる)

ほむら(今までで一番いい状況じゃないかしら……こんな気持ちでワルプルギスを迎え討つのは初めてだわ)


ほむら(鹿目さん……ついに私、あなたとの約束を果たせそう……)



――繁華街 路地裏


「店長! 俺の給料減額ってどういうことスか!」


「……」



男「そ、それも半分も! 納得いかないです! どうしてなんスか!?」

店長「……ショウ。おまえさん……十日ほど入院してただろ?」

店長「その分の損失もあるが……それはまあいいさ。それでバイクで事故ったとかならまだいい」

店長「喧嘩売ったガキに逆上されて怪我して入院した……っておまえの弟分から聞いてんだよ」

男「あ、あいつ……! ち、違います! デタラメだ!」


店長「今にして思えばそのガキが最近噂の『青い切り裂き魔』なのかもしれねぇな……」

店長「まぁいいさ。それよりも、その病院で、同じく噂の『赤い幽霊』にビビってたそうじゃないか」

男「ほ、本当に聞いたんスよ! ラップ音!」

店長「真偽はいい」

店長「それよりもおまえさん、お客様を置いて真っ先に逃げたそうじゃあないか……お客様がおまえさんを陥れようと嘘をついてると?」

男「う……」

店長「いいか……この仕事はな……顔も大事だが何より大事なのは『信用』なんだ」

店長「ガキに斬られたのがデマだとしよう」

店長「だとすればおまえさんは同僚に信用されていないことになる。陥れようとされてたことになるからな」

店長「そういう世界だ。そういうのもいるだろう……」



店長「で、ガキに怪我させられたというのが本当だとする……」

店長「だったらおまえさんは今、俺に嘘をついたことになるよな。違うって。まぁ、少女にやられるなんざカッコワルイからな……」

男「ぐっ!」

店長「そしてここが一番重要。おまえさんは、青い切り裂き魔。赤い幽霊……その両方にビビったという事実にせよ噂にせよ、汚名があるんだよ」

店長「『そういうキャラ』で生きるのもいいが、おまえさんはオカルトにビビるキャラで信用を得ていない。お客様への信用が地に堕ちた」

男「ぐ、ぬぬ……!」

店長「おまえさんはいまどん底スレスレのマイナスだ。ゼロに戻すためには色々することがある。結果、戻せないこともある……これが現実だ」

男「う、ううぅ……そ、そんな……勘弁してくださいよ……! せ、せめて1/3額カット……半分はヒドイっスよ!」

店長「嫌なら辞めろ。おまえさんの代わりはいくらでもいるのだからな」




男「…………く、くそォォ、くそォ……!」

男「俺は……いずれNo1になるはずだった男だ! こ、こんな事が……ッ!」

男「マヌケなクソアマ共のために媚びを売り……」

男「クソみてぇな下積みも乗り超え……新人をいびり潰してこの世界を生き延びてきたのに……ッ!」

男「クソッ! 全てはあのガキのせいだ!」

男「夜道が暗いせいで顔が見えなかったが……」

男「全部あいつが悪い! 俺は被害者だ! あのクソッタレ青い切り裂き魔の被害者だ!」

男「気を使えよ! 同情しろよ! チクショオッ! チクショウッ!」

男「あのブスナースめ……! よくもあのことを抜かしてくれたな……!」

男「これだから女はッ!」



「フフフ……」

キィ…


男「!?」

車椅子の男「おまえ……気に入ったぞ……」

男「何だテメェ! 見せモンじゃねぇーぞッ!」

車椅子の男「……どうだ。俺にかわれないか?」

男「買われ……? ふざけんな! 誰がそんな……このホモ野郎!」

車椅子の男「……かわれないか、と言ったが。おまえは『買う』を連想したそうだが……」

車椅子の男「俺が言いたいのは『飼う』だ。車椅子を押すとかして……な」



車椅子の男「車椅子に乗ったはいいがどうにも操作に慣れないんだ……」

車椅子の男「雇わせてくれ……そして俺の下僕にならないか?」

車椅子の男「おまえみたいな奴、こんなちんけな世界に押し込めるにはチト勿体ない」

車椅子の男「善悪のブレーキが全くないような人間はなかなかいないからおまえで妥協するって感じなんだが……」

車椅子の男「なぁ……この手首に巻いているこいつを見てくれ」

男「…………」

車椅子の男「この時計、同じようなのをいくつも持ってるから前払いでくれてやってもいい。スイスのブレゲって職人が作った時計だぜ。質に出すなよ」

男「……ッ!」

男「………………」

男「……いくら、くれるんだ? 俺は、あんたのために何をすればいい……?」


車椅子の男「フフフ……」



某店・ホスト・ショウ

この男はある日をさかいに仕事をピタリとやめ……謎の彼方に消える……


『Dio』は知っている!




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Dio「お、落ちるッ! ヤバイ!」

Dio「だ、だがッ! 恐竜化ッ!」ズギャンッ

Dio「恐竜の脚力で着地して、衝撃を耐えてや……」

Dio「…………」

Dio「……ダメだ! この高さ……コンクリートのような硬い地面ではその衝撃に耐えられない……!」

Dio「そ、即死する……」

Dio「おのれ……! あの取るに足らぬ小娘の分際で……このDioが……」

Dio「このDioがアァッ!」

Dio「ウオオオアアァァァァァアアァッ!」



ゴ ゴゴゴ ゴ ゴゴ ゴ

Dio「…………」

Dio「……くそっ!」

Dio「やはりこれしか防御する『方法』がないとはな……」

Dio「しかし勝利には犠牲はつきものでもあるわけだ」

シュルッ

Dio「恐竜の尻尾……」

ズァッ

Dio「ぐうっ! くッ! ガアァッ!」

Dio「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

メキベキ ボムギ

Dio「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァッ!」

ドサァッ


Dio「グハァッ! アアァッ!」



Dio「ガ……クク……ウ……」

Dio「……ハァ――ハァ――ッ!」

Dio「恐竜化……尻尾を切り落としてクッションにした」

Dio「そ、即死は……免れた……グウッ!」

Dio「だが……グアアッ、クッ、あ、脚が……」

Dio(この両脚はもう使えない……切断も視野に入れる必要があるな)

Dio(くそっ! 命がある分マシか……いや、死んでいるんだがな……)

Dio(しかしこの状態で……ジャイロ・ツェペリと魔法少女共を殺せるか……?)

Dio(…………いや、諦める程のことではない)

Dio(ジョニィ・ジョースターは……両脚が不自由ながら、追っ手に狙われながら、SBRレースの7thステージまで来たんだ)

Dio(奴は気にくわないがその点は尊敬できる。奴に幾多の障害を乗り超えられたのなら……俺にもできる……!)

Dio(這い上がってやる……! そしてとことん上から支配してやるぞ愚民共!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



Dio(あの時……最後の最後!)

Dio(尻尾を切り落としてクッションにしていなければ……どうなっていたか!)

Dio(俺は死力を尽くしあれから社会の中に逃れた……)

Dio(車椅子を奪い、金目の物を奪い……奪って、今まで以上に飢えて生きてきた。そしてそれで準備を整えた!)

Dio(この脚を癒し、命を取り戻すには「契約」が必要だ……)

Dio(恐竜共の偵察によれば……ターゲットは鹿目まどか。こいつはまだ契約をしていない)

Dio(舞台はワルプルギスの夜。丁度いい下僕は手に入ったぞ)

Dio(待っていろ。ジャイロ・ツェペリ。暁美ほむら。巴マミ。佐倉杏子。美樹さやか……)

Dio(このDio、必ず試練を克服してみせる! おまえらはこのDioの「供え物」となるのだ!)


今回はこの辺で。

次回。ワルプルギス戦。多分あと200レスくらいで終わるんじゃないかなーという予想。


急用とかで投稿できなくなるなんてことがない限りは日曜日に完結でしょうか



――ワルプルギスの夜当日



避難所


まどか「……」ソワソワ

ほむら「まどか」

まどか「あ、ほむらちゃんっ」

ほむら「周りに誰もいないわね? それで、話って何?」

まどか「呼び出しちゃってごめんね。こんな時に……」

ほむら「大丈夫よ。みんなは先に待ってるけど、まだ現れるのに時間はあるわ」

まどか「そっか。ほんとにごめんね」

ほむら「いいのよ」



まどか「……あのね」

ほむら「何?」

まどか「えっと……その」

まどか「これ!」スッ

ほむら「……? これは?」

まどか「ほむらちゃん。これ……お守り!」

ほむら「お守り? ……四つ葉のクローバーね」

まどか「四つ葉のクローバーの押し花の栞」

まどか「四つ葉のクローバーは幸運の象徴。それで、わたしの大切な物。ほむらちゃんにあげる」

まどか「わたしには、みんなの力になれないから……せめて、ほむらちゃんに持っててほしいの」



ほむら「まどか……」

まどか「そしてこの言葉をほむらちゃんに捧げるよ!」キュポッ

ほむら「サインペン?」

まどか「LUCK!(幸運を)」キュッ

まどか「そしてわたし達の未来のために」キュポッ

ほむら「赤ペン?」

まどか「PLUCK!(勇気をッ!)」キュッ

まどか「どう?」

ほむら「どう? と言われても……」

ほむら「えっと……うん」

ほむら「ありがとう。まどか」

まどか「ウェヒヒ、どういたしまして」



まどか「ねぇ、ほむらちゃん。わたしって……どういう人だった?」

ほむら「え……っと。今度は何かしら?」

まどか「ほむらちゃんの最高の友達のわたしってどんな人?」

ほむら「…………」

ほむら「まどか、あなたは特別な存在よ」

まどか「えっ、嬉しいなぁ。ウェヒヒ……」

まどか「って、そうじゃないの。ほむらちゃんと出会った頃の……魔法少女だった時間軸のわたしはどんな人だった?」

ほむら「……そうね」

ほむら「転校したばかりで右も左もわからなくて、おろおろしていた私に優しくしてくれた」

ほむら「まるで妹のように、色々教えてくれたし理解してくれた」

ほむら「自信の持てない私を引っ張ってくれた……私の憧れ」

まどか「そっか……」

まどか「…………」



ほむら「……でもね」

ほむら「あなたは鹿目さんじゃないけど、あなたはまどかなのよ」

ほむら「決して変わらないわ。あなたが私の大切な人であることは……。だから鹿目さんに嫉妬する必要はないわ」

まどか「……わたし、ほむらちゃんを引っ張れるわたしになれるかな?」

ほむら「なれると思う……いえ、なれるわ。同じ鹿目だもの」

まどか「じゃ、じゃあさ……。みんなでワルプルギスを超えて……」

まどか「そしたら、一緒にお出かけしよう? わたしがリードしてあげるから!」

ほむら「…………」

ほむら(……全て丸く収めろと、全員生きて乗り越えろと、ジャイロは言った)

ほむら(そう。私も……。……ジャイロは私に自分自身も救えと言った)

ほむら(だから、無論、生きて帰りたい。そうは思う)

ほむら(そう言っている余裕がないというのはわかっていけど)

ほむら「……そうね。それもいいかもしれないわ」

まどか「うん!」

ほむら(実を言うと……約束はできない。私はただ、全力で向かうのみ)



――外


ジャイロ「ほむらを除くおまえ達に先に言っておきたいことがある」

杏子「お?」

さやか「で?」

マミ「ん?」


ジャイロ「ほむらじゃあねーが、俺はワルプルギスを越えたら、ここを去るつもりでいる」

さやか「!?」

マミ「……えぇっ!?」

杏子「ちょ、な、いきなり何言ってんだよ!」

ジャイロ「落ち着け。正確には、近い内に消えるつもりだ」

ジャイロ「Dioは落下して死んで消えた。俺も死ねば消えるはずだ」

さやか「いやいやいやいやいや! どういうことよ!?」

マミ「死ぬだなんて……正気なの!?」



ジャイロ「いいか、俺は、本来招かれざる者だ。この世界は俺の世界じゃあない……」

ジャイロ「だったら消えるのがこの世の常ってもんだろう」

マミ「だ、だからってそんな……!」

ジャイロ「おまえ達は帰る場所がある。あるいは帰る意味を見つけた」

ジャイロ「俺もだ。俺には帰る場所があるんだよ。そこに帰らなければならないんだ。……わかるだろ?」

杏子「…………帰る場所、か」

ジャイロ「異世界人ってのはそんなもんだ」

ジャイロ「どうせ俺は死んだ魂のようなもんなんだ。帰ったって文句はないだろ?」

マミ「そんな……だとしても、自分から死ぬだなんてそんなの絶対おかしいわよ!」

さやか「そうだよ! せっかく生き返ったってんならさ……なんて言うか……こう……」



さやか「あたし達と出会えたのは奇跡だって、感謝すべきだって言ったじゃん! 一緒に魔女を倒し続けようよ!」

ジャイロ「感謝はしているが、それと去ることは別の話だ」

マミ「あなたは命の恩人……私はまだその恩を返せてないわ。そんなあっさりと去られたら後味の悪いものを残す……」

ジャイロ「恩を返したいのか?」

ジャイロ「もう既に色々頑張ったじゃあねぇか。恩だなんて今更水くさい」

ジャイロ「どうしてもってんなら、俺の分もほむらに還元しろってこった」

さやか「あたしはまだ、ジャイロと一緒に戦ったりとかしたいよ……!」

杏子「まぁ……仕方ないよな」

マミ「え……?」

さやか「な、何言ってんだよ杏子!」



杏子「あたしはさ……今、早く家に帰りたいと思っている」

杏子「何故なら、そこにはマミがいて……あたしの居場所なんだっていう……ここにいていいんだっていう安心感があるからだ」

杏子「同じだよ。ジャイロにとって、ジャイロの魂にとっては、そっちがジャイロの居場所なんだ」

杏子「死後の世界なんてのは想像もつかないけどさ……多分、死後の世界は死んだ奴にゃ安息の世界なんだろ」

杏子「一方、ジャイロにとってこの世界は……はっきり言って安息はない。所詮、本当の居場所じゃあないんだ」

さやか「安息……」

杏子「……それにさぁ、魔女の影響でここに来たって言うんだろ?」

杏子「仲間ならさ、魔女の呪いから解放させるとかしてさ」

杏子「何つーの? 魂の安らぎ? そーゆーののために何とかしてやるのが当然じゃないか?」

マミ「佐倉さん……」



ジャイロ「杏子……」

ジャイロ「……大体、そんな感じだ」

さやか「…………わかったよジャイロ。寂しいっちゃ寂しいけど、何言っても無駄っぽいもんね」

マミ「元の世界に帰るだけだもの。……そう、ただ元に。それがツェペリさんにとっての真実なのよね……うん」

杏子「……そういう訳だジャイロ」

杏子「別に自殺を容認している訳じゃねーが、あたし達はあんたの決意を止めないぜ」

マミ「さよならくらい言ってから去って欲しいわね。暁美さんにも鹿目さんにも」

ジャイロ「おまえ達……わかってくれてありがとよよ」

ジャイロ「何つーか、輝いて見えるぜ。黄金の精神、みたいな。ニョホホ」

さやか「……で? そのことをほむらには言わないの? それとも既に話したの?」

ジャイロ「いいや話してないぜ」



ジャイロ「それをほむらに言わないのは、動揺させるからだ」

さやか「あたしらも十分動揺したんだけど……」

ジャイロ「ほむらは……別の時間軸で『ワルプルギスを越えたら見滝原を去る』と宣言したことがある」

杏子「ああ、そうらしいな」

ジャイロ「俺は、ほむらが言ったことをしようとしているんだ。必要以上に動揺させてしまうだろう」

ジャイロ「あいつは動揺してはいけない。精神的な迷いや揺らぎが回転に影響を与えてしまうんだ」

マミ「そ、そうなの……?」

ジャイロ「ああ。俺はほむらに、最後のレッスンをするつもりでいる」

マミ「……れ、レッスン?」

杏子「こ、このタイミングでかよ?」

ジャイロ「……これは、必ずできなければならない」

さやか「できなくちゃって……何で前もって教えなかったの!?」

ジャイロ「…………」



ほむら「みんな、お待たせ」

さやか「あっ」

ほむら「何よ『あっ』って」

杏子「……おう。ほむら。まどかは何の用だって?」

ほむら「えぇ……お守りをもらったわ。これ」

マミ「クローバー? ぷらっく……勇気がどうかしたの?」

ジャイロ(クローバーか……)

さやか「いいなー。何でほむらだけなのさー。まどかめぇ……えこひいきだよ!」

ジャイロ「幸運の象徴か……。おまえ薄幸そうだもんな」

ほむら「余計なお世話よ」

ジャイロ「大切にしまっておけよ」

ほむら「勿論。栞は落とさないように盾にしまってっと……」


ほむら「さぁ、もうすぐ現れるわ。ワルプルギスの夜が……」




さやか「緊張してきた……ゴ、ゴクリ」

杏子「いよいよか……」

マミ「…………」

ジャイロ「なぁほむら」

ほむら「ジャイロ?」

ジャイロ「こんな時になんだが、おまえは次のステップに進む資格を得た」

ほむら「え?」

ジャイロ「俺が教えた回転はまだ入門編に過ぎない」

ほむら「なっ……!?」


ジャイロ「これから新たな領域をレッスンする」

ほむら「ど、どういうことよ!」

ジャイロ「言葉通りだ。おまえの回転はまだ、俺と同じ回転ではないということだ。それを教える」

ほむら「ちょ……どうしてこんなタイミングで言うのよ! おかしいでしょ!」

さやか「あ、そうだった。そーだよジャイロ!」

ジャイロ「言っただろう。おまえは今、その資格を得たんだ」

ジャイロ「おまえは、精神的にも肉体的にもさらなる段階へ進む資格がなかった」

ジャイロ「例えば……鉄球の回転以外の武器ではどうせ通用しないだろう、とか……今までの自分の努力を見下している。そーゆー精神的な未熟さを言っている」

ほむら「そ、それは……」



杏子「そうなのか? ほむら……」

ほむら「……少し。……いえ、結構思ってる」

マミ「暁美さん……」

ジャイロ「まあ、所詮は青臭いガキだ。そういうのを甘く見てやってもいい。それを考慮して、今、資格を得たんだ」

ジャイロ「できもしないことを教えてもその場で足踏みするばかりで先に進めなくなる。だから黙っていた」

ジャイロ「だが、今のおまえにならできる。だから教えるんだ」

ジャイロ「これは試練だ。これができなければ、おまえは奴を越えても勝ったと言えるのか、イマイチなとこだ」

ほむら「…………」

ジャイロ「いいか。レッスン4だぜ。確か……多分」

ジャイロ「レッスン4『敬意を払え』……だ!」

ほむら「け、敬意……?」



ジャイロ「まず最初に言っておく。ほむら。おまえはこれから『できるわけがない』というセリフを……4回だけ言っていい」

ジャイロ「いいな……4回だ。俺も子どもの頃オヤジからそう言われた」

ほむら「……?」

杏子「な、何言ってんだこんな時に?」

ジャイロ「結論から言うと鉄球の秘密とは『無限への追求』だ。これがツェペリ家の目指したもの……」

ジャイロ「その無限という概念を、俺の先祖は鉄球という技術に応用しようとしたんだ」

ジャイロ「黄金長方形という形がある。聞いたこちあるか?」

マミ「確か……9:16の比の……最も美しいとされている長方形のことよね」

ジャイロ「あぁ。そうだ。正確には1:1.618の黄金率のことをいう」

ジャイロ「この……美しさの基本とされたこの比率は、名芸術家達の美の遺産に偶然か必然か、隠されているんだ」



ほむら「……何が言いたいの?」

ジャイロ「黄金長方形には次の特徴がある。黄金長方形から、正方形を一つ、9:9の比率で作る。すると残った小さい長方形もまた、およそ9:16の黄金長方形となる」

ジャイロ「それにまた正方形と作ってみる。この残りもまた黄金長方形。さらにまた作る。さらにまた、さらにまた……『無限』に正方形が作られる」

ジャイロ「それらの中心点を連続して結んでいくと……無限に続くうず巻きが描かれる」

ジャイロ「これが『黄金の回転』だ」

マミ「!」

ほむら「ま……まさかッ!!」

ジャイロ「おまえはこの通りに回していない。だから限界がある」

ジャイロ「『黄金長方形の軌跡』で回転せよ!」

ジャイロ「それこそツェペリ一族が追求した回転は無限の力だッ!」


ほむら「できるわけがない!」



ジャイロ「…………」

ジャイロ「今、言ったか? できるわけがない。……と?」

ほむら「う……。い、いや、そういう回転があるってのはわかったわ。で、でもっ! それを……私ができるの?!」

ジャイロ「やるしかない。いいか。あと3回だけ『できない』と言っていいぜ。おまえが3回目に言った時、これをやる。俺の『ベルトのバックル』だ」

ほむら「バックル……?」

マミ「まさか、黄金長方形のスケール……?」

ジャイロ「ああ。このバックルの形はそういう比率だ」

ジャイロ「この黄金長方形の軌跡上で正確に回転させれば、おまえの鉄球もまた! 無限の回転となる!」

さやか「そんなのがあるの!?」

杏子「何で最初から出さないんだよ!」



ほむら「そ、それがあるなら……やってみるわ! ジャイロ! 見せ――」

ジャイロ「だめだ」

ほむら「え?」

ジャイロ「『できない』と3度目に言った時と言ったろう」

マミ「あ、あなたって人は……!」

さやか「遊んでる場合じゃないんだぞ……!」


杏子「……ッ! この気配!」

ほむら「来る……ッ!」



ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


さやか「こいつがワルプルギス……!」

マミ「今までに出会ったどの魔女よりも強烈なプレッシャー……!」

杏子「でけぇ……! さすが伝説級。こりゃほむらが苦戦するのも無理ないな」

ジャイロ「ビルが舞っているな……蜃気楼でも見ているかのような異常な光景だぜ……」

ほむら「…………」ゴクリ

ほむら(相変わらず、胸が締めつけられるような感覚……!)

ほむら(こいつに……みんなが……まどかが……!)




ジャイロ「ほむら。おまえが先陣を切れ」

ほむら「わ、私が?」

杏子「一気に攻めちまおうぜ?」

ジャイロ「いや、ほむらが普段ワルプルギスに立ち向かう際、まずどうやって攻撃をしていたのかを確かめたい」

ジャイロ「奴が攻撃するのであればその攻撃を見極めておきたいからな」

さやか「な、なるほどよぉー」

ジャイロ「そして、取りあえず回転をぶつけてみてくれ」

ジャイロ「今のおまえの回転における威力……『基準』が欲しい」

ジャイロ「魔法で強化する必要は特にないし、黄金長方形を意識してもしなくてもいい。まずは一撃だ」

マミ「私はどうすればいいかしら? 撃って援護する? 届くけど」

ジャイロ「使い魔かなんかを追っ払っていればいいだろう」

ジャイロ「まずは様子見だ」

ジャイロ「いいか、俺らがおまえの行動を見るわけだから、時はなるべく止めるな。魔法は最低限中最低限だ」

ほむら「注文が多いわね……。わかったわ。それじゃ、行ってくる。援護は任せたわ」

マミ「ええ。気をつけてね」



さやか「……ほむらは、あんな化け物に一人で挑んだこともあるんだよね」

杏子「そうだな。全く、すげー奴だよ。んー……あれはなんだ? 打ち上げ花火?」

マミ「どう見てもミサイル的な何かでしょ……盾にしまっていたのよ」




ジャイロ「おーおー、派手にやってくれるじゃあねーか」

杏子「あんな武器を隠し持っていやがったのか……つくづく敵に回したくないねぇ」

さやか「あれで様子見なのか……どんだけ強いんだろう……ワルプルギス」

マミ「……暁美さんが鉄球を持ったわ」

さやか「あんな遠くからわかるんですか?」

杏子「よく見えるもんだなぁ」

マミ「まぁね」



ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

ギャンガァァァァァ


ほむら「タンクローリーだッ!」


ドッギャァァァンッ!


ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハ」


ほむら「そして追い打ち! 鉄球No4!」

ほむら(黄金長方形……黄金長方形……黄金長方形……)

シルシルシルシルシルシルシルシル

ほむら「いけッ!」


ブォンッ






シルシルシルシルシルシル


ほむら(う、感覚でわかる……)

ほむら(さっきと同じ威力……不変)

ほむら(……しかし、まずは一撃!)

ほむら(この状態で……最低限の魔力で投擲する今の威力を10として……)

ほむら(魔法を使って強化した威力を最大5倍と考えたら……)

ほむら(黄金長方形とやらは、何倍くらい強くなるのだろうかッ!)

ほむら「くらえワルプルギスッ!」





メキョォッ


ほむら「爆煙で見えないが、当たった音がした!」



ギャアァァァ――ッ!

ほむら「!?」


ほむら「……な、何の音!?」

ほむら「ワルプルギスの声ではない……」

ほむら「けど……どこかで……」

ほむら「どこかで聞いた……!」

ほむら「この『鳴き声』は……ッ! まさか! そんな!」




『また会ったな』


ほむら「ッ!? この声……!」

バサッ  バサッ

ほむら「そして、この音……」

ほむら「……う、嘘、でしょ?」


翼竜「ギィィィィィィ――ッ!」

翼竜「ギャァァァァ――ッス!」

ほむら「恐竜が……何匹も……!」

ほむら「さっきのは……鉄球が翼竜に当たった音!」



『地獄からはい上がってきたぞ暁美ほむら』



ほむら「そして……そしてこの声!」


ほむら「Dioッ!」


ほむら「な、何故……Dio……死んだはず!」

Dio『既に死んでいるんだがな』

ほむら「目の前にいるのは……プテラノドンのような恐竜が五、六匹……」

ほむら(どこが……Dioはどこにいるんだ……?)

ほむら(ど、どこから声が……!)



ほむら「……ハッ!」


使い魔「」ボシュンッ

ほむら「使い魔……? そして、消えた……」

ほむら「何故……?」

ほむら「私の投げた鉄球は、ワルプルギスをかばって翼竜に……?」

ほむら「……まさか!」

ほむら「使い魔も恐竜にできるのかッ!?」


Dio『その通りだぜ……。魔女もできればよかったのになぁ……』

Dio『まぁ恐竜にできたらできたで、浮いてるからまず落下して自重で死ぬがな』

ほむら「冗談じゃないわ……リアルゴジラじゃないの……!」




Dio『さて、無駄話ももういいだろう』

Dio『おまえらは……俺の最大の試練だ。おまえらを超えて、まどかの力を利用して、俺はこの世をとことん上から支配してやる』

ほむら「まどかを……ッ!」ギリッ…

翼竜「クヮ――――――ッ!」

ほむら「来る!」

Dio『まずはおまえだ! 暁美ほむら! おまえの死体は丁寧に輪切りにしてドブネズミどもの餌にしてくれる!』


ほむら「……仕方ない!」

カチッ



翼竜「――ガゥ?」

Dio『……いない……な』

Dio『時を止めて……。……チッ、逃がしたか』



ほむら「…………」

杏子「ば、馬鹿な……! Dioが生きてやがるだって……!?」

さやか「死んだはずじゃ……いや、既に死んでるのか。なんでここに……!?」

ジャイロ「確かに病院から落下して……あの高さからは普通助からない」

ジャイロ「死体が無かったから死んだら消えるのかと思ったんだがな……」

マミ「何故いるのかもそうだけど……使い魔を恐竜にするですって……?」

ほむら「…………」

マミ「まさかDioまで相手にしなくちゃいけないだなんてね……」

杏子「チト荷が重いぜ……」

ほむら「…………」

さやか「……ほ、ほむら?」



ほむら「ジャイロォッ!」

マミ「!?」

ジャイロ「……何だ?」

ほむら「もうレッスンがどうこう言ってる場合じゃあないわ! 黄金長方形の回転の秘密を教えて! 今すぐにッ!」

ジャイロ「…………」

ジャイロ「それはダメだ」

さやか「へ?」

ほむら「……は?」

ジャイロ「できるわけがないと、あと三回言ってからだ」

マミ「ふ、ふざけているの!? 今すぐに暁美さんに教えてあげて!」

ジャイロ「ダメなもんはダメだ。慌てるな。おまえならできるぞ」

杏子「こ、こいつ……遊んでんのか!?」



ほむら「そんなすぐにできるわけないでしょ! あなたは子どもの頃から訓練を受けている!」

ほむら「それを習得一ヶ月の私にやってみろ言われても無理!」

ほむら「できるわけがないっ! できるわけがないっ! さあ3回言ったわよ! バックルを見せ……」

ジャイロ「今のは1回にしか勘定しねぇからな。あと2回だ」

ほむら「さ、最初の時もビー玉で見せてくれたじゃないの!」

ジャイロ「それを例に出すか。ならあの時と同じだ! 俺は既に! おまえに全て説明しているし見せている! レッスン4だッ! 敬意を払え!」

さやか「何だとォ~~ッ……言葉遊びしてる場合じゃあないんだぞ!」

マミ「そうよ! Dioがいるのよ! ワルプルギスの夜に集中しなければならないッ!」

ジャイロ「ああ、そうだ。俺もDioが生きていたとは思わなかった。かなりヤバイと思う」

ジャイロ「だが! それは俺の言う『敬意』の答えを教えることは別問題だッ!」

ジャイロ「勝つなら急いでレッスン4を理解しなければならねーなッ!」

ほむら「…………」



ほむら「ふッ! ……ッざけないで! 今すぐバックルを寄越しなさいッ!」ガシィッ

杏子「ほ、ほむら!?」

ほむら「あなたこの状況を何だと思っているのッ!?」

ほむら「お遊びしてる場合じゃあない! 何が資格よ! 何が敬意よ!」グイィッ

ほむら「この状況で何故黄金の回転をしないの! 奴を舐めているの!?」

ほむら「まさか『どうせやり直せるから失敗してもいいや』だなんて思ってないでしょ――ねェ――ッ!」

マミ「あ、暁美さん! 落ち着いて!」

ジャイロ「……」

ゴチンッ

ほむら「あたッ!」



さやか「げ、げんこつ!?」

ジャイロ「テメーふざけたこと抜かしてんじゃあねーぞッ!」

ジャイロ「ツェペリ一族の回転の技術を見下してやがるのかッ!」

ジャイロ「『できない』と4度言うまでやれない! 絶対にッ!」

ジャイロ「それがツェペリ家の『掟』だ! 『掟』を破ったらおまえは敗北するッ!」

ほむら「は、敗北してまた時間を遡ったらッ!」

ほむら「イレギュラーなあなたの魂なんかどうなるかわかったもんじゃあないのよッ!」

ジャイロ「俺を脅してるつもりか? そん時はそん時だ」

ほむら「…………」

ほむら「もう、いいわよ……わかったわ……」

ほむら「言い合ってても埒が明かない」

さやか「ほむら……」



ほむら「私はDioの恐竜に鉄球をぶつけて倒した。そして恐竜は使い魔に戻って消えていった」

ほむら「使い魔を恐竜にできるということがわかったわ」

ほむら「それだけじゃない」

ほむら「Dioの声はしたけど、Dioの姿は見れなかったのだけど」

さやか「見えなかったって……姿を消す能力が?」

ジャイロ「いや、奴の能力は恐竜になるか恐竜にさせるだけだ」

マミ「保護色……の線はなさそうね。もしできるなら既に暗殺するでしょうし」

ほむら「ジャイロ。あなたはDioと過去に会っている。何か心当たりは?」

ジャイロ「あるぜ。何というか……Dioは消えていない。あの翼竜の中に隠れている」

杏子「な、中……?」

ジャイロ「フェルディナンドという大地万歳野郎がやったミノ隠れならぬ恐竜隠れだ」

ジャイロ「あの翼竜どものどれかの『体内』に、Dio隠れているはずだ」

ジャイロ「それ以外に言えることは……Dioは能力を使って使い魔を利用しているということは、考えようによっては……」

ほむら「私達、ワルプルギス、Dioの三つ巴という形になるわね」

さやか「な、なるほど。でも……どうすれば……」



杏子「……あぁ、もう面倒くさい。あれこれ考えても仕方ねーぜ」

杏子「今のは所詮、様子見だろ。だったら、こっからが本番のようなもんだ」

杏子「次は何をすればいいのかを教えろ!」

ほむら「ワルプルギス単体ならまだしも、余計な物がついていたら……どうすればいいのか」

ジャイロ「…………」

ほむら「こうなったら、どの翼竜にDioがいるかわからないというなら……片っ端からぶっ放すわ!」

ほむら「12.7mmM2重機関銃。射程距離400m。その威力は弾丸がかすっただけで手足くらい簡単にふっとぶ!」ジャキィッ

さやか「お、おいおい……近接のあたしと杏子が巻き込まれちゃうよ!」

杏子「落ちつけって……慌てても何もならねー」

マミ「…………」

マミ「それよりも一つ、私に考えがあるわ」

さやか「え?」

マミ「まず、暁美さんは魔女から距離を取って、遠方から攻撃を行って、注意を惹いて!」

マミ「それから――」



――
――――


Dio『ワルプルギスの夜……おぞましいパワーをひしひしと感じる』

Dio『使い魔を利用させてもらうぜ……』

Dio『ワルプルギス。おまえを最大限に利用して、魔法少女共とジャイロを葬ってくれる』

Dio『……しかし、なんだな』

Dio『このDioがフェルディナンドとかいうカスの技を真似するはめになるとは、世の中はわからんな』

Dio『この脚さえ動けばもっと楽なやり方はあったんだろうが……』

Dio『全く。体内からでは視界がグッと狭まるのは痛いな……』


クン、クン

Dio『ムッ……この臭いは……杏子か。杏子が近づいてくるぞ』

Dio『恐竜共ッ! 奴を包囲しろ!』

Dio『一匹だけ待機していたらこの中に俺がいることを知らせるようなものだ……おまえも向かえ』

翼竜「ギィィィィィ――!」



ガクンッ


翼竜「ギッ!?」

Dio『うおっ!?』

Dio『な、なんだ……! 何かにぶつかったぞ……?』

ズルッ

Dio「恐竜の口から肩までだけ這い出た」

Dio「……ッ!?」

Dio「なっ! なんだこの光景は……!」

Dio「リ、『リボン』……?」

Dio「ワルプルギスを『囲う』ように……リボンが縦横無尽に走っているッ!?」

Dio「リボンが別のリボンに結びつき……まるぜ蜘蛛の巣だ!」

Dio「まずい! コウモリならまだしも、恐竜ではッ! この『動かない障害物』ではッ!」




翼竜「ギャア――ッ!」

ドゲッ

翼竜「シャア――ッ!」


ド ド ドドド ドド ド



マミ「佐倉さんのロッソファンタズマの分身それぞれに私のリボンを持たせて飛び回らせた」

マミ「そして数多のリボンは互いに絡み合う……」

マミ「リボンの包囲網よ」

マミ「さらにリボンの包囲網の部分部分に鉄球が回転している」




マミ「その効果でリボンはワイヤーのように硬質化されているわッ!」

マミ「ワルプルギスを囲うのように走るワイヤーリボン!」

マミ「人間にとっては立体的で不安定な足場の舞台!」

マミ「けど……翼竜ならどうかしらッ?」

マミ「コウモリならこの程度のトラップは簡単に躱せるでしょうけど……」

マミ「恐竜は『動いているものしか見えない』とツェペリさんに聞いたわ」

マミ「つまり! 動かないワイヤーのような、硬質な障害物にぶつかる!」



マミ「くらいなさいDioッ! 半径100m『ガッビア・トッカ(リボンの鳥かご)』を――ッ!」

マミ「直径200mの私の結界に愚弄されるがいいわ!」




杏子(Dioはどこに入ってやがる?)

翼竜「ギャアァ――――!」

翼竜「シェイヤアァ――――!」

杏子(わからんが、とにかく全員とっちめりゃあいい! おまえらは自由に飛び回れないんだからな。倒すのは容易!)



Dio『お、おのれ……マミめ……』

Dio『しかし杏子……あいつ……』

Dio『分身ができるのか……全く、やっかいなことをする』

Dio『だが……分身なぞ無駄だ……』

Dio『恐竜の嗅覚でおまえの臭いを感知することで……本体の居場所はお見通しなのだ』

Dio『おまえから見て十一時の方向! 行けッ!』

グォォォォッ



翼竜「ギシャアァァ――――ッ!」

杏子「よし! 今度はおまえだ! ぶっ殺――」


翼竜「WRYYYYYYYYYYY!」




ザシュッ!

杏子「す……!?」 


杏子「ガ、ガフッ……!」

杏子「きょ、恐竜の口から……」

杏子「口から『腕』がッ……!? そしてあたしの腹を……!」

翼竜「余計なことをしてくれるな。杏子……」

杏子「ディ、Dio……!」

ズルリッ

Dio「ソウルジェムが槍の影になっていた故、即死の一撃は与えられなかったが……」

Dio「グニグニした胃に触っているぞ杏子……胃を切り裂いて胃液を体内にブチ撒けられたいか?」

杏子「グ……ぐェ……あ……!」

Dio「人間が体の内側から溶けていく様は俺も見たくないし暇もない」

Dio「さあ、ソウルジェムを砕かせるんだ。楽に逝けるぜ。きっと」





杏子「……恐竜の中に……テメーがいること……わからないと、思ったか……?」

杏子「そして……見破ると……思ったぜ。ゲフッ、本物のあたしをよォ~……」

杏子「臭いとかそういうので……たくさんのロッソファンタズマの中から……本物のあたしを……な」

Dio「何……ブツクサ言っているんだ?」

杏子「だからあたしは、ソウルジェムを槍で防御したんだ……おまえが来ることが、口から腕を伸ばして攻撃してくるのが、わかっていたからな……!」

杏子「そしておまえは、あたし自身を餌にした罠にまんまとかかったってわけさ」

Dio「貴様……何が言いたいんだ」

杏子「あたし……食べ物を粗末にするのは……嫌なんだよ。デッサンとかで食パンを消しゴム代わり使うのもいただけねー」

杏子「調味料って……食い物だよな」

スッ…

杏子「あたしは『そーゆーの』持ったことないんだよな。魔法少女だから……必要ないんだからなぁ」

Dio(あれは……缶? いや、あれは……まさか! マズイ!)




プシュゥゥ――ッ!


Dio「うおォッ!」

杏子「マスタードスプレーだッ!」

杏子「カラシと唐辛子の催涙ガス! ほむらから貰った護身用グッズだ! くらいやがれェェ!」

Dio「うおォォッ! 目が……! 鼻が……!」

杏子「これでおまえの自慢の嗅覚もマヒして機能しない!」

杏子「則ち、もう本物のあたしは見破れない!」

Dio「退けッ!」

翼竜「ギャアァ――――!」

杏子「勝ったッ!」

杏子s「「「「『ロッソ・ファンタズマ』躱せるかァ――ッ!」」」」

バァ――z__ッ!





キュゥ――ン…



杏子「……ん?」

杏子「何の音だ?」


ボッ

杏子「ッ!?」

杏子「あれは……ワルプルギスの――ッ!」

杏子「な……なんだよ……何でこのタイミングでこっちに攻撃が来てんだよ! おかしいだろうがッ!」

杏子「今さっきまで……奴はほむらを狙っていたのに……標的はほむらだったのに!」

杏子「何でこっちを狙うんだよ! これじゃまるでDioを助け……!」

杏子「うおあああああああ! ヤバイ! 逃げろォォォッ!」バァッ


ドギャァ――ンッ









ほむら「マミの策は……なかなかいいわね」

ほむら「杏子がマミのリボンで足場を作り、私達の移動性能を高める」

ほむら「そして私はリボンを伝って適当なビルに乗って……」

ほむら「狙撃しつつ、ワルプルギスと使い魔、恐竜の注意をこっち向ける」

ほむら「さやかとジャイロは何をしているのかしらね……」


ドギャァ――ンッ


ほむら「!?」




ほむら「わ、ワルプルギスが……攻撃した!?」

ほむら「嘘……何で……? 何で奴の狙いが杏子の方!?」

ほむら「ど……どういうことなのよ……何でワルプルギスは杏子を……」

ほむら「杏子はDioと戦っていた!」

ほむら「ワルプルギスとは無関係!」

ほむら「奴は遠距離攻撃をしている私に注意が向いていたはずなのに……」

ほむら「これじゃあまるでDioを助けたかのよう……」

ほむら「……ん? ワルプルギスの顔に……何か……」

ほむら「……ハッ! あ、あれは……!」




   ギャーギャー    ギャースッ

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハ」

バサバサ  KISYAAAAAAA


ほむら「ワルプルギスの顔の周りに翼竜が集っている……」

ほむら「新たに供給された使い魔は、私の所、恐竜、地上へ向かっている……つまり、魔女は恐竜も敵という認識をしている」

ほむら「……そうか」

ほむら「もし、顔に羽虫が寄ってきたら……払いのけようとする」

ほむら「Dioは恐竜を使って、『利用』したんだ……! ワルプルギスにまとわりつかせて!」

ほむら「な……なんてこと……!」

ほむら「Dioまでいて……それも、ワルプルギスを利用できるだなんて」




ほむら「……ない」

ほむら「……勝てるわけが……勝てるわけがない!」

ほむら「回転がどうとかそういう問題じゃない……勝てない……!」

ほむら「こうしている間にも新たに恐竜が作られて……じり貧に……」

ほむら「そうなれば……グリーフシードの残り的に……私達が……!」

ほむら「結局、この時間軸ではダメだったと言うの……?」

ほむら(少しだけ希望で喜ばせておいて……そして私から全てを奪い去って行く……!)

ほむら(この喪失感は……背徳のツケ……。今までの時間軸で見捨ててきた全ての……)

ほむら「できるわけがない……こんなんじゃ……勝てるわけが……」

ほむら「できるわけがない」

ほむら「…………」

ほむら(…………3回目。か)

ほむら「……ん?」

ほむら「あそこのビル……人影が……」


ほむら「……ジャイロとさやか?」






マミ「そ、そんな……」

マミ「何て馬鹿げた威力なの……! あの炎の矢は……!」

マミ「折角作った鳥篭も台無しだわ……ぽっかりと穴が空いちゃって」

マミ「佐倉さんは……直撃は免れたが爆風でこっちに飛んでくるわね」

マミ「このままだと地面に突撃する!」

マミ「トッカッ!」

シュルシュルシュルシュルシュルシュル

杏子「グッ!」ボスッ

マミ「リボンを編み込んでネットを作った」

杏子「あ……ありがとよ……マミ……」



マミ「佐倉さん! 大丈夫!?」

杏子「……んなわけがないだろ……今の攻撃で右膝下が吹っ飛んじまったよ」

マミ「……凄まじいわ」

杏子「そうだな。だが話してる場合じゃあない……また使い魔が湧いてきたぜ。恐竜はあと二、三匹ってとこかな」

使い魔「――」

マミ「使い魔といい恐竜といい、忙しいわね……!」

バシュンッ

杏子「やれやれ。片足で戦うのは難しいな」

杏子「マミ、治してくれよ」

マミ「ちょっと立て込んでるんだけど……っと!」

杏子「さやかは? トイレ?」

マミ「さっきツェペリさんと一緒に上で行ったわ」

杏子「上? ……あぁ、そういうことね」

マミ「大丈夫?」

杏子「大丈夫!」




フラフラ…

Dio「くそ……視界がチト霞むが……何となく見えてきた……。ビルがどの辺に浮いてるかくらいはわかる……」

Dio「翼に飛び火したか……おい、不安がるな。おまえは指示通り一番高いビルに行けばいいんだ」

翼竜「SYAAAAA……」

Dio「可哀想に……おまえの体、焦げ臭いぞ。大丈夫。そこの浮いてるビルに止まるんだ。あと5m……3……1……」


バサバサッ ドシャッ


ズルリッ


Dio「よし。たどり着いたな。この高さなら下にいるあいつらには気付かれないだろう……」

Dio「さて、おまえはもう用済みだ。しばらく休んで視覚を何とかして……その後は新しい恐竜を来させ――」



「休む暇なんか与えねェ――……」



Dio「!?」


ジャイロ「よォー……久しぶりだなオイ」

さやか「あの時はよくもあたしに酷い目に遭わせてくれたよね」

Dio「ジャイロ・ツェペリ……美樹さやか……?!」

Dio「な、何故貴様らがここに……!」

さやか「簡単だよぉ。マミさんのリボンの足場を乗り継いでだよぉ」

ジャイロ「あんな高所で不安定な綱渡りはツララをケツに突っ込まれた気分だったぜ」

Dio「クッ……何故だ……何故俺がここに来ることがわかった……!」

さやか「あ、ひょっとして気付いてないのかな?」

Dio「な、何をだ……?」





さやか「現代の護身グッズの合理性をだよォ~~……」

ジャイロ「鏡の類はないもんな……」

さやか「あんたにかけられたマスタードスプレーのことだよ……」

Dio「き、貴様ら……!」

さやか「さっきのスプレー! 『ピンク色の塗料』が同時に噴射されるのだ!」

さやか「塗料がつくことで、犯人がすぐにわかるからな……合理的でしょ」

Dio「……ハッ!」

翼竜「ガウゥゥゥ……」

Dio「お、俺の恐竜が……ダークピンクに……」


さやか「塗料がついていれば、そいつはそれを噴射された、則ちターゲットだってわかるからね……しかもそう簡単には落ちない」

さやか「途中で乗り換えればそれをあたし達が見逃さない。だからあんたは翼竜の中に潜むほかなく、この塗料に気付かなかったんだ」

ジャイロ「どっちみち、空飛ぶピンクを探せばいいんだよ。まぁ高い場所に行くだろうと予想はしていたがな」



Dio「ひ、退け! 恐竜!」ガシィッ

Dio「飛べッ! ジャイロは手ぶらッ! 鉄球を持って投げるまでの隙ができるッ!」

翼竜「ギャウー!」

バサッ

Dio「ここは逃げ――」

さやか「そうはさせるかッ!」

ザシュッ


Dio「な……ッ!?」

翼竜「GYAAAAAAAA――!」

Dio「な……なにィィィ!? 恐竜の……翼が……」

グラッ

Dio「お、落ちるッ!」

ズルッ ガシィッ




Dio「ハァ……ハァ……!」

ジャイロ「やはり……落下しないように恐竜から抜け出したな」

さやか「落ちまいと必死にビルにしがみつく姿は実に情けないねぇ」

Dio「何故だ……! 何故恐竜が……近づかれていないのに!」

さやか「……フッフッフ。翼竜ちゃんは、マスタードスプレーで目がふさがれちゃったから自慢の動体視力も残念賞……」

Dio「さやか……?」

Dio「ハッ! け、剣が……! 『刀身がない』ッ!?」

さやか「へへーん!」バーン

さやか「マミさんにも秘密の奥の手だよ……この剣先を飛ばすのは! ……もっとも一本しかないから無くしたらまた作らないといけないんだけどねっ」

さやか「名付けてラストショット! 剣先を飛ばして翼竜をやったッ!」

Dio「こ……この……! 薄っぺらなたかがカスの小娘のくせにッ!」




ジャイロ「回転をくらうがいいぜ」

ギャンッ

Dio「うおあッ!」

シルシルシルシルシルシル

グルンッ ドサッ


さやか「回転で捕まり状態から半回転しィ~~……あたし達の足下に!」

さやか「築地のマグロみたいにドサァーってね。ニョホホ」

Dio「ク、クソッ……!」

ジャイロ「大人しくしてろよ。そのまま回転で動きを止めてやる」

シルシルシルシル

Dio「うっ……グク、ぬぬ……!」

ジャイロ「さて、と。このDioをぶちのめすか。脚の不自由なその体……俺はおまえさんにカワイソーだとか思わねぇ」

Dio「く……ぐく……!」




ジャイロ「聞け、Dio。俺は今からおまえを抱えて、こっから飛び降りるぜ」


Dio「な、何ィッ!?」

ジャイロ「わざわざ高いビルへ逃げたのが運の尽きだ」

ジャイロ「まあ……下から見えないし行くのに骨が折れるからこのビルに逃げるのが順当だろーがな」

ジャイロ「こんなとこから……おまえを蹴り落とすのもいいが、おまえは恐竜を呼び出したりとかするかもしれねーからよぉ……」

ジャイロ「共倒れってのがおまえを葬る一番確実な方法だ。しかもこれが唯一無二のチャンスさ」

Dio「お、おまえ……! し、死ぬ気かッ!」

ジャイロ「おまえ何かを抱えて飛び降りなくちゃならないってのは嫌ってもんだぜ」

ジャイロ「Dio。とにかくおまえはちょっと黙ってろ。心を静かに……」

シルシルシルシルシル

Dio「ウ……あ……」

Dio「…………」



ジャイロ「聞け、Dio。俺は今からおまえを抱えて、こっから飛び降りるぜ」


Dio「な、何ィッ!?」

ジャイロ「わざわざ高いビルへ逃げたのが運の尽きだ」

ジャイロ「まあ……下から見えないし行くのに骨が折れるからこのビルに逃げるのが順当だろーがな」

ジャイロ「こんなとこから……おまえを蹴り落とすのもいいが、おまえは恐竜を呼び出したりとかするかもしれねーからよぉ……」

ジャイロ「共倒れってのがおまえを葬る一番確実な方法だ。しかもこれが唯一無二のチャンスさ」

Dio「お、おまえ……! し、死ぬ気かッ!」

ジャイロ「おまえ何かを抱えて飛び降りなくちゃならないってのは嫌ってもんだぜ」

ジャイロ「Dio。とにかくおまえはちょっと黙ってろ。心を静かに……」

シルシルシルシルシル

Dio「ウ……あ……」

Dio「…………」


ジャイロ「おまえはバラバラにしても石の下からミミズのようにはい出てきそうなくらいにしつこいからな。こうするしかねー」

さやか「…………ねぇ、ジャイロ」

ジャイロ「あん?」

さやか「本当にこうするしかないかなぁ」

さやか「あたし……やっぱヤだよ。恭介の腕治してくれたり、恩があるのに……」

ジャイロ「気にするな。俺はこの世界にとっては招かれざる存在なんだよ。元に戻るだけさ……ただ元にな」



ジャイロ「俺だけにDioに引導を渡す権利があり、義務なんだ。俺はDioの道連れになるつもりで戦う」

ジャイロ「ほむら以外の全員は、俺が死ぬことを承諾しただろ?」

さやか「それは、そうだけどさ……」

ジャイロ「まぁ、さようならと言えないのが心残りではあるが……まぁ仕方あるまい」

ジャイロ「それらを覚悟したからこそ、おまえは俺とここに来たんだぜ」

ジャイロ「ま、当のほむらに黙ってこんなことするのもあれだが……あいつに限って許してくれないだろうからな。黙って逝くぜ」

さやか「うん……でも、寂しいよ……。マミさんや杏子だって……」

ジャイロ「人の死を乗り越えてこそ、人は成長するもんなんだよ」

ジャイロ「杏子が言っただろ? 俺を魔女の呪いから解放するって」

さやか「……わかったよ。うん。あたし達で決めたことだもんね」

さやか「あたし、あんたのことずっと忘れないからね!」

ジャイロ「いつかは忘れてもいいぜ」

さやか「うーん……そう言っちゃうかあんた……」



さやか「……さて、これからジャイロは死んじゃうわけだけど」

ジャイロ「何だ?」

さやか「バックルは? 渡しとくよ?」

ジャイロ「いや、ほむらは4回目の『できない』をまだ言っていないはずだ。だからやれない」

さやか「ちょ……! 死んだら渡せないじゃん! 新手の詐欺まがいなことを……!」

ジャイロ「掟は掟だからな……。それに、バックルなんか今更意味はない」

さやか「え? ど、どういうこと?」

ジャイロ「ほむらに伝えてやってくれ。『おたくはすでに答えを掴んでいる。回転させようとする意志を持つならなぜそれを使わない?』と……」

ジャイロ「これはバックルなんかよりずっと良いヒントだ」

さやか「…………」

さやか「愛弟子に最期の伝言するのに、それだけじゃ寂しくない?」

ジャイロ「ニョホホ、おまえ気が利くじゃあないか。それじゃお言葉に甘えて……だが、覚えられるのか?」

さやか「あたしを馬鹿にしないでよね!」




――
――――


ジャイロ「さてと、あとはよろしく頼むぜ」

さやか「うん……」

ジャイロ「あばよ」

さやか「イイヤツに生まれ帰れよっ!」

ジャイロ「ニョホホッ、だといいな」


ジャイロ「……オラ、起きろDio。死ぬ時間だぜ……しょっと」

ガシィッ

Dio「……はっ!」

ジャイロ「それじゃ、飛び降りるで」

ブワッ

Dio「ッ!」

>>710はミスです。すみません


×さやか「イイヤツに生まれ帰れよっ!」
○さやか「イイヤツに生まれ変われよっ!」




さやか「…………」

さやか「あたしが無意気の内にとっていたのは敬礼のポーズであった」ビシィッ

さやか「それにしても何だか……ずいぶんとあっさりとした別れだなぁ……」

さやか「何でだろう? ジャイロのことは、尊敬も感謝もしているのに……」

さやか「不思議と、泣くとか『そーゆーの』がない。大切な仲間の一人との別れだってのに」

さやか「思えば杏子もマミさんもそうだったな……割とあっさりジャイロの死を受け入れた」

さやか「悲しいし、寂しいし、未来の娯楽施設を見せてその反応を見てみたかったってのに……」

さやか「……魔女の呪いから解放するっていう意識だからかな?」

さやか「これが、救済する側の気持ちってやつなのかな」

さやか「あーもー! あたしの頭じゃ考えがまとまらないからもう何でもいいや!」





ゴオォォォ――――――z____ ッ!


Dio「う、うおおおおおおッ!?」

ジャイロ「この高さならよォ――……落ちるのがコンクリだろうが水だろうがどっち道、即死だぜ」

ジャイロ「おまえは病院の時に続いて、また落ちるんだ」

ジャイロ「再びな……」

Dio「お、おのれ……! ジャイロ・ツェペリ……!」

ジャイロ「再びなァ――――――ッ!」

Dio「フン! だが……面白いぞジャイロ・ツェペリ! おまえの覚悟には敬意を表してやる!」

Dio「だがッ! この俺がおまえの腕を切り落として逃げないとでも思ったか!?」

ジャイロ「ッ!」

Dio「WRYYY! 貧弱! 貧弱ゥ!」

グアァッ! 



ガキィッ!

Dio「……な」

ジャイロ「ぐああッ! 痛っ……てぇな! ちくしょう!」

Dio「ば、馬鹿な……! 恐竜化した俺の手刀はおまえの腕を切り飛ばすはずだ……。俺は骨ごと腕を切り落とすこともできる……!」

Dio「何故腕が繋がっている! 何故掴む腕の力が緩まないんだ!」

ジャイロ「ニョホホ。ホホ」

シルシルシルシル

Dio「ッ! 回、転……!」

ジャイロ「ホ」

ジャイロ「気付いたか? 何も俺が無策でつっこむわけねーだろ」

ジャイロ「テメーにしては冷静じゃあないな。まあ無理もない」

Dio「ジャイロ・ツェペリッ! 皮膚を硬質化したなッ!」

ジャイロ「おうよ。今の俺はそこら辺の拘束具よりも頑丈だぜ」


Dio「は、離せジャイロォ……!」

ジャイロ「嫌だね」

Dio「いいか、よく聞け。どうせ俺達は既に死んでいるんだぞ……!」

Dio「今こうして空気が吸えるのはきっと生き返れという神の啓示だ!」

Dio「生に執着するのが生き物ってもんだろう!?」

Dio「手を組もうじゃないか! 俺達が手を組めばニューヨークのマンハッタン島くらいなら簡単に手に入るぞッ!」

Dio「まどかの力があれば俺達は生き返って何だってできるんだッ!」

Dio「何なら他の魔法少女の素質のある奴を探せば、契約の力で何でも叶うぞ! ちょっと脅せば大丈夫だ!」

Dio「おまえにも永遠の喜びを与えようじゃないか!」

Dio「なあいいだろう! おまえにも出世欲はあるはずだ! おまえにも、人の上に立つ才能がある!」

ジャイロ「なんつーか……おまえ、小物臭がハンパないな。まぁ、生への執着心と良いように捉えてやる」

Dio「クッ!」



ジャイロ「いつまでもこの世にへばり付いてんじゃあねェーぜッ! お互いによオォ――ッ!」

Dio「ふざけるなァァァァ――――ッ! ジャイロォォォ――――ッ!」

ジャイロ「うるせぇーぞ! ボケッ!」

Dio「やめろオオオオオオオオWRYYYYYYYYYYYYYYYYY――――ッ!」

ジャイロ「テメーごときにしがみついて死ぬ俺の気持ちも考えろよなッ!」

Dio「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!」

ジャイロ「…………」

Dio「――――」

ジャイロ(……じゃあな)


メメタァッ





――避難所


タツヤ「タァァァ~~~~~…………」

タツヤ「ボ」

知久「よしよし」

詢子「お酒飲みたいんだが」

知久「我慢してよ詢子さん」

詢子「酒! 飲まずにはいられない!」

知久「そういえばまどかは?」

詢子「さあ? 外の景色でも見てるんじゃないの?」

詢子「ほら、子どもの頃、台風の時とかってなんかわくわくしなかった? そんなノリでさ」

知久「あぁ、そんな頃もあったような気がするよ」

タツヤ「イギーッ」




まどか「…………」

QB「彼女達の元へ行くのかい?」

まどか「行きたいけど……」

まどか「わたしが行っても、邪魔なだけだよ……」

まどか「外の様子、見てるだけ……」

QB「…………」

QB「君は無力感を覚えている」

QB「全員が戦っているのに、自分だけ安全な場所にいることに心を痛めている。違うかい?」

まどか「…………」

QB「君が契約されすれば、ワルプルギスの夜を倒せるというのに……」

まどか「わたしが契約してワルプルギスを超えても、それはほむらちゃんを悲しませちゃう」

まどか「ほむらちゃんは幸せになるために、わたしを幸せにするために未来からやってきた」



QB「やれやれ。人間の価値観というものは本当に理解ができない」

QB「ねぇ、まどか」

QB「ワルプルギスの魔女は何故、舞台装置の魔女と呼ばれているのを知っているかい?」

QB「ワルプルギスは自分自身で舞台を作り上げ、魔法少女を役者をした舞台を演出する」

QB「その脚本は、魔法少女の敗北が結末なんだよ」

まどか「…………」

QB「ワルプルギスを超える力がないと、その舞台の結末。もとい崩壊の運命からは逃れられない」

QB「負けることが運命だ。その運命を切り開けるのは君の契約――」

まどか「キュゥべえ……それは違うよ」




まどか「運命っていうのは自分で切り開くものなんだよ」

まどか「運命の一言で諦めれちゃうようなら、ほむらちゃんは今、この時間軸にはいない」

まどか「……それに役者じゃない存在が乱入しているんだもの」

QB「ジャイロ・ツェペリ……」

まどか「それに、ほむらちゃんには、その技術(アドリブ)があるもん」

まどか「とにかくわたしは、そうそう契約はしないから」

QB「本当に君は……」

まどか「魔法少女になる以外に鹿目さんを超える方法……何かないかなー」

QB「鹿目……? あぁ、前の時間軸の君のことか」

QB「そんなこと考える必要はないんじゃないかな。君がその鹿目なんだから」

まどか「キュゥべえにはわたしの心が一生わからないだろうね――」




 ガシャアァァァンッ!


まどか「!?」

QB「!?」


まどか「な、何の音……!」

QB「ガラスが割れた音だね」

まどか「……え」

まどか「あ……あれって……そんな……」


『ルゥゥゥゥ…』


まどか「う、嘘……そんな……あ、あり得ない……どうして……!」




恐竜「ブハァ――……ッ」


まどか「恐、竜……!?」

まどか「でぃ、でぃ……」

まどか「Dio……!?」

まどか「そ、そ、そ、そんな……ど、どど、どうして……た、確かに……確かに消えたって……!」

QB「スタンド能力というものは本体が死ねば消滅するはずなのに……」

QB「……あの時、病院で……あの高さから落ちたのに……奇跡的に生きていたのか……!」

まどか「う、う、うぅ……」

まどか「うあああああああ!」

QB(まどかが恐怖している!)



恐竜「ギャアァァ――――ッ!」

ダンッ

QB「気付かれた!」

まどか「ああああ……あああ……あああああ……」

恐竜「グルルルルル……」

QB「まどか! 逃げるんだ!」

まどか「あ、あわ、あわわ……」

ガクガク

まどか「あ、脚が……脚が震えっ……!」

まどか「ひっ、ひぃ……ッ!」



――まどかは思った。


Dioがいる! 病院の高い階からコンクリートの地面に落下して消えたと聞いていた!

本人ではないが、恐竜が実際にいる! ガラスを突き破って! 侵入した! つまり生きている!

何があったのかわからないが、何にしてもいるという事実がある!


……目的はわたし! Dioが病院を襲撃した時、さやかちゃんとキュゥべえを捕まえて契約を迫ったように……

今! わたしとキュゥべえを捕まえて、契約させるつもりだ!


ここに恐竜が現れたということは、Dioは、わたしがここにいることを知っていたということになる!

そして本体が来ていないということは……きっとDioはワルプルギスの所にいる!



まどか「い、い……」

まどか「いやあぁぁぁぁ……!」

ペタン

QB「まどか! 座り込んではダメだ! 逃げなくちゃ!」

まどか「こ、腰が、抜け……た、立てないよぉ……!」

恐竜「グフゥー」

まどか「ひぃぃぃっ!」


ドスンッ

まどか「ごふッ!?」




QB「まずい! あの時と同じだ……!」

QB「恐竜がまどかを踏みつけた!」

恐竜「グルルルゥ……」

キョロ キョロ

QB「警戒している……仲間がいないかどうか確かめているんだ」

まどか「お、重い……痛い……苦しい……た、助けて……誰か……」

まどか(声が震える……大声が出ない……怖い……怖い怖い怖い怖い)

まどか(誰か……誰か助けて……ママ、パパ……ほむらちゃん……!)

まどか「痛い、痛い、痛い……痛いよ……痛いよぉ……!」

QB「まどか! しっかりするんだ!」

まどか(――ん? 脚に……傷跡みたいなものが……ある)



QB「まどか!」

QB(まずい……Dioにまどかを奪われたら……)

QB(契約すること自体は問題ない。しかし……今はダメだ)

QB(Dioにまどかを渡すわけにはいかない)

恐竜「ブハァ――……」

QB(うっ、目が合った)

QB(……確か恐竜は、Dioの言葉に反応していた)

QB(なら……言葉が通じるかもしれない!)

QB「まどかを離してくれ!」



恐竜「グルル……」

ギリッ

まどか「ああああ……っ! お、重い……! 苦しい……!」

QB(まずい……さやかの時と違って……さやかがうつ伏せだったのに対してまどかは仰向け)

QB(生物は防御をする時、腹を抱えるようにして背中を丸める。それは内臓を防御するためだ)

QB(まどかは今、かなりのダメージを与えられている!)

QB(さらに、恐竜が間近に見えることによる恐怖!)

QB(さやかの時以上の恐怖と苦痛を味わわされている……!)

QB(今、契約をさせるにも……恐竜がいては、踏まれていてはそれができない)




QB(助けなければ……しかしどうやって?)

QB(……恐竜はDioの言葉を認識していた)

QB(言語は通じないだろうか? 今はとにかく考え得るあらゆる方法で試してみよう)

QB(Dioは日本語で指示していたが、テレパシーで別の言語による指示を送っていた可能性もある)

QB(あらゆる言語で試してみよう)

QB「Release her!」

QB「Placere dimittere Madoka!」

QB「Si prega di rilasciare il suo!」

QB「マドカヲ離シテクレ!」



恐竜「グゥゥ――……」


まどか「う……く……ぐぐ……」

まどか(キュゥべえの声に反応している……?)

まどか(何の音なのかわからなくて音のする方を確認しているのかな? 犬が首を傾げるみたいに)

まどか(何にしても……キュゥべえに注目している)

まどか(い、今がチャンス!)

まどか(脚の傷跡……何かによって『斬られた傷』がふさがってきたって感じの傷……)

まどか(そ……そこに……やるしかない!)

まどか「く……」

モゾッ

まどか「ケ、ケータイの角……」

まどか(動体視力……視界外なら……!)

まどか(ごめんなさい!)

ブォンッ



ゴスンッ!




恐竜「ギャアァァ――――――スッ!」


まどか「ひっ、怯んだ! 今の内に抜け出すッ!」

ズルッ

まどか「お、おあぉっ!」

ダッ

まどか「ぎゃっ!」ベチャ

QB「まどか! 大丈夫かい?!」

まどか「こ、転んじゃった……けど大丈夫!」

まどか「キュゥべえ……! 隙をつくってくれてありがと!」

まどか「はぁ……はぁ……」

まどか「痛いだろうなぁ……ごめんなさい。恐竜にされた人……あるいは動物さん……」

まどか「わたしも痛かったから両成敗ってことで……いたた……」



恐竜「ギャウゥゥゥ……」

QB(うつ伏せだったらまどかは攻撃できなかった。仰向けはまずいと思ったが、逆によかった)

QB(これが火事場の馬鹿力というものなのかな。それともまどかの精神力が思いの外成長していたのかな)

QB(これなら魔法少女になった後は素晴らしい活躍をしてくれるだろう。だが……今の状況は……)

QB「状況は何も好転していない……」

まどか「どうしよう……」

まどか(助けを呼ぶのはダメ……巻き込んでしまう)

まどか(それ以前に恐竜を目の当たりにするわけにはいかない!)

まどか(どうすればいい……? わたしに何ができる?)


まどか(わたしは……無力だ)




QB「まどか。急いで契約するんだ!」

まどか「キュゥべえ……」

QB「じゃないと、またあの時の二の舞だ! 魔法少女になって戦うんだ!」

QB「そして、そのままほむら達に加勢しようじゃないか!」


まどか(……確かにそうだ)

まどか(今、何をどう考えても、わたしが恐竜と戦うには、魔法少女になるしか手だてはない)

まどか(じゃないと、またあの時と同じように……)

まどか(わたしとキュゥべえはあの鋭い牙の生えた口でくわえられ……)

まどか(人質にされる! 敗北が決定してしまう!)

まどか(……契約しか……契約しかないの!?)

まどか(それは……嫌だッ!)




まどか「…………」

まどか(……いつだったかな)

まどか(ジャイロさんが……前に『ルーシー・スティールさん』っていう人の話をしてくれた……)

まどか(ルーシーさんは……その命を賭けて、修羅場をくぐり抜けたらしい!)

まどか(聖なる遺体だとか、スタンドだとか大統領だとか、詳しい事情はわからないけど……)

まどか(いつ消されても、殺されてもおかしくないような権力に対して、立ち向かったらしい!)

まどか(夫を守るためにッ!)

まどか(ルーシーさんは……確か14歳で……52歳のスティーブンさんって人のお嫁さんだ)

まどか(年齢差と14歳で結婚していることもそうだけど……年齢がわたしとそんな変わらないということにわたしは驚いた!)

まどか(ルーシーさんはスタンドという能力を持っていないし、鉄球の回転のような技術もない)

まどか(それでも! 愛する夫のために命を賭けた! あらゆる恐怖に対抗した!)




まどか(きっとその人は幸せになっただろう……)

まどか(わたしも幸せになりたい……ほむらちゃんも、幸せになるために時間を遡行してきたんだ……)

まどか(14歳のルーシーさんができたのなら、わたしだって……!)

まどか(見滝原を……みんなを……ほむらちゃんを救うために!)

まどか(わたしがDioに捕まったら……全てが台無しになる)

まどか(わたしなんかのために……ほむらちゃんの重ねてきた努力を無駄にはできない!)

まどか(やるしかない! やらなきゃやられる!)

まどか(でも……どうやって?)



まどか(ルーシーさんならどうするだろう)

まどか(ルーシーさんと違うとこは……わたしの命がある意味で保証されていることだ)

まどか(Dioの目的はわたしの契約の力。必要なときになるまで殺しはしない)

まどか(でも……それが何だっていうの?)

まどか(ただの人間が……丸腰で恐竜と対峙して、勝てるわけがない)

まどか(本当に契約だけ?)

まどか(契約すればほむらちゃんを悲しませる……契約しなければ敗北する)

まどか(うぅ……ほ、ほむらちゃん……)




QB「まどか! ただの人間に、恐竜を相手できるわけがない!」

QB「契約するんだ! 今すぐに! 恐竜が警戒している今の内に!」

まどか(ただの人間……)

まどか(わたしは……ただの中学生だ。普通の人と同じに……家族を愛し友人を愛し国を愛する……)

まどか(ダメだ……。ただの中学生でしかないんだ……)

まどか(契約するしか……もう手だてはない……!)

まどか(敗北だけは避けなければ……わたしも、戦わなくちゃ……!)

まどか「キュ、キュゥべえ……わたし……」

まどか(ごめんなさい……。ごめんなさい。ほむらちゃ――)




ほむら『まどか、あなたは特別な存在よ』



まどか「――ハッ!」

まどか(今……ほむらちゃんの声が聞こえたような……)

まどか(いや、違う。今のはわたしの思い出だ……ほむらちゃんがわたしに言ってくれた言葉)

まどか「…………」

まどか(……そうだよ)


まどか(違うんだよ!)


まどか(わたしはただの人間じゃあないんだ……)

まどか(特別……)

まどか(普通の人とは違うことがあった!)



まどか「…………」

QB「どうしたんだい?」

まどか(わたしには『キュゥべえ』がいる!)

まどか(ただの人間が……ただの、それも丸腰の女子中学生が恐竜に勝てるはずがない……)

まどか(しかし……丸腰の女子中学生のわたしに、勝つ可能性があるとするのなら!)

まどか(それはキュゥべえがいるということだ!) 

まどか(それこそ、わたしが普通と違うとこ!)

まどか(キュゥべえが見える……)

まどか(そして……それは「わたしだけ」じゃない)

QB「ど、どうしたんだい。まどか」

まどか「キュゥべえ! わたしに協力して!」

QB「契約かい? もちろ――」

まどか「契約はしない! でも、協力して!」

QB「……」




QB「契約をしないなら、僕は力になれないよ」

まどか「ど、どうして!?」

まどか「どっちにしても、今契約しようとしたらその隙に襲われる!」

QB「確かに。それは盲点だったかもしれない」

QB「いいかい。Dioの目的はまどかの契約の力だ。なら、まどかの命はある意味保証されているというわけだ」

QB「そして……過程はどうであれ、まどかが契約するという結果が残る」

QB「なら僕がわざわざ助ける必要性がない」

QB「契約さえすれば、まどかの力はDioなんか足下にも及ばない」

まどか「そ、そんな……」

QB「しかし、まどかが契約をしてしまうとなると……」

まどか「え?」

QB「ほむらはまた時間を巻き戻してしまう」

QB「このままじゃいたちごっこというわけだ」

QB「それどころか、ほむらは記憶と回転の技術を引き継いでしまう」

QB「ますますまどかとの契約ができなくなるんだよ」

QB「そもそも魔法少女として力を使う前にDioに殺される危険性も10%くらいはあり得るからね」

まどか「……」

QB「利益を考慮すると協力したい気持ちもあるけど、僕は力になれないよ」

QB「僕には魔法も技術も力もないからね」

まどか「キュゥべえ……」


まどか「……ありがとう」

QB「お礼を言われる理由がわからないよ」

まどか「それでも、ありがとう……」

まどか「協力はしてくれるんだよね?」

QB「……ああ、そうか。全く。人間の言葉は本当に要領を得ない」

QB「僕は力にはなれないよ。噛みつくことも庇うこともできない。そんな僕がいたところで……」

QB「まあ、何をするのかは聞かないけど、勝算はあるのかい?」

まどか「……わからない。賭けになるかも。……けど、やらなきゃやられる」

QB「僕は何をすればいい?」

まどか「わたしの肩に乗ってっ」



まどか(この恐竜と対峙する上で……)

まどか(目的がわたしなら……ある意味ではわたしの命は保証されている!)

まどか(少なくともこの恐竜には殺されはしない! 手加減をされる!)

まどか(だから多少無茶しても……大丈夫だ!)

まどか(みんなの足手まといになりたくないと思ったからには……)

まどか(ならないために! 覚悟を決める!)

まどか(思いついてしまった『策』に……わたしは人間の魂を賭ける!)

まどか(成長するんだ! 成長しなければ栄光は掴めない! 明るい未来も! ほむらちゃんの幸せも!)




恐竜「ギィィィヤァァァ――――ッ!」

グアァァ

QB「来るよ! まどか!」

まどか「勇気を出して……わたし……!」

まどか「勇気とは怖さを知ることッ!」

まどか「キュゥべえ! 覚悟を決めてッ!」

まどか「いっくよォ――――ッ!」

ダッ


QB「な……何だって!?」

QB「逆に突っ込んだッ!?」

QB「何を考えているんだまどか!」


QB「このままだと正面衝突! 捕まりに行くようなものだ!」

まどか「うん捕まるだろうね! でも怯えて立ちつくしている方が捕まえてくれと言ってるようなものッ!」

まどか(契約をしなければ、恐竜に負けたら、わたしは人質にされ、みんなの敗北が決まる。それは嫌だ!)

まどか(ほむらちゃんを悲しませたら、わたしが負ける!)

恐竜「ウガアアアァァァ――――――ッ!」

まどか「うおあああああああ――――ッ!」

まどか(わたしが恐竜に勝ってみんながDioとワルプルギスに勝つ! これが完全なる勝利!)

まどか「ゴメン! キュゥべえ!」

QB「!」

QB「うわあぁぁっ!」

恐竜「ガアァァァァッ!」

まどか「おらぁッ!」



ザグゥッ!




ボタ…ボタ…


まどか「あ……ああ……うあ……」


QB(恐竜の牙が……まどかの腕に……深々と刺さった……!)

QB(下手をすれば……神経が切れて、上条恭介と同じように……腕が動かなくなるかもしれないというのに……!)

QB(まどかは信じている……全員が生きて帰ってきて、この傷を癒してくれるということを……だが……)


QB「無茶苦茶な……! 君は……なんてことを……!」


まどか「ふぐぅっ……うぅ……うぅぅぅ」ポロポロ

まどか「み、見てのとおりだよ……キュゥ……べえ……グスッ」




まどか「敢えて……『恐竜の口に腕を突っ込んだ』……」

まどか「い……いたい……すごくいたいよぉ……血もいっぱい出るし……エグッ、涙まで出てくる……」

まどか「でも……怖いのは痛みなんかじゃない……みんなの足を引っ張るのは嫌だ……」

まどか「人質にされて、ほむらちゃんの今までの努力を無駄にするのが……ずっと怖い……」

まどか「わたしが……わたしもがんばらないと……明日は訪れない……!」

まどか「ワルプルギスの夜を超えた! 暁が見れないッ!」

まどか「明日って今なんだよッ!」

まどか「みんなで幸福に生きてみせる!」

まどか「栄光は……わたし達に……ある……!」


恐竜「グッ……ガッ……」


まどか「杏子ちゃんと初めて出会った病院での出来事……」

まどか「恐竜は……さやかちゃんとキュゥべえをくわえて、持ってきて……Dioが脅迫をした」

まどか「Dioはジャイロさんと同じようにキュゥべえが見えていた」

まどか「そしてそのDioの能力である恐竜は……キュゥべえを見て触れることができた。だからつれてこれた」

まどか「Dioは……キュゥべぇに干渉できる」

まどか「その能力である恐竜もまた……キュゥべえに干渉できる……!」

まどか「キュゥべえは……恐竜に物理的干渉ができるッ!」



まどか「はぁ……はぁ……」

まどか「ごめんね。キュゥべえ……」

恐竜「ググッ……ゲッ、ガ……ギ」

まどか「腕を突っ込んで……」

まどか「恐竜の『喉』に『キュゥべえ』を『詰め』た……」

恐竜「ギギ……ギギギィ……」

QB「全く……わけが……わからないよ。君がこんな……乱暴な手段を選択するなんて」

まどか「恐竜は息ができなくて窒息する!」






恐竜「ガ……」

ドサァッ


恐竜「」ヒクヒクッ


QB「なんて……なんて無茶をするんだまどか……」

QB「僕で窒息させるだなんて……僕を乱暴に扱ったこともそうだけど」

QB「なによりその負傷。生身でそんなことを……」

QB「左腕が真っ赤じゃないか」

まどか「うっ……」


ガクゥッ

まどか「け……決着ゥ~……!」

まどか「はぁ……はぁ……」

QB「君の命がけの行動。……僕は敬意を表すよ」

まどか「か……勝っちゃった」

まどか「わ、わたし……なんかが……恐竜を……魔法少女じゃないのに……」

まどか「やった……! やったよみんな……! わたしが……わたしが倒したんだ……!」

まどか「ウェ、ウェヒヒ……。血だらけだけど……ジンジン痛むけど……すごく、晴れ晴れとしてる……」



まどか「わたしでも……」

まどか「わたしでもできるなら……」

まどか「わたしでもできるなら、今更Dioなんかがいても……」

まどか「みんな、大丈夫だよね!」

まどか「……うぅ、う、腕が熱い……!」

まどか「この傷……どうしよう……」

まどか「恐竜と一戦交えたなんて言えないもんね……」

QB「契約すれば何とでもなるよ。その傷も、この状況も」

まどか「……普通に。後でさやかちゃんに治してもらえばいいし」


ショウ「…………」

QB「おや、恐竜の姿が元に戻っているよ」

まどか「あ、ほんとだ……」

まどか「そっか。気を失うとDioの能力が解除されるんだったっけ」



まどかさんが左腕を負傷した所で、ワルプル前半戦はこの辺で。

今夜決着ゥゥーーーーーーーッ!編として再開します。


中途半端に次スレにいくのは嫌なので2レス分を1レスにまとめるとかしたから長さがバラバラで読みづらくして申し訳ないです。


まどかさんvsショウさん。蛇足感がありますが、スティール夫人及びトリッシュさせたかっただけです。

まさか前作と同時に書いていたのに二倍近くの長さになるとは思いもしませんでしたが。



――
――――


ほむら「……あ、あああ……ああ……そ、そんな……」ワナワナ

ほむら「ジャ……ジャイロ……じ、自分から……」

ほむら「あんな高さから落ちたら……ジャイロ、即死じゃないの……」

ほむら「ジャイロ……! 何で……何でそんな……」

ほむら「そ、そんなのってないわよ……! どうして……?」

ほむら「Dioを倒すためとは言え……どうして……! うぅ……!」

ほむら「あなたが死んだら……わ、私は……!」



ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

使い魔「――」

使い魔「――」






ほむら「私達だけで……ワルプルギスを倒せと言うの……?」

ほむら「無茶に決まってるじゃない! 何回やったと思っているのよ……!」

ほむら「ジャイロが消えてしまった以上……それを打開する唯一の希望、黄金の回転の答えを知る術がないじゃない!」

ほむら「知ったとしても、倒せるかどうかもわからない!」

ほむら「ジャイロ……あなたはどうしてそんな……Dioと共倒れだなんて……他に方法は……あったはず……!」

ほむら「どうしてさっさと教えてくれなかったのッ!?」

ほむら「いきなり言われたって、できるわけがないじゃない……!」

ほむら「できるわけが……」

ほむら「……ハッ!」

ほむら(できるわけがない、と4回……)

ほむら「う、うぅっ……!」



『4回言ったな……できるわけない……と』



ほむら「!?」

『おまえはよォー……たった一ヶ月という短い期間で……黄金長方形、ツェペリ一族と同じステップに立つ可能性を得られた。それは、奇跡だ』

ほむら「じゃ、ジャイロ……? ジャイロなの……? あなた……どうして……!」

『掟は掟と言っていたが、バックルはやれねぇ……。申し訳ないと思う。……だが、おまえなら必ずできる。回転を信じろ……そして敬意を払うんだ』

『ここでヒントをやろう。おたくはすでに答えを掴んでいる。回転させようとする意志を持つならなぜそれを使わない』

ほむら「答えを……既に?」

『……じゃあな。俺はあっちへ行くぜ。そうゆうことなら……そうゆうことでいいんだ。俺の趣味は……約束したよな……誰にも言うなよ』

ほむら「ま、待って! ジャイロ! どこにいるの! いかないでッ!」

『じゃあな……元気でな』

ほむら「ああぁ……そんな……!」




ほむら「ジャイ……ロ……!」

ほむら「さようなら……ジャイロ」

ほむら「……さようなら」



「……って伝えろって言われてさぁ」

ほむら「!?」バッ

さやか「めちゃ辛いけどさァ~~……メソメソするのは終わってからにしようね!」

さやか「それにしても、ほむら。ずいぶんと感情的だなぁ。ちょっとビビッたよ」

さやか「伝言しただけなのに。そんなに似てた? 声。ちょっとだけ意識したけど」

ほむら「さやか……? いつの間に……」

さやか「えぇ~? 気付かなかったの? 浮いてるビルとリボンワイヤーをピョンピョコピョンと乗り継いで来たんだよ? ホントに気付かなかったの?」

ほむら(今のは……幻聴……?)



さやか「まあいいか」

さやか「ねぇほむら、今の4回目の『できない』だよね? すごいな。ジャイロ。そこまで計算してあたしに『4回言ったな』って言えっつったんだよー」

ほむら「……」

さやか「ほら、涙を拭きなよ。ネガティブになるなんてほむららしくない」

ほむら「……あら、泣いてたの? 私……」

さやか「あたしのマントで涙を拭きなよ」

ほむら「いらないわよ。そんな埃まみれの汚いの」

さやか「……そうそう。やっぱほむらは生意気なくらいが丁度いい」

ほむら「どの口が……ま、そうね。諦めるなんて、私らしくなかったわ」ゴシゴシ

さやか「ねぇ、ジャイロの趣味ってどういうこと?」

ほむら「……秘密よ。これは絶対に秘密」

さやか「ええぇ~……」




ほむら(黄金長方形……『既に全て説明した』……私は『既に答を持っている』……)

ほむら「考えるのよ。暁美ほむら……」

ほむら「答えを持っているということは今の私が回すことができるということ……」

ほむら「全て説明したということは答えは導き出せるということ……」



待って……いったいツェペリ家は何が言いたい?





黄金長方形? 美しさの基本?

芸術家達やジャイロの先祖は……それをどこから学んだ?

学者から聞いたとか、定規で測ったわけじゃあないはず……。

それはコピーってやつで本物じゃあない……。本物があるはず! 本物の美のスケールが! 

本物はどこにある? 本物に気付かなくては……黄金の回転は、永遠に回せない……。

本物って……何? 美しいって何?

私が持っている美しい物? ……鹿目さんとの出会い?



ほむら「美しい物……」

さやか「美しいといえば美少女のさやかちゃん!」

ほむら「黙ってて」

さやか「スイませェん……」





キュ―ゥン――


ほむら「……ハッ!」

さやか「あっ!」


ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ」


さやか「ヤバイ! 炎の矢が来るッ! 魔女自身の意思だ!」

ほむら(う、美しいって……何なのよ!)

ほむら(くっ……)

さやか「ほむらぁっ!」ガシッ

さやか「そこのビルに飛び移れぇっ!」


バァッ




ドサァッ

さやか「ぐへぁ!」

ほむら「ああっ!」

ほむら「い、痛つつ……」


ドッバァァァ!

ほむら「……え?」

ゴァァァァァ

ほむら(炎の矢が……さっきまで乗っていたビルをバラバラにした、その破片が!)

ほむら(も、ものすごい破片飛沫が! その爆発さながらのスピード!)

ほむら(ま、まずい! 時を止めないと!)

ほむら「ま、間に合わ――」




バッ!

ほむら「!?」

さやか「当たる面積を最大にして気合ガード!」

ドガガガガガガッ

さやか「うがあぁぁぁぁぁ!」

ほむら「さ、さやか!」

ドガンッ

さやか「タコスッ!」

カチッ




ほむら「時を止めて瓦礫を何とかした」

ほむら「さやかッ!」

ほむら「あ、あなた……! 私を庇うなんて……なんて馬鹿なこと……」

さやか「へ、へへ……あたし、ほむらに迷惑かけたからさ……」

さやか「それどころか……恭介を治して……くれた恩がある……も……」

さやか「どうってこと……ないさ……」

ほむら「今治療して――」

さやか「……ん」

カクッ

ほむら「さ、さやかァッ!?」

ほむら「……き、気を失っただけ、か……」

ほむら「この傷……頭に瓦礫がぶつかったからか……」




ほむら「ごめんなさい。さやか……私のせいで……。そして、ありがとう。助けてくれて……」

ほむら「…………」

ほむら「この状況……ジャイロのように……タフなセリフを吐きたい」

ほむら「ジャイロなら……『こりゃ頭が馬鹿になっちまうな。ニョホホ』とか言うでしょうね……」

ほむら「さやか……あんな風に庇ってくれるだなんて……」

ほむら「あなた……なんか、ちょっぴりカッコイイじゃないの……」


ほむら「……あ」

ほむら「さやか……」

ほむら「さやかで思い出したわ」

ほむら「ずっと、どっかで引っかかってたのよね……」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マミ「それで、美樹さんが持ってきたお花は何の意味が?」

ジャイロ「……手術が長引くほど赤色をよく見ることになるからな。補色の緑を見ないと目が疲れる」

ジャイロ「胡蝶蘭は葉が大きい。緑を見る必要がある」

ほむら「……緑なら何でもいいじゃない。布とか」

ジャイロ「……いいだろっ。花でも何でも」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ほむら「……花」

ほむら「あの手術の日……」

ほむら「ジャイロがさやかに持ってこいと言われたものは、花……」

ほむら「ジャイロは、手術をする時、花を見ていた。無菌にしておくべきなのにわざわざ持ち込んで」

ほむら「緑を見る分なら何でもいいはずなのに。よりによって手術室に土を持ち込む? 普通……」



ほむら「……いや、待って」

ほむら「既に説明した」

ほむら「…………」

ほむら「あの時はいつもの気まぐれかと思ってたけど……」

ほむら「もし……もしも……」

ほむら「それが『必然』だとすれば?」


ほむら「……つまり、ジャイロは手術する時……『回転』させる時……『花』が『必然』だとすれば?」

ほむら「あの理に叶っていない行動が、きたるべきレッスン4のために『布石』だとしたら? ヒントになるから隠していたとすれば?」

ほむら「回転は……花が必然だった?」

ほむら「……花? 植物?」


ほむら「今まで、ジャイロが回転させる時……どうだった?」



ほむら「初めて会った時……ジャイロは野草を持っていた」

ほむら「薔薇園の魔女ではジャイロは薔薇の感想を言っていた」

ほむら「お菓子の魔女ではジャイロは肩に葉っぱをくっつけてきてた」

ほむら「病院ではまどかがガーベラの花かごを持ってきていた」

ほむら「手術の時はジャイロは胡蝶蘭をガン見していた」

ほむら「それ以外の魔女や使い魔の時はどうだったかしら……?」

ほむら「今は……街路樹とかは全て飛ばされてそれらが『ない』と仮定して、その回転を『改めて見せられなかった』とする」

ほむら「そして……私が『持っているもの』……クローバーの押し花……」


ほむら「…………」

ほむら「……ジャイロ」

ほむら「あなたの言いたいこと、黄金長方形の軌跡っていうのは……」

ほむら「美の基本っていうのは……」

ほむら「今、私が考えていることで正しいの?」

ほむら「私が今、見えているもので正しいの?」

ほむら「既に持っているもの?」

ほむら「私が既に見てきたもの?」

ほむら「じゃあ……投げちゃうわよ?」



スッ

ほむら(…………)

ほむら(まどかから貰った……この『クローバー』の押し花の栞……)


ほむら(深い観察から……芸術家達が学んだ同じスケールで……自然から――クローバーの葉から学ぶ、本物の美のスケール……)

ほむら「既に答えを持っている」

ほむら「本物の美。それは自然。神の創造物。『自然』こそが、全ての『美の基本』……」

ほむら「美の基本から、黄金長方形を見出したッ! 黄金の比率を発見したッ!」

ほむら「さやか……」

ほむら「あなた、鋭いわね」

ほむら「美樹、美しい樹。美=樹=自然……面白い奇跡だわ」


ほむら「ジャイロは……『これ』を見て鉄球を回転させていた……!」



ほむら「まどかからの……贈り物」

ほむら「四つ葉のクローバーの栞。幸運の象徴……」

ほむら「黄金長方形」



『ほむらちゃん。これ……お守り!』



ほむら「ま……」

ほむら「まどかぁ……!」



ガォンッ



ほむら「――ッ!?」

ギャルギャルギャルギャルギャル
      ギャルギャルギャルギャルギャル

ほむら「何……この回転は……!?」

ほむら(明らかに……違う! 感覚でわかる!)

ほむら(この回転は……! この回転は……!)



使い魔「――」ブアッ

ほむら「…………」ヒョイッ

ズギャンッ!

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル

使い魔「!」

ドグチアァッ



ほむら「つ、使い魔が……バラバラに……」

ほむら「感覚だけでなく、実感と共にわかった……威力が、圧倒的に違う……!」

ほむら「これが……」

ほむら「これがッ!」

ほむら「これが無限の回転ッ!」 

ほむら「黄金長方形の軌跡ッ!」

ほむら「ジャイロ! 私はツェペリ一族の領域に踏み込んだわッ!」




ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ」


ほむら「…………」

ほむら「レッスン4……『敬意を払え』」

ほむら「ワルプルギスの夜……」

 ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴ ゴ

ほむら「あなたは、何度も私を嘆かせた。何度もマミをさやかを杏子を、そしてまどかを絶望させてきた」

ほむら「私はどれだけあなたを憎んだか。いつしか私はあなたを殺すことを常に考えていた」

ほむら「ワルプルギス! 私の気持ちを聞かせてあげる……」

ほむら「女子中学生として恥ずべきことだが正直なとこ、今の暁美ほむらは……」

ほむら「恨みをはらすために! ワルプルギスの夜! 貴様を殺すッ!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

ほむら「夜はとっとと明けてもらうわッ! あなたを殺さなければ、私に、私達に、暁は来ないッ!」


カチッ


ほむら「……ワルプルギス」

ほむら「あなた……喰らうのは初めてよね。回転の力」

ほむら「死ぬほど味わいなさい……私の回転を。私の究極の回転を」

ほむら「勇気と幸運のクローバーッ!」

ほむら「そして肉体を強化する魔法で、回旋筋腱板、足腰の筋肉、全身を強化するッ!」

ググッ

ほむら「全身のエネルギーを、鉄球に込めるッ!」

ほむら「肉体の限界と、無限の回転!」

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル


ほむら「これが私の全て! 私の全力だッ!」


ブォンッ



ワルプルギス「」

ピタァ…


ほむら「……一球だけだと思った?」

ブンッ

ピタッ

ほむら「残念。ストックの鉄球を全部投げさせてもらうわッ!」

ほむら「これもッ! これもッ! これもッ!」

ブンッ! ブンッ! ブンッ! ピタアァ――ッ

ほむら「私の全てだアァァァァ――――z____ ッ!!」


ドォ――――z____ ッ!!


ほむら「壮観だわ……ワルプルギスに鉄球がたくさん襲いかからんとしている」



ほむら「そして時は動き出すッ!」


 ド ガガ ガ ガガガォンッ!

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
         シュルシュルシュルシュルシュルシュル
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハ…ハハハハハハ…ハ…」
 ガリガリガリガリガリガリ 
           シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル


ピシッ ピキピキ……ベリッ  ベギベギベギ


ほむら(ワルプルギスの体が……顔面が割れていく……!)


ワルプルギス「Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」

ボゴォッ!

ほむら「ワ……ワルプルギスの顔、体……そのものが……音を立てて完全に割れていく」


ほむら「…………勝った」




ほむら「……ついに」

ほむら「私は……ついに……」

ほむら「奴を超えたんだ……悲願だった……」


『おい! おい! ほむら!』


ほむら「…………テレパシー」

杏子『やったなオイ! ついに倒したんだな! ほむらオメーマジでやるじゃねぇかおい!』

マミ『よくやったわ! でもワルプルギスが死ぬということは、今あたなと美樹さんが乗ってるビルも落下する! すぐに戻って!』

ほむら(黄金の長方形の回転は……正解だった……)

ほむら(ありがとう……ジャイロ。ありがとう……それしか言えない)


ほむら「……さて」

ほむら「ワルプルギスが消滅するまでの時間、私がすべきことがある……」



ほむら(……もう)


ほむら(もうソウルジェムが真っ黒だわ)

ほむら(……グリーフシードのストックも尽きた)

ほむら(このままだと……魔女になる)

ほむら(そう……魔女に……)

ほむら「…………」

ほむら「さやか……」

ほむら「あなたは生きなければならない。私の残った命……あなたのために使ってあげる」

ほむら『みんな……聞こえるかしら?』



ほむら『……私にはまだやることがある』

マミ『あ、暁美さん? 何を言ってるの……?』

ほむら『私のソウルジェムは……真っ黒になってしまった。浄化もきっともう間に合わない』

杏子『お、おい! なにをする気だ!?』

ほむら『もうダメなのよ……ソウルジェムがもう真っ黒……ここで破壊しないと、私は魔女になってしまう』

杏子『は、破壊!? おい! 待て! 何言ってんだよ!』

マミ『へ、変なこと言わないで! 鹿目さんが待っているのよ!』

ほむら『まどかには、暁美ほむらはあなたと出会えて嬉しかった。普通の女の子として幸せに暮らして欲しい。と伝えてちょうだい』

杏子『おい! ふざけんなよこの野郎!』

マミ『そうよ! 生きて帰るって約束したんでしょ?!』





ほむら『さやかはここから落下したらそのままこのビルの下敷きになるとかして死んでしまう』

ほむら『何も二人も死ぬことはない。私はさやかを救うわ』

ほむら『私はここで死ぬ』

ほむら『死ななければならないの』

マミ『暁美さん! 聞こえてるんでしょ! すぐに浄化すればまだ間に合うわ!』

ほむら『もし私の早とちりでワルプルギスが死んでいなかったら……その時はよろしく』

ほむら『ティロフィナーレ一発で済むんじゃないかしら』

杏子『おい! 馬鹿! 早まるな! 今行くから待っ――』

ほむら『まどかを……さやかを……そして見滝原をよろしく』




マミ「あ、暁美さん!? 暁美さんっ!」

マミ「……魔法少女の姿を解いてる……テレパシーが通じない……!」

杏子「ち、ちきしょう……! ま、魔力が……!」

杏子「動けよクソッ! あたしの体ァッ! あたしはまだ……ほむらに借りを返せてねぇぞッ!」

マミ「いや……! 暁美さんは、私の大切な友達なのに……! 私は誰も失いたくないのにッ!」

杏子「ほむら……頼む! 嘘だと言ってくれ! 冗談だと言ってくれ! ほむら! ほむらァッ!」

杏子「やめろオオオオォォォォォッ!!」

マミ「やめてエエエエェェェェェッ!!」



ワルプルギス「ハ……ハハ……ア……ハ……」

ほむら(ワルプルギスはもう息絶える……完全に消え去るまで……)

ほむら(足場が落下するまでもって十数秒というとこかしら)

ほむら(魔法少女の姿はもう維持できない。元よりもう鉄球が一つも残っていない。だから……「コレ」を使う。破壊を兼ねて)

さやか「」

ほむら(さやかを助ける。ソウルジェムを破壊する。両方やらなきゃいけないところが、辛いところね)

ほむら(肉体強化の反動で、全身が痛いけど……すぐに終わる)

ほむら「…………」


シルシルシルシル……


ほむら(まどかからもらったこの栞……)

ほむら(これを使って……本を読みたかった)

ほむら(休日の夕方、温かくも涼しくもない部屋で、ソファーに座って、温いコーヒーを飲みながら……)

ほむら(小説を……勿論ハッピーエンドの物語を読みたい。そう、考えていた……)

ほむら(そしてまどかに感想を言って、良かったら読んでみてって言って渡したかった)

ほむら(だけど……ごめんね。まどか)

ほむら(一度も使えなかったどころか、これ……どこかへ無くしちゃうかも……)





ほむら「……さて、さやか。聞こえてないでしょうけど、覚悟を決めなさい」

ほむら「まず、この高さから落ちるだけなら魔法少女なら死なない」

ほむら「でも、足場……もといビルが降り注いでくる」

ほむら「きっと瓦礫で肉体もソウルジェムもぐしゃぐしゃになるわ」

ほむら「お互いスプラッタよ」

ほむら「だから今から、私のソウルジェムを回転させて……」

ほむら「あなたの体を『硬質化』する。あなたの魂を庇ってあげる」

ほむら「あなたの肉体と魂を救ってみせるわ」

ほむら「大丈夫。私の魂は粉々になるでしょうけど、あなたの体と魂を守るのに何てことないわ」

ほむら「なんたって、無限の回転なんだもの」ファサ

ほむら「…………」




ほむら「ジャイロ。あなたのおかげで私は目的を達成できたわ」

ほむら「ありがとう……本当にそれしか言えないわ……。ありがとう」

ほむら「マミ、杏子、そしてさやか。私がいなくなった後……まどかを、見滝原をよろしく」

ほむら「お父さん。お母さん。……今まで何から何まで迷惑かけて、親不孝な娘でごめんなさい」

シルシルシルシルシルシル…

ほむら「さようなら。まどか。あなたと出会えて……本当によかった。あなたと友達になれて、本当に幸せだった」


ほむら「まどか。幸せにね」





ワルプルギス「」

ドシュゥ……


バァァァ――――z____ ッ




――
――――


ガラガラ…ガラ…


杏子「この中だ……! この……ビルの……瓦礫の中に……! さやかがいるッ……!」

ガタンッ

杏子(さやかは生きている。それは間違いない。あのほむらが死なせないと言ったからだ)

杏子(あいつの言うことは全て、信用できる)

杏子(だからこそ……だからこそ、さやかの名しか呼べない)

杏子(ほむらの名を口にするのが怖いんだ)

杏子(ほむらの名を口にして、もし返事が来なかったら……)

杏子(瓦礫をどけるガラガラて音だけしか聞こえなかったら……)

杏子(認めたくない……ほむらの名を呼ぶのが恐ろしくてたまらない……!)




マミ「……ッ! こ、こっちに来てッ!」

杏子「なんだッ! いたかッ!?」


さやか「」

杏子「さやかッ!」

マミ「美樹さんを避けるように瓦礫が……偶々じゃあない……まるで全ての瓦礫が弾かれたかのように……」

杏子「さやかのソウルジェム……。無事だ。息もある!」

杏子「怪我をしているな……だがこの程度ならなんてこともない」

杏子「だ、だが……一つ、気になることがあるんだ。マミ……」

マミ「…………」



杏子「さやかの周りに落ちてる……破片のようなものって、さ……」

マミ「…………」

杏子「ビルの窓の……だよな? な?」

マミ「…………」

杏子「そうなんだろッ!?」

杏子「そうだと言えよバカヤローッ!」

マミ「…………」ギリッ

杏子「なあッ!?」

マミ「ソウルジェムの破片に決まってるじゃないッ! 

マミ「……暁美さんのッ!」

杏子「――ッ!」

杏子「うぅ……うぅぅ……」




杏子「クゥゥゥゥ……ッ!」

マミ「遺体をッ!」

杏子「ッ!?」

マミ「……遺体を、探し、ましょう……!」

杏子「……ああ」

マミ「…………くっ」

杏子(……今一番に泣き叫びたいのはあたしよりマミの方だ。付き合いはあたし以上に長いんだからな……)

杏子(あたしにも感情をおさえろってことか……)

杏子「…………ん?」



杏子「……ハッ!」

ツツ…

杏子「ち……血が」


マミ(……………………)

ガクガク

杏子「が……瓦礫の下から血が……」


杏子「ほむらが……いるのは……そ、そのでかい瓦礫の下……ほむら……が……そこに……」


杏子「ほむら…………が……そこに…………ほむら」

マミ「……」ワナワナ

マミ「あああ……っ!」

ブワッ

マミ「暁美さん…………うぅぅ……」

ガクリ

杏子「ほむら――――――ァァァッ!!」


杏子「うあああああああああああああ――――ッ!!」

マミ「うぅ……そんなのって……そんなのって……!」




杏子は叫んだ。ほむらの名を! マミは流した。悲しみの涙を!

けれどもほむらの名をよんでも返ってくるのは残酷な静寂だけ……


ジャイロ・ツェペリに次いで、暁美ほむらも死んだのだ……杏子とマミは静寂によってこの事実を実感した……




 

その身尽きてもその魂は死なず……

暁美ほむら十四歳ここに眠る。

 
 




今日はここまで。お疲れさまでした。


次回、最終回です。あと80レスちょっとで終わると思われます。


所謂オリキャラが出てきます。オリキリさん達じゃあないです。

そういうのが苦手な方はオリキャラ出没注意です。




――さやかは目を覚ました後、まどかからほむらの死を知った

かなりのショックだったが、まどかも杏子もマミも、ほむらの死を受け入れていた

だからさやかもそれを受け入れた


さやかは帰宅すると自分の部屋へ行き2時間眠った。そして……目をさましてからしばらくしてほむらが死んだことを思い出し……泣いた……




スーパーセルによる建造物の倒壊、洪水などにより、見滝原の生徒児童及び学生に三週間の休校を言い渡された

ワルプルギスの夜を超えてから、一週間が経っていた



――某県S市


さやか「やぁみんな。ワルプルギスぶり! 略してワルぷり!」

杏子「おい。遅いぞ」

さやか「ごめ~ん」

マミ「全くもう……集合時間10分前には来てって言ったじゃない」

さやか「いや~、初めて来るとこなんで電車とかで戸惑っちゃって」

さやか「まどかと一緒に行ければ良かったんだけどなー」ジトー

まどか「……ウェヒヒ、ごめんね?」

さやか「まどかも顔を見るのはワルぷりだね」

さやか「いや~、早く休校解かれないかなぁ」


マミ「そうね。でも……私は受験生だから、その埋め合わせが今から怖いわ……」

さやか「お忙しいとおっしゃるならば! 魔女狩りはあたしにお任せあれですよ!」

杏子「たのもしーなー(棒読み)」

さやか「あんたってやつは……」

まどか「あはは……」

さやか「おっ、まどか。どうしたその包帯は」

まどか「ん、これ? 昨日パパにお料理教えてもらってたら指切っちゃって怪我しちゃった」

さやか「どんくせぇ~」

まどか「ひど~いっ」プンスカ

さやか「あははっ」

まどか「ウェヒヒッ」

マミ「ふふっ」

杏子「へへっ」

さやか(……ほほ~?)



さやか(みんな……変わらないじゃんか)

さやか(ほむらとジャイロがいなくなって一週間……)

さやか(みんな笑ってる。ちゃんと、乗り越えられてるんだなって)

さやか(だったらあたしも……いい加減に……)

さやか(はは……おかしいよね。ほむら、ジャイロ)

さやか(あたしってどっちかといえばそーゆーキャラなのに……)

さやか(もしかしたらこの中で一番あんた達を引きずってるかもしんない)

さやか(こうやって、寂しいって感情を押し殺してる感)

さやか(……いや、みんなも今のあたしみたいに隠しているのかな?)



マミ「……さて、と。全員揃った所で、早速用事を済ませましょう」

杏子「おい、さやか。気をつけろよ。ここは他の魔法少女のテリトリー。下手に動くな」

さやか「そうだね。……敵意持たれない?」

マミ「……かもね。でも、行かなきゃ」

まどか「ところで、何をしにここまで?」

マミ「ある人物に会うためよ」

さやか「ある人物?」

杏子「……ああ。重要な奴だ。だから魔法少女でないまどかも連れてきた」

まどか「どんな人だろう……」

杏子「……むっ?」




杏子「……おい、背後から誰かがあたし達を見てるぜ」

さやか「へ?」

マミ「!」

「……」

タッタッタッ

まどか「あっ、あのうしろ姿は……!」

杏子「追うぞ!」

さやか「あ、うん!」



――公園

まどか「あっ。いた!」


「ほらほら、喧嘩しないで」

少女Ⅰ「私の邪魔をする奴は縛り首だ」

少女Ⅱ「この前のは僕のせいじゃないって世界だ」

「がっついちゃあダメ。ちゃんとソウルジェムは考えてグリーフシードのストックも持ってるからね」

少女Ⅲ「ようこそ……少女の世界へ……」



マミ「作戦会議でもしてるのかしら?」

杏子「チームみたいだな」

まどか「中心になってるあの子……誰かに似てるような……」

さやか「……あのうしろ姿はッ! まさかあいつは……」

マミ「待って。私が話をする。みんなここにいて……」



ザッ

マミ「私の名は巴マミ。この二人とともに見滝原と風見野の魔法少女をしているものよ。こっちの子は魔法少女ではないけど」

「帰ってッ!」

マミ「ッ!」


クルッ

「話はききません! 聞きたくないッ!」

眼鏡少女「帰ってッ!」


さやか「あっ!」

杏子「ほむら!」

まどか「ほむらちゃん……?」

眼鏡少女「みんな