勇者「幼女大好き」(462)

初ssです。
緊張してます。
良い話を書きます。
全部嘘です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1345728486

ーーーー初の国・王城ーーーー


勇者「何の用?」

初王「魔王を征伐してこい。あとメモに書いてある用件をこなしてこい」

勇者「魔王を?」

初王「ああ。いい加減、人間以外の知的生物が憚っているのが我慢できない。魔王を倒せば畜生共も殊勝になるだろ」

勇者「適当だな」

初王「ぶっちゃけると諸外国へのアピール目的だ。初の国が世界の主権を握る為にも、お前には頑張ってもらいたい」

勇者「条件が一つ」

初王「なんだ? 援助は可能な限り行うが」

勇者「姫を嫁にちょうだい」

初王「あん?」

勇者「姫を嫁にちょうだい」

初王「……何を言ってるんだ。姫は十歳だぞ」

勇者「最高。美幼女は世界の宝。所有物にするけど」

初王「……曲者だとは知っていたが、ド変態だったとはな」

勇者「それで。くれるのか?」

初王「……ふん、勅命を果たせばくれてやる。国の為なら娘の一人痛くもない。だが、王座は渡さないからな」

勇者「ありがとう、屑親」

初王「うるさい。さっさと行け」

勇者「あーい」

ーーーー初の国と壱の国の国境付近ーーーー


魔物A「ニャー、ニャー」

魔物B「キャン、キャン」

勇者「魔物だ」

魔物C「モー、モー」

魔物D「ヒヒーン」

勇者「出会った魔物は全部殺せとメモに書いてあった」

魔物E「メー」

魔物F「パオーン」

勇者「無害なのばかりだけど殺すか。美幼女と結婚するためだ」ズルッ

魔物G「チュー、チュー」

魔物H「コン、コン」

勇者「ていっ」ブンッ

魔物「ーーーー」ブシャッ

勇者「ふふん」ズブッ

勇者「どんどん行こう」

ーーーー壱の国・王城ーーーー


壱女王「其方が勇者か」

勇者「そうだ」

壱女王「其方の勇名は我が国でも轟いておるぞ。聖剣を振るって数多の悪を滅ぼす光だとな」

勇者「照れる」

壱女王「しかし、肝心の聖剣が見当たらぬが」

勇者「それより困ってる事ない?」

壱女王「む。困ってる事とな」

勇者「初王の用事」

壱女王「……なるほど。翳りつつある友好関係の修復を図ろうという魂胆か」

勇者「そうかも」

壱女王「ふん、国境線付近にある初の国の軍隊が厄介事だな。早々と撤退させてもらいたいところだ。
名目上は同じく隣接している肆の国との戦争に備えてと言っているが、真偽はどうだか」

勇者「撤退は無理。初の国が不利益になる事は禁止だとメモにあった」

壱女王「……意外に従順なのだな。偏屈な気性の人物だと噂には聞いていたが」

勇者「そうか」

壱女王「……ふむ。北西の町で大型の魔物が民を襲っているらしい。犠牲者も相当の数だそうだ。
民兵では歯が立たないらしく、常備兵を遣わそうと検討していたところだ」

勇者「代わりに倒してくる」

壱女王「それは助かる。頼んだぞ」

勇者「あーい」

ーーーー壱の国・北西の町ーーーー


勇者「ふう」

町民「……」フラフラ

勇者「魔物は?」

町民「……今は外れの森にいるはずです」

勇者「そうか」

町民「今日も、あのバケモノに何十人も殺されました……。骨を、噛み砕く音が、耳に残って……」ポロポロ

勇者「そうか。じゃあ」

町民「あ……」グスッ



町民「き、消えた……?」

ーーーー外れの森ーーーー


巨人「ごおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」ブオンッ

勇者「いきなりバレた」サッ

巨人「ぐおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」ドゴッ!

勇者「当たらない」サッ

巨人「っ!? があああぁぁぁああああああああああ!!」

勇者「当たらないって」ズルッ

巨人「おおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」グオオッ

勇者「ていっ」ブンッ

巨人「ーーーー」プシャッ!コロン

勇者「ふふん」ズブッ

勇者「帰ろう」ガシッ

ーーーー北西の町ーーーー


勇者「どうも」

町民「あ、ど、どうも」

勇者「これ」ポイッ

町民「え……? ひっ!ば、バケモノの首……!?」

勇者「うん。じゃあ」

町民「あ……」

ーーーー壱の国・王城ーーーー


勇者「ただいま」

壱女王「む……。忽然と消えたと思えば」

勇者「倒してきた」

壱女王「……魔物を?」

勇者「そうだ」

壱女王「……この短時間にか?」

勇者「そうだ」

壱女王「……俄かには信じられないが、嘘を吐いているようにも見えないな」

勇者「そうか」

壱女王「……私の国で力を振るわぬか? 初の国よりも厚くもてなすぞ」

勇者「無理」

壱女王「む……。私の夫として迎えても良いぞ。中々気に入ったしな」

壱大臣「陛下!?」

勇者「何歳?」

壱女王「む。あまり女性に年齢を訊くものではないぞ。……二十二だ」

勇者「ババアには興味ない」

壱女王「……何だと」

勇者「十五以上は熟女だ。二十歳以上は生ける屍だ」

壱女王「き、貴様……!!」ガタッ

壱女王「……!?」

壱女王(いつ私の前に移動した!?)

壱大臣「陛下!!」ダッ

勇者「動いたらリビングデッドを殺す」

壱女王「ひっ……」ビクッ

壱大臣「くっ……!」ピタッ

勇者「そっくりの美しい娘を産め。そっちを貰う」

壱女王「っ……」

勇者「じゃあ」

壱女王「あ……」トサッ

壱大臣「陛下! ご無事ですか!?」

壱女王「あ、ああ」ガタガタ

壱大臣「すぐさま兵にあの賊を追わせます!」

壱女王「や、やめろ」ガタガタ

壱大臣「何故ですか!?」

壱女王「わ、分からないのか?」ガタガタ

壱女王「あれは……魔物以上のバケモノだ」

ーーーー壱の国と弐の国の国境付近ーーー


魔物の群れ「ーーーー」

勇者「ふふん」ズブッ

ヒュッ

勇者「……危ないよ」ヒョイッ

ローブ「……」

勇者「暑そうな格好」

ローブ「……不意打ちを避けられた。身体から剣も出し入れするし、相当のバケモノ」

勇者「腕が刃の異形にバケモノ呼ばわりされたくない」ズルッ

ローブ「……なら槍にする」ミキミキ

勇者「すごい。でもバケモノであることには変わらない」

ビュウッ

勇者「おっと。風邪が強い」

ローブ「あ、フードが……」ファサッ

勇者「…………」

ローブ「あ、名乗るのを忘れてた。わたしは四天王『黒』。
魔王様より、あなたを始末する命令を受けた」

勇者「…………か」

黒「ナノマシンの群体であるわたしに狙われたのが、あなたの運の尽き」

勇者「……か、か、か」

黒「……?」

勇者「褐色美幼女きた……!!」ツー

黒(……無表情で泣いてる)ヒキッ

勇者「生きてて良かった。今まで生きてて良かった。
今までの全てに感謝したい。褐色美幼女に出会うまでの全てに感謝したい」ポロポロ

黒「……身の危険を感じる」

勇者「大丈夫。ちょっと穴という穴を犯すだけ。ふひひ」

黒「……先手必勝」タッ

勇者「悪くない動き」ヒョイッ

黒「く……」

勇者「褐色美幼女のお腹にパーンチ」ゴッ

黒「う……」

勇者「ごめん。本当にごめん」

黒「……まだ」ブンッ

勇者「おお。びっくり」ヒョイッ

黒「っ」ヨロッ

勇者「パーンチ」ゴスッ

黒「っ……」フラッ

勇者「中々の耐久力」ダキッ

勇者「ふむふむ」サワサワ

勇者「全身がプニプニだ」

勇者「ほっぺた」ツンツンプニプニ

黒「むにゅ……」

勇者「……」ツンツンプニプニ

黒「にゅぅ……」

勇者「しあわせ」ポカポカ

勇者「おっと。先ずは身体検査」サワサワ

勇者「この褐色美幼女、魔物じゃないな」

勇者「……うなじに魔蟲が寄生している。これで操られているのか」

勇者「なのましん。群体。……何かの塊? 極小の粒?」

勇者「……粒が集まっていて、それを極細の糸が繋げている。そして、魔蟲がその糸に命令を伝える信号を伝えている?」

勇者「……どうでも良いか」

勇者「命令を書き換えられるか?」

勇者「……無理か。蟲は殺そう。ていっ」ブンッ

プシャッ

ポロ

勇者「一から褐色美幼女を手懐けるのも悪くない。ふひひ」ズブッ

今日はおしまいです。
前回までがハイペースで疲れたので、今回はゆっくり書きます。
どうせメインの息抜きだしね!

見直してみると日本語酷すぎワロタ。
誤字を訂正。
>>8
勇者「……初の国“にとって”不利益……」
>>22
勇者「……魔蟲がその糸に“命令を信号として伝えている”?」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

黒「……」ムクッ

黒「……ここは?」

勇者「弐の国の宿屋」

黒「っ!?」ビクッ

勇者「おはよう。外暗いけど」

黒「……」ジトー

勇者「睨まないで。仲良くしよう」

黒「イヤ」プイッ

勇者「ぐすん」

黒「……わたしに何かした?」

勇者「うん。気持ち良かった」

黒「……うそ」

勇者「嘘」

黒「……」ヒュンッ

勇者「刃は危ない」ヒョイッ

黒「……何をしたの?」

勇者「ちょっと蟲が付いていたから払った」

黒「むし?」

勇者「魔蟲が首筋に付着してた」

黒「……側近のしわざ」

勇者「側近?」

黒「心配性の腹黒男」

勇者「なるほど」

黒「殺意が薄まってるわけが分かった。もともと上乗せされてたみたい」

勇者「消えては無いのか」

黒「お腹をなぐられた。悪い冗談を言われた」ジトー

勇者「ごめん」

黒「……ぷいっ」

勇者「ぐすぐすっ」

黒「……えっと」オロオロ

勇者「冗談」

黒「むぅ……」

グウウゥゥウウウ

勇者「良い音だ」

黒「……お腹すいた」

勇者「夕食を食べに行こう」

ーーーー弐の国・高級レストランーーーー


黒「……」

勇者「どうかした?」

黒「この一帯だけ建築様式が異なってる。まわりに比べて豪奢」

勇者「この辺りは初の国の民が移住しているから」

黒「……?」

勇者「知らない? 弐の国は、初の国の被保護国。あからさまに言えば植民地」

勇者「弐の国の大多数は農民。初の国は、綿花や砂糖の原料を栽培させて安価で買い占め、商業大国である参の国に出荷する。
その代わりとして、軍事大国らしく領土防衛を約束してる」

勇者「この店のお客も殆どが初の国出身の民。現地民に富裕層は少ない」

黒「……ふつりあい」

勇者「うん。強いのが弱いのを虐げる。いつだって変わらない」

ウェイトレス「お待たせしました」コトッ

黒「……おいしそう」

勇者「食べよっか」





黒「おいしい」モキュモキュ

勇者「良かったね」チビチビ

黒「……勇者はそれだけ?」モキュモキュ

勇者「水とパンで充分。水だってここらでは贅沢品」

黒「そう。おいしいのに」モキュモキュ

勇者「褐色美幼女が喜んでくれるならそれで良い。
……この後、弐王に謁見してくる」

黒「……独りで?」モキュモキュ

勇者「そのつもり」

黒「……逃げるチャンス」

勇者「多分無理だよ」

パチンッ

黒「ひゃっ……」ビクッ

勇者「猫だましにビックリする褐色美幼女可愛い」ホクホク

黒「……いきなり何?」

勇者「音の速さ」

黒「音?」

勇者「吾人はその三倍速く動ける」

黒「……」

勇者「聖剣パワーの恩恵。ふふん」

黒「……ズルい」プクー

勇者「……そうでもない。とにかく。逃げても無駄」

黒「……運の尽きだったのは、わたしの方だった」

勇者「そうかも」

ーーーー弐の国・宿前ーーーー


黒「お腹いっぱい」ポンポン

勇者「腹ぼて褐色美幼女。ふひひ」サスサス

黒「……」ジトー

勇者「美幼女成分を摂取したし行ってくる。治安はあまり良くないから、宿で静かに待機していて」

黒「分かった」

勇者「じゃあ」



黒「……行った?」

黒「探検に行こう。あんなやつの言い付けなんて守らない」

黒「ふんふーん」トテトテ

黒「……?」ピタッ、コソッ

弐女性「ね、ねえ……。ちょうだいよお……」

弐男性「はっ、もう使い切ったのかよ。馬鹿な売女だな」

弐女性「ちょうだいよぉ……。何でもするからぁ……」

弐男性「そんなに欲しいなら、いつもの廃屋まで行くぞ。みんなで可愛がってやっから」

弐女性「良いから早くぅ……! 切れてきた……! 切れてきちゃったのぉ!」

弐男性「でけぇ声出すんじゃねぇよ糞売女……! 最近、取り締まりが厳しいんだよ……!」

弐女性「早くぅ……! ちょうだいちょうだいちょうだい……!」

弐男性「ちっ、おら、さっさと行くぞ」

スタスタ



黒「……気になる」

トテトテ

ーーーー弐の国・王城ーーーー


勇者「民の不満は暴動の域には達していない。生産の具合は良好。
他国ーー特に肆の国からーーの干渉も看過できる程度、と」カキカキ

弐王「これで近況調査はお終いですかな」

勇者「そうだ」

弐王「わざわざお疲れ様です」

勇者「そうでもない。それで、困ってる事無い?」

弐王「困ってる事?」

勇者「初王からのもう一つの用事」

弐王「……ふむ。あまりに安値で生産物を買い占められるため、民の生活が困窮していることでしょうか」

勇者「吾人にはどうにもできない。他は」

弐王「……近頃、国内での麻薬流通が激増しました。貧しさゆえ、刹那の快楽を欲してしまうのでしょう。
取り締まりを行っておりますが、検挙したのは個人の所有者ばかりで、密売組織への足がかりは見つかっておらぬようです」

勇者「なるほど」

弐王「麻薬が直接的に伍の国から流通しているのか、参の国を経由して輸入されているのかさえ不明ですからな」

勇者「密売組織を探し出して潰してみる」

弐王「はあ……。お願いします」

勇者「じゃあね」

ーーーー弐の国・廃屋ーーーー


弐男性「おらっ!中に出すぞ!」

弐女性「あひゃぁぁああ! 気持ち良いのぉぉおお!」

弐男性A「ぎゃははは! 薬でトンでやがる!」

弐女性「もっとぉぉおお! ×××も薬も欲しいのぉぉおお!」

弐男性B「次は俺だ!」

弐男性C「じゃあ、俺は口もらい! 歯立てんなよ!」

弐女性「うぼっ!? ぐっ! うぐっ!」

弐男性D「ひひひっ、いっぱいいるから、どんどんいこうね!」

黒「……ひどい」ギリッ

ガシッ

弐男性E「なーにがー? うはっ、可愛い女の子」

黒「……」ミキミキ

弐男性E「あっちは後がつっかえてるし、ガキのきっちぃ締め付けもたまには悪くな……」

ザシュッ

弐男性E「ーーーー」

黒「汚い手で触らないで」

ドサッ

弐男性F「あ?」

弐男性G「……Eがやられたのか?」

弐男性H「なにもんだ、このガキ。腕がでっけえブレードだぜ」

弐男性I「とにかく殺すしかねぇだろ」

弐男性J「……ちっこいけど結構可愛くね?」

弐男性K「こんなガキに欲情するかよ」

ゾロゾロ

黒(……囲まれた。でもたかが人間に負けるわけがない)

弐男性L「うへぇ、怖えな」

弐男性M「……魔物か。危険だな」

黒「わたしに出会ったのが運の尽……」

ズキッ!!

黒「……っ!?」

黒(なに……? 頭が……)

黒(……魔蟲の影響で不具合が起きたから?)

黒(自動初期化が開始してる……。どうしてこのタイミングで……?)

黒(……激しい感情の喚起のせい?)

黒「う……」ヨロッ

ーーーー友だちになろう!

黒「あ……」

ーーーー友だちになろ……

黒「いや……」トサッ

ーーーー友だちに…………

黒「やだ……。忘れたくない」ポロポロ

ーーーー友………………

黒「やだ! やだ! やだよぉ……」

……………………………


黒「ーーーー」

弐男性「気絶した? ……まあ、良い。性奴隷に調教してやろうぜ」

スタスタ

スッ

勇者「ていっ」ブンッ

全弐男性「ーーーー」ブシャ

弐女性「はひゃ?」

勇者「褐色美幼女に汚い手で触るな」ズブッ

弐女性「あ、ひっ……」

勇者「……」ジロッ

弐女性「いやぁあ! た、たしゅけ! たしゅけて!」ダッダッダッ

勇者「……別に良いか。
この肉塊たちは組織の手がかりみたいだったけど、美幼女がすべての最優先だ。しょうがない」

勇者「取り敢えず宿に運ぼう」グイッ

黒「……」ツー

勇者「……」ナデナデ

もっとローぺースの予定なのに。
マッハ3で動いたら衝撃波が凄そうですね。

ーーーー弐の国・宿屋ーーーー


黒「……ん」パチ

勇者「おはよう。今は暁の時間」

黒「……誰?」ムクッ

勇者「……」

勇者「お兄ちゃんだ」





勇者「知識などは保持したままで、経験の記憶を失ったと。つまり記憶喪失みたいなもの?」

黒「うん」

勇者「ほほう。なるほど。ふひひ」

黒「……身の危険を感じる」ヒキッ

勇者「大丈夫。強姦より和姦の方が好み。……いや、無理やりも中々」

黒「……」ジトー

勇者「冗談。幼女はチュッチュッしたり、ぎゅーとして愛でるもの」

黒「……それもイヤ」

勇者「ぐすん」

黒「それで。あなたは誰?」

勇者「義理の兄」

黒「……事実だとして、どんな経緯でそうなったの?」

勇者「捨て子だった君を両親が拾ってきた。寒村で貧しい生活をしていたけれど、両親は君を保護して確かな愛情を注いでいた」スラスラ

黒「……まったく身に覚えがない」

勇者「でも数年前に肆の国に侵攻されて村は焼かれた。仮初めの停戦条約が結ばれた今となっても、復興には至ってない。何故なら生き残りは……」

黒「……どうしたの?」

勇者「……全部嘘。君は行脚の中途で偶々出くわした褐色美幼女。
初対面時は『黒』と名乗っていた。それ以外には何も知らない」

黒「……黒」

勇者「そうだ」

黒「……」フルフル

黒「……琴線に触れない」

勇者「そうか」

黒「……」

勇者「どうかした?」

黒「わたしは、これからどうすれば良い?」

勇者「ついてくれば良い。悪いようにはしない。ふひひ」

黒「……気乗りしないけど、そうする」

勇者「……そうか」

勇者「もう少し明るくなったら、朝食を食べよう。それから、旅に必要な物品や食料を購入しよう」

黒「分かった」

勇者「……」スンスン

黒「……なに?」

勇者「風呂に入って無いはずなのに全く臭わない。むしろフローラルな香りがする」

黒「特定のナノマシンが自動で表皮から体内まで除菌してるから」

勇者「……よく分からないけれど、いつでも褐色美幼女の匂いを堪能できて、いつでも綺麗なぷに肌をペロペロできるということ?」

黒「……気持ち悪い」

勇者「ぐすん」

ーーーー弐の国・服屋ーーーー


黒「着替えた」シャッ

勇者「……素晴らしい。特に露出したヘソが良い。ペロペロしたい」

黒「……へんたい」

勇者「しかし、人工物らしいそうだけど、ヘソが有るのはどうして?」

黒「限りなく人間に酷似した形で作られたから。わたしの製造目的は、情報の破損で不明だけど」

勇者「きっと素敵な感性を持った開発者が、愛玩目的で造ったに違いない。愛玩褐色美幼女。ふひひ」

黒「……そんなのヤダ」

勇者「そうか」

勇者「しかし、弐の国では最大規模の服屋でも品揃えは大したことない」

黒「そうなの?」

勇者「参の国にはもっと大きな服屋が結構有る」

黒「すごい」

勇者「あの国で手に入らない物は無いと言われているくらい」

黒「行ってみたい」

勇者「連れて行く。野暮用を終わらせたら」

黒「うん」

勇者「だからちょっとヘソをペロペロさせて」

黒「イヤ」

勇者「ぐすん」



勇者「……」





黒「だいぶ買った」

勇者「大型の台車も買った事だし道中は安泰だ」ガラガラ

黒「何が引くの? 牛? 馬?」

勇者「吾人が引く」

黒「そう。……ところで、気付いてる?」ヒソッ

勇者「勿論。二人組が三つ」

黒「どうするの?」

勇者「褐色美幼女は大通りを複雑に入れ換えて歩き、尾行を撒けば良い」

黒「あなたは?」

勇者「人通りの絶えた処で迎え撃つ。ちょっと野暮用が有る」

黒「……危ない。わたしも戦う」

勇者「大丈夫。強いから」

黒「でも……」

勇者「心配しなくて良い。誰かに守られるほど弱くない」

黒「……」

勇者「それに幼女は宝。大切に守るもの」

黒「……そう。じゃあ、後で」

勇者「気を付けて」

黒「そっちもね」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


追手達「ーーーー」

勇者「組織側から接触してくれて助かった」ズブッ

勇者「……情報を告げたらしい昨夜の女は、殺されたかな」

勇者「……別に良いか。リビングデッドだし」

勇者「さっさと組織を潰そう。そして褐色美幼女とデート。ふひひ」

勇者「……げほっ」

ビチャッ

勇者「……」グイッ

勇者「最近、吐血の間隔が短くなってきた」

勇者「あと、どれだけ生きられるだろう」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


弐王「……一日で巨大密売組織を壊滅なさったと?」

勇者「そうだ。証拠品も押さえておいた」

弐王「……流石は、勇者様といったところでしょうか」

勇者「そうだな。それじゃ」



弐王「……行ったか」

弐大臣「……我が国の警察軍たちは組織と癒着していたのでしょうか。勇者様が一日で発見して壊滅できるような組織がまったく見つからないと報告していましたし」

弐王「それは違うだろう。あの方が……アレが規格外なだけだ」

弐大臣「……聖剣の力ですか?」

弐王「そうであろうな。私自身もその威力を目の当たりにした事が有るが、人間の領域を遥かに超えていた。正直、あの剣を聖剣と呼んで良いのかも怪しい」

弐大臣「……」

弐王「やはり初の国には逆らえない。最低でも、アレが機能している間は」

ーーーー弐の国と参の国の国境線付近ーーーー


勇者「ふんふーん」ガタガタッ

黒「すごい力。道もデコボコなのに」

勇者「乗り心地が悪いのは勘弁して」

黒「うん」





勇者「……今日はこの辺りで野宿」

黒「分かった。……それにしても速かった」

勇者「ふふん」





パチッパチッ

黒「……あまりおいしくない」

勇者「保存食だからしょうがない。明日は美味しいものをたくさん食べられる」

黒「楽しみ」

勇者「良かった」

黒「……ところで良いの? 焚き火をして」

勇者「なんで?」

黒「獣や獣型の魔物は寄り付きにくくなるけど、賊や人型の魔物には格好の目標だから」

勇者「追い払えば大丈夫。任せて」

黒「……分かった」

勇者「でも、やっぱり危ないからくっついて寝るべき。ふひひ」

黒「イヤ」

勇者「ぐすん」

ガサッガサッ

山賊頭「おっと暴れんなよ。囲まれてんだからな」

勇者「出た」

黒「数が多いね」

勇者「この辺りは、商隊が頻繁に通るから、それ目的の強盗も多い」

黒「……だったら、どうしてこの辺りで野宿しようとしたの?」

勇者「美幼女が夜更かししちゃいけないから」

山賊頭「呑気に駄弁ってんじゃねぇ! 荷物全部出せや!」

勇者「うるさい」ガシッ

山賊頭「な……」

勇者「ていっ」ブンッ

山賊A「なに!?」

ガシッガシッガシッ

勇者「ていっ」ブンッブンッブンッ

山賊D「ば、バケモノ!!」

山賊E「逃げるぞ!」

勇者「無理。全員、風になってこい」

山賊達「ひいっ……」





勇者「おしまい」

黒「あれだけ飛んだら、死んじゃう」

勇者「森に投げたし、運が良ければ生き延びる。多分串刺しかバラバラだろうだけれど」

黒「……ひどい」

勇者「どうせ人殺したちだ。安らかに死んで良いわけがない」

カサッ

黒「まだいたの?」

勇者「…………」

幼女「えぐっ……。こわいよぉ……」

勇者「……美幼女きた!!」

幼女「ひうっ……!」ビクッ

勇者「ふひひ、可愛い。あの薄汚い男たちに捕まってたのか?」

幼女「え、う、うん」

勇者「可哀想に。お兄ちゃんが守ってあげるからね。ふひひ」

幼女「え、う、うん……」

勇者「びくびくしている美幼女可愛い」

黒「……ちっちゃければ誰でも良いんだ」

勇者「嫉妬?」

黒「本当に見損なっただけ」





パチッパチッ

幼女「……おいひいです」

勇者「よほどお腹が空いてたんだね。明日は美味しいものをいっぱい食べさせてあげるから」

幼女「あ、ありがとうございます……」

黒「わたしも」

勇者「勿論」

幼女「あの……」

勇者「ん?」

幼女「勇者さんは、魔王を倒しに行くんですよね……?」

勇者「そうだ」

幼女「だ、大丈夫なんですか……?」

勇者「強いから大丈夫」

幼女「そ、そうですか」

勇者「むしろ倒すまでの雑用の方が面倒」

幼女「……そうですか」

パチッパチッ

勇者「ぐう……」

黒「…………」

幼女「起きてるか?」

黒「……一応」パチ

幼女「勇者に捕まるとは。同じ四天王として恥ずかしい限りだ」

黒「……四天王?」

幼女「龍だ。ほら、鱗」ス-

黒「……」

龍「助けに来たんだが、いつでも逃げ出せる状況じゃないか。王はこの男を危険視していたが、それ程の者でも無いようだ」

黒「……」

龍「さっさと帰るぞ。魔姫もお前の帰りを心待ちにしてる」

黒「……ごめんなさい」

龍「……なに?」





龍「つまり、過去の記憶を失って行くあてが無いから、この男と共に行動してると」

黒「うん」

龍「そうだとしても一緒に帰るぞ。記憶を無くしても、終の国はお前の居場所だ。記憶を喪失しても最初からやり直せば良いさ」

黒「……あなたの言葉を信じる根拠が無い。悪者では無いみたいだけど」

龍「……ならば、信頼されるまで暫くは同行させてもらおう。
この男は無表情で何を考えているか分からず、幼い娘に発情する変態だが、あまり乱暴を働く事も無いようだしな。この姿は良い隠れ蓑だ」

黒「そう」

龍「問題は幼い娘を演じ切れるかだな」

黒「頑張って」

龍「……まったく。終の国は不穏な状況に有るから暢気にもしていられないというのに」

黒「……?」

龍「王の乱心だ。数年前から様子がおかしくなっていたが、近頃はそれに拍車がかかった」

黒「……」

龍「王が狂い始めたのは、天から降り落ちた剣を手にしてからだ。
だから私は、正気に戻ってもらう為にもそれを王から奪い返そうと思う」

黒「わたしに言われても……」

龍「……それもそうか。お前の助力が必要なのだが、記憶を無くしていてはな」

黒「……ごめんなさい?」

龍「謝る事では無いだろう。とにかく、今は色々と様子見だな」

今日はお終いです。

ーーーー参の国ーーーー


勇者「到着」

龍(……信じられない速さだった。勇者とは人間から逸脱した存在なのか?)

黒「大きい……」

勇者「平地で土地が肥沃だから、昔から住人が多かった。それに多くの国と隣接していて交通の便が良かったから商業大国として発展した」

黒「そうなんだ」

龍(……前回訪れた時とは建物の様式も、人の数もだいぶ違うな)

勇者「取り敢えず宿泊場所を決めよう」

黒「うん」

ーーーー参の国・高級ホテルーーーー

黒「……すごい立派」

勇者「弐の国の城よりは確実に豪華」

龍(魔王城よりも絢爛だな。尤も、ここまで壮麗にする必要性も感じられないが)

勇者「部屋に備え付けの浴槽が有るから、入って来ると良い。
着替えは今すぐ買ってくる」

龍「え? う、うん……。ありがとう……」

龍(人間はあまり風呂に入らず、臭い香りを身に付ける不潔な生物だと思っていたが、時の流れで変わったのか?)

龍(人間の変遷の速度は凄まじいからな)

勇者「褐色美幼女も一緒に入って来ると良い。美幼女二人の入浴。ふひひ」

黒「わたしはお風呂に入る必要が無いから良い」

勇者「そうか。残念」





黒「この国にも用事が有るの?」

勇者「無い。むしろ面倒事を起こすなと書いてあった」

黒「じゃあ、すぐに出て行くの?」

勇者「分からない。今は待機する期間だから」

黒「待機?」

勇者「そうだ。……服屋に行ってくる。褐色美幼女とは明日ね」

黒「今更だけど、その呼び方はイヤ」

勇者「……黒とは明日行こう」

黒「うん」





龍(……なんだこの服は? ヒラヒラした布が数多く施されている。しかも生地が薄い)ホカホカ

龍(このような華美な衣服を好んで着るとは、やはり人間は面妖な生物だな)ホカホカ

龍(まあ、王の生命を狙う者のとはいえ、せっかくの厚意を無碍にするのも憚られるな)

龍「……」スルスル





勇者「美しい。もはや一つの芸術品だ」

黒「きれい……」

龍「あ、ありがとう……」

龍(所詮は仮初めの姿に過ぎないのだがな)

勇者「早く黒にも煌びやかな衣装を来せて、華やかな美幼女を両手に抱きたい。ふひひ」

黒「気持ち悪い」

勇者「ぐすん」

龍(この男、ずっと無表情だな)

勇者「昼食にしよう。要望は有る?」

黒「おいしいもの」

勇者「そうか。君は?」

龍「え……。え、えっと、まかせます」

勇者「そうか」

ーーーー参の国・最高級レストランーーーー


黒「おいしい」モキュモキュ

龍「おいひいです」モグモグ

龍(人間は中々上等なものを食しているのだな)

黒「勇者は食べないの?」

勇者「ここではパンと水がメニューに存在しない。だから後で食べることにした」

龍(随分と克己的な食生活を送っているのだな。最初の印象ほど不貞な人間では無いようだ)

勇者「おいしそうに料理を頬張る美幼女たち可愛い」ポカポカ

黒「……」モキュモキュ

勇者「……ところで。君の住所は何処? 参の国としか聞いてない」

龍「えっ……」ドキッ

龍(……失敗したな。すぐに黒を取り返して去るつもりだったから近くの国を答えたが、予定を大幅に変更したからな)

龍(どうしたものか……。この辺りの近況なんて知らないし、黒に援護を頼むか)チラッ

黒「これもおいしい」カリッ

龍(……無理だな。食事に夢中だ)

勇者「どうかした?」

龍「あ、えっと、えっと……。南西の街……です」

勇者「伍の国に近い場所か。治安が悪そうだね。麻薬流入を取り締まる警備兵も多いんじゃない?」

龍「え、えっとぉ、私、まだ子どもだから分かんない。てへっ」

黒「…………」プッ

勇者「…………」

龍(……色々とやらかしてしまった)カアー

勇者「……マーベラス」ツー

黒「泣いてる……」

龍(ど、どういうことだ……?)

勇者「君は幼女の鑑だ。惜しみない賛辞を送る」

龍「え、あ、はい……」

勇者「数日後にはちゃんと送り届けるから安心して」

龍「ありがとうございます……」

勇者「あと『お兄ちゃん』と呼んで」

龍「……お兄ちゃん」

勇者「アメイジング」グッ

龍(……奇天烈な男だな)

黒「……」モキュモキュ

ーーーー参の国・高級ホテルーーーー


黒「午後は何をするの?」

勇者「参王に謁見してくるから、部屋で待っていて」

黒「どれくらい?」

勇者「できる限り早く戻る。参王は嫌いだ」

黒「どうして?」

勇者「傀儡であることに満足しているからだ」

龍(どういうことだ?)

黒「どういうこと?」

勇者「この国は商人が多い。それは国家自体が商業を促進させようとする法律を制定したり、そういう政策を行っていることも大きな要因。
入国料や土地代を格安にしたり、関税の税率を極めて低くしたり。
新規で商売を始めた人間にも有利になる制度も、古株を保護する制度も多い」

黒「それは悪いこと?」

勇者「いや。農民には重苦だけれど、そもそも殆どの農民はもう参の国に残っていない。
問題なのは法律や政策が正常に機能していないこと」

黒「……?」

勇者「賄賂。現王は多くの不正な上納金を豪商たちから受け取って、彼らを優先的に保護している。非合法の商売を黙認したり。
それどころか、最近は豪商たちの言い成りと化しはじめている」

龍(……“水清ければ魚棲まず”とはいうが、あまりに濁っていては仕様がない)

黒「……」

勇者「尤も嫌っている一番の理由は別にある」

黒「一番の理由は?」

勇者「幼女」

黒「は……」

勇者「参王は小児性愛者との噂。しかも嗜虐癖が有るらしい。更に肥え太った豚のような体型だ」

龍(それはきついな)

勇者「到底好きになれる訳が無い」

黒「……同類な気がする。あなたは太っていないけど」

勇者「心外だ。吾人の基本理念は『Yes,ロリータYes,タッチNo,ファック』」

黒「どうでも良い」

勇者「そうか」

勇者「じゃあ、行ってくる。くれぐれも外に出るなよ」

黒「うん」

龍「はい」



龍「……行ったか」フー

黒「うん。さあ、外に行こう」

龍「部屋で大人しくしていろと言われただろう」

黒「言い付けを守るわたしじゃない」フンス

龍「良いから部屋で静かに過ごしてろ」

黒「むぅ……」プクー

龍「……自分の過去の話を知りたくないか?」

黒「……」

黒「聴かせてもらう」ポスッ

黒「さあ、隣に座りたまえ」ポンポン

龍「随分と偉そうだな」ハア

黒「気にしない、気にしない」

龍「……それもそうだな。失礼」ポフッ

黒「なかなか良い座り心地」

龍「そうだな。素晴らしいベッドだ」

黒「それで。わたしの過去について教えて」

龍「うむ。何処から話そうか」

黒「どこからでも」

龍「……だいぶ前、終の国で未知の遺跡が発見された。
おそらくは現在の文明を遥かに卓越した技術で建造された建物だ」

黒「……私はそこに居たの?」

龍「そうだ。私たちが一つの巨大なカプセルの前に辿り着くと、カプセル内が発光してお前が生成された」

黒「……」

龍「私たちはお前を保護した。お前は最初こそ心を開いてくれなかったが、その内私たちに馴染んでいった。魔姫の存在が大きかったんだろうな」

黒「魔姫……」

ーーーー……………う!

ズキッ!

黒「っ……!」

龍「大丈夫か? ……思い出したのか?」

黒「分からない……。分からないけど、大切なことを忘れてる気がする……」ポロポロ

黒「苦しい……。胸が苦しい……」ポロポロ

龍「……」ギュッ

黒「もっと、知りたい……。思い出したい……」

龍「……ああ、幾らでも話すさ」

ーーーー参の国・王城ーーーー


参王「勇者殿か」

勇者「如何にも」

参王「わざわざご苦労」

勇者「いえ」

参王「ふむ。初の国と結んだ盟約の確認に来たのであろう?」

勇者「そうですね」

参王「心配は無い。肆の国への傭兵の派遣は禁じた。また、弾薬などの銃火器類の輸出先は初の国を最優先にするよう話を通してある」

勇者「……」

参王「ふふ、姫を余の物にする為なら、どんな労力も厭わん。あれ程美しい娘、世界中を探しても居ないだろうからな」

勇者「…………」

参王「幼い娘というのは素晴らしいと思わぬか?」

勇者「その通りです」

参王「ほう、即答とは話が分かる。勇者殿も嗜む口か」

勇者「ええ。誇らしいことに」

参王「幼児には神聖な美しさが有ると思わぬか?」

勇者「よく分かります」

参王「それを穢し、壊すことに恍惚を覚えないか?」

勇者「分かりかねます」

参王「そうか。残念だ」

参王「……ところで、勇者殿に頼みがある」

勇者「なんですか?」

参王「三日後に大武闘会が開催される。勇者殿には是非参加してもらいたい」

勇者「……」

参王「主催者である大豪商殿に懇願されてな、世界の希望と評される勇者殿の威力を見れば、多くの者が勇気付られ、また明日を生きていく糧になる。多くの民の為にも是非お願いしたい」

勇者「……」

勇者「承諾しました」



参王「ふん。勇者も存外阿呆だな。あの程度の煽てでその気になっている」

参大臣「ええ、まったく」

参王「実際は集客効果を狙ったに過ぎないだろうに」

参大臣「聞けば農村の出だとか。所詮、低俗な血が流れる者。幼稚なのもいた仕方有りませぬ」

参王「ふふ、まったくだ」

今日はお終いです。

間違えてたらすいません。
ちょっと前にスレタイが
男「引っかかったなww」
みたいなSS書いてた人ですか??

ーーーー参の国、高級ホテルーーーー


勇者「ただいま」

龍「あ、おかえりなさい」

黒「すう……」

勇者「美幼女が美幼女を膝枕する構図。……ワンダフル」ウンウン

龍「は、はあ」

勇者「ところで。君は今夜にもう一度風呂に入る?」

龍「いえ」

勇者「そうか。一緒に入ろうと思っていたのに残念だ」

龍「そうですか……。あの、ごはんは?」

勇者「適当な店で買って食べた」

龍「そうですか」

勇者「明日は一緒に露店巡りもしよう」

龍「あ、はい」

勇者「中心街は活気があって、見ているだけでも楽しい。きっと新しい発見もたくさんあると思う」

龍「そうですね」

勇者「……疲れただろうし、黒を移動させる」スッ

龍「あ、はい」

龍(別に黒なら重みも感じないが)

龍(……しかし、この男の所作からは黒に対する労りや慈しみを感じさせる)

龍(言動や変化の無い表情からは読み取り辛いが、優しい性質のようだ)

勇者「どうかした?」

龍「あ、何でもないです」

勇者「そうか」トサッ





黒「夕ごはんもおいしかった」

龍「うん」

勇者「それは良かった」

黒「勇者も食べれば良いのに」

勇者「質素な食事で充分。色々求め過ぎると、肝心なものが手に入らなくなる」

黒「そんな事ないと思うけど」

勇者「ジンクス。それに、美幼女と戯れるだけで幸福でお腹がいっぱい」

龍(本音にも冗談にも聞こえる)

勇者「風呂に入ってくる。黒も入る?」

黒「イヤ」

勇者「そうか」スタスタ

黒「……あれ?」





勇者「一緒に寝よう」ホカホカ

黒「イヤ」

勇者「そうか。君は?」

龍「えっと……」

龍(黒に便乗した方が良いか)

勇者「よし、一緒に寝よう。ふひひ」ガシッ

龍「え、う、うん」

黒「え……」

龍(……勢いに押されて承諾してしまった。まあ、添い寝程度なら良いか)





黒「……」スヤスヤ

勇者「良い匂いがする」スンスン

龍「ありがとうございます……」

龍(……こうして密着すると勇者の力量がよく分かる。
……私でもこの男に勝てないかもしれない)

龍(……しかし、随分と固く抱き締めるんだな)

勇者「あったかい」

龍「私もです……」

勇者「おやすみ」

龍「おやすみなさい」

龍(……たまには抱き締められるのも悪くないな。
王の生命を狙ってる者だが、あまり嫌いでは無いし)

勇者「ぐう……」

龍「…………すう」

今日はおしまいです。
>>87
違います。
死にたがりの魔王のssとか、淡々と人を殺すssとか書いてました。

ーーーー参の国・服屋ーーーー


黒「……高そうな服がいっぱい。それに広い……」

勇者「世界でも最大規模の高級店だから」

龍(衣服に拘泥する人間の性は理解できそうにないな)

勇者「どんどん試着していこう」







黒「……お姫様みたい」

龍「そっちも」

勇者「良い。とても良い」

参服屋店員「真にお似合いでございます」

黒「……キレイな格好だけど、動き辛い」

勇者「華やかさを追求した服で、機能性は意識してないみたい」

参服屋店員「しかし、こちらは一級品の絹を原材料に作られていまして、滑らかな手触りな上、通気性にも優れております」

勇者「そうか。欲しい?」

黒「お洗濯が大変だから良い」

龍「私も……」

勇者「そうか。可愛いのに残念」





黒「……これ、服じゃない」

龍「うん……」

勇者「黒い柔肌と白い玉肌。主張の激しくない水着。マーベラス」

参服屋店員(マジでマーベラス)

勇者「次はこれとこれとこれとこれと……」

黒「まだそんなに……?」

勇者「勿論。あ、これも……」

ーーーー参の国・大通りーーーー


黒「疲れた……。結局、大して買ってない」

勇者「美幼女は何を着ても素晴らしい」ツヤツヤ

龍(色々な店があるな。人熱れも凄まじい)キョロキョロ

黒「お腹すいた」グー

勇者「何か要望はある?」

黒「おいしいもの」

勇者「分かった」

龍(む、香辛料に砂糖。以前は相当貴重なものだったらしいが、現在では庶民でも普通に買えるのか)

勇者「君は食べたいもの有る?」

龍「え? えっと、勇者さんに任せます」

勇者「お兄ちゃんだ」

龍「……お兄ちゃんに任せます」

勇者「うむ」ナデナデ

龍「ん……」

黒「……」

勇者「物欲しそうな黒にも」ナデナデ

黒「別にそんなことない」

勇者「実は個人的に撫でたいだけ」ナデナデ

黒「……そう」





黒「……食べ過ぎた」ゲプッ

勇者「よしよし」サスサス

ーー♪

龍「……?」

ーー♪

黒「……キレイな音」

勇者「手風琴の音か。あそこに立っている男の演奏だ」

黒「もっと近くに行きたい」

勇者「分かった」



ーー♪

肆歌手「ーー。ーー」

勇者「……肆の国の唄か」

黒「……良い唄」

龍「うん」

龍(……所詮は音の羅列に過ぎないのに、どうして心揺さぶられるのだろう)

ーー♪

肆歌手「ーーーー。ーーーーーー」

黒「でも、歌詞はなんだか哀しい」

勇者「あの言語が分かるのか」

黒「分からないの?」

勇者「肆の国は周囲の国と唯一言語が違う。昔に存在していた帝国の領土外の土地だから」

龍(私も言葉を理解できるが、無知の振りをした方が良いな)

勇者「……どんな歌詞?」

ーー♪

肆歌手「ーーーー。ーー」

黒「『神は遠い。体燃える。心彷徨う。愛を抱いて安らかに眠れ。人。生命。安らかに微睡め』」

勇者「……」

勇者「この紙幣を彼の足下の缶に入れて来て」スッ

黒「うん」

龍(結構な大金だな)

肆歌手「……」ピタッ

スタスタ。

肆歌手「ーーーー。ーーーー」

勇者「……何だって?」

黒「『こんな大金は申し訳ない』だって」

勇者「……気にしないで良い。それだけの音楽だった」

黒「ーー。ーーーーーー」

肆歌手「……ーー。あり、がと……」

勇者「……」コクリ

勇者「もっと聴かせてくれ」

黒「ーーーー」

肆歌手「ーー」ニコッ

ーー♪

肆歌手「ーーーーーー。ーー」

ーー♪

お終いです。
黒は勇者のことは別に好きでもないと思います。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー終の国・魔王城ーーーー


側近「来ましたか、人狼」

狼「親分が逝っちまったのなら集うに決まってんだろうよ。
……てめえ、片腕はどうしたんだ?」

側近「邪魔なので切り取りました。
しかし、本当に残念です。陛下が崩御なさるなんて」

狼「……あんまり落胆してるようには見えねえが」

側近「感情を表に出したくないんです」

狼「けっ、そうかい」

側近「……しかし、四天王も減ってしまいましたね」

狼「ああ。まあ、姉御も娘っ子も無事である事を信じるしかねえさ」

側近「そうですね。黒はともかく、龍には生還してもらわないと。
まったく、魔物でもない輩など放っておけば良いものを」

狼「姉御だからな。それに娘っ子も身内だろうが。
……ところで、骸の野郎は何処にいやがるんでい?」

側近「彼なら陸の国に遣わしました」

狼「……」ギロッ

側近「なにか?」

狼「骸の野郎が人間のいる場所で何をしてるは知らねえが、今は親分を悼む時じゃねえのか?」

側近「しょうがないでしょう。今は終の国の過渡期なのですから」

狼「けっ。……お嬢は何処だ?」

側近「自室に引きこもってますよ」」

狼「……親分が逝って、一番辛いのはお嬢だろうが。何で独りにしていやがる」

側近「私では慰撫できないからですよ」

狼「……けっ」スタスタ

側近「待ってください」

狼「あ?」ギロッ

側近「魔姫様を慰め終えたら、もう一度私を訪ねてください。渡したいものが有ります」

狼「嫌だね」スタスタ

側近「魔剣」

狼「っ!?」ピタッ

側近「ふふ。……陛下を狂気に誘ったと考えられる恐ろしき剣。それを貴方に渡したい」

狼「……」

側近「陛下は大変素晴らしいお方でした。貴方も勿論そう思うでしょう?」

狼「今更口に出す必要もねえよ。あれ程の漢を超える奴は一人として存在しねえ」

側近「人狼、貴方が陛下に厚い忠義を尽くしていたのはよく存じています」

狼「それも、言うまでもねえことだ」

側近「しかし同時に、貴方は一人の漢として陛下を超えたがっているように見えていましたが?」

狼「……否定はしねえ」

側近「貴方にその機会を送りたい。陛下の御心さえも狂気に染めた魔剣。
これを御することができれば陛下を超えたも同然でしょう」

狼「……けっ。実際のところは、てめえ自身があの力を所有してえのに、てめえ自身が壊れる危険性にビビってんだろう?
もしや腕がねえのも魔剣のせいか?」

側近「さあ、どうでしょうね」

狼「そして、俺を魔剣の使い手にして間接的にその威力を用いようって魂胆なわけだ」

側近「どうでしょうね」

狼「……ふん、良いさ。乗ってやるよ。
……だが、てめえの飼い犬にはならねえ。よく覚えていやがれ」

スタスタ



側近「……私の意図に気付きながらも承諾しますか。
勘は良くても阿呆な男です。助かりますが」

ーーーー終の国・魔姫の部屋ーーーー


狼「勝手ながら失礼いたしやす」

魔姫「……」ポー

狼「熱心に窓を覗いて、何か面白ェもんでも見えるんですかい?」スタスタ

魔姫「……」ポー

狼「なんでい。面白ェもんなんか、ありゃしない」

魔姫「……狼だ。久し振り」ポケー

狼「お久しゅうござんす。随分と遅いお気づきで」

魔姫「ん、何だかボーッとしちゃって」

狼「……ひでえ窶れようだ。ちゃんと飯食ってますか。それにクマもひでえ。可愛らしいお顔が勿体ねえですぜ」

魔姫「お腹が空かないの。食事を見るだけで気持ち悪くなっちゃう」

狼「お嬢……」

魔姫「それに眠れないの。すごく眠いのに、何だか頭の芯はハッキリした感じがして」

狼「無理はしないでくだせえ」

魔姫「うん……」

狼「ところで、あっしの尻尾を見てくだせえ!」クルッ

魔姫「……お花の飾り。自分で作ったの?」

狼「そうですとも! 前にお嬢と娘っ子に教わったのを思い出して作ってみたんでさあ。ひでえ不格好な形になっちまいましたが」

魔姫「……ぷっ」

狼「一番大変だったのは尾に巻きつける時でさあ。あんなに集中したのは久方振りでした」フリフリ

魔姫「あははっ」ギュッ

狼「おふっ。尻尾を掴むのは堪忍してくだせえ」ビクッ

魔姫「やっぱり狼はおもしろいね。あはは」ニコ

狼「ははは」

ツー

魔姫「……あれ?」ポロポロ

狼「……お嬢。溜め込まねえでください。あっしが幾らでも受け止めますから」

ギュッ

魔姫「……どうしてっ! どうしてお父さん、死んじゃったの……!
優しかったのに、おかしくもなって……。どうしてなのっ……!」

狼「……誰だっていつかは去っていくもんです。順番なんぞありゃしません」

魔姫「それに……! 黒ちゃんも、龍さんも、いなくなっちゃうし……!」ポロポロ

狼「きっと何処かで小石にでも躓いちまったんでしょう。
直に帰ってきますよ」ニカッ

魔姫「……本当?」グスッ

狼「あっしがお嬢に嘘を吐いたことが有りやしたか?」

魔姫「……ない」

狼「なら、信じてくだせえ」ニカッ

魔姫「……うん!」

狼「それじゃあ、飯を食べて、風呂に入って、糞して眠ってくだせえ」

魔姫「……もうっ! 汚いこと言わないの!」プクッ

狼「こいつあ、失敬しやした」

魔姫「……ねえ」

狼「何でござんしょう?」

魔姫「狼は、わたしを置いていかないよね?」

狼「その契りは……」

魔姫「……」ジワ

狼「……勿論でさあ! 男一匹、しかと心に誓いやした!」

魔姫「うん!」ニコ





狼「げほっ……!」

ビチャビチャ

側近「吐血だけで済みますか。流石ですね」

狼「……親分は血さえ吐いて無かったろうが」

側近「そうでも有りませんよ。陰で大量の血反吐をはいていました」

狼「……そうだったのかよ」

側近「それで。魔剣の具合はどうですか?」

狼「……」

ビキビキ

側近「……なるほど。陛下と同様に肉体と同化していますね。

狼「……気を抜けば、こいつに喰われちまいそうだ。
親分が狂っちまったのもよく分かる」

側近「気をしっかり持ってくださいね」

狼「けっ、言われるまでもねえ。……誓いは破れねえからな」

お終いです。
書いてる時の、これじゃない感がすごい。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー参の国ーーーー


情報屋「暁の時分からご苦労なこった」

勇者「昨日と同じ用件。金額は同じで良いな」スッ

情報屋「昨日より減ってるが?」

勇者「昨日は、初国の貨幣の価値が上がった。正確にいうと、ようやく相場に反映された」

情報屋「……耳聡いな」

勇者「本当に知らなかったのか、巻き上げようとしたのかは知らないが、どちらにしろ信用問題に関わる。
情報屋は信頼が最重要のはずだ」

情報屋「……そうだな」

勇者「それで。肆の国の情報」

情報屋「ああ。初の国への侵攻はまだのようだな。だが確実に差し迫ってはいる。一週間も経たない内に交戦状態を迎えるだろうな」

勇者「そうか。それじゃ」

情報屋「毎度有り」

バタンッ

情報屋「……あれが噂の勇者か。おっかねえな」

ーーーー参の国・高級ホテルーーーー


龍「……明け方なのに、どうして勇者が居ないんだ?」

黒「わたしが起きた時には、もういなかった」

龍「私なんて抱き締められてたのに、気付かなかったぞ」

黒「龍はいつも幸せそうに寝てる」

龍「……私が?」

黒「うん」

龍「……そんなことは無いはず」

勇者「ただいま。起きてたのか」

黒「おかえり。どこに行ってたの?」

勇者「美幼女の探索」

黒「気持ち悪い」

勇者「ぐすん」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


黒「上がり」ポンッ

勇者「負けた。これで上がり」ポンッ

龍「うう……」

黒「……大富豪も飽きた」

勇者「もうお昼の時間だ。今日は何が食べたい?」

龍「も、もう一回! 次こそ……!」

黒「正直、弱すぎて話にならない」

龍「うう……」

勇者「……もう一回だけ」

龍「……!」パアッ

黒「それは喜びすぎ」

龍「次こそ……!」

勇者「……」チラッ

黒「……」チラッ

コク





龍「勝った……!」

勇者「わー、つよーい」

黒「かなわない」

龍「ふふ……そうだろう、そうだろう」

黒「……素が出てる」ボソッ

龍「あっ、う、嬉しいです! わあい!」アタフタ

勇者「そうか」

龍(……不審には思われなかったようだな。良かった)

黒「お腹すいた」キュー

勇者「昼餉にしよう」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

勇者「ちょっと手続きしてくる」

黒「手続き?」

勇者「明日は大武闘会に出るから、その手続き」

黒「そっか」

勇者「お金を渡して置くけれど、無駄遣いしないように。あと人目の多いところにいて」

龍「はい」

勇者「それじゃ。……どうせなら見送りのチュウを」

黒「イヤ」

勇者「ぐすん」






龍「さて。何をしようか」

黒「ごはんも食べたし、ゆっくりしたい」

龍「なら、帰って寝るか?」

黒「でもどうせならお店とか見たい」

龍「……じゃあ、ゆっくりと歩き回るか」

黒「うん」





黒「ほわあ……」

龍「甚く精巧な人形だな」

黒「本物の人間みたい」

龍「そして高い……」

黒「うん……」

参人形師「おや、可愛らしいお客さんだ。いらっしゃい」

黒「えと。……いらっしゃった?」

龍「何だそれ?」

黒「『いらっしゃい』への返事のつもり」

参人形師「ふふ、面白い娘たちだ」

龍(私も含まれているのか)

参人形師「ーー君たちは人形が好きかね」

黒「あんまり。でもこの人形はキレイだと思う」

参人形師「ふふ、ありがとう。私は人形が大好きだ。世界中で一番愛している」

黒「そうなんだ」

龍(人間というのは奇妙な嗜好を持った奴が多いな)

参人形師「……お願いが有る。きいてくれれば、好きな人形を上げよう」ニヤ

黒「……っ」ビクッ

黒「イヤ」

参人形師「良いから。ほら」

ガシッ

黒「いたっ……」

参人形師「こんな美しい娘たちは初めて見た。奥でじっくり調べさせてもらおう。ふふふ」

龍(……目が血走ってる。面倒だし、気絶させてしまおうか)

ガチャッ

龍(……仲間か?)

スタスタ

ガシッ

参人形師「な、何だね!?」

肆歌手『その娘たちから手を離せ』

参人形師「な、何だ!?」

グイッ

肆歌手『行こう』

黒『……うん』

肆歌手『君も』

龍「……」

スタスタ

バタンッ

黒『助けてくれてありがとう』

肆歌手『何ということはないよ。
同郷の人から、あの人形師の不穏な噂を聞いていたからね。
君たちが人形屋に入ったのを見かけて、心配で見守ってたんだ』

黒『そうなんだ……』

肆歌手『昨日の彼は? 君たちの保護者なんだろう?』

黒『用事が有るらしくて今はいない』

肆歌手『そうか。こんな小さな娘たちを放置するとは非常識だな』

黒「……悪い人では無いけどね」

肆歌手『ん?』

黒『なんでもない。
……あなたの唄が聴きたい』

肆歌手『ん、それは嬉しい言葉だ』スッ



ーー♪

肆歌手『風が巡る ? ? ?君が薫る』

ーー♪

肆歌手『内包された久遠 ? ? ? 再生された虚空』

ーー♪





黒『よかった』パチパチ

龍「……」パチパチ

肆歌手『ありがとう。嬉しいよ』

黒『他にも唄は有るの?』

肆歌手『有るよ。因みに即興で唄を作るのが得意なんだ』

黒『即興で?』

肆歌手『そう。和音を奏でるとね、その和音が具有する連続性が次の和音を導いてくれるんだ。神が僕たちの魂を導くようにね』

黒「……?」

肆歌手『音が音を呼ぶといえば良いのかな。僕はそれを繋げるんだ。あと詞は結構適当だったりする』

黒『すごい』

肆歌手『何ということはないよ。僕にとってそれは当たり前の事なんだ。特別なんかじゃない』

黒『そんなもの?』

肆歌手『そんなものさ。……君たちも手風琴を弾いてみるかい?』

黒『良いの?』

肆歌手『誰にでも触らせる訳ではないよ。ただ、君たちなら良いかと思ってね』

黒『弾いてみたい』

肆歌手『じゃあ、両帯を肩にかけて』

どしっ

黒『……けっこう重い』

肆歌手『重い方が基本的に音色が良いからね。立ちっぱなしで演奏すると腰が痛むけど』

黒『そうなんだ』

肆歌手『蛇腹はなだらかな丘を描くように広げて、戻す時はその逆だよ。そうしないと音が出ないからね』

黒『こう?』

肆歌手『そうそう。うまいね。それで右側が主旋律で左側が……』

龍(……退屈だ)フア





ーー♪

肆歌手『……すごい上達ぶりだ。素晴らしい才能だよ』

黒『そう?』

肆歌手『ああ、驚きだよ。僕なんか直ぐに追い抜かれそうだ』

黒『それは大げさ』

肆歌手『そうでも無いと思うけど』

黒『重くて疲れた……』

肆歌手『ん、一旦外そうか』スルッ

黒「ふう」

龍「……」ボンヤリ

肆歌手『君もやってみるかい?』

黒「やるか、だって」

龍「言葉なら分かっている。断ってくれ」

黒「話せるなら自分で話せば良いのに」

龍「今更話すのも不自然だろう」

黒『見てるだけで良いって』

肆歌手『そっか。……ところで君に憶えて欲しい唄が有るんだ』

黒『どんな唄?』

肆歌手『今弾くよ』スッ




黒『今のも良い唄だった』パチパチ

龍「良いな」パチパチ

肆歌手『ありがとう。これは先に詞から作った唄なんだ』

黒『切ない歌詞』

肆歌手『……そうかもね。それじゃあ、教えるから』

黒『うん』

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー参の国・王城・娯楽の間ーーーー


参王「来られたか、勇者殿」

勇者「ええ」

参少女「むぐっ、ぢゅ……れろ」チュプ

参王「ちゃんと奥まで咥えろ」グイッ

参少女「むぐっ!? ……あむっ」

参王「歯を立てたりしたら即刻殺すからな」

グポグポ

参少女「っ……。ぐむっ、えろっ」グスッ

勇者「何の用でしょうか?」

参王「なに。勇者殿も幼い娘が好きなのだから、共に愉しもうと思ってな」

勇者「有り難いお心遣いでございます」

参王「なに、気にするな」ズルッ

参少女「ぷあっ……。げほっ」

参王「この娘は今日で最期だからな。誰かと分かち合うのも余興だ」スラッ

参少女「え……」

勇者「意味を分かりかねます」

参王「余は常に七“匹”の娘を飼っている。皆美しい娘たちばかりだ」

勇者「はあ」

参王「そして新しい娘を買うたびに、その分古いのを殺すのだ。
そして今日、新しい美少女を入手したのだ」

参少女「やだ……。死にたくない……!」フルフル

参王「勇者殿にも美しいものを壊す快感を堪能して欲しくてな」

勇者「ふむ」

参少女「た、たすけて、ください……」ガタガタ

参王「強烈な快感を余に与える事ができるのだ。光栄に思え」スッ

参少女「いやぁ……!」

勇者「お待ちください」

参王「何かね?」

勇者「その美しい娘を吾人に賜っていただけませんか」

参王「断る。美の破壊は余の生き甲斐だ」

勇者「重々承知いたしました。無論、相応の対価をお支払い致しましょう」

参王「端金など要らん」

勇者「貴方様の勅命を一つ、承りましょう。どのようなものでも必ず遂行致します」

参王「……ふん。『この娘を殺せ』という命令もか?」

参少女「っ……」ガタガタ

勇者「……」

参王「沈黙か。……まあ、良い。ならば命令をくだそう」

勇者「はい」

参王「明日の武闘会で、ひたすら嬲られろ。勿論、無抵抗でだ」

勇者「その程度ならば幾らでも」

参王「ふふ、かの勇者がひたすらに圧倒される。さぞかし面白いだろうな」

勇者「左様ですか」

参王「娘は手形として持っていけ。」

勇者「はい」

スタスタ

ファサッ

参少女「あ……」

勇者「粗末なものだが我慢してくれ」

参王「……勇者殿は初王殿から支援金を貰っているのだろう?」

勇者「ええ」

参王「ならば、そのようなみすぼらしい格好はやめておけ。失敬だ」

勇者「了解致しました。それでは失礼します。……行こう」

スタスタ

バタンッ

参王「……偽善者が。その娘だけを救ってどうするというのだ」

参王「……まあ、良い。“新品”の具合でも試すか。それと何処から調教するかも考えなくては」ニヤッ

ーーーー参の国・高級ホテルーーーー

勇者「ただいま」

黒「おかえり。……また新しい娘」

龍「おかえりなさい」

参少女「……」ビクビク

勇者「拾った。ふひひ」

参少女「ひっ……」

勇者「おっと。ごめん」

黒「……どうしてそんなに薄着なの? しかも羽織ってるのは勇者の服」

参少女「あ……」オドオド

勇者「色々とあった。黒、一緒にお風呂に入ってあげて。
服は……できるだけ大きいのを貸してあげて」

黒「……分かった」





勇者「はあ」

龍「あの娘はどうするんですか?」

勇者「敬語を使う必要はない。龍」

龍「……いつから気付いていた」

勇者「最初に会った時から」

龍「知っていて色々とからかっていたのか」

勇者「いや、ハグとかは実際にその姿が可愛いから」

龍「ふん、人間は形に囚われすぎだ。形とは、虚空と等しいのに」

勇者「そうか」

勇者「そうか」

龍「ところで、打ち明けたということは戦うということか」スー

勇者「銀鱗美幼女。そんなものも有るのか」フムフム

龍「……は?」

勇者「現時点で戦意はない。ただ訊きたいことが有った」

龍「……何だ?」

勇者「龍というからには長寿のはず」

龍「まあ、そうだな」

勇者「多くのものを見てきただろう? 多くの哀しみも、多くの死も」

龍「まあ、そうだな」

勇者「龍は、死をどのように考える?」

龍「勿論生命の終わりだろう。ただの物体に還るんだ」

勇者「うん」

龍「死は必ず発現する。天候に、偶然に、疫病に、害獣に、自身によって」

勇者「うん」

龍「だから、死自体は何も問題ではないんだ。死は生にとっての絶対だ。それ以上でもそれ以下でもないのだから」

勇者「龍は人間がーー君の場合は魔物がどのように生きて、どのように死んでも良いと?」

龍「そんな訳ないだろう。どのように生きるかは重要な事柄だ」

勇者「……人が人を殺すのは?」

龍「同族殺しなど有り得ないな。少なくとも魔物はそのような事はしない」

勇者「龍は、人を殺すのか?」

龍「……場合によってはな。なるべく穏便に済ませたいところだが。無益な殺生は極力減らしたい」

勇者「なるほど。
あと、魔物について訊きたい」

龍「答えるかは訊問によるな」

勇者「近年、魔物の数が唐突に増えた。何故だ?」

龍「……終の国から流出しているんだ。理由は幾許か有るが、最大の原因はおそらく……」

勇者「王の乱心か」

龍「……ああ。だが、それだけではなく、食糧に乏しいんだ。
より豊富な食糧を求めて北方の祖国を捨てて南に下る者が増加しつつある」

勇者「そのような時期に、無為に時を過ごして良いのか。
四天王はおそらく国務大臣に該当するのでは?」

龍「私だって煮詰まった時は気分転換もしたくなる。
そこから妙案が浮かぶことも有るしな。……詭弁か」

勇者「次に。魔物同士は意思の疎通が取れるのか?
言語を解す魔物の数は少ないようだが」

龍「基本的な種とは様々な方法で取れる。
お前たちは大味に分類するが、私たちはかなり厳密に細分化しているんだ。
まあ、通じない奴の殆どは家畜のようなものだな」

勇者「なるほど。分かった」

龍「質問は終わりか?」

勇者「最後に要望が一つ」

龍「何だ? 私のために購入した服の返却か?」

勇者「抱き締めさせて」

龍「は……?」

ボフッ

勇者「さあ、吾人の上に腰掛けて」

龍「……どうしてそうなる? 理解が追いつかない余り頭痛がしてきた」ズキズキ

勇者「さあ、ハリーハリー」オイデオイデ

龍「はあ……」

ポフッ

ギュウ

勇者「温かいままだ。その姿でも恒温動物のままか。
……それにしても、素晴らしい抱き心地」

龍「……まあ、お前に抱き締められるのは嫌いじゃない」

勇者「そうか」ギュッ

龍「ん……。強過ぎだ……」

勇者「……」ペロ

龍「ひゃっ……!?」ビクッ

勇者「身体を強張らせる銀鱗美幼女可愛い」ナデナデ

龍「お前……!」

勇者「二人が上がってきそうだから鱗を消して」

龍「……ちっ」スウ






勇者「ところで。この手風琴は何処から?」

黒「昨日会った人から預かった。暫く遠くに行くからって。
それと、その人に色々と唄を教えてもらった」

勇者「そうか」

参少女「……」ウツラウツラ

勇者「そろそろ寝よう。君は吾人のベッドを使うと良い」

参少女「でも……」

黒「勇者は?」

勇者「黒、一緒に寝よう」

黒「イヤ」

勇者「ぐすん」

龍「仕様がない。私のベッドで眠れ」

黒「……口調」

龍「バレたからもう良い」

黒「えっ」

勇者「そうする」

参少女「あの……わたし、あなたに感謝してもしきれなくて……どうすれば……」

勇者「良いから今日は早く眠って。
あの肥満体に襲われることは絶対に無いから安心して」

参少女「は、はい……」

勇者「おやすみ」

参少女「おやすみ、なさい……」



参少女「…………」スウ

黒「……お風呂に入ってる間もずっと何かに怯えてた。
本当に何が有ったの?」

勇者「色々と。今は彼女の為にも訊かないでくれ」

黒「……分かった」

勇者「寝よう」

黒「うん」

龍「変な事するなよ」

勇者「難しいかもしれない」

龍「おい」

自分でも分かる。
このSSは需要がない。
完結はさせるけども。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー

ガヤガヤガヤガヤ……

参王「通常を遥かに超える観客数ですな」

参大豪商「ええ。勇者参加の集客効果は素晴らしいです。
この調子ならば一日中満席になりそうだ」

参王「諸国に名を轟かせる猛者ですからな。その力を直に見たい者も多いでしょう」

参大豪商「ふはは、その通りです」

参王(その勇者は無抵抗のまま蹂躙されるがな)

ワアアァァァアアア!!

参王「おっと、入場のようですな」

ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーーー


黒「勇者はどうして闘うの?」

龍「知らん」

龍(それにしてもこの建造物。以前に来た時は国事犯の処刑に使われていたが、他にも用途があったのだな)

参少女「……」グスッ

黒「……どうしたの? 朝からずっと暗い顔してたけど」

参少女「勇者さまは……わたしのせいで……」ヒグッ

龍「何の話だ」

参少女「たすけてもらう時、勇者さまは約束していました……。
この闘いで一切手を出さないと……」

黒「……それって、勝ち目がないってこと?」

参少女「……勇者さまの身に、もしものことがあったりしたら……私、どうしたら……」ポロポロ

龍「おそらく大丈夫だろう」

黒「うん。勇者は強いから。だから落ち着いて」ギュッ

龍「……」ギュッ

参少女「……ありがとう」ポロポロ

ーーーー参の国・円形闘技場・舞台上ーーーー


ガーーーン

参戦士「昨夜、王の使者がわざわざ伝えに来たぜ。
アンタは俺に攻撃ができねえんだってな。がはは!
まあ、殺しはしねえよ。半殺しにはするが」

勇者「口を動かしてないで殴ったら?
大して弁が立つわけでも無い男の、野蛮で不快な声なんて聞きたくもない」

参戦士「……粋がってんじゃねえぞ!」ダダッ

勇者「……」

参戦士「っらああぁぁああ!!」ブオッ

ゴキッ

参戦士「……あ?」プシャッ

勇者「指と手首の骨折と、指の肉が裂けたみたいだな」

参戦士「……このやろおおぉぉぉおおお!!」ブオッ

ガキッ

参戦士「ぐっ……!」

勇者「次は足をやりたいのか」

参戦士「くそっ!」タッ

勇者「さっさと諦めたら?」

参戦士「調子にのんなあぁぁあああ!!」スラッ

勇者「抜刀か。たしか銃以外は使っても良い規定だったな」

参戦士「うおおおぉぉぉおおおおおおおお!」ブオッ

勇者「振りかぶり過ぎだ。普通なら当たらない」

ゴキャッ

参戦士「あ……」ポロッ

勇者「それと、このような鈍の剣では掠り傷も負えない。
今みたいに折れて終わり」

参戦士「バケモノ……」ドサッ

勇者「それ以外の何だと思っていた?」

参戦士「……ひっ」ジリッ

シーーン

勇者「……面倒だ。吾人の負けで良い」クルッ

参戦士「…………は?」

スタスタ

ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー


参大豪商「……なるほど、あれが勇者か」

参王「……真のバケモノですな」

参王(……示威しながらも敗退するとはな。面白くない)

ブーブー!

参大豪商「……ブーイングが多い。このままではいかんな。おい、お前」

参大豪商使者「はっ、何でしょう」

参大豪商「余興へ参加するよう勇者を説得してこい。得意の色仕掛けでも使ってな。
承諾が得られたら、アレも此処まで連れて来い」

参大豪商使者「了解致しました」

参王「何をお考えで?」

参大豪商「ふはは、客を沸かせるサプライズですよ」

ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーーー


勇者「やっほー」

参少女「勇者さま!」ダキッ

勇者「おっと」ナデナデ

参少女「無事で良かったです……!」

勇者「まあね」

龍「負けたが良かったのか?」

勇者「勝って得することもない。それより二人もおいで」

龍「遠慮する」

黒「わたしも」

勇者「ちぇ」

黒「この後はどうするの?」

勇者「帰るつもり。それとも見たい?」

黒「……」フルフル

龍「私もいい」

参少女「勇者さまにおまかせします」

勇者「そうか」

参大豪商使者「勇者様」

勇者「ん、何の用?」

参大豪商使者「見事な闘いぶりでした。私、思わず固唾を飲んで見入ってしまいました」

勇者「どうも」

参大豪商使者「しかし、観客の中には勇者様の実力を理解できていない者がいるようで……」

勇者「面倒だ。要件は簡潔に言え」

参大豪商使者「……すいません。勇者様にもう一度舞台で闘っていただきたいのです」

勇者「人間と?」

参大豪商使者「いえ、魔物です。数多のの人間を喰らった凶獣です」

龍「……」ピクッ

勇者「そうか」チラッ

参大豪商使者「……参加していただけるならば、何でも致します。……何でも」クスッ

勇者「……分かった。じゃあ大豪商に麻薬の密売を止めろと伝えておいて。それと非道な奴隷貿易を止めろとも」

参大豪商使者「っ!?」

勇者「あ、やはり伝えなくて良い。伝える必要も無くなる」

参大豪商使者「……それでは半刻ほどしたら控え室にいらしてください」




龍「……」

勇者「囚われた魔物について、龍はどのように考える」

龍「……祖国を捨てた者だ。何とも思わないさ。私には関係ない」

勇者「言い聞かせているようにしか見えない」

龍「……うるさい」

勇者「そうか」

黒「龍……」

参少女(事情は分かりませんが、不穏な感じです……)

勇者「そういえば君の事だけど」

参少女「は、はい……」

勇者「身寄りが無いそうだし、吾人の知り合いーー師匠に預かってもらう予定」

参少女「え……」

勇者「偏屈な人だけど悪人では無いから安心して」

参少女「あの……わたしは勇者さまと別れるんですか……?」

勇者「そうだ。これからは危険が格段に増す。
ちっちゃい子を連れていくわけには行かない」

参少女「で、でも……この二人は……」

勇者「黒と龍とはこの国で別離だ」

黒「……え?」

龍「……」

勇者「元々そのつもりだった」

黒「……『ついてくれば良い』って最初に言った」ムスッ

勇者「今は状況が違う。龍の言葉通り、帰りを待っていてくれる者がいるなら帰らなければいけない」

黒「……“わたし”はそんな人たちを知らない。知らなければ他人」

勇者「吾人とだって他人だ」

黒「そんなこと……!」

勇者「吾人の何を知っているというんだ?」

黒「ヘンタイなところ」

勇者「あ、確かに」

龍「……勇者は私の敵だ。魔王を狙っているんだからな」

勇者「その通りだ」

龍「……だが、お前が悪者では無いことは知っている」

勇者「……そうでもない」

龍「……戦うのは次に会う時まで延ばしておこう」

勇者「分かった。……吾人は違うところで時間を待つ。
戻ってくるまでの間、彼女の面倒を見ておいてくれ」

龍「それぐらいなら構わない」

勇者「どうも。それじゃ」




龍「……黒はどうする? 私について来るか?」

黒「……どうすれば良いか分からない。唐突過ぎて」

龍「……まあ、一緒に帰還することも考えていてくれ」

参少女「……二人は、魔物なんですか?」

龍「私はそうだが、黒は違う」

黒「わたしは人間でもないけど」

参少女「……人を食べたりするんですか?」

龍「大飢饉の時代には有ったな。私の口には合わなかったから、それ以降は食べて無いが」

参少女「……」

龍「怖いか?」

参少女「……少し。でも、悪人には見えません。王様よりもずっと」

黒「参王は悪い人なの?」

参少女「……ずっとひどい事をされてきました」

黒「……」

参少女「仲の良かった女の子が帰って来なくなった時、わたしたちを見張っている兵隊さんは『あの娘は遠くで幸せになった』って言っていました。
昨日、『今日が最後』と言われた時は、わたしも自由になれると思っていました。
わたし、知らなかったんです……。わたし……」ガタガタ

龍「無理して喋らなくて良い。こういうのは楽しく過ごしてさっさと忘れた方が良いんだ」

黒「……思い出させてごめんね」

参少女「いえ……。……やっぱり二人は悪い人に思えません」

龍「……そうか」

ーーーー参の国・円形闘技場・舞台上ーーーー

ワアアァァアア!!

ツギハニゲンナヨー!
マモノヲブッコロセー!

勇者「……」

ドッ

ドッ

ドッ

ジャラッ

ジャラッ

ジャラッ

マモノダー!
オッカネー!

魔獣「グルルルッ……!」

参魔物商人「三日間の間、餌を与えていない為、極めて凶暴です。
鎖を外した瞬間、襲撃してくるでしょう」

勇者「そうか。……退いてろ」ズルッ

参魔物商人「……腕から剣が」ポカン

勇者「二度も言わせるな」

参魔物商人「は、はい! おい! 撤退だ!」

ドダダダッ

勇者「ていっ」ブンッ


バキッ

魔獣「グオオォォオオオッッ!」

勇者「中々の迫力だ」ズブッ

ブンッ

勇者「当たらない」ヒョイッ

ワアアァァアアアア!!

ブンッ

ヒョイッ

ブンッ

ヒョイッ

魔獣「グオオオォォオオオオ!!」ブンッ

勇者「済まないが利用させてもらう」ガシッ

魔獣「ッ!?」

勇者「投擲」ポイッ

魔獣「ガアアァァアアア!」

勇者「さて。屑共に相応の報いを」

ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー


バリバリッ

ガリッ

グチャグチャ

参大豪商「ーーーー」

ポイッ

魔獣「グルルルッ」ガシッ

参王「た……すけて……」

魔獣「グア」アーン

参王「ひ……いやだ……死にたくない……いやだ……」



ゴキャッ



参王「ーーーー」

グチャグチャ

グチャグチャ

勇者「ていっ」ブンッ

魔獣「ーーーー」プシャッ

ボトッ

勇者「感謝しているけれど所詮は人喰い。生かすのは無理だ」ズブッ

ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーー


龍「……」

黒「顔色が悪いよ……」

龍「……大丈夫だ。……少し野暮用ができた。黒、お守りは頼む」

黒「分かった」

参少女「お、お守りって……」

タタタッ

参少女「あ……行っちゃいましたね」

黒「……取り敢えず勇者のところに行こう」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ゾロゾロ

魔物商人「今日は大金が入ったし、全員で飲みに行くか」

ヒューヒュー!

イエーイ!

龍「……」コソッ

ゾロゾロ



龍(あの建物に入って行ったが、どうやって侵入するか)

龍「……強行突破で良いか」

トテトテ

龍(……杞憂に終われば良いが)

ガチャッ

龍(……汗臭いな)

魔物商人「あん、どうした嬢ちゃん?」

龍(……っ! 汗に混じって血の臭い!)

ダッ!

魔物商人「あ、おいっ! 誰かそのガキを止めろ!」

龍「邪魔だ!」

ドンッ

「っ!? 人間の力じゃねえぞ!」

魔物商人「……魔物か!?」

龍(奥には厳重な鋼鉄の扉)

龍「はあっ!」ブンッ

ゴシャッッ

龍「…………はは」



た……すけ……


ぐる……じ……


パパ……ママ……


し……にたく……な……


あひゃ……くしゅり……くしゅりぃ……


いたい……いたいよ……



龍「ははは」

龍「おい、そこのサキュバス。四肢はどこに置いてきたんだ?」

龍「おい、ゴブリン。背中にミミズが大量に這ってるぞ」

龍「おい、セイレーン。どうしてお前は腹を割かれてるんだ?」

龍「全員そんなに血を流して、人間の返り血でも浴びたのか?」

龍「ははははは」

魔物商人「食らいやがれっ!」ブンッ

ズドッ

魔物商人「……尻尾?」フラッ

ズルッ

ズドッ

魔物商人「ーーーー」

……ウオオォォォオ!

龍「……殺してやるっ!!」




勇者「皆殺しか」

龍「……勇者」

勇者「祖国を捨てた者は関係ないんじゃ無かったのか?」

……りゅう……さま……

りゅう……さま……たず……けて

龍「……」

勇者「……」

龍「……勇者」

勇者「何だ?」

龍「お前は、この状況を知っていたのか?」

勇者「ずっと前から知っていた」

龍「勇者」

勇者「何だ?」

龍「人間は敵だ。殺すしかない」

勇者「ならば、吾人はお前を殺すしかない」

龍「……くそが。くそがぁぁあああああっっ!!!!」

ミキミキミキミキ

勇者「……龍というよりもドラゴンだな」

ブオンッ

勇者「……ちっ」

ドゴォォッッッ!

龍「ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁああああっ!!」

ドゴォッッ

ゴシャアッッ

龍「私はお前に一目を置いていた!」

ブオンッ

ゴシャッッ

龍「大きな過失だ! 人間など屑だ!」

勇者「なんだ、そんなことも知らなかったのか」ピョンッ

龍「……っ! ちょこまかするなぁ!」

ドゴオッッ

ドゴオッッ

勇者「大体、お前は情弱過ぎる。長命の割には余りに無知だ。
もっと人間の事を知っていれば予防策なんて幾らでも打てた」ピョンッピョンッ

龍「黙れ!」

勇者「お前にも責任が有るんだ。自覚しろ」タタタッ

龍「詭弁を吐くなぁ!」

ゴシャッッ

ズドオッッ

タタタッ

ピョンッ

スタッ

勇者「やーい、こっちまでおいでー」

龍「くそがぁぁああ!」

ブオンッ

ピョンッ

ドコオォッッ


勇者「次は……あっちか」ボソッ

ドゴオッ

勇者「建物にダーイブ」

龍「……意味の分からないことばかりして何がしたい!?」ブオッッ

ズシャァァッ

参兵隊長「魔物を止めろぉ! これ以上我等の街を破壊させるな!」

ウオオオォォォオオ!

パンッパンッパンッ

ドンッドンッドンッ

龍「……」ギロッ

ブンッッ

ガシイッッ

龍「っ!?」

勇者「お前は吾人にだけ集中してれば良いんだ」

タタタッ

龍「……意味が分からないんだよっ!!」

ドゴオオッッッ

ドゴオオッッッ

勇者「良いから手の鳴る方においで」パチパチ

龍「……っ!!」ギリッ

ブオンッッ

ドガアッッ





龍(……勇者が立ち止まったり侵入する建造物は有る程度同じだ)

龍(もしかして……)

ピタッ

龍「お前……」

勇者「……この破壊者め! 絶対に倒してやる!」シー

龍「……」

ドゴオッ

ドゴオッ





勇者「くそう! すぐに倒してやるう!」タタタッ

龍(国外に出るようだな)



勇者「……ここまで来れば良いか」ピタッ

龍「お前が誘導して私が壊した建物は何だ?」

勇者「奴隷の収容所やら市場やら、麻薬の保管庫やら、武器製造工場やら、武器庫やら色々だ」

龍「何の為に……」

勇者「吾人は人間相手に勝手な事は出来ないから。魔物に壊してもらうのが一番体裁が良い」

龍「……」

勇者「それと、囚われていた魔物たちは全員無事だ。
黒たちに逃走経路を教えて誘導させたから多分逃げ切れたはず」

龍「……冗談を言うな。どいつも疲弊し切って逃げ切れる体力など無かった。
サキュバスとセイレーンに至っては四肢と肝を奪われていたんだぞ……!」

勇者「吾人が治した」

龍「……はあ?」

勇者「聖剣パワーは万能。ふふん」

龍「……本当か」

勇者「本当だ。……それで。悪いけれど」ズルッ

チャキッ

龍「……ああ。この生命を以って事態の収拾をつけろ」スッ

勇者「……ていっ」ブンッ


ボトッ

ーーーーーー
ーーーー
ーー

サスガ、ユウシャサマダ!

ユウシャサマ、バンザイ!

バンザーイ!

バンザイ!

バンザーイ!





勇者「ふう」

参少女「勇者さま!」タタタッ

ダキッ

勇者「おっと」

参少女「ご無事で良かったです……!」ウルウル

勇者「ありがとう」ナデナデ

黒「龍は……?」

黒「龍は……」

龍「此処にいるぞ」ピョコッ

黒「……ネズミ?」

龍「目立たないようにな」

勇者「翼を掲示しただけだから逃亡を許したことにしかできなかった」

龍「充分だ」

黒「……無事でよかった」ホッ

勇者「……ちょっとした用事が有るから、先にホテルに戻っていて」

参少女「分かりました」

龍「……勇者」

勇者「何だ?」

龍「見直した。お前は凄い奴だ」

勇者「ふふん。惚れた?」

龍「……ああ。これ以上無いほどな」

黒「えっ」

勇者「えっ」

龍「……もう少し、一緒にいさせてくれ。
お前といれば多くの事を知れる。そうすれば人間との和解の道も見つかるかもしれない」

勇者「そうか」

龍「それに私自身、お前といたいんだ」カァ

勇者「……そうか」

黒「ネズミが告白してる……」

勇者「取り敢えず、ホテルに戻っていて。龍を頼む」スッ

参少女「わかりました」キュッ

勇者「それじゃ」フラッ

黒「……?」




勇者「……此処なら良いか」

勇者「……ごぼっ」

ドボドボ

勇者「ぐっ……がぼっ、ごぼっ……」

ボドボド

勇者「とまらな……げぼっ……」

ボチャボチャ

ドサッ

勇者「げほっ……。……多分、致死量だな」




勇者(……無茶し過ぎたか)

勇者(……久しぶりに感情が戻ってきた感じがするな)

勇者(……愚かだ。魔物を救って、奴隷を救って、麻薬を処分して、武器を破壊して……)

勇者(それで何が変わるんだよ)

勇者(どれだけ大きな力を持っても、その場の者を救うのが限界だ)

勇者(くだらない……)

勇者(……それは妹を救えなかったあの時からか)

勇者(自分は、何がしたいのだろう……)

ギュッ

勇者「……?」

黒「死んじゃダメだよ……」

勇者「なん……で……」

黒「様子がおかしかったから、心配で見に来た」

勇者「……そう……か……」

勇者(……ちっちゃい手だ)



勇者(……あったかい手だ)


レスが嬉しくて張り切りすぎた。
次からは週一投下にしよう。

>>202(……張り切り過ぎたか)

俺「死んじゃダメだよ……」

って事で楽しみにしてる
が、適度に頑張ってください

ーーーーーー
ーーーー
ーー

勇者「……」パチ

ムクッ

勇者「……何処だ?」

「お目覚めか」

勇者「……誰だ?」

「その問いは正しくない。適切な答えが欲しければ適切に問え。これは常識だろう。
尤も、言語という虚弱な伝達ツールでは仕方の無いことだが」

勇者「……」

「それでは、君の間違った問いに間違った解答を与えよう」



聖剣「私は聖剣だ」

勇者「……聖剣」

聖剣「これは正しくないんだ。そもそも私は剣ではなく、またこの人の形も私ではないのだ。
他方で、私はやはり剣だし、人の形なのだ」

勇者「訳が分からない」

聖剣「言語では伝達が困難だ。それでも伝えようとする私の誠実振りには感心できるな」

勇者「それじゃあ、この白い場所は何処だ?」

聖剣「意に介されなくても私は動じないからな。
此処は媒介者の内部とも言えるし、やはり別だとも言える」

勇者「いちいちまどろっこしい。簡潔に言え」

聖剣「それでは曲解に虚偽を交えて説明しよう。それで初めて言語による伝達が可能なのだ」

勇者「……まどろっこしい」

聖剣「私は主星ーーこの星とは別の惑星から派遣された変換器だ」

勇者「……訳が分からない」

聖剣「私は、殲滅した対象が保持していた『可能性』を略取して、エネルギーに変換できるのだ。
そして、それを主星に送るのが私の役割だ」

勇者「……俄かには信じられないな」

聖剣「しかし事実だ。何万年もの間、幾度となく繰り返してきた」

勇者「それはおかしい。お前が降り落ちたのは三年前のはずだ」

聖剣「当惑星のヒトが絶滅寸前まで減ったら一旦帰還するのだ。
以前はこの惑星の時間の流れではおよそ七千年前か」

勇者「途方もないな」

聖剣「そうだ。途方もないんだ」

勇者「質問が幾つか有る」

聖剣「何かね?」

勇者「魔剣という物が有るらしい。それもお前と同類か?」

聖剣「目的という観点ではそうだ。私と離れた土地に堕ちることで、対立関係に置き、使用頻度を増加させる事が目的だ。
具有する能力は別だが」

勇者「次に。人間はこの星以外にもいるのか?」

聖剣「話を聞いてなかったのか? そもそも当惑星に元々ヒトはいなかった。私と魔剣が繁殖させたのだ。環境に適応するよう遺伝子改造を繰り返してな。
少しでも効率的にエネルギーを生産できるように、行動的かつ好戦的にしてある」

勇者「剣のお前にそのような事が可能なのか?」

聖剣「言ったろう。私は剣であって剣では無いのだ。
今回は諸理由で剣という様相を呈しているだけだ。形とは虚空なのだ」

勇者「龍と同じような事を言う。姿が変わるのも龍と同じだ」

聖剣「理論は同じだ。あの種の場合は体内の亜空間に様々な物質を内包して、任意に展開しているが」

勇者「……待て。魔物は外来種では無いのか」

聖剣「当惑星のヒトたちが口にする魔物という存在は全て当惑星の在来種だ」

勇者「……そうか」

聖剣「他に質問は有るかね? こうして対面する機会はもう無いだろうからな。
時間も無いようだし、有るならば迅速にな」

勇者「最後に一つ。黒は、明らかに現代の存在じゃない。黒は何者だ?」

聖剣「それは私も話そうと思っていた。概要については概ね察しているだろうから割愛するとして、アレの能力は正体不明だ。
アレが媒介者ーー君に触れるたびに折角収集したエネルギーが吸い取られていく。
それに、気付いているだろう? アレが触れるたびに君の体が衰弱していっている事に。
この場所に到達できたのも、アレと長時間触れて死に限りなく近い状況になっているからだ」

勇者「……」

聖剣「アレに極力触れるな。私の為であり、君の為だ。
君とは良好な関係を保っていたいと考えているからな」

勇者「……そうか」

聖剣「そろそろ時間だ。これからもどんどん私を振るうと良い」

勇者「……」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー陸の国・聖神教修道院ーーーー


陸修道士「あぎゃ、がぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!」ミチミチ

ブヂュブヂュ

ミュヂミュヂ

陸修道女「ぎひっ!? あああああああっ!! ひぎいいいいい!!」

バリバリッ


狼「……何をしてやがる?」

骸「よお、人狼。見ての通り、人間を魔蟲の苗床にしてんだよ
人間は便利だね。こいつらの生き餌にもなる」

狼「何が目的だ?」

骸「そりゃ、小型の魔蟲なんて人間を洗脳して傀儡にするくらいしか用途が無いだろ」

狼「それは親分がご法度にしていた事だろうが」ギロッ

骸「俺に言われても困るっての。側近に言え、側近に」

狼「あの野郎……」

骸「大体さぁ、魔王様の事は尊敬してたけど博愛主義過ぎるのはどうかと俺は思ってたんだよね。
人間なんて下等存在だろ。そんな奴らに北方の辺境地まで追いやられてさ。
挙げ句の果てには『私たちからは侵攻しません』だぜ」

狼「北方にまで押し込められたのは先代の時分じゃねえか。
確かに人間がデカいツラして憚ってんのは気に入らねえが」

骸「だろ? 魔王様も亡くなったし、そろそろ人間を根絶やしにしても良いと思うんだよね」

狼「……殺し合いからは何も生まれないだろ」

骸「ああ、魔王様がよく言ってたね。でも生まれるだろ。
利益が。誇りが。共同体の堅固な結び付きが」

狼「……気に入らねえ。てめえも側近もな。親分を蔑ろにし過ぎだ」

骸「俺は尊敬こそすれど、魔王様が正しいとは思ってなかったけどな。
でも側近に関しては別だろ。あいつの魔王様への心酔ぶりはよく知ってるだろ」

狼「……ああ。だが親分が死んでも、あの野郎は堪えてないみてえだった」

骸「悲しんでる暇が有ったら民の為に尽くした方が供養になると考えてるんだろ」

狼「……」

骸「そもそもお前に側近を非難する資格はないだろ」

狼「あ?」

骸「お前が根無し草みたいに放浪してる間も、側近は気が狂っちまった魔王様にずっと仕えてたんだぞ。
時には魔王様の手で重傷を負いながらも、魔王様の最期まで傍にいた。
そんな側近が行う政に、お前が魔王様の名を出して干渉する権利なんてないだろ」

狼「……そうかもしれねえ。だが、身内である娘っ子を敵視する奴を簡単には信用できねえだろ」

骸「あー、確かにな。あいつ『魔物以外は憎い敵』ってスタンスだからな。
まあ、黒は行方不明だし今は良いんじゃね。
無事に見つかったら、もっと厚遇するように説得すれば解決だろ」

狼「そういう問題じゃねえだろ」

骸「んー、まあ今は置いておこうぜ。
ところで狼は何で陸の国に来たんだよ?」

狼「反乱する人間をぶっ殺せと、側近に言われたんだよ。
おめえ一人でも良い気がするけどな」

骸「あー、はいはい。まあ、俺は魔蟲の繁殖の他にも仕事が有るし、俺じゃ人間を皆殺ししかできないからな。
農業を営む為の労働力が必要なんだろうよ。
そもそも何の為に陸の国まで南下したか分かるか?」

狼「そりゃ、人間を滅ぼすなら近場からと考えたからじゃねえのか?」

骸「そりゃそうだけどさ。一番は資源だぜ。
終の国の痩せっぽちな土地に絶望して流出した奴がたくさんいるからな。取り敢えずは冬に備えて食糧や比較的温暖な土地を獲得しようって算段だ」

狼「なるほどな。ところで、戦闘は何処で起きていやがるんだ?」

骸「隣街だ。陸王朝は魔蟲で形骸化したけど、国民まで制御できたわけじゃ無いからな。お前は魔剣を手中に収めたらしいし、軽く頼むわ」

狼「そんじゃ、ちょいとお勤めを果たしてくるぜ」スタスタ

骸「いってらー」


ぎゃああああっ!!

ぎいいいぃぃぃぃいいいいっ!!


ガチャ


あるじぃぃぃいいいっ!

いだいっ……いだいよおっ……!!


バタンッ


………………


スタスタ

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ゾロゾロ

陸民兵長「っ!?魔物がいたぞ! 構えろ!」

ガチャガチャガチャガチャ

狼「お控えなすって。あっしは四天王の人狼と言いやす。
悪りぃがそのお命、頂戴いたしやす」

パァンッ

陸民兵長「う、撃てぇっ!」

パアンッ、パアンッ

狼「ーー遅い」ヒュッ

陸民兵たち「ーーーー」クラ

ドサッ

狼「だいぶ、魔剣の力が馴染んできたな」

狼「……げほっ」

びちゃっ

狼「……ちっ」

狼「……まあ、いつ死んでも構わねえか」

狼「どうせ、独り死に往く一匹狼だ」


スタスタ

書き溜めもう少し有るけど眠気が限界。
明日の早朝か午後に投下します。

ーーーー初の国と参の国の国境線付近ーーーー


ガラガラ

龍「なあ、勇者」

勇者「どうした?」ガラガラ

龍「私が台車引きを代わっても良いぞ。そろそろ疲れただろう」

勇者「いや、大丈夫だ」

黒「ムチャしちゃダメだよ」

勇者「分かっている」

ガラガラ




参少女「あの、勇者さま」

勇者「花を摘みたいのか?」

参少女「……? 今はどこに向かってるんですか?」

勇者「君には言っていなかったか?」

参少女「あ、はい」

勇者「初の国に戻って、三人を師匠に預ける。その後に肆の国に向かう。
肆の国が初の国に侵攻した為に戦争が勃発した。それを終わらせにいく」

龍「出発前にも言ったぞ。私はお前についていく」

黒「わたしも」

勇者「……しょうがない」

参少女「じゃ、じゃあ、わたしも」

勇者「それは駄目。君には危険過ぎる。吾人が必ず護りきれる保証もない」

参少女「で、でも、わたしだけ……」

勇者「できれば誰も連れて行きたくない。この二人は話を聞かないから諦めただけ」

龍「勇者のそばに居たいからな」

黒「わたしは手風琴を返したい。あの人は肆の国にいるらしいから」

勇者「吾人が返す」

黒「ダメ。わたしが返すの」

勇者「強情だな」

黒「うん。それに、この手風琴もヘタクソなわたしよりあの人に弾いてほしいだろうから」

龍「お前の演奏も中々のものだぞ」

参少女「わたしもそう思います。知らない言葉だけど、胸がキュウッてなって、涙が出そうになります」

黒「ありがとう」ニコ

ガラガラ




ガラガラ

龍「なあ、勇者」

勇者「今度はどうした?」

龍「魔物と人間は和解できるだろうか?」

勇者「難しい。多くの国で聖神教が信仰されている。肆の国では帰依神教。
両宗教とも魔物は神の敵であるというのが基本的な教え。
対立の歴史も相当なまでに長いし、敵意も非常に強い」

龍「……そうか。魔物側でも人間を憎んでる者は多い。和解は難しいか」

勇者「そもそも和解を押し付けるのは良くない。
当人たちの大多数が望んで初めて為されるものでなければならない」

龍「……ならば憎しみ、争うことしかできないのか」

勇者「別に争わなければ良い。住み分けをして、お互いに武力ではなく議論で戦うようになれば平和には近づく」

龍「なるほどな。そこからゆっくり改善させていけば、いつかは和解も可能になるのかもしれない」

勇者「そうだな」

ガラガラ

ガタンッ

参少女「きゃっ!?」

勇者「ごめん。大丈夫か?」

参少女「だ、大丈夫です」

勇者「石に気付かなかったか」

黒「すっかり暗くなっちゃったしね」

勇者「水場のある場所を見つけたら今日は休もう」

参少女「はいっ」





パチッパチッ

黒「おいしくない」モキュモキュ

龍「燻製なんてこんなものだろう」モグモグ

参少女「勇者さまはいつもパンとお水だけですけど、大丈夫なんですか?」チビチビ

勇者「最低限の食事だけで充分。そもそも食べなくても問題はない」

龍「……本当に人間なのか?」

勇者「……どうだろう。ところで。体を洗う?」

黒「わたしは良い。自動で浄化されるから」モキュモキュ

参少女「あの……わたしは……入りたい、です……」モジモジ

勇者「そうか。龍、後で付き添ってあげて」

龍「分かった」




パチッパチッ

黒「……ねえ」

勇者「どうした?」

黒「さいきん、ヘンタイなところが減ってない?」

勇者「美幼女が増えると、その希少性が減る。
人間は手に入りにくいものほど欲するし、獲得しようと必死になる」

黒「つまり?」

勇者「積極的になる必要がなくなった」

黒「ふうん」

勇者「それでも美幼女は相変わらず大好きだ。可愛くない幼女なんて極少だけれど」

黒「そう。あと、どうしていつも淡白なの?」

勇者「淡白か?」

黒「いつも無表情だから。それでヘンタイなこと言われると身の危険を感じる」

勇者「そうか。……無表情なのは感情が湧かないから。降り落ちた剣と出会った時から徐々にそうなった。
師匠はホルモン分泌に異常が起きたからと推論していたけれど詳しい事は分かっていない」

黒「ホルモン」

勇者「知っているのか?」

黒「知識として存在してる。あたまの中ではべつの言葉だけど」

勇者「そうか。黒は謎の塊だな」

黒「……わたしも自分がよく分からない」

勇者「……そうか」

黒「だから、勇者のことを知りたい」

勇者「……面白い話はない」

黒「べつにいい」

勇者「……そのうち話す。あまり楽しい話にはならないから」

黒「……うん」

勇者「テントを張るか」






勇者「狭いか?」

龍「いや、広過ぎるくらいだ。少し大き過ぎたんじゃないのか?」

勇者「大は小を兼ねるから」

龍「なるほどな。それで、勇者は私の隣で寝るだろう?」

参少女「あ、わたしのとなりですよっ!」

黒「眠い……」ウトウト

勇者「吾人は外で見廻りをしているから」

龍「寝ないつもりか?」

勇者「そうだ」

参少女「体こわしちゃいますよ……」

勇者「大丈夫だ。一ヶ月は寝なくても問題ない」

黒「すう……」

龍「ならば、私も一緒に起きてよう」

勇者「それは駄目だ。さっさと寝るべきだ」

龍「む……。じゃあ頭を撫でてくれ」

勇者「分かった」ナデナデ

龍「ん……」

参少女「わ、わたしも……」

勇者「よしよし」ナデナデ

参少女「ふあ……」

黒「……」スヤスヤ

おしまいです。
完全台本は初めてなので拙いのは許して。

まだ書き溜め段階なのです。
しかし、私の足りない頭では二作品並行で書くなんて不可能でした。

ーーーー初の国・王都郊外の山林ーーーー


ガラガラ

キイッ

勇者「着いた」

黒「ここ?」

参少女「大きいお家ですね。でも……」

ボロッ…

龍「……その、あれだな。風情があるな」

勇者「拾って貰った時からボロかった。取り敢えず入ろう」スタスタ

龍「私の配慮を無碍にしないで欲しいな」

ガチャッ

初少年「……帰って来た」

勇者「おはよう」

初少年「おはようじゃないよ! 初王に喚び出されたと思ったら、帰ってこなくなるし!?
外じゃ魔王征伐に駆り出されたって噂が広がってるし! 心配してたんだよ!」

勇者「ごめん」

初少年「もう! ……その女の子たちは?」

勇者「色々有って一緒に行動している。師匠は?」

初少年「師匠ならまだ寝てるよ。昨日は一晩中、アンモニア生産装置の改良をしてたみたい」

勇者「そうか。結局、間に合わなかったな」

初少年「うん……。師匠も今更発表するつもり無いみたい。
それで、魔王を倒してきたの?」

勇者「まだだ。それよりも先に肆の国に向かう」

初少年「……そう。やっぱり、お兄ちゃんは……」

勇者「……この娘の面倒を頼む。師匠によろしく伝えておいてくれ」

参少女「え……」

初少年「わ、かわい……じゃなくてっ! もう行っちゃうの!?」

勇者「既に初軍と肆軍が国境線上で交戦しているから。それじゃ」




初少年「行っちゃった……」チラッ

参少女「えっと……」オドオド

初少年「こ、こんにちは」

参少女「あっ、こ、こんにちはっ」

初少年「その、よく事情が分からないから教えてもらえる?」

参少女「は、はいっ」





初少年「こ、ここに住むんだ。緊張しちゃうな」

参少女「その、師匠さんという人に断られたりしませんか?」

初少年「んー、大丈夫じゃないかな。師匠は気難しいけど、何だかんだで優しいから」

参少女「そうなんですか」

初少年「そんな丁寧に喋らなくてもいいよ。年も近いだろうし」

参少女「そ、そう?」

初少年「うん。一緒に暮らすんだったら尚更ね」

参少女「う、うん」

初少年「それじゃ、家の中を案内するからついてきてね」

参少女「あ、うんっ」





カチッ

パアッ

参少女「わわっ、光が!?」

初少年「これは電球だよ。電気を線条に流して発光させるんだ」

参少女「でんき……?」

初少年「えーと、雷の弱いものだよ」

参少女「雷!? ?こわい……」

初少年「これは大丈夫だよ。それで、ここがキッチンね。
君にも料理を作ってもらうことになると思うから」

参少女「わたし、お料理できないよ……」

初少年「僕が教えるから大丈夫だよ。僕も最初は全然できなかったけど、お兄ちゃんの指導で得意になったんだ」

参少女「勇者さまはお料理もできるんだ。かっこいいなぁ」

初少年「あー、うん。お兄ちゃんは確かにかっこいいよね。優しいし。あはは。……はあ」





初少年「まあ、大体の説明は終わったかな」

参少女「はじめて見るものがいっぱい有ってびっくりしちゃった」

初少年「師匠の発明品だよ。師匠は凄い人で、色々な発明や発見をしたんだ。
数十年前に荒稼ぎしたらしくて、今ではひっそりと暮らしながら色んな研究をしてるけど。
一旦研究に没頭すると周りのものが見えなくなるらしくて、ご飯も食べなくなったりするんだよ」

参少女「不思議な人だね」

初少年「そうなんだよね。昨日も夜明け近くまで、納屋にあるアンモニア生産装置をいじってたみたい」

参少女「あんもにあ……?」

初少年「簡単に言うと毒なんだけど、とても重要なものなんだ」

ガチャッ

師匠「……」ボンヤリ

初少年「おはようございます」

参少女「お、おはようございますっ」

師匠「あん? 何処から連れてきたんじゃこの童女は?」

初少年「お兄ちゃんが預かって欲しいって言ってました」

師匠「阿呆が帰ってきたのか?」

初少年「はい。すぐに肆の国に行っちゃいましたけど」

師匠「……まったく、うつけもんが。
……どうせ、身寄りがないんじゃろ?」

参少女「あ、は、はい」

師匠「どもるな。質問にははっきりとした口調で答えんか。
まったく、阿呆の奴め。此処は孤児院じゃないんじゃぞ」

参少女「……」

師匠「此処に住まわせてやるが、家事炊事雑用はこなしてもらうぞ」

参少女「は、はい」

師匠「どもるなと言ったじゃろう。まったく」

参少女「はいっ」

師匠「うむ。小僧、メシ」

初少年「もう作ってありますよ。今、持ってきます」





参少女「なんだかこわい人だね」

初少年「んー、まあ、二人きりで過ごすのは結構しんどいかな。
でも粗野だけど良い人だよ」

参少女「そうなんだ……」




ーーーー初の国・師匠宅・納屋ーーーー


師匠「現時点、800℃が一番アンモニアの生産効率が高いようじゃ」

初少年「なるほど」

師匠「つっても、もう躍起になって改良する必要は無くなちまったけどな。肆の国との戦争が始まっちまったし。
アンモニア生産装置も硝酸生産装置も今じゃ戦争激化の種になるだけじゃ」

参少女「あの、そのアンモニアというものが有るとどうなるんですか?」

師匠「空気には窒素ってもんが多分に含まれてる。
この窒素ってやつは生物にとって必要なもんなんじゃが、空気から取り込むことができなくてな。
他の生き物を食って得るしかないんじゃ。
植物ーー小麦なんかも空気中の窒素を取り込むことができないから、土の中の窒素化合物から窒素を摂取するんじゃ。
ここまで理解できるか?」

参少女「えーと、たぶん……」

師匠「濁すな。はっきりと言え」

参少女「わかりましたっ」

師匠「うむ。それでワシは空気中の窒素から窒素化合物ーーアンモニアや硝酸を生成しようと考えたのじゃ。
窒素化合物ができれば土地は肥沃になり、農耕地は飛躍的に増え、食糧の生産を爆発的に増やせる。
また、硝酸は火薬の原料にもなり、戦争でも重要なんじゃ」

参少女「すごいですね」

師匠「うむ。それで、今回の戦争なんじゃが。
初の国は軍事に重点を置いていることは知っているか?」

参少女「知りませんでした」

師匠「なら、憶えておけ。肆の国は、周辺諸国で唯一、硝石が大量に採掘できるんじゃ」

初少年「その硝石というのを蒸し焼きにするとアンモニアができるんだ」

参少女「そうなんだ」

師匠「以前から初の国と不仲では有ったが硝石の貿易はおこなわれていた。
しかし、最近即位したばかりの肆王は極度の初の国嫌いでな。
硝石の輸出を禁止にしたんじゃ。怒った初王は様々な理由をかこつけて肆の国をあらゆる面で包囲しちまった」

初少年「国境付近に軍を配置するところまでやっちゃいましたしね」

師匠「そして見事に戦争は勃発。肆軍が国境付近に駐在していた初軍に攻めかかったという知らせが広がったのは昨日の夜更けか」

初少年「戦争を防ぐ為に準備してたこの装置たちはもうその意義を果たせなくなったんだ」

参少女「ど、どうしてですか?」

師匠「だから、どもるな。……一旦戦争が始まったら遅いんじゃ。
ワシが考案したこの装置はパンと火薬を生み出して、戦争を長期化かつ非道なものにするだけじゃろうよ」

参少女「……でも勇者さまが戦争を止めにいきました。
きっと無事に戦争を終わらせてくれるはずです」

初少年「……」

師匠「そりゃ、あの阿保はバケモンになっちまったからな。
初の国の勝利で戦争を終わらせるだろうよ。虐殺の果てにな」

参少女「勇者さまはそんなことしません!」

初少年「……僕は、お兄ちゃんに人間で有って欲しい。
……例え、それが人を殺すことでも」

参少女「なに言ってるのっ!」

師匠「童女はあの阿保の事を何も知らねえからな」

参少女「……どういうことですか」

師匠「せっかくだから聞かせてやるよ。あの阿保の身の上話を」

ーーーー初の国と肆の国の国境付近・戦場・最前線ーーーー


ドッ

肆兵士「っ……」

ドサッ

勇者「これで、この戦線は制圧したか」

龍「勇者!」タッタッ

黒「……」トコトコ

龍「……短時間で全員を戦闘不能にしたのか」

黒「途中でおいていかないで。手風琴を背負いながら走るのはタイヘンなんだから」

勇者「安全地帯で待っていろと言ったはずだ」

龍「心配だったからな。黒も楽器を返したいと言って聞かないし」

勇者「……あまり見せたくなかった」

龍「この兵士たちの死体か?」

黒「……ひどいね」

勇者「……違う。今からの行ないだ」

ズルッ

龍「……? 別にお前が殺したわけではないだろう」

勇者「“今”転がっている死体は、そうだ」?スッ

龍「……その掲げた剣は、距離に関係なく対象を斬れるようだな」

勇者「そうだ。距離は関係ない。数も関係ない。振る力さえ関係ない。
ただ振るだけで、“斬る”と意識した対象を斬れる」

黒「……なにを斬るつもりなの?」

勇者「此処にいる肆軍の兵士たちだ。そして肆の国民全員だ」

龍「……どうして殺すんだ」

勇者「……復讐だ」

龍「……復讐?」

勇者「父を、母を、多くの友を肆の兵士たちに殺された。
……目の前で、義妹を殺された。飛び散った脳漿をーー義妹自身を全身に浴びた」

黒「……冗談じゃなかったんだ」

勇者「一人だけ生き残ったのは大切な者たちの、義妹の恨みを晴らす為に違いない。
バケモノの力を手に入れたのは偶然ではなく、この手で復讐を果たす為に違いない」

龍「……初めてお前の表情を見た。しかし、そんな哀しい顔は見たくなかった」

勇者「……そうか」

黒「あなたは優しいからそんな事できないよ……」

勇者「多くの人間を殺してきた。害になっていない魔物も殺した。
今更、殺す事を躊躇うほど、この手は綺麗じゃない」

龍「……私だって人間を殺したし、謀反を起こした魔物を殺した事だって有る。
でも、復讐なんかの為に人を殺さないでくれ。ましてやお前にそんな事をして欲しくない」

勇者「勝手な事をのたまうな」


ギュッ

黒「あなたは、優しい人だよ」

勇者「……離れろ! 優しさは感情じゃなく意思によるものだ!
この憎しみは数少ない大切な感情なんだよ!」


ギュッ

龍「優しさだって、感情に決まってるだろう」

勇者「違う! 違うんだよ! そもそも優しくなんてない!
この憎しみを失ったら、人間じゃ居られなくなるんだ!」

龍「人間である必要なんて無い」

勇者「……は」

龍「憎しむ人間より、優しいバケモノであって欲しい。
私は優しいお前が好きなんだ」

勇者「ふざけるな……!」

黒「……ねえ。あの人の唄をきいた時、あなたはお金をわたした。
それはどうして?」

勇者「……それ、は」

黒「あの人の奏でる音に、声に、唄に感動したからでしょ?
あなたには唄に感動できる心があるんだよ。それが憎いと思ってる人の唄でも」

勇者「ちが、う……。自分は……」

黒「あなたは、どこまでも“優しい人”だよ」

勇者「っ……」

黒「そしてわたしは、そんなあなたが好きだよ」

勇者「…………」

勇者「……くそっ」


ズブッ


勇者「……両兵士を無力化する為に全員を軍服で縛る。
二人は出来る限り兵器を壊してくれ」

龍「……ああ! 任せろ!」

黒「がんばる」

勇者「急がないと目を覚まされてしまう。迅速に頼む」ギュッギュッギュッ

龍「ああ。……勇者」

勇者「どうした」

龍「私はお前が大好きだからな」

勇者「……そうか」

黒「……わたしも」

勇者「……そうか」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

なんかバッドエンドしか浮かばない。

ーーーー肆の国・王城ーーーー


勇者「兵は全て無力化した。降伏しろ」

黒「ーーーー。ーー」

肆王「……ーー」

龍「バケモノ、だそうだ」

勇者「そうか。講和会議はその内取り決められるはず。
その間に、もう一度戦争を仕掛けようとしたら、次は貴方を含め、肆の民を皆殺しにする」

黒「ーーーーーーー。ーーーーーーーーーーーー」

肆王「……ーー」

龍「承諾したぞ」

勇者「そうか。それじゃ」

ーーーー肆の国・王城・回廊ーーーー


黒「手風琴をかえすにも、当てがない」ムー

龍「訊き込むしかないんじゃないか?」

黒「うん。じゃあ、まずはあの人から」トテトテ

肆将軍「……」

黒『人をさがしてるの』

肆将軍『……バケモノ娘か。貴様等のせいで肆の国はお終いだ。
……いや、どちらにしろ敗ける戦いだったか。戦争を避ける以外に勝利はなかったのだ……』

黒『…………。この手風琴の持ち主をさがしてるんだけど」

肆将軍『知るわけないだろう』

勇者「何と言っている?」

龍「知らないそうだ」

勇者「そうか。黒は何と訊いた?」

龍「ん、この手風琴の持ち主を知らないか、と訊いていた」

勇者「そうか。黒、つい最近に戦争に反対していた若い男はいなかったか訊いてみると良い。
状況を見るに、彼は反戦を訴える為に肆の国に戻ったように思える」

黒「ん、分かった」

黒『つい最近、戦争に反対していた男の人はいなかった?
若い人なんだけど』

肆将軍『……背丈や顔の特徴を言ってみろ』

黒『えっと、ーーーー』




肆将軍『なるほどな。その男なら二日前に王城まで押し掛けて開戦反対を訴えていた』

黒『ほんと? 今はどこにいるの?』

肆将軍『……一応は、城の地下だ』

龍「城の地下にいるらしい」

勇者「……そうか。黒、帰ろう」

黒「どうして? 会いに行こうよ。それで、なにか唄ってもらおう」

勇者「……帰ろう」

黒「イヤ」

勇者「……」

龍「……勇者の言葉を聞き入れた方が良いだろう」

黒「……龍までどうしたの?」

黒『ねえ、案内してくれる?』

肆将軍『……』チラッ

龍「勇者……」

勇者「分かった。吾人もついていく」

ーーーー肆の国・王城・地下拷問室ーーーー


肆歌手「ーーーー」

黒「……」ペタン

勇者「拷問によるショック死か。罪状は不敬罪だろう」

肆将軍『屍体は騒乱のせいでまだ片していない。もう暫くしたら腐臭が増すだろうから迅速に処理したいところだ』

龍「黒に楽器を託したのも、死を想定してだろうな」

黒「……こんなのおかしいよ」

勇者「帰ろう。美味しい物を食べて風呂に入って寝ると良い」

龍「そうだな。黒、行こう」

黒「……」

スクッ

黒「この人が作った唄をうたう」

勇者「……そうか」

龍「彼にとって最高の手向けのはずだ。気の済むまで歌うと良い」

肆将軍『楽器を弾くのか? 安らかに音楽に耳を傾けられる心持ちではないんだがな』

龍『静かに訊いてろ』

肆将軍「……」

ーー♪

ーー♪

勇者「……」

黒『傷ついた少年はその目を閉じた ? ?小さく哀しみを呟く』

ーー♪

黒『銃声はまだ続いている ? ?悲鳴も鳴り止まない』

ーー♪

黒『願わくは魂に安寧を与えよ ? 肉体に愛を授けよ』

ーー♪

黒『唄よ遠き神まで届け』

黒『唄よ全ての人へと伝われ』

ーー♪

ーー♪

龍「……」

黒『新品の大砲はまた人を殺す ? ?硝煙はもう見たくない』

ーー♪

黒『淡い幸せを望む少女 ? ?涙は止まらない』

ーー♪

黒『願わくは人間に安らぎをもたらせ ? ?全員に慈悲の心を』

ーー♪

黒『唄よ遠き神まで届け』

黒『唄よ全ての人へと伝われ』

ーー♪

ーー♪

肆将軍「……」




肆将軍『……その唄はお前が作ったのか?』

黒『ちがう。あの人』

肆将軍『……そうか。……その楽器は彼の物と言っていたな』

黒『……うん。かえそうと思ってた』

肆将軍『私に預けなさい。責任をもって彼の家族を探し出して渡そう。
唄を聴かせてくれたせめてもの礼だ」

黒『……うん』

スッ

肆将軍『……彼の亡骸は手厚く葬ろう。それで私たちが赦される訳では無いが』

黒『……うん』



肆歌手「ーーーー」


黒『さようなら』


黒『ありがとう』

ーーーー初の国と肆の国の国境付近ーーーー


龍「私は終の国に帰る」

黒「え……?」

龍「勇者のように、もう誰かに憎しみを背負わせたくない。
少しでも早く憎しみを無くし、平和に近づくように尽力したいんだ」

勇者「……」

黒「……そう」

龍「黒はどうする? 私と共に戻るか? 魔姫はお前を待っているだろうが」

ズキッ

黒「っ……」

龍「……どうした?」

黒「なんでもない。頭がいたくなっただけ」

龍「……」

黒「わたしは、勇者といる」

龍「……そうか。それじゃあな」

勇者「それじゃ」

黒「ばいばい」

龍「また会おう」

ーーーー初の国・王城ーーーー


初王「おい、勇者」

勇者「何?」

初王「お前、ふざけてるのか?」

勇者「何の話?」

初王「参王を見殺しにしたんだろ? あのデブは扱いやすくて便利だったってのに」

勇者「そんなことはない。吾人にだって出来ない事は有る」

初王「それと、何故肆王を殺さなかった? 渡したメモには暗殺しておけと書いておいたはずだったが」

勇者「見落としてた。おっちょこちょいだから」

初王「……」スラッ

スタスタ

勇者「吾人を斬ろうとしても怪我をするだけだ」

ヒュンッ

初近衛兵「ーーーー」プシャッ

勇者「……何を血迷った?」

初王「あまりに腹が立ったからな。代わりにこいつを殺した」

勇者「……愚かだ」

初王「次に苛立った時は姫を殺すか。参王がいない今となっては価値は薄いからな」

勇者「……」

初王「困るよな? 姫が欲しいんだろ?」

勇者「……」

初王「そんなに、義妹に似てるのか?」

ピクッ

勇者「……」ジロッ

初王「お前が初めて姫と会った時に、お前の呟きを聞いた奴がいた。女の名前らしき呟きをな。
お前の身の上は聞いていたから、カマをかけてみたが、その反応だと的中らしいな」ニヤ

勇者「……」

初王「姫はお前の義妹じゃないぞ」

勇者「知っている」

初王「それでも欲しいか? 歪んでるな」

勇者「……」

初王「伍の国に行け。やることはメモに書いてあるだろ。
ちゃんと魔王も倒してこいよ」

勇者「……」

初王「姫が欲しいならな」

勇者「……」

スタスタ

ーーーー初の国・師匠宅ーーーー


師匠「ふぎぎぎ、このクソガキ……!てをはなせ……!」グググッ

黒「そっちこそ……」グググッ

初少年「師匠! 流石に大人げないですよ!」

参少女「黒ちゃんもおちついて……!」アタフタ

ガチャッ

勇者「……何が有った?」

初少年「お兄ちゃん、二人を止めて!」





勇者「些細な言い合いからの喧嘩か」

師匠「……」ガルル

黒「……」シャーッ

初少年「師匠は子ども過ぎて困るよ……」

師匠「うるさいぞ小僧!」

初少年「どっちが小僧ですか」ハア

勇者「短時間で随分と仲良くなった」

参少女「これは仲が良いんでしょうか……?」

勇者「師匠」

師匠「あん?」

勇者「伍の国に行ってくる。黒の面倒も頼みたい」

師匠「だから此処は孤児院じゃねえんじゃって」

黒「わたしもついてく」

勇者「今度は本当に駄目だ」

初少年「伍の国って、激しい紛争が起きてるよね……?」

師匠「自由を夢見る若者と政府の戦いじゃな。
尤も、反政府の武装集団は当初の目的を失って形骸化しとるがな。
今じゃ極悪非道の犯罪集団じゃ」

黒「絶対についてく」

勇者「今度は駄目だ」

黒「……ついてく」ウルッ

勇者「……駄目だ」

黒「……」ウルウル

勇者「……分かった。泣かないでくれ」

黒「……!」パアッ

師匠「けっ、二人とも野垂れ死にしちまえ」

黒「……むっ」

グググッ

師匠「いだだだっ! ゆるさんっ……!」

参少女「はわわ……」

初少年「やめなって……」





勇者「車輪が変わってるな」

初少年「師匠が変えてたよ。黒いのはゴムだって。
木の車輪よりも長持ちで快適になるんだってよ」

参少女「やっぱり師匠さんは優しい人ですね」

勇者「師匠、有り難う」

師匠「……けっ、さっさと行け。この阿呆め」プイッ

黒「……」ジー

師匠「あん?」

黒「……」ベー

師匠「このクソガキ!」ウガー

参少女「……たしかに仲がいいのかも?」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ーーーー陸の国・王城・地下ーーーー

カツカツ

側近「気分はどうですか?」

龍「……最悪だな」

側近「魔姫様のご生命がお大事ならそのまま静かに投獄されていてください。もしくは考えを改めてください」

龍「断る。……貴様は屑だな」

側近「そうですか。……しかし誰に感化されて人間と友好関係を築こうなどと考えるようになったのですか?
人間の幼体の姿までして」

龍「勇者だ」

側近「……ああ、あの名高い彼ですか。生前の陛下が熱に浮かされたように呟いてましたね」

龍「大体、お前だって人間の姿をしているだろう」

側近「私は人間への憎悪を常に忘れないように、この姿をしているのです。
勇者もその対象なので始末しますが」

龍「お前では勝てないさ。私でも全く敵わないんだ」

側近「それは凄まじいですね。まあ、戦うのは私では無いんですけどね」

龍「誰でも同じだ。魔王が生きていたら分からなかったがな」

側近「人狼が魔剣を手中に収めました。今の強さは陛下と遜色ありません」

龍「……なんだと」

側近「おそらく寿命は著しく減っているでしょうけどね。
彼は気にしないでしょうが」

龍「……」

側近「龍。私は全ての魔物に、豊かに、そして誇り高く生きて欲しいのです。
穀物もロクに育たない不毛の土地で飢えと寒さに苦しむ民の姿はもう見たくありません。
亡命した者たちが人間共に殺されるのも見たくありません」

龍「……だからといって、魔蟲を大量に繁殖させて人間を襲わせると?
魔蟲の歴史を忘れたのか? 世界の半分を蹂躙して、魔物さえも食い殺した歴史を。
駆逐したのは私とお前だろう」

側近「ええ。しかし色々と交雑を繰り返しましてね。人肉を極度に好み、調教が容易な種を作り出しました。
魔物への被害は殆ど出ないでしょう」

龍「……魔王は人間を虐殺する事なんて望んでいなかったはずだ。
あれほど魔王に忠誠を誓っていたお前がそれをするのか?」

側近「……誰かがやらなくてはいけないんですよ。
憎まれても、恨まれても為さなければいけないんです」

龍「……お前は、悲しい奴だ」

側近「お好きに言ってください。……次に会う時、世界の覇権は我々が握っているはずです。期待していてください」

カツカツ

龍「……勇者」

せめてビターエンドにしたいところです。

ーーーー伍の国・中央街ーーーー


伍衛兵「……」ザッザッ



黒「ものものしいね……」

勇者「それだけ危険に溢れている国だから。この辺りでは最貧国だけあって治安は最も悪い」

黒「そうなんだ」

勇者「絶対に吾人から離れるな」

黒「だったら」

ギュッ

黒「手をつなげば良いよね」ニコ

勇者「っ……」

黒「……どうかした?」

勇者「褐色美幼女のぷにぷにの手。ふひひ」

パッ

黒「……きもちわるい」ジトー

勇者「ぐすん」

ーーーー伍の国・王城ーーーー


伍宰相「勇者殿、此度はわざわざご足労いただき恐悦至極に存じます。
かねがねより頼み申していた賊軍の殲滅をお引き受けなさっていただけるとは真に嬉しゅうございます」

勇者「堅苦しい挨拶は要らない。伍王は?」

伍宰相「アレは賊軍に腰を抜かして、腹心の部下を見捨てて他国に亡命しております。建国以来の愚王と称される恥晒しですから」

勇者「……そうか。それで。反政府軍の情報は有る?」

伍宰相「勿論でございます。こちらです」トサッ

勇者「貰って良い?」

伍宰相「勿論ですとも。……それでは、食堂においでください。勇者殿をお持て成しする仕度が整っております」

勇者「……連れを待たせているから無理だ。
それに一刻を早く伍の国に安寧をもたらしたい」

伍宰相「……左様でございますか。いや、有り難きお言葉でございます」

勇者「そうか。それじゃ」




黒「そういえば、あなたはどうして眼帯をしているの?」

伍歩兵「貪欲な畜生に潰されちまったんだ。でも結構渋いだろ」

黒「うん」

伍歩兵「そういや、軍規に“勝手に髭を剃るな”と有るんだけどよ、俺って髭無い方が色男だよな。
いや、眼帯に顎髭も中々様になってるか」

黒「そうかも」

伍歩兵「因みに勝手に剃ると体罰を受けるんだぜ」

黒「ヘンなの」

伍歩兵「ぬはは、俺以外の兵士の前で言っちゃ駄目だぜ」

黒「分かった。……あ、勇者」

伍歩兵「おっと。これはどうも」

勇者「どうも。面倒を見てくれて助かった。有り難う」

伍歩兵「おっと。これはどうも」

勇者「どうも。面倒を見てくれて助かった。有り難う」

伍歩兵「なんの、なんの。下っ端なんざ犬のケツ穴嘗めた方がマシな仕事ばっかりでしてね。
可愛いお嬢ちゃんと喋るお仕事なんて金払ってでも就きたいぐらいですわ。ぬはは」

勇者「他の歩兵は出払っているみたいだけれど」

伍歩兵「俺は勇者様の警護を命じられましたんで。まあ、宿泊場所への案内役ですけどね。
本来はもっと警護に人員を回したいらしいんですが、財政がヤバくて人手不足ですわ」

勇者「警護は不要だ。用意された場所に止まるつもりも無い」

伍歩兵「そう言わないでくださいよ。俺だって仕事なんですから」

勇者「とにかく必要無い。別の任に当たって」

伍歩兵「まじで困るんですって。できる限り勇者様の行動を把握しろって任務も与えられてるんですよ」

黒「勇者」

勇者「……同行するのは別に構わない。だが宿泊場所は自分で決める」

伍歩兵「んー、まあ、分かりました」

ーーーー伍の国・二番街ーーーー

伍中年「……」ポケー


黒「……なんだか、生気が抜けてるような人がそこら中にいるね」

勇者「麻薬常習者だろう。死と隣り合わせの暮らしに絶望して麻薬に手を出すのかもしれない」

伍歩兵「餓死した屍もちらほら有りますねえ。嫌な時代だ」

黒「……こんなのひどいよ」

勇者「そういう国だから。生命の重さはまったく平等じゃない」

伍歩兵「そら、生物なんだから当たり前っちゃ当たり前ですわな。だが、この現状は政府の失策続きでの財政難と阿呆な浪費と執拗な搾取によるものだから、なんとも言えねえですわ」

勇者「……軍人がそのような言葉を口にするのは軽率だ」

伍歩兵「事実を口にする事さえ恐れていたら人殺しなんで到底出来ないですわ」

黒「……じゃあ、セイフと戦う人たちは正しいの?」

勇者「当初はそうだったのかもしれないが、今は違う」

伍歩兵「あいつらの暴れ振りは洒落にならないですからねえ」

勇者「麻薬を生産して密輸しているのは反政府の勢力。麻薬と奴隷貿易の利益を活動の資金に当てているらしい。厳密には上層部の私腹の肥やしか」

伍歩兵「しかも、各地の村々を巡って虐殺に及んでる。
徴発された少年は、殺された両親や好きだった女の子が強姦されるのを見て何を思うんだか」

勇者「麻薬漬けにされてすぐに忘れるだろう。良心など殺し合いには不要なのだから」

伍歩兵「ぬはは、違いないです」

黒「そんなのおかしいよ……」

伍歩兵「それがこの国の現在のスタンダードなんだぜ」

勇者「だから連れて来たく無かった。衛生も最悪、治安も最悪。死体や汚物、人殺しに麻薬が溢れる国だから」

伍歩兵「ぬはは、昔は良い国だったらしいですけどね。前王、前々王が無能だったのが駄目になっちまった原因のようですわ」

勇者「現王は?」

伍歩兵「どっかに身を潜めてるようですねえ。おっと、あそこに宿が有りますよ」

黒「……やっぱりボロい」

勇者「取り敢えず入ってみよう」

ーーーー伍の国・二番街・宿屋ーーーー

伍歩兵「おいおい、店主よお。それはぼり過ぎなんじゃねえの?
外国人だから金持ちってわけじゃねえぞ」

伍宿屋店主「お前さんは泊まらないんだろう? だったら黙ってろ。
此処は用心棒を雇って安全性には自信が有るんだ。金払って安全が買えるなら安いもんだろ」

伍歩兵「その用心棒がなよっちいいかもしれねえだろ」

伍宿屋店主「それは無えよ」

勇者「分かった。此処にしよう」

伍歩兵「良いんですかい?」

勇者「ああ」

伍宿屋店主「料金は前払いだ」

勇者「分かった」





伍歩兵「それじゃ、明日も来ますんで。鍵はしっかりと掛けた方が良いですよ」

勇者「ああ。それじゃ」

黒「ばいばい」フリフリ

伍歩兵「おっと、これは嬉しい見送りだ。さいなら」

勇者「言い忘れていたが、明日以降は軍服以外の服装にしてくれ。
色々と不都合なことが有るかもしれない」

伍歩兵「了解しました。失礼します」





黒「ねえ、勇者」

勇者「なんだ?」ペラッ

黒「悪い人たちをやっつけるの?」

勇者「穏やかに言えばそうだ」ペラッ

黒「……ころすの?」

勇者「そうだ」ペラッ

黒「それは正しいの?」

勇者「正しいか正しくないかは関係ない。
初王は現政府と国交を結ぶ方が得策と考えたようだ。
だから吾人は反政府集団を壊滅させる」ペラッ

黒「そう……」

勇者「今夜は保存食で我慢して。忙しいから」ペラッ

黒「わかった。ムリ言ってついてきたんだからガマンする」

勇者「良い娘だ」ペラッ





勇者「……この資料、釈然としない箇所が多い。
指導者の元准将が亡くなったとされる時期から余計に。上層部の人間が組織の規模に比べて少ない。
それに襲われた村の数と徴発されたと考えられる子どもの数も不釣り合いだ。もっと多いはず。
麻薬の栽培場所も、輸出された奴隷の数までも少なく見積もられている。やっつけ仕事か?」ブツブツ

黒「どうしたの……?」コシコシ

勇者「滞在期間は一泊では済まなそう。……そろそろ寝ようか」フッ

黒「うん……。ねえ、同じベッドでねて良い?」

勇者「……褐色美幼女と密着。ふひひ」

黒「勇者はヘンタイなことを言うけど、ひどいことはしない」

勇者「……腹を結構強く殴った事が有る」

黒「……? いつ?」

勇者「黒が記憶を無くす前」

黒「そうなんだ。その時のわたしはどんな性格だった?」

勇者「今とあまり変わらない。大して接して無いけれど」

黒「そうなんだ。……『わたし』って何なんだろう」

勇者「黒は黒じゃないか?」

黒「そうだけど、ルーツが知りたい。なんだか不安だから」

勇者「龍に訊けば手っ取り早かったけれど」

黒「龍には色々と教えてもらった。魔姫って子とすごく仲良しだったみたい。
でも、その子を思い出そうとすると頭がイタくなる」

勇者「そうか。実際に会ったら何かを思い出すかもしれない」

黒「そうかも。でも、今はねむい……」

勇者「寝ようか。……本当に一緒に寝るつもり? 吾人は黒と違って風呂に入らないと汚れたままだけれど」

黒「気にしない」ボフッ

勇者「……分かった」




黒「ん……」スリスリ

勇者「臭わないか?」

黒「うん」スリスリ

勇者「こそばゆいな」

黒「えへへ……」

勇者「それにしても、一体どうした?」

黒「さびしいから」ギュッ

勇者「そうか」ナデナデ

黒「ん……」

勇者「吾人がそばにいる」ナデナデ

黒「ずっと?」

勇者「……できる限り」

黒「……勇者は体が悪いの? 血をいっぱい吐いてたし」

勇者「あまり良くない。喀血の間隔が短くなってきた。
この調子だと半年も生きられないかもしれない」

黒「……うそ」

勇者「嘘なら吾人も嬉しい」

黒「……そんなのヤダ」

勇者「吾人も望んではいない」

黒「勇者がいなくなったら、わたしはどうすれば良いの?」

勇者「龍がいる。師匠もいる。おそらく大丈夫だ。
それに、吾人は存命だ。それを考えるのはまだ先で充分だ」

黒「……うん。……一つ約束して」

勇者「何を?」

黒「かってにいなくなったりしないで」

勇者「……善処する。おやすみ」

黒「おやすみ」

ーーーーーー
ーーーー
ーー


勇者「すまない」

伍青年「ん? ……なんだよ」

勇者「麻薬が格安で買いたくてこの国まで来た。何処で手に入るか分かる?」

伍青年「……ふうん。知ってるけど、タダじゃ教えられねえな」

勇者「これで良いか? あまり持ち合わせていない」スッ

伍青年「……ちょっと少ねえな」

勇者「これ以上は払えそうに無い」

伍青年「……しょうがねえ。ついて来な」

勇者「ありがとう」




伍男「これで有り金全部みたいだな」

勇者「そうだ」

伍男「おら、クスリだ。感謝しろよ」

勇者「少ないな」

伍男「あん? 鉛玉もおまけして欲しいか?」チャキ

伍青年「ちょ、ちょっとアニキ。逸りすぎッスよ」

伍男「歯向かうのか?」ギロッ

伍青年「そ、そういうワケじゃないッスけど……」

勇者「分かった。ありがとう」

伍男「はっ、さっさと帰れ」

勇者「ああ」




伍青年「悪りいな。アニキはせっかちだから」

勇者「別に構わない。もしかして彼は革命軍の一員か?」

伍青年「……なんで知ってんだ?」

勇者「彼から勇ましさを感じた。あのような熱い男なら、世界に名を知らしめている革命軍の一員なのかもしれないと考えた」スラスラ

伍青年「ああ、なるほどな! 言う通りアニキは革命軍の一員だ!
なんと俺もだぜ! スゲえだろ!」

勇者「驚いた」

伍青年「だろお?」

勇者「戦いに参加した事は有るのか?」

伍青年「……いや。下っぱだからクスリを参の国まで運んだり、栽培の手伝いとかで端金もらってる。
銃も未だ持たせてもらってねえ」

勇者「そうか」

伍青年「でもいつの日かのし上がってよ! 国盗りで大活躍して金持ちになってやるんだ!」

勇者「理由は有るのか?」

伍青年「そりゃよ、金持ちになったらデカい家に暮らせるだろ。
そうすりゃ妹が路上で寒さとか怖さに震えながら眠る事が無くなる。
旨いメシだって食わしてやれる。キレイな服だって着せてやれるんだ」

勇者「……妹がいるのか」

伍青年「ああ。俺と妹以外の家族は一年前の内戦に巻き込まれて死んじまったからな。
今は二人でなんとか毎日を生きてる」

勇者「妹は革命軍に参加してるのか?」

伍青年「まさか。異国の奴にだからこそ言ってるけど、いつもは妹のことを隠してる。
雑用だけならまだしも、妹を性処理の道具になんかにさせてたまるか。
みんな、妹と年の変わらねえガキをさんざんに犯すからな。どんなに命張ってても、それはダメな事なのによ」

勇者「そうだな」

伍青年「……俺はクスリを捌かなきゃいけねえんだ。じゃあな」

勇者「ああ。……妹が大事なら麻薬には手を出すな」

伍青年「はあ、何でだ? まあ、俺は自分で使うくらいなら売り捌いて金にすっけど」

勇者「そうか。それじゃ」

ーーーー伍の国・二番街・宿屋ーーーー


伍歩兵「酒は楽しい気持ちになれるんだよな。そんで鬱憤が晴れるんだ。そういう意味では薬だよな」

黒「へえ」

伍歩兵「まあ、お嬢ちゃんには未だ早いな。大人になったらだ」

黒「む。……あ、おかえり」

勇者「ただいま」

伍歩兵「お疲れ様です。次にどっか行く時は絶対に付き添いますから。わざわざ私服で来たんですし。
じゃないと職務怠慢と言われて、文字通り首を切られちまう」

勇者「人手不足だからそれは有り得ないはず」

伍歩兵「俺の場合はワケありなんですって」

勇者「どのような?」

伍歩兵「それは秘密です。男は謎が有ったほうが魅力的ですしね」

黒「ナゾすぎると不気味」

伍歩兵「ああ、確かに。……まあ、ちょっと色々有って高い地位から降格されたんですわ。
そんで、有用性を発揮しなきゃ消される身の上になっちまったんです」

勇者「……」

伍歩兵「今日はもう薄暗いし、外出はしない方が良いですよ。それでは」

勇者「ああ」




黒「水で体を洗うのは寒くない?」

勇者「寒暖に堪えるほどの繊細な感覚は喪失した」

黒「そう。今日は一日中何をしてたの?」

勇者「反政府集団の調査だ。受け取った情報があまりにずさんだったから。調べた結果、虚偽が有ることが分かった」

黒「そうなんだ」

勇者「長居になりそうだから食料品や衣料品を買い足さないと」

黒「その時はわたしもついてく」

勇者「分かった。そろそろ寝ようか」

黒「うん」ボフッ

勇者「今日も一緒に寝るつもりなのか?」

黒「ダメ?」チラッ

勇者「……何も問題は無い」グッ




勇者「寝辛くないか?」

黒「大丈夫」

勇者「それなら良い」

黒「……ねえ、勇者」

勇者「何だ」

黒「わたしは、オトナになれない」

勇者「どういうことだ?」

黒「そのままの意味。わたしは、成長しないの」

勇者「……そうか。人間では無かったな。あまりに人間らしくて失念していた」

黒「わたしも、オトナになりたい」

勇者「大人になるのは難しい。体が大きくなれば大人というわけじゃ無い。
色々な物や事柄に妥協するのが大人だ。不条理を呑み込むのが大人だ」

黒「……でも、わたしがコドモだから今日はついてきちゃダメだったんでしょ?」

勇者「誰だって連れて行きたくない。危険だから。
大人とか子どもとかそういう問題じゃない」

黒「でも……」

勇者「黒、吾人は幼女が大好きだ」

黒「……ヘンなの」

勇者「その通りだ。しかし、変だからこそ黒にはそのままでいて欲しいと思っている。
黒には知って欲しいことがたくさん有る。それと同じくらい知らないでいて欲しい事がたくさん有る。
無知は最大の罪で、最大の免罪符だから」

黒「……そう」

勇者「分かってくれたか?」

黒「うん。……勇者、腕を伸ばして」

勇者「こうか?」スッ

黒「うん」

ポフッ

黒「枕にしちゃう。コドモだから」

勇者「……」ナデナデ

黒「……」ニコ

勇者「……」ナデナデ

忙しく、この一週間は更新できそうにないです。
ハッピーエンドについて考えていたら何がハッピーなのか分からなくなりました。



>>1よ。自分でつけたスレタイを思い返してみてくれ。
このスレにいる奴は『勇者』でもなく『「 」』でもない、
100%『幼女大好き』に釣られた奴だ。

つまりこのスレタイにおけるハッピーエンドとは・・・・・・あとはわかるな?



お願いします。御都合主義で良いです、幸せにしてやって下さい。

ーーーー終の国・王城ーーーー


側近(民は中々まとまってくれないな)

側近(陛下の偉大さが身に染みる)

側近(……あの時。あの剣を私が最初に触ってしまえば良かった)

側近(そうすれば陛下は……)

側近(ーーいや、今はそのような事を考えても仕方が無い。早く新制度の草案を作らなければ)

側近(骸がいれば世界の大部分は陥落できるが凶行軍の後には死体しか残らない。生きた人間も労働力として欲しいところだ。
しかし、洗脳するにも魔蟲も大した数がいるわけではない)

側近(ならば私と人狼が出張る必要も有るが、取り敢えず今は人狼に任せるしかないか)

スッ

魔姫「だーれだ?」

側近「姫様、職務のお邪魔をなさらないでください」

魔姫「あ、ごめんなさい……。だって、誰もいないから」

側近「使用人とお遊びになられたらいかがでしょう」

魔姫「だってよそよそしいんだもん。狼と骸まで帰って来ないし」

側近「彼等も忙しいのです」

魔姫「黒ちゃんと龍さんもずっと帰って来ないし」

側近「龍は一旦帰って参りましたよ。すぐに出掛けましたが」

魔姫「そうなの!? 声をかけてくれても良いのにっ!」

側近「彼女も忙しいのでしょう。姫様もお勉強をなさってください。王を継ぐ者なのですから」

魔姫「えー、もうつかれたよ」

側近「とにかく、私は忙しいのです」

魔姫「……人間を殺すの?」

側近「……ええ」

魔姫「そんなのダメだよ。 お父さんは許さなかったはずだよ」

側近「そうでしょうね」

魔姫「魔物も人間もいっぱい死んじゃうんだよ。みんなが泣いちゃうんだよ」

側近「ええ」

魔姫「そんなのダメだよっ!」

側近「勝ち取らなければいけない物が有ります。殺してでも」

魔姫「……側近のバカっ!」



側近「……重々承知しております」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

「花飾りの完成だよ!」

……綺麗。

「黒ちゃんにあげるよ!」

ありがとう。

「お姫様みたいだよ」

お姫様はあなた。






「釣れないねー」

うん。

「お魚いないのかなあ。骸がここはよく釣れるって言ってたんだけどなあ」

のんびりやろう。

「そうだね」






「お父さんと一緒にお母さんのところに行ってきたよ」

知ってる。

「きれいにしてお花を置いてきたの。お母さん喜んでくれるかなあ」

きっと喜んでるよ。

「そうだといいなあ」






「お城のてっぺんはきもちーね」

うん。

「側近に見つからないようにしなきゃね。口うるさいし」

わたしは腹黒男が嫌い。わたしにだけ冷たい。

「ほんとにひどいよね。今度イタズラしてやろ?」

うん。





「……雪だ」

嫌いなの?

「うん……。また国中のみんなが寒さで死んじゃうから……」

……そっか。

「いますぐお城によんでみんなで住めばいいのにね。少しずつでもあったかいスープをみんなで飲んで、毛布をみんなで使って」

そうだね。

「でもお父さんや側近に言っても、わたしの頭を撫でるだけなんだよ。龍は怒ったような顔で黙っちゃうし。
骸は賛成してくれたけど、本当にやるのは今のままじゃ無理だって」

……うん。

「だからもっと勉強してね、みんなが幸せになるようにがんばるんだ。
みんなが幸せにならないうちは、誰も幸せになれないから」

すごくいいと思う。

「ありがとう」





「勉強むずかしいなぁ」

簡単だよ?

「黒ちゃんは頭良いもんね。なのましんだっけ?」

うん。昔生きてた人間に造られた。

「どうして昔の人は黒ちゃんを造ったのかな?」

それはーーーー。

「ふうん。よく分かんないや」

そっか。





どうしよう。

このままじゃ、わたしはあの子を傷つけてしまう。

どうすればいいの?

どうすれば……。

ーーああ、そっか。

簡単な方法があった。


わたしは、わたしのーーーー

ーーーー伍の国・二番街・宿屋ーーーー

黒「……」パチ

黒「……夢?」ポー

勇者「おはよう」

黒「……勇者」

勇者「……どうかした?」

黒「ううん、夢を見ただけ」

勇者「夢か」

黒「うん。夢の中でわたしは女の子と遊んでた。きっと、あの子が魔姫って子なんだと思う」

勇者「失った記憶が夢として表出したのか?」

黒「そうなのかも。完ぺきに消去されたわけじゃなかったみたい」

勇者「なるほど」

黒「また会える気がする」

勇者「そうか。取り敢えず着替えて。朝食にしよう」

黒「うん」

ーーーー伍の国・中央街・市場ーーーー


ガヤガヤ


黒「人が多いね」

勇者「はぐれないようにしてくれ」

黒「じゃあ、手をつなご?」ニコ

勇者「……」

ギュッ

伍歩兵「……そんで、何を買うんですか?」

勇者「水とパン、日持ちする食料。あとは服だ」

伍歩兵「生活必需品ですか。水なら、あっちで真面目な男が売ってます。そんで、あそこは食料の品揃えは良いです。服屋はーーーー」





勇者「サイズはどう?」

黒「ぴったり」

勇者「そうか。それにしよう」

黒「にあってる?」

勇者「黒は可愛いから何を着ても似合う」

伍歩兵「本当に可愛らしいなあ」

黒「……」ニコニコ





勇者「これで買い物は終わりだ」

伍歩兵「あんまり買わないんですね。軽くて助かりますわ」

勇者「吾人も半分持とう」

伍歩兵「いやいや。俺にも仕事をさせてくださいよ」

伍少女「……あの」

黒「……?」

伍少女「たべもの、ちょーだい」

伍歩兵「ああ。乞食のガキが市場で食いもんをねだるのはよく有ることです」

伍少女「き、きのうから、ごはんたべてないの」

勇者「……」


伍少女「お、おねがいします」

黒「勇者……」

勇者「……」

黒「勇者……!」

伍歩兵「……」

伍少女「……」オドオド

勇者「……分かった。ほら」スッ

伍少女「あ、ありがとう」

黒「……」ホッ

伍少年「おれにもちょーだい!」

伍童女「アタシも!」

伍児童「おなかすいたー」

伍稚児「たべもの! たべもの!」

伍幼児「ちょーだい」

ゾロゾロ

黒「わ、わ……」オロオロ

伍歩兵「ぬはは、一人に施したら三十人に乞われると思え、ってね」

勇者「そのような気はしていた」





伍歩兵「結局、水も食料も全部やっちまいましたか」

黒「……ごめんなさい」

勇者「謝る必要は無い。吾人の勝手な判断だ。どうせ幼女を見捨てる事はできなかった」

伍歩兵「……まあ、あれで何が変わるって話ですよ」

勇者「……」

伍歩兵「ガキどもは一晩を生き残れるでしょうよ。そんで?
何になるんですか。また同じ事の繰り返しですよ。
行き詰まって、店の商品を盗ろうとして撃ち殺されるかもしれない。
生き残っても、食い扶持の為に反政府集団に隷属して、人を殺したり建物を破壊したり男どもの便器になるかもしれない」

勇者「……」

伍歩兵「あんたのやったことは偽善なんだよ。誰も救われちゃいねえ」

黒「……っ! そんな言い方をしないで! 勇者は……!」

ナデナデ

勇者「怒ってくれてありがとう。でも、良いから」

黒「……」

伍歩兵「……すんません。俺が言えることばなんかじゃ無いです。人殺しの俺には」

勇者「だが事実だ。有り難う」

伍歩兵「……けったいな方ですね」

ーーーー伍の国・二番街・宿屋前ーーーー


伍少女「あの……なんですか……?」ビクビク

伍ゴロツキ「パン持ってんじゃねーか。よこせよ」

伍少女「こ、これはお兄ちゃんとわたしの……」ビクビク

伍チンピラ「てか、ちびっ子が独りで出歩くなよ。拐われるぜ。俺たちみたいのにな」ニヤッ

伍少女「ひっ……」

伍ゴロツキ「奴隷として捌くとして。その前に仕込むか?」ニタニタ

伍少女「や……」ビクビク

勇者「何をしている?」

伍ゴロツキ「あん? 何だテメー」

伍歩兵「……あー、宿の用心棒ってもしかしてこいつらか?」

伍チンピラ「そうだぜ。客ならさっさと中に行けや」

伍歩兵「なんつうか、三下だな」

伍ゴロツキ「っんだとテメー!? 俺らは革命軍の一員だぞ!」

伍チンピラ「撃ち殺されてえのか!?」

伍歩兵「……へえ」

チャキ

伍ゴロツキ「……は?」

パンッ

伍ゴロツキ「ーーーー」

伍歩兵「だったら、問答無用だな」

ドサッ

黒「……え?」

伍チンピラ「ひっ……」

伍歩兵「逃げるなよ」ガシッ

伍チンピラ「くそがぁ!」ブンッ

伍歩兵「何だそりゃ。素人の動きだぜ」ブワッ

伍チンピラ「ぐえっ」ドテンッ

ガッ

伍チンピラ「う……」

伍歩兵「じゃあな」チャキ

伍チンピラ「……うあぁ」ガクガク

勇者「待て。その男から反政府集団について訊きたい」

伍歩兵「ん、そうですか」

勇者「場所を変える。黒と女の子の面倒を見ていて。死体はどうすれば良い?」

伍歩兵「あー、後で始末するんで一目につかない道端にでも置いといてください」スッ

勇者「分かった」ガシッガシッ

伍チンピラ「はっ……はっ……」ジョワァ

ズルズル

伍歩兵「ケガはないみたいだな。さて嬢ちゃんたち、何する?」ニッ

伍少女「ぁ……」ガクガク

黒「……カンタンにころしたね」

伍歩兵「仕事だからな。躊躇ったら俺が死ぬ。まだ死ぬわけにはいかねえんだよ」

黒「そう……」

伍歩兵「おっしゃ唄でもうたうか。俺の美声に聞聴き惚るといいぜ!」

黒「……うん」

あ、ミスった。
聞聴き惚れる

聴き惚れる
に訂正で。





勇者「ただいま」

伍歩兵「遅過ぎじゃないですか? もうすぐ日が落ち始めますよ」

勇者「国中で聴き込みをしていた」

伍歩兵「……は?」

勇者「連れがいると全速力で移動ができないから、都合が良かった」

伍歩兵「……はあ、そっすか」

勇者「ここ数年、政府軍と反政府集団との大きな紛争は勃発していないらしい。
あの三下の他にも多くの者に訊いたがそう答えた。この情報は本当か?」

伍歩兵「そうですね。小競り合いはちょくちょく起きてますが」

勇者「そしてその時期は指導者の元准将が亡くなったとされる時期と同じで合っているか」

伍歩兵「ええ、おそらくは」

勇者「組織は今も確実に拡大しているはずだ」

伍歩兵「……ええ、おそらくは」

勇者「しかし、貰った資料内ではむしろ縮小化している」

伍歩兵「…………」

伍歩兵「分かりました。……あの、明日は暇を貰えませんかね。ちょっと野暮用が有るんです」

勇者「分かった」

伍歩兵「あんたに賭けてみたくなった。今更、俺が詳細を話す必要も無いようですが」

勇者「……お前は」

伍歩兵「……じゃあな嬢ちゃんたち。綺麗な歌声を聴けたし良い日だった」

黒「ばいばい」

伍少女「さよなら……。おいしいごはんありがとうございました」





勇者「君は帰らなくて良いのか? 兄がいるらしいけれど」

伍少女「……あっ、そろそろかえります」

勇者「防犯の為に送って行こう。黒もついてきて」

黒「うん」




伍青年「お前! どこに行ってたんだ!? 心配してたんだぞ」

伍少女「ご、ごめんなさい」

伍青年「……はー、ぶじで良かった。……ごめんな、いつも側にいられなくて」

伍少女「ううん。あっ、きょうはパンをもらったんだ!
それに、おみせでごはんをたべさせてもらったんだ!」

伍青年「おおっ、良かったな!」

伍少女「あっ。……ごめんね。わたしだけごはんたべて」

伍青年「気にすんなよ。しかし、ほんと無事で良かった」

伍少女「あの人たちのおかげなんだ」

伍青年「ん? ……あんたは昨日の」

勇者「どうも」





黒「これが、『あ』」カキカキ

伍少女「……」カキカキ

黒「これが、『い』」カキカキ

伍少女「……」カキカキ



勇者「あまり目を離さない方が良い。治安の悪さは現地人のお前の方が身に染みているはずだ」

伍青年「……分かってるよ。でも仕方ねえだろ。俺はあいつを幸せにしなきゃいけねえんだ。
そのためには、あいつの側にばかり居るわけにもいかねえ」

勇者「…………」

勇者「お前にとっての幸せとは何だ?」

伍青年「ああ? そりゃ、妹とウマいメシをたらふく食って、でけえ家に住むことだろ。後は良いオンナを抱くことだな」

勇者「その為に麻薬と関係を持っているのか」

伍青年「だったら何なんだよ」

勇者「人を殺した事は有るか?」

伍青年「いったい何なんだってんだよ。……無えよ。
あまりに金が無くて追い剥ぎをしたことは有るけどな」

勇者「そうか。……もしも治安が良くなって、普通に働けば生活できる金を稼げるようになれば真面目に働くか?」

伍青年「そりゃあな。今はそんな事有り得ねえけどよ」

勇者「そうか。酌量の余地は有るな」

伍青年「はあ?」

勇者「気にするな。……黒、帰ろう」

黒「ん、分かった」

伍少女「あしたもおしえてね」

黒「うん。ばいばい」

伍少女「またね」

ーーーー伍の国・二番街・宿屋ーーーー


黒「いっしょにねるのもなれた?」

勇者「ああ。しかし黒がよく眠れているかが心配だ」

黒「グッスリだよ」

勇者「それなら良い」

黒「……ねえ、勇者」

勇者「何だ?」

黒「あなたの幸せはなに?」

勇者「……聞いていたのか」

黒「うん」

勇者「勿論、美幼女とイチャイチャすること。ふひひ」

黒「……ほんとに?」

勇者「…………」

勇者「幸せは、生きる目的を持つ事だと思う」

黒「生きる目的?」

勇者「そうだ。吾人にとって、それは復讐のはずだった」

黒「……」

勇者「実際に復讐できる力を手に入れて、機会が訪れた。
結局、吾人はその力を振るう事ができなかったけれど」

黒「……わたしたちのせい?」

勇者「……いや、あれで良かった。どれだけ声を荒げても、心の中では幻滅している事に気付いていたから。
誰かに止めて欲しかったのだと思う」

黒「そうなんだ……」

勇者「吾人は生きる目的をごまかしていただけだった。
そして今、吾人は生きる目的をーー幸せを見失ってしまった。
正確には、もともと見えていなかったのだけれど」

黒「……」

勇者「生きる目的を失った者に、生きる価値は無い」

黒「……そんなことない。わたしだって生きる目的なんて分からないよ。
でも、勇者といるのは楽しい。こうして同じベッドでねるのも」

勇者「……そうか」

黒「うん。幸せ、だよ」ニコ

勇者「…………」ナデナデ

黒「んぅ……」

勇者「深く考える必要は無いのかもしれない。そのような事を深く考える猶予も残されていないのだから」ナデナデ

黒「……うん」

勇者「……吾人も黒といるのは楽しい。こうやって柔らかい髪の毛に指を通すのも」ナデナデ

黒「そう?」

勇者「ああ。寿命が削れても構わないと思えるくらいには」ナデナデ

黒「ふふ、なにそれ?」

ーーーー伍の国・王城ーーーー

伍宰相「勇者殿はどうだ?」

伍歩兵「どうって言われましてもね。別段、変わった様子は無いですねえ」

伍宰相「何故、彼は動き出さないのだ?」

伍歩兵「オンナとクスリを買って一日中引きこもってるようですねえ」

伍宰相「ほう? 勇者殿も中々好きものだな。まあ、そのうち倒してもらえばそれで良い。
それでは引き続き、任に当たれ」

伍歩兵「もちろんですとも」

伍宰相「お前を生かす事に反対している者は多いが、この件が終わる頃には考えを改めるだろう」

伍歩兵「そんなことを一々言わなくても仕事は果たしますよ。
伍王に見棄てられた俺に、生きる道を用意してくれた恩人の言いつけだ。
恩返しを果たせないような犬畜生では有りませんよ」

伍宰相「ふふ、流石は名誉騎士の称号の持ち主だっただけの事はある。
そろそろお前を昇格させても良いのかもな。
元近衛師団の団長に今の地位は不満だろう?」

伍歩兵「結構ですわ」

伍宰相「謙遜する必要も無いだろう」

伍歩兵「謙遜では有りませんよ。それではこれで」

終わりです。
取り敢えず魔王やダークエルフよりは長くならなそうです。

ーーーー陸の国・王城・地下ーーーー

狼「お久しゅうござんす。これはこれは、可愛らしいナリで」

龍「……狼か」

狼「お機嫌はようございやすか?」

龍「悪いな。こんな薄暗くて底冷えする場所にずっといるんだぞ」

狼「姉御が考えを改めれば良い話でさあ。あっしだって姉御のそんな姿は見たくねえ」

龍「……戦わなくても平和を手にする事はできるはずだ」

狼「……あっし達にそんな小綺麗な手段は似合いやせん」

龍「そんなこと分からないだろう」

狼「とにかく。考えを改めねえならもう暫くそこにいてくだせえ。
……しかし、大人しく押し込められてとは如何な脅しをお受けに?」

龍「魔姫の生命だ。私を脅迫した時の側近の目は本気だった」

狼「……ったく。魔蟲も使いやがるし、あの野郎はどこまで汚れるつもりだ」

龍「お前が救ってくれないか」

狼「……無理でさあ。親分には遠く及ばないあっしに残された時間は僅かばかり。
願わくは、より多くの魔物の為に使いたいってえのが人心ってもんです」

龍「どういうことだ?」

狼「……げほっ」

ビチャ

龍「……」

狼「見ての通りでございやす。視界も霞み始めやがりました。
魔剣を手にしてから数年も持ち堪えた親分には到底敵わねえ」

龍「……お前もバカだ。どいつもこいつもバカばかりだ」

狼「それが男ってもんです。……これが最後のツラ合わせになるかもしれねえんで、一つ言わしてくだせえ。
汚ねえ犬っころの戯言と聞き流して結構です。
姉御、あっしはあんたに惚れてやした。あんたを抱きたかった。あんたのそばにいたかった」

龍「…………」

狼「しかし、姉御は人間に恋をしたんでしょう? 話は聞いてやしたよ」

龍「……狼」

狼「……負け犬はこれで失礼いたしやす。それでは」





骸「浮かない顔してどうした? まるで女に振られたような顔だぜ」

狼「……うるせえ」

骸「え? マジで振られたの? うは、愉快だわー」

狼「……」

ミキミキ

骸「あ、タンマタンマ! それ多分不死の俺でも死ぬわ!」

狼「……」

スウッ

骸「ふう。まあ、あれだ。飲んで忘れようぜ。
明日からは本格的な人間征圧だしよ」

狼「そうだな。凶行軍の準備は良いのか?」

骸「経路は完璧だぜ。死体の鮮度もまあまあだ」

狼「そうかい」

骸「まあ、取り敢えず行こうぜ」

狼「ああ。……しかし、この国の人間は全員死に絶えたみてえだな」

骸「多分な。まあ、元々魔物の土地だ。問題はねえよ。
それになんたって魔物を一番多く殺したのは間違いなくこの国の人間だ。宗教で魔物殺しを正当化してたんだぜ。許せないわ」

狼「そうだな。……っ」

フラッ

骸「おい大丈夫かよ」ガシッ

狼「ごふっ……げほっ……」

ビチャビチャ

骸「おいおい死ぬなよ。むしろ俺がいい加減死にたいっての」

狼「阿呆……」

ーーーー伍の国・修道院ーーーー


勇者「やっほー」

伍元大佐「……っ!? 侵入者だ! 包囲しろ!」

チャキチャキチャキチャキッ

勇者「中々統率が取れている。流石は革命軍筆頭の武闘派たちだ」

伍元大佐「何者だ?」

勇者「お前たちを殺す命を受けた男だ」

伍元大佐「……ふむ。この状況で大言壮語を吐くとは凄まじい胆力だ」

伍青年「……あんたどうして」

勇者「……何故ここにいる?」

伍青年「クスリを運びこんでたんだよ。どうしてこんな……」

伍元大佐「そこの下っ端、こいつを知ってるのか?」

伍青年「あ、え、えっと、クスリを売った事が有るだけっス」

勇者「一つ、お前たちに伝えておこう」

伍元大佐「……ほう? 何だね?」

勇者「お前たちはトカゲの尻尾だ。母体の存亡の為ではなく、利益の為に切り捨てられた哀れな部位だ」

伍元大佐「どういうことだ」

勇者「これ以上お前たちに言うことは何も無い。
煉獄で苦しみ、浄められると良い」


ズルッ


伍元大佐「っ!? 撃てぇええ!!」

勇者「ていっ」ブンッ


プシャァァアアッ!


ボトボトボトボトッ



伍青年「…………え?」

勇者「……お前を生かすのは贔屓だ。運命に感謝すると良い」ズブッ

伍青年「は……は……?」

ドンッ

ドタドタドタドタッ

勇者「……伍軍の兵士たちか」

伍将軍「……これはこれは。首を一様に落としなさるとは、素晴らしいお手前でございますな」

勇者「どうも。因みに報告をしておく。
資料にあった他の反政府集団のメンバー及び麻薬栽培地と麻薬保管庫も全て片付けてきた」

伍将軍「……それはそれは。ならば反政府集団は完全に潰滅しました。甚謝いたします」

伍青年「……何だよこれ? 何なんだよ……!」

伍将軍「……おやおや。一匹残しておりますよ」チャキッ

伍青年「ひっ……」

勇者「撃つな」

伍将軍「罪深い輩は殺すべきでしょう」

勇者「……国中で聴き込みをした時に、常備軍の兵士が罪の無い国民を殺していると多くの者が証言した」

伍将軍「……左様ですか」

勇者「おそらく書類上では反政府集団の一員として処理しているのだろう。
きっとこの中にも罪の無い人間を殺した者がいるのだろう」

伍将軍「……仮にそうだとしても、勇者殿には関係有りませんよ」

勇者「そうだ。しかし、お前たちだって罪深い。それを自覚しろ」

伍将軍「……貴方は?」

勇者「罪深い。自覚している」

伍青年「……っ」ダッ

伍将軍「……」グッ

勇者「撃つな。彼はーー」





パアンッ





伍青年「ーーーー」


ドシャッ

勇者「…………」

伍兵士「見事に頭が吹き飛びましたね」

伍将軍「申し訳有りません。ついクセで」

勇者「……お前には、家族がいるか」

伍将軍「ええ。息子が二人おります。上のは最近士官になりました。下のも将来は軍人になるでしょう。二人とも私の誇りです」

勇者「……彼には妹がいた」

伍将軍「ふむ、平民に生きる価値など有りませぬ」

勇者「……度し難い」

伍将軍「とにかく、城においでください。祝杯をあげましょう」


勇者「彼は、吾人だった」

伍将軍「はい?」

勇者「お前は、吾人を殺した」

伍将軍「……世迷い言を」

勇者「……贖え」

ズルッ

伍将軍「……狙え」

スッ

勇者「憎しみは有る。幻滅はしていない。義憤は有る。
生理的嫌悪は喪失した。決意は有る。妨げるものはない」

伍将軍「……」

勇者「将軍以外は退け。最後通牒だ」

伍将軍「撃て!」



勇者「ーークソッタレが」




伍青年「ーーーー」

勇者「すまなかった。油断していなければ弾丸は止められた。すまなかった」

勇者「吾人にできることは二つだけだ」

勇者「お前の妹の面倒を見ること」

勇者「そしてーー」

スッ



ジュルジュルッ



ガリッ



ガツガツ



………………。



勇者「ーーーー出来得る限り、共に見守ろう」

眠い!
おやすみなさい!

ーーーー伍の国・二番街・宿屋ーーーー


黒「……」ゾクッ

伍少女「どうしたの?」

黒「…………」

伍少女「も、もしかしてビョーキ!? ど、どうしよう!?」

黒「ちがう。……胸さわぎがする」

伍少女「むなさわぎ?」

黒「行かなきゃ」

伍少女「え? どこにいくの?」

黒「勇者のところ」

伍少女「いばしょはわかるの?」

黒「分からないけどさがす」

伍少女「……じゃあ、わたしもいく」

黒「……うん。いっしょに行こ」





伍少女「どこからさがすの?」

黒「えっと……」

伍歩兵「お、嬢ちゃんたちじゃねえか。慌ててるみたいだがどうした?」パカパカ

伍少女「わ、おウマさんだ」

黒「勇者をさがしてる。わるい人たちをやっつけにいったんだけど」

伍歩兵「ああ。やっぱり今日動き出したか。読みは的中だな」

黒「……? それで、もう夕方なのに帰って来ないの」

伍歩兵「おそらくは王城にいるだろうな。俺たちも王城に向かうところだが」

黒「なら、いっしょに行く」

伍歩兵「危ないかもしれないぞ?」

黒「……」チラッ

伍少女「つ、ついてく」

黒「……」コクッ

伍歩兵「……しゃーないな。二人とも馬上では静かにしろよ」

黒「うん。……そういえば後ろの馬に乗ってる人はだれ?」

伍歩兵「ああ、こちらはーー」

ーーーー伍の国・王城ーーーー


勇者「……」

伍宰相「おや? 勇者殿ではございませんか。
迎えの者として将軍を遣わせたのですが、お会いになられませんでしたか?」

勇者「殺した」

伍宰相「…………はい?」

勇者「……声。奥に居るらしいな」

スタスタスタスタ

伍宰相「なっ!? 勇者殿、お止まりください」



勇者「この中か」

バンッ




伍娼婦「あ、あひゃ、ふひゃ、あへ……!」ジュプッジュプッ

伍元准将「うひゃひゃ! えひゃ、えひゃひゃ!」パンパンパンパンッ



勇者「麻薬を服用しながらの性交か。獣よりも醜いな」

伍宰相「これは、その……!」

勇者「あの男は、死亡したとされる反政府集団の指導者だろう?」

伍宰相「ち、違います!」

勇者「反政府活動など随分と以前から行われていなかった。
当初は明確で崇高な目的を持って立ち上がった組織なのかもしれない」

伍宰相「……」

勇者「しかし人員の増加につれて、いつからか目的と手段が入れ替わった。
彼等は政府を打倒する気概を忘失して、利益のために麻薬や奴隷の貿易、村々を巡っての虐殺を繰り返していた」

伍元准将「ふっ……! ふっ……!」パンパンッ

伍娼婦「あひゃぁ……。もっとぉクスリぃ……」

勇者「政府は彼等があげる利益に目を付けた。そして経済活動の一環として取り込もうとした。おそらくは上納金という形式で。
他国には、反政府活動のものが行っているとして麻薬や奴隷への非難を転嫁することもできる。好都合な事ばかりだ」

伍宰相「……彼奴め、虚偽の報告をしおったか。裏切り者が」

勇者「……そして今回、お前たちは吾人を使って少数となってしまった過激派を一掃しようと考えた。
資料に載っている組織の規模が小さいのはその為だろう。
異邦人ならば騙されると思っていたようだけれど、そんなに甘いわけがない」

伍宰相「…………」

伍宰相「ええ。全て勇者殿の仰る通りでございます。
ーーそれで。勇者殿に何か差し支えがございますか?」

勇者「…………」

伍宰相「初王殿は現状にご満悦のようでございますよ。そして勇者殿は真実に気付きながらも我々の要望をお果たしになられた。
あとは事実を口外なさらなければそれで良いのです。勿論、相応の謝礼は致します」

勇者「……お前は勘違いしている」

伍宰相「はい?」

勇者「伍の国に蔓延っていた犯罪集団は知る限り全て潰滅させた。
後は、お前たちだけだ」

伍宰相「……ご冗談を」

勇者「ーー脳漿を啜った。骨を食んだ。内臓を咀嚼した。
哀しみを、喜びを、愛情を、憎しみを取り込んだ」

ズルッ

伍宰相「っ……」

勇者「……そのせいで少し欲深くなった。
姫を殺させはない。お前たちを断罪する。可能な限り黒のそばにいる」

ブンッ

伍元准将「ーーーー」プシャッ

コロンッ

伍娼婦「あひゃっ、ふんしゅいだぁ」

勇者「……」スッ

伍宰相「……話せば分かる。だから殺さないでくれ……」

勇者「……吾人は弱い。善も悪も分からない。正義も持たない。
ーーそれでも、選択するしかないから」


ブンッ


伍宰相「ーーーー」プシャッ


コロンッ



勇者「剣を振るう」



伍娼婦「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

勇者「……狂ってしまえるのが羨ましい」

ーーーー伍の国・王城・城門ーーーー

黒「……勇者!」

勇者「……黒か」

伍少女「……お兄ちゃん?」

勇者「……」

伍少女「……あれ、わたしなに言ってるんだろう?」

勇者「……」ナデナデ

伍少女「ふぁ……」

勇者「君のお兄ちゃんは少し遠くに行った。君を幸せにする為のお金をぐ為にね」

伍少女「どうして? わたし、お兄ちゃんがいればしあわせなのに。おなかすいても、しあわせなのに」

勇者「っ……」ジワッ

伍少女「ど、どうしたの!? ビョーキ!?」

勇者「違う。君のお兄ちゃんから涙を預かっていたんだ。これはお兄ちゃんの涙だよ」ツー

伍少女「そーなの? お兄ちゃん、なかないで」コシコシ

勇者「……大丈夫。もう泣いてないみたい」

伍少女「よかった!」ニコ

勇者「……」ナデナデ

黒「むむ……」

伍歩兵「宰相の畜生を片したんですか?」

勇者「ああ。……後ろにいる青年は」

「勇者殿、此度の一件について甚謝致します」

勇者「……伍王か?」

伍王「その通りです」

伍歩兵「陛下は幼少期より御身に危険が迫っていることにお気付きになり、愚か者の振りをしていたんだ。
そして国外で知識人や技術者と交友を深めて来たる時には招致できるようになさるなど、国の発展の下準備をなさっていたんだ」

伍王「騎士が、好機は今だと参の国にいた私に伝えてくれた為にこうして戻ってきた次第です」

勇者「そうか」

スタスタ

バキッッ

伍王「ーーーーっ」

黒「……え?」

ドサッ

スタスタ

伍歩兵「止まれ!」

ガシッ

伍王「う……」

勇者「お前が逃げている間にどれだけの人間が死んだ??
犯罪集団が及ぼした被害の範囲は伍の国だけではない。他の国にも苦しんでいる者がいた。
……お前には何もできなかったのか?」グググッ

伍王「かひゅ……」

パンッ

勇者「……」ギロッ

伍歩兵「手を離せ」ギンッ

勇者「……良い臣を持ったな」パッ

ドサッ

伍王「ごほっ……」

伍歩兵「陛下! ご無事ですか!?」

伍王「あ、ああ」

勇者「死んでいった者、残された者の苦しみはこれとは比較にならない。お前は彼等や彼女等を救えるのか?」

伍王「……私は無力だ。この体だけでは誰一人として救えない」

勇者「……」

伍王「しかし! 私は誰よりも伍の国を思っている! 民の幸せを願っている!
哀しみを消すことはできないが、私は皆の未来の為に骨砕き身を粉にする所存だ!」

黒「……」

伍王「民を苦しみから直ぐに救えるような力は無くとも! 私は私の最大限の力で民に貢献する!」

伍少女「……」

伍王「暗黒の時代を超えて! 今こそ躍進の時なのだ!
私は! 最高の国の! 最高の王になってみせる!」

伍歩兵「……陛下」

勇者「……それは民に言うことばだ。一刻も早く、民衆に伝えるべきだ。
安寧が訪れたこと。そして。これからが素晴らしい時代になることも」

伍王「……ああ!」

おやすみなさい!

伍伝令係「非常事態です!!」

伍歩兵「……水を差すなよ」

伍伝令係「……陛下!? お戻りになられたのですね!」

伍王「そうだ。それで何が起きた?」

伍伝令係「そ、それが! 死者の集団が伍の国に迫っているそうです!」

伍王「なんだと?」

伍伝令係「おそらくは魔物の仕業です!」

勇者「……場所は?」

伍伝令係「北東部ーー陸の国との国境付近です!」

勇者「……分かった」

伍歩兵「……消えた!?」

黒「……っ」タッ

伍歩兵「嬢ちゃん、どこに向かうつもりだ?」

黒「勇者のところ! いつも置いてくんだから……!」タタタッ

ーーーー伍の国と陸の国の国境付近ーーーー


ザッザッザッ

屍「ーーーー」

ザッザッザッ

勇者「……リビングデッド。陸の国は陥落したのか?」

ザッザッザッ

勇者「……哀れな亡者に斬首は不適か」ズルッ


ザッザッザッ


勇者「ていっ」ブンッ

プシャプシャプシャプシャプシャプシャプシャプシャッ


ザッザッザッ


勇者「……胸を裂いても止まらないか。仕方が無い」

ザッザッザッ


勇者「ていっ」ブンッ

プシャプシャプシャプシャプシャプシャプシャプシャッ

ポロポロポロポロポロポロポロポロ


ザッザッザッ


勇者「……首が無くとも動くか」


ザッザッザッ


勇者「……細切れだな」

メラメラ

黒「……炎? ……いた!」タッタッタッ

メラメラ

黒「……うぷ」

勇者「黒か。臭いから近寄らない方が良い。そもそも、どうして追ってきた?」

黒「どうしても。……それよりこのニオイはなに?」

勇者「死体の焼ける臭いだ。髪の毛の焼ける臭いが特に酷い」

黒「……そっか」

勇者「吾人は陸の国に向かう。異常事態が起きているようだ」

黒「わたしも……」

勇者「ダメだ。伍の国であの娘と待っていてくれ」

黒「……まだ最後まで言ってないのに」ムスッ

勇者「とにかくダメだ。不確定な事柄が多くて危ない」

黒「……」ウル

勇者「……必ず迎えに来るから」ナデナデ

黒「……」

勇者「それじゃ」



黒「……待つなんてできない!」タッタッタッ

伍歩兵「嬢ちゃん、乗りな!」パカッパカッ

黒「……どうして」

伍歩兵「恩人を援けるのは当たり前だろ。ほら、急げ」

黒「……ありがとう!」

ーーーー終の国・王城ーーーー


側近(全面戦争。そして魔物の再興)カリカリ

側近(これからが始まりだ)カリカリ

側近(先代も、そして陛下でさえも人間と和解することは不可能だった)カリカリ

側近(もう看過できない)カリカリ

側近(ーー新しい国造り。私の力だけでは到底及ばぬ)カリカリ

側近(問題は龍だ。彼女の民への影響力は非常に大きい)カリカリ

側近(引き込むことができない場合、不本意だが始末するしかない)カリカリ

側近(中途で反乱を起こされたら全てが瓦解しかねないのだから)カリカリ

側近(……最後の勧告に行くか。ちょうどキリも良い)

パサッ

スクッ

スタスタ

スッ

スタスタスタスタ


……………………


魔姫「……よし、出かけた」ソッ

魔姫「側近は絶対に何か隠してる」トコトコ

魔姫「大事な物はいっつもこの引き出しに……あったあった」ズズズッ

魔姫「羊皮紙。……人間との戦争についての書かな」スッ

魔姫「……相変わらず綺麗な字」ペラッ

魔姫「……」ペラッ

魔姫「……っ!? 魔蟲!? 龍さんを投獄!?」

魔姫「どういうこと……!?」

魔姫「…………」パサッ

魔姫「……陸の国に行かなきゃ」

ーーーー陸の国ーーーー


骸「……奇妙な雰囲気の人間が独り。ははん、お前が噂の勇者か」

勇者「……お前が死者を冒涜した者か」ズルッ

骸「ああ、凶行軍とかち合ったのか」

勇者「屑の所業だ」

骸「別に屑でも良いけどな」

勇者「ていっ」ブンッ

骸「ーーーー」プシャッ

ボトッ

勇者「……龍は何をしている? 平和の為に尽力すると言っていたけれど」



骸「龍なら投獄されてるぜ」

ズズズッ

勇者「……何故生きている」

骸「首飛ばされたくらいじゃ死ねないんだわ。難儀な体だからな」

勇者「お前もリビングデッドか」

骸「んー、むしろあいつらが俺の体液で動いてるからなぁ」

勇者「ならば火をつけて燃やせば良いな」

骸「残念、俺は気体になっても死なないし、直ぐに修復するぜ」

勇者「……」

骸「更に悲報を二つ。いや、もっと多いか? まあ、良いや」

勇者「……」

骸「凶行軍ーー生ける屍の集団は一つじゃない。万単位のが数十個。因みに、万一俺を倒したとしても凶行軍は止まらないぜ」

勇者「っ!?」

骸「しかも死体から死体に感染するから連鎖する。早く止めなければ人間は絶滅だな」

勇者「……」

骸「もう一つは魔蟲。世界中に相当数の魔蟲を拡散した。
人間を乗っ取って支配する寄生型に、人間を食らう巨大型も。
これも急がないと人類が滅ぶぜ。絶体絶命だな」

勇者「……ていっ」ブンッ

骸「はは、無駄無駄」プシャッ

ズズズッ

ズパパパパパッ

骸「そんなんじゃ死ねないって」ズズズズズッ

勇者「……ちっ」ズブッ

骸「あ、先に凶行軍か魔蟲を潰しに行くつもりか?
それでも良いけど、その場合は龍が死ぬぜ」

勇者「……同胞を手にかけるつもりか」

骸「それくらいの覚悟も無しにこんな事をしてると思ってんのか。
あんまり馬鹿にすんなよ」

勇者「……くそ」

骸「口が悪いぜ」ニッ

ーーーー陸の国ーーーー


狼「うぶっ……おぇっ……」

ビチャビチャビチャビチャッ

狼「ちくしょう……」フラフラ

狼(魔剣が、他方の剣を求めてやがる。おかげで身体にかかる負荷が一気に増大しやがった)フラフラ

狼(……喰われそうだ。散々喰い散らかしてきた俺が物に喰われるのかよ。笑い話にもならねえな)フラフラ

狼「……ふざけやがって。死んで……たまるかよ……」フラフラ

ーーーー初の国・師匠宅・地下ーーーー


参少女「あのムシたちは何なんですか……?」

初少年「師匠、あの奇妙な虫たちはもしかして……」

師匠「……魔蟲」

参少女「魔蟲?」

師匠「古い文献に残ってる虫だ。化石は多く見つかったが、まさか種が存続していたとはな。しかも大量発生して初の国全土を襲うとは……」

参少女「どうにかできないんでしょうか……?」

師匠「ワシらでは何もできねえよ。こういうのは兵士や吏僚共に任せとけばいいんじゃ」

初少年「でも、初王が素っ頓狂な命令を出して指揮を混乱させてるみたい。賢王って称されるぐらいなのに、頭が狂ったのかな」

師匠「何かに取り憑かれたのかもな。ま、沈静化するまで待機じゃ」

参少女「勇者さまも、黒ちゃんも龍さんも、だいじょうぶかな……」

ーーーー陸の国ーーーー


勇者「ごぼっ……!?」

ドバドバッ

骸「おいおい、お前も狼と同じかよ」

勇者「くそっ……ぐぶっ……!」

ボダボダッ

骸「お前らの剣は相当生命を削るみたいだな。強いけど脆い。
まあ、俺は何故か剣に拒絶されたんだけど」

勇者「……っ」フラ

バタッ

骸「おいおい、これで終わりじゃねえだろ?」

勇者「く……」ググッ

骸「おらっ」ゴッッ

勇者「ーーーーっ」フッ

ズドオオッ

勇者「…………」

ガラッ…

骸「……立てよ。譲れないものが、守りたいものが有るなら立ち上がれよ。
どれだけ強い力を持とうが、不撓の意思がなければ意味ねえんだ。
人間の意地を見せてみろよ。こんな簡単にくたばってんじゃねえよ」

勇者「……」グッ

骸「そうだ。それで良い」ニッ

狼「……骸」ヨロッ

骸「おい、危ねえぞ狼。あの人間の剣は振るだけで何でも斬れちまうんだ」

狼「……」フラッ

骸「おい、大丈夫か!」ガシッ

狼「……骸」

骸「何だよ?」

狼「……すまねえ」

骸「は?」

ズドッッ

骸「ーーーーっ」

シュウウゥゥ…

狼「……力が漲ってくる」

骸「……俺の生命に……そんな効果あんの……?
だったら……魔王様に、くれてやりゃ、良かったな……」

狼「親分も直感で知ってただろうよ。やらなかっただけで。
……結局、俺はどこまでも親分には敵わねえ」

骸「……ま……いっか……ようやく……幕を閉じれたんだ……」

シュウウゥゥ…

骸「……人狼……阿呆を貫き通せよ……」ニッ

シュウウゥゥ…

狼「……ああ。……ありがとよ、兄弟」

骸「ーーーー」

サアアアァァァ……

ミキミキッ

勇者「……魔剣か」

狼「……お控えなすって。
あっしは四天王の人狼。生まれも育ちも終の国でございやす。
この巡り合わせも一つの縁。互いに須臾の生命、ぶつけ合いやしょう」

勇者「……吾人は、勇者などと呼ばれるしがない男だ」

狼「……」

スッ

勇者「……」

スッ

……………………

タンッッ

狼「……っ!」ブオッ

勇者「……っ!」ブンッ

ガキイイイィィィィイイイイイイイッッッッ!!!!

更新遅くてスミマセン。
あと100も無いはずなので出来るだけ早く投下出来るように頑張ります。

ーーーー陸の国・王城・地下ーーーー

ーーガキイイィイイイッッ…………


龍「……今の轟音は?」

龍「……勇者?」

龍「……有り得なくは無いが、確証は無いな」

龍「可能性の為に魔姫の生命を危険に晒すことは……」

龍「…………」

龍「くっ……」


バキッ


ダダダッ

ーーーー陸の国ーーーー


パカッパカッ

伍歩兵「……建物が吹き飛びやがった。勇者様か?」

黒「……ここまでで良い。後は走ってく」

伍歩兵「危ないだろ」

黒「大丈夫だから。ここまでありがとう」フッ

伍歩兵「ばっ……!?」

黒「大丈夫。わたしは人じゃないから」ストッ

伍歩兵「なっ……」

黒「ばいばい」タタッ

ーーーー陸の国と終の国の国境付近・上空ーーーー


側近(猛烈な衝撃波が間を置かずに発生している)

側近(……成る程。魔剣が無ければ確かに勝てそうに無い)

側近(しかし、仮に互いが強化され合うとしたら、地力が上の人狼が勝つはずだ)
?
側近(……何れにせよ、急いだ方が良さそうだ)

ビュオッッ

ーーーー陸の国ーーーー


ガガガガガガガッッ

勇者「っ……」

勇者(……振り抜けば勝利。しかし防ぐので精一杯だ)

勇者(隙を狙うしか無い)

ガガガガガガガガガガガガガガッ

狼「……」ブオンッ

勇者「……!」

ヒョイッ

狼「……」ガクッ

勇者(……好機)

勇者「て……」



ズパアッッ

勇者「ーーーーっ」

ボトッ

狼「右腕は貰ったぜ。それに丸腰だ」ブオッ

ガキイイィィイイイイッッ

勇者「っ……」ズザザザッッ

狼「何時の間に剣が……。まあ、いい」スッ

勇者(……右腕は生えるようだが速度が遅い)

狼「……」ダッ

勇者「……っ」スッ

狼「甘い!」ブワッ

キインッ

勇者(巻き上げっ……!)

ブシャッ

勇者「かっ……」ガクッ

狼「紙一重で致命傷を避けやがったか。だが、おしめえだ」スッ

勇者「……」


ブオッ




龍「……勇者っ!」ザッ



狼「なっ……」



ザシュッッ



龍「…………ぁ」



パタッ



狼「……あ、ああああああああああああああああああああああ!!」

狼「何故……! 何故……!」ガクガク

龍「ーーーー」

狼「ああああああああああああ!! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

勇者「…………」ブツブツ

ズルッズルッ

ピトッ

狼「はあっ……はあっ……」

勇者「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ」ブルブル

勇者「たすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃ」ポロポロ

狼「……何してやがる」

勇者「…………」

狼「……姉御は死んだっ!! 俺が殺したっ!!」

勇者「…………」

ボタボタボタボタ

狼「いくら血を垂れ流して治そうとしてもっ!! 死んだもんは生き返らねえだろうがっ!!」

勇者「…………」

ボタボタボタボタ

龍「ーーーー」

狼「…………があああああああああああああああああああっ!!」

ブオッ

ザシュッッ

ボタボタボタボタッ

勇者「…………」

龍「ーーーー」

ザシュッッ

ザシュッッ

勇者「…………」




龍「…………ぅ」



狼「……あね、ご?」

龍「……」スウスウ

勇者「……」トサッ

ギュッ

狼「…………」

勇者「……絶対に……守る……」

狼「……負けだ。完膚なきまでの負けだ」

勇者「……」

狼「図々しい事この上ないのを承知して言いやす。
願わくは、同胞に慈悲の心を以って裁断してやってくだせえ。
そして、姉御を幸せにしてやってくだせえ」

勇者「……」

狼「どうかお頼みいたしやす」

ズドッ

狼「……うおおぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

ブチブチブチブチッ

カランッ

狼「ーーーー」

ドサッ

勇者「…………」

勇者「……はやく……魔蟲と……死者の群れを……ごぶっ……」

勇者「くそっ……。時間が……」

勇者「…………」

ズルッズルッズルッズルッ

ーーーー初の国・師匠宅・地下ーーーー


ウゾウゾ

参少女「ここにまで大きいムシが……」

師匠「……こんな薄暗い部屋で臨終かよ」

参少女「ひっく……ぐすっ」

初少年「……っ」スッ

師匠「何をする気じゃ」

初少年「僕が魔蟲の注意を引きつけます。隙を見て逃げてください」

参少女「え……」

師匠「馬鹿野郎! 自己犠牲なんて美徳でも何でもねえぞ!」

初少年「……お兄ちゃんが此処に居たらこうしたと思います。たとえ、剣の力が無くとも」

師匠「お前はあの阿呆ではないじゃろうが!」

初少年「だとしてもです。それに、女の子の前だったらカッコつけたいじゃないですか」

参少女「っ……」

師匠「……大阿呆が!」

初少年「……ほんとですね」

ウゾウゾ

初少年「くっ……!」ガッ

ウゾウゾウゾウゾッ

初少年「早くっ……!」ガッガッ

師匠「……くそっ!」


プシャッッ


参少女「ふぇっ……?」

ピクピクッ

初少年「魔蟲が……死んだ……?」

師匠「……これは、刀痕?」

ーーーー肆の国ーーーー


肆将軍「……屍の集団が粉々になった!?」

肆将軍「……機を逃すな! 慎重に集めて焼き払え!」

ウオオォォオオオオ!!

肆将軍「……何が有ったんだ」

ーーーー陸の国ーーーー

龍「……ん」パチ

ムクッ

龍「……勇者」

勇者「良かった」

ギュッ

龍「ん……」

勇者「本当に良かった」

龍「……大丈夫なのか? 血塗れだぞ」

勇者「今は大丈夫だ。それに血塗れなのは同じだ」

スッ

龍「……本当だ。というより、辺り一面が血だらけじゃないか」



狼「ーーーー」

龍「……狼」


ブオッ

龍「っ……」

ザッ

側近「……貴方が勇者か」

勇者「そうだ。……お前が今回の一件の首謀者か」

側近「まさしく。……人狼と、おそらく骸も倒したようだが、魔蟲と凶行軍が残存している。我々の勝利だ」

勇者「いや、お前たちの敗けだ。魔蟲と死者の群れは全て消した」

龍「え?」

側近「……まさか。有り得ない。世界中に放散したのだ」

勇者「魔剣を身体に取り込んだ。おかげで剣を出す必要も、振る必要も無くなった。
そして、今ならば世界を形作っている粒子すらも読み取れる」

プシャアッッ

側近「っ……」

勇者「お前の両翼を斬り落とすこともできる。
しかし、龍は単体では無かったのだな」

側近「……敗北か。いつだって、魔物は北上するばかりだ」

勇者「お前のせいで多くの人間が死んだ。その生命で贖え」

龍「……勇者、こいつを見逃してやってくれないか。決して悪人では無いんだ。それに魔物の未来に必要な男だ」

勇者「それは無理だ。根源は絶たなくてはいけない」

側近「……良いだろう。しかし、これ以上無い恥辱を被る代わりに、今際の願いを聞いて欲しい」

勇者「……何だ」

側近「陛下を殺したのは私だと民、そして姫様に伝えてくれ。
魔剣を握らせて暗殺を目論んだと。王位を奪って、民を所有物にする為に反逆行為に及んだと。
骸と人狼は、私が姫様を人質にとって従属させていたと」

龍「……何を言っているんだ」

側近「陛下が崩御なさった今、姫様と貴女が政を担うことになる。
反人間派の私が極悪人となれば、民の心は貴女たちに傾くだろう」

勇者「……自分の行いを全否定してまで魔物の未来に貢献すると?」

側近「その通りだ」

龍「……お前は後世まで非難されることになるぞ。お前の今までの功績も忘れられ、全ての民に唾棄されるのだぞ」

側近「それで民が幸せになれるならば、甘んじて受け容れましょう」

龍「っ……」

勇者「……分かった」

側近「恩に着る」

ダッ

側近「……はあ!!」ブオンッ

ザシュッ

側近「ーーーー」

ドサッ

龍「……どいつもこいつも馬鹿だ!!」

勇者「……」

龍「どうしてっ……!」ポロポロ

黒「勇者!」タッタッタッ

勇者「……黒」

フラ

勇者「……限界か」

バタッ



勇者「ーーーー」

龍「……勇者?」

黒「はあ……はあ……。どういう……こと……?」

龍「おい、起きろ。……起きろ!」

勇者「ーーーー」

黒「勇者……。起きて……」

勇者「ーーーー」

黒「そんな……」


魔姫「……黒ちゃん」

黒「え……」

龍「魔姫、どうして此処に……」

黒「魔姫……」

ドクンッ

黒「…………ぁ」




どうしよう。?


このままじゃ、わたしはあの子を傷つけてしまう。?


どうすればいいの??


どうすれば……。?


ーーああ、そっか。?


簡単な方法があった。?


わたしは、わたしのーーーー?



活動目的を封じ込めちゃえばいいんだ。



花飾りのーーーー


ーーー黒ちゃん?


お姫様みたいーー


釣れーーーー


お魚ーーーー骸がーー


お父さんとーーーー


ーーーーお母さん


お城のてっぺんーー


側近にーーーーーー


ーーーー今度イタズラ


……雪だ?


国中のみんながーー


ーーーーあったかいスープを


龍さんはーー


みんなが幸せにーーーー誰も幸せになれないからーー

なのましんだっけ?


どうして昔の人は黒ちゃんを造ったのかな?


それはーーーー



黒「双魔アシュビンの破壊」


黒「そして、媒介者の処分」

黒「……全部思い出した。本当に全部」

黒「……勇者。せめて剣から解放してあげる」

スッ

龍「……黒?」


チュッ

ーーーーーー
ーーーー
ーー


「僅かばかりの時間を稼いでやる」

誰だ?

「今はお前だよ。代わりに消えてやるって言ってるんだ」

……訳が分からない。

「とにかく、お前は生き残れるんだよ」

……理解が追い付かないが、吾人は罪深い人間だなのだからこのまま消えた方が良い。

「あのな、お前は俺になれるけど、俺はお前にはなれないんだよ」

そうだとしても。

「お前にはまだやれること、やるべきことが有るだろ。
それに、ちょっと引き延ばすだけだからあんまり関係ねえよ」

…………

「妹の事を頼む」

ーーああ、お前は……。

「じゃあな」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

勇者「……う」

龍「……勇者?」

勇者「……龍」

龍「っ……」

ギュゥッ

龍「……心配させるな! ばかっ!」

勇者「……すまない。……黒は?」

龍「魔姫と、側近と狼の遺体を終の国に運びに行った。
剣の力の残滓を掌握したとかで、凄まじい力を手に入れたようだ」

勇者「……なるほど。確かに剣の力が消えている」

龍「ああ、それと。黒はーー」

黒「……勇者!!」ガシッ

勇者「かはっ……!」

黒「あ、ごめん。強過ぎた」パッ

龍「戻って来たか。早いな」

勇者「……黒か?」

黒「うん」

勇者「その姿は……?」

龍「まあ、そういう事だ」


黒「……わたし、大人になっちゃった」

次の投下で完結しそうです。
ここまで見ていただいてる方には感謝でいっぱいです。

黒がゼノギアスのエメラダににてるな。ナノマシンの集合体やら記憶思い出したら成長して大人になるとか

酉てすと。
>>429
このssはもともと、
久しぶりにゼノギアスやりたい→家宅捜索→見つからねえ!→フラストレーションを原動力にゼノギアスの二次創作でも書くか→口調とか細かい設定忘れた……
こんな経緯で書き始めました。
ゼノギアス面白いよね。やらないと人生損するよ。
さあ、みんなもゼノギアスやろうぜ!(ゼノギアスのダイマ)

ーーーー三ヶ月後・初の国・王城ーーーー


勇者「久し振り」

初大臣「……勇者。生きていたのか」

勇者「ああ。……城内は混乱しているらしいな」

初大臣「その通りだ。陛下が唐突に崩御なさったからな。
……お前も王座を狙いに来たのか?」

勇者「全く興味ない。魔王を倒した報酬として姫を貰いに来ただけ」

初大臣「……ほう。承諾すると?」

勇者「お前は若い皇太子を王位につけてその右腕として権力を握るつもりだろう。姫の存在は目障りなはずだ。そして吾人の事も」

初大臣「……」

勇者「ここで取引だ。姫を寄越せば吾人は今後二度と初の国に干渉しない。
お前にとってはかなり好条件のはずだ」

初大臣「……分かった。好きにしろ。どうせ有用性は低いからな」

勇者「利口な判断だ」

スタスタ




姫「……」

勇者「初めまして」

姫「……」コク

勇者「君は、勇者と呼ばれる男を知っている? 吾人の事なんだけれど」

姫「……」コク

勇者「その勇者が君を引き取りに来た」

姫「…………」コク

勇者「……喋れないのか?」

姫「……」コク

勇者「……初王は秘匿にしていたのか。おそらく参王にも」

姫「……」

勇者「……瞳を見れば分かる。君は聡明な娘だ」

姫「……」

勇者「暗殺、良くて幽閉、最良で政略結婚が君の未来に敷かれた道だ。
おそらく漠然と予見しているだろう?」

姫「…………」コク

勇者「吾人ならば新たな可能性を掲示できるかもしれない」

姫「……」

勇者「……君は、吾人が喪った大切な人に似ている。見初めた時から君が欲しかった。
感情が希薄になってからも僅かに残っていた仄暗い感情だった」

姫「……」

勇者「ーーでも今は違う。区切りがついた。彼女はもうこの世にはいない。
そして、誰一人として代わりにならない。その事を納得するのに時間がかかった」

姫「……」

勇者「吾人は、他の誰でもない君を救うと決めた。信じてくれ。
もしも吾人を信じてくれるならば、この手を取ってくれないか?」

スッ

姫「…………」

勇者「……」

姫「…………」スッ

ピトッ

勇者「……有り難う」ギュッ

姫「……」コク

勇者「これは、信頼してくれた礼だ」

姫「……?」

勇者「声を出してみてくれ」

姫「……?」

勇者「あー、って」

姫「…………ぁ-」

姫「……!?」

姫「……ぁ-、ぁ-」

姫「……」ケホッ

勇者「焦る必要はない。ゆっくりで良いんだ。
……知り合いに唄の上手い娘がいるから彼女に色々と教えてもらうと良い」

姫「……」コクコク

勇者「さあ、行こう」

姫「……」コク

ーーーー終の国・魔王城ーーーー


龍「目的の少女を連れて来たのか」

勇者「ああ。それで、新憲法発布に対する民の反応はどうだった?」

龍「うむ……。やはり戸惑いの声が多いな。施行予定日の一年後までに理解されていると良いが」

勇者「浸透させる為にも色々と試行錯誤しなければいけないな。
だが、亡命していた魔物を引き戻す事に成功した龍ならば大丈夫だ」

龍「……そうだな。私はあいつらの想いを引き継ぐと決めたんだ。
音を上げたりなんてできない」

勇者「その意気だ」

龍「……それでだな」

勇者「どうした?」

龍「人間との友好……はまだ早過ぎるとしてもなるべく人間に対する抵抗を緩和していかなければいけない」

勇者「そうだな」

龍「そ、それでな。やはり上層部の者が先例となるべきだと思ってな。そ、その、人間との間に子を為す、とかな?」

勇者「……ああ」

龍「魔姫はまだ幼いし、黒は厳密には魔物でないからな。し、仕方が無いから」

勇者「城の女中か」

龍「上層部と言っただろ!」

勇者「じゃあ龍しかいないな」

龍「そ、そうだ。あ、えっと……」

勇者「…………」

龍「……そんな険しい顔をしているという事は、お前は私と交わるのが嫌なのか?」

勇者「……そういうわけでは無い。しかし、今はそれよりもする事が有るだろう」

龍「……そうやってごまかしてるだけだろう。どうせ私のこの姿は仮初に過ぎないしな。お前の嗜好からは外れるんだろ」プイッ

勇者「……龍」

ギュッ

龍「……離せ! おいーーんむっ!?」

龍「ん……んむ……んくっ…………ぷあっ」

勇者「もっとする?」

龍「あ、え、ええと……その……」カァァ

龍「しょ、職務をおこなってくる!!」

ダダダッ



勇者「……すまない」




魔姫「ねえねえ! これなに!?」キラキラ

師匠「こらクソガキ! 危ねえからウロつくな!」

伍少女「これ、なんだろ?」ツンツン

師匠「そこのチビガキも勝手にさわんな!」

参少女「あはは……にぎやかだね……」

初少年「ホントにね」

ガチャ

勇者「……随分と楽しそうな様子だな」

師匠「おい阿呆! 話がちげえぞ! ワシは技術者として終の国に呼ばれたのに、これじゃ本当に孤児院じゃ!」

勇者「師匠なら大丈夫」グッ

師匠「大丈夫じゃねえよ! この阿呆! 過労死するわ!」

勇者「ところで進捗状況はどう?」

師匠「流しやがって。……まあ、ぼちぼちじゃな。この国には鉱床も有るし、油田も見つかった。何よりリンが大量に有るのは強みじゃな。
いくらでも伸びる可能性を秘める。冬を越えたら先ずは農業改革じゃな。
最初に数を増やして労働力を増して行く必要がある」

勇者「なるほど」

師匠「次に重工業。魔物には鉄鋼業を営んできた歴史がないらしい。
これは旧体制がなく、効率重視の新体制を立てやすいという肯定的な面もある」

勇者「……そういう見方も有るのか」

師匠「色々な側面から物事を見ろといつも言ってるじゃろうが阿呆」

勇者「しっかり憶えている」

魔姫「わあ! この水くさぁい!」

師匠「ばっ……! ごるぁ! 危ねえからやめろっつってんじゃろ!」

参少女「ひぅ……」

初少年「君に怒ったわけじゃないから大丈夫だよ」

参少女「う、うん……」

魔姫「きゃー、逃げよっ!」

伍少女「うん」

タタタッ

ガチャ

師匠「……ったく」

勇者「ーー師匠」

師匠「あん? 何じゃ改まって」

勇者「身寄りの無い自分を拾ってくださり有り難うございました。
住む場所を着る服を食事を与えてくださり有り難うございました。
たくさんの事を教えてくださり有り難うございました」

師匠「……」

勇者「貴方に出会えて良かった。恩返しは何も出来ていなくて済みません」

師匠「……阿呆が。ガキはいいから黙って面倒見られてやがれ。
……見返りなんざ腐るほど貰ってるんじゃ。阿呆が」プイッ

勇者「……」ペコッ

初少年「……お兄ちゃん」

勇者「……お前は、ここにいる幼女たちを守れるくらい強い人間になってくれ。最後には世界を救えるくらい強くなってくれ。お前なら出来る」

初少年「……もちろん!」

勇者「……本当に大きくなった」ニコ

スタスタ

ガチャ




ハラハラ…

勇者「……雪か」

?黒「……勇者」

勇者「黒。姫は?」

黒「魔姫たちと遊んでる」

勇者「そうか。あの娘は誰とでもすぐに仲良くなるな」

黒「……ねえ、わたしがあげたアシュビンの力を使ったでしょ?」

勇者「……ああ。吾人が彼女の為に出来る事はそれくらいしかなかった」

フラ

勇者「おっと……」ボスッ

黒「……勇者はもうアシュビンの力無しでは生きていけないんだよ?」

勇者「そうらしいな」

黒「それを自覚してるなら無闇に使わないでね。今もう一度渡す」

勇者「……黒」

黒「なに?」

勇者「その力は世界中に放つことが出来るだろう? 吾人も一度は手にしたから知っている」

黒「うん」

勇者「他者を癒す事だって出来る。つまりは肉体に影響を与える事が出来る」

黒「……何をすれば良いの?」

勇者「幸せの種を蒔いて欲しい」

黒「……幸せの種?」

勇者「誰もが心から幸せを願った時に発現する優しさの回路を組み込んで欲しい。出来るか?」

黒「……やってみる」





黒「……できたけど」

勇者「また子どもに戻ったか。黒はそっちの姿のが可愛い」

黒「……どうしよう。勇者の分の力が残ってない」

勇者「それで、良いんだ……」

トサッ

勇者「やるべき事は終えた……。龍には悪い事をしてしまったけれど」

黒「勇者……」

勇者「もう、顔が、よく見えない……。喋るのも、億劫だ……」

黒「…………」ポロポロ

勇者「おやすみ……」ニコ

黒「……勇者?」ポロポロ

勇者「ーーーー」

黒「……」

ピトッ

黒「……まだ、あったかいね」

ギュッ

黒「ーーおやすみなさい」ニコ


ーーーーーー
ーーーー
ーー


「……」ペラッ

「なあ、何読んでんの?」

「昔話。まだ人間と魔物が敵同士だった時代の」

「物凄い昔じゃん。物好きだなぁ」

「まあね」

「面白いのか?」

「結構ね」

「どんな話?」

「うーんとね、ざっくり言うと」

「うん」


「幼女が大好きな、変態でちょっとかっこいい勇者の話」

おしまいです。
おやすみなさい。
html依頼は明日起きたら出します。



次回作はどんなの何だろうなー気になるなー(チラッ)


html依頼スレで見てスレタイに釣られて見に来たら
「暇だな」スレの人だったのか
落ちる前に読めてよかった

縦読みはもう入れないのかww

おつかれさまでした。
過去作のWIKIがぶっ壊れたのは残念ですが
スレ終わる前に見つけられて良かったです
今までは端末の(チベット自治区)を目印に探してたのですが
次回は>>431にあるトリップ目印にして探せば良いのかしら?

>>451
次こそは小説形式のエルフssを書きたいと思ってるんですが、時間が無いです。
取り敢えず深夜の方で乗っ取ったスレを完結させたいです。

>>458
二回も同じことをするのはつまらないじゃないですか。

>>459
せっかくwikiを作成していただいたのに残念です。
鶏頭なので直ぐに酉を忘れるかもしれません。あまり当てにはならないと思います。


ここまで見てくださりありがとうございました。

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