垣根「そんな垣根は飛び越えてやる」(826)

※投下速度はゆっくりめ
※主人公は最新刊で復活フラグの立ったていとくん。
※キャラ崩壊、というかつかみきれてない。メインキャラにかぎって。
※独自の設定が出てくるかもしれませんのでご注意を。
※物語の時系列は最初は上条さんと美琴が出会う前からというかなり昔からのスタートです。
※新約の内容も含みます。というかメインキャラに新約最新刊のキャラが出ます。
※俺の文章力に常識は通用しねぇ。



 こんな感じでよろしくお願いします。

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   よく晴れた暖かい日の昼下がり。


 街中に正体不明の技術が溢れている科学の最高峰、学園都市でも小鳥が囀る程度の自然さは残されているらしい。
 道を歩く学生達も、穏やかな天候に気分を良くしているのか、笑顔で談笑をしていたりじゃれ合っていたり、恋人同士で手をつないでいたりしていた。
 中には腕に風紀委員【ジャッジメント】と書かれた腕章をつけた凛々しい顔つきの学生や、警備員【アンチスキル】と呼ばれる学園都市内の警察役を任されている教師の姿もある。
 いつも通りの、学園都市の平和な日常風景。






 だがそこに一人、平和を満喫する人々に混ざり切れていない人物がいた。

 金と茶の中間辺りの色をした髪の、それなりに高身長の少年は両手をポケットに突っこんだまま、だるそうに歩いている。
 すれ違った女性の十人に九人ほどが振り返りそうな整った顔立ちをしたこの少年の名は垣根帝督。
 二百三十万もの人間を抱える学園都市の頂点、七人しか存在しないレベル5の第二位に君臨する科学サイド最強クラスの怪物だ。

 垣根は『スクール』と呼ばれる学園都市の裏側で活動する暗部のリーダーでもあるのだが、彼も書類上は学園都市内で最高峰の学校に通っている学生であり、表の人間に混じって買い物をしたり映画を見に行ったり、お洒落なカフェに行ったりもするのだ。
 



 そんな垣根は、自分が暗部で活動しているという事がばれると厄介な事になるというのは十分すぎる程に理解している。
 が、しかし彼はそんな考えはどこかに吹き飛ばしてしまっているのか、一般人から見ても、明らかにカタギの人間じゃないだろうと思える程に恐ろしい迫力を放っていた。
 理由は一つ、垣根はとある女性に呼び出されたのだ。


(クソ、面倒くせぇ……が、行かねぇと行かねぇで余計面倒くせぇ事になるんだよなチクショウ)


 すれ違いざまに垣根と肩がぶつかったスキルアウトらしき不良少年が垣根を睨むが、振り返った垣根が睨み返すと少年はコソコソとその場を去って行った。
 人が死ぬのが当たり前の裏の世界で生き抜いてきた第二位の垣根と、一端のモブ不良少年では出せる迫力にはあまりにも差がある。






 ―――
 ――――――
 ―――――――――


 それから十分ほど歩き、垣根の目に見えてきたのはお洒落な雰囲気のカフェテリアだった。
 屋外にテーブルと椅子を何組か設置しており、店内にも同じようなセットが幾つか見える。
 天気が良いためか、今は屋外の席の方が人気があるようだ。
 時刻は三時を少し過ぎたあたりで、学校帰りの女子学生などが何組が談笑している。
 垣根もビジュアルだけならどれほどお洒落な場所に踏み入っても何の違和感もないのだろうが、如何せん今の彼からにじみ出るイライラ具合はお洒落なカフェを今すぐ世紀末の荒野に変えかねないほどだ。
 実際、その程度なら一瞬で出来るから性質が悪い。

「あら、来てくれたんですね」


 そんな阿修羅的雰囲気を纏う垣根に声がかけられた。
 今の垣根に声をかけるのには相当な勇気が必要なはずだが、声の主はまるで幼子に声をかけているかのような、穏やかな口調だった。


「テメェが呼び出したんだろうが」

 
 ぶっきらぼうに返事を返し、垣根は声の主の向かい側の席に座る。
 

「あらー? あらあら、どうしてそんなにイライラしているのでしょう?」


 紅茶の入ったティーカップを、ティースプーンでカチャカチャかき混ぜながら声の主は垣根に尋ねる。
 垣根はジロリと声の主を数秒睨んだが、やがてため息を吐いた。







「……一か月前から予約を入れてた、旨いが滅茶苦茶人気のあるイタリア料理の店に行く予定だったんだよ。なのにテメェの呼び出しで台無しだ、どうしてくれんだ」





「……まさかそんな理由とは私も思っていませんでした」


 たったそれだけで彼は迫力だけで人が殺せそうなほどに苛立っていたのか。
 が、普段ドロドロとした闇の中で生きている垣根にとって、表の世界で楽しみにできる事、と言うのはとても貴重なものだ。
 もしかしたら、表情や言動には出していなかったかも知れないが、垣根はその店を訪れる事をとても楽しみにしていたのかもしれない。


「第二位のコネクションや権利を使えば、予約なんて必要なさそうですけど」

「馬鹿、メシ食いに行くのにわざわざ特権振りかざすのなんざダサすぎるだろ。そういうのは雰囲気重視なんだよ。パズルをコンピュータで解いても何も面白くねぇのと同じだ」


 単純にその店の料理が食べたいのではなく、ある程度我慢と苦労をして、その上で人気の料理を味わいたい、というのが垣根の不満の理由だった。
 声の主は半分呆れ、半分垣根の意外な子供っぽさにやや和まされながら、紅茶で唇を湿らせてから口を開く。

「まぁまぁ。今度私がご飯を作ってあげますよ」

「あ? アンタ料理出来んの?」

「やった事はありませんが、雰囲気でどうにかなるでしょう」

「料理をナメてやがるな。愉快な残骸が出来そうだ」


 垣根は近くに居た店員に紅茶とサンドイッチを注文し、改めて声の主の顔を見つめた。


「……」

「何です? すっぴんなのであまり顔は見つめてほしくないんですが」

「アンタがすっぴんとか気にするタイプとは思えねぇがな」


 声の主は女性だった。
 
 やや薄めの茶色の長い髪を、後頭部辺りで白いリボンを使い束ねている。少女と言う程幼くはないが、若く綺麗な人だ。
 それだけならば、お洒落なカフェが良く似合う美人のお姉さんという表現でぴったりかもしれない。
 が、女性の服装は悪い意味で目立ってしまっていた。
 私服で歩いている人よりも学生服で歩いている人の方が多いこの時間帯、女性の服装は学生服でも私服でもなく、薄い緑色のパジャマだった。
 おまけに座っているのは垣根が現在腰を掛けているカフェ専用の椅子ではなく、何やらゴチャゴチャと様々なボタンやレバーや部品がカスタマイズされた車椅子。
 まるで病院から抜け出してきた、もしくは崖の上に建てられた病院が舞台のサナトリウム的小説の登場キャラのような外見だ。
  




 彼女の名は、木原病理。





 知っている人物が聞いたならば、それだけで震え上がるような悪魔の称号。『木原』の姓を持つ女性である。

「失礼な、私にだって一般女性的感性はあるんですよ?」

「へぇ、たとえば?」

「うーん、そうですねぇ……あ、ホラー映画とか嫌いですよ? 本物より血や臓物がチャチですし、殺し方も非科学的なうえに効率が悪くてイライラします」

「やっぱアンタおかしいわ。今すぐ謝れ全国の一般女性に」


 垣根がツッコミを入れると、病理はクスクスと笑った。
 服装や雰囲気、そして朗らかな笑顔だけ見ると入院中の薄幸のお姉さん、という世の男どもが放っておかなさそうな超優良物件に見える――が、垣根は知っている。
 木原病理という女は、自分以上にドロドロとした闇の中で他を嘲笑う悪魔だという事を。

「ここのお店は円周ちゃんが教えてくれたんですけれど、案外美味しいんですよ」


 まるで部屋に置くインテリアのように凝った造形のモンブランを小さなフォークで少しずつ食べる病理。
 垣根はそんな様子を静かに見つめながら


「美味いのはいいけどよ、太るんじゃね?」

「……」


 ピタッ、と病理の手が一瞬だけ止まった。
 朗らかな笑みを浮かべていた顔も、わずかにだが引きつったような気がする。


「……ナノマシンや矯正器具で、いくらでもどうにもなります」

「アンタがダイエット使ってる所なんて想像もつかねぇんだが……」

「女の子にそういう事言っちゃダメですよ」

「女の子? どこ?」

「……」

「ごめんなさい」

 垣根が潔く頭を下げ、何とか許しを得て顔を上げると、店の中から出てきた店員が垣根の元へ一直線に近づいてくるのが見えた。
 お待たせしましたー、という声と共に垣根の前にサンドイッチと紅茶が置かれる。
 チキンカツやレタスやトマトなど、たくさんの食材が挟まれているサンドイッチを見て垣根はゴクリと喉を鳴らした。


「そっちの方がカロリーは過ごそうですけどねぇ。アナタもスタイルいいのに」

「ああ、俺いくら食っても太らない体質なんだよ」

「……その体質、殺してでも奪い取りたいですね」

「アンタが殺して奪うとか言うと洒落に聞こえねぇんだよ……」


 やや引いた様子の垣根はサンドイッチを齧りながら冷や汗をかいていた。
 この女ならば、自分を捕まえて眠らせ、地下深くの実験室で解剖するくらいの事は平気でやりかねない。

「……つーかさ、何で俺の事呼んだんだよ」

「それはいつもの通りです。垣根帝督」


 病理はニコリと笑う。
 怖気が走る笑みだ、と垣根は思う。


「第二位、垣根帝督。未元物質【ダークマター】……未知の法則を操る存在しない物質を操る超能力。私はどんな能力よりもアナタの能力に興味があります」

「……へぇ」

 未元物質【ダークマター】
 それが、垣根を学園都市第二位足らしめる能力。
 この世に存在する絶対的法則、常識を塗り替える事が出来る『存在しない物質』を生み出す超能力だ。
 純粋な戦闘力では、第一位の能力に劣るかもしれないが、既存の法則に縛られぬ力を発揮する未元物質が生み出す科学的価値や利益は、第一位を上回ると言っても過言ではない。
 だがしかし、学園都市のレベル5の序列とは戦闘力ではなく、能力研究の応用が生み出す利益が基準である。
 ならばなぜ、垣根帝督が第二位で、第一位の少年が第一位であるのか。
 その理由は至極単純明快だ。


 
 第一位の能力は、第一位になるべく意図的に開発された能力なのだから。



「解せねぇな。確かに俺の『未元物質』は、俺自身でも完全に掌握し切れてるとは言い難い未知の能力だ。が、普通研究者ならクソッタレの第一位の方に興味を持つんじゃねぇのか?」

「そうですねぇ、実際、第一位の能力を発現、研究、成長させたのも私ではない別の木原です。その木原とは別の木原もなんだかんだで第一位に関わってたりするんですが、私はそれでも第一位の能力よりもあなたの能力に興味があります」

「酔狂だな」

「聞くまでもないと思いますが、学園都市総括理事長のメインプランはご存じでしょう?」

「……!」

 メインプラン。
 第一位を中心とした、学園都市統括理事長の全て。
 それは、垣根にとっての全てでもある。


「第一位の能力を作り出すためだけに学園都市は作られ、五十年以上の年月をかけたとすら言われています。実際、それほどの価値がある能力であることは疑いようがありません」

「気に食わねぇがな」

「ですけども、つまりは第一位が第一位であることは最初から必然だったという事です。最初から最強が確定している物を研究しても、面白味がないと思いません?」

「……」

「たとえば、金という物質は人工的に作る事は不可能ですね。ですが敢えて、第一位は人工的に作り出された金だとします。その場合、その金の科学的価値はつけられないほどに高くなるでしょう。ですが、人工的に造られた金であろうと、採掘場で掘り出した金であろうと、どちらも金である事には変わりないです」


 人工的に作られた金と、自然に生成された金。
 どちらも同じ物質である事には変わりない。
 養殖の魚であろうと天然の魚であろうと、魚の種類は変わらないように。
 それが金であるのなら、それだけで価値は十分すぎる程に存在する。

「まぁ、個人的にも私はアナタの事を気に入っているんですよ?」

「アンタが気に入ってるのは俺じゃなく、俺の能力だろうが」

「いえいえ、まぁ確かに興味の七割はアナタの能力、二割はアナタの存在そのものに向いてます」

「残りの一割は?」

「木原病理という一人の女性が、垣根帝督という一人の男に持っている興味です」

「……そりゃあ嬉しいね」


 垣根の言葉は、当然嘘である。
 木原病理のような人間に興味を持たれる、という事はすなわち、死ぬまで実験、利用され続けるという事にも等しいのだから。

「要するに、最初から頂点であることが決まっていた能力よりも、自身の才能で第二位に至り、メインプランの代役たるスペアプランに選ばれたアナタにこそ、私は価値があると思います」

「……まぁ、七人しかいねぇレベル5の中でも、第一位と俺の能力だけが飛びぬけてるってのは間違いねぇだろうな。第三位以下は俺達とは比べ物にならねぇし」

「それぞれ価値がない、とは言いませんけどねぇ。0次元の極点だとか、脳波をリンクするクローンだとか。ああ、希少性という点では第七位もかなり優秀なんですけどねぇ」


 最も、木原にとって無価値な存在というものは存在しない。
 希少ならば実験材料に。
 無能ならば実験材料に。
 不要ならば実験材料に。
 必要ならば実験材料に。
 
 何であれ、何かしらの実験に役立ててしまう木原にとって、この世は材料溢れるパラダイスなのだ。


「で、結局のところアンタは俺をどうしたいってんだ?」

「一番理想的なのは、能力を吐き出すだけの実験器具になってくれるというのなんですけども」


 とんでもない提案を柔和な微笑みと共に病理は垣根に持ちかける。

 当然垣根が飲むわけはないと病理はわかっているし、逆にうなずいてもらっても困る。
 どうせそうなるならば、悲劇的な状況の上での方がいい。
 理想も、夢も、野望も、願いも、その全てを折られ闇に堕ち、あらゆる事を『諦め』てくれるのが、病理にとって最も理想的だ。


「わかっててそういう質問をするのは性格が悪い証拠だな」

「木原なんですから、性格が悪くないとやってられません」


 ニコリと病理は笑う。
 嗤う。


「……ま、その提案は却下だ。俺はもう行かせてもらうぞ。ここは俺が奢ってやる」

「あらあら、悪いですねぇ」

「次にデートに誘う時は、タイミングを考えた上でもうちょい楽しませてくれよ?」

「病理ちゃんは男の人にエスコートしてもらいたいタイプなんですけどね」

「似合わねぇな」

「安心してください、自覚はありますので」


 垣根は二人分の料金にしてはだいぶ多い金額をテーブルの上に置き、サンドイッチも紅茶もほとんどを残してその場を立ち去る。
 一度だけ振り向いたが、病理はニコニコとした表情でモンブランを頬張っていた。
 まるで闘病映画のヒロインのような絵面だが、垣根にとってその光景は日常風景に悪魔が紛れ込んでいるという性質の悪い物にしか見えなかった。


 ―――
 ――――――
 ―――――――――





 垣根はとある公園に来ていた。
 理由は遊具で遊ぶためでもベンチで休憩するためでもなく、殆ど紅茶に手も着けずにカフェを立ち去ったために喉が渇いており、何か水分を欲しいと感じたためである。
 公園内に設置されている自動販売機の販売しているメニューにざっと目を通し、そのラインナップの奇天烈さに多少うんざりしながらも垣根は千円札を自販機に投入した。


「さーて、何を飲むか……ん?」


 そこで垣根は違和感を覚える。
 本来、お金を投入すれば自販機のボタン部分は光り、ディスプレイに投入金額が表示されるはずだ。
 が、そこにあるべき電子表示はなく、ためしにボタンを押してもウンともスンとも言わない。
 払い戻しレバーをガチャガチャと動かしても、お金は戻ってこない。

 つまりは、飲み込まれたのだ。


「クソ……自販機蹴り飛ばしたら出てこねぇかな」


 科学の街の頂点で、原始的でアナログな方法を垣根は試そうとしたがやめておいた。
 やたら高性能な防衛システムが搭載されている自販機に蹴りでも入れようものなら、すぐにでも警備ロボットがやってくるだろう。


「金には困ってねぇが、こういうのは腹立つな……クソ、今度あの車椅子女に学園都市中の自販機の改良でもさせてやろうか」


 こんな提案をされればさすがの病理も苦笑するかもしれない。
 が、それも一興だ。
 あの木原に微妙な顔をさせると言うだけでも、胸がすくような気持になるだろうから。






「ねぇアンタ、どうかしたの?」




ふと、後ろから声がした。
 それが自分に対してかけられた声だと、垣根は数秒してから気づき振り返る。


「ああ、ちょっとな」


 適当に流し、立ち去ろうと垣根は考えていた――が、そこに居たのは予想外の人物だった。
 茶色い髪に整った顔立ち、身に纏っている制服は名門常盤台中学の物だ。
 垣根はその少女と初対面であった、が、その顔は知っていた。
 その存在を機密として隠されている第一位や垣根、第四位などとは違い、学園都市で最もメジャーなレベル5である少女。



 学園都市最強の電撃使い、【超電磁砲】の御坂美琴。



 垣根に次ぐ、学園都市のレベル5第三位の超能力者だ。

「……何? 人の顔じっと見つめたりして」

 
 美琴の言葉で垣根ははっと我に返る。
 

「ああ、悪い。アンタは有名人だからな、ちょっと驚いてただけだ。第三位の超電磁砲」

「そう? 私的にはあんまり目立ちたくないんだけどね……顔が割れるっていうのは色々と面倒なのよ」


 それは垣根にもよくわかる事だ。
 学園都市の暗部、表には決して公表できない汚い仕事を請け負っている垣根は自分の存在をなるべく隠さなければならない。
 もしも表に顔が割れてしまえば、暗部で活動することは難しくなる。
 だからこそ、垣根は書類上はとある有名校に所属しているのだが、一度たりとも学校に行った事はない。
 そもそも、垣根に何か学問について教えられる教師など存在しないだろうが。

「っと、ちょっとどいてもらえる? 私もジュース欲しいんだけど」

「ん? ああ、悪ぃな」

 
 垣根は自販機の前から移動しようとして、先ほどの出来事を思い出す。


「あー、その自販機はやめといたほうがいいぞ、さっき俺の金飲み込みやがった」

「知ってるわよそんな事」

「……?」


 知っているのなら、美琴はどうやって飲み物を買うというのだろうか。
 まさか金を投入して表示されるか否か、なんていう分の悪すぎる、というか何の意味もない賭けを興じるつもりなのだろうか。



 が、美琴の行動は垣根にすら予想できない物だった。






「ちぇいさーっ!!」





 凄い音がした。
 それよりも、すごい光景を垣根は目の当たりにした。
 常盤台中学というのはいわゆるお嬢様学校であり、入学条件にレベル3以上という厳しい条件を設けている。
 王族ですら入学条件を満たしていなければ、入学を断られるという噂もあるほどで、厳しい校則と厳重な情報管理体制は有名である。
 そんなお嬢様の花園たる中学校に通う、レベル5の第三位の少女は、自動販売機に渾身の蹴りをブチ込んでいた。


「………………」


 まるでプロレスを見ているかのような、絵にかいたような美しいキック。
 垣根は自分の中のお嬢様像という幻想がぶち壊されてしまったような気持ちになった。
 どこか遠い目で美琴の背中を見つめていると、少し遅れてガゴン、という音がした。
 美琴はしゃがみこみ、飲み物の取り出し口から二本の缶を取り出す。

「ヤシの実サイダーに豆腐カルピス。まぁまぁって所ね……あ、ちょうど二本出てきたし、一本上げるわ」

 
 そういって美琴は片方の缶を放り投げる。
 垣根はそれを片手でキャッチした、見ると缶には豆腐ジュースと印刷されている。


「……開発者は何考えてんだろうな」

「色々と実験も兼ねてるんでしょうけど、いちごおでんは本当に作った人の脳構造を疑うわね」


 プルタブを開け、腰に手を当てながらヤシの実サイダーを勢いよく飲む美琴。
 ぷはーっ、と風呂上がりのおっさんのようなアクションまで完璧だった。
 何故かわからないが切ない気持ちになった垣根は必死に涙がこぼれそうになるのを堪えていた。
 負けるな垣根帝督。
 漫画に出てくるような純情女子中学生なんて現実には存在しないだんあんて、わかりきっている事だろうが。
 こ
 

「ていうか、アンタが私の事を知ってるのに私がアンタの名前を知らないって言うのもなんだかアレよね。ちょうどいいわ、自己紹介しない? 私も序列や能力名で呼ばれるよりも、名前で呼ばれたいし。私は御坂美琴、アンタは?」

「……」


 垣根は名乗るかどうか悩んだ。
 本来なら、裏に関わらず表で生活している美琴に名乗るべきではないのかもしれない。
 垣根と関われば、学園都市のドロドロとした闇に関わることになるかもしれないのだから。
 

「……垣根、垣根帝督だ」


 が、垣根は名乗った。
 深い理由はなく、ただの気まぐれ。


「そ、よろしくね垣根……さん、よね? 多分私より年上っぽいし」

「そりゃアンタ程ガキじゃねぇさ。なんだそのかばんについた気持ち悪いカエルのストラップ」

「な! これはねぇ、ゲコ太っていう超キュートなマスコットなのよ! この可愛らしさがわからないなんて、人生の九割は損してるわね」

「オマエの人生やっすいなぁ……」

「失礼な奴ねアンタ……って、あー! 思い出した!」

「あ?」

「今日の九時から二年前に公開されたゲコ太の映画のテレビ版の放送があるんだった! 買い物にでも行こうかと思ったけど、中止ね。よかったー思い出して」


 じゃねー、と美琴は軽く垣根に手を振ってその場を駆け足で去っていく。
 残された垣根はショッピングよりもカエルが主人公のアニメ映画を優先するお嬢様学校に通う中学生の後姿を見て少しだけ切ない気持ちになった。


 その程度の、会話。
 その程度の違いで、物語は大きく変わる。
 この後買い物に行くはずだった美琴は不良少年に絡まれることもなく、おせっかい焼きなツンツン頭の男子高校生に助けられることもない。
 繋がるはずの糸は、繋がらなかった。
 その代り。
 繋がらないはずの糸が、繋がった。



 魔術の姫と出会う事になる幻想殺しと、科学の姫と出会った未元物質。
 







 この二人の物語は、今はまだ交わらない。

木原病理ちゃんはもっと活躍してもいい。本気がネッシーの病理ちゃんは可愛い。

某SSの垣根の格好よさと病理を見た相乗効果で書くことを決めたこのSSですが、よろしくお願いします。
レスはもらえるだけもらいたい欲張りな1です。あ、ごめんなさい石投げないで。

そんなわけで、次回もなるべく早いうち……今週中にはもう一度来たいです。
それではマンネリなSSかもしれませんが、興味を持ってくだされば嬉しいです。もしそうなれば感謝ッッッ!

では、また次回、失礼いたします。

予想をはるかに超える期待を寄せられていて、プレッシャーで涙目になりました。
こんばんわ、案外早くこれたので投下したいと思います。


……が、今回は短めであるのと、みんなのアイドル病理さんが出てきません。
代わりに、原作で垣根と一番つるんでた女の子のターンです。


それでは投下しちゃいたいと思います。

   前回までのあらすじ




病理「メ几
   木又してでも奪い取る」

垣根「やめて!」

美琴「ジュースは蹴って手に入れるもの」

垣 根帝督と御坂美琴が出会ってから一か月ほど経過したある日の事、垣根は自分が使っているアジトの内の一つに居た。
 靴を履いたままベッドに横になり、イライラとした様子を隠そうともせず、冷蔵庫の中から取り出した高級な酒をボトルから直接飲んでいる。


「一気飲みは体に悪いわよ?」


 殺風景な部屋の中に、清涼な声が響き渡る。
 垣根は首は傾けず、目だけ横に向けて、自分に話しかけてきた人物を視界にとらえた。

 大人びた印象の赤いドレスを身に纏った、十四歳ほどの少女だった。
 年相応の可愛らしさのある顔立ちだったが、あどけなさと妖艶さの入り混じる独特の雰囲気は何処か危険な香りを匂わせている。
 それは、普通の中学生が出せるような雰囲気ではではなかった。
 が、それも当然と言える。
 彼女もこの歳にして学園都市の闇を渡り歩いて来た猛者なのだから。
 

「テメェに心配される筋合いはねぇよ。心理定規」


 心理定規【メジャーハート】
 垣根の未元物質【ダークマター】のように、テレポートやテレパスのように学園都市の定めた能力名ではなく、個人でつけた能力名だ。

 彼女の能力は人間と人間の『心の距離』を自在に操る事が出来る、という物だ。
 たとえば、初めて会った相手と何よりも強固な信頼関係を築いたり、親友だった相手の中から自分に対して抱く感情をゼロにすることもできる。
 心と心の距離を測るばかりか、その距離を自由自在に変えてしまう能力。
 本来、長年にわたって築いていく他者への感情の積み重ねを、一瞬で崩すことも覆すこともできる。
 彼女にとって人が人に抱く感情など、足の指が当たっただけでデータが吹き飛んでしまうレトロゲーム並みに脆弱な物なのだ。


 ちなみに、彼女は決して本来存在するはずの人間としての名前は名乗らず、常に能力名を名乗る様にしている。
 垣根も別にそれについては気にしないことにしているのか、言及するようなことはしていない。
 ようするに、彼女の本名を知るものは彼女以外にいない、という事になる。


「何言っているのよ、私が心配しないで誰があなたの心配をするというの?」

「俺の母親もしくは恋人気取りか? 反吐が出る」

 
 垣根は吐き捨てるように言う。
 どうしてこんなにも垣根が荒れているのかと問われれば、その理由は先ほどまで行っていた『任務』が関係していた。
 上層部から命じられた仕事はいつも通り、裏でこそこそと動いている目障りな反乱分子の一掃というものだった。
 垣根は面倒ながらもその仕事に着手する。垣根のサポートは心理定規に任せ、垣根とは別の場所で他の『スクール』のメンバー2人も活動させた。


 
 しかし、『スクール』のメンバー2人は返り討ちにあい、その上垣根達の情報を吐かされた上で殺された。



 垣根は反乱分子達に予想外の不意打ちを受けたが、結局は傷一つなく敵を全て返り討ちにした。
 垣根はアドリブには強いが無茶ぶりは嫌いなタイプらしい。
 彼の体には傷はおろか、返り血の一滴すらつかなかったが、不意打ちをされるという事自体が垣根のプライドに傷を負わせてしまったらしい。
 プッツンと堪忍袋の緒が切れた垣根は、第二位に君臨する超能力を本気で振るい、無双という言葉はこういう場面を表現するためにあるのだ、と思える程に敵を蹂躙し尽した。
 スライム相手にパーティ全員同時にマダンテを放つような、そんなイジメレベルの破壊だった。
 

 が、垣根の中に溜まったフラストレーションはあまり発散されていなかった。


「やっぱり、裏切るってのは許しがたい行為なんだろうな。今度機会があれば俺も敵を脅して裏切らせてみようか」

「卑怯な手口はアナタっぽくないけど?」

「俺は馬鹿共みてぇに情報提供さを殺すような真似はしねぇよ。むしろ無事に帰れるように家の前まで送って行ってやる程度の心意気は見せる。見てくれの優れた女限定だけどな」

「ホストみたいな顔で紳士的な事を言われてもねぇ。というか最後の一言で台無しだけど」

「キャバ嬢みてぇな格好のテメェに言われてもな。むしろ最後の一言が真理だろ」

「はぁ、これだから男って生き物は……」

「人は外見だけじゃねぇっていうが、外見がまず第一の関門だよな。そこをパスして性格も良いってのが本当のいい女ってやつだ。自分はやさしい人間だって無駄にアピールする奴は顔も性格も醜くて見てられねぇよ」

「あなたのその顔でそんな事言われたら、多分その女の子自殺するわよ」

「俺は性格もいいからな」

「…………」

「コメントしろよ、冗談を無言で流されるのってキツイんだぞ」

 クスクスと小悪魔的微笑みを浮かべる心理定規と、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる垣根。
 どうやらほんの少しだけだが、苛立ちは解消されたらしい。
 軽口の応酬で多少マシになるのだから、実の所垣根はあまり本気で怒っているわけでもなかったようだ。
 最も、心理定規はその能力が示す通り、心についてのスペシャリストでもある。
 能力を使わずとも、多少は人心を掴む方法を心得ているのだ。


「そういえば、近いうちに新しいメンバーが追加されるらしいわよ? 名前は……ええと、忘れちゃったけど確か一人はスナイパーで、もう一人はネット関係に強い人だったかしら」

「何でもいい、俺の足を引っ張らず、俺の命令をちゃんとこなせる奴ならな。ああ、あと裏切らねぇって条件も追加しとけ」

「案外細かいわね。アルバイト情報雑誌にでも募集要項を載せておく? 『スクールメンバー募集中』みたいな感じで」

「その見出しだと普通に塾生募集みてぇだな」

 スクールという組織名をつけたのは何処のバカだったか、ああ、そういや電話主の野郎だったな、と垣根は一人で思いだしややブルーな気分に浸っていた。
 心理定規は自身の健康的な色をした爪に、丁寧にマニキュアを塗っている。
 やがて塗り終わると、ふーふーと息を吹きかけ簡単に乾かし、続いて携帯を取り出して何やら画面を操作し始めた。


「……何してんだ? まさかこれからデートとか?」


 心理定規は違うわよ、とやや苦笑しながら答える。


「アルバイトみたいなものよ、まだ時間はあるけどね。ホテルの一室で学者とか、そういう人と一時間くらいお喋りするだけ」

「……エロい事しないの?」

「しないわよ。私の客はそういうの求めてないし。……もしかして、貴方興味あるの?」


 ややニヤつきながら、心理定規は微妙に口元に笑みを浮かべて垣根を見る。
 まるで硬派な友人がコンビニでエロ本を買っている光景を目撃した中学生のような、からかい200パーセントの表情だ。

「その顔すげぇムカつく……つーか、テメェみたいなお子様体型に俺が欲情するわけねぇだろ」


 はっ、と馬鹿にしたような顔を垣根は心理定規に返す。
 心理定規も心理定規で、冗談を言っただけであり垣根の軽口など適当に流してしまえばよかったのだが、どうも彼女は彼女で垣根の相手をしている時はやや年相応の感情が出てしまうらしい。
 ムッ、とやや不満げな表情で心理定規な垣根に口の勝負を挑むことを決意した。


「そうね、あなたは最近呼び出しをしてくる年中パジャマ女に興味津々だもんね」

「なっ! て、テメェそれをどこで――」

 
 慌てたように垣根はベッドから飛び起き、心理定規に詰め寄る。
 心理定規はニヤニヤ、と言うよりもニタニタと表した方が雰囲気に合っているような、いやらしい笑みを浮かべながら追撃する。

「この前、偶然見たのよ。今度料理を作ってくれるとか言ってたみたいだけど、もうそんな関係なわけ? ……なんだか、さびしい気持ちになるわね。アナタは顔は良いから女友達とか女性の知り合いは多いけれど、結局深い関係になる女性は一人ももいない、みたいなタイプだと思ってたのに」

「何だそのふざけきった考察はオイコラ。……つーか、マジであの女はそういうんじゃねぇよ。オマエ、あの女の本性を知ったらドン引きだぞ」

「ま、そういう事にしておいてあげる。……うーん、でも、なんだかなぁ」

「あ?」

「今の所、たぶん一番あなたと距離の近い女って私だと思うのよね」


 心理定規の名が示す能力を使えば、垣根と自身の心の距離を測る事が出来るのではないかと思うかもしれないが、それは敵わない。

 超能力を支える最も重要な存在、自分だけの現実【パーソナルリアリティ】
 垣根のそれはレベル5第二位の称号に相応しく、並大抵の事では掌握されるどころか、揺るぎすらしないのだ。
 垣根の自分だけの現実を上回り、垣根の精神や能力に干渉する事が出来る能力者は、現在の所存在しない。今のところは。
 したがって、心理定規の能力では垣根との距離を知る事も、距離を操作することも出来ないのだ。
 

(……もしも私の能力が通用したとしたら、一体私はどうしたのかしら)


 今までに何度もした自問自答。
 答えはまだ、見つかっていない。

「……どうだろうな」

 
 垣根は肯定も否定もしなかった。
 心理定規以外の女がこのような事を言えば、垣根はすぐにでも否定したかもしれない。
 一人だけ接し方が違うのは、暗部仲間とはいえ多少の付き合いがあったからか。


「だが俺とテメェはあくまで暗部での仕事関係だ。距離が近いっつっても、それは心理的な意味じゃなく物理的な意味だ」

「じゃあ、せっかくだしもうちょっと仲良くしましょうよ。ね? 帝督」

「なにさり気に名前で呼んでんだよクソ女。テメェと慣れあう理由なんざ一ミクロンも存在しねぇよボケ」

「……そう、気分を悪くしたならごめんなさい」


 シュン、と心理定規の表情が暗くなる。


「……」


 垣根はその顔を見て、深くため息をついた。

 自分に刃向かったり、邪魔をしたりする者には一切の容赦しない垣根だが、彼はある程度フェミニスト的な一面を持っている。
 一般人は極力巻き込まないと固く誓っているわけではないが、ある程度見逃したり気を回す程度の事は垣根にも出来るのだ。

 
「……わかった、面倒くせぇ。好きに呼べ」

 
 垣根は渋々、といった様子で了承した。
 必要以上にすり寄ってこられるのが鬱陶しい、というのが理由の大半であるのは事実なのだが、それ以外にもほんのりと名前呼びを拒否した理由がある。
 学校にもろくに通わず、研究所生活をしてきた垣根にとって名前で呼ばれるというのは少々むず痒いものがあったのだ。


「あら、ありがとう」


 パッと心理定規は顔を上げる。
 先ほどまでの寂寥感、悲劇のヒロイン的な表情は影も形もなくなっていた。


「…………」


 この野郎、演技かよ。
 垣根の中にわずかながらに沸いた罪悪感は一瞬で鎮火し、火種ごと何処かへ吹き飛んで行ってしまった。

「じゃあせっかくだし、これから一緒にご飯でも食べに行かない? 最近煮込みハンバーグの美味しいお店を見つけたのよ。」

「何で俺がテメェと仲良く飯食わなきゃならねぇんだよ……」


 うんざりと言った様子の垣根。
 心理定規は向日葵の種が好物の小動物のように頬を膨らませながら、垣根の袖をクイクイ引っ張る。


「たまにはいいじゃない。一人でご飯って言うの寂しいもの」

「俺は一人を苦に思ったことはねぇよ」

「コミュ障の典型的なセリフね」

「誰がコミュ障だコラ」

「じゃあ行きましょうよ。あ、何ならあなたが私に手料理を振る舞ってくれてもいいけど?」

「テメェのハラワタ引き抜いてモツ鍋作ってやろうか」

 ねーねー、と心理定規は甘えた声を出しながら垣根の袖を引っ張ったり、頬を人差し指でつついたりしている。
 垣根はしばらくそれを無視し、本気で怒鳴ってやろうかと真剣に悩んだが、最終的には諦めたらしく、大きくため息をついた。
 面倒臭そうに頭をガシガシと掻きながら、垣根はテーブルの上に投げ出していた財布と携帯を掴んだ。


「オラ、行くならとっとと行くぞ」

「行ってくれるの?」

「あ? テメェが行きてぇって俺をしつこく誘ったんだろうが。俺としちゃ反吐が出る程面倒くせぇが、このまま誘い続けるテメェの相手をするのも面倒だ。とっとと食いに行って終わらせた方がマシだ」

「……ねぇ、帝督」

「あ?」

「あなた、ツンデレって言われたことある?」

「ぶっ飛ばすぞクソ女」

 ブツブツと文句を言いながらも外へ向かう垣根の後を、心理定規はそれなりに楽しそうな表情をしてついていく。
 二人は特別な間柄ではない。
 決して仲良くするような関係ではないのだ。
 それは、心理定規も垣根もわかっている。
 必要以上の干渉など、暗部においては面倒事を生む厄介種でしかない。
 それでも、心理定規は垣根に対して、他の暗部の人間とは明らかに違った態度で接している。
 そこに何かの意図があるのか、それは心理定規にしかわからない。
 
 否。

 垣根との心の距離が測れない今、心理定規にも自分の感情が分かっていないのかもしれない。
 自分と垣根の距離はいったいどれほどなのだろうか。
 自分と垣根の距離は、垣根から見た自分の距離よりも近いのか遠いのか。
 それは誰にもわからない。
 

 ただ。


 ニヤニヤと小悪魔的笑顔を浮かべながら垣根の腕に自分の腕を回そうとしている心理定規とそれを全力で拒否している垣根の姿は、はたから見れば普通のカップルに見えたかもしれない。

 
 

今回はこんな感じでした。

明らかに原作よりも少女してる心理定規さんですが大目に見てください。
そういえば、カップリング要素というのはこのSSに出るのだろうか……ていとくんが誰かに好意を抱く光景が見えません。なので冒頭でもカップリング要素は注意点に挙げてなかったです。申し訳ない。


次回更新は日曜日あたりを予定しております。
そして、自分がSSを書いたらやってみたかったことの一つとして、前回のあらすじと次回予告というのがありました。

偉大なSS先駆者様の方式をちょいと参考にしながら、次回予告をやってみたいと思います。

それではまた次回、よろしくお願いします!

              『次回予告』








『そんじゃ、いつもの通り平和にお話合いをはじめんぞーっと』

――――猟犬部隊を率いる『木原』ファミリーの一人  木原数多(きはらあまた)




『はー、よぉーするにぶち殺されてカビの苗床になりたいって事ですねわかります。今すぐ喉元掻っ切ってやるからお行儀よく座っててちょーだいねェェー!』

――――“体験”を司る『木原』ファミリーの一人  木原乱数(きはららんすう)




『うん、うん、やっぱりこういう時には罵り合いながら参加するのが「木原」なんだよね』

――――及第点に到達していない『木原』ファミリーの一人  木原円周(きはらえんしゅう)




『はやく諦めてくれたら嬉しいでーす』


――――“諦め”を司る『木原』ファミリーの一人  木原病理(きはらびょうり)

こんばんわ、超電磁砲の漫画を買うかどうかで割と真剣に悩んでる1です。みさきちが見たいんだよなぁ……


そんなわけで更新していきます。今回は前回の予告通り、木原ファミリーの出番です。
出番が増えるよ、やったね病理ちゃん!


では、投下していきます!

   前回のあらすじ




定規「私のツンデレ帝督が可愛くて生きるのが楽しい」

垣根「ぶっ飛ばすぞ」


 
―――
――――――
―――――――――



 垣根と心理定規が一緒に食事に行く一週間ほど前の出来事。


 キコキコと車輪が地面をこする音がする。 
 明かりがつけられていない部屋だった。
 だが、暗くはない。
 部屋の壁一面に敷き詰められているかのように設置されている何十台ものモニターが稼働しているおかげで、手元が見える程度には明るかった。
 
 無数のモニター、それはテレビ電話の役割を果たすものだ。
 
 多数の人間が画面を通し、同時に離れた場所に居る人間達と会話ができる。映像つきチャットといえばわかりやすいかもしれない。




『そんじゃ、いつもの通り平和にお話合いをはじめんぞーっと』


 モニターの一つから、適当な声が聞こえてきた。
 男の声であり、画面に映っているのは短い金髪の白衣を着た男であった。
 それだけならガラの悪い研究者、とやや抵抗があるかもしれないが認められるかもしれない。
 が、どういうつもりなのか、男の顔にはタトゥーが彫ってあった。
 顔面に、である。


『えーっと、まずは……んだよコレ、幻生のジジイの失踪なんざ知ったこっちゃねーっつーの』

『あ? あの祖父さん行方不明だったのかよ』


 タトゥーを彫った男の独り言のような呟きに、別のモニターに映っていた人物が反応した。
 それはメガネをかけた女性で、カラフルなマーブルチョコを齧りながら頬杖をついてモニター会議に参加しているようだ。

『おーいおいおい、孫ならジイさんの安否くらい知っとかなきゃ駄目だと思うんですけど?』

『ウッゼぇなクソ野郎が、うじうじカビの研究ばっかしやがって、テメェの脳みそにカビが繁殖してんじゃねぇのか?』
 
『はー、よぉーするにぶち殺されてカビの苗床になりたいって事ですねわかります。今すぐ喉元掻っ切ってやるからお行儀よく座っててちょーだいねェェー!』

『オイオイお前ら、司会進行は俺って事を理解してねぇのか? わからねぇなら身体に直接だなんて甘っちょろい事は言わずに、脳みそに焼きごてで直接メモしてやるけどよ』


 一発触発。
 誰かが口を開くたびにほかの誰かが殺気を漏らす。
 果して話し合いが成立するのか、と疑問に思う前に無理だと断言出来そうな程険悪なムードだった。
 画面越しなのにもかかわらず、だ。

『うん、うん、やっぱりこういう時には罵り合いながら参加するのが「木原」なんだよね』

『今は参加しなくていいぞ円周。テレスティーナに乱数も一旦口を閉じやがれ。あんまり俺を苛立たせないでくれよ、ただでさえ実験サンプルが減ってきてるってのによ、八つ当たりで消費だなんて勿体ねぇだろ?』


 無数のモニターにそれぞれ映し出されている人物。
 若い女性もいれば、年老いた男性もいる。子供のような容姿の女の子がいると思いきや、何やらコンピュータ的な意味で多機能的な首輪を装着した犬までいた。
 歳も性別も違う彼等には、唯一の共通点が存在する。






 彼らは皆、『木原』の名を持つ者だ。

 木原の名を持つ者は、木原と言うだけで科学に愛される。
 もしも、モニターに映っているすべての木原が手を組めば世界はすぐにでも滅んでしまうかもしれない。
 思想も、犠牲も、悪逆も、そのすべてが科学の為に向けられている。
 極めて全うな、綺麗な目的を、悍ましい程に悪質で破滅的な方法で成し遂げようとする。
 ブレーキなど存在しない、限界など省みないのが木原の信条でもあるのだ。


 科学がある限り、必ず世界に存在する。
 科学を進歩させ、悪用し、破滅をばら撒くために世に顕在する。
 それが、木原。
 学園都市と言う科学の最高峰が、手元において管理せねば世界を脅かしかねない悪魔達。


『ま、ジジイの行方不明はどうでもいい。クソどもの痴話喧嘩なんざもっとどうでもいい』

 司会役のようなものを引き受けているタトゥー男の名は木原数多。
 学園都市の能力者の頂点、第一位の超能力を開発した輝かしい功績の裏で、それを塗りつぶしてなお余りある悪事を働いている男でもある。


『今日の話題は……おりひめ一号、っていうか樹形図の設計者【ツリーダイアグラム】が謎の高熱源体によってぶち壊された、って話なんだけどよ』

『何処かのバカのテロ攻撃か?』

『いいや、学園都市内で樹形図の設計者を一撃でぶち壊せる兵器なんざ準備してたら、速攻でアレイスターの野郎に見つかる。つーか木原の誰かが気づくはずだ』

『まさか外……アメリカかロシアの仕業かよ』

『それもねぇな。外の技術レベルじゃ学園都市最高峰のセキュリティと技術で守られた樹形図の設計者を一撃でぶち壊すなんざ不可能だ』

『じゃあ、いったいどうして樹形図の設計者は壊れちゃったの?』

『さぁな。が、壊れ方を見る限り、どうも学園都市咆哮からの攻撃だとは思うんだが……まさかどっかで超強力レーザーをぶっ放せる能力者でも生まれたの

 木原数多の推理はあながち間違いではない。
 樹形図の設計者を破壊した謎の高熱源体というのは、紛れもなく学園都市内、しかも平凡な高校に努める教師が住むボロアパートから放たれたものだ。
 だが、別に樹形図の設計者を破壊しようとしてそれは放たれたのではなく、破壊されたのはたまたま、偶然の『不幸』としか呼びようがない。


『その情報はもういくつかの組織は手に入れています。我々で早めに手を打つのが妥当ですね』


 ここで初めて口を開いたのは、別の『木原』だった。
 安物のスーツに身を包んだ女性だ。
 彼女もまた『木原』の一人、名を木原唯一。

『中には外の組織と協力し、樹形図の設計者を解析しようと考えている、なんて噂も存在します』

『おいおいおい! 樹形図の設計者の解析なんざ、外の技術で出来るとは思えねぇぞ? まさか、ここに居る『木原』の誰かが噛んでんのか?』


 ジロリ、と木原数多がモニターを睨み回す。
 口を開く『木原』は誰もいない。


『まぁ、『木原』が絡んでいたならのちに粛清すればいいですし。ちょこちょこと動きを見せるようなら根元から刈り取ればいいだけですしね』

『面倒くせぇな。先に怪しいとこ全部潰せばよくね?』

『そんなことしたら学園都市の研究機関の八割はつぶれちまうよ。……おい病理、さっきから無言貫いてるけどよ、テメェはどう考えてるんだ?』

 木原数多が画面越しに病理を見る。
 病理は複数の画面から自身に集まる視線を一通り眺め、ニコリと笑みを浮かべる。


「はやく諦めてくれたら嬉しいでーす」

『気の抜けた返答だなオイ』

「だって、病理ちゃんにはそんな努力して残骸を集めようとする気持ちはわかりませんし」

『オマエにわからねぇのは気持ちじゃなくて、努力って部分だろうが。ま、オマエが諦める様なんざ見飽きてるからどうでもいいけどよ』


 挑発するように木原数多は言う。
 病理は特に反論せず、ニコニコと笑みを浮かべ続けていた。

『まぁ、今回は話し合いと言うよりもただの報告、と言った面が強いので、これくらいにしておきましょうか』


 唯一がそう言って会話を打ち切る。
 全員話し合いに意欲的なわけではないので、それに反論するものは誰も居なかった。


『乱数、貴方が最近研究していたカビに乗せて散布する化学物質ですが、ある程度兆しが見えてきたのでそろそろ研究所に来るといいでしょう。あと円周は木原脳幹の調整を手伝ってください』

『うぃぃーっすっとー』

『わかったよ、唯一お姉ちゃん』

『私も面倒だが、そろそろ向こうの方にも手ぇつけねぇと……』

『頑張ってね、テレスティーナおばちゃん』

『なぁおい円周、前から思ってたんだがなんで唯一はお姉ちゃんで私はおばちゃ――


 ブツッ、とモニターの映像が突然途絶えた。
 最後にテレスティーナが何か言っていたような気がするが、病理は気にしないことに決めた。

「……うーん、乱数ちゃんもテレスティーナさんも数多さんも、みんな頑張ってるみたいですねー」


 誰もいない部屋、何の音もない部屋で一人病理は呟く。
 その顔に浮かべているのは、笑み。
 木原数多が挑発をしていた時に浮かべていたものと、まったく同じ笑みだ。


「……なーんだか、居心地がよくないです」


 人差し指を唇に当てながら、うーん、と病理は可愛らしく唸る。


「特に数多さんですね。あの人は私、個人的に苦手なタイプですし……色々と『諦めて』くれるといいんですけどねぇ」

病理は『木原』の中でも上位に位置する存在だ。
 だが、先ほどの会話にマトモに参加していた中では、木原数多と木原唯一は『木原』の中でもトップランカーだ。
 三年ほど前に失踪した、とある木原を除けば紛れもない最高クラス。
 悪行、功績、そのどちらもが他の追随を許さないほどに逸脱している。

 特に。
 病理は木原数多に対して、個人的な感情と事情を抱えている。


「……ま、今は様子見って事でいいでしょう。何事も焦ってがんばるより、諦めて待つ方が楽ですし」


 木原病理はスイッチを操作し、電動車椅子の車輪を駆動させ部屋から出ていく。
 出ていくときの表情は、見る事が出来なかった。
 

やだ……今回の更新少なすぎ……?

申し訳ない、木原ファミリーの家族会議は不穏すぎてあまり長く続けられませんでした。
あまりにも短かったので、次回更新は明日or明後日に頑張ろうと思っています。


それでは今回はこの辺で。
あ、次回予告は色んな方がやってらっしゃるようで、いろんな人がやっている物を真似してもあまりオリジナリティがないのでとりあえず様子見という事にしておきます。
ものすごく雑な前回のあらすじは続けます。なぜか。


では、また次回お会いしましょう!

待たせたな!


いや、そんなに待ってる人なんかいませんよねスイマセン、あ、石投げないで



ではでは投下していきたいと思います。
今回から投下量はやや多め、更新頻度が週一くらいになるやもしれません、スタートォ

   前回のあらすじ





数多「殺すぞ」

テレスティーナ「殺すぞ」

乱数「殺すぞ」

円周「うん、うん、木原ならこういう時こういうんだよね! 殺すぞオラァ!」

唯一「殺してやるぜぇ!」

病理「息の合った家族です」


 ―――
 ――――――
 ―――――――――





「どうだった?」

「まぁまぁ食えた」


 心理定規お勧めの店で食事をとった垣根と心理定規は学園都市駅前の辺りを歩いていた。
 連れて行かれた店の料理はかなり美味しかったし、垣根も性格的に素直に褒めるようなことはしないが、味に関しては文句のつけようがない。
 ただ一つ、不満な事があるとすれば。


「でも、量がな……あそこ、女向けの店何だろ?」


 学校に通っていれば高校二年生辺りの垣根にとって、お洒落な貴婦人や女子学生達に人気のお店の適量と言うのはややボリューム的に物足りないようだ。
 垣根は別に大食漢というわけではないが、もう少し垣根は満腹感が欲しいらしい。


「うーん、私もお腹いっぱいの一歩手前くらいだけど、確かに男の人だと満足できないかもね。この近くにファーストフードのお店があるけど、そっちに行く?」

「そうだな、軽くポテトとかで誤魔化すか……つーかお前、アルバイトはいいのか?」

「あ」

 垣根と並んで歩いていた心理定規が表情を硬直させ唐突に立ち止まった。
 恐る恐る、と言った様子で心理定規は左手首にまいた小さすぎて文字盤が見難い腕時計に目を向ける。



「…………」

「お前、メシ食ってる時もやたら喋ってたからな。普通に喰うだけより倍くらい時間かかったんじゃね?」

「…………ねぇ帝督、貴方の翼って人一人抱えても余裕で飛べるわよね?」

「テメェのタクシー役なんて誰がやるかボケ。オラ、走ってけ」

「ああもう! ヒールなんて履いてこなきゃよかった!」


 とても走りにくそうにしながら心理定規は慌てて走り去っていく。
 非常に慌てた様子の心理定規の後姿を見て垣根は楽しそうな笑みを浮かべる。
 人の不幸で愉悦に浸る垣根は間違いなく外道である。


「……さーて、俺はファーストフード食いに行くか」


 垣根は心理定規の後姿が見えなくなるまでその様子を楽しんだ後、のんびりと微妙に物足りないお腹を満たすためにファーストフード店を目指して歩き始めた。
 


 ―――
 ――――――
 ―――――――――



 垣根は安っぽいファーストフード店に来ていた。
 外は上からの日射と下からのアスファルトが放つ熱により灼熱地獄と化しているためか、店内は満員でガンガン効かされた冷房は少し体調を心配するレベルだ。
 世間は夏休み、それも昼過ぎの午後である。
 店内を埋め尽くしている人間の殆どが学生のようだ。


(あー……うざってぇ)


 シェイクをストローでズズズズと吸っていた垣根は店内の様子をぐるりと見渡し、うんざりと言った様子で心の中でつぶやく。
 近くの席で会話している学生は期末テストで誰かが読心を使っただとか、教師の背中に火をつけるだとか世間話にしてはかなり物騒な内容で盛り上がっている。
 だが、これは学園都市ではありふれた日常会話であり、平常運転である。
 学園都市の総人口二百三十万人の全員が、開発により何らかの能力を得ているのだから。


(……まぁ、そもそも俺の能力が学園都市の中でもトップクラスに突飛な奴だからな。人の能力にツッコミをいれられねぇよな……)


 でも、と垣根はチラリと視線を横に向けた。


(……あれには誰かツッコミを入れてもいいんじゃねぇの?)


 垣根の目に映ったのは、テーブルに突っ伏して寝ている少女の姿だった。
 それだけなら、別に違和感があるとまでは言わないだろう。



 だが、その少女は何故か巫女服だった。



 巫女服を着た少女が、テーブルに倒れこむようにして似ていた。
 長い黒髪がぶちまけた墨汁のように広がって顔が隠れており、某映画に出てくるテレビに映った井戸から這い出てくる亡霊の姿とどこか重なる光景だった。

(第二位の勘が告げている。アレにかかわるなと)


 垣根は一瞬声をかけようかと思ったが、やめておいた。
 その判断、英断と言わざるおえない。


(大体、浮きすぎて相席いいですかとかすら聞かれてねーじゃねーか……)


 店内はギュウギュウ詰め状態であるにもかかわらず、その巫女服少女の席だけがぽっかりと空いている。
 まぁ、正体不明の巫女服少女が突っ伏している向かいでハンバーガーを食べる度胸があるかと聞かれれば、自信満々に食べられるという人間は少ないだろう。
 人ごみの中にぽっかりと空いたミステリーサークルのような空席にぽつんとうなだれている少女を見ながら、垣根はジャンクフードをもさもさと頬張った。




「申し訳ございません、ただいま満席でして……」


 ふと、垣根の耳に届いたのは申し訳なさそうに謝るアルバイトの声だ。
 どうやら何人かの団体で来たのは良いが、開いている席がないらしい。
 巫女服少女の所は数人座れるスペースはあるのだが、好んであの場所に行く人間は相当奇特な人間、というかまず間違いなく変人だ。


 ちなみに、垣根も本来は四人、つめれば六人程度が座れる座席に一人で悠々と座っている。
 何度か相席でもよろしいですか? と店員に聞かれたが、それを頑として断った。
 全く知らない人間と相席して食事をするのは垣根にとってゴメンだった。
 別段、コミュ障と言うわけではない。
 断じて違う。


「……あ、いいわ。知り合い見つけたから」


 何やら聞き覚えのある声が耳に届き、垣根はギクリとした。
 嫌な予感がする。
 垣根は今からでも巫女服少女の方へ行って難を逃れようかとも考えたが、巫女服少女は有ろうことか、巫女服に負けじと異彩を放つ謎の四人組(ツンツン頭、アロハシャツ、青髪、修道服というバリエーション)と会話していた。


(まさかあの退路まで絶たれてるとは……)


 あんな怪しさ満点の巫女服少女に声をかけようとする常識破れの人間がいるとは、垣根にも予想できなかった。
 学園都市にも案外、常識の通用しない人間はいるものだ。





「やっほー垣根さん」



 
 そして、垣根の嫌な予感は的中した。





 明るく、はきはきとした声で名前を呼ばれ、垣根はダルそうに声の下方向へ顔を向けた。
 そこに居たのは、予想を全く裏切らない人物だった。
 お嬢様学校に通う見目麗しい外見の女子中学生、学園都市の頂点であるレベル5の第三位、御坂美琴が小さく手を振って笑顔を向けている。


「よぉ、帰れ」

「会って二秒で帰宅命令を出されるとは思ってなかったわよ。混んでるからさ、私を入れて四人、ここに座らせてね」

「嫌だ」

「みんなー、こっちこっちー」

「聞けよクソメスガキ!」


 垣根の言葉をガン無視で美琴は勝手に話を進める。
 初めて垣根と美琴が出会った一か月前から今まで、二人は数度顔を合わせている。
 二人の関係は『他人以上友人以下』くらいだ、と垣根は思っている。
 最も、美琴はそんな垣根の友人以下と言う評価を軽く覆す程にフレンドリーに接してきているのだが。
 いや、フレンドリーと言うよりも遠慮がない、と言ったほうが的確だ。

「失礼しまーす……って、御坂さんこんなイケメンな知り合いがいたんですか? 水臭いなぁ、もっと早く紹介してくださいよー」


 垣根を見た瞬間にテンションを上げているのは黒髪ロングの少女だった。
 高いテンションに垣根はややイラっとしたが、ここでキレるのは大人げないと自分に言い聞かせる。


「佐天さん、公共の場でそんなにテンションを上げないでくださいまし。全く、淑女失格ですの」

「白井さんが言える事じゃないと思いますけどねー」

「初春? 何か言いました?」

「い、いいえ何も!」


 ブンブンブン! と首を振って否定している少女の頭には何故か花が咲き乱れていた。
 やや好奇心を刺激された垣根は、それについて尋ねようと思ったその瞬間、花少女から謎の殺気を感じ背筋が冷たくなった。
 学園都市の闇以外にも、この世には触れてはいけない物が存在するのだ。

「初めましてですの。ワタクシは白井黒子と申しますの。風紀委員【ジャッジメント】としても活動していますので、以後よろしくお願いいたしますわ」

 
 ペコリと頭を下げたのはツインテールの少女だった。
 風紀委員というのは学生で構成された治安維持部隊で、いわゆる警察のようなものだ。
 裏の世界で活動する垣根にとってはあまり関わりたくない存在であるのだが、露骨に邪険に接していれば怪しまれる。
 

「同じく、風紀委員の初春飾利です。よろしくお願いします」

「そして初春の同級生の佐天涙子でーす! よろしくお願いしまーす!」


 テンションの高い方が佐天、花女が初春か、と垣根は一応この場に居るメンバーの名前を脳に記憶した。
 本音を言えば今すぐこの場から去りたい所だが、怪しい行動をとればここに居る二人の風紀委員に目をつけられる。
 ならば、どうすればいいか。
 答えは単純だ。





 御坂美琴と知り合いの一般人、という設定を演じきればいい。





(暗部で生きてきた俺だが、その気配を悟らせねぇなんざ朝飯前だ。俺の演技力に常識は通用しねぇ)


 名台詞の無駄遣いを心の中で行う垣根であった。
 普通の暗部の人間では、表の世界の人間を演じるのは難しいかもしれない。
 裏社会ではそれなりに人間味のある垣根ならば、もしかしたら不可能な所業ではない、はずだ。
 

「俺は垣根帝督だ、よろしくな」


 ニコッ、と垣根は笑みを浮かべる。
 彼の本性を知る者が見ればドン引きするか大爆笑するかのどちらかに限定されそうなほど、自身の顔の造形のクオリティの高さを生かした完璧な営業スマイルだ。


「気持ち悪……」

「あぁ!?」


 ボソリと呟いた美琴に垣根はキレた。
 この時点で垣根の猫を被るという方針は崩れ去った。
 台無しである。


「お姉様、失礼ですわよ」

「ご、ゴメン。つい……」

「ついじゃねぇよクソボケ」


 垣根はむすっとした表情でポテトを一本口へ投げ込む。
 ふと見ると、先ほどの異色四人組と巫女服少女が黒スーツ集団に囲まれているのが見えたが、何故か気にする必要がないという考えが湧きあがる様に浮かんできて、すぐに意識の外に放り出してしまった。


「とりあえず、座りましょう?」

「私垣根さんの横もーらいっ!」

 ボフン、と勢いよく垣根の横に座ったのは佐天涙子だった。
 向かいの席には黒子、美琴、初春という並びで三人の女子中学生が座る。
 四人掛けのテーブルに五人座っているのだから、やや手狭に感じるのは仕方がない。


「いやー、垣根さんが居てくれて助かったわ。これ持ってずっと立って待ってるのは辛いし」


 彼女たちはそれぞれハンバーガー一個を基本に、ナゲットやポテト、シェイクなどのさまざまなバリエーションの品を注文しているようでそれぞれ少しずつ分け合って食べるらしかった。
 いかにも仲の良い女子中学生らしい行動だ。


「つかぬことをお聞きしますが、垣根さんはどういった経緯でお姉様と知り合ったんですの?」


 メイン具材がトマトとレタスとアボカドというヘルシーバーガーを小動物のように小さく齧りながら、黒子が垣根に尋ねてくる。


「ああ、一か月くらい前にコイツが自販機を蹴ってジュースを吐き出させてる時だな」

「ちょ!」

「……お姉様、またやってらっしゃったんですの? いい加減しないとワタクシ、お姉様をしょっ引かなくてはなりませんの」

 
 あからさまな溜息を吐きながら、黒子は敬愛するお姉様をジトッとした目で見つめる。

 
「あ、あれは仕方なかったのよ! 大体垣根さんだってジュース受け取ったんだから共犯よ!」

「返せばよかったと今でも後悔してるけどな、あのクソまずいジュース。発売元を爆撃してやろうかと思ったほどだ」


 実際、垣根は豆腐ジュースの発売元の会社にサイバーテロを仕掛け経営をだいぶ傾かせていたりするのだが、ここで語る話ではないので割愛させていただく。


「そういえば、垣根さんってお幾つなんですか? 高校生だとは思うんですけど」

「……あー……」


 垣根は言い淀む。
 書類上、どこかの高校に所属しているはずなのだが、一度も行った事はないし気にしたこともない。
 確か、と垣根は必死に記憶を手繰る。

「……長点上機の三年生、だったか」

「長点上機学園ですか!? 凄いエリートじゃないですか!」


 興奮したように佐天がズイズイッ、と垣根に顔を寄せる。
 長点上機学園は学園都市内で能力開発においてはナンバーワンを誇る超エリート校である。
 礼儀作法等の日常生活を含めた総合的教育を主軸に行う常盤台中学とは違い、徹底した能力至上主義の元行われる教育は色々と黒い噂もあるという。


「じゃあもしかして、垣根さんも高位能力者だったりするんですか?」

「まぁな」


 学園都市内で垣根よりも高位の能力者は一人しかいない。
 だが、学園都市第二位である事がバレると色々と面倒なことになると考えた垣根は適当な嘘で流すことにした。

「レベル4の疾風物質【エアロマター】だ。簡単に言えば風を起こしたり、風を凝縮、解放して爆発みてぇな現象を起こせる能力だよ」

「風系かー、いいなぁ」

 実際は、垣根の能力は風の操作程度で収まるものではない。
 というか、この世のありとあらゆる法則を捻じ曲げる超能力を何かに分類しようと思う事自体が愚かなのだが。


「私も空力使いなんですよ。まぁレベル0なんですけどねー……あはは」


 あまり覇気のない笑みを浮かべる佐天。
 レベル0というのは目に見える程の能力も使う事が出来ない、無能力者だ。
 学園都市の人間の約六割がレベル0なのだが、やはり超能力者が堂々と闊歩する学園都市内ではコンプレックスを抱いてしまうらしい。
 特別な力を有する超能力者には、レベル0の気持ちはわからないだろう。
 

 ――が、垣根には佐天の気持ちが少しだけわかった。

 力の差というコンプレックスが生み出す苦悩。
 いつか覆さなければいけない壁を見据える垣根は、いつもよりも少しだけ優しげな表情を見せた。


「悩むな」

「え?」


 驚いたように佐天は垣根を見る。


「超能力ってのは、自分だけの現実に左右される。何かで悩んだり、トラウマを植え付けられたりすると能力ってのは弱まっちまう。が、自分の力を絶対的に信じ、自分だけの現実を強固に固めることが出来れば能力ってのは強くなる」

「そういえば、学校の先生がそんな事を言ってたような……」

「だから、前だけ向いて自信を持て。自分には能力がある、発現するって常に前向きに考えろ。そうすりゃ少しは希望が見えるかもしれねぇ」

「……ありがとうございます、垣根さん」

 佐天はやや頬を赤らめながらお礼を言う。
 人に説教する事など殆どない垣根は舌打ちしながら頬を掻いた。照れ隠しかもしれない。
 そんな二人の様子を、向かいに座る三人がニヤニヤしながら見ていた。

「……なーんか、良い雰囲気じゃない二人」

「あぁ?」

「まったく、やっと店内で涼めるかと思ったのに、なんだか暑くなってきたんですの」


 パタパタと、わざとらしく黒子が手で仰いでいる。
 

「はっ、これだから中学生ってのはガキなんだよ。ちょっと会話したくらいでそんな風に思っちまう、どうせなら俺がもっと大人の恋愛ってのを教えてやろうか?」

「垣根さんの恋愛ってなんだかドロドロしてそうですよね」

「言うじゃねぇか花女」

 垣根がジロリと初春を睨む。
 実際、幼いころから暗部で行動してきた垣根がまともな恋愛をしてきたかと問われれば、全くそんな事はない。
 そもそも、垣根は誰かに好意的な感情を抱いたことすらほとんどないのだ。


「残念ですが、ワタクシはお姉様一筋ですので。異性の殿方にはあまり興味ありませんの」

「……何、お前らそういう関係だったの?」

「ええ」

「堂々と本人を横に嘘をつくなぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」


 美琴が黒子の後頭部を鷲掴みしテーブルに叩きつけた。
 横の初春の顔が若干青ざめる程度に凄い音がした。

「……学園都市の第三位がそんな性癖とはなぁ……」

「ちっ、違っ! 私は至ってノーマルだから!」


 遠い目をし始めた垣根に慌てて弁明を試みる美琴。
 もちろん、垣根も本気で言っているわけではないのだが、空気を読んで敢えて悪乗りをしていた。
 もしも垣根が普通に学校に通うまともな学生であったならば、友人や恋人に恵まれる人物になっていたかもしれない。


「そういう垣根さんは、彼女とかいるんですか?」

 
 佐天が垣根の顔を覗き込みながら訪ねてくる。
 

「いねぇ。作ろうとも思わねぇしな」

「えー、垣根さんイケメンなのに勿体ないですよ。何なら私が彼女に立候補しちゃおうかなー」

「さ、佐天さん!?」

 顔を赤くして初春が思わず立ち上がる。
 にひひひー、と佐天は楽しそうな笑顔を浮かべて慌てた様子の初春の頭をよしよしと撫でた。
 もしかしてコイツラもそういう関係なのか……と、垣根は何だか女子中学生という存在に不安を覚え始める。


(つーか、何で俺がこんなガキ共との会話に付き合わなきゃならねぇんだよ。そうだ、こいつ等が帰らねぇってなら俺が帰ればいい話だ)


 単純な回答にたどり着いた垣根はそう決心するや否や、すぐに席から立ち上がった。


「どうしたんです?」

「悪ぃな、俺はそろそろ帰らせてもらう。後は四人で楽しくやっといてくれ。ここは俺が奢ってやるからよ」


 そう言って垣根は財布から万札を一枚取り出しテーブルの上に置く。
 明らかに四人分の代金を払ってもその倍以上のおつりが帰ってくる額に佐天と初春が仰天する。

「そ、そんな悪いですよ」

「気にすんな。こういう時は黙って男に出させときゃいいんだよ」

「いよっ! 垣根さん太っ腹! マジで惚れちゃいそーですよ!」

「うるせぇよ。ま、ポテトだのナゲットだの、金があるからってバクバク食ってりゃお前らの方が太っ腹になっちまうかもしれねぇがな」


 ピタッっと、まるでザ・ワールドが能力を発動させたかのように、女子中学生四人の動きが同時に停止した。
 

「……垣根さん、そのワードは乙女に対してNGですの」

「悪い悪い、でもな、現実ってのは厳しいんだよ」

「……うぅ……」

 泣きそうな顔の初春。
 佐天も自分の腹部を指で軽く突き、「そういえば最近……」と消え入りそうな顔でつぶやいていた。

「ふ、ふん。良いのよ。私達は育ちざかりなんだから」

 
 美琴はややすねた様な表情でシェイクを勢いよくストローで飲み始めた。
 そんな美琴の様子を垣根はニヤニヤとした表情で見つめ、更なる爆弾をぶっこむことにした。


「育ちざかり、ねぇ……」

「な、何よ」

「佐天、お前って何年生だ?」

「え? ええと、御坂さん以外は中学一年生で、御坂さんは二年生です」

「ふぅん……」

「だ、だから何よ」








「……お前、後輩よりお子様体系なんだな……特に胸」


 ピキリ、と音がした。
 明らかに人体から聞こえるはずのない、乾いた音だった。


「佐天はそれなりに女らしいスタイルだってのに、第三位の胸なんて谷間どころか丘すらねぇんじゃねぇの? お前の体の上で神経衰弱が出来そうだな」


 ケタケタケタと垣根は腹を押さえて笑う。
 佐天は堪えているものの口元はやや笑みを浮かべ、初春は、うわぁ、と顔で語っていた。黒子は愛するお姉様が馬鹿にされているという点では憤りを感じているのだが、慎ましくも美しいお姉様の胸(黒子談)の魅力を知っているのは自分だけだという間違った優越感に板挟みになっていた。
 何だこの状況。


「とりあえず牛乳飲め。それか好きな男に揉んでもらうとか……ん?」


 垣根はようやく気付いた。
 俯いた美琴の体がワナワナと震えていることに。
 そして、額には今すぐにでも破裂しそうなほどに欠陥が浮かび上がり、才色兼備の女子中学生が決して浮かべてはいけない表情をしていることに。


「ア・ン・タにはデリカシーってもんがないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「ば、馬鹿テメェこの野郎! 落ち着――!








 その日、ファーストフード店を中心に半径百メートル以内の地域に停電が観測された。
 そしてそのファーストフード店の入り口に、顔写真と共に五人の人物の『入店拒否』と書かれた張り紙が貼られることになった。



 ―――
 ――――――
 ―――――――――





「このクソガキ……店内で能力暴走させやがって……!」

 
 警備員やらなんやらの追っ手を走って撒いた垣根と御坂一行は、数学区離れた裏路地に来ていた。
 確実に摂取エネルギーよりも浪費したエネルギーの方が多いなと、ややブルーな気持ちになる。


「あ、あんたが変なこと言うからでしょうが……」

「事実無根だろうが……」


 垣根はほかのメンバーにチラリと視線を向ける。
 佐天は割と体力がある方なのか、息は切れているが限界ではなさそうだ。

 初春はもはや呼吸をしているのかどうかが怪しくなるレベルで地面にぶっ倒れている、痙攣しているような気がするのだが大丈夫だろうか。
 美琴はまだ垣根に文句を叩きつける程度の元気はあるようで、この小さな体のどこに体力が詰まっているのか不思議だ。
 そして最も元気そうなのは垣根ではなく、黒子だった。
 それもそのはず、黒子はレベル4の空間移動能力者であり、自分の足では殆ど走らず先行する形で全員をここまで導いたのだ。


「まったく、お姉様、少しは煽り体制というものをつけてくださいまし」

「何よ、私が悪いって言うの?」

「過程がどうあれ、あの場に居た人間は犯人は電撃使いだという認識をしていますの。実際、能力を行使したのはお姉様ですし」

「ぐぬぬ……」


 悔しそうな顔で美琴は垣根を睨んだ。
 今にも噛みついてきそうな獰猛な顔だ。

「アンタっ! 勝負しなさいよ勝負! 正々堂々とコテンパンにしてやるんだから!」

「第三位がレベル4に喧嘩売って何が正々堂々だ」


 実際は美琴は格上に喧嘩を売っているのだが。
 

「いいじゃない! レベル4なら工夫すればレベル5を倒せるかもしれないでしょ!」

「……第三位までなら、な」

「はぁ?」


 垣根の含みのある言い方に、美琴は首をかしげる。
 学園都市のレベル5は全部で七人。
 だが、その中でも第一位と第二位、そして例外的に第七位はレベル5の中でも明らかにずば抜けている。
 第二位と第三位の間にある力の差は、レベル0とレベル5の差以上とも言われているのだ。
 能力の工夫だとか、扱い方だとか、知恵だとか、ありとあらゆる要素を駆使したところで一切の勝ち目がない。
 自転車ではどう頑張っても戦闘機の速さを追い抜けないように、そもそも勝負にすらならないだろう。

「とにかく、テメェと喧嘩なんて御免だ。俺はガキに付き合う趣味はねぇよ」

「ムッカつく……!」

「そこまでですの」


 二人の間に黒子が空間移動で割って入ってきた。


「お姉様もそう噛みつかないでくださいまし。垣根さんも、少し自嘲してくださいな」

「はっ、これでも大分紳士的に接してるつもりなんだがな」

「どこがですの……」


 垣根の言っていることは真実である。
 もしも黒子達が敵対する暗部組織であったら、垣根は名乗る事すらせず能力を使って粉みじんにしていただろうから。

「お姉様、これからショッピングに行く予定でしたでしょう? さぁさぁ、行きましょう」

「へいへい。垣根さん……いや、垣根帝督! アンタ次会ったら容赦しないんだからね!」

「じゃあもう俺の前に現れないでくれ、頼むから」

 
 ガルルルルル! と猛獣のように唸る美琴の背を押す黒子と、初春をおんぶしてそれについていく佐天の姿を垣根は見えなくなるまで見つめていた。
 そして、一言。
 




「……表の世界ってのは、予想以上に呑気なもんだな」






 もう二度と戻れない世界の住人達を思い、垣根はそのまま裏路地の奥へと姿を消した。

こんな感じで今回は打ち止めです。あ、一方通行さん立ち上がらないで、幼女じゃねぇから。

いつもよりは長い投下でした。超電磁砲の漫画を持ってないので佐天さんのキャラがつかみきれません。眉毛太かったっけ……?


次回更新はおそらく来週になると思います。

そして次回予告なのですが、書き溜めがあるときはしたいと思います。
そして今回は、あまり書き溜めがないですがしたいのでします。何なんだ私。


皆様のレスは私のパゥワーになります。NIPPERのみんな! オラに力を分けてくれ!



ではでは、今回もアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』




『――――私と、デートしましょう』

――――垣根帝督に興味を持つ『木原』 木原病理(きはらびょうり)


『…………はぁ!?』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

こんにちわ、約一週間ぶりなのにこんな変な時間にやってきましたどうも。

佐天さんの眉毛は普通みたいですね、どうもありがとうございました。まぁこのSSで佐天さんが活躍するかどうかは未定ですが……


では投下していきたいと思います。


 ―――
 ――――――
 ―――――――――





「お帰りなさい、垣根帝督」

「……」

 女子中学生3人と知り合ってから約一週間後。
 学園都市暗部組織『スクール』の有する隠れ家の一つに戻ってきた垣根は、自分よりも先に部屋に置かれた簡易ベッドの上で寛ぐ先客を見て明らかに不愉快そうな顔をした。
 ベッドの上で雑誌を広げ、クッキーを食べながら寝転がっているパジャマ姿の女性は何処からどう見ても木原病理だ。
 しかも、病理はその怠惰な様子を見られても何のリアクションも見せず、すでに半分ほどなくなっているクッキーの新たな一枚に手を伸ばしていた。
 もしもバリバリのキャリアウーマンが自宅ではこんな感じです、とカミングアウトしてくれば幻滅するかもしれない。
 それくらい堂々としただらけっぷりだった。

「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……じ・っ・け・ん?」
 
「猟奇的な新妻気取りかクソボケ。……まぁ、色々と申し立てたい事はあるがとりあえず一番優先順位の高い奴から済ますか」

「効率的ですね」

「今すぐ帰れ、むしろ土に還れ」

「非人道的ですね」


 オマエに言われたくねぇよ、と垣根は吐き捨てた。
 どっちもどっちではあるのだが。


「つーか、何でお前が『スクール』のアジトを知ってるんだよ。上の情報管理はどうなってやがんだ」

「嫌ですね、垣根帝督。私は『木原』ですよ?」


 一口に『木原』と言っても程度はある。
 木原病理程の『木原』であれば、学園都市の機密コードでも容易に閲覧することが出来るという事だ。


「……まぁいい、この際テメェがアジトの場所を知ってるってのはスルーしてやる」

「あらー? 思いがけない寛容な判断です」

「だが、俺が今から寝ようと思ったベッドの上でクッキーをボロボロボロボロ食い散らかしながら寛いでるテメェを追い出すくらいの権利はあるよな?」

「失礼な。病理ちゃんは後始末が出来る女です」

 
 そう言いながら、木原病理は手慣れた動作で微かに零れたクッキーの粉を手に集め、枕元付近に置いてあったごみ箱に捨てる。
 その際、全く起き上がろうとしなかったのは病理がものぐさな女だからではなく、自力だけでは立つことが出来ない身体であるためだ。

 垣根はふと部屋の隅に視線を向ける。
 ベッドの片隅に置かれた車椅子からは何やらコードが伸びている。どうやら充電中らしい。

「いくら木原印の電動車椅子でも、携帯みたいに充電しねぇと動かないのか」

「永久機関なんて作れたら、それだけで一生寝て過ごせますね。まぁ効率化という点ではあの車椅子は他の追随を許さぬほど特化させてありますから、すべての機能、兵装を展開した状態でも行動持続時間はおそらく二十時間は超えるでしょう」

「オマエは何と戦うつもりなんだか……」


 垣根は呆れたように言う。
 自身の『未元物質』も大概だが、木原が開発する機械も相当常軌を逸している。
 

「……で、最後の質問だ。何でここに居る?」

「自分の留守中に美人のお姉さんが部屋に来てた、なんてシチュエーションは萌えませんか?」

「テメェの場合、草木の萌えじゃなくて物理的に焼殺する方の燃えが似合うな。つーか自分で美人とか言うな胸糞悪ぃ」

「あらーあらあら。諦め系アイドル病理ちゃんになんて口を」

「そんなテンションの下がるアイドルが居てたまるか」

 クスクスと病理は笑う。
 垣根はそんな病理の様子に、うすら寒い物すら感じていた。
 こんな風に笑う女なはずがない。
 あの『木原』病理という人間の本性が、これほどまでに穏やかなものであるはずがない。


「…………何が目的だ?」

「え?」

「テメェの『本音』だよ。いつまでもくだらねぇ猫被りやがって、『木原』のテメェがそんな人間なわけがねぇだろ。俺に近づいて、何をたくらんでやがる?」

「……」


 病理は口を開かず、ただ笑みを浮かべた。
 そのまま押し黙る気か、と垣根は思ったが、案外そうでもなかった。
 思ったよりも早く、簡単に木原病理は口を開く。








「…………知りたいですか?」

 ゾクリ、と。
 今度こそ垣根の背筋に冷たい物が走った。


(……木原病理は能力者ではねぇ。武装は全てあの車椅子の中のはず。だが遠隔操作が出来ねぇとは限らねえ。ココから俺の『未元物質』で頭をぶち抜くのにかかる速度は……)


 垣根は頭の中でシミュレートする。
 これから起こるのは学園都市第二位と『木原』の戦い。
 下手をすれば、学区ごと吹き飛んでしまうような惨劇が巻き起こる可能性だって十分にある。


「直接は教えてあげません。ですが、ヒントをあげます。コレを実行すれば、答えが何か分かるかもしれません」


 グッと、病理が腕を使って上半身を起こす。
 垣根は構える。いつでも『未元物質』を発動できるように。


 そして、木原病理の唇から、言葉が紡がれる。










「――――私と、デートしましょう」









「………はぁ!?」


 闇に君臨する学園都市第二位の超能力者は、間抜けな声を間抜けな表情であげた。


 ―――
 ――――――
 ―――――――――





 相変わらず外は暑い。
 『スクール』のアジトは独房のような、物のないすっきりとした部屋なのだが完備された冷房がキチンと効いていたので快適に過ごせる。
 なので垣根も涼しい部屋でぐっすりと昼寝をしようと思っていたのだが、先客の病理により外に連れ出された垣根はすこぶる不機嫌だった。
 当の本人である病理はと言うと、パジャマは思いのほか涼しいのか、暑さに参っている様子は見られない。
 その代わり、色々と注目を集めてしまっているが。


「何で俺がこんなこと……」

「あらー? どうしてそんなに不機嫌そうなんでしょう?」

「テメェの胸に聞いてみろクソボケ」

「あらあらー、女性に向かって胸だなんて」

「まるで照れたような態度を取ってるが胸糞悪いからやめろ」

 両頬に手を当てて顔をそむけた病理の顔を覗き込むと、その表情は普段通りの笑みを浮かべていた。
 無表情なのではなく、これが病理のデフォルトの顔なのだ。
 つまりは、病理は全く照れていない、と言うわけだ。

 
「あ、そういえばなんですが、せっかくのデートなのにお互いに余所余所しい呼び方なんて、不自然だと思いません?」

「このデート自体不自然なんだけどな。つーかそもそも何で俺がテメェとデートなんてしないといけねぇんだよ」

「うーん、どんな呼び方が良いでしょう?」

「聞けよスクラップ女」


 うーん、と唸りながら病理は思考する。 
 そんな様子が、垣根には非常に不愉快だった。
 自分と同じく、もしくは自分よりも深い闇に生きるこの女が、まるで光の世界に生きる住人のようにふるまう様が。

「じゃあこうしましょう。私の事は病理と呼んでください。私は貴方をていとくんと呼びますから」

「何だその舐めきった呼称はオイコラ、後質問に答えろ」

「何ですか、女性からのお誘いに文句をつけるなんて男らしくないですね」

「パジャマで何処へでも出かけられるテメェは誰よりも女らしくねぇけどな」


 木原病理は見た目よりも機能性を重視するタイプらしい。
 そもそもお洒落をする暇があったら実験をするのが木原の正しい在り方なのだけれども。


「……まぁ、いいでしょう。ていとくんは冗談として、普通に帝督と呼ばせていただきますね」

「俺とお前は親しげに名前で呼び合うような仲じゃあねぇだろうがよ。俺は帰るぞ」


 踵を返し、垣根は病理に背を向けて去ろうとする。

 その間際、病理は振り向かずに静かに呟いた。


「とっても面白いお話があったんですけどね。おそらく、学園都市の住人では帝督が最も得するお話です」

「……」


 垣根は足を止める。
 眉間に深く皺を刻み込んで、垣根は病理の方を振り返った。


「……内容によるな」

「あらあらー、では立ち話もなんですし、近くのレストランにでも入りましょうか」

―――
 ―――――
 ―――――――――




 レストランは盛況だった。
 もともと人気のある店らしく、周りには雑誌やテレビで紹介されたのをきっかけにここを訪れたミーハーな客がたくさんいる。
 気に入った店にはお得意様として通う垣根にとって、一見様というのはあまり快い物ではない。
 が、病理は他人の事など全く気にせずにお気に入りのメニューをさっさと店員に頼んでしまった。


「帝督は何にするんですか?」

「あー……俺は飲み物だけでいい。アイスコーヒーな」

 かしこまりましたー、と店員の適当な返事を聞き流し、垣根は向かいに座っている病理に目を向ける。
 病理は『お客様への簡単なアンケート』という紙を真剣な眼差しで見つめている。


「こういうのって、要望を書けばちゃんと反映されるんでしょうか」

「内容によるんじゃねぇの? 同じ要望が多けりゃ通るかもな」

「うーん、それだったら『木原』の力でお店に直接圧力をかけたほうが早そうです」

「学園都市の闇をなんだと思ってるんだテメェは」


 垣根は呆れたように言う。
 どこまで本気なのかわからなくなってきた。

「……で、結局テメェのさっき言ってた面白い話ってのは何なんだ」

「ええ、ちゃんとお話ししますよ。焦らしプレイは私も好きではありません。何事も早期決着が基本ですしね」

「お前野球とかサッカーとか嫌いだろ」

「はい。一番好きなスポーツはじゃんけんです」

「スポーツじゃねぇだろ。……つーか俺が話を脱線させちまった。戻れ」

「ええ。ではその前に一つ確認を。帝督、貴方の『未元物質』についてです」


 垣根の頼んだアイスコーヒーがタイミングを見計らったかのように、ちょうど話し始める直前に届いた。
 思ったよりも薄い味に顔を顰めながら、垣根は病理の話に耳を傾ける。

「『未元物質』はこの世に存在しない素粒子を何処からか引きずりだし、操る能力です。存在しないはずの素粒子に触れたこの世の法則はねじ曲がり、本来ありえない新たな法則の元に動き始める」

「……だから何だ。『未元物質』についてこの世で最も熟知してるのは俺だぞ、今さらそんな講釈語られた所でどうしたって話なんだが」

「この時点で、帝督は明らかに特別な能力を得ているのですよ? 考えてもみてください、『メインプラン』たる第一位の能力にはおそらく何か隠されているものがあるのでしょうが、乱暴な言い方をすれば念動力のジャンルに分類されるでしょう」

「……まぁ、動作の操作って点ではそうかもしれねぇけど」

「他の第三位、第四位、第五位、六位の情報は……中々入ってきませんし、七位も理解の範疇は超えていますが、『未元物質』はこれらの能力と比べて明らかな違いがあります」


 明らかな違い。
 あらゆる力の向きを操る能力とも、電気を操る能力とも、原子を操る能力とも、精神を操る能力とも違う、垣根の能力の特性。


「帝督。あなたの能力は極めて『科学』的ではないんですよ」

 
 はっきりと、科学の街を裏から支配する『木原』の科学者はそうのたまった。


「……おいおい、確かに俺の『未元物質』は常識の通用しねぇ能力だ。だがこの能力の目覚めは腐るほどいる他の能力者と同じように頭を弄られ『自分だけの現実』を観測できるようになってからだぞ?

「学園都市の開発によって発現する超能力はその人の『自分だけの現実』に影響されます。帝督の『未元物質』は木原の目から見ても明らかに学園都市の科学とは別種なんですよ。科学によって開発された自分だけの現実から発生するとは思えないアンノウン、それが未元物質です」


 別種。
 科学的な方法で生まれた、科学ではない何か。
 それが『未元物質』という物質であるという。


「……科学者が超能力を科学じゃねぇと言うとはなぁ。が、ここまでの話はそこまで面白くねぇ。まさかこれで終わりだなんて言わねぇよな?」

「はい。むしろここからが本番です」


 びっくりしますよー、と病理は前ふりを自分で口走る。
 だが実の所、垣根は案外驚いていた。
 目の前に居る猫の皮を被った化け猫は『木原』という科学と共にある存在だ。
 その『木原』が科学的な方法で開発され、法則に従って発現するはずの超能力を科学ではないの言い切ったのだ。
 特別。
 垣根の能力が特別だというのなら、第一位の能力は何処まで特別なのだろうか。


「実はですね。この世に広く蔓延する科学。そしてその科学と共に存在する『木原』なんですが――この世で唯一、私達『木原』がいまだに踏み入れていない領域があるのです」

「科学の事なら何でもござれの科学オタク集団のテメェ等が踏み入れてないだと?」

「ええ、科学とは全く別次元の法則。科学と世界を二分するもう一つのサイド。それが――」














「魔術、と呼ばれる法則だそうです」











「……魔術」


 科学サイドの垣根でも、その言葉がいったいどういう物を指すのかはわかる。
 が、あくまでそれはフィクションの世界の産物であり、今の時代に大きな鍋で薬草やらキノコやらをぐるぐるかき混ぜながら煮て作る秘薬なんてものは実在しない。 
 それが、『常識』のはずだ。


「ふぅん」

「あ、あれあらー? 思ったよりもリアクションが小さくてびっくりです。もっと驚くか、バカにするなって怒るかと思っていたのですが」

「まるっきり信じたわけじゃねぇよ。つーか信じられるかボケ。……だが、面白そうな話ではあるな」


 ニヤリと垣根は笑う。
 魔術。
 科学サイドで最強クラスの力と頭脳を誇る垣根が何一つ知りえない未知の領域。
 純粋な興味、そして『木原』ですら踏み込んだことのない前人未到の世界というのは、とても面白そうだ。

「魔術とは、いわゆるオカルトです。私も詳しい事は全くわかりませんが、科学的ではない方法で科学的ではない法則に乗っ取り、科学的ではない現象を引き起こすそうですよ」

「……成程、言いてぇ事が読めたぞ」


 垣根は理解する。
 病理が最初に垣根の『未元物質』という能力について確認した理由は、この結論に到達したいがためだ。
 科学的に開発された、科学的ではない能力。 
 その力はこの世の常識や法則を塗り替え、新たな現象を発生させる。


 それはつまり、垣根の能力は限りなく魔術に近いのではないだろうか。


「ですが、学園都市内では魔術は確認されていません。そもそも科学と魔術は結びつかない物なんだそうですよ。だから私達『木原』も踏み込めていないのですけども」

「だからテメェは俺の能力にご執着ってわけだ。極めてその魔術ってのに近い俺の超能力を研究することで、科学的な視点から魔術を理解しようって魂胆だろ」

「うわー、まるっきり正解です」

「ありがとう、まったくうれしくねぇわ」

 諦め系アイドル(自称)の病理よりもテンション低く返事をする垣根。


「魔術とやらを求め、間違った方法で失敗して動けなくなり、私にじっくりと実験される末路が帝督の最も輝く道だと思うのですが」

「末路って言ってんじゃねぇかどこで輝くんだよボケ。テメェに俺の体を好きなように弄られるのだけは何があっても勘弁だ」

「……性的な意味で?」

「真面目に脳腐ってんのかボケ!」


 ゴクリとつばを飲み込む音が病理の喉から聞こえた。
 垣根は本気で気持ち悪がった。

「いいじゃないですか。面白い話と引き換えに少しくらい実験に協力してくれても。等価交換が世の原則なんじゃないんですか?」

「アンタ漫画読む人間だったのか? つーかどこが等価だ」

 垣根が前に全巻セットで購入した漫画の重要の設定を持ち出してきた病理に、やや驚く。
 案外、こういう話題が好きなのかもしれない。


「まぁ、いいでしょう。帝督の説得は諦める事にして、気長に帝督が実験に協力してくれるようになるまで待つことにします」

「待ち続けてそのままミイラ化しろクソババァ」

「あぁ?」

「今まで笑顔で流してたくせにコレにはキレるのかよ」

「女の子には言ってはならない事があるんですよ」

「だからどこに女の『子』が……いや、何かこの会話にデジャヴを感じる。やめておこう」

「賢明です」


 垣根のアイスコーヒーに遅れる事しばらくして、病理の頼んだ料理が運ばれてきた。
 アツアツのドリアを見て、病理はニコニコと屈託のない(ように見える)笑顔を浮かべながらフォークを握る。
 その様子がどことなく、前にファーストフード店で女子中学生達が楽しそうに談笑していた光景と被った。
 光の住人と同じような笑顔を浮かべるなど、本来ありえないはずの人間が。
 どうしてこんなにも楽しそうな顔をしているのか。
 それを疑問に思う前に、垣根は苛立った。

 とある光景がフラッシュバックする。



 
 垣根がレベル5たる素質を持っていると判明してからすぐの事。
 幼い垣根が見た光景。
 超能力に憧れた子供や最先端科学に魅せられた人間が集う学園都市の本当の姿。
 楽しそうに生きる人間達の裏側で展開される世界。
 地獄すら生ぬるい学園都市の闇。





「……」


 あれを思い出すたびに、垣根は脳の奥底に痛みを感じるような気がした。
 あの日から、垣根の人生は変わった。
 そして、垣根の目標は定まった。
 あの時抱いた野望は、今なお朽ちることなく垣根の全ての根底に存在している。

「御馳走様でした」


 病理の声に、垣根は思考の海から現実へ引き戻される。
 見ると病理は既に料理を綺麗に平らげていた。
 というか、ちゃんと御馳走様と『木原』である病理が言う事に驚いた。


「もう帰っていいか?」

「ダメです」

 
 即答だった。


「せっかくのデートなんです。食事だけではもったいないでしょう? これからのんびりお散歩に繰り出すんですよ」

「……うざってぇ」


 心から思う垣根だった。







 ―――
 ―――――
 ―――――――――



 二人がやってきたのは公園だった。
 遊んでいる子供、談笑する若奥様方、学校帰りのカップルなどなど、数々の人間が視界に入る。
 共通するのは、その誰もが幸せそうな顔をしているという事だ。


「……クソだな」

「小さい子供を見ながらつぶやくセリフじゃないと思うんですけどね」


 病理が至極まともな事を言う。
 が、垣根も別にボケたわけではない。


「どいつもこいつも幸せそうな顔をしてやがる。自分たちの生活がどれだけクソッタレな実験や犠牲の上で成り立ってるのかも知らねぇのに」

「人間なんてそういうものなんじゃないでしょうか。学園都市の外の人間であろうと、食材となった動物達やそれを生産している人間の苦労なんて知った事じゃないでしょうし。知らないからこそ幸せなんでしょう」

「馬鹿の方が幸せってか。第二位を前にいい皮肉じゃねぇか」

「ジョークのセンスはあまりないんですけどもね」

 垣根は近くにあったベンチに腰を掛ける。
 そういえば、ここは御坂美琴に初めて出会った自販機の前のベンチだなと、垣根はぼんやり思い出す。


「っと、すいません帝督。ちょっとトイレに行ってきますね」

「行って来い、そして出来れば二度と戻ってくるな」

「ここでしますよ?」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」


 満足そうな笑顔を浮かべながら、病理はキコキコと車椅子を操作して垣根から離れていく。
 その様子を垣根が面倒臭そうに見つめていた。


(……つーか、もう帰っていいんじゃねぇかな俺)


 元々は、木原病理が企んでいる『何か』を知るためにしぶしぶ了承した今回のデート。
 が、よくよく考えればもういいのではないだろうか。
 『木原』は危険な存在であり、油断できない相手ではある。
 


 だが、垣根帝督は学園都市第二位に君臨する正真正銘の化け物だ。


 たとえ相手が『木原』であろうとも、返り討ちにする自信はある。 
 ナンバーワンでありオンリーワンの能力者である第一位と、アンノウンである能力者の第二位以外の超能力者なら、たとえレベル5が全員同時に襲い掛かってきても問題ない。
 たとえば、『木原』が第三位を超える攻撃力を持った兵器を開発したとしても、それは垣根にとってはただのガラクタに過ぎないのだ。


「よし、帰ろう。そしてアイツの着信は拒否しよう」


 垣根はついに決意した。
 先ほどのやり取りで得体の知れないフラストレーションがたまってモヤモヤしていた垣根はバイオレンス物の映画DVDでも借りてストレス解消でもしようと考えた。
 ベンチから立ち上がり、垣根は病理が向かったトイレの反対方向へ行こうとして――





「……うげ」


 見てしまった。

 自販機の前にしゃがみこんでいる少女の姿を。
 見覚えのある制服に、見覚えのある髪型と髪色。
 垣根の記憶力に狂いがなければ、あれは紛れもなく垣根によく絡んでくるあの面倒な女子中学生だ。


「……」


 普段なら、何事もなかったかのようにスルーするだろう。
 垣根も自分から厄介な女子中学生に構う程優しげがあるわけではない。
 が、今の垣根は普段通りの精神ではなかった。
 異常をきたしている、と言う程ではない。嫌な事を思い出してナイーブになっているだけだ。
 ならば、あえて声をかけてみるのも一興かもしれない。
 靄のかかったようなこの心を、あの厄介ながらも快活な少女なら勝手にどうにかしてしまうかもしれない。
 そう思った垣根は、気まぐれに声をかけることにした。
 見覚えのある、その少女に。


「よう、何やってんだ?」


 垣根の声に、少女は振り返る。
 やはり、見覚えのある顔。
 それに加えて、おでこの辺りにはゴツいゴーグルが装着されている。
 垣根の記憶が正しければ、強気な性格が見える目のはずだったが、その少女の目には一切の感情が見えなかった。

「……?」


 違和感。
 知っているはずなのに、会ったことのある人間なのに外見はそのまま中身だけがまるっきり別物に変わっているような、そんな奇妙な感覚。
 そして少女は、首をかしげる。
 

「…………どなたですか? とミサカは初対面であるはずのあなたに問いかけます」


 少女の口から吐き出された、感情のこもっていない言葉。
 そこに居たのは、御坂美琴であるが御坂美琴ではない少女だった。






 
 御坂美琴との出会いが新たな物語を始めるためのきっかけだったとしたら。
 この少女との出会いは、新たな物語のプロローグ。

 垣根帝督の物語は、この瞬間から動き始める。


                         

                          Episode,1

 
                    



                    ――――Exceed the Strongest――――

と、言うわけで今回の投下はここまでです。

ようやく第一章的なものがスタートです。中二病? ははっ、だからいいんじゃないか。


病理さんの影が薄いような気がしますが、後々絶対目立たせます。病理さんは出張るべき。


次回更新は木曜日あたりを予定しています。
では、今回もアリガトウゴザイマシタ!

                       γ⌒/^^/^-

                     ,ゝ`/~ /~ /~  /⌒ 
                    〈(_|  | |~  |~  /^ )
                  (/~ /~ /~ /~ ~ /~ /^\

                 ()/)/~ /~ |~    .|~ |~ |~ /)
                 へ^〈,|,,、,,|,,、,,,,,|~,,,,、〈~,, 〈~ /⌒|)\
                   ,iiiiiiiiiiiiiii'' ゛  ゛    `iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii,
                ,iiiiiiiiiiiii!'          `iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii,

                    ,iiiiiiiiiiiii!  _,___    _,,,,.`iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii,
                    iiiiiiiiiiiiii!./∴,,゙・;;\../∴,,゙・,;\`!iii!iiiiiiiiiiii,
                iiiiiiiiiiiiii!.|;,'“●●・∵|.「∴●●.゜,;」`!i!iiiiiiiiii
                iiiiiiiiiii!!..|:,..;●●゙;;.;ノ.i,.;:,,●●;;.,..,i  !!iiiiiiiii
                 iiiiiiiiii|!'...\∵;,o,;:/ \;,,o,;:..,/  '!iiiiiiiii
                 iiiiiiiiii|⌒\ ̄ ̄( ○ ,:○)  ̄ /⌒..'iiiiiiiii
                     iiiiiiiiiii|:  \______/   |iiiiiiiiiii!
                   iiiiiiiiiii'i、ヽ 匚匚匚匚匚匚匚i / ,!iiiiiiiiiii!
                   iiiiiiiiiiiiii'! \         " / /lliiiiiiiiii!
                 iiiiiiiiiiiiiiil\ \匚匚匚匚匚l/ /llliiiiiiiiiii!
                  iiiiiiiiiiiiiiiillllii\:.. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/lllllllliiiiiiiiiiiii!
                 iiiiiiiiiiiiiiiillii;;;:: `ー-..............-‐´illlllllllllliiiiiiiiiiii!
                iiiiiiiiiiiiiiiilli;;;:: :           :;;illllllllllliiiiiiiiiiii!
                iiiiiiiiiiiiiiiilli;;:::: :           ::;;;illllllllliiiiiiiiiiiii!
                    _,,..iiiiiiiiiiiiiiilli;;::::: : :        ::::;;;;illllllliiiiiiiiiiiiiii!.,,_
           _,,i-i‐'''"~  iiiiiiiiiiiiiiili;;:::::: : :        ::::::;;;;;illllliiiiiiiiiiiiiiiii!  ~i~i'‐-..,,_
     _,,..-''''~   i i  ''''--iiiiiiiiiiiiiiili;;::::::: : :       ::::::;;;;;;;illiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!  i i     ~"-.,
    ,r'"       i i    ,iiiiiiiiiiiiiiii!'''''''''''―:::..  ..:::―''''''''''iiiiiiiiiiiiiiiiiiiii! i i        ヽ

一日一万回、感謝の投下! …………なんてことができたら面白いんですけどね。


そんなわけでこんばんわ、今日も投下しに来ました。
凄くどうでもいい事なんですが、スマホでSS速報VIPを見るのがいつのまにかものすごく不便な仕様になっているのは自分だけなんでしょうか?

まぁそれはそれとして、今日も投下したいと思います。
前回は忘れていた前回のあらすじから、どうぞよろしくお願いします!



>>161のAA怖ぇよ開いた瞬間ビビったよ元ネタ何なんですかマジでやめてください泣きますよ。

   前回のあらすじ



病理「まぁ今更帝督が魔術を会得したところで、二番煎じにしかなりませんけどね。二番どころじゃすまなさそうですし」

垣根「やめろよそういう事言うの」

ミサカ「ここから先はミサカの独壇場です。とミサカはここぞとばかりに存在をアピールする予定です」

 垣根帝督がどのような人間かと聞かれれば、彼を知る者は皆同じように彼を化け物と称するだろう。
 
 コンピュータ並みの演算能力。
 それが生み出す『未元物質』という超能力。
 たった一人で軍隊を相手に出来る程の圧倒的戦力。
 そして、ただでさえ強力な超能力を最大限活用する人間離れした発想力。


 高すぎるスキル、強すぎる力、卓越しすぎた才能。


 垣根帝督という人間は、誰もが一度は憧れた事のある力、才を全て手にしている人間だとも言える。

 そんな彼は、世界で最もドロドロとした闇の中で生きている。
 その理由は、誰も知らない。
 垣根以外、誰一人。






 そんな垣根は、目の前にしゃがみ込んでいる少女を見つめていた。

 その容姿は、垣根の知っているとある女子中学生に瓜二つで、感情の見えない瞳を除けば身長や体系に至るまでがまるでコピーしたかのように酷似している。
 何より、少女は先ほど吐いた言葉の中に、とあるワードを紛れ込ませていた。


 ミサカ。


 やはりそれは、垣根の記憶にある少女を示す名前だった。


「……テメェは、御坂なのか?」

「はい、ミサカはミサカです、とミサカは自身に与えられた呼称を再び口にします」


 まるで機械音声ガイドを相手にしているような感覚だった。
 考えて口を開いているのではなく、与えられた言葉をそのまま口にしているようだ。
 まるで楽器だ、と垣根は思う。

(……違うな。雰囲気っつーか、第三位とは似てはいるが全く違う。精神操作でもくらったか……?)


 垣根は仮説を立ててみるが、ありえないと放棄する。
 第二位と第三位の間にはレベル5と無能力者以上の差が存在する、と言われているが、それでも美琴は紛れもなく学園都市二百三十万人の頂点から三番目の存在なのだ。
 そんな彼女の『自分だけの現実』を押しのけ精神を操作する事が出来る能力者など、存在するはずがない。


(第五位の心理掌握ならまだ可能性はあるか……?)


 強さ云々の前に『相手にしたくない』存在である学園都市第五位の超能力者を垣根は思い浮かべる。



 心理掌握。
 精神操作、記憶改竄、読心、念話、感情の増幅などの精神的なありとあらゆる事を一手にこなす、学園都市最強の精神系能力者。
 単純な戦闘力では他のレベル5には一歩及ばないものの、使い方によっては垣根の『未元物質』や第一位の能力よりもえげつない効果を発揮できるそれは、負けずとも決して好んで相手にしようとは思えない存在だ。

「もしもし、とミサカは一人で思考に浸かりっぱなしのアナタに声をかけてみます」

「あ? 何だよ」

「何だよとはなんですか。声をかけてきたのはアナタの方でしょうに、とミサカは自分勝手なイケメルヘン野郎に唾を吐きかける仕草をとってみます」

「何で喧嘩売ってきてんだよテメェ。つーかイケメルヘンってなんだオイぶちのめされてぇのか?」


 勝手に自分のペースに巻き込んでくる雰囲気も美琴にそっくりだった。
 というか、初対面でこんなことを言うなんてどうかしている。

「……声をかけたのは、テメェが知り合いに似てたからだ」

「ひょっとして、それはお姉様の事でしょうか? とミサカは推測してみます」

「お姉様?」


 第三位に姉妹が居るなんて話は聞いたことがない。
 レベル5の素質のある人間の親族であれば、それなりの高位能力者になれる可能性もある。
 だとすれば、学園都市が目をつけないはずはないが……


「隠し通してた……ってわけでもなさそうだな。不自然ではあるが、お前は第三位の――










「見つけたわよこのホスト顔!」

 後ろから飛んできたのは、聞き覚えのある声、というか罵声だった。
 セリフを強制キャンセルされてやや萎えた垣根は面倒臭そうに振り返る。

 そこに居たのは、たった今垣根の目の前にしゃがみ込んでいた少女と瓜二つの容姿をした、垣根が以前会ったことのある少女だった。


「今度は本物かよ……クソ、やっぱり気まぐれなんて起こすもんじゃねぇな。面倒事にしかならねぇ」

「本人目の前に面倒事とか堂々と言わないでくれない? ていうかそんな事より! 勝負しなさいよ勝負!」

「勝負、だぁ?」

「そうよ! この前受けた屈辱を五百万倍返しにしてやるんだから!」

「…………」

 美琴は自分が負ける事なんて少しも考えていないだろう。
 それもそうだ、学園都市第三位に君臨しているのだから、敗北を考える事など殆どないはずだ。
 だが、美琴が現在喧嘩を売っているのは正真正銘、二人しかいない美琴よりも上位の能力者の内の片方である。
 真っ向から勝負を挑まれる、という経験の少ない垣根はあまりに同等とした挑戦に呆然としてしまった。
 暗部の仕事中は不意打ちが基本だ。
 そもそも、垣根に正面から戦いを挑むなどただの自殺である。

「やめとけ、テメェもレベル5ならむやみやたらに能力を使うんじゃねぇよ。でけぇ力溺れてに振りまわされるってのはただの間抜けだぞ」

「うっさい! 私の能力は何よりその応用力に秀でてる、ありとあらゆる応用を駆使すれば面目も立つ!」


 よくわからない言い訳だった。
 というか、垣根の『未元物質』に対して、自分の能力は応用力に秀でているなんてセリフはもはや滑稽でしかない。
 

「つーか、俺にも用事があんだよ。テメェも中学生なら勉強しろ勉強」

「……アンタ、それ私がレベル5だってわかってて言ってるのよね?」

 バチバチと美琴の周りに紫電が迸り始めた。
 内から湧き上がる怒りの感情のせいで能力が制御できてないらしい。


(自分の能力を制御もできねぇのかよ第三位ってのは……ま、俺も未元物質を完全に把握してるわけじゃあねぇが、それでも暴発なんて間抜けな真似はしねぇぞ)


「ちょっと! 聞いてんの!?」

「あーはいはい、聞いてる聞いてる。アレだ、とりあえずお前はこの妹? の相手をしとけ、大人しく仲良し姉妹やってろ」

 そう言って垣根は無言で立っていた美琴によく似たミサカと名乗る少女を前に突き出した。
 一歩進めばぶつかるほどの距離で、美琴とミサカが見つめ合う。
 近くで比べて眺めると、本当に両者はよく似ていた。


(双子にしても似過ぎだよなぁ)


 垣根は呑気に、間違え探しクイズ感覚で二人の違っている点を探したが生憎目つきとゴーグルしか見当たらなかった。
 そんな垣根を二人は視界にすら入れていないのか、類似した二人は無言で互いに見合っている。
 が、美琴の視線だけがどうにもおかしい。
 まるで、見ているというよりも睨みつけているかのような――













「――――アンタ! 一体どうしてこんな所にいんのよ!」


 美琴が爆音のような怒声をあげた。
 思わずビクッとなる垣根だったが、美琴によく似た少女はピクリとも動いていない。一切動じていないようだ。



「何、と聞かれても、研修中ですとしか答えようがありません。とミサカは淡々と回答を述べます」

「……研修?」

 
 垣根がまずはじめに思い浮かべたのは風紀委員【ジャッジメント】だ。
 風紀委員は学生で構成される学園都市内の警察のような部隊で、長い研修と数多くの適性試験に合格しなければならない。
 レベル5の双子の妹であるならば、能力の才能があっても不思議ではない。レベル5には届かずとも、無能力者という事はないだろう。
 垣根は勝手に自分の推測で納得しかけていたが、何故か美琴がやけに慌てた、うさん臭い口調でしゃべり始めた。


「そうそう、研修よ研修。KENSYU、いやー大変なのよねー研修って、マジ研修だわ」

「いや、意味わかんねェけど」

 悲しくなるくらい残念な様子だった。
 にしても、先ほどの美琴の様子はただ事ではなかった。いや、今の挙動不審っぷりもただ事ではないのだが。

 先ほど、ミサカに向かってあげた怒声、あれは明らかに不自然だ。
 昨今、姉妹仲の悪い姉妹なんてこの世に無数に存在するだろうが、あの様子は仲が悪い、とはやや違う気がする。
 それに、垣根の知るかぎり、美琴はいきなり妹に罵声を浴びせるような、そんな人間ではないはずだ。
 …………垣根は会うたびに理不尽を言われているような気がするけれど。


「…………」

「……どうしたの?」

「いや、ちょっとな。何か珍しくフォローを入れようとしたら無意味だった、みたいな感覚が……」

「?」


 垣根が状況を掴めていないのと同じように、美琴も垣根の言動が理解できなかった。
 理解する必要がないのだけれど。






「帝督? 女の子とデート中なのにほかの女の子と仲良くお喋りだなんて、少々気が利いてないんじゃないでしょうか」






 背後からかけられた声に垣根はギクリと心の中で冷や汗をかく。
 振り返ると、そこには車いすに乗った微笑みパジャマレディ木原病理がニコニコと笑顔を浮かべていた。
 表情は笑っているが、垣根にはわかる。
 病理は間違いなく怒っている。


「よ、よぉ、遅かったな。大か?」

「女性に対して何と言う事を。お仕置きが必要でしょうか」

 
 そう言った病理が車椅子に装備されたキーボードの横にあるボタンに手を伸ばす。


「おい待て、何するつもりだ」

「空気中の埃に付着して空気と共に人の肺に潜り込み、体液と化学反応を起こして酸性の液体を発生させるナノマシンを噴出するつもりでした」

「どんなバイオハザードだクソボケ」

「女の子の扱い方がなっていない帝督が悪いです」


 だんだん話題が逸れてきた気がする。
 今の話題も前の話題も別に続けたいものではなかったが。

「……ちょっとアンタ、この人誰よ」


 美琴が病理を睨みつけるような目で見つめながら垣根に尋ねる。
 

「どうも、垣根帝督の……うーんと、愛人です」

「愛人!?」

「違ぇよ!」


 目を見開いて仰天する美琴。
 垣根はキレ気味に病理を睨みつけながら怒鳴るが、病理はクスクスと笑ったまま美琴に視線を向ける。


「冗談です。のちの妻とでも考えておいてください」

「つまり許嫁!?」

「違ぇぇぇぇぇええええええええええええええ! いい加減しねぇとマジでぶちのめすぞ!」


 この場に美琴が居なければ垣根は今すぐにでも未元物質を展開し病理に攻撃を仕掛けていたかもしれない。
 それくらい性質の悪い冗談だ。

(……けどよ、どうやって説明すりゃいいんだ? 表で活動してる『木原』も居るとは聞いてるが、コイツがまともな仕事をしてるわけねぇし……)


「仕方ありません。譲歩して、デートする程度の友人。辺りに考えてください」

「ふうん……デート、ねぇ」


 美琴の目が今度は垣根に向けられる。
 どうして俺が睨まれなければならないのかと、垣根は泣きそうになる。


「おや……?」


 突然、病理が口に手を当てながら優雅に驚いたような仕草をした。
 美琴とミサカを交互に見ているようだ。


「……どうした?」

「…………いえ、そっくりなので驚きました。双子さんですか?」

「え、あ、うん」


 曖昧な返事を返す美琴。
 垣根は気づいた。
 病理が手で覆い隠している口元――美琴には見えないように、笑みを浮かべている事に。



「……アンタ、どっかで研究者やってたりする?」

「ええと、一応やってたりしますね。でもこんな足ですし、あまり有名ではない所なので」


 有名ではないが悪名高いだろ、と垣根は心の中で呟く。
 一応どころか、研究者としての能力は学園都市でもトップレベルだろうに。


「……まぁいいわ、デートの邪魔して悪かったわね」


 美琴はミサカの腕を強引につかみ、そのまま垣根達の元から立ち去って行ってしまった。
 どこか逃げるようにも見えたのは垣根の気のせいだろうか。


「……おい」

「はい、なんでしょう?」

「テメェは何か知ってるのか?」

「さぁ」

 クスクスと病理が笑う。
 確信した。
 美琴と美琴にそっくりな少女、あの二つの存在は暗部絡みの何らかの厄介ごとに巻き込まれて居る。


「無理やり聞いてやってもいいんだぜ?」

「どうぞ。ですが私は無理強いは好きではありません。何事もまず諦めてから、が基本ですので」

「諦めた時点でもう終わりだろ。人間諦めたらもう次はねぇよ」


 垣根はきっぱりと宣言する。
 その言葉に、病理がかすかに反応を見せた。
 常に浮かべている微笑みの仮面の下の、『木原』の素顔が。


「人間にとって、諦めるという感情はあらゆる感情へつながる根源です。努力、希望、野望……馬鹿にされたくない、下に見られたくないというプライド、つまりは自尊心を守ろうと上を目指す。ですが目指した場所に到達する前に必ず人間には『諦め』がやってくるのですよ」

「…………」

「人間は諦めが肝心なんですよ。諦めればそれでいい、努力し続けても実らない物なんていくらでもあるんですから、早いうちに諦めるのが最も賢い選択なんで――――













「そうやって言い訳して、テメェは何を諦めたんだ?」












「…………」


 空気が変わる。
 どこか呑気な、と言ってもよかった雰囲気がまるで突き刺す刃のような冷たさに。
 一般人なら即座に意識を放棄してしまいそうなほど重く鋭い空気だが、暗部を生き抜いてきた垣根に怯む様子は見られない。
 が、困惑はしている。

 目の前に居る木原病理という怪物は、全く変わらぬ笑顔を浮かべたままだった。

 だが、その雰囲気は先ほどまでと百八十度違う。
 目の前に居る人物が本当に先ほどまでの木原病理と同一人物なのか疑いたくなる程に。


「……さーてさてさてさてー、病理ちゃんは用事を思い出しました。今日はこの辺で失礼させていただきますね」

「そうかよ」

「はい、ではまた今度。私の方からも誘いますが、帝督の方からもデートに誘ってくださいね?」

「お断りだクソボケ」


 木原病理が垣根の元から去っていく。
 垣根は無意識のうちに息を吐いていた。
 もし、あのまま病理が『木原』を解放していたら――――殺されはしなくとも、この辺り一帯が消失する、なんて事くらいにはなりかねない。


「…………誰よりも業が深いくせに、表の人間みてぇに振る舞うからそんな思いをするんだよ」


 もう声は聞こえないほどに遠くになった病理の背に向かって、垣根は小さく呟く。
 その顔は何処か怒っているようにも見え――――








 どこか、寂しそうにも見えた。

今回はここまでです。アレ……? 思ったよりも少ないぞ……?
時間がなくてなかなか書き溜めが作れません。たっぷり作れればもっとたくさん更新できるというのに……! 岸部露伴なみの執筆速度があれば……あ、あの人アナログ派か。


では、今回はこの辺で。
次回予告と共に、お別れです! と某風使い神父風にさようなら。

今回もアリガトウゴザイマシター

     『次回予告』





『仕事だ』

――――学園都市暗部『スクール』の指示役 謎の電話主




『平和な日常、ってのにはうんざりしていたところだ』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)




『さーてと、とりあえず目についた人間皆殺しでいいのかにゃーん』

――――学園都市第四位の超能力者 麦野沈利(むぎのしずり)

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  ,;;    (:●)●)(●)(●)(●)(●)(●)(●))(●))(●;)      。
       (о●)(●))(●)(●))(●)(●)(●)(●)●》)
         ( ;●ξ巛:)( ;●ξ(●)(●,--'""ヽ●:( ;)
           巛巛ミ巛ミミミ//二二ノ""^ソ彡
             巛((ミミ((巛ヘ`\┼┼┼ ,!ヽ
                 巛王 \"ヽ-;:,,,,,,ノ /'
                       \,,,,,__,,,ノ

むぎのん超歓迎されとるがな。


こんばんわ、今日も投下を開始していきます。
戦闘シーンって、本当に嫌ね。だって読むのは楽しいのに書くのは難しいんだもの。


あ、松井優征先生、連載おめでとうございます。ネウロ好きでした。


では、投下します。

垣根と『アイテム』の登場です。

   前回のあらすじ



病理「私とデート中なのにほかの女の子と会話とかマジ殺す」

美琴「きれいな年上の人とデートとか……あんたってやつは……!」

垣根「なにこれ怖い」



 ―――
 ―――――
 ―――――――――


 


 病理と別れて間もなく、垣根は意味もなくぶらぶらと道を歩いていた。
 どこかを目指しているというわけではないので、適当に目についた店をのぞいてみたり、雑誌を立ち読みしていたりとつまらなさそうな顔でただただ時間を浪費していた。
 そんな時、垣根のポケットから無機質な音が鳴り響いた。
 音の発生源は、どうやら携帯らしい。


「…………」


 垣根は携帯を取り出しながら開き、そのまま耳に当てる。


「誰だ」

『仕事だ』


 聞きなれた声。
 自分を闇に沈める不快な声。
 学園都市暗部の上層部、垣根率いる『スクール』への指示役の男だ。


「……そういう気分じゃねぇ。ほか当たれ」

『そうはいかない。今回はお前の力が必要になる。スクールの他のメンバーに知らせる必要はない。この任務にはお前ひとりで当たれ』

「あぁ?」


 明らかに苛立った声をあげる垣根。
 まさか、また面倒なゴミ掃除をやらせるつもりかと垣根は警戒したが、どうやら違うようだ。


『最近。学園都市に存在する研究所へのハッキング被害が多発しているのは知っているか?』

「そういやそんな噂は聞いてたな。被害を受けたのは何処も生体科学や遺伝子工学、病理解析に関係するような研究所だったか?」

『そうだ。学園都市は医学面でも「外」をはるかに超えている。今回のハッキング被害はデータを盗まれたのではなく、破壊されるというものだ。破壊された機器や情報は価値が高く、受けた被害はあまりに甚大だ』

「ハッキング、なぁ……都市伝説の守護神ならともかく、そうやすやすとハッキングを受けるテメェ等が悪いんじゃねぇの?」

『否。我々とて並みのハッカーが相手ならばとっくに捕らえ、粛清している』

「……つまり、相手は並みの相手じゃねぇってことか」

『おそらくな。プログラムを使っての方法ではない。能力によるハッキングだろう』

 ハッキング。
 学園都市のセキュリティを掻い潜れる能力者など数は相当限られている。
 垣根の『未元物質』もうまく使えばハッキングくらいなら出来るかもしれない、が、それよりもハッキングと聞けばまず真っ先に疑いがかかる能力が存在する。
 
 電撃使い。エレクトロマスター。
 
 電気を操る事によりハッキングを可能とするその能力は、レベル4クラスの能力者ならば学園都市のガードを切り抜けることも可能かもしれない。
 

(……だが、レベル4クラスの電撃使いなんてのは相当数が限られる。おまけに学園都市のガードを潜り抜け追跡すらさせないだなんて、並みの奴に出来る芸当とは思えねぇ。可能性があるならば――――)



 垣根は気づく。
 この事件で最も疑いがかかる存在。

 
 学園都市最強の電撃使い、七人しか存在しない超能力者の第三位の少女。

(…………しかし、理由がはっきりしねぇ。第三位は表の住人だ。自分からテロ行為を働くような人間には見えねぇが……)


『そこで、今回はお前にはとある研究所の防衛をしてもらいたい』

「防衛ねぇ……」

『そして、問題が一つある』

「問題だぁ?」

『今回の件に第四位が絡んでくる可能性がある』


 第四位。
 美琴の次に序列されるレベル5であり、垣根と同じく暗部を渡り歩く存在だ。


「どうして第四位が絡んできやがる? 向こうも依頼を受けたってんなら俺はそっちにお任せしてぇが」

『第四位は依頼ではなく、独自の判断で行動しているらしい。何でも今回の襲撃者には少なからず因縁があるようだ。……相手が誰なのかは頑なに口にしないそうだが。決着は自分でつけねば納得がいかないらしい』

「……面倒くせぇな、色々と」


 垣根はため息をつき、片手に持っていた本を置いて店を離れる。
 同時に、垣根の纏う雰囲気が変わった。
 平和に馴染めていない少年から、暗部を渡り歩く闇の世界の住人へと。


『第四位の能力では、襲撃者を跡形もなく消し去ってしまう可能性がある。それではまずい。情報を吐かせ、襲撃者の持つ高度なハッキング技術をこちらが手に入れてから処分しなければならない』

「つまり、こういう事だろ。襲撃者は殺さずに捕らえろ、第四位は邪魔してきたらぶちのめせってな」

『話が早くて助かる』


 面倒くせぇ、と垣根は再び呟く。
 だが、面白い。
 襲撃者が第三位だとすれば、垣根は最大二人のレベル5を相手にする事になる。
 雑魚を何千匹殺すよりも、多少は食らいついてくれる稚魚を二匹相手にする方がよっぽど愉快だ。


「平和な日常、ってのにはうんざりしていたところだ」


 垣根は笑う。
 嗤う。
 その笑みは、木原病理が浮かべる笑みにとてもよく似ていた。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――





 筋ジストロフィーという病気がある。
 今尚人々を苦しめ続ける不治の病の一つで、世界で最も進んだ学園都市の医療技術でも未だに治療法を見出せぬ医学の壁だ。
 発症者は筋肉に命令が送れなくなり、使う事の出来なくなった筋肉は徐々に弱っていく。そして最終的には指すら動かせなくなってしまう。
 
 どれだけ叫んでも声は出ず、どれだけ手を伸ばそうともその手を掴んでくれる者はいない。
 
 嘗て、その病気の治療法を確立するという名目で、一人の少女の細胞が学園都市の書庫【バンク】に登録された。
 初めからそのつもりだったのかは、わからない。
 途中で崇高な目的が捻じ曲がったのかは、わからない。
 ただ一つ言える事、それは幼い少女が人助けをしたいと願って差し出した『希望』は、今は少女と二万の命を苦しめる絶望へと変わっていたことだ。

 そんな筋ジストロフィーの治療法を探すための研究所に、研究者ではない人物が一人いた。
 長くふわふわとした茶髪の、スラリとした高身長の少女。
 彼女の名は、麦野沈利。
 学園都市が誇る超能力者の中で第四位に君臨する、正真正銘の化け物だ。


「ふーんふんふーん♪」

 
 今にも鼻歌の一つくらい歌いそうな程上機嫌な麦野は、ポケットに忍ばせた鮭トバの袋を力技でこじ開け中から一本取出し口に咥えた。 
 少女のポケットから鮭トバが出てくるというのは、とてもシュールである。

「ココの研究者共は逃げたっつってたし、何してもいいわよね」

 
 鮭トバを咥えたままうっとりとした表情を浮かべる麦野。
 仕事終わりに自宅で晩酌しているおっさんにしか見えない。


「さーてと、とりあえず目についた人間皆殺しでいいのかにゃーん」


 咥えていた鮭トバを全て口の中に放り込み、麦野は携帯電話を取り出した。
 番号を素早くプッシュし、麦野はとある人物へと電話を掛ける。


「もしもし滝壺? アンタ今どこに居る?」

『きぬはたと一緒に車の中だよ』

「了解、滝壺は私のところに来なさい。絹旗とフレンダはもう一つの方の出入り口を見張る事、いいね?」

『うん、わかったよ』

 会話を終え、電話を切る。
 今の話の中に出てきた四人の名前、麦野、滝壺、絹旗、フレンダ。
 その四人全員が少女であり、そして学園都市暗部で暗躍する裏稼業の人間だ。

 彼女達の組織の名は『アイテム』。

 垣根率いる『スクール』と同じく、裏の仕事を請け負うチーム。
 学園都市で不審な動きをする上層部や他組織を粛清する組織。


「……次こそ、はっきりと決着をつけてやるよ。第三位」

 麦野沈利はもう一つ鮭トバを取り出し、笑顔で噛み千切った。


 フレンダ・セイヴェルンと絹旗最愛は見張りをしていた。
 今までの研究所へのテロ活動はネットを介してだったが、この研究所には電子情報としてだけではなく、紙媒体で重要機密を保管している。
 特に、表には公表していないが、この研究所は色々と学園都市の『裏』に関わった研究も行っている。
 これほどハイペースで様々な研究所のデータを破壊している襲撃者が、これほどキナ臭い場所を放っておくわけがない。


「相手は超おそらく電撃使いでしょうね。少なく見積もってもレベル3、レベル4の可能性もあります」

「ううー、結局レベル4相手なんて私にはなかなか難しいってわけよ」

「あれだけ罠しかけといて超よく言いますね……」


 栗色の髪の少女絹旗と金髪の外国人少女フレンダの二人は入口から入って少し歩いた所に
後方以外のあらゆる部分から死角になる場所に潜んでいる。
 
 同じく、入口から入ってきた人間には見えないように、ここに来るまでの彼方此方にワイヤートラップや地雷、
さらには手動で爆破できる爆弾など極悪非道なトラップが幾つも仕掛けられていた。
 
 明らかに殺意たっぷりの残虐な仕掛けだが、仕掛けた本人は本気で殺る気満々である。


「だってー、こっちがやらないと私が麦野に殺されるってわけよ」

「前にフレンダのミスのせいで麦野超怒ってましたからね。あの時のお仕置きといったら……」

「お、思い出させないでほしいってわけよ!」


 顔を青くしながら絹旗に掴みかかるフレンダ。
 キャットファイトに見えなくもないその光景だったが、別に観客がいるわけではないので誰も得をしない。


「ま、並みの能力者ならフレンダが超仕掛けたトラップで終わりでしょうし、超万が一潜り抜けたとしても私が出張りますから」


 そう言って絹旗は軽く手を握る。
 レベル4の能力者である絹旗が扱うのは、大気中の八割程度を占める物質。
 すなわち、窒素である。
 薄い窒素の膜を体に纏い、能力による自動防御を可能とし、更に掌に窒素を集め制御することによりその身に似合わぬ極めて強大な力を発揮する事が出来る。
 その代り、能力の有効範囲は極めて狭く、体から数センチ程度の範囲しかない。
 なので、はた目には絹旗が凄まじい怪力に見えるのだ。

「その時は任せたってわけよ。あーあ、早く仕事終えてサバ缶食べたいなー」

「麦野の鮭中毒と超そっくりですね……」


 呆れたように絹旗が言う。
 


 ――――その時、フレンダのポケットに入っていた携帯電話が小さく振動した。



「お」


 携帯をとりだし、フレンダは画面を確認する。
 画面に表示されているのは、この研究所のマップだ。
 入口からここに到達するまでの道に無数に存在しているドクロマーク、そして入口からこちらに向かって進んでいる赤いマーカー。


「絹旗、結局ビンゴってわけよ。侵入者はまっすぐこっちに向かってる」

「真正面から来ますか。今までハッキングを繰り返してきた相手とは超思えないですね。……まぁいいでしょう、向かってくるなら超迎え撃つまでです」


 絹旗が臨戦態勢を見せる。
 少女二人は、気づいていなかった。否、考えていなかった。
 どうして、ここにやってくるのが犯人しかありえないと思ってしまっているのだろうか。
 たとえば、そう、『アイテム』と同じように、暗部組織の人間がやってくる可能性というものを二人は失念していた。


「よーしよしよし、そのまま進めば仕掛けた爆弾がドカン! ってわけよ」

 
 両手で握った携帯電話の画面を見ながら、フレンダは爆破タイミングを今か今かと待ち構える。
 標的が爆弾の最も威力を発揮する範囲に入るまであと五メートル。
 四メートル。
 三メートル。
 二メートル。
 一メートル。

 ――標的、範囲内到達。


「ファイヤー! ってわけよー!」

 カチリ。

 小さな起動音の後、すべてをかき消すほどの轟音が辺りに響き渡った。
 音と同時に発生する熱風が、埃や電灯などを巻き込みながら吹き荒れる。
 爆発の威力があまりにも高いため、清潔感のある白い壁は半壊どころか半ば溶けかかっており、蝋燭のような状態へと変貌していた。


「うわー、超えげつねぇー」

 
 やや引いた様子の絹旗、その隣ではフレンダが得意げな笑顔を浮かべている。


「ふふん、あのゼロ距離爆破を受ければ結局跡形も残らないってわけよ。さーて、後は死体の破片でもいいから確認して、麦野に報告を――






「へぇ、何を確認するって?」


 爆発により発生した熱風すら冷たく感じる程の、底冷えた声。
 まるであの世から語らいかけてきているかのような、恐ろしい程に冷たい声だった。


「…………え?」


 フレンダは硬直する。
 目の前の光景が信じられず、思考が麻痺してしまっているのだ。
 絹旗も同じように、目を丸くして固まっている。
 それもそうだ。
 砕け散った壁、抉られた床、散らばる天井、立ち込める爆炎――――そんな地獄のような場所を悠然と闊歩する人影があったのだから。


「そ、そんな……あの爆発で……何で……っ!?」

 動揺し、体をガタガタと震わせるフレンダ。
 だが、フレンダよりも早く正気に返った絹旗は、無傷のままこちらへ歩み寄ってくる人物の顔を認識した。
 見覚えのあるその顔。
 実施に会ったことはないが、資料で見かけた事のある顔。
 表には公表されていないが、裏では顔を見たら逃げろと暗黙の了解が存在する程の危険人物。

 学園都市の裏側で活動する、学園都市で二番目の称号を持つ少年。


「まさか…………アナタ、未元物質ですか……っ!?」

「能力名で呼んで欲しくねぇな、俺には垣根帝督っつー名前があるんだよ」


 否定はしなかった。
 だがそれこそが、彼女達への最大の威嚇となる。
 彼女達『アイテム』のリーダー、学園都市第四位に君臨する麦野沈利よりもさらに高位の化け物が目の前に居るのだ。

「未元物質!? な、何で第二位がこんな所に!?」

「仕事だよ。テメェ等が勝手に動くからとばっちりを受けちまってな。俺が誰なのか確認もせずいきなり爆破してきたって事はテメェ等は侵入者を殺す気満々ってわけだな。……面倒くせぇが、ま、こっちの方が手っ取り早いし」


 垣根は笑う。
 それは、強者にしか浮かべる事が出来ない笑みだ。
 すなわち、どう蹂躙してやろうかと模索する嗜虐的な笑み。


「俺には『襲撃者』とやらを捕獲しなきゃならねぇ。が、その際テメェ等は邪魔だ。だから先に片づけさせてもらうぜ? 俺はいやな事は先に済ますタイプだからな」


 瞬間、垣根の背中に巨大な何かが出現する。
 白く、巨大なそれはまるで天使の背にあるような――――翼。


「さぁガキ共。ここから先はテメェ等の常識が一切通じねぇ戦いだ。精々楽しめ、そして死ね」


 これから始まるのは、戦いではない。
 

 

 強者による、一方的な虐殺が始まる。


短いですが、キレがいいのでここまでです。


むぎのん、予告に出たのに本編あまり出番なくてごめんね、次回、もしくは次々回出番たくさんあるから許してください。


さて、次回は三日以内にお届けいたします。
早ければ明日、遅くても水曜日です。

では、次回予告と共に今回もアリガトウゴザイマシター

     『次回予告』





『超本気でいくンで、覚悟しやがれってンですよ』

――――学園都市暗部組織『アイテム』の構成員 絹旗最愛(きぬはたさいあい)




『第四位、麦野沈利だな?』

――――学園都市暗部組織『スクール』のリーダー 垣根帝督(かきねていとく)




『正解だ。ご褒美にテメェの粗末な×××を踏みにじってやろうか? テメェならそれでもイケんだろ』

――――学園都市暗部組織『アイテム』のリーダー 麦野沈利(むぎのしずり)

なるほど絹旗は俺のお嫁さんってことがわかった

麦のんが出そうなので昨日作製されたAAを一つ
                     __
                  ....:´.:.:.:.:.:.:.:.:.:`:...
                /.:.:.:.:∧:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:...ヽ
                  /.:.:_.:斗- ヽ\.:.―v.:......ハ
               'i.:.:.:.:|:/ _  \ rf㍉i.:.:.:i.:..
              /..|.:.:.:.代㌣;;;; ,;;; ̄`;;|.:.:.:|.:.ヽ

              /.:.:1.:.:.:|''''''  ___,'''''''从.:.j.:.:.:.:\
.              / ....:|.:..从  ` 一 ´  /.{.:.:.:i.:.:.:.:.:.:.:ヽ
           r仁.:.:./.:..八.:.:个      个'.:..:./.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:≧=---
.     ___ r'.:.:.:.彡イ.:.:.:.:.:.:〉.:.| ≧=-=≦{|/.:.:/.:.:.:.:.:.:\.:.:.:「 ̄ ̄ ̄`ヽ
  〈/ ̄ ̄ ̄   /.:.:|.:.:.:.:.:.:入.:〉ノ器器器八.:./.:|.:.:.:.:.:.:.:.:.\.:≧=-- ミ_

   \      /.:.:./.:.:.:.:.:/_∧器器器器}}/.:.:|\.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ.:.ト、 7.:.:〉
     ヽ   /.:.:.:.:/.:.:.:.:.:/ \.:八器器器ア\.:.|  \.:.:.:.:.:i.:.:{ト.| X.:/
    r==≧ /.:.:./}.:.:.:.:./  r= \ ㍉器㌢ / ヽ  ハ.:.:.:.i.:.|l }レ'./\
    {{    {.:/ /.:.:.:./  {⌒> > Υ <    i     .:.:.:i.:.|/:.:./  /.:〉
.    》   /.:{ /}.:.:.:/   レ'   O |   ヽ  |   八.:.レ./{.{ く.:く
    {  /}.:.」'  /.:.::/   ji     人       1     〉./  辷ーミx:\
     _{.:く厂  /.:/{::...... jii ...............::::|:::...................|....::::::::/⌒ヽ辷く ̄`7:〉 〉
.     《⌒7  /'  八:::::::.川 ::i:::::i::::O::|::::::::::/::::::::リ::::/:::/   /  〉〉 // /
.      /   ヽ く/} ̄ ̄八:::::乂:::::::|:::::::/:::::::::::厂 ̄ {  /  // 〈/ /
         /    ト---==ミト---=====----く ---=| /   {/
                  j  :::::/  ̄ ̄ ̄「 ̄ ̄ ̄「ヽ   {
             ′ ::::′     }     }  ::. i
             ′ :::/      |       ∧:: i
            ′  .:′.     ○ |       /.∧:: i
            ′  /         |       /.∧: i
           ′ ./        |       /.∧ {

あれ?ずれてるか……

暗殺教室を始まったのをきっかけにネウロと禁書のクロスSSも書きたくなりました、どうもこんばんわ。

あ、ちゃんとこのSS書き終わるまでは他のに手を出すつもりはありませんのでご安心ください、ていうか手を出す余裕がありません。



>>219

  ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /

                 (^o^)/ >>219
                /(  )   絹旗は俺の嫁と思っているなら
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三 
 ( /

 / く  まずは
       ぶち殺す


>>220
あら可愛……かわ…………むぎのんまじむぎのん



では投下していきたいとおもいまーす

是非ともねうろ書いてくれ!!大好きなんや!!後、今日はびょーりん出るんだろーな!?

   前回のあらすじ





フレンダ「オワタ」

絹旗「オワタ」

麦野「しゃけうめぇ」

滝壺「大丈夫、私はそんなむぎのに噛み千切られるしゃけを応援してる」



 プルルルルルルル。





「ん?」


 麦野の携帯に着信があった。
 見ると、どうやらかけてきたのはフレンダらしい。


「電話しろなんて言ってないんだけど……もしかして第三位のヤツ、フレンダ如きに殺されたってのか?」


 だとしたら死体を粉々にして家畜の餌に混ぜてやる、などと物騒な事を呟きながら、麦野は携帯を耳に当てた。


「何だ、まさかやっちまったってんじゃないだろーなぁ? とどめを刺すのは私だって何度も言って――――



『むっ、麦野! 逃げて!』 



 電話の向こう側から聞こえてきたのは、思いもよらぬフレンダの焦燥した声。
 何時も笑っているようなイメージのあるフレンダには似合わない、怯えた声だった。

「どうした? 何があった?」

『化け物! 化け物が来てるってわけよ! すぐに追いつかれる! 麦野も滝壺も早く見つかる前に研究所から逃げて!』

「落ち着け、フレンダテメェ、私が誰なのかわかっててその心配をしてるんだろうなぁ?」


 フレンダの心配に対して、むしろ挑発するように言う麦野。
 純粋な殺傷力、破壊力、攻撃力だけならば格上である第三位をも瞬殺できる威力の攻撃を放てる化け物は、恐怖と言う感情を経験したことがないのかもしれない。


「まずは落ち着いて、その化け物とやらの居場所を教えなさい。化け物の私がその化け物とやらをぶち殺してやるから」






『無理! あれは麦野でも絶対に勝てない!』





 フレンダは言い切った。
 幾度となく人を形すら残さず虐殺してきた化け物を相手に、お前では勝てないと宣言した。

「………………」


『早く逃げないとみんな殺される! 今は絹旗が時間稼ぎしてるけど、たぶんもうやられてる! 相手はあの――



 バキッ、という音がした。


 電話の向こう側、からではない。
 麦野が手に持っていた携帯電話を握りつぶした音だ。



「…………だーれが勝てないって? ふーれんだぁ」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら、狂気的な笑い声をあげながら、麦野沈利は少し離れた場所に待機していた滝壺に視線を向ける。


「滝壺、絹旗の居場所はわかる?」

「うん。きぬはたなら体晶を使わなくても、大体は」

「よし、じゃあ行くぞ。襲撃者をブチコロシにね。……ついでにフレンダにもちょいとばかしオシオキが必要みたいだからなぁ」

 



 二人目の化け物が、満を持して動き始める。






 ―――
 ―――――
 ―――――――――





「ハァ……ッ! ハァ……ッ! 一体、超何なんですか……その能力は……!」


 絹旗最愛は左目に入った血を手で拭いながら、目の前に居る化け物に問いかけていた。


「説明してわかる能力じゃねぇよ。とりあえず、ありえねぇ事を実現させるって認識でいいんじゃねぇか? そこまで便利な能力じゃねぇけど」


 辺りは爆撃でも受けたかのように無残な状態へと変貌していたが、垣根は不自然なほど無傷で、一切の返り血すら浴びずにその場に君臨していた。
 絹旗とて暗部を生き抜いてきた猛者であり、レベル4という戦術レベルでの運用が期待できるほどの能力者だ。
 だが、そんなステータスは無意味と言わんばかりに垣根は圧倒的だった。
 同じくレベル5である『アイテム』のリーダー、麦野が霞んで見える程に。

「ま、お前もかなり頑張った方だ。『窒素装甲』だったか? 全身を覆うようにして窒素の膜での自動防御ってのは中々良いアイデアなんじゃねーの?」


 賞賛の言葉一つ一つが嫌みにしか聞こえない。
 事実、バカにしているのだろう。
 東大生が、九九を言えるようになってはしゃいでいる小学生を見守っているのと同じようなものだ。
 そもそも、勝負しているという考えすら垣根は持ち合わせていない。


「……超馬鹿にしやがって……!」

「そういうのは良いよ、面倒くせぇ。愉快な死体に変えてやろうと思ったんだが、思ったより面白かったから見逃してやる」

「……そんな気遣いは超無用です。ここからは――

















「超本気でいくンで、覚悟しやがれってンですよ」


「……何だ?」


 口調が変わった。
 子供っぽい喋り方だった絹旗の言葉が、どこか攻撃的な物へと変貌している。

 


「超おらァ!」

「おっ?」

 
 床を踏み砕くほどの脚力で飛び掛かってきた絹旗の拳が、垣根の顔目掛けて勢いよく放たれる。
 が、車をも持ち上げる怪力を発揮する絹旗の能力を帯びた拳は目標には届いておらず、顔に届く数センチ手前で謎の力に阻まれていた。


「…………ッ!」

「おらおらァ! さっきまでの威勢は超どォしたンですかァ!?」

 まるで砲撃のような威力の拳が嵐のように降りかかる。
 垣根はそれらを『未元物質』で確実に一撃ずつさばいていく。


「……そうか、成程な、お前……」

「あァ?」



 垣根が腕を大きく振るう。

 瞬間、壁が、天井が、床が、絹旗が目に見えない『何か』によって薙ぎ払われた。
 まるで垣根を中心に爆発でも起きたかのように辺りは粉砕されており、絹旗の小さな体はノーバウンドで視覚外まで一秒もかからずに吹き飛んで行った。



「……あの胸糞悪ぃ実験、噂じゃなかったんだな」

 
 垣根の頭に思い浮かんでいるのは、すでに凍結されたとある実験。
 『暗闇の五月計画』
 学園都市第一位の演算パターンを被験者に無理やり植えつけ、『自分だけの現実』を最適化しようとした計画だ。
 『自分だけの現実』は当然、人によって異なる。
 すなわち、誰かの演算パターンを植え付けられるという事は、自分が自分でなくなってしまう事と同義なのだ。

「被験者の殆どは拒否反応を起こして死んじまったって聞いてたが……成程な、あんなクソみてぇな実験の被験者にされれば暗部に堕ちるのも無理はねぇ」


 垣根は絹旗が吹き飛んでいった方向を静かに見つめる。


「ま、死んじゃいねぇだろ。下部組織にでも回収させっかなー……『スクール』に入ってくんねぇかな。使えそうだし」


 呑気に垣根は呟きながら、携帯電話を取り出し下部組織へ連絡を入れようとした。
 その、瞬間――





 耳を劈くような轟音が、垣根のすぐ背後から響いてきた。

「っ! んだオイ!」

 
 戦闘で破壊されず、まだ残っていた白い壁を貫いて、巨大な青白い閃光が一直線に垣根を飲み込まんと向かってきた。
 壁を貫いてから垣根に届くまで一瞬程度の時間もなかったが、先ほどの戦闘では使わなかった垣根の背の翼の一枚が青白い閃光を完全に遮った。

 垣根が能力を本気で行使しようとした時に現れる、この白い翼。
 先ほどの戦闘では使わなかった、使う程の相手ではなかった。
 が、今はとっさとはいえ使わざるおえないほどの速度と威力の攻撃が垣根に向けられた。
 これが、意味するところは――


「……本命お出まし、ってわけか。まぁ俺からしたらテメェ程度、前座にもならねぇんだがな」

「ほざけよ、寝言は永眠してから言えってんだホスト面」


 くり抜かれたかのような壁の向こう側から現れた、一人の少女。
 その眼光は、垣根が幾度となく見てきた目。
 人殺しの目。
 裏社会の人間の目。
 学園都市の闇に飲まれた――――悪党の目。

「第四位、麦野沈利だな?」

「正解だ。ご褒美にテメェの粗末な×××を踏みにじってやろうか? テメェならそれでもイケんだろ」

「悪いのは口だけじゃなさそうだな。が、それでいい、最初から従順な女なんて面白くねぇ。叩きのめして従わせるのが俺の好みだ」


 学園都市第二位と第四位。
 科学サイド最高峰の化け物たちのコミュニケーションは、最悪以下だった。


「面白ぇ、やってみろよ。すかした顔のゴミ野郎にどうにかされるほど私は安い女じゃねぇぞ?」

「安心しろ。安い女なんかそもそも買わねぇよ」


 垣根の白い翼が大きく広がる。
 その数は、六枚。三対の純白の翼がはためいた。


「似合わねぇなぁおい」

「安心しろ、自覚はある」

 一方、麦野の左腕付近には青白い光が収束していく。
 麦野沈利を第四位足らしめる凶悪な能力、
『粒子』と『波形』の中間に存在する『曖昧なまま固定された電子』を放ち、ありとあらゆる物質を通過、消滅させる電子の砲撃。
 それが、『原子崩し』【メルトダウナー】
 あまりにも威力が高すぎて、最高出力で放つと放った本人すら消滅させてしまうあまりにも強力な諸刃の剣。


「滝壺、アンタは離れておきな。巻き込まれて死ぬから」

「わかった。むぎの、頑張ってね」

「思ったより慕われてんだな、人望がない奴だと侮ってたわ」

「黙れクソメルヘン。ちなみに教えておくけど、そのキメェ翼で逃げても無駄だぞ。滝壺の『能力追跡』【AIMストーカー】はたとえ太陽系の外に逃げても観測できる」

「逃げる? 何それ楽しいのか? ぜひともやらせてくれよ、俺に「逃げてぇ」って思わせてみろよ格下」


 戦いの銅鑼はいらない。
 出会ったその瞬間が、開戦の合図なのだから。

 遠慮はいらない。
 殺すことが、唯一の終結なのだから。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――



 融解した壁が崩れる音がむなしく響く。
 
 もはや建物は最初から廃墟であったかのように無残な姿へと変わり果てていた。
 この惨状を作り出したのは、立った二人の少年と少女。
 
 少女の放つ光線は壁を、床を、天井を抉り、削り取り、消滅させていった。

 少年の振るう翼は壁を、床を、天井を砕き、崩し、吹き飛ばしていった。

 今この場に残っているのは三分の一ほどしか残っていない建物だった物の残骸と、息を切らし、体のあちこちから血を流している少女と――









 無傷で、その場に君臨するように絶っている少年の姿。

「クソッタレ……! 第二位ってのはこんなに面倒くせぇ奴なのかよ……」

「『原子崩し』か。噂には聞いていたが、成程カッコイー能力だ。蛇腹と工学兵器は男の夢だぜ? まぁ現実とロマンってのは違うもんだし仕方ねぇかな」

「うざってぇんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 空気を引き裂き、音すら置き去りにして麦野の『原子崩し』が炸裂する。
 固定された曖昧な電子は擬似的な壁を形成し、放たれた速度のまま対象に向けて一直線に伸びていく。

 ――――が、無駄。

 この世の物質ですらない垣根の『未元物質』は『原子崩し』が直撃した所でビクともしなかった。

 
「駄目だな。確かに攻撃力って点だけ見りゃ第三位を上回ってる。だがそれ以外の精密さや応用力がなっちゃいねぇ。レーザーぶっ放すだけなら誰にだって出来るぜ第四位」

「クソッタレのメルヘン野郎が……」

「今生でつける最後の悪態だ。思う存分吐いとけ」


 白い翼がより一層大きく広がる。
 麦野は横目で滝壺の方に視線を投げかけたが、先ほどの戦闘の余波が届いてしまったのが、瓦礫の上にあおむけに倒れている。
 微妙に胸部が上下しているので、死んではいないだろう。


「……つーか、どうしてテメェが私達の邪魔をしやがる……? 『アイテム』が怖くなったから始末しろだなんて命令でも下ったか?」

「今の状況を考えて喋れよ第四位。テメェ如き誰が脅威に思うんだ? ま、仕事っちゃあ仕事なんだがな。
侵入者とやらを捕獲しろって言われてよ、死なれると俺が迷惑なんだよ。
で、テメェが侵入者を殺す気満々だったから、俺がテメェ等を殺すしかなくなったってわけ」



 侵入者。

 麦野にとって研究所が襲われるだなんて事はどうでもいい。
 重要なのは、研究所を襲っている犯人。
 嘗て戦い、そして屈辱を味あわせた第三位を叩きのめす為だけに麦野はここにやってきたのだ。

(絹旗は戦闘不能、フレンダは逃げやがった…………どうする)


 麦野は思考を巡らせる。
 不意打ち、逃走、懐柔、取引――――考えるだけ考えて、そのすべての候補を放棄した。
 
 不意打ちなんてやるわけがない。
 逃走なんてするわけがない。
 懐柔なんて行うわけがない。
 取引なんて持ちかけるわけがない。

 そう、麦野の考えがたどり着く結論はいつもひとつ。
 たった一つのシンプルな回答。











 癇に障った奴は、すべて殺す。




 ただ、それだけだ。

(第二位の面倒な羽をぶち抜けるとしたら、最大出力で撃つしかない。でも最大出力で撃てば私の体が持たないし、最悪放つ前にとどめを刺される可能性すらある)


 逃亡など一切考えず、ただ目の前に立つ垣根を殺す手段だけを考える。
 
 そんな中――麦野は見た。


(……あん?)


 垣根の後方。
 研究所のわずかに残ったエリアの方に見える、あれは――――










(……何を考えてやがる?)


 垣根は先ほどから口を開かずにこちらを睨みつけている麦野を見ていた。

 戦力差は歴然だった。
 同じレベル5とはいえ、二人の間にはどうしようもない溝がある。
 麦野がどれほどの奇策に打って出たところで、垣根はその全てを正面から叩き潰す自信がった。


(まぁ、問題はねぇ。威力は確かだが、全体的には大したことねぇ相手だ。だが余計な事されても面倒くせぇ、大人しい今のうちにやっちまうか)


 そう思った垣根は翼の一枚を操作する。
 罪人の首を断ち切るギロチンのように、無機質な純白の翼が麦野の頭上へと延びていく。


「……なぁおい、第二位」

「あ?」

 
 垣根は翼を止める。
 時間稼ぎのつもりだおうか、とも思ったが、この場に誰が乗り込んできても問題はない。
 なら、最後の戯言くらい聞いてやろうと思ったのだ。
 常に余裕を持つ事こそが、悪党の矜持だ。


「テメェの仕事は私達の討伐じゃなく、侵入者の捕縛なんだよな?」

「……それがどうした?」

「私がブチ殺そうと思ってたのは第三位だ。あいつには一度煮え湯を飲まされたからな。この手で引き裂いてやらなきゃ気が済まない」


 やっぱり第三位かよ、と垣根は心の中で毒づく。
 しかし、表の世界の住人である美琴がわざわざこんな事をする理由は一体何なのだろうか?


「だが、正直今の私はかなり追い込まれてる。腹立つことに、クソッタレのテメェにな」

「くだらねぇ時間稼ぎならもう終わらせるぜ?」

「焦るなよ早漏野郎。……私は第三位を殺したくて、テメェは第三位を捕らえたい。この状況じゃ私が不利なのは確実だ。……でもさぁ」


 ニタリ、と麦野が笑う。
 それは追い込まれている者が浮かべる笑顔ではなかった。
 まるで、作戦に引っかかった相手を嘲笑するかのような、そんな笑み。











「……私がここで第三位をぶっ殺せば! 私の目的は達成できて! テメェの仕事は失敗だよなぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 麦野の右手が強烈な光を帯び、次の瞬間には不健康な光を放つ青白い閃光が一直線に垣根の居る方向へと放たれた。
 が、おかしい。
 『原子崩し』は垣根には当たらず、垣根の翼にギリギリ当たらない位置を通過していった。


(外した? いや、違う、そうじゃねぇ!)


 垣根は慌てて背後――『原子崩し』が向かっている方向に顔を向ける。
 青白い光線の行く先に見える人影。
 見覚えのある服装、髪型、そして――顔。


(ふざけんな! このタイミングで登場しやがって……!)


 垣根は地面を蹴り、六枚の翼で滑空するように地面すれすれを飛ぶ。
 弾丸よりも、光線よりも早く、人間の目では『高速で動く何か』としか捉えられないほどの速さで垣根は少女の元へ急いだ。


(間に合うか……っ!?)


 光線が少女に命中するまで、もう間もない。
 垣根は自信が行える最大限の演算と力の行使を行い、限界速度を超越しながら景色すら置き去りに、少女の元へと飛来した。









 そこで、垣根の視界が真っ白に染まった。




 キング・クリムゾンッ! 全ての『過程』は消飛ぶっ!



と、言うわけでVS絹旗とVS麦野の戦いがほぼカットされちまいました。すいません。
今回は垣根の強さを確認する回となりました。ちょい強すぎたかな?
ですが戦闘シーンは後々たっぷり入ります、入れざるおえない状況へと変化します。その戦闘がメインですしね。



>>223
すいません……びょーりんはまだ……ッ! ですが、必ず出ます。そして見せ場が必ずあります! 病理さんの活躍を必ず作る! それこそがこのSSを始めた理由なのだから! 
まぁ、ていとくんとかも好きですけどもw


では、次回更新は今週中、日曜日までに行います。
ペースはこれくらいですね。週2くらいです。毎日更新してる人凄いなぁ……


では、次回予告と共に、アリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『……顔がそっくりなのはミサカのせいではなく、生産者のせいです。とミサカは反論してみます』

――――第三位、御坂美琴の妹? ミサカ



『あ? ココから離れるっつってんだろうが。捕まっとけよ、転落死したくなきゃな』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)


oh……誤字は本当に申し訳ありません。本編以外もちゃんと見直す習慣をつけないと……まぁ、本編も結構誤字あるんですけどね、変換ミスとか……


こんばんわ、今日も投下していきます。
今日は垣根VS麦野の決着辺りからです、それでは前回までのあらすじからどうぞ

       前回のあらすじ



垣根「俺TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」

麦野「うぜぇぇええええええええ!」



 ―――
 ―――――
 ―――――――――







「……一体……超どうなったんです……?」


 ボロボロの体を引きずりながら、絹旗は先ほど垣根と戦闘を繰り広げた場所へと向かっていた。
 彼方此方骨は折れ、出血もしているものの、致命傷に至る傷は負っていなかった。
 …………おそらく、手加減されたのだろう。
 あれほどの戦力差があったのだ、逆に本気で戦っていれば、殺さないほうが難しい。


「……情けなんかかけられて……まさに超情けないですね。……駄洒落じゃないですけど」


 自分のボケにセルフツッコミする程度には体力はあるようだ。
 というよりも、何かしらのアクションを起こし続けて居なければ気を失ってしないそうだから、というのもあるのだろう。


「早い所戻らないと……麦野に超どやされそうですし」


 今頃おそらく、麦野が垣根へ戦いを挑んでいるだろう。
 逃げるよう伝えてとフレンダには言ったが、麦野の性格上逃げるとは思えない。
 おそらく、真正面から戦いを挑んでいるはずだ。


「フレンダは……逃げたでしょうか、滝壺さんは多分麦野と一緒に――




 絹旗が他のメンバーの安否を心配した、その瞬間、突然耳を劈くような轟音が鳴り響いた。




「――っ! 今のは……!」


 今の音には聞き覚えがある。
 麦野の能力が発動し、目標、もしくは相手のアジトを丸ごと吹き飛ばした時に聞く轟音。
 麦野沈利の『原子崩し』が炸裂した音だ。


「今も戦ってるんですかね……?」


 這うように歩きながら、絹旗はわずかに形だけが残っている曲がり角を曲がり、音の発生した地点を覗き込む。
 そこには――


「麦野!」




 ボロボロだが、確かにその場に立っている麦野沈利の姿があった。


「……あぁ? 何だ絹旗か……」

「超心配しましたよ麦野、大丈夫ですか?」

「心配ない、ていうかアンタの方がボロボロじゃないの」

 
 こちらへゆっくりと歩み寄ってくる麦野。
 絹旗と同じく、致命傷になるような傷はないらしい。


「絹旗、アンタはあそこに倒れてる滝壺を背負いなさい。退却するわ」

「あ、はい。ええと……第二位はどうなったんですか?」

「さぁ? 死んだ……とは思えないけど、今向かって来られるとかなり面倒だしね」

 麦野の視線の先には、何やら土煙にまぎれて白い塊のようなものが見える。
 おそらくは、垣根が展開している『未元物質』だろう。
 なぜあの状態のまま動かないのかはわからないが、確かに麦野と絹旗だけで垣根を相手にするのは無謀すぎる。


「……わかりました、とっととずらかりましょう」


 絹旗は滝壺の体を担ぎ上げ、麦野の後についていく。
 


 

 こうして、『アイテム』と垣根の初対面は終わった。





 『アイテム』に、一つのどうしようもない傷を残して。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  





「クソッタレ……本当に威力だけはずば抜けやがって」


 『未元物質』の六枚の翼によって作られた繭状のシェルターの中で垣根は毒づいた。
 速度を出すことにすべての演算を費やすことによってどうにか『原子崩し』が第三位に到達する前に間に割って入り、垣根と第三位を『未元物質』でガードする事が出来た。
 だが、しかしその刹那で瞬時にレベル5の攻撃力を持つ『原子崩し』を完全にガードすることはできず、垣根の身体にはところどころ傷が出来ていた。
 最も、まともにガードできなかったのにその程度で済む時点で『未元物質』がどれほどの性能を誇っているのかが窺える。


「しかもよ……何が最悪って……」


 垣根は、全力で庇った少女に視線を向ける。
 服装、髪型、顔つき。
 これらを見て麦野が第三位だと判断したのは正直仕方がない。
 垣根だって、遠目では判断する事が出来なかったのだから。





「……? どうして落胆しているのですか? とミサカはいきなり飛んできてミサカを守ってくれたあなたに問いかけます」





 
 麦野が第三位だと思った相手は、御坂美琴の妹だった。


「顔がそっくりすぎるってのも考え物だな……」

「……顔がそっくりなのはミサカのせいではなく、生産者のせいです。とミサカは反論してみます」

「生産者って……」

 親の事を生産者と呼ぶ女子中学生にやや引きながら、垣根はシェルターにしていた未元物質を消した。
 辺りは未元物質にはじかれた原子崩しの余波によって惨劇と化しており、もはや世紀末の荒野のような状態だ。


「事後処理は下部組織に任せるとして……つーか、コレ本当に隠蔽できんのか?」

 
 警備員や風紀委員がやってこないうちにずらかるか、と垣根が再び未元物質の翼を展開しこの場から離れようとしたその時――






 グイッ、と何者かが垣根の服の裾を引っ張った。

 この状況でそんな事が出来るのは、一人しかいない。


「……んだよ」

「ミサカは今日この研究所で研修を受ける予定でしたが、あなた方の戦いのせいで研究所そのものが物理的になくなってしまいました。とミサカはありのままに状況を報告します」


 無感情な瞳だが、じっと目を見つめられると何となく嫌な気持ちになる垣根。
 裾を引っ張る手の力も、心なしか強くなってきている気がする。

「そうかよ」

「なので、責任を取ってください。とミサカはあなたに堂々と要求してみます」

「はぁ? 何で俺が……」

「そうですか、貴方は行き先を無くした少女を路傍に捨て置き何の責任も感じない卑劣な男なのですね、とミサカはまるで三下の悪役のようなアナタを侮蔑を込めた瞳で見下します」

「おいふざけんな! 何で俺がテメェにそんな事言われた挙句見下されなきゃならねぇんだよクソ野郎が!」

 
 ブチギレる垣根。
 普段は理不尽で傍若無人な男だが、この時ばかりは正当な理由で怒っていた。


「お願いします、とミサカは頭を下げます。色々と事情があり、ミサカが風紀委員や警備員に捕まるとお姉様に多大な迷惑がかかるんです。とミサカは裏事情を説明します」

「…………チッ」


 垣根は舌打ちする。
 研究所へのハッキングテロの犯人は十中八九、御坂美琴だろう。
 ならばこの妹を人質にとり、美琴を脅せば仕事は簡単に達成できるかもしれない。
 だが、ただでさえ暗部と関わる理由のわからない美琴に加え、何も知らなさそうな妹を暗部の仕事に巻き込むのは気が引けた。

 
 表の人間を巻き込まない事が、垣根の暗部としての信念なのだ。


「とりあえず、ここを離れるぞ」

「はい、とミサカはここから一番人目につかずに離れられるルートを指さします」

「そんなまどろっこしい事してられっかよ」


 垣根はそう言いながらミサカの事を強引に抱き寄せ、両手で持ち上げた。
 所謂、お姫様抱っこ状態である。


「な、何をするんですか、とミサカはいきなりの行動にやや動揺しつつ問いかけます」

「あ? ココから離れるっつってんだろうが。捕まっとけよ、転落死したくなきゃな」

「え、ちょ、ミサカはとてつもなく嫌な予感が――――





 ミサカの返事を聞く前に、垣根は白い翼を羽ばたかせ大空へと飛翔した。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






「――っと、この辺でいいか」


 先ほどの場所から約五学区ほど離れた所にあるビルの屋上に垣根は着地した。
 翼を消し、一応あたりの様子を窺って安全を確認してからようやく警戒を解く。


「おら、降りろ」


 垣根は抱きかかえていたミサカを乱暴に落とす。
 尻から着地したせいでミサカは少しの間無言で震えていたが、やがて顔を上げるとその無感情な瞳には涙が溜まっており、
今にも決壊しそうなほどだった。
 どうやら、泣いている理由は尻を打ったのとは違うらしい。

「何で泣いてんだよテメェは」

「あ、あんなの涙目になるに決まってるでしょう! とミサカはアナタに掴みかかります」


 凄まじい勢いで垣根の胸ぐらをつかむミサカ。
 反射的に未元物質で吹き飛ばしそうになったが、そこまで非道な手段はさすがに取れず、垣根はミサカの頭を掴んで無理やり引きはがす。


「こっちはゴーグルも着けずにいきなりお、お姫様抱っこなんて姿勢で空を凄まじい速度で飛ぶなんて体験をしたんですよ! 
そりゃ涙目にもなるでしょう! とミサカは当然の怒りをぶつけます!」


 空を飛ぶ際、自分の体にかかる負担を垣根は『未元物質』で無意識のうちに緩和しているのだが、ミサカにはそれがなかった。
 普段誰かを抱えて空を飛ぶなんて事をしない垣根はすっかり負担の事を頭から抜け落ちさせてしまっていたのだ。

「あー、そういやそうか。悪い悪い。……っと、そうだ、お前レベルは?」

「研究者の観測によりますと、大体レベル2程度とのことです」

「ふーん」

 
 興味さなそうな返事だったが、垣根は意外だな、と思っていた。
 姉がレベル5の素質を持っているのだから、レベル4、もしくは3程度の素質は親族なら持ち合わせているのでは、と垣根は予想していたのだ。
 やはり血がつながってるとはいえ、全員が才能を持ち合わせているなんて事はないらしい。


「レベル2じゃあの速度の飛行をどうにかできる程の演算処理は無理か……まぁ無事に着いたんだし、気にすんな」

「自分勝手ですね、とミサカはあまりの勝手さに呆然としてみます」


 非難するような目でみているようだが、如何せん感情のない目なのでイマイチよくわからない。
 

「じゃ、俺は帰る」

「え、とミサカは再び呆然とします」


 当然のようにミサカに背を向けて立ち去ろうとした垣根の肩をミサカが掴んだ。
 垣根はとても面倒くさそうな表情を浮かべながら振り返る。


「……いや、帰らせろよ」

「研究所を全壊させてミサカの貴重な一日を白紙にした貴方にはミサカを楽しませる義務があります、とミサカはアナタにズイズイッと顔を寄せながら責任を問います」

「あぁ?」

 
 垣根は本気でイラッとしていた。
 この身勝手さ、確かに美琴の妹なだけはある。

「ミサカの一日というのはとても貴重なのです。なので、貴方に案内してもらいたいという気持ちもあるのです。とミサカは心の内を告白してみます」

「俺がテメェに付き合う義理はねぇよ。義務だか何だか知らねぇが、俺はそんなお人よしじゃねぇ」

「いいえ、あなたはミサカを守ってくれました。とミサカは先ほどの出来事を口にします」

「……」


 あれは勘違いだった、と言うのは簡単だ。
 守った理由もミサカの身を案じたわけではなく、ただ第四位如きに仕事を失敗させられるのは御免だっただけ。
 そこには正義感も、大義もありはしない。


「そんなんじゃねぇよ。あれは俺の都合だ」

「でしたら、貴方の都合に付き合わされた分、ミサカの都合にも付き合ってはいただけませんか? とミサカは取引を投げかけます」

「俺はテメェの命を守ってやったってのに、付き合わされたとはひでぇ言い草だなオイ」

「気に障ったのならば謝罪します、とミサカは頭を下げます」


 ペコリ、とミサカは頭を下げた。
 垣根はため息を吐きながら頭をガシガシと乱暴に掻き、頭を下げた姿勢のまま微動だにしないミサカを見下ろす。


(……さっきのを見りゃ俺がどんだけ化け物かってのもわかってるはずなのに、どうしてこいつは俺にこんな事言ってんだよ)


 垣根は何だかイライラというか、モヤモヤした何かを感じていた。
 悪意や殺意しか向けられない裏の世界に生き、表の世界と決別したはずの垣根がめったに味わう事のない感覚。
 それは、他人から好意的な感情を向けられる、という事。
 好意とは何も恋愛感情だけではない。
 友人に、家族に、信頼できる者に、頼れる者に向けられるポジティヴな感情だ。


(何時まで頭下げてんだよコイツは……! やめろ、表の世界の人間がそんな簡単に裏に生きるクソッタレに頭を下げてんじゃねぇよ……!)


 それを向けられる事に、垣根はひどく不慣れだ。
 ましてや、相手は暗部のあの字も知らないような表の世界に生きる人間である。
 極悪人が小さな子供に悪い事はダメだと諭されているような、そんな感じの感情が垣根の精神を飲み込まんとばかりに荒れ狂う。

「あああ! クソ面倒くせぇ! わかったよ! 今日一日テメェに付き合ってやる!」


 涙を流し、額を地面に擦らせながら謝罪する相手を何度も虐殺してきた垣根だが、ミサカの頭を下げる行為は何故か見続ける事が出来なくなっていた。
 やけくそ気味で怒鳴りながら、垣根はミサカの要求を呑む。
 明らかにイラついたように舌打ちと貧乏ゆすりを繰り返しているが、ミサカはそれが目に入っていないかのようにお礼を口にした。


「ありがとうございます。ええと……」

「垣根! 垣根帝督だ、覚えとけクソッタレ!」

「はい、ありがとうございます。垣根帝督」


 相変わらずの無感情な顔。
 だが、その顔を見ると何故か垣根の理由もなく叫びだしたくなった。
 

AAを張ろうとしてずれまくってどうしようもなかったでござる。
AA職人まじぱねぇす。

そんなわけで今日はここまでです、短いけどキレが良いので……


次回は月曜日にやってくる予定です。
ああ…………ドイツ語の試験ドウシヨウ。


それでは次回予告をしてさらばです。今日もアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『おおお……ドリンクが絶え間なく注がれてきています。いったい中ではどれくらい小さな人がドリンクを出してくれているのでしょうか……』

――――第三位、御坂美琴の妹? ミサカ



『ペット何ざ面倒くせぇし臭ぇしで良い所ねぇだろっておいやめろ電気を押さえろクソボケ』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

試験は終わった、が、今月末からは期末試験や。
勉強はしたくないし、ドラ○もんを読んどけば大抵何とかなるって某有名禁書SSのアクセラさんが言っていたので、ド○えもんを読んでおくことにします。
さぁて、独裁スイッチは何巻の話だったかな……


と、どうでもいい話をのっけからスイマセン。
今日も投下していきたいと思います。


今回は垣根とミサカのお話です。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  





 二人がやってきたのは学生に人気のファミレスだった。
 安価で豊富なメニューを取り揃えているこの店は交通の便もよく、様々な人が集まる。
 時間的にはまだ空いている方で、ちょうど昼時なんかに来ればえらい事になる。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


 アルバイトと思しき少女が笑顔で垣根に尋ねてくる。
 どう見ても二人だろと言いたくなったが、ただでさえ困惑している今、更なる厄介ごとを自分から呼び込む理由はない。


「二人だ。タバコは吸わねぇ」

「かしこまりました。ではこちらの席へどうぞ」


 店員の案内で二人は店の奥の方にある席へと案内された。

 氷でかさ増しされた水を受け取り、垣根はメニューを適当に眺める。


「そんな腹減ってねぇけど……まぁいいか、俺はピザとドリンクバーを頼む。テメェは?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいとミサカは豊富なメニューを目を輝かせながら熟読します」


 その感情のない目のどこが輝いているのかと小一時間問い詰めたくなる垣根だが、面倒なのでスルーした。
 先にドリンクバーだけ頼んでしまい、飲み物を取りに行こうと垣根は席を立つ。


「俺は飲み物取ってくる」

「あ、ミサカも行きます」

「テメェは何食うか選んでろよ」

「いえ、せっかくですし。とミサカはアナタの言葉を無視して席を立ちます。よっと」

 
 席を立ったミサカは垣根の後をまるで小動物のようについてくる。
 何時もの自分なら即座に目障りなので吹き飛ばしているはずなのに、どうして俺は我慢しているのかと垣根はだんだん自分が分からなくなってきていた。


 そして到達するドリンクのスタンド。
 ソフトドリンクは約十種類。垣根はそのうち世界で最も有名な炭酸飲料を選んでコップに並々と注いでいく。


「おおお……ドリンクが絶え間なく零れ落ちてきています。いったい中ではどれくらい小さな人がドリンクを出してくれているのでしょうか……」

「テメェの脳みそメルヘンすぎんだろ。つーかやたらと興味津々みてぇだが、来たことねぇのか?」

「はい、とミサカは即答します。そもそも外に出た事すら数える程もないので」


 垣根は微妙に疑問に思う。
 複雑な家庭、という奴なのだろうか? 昨日のを見る限り、美琴とも仲がいいとは思えない。
 だが、着ている服は間違いなく常盤台中学の制服であり、あの規律に厳しい事で有名な中学校が不登校など認めるのだろうか? 
 大体、レベル5の妹ならば能力は低くとも、もっと周囲に知られていてもいいのではないか?

「ミサカはオレンジジュースを注ぎました。とミサカは選んだドリンクを報告します」

「見た目に違わずガキくせぇモノ飲むなお前は」


 ミサカが話しかけてきたので思考が途切れてしまった。
 まぁ、気にするほどではないと垣根は席へと戻る。


 もう少し、深く考えていれば気づけたかもしれないのに。














 そして、席に戻って二十分程が経過した。

 垣根は三杯目の炭酸飲料をイライラとした表情で飲んでいる。
 一方、向かいに座るミサカとは言うと、無感情な瞳をやや細めながらメニューを両手で持ち見つめていた。

「……テメェ、いい加減決めろよ」


 イライラを全く隠そうとせず、垣根はメニューを凝視し続けるミサカを睨みつける。
 ミサカはメニューから視線を上げ垣根に向き合うが、どうもまだ決まってないらしい。


「これほどのメニューがあるのですから迷ってしまうのは仕方がありません。とミサカは慎重な選択を心がけます」

「どうせどれもこの店で手作りってわけじゃあねぇんだ、どれ喰ったって同じだよ」

「たとえ冷凍食品でも、それはミサカにとって貴重な食事経験です、とミサカはこの食事の重要性を示します」

「はぁ?」


 意味が分からず、思わず垣根は顔を顰めた。
 

「生み出されてからほとんどの時間を研究所で過ごしてきたので、とミサカは知られざる過去を少しだけお話します」

「別に知りたくはねぇが……」


 研究所。
 垣根も幼少期の殆どを研究所の中に監禁されるようにして過ごしてきた。
 ただでさえレベル5という能力の強度、さらには他の能力とは明らかに違う特性を持つ異端的な能力である『未元物質』は、
研究者たちにとっては素晴らしい実験材料に見えたのだろう。


(レベル5の妹だからな、確かに素質がある可能性は高ぇ、研究者が目をつけてもおかしくない……か)


 やや不自然な所があるものの、垣根はそれ以上深く追求しないことにした。
 これ以上は関わる必要はない。
 ミサカの家庭がどんな事情を抱えていたとしても、それは内輪で解決することだ。


「では、ミサカはこのお勧めと書いてあるハンバーグプレートセットにします。とミサカは数多くの候補から選び抜かれた一品を指さします」

「さんざん迷った挙句、選ぶのは一番無難そうなやつなんだな……まぁこれ以上待たされたくねぇし、何でも良いけどよ」


 店員を呼ぶボタンを一度押し、垣根は息を付く。
 何もしていないはずなのに、あまり時間はたっていないはずなのに。

 

 なぜか暗部の仕事よりも疲れたと感じるのは何故だろうか。 










「これはとてもおいしいです。とミサカは破顔しながら感想を述べます。はふはふ」

「もうちょっと目に感情を灯してから言えクソガキ」


 無表情のまま、ハムスターのようにハンバーグを口いっぱい頬張るミサカを垣根は呆れながら見ていた。
 その食欲たるや、見せつけられている垣根の食欲が奪われているのではないかと思う程で、実際垣根は頼んだピザを四分の一程食べたところでストップしている。

 
 
「ジューシーなハンバーグだけではなく、ホクホクのポテトに甘い人参……所で『あまい』というワードに何故かイラッとするのですがどうしてでしょう、とミサカはふとした疑問を投げかけます」


「知るか」


 切り捨てるように一周する。
 心の底からどうでもいいようだ。

「もきゅもきゅ、もぐもぐ…………ふぅ、御馳走様でした。とミサカはちゃんと食後の挨拶を欠かさないことをこれ見よがしに見せつけます」

「喰うの速ぇなお前……」

「アナタが遅いのでは? とミサカはまだ半分以上残しているアナタの小食っぷりに驚きます」

「テメェのバカみたいな速度でハンバーグ喰う様見てたら食欲が失せたんだよ。もういらねぇ」

「もったいないですよ、とミサカは残すことはダメ、絶対と強く言い放ちます」

「いいんだよ。どうせこんな店で出すモンなんざ格安の量産品ばっかだろうし」


 ふと、垣根は気づく。
 垣根が今のセリフを言った瞬間、先ほどまで食事で浮かれていたミサカの表情がわずかに曇ったような気がしたことに。
 感情のない顔だけれども。
 何故か、とても悲しそうで。

「量産品……ですか」

「……んだよ」

「いえ、別に何もいう事はありません。とミサカは首を横に振ります」

「そうかよ」

  
 そんな事はないだろう、と垣根は思う。
 だが追求することはしない。
 関わる理由なんて何もないのだから。


「……そういえば、アナタの名前が垣根帝督という事は、アナタは学園都市第二位の能力者という事で間違いないでしょうか? とミサカは確認を取ります」

「ああ、そうだ。テメェの姉ちゃんには言うなよ、アレには俺の素性を隠してるんだからよ」

「どうしてわざわざ隠すのですか? とミサカは探りを入れてみます」

「馬鹿、あの性格なら俺の順位を知った瞬間に勝負を挑みに来るって事になりかねねぇだろ。そんな面倒な事してられっか。
大体、レベル5なんて一括りにされちゃあいるが、本当にどうしようもねぇ程圧倒的な力を持ってるののは一位と二位だけなんだよ」

 学園都市のレベル判定の最上が5。
 だから第一位と垣根はレベル5という枠組みに収まっている。
 レベル5と無能力者の間にある溝よりも深い溝が、第三位と第二位の間には存在しているのだから。
 

「……了解しました。お姉様にはあなたの素性は隠しておきます。とミサカは誓います」

「そうしてくれると助かる」

「では、次の場所に行きましょう。とミサカはさり気に伝票をあなたに押し付けつつ、暗に早くしろという意思表明をしてみます」

「人の胸ポケットに伝票をねじ込むののどこがさり気ねぇのか教えてくれねぇかな。……つーか、まだどっか行くのかよ」

「当然です。とミサカは限られた時間を最大限に楽しむ事を宣言します」


 はぁ、と垣根は今日何度目かもわからないため息をつく。

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  





「……どうしてこうなった?」


 垣根は困惑していた。
 あの後、ミサカは垣根を引き連れて遊びまくった。
 縦横無尽、という言葉すら使える程に連れまわした。
 
 セブンスミストという店に連れて行って絶対に着ないであろう服を試着したミサカに一々感想を求められたり、
小腹がすいたという理由であちこちでたい焼きやらホットドックを買い求められたり、
バッティングセンターで「メジャーリーガー並みのホームランを見せてやりますとミサカは声高々に宣言します」と言ったものの結局打つのに一時間ほどかかったり。






 ちなみに、今までかかった料金の全ては垣根の負担である。

 そんなこんなで超過密スケジュールを終えた二人は喉の渇きを潤すために、初めて美琴やミサカと出会った公園のベンチでジュースを飲んでいた。
 お金を入れても飲まれることを覚えていた垣根は、自販機を適当に蹴り飛ばした。すると以外にも、ジュースは簡単に出てきた。


「あー…………」


 まるで二日くらいぶっ通しで仕事をしていた漫画家が湯船につかった時に出す様な声を無意識に漏らす垣根。
 暗部で鍛えられた体のおかげで体力的には疲労はそうでもない、が、慣れないことをし続けた精神の方がボロボロだった。
 今なら第四位の不意打ちビームを食らっても防げないんじゃね? と思う程に。


「だらしないですね。とミサカはアナタの貧弱っぷりを鼻で笑ってみま……むむ!」

「あん?」

 急に垣根の背後を覗き込んだミサカは立ち上がり、草茂みの奥をのぞき始めた。
 意味不明な挙動に最初は呆然としていた垣根も、その姿勢のままピクリともしないミサカを不気味に思ったのかしぶしぶといった様子で立ち上がる。


「どうした? 愉快な死体でも転がってたか?」

「いえ、愉快ではありますが死体ではありません。とミサカは可愛さのあまり頬を緩めてにやけます」


 顔筋がピクリとも動いてねぇよ、と垣根はミサカに聞こえないように呟いた。
 そして垣根がミサカの背中から覗き込むように、ミサカが見ているものの正体を確かめた。









 ミサカが見ているのは、段ボールに入っている子猫であった。

「捨て猫、か? 棄てられたペットは保健所に連れて行かれてガス室で殺処分確定だってのに、どうして買おうなんて考えるのかね」

「…………」

「ま、生き物の終わりなんてそんなもんだろ。学園都市の学生なんてみんな実験動物みてぇなもんだからな。明日には新薬の実験台にされて廃人になったっておかしくねぇ。だったら最初から死ぬのが確定コースってのも案外悪くねぇんじゃ――


 バチッ! と小さな紫電が迸った。
 ほんの静電気程度の電流だったが、すぐ目の前で電光が光った垣根はやや驚いた様子でミサカを睨む。


「どういうつもりだテメェ!」

「アナタのセリフのままだと、アナタはこの猫を見捨てて立ち去る事が目に見えていたからです。とミサカはやや憤慨しながら説明します」

「あぁ?」

「この猫はアナタが責任を持って飼ってください。とミサカはお願いします」


 なんでだよ、と垣根は心の中ではなくダイレクトに突っ込んでしまった。
 大体、垣根が責任をとらねばならない理由がわからない。


「ふざけんな! テメェが飼えよ!」

「ミサカのいる環境では動物の飼育は大変困難です、なので第二位の財力でペット同伴OKのマンションでも借りて幸せに暮らしてください、とミサカはサイドお願いします」

「ペット何ざ面倒くせぇし臭ぇしで良い所ねぇだろっておいやめろ電気を押さえろクソボケ」


 再びバチバチと電光を光らせるミサカ。
 どうやら相当動物好きらしい。


「この猫を可愛がりたいのはミサカの本心です、とミサカは歯を食いしばりながら告白します。しかし……」



 ミサカはそっと手を伸ばすが、そのたびに猫はびくっと体を震わせて、ミサカの手から逃げるように体を丸くしてしまう。
 

「何だ? 人懐っこそうな猫に見えたんだがな」

「ミサカ、というか発電能力者は皆微妙な磁場を形成します。そのせいで動物にはあまり好かれないのです、とミサカは涙ながらに理由を説明します」

「せめて演技でもいいから涙を流せよ。無表情でそんなこと言われても反応に困るわ」


 ……仕方ねぇ、と垣根は呟き、面倒臭そうに頭を掻いた。
 ?マークを頭上に浮かべるミサカを無視して、垣根はミサカの頭に手を置く。


「何をしているのですか? とミサカは突然の行動に対して疑問を持ちます」

「テメェの発してる磁場とやらを俺の『未元物質』で観測してる。本来はこんなことに使う能力じゃねぇんだけどな…………んー、まぁこんなもんか……」

 パキパキパキッ! と何か固い物が軋むような音がする。
 ミサカの頭上に置かれている方とは逆の掌の上で、白い物質が捩じられ、削られ、少しずつ形を変えていく。
 やがて、最初はただの白い塊だったソレは、翼を象った指輪へと変化した。


「指出せ」

「……これは? とミサカは疑問を投げかけます」

「俺の『未元物質』で作ったリングだ。それを身に着けてりゃテメェの体に周りに発生してる磁場を全く別のものへと変化させる。まぁ小せぇし俺の制御下からは外れてるからそこまで高性能じゃねぇけどな。……オラ、再チャレンジしてみろ」


 垣根はミサカの指――具体的に説明すると、左手薬指に作ったリングをスッとはめる。
 ミサカはそれをもの珍しそうに眺めていたが、垣根背を押されたので恐る恐る猫へ手を伸ばした。
 猫は逃げない。




 そして、そっと、ミサカの手は猫の頭に触れた。


「…………!」

 
 相変わらずの無表情で、だがやや目をいつもより気持ち多めに見開きながら、ミサカは猫を撫で続けた。
 禿げるのではないか、と思う程に撫で続けた。
 最初気持ちよさそうだった猫がだんだん嫌がってきているのが垣根にもわかるほどに、撫で続け――


「やめろ馬鹿」


 ゴツン、と垣根はミサカの頭を軽く叩く。
 それでようやく正気に戻ったのか、ミサカは頭をさすりながら立ち上がり、垣根の方に向き合った。


「あ、ありがとうございます……とミサカはお礼を言います」

「いらねぇよ。大した事じゃねぇ。これでテメェの動物に嫌われるって言う体質は解決したろ? だから――

「いえ、結局ミサカの家では飼えませんのでよろしくお願いします、とミサカは頑として譲りません」

「そこはきっぱり言うんだなテメェ」


 問答が三十分ほど続き、最終的に垣根の方が折れた。
 主に心的な意味で。
 

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  



 
 二人がやってきたのは本屋だった。
 理由は垣根の「ペットの飼い方なんざ知らねぇよ、餌やってりゃいいんだろ?」という発言を聞いて、ミサカが無理やり本屋へと引っ張ってきたからだ。


「店内に動物を連れて行く事は出来ません。なのでミサカがこの猫ちゃんを抱いていますので、アナタが本を買ってきてください。とミサカは猫ちゃんをナデナデしながらアナタを見送ります」

「テメェはただ猫を抱いてたいだけだろ……つーかその猫の名前はどうするんだ?」

「名前、ですか?」

「そうだ。テメェが拾ったんだからテメェがつけろ。……いや、飼うのは俺だし、俺が名前を決めたほうが良いか? この俺がセンスある名前を付けてやるぜ。そうだな……」


 垣根はミサカの腕に抱かれた猫に顔を近づける。
 猫は垣根の髪にじゃれようと、肉球の付いた前足をブンブン振りかざしていたがそういう仕草が一々ミサカのドツボなのには気づいていないらしい。


「ミサカは「イヌ」という名前を提案します。とミサカはさりげなく自分のセンスをアピールします」

「それをセンスあると思うやつは一度脳みその検査をお勧めするな。……ビアンカとかアンジェとか、そんな名前はどうだ?」

「以外にもメルヘンチックなネーミングを考えるんですね、とミサカはアナタの雰囲気に似合わない思考に優しく微笑みます(笑)」

「完全に馬鹿にした面じゃねーかクソボケ。……まぁいい、名前なんざ何時でもつけられるしな」


 そう言って垣根は本屋の中へと入っていく。
 その様子を、背中が見えなくなるまで見つめていたミサカは腕に抱いた猫がもがき始めたので優しく抱き直し、店の壁に背を預けた。

「……不思議な人です、とミサカは独り言をつぶやきます」

 
 猫の肉球を人差し指で突きながら、ミサカは誰に言うでもなく言葉を漏らす。
 レベル5はその全員が人格破綻者と言われている。
 理由は超能力を支える『自分だけの現実』があまりにも強固すぎて、自分の世界に他を寄せ付けないからだ。
 
 御坂美琴はレベル5の中では最も常識人と言われている。
 ……自販機に蹴りを入れてジュースを取り出したり、いきなり格下(実際は各上)相手に喧嘩を売るような人間が常識人かどうかは置いておいて、他のレベル5達に比べて随分まともな思考をしている。
 だからこそ、美琴はレベル5、更にいうなら学園都市の超能力者の広告塔的な存在なのだ。

 だが、ミサカの印象では、垣根帝督という人間もまた、一般人とは考え方や雰囲気はかけ離れているものの、人格破綻者とまで言われる存在とは思えなかった。

 自分の願いを嫌々、本当に嫌がりながらも垣根は叶えてくれた。
 自分の我儘に渋々、心の底から面倒くさがりつつも付き合ってくれた。

 だが、自分を心の底から受け入れてくれたとは思えない。
 垣根帝督は何処か一線を引いている。
 自分と、それ以外のあらゆる物という区分けで。
 そのラインを、垣根帝督とそれ以外の全てという二つを隔てている垣根の正体は一体何なのか。

 ミサカは、それを『知りたい』と思ってしまった。


「……とりあえず、垣根帝督が戻ってきたらまずは猫ちゃんの名前を決めましょう、とミサカは一人この先の事を考えます」


 垣根は腕に抱いた猫を頭を撫で、満足そうに息を吐き、――――













 そして、気づく。













「…………………………………」



 ミサカの視線に映ったのは、白。
 垣根の翼のような、無機質な白ではない。
 濁り、腐敗し、ドロドロに溶けきった様な、恐ろしい白。
 
 その白は、少年の髪と肌の色だった。
 
 白い髪の隙間から見える赤い相貌は、静かにミサカを見つめている。
 飲み込まれそうな黒い衣服に身を包み、少年は口元を歪ませた。


 それは、合図。


 ミサカは無言で猫を地面へと降ろし、学生かばんを手に本屋を離れる。

 
 逃れられないとわかっていたから。
 ミサカは躊躇なく、少年の元へと歩みを進める。








 みぃ、と猫が寂しげに鳴く。






 その鳴き声に反応してくれる人は、誰も居ない。


今回はここまでです。
いやぁ、やっと物語が動き始めましたね……

自分が書くとどうも妹達が感情的になりがちになってしまいます、ですが原作でもAB型の覇者を争ってたりしてましたし、多分大丈夫です、よね……?


後、暇な時間に考えてたらネウロ&禁書のクロスの物語のストーリーを割と思いつきました。
いつかこれを表舞台に出してみたい気もします。


では、次回予告と共に今回はこの辺で、次は木曜日を予定しています。
それではアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『……礼なんかいらねぇ。だが一つだけ答えろ。――――テメェ等、いったい『何』なんだ?』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)




『では失礼します、とミサカは別れの挨拶を告げます』

――――第三位の軍用クローン 妹達(シスターズ)




『楽しむのなんて諦めちゃってくださーい、と、言うわけですべてを諦めろ垣根帝督』

――――『諦め』を司る『木原』ファミリーの一人 木原病理(きはらびょうり)

乙!


第七位も戦闘能力ヤバくないか?

そういや第7位も別格だね

いきなりふらりと現れる。


>>310 >>311

あの場面では軍覇さんは「なんかわけわからな過ぎて比べようがない」みたいな扱いだと思ってください……
軍覇さんも垣根も原作では戦闘シーンがなさ過ぎて比べようがないんだもの。

>>1

ソギーの能力がよくわからないので、分かってるとこだけ載せておきます。


背後から赤青黄色のカラフルな煙が出る爆発を起こす

自身を中心にした変な爆発で、周囲の人間を吹き飛ばす

心臓はじめ体中に銃弾を撃ち込まれようがアイスピックで刺されようが、「痛い」程度で大したダメージを受けない

前方に立つ相手のもとへ踏み込み・顔を掴み・叩き付ける、その一連の動作を音速の二倍の速度で行う
落下してくるコンテナを、両手を掲げて空中で火
山のように吹き飛ばす

何らかの得体のしれない力で体を包む。


ソギー先輩!凄いッスね!!

ジョジョの奇妙な芸人を見てたんですが、どうして名台詞で「何をするだぁぁーーー!」が出なかったのか……


こんばんわ、今夜も投下していきたいと思います。
ていうかたくさん返信レスついてる! 嬉しい! 皆様ありがとうございます、モチベーションもアゲアゲです。


>>314
超能力だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ……もっと恐ろしい原石の片鱗を味わった気分です。
完全にチートキャラじゃないですか。ネウロなら魔元帥(に近い何か)が本編で猛威を振るうレベルですよ。
うかつには出せんな……



ではスタートします。今回の投下量は結構大目になります。理由は後述しますのでぃ。

あれ?まげんすいはムヒョロジじゃね?


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




 『可愛い猫の飼い方』の隣に『実は食べられる! 身近にある意外なモノ』という本が置かれているのはどうかと思います。
 
 垣根は無数に並んだペットの飼育法の本の棚を見てうんざりしていた。
 動物なんて飼ったことがない垣根にとって、本の良しあしなんてものはわからない。
 なので、とりあえず一番高い本を手に取る事にした。
 
 子猫がおもちゃにじゃれついている写真が表紙の本で、世の猫好きが見れば悶え死ぬような可愛らしさなのだが垣根が見たのは値段のみで、表紙には一切目を向けていない。
 そもそも、垣根自身が自分の事を学園都市の暗部でいいように使われている犬と思って居るのだから、ペットという存在に対していい印象を持つことは無理かもしれない。

 だが、垣根は猫を飼う事を了承した。
 
 本来ならば、有無を言わず断ったはずなのに。
 最悪、能力で猫もろとも叩き潰してしまえばよかったはずなのに。

 どうしてこんなことをしているのだろうか、と垣根は本を手にしたまま疑問に思う。

(……ファミレスに行って、服見に行って、食べ歩きして、バッティングセンター言って……んで、猫を拾ってか。ハッ、なんだこれ、まるで表の平和ボケした奴みてーだな)


 垣根は自嘲気味に笑う。
 表の世界の住人を裏の世界に巻き込むことは極力しない、という信念を掲げているということはつまり、裏の世界が表の住人に干渉することも快く思っていないという事だ。
 垣根帝督という人間は、もうどうしようもないくらい裏の世界に染まってしまった。
 悪徳と非人道で歪みきった学園都市の『闇』に一度でも浸かってしまえば、もう二度と日を浴びることはできない。
 
 一度腐ってしまったものは、もうどうやっても鮮度を取り戻すことはできないのだ。


(ま、アイツに付き合うのは今日限りだ。今日みてぇなくだらない上に疲れる日なんてもうねぇだろうな……いや、アイツの事だからな、猫に会うって名目で俺の家まで押しかけかねねぇ。だったらアイツにマンションの一室でも買い与えて、そこで猫飼わせた方がいいのか……)

 
 猫が飼いたくないがためにマンションの一室を買うかどうか真剣に悩む垣根。
 色々考えてみたものの、最終的にやめておくことにした。
 妹にマンションを買い与えた男が自分だなんて知られたら、御坂美琴が余計に絡んできそうな気がしたからだ。


(さっさと本だけ買っちまうか。しかし本当に俺が飼うのかよ……)

 
 垣根は初めて、本の表紙に視線を落とす。 
 可愛らしい猫を見て、垣根の取ったリアクションはただただ面倒臭そうにため息をつく、というものだった。



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  





 少女は薄暗い路地裏を駆け抜ける。
 制服姿の少女の手に握られているのは学園都市で開発された『オモチャの兵隊』【トイソルジャー】と呼ばれるアサルトライフルで、
積層プラスチックで構成される最新鋭の兵器だ。
 赤外線にて標的を捕捉し、電子制御によってリアルタイムで弾道を調整するその銃は小学二年生ですら今この場で銃の名手になれるほどの性能を持っている。
 
 だが、それを持ってなお、少女は追う立場ではなかった。
 追われる立場であった。

 少女の後方に蠢く白い影。

 それは人の形をしていた、が、その動きは人の動きではなかった。
 まるでゴムボールがバウンドしているかのように、白い影は建物の外壁を蹴って三次元的にジグザグに動きながら少女との距離を徐々に詰めている。


「そンなに尻ばっか見せてンじゃねェよ! 誘ってンのかァ? 実験動物風情がよォ!」

 
 心底愉快そうな、男の狂気じみた声が路地裏に響く。
 少女は足を止めずに体だけを後方に向け、『オモチャの兵隊』のトリガーを白い影に向けて躊躇なく引いた。
 卵すら割らない、というキャッチコピーがあるほど反動を軽減できる『オモチャの兵隊』から放たれた弾丸は寸分違わず狙った位置、人体の急所へと叩き込まれる。



 が、次の瞬間に異変が起こる。



 少女の目は弾丸の軌道を見抜ける程の性能は有していない。
 だから、何が起こったのか理解するのは難しいだろう。
 と、いうよりも、その現象はたとえ目の当たりにしても信じることはできなかったかもしれない。


 銃口から放たれた弾丸の全てが、そっくりそのまま射線を逆流するように戻ってきて銃口に再び収まった、なんて現象は。

 少女の手にあった『オモチャの兵隊』が爆散する。
 その破片が少女の顔や腕に傷を作るが、少女はそれを無視して再び白い影との距離をとろうとした。
 
 が、遅かった。

 白い影は壁を蹴って少女の頭上へと跳び、次の瞬間には少女の肩を思いきり踏みにじりながら着地した。


「……ぃ……ぎぃ……!」

「まったく、哀れだよなァオマエラ」


 白い影、白い少年は昨晩の献立でも話すかのような気楽さで口を開いた。


「必要情報は全部『学習装置』【テスタメント】でインプットされてるって話だが、痛覚とか苦痛だとか、そォいう感覚は最初から排除してくれりゃァよかったのになァ。そォすりゃテメェラがこんなに苦しむことはなかったのによォ」

 メキメキメキ、と少女の体内から骨が軋む音が響く。
 少女の悲鳴と肉体の断末魔の二重奏を聞きながら、白い少年はしゃがみこみ少女に顔を近づける。


「ま、俺からすりゃァ何の問題もねェンだがなァ。そりゃオマエ、泣きも喚きもしねェ人形を叩き潰すよりかは、良い声で啼く家畜を殺した方が楽しめるってモンだ」

「……ッ!」


 少女は白い少年に向けて電撃を放つ。 
 レベル2程度の、微弱な電流で少年をどうにか出来るなどとは思っていない。
 ただ、この状況から逃げ出せる程度の時間さえ稼げれば、という思いで放った電撃。



 が、それは少年に命中したと思った次の瞬間、何故か少女の体に電撃が迸った。



「ぁ!? ひ、ぎぃ……ッ!」

「残念、そンな電撃じゃァ俺をシビれさせる事ァ出来ねェよ。せめてこれくらいエキサイティングな事してくれなきゃなァ!」

 白い少年の蹴りが少女の腹にめり込む。
 平均よりもかなり細い、華奢ともいえる少年の肉体から放たれた蹴りは、少女の体を五メートル以上の高さまで舞い上げた。


「……ッ!」

 
 湧き上がる嘔吐感。
 少女は胃の中のものを空中でぶちまけながら、五メートル以上の高さからアスファルトの地面へと墜落する。


「きったねェなァ。死に際くれェエレガントに逝こォぜェ?」

「ゲホッゲホッ! ……アナタの……能力は……」


 少女は朦朧とする意識の中、白い少年の能力を分析する。
 放ったはずの弾丸を逆流させ、放ったはずの電撃を丸ごと返された。
 これが意味するのは、つまり。


「攻撃の、反射……?」

「残念、間違っちゃいねェが、それは俺の能力の本質じゃねェんだよなァ」


 白い少年が、少女の傷口に指を突き刺した。
 少女が短い悲鳴を上げるが、それは少年にとって愉悦でしかない。
 征服した、という黒い優越感。
 白い少年は嗜虐的な笑顔を浮かべながら、まるで自分だけが答えにたどり着けたナゾナゾの解説をするかのように、嬉々として答えを述べる。


「正解は『ベクトル変換』でしたァ! 運動量に熱量、この世に存在するありとあらゆる『向き』は俺に触れた瞬間に変更可能ってわけ。デフォ設定が反射だからなァ、ま、五十点って所かァ」


 反則。
 少女の抱いた感想は、ただそれだけだった。

 超電磁砲が直撃しても、原子崩しの集中砲火を浴びても、それは白い少年の髪をなびかせることすら出来ない。 
 核戦争が起こったとしても、白い少年だけは無傷で生き延びる事が出来る。
 
 学園都市の能力者開発というのは、強い能力者を生み出すのが目的ではない。
 どうして能力者が生まれるのか、そのメカニズムの解明こそが学園都市の目的である。

 なのに、この白い少年は世界を相手にしてもなお生き残る、それほどの戦力を有している。
 科学の発展が核爆弾という世界を壊滅させられる兵器を生み出してしまったように、超能力開発は世界を敵に回しても勝利できる化け物を生み出してしまったのか。


「さァて、ここで問題です」


 白い少年は嗤う。
 彼こそが、学園都市最強の存在。
 七人のレベル5の頂点。


 学園都市第一位、『一方通行』【アクセラレータ】だ。


「俺は今、テメェの血液の流れに触れています。コレをすべて逆流させれば、一体どォなってしまうでしょォか?」

「ぁ……!」


 少女の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。
 だが、少女は少年の名をつぶやく事は無く、そのまま激痛と共に意識は闇の中へと消えていった。












 本屋を出た垣根はミサカがいないことにすぐ気が付いた。





「……? どこ行きやがったアイツ」


 まさか帰りやがったのか? とも思ったが、店に入る前にミサカが立っていた位置にポツンと猫だけが寂しそうに残されている。
 あの猫好き無表情が猫一匹残して帰るとは思えない。


「ったく、面倒みれねぇ奴が動物を飼うとかほざくんじゃねぇよクソッタレ」


 意外にも常識的な事を言いながら、垣根は猫を抱きかかえた。
 猫は漸く安心したようで、リラックスした様子で、にゃーと一度泣いた。
 案外この男、口では面倒だ何だと言っていたが、飼うと決めた以上は本気で飼うらしい。
 これがツンデレと言うやつなのだろうか。

「……?」


 ミサカの姿を探した垣根は、ふと違和感に気づく。
 そこにあるのに、誰の目にも映らないような、そんな路地裏から漂ってくる気配。
 垣根が今までに何度感じたかわからない、嫌な臭いが。


「…………何だ?」


 垣根は猫を抱きかかえたまま、静かにその路地裏へと足を踏み入れる。



 そしてすぐにそれを発見した。

 地面に転がっているのは、ローファーのようだ。
 いかにも学校指定です、といった感じのデザインのそれに垣根はどうも見覚えがあった。

 垣根はさらに足を進める。
 誰かが慌てた拍子にぶつかって倒れたと思しきゴミ箱が転がっていたり、何やらプラスチック片のようなものが散らばったりしている。
 その先にあるのは、曲がり角。


「…………」

 
 そこに何があるのかは、垣根にはわからない。
 垣根は透視能力者でもなければ、未来予知能力者でもないからだ。
 だから、見るまではそこに何があるのかはわからない。
 頭に浮かんでくるこの予感も、ただの妄想かもしれない。 

 だから、垣根帝督は足を止めなかった。
 確認せねばならない。
 
 より一層太陽光が遮られ暗い路地裏の曲がり角。
 垣根は、静かにその曲がり角を曲がった。



 そして、見た。


















 ミサカと思われる少女の、あまりにも無残な死体を。





「………………」


 垣根は無言だった。
 驚きで声が出ない、というわけではない。
 実際、垣根は冷静に状況を見極めようとしていた。


 ミサカは仰向けに倒れていた。
 だが、本来仰向けに倒れているならば、顔が必ず見えるはずなのだが、顔らしき部分が見当たらない。
 顔があった部分は、まるで花が開花したかのように爆散しているのだから。
 辺りを染め上げている液体の正体は、血であろうか。
 人体を雑巾のように絞ったのかと思うほどにその量は尋常ではなく、地面どころか壁にまでぶちまけられていた。
 身に着けている衣服には一切の傷がなく、だがしかし地肌が見えている腕や足の部分は、
有刺鉄線をぐるぐる巻きにして無理やり引っ張ったのかと思う程、ズタズタで見る影もない姿へと変貌している。

 もはやそれが誰なのか識別することが不可能なレベルで破壊されている死体だったが、垣根はそれがミサカである事を確信していた。
 理由は、何処かにはじけ飛んだのか、指の数すら足りていない死体の左手。

 
 薬指だったはずの肉片の根元に、不気味なくらい無傷のリングがわずかに差し込む日光を浴びて輝いていたからだ。

「……随分とまぁ、殺した奴はオリジナリティ溢れる殺し方を知ってるもんだな」


 垣根の『未元物質』でもこんな状態の死体を作り上げることは不可能だろう。
 まるで、全身にワイヤーでも通し、それを一気に引き抜いたかのような、そんな不可解すぎる死体を垣根は冷たい目で見つめている。
 もしもこれを目撃したのが何の変哲もない少年であったならば、あまりの惨状に嘔吐し、涙を流しながらそれでも警備員に通報する、なんて行動をとるだろう。

 だが、垣根はその死体を見ても全く動揺を見せなかった。
 が、変化がなかったかと聞かれれば、そうではない。
 垣根の顔面からは、完全に感情が消えている。
 言うならば、とても楽しい夢から覚めた直後のような、現実に引き戻されたときに感じる喪失感。
 そんな空っぽの感情が、垣根帝督を包み込んでいた。











 その時、路地裏から何か物音が聞こえた。

「!」


 垣根は一瞬で臨戦態勢になる。
 野良猫かもしれないし、裏路地によく潜んでいるスキルアウトかもしれない、ならば垣根の警戒は無駄だろう。
 だが、この惨状を作り上げた犯人という可能性もある。

 ミサカはレベル2、垣根はレベル5第二位、その差は歴然で、垣根がミサカと同じような死体へ変貌することはまずないだろう。
 だが、垣根は一切の油断をしていなかった。
 麦野沈利と戦った時以上に本気で、垣根は路地裏から現れるそれを静かに待ち続けた。






 そして、垣根は見た。
 路地裏から現れた『ソレ』は、どうみても――


「……ミサカ?」




「はい、ミサカはミサカです。とミサカはアナタの疑問に返答します」


 感情のない表情に特徴的な喋り方、頭に着けた軍用ゴーグル。
 姉である美琴が現れたほうが、まだ垣根は動揺しなかっただろう。
 だが、今目の前に現れたこの少女は、どう見ても垣根が今日の大半を共に過ごしたミサカだった。


「どうなってやがる……?」

「混乱するのも無理はありません、とミサカはフォローを入れます。ですが安心してください、アナタが思い浮かべる『ミサカ』は間違いなくそこに死亡しているミサカですから、とミサカは説明します」

「……あ?」


 垣根は再び死体へと目を向ける。
 もはやそれがミサカであることは、垣根が作ったリングでしか判別することは出来ない。


「ミサカ達はそのミサカの死体を回収しに来ました。とミサカは説明します」

「……ミサカ、達……だと?」


 カツリ、と『ミサカ』の背後から足音が聞こえた。
 足音の正体は大きな寝袋を担いでいて、その顔は――


「…………おいおい、どうすんだよ。意味わからな過ぎて笑いしかでねぇぞ」


 その顔は、どうみてもミサカだった。
 

 しかも、それだけではない。
 足音は一つ、二つ、三つ四つ五つ六つとどんどん増えていく。
 そのたびに、新たな人影が路地裏から現れる。
 その現れた人物の顔は全て同じ顔で、そのすべてがミサカだった。

 意味が分からず、垣根は無表情のまま笑った。

 『ミサカ』達は『ミサカ』の死体を手際よく処理していく。
 死体を寝袋に詰め、あちこちに散らばった部位を押し込み、血液を乾燥させ剥がし、薬を用いてルミノール反応などが出ない様隠蔽している。
 同じ顔の少女を同じ顔の少女たちが機械的に片づけていく。
 超能力が蔓延する学園都市においてなお、その光景はあまりにも非現実的すぎた。


「アナタが今日共に行動していた個体は10031号です、とミサカは説明します」


 最初に現れた『ミサカ』が事務的な口調で垣根に説明する。


「ミサカ達は脳内のネットワークを介してそれぞれの個体の記憶を共有しています、とミサカは追加説明します。10031号はとても楽しかったようですよ、とミサカは代わりにお礼を言います」


 そのお礼に、いったいどれほどの意味があるのか。
 

「……礼なんかいらねぇ。だが一つだけ答えろ。――――テメェ等、いったい『何』なんだ?」

「クローンですよ、とミサカは述べます」

 即答だった。
 

「学園都市に七人しかいないレベル5の第三位であるお姉様【オリジナル】の量産軍用クローンとして生み出された妹達【シスターズ】ですよ、とミサカは答えます」


 クローン。
 それは学園都市では有名な都市伝説ではあるが、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎてだれも本気にしていないネタのはずだった。
 だが、目の前に居る『ミサカ』達は顔も、身長も、何もかもが写し鏡のように同じだった。
 紛れもなく、現実だった。


「関係ないアナタを実験に巻き込んでしまい申し訳ありません、とミサカは謝罪します」


 寝袋を担いだまま、ペコリと『ミサカ』は頭を下げた。
 他の『ミサカ』達は次々に路地裏の奥へと消えていく。


「これはお返ししておきます。とミサカは手渡します」


 そう言って『ミサカ』が垣根に手渡してきたのは、『未元物質』で作られたリングだった。


「…………」

「では失礼します、とミサカは別れの挨拶を告げます」

 それだけ言って、『ミサカ』は去って行った。
 

「………………………」


 一人残された垣根は、完璧に処理を施され、死体なんて初めからなかったかのような状態にされた路地裏にしばらく佇んでいた。
 やがて、垣根は携帯電話を取り出し、ある人物へと電話を掛ける。


 電話は、3コール程で繋がった。
 


『どうしたの? 仕事でも入った?』

「心理定規、テメェに調べてもらいたい事がある」






 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




 
 垣根が『スクール』のアジトに戻ると、すでに心理定規はいくつかの書類を手にベッドに腰を掛けて待っていた。


「お帰りなさい。案外早かったわね」

「そりゃこっちのセリフだ。ちゃんと調べたのか?」

「当たり前よ」

 
 すねたように唇を尖らせながら、心理定規は垣根の元へ歩み寄る。


「こちとら暗部としての権力やコネを全部使って全力で調べ上げたんだから。少しくらい労ってくれてもいいんじゃない?」

「今度俺のおすすめの店に連れてってやる。それでいいだろ?」

「じゃあその日一日私とデートしてね。それならいいわ」

「わかったからとっととしやがれ」

「はいはい……って、ちょっと待ってよ何その猫、何であなたが猫を抱いてるの? ちょ、ちょっと触らせてよ撫でさせてよ愛でさせなさいよ」

「うるせぇからさっさと説明しろ!」


 心理定規も、垣根のその反応はやや不満だったようだが、書類を机の上に並べて近くにあった椅子に座った。


「第三位、超電磁砲についての情報……それも表沙汰にはなっていない、裏の情報を調べろだなんて、最初はアナタが性質の悪いストーカーにでもなったのかと思ったわよ」

「あんなガキのプライベートなんざ誰が興味を持つか。そんなくだらねぇ情報しか調べられなかっただなんて言わねぇだろうな?」

「当然よ。中々に衝撃的な情報を手に入れたわ」

 心理定規は一枚の書類を垣根に手渡した。
 何やらゴチャゴチャと専門用語が使われていたり、謎のグラフが描かれていたりと目に優しくない書類だったが、一番上に書かれた文字に垣根は目を疑った。


 


 『量産異能者「妹達」の運用における超能力者「一方通行」の絶対能力への進化法』





 書類を持つ垣根の手に、無意識に力がこもった。
 『一方通行』という人物と、『絶対能力』という単語。
 この二つを見た瞬間、垣根の心に沸々と黒い感情が湧きあがっていた。

 
 絶対能力【レベル6】
 学園都市のレベルは最大でも5、だからこそ一方通行と垣根帝督はレベル5という段位に収まっている。
 誰も踏み込めない前人未到の神の領域、それがレベル6だ。

 垣根はさらに、その下に書かれた文章に目を通す。

 『学園都市には七人のレベル5が存在する』
 『しかし、「樹形図の設計者」を用いて予測演算した結果、まだ見ぬレベル6へ到達できる物は一名のみという事が判明』
 『他のレベル5は成長の方向性が異なる者か、逆に投薬量を増やすことで身体バランスが崩れてしまう者しかいなかった』
 『唯一、レベル6にたどり着けるものは一方通行と呼ぶ』


 唯一。
 その言葉に垣根の中のどす黒い感情はさらに猛り狂った。
 第一位という存在に人一倍の執着と敵意を持つ垣根にとって、ここに書かれた文章はあまりにも許しがたい物だった。


 『一方通行は事実上、学園都市最強のレベル5だ。「樹形図の設計者」によるとその素体を用いれば、通常のカリキュラムを250年を組みこむ事でレベル6にたどり着くと算出された』
 『しかし、我々は「二五〇法」を保留とし、他の方法を探してみた』
 『その結果、通常のカリキュラムとは異なる方法を「樹形図の設計者」は導き出した』
 『実践における能力の仕様が、成長を促すという点である』
 『特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進めることで「実践における成長」の方向性をこちらで操る、というものだ』

 垣根の頭の中で、パズルのピースが合致するような感覚があった。
 大量の『ミサカ』達、死体、それらが一つの悍ましい結果へとつながっていく。


 『予測装置「樹形図の設計者」を用いて演算した結果、百二十八種類の戦場を用意し、超電磁砲を百二十八回殺害することで一方通行はレベル6へと進化することが判明した』

 
 超電磁砲というのは第三位の異名、すなわち御坂美琴の事だ。


 『だが、当然ながら同じレベル5である超電磁砲は百二八人も用意できない。そこで我々は同時期に勧められていたレベル5の量産計画「妹達」に着目した』
 『当然ながら、本家の超電磁砲と量産型の妹達では性能が異なる。量産型の実力は、多めに見積もってもレベル3程度のものだろう』
 『これを用いて「樹形図の設計者」に再演算させた結果、二万通りの戦場を用意し、二万人の妹達を用意することで上記と同じ結果が得られることが判明した』
 『二万種の戦場と戦闘シナリオについては別紙に記述する』

 
 別の紙に目をやると、そこにはズラリと並べられた『死に方』リストが存在した。
 いつ、どこで、どうやって、どういう風に死んでいくのか、それが細かく設定されている。

「こっちの紙にはクローンの作り方が書かれてるわよ」


 心理定規の手にあった書類を奪い取る様に垣根は掴み、目を通す。



 『妹達の製造法は元会った計画のものをそのまま転用する』
 『超電磁砲の毛髪から摘出した体細胞を用いた受精卵を用意、コレにZid-02,Riz-13,Hel-03等の投薬を用いて成長速度を加速させる』
 『結果、大よそ十四日で超電磁砲と同様、十四歳の肉体を手にすることが出来る』
 『元々劣化している体細胞を用いたクローン体である事、投薬において成長速度を変動させていることから、元の超電磁砲より寿命が減じている可能性が高いが、実験中に性能が極端に変動するほどではない物と予測できる』

 『むしろ問題なのは、肉体面ではなく人格面である』

 『言語、運動、倫理などの基本的な脳内情報は〇~六歳時に形成される』
 『だが、異常成長を遂げる妹達に与えられた時間はわずか一四四時間弱。通常の教育法で学ばせることは難しい』
 『よって、われわれは洗脳装置【テスタメント】を用いてこれら基本情報をインストールすることにした』


 羅列されている文字にすら悪意を感じるような、そんな吐き気を催す内容。
 垣根の脳にフラッシュバックするのは、幼いころから自身が見続けていた学園都市の裏側の光景――そして、自分を一日中連れまわしたクローンの姿。

 自分を振り回し続けたあの身勝手さも、無理やり脳に叩き込まれた基本情報だったのだろうか。
 ハンバーグを食べている時のあの感動も、ムキになってバットを振っていたあの姿も、猫を可愛がるときにみせていたあの表情も。
 全てが、ただインストールされたプログラム通りの行動だったのか。


「…………ハハッ、成程な。くだらねぇ、まったくくだらねぇな」

 
 垣根は笑う。
 ここまで乾いた笑いが存在するのだろうかと思う程に、力なく。


「俺としたことが、ただのクローン風情にあれだけ振り回されてたのかよ。情けねぇなぁ」

「……帝督」

「この猫だって、あのクローンに押し付けられたんだぜ? ざまぁねぇなぁ、お前もあのクローンと一緒に殺されりゃああの世であのクローンと一緒に過ごせたかもしれねぇのに」

「帝督、聞いて」

 心理定規が書類を置いて、まっすぐ垣根の瞳を見つめる。


「今夜……後一時間ちょっとで、次の実験がスタートするわ」

 
 ピクリと、わずかに垣根が反応する。

 
「場所は第十七学区の操車場、開始時刻は八時三十分。ここからあなたの能力ならばすぐに着くわ」

「……あぁ? 何言ってやがる?」


 明らかにイラついたように、垣根は心理定規を睨みつけた。
 どうしてこんなにも苛立つのか、垣根は自分にもわからない。


「どうして俺が、このクソ下らねぇ実験とやらに干渉しなきゃならねぇんだ? クローンを助ける理由何ざこれっぽっちも存在しねぇよ」

「あら、私はそこに行けば第一位が言うのだから殺せばいいじゃない、というつもりで言ったのよ。クローンを助けろ、だなんて一言も言ってないわ」

「……」

「暗部で仕事をしているアナタなら、何かを助けるだなんて考えすらしなかったでしょうね。……実は今日、街中で一瞬だけど帝督とクローンが一緒に居るのを見たの」

「……」

「貴方は面倒臭そうに顔を顰めてたけれど、でも私にはわかった。嫌じゃなかったんでしょう? もう表の世界には戻れないとわかっていても、表の世界の住人のように過ごすのは悪くないと思ったんでしょう?」

「心理定規、黙れ」

「私は心理定規、心の距離を測る能力者。でも今のあなたの心は能力がなくても測れるわ。アナタは闇から抜け出したいんでしょう? 暗く、寂しく、悲しい裏の世界から――



 垣根はいきなり立ち上がり、心理定規の首を掴んだ。



「……ッ……かっ……!」

「黙れっつったんだよ、俺は」


 ギリギリと、垣根の手に力がこもる。
 心理定規の細い首が小さく悲鳴を上げるように軋む。

「くだらねぇ事ばかり言いやがって、しかも殆ど大外れってんだから性質が悪ぃ。いいか? 俺は暗部から抜け出そうとなんて思ったことはねぇよ」

「……」

「闇に浸かっちまったら、もう抜け出すだなんて思う事すら出来ねぇんだよ。学園都市のクソッタレっぷりを一度見ちまえば、もう平和に過ごすなんて絵空事は語れねぇ。俺は自分の意思で暗部に所属した、そしてこのクソッタレな環境で俺は俺の目的を成し遂げる、その意思は誰が何をしようと変わる事は無い」


 垣根帝督の言葉には強い意志が宿っていた。
 暗部に生きてきた垣根にとって、表の世界とはもう二度と手の届かない範囲。
 裏の世界の人間が、表の世界に行くだなんて事は垣根には認められない。


「俺は暗部から抜け出すことはない、俺は一生このクソッタレな世界で生きていくと決めた。俺みてぇなクズはクズの世界でしか生きられねぇからな」



 だが、



「…………でもよ」



 垣根は心理定規の首を離す。
 心理定規は咳き込みながら、涙ぐんだ目で垣根の顔を見た。

「…………学園都市の裏側に生きるクズの都合で、表の世界に生きるべき奴が死ぬってのは、気にくわねぇ」



 その顔は、怒っているようで、微笑んでいるようで、悲しんでいるようで――何かの感情に満ちた、とても人間らしい表情だった。



 垣根は身を翻し、心理定規に背を向け歩き出す。
 その先にあるのは、先ほど垣根が入ってきたアジトの出入り口だ。


「……行くの?」

「どのみち第一位はぶち殺すつもりだったんだ、それが今になっただけだ」

「なら、私に何か手伝えることはあるかしら?」

「戦力としてならお前は邪魔なだけだが……そうだな、他の暗部組織が動こうとしてたら、それを食い止めろ」

「案外難しい注文をするわね。……でもまぁ、わかったわ。私に任せて」

「おぅ。…………悪いな、心理定規」

「ちょっとやめてよ、いきなりそんな素直になっちゃって、死亡フラグがビンビンよ」

「ハッ、くだらねぇ。この俺に死亡フラグなんてそんな常識が通用するかよ」


 垣根は背を向けたまま手を振り、アジトを後にした。
 一人残った心理定規はノートパソコンを起動しながら、垣根の出て行ったドアを見つめていた。


「……本当、ツンデレね。帝督は」


 クスリと笑い、心理定規は真剣な表情でパソコンの画面と向き合った。




 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




「…………で」


 垣根はアジトから少し離れた場所に居た。
 時間のせいもあるが、元々人がほとんど通りかからない場所に居る理由は一つ。


「何でテメェが、ここに居る?」

「説明しなきゃいけないでしょうか?」


 車輪が地面を擦る音。



 街灯に照らされ、闇の中から現れたパジャマ姿の女性は木原病理だった。


「俺の予想が外れてくれりゃうれしいからな、答え合わせだ」

「答え合わせは重要ですね。ええと、私はあなたを諦めさせに来ました」

「……予想通りかよ、クソッタレ」


 ニコニコと、病理はいつも通りの笑みを浮かべている。
 だが、いつもとは明らかに違う点が一つだけあった。
 今日の病理は、『木原』である事を隠そうとしていないようだ。


「一応聞いてやる、何で俺を止めに来た?」

「アナタが第一位に挑む事に何のメリットもありません。アナタが死ぬと私も『未元物質』の研究が出来なくなってしまいますし」

「俺が死ぬのは確定か? 舐めてやがるな」

「確定ですよ、なぜなら相手は第一位で、アナタは第二位だからです」


 当たり前のように病理は言った。
 1よりも10の方が多いという事実はどうやっても変えられないように、第一位という存在を第二位が打倒することは不可能だと。

「第一位の能力を発現させたのは、私よりも上位の『木原』です。第一位の能力が第一位になるべく狙って作られた能力とは言っても、第一位の能力を扱うのには常軌を逸した演算能力が必要になります。
それを可能とする開発を行った『木原』は紛れもなく天才でしょう。
だから帝督、諦めてください。あなたが第一位に挑めば学園都市、そして『木原』のトップランカーたちをも敵に回すことになります。そんなことになってしまえば、帝督には何のメリットもありませんよ」

「…………悪いな、木原病理」


 垣根は意地の悪い笑みを浮かべた。


「俺はテメェと違って、『アイツには敵わないだろうから諦めよう』だなんて軟弱な考えは持てないタイプなんだよ。敵わねぇって言われたら見返してやりたくなるタイプだ」

「…………」


 木原病理から表情が消えた。
 カタカタと手元のキーボードを叩くと、病理の座っている車椅子のシルエットが変化し始めた。
 車輪部分が割れ、蜘蛛のような金属の多脚が中から出現する。
 さらに側面から現れたのは、もはや大砲と見紛うほどの口径を持つ大口径散弾銃と軽機関銃、さらにはまるで蟷螂のような鎌までもが現れた。

「垣根帝督、さっさと『諦めて』ください。第一位に挑めばあなたは必ず敗北し、死亡する。そんな事、私は認めません。死なれては困ります、アナタと言う究極の実験材料を、失うわけにはいきません」

「……最後のがなきゃ、中々にいいセリフだったんだがなぁ」


 垣根はため息を吐く。
 


 ――――そして、次の瞬間には銃声と金属音と爆発音が、垣根の居た場所を飲み込んだ。




「……ここで優しく抱きしめて、涙でも流しながら「行かないで」とか言われたら中々良い演出だし考え直してやったんだがな」


 爆風が一瞬で吹き飛ばされる。
 中から現れたのは、白い六枚の翼を背にした垣根の姿だった。
 

「木原印の兵器か。その辺の能力者よりかは楽しめそうだな」

「楽しむのなんて諦めちゃってくださーい、と、言うわけですべてを諦めろよ垣根帝督」


 変形した車椅子から奏でられる、笑い声のような金属音。
 

 悪魔のような思想を持つ科学者と、天使のような翼をもつ能力者。
 二つの人外が、激突する。

はい、今回はここまでです。
久々に出たのに殺し合いとか病理さんマジバイオレンス


>>323
ネウロの原作三巻の最後の方にムヒョとのコラボ番外編みたいのがあって、試供品魔法律書で召還したのが魔元帥っぽいのです。
非常に形容しがたいフォルムをしてますので、どうかご自身の目でお確かめください。暗殺教室の殺せんせーのペットあたりに出てきそうな見た目です。


そして次回更新なのですが、ちょいと予定やら期末考査やらが立て込んでいまして、次の更新は少し間をあけて来週の月曜日あたりにさせていただきたいと思います。

それでは、次の更新時にお会いしましょう。次回予告と共に今日もアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『ところがどっこい死なないのでーす』

――――『諦め』を司る『木原』ファミリーの一人 木原病理(きはらびょうり)





『クソ……! 舐めんじゃねぇぞ木原ぁ!』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

あー、知ってる知ってる。まーネウロでまげんすいはやっぱアレしかないしなー…

>>1乙!!びょーりんが次回も見れるのが幸せだわー


上条さんが関与してないってことは……頑張れていとくん、急ぐんだ

びょうりん登場のところはwktkしたけどやっぱり第10031次実験のとこはあんまり読む気がしないなw再構成モノでは毎回あるシーンだから

> 「…………学園都市の裏側に生きるクズの都合で、表の世界に生きるべき奴が死ぬってのは、気にくわねぇ」


「邪魔するやつは善良な風紀委員であっても容赦しない、そうでなければ敵対する暗部の人間でも見逃す」
ってのが一方と対比するように描かれてた垣根の方針だったんだからそこをあっさり曲げちゃうのはちょっと残念

どんどん面白くなるな

一日更新が遅れてしまいました、申し訳ないです……
それと今回から頂いたレスには返信してみます。




>>365
今回も病理さんがメインです、よろしくお願いします。

>>366
このSSでのそげぶさんの影の薄さは異常

>>367
あまり原作や他SSとは被らないように、ちょこちょこアクションやセリフを変えたりする努力はしているのですが、やはり後の戦いのためにはどうしてもあのシーンは必須だったのです、申し訳ない。

>>>369
垣根にとって叩きのめす対象は『自分の邪魔をした奴』か『自分の気分を害した奴』の二種で、無駄に一般人を巻き込まないというのは垣根の矜持です。
だからもしもシスターズが垣根の任務や目的の邪魔をするようであれば遠慮なしに彼はシスターズを殺害するでしょう。彼は決してまともな人間でも正義の味方でもないです。
……みたいな、感じでどうか脳内変換しておいてください。やっぱりキャラを書くというのは難しいですね……

>>370
期待にこたえられるかが激しく不安であbbbbbbbbb



では投下していきます。

垣根VS病理の戦闘パートです。よろしくお願いします



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




 耳障りな音が連続して響く。
 木原病理の乗る車椅子は金属の八本脚の爪を食いこませながら、垂直の壁を恐るべき速さで移動していた。
 一方、垣根は背に生えた翼でビルとビルの間の空間を自由に飛び回る。
 
 その光景は、まるで獲物の蝶を狙う蜘蛛のようだ。


「俺の好きな映画の二作目にテメェみてぇな動きをする敵が出てきたな。同じ金属製の脚だがあっちは蜘蛛じゃなくて蛸だったが」

「私も見ましたよ、あの映画。足が使い物にならない私にはあの人体改造は魅力的でしたね」

 金属の足でビルの壁面を跳躍するという荒行を軽々と成し遂げる木原印の車椅子。
 昆虫や動物の動きをするロボットというのは珍しくない。
 火災現場等の人が立ち入れない場所での救助活動を行う際、人型よりも動きや機能性に優れた動物型の方が何かと優秀なのだ。
 

 そして木原病理の扱う科学製品も同じように、昆虫の動きをモデルにしており、この車椅子は蜘蛛の動きを参考にして作られたものだ。


 だが、木原病理が真に目指す科学製品は昆虫を科学的に再現した、なんてありふれたものではない。
 現実には存在しない、未確認生命体を科学的に再現するというのが、病理が思い浮かべている木原印の車椅子の完成形である。


(まぁ、それを再現するためには私の頭の中にある理論を実現させる材料が必要なんですけどね)


 その材料こそが、垣根の『未元物質』。
 この世に存在しない物を再現するには、この世に存在しない物質を扱うしかない。
 もし、この理論さえ実現すれば。

(今度こそ、あの人を諦めさせることが出来るかもしれませんしねぇ)


 クスクスと笑みを浮かべる。
 木原病理の原点、諦めさせるという性質を他者に向け続けていた病理が初めて自分自身の事で諦めた、そのきっかけとなった人物。


(ですから、完全に死んでもらっては困るんですよ――ねぇ!)


 大口径散弾銃から弾丸の嵐が吹き荒れた。
 反動と発射音だけで人を絶命させかねない威力の弾丸は、流れ弾に当たった車を一瞬でただの金属の塊へと変貌させる程で、もしも人体に直撃すれば原形を保つことは不可能だろう。
 しかし、垣根は己の翼で体を包むように全体をガードする。
 ドガドガドガッ! と凄まじい衝撃が翼に響いたが、垣根自身にダメージを与えるには至らない。


「あらあらー、やーっぱり無理ですかぁ。やっぱり頑丈ですね、帝督の『未元物質』は」

「これから第一位を殺しに行くってのに、こんな所でダメージを負ってられっかよクソボケ」

 垣根は巨大な翼を操作し、反撃へと転じる。
 二枚の翼で空中に留まり、二枚の翼で烈風を起こして退路を塞ぎ、残る二枚の翼はそれ自体を巨大な剣のように病理に向かって伸ばした。
 病理が留まっているのはビルの壁面、高さ約三十メートルほどの地点だ。左右は烈風により退路を塞がれている、逃げ場はない。


「……あらあらー、ピンチなのでーす……ですが」


 金属の脚がビルの壁面を思いきり蹴った。
 しかし、病理が移動した方向は左右でも、別のビルでも、さらに上部でもなく――下。
 約三十メートル程下にあるアスファルトの地面に向かって頭から飛び込むように、自ら跳躍したのだ。


「随分スピーディな飛び降り自殺だなおい!」

「ところがどっこい死なないのでーす」


 車椅子の手を乗せる部分辺りから、何かが高速で発射された。
 それは弾丸以上の速度で空中を駆け抜け、道路を挟んだ反対側のビルの壁面へと突き刺さる。
 突き刺さったのは、釣り針のような返しがついている金属片であり、そこから病理の座る車椅子まで細いワイヤーのようなものが伸びていた。
 学園都市の最先端技術で作られたこのワイヤーは0,00001ミリの太さで最大一トンもの重量を持ち上げることが可能で、病理が発射したワイヤーは約五センチ程度の太さがあった。
 自由落下を続ける病理は手元のキーボードを操作し、掃除機のコードのように一気にワイヤーを収縮させる。
 病理の体が車椅子ごと凄まじい速度で引っ張られ、あっという間に病理は向かいのビルの壁面へと着地、ではなく着壁した。


「……マジで蜘蛛だな」
 
「病理ちゃんは細かい所に気を使うタイプです。そして、色々と仕込みをするタイプでもあるんですよ」


 病理が再び手元のキーボードを素早く指で叩く。


 瞬間、垣根の体が見えない『何か』に引っ張られるように、急速に病理の元へと吸い寄せられ始めた。


「なっ……!? 何しやがった!」

「この病理ちゃんがただがむしゃらに今まで帝督を追いかけ続けていたと思いました?」


 病理はビルの壁面を移動し、垣根を追いかけるふりをしながら――実は垣根を細いワイヤーで絡め取る様に誘導していたのだ。
 車椅子の背もたれから延びている細いワイヤーは、垣根の体に巻きついてもその重量や感触すら感じさせないほどの細さで、病理はそのワイヤーを一気に巻き戻した。
 結果、垣根の体はそのワイヤーごと病理の元へ手繰り寄せられている。

「さて、こちらへいらっしゃーい」

 
 もはやマシンガンでも連射しているのかと錯覚するほどの連続音を響かせながら、金属の脚は凄まじい動きでビルの壁面を駆け上がる。


「クソ……舐めんじゃねぇぞ木原ぁ!」

 
 垣根は翼をより一層大きく広げた。
 瞬間、垣根の体にかかっていた力が消え、垣根は再び空高く上昇した。
 

「ワイヤーを切られてしまいましたか……うーん、『未元物質』は応用力が高いのが魅力なんですが、相手にするとこれ以上ないくらい腹立たしいですねぇ」

「褒め言葉として受け取っておいてやるよ。……やっぱりテメェは侮れねぇ。だからこっちももう少し本気で行かせてもらうぜ」

「本気とかやめてほしいのですけども。ぶっちゃけマジでさーむいーのでーす」












 病理が小馬鹿にしたような言葉を吐いた瞬間、凄まじい轟音と共に病理の周りが急に暗くなった。

「……まーじですか?」


 理由は、地上を照らしていた月光が遮られたからだ。
 では、一体何に遮られたのか。

 その正体は――――垣根の翼によって切断され、病理に向かって落ちてくる四フロア分のビルの断片だった。


「銃器で粉砕……は、出来ないでしょうねー」


 病理は落ちてくるそれを迎撃することは諦め、別の案を実行することにした。
 車椅子から再びワイヤーを発射する、放った地点は別のビルの壁面――ではなく、落ちてくるビルだ。
 金属片がビルに突き刺さるのとほぼ同時にワイヤーを巻き戻し、病理は落ちてくるビルに着壁した。
 当然ビルは今も落下を続けているので、病理の身体もそれに従い地面へ向けて落下している、が、病理は多脚を駆動させ、今なお落ち続けているビルの壁を駆け上がりはじめた。


「自画自賛になりますが、世界一アクロバティックな車椅子操作ですよね」

「確かにな、大会がありゃぶっちぎりで一位かチート扱いで出場出来ねぇかのどっちかだろうな」

 落下し続けるビルに垣根が降り立つ。
 本来なら重量の違いの関係でビルに立つことなど出来ないだろうが、垣根の広げる翼が何らかの力を発揮しているためか、普通に地面に立っているような気軽さで垣根は病理と向かい合った。


「落ちゆくビルが戦場だなんて、中々格好よくありません?」

「そんなシチュエーションで戦うゲームがあったような気がするんだけどな」


 金属の鎌と未元物質の翼がぶつかり合い、金属音に近い不可思議な音を辺りに轟かせる。
 一撃では終わらず、二本の鎌は嵐のような猛攻で垣根の体を引き裂こうとするが垣根の翼がそれらを全て迎撃し、それどころか隙を狙って病理に反撃をしようと攻撃を加えている。
 病理は攻撃を二本の鎌で、防御をビルにしがみつくために浸かっている脚以外の脚で行い、常人の目には見えぬほどの攻防を繰り広げていた。


「はは! やっぱすげぇな、最高だぜ木原病理!」

「そういうセリフはデートの時に言ってほしかったですね!」

 鎌と翼がぶつかり合い、お互いがはじかれるのと同時に両者がビルから飛び上がった。
 ソレに少し遅れてビルは地面へと到達し、轟音を響かせながら地面や車や建物を瓦礫で飲み込む。
 まだこの時間出歩いている人間はそれなりに居るため、悲鳴やら叫び声やらが下の方から響いてくるが、天に向かって飛翔する垣根とビルの壁面を駆け上る病理の耳には届かない。


(厄介なのはあの脚だな。こう障害物や高い建造物があると移動性能は向こうの方が高ぇ。この辺り一帯を更地にしちまえば俺が有利だが、そうなると別の奴らに目をつけられる)


 これから第一位との戦いを控えているのだ、こんな所で注目を浴びたり余計な手間を増やしたりすることは極力避けたい。
 だが、垣根が実験を止めに行く事も何処からか掴んだ病理の事だ、これから垣根が向かう場所も把握しているだろう。
 いったん逃げ出し実験場に向かったとしても、あの蜘蛛のような車椅子に乗って病理は何処までも追いかけてくるはずだ。












(さて、と。ここまでは上々です。ですがここからが問題ですね……)


 病理はビルの壁面を高速で駆け上りながら思考する。

 病理の車椅子、Made_in_KIHARAのそれは車椅子としての高性能はもちろん、木原病理独自の技術による改造や本来車椅子に備え付けられるはずのない機能を取り付けられた普通の兵器以上に凶悪な代物だ。
 しかし、高性能という事はそれだけそのすべてを扱うには技術が必要となる。
 病理は手元のキーボードで操作入力することにより兵装を動かしている。
 もちろん金属脚による壁面移動等はAIに任せている部分もあるが、より精密な、臨機応変な使い方をするためにはどうしても最終的には人間の判断が必要なのだ。


(未元物質と渡り合うためにはフルに機能を使う必要があります。が、この車椅子も実はまだ未完成な部分もありますからね。未元物質があれば完成形に一気に近づけるのですが、その未元物質を相手にしているというのは何とも残念な話です)


 第二位と渡り合うという事は並大抵のことではない。
 第三位以下ですら、たった一人で軍隊と戦えるほどの戦力を有している。
 ならば、第三位以下とは比べ物にならないほどずば抜けた存在である第二位と第一位は、いったいどれだけの力を有しているのか、それは想像すらできない規模の力。
 それと渡り合える時点で、もはや『木原』が手にしている科学は人外の域と言える。

(このままでは先にマシンの限界が来てしまいそうです。狙うならば短期決着ですかね)


 木原病理は四十五階建てのビルの屋上へと昇り、さらに高い地点で病理を見下ろす垣根へと視線を向けた。
 二人の距離は、約十メートル程度。
 機銃で狙い撃つことはできるが、未元物質の翼が展開されている今、撃ったところで無駄弾にしかならない。

 だが、このままこう着状態が続くことは、病理の勝利へとつながる。
 垣根が実験に間に合わなければ、それだけで病理は目的を達成できるのだから。


(ですが、帝督がこのままにらみ合いなんてするわけもないですし、どう動くか……)


「なぁ、木原」

 
 垣根が病理へと話しかけてきた。

「はい、なんですか?」

「テメェは能力者でもないのに、この俺をここまで楽しませた。すげぇよ、誇っていい、テメェ等の科学技術はマジで化け物クラスだ」

「それはそれは、科学者冥利に尽きる言葉です。……ですが、ただ素直に帝督が私を褒め称えるとは思えないのですがー」

「時間も押してきたからな。これは俺が贈る最大の賛辞だと思ってくれて構わねぇよ。……だが、もうここで終わらせてもらう」


 垣根が言い放つ。
 まるで、ゲームに飽きたので終わらせよう、と言っているような雰囲気で。


「……そう簡単に、この病理ちゃんはやられませんよ?」

「いいや、もう終わりだよ。……まさかとは思うが、俺の『未元物質』の性能があの程度だなんて思ってねぇよなぁ?」

「!」


 思い返せば、垣根があの翼でやった事は烈風を起こす、直接叩きつける、空を舞うの三つだけだ。
 よく考えれば、その程度なわけがない。
 この世の法則すら捻じ曲げる『未元物質』が、その程度の事しか出来ないわけがないのだ。


「……4ですが、機動性はこちらが有利です。このまま時間稼ぎを――
 

 病理が一旦垣根と距離をとるために跳躍をしようとした、その瞬間――八本の金属脚の内の一本が、突然真ん中あたりから吹き飛んだ。
 

「ッ!?」


 バランスを崩し、病理の乗った車椅子が大きく傾く。
 だが、すぐにAIがバランスを保つために最適の重心を演算し、一本脚を欠いたまま蜘蛛型車椅子は何事も無かったかのように立ち上がった。

「……一体何を?」

「見えなかったか? そりゃそうだよな。地平線の先まで降り注いでる月光を目視するなんて出来ねぇよな」

「月光……?」

「『回折』って知ってるか? 光波や電子の波は狭い隙間を通ると波の動きを変えて拡散する」


 その現象自体は、高校の教科書にも載っているような内容だ。
 しかし、腑に落ちない。
 どのような現象であれ、それが『科学』の分野であれば病理は一発で看過できる。
 だが、いくら『回折』を使って光同士を干渉させ拡散した所で、それがこのような現象を起こせるはずがないのだ。

 しかし病理は知っている。
 この世の法則には乗っ取られない摩訶不思議な法則、それに限りなく近い科学の力を。


「……『未元物質』の力ですか……!」

「大正解。俺の『未元物質』に触れた月光はその性質を変化させた。機械なら探知できるかもしれねぇが人間の目には映らない不可視のレーザーにな。これが太陽光なら人体を焼き尽くす殺人光線に出来るんだが」

 『未元物質』による性質変化は、ある程度は垣根の思い通りにできるが、何でも好き放題にできるというわけではない。
 既存の法則を捻じ曲げ新たな法則で動かすというその性質は、触れた物によってその効果を変える。
 だから、月光は不可視のレザーに、太陽光は殺人光線に変えられるものの、太陽光を不可視のレーザーに、月光を殺人光線に変えることは不可能なのだ。


 不可視のレーザーが垣根の翼から次々と放たれる。
 見えない物を回避できるはずもなく、金属の蜘蛛は次々に脚や鎌をもぎ取られていった。

 
「それだけじゃねぇ。この辺り一帯の空間は既に俺の『未元物質』に支配された。もうテメェは思った通りに動く事すら出来ねぇ」


 更なる異変が起こる。
 AIによって管理された金属脚が突然バラバラに、不可解な行動をし始めた。
 プログラムに設定されていない動きのせいで各部位に無理な負担がかかり、耳障りな金属音の悲鳴を一斉に奏で始める。

「…………」


 病理が手元のキーボードを叩く。
 すると、金属脚が一斉に動きを停止した。
 AIによる自動操縦から、手動操作へと切り替えたのだ。


「まだ、諦めませんよ」


 木原病理は笑う。


「誰かを諦めさせるというこのスタイルは、私が唯一諦めたくない事ですから」

 
 ビルを蹴り、金属の蜘蛛は三本しか残っていない脚で大きく跳躍する。
 まるで空中を舞う獲物に飛び掛かる肉食獣のように。
 木原病理は垣根帝督へ向かって、最大出力で飛び掛かった。


「…………テメェ」


 一度だけ、垣根は翼を動かした。
 ただ、それだけだった。
 それだけで、木原病理の車椅子は粉々になった。






 
 勝敗は、決した。











 四十五階建てビルの屋上よりもさらに高い位置から、木原病理の体は落下していた。




 重力に引きずられ、どんどんと加速しながら病理の体は少しずつ地面へと近づいていく。
 このままいけば、十数秒後には病理の体はもはや形すら留めていないだろう。


(負けましたか。ま、いいでしょう。私自身、自分の命を諦めていたわけですしねぇ)


 諦めた。
 自分の命を、宿敵の打倒を、目的の達成を、病理は少しでも敵わないとわかったその瞬間に諦めてきた。
 誰かを諦めさせ、そして代わりに自分がその場所へのし上がる。
 そうやって、木原病理は生きてきた。
 だが、どうやっても『諦めない』存在はいる物だ。
 たとえば、決して諦めずに悪徳を繰り返し続ける、第一位の能力を発現させた『木原』
 彼との競争が、木原病理の人生初めての『自分自身の諦め』だった。
 そして、今日も又一つ、諦めた。
 自分の命を。
 何かを諦めさせるというスタイルだけは、諦めずに。

(私以外の『木原』に殺されて実験材料にされるよりかは、欲しかったものに殺される方がまだいいですよね)


 木原病理は目を瞑る。
 自分自身の命を諦めたそれは、まるで迎えにやってきた『死』を抱擁し歓迎するかのようで。
 


 そして、病理の体に小さな衝撃が走った。




「…………?」


 おかしい。
 あの高さから落下したのならば、衝撃はこんな程度ではないはずだ。
 そもそも、衝撃を感じる暇もなく絶命するはずだ。
 それなのに、手は動くし風も感じているし、はるか下の方から人間の声や車のクラクションが聞こえている。

 まさか、空中にクッションがあったとでもいうのか?

「いや、そんなわけはないですよねぇ」


 病理はゆっくりと目を開ける。 
 眼下に広がるのは夜の学園都市。
 流石に先ほどいた場所よりかは低い位置だが、それでもかなりの高度に自分の体はあるようだ。
 
 そこで病理は気づく。
 自分の体が、横になっていることに。
 そして、何かに自分の体が支えられていることに。


「よぉ、やっと目を開けやがったか」


 声がした。
 聞き覚えのある、とある少年の声。
 それが、自分のすぐ近くから聞こえてきた。




「…………え?」













 木原病理は、垣根に抱きかかえられていた。

 垣根は背に翼を生やし、病理の体をお姫様抱っこ状態で抱えたまま空中を移動している。
 一体なぜ、こんな状態になっているのだろうか?


「あ、あの」

「何だよ」

「…………どうして私は、帝督に抱えられているんですか?」

「だったら離してやろうか? ここから落ちたらヒキガエル状態だぞ」

「いえ、別に離せとは言いませんけども……」


 先ほどまで殺し合う、病理は垣根を殺すつもりはなかったけれど、争っていたはずなのに。 
 まるで、物語の1ページにありそうな、天使に抱えられて何処かへ行ってしまうお姫様のような。
 そんな幻想的な光景を、科学の街で科学に開発された化け物と科学に愛された悪魔が描いている。

 実の所、病理はその気になれば垣根に手を離されてもどうにか対処できた。
 義足と言うのはあまりにも機械的な、通常の歩行や走行、階段の上り下りはおろか大型肉食獣すら蹴り殺せるほどの威力の蹴りを放つ事が出来る駆動式ギプスが、病理の脚には装備されているのだ。
 コレがあれば、ギプス自体は砕け散るかもしれないが、肉体へのダメージは生命維持には何の問題もない程度に抑える事が出来る。

 だが、病理はそれを使用することはしなかった。
 垣根の腕の中で、静かに夜の学園都市を見下ろしていた。


「こんな風に学園都市を見るのは初めてですが、中々綺麗ですねぇ」

「そうだな、何でも外面だけは良いもんだ。テメェみてぇにな」

「失礼な、病理ちゃんは内面までもがとてもとても美しい(笑)ですよ?」

「自分で笑っちまってんじゃねぇかクソボケ」


 病理は笑い、垣根も笑う。
 先ほどまで戦っていた者同士とは思えない、素直な笑みで。









 垣根は適当なビルの屋上に病理を降ろした。
 


「はー、余計な時間食っちまった」

「……やっぱり、諦めさせたいんですけどね」

「あ? まだやるつもりかよテメェ」

「いえいえ、病理ちゃんに戦う力はもう残っていませんよ」


 嘘だ。
 木原印の車椅子自体は粉々に砕け散り、どこかに墜落しただろうが、まだ病理は足に仕込んだ駆動式ギプスや兵装が残している。
 だが、それを使うつもりはなかった。
 

「初期の沙汰とは思えませんねぇ」

「当たり前だ。まともな脳みそで学園都市の第二位だなんてやってられっかよ」

「…………相手は、自分よりも上位の化け物なんですよ?」

「知ってる」


 垣根は言い淀む事無く即答した。
 勝てるはずがないのに。
 自分よりも『上位』の存在に挑む事なんて、『諦めた』方がいいのに。
 垣根帝督という人間は、諦めない。


「そこまで、あのクローンが気に入ったんですか?」

「馬鹿言うんじゃねぇよ。あんな実験生物にこの俺が惚れ込むとでも思ってたのか?」

「……」

「俺が実験を止めるのは、ただ単に俺の我儘だ。
第一位の野郎は今すぐにでも殺したいし、裏の人間のバカな考えで表の奴が裏に関わらされるのも気に食わねぇ、だから全部潰す。 
二度とこんなくだらねぇ事考えられねぇように、粉々に磨り潰してやるんだよ」


 自分勝手。
 垣根は自分の都合で実験を止めるという。
 そこに、今日一日の半分以上を共に過ごしたミサカへの感情は一切無いと、垣根は言った。
 それが本当かどうかは、病理にはわからない。
 垣根自身にすら、わかっていないかもしれない。


「明日にでも学園都市のレベルの順位は入れ替わるぜ。そしたら俺は直接交渉権も得られるしな、いい事づくめで笑っちまうぜ」

「勝てれば、の話ですけどねぇ」

「あぁ?」

「二位より一位の方が優れているのは当然の事じゃないですか」

「当然か。はっ、ふざけてやがるな。仕方ねぇ、教えてやるよ」

 
 垣根は白い翼を広げ、大空へ羽ばたきながらこう言った。










「この俺に、常識は通用しねぇ」








 ニヤリと笑い、垣根の姿はすぐに夜の闇に消えて見えなくなった。

今回はここまでです。


ババッと駆け抜けてしまいましたが、いかがだったでしょうか。
ちなみに今回の戦闘の参考資料はスパイダーマン2と3の戦闘シーンです、ビルの壁を伝っての戦闘ってスタイリッシュですよね。

そいでは次回予告と共にお別れです。次回更新は……土か日くらいに予定しております。

では、今日もアリガトウゴザイマシタ!

格好いいなぁ、垣根さん  乙


あと、SOちょっと邪魔

     『次回予告』






『……たすけて、よ……』

――――学園都市第三位の電撃姫 御坂美琴(みさかみこと)



『あーあー、情けねぇ顔しやがって。みっともねぇなぁ、第三位』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

乙!次回も楽しみだ

乙!
みこっちゃん...だと...

びょーりん、垣根を諦めるさせる事を諦めて、自分自身も諦めて、諦める事は諦めない、ん?訳わかんなくなったわ。

>>403スマソ。

>>1の病理さんが実に素晴らしい!!最高過ぎる!!
乙。


垣根がイケメルヘンだ


垣根スレってだけで俺得だけど、質も速度も安定してて文体も読みやすいとか超俺得っていつも思って読んでる
びょうりんマジ可愛い、撃破されることで一気にヒロイン力が上がったな

乙!
びょうりん好きなのはわかるが投下中にレスするのはやめてほしい…

>>410
同意

あとどうでも良いんだけど戦闘能力でlevel5の順位が変わるわけじゃなかったような……
演算能力じゃなかったかね?
それをびょーりんが知らないはず無いだろうなぁ……
と、思いました、まる。

>>411

ちげーよ

工業的な利用価値だろ

>>411
「能力研究の応用が生み出す利益」
だよ。例として、いくら第七位が強くなろうが、そもそも研究価値が無に等しいから、第七位にいる。って感じ

最近の読者様はちょっとした脳内補完もできないのか
口調自体は柔らかいからまだマシだが、書き手のテンションを下げるようなことを書いてSSをエターならせたりしないでくれよ


「あ、あの」

「何だよ」

「…………どうして私は、帝督に抱えられているんですか?」

なんやねん、甘すぎるねん、ええやん、無茶苦茶ニヤニヤしてまうやん!

真昼間から更新にやってきましたぜぃ
五時半からバイトなもんでねぇ……また酔っぱらいの相手をせねばならん。



>>402>>408
垣根さんマジイケメルヘン

>>403>>407
レスをくださるのはとてもうれしいです、本当にありがとうございます。
しかし、ほかの方も読んでくださっているので、他の方の迷惑にならない程度によろしくお願いいたします。

>>405
もうすぐメインイベントですからね……ハチャメチャが押し寄せてきやがったぜ……

>>406
垣根を諦めさせることは諦めずに、自分の命を諦めて決死の特攻
病理さんは垣根を力ずくで止める事は諦めましたが、まだ何かを企んでいるようです。

>>409
そこまで評価していただけると私も嬉しさとプレッシャーでおろろろろろろろろ
病理さん……原作でも未元物質で全身複製して復活してくれないかな……

>>410
最初に投下中はレスはお控え願いますと書いておけばよかったです、申し訳ありません。

>>411>>412>>413>>414
 第一位と第二位の間には絶対的な壁があり、第二位が第一位に勝る点は存在しない、というのが裏側の研究者の中の常識、というのが私の中の脳内設定です。
 一方通行は最初から一位になることが決定されていた能力者で、能力応用、戦闘力、そしてアレイスターしか知らない一方通行という能力の真価などを踏まえ、アレイスターですら垣根は何一つ一方通行には及ばないと思っています。
 要するに、わずかな差と言えども、一方通行はありとあらゆるステータスで垣根を上回っている、みたいに考えてください。
 垣根が勝っているのは身長と顔面偏差値とコミュ力位なものです。

>>415
しかし病理は木原である。



そいでは投下していきます。
夜の鉄橋からお送りいたしまーす。



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






 夜の鉄橋。

 普段なら物音ひとつしないであろうその場所にポツンと佇む人影が一つあった。
 人影の正体は制服姿の少女で、身体の回りにパチパチと青白い火花が散っている。

 少女の名は御坂美琴。

 自分の知らぬ間に、二万人のクローンを作られた学園都市第三位のレベル5。


「…………」


 美琴は小さく息を吐き、自分の手を存在を確かめるかのように見つめた。
 ぐっ、ぱっと手を閉じたり開いたりする。
 赤ん坊にも出来る、当たり前の動作。
 だが、この世にはそれすら出来ない人もいる。

 筋ジストロフィー。

 少しずつ全身の筋肉が動かないようになっていき、最終的には心臓や肺の自由すら奪われてしまう不治の病だ。
 美琴は筋ジストロフィーではない。
 知り合いに筋ジストロフィーの患者がいるわけでもない。

 だが、その病気はとても辛いんだろうなと思う事は出来た。
 そんな人たちの為に、自分にできることは何かないかと思う事も出来た。
 
 そして、そんな人たちを救えるかもしれないと、幼い自分に言ってきた研究者が居た。
 脳から筋肉へと下される電気信号の命令を、通常の神経ルートとは別のルートで送る事が出来れば、徐々に体が動かなくなる絶望から人を解放する事が出来ると。
 美琴はその言葉を信じて疑わなかった。
 自分の力がたくさんの人を救えると、喜んだ。

 美琴のDNAマップはそうして学園都市の書庫へと登録された。

 だが、美琴が幼き日に描いたモノは大きく捻じ曲がってしまっていた。


 ボタン一つで無尽蔵に大量生産される自分自身のクローンは、すでに一万人以上殺害されてしまった。
 残っている一万人近いクローンも、このままではすぐに虐殺されてしまう。
 困っている人を救いたいという美琴の願いが、二万人の命を奪ってしまう事になってしまう。

 
 それは、決して許されない大罪だろう。
 けれども、許されることはなくとも出来る事はある。
 
 実験を止める。

 それさえできれば、一万人近い命は救う事が出来る。


「……」


 しかし、相手は第一位。
 二つしか順位は違わないのに、その実力の差は天と地以上に離れている。
 あらゆる策、技術、道具を駆使した所で決して埋まらない溝が存在している。

 実験を止めるために、美琴は出来る限りの事をしてきた。
 昼夜を問わず、休息も殆ど取らず、実験に関係する研究所を破壊してまわったりもした。

 だが、実験は止まらなかった。

 実験を止めるには、もはや第一位をどうにかするしか方法はない。
 第一位に挑めば、美琴は間違いなく死ぬだろう。
 無謀な事に命をかけることが格好いいとは思わないし、それを望んでいるわけでもない。
 実際、体は震えているし心は冷たくなっているし、頭はうまく働かない。

 出来る事なら、逃げ出してしまいたい。
 助けてと叫びたい。


 それは、きっと妹達も同じだったんだろうなと思う。
 口には出さなくても、インプットされていなくても、殺されるために生まれてきて、理不尽に殺されて終わるだなんて事を望んでいるはずがない。
 そんなことが、あっていいはずがない。
 だから、妹達が逃げ出せないのに、助けてと叫びたいのに、加害者である自分がどうして弱音を吐けるのかと、美琴は思った。

 この弱さだけは、誰にも見せてはいけないと美琴は思った。
 

「…………何で、こんなことになっちゃったのかな…………」


 美琴が唯一本音を口にできるのは、誰もいない闇の中だけ。


「……たすけて、よ……」


 十四歳の少女のあまりにも悲痛な叫びが、夜の闇に溶けて消える。
 誰にも届かない、たった一人の孤独な悲鳴。
 



 の、はずだった。












「あーあー、情けねぇ顔しやがって、みっともねぇなぁ、第三位」

 闇の中から響く声。
 カツカツと近づいてくる足音。

 美琴は顔を上げる。



「……何、で……」



 闇を背に、美琴の前に一人の少年がやってきた。

 誰にも聞かせたくなった悲鳴を聞いて。
 誰にも見せたくなかった表情を微笑みながら見つめて。
 闇の中で泣く少女の元へ。






 闇の奥底から、垣根帝督はやってきた。 









 垣根はそこに居るのが本当に美琴なのか、一瞬だがわからなくなった。

 空を飛び、実験場となる操車場に向かう途中に鉄橋の上に一人佇む美琴を見つけ急遽降りてきたのだが、そのあまりにも痛々く、今にも泣きだしそうな表情は普段の美琴からは想像もつかない物だった。
 まるで、そのまま闇の中に飲まれて消えてしまいそうなほどに。


「……何で、アンタがこんな所に居るのよ」

「そりゃこっちのセリフだ。ガキはもう家に帰って寝る時間だぜ?」

「ふん、このレベル5の超電磁砲にそんなの関係ないわよ。寄ってくる不良やスキルアウト程度、何の問題もないわ」


 何時もの生意気な口調。 
 だが、美琴は垣根の目を見ていなかった。
 まるで独り言のように、美琴は話していた。

「ふーん、じゃあテメェはむしろ絡まれてる奴を助ける側なんだな」

「そうよ、当然でしょ?」

「すげぇな。助けるために自分から殺されに行くなんて、テメェ程『妹』思いの姉は見た事ねぇよ」

「…………!」


 垣根がニヤリと笑みを浮かべた。
 その言葉を聞いた瞬間、美琴は自分の中の『何か』が木端微塵に砕け散るのを感じた。

 感情と動作が一致しない。

 どうして知っているのかだとか、聞く事はいくらでもある。
 だが、美琴はほとんど麻痺したように、目を見開いたまま動く事が出来なくなっていた。

「レベル5のDNAマップを使って生み出した軍用クローンか。相変わらず学園都市の上層部が考えるのは何処までも腐ってやがるな」

「……」

「最近立て続けに起こった研究所へのテロ行為、あれもテメェだろ。大方研究機器や情報を根こそぎぶち壊せば実験が止まるとでも思ったんだろうが、残念だったな。学園都市のクソみてェな闇はゴキブリ以上にしつこいんだよ」

「……アンタ、一体、なんなの……?」

「その質問に答えてやるかどうかは、テメェ次第だ。第三位の超電磁砲、御坂美琴」


 垣根がゆっくりと美琴に向かって歩き始めた。
 美琴は一瞬後ろに下がりかけたが、引くわけにはいかなかった。
 ここで引いたら、自分はあらゆる事に敗北したことになるだろう。
 そうなるわけにはいかない。
 第一位と戦ったら確実に負けて死ぬとしても、戦わずに死ぬのと戦って死ぬのには大きな隔たりがあるのだから。

「止まりなさい」

「さぁて、どうしようかね」


 垣根はヘラヘラと笑いながら、足を止める素振りは一瞬も見せなかった。
 美琴の眉間に力が籠る。
 どうして。
 どうして『知っているだけ』のこいつが、こんなにもヘラヘラと笑っているのか。

 その顔を見ているだけで、美琴は全身の血が沸騰しそうになるくらいの苛立ちを覚えた。


「どうした? 何をそんなに怒ってんだ?」

「……黙りなさい……っ!」



「テメェは何に対して復讐したいんだ? クローンをぶち殺してる第一位か? それともクローンを生み出した科学者か? それとも……クローンの大元になってる自分自身か?」



「黙れぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 美琴の絶叫が辺りに響き渡った。
 垣根は漸く、足を止める。
 二人の距離は、約十メートルほどだ。


「黙りなさい……!」


 バチバチと美琴の周りに紫電が迸る。
 まるで稲妻の鎧をまとっているかのような、攻撃的な電流を帯びたまま美琴は垣根を睨みつけた。


「……テメェは、第一位に戦って勝とうだなんて、最初から考えてねーんだろ」

 
 ビクッ! と、美琴の体が大きく揺れた。
 垣根の言葉に核心を突かれた美琴の心が勝手に反応を示したのだ。


「超電磁砲を一二八回殺害することで第一位はレベル6へと進化する。が、それは無理な話だ。そのために代役としてクローン共は生み出された。


 垣根はツラツラと言葉を紡ぐ。
 まるで、美琴のぐちゃぐちゃになってしまった心を整理するように、一つずつ。


「クローンを二万体殺害することでレベル6へと進化するってのが『樹形図の設計者』が弾き出した解答だ。だからテメェは、自分の力でその計算式そのものを間違ったものにしようとした」

「……」

「例え自分を一二八回殺害したとしても、レベル6には至れない。超電磁砲にはそれだけの価値がない。……『樹形図の設計者』は間違っていた、そういう結果をテメェは出すつもりだったんだろう?」

「正解よ」


 美琴は即答した。
 『樹形図の設計者』は二週間ほど前に、原因不明の攻撃により撃墜されている。
 つまり、今いる研究者は『樹形図の設計者』が動いていたころに吐き出された計算結果のストックを消費しているだけに過ぎない。
 

 もしも、美琴が第一位と戦い、『樹形図の設計者』の計算よりもはるかに早く、無様に殺害されれば。


 その計算結果は、間違っていたという事になる。
 そうなれば、実験は止めるしかない。 
 間違った事を続ける意味など、ないのだから。

「第一位に勝てる存在なんて、この世にはいないわ。一度だけ私はアイツと戦ったことがある……もう戦いだなんて話じゃなかったわ。ただの一方的な虐殺、面白くもなんともないワンサイドゲームよ」


 勝てない。
 たった一人で軍隊と戦えるほどの力を持つレベル5の美琴が、どれだけ死力を尽くしたところで一方通行には虐殺されるだけ。
 美琴では一方通行は殺せない。
 だから、美琴は一方通行に殺されることにした。
 それしかない。
 もう、それでしか妹達を守る事は出来ない。


「笑えるでしょ? 私、後輩になんて言われてるか知ってる? いまどきお姉様よお姉様、しかも天下無敵の電撃姫なんて異名までつけられてる。本当……バカみたいよね」


 美琴は漸く顔を上げる。
 だが、その目は何処も見ていない。
 自分の事すら、見てあげていない。

「実験を止める事も出来ずに、自分の妹が死んでいくのを見てることしか出来ないのよ。…………それにね、あの子達、自分の事を実験動物だって何の躊躇も疑問もなしに言うの」

 
 消え入りそうな声で、美琴は呟く。


「実験されるために生み出されて、実験の為に非人道的な事を繰り返され続けて、使えなくなったらまとめて廃棄される。……それが実験動物だって事を理解してて、あの子たちは自分の事を実験動物って呼ぶのよ」

「……」

「アンタの言うとおり、学園都市の『闇』の部分ってのは滅茶苦茶だわ。学園都市の全域は常に衛星で監視されてるのに、実験が表に出た事はない。つまりこの実験は学園都市に黙認されている。……二万人が殺されるのを、黙ってみてるの」


 長らく学園都市の闇で過ごしてきた垣根は、今まで何度も『実験動物』の悲惨な末路を目撃してきた。
 無理な投薬実験で死んでしまったり、脳開発を受けて廃人になったりと、目を覆いたくなる程に残酷な光景を、嫌と言う程見てきた。
 

 そして、今。


 学園都市の『闇』は、こんな少女にまで飲み込もうとしている。

「…………」


 垣根帝督は静かに憤る。
 
 表の人間すら無差別に巻き込もうとする信念なき学園都市の闇に。
 ただの少女をこんなにも追い込んだ醜い研究者達に。

 そして。
 学園都市統括理事長と直接交渉できる権利を持っていながら、その価値を知らない第一位に。



「……そうだな、テメェが実験を止めるには、テメェ自身が殺されるしかねぇな」

「でしょう? だから、邪魔をしないでくれる? これでも結構精神ギリギリのところで踏みとどまってるのよ、変に時間をあけるとせっかくした決心が――





「だが、テメェが死ぬ以外でも、実験を止める手立てがあるんだなこれが」

 垣根の言葉に、美琴は心臓が止まるかと思った。
 この期に及んで。
 今場面で。
 この状況で。
 そんな戯言をほざくのか、と、思ったが――――垣根の表情は、疑いようがないくらい真面目ものだった。



「……何、言ってんのよ。アンタはレベル4なんでしょ? 私にも勝てないような奴が、そんな……」

「ああ、あれ嘘なんだわ。本当の事言うと面倒くせぇからな、レベル4の大気操作系ってのは真っ赤なウソだ」

「で、でも! それでもただでさえ化け物のレベル5の中でも、一位と二位はずば抜けてる! 第三位の私でも傷一つ負わせられないような化け物なのよ? そんな奴にどうして――」

「ああ、テメェの言うとおり学園都市のレベル5、その中でも第二位と第三位の間には絶対的な差がある。レベル0とレベル5以上にデカい差がな。第二位以外はそもそも第一位と同じ土俵に上がる事すら出来ない」

「それがわかってるなら、何で――――


 美琴が何かに気づく。
 ありえないと思っていた可能性。
 まさか、そんな。
 こんな土壇場に、こんな状況で、そんなことがあり得るのだろうか。


「第三位じゃどうひっくり返ったって勝てない、それは事実だ。……だが、第二位なら? 第一位の『代役』を務められる唯一の存在だなんて、本人からしたら不服以外の何物でもねぇ評価を受けている化け物なら、どうなると思う?」

「……アンタ……まさか……!」

「そうだ、超電磁砲。いいや、格下」


 満を持して、垣根は名乗る。







「この俺が、学園都市第二位の垣根帝督が、テメェの代わりに第一位をぶち殺してやるよ」


「……第二位……『未元物質』……!」

「お、能力名は知ってたか。まぁテメェの能力がありゃハッキングなんざ赤子の手をひねるようなもんだろうが」

「でも、どうしてアンタがわざわざ……確かに第三位と第二位には埋めようのない差が存在してる。でもそれは第一位と第二位にも言えることだって……なのに、どうしてアンタが妹達を」

「あーあー、そういうんじゃねぇからやめろ」


 垣根は鬱陶しそうに手を振る。


「そんな『虐殺されてるクローンの為に立ち上がった』だとか、『自分の身を犠牲にする私を助けに来てくれた』だとか、そういうキャラを俺に期待するんじゃねぇよ。俺が第一位を殺すのは俺の都合だ」

「……都合?」

「ただでさえムカつくクソ野郎だってのに、こんなクソみてぇな実験をクソ真面目に頑張りやがって、鬱陶しくて仕方がねぇんだよ。
そんなクズ野郎が俺の上に位置してるのも気に食わねぇ。
邪魔だから殺す、ただそれだけだ。シンプルだろ?」

 ムカつくから殺す。
 垣根が実験場へと向かう理由はただそれだけだ。
 
 垣根帝督は誰かの為に戦うような、そんなヒーローではない。

 自分の都合で敵を蹴散らし、殺し、自らを血で汚しながら何よりも深い闇の底に蠢く悪党でしかない。

 そんな自分が、垣根は嫌いだった。
 だから、学園都市も第一位も嫌いだった。
 自分の姿を見せつけられているようで。
 自分がどれほど汚い存在が見せつけられているようで。

 見たくないから、殺す。
 何処までも我儘に、自分勝手に、自分のためだけに、垣根帝督は第一位に戦いを挑むのだ。


「もう下らねぇ茶番にも飽きた。第一位と第二位の間の絶対的な差だとか、人間とクローンの違いだとか、闇で動いてる馬鹿どもが勝手に作ったクソウゼェ垣根なんてくだらなすぎて吐き気がすんだよ。だから、俺は決めた。そんなくだらねぇモノにイラつかされるくらいなら――












「そんな垣根は、飛び越えてやる」









「…………ふん、面白くないギャグね」

「…………やっぱりか……安心しろ、自覚はあった」

 
 美琴の目に涙が浮かぶ。
 あれほど堪えていた筈の涙が、とめどなく。
 だけど。
 こんなにも、自分の予想していたよりも。


 
 涙とは、暖かい物だっただろうか。
 


 垣根帝督は悪党である。
 悪党の矜持と自身の野望を第一位に考える垣根は決して救いのヒーローなんて存在にはなれない。
 
 だがしかし。
 そこに大義も理由もなく、そもそも誰かを救うなんて感情すらなかったとしても。


 御坂美琴という一人の少女は、確かに救われた。

「さて、と……テメェは帰って何があっても言い訳が出来るようにアリバイを作っとけ。夜遊びはもう終わった。ここから先は化け物が遊ぶ時間、テメェの出る幕じゃねぇ」

「……本当に、勝てるの?」

「勝つんじゃねぇ、殺すんだよ」


 垣根は美琴に背を向け、巨大な白い翼を出現させる。
 


「最後に一つ、もう学園都市の闇に関わろうとするな。万が一テメェが俺の敵に回るようなことがあれば、俺は一切の容赦なくテメェを殺す」

「……」

「俺は表の人間には極力手を出さねぇし、俺の邪魔をしなければ暗部の奴だってある程度は見逃してる。が、俺の邪魔をする奴、俺の気分を損ねるやつ、無暗に表の人間を巻き込もうとする三流の悪党には容赦しねぇ」

「……ま、一応忠告は聞いておいてあげるわ」

「忘れるなよ。忘れりゃ死ぬだけだがな」



 そして垣根帝督は飛び立った。
 目指すは操車場。
 学園都市最強の悪魔が狂気の実験を行う戦場。
 

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  



 妹達の製造製造番号10032番がやってきたのは列車の操車場だった。

 学校の校庭くらいの広さのそこには線路のような砂利が一面に敷き詰められており、何本ものレールがズラリと並べられている。
 線路の先には巨大なシャッターのついた車庫が並んでおり、操車場を囲むように大きなコンテナが乱雑に転がされ、何段にも積み重なっていた。
 そのせいで、操車場の周りは立体迷路のように入り組んでおり、操車場の中に誰かが入るのを拒んでいるようだ。
 
 操車場に人気はない。

 人工的な明かりが集まる中心部から離れた操車場では、上を見上げると星々が瞬いているのが見える。

 
 

 そんな空の下、白濁した悪魔が積み上げられたコンテナに腰を掛けていた。

 学園都市最強の怪物、一方通行【アクセラレータ】
 ぼんやりと空を見上げている第一位に、アサルトライフルを手にした10032号は声をかける。


「現在時刻は二十時二十八分です。実験開始まで残り二分です、とミサカは報告します」

「…………」


 一方通行は気だるそうに一度だけ10032号に視線を向けて、すぐに再び空を見上げた。
 その行動を疑問に思った10032号は尋ねる。


「どうかしたのですか? とミサカはアナタに尋ねます」

「星の光ってよォ、気が遠くなるくれェ離れた場所にある星の光が何光年もかかってよォやく俺等の目に映るンだとよ」


 まるで哲学でも語っているかのような、一方通行の不気味な言葉に10032号は首をかしげた。

「人間の目には屑星にしか見えねェよォな星でも、実は太陽よりデカくて熱も発してる奴があるンだってなァ。俺の目に映ってるだけでもそンな奴一体何個あるンだろォな。全部同じ塵に見えるってのに、その実は星一つ焼き尽くせるよォな凶悪なモンもあるンだ、ロマンチックだよなァ」

「……何が言いたいのですか? とミサカは疑問を口にします」

「ああ、よォするによォ……テメェ等もせっかく二万人いるンだから、一匹くれェは俺っつー化け物を楽しませてくれる凶悪な奴が紛れ込んでねェもンかなって思ったンだよ」


 一方通行が何かを吐き捨てた。
 辛うじて原形をとどめたそれは、肉片であった。
 豚肉でも牛肉でも鶏肉でもない、それは、人体の指だ。


「まァ……同じツラ、同じ性能、量産品のガラクタ。そンなテメェ等乱造品に楽しいイレギュラーなンざ期待したってしょォがねェか」


 ゆっくりと一方通行は立ち上がる。
 動きの緩慢さは、そのまま強者の余裕を示していた。
 
 たとえ世界が相手であろうとも、傷一つ負うことなく勝利できる科学サイド最強最悪の化け物。

 一挙一動でありとあらゆる障害を、外敵を、生命を破壊できる絶対無敵の超能力者。


 単価十八万円、生産個体20000体のクローンと学園都市の頂点
 



 あまりにも非情な差を持つ両者は、今日もまた実験を始める。

今日はここまでです。

ぶっちゃけこのタイトルを最初に考えたときは深く考慮せずにつけてしまいました、タイトルもうちょっとまじめな奴にすりゃよかったぜ……


次回更新は木曜日あたりを予定しています。
書き溜めが尽きてきた……次回予告が安定してできるくらいにはためておきたいです。

では、次回予告と共に今日もアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『だが足りねェ、こンなンじゃ絶頂なンざ出来ねェ。だからよォ、せめて悲鳴とツラと感触でイカせてくれや』

――――学園都市最強の超能力者 一方通行(アクセラレータ)



『よぉ、良い夜だな。元気か?』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

>>1乙。スレタイが今後決め台詞になるのだろうか…(笑)

乙。
次回更新が楽しみだな!


正直に言わせてもらえばあの決め台詞は無いわ
シリアスパート呼んでたと思ったら声上げて笑ってしまった

乙!


面白くないという自覚はあったのか、ていとくんww


この微妙に締まらないぐらいが個人的にはむしろ好きではある
笑って言える感じなのが良いというか

垣根くんは元気付けてあげようとしたんだよ
っていう脳内補完でおk


スレタイに馴染んでしまって、もう可笑しいと感じなくなってた

面白いですね

sageろks

お久しぶりです。
バイト、テスト、サークル活動のエンドレス。返せ……俺の時間を返せぇぇぇえええええええええええええええ!

そんなわけで今日も更新していきます。


>>446
そもそも2スレ目に突入できるかどうかです。このスレで終われない事は無い。

>>447
お待たせして申し訳ない

>>448
あれがシリアスな笑い……いやスイマセン、もっとまじめにタイトル考えればよかった。

>>449
乙!

>>450
垣根「勢いで言って後悔することばっかりだよ、この世の中」

>>451
男には滑る危険性をがありながらも格好つけたい時があるのです。

>>452
垣根「お、おう」

>>453
それはもしかしたら毒されていると言えるかもしれません。お気を付けください。

>>454
一歩進んで二歩下がるのが日本人の美学です。

>>455
言っていることは間違ってはいませんがもう少しオブラートに包んでください。ティッシュでもいいですので



それでは射出していきます。



 昔、平凡な少年が居た。

 苗字は二文字、名前は三文字の極めて平凡な名前の少年。
 ただ唯一平凡でない所があるとすれば、それは生まれついての容姿。
 
 本来、何の狂いもなく全く同じ容姿で生まれてくるなどという事はありえない。
 人によって容姿が違う事など当たり前なのに。
 少年の容姿は人から忌み嫌われた。

 同年代の黒い髪の少年少女の中に一人だけ浮き出ている白い髪。
 血のように紅い瞳。
 あまりにも白い肌。

 たったそれだけ。
 色が違うだけで、少年の周りに誰かが近寄る事はなかった。

 だから、少年は求めた。
 居場所を。
 異端が平凡として生きられる場所を。
 異能を開発し、異能が日常となっている学園都市を。

 そして少年は得た。
 異能を。
 他の追随を許さぬ、あまりにも絶対的な異能を。

 いつもと同じように、触れようとする物全てを少年は反射した。
 向けられた好意すら反射した。


 だが、向けられた悪意だけは、少年の心を緩やかに破壊していった。



 そして少年は堕ちていった。
 深い闇の奥底へ。
 人としてではなく、実験動物として自分を受け入れてくれる唯一の居場所。
 学園都市の裏側に通じる研究施設へと。



 少年は成長した。
 身長も、体重も、能力も、思考も。
 ただ、唯一。
 倫理だけを、欠いたまま。












「はァー……」


 恐ろしい程静寂に包まれた操車場に一方通行の退屈そうな声が響いた。
 首を鳴らし、ため息を吐き、呆れたように足元の10032号へと目を向ける。


「笑えねェ。一万回以上殺されてンだからよ、もォ少しがんばってくれよなァ」

「ぎ、ぁ……!」


 一方通行の細い脚が10032号の頭を踏みにじる。
 小枝のような一方通行の脚など簡単に振り払えそうにも見えるが、彼の脚から伝わってくる力はまるで万力で締め付けられているのかと錯覚するほどだ。
 

「まァ、今までの個体よりかはちっとばかり楽しませてくれたンだけどよォ。オゾンってのは目の付け所としちゃァ中々だったぜ」

 
 電気による酸素の分解。
 分解された酸素の原子は今度は三つで結合し、人体に有毒なオゾンとなる。
 一方通行の能力があればオゾンは全て『反射』出来るが、一方通行の周りに存在していたがオゾンに変わってしまった酸素を再び発生させることはできない。
 
 能力は限界知らずの怪物だが、その肉体は平均よりも華奢な人間だ。酸素がなければ行動できず、やがては死に至る。

 だがそれは、一方通行がその場から動けない状況ならば効果のある作戦だった。
 脚力のベクトルを操作し、一瞬でオゾンに支配された空間から抜け出した一方通行は10032号の背後へ移動し、10032号の後頭部を掴んで地面へと押し付けたのだ。



「だが足りねェ、こンなンじゃ絶頂なンざ出来ねェ。だからよォ、せめて悲鳴とツラと感触でイカせてくれや」

 一方通行の靴のつま先が10032号の顎を打ち上げるように叩きつけられ、10032号は首から鈍い音を響かせながら数メートル上空まで吹き飛ばされた。
 それだけでも、人体に対してあまりにも強力な衝撃。
 ぐるぐると廻る視界に意識が飛びそうになりながらも、10032号は地上でこちらを見上げている一方通行を見る。
 彼は、右手にいくつかの小石を持ってニヤニヤと笑みを浮かべていた。


 次の瞬間、一方通行の手の中にあった石が10032号に向かって投げつけられた。
 石が空気を引き裂く音が聞こえた。
 石を投げた風圧だけで、10032号の髪がブワッと逆立った。

 果たして本当に投石と言っていいのかわからなくなる程の速度で、石は寸分の狂いもなく、一方通行の狙い通り、10032号の四肢の関節部分に命中した。


「い、ぁ、が、がぁぁぁああっ!」


 右肘、左肘、右膝、左膝。
 計四か所から平等に何かが砕け散る音が響く。
 絶叫しながら10032号は地面へと墜落し、着地の衝撃と激痛で再び悲鳴を上げた。

「あァ、やっちまった。これじゃ無様に逃げ回るオマエを愉快にぶち殺すってシチュエーションが出来ねェじゃねェか。駄目だなァ俺、興奮するとついついやりすぎちまう」


 大げさに残念がっているような仕草をしながら一方通行は地面にのた打ち回る10032号へと近づいてくる。
 一方通行は遊んでいる。
 戦闘しているだとか、攻撃しているだとか、そういった実感すらないのかもしれない。
 一方通行にとってこれはただの実験で、ただの戯れだ。
 
 だから、10032号はこれ以上なく残酷に殺されるだろう。
 小さな子供が蟻の手足を引き千切るように、蜻蛉の羽を毟る様に。
 

 残酷なほどに無邪気に、10032号は殺されるのだ。

 だが、10032号には後悔も恨みもない。
 10032号だけではなく、今まで殺された10000体以上の個体も、これから殺される10000人近い個体も、同様に。
 なぜなら彼女たちの命は、こうやって散るのが最初から決められているのだから。
 そのために生み出されたのだから。
 殺されなければ価値がないのだから。

 だから、仕方がない。
 仕方がないから、殺されるのだ。

 たったそれだけ。
 それだけの事。





「まァ、いいか。まだ10000近ェ実験動物がいる事だしなァ」




 それだけの事、のはずなのに。

「今回はサックリと終わらせちまって、帰って寝るとするわ」





 どうして






「つーわけで、本日の実験はこれにて終了だ」






 どうして、10032号の頭には、






「安らかに眠りやがれ、永遠になァ」











 あの少年の姿が、浮かぶのだろうか。

「……?」


 まずはじめに、10032号は疑問に思った。
 あのまま行けば、10032号の頭は一方通行の踏みつけによって粉々に砕け散っているはずなのに。
 いつまでたっても、一方通行の足が10032号に届かない。
 

「……おい実験動物。この場合、『実験』ってのはどォなっちまうンだ?」


 一方通行の声がする。
 本来ならすでに殺しているはずの相手に向かって、疑問を投げかけてきた。
 いったい何がどうなっているのか。
 それを確かめるために、10032号はゆっくりと目を開けた。










「……え……?」


 声が出た。

 喋るだけで激痛が走るほど体はボロボロなのに、自然と勝手に声が出た。
 目の前の光景が、あまりにも非現実的すぎて。
 幻覚でも見ているのかと思うくらい、信じられなくて。
 体の奥底から湧き上がる、この感情が理解できなくて。
 そして――
 







「よぉ、良い夜だな。元気か?」


 満月を背に、白い翼を広げたその少年の姿があまりにも幻想的過ぎて。

「……テメェは」

「よぉ第一位。人形遊びではしゃぐとはずいぶんメルヘンな趣味をお持ちじゃねぇか」

「自分の翼を見てから言えよメルヘン野郎」

「安心しろ、俺は自覚がある」


 言葉の一つ一つが突き刺さりそうなほどに殺意を帯びている。
 だが、一方通行は垣根が二位である事を認識していない。
 格下の事をわざわざ調べるだなんて、反吐が出るからだ。


「どこの誰だか、知らねェが、この学園都市に七人しかいねェ超能力者、その中でも唯一無比のずば抜けたこの俺に随分でけェ態度とるじゃねェの」

「唯一無比? ずば抜けてる? ハッ、面白ぇジョークだ。服のセンスはレベル0みてぇだが、ギャグのセンスは第一位だな」

「あァ?」

 一方通行の声と表情が、より一層怒気と殺意を孕んだものになる。
 対する垣根も殺意こそはむき出しにしているものの、その表情には余裕が窺えた。

 君臨する第一位と、引きずり降ろそうとする第二位。

 両者の対面は、あまりにも純粋な殺意のぶつかり合いだった。



「……どうして、と」


 10032号はボロボロの体で言葉を垣根に向かって投げかける。
 一体何なのだろう。
 作り物の体に強制入力された知能を詰めただけの、ボタン一つで量産できる実験動物の一体でしかない自分の中に湧き上がる、この感情は。

「どうして、ここに居るんですかとミサカは問いかけます。実験に何のかかわりもないアナタがどうして、とミサカは疑問を持ちます」

「……あ?」

「ミサカは機材と薬品があればいくらでも自動的に量産される存在です。とミサカは説明します。たかが単価十八万円の一個体のために、実験を中断させるだなんて――

「うるせぇよ、喋んな」


 垣根は10032号の言葉を切る様に、わざと冷たい声で言い放った。


「何だ、何を期待してやがる? この俺が人形なんぞに同情して実験を止めに来たとでも思ったのか? 自惚れんなよ人形」

「……」

「……ま、実験を止めに来たのには間違いねぇがな。不愉快な第一位をぶち殺して、この不愉快な実験を関係者諸共塵にしてやるよ」

「……無理ですよ、とミサカは断言します。相手はあの第一位なんですよ、とミサカはアナタを説得します」


 相手は軍隊すら屠る最悪の悪魔。
 たとえ垣根が第一位に次ぐ頂点だとしても、相手は紛れもない頂点そのものなのだ。
 第一位と第二位の間に存在する絶対的な壁。
 両者を分かつ、超えることのできない垣根。


「くだらねぇ」


 だが、垣根帝督は臆しない。
 二位が一位を超えられないだなんて、そんなつまらない常識は通用しない。


「俺の癇に障った奴は例外なく皆殺しだ。相手がチンピラだろうが第一位だろうが変わらねぇよ。わかるか第一位、テメェ何ざ俺からしたらそこらの汚ぇチンピラと同格なんだよクソッタレ」

 ギャハハハハハハハハハ! と狂ったような笑い声が聞こえた。
 一方通行は腹を押さえて大爆笑していた。
 

「どうした? ただでさえトチ狂ってる脳みそがさらに狂ったか?」

「イイなァ、テメェ。いいわ。俺から見れば格下には違いねェが、中々愉快だ。テメェなら俺を満足させてくれそォだなァ」

「安心しろ第一位、そこの人形の一億倍テメェを満足させてやる。満足しすぎてイッちまうかもしれねぇがな」

「いいねいいねェ、最ッ高だねェ! これは俺もお行儀よく相手しなきゃなァ! 初めましてェ、学園都市第一位の一方通行だよろしく頼むぜ三下ァ!」

「第二位、垣根帝督だ。よろしくなクソッタレ!」


 暴風が吹き荒れる。
 続いて暴力が乱舞する。
 繰り広げられるのは暴虐の極致。


 第一位と第二位。

 
 科学の頂点の戦いが、始まった。

 




 昔の人間は自然災害などの人間に可能な範疇を超えた現象を、神の仕業と考えた。
 そうして作られた神話や伝説は今なお語り継がれている。
 ならば。
 もしも、この二人の戦いを誰かが見たならば。

 一体、どんな神話が生まれるのだろうか。






 垣根が一度翼を振るった。
 たったそれだけの動作で、高く積み上げられたコンテナの山が強烈な烈風に煽られ、一つ一つが弾丸のような速度で一方通行へと向かっていく。
 だが、一方通行にそれを回避するようなそぶりは見られない。
 それどころか、両手を真横に広げて垣根の方へまっすぐ走ってきている。
 このままだと、一方通行の華奢な体はコンテナの集中砲火を浴びて粉々になるというのに。

 そして、当たり前のようにコンテナが一方通行の頭にぶつかり――――




 垣根が吹き飛ばした時と全く同じ速度で、正反対に吹き飛んだ。




「チッ」


 まるで軌道を遡ってるかのようにこちらへと向かってくるコンテナを垣根は翼を使って粉砕した。
 一方通行に命中したコンテナの全てが、そっくりそのまま『反射』されたのだ。


「ベクトル操作、か。クソウゼェ能力だ」

「テメェのその翼よかァマシだけどなァ、クカカカ」


 脚力のベクトルを操作した一方通行と翼で空気を叩き飛翔する垣根。
 二人の少年は上空数十メートル地点で、亜音速でぶつかり合う。


「ぎゃは、ぎゃははっ!」

 狂ったような一方通行の笑い声。
 この辺り一帯の大気の流れを掌握した一方通行は、その手に圧縮した空気の塊を作り出す。
 風速百二十メートル以上の小さな嵐のような空気の塊を、一方通行は垣根に顔面へ押し付ける為に腕を伸ばした。


「甘ぇよクソボケ」


 垣根の翼が突然その形を崩し、無数の羽となって辺りに散らばった。
 亜音速で動く事を可能にした翼を失った垣根は、当然のように地表に向かって落ちていく。
 本来なら、己の盾であり剣であり足でもある翼を自ら分解するなど、ありえないことだ。
 しかし、垣根は笑っていた。
 落ちながら、一方通行を嘲笑っていた。


「あァ……?」


 不意に辺りから何かが高速で振動するような音が聞こえ始めた。
 見ると、周囲に舞っている無数の純白の羽が、何やら赤みを帯び始めている。
 色はどんどんと濃くなってゆき、小刻みに震えている。


「一片残らず消飛びやがれ!」

 

 直後、辺りに舞うすべての羽が一気に光を帯び、そして爆発した。
 

 一つ一つがダイナマイトにも匹敵する威力の爆発を起こす無数の羽が同時爆裂した衝撃はすさまじく、鼓膜が破れそうになる轟音と共に体に叩きつけられた衝撃派によって垣根の体が一気に加速し地面へと落ちていく。
 だが、垣根は落下寸前に『未元物質』で緩衝材を創り出し、落下のダメージをゼロにした。
 一順で体勢を立て直した垣根は再び背中に巨大な翼を展開させ、垣根は上空を見上る。


「死んだか?」

「つまらねェ冗談言うンじゃねェよ!」


 轟ッ! と。
 爆炎を引き裂くように一方通行は姿を現す。
 その身に傷はなかった。
 どうやら、爆発直前に爆炎の及ぶ範囲外へ脱出したらしい。


「まぁ、あれでくたばったら興ざめだけどよ!」

 垣根は空中を駆け抜ける一方通行に向かって翼を伸ばす。
 鋭い刃のように、撲殺用の鈍器として。
 純白の翼が白濁した悪魔へと迫る。


「クソキメェ翼だなァオイ! こンなもン――


 一方通行が垣根の翼に手を伸ばす。
 ありとあらゆる『ベクトル』を掌握し支配するその能力をもってすれば、相手の攻撃であろうとも無傷で操作する事が出来る。
 それは、垣根の翼であっても例外ではない、はずだった。
 
 だが、一方通行は翼に触れる直前、違和感に気づく。

「…………あァ?」


 ゾクリ、と。
 一方通行が初めて感じる感覚。
 無意識に背筋が震え、何か嫌な感覚が蛇のように脳内で蜷局を巻いている。
 これは、何だ?
 一方通行は考える。
 だが、最初から『最強』だった一方通行は知らない。
 この感情が人間にとって最も原始的な感情であることを。
 そう。
 未知の物、理解不能なものに対する『恐怖』という感情を。


「ちィッ!」

 
 ここで一方通行は生まれて初めて『回避』という行動に出る。
 しかし、遅い。
 初めて感じた恐怖は、あまりにも遅すぎた。

 メキメキメキッ! と。

 一方通行の細い体の内部から細かい物が軋む音が連続して響いた。


「が、はァ……ッ!?」


 一方通行の体が大きく吹き飛ばされる。
 グシャリとコンテナの一つを潰しながら、一方通行は地面に墜落した。


「な……ンだ……!?」

「一方通行、テメェは全てを『反射』するっつーのが自慢みてぇだが、それは違う」


 垣根が翼を大きく広げ、口から血の塊を吐き出している一方通行の元へと向かう。
 一方通行も脚力や周りの大気のベクトルを操作し、その場から離れる。
 が、垣根がそれを逃すわけがない。

「酸素、光、音……それらを反射すればテメェは何も見えねぇし聞こえねぇし、生きていきられねぇ。テメェは無意識の内に自分に不要な物を選んで反射してる」

 
 垣根の翼が再び一方通行へと迫る。
 一方通行は今度は翼のベクトルを掌握するのではなく、腕力のベクトルを操作して垣根の翼を叩き落とす様に凌ぐが、その表情に浮かぶのは苦悶だ。
 

「なら答えは単純、テメェが『無害』と『有害』を識別しているフィルターをくぐりぬけりゃいい。テメェが受け入れているベクトルを逆算し、その方向から攻撃を仕掛ける。ったそれだけでテメェの防御は掻い潜れる」


 最も、それだけではない。
 それだけでは、『反射』という壁を抜けたとしても一方通行が『未元物質』自体のベクトルを操れなかった理由にはならない。
 一体何故、一方通行の能力が『未元物質』に干渉できなかったのか。
 答えは単純だ。

 一方通行が、『未元物質』という存在のベクトルを掌握できなかったのだ。

「そして、俺の『未元物質』はこの世の物質じゃない、何処かの異界から引きずりだしたような未知の物質だ。
こいつにこの世の常識は当てはまらねぇ。もしテメェがこの世に存在するありとあらゆるベクトルを掌握できたとしても、俺の『未元物質』はテメェの頭の中にある方程式は通用しねぇよ」


 学園都市第一位の頭脳を持ってすら、解読出来ないアンノウン。
 使用者である垣根にすら全貌が把握できていない『存在しない物質』
 

「わかったか、第一位。テメェは核爆弾ですら無傷でしのげる最強の能力者かもしれねぇが、俺の能力はそもそもこの世に比較できる物すら存在しねぇんだよ」


 これが『未元物質』
 この世の法則すら捻じ曲げる、異界の物質。
 

「ケッ……! だからどォした。ちょっとばかし反撃出来たからってハシャいでンじゃねェよ三下。狐の反撃なンざ狩人を楽しませるための余興でしかねェンだよ」

「成程な、大したムカつきっぷりだ第一位。そのまま吠えてろ、磨り潰して白い絵の具にしてやるよ」

 両者が同時にコンテナを蹴飛ばし、平行に移動する。
 移動している間も一方通行は辺りにある鉄骨やコンテナを能力で弾き飛ばして垣根へ攻撃を仕掛け、垣根はそれを翼で器用に撃ち落していく。
 垣根の反撃は単純で、数メートル大の白い翼を一方通行に向かって叩きつけるというものだ。
 だが、『反射』がうまく機能しない翼を一方通行は回避するしかない。
 足場のコンテナが粉々に砕け散るほどの勢いで一方通行は真横へ跳び、跳んだまま道路標識を引き抜き垣根に向かって投げつけた。
 超電磁砲以上の速度をたたき出す道路標識はほんの数秒で、空気摩擦によって消失する。
 しかし、その衝撃波は消えていない。
 音速の壁をぶち抜いたそれは、周囲のコンテナやレールやアスファルトを粉砕しまき散らしながら垣根へと迫る。


「どうした、そんな苦し紛れの攻撃しか出来ねぇのか! あぁ!?」


 垣根は白い翼で自身の体を包み込み、衝撃波を防ぐ。
 炸裂した衝撃が辺りに爆散し、垣根の周囲が爆撃でも受けたかのように更地へと変貌していた。


「……あぁ?」

 再び羽を広げ、一方通行へ攻撃を仕掛けようとした垣根は、辺りをキョロキョロと見回す。
 先ほどまでそこに居たはずの一方通行の姿が見当たらない。


「おいおい、まさか逃げたのか? ……フザけんなよ、第一位。逃げるなんざつまらねぇ真似してんじゃねぇぞ!」


 激昂しながら垣根は翼を振り回し、辺りのコンテナをまとめて一掃する。
 数トンはあるはずのコンテナが埃のように宙を舞う。
 だが、辺りに一方通行の姿は見当たらない。
 もっと遠くに逃げたのか。


「……いいぜ、文字通り虱潰しに探してやるよ。見つけた瞬間プチっといかせてもらうけどな」


 垣根は苛立ちと楽しさを半々ずつ含んだ表情を見せながら、辺りを一掃し始める。

今日はこれくらいです。

戦闘シーンって何? 何でこんな難しいん? アカンでぇこれほんま。


って感じの回がまだ続きます。あぁ……もう病理さんの可愛らしさで世の中から戦争がなくなればいいのに。


では、次回予告をして今回はサヨナラです。
次回は日曜日を予定しています。

では、今日もアリガトウゴザイマシタ!

     『次回予告』






『くきこかきけこかきくかこかきこくかけこきくけかかこきかくかけこかァァァァァァァァァァ!!!!!!』

――――学園都市最強の超能力者 一方通行(アクセラレータ)



『一方通行ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)



おつ!

一方通行に負けてほしくない俺がいる。

乙!

>服のセンスはレベル0
いちいち挑発がうまいな垣根ww


なんというかクライマックス?突入って感じでテンション上がってきた

能力的にはともかく、精神的にはこの時点の一方さんはワンチャン戦闘不能に持っていかれる可能性わりとあるよね
長引いて解析されるとかなりヤバイのは変わらないけど

おつ
服のセンスって言っても、ていとくんも素肌にセーター着てるんだよな……

乙ー。

乙!

無駄に能力のこと喋りすぎだろw
黙ってりゃ解析されて反撃食うこともないだろうに


戦闘シーン相当うまいと思うが

>>492
垣根くンはナルシストだから

>>492
そこら辺は原作準拠だからね?しかたないね?

>>494
職務放棄してねェでさっさと帰れよこのカエル顔ォ

>>495
ロリコンは病院に行けよ(笑)、とミサカは上位個体を舐める様に観察している第一位をpgrします

殺 伐 と し た ス レ に 上 条 さ ん が 登 場

と、言おうとしたが荒れるからやめようか

乙です。
どうやらスレタイ回収はしたようだが、
…もうクライマックスなのか?

テスト勉強で崖っぷちに追いやられるほどアイデアが浮かんでくる。あるある。



>>486
さて、どうなりますことやらやら。

>>487
垣根「俺の挑発に常識は通用しねぇ」

>>488
クライマックス……になるのかどうか実はまだ未定だったりします。本当にどうしようか…

>>489
垣根「俺のセンスに常識は通用しねぇ」
病理「そのセリフ言っとけば許されるってわけじゃあないですからね?」

>>490>>491
あざっす!

>>492
丁寧に能力を説明するのは敵キャラのテンプレです。

>>493
ありがとうございます、稚拙な文章ですが………うぐぐ。

>>494
お医者さん何してるんすか

>>495
ロリコンさん何してrゴッ、ガァァァァァァアアア!?

>>496
病院に行くべきは私なようですミサカさんすいません。

>>497
いいぜ、本当にお前が登場するっていうんなら、まずは出番を減らしてやるぜヒャッハー!

>>498
終わろうと思えば終われますけど続けようと思えば続けられます。いかがすべきか。



では、今日も投下していきやっせ。



  
 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




「……」


 一方通行はかなり離れた場所から様子を窺っていた。
 まるで暴風のように吹き荒れる垣根の翼は少しずつこちらへと範囲を広げてきている。


「……まさか、この俺に攻撃をブチ込める奴が居たとはなァ」


 この能力が発現してから、一方通行という人間は一切の傷を負わずに生きてきた。
 あらゆる物を反射し、あらゆるものを触れるだけで捻じ曲げ、引き裂き、蹂躙できるその能力は他者の目には恐怖としか映らない。
 
 だが、奴は、垣根帝督だけは違った。
 
 もしかしたら勝てるかも、だなんて子供っぽい感情だけで無策で挑んでくるスキルアウトのような三下達とは違う。
 一方通行に勝利できる要素を用意し、行使し、真正面から叩き潰しにやってきた。
 そして一方通行は初めて傷ついた。
 傷つけられた。

「…………血、かァ」


 口元の血を袖で拭い、一方通行はの血をじっと見つめた。

 それこそ、今まで飽きる程見てきた物。
 少なくとも、一万人以上の血液を浴び続けた一方通行は自分の血を珍しそうに眺める。
 ふと視線に入ったのは、拭う際に手の甲についてしまった、ポタポタと地面に滴る血液。
 一方通行はそれを舐めた。
 そのまま手を動かし、人差し指を奥歯で噛むように口の中へと押し込む。
 力を入れると、わずかに人差し指に走る痛み、そして口内に広がる自らの血と肉の味。
 

 この痛みが。
 この味が。

 
 生きていると、感じさせる。







「……………ぎゃは」

 笑み。
 自分の人差し指を血が噴き出る事も厭わず噛み続けながら、一方通行は嗤っていた。
 
 荒唐無稽な嗜虐性。
 歪みきった人格。
 一方通行という人物は目を輝かせた。
 
 これが命のやり取りだ。
 一方的に虐殺するのではなく、気を抜いたほうが殺される戦いと呼べるモノ。

 そうだ。

 一方通行という少年が『最強』ではなく『無敵』に至るためには、あらゆる敵を排除しなければならない。
 今の自分に迫れる男は、おそらくはあの男だけ。
 最高の頭脳と最悪の能力をもってしても所見では御しきれなかったあの白い翼。

 支配できないなら、どうすればいいか。
 諦めるか?
 いいや、違う。
 一方通行という少年はポジティブだった。
 前向きに殺害し、気負わずに虐殺し、楽しんで蹂躙することが出来る前向きな少年だった。

 支配しよう。
 征服しよう。
 蹂躙しよう。
 


 手の届かない高値の華は、汚してこそ映える。

















「くきこかきけこかきくかこかきこくかけこきくけかかこきかくかけこかァァァァァァァァァァ!!!!!!」




 顎が外れるのではと思う程の笑い声だった。
 学園都市全域に届いているのではと思う程の高笑いだった。
 

「出てきたと思ったらいきなりどうした? イカレ野郎」

「いやァ、もォダメだ。何もかもがどォでもイイ。あァ、テメェには感謝してやる。そして認定してやるよ、テメェは俺の敵だ」


 敵。
 ありとあらゆるものを無傷で蹂躙できる最強の能力者が、初めて認めた存在。
 
 己の障害となりうる相手。
 己の存在を脅かす存在。

 差し伸べられた手をも反射して傷つけてしまう一方通行に触れられる、唯一の外敵。
 
 ああ、そうだ。と一方通行は思う。

 自分が求めていたのは、無敵になりたい本当の理由は、コレじゃないかと。

「第二位、垣根帝督。テメェは殺す、俺ももォ止まらねェ、アクセル全開ブレーキ粉砕モードだ。この一方通行が格下相手に全力で戦ってやるンだ、光栄に思いやがれ」

「……」


 垣根は感じていた。
 一方通行の言葉は嘘ではない。
 おそらく、ここからが本当の『戦闘』。
 
 満を持して、『最強』が動き出す。


「……は、でけぇ口叩きやがって。戯言なんざ誰が聞いてやるか。どうせなら行動で示しやが――――










 瞬間、垣根の視界がぶれた。


「……あ……?」

 世界が廻る。
 否、廻っているのは世界ではない。
 垣根の体が、グルグルと廻りながら吹き飛ばされているのだ。


「何、が……」


「ぎゃは! ぎゃははっ!」


 一方通行の笑みがすぐ目の前に現れる。
 衝撃で空中に舞いあがった小さな小石を蹴って一方通行は吹き飛ぶ垣根へと追いついたのだ。
 ありえない所業。
 空気を蹴って宙を走るかのような、そんな狂気じみた芸当。

 垣根を狙う一方通行の目は、紛れもない捕食者の眼だった。

「一人でトリップしてんじゃねぇぞ、一方通行ァァァァ!」


 垣根が背の翼を操作し、目の前の一方通行を真っ二つにしようとする。
 だが、一方通行がドアをノックするかのように、拳の裏側で降りかかる翼を叩く。
 すると、垣根の翼は大きく弾き飛ばされた。
 まるで、落ちてきた埃でも払うかのような、そんな動作で、易々と。


「馬鹿な……ッ!?」


 たとえ筋力や大気のベクトルを全て掌握したとしても、このような芸当を実現できるとは到底思えなかった。
 垣根の『未元物質』をも易々と弾き飛ばす程の圧倒的な力。
 一体、一方通行は何のベクトルを操っている?


(考えろ……ッ! こいつが何のベクトルを使ってるかさえ分かりゃ、それに『未元物質』をブチ込んで法則を捻じ曲げられる!)

 垣根は推理する。
 筋力でも、大気でもない。
 この世界すべてに満ちている圧倒的なベクトル。
 『未元物質』を超える程の圧倒的なエネルギー量。
 しかし、一方通行は何ら特殊なものに触れているわけではない。
 つまり、今もこの場に存在しているはずのもの。
 誰しもが無意識のうちに関わっているベクトル。
 

「……まさか……」


 そして垣根は辿り着く。
 隙を狙って放とうとしていた『未元物質』の翼を透過して変貌した月光の性質に、ほんのわずかに狂いが生じた事を。
 このバグの原因、そして一方通行のあの力。
 考えられる可能性が、たった一つだけ。






「テメェ……! まさかこの星の自転のベクトルを……ッ!?」

 地球は常にひとりでに廻っている。
 もしも、70億の人間が住まう惑星が回るほどのエネルギー量をその身に宿したとしたら。
 もはや軍隊どころではない、一方通行は腕を振るだけでこの惑星を滅ぼす事が出来る程の力を手にしていることになる。


「驚いたかよ」


 一方通行は紅い瞳で垣根を睨む。
 その顔には、余裕が浮かんでいた。


「これが、テメェと俺の差だよ」


「…ッ! テメェに酔ってんじゃねぇぞ! 一方通行ァァァァァァァ!」
  

 垣根が力任せに翼を振るう。
 しかし、もはや一方通行は何の驚異も感じていなかった。
 戦いを終わらせる方程式は、すでに一方通行の頭の中で組み立てられている。

「確かに、テメェの『未元物質』とやらはこの世の方程式には当てはまらねェかもしれねェ」

 
 一方通行の手が、垣根の翼の一枚を鷲掴む。
 そのまま、力任せに一方通行は垣根の翼を引き千切った。


「だったら、テメェの『未元物質』をXとして新たな方程式を創り出せばイイ。後は既存の方程式からの逆算でテメェの『未元物質』の公式は引き出せる」

「……ッ! ありえねぇだろ……! 俺の『未元物質』はそんな易々と掌握できるもんじゃねぇ!」

「ああ、かもなァ。だがよォ、所詮テメェは第二位。俺とテメェには絶対的な壁がある。残念だったなァ」


 翼を引き千切られ、垣根は地面へと堕ちていく。
 まるで、太陽に近づきすぎて翼の溶けたかのように。
 だが、物語と違うのは、落ちていく男を追う悪魔がいるという事だ。


「名残惜しィが、これで終わりだ。格下」

「一方通行ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 暴風と暴力が一気に垣根へと降り注ぐ。
 防ぐ手段は、ない。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  




「………」


 10032号は遠くから聞こえる戦闘音を聞きながら、地面に転がっていた。
 両手両足の関節部分を破壊され、一歩も動く事の出来ないため逃げ出すこともできないのだ。
 最も、ここで逃げ出すという選択肢を出していいのか、10032号にはわからなかった。


「……ミサカは、ここで死ぬべき存在なのですが、とミサカは呟きます」


 殺されるためにここにやってきた。
 ならば、今生きている事こそが異常なのだ。
 『実験』の成功こそが、妹達が生み出された唯一の理由。
 その成功を脅かすような真似を、黙って見ているのは許されるのか。


「……垣根、帝督」

 ポツリと、10032号はその名を呟く。
 脳波をリンクしてお互いの記憶や感情を共有できる妹達は、全員が今日一日垣根と共に過ごした10031号の記憶を有している。
 どうして10031号は、もうすぐ自分の実験の番だとわかっていて、あのような行動に出たのだろうか。
 行動と考えが一致しないなど、それはもうバグとした言いようがないのではないだろうか。


「……それは全員に言えることのような気がしますが、とミサカは続けて呟きます」


 行っている行動と、秘めている考え、真意。
 妹達も、一方通行も、垣根帝督も、全員が何かを心のうちに隠しているような気がした。
 最も、それを問い詰める役割は自分ではないことは10032号はわかりきっている。

 
「とにかく、ミサカはあの二人の戦闘が終わるまでは何もできませんし、とミサカは自分の状態を確認します」


 今はただ、二人の戦いが終わるのを待つだけ。
 おそらく、終わったころに生きて居られるのはどちらか片方だけだ。
 お互いがお互いを何をしてでも殺そうとしていたのだから、敗者は間違いなく死亡する。
 だが、しかし。
 もしも垣根が一方通行に勝てば、生き残れるのは『二人』になるだろう。
 それは、10032号にとってはたして喜ばしい事なのか、それとも――――









 瞬間、10032号の真横に何かが落ちてきた。

 考えを強制切断させるような凄まじい衝撃で、隕石のように降ってきたそれは――


「……垣根帝督?」

「ガ、ァ……ッ! クソ……ッ!」


 垣根は見るからにボロボロだった。
 左腕は本来曲がらない方向に捻じ曲がっており、綺麗に染められた髪は本人の血で乱雑に染め上げられている。
 体中もあちこちに目をそらしたくなるような傷があり、今すぐにでも病院に搬送しなければ危ないと素人目から見ても一目瞭然だった。


「思ったより粘ってくれるじゃねェか。最高だぜテメェはよォ」


 続いて、一方通行は何処からか飛んできて地面へと降り立った。
 多少の傷はあるものの、垣根との状態の差はあまりにも大きい。
 つまりは、そういう事なのだろう。
 これが、第一位と第二位の差なのだ。

(未元物質で大気を変質させて……いや、駄目だ。アイツは俺の中で行われる未元物質の演算を逆算して把握しやがった。これじゃ何をやっても俺が未元物質を使い続ける限りはアイツの能力で防がれる……!)


 垣根の『未元物質』はありとあらゆる物質、法則に作用する。
 たとえば大気、たとえば光、たとえば炎。
 その柔軟性と利便性こそが垣根の『未元物質』の真骨頂なのだ。
 だが、便利すぎる故に、垣根の行うすべての攻撃は『未元物質』の演算が根底に存在している。
 学園都市第二位の脳からはじき出される複雑な演算は、例えレベル5であっても易々と解読できるようなものではない。
 垣根の『未元物質』は、垣根にしか発現できないのだから。


 しかし、第一位、一方通行は違った。


 数度の攻撃を受けただけで、一方通行は独自の方法で垣根の未元物質の演算を割出し、そのベクトルを掌握した。
 能力の演算を把握されたという事は、もうすでに一方通行に『未元物質』で攻撃を加えることは不可能だ。
 垣根は暗部で鍛えられた射撃技術や体術に加え、元から有している多種多様な才能で『未元物質』に頼らずともその辺の人間なら圧倒できる。

 それでも、そんなものは第一位という才能には遠く及ばない。
 『一方通行』という能力の本質ですらない、副産物である『反射』すら切り抜けることはできないのだ。


(どうする……どうする! クソ、考えろ! 必要な時に回らねぇ頭なんざ何の価値もねぇだろうが!)


 垣根はありとあらゆる手段、可能性を模索する。
 だが、駄目。
 ありとあらゆる方法で攻撃を仕掛けたとしても、一方通行はそれを一撃で迎撃できるだろう。
 

「一方通行の力の前に、八方ふさがりってかァ? クカカ、洒落がきィてンじゃねェか」

「クソウゼェ……」


 一方通行の言っていることは正しい。
 垣根に、今の状況をひっくりかえせる切り札は存在していないのだから。











「……逃げてください、とミサカはアナタにお願いします」




「……あぁ?」


 垣根はそこで初めて10032号の存在に気が付いた。
 両手両足を砕かれ、もはや一人で動く事も出来ない10032号は、見覚えのある無感情な瞳で垣根をじっと見つめていた。


「あなたなら、勝てずとも逃げる事は不可能ではないでしょう、とミサカは推測します」

「……」

「ミサカはここで殺されるために生み出された個体ですからココで死にますが、貴方はそうではありません。とミサカはアナタとの違いを指摘します」

「……黙れよ、クローン」

「そして、これ以上実験に関わってはいけません。アナタを巻き込んですいませんでした、とミサカは10031号の代わりにあなたに謝罪を――











「黙れっつってんのが聞こえねぇのか! あぁ!?」










 垣根は地面に倒れた姿勢のまま、同じく地面に倒れている10032号の胸ぐらを掴んだ。
 今にも歯が砕け散りそうなほど歯を食いしばり、血の涙を流さんとばかりに目を見開いている。
 それは、クールな印象の垣根には似合わない、感情をむき出しにした顔だった。


「黙れ黙れ黙れ! テメェ何ざにどうしてこの俺が心配されなきゃならねぇんだ! テメェはボタン一つで生まれるクローンだろうが! 俺はテメェとは違う! テメェなんざに心配されるような、そんな情けねぇ存在じゃねぇんだよ!」

 コンプレックス。
 垣根帝督という学園都市で二番目のエリートが抱えていた心の闇の一つ。
 心理定規も、木原病理も、御坂美琴も、そして10032号も。
 皆、垣根の心配をしていた。
 だからこそ彼女らは各々の手段で垣根を止めようとしたのだ。

 だが、それこそが垣根にとって最も屈辱的な事だった。

 垣根帝督の中にあるプライド、自尊心、野望。
 それは垣根帝督と言う人間を構成するもっとも大きなモノ。
 だからこそ、垣根は光の世界で生きようとは思わない。
 少しでもなれ合いを求めれば、光を求めれば、闇から抜け出そうと考えれば、その時点で垣根帝督と言う人間は垣根帝督ではいられなくなる。

「単価十八万の実験人形がでかい口叩きやがって。この俺を心配するなんざふざけてやがるな、よほど愉快な肢体になりてぇと見える」

 
 自分勝手で、自信家で、野望家で、そして何にも負けてはならない。
 プライドと信念、それこそが垣根帝督の自分だけの現実。


「……ったく、どいつもこいつも、決められてただの、諦めただの、当たり前だの、クソウゼェ。目障りだ、ふざけてやがる、下らねぇ台本で満足しやがって」


 だから、垣根は諦めない。
 たとえ何を失う事になろうとも、自分が決めた事は死んでも成し遂げる。
 プライドを守るためならば、垣根は不可能だって可能にしてみせる。
 垣根以外の世界中の人間が敵にまわろうとも、垣根はたった一人で、自分の目的を達成するために生きる。
 傍から見れば狂気の沙汰、普通なら考えられない事だろう。

 だが。


「クローン、一つだけ言ってやる。この学園都市の『闇』は俺の物だ。気に入らねぇモノは全部磨り潰して殺す、誰にも邪魔はさせねぇ。裏の全てを手に入れて、俺が裏側の世界に君臨してやるよ。…………だから」














「テメェは、俺の居ない世界で猫でも飼いながら平和に生きてりゃいいんだよクソボケ」













 垣根帝督という人間に、常識は通用しない。

「はッ、カッコイー事言うじゃねェか。いいなァ、やっぱり死に際ってのはどォも普段より美しく見えるモンだな」

「くだらねぇ、そういうテメェこそ死相と死兆星が見えてるが大丈夫か? 事故に気をつけろよ、俺が殺せなくなるからな」


 垣根は立ち上がる。
 ボロボロになりながら、圧倒的な力の差を持つ相手に真正面から向き合って。
 諦めないことが、さも当然であるかのように。


「……で? ただ立ち上がったってワケじゃねェんだろォ? 突っ立ってるだけならサンドバッグにだって出来ンだ。テメェはもっと俺を楽しませてくれンだろォよ」

「一々うるせぇ野郎だ。屁みてぇな戯言ばっか抜かしやがって」


 とりあえずは、立ち上がった。
 だが、ここから具体的な反撃手段が思いつかない。

(考えろ……俺に出来る事を考えろ、なんだっていい、とにかくあのクソ野郎をブチのめせりゃ何でもいい!)


 垣根の最大の武器、『未元物質』
 しかしそれは、垣根の脳内で行われる『未元物質』という能力を発動させるための絶対条件である演算を逆算されてしまったため、如何なる使い方をしても『未元物質』自体のベクトルを操られてしまう。
 能力をフルで発動した時に勝手に形作られる翼も、逃亡には使えるが反撃には使えそうにない。
 ならば、格闘技、射撃、だまし討ち、応援――――いや、駄目だ。
 あらゆる手段を尽くしたとしても、垣根帝督という人間は一方通行を超える事が出来ない。


「くそ…………! 『未元物質』さえ叩きこめりゃ……!」


 一方通行は最強の能力を持っているとはいえ、身体はただの人間に過ぎない。
 最大出力の『未元物質』を直撃させることが出来さえすれば、その一撃で一方通行は確実に死に至る。
 だが、垣根の『未元物質』の演算は既に解読されてしまった。
 当てれば勝てるが、あてられない。
 どうする。
 どうする。
 どうする。 
 どうする。
 どうする。
 どうす、る――――――

「………………………………………………!」


 垣根帝督は一つの答えを導き出した。
 だが、それは解法と呼べるようなものでは決してない、いわば暴論であった。
 学園都市に住まう人間であれば、超能力の概念を欠片でも知っている人間であれば、決して浮かばないであろう発想。
 だが、思いついてしまった。
 ならば、実践しようじゃないか。 
 詭弁でもいい、戯言でもいい。
 0パーセントと1パーセントでは、その差は比べ物にならないのだから。


「…………は、ははっ」

「あァ?」

「一方通行、俺はどうにかしちまったらしい。俺の中に浮かんだアイデアは多分テメェだろうと想像できねぇようなぶっ飛んだモンだ」

「そォかよ。ンで、それは俺を楽しませてくれるよォな代物なンだろォな?」

「ああ、間違いねぇな。あんまりにも楽しすぎて、俺でさえどうにかなっちまいそうだ。……さて、良い女相手ならともかく、テメェみてぇな貧弱モヤシ野郎を焦らす趣味もねぇし」









「――――始めるか」

今回はここまでどぅえっす。

いやぁ、垣根さんのキャラがぶれているような気がするよ……潮時かもしれんね。
というか最終回、本当にドウシヨウ……



では、次回予告の後でお別れです。
次回の更新は……うーむ、テストがあるので8月5日くらいの予定です。空くなぁ……申し訳ないです。


では、今日もアリガトウゴザイマシタ!

乙!
空くなあ
楽しみに舞ってます



なんと次回で最終回とな・・・冷蔵庫ENDは勘弁して欲しいが・・・さて

次回期待

     『次回予告』






『「未元物質」以外の能力……? いや、そンなワケはねェ……! そんな事、ありえるわけがねェだろォが!』

――――学園都市最強の超能力者 一方通行(アクセラレータ)



『は、はハはハハは、なななななニ言ってテやがんだァ? そんgfykな無様なka顔oqmしやがって』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)

>>527
まだ最終回じゃないっすよ兄さん。
ていうか、書き溜めですらまだ終わってないよ、どういうことさ。

なんか垣根バグってるし、某神拳とは違うっぽいな
超期待、そして乙

>>529
次回でお別れ、に見えたんじゃないですかね兄さんは

乙  ここで間が空くのは辛いが次回も楽しみにしている

いやいやまだまだつづけて
上条の代わりに新訳までいこうぜ

心理たんprpr

次回で最終回?またまたご冗談をwww

もしかしてAIM拡散力場に未元物質を干渉させた?

乙ゥ!

やべぇ! 超面白くなってきやがったァァァ!!


原作とは違う第一位VS第二位ってのは禁書ファンなら結構妄想するものだと思うから、このスレではどんな感じになるのか期待

もしかして魔j、、、いやなんでもない

私だ。

更新は8月5日だといったが、ありゃ嘘だ。

更新は明日だ。繰り返す。更新は明日の夜十時ごろだ!

把握待機
こちらとしてはこの速さは非常に喜ばしいことだがテストはどうしたんだww

 テストという物は、その人の学力を図るものであり、テスト前に慌てて勉強して知識を無理やり詰め込み良い点を取ったとしても、それはその人の学業のレベルを図るテストの結果としては不正確ではないだろうか。
つまり、テストとは直前に勉強して乗り越えるのではなく、普段通りに生活をし、授業中や普段の予習復習で頭の中に入れた本来の知識だけで勝負するべきなのである。

 何が言いたいのかというと、私はもうだめです。



>>526
空かずに済みました。私は無事では済みませんでしたが、瞬時に現実逃避することによって難を逃れました。

>>527
ていうか、ていと君が冷蔵庫になったんじゃなくて、ていと君に冷蔵庫(的な機械)が取り付けられてたんですよね、原作だと。まぁ冷蔵庫に魔改造されてた方が美味しいですけど。

>>530
某神拳を使える刺青研究者はきっと二重の極みもできると私は信じています。

>>531
待たせたな!(蛇風に)

>>532
一体いくつのイベントをこなせばいいんだ……! ていと君はアロハシャツ似合いそうですけどね。あと病理たんprprknkknk

>>533
何かよくわからない戦闘になりますが、多分後に解説してくれるキャラが居るので大丈夫だと思います。難しい事はわからないよ兄さん。

>>534
テンションあげて書いていきたいですね。カチャッカチャッターン!

>>535
皆さん、いろんな戦い方を考えていらして、素直に凄いと思います。前に何かで見た月の引力で某神拳のような動きをする槍……でしたっけ、うろ覚えですが、そんな感じで戦いに勝利したていと君が格好良かったです。

>>536
喋りすぎは命に係わるぞ、と某和尚が言っていました。

>>538
何ぃ? 聞こえんな~?

>>538
今の季節は裸に適していていいですよね。今私もテスト用紙に「何本目に死ぬかな?」と言いながら人差し指で穴をあけつつ全裸です。



では投下していきます。ていと君のターン? スタートでっす。




 瞬間。




 垣根帝督を中心に、奇怪な音が辺りに響き渡った。
 まるでガラスとガラスをこすり合わせているかのような、透明な金属音のような、しかし鼓膜を震わせるのではなく脳裏に直接突き刺さってくるような、刃のように鋭い轟音。
 音の発生源は垣根帝督、の背にある六枚の翼。
 白い翼が、穢れを知らぬような純白の翼が、もがき苦しむかのように大きく全体を震わせながら歪み始めた。


「なンだァ……?」


 学園都市最高の頭脳をもってしても見通せない謎の現象。
 一目見ればそれが何系の能力か、どの程度の強度を誇る能力かさえすぐにわかる一方通行にさえ理解不能な状況。
 

(『未元物質』で何かしよォとしてンのかァ……? だがすでに『未元物質』の公式は理解してンだ、無駄だってのはアイツも理解してるはずなンだが……)


 その時、垣根が引き起こしている『何らかの現象』の余波を受け、垣根の足元の小石が一方通行の元へと吹き飛んできた。
 もはや破壊するまでもなく、一方通行が無意識中に常時展開している反射膜でも対処できる程度のモノ。
 だから一方通行は気にも留めなかった。
 そりよりも、垣根が何をしているのかを把握することが重要だと考えたからだ。







 そして、小石は一方通行の頬を『掠った』









「…………………はァ?」

 一方通行が自分の頬を撫でる。
 ピチャリと、水っぽい感触。
 見れば、白い手に赤い液体が付着していた。
 もう一度触れて確認する。
 ズキリと頬に刺すような痛みが走る。
 
 一方通行の頬に、小さな傷が出来ていた。


「な、ンだよ、何だよオイ、どォなってンだァ!?」

 
 ありえない。
 垣根帝督の『未元物質』は完全に把握したのだ。
 如何なる使い方をしても、それは『未元物質』という超能力が根底に存在する現象にすぎない。
 『未元物質』を把握していれば、垣根のあらゆる攻撃は掌握できるはずなのだ。
 なのに、どうして。

「『未元物質』以外の能力……? いや、そンなワケはねェ……!」

 
 二つ以上の能力、すなわち『多重能力』【デュアルスキル】は学園都市において不可能とされている。
 『自分だけの現実』に宿る能力は一つだけであり、何らかの能力が発現すればそれ以外の能力は発現しない。
 だから、垣根の『アレ』も『未元物質』のはずなのだ。


「チッ! だったらもォ一度演算を逆算すりゃァイイだけだろォが!」

 
 一方通行は垣根の『何か』をあらゆるベクトルから逆算し、把握しようとする。
 
 だが、そこで一方通行は更なる疑問に出くわした。

 
 
「……オイオイ、待てよ、ありえねェだろォがよ、ふざけてンじゃねェよ! 何なんだよコレはよォ!」

 ありえないことが起こっていた。


 一方通行が垣根の『未元物質』らしきものを逆算しているうちに、垣根の発動している『未元物質』らしきものの演算式がどんどんと変化している。
 まるで数式を解いている最中、どんどん数字が書き加えられているような状況。
 これでは、どれだけ演算を続けても無意味だ。
 どれだけ必死に解き続けても、その答えが刻一刻と変化する数式など解きようがない。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 垣根は絶叫する。
 白い翼が連動するかのように耳障りな音を立てながら捻じ曲がっていく。
 

「テメェ…………まさか…………」

 そして、ようやく一方通行は垣根が何を行っているのか理解した。













「『未元物質』の演算式を作り変えてやがンのか……!?」












 超能力の演算式を『作り直す』。
 それがいったいどれほど狂気じみた所業なのか、一方通行には理解できた。
 力を最大限に発動させた時、自動的に翼の形になる垣根の『未元物質』や一方通行が無意識の間に自動展開させている『反射』。
 これらは能力を使い方を熟知し、もはや思考の必要がない、つまりは拍動や呼吸のように考えずとも行えるレベルにまで脳内で演算式の最適化が行われているがために行えることだ。
 それを、一から作り直す。
 今まで使ってきた『能力発動に最も最適化された演算式』を最初から組み直すというのだ。


 それはつまり、全く新たな超能力を発現させるという事にも等しい。

 無意識を意識的に操作するということは、人間が生まれた時から無意識に行える心臓の拍動を自分の意思で動かすようなものだ。
 それが、どれほど愚かな事なのかは想像に難くない。
 この世の物質ではない、どこからから引きずり出される『未元物質』
 それが、どこからやってくるものなのか、垣根帝督は完全に把握するつもりだ。


「馬鹿かテメェは! 演算式を一からまるっきり組み替えるなンざ、テメェ以外の人間が『未元物質』を発現させるよォなモンだろォが!」


 第一位、一方通行。
 第二位、未元物質。

 この二つは学園都市に存在するどの超能力ともかけ離れた、完全にオンリーワンの超能力だ。
 比類する能力も、分類できるジャンルも存在しない、一方通行と垣根帝督にのみ宿る唯一無比の能力。

 それを、他者に発現させる事など絶対に不可能。
 既にレベル5の人間が、全く別の系統の能力を発現させ、さらにレベル5に至るという夢想にも似た話。
 他の人間がレベル5に至る可能性よりもさらに低い、もはやありえないと定義しても問題ない話。

「は、はハはハハは、なななななニ言ってテやがんだァ? そんgfykな無様なka顔oqmしやがって」


 垣根帝督は笑う。
 もはや、その笑顔は微笑みなどではなく、悪魔にしか浮かべられないようなものだった。


「教えtrnてやmるよ一方通fdb行、このpqz俺にfsgu常識lqmzは通用vytrしねぇ」


 ガクガクと垣根帝督の体が震える。
 目から、耳から、鼻から、口から、ありとあらゆる部分から血を流しながら、垣根は何やらノイズを走らせながら言葉を吐き出していた。
 どう見てもまともではない。

 当たり前だ。

 垣根帝督と言う人間が、まともであるはずがないのだから。

(もっとだ、もっと深く潜り込め。『未元物資』を完全に理解しろ、なに一つの疑問すら残すな、『未元物質』の端から端まで全部掌握しろ!)


 垣根が『未元物質』の方程式を一から作り変える真意。
 それは、今までの『垣根帝督』という人間ではたどり着けなかった域へと達するためだ。
 今までの使い方では駄目。
 もっと深く。
 もっと正確に。
 『未元物質』とは一体何なのか。
 満足するな。
 奢るな。
 こんなものではない。
 この、垣根帝督に秘められた力は、あんな程度で収まるものではないはずだ。 

 垣根は演算を続ける。
 
 どこまでも、どこまでも。
 
 複雑に、濃密に。
 
 深く。
 深く。
 深く。
 深く。

 深く、深く、深く、深く、深く、深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く深く――――










「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」





















 そして。





 ―――
 ―――――
 ―――――――――  








 同刻、ロンドン。




 それは、薄暗い教会の中での会話だった。


「…………」


 異常に長い金髪の女性が、窓の向こう側を静かに見つめていた。


「……? どうなされました?」

 
 近くで何らかの作業をしていた赤髪の神父が、疑問に思って訪ねる。 


「……いえ、何でもなしよ。憂ふ必要ななしけるわ」

「貴女のする事で心配がいらなかったことがないのですが」

「なっ!? 淑女に向かひてその口のきき方はいかがなるの!?」

「淑女はそんなバカみたいな喋り方はしません」

「ふ、ふんっ! もう知らずわ!」


 プイッ、と子供らしい動きで顔をそむけた女性は、神父に見えないように口元に笑みを浮かべた。



(…………この方向、学園都市? まさかアレイスター、何かせしこと? ……まぁ、何なれ、面白きことになりてきたりね)




 ―――
 ―――――
 ―――――――――  








 同刻、英国某所



 それは、簡素なアパートメントの一室での会話だった。


「…………チッ、面倒な事になりそうだな」


 コタツに脚を突っ込んで体をぐでんと伸ばしていた少女が唇を尖らせながらつぶやいた。


「いきなりどうしたんですか」


 キッチンの方から飲み物を持ってきた黒服の男が訪ねる。


「お前は感じないのか? やれやれ、相変わらず駄目な奴だ」

「どうしていきなり罵倒されなきゃならないのかがわかりませんが、まぁ真昼間からジャージを着てコタツでごろごろしているボスよりは人間としてマトモだと思っていますけど」

「いいじゃないかジャージ&コタツ、ジャパニーズはみんなこうやってくつろいでいるんだぞ」

「どこ情報ですかソレ。ボスくらいの年齢なら運動をもっとするべきですよ。ちゃんと規則正しい生活を心がけないと身体の発達に影響が――

「よーし肉ミンチ決定だ」




 ―――
 ―――――
 ―――――――――  








 同刻、バチカン。


 それは、大聖堂の最深部に存在する部屋での会話だった。



「……ふむ」

 
 分厚い本を読んでいた一人の青年が、突然本を閉じ東の方へ顔を向けた。
 

「あ? 如何したのよいきなり」

 
 近くに座っていた派手なメイクの女性はピアスを磨きながら横目で青年を見るが、青年は女性の方に全く目を向けずに返事を返した。


「いいや、何でもない。気づかないなら話しても無意味だろうしな」

「あぁ?」

「なんだか引っかかる言い方ですねー」

 
 長身痩躯の男が間延びした喋り方で口をはさむが、誰も返答しなかった。
 そもそも、ココに居る全員が和やかに会話するような間柄ではないのだが。 


「…………」


 ただ一人、無言で青年と同じ方向を向いていた大男は顔を顰めている。
 

「どうやらお前は漠然と感じているようだが、正確には把握できんらしい。まぁいい、何か理解できたとしても、お前たちではどうにもならんよ」

「言い方うっぜぇ……」

「さて、と。これは興味を向けてもよさそうだ」


 青年は愉快そうに笑い、そして静かに立ち上がった。



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  








 同刻、某国。


 それに気づいたのは、奇怪な眼帯と黒い帽子を身に着けた少女だった。
 少女の前には、金髪の青年が立っている。
 二人は無傷だった。
 だが、二人の周りはまるで戦争でもあったかのように、文字通り『壊滅』していた。

 二人は静止し、同じ方向に顔を向けている。


「…………これは、ずいぶんと凄まじい事だな」

「方向、距離からして学園都市……か? だが、何となく違和感がある。しかしこれほどの特殊な力、お前と俺を除けばアレイスターぐらいしか考えられないな」

「世の中はお前が思っている以上に広いんだよ。『素体』としての素質は十分そうだ。なるべく早いうちに回収しなければ」

「……させるとおもうか?」

「逆だ。邪魔なんて、させるとおもうのか?」


 二人は激突する。
 何一つ説明できない力同士がぶつかり合い、再び地形が大きく形を変えた。




 ―――
 ―――――
 ―――――――――  








 同刻、学園都市。


 その男は、『窓のないビル』と呼ばれている閉ざされた建造物の内部に居た。
 モニタやボタンの明かりが満天の星空のように瞬く暗い部屋。
 そんな部屋の中心に置かれた、薄紅色の液体に満たされたビーカーの中に逆さまに浮かぶ一人の男。
 
 その男は、聖人のようでありながら罪人のようにも見え、老人にも見えるが子供にも見える、奇怪な人物だった。
 
 そんな彼は今、表情を浮かべていた。
 
 それは驚愕。
 それは喜び。
 それは不満。
 
 極めて人間らしい表情を、極めて珍しい事に男は見せていたのであった。


「………………」


 男は思考する。
 彼の中の『プラン』では、このような事が起こる可能性はゼロであった。
 もしくは、最も歪な状態で『回収』されてから何らかの用途に使う予定だったのだ。
 なのに。
 今、この目の前で起こっている現象は、紛れもなくイレギュラー。
 想定の範囲外という、あってはならない非常事態。


「始末すべきか、いや、それはさすがに早計だな。『プラン』の更なる短縮に使えるかもしれん」


 彼の『想定の範囲内』で『プラン』をかき乱す二人の存在。
 
 一人は、ありとあらゆる異能を打ち消す右腕を持った少年。
 もう一人は、ありとあらゆるベクトルを操る少年。

 この二人の真価は、まだまだ先にある。
 ただの異能を打ち消す右腕ではなく、ただのベクトルを操る程度の能力ではない。
 二つの力が目覚めるのは、まだ先の事。
 彼の『プラン』では、そうなるはずだった。
 だが、ソレは起こった。
 起こるべくして起こったのか、それとも起こらない筈だったことが間違って起こったのか。
 
 それは嘗て、ある存在に知識を与えられた男にすら、わからなかった。


 脳が二つに割れたような気がした。
 まるで脳を割って、その中から何かが這い上がってくるような感覚。
 だがしかし、そこに嫌悪感や痛み、不快感はない。
 脳が、体が、何かに満たされていく。
 まるで暖かい液体が全身を駆け巡っているかのように。
 
 垣根がイメージしたのは、羽化だった。
 強固な『自分だけの現実』を破り、その下にあった何かが翼を広げている。
 学園都市の技術で開花した超能力。
 だがそれは、『科学』という概念、学園都市の常識に囚われていた、という事なのかもしれない。

 そして、今。
 垣根帝督はその常識を打ち破る。
 








 誰も届かない世界へと、垣根帝督は翼を広げる。







「…………………ハ、ハハ」


 一方通行は笑っていた。
 しかし、愉快ではない。
 愉快なわけがない。
 人が笑うのは愉快な時の他に、もう一つある。
 それは、まったく理解の及ばない現象に出くわしたとき、どうしようもなく追い詰められた時。
 

「オイオイ……マジかよオマエ、それがテメェの超能力ってかァ? 悪ふざけにも程があンだろォがクソッタレェ……!」






「…………こいつが、『未元物質』か」






 垣根帝督の背には六枚の翼。
 無機的な白い光を帯びていた翼はより一層輝きを増し、それでいてさらに無機物的な美しさを誇っていた。
 まるで、それ自体が人間よりも高位な存在の兵器であるかのように。

 

 しかし、異変はそれだけではない。



 垣根の背には今までだって翼があった。
 ならば、一方通行は何に驚愕しているのか。





 それは、『腕』






 垣根の両脇の地面から天に向かって歪に指を伸ばす、十数メートルにも及ぶ巨大な二本の黄金の腕。
 空気を握りつぶそうとでもしているかのように五本の指を動かしながら、両腕はまるで垣根に頭を垂れるように指先を下へと向ける。

 まるで、神話の一ページのような光景だった。
 白い翼を背負った天使を、神がその腕に抱いているかのような、そんな光景。


 
「何処までもメルヘンチックなヤロォだ……クソウゼェ、そのキメェ翼も腕も丸ごと捻じ曲げてやるよォ!」

 
 一方通行は大気、重力、惑星の自転etc……ありとあらゆるベクトルをその体に宿し、垣根帝督へと突撃する。
 本来人間にはどうやっても扱う事が出来ないような強大な力を込めた拳が垣根の顔へと迫った――その瞬間。




 垣根の左右にあった黄金の腕が拳を握る様に、その指を折りたたんだ。
 たったそれだけ。 
 たったそれだけの動作で発生した衝撃波が、垣根以外のありとあらゆるものを薙ぎ払った。



「か……ッ!? ゴ、ガァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 それは一方通行すらも例外ではない。
 完全に理解不能の『謎の衝撃』を受けた一方通行は肉体のありとあらゆる箇所に平等にダメージを受けながら数十メートル吹き飛ばされた。

(なンだ……!? 今のベクトル、この俺に解析できねェ方程式だと……? 『未元物質』に近ェが本質がまるっきり違ェ! 数式に意味不明な文字列を叩き込んだよォな、そもそも方程式として成り立たねェモンじゃねェか!)


 理解不能。
 意味不明。
 掌握不能。
 計算不可。
 
 垣根の翼から感じる力も、両脇に蠢く黄金の腕も、学園都市最高の頭脳ですら一片も理解できない。
 科学の頂点にすら理解できない。
 ならば、あれは――――











「…………科学、じゃねェ…………?」








今回はここまでです。

読者置いてけぼりの超展開(笑)になってますが、少し待ってください。しばらくしたらいろいろと考察してくれます、便利な人が。
書き溜めも多分このままだと次回で尽きる。ハハ、八方ふさがりDAZE☆


では、次回更新は今度こそ8月5日を予定しております。
いつも通り次回予告をして、また次回お会いしましょう。

今日もアリガトウゴザイマシタ!

乙!
科学じゃないってことは魔術かな?だから血を噴いたのかな?

乙!
垣根さんKAKKEEEEE!!

     『次回予告』






『ォ、ォォォォおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!?』

――――学園都市最強の超能力者 一方通行(アクセラレータ)



『一方rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr殺ssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)




『はいはーい、失礼しまーす』

――――???

青髪ピアスさんキター

誰か>>557-558の垣根をイラストにしてくらさい・・・・・お願いエロい人

乙!!

すげぇな・・・こんな面白い展開になるとは

病理さんクルーーーーー!?

私「なんかテストの息抜きになるようなゲームない?」
友人「あ、じゃあ面白いゲーム教えてやるよ。うちの近くの店で中古で安くなってたし」
私「マジか、じゃあ帰りにちょっと買ってみるかな」


装甲悪鬼村正、大変面白いですわ。邪念編も購入を検討しております。



そんなわけで今日も今日とて更新していきます。


>>562
詳しい考察は後程。

>>563
スーパー垣根タイム…………?

>>565
この状況で彼を出す勇気と技量はないっすスイマセン

>>566
絵なんて描いてもらえたら、嬉しくてつい番外編なんかも書いちゃうかもしれませんねぇ……?(チラッチラッ

>>567
楽しんでもらえて何よりでさぁ

>>568
イッタイダレナンダアイツハ



では、投下していきます……が、先に宣言しておきます。



今回は、短いぞ。





 科学サイド最強の化け物が、その一端に触れた瞬間。



 更なる異変が起こる。





「は、はハは、いイなァ、こレこそ俺二相応しィ能力だ」

「……あァ?」

「どォしタんだヨ一方通行、そんなまぬnnnnけ面しやがって」



 
 垣根の体が大きく震え、その喉からは声ではないノイズが走る。
 ガクガクと垣根が異常な動きを見せた。
 まるで、全身を糸で操られている傀儡のように。

「どォなってンだよ……」


 明らかな異常。
 もしも垣根があの正体不明の『力』を完全に掌握しているのであれば、あんなことにはならないはずだ。
 そもそも、あの力で本気で襲い掛かられていれば、一方通行は既にこんな事を考える事も出来なくなっている。
 つまりあれは、暴走だ。

 
「一方rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr殺ssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss」


 黄金の腕が、まるで幼子が癇癪を起こしているような、そんな無茶苦茶な動きで辺りを握り潰し、ひっくり返し、粉砕している。
 それに連動するかのように、六枚の白い翼も空中を縦横無尽に暴れまわり、翼同士がぶつかり合い耳障りな音を辺りに響かせていた。

 まるで、暴風。

 全てを引き裂きながら、垣根帝督はたった一人で台風の中心で苦しみもがいていた。

(だが、好都合だ。アイツがあの『力』を御しきる前に、俺がアイツの『不可思議な力』の方程式を導き出しゃァ良い! 学園都市第一位の頭脳、舐めンじゃねェ!」


 一方通行は目の前のアンノウンを解析するべく、頭の中にあるすべての法則とこの世のありとあらゆるベクトルを照合し、少しずつ答えへと至ろうと脳を働かせる。
 今まで一方通行を支えてきた『科学』が何一つ通用しないあの力を知るためには、一度頭の中にある常識は棄てなければならない。
 全く異なる土台。
 垣根帝督という人間の内に隠れた、科学ではない巨大な力の法則を一方通行は掌握せんとする。


(もしアレが科学じゃねェとしても、俺の能力は『ベクトル』さえ存在してりゃどンなモノだって操れるンだ。だから解法さえ見つけちまえばイイ。格下に出来た事が俺に出来ねェワケがねェンだ!)

 



 観測。
 照合。
 不正解。
 再演算。
 計算失敗。
 再演算。
 計算失敗。
 再演算。
 計算失敗。 
 再演算。
 再演算。
 再演算。
 再演算。
 演算。
 演算。
 演算。
 演算。
 演算。 
 演gkqy算。
 演ざlyqmgん
 演zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

「ァ…………? あ、あァ? あァああああああああァァァああ?」


 初めて『未知』に触れた一方通行。
 瞬間、一方通行の脳に明確な変化が現れた。
 
 それは、例えるなら覚醒。
 それは、例えるなら崩壊。
 それは、例えるなら進化。
 それは、例えるなら堕天。
 
 一方通行の瞳から液体が零れ落ちる。
 透明感のある暖かい液体ではない。
 不快感しかない鉄臭い液体だった。
 滴り落ちる赤黒い液体を一方通行は腕で拭う。
 そして、口元は怪しく歪められた。




 泣き笑いの表情で、一方通行は吠えた。

「ォ、ォォォォおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!?」





 噴射。
 
 一方通行の背から黒い何かが噴出した。
 それはどうやら翼らしい。
 しかし垣根のそれとは違う。

 黒。
 漆黒。
 
 神秘的な光を放つ無機質な白い翼とは対照的な、荒々しく物々しくおどろおどろしく、暴力だけが渦巻く邪悪。
 一瞬で世界の果てまで伸びていきそうな程の勢いを誇る翼は、一瞬で辺りの地面を削り取る。
 

「ハァ……ッ! ハァ……ッ!」


 一方通行という存在を構成する柱が砕け散る。
 学園都市第一位という称号、科学という世界そのものが音を立てて崩れ落ちていく。
 この時、一方通行がいったい何に触れたのか。
 それは誰かの思惑だったかもしれないし、イレギュラーだったかも知れない。
 

「な……ンだ……これはよォ……」
 

 一方通行は困惑する。
 己の中から湧き出てくる未知。
 触れた事のない世界。
 しかし既に痛みはない。
 ただただ、一方通行という人格を飲み込まんとする黒い感情だけが無限にあふれ出ていた。

「……まァ、イイ。コレが何なのかはわからねェが……アレをぶっ殺せるなら、何でもいいか」


 一方通行はゆっくりと腕を動かす。
 それだけで、未知の絶対的な力で暴走していた垣根の体が大きく吹き飛ばされそうになるが、黄金の腕と暴走中の白い翼がその体を支える。
 

「ギャハ、ギャハハッ! やれる! やれる! ぶち殺せる! ヒャハッ!」

 
 
 一方通行の黒い翼がさらに出力を上げる。

 この謎の力を一方通行は完全に掌握できているわけではない。
 だが、力は一方通行の中に湧き上がる黒い感情に従って動いてくれた。
 だから、計算する必要もなく考える必要もない。




 黒は白を、塗りつぶす。













 破壊。
 粉砕。
 全壊。
 撃滅。
 潰滅。
 損壊。
 粉砕。
 打毀。 
 征服。
 蹂躙。


 それは暴力だった。
 『質』と言うだけなら、おそらくは垣根の方が上回っているだろう。
 しかし結果は、圧倒的だった。
 真の力だとか、進化の果てだとか、そう言った小難しい事は何一つない。

 一方通行の力が垣根帝督の力に勝っている理由、それはあまりにも簡単な回答。

 一方通行が、学園都市の頂点であるだけの事。



 白い翼は粉砕された。
 黄金の腕は引きちぎられた。

 垣根帝督は、叩きのめされていた。



「………………………クソッ……」


 
 垣根帝督の意識は戻っていた。
 だが、先ほどまでの『力』を行使するほどの余裕があるわけではなかった。
 白い翼はまだ発動できるし、翼の出力そのものは先ほどのようにかなり向上してる。
 しかし黄金の腕はどうやっても出てこない。
 出そうとしても、脳の奥底が焼けつくような痛みを感じるだけで重要なものが出てこない。

 
 しかし、一方通行は違った。
 
 黒い翼を四肢のように、自由自在に扱っている。
 暴れ吹く暴風の中で、ただ一人君臨していた。
 

 勝てない。
 垣根が今まで下位の能力者をバカにしてきたように、一方通行との間には大きな差があった。
 

(どうすんだよ……さっきの腕はどうやっても出ねぇし、一方通行のクソ野郎は意味わかんねぇ力使い始めやがったし」

 
 不可思議な力を理不尽な力で薙ぎ払われた垣根は、目の前の絶望を目の当たりにしてなお折れなかった。
 垣根帝督という人間を支える芯は、荒々しく図々しく、人から見ればはた迷惑なだけのものかもしれないが、それはとても強かった。

 垣根帝督とは、プライド。
 垣根帝督とは、信念。
 垣根帝督とは、劣等感。
 垣根帝督とは、第二位。

 
 敗北を認めた垣根帝督など、垣根帝督ではない。
 負の側面に生きるからこそ、垣根帝督と言う人間は垣根帝督でいられる。



「じゃあ、死ぬか」


 一方通行が黒い翼を振り上げる。
 それはまさに、罪人の首を絶つギロチン。
 垣根帝督に出来る事は、断頭を待つことだけ。

(考えるのをやめるな! 死ぬ間際まで脳みそを働かせろ! こんな所でくたばってたまるか! こんなクソ野郎にこの俺が殺されてたまるかってんだよ!)


 垣根帝督は目を閉じなかった。
 あの翼が垣根帝督の命を刈り取るその瞬間まで、垣根帝督はありったけの敵意と殺意を視線に含めながら一方通行を睨みつける。
 脳を働かせ、経験を思い出し、ありとあらゆる可能性を模索する。
 

 黒翼が、迫る。
 状況を打破する手段は――――














「はいはーい、失礼しまーす」

「………………………あぁ?」

「………………………あァ?」


 
 唐突に聞こえた軽いテンションの声。
 死が確定したこの場には似つかわない、あまりにも気楽な声。


 黒い翼は止まらない。


 なのに。
 その声の主も、まったく止まらない。



「………………おいおい、何だよ、おい、どうなってんだよ、テメェ!」

 垣根帝督は慌てて声を荒げる。
 だが、声の主はそれに何一つ対応してくれない。
 ただただ、柔和な笑みを浮かべるだけで。
 居るはずがないのに。
 来るはずがないのに。





「帝督、これが私の帝督を『諦め』させるための、とっておきの手段です」






 木原病理は、確かにそこに居た。


「…………ふざけんな、ふざけんな、ふざけんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 垣根帝督は吠えた。




 パジャマの裾を小さく揺らし。

 悪戯っぽく人差し指を唇に当てて。

 小首を傾げウインクをしながら。















 木原病理の体は、黒い翼に引き裂かれた。

ここまでです。

短い、短い、短いぞ畜生!

なので、次回更新は明日だ。繰り返す、トゥモローだぜ。
スーパー病理タイム、お楽しみに。


それでは次回予告をして、今日もアリガトウゴザイマシタ!



いや、一方なら病理殺してそのまま垣根やれるだろ

     『次回予告』






『諦めて、逃げて生きてください』

――――『諦め』を司る『木原』ファミリーの一人 木原病理(きはらびょうり)



『勝手に邪魔して! 勝手に体引きちぎられやがって! その上俺に諦めろだと!? ふざけんな、ふざけんな、ふざけんじゃねぇぞクソッタレ!』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)




いちおつ
ちなみに過去作なにか書いてたりする?
今更年上の人と少し似てる気がした

>>588
まぁそうなんですけど……あれですよ、仮面ライダーの変身中に攻撃しないみたいな、そんな演出的敵の配慮、みたいな…………うん。

>>590
あて、これが初めてやで。


病理さん、これで散ればヒロインだな

同一人物じゃないにしてもすごい文が上手いし面白いから
何かしら過去作あるくらい書いてるのかなぁと思ったけど
初とは驚き

これが処女作!?
すごいな

貴重な病理んヒロインがまた一つ肉塊になってしまった
なんということだ

やっと追いついた
鹿児島くンのとこにいましたねぇニヤニヤ




じゃあ石の代わりに珈琲でもバッシャァァァァァァァアア!

びょーりんマジヒロイン素敵過ぎるわマジ小悪魔マジ天使鼻血が止゙ま゙ら゙な゙い゙ん゙で゙ずが゙びょーりん出てくる度にハート撃ち抜かれるわちくせう

病理んって歳いくつなんだろう
見た感じ第4位以上だよね

……三十路か……

キノコの山かタケノコの里か、そんな問いを投げかけたあなたに私はこう答える。ポッキーが至高。



そんなわけで今日も連続で更新していきたいと思います。



>>592
病理さんは何をやってもヒロインです。俺の心の中ではな……

>>593
色々と本を読むのが好きなので、そのおかげですかね。

>>594
そういった評価を頂けると私としては感涙に咽び泣く感じなんですが、プレッシャーに弱いので精神状態がやばいです。

>>595
まだ生きてるよ! 肉塊になっても私は病理さんを愛すよ! 私は沙耶の唄の沙耶(常人視点状態)でも愛せますからね。

>>596
イヤァァァ! 名前を変更し忘れてしmあbbbbbbb

>>597
貴方の鼻から流れ出る愛情、プライスレス。

>>598>>599>>600
仮に、木原円周を中学1年生、13歳だとします。
そして「○○お姉ちゃん」と呼ぶ範囲を自分の年齢よりもプラス7、つまり20歳までだと考えれば、おばちゃんと呼ばれる病理さんも24くらいの魅力的な大人の女性的な年齢だと考えればよいのです。
熟女まではいかず、かといって子供の青臭さが抜けた適正年齢、それが病理さんです。つまり何が言いたいのかというと、病理さんマジ天使。



では、更新していきらっしゃーい。




 べシャリという湿った音。
 グチャリという鈍い音。
 ギチギチと不快な音を立てる機械義足。

 飛び散る赤、砕ける白、引き裂かれるピンクや黄色。


「ンだァ? 今回の実験、部外者参加しすぎだろォよ」


 一方通行の声が酷く遠く感じた。
 まるで、夢で見ているかのように。
 もしこれが夢であったならば、垣根は自分の愚かさを鼻で笑っていただろう。
 しかし、リアル。
 これは紛れもなく、現実で。

 そんな事を考えてしまう程度に、垣根の心はかき乱されていて。


 こんなものは、見飽きる程見てきたはずなのに。


 腰から下を失った木原病理の体が地面に落ちる瞬間が。
 やけにスローモーションに見えて。

「なに、してやがんだよテメェは!」



 垣根は木原病理の上半身に駆け寄る。
 臓器と骨と肉と血を断面からドロドロと溢しながら、木原病理はいつも通りの顔をしていた。


「あらあら帝督、そんなに慌てちゃって」


 まるで子供の可愛らしい悪戯を諭す様な口調の病理。
 この状態で、そんなテンションで、話が出来るなど人間に可能な事ではない。
 木原病理の体内に埋め込まれたナノデバイスや様々な薬品の効果により、木原病理は肉体の半分を引き裂かれた状態での生存を可能にしていた。
 しかし、その効果は無限ではない。
 消費されるエネルギー、肉体への負担、何の処置もしなければ、単にこれは死ぬまでの苦しみが長続きするだけの手段。
 ならばなぜ、病理はこのような手段を選んだのか。
 理由は単純だった。

「帝督、どうですか? 私の今の姿は」

「あぁ!?」

「無様でしょう、呆れるでしょう? これが第一位に挑む、自分よりも上位に挑むという事なんですよ」

「…………」


 第一位と第二位の間に存在する絶対的な壁。
 垣根はそれを嘲笑い、乗り越えてやると宣言した。
 しかし、結果は誰もが予想した通りだった。
 もしもあの時病理が間に割り込んでいなければ、体を二つに千切られていたのは垣根だったはず。
 反発する心も、第一位への悪意も、強固な信念も、何一つ打ち砕かれることなく、垣根は絶命していた筈だった、

 だが、垣根は今も生きて、そして訪れるはずだった結果を目の当たりにしている。


 これが、木原病理の垣根に対する最後の攻撃。

 第一位を殺すなんていう夢想に囚われた垣根を『諦め』させる、文字通り決死の手段。







「帝督、第一位とこのまま戦えば、貴方もこうなるでしょう」








 木原病理は、笑顔だった。








「ですから」








 木原病理は、満足していた。








「諦めて、逃げて生きてください」








 木原病理は、最後まで自分の信念を貫こうとしていた。








「ふっざけんじゃねぇぞクソボケェェェェェぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」








 垣根帝督は吠える。
 感情は怒。
 ただただ、まき散らしても発散しきれないほどの怒りが垣根帝督の中で渦巻く。
 

「勝手に邪魔して! 勝手に体引きちぎられやがって! その上俺に諦めろだと!? ふざけんな、ふざけんな、ふざけんじゃねぇぞクソッタレ!」


 叫ぶというよりかは、喚く。
 まるで駄々をこねる子供のようだった。
 感情をむき出しにして。
 絶望を感じて。
 怒りで表情を染め上げて。
 心の内で引き裂くように泣きながら。












 垣根帝督は、背の翼を病理の体の断面へと突き立てた。

















「あァ?」


 一方通行は解せない、といった表情を見せる。
 轟々と吹き荒れる嵐の様な黒い翼を従えながら、一方通行は目の前の不可解な光景について思考する。

 『未元物質』の翼を突き刺された木原病理は、突き刺さった瞬間こそ一度体を震わせ血を噴出したが、それ以降は削り取られた断面からの出血は見られない。
 しかし、『未元物質』の翼は今尚病理の肉体へ侵入を続けている。
 異物が人体へと入り込んでいる。
 傍から見れば虫の息の人間をいたぶり嬲っているようにしか見えない。
 だが、一方通行はその光景に別の印象を抱いた。
 それは、手術のイメージ。
 刃で肉体を切り裂き、ドリルで骨を削るような、荒々しくも人を確かに救っているとわかる光景。

「てい、とく?」


 翼を突き立てられた上半身のみの病理は疑問の声を口に出す。
 本来なら、肉体の50パーセントを失った人間が、さらにその断面に異物を突き立てられた状態で言語として他人に通じる言葉が話せるわけがない。
 異常な光景は、異常な現象を引き起こしている。


「何を、しているんですか? そんな凶悪なもので、乙女の体内を蹂躙するなんて、えっちですよ?」

「黙れ」


 一度だけ、垣根は病理を黙らせるために言葉を吐いた。
 その直後から、垣根帝督の口からブツブツブツブと呪詛の様な言葉が漏れ出す。
 口にしているのは数字、専門用語、そして垣根の頭の中にだけ存在する独自の法則の方程式。

(…………観測、されている?)


 病理は自らの体にかかる違和感から、垣根の行動を推測する。
 どうやら『未元物質』の翼は、病理の体の状態を片っ端から掌握しているように思えた。
 まるで寄生虫が宿主の体に住み着くために、その肉体を隅から隅まで自分の存在しやすい環境に作り変える為に。


「帝督、アナタまさか――――


 垣根帝督の『未元物質』
 この世の法則を乗っ取る摩訶不思議な物質。
 その力の柔軟さは、他の能力の追随を許さない。
 しかし。







「『未元物質』で人体細胞の構築を……?」






 理論はあった。
 時間をかければ実現できる自信が木原病理にはあった。
 だが、即席で。
 この土壇場の状況で。
 
 精密操作と応用の極致の様な事を、成し遂げようというのか。


「や、やめてください帝督。いくら『未元物質』とはいえ、人体細胞を再現するなんて事は不可能です。そんな無謀な事は諦めてください」

「復元、構成、再構築、演算、複製、観測、補充、修正、調整…………」


 垣根帝督の吐き出す言葉は病理の意思など一切介していない。
 無視。
 病理の考えなど、病理の意思など、病理の気持ちなど、垣根帝督には一切関係ない。
 
 自分勝手。
 傍若無人。
 
 垣根帝督が尊重するのは自分の意思と信念のみ。


「てい、とく――」












「なァンか面白ェ事してるみてェだけどよォ」

 ゆらりと。
 白い悪魔は黒い力を従え、垣根帝督と木原病理の元へと歩み寄る。


「俺をのけ者にすンじゃねェよ。仲間外れだなンて寂しいじゃねェか」


 一方通行は嗤う。
 垣根と同じように不可解な力をその身に降ろしているにもかかわらず、一方通行はその意識を保ち続けている。
 性能差。
 残酷な数値の差は計算式でもなければ絶対に覆らない。

 
「帝督、逃げてください。殺されますから、早く」

「再構築、再構築、再構築、再構築、再構築、再構築――――」

 聞いていない。

 
 関係ないのだ。
 
 危機など。
 忠告など。
 都合など。
 心配など。
 理由など。
 恐怖など。
 他人など。
 関係ない。

 
  
 
 何一つ、垣根帝督には関係ない。


 考慮に値しない。
 配慮する必要はない。


 成し遂げることは絶対に成し遂げる。
 気に入らない事は絶対にすりつぶす。

 ただ、それだけの事。

「シカト貫いてンじゃねェよ! あァ!?」



 黒い翼が襲い掛かる。
 病理の肉体を削り取った荒々しい刃としてではなく、肉体の深部にまで衝撃を伝える重々しい鈍器として。
 横殴りに襲い掛かってきた黒い重圧は、そちらに見向きもせず病理の身体だけを見つめていた垣根の体を真横に吹き飛ばした。


 垣根の体が鈍い音を立てながら地面を転がり、コンテナにぶつかって静止する。


 擦過傷、脳震盪、内臓損傷、骨折。
 元々全身にダメージを負っていた垣根は決して軽傷ではなく重傷、重体とも呼べる状態にまで追い込まれる。

 しかし、垣根は立ち上がった。

 脚を無様にガクガクと震わせ、震える体を支える腕すら震えている状態で。
 這いずる様に歩きながら、垣根は再び病理の元へと向かう。
 その口からは言葉が漏れる。
 痛みに呻く声でもなく、苦しみに悶える言葉でもなく、その口が紡ぐのは計算式。
 木原病理の肉体を構成するための特殊な演算。

「………なァンか、今のテメェは面白くねェなァ」

 
 つまらなさそうに一方通行は呟く。
 黒い翼の出力があがった。
 明らかな殺意が含まれていた。


「もォいいや。十分楽しンだしなァ。そこの女と一緒にグチャグチャにして混ぜてやっからよォ」


 垣根は漸く病理の体にたどり着く。
 普通に歩くより五倍ほど時間をかけたが、垣根は何も言わずに病理の体の元に倒れるように座り込み、再び翼を病理の身体へと当てる。
 演算を開始する。
 だが。








「…………なぁ、木原病理」

 垣根が初めて、計算式以外の言葉を口にした。
 しかし、視線は向けていない。
 まるで、独り言をつぶやいているかのような調子だ。


「はい」

「テメェは、テメェが死ぬことで俺を諦めさせようとしたんだよな」

「ええ、その通りですよ」

「ならテメェは考えなかったのか? 俺がテメェが死んだ程度じゃ何のリアクションも起こさねぇどころか、喜ぶんじゃないか。とかよ」

「まぁ、ちょっとは考えましたよ? アナタの性格ですから、私が死にかけてるのを見たら笑って踏みにじるくらいの事はしそうですしねぇ」


 クスクスと病理は笑った。

「ですが、いざとなればこの儚く可憐な病理ちゃんの心配をしてくれると信じていました」

「真っ二つにされても生きて喋って笑ってボケかましてるテメェのどこが儚いんだよ」

「あらあら、ここは乗っかってくれる場面でしょう? 常識的に考えて」

「悪いな、俺に常識は通用しねぇ」

「それ全然すごくないと思いますけど…………まぁ、冗談をなくして、『木原』である病理ちゃんが珍しく本音を語っちゃいますかね」

「珍しいな」

「私は前から言っている通り、帝督が欲しいです。その能力は私がこの世で最も手に入れたい能力ですから」

「全然嬉しくねぇな」

「だから私は、心配しましたよ。帝督が第一位に殺されてしまうんじゃないかと」

「余計な世話だ」

「まぁまぁ。……ですから、思ったんですよ。私は帝督をこんなに心配しているのに――――



















「私が帝督に心配されてないっていうのは、ちょっと寂しいかな……って思いました」

















「…………そうかよ」


 垣根は会話を打ち切った。
 ほんの少しだけ、笑みを見せて。


「感動的な所悪ィンだけどよォ」


 飽きたように一方通行が言葉を吐く。
 まるで、茶番を見せられて苛立っているように。


「そォ言うの、寒くて仕方ねェンだわ。つーわけで、死ね」


 黒い翼が空高く掲げられる。
 おそらく、あれを振り下ろされれば垣根帝督の肉体と木原病理の肉体は同時に粉々にされ混ざり合い、もう見分けがつかなくなってしまうだろう。
 だが、垣根は病理の肉体の再構成をやめる気配を見せなかった。
 関係ない。
 垣根帝督は自分の意思に基づいて行動する。
 彼の強固な芯を折る事など、誰にだって出来やしない。
 慣れあうつもりはない。
 平和な世界に生きるつもりもない。
 ただ。




 逃げ出すという屈辱の選択肢を選ぶくらいなら、垣根帝督はこのままでいいと思った。

「これで終わりだァ、三下共」




 黒い翼が、襲い掛かる。

 二人は、動かない。


 一方通行は嗤っていた。
 垣根帝督は笑っていた。
 木原病理は微笑んでいた。



 そして。


















「ああ、確かに終わりだ」




 声は、聞こえた。

今回はここまでです。

一つだけ言いますと、このSSに恋愛要素はほぼ皆無です。平和なイチャイチャが見たい方は期待しないでください。

病理さんは攻略対象ではなく、みんなを見守る女神なんです。



所で、このままいくと今回の更新を除けば後二回ほどで最終回なんですけど、どうしましょう。
このスレを立てたときの初期最終回案がちょうどこの戦いの終結なんですよね……
まぁ、さらに続けていくか、新しいSSに着手するかは、もう少し考えます。

では次回予告をして、今回もおさらばです。
次は木曜日の更新を予定しています。ではアリガトウゴザイマシタ!



まあ一度区切っておいた方がまとまるとは思う
安易に継ぎ足すとバランス悪くなる時があるからな

   『次回予告』






『…………テメェ、誰だァ?』

――――学園都市最強の超能力者 一方通行(アクセラレータ)





『俺様の『腕』の行使は無制限じゃあないんだ。今はまだ、な。だからあまり手間取らせないで欲しいのだが』

――――???

乙!

俺様かよww
そういや興味津津だったが行動はえーなww



どんどん面白くなってくるが、想定の終わり方が近づいてるなら無駄に引き延ばすのはあまり賛成しない

まぁ、>>1の新作色々見てみたいというのが本音なんだがw

もしかして、一方&打ち止めのオマージュ?
いや、なんか、垣根による病理治療が、一方さんの打ち止め救出にダブって見えたんで

個人的にはもっと続けて欲しいね。>>1のびょーりんが天才的に可愛いすぐる。こんな女神なびょーりん見たことねーもん。新スレやるなら是非ともまたびょーりんメインでやって欲しいわ。平和ないちゃラブもダーティなのもギャグでも構わねー。>>1のびょーりんが見たいのさー。まー>>1の好きに書くのが一番だけどな乙。

俺様…一体何者なんだ…

ちくわ大明神だろ


凶悪な大きいのを奥まで荒々しく突っ込んで弱いところを全部知り尽くした(体重、3サイズ、性感帯等々多分把握したよね)挙句、
白いモノを中にぶちまけて新しい生命(細胞的な意味で)を作り出した、だと……!?

続けるかどうかはともかくして、個人的には時間軸とか無視した軽いノリの番外話みたいなのはちょっと見てみたい

最初からハイクオリティだったのに毎回面白くなるからすごいよ>>1

「実はこのss俺のカビでテメェらに見せてたって言ったら、テメェらどう思うよ?」

コテ邪魔消えろ

色んなものをとりあえず書いてみて、いろいろと悩んでます。

そんなわけでこんばんわ、今日も今日とて更新していきたいと思います。


>>623
一応続き的なものはぼんやりと考えてはいたんですがね、私の技量だと綺麗にすべての伏線を回収してすっきりとした最終回を終わらせることがとても難しそうなのです。

>>625
謝謝

>>626
これが電撃作戦、と閣下がおっしゃっていました。

>>627
新作の内容が浮かびすぎて絞れない状態にまで追いやられています。

>>628
多少意識したところはあります。一方通行と垣根は同一直線状を真逆に歩いている存在だと自分の中では設定しております。

>>629
続ける可能性もあるのですが、ぶっちゃけた話、新約5巻にしか出ていない病理のキャラを安定させて書くのはすごく難しいのです。垣根にも言える事なんですが、彼はあちこちのSSで引っ張りだこですからね、恐ろしや。

>>630
右方の俺様……いったい神の何席なんだ……

>>631
速度。
硬度。
知能。
筋力。
間合。
ちくわ大明神。
人数。
獲物。
手を出せば戦いが終わってしまうフィアンマにとって、こういった細かい勝利のための積み重ね、勝つための要員、戦うために用意すべき手札は何一つ縁がない。
「何だ今の」

>>632
………………………ていとくゥゥゥゥゥン! ブ・チ・コ・ロ・シ確定だオラァ!

>>633
スロースターターなのさ! スイマセンごめんなさい調子のりました石は投げないで。

>>634
たとえこのSSが幻覚だったとしても、私の病理さんに対する愛は変わらない。すなわち私の勝ちである! あ、でもとりあえずウートガルザロキさん送っておきましたから。

>>635
木原ですから見逃してあげてください。


では、投下していきます。

 





 弾ける音。
 砕ける音。
 阻まれる音。
 粉砕される音。
 かき消される音。
 
 そのいずれかの音が響いた。
 防がれたのは、一方通行の背中から噴射する圧倒的な黒い翼。
 防いだのは、先ほどまでこの場に存在していなかった謎の存在。

 異様だった。
 不可思議だった。
 不可解だった。 
 不条理だった。

 ありえない。 
 ありえない。
 ありえない!


「…………テメェ、誰だァ?」


 一方通行が威嚇するように尋ねる。
 だが、その視線の先に立つ男は睨まれたものすべてを竦ませる一方通行の視線を真正面から受けても平常心であった。
 
 細見で、どこか陰鬱とした雰囲気を感じさせる男であった。
 全身を赤を基調とした服装に身を包んだ男で、赤い髪を夜風に棚引かせながらその場に立っている。
 男は武器のようなものを有していない。
 だが、一方通行の黒翼は確かにその男に阻まれていた。







 その男の右肩から生える、巨大な赤い腕のようなものに。




「名乗った所でお前には理解出来んし、名乗る必要があるとは思えないな」


 男は一方通行から向けられる殺意など何でもないかのように、返答した。
 再び一方通行は黒翼を振るう。
 しかし、再び黒翼は赤い腕に阻まれ、それどころかその腕が軽く一度振るわれただけで黒い翼が根元からはじけ飛んだ。


「なァ……ッ!?」

「俺様の『腕』の行使は無制限じゃあないんだ。今はまだ、な。だからあまり手間取らせないで欲しいのだが」

「クソッタレ、粉々にしてばら撒いてやるよォ!」


 一方通行が飛び掛かる。
 その身にありとあらゆるベクトルを乗せて。
 一撃で学園都市を更地に変えられる程のベクトルを支配して、その力を男の頭へと叩きつける為に。



「いかんな、その程度で激昂しては。器の底が知れてしまう」




 男は一歩も脚を動かさず、指一本すら動かさなかった。
 なのに、一方通行は吹き飛ばされた。
 その身に載せたベクトルを全て弾き飛ばされ。
 学園都市最強の能力者だけが持ちえる『反射』の壁もすり抜けられ。
 
 力も。
 能力も。
 頭脳も。
 プライドも。
 悪意も。 

 すべてを粉々に打ち砕かれて。









 一方通行は一切の言い訳も出来ないほど完璧に、敗北した。











「さて、と。余計な奴らが来る前にさっさと済ませてしまうか」


 男は垣根と病理の方を振り返った。
 垣根は当然、男を警戒している。
 その男は一方通行のように見るからに危険、という見た目ではないものの、胸に重い物を押し付けられているかのような、そんな圧迫感を感じさせる雰囲気を纏っていた。
 明らかな、『闇』の人間。
 それも学園都市最強の一方通行を圧倒できるという事は、少なくとも科学の人間ではない。


「テメェは……」

「俺様はフィアンマという。本名ではないが俺様に名乗る名前はこれしかないんでな、納得してもらうぞ」


 フィアンマと名乗ったその男は垣根と病理の様子を眺める。
 病理の失われた部分の肉体は、七割ほどが『未元物質』によって既に補われていた。
 まるで陶器で出来ているかのような、人工的な白い滑らかさを持つ足が木原病理に生えている。


「……成程。純度も低く、出力も目も当てられないほどだが、一応は『天使の力』【テレズマ】というわけか。物質化に成功したという点には俺様も賞賛しなければならないな」


 一人で勝手に納得した様子のフィアンマ。
 垣根は色々とフィアンマに聞かねばならないことがあるため、疑問を口に出そうとした、その瞬間――





「――――あ」





 バタンと。
 その場にあっけなく、垣根は倒れた。

「帝督?」

「死んではおらんよ。しかしその怪我に加え、俺様ですら今の状態では使いこなせないであろうレベルの『天使の力』を行使するという荒行を成し遂げたのだ、意識を失っていなかった方が不自然だな」


 見ると、呼吸は小さいがちゃんと自力で行っている。
 だが、垣根の翼は未だ病理の体に触れたままだった。つまりは、病理の体を復元するための演算式は未だ続けられている。


「……無意識で能力を行使しているだなんて、非常識ですねぇ」


 病理は笑った。
 出来立ての足に垣根の頭を乗せ、その顔を優しく撫でながら。


「さて、すまんがここでのんびりとしている暇はない。お前たちも聞きたい事は色々とあるだろうし、このままここに居ると面倒な奴らに嗅ぎ付けられる可能性がある。この場から移動するが構わんな?」

「ええ、しかしあなた一人で私達を? 帝督はそれなりの体つきですし、あっちには動けないクローンも倒れています。さらに病理ちゃんもこのスタイルですからスレンダーな子と比べて少々重量感はありますよ?」

「安心しろ。俺様の起こす『奇跡』にはお前たちの常識など通用せんよ」


 どこかデジャヴを感じる言葉を吐きながら、フィアンマは再び右肩に『腕』を召還した。



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






「…………」


 垣根帝督が目を覚ましたのは質素な作りのベッドの上だった。
 体を起こそうと垣根は力を込めるが、全く力が入らない。寝返りを打つことすら困難だった。
 仕方なく、垣根は首だけを動かして、ここがどこか確かめようとする。
 見える光景には、見覚えがあった。


「……『スクール』のアジトか?」

「はい、そうですよ」


 垣根が向いている方向の反対側から声が聞こえた。
 そちらに顔を向けると、木原病理が椅子に座って垣根を見下ろしていた。



「木原……」

「その苗字の人はかなりの数いますから、出来れば名前で呼んでくれると嬉しいんですけども」

「うるせぇ。……何で俺はアジトにいる? あれからどれくらい時間が経った? 何があった?」

 
 質問を立て続けにぶつける垣根。
 どれから答えようか、うーんと小さく唸りながら迷う病理。
 すると、全く別の方向から答えが飛んできた。


「俺様が運んでやったんだよ。お前ら全員な」


 声がしたのは頭上だった。
 垣根はそちらへ顔を向ける。




 そこに居たのは、服から髪まですべてが赤い男だった。


「赤っ」

「…………まぁ、否定はせんが」


 やや不満そうな表情を見せる赤い男。




 …………………赤い男?





「ッ! テメェ! あの時邪魔しやがった!」

「邪魔、とは随分な言葉だな。俺様が現れなければお前たちは今頃まとめてミンチになっていたというのに」

「それがどうした、どこで死のうが俺の勝手だ、テメェなんかにどうして俺の生死を決められなきゃならねぇんだ?」

「勝手、か。成程な、確かに勝手な言い分だ」

「…………あぁ?」



 赤い男、右方のフィアンマは不敵に微笑む。


「ある程度の経緯はそこの女に聞いた。お前は行動したのだろう? その理由が正義感なのか自己満足なのかはお前自身にしかわからん。しかし行動した以上、お前はその結末に責任を持つべきだ」

「……」

「大口叩いて敵に挑み、結果は無様に敗北。それじゃあもはや滑稽を通り越して間抜けだよ」


 正論だった。
 垣根帝督は誓ったわけではないが、驕ったのだ。
 それは、誓う以上に重い事だったかもしれない。
 プライドというものを守れなかった事は、垣根帝督には死よりも屈辱的な事だ。


「しかし、間抜けならどうすればいいか、それがわからんわけでもないだろう? 無知ならば学べばいい。俺様がわざわざ学園都市までやって来た理由の半分はそれだ」

「あ?」





「教えてやるよ垣根帝督。お前があの戦いの最中に目覚めた『力』について」





「…………テメェは、一体何者なんだ?」

「気を失う前に名乗ったのだがな。まぁ良い、もう一度名乗ってやる。俺様は『右方』のフィアンマ。初めまして、科学の無知なる子羊よ」

「さて、と。まずはお前らの頭の中にある常識を壊すところから始めねばならんな」


 フィアンマは自分で淹れた紅茶を啜りながら、簡素な作りのソファに腰を掛ける。
 垣根は上半身を病理に起こしてもらい、壁に寄り掛かる形でフィアンマの方を向く。
 病理もいつの間にかアジトに置いておいたお気に入りのクッキーを齧りながらフィアンマの話を聞くようだ。


「この世には、お前らが生まれた時からどっぷりと浸かっている科学と双璧をなすもう一つの法則が存在する。『魔術』と呼ばれる力だ」

「……魔術、なぁ」

「おや、あまり驚かんのだな。てっきり俺様は馬鹿げた話だと一蹴されると思っていたのだが」


 意外そうな顔でフィアンマは垣根を見る。


「その胡散臭ぇ話をコイツに先に聞かされてたからな」


 親指で病理を示す垣根。
 病理はクスクスと笑った。

「すいませんねぇ。私も存在を直接観測したわけではないので半信半疑だったんですが、本当に存在しているなんて。ネタバレしちゃいました」

「構わん。納得させる手間が省けるからな」


 特に気にした様子もないフィアンマ。
 病理のクッキーを一枚貰い、説明を続ける。


「魔術を使うのに特別な開発などは必要ない。魔術とはそもそも才能のない人間が才能のある人間に追いつくために編み出された技法だからな」

「才能がない奴?」

「そうだ。もっとも、魔術とて才覚に左右されるのは当然だ。皮肉な話だと思わんか? 才能がない人間のための技術だというのに、そこでまた才能に左右されるというのは」

「くだらねぇ」

 垣根は一蹴する。
 まるでそれが当然であるとわかりきっているかのように。


「世の中、才能が全てだろ。金儲けの才能がありゃ金持ちになれるし、なきゃ貧乏人だ。努力するのにも才能が必要だ。努力の才能がねぇ奴は努力しても実らねぇか、そもそも努力ができねぇ」

「夢のない話だ。間違っているとは思わんがな」

 
 フィアンマは同意する。


「話がそれたな、戻そう。その魔術という技術を使うのに必要なのは魔力と呼ばれる力だ。これはまぁ、人間の生命力、魂ともいえるかどうかはわからんが、そのような物が動力源となっている。いわゆるガソリンのようなものだな」

「つまりは、生きてりゃ誰にでも使える力って事か?」

「そうだ。一部の例外を除いてな」

「例外?」


 病理が小首をかしげる。


「そうだ。言っただろう? 魔術とは才能無き人間のための技術だ。才能を無理やり開発した脳、つまりは学園都市で脳を開発された学生には魔術は使えん。いや、使えはするが目も当てられん程に悲惨な結果を招くだけだ」

「…………」

「才能のない普通の人間が体内で魔力を生成して使用するのが魔術、魔術を使う人間の事を魔術師と呼ぶ。ココまでは一般的な魔術と魔術師の話だ。基本原則は単純だろう?」

 
 フィアンマはカップの中の紅茶を一気に飲み干す。
 お替りは入れないらしい。


「次はもう少しステップアップした話をしようか。魔術師と言うのは基本使うのは魔力だが、中には魔力よりも高位の力を使って魔術を発動させる者もいる」

「高位の力?」

「そうだ。人間が生成することはできない、この世界ではない別の世界、天界を満たす『天使の力』と呼ばれるエネルギーだ」

「!」


 この世界ではない、別の世界を満たすエネルギー。
 それは、垣根にとってとても身近なモノによく似ていた。


「『天使の力』は文字通り、天界に住まう天使を構成するエネルギーだ。天使どころか、天界という世界そのものを創り上げているのだがな。これを扱う事により、魔力では発動できないような大きな儀式魔術や高等魔術を発動する事が出来る」

「天使に天界なぁ……詳しい話を聞けば聞くほど胡散臭ぇな」

「ならば聞くだけ聞いておけ。……『天使の力』は純度も高く強力な力だが、その分扱いが難しい。軽々と扱えるレベルの魔術師ならばまず間違いなく魔術サイドでは名が知れ渡っているだろう。隠匿されている者もいるだろうがな、この俺様のように」

「つまりテメェは「俺は強い」って言ってんだな?」

「まぁな。俺様には謙遜する理由が何一つ見当たらん」


 フィアンマは傲慢だった。
 そして、その傲慢さを突き通す程の『力』を持っていた。

「ここで、そろそろお前の話をしよう。お前は科学サイドの人間でありながら、その『天使の力』を行使したのだ」


 天使の力。
 科学ではない、もう一つの世界の力。
 脳裏に浮かぶのは、あの黄金の腕。


「…………あの時の、腕か?」

「それの話はもう少ししてからだ。お前が当たり前のように背負っていたあの白い翼、もはや別物と呼べる程に純度が低いが、アレも『天使の力』ではある」

「帝督の『未元物質』は科学物質だと、学園都市では定義されていますが?」

「だから言っただろう、もはや別物だと。科学であると認識されるほどに歪められているのだからな」

「じゃあ、あの腕は違うってのか?」

「その通りだ。お前が召喚したのはおそらく黄金の腕だろう?」

「ああ」

「それは紛れもなく『天使の力』そのものだ。しかも物質化という域にまで達したのは、驚くべき偉業だよ」

 褒められているのだが、あまり実感のない垣根。
 道端で偶然拾った石が世界最古の石だと言われているような感覚だった。


「今も、そこの女の足を作っているのは物質化した『天使の力』だ。腕に比べて純度は著しく低いが、それなりにマシな方だよ」


 垣根はハッとして、病理の足を見た。
 パジャマ姿のため、足の先からくるぶし辺りまでしか見えないが、そこから覗いているのは人間の足――ではなく、陶器のように白く滑らかな脚だった。
 ただ、駆動義足のように機械的な関節などはついておらず、人間の足をそのまま別の素材でトレースしたように、シルエットだけは完全な人間の脚部であった。
 

「しかし、『天使の力』と人体を結合させるとはな。しかもそれを行ったのが名高い魔術師などではなく、科学サイドの人間だというから悪い冗談だ。これはもはや偉業を通り越して事件だよ」

「その辺、あまり覚えてねーんだが……」

 垣根は自分が何をしたのか、はっきりと覚えてるわけではない。
 無我夢中、と言えば聞こえはいい。
 無理やりに、無謀にも、と言ったほうが正しい。
 

「『天使の力』を物質化し、自らの用途に合わせて加工する……これはもはや魔術の常識にも当てはまらん。これだけでお前は魔術サイドの最上位クラスに至ったと言えるだろう。しかし、それが『故意』にであるならば、だがな」

「どういう事だ?」

「たとえばだが、今お前は黄金の腕を出せるか?」


 垣根は頭の中で演算する。
 『未元物質』の演算はあの瞬間、新たな段階に達した。
 今までの演算では引き出せなかった『この世界に存在しない物質』はさらに純度を増してこの世に現界する。

 しかし、あの時の『力』にまでは、どうやっても達しない。

「……今までの『未元物質』よりは力も強ぇな。だがあの時みてぇなのはどうやっても無理みたいだ」

「だろうな。あれを自由自在に引き出せたらもはや俺様の野望は二番煎じになってしまう。それを聞いただけでも安心したよ」

「あ?」

「何でもない。……さて、そろそろ話をまとめていこうか。風呂敷を広げるだけでは回収が面倒なんでな」

「何だか腕の悪い小説家みたいなセリフですねぇ」

「黙れ」


 垣根が被せ気味に黙らせる。



「お前の『未元物質』とやらの科学サイド側の定義は知らんが、俺様の推測では『未元物質』は『天界の力をこの世に引き出して操る力』だ。魔術サイド風に言うと、本来大質量の『天使の力』を引き出すのに必要な、天界とこの世界をつなぐ儀式場を何時でもどこでも作り出せる能力、といった所か」

「……よくわからねぇな」

「だろうな。魔術の魔の字も知らんようなお前では欠片すらわからんよ」

 フィアンマは1から10まで理解させるつもりはなかった。
 ただ、その存在を示唆するだけで良い。
 垣根帝督がフィアンマをよく知らないように、垣根帝督という人間をフィアンマはよく知らないが、予想はしていた。
 
 この男に講釈なんてものは必要ない。
 形の決まった知識なんてものは不要だ。
 魔術を知らぬ人間が、『天使の力』を物質化するという域にまで達した。
 その理由は、垣根帝督という人間の発想力にあった。
 天才的、なんてレベルではない。もはや狂気的。猟奇的なのだ。
 狂っている、外れている。
 誰よりも、何よりも、どこまでも吹き飛んだ発想力を持つからこそ、垣根帝督は科学の世界の住人でありながらあの域にまで達したのだ。




(……しかし、昨夜のあの白い男の黒い翼のようなもの……アレも、酷く歪められているが…………)

 フィアンマはもう一つの『可能性』を脳裏に思い浮かべる。
 しかし、あちらに手を出す必要はない。
 『操る』だけならば、価値はない。
 『引出し』『創る』というスキルを持つ垣根帝督だからこそ、フィアンマはこうして現れたのだ。


「そういえば、不思議に思っていたんですが」


 病理が髪の毛を指で弄りながら、フィアンマに尋ねる。


「帝督を褒めるためだけに、あの場に現れたわけじゃあないでしょう? アナタの真意を知りたいのですがー」

「そうだな、それこそが俺様の話のクライマックスだ」


 フィアンマは立ち上がり、垣根のすぐ目の前に立つ。
 位置的に、フィアンマは垣根を見下ろす位置に居る。
 しかし、彼らは平等だった。
 対等であった。
 フィアンマが垣根を己と同等とみているわけではない。
 事実、二人の間にある力の差は計り知れないほどだ。
 だが、フィアンマは見下しているわけではない。
 同等ではないが、認めている。
 フィアンマが。
 この世界を悪意しかないと確信し断言できるほど、自分以外のありとあらゆるものを見限っているフィアンマが。
 己が手に入れる価値に足る者であると、認めていた。






「垣根帝督。俺様と手を組まんか?」

「……あぁ?」









 フィアンマは、垣根に手を差し伸べた。

今回はここまでです。そして次回で最終回(予定)です。

所で、このSSの最終回後の予定なのですが、今の所。


①これの続編、『とある垣根と木原一族』
②木原加群が学園都市を離れてから木原病理と再び会い見えるまでのストーリー、『とある木原の復讐目録』
③魔人探偵脳噛ネウロとのクロスSS『とある魔人はドS探偵』
④このSSのストーリーがとにかくほのぼの路線に走る平和な「そんな垣根は飛び越えてやる」バージョン。『垣根「そんな垣根は飛び越えてやる」ハートフル』
⑤完全オリジナル設定の話、というかラノベチックな物語。


の五個の案があります。多分どれかをやります。終わったら割と近いうちに多分始めます。

続けば普通に次が最終回ではなくなるんですけどね。まぁ一区切りというわけで、「俺たちの戦いはこれからだ!」というよりも「二年後にシャボンティ諸島で!」みたいな区切りです。


では、次回予告をして今回はおさらばです。
次の更新は水曜日を予定しています。では、今日もアリガトウゴザイマシタ!

    『次回予告』




『病理、俺がテメェの足になってやる。だからお前は俺の野望を叶えるための翼になれ』

――――学園都市第二位の超能力者 垣根帝督(かきねていとく)





『……はい、共に行きましょうか。闇の底へと』

――――『諦め』を司る『木原』ファミリーの一人 木原病理(きはらびょうり)




数字変になった


本編の続きを書きつつ番外編でほのぼの、そして別スレにてネウロクロス同時進行すればいいんじゃないかな

予定が変わったので、今日の十時ごろから更新を開始するぜよー

朝の十時か夜の十時か、紛らわしいなら早い方で更新すればいいじゃない。

と、言うわけでかなり早い時間ですが投下に参りました。いやぁ、大学生の夏休みとは楽なものです。
所で例の次回作予定なのですが、割と予想していましたが①と④がやっぱり圧倒的に多いですね。一応全部に一票ずつ入ってますが、その二つが圧倒的やでぇ。ネウロもそこそこ入ってますが。
>>690のは鬼畜過ぎるで……でもまぁ、ちょっと考えておきます。
おそらく、どちらかをやることになると思いますが、今日はとりあえず今日の分を投下してしまいます。

では、「そんな垣根は飛び越えてやる」の一区切りとなる今回の投下、ヒァウィーゴー!

「俺様が成すべきことはもうすでにプランが出来上がっているのだが、お前の力があればもう少し円滑に、順調に事が進みそうだ。それに、成した後でも色々と面白い事が出来そうなんでな」

「……俺にメリットは?」

「お前の『未元物質』、俺様から見れば『変異した天使の力』だが、ソレについての知識を授けてやる。お前と同様、俺様の力はあまりにも特別すぎてな、俺様と同じ扱い方では不可能だろうがな」

「…………」

「お前の力は科学だけでは限界がある。魔術の知識を加えることにより、お前は更なる高みへと飛翔する事が出来るだろう。自慢になるが、俺様の力があればお前は魔術に関するありとあらゆる知識を得られる」


 フィアンマの手を、垣根は暫し見つめる。
 

 敗北した。
 敗北したのだ。
 垣根帝督は、一方通行に敗北したのだ。

 勝てなかった。
 策を巡らせて。
 死力を尽くして。
 全力で戦って。

 無様に敗北した。

 
 垣根の求める世界。
 そこに至るに必要なのは、何物も寄せ付けぬ圧倒的な力。

 孤高の孤独に至るため、ただ一人の世界に羽ばたくための力。


「…………少し、考えさせろ」

「…………ふむ、イイだろう。だが俺様も暇ではない。三日後、俺様がここに来た時に返事をしてもらおう」

「わかった。今は失せろ、寝させろ」


 垣根はそう言って寝返りを打つ。
 背を向けられたフィアンマは暫し垣根の背を見ていたが、やがて無言で部屋を出て行った。



「……以外でしたねぇ」

「何がだ」


 二人残された病理と垣根。
 先に口を開いたのは病理だった。

「てっきり、帝督の事ですから力が手に入ると聞けばすぐに飛びつくと思ったんですが」

「アホか。いくら俺でも即決なんか出来るかよ」


 手を組む、という事自体にそもそも抵抗感がある。
 『スクール』のメンバーにしても手を組んでいうというよりも、垣根が他のメンバーを『使っている』という認識だ。
 自らスカウトした心理定規を除けば、いくらでも代替えのきく有象無象に過ぎない。

 だが、あの男、フィアンマという男は違う。

 明らかな『闇』の匂い。
 自分と同じく、光の世界では生きていくことが不可能な人種。
 フィアンマはその頂点に立つ存在だろう。
 理解不能な力を振るい、第一位すら圧倒したもう一つの世界の住人。

(…………正直な話、アイツと手を組むメリットは計り知れねぇ)


 垣根すら全貌を把握できていない『未元物質』。
 もしもこれがフィアンマの言うとおり科学サイドの物質ではなく、魔術サイドの物質であるのならば、フィアンマと手を組み知識を得ることで垣根は『未元物質』の全てを理解できる。
 フィアンマは科学としての『未元物質』を知らず、科学サイドは魔術としての『未元物質』を知らない。
 垣根帝督だけが持ちえる唯一無比の『未元物質』は、垣根帝督にしか扱えない超能力となる。


(いずれ学園都市には反旗を翻す。その時に科学サイドの奴らに理解出来ねぇ力を使えるってのは大きいアドバンテージだ)


 しかし、鵜呑みにしていい物か。
 闇に属する人間は多かれ少なかれ、誰一人としてマトモな人間はいない。
 闇に生きる人間は、いずれ闇に飲み込まれて果てるのが定めだ。


「帝督」

「あぁ?」

 病理が『未元物質』で出来た足を撫でながら、垣根に話しかけてきた。


「この『足』なんですが、どうやら私の意思に応じて形を変えてくれるみたいなんですよね」

「そうなのか?」

「ええ、今はまだ慣れていませんので足の形にとどめていますが、うまくやれば翼や車輪なんて形も出来ると思います」

「車輪は気持ち悪いし、翼は俺が嫌だからやめろ」

「ですが、やはり帝督の『未元物質』は凄まじい能力みたいですねぇ。少しずつですが、木原病理という存在が『未元物質』に飲まれているようです」


 ピクリと垣根が反応する。
 病理は相変わらず笑顔だった。

「どういう事だ?」

「足を起点に、『未元物質』がどんどん私の体を侵食しているみたいです。あの時は緊急でしたから気を使う暇なんてなかったでしょうが、このままだと私のいずれ自壊するでしょうねぇ」

「…………」


 他人事のように語る病理。
 恐れているわけでも、悲観しているわけでも、絶望しているわけでもない。

 
 
「ですが、これで残された時間、私は『未元物質』の研究に勤しむ事が出来ます。これについてはとっても感謝していますよ」



 むしろ、喜んでいるようで。

 
「ありがとうございます、帝督」

「…………」

 垣根は暫し考え込む。
 病理の顔をじっと見つめて。
 じーっと見つめられ続けていた病理もしばらくキョトンとしていたが、やがて思い出したように両手を頬にあてた。


「そ、そんなに見つめられると、テレちゃうゾ///」

「ぶっ殺すぞ」


 即答だった。


「…………で、本当に何なんですか?」

「決めた」

「?」













「俺は魔術の力も手に入れる」


「……!」


 垣根の顔は至極真面目だった。
 この顔の垣根を、病理は知っている。
 一方通行に挑むと宣言した時と同じ。
 
 一度決めた事は、決して曲げないと誓った顔。




「そうですか。それはまぁ、いいんじゃないですかね? 『未元物質』を更なる高みへ押し上げるためには魔術と言うのは実に興味深いですし」

 
 病理は止めなかった。


「それに、帝督は言っても聞かないでしょうしねぇ。力づくで止めようにも、車椅子は破壊されてしまいましたし。私には――――






 ガシ、と病理の細い手首が捕まれた。






「へ――――」




 そして、突如病理の体が強い力に引っ張られ、その体はアジトの窓を突き破り大空へと投げ出される。
 しかし、その体は落下しない。
 背に白く輝く翼を広げた垣根が、奇しくも病理を助けた時と同じように抱きかかえているからだ。


「…………」

「て、帝督?」



「馬鹿か、テメェは」

「え?」


 ガツン! と。
 垣根の頭が病理の額に打ち付けられた。

「……あぅ…………」

「馬鹿か、テメェは」


「何で二回も言うんですか……というか、木原でも上位であるこの病理ちゃんがおバカなわけがないじゃないですか」

「いいや、テメェはバカでアホで間抜けだクソボケ」


 心底面倒臭そうに、垣根は続ける。


「どうしてテメェは見送る側のセリフを吐こうとしてんだ?」

「………え?」


 病理はキョトンと、呆けたような顔を見せた。
 垣根の言葉の意味が分からない。
 理解に時間がかかる。











「テメェも俺と一緒に来るんだよ」









 当たり前の事のように、垣根は言った。




「…………」

「それに、魔術の力は手に入れるつっても、俺はフィアンマとは組まねぇ」

「え?」

「自力で手に入れねぇと意味ねぇだろ。それにあのフィアンマって野郎は気に入らねぇ。頭下げられても手なんざ組むか」


 フィアンマとは組まない、が魔術の世界へは飛び込むと垣根は言った。
 木原病理を連れて、全く知らない世界へ行くと。 

「テメェを侵食する『未元物質』は俺が近くにいりゃ何があっても抑えられるし、ちょくちょく外部から干渉することで抑えられる。テメェは死ぬ気満々だったんだろうが、残念だな、死なさねぇよ」

「……それだけですか?」

「後、テメェが居ると色々と助かる。俺が今から飛び込むのは魔術とやらの世界だ。俺も科学についての知識はあるが、『未元物質』は特殊すぎる。科学全般に対してのスペシャリストであるテメェの頭は使えるんだよ」

「……それだけですか?」

「何を求めてやがるんだよテメェは」


 垣根の腕の中で、病理は垣根を見つめている。
 しかし、垣根はその視線に込められた感情を理解するまでには至らない。
 人の気など考えた事もないのだから、理解なんて出来るはずもないのかもしれないが。


「…………ふふ、まぁ帝督ですし、仕方ないですかねぇ」

「あ? 何だよ、そのヤレヤレって感じの顔は、ふざけてやがるな」

「別にー。何でもないですよー。…………まぁ、せっかくですし」


 もぞもぞと病理は垣根の腕の中で動く。


 そして、ぴょんと、病理は腕の中から飛び出した。

「おい、何やって――――


「ふふっ」


 病理の体は落ちていく。
 垣根はすぐにそれに追いつき、再び病理の体を抱え込んだ。


「馬鹿な事してんじゃねェぞ」

「せっかくのシチュエーションです。夜空でお姫様抱っこされている私と、翼を広げる帝督。ロマンチックな言葉をお願いします」

「恐ろしい程に似合わねぇな」

「安心してください。自覚はあります」


 垣根はため息を吐いた。














「病理、俺がテメェの足になってやる。だからお前は俺の野望を叶えるための翼になれ」

「……はい。共に行きましょうか。闇の底まで」















 野望をかなえるため。
 利害の一致、共生、利用。

 言葉はなんだっていい。

 木原病理と垣根帝督。

 科学の悪魔と、科学の化け物は今この場で、確かに手を組んだ。

 初めて『仲間』となった。

 白い翼をはためかせ、垣根帝督は夜空を飛ぶ。
 今ここに組まれた組織。
 今はまだ、名もなくたった二人だけの組織。

 しかし、この組織は後に科学サイドと魔術サイド、そして全世界を揺るがす存在となる。

 

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






 高層ビルの屋上。
 吹き抜ける風は強く、ドレスの裾と金色の髪を大きく靡かせた。



「…………」



 少女の目に映るのは、夜空で星のように輝く白い翼。
 あの翼には見覚えがある。
 ある意味で、自分にとても近しい翼だ。


「……帝督」


 赤いドレスをギュッと握り、少女は何かを決心する。



「……置いてけぼりなんてつれない事、言わないわよね?」

 

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  







 雑踏。
 一人の少女はその中心で立ち止まっていた。
 気づいているのは、その少女のみ。
 他の人は脇目も振らず、少女の横を通り過ぎて行った。

 上空から感じる不思議な電波。
 
 見上げると、そこには白い翼。


 それは、紛れもなくあの人の翼。


「…………敵に回るな、とは言われたけど」


 クスリと、少女は笑う。



「味方になるな、とは言われてないわよね」



 少女は歩き出す。
 その目に強い意志を宿して。





 

 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






「……」


 一人、静かにモニタを見つめる人間がいた。
 学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。
 モニタに映るのは、『スペアプラン』であった少年と、学園都市の優秀な研究者の一人。

 第二位が第一位に勝てないという予想は、正しかった。
 何があっても、どんなことがあっても、その結果は覆らないという確証は確かなものだった。

 しかし、第二位は現時点であの領域にまで踏み込んでしまった。
 それに引きずられる形で第一位も真の価値を片鱗を垣間見せたが、それを差し引いてもあの干渉は予想外だった。

 右方のフィアンマ。

 彼を片づけるのに、今はまだ早すぎる。
 
 第一位の成長はともかく、幻想殺しはまだ成長しきっていない。
 
 右方のフィアンマは、必ず幻想殺しにとって重要なキーとなる。


「………いいだろう、垣根帝督、木原病理、右方のフィアンマ」


 液体の中で、アレイスターは薄く笑う。
 物語の全てを知っているシナリオライターのように、行く先を見据えながら。




「『プラン』は大きく湾曲したが、結末は変わらない。『スペアプラン』としての価値、そしてそれに促される成長……『プラン』は大きく躍進を遂げる」


 計画は、何一つ変わらない。




 ……
 …………
 …………………






「好奇心とはあらゆるものに平等に存在する欲求だ」


 声がする。
 何処から?
 不明。


「欲求に従い動くからこそ生物は進化を遂げる。そのためならばあらゆる苦難とて立ち向かう価値がある」


 話している。
 誰が? 
 不明。


「幻想殺しも、『一方通行』も、結果が見えてしまっている。あれではつまらない、人のオモチャを眺めていることほどつまらない事はない」


 説いている。
 神の啓示のように。
 誰に、と言うわけではなく。
 自分だけが納得できる言葉を紡いでいる。



「さぁ、垣根帝督。君は私の興味を引くに値する可能性の種であると、証明してくれ。君の価値こそが私にこの世界への愛着を持たせているのだからね」



 その者は翼を広げる。
 神々しく、雄々しく、禍々しく、悍ましく、そして美しい。
 青ざめたプラチナの翼を広げ。
 幾千の輝きを背に。


 

 形成された天使は、空虚な空に舞う。
 




 これは序章である。
 本編ではない。

はい、そういうわけで「俺たちの戦いはこれからだ!」的な打ち切り集のする最終回を迎えました。
「え? これで終わり?」と思うかもしれませんが、この話を最初考えたときは垣根は15巻にしか出ていないし、病理も新約4巻にしか出ていないキャラなのだから、この二人が出会った時に始まる話は無数にある、だから序盤だけを作り、今後は皆様の想像で……的な感じだったのです。
しかし、思いのほか多くの方に支えられて、ありがたいことに続きを希望してくださる方もたくさんいらっしゃいました。


前回書いた①か④か、はたまたそれ以外の話か、どれになるかはまだ少しだけ考えさせていただきます。
ただ言える事は、垣根帝督と木原病理、そのほかのキャラたちの話はまだ始まってすらいなかった、という事です。


では、次会う時は次回作で…………







































 と、思っていたんですが、なんかまだ300位余ってますし、前に「番外編を書こうかな」的な事を書いたので、残ってる分を使っていくつか番外編を書こうと思います。
 しかしまだ一文字たりとも書いていないので、書き次第ここに帰ってきます。
 とりあえず書く予定の番外編の小題としては

「赤い男と金髪少女」
「木原病理の未元物質誘惑作戦」

 くらいしか考えていません。また何か思いつき次第、というか余りに応じてなんか考えようと思います。

 では、なるべく近いうちにお会いしましょう!
 アリガトウゴザイマシタ!

お久しぶりです。

何か暑さでグダグダしてたのと、ここと全く関係ない所で考えてた応募小説の世界観の設定が思いつかなくてグダグダしてたら遅くなりました。

とりあえず今日の夜、番外編その①を投下したいと思います。
何時くらいになるかはわかりませんが、遅くても日付が変わる前くらいにはスタートしたいです。酔ってる可能性が高いのでいろいろとあれかもしれませんがねぃ……

ちなみに今回の更新に病理と垣根は出てきません。
今回は赤い人ととある姉妹のお話です。

では、今夜再びお会いしましょう。アデュー

ALALALALALAAAAAAAAAAAAAAAAAAI!

こんばんわ、日付変更前に来れるかと思ったら三分ほど遅刻しました。いやぁ、クトゥルフ面白いっす。


では、投下していきます。赤い男と金髪少女。

多分、一回の本編投下よりも長いんじゃないかな・・・



 ―――
 ―――――
 ―――――――――  





 白い翼が夜の空を飛んでいくのを、ビルの屋上から右方のフィアンマは見ていた。






(予想はしていたが、やはりか)


 垣根を仲間に引き入れようと交渉を試みたフィアンマであったが、実の所話には乗らないであろうと予測していた。
 それは垣根が仲間にならなくてもいい、というわけではなく、手を組んでくれるのならばラッキー、程度の考えだった。


(まぁいい、間違いなく奴は魔術の世界に足を踏み入れようとするだろう。となれば、今は後の布石を仕込む程度で十分だ。さて、俺様はこれからどうするか……)


 垣根が学園都市を去るのであれば、フィアンマがここに留まる理由はない。
 科学の中枢たるこの街に、ローマ正教最暗部に君臨するフィアンマが滞在するのは大きなリスクが生じてしまう。
 特に、学園都市統括理事長。
 フィアンマをもってしてもその正体の掴めない異質な存在であるそれは、警戒に値する存在だ。



(しかし、せっかくだ。学園都市でしか出来ない事をするのも面白い。幻想殺しと禁書目録は学園都市に居るのだったな、接触はせずに顔だけ見ておいてもいいかもしれん)


 案外、フィアンマは観光や旅行を楽しむタイプの人間らしい。
 かなり倫理を外れた考え方をする、人格的に捻くれたフィアンマであるが、特異な存在であるからこそ遍く凡人には理解できない娯楽を見出すのだった。


(他にも、ここでしか手に入らん科学の品を手に入れてもいいかもしれんな。日本の科学製品は高性能と聞く。ヴェント辺りは毛嫌いしそうだが、アイツの部屋を全てメカニックな感じにしても面白いかもしれん。電子基板模様の絨毯何かがあればいいのだ)

 
 外道である。
 次々とえげつない考えを浮かばせ口元に怪しげな笑みを浮かべるフィアンマだったが、何の気なしに目線を下に向けたちょうどその時、目に付いたものがあった。
 時刻的にも、場所的にも似合わないそれは、どうにも好奇心を掻き立てる。
 フィアンマは、再び笑みを浮かべた。
 右方のフィアンマとしての、笑みを。


「……ふむ、まぁ仕方あるまい。俺様は聖職者だからな、迷える子羊は救ってやらねば」
















※フィアンマのキャラにやや崩壊ありです。ご注意ください

 二人の僅かに後方を、不健康な青白い光が駆け抜け、そこにあったゴミや箱や外壁を全て跡形もなく消失させた。
 溶けたわけでも、吹き飛ばされたわけでもない。
 あまりの破壊力に、物質を構成している分子のレベルで粉々にされているのだ。
 破壊力、殺傷力と言うにはあまりにも高すぎる殺意の塊のような光。
 これほどの攻撃力を振りまける人間など、学園都市には数える程しかいない。

 
「……フレーンダァ」


 地獄の底から響いてくるような冷え切った声。
 事実、それは闇の手招きだった。
 一度引き込まれたら、もう二度と抜け出すことはできない地獄への誘い手。
 学園都市の裏側で暗躍する、学園都市頂点に君臨する七人の超能力者の一人。

 フレンダが所属していた暗部組織『アイテム』のリーダー、麦野沈利。


「ちょこまかちょこまか逃げやがって。そんなに尻ばっか見せられたら馬鹿デカいモンブチ込みたくなるじゃねぇか、あぁ!?」


 建物も道路も人間も、この世に存在するありとあらゆるものを引き裂く『原子崩し』の光を放つ麦野。
 軌道こそ直線的だが、掠っただけでも致命傷に至るそれは一度だって触れることを許されない。
 

(このままじゃ……追いつかれるってわけよ!)


 麦野沈利が優れているのは破壊力だけではない。
 ありとあらゆるものを引きさく攻撃力を生み出す演算能力に加え、身体能力もかなり高い。
 一方フレンダも暗部で鍛えられた運動能力や土地勘はあるものの、決して一般人の枠を外れるわけではなく、それどころか平均よりもやや低め程度の身体能力しか有していないフレメアの手を引きながらでは限界がある。

 
 だが、この手を離すわけにはいかない。
 もしもこの先フレンダとフレメアが離れることがあれば、もう二度と二人が出会う事はないだろう。
 麦野の攻撃は決して無意味なものではない。これは粛清なのだ。
 敵前から逃亡した、フレンダに対する裁きだ。
 だから、フレンダが粛清を受けさえすればそれですべてが終わるのか。

 

 違う。




 学園都市の闇は、そんな生ぬるい物ではない。
 フレンダは知っている。
 裏側がどれほど非人道的な存在であるか、嫌と言うほど知っている。
 フレンダとフレメアにはお互い以外の家族はいない。 
 どちらかが死ねば、片方は孤独になる。
 そして、親も兄弟も居ない、身内も引き取り手もいなくなった子供がどんな扱いをされるのか。
 フレンダは知っているからこそ、たった一人の妹を掴んだ手を決して離さないと誓う。


(フレメアは死なせない、たとえ私の体が真っ二つにされたとしても、フレメアだけは守って見せる!)


 フレンダはなるべく入り組んだ道を捜し、路地を曲がる。
 一直線上を走っていては追いつかれるどころか、背中から『原子崩し』に狙撃されて骨も残らない。
 決して命中精度が高いわけではない原子崩しの雨さえ掻い潜れば、逃げ切る活路を見出せ――――









「甘ぇよ。フーレンダァ」

 
 フレンダの目の前を、青白い光が通りすぎて行った。 
 わずかに金髪が消失させられたが、そんな事は問題ではない。

 フレンダは、静かに顔を横に向ける。

 そこには、ビルに空いた大穴があった。
 内部からは悲鳴が聞こえる。まだ仕事中だったのだろう、だが、そんな心配をしている暇はない。
 フレンダには、その穴が地獄の入り口に見えた。
 そして。
 入口からは、使者が来る。
 闇に浸かった少女を引き込みに、さらに深い闇の奥底から。


「あ……ああ……」


 栗色の髪を揺らし、麦野沈利が現れる。
 顔には笑みが浮かんでいるが、あまりにも嗜虐性に満ちたその笑みはもやは威嚇と同義であった。
 一挙一動が目に焼き付く。
 何をしても、殺される気しかしない。

「……あぁん? フレンダが二人……じゃ、ないよなぁ。もしかして妹か? はっ、可愛い顔してんじゃないの。好みだわ、虐めたくなる」


 麦野が一歩ずつ、金髪の姉妹に近づく。
 フレメアは麦野がどんな存在であるか知らない、が、その恐ろしさは感じ取っているらしく体を震わせていた。


「……麦野……!」

「……何だよ、その顔。どうして私がアンタに睨まれなきゃならないんだ? 逆だろうが、あぁ?」

「粛清なら、私にすればいい。フレメアは巻き込まないで」

「私が上から聞かされたのは、アンタが誰かを連れて逃げてるって情報。アンタ口軽いし、そいつが暗部の人間じゃなくても学園都市の裏の情報を知っているかもしれない、だから有無を言わさず消しとけって指示が出てるんだよね」

「……ッ」

 
 やはり、とフレンダは思う。
 学園都市は、人間をその程度にしか考えていない。
 利用できる物は壊れるまで搾り取る様に利用し、出来なくなればすぐに捨てる。
 人道も倫理すらも無視。
 治外法権という体で、学園都市の裏側では法治国家とは思えないほどの犠牲と血が流れている。

「まぁせっかくだ。姉妹そろって消飛ばしてやるよ。死ぬときは孤独がいいんだけど、家族揃ってってのもいいだろ。悲劇としちゃ三流だけど、アンタにはその程度のランクがお似合いだ」


 麦野の手がぼんやりと輝く。
 発射準備中。人間二人程度、最初からそこに存在しなかったかのように消飛ばせる死の光を放つ前準備だ。
 

「お姉ちゃん」


 フレンダの袖をそっと掴むフレメア。
 その手から伝わってくる不安を、フレンダは理解できた。
 理解できても、解消することは出来なかった。

 だから、フレンダにできることは、フレメアの小さな体を抱きしめる事だけだった。


「……お姉ちゃん」

「ゴメンね、フレメア。お姉ちゃん馬鹿で弱いから、こんな事しか出来ないってわけよ」


 あの時逃げなければ、こうなる事はなかったのだろうか。
 だが、あのまま戦っていれば間違いなくフレンダは第二位に蹂躙されただろう。
 レベル4の力を持つ絹旗ですら、あれほどまでに圧倒された。第四位の麦野ですら軽くあしらわれた。
 だから、逃げるしかなかった。そして、麦野にも逃げてほしかった。

 フレメアを守れるのは自分しかいない、だからフレンダは逃げた。死ぬわけにはいかなかったから。
 プライドと傷つけると分かっていても、フレンダは麦野に逃げてと言った。死んでほしくなかったから。

 フレンダの行動は、いつだって大切な人を守るためだった。
 だが、たった今フレンダは殺されようとしている。大切な人に、大切な妹とまとめて殺されそうになっている。


(結局、酷いオチってわけよ)


 これが誰かの脚本であれば、あまりにもつまらない結末だ。
 駄作過ぎて、涙が出る。
 だが、ちょうどいいのかもしれない。
 大した力もなく、闇に落ちた自分を終わらせるのには、お似合いの最後なのかもしれない。

「じゃあね、フレンダとその妹。墓が要らない様に跡形もなくしてやるから」


 光が放たれる。
 死の光が。
 フレンダはそれを見て、綺麗だな、と思った。
















 凄まじい音がした。

 『原子崩し』が何かにぶつかった音だ。
 まるで高温の鍋に油でも落としたような、耳障りな音が。 


「…………え?」


 おかしい。
 自分でその違和感に気づく。
 『原子崩し』を阻める物質など、この世には存在しない。
 それこそ第三位ですら軌道を逸らすのが精いっぱいだったはずなのに。
 


「人は死に際に天使を見るらしい」



 声がした。
 聞いたことのない声。
 そして、感じた事のない威圧感。

「限界を迎えた脳が作り出す虚像だとか、それらしい理由はいくらでもある。だが歴史に語り継がれる伝承の中にはいくつか本物も混ざっているものだ。無我夢中が生んだまさしく『奇跡』によって成立した天使の召喚の儀式がな」


 フレンダは、見る。
 青白い光を遮る、赤い影。
 麦野とフレンダ達の間に割って入って立っている、赤い男。
 巨大な赤い『腕』が、死の光を押さえつけているというありえない光景を。


「生憎、俺様は天使ではない。天使程度の存在ではない。だが安心しろ、祈りと言うのは案外届くらしい」


 ゆっくりと、赤い男が腕を振る。
 それだけで、学園都市第四位の力はかき消された。
 万物を跡形もなく消失させる光は、跡形もなく消失させられた。


「……最近、乱入者がウゼェな」

「ブームなんじゃないか? 俺様もつい最近別の所に乱入したばかりだ」


 愉快そうに赤い男は笑う。対する麦野は明らかに不愉快そうだ。


「……アンタは……?」

「フィアンマ。まぁ忘れて構わんよ、覚えておく必要はないだろうしな」


 そっけない返事だった。
 フレンダもフレメアも、フィアンマと言う男が何者なのかは分からない。
 だが、『原子崩し』をどうにかできるという時点で、碌な人間ではない事だけはわかる。


「フィアンマ? 変わった名前ね。……んで、私は上司として仕事が出来ない&裏切った罰でちょいとオシオキしなきゃならないんだけど、邪魔しないでもらえるかにゃーん?」

「ふむ、そうだったのか? それはすまん、罪には罰を、無能には鞭をが基本だな」


 そう言って、フィアンマはフレンダの前から避けた。

「話が早くて助かるにゃーん」

「ちょちょちょちょちょっとー!? あんた助けてくれたんじゃないの!?」


 当然フレンダはフィアンマに文句を叩きつける。
 あまりにも予想外の行動だったので、理解するまで数秒かかってしまったが。


「そうは言ってもな。仕事が出来ないのも裏切りもお前の罪ではないか。弁護の余地がないぞ」

「そこは色々と事情があるってわけよ! 妹と抱き合って覚悟決めてる光景を見て何か察しなさいよ!」

「フレンダ、大人の社会に同情は通じないのよ。少なくとも、私はヘマやらかした奴は容赦なくオシオキするタイプだから」

「当然だな、俺様もそうする」

「ええ、当たり前よね」

「うわーん! 結局全然味方じゃないってわけよこの乱入者―!」


 泣き出してしまうフレンダ。
 覚悟をきめたときすら流さなかったのに、一瞬希望を持たせてからのコレはあまりにも悲しかった。

「……と、まぁ冗談はこの辺にして、なぁおいフィアンマ」

「何だ?」

「アンタが何者か、私は全然知らない。学園都市のレベル5が増えたって話も聞かないしね。……でも、アンタは私の『原子崩し』を真正面から止めた。一体何をどうしたのかにゃーん?」

「その説明をするのは面倒だな。一日に二度も似たようなことを説明するのは好きじゃない」

「もったいぶらずに教えろよ糞唐辛子」

「誰が唐辛子だ」

「そんなに『闇』の匂いを纏っておいて、何でもないただの一般人だなんて言い訳が出来ると思う?」

「……いや、やはりやめておこう、説明する必要性が見出せんからな。だが少しヒントをやろう、見て覚えるのではなく、体で覚えると良い」


 空気を押しのける音を響かせ、フィアンマの肩口から『腕』が出現する。
 羽のようにも見える、三本指の赤い歪な『腕』。
 学園都市の能力とは明らかに何かが違う、異質の力。


「……身体変化でもなさそうね。見てもわかんないわ。スッキリしないのは好きじゃないんだけど、とりあえず一片残さず死んでもらえる?」

「[ピーーー]つもりでかかってくると良い。どうせ結果は何も変わらんがな」



 白い光と赤い腕がぶつかり合う。

 結果など、考えるまでもなかった。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  






「やれやれ、所詮は未完成品か、不安定すぎるな。今日はもう使わんのが賢明か」

 
 フィアンマは呆れた様にため息をついた。
 この場に居るのは、フィアンマとフレンダとフレメアの三人だけ。
 麦野沈利は黙視できない所まで吹き飛ばされていた。
 そこに複雑な過程は存在しなかった。
 フィアンマは、ただ一度腕を振っただけ。
 それだけで、学園都市の頂点の一角は敗北したのだ。


「……アンタ、結局、本当に一体何なの……?」

「何者だろうな。少なくとも科学お得意のインターネット検索じゃあ調べられない存在である事は確かだが」


 一切の傷さえ見られないフィアンマは、ゆっくりとフレンダとフレメアの元へ近づく。
 二人は警戒する。
 当たり前だろう、麦野の恐ろしさ、強さをよく知っているフレンダの事だ。その麦野を軽くあしらえるフィアンマは、もしかしたら第二位以上の化け物かもしれない。

「……結局、私達をどうするってわけよ」

「さて、どうしようか。そもそも俺様がお前らに関わったのは単なる偶然と気まぐれだ。俺様は一応聖職者なんでな、救うという事には慣れている」

「……嘘くさい」

「だろうな、俺様も今そう思ったよ」


 聖職者とフィアンマは名乗ったが、麦野の言うとおりこの男の纏っている雰囲気は紛れもなく『闇』でフレンダが見続けてきたものに近い。
 何かヤバい殺人教の教祖とかじゃないんだろうか、とフレンダは疑った。


「現状の窮地は救ってやったわけだし、このまま放置しても俺様は一向に構わんのだが……学園都市の事だ、お前らが学園都市内に居るうちは何度でも命を狙うだろうな」

「……」

「俺様は自分の仕事はきっちりとこなすタイプだ。アフターケアが大事だな。そういうわけで、お前らを学園都市の外まで連れて行ってやってもいいのだが……」

「いいけど、何よ?」

「いいのだが、養うとまではいかん。俺様はそんなキャラじゃない。と言っても俺様の職場……と言っていいのかわからんが、俺様の活動場所は明らかにお前らは向いておらんな。女も一人居ることには居るのだが、お前らとはキャラが違いすぎる。どちらかと言えば先ほど吹き飛ばしたあっちの女に近い」


 唯一の女性、『前方』がこれを聞いていたらどんなリアクションをとったのだろうか。

「……仕事くらい、自分で探すってわけよ」

「そうか? ならいいが、先ほど言ったように俺様は聖職者だ。娼館のような淫らな場所で働くのは些か認めがたい物がごふっ」


 フレンダの拳がフィアンマの腹に突き刺さった。
 『腕』があればいくらでも防げただろうが、生憎先ほど『腕』の行使を連続しすぎたせいで現在『腕』の発動が難しくなっていた。
 その気になれば出せるかもしれないが、フィアンマは少なくとも後二回、『学園都市からの脱出』と『ローマへの移動』で『腕』の使用しなければならない。
 ここでむやみやたらと『腕』を行使するのはあまりにも不都合が多いのだ。

 とはいえ、魔術サイド最大勢力である二億の信徒を抱えるローマ政教、その最暗部の中でも特に特殊な存在であるフィアンマが、中学生か高校生くらいの女の子にパンチを浴びせられている光景というのは、とてもシュールであった。


「だ、誰がそんなところで働くかってわけよ! 私の体は清純なの!」

「そ、そうか」

 よろよろと壁にもたれ掛るフィアンマ。
 『腕』という力を持っているフィアンマにとって、強くなるための努力や修行なんてものは何一つ必要ではない。
 つまり、フィアンマの肉体自体は一般人と同等、それどころか何処か頼りなさげな細身なのだ。
 一切の無駄もないが、物足りなさすぎる気がしないでもない肉体には女の子の拳でもそれなりに通用する。


「しかし、学園都市からの逃亡を考えればパスポートの用意も出来ないだろう。ならばお前は不法入国者と言うわけだ。そこの妹を養う事を考えればマトモな場所で多く金を稼ぐのは難しいのではないのか?」

「う……」


 フィアンマの言葉は的を得ている。
 学園都市内は危険だから抜け出すとは言っても、その後の問題は山積みなのだ。
 

「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん? どうしたのフレメア、大丈夫、お姉ちゃんがあっと驚く様な打開策を――

「ううん、そうじゃなくて」


 フリフリと首を横に振ったフレメアは、トコトコとフィアンマの前まで歩み寄る。

「あなたが、助けてくれたの? にゃあ」

「その媚びた語尾の意義は良くわからんが、まぁそうなるのだろうな」

「お姉ちゃんと私を助けてくれて、ありがとう」


 ペコリと、フレメアは頭を下げた。
 フィアンマはその様子を、表情から感情をなくして見ていた。
 まさか、自分の様な人間が無垢な子供に素直に感謝されることがある等、予想もしていなかった。


「……やれやれ。子供はこれだから困るな」

「子供じゃない、ちゃんとしたレディー、にゃあ」

「大人の女がにゃあにゃあ言っていたら腹立つから気をつけろ。……そういえば先ほどの女もにゃーんだの言っていたような……」


 フィアンマはため息をつきながら、ポケットから携帯電話を取り出した。
 適当に番号をプッシュして耳に当てる。使っているのは電波ではなく魔術的な信号であり、逆探知などの恐れがない魔術的な電話だ。


『はい、こちら「左方」ですがー』

「俺様だ。二週間ほど前に教皇の命令で仕事をした女が居ただろう」

『ああ、「追跡封じ」ですねー。彼女がどうかしましたかー?』

「そいつの居場所を至急突き止めろ」

『はて、何か仕事でも?』

「ちょっとした子守りを押し付けるだけだ」

『? まぁいいでしょう。少々お待ちをー』


 通話が切られ、魔術的な携帯電話はただの携帯電話へと戻る。
 それをポケットに仕舞い、フィアンマはフレンダ達に向き合った。


「お前らの引き取り手が決まったぞ。喜べ」

「聞いてたかぎり、思いっきり押し付けてる様な感じがしたわけよ……」

「ん? そうか? だがまぁ安心しろ、相手は女だし、雰囲気的にはお前らと似ている。故郷が同じなのかもしれんな。もっとも、俺様も直接は一度しか見た事がないが、体型がまるっきり違うがな」

「体型?」

「ザ・お子様体型であるお前らとは真逆の身体だ」

「……」

「……」


 固まる二人。
 それあ何か、力を蓄えているようにも見えた。
 

「さて、とりあえずあの左エリマキトカゲが『追跡封じ』の居場所を突き止めるまでは『腕』での移動はできんな。先ほどのを聞きつけて野次馬が来るかもしれん、徒歩で移動して――

「失礼にも程があるってわけよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ふぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「なっ! ば、馬鹿お前ら! 状況をわきまえろ! ふざけている場合ではないぞ!」


 金髪少女&金髪幼女に飛び掛かられるフィアンマ。
 倒され叩かれもみくちゃにされくすぐられ、フィアンマはおよそ体験したことのない理不尽な屈辱を味合わされることとなった。
 だが、しかし。
 悲劇は連鎖する。





「おーい、そこのお前ら、何やってるじゃんよ」

「……」

「……」

「ゼェ……ゼェ……」


 懐中電灯を当てられ固まる三人。
 具体的に言うと、明らかに日本人ではない幼女と少女に乗っかられて地面に寝ている赤い青年の三人。
 

「……怪しすぎて、コメントしにくいじゃんよ。あー、とりあえずこの辺で起きた騒ぎについてちょっと聞きたい事がある。警備員の詰所までご同行願うじゃんよ」

「……フィアンマ、あの意味わかんない腕で何とかしてってわけよ」

「……『腕』の未完成をここまで悔いたのは初めてだ」

 
 嗚呼。
 科学サイドと双璧をなすもう一つの世界、魔術サイドの最暗部に君臨する男は、少女と幼女に挟まれて警備員と共にパトカーに乗せられ詰所へと向かう。


 ―――
 ―――――
 ―――――――――  









「えーっと、まず名前を聞かせるじゃんよ」

「…………」


 警備員の詰所にてフィアンマ、フレンダの二人は個室に入れられやたら巨乳の女性に職務質問を受けていた。
 ちなみにフレメアは別室で他の女警備員に飴で餌付けをされている。
 最も、二人は犯人と疑われているわけではないのだが、はたけば埃がいくらでも湧き出す境遇に身を置いてる二人にとって、ビルに穴をあける以上の罪状がいくらでも暴かれてしまいかねない。
 だから、二人は佇まいこそ冷静であったが、内心は焦っていた。


「……どうしたじゃん? 早く答えるじゃんよ。とりあえず、そっちのお前から言うじゃん。名前と所属と、外から来たなら招待状とかも見せるじゃんよ」


 ご指名のあったのはフィアンマだった。

(……マズイ)


 フィアンマには学園都市の知識がほとんどない。
 当然、ここで提示すべきアイテムなど何一つ持ち合わせていない。
 どんな便利なツールが存在していたとしても、フィアンマはフィアンマのみが持ち合わせる『腕』さえあればどうにでもなるのだ。
 しかし、自分の証明という事には『腕』はあまり使えない。
 履歴書の資格欄に『奇跡の腕』等と書けば、おそらく面接すら受けられないだろう。


(……『腕』はまだ使えそうにないか。どうする、どうする……? くそ、もっと早いうちに禁書目録の知識にアクセスする霊装を手に入れておくべきだったな)

 
「あ、あの」

「ん?」

 
 一人悩んでいたフィアンマの横から、助けの手が伸びた。

「私、フレア=セルラインって言うわけよ。で、こっちは……フィ、フィアンセ=セルライン、私のお兄ちゃんってわけよ!」

(何だその名前はぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!)


 今すぐ胸ぐらを掴んで捻りあげたくなったが、すんでの所で抑えた。
 フィアンマという名前も本名ではなく、魔術の記号的な意味合いでの名前なのだが、それにしてもフィアンセという言葉を本名に使うなど親の悪乗りとしか思えない。
 生まれた時から妻帯者、それが右方のフィアンセ。
 

「ふーん、あんまり似てない兄妹じゃん。まぁいいか……えーっと、学校は?」

「私は……(書類上では)長点上機学園で、お兄ちゃんも一緒ってわけよ」

「長点上機学園? 名校門じゃんよ。高位能力者なんじゃん?」

「え、えっと、私は無能力者だけど、その分爆薬とかの知識を買われてるってわけよ。お兄ちゃんは良くわからない力が発現してるから、あまり他の人に見せるなって学校から指示されてるってわけよ」

「成程、長点上機学園ならそういうお触れが出てもおかしくなさそうじゃん」


 納得した様子の巨乳警備員。
 フィアンマ、もといフィアンセは二人の会話に何一つ付いていけないので一人置いていかれているが、このままいけば何とかなりそうだと心の中で一息つく。
 しかし、甘くない。
 この世の悪意は何時だって牙をむく。

 プルルルルルルルルルルル




「…………」

「電話じゃん? あ、でも一応こっちで身柄を預かってるっていう事で、私が出るじゃんよ。なに、変な事は言わないから安心するじゃんよ」

 
 言うのと同時に巨乳はフィアンセのポケットから携帯電話を抜き取る。
 魔術的な着信を捕らえたフィアンセの携帯だが、魔力はかけてきた向こうの魔力を使っているので魔術のまの字も知らない乳女でも出る事が出来る。
 しかし、問題は向こうからかけてきたのが魔術的な電話という事。
 つまりは、電話の相手は魔術師だ。フィアンセに電話を掛ける魔術師など、数人しか思い浮かばない。

 そして、その数人に碌な人間が居ないことも知っている。




『もしもーし、左方のテッラですがねー。居場所がわかりましたよー』

「左方? テッラ? よくわからないけど、フィアンセの知り合いじゃん?」

『……女性ですかー? それにフィアンセって…………まさか、フィアンマの……?』

「(フィアンマって誰じゃん?)とりあえず、フィアンセはウチに居るじゃんよ。まぁもう少ししたら帰れると思うから心配しなくていいじゃんよ」

『……すいません、ちょっと待ってくださいねー』


 フィアンマ、じゃなくてフィアンセは冷や汗をダラダラと流し始めた。
 嫌な予感がする。
 聞き覚えのある声が、とても嫌な流れに話を持って行っているような気がする。


「お、おい、いったん電話を貸せ、とりあえず」

「ん? でも向こうも何か今取り込み中らしいじゃんよ」

「イイから貸せというのだ!」


 奪い取る様にフィアンセは携帯を耳に当て叫ぶ。


「オイ左方! 聞こえてるか! おい!」

『ヴェント、アックア、大変です。フィアンマが向こうでフィアンセになってます』

『はぁ? いったいどういう事?』

『……あの男の色恋沙汰など、全く信用できないのであるが』

『それがですね、フィアンマの携帯に魔術の電話を掛けたところ、私の知らない女性が出たんですねー、あのフィアンマが自分の携帯を知らない他人に渡すなんてありえませんし、その女性はフィアンマをフィアンセと呼んでいるんですねー』

『……マジじゃん、え、マジじゃん』

『人は見かけによらないのであるな……』

『私としてはアックアなんかが一番先だと思っていたんですがねー、傭兵として助けた先の女性に惚れられるなんて、よくありそうじゃないですか』

『……傭兵にそんな浮ついた話は存在しないのである』

『そうですかー、まぁ傭兵でなくて、その上女性なのに浮ついた話が何一つ無い人もいますがねー』

『言わないのが優しさ、というものである』

『おいトカゲとゴリラ、誰の事言ってんだ?』

『誰がトカゲですか。素顔晒してから出直してきてください』

『私の化粧は魔術のためだから仕方ねぇだろうがよぉぉぉぉ!』

『テッラ。それ以上言うな。女子には隠さねばならんものがあるのだ。それは例えば素顔、例えば性格。それを見て見ぬふりをするのが真の優しさで――』

『よぉし磨り潰す、ぶちのめす、叩きのめぇぇぇぇぇぇす!』



 プツッ、ツー……ツー……ツー……

「……………」

「電話、切れたじゃん?」


 絶望。
 フィアンマの中に黒い絶望が広がっていく。
 長年積み上げてきたものが音を立てて崩壊していくような気がした。


「……フレンダ」

「ちょ! ここではフレアって名前で呼んでよ!」


 小声でフィアンマを嗜めるフレンダ。
 しかし、もはやフィアンマになりふり構っている暇はない。
 フィアンマは、もうフィアンセではいられない。


「今から『腕』を行使する。もはや危険や不可能など知るか。俺様の『奇跡』は不可能を可能とするからこそ『奇跡』なのだ!」


「お、おお……確かに珍しい感じの能力じゃん」

「フレンダ、今すぐ出る。俺様はローマに戻らねばならん。迅速に、かつ最速で奴らの脳を正してやらねば俺様の全てが無に帰す気がする!」

「ちょ、ちょっと待って! フレメアも連れて行かないと!」

「時間がない! ええい、おいそこの胸女!」

「呼び方雑過ぎってわけよ。的確だけど」

「すまんな、そんなつもりはなかったが仕方がなくなった。ここを部分的に灰にさせてもらう」

「え?」


 言ってから行動は早かった。
 赤い『腕』は行使され、人間以外の辺り全てが消飛ばされ、粉々になった廃墟に無傷の人間が何人も立っているという奇怪な状況が出来上がった。

「…………へ?」


 警備員が全員呆気にとられている間にフィアンマはフレンダの手を掴み、警備員と同じくぽかんとした表情でキャンディを舐めていたフレメアの手も掴んだ。


「跳ぶぞ」

「跳ぶ? 飛ぶって、どこに!?」

「決まっているだろう。……ローマにだ」

「は――









 赤い『腕』は行使され、三人の姿は廃墟から消え去った。
 

今回はここまでです。

投下だけで一時間もかかっちまったぜ……



フィアンマとフレンダ(+フレメア)という意味不明なコンビが出来上がっちまいました。
さて、これで書き溜めも尽きた……次はいつになるかな。一週間以内くらいには来たいですねぇ。


次の番外編は何を書こうかな、病理の話か、完全にIFの話で垣根が『御天墜し』に遭遇か、その辺の話を書こうと思います。


では、また近いうちに、アリガトウゴザイマシタ!

>>1
フィアンマさんがフィアンセに訂正される箇所で腹筋が

乙!
フィアンマがフィアンセになって笑ったわwww

どことなく作品の雰囲気が某所の未元禁書のやつに似てる気がする。あれは絶対能力進化実験は完全スルーだったけど
なにはともあれ乙。フレンダが助かって良かった。

乙。にゃあ

やっぱり腕はチートすぎるな

おつー

>使っているのは電波ではなく魔術的な信号であり、逆探知などの恐れがない魔術的な電話だ。
この文章でなんか笑っちまった、魔術的な何か便利すぎるww

以上発生系のSSで取り敢えず「おのれ魔術師!」で締めるようなもんだろ
違和感が無いというか
一種の様式美だろ

フレンダ  良かったなぁ!

今日あたり更新しますかねぃ


今日の更新はわりとほのぼのしたお話をお送りする予定です。

今日の22時くらいにお会いしましょう。それではー

フィアンマ
フレンダ
フレメア

フフフトリオ!

某有名禁書SSで病理さんが猫バスに変身してました。何を食べたらあの発想が出来るようになるのかぜひ教えてもらいたいです。



そういうわけで今日も更新します、が、実は途中までしか書いてないので、途中から書き溜めではなくこの場で書いて投下します。
要するにちょっと遅くなるというわけです。


>>761>>762
原作でフィアンマが誰かにフラグを立ててフィアンセになってくれることを切に祈ります。

>>763
そういえば最近活動場所を移したあの未元禁書もフレンダが助けられていましたねぃ……まぁ私は可愛いフレンダを殺したくなかっただけですけども。

>>764
これさえあれば他には何にもいらない、それが腕。ジャパネットたか○で2980円くらいで売ってたら買います。

>>765
魔術で、こう、なんというか、ぶわーってやってシャキーンみたいな。そんな感じです。いやぁ、魔術って便利!

>>766
セッカッコー→テーレッテー→紅の豚さんありがとうみたいなもんです。

>>767
よかったよかったってわけよ。

>>769
フフフトリオの次回の活躍にご期待ください。



ではのんびりやっていこうと思います。あ、途中レスはほかの方の迷惑にならない程度、ツッコミくらいなら構いませんので。
では、いきやっせー

注意 この物語はIFである。注意されたし。





「…………ボーっとする」


 垣根帝督はとある病院の一室で目を覚ました。
 窓の外は明るく、時計を見ると正午辺りを指していた。
 自分の体を見下ろすと、あちこちに包帯やらガーゼやらが見られる。


「……そうか、俺は一方通行と……」


 垣根は自分の記憶を手繰り、何があったのかを思い出す。
 操車場での戦闘、最後の方は何もわからないような理解不能原因不明の力がぶつかり合った第一位との死闘。
 最終的には、謎の横やりが入って戦いは終結した。

(つーか、なんで俺は病院に居るんだ? 一方通行は? 木原はどうなった?)


 疑問が幾つも浮かび上がる。
 垣根は自分の目で確かめようと、体に付けられた点滴の管やらなんやらを無理やりはずしてベッドから起き上がろうとしたその時。
 病室のドアが二回ノックされ、ガチャリと開いた。


「おや、目が覚めたかい?」

「……………………」


 垣根帝督は固まった。
 病室に入ってきた人物は医者らしい。その証拠に白衣を着て、首からは聴診器をぶら下げている。
 しかし。
 ありえるのだろうか。
 目の前に居る人物からは、明らかな『闇』の匂いがした。






 『闇』のにおいがするのに――なぜかとても微妙な外見だった。

 垣根の目の前に居る医者――らしき十二歳程度の少女は、やたらと目つきが悪かった。
 黒い髪も耳元の辺りだけ脱色され金色になっており、医者にしては異常にパンクな外見だ。
 服装だけは普通の医者の恰好だから、余計に混乱する。


「その様子だと、入院の必要はなさそうだね? かなりの大けがだったけれど、君の能力が何か関係するのかな?」

「…………」


 垣根はその問いに答えられなかった。
 答える余裕がなかった。
 目の前の不具合に対処しようと、脳を必死に働かせていた。


「どうしたのかな? 混乱しているようなら、一応脳波の測定をやってあげるね?」

「い、いや、いい……」


 垣根は放棄した。
 常識知らずの学園都市の事だ、突飛な格好と幼い年齢の医者が居てもおかしくない、はずだ。


「そうかい? じゃあ君はもう退院しても問題ないね」

「あ、はい……」


 何故か敬語になってしまった。
 学園都市の裏側で、ありえないようなものを幾度となく見てきた垣根であったが、こういった種類の突拍子もない光景には慣れて居ないようだった。




 ―――
 ――――――
 ―――――――――





 垣根がやってきたのは『スクール』のアジトだった。
 

「…………何なんだよ、一体、マジで」


 そして何故か、垣根は疲れていた。
 その理由は、病院からアジトまでの一キロにも満たない道のりを歩く最中に目に飛び込んできた光景だ。

 
 カエル顔をした中年の男が常盤台中学の制服を着ていたり。
 筋骨隆々の男がドレスを着ていたり。
 見覚えのある女性――というか、第四位のレベル5が幼稚園児がよく着ているスモックを着て三輪車に乗っている光景を見たときは腰を抜かすかと思った。


「今日は大星覇祭じゃねぇよな……? 何がどうなってやがる……」

 自分の知らない間に学園都市コスプレ大会でも始まっていたというのだろうか。
 しかし、仮にそうだとしても、第四位が参加する意味が分からない。
 あのプライドの塊のような存在が、あんな格好をするとは到底思えない。
 思わず写メを取ってしまった垣根が断言する、明らかに何かがおかしかった。


「……とりあえず、心理定規か木原に話を聞かねぇと」


 垣根がアジトへとやってきた理由はそれだった。
 暗部にも精通している心理定規や病理に聞けば、事の真相が掴めると思った。
 しかし、その考えは甘かった。
 安易な解決策を求めた垣根は、更なる地獄へと突き落とされることとなる。


「心理定規、いるか?」


 垣根はドアを開け、中に向かって声をかける。
 返事はない、が気配はした。







※間違って#付け忘れたので、変えました。

「……寝てんのか?」


 アジトに使っているマンションの一室。
 奥の方には仮眠に使えるベッドなどが置いてあるので、もしかしたらそこに居るのかもしれないと垣根は部屋の奥へと踏み込んだ。











 
 ――――そして、見た。









「……うぅん……あら、帝督?」


「………………………………」




 どうやら声の主は今起きたようだ。
 ベッドの上で寝転がっている、ややはだけた赤いドレス姿の――――白髪赤眼の少年は。

「お帰りなさい。あんなに大怪我してたのにもう帰って来れるなんて、回復力にも常識が通用しないのね」

「…………」


 病室以上に固く固まる垣根。
 当たり前だ。
 全力で殺し合っていた筈の相手が、ドレス姿で自宅代わりの場所で寝ていてその上自分を見つけてフレンドリーに接してきているのだから。

 
「? 帝督、どうしたの?」

「……ッ!」


 垣根は『未元物質』を展開させた。
 けん制のつもりだったが、つい力を出し過ぎてしまったようで、白い片翼が垣根の背から発現し、それを刃のようにドレス姿の第一位に向かって振り下ろした。


「きゃああっ!?」

 
 慌ててベッドから飛び退く白髪ドレス。
 ベッドは豆腐のように切断され、どういうわけが内側から崩壊していった。

「何するのよ!?」


 涙目で垣根に抗議する女装一位。
 口調も、雰囲気も、服装も、垣根のよく知る暗部のメンバーそのものだった。
 ただ、人物が違う。
 どう考えても違う。
 第五位の作り出した幻覚でもなく、肉体変化の能力者でもない。
 肉体は、明らかに学園都市第一位の一方通行のものだった。


「それはこっちのセリフだクソ野郎……! ここで何してやがる……!」

「何って……帝督が帰ってきた時にご飯作ってあげようと思って、待機してあげてたのよ。感謝はされても殺意を向けられる筋合いはないわ」

「……」


 垣根は心が折れそうになった。
 何だこれは。
 どうしてこの世で二番目くらいに憎らしい存在である一方通行が、こんな感じに自分に声をかけてくるのだ。
 

「ところで、何が食べたい? ハンバーグ? カレー? コロッケでもいいわよ」

「……何でそんな選択肢?」

「帝督って案外子供っぽい所があるから、こういうの好きかなって」

 
 お茶目っぽく言う第一位。
 具体的には顎に人差し指を当てて、ペロリと舌を出して小首をかしげた。


「……ムカつきすぎてぶっ殺してぇ……!」

「何でよ!」

 
 当然のように怒る一位。
 だが、怒りたいのは垣根の方だった。
 むしろ泣きたかった。


(……精神操作、俺が寝ている間に網膜に何らかの細工を……? いや、そんなわけはねぇ。俺は寝ている間は常に『未元物質』で自分をガードしてる)


 第一位、一方通行は無意識の間に行う演算によって有害なものを反射する、オートの防御を有している。
 それと同じように、垣根も『未元物質』によって隙の大きい食事中や睡眠中は全身をガードしている。反射程有効性は高くないが、精神干渉等の特殊な効果を発揮する能力や、弾丸程度の物理攻撃なら防ぐ事が出来る。

 と、なると、考えられるのは――

(……俺以外の奴に、何らかの異変が起こってるのか?)


 歩いている時もそうだったが、明らかにおかしい格好をした人たちはお互いの恰好を指摘し合う様子は見られなかった。
 つまり、他の人間から見ればあれが普通に見えている、という事だ。
 垣根以外の学園都市の人間すべてに仕掛けられた、何らかの能力。


(……そんな事出来そうなのは第五位くれぇのもんだが、メリットがねぇよなぁ……)


 ならば、考えられるのは。
 

(…………木原が前に言っていた『魔術』か?)


 科学とは違う、もう一つの法則。
 学園都市第二位の垣根帝督に理解できないという事は、科学サイドではない可能性が高い。


(……だからと言って、心理定規……だよな、たぶん。心理定規を一方通行に置き換えるなんて、どういう意図がありやがるんだクソッタレ)


 垣根の予想が正しければ、これは人物の『立場』をごちゃまぜになっている、という現象だ。
 たとえば、幼稚園児と第四位の立場が入れ替わる事で先ほどの衝撃的な光景を創り出したのだとすれば、今『アイテム』のリーダーとして君臨しているのは幼稚園児という事になるだろう。
 外見だけが、まるっきり入れ替わっているのだ。


 

「頭が痛くなるな……」


 垣根は頭を押さえ、深くため息を吐いた。
 第一位と戦っていた時も、ここまで動揺はしなかっただろう。


「どうでもいいけど、結局何食べるのよ」

「いや、今のお前が料理を作るのだけは勘弁してくれ……」

 
 睨みつけるだけで人を殺せそうなほど人相の悪い、学園都市でもトップクラスに嫌いな相手がエプロンなんかして自分のために料理を作ってる光景を見れば、垣根はたちまち卒倒するかもしれない。


「……むぅ」

「その辺のファミレスで済ませるからよ、悪いな」

「じゃあ、私も行くー」


 垣根の腕に心理定規(第一位)が抱き着いた。


「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 勘弁してください。


 ―――
 ――――――
 ―――――――――

  

 やってきたのは近くにあるファミレスだった。
 時間的にもちょうど昼頃なので混んではいるが、運よく待つことなく座ることができた。


 そして、垣根と第一位の皮をかぶった心理定規は向かい合って食事をしていた。


「…………」

「……帝督、テンション低すぎない?」


 料理待ちの間、適当な雑談をしようと一方通行(心理定規)は垣根に色々話題を提供してみたが、垣根は眼すら合わせようとしない。
 しかし心理定規に罪はなくとも、垣根にとっては何が何でも殺したかった相手の顔を見ながら食事をするなど拷問にも等しかった。
 テンションなど上げようがないのだ。


「まったく、こんな可愛い女の子と食事できるんだから喜びなさいよ」

「……」


 第一位は中世的な顔立ちをしている。
 体つきも、能力の弊害かかなり細く、服装も相まって遠くから見れば女性に見えなくもない。
 が、あの第一位がこんなセリフを言っているのだと思うと、無性に腹が立った。