魔法少女テルマエ☆ロマエⅡ ~ ルシウス、社会福祉公社に現わる (322)

―少女に与えられたのは、大きな奇跡と小さなソウルジェム―

〔ジャンル〕
テルマエ・ロマエ、魔法少女まどか☆マギカ、ガンスリンガーガールのクロスオーバー

〔前作〕
魔法少女テルマエ☆ロマエ


〔前作のあらすじ〕
古代ローマの浴場設計技師ルシウスは職を失い意気消沈していたところ、
契約により願いを叶える白き獣キュゥべえと出会う。
風呂造りのアイデア欲しさにキュゥべえと契約したルシウスは魔法少女となり、
時間操作の能力を手に入れると現代日本の銭湯にタイムスリップ。
そこでルシウスは「平たい胸族」のまどかとほむら、すなわち日本人に出会い……。

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第1話 『二千年後のテルマエ』


古代ローマ ルシウス自宅

ルシウス 「キュゥべえ、頼みがある」

QB 「どうしたんだい、ルシウス? 唐突に」

ルシウス 「願い事を変更したい」

QB 「いきなり無茶を言うねキミは」

ルシウス 「そう言わずに話を聞いてくれ。この前、平たい胸族の世界に行った時のことだが……」

現代日本 草津温泉街 露天風呂

ほむら 「ふう、やっぱり温泉っていいわね」

杏子 「なんかみんな温泉好きになったねえ」

マミ 「ルシウスさんの影響かしら」

さやか 「あたしは元々こういうの好きだけど」

まどか 「さやかちゃんが好きなのは――」

ゴポン

マミ 「噂をすれば」

杏子 「性懲りもなく……」

さやか 「どうせ出てきたらまた『ぷはァッ! ハァハァハァハァ』ってやるんだよ」

ほむら 「出現パターンさえ分かれば大したことない相手だわ」

ゴポゴポゴポゴポッ

マミ 「みんな、準備はいい?」

杏子 「オーケー」

さやか 「準備バッチリ!」

ほむら 「問題無いわ」

まどか 「待ってみんな、本当にやるの? 可哀想だよ」

マミ 「鹿目さん、これはレディのお風呂に現れる無粋な男の人へのお仕置きなの」

ほむら 「悪いのは私達の入浴に度々現れるあいつ」

さやか 「安心して、まどか。死なない程度には手加減するから」

杏子 「来るぞッ!」

ザパァッ

ルシウス 「ぶはァッ!」

さやか 「行くわよ、スクワルタトーレ!」

杏子 「ロッソ・ファンタズマ!」

ほむら 「手製爆弾」

マミ 「これで終わりよ、ティロ・フィナーレ!」

ザシュザシュザシュザクザクザクザクボカンドゴォオオ

杏子 「温泉の湯が真っ赤に染まったな……」

ほむら 「温泉というより血の池地獄ね」

さやか 「あったよ、ルシウスのソウルジェ……うわぁ!」

マミ 「どうしたの、美樹さん?」

さやか 「ソウルジェムかと思ったらルシウスの目玉だった。はい、杏子」

杏子 「何でそんな気味の悪い物あたしに渡そうとすんのさ?」

さやか 「食べ物は粗末にしちゃいけないんでしょ、食うかい?」

杏子 「食わねぇよ! それにあたしの真似すんな!」

さやか 「でも、温泉のお湯で温泉卵っぽく茹で上がってるし。目玉だからきっとDHAも豊富だよ」

杏子 「ふざけんな! だったらお前が食えばいいだろ!」

ほむら 「ほんと貴方達見てて飽きないわね」

まどか 「やめて、もうやめて……」

古代ローマ ルシウス自宅

ルシウス 「こんなことがあったんだ」

QB 「それで?」

ルシウス 「『それで?』って……その反応は何だ?」

QB 「魔法少女はソウルジェムさえ無事なら魔法で肉体を再生出来る。現にキミは今こうして
生きている訳だし何が問題なのかい?」

ルシウス 「問題だ! この前は4人一緒だったから特に酷かったが、普段も一人で入浴中の
魔法少女相手に酷い目に遭わされる。以前杏子が一人で入っていた時は私が出てくる
真上であいつは槍を構えていて、水面から出てきたところを脳天から槍で貫かれた。
さやかの時は――」

QB 「つまり、最近は時間移動の度に怪我してるってことかい」

ルシウス 「怪我なんてもんじゃない! 簡単に死なないと分かってる分手加減してくれない。
もう嫌なんだ! 向こうの世界に行く度に肉片になるのは!」

QB 「キミには肉片になってでも叶えたい願いがあったんだろ? それは間違い無く実現した
じゃないか」

ルシウス 「このソフィストめ! ああ言えばこう言う!」

QB 「そう言われても願い事の変更は出来ないよ」

ルシウス 「私の願い事は『テルマエ造りの斬新な発想が欲しい』だった。覚えているなキュゥベエ」

QB 「もちろん覚えているよ」

ルシウス 「ならばテルマエ造りの斬新な発想が手に入れられるなら移動先が他の場所でもいい筈だ」

QB 「それはどうかな」

ルシウス 「どういうことだ?」

QB 「魔法はキミの願いが叶うように働きかける。テルマエ、つまり浴場を造る為の発想を得るのに
最も適した場所がキミの言う『平たい胸族』の世界なんだろう」

ルシウス 「!」

QB 「だったら移動先は変わらないよ」

ルシウス 「何とかならないのか?」

QB 「そう言われても」

ルシウス (確かに平たい胸族に匹敵するテルマエ文化を持つ地域などある訳が……そうだ!)

ルシウス 「キュゥべえ!」

QB 「何だい、ルシウス?」

ルシウス 「私を未来のローマに行けるようにしてくれ!」

ルシウス 「現在ローマには優れたテルマエ文化がある。未来のローマではさらに発展した
テルマエ文化が花開いている筈だ。辺境の平たい胸族ですらあれだけのテルマエ文化を
有しているのだから」

QB 「さっきのボクの話を聞いてなかったのかい? 未来のローマが風呂文化の先進地域なら
最初からキミの移動先は――」

ルシウス 「キュゥべえ! 私はローマ人が将来どんなテルマエを造っているか見たい!」

QB (説得するのも大変そうだし魔法の性質が変わる訳ではないから、良しとするか)

QB 「分かった。キミの魔法を少しだけいじらせてもらうよ」

ルシウス 「これで私は未来のローマに行けるのだな」

QB 「ああ。但し、移動先が変わる以外にキミの能力に変化は無い」

ルシウス 「ありがとう、キュゥべえ」

QB 「さあ、その目で見てくるといい、キミの祖国の未来を。それがキミの運命だ」

ルシウス 「勿論だ。早速テルマエに入ってくる」

古代ローマ 公衆浴場(テルマエ)内

ルシウス (変身したぞ。これで未来のローマのテルマエをこの目で確かめることが出来る)

ルシウス (こんなにワクワクするのは久しぶりだ、行くぞ! 左手の盾を操作して……)

ゴポポポポポポッ

現代イタリア 社会福祉公社本部 シャワールーム

ヘンリエッタ 「トリエラ、一緒にお湯に浸かろう」

トリエラ 「今日はシャワーだけにしとくわ。それにその浴槽二人入るには狭いし」

ヘンリエッタ 「確かにシャワールームにおまけでついてるようなものだもんね、このお風呂」

チャプン

ヘンリエッタ (ふう、いいお湯……。今日もお仕事頑張ってジョゼさんに褒めて貰えた……5人やっつけた)

ヘンリエッタ (明日からまた訓練だけど、頑張ろう)

ゴポン

ゴポポポポポポッ

ヘンリエッタ (えっ、何?)

ザバァ

ルシウス 「ぷはァッ! ハァハァハァハァ」

ヘンリエッタ (えっ!?)

ルシウス (ローマ人かもしれないが……胸が平たい……)

ヘンリエッタ 「キャアッ!」

ルシウス (時間停止! 早速未来のテルマエ・ロマエを調べるぞ)

今日はここまで。
初レスがイタリア語で驚いた。そして有難うございます。
3作品クロスですがうまくまとめるのでお付き合いを。
読んでくれた皆さん有難うございました。

第二話 『少女が見たローマ人』

ルシウス 「何ということだ……」

ルシウス (テルマエなのに浴槽がこの小さいの一つだけだと! 
     あとは仕切り板に囲まれた小部屋のようなものが沢山……。

ルシウス (小部屋の比較的高いところに埋め込まれているもの、金具のようだが……
     金具の先端に穴が沢山開いたものが壁に大量に埋め込まれている。
     ん? 一人小部屋から出て来たところで立ち止まっている)

トリエラ 「……」

ルシウス (カルタゴ人の奴隷か、驚いた表情のまま時間停止している)

ルシウス (多分さっきの娘の悲鳴を聞いて出てきたところで私が時間停止をかけたんだな。
     この奴隷が仕切り板の中にいたということは……)

ルシウス (そうか! ローマ人は小さいながらも湯船に浸かれるが、奴隷はこの仕切り板の中で
     行水しろということか)

ルシウス (金属の先端に穴が沢山開いたもの、あの形どこかで見たような……)

ルシウス (そうだ! 平たい胸族のまどかの家で見た、牛の腸の先端に穴が開いた道具、
     あれに似ている。奴隷のいた小部屋の隣に入ってみるか)

バタン

ルシウス (どうすればいい? この取っ手らしいところをどこか捻れば穴からお湯が出そうな感じが……)

キュッキュッキュッ

ルシウス (湯が出ない……時間停止しているからか。少しくらいなら時間停止解除しても問題無いだろう。
     人が騒いだらまた時間停止すればいい)

シャアアア

ルシウス (冷たい! 水だ)

ルシウス (お湯は出ないのか? どうすればいい?)

ルシウス (くっ、やり方が分からん、とりあえず水を止めるぞ)

キュッキュッキュッ

ルシウス (ふう、止まった)

バタン 

ルシウス (奴隷が入ってきた!)

トリエラ (この不審者め!)

ガシッ

ルシウス (速い! 捕まった!)

ブゥン ズデン! ガシッ

ルシウス (痛ッ! 取り押さえられた! 魔法少女の私を投げ飛ばしただと!?)

トリエラ 「大人しくしなさい! ヘンリエッタ、人を呼んで!」

ヘンリエッタ 「分かった!」

ヘンリエッタ (見られた……男の人に裸見られた……)

トリエラ (この男の格好……トーガ?)

ルシウス (無礼な奴隷め!)

ルシウス 「テルマエ・ロマーエ!」

バシュウウウウ

トリエラ 「キャアアアアッ!」

トリエラ (熱いッ! 熱湯!?)

ルシウス (よし、奴隷が離れた。時間停止!)

トリエラ 「……」

ヘンリエッタ 「……」

ルシウス 「危なかった……」

ルシウス (さっきは放水魔法で牽制出来たから良かったが、油断も隙もない娘達だ。
     しばらくは時間停止をかけたまま、ここを調べよう)

ルシウス (この仕切り板の中の小部屋の構造だが……)

ルシウス (仮にお湯が出るとしても……こうして座ったら湯の出る場所が高すぎる気がする。
     それに床に座ると尻が痛い。平たい胸族のテルマエはこういう時、小さい椅子が
     置いてあるものだが。それにこう一人分ずつ仕切りがあっては開放感も感じられない。
     同じ奴隷用でも初めて見た平たい胸族のテルマエはもっと機能的でかつ文明が進んでいた)

ルシウス (小部屋の数から言って大勢の利用者を見越して造られたテルマエであることは
     容易に想像がつく、しかしこれでは……。装飾も殆ど無い。平たい胸族のテルマエは
     基本シンプルでも壁画や催し物の告知が素晴らしかった)

ルシウス (広い浴槽に手足を伸ばして湯に浸かるテルマエの楽しみがこれでは……。
     むしろ我々の時代より退化しているのではないか)

ルシウス 「クッ、ふざけるな!」

ルシウス (私が夢見た未来のローマの姿とはこんなものだったのか!)

ルシウス (テルマエを別々に造る費用も捻出できず、仕切り板で市民用と奴隷用を分けねばならない。
     ローマも落ちぶれたものだ)

ルシウス (あの話は本当だったのだな……)

ルシウス回想 古代ローマ帝国 パイアエ ハドリアヌス帝別荘

ハドリアヌス 「ルシウス」

ルシウス 「はっ」

ハドリアヌス 「以前、余やそなたが出会ったまどかという娘、覚えておるな」

ルシウス 「勿論でございます、陛下」

ハドリアヌス 「あの娘が申していたことだが、まどかの世界では帝国は既に滅びているとのことで
       あった」

ルシウス 「私も陛下と平たい胸族の和子との会話を聞いてその時は驚きました……。絶対に他言は
     致しませぬ」

ハドリアヌス 「うむ、分かっているならよい」

現代イタリア 社会福祉公社本部 シャワールーム

ルシウス (となると、ここは帝国滅亡後のローマか……。だとするとテルマエ文化が衰退している
     のも納得がいく。グンマー属州の方がよっぽどか斬新なテルマエがあった)

ルシウス (次は脱衣所に行くか。風呂場がこれではあまり収穫はなさそうだが)

現代イタリア 社会福祉公社本部 シャワールーム隣接の脱衣所

ルシウス (扉の付いた縦長の箱が沢山並んでいる。まるで塀のようだ)

フェッロ 「……」

ルシウス (美しい女性だ……ローマ人がいるということは、やはりここはローマか)

ルシウス (ほう、ここでは籠ではなく、この縦長の箱に衣類を入れるのだな。ん? 向こうにも人が?)

ルシウス (あれは男か……ここは混浴? いや!?)

オリガ 「……」

ルシウス (ゲルマン人の女か。遠めに見た後ろ姿が逞しかったから、最初は男かと思った……)

ルシウス (よく見ると体のあちこちに古傷の痕が……。このゲルマン人、女だてらに百人長クラスの兵士
     かもしれん)

ルシウス (この脱衣所も収穫はなかった……殺風景で売り子もいない。平たい胸族のように飲み物を出す
     奴隷もいない)

ルシウス (しかし、ここのテルマエだけが廃れているのかもしれない。これから未来のローマを何度も
    訪れれば、素晴らしいテルマエがあるかもしれない。平たい胸族の和子も言っていたではないか。
    『全ての道はローマに通ず』と)

ルシウス (そう思わねば悲しすぎる。今は元の世界に帰ろう)

現代イタリア 社会福祉公社本部 会議室

トリエラ 「――報告は以上です」

ジャン 「シャワールームに見知らぬ男が侵入したので取り押さえたが、逃げられたと」

ヘンリエッタ 「エグッ、ヒック……、ジョゼさんにも……見られたこと無いのに……」

トリエラ 「エッタ……」

ジョゼ 「可哀想に、ヘンリエッタ」

ジャン 「使えない娘共だ」

ヘンリエッタ 「!」

トリエラ 「クッ……」

ジョゼ 「兄さん!」

ジャン 「公社の施設、それもこの本部内に不審者の侵入を許した。事の重大さは理解しているな、
    ジョゼ。にもかかわらずお前の魔法少女は敵を目の前にしながらみすみす取り逃がした」

ジョゼ 「兄さん、不審者の侵入を許したことについてヘンリエッタに責任は無い。それに遭遇時に
    入浴中だったヘンリエッタに戦えというのは――」

ジャン 「例え入浴中でも魔法少女ならすぐに魔法服を生成出来る。この失態は担当官のお前が
    ヘンリエッタを甘やかした結果だ」

ジョゼ 「僕はヘンリエッタを甘やかしてなどいない」

ジャン 「結果が全てだ」

ヒルシャー 「トリエラ、あまり落ち込まないように」

トリエラ 「私は大丈夫です。それより……」

ヒルシャー 「ああ、侵入者の正体と手口を突き止めなくては。少なくとも犯人の目的が唯の覗きとは
      考えられない。それに私としてもトリエラのシャワーシーンを見た幸運な男を簡単に許す訳には
      いかないからね」

トリエラ 「ヒルシャーさん!」

ヒルシャー 「そう怒るなトリエラ。まずは監視カメラの分析からだ」

トリエラ (後ろ手にして取り押さえたら、熱湯をかけてきた。あのトーガ男、一体何者?)

フェッロ (ロッカーの前で着替えている最中とはいえ、私は侵入者に全く気付かなかった)

フェッロ 「シャワールームに進入するには脱衣所を通るしかない。でも私達は誰も見なかった」

オリガ 「ああ」

フェッロ 「ひょっとして私達も気付かなかっただけで覗かれてたのかしら」

オリガ 「それはないと思うよ。もし覗かれてたら流石に視線に気付くさ」

フェッロ 「確かに……元KGBで尾行を撒くのが日常茶飯事だったあなたなら気付くでしょうね」

オリガ 「使い魔という線も考えたけど、あの子らが使い魔を取り逃がすとは考えにくいからねえ」

ヘンリエッタ 「ジョゼさん、ごめんなさい!」

ジョゼ 「ヘンリエッタ……」

ヘンリエッタ 「私が失敗したせいでジョゼさんがジャンさんに叱られました」

ジョゼ 「君のせいじゃない。ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ 「でも――」

ジョゼ 「ヘンリエッタは悪くない、悪くないんだ」

ジョゼ (社会福祉公社……。身寄りの無い身障者の少女を薬物で洗脳した後、キュゥべえと契約させて
    魔法少女にする組織。魔法少女達は魔女との戦いだけでなく、暗殺などの汚れ仕事も任務となる)

ジョゼ (映画や小説の世界なら間違い無くここは悪の組織だ。
    そして本当に詫びないといけないのは僕ら公社の大人達だ。ヘンリエッタ)

今日はここまで
今後、一週間以内での更新を目指します。
読んでくださった皆さんありがとうございました。

第3話 『再会と旅立ち』

現代日本 草津温泉街 茶屋

さやか 「さすがにルシウスさん怒ってたね」

マミ 「4人がかりってのはやり過ぎたかしら」

ほむら 「問題無い。彼は無事ローマに帰った」

杏子 「いいじゃん。何度肉片にしてもどうせまた現れるよ」

まどか 「……」

ほむら 「まどか、ルシウスのことで貴方が気に病むことは無いわ。貴方は手を下してない」

まどか 「それも気にしてたけど……。マミさん、これでまたイタリアに行っちゃうんですよね」

マミ 「ええ、今回はバカンスを利用した帰省だから」

杏子 「それにしても凄えよな。イタリアの高校に留学なんて」

さやか 「魔法少女しながら海外留学に向けて勉強してたって凄いですよ」

ほむら 「感心してる場合じゃないわ。私達も今年受験よ」

さやか 「アーッ! それ聞いただけでソウルジェム濁りそう。去年の対ワルブルギス戦以来の大戦だわ」

杏子 「ま、学校行って無いあたしにゃ関係ないこった」

さやか 「クゥウウウ! その余裕がムカツク! いい、杏子。勉強って大事なんだから」

ほむら 「貴方の口からいっても説得力無いわ」

さやか 「あんただってワルブルギスの夜との戦いを乗り越えた後、成績下がったでしょ。
    あんたの優等生ぶりは最初の一ヶ月だけじゃん」

ほむら 「クッ……」

マミ 「コラコラ、クスッ」

マミ 「ねえ、みんな、見滝原に戻ったら私の家に来ない? もっとみんなでお話しましょう」

まどか (久しぶりにみんなに会えて、マミさん嬉しいんだ。私もです!)

現代日本 見滝原 マミ宅マンションのリビング

まどか 「マミさんのケーキ相変わらず美味しいですね」

マミ 「ありがと」

杏子 「あーあ、マミのケーキと紅茶も明日から当分お預けか……」

マミ 「佐倉さんも私と一緒にイタリアに来るならご馳走するわよ」

杏子 「本当か!?」

マミ 「ええ、本当よ」

杏子 「そうか……」

さやか (考え込んでる……)

マミ 「みんな、ちょっといいかしら?」

まどか 「はい」

さやか 「どうしたんですか、マミさん?」

ほむら (巴マミの表情が真剣になった)

マミ 「今回の帰省の目的の一つに、貴方達にきちんと私の現状を話しておくということがあったの」

杏子 「何なのさ? 改まって」

マミ 「私は今、ある組織と戦っているの」

まどか 「組織?」

杏子 「それって現地のマフィアか何かか?」

マミ 「ある意味マフィアよりもタチが悪いわ」

マミ 「イタリアには、女の子を洗脳した後にキュゥべえと契約させて魔法少女にさせる組織があるの」

さやか 「何それ!」

マミ 「しかもその魔法少女を使って、組織に都合の悪い人間を消させてる」

まどか 「酷い、酷すぎるよ!」

マミ 「洗脳した後の契約だから、きっと組織に都合のいい願いごとをさせられてるのでしょうね……。
   魂と引き換えに得られる筈の祈りすら自分の物にはならない……」

杏子 「胸糞悪くなる話だな」

ほむら 「魔法少女を利用するだけ利用して使い捨てにするのね」

マミ 「私はその組織のしていることが許せない。だから戦うと決めた。でもこれは魔女と戦う以上の
   危険が伴うわ。だから……」

ほむら 「万が一の場合もある」

まどか 「ほむらちゃん!」

ほむら 「事実よ。複数の魔法少女に襲われれば巴マミといえども苦戦するわ」

まどか 「……」

マミ 「だから……皆の顔をもう一度見ておきたくて……」

杏子 「確かにそんな連中相手じゃ一筋縄じゃいかないか。だったら……」

杏子 「マミ一人をそんな連中と戦わせるなんて危なっかしくて見てらんねえや」

マミ 「佐倉さん!」

杏子 「私もマミと一緒に行く」

さやか 「杏子、まさかあんた……」

さやか 「そこまでマミさんのケーキが好きだったなんて」

杏子 「ケーキだけでこんな大事なこと決めるか!」

杏子 「この中でマミを助けられるのは私だけだからな」

さやか 「私だって昔より強くなって――」

杏子 「そういうことを言ってるんじゃないってーの」

杏子 「さやかには家族も居るし学校もあるだろ。この中でいきなりイタリアに行けるのは風来坊の私だけだ」

杏子 「それにさやかも一人前になったし、今ならさやかとほむらに見滝原と風見野を任せてもいいと思ったんだ」

さやか 「いいの? 杏子?」

さやか 「あんたはそれでいいの? ここから居なくなって寂しくないの?」

杏子 「何だ? あたしが居ないと寂しいか?」

さやか 「真面目に聞いてるんだけど」

杏子 「……寂しいさ。でもマミだってイタリア行く時は寂しかった筈だ」

さやか 「でも!」

ほむら 「やめなさい」

さやか 「!」

ほむら 「杏子の言っていることは正しい。あなたは巴さんをたった一人でそんな連中と戦わせるつもり?」

さやか 「それは……」

杏子 「ケリをつけたら帰って来るからさ。お前がそんなにしょぼくれてたら安心してイタリアに行けないだろ」

マミ 「私としては佐倉さんが来てくれると凄く助かるの。お願い」

まどか 「さやかちゃん。マミさんと杏子ちゃんを笑顔で送ってあげよう。きっと直ぐ会えるよ」

さやか 「うん……。マミさん、杏子。必ず帰って来てね」

マミ 「ええ! 勿論よ」

杏子 「お前こそ気をつけろよ。あたしが戻って来るまでに魔女に殺られてたりしたら許さないからな」

さやか 「殺られるもんか!」

現代日本 群馬県 森林内

さやか 「ウ、ウウ……杏子、グスッ」

ほむら 「こんなところ人に見られたら大変だわ。さあ、行くわよ」

さやか 「何でこんなことまでして……」

ほむら 「仕方ないわ」

現代日本 見滝原 銭湯

銭湯の主人 「杏子の奴、書置き一つで出て行きやがって……」

銭湯の主人 (ここでお前が住み込みで働いて1年……。困ってると思って素性も知れないお前を雇って
      やったんだぞ……。なのにいきなり居なくなることはないだろ……)

銭湯の主人 (今日はやけに風呂場が綺麗になってると思ったら、最後と思って一生懸命磨いてくれたのか。
      脱衣所もチリ一つ落ちてない……。ちゃんと出来るなら普段からやれよ……)

銭湯の主人 (書置きに『やることがある』って書いてあったが、そんなに大事なことだったのか……)

銭湯の主人 (終わったら戻って来いよ……杏子)

現代日本 見滝原中学への通学路

まどか 「それでうまくいったの?」

ほむら 「ええ、死体は山の中に埋めたわ」

さやか (チョッ、そんな物騒な会話、テレパシーでやってよ)

ほむら (これでいいかしら。今頃、向こうで巴マミが杏子の体を再生している筈よ)

さやか (いくら杏子がパスポート持ってないからって、日本で体を捨ててソウルジェムだけイタリアに
    持ってくってクレイジーな作戦だわ。まどかも大胆なこと思いつくね)

まどか (ウェヒヒ。みんながこの前ルシウスさんを肉片にしたのを思い出して、それで思いついたんだ)

ほむら (旅費が浮くといって巴マミは喜んでたわ。まどか、あなたのおかげよ)

さやか (そこ、褒めるところなの?)

現代 成田発ローマ行き旅客機内 機内トイレ 

マミ (寝る前にソウルジェムの状態をチェックしておきましょう)

マミ (佐倉さんのソウルジェム、濁ってないわね。自分のじゃないから指輪化出来なくて
   持ち運びが不便だわ)

マミ (私の方も問題無いし、席に戻りましょう)

ガクン、グラグラグラグラッ

マミ (揺れる!)

ポロッ チャポン

マミ (あ!)

マミ (きっとエアポケットで揺れたのね。私のは指輪化しておいたから落とさなかったけど……。
   とりあえずリボンで拾って洗いましょう)

今日はここまで
ほむらがマミを呼ぶ時は前SSでは『巴マミ』としていたが、
劇場版『反逆の物語』でのほむらは『巴さん』と呼んでいたので、
本SSのほむらがマミを呼ぶ時には『巴さん』と『巴マミ』を併用します。

第4話 『囚われた杏子』

現代イタリア フィウミチーノ空港 ロビー 

マミ (ようやくローマね)

スリの男 (旅行者か? いいカモだぜ!)

ドン タッタッタッタッタッ

マミ (今の人、急いでたのかしら。でも私ならぶつかったら『すみません』位はいうのに)

現代イタリア タオルミナ 住宅街

エレノラ 「止めなさい! タオルミナ警察よ。その子の荷物を出しなさい」

スリの男 「知るかそんな物。それよりこのガキ何とかしてくれえ……」

エレノラ 「ヘンリエッタ、放して」

ヘンリエッタ (一旦離そう)

スリの男 「ウッ、ゲホッゴホッ」

エレノラ 「ほら、早く出しなさい」

スリの男 「な、何のことだ……」

エレノラ 「とぼける気? 素直に返せば見逃してあげるつもりだったんだけど……」

ヘンリエッタ (エレノラさん)

エレノラ (どうしたの、ヘンリエッタ? テレパシーで話しかけてきて?)

ヘンリエッタ (この人から魔力を感じます)

エレノラ (魔力!? この男、どう見ても魔法少女には見えないわよ)

ヘンリエッタ (でも、本当に感じるんです)

エレノラ (そう、分かったわ。連行しましょう)

エレノラ 「気が変わったわ」

スリの男 「何だ?」

エレノラ 「もっと詳しく所持品検査しましょう。貴方、マリファナの臭いがプンプンするわね」

現代イタリア タオルミナ 海岸線

エレノラ 「それ、そんなに大切な物だったの?」

ヘンリエッタ 「中にジョゼさんから頂いたカメラが入っていたんです」

エレノラ 「そう……。ヘンリエッタのハンドバッグを取り返せたのはいいとして、問題は所持品のそれね。
     どう考えてもあの男の持ち物ではないわ」

ヘンリエッタ 「そうですね。この紅いソウルジェム……」

エレノラ 「持ち主を見つけてちゃんと返してあげたいところだけど」

現代イタリア タオルミナ 社会福祉公社支部

フェルミ 「男の話では一昨日ローマで拾ったそうだ」

エレノラ 「本当は盗んだのでしょうね」

フェルミ 「おそらくはな」

ジョゼ 「その男をローマに連行する。色々と聞きたいことがある」

フェルミ 「ここじゃ駄目なのか」

ジョゼ 「このソウルジェムの持ち主とあの男を対面させる」

エレノラ 「対面って……持ち主は見つかっていないのよ」

ジョゼ 「見つからないなら生み出せばいい」

エレノラ 「それって一体……」

ジョゼ 「ソウルジェムさえ無事なら魔法少女は肉体を再生出来る」

ヘンリエッタ 「それならここでも……。私なら出来ます」

ジョゼ 「いや、再生は公社の施設内でやった方がいい。ここでの任務を終えたら、僕はヘンリエッタと一緒に
    その紅いソウルジェムを持ってローマに帰還する」

現代イタリア タオルミナ  社会福祉公社支部

エレノラ 「ねえ、ヘンリエッタ。もうあんな風に暴走しちゃ駄目よ」

ヘンリエッタ 「!」

エレノラ 「女の子だから暴力ばかり振るってちゃ駄目、分かった?」

エレノラ (この子、スリの犯人を捕まえた時、殺気だってた……)

ヘンリエッタ 「ガブリエリさんもですか」

エレノラ 「?」

ヘンリエッタ 「ガブリエリさんも私を女の子にしようとするんですね」

エレノラ 「だって本当に……」

ヘンリエッタ 「ここに来た時、ジョゼさんは私の銃を取り上げたんです。普通の女の子はこんなもの持って無いって」

エレノラ (この子、泣いている)

ヘンリエッタ 「確かにそうです。でも私、普通の女の子ですか? 凄い力持ちで素手で人を殺せるんです。
        赤い血は出るけど、直ぐに痛みなんか消えちゃうんです」

ヘンリエッタ 「魔法少女の私がジョゼさんの役に立つには、普通の女の子じゃ駄目なんですよ!」

エレノラ 「違うわ! 彼、貴方のこと大切に思ってるもの。貴方に笑っていて欲しいと思っているもの」

ヘンリエッタ 「ガブリエリさん……」

エレノラ 「それじゃあね、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ 「さようなら」

フェルミ 「じゃあな」

ジョゼ 「ああ」

ヘンリエッタ (ここでのお仕事が終わった……)

ジョゼ 「さて、まずはどこに行きたい?」

ヘンリエッタ 「え?」

ジョゼ 「シチリアは色々と見るところがあるんだ。直ぐに出発するよ。カメラを忘れないで」

ヘンリエッタ 「はい!」

古代ローマ ローマ市内 テルマエ

ルシウス (もう一度、もう一度未来のローマに行こう)

ルシウス (この前のテルマエはきっと外れだったのだ。今回こそは……)

ゴポポポポポッ

現代イタリア ヴルカーノ島 泥沼温泉

ヘンリエッタ 「ジョゼさん!」

ジョゼ 「ヘンリエッタ、水着似合ってるよ」

ヘンリエッタ 「ありがとうございます。ジョゼさんが買ってくれた水着、大切にします」

ヘンリエッタ (泥温泉、気持ちいい……)

ジョゼ (気持ちよさそうにしてる。ヘンリエッタをここに連れてきて良かった……)

ヘンリエッタ 「ジョゼさん」

ジョゼ 「何だい、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ 「この後は船で『馬の洞窟』に行くんですよね」

ジョゼ 「ああ、神秘的な洞窟でね、シチリアに来たときはヘンリエッタを連れていきたいと思ってたんだ」

ヘンリエッタ 「楽しみです! それにしてもこの辺りって海が綺麗ですね」

ジョゼ 「エオリエ諸島はイタリア初のユネスコ世界自然遺産だからね。ここの海はイタリアの宝さ」

ヘンリエッタ 「ジョゼさんって何でも知ってるんですね」

ジョゼ 「そうとも」

ゴポン

ヘンリエッタ 「!?」

ジョゼ 「どうした、ヘンリエッタ?」

ヘンリエッタ 「……何でもありません」

ヘンリエッタ (まさか?)

ゴポポポポポ、ザバァッ

ルシウス 「ぷはァッ! ハァハァハァハァ」

ルシウス (泥!? テルマエじゃないのか!?)

ジョゼ (この観光客、何も潜らなくても……)

ヘンリエッタ (あの時の人!)

第5話 『魔法少女となった男』

ヘンリエッタ (今度こそ逃がさない!)

ジョゼ (ソウルジェムを指輪から宝石に変形させた!?)

ジョゼ 「どうした! ヘンリエッタ?!」

ヘンリエッタ (ジョゼさんがジャンさんに叱られたのは私のせい。私があの人を捕まえれば!)

ヘンリエッタ回想 現代イタリア タオルミナ 社会福祉公社支部

エレノラ 「ねえ、ヘンリエッタ。もうあんな風に暴走しちゃ駄目よ」

ヘンリエッタ 「!」

エレノラ 「女の子だから暴力ばかり振るってちゃ駄目、分かった?」

現代イタリア ヴルカーノ島 泥沼温泉

ヘンリエッタ (私、ガブリエリさんの言葉を忘れるところだった……)

ジョゼ 「どうしたんだヘンリエッタ?」

ジョゼ (少し落ち着いた様だが……)

ヘンリエッタ 「ジョゼさん、この前、公社のお風呂場に侵入した人を見つけました」

ジョゼ 「!」

ジョゼ 「どこにいる?」

ヘンリエッタ 「あの少し離れたところにいる、水着じゃない……布を巻いたような服を着た男の人です」

ジョゼ (さっき潜っていたように見えた男か)

ジョゼ 「ヘンリエッタ、ここは人が多い。あの男が人気の無い所に移動するまで尾行しよう」

ヘンリエッタ 「はい、ジョゼさん」

ジョゼ (僕らの任務は、公社の他の課や軍警察(カラビニエリ)が前もって陽動や交通規制を行うことが多い。
    目撃者を出さない為だ。洗脳した魔法少女による特殊部隊。公に知れたらマスコミ共の格好の餌だ。
    人権団体も黙ってはいまい)

ジョゼ (しかし今回の遭遇は突発的でそんな準備は無い。しかも場所は人気の観光スポット。
    魔法を使うには人が多すぎる)

ジョゼ (相手がただのゴロツキなら変身前のヘンリエッタに捕縛させればいい。魔法少女は例え変身しなくても
    ある程度まで魔力による身体能力の強化や魔法の使用が可能だ。何なら僕が直接捕らえてもいい。
    しかしトリエラが取り逃がした相手とすれば話は別だ。おまけに今は入浴中だから僕もヘンリエッタも丸腰)

ジョゼ (幸い向こうはこちらに気付いてない様だ。人目につかないところでヘンリエッタを変身させ、
    あの男を捕まえる、それまでは様子見だ)

ルシウス (温泉の底に泥が沈殿している……泥といっても滑らかな泥。まるで陶器を造るのに使う泥をさらに
     緩くした感じだ。そして硫黄の臭いが強い)

ルシウス (ともかく浸かろう)

チャプン

ルシウス (母方の先祖の故郷サトゥルニアにあったテルマエに似ている。しかしサトゥルニアは川のテルマエだった。
     ここは海辺のテルマエ)

ルシウス (周りの人間を見ると布地の少ない服を着ている。現地の民族衣装か。色とりどりだ)

ルシウス (泥を体に塗りたくっている人間が大勢いる。この地の風習なのか。よく分からんが私も塗ってみるか)

ジョゼ (温泉に浸かって体に泥を塗っている……。目的は僕やヘンリエッタではないのか)

ヘンリエッタ 「ジョゼさん、お背中に泥を塗ります」

ジョゼ 「今は任務に集中するんだ、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ 「はい……」

現代イタリア ヴルカーノ島 海水温泉前

ルシウス (周りの人間について来てしまったが、こっちは海か。どこまでも青い美しい海だ)

係員 「ダメですよ。海に入る前は泥を落として下さい」

ルシウス (何を言っているのか分からん)

ルシウス 「どうかしたのか?」

係員 「泥を落としてから海水に入って下さい」

係員 (観光客か。イタリア語が通じん)

ルシウス (身振り手振りで言いたいことは分かる。泥を落とせということか)

ルシウス (確かにこのまま海に入れば海が泥で汚れる。美しい海を守る為に奴隷を雇っているのか)

ルシウス 「ローマ人に対する態度としては気に入らんが、事情は分かった。泥を落とそう」

ルシウス (放水魔法で)

シャアアアアアア

ルシウス 「これで文句は無いな」

係員 「どうぞ……」

スタスタスタ

係員 (行っちまった……。今、手の平から水を出したぞ、手品か何かか……? きっとドッキリ番組の仕掛け人
   だよな。どこかにホースとか水を貯める袋か何かを隠し持ってて……どこかから俺のこと撮影してるんだ)
   そうだ、そうに違いない……)

ジョゼ (手の平から水を出した!?)

ヘンリエッタ 「魔法!」

ジョゼ 「何!?」

ヘンリエッタ 「今の、魔法です!」

現代イタリア ヴルカーノ島 海水温泉

ルシウス (海水が暖かい!?)

ルシウス (……よく見ると所々ボコボコ気泡が出ているところがある)

ルシウス (ボコボコしてるところに近づくと暖かさが増す、海水のテルマエか……)

ジョゼ 「ヘンリエッタ、今『魔法』って言ったね」

ヘンリエッタ 「はい」

ジョゼ 「あの男は魔女か使い魔なのか、まさか……!」

ヘンリエッタ 「おそらくあの人は魔法少女です」

ジョゼ (どう見ても少女じゃないぞ……)

ヘンリエッタ (これが任務じゃなかったら、今頃ジョゼさんとここで海水浴を楽しんでいたのに……)

ジョゼ 「魔法で男に変身しているのか?」

ヘンリエッタ 「それは分かりません」

ジョゼ (そうか、契約時の祈りで性転換した魔法少女か……)

現代イタリア ヴルカーノ島 岩盤サウナ

ルシウス (他の人間を見て何となく理解したぞ。ここは天然のラコニクム(蒸気風呂)になっているのか。
     この木の板の上に座るのだな)

ルシウス (これは気持ち良い……)

ルシウス (結局ローマのテルマエ文化は廃れていなかったのだな。帝国は滅びたがテルマエは残っていたのだ)

ルシウス (しかし気になるのはこれらのテルマエは全て自然のもたらした物をそのまま利用しているに過ぎないこと。
     平たい胸族のような創意工夫は感じられなかった)

ルシウス (やはり、平たい胸族を越えるテルマエ文化はローマに生まれなかったのか)

ルシウス (だが、このテルマエは心地いい。眠気が……)

―――そのうちルシウスは考えるのをやめた

ヘンリエッタ 「あの人居眠りしてます」

ジョゼ (岩場で見通しが悪くサウナの場所は窪んでいて目隠しになる。ここなら他人に見られる可能性は低い。
    仕掛けるなら今だ)

ジョゼ 「ヘンリエッタ、あの男を拘束するんだ」

ヘンリエッタ 「はい!」

ジョゼ 「捕まえたら公社に連行しないと行けない。残念だが『馬の洞窟』行きは今度にしよう」

ヘンリエッタ 「はい……分かりました」

ヘンリエッタ (ローマに帰るまでにまだ時間があるからって、折角ジョゼさんがここに連れてきてくれたのに……)

ヘンリエッタ (ジョゼさんと二人きりの時間を、どうしてあの魔法少女は台無しにするの!)

ルシウス (ハッ!? いつの間に眠っていたのだ……誰だ?)

ジョゼ 「お前も魔法少女ならこれが何か分かるな。ついて来て貰おう」

ヘンリエッタ (……)

ルシウス (以前この世界に来た時に見た娘ではないか!? それに男が持っているのは!)

ルシウス 「私のソウルジェムではないか! 返せ!」

ヘンリエッタ 「大人しくして下さい!」

ガシッ ズテン ガシッ

ルシウス 「ウッ、おのれ、返せ!」

ルシウス (押さえ込まれた……)

ジョゼ 「大人しくしろと言っている!」

ルシウス (こいつら、私のソウルジェムを盗んだのか!?)

ヘンリエッタ (まだ抵抗する!?)

ヘンリエッタ 「ジョゼさん、この人イタリア語が分かりません!」

ジョゼ 「そのまま拘束を続けるんだ!」

ヘンリエッタ 「はい!」

ルシウス 「この盗賊め!」

ジョゼ (ソウルジェムを破壊すれは殺せる相手。だが情報を聞きだす為には簡単に殺す訳にいかない!)

ジョゼ (ならこれで!)

タッタッタッタッ

ジョゼ (ヘンリエッタ、僕はここから100メートル以上離れる。それまでその魔法少女を抑えるんだ)

ヘンリエッタ (はい!)

ルシウス 「私のソウルジェム!」

ジョゼ (魔法少女はソウルジェムと肉体が100メートル以上離れたら肉体を動かせなくなる、クラエスを使った
    実験で確証済みだ)

ルシウス (このままでは逃げられる!)

ルシウス 「……」

ヘンリエッタ (大人しくなった……100メートル以上離れたのかな……)

ヘンリエッタ (ジョゼさん、相手が大人しくなりました。もう大丈夫、キャッ!)

ジョゼ (ヘンリエッタ、どうしたヘンリエッタ!)

ヘンリエッタ (振り解かれました! 死んだ振りしてたなんて!)

ルシウス (振り解いて直ぐ時間停止をかけたから良かったものの……。芝居が見破られていたら……)

ヘンリエッタ 「……」

ルシウス (前に遭遇したカルタゴ人の奴隷といい、このローマ人の娘といい、何らかの格闘術を学んでいる。
     体格で勝る私を押さえ込むとは……。私とて戦地で兵士として戦った経験も、魔法少女として
     魔女と戦った経験もあるのだ……)

ルシウス (さて、逃げたもう一人を追うか)

ジョゼ 「……」

ルシウス (よくも人のソウルジェムを……。治安が悪くなったのも帝国の滅亡が原因なのだろうか?)

ジョゼ (少しお仕置きしてやろう)

ガシッ

ジョゼ (何!? 追いつかれた!?)

ルシウス (でやあああああ!)

ブウウゥゥン ザパーン

ルシウス (この盗賊共、この辺りのテルマエでこれまでも盗みを働いてきたのだろう……。少しは反省するのだな。
     ……それでは元の世界に帰るか)

ヘンリエッタ (ジョゼさん、ジョゼさん!)

ヘンリエッタ (テレパシーで呼びかけても反応が無い……あれは……)

観光客1 「おい、大変だ!」

観光客2 「どうやったらこんなになるんだ」

観光客3 「まだ足が動いてる、生きてるぞ!」

ヘンリエッタ (泥沼温泉の水面から両足だけ飛び出している! あの海水パンツはジョゼさん!)

現代イタリア 社会福祉公社本部 会議室

ジャン 「で、結局例の男を再び取り逃がした訳か」

ジョゼ 「すまない、兄さん……」

ジャン 「……お前の見立てでは性転換した魔法少女がヘンリエッタの前に出没しているということだが」

ジョゼ 「ああ、彼女の目的は分からないが、魔法を使える以上魔法少女ということは確かだ。
    そして僕とヘンリエッタの目撃情報を元にモンタージュ画像を作成した。それがこれだ」

ジャン 「見せてみろ。……とても魔法『少女』には見えんな」

ジョゼ 「しかしこれで彼女が何者かがはっきりする。キュゥべえなら何が知っている筈だ」

ジャン 「そうだな……」

現代イタリア 社会福祉公社本部 中庭

ヘンリエッタ 「本当にこの似顔絵の人知らないの、キュゥべえ?」

QB 「ああ、知らないね。ウルカーノ周辺に住む性転換を祈りに契約した魔法少女って訳が分からないよ
   本人に直接会えれば直ぐに分かるけど」 

ヘンリエッタ 「そう……分かったわ。ありがとうキュゥべえ」

ヘンリエッタ (観光客だったら地元の人とは限らないか……)

QB (このモンタージュの似顔絵、どこかで見た気が……でも聞かれたことには答えたし良しとしよう)

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

現代イタリア 社会福祉公社本部 医務室

トリエラ 「ではこれより再生の儀式を執り行う」

リコ 「おお、神よ。この宝石に宿りし娘の魂に血肉を与え給え」

ヘンリエッタ 「それ絵本の台詞でしょ。ええとタイトルは……」

クラエス 「パスタの国の王子様」

ヘンリエッタ 「そう、それ」

ベアトリーチェ 「儀式に似つかわしくない硫黄の臭いがする」

ヘンリエッタ 「そう、まだ臭うかな? でもベアトリーチェは人一倍鼻が利くから」

リコ 「何かタマゴが腐ったような臭いがする」

ヘンリエッタ 「嘘!?」

クラエス 「ヴルカーノの泥沼温泉に入ったんでしょ。しばらく硫黄の臭いが抜けないわよ。特に着ていた水着
     は諦めることね」

ヘンリエッタ 「そんな……ジョゼさんに買って貰った水着なのに……」

トリエラ 「これからはヘンリエッタのことを硫黄女と呼ぼう」

ヘンリエッタ 「もう、やめてよトリエラ」

クラエス 「ところで、そのヴルカーノに居た魔法少女の正体は分からずじまいだったの?」

ヘンリエッタ 「うん……。キュゥべえも知らないって」

クラエス 「キュゥべえが知らないってことがあるのかしら?」

トリエラ 「シラを切っているか本当に知らないのやら」

ヘンリエッタ 「兎に角、ジョゼさんを泥沼温泉に放り込んだあの魔法少女は許さない!」

現代イタリア ローマ市内 社会福祉公社本部 医務室

パアアアアァァ

リコ 「ふう、終わったね」

ヘンリエッタ (肉体を再生させたのはいいけれど)

ベアトリーチェ 「この子、東洋人?」

トリエラ 「キュゥべえ?」

QB 「何だい、トリエラ?」

トリエラ 「この子、誰だか分かる?」

トリエラ 「佐倉杏子だね。日本人だ」

トリエラ 「日本人?」

トリエラ 「キュゥべえ、ひょっとしてこの子イタリア語分からない?」

QB 「きっと分からないね。彼女が日本語以外の言語で会話しているのを見たことが無いよ」

トリエラ 「そう、この子が目を覚ましたら、翻訳をお願い」

QB 「分かったよ」

杏子 「ん、ん、あれ……ここは……?」

トリエラ 「目が覚めた?」

杏子 「ここ、どこだ。マミか……」

トリエラ 「マミ?」

杏子 「マミ、お前日焼けしたな」

トリエラ 「なっ!?」

トリエラ 「悪かったわね、そのマミって人じゃなくて」

杏子 「いや、悪い悪い。起きたばっかで少し寝ぼけててさ」

トリエラ 「悪いと思っているなら少し付き合って貰えるかしら」

杏子 「その前に何か食い物無い。腹が減ってしょうがないよ」

トリエラ (肉体を再生させたばかりだから胃の中が空っぽなのね)

社会福祉公社 ゲストルーム

杏子 「うめえ、これが本場のナポリタンか」

エレノラ 「ありがとう。食べながらでいいから聞いてくれる?」

杏子 「ああ、いいよ」

エレノラ 「私はタオルミナ警察のエレノラよ、貴方はキョウコ・サクラさんね」

杏子 「ああ、佐倉杏子、日本人だ。でも何であたしの名前を?」

エレノラ 「キュゥべえが教えてくれたってトリエラが言ってたわ。尤も私にはキュゥべえってのが見えないわ。
     あなたとこうして言葉が通じるのも、そのキュゥべえが近くにいるかららしいけど」

QB 「……」

杏子 「ということは魔法少女についても多少は知ってるってこった」

エレノラ 「そうよ。キョウコさん落ち着いて聞いて。貴方のソウルジェムを持っていた人物を拘束させて貰った」

杏子 「!?」

エレノラ 「容疑は窃盗とマリファナの吸引。それも常習的に……」

杏子 「嘘だろ、おい……マミがそんなことする訳がない!」

エレノラ 「事実よ。その様子では貴方は何も知らなかったみたいね」

杏子 「エレノラさん! マミに会わせてくれ! 頼む」

エレノラ 「いいわ、着いて来て。但し貴方のソウルジェムをこのヘンリエッタに預けてくれる?」

杏子 「!?」

エレノラ 「貴方達が脱走を企てない為よ。それが面会の条件」

杏子 「……分かった、ほらよ」

ヘンリエッタ 「お預かりします」

エレノラ (『マミ』ってあのスリの犯人のニックネームかしら? 日本語?)

フェッロ 「取り上げる位なら最初から返さなければいいのに」

ジョゼ 「最初からソウルジェムを人質に尋問したら信用して貰えない。彼女が体を再生した時点で
    一旦ソウルジェムを返したのは正解だったと思うよ」

フェルミ 「とりあえず、復活させたら男だったなんてことは無くて何よりだ」

ジョゼ 「その話は勘弁してくれ。男の格好をした魔法少女にはもうウンザリなんだ」

社会福祉公社 取調室

エレノラ 「扉に付いているそこの窓から覗いて」

杏子 「……」

杏子 (マミの奴、悪の組織と戦うなんて言いやがって、ヤク中の妄想だったのかよ。これじゃあたし何の為に
   イタリアまで来たんだ)

杏子 (マミ、今どんな顔してやがる……?)

スリの男 「……」

杏子 「……」

杏子 「エレノラさん?」

エレノラ 「どうしたの?」

杏子 「あのおっさん、誰?」

社会福祉公社 会議室

エレノラ 「これで加害者と被害者との間には面識が無いことがはっきりした」

フェルミ 「この場合、扱いは窃盗なのか誘拐なのか」

エレノラ 「あとはキョウコの話を聞いて彼女のお友達を探しましょう」

現代イタリア 社会福祉公社 ゲストルーム

杏子 「そろそろ私のソウルジェム返してくれよ。私はあのおっさんに連れ去られただけだってハッキリしたろ?」

ヘンリエッタ 「ジョゼさん」

ジョゼ 「返しなさい、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ 「はい、お返しします」

杏子 「そう来なくっちゃ!」

杏子 「やっぱりこいつが無いと落ち着かないや。あたしらの魂そのものだもんな。……ヘンリエッタだったな」

ヘンリエッタ 「はい」

杏子 「どうしてあんたは警察に協力してるんだ?」

ヘンリエッタ 「それは……」

ジョゼ 「彼女は民間協力者だ。警察では手に負えない魔法がらみの犯罪の時に助けて貰っている」

ヘンリエッタ 「えっ……? そ、そうなんです」

杏子 「へえ……」

ジョゼ (彼女には公社のことは話さない方がいい。僕はカラビニエリ(軍警察)、ヘンリエッタは民間協力者で通す)

杏子 「警察ねえ……。それでここの警察は魔法少女を見ても驚かないんだな」

ジョゼ 「そうさ」

杏子 「あんたが警察官なら聞きたいことがあるんだけど」

ジョゼ 「何だい?」

杏子 「イタリアには洗脳した魔法少女に人殺しをさせる組織があるって聞いたんだけど本当なのか?」

ジョゼとヘンリエッタ 「!」

投下間隔が開いたが今日はここまで
あと今日の投下分、タイトル入れ忘れた
タイトルは
第六話 『杏子復活』
です
読んで下さった皆さんありがとうございました

第7話 『それぞれの決意』

ジョゼ 「それはきっと都市伝説だよ」

杏子 「そうなのか、でもマミは言ってたぜ。そんな組織がある、許せないって」

ジョゼ 「そうか……。そのマミさんってどんな人かな。それが分かれば彼女が何故そんなことを言ったか
    分かるかもしれない」

杏子 「あたしの先輩の魔法少女さ。今はイタリアに留学していて、マミと暮らす為にあたしはイタリアまで来たんだ」

ジョゼ 「そうか。他に彼女について知ってることは?」

杏子 「正義感が強くて後輩への面倒見もいいけど、本当は寂しがり屋だと思う」

ジョゼ 「それが原因かもしれない」

杏子 「?」

ジョゼ 「彼女には悪いけど、マミさんは一人では寂しくて、君にイタリアに来て欲しくてそんな嘘をついたのかも
    しれない。もしくは彼女自身がネットの作り話を信じたかもしれない。ところでその組織の名前は何だい?」

杏子 「そういえば名前聞いてなかった」

ジョゼ 「だったらやはり都市伝説だね」

杏子 「そうなのか?」

ジョゼ 「ああ、そうとも」

杏子 「まあ、仮に実在するならそんな連中、あたしとマミで、いの一番にぶっ潰してやる」

ヘンリエッタ (……)

ヘンリエッタ (ジョゼさん)

ジョゼ (どうしたんだいヘンリエッタ? テレパシーで話しかけてきて)

ヘンリエッタ (私達のしていることって間違ってないですよね?)

ジョゼ (ああ、誤解されることもあるが、僕らのしていることは世の中に必要なことだ)

ヘンリエッタ (はい……ジョゼさん、私……)

ヘンリエッタ (どんなことがあってもジョゼさんだけは絶対にお守ります)

ジョゼ (ヘンリエッタ……)

杏子 「どうした? 二人とも黙りこくって」

ジョゼ 「失礼。ところでサクラ、君に聞きたいことがある」

杏子 「ああ、いいよ。あとあたしのことは杏子でいいよ」

ジョゼ 「キョウコ。マミって女性のことを連絡先も含め詳しく教えて欲しい。きっと彼女も君のことを凄く心配
    している筈だ。直ぐに連絡を取った方がいい」

杏子 「いけねえ! マミに知らせないと……。でもあたし今、携帯持って無いし……マミの電話番号は……
   ええと……アアッ! 何で思い出せない!」

ジョゼ 「住所は?」

杏子 「うろ覚えだけど……確かモンタルチーノの……」

現代日本 見滝原 ファストフード店

さやか 「まどか、杏子からメールの返信来たよ!」

まどか 「杏子ちゃんから? 見てもいい?」

さやか 「うん、ほら!」

杏子のメール

元気にしてるか? ってついこの前まで一緒に遊んだり魔女退治してたんだっけ。

イタリアは良いところだ。ピザは旨いし、スパゲッティも旨いし、勿論マミの料理も旨い。

今はマミの住んでるアパートに居候して、買い物や魔女退治しながら日々過ごしてる。

マミの言う敵とはまだ戦ってない。マミ曰く、こっちの生活に慣れるのを最優先しろだってさ。

あたしはマミと一緒に楽しくやっているから心配するなよ。

まどか 「杏子ちゃん元気そうだね」

さやか 「まあ、あいつはそれだけが取り柄みたいなもんだから」

さやか (いつか私もイタリアに行きたいよ、杏子)

現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート

マミ (『送信』っと)

マミ (佐倉さんのソウルジェムを無くしてから今日で3日目、未だ手がかりは無し)

マミ (彼女が携帯にロックナンバーをかけてないことが幸いして、こうして成り済ましメールが打てるわ。
   罪悪感はあるけど、日本の皆に本当のことなんて言えない。そのうち佐倉さんのソウルジェムが見つかって
   何事も無く一件落着って結末を期待をしている自分がいる)

マミ (私って最低だわ……)

マミ (ソウルジェムさえあれば魔法で体を再生出来る。戦うには非常に重要かつ便利な能力だけど……。
   私は、いえ私達はその力を過信し、自らの体を大事にすることを忘れていた。きっとバチが当たったのよ)

ピノッキオ 「あまり落ち込むな、マミ」

マミ 「そう言われても、やっぱり私!」

ピノッキオ 「探すったってアテがないだろう」

マミ 「それはそうだけど……」

ピノッキオ 「盗難届けは出したし、キュゥべえにも見つけ次第連絡寄越す様に話したんだろ。
      だとすればこれ以上出来ることはない」

マミ 「そうね……」

マミ (ピノッキオさん……。私が公社の存在を知るきっかけになった人)

マミ回想 現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート付近 露天

マミ (お野菜は何を買おうかしら。そう言えばそろそろ『彼』が帰って来るかも)

マミ (イタリアのシエナに留学した私は、このモンタルチーノにアパートを借りた。通学は1時間以上かかるが、
   中世で時が止まったようなこの田舎町に住めばその分家賃は安くなると思った)

マミ (来た!)

マミ 「ピノッキオさん」

ピノッキオ 「やあ」

マミ 「実は今日ケーキを焼いて。良かったら後で持って行きます」

ピノッキオ 「そんなことしなくていいって言ってるのに。近所に住んでるだけなんだから」

マミ 「お仕事のこと聞いていいですか? この前ジェノバに行くって聞きました」

ピノッキオ 「只の使いっ走りだよ」

マミ 「そうなんですか? 雰囲気で芸術家かなって思っていました。また後で。ケーキ持って行きます!」

ピノッキオ 「……」

マミ回想 現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート付近

マミ 「ボナセーラ、ピノッキオさん。買い物ですか?」

ピノッキオ 「ああ」

マミ 「そんなに沢山? ピノッキオさんはワイン飲むんですか?」

ピノッキオ 「お客がいるんだ」

マミ 「そうなんですか。だったら後でお客さんの分もお料理持って――」

ピノッキオ 「ごめん、遠慮しとくよ」

マミ 「そうですか……」

ピノッキオ 「マミ」

マミ 「何ですか?」

ピノッキオ 「僕に付き纏うのは止めてくれないか」

マミ 「えっ!?」

ピノッキオ 「迷惑なんだ。それに僕の傍に居ると碌なことにならないから」

マミ 「どうして?」

ピノッキオ 「僕は悪戯小僧のピノッキオだからさ」

マミ 「……」

マミ回想 現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先)

マミ (この前は『迷惑』なんて言われたけど……ここで諦めちゃダメ)

マミ (イタリアに来て数ヶ月、海外留学を果たした女子高生にロマンスの一つ位あったっていいじゃない!)

マミ 「ピノッキオさん?」

マミ (居ない? あら、玄関の鍵空いてるわ)

マミ (勝手に入ってしまったけど。本人が居ないのに鍵をかけていないということは……空き巣かも?)

マミ (安全を確認してから帰りましょう)

マミ (広いお家ね、ここに一人暮らしって寂しくなりそう。ここは応接室かしら)

マミ (テーブルに布が……周りにあるのは銃弾! じゃあこれってまさか!?)

バサァ

マミ (拳銃! 布の下に拳銃が……これって一体……? それにこの重量感、本物ね)

フランカ 「動くな!」

マミ (人が居た! この女の人、銃を持ってる!)

フランカ 「銃を捨てろ」

マミ 「いえ、これ私のじゃ」

フランカ 「動くな! ……少女……?」

フランカ 「噂の公社の殺し屋か!」

マミ (テーブルにあった銃に気を取られ過ぎたわ……)

今日はここまで
ナポリタンについては、杏子はナポリタンが横浜発祥と知らないという設定です
読んで下さった皆さんありがとうございました

フランコ 「こいつは何だ?」

フランカ 「知らないわ。あなたの言ってた例の暗殺者じゃないの?」

シュルルルルルル

フランコ 「な、何だ!?」

フランカ 「え!? 何、これ!?」

マミ (私のリボンの魔法、相手を生け捕りにするには本当に便利ね)

フランカ 「この、クッ、外れない?」

マミ 「諦めて。普通の人間にこれは解けないわ」

フランコ 「そういうお前は普通の人間じゃなさそうだな」

マミ 「……」

フランカ 「公社の話、噂じゃ無かったのね……」

マミ 「公社? さっきから言っている公社って――」

フランカ 「惚けるな。お前は公社の放った暗殺者なのだろう?」

マミ 「知らないわ」

マミ (私の魔法を見られたけど警察に引き渡しましょう。この人達が何を言っても警察だって魔法少女の話なんて
   信じないでしょうし)

ピノッキオ 「マミ」

マミ 「ピノッキオさん!?」

マミ (ピノッキオさんに見られた!?)

マミ (変身してないけどリボンは使ったし、え!?)

ダッ

マミ (ピノッキオさんが走って来る!? ナイフ!?)

フランコ 「殺すな!」

ピタッ

マミ 「ヒッ!?」

マミ (首筋にナイフの刃が……)

ピノッキオ 「何故だ?」

フランコ 「そいつから公社の情報を引き出せるかもしれん」

マミ (何てスピード! 一気に距離を詰めて私の首にナイフを突きつけた……)

マミ 「ピノッキオさん、私……」

ピノッキオ 「だから言ったろ。近づくのはよせって」

マミ (目の前にピノッキオさんの顔が……)

マミ 「ピノッキオさん、どうして!?」

ピノッキオ 「僕にはかまうなって言っただろ」

マミ (魔法少女の私は頚動脈をかき切られても死なない。でも失血して意識を失くせばそもそも魔法を使えなくなる。
   以前古代ローマでの戦いで首が千切れた時も、後で美樹さんが治癒してくれたからこそ生き返れた)

ピノッキオ 「どうやってフランコとフランカを縛りあげた?」

マミ 「……魔法よ」

ピノッキオ 「魔法?」

フランコ 「突拍子も無い話だな。ピノッキオに魔法少女、ここは童話の世界か?」

フランカ 「突拍子も無いことだってのは同意するけど彼女は嘘を付いてないと思うわ。突然地面から
     このリボンが生えてきて私達を拘束したの」

フランコ 「かく言う俺もこうして縛られてるし、魔法と言われても信じる他ない」

ピノッキオ 「フランコとフランカを自由にしろ」

マミ 「はい……」

マミ (私が魔法少女ってピノッキオさんに知られてしまった……)

フランコ 「ふう、一時はどうなるかと思った。ピノッキオ、礼を言う」

フランカ 「ピノッキオのおかげね。ありがとう」

ピノッキオ 「……お前は何者だ? マミ」 

マミ 「只の留学生です」

ピノッキオ 「その留学生が何故僕の周りを嗅ぎ回っていた?」

マミ 「酷い……嗅ぎ回るなんて言い方……」

ピノッキオ 「言わないなら殺す」

マミ (顔が近い、近いわ! ピノッキオさん!)

マミ 「その、興味があったから……」

ピノッキオ 「暗殺のターゲットとしてか?」

マミ 「いいえ、違うわ!」

ピノッキオ 「顔が赤い。嘘をついてる」

マミ 「嘘じゃない!」

ピノッキオ 「だったら何だ?」

マミ 「それは、その……」

マミ 「あなたとお友達になりたかったから!」

ピノッキオ 「それって……」

フランコ 「……」

フランカ 「……」

マミ 「そうよ! 一目惚れよ! 悪い!?」

ピノッキオ 「……」

フランコ 「……」

フランカ 「……」



フランコ 「ハハハハハ!」

フランカ 「フフフフフ!」

フランコ 「いや、驚いた! 首筋にナイフを突きつけている相手に愛の告白とは、イタリア人以上に情熱的だ」

フランカ 「フフフフフ、それで、ピノッキオはどう答えるの?」

ピノッキオ 「どうって……?」

フランカ 「女の子が勇気を持って告白したのよ。ちゃんと返事しなきゃダメ」

ピノッキオ 「ごめん、女の子は苦手なんだ」

マミ (そんな……)

フランコ 「まあ待て、ピノッキオこっちに来い。それにそこのお嬢さんもそんな顔するな。落ち込むのは早い」

ピノッキオ 「どういうことだ?」

フランコ 「いいからこっちへ。フランカ、盗み聞きするなよ」

フランカ 「男同士で内緒話? 何だか気持ち悪いわ」

ピノッキオ 「フランコ、何を企んでいる?」

フランコ 「あの留学生の魔法は使える。それに本物の公社の暗殺者が来た時に備え、彼女が欲しい」

ピノッキオ 「それで僕にあの子と付き合えと」

フランコ 「お友達からということでいい」

ピノッキオ 「僕の腕を信用してないのか」

フランコ 「お前は強い。ただ、もう一人腕の立つ人間がいれば俺とフランカそれぞれに護衛がつけられるから
     別行動が取れる。戦略の幅が広がるんだ」

フランコ 「それに裏切らない人間が欲しい。お前さんが邪険にしない限り、あの娘は俺達を簡単に
     裏切ったりはしないだろう」

ピノッキオ 「……分かった」

フランカ 「話は終わった?」

フランコ 「ああ。ピノッキオ、ちゃんと返事してやれ」

ピノッキオ 「……お友達からでよかったら、これからよろしく」

マミ 「!」

マミ 「よろしくお願いします!」

マミ (良かった……)

マミ (金髪で端正な顔立ちのピノッキオさんだけど、本当は一目惚れとは違うと思う)

マミ (私は自分が普通の人と違うとどこかで思っている。優越感と劣等感の綯い交ぜとして。だから
   鹿目さんは別として魔法少女以外の友達がなかなか出来なかった。勉強も頑張り、ご近所でもクラスでも
   当たり障りのない付き合いをしてきた一方で、所詮は『いい人間』を演じているのではないかという
   自己嫌悪があった。そしてそれは自分が人に言えない秘密を持っている劣等感を払拭する為ではないかと)

マミ (ご近所付き合いを続けるうちに、ピノッキオさんは何か秘密を、悲しい過去を抱えて生きている様に感じた。
   一方でこの人は世間と距離を置きながら、そのことで人からどう思われるかをあまり気にしない様に見えた。
   ニヒリズムを気取る幼稚さではなく、諦観でもなく、かといって単なる空気が読めない人とも違う。
   なによりピノッキオさんは友達が少ないように見えても寂しそうには見えなかった)

マミ (無理している私。憧れのイタリア暮らしを実現したとはいえ、共に死線を潜り抜けてきた仲間に暫しの別れを
   告げ、遠い異国で再び一人ぼっちに戻った私。寂しかった。だからこそ、孤立はしていても孤独に見えない彼に
   憧れた。この人に隠された精神的な強さの理由を私は知りたかった)

今日はここまで。
またタイトル入れ忘れた。タイトルは
第8話 『魔法少女とピノッキオ』
です。
読んで下った皆さん有難うございました。

第9話 『再びローマへ』

現代イタリア 社会福祉公社 ゲストルーム

杏子 「思い出した! マミの携帯番号!」

ジョゼ 「そうか、良かった」

杏子 「ジョゼさん、ここの電話借りたいんだけど」

ジョゼ 「電話は警察がかける。途中で君に代わる。マミさんの電話番号を教えてくれないか」

ジョゼ (最初は「サクラさん」と声をかけようとした)

ジョゼ (しかし彼女がフランクに話しかけてきたのでこっちも「サクラ」と呼んだ)

ジョゼ (そうしたら「キョウコでいい」と言われた)

ジョゼ (決して悪い子ではなさそうだが、普段接しているヘンリエッタとは雰囲気が違う。
    距離感が掴みにくい)

杏子 「マミの奴、電話代わったら怒鳴りつけてやる!」

杏子 (あたしのソウルジェムをスリに盗まれるってドン臭いにも程があるだろ!)

現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート

マミ (通話終了……)

マミ (良かった……本当に良かった……。佐倉さんが無事で、声も聞けて)

マミ (でも凄く怒ってた。無理も無いか)

マミ 「これから迎えに行かなきゃ。ここからローマは結構遠いわね」

マミ (あとでピノッキオさん達にも佐倉さんを紹介しなくちゃ。これから共に戦う仲間として)

現代イタリア ローマ市内 乗用車内

ヒルシャー 「間もなく中央警察署だ。トリエラ、準備を頼む」

トリエラ 「分かりました。ヒルシャーさん」

杏子 (準備?)

ポワワワワ……シャキーン

杏子 (こいつ、変身した!)

トリエラ 「ちょっと失礼」

杏子 「えっ!?」

杏子 (こいつ、おでこをあたしにくっつけて……)

パアアアアアアッ

現代イタリア ローマ市内 ローマ中央警察署

マミ 「佐倉さん!?」

杏子 「マミ!?」

マミ 「ごめんなさい! 私のせいで!」

杏子 「こっちこそ悪かったな。勝手に居なくなって……」

マミ 「えっ……?」

杏子 「何だよその目は。あたしが人に謝るのがそんなに珍しいか?」

ヒルシャー 「お取り込み中失礼」

マミ 「警察の方ですか? ご迷惑をおかけしました」
 
ヒルシャー 「あまり気にしないで下さい。それより彼女のことでちょっと」

現代イタリア ローマ市内 テルミニ駅

マミ 「……」

杏子 「どうした、マミ?」

マミ 「えっ?」

杏子 「あたし、マミに心配かけたのは悪いと思ってる。ただ、何も覚えて無いんだよ」

マミ 「私達はこうして無事再会出来た、それでいいじゃない」

杏子 「ああ、そうだね」

マミ (おかしい……。電話越しでは私がソウルジェムを失くしたことを責めてたのに……。
   今は行方を晦ましたことを申し訳なく思っているみたい……。
   そもそも、ソウルジェムだけだった佐倉さんがどうやって身体を再生出来たのか……)

マミ回想 現代イタリア ローマ市内 ローマ中央警察署

マミ 「記憶喪失!?」

ヒルシャー 「はい、サクラさんは市内を彷徨っていたところを警察に保護されたのですが、
      彼女自身そのことを覚えてないんです」

ヒルシャー 「病院でCTスキャン等の検査を行い、脳に異常が無いことを確認しました。
      外傷も無く健康そのものだと医者は言ってますし、事件性は低いと思います。
      あなたの話では空港で彼女と逸れたとのことですが」

マミ 「はい……」

ヒルシャー 「記憶喪失といっても抜け落ちている記憶はここ2、3日の間だけです。
      今後の生活に支障が出ることはないでしょう」

現代イタリア ローマ市内 テルミニ駅

マミ (腑に落ちないところはある。でも今は、記憶があやふやで不安になっている彼女を元気付けるのが先。
   謎解きはその後でもいい)

マミ 「ねえ、佐倉さん?」

杏子 「どうした?」

マミ 「折角ローマに来たんだから少し観光していかない?」

古代ローマ バイアエ ルシウス設計の泥沼テルマエ

ハドリアヌス 「硫黄の匂いが強いが、これも一興……」

ルシウス 「……」

ルシウス (泥だけサトゥルニアから持って来て再現はしたものの……)

ルシウス (未来のローマで見た泥沼温泉はどこにあったのだろうか。あまりに版図が広がった帝国領内で無闇に
     捜索範囲を広げれば人手も時間もかかり過ぎてしまう)

ルシウス (が、それでもこのバイアエの地に泥沼温泉だけでなく、海水温泉や岩場のラコニクム(蒸気風呂)をも
     再現出来たのは大きい)

ルシウス (陛下の為にも、ここバイアエの地にテルマエの理想郷を造る!)

ハドリアヌス 「どうしたルシウス、難しい顔をしておるが」

ルシウス 「ハッ」

ハドリアヌス 「肌に良いという泥のテルマエ、完成したではないか。そなたの造るテルマエはどれも独創的で
       心地良いものばかりだ……」

ルシウス 「身に余るお言葉、光栄にございます」

ハドリアヌス 「只、一つ考えてくれぬか」

ルシウス 「と、おっしゃいますと?」

ハドリアヌス 「このバイアエの地をテルマエの理想郷にする。その為にそなたはここに様々なテルマエを
        造ろうとしている。それはいい。だが多種多様なテルマエを造るだけではいかん。
        それでは足りぬのだ」

ルシウス 「足りない物……」

ハドリアヌス 「さよう。このバイアエのテルマエ群には象徴が無い!」

ルシウス 「!」

ハドリアヌス 「この地を訪れた者が『バイアエ』と聞いて真っ先に思い浮かべる場所。再度訪れた者が
       それを見た時に『ああ、私は再びバイアエに来たのだ』と思える場所。噂を聞いた者が
       まず訪れようとする場所。即ち、この地に多くの人間を呼び寄せる象徴が必要だ」

ルシウス (そうだ。私は様々な種類のテルマエを造ることを考えるあまり、そのことに気付かなかった……)

ルシウス 「畏まりました陛下。必ずやバイアエの象徴を造ってみせます!」

古代ローマ バイアエ 公衆浴場(テルマエ)内

ルシウス (バイアエの象徴を造る。この地をハドリアヌス帝のご威光を示す場所にしたい)

ルシウス (規模が大きいとか荘厳といったことだけではなく、何か人を惹きつけるアイデアは無いものだろうか)

ルシウス (再び、未来のローマへ!)

ゴポポポポポポッ

現代イタリア ローマ市内 トレビの泉

杏子 「すげぇ! これがトレビの泉か!」

マミ 「私も最初に来た時は感動したわ」

杏子 「大きいな。まるでプールだ!」

マミ 「佐倉さん、ここのおまじない知ってる?」

杏子 「おまじない?」

マミ 「そう。泉に背を向けてコインを投げるとおまじないが叶うの」

杏子 「今、小銭持って無い……」

マミ 「コインは私が持ってるから。一緒にやりましょ」

マミ 「行くわよ!」

ゴポポポポポポッ

マミ&杏子 「せーの!」

ポイッ

ザパァッ

ルシウス 「ぷはァッ!」

コツン

ルシウス 「痛ッ!」

ルシウス (ここは……どこだ……痛いッ! 何か飛んで来た)

ルシウス (これは……コインではないか? コインをテルマエに投げ込んでいる……。何て大勢の人間だ)

ルシウス (このテルマエ、水ではないか。窯が壊れているのか? これではあまり期待は出来ない……)

ルシウス (うおおっ!?)

ルシウス (振り返って初めて気付いた。何という荘厳かつ美しい彫刻! これ程大規模で荘厳な彫刻を
     施したテルマエ……)

ルシウス (ローマのテルマエは決して廃れてはいなかったのだ……)

マミ 「ねえ、佐倉さん……」

杏子 「ああ、あれはもしかして……」

マミ (ルシウスさんじゃない!)

杏子 (何であいつがここに!?)

ルシウス (この彫刻の数々、マルクスに見せたい……。この宮殿の背後に窯があるのだろうか?)

観光客1 「あの人何やってるのかしら?」

観光客2 「何か勝手に泉に入っている奴がいるぞ?」

マミ 「このままでは警察が来るわ!」

杏子 「そいつはまずいだろ! あいつを連れ出すぞ!」

ルシウス (ほう、小さな滝のように水が流れ落ちているのだな)

杏子 「何やってるんだ、おっさん!」

ルシウス 「杏子!?」

マミ 「ルシウスさん」

ルシウス 「マミ!?」

マミ 「ここから出ましょう、ルシウスさん」

ルシウス 「離せ! 私はここのテルマエを調べるのだ!」

マミ (キュゥべえがいないから翻訳が出来ない。言葉が通じない!)

警察官 「お前達、何をやっている!?」

杏子 「マズイ! ズラかれ!」

マミ 「ここは強硬手段しかないわね。佐倉さん、ルシウスさんを捕まえてから逃げるわよ!」

マミ (リボンで!)

シュルルルルル

杏子 (多節槍を絡ませる!)

ジャラララララ

ルシウス 「おのれ! また私を肉片にする気か!」

杏子 「逃げられたか!」

マミ 「私達も逃げましょう!」

現代イタリア ローマ市内

杏子 「ハァ、ハァ、とんでもない目にあった」

マミ 「ええ、全くだわ」

杏子 「ハハハハハ」

マミ 「フフフフフ」

杏子 「でもルシウスを見失ったぞ」

マミ 「そうね、大丈夫かしら……?」

杏子 「いざとなれば古代に帰れるから何とかなるんじゃない?」

マミ 「そうかも知れないけど……」

杏子 「マミは相変わらずお人よしだな。でも付き合うよ」

マミ 「ありがとう。でもその前にキュゥべえを呼びましょう。このままではルシウスさんと話も出来ないわ」

今日はここまで。
あと今頃気付いたが訂正

スレ27
誤 ルシウス回想 古代ローマ帝国 パイアエ ハドリアヌス帝別荘
正 ルシウス回想 古代ローマ帝国 バイアエ ハドリアヌス帝別荘

読んで下った皆さん有難うございました。

第10話 『奴隷解放宣言』

マミ 「キュゥべえ、来てくれてありがとう」

QB 「やあ、マミ、杏子」

杏子 「さっきルシウスを見失ったんだ。お前も探すの手伝えよ」

QB 「彼に何か用かい?」

杏子 「いいから」

マミ 「大丈夫とは思うけど、万一ルシウスさんに何かあったらいけないわ。キュゥべえ、翻訳をお願い。
    あなたが居ないとルシウスさんと話が出来ないの」

QB 「分かったよ、マミ。あと、市内の他のボクの個体も動員して彼を探そう」

マミ 「ありがとう、キュゥべえ。でもその必要は無いわ。彼の行き先は分かるから」

マミ 「ルシウスさん!」

ルシウス 「マミ! 杏子!」

ルシウス (これは! 私の足にマミのリボンが!)

杏子 (どさくさ紛れに透明化したリボンをルシウスの足に括り付けてたなんて、抜け目ないなマミは)

マミ 「ルシウスさん、私達に戦う意思は無いわ」

ルシウス 「そう言ってまた私を肉片にする気か?」

杏子 「今回は覗かれて無いし、そんなことしないって」

QB 「ルシウス。二人はキミを心配して来てくれたんだ」

ルシウス 「キュゥべえ!?」

QB 「この時代でキミがトラブルに巻き込まれてないかと思ってね。彼女達はキミを気にかけてるんだ」

ルシウス 「そうだったのか……」

マミ 「さっき私達が貴方を止めようとしたのは、警察……あそこにいた衛兵が貴方を捕まえようとしたからよ」

ルシウス 「テルマエ技師がテルマエに入るのがいけないのか?」

マミ 「ええと……」

マミ (何かうまい理由は……)

マミ 「あのテルマエはローマの神を祀っている場所なの。勝手に入っちゃいけないの」

ルシウス 「!」

マミ 「だから一旦出ましょうと言いたかったの」

ルシウス 「そうだったのか……。手間をかけさせたな」

杏子 「気にするなって」

杏子 (ところでマミ。あそこって神様を祀ってるのか?)

マミ (そういうことにしておきましょう。実際トレビの泉にはネプチューンの彫刻もあるし)

ルシウス 「では、コインを投げてたのは願掛けか何かだったのか?」

マミ 「そう、コインを1枚投げると、もう一度あの場所に来られると言われているわ」

杏子 「さっきマミは2枚投げてたよな」

マミ 「に、2枚投げた方がご利益ありそうでしょ」

マミ (2枚投げたら恋愛成就の願掛けになることは黙っておきましょう……)

杏子 「これがコロッセオか……デカイなあ……」

観光客3 「ちょっといいですか?」

マミ 「はい、何でしょうか?」

観光客3 「その古代ローマ風の服来た人って一緒に記念撮影してくれるんですか?」

マミ 「ごめんなさい、この人は――」

杏子 「ああ、そうだよ。お代はたったの4ユーロ!」

観光客3 「どうする、4ユーロだって」 

観光客4 「あっちのローマ兵の格好した人は15ユーロとか言ってたからお得じゃない?」

観光客3 「そうだね。この人見た目とかホントにローマ人っぽいし。それじゃお願いします」

杏子 「毎度あり~!」

マミ (ちょっと、佐倉さん!)

杏子 (いいじゃん、いいじゃん。向こうも写真撮りたがってるんだからさ)

観光客3&4 「お願いしまーす」

杏子 「もう少し寄って……行くよ! はいチーズ!」

パシャ

ルシウス 「うおっ!?」

ルシウス (小さな箱が光った!?)

杏子 「おっさん、目閉じちゃ駄目じゃん」

マミ 「ルシウスさん。大丈夫だからちゃんと目を開けたままでいてね」

杏子 「ハイ、もう一度いきまーす。ニッコリ笑って……はいチーズ!」

パシャ

ルシウス (何なのだ、あの光る小さな箱は……)

杏子 「古代ローマ人との写真撮影いかがですか!」

観光客5 「ねえ君」

杏子 「ハイ」

観光客5 「その格好、修道服のコスプレなの。一緒に撮らせてよ」

杏子 「いや、あたしは……」

観光客5 「ローマといえばバチカンもあるし、修道服も有りだと思うよ」

杏子 「こっちの古代ローマ人と4ユーロで写真撮影って話なんだけど……」

観光客5 「君を撮らせてくれたら10ユーロ出すよ」

杏子 「毎度あり~!」

観光客6 「俺はそっちのコルセットの女の子とツーショットで」

マミ 「いえ、私は……」

観光客6 「その格好、マスケット銃兵でしょ。コロッセオの時代ではないけど似合ってるよ」

マミ 「有難うございます……」

観光客6 「この子とツーショットで」

杏子 「15ユーロだよ」

観光客6 「OK」

杏子 「毎度あり~!」

杏子 (何がツーショットだ。あたしは余計か!)

観光客7 「お嬢さん二人共入ってよ」

杏子 「分かりましたぁ! ルシウス!」

ルシウス 「何だ?」

杏子 「デジカメを代わりに撮ってよ」

ルシウス 「デジカメ?」

マミ 「そうね、簡単にいうと絵が直ぐに出来上がる箱なの」

ルシウス 「絵が出来上がる?」

マミ 「使い方だけ簡単に説明するわ。今はお客様を待たせちゃいけないから」

杏子 「そのデジカメ、お客のだから落とすなよ!」

ルシウス (これは何なのだ!? 目の前の人間が小さな箱に描かれた絵の中に居る!?)

ルシウス (しかもこの絵、動くぞ!)

杏子 (あーあ、デジカメに興味も持っちゃったよ……)

マミ 「原理は後で説明するわ! 今は教えた通りにボタンを押して!」

ルシウス (マミの説明ではこの絵に全員が入るようにしてこの出っ張りを押すのだな)

パシャ

杏子 「いきなりシャッター押すか? 押す前に何か言ってよ」

ルシウス 「何かとは何だ?」

杏子 「写真撮る前は『ハイ、チーズ!』って言うんだ。相手にシャッター押すタイミングを知らせる為に」

ルシウス 「ハイ、チーズ」

杏子 「そう、これからはそう言――」

パシャ

杏子 「ちょ、今のは無し!」

杏子 「えらい儲かったな。元手はタダみたいなもんだし」

マミ 「これで良かったのかしら」

杏子 「いいっていいって。労働の対価なんだから」

ルシウス 「そろそろいいか?」

マミ&杏子 (もしや……)

ルシウス 「あの小さな箱の原理を説明してくれ。あとAIHONとかいう薄い板についてもだ。
      なぜあの様な薄っぺらい物体の中に人間やら何やら入れるのだ!? 私はそれが知りたい!」

ルシウス 「あの中は一体どうなっているのだ!? どういう仕組みになっているのだ……!?」

杏子 (どうすんだよ? iPhoneの原理とかこいつにどうやって理解させるつもりさ?)

マミ (取りあえず……うまく説明するわ)

マミ 「イカヅチの力よ、ルシウスさん!」

ルシウス 「な……何? イカヅチ……?」

マミ 「細かい所は説明出来ないけど……えっとつまり! 私達は雷の力で様々な物を動かしているの!」

ルシウス (イカヅチだと!)

ルシウス (全能の神ユピテルが未来の民に雷の力を放出しているというのか……!?)

マミ (大分落ち込んでるわね、ルシウスさん……)

杏子 (あーあ、自信失くしちまったなこりゃ)

ルシウス (待て……。冷静にならねば……。雷とは大プリニウスの著書によれば雲の摩擦で
     生じた光が地上に落ちたもの……。だがそれをどうやって使いこなしているというのだ!?)

ルシウス (敵う訳が無い……。そのような力を持った民族に帝国は滅ぼされたというのか!?)

マミ 「ルシウスさん……」

ルシウス 「……ローマには未だ誰もこのような力を見つけた者はいない……。
      私の誇るべきローマには……」

マミ 「ルシウスさん、ローマの文明は雷の力に決して劣るものではないのよ」

杏子 「そうだよ、このコロッセオだってローマ人が造ったんだろ。あたし驚いたよ!」

ルシウス 「……気を遣わせて悪いな。マミ、杏子……」

マミ 「……ねえ皆で、その……ご飯にしない? 二人共お腹空いたんじゃない?」

ルシウス 「いや、あまり食事という気分では……」

マミ 「そう……」

マミ (皆で食事してお喋りすれば少しはルシウスさんも気分転換になるかと思ったけど……
   そう簡単にはいかないか……)

杏子 「いや、あたしは腹が減った。それに金ならさっき稼いだ」

ルシウス 「……」

杏子 「ここで再会したのも何かの縁だ。付き合ってよルシウス」

ルシウス 「……」

杏子 「悩むんならローマで悩んでよ。あたし等まで気が滅入っちゃうじゃん」

ルシウス 「……そうだな。食事にしよう」

杏子 「そうと決まったら店探しだ! 変身も解いてっと」

パアアアアアアッ

マミ 「!?」

マミ 「佐倉さん!?」

杏子 「どうした?」

マミ 「服、着てなかったの!?」

杏子 「え? アアッ!」

ルシウス (裸!?)

杏子 「見るなぁ!」

バキッ

現代イタリア ローマ市内 レストラン

杏子 「さっき殴ったのは仕方ないだろ……」

ルシウス 「私だって見ようとして見たのではない。そもそも自ら全裸になったのはそちらではないか」

杏子 「まさか変身解いたら服着てなかったとは思わなかったんだよ!」

マミ (ソウルジェムだけの状態から身体を再生したら、着衣は魔法服だけになる。変身を解けば裸になる)

マミ (佐倉さん本人に身体を再生した記憶は無い。無意識に体が再生出来たのか。
   それとも何者かが彼女の身体を再生させた?)

QB 「ボクの席は無いのかい?」

マミ 「ごめんなさいキュゥべえ、貴方は普通の人には見えないから。でも出てきた料理、分けてあげる」

QB 「ありがとう」

ルシウス 「そうか、それが今のマミの目的か……」

マミ 「そうよ。社会福祉公社に囚われの身となり、戦いを強いられている魔法少女の解放。
   佐倉さんは私の考えに賛同してついて来てくれたの」

杏子 「あたしとマミでその組織をぶっ潰してやるのさ」

ルシウス 「感心しないな」

マミ 「どういうこと?」

ルシウス 「お前達、自分達がしようとしていることが分かっているのか?」

マミ 「ルシウスさんは私達が間違っているとでも言うの?」

ルシウス 「他所の屋敷の奴隷を勝手に逃がしたら罪に問われるぞ!」

いつの間にか眠っていた
今日はここまで
読んで下さった皆さん有難うございました

ルシウス 「奴隷がいない?」

マミ 「そうよ」

ルシウス 「奴隷無しでどうやって生活を……まさか、イカヅチの力!」

マミ 「そう、イカヅチの力」

マミ (電気と説明しておけばよかったかしら。一々言いづらいわ)

マミ 「私達はイカヅチの力を生み出し、それを溜めて、必要に応じて使用する。それによって
    奴隷に頼らないで快適な生活を送れるの」

ルシウス (奴隷の要らない世界になっていたとは……。思いもよらなかった……)

ルシウス 「イカヅチの力……私に教えてくれないか?」

マミ 「それは出来ないわ」

ルシウス 「何故だ?」

マミ 「イカヅチの力は個人で生み出せるものではないわ。それにその力で動く道具も個人で
    そう簡単に造れるものではないの」

ルシウス 「ではさっきコロッセオ周辺で見た人間はどうして光る箱を使えたのだ?」

マミ 「彼らは光る箱を買ったの。光る箱を作っているところは作り方を秘密にしている」

ルシウス 「AIHONという薄い板も製造方法は秘密なのか」

マミ 「ええ」

ルシウス 「あれを作ったのは一体何者なのだ?」

マミ 「iPhoneはスティーブ・ジョブズが生みの親になるのでしょうね」

ルシウス 「会ってみたいものだ。その人物に」

マミ 「昨年亡くなったわ」

ルシウス 「そうか……残念だ」

杏子 (今2012年だから……死んだのは2011年になるのか)

ルシウス 「旨い」

マミ 「美味しいわね。……はい、キュゥべえ」

QB 「ありがとう、マミ」

杏子 「お前は食わなくても大丈夫だろ」

QB 「ボクにだって味覚はあるさ」

ルシウス 「さっき奴隷は居ないといったな」

マミ 「ええ」

ルシウス 「ここで給仕している者達も奴隷やリベリ(被解放自由人)では無く、市民ということか?」

マミ 「リベリってのはよく分からないけど……少なくとも奴隷は居ないわ」

ルシウス (奴隷の居ない世界か……。未だにピンと来ない。初めて未来のローマで見たあのカルタゴ人の少女
     ですら奴隷ではなかったというのか?)

杏子 (こいつに奴隷制度を悪と思わせるのは難しそうだ)

ルシウス 「話を戻すが、さっきの話ではその公社という組織は攫ってきた娘を魔法少女にして
     殺人をさせているのだな」

マミ 「ええ」

ルシウス 「勿論キュゥべえは知っていたんだろう?」

QB 「勿論さ。公社の魔法少女もボクが契約したからね」

杏子 「お前は契約の為なら手段を選ばないのかよ?」

QB 「どうしてだい。ボクはきちんと同意の上で契約を結んでいるよ。願いだって叶えている」

マミ 「やめましょう。残念だけどその部分についてはキュゥべえとは分かり合えないわ」

ルシウス 「だったら敵の情報をキュゥべえから聞き出せば攻略は早い」

マミ 「ええ、その通りよ。既に公社についてこれまで色々キュゥべえから話を聞かせて貰ったの」

杏子 「気に入らねぇな」

マミ 「何となく言いたいことは分かるわ、佐倉さん」

杏子 「キュゥべえ、お前……あたしらのことを公社にバラしてないよな」

QB 「キミ達のことは公社に話してないよ」

杏子 「それは連中があたしらのことを質問してこないからだ」

QB 「そう、聞かれなかったからね」

杏子 「もし公社があたしらの存在に気付いてお前に質問したら、お前はあたしらのことを公社に
    バラすのか?」

QB 「聞かれたら答えるさ」

杏子 「問題はそこなんだよねえ。こいつには口止めが効かないし」

マミ 「これまで何度か小競り合いはあったけど、私はまだ顔を見られてないわ」

杏子 「ここじゃあたしらは外国人だもんな。タダでさえ目立つ……」

マミ 「どうしたの、佐倉さん」

杏子 「マミ、一つ聞きたいんだけど、公社と戦う時は魔法少女の格好に変身するんだよな?」

マミ 「ええ」

杏子 「顔を隠しても服装は見られてる訳だ」

マミ 「そうね……」

杏子 「あたしらが写った今日の記念写真が公社に渡ったらあたしら顔バレするぞ」

マミ 「……」

マミ 「あの、大丈夫じゃない? 観光客の写真が公社に流れるとは考えにくいわ」

杏子 「顔が引きつっているよマミ」

マミ 「……」

杏子 「ハァー食った食った」

マミ 「……」

杏子 「まあ、公社にあたしらのことが知られたらその時はその時さ」

マミ 「そうね、一度戦うと決めたもの!」

ルシウス 「そろそろ私はローマに帰ろうと思う」

杏子 「ここもローマだよ」

ルシウス 「そうだったな」

杏子 「水場を探すんだろ」

マミ 「噴水は観光スポットだから行けば人目につくわ。少し遠いけど、テヴェレ川に飛び込むのが
    一番手っ取り早いわね」

現代イタリア ローマ市内 テヴェレ川河川敷

ルシウス 「ここまで案内してくれて助かった」

マミ 「それじゃね。ルシウスさん」

杏子 「元気でな、ルシウス」

杏子 (あたしが以前ルシウスにかけた魔法、あたしらの顔をみたら水場に飛び込むまでは一切の時間操作の
   魔法が使えなくなる。元々こいつに風呂を覗かれるのが嫌でかけた魔法だけど、こいつは仕事熱心な
   だけだ)

杏子 (こいつは今のあたしと同じ。今まで住んでいたところとは全く別の世界に来たんだ。勝手の分からない
   世界に来たこいつを無闇に肉片にしたのはやり過ぎだったかな……)

ルシウス 「ああ、またこの時代に来るさ。二人が力を合わせて目的を果たすことを祈っている」

ザバァン

ゴポポポポポッ

古代ローマ バイアエ ルシウス設計の噴水テルマエ

客1 「神を祀るテルマエか。俺もご利益があればいいな」

ポーン

客2 「この彫刻、大きいなあ。しかも綺麗だ」

ポーン

マルクス 「お客が次々にコインを投げ込んでいる。賑わってるな」

ルシウス 「ああ、お前が造ってくれた彫刻が圧巻だからな。大勢の人々が立ち止まって見ている」

絵師 「いいかい? ハイチーズ!」

客3 「……」

マルクス 「ここに来た思い出に絵師に似顔絵を描いて貰う。こっちも盛況じゃないか。
     ただ、『ハイチーズ』って何だ?」

ルシウス 「これから似顔絵を描き始めるから動くなという合図だ」

今日はここまで
杏子のセリフ通りこのSSでの現代は2012年という設定。
読んで下さった皆さん有難うございました。
特にいつも乙ですしてくれる方に感謝します。

第11話 『クラエス破壊命令』

現代イタリア 社会福祉公社本部 魔法少女宿舎 トリエラとクラエスの相部屋

トリエラ 「それじゃ行ってくるわね」

クラエス 「いってらっしゃい」

クラエス (これからダメージテストまでしばらく時間が空くわね)

クラエス (トリエラはヒルシャーさんとお仕事。一度はごっそり減ったクマのヌイグルミも大分増えた)

クラエス (ヒルシャーさんはトリエラへのプレゼントをいつもテディベアにしている。だが決して手抜きではない。
     あの人は実直で少し不器用なドイツ人というだけ。そのヒルシャーさんの性格を反映するかのように
     トリエラはネクタイを締め、スラックスと革靴という出で立ちで任務に赴く。髪型はツインテールだか
     それに合わせて可愛い服とか靴をヒルシャーさんにねだらないトリエラもある種不器用)

クラエス (そのくせ任務に関しては優秀なところまで二人はそっくり。あの二人は似合いのフラテッロ)

クラエス (それに引き換え私は……一人で居るのがお似合いだ)

現代イタリア 社会福祉公社本部 菜園

クラエス (私は変身が出来ない。出来損ないの魔法少女)

クラエス (ジャンさん曰く『変身も出来ない魔法少女に担当官をつける余裕などない』)

クラエス (キュゥべえに理由を聞けば分かるだろうけど、それをする気にならない。所謂条件付けだ)

クラエス (私達魔法少女が余計なことを考えずに済む為の洗脳、出来損ないでも記憶や感情は弄られているらしい)

クラエス (それでもこうして天気のいい日に土いじりをしていると自分が一応血の通った人間であると
     思えたりする。流石にガーデニングを趣味とする条件付けをされたとは考えにくい。
     無為の時を過ごす喜び……この気持ちはきっと私の本当の感情なのだ)

ヘンリエッタ 「クラエス」

クラエス 「今日はジョゼさんと一緒じゃないの?」

ヘンリエッタ 「ジョゼさんは今、会議なの……。クラエス、私も一緒にお花植えていい?」

クラエス 「うん、いいよ」

クラエス (香水の香りがする……。服はこの前アルマーニジュニアを着てたし、ジョゼさんは彼女にかなりお金を
     かけている。ジョゼさん、彼女居ないのかしら? 尤も、居たら居たでヘンリエッタが何をしでかすか
     分かったものじゃない)

現代イタリア 社会福祉公社本部 練兵場

クラエス (リコのショートカットって担当官のジャンさんの趣味かしら? いつもズボンだし。
     『リコ』って名前自体男性名だし)

ジャン 「始めろ」

リコ 「ハイ、ジャンさん。ごめんね、クラエス」

クラエス 「構わないわ」

クラエス (ダメージテストか……後で治ると分かっていても気分のいいものではないわ)

バララララララ

クラエス 「グフッ! グガッ、ハッ!」

バタリ

ジャン 「よし、クラエス。回復魔法を使わずに立ち上がれ」

クラエス (MG3で蜂の巣にしておいてよく言う……)

クラエス 「グッ、グウッ!……ハヒッ、ハヒッ、ハヒッ」

ビアンキ 「立った、立ったぞ、クラエスが立った!」

クラエス (ダメ、失血がひどい……意識が……)

バタリ

ビアンキ 「クラエス!」

ジャン 「リコ、クラエスに回復魔法を」

現代イタリア 社会福祉公社本部 医務室

ビアンキ 「立てるかい? クラエス」

クラエス 「ハイ、ビアンキ先生」

ビアンキ 「お疲れ様。いつもありがとう。来週は人工心臓の移植手術がある。よろしくね」

クラエス 「分かりました……」

クラエス (フランス革命期のパリの処刑人シャルル・アンリ・サンソンは処刑や刑罰によって人体を
     どこまで傷つければ死なないかを熟知していたと言われている。彼は仕事柄、解剖学に優れた
     優秀な医師となった)

クラエス (公社が私を使って行っていることはそれと同じ。扱うのが罪人ではなく魔法少女になっただけだ)

ビアンキ (まだ話題にはなってないが最近の論文でSTAP細胞ってのが出てきたし、研究することは
     山ほどある。クラエスには済まないが、イタリアの医療技術の発達に公社が貢献しているという事実が
     公社存続に大きく影響するんだ)

クラエス (公社の設立がもっと早ければ、私の背中に人工の耳が移植されたのかしら? 
     バカルディマウスみたいに)

現代イタリア ローマ市内 路地裏 魔女結界内

ベアトリーチェ 「ベルナルドさん。間もなく結界の最深部です」

ベルナルド 「おう、手筈通り行くぞビーチェ。クラエス、使い魔を引き付けるんだ」

クラエス 「はい」

ペトルーシュカ (クラエスが使い魔を引き付けている間に私とベアトリーチェで魔女を倒す)

1です。
夜中、書いてる途中で寝てしまった。続きを書いたので投下します。

現代イタリア ローマ市内 路地裏

ペトルーシュカ 「ハァッ!」

バキィ

クラエス (赤い髪を振り乱して相手の攻撃を回避し、打撃を打ち込むペトラ。彼女の体術は美しい。手足も長く
     様になる。バレリーナの様だ。バレエ好きのオリガさんから格闘訓練を受けているから、という訳では
     あるまい。ここの魔法少女は私も含め、多かれ少なかれオリガさんから格闘戦の手ほどきを受けている)

使い魔 ケケケケケケ

クラエス 「そこ!」

バラララララ

クラエス 「変身出来なくても銃火器さえあれば、使い魔程度なら私だって……」

クラエス (数が多い上にすばしっこい)

ベアトリーチェ 「クラエス、後ろ!」

クラエス (ハッ! 魔女!)

グシャア

ペトルーシュカ 「目が覚めた?」

クラエス 「……ええ」

ベアトリーチェ 「魔女は倒した。今、二人で回復魔法かけてる。もうすぐ治るわ」

クラエス 「ありがとう……」

ベルナルド 「ビーチェ、今日もお手柄だな。よくやった」

ベアトリーチェ 「いえ、この位、大したことないです」

ベルナルド (俺と組んでもう結構経つが……腕を上げたなビーチェ)

アレッサンドロ 「魔女がクラエスに向かった隙をついて二人が魔女を倒したんだ。お疲れ様、クラエス」

クラエス 「いえ、私は……」

ペトルーシュカ 「私のことは褒めてくれないんですか?」

アレッサンドロ 「そう拗ねるな、俺達フラテッロだろ。お前の活躍もちゃんと認めてるさ」

クラエス (どうやら私はいつも通り囮としての役目は果たせたらしい)

アレッサンドロ (クラエスには担当官が居ないんだ。誰かその場にいる大人が褒めてやらないといけないだろ……)

現代イタリア 社会福祉公社本部 図書室

クラエス (今日は任務で2回治癒魔法を受けた)

クラエス (自身が怪我の治療や手術を受けた回数を数える私と、自らの手で殺した敵の人数を数えるヘンリエッタ。
     どちらが前向きか? 考えるまでもなくヘンリエッタだ。彼女は担当官のジョゼさんを盲愛し、
     その期待に応えようとしているが、それはエッタの空回りなのかもしれない。
     ジョゼさんは幾ら任務とはいえ彼女が人を殺すことを望んでいるようには見えないのだ。
     彼はヘンリエッタを実の妹のように大事にしている)

クラエス (私も担当官が居ればエッタのようにもっと前向きになれるのだろうか?
     いや、そもそもこれまでの私には本当に担当官が付かなかったのか?)

クラエス (それを解く鍵を最近見つけた。この……アンジェの日誌だ)

クラエス (皆で彼女の形見分けをしていた時に偶然発見し、この図書室の本棚の奥に隠した。
     日誌の最後の方はこう書かれている)





『アンジェの日誌』

夜、トリエラ、ヘンリエッタ、リコとウノをやった。
トリエラ、やたらついてたけどきっといかさまにちがいないわ。
私達たちをばかにして。


今日、偉い人たちから魔女退治を頼まれた。
皮をひんむいたゴリラのような奴だ。
囮には生きたえさがいいってんで、クラエスを投げこんだら、奴ら、足をもぎ取ったり内臓を引き出したり
遊んだあげくやっと食いはじめた。
クラエスが囮になったおかげで魔女を倒せた。


あまりにソウルジェムが濁るんで医務室にいったら、ソウルジェムに大きなバンソウコウを貼られた。
それから、もう私は魔法少女にならなくていいとマルコーさんがいった。
おかげで今夜はよく眠れそうだ。


以前、この屋しきから逃げ出そとした担当かんが一人、ひきにげでころされた、て はなしだ。
夜、からだ中 あついかゆい。
胸のはれ物 かきむし たら 肉がくさり落ちやがた。
いったいわたし どうな て


やと ねつ ひいた も とてもかゆい
今日 はらへったの、トリエラ のぬいぐるみ くう


かゆい かゆい エルザ きた
ひどいかおなんで ころし
うまかっ です。


かゆい
うま

クラエス (これまで魔法少女の担当官で殉職したのはラウーロさんだけの筈、エルザ共々パスタの魔女に
     殺された)

クラエス (とすれば『担当かんが一人、ひきにげでころされた』という話と辻褄が合わない。そして公社の
     魔法少女で担当官がいないのは私だけだ。だとすればこの日誌にある、ひき逃げに遭った担当官は……)

クラエス (推論でしかない。そもそも薬物依存と障害が進んでいたアンジェの日誌にどこまで信憑性があるか
     という問題もある。ただ一つ言えることは、もし私がこのことを本気で調査して真実に辿り着けば、
     公社も黙っていないということだ。そうしたら記憶を弄られて忘れさせられるのだ)

クラエス (いや、既に私は何度も真実に辿り着き、その度に記憶を消されているのかもしれない)

クラエス (公社初の魔法少女アンジェリカ、魔法少女についての研究が進んでいなかった当初、彼女への
     条件付けは大量の薬物投与によって為された。結果彼女は徐々に精神に異常をきたし、魔女化した)

クラエス (彼女の名はアンジェリカだが、死してアンジェロ(天使)にはなれず、ストリーガ(魔女)になったのだ)

今日はここまで
大分間隔が空いたがそれでも読んでくれる人がいて嬉しいです
エタらせることだけはしないので最後までお付き合いを
読んで下さった皆さん有難うございました

第12話 『フランカの災厄』

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先)

杏子 「ここか」

マミ 「ええ、ここがピノッキオさんのお家よ」

杏子 「おっきい家だな……なあ、マミ」

マミ 「どうしたの?」

杏子 「今日はあたしの歓迎会なんだよな」

マミ 「ええ、そうよ。お互いの顔合わせも兼ねてね。佐倉さんのこと、ピノッキオさん達に
   ちゃんと紹介しなくちゃ」

杏子 「人の気配がしない、つうかそもそも電気点いてないじゃん」

マミ 「待ち合わせの時間まであと少し……車が来たわ、あれよ」

フランコ 「無理するなフランカ、肩を貸せ」

フランカ 「大丈夫……一人で歩け……るわ……」

マミ 「フランカさん! 酷い怪我、何があったんですか!?」

フランコ 「フランカが公社に捕まった。救出したがこの有様だ。悪いが歓迎パーティはまた今度――」

マミ 「ここで治癒魔法をかけます。佐倉さんも手伝って」

フランカ 「凄いわね。もう痛みも無いわ……有難う、マミ。それからそちらのあなたも、感謝するわ」

杏子 「貸しにしとくよ」

マミ 「公社に捕まったって話でしたが……」

フランコ 「ここでは何だ、中に入ろう」

フランコ 「簡単に自己紹介が済んだところで、フランカがシャワーを浴びている間に状況を説明する」

フランコ 「フランカの話では高速で止まっている車と助けを求める男を見つけて車を止めたそうだ。
     フランカが車を降りると男は車が故障したと言ってきた。車の後部座席には産気づいた妊婦が居た。
     ところがそれは全て連中の芝居でフランカは捕まった」

マミ 「人の善意を逆手に取るなんて……」

フランコ 「フランカの乗った車が長い間動かないのに気付いた俺はピノッキオと彼女を助けに行った」

フランコ 「そして彼女を救出した。後は見ての通りだ」

マミ (フランカさん、顔を始めとしてあちこちに酷い打撲の痕があったわ……きっと拷問されたのね)

杏子 (公社ってとんでもねぇ組織だな)

杏子 「救出ったって敵のアジトか何かに捕まってたんだろ。敵の警備はどう掻い潜ったんだ?」

ピノッキオ 「全員殺した」

杏子 「殺したって! ……おい……」

フランコ 「相手は俺達を殺す気で来る。覚悟が無いなら今からでも日本に帰った方がいい」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 応接室

フランコ 「簡単に自己紹介が済んだところで、フランカがシャワーを浴びている間に状況を説明する」

フランコ 「フランカの話では高速で止まっている車と助けを求める男を見つけて車を止めたそうだ。
     フランカが車を降りると男は車が故障したと言ってきた。車の後部座席には産気づいた妊婦が居た。
     ところがそれは全て連中の芝居でフランカは捕まった」

マミ 「人の善意を逆手に取るなんて……」

フランコ 「フランカの乗った車が長い間動かないのに気付いた俺はピノッキオと彼女を助けに行った」

フランコ 「そして彼女を救出した。後は見ての通りだ」

マミ (フランカさん、顔を始めとしてあちこちに酷い打撲の痕があったわ……きっと拷問されたのね)

杏子 (公社ってとんでもねぇ組織だな)

杏子 「救出ったって敵のアジトか何かに捕まってたんだろ。敵の警備はどう掻い潜ったんだ?」

ピノッキオ 「全員殺した」

杏子 「殺したって! ……おい……」

フランコ 「相手は俺達を殺す気で来る。覚悟が無いなら今からでも日本に帰った方がいい」

1です
208は207の訂正です

頭に1行以下の通り追加してます
現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 応接室

杏子 「マミはいいのか?」

マミ 「私はまだ誰も殺してないわ。私の魔法は相手を生け捕りにするのに有効だし」

杏子 「そうじゃなくて! マミ自身が殺さなくても同じ目的で動いてるマミの仲間が人を殺したら、
   マミも人殺しに加担してるってことだろ!」

ピノッキオ 「躊躇していたら命を落とす」

杏子 「そんなことあんたに言われなくても分かってる! あたしだって魔法少女何年もやってきたんだ! 
   でもマミは――」

マミ 「佐倉さん、ピノッキオさんにそんな口のきき方しないで」

杏子 「マミ……」

マミ 「大丈夫です。きっと彼女も分かってくれます。いざという時に引き金を引く覚悟が――」

タッタッタッタッタッ

フランカ 「大変よ! 公社に尾行られてたわ!」

マミ (フランカさん! バスタオル一枚で!)

杏子 (急を告げるっていっても大胆過ぎだろ!)

ピノッキオ 「迎え撃つ」

フランコ 「脱出するぞ! 車を確保する。マミは俺と来い。キョウコはフランカの護衛を頼む」

フランカ 「少し待っててキョウコ、直ぐに何か着るわ」

杏子 (金髪イタリア美人の裸見てもここの男共、冷静過ぎ……)

マミ (ピノッキオさん!)

ピノッキオ (テレパシーか。マミ、どうした?)

マミ (車を確保しました。こっちに来て下さい)

ピノッキオ (もう終わった)

マミ (え!? もう……早いですね)

ピノッキオ (ここを制圧する為の襲撃ではなかったようだ。多分張り込みだろう。敵は単独だった)

マミ (ピノッキオさん?)

ピノッキオ (何だ?)

マミ (テレパシーでも分かります。少し落ち込んでませんか)

ピノッキオ (分かるかい?)

マミ (ええ……)

ピノッキオ (動いたんだ……)

マミ (え!?)

ピノッキオ (バスルームに居た相手の心臓を一突きにしたのに、その後、男が動いて抵抗してきたんだ。
      今度は頚動脈を切ったが直ぐには死ななくてさらに喉を突いて……)

ピノッキオ (特にナイフの扱いには自身があるんだ。それなのにこんなにてこずって……)

マミ (聞いたことがあります。全ての内臓の位置が普通の人と左右逆になっている人が稀に居るって。
   そういう人の場合、心臓の位置も逆になるから)

ピノッキオ (僕を慰めているのか……)

マミ (ええ、あまり落ち込まないで)

マミ 「……」

杏子 「……」

ピノッキオ 「……」

ルシウス 「……」

ピノッキオ 「知ってるのか?」

マミ 「はい、知り合いです」

ピノッキオ 「だったら殺しちゃまずかったかな?」

マミ 「いえ、そんなことはありません。この人は生き返ります。魔法少女ですから」

ピノッキオ 「魔法少女? この男が?」

杏子 「そう! 正真正銘男だけど魔法少女、ルシウスっていうんだ」

今日はここまで
ガンスリアニメ版ではモンタルチーノの潜伏先が見つかった後に
フランカが公社に捕らえられるエピソードが来るが、話を変えてます。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 浴室

マミ 「……」

杏子 「……」

ピノッキオ 「……」

ルシウス 「……」

ピノッキオ 「知ってるのか?」

マミ 「はい、知り合いです」

ピノッキオ 「だったら殺しちゃまずかったかな?」

マミ 「いえ、そんなことはありません。この人は生き返ります。魔法少女ですから」

ピノッキオ 「魔法少女? この男が?」

杏子 「そう! 正真正銘男だけど魔法少女、ルシウスっていうんだ」

1です
早速の乙ありがとうございます。
215は213の修正です。
再び頭に以下の一文抜けてました。
現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 浴室

それではおやすみなさい

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 浴室

ルシウス (……ここは……ハッ!)

杏子 「……気が付いたか?」

ルシウス (さっき……私は……)

ピノッキオ 「……」

ルシウス (さっき私を刺した男!)

マミ 「ルシウスさん、落ち着いて」

ルシウス 「落ち着いてられるか!」

マミ 「大丈夫、この人はもう手を出さないから」

ルシウス 「……信用していいんだな?」

マミ 「ええ」

ルシウス 「……分かった」

ピノッキオ (本当に生き返った……)

マミ 「キュゥべえ、引き続き通訳をお願い」

QB 「分かっているよ。マミ達がピノッキオのアジトに来た時からずっと居たのに、誰もボクに
   話しかけないから忘れられていたのかと思ったよ」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 応接室

フランコ 「事情は分かった」

フランカ 「古代ローマ人ねえ。突拍子もない話だけど、実際この目で見たからには信じるしかないわね」

フランコ 「ルシウスって言ったな。お前さんはどうしてそこまでして風呂に拘る」

ルシウス 「私にはテルマエ技師としての誇りがある。テルマエはローマ人にとって必要不可欠なものだ。
     それに私は皇帝陛下の命を直々に受けて浴場を造っている身だ。妥協や怠慢は許されない」

フランコ 「そうか……。爆弾を造るよりよっぽどか有意義だ」

フランカ 「フランコ……」

フランコ 「フランカ、こいつをどうする」

フランカ 「どうするって?」

フランコ 「お前は覗きの被害者だ」

フランカ 「もういいわ。この人だってさっきピノッキオにメッタ刺しにされたんでしょ。お互い様よ」

ピノッキオ 「メッタ刺しなんて素人みたいなことはしない。的確に急所を突いた」

杏子 (そこにプライドを持つんだ)

フランコ 「ということだ、ルシウス。あんたはこの後好きにするといい……と言いたいところだが、
     どうだ、俺達の仕事を手伝うつもりは無いか?」

ルシウス 「何故私がお前達の手伝いをせねばならん?」

フランコ 「勿論タダでとは言わん。……爆弾をやろう」

マミ 「フランコさん!? 待って下さい! 2000年前の人間に火薬の使い方を教えたら歴史が
   変わってしまいます!」

フランコ 「爆弾の現物を渡して起爆装置の使い方を教えるだけだ。起爆装置や化合物の造り方までは
     教えんさ。仮に教えたところで2000年前の人間にプラスチック爆弾は造れやしない」

フランコ 「マミから聞いたが魔法少女は魔女って連中と戦うんだろ? あんただって魔法少女なら
     魔女と戦う武器は欲しい筈だ」

杏子 「ルシウス……」

ルシウス 「その『爆弾』という物についてもっと話を聞かせて貰おうか」

マミ 「暁美さんがルシウスさんを肉片にする時に使う物よ」

ルシウス 「分かりやすい例えだが、嫌な事を思い出させてくれる……」

ルシウス (爆弾か……)

ルシウス (確かにあると便利だ。テルマエを造る際に露天掘りの効率を上げられる。それにこの男の
     言う通り、魔女と戦う時に役に立つ)

杏子 「ルシウス……」

ルシウス 「フランコ、私に何をして欲しい?」

杏子 (話に乗った!?)

フランコ 「それについてはお前さんの能力等を聞かせて貰ってから判断したい」

ピノッキオ 「また人を増やすのか?」

フランコ 「公社に対抗するには少しでも戦力が欲しい」

フランカ 「ではこれから杏子とルシウスの歓迎パーティにしましょう」

杏子 「やっぱり本場のピザは旨えや!」

マミ 「佐倉さん、数はあるからそんなにがっつかないで」

ルシウス (このワイン旨いな)

フランカ 「キョウコ、あなたもマミと同じ魔法少女って聞いてるけど、どんな魔法が使えるの」

杏子 「ング……。そうだね……風呂を覗いた男が簡単に逃げられなくなる魔法ならかけたことがあるよ」

ルシウス 「……」

フランカ 「だったらその魔法フランコにかけて貰おうかしら」

フランコ 「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ」

杏子 「ああ、いいよ」

フランコ 「こいつは参ったハッハッハッ」

ピノッキオ 「……」

杏子 「でもさ、二人は付き合ってるんじゃないの」

フランカ 「あら、そう見えるかしら」

フランコ 「俺とフランカはそういう仲じゃない。師匠と弟子だ」

マミ 「私と佐倉さんみたいなものね」

杏子 「師匠と弟子って、まさか爆弾作りの?」

フランコ 「そうだ」

杏子 「マジかよ……」

フランコ 「マミが信用出来ると言ったからお前さんには包み隠さず話している。それとも怖気づいたのか?」

杏子 「そんな訳あるか。魔法少女を舐めるなよ。それよりどうしてそんな物騒なモン作ろうと思ったんだ?」

フランカ 「それは――」

杏子 「世間が許せなかったってことか……」

杏子 (フランカは獄中死した親父さんの無念を晴らす為に……)

フランカ 「私が『理不尽な世の中を変えるわ』って言ったら、フランコに『宗教家にでもなれ』って言われて。
      私ったら頭に血が上ってフランコに平手打ちしたの」

杏子 「ま、確かにその言い草は無いね。あたしでもブチのめしてる」

フランコ 「そこまで酷い事言ったつもりは無いが?」

杏子 「宗教で世の中をいい方向に変えられたら苦労はしないよ。あたしはそのことを身を以て知ってる」

フランカ 「身を以て?」

杏子 「そう、あたしが魔法少女になったきっかけは親父の為だったんだ。あんたと同じだ」

ここ最近忙しくて久しぶりの更新です。何とかエタらないように進めます。
読んで下さった皆さん有難うございました。

フランカ 「そうだったの。お互い似た者同士ね」

フランカ (父親の信仰を広める為に魔法少女に……)

杏子 「でも結局それが親父にバレて、親父は絶望した。信者が増えたのは自分の教えが正しいからじゃなくて
   魔法のせいだって分かった親父は、酒に溺れて頭がイカれて無理心中、家族で生き残ったのはあたしだけだ」

フランカ 「そう、辛いこと話させたみたいね」

杏子 「気にしなくていいよ。あんただって家族のこと話してくれた」

フランカ 「言い方は悪いけど……お互い父親の亡霊に取り付かれたようなものだわ」

杏子 「自分の意思で生きてるつもりでも子供の頃の刷り込みは大きいよ」

フランコ 「俺も爆弾を造るようになったのは爺さんの手伝いからだ。似たようなもんさ」

ルシウス 「私は代々建築家の家に生まれた。そして母方の里が温泉地として有名だった。なるべくして
     テルマエ技師になった。結局人には二通りの生き方しかない。親を尊敬して同じ道に進むか、
     親と袂を分ち違う道に進むか」

マミ 「……」

杏子 (しまった! マミは両親が居ないんだ。それだけならあたしと同じだけど、マミには親から受け継いだ
   物ってあるのかな? これは気まずいぞ……)

ピノッキオ 「マミはどうなんだ?」

杏子 (さっきまで黙ってた癖にどうしてそこで聞く!?)

マミ 「私は……」

マミ (両親には大事に育てられた。だけど今の生き方にどんな影響を受けたかって言われても……)

ピノッキオ 「特に思い浮かばないなら、僕と同じだ」

マミ 「!?」

ピノッキオ 「僕は実の親から受け継いだ物が思い浮かばない。それでもこうして生きていける」

マミ 「ピノッキオさん……」

杏子 (何だ、意外に気を使うじゃん)

ピノッキオ (おじさんとおじさんの腹心のジョンが僕を殺し屋に育てたことは今は話さなくて良い)

現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート付近

杏子 「ふー、食った食った」

マミ 「もうそろそろ家よ」

杏子 「なあ、マミ?」

マミ 「何、佐倉さん?」

杏子 「今日会ったメンツだけどさ……無精髭のイケメンに、金髪のイケメンに、
   金髪のスタイル抜群のイタリア美人って……。まるでハリウッド映画の世界だ」

マミ 「イタリアだからハリウッドというよりはチネチッタね」

杏子 「チネチッタ?」

マミ 「そう、イタリアの有名な映画撮影所よ」

杏子 「日本で言う京都の太秦映画村みたいなもんか?」

マミ 「そうね……」

杏子 「これから忙しくなるな」

マミ 「ええ、頑張りましょ!」

杏子 「ただ、一つ気になったんだけど」

マミ 「何?」

杏子 「ルシウスってこっちの風呂でも出てくるんだな」

マミ 「そうね……」

―数ヵ月後―
 
現代日本 見滝原 市内スパ施設 温泉内

さやか 「あー……。気持ちいい……。まるで天国だわ……」

ほむら 「まさかあなた!」

まどか 「大丈夫だよ、ほむらちゃん。今入っているのは内湯だからさやかちゃんはオ○ッコしないよ」

さやか 「さすがはまどか! あたしの趣味分かってるねえ」

ほむら 「あなたの趣味に興味はない。ただ、私とまどかがあなたの尿まみれの風呂に入るのはごめんだわ」

さやか 「だったらあんたらもすればいいじゃん」

ほむら 「あなたはどこまで愚かなの。まどかが真似したらどうするつもり?」

まどか 「私真似しないから……」

さやか 「そういえばさ、最近ルシウス来た?」

ほむら 「来てないわ」

まどか 「うちにも来なくなった」

さやか 「杏子のメールには先週出てきたって書いてあったから生きてはいるんだよね。
    何でこっちに来なくなったんだろ?」

ほむら 「来ないに越したことは無いわ」

まどか 「私も風呂場に現れるのはちょっと……。でも元気なら良かったね」

さやか 「それじゃあたしはちょっくらお花摘みに行ってくるね」

ザバァ

ほむら 「そっちは露天よ、トイレはあっち」

現代日本 見滝原 市内スパ施設 休憩所

まどか 「いいお湯だったね」

さやか 「うん、気持ち良かった。そうだ、さっき携帯見たらマミさんからメール来てたよ」

ほむら 「私も見たわ。大規模作戦を決行するから一時的にイタリアに来て欲しい。
    旅費と滞在費はこちらで持つって内容だったわ」

さやか 「もしかしてマミさんと杏子が戦っている悪の組織と最終決戦になるのかな?」

まどか 「二人はどうするの?」

さやか 「あたしは行くよ。ちょうど夏休みだし」

ほむら 「私も行くわ」

まどか 「私も……」

ほむら 「あなたは来なくてもいい」

まどか 「足手まといなのは分ってる。でも、みんなが一生懸命戦っている時に自分だけ
    日本で皆の帰りを待ってるって……私……」

さやか 「ほむら、あんただってまどかに一緒に来て欲しいんでしょ」

ほむら 「私は……魔法少女でないまどかを戦いに巻き込みたくないわ」

さやか 「あたし、まどかには特別な力があると思うんだ。争いを収める特別な力が。以前古代ローマに
    行った時だってまどかが居たからこそみんな仲直り出来たんでしょ」

ほむら 「それはそうだけど、今度の相手はこれまでとは訳が違う。相手は魔法少女を洗脳して利用するような連中よ」

さやか 「あたしはまどかが居てくれると勇気が出る。杏子からのメールにもまどかを連れてきてくれって書いてあった。
    ねえ、まどか? まどかもマミさんからメール来てるんでしょ?」

まどか 「うん」

さやか 「何て書いてあった?」

まどか 「私に会いたい、出来れば来て欲しいって書いてあった……」

ほむら 「……分ったわ」

ほむら (まどか、貴方は多くの人に愛されているのね。それは喜ぶべきことなのだろうけど……)

今日はここまで
読んでくださった皆さんありがとうございました

第13話 『要』

ほむら 「あなたが皆に愛されているのは分った」

まどか 「だったら私も――」

ほむら 「駄目」

まどか 「どうして!?」

ほむら 「私は当初、巴マミの話を聞いて彼女は非合法の犯罪組織と戦っていると思っていた」

ほむら 「でも、この前の杏子からのメールに書いてあったわ。敵は『社会福祉公社』だって」

まどか 「社会福祉公社……」

ほむら 「それが何を意味するか……分かる?」

まどか 「……」

ほむら 「『公社』ということは国のオフィシャルな組織よ。そこを襲撃すれば理由の如何を問わず
    私達はテロリストだわ。もっと早く確認すべきだった……」

ほむら 「私はイタリアに行ってこの馬鹿げた正義ごっこを止めさせる。だから貴方は来なくてもいい」

まどか 「ほむらちゃん!」

さやか 「馬鹿げたって……マミさんも杏子も必死で戦っているんだよ!」

ほむら 「貴方も来なくていい」

さやか 「なっ……あんた!」

ほむら 「あなたもまどかも家族がいる。自分や親兄弟がテロリストの一味として世間から後ろ指をさされるのが
    嫌なら、これ以上この問題に首を突っ込まないことね」

さやか 「あんただって親はいるでしょう?」

ほむら 「ええ、だから私もこの問題には出来るだけ関わりたくない。巴マミと佐倉杏子の説得に失敗したら
    あの二人とは縁を切るわ」

さやか 「何よ、それ……。あの二人は家族が居ないから本人達の勝手にさせればいいっていってるの?」

ほむら 「そう捉えて貰ってもかまわないわ」

さやか 「あんた……」

まどか 「駄目だよ、二人ともケンカしちゃ。みんな見てる」

ほむら 「……」

ほむら (確かに周囲の視線が集まってるわね)

さやか 「クッ……」

さやか (スパの休憩所で大声出す訳にもいかないか……)

さやか 「まどか」

まどか 「何!?」

さやか 「今の話を聞いてそれでもイタリアに行きたいと思う?」

まどか 「……私は行きたい」

さやか 「決まりだね」

ほむら 「まどか!?」

さやか 「諦めなよ、ほむら。あんたの話を聞いた上であたしもまどかも決めたんだ」

まどか 「ほむらちゃん、さっきマミさんと杏子ちゃんの説得に失敗したら二人と縁を切るって言ったよね」

ほむら 「ええ、言ったわ」

まどか 「それって、あの二人を力ずくでは止められないってことだよね」

ほむら 「……」

まどか 「あ、あの……力ずくで止められないことを責めてるんじゃないんだよ。私だってそんなこと出来ないし」

さやか 「去年、ワルブルギスの夜との戦いを乗り越えた直後、時間停止能力を失った暁美ほむらでは
    あの二人は止められない」

ほむら 「あなたなら出来るの?」

さやか 「無理だね。あの二人強いもん。しかも二人揃って頑固なとこあるからあたしやあんたじゃ説得も難しい。
    でもね……」

さやか 「まどかならそれが出来ると思うんだ」

まどか 「さやかちゃん!」

さやか 「さっきも言ったけど、まどかには争いを収める力があるんだよ。ワルブルギスの夜が来る前、私らが
    ギクシャクした時だってまどかが居たから結束出来たじゃん。古代ローマに行った時だって、
    相手が頑固な風呂職人でも、皇帝でも、女王様でもまどかは説得して和解させてきた。
    こんなことまどかにしか出来ないよ。マミさんや杏子を説得するのなら、今こそまどかの出番じゃない?」

まどか 「私、頑張る。頑張るから!」

ほむら 「……好きにすればいいわ。でもこれだけは約束して。何があっても絶対にキュゥべえとは契約しないって」

まどか 「うん、分かった。約束する」

ほむら 「それからもう一つ」

さやか 「まだあるの?」

ほむら 「口を挟まないで」

さやか 「はーい」

ほむら 「まどか、あなたは足手まといなんかじゃない。あなたは名前の通り皆の『要』なのよ。自分を卑下しちゃ駄目」

さやか 「うまく言ったつもり? でもほむらの言う通りだよ、まどか。マミさんや杏子が来て欲しいって言ってるのも
    まどかを頼りにしてるんだよ」

まどか 「ありがとう……二人共」

まどか (私は、たとえ魔法少女じゃなくても皆の力になれるんだ)

さやか 「まどかってさ、たまに神様じゃないかって思うことがあるんだよ」

まどか 「そんなぁ、私は普通の女の子だよ」

さやか 「まどかったらあたしが露天風呂でオ○ッコしたら必ず気付くんだよね。普通こういうのって隣でしても
    バレない筈なんだけど」

まどか (あんな気持ちよさそうな顔してたら流石に分かるよ……)

現代日本 見滝原中学校 教室

仁美 「事情は分かりましたが、皆さんご自宅には適宜連絡して下さいね」

さやか 「恩に着るよ、仁美。持つべきものは友達ってね」

まどか 「ありがとう、仁美ちゃん」

仁美 (旅行ですか。……でも仮に誘って貰っても今年受験だし、一緒には行けないですわね)

さやか 「今回は仁美の知らない上級生も一緒だから……。仁美とはまた今度一緒に遊びに行こう」

仁美 「さやかさん……ええ、そうですわね。その時は誘ってください」

仁美 (それにしても大胆ですわね。一週間家を空けるから私の別荘で泊り込みの勉強会をするってことで
   ご家族に口裏を合わせて欲しいって)

現代 成田発ローマ行き旅客機内 客席

まどか 「ほむらちゃん、もう直ぐローマだよ。初めてだなぁ。いや、初めてではないのか」

ほむら 「初めてよ。2000年前に私達がルシウスの魔法で連れて来られたのはパレスチナだから。
    もしまどかが海外旅行で来てないのなら初めてのローマになるわ」

まどか 「ローマかあ、浮かれてはいけないけどきっと綺麗なんだろうなぁ。マミさんや杏子ちゃんからメールで
    写真が送られてくるけど、実物はやっぱり凄いんだろうね」

ほむら (まどか、思ったより緊張してない。良かった……)

まどか 「さやかちゃんともお話出来ればいいのに……」

ほむら 「仕方ないわ。旅費は巴さんが出すって言っている以上、無駄遣いは出来ない」

まどか 「そうだね。旅費を浮かせる為だもんね。さやかちゃんごめんね」

ほむら 「美樹さやかのソウルジェムに話しかけても反応は無いわよ。身体は私の盾に仕舞ってるのだから」

ほむら (おかげでこのフライト、まどかと二人きりになれたわ。まどかと沢山おしゃべりして、先に眠ったまどかの
    寝顔を堪能して……。海外旅行バンザイよ)

今日はここまで
書きたいけどリアルが忙しい
読んで下さった皆さん有難うございました

第14話 『我に策有り』

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先)玄関

マミ 「あら、アウローラちゃん、こんにちわ」

アウローラ 「こんにちわ……二人でお出かけですか?」

マミ 「ええ、ピノッキオさんとドライブなの」

ピノッキオ 「マミの友達が日本から来る。その出迎えだ」

アウローラ 「そうですか……いってらっしゃい」

マミ 「ええ、それじゃあね。行きましょ、ピノッキオさん」

ピノッキオ 「ああ」



ブロロロロ



アウローラ (いっちゃった……)

アウローラ (最近あの日本人の女の人、ピノッキオさんとよく一緒に居る……)

アウローラ (美人って得だな……)

アウローラ (私がもっと大人だったらピーノも私に目を向けてくれるのかな)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 廊下

杏子 (ふぅスッキリした。マミはピノッキオと一緒にさやか達を迎えに行ったし、こっちはこっちで出かける準備を……)

杏子 (どれ、フランコとフランカ、こっちはこっちで何か恋の予感は……)

フランコ 「マミの奴、嬉しそうだったな」

フランカ 「ピノッキオとローマまで二人きりでドライブでしょ。気持ちは分かるわ」

フランコ 「ピノッキオにとってはただの送り迎えのつもりみたいだが」

フランカ 「そんなこと言わないの。それよりもピノッキオとマミが居なくなったから……さっきの話の続きをするわ」

フランコ 「ああ、キョウコも席を外してるし。クリスティアーノが失脚するって話か」

フランカ 「ええ、マリノフ叔父様から『五共和国派として活動を続けたければクリスティアーノとは縁を切れ』
     って言われたわ。ミラノ派のここ最近の失態の詰め腹を切らされる形で、クリスティアーノは近々
     当局に引き渡されるそうよ」

フランコ 「クリスティアーノはピノッキオの育ての親だ。辛いな……」

フランカ 「だからこそ今度の公社襲撃作戦は成功させなくちゃ」

フランコ 「ああ、作戦が成功すればクリスティアーノを失脚させずに済むかもしれない。
     彼が消えればミラノ派は政府と妥協的な組織になるかもしれない。そうしたら俺達も困るな」

フランカ 「うん」

フランカ (ピノッキオにはクリスティアーノ失脚のこと、何て話せばいいかしら……?)

杏子 (やべぇ、トイレから戻ってきたらとんでもないこと聞いちまった……)

現代イタリア フィレンツェ・アメリゴベスプッチ空港 ロビー

まどか 「あ、マミさんだ! マミさーん!」

マミ 「鹿目さん! こっちよ!」

まどか 「ほむらちゃん、マミさん迎えに来てくれたよ! 行こう!」

ほむら 「ええ」

まどか 「マミさん、また会えて嬉しいです」

マミ 「私もよ。鹿目さんに会いたかった」

ほむら 「元気そうね」

マミ 「あなたもね、ようこそローマへ!」

まどか 「そちらの方は……」

マミ 「紹介するわ。ピノッキオさん、彼女が鹿目まどかさんと暁美ほむらさん。私の中学の後輩よ」

まどか 「鹿目まどかです。初めまして」

ほむら 「暁美ほむらです。よろしく」

マミ 「二人に紹介するわ。この人がピノッキオさん。私と一緒に悪の組織と戦っている人よ」

ほむら 「生粋のテロリストという訳ね」

ピノッキオ 「初対面で随分な言い様だな」

まどか 「ほむらちゃん……失礼だよ」

マミ 「……彼女、真顔で冗談を言うことがあるの。……あの、美樹さんはどこかしら?」

ほむら 「ここに居る。人目につかないところで私の盾から身体を出す。どこかで変身したいわ」

マミ (美樹さんのソウルジェム……美樹さんも来てくれたのね。でも暁美さんの様子がおかしいわ)

現代イタリア ピノッキオ運転の車内

マミ 「どういうこと!」

ほむら 「どうもこうもないわ。今している戦いを止めるようにと言っているの」

マミ 「あなた、助けに来てくれたんじゃないの!?」

ほむら 「事情を知ってそうも行かなくなったわ」

まどか 「マミさん、マミさんが戦っている相手って国の公的な機関なんですか?」

マミ 「鹿目さん……あなたまで」

さやか 「私達、マミさんが心配でイタリアまで来たんです」

ピノッキオ 「どういうことだ、マミ?」

マミ 「えっ……」

ピノッキオ 「僕は君から仲間が来ると聞かされたんだが、君の仲間は僕らに友好的ではなさそうだ」

マミ 「ごめんなさい、ちょっと待って。キュゥべえ、翻訳停止!」

QB 「分ったよ、マミ」

マミ 「確かに社会福祉公社はイタリアの公的な機関よ。表向きは身寄りの無い身障者の女の子を引き取って
   心身のケアをする組織ということになっているわ。でもその実態については以前話した通りよ」

マミ 「そういう暁美さんだって昔は自衛隊から武器を盗んでたじゃない!」

ほむら 「昔は時間停止の魔法が使えたから事が露見する恐れもなくそれが可能だった。でも今は違う。
    今の私にその力は無い。もう自衛隊への潜入は難しい。武器も専ら手製爆弾に頼ってるわ。
    銃器はたまに暴力団や密輸組織から盗むのがやっと。彼らは盗まれても警察に被害届を出せないから」

ほむら 「かつての私なら時間停止能力で公社に潜入して機密文書を盗むことも出来たでしょうね。
    それをマスコミに匿名で流せば公社を解体に追い込めるかもしれない。でも今となってはそれは不可能」

ほむら 「だとすれば暗殺やテロで対抗せざるを得ない。でもそれはいつか身分がばれ、テロリストの烙印を押される」

マミ 「随分と弱気になったのね、暁美さん」

ほむら 「ようやくワルブルギスの夜を乗り越えたのよ! 私は厄介事に巻き込まれるのはごめんだわ」

マミ 「だったらあなたは指を咥えて見てなさい。私はピノッキオさんと一緒に公社を倒す」

さやか 「マミさん!」

マミ 「あんな組織、存在させてはいけない。魔法少女への冒涜だわ。それを誰かがやらねばならないのなら、私が……」

ほむら 「ならまどかを巻き込んで欲しくないわ」

まどか 「待って、二人とも!」

まどか 「マミさんのしていること、私は立派だと思う。でも自分を追い詰めちゃ駄目ですよ。私もさやかちゃんも
    ほむらちゃんもみんなマミさんや杏子ちゃんのこと心配してるんです。それにほむらちゃんも落ち着いて」

まどか 「マミさん? 勝算はあるんですか?」

マミ 「ええ、あるわ、秘策が。その為に貴方達とは別に助っ人を呼んでいるの」

さやか 「あたしら以外で? それって……」

マミ 「ええ、人類史上最も強く最も美しい魔法少女……。佐倉さんに迎えに行って貰ってるの」

現代イタリア フランコ運転の車内

フランカ 「クレオパトラってあのエジプトの女王のクレオパトラ?」

杏子 「そうだよ」

フランコ 「ローマ人の次はエジプトの女王か。お前達といるともう何が起きても不思議じゃない気がする」

フランカ 「やっぱり強いの? クレオパトラって」

杏子 「ああ、強いね。少なくともあたしが出会った中では一番だ」

フランコ 「そもそもどうやって知り合った?」

杏子 「話せば長くなるけど、ルシウスの魔法で今の時代に来たんだ」

杏子 (どうする。さっきの話、聞いてみるか? ピノッキオの育ての親の話。でもそれ聞いたらあたしが
   盗み聞きしてたのがバレるし)


現代イタリア ピノッキオ運転の車内

マミ 「これまでに得た情報だけど、公社は魔法少女に担当官をつけていて、担当官の命令に絶対服従するように
   洗脳しているの。そしてその担当官は男性と決まっている。それを利用するわ」

ほむら 「まさかハニートラップでも仕掛けるつもり?」

マミ 「したければ止めはしないわ」

ほむら 「……」

まどか 「マミさん」

マミ 「……ごめんなさい。話を戻すわね。担当官にクレオパトラさんが魅了の魔法をかけて、担当官と魔法少女を
   合わせてこちら側の戦力にする。そうすれば公社の制圧は可能よ」

さやか 「こういっては何だけど、相手と似たようなことをやるという意味ではあまり気持ちのいいものでは
    ないですね」

マミ 「ええ。でもこれが互いに被害を最小限にする方法だわ」

まどか 「クレオパトラさんの魅了の魔法は男の人にしか効かないけど、これなら問題ないね」

ほむら 「正確には『女性に興味があること』が条件よ。事実ハドリアヌス帝には効かなかった」

さやか 「でも流石に担当官が全員ボーイズラブなんてことないでしょ。きっと上手くいくって」

今日はここまで。
クレオパトラが何故21世紀にいるかについては
1の拙作でこのSSの前作に経緯が書いてあります。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

現代イタリア ピサ ガリレオ・ガリレイ国際空港 ロビー

フランコ 「顔を知ってるのはお前だけだからな。キョウコ」

杏子 「分ってるって……居た!」

クレオパトラ 「久しぶりじゃな。キョウコ。何じゃ、マミは居らぬのか。」

杏子 「マミはまどか達を迎えに行ったよ」

クレオパトラ 「直々に出迎えに来ぬとは無礼な奴め」

杏子 「まあ、そう言わずに」

クレオパトラ 「まずはそなたの連れの紹介をして貰おうか」

杏子 「ああ、この二人がフランコとフランカ。あたしやマミと一緒に悪の組織と戦っている」

フランコ 「初めまして、フランコと言います」

フランカ 「ご機嫌麗しゅう、女王陛下。フランカです」

クレオパトラ 「苦しゅうない。もう少し普通に話すが良い」

杏子 「フランコ、フランカ、こいつがクレオパトラだ」

コツン!

杏子 「痛ッ!」

クレオパトラ 「仮にも目上の者を『こいつ』呼ばわりするでない。ファラオ云々以前にわらわとそなたの年の差を考えよ」

第15話 『やり直せない時間』

現代イタリア ピサ ガリレオ・ガリレイ国際空港 ロビー

フランコ 「顔を知ってるのはお前だけだからな。キョウコ」

杏子 「分ってるって……居た!」

クレオパトラ 「久しぶりじゃな。キョウコ。何じゃ、マミは居らぬのか。」

杏子 「マミはまどか達を迎えに行ったよ」

クレオパトラ 「直々に出迎えに来ぬとは無礼な奴め」

杏子 「まあ、そう言わずに」

クレオパトラ 「まずはそなたの連れの紹介をして貰おうか」

杏子 「ああ、この二人がフランコとフランカ。あたしやマミと一緒に悪の組織と戦っている」

フランコ 「初めまして、フランコと言います」

フランカ 「ご機嫌麗しゅう、女王陛下。フランカです」

クレオパトラ 「苦しゅうない。もう少し普通に話すが良い」

杏子 「フランコ、フランカ、こいつがクレオパトラだ」

コツン!

杏子 「痛ッ!」

クレオパトラ 「仮にも目上の者を『こいつ』呼ばわりするでない。ファラオ云々以前にわらわとそなたの年の差を考えよ」

1です。
253は252でタイトルを入れ忘れたので再度アップしました。
失礼。

現代イタリア フランコ運転の車内

杏子 「なあ、フランコ、フランカ」

フランカ 「どうしたの、キョウコ?」

杏子 「さっき、あたし聞いちまったんだ。その、ピノッキオの育ての親の話」

フランコ 「聞いていたのか?」

杏子 「悪い」

フランコ 「どうしてその話をする? 黙っていれば盗み聞きしたのもバレなかっただろうに」

杏子 「ピノッキオがその話を知ってるか聞きたかったんだ」

フランカ 「知らないわ」

杏子 「だったら教えてやんないと!」

フランカ 「そうね……。本来ならクリスティアーノからピノッキオに連絡が無いのなら私達が勝手に
     教えていいものでは無いのでしょうけど……」

フランコ 「後で知ったらあいつは後悔するな」

フランカ 「ええ、モンタルチーノに着いたら私達からピノッキオに話すわ」

クレオパトラ 「ちょっといいか?」

フランコ 「どうしました?」

クレオパトラ 「先ほどから出ている『ピノッキオ』という名前だが……」

杏子 「あたしらの仲間だ。実をいうとマミがそいつに熱上げてる」

クレオパトラ 「付き合っているのか?」

杏子 「まだそこまでの仲じゃない。片思いだよ」

クレオパトラ 「マミも苦労しておるのう。ピノッキオか、会うのが楽しみじゃ」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先)

クレオパトラ 「皆揃っておるようじゃな……。おお、マドカ!」

まどか 「お久しぶりです。クレオパトラさん」

クレオパトラ 「おお、相変わらず可愛いのう。勉強頑張っておるか?」

まどか 「ううん、頑張ってるけど……なかなか……」

クレオパトラ 「どんな時代でも学問は大事じゃぞ」

さやか (この人、まどかの親戚の叔母さんみたいなノリになってる。抱きついて頭撫でながらニコニコしてるし)

ほむら (……)

マミ 「クレオパトラさん!」

クレオパトラ 「これ、マミ!」

コツン

マミ 「ウッ!」

クレオパトラ 「他ならぬそなたの頼みじゃから出向いたのに出迎えに代理を寄越すとは何事か?」

マミ 「ご、ごめんなさい……」

クレオパトラ 「まあ、よい。今回はそなたへの恩返しと思うておる。存分に働かせて貰うぞ」

ピノッキオ 「恩返し?」

クレオパトラ 「そう、この時代に来て暫く日本のマミの家に居候しておった。その間にこの時代に徐々に
       慣れていってのう」

さやか 「クレオパトラさん最初の頃、自動車やテレビ見てびっくりしてましたね」

クレオパトラ 「あれは初めて見れば驚くわ。最初は使い魔かと思った」

まどか 「でもクレオパトラさんの時代だってピラミッド造ってたんですよね。それはそれで凄いと思うけど」

クレオパトラ 「まどか、歴史の勉強あまりしてないな」

まどか 「えっ?」

クレオパトラ 「所謂エジプトの3大ピラミッドが建造されたのはわらわが生まれる2500年前のことじゃ。
       むしろわらわにとってはこの時代の方が時間的に近い」

まどか 「そうだったの!?」

フランコ 「言葉の修得も日本に居た時に?」

クレオパトラ 「左様、日本語と英語、あとイタリア語を少々覚えた」

フランカ 「イタリア語も?」

マミ 「クレオパトラさん、当時私に付き合ってイタリア語の勉強を始めてくれたの。『一緒に勉強する
   者が居れば張り合いがあるだろう』って」

ピノッキオ 「そうだったのか」

フランカ 「三ヶ国語話せるのね」

クレオパトラ 「現代語はな。あとギリシア語、エジプト語、ラテン語、ヘブライ語、アラビア語、ペルシア語、
       エチオピア語、他にも地中海周辺の言語をいくつか話せる、といってもそなた達からみれば
       これらは古代語だろうが」

さやか 「美人のうえに頭が良いってチート過ぎるわ」

フランコ 「ピノッキオ、ちょっとこっちへ」

ピノッキオ 「どうした?」

フランコ 「お前に話がある」

フランコ 「皆待たせた、作戦会議を始めるが……」

フランコ 「その前に、皆に伝えることがある」

さやか 「何ですか?」

フランコ 「ピノッキオは今回の公社襲撃メンバーから抜ける」

杏子 (そうなったか……)

ほむら 「理由を聞いていいかしら?」

フランコ 「勿論だ」

フランコ 「ピノッキオの実家に公社が襲撃に来ることが分かった。ピノッキオは実家に帰す」

ほむら 「実家の事情とは言え、大事な作戦の前に欠員というのは感心しないわね」

フランコ 「そう言いたくなる気持ちは分からんでもないが、公社本部が手薄になるならむしろその時を狙って
     作戦を実行する。ピノッキオには悪いが、彼は囮役を引き受けたと言える。それに彼の実家が
     お前達の旅費や滞在費を工面しているんだ。事情を汲んで欲しい」

ほむら 「そう……分かったわ」

マミ 「あの……」

フランコ 「どうした?」

マミ 「私もピノッキオさんと一緒に……」

クレオパトラ 「ちょっと待て、マミ」

マミ 「クレオパトラさん……」

クレオパトラ 「今回わらわは、他ならぬマミの頼みだからここに来た。わらわだけではない。そなたの後輩達も
       同じだ。なのにそなたが真っ先に作戦を抜けるというのか?それに見滝原の魔法少女達はチームを
       組んで魔女退治してきたのであろう。ならばその連携は崩さぬ方が良い」

マミ 「それはそうだけど、ピノッキオさん一人では……」

ピノッキオ 「大丈夫だ。全員返り討ちにする」

マミ 「いくらピノッキオさんでも、たった一人で大勢の魔法少女を相手にするのは無理よ!」

マミ 「誰か魔法が使える人がついてないと……」

クレオパトラ (いかん、これではマミが嘗てのわらわと同じに……)

クレオパトラ回想 古代ローマ ローマ市内 カエサル邸

QB 「大変だよ。クレオパトラ」

クレオパトラ 「どうした。キュゥべえ? そなたらしくも無い」

QB 「さっきカエサルが暗殺されたんだ」

クレオパトラ 「何!?」

クレオパトラ (そんな、カエサルが……)

QB 「クレオパトラ、顔が真っ青だよ」

クレオパトラ 「嘘であろう。キュウべえ、まさか……カエサルが……」

QB 「僕が嘘をつくと思ってるのかい?」

クレオパトラ回想 古代ローマ  ローマ市内 ポンペイウス劇場

守衛 「私が駆けつけた時にはカエサル公の周囲を大勢の暗殺者が取り囲んでおり、どうすることも出来ませんでした」

クレオパトラ 「……」

守衛 「ただ、暗殺者のナイフをその身に受けながら、最期にカエサル公は訳の分からないことを叫ばれたのです」

クレオパトラ 「訳の分からないこと?」

守衛 「はい、『ブルトゥス、お前も魔法少女か!?』と」

クレオパトラ 「……」

クレオパトラ回想 古代ローマ ローマ市内 カエサル邸

QB 「確かにブルトゥスは僕と契約した。男でも素質はあったからね」

クレオパトラ 「キュゥべえ、貴様!」

QB 「これはカエサルのミスだ。魔法少女の自分は簡単には死なないだろうと言ってカエサルは護衛隊を解散させた」

QB 「『魔法少女の弱点がソウルジェムと知っているのは一部の魔法少女だけだ』と生前カエサルは言ったけど
    それが裏目に出たんだ。同じ魔法少女のブルトゥスはそれを知っていた」

クレオパトラ 「そなたは……カエサルが殺されたことを淡々と話すな……。そなたとカエサルは何十年も付き合いが
       あったろうに!」

QB 「僕だって残念に思ってるよ、クレオパトラ。君とカエサルは最高のコンビだった。それにソウルジェムが壊された
   せいでカエサルからは感情エネルギーの回収が出来なかったからね」

クレオパトラ 「感情エネルギー……?」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先)

クレオパトラ (あの時、わらわはキュウべえの目的が人間の感情エネルギーの採取だと知った」

クレオパトラ (そしてカエサルが暗殺されたことでわらわの願いは潰えたのだ。カエサルと共に地中海世界を統一し、
       それを息子カエサリオンに継がせて恒久的な平和をもたらすという願い。その為にはこの手を
       血に染めることも厭わず、実の弟や妹までも葬ってきたというのに……。今でもあの時カエサルの傍に
       居ればと思うことがある)

クレオパトラ (もしマミがピノッキオを失えば、わらわと同じ後悔をする。最悪魔女化も有り得る。それだけは
       避けねば……)

クレオパトラ 「マミ、ピノッキオにはわらわがつく」

マミ 「えっ?」

クレオパトラ 「そなたはそなたの責任を果たせ。まさか、わらわがこの男についても不安とは言うまいな」

フランカ 「本部襲撃はどうするの?」

クレオパトラ 「この娘達に任せる。それに敵がピノッキオの実家を襲撃するなら手薄になった本部はわらわ無しでも
       落せるであろう。もし落しきれなかったら、わらわが後詰につく。ピノッキオの実家を襲撃した連中を
       魅了の魔法で虜にしてからな」

マミ 「ありがとう、クレオパトラさん……」

今日はここまで。
最近ルシウスの出番が無い。主人公なのに……。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

第16話 『ローマ人風呂』

まどか 「あの……ピノッキオさん?」

ピノッキオ 「何だ」

まどか 「ピノッキオさんの実家ってどこなんですか?」

ピノッキオ 「ミラノだ」

まどか 「ミラノって公社の本部からどのくらい離れてるんですか?」

ピノッキオ 「ローマとミラノだから……約600キロだ。車で何時間もかかる」

まどか 「だったら向こうに合わせてこっちも戦力を分断することはないと思うんです」

杏子 「どういうことだ?」

まどか 「公社からミラノに向かって人が出てしばらくしてから全員で公社本部を攻めれば、こっちは全戦力で
    手薄になった公社本部を攻めることが出来るでしょ。公社本部を制圧した後は、本部襲撃の知らせを受けた
    敵が戻って来る前に機密書類等の証拠を奪って撤退すればいい、って思ったんだけど」

フランコ 「それはあくまでミラノに向かう公社の戦力がローマから出るという前提での話だろう。もし敵の支部から
     ミラノに向かって部隊が出れば筋書き通りにはいかんぞ」

まどか 「その時は手薄になっていない公社を攻撃することになるとは思います。でも、公社本部を攻撃すれば、
     少なくともピノッキオさんの実家は攻撃されない筈です」

フランカ 「確かに、本部を襲撃されれば公社だってクリスティアーノ逮捕どころじゃなくなるでしょうね」

まどか 「キュゥべえ」

QB 「何だい、まどか?」

まどか 「ピノッキオさんの実家に向かう公社の人達がいつどこから出発するか分かる?」

QB 「僕も公社の作戦会議に加わる訳ではないから詳しいことはわからないけど、簡単な人の出入りなら分かるよ」

まどか 「出来る限りのことを教えてくれる?」

QB 「分かったよ、まどか」

ほむら 「お前、どうしてそこまで私達に協力的なの?」

QB 「協力しない方がいいのかい?」

ほむら 「そんなことはないわ。出来る限りお前のことを利用させて貰う。お前だって私達人間を
    利用しているのだから」

QB 「僕はきちんとお願いした上で契約――」

さやか 「ハーイ! ハイハイ、あんたの言い分は分かったからその話はこれで終わり」

まどか 「みんな、どうかな? 戦うのはみんなだから私の提案を聞いて貰えるかはみんなの判断に任せるけど」

クレオパトラ 「考えたな、マドカ。わらわはマドカの策、乗るぞ」

マミ 「鹿目さんの話は理にかなってるわ」

フランコ 「よし、今のマドカの話を基に作戦を練り直そう」

ほむら (インキュベーター、何か企んでいるような気がする……)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先) 浴室

クレオパトラ (公社襲撃は明日……その前に長旅の疲れを癒すには風呂が一番じゃ……ん?)

ゴポゴポゴポゴポッ

クレオパトラ (まさかっ!?)

ザバァ

ルシウス 「ぷはァッ! ハァハァハァハァ」

クレオパトラ (ルシウス!?)

ルシウス (よりによって……クレオパトラの風呂に!)

クレオパトラ 「そなたは……」

ルシウス (魔法少女に変身した! 表情が明らかに怒っている!)

ルシウス 「待った!」

ゴツッ!

グシャッ!

クレオパトラ (風呂掃除の手間を増やしおって……。あと返り血を洗い流したらルシウスを再生せねば)

ルシウス 「酷い目にあった……」

クレオパトラ 「わらわの入浴を覗いた見物料よ」

ルシウス 「少しは加減して頂きたい」

クレオパトラ 「加減はしたぞ。わらわが本気を出せば『ヴァジェドの眼』で浴室ごと吹き飛ばしておる。
   さっきは頭蓋骨を叩き割っただけであろう」

ルシウス 「それは加減とは言いませぬ!」

クレオパトラ 「わらわがファラオということで一応言葉使いに気をつけるようになったか、ルシウス」

ルシウス 「クレオパトラ様……」

クレオパトラ 「この時代に現れたのはまた風呂造りで困っているのであろう」

ルシウス 「ご推察の通り」

クレオパトラ 「ならば思う存分調べるが良い」

ルシウス 「ありがたき幸せ」

ルシウス (なぜ湯がこんなに鮮やかな色をしているのだ?)

ペロッ

ルシウス (これは……薬草か!?)

ルシウス 「クレオパトラ様!」

クレオパトラ 「どうした? わらわが浸かった後の残り湯はそんなに美味いか?」

ルシウス 「恐れながら、湯にお入れになった薬草を見せて頂けないでしょうか?」

クレオパトラ 「これじゃ。……手を出してみせよ」

ルシウス 「ありがたき幸せ」

ルシウス (クレオパトラ様が容器から私の出した手に粉をかけた。
     ……そうか! 乾燥させて粉末状にした薬草をお湯で溶いていたのか)

ルシウス 「これはアエギュプトゥスの秘術にございますか?」

クレオパトラ 「いいや、これはまどかが日本から持ってきたものだ。名を『バス○マン』という」

ルシウス (平たい胸族の技術か!)

ルシウス 「BUSとはどういう意味でしょうか?」

クレオパトラ 「Bathは風呂のことじゃ」 

ルシウス (BUS ROMAN……ローマ人風呂か。平たい胸族め。粋な名前をつけてくれる。
     だが、当のローマにはこのような技術は無い。恐るべし、平たい胸族)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 応接室

さやか 「クレオパトラさんがお風呂上がった!」

まどか 「クレオパトラさん、バス○マンどうでした?」

クレオパトラ 「うむ、なかなか良かったぞ。邪魔が入らなければな」

まどか 「邪魔……ルシウスさん!?」

ルシウス 「まどかか……、久しぶりだな」

フランコ 「ルシウスか。ちょうど良かった。明日、公社本部を襲撃する予定だったんだ」

ルシウス 「そうだったのか……。ところで約束の品は出来ているのか?」

フランコ 「ああ、爆弾を大量に造った」

ルシウス 「明日使う分を持っていく。残りはローマに帰る時に持って帰る」

フランコ 「分かった。そうだ、爆弾の使い方を教えておこう。それから作戦についてもな」

フランカ (戦力として来てくれるのはいいけど……)

まどか (私がお風呂に入る時にルシウスさんが出てこなくてよかった)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 倉庫

フランコ 「説明は以上だ。お前さんが使えるよう、簡単な操作で起爆出来るようにした。戦闘で使う時は
      敵に投げ返されないように、ボタンを押して2秒程手に持ったままにしてから投げるんだ」

ルシウス 「助かる」

ルシウス (この出っ張りを押して6秒後に爆発か)

ルシウス (これはテルマエ造りの際、露天掘りの役に立ちそうだ。それに魔女との戦いでの助けにもなるだろう)

ルシウス (そして明日の戦いにおいても……)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅(ピノッキオの潜伏先) 応接室

フランカ 「説明は終わった?」

フランコ 「ああ」

フランカ 「ルシウス、これは私からのプレゼントよ」

ルシウス 「この金属の細い筒は何だ?」

フランカ 「これはボールペン型爆弾。ここを2回連続でノックすると起爆装置が働いて2秒後に爆発するわ。
     爆発前に1回ノックすれば起爆をキャンセル出来る」

ルシウス 「こんなに小さいが、威力はあるのか?」

フランカ 「さっきフランコがあなたに渡したのと比べれば威力は低いけど、これを手に持ったまま爆発すれば
     手が吹き飛ぶ位の威力はあるわ」

ルシウス 「そうなのか。……すごい技術だな」

ルシウス (綺麗な金色の筒だ。吹き飛ばすには惜しい気がする)

ほむら 「まるでスパイ映画に出てきそうな道具ね」

さやか 「見た目は完全に高級ボールペンだよね」

マミ 「あの、鹿目さん、ありがとう」

まどか 「えっ? どうしたんですか、マミさん?」

マミ 「鹿目さんがアイデアを出してくれたおかげで、戦力を分散させずに済んだわ」

杏子 「ピノッキオと別々に戦わずに済んだ、だろ」

マミ 「もう、茶化さないで」

マミ (この戦いが終わったらピノッキオさんに改めて想いを告げる……。その為にも明日の戦いに勝ってみせるわ!)

ピノッキオ 「後は戦うだけだ。本部襲撃を成功させれば明日のおじさんの逮捕は無くなる」

マミ 「そうね、頑張りましょう!」

ピノッキオ (この戦いが終わったら直ぐにおじさんに会いに行って、おじさんを説得しよう。身を隠すようにって。
      おじさんは僕が守る!)

ルシウス 「賽は投げられた」

クレオパトラ 「カエサルの台詞をわらわの前で軽々しく使うでない」

翌日

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先) 玄関

アウローラ (御裾分け持ってきたけど、大勢人がいる……休日だし、お出かけかな)

クレオパトラ 「それでは行って来る」

まどか 「行ってらっしゃい!」

アウローラ (声かけづらいな……)

クレオパトラ 「……ん、どうした?」

アウローラ (気付かれた!?)

クレオパトラ 「何の御用、お嬢ちゃん」

アウローラ 「あ、あの、私、近所に住んでるアウローラと言います。御裾分けを持って来ました」

アウローラ (この黒髪の女の人、凄く綺麗……)

クレオパトラ 「そう、ありがとう。……フランカ、ご近所からの御裾分けじゃ」

フランカ 「まあ、ありがとうね。アウローラちゃん」

アウローラ 「いえ、どういたしまして」

アウローラ (この人も美人だし……)

クレオパトラ 「では改めて行って来るぞ」

ピノッキオ 「車を廻してくる」

アウローラ 「お出かけですか?」

クレオパトラ 「そう。あの青年、ピノッキオとドライブよ」

アウローラ 「そうですか……。気をつけて」

クレオパトラ 「ありがとう」

アウローラ (ピーノの周りの女の人、綺麗な人ばかり……。このままじゃ私見向きもされない……)

アウローラ (こうなったら……)

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先) 玄関

さやか 「それじゃ、行ってくるね、まどか」

まどか 「うん。みんな、気をつけてね。待ってるから」

杏子 「ああ、留守番頼んだぜ」

ほむら 「まどか、あなたこそ気をつけて。私達が留守の間、知らない人が尋ねて来ても
    簡単にドアを開けちゃだめよ」

まどか 「……多分私が知らない人しか尋ねて来ないんじゃないかな。それに私が出てもイタリア語分からないし」

ルシウス 「まどか、お前の性格だから皆が帰って来るまでずっと心配ばかりするだろう。だがあまり気に病むと
     身体にさわる。そんな時は風呂に入ることだ。風呂に入れば心が落ち着く」

まどか 「ルシウスさん、ありがとう」

ルシウス 「お前が持ってきたローマ人風呂の薬草がお前を癒すであろう」

まどか 「ローマ人風呂?」

今日はここまで
読んで下さった皆さん有難うございました。

第17話 『公社の逆襲』

現代イタリア ピノッキオ運転の車中

マミ 「戦闘前に皆にお願いがあるの」

さやか 「何ですか?」

マミ 「変身した時の服装をいつもと変えて欲しいの」

さやか 「身バレを防ぐ為ですか?」

マミ 「そうよ。私達はこれまで毎回衣装を変えて、顔に覆面をして戦って来たの」

杏子 「面倒ったらありゃしないけど、あたしが普段の魔法少女の格好を公社に見られてるから警戒しとけってさ」

さやか 「見られたって、いつ?」

杏子 「あたし一回行方不明になって公社に保護されたことがあって……」

さやか 「その話初耳だよ!?」

杏子 「えっ!?」

ほむら 「私も知らないわ」

マミ (いけない!? みんな、私が佐倉さんのソウルジェムを無くした話、知らないんだった)

ピノッキオ 「マミ、皆が混乱してるぞ」

マミ (ええ、分ってるわ。お願い! ピノッキオさん、この話黙ってて!)

ピノッキオ (分った。テレパシーでこっそり話しかけてくるってことはこの話知られたくないんだな)

マミ (ありがとう)

現代イタリア モンタルチーノ マミの住むアパート付近

ベアトリーチェ 「ちょっといいかしら?」

アウローラ 「はい」

ベアトリーチェ 「この写真の人、知らない?」

アウローラ (写真に映ってるのって……マミ!?)

アウローラ 「あの、あなた方は……」

ベルナルド 「ああ、失礼。私はティーンズ雑誌の編集でね、この写真を投稿した人に
      読者モデルをお願いしに来たんだ」

アウローラ 「そうですか……。その人、今日出かけました」

ベルナルド 「行き先は分かるかい」

アウローラ 「そこまでは……」

ベルナルド 「彼女のお家分かるかな?」

アウローラ 「はい」

アウローラ (読者モデルか……確かにマミは綺麗だし、スタイルもいいし……)

アウローラ (そういえば……)

アウローラ 「あ、あの!」

ベルナルド 「どうしたのかな?」

アウローラ 「ひょっとしたらこの人の行き先分かるかもしれません」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先) 玄関

アウローラ 「ここです」

ベルナルド 「ここから今日彼女はお友達とドライブに出かけたと……」

アウローラ 「はい、一人だけ見送りの人が居ました。その人に聞けば何か分かるかもしれません」

ベルナルド 「ありがとう。その人に会って話を聞かせて貰うよ」

ベアトリーチェ 「ここまでつき合わせてごめんね」

アウローラ 「いえ、私はこれで……」

ベルナルド 「ここか……。キョウコ・サクラの供述にあったルームメイトの家とは少し離れているが」

ベルナルド 「ネットに出回っていた画像に映っているこの男だが……トリエラとヘンリエッタが目撃した
      トーガ男と判明した」

ベルナルド 「さらに一緒に映っている人物のうち、二人の少女が、以前公社が保護したキョウコ・サクラと、
      その身元引受人のマミ・トモエと判明した。この二人、トーガ男と何らかの係わりがあると見て
      間違いないだろう」

ベアトリーチェ 「しかも二人が持っている武器が明らかに私達が追ってきた覆面魔法少女の物です」

ベルナルド 「ああ、奴らは覆面をしていたから顔が分からなかったが、これで面が割れた」

ベアトリーチェ 「案外あっけないものですね。しかし、敵は何故このような写真を売り捌いていたのでしょうか。
        しかもローマ市内で」

ベルナルド 「俺達を誘っているのかもな。仮にここが敵のアジトとしても罠がしかけられてるかもしれん。
      油断するな」

ベアトリーチェ 「分かりました」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先)周辺

ジョゼ 「わかった、ヘンリエッタは既に配置についている」

シルヴィア 「こちらシルヴィア、配置についています」

キアーラ 「こちらキアーラ、いつでも行けます」

ジャン 「情報では敵は少女が一名。魔法少女かどうかは不明。殺すな、必ず生け捕りにしろ」

リコ 「分かりました」

ジャン 「よし、突入!」

現代イタリア モンタルチーノ マッシモ別宅前(ピノッキオの潜伏先) 浴室

まどか (みんな大丈夫かな……独りで留守番してるとみんなが心配で……でもさっきよりは
    気持ちが落ち着いてきた……)

まどか (ルシウスさんの言う通りお風呂に入れば落ち着くけど、このまま何時間も入浴する訳にもいかないし。
    兎に角、上がったら湯冷めしないようにしなきゃ)

タッタッタッタッ

まどか (足音!?)

バタン!

シルヴィア 「動くな! ……え!?」

まどか 「……」

シルヴィア (どうしてこの女の子お風呂に入っているの……?)

まどか (どうしてこの女の子拳銃持ってるの……?)

シルヴィア 「こちらシルヴィア、目標を確保。はい、これから連行します。その前に服だけ着させます。
     ……はい、全裸です。……何故着てないかって……目標は入浴中でした」

シルヴィア 「服は確認した物から渡すわ」

まどか 「あの、あなたは社会福祉公社の人ですか?」

シルヴィア 「……」

まどか 「私を捕まえに来たんでしょ?」

シルヴィア 「……」

まどか 「キュゥべえ、この子――」

シルヴィア 「キュゥべえ、答えないで。後、そちらからの質問は受け付けない」

QB 「という訳だ、まどか。僕も無闇に殺されるのは勿体無いからね。君の質問には答えられない」

まどか 「キュゥべえ教えて! みんなは無事なの!?」

バン

QB 「……」

まどか (キュゥべえが撃たれた……)

QB 「酷いな。僕が居ないと君達は会話も成り立たないのに」

シルヴィア 「それが新しい個体?」

QB 「そうだよ」

シルヴィア 「分かったかしら? キュゥべえへの質問も禁止よ」

まどか 「……」

現代イタリア 社会福祉公社本部 中庭

プリシッラ 「オリガさん」

オリガ 「プリシッラかい?」

プリシッラ 「ヘンリエッタもリコもお出かけで寂しいです」

オリガ 「あの子達も仕事だからね。ようやくキュゥべえが例の魔法少女について喋り出したから忙しくなったのさ」

プリシッラ 「『例の』ってこの前メッシーナの実験橋を襲撃した魔法少女のことですか。宇宙人も気まぐれですね」

オリガ 「ああ。『"僕にだって知らないことはある"という言葉自体は嘘じゃないだろ』ってふざけたこと言ってね」

プリシッラ 「そうですか。でもいまいちピンと来ないんですよ。キュゥべえって言われても私見えないんで」

オリガ 「見えなくていいと思うよ」

プリシッラ 「それって関わらない方がいいってことですか?」

オリガ 「そうだよ」

現代イタリア ピノッキオ運転の車中

杏子 「おっ、まどかから電話だ」

ほむら (まどかから?)

ピッ

杏子 「もしもーし? どうした、まどか?」

ジャン 「お前がサクラ・キョウコか?」

杏子 「!」

杏子 「誰だ、あんた!?」

ジャン 「マドカ・カナメの身柄を預かっている」

杏子 「何だと!」

ほむら 「どうしたの!?」

杏子 「電話の相手は……多分公社の連中だ」

ほむら 「何ですって!?」

マミ 「そんな……」

さやか 「杏子、あんたさっきまどかから電話って言ったわよね。まさか……」

杏子 「ああ、奴ら、まどかの携帯からかけてきた……」

ほむら 「貸しなさい!」

杏子 「おい!?」

マミ 「暁美さん、ハンズフリーに!」

ほむら 「あなた、誰?」

ジャン 「テロリスト共に名乗る名前など無い」

さやか (ちゃんと携帯をハンズフリーにした)

マミ (これで全員に会話が聞こえる。それにしても鹿目さんが捕まるなんて……)

ほむら 「私達がテロリストなら貴方達は誘拐犯かしら?」

ジャン 「口の聞き方に気をつけた方がいい。こっちには人質がいる」

ほむら 「……要求は?」

ジャン 「お前達全員の投降だ」

ほむら 「見返りは?」

ジャン 「お前達の命の保障はしよう」

マミ 「そんなの信じられないわ!」

ほむら 「人質の交換なら応じられる」

ジャン 「テロリストと交渉する余地は無い。お前達の投降以外の選択肢は無い」

さやか 「その前にまどかの声聞かせなさいよ! まどかは無事なの?」

ほむら 「あの子を酷い目にあわせるなら、容赦はしない」

ジャン 「こちらの要求は聞けないというのか?」

ほむら 「生殺与奪の権がそっちにあるとは思わないことね」

ジャン 「哀れだな」

ほむら 「何ですって?」

ジャン 「マドカ・カナメは仲間に恵まれなかった」

まどか 「な、何するの!? やめて!」

ほむら 「まどか、まどかなの!?」

まどか 「ほむらちゃん!?」

ほむら 「まどか、どこにいるの!?」

まどか 「イヤ、止めて、イギイィィィィ! イダイイダイイダイ!」

ほむら 「まどかに何をしてるの!? 止めなさい! 止めて!」

まどか 「イタイ……。ウェェェェン、もうやだよぅ……」

ほむら 「まどか!」

ジャン 「この結果はお前達が招いた。頭を冷やせ。また電話する」

ピノッキオ (電話が切れた。人質か……厄介だな)

さやか 「あいつら、絶対に許さない……」

杏子 (一体何があったんだ……?)

ほむら 「まどか……」

マミ 「暁美さん……」

パシッ!

ほむら 「触らないで!」

マミ 「暁美さん……」

ほむら 「元はと言えば貴方のせいよ! 貴方がくだらない正義ごっこなんか始めたから!」

マミ 「正義ごっこですって!」

マミ 「鹿目さんが捕まったことは責任を感じてるわ。でも正義ごっこって言葉は取り消して」

ほむら 「取り消さないわ。それより私はここで降りるわ」

マミ 「降りるって……」

ほむら 「私の目的はまどかを救うことよ」

杏子 「おい、待てよ。それなら余計力をあわせないと駄目だろ」

ほむら 「全員で力を合わせた結果がこれよ。それにさっきの電話は貴方にかかったけど、公社は貴方が
    テロリストだって気付いたみたいね。杏子、貴方が何かしら証拠を残したせいで私達の居場所が
    見つかったんじゃないかしら」

杏子 「それは分かんねえだろ! あたしがヘマしたってのか!?」

現代イタリア 社会福祉公社 トスカーナ支部

まどか 「どうして……こんなこと……するんですか?」

ジャン 「俺はパダーニャが大嫌いだ」

まどか 「パダーニャ?」

ジャン 「お前の仲間のことだ。喋る気になったか?」

まどか 「……」

ジャン 「お前はウフィッツィで会った殺し屋より口が堅いな」

まどか (痛い、耳が痛いよ……、怖いよ……助けて……)

QB (まどか、ボクがいるよ。ボクと契約すればこの窮地を脱出出来る)

まどか (契約はしない、絶対に……)

1です。
年内はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。良いお年を。
特にいつも乙くれる方ありがとうございました。

現代イタリア 社会福祉公社本部 魔法少女寮 トリエラとクラエスの相部屋

トリエラ 「さっきヒルシャーさんから聞いたんだけど、五共和国派の魔法少女のネストを襲撃して敵を捕まえたんですって」

クラエス 「そう……」

トリエラ 「あまり興味なさそうね」

クラエス 「私は公社外での任務は滅多に無いから。外で何が起きても基本的に私の日常は変わらないわ」

トリエラ 「連中がここに攻めて来たら?」

クラエス 「その時は戦うけど、トリエラ達が頑張ればそんなこともないでしょ?」

トリエラ 「以前公社で保護したキョウコ・サクラって覚えてる?」

クラエス 「ええ、覚えてるわ」

トリエラ 「あの時あの女を捕まえてればここまで苦労もしなかったのに、本当に……迂闊だったわ」

クラエス 「その時点では彼女が連中の一味だったなんて知らなかったんでしょ? 確か……」

トリエラ 「『ピエラ・マギ・ホーリー・デュオ』よ」

トリエラ回想 現代イタリア メッシーナ大橋実験橋

トリエラ 「出てきたわね!」

マミ 「私達がここに来ると知っていたなんて、公社にしてはなかなか――」

トリエラ 「それはどうも!」

バン、バン

マミ 「台詞の途中でいきなり発砲?」

トリエラ (紅い壁が出てきた!? 防がれた!?)

杏子 「おっとこいつがマ、マギカ1の言っていたツインテールか」

トリエラ (新手か!?)

マミ 「そうよ、気をつけてマギカ2。彼女は腕が立つわ」

トリエラ 「いつの間にか仲間が出来てたのね」

マミ 「ええ、これから私達は『ピエラ・マギ・ホーリー・デュオ』よ!」

現代イタリア 社会福祉公社本部 魔法少女寮 トリエラとクラエスの相部屋

トリエラ (ふざけた話だ……)

トリエラ 「キュゥべえ」

QB 「やあ、トリエラ」

トリエラ 「五共和国派の魔法少女隊の状況は?」

QB 「仲間割れを起こしているよ」

トリエラ 「仲間割れ?」

現代イタリア フランカ運転の車中

さやか (クレオパトラさん!)

クレオパトラ (どうした、さやか?)

さやか (まどかが敵に捕まったんです!)

クレオパトラ (何!?)

さやか (それで喧嘩が始まって)

クレオパトラ (何をやっておる……)

現代イタリア ピノッキオ運転の車中

ピノッキオ 「少しは冷静になったらどうだ?」

ほむら 「あなたには関係ないわ」

マミ 「それ以上勝手なことばかり言うなら私と戦う羽目になるわよ」

ほむら 「クッ……」

シャキン!

杏子 (こいつ変身しやがった!)

マミ 「そう……」

シャキン!

さやか (マミさんも変身!)

杏子 「お前らいいかげんにしろ!」

シャキン!

さやか (杏子!? あんたまで変身してどうするのよ!)

さやか 「三人ともさ、落ち着こうよ!」

さやか (もうイヤ……)

クレオパトラ (さやか!)

さやか (はい!)

クレオパトラ (車の窓を開けよ)

さやか (分かりました)

ウィィィィン

さやか (開けました!)

さやか  (どうするんだろう、クレオパトラさん?)

クレオパトラ (ルシウス、あそこに放水魔法を打ち込め)

ルシウス (よろしいのですか!?)

さやか (ちょっと待った!)

クレオパトラ (構わぬ、水でいいから撃て)

ルシウス (……分かりました)

バシュウウウウウ

マミ、ほむら、さやか、杏子 「キャアアアアアアア!」

現代イタリア 高速道パーキングエリア

マミ 「……」

ほむら 「……」

さやか 「……」

杏子 「……」

ピノッキオ 「僕までずぶ濡れじゃないか……」

クレオパトラ 「事情は分かった……」

クレオパトラ 「マドカを独り残したことは、わらわも含めここに居る全員に責任がある」

クレオパトラ 「だが、よく考えよ。今すべきことはまどかの救出だ。喧嘩ならその後にせい」

マミ 「……はい」

ほむら 「……はい」

杏子 「……チッ」

クレオパトラ 「何じゃ、杏子?」

杏子 「……わかった」

さやか (クレオパトラさんが居なかったら危うく喧嘩になるところだった……)

ルシウス (まどかが敵に捕まるとは……迂闊だった)

クレオパトラ 「これよりまどか救出を行う」

フランカ 「では二手に分かれましょう」

クレオパトラ 「いや、全員でまどかを救い出す」

フランコ 「公社襲撃はどうなる?」

クレオパトラ 「悪いがイタリアの南北問題よりもわらわにとってはまどかの命の方が大事じゃ。
       それに分散した戦力で公社本部を攻めても攻略は厳しかろう」

フランカ 「あなたはどうしてそこまでマドカ・カナメに執着するの?」

クレオパトラ 「……」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

1です
>>300及び
>>301を訂正

誤 ピエラ・マギ・ホーリー・デュオ
正 ピュエラ・マギ・ホーリー・デュオ

これより続きを投下

クレオパトラ 「フランカ、その話はこの戦いが終わってからにしよう。今は時間が惜しい」

フランカ 「分かりました」

ルシウス 「一つ気になることがある」

クレオパトラ 「どうした、ルシウス」

ルシウス 「何故我々がまどかを残して出かけた途端、敵がこちらの隠れ家を襲撃してきたのか?」

クレオパトラ 「そうじゃな。キュゥべえ、申し開きしたいか?」

クレオパトラを除く一同 (キュゥべえ!?)

クレオパトラ 「少し考えれば分かること。この中でマドカの居場所を公社に密告する者が居るとすれば
       こやつしかおらぬ。お前の考えていることは大体分かるが、言ってみよ」

QB 「密告だなんて人聞きが悪いなあ」

杏子 「てめえ、あたし達を裏切ったのか!?」

QB 「裏切るって言い方自体適切ではないと思うよ。感情エネルギーの採取を目的としてボク達は人類との共存関係を
   築いてきた。君達も公社もボク達にとっては等しく契約の対象に過ぎない」

ほむら 「優劣は無いと言いたい訳?」

QB 「少し違うね」

クレオパトラ 「優劣はある。感情エネルギーをより多く手に入れられる方法を選択するということであろう?」

QB 「うん、そうだね。理解が早くて助かるよ」

ほむら 「早くまどかを助けないと」

ほむら (さっきのまどかの叫び声、尋常じゃなかった……。何があったの?)

杏子 「でも手掛かりが無いぞ」

マミ 「キュゥべえ、鹿目さんは無事なの?」

QB 「ああ、大丈夫だよ。別の個体が僕についている」

さやか 「さっきは……何があったの?」





QB 「さっきまどかは片方の耳をナイフで切断されたんだ。命に別状は無い」

ほむら 「何よそれ……」

杏子 「全然大丈夫じゃないじゃん!」

QB 「大丈夫だよ。例え公社がまどかを拷問しても苦痛に耐えられなくなったまどかが僕と契約――」

バン、バンバン

ほむら 「ハァ、ハァ、ハァ」

さやか (今のは気持ち分かるよ)

ルシウス (キュゥべえが死んだ……)

クレオパトラ (……)

クレオパトラ 「どうした、キュゥべえ、出て来い!」

クレオパトラ (いつもならしばらくしたら出てくる筈)

QB (そうはいかないよ。また殺されたら堪ったもんじゃないからね)

さやか (キュゥべえの奴、姿を見せずにテレパシーで話しかけてくる)

クレオパトラ 「ほむら、次に奴が出てきても撃つな。奴は情報源だ」

ほむら 「分かったわ……」

クレオパトラ 「出て来るがいい、キュゥべえ。もう撃たせぬ」

QB (そういう訳にはいかないよ。これは鹿目まどかがボクと契約する絶好の機会なんだ)






クレオパトラ (居なくなったか……)

杏子 「どうすんだよ……?」

ほむら 「まどか……」

ほむら (去年やっとの思いでワルブルギスの夜を乗り越えた。再びやり直す自信は無い。
    もし今の幸せを、まどかを失ったら、私は……)

さやか 「公社の奴ら、まどかになんてことを……。あの子はあたしら魔法少女と違って普通の子なんだよ!」

フランカ 「公社ってそういう組織なのよ。私も公社に捕まったことがあるから分かるわ」

杏子 (以前、救出したフランカに治癒魔法をかけた時、フランカの身体が傷や痣だらけだった)

マミ (鹿目さんも今頃同じ目に……)

ルシウス 「このままではまどかが危ない」

マミ 「ルシウスさん?」

ルシウス 「?」

マミ 「今、なんて言ったの?」

ルシウス (マミが平たい胸族の言葉を使っている……)

クレオパトラ (やられた……)

フランコ 「お前達、何を話してるんだ?」

クレオパトラ (キュゥべえめ、自動翻訳機能を解除したな……)

以下の会話はクレオパトラだけ日本語、ラテン語、イタリア語で同じ台詞を3回話しているが、
割愛して1つの台詞だけ記載する。

クレオパトラ 「全員聞け!」

一同 「!」

クレオパトラ 「皆薄々感づいたと思うがキュゥべえが自動翻訳機能を解除して全員の意思疎通が
       容易に出来なくなった。だがわらわは日本語、ラテン語、イタリア語を全て話せる。
       よってこれよりわらわが全軍の指揮を執る」

フランコ 「止むを得んな」

フランカ 「確かにここにいる全員と会話出来るあなたが指揮を執るのが妥当ね」

ピノッキオ 「……」

ルシウス 「畏まりました」

マミ 「分かりました」

ほむら 「まどかさえ救えるのなら私は……」

さやか 「キュゥべえが居なくなるまで言葉の問題を忘れてたわ」

杏子 「で、これからどうするんだ?」

クレオパトラ 「それについてだが……」

現代イタリア 社会福祉公社 トスカーナ支部 取調室

ゴキッ

まどか 「……」

リコ 「ジャンさん、相手がまた気絶しました」

ジャン 「リコ、しばらく休め。洗面台で返り血を洗ってこい」

リコ 「はい」

ジャン 「15分後にヘリで捕虜をローマの公社本部に移送する。本部に移送後『尋問』を再開する。
    顎が外れても鼓膜が破れてもキュゥべえとやらが居れば意思の疎通が出来る。死なない程度に痛めつけろ」

リコ 「わかりました」

ヘンリエッタ 「ジョゼさん、私は何もしなくていいんですか?」

ジョゼ 「ああ、捕虜への尋問は兄さん達がやっているし、連中の主力はガスパレ、ソニー組とルーポ、ガットネーロ組が
    追っている。後15分で捕虜を移送するヘリが来るから今のうちに出発の準備をするんだ。僕らもそれに乗って
    本部に帰還するよ」

ヘンリエッタ 「分かりました」

ジョゼ (義体の運用は基本、各担当官に一任されているとはいえ、兄さんは義体にあんなことをさせて平気なのか……。
    相手はテロリストの一味とはいえ、エンリカと年の変わらない子供だぞ)

ジョゼ (最近仕事に追われてエンリカにかまってやれない……。大事な実の妹なのに。これでは死んだ父さんと母さんに
    顔向け出来ない……)

ジョゼ (この任務が片付いたら、兄さんと一緒にエンリカに会いに行こう……)

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

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