男「あー、イケメンになりてー」 高校生女「……」(1000)

テクテク、テクテク

男「そうしたら人生変わってたのになあ」

高校生女「……」

男「生まれ変わったら絶対イケメンになりてー」

高校生女「独りごと言ってんの?」

男「……」


テクテク、テクテク

男「お前なあ、何で俺にまとわりついてくるわけ?」

高校生女「家が近いからね」

男「お前って昔っから俺に付きまとってるよね」

高校生女「家が近いからね」

男「お前ってひょっとして俺のこと……」

高校生女「うぬぼれんなよ。このキモ男」

男「キ、キモ男っていうな。このストーカー女」

高校生女「すみませんけど、あんたのストーカーしている程暇じゃないし」

男「彼氏もいねえし、どうせ暇なんだろ?」

高校生女「……彼氏いるし」

男「……えっ……? ……初耳なんですけど……」


高校生女「なに? ショック受けた?」

男「だ、だれがショックを受けるかよ!」

高校生女「焦ってんじゃん」

男「……うっせーよ」

男「彼氏いるんなら、もう俺にまとわりつくなよ……」

高校生女「しょうがないじゃん。家近いし」

男「関係ねーだろ! 彼氏いるのに他の男に付きまとうなよ……」

高校生女「大丈夫。あんたのことは男としてみてないから」

男「お前なあ……、キツい女は嫌われるぞ」

高校生女「ご心配なく。彼氏とは至極順調なので」

男「……ああ、それはよござんしたね」


ザワザワ、ザワザワ

友人男「おっはよ。男! そして高校生女!」

高校生女「おはよ。友人男君」

高校生女「じゃあね。男」

俺「……へい、じゃあね」


ガラガラ、スタッ

友人男「お前ら相変わらず仲いいなあ」

男「誰と?」

友人男「高校生女とに決まってんだろ」

男「仲いいように見えるか?」

友人男「あったりめえだろ! お前らもう付き合ってるんだろ?」

男「はあ? 全然そんなんじゃねえし」

友人男「嘘つけよ。絶対高校生女はお前のこと好きだって」

男「……あいつ、彼氏いるし」

友人男「マジで! 性格キツいけど、やっぱいルックスがいいからなあ」


友人男「で、お前はフられてしょんぼりしてるわけ?」

男「だ、誰がだよ。そもそも告ってもねえし……」

友人男「告ればいいじゃん」

男「……そもそも、あんな女嫌だし」

友人男「じゃあ、どんな女がいいんだよ?」

男「かわいくて、おしとやかで、何でも言うこと聞いてくれる子」

友人男「かー。お前、そりゃ一生彼女できないぞ」

男「……そんなことねえよ」


友人男「お前なあ、世の女子がお前のことどう思っているのか知っているのか?」

男「……知らねえよ」

友人男「『怖くてしゃべりづらい、おまけにキモい』だぜ」

男「『キモい』って何だよ!」

友人男「だって、お前、公衆の目をはばからずにそんな雑誌を読んでるじゃないか」

男「雑誌ってこの『萌え萌えパラダイス』のことか?」

友人男「そうだよ。それだよ」

男「何でキモいんだよ……お前らだってジャンプとか読んでるじゃねえかよ」

友人男「おい、萌えパラとジャンプは本質的に違うんだぞ。そこを認識しろ」

男「同じ漫画なんだし、大して変わんねえじゃん」

友人男「お前、だから女子から敬遠されるんだよ」


友人男「その点、高校生女はよくできた子だぜ。こんなお前を受け入れているんだからな」

男「……あいつは俺をおちょくって楽しんでるだけだって」

友人男「……お前、高校生女を大事にしろよ」

男「大事にするもなにもあいつは彼氏がいるって言っただろ」

友人男「見たのか?」

男「何を?」

友人男「彼氏をだよ」

男「見たことなんてねえよ」

友人男「そうか」

男「『そうか』って、何だよ」

友人男「ま、いずれにしても後悔だけはするなよ。人生1回きりだしな」

男「何だよ、そのアドバイスは?」

友人男「ははっ、気にするな」


テクテク、テクテク

男「あー、リア充になりてえ」

高校生女「……」

男「リアルが充実してるってどんな感じなんだろうか?」

高校生女「さっきから独り言うるさいんですが」

男「おまっ……独り言言おうがなに言おうが俺の勝手だろ?」

男「それに、お前が勝手についてきているだけだし。嫌ならついて来るなよ」

高校生女「……そんなことだから、彼女ができないんだよ」

男「あーあー、お前はどうせ彼氏がいて現実を謳歌しているんだろ? うらやましいですよっ」

高校生女「……」


男「……お前って、本当に彼氏いんのかよ?」

高校生女「いるよ」

男「お前みたいな女を好きになるなんて、そんな物好きな奴が……」

爽やか風の男「お、よう、高校生女!」

高校生女「オッス、爽やか風の男」

男「……」

爽やか風の男「ん? そちらさんは学校のお友達?」

高校生女「うん、そう。学校の友達」

男「……」

男「……じゃあ、俺はこれで……」

爽やか風の男「ん? 帰っちゃうの? いいのに、いいのに」

高校生女「いいんだよ。あいつは……」


トボトボ、トボトボ

男(……)

男(……待ち合わせしていたみたいだな……)

男(……彼氏を俺に見せびらかそうって訳か?)

男(……あの性悪女が……)

男(……)

男「……くそっ」


翌日……

ザワザワ、ザワザワ

友人男「おい、どうしたんだよ? 元気ないじゃん」

男「……別に」

友人男「お前、今日は珍しく高校生女と一緒じゃなかったし……さては喧嘩したか?」

男「そんなんじゃねえよ」

友人男「じゃあ、告って本当にフられたとか?」

男「ちげーよ」

友人男「じゃあ、高校生女の彼氏を目撃したとか?」

男「……」

友人男「……ビンゴすか? マジで? やっぱりいたんだあ」

男「……」


友人男「で、お前は落ち込んでいる訳か……」

男「……」

友人男「やっぱりお前、高校生女のこと好きだったんじゃん」

男「全然そんなんじゃねえよ」

友人男「お前口ではそういうけどなあ、相当動揺しているのが見え見えだぜ」

男「そんなことねえよ」

友人男「……お前なあ、今読んでる今週号の萌えパラ、上下逆さまだぜ」

男「し、知っているよ。わざとだよ」

友人男「……だから言わんこっちゃない……」


男「……」

友人男「……」

友人男「ところで傷心中のところ話変わるんだけどさ、お前聞いた?」

男「何を?」

友人男「今日、転校生が来るらしいぜ」


ガラガラ

教師「おーし、席につけー」

ザワザワ、ザワザワ

教師「静かにしろー」

教師「知っている奴もいるかも知れないが、今日からこのクラスに転校してきたニート君だ」

スタスタ

ニート「俺、ニートっていう」

ニート「職業はニートではなくてスチューデントだから、そこんとこよろしくっていう」

教師「よーし、みんなよろしくな。それじゃあ、ニートはそこの席に座ってくれ」

ニート「承知したっていう」


休み時間……

ザワザワ、ザワザワ

女生徒A「ニート君って変わった名前だよね」

ニート「そんなことないっていう。俺の国では普通の名前だっていう」

女生徒B「何それ?どこの国?」

ニート「お前たちの知らない遠い国だっていう」

女生徒C「あははは、ニート君っておもしろーい」


友人男「なんかあいつやけに溶け込むのが早いな」

男「しゃべりかたが面白いからなんじゃないの?」

友人男「しかも、なぜか女にもてる」

男「……」

友人男「今までの俺の中にはなかったもてパターンだ」

ニート(ジロッ)

友人男「やべっ、目があった」

男「別にヤバくないだろ」


スタスタ

ニート「お前たちの名前を教えてくれっていう」

友人男「俺は友人男」

男「俺は男っていう」

友人男「おい、お前……真似すんなよ!」

ニート(ジッ)

ニート「男、お前、表情になんかかげりがあるなっていう」

ニート「つい最近女にフラれたんだろうっていう」

友人男「ビンゴ! お前、初対面なのによく分かるなあ」

男「放っといてくれよ」


ニート(ジッ)

ニート「男、よく見るとお前、なかなか面白い人相をしているなっていう」

男「……な、なんだよ」

ニート「ふむふむ、なるほどなっていう」

男「何が『なるほど』なんだよ」

ニート「こっちの話しだっていう」

ニート「お前は何も気にするなっていう」

ニート「転校生に怪しさはつきものだっていう」

ニート「怪しい転校生が登場すると話が盛り上がるっていう」

ニート「それじゃあ、またなっていう」

スタスタ


男「……」

友人男「なんかあいつ怪しいな」

男「……確かに怪しいなっていう」

友人男「おまえ、それやめろ!」


その日の夜……

スースー、スヤスヤ

男(……ん? これは夢の中?)

ニート「よう、男! っていう」

男「お前は……えーっと?」

ニート「もう俺の名前を忘れたのかっていう」

ニート「お前頭悪いなっていう」

ニート「とんだDQN脳だなっていう」

男「うっせーよ。このニート野郎が」

ニート「そう、俺の名前はニートだっていう」


男「……」

ダッ、ヒラリ

ニート「おっと、突然俺に襲いかかろうとするなっていう」

ニート「これだから、DQNは手が焼けるっていう」

男「おい、ニート、これは夢か?」

ニート「その通りだっていう」

ニート「これは夢で、お前の夢の中に俺が入り込んでいるっていう」

ニート「俺は神様だから何でもできるっていう」

ニート「ただし、神ニートではないからそこんとこよろしくっていう」

男「……」


ニート「お前、昼間は随分不幸そうな顔をしていたなっていう」

ニート「見るに見かねて俺がこうして来てやったっていう」

ニート「俺は神様だからお前の望みを1つだけ叶えてやるっていう」

男「イケメンになりたい」

ニート「即答だなっていう」

ニート「DQNの短絡ぶりをものの見事に体現しているなっていう」

ニート「もう少しよく考えたほうがいいぜっていう」

ニート「お前の想い人と縁を結んでやることもできるんだぞっていう」


男「早くイケメンにしろ」

ニート「まったく聞く耳を持たないなっていう」

ニート「夢だと思って甘く見ているなっていう」

ニート「でも、俺は人間ができているからちゃんと約束は守るっていう」

ニート「お前を、お前の学校にいるイケメンとして生まれ変わらせてやるっていう」

ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、シュー


チュン、チュン、チュン、チュン

……「……ん、んん、夢か……」

……「……あれ? ここはどこ?」

……(まさか……)

……「……」

イケメン「……やべえ、本当にイケメンになっている」


テクテク、テクテク

イケメン(……これは一体どういうことだ?)

イケメン(……あれは夢じゃなかったのか?)

イケメン(……夢じゃなかったとしたら、元の俺は一体どうなったんだ?)

女生徒「おはよう」

イケメン「……あ、ああ。おはよう」

女生徒(ニコッ、スタスタ)


テクテク、テクテク

イケメン(……さすがイケメン、朝から女の子に声を掛けられるとは……しかもあんなとびっきりの笑顔で……)

イケメン(……確か、イケメンはD組だったはず……ということは高校生女と同じクラスか!)

高校生女「おはよっ!」

イケメン(ビクッ)

イケメン「……あ、ああ。おはよう」

高校生女「ごめん、おどかしたかな?」

イケメン「……いや、そんなことないよ。ははっ」

高校生女「そっ」(ニコッ、スタスタ)


イケメン(……高校生女……一瞬ドキッとしちまった)

イケメン(……あいつのあんな顔、俺は今まで見たことなかったぞ)

イケメン(……)

イケメン(……俺はいなくても全然平気ってことか……)

イケメン(……)

イケメン(……まあ、とにかく、ニートをとっちめなければってとこだな)


ヒョイ

イケメン(キョロキョロ、キョロキョロ)

友人男「ん、お前はD組のイケメンじゃないか?」

イケメン「あ、ああ」

友人男「うちのクラスに何か用?」

イケメン「ニートってやついる?」

友人男「ああ、あいつ? まだ来てないみたいだよ」

イケメン「あ、そう」

友人男「ニート有名人だなあ。お前んとこのクラスでも話題になってるの?」

イケメン「あ、ああ。まあな」

友人男「へえー」


イケメン(キョロキョロ、キョロキョロ)

友人男「ん? まだだれか探してんの?」

イケメン「男は来てる?」

友人男「ん? 誰? 男って?」

イケメン「いや、男、男だよ。ほら、あそこの席の……」

友人男「……あそこ……は、女生徒Aの席だぜ」

イケメン「えっ……席替えしたのか?」

友人男「いや、最近は席替えなんてしてないなあ」


イケメン「おい、友人男! 本当に男ってやつを知らないのか?」

友人男「知らねえよ。そんなやつ。他のクラスのまちがいじゃねえ?」

イケメン「いや、男って、ほら、あの『萌え萌えパラダイス』っていう雑誌が好きだったやつだよ」

友人男「いや、俺には全然そんな知り合いはいないよ」

友人男「それより、お前はそっち系が結構好きなのか? 顔に似合わずだな」

イケメン「……あ、ああ。読んでみると結構面白いぞ!」

友人男「ははっ、そうか。萌えパラを読むイケメンか。何かかっけえな」

イケメン「……あ、ああ。ありがとう。また後でくるわ」

友人男「うん。分かった。じゃあな」

イケメンって顔じゃなくてイケメンって人物になったのかww

なんで名前が女じゃなくて高校生女なん?
意味あんの?

>>36
そう

>>37
意味はなし。


ドヨン、ドヨン

イケメン(……一体どうなっているんだ?)

イケメン(……「俺」がいなくなった? 完全に存在を消去された?)

イケメン(……これも夢なのか? いや、夢でないというのは直感的に何となく分かる)

イケメン(……じゃあ、やっぱりあのニートが仕組んだことなのか……)

イケメン(……)


女生徒「イケメン君、どこか具合悪いの?」

イケメン「……あ、いや、全然、そんなことないよ」

イケメン(……やべ、イケメンってどんなキャラだったかあんまり分かんねえ)

イケメン「それより、女生徒、その髪型かわいいね」

女生徒「うそ、本当? イケメン君にそういう風に言ってもらうとすごく嬉しい!」

女生徒「それに、イケメン君、よく私が髪型を変えたって分かったね」

イケメン「あ、ああ、なんかいつもと雰囲気が違うなって……ごめん、ちょっとトイレ」

ダッ

女生徒「あ、イケメン君!」

高校生女(チラッ)「……」


バタンッ

イケメン(……マズイな……)

イケメン(……イケメンがどんなやつだったかほとんど分かんねえ……)

イケメン(……取りあえず今日はできるだけトイレで過ごそう……)

キーン、コーン、カーン、コーン

イケメン(……チャイムか……今日の授業は一体何だろう?)


カリカリ、カリカリ

イケメン(……くそっ、よりによって1時間目は数学か!)

イケメン(……確かイケメンは校内トップの成績だったはず……)

イケメン(……頼むから当たらないでくれ……)

数学教師「はい、ではこの問題をイケメン君、前に出て解いてみて」

イケメン(……くそっ、いきなりかい!)

イケメン「……はい」


テクテク

イケメン(……くそっ、何だかクラス中の女子の熱い視線を背中に感じる……)

イケメン(……落ち着け、落ち着けば奇跡は起きる)

数学教師「どう? さすがに大学入試レベルの応用問題だから難しいかしら」

イケメン「……そうっすね。難しいっすね」(……分かるわけないだろ!!)

数学教師「そう、じゃあ、仕方がな……」

イケメン(……うん? 何だ? 手が勝手に……)

スラスラ、スラスラ、スーラスラ、トンッ

イケメン(チラッ)

数学教師「すごい、正解だわ!」

女生徒達(ザワザワ)「きゃー。イケメン君かっこいい!」

男生徒達(ザワザワ)「やっぱすげえな、イケメンは」

イケメン「……ははっ、じゃあ、俺はこれで……」

……


キーン、コーン、カーン、コーン

イケメン(……よーし、数学終わった!)

イケメン(……トイレ行く前に取りあえずニートを)

男生徒A「おい、イケメン、さっきのすごかったな」

イケメン「……あ、ああ、たまたまだよ。何とかな」

男生徒A「……お前はいつも謙虚だよな」

イケメン「……ははっ、そんなことねえよ」

イケメン(……そうか……イケメンは謙虚なのか……)

イケメン(……しかも女子のみならず男子からも好かれているような気がする)

イケメン(……さすがイケメン……恐るべきリア充度……)

イケメン「……俺、ちょっと……」

男生徒B「おーい。次体育だから着替えに行こうぜ」

男生徒A「おう、いこうぜ」

イケメン(……体育か……たしかこのクラスは隣のC組と合同だったはず……)

男生徒A「おい、イケメン、早くしろよ!」

イケメン「……あ、ああ。今いく」


ピーーーーーー

体育教師「よーし、集まったか。今日は体育測定の続きで100m走と走り幅跳びの測定を行う」

体育教師「まずは100m走だ」

体育教師「各クラス1名ずつの計2名ずつで計測を行う」

イケメン(チラッ)

イケメン(……ニートの野郎、いやがった)

イケメン(……しらっとした顔してやがる)

イケメン(……この授業が終わったら絶対にとっちめて事の真相を聞き出してやる……)

ピーーーーーー、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ

ピーーーーーー、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ


体育教師「よーし、次」

体育教師「おお、次はイケメンか。好記録、期待してるぞ」

イケメン「……は、はい」

イケメン(……そうか、イケメンはスポーツも万能だったな……)

イケメン(……まあ、身体はイケメンのものだし、走るだけなら俺でも大丈夫だろう……)

体育教師「で、C組は……」

ニート「俺の出番だぜっていう」

イケメン(……お、お前……)

ニート(チラッ、ニヤリ)

イケメン(……こいつのこの顔……やっぱり俺のことを……)


体育教師「おお、お前は転校生だな」

体育教師「相当自信がありそうだな」

男生徒達(ザワザワ)「おお、イケメン 対 謎の転校生だ」

男生徒達(ザワザワ)「イケメン、負けんなー。絶対勝て―」

ニート(ボソッ)「イケメンの心地はどうだ? っていう」

イケメン(……こいつ、やっぱり……)


体育教師「オンユアマーク……ゲットゥセット……ゴオオオオオーーーー」

ビュンッ

体育教師「は、速い!」

男生徒達(ザワザワ)「すげー! はえー!」

ピッ、ピッ

計測係「イケメン……10秒5……」

男生徒達(ザワザワ)「おー!」

計測係「ニート……ごっ、5秒1」

男生徒達(ザワザワ)「きゃー! 人間じゃねえー」


ニート「朝飯前だっていう」

ニート「息ひとつ乱れていないっていう」

ニート「楽勝だなっていう」

イケメン「……はあはあ、おい、ニート、話がある。今日の放課後に待ってろ」

ニート「俺は別にお前に話したいことはないぜっていう」

イケメン「……はあはあ、今日の放課後だ。これは絶対命令だ」

ニート「お前に命令される筋合いはないっていう」

ニート「でも仕方がないから付き合ってやるっていう」


放課後……

ザワザワ、ザワザワ

イケメン「さあ、ニート、帰るぞ」

ニート「話したいことがあるならここで話せばいいっていう」

イケメン「とっとと来い」

ニート「やましい話をするわけでもないんだからここで話せばいいっていう」

イケメン(ゴゴゴゴゴゴゴゴッ)

ニート「……やれやれ、仕方ないなっていう」


テクテク、テクテク

ニート「お前、顔はイケメンになったけど、心は全然イケメンじゃないっていう」

ニート「今のままだとそのうちボロが出るぜっていう」

イケメン「おい、ニート、一体俺には何が起こった?」

ニート「見ての通りだっていう」

ニート「お前はイケメンに生まれ変わったっていう」

ニート「好きなだけリア充生活を謳歌すればいいっていう」

イケメン「……百歩譲って、俺がイケメンに乗り移ったとしよう」

イケメン「で、以前の俺はどこにやった?」

ニート「男はもう不要になったから処分したっていう」

ニート「もはや物理的にこの世界には存在しないっていう」

ニート「あと、男に関係した人物のすべての記憶も消去しておいたっていう」

ニート「男はもう完全に存在しない人物となっているから安心すればいいっていう」

イケメン「……てめえ……殺す」


ブンッ、ヒラリ

ニート「お前はDQNの体質が抜けていないなっていう」

ニート「暴力では解決できないことも世の中にはたくさんあるんだぜっていう」

ニート「俺みたいにスマートにならないとイケメン失格だぜっていう」

イケメン「……元に戻せ」

ニート「無理だっていう」

イケメン「……元に戻せ」

ニート「リピートするが無理だっていう」

ニート「……それよりもお前はこれからイケメンとしてやらなければならない大切なことがあるっていう」

ニート「おれについて来いっていう」

イケメン「……」


テクテク、テクテク

ニート「着いたぜっていう」

イケメン「……ここは……イケメンの家じゃないか」

ニート「早く入れっていう」

イケメン「……た、ただいまー」

ドタドタ、ドタドタ

上の妹「おにいちゃん、お帰りなさい」

下の妹「おにい、お帰り」


ニート(ヒソヒソ)「イケメンの家族だっていう」

ニート(ヒソヒソ)「イケメンの両親はすでに数年前に他界しているっていう」

ニート(ヒソヒソ)「イケメンはこの子達をずっと養ってきたっていう」

イケメン(ヒソヒソ)「……おいおい、俺にどうしろと……」

ニート(ヒソヒソ)「決まっている話だ。思う存分この子たちを養えっていう」


上の妹「おにいちゃん、友達の人?」

イケメン「……あ、ああ、そうだよ」

上の妹「こんにちは、おにいちゃんのお友達さん」

下の妹「こんにちは、おにいの友達さん」

ニート「こんにちはっていう」

ニート「俺の名前はニートっていうからそこんとこよろしくっていう」

上の妹「ニートさん? 変わった名前ー」

ニート「大人の世界には色々な事情があるんだっていう」

ニート「お嬢ちゃんたちにはまだちょっと早かったなっていう」

ニート「そんなことよりイケメンのお兄ちゃんが今晩はご馳走を作ってくれるっていう」

下の妹「えっ? ホント? おにい?」


イケメン「……」

ニート(ドンッ)

イケメン「……あ、ああ。そうだよ。ごちそうだ。期待していろよ!」

下の妹「わーい。やったー」

上の妹「……おにいちゃん、あんまり無理しなくていいよ。わたしはいつものおにいちゃんの料理がすごく好きだよ」

ニート(ヒソヒソ)「上の妹は家計が厳しいっていうことを知っているんだっていう」

イケメン「……はは、上の妹、お前は何にも気にしなくて大丈夫だぜ」


ニート「その通りだっていう」

ニート「イケメンにはいつもお世話になっているから食材は全部俺が用意しているっていう」

ニート「お嬢ちゃんたちは今日はおいしい料理をおなか一杯食べるんだぜっていう」

下の妹「わーい。おにいの友達のニートさんありがと」

上の妹「ありがとうございます。ニートさん」

ニート「全然気にすることはないっていう」

ニート「では、俺はこれで失礼するっていう」


イケメン(ドンッ)

イケメン(ヒソヒソ)「……おい、俺は料理なんてやったことないんだぜ」

ニート(ヒソヒソ)「安心しろっていう」

ニート(ヒソヒソ)「必ず道は開けるっていう」

ニート(ヒソヒソ)「信じる者は救われるっていう」

ニート「じゃあなっていう」

妹たち「さようなら、ニートさん」

イケメン「……」

イケメン「……よし、それじゃあ、今から兄ちゃんは晩御飯作るからな。いい子で待ってるんだぞ!」

上の妹「うん」

下の妹「わーい。ごちそうだ、ごちそうだあ」


数時間後……

スヤスヤ、スヤスヤ

イケメン「……へっ、かわいい顔で眠ってるや」

イケメン「台所の片づけは終わったし、俺もそろそろ眠ろうかな」

コンコン、コンコン

イケメン「……ん? 玄関か……」


ガチャッ

ニート「よう、イケメン。調子はどうだっていう」

イケメン「……何とかうまくいったよ。俺はもう今日はくたくただから寝るぜ」

ニート「そういうわけにはいかないっていう」

ニート「お前にはこれから重大な任務が待っているっていう」

ニート「リア充に休みはないんだぜっていう」

ニート「とりあえずこの携帯電話を持てっていう」


スチャッ、ブルブルブル、ブルブルブル

イケメン「……おい、電話が来てるぞ」

ニート「とっとと電話に出ろっていう」

イケメン「なんで俺が……」

ニート「イケメンの宿命だっていう」

ニート「拒否することはできないぜっていう」

イケメン「やだよ。もう疲れてんだよ。今日はもう寝かせてくれよ」

ニート「相手はハーフの美人でかなりのやり手の才女だっていう」


スッ、ピッ

イケメン「はい。もしもし」

謎の女「もしもし、イケメン?」

イケメン「はい。そうです」

謎の女「例の麻薬密売組織のアジトの場所が分かったわ」

謎の女「スピルバーグと一緒に今すぐ第7埠頭まで来て」

イケメン「密売組織? スピルバーグ?」

ニート「スピルバーグは俺のコードネームだっていう」

ニート「お前はこれから麻薬密売組織を壊滅させに行くんだっていう」


イケメン「……」

謎の女「じゃあ、30分後に埠頭で落ち合いましょう」

イケメン「……」

ニート(ドンッ)

ニート(ヒソヒソ)「とっとと返事をしろっていう」

ニート(ヒソヒソ)「ちなみに彼女のコードネームは『リサ』だっていう」

イケメン「……了解したよ。……リサ」


プワーン、プワーン、テクテク、テクテク

イケメン「何で俺が麻薬の密売組織と対決しなきゃいけないんだよ」

イケメン「普通に警察に任せておけばいいだろ」

ニート「イケメンはその類まれな身体能力を買われて麻薬密売を取り締まる地下組織にヘッドハンティングされたんだぜっていう」

イケメン「何だよ、それ? 意味分かんねえ」

ニート「イケメンはリア充っていうことだっていう」

イケメン「いやいや、リアル充実しすぎだろ。こんなんじゃいくら命があっても足りないぜ」


イケメン「……で、報酬はいくらなんだよ?」

ニート「金のことは気にしないのがイケメンだっていう」

イケメン「ふざけんな。今回のミッションで報酬もらったらもうこんなのはなしにして妹たちとしばらくゆっくり暮らすぞ」

ニート「残念ながらイケメンはボランティアでこの仕事を引き受けたっていう」

ニート「よって報酬はゼロだっていう」

イケメン「……ボランティア……だと?」

イケメン「高校生の課外活動じゃあるめーし、ボランティアで引き受けるなっつうの!!!」

ニート「今のは1人のりつっこみかっていう」

ニート「イケメン、調子が出てきてなかなかいい感じだぞっていう」

ニート「そうこうしているうちに着いたぞっていう」


ササッ

リサ「久しぶりね。イケメン、それにスピルバーグ」

ニート「ああ、しばらくぶりだなっていう」

イケメン「……あ、ああ、久しぶりだな」

リサ「……ん? なんかちょっと雰囲気が変わったわね。イケメン」

イケメン「そうか? お前は相変わらず綺麗だな。リサ」

リサ「ふふっ。口の方は相変わらずね」


ススッ、ピラッ

リサ「これが今回の敵のアジトの見取り図」

リサ「わたしとイケメンが裏口から突入するから、スピルバーグは援護をお願い」

ニート「了解したぜっていう」

イケメン「……りょーかい」

リサ「はい。これは銃と弾倉」

ニート「サンキューだぜっていう」

イケメン「……これ、本物かよ……」

リサ「当然でしょ」

ニート「心配するなっていう。お前の射撃の腕は天下一品だっていう」

リサ「そうね。わたしも射撃の腕には自信があるけどあなたには敵わない」

イケメン「……ははっ。自信でるっす……」


スチャッ、スチャッ

リサ「準備はいい? いくわよ」

ドカンッ

密売人たち「ん? 何だ? 裏口の方か?」

ニート「援護射撃は俺に任せろっていう」

ニート「お前はどんどん突っ込んで行けっていう」

イケメン「へいへい。分かりやした」

密売人たち「侵入者がいたぞ。撃てー」


バキューン、バキューン、ドドドドドドドッ、バキューン、バキューン

ニート「イケメン、とっとと突っ込めっていう」

イケメン「無理無理無理無理。普通に死にますから」

ニート「イケメンには弾丸は当たらないっていう」

ニート「お前は一応主人公なんだから、そこんとこは自信持って行けっていう」

ピューーー、ボカーン

リサ「今よ、イケメン。突っ込むわよ」

イケメン「……くそっ」


ダッ

バキューン、バキューン

イケメン「そこだっ」

バキューン、バキューン、バタ、バタ

イケメン「ほれっ、これでも食らいな」

バキューン、バキューン、バタ、バタ

密売人「う、くっ、何だあいつは?」

密売人たち「あの男を狙えー。撃てー」


バキューン、バキューン、ドドドドドドドッ、バキューン、バキューン

イケメン「へっ、あめーぜ」

バキューン、バキューン、バタ、バタ、バキューン、バキューン、バタ、バタ

密売人たち「くそっ」

リサ「……すごい。あれだけの人数を一人で……」

ニート「俺が手を出すまでもないなっていう」

ニート「段々イケメンが板についてきたなっていう」


バキューン、バキューン、バタ、バタ、バキューン、バキューン、バタ、バタ

密売人「くそ、お前は一体? でも、俺たちの組織はとてつもなく巨大だぜ……」

密売人「俺たちに手を出したのが運の付き……いつか仲間が仇を……グフッ」

イケメン「終わったか……」

リサ「凄いわ。イケメン。ほとんど1人で壊滅させたわね。」

イケメン「怪我はなかったか? リサ」

リサ(ポッ)「え、ええ。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

ニート「リサ、顔が赤いぞっていう」

リサ「そ、そんなことないわよ」


ニート「今回はイケメンの活躍もあってこいつらを壊滅出来たっていう」

ニート「でも、今回の件で俺たちは逆に狙われる身になったっていう」

リサ「そうね。今後はこれまで以上に気を付けていかなければならないわね」

ニート「組織を壊滅させるまでにはさらに厳しい戦いが待っているぜっていう」

ニート「お前のボランティア活動はこれからも続くんだぜっていう」

イケメン(……ボランティア活動……ありえんぞ……)

リサ「イケメン、あなただけが頼りだわ。これからもよろしくね」

イケメン(……)

イケメン「……ははっ、任せとけって」

ニート「さすがイケメンだっていう」

ニート「これにて一件落着だなっていう」


イケメンの家……

ガチャッ

イケメン「ひえー。やっと家に戻って来たー」

ニート「イケメン、お疲れだったなっていう」

イケメン「おいもう、午前2時だぜー。さすがに体力の限界だ」

ニート「イケメン、ゆっくり休めっていう」

ニート「俺は睡眠とらない派だから、お前にモーニングコールをしてやるっていう」

イケメン「……何かお前にはまだまだ聞かなきゃいけないことがいっぱいあるんだが……」

イケメン「……今日はクタクタだからまた明日にしてやるよ……」

ニート「俺はもうお前に何もかも話した気がするが、話しがあるっていうなら聞いてやらないでもないっていう」

ニート「それじゃあ、さらばだっていう」

ガチャッ

イケメン「軽くシャワーを浴びて寝るか……」


30分後……

ピロピロピロピロー、ピロピロピロピロー、ピロピロピロピロー、ピロピロピロピロー

イケメン「……はい……?」

ニート「イケメン、朝になったぞっていう」

ニート「とっとと起きて身支度整えろっていう」

イケメン「……おい、今何時だと思ってんだ?」

ニート「午前2時半だっていう」

ニート「イケメンの起床時間だっていう」


イケメン「おい、おかしいだろ! 俺はまだ眠りについたばっかりなんだぜ」

イケメン「どこに起床時間が午前2時半の高校生がいるんだよ」

ニート「お前は大事なことを忘れているっていう」

ニート「お前は一家の大黒柱だっていう」

ニート「お前はかわいい妹たちの食い扶持を稼がなければならないっていう」

イケメン「……まさか……」

ニート「ようやく察したかっていう」

ニート「イケメンは週7日で新聞配達のアルバイトをやっているっていう」


30分後……

ギコギコ、ギコギコ、ストンッ

イケメン「もう、だめだよ」

イケメン「俺、1週間後には過労で死ぬよ。絶対」

ニート「弱音は吐くなっていう」

ニート「イケメンは絶対に弱音は吐かなかったっていう」

イケメン「……」

イケメン「……イケメン、偉大だな……」

イケメン「妹たちの面倒をみて、空いた時間で勉強もちゃんとやってたんだろうな……」

ニート「そうだぜっていう」

ニート「イケメンは、心も身体も完璧なイケメンだったぜっていう」

イケメン「……」


イケメン「おい……イケメンはどうなっちまったんだよ?」

ニート「質問の意味がよく分からないなっていう」

イケメン「……」

イケメン「……俺がこうしてイケメンの身体に乗り移って、俺の元の身体は処分したって、お前言ってたよな?」

ニート「その通りだっていう」

イケメン「じゃあ、イケメンの人格はどこにいったんだよ?」

ニート「簡単な話しだっていう」

ニート「イケメンの人格は不要になったからお前の身体と一緒に処分しておいたっていう」


ギッ、ガチャン

イケメン「……てめえ」

イケメン「誰の許可があってそんなことを……」

ニート「夢の中でお前が望んだことだっていう」

ニート「それがただ現実のものになっただけの話しだっていう」


ヒュッ、ヒラリ

ニート「結局暴力に訴えるのかっていう」

ニート「お前はまだまだイケメンには程遠いなっていう」

イケメン「……元に戻す方法を教えろ」

ニート「既に何回も言っているが、元に戻す方法はないっていう」

イケメン「……俺はどうなってもいいから、イケメンを元に戻す方法を教えろ」

ニート「何度も言っているように無理だっていう」

ニート「物理的に存在しないものを元の状態に戻すことはできないっていう」

イケメン「……」


ヒュッ、ヒラリ

ニート「まだ暴力に訴えるかっていう」

ニート「暴力を振るった所で何も変わらないっていう」

イケメン「お前を殺して、俺も死ぬ」

ニート「お前が死ぬのはお前の勝手だが、残される人間たちのことを考えろっていう」

ニート「お前が死ねばイケメンの妹たちは路頭に迷うことになるっていう」

ニート「今のお前の命は、もはやお前だけのものじゃないっていう」

イケメン「……くそっ」

ニート「事情が呑み込めたんなら、さっさと新聞配達の続きをするっていう」

ニート「すべてはかわいいお前の妹たちのためだっていう」

イケメン「……」

ガチャ、ギコギコ、ギコギコ、ストンッ


翌朝……

チュンチュン、チュンチュン

上の妹「おはよう、おにいちゃん」

イケメン「おう、おはよう」

イケメン「今、朝ごはんの支度をしてるからな!」

イケメン「下の妹を起こしてきてくれるか?」

上の妹「うん、分かった」


テクテク、テクテク

下の妹「おはよー、おにい」

イケメン「おう、起きたか? 学校に遅れるからさっさと顔洗って飯食えよ」

下の妹「うーん、わかったでござる」

イケメン「兄ちゃん、今日、部活の朝練があるからもう出ていくからなー」

イケメン「片づけは兄ちゃんが夕方帰ってきてからやるから、下の妹だけよろしくな、上の妹」

上の妹「うん。分かった。いってらっしゃい、おにいちゃん」

下の妹「いってらっしゃい。おにい」


30分後……

テクテク、テクテク

イケメン「……着いた……」

イケメン(……昨日まで住んでいた家なのに、なんかやけに懐かしいな……)

ピンポーン

イケメン(ドキドキ、ドキドキ)

男の母親「……はい?」

イケメン「あ、あの、俺、DQN高校のイケメンと申します」

男の母親「……はあ……」

イケメン「あの、男君はいらっしゃいますでしょうか?」

男の母親「……うちに子供はいませんが……」

イケメン「……」


イケメン「……あのう、階段を上がった突き当り右手の6畳一間の洋室に男君がいたはずなんです」

イケメン「変なお願いというのは重々承知ですが、調べてもらえませんか?」

男の母親「……お引き取りください……」

プツッ

イケメン「……」

イケメン「……クソッ」

イケメン(……忍び込んで調べてみるか……)

イケメン(……意味ないか……)

トボトボ、トボトボ

……(チラッ)「……」


ザワザワ、ザワザワ

男生徒A「でも、昨日の100m走はマジびびったよな」

男生徒B「うん、確かにビビったっていう」

男生徒A「お前、それ好きだなあ」

男生徒B「今年のDQN高校流行語大賞間違いなしっていう」

男生徒A「ははっ、ウける」

男生徒A「なあ、イケメンもまさかあんな奴に負けるとは思わなかっただろ?」

イケメン「……あ、ああ」

男生徒A「うん、何か眠そうだなあ? 寝不足?」

イケメン「あ、うん。ちょっとね」


テクテク、テクテク

男生徒C「おい、イケメン」

イケメン「うん? 何?」

男生徒C(ニヤリ)「あれ、あれ。お呼びだぜ!」

イケメン「うん?」

男生徒A「ははっ、告りだな。イケメン、行って来いよ」

男生徒B「あの子は、1年G組の子だなっていう。きゃわいいなっていう」

男生徒B「イケメンうらやましいぜっていう」

男生徒A「ははっ、お前知ってんのかよ?」

男生徒B「この学校のおなごは全員プロファイリング済みだっていう」

男生徒A「……お前、キメーよ」

男生徒C「ほら、イケメン、早く行ってやれよ。かわいそうだろ?」

イケメン「あ、ああ」

テクテク、テクテク


誰もいない廊下……

後輩女生徒「……あのう、イケメン先輩、突然すみません」

イケメン「……いや、全然大丈夫だよ」

後輩女生徒「……わたし、ずっとイケメン先輩のことが好きだったんです」

後輩女生徒「……先輩、彼女はいなって友達から聞いて……それで……」

後輩女生徒「……」

後輩女生徒「先輩、お願いします。わたしと付き合ってもらえませんか?」


イケメン(……イケメン、彼女いなかったんだ……)

イケメン(……誰か、心に決めた想い人がいたのかな?……)

イケメン(……俺って、この子に一体何て答えればいいんだろう?……)

イケメン(……)

イケメン「……ごめん、後輩女生徒ちゃん。おれ、他に好きな人がいるんだ……」

後輩女生徒「……そうですか……ですよねー……」


後輩女生徒「……」

イケメン「……」

後輩女生徒「……先輩、先輩の好きな人ってどんな人なんですか?」

イケメン「えっ? どんな人?」

後輩女生徒「いや、変な質問してたらすみません。答えてくれなくても全然いいんです……」

イケメン(……イケメンが好きな人……? 分からん……)

イケメン(……俺が好きなのは……)

イケメン「その人は……ちょっと怖い人かな……」

後輩女生徒「えっ? 怖い? ははっ、イケメン先輩って面白いですね」

イケメン「……ははっ」


後輩女生徒「……先輩、その……先輩はその人に告白はしたんですか?」

イケメン「……いや、……していないよ」

後輩女生徒「えー、何でですか?」

イケメン「ははっ……うーん。……何でだろう?」

後輩女生徒「先輩、わたし、その人がどんな人かは知らないですけど、先輩なら絶対大丈夫です」

後輩女生徒「だから、その人と絶対幸せになってください」

イケメン「……ははっ、ありがとう。後輩女生徒ちゃん」


キーン、コーン、カーン、コーン

ザワザワ、ザワザワ

男生徒A「イケメン、さっきはどうなった?」

イケメン「あ、ああ、告白された」

男生徒A「断ったのか?」

イケメン「あ、うん。断ったよ」

男生徒A「やっぱりなー。でも相変わらずもったいねえなー」

男生徒B「イケメン、今度その彼女に俺を紹介してくれよー」

イケメン「はは、別に紹介してもいいけど、気に入られるかどうかは別問題だぜ」

男生徒A「イケメンの言う通りだぞ、男生徒B」

男生徒B「ノープロブレムだっていう」


テクテク、テクテク

高校生女「……イケメン君」

イケメン(……ん! 高校生女!?)

イケメン「あ、ああ。高校生女……どうかした?」

高校生女「ちょっと相談したいことがあるんだけど……放課後時間ある?」

男生徒A「イケメン、今日は大忙しだな」

高校生女(ニコッ)「残念だけど、そういう話しじゃないから」

男生徒A「別にまだ何にも言ってないだろ? 高校生女ー」

高校生女「イケメン君?」

イケメン「あ、ああ、分かった。いいよ」


放課後……

テクテク、テクテク

高校生女「……」

イケメン(……高校生女がイケメンに話って一体何だ?……)

イケメン(……さっきは否定していたけど、やっぱりイケメンのことが好きとか?)

イケメン(……)


高校生女「今日は突然ごめんなさい」

イケメン「いや、気にしなくていいよ」

イケメン(……イケメンと高校生女の間には何かあったのか?)

イケメン(……わかんねえ……)

高校生女「話しなんだけど……」

高校生女「イケメン君、今朝、男苗字さんの家に行ったよね?」

イケメン「えっ? ああ、まあ確かに行ったよ」


イケメン(……見られていたのか?)

イケメン(……男を探しに行ったからって答えていいのか?)

イケメン(……いや、でもこいつは近所だからたまたま俺のことを目撃しただけか……)

イケメン(……そもそも、高校生女は男の記憶は消されているはずだし……)

イケメン(……あれ? でも、駅は高校生女の家からだと俺の家とは逆方向だったはず……)

イケメン(……)


高校生女「何で行ったの?」

高校生女「……もしかして、男君を探しに?」

イケメン(……こ、こいつ……)

イケメン「……高校生女……お前、男のことを覚えてるのか?」

高校生女「イケメン君、男のこと、覚えているんだね?」

高校生女「良かった……」(グスン)

イケメン(……高校生女……泣いているのか?)


高校生女「……何が何だか分からないの……」

高校生女「……昨日の朝から突然男の姿が見えなくなって」

高校生女「学校の友達に聞いてもそんな人知らないって言われるし……」

高校生女「昨日の夕方、男の家に行ってみた……。でも、男のお母さんにも男のことなんて知らないって言われて……」

イケメン「……高校生女……」

高校生女「本当に……男のことを覚えてくれている人がいて良かった……」


高校生女「……」

高校生女「……イケメン君、男は今どこにいるんだろう?」

イケメン(……もうこの世には存在しないとは……言えないな……)

イケメン「分からない。もしかしたら家出しているのかも……」

高校生女「……ううん、違う」

イケメン「えっ?」

イケメン(……なんだ、こいつ? やっぱり何か知っているのか……?)


高校生女「何となく分かるんだ……」

イケメン「……何が?」

高校生女「もういなくなっちゃったのかも知れない……あいつは……」

イケメン(……なぜ分かる?)

高校生女「……イケメン君……イケメン君にだから言うけどね……」

高校生女「わたし、男のことが好きなんだ」

イケメン「えっ?」

イケメン(……マジでか?)


高校生女(クスッ)「そうだよね。驚くよね」

高校生女「自分でもバカみたいって、時々思うんだけどさ……」

高校生女「あんな、キモくてムスッとしたブサイクな男が好きだなんてね」

イケメン(……高校生女が……俺のことを好き……?)

イケメン(……いや、キモいとかブサイクとかは酷すぎるが……)


高校生女「あいつね、ああ見えて意外と優しいところがあるんだ……」

イケメン「優しいところ……?」

高校生女「うん……そう……」

高校生女「まだ小さいとき、野良犬に襲われそうになったところを守ってくれたり……」

イケメン「……へえ」

イケメン(……そんなこともあったような……)

イケメン(……確か犬に足を噛まれて病院へ直行したような記憶が……)


高校生女「中学生の時、バイクが歩道に突っ込んで来た時に守ってくれたり……」

イケメン「……へえ」

イケメン(……ん……嫌な記憶が……)

イケメン(……確かその事故で右腕と右足を骨折して病院へ直行したんだったな……)

高校生女「それに、この前なんか、街で従兄と会った時に彼氏と勘違いしてすねて帰っちゃったりして……」

イケメン「……へえ……ははっ……そうなんだ……」

イケメン(……あの爽やか風の男は従兄だったのか……)

イケメン(……これはちょっとうれしい)


高校生女「……」

高校生女「小っちゃい時からずっと一緒にいたから……」

高校生女「だから何となく分かるんだ……」

高校生女「……」

高校生女「男は、もういなくなっちゃったんだって……」

イケメン「……高校生女……」

イケメン(……俺はここにいるって……言いたい……)


高校生女「ごめんね、なんか勝手にしゃべっちゃって」

イケメン「いや、気にしないで……」

イケメン「男のことで何か分かったらすぐ連絡するよ」

高校生女「うん、ありがとね」

ブルンッブルンッ、ブルンッブルンッ

イケメン(……ん? 何か怪しい車が……)


ガチャ、スッ

黒スーツの男「……」(スチャ)

イケメン「えっ?」

サッ、バキューン

黒スーツの男「ちっ」(スチャ)

イケメン(こいつらは……昨日の密売組織の連中か……)

イケメン「高校生女、逃げろ!」

高校生女「えっ?」

イケメン「やつらの狙いは俺だ」


サッ、バキューン

黒スーツの男「ちっ」(スチャ)

イケメン「くそっ」

イケメン(……とにかくこの場を離れなければ……)

サッ

イケメン「よっこらしょっと」

高校生女「イケメン君!」

イケメン「高校生女、しっかりつかまってろよ」

ダッ

黒スーツの男達「追えー。逃がすなー」


タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ

イケメン(チラリ)

イケメン(……くそっ、どんどん追手が増えてきているな……)

高校生女「イケメン君、大丈夫?」

高校生女「わたしも自分で走って逃げるよ……」

イケメン「いや、大丈夫だよ、高校生女」

イケメン「こっちの方が速いし……それに……」

イケメン「……なんか嬉しいし……」

高校生女「……?」


タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、バッ

イケメン(……しまった……)

イケメン「……挟み撃ちにされたか……」

スタッ

イケメン「高校生女、ごめん、少し下がってて」

高校生女「イケメン君……」

ボス風の男「殺れ……」

黒スーツの男達「……」(スチャ)


バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン

スッ、スッ、スッ、スッ、スッ、スッ、スッ、スッ

イケメン「……」

サッ、ボゴッ、ゴフッ、ドサッ

黒スーツの男「……ぐふっ」

イケメン「借りるぜ」(スチャ)

ボス風の男「撃て……」

黒スーツの男達「……」(スチャ)

バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン


イケメン「……そこだ」

バキューン、ドサッ、バキューン、ドサッ

イケメン「……ほらよ」

バキューン、ドサッ、バキューン、ドサッ

黒スーツの男「そこまでだ」

イケメン(クルリッ)

イケメン(……高校生女!!)

高校生女「イケメン君!」


黒スーツの男「銃を捨てろ」

イケメン(……)

黒スーツの男「さっさと捨てろ」

イケメン(スチャ、カシャン)

黒スーツの男達(スタスタ)「……」

ボゴッ、ゴフッ、ドサッ

イケメン「……ぐふっ」

高校生女「やめて!」

黒スーツの男「ふんっ」

黒スーツの男「……あばよ」(スチャ)

バキューン


イケメン「……!」

高校生女「……!」

黒スーツの男「……ぐふっ」

ドサッ

テクテク、テクテク

ニート「よお、イケメン、随分ひどくやられているじゃないかっていう」

イケメン「……てめえ、来るのがおせーんだよ」

ニート「救世主は遅れてやってくるものだっていう」

ニート「イケメン、ほらよっていう」


ポイッ、スチャ

イケメン「へ、高校生が街の中でマフィアと銃撃戦とはな……」

ニート「日本もついにここまで来てしまったかっていう」

イケメン「おいっ、お前が言うな! 半分以上はお前のせいだろうが」

ニート「……イケメン、しゃべっている暇はもうないぜっていう」

イケメン「ああ……いくぜ!」

ボス風の男「撃て! 全員殺せ!」


バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン、バキューン

イケメン「……遅えぜ」

バキューン、バキューン、ドサッ、バキューン、バキューン、ドサッ

ニート「イケメン、もう手慣れたもんだなっていう」

ボス風の男「くそっ、これでもくらえ!」

バキューーーーーーーーン

ボス風の男「ぐふっ」

ドサッ


イケメン「終わりだな……」

高校生女「……イケメン君……」

スタスタ

高校生女「大丈夫? 無事で本当に良かった……」

ギュッ

イケメン「こ、高校生女……」

イケメン(……高校生女が自分から男に抱きつくなんて……)

イケメン(……イケメンはやっぱりすげーな……)

イケメン(……)


高校生女「……」

高校生女「……守ってくれてありがとう……男」

イケメン「……いや、別に……えっ?」

ニート「……!」

高校生女「……」

イケメン「……おい、名前間違えてるぞ……俺は……」

高校生女「男でしょ?」

イケメン「……!」

ニート「……!」

ちなみに最初から見てるからな!!


イケメン「いや、俺は……お前、なんで分かったの?」

高校生女「私のことを甘くみんなよ、男」

高校生女「あんたがイケメンになりすましているのはバレバレだったつーの」

イケメン「……いつから気づいてたんだよ……」

高校生女「昨日、朝、教室で……」

高校生女「あんた、女生徒に話しかけられて焦ってたでしょ?」

高校生女「その時のあんたの仕草……」

高校生女「左手人差し指で下あごを2回撫でて、その後に左手中指の関節で鼻先を3回こすって、最後に耳たぶを2回つまむ」

高校生女「男しかやらない仕草だからね……すぐ分かった」


ニート「さすが、好きな男のことはよく観察しているなっていう」

イケメン「そう、それだ! お前さっき俺のことを好きだって……」

高校生女「うん、言った」

イケメン「……でも、お前、俺がイケメンじゃなくて俺だって分かってて……」

高校生女「うん、分かってて言った」

イケメン「……あれ、でもお前、『男がいなくなった』って涙を……」

高校生女「あれは演技」

イケメン「……じゃあ、本当に俺のことを……」

高校生女「うん、好きだよ。うれしいっ?」

イケメン「べ、別にうれしくなんかねーよ」


ニート「男、お前は嘘をつくのが本当に下手だなっていう」

イケメン「……嘘じゃねーよ」

ニート「……男、お前の今の左手の動き、さっき高校生女が言った通りの動きだったっていう」

イケメン「えっ……」

高校生女「あはっ」

高校生女「あんたは昔から嘘をつけない奴だったからね」

高校生女「何でみんなあんたがイケメンじゃないって気づかなかったのか不思議なくらいだよ」

高校生女「……まあ、それはいいとして……」

高校生女「誰がどうやったのかは知らないけどそろそろ元に戻してもらわないとね……」

高校生女(チラッ)

>>122
サンクス。


ニート「お前、俺が全部仕組んだって考えているのかっていう」

高校生女「まーねー」

ニート「……バレては仕方がないなっていう」

ニート「お前は男と違って頭の回転が速いなっていう」

ニート「この状況を素で受け止めている度量の大きさも大したものだっていう」


イケメン「高校生女、そのことなんだけど……」

イケメン「俺が元に戻る方法は……」

ニート「あるっていう」

イケメン「なに! てめー、昨日と話しがちげーじゃねえか」

ニート「昨日の時点では確かに方法はなかったんだっていう」

ニート「でも、今は状況が大きく変わっているっていう」

ニート「高校生女の中にお前とイケメンに関する記憶が完全な形で残っているっていう」

ニート「この記憶の情報を元にしてすべてを元通りに復元することは可能だっていう」


イケメン「……記憶なら、俺も持ってたじゃねーか!」

ニート「お前、空気読めっていう」

ニート「高校生女の記憶から復元するから感動が生まれるんだっていう」

ニート「お前の記憶から復元した所で何の感動も生まれなかったっていう」

イケメン「……いや、そういう問題じゃ……」

高校生女「男の記憶からだと元に戻せなかったんじゃないの?」

イケメン「……?」

ニート「……お前、何でそう考えたんだっていう」

高校生女「何となくねー」


ニート「……お前の言う通りだっていう」

ニート「記憶から復元する場合は、当事者の記憶が混在していると不可能だっていう」

ニート「お前は相当頭がキレるなっていう」

ニート「男にお前はもったいなさ過ぎるぐらいだっていう」

ニート「お前、イケメンと交配したらきっと物凄い子供を産むぞっていう」

高校生女「うーん、確かに……」

イケメン「おいっ……」


ニート「冗談だっていう」

ニート「男、安心しろっていう」

ニート「俺と高校生女はお前をからかっているだけだっていう」

高校生女「さあ、じゃあ元に戻してよ」

ニート「了解したっていう」

ニート「ただし、俺が今からやろうとしている復元方法は結構荒療治だから予め断っておくっていう」

ニート「ちなみに成功率は50%位で失敗したら高校生女は死ぬことになるからそこんとこよろしくっていう」

ニート(チラリ)

高校生女「……!?」


イケメン「……50%って……低すぎだろっ」

高校生女「……わたしは別にいいよ」

イケメン「……おい、お前……死ぬかもしれないんだぞ」

高校生女「何? 心配してくれてんの?」

イケメン「いや、……別に……」

高校生女「だったらいいじゃん」


イケメン「いや、だめだ。 お前が死ぬなんて俺は絶対に嫌だ」

高校生女「死ぬって決まったわけじゃないじゃん」

イケメン「……そりゃ決まったわけじゃないけど……」

イケメン「……お前、何でそこまでするの?」

高校生女「イケメン君に迷惑掛けたくないしね」

高校生女「このまま後ろめたい気持ちを持ったまま生きていくのはやでしょ?」


イケメン「……」

イケメン「……イケメンか……」

イケメン「……確かにイケメンは元に戻してやりたいな……」

イケメン「……」


イケメン「……ニート、お前は神様っていう位だから人間の命も簡単に操作できるんだろ?」

ニート「確かに簡単に操作できるっていう」

ニート「生きるも死ぬも俺のさじ加減でどうにでもなるっていう」

ニート「ただし、今回の復元作業の時に高校生女が死んだら生き返すことはできないっていう」

ニート「今回の作業はそれだけ特別なんだっていう」

イケメン「別に生き返してくれだなんて言ってない……」

ニート「……?」


イケメン「もし、高校生女が死んだら……」

イケメン「……その時は……」

イケメン「俺も殺してくれ」

高校生女(チラッ)「……」

イケメン「俺を殺すぐらいだったら簡単にできるんだろう?」

ニート「お茶の子さいさいだっていう」

ニート「お前の願い聞き入れてやるっていう」

ニート「それじゃあ、2人共、心の準備が出来たら目を瞑れっていう」

高校生女「……」

イケメン「……」

ニート「準備はできたようだな……それじゃあ、いくぜっていう」

シュポッ、シュポッ、シュポッ、シュポッ、シュポッ、シュポッ、シュポポポーン

……


ホワホワ、ホワホワ

男「……ん? ……ここはどこ?」

ニート「よう、男っていう」

男「んっ? お前は……誰だったっけ?」

ニート「俺の名前を忘れったて言うのかっていう」

ニート「お前のDQN脳は結局治らなかったなっていう」

男「うるせえ! このニート野郎」

ニート「そう、俺の名前はニートだっていう」

ニート「少しは記憶が蘇ってきたかっていう」


男「……」

男「これは……夢か?」

ニート「その通りだっていう」

ニート「これは夢だっていう」

男「……?」

ニート「記憶が戻りそうでまだ戻らないようだなっていう」

ニート「まあ、いいてっいう」


テクテク、テクテク

ニート「俺は、お前にお別れを言いに来たっていう」

ニート「俺の実家が今大変なことになっているから急いで戻らなければならなくなったっていう」

ニート「俺は本職の自宅警備員の仕事に戻るっていう」

男「……」

ダッ、ヒラリ

ニート「いきなり突っ込んでくるなっていう」

ニート「頭より体が先に動くなんてお前は本当にDQNだなっていう」


男「……自宅警備員ってなんだ?」

ニート「とても高尚な職業だっていう」

ニート「お前も今のうちにしっかり勉強して将来は立派な自宅警備員を目指すといいっていう」

ニート「それでは、また逢う日までさらばだっていう」

男「……」

男「……!」

男「……おい、待て!」

ホワホワ、ホワホワ、ホワホワ、ホワホワ、ホワホワ ……


チュンチュン、チュンチュン

男「……んっ……んんっ」

ガバッ

男「……ここは……俺の部屋」

ダ゙ッ

男「俺の顔……元に戻っている」

男の母「男、早く起きなさい! 学校に遅刻するわよ」

男「……かーちゃん……俺、元に戻ったんだ……」

男の母「はい? 何寝ぼけてんの? 早く着替えなさい」

男「……うん」

男(……元に戻った……)

男(……そうだ、高校生女は? 高校生女はどうなった?)

男(……)


ダダダッ

男の母「ちょっと、もう着替えたの? 朝ごはんは?」

男「いらないよ、じゃあ、行ってきます」

ガチャッ

男「……!」

高校生女「オッス!」

高校生女「男、おそいぞ!」

高校生女「早くしないと学校に遅刻するぞ!」

男「……うっ」

男「……うっせーよ」

男「待ち伏せしてんなよ……」

高校生女「待ち伏せしてたんじゃない……待ってたんだよ」

男「えっ?」

高校生女「おかえり、男!」


男「……」

高校生女「どうした? 感情が高ぶって声が出ないの?」

男「ち、ちげーよ」

男「……」

男「……高校生女」

男「……」

男「……無事で良かった」

高校生女「あはっ、うん、あんがと」

高校生女「……ほら、そしたら、とっとと行くよ」

男「お前ってやつはなあ……」

高校生女「うん? 何?」

男「いや、何でもねえよ」

~END~


読んでくれてサンクス。

最後にエピローグ書きます。


~エピローグ~

学校の帰り道……

テクテク、テクテク

男「えっ? どういうこと? それ……」

高校生女「だから、成功率50%っていうのは多分嘘だったってこと」

高校生女「あいつは単にあんたのことをからかうためにそう言ったんだよ。 多分ね」


男「……からかってって……」

男「……お前、何で分かったんだよ」

高校生女「うーん」

高校生女「あいつが目で合図してきたからね」

男「……アイコンタクトって……じゃあ、俺は踊らされていただけってことか……」

高校生女「あはっ、でも、あんがとね」

高校生女「『俺も殺せ』って言ってくれた時は嬉しかったよ」

男「……ははっ、ホントに生きてて良かったっす」


テクテク、テクテク

男「そう言えば、ニートが夢の中に出てきた」

男「あいつ、さよならって言ってた……」

高校生女「ふーん」

男「あいつ、もう二度と現れないのかな」

高校生女「会いたいの?」

男「……いや、会いたくなんかねーよ」

高校生女「……今、左手動かすの我慢したでしょ?」

男「が、我慢してねーよ」

高校生女「あはっ」


高校生女「でも、ニートは、それなりに気を遣ってくれたんだよ」

男「……何が?」

高校生女「だって、あいつのこと覚えているのわたし達だけだったじゃん」

男「……うん、そうだったな、確かに」

高校生女「そういうこと」

男「うん? 意味がわからない」


高校生女「もし、あんたがニートがいた間の記憶がなくなっていたらどうだったっていうこと」

男「……それは嫌だな」

男「……せっかく色々な苦労をしたし、イケメンの偉大さも分かったし……」

高校生女「他には?」

男「……!」

男「……お前が俺のことを……」

高校生女「うん」

男「……何言わせようとしてんだよ!」

高校生女「あはっ」


男「そうだ、1つだけ聞きたいことがあったんだ」

高校生女「何?」

男「俺がイケメンになった時、ニートは俺にまつわるすべての記憶を消去したって言ってたんだ」

男「でも、お前は消去されなかったわけ?」

高校生女「いや、消去されそうになったよ」

男「……?」

高校生女「でも、絶対嫌だって念じた」

高校生女「そしたら、記憶が残ってた」

男「ははっ、さいですか……」

高校生女「多分、ニートが残してくれたんだよ」

男「……?」


高校生女「ニートはすべてを見通していたのかもね」

高校生女「今度会ったらニートに感謝しなきゃね」

男「ニートにはもう会えないんじゃない?」

高校生女「ううん、多分会える」

男「何で?」

高校生女「なんとなくねー」


~完~

俺も過去作読みたいっていう。
あとここは申請するまで落ちないっていう。
そしてスレはまだまだあるっていう。
続編でも別物でもいいからニートにはもう一働きしてもらいたいっていう。

>>168 サンクス


1か月後、学校の帰り道……

テクテク、テクテク

男「……」

高校生女「あのさ」

男「うん、なに?」

高校生女「実はね」

高校生女「昨日、病院に行ってきたんだ」

男「えっ? なに、病気?」

高校生女「……うん」

高校生女「あと、半年の命って言われた……」


男「……えっ?」

男「ちょっ、お、お前っ……」

高校生女「私じゃないよ」

高校生女「私の姪っ子の幼女ちゃん」

男「姪っ子……って……確かお前のねーちゃんの……」

高校生女「そう、私のおねーちゃんの娘の子」

高校生女「まだ4歳の子」


男「……半年の命って……病気?」

高校生女「そう。原因不明で治療法もない病気」

男「……」

高校生女「……」

高校生女「今からお見舞いに行くんだけど……」

男「あ、ああ、俺も一緒に行くよ」


病院の中……

男「おい、ところで幼女ちゃんは知っているわけ?」

高校生女「何を?」

男「いや、だからさ……半年の命ってことを……」

高校生女「知るわけないっしょ」

男「……まあ、そうだよな……」

高校生女「……」

男「……」


高校生女「着いた」

高校生女「おねーちゃん、幼女ちゃん、来たよ~」

幼女「あ、高校生女ねーちゃん。こんにちは!」

高校生女の姉「来てくれたんだ。ありがとう」

高校生女の姉「ん? そちらの人は……確か」

幼女「あっ、お馬さんの人だ!」

男「えっ?」


高校生女「あんた、前に幼女ちゃんにお馬さんごっこして遊んであげたでしょ?」

男「あ、ああ、幼女ちゃん、元気にしてた?」

幼女「……ううん、あんまり元気じゃないんだ……」

高校生女(ボソッ)「バカッ」

高校生女「幼女ちゃん、ほら、約束してたぬいぐるみ持ってきたよ!」

幼女「あー! ブーンのぬいぐるみ!」

幼女「おねーちゃん、ありがとう」


高校生女「幼女ちゃん、ブーンが何か話したいことがあるって」

高校生女「『幼女ちゃん、幼女ちゃん、一緒にブーンしましょっ!』」

幼女「うん! ブーーーーン」

高校生女「『ブーーーーーン』」

高校生女「『幼女ちゃん、これから私とずっと一緒にいましょうね』」

幼女「うん、ブーン、ずっと一緒だよ」


幼女「そうだ、おにーちゃん!」

男「ん、何?」

幼女「私とブーンと一緒にお馬さんごっこして!」

高校生女の姉「幼女、だめ! ベットから起き上がっちゃ」

幼女「えー、やだー。お馬さんごっこしたーい」


高校生女「よし、じゃあ、幼女ちゃん、そうしたら、約束しよう」

幼女「なにを?」

高校生女「今度おうちに戻った時に、おにーちゃんが1日中お馬さんごっこしてくれるって」

幼女「ほんとう! おにーちゃん?」

高校生女(チラッ)

男「……あ、ああ。そうだよ。一日中お馬さんごっこだ!」

幼女「わーい。やったー。ブーンも一緒にだよ」

男「ああ、もちろん。ブーンも一緒だ!」


幼女「いつ? いつしてくれるの?」

男「今度おうちに帰った時だよ」

幼女「今度いつ帰れるの?」

男「……うーん」

高校生女「幼女ちゃんがいい子にしていて、お医者さんが帰ってもいいよって言ったら帰れるからね」

幼女「えーっ」


幼女「……おねーちゃん」

高校生女「うん? 何?」

幼女「わたしって死ぬの?」

高校生女「えっ!?」

男「……!」

高校生女の姉「……!」

高校生女の姉「なに言ってるの! 幼女。死ぬわけないでしょ!」


幼女「おかあさん」

幼女「わたしの隣のベッドに前は男の子がいたでしょ?」

幼女「その男の子、この前の夜、ものすごく苦しそうにしてて」

幼女「すごく怖くてわたしは泣いちゃって」

幼女「朝起きたら、男の子はいなくなってたの」

幼女「この部屋にいる人たちはみんな苦しくなって……」

幼女「それで最期はいなくなっちゃうんでしょ?」


高校生女の姉「幼女……違うの……」

高校生女「そう……違うんだよ、幼女ちゃん」

高校生女「男の子はきっと元気になって自分のおうちに戻っていったんだよ」

幼女「男の子、死んじゃったんだよ」

高校生女「そんなことないんだよ」

幼女「ううん、だってその男の子のお母さん、泣いてたんだもん」

幼女「男の子の荷物取りに来たとき、泣いてたんだよ」

高校生女「……幼女ちゃん」

男「……」


男「幼女ちゃん! ほら、そんなこと言っていると、ブーンが悲しんじゃうぞ!」

スタスタ

男「『幼女ちゃん、ずっと一緒にいようって約束したでしょ?』」

男「『お馬さんごっこを一緒にやりましょ』」

幼女「お馬さんごっこは今できないもーん」

男「『よーし、じゃあ、幼女ちゃん、何か他にしたいことはありますか?』」

幼女「お勉強がしたい」

男「『へー、幼女ちゃん、偉いね!』」

幼女「いっぱいお勉強して、いっぱい人の役に立つんだ!」

男「『幼女ちゃん、偉いなあ』」


男「『よし、じゃあブーンも一緒に勉強頑張っちゃおうかな』」

幼女「じゃあ、ブーン、私に勉強を教えて」

男「えっ?」

幼女「ブーンが私の先生になって!」

男「『……勉強は……ブーンはちょっと苦手なんだ……』」

幼女「それじゃあ、だめー」

幼女「ブーンが勉強教えてくれるなら私も頑張って元気になるー」


男「『うーん……よし、分かったよ、幼女ちゃん』」

男「『ブーンが幼女ちゃんの先生になる』」

男「『だから、幼女ちゃんはちゃんとお医者さんの言うことを聞いていい子にするんだよ』」

幼女「うん、分かったよ。やったー」

高校生女「あはっ、よかったねー、幼女ちゃん」

幼女「うん、ありがとう、おにーちゃん」

高校生女の姉「ごめんね。ありがとう」

男「……ははっ、全然なんてことないっす……」


帰り道……

男「幼女ちゃん、本当に死んじゃうのかな……」

高校生女「……」

男「治療法がないって……本当かよ」

高校生女「治療法はあるよ」

男「えっ、お前さっきないって言ってたじゃん。本当はあるの?」

高校生女「うん、ある」

男「じゃあ、治療受けさせてあげればいいじゃん」

高校生女「お金がかかるの」

男「いくら?」

高校生女「5000万円」


男「うっ」

高校生女「海外に行かなきゃ受けられない手術で……」

高校生女「1000万円は何とか工面できそうなんだけどね……」

高校生女「まだまだ全然足りないんだ」

男「……」

高校生女「……」

男「俺もお金出すよ」

高校生女「いくら?」

男「……貯金全部で……5万円くらい」

高校生女「あはっ、少なっ」


男「しょうがないだろ……」

高校生女「でも、あんがと!」

高校生女「私も自分の貯金30万円くらいあるから、合わせれば少しは足しになるかもね」

男「ああ、そうだな……えーっと」

男「お前が30万円出して、俺が5万円出して、治療費が5000万円で、1000万円は何とかなるから……」

高校生女「……」

男「……あと4075万円?」

高校生女「全然違う。あと、3965万円」


男「うっ……まーいずれにしてもまだ全然か……」

男「あと半年の命ってことは、時間もあんまりないわけだろ?」

高校生女「そうだね」

男「っていうことは、幼女ちゃんにはお金が集まるまでの間、何とか頑張ってもらわないとダメってことだな」

高校生女「……」

男「あー、こんなことならアルバイトでもやってお金稼いどくんだったなー」

男「確か、お前はバイトやってるんだったよな?」

高校生女「うん、やってるよ」

男「じゃあ、俺も何かやってみるかなー」

高校生女「あはっ」

高校生女「あんがとねー」


1か月後……

高校生女「やっほー。こんにちはー」

男「お、よう!」

幼女「おねーちゃん、こんにちは」

高校生女「お、やってるねー。相変わらず熱心だねー」

男「ははっ、まあな」

幼女「おにーちゃん、できたよ! 見て!」

男「うん、どれどれ……」

男「うん、全問正解だ! すごいよ幼女ちゃん!」

幼女「全然、簡単だよ。おにーちゃんもっと難しい問題出して」

高校生女「へー、幼女ちゃん、もう引き算までできるようになったんだー」

高校生女「すごーい」

幼女「へへっ」


男「うん、幼女ちゃん、本当にすげーよ!」

男「物覚えが速くて俺とは頭のデキがちげーわ」

幼女「おにーちゃん、もっと難しい問題!」

男「うーん、そうは言ってもなー、幼女ちゃん」

男「おにーちゃんはこの位が限界なんだよ」

幼女「えーっ」

高校生女「あはっ、ダメじゃん」

男「よし、じゃあ幼女ちゃん、国語の勉強しよっか」

幼女「国語ーっ、だっておにーちゃん昨日漢字間違えてたじゃんー」

男「ははっ……、そうだったっけ……」


高校生女「幼女ちゃん、もう漢字も分かるんだ!」

幼女「うん、おにーちゃんの知らない漢字もいっぱい知ってるんだ!」

男「……ははっ、本当に幼女ちゃんは優秀ですわ……」

幼女「おにーちゃん、もっと頑張って勉強して!」

男「うーん、幼女ちゃん」

男「おにーちゃん、こんなんなんだけどさ」

男「一応おにーちゃんなりには頑張ってるんだぜ」


高校生女「そうだ、あんた、期末テストの成績はどうだったの?」

男「ん? うん、割と良かったよ」

幼女「えっ? 良かったの? おにーちゃん」

男「あ……ああ、いつもに比べればな」

幼女「いつもってどのぐらい?」

男「……大体学年の一番下くらい」

幼女「えーっ!」

高校生女「あはっ」


高校生女「もう幼女ちゃんの方がおにーちゃんより勉強できるかも知れないねー」

幼女「おにーちゃん、もっと頑張って!」

幼女「約束したじゃん」

幼女「おにーちゃんが頑張らないんだったら、わたしももう頑張らないー」

男「幼女ちゃん、そんなこと言ったらだめだよ」

幼女「じゃあ、もっと頑張って!」

男「うーん……」

男「分かったよ、幼女ちゃん!」

男「おにーちゃんも死ぬ気で頑張ってみるよ……」


帰り道……

テクテク、テクテク

高校生女「いつもあんがとね、男」

男「ん? 何が?」

高校生女「幼女ちゃんに勉強教えてくれて」

男「別にどうってことねーし。俺も楽しんでるしな」

高校生女「でも、このままだとそのうち立場が逆転して幼女ちゃんが先生になっちゃうかもね」

男「かなりマジでそれを危惧してます……」

高校生女「あはっ」


男「……」

高校生女「……」

高校生女「そう言えば、新聞配達のアルバイト始めたんでしょ?」

男「えっ? 誰から聞いた?」

高校生女「イケメン君から」

男「あいつ……人に言うなって言ったのに」

高校生女「あはっ、でもイケメン君も喜んでたよ」

男「何が?」

高校生女「仲間ができたって」

男「うーん」

男「まあ、あいつにはお世話になっているから何も言えんがな……」


高校生女「イケメン君に紹介してもらったんでしょ?」

男「うん、イケメンに紹介してもらった」

男「おかげで何も聞かれずに即採用してもらえたから本当助かったわ」

男「さすがにバイトの面接で5連敗ってことになると精神的にきついしな」

高校生女「そんなに面接に落ちたわけ?」

男「うん、落ちまくった」

高校生女「普通、面接なんてそんな落ちないもんだけどねー」

男「うーん、何か引き算ができないとか漢字が書けないとか言うと、あんまりいい顔されなかったな」

高校生女「あはっ、そりゃダメだわ!」

男「うーん、そんなもんか……」


男「……そういえば話変わるけど」

男「もうすぐ夏休みじゃん?」

男「お前、どっかいく予定とかあるの?」

高校生女「特にないよ。アルバイトと受験勉強を頑張るかな」

男「受験勉強かー」

男「俺って受験するのかな……」

高校生女「……さーねー」

男「いい大学行ければ家庭教師とかやってお金稼げるんだろうけどなー」

男「そうしたら幼女ちゃんを助けることができるのに……」

高校生女「……」

高校生女「……じゃあ、勉強頑張るしかないね」

男「……ははっ、おっしゃる通りっす……」


テクテク、テクテク

高校生女「じゃあ、また明日ね。男」

男「おう、じゃあな。おやすみ」

男「……」

男(……しかし、幼女ちゃんは本当に頭がいいよなあー)

男(……将来は人の役に立ちたいって言ってたし……)

男(……幼女ちゃんが死んじゃうかも知れないなんて)

男(……本当にもったいねー)

男(……)

男(……俺なんか何の役にもたたねーし)

男(……俺が代わりになってあげれれば……)


ドンッ

・・・「おい、お前どこを見て歩いているんだっていう」

男「あっ、すいません。ちょっと考え事を……」

男「……って、テメーは……」

ニート「よう、こんな所で会うなんて奇遇だなっていう」

ニート「しばらくぶりだが元気にしていたかっていう」

ニート「高校生女とはうまくいっているのかっていう」

男「……ああ、おかげさまでな」

ニート「そうか、それは良かったっていう」

ニート「それじゃあ、またなっていう」

ニート「達者でなっていう」


男「おい、ちょっと待て」

ニート「何だっていう」

ニート「俺に何か用かっていう」

男「それはこっちのセリフだ」

男「お前、何のためにまた俺の前に姿を現した?」

ニート「何のことを言っているか分からないっていう」

ニート(ニヤリ)「別に俺はたまたまお前に会っただけだっていう」

男(ニヤリ)「てめー……」


男「俺は今、『この』歩道の一番隅を歩いていたんだぜ」

ニート「それがどうかしたのかっていう」

男「この道は片側通行の道だぜ。それをお前は他の通行人もいるのに逆走してきた」

男「そしてお前は隅っこを歩いてる俺とぶち当たった」

男「とんだたまたまじゃねーか」

ニート「お前、見違える程に成長しているじゃないかっていう」

ニート「以前のお前にはなかった知的センスだっていう」

ニート「俺が鍛えてやったおかげだなっていう」

男「ああ、お前のおかげかも知れないな」


男「でも、成績がちっとも上がらねーんだから意味ねーよ」

ニート「それは違うなっていう」

ニート「お前はまだ自分の能力に気づいていないだけだっていう」

ニート「お前の中にある、まだ磨かれていない原石のままのダイヤが俺には見えるっていう」

男「……何を企んでやがる」

ニート「別に何も企んでなんかいないっていう」

ニート「あんまり穿った見方をしても真実は見えてこないっていう」

ニート「でも、個人的には穿った見方をするやつは好きだっていう」


男「ごちゃごちゃ訳の分からんことを……」

男「ま、丁度いいや」

男「丁度お前に頼みたいことがあったんだ」

ニート「先に断っておくが俺はアラジンのランプの魔人ではないからそこんとこよろしくっていう」

ニート「でも、内容によっては聞いてやらないでもないっていう」

男「お前に助けてもらいたい子がいるんだ」

ニート「……」

男「幼女ちゃんっていうんだけど、難病にかかっていて、もうあんまり長く生きられないんだ」

ニート「……」

男「助けてやってくれよ」

ニート「無理だっていう」


男「なんでだよ!」

ニート「お前はものごとを簡単に考えすぎだっていう」

ニート「そんな願いをポンポン叶えてくれる都合のいい神様はこの世にはいないっていう」

男「……」

男「じゃあ、話を変えよう」

男「……条件は何だ?」

ニート「『条件』って何の話しだっていう」

男「おい……」

男「俺にも我慢の限界ってもんがあるんだぜ……」

ニート「……まあそう気を悪くするなっていう」

ニート「俺も久しぶりにお前に会ったんだっていう」

ニート「自分が関わったことのある人間がどういう風に変化するのかを見たかったんだっていう」

男「……」


ニート「お前、随分変わったなっていう」

ニート「ちなみにいい意味で変わったから、そこんとこ喜べっていう」

ニート「お前は直情的な感情を抑えることができるようになってきているっていう」

ニート「行動の前に一考することができるようになっているっていう」

ニート「そして、俺の言葉の裏を読むことができるようになっているっていう」

ニート「ちなみにいくらお前が成長したといっても、お前はまだまだ俺の足元にも及ばないからそこんとこよろしくっていう」

男「話しを戻すぞ……条件を言え」

ニート「『条件』かっていう……」

ニート「おおよそお前はイケメンを復活させた時に俺が言った制約条件を思い出したんだろうっていう」

ニート「あながち間違っていないから、お前は自分の思考力に自信を持っていいっていう」

男「……」


ニート「条件は1つだけあるっていう」

男「何だ?」

ニート「幼女の命が助かる条件は……」

男「……」

ニート「お前が東応大学に合格することだっていう」

男「関係ねーじゃねーか!」

男「俺をからかうのもいい加減にしろよ……」

ニート「からかってなんかいないっていう」

ニート「俺は極めてシリアスな話をしているっていう」

ニート「自らの想いをかけている人間を助けるっていう願いを実現するには、極めてタイトなしがらみを通り抜けなければならないんだっていう」

男「……当事者が関与しているとっていうことか?」

ニート「その通りだっていう」


ニート「当事者が関与した願いというのは神の世界の掟で厳しい制約条件が付与されているんだっていう」

男「しかし、東応大学に合格するっていうのと幼女ちゃんの命を助けるっていうのがどう結びつくっていうんだ……」

ニート「あまり難しく考える必要はないっていう」

ニート「所詮、世の中のルールなんて言うものは庶民にはよく分からない論理で成り立っているものだっていう」

ニート「簡単に言えば、お前が努力して高いハードルを越えることができれば」

ニート「お前の願いが聞き入れられるっていうだけの話しだっていう」

男「……お前の言っていること……」

男「信じていいんだな?」

ニート「信じるも信じないもお前次第だっていう」

ニート「だが1つだけ言えることは……」

ニート「神は信じる者を好むっていうことだっていう」

男「……」


男「分かった。お前を信じるぜ」

男「だが、1つだけ問題がある」

ニート「お前、何だか俺みたいな話し方をするんだなっていう」

ニート「いいぜ、その問題言ってみろっていう」

男「お前、どうすれば俺が東応大学に合格すると思ってんだ!」

男「はっきりいうが、俺は底辺高校のそのまた底辺にいる人間だぞ」

男「しかも、幼女ちゃんの命はあとわずかしかもたないし」

男「もし仮に俺が東応大学に合格できたとしても」

男「それが10年後や20年後の話しじゃ意味なんだぜ」


ニート「心配無用だっていう」

ニート「お前は半年後には東応大学に合格するっていう」

男「どうやって?」

ニート「敏腕家庭教師に勉強を教わるんだっていう」

男「どこにそんな家庭教師がいるんだよ」

男「それに言っとくけど俺はあんまり金を持ってないぜ」

ニート「敏腕家庭教師ならお前の目の前にいるっていう」

男「えっ?」

男「……まさか」

ニート「俺がおまえの専属家庭教師になってやるっていう」


男「お前……勉強なんかできんのかよ」

ニート「当然だっていう」

ニート「俺は全知全能のニートだっていう」

ニート「お前に教えるレベルの勉強なんて朝飯前だっていう」

ニート「しかも無料でレッスンしてやるっていう」

ニート「あとから高額の授業料を請求するような詐欺まがいのこともしないから安心しろっていう」

男「……とは言ってもよー」

男「あと半年くらいしかない訳だぜ!」

男「ほんとに間に合うのかよ」

ニート「間に合うっていう」


ニート「でも、当然ながらお前にもそれなりの覚悟は必要だっていう」

ニート「不可能を可能にするには強靭な精神力と確固たる覚悟が不可欠だっていう」

男「覚悟って……どのくらいの覚悟?」

ニート「覚悟は覚悟だっていう」

ニート「でも仕方がないからお前が理解しやすく例えていうならば」

ニート「もう一生萌えパラを読まない位の覚悟が必要だっていう」

男「……」

男「……無理」

男「……と言いたいところだが」

男「そんなこと言っても始まらねー」

男「いいだろう。覚悟は決まってるぜ」


ニート「さすが男だっていう」

ニート「俺が見込んだだけのことはあるっていう」

ニート「それじゃあ、早速明日から山籠もりを始めるっていう」

男「山?」

ニート「そうだっていう」

ニート「雑音のない清々しい空気の中で」

ニート「バラ色の勉強ライフが待っているっていう」

男「ははっ、ちょっと怖ーけどガンバるっす……」


翌日……

テクテク、テクテク

高校生女「でも、あんたが人にものを教えるようになるとはねー」

男「……」

高校生女「今度は幼女ちゃんに掛け算とか教えるの?」

男「……あ、ああ。まあな」

高校生女「……?」

男「高校生女……」

高校生女「なに?」

男「実は昨日、ニートに会ったんだ」

高校生女「……へえー」

男「それで、あいつに幼女ちゃんを助けて欲しいって頼んだんだ」

高校生女「できないって言われたんでしょ」

男「……なんで分かんの?」

高校生女「あいつならそう言いそうだしねー」


高校生女「それに、もし助けてくれるってあいつが言ったなら、今、あんたはそんな顔してないでしょ?」

男「……」

男「でも、条件をクリアすれば助けてくれるってあいつ言ったんだ」

高校生女「……ふーん、どんな条件?」

男「俺が東応大学に合格すること」

高校生女「あはっ」

男「な? ふざけてると思うだろ?」

高校生女「うーん」

男「あいつに聞いたらそれがあいつの世界のルールなんだってさ」

男「なんか本当に俺のことをからかっているとしか思えねえ」


高校生女「で、どうするの?」

男「……一応、やってみるよ」

男「あいつが俺の家庭教師になってくれるっていうし」

高校生女「うん、いいんじゃん。がんばってみればー」

男「だから、今日からしばらく会えなくなるかも……」

高校生女「……?」

男「山に籠って勉強をするんだとさ」

高校生女「ふーん」


男「でも、本当によー」

男「俺が東応大学に受かれるわけ?」

高校生女「……さー」

男「俺がもし落ちたら、幼女ちゃんは助からなくなるわけだろ?」

男「なんか理不尽な気が……」

高校生女「たぶん、大丈夫だよ」

男「なにが?」

高校生女「幼女ちゃんのことも、あんたのことも」

男「なんで?」

高校生女「なんとなくねー」

……


テクテク、テクテク

高校生女「こんにちわー」

男「こんちわーっす」

高校生女の姉「ああ、こんにちわー」

高校生女「……!?」

高校生女「幼女ちゃん、今日は具合悪いんだ?」

高校生女の姉「うん、そうなの」

高校生女の姉「今朝から体調を崩しちゃって……」


幼女「おねーちゃん……来たの?」

高校生女「うん、来たよ」

高校生女「幼女ちゃん、今日はゆっくり眠ってて」

幼女「おにーちゃんは?」

男「ああ、来てるぜ! 幼女ちゃん」

幼女「おにーちゃん、今日は勉強できない」

男「別にいいんだよ幼女ちゃん。幼女ちゃんが好きな時に好きなだけやればいいんだし……」

男「今日はゆっくり休みな」

幼女「うん」


男「それと、幼女ちゃんに言っておかなければならないことがあるんだけど……」

幼女「なに?」

男「おれ、しばらくここに来れなくなるんだ」

幼女「えー!」

幼女「なんでー!」

男「いや、その……おにーちゃんは夏休みの間、勉強をしに行くんだ」

幼女「別にここで勉強すればいいじゃん」

男「いや、そういう訳にもいかなくて……」

男「山に籠らなくちゃいけないんだ」


幼女「……修行しにいくの?」

男「うん、まあ、そんなところかな」

幼女「いいなー」

幼女「私も元気になったら修行したいなー」

男「ははっ、さすがの向上心っす。幼女ちゃん」

幼女「……」

幼女「おにーちゃん」

男「うん? 何?」

幼女「おにーちゃん、山に修行しに行っていいよ」

幼女「その代わり、帰って来たら私に私の知らないような難しいことをいっぱい教えてね」

幼女「わたしもおにーちゃんがいない間、おにーちゃんに負けないくらい勉強するから」

男「ははっ、何か負けそうで怖いっす……」


その日の夜……

スタスタ、ザッ

ニート「……!」

ニート「よう、来たかっていう」

ニート「準備はできているかっていう」

男「ああ、できてるぜ」

ニート「よし、それじゃあ、早速行くぜっていう」

ニート「男、目を瞑れっていう」

男「また目を瞑るのか……」

男「……」

ホワホワホワン、ホワホワホワン

……


男「……」

男「……ん、んん」

ニート「男、目を開けろっていう」

男「……ここは……」

ニート「ここがこれからお前が暮らすこととなる山小屋だっていう」

ニート「ここはとても由緒正しい山小屋だっていう」

ニート「歴代の名だたるスーパーニート達がここで養成されて巣立っていったっていう」

男「かー、本当に山の中って感じだなー」

ニート「その通りだっていう」

ニート「ここは人里からは隔離された場所にあるっていう」

ニート「一番近い町でもここから5光年は離れているっていう」

男「『5コウネン』って何?」

ニート「お前にはちょっと内容が高度すぎたかっていう」

ニート「まあ、いずれ俺のボケにもついてこれるようになるっていう」


ニート「では早速中に入るっていう」

テクテク、テクテク、バタン

男「……お邪魔しまーっすっと」

ニート「ここには今はお前と俺の他には誰もいないっていう」

ニート「余計な気は使う必要はないっていう」

ニート「男、そこに座れっていう」

ニート「早速レッスンを開始するっていう」

男「おお、何か小さな教室みたいな所だな」

男「黒板もあるし……」


ニート「男、ほらよっていう」

ポイッ

男「んんっと……なにこれ?」

ニート「見ての通り本だっていう」

男「いや、一応その位は分かります……」

ニート「じゃあ、早速その本を読めっていう」

男「うーん、まあ、読めっていうなら読みますが……」

ニート「制限時間は30分だっていう」

男「おい、おかしいだろう!」

男「ほら見ろよ、この本……100頁もあるんだぜ」

男「こんな本30分で読めるわけねーだろ!」

男「普通に読んだら3日はかかるぜ……」


ニート「何甘ったれたこと言っているんだっていう」

ニート「お前は半年後には東応大学に合格しようとしているんだぜっていう」

ニート「お前のライバルたちはもうずっと先を走っているんだっていう」

ニート「追いかけるお前がそれよりも遅いスピードで走って追いつけるわけがないっていう」

ニート「お前がそいつらに勝つためには」

ニート「フルマラソンを短距離の世界王者並みのスピードで走り抜けるくらいのことをしなければならないんだっていう」

男「……とはいってもよー」

ニート「言っとくがこれはまだ序の口だっていう」

ニート「その本も内容はライトノベルだから軽く頭に入ってくるはずだっていう」

ニート「最終的には難解な哲学書を30分で500頁くらい読みこなせるまでに」

ニート「俺はお前のことを鍛え上げるつもりだっていう」

男「……ははっ、気の遠くなるような話だな……」


ニート「分かったらさっさと読めっていう」

男「でも……漢字があんまり分かんねー」

ニート「細かいことは気にするなっていう」

ニート「文脈をとらえることが重要なんだっていう」

ニート「流れを読むことができれば、分からない文字が混ざってようが関係ないっていう」

ニート「しかも漢字は表意文字だっていう」

ニート「お前、仮にも日本人ならば文字を目で見てその意味を直感で感じ取れっていう」

男「うーん、ごちゃごちゃ言われてもよく分からんが」

男「とにかく読めばいいんだろう?」

ニート「その通りだっていう」


30分後……

ニート「30分経ったぜっていう」

ニート「そこまでだっていう」

男「ぶはーーーーっ」

男「ぎり読み終わったぜーーーー」

男「俺、こんなに真剣に本を読んだの生まれて初めてかもしんねー」

男「すげー疲れたわー」

ニート「男、素晴らしい集中力だったっていう」

ニート「俺は傍目で見ているだけだったが」

ニート「お前の集中力が醸し出すピリピリ空気が肌にビンビン伝わってきて心地よかったっていう」

男「うーん、そんなんだったのかー?」

男「よくわかんねー」


ニート「今日はもうここで終わりにするっていう」

ニート「ゆっくり休めっていう」

男「えっ? もう終わりなわけ?」

男「なんかもっと死ぬほど勉強やるのかと思ってた」

ニート「何事も中身の濃さが大切だっていう」

ニート「人間には集中力の限界があるから休息を取ることも必要なことだっていう」

ニート「ちなみに俺は休息取らない派だからそこんとこよろしくっていう」


男「うーん、何かちょっと拍子抜けしたような……」

男「本当に俺はこんな感じで大丈夫なわけ?」

ニート「大丈夫だっていう」

ニート「お前はまだ気づいていないかも知れないが」

ニート「お前の中ではもう既に変化が起き始めているっていう」

男「……?」

ニート「休息を取ることもお前の使命だっていう」

ニート「明日の朝は俺が起こしてやるからゆっくり眠れっていう」

男「……眠りについてから30分後に起こしたりするなよ」

ニート「安心しろっていう」

ニート「それじゃあなっていう」

テクテク、テクテク、バタン

男「ふあー、何か眠くなってきたし、あいつの言う通り眠るか……」

男「これからしばらく早朝の新聞配達がなくなるのはうれしーな……」


翌朝……

男「……おーっす」

ニート「よお、起きて来たかっっていう」

ニート「今、起こしに行こうとしたところだったっていう」

男「久しぶりによく眠れたわ」

男「すこぶる快調」

男「何か俺かなり健康になって現実世界に戻れるかも」

ニート「そうしたら、さっさと飯を食えっていう」

ニート「1分1秒も無駄にはできないっていう」

男「ゆっくりしろって言ったり早くしろっていったりよくわかんねー野郎だな」


20分後……

ニート「それじゃあ、今日のレッスンを始めるっていう」

ニート「先ずは世界史から行くっていう」

男「うん? 何かいきなりマイナーな感じだな」

ニート「別にマイナーではないっていう」

ニート「世界史は重要な科目の1つだっていう」

男「うーん。でも歴史は苦手なんだよな」

男「記憶力悪いし」

ニート「記憶力は関係ないっていう」

ニート「世界史は左脳ではなく右脳で覚えるんだっていう」

男「何言っているのか分からんのだが……」


ニート「お前、昨日の勉強を思い出せっていう」

ニート「細かい部分が分かっていなくても全体の文脈が分かることが先ず重要なんだっていう」

ニート「イメージで全体を捉えてみろっていう」

男「イメージ?」

ニート「そうだっていう」

ニート「歴史は1つの物語の流れだっていう」

ニート「1つ1つの事象には必ずその理があるっていう」

ニート「その1つ1つの点を頭の中で結んで行き、1本の線にするんだっていう」

男「うーん、お前の言っていることは難し過ぎてよく分からんぞ」

ニート「まあいいっていう」

ニート「とにかく講義を始めるっていう」

ニート「一字一句聞き逃さないようにしっかり頭を働かせて聞けっていう」

男「うーっす」


12時間後……

ニート「……と、ここまでが人類の歴史の大まかな流れだっていう」

男「……」

男「……おい、ニート」

ニート「どうかしたかっていう」

男「お前……教えるのうまいな」

男「すげー歴史のことが分かった感じだ……」

男「俺、今朝までは過去に何が起きていたかなんてほとんど知らなかったのに」

男「今は全然違う」

男「過去の延長線上に今があるっていうのが」

男「今は頭の中に明確にイメージできるようになってる」


男「……でもよー」

男「すげー疲れたぜー」

ニート「お前は俺が期待した通りの成果をあげれたようだなっていう」

ニート「集中力の持続力も素晴らしかったぞっていう」

ニート「今日のレッスンはここまでにするっていう」

ニート「ゆっくり休めっていう」

男「……」


男「……おい、ニート」

男「お前、何でそんなに俺に優しくするんだ?」

ニート「言っている意味が分からないっていう」

男「いや、お前、以前よりも明らかに俺に対して優しいじゃねーか」

ニート「別にそんなことないっていう」

ニート「俺のお前に対する態度は以前とまったく変わっていないっていう」

ニート「もし俺が優しくなったと感じているとするならば」

ニート「それはお前の心境の変化がもたらしているものだっていう」

男「……」


男「まあ、別にいいけどよ……」

ニート「それじゃあ、ゆっくり休めっていう」

テクテク、バタン

男(……)

男(……何か違和感を感じるのだが)

男(……考えてもよく分かんねー)

男(……)

男(……そういえば幼女ちゃんは元気になったかな?)

男(……高校生女は……)

男(……今頃何してっかな?)


翌日……

ニート「それじゃあ、早速今日のレッスンを始めるっていう」

男「ちょっと待て」

男「外部と連絡を取りたいんだが」

男「ここはケータイの電波が入らねーのか?」

ニート「外部との連絡は取る必要性はないっていう」

ニート「お前はここにいる以上、外の世界と交信することは不可能だっていう」

男「……幼女ちゃんが元気になったのか知りたいんだ」

ニート「お前が今幼女ちゃんが元気になったかどうかを知る必要性はなっていう」

ニート「勉強のことだけに意識を集中させろっていう」

男「……てめー」


男「そもそも俺は幼女ちゃんを助けるために勉強しているんだぜ」

男「幼女ちゃんの容態が気になるのは当然だろ」

ニート「無駄な心配はする必要性はないっていう」

ニート「俺が言うんだから大丈夫だっていう」

ニート「以前にも言ったが、神は信じる者を好むっていう」

ニート「お前は俺を信じていればいいんだっていう」

男「……」

男「へい、分かりやしたよ」


ニート「それじゃあ、今日は英語のレッスンをするっていう」

男「英語かー」

男「文法が難しいんだよなー」

男「街で外国人に話しかけられた時にスラスラしゃべれるようになりてーなー」

ニート「余計な邪念は起こすなっていう」

ニート「英語も要は言語だっていう」

ニート「言語は習うより慣れろだっていう」

ニート「よって、英語のレッスンはすべて英語で行うっていう」

男「おい、ちょっと待て」

男「英語なんて俺はしゃべれねーぞ」

男「英語が分からないんじゃレッスンもくそもねーだろ」


ニート「それはちょっと違うっていう」

ニート「しゃべれないからこそ」

ニート「しゃべれるようになるために英語でレッスンをするんだっていう」

男「いや、話が無茶苦茶なような……」

ニート「以前にも言ったが、お前のライバルたちはすでにはるか先を走っているんだっていう」

ニート「追いつくためには並大抵なことをやっていては無理だっていう」

ニート「相手の表情を見て何を言っているのかを読み取る位の気合が必要だっていう」

男「ライバルって言われてもピンとこねーが……」

男「まあ、仕方ねえ。やってやるよ」

ニート「『オーケー、スチューデント』」

ニート「『ナウ、レッツスタートレッスン』っていう」

男「……『っていう』だけは聞き取れたぜ」


現実世界……

ピロピロー、ピロピロー、ピッ

高校生女「はい、もしもし」

イケメン「あ、もしもし、高校生女?」

高校生女「うん。イケメン君?」

イケメン「うん、そう」

イケメン「急に電話してゴメンな」

高校生女「ううん、全然。気にしないで」

イケメン「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」

イケメン「いつでもいいからちょっと会えない?」

高校生女「……うん、いいよ。別に今からでも」


イケメン「ホント? 悪いな」

イケメン「じゃあ、今からそっちの方に行くよ」

イケメン「駅ってどこだったっけ?」

高校生女「私がイケメン君の家に行くよ」

イケメン「いや、それじゃ悪いだろ」

高校生女「気にしないでいいよ。久しぶりに妹さんたちにも会いたいし」

イケメン「……ああ、分かった。じゃあお言葉に甘えるわ」


30分後……

ピンポーン、ガチャ

イケメン「おう、高校生女」

イケメン「わざわざわりーな」

高校生女「ううん、気にしないで」

イケメン「じゃあ、上がってくれよ」

高校生女「うん。おじゃましまーす」

……


高校生女「こんにちはー」

上の妹「あ、おねーちゃん。お久しぶりです」

下の妹「あー、おにーの彼女さんだー」

イケメン「おい、前から違うって言ってるだろ? 下の妹」

イケメン「おねーちゃんに迷惑なんだからあんまりそういうこと言うな」

高校生女「こんにちは、下の妹ちゃん」

高校生女「私はイケメンおにーちゃんの彼女じゃないんだよ」

高校生女「おにーちゃんには私なんかよりもっと綺麗な彼女さんがいるんだからね」

下の妹「えー、本当?」


イケメン「おい、高校生女、お前もあんまり適当なこと言うな」

イケメン「ほい、麦茶。よかったら飲んでくれ」

下の妹「おにー、私ものど乾いたー」

イケメン「お前は自分で冷蔵庫を開けて飲め」

高校生女「下の妹ちゃん、麦茶入れてあげようか?」

イケメン「高校生女、あんまり甘やかさないでくれ」

高校生女「まーたまにはいいんじゃん」

高校生女「ねー、下の妹ちゃん」

下の妹「うん、ありがとう。おねーちゃん」

……


イケメン「で、話なんだけどさ」

高校生女「うん」

イケメン「男のことなんだ」

イケメン「あいつ、折角バイト先紹介してやったのに」

イケメン「この前、『長期休暇を下さい』って言ってそのままいなくなっちまった」

イケメン「ケータイで連絡しようとしてもつながらないし……」

高校生女「ごめんね。迷惑かけてる?」

イケメン「いや、全然そんなんじゃないよ」

イケメン「まー、あいつなりの事情もあるんだろうし……」

イケメン「それはそれで別にいいんだ……」


イケメン「でも実は俺、男や高校生女にしばらく会えなくなるから」

イケメン「ちょっと最期に伝えておきたいことがあっただけの話しだ」

高校生女「……!」

イケメン「俺、もうすぐしたらロシアにいくんだ」

高校生女「……へえー」

下の妹「そう、ロシアに行くの!」

下の妹「わたし達も一緒にいくんだー」

高校生女「へえー、良かったねー。下の妹ちゃん」

下の妹「ロシアに行ったらね、かまくらをつくってその中で暮らすんだ」

高校生女「へえー。すごーい」

下の妹「あとねー、北極海のシロクマさんを見に行くの」

下の妹「ねー? おにい」

イケメン「あー、いい子にしてたら連れて行ってやるよ」

下の妹「やったー」


イケメン「で、話しを戻すんだけど」

イケメン「男が戻ってきたらこれを渡して欲しいんだ」

高校生女「……うん、分かったよ」

下の妹「おにい、何それ? ラブレター?」

イケメン「んなわけねーだろ」

下の妹「えー、違うのー?」

下の妹「おにい、ロシアで婚活するんでしょ?」

イケメン「しねーよ」

イケメン「お前はそんな単語どこで覚えてくるんだ。まったく」

イケメン「それじゃあ、手間取りさせて悪いんだけど、それ、よろしく頼むわ」

高校生女「うん、男が戻ってきたら渡しておくねー」

……


イケメン「今日はわざわざ来てもらって悪かったな」

イケメン「じゃあな、高校生女、元気でな」

上の妹「さようなら、おねーちゃん。お元気で」

下の妹「じゃあにー。おねーちゃん」

高校生女「うん、じゃあね。イケメン君、上の妹ちゃん、下の妹ちゃん」

高校生女「元気でねー」

高校生女「それと……」

イケメン「……?」


高校生女(ヒソヒソ)「イケメン君」

高校生女(ヒソヒソ)「妹さんたちのためにも」

高校生女(ヒソヒソ)「あんまり無理しないでね」

下の妹「あー、ヒソヒソ話ー」

下の妹「あやしー」

イケメン「ああ、分かったよ。高校生女。色々とサンキューな」

高校生女「じゃあね」

イケメン「ああ、じゃあな」


8月下旬……

カリカリ、カリカリ

ニート「時間だっていう」

ニート「そこまでだっていう」

男「よーし、できたあー」

ニート「それじゃあ、早速採点してやるっていう」

男「自分で言うのもなんだが」

男「結構手ごたえはあるぜー」


ニート「うん、大体よくできているっていう」

ニート「これなら今の時点でも三流私立大学なら余裕で合格できるっていう」

男「うーん、喜んでいいのだろうか?」

ニート「お前は1ヶ月前までは小学生レベルの勉強しか分からない底辺DQNレベルだったっていう」

ニート「それがここまで来たのは大きな進歩だっていう」

男「まー確かに自分でも大分進歩した感じはするな」

男「国語・英語・世界史・日本史・地理・政治経済・倫理なんでも来いって感じだぜ」


男「でもよー。実際のところ」

男「東応大学にはどれ位近づいているわけ?」

ニート「かなり近づいてきているっていう」

ニート「お前のライバルたちが今フルマラソンで30キロ地点を走っているとしたら」

ニート「お前は10キロ地点まで来ているっていう」

男「かー。まだ全然じゃねーか」


男「でも、弱音は言ってられねー」

男「さあニート。次は国語か? 英語か?」

ニート「国語も英語もしばらくはやらないっていう」

男「じゃあ、世界史? それとも地理?」

ニート「世界史も地理ももうしばらくやらないっていう」

男「じゃあ、何やるの?」

ニート「これからは数学と物理・化学をみっちりやっていくっていう」

男「げっ、やっぱり東応大学となると数学もやらなきゃいけないのか」

男「ちなみにみっちりってどれくらいやるの?」

ニート「向こう2ヶ月間は数学と物理・化学オンリーだっていう」


男「マジで?」

男「俺は文系なのにそんなに数学やらなきゃいけないわけ?」

ニート「男……」

ニート「お前は何か重大な勘違いをしているっていう」

ニート「お前が文系だって誰が決めたのかっていう」

男「えっ? だって流れ的にそうだろう?」

男「ここ1ヶ月もずっと文系の勉強してきたわけだし」

男「それに俺、理系の科目は本当に苦手だし……」


ニート「ここ1ヶ月文系科目を勉強してきたのは受験科目にもなるからだっていう」

ニート「でもそれ以上に教養をつけるために文系科目をお前に教えて来たっていう」

ニート「お前が勉強してきた全部の科目が受験科目となるわけではないっていう」

男「えっ? マジで?」

男「じゃあ、俺は一体何のために頑張って勉強してきたんだ……」

ニート「教養をつけるためだっていう」

ニート「教養がないまま東応大学に入学したところで行き着く先は見えているっていう」

ニート「教養を十分に身につけてこそ、東応大学に入る意味があるっていう」

男「いや、そもそも入れるかどうかが問題なんですが……」


ニート「とにかくお前は理系を受験するんだっていう」

ニート「受験する学部は東応大学理科Ⅲ類だっていう」

男「『理科Ⅲ類』って何?」

ニート「要は医学部だっていう」

男「医者かー」

男「で、理科Ⅲ類っていうのは東応大学の中では入るのは簡単な方なわけ?」

ニート「何寝ぼけたことを言っているんだっていう」

ニート「理科Ⅲ類は東応大学の中でも最難関だっていう」

男「はい?」

ニート「お前はその理科Ⅲ類に主席合格するんだっていう」


男「おい、以前から何度も言っているが」

男「俺は底辺高校のそのまた底辺にいる人間だぞ」

男「そんな人間がピラミッドの頂点に立てるとでも?」

ニート「立てるか立てないかではないっていう」

ニート「お前は立つんだっていう」

ニート「ちなみに俺はそのピラミッドのはるか上空に浮かぶ雲のような存在だからそこんとこよろしくっていう」

男「また訳のわからんことを……」

男「でもどうせ俺が理科Ⅲ類を受けないって言ったら」

男「お前はどうせ幼女ちゃんが助からなくなるって言うんだろ?」

ニート「よく分かっているじゃないかっていう」

ニート「お前の推察通りだっていう」

ニート「選択の余地はないっていう」

男「くっ、まあやるっきゃねーってことか……」


9月1日朝……

チュンチュン、チュンチュン

男「……」

男「ん、んん……」

男「……ここは」

男「俺んちか……」

バサッ、スタッ

男(……確か昨日も普通に小屋の中で寝たんだったよな……)

男(……9月1日だし、ニートの野郎が現実世界に戻してくれたってことか……)

……


男「いってきまーす」

ガチャ、スタッ

高校生女「おっす、男」

高校生女「元気にしていたかい?」

男「……ああ、思ったより元気だったな」

……


高校生女「へー。じゃあニートと2人っきりで夏休みの間勉強してたんだー」

男「うん、そう」

高校生女「勉強ははかどった?」

男「ああ、まあな」

男「あの野郎、あんな性格しているけど」

男「なんだかんだ言って教えるのはうまかったわ」

男「あんまりあいつのことは褒めたくないけど」

男「あいつのおかけでかなり進歩できた感じがする」

高校生女「ふーん」


男「お前はどうだった? 夏休みは?」

高校生女「うーん。大体毎日アルバイトと勉強していたかな……」

高校生女「そうだ……」

高校生女「はい、これ」

男「なに? これ」

高校生女「ラブレター」

男「え゛っ?」

男「ちょ、ちょっと待てよ」


高校生女「あはっ」

高校生女「ゴメン、ウソついた」

高校生女「イケメン君からの手紙だよ」

高校生女「男に渡して欲しいって預かったの」

高校生女「イケメン君、ロシアに行くんだって」

男「ロシア!?」

男「一体なにをしにロシアに?」

男「スパイでもやる気か!?」

高校生女「あはっ」


高校生女「イケメン君」

高校生女「男に会えなくて淋しそうだったよ」

男「へえー……あいつがねー……」

男「手紙をもらうなんて俺生まれて初めてだよ」

ビリビリ

高校生女「……」

手紙の内容

『おい、男、お前どこに行ってるんだ? 高校生女から聞いたかもしれないけど

俺、ロシアにいくからもうお前とはしばらく会えなくなるな。1つだけ伝えておくが

新聞配達のアルバイト先のおやっさんにはよろしく言っといたからいつでも復帰できる

と思うぜ。じゃあな。

P.S. 高校生女とはあまりケンカしないで仲良くやれよ。今度2人でロシアに遊びに来な。

イケメン ~ロシアより愛をこめて~』


男「『ロシアより愛をこめて』だって」

男「きもちわりっ」

高校生女「あはっ」

高校生女「それ多分映画のタイトルだよ」

男「えっ? そうなの?」

男「何の映画?」

高校生女「007」

男「007って……あいつ、やっぱりそうなのかっ!」

高校生女「あはっ」


高校生女「他にはなんか書いてあった?」

男「……」

男「今度ロシアに遊びに来ればだってさ……お前と2人で」

高校生女「……ふーん」

男「……ロシア……一緒に行くか?」

高校生女「……」

男「もし俺が東応大学に合格して幼女ちゃんの命が助かったらだけど」

高校生女「あはっ」

高校生女「うん、いいよ」

高校生女「あんがとねー」


その日の夕方……

テクテク、テクテク

男「こんちわー」

高校生女「こんにちはー」

幼女「あっ、おにーちゃん」

幼女「すごい久しぶりー」

男「おう、久しぶりだな。幼女ちゃん」

男「元気そうで安心したよ」

男「おっ? 幼女ちゃん、何だか難しそうな本を読んでいるな……」

幼女「そんなに難しくないよ」

幼女「プラトンの『国家』……おにーちゃんも読んだことくらいあるでしょ?」

男「ははっ……おにーちゃんは国家のことはあまり考えない主義なんだ……」


幼女「ところでおにーちゃん」

幼女「修行はどうだった?」

男「うん、厳しかったけど幼女ちゃんのことを思い出しながら頑張ったよ」

男「難しいこともいっぱい覚えたし」

男「幼女ちゃんにこれからいっぱい教えてあげるよ」

幼女「ほんとっ!」

幼女「じゃあ、数学のことも分かる?」

男「ああ。もちろん。何でも聞いてみなさい」

幼女「じゃあ、複素関数と特異点の関係について詳しく教えて!」

男「……ははっ、幼女ちゃん……」

男「おにーちゃんちょっと何かを勘違いしていたみたいだ……」

幼女「えーっ」


幼女「おにーちゃん、一体何勉強してきたのー?」

男「いや、幼女ちゃん、君が凄すぎるんだよ……」

男「もうおにーちゃんはいらないね……」

幼女「だめー」

幼女「おにーちゃんがいないとやだー」

幼女「おにーちゃん、これからも会いに来てー」

幼女「今度私がおにーちゃんに勉強教えてあげるから」

男「うーん」

男「何だかちょっと複雑な気分だけど……」

男「そこまで言ってくれるならお言葉に甘えるっす……」


帰り道……

テクテク、テクテク

男「そういえば幼女ちゃんは俺がいない間元気だったの?」

高校生女「うん、時々体調が悪くなることはあったけど」

高校生女「元気だったよ」

高校生女「担当医の人も病気の進行は思ったよりも遅いって言ってた」

男「そうかー」

男「でも遅いとは言え病気は進行しているのか……」

男「……」

男「何とか頑張って東応大学に合格しなければ……」

高校生女「……うん、そだねー」


その日の夜……

ガチャッ、テクテク

男「ただいまー」

…(ペチャクチャ、ペチャクチャ)

男「……?」

テクテク、ガラッ

男「ただいま……って……お前」

ニート「よう、男、ようやく帰って来たかっていう」

ニート「始業日初日からどこほっつき回っていたんだっていう」

男の母親「そうよ、あんた。こんな時間まで一体どこにいたのよ」


男「……ってか、かーちゃん……」

男「こいつ……」

男の母親「ああ、ニートさんのこと?」

男の母親「あんた、何で母さんに隠していたのよ」

男の母親「こんな素晴らしい方に勉強を教えてもらっているなんて」

男「こんな素晴らしい方って……」

男「かーちゃん、こいつがどんなやつなのか知っているのかよ」

男の母親「ええ、当然でしょ!」

男の母親「今、テレビでも引っ張りだこの方じゃない」

男の母親「敏腕起業家にして大富豪」

男の母親「それなのに慈善活動にも多大な私財を投じていて」

男の母親「その一環として頭の悪い高校生に自ら勉強を教えられている方じゃない」

男「……え゛っ、なにそれ……」


ニート「お母さん、自分の息子のことをバカ呼ばわりするものじゃないっていう」

男の母親「あら、つい……オホホホホ」

ニート「それに男はここ暫くずっと勉強に集中していたからテレビも見ていなかったっていう」

ニート「俺の凄さを知らなくても仕方がないっていう」

男の母親「あらー」

男の母親「お忙しいのに本当にすみません」

男の母親「うちの息子がバカ過ぎて迷惑をかけてなければいいのですが」

男「おい、かーちゃん……」


ニート「お母さん、教える相手がバカであればあるほど俺も燃えるっていう」

ニート「そういう意味で男君と出会えたのは俺にとって1つの幸運だったっていう」

ニート「これほど教え甲斐のある高校生はそうはいないっていう」

男の母親「あら、本当に何て素晴らしい方なんでしょう!」

男の母親「男、ニートさんにしっかり感謝するのよ!」

男「……」


男の部屋……

ニート「なるほど、ここがお前の部屋かっていう」

ニート「俺はこれからおまえの家でお世話になるからそこんとこよろしくっていう」

男「わりーけど、お前が寝るとこなんてないぜ」

男「見ての通り狭い部屋だし」

ニート「心配無用だっていう」

ニート「知っての通り俺は睡眠取らない派だから問題ないっていう」

ニート「それに基本押入れの中で暮らすからお前の邪魔にもならないっていう」

ニート「ちなみに俺はポケットの中から道具を出す趣味はないからそこんとこよろしくっていう」


男「……お前」

男「……まあ、お前がいいんなら別にいいけどよ」

男「それと」

男「俺は基本的に毎日学校終わったら幼女ちゃんに会いに行くけど別にいいだろう?」

ニート「別に問題ないっていう」

ニート「幼女は天才児だから、存分に勉強を教わってくればいいっていう」

男「何でお前が知ってるんだよ」

ニート「俺はすべてお見通しだっていう」

ニート「幼女はもう既に東応大学を主席合格する位の学力は身につけているっていう」

男「……マジでか」


男「じゃあ、幼女ちゃんが東応大学に合格したら幼女ちゃんの命が助かるっていう条件にしてくれよ」

ニート「既に答えは分かっていると思うが無理だっていう」

ニート「お前が合格しなければ幼女は助からないっていう」

男「……へいへい、分かりやした」


男「ところで、お前は引き続き俺に勉強教えてくれるわけ?」

ニート「当然だっていう」

男「早朝でもいいか? 新聞配達はしばらくやらないことにしたし」

ニート「別にお前の好きにすればいいっていう」

ニート「早朝だろうと深夜だろうと問題ないっていう」

ニート「それじゃあ、俺はそろそろ押入れの中に入るからさらばだっていう」

ニート「また明日の朝会おうぜっていう」

男「……」

男「……ああ、じゃあな」


1か月後……

ザワザワ、ザワザワ

男「おーっす」

友人男「おっ、来たぞ」

友人男B「よー、男」

男「……なんだよ、こっちのことジロジロ見て」

友人男「おい、お前廊下に貼ってあったやつ見なかったのか?」

男「なんのこと?」

友人男B「この前やった学力試験の結果だよ」

男「ああ、学力試験か……」


男「あんまりみたことねーな」

男「どうせいつも定位置だったし」

友人男「……」

友人男B「……」

友人男「おい、男、その結果なんだがすごいことになってるんだぞ」

男「何? トップでも入れ替わったの?」

男「イケメンがいなくなったし」

友人男「ああ、お前の言う通りトップが入れ替わってるよ」


男「へー。あんまし興味ないけど、誰?」

友人男「……トップは全教科満点だ」

男「マジで! エグイなー」

男「で、誰?」

友人男「学年トップは……」

友人男「お前だよ、男」

男「……ウソだろ」


友人男B「ああ、俺たちも最初はそう思ったよ」

友人男B「で、廊下を通りかかった担任にも確認したんだけどよ」

友人男B「間違いなくお前がトップだそうだ」

男「……ははっ、そうか」

友人男「おい、男、何が一体どうなってんだよ」

男「……さーなー」

男「まあ、問題はいつもよりも簡単に感じたけど」

男「なあ?」


友人男B「……いや、今回の問題はかなり難しかったぞ」

友人男B「実際、平均点は30点も下がっている」

友人男「男、お前、一体何をしでかしたんだ」

男「何だよ、その犯罪者を見るような目は」

友人男「いま、巷ではお前の話題でもちっきりなんだ」

友人男B「……」

友人男「お前の変わり身を根拠づける論拠として今、3つの説が挙がっている」

男「……なんだよ……それ」

男「別に理由なんかねーし」


友人男B「いいか、男、よく聞け」

友人男B「俺らだってお前が何か道を踏み外したことをしたとは思いたくない」

友人男B「だが、お前は周囲の人間がお前のことをどう考えているのかを正しく認識する必要がある」

友人男「友人男Bの言うとおりだ」

友人男「男、よく聞けよ。先ず1つめの説は『イケメン殺人説』だ」

男「……いきなりヘビーだな」


友人男「お前がイケメンを殺した……理由はよく分からない」

友人男「恐らく男女関係のもつれか金銭関係の問題……」

男「おい、勉強は関係ねーじゃねーか」

友人男「とにかくお前はイケメンを殺した」

友人男「そしてお前の頭脳は飛躍的に向上した」

友人男「これが1つめの『イケメン殺人説』だ」

男「へいへい」


友人男「そして、2つの説が『イケメン乗り替わり説』だ」

男「……」

友人男「お前の頭脳が飛躍的に向上した要因……」

友人男「それはお前がイケメンに乗り移った点にある」

男「……」

友人男「お前は先ずイケメンを殺し……」

友人男「そしてイケメンの身体を乗っ取った」

男「結局殺すんかい」

男「ってか、乗っ取るってなんだ」

男「俺はエイリアンか!」


友人男「エイリアンなんて生易しいものではない」

友人男「お前は寄生虫……いや寄生獣か……」

友人男「そして、お前はイケメンの首から上をふっとばし」

友人男「イケメンの身体を乗っ取ったんだ」

男「おい、もしそれをやるんだったら脳みそごと乗っ取らなけりゃ意味ねーじゃねーか」

友人男「とにかくお前はイケメンの身体を乗っ取った」

友人男「そしてお前の頭脳は飛躍的に向上した」

友人男「これが2つめの『イケメン乗り替わり説』だ」

男「へいへい」


友人男「そして、最後の3つの説が『萌えパラ購読中止説』だ」

男「……また随分と話があっちこっち」

友人男「お前、ここの所、あれ程好んでやまなかった『萌えパラ』をまったく読んでないじゃないか」

男「金がねーからな」

友人男「本当に理由はそれだけか?」


友人男「実は『萌えパラ』には分かる人には分かる超勉強法が暗号化されて記述されていた」

友人男「そしてお前はもうその超勉強法を体得した」

友人男「だから『萌えパラ』はもう必要なくなった」

友人男「違うか?」

友人男「ついでに言っとくと『萌えパラ』の出版社にはある裏大手進学塾が出資しているっていうもっぱらの噂だ」

友人男「つまり、お前はあたかも萌えワールドに浸っているふりをしながら」

友人男「実はその裏でちゃっかりライバルに差をつけていたわけだ」

友人男「どうだ? 図星だろう?」


男「へいへい」

男「お前らの想像力には敬服しますわ」

友人男B「おい、そろそろゲロっちまえよ」

男「何を?」

友人男B「今の3つの説のうち、どれが真実なのかを」

男「別にお前らの好きにしていいよ」

男「そもそも、こんな就職率95%の学校でトップ取ったって言ったってたかが知れてるし」


ガラガラ、スタスタ

教師「よーし、お前ら席につけー」

教師「ホームルームを始めるぞ」

教師「先ずはこの前の学力テストの答案を返す」

教師「出席番号順に前に出てこい」


スタスタ、スタスタ……

教師「よーし、次ー」

教師「ん? 男か」

ザワザワ、ザワザワ

教師「お前ら、静かにしろ」

教師「よし、男、学力テストの答案だ」

男「……」

教師「それから、男、昼休みにちょっと職員室に来い」

ザワザワ、ザワザワ

友人男「おい、男、お縄になりたくなければ何とかごまかせよ!」

教師「お前らー、静かにしろー」

教師「分かったな? 男」

男「……はい。分かりました」


昼休み……

ガラガラ

男「失礼しやーっす」

教師たち(チラチラ)「……」

教師「おう、男、来たか」

教師「まあ、ここに座れ」

男「……はい」

教師「今回の学力テスト……すごい点数だったな」

男「……はい」

教師「何かあったのか?」

男「……いえ、別に何もないっす」

教師「そうか」


教師「実はな、他の先生たちは今回のお前の点数に関してかなり懐疑的だった」

教師「だが、俺は今回のお前の点数に関して驚かなかった」

教師「お前はイケメンと同等か、あるいはそれ以上の才能を持っていると感じていたからだ」

男「……」

教師「だが、そうした才能も、輝きを放つためにはきっかけが必要だ」

教師「きっとお前にも何かきっかけがあったんだろう」

男「……」


教師「大学は受けるつもりなのか?」

男「……はい」

教師「どこの大学だ?」

男「……東応大学です」

教師「東応大学か」

教師「正直、うちの高校から東応大学合格者が出たらマスコミネタになる位のことだ」

教師「でも、お前ならできるかも知れない」

教師「それに、何か目指したいものもあるんだろう」

教師「まあ、頑張れ」

男「……はい」


12月下旬……

カリカリ、カリカリ……

ニート「……」

男(カリカリ、カリカリ)「……」

ニート「……」

男「……おい、ニート」

男「見てるだけじゃなくて何かレクチャーしてくんねーのかよ」

ニート「時に口を出さず見守るのも俺の仕事だっていう」

ニート「ちなみにサボっている訳じゃないから、そこんとこよろしくっていう」

男「へいへい」


男(カリカリ、カリカリ)「……」

男「ところでよー、ニート」

ニート「なんだっていう」

男「最近聞いてなかったけど」

男「俺はライバルたちと比較して今どの辺まで来ているわけ?」

ニート「何の話しだっていう」

男「お前、前よく言ってたじゃねーかよ」

男「フルマラソンの例えで」

男「ライバルたちがうん十キロ地点を走っているとしたら俺はうん十キロ地点っていうやつ」


ニート「そんなことは自分で考えろっていう」

男「えっ? そんなこと言われたって見当もつかねーし」

男「模試だって受けたことねーんだから自分のポジションなんてわかんねーよ」

ニート「自分がどの位のポジションまで来ているのかっていうのは自分の感覚で測ればいいんだっていう」

ニート「お前はもうライバルがどうのこうのっていうレベルの男じゃないっていう」

ニート「自分の力量は自分で正確に測る」

ニート「それくらいのことが当たり前にできないといけないレベルまで来ているっていう」

ニート「ちなみにお前はまだまだ俺のライバルにはなりえないレベルだからそこんとこよろしくっていう」

男「あー、分かりましたよって」


ニート「……」

男(カリカリ、カリカリ)「……」

ニート「ところでお前、今日は幼女の所へ行かないのかっていう」

男(カリカリ、カリカリ)「ああ、今日は休日だしな後で行くよ」

男(カリカリ、カリカリ)「昨日も幼女先生には物理をみっちり教えてもらったしなー」

男(カリカリ、カリカリ)「……」


ニート「男、今日は何日か知っているかっていう」

男(カリカリ、カリカリ)「……んー? さーなー」

男(カリカリ、カリカリ)「最近は曜日や日にちの感覚があんまりねーんだよな」

男(カリカリ、カリカリ)「毎日、同じような生活をしているし……」

ニート「男、今日は12月24日だっていう」

ニート「日本人が大好きなお祭りの日だっていう」

ニート「ちなみに外は雪が降っているっていう」

男「マジで!」


ガラッ

男「本当だ」

男「お前何でわかったんだよ」

ニート「俺はすべてを見通せるっていう」

ニート「外の様子を透視することくらい朝飯前だっていう」

男「……その能力……男としてうらやましいっす」

……


ピロピロピロピロ、ピロピロピロピロ

ニート「男、ケータイが鳴っているっていう」

男「ああ……高校生女か」

ピッ

男「もしもし」

高校生女「もしもし、今、暇?」

男「暇なわけねーだろ」

高校生女「ちょっと買い物に行きたいんだけど時間ある?」

男「買い物?」

男「買い物なんて1人で行けばいいだろ」

高校生女「ちょっと付き合ってよ」

男「んー」


ニート「男、行ってこいっていう」

ニート「高校生女はお前が勉強で忙しいのを承知の上で電話をかけてきているんだっていう」

ニート「誘ったのはそれなりの理由があってのことだっていう」

男「……」

男「……んー、分かったよ。行くよ」

高校生女「あんがと」

男「で、どうすればいい?」

高校生女「じゃあ、今からいくから待ってて」

男「へい」

ピッ


ニート「たまには息抜きをするのもいいっていう」

ニート「外の空気でも吸って来いっていう」

男「別に勉強無理してやっているわけでもねーが」

男「まあ、ちょっと行ってくるよ」

……


高校生女「やっほー」

男「おう、高校生女」

高校生女「じゃあ、行こうか」

男「へい」

テクテク、テクテク

男「で、何を買いに行くわけ?」

高校生女「クリスマスツリー」

男「おまえんちクリスマスツリーあったんじゃなかったっけ?」

高校生女「うん、あるよ」

男「ちなみにうちはいらねーからな」

高校生女「あはっ」


高校生女「幼女ちゃんのクリスマスツリー」

高校生女「病室に飾れるようなやつが欲しいんだ」

男「幼女ちゃんのか……」

男「いや、『幼女先生』のか……」

高校生女「あはっ」


3時間後……

テクテク、テクテク

高校生女「やっほー、幼女ちゃん」

幼女「あ、おねーちゃん」

幼女「こんにちは」

男「こんちは、幼女先生」

幼女「あー、おにーちゃん」

幼女「それなにー?」

男「ほら、じゃーん」

幼女「あっ、クリスマスツリーだ!」

幼女「ありがとー。おにーちゃん、おねーちゃん」


男「よし、幼女先生、この棚の上に飾っておきますからな」

高校生女「幼女ちゃん、下に付いているスイッチを押してごらん」

幼女「うん」

プチッ

幼女「あー、キラキラ光るー」

幼女「きれー」

幼女「ありがとー」

男「ははっ、喜んでもらえてよかったよ」


高校生女「幼女ちゃん、おにーちゃんこのツリー選ぶのに何時間もかかちゃってたいへんだったんだよ」

幼女「えー、そうなのー」

幼女「おねーちゃんに迷惑かけじゃだめでしょー」

男「ははっ、すいません。先生」

幼女「じゃあ、おにーちゃん、早速勉強始める?」

男「はい、じゃあ、よろしくお願いしまっす」

男「宿題もやってきたっす」

幼女「うん、じゃあ先ず宿題のチェックから始めるね」


帰り道……

男「幼女ちゃん、喜んでくれて良かったなー」

高校生女「うん、そだねー」

高校生女「今日は付き合ってくれてあんがとね」

男「別にいいよ」

男「気分転換にもなったし」

男「しかし、雪が本降りになってきた感じだなー」

男「明日はかなり積もってそう」

高校生女「……」

男「足元に気をつけろよ」

高校生女「うん、大丈夫だよー」


高校生女「そうだ……」

ゴソゴソ

高校生女「はい、これ」

男「何、これ?」

高校生女「お守り。プレゼント」

男「お守り……『学業成就』か」

高校生女「うん……それと」

高校生女(チュッ)

男「お、お前……」

高校生女「あはっ、じゃあ勉強がんばってねー」

スタスタ

男「……」

男(……心臓がバクバクしちまってるじゃねーか)


センター試験当日……

男「いよいよセンター試験か」

男「何か注意すべきこととかってあるわけ?」

ニート「特にないっていう」

男「……あっ、そう」

ニート「センター試験なんていうのは遊びみたいなもんだっていう」

ニート「適当に受けてくればいいっていう」

男「適当にって言っても、幼女ちゃんの命がかかっているわけだし」

男「まあ、一応頑張ってくるぜ」

男「じゃあ、行ってくるぜ、ニート」

ニート「ああ、グッドラックだっていう」


試験中……

男(カリカリ、カリカリ)「……」

男(カリカリ、カリカリ)「……」

男(……よし、大体大丈夫そうだな)


試験後……

テクテク、テクテク

男「おーっす」

幼女「あ、おにーちゃん」

高校生女「あはっ、来たんだ」

男「まあ、明日も試験だけどここに来るのはいつもの日課みたいなもんだしな」

幼女「おにーちゃん、試験はどうだったの?」

男「あ、ああ、まあ大体できたと思うよ」


幼女「おにーちゃん、問題見せて」

男「ああ、いいよ。はい」

幼女「……」

幼女「……うん」

幼女「おにーちゃん、多分満点だと思うよ」

男「ほんと? そりゃ良かったわ」

幼女「……」


幼女「ところでおにーちゃんは何で東応大学に行きたいの?」

男「えっ? 何で今更そんなことを」

幼女「なんとなく」

男「……なんていうか……その……」

高校生女「お医者さんになって幼女ちゃんを助けるためなんじゃないの?」

高校生女「ねっ?」

男「あ、ああ、そうだよ、幼女ちゃん」

男「こんな俺でも少しは役に立てるかなって思ってね」

幼女「……ふーん」

幼女「でも、おにーちゃん、今のままだとまだまだ私の病気を治すことはできないよ」

幼女「もっと勉強しないとねー」

男「ははっ、幼女先生、なかなか手厳しいっすな」


翌日の試験……

男(カリカリ、カリカリ)「……」

男(カリカリ、カリカリ)「……」

男(……よし、大丈夫だな)


その日の夕食……

男の母親「で、試験はどうだったの?」

男の母親「ちゃんとできたの?」

男「あー、まーね」

男の母親「……そう、なら良かった」

ニート「お母さん、心配は無用だっていう」

ニート「男の頭脳は既に並みのライバルをはるかに凌駕しているっていう」

ニート「月でも落っこちてこない限り何も問題は起きないっていう」

男の母親「オホホホホ、ニート先生がついていらっしゃいますものね」

男の母親「私としたことがつい」


男の母親「もう、このバカ息子は就職先があるかどうかを心配していたくらいですので」

男の母親「大学を受けてくれるだけでも本当に御の字なんです」

男「そうだぜー、かーちゃん」

男「俺が大学受けるだけも十分満足だろ」

男「だからあんまり点数とか気にすんなよ」

男の母親「でも、やっぱり気になるの」

男「暇だから気になるんだよ」

男「かーちゃん、パートとかしてみたら?」


ニート「男、親っていうものはそういうものだっていう」

ニート「子供のことはどんなに細かいことでも気になるものだっていう」

男の母親「そうですよねー、ニート先生」

男「てめーはまた余計なことを」

男の母親「こら、ニート先生に向かってなんですか、その口のきき方は」

男「……へい、すいやせんでした」


男の部屋……

男「はー、とりあえずセンター試験も終わったし一安心したわ」

ニート「男、本番の試験は1か月後だっていう」

ニート「安心している暇はないっていう」

男「はいよー。当然分かってますって」

男「でも、やることはかわんねーんだろ?」

ニート「その通りだっていう」

ニート「受験が近づいて来たからと言って何かを変える必要性はないっていう」

ニート「そもそも受験は通過点に過ぎないっていう」

ニート「受験の先にあるものにベクトルを合わせて、そこに向かっていくための勉強をするんだっていう」

男「お前の抽象的なものの言いようも今はだいぶイメージがつくようになってきたぜ」

男「まあ、ぼちぼちやっていきますか……」


1か月後……

ザワザワ、ザワザワ

友人男「男、入試いよいよ明日だったっけ?」

男「ああ、そうだよ」

友人男「どうなんだよ、手ごたえは?」

男「別に。よくわかんねーよ」

友人男「そうか……」


友人男「まあ、万が一合格した時はマスコミの手配は俺がすべてやってやるから安心しな」

男「マスコミの手配ってなんだよ」

友人男「記者会見開くに決まってるだろ」

友人男「俺も、友人代表としてインタビューを受けてやるからさ」

男「プロ野球の入団会見じゃあるめーし」

男「お前、自分がテレビに映りたいだけだろう」

友人男「ちっ、ばれたか」

男「さ、かえろーぜ」

友人男「おう」


テクテク、テクテク

友人男「……!」

友人男「よう、高校生女」

高校生女「こんにちは、友人男君」

友人男「……男、俺、急用を思い出したから悪いけど先に帰るぜ」

友人男「じゃあな! 入試頑張れよ」

友人男「テレビに出れるの楽しみにしてるぜ」

男「おいって」

男「……」

高校生女「かえろっ」

男「……へい」

……


テクテク、テクテク

高校生女「明日、入試だね」

男「そうだな」

男「他でもない幼女ちゃんのためだから精一杯頑張るよ」

高校生女「……それにしても男が東応大学を受けるとはね」

高校生女「全然想像もできなかったなー」

男「いや、実際の所おれが一番驚いているから」

高校生女「あはっ」


男「……」

高校生女「……」

男「……でもよ、もし俺が本当に東応大学に合格したらさ」

男「どうなの?」

高校生女「なにがー?」

男「いや、お前はどう感じるわけ?」

高校生女「べつにー。でも、まあうれしいよ」

男「うーん、まあそんなもんか」


高校生女「なに? もっと敬って欲しかったの?」

男「いや、別にいまのままでいいよ」

男「それにニートや幼女ちゃんみたいな奴らもいるわけだし」

男「俺ももっとがんばらなきゃってな」

高校生女「……」

男「……まあ、もし遠い先の未来、幼女ちゃんの病気を簡単に治す治療法を見つけることができたら」

男「その時はちょっと敬って欲しいかな」

高校生女「あはっ」

高校生女「うん、わかったよー」


入試当日……

テクテク、テクテク

男(……ここが東応大学かー)

男(……写真では見たことあるけど、やっぱり古いお屋敷みたいな感じだな)

男(……俺の周りにいる奴ら、みんな受験生かー)


試験開始10分前……

試験官A「ただいまより試験の注意事項をお伝えします……」

試験官B「……!」

試験官B「君、ちゃんと座りなさい」

ニート「別にいいじゃないかっていう」

ニート「座り方の指示なんてどこにも書いていなかったっていう」

ニート「俺は普通の座り方をしたら思考力が半減してしまうんだっていう」

男(……!)

男(……あれは……ニートの野郎じゃねーか)


試験官B「君、失格にしますよ」

ニート「ふー、仕方がないなっていう」

ニート「冗談の通じない奴だなっていう」

ニート「ちょっと漫画の真似をしてみただけだっていう」

ニート「しょうがないから普通の座り方をしてやるっていう」

受験生たち(イライラ)「……」

男(……ニートの野郎)

男(……あいつもまさか受験すんのか?)


試験開始5分後……

ニート「なんだ、東応大学入試っていうからにはちょっとは期待していたのに」

ニート「簡単すぎる問題ばかりじゃないかっていう」

試験官B「君、独り言はやめなさい」

試験官B「次やったら退席処分にしますよ」

ニート「もう問題はすべて解き終わったからこの部屋から出たいっていう」

試験官B「まだ途中退席はできません」


ニート「なんだ、こんな易しい問題を出しておきながらまだ途中退席をさせてくれないとは」

ニート「東応大学総長もデリカシーのない奴だなっていう」

試験官B「……」

受験生たち(イライラ、イライラ)「……」

男(……あの野郎)

男(……なんか空気がどんどん悪くなっていっているような気がする)


試験開始30分後……

試験官A「試験開始30分が経ちました」

試験官A「只今より途中退席が可能となります」

試験官A「途中退席を希望される方は手を挙げて試験官の確認を受けてから退席してください」

ニート(サッ)

試験官B「……いいでしょう。どうぞ退席ください」

ニート「ふー、やれやれやっとこの部屋から出られるのかっていう」

ニート「こんな問題を解くのに30分以上も掛かるなんてとんだバカどもがこの会場には集まっているなっていう」

ニート「東応大学のレベルも所詮この程度かっていう」

受験生たち(イライラ、イライラ、イライラ)(……あの記念受験野郎が……)

男(カリカリ、カリカリ)「……」


試験昼休み……

男(……ふー)

男(……何だかんだ言って疲れたなー)

男(……でもまあ、手ごたえはあるし何とかなるかな)

スタスタ

ニート「よう、男っていう」

男「……てめー」


男「なんでてめーがここにいんだよ」

ニート「別におかしーことじゃないっていう」

ニート「俺にも東応大学を受験する権利はあるっていう」

ニート「ちなみに俺も志望は理科Ⅲ類だからそこんとこよろしくっていう」

男「てめーもおれのライバルってわけか……」

受験生たち(チラチラ、チラチラ)

男(……何だか殺気に満ちた視線がこちらに向けられているように感じるぞ……)


ニート「いっとくが、この会場におれのライバルと呼べる奴はいないっていう」

ニート「でも、残念なことに試験の問題をどれほどよく解いても満点以上の点数は取れないっていう」

ニート「ゆえに、ひょっとしたら俺と肩を並べるような奴が出てくるかもしれないっていう」

ニート「そんな奴がぜひ出てきて欲しいと俺は願っているっていう」

ニート(ニヤリ)

男(ニヤリ)「てめー……」


午後の試験……

カリカリ、カリカリ、グーグー

受験生たち(イライラ、イライラ)「……」

グーグー

試験官B「……」

試験官B「……君、眠るんなら外に出て眠りなさい」

ニート「……ん? ああ、問題が簡単すぎてつい眠くなってしまったっていう」

ニート「もう30分経ったのかっていう」

試験官B「……経ちました」


ニート「そうか、それじゃあ遠慮なく外で眠らせてもらうっていう」

ニート「あと、来年からは試験開始直後から途中退席できるようにしてくれと総長に伝えておいてくれっていう」

ニート「それじゃあ、また後でなっていう」

受験生たち(イライラ、イライラ、イライラ)(……あの途中退席野郎が……うぜー)

男(カリカリ、カリカリ)「……」


2日目最後の試験科目……

カリカリ、カリカリ、ギシギシ

試験官B「……きみ」

試験官B「歯ぎしりするのはやめなさい」

ニート「うん? 俺は今歯ぎしりをしていたのかっていう」

ニート「無意識のうちにしてしまっていたっていう」

ニート「遂に禁断症状が出てきてしまったかっていう」

ニート「ここにいるバカたちと同じ空気を吸い過ぎて精神が限界に達してしまったっていう」


試験官A「……試験開始後30分経ちました……」

試験官B「30分経過しました」

試験官B「どうぞ、ご退席ください」

ニート「ん? 俺はまだ手を挙げていないぞっていう」

ニート「お前は試験官の強権を発動して俺を強制退場させようとしているのかっていう」

試験官B(イライラ)「……失礼しました。いつも途中退席をされるので」

ニート「慣れからくる惰性というものは時に大きな災いをもたらすことがあるから気を付けた方がいいっていう」

ニート「でも、お前は俺に退席して欲しそうな顔をしているから退席してやるっていう」

ニート「お前、おれがちゃんと空気の読める奴で本当に良かったなっていう」

試験官B(イライラ)「……」

受験生たち(イライラ、イライラ、イライラ)(……うぜえええええええええ)


試験終了後……

ザワザワ、ザワザワ

男「よーし。終わった―」

男「……」

男「帰るかー」

……


テクテク、テクテク

ニート「よお、男っていう」

男「てめー、現れやがったな」

男「試験中は随分と派手に立ち回ってやがったな」

ニート「別に普通だっていう」

ニート「あの程度のことで集中力を乱すような奴は所詮張り子の虎に過ぎないっていう」

ニート「その点、お前はかなり集中できていたようだな」

男「ああ、おかげさまでな」

男「お前の傍若無人な態度にはだいぶ免疫ができてきたからな」


ニート「まー取りあえずこれで試験は終わったっていう」

ニート「俺の役目もここまでで終了だっていう」

ニート「じゃあ、男、さらばだっていう」

男「おい、待てよ」

男「まだ合格したわけじゃねーじゃねーか」

男「せめて合格発表の時まではいろよ」

男「お前も受験した訳だし」


ニート「安心しろっていう」

ニート「合格発表の時はまた姿を現すっていう」

男「まあ、別にいいけどよ」

ニート「男、じゃあなっていう」

スタスタ、スタスタ

男「……」

男「さてと、俺も帰るか」


東応大学入試課……

ザワザワ、ザワザワ

職員A「おー、すごいことになってるな」

職員B「本当ですね」

職員B「これは前代未聞ですよ」

職員B「まさか満点が出るとは……」

職員A「それも2人同時にか……」

職員B「男君とニート君か一体どんな子達なんだろうなー」

試験官B「ブッ」

職員B「あれ? 試験官Bさん、どうかしましたか?」

試験官B「……いえ、別に……何も」


合格発表の日……

ピロピロピロピロ、ピロピロピロピロ、ピッ

男「はい」

高校生女「もしもし、今日、合格発表の日だったよね」

男「うん、そだよ」

高校生女「見に行くの?」

男「うん、まー一応そのつもり」

高校生女「じゃあ、私も一緒に行くよ」

高校生女「何時ころに出るの?」

男「別にいいよ。付いて来なくたって」

高校生女「幼女ちゃんのこともあるしねー」

高校生女「一緒に行くよ」

男「へいへい、分かりやした」


合格発表会場……

高校生女「へー、東応大学の中、初めて入った」

高校生女「建物って結構古いんだね」

男「ああ、なんか時代に取り残されているって感じはするな」

ザワザワ、ザワザワ

男「人がいっぱいいるなー」

高校生女「そだねー」


スタスタ、スタスタ

ニート「よう、男っていう」

男「てめー、現れやがったな」

ニート「高校生女、久しぶりだなっていう」

高校生女「うん、久しぶり、ニート」

ニート「男、お前合格していたのかっていう」

男「まだ見てねーよ」

ニート「ちなみに俺は合格していたからそこんとこよろしくっていう」

男「マジでか!」

男「あんだけ好き勝手やっといて……」


ニート「男、とっとと自分の番号があるかどうか探せっていう」

男「ああ、探すよ」

男「……」

男「……ん」

男「あった」

男「よし、合格っと」

高校生女(チラッ)「……」

ニート「男、あんまり喜ばないんだなっていう」

男「ああ、何かな」


男「なんかこの半年の間、色んなことがあって」

男「自分のポジションくらいは分かるようになったしな」

男「それよりニート、約束は果たしたぜ」

男「これで幼女ちゃんの命は助けてくれるんだろ?」

ニート「ああ、約束は守るっていう」

ニート「でも、俺の力で病気を治すことはできないっていう」

男「おい」


ニート「心配するなっていう」

ニート「幼女の命は助かるっていう」

ニート「そのうち分かるっていう」

ニート「じゃあ、男、達者でなっていう」

男「おい、ニート」

男「お前も4月からは東応大学に来るんだろ?」

ニート「来ないっていう」

ニート「入試は遊びで受けただけだっていう」

ニート「東応大学みたいなレベルの低い所で遊んでいるほど俺は暇じゃないっていう」

ニート「俺にはまた次の仕事が待っているっていう」


男「てめー」

男「まあ、引き止めはしねーけどよ」

ニート「じゃあ、高校生女、男をよろしく頼むぜっていう」

ニート(チラッ)

高校生女「……!」

高校生女「うん、色々とあんがとねー、ニート」

ニート(ニヤリ)「どうってことないっていう」

ニート「では、また逢う日までさらばだっていう」

スタスタ、スタスタ

男「なんなんだ、あの最後の笑みは……」

男「きもちわりー」

高校生女「あはっ」


翌日……

ザワザワ、ザワザワ

男「おーっす」

友人男「おー、来たな、東大生」

男「お前……何で知ってんだよ」

友人男「『悪事千里を走る』っていうだろう」

友人男「もう学校中がお前の話しでもちきりだぜ」

男「いや、悪事じゃねーし」


女子生徒A「男君、話聞いたよすごいね」

女子生徒B「男君、握手してよ」

男「え゛、やだよ」

友人男「男ー、その位のサービスはしとけ」

友人男「お前は今、人生一番のモテ期に入ってるんだからよ」


ガラッ、スタスタ、スタスタ

教師「よーし、みんな席につけー」

教師「もう既にみんな知っているようだが」

教師「男が見事、東応大学に合格にした」

男生徒達「おー、すげーぞ! 男ー」

女生徒達「ほんとすごーい」

男「……」


教師「男、よくがんばったな」

教師「知っての通り、我が校始まって以来の快挙だ」

男生徒達「DQN高校の希望の星だぜ、男」

女生徒達「うちのクラスから東大生なんて親や友達に自慢できる」

男「……」

教師「男、理事長がお前にちょっと話したいことがあるそうだ」

教師「私と一緒にちょっと来い」

男「……はい」


理事長室……

ガチャ、スタスタ

教師「失礼します」

教師「理事長、男を連れてきました」

理事長「ああ、ありがとう教師君」

理事長「君はもう下がってくれていいよ」

教師「はい」

スタスタ、ガチャ


理事長「やあ、男君、君と話すのは初めてだね」

男「……はい」

理事長「今回の東応大学合格の件、いや、実に素晴らしい」

理事長「我が校始まって以来の快挙だ」

理事長「素晴らしい人材だよ。君は」

男「……はい、ありがとうございます」

理事長「君の活躍を祝して理事長特別栄誉賞を進呈しようと思う」

理事長「我が校で最も重みがあって格調高い賞だ」

理事長「どうだ?」


男「……」

男「……自分はそんなたいしたことはしていないので」

男「すみませんが、辞退させて頂きます」

理事長「なんだ、つれない男だな、君は」

理事長「……」

理事長「どうだ? やっぱり『こっち』の方がいいか?」

男「……!」

理事長「ん? 目の色が変わったじゃないか!」

理事長「いくら欲しい? 君の希望金額を言ってみたまえ」

男「……」


理事長「どうした? 遠慮することはないんだぞ」

理事長「このことは誰にも言いはしない」

理事長「君と私だけの間の出来事だ」

男「……金は」

男「いらないです」

理事長「何だ、君は? 人が折角祝福してやっているっていうのに」

理事長「勉強はできるようだが、もう少し世間のことも勉強した方がいいな」

理事長「もういい、君は下がっていい」

男「……はい、失礼します」

スタスタ、ガチャ、バタン


男「……!」

教師「男、どうだった?」

教師「何か言われたか?」

男「……いえ、別に」

教師「……」

教師「あの理事長を好いている人間はこの高校にはいない」

教師「もし何か言われたとしても気にするな」

男「……はい」


帰り道……

テクテク、テクテク

高校生女「どうかしたー」

高校生女「暗い顔して」

男「別に……」

高校生女「……」

男「……」


男「今日、理事長に会ってさ」

男「東応大学の合格祝いで金をくれるって言われた」

男「やっぱ5000万くらいもらっておけばよかったかなー」

男「幼女ちゃんの治療費のために」

高校生女「いらないって言ったんだ?」

男「うん、そう」

高校生女「後悔してるの?」

男「うーん、よくわかんねー」


高校生女「……」

高校生女「……実はね」

高校生女「さっきおねーちゃんからメールがあって……」

男「……?」

高校生女「宝くじが当たったんだって」

男「マジで!? いくら?」

高校生女「3965万円」

男「って、なんて中途半端な!」

男「でも、ぴったりだな」

高校生女「うん、そだねー」

男「……ニートの仕業ってことか」

高校生女「……たぶんねー」


男「じゃあ、これで幼女ちゃんは治療を受けられるんだな!」

高校生女「うん、もう出国の手続きも済んでいて」

高校生女「もうすぐしたらアメリカに飛び立つんだって」

男「はやっ」

男「でも、善は急げってことだな」

男「手術、成功してくれるといいな」

高校生女「うん、そだねー」


3週間後……

男「こんちわーっす」

高校生女「こんにちわー」

幼女「あ、おにーちゃん、おねーちゃん」

高校生女の姉「こんにちわ」

男「あ、どうもこんちわーっす」

高校生女の姉「男君、東応大学受かったんだってね」

高校生女の姉「妹から聞いたよ」

高校生女の姉「すごいねー」

男「いや、全部幼女先生のおかげっす」


幼女「おにーちゃん、よかったね、合格して」

幼女「でも、まだまだ先の道のりは長いよ」

男「ははっ、先生、覚悟してるっす……」

男「それよりも幼女ちゃん、手術成功おめでとう」

幼女「うん、ありがとう」

幼女「あと1ヶ月くらいしたら退院できるんだって」

男「へー、良かったね」


幼女「おにーちゃん、約束覚えてる?」

男「えっ? 何かしてたっけ?」

幼女「えー、忘れたのー?」

幼女「もし私が元気になって退院できたら」

幼女「1日中お馬さんごっこしてくれるって約束したでしょ?」

幼女「楽しみにしているからね」

男「ははっ、そう言えばそうだったっけ?」

男「身体鍛えて待ってます……」


帰り道……

テクテク、テクテク

男「幼女ちゃん、元気そうでよかったな」

男「手術が成功してほんと、一安心したわ」

高校生女「そだねー」

高校生女「色々あんがとねー」

男「ははっ」


男「それにしてもニートの野郎、助けるならもっと簡単に助けてくれりゃよかったのに」

男「わざわざ宝くじを当てて手術を受けさせるような回りくどいことをしなくてよ」

高校生女「……」

男「おかげで余計な気苦労しちゃったし」

高校生女「たぶん、ニート、本当は幼女ちゃんのことを直ぐに助けることができたのかも」

男「うん? お前もやっぱりそう思うだろ?」

男「変な制約条件やらなんやらを持ち出して」

男「結局、あいつが楽しんでいただけじゃねーかって」


高校生女「うーん」

高校生女「東応大学合格はあいつの遊びだとは思うけど」

高校生女「たぶんね、制約条件はあったんだと思うよ」

男「ん? どういうこと?」

高校生女「もし、あんたが自分の命と引き換えに幼女ちゃんの命を助けることができるってニートに言われていたらどうしてた?」

男「俺の命と引き換えに?」

男「わかんねーけど、多分、幼女ちゃんを助けるかな」


高校生女「うん、そだねー、たぶんあんただったらそうする……」

高校生女「そして、ニートもそのことを分かっていたんだと思うよ」

男「おい、ちょっと待てよ」

男「じゃあ、俺の命と引き換えに幼女ちゃんの命を助けることができるっていうのが本当の制約条件だったわけ?」

高校生女「うーん、ニートに確認してみないとわかんないけど」

高校生女「なんとなくそんな気がするんだー」

男「なんで?」

高校生女「あいつの去り際の目かな」

高校生女「あいつの目を見ていたらそんな感じがした」


男「またアイコンタクトってやつか」

男「俺にはよくわかんねーな」

男「まあ、今度あいつに会った時に聞いてみるか」

高校生女「あはっ、まああいつは教えてくれないだろうけどね」

男「んー、まあそうかもな」

男「そもそもまたあいつに会えるかどうかが問題だからな」

高校生女「たぶんまた会えるよ」

男「それってまた理由のない予感?」

高校生女「うん、まーねー」


終わり


読んでくれてサンクス。

続き書きます。

ただ、今回は書きだめしないで少しづつ書いていく予定です。

あと、『高校生女』は高校卒業するから『女』とするということで……。

更新は不定期になるかなー。


3か月後、夏……

男「おれ、飛行機初めて乗るわ」

男「お前は乗ったことあったっけ?」

女「うん、あるよ」

女「おねーちゃんの結婚式で海外にも行ったことあるしね」

男「うーん、ちょっとドキドキしてきたな」

女「あはっ」

女「まあ、離陸の時に少し揺れるくらいであとは大丈夫だと思うよ」

男「そうか……」


離陸後……

男「お、雲の下に陸が見える」

男「あれは、ロシア?」

女「うん、多分ねー」

男「いま、どの辺りに来たの?」

女「まだ全然だよ」

女「モスクワまであと8時間くらいかなー」

男「えっ、そんなに?」

男「ロシア、どんだけ広いんだ!」

女「あはっ」


男「……」

女「……」

男「ところでイケメンの奴、元気にしてるかな」

女「電話で話したんでしょ?」

男「うん? まあ、話したけど」

男「国際電話、料金が高いから直ぐ切っちゃったよ」

男「でも、あいつ一応現地の大学に通っているって言ってたな」

女「へー、そうなんだ」

男「モスクワ国立大学の法学部だって」

男「まあどんな所かは聞いてないからよく知らないけど」

女「ふーん」


女「イケメン君、流石にすごいね」

男「ああ、まあ確かにロシア人と普通に会話している所を想像するとすごいと感じるわ」

女「あはっ」

男「あとはあいつが本当に普通の大学生をやっているんだったらいいんだけどな」

女「……」

男「俺はロシアに行ってまで銃撃戦をやるのはごめんだからな……」

女「あはっ」

女「そうだねー」


モスクワ……

ピンポーン、ガチャ

女「こんにわー」

下の妹「あ、おねーちゃん、来たー」

上の妹「おねーちゃん、お久しぶりです」

下の妹「おねーちゃん、ドーブルイディエン」

女「ドーブルイ……ディエン?」

下の妹「ロシア語で『こんにちは』って意味なんだよ」

女「へー、そうなんだー」


下の妹「ん? おねーちゃん、この人だれ?」

男「ははっ、ドーブルイディエン、下の妹ちゃん。男って言います」

下の妹「えー、私、もっとかっこいい人が良かったー」

男「いや、そう言われても……」

下の妹「おねーちゃん、この人彼氏なの?」

女「うん、そうだよ。下の妹ちゃん」

下の妹「ふーん」

下の妹「まあ、いいや」

下の妹「さー、上がって、上がって」

女「うん、ありがとう」

女「おじゃましまーす」


上の妹(ジッ)「……」

男「うん? どうかした? 上の妹ちゃん」

上の妹「おにーちゃん……どこか懐かしいような……」

上の妹「以前にどこかでお会いしましたっけ?」

男「えっ……」

女「……!」

男「ははっ、気のせいだと思うよ」

男「久しぶりに日本の人に会ったからじゃないかな? 上の妹ちゃん」

上の妹「……はい」


イケメンのアパートの中……

男「なんだ、じゃあイケメンはいないんだ、下の妹ちゃん」

下の妹「うん、そうだよ」

下の妹「ここ1週間くらい家をずっと留守にしてる」

下の妹「まー、おにいは多忙な人だからねー」

女「はい、下の妹ちゃん、上の妹ちゃん、麦茶どうぞ」

下の妹「ありがとー、おねーちゃん」

上の妹「ありがとうございます」

下の妹(ゴクゴク)

下の妹「ぷはー、やっぱりおねーちゃんにいれてもらう麦茶が一番おいしいや」

女「あはっ」


女「ところでイケメン君がいなくて食事とか大丈夫?」

上の妹「はい……」

下の妹「ロシア人のおねーちゃんがねー、時々来て食事を作ってくれるんだ」

女「ロシア人のおねーちゃん?」

下の妹「うん、そう」

下の妹「おにーちゃんの大学の友達なんだって」

下の妹「でも多分おにいの彼女だな!」

下の妹「お人形さんみたいに綺麗で優しい人だよ」

女「へー、そうなんだー」

女「よかったねー、下の妹ちゃん」

下の妹「うん、この前はね、ピロシキの作り方を教えてもらったんだ」

女「へー、いいなあー」


男「ところでさー下の妹ちゃん」

下の妹「なにー?」

男「イケメンはどこに行ったか聞いてない?」

下の妹「全然知らないよー」

下の妹「おにいはいつも『心配するな』としか言わないんだ」

男「そうかー」

男「イケメンの野郎、どこにいるんだろうなー」

男「せっかく人がロシアまで来たっていうのに」

上の妹「……!」


スタスタ

上の妹「……あのう、これおにーちゃんから預かった手紙です」

男「ん、手紙?」

上の妹「……はい」

上の妹「おにーちゃんが男さんに渡してくれと言ってました」

女「……」

男「そうなんだ」

男「ありがとう、上の妹ちゃん」


ビリビリ、ピラッ

手紙の内容

『おっす、男。ロシアまで来てくれてサンキューな。

実はいきなりあれなんだけど今ちょっとトラブッてて大変なんだ。

で、お前にちょっとお願いしたいことがあるからスタンコリト駅ってとこまで夜に来てくれないか?

1人で来てくれ。悪いな。じゃあ、よろしく。

イケメン ~黄金の銃を持つ男~ より』


男「……」

男「あいつは……まったく」

男「いまどき置手紙なんてはやんねーぞ」

女「なんて書いてあった?」

男「ん? ああ、ちょっとな」

男「なんでもプレゼントがあるからおれ夜1人で取りに来て欲しいって」

女「……ふーん」

男「なんせあいつは多忙なやつだからな」

男「なあ、下の妹ちゃん」

下の妹「うん、そだよ。おにいは鉄人だからね」

男「ははっ、それは否定しないっす……」

女「……」


その日の夜……

男「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」

下の妹「わたし、プレゼント、シロクマさんのおっきいぬいぐるみでよろしくね」

男「ははっ……、サンタさんじゃないんだから……」

上の妹「気をつけて行ってきてください」

男「うん、大丈夫だよ、上の妹ちゃん」

女「男、なんかあったら電話ちょうだいねー」

男「ああ、分かったよ、女」

男「じゃっ」

下の妹「いってらっしゃーい」


スタンコリト駅……

男「……」

男(……こねーな、あいつ)

男(……『夜』って時間も曖昧過ぎるし)

男(……そもそも駅しか書いてなかったしな)

男(……どこの出口かくらい書いておけっつーの)

男(……)

男(……しかしほんとこねーなー)

男(……いつまでまってりゃいいんだよ……)

男(……)


その頃……イケメンのアパート……

ガチャ、スタスタ

下の妹「うん? おにーちゃんもう帰ってきたのー?」

黒スーツのロシア人男「……」

女「……!」

下の妹「あんた、誰? このハゲ」

下の妹「勝手に人の家に入んないでよ」


スチャ

黒サングラスのロシア人女「死にたくなかったら静かにしなさい」

黒サングラスのロシア人女「そして大人しく私たちの言うことを聞くこと」

黒サングラスのロシア人女「分かったかい? お嬢ちゃんたち」

女「……」

下の妹「わかるか、ボケ」

黒サングラスのロシア人女「おー元気のいい娘だねー」

黒スーツのロシア人男(グイッ)「……」

下の妹「このハゲ、放せ」

女「下の妹ちゃん!」


下の妹「おねーちゃーん」

女「放して」

黒スーツのロシア人男(スッ)「……」

女「下の妹ちゃん……上の妹ちゃん……」

女「大丈夫だからね」

女「今はこの人たちの言うことをきこう」

上の妹「……はい」

下の妹「えー」

黒サングラスのロシア人女「観念したかい?」

黒サングラスのロシア人女「そうしたら大人しくついて来るんだね」

女「……」


スタンコリト駅……

男(……全然こねーじゃねーか……あいつ)

男(……人のことからかってるのか)

男(……)

男(……もう帰ろ)

スタスタ


……「おい、ちょっと待てっていう」

男「……まさか、その声は……」

ニート「よう、男。久しぶりだなっていう」

ニート「お前とはいつも変なところで再会するなっていう」

男「てめー」

男「今度は一体何をしに来た?」

ニート「人聞きの悪い言い方をするなっていう」

ニート「お前、俺の恩を忘れたのかっていう」

男「お前が何を企んでいるのかはしらねーが」

男「俺はもう今日は帰るぜ」

男「じゃあな」


スタスタ

ニート「お前、イケメンを待っていたんじゃないのかっていう」

パタッ

男「……!」

男「てめー……」

男「何でお前がそのことを」

ニート「当然知っているっていう」

ニート「言うも及ばず俺は全知全能だっていう」

ニート「俺が知らないことなんてないっていう」

ニート「その上、お前が読んだあの手紙は俺が書いたっていう」

男「なに!?」


男「……何か嫌な予感がしてきたぜ」

ニート「どんな予感がするんだっていう」

ニート「言ってみろっていう」

男「お前が俺を呼び出した……そして俺は待ちぼうけした……」

男「お前、女たちに何かを……」

ニート「素晴らしいっていう」

ニート「ハラショーだっていう」

ニート「お前、だてに俺が育てただけの奴ではあるっていう」

男「……」


ダッ

ニート「もう遅いっていう」

ニート「今戻っても女たちはもういないっていう」

ニート「女たちは俺の仲間たちが連れ去っているっていう」

男「てめー……」

男「一体なんのために……」

ニート「人質にするためだっていう」

ニート「お前、変な手出しをしたら女とイケメンの妹たちの命はないからそこんとこよろしくっていう」

男「話しが見えないが……」


ニート「俺は今、ある秘密組織の一員になっているんだっていう」

ニート「イケメンは俺の組織を壊滅させるために工作をしかけてきたから今組織の総力を挙げてイケメン抹殺計画が進行しているっていう」

ニート「ゆえにイケメンに協力する奴はすべて敵と認識するっていう」

ニート「お前もイケメンに協力した瞬間、抹殺されることになるから気を付けるんだなっていう」

ニート「ちなみに、俺の組織の目的は人類を破滅させることだからそこんとこよろしくっていう」

男「人類を破滅させるって」

男「なんだよそれ……」

ニート「状況が呑み込めたようだったらとっとと日本に帰るんだなっていう」

ニート「じゃあな、あばよっていう」

サッ、ダッ


男「おい、てめー、ちょっと待ちやがれ」

ダッ、ダッ、ダッ、ダッ

……

男「……ハアー、ハアー」

男「くそ、あの野郎……」

男「一体なにがどうなってるんだ……」


その日の深夜、イケメンのアパート……

ガチャ、バタン

男(……)

スタスタ、パチッ

男「……やっぱり誰もいねーか」

ドサッ

男「くっそ、一体何だっていうんだ……」

男「結局ニートの野郎の手掛かりは何も掴めなかったし」

男「イケメンの野郎のケータイにも電話はつながらねーし……」

男「……」

男「女……一体いまどこに……」


翌日の朝……

ガチャガチャ、ガチャガチャ

男「……ん、んん」

ガチャガチャ、ガチャガチャ

男「……朝か」

男(……入口の方か……誰だ? 女? イケメン? いや……)

バサッ、サッ

男(……)


ガチャガチャ、バタン、スタッ、スタッ、スタッ

男(……来たな)

男「フリーズ(動くな)」

ロシア人女(ビクッ)「きゃっ」

男「ハンズアップ(手を上にあげろ)」

ロシア人女「……あなたは誰? 日本人?」

男(……この女、日本語を……)


男「ここに来た理由は?」

ロシア人女「……イケメンに会いに……」

ロシア人女「あなたは一体……」

男「……」

男「イケメンの同居人の名前は?」

ロシア人女「えっ?」

男「言うんだ」

ロシア人女「……上の妹ちゃんと下の妹ちゃん」

男(スッ)「……」

ロシア人女「……」

男「すみませんでした、突然……」


男「あなたはイケメンの同級生の方ですよね?」

ロシア人女「……はい、そうです」

ロシア人女「……あなたは一体……」

男「すみません、俺は日本の高校の時のイケメンの同級生の男って言います」

ロシア人女「ああ、男さん!」

ロシア人女「イケメンからよく話を聞いています」

ロシア人女「なんでも、日本一の頭が悪かったのに半年で日本一の頭脳の持ち主になった人だって」

男「ははっ、あながち間違ってないっす……」

……


ロシア人女「……それじゃあ、イケメンは今行方不明になっているってことなんですね……」

男「はい……」

男「恐らくトラブルに巻き込まれて……」

ロシア人女「……」

男「あっ、でもトラブルって言っても変なトラブルじゃないんで」

男「あいつはせか……人を助けようとしてそれで敵に追われて」

男「多分今は身を隠しているんだと思います」

ロシア人女「分かりました。ありがとう、男さん」

男「いえ……」


ロシア人女「……」

ロシア人女「男さん、ところで妹ちゃんたちは?」

男「……敵にさらわれました」

ロシア人女「……敵?」

男「はい。人質にされたみたいで」

ロシア人女「大変……」

男「……」

ロシア人女「……」


男「イケメンを探して……なんとかあいつを助けたいんですが」

男「どうにも手掛かりがなくって」

ロシア人女「パソコン……」

男「えっ?」

ロシア人女「イケメンはいつも重要な秘密はパソコンにインプットしていました」

ロシア人女「イケメンのパソコンを見れば何か手がかりが掴めるかも……」

男「分かりました、見てみましょう」

……


ピーーーーーーーー

男「くそ、またダメか」

男「イケメンの野郎、ご親切にハードディスクパスワードなんか掛けやがって……」

ロシア人女「……」

男「イケメンの誕生日、ロシア人女さんの誕生日、イケメン・妹ちゃんたち・ロシア人女さんの名前……」

男「どれもこれもどんな組み合わせでもだめかー」

ロシア人女「……」

男「あと考えられるのは……」

ロシア人女「1024」

男「1024……?」

ロシア人女「入れてみてください」

男「……はい」


カチャカチャ、スッ

男「あ、入れた」

ロシア人女「ふー、よかったです」

男「1024……意外とシンプルな文字列だったな」

男「何か意味のある数字なんですか?」

ロシア人女「ふふっ、秘密です」

男「ははっ、そうっすか……」

……


男「さてと、ログインまではできたものの」

男「ここから一体どうすればいいでしょうかねっと」

ロシア人女「男さん、これ」

男「ん、このファイル……」

男「『男へ』か」

男「まんまじゃねーか、もうちょっと工夫しろっつーの」

ロシア人女「ふふっ」

男「よっと」


カチャカチャ、スッ

男「……!」

ロシア人女「……」

男「なんでしょうかねー、一体これは」

ロシア人女「56、12、5……78、3、11」

男「うーん」

男「なんかの暗号ですかねー」

ロシア人女「……」


男「33、1、4……」

男「ん? 一番最後の行にロシア語が……」

ロシア人女「『守護聖人と聖母の元で』って書いてあります」

男「『守護聖人と聖母の元で』……か」

ロシア人女「……!」

スタスタ、コトン、ペラペラ

ロシア人女「……」

男「ロシア人女さん、それは……」

ロシア人女「聖書です」

ロシア人女「男さん、パソコンの番号を順番に読み上げてみてください」

男「え、あっ、はい」


男「えーっと、上から行きます」

男「56、12、5」

ロシア人女(パラパラ、ススッ)

男「ロシア人女さん、それは」

ロシア人女「聖書の56頁の12行目の5文字目です」

ロシア人女「もしかしたら意味があるのかも知れないと思いまして」

男「……分かりました、やってみましょう」

……


男「10、7、10」

男「これで全部です」

男「どんな感じですか?」

ロシア人女「一応、言葉になりました」

男「すみません、なんて意味ですか?」

ロシア人女「『サンクトペテルブルク』と読みます」

男「サンクトペテルブルクか……」

男「でもこれだけじゃいまいち……」

ロシア人女「アレクサンドル・ネフスキー大修道院」

男「……それは?」

ロシア人女「サンクトペテルブルクにある守護聖人と聖母が眠っている教会です」


30分後……

男「じゃあ、行ってきます。ロシア人女さん」

ロシア人女「男さん……本当に1人でいいんですか?」

ロシア人女「私も道案内くらいはできますし……」

男「いえ、お気持ちだけで十分です」

男「それに何かあるといけませんし」

ロシア人女「……」

男「大丈夫です。イケメンと妹ちゃんたちは必ず助けて見せます」

ロシア人女「男さん……」


男「それと、イケメンのアパートにはしばらく出入りしないでください」

男「敵はここの場所も知っているので」

ロシア人女「……はい、分かりました」

ロシア人女「男さん、本当にお気をつけて」

男「はい、大丈夫です」

男「イケメンが見つかったらすぐに連絡します」

男「それじゃあ」

バタン、……


ロシア人女「……」

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、トゥルルルルー、トゥルルルルー、カチャ

ロシア人女「いま、男がここを出ました」

…「了解したっていう」

…「スパシーバっていう」

…「もうお前はあとは何も心配しなくていいっていう」

ロシア人女「……パニラー(分かりました)」


薄暗い地下牢獄……

バチャン、ガチャガチャ、カチャン

黒スーツのロシア人男「暫くここで大人しくしていろ」

下の妹「なにー、ここ」

下の妹「やだー、出してー」

黒スーツのロシア人男(ジロリ)

女「下の妹ちゃん」

下の妹「……このおっさん怖いー」

黒スーツのロシア人男(……)

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ


下の妹「もう戻ってくんなっつーの」

上の妹「……おねーちゃん」

女「……!」

上の妹「あの人……」

スタスタ


女「あの……大丈夫ですか?」

謎の女「……ん、」

謎の女「……誰か来たの?」

女「あ、はい」

謎の女「そう……」

謎の女「ひどい仕打ちを受けていない?」

女「……はい、大丈夫です」

謎の女「そう、よかった……」


下の妹「謎のおねーちゃん、身体中すごいひどい傷……」

謎の女「そう?」

謎の女「私、眼が見えないから」

謎の女「自分の身体がどうなっているかもよく分からないの」

下の妹「ひどい……すごく痛そう」

下の妹「全部あいつらにやられたの?」

謎の女「……そうね」

下の妹「信じられない……わたし絶対許せない」

謎の女「ふふっ、ありがとう」


謎の女「でも、あの人たちに逆らっちゃダメよ」

謎の女「あなたたちまで傷つくことになってしまう」

下の妹「やだ。次に来たら絶対殴ってやる」

謎の女「……」

謎の女「ありがとう」

謎の女「でも、わたしのことは心配しないで」

謎の女「わたしは大丈夫だから」

下の妹「大丈夫じゃないよ」

下の妹「わたし達と一緒に何とかしてここから逃げようよ」


謎の女「ダメなの」

謎の女「わたしは逃げられないの」

女「……」

下の妹「なんで?」

謎の女「罪を犯したから……」

謎の女「私は償わなければならないの」

下の妹「罪って何?」

下の妹「謎のおねーちゃんは絶対悪い人じゃないよ」

下の妹「悪いのはあいつらだよ」


下の妹「ねー、おねーちゃんもそう思うでしょ?」

女「うん」

女「何か事情はあるのかも知れませんが」

女「あなたがここで苦しみ続けることはないと思います」

女「何とかしてここから脱出する方法を一緒に考えましょう」

謎の女「ふふっ、ありがとう……」

謎の女「でももう……」


カツッ、カツッ、カツッ、カツッ

下の妹「ん、来たー」

カチャン、ガチャガチャ、バチャン

黒スーツのロシア人男「出ろ」

下の妹「このやろー」

ダッ、サッ、ドスン

下の妹「いったーい」

黒スーツのロシア人男「お前じゃない」

謎の女「その子たちには手を出さないで」

謎の女「今行くわ」


フラフラ、フラフラ

黒スーツのロシア人男(……)

バチャン、ガチャガチャ、カチャン

黒スーツのロシア人男「行くぞ」

謎の女「待って」

謎の女「この子たちをここから出してあげて」

黒スーツのロシア人男「……さっさと来い」

謎の女「この子たちは何もしていないはず」

謎の女「なぜこんなところに連れてきたの?」

黒スーツのロシア人男「お前には関係のない話だ」


ブンッ、ドスッ

謎の女「うっ、ぐっ……」

下の妹「あっ、謎のおねーちゃん」

下の妹「なんてことすんだよ、このハゲ」

下の妹「このくそハゲ、死ねー」

黒スーツのロシア人男「命令に従わないからだ」

黒スーツのロシア人男「お前たちも次に逆らった時はこうなる」

黒スーツのロシア人男「よく覚えておくんだな」


ドサッ、グイッ、カツッ、カツッ、カツッ、カツッ

下の妹「謎のおねーちゃん」

謎の女「……うっ」

下の妹「謎のおねーちゃーん!」

……

バタンッ


サンクトペテルブルク、アレクサンドル・ネフスキー大修道院……

テクテク、テクテク

男「ここがアレクサンドル・ネフスキー大修道院か」

男「意外と人通りがすくねーな……」

男「さて……」

大聖堂内部……

男(……観光客の振りして入って来たけど)

男(……ロシア人ばっかりじゃねーか)

男(……アジア人の姿すら見えねえ……)


カツッ、カツッ、カツッ、カツッ、ドンッ

男(……!)

修道士風の男「シトージラーイェッチェ!」

男「えっ?」

男(……何を言ってんのかわかんねー)

男(……なんかすげー剣幕だが……)

修道士風の男「イジシューダ!」

グイッ、スタッ、スタッ

男「えっ、ちょっ、待って」

男「何だよおい」

男「どこに連れて行く気だ」

……


誰もいない密室……

修道士風の男「……」

男「……」

男(……俺なんかまずいことしたのか)

男(……一応外人観光客に紛れていた積りだったんだけどな……)

男(……しかしこのロシア人)

男(……さっきから何もしゃべらねー)

男(……おっかねーな)


修道士風の男「……ハハッ」

男「……?」

修道士風の男「ハーハッハッハッハッ」

男(……なんだこいつ)

男(……今度は突然笑い出したぞ……)

修道士風の男「おい、男」

男「……!」

男(……まさか)


ビリ、ビリビリ、ビリビリビリビリ、ストンッ

男「……お前」

イケメン「よう、久しぶりだな、男」

男「てめー……」

男「何が久しぶりだ」

男「すっとぼけやがって」

イケメン「ははっ、まあそう怒るなって」

男「てめーがいない間大変だったんだぞ」

イケメン「……ああ、大体状況はわかっている」

男「……」


男「女と、妹ちゃん達が敵にさらわれた」

イケメン「……!」

イケメン「……そうか」

男「おい、そんだけかよ」

イケメン「……まだ殺されたわけじゃない」

イケメン「やつらも無闇に殺したりはしないだろう」

イケメン「少なくとも俺たちが生きている間はな……」

男「お前、意外とドライなんだな」

イケメン「……ダメなのか?」


男「いや、その位じゃないとダメだな」

男「なんせ敵は……」

イケメン「敵は……?」

イケメン「なんだ、男、お前何か知っているのか?」

男「……ああ」

男「少しな……」

男「少なくとも」

男「普通にやりあったんじゃ勝てない」

イケメン「そうか」


男「……」

男「イケメン、お前も恐らくそいつに面識あるぞ」

イケメン「マジでか! どいつだよ」

男「『っていう』が口癖のやつ」

イケメン「……スピルバーグか」

男「……!」

男「知ってたのか?」

イケメン「……ああ」

イケメン「やつが俺たちの敵に回っているのは知っていた」

男「……どういうことだよ」


イケメン「おい、男」

イケメン「実は俺は今1人で敵の組織と戦っているんだ」

イケメン「なぜだと思う?」

男「なぞかけかよ!」

男「お前には仲間がいたはずだ……」

男「スピルバーグ以外にも……例えばリサ」

イケメン「……」

男「しかしお前は1人で戦っている」

男「なぜか……」


男「仲間を戦いに巻き込みたくはないから……っていうのは違うんだろう?」

イケメン(ニヤリ)「……ああ」

男「お前が1人で戦っている理由……それは1人で戦わざるを得ない状況にお前が置かれているからだ」

男「恐らくお前の仲間が全員殺されたか、もしくはお前の組織自体が敵に回ったか……」

イケメン「さすがだな、男」

イケメン(ニヤリ)「……後者が正解だ」

イケメン「スピルバーグがべた褒めするだけのことはあるな」


男「ニートの野郎か……」

男「一体やつは何を考えているんだか……」

男「人類を破滅させるっていってたぜ、あの野郎」

イケメン「……」

男「お前の組織って一体何なんだよ」

男「麻薬組織を取り締まってるかと思ったら今度は人類の取り締まりでもするっていうのかい?」

イケメン「色々と事情があるんだ」

イケメン「でも今はすべてを話している時間はない」

イケメン「1つだけ言えることは……」

イケメン「組織は今俺たちの敵っていうことだ」


男「『俺たちの』……か」

イケメン「悪いな、巻き込んじまって……」

男「……まあ、今更もう何を言ってもしょうがねえ」

男「関わっちまった以上、何とかするしかないな」

男「で、これからどうすんだよ」

イケメン「まず敵のアジトを突き止める」

男「かー、そこからか!」

男「で、どうやって?」

男「手掛かりはあんのかよ」

イケメン「ああ」


パラパラ

イケメン「手掛かりはここにある」

男「ん? どっかの建物の見取り図か?」

イケメン「ああ、ロシア連邦保安庁だ」

イケメン「諜報活動によって収集された情報がここのコンピュータ内のデータベースに集積されている」

イケメン「その情報を得るために連邦保安庁に侵入する」

男「おい、ちょっと待てよ」

イケメン「何だ? 男」


男「色々あるけどよ」

男「まず組織に関する情報がそのデータベースに本当にあるのかよ」

イケメン「ある」

男「根拠は?」

イケメン「俺の組織のボスはロシア政府によってマークされているからだ」

男「……ああ、そうかい……」

男「だったら先ず俺じゃなくてロシア政府に助けを求めたらどうだ?」

イケメン「名もない日本人がロシア大統領に直訴して願いが聞き入れられたらいいんだけどな」

イケメン「今はそんな空想の話しをしている暇はない」

男「……へいへい」


男「じゃあ、早速侵入方法の話しでもしましょうかね」

男「まず、お前お得意の変装でロシア連邦保安庁内に入り込んで……」

イケメン「侵入するのはお前だ、男」

男「……おい」

男「冗談ぬかすんじゃねーよ、イケメン」

男「変装ができてロシア語もできる」

男「適任者はお前以外にいねーだろ」

イケメン「俺は『こいつ』でお前をサポートする」

男「……パソコン?」

イケメン「ああ」


イケメン「さすがにロシア連邦保安庁ともなるとセキュリティが厳重だからな」

イケメン「おれが保安庁のメインシステムに侵入して必要な処置をとる」

イケメン「お前はおれのガイドに従って動いてくれればいい」

男「おい、そんな高度なテクニック持ってんだったら組織の情報も盗み取ってくれよ」

イケメン「それはできない」

イケメン「目的のコンピュータはスタンドアロンだからな」

イケメン「ネットワーク経由で侵入することはできない」

イケメン「あくまでも現地に赴く必要がある」

男「……へい、さいですか」


男「で、いつ決行するんだ」

イケメン「今夜だ」

男「……今夜か」

男「まあ、やるっきゃねーな」

イケメン「よし、じゃあ早速細かい説明するぞ」

男「……ん! ちょっと待ってくれよイケメン」

男「1件だけ電話するわ」


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、

イケメン「おい、男、誰に電話かけるんだ?」

男「お前のことを死ぬほど心配している人だよ」

トゥルルルルー、トゥルルルルー、トゥルルルルー、トゥルルルルー

男「あれ、でねーな」

イケメン「……」

イケメン「おい、男」

イケメン「今お前が電話を掛けようとしている相手……ロシア人女か?」

男「ん? ああ、そうだよ」

男「てめー、電話ぐらいかけてやれよ」

男「かわいそうだろ?」


トゥルルルルー、トゥルルルルー、トゥルルルルー、トゥルルルルー

男「んー、やっぱでねーな」

イケメン「……」

男「まさか、組織の奴らに……」

イケメン「男、余計な心配はしなくていい」

男「てめー、ロシア人女さんが危険な目にあっているかも知れないっていうのに」

イケメン「大丈夫だ」


イケメン「彼女は頭の回転が速い」

イケメン「それにお前が考えている以上に度胸もある」

イケメン「彼女は自分の身は自分で守ることができる」

男「てめー、本当にドライだな」

イケメン「男、おれは信頼しているんだ」

イケメン「彼女のことを」

イケメン(ニヤリ)「お前が女のことを信頼しているのと同じくらいにな」

男「……へいへい、そうっすか」

イケメン「よし、じゃあ先ず侵入口から説明するぞ」

イケメン「お前なら大丈夫だと思うけど1回しか説明しないからしっかり頭に入れてくれ」

男「はいよ」


組織の一室……

バスン、バスン、ドサッ

謎の女「うっ……」

黒スーツのロシア人男「……立て」

グイッ

黒スーツのロシア人男「座れ」

謎の女「……うっ」


黒スーツのロシア人男「うん? どうした?」

黒スーツのロシア人男「苦しいのか?」

謎の女(ブルブル)「……」

黒スーツのロシア人男「楽になれるんだぞ、すべてを教えてくれればな」

謎の女(ブルブル)「……」

黒スーツのロシア人男「……」

ブンッ、バコッ、ドサッ

謎の女「ぐっ」


謎の女(ブルブル)「……」

黒スーツのロシア人男「……」

黒スーツのロシア人男「おい」

黒スーツのロシア人男「……よく聞け」

黒スーツのロシア人男「俺もこんな真似はもうしたくない」

黒スーツのロシア人男「すべてしゃべったらお前も楽になれる」

黒スーツのロシア人男「よく考えてみろ」

黒スーツのロシア人男「お前が口を開きさえすればすべてがうまくいくんだ……」

謎の女(ブルブル)「……」


ガチャン、バタン

黒スーツのロシア人男「……!」

スタスタ

黒スーツのロシア人男「……」

組織のボス「どうだ、なにかしゃべったか?」

黒スーツのロシア人男「いえ、何も」


グイッ

組織のボス「ご機嫌いかがですか?」

謎の女(ジロリ)「……」

組織のボス「おー、怖い顔だ」

組織のボス「でも、そんな顔をしたって何も生み出されない……」

謎の女「……」

組織のボス「……なぜ話さない?」


組織のボス「私はこの世界を変えなければならない」

組織のボス「そしてそのためには」

組織のボス「あんたの協力が必要なんだ」

組織のボス「分かるだろう?」

謎の女「……あなたに話すことなんてない」

組織のボス「……」


スッ、カツッ、カツッ

組織のボス「……」

組織のボス「こうやって無意味な時間を過ごしていくのか?」

組織のボス「誰に知られることもなくここで朽ちていくのか?」

組織のボス「……」

謎の女「……」

組織のボス「この現実を変えてみたいと思わないのか?」

組織のボス「栄えある未来を見たいとは思わないのか?」

組織のボス「私ならそれを実現できる」

組織のボス「憎しみも争いもない世界を……」

謎の女「あなたが何をしようとも」

謎の女「そこからは悲しみしか生まれない」


グッ

組織のボス「……」

組織のボス「あんたが以前に言ったこと……」

組織のボス「世界のすべてを自分の思うままにできる力を人間も手にすることができる……」

組織のボス「わたしは決して忘れていない」

謎の女「……」

組織のボス「さあ、教えてくれよ」

組織のボス「あのペンダントに秘密があるんだろう?」

謎の女「……」


組織のボス「……なんとか言え!」

ボゴッ、ドサッ

謎の女「くっ、ぐっ……」

謎の女「あの時のあなたはあんなに真っ直ぐで」

謎の女「心の優しい人だったのに」

謎の女「どうしてこんな……」


組織のボス「はーはっはっはっはっ」

組織のボス「何を言い出すかと思ったら」

組織のボス「私の本質はこうなんだ」

組織のボス「あんたが騙されただけだ」

組織のボス「残念だったな」

謎の女「……違う、あの時のあなたは本当に……」

謎の女「あの出来事があなたのことを……」


ボゴッ

謎の女「ぐふっ」

組織のボス「はっ、過去のことなどもうどうでもいい」

組織のボス「来たるべき未来こそが今の私にとっては大切なんだ」

組織のボス「私はこの世界の支配者とならなければならない……」

組織のボス「……」

組織のボス「おい」

黒スーツのロシア人男「はい」

組織のボス「あとはいつも通りやっておけ」

黒スーツのロシア人男「分かりました。ボス」


カツッ、カツッ

組織のボス「それでは」

組織のボス「あんたが早く目を覚ましてくれることを願っているよ」

謎の女「……」

カツッ、カツッ、ガチャン、バタン


深夜、ロシア連邦保安庁……

テクテク、テクテク

男「よーし、着いたぜ」

イヤホン(イケメン)「分かった。そのまま打ち合わせ通り裏口から入ってくれ」

男「……ん、警備員が立ってるぞ」

イヤホン(イケメン)「大丈夫だ。気にすることはない」

イヤホン(イケメン)「お前の顔はどっから見てもロシア人だし」

イヤホン(イケメン)「そのまま自信を持って素通りすればいい」

男「……へいへい」


テクテク、テクテク

男「裏口だ」

イヤホン(イケメン)「よし、先ずIDカードをセンサーにかざせ」

男(スッ)「……」

ピー

男「よし、かざした」

イヤホン(イケメン)「そうしたら、壁面についているテンキーに暗証番号を入力しろ」

イヤホン(イケメン)「暗証番号は覚えているか?」

男「ああ、覚えてる」

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピー

男「ロックを解除できた」

イヤホン(イケメン)「よし、そうしたら入れ」


……

テクテク、テクテク

男「おい、イケメン、誰も来てねーだろうな」

イヤホン(イケメン)「ああ、安心しろ」

イヤホン(イケメン)「監視カメラの映像にはお前以外映っていない」

男「そうかい、そりゃ良かったぜっと」

イヤホン(イケメン)「よし、突き当りを右に曲がれ」

男「……へい」


テクテク、テクテク

イヤホン(イケメン)「よし、男、そこだ」

男「……ここか」

イヤホン(イケメン)「まず指紋認証だ」

イヤホン(イケメン)「俺が渡したフィルムを指に付けろ」

ピタ

男「つけたぜ」

イヤホン(イケメン)「よし、そうしたらセンサーにかざせ」

ピー

男「ほい、扉が開きましたっと」


イヤホン(イケメン)「よし、そうしたら次は虹彩認証だ」

イヤホン(イケメン)「例の『瞳』をセンサーにかざせ」

男「……あの気持ち悪いやつの出番ってわけか」

ガサゴソ、スッ、ピー

男「おー、気持ちわりー」

男「質感がグニャグニャしているのがまた何とも」

イヤホン(イケメン)「よし、順調だな」

イヤホン(イケメン)「そうしたら中に入れ」

男「へい」


テクテク、テクテク

イヤホン(イケメン)「目的のコンピュータがどれかは分かるな?」

男「ああ、大丈夫だ」

テクテク、テクテク

男「……」

男「よし、見つかったぜ」

カチャ、ブーン

男「起動中だ」

イヤホン(イケメン)「ああ、分かった」


男「……」

イヤホン(イケメン)「……」

男「よし、ログイン画面まできたぜ」

イヤホン(イケメン)「分かった。IDとパスワードを入れてくれ」

男「はいよ」

カチャカチャ、カチャカチャ

男「よーし、入った」

男「そうしたら、データベースを覗きに行ってと……」


イヤホン(イケメン)「……!」

イヤホン(イケメン)「急げ、男」

男「ん? 急に何だよ?」

男「教えられた通りにちゃんとやってるぜ」

イヤホン(イケメン)「男、アジトの場所は分かったか?」

男「まだだよ」

男「お前も分かってんだろ、手順が複雑だからあと最低でも5分は掛かるぜ」

イヤホン(イケメン)「……」


カチャカチャ、カチャカチャ

男「……何か問題が起きたのか」

イヤホン(イケメン)「ああ……」

イヤホン(イケメン)「今から状況を説明する」

イヤホン(イケメン)「手を動かしながら聞いてくれ」

男「……」

イヤホン(イケメン)「侵入者が現れた」

カチャカチャ、カチャカチャ

男「いや、それは俺だし」


イヤホン(イケメン)「いや、お前の他にもだ……」

イヤホン(イケメン)「裏口の警備員がそいつに殺されて」

イヤホン(イケメン)「そいつは……」

ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ

男「うん? 何か警報音が鳴りだしたぞ」

イヤホン(イケメン)「侵入者が裏口の扉を爆破して入ってきた」

イヤホン(イケメン)「急げ、男」

男「爆破? 待ってくれ、もうちょっとだ」


男「……イケメン、侵入者は誰だ?」

イヤホン(イケメン)「男……かなり体格のいい男だ」

イヤホン(イケメン)「恐らく組織の人間」

イヤホン(イケメン)「俺たちの行動が嗅ぎ付けられたのかも知れない」

イヤホン(イケメン)「(ガチャン)……!」

イヤホン(…)ザーーーーーー

男「ん? おい、どうしたんだイケメン」

男「おい、イケメン」

イヤホン(…)ザーーーーーー

男「聞こえねーのか? 応答しろイケメン」

イヤホン(…)ザーーーーーー


カチャカチャ

男「くそっ」

男「……」

男「まさかあいつの所にも追手が……」

男「やっかいなことになってきたな……」

ガチャン、ガチャン

男「……来たか」

カチャカチャ、ピー、ピー、ピー

男「よし、見つかった」


ドゴーン、ガチャン、カチャン、モクモク、スタスタ、スタスタ

敵ロシア人「……」

敵ロシア人「どこにいる? 出てこい」

男(……まー随分と派手にやりやがるな……)

男 スチャ(……)

スッ、クルリ、バキューン

男「……!」

敵ロシア人「……そこにいたか」

スタスタ、スタスタ


男(……俺の銃弾は確かに命中したはず)

男(……)

男(……この男……まさか……)

バキューン、バキューン

敵ロシア人「無駄だ……」

男「……」

ダッ、ダッ、グイッ

男「くっ」

敵ロシア人「ふんっ」

グバッ、ガシャン、カランカラン

男「ぐふっ」


スタスタ

男「……!」

ダッ

敵ロシア人「……」

敵ロシア人「逃げても無駄だ」

敵ロシア人「逃げ道はない」

敵ロシア人「あがいても余計な苦しみが増えるだけだ」

敵ロシア人「大人しくあきらめるんだな」


ピタッ

男「……」

敵ロシア人「観念したか」

敵ロシア人「いい心掛けだ」

敵ロシア人「今楽にしてやる」

ブンッ

男(ヒラリ、サッ)

敵ロシア人「んっ?」


バッ、グイッ、ビビビビビビビッ

敵ロシア人「ぐあーーーーー」

男「……」

敵ロシア人「き、きさま、それは……」

男「……」

ビビビビビビビッ

敵ロシア人「な、な、じ、じ……」

敵ロシア人「ピロキュラジビュ…hPt@#……」

ヒュイーーーン、バタン


男「……」

スッ、コンコン

男「ひえー」

男「……初めて見たぜ」

男「人工知能を搭載したアンドロイドか……」

男「……」


翌早朝、サンクトペテルブルク、アレクサンドル・ネフスキー大修道院近辺……

ブロロロッ、スーー

男「……」

男(……イケメンと通信が切れた理由)

男(……それは奴が組織の連中に襲われたからだろう)

男(……機器が破壊されているだけならいいが)

男(……最悪の場合……)


ブロロロッ、スーー

男「……!」

男(……随分人だかりが)

男「……!」

男(……あれは)

男「……」

ブルン、ガチャッ、スタッ、スタスタ

男「……」


ザワザワ、ザワザワ

ロシア人A「すげーな」

ロシア人A「爆発でかなり吹っ飛んでる」

ロシア人B「死人は何人くらい出たんだよ?」

ロシア人A「さー」

ロシア人A「俺が来たときはもう警察が現場をさらった後だったからなー」

ロシア人B「しかし犯人は一体誰だ?」

ロシア人A「チェルヌイ(チェチェン人)じゃねーか」

ロシア人B「大修道院を爆破するなんて、絶対に許せねーな」


ロシア人A「……!」

ロシア人A「おい、あんた随分深刻そうな顔しているが大丈夫か?」

男「……」

ロシア人A「身内でも行方不明になっているのかい?」

男「……」

クルリッ、スタスタ

ロシア人A「おい……」

男「……」


敵のアジト、地下牢獄……

下の妹「謎のおねーちゃん、大丈夫?」

謎の女「ありがとう、大丈夫よ」

下の妹「謎のおねーちゃん、何でこんなひどい目に合わなければいけないの?」

下の妹「絶対におかしい」

謎の女「ふふっ、世の中にはね色々なことがあるの」

謎の女「時には自分の思い通りにいって、時にはすべてが裏切られる」

謎の女「でもね、それはすべて運命なの」

謎の女「そして、どんな時でも神様は自分のことを見てくれているって」

謎の女「そう考えるのよ」

女「……」


下の妹「……謎のおねーちゃん」

下の妹「悲しいことは言わないで」

下の妹「絶対わたし達のことを助けてくれる人がくるんだから」

下の妹「ね、おねーちゃん」

女「うん、そだよ」

下の妹「謎のおねーちゃん、私のおにいすごいんだから」

下の妹「スーパーマンみたいでね、絶対にあんなやつらボコボコにやっつけてくれる」


下の妹「それにおねーちゃんの彼氏さんも助けに来てくれる」

下の妹「顔はブサイクだけどいざという時に頼りになるんだよ」

下の妹「ねっ? おねーちゃん」

女「あはっ、そだねー」

謎の女「ふふっ、ありがとう、下の妹ちゃん」

謎の女「そうね、メシア(救世主)はどんな時でも必ず現れてくれる」

下の妹「そうだよ! 謎のおねーちゃんの救世主も今きっと一生懸命おねーちゃんのことを助けようとしてるんだから」

謎の女「わたしの……救世主……」


下の妹「……ん! 謎のおねーちゃん、今救世主の人の顔を思い浮かべたでしょう?」

下の妹「なに、その人謎のおねーちゃんの彼氏の人?」

謎の女「ふふっ」

謎の女「そうね、私にとってヒーローのような人……」

下の妹「そっかー、謎のおねーちゃん、大丈夫だよ。安心して」

下の妹「そのヒーローの人が絶対にあいつら全員倒して謎のねーちゃんのことを迎えにくるから」

謎の女「ふふっ、ありがとう、下の妹ちゃん」


ノヴゴロド、ヴォルコフ川畔、組織のアジト近辺……

カサカサ

男(……あれが組織のアジトか)

男(……周囲に他の建物もないし近づきづらいな)

男(……見張りは……)

ドン

…「おいっ!」


男(ビクッ、クルリッ)「……!」

男「てめー」

男「生きてやがったのか」

イケメン「何だ、男、その言い方は」

イケメン「俺に死んでいて欲しかったのか?」

男「生きてるんだったら連絡くらいよこせっつーの」

イケメン「ははっ、なかなかそうもいかなくってな」

イケメン「命からがらくぐり抜けた感じだったからな」

イケメン「男、お前の方も無事で良かった」

男「いやまあ、俺の方も大変だったけど」


男「……っていうかそれよりお前、何でここにいるんだよ?」

イケメン「決まってるじゃないか!」

イケメン「お前を助けに来たんだよ」

男「いや、そうじゃなくて」

男「何でお前がここの場所を知ってるんだっつーの」

イケメン「ははっ、まーそう深く考えるなって」

男「てめー……まさか最初から組織のアジトを知って……」

イケメン「ははっ、違う違う」


イケメン「男、実はな、俺はさっきまで敵の組織に潜り込んでたんだ」

イケメン「俺を襲撃しに来たやつに変装してな」

男「変装?」

イケメン「ああ」

イケメン「おかげで敵の様子が大分わかった」

イケメン「敵の人数はそう多くない」

イケメン「あの建物の中にいるのは20人くらいだな」

イケメン「そして、組織のボスは3階の一室にいるはずだ」


男「てめー、その勢いでそのまま組織を壊滅させてくればよかったものを……」

イケメン「おい、無理言うなって」

イケメン「流石に20人まとめて相手するのは無理だって」

男「いや、お前ならできたと思うぞ」

イケメン「ははっ」

イケメン「それより男、作戦を考えるぞ」

男「……仕方ねーな」


男「で、何か考えはあるのか?」

イケメン「正面から強行突破する」

男「……いや、作戦になってねーし」

男「お前は知らないかも知れないが向こうにはアンドロイドもいるんだぞ」

男「銃弾が効かない奴とどうやって戦うんだよ」

イケメン「安心しろ」

イケメン「アンドロイド型は1機しか組織にはいない」

イケメン「今までに多くの軍隊を壊滅させてきた組織の最終兵器だ」

イケメン「お前が倒してくれて助かったぜ」

男「……ははっ、そりゃ大戦果っすな」


アジトの建物の正面……

カチャ、カチャ

イケメン「よし、いくぞ、男」

イケメン「俺にしっかりついてこい」

男「……へいへい」


アジトの3階の一室……

ガチャッ

部下A「ボス……」

組織のボス「どうした? 随分騒がしいな」

部下A「敵が攻めてきました」

部下A「未確認情報ですが、敵は二人組で一人はイケメンかと」

組織のボス「そうか」

組織のボス「くくくくっ」

組織のボス「まあ、いいだろう」

組織のボス「組織にたてつく奴がどういう目に合うのかをたっぷりと教えてやろう」


アジトの中……

バキューン、バキューン

イケメン「男、上だ」

男「はいよ」

バキューン

組織の人間A「ぐわっ」

ヒュー、バタン


男「……これで1階は大体片付いたか?」

イケメン「そうだな」

イケメン「男、お前、なかなかの銃の腕前だな」

イケメン「どこで覚えたんだ?」

男「ははっ、何かな」

イケメン「……?」

イケメン「まあ、いい。さあ、上へいくぞ」

男「へい」


アジトの中、3階……

スッ、スッ

男「もうかなり敵を殺った気がするが……」

男「ほとんど残ってないんじゃね?」

イケメン「ああ、あとはボスと側近達くらいだろう」

イケメン「……!」

イケメン「ここだ」

男「ボスの部屋?」

イケメン「ああ、そうだ」

イケメン「いくぞ、準備はいいか、男?」

男「ああ」

イケメン「よし」


バタンッ

イケメン(クルリッ、クルリッ)「ん?」

イケメン「誰もいない……」

男「……!」

男「イケメン、後ろだ」

バキューン

イケメン「ぐっ」

男「くそっ」

バキューン

ボスの側近「ぐあっ」

バタン


男「イケメン、大丈夫か?」

イケメン「ああ、大丈夫だ」

イケメン「脚をやられただけだ」

イケメン「でもこれじゃあちょっと動けそうにない」

イケメン「男、あとは恐らくボスだけだ」

イケメン(ズルズル)「……」

グイッ


イケメン「おい、ボスはどこにいる?」

ボスの側近「……へへっ、この裏切り者が」

ボスの側近「いつかお前には神の裁きが……」

イケメン「質問に答えろ」

イケメン「ボスはどこにいる?」

ボスの側近「……地下の聖堂だ」

ボスの側近「お前たちの到着をお待ちになられてる」

ボスの側近「お前たちの……息の根を止めるためにな……」

ボスの側近(ガクッ)「……」


イケメン「……男」

男「ああ、わかったよ」

男「ボスを倒して女たちを助けてくるよ」

イケメン「すまないな」

イケメン「どんな罠が仕掛けられているか分からない」

イケメン「十分気を付けてくれ」

男「……はいよ」


アジトの地下……

スタスタ

男「……ここか」

スッ、ガチャ

男「……!」

組織のボス(ニヤリ)「……」

組織のボス「ようこそ、我が懺悔の聖堂へ」

組織のボス「銃を捨てたまえ」

組織のボス「この女を殺されたくなかったらな」

謎の女「うっ」


男「……」

組織のボス「はーはっはっ」

組織のボス「そうか、お前はこの女に面識がなかったか」

組織のボス「……」

ゴンッ

謎の女「きゃっ」

男「やめろ!」

男「分かった……銃を捨てる」

カチャ、カチャカチャン


組織のボス「ふん」

組織のボス「ところでイケメンはどうした?」

組織のボス「殺られたのか?」

男「上にいるさ。手負ったんでな」

組織のボス「……」

組織のボス「そうか」

組織のボス「まあいいだろう」


男「……」

組織のボス「どうした? 少し驚いているようだな」

組織のボス「どうだ? この聖堂は?」

組織のボス「地下にこんな荘厳な聖堂があるとは考えも及ばなかっただろう」

男「……」

組織のボス「ここは素晴らしい聖堂だ」

組織のボス「多くの仲間がここで大きな安らぎを得てきた」

組織のボス「我が民族にとってこの聖堂は心の拠り所だった」

組織のボス「そして、ここから旅立っていった仲間の多くが……」

組織のボス「血塗られた歴史の中にその姿を消していった」

男「……」


組織のボス「ははっ」

組織のボス「果たしてお前に分かるかな?」

組織のボス「迫害され続けてきた民族の苦しみと憎しみと悲しみが……」

組織のボス「そしてわたしが今どういう気持ちでここに立っているのかが……」

男「……」


カチャ

組織のボス「……」

組織のボス「イケメンに力を貸したこと……」

組織のボス「それがお前の運の尽きだったな」

組織のボス「イケメンも所詮は日本人だった」

組織のボス「我が同胞と同じ感情を分かち合うことはできなかった……」

男「……」

組織のボス「……さらばだ」

謎の女「やめて!」

バキューン


組織のボス「くあっ」

男「……!」

…「どうやら間に合ったようだなっていう」

男「……てめー」

ニート「よう、男っていう」

ニート「あれ程忠告したのにも関わらず結局お前は首を突っ込んだのかっていう」

男「てめーはいつも来るのがおせーんだよ」

ニート「大事な探し物をしていたんだっていう」


組織のボス「……きさま……スピルバーグか……」

謎の女「……?」

謎の女「ヨシュア?」

ニート「ミリアム……」

組織のボス「ヨシュア?」

組織のボス「……ははっ、それはお前の名前か? スピルバーグ」

ニート「彼女を解放しろっていう」


組織のボス「……スピルバーグ」

組織のボス「俺が誰だか分かって言っているのか?」

ニート「さっさと解放しろっていう」

組織のボス「ふん、聞く耳はもたないか」

組織のボス「分かった……」

組織のボス「ほらよ」

ドンッ、フラッ

謎の女「あっ」


組織のボス「おっと、これは俺からの餞別だ」

スッ、カチャ、バキューン

ニート「ミリアム!」

ダッ

謎の女「……うっ」

フラフラ、ダッ、ギュッ

謎の女「……ヨシュア」

組織のボス「ははっ、どうした? スピルバーグ」

組織のボス「随分深刻そうな顔をしているじゃないか」

組織のボス「その女がそんなに大事だったか?」


グイッ

謎の女「ヨシュア……」

謎の女「あの人は……」

謎の女「……悪くない」

謎の女「あの人は……」

謎の女「可哀そうな……」

ニート「知っているっていう」


スッ

ニート「……」

組織のボス「……」

組織のボス「……反抗的な瞳だな」

組織のボス「私はお前のことを評価していた」

組織のボス「お前の冷徹で感情に流されないところをな……」

組織のボス「いささか買いかぶり過ぎたか……」

ニート「……言いたいことはそれだけかっていう」


組織のボス「はっ、何を言い出すかと思ったら」

組織のボス「笑わせてくれるわ」

組織のボス「この裏切り者ぶぜいが……」

ニート「……」

組織のボス「スピルバーグよ」

組織のボス「私が知らないとでも思ったか?」

組織のボス(ニヤリ)「神の掟を……」

ニート「……」


カツッ、カツッ、カツッ、カツッ

組織のボス「神というのは決して私情に流されてはいけない」

組織のボス「その掟を破ったやつは」

組織のボス「その女の様に惨めな最期を迎えることとなるとな」

ニート「……」


組織のボス「その女もバカだった」

組織のボス「私に協力さえしていれば」

組織のボス「すぐに楽になれたものを……」

組織のボス「私の崇高な理想を理解することができずに」

組織のボス「挙句の果てにこのザマだ……」

組織のボス(ニヤリ)

ガバッ、カチャ、バキューン

組織のボス「……ばかな」


ニート「お前、知らなかったのかっていう」

ニート「俺にそんなおもちゃは効かない……」

ビュン、グチュ

ニート「……」

組織のボス「……き、貴様」

組織のボス「やりやがったな……」


ニート「神の掟に背こうが……」

組織のボス「……くっ」

ニート「惨めな最期を迎えようが……」

ニート「今の俺にとってはどうでもいい話しだっていう」

組織のボス「うっ」

ニート「覚悟はできているなっていう」

ニート「ダズジチェシ、ザラニェ、ブアデュ(地獄で先に待ってな)」


組織のボス「うっ、くわっ」

グチュグチュ

組織のボス「うあーーーーーー」

グチャン、ブンッ、ドサッ

ニート「……」

組織のボス「はー……はー」

組織のボス「……」

組織のボス「……ふっ」

組織のボス「……ははっ」


組織のボス「ははっ、はーはっはっ、ははっ」

組織のボス「ははっ……」

組織のボス「……」

組織のボス「私は……一体何のためにここまで……」

組織のボス「……」


カチャ

組織のボス「……」

組織のボス「エレナ……」

組織のボス「……」

組織のボス「すまない……」

組織のボス「私は……お前の……」

組織のボス「こっ……」

カチャン

組織のボス(ガクッ)「……」

ニート「……」

……


スッ

謎の女「……ヨシュア」

ニート「もう何もしゃべるなっていう」

スッ、ゴソゴソ、スチャ

ニート「神の証、お前のものだっていう」

謎の女「……わたしに、このペンダントをつける資格はもう……」

ニート「資格はあるっていう」


ニート「お前は立派な神だったっていう」

ニート「後ろめたく感じることなんてなに一つないっていう」

ニート「もうすべてを忘れていいんだっていう」

ニート「何もかもを」

ニート「お前は神として立派に立ち振る舞ったっていう」

謎の女「……そう」

謎の女「ありがとう……」


クルリッ

謎の女「……あの人のこと助けてあげたかった」

謎の女「愛する人の命を奪われて」

謎の女「無力感と罪悪感に苛まれていたあの人を……」

ニート「……」

謎の女「生きることの喜びをもう一度思い出してもらいたかった……」

謎の女「でも、私にはそれができなかった……」


ニート「お前は十分よくやったっていう」

ニート「もういいんだっていう」

謎の女(ニコッ)「ヨシュア……」

謎の女「助けに来てくれてありがとう」

ニート「……」

謎の女「あなたが来てくれて」

謎の女「私は本当にうれしかった……」


謎の女「最後にあなたに会うことができて」

謎の女「本当に……」

謎の女「よ…か……った……」

ホワンホワンホワン、キュルキュルキュル、スワーーーーッ

ニート「……」


男「……」

男「……ニート」

男「今の光……彼女は……」

ニート「戻るべき所に戻って行ったんだっていう」

ニート「彼女の苦しみにも」

ニート「これで終止符が打たれたんだっていう」


イケメンのアパート……

ロシア人女「イケメン、無事で良かった」

ガバッ、ギュッ

イケメン「ああ、お前も無事で良かった」

下の妹「おー、美男美女が抱き合う姿は絵になるねー」

ロシア人女「下の妹ちゃんも、元気に戻ってこれてよかった」

下の妹「うん、まーね」

下の妹「おねーちゃんが作ってくれるピロシキをまた食べたかったしね」

ロシア人女「ふふっ」


ロシア人女「それと……」

ロシア人女「ニートさん、色々とありがとうございました」

イケメン「……!」

男「……!」

女「……!?」

ニート「礼を言われる程のことはしていないっていう」

ニート「お前が協力してくれて色々と助かったっていう」


男「……おい、ニートどういうことだよ?」

男「詳しく話せよ……」

ニート「お前に話すことなんて何もないっていう」

男「てめー」

ロシア人女「ふふっ」

ロシア人女「男さん、すみませんでした」

ロシア人女「男さんのことを騙すような形になってしまって」

男「いえ……別に」


ロシア人女「男さん、すべてお話しします」

ロシア人女「あれはイケメンが行方不明になってから数日経った日でした」

ロシア人女「ニートさんが突然私の前に現れて」

ロシア人女「イケメンがどこにいるのかを教えてくれたんです」

ロシア人女「そして、イケメンが危険な状況に置かれていることも……」

ロシア人女「ニートさんはイケメンを助けてくれると言ってくれました」

ロシア人女「それでわたしはニートさんに協力をしたのです」


男「……ははっ、そうでしたか」

男「っていうか、ニート」

男「俺にも教えてくれりゃすぐ協力したっつーのに」

男「また色々と回りくどいことをしやがって」

ニート「敵を欺くにはまず味方からっていうのは兵法の鉄則だっていう」

ニート「お前とイケメンを泳がせておいてその間に俺は自分の仕事を進めていたっていう」

ニート「それにお前は直情的な部分があるから」

ニート「下手に情報を与えると余計な手出しをする危険性が高かったっていう」

ニート「ゆえに俺はロシア人女にだけ真実を明かしたんだっていう」

男「てめー」


ロシア人女「男さん、本当にありがとうございました」

男「いえ……別に」

男「でも、ロシア人女さん、よくニートのことなんか信じる気になりましたね」

男「俺だったら絶対信じないなー」

ロシア人女「瞳を見たら……ですかね」

男「えっ?」

ロシア人女「ニートさんの瞳を見たら、この人の言っていることは信じれるなと、なんとなく」

男「……ははっ、さいですか」


その日の夜……

ニート「じゃあな、男、女っていう」

女「うん、じゃーねー、ニート」

男「……おい、ニート」

男「お前はこれからどうするんだよ?」

ニート「別に俺がどうしようが俺の勝手だっていう」

男「お前、もう神じゃなくなったんだろう?」

ニート「それがどうかしたのかっていう」

ニート「神であろうがなかろうが」

ニート「俺は俺だっていう」

男「てめー」


男「人が折角心配してやってるっていうのに……」

男「……ん!?」

キラキラ、キラキラ、ピタ

ニート「……」

男「……ホタル?」

女「……」

男「なんか不思議な光りかたをするホタルだな」

ニート「……」

ニート「……お別れを言いに来たんだっていう」

男「お別れ?」


男「……おい、ニートそれって……」

男「あっ」

パタッ、キラキラ、キラキラ

ニート「……」

クルリッ

ニート「俺はもう行くっていう」

ニート「じゃあなっていう」


男「おい、ニート」

男「またそのうち顔を見せろよ」

ニート「……簡単には約束できないっていう」

ニート「未来がどうなるかなんていうのは」

ニート「神にしか分からないっていう」

テクテク、テクテク


男「あの野郎、最後まで……」

女「あはっ」

男「……まあ、でも今回は大目に見てやるか」

女「……」

女「そだねー」

男「……さてと」

男「それじゃあ戻ってロシア人女さんとの関係をイケメンに問い詰めますか」

女「あはっ」

女「まー、程ほどにねー」

終わり

乙!
続き楽しみにしてる!

>>563 サンクス。


秋、日本、某遊園地……

フラフラ、テクテク

男「くー、頭がいてー」

女「あはっ」

女「頭ぶつけたの?」

男「ああ、ぶつけた」

男「やっぱ乗り慣れてねーからかなー」

男「急カーブや回転する度に安全バーにガンガンぶつかった」

女「あはっ」


女「座り方が悪かったんじゃん?」

男「ジェットコースターに座り方なんてあるのか?」

女「うーん、ないかな」

男「じゃあだめじゃねーか」

男「一体どうすればいいんだ……」

女「うーん、やっぱ慣れかな」

男「結局そーなるんかい」


テクテク

男「で、次はどーする?」

男「何か乗りたいものとかあるの?」

女「うーん」

女「……!」

女「あそこ行ってみる?」

男「……『占いの館』?」

女「うん」

男「……まあ、別にいいよ」


テクテク、バサッ

男「……何だか怪しい雰囲気の部屋だな」

女「……」

男「で、占い師は……」

…「深遠なる天の声に引き寄せられし者よ……」

…「こちらへどうぞっていう」

男「……!」

女「……!」

男「てめーは……」


ニート「よう、これはこれは男と女じゃないかっていう」

ニート「こんな所で会うなんて奇遇だなっていう」

ニート「お前たち、デートでもしているのかっていう」

男「……ああ、まあな」

男「それよりお前……」

男「何だその恰好は?」


ニート「見ての通りだっていう」

ニート「俺はこのアトラクションで占い師として働いているんだっていう」

ニート「俺の占いはよく当たることで有名だっていう」

ニート「そのお蔭で来月からは時給が50円上がる予定だからそこんとこよろしくっていう」

ニート「ところでお前たち、俺に占って欲しいのかっていう」

男「……いや、俺は別にいいよ」

男「女を占ってやってくれ」

ニート「女かっていう」

ニート「了解したっていう」


サッ

女「ニート、よろしくね」

ニート「分かったっていう」

ニート「俺に任せろっていう」

ニート「で、何を占って欲しんだっていう」

女「うーん」

女「じゃあ、来年の運勢」

ニート「お前の来年の運勢かっていう」

ニート「お安い御用だっていう」

ニート(ササッ)「……」

男「……へー、いっちょまえに水晶を使うのか」


女「……」

ニート「……!」

ニート「見えたっていう」

ニート「来年は女にとっていい1年になるっていう」

ニート「そして女には来年……」

ニート「重大な転機も訪れるっていう」

ニート「詳しいことは乞うご期待だっていう」

女「……ふーん」


男「……何が起こるのかは教えてくれないわけ?」

ニート「当然だっていう」

ニート「お前、占いは初めてなのかっていう」

男「まあ初めてだけど」

女「男も占ってもらえば?」

男「え゛っ、俺はいいよ」

女「まーいいじゃん」

女「ニートに折角会ったわけだし」

ニート「男、お前のことも占ってやるっていう」

ニート「まあそこに座れっていう」

男「……へい」


スッ

ニート「それじゃあ男、お前は何を占って欲しいのかっていう」

男「じゃあ、俺も来年の運勢で」

ニート「了解したっていう」

ニート(ササッ)「……」

男「……」

ニート「……!」

ニート「すごいものが見えて来たっていう」

男「えっ、何だよ」


ニート「男、お前は来週とんでもないドタバタ劇に巻き込まれることになるっていう」

男「……ドタバタ劇ってなんだよ」

男「っていうかそもそも来年の運勢じゃねーし」

ニート「細かいことは気にするなっていう」

ニート「俺の占いは必ず当たるから覚悟しておいた方がいいっていう」

ニート「ちなみにドタバタ劇には女も巻き込まれることになるからそこんとこよろしくっていう」

ニート(ニヤリ)

女「……!」


男「おい、ニート」

男「せめてもう少し具体的に教えろよ」

ニート「これ以上は教えられないっていう」

ニート「何が起きるのかを教えてしまっては」

ニート「占いにならないっていう」

男「てめー」

ニート「占いなんていうのは深く考えても仕方がないっていう」

ニート「どんなことが起こってどうなるのかなんていうのは」

ニート「人知の及ばない部分の話しだっていう」


男「でもお前は分かってるんだろ」

ニート「当然だっていう」

ニート「占い師の特権だっていう」

ニート「これだから占い商売はやめられないっていう」

男「くそっ」

男「……まあ、仕方ねーのか」


男「ニート、じゃあ最後に1つだけ教えてくれ」

男「そのドタバタ劇で不幸になる奴は出てこないだろうな?」

ニート「何でそんなことを聞くんだっていう」

男「別に深い意味はねーけどよ」

男「誰かおれの周りで不幸になる奴が出てくるのはもう嫌だしな」

ニート「……」

ニート「安心しろっていう」

ニート「お前の心のさじ加減ひとつで」

ニート「ドタバタ劇の結末はいくらでも変わりうるっていう」

男(ニヤリ)「また随分含みのある言い方だな……」

……


テクテク、テクテク

男「あー、何か聞かなきゃよかったな」

女「……」

男「急に不安になってきたわ」

女「あはっ」

女「まー何とかなるっしょ」

男「そうだといいんだがな……」

男「ニートの話しだとお前も関係してくるんだぞ」

男「お前は平気なの?」


女「うん、まーねー」

女「来年の運勢はいいって言われたしね」

男「でも来週はどうなるかわかんねーぞ」

女「あはっ」

女「まーそれはまたその時考えるよ」

男「……へー」

男「お前って意外に楽天的なんだな」

男「前からそんなんだったっけ?」


女「うーん」

女「そうでもないんだけどねー」

女「今回はニートが予言したことだから」

女「まあ大丈夫かなって感じかな」

男「……ははっ、ニートが絡んでいるっていうのが俺に取っちゃ一番の不安要因なんだけどな……」


……翌週月曜日、東応大学キャンパス内

カリカリ、カリカリ

教授「一般の有機化合物は鎖式炭化水素あるいは環式有機化合物を骨格として持っていて……」

男(……)

男(……うーん)

男(……教養課程の講義はやっぱり物足りねーなー)

男(……でもこの授業は出席取るっていうのが……)

男(……なんとかならねーだろうか?)

男(……)

医学部女(チラリ)「……」


……講義終了後

ザワザワ、ザワザワ

医学部女「男くん」

男「ん? ああ、医学部女か」

男「何か用?」

医学部女「男くんっていつも講義中上の空だなーって思って」

男「なんだ、俺のこと観察してたのか?」

医学部女「いや、別に観察してたわけじゃないけど……」


医学部女「男くんって上期の成績良かったんでしょ?」

男「……んー、まあそこそこ」

医学部女「ウソ」

医学部女「全単位『優』だったって聞いたよ」

男「えっ? 誰から?」

医学部女「……とある人からね」

男「とある人……」

医学部女「ねえ、男くんって」

医学部女「入試の時も満点だったんでしょ?」

男「……さあな」


スタッ

男「俺、次の講義行くから……」

医学部女「ねえ、男くん」

医学部女「今度勉強教えてよ」

男「え゛っ、誰に?」

医学部女「私に」

男「なんでだよ」

男「お前十分頭いいだろ」

男「俺がお前に教えることなんてねーよ」


サッ

医学部女「待って」

医学部女「男くんって、今付き合っている人いるの?」

男「え゛っ、何でそんなこと……」

医学部女「いるの? いないの?」

男「……」

医学部女「どっちなの? 答えて」

男「……いるよ」

男「じゃあな……」


医学部女「ちょっと待って」

医学部女「その人は誰? うちの大学の人?」

男「……何でそんなに突っ込んでくんだよ?」

男「お前の知らないやつだよ」

男「じゃあな」

スタスタ

医学部女「……」


その日の帰り道、某ターミナル駅……

スタスタ

女「ん」

男「よー」

男「待ったか?」

女「まー少し」

男「まー許せよ」

男「今日はわざわざお前の買い物に付き合うためにやってきたんだから」

女「あはっ」

女「まー今回は許してあげるよ」

男「……へい」


男「で、どこに行くの?」

女「んーとね……」

…「ちょっとお待ちなさい」

男「……!」

男「てめーは……」

医学部女「こんにちは、男くん」

女「……」


男「お前、まさか俺のあとをつけてきたのか?」

医学部女「……」

医学部女「まあ嘘を言ってもしょうがないわね……」

医学部女「そうよ」

医学部女「あなたのあとをつけてきたの」

男「お前……完全にストーカーじゃねーか」

医学部女「悪く言えば確かにストーカー……」

医学部女「でもよく言えば追っかけってところかしら」

男「……いや、どっちもどっちだと思うが……」


医学部女(チラリ)

医学部女「そちらの方は彼女さん?」

女「……」

男「ああ、そうだよ」

医学部女「ふーん、可愛らしい方ね」

医学部女(ボソッ)「……うらやましい」

男「え゛っ」

男「お前……いま何つった?」


医学部女「……」

医学部女「……きなの」

男「えっ?」

医学部女「男くんのことが私好きなの!」

女「……」

男「えっ……」

男「ちょっ……お前……」

男「なにいきなり言い出してんだよ」

男「正気か?」


医学部女「正気よ」

男「……いや、そう開き直って言われても……」

男「だいたい俺じゃなくたっていいだろ」

男「お前のまわりをよく見ろよ」

男「俺より顔が良くて頭がよくて優しいやつがいるだろう」

医学部女「男は顔じゃないわ」

医学部女「才知と器量と愛嬌よ」

男「……愛嬌って、俺に愛嬌があるとでも?」

医学部女「ええ、とっても」

医学部女「とても愛おしくなるほどに……」


男「……お前、頭おかしいだろ」

医学部女「そんなことないわ」

医学部女(チラリ)「……ええっと、あなたのお名前は?」

女「女です」

医学部女「男くん、女さんに聞いて御覧なさい」

医学部女「きっとわたしと同じ考えを持っていると思うから」

医学部女「ねっ?」

女「あはっ、まー」


男「おい、女、こいつの質問に答える必要はないぞ」

医学部女「ひどい言い方ね……男くん……」

男「いや、別にそういう意味じゃ……」

医学部女「……クスッ」

医学部女「かわいい人っ」

男「えっ……」


サッ

医学部女「ごめんなさいね、女さん」

医学部女「あなたにとっては唐突で迷惑な話しかも知れないけど」

医学部女「私は今、自分の気持ちを抑えることができないの」

医学部女「分かってくれるかしら?」

女「……」

医学部女「……返答に困るわよね」

医学部女「ごめんなさい」

女「いえ……」


医学部女「……」

医学部女「1つだけ……」

医学部女「あなたにお願いがあるの」

女「……」

医学部女「私と勝負をして!」

男「……おい」

医学部女「男くんのことをかけて……」

医学部女「どちらがより男くんに相応しいか……」

医学部女「いえ、どちらがより男くんのことを愛しているのかを証明するために」

女「……」


男「医学部女……」

男「お前、やっぱりおかしいぞ」

男「お前はもっとクールでお高くまとった奴だと思ってたのに」

医学部女「ふふっ、女っていうのはこういう一面があるものなのよ、男くん」

医学部女「時に抗しがたい情熱にその身を焦がされるの」


クルリッ

医学部女「どうかしら? 女さん」

医学部女「わたしの挑戦、受けてくださる?」

女「……」

女「わかりました」

男「おい、女、それでいいのか?」

男「だいたいなにで勝負するんだよ」

医学部女「うーん」

医学部女「それは考えてなかったわ……」

医学部女「そうね……」

医学部女「……!」


ビリッ

医学部女「これでどうかしら?」

男「……『テレビ東応全日本クイズ王選手権』?」

医学部女「そうよ」

医学部女「この選手権で優勝した方が勝者ということでどうかしら?」

女「……はい、いいですよ」


男「……おい、お前ら本気か?」

男「だいたいどっちとも負けたらどうするんだ?」

医学部女「優勝するのはわたし達二人のどちらかよ」

男「……なんで?」

医学部女「それが愛の力」

男「……へい、そうっすか」

……


男「お前、なんであんな勝負受けたんだよ」

男「あれは完全に医学部女の暴挙だぞ」

女「うーん、なんとなくねー」

女「医学部女さんの気持ちも分からないでもなかったし」

女「あの勝負を受けなかったら何か医学部女さんに申し訳ない感じがしたからかな」

男「いや、全然そんな気持ちを感じることはないと思うが……」

女「うーん……」


女「……」

女「あのさ」

男「うん? なに?」

女「わたし、頑張った方がいいの?」

男「おい……」

男「なんでそんなこと聞くんだよ……」

女「どっちかなーってね……」


男「頑張って欲しいに決まってるだろ」

男「お前に頑張ってもらわにゃ俺が困ることになる」

女「あはっ」

女「わかったよー」

女「じゃあ、がんばるねー」

男「ほんと頼みますわ……」


クイズ大会当日……

ザワザワ、ザワザワ

男「ひえー、さすがにすげーなー」

男「ギャラリーも多いし……」

男「テレビで見る芸能人もいっぱいいるぞ」

男「お前、大丈夫か?」

女「あはっ」

女「大丈夫だよー」

……


司会「さー今年もやってきました第32回目を迎えます伝統のテレビ東応全日本クイズ王選手権の決勝戦が間もなく開始されます」

司会「今年も素晴らしいゲストの方をお迎えしてお送りいたします」

司会「そして総合解説をお願いするのはこの大会で計31回の優勝を誇る……」

司会「ニートさんです!」

ギャラリー(パチパチ)

男(……おい)

男(……あの野郎、また変な所に顔を出しやがって)


司会「ニートさん、よろしくお願いいたします」

ニート「よろしくっていう」

司会「先ずニートさんにお聞きしたいのですが」

司会「今回ニートさんは何と大会への出場を断念されました」

司会「その辺りの理由を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

ニート「本職が忙しくなってクイズどころじゃなくなったっていう」

ニート「それにそろそろ俺の地位を脅かすような奴も出てきて欲しいと思ったっていう」

司会「なるほど、後進に道を譲られるということですね」


司会「さー、それでは今回のメンバーの中にニートさんを脅かしうる存在はいるのか」

司会「早速決勝戦に駒を進めてきた2名を紹介しましょう」

司会「まず一人目は……」

司会「東大医学部の秘密兵器、美貌と英知を兼ね備えた才色兼備のスーパーウーマン」

司会「医学部女です!」

ギャラリー「おー」(パチパチ)


司会「ニートさん、この医学部女なんですが……」

司会「なんと予選会の問題は全問正解」

司会「そして本選に入ってからも全く他を寄せ付けないまさに圧倒的な力を見せてきましたねー」

ニート「そうだなっていう」

ニート「でもまだまだ俺の足元にも及ばないっていう」

司会「おーっと、出ましたニートさんのオレ様発言」

司会「そして、この発言を聞いた医学部女がニートさんを上から目線で見やる」

司会「この涼しげな視線が魔性の女の異名を取る医学部女の本性を表しているのか!」


司会「ご覧ください」

司会「会場の男たちはもうすでに医学部女の虜となっています」

司会「えー、では続きまして決勝に駒を進めた2人目を紹介します」

司会「隠された実力は未知数、可憐な表情の下に確かな闘志を秘めている謎の美女」

司会「女です!」

司会「ニートさん、この女なんですが」

司会「医学部女とは正反対に予選会、本選と接戦をものにしてきましたねー」


ニート「そうだなっていう」

ニート「でも運だけで優勝できるほどこの世界は甘くはないっていう」

ニート「俺のように完全無欠な男が勝者には相応しいっていう」

司会「おーっと、再び出ましたニートさんのオレ様発言」

司会「しかし、ニートさんを見つめる女の視線はなぜか暖かい」

司会「この穏やかな表情の下で勝負への闘志が静かに燃やされているのか!」

司会「以上、今年はこの2名によって決勝戦が戦われます」


AD(ササッ)

司会「……ん?」

司会「おおっと」

司会「ここで、大変興味深い情報がこちらに入って参りました」

司会「今ご紹介しました医学部女と女は」

司会「クイズの世界だけでなく恋の世界でもライバル関係にあるとのことです」

司会「そしてなんとこの大会で優勝した方が……」

司会「男の愛を獲得することができるという約束が交わされていると」


司会「そして渦中の男がこの会場に来ているとの情報も入っております」

司会「キャメラ、ズームアーップ!」

ギャラリー(シーン)

男(……俺の顔が)

男(……巨大モニターに映ってやがる)

司会「……なんということでしょう」

司会「才知ある2人の美女から求愛を受けているのがこんな男とは」

司会「会場全体に怨念と羨望が混じった異様な空気が漂い始めました」

男(……おいっ)


司会「さあ、それでは気を取り直していきましょう」

司会「ニートさんにお伺いします」

司会「ズバリ、ニートさんはどちらが優勝すると思われますか?」

ニート「あまり興味ないっていう」

ニート「どっちが優勝しようが所詮おれの相手じゃないっていう」

司会「おーっと、ニートさんのオレ様っぷりここに本領を発揮」

司会「もはや番組の進行は私一人でしていくしかないのか」


司会「ではここからはルールの説明に入りましょう」

司会「問題はすべて早押しとなります」

司会「1問正解する度に1点が加算されます」

司会「ただし、回答を間違えた場合は1点減点」

司会「そして、20点先取した方が栄えある優勝者となります」

司会「それでは始めましょう」

司会「レーッツ、クイズ東応!」


出題者の声「問題……」

出題者の声「フランス語で……」

ピンポーン

司会「速い!」

司会「医学部女、答えは?」

医学部女「『アムール』」

司会「さあ、正解しているかどうか……」


ピンポンピンポーン

司会「せいかーい」

司会「なぜ分かる! なぜ『フランス語で』だけで分かるんだ医学部女!」

医学部女「それがアムール(愛)の力」

司会「きたーーー」

司会「恋する乙女の決め台詞はとろける程にあまーい」


医学部女「……」

女「……」

司会「では続けて参りましょう」

司会「レーッツ、クイズ東応!」


19問経過後……

ザワザワ、ザワザワ

司会「なんとうことでしょう」

司会「一体誰がこのような展開を予想できたでしょうか?」

司会「会場全体が何やら異様な雰囲気に包まれています」

司会「な、なんと医学部女、19問連続正解!」

司会「早くも優勝に王手をかけることとなりました」


司会「一方追い詰められたのは女」

司会「医学部女の猛烈な早押し攻撃の前になすすべがありません」

司会「果たしてこのまま終戦を迎えてしまうのか」

司会「それとも奇跡の大逆転劇が起こるのか」

男(……マズイぞ)


司会「ニートさん、いよいよ最大の山場を迎えることとなりましたが……」

ニート(グーグー)

司会「おーっと、ニートさんもあまりの急展開に意識を喪失してしまっているー」

司会「それでは次の問題にいきましょう」

司会「果たしてどういう結末が準備してあるのか」

司会「レーッツ、クイズ東応!」


出題者の声「古代イスラエルの神話で……」

ピンポーン

司会「速い!」

司会「そしてボタンを押したのは……」

司会「医学部女だー」

司会「さあ、では答えを伺いましょう」

司会「医学部女、答えは?」

医学部女「ソロモンの裁判」


司会「さあ、判定は……」

ピンポンピンポーン

司会「せいかーい」

司会「なんという劇的な幕切れでしょうか」

司会「決勝戦はなんと20問連続正解で……」

司会「優勝したのは医学部女だー」

司会「おめでとう、医学部女」


スタスタ

AD(ヒソヒソ)「男さん、前へ出てください……」

男「えっ……」

AD「早く行ってください」

男「……はい」

司会「さあ、そして医学部女の想い人が……」

司会「きたーーーーーー」

司会「改めて紹介しましょう」

司会「彼が渦中の人物、男です!」


司会「えー、今手元に入ってきた情報によりますと……」

司会「なんと彼も東大医学部在籍……」

司会「そしてその成績は学内NO.1ということです」

司会「男と医学部女……天才同士の世紀の大型カップルの誕生だー」


スタスタ

医学部女「……」

女「……」

医学部女「女さん、1つだけ聞いていいかしら」

医学部女「なぜ、わたしの挑戦を受けてくれたの?」

女「……」

医学部女「わたしの推測が正しければ……」

医学部女「恐らくあなたは」

医学部女「わたしに勝てないことを分かっていた」

医学部女(ニヤリ)「どう?」


女「勝つか負けるかなんて分かりませんでした」

女「ただ単に医学部女さんの情熱に」

女「心を動かされただけです」

医学部女「……そう」


スタスタ

医学部女「最後の問題の答え……ソロモンの裁判」

医学部女「どういう内容か女さんは知っている?」

女「……いえ」

医学部女「その昔、古代のイスラエルに2人の遊女がいた」

医学部女「そして1人の赤ちゃんを巡って2人の間で争いが起こったの」

医学部女「赤子の母親は自分だってお互いが言い合ってね」

女「……」


医学部女「それで2人の女は国王のソロモンに判断を委ねた」

医学部女「そうしたらソロモンは赤子を剣で裂いて2人の女に与えればいいって言ったの」

医学部女「かまをかけてね」

医学部女「その結果一方の女は裂いてでもいいから赤子をくれと言い……」

医学部女「一方の女は裂かれる位なら赤子は自分のものでなくていいと言った……」

医学部女「そういうお話」

女「……」


医学部女「愛する人が幸せになるならば自分の幸せは実現できなくてもいい」

医学部女「そんな考えをできる人が愛とはなにかを最も深く理解している人」

医学部女「そしてソロモンは、後者の女に赤子を返してあげた」


スタスタ

女「……」

医学部女「女さん」

医学部女「クイズではあなたに勝てたけど」

医学部女「男くんへの愛の深さではあなたに完敗だわ」

医学部女「あなたの行動のすべての前提には男くんの幸せがある」

医学部女「あなたこそ男くんに相応しい女性だわ」


スッ

医学部女「わたしのわがままに付き合ってくれてありがとう」

女「……いえ」

ギュッ

医学部女「男くんと幸せになってね」

女「……はい」


司会「すばらしい!」

司会「最後の最後で素晴らしいドラマが待っていました」

司会「優勝したのは医学部女でしたが」

司会「なんと医学部女は男への愛を遂げることを諦めました」

司会「まさに筋書きのないドラマ!」


テクテク

男「医学部女……」

医学部女「男くん」

医学部女「これからもよろしくね」

医学部女「学問のパートナーとして」

男「……ああ、お手柔らかにな」


クルリッ

医学部女「クイズなんて初めてやってみたけど」

医学部女「なかなか楽しかったわ」

医学部女「最後にあんな問題を出すなんて」

医学部女「出題者もなかなか粋なものね」チラリ

ニート「……!」


ニート「お前なんでこっちをみているんだっていう」

医学部女(ニヤリ)「別に。意味はないわ」

司会「おーっと、ここでニートさんがお目覚めになったー」

司会「ニートさん、最後に今大会の総括をお願いします」

ニート「終わりよければすべてよしだっていう」

司会「すべてを見透かしていたかのような大胆なまとめー」

司会「以上、第32回のテレビ東応全日本クイズ王選手権をお送りしました」


数日後……

スタスタ

医学部女「男くん、こんにちは」

男「おう、医学部女」

男「相変わらず綺麗だな」

医学部女「男くん、無害な女にはそういう軽口いうんだ」


医学部女「ねえ、男くん」

医学部女「今度の週末時間ある?」

男「うん? 何で?」

医学部女「デートしよっ」

男「え゛っ……お前……」

医学部女「クスッ」

医学部女「冗談よ」

男「……へい、そうっすか」


医学部女「女さんとね」

医学部女「わたし仲良くなったからそれだけ伝えておこうと思ってね」

男「女とお前がか……」

医学部女「うん、そう」

医学部女「今後もし何か女さんとの間でトラブルがあったら」

医学部女「共通の友人として相談に乗ってあげるから何でも相談してね」

男「……へい」


男「しかしお前って……」

男「サバサバしているというか」

男「意外と立ち直りが早いんだな」

医学部女「うーん、そうねー」

医学部女「女の子っていうのは意外にプラグマティックな一面があるのよ」

医学部女「一時の情熱にその身を突き動かされるから感情的な存在に見えるかも知れないけど」

医学部女「実はものすごく計算高いから」

男「へー……」


医学部女「でもそんな風でも感情が理性を飲み込む時があるの」

医学部女「それは愛につき動かされたとき」

医学部女「男くんはあまり実感していないのかも知れないけど」

医学部女「女さんは私なんかじゃおよびもつかない程男くんのことを愛しているからね」

医学部女「今度は男くんが女さんの愛に応えてあげて」

医学部女「きっと女さんはすごく喜ぶから」

男「ははっ……頑張るっす」


終わり

天才幼女ちゃんのその後がきになるおっさんなのでした
おつ


>>647 サンクス。


その年、晩秋の日本……

ギコギコ、ガチャ、スタスタ、ガラガラ

男「おつかれさーんっす」

男「配達終わりました」

配達所の所長「おう、男、おつかれさん」

配達所の所長「だいぶ朝がつらい季節になってきたなー」

男「ははっ、そうっすね」

配達所の所長「まー、座れや」

男「はい、あざーっす」


ガラガラ、スタッ

配達所の所長「ところでもうこのアルバイトを始めてから1年半くらいになるんだったか?」

男「そうっすね」

男「途中ブランクは少しありましたけど……」

配達所の所長「いやーしかし東大行ってんのにこんなところで働いていていいのかい?」

配達所の所長「聞く話によると」

配達所の所長「家庭教師とかやれば儲かるんだろ?」

男「ははっ、まー好きでやってるんで……」


配達所の所長「そうかい」

配達所の所長「そりゃうれしーねー」

配達所の所長「将来男がノーベル賞なんかとった日にゃ俺は泣いちまうかもしれねーな」

男「ははっ、ノーベル賞っすか」

配達所の所長「そう、ノーベル賞だ」

配達所の所長「男、お前なら絶対取れる」

配達所の所長「なんせ今年の受賞者はまだ子供の日本人らしーからなあ」


男「……子供の日本人……ですか?」

配達所の所長「ああ、そうだ」

配達所の所長「ほら、今ちょうどニュースでやってるぜ」

男(チラリ)


キャスター「……こちらはカリフォルニアです」

キャスター「現地でも今回の受賞は大きな話題となり多くの反響を呼んでいます」

キャスター「大学内で学生にインタビューを行いましたのでご覧ください」

……

インタビュアー(……今回の受賞者の方は大学内ではどんな存在ですか?)

学生A「GOD(神だ)」

学生B「とっても可愛いの。大学のアイドルのような存在ね」

学生C「本当にスーパーな存在だね。時折見せるあどけなさがとてもキュートだよ」

……


キャスター「大学学長も祝辞を送っております」

……

インタビュアー(……今回の受賞をどのように思われますか?)

学長「本当に喜ばしいことだと感じております」

学長「そして記録ずくめの今回の受賞は彼女の努力の賜物です」

学長「彼女の成果が正当な評価を受けたことに関して」

学長「まず彼女におめでとうと言ってあげたいです」

……


キャスター「大学内は祝福ムード一色でした」

キャスター「そんな中、受賞者の独占インタビューに成功しましたのでご覧ください」

……

インタビュアー(……今回の受賞、大変おめでとうございます)

…「ありがとうございます」

……

男「ぶっ」

男(……あれは)


配達所の所長「どうした男?」

配達所の所長「本当に子供が出て来たからびっくりしたのか?」

男「……ははっ、まあ」

男(……間違いない)

男(……あれは幼女ちゃん)

配達所の所長「しかし本当にこんな子がノーベル賞なんか取れるもんなのかね」

配達所の所長「俺の孫娘の方がまだ大きいぞ」

男「ははっ、見た目は子供、頭脳は大人ってことっすね……」


その日の夜……

ピロピロピロー、ピロピロピロー、ピッ

男「……はい」

女「やっほー」

女「男、見た?」

男「……幼女ちゃんのニュースか?」

女「あはっ」

女「そう」

男「ああ、見たよ」


男「流石は先生としかいいようがないな」

男「ものの半年でノーベル賞を受賞されるとはな」

女「あはっ」

女「それでね、授賞式があるでしょ?」

男「ああ、あるな」

女「それに行こうかなーって思って電話したの」

男「おいっ」


男「行きたい気持ちは分からんでもないが」

男「まず行く金がない」

男「そして仮に行ったとしても」

男「一般人は中には入れないんだぞ」

女「あはっ、大丈夫だよー」

男「えっ……、なんで?」

女「幼女ちゃんがチケットと招待状を送ってきてくれたから」


5日後、ストックホルム……

ザワザワ、ザワザワ

男「うーん……」

女「どうかした?」

男「タキシードなんて着たの生まれて初めてだから」

男「なんか緊張してきた」

女「あはっ」


女「まーこんなことがない限り着る機会なんてないしねー」

男「お前もドレスを着てそんな恰好をすると」

男「かなり雰囲気が変わるな」

女「へー」

女「どう? 似合ってる」

男「ああ、俺よりは似合っていると思うぞ」

女「あはっ、あんがと」


テクテク

幼女「あっ!」

幼女「おねーちゃーん」

ダッ、ギュッ

幼女「久しぶり、おねーちゃん」

女「幼女ちゃん、久しぶり」

女「元気だった?」

幼女「うん、元気だった」

男「幼女先生、久しぶり……」

幼女(クルリ)


スタスタ

外国人男「幼女、そちらの方たちはどちら様だい?」

幼女「……こっちが私の母の妹で」

幼女「こっちが……わたしの先生です」

外国人男「……!」

男「えっ……」

外国人男「……君か? 君が幼女のティーチャーなのか?」

男「いや……」


幼女「そう、この人が私の先生」

外国人男「そうか、君が噂に聞く……」

男「いや、何か違うような……」

外国人男「いや失礼」

外国人男「私は幼女の研究のパートナーで遺伝子工学を専門としている者なんだ」

男「……ということはノーベル賞の……」


外国人男「そうだ、今回受賞することになる」

外国人男「しかしそんな話はいまはいい」

外国人男「幼女の才能は実に素晴らしい」

外国人男「そして幼女からいつも話を聞いていた」

外国人男「ジャパンに幼女のティーチャーがいると」

外国人男「そしてその人物が今わたしの目の前にいる」

外国人男「まるで夢の中にいるような気分だよ」

男「……はあ」


外国人男「ときに君は今何をしているんだ?」

男「……一応、東京大学で医学部に在籍しています」

外国人男「UTか……」

外国人男「いや失礼、実は君の名前で論文を探してみたことがあるんだが」

外国人男「1つも見つけることができなかった」

外国人男「なぜだ? なぜ論文を発表しないんだ」

男「いや、なぜと言われましても……」


外国人男「私は君が書いた論文を読みたい」

外国人男「いや、もとい、君に教授を仰ぎたいんだ」

男「教授!?」

スタスタ

研究者風の男「ん? 外国人男、そちらの方は?」

外国人男「おお、研究者風の男」


外国人男「驚くなよ」

外国人男「こちらが幼女のティーチャーの男さんだ」

研究者風の男「……グ、グレート」

スタスタ

研究者風の男「ずっとお会いしたいと思っておりました」

男「えっ……」


研究者風の男「いやまさかこんなところでお目に掛かれるなんて」

研究者風の男「突然の質問を許して欲しいのですが」

研究者風の男「今回の私たちの研究成果……」

研究者風の男「テロメアの構成因子の組み替えに関する研究をどう思われますか?」

男「いや、どう思うか聞かれましても……」

研究者風の男「率直に言って頂いて構わないのです」


ザワザワ

科学者風の男「ん? そちらの方はもしや」

科学者風の男「ミスター男か!」

研究者達「なんだと、男だと!」

研究者達「男がこの会場に来ているのか?」


ザワザワ

科学者風の男「ミスター男、統一場理論に関する君の見解を教えてくれないか?」

髭のある男「そんなことよりムッシュ、我が研究所に来ないか?」

髭のある男「ムッシュになら年俸1000万ユーロを出す」

眼鏡を掛けた男「いや、是非我が大学の特任教授として来てくれ」

眼鏡を掛けた男「我が大学なら2000万ドルをあなたに出せる」

科学者風の男「いや、ミスター男が来るならうちの研究室だ」

科学者風の男「何と言ってもうちの研究室にはミスター男の教え子の幼女がいる」

科学者風の男「研究環境もすべて世界最高レベルだ」

男「……」


スタッ

男(ヒソヒソ)「幼女先生……」

男(ヒソヒソ)「一体どういうことっすか……」

幼女「ん? だっておにーちゃん、わたしの先生だったじゃん」

男「いやまあ確かに一時期はそうでしたが……」

男「さすがにノーベル賞受賞者の『先生』の肩書きは身に重いっす」


幼女「……あのおっさんたちがしつこくてうるさいからね」

幼女「おにーちゃんを私の先生だってかねて吹き込んでおいたの」

幼女「だからおにーちゃん」

幼女「今日は私の先生としてあの人たちの相手をしてあげて」

男「いや、そうは言われましても……」


髭のある男「ムッシュ、どうだ? 考えてくれないか?」

幼女「先生にはフィアンセがいるのっ」

幼女「だから日本からは離れられないのっ」

髭のある男「フィアンセ……そちらの美しい貴婦人の方のことか?」

眼鏡を掛けた男「ならばそちらのミスが望む通りの居住環境を準備しよう」

眼鏡を掛けた男「閑静な郊外、それとも交通の便のいい都会」

眼鏡を掛けた男「ミスはどちらがお好きで?」


幼女「とにかく先生は日本から離れられないの」

科学者風の男「……そうなのか? ミスター男」

男「ははっ、まあ」

科学者風の男「なぜなんだ? 理由を教えてくれ!」

男「え゛っ……」

幼女「日本政府が許さないからっ」

研究者達「……!」


科学者風の男「そうか……」

科学者風の男「類まれなる人材の流出を防ぐために政府が動いているということか」

科学者風の男「それならば仕方あるまい……」

男(……やれやれ)

科学者風の男「私の研究室の拠点は日本に移そう」

男「……え゛っ」


眼鏡を掛けた男「ならば我が大学も日本にキャンパスを作ろう」

髭のある男「私の研究所は既に日本に研究施設を持っている」

髭のある男「日本の文化を一番よく理解しているのは我が研究所だ」

男「いや、俺は取りあえず籍を移す積りはないので……すみません、ちょっとトイレ」

ダッ

研究者達「待ちたまえ!」

ダダダダダダッ

研究者達「いや、待ってくれ、男!」

ダダダダダダッ


授賞式後……

ザワザワ、ザワザワ、コソコソ

男「いや、しかし生で見るとやっぱりすごかったな」

女「うん、そだねー」

男「なんか荘厳な感じでいるだけで疲れたわ」

女「あはっ」


男「しかし、幼女先生……」

男「歴戦の古豪って感じのおっさん連中に混じって明らかに1人異質だったな」

女「……」

男「でも何か他の受賞者達を従えているようにも見えたんだがそれは俺の気のせいか?」

女「うーん……」

男(コソコソ)

女「あはっ」

女「なにコソコソしてんの?」

男「いやもう変な奴らに絡まれるのは御免だからな」

男「なるべく身を隠すようにしているんだ」

……


男「ところでこの辺りで待っていれば良かったんだよな?」

女「うん、そだねー」

女「晩餐会ももう終わっているはずの時間だし」

女「もう少しで来るんじゃん?」

タッタッ

男「ん? 噂をすればだな」


幼女「お待たせー」

幼女「はい、おにーちゃん」

チャリン

男「ん? 何これ」

幼女「車のキー」

幼女「そこに停めてある車」

幼女「おにーちゃん、運転して」


男「いや、いきなり運転って言われても……」

男「左ハンドルの車なんて運転したことないし」

幼女「早くして! おにーちゃん」

男「早く?」

外国人の男達「いたぞ、あそこだ!」

幼女「もう来た」

幼女「とにかく車を出して」

男「……へい」


ブルルルルッ、ブーン

外国人の男達「こらー、待てー」

男「……なんかあの人たち怒ってねーか?」

男「なんかさっき会場にいた人たちも混じっているように見えるし」

幼女「イーっだ」

幼女「ばいばーい」

ブオーーーン

外国人の男達「くそっ」

外国人の男達「逃げられたか……」


……

男「で、幼女先生、どこへ向かえばいいんですか?」

幼女「マルメ空港」

男「かしこまりました、マルメ空港ですね……」

男「って、それはどこにあるのでしょう?」

男「女、カーナビで探せるか?」

女「うん、探してみるよー」


ピーン、ピーン

男「しかし、何で追いかけられていたんですか? 幼女先生」

幼女「あのひと達がわたしのことを逃がしたくないから」

幼女「研究を続けていくためにね」

男「ってことはもう研究はしたくないってこと?」

幼女「……違うよ、おにーちゃん」

幼女「研究が好きとか嫌いとかっていう話しをしているんじゃない」

幼女「あの人たちと一緒にいるのがもううんざりだっただけ」


男「ふーん」

男「何か嫌なことでもされたの?」

幼女「……」

幼女「レベルが合わないから」

幼女「あの人達とね」

男「それってつまり……」

男「ノーベル賞を受賞する様な学者達でも幼女ちゃんにとっては物足りないってことっすか?」

幼女「うん」


幼女「全然ダメだね」

幼女「今回の研究のアイデアも理論も全部私が出したものだし」

幼女「そのくせメンツや名声を気にしてばっかりで」

幼女「私は共同研究者ってことになってるし」

男「ははっ、厳しいご指摘っすな、幼女先生」

男「で、それで空港に向かうってこと?」

男「一区切りついたし旅行に出かけたりお母さんに会いに行ったりって……」


幼女「ううん、違うよ」

幼女「もうあの人達とは縁を切ることにしたの」

幼女「あの人たちといてもつまんないし」

男「ははっ、そうっすか」

男「だから追われていたんすね……」

幼女「……!」

幼女「おにーちゃん、車停めて!」

男「えっ」


キュキュッ

男「どうしたの? 幼女ちゃん」

幼女「あのお店あるでしょ?」

幼女「有名な洋菓子屋さんなの」

幼女「プリン買ってきて」

男「プリンって……」

男「いま逃げてるんじゃ……」

幼女「大丈夫だから、はやく」

男「……へい」

……


ガチャン

男「はい、幼女先生」

男「生クリームたっぷりのカスタードプリンを買ってきましたぞ」

幼女「あー、ありがとう、おにーちゃん」

男「ほら、女にも」

女「あはっ、あんがと」

男「ところで、カーナビセットできた?」

女「うん、できたよー」


男「どの位かかりそう?」

女「うーん、4、5時間くらいかな?」

男「げっ、そんなに掛かるのか……」

男「幼女先生、空港への到着は深夜になりそうだけど」

パクパク

幼女「……うん、大丈夫」


男「大丈夫って言われても……」

男「飛行機はもう飛んでないかも知れないんじゃ……」

幼女「大丈夫だよ、おにーちゃん」

幼女「チャーター便を用意してあるから」

男「ははっ、チャーター便っすか」

男「そりゃ豪勢っすな」


男「それで行き先は?」

幼女「スイス」

男「スイス……ふーん」

男「研究者の知り合いの人でもいるの?」

幼女「ううん、わたしの病気を治してくれた先生がいるの」

男「へー、じゃあその人にノーベル賞受賞の報告に行くってわけか」

幼女「それもあるけどね」


幼女「わたしね」

幼女「スイスに亡命するの」

男「……!」

女「……」

男「ははっ、亡命っすか……」

男「スイスに住むことにしたわけ?」

幼女「ううん」


幼女「スイスに亡命するのはアメリカ政府と日本政府と取引をするため」

幼女「わたしの病気を治してくれた先生はスイス政府の人物とコネクションがあるから」

幼女「便宜を図ってもらうことにしたの」

男「……ははっ、話がでかいっすな」

幼女「ねー、おにーちゃんとおねーちゃんも一緒に来て!」

幼女「ねっ? いいでしょ?」

女「あはっ、分かったよー、幼女ちゃん」

男「……へい」


5時間後、チャーター便の中……

スヤスヤ

男「ははっ、幼女ちゃん、かわいい顔して寝てるや」

女「うん」

男「こうして寝顔だけ見ていると本当にまだあどけない女の子にしか見えないんだけどな」

女「そだねー」

男「行先はスイスか……」


男「幼女ちゃんの病気を治した先生ってどんな人なんだろ?」

男「お前って会ったことあったんだっけ?」

女「ううん、ないよー」

女「おねーちゃんから聞いた話だと」

女「普段はアメリカの大学病院に勤めている人で世界的にも有名な先生みたいだねー」

男「そうか」


男「俺も一応医学部だし」

男「この機会に色々と教えてもらおうかなー」

女「あはっ」

男「でも今日はとにかく疲れたし」

男「飛行機の中であんまり落ち着かないけどもう寝るか……」

女「うん、そだね」

女「おやすみ、男」

男「ああ、おやすみ」


翌日……

ブーン

男「いい景色だなー」

男「さすがスイス」

運転手「男さんはこちらにこられたのは初めてですか?」

男「はい、まー」


運転手「日本では温泉がいっぱいあるかも知れませんが」

運転手「スイスにもいい温泉が意外とあるんです」

運転手「美容にいい温泉もあります」

女「えー、本当ですかー?」

女「行ってみたいなー」


運転手「ははっ、時間があるようでしたら帰りに寄ってみられたらどうですか?」

運転手「バート・ラガッツの温泉が私のおすすめです」

女「へー、そうなんですか」

運転手「幼女さんも以前スイスに来られた時に行かれましたよね」

幼女「うん、行ったね」

幼女「おじ様に連れてってもらったんだ」


男「幼女ちゃん、おじ様って誰?」

幼女「私の病気を治してくれた先生」

女「へー、先生と仲がいいんだ、幼女ちゃん」

幼女「うん」

幼女「先生はすごく優しい人なんだ」

幼女「あんまり表に出たがらない人だけど」

幼女「本当に頭のいい人だし」


男「幼女ちゃんが頭がいいっていうなんて」

男「相当すごい人なんだな」

幼女「うん、すごいよ」

幼女「私がいままで会ってきた中で一番の人」

幼女「おにーちゃんも色々と教えてもらうといいよ」

男「ははっ、先生の迷惑にならないんなら是非ともお願いしたいですな」


運転手「そうだ、旦那さんも大変喜ばれてましたよ、幼女さん」

運転手「今回のノーベル賞受賞は大変素晴らしいことだと」

幼女「えっ、本当?」

運転手「ええ、本当ですとも」

運転手「流石は幼女さんだと大変お褒めになられてました」

幼女「やったー、うれしーな」

女「幼女ちゃん、良かったねー」

幼女「うん」


幼女「ところでおじ様は元気にしてる?」

運転手「ええ、とても元気です」

運転手「忙しくあちこち飛び回られてますが」

運転手「今回は幼女さんが来られるのを大変楽しみにされてましたよ」

幼女「へー、私も楽しみだなー」

幼女「おじ様に聞きたいこともいっぱいあるし」

幼女「おじ様にお願いしたいこともあるしね……」

運転手「……」


運転手「きっと旦那様なら幼女さんの力になってくれます」

運転手「あれ程の大人物の方は中々いらっしゃいませんから」

幼女「うん、私もそう思うよ」

幼女「あとはおじ様の迷惑にならなければいいんだけど」

運転手「その心配はいらないと思いますよ」

運転手「旦那様は幼女さんのことを大変気に入られてますから」

幼女「そう、ありがとう、運転手」


幼女の主治医の家……

テクテク、テクテク

幼女「あー、懐かしいなー」

運転手「幼女さん、さあ、どうぞ」

ガチャッ

幼女「お邪魔しまーす」

女「お邪魔しまーす」

男「……失礼しまーすっと」


運転手「旦那様、戻りました」

…「そうか、ご苦労だったっていう」

男「……!」

幼女「あっ、おじ様!」

ダッ、ギュッ

幼女「おじ様、元気にしてた?」

ニート「ああ、とても元気だったっていう」

ニート「幼女も元気そうで安心したっていう」


男「おい、てめー」

ニート「……うん?」

ニート「そちらさんはどちらさんだっていう」

男「日本から来た男と言います……って」

男「てめー、すっとぼけるのもいい加減にしろよ」


ニート「ちょっとからかっただけだっていう」

ニート「よくここまで来たなっていう」

ニート「女もようこそっていう」

女「うん、久しぶり、ニート」

幼女「えー、おにーちゃんとおねーちゃん、おじ様と知り合いなの?」

ニート「俺が日本にいた時に色々とお世話になったっていう」

ニート「幼女が丁度入院していた時の話しだっていう」


ニート(チラリ)

女「……!」

幼女「そうだったの? おねーちゃん」

女「うん、そうだよ」

女「幼女ちゃんの入院していた病院にニート先生が来た日があったんだ」

女「ニート先生が幼女ちゃんの主治医だったっていうのは知らなかったけどねー」

幼女「へー」

運転手「ささっ、こんな所で立ち話も何ですから奥の部屋に入りましょう」

運転手「暖かい飲み物もお持ちいたします」

幼女「うん、そうだね」

幼女「ありがとう、運転手」


奥の部屋……

男「西洋の館って感じの部屋だなー」

女「そだねー」

女「すごくシックだし、暖炉がすごい」

男「そうだな」

男「サンタクロースが出てきそうな暖炉だな」


ニート「まあ、座れっていう」

ニート「長旅で疲れているだろうっていう」

ニート「2・3日ここでゆっくりしていけばいいっていう」

男「へい、サンクス」

ニート「ところで幼女、ノーベル賞受賞おめでとうっていう」

ニート「テロメアと統一場理論についてのお前の研究……」

ニート「とても素晴らしい内容だったっていう」

幼女「ありがとう、おじ様」


幼女「でもおじ様なら私よりももっとすごいことができるはず」

幼女「今回の研究でもおじ様に聞きたいことがたくさんあったし」

ニート「幼女にしかできないこともあるっていう」

ニート「お前の頭脳は本当に素晴らしいっていう」

ニート「俺ができないこともお前ならできるっていう」

幼女「おじ様、相変わらずね」

幼女「まあ、いいや」


幼女「おじ様、実はおじ様にお願いしたいことがあってここまで来たの」

ニート「いいぞっていう」

ニート「なんでも言ってみろっていう」

ニート「ノーベル賞受賞のご褒美として」

ニート「なんでも願いを聞いてやるっていう」

幼女「ありがとう、おじ様」


幼女「実はね、おじ様」

幼女「おじ様にスイス政府と交渉をしてもらいたいの」

幼女「アメリカ政府と日本政府を説得するために」

ニート「……」

幼女「アメリカには色々とお世話になったりもしたから」

幼女「今回の授賞式が終わるまでは我慢していたけれど」

幼女「もうアメリカには戻りたくないの」


幼女「その代わりに日本に学術センターを開設したいんだ」

幼女「世界中の若くて才能のある人達を集めて」

幼女「文明をリードする研究をしていきたいの」

ニート「……」

幼女「でも、私が何か言ったところでアメリカ政府は私のことを解放してくれなさそうだから」

幼女「おじ様の力を借りて」

幼女「スイス政府に協力を申し出たいの」

ニート「了解したっていう」

ニート「幼女、お前の願い、聞き入れてやるっていう」

幼女「本当? ありがとう、おじ様」


ガチャッ

運転手「紅茶をお持ちいたしました」

ニート「運転手、ちょうどいい所にきたっていう」

ニート「電話をつないで欲しいっていう」

運転手「はい、かしこまりました」

カチャカチャ

運転手「旦那様、どちらにお電話されますか?」

ニート「ノアにかけてくれっていう」


その日の夜……

テクテク、テクテク

男「いやー、しかしスイスはいい所だな」

男「食べものはおいしいし、空気もおいしいし」

女「あはっ、そだねー」

女「明日、家政婦さんにスイス料理のレシピを教えてもらおうかなー」

男「え、ほんと?」

男「期待していいのか?」

女「あはっ、まーいいよー」


男「ところで、幼女先生、目的地まであとどの位でしょうか?」

幼女「もう少しだよ」

幼女「もう疲れたの? おにーちゃん」

男「へい、すいやせん、もう歳なもんで」

女「あはっ」

幼女「ほらっ、着いた」

男「わっ」

女「すごーい」


男「こんな開けた所があったのか……」

男「そして……」

幼女「プラネタリウムみたいでしょ?」

男「まさにその通りっすな」

女「綺麗ー」

女「幼女ちゃん、星座とか分かるの?」

幼女「うん、分かるよ」

幼女「あれがオリオン座で、あれがふたご座」

女「へー」


女「綺麗だねー」

女「幼女ちゃん、この場所ニート先生に教えてもらったの?」

幼女「うん、そうだよ」

女「すごくいいところだね」

幼女「うん、そうでしょ!」

幼女「春ぐらいにくるとね、草むらに寝そべって星空を見るのがすごく気持ちいいんだよ」

女「へー」


男「うーん」

女「あはっ」

女「どうかしたの? 男」

男「なんだか星空をずっと眺めていたら少し目が回ってきた」

女「あはっ」

女「まー確かにずっと見てたら吸い込まれていきそうな感じはするねー」

男「こんだけ星があるんだったら宇宙のどこかには知的生命体が存在するんだろうなー」

女「そうかもねー」


男「幼女ちゃん、そう言えば統一場理論を確立したことで宇宙の秘密って解明されたの?」

幼女「宇宙の秘密?」

男「うん、そう」

男「宇宙の仕組みとか……」

幼女「宇宙の仕組みは完全には分からないよ」

幼女「実験で証明することが難しいから」

男「へい、そうっすか」


幼女「でも、理論を考えていくことで1つだけ分かったことがあるよ」

男「へー、それは何?」

幼女「……宇宙の仕組みは結局は分からないということが分かったの」

男「そりゃまたなんとも……」

幼女「どのような仕組みでこの世界が成り立っているのかは誰にも分からない」

幼女「つまり、不可知なの」

幼女「もしかしたらわたし達が見ているこの世界はすべて幻なのかも知れないし」

幼女「神様がサイコロを振ってすべてを決めているのかも知れない」

幼女「わたし達がそれを知ることはできないことは分かった」


男「ははっ、そうっすか」

男「ところで話は変わるんだけど」

男「寒くなってきたっす」

女「あはっ」

幼女「えー、おにーちゃん、寒がりなの?」

男「女は平気なの?」

女「うん、防寒着も来てるし、まー大丈夫だよ」

男「幼女先生、すいやせんが、次来るときはホッカイロ持参にします」

幼女「まー、しょうがないから戻るか」


翌日……

カサカサ、カサカサ

幼女「……」

男「へー、これがアメリカ政府と日本政府からの回答か」

男「すげー早いな」

ニート「それだけ幼女が重要な存在ってことだっていう」

ニート「それに俺の方からもかなり圧力をかけておいたっていう」

ニート「政府関係者は顔色を変えながらこの回答を作成したはずだっていう」

男「へい、さいですか」


男「で、どうなの? 幼女ちゃん」

男「望みは叶いそうなわけ?」

幼女「うん、アメリカ政府も拘束はしないって言ってる」

幼女「まあ、アメリカには今後も何度かいくことにはなりそうだけど」

幼女「これはしょうがないかな」

男「ふーん、で、日本政府の方は?」


幼女「うん、こっちは全面的に要望を受け入れてくれてる」

幼女「学術センターの設立に全面協力してくれるって」

男「ほんと? そりゃ良かったなー」

幼女「おじ様、本当にありがとう」

幼女「おじ様のおかげですべてがうまくいきそう」

ニート「礼を言われるには及ばないっていう」

ニート「俺は大したことはしていないっていう」

ニート「俺の知人のノアが頑張ってくれたおかげだっていう」


男「ノアって誰?」

ニート「俺の右腕の男だっていう」

ニート「今度機会があったらお前たちにも紹介してやるっていう」

男「へい、そうっすか」

男「いずれにしても幼女ちゃんはこれからまた忙しくなるんですな」

幼女「うん、おにーちゃんもね」

男「え゛っ、何で?」


幼女「学術センターのセンター長はおにーちゃんにするから」

男「いや、何を言っているのかよく分からないんですが……」

幼女「世界中の学者が集まってくるからおにーちゃんにとってもいい勉強になるでしょ?」

男「いや、そんなこと言われましても……そもそも幼女ちゃんは……」

幼女「わたしは統括センター長になるから」

幼女「おにーちゃんは私の部下ね」

幼女「で、ニート先生が相談役だから」


ニート「センター長、よろしくっていう」

ニート「悩み事があったら何でも相談に乗ってやるっていう」

男「おいっ……っていうか」

男「とても務まる気がしないんですが……」

幼女「務まるか務まらないかじゃない」

幼女「務めるの!」

男「ははっ、なんかどこかで同じセリフを言われたことがあるような」

男「へい、分かりやした、がんばりやっす……」


2週間後、日本、クリスマス……

男「じゃあ、幼女ちゃんのノーベル賞受賞と学術センターの開設をお祝いして乾杯と行きますか」

男「かんぱーい」

女「かんぱーい」

幼女「かんぱーい!」

幼女「料理おいしそー」

幼女「おねーちゃん、ありがとう」

女「幼女ちゃん、いっぱい食べてねー」


男(パクパク)

男「ん、なかなかいけるぞ」

男「この前スイスで食べた時と同じ味だ」

女「うん、ちゃんとレシピ通りに作ったからねー」

幼女(パクパク)

幼女「おいしー」

女「あはっ、喜んでもらえて良かった」

女の姉「うん、本当においしい」

女の姉「私も今度作り方を教えてもらおうっかな」

女「うん、いいよ、おねーちゃん」


女の姉「でも本当に色々とありがとうね、男くん」

女の姉「幼女がこうして日本に戻ってきてとても安心したわ」

男「ははっ、自分は全然なにもしてないっす」

幼女「別にわたしはへーきだったよ、お母さん」

幼女「1人でアメリカで暮らしていても全然不自由しなかったし」

女の姉「そうは言っても本当に心配だったのよ、幼女」

女の姉「わたしも一緒にアメリカに付いていきたかったんだからね」

女の姉「あなたが断りさえしなければ」


幼女「一人暮らしがしてみたかったの」

幼女「ごめんなさい、お母さん」

女の姉「幼女、普通はあなた位の歳だとお母さんべったりの子が多いんだけどね」

女の姉「きっと成長のスピードが他の子とは違うのね」

幼女「うん、そうかもね」


女の姉「ところで男くん、スイスはどうだった?」

男「えっ、スイスですか?」

女の姉「うん」

男「とてもいい所でしたよ」

男「自然がいっぱいあって」

男「とても落ち着いた雰囲気の街でしたし」

女の姉「ふーん」


女の姉「実は私もスイスに行ったことがあるんだ、男くん」

男「えっ、そうだったんですか?」

女の姉「うん、新婚旅行でね」

男「へー、新婚旅行っすか」

女の姉「うん、わたしも冬に行ったんだけどね」

女の姉「その時はスノーハイキングしたりして楽しかったなー」

男「へー、雪山のハイキングっすか……」


女の姉「うん、そうだよ」

女の姉「男くんもまた行ってみるといいよ」

女の姉「新婚旅行とかで」

男「え゛っ」

女の姉「ねっ、女」

女「あはっ、それはまたそうなった時考えるよ」

男「ははっ、そうですな」


終わり

次がみたいなー

>>744 サンクス


ピカピカ、キランキラン

…「……ほー」

男「……んっ」

…「やっほー」

男「んんっ……」

男「んー……ん? 女か……」

女「あはっ、やっと起きた?」

男「ああ……」


女「男、私もう行かなきゃならないから」

男「……ん? 何の話?」

女「今まで色々とあんがとね、楽しかったよ」

男「ん? 何言ってんの?」

女「じゃねー、男、元気でね」

スタスタ


男「おい、ちょっと待てよ、女」

男「どこへ行くんだよ」

女(スタスタ)

男「おい、女!」

男「女……」

ピカピカ、キランキラン

……


チュンチュン、チュンチュン、バサッ

男「……」

男「……夢か」

ゴソゴソ

男「新年早々変な夢見たな……」

男「……」

男「昨日、年明け前に餅食ったせいかな……」


2時間後……

バタン

女「おっす」

女「あけおめ、男」

男「ああ、おめでとさん、女」

男の母「あらっ、あけましておめでとう、女ちゃん」

女「おめでとうございます、おばちゃん」

男の母「あらー、女ちゃん、見る度に綺麗になっていくわねー」

男の母「うらやましいわー」

女「あはっ、そんなことないですよ」

男「じゃあ、かーちゃん、出かけてくるから」

男の母「はーい、いってらっしゃい」


テクテク、テクテク

男「うーん、眠い……」

女「何? 寝不足?」

男「うん、昨日遅くまで論文を書いてたからな」

女「へー、偉いじゃん」

男「なんせ幼女先生の指令だからな」

男「4月のセンター開設までに3本の論文を書けとのことですわ」

男「もし書けなかったらセンター長のポストの件は白紙に戻すって」

女「ふーん」


男「俺はむしろセンター長のポストから更迭して欲しい位なんだけどな」

女「あはっ」

女「まー折角だし頑張れば」

男「ああ……まあ、それなりに頑張るよ」

男「っと、それとお前にはまだ言ってなかったかも知れないけど」

男「医学部女もセンターのメンバーの一員になることになったから」

女「うん、知ってたよ」

男「……なんだ、知ってたのか」

女「うん、医学部女さんからメールがあったからね」

男「ふーん、お前ら仲いいな」

女「うん、まーねー」


初詣先の神社……

ガラガラ、ガラガラ、パチパチ

男「……」

女「……」

男「よし、行くか」

女「うん」


テクテク、テクテク

女「男、何かお願いしたの?」

男「うーん、まあ去年は色々あっててんやわんやしてたイメージがあるから」

男「今年はゆっくりできますようにってお願いしといた」

女「あはっ」

女「でもこのままいくとまた忙しい1年になりそうじゃん?」

男「そうだな……」

男「今年は幼女先生に振り回される1年になりそうな予感が……」


ザワザワ、ザワザワ

男「ん、おみくじか」

女「おみくじ、やってく?」

男「んっ、まあいいけど」

テクテク、テクテク

男「すいやせん、おみくじ、2人分」

巫女「はい、ではこちらの筒を振ってください」

男「へい」


ガチャガチャ、カチャ

男「はい、女も」

女「あんがと」

ガチャガチャ、カチャ

巫女「はい、ではこちらの番号になります」

男「ありがとうございやす」

女「ありがとうございまーす」


カサカサ

男「……!」

男「おい、女、どうだった?」

女「大吉だった」

女「男は?」

男「……大凶」

女「あはっ」

女「見せてよ」

男「へい、どうぞ」


女「……どんなことが起ころうとも耐え忍ぶことで光明が見えてくる、だって」

男「うーん、今年も我慢の1年になるのか」

男「先が思いやられるな……」

女「うーん、まー何とかなるっしょ」

男「……ああ、そうだな」

男「とりあえずそう考えることにしよう」


その日の夜……

ホワン、ホワン

男「……ん、ここは」

男「夢の中……か」

男「この感覚……」

男「夢の中であることがはっきりと分かるってことは……」

ニート「よう、男っていう」

男「てめー、現れやがったな」


男「今度は一体何の用だ?」

ニート「久しぶりに会いたくなったから来ただけだっていう」

ニート「俺は今、新しい仕事に取り掛かっているからとても忙しいんだっていう」

ニート「陶芸に目覚めたから今修行をしている所だっていう」

ニート「ゆえに、しばらくお前の前に姿を現すことはないっていう」

男「へい、さいですか」


ニート「でも安心しろっていう」

ニート「4月になったら学術センターの相談役として」

ニート「お前の悩みを親身になって聞いてやるっていう」

男「てめー……」

ニート「時に男、今日俺がお前に会いに来たのは」

ニート「お前の今年の運勢を占ってやるためだっていう」

ニート「去年、お前のリクエストに応えることができなかったから」

ニート「気にかかっていたっていう」


男「別に占って欲しくなんかねーし」

ニート「では早速占ってやるっていう」

男「おい、てめー、人の話し聞いてんのか!」

ニート「……!」

ニート「早速見えたっていう」

ニート「お前の今年の運勢はずばり大凶だっていう」

男「……知ってました」


男「言いたいことはそれだけか?」

男「俺はもういくぞ」

ニート「男、お前は相変わらずせっかちだなっていう」

ニート「男、一つだけアドバイスしておくっていう」

ニート「終わりよければすべてよしだっていう」

男「……?」

男「意味わかんねーし……」


ニート「とても深い言葉だっていう」

ニート「ちなみにこのフレーズで今年の流行語大賞を狙っているからそこんとこよろしくっていう」

男「おい」

ニート「じゃあな、男っていう」

ニート「また逢う日までさらばだっていう」

ホワン、ホワン、ホワン、ホワン


バサッ

男「……」

男「……うーん」

男「何か最近変な夢ばっか見るな……」


翌週、女の通う大学……

ザワザワ、ザワザワ

女「……」

茶髪の男「よっ、女、おつかれさん」

女「先輩……おつかれさまです」

茶髪の男「悪いんだけどさ、お願いがあるんだ」

女「……はい、何ですか?」


茶髪の男「前回のこのゼミのノート取ってたら写させてもらいたいんだけど」

女「ノートですか? いいですよー」

ササッ

茶髪の男「サンキュ、女」

茶髪の男「お前しか頼れる奴がいないんだよ」

茶髪の男「見ての通り、あいつらはもう就職が決まって単位も揃ってて遊ぶことしか考えてねーからな」

女「あはっ、そーですか?」


茶髪の男の友人達「おい、茶髪の男、今なんか言ったか?」

茶髪の男「ははっ、何も言ってねーよ」

茶髪の男「……っと、それとさ、女」

茶髪の男「実は別件でお前に話したいことがあるんだ」

茶髪の男「もし時間があったら、この後少し付き合ってくれないか?」

女「……」


スタスタ

茶髪の男の友人A「おい、茶髪の男、女を口説こうとしてるのか?」

茶髪の男の友人A「残念ながら女には彼氏がいるんだぜ」

茶髪の男の友人A「しかも、東大医学部だ」

茶髪の男の友人A「お前に勝ち目はねーって」

茶髪の男「知ってるっつーの」

茶髪の男「うるせーよ、お前ら」


茶髪の男の友人B「女、気を付けた方がいいぜ」

茶髪の男の友人B「嫌なら断ってもいいんだからな」

茶髪の男「お前らはあっちいってろっつーの」

茶髪の男の友人B「はいよー」

スタスタ

女「……」

茶髪の男「女、別に無理にとは言わない」

茶髪の男「あいつらが言ってたように嫌なら断ってくれてもいいんだ」

女「……分かりました、いいですよ、先輩」


人気のない大学の構内……

テクテク、テクテク

茶髪の男「しかし、お前は偉いな、いつもちゃんと講義を受けてて」

茶髪の男「成績もかなりいいんだろ?」

女「全然、そんなことないです」

茶髪の男「高校の時から勉強は好きだったの?」

女「まー、それなりに」

茶髪の男「ふーん」


茶髪の男「確か、女の彼氏も同じ高校だったんだよな」

女「はい、そうです」

茶髪の男「彼氏さんはずっと校内1位だったの?」

女「いや、そうでもないですよー」

茶髪の男「ふーん、じゃあ、彼氏は結構努力派のくちなんだ?」

女「あはっ、まあそうですねー」

茶髪の男「……」

女「……」


茶髪の男「ところで先週の話しなんだけどさ……」

女「はい」

茶髪の男「俺、就職先の内定式があったんだ」

女「へー、どんな感じでしたか?」

茶髪の男「結構変わった奴が多かったな」

茶髪の男「まあ、俺も変わってるのかもしんないけど」

茶髪の男「ああいう業界だからかな」


女「そうなんですかー」

女「すみません、先輩ってどこに就職するんでしたっけ?」

茶髪の男「ん……」

茶髪の男「まー、アパレル業界みたいなところかな」

茶髪の男「企業というより業界に就職するみたいな感じで」

女「へー、そうなんですか」


茶髪の男「でさっ、内定式の時、いきなり海外行けって言われたんだ」

女「海外ですか?」

茶髪の男「そう、来年の4月からニューヨークに行けって」

女「へー、すごいですね、先輩」

茶髪の男「ああ」

茶髪の男「最初言われた時はすげー驚いたんだけど」

茶髪の男「今はすげー楽しみになってる」


茶髪の男「俺、海外にも行ったことがないからさ」

茶髪の男「不安でもあるんだけどな」

茶髪の男「女は海外とか行ったことあんの?」

女「はい、まー」

茶髪の男「へー、どこ行った?」

女「スウェーデンとかスイスとかです」


茶髪の男「ふーん、渋いところ行ってんなー」

茶髪の男「彼氏さんと一緒に行ったの?」

女「はい、そうです」

茶髪の男「そうか……」

女「……」


茶髪の男「女……」

茶髪の男「1つだけお前にお願いがあるんだ」

茶髪の男「俺の話、聞いてくれるか?」

女「……はい」

茶髪の男「そうか、ありがとう、女」

茶髪の男「実はな……」


一方、その頃男は……

プシュッ、ゴクゴク

男「……!」

男「ブッ」

男(ん゛……このジュース……賞味期限が切れてやがる……)


茶髪の男と女……

茶髪の男「……ということなんだ」

茶髪の男「突然の話しで驚いたか?」

女「……いえ」

茶髪の男「そうか、流石は女だな」


茶髪の男「じゃあ、女、お前に聞く」

茶髪の男「今言った俺の願い……聞き入れてくれるか?」

女「……はい、分かりました」

茶髪の男「そうか、ありがとう」

女「でも、1つだけ条件があります」

茶髪の男「条件?」

女「はい……」


一方、その頃男は……

カチャカチャ、カチャカチャ、プツン

男「ん?」

男「なんじゃこりゃ」

男「パソコン画面が……ブルースクリーンに……」


男「まさか……」

男「ハードディスク壊れた!?」

プチッ

男(パソコン……起動しねー……)

男(うーん……)

男(俺の論文が……)


茶髪の男と女……

茶髪の男「……分かった」

茶髪の男「お前の条件、飲もう」

茶髪の男「だが、何でそんな条件を?」

茶髪の男「俺の提案の方がいいように思えるけどな」

女「寂しいからです」

女「例え一時のことだとしても……」

茶髪の男「そうか……お前の言うことも分かる気がする」

茶髪の男「分かった、女、お前の望む通りにしよう」


翌日、東応大学構内……

スタスタ

男「……んっ?」

男「おっす、医学部女」

医学部女「ん、男くんか」

男「隣座ってもいいか?」

医学部女「あら、わざわざ断りを入れるなんてっ」

医学部女「あなたと私の仲じゃない?」

男「医学部女、そういう言い方はやめろ」


パタッ

医学部女「ん? どうしたの?」

医学部女「なんだか浮かない顔をしているじゃない」

男「うーん……」

男「実は昨日パソコンが壊れてさ」

男「論文のデータがすべて消えちゃったかもしんねー」


医学部女「バックアップのデータは取っていなかったの?」

男「そんな面倒くさいことはしねー」

医学部女「ばかねえ」

医学部女「書き直す方がよっぽど面倒くさいじゃない」

男「うーん」

男「まー今後は気を付けますわ」


男「うーん、しかし」

男「今度幼女先生に会った時に論文の進捗状況を報告したら」

男「きっと怒られんだろうなー」

医学部女「ふふっ、そんなことを気にしているわけ?」

男「お前はまだ知らないかも知れないけどな」

男「幼女ちゃんはとっても怖いんだぞ」

医学部女「ふーん、そうなんだ」


医学部女「男くんが幼女ちゃんの前でたじたじになっている所……」

医学部女「すごく見たくなってきたなー」

男「お前はまたそういうことを言い出す……」

医学部女「ふふっ、ところで、その幼女ちゃんなんだけどね」

医学部女「この前会った時に動物園に行ってみたいって言ってたの」

男「動物園?」

医学部女「うん、そうよ」


医学部女「まだ物心ついてから行ったことがないんだって」

男「へー……っていうか」

男「そもそも幼女先生はまだ物心ついてから何年も経っていないがな……」

医学部女「ふふっ、そうね」

医学部女「それで今週末に幼女ちゃんと一緒に東応動物園に行くことにしたんだけど」

医学部女「当然男くんも来るわよね?」


男「へい……その誘いは断れませんな……色々な意味で」

医学部女「それ、どういう意味ー?」

男「別に深い意味はない」

医学部女「まあ、いいわ」

医学部女「あとは……女さんも誘っておいてね」

男「何だよ、お前仲いいんだからお前が誘えばいいじゃん」

医学部女「何言ってんのよ」

医学部女「あなたが誘えば女さんは喜ぶんだから」

医学部女「そういう所、疎くなっちゃダメよ」

男「……へい、分かりやした」


その日の夜……

プルルルルルッ、プルルルルルッ、プルッ

女「はい」

男「ん、女か」

女「うん」

男「お前、今週末、暇か?」

女「今週末……ゴメン、ちょっと予定が入ってるんだ」

男「ふーん、そうか……」


女「何かあるの?」

男「いや、幼女ちゃんが動物園に行きたいって言ってるみたいで」

男「医学部女も一緒に来るって言ってるからお前もどうかなって声かけただけ」

女「ふーん、そうなんだー」

女「私も一緒に行きたいけど、今回はちょっと無理そう」

男「へい、分かりやしたよ」


男「医学部女が結構気にかけてたから、医学部女にはよろしく伝えておきますわ」

女「うん、あんがと、男」

男「ああ、じゃあな、女」

女「うん、おやすみー」

プツッ、ツー、ツー

……


週末……

ザワザワ、ザワザワ

男(……うーん、動物園に行くなんて10年ぶりくらいかな……)

男(……さすがに親子連れが多いな)

男(……しかし幼女先生に会うのは少し気が重いな)

男(……論文さえなければもう少し心晴れやかな休日になったかも知れないが……)


テクテク

幼女「おにーちゃーん、お待たせ」

男「ん、おいでなさいましたな、幼女先生」

医学部女「おはよう、男くん」

男「おっす、医学部女」

男「それじゃあ、早速行きますか」

幼女「おにーちゃん、動物園には行かないよ」

男「え゛っ、何で?」

幼女「水族館に行くから」

幼女「わたし、動物よりも魚類の方が好きなの」

男「へい……さいでしたか」


水族館……

幼女「わー、見て見てー、あの魚すごーい」

幼女「あんなに口が大きく開くなんてすごーい」

医学部女「ふふっ、本当ね」

医学部女「でも、あの魚、実は肉食じゃないのよ」

幼女「えー、そうなのー」

医学部女「そうなのよ、幼女ちゃん」


医学部女「ああやって大きく口を開けることで海中のプランクトンを口の中に頬張っているのよ」

幼女「ふーん、なるほどねー」

幼女「かわいいね」

医学部女「そうね、とてもキュートね」

男「……そうか? どの辺が?」

医学部女「あらっ、男くんにはあの魚の可愛らしさが分からない?」

男「まったく分からん」


医学部女「そう、どうやらおにーちゃんには理解できないみたいよ、幼女ちゃん」

幼女「おにーちゃん、まだまだだね」

幼女「女心のなんたるかをおにーちゃんはまだ何も分かっていない」

男「いや、女心と言われましても……」

幼女「ところで論文の進み具合はどう? おにーちゃん」

男「うっ、突然来るんすね、先生」


男「鋭意、執筆中です」

幼女「そういう官僚的な言い方はいらないの」

幼女「どこまで進んだのかを答えなさい」

男「うっ……」

男「……一応、1本目の論文の半分くらいまで進みやした」

幼女「えー、まだ1本目を書いてるの?」

幼女「書くの遅すぎるよ、おにーちゃん」


男「いや、一応寝る間も惜しんで頑張っているんですが……」

幼女「そもそも1本目の論文のネタは私があげたものじゃん」

男「いや、でも最先端の理論物理学は流石に守備範囲じゃないんで……」

幼女「そんなのは関係ない」

男「いや、そうは言われましても……」

男「できればもう少しソフトなネタが欲しいのですが……」


幼女「そんなないものねだりしてもダメー」

幼女「そもそも今回は時間がないから」

幼女「実験結果に基づく論文は書けないの」

幼女「だから必然的に理論で書くしかなくなる」

幼女「その位、おにーちゃんなら分かるでしょ?」

男「いや、でも理論にもピンからキリまであるわけで……」


幼女「おにーちゃん、はっきり言うけど」

幼女「あの位の理論なら手玉にとって扱う位じゃないとこの先やっていけないよ」

幼女「学術センターには世界中からその道のスペシャリストが集まってくるんだからね」

男「うっ……」

男「相変わらず先生は手厳しいっすな……って」

男「何笑ってんだ、医学部女」


医学部女「ふふっ、ふふふ……ごめんなさい」

医学部女「二人のやりとりが面白くって」

医学部女「……男くん」

男「へい、なんでしょうか?」

医学部女「萌えたわ」

男「何に?」

医学部女「あなたに決まってるでしょ!」


医学部女「さすが私が見込んだ男の人」

医学部女「わたしの中の母性本能が……」

医学部女「激しく掻き立てられる……」

男「お前はまた……」

幼女「おにーちゃん、ちょっとトイレ行ってくる」

男「あ、ああ、分かったよ、幼女ちゃん」


テクテク

医学部女「……」

医学部女「そう言えば女さんは来れなかったんだ」

男「ああ、そうだよ」

医学部女「理由は聞いた?」

男「いや、聞いてないけど」

医学部女「聞かなかったの?」

男「ん? ああ、そうだな」


男「別に聞くような感じでもなかったし」

医学部女「ふーん、淡白ねー」

男「……何が?」

医学部女「もうちょっと男女の駆け引きを楽しみなさい、男くん!」

医学部女「もっと女さんのことを問い詰めるのよ」

医学部女「もちろん、直接的にではなくそれとなくね」

男「……何で?」


医学部女「嬉しいからよ」

医学部女「断った時に相手にあっさり退かれたらまるで自分がどうでもいいみたいに感じちゃうでしょ?」

医学部女「表面上は退けているようでも実は心の中では求めているときもあるのよ」

男「ふーん、よう分からんな……」

男「俺が面倒くさがり屋のせいか?」

医学部女「ふふっ、さー、それはどうでしょう?」


医学部女「……!」

医学部女(ヒソヒソ)「男くん!」

男「うん? 何だよ、医学部女」

医学部女(ヒソヒソ)「たいへん!」

男「何が?」

医学部女「ほら、あれ」

医学部女「女さん発見!」

男「……」


医学部女「一緒にいる茶髪のチャラ男は誰?」

医学部女「男くん、知っている人?」

男「さー、知らんな」

医学部女「……行っちゃうよ、男くん」

医学部女「追いかけないの?」

男「何で?」


医学部女「あなたねー」

医学部女「嫉妬するとかそういう感情は生まれてこないわけ?」

男「別に嫉妬する必要もないだろ?」

男「あの男だって女の大学の友達かも知れないし」

医学部女「それは女さんが自分の彼女だってことからくる余裕?」

男「余裕とかそういうのでもないが……」

医学部女「ふーん……」


医学部女「ねー、男くんはさ」

医学部女「女さんとちゃんとセックスしてるの?」

男「え゛、おまっ、何を突然……」

男「なんでそんなことお前に……」

医学部女「ふふっ、ちょっと聞いてみただけよ」

医学部女「心がつながっているつもりでも、身体で確かめてみないと分からない時もあるから」

医学部女「まあ、女さんと男くんの場合は大丈夫なのかなーっ」

医学部女「一応、ご忠告までに」

男「……へい、忠告サンクス」


その日の夜……

カチャカチャ、カチャカチャ

男(……ふー、だいぶ仕上がってきた)

男(チラリ)「……」

男(11時か……)

男(ちょっと女にメールでも送ってみるか……)


カチャカチャ、カチャカチャ、ピッ

男(よし、そしたらもうひと頑張り……)

ブルブルブル、ブルブルブル

男(はやっ!)

男(女からの返信かな……)

カチャ、ピッ

男「なんじゃこりゃ……」


男(送信エラーのメール……)

男(送信先は確かに女のアドレスだったはず……)

男(……もう一度送ってみるか?)

カチャカチャ、カチャカチャ、ピッ

男(……)


ブルブルブル、ブルブルブル

男(……!)

カチャ、ピッ

男(またエラーメール……)

男「あいつ、アドレス変えたのか……?」

男(電話……してみっか……)


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、トゥルルルルー、トゥルルルルー、カチャ

男「ん、女……」

電話の声「お客様のおかけになった電話番号は現在使われておりません……」

男(……)

スッ、ピッ

男(……)

男(……なぜ?)


男(……女の電話が壊れた?)

男(……いや、違う)

男(メールアドレスと電話番号が変わっているというのは……)

男(……)

男(……なぜ俺に教えてくれない?)

男(……俺は遠ざけられているのか?)

男(いや、何か事情があるはず……)

男(……昼の男が絡んでいるのか……?)

男(……うーん)

男(……一体どうすりゃいいんだ……)


翌日の朝……

チュンチュン、チュンチュン

男「朝か……」

男「ほとんど眠れんかった……」

男「……」

……


タッ、タッ、タッ、タッ

男「かーちゃん、ちょっと出かけてくるから」

男の母「いってらっしゃーい、どこへ?」

男「女のところ」

男の母「うん? 女?」

バタン


女の家の前……

男(やべえ、何か心臓がドキドキしてきた……)

男(何かちょっと怖えー……)

男(あいつ、いるのかな……)

男(……大丈夫)

男(きっと何事もないはずだ……)


ピンポーン

インターホンの声「はい」

男「あの、女いますか?」

インターホンの声「女? うちにはそんな子はいませんが」

男「えっ?」

インターホンの声「失礼ですが、どちら様?」

男「男です」

インターホンの声「ああ、男くんか」


インターホンの声「一体どうしたの? 家を間違えているんじゃない?」

男「いえ、そんなはずは……」

インターホンの声「……どうしたの?」

男「……いえ、何でもありません」

男「間違えたみたいなんで……すみません、失礼します」

インターホンの声「ちょっと、男くん?」

……


テクテク

男(……女の存在が消えている?)

男(前の俺と同じようなことが……?)

男(だとしたら……)

男(ニートの野郎がまた何かしやがったのか……?)

男(こうなったらニートを探すしかないか……)

男(でも手がかりが……)

男(……)

……


バタン

男「……ただいまー」

男の母「おかえりなさーい」

男の母「ちょっと、あんたどこ行ってたのよ?」

男の母「女って誰?」

男の母「母さん初耳なんだけど」

男「コンビニに行ってただけだよ」

男「聞き間違いだろ、かーちゃん」

男の母「ちょっと、男」


男の部屋……

男「……」

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、トゥルルルルー、トゥルルルルー、カチャ

医学部女「はい、もしもし」

男「……医学部女か?」

医学部女「そうだけど……どうかしたの?」

医学部女「随分深刻そうな感じだけど」

男「お前に聞きたいことがある」

医学部女「うん? 何かしら?」


男「お前、女を知っているか?」

医学部女「男くん、何? その質問は?」

医学部女「わたしに何かかまをかけようとでもしているわけ?」

男「変な質問をされていると思うかも知れないが」

男「そのまま答えてくれないか?」

医学部女「女って……女さんのことでしょ?」

男「お前、覚えているんだな? 女のことを……」


医学部女「覚えているって……」

医学部女「女さんとの間で何かあったの?」

医学部女「まさか、昨日のこととかで?」

男「医学部女……話せば長くなるんだが……」

医学部女「ちょっと待って、男くん」

医学部女「今からそっち行くから」

男「え゛っ」


医学部女「前に約束したでしょ?」

医学部女「トラブルが起きた時は共通の友人として相談にのってあげるって」

医学部女「それに電話で話すような話でもなさそうだしね」

男「へい」


1時間後……

バタン

医学部女「失礼しまーす」

男「おう、医学部女」

男「汚い家だけど上がってくれ」

男の母「……こんにちは」

医学部女「こんにちは」


男の母(ヒソヒソ)「ちょっと、男、突然何よ!」

男の母(ヒソヒソ)「あんたが女の人を家に連れてくるなんて」

男の母(ヒソヒソ)「こちらの綺麗なお嬢さんは一体誰なの?」

男の母(ヒソヒソ)「まさかあなたの……」

医学部女「ふふっ、突然お邪魔してすみません、おばさま」

医学部女「男くんの大学の同期の医学部女と申します」

医学部女「今日は男くんに勉強を教えてもらいに来ました」


男の母「あら、おほほほほほ、男の母と申します」

男の母「すごく綺麗なお嬢さんがお見えになったものだから驚いちゃって」

男の母「本当に汚い家ですみませんね」

男の母「男、ちゃんと部屋は片づけたの?」

男「別にへーきだよ、かーちゃん」

男の母「平気なわけないでしょ! もー本当にみっともないんだから」


医学部女「おばさま、お気になさらずに」

医学部女「私は全然気にしないんで」

男の母「まー、そうですの? おほほほほほほ、本当によくできたお嬢さんで」

男「へい、じゃあ、医学部女、こっち」

医学部女「うん」

男の母「今、お茶入れて持っていきますね」

男「かーちゃん、面倒くさいからほっといてくれ」

医学部女「あばさま、ありがとうございます」

医学部女「お気持ちだけ頂戴しておきます」

男の母「あら……そう?」

……


パタッ

医学部女「ふーん、意外と綺麗に片付いているじゃない」

医学部女「ここに座ってもいい?」

男「へい、ご自由に」

医学部女「よいしょっと」

男「おい、医学部女……」

男「先ずお前に初めに聞きたいことがある……」

医学部女「……?」


男「お前は……女か?」

医学部女「……!」

医学部女「……あはっ、そだよ、男」

男「お、おまえっ……」

医学部女「って、嘘よ」

医学部女「どうしたの? 男くん」

医学部女「一体女さんはどうしたっていうの?」


男「……てめー、変な演技しやがって」

医学部女「怒らないでよ、男くん」

医学部女「わたしもまだ状況がよく呑み込めてないんだから」

男「……」


スッ

男「今から俺が話すことはすべて真実だ」

男「脚色は一切ない」

男「そういう前提で聞いてくれ」

医学部女「……うん、わかったわ」

男「医学部女……」

男「結論から端的に言うと……」

男「女はこの世からその存在が消えた」

医学部女「……ふーん」

医学部女「興味深い話が聞けそうね」

男「……ああ、そうだな」

(つづく)

女の霊圧が・・・消えた?!

おつ

まだー?

>>838 >>839 サンクス


1時間後……

チクタク、チクタク

男「……ということだ」

医学部女「ふーん……」

医学部女「ということはそのニートっていう人が神様であって」

医学部女「今回の件に絡んでいるって踏んでいるわけね?」

男「ああ、そうなる」


男「だが、奴は神出鬼没でどこにいるかが分からない」

男「探し出そうにも手がかりがないのが現状だな……」

医学部女「ちなみにさ、男くん」

医学部女「さっき話してくれたロシアでの出来事でニートは神ではなくなったんでしょ?」

医学部女「その状態でも以前と同じ様な力が残っているということ?」

男「さー、それは分からんが」

男「この前もあいつが操っている夢を見させられたし」

男「神としての特殊な力を依然として持っているのは間違いないと思う」

医学部女「ふーん、夢ねえ……」


医学部女「どんな夢だったの?」

男「何か色々と暗示するようなことを言っていたんだが……」

男「……そういえばあいつ、陶芸家を目指すって言ってたな」

医学部女「陶芸家?」

男「ああ、あいつは何考えているかわかんねー奴だが」

男「ウソはつかねー奴だから本当に陶芸家やってるかもしんねー」

医学部女「ふーん……」


男「医学部女、陶芸が有名な所ってどこだ?」

男「伊万里とか備前とか?」

医学部女「男くん、手がかりを探すんなら順番が違うよ」

男「ん……どういうこと?」

医学部女「もっと真実に近い人物が他にいるってこと」

男「それは……誰?」


医学部女「茶髪の男……ほら、女さんと一緒にいた」

男「ああ、あの男か……」

男「ただの友達だったんじゃねーか」

男「今回の件は人間の力でどうこうできることじゃねーし」

医学部女「それはどうかしら」


男「お前、やけに自信ありげだな」

男「なんでそう思うわけ?」

医学部女「ふふっ、女の勘よ」

男「へい、さいですか」

男「でも、どうやって奴の居場所を突き止めるんだ?」

医学部女「そうねえ、とりあえず明日女さんが通っていた大学に行ってみましょうか」

医学部女「女さんの学部の人に聞けば何か情報は得られるでしょっ」

男「へい……」


翌日、女の通っていた大学……

テクテク、テクテク

男「おい、何かさっきからチラチラと視線がこっちに向けられている気がするんだが……」

医学部女「きっと私のことを見ているんでしょ」

医学部女「テレビのクイズ番組で優勝して一躍有名人になっちゃったからね」

男「うーん、まあ確かにそう言われればそうかもな」


男「有名人になると大変だな」

男「周囲の注目を集めることになって気が休まる時がなくなるんじゃないか?」

医学部女「そうねえ」

医学部女「人によるかも知れないけど、わたしの場合は違うわ」

医学部女「男性諸君の視線を集めることに悦びを感じるからね」

男「へい、そうっすか」

男「お前のその性格は芸能人向きなのかも知れないな」

医学部女「ふふっ、そうね」

……


男「ん、ここかな……女の学部は」

男「どうする? 医学部女」

医学部女「うーん……ちょっとあそこの男子グループに聞いて来るわ」

医学部女「ちょっと待ってて」

男「へい」


15分後……

スタスタ

医学部女「お待たせ、男くん」

男「ああ……」

男「また随分と長話しをしていたな」

医学部女「ふふっ、質問攻めにあっちゃってね」


医学部女「でも、茶髪の男の居場所が分かったわ」

医学部女「この住所のアパートの2階に住んでいるんだって」

医学部女「聞いた話ではいつも月曜日は大学に来ているらしいけど」

医学部女「今日は珍しく来ていないとのこと」

男「そうか……」


茶髪の男の家近辺……

テクテク

男「……このアパートか?」

医学部女「そうね、郵便受けに茶髪の男の名前がある」

男「2階か……」


カツカツ、カツカツ

男「……茶髪の男」

男「ここだな」

男「インターホン押すぞ、医学部女」

医学部女「うん」

ピンポーン

男「……」

医学部女「……」

男「留守か?」


ピンポーン、ガチャ

茶髪の男「……はい」

男「……!」

医学部女「……」

男「……茶髪の男さんですね」

茶髪の男「はい、そうですけど、どちらさん?」

男「女の知り合いです」

バタン


男「くそっ、野郎ー」

ガチャガチャ、バタン、ダダダダッ

男「てめー、待て!」

茶髪の男「……」ダッ、ビュン

男(ダダッ)「……窓かっ」ビュン


ダダダダダダダッ

茶髪の男「……」

男「……」

茶髪の男「……」

タッタッタッタッタッタッタッ

茶髪の男(クルリッ)「……」

茶髪の男(ニヤリ)「……」

ダッ、ビュン

男「待て!」

ダッ


男「……!」

男「……ここは」

男(高台の頂上……)

男(……奴はここから飛び降りたっていうのか?)

クルリッ、クルリッ

男(でも奴の姿はどこにもない……)

男(一体どういうことだ……)

男(奴は一体どこへ……)


5分後……

バタンッ

医学部女「……!」

男「……」

医学部女「……逃げられたみたいね」

男「ああ……」


医学部女「男くん、これ」

男「ん、それはひょっとして……」

医学部女「そう、女さんの携帯」

男「っていうことはやっぱりあの男が何かを……」

医学部女「そうねえ……」

医学部女「とりあえず分かったのは」

医学部女「あの男も女さんのことを覚えているっていうことね」

男「……そうなるな」


クルリッ

医学部女「ねえ、男くん」

男「うん? 何?」

医学部女「何であの男は逃げたのかしら」

男「えっ……そりゃ女について俺たちが問い詰めようとしたからだろ?」

医学部女「そうね……」


医学部女「でも腑に落ちない点もある」

男「何が?」

医学部女「不思議なのはあまりにもあの男の行動が行き当たりばったりな所」

医学部女「この部屋を見る限り何かに備えて逃げる準備などはしていなかったように思えるわ」

医学部女「こんな大事なものもほっぽり出してあった訳だしね」

男「女の携帯か?」

医学部女「そう」

医学部女「それと……これを見て」


ガチャ

男「……冷蔵庫?」

男「空っぽじゃねーか」

医学部女「そう、空っぽの冷蔵庫」

医学部女「干しかけの洗濯物、読みかけの雑誌、袋に溜まっているゴミ……」

医学部女「これだけ生活感のある部屋の中で明らかに不自然だと思わない?」

男「ああ、そうだな」

医学部女「男くんはどう思う?」ニヤリ

男「……お前はもう結論は出ているみたいだな」

医学部女「ええ、そうね」

男「……」


ガサガサ

男「冷蔵庫だけではまだ確実なことは言えなかったかも知れないが」

男「ゴミの中身を見れば一目瞭然だな」

医学部女「……」

男「この部屋の中には食に関する痕跡が一切ない」

男「つまり奴は……」

男「飲み食いをしなくても生きていられる奴ってことだ」

医学部女「ふふっ、ちなみに男くん」

医学部女「ニートはどうだったの?」

男「えっ? ニートか?」


男「そう言えばあんまり気にしたことなかったな」

男「時々一緒に飯を食うことはあったけど」

男「自分から食事をとろうとしているところは見たことがないかもな」

医学部女「そう……」

男「……」

男「しかしこれでまた手がかりがなくなっちまったな」

医学部女「……」

男「茶髪の男はもうこの部屋には戻ってこないだろうしな」

医学部女「そうね……」


その日の夕方……

バタン、スタスタ

男「ただいま」

男の母「あ、男、おかえり」

男の母「ちょっと、ちょっと、こっち」

男の母「ちょうどいまいい所よ」

男「何が?」


男の母「ほら早くこっちに来なさい!」

男「何?」

男の母「ほら、見て、これ」

男「……!」

……


レポーター「しかし、この不思議な色合いと艶……」

レポーター「見れば見る程に深みが出てくる感じがします」

レポーター「飾られている艶やかな花よりもこの花瓶の方に思わず目が行ってしまいます」

レポーター「流石は人間国宝が丹精込めて作り上げた一品」

レポーター「素晴らしいの一言に尽きます」

ニート「サンクスベリーマッチっていう」

ニート「お前、中々見る目があるなっていう」

ニート「お前になら特別に俺の作品を半額で売ってやってもいいっていう」


レポーター「えええっ、それは本当ですか?」

レポーター「でも半額といってもニート先生の作品ですし結構なお値段がするのでは?」

ニート「そんなことないっていう」

ニート「この幸せを呼び寄せる花瓶、今なら特別価格で1000万円で譲ってやってもいいっていう」

ニート「しかも今買うともれなく同じものがもうひとつ付いて来るっていう」

レポーター「そ、それは……」

レポーター「って、お前は悪徳通販の詐欺師か!」

……


男(……なんだ、この茶番劇は)

男の母「私も欲しいわあー」

男「……おい、かーちゃん」

男の母「ニート先生、実は人間国宝の陶芸家だったのねー」

男の母「こんな先生に教えてもらってたなんて本当にあんたは幸せ者ねー」

男「かーちゃん、これ、どこの映像?」

男の母「うーんと、確か北海道の稚内だったかしら?」

男の母「北の大地が生んだ孤高の天才陶芸家ニートってふれ込みだしね」

男「……」


男「かーちゃん、俺、稚内行ってくるから」

男の母「何よ、急に!」

男の母「ニート先生に会いに行くの?」

男の母「だったらかーさんも一緒に行きたいわあ―」

男「かーちゃん、遊びに行くわけじゃねーから」

男「じゃあな」

男の母「ちょっと、男!」

……


ピッ、ピッ、ピッ、トゥルルルル、トゥルルルルル、カチャ

医学部女「はい」

男「医学部女、ニートの居場所が分かった」

医学部女「本当! どこなの?」

男「稚内だ」

医学部女「稚内? また随分すごい所にいるのね」

男「ああ、で今から俺は稚内に向かう」

医学部女「了解。わたしも一緒に行くわ」

男「ああ……分かった」

(つづく)

otu
鬱endはやめてくれよ

>>872-876 サンクス


翌日、稚内……

ビュー、ビュー

男「……さぶっ」

医学部女「よもやの悪天候ね」

医学部女「わたしたちの先行きを暗示しているのかしら」

男「と、とにかく、く、ニートのの野郎を探さないと、な」

医学部女「声が震えてるわよ、男くん」

医学部女「随分寒そうね」

男「寒いの、苦手なん……だ」

医学部女「仕方ないわね」

医学部女「取りあえず駅舎の中で情報収集をしましょうか」


駅舎の中……

男「……なんだ、これは」

男「『ようこそ、陶芸家ニートのふるさとへ』……だと?」

男「あの野郎、いつの間に稚内の住民になりやがったんだ」

医学部女「ふふっ、中々面白いことになっているわね」

医学部女「でもこの分なら、情報収集はすぐできそうね」


スタスタ、スタスタ

男「ん、あの怪しい骨董品屋は……」

医学部女「どうやらニートの陶芸品の即売所みたいね」

医学部女「ちょっと話だけでも聞いていきましょうか」

スタスタ

医学部女「ちょっとおにーさん、よろしいかしら?」

店の男「……!」

店の男「よっ、これはべっぴんさん、稚内へ旅行ですかい?」

医学部女「ええ、まあそんなところかしら」


店の男「でしたら旅の土産に人間国宝ニートの陶芸品はいかがですか?」

店の男「姉さんでしたら特別サービスで勉強させて頂きますぜ」

男「……っていうかどれも500万円以上するじゃねーか」

男「駅舎の中でなんて商売してやがるんだ……」

医学部女「おにーさん、手持ちがないから買い物はできないけど教えて欲しいことがあるの」

店の男「はい、何でしょう?」


医学部女「陶芸家ニートに会いたいんだけれどどうすればいいかしら?」

店の男「それでしたら送迎バスが走っておりますのでそちらをご利用すれば簡単な話です」

店の男「この時間帯でしたらまだ空いていると思いますよ」

医学部女「分かったわ。ありがとう、おにーさん」

店の男「へい。またのお越しをー」


スタスタ、スタスタ

店の男(チラリ)「……」

店の男(ボソッ)「……一体どういうことだ?」


30分後……

ブルルルルルッ

男「やっと着いたか……」

男「しかし寒い……」

男「あと5分ここにいたら俺は凍死する」

医学部女「ふふっ」

医学部女「ミュージアムに陶芸場に展示場……」

医学部女「一通りのものは揃っている観光スポットの様な感じね」

医学部女「とりあえず建物の中に入ってみましょうか」

男「へい」


ミュージアムの中……

男「……何だかなー」

男「『巨匠ニートの生い立ち』って……」

男「『生まれながらにして史上最高の匠となることを運命づけられた男』……」

男「『恵まれた環境を自ら離れ、孤高の生活の中でその技に極限まで磨きをかけた』……」

男「『そして今、その完成された技と共にこの最北の地稚内に再びその姿を現した』……か」


医学部女「ふーん……」

医学部女「ニートって一体どんな人なのかしら?」

医学部女「興味が湧くわ」

男「どうしようもないひねくれ者さ」

医学部女「ふーん……そう」


男「しかし、こんな茶碗が3000万円とは……」

男「俺でも作れそうじゃないか……」

ニート「お前じゃ無理だっていう」

医学部女「……!」

男「……てめー、現れやがったな」


ニート「母なる北の大地へようこそっていう」

ニート「ゆっくり観光をしていけばいいっていう」

ニート「ちなみに流氷クルーズが俺のお勧めだっていう」

男「てめー」


ニート「時にそちらの女は初めて会うなっていう」

医学部女「わたしは医学部女」

医学部女「男くんの大学の同期よ」

医学部女「よろしく、ニート」

ニート「ああ、こちらこそよろしくっていう」


ニート「ところでお前たちは何をしにここまできたんだっていう」

ニート「学術センター開設前の忙しい時期にのんびり二人旅でもしているのかっていう」

医学部女「ニート、もう分かっているかも知れないけど」

医学部女「実はあなたに聞きたいことがあって私たちはここまで来たのよ」

ニート「……」


医学部女「単刀直入に聞くわ」

医学部女「女さんの存在が消えたの……この世界から」

医学部女「ニート、あなたは今回の件に関わっている?」

ニート「……」

男「関わっているに決まってるだろ」


男「おいニート、女をどこへやったんだ!」

ニート「俺は何も知らないっていう」

男「てめー……」

男「女の存在が消えている……以前の俺のように」

男「そしてほんの一部の人間にだけ女の記憶は残っている」

男「人間ではどうこうできることじゃない」

男「お前、一体何をした!」

ニート「お前は何かを勘違いしているっていう」

ニート「俺は何もしていないっていう」

男「てめー……」


医学部女「……」

医学部女「じゃあ質問を変えるわ、ニート」

医学部女「最近女さんにまとわりついていた男がいるの」

医学部女「女さんの学部の先輩で金髪の男」

医学部女「その男のことはあなたはご存知?」

ニート「……」

ニート「……さあなっていう」

男「……」


クルリッ

ニート「俺はとても忙しいっていう」

ニート「これ以上無意味なやりとりを続けるのは御免だっていう」

ニート「何か聞きたいことがあったらあとはこのミュージアムの係員にでも聞いてくれっていう」

ニート「じゃあなっていう」

男「おい、ちょっと待ちやがれ!」

医学部女「……」


医学部女「待って」

医学部女「ニート、最後にひとつだけ教えて」

ニート「……」

医学部女「女さんは『無事』なのかしら?」

ニート「……」


ニート「……さあなっていう」

ニート「俺は何も知らないっていう」

ニート「じゃあなっていう」

スタスタ

男「おい、ニート!」

医学部女「……」

……


男「結局手掛かりはなしって訳か……」

男「一体どうすりゃいいんだ……」

医学部女「……ニートは何かを知っているわね」

男「……女のことについてか?」

医学部女「ええ、そう」

医学部女「まあ尤も彼は決して口を割らないでしょうけどね」

男「あいつは偏屈な奴だからな」


男「何とか口を割らす方法を考えるか?」

医学部女「いいえ、それは無駄ね」

男「何で?」

医学部女「強い意志を感じたわ……彼の瞳に」

男「何もしゃべらないっていう?」

医学部女「そう」


医学部女「何も話しはしない……」

医学部女「もしくは話すことのできない何らかの理由があるってところかしら……」

男「……理由?」

男「……どんな?」

医学部女「うーん、それは分からないけどね」


ミュージアムの一室……

係員A「……ヨシュア様」

ニート「……何だっていう」

係員A「なぜあの二人がここに……」

ニート「さあなっていう」


係員A「……ヨシュア様」

係員A「恐らくは『奴』が今回の件に関係しているものと……」

係員A「『奴』を止めますか?」

ニート(スタッ)「……放っておけばいいっていう」

係員A「し、しかし……」

ニート「すべての責任は俺が取るっていう」

ニート「お前は何も心配する必要はないっていう」

係員A「ヨシュア様……」

係員A「……承知いたしました」

(つづく)

乙っていう

>>902-904 サンクス


1週間後、東京……

フラフラ、フラフラ

男「……」

医学部女「……」

医学部女「……ちょっと、男くん、大丈夫?」

男「うん? ああ……大丈夫だ」

医学部女「かなり疲れた顔しているけど……ちゃんと眠れてる?」

男「……いや、あんま眠れてねーな」


男「例の茶髪の男の手がかりを探そうともしているが」

男「一向に情報が掴めねー」

医学部女「ねえ、男くん」

医学部女「気持ちは分かるけどね」

医学部女「ちゃんと眠らなきゃダメよ」

医学部女「そんなんじゃ身体がもたなくなるから」

男「……へい」


建設中の学術センター……

スタスタ

医学部女「こんにちは、幼女ちゃん」

幼女「こんにちは、おねーちゃん」

医学部女「本館の方はもう殆ど完成したみたいね」

幼女「うん、そうだね」

男「……」

幼女「……」

幼女「おにーちゃん」

男「……へい、何でしょう、幼女先生」


幼女「随分ぼんやりした顔しているみたいだけど」

男「まあ、色々ありまして」

医学部女「幼女ちゃん、この前話した女さんって人の件で男くんは手一杯なの」

幼女「ふーん」

幼女「でもおにーちゃん、やることはちゃんとやらなきゃダメだよ」

幼女「どんなことが起きようとも論文はきっちり3本、期日までに書きあげてね」

男「……幼女先生」


男「俺はもう無理っす……」

男「センター長の人材は他に探してください」

幼女「……」

医学部女「男くん……」

幼女「……」

スタスタ

幼女「おにーちゃん」

幼女「それはダメだよ」

幼女「センター長のポストを辞退するなんて」

幼女「そんな勝手な真似は絶対に許さないから」


男「……」

幼女「……」

スタスタ

幼女「おにーちゃん」

幼女「大丈夫だよ」

幼女「女っていう人は必ず戻ってくる」

男「……幼女先生」