士郎「人の為に頑張ったヤツが絶望しなきゃいけないなんて間違ってる」ほむら「……」(960)

遠い昔の思い出だ。
運命を変えてしまうような出会い。
どれほど磨耗しようとも、どれほど色褪せようとも、
存在し続ける特別で大切な記憶。
心の奥底にしまい込まれた人達の姿を思い描く。

それは俺を救ってくれたヒーローの思い出だ。

「率直に言うと、僕は魔法使いなんだ」

何もかもを焼き尽くした灼熱の地獄。
そこで虫の息の俺を見つけ、目に涙をためながら喜んだ、
誰よりも正義の味方に憧れた灰色の暗殺者がいた。
子供の理想と大人の現実に苦悩し続けた彼は、
俺に魔術という武器を与え、唯一つの想いを告げた。
俺はそいつの意思を継ぐと決め、生涯変わらぬ目標を手にした。

「ああ――――安心した」

それは俺が唯一愛した頑固者の思い出だ。

「――――問おう。貴方が、私のマスターか」

真冬の肌寒さのある薄暗い土蔵の中。
朱き呪いを打ち払いながら現れ、奇蹟を手にする為に戦った
澄んだ瞳を持った金色の少女騎士。
誰よりも気高き理想を持ち、その犠牲となり続けた彼女と共に戦い、
戦場で生き残る為の術を学んだ。
その戦いは消える事のない絆として、俺の支柱となった。

「シロウ……貴方を、愛している」

少し長くなるが、もう1人の思い出を語ろうか。

―――月明かりと僅かな灯りが照らす橋での出来事だ。
煤と火薬の匂いが漂う、人気のない橋上で俺達は出会った。
風に舞う黒い長髪。
俺を見つめていた悲哀に満ちた瞳。
永遠に報われる事のない、誰よりも残酷な運命に翻弄される少女。
俺はそいつを過酷な戦いから守りたかった。
壊れそうな心を救いたかった。
光溢れる世界へと導きたかった。

故に、誓った。

彼女の敵を討つ剣となる事を。
彼女の身を守護する盾となる事を。
彼女の尊い意志を受け入れる鞘となる事を。
そして、彼女の希望を実現させる杯となる事を。

そこから始まった、俺と魔法少女との物語。
今からその始まりの物語を紐解いていこう……

>>1おつおつ
これは期待

~~はじめに~~

これはFate/stay nightの主人公・衛宮士郎が魔法少女まどか☆マギカの世界で戦うクロスssです
Fate本編のネタばれが大量にありますので、気にする人はブラウザを閉じてください
また、作品中の固有名詞も大量にありますので、希望がありましたら解説をしていきます

奈須きのこリスペクトの結果、地の文が膨大な量になっています
眠くなる可能性がありますので、程々に読み飛ばしてください

ちなみにこれが初ssとなります
未熟な部分があるので、褒めたり叩いたりして伸ばしていただければ幸いです

遅筆に加えてタイピングが遅いので、投下速度はやや遅めになるかと思われます
気が向いた時に開く程度で、気長に待っていてください

誤字や変換ミスが多くなるかもしれません
気がついた場合は訂正しますが、稀に仕様と言い張る事もあります
何せ、手本が手本なので

セイバールート後の士郎かな?
期待

>>6
期待に応えられるよう頑張ります

馴れ合い大好き人間なので、雑談は大歓迎です
また、アニメ放送中のFate/Zeroのネタばれは多分ありません

書き溜めはあまり多くありません
Zeroが始まってしまった上に、まどかの誕生日だーって事で、見切り発車しました

さて、ゆっくりと本編を始めていきます
OPにでもThis Illusionを聴いてみてください

――――――体は剣で出来ている。

血潮は鉄で、心は硝子。

幾たびの戦場を越えて不敗。

ただの一度も敗走はなく、

ただの一度も理解されない。

彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

故に、生涯に意味はなく。

その体は、きっと剣で出来ていた。

ひゅうという風の音が耳についた。
ここは見滝原市。
頭一つ抜けた、高層ビルの屋上に俺は居る。

「―――投影、開始(トレース、オン)」

言い慣れた呪文を唱え、虚空に弓と矢を生み出す。
目標は2km前方のビル。
視線の先には恰幅のいい中年男性。
人の僅かな幸せさえも奪い取り私腹を肥やす、
力なき庶民の敵となる男。
法で裁く事の出来ない、しかしながら断罪されるべき悪人。

弓矢を構える。
2kmという離れた点と点を結ぶ為、矢に魔力を注ぎ込む。
狙う必要はない。
あとはただ、イメージすればいいだけだ。
あの標的の眉間を貫く様子を。

「――――っ」

馬手が離れる。
想い描いたイメージ通りに矢は中り、その男は絶命した。
ビルの1室が赤い鮮血で染まり、始終を見ていた者達が慌てふためく。
しかし、そんな事は俺には関係はない。
俺の目的は、これで完了だ。
後は何事もなかったかのようにその場を去るだけだ……。

―――それまでの足跡を振り返る。

聖杯戦争が終結してからの物語だ。
色々な物や人が欠けてしまった寂しさがあったものの、穂群原学園を無事卒業。
そして魔術の鍛錬の為に、遠坂凛の弟子としてロンドンへ渡った。
執事のバイトを体験したり、遠坂を怒らせてしまって真冬のテムズ川に突き落とされたり。
なんだかんだで、新たな環境を楽しく過ごしていた。
しかし、それも1年程しか続かなかった。
きっかけは不幸な事故だったのだ。
それが原因で俺の魔術特性がばれてしまい、魔術協会から封印指定を受けてしまった。
遠坂の協力と餞別を得て、俺はロンドンを脱出した。
それからは正義の味方となるべく、理不尽な迫害を受ける人々の味方として戦うようになった。

ただ、現実は甘くなかった。

初めこそ定められた法に触れ、秩序を乱すような者を相手にしていた。
疑わしきは罰せず。
だが、これでは救われない人たちが居た。

法の隙間を掻い潜り、いつまでも裁かれない奴らが居た。
悪い人間が笑い、正しい人間が悲しむのを見てきた。

俺には我慢が出来なかった。

気がつけば、俺は全ての悪人を抹殺するようになった。
この身は正義の味方なのか、それとも悪の断罪者なのか。
今となっては、もう俺には判らない……。

今回はこの辺で終了
質問感想は随時受け付けてます

>>9
セイバールート後、何年かたった頃が舞台です
凛ルートの方が好きですが、話の都合上こっちで行きました

士郎「氏ね!ルールブレイカー!」

QB「ぎゃあ」

糸冬

フルンディング、エクスカリバーあたりならワルプル倒せそうだな
この士郎が使えるかどうかは分からないけど

ほむほむが士郎に惚れるなんていう安易な展開は無いよね?

そもそも人間なのに善っておかしくね?
中立中庸がデフォだろ

少なくともほむほむは善ではないな。まどか至上主義で、そのためなら悪とか厭わない
同じ理由で、士郎はやり直しを否定してるけど現時点でのほむほむにはだから何?だろう

第5次アーチャーというか、士郎は中立中庸のはずだけど…
それと、ほむらは目的を果たすためには手段を選ばないし(ヤクザや自衛隊から銃火器を窃盗してる)
少なくとも善じゃないと思う(中立中庸あたりか?)。

属性は行為で変化するものじゃないだろ、メガテンじゃないんだから
生前の行い反映したらアーチャーさんが混沌・悪になっちまうよ

目の前の事を片付けず先の事を考えたり、自分の事を放ったらかして他の人を参考にしようとする
そんな事をやってたら一週間経ってしまいました
とりあえず二日目の分は出来ましたので、寝て起きて見直したら再開します。
お待たせしてしまい、すみませんでした
おやすみなさい

面白いネタを思いついたけど、メモしておかなかったら忘れてしまった
まあ忘れるくらいなら、元々たいしたネタでもなかったのだろう

>>72
投影は出来ませんが約束された勝利の剣なら余裕でしょうね
赤原猟犬はhollowでは凄かったですけど、べオウルフの伝説を考えると全く役に立たないかと

>>属性云々
コンマテ3によると属性は、秩序・中立・混沌という3つの方針と、善・中庸・悪という3つの性格から構成されます
1つずつ解決すると、

>>83はその通りですが、周囲の環境による影響で人は色々な属性に変化すると思います

>>84の特定人物の為に犠牲を厭わないという姿勢は混沌・善に分類されます
メデューサは実際に桜の為になら何でもやる、という姿勢でしたしね

>>85については、中庸か善かが、英霊エミヤと衛宮士郎の決定的な違いと考えています

>>88に関して、英霊エミヤの行動の基本は秩序維持なので、破壊活動も行うとは言え方針が混沌となる事はありません
むしろ、HFの士郎の方がずっと混沌かと


という訳で始めます
あと、暗殺はテロリスト紛いの事じゃなく、テロリズムそのものだと思います

ワルプルギスの夜まであと16日



朝7時。
美味しそうな匂いに釣られて目を覚ます。
キッチンには男の人が居た。
彼は私が起きたのを見ると、にこりと微笑みかけ、

「おはよう、暁美。
朝飯、もうすぐ出来るから顔を洗ってこい」

なんて、お母さんみたいな事を言った。
ぼーっとした頭のまま、洗面所へ向かう。
冷たい水は私の思考をクリアにしてくれる。

―――思い出した。
昨晩の魔女退治の際、私は魔術師を名乗る男と出会ったのだ。
俄かには信じられない話ではあるけど、
確かに魔女の元に行くまでに、使い魔が倒されて出来た道があった。
彼、衛宮さんは魔法少女が魔女と戦う事に異を唱え、
代わりに戦うと言ったので、協力してもらう事にした。
私はワルプルギスの夜を倒さなければならない。
その為の戦力は多いに越したことはないのだから。


それにしても、

「正義の味方、ね」

自然と笑みがこぼれた。
いい年をして、彼はそうである事を否定しなかったのだ。
随分と変わった人だ。
部屋に入った途端、

“話は後にしよう”

と言って、出しっ放しだった資料や銃のパーツを片付け始め、
挙句の果てには碌に使われてなかったキッチンや使ったきりのお皿まで洗ってしまった。
その分、全て終わる頃には時間もかなり遅く、結局話は今日に持ち越されたのだ。
そうそう、いざ寝ようという時も、

“女の子と同じ部屋で寝る訳にはいかない”

なんて言って、彼は何もなかった押入れの上段に潜り込んだのだった。
その様子はずっと前にテレビで見た、青いロボットのようで面白かった。

「よし」

いつもの制服に着替えて、六畳ばかりの部屋へと戻る。

「待たせたわ」

理想の自分を演ずる為の仮面をして、衛宮さんの待つテーブルに着いた。

「いただきます」
「いただきます」

手を併せ、声を合わせて挨拶をする。
テーブルの上には白いご飯と塩鮭に、じゃが芋と大根のお味噌汁。
こんなに食事らしい食事は久しぶり。
だと言うのに。

「悪いな。急な話だったから、大した物が作れなかった」

なんて。
―――美味しい。
なんでもない筈の食事が、こんなにも幸福を感じさせてくれる。

「しかし、女の子があんな物ばかり食べてちゃ駄目だぞ。
成長期なんだからさ」

このご飯は衛宮さんが朝一で買ってきてくれたそうだ。
うちには冷凍食品と、何処でも食べられるような
軍用糧食しかなかったのだから、全く当然であるのだけど。

「反省はしてるわ」

もぐもぐ。
むぐむぐ。
ほむほむ。
ごくん。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さま」

食器をシンクまで持っていった後、お茶を出してくれた。
ずず、と一口飲み、頭を切り替える。

「それで、魔術師というは何かしら?」

ごたごたしていたうちに訊けなくなっていた質問。
衛宮さんも真剣な表情へと変わる。

「魔術師ってのは、簡単に言えば、魔力を使って神秘を為す者の事だ。
正確にはある目的を持った学者みたいな連中だけど、
俺は違うからその辺りは割愛させてくれ」

なるほど、夢物語の中の理想的な魔法使いみたいなものね。
魔法少女と違って、綺麗な存在だ。

さて、私も彼の疑問に答えるのが筋でしょう。

「貴方が昨晩遭遇したのは魔女と呼ばれる者よ。
原因不明の事故、動機不明の事件や自殺の中には、魔女が引き起こした物が多くあるわ。
そして、それを狩る者が私たち、魔法少女。
1つの願いの代償に、戦う事を運命付けられた少女たちよ」

嘘は言ってない。
しかし真実も話していない。
正義の味方なんて言うような人に全ての事を話せば、何を言い出すか判らない。

―――そう、彼は利用するだけ。
あの子を、鹿目まどかを救う為ならば、私は誰に恨まれようと構わないのだから……。


きんこんかんこん。

校舎全域に響き渡る鐘の音。
これで午前の授業が終わる。
もはや何度目かも考えたくない授業内容が続く毎日。
今日のそれは漸く半分が片付き、約1時間の昼休みが始まった。
ある人は友人と1つの机を囲みながらお弁当を広げる。
またある人は、談笑しながら教室の外へ出て行き、恐らく学食へと向かう。
食事が終われば、食後の運動に励む人、午後の予習を行う人と、
様々な昼休みの過ごし方があるのでしょうね。
しかし、私の場合は他の人とは異なる。
放課後に向けての対策を練る事が私の昼休みだ。

―――今日はお菓子の魔女が出現する日。
病院という場所の関係上、その魔女は他とは比べ物にならない強さを持つ。
現在この街には巴マミしか魔法少女が居ないので、必然的に戦う事となる。
本来彼女は強い魔法少女なのだから、
あまり気にする必要もないのでしょうけど、今回はそういう訳にもいかない。
鹿目まどかと美樹さやかを連れて、魔法少女体験コースなんて巫山戯た事をしているのだ。
1対1なら勝てる相手でも、非戦闘員を庇う為に敗れる可能性は否定出来ない。
そうなれば、結局まどか達にも危害が及ぶ。
もしそれを切り抜けたとしても、その出来事はまどかのトラウマとなる。
まどかが悲しむ……。
本音を言えば、私だってそれは悲しい。

机の上に出したお弁当をちらりと見る。
巴さんの信用を得られなかった今回、私の代わりに動ける切り札(カード)が在る。
衛宮さんは午前のうちにホテルを引き払って、今頃家で待機している筈だ。
彼があの魔女に勝てるとは思わないけれど、囮にぐらいはなると思う。

「ほむらちゃん、今日お弁当なんだね。
あの、ね。よかったら一緒にお昼食べ、ない……?」

だめかな、と消え入りそうな声。
まどかが昼食の同伴を誘ってくれた。
あんな態度をとったのに、こうして接してくれるなんて……。

「えー。まどか、こんなヤツと話すのやめときなよ」

まどかの親友、美樹さやかは敵と決めた相手にはとことん厳しい。
多少棘が鋭いものの、こっちの方が普通の反応ね。

「そんな事言っちゃダメだよ、さやかちゃん。
ほ、ほら。行こ、ほむらちゃん?」

私の腕を強引に引っ張るまどか。
ああ……、貴女は優しすぎる。
そんな貴女の為だからこそ、私は戦っていけるのだけれど。

「悪いけど、今は一人で居たいの」

まどかの手を払い、教室の外へと歩く。
私はまだ、甘い誘惑に乗ってしまってはいけないのよ……。

「ほむらちゃん……」

「ほら。ああいうヤツなのよ」

…………ごめんなさい。

―――午後の授業も終わり、放課後となった。
鹿目まどかを救う為の関門の1つ。
それが、あと1時間程度で始まる。

鹿目まどかたちをストーキングして、いつも通り病院へと着いた。
中を少し覗けば、美樹さやかの愚痴る声が聞こえる。
私は統計に従い、駐輪場の方へ回った。

「見つけた……!」

魔女の卵、グリーフシード。
間違いなく、今日が運命の分岐点(ターニングポイント)だ。
最悪の運命だけは捻じ曲げる為、彼をここに呼び出す―――!

「やる事もないし、晩飯の支度でもするか」

時間も十分にある事だし、折角だから手の込んだ物を作ろうとキッチンに立っていた。
その為の下ごしらえも終わり、一旦冷蔵庫に仕舞った頃、電話が鳴った。

「―――ああ、了解」

電話の用件は暁美からの呼び出しだった。
曰く、魔女が現れそうだから来てくれ、と。
その電話を切ると同時に、玄関から飛び出した。

―――走る。
目指す場所はこの街の総合病院。
頭の中に叩き込んだ地図を展開する。
夕焼けに染まる街を誰よりも速く駆け抜ける。

やがて、目に入ってきた。
大きな建物の多いこの街の中でさえよく目立つ、一回り大きな施設。
……本来汚れ一つない純白であろうそれが血のように赤く見えるのは、
後に控える戦いを意識しているせいなのか。

「どこだ、結界は!?」

魔力の感知など出来やしないのだから、自分の感覚に頼るしかない。
世界の異変に対して人一倍敏感と師匠に言わしめた、自分の直感を信じる。
昨日感じた違和感に近い物を探知し、……感知した。
そこは駐輪場。
その中から、吐き気を催すほどの苦々しさを放つ点を捜し、飛び込んだ―――!

―――世界が変わった。
そこに在るのは大量のお菓子と縛られた……、

「暁美!」

思わず叫んだ。
近くへ寄ってみたが、どうやら無事のようだ。

「待ってろ、今助けてやる」

「私はいいからっ、早く行って!急がないと、急がないとっ……!」

落ち着き払った昨日とは一転、本当に同じヤツかと疑わしくなるくらい取り乱している。
こんな状態のまま放置するのは気に入らないが、
この必死な表情に応えない方が気に食わない。

「解った。後で助けてやるから、ちょっと待ってろ」

暁美を置いて、先を急ぐ。
この先には倒すべき敵が居る。
そして、あんなに取り乱すくらい暁美にとって大切な誰かが居る―――!

Interlude


お菓子に満ち溢れた空間。
奥へ奥へと目指す少女が2人居た。
魔法少女である巴マミと普通の中学生である鹿目まどか。

「オッケー、解ったわ。今日という今日は、速攻で片付けるわよ」

マミが道中の使い魔を蹴散らしていく。
彼女は戦いが好きな訳ではない。
また、魔女との戦いに興奮を覚える訳でもない。
だというのに、彼女の表情が活き活きとしているのは何故か。

答えは簡単だ。
彼女の後ろをついていくまどかが、魔法少女となる事を決めたからだ。
マミは孤独に苦しんでいた。
彼女を癒す家族は居らず、彼女が魔法少女である事を打ち明けられる存在も居ない。
たった1人の後輩を失って以来、彼女は常に独りだった。
故に、共に戦う仲間を得られる喜びが、彼女には隠しきれないのだ。

「あっ」
「あっ」

2人が同時に声を出した。
彼女たちが最後の扉を潜ると、見知った者たちが視界に入ったからだ。

「お待たせ」

「はあ、間に合ったぁ」

マミは先行していた美樹さやかと、謎の白い小動物の元へと駆け寄った。
魔法少女ではないさやかなのだから、尊敬する先輩の登場に安堵するのは当然か。

「気をつけて。出てくるよ」

小動物の声によって、3人の意識が1箇所に集まる。
視線の先、部屋の中央付近にある脚の長いテーブルの少し上。
その中空から、ぬいぐるみのような容姿の魔女が生まれ、椅子に着地した。

「折角のところ悪いけど―――」

マミが椅子の脚を払う。
当然、その上に居た魔女は重力に惹かれるままに地面に向かって落下する。

「一気に決めさせて―――」

手にしていたマスケットを振り抜く。
美しい装飾の施されたグリップが魔女を捉え、部屋の壁に叩きつけた。

「もらうわよ!」

追撃として放たれた銃撃。
弾丸から発生したリボンによる拘束で、魔女は再び中空へ舞い戻る。
しかし、結界の主として鎮座していた先程とは打って変わって、
現在は身動きの取れないただの的だ。

「ティロ―――」

マミが巨大な大砲を現出させた。
強大な威力を誇る、彼女の切り札が射出体勢に入った。
銃身全体に魔力が迸り、いざ放たれんとする最強の一撃。

「―――フィナーレ!」


Interlude out

使い魔の居ない静かな結界。
持ちうる限りの全力で走り抜け、ひたすらに奥を目指した。

「邪魔だ―――!」

勢いを殺さず扉を蹴破ると、視界が拓け、広い部屋へと出た。
遠く、部屋の向こうの方で黄色い魔法少女が戦っていた。

「―――フィナーレ!」

「くっ―――!?」

物理的ではない、しかし確かに部屋中に響いた力の奔流。
少女の叫びによって、膨大な魔力が放たれた。
その魔弾は小さな魔女に着弾すると同時に―――、


―――魔女の口から信じられないほど巨大な物体が飛び出した。

「I am the bone of my sword.(我が骨子は歪み穿つ)」

少女に迫る、恵方巻きのような姿の化け物。
そいつが彼女を捉えるより速く飛ぶ、投擲宝具を投影する。

「突き穿つ(ゲイ)―――」

化け物の口が大きく開かれる。
俺に出来る事は、右手の槍を信じ、投げ抜く事だけ。

「―――死翔の槍(ボルク)!」

真名の開放により、マッハ2の速度の朱い稲妻が翔る。
それは今にも少女に食らいつこうかという化け物に突き刺さり、その巨体を弾き飛ばした。

「マミさん!」
「マミさん!」

何処かに隠れていたのか、2人の少女が魔法少女へと駆け寄る。
魔女の方へ向かう途中、その光景を横目で見た。
少なからず出血が見えたものの、どうやら生きているようだ。

―――ならば、今はまだ安心だ。
俺は俺の戦うべき相手に専念すれば―――!?

「嘘だろ?ゲイ・ボルクを食らって平気って……!?」

魔女と対峙する。
傍らには、大穴の開いた蛇のような抜け殻。
何事もなかったかのような状態の魔女は、今度は俺を飯に定めたらしい。

「ふぅ―――。いいぜ、相手になってやる」

それが合図となったのか、魔女が食らいつこうと迫る。
俺だって、ただで食われてやる気はない。
巨体に対抗する為の武器―――、そうだ、あの凶戦士の斧剣を描こう。

「―――投影、開始!」

魔術回路に魔力が駆け巡り、構えた両手に武器が出現した。
片手ではとても扱いきれない岩の塊。
それを、魔女へのカウンターとして振り回す。

「食、らえっ、この間抜けぇ!」

ガツン、と重い手ごたえ。
打ち返したコミカルな表情が歪み、口の中から元通りの魔女が出てくる。

「…………」

出鱈目すぎるだろ、アレ。
最悪の展開を想定すれば、十二の試練(ゴッド・ハンド)より性質が悪い。

「くそっ!」

単調な攻撃に合わせ再び殴りつけた。
再生する。
殴る。
……再生する。
まるできりがない。

「いい加減に、しやがれぇっ!」

武器に滲み込んだ記憶を読み取る。

殴る殴る。
再生する。
殴る殴る殴る殴る。
再生する。
斬撃を加速させていく。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る―――!
再生の隙など、与えてたまるものか。

「うおおおおお■■■■■■■■――――――!!!」

一息で放つ、百もの連撃。
理性を失ったギリシャ最強の英雄に為しうる、最高の剣技をここに再現した。

バラバラに切り刻まれた魔女だった者の残骸がすぅっと消える。
その場にはぽつんと、禍々しい何かが残されていた。

リボンの拘束が解かれる。

「まさか……!」

これは巴マミによる魔法だ。
それが効力を失ったというのだから、得られる答えは……。

思えば、最初から無理だと判っていたのかもしれない。
ただ、ほんの僅かでも希望があるならば。
その想いだけで、イレギュラーを投入した。
だけど、結局無駄に終わった。
後はせめて、まどかの契約阻止だけでもしに行かないと―――。

破れた扉の中へ入る。

「彼では危険だ。今すぐ僕と契約を!」

「その必要はないわ」

白い悪魔の言葉を遮り、2人の無事を確認する。

「――――!」

2人じゃない、3人居る!
巴さんが怯えるように蹲っている。
まどかとさやかが心配そうに声をかけている。

そして、衛宮さんは―――。

「うおおおおお■■■■■■■■――――――!!!」

とても人とは思えないような声を上げ、お菓子の魔女を八つ裂きにしてしまった。
今朝思い描いていた神秘とはかなり違う物だったけど、それでもあの魔女を倒したのだ。

「今度こそ、もしかしたら……」

誰にも聞こえないような声で呟いていると、甘いお菓子の世界が消えてなくなった。
衛宮さんは持っていた岩の塊を消し、こちらの方に振り返り、

「その子を早く医者に見せろっ」

と強い口調で言った。
本来、魔法少女にとって肉体の傷はたいした問題にはならない。
しかしそれは当人たちの事情であり、他人にはそうもいかないのでしょう。
傍目から見れば、巴マミは少なからずの出血をしているのだから。

「目に焼き付けておきなさい。魔法少女になるって、こういうことよ」

自分の目的の為に、鹿目まどかと美樹さやかに脅しをかける。
美樹さやかには睨まれたが、何も言わずに2人は負傷者を連れて病院の正面へ向かっていった。
その場は私と、難しい表情をした衛宮さんだけとなる。

「……感謝するわ。貴方が居なかったら、3人のうちの誰かは死んでいたでしょうから」

「別に礼を言われるような事はしてないぞ。アレと戦うって決めたのは俺なんだからさ。
だから魔女の居場所を教えてもらった俺こそ礼を言わないと」

彼は本当に私たちが戦わせたくないらしい。
誰かが傷つくくらいなら自分がやる、と。
まるでそれ以外の感情がないのかと思う程に、その信念を貫いているようだ。
ここまで酷いお人好しは見た事がない。

「で、あの黄色い子は大丈夫なのか?」

「ええ。魔法少女には生きているか死んでるかしかないのよ。
私たちはこのソウルジェムさえ無事なら、体はいくらでも回復する事が出来る」

元の制服へと衣装を戻し、自分の本体を衛宮さんに見せつけた。
実力的にも性格的にも、彼は信用するには値する。
多少の情報なら、明かしても構わないでしょうね。

「む。なんか気に入らないけど、とりあえずは無事、という事か」

難しい表情が、さらに歪む。
どれだけ怪我をしても構わない、というニュアンスに聞こえたのかしら。

「ところで、そのソウルジェムってのは何なんだ?
さっき拾ったこれと全く違うのに、どこか同じような感じがするんだけど」

握っていたグリーフシードを見せながら言った。
妙なところで鋭い人だ。
同じと言えばそれは同じで間違いではないけど、今はまだ秘密にしておきましょう。

「ソウルジェムは魔法を使う為の力の源よ。魔法少女にとって最も大切な物。
グリーフシードは魔女の卵なのだけど、消費した魔力の回復にも使えるわ。
貴女の感じた物の答えとしては……、そうね。
どちらも魔法少女と魔女の本体のような物だからかしら」

訊かれた事に、最小限の情報を与えた。
なら暁美が持っとけ、と彼は私にグリーフシードを渡してくる。

ふむ……。

「ほむらでいいわ」

一応の信用の証。
共に戦う仲間として、名前で呼んでもらう。

「そうか。じゃあ、改めてよろしくな、ほむら」

Interlude


時計が午後9時を指した。
診察の受付は疾うに終了している。
病院内には職員と入院患者以外はもはや誰も居ない。

―――否、2人だけ居た。
不安そうな表情をした少女たち、鹿目まどかと美樹さやか。
彼女たちは血塗れの急患を連れてきたという事と、
すぐに連絡の取れる身寄りが居ないという事の2つの理由で、
待合室替わりにされた外科の診察室に押し込まれていたのだ。

「お待たせしました」

2人きりの室内に医師が入り、椅子に腰をかけた。

「まずは怪我の方ですが、君たちのお友達の怪我は、
出血が多かったもののたいした傷ではありませんでした。
傷跡が残る事はほとんどないでしょう」

「よかった……」

少女たちの曇った表情が、少しだけ晴れる。
急患、彼女たちの先輩である巴マミが運び込まれてから3時間以上。
それだけの間、緊張を維持し続けていたのだから当然の話だ。
しかし傷という物は、体にのみ負う物ではないのだ。

「問題は心の方ですね。
巴さんは急性ストレス障害、所謂トラウマを負っています。
今後、心的外傷後ストレス障害への発展も考えられる為、しばらくの入院をしてもらいます」

「そん、な……」

少女たちが言葉を失う。
彼女たちにとっての憧れの存在が、憧れの存在であった為に酷い傷を負ってしまったのだ。
それがどれだけ危険の付き纏う存在なのかは知っていた。
それでも予め言われて出来る覚悟は、実際に危険に遭った時の衝撃には遠く及ばない。

「巴さんは口が開く事に対して、強い恐怖を感じています。
何か心当たりはありますか?」

「い、いえ……。あたしたちは、マミさんを慌てて連れてきただけなので……」

さやかの答えは嘘だ。
だが本当の事、魔女との戦いでやられたなんて事を信じる人間なんて居る筈がない。
故に、彼女に真実を話す事は許されなかった。

「そうですか……。
話は変わりますが、巴さんが君たちに会って話がしたい、との事なんだけどね?」

医師はそう言って、2人を部屋から連れ出した。

―――必要最小限の灯りしか点けられていない薄暗い廊下。
その先の目的地、まだ主の名が掲げられていない病室に辿り着くと、
医師は少女たちにマスクを渡した。
トラウマを刺激しないよう、口を覆い隠す為の物だ。

「では、私は外で待ってますので。少しでも気分を楽にさせてあげてください」

医師が少し離れた所のソファに腰掛けるのを見ると、
2人は病室の主に声をかけ、その中へと入っていった。

「こんばんわ、美樹さん、鹿目さん」

今にも泣き出しそうな瞳と頭に巻かれた包帯。
ベッドの上のマミは、折角の美貌が台無しなつらい表情をしている。
尤も、死にかけた人間に笑顔を見せろなど、無茶もいいところではあるが。

「ごめんなさい。貴女たちを守らないといけなかったのに、怖い目に遭わせてしまって」

「マミさん……」

「もし助けがなかったら、みんな、みんな死んでて……」

戦地へと連れていき、守るという役割を果たせなかった事を嘆いているのか。
今このときだけはその感情がトラウマを上回り、ただ謝罪の念だけでマミは涙を流した。

「こんな、頼りない先輩で、ほんと、ほんと……、ごめんね……」

まどかとさやかには何も言う事が出来ない。
今日の出来事はそれほどの事だった。
一度は魔法少女となる事を決意したまどかも、もはやその決意は霧散してしまい、
彼女の心の中には恐怖と罪悪感だけが残った。

「マミさん……、ごめんなさい……」


Interlude out

「ごちそうさま」

「お粗末さまっと」

あの後私たちは帰宅し、夕食を摂った。
衛宮さんには悪いけど、正直、食欲はあまりなかった。

「悪いな。あんな事になるとは思わなかったから、おまえの食欲を考えずに料理しちまった。
明日から晩は軽めを心がけるから、無理してまで食うのはやめてくれ」

少し心苦しい、なんて。

この人はお人好しだ。
その人の好さに毒されたのか、私はこれからとんでもない無茶を頼むのでしょう。

「貴方は私に戦うなと言うけれど、それを聞く訳にはいかない」

話を始める。
きっとこの話は、衛宮さんの人生を決めてしまうサイコロ。
私だって人間なのだから、心が痛まない筈はない。
でも、まどかを救う為なら手段は選ばないし、犠牲も厭わない。
そう決めたのだ。
決めたのよ……。

「私には2つの目的を果たす為に、魔法少女になった」

衛宮さんが洗い物を終わらせ、私の前に座る。
その表情は真剣そのものだ。

「1つはさっきの結界に居たうちの背の低い方、鹿目まどかを魔法少女にさせない事。
欲を言えば、もう片方の美樹さやかもだけど」

魔法少女の増加は魔女の増加というリスクを孕んでいる。
ならば、魔女化した前例のある人物は、契約させないに越した事はないでしょう。

「2つ目は、およそ半月後に現れる大型魔女、ワルプルギスの夜の撃破、もしくは撃退」

この2つが同時に達成されなければ、私の戦いはいつまでも終わらない。
真向かいの衛宮さんは真剣を通り越し、もはやしかめっ面と言った方がいいような顔だ。

「えっと、まず質問その1。ほむらにとってその鹿目って子はどういう相手なんだ?」

「誰にも代えられない、大切な人よ」

そうか、という何か羨むような返事。
この人にはそういう人が居たのだろうか。

「じゃあ、その2だ。ワラキアの夜……だったか、そいつはどんな魔女なんだ?」

「……ワルプルギス、よ。
街1つを軽く壊滅させるような出鱈目なヤツよ。
これまでに何度も出現し、何人もの魔法少女が犠牲になったか分からないくらい」

「街1つ、か。そんなのがこの街に現れるのか」

ええ、と答える。
その滅びの光景は何度も見てきたわ。
それこそ、見飽きるくらいには。

「これで最後だ。魔法少女にはどんな事が出来るのか」

「基本的には願いに沿った固有の魔法行使と、願いのイメージに沿った武器の召喚ね。
経験を積んだり誰かに教えてもらったりすれば、身体能力の強化や治癒も出来るようにはなるけど。
参考までに言えば、私の武器は盾で魔法は時間停止よ」

「時間停止!?」

転移じゃなかったのかとか、いやそれ以前に魔法じゃないのかそれとか、ぶつぶつぶつぶつ。
どうやら魔術という物の世界でも稀有な能力らしい。

「ところで、結界の中で白くて耳の長い、なんか訳の解らない小動物を見たかしら?」

「?あぁ、そういえば―――、視界の端にそんなの居たような?」

「――――!」

魔法少女の素質がある者にしか見えないのだから期待はしていなかったけど、
衛宮さんにアレが見えるというなら、これは僥倖だ。

「そいつが魔法少女を生み出す元凶、インキュベーター。通称キュゥベえよ」

諸悪の根源を示せた。
これで今後、作戦が立て易くなるかしらね。

「私は明日の放課後、貴方が助けた魔法少女、巴マミの容態を見てくる。
その間、鹿目まどかの監視、及び警護をお願いするわ」

「魔女から守れ、契約はさせるなって事だな」

了解、と衛宮さんが頷く。
彼がついていれば、一先ずは安心でしょう。


ステータス・武器情報が更新されました

Status

衛宮士郎
属性:中立・善
スキル
弓術:弓を用いた戦闘技術。人間として身に付け得る極限の実力。
剣術:剣を用いた戦闘技術。非常に高い実力で、特に双剣に関しては極限の実力。
槍術:槍を用いた戦闘技術。人並み以上には扱うが、専門家には遠く及ばない。
調理:家庭料理から菓子作り、はては宮廷料理まで。サバイバル料理にも対応。
執事:家事全般の手際のよさと緻密さ。ランクで言えばA+相当。

暁美ほむら
属性:混沌・善
スキル
兵器運用:近代兵器を運用する技術。ほぼ全ての兵器を高い精度で使いこなす事が可能。
破壊工作:爆発物やトラップを扱う技術。熟練の工作員に迫る。
妄執:鹿目まどかに対する異常なまでの執着。
時間停止:時間を一時的に停止させる能力を持つ。

巴マミ
属性:秩序・善
スキル
拘束:リボンを用いた束縛術。刃物があれば脱出は可能。
トラウマ:事故に遭った経験による自家用車と死に対する恐怖。
     再び死を体験した事により、一時的に恐怖心が増大している。

Weapon

?????
魔法少女・巴マミが使用した口径1メートルはあろうかという大砲。
魔弾を放つ武器のようだが、何故か解析不能。

ゲイ・ボルク
第五次聖杯戦争におけるランサー、クー・フーリンが使用した槍。
真名開放により、2種類の宝具として使い分けることが可能。
1つは「突き穿つ死翔の槍」。
クー・フーリンが師匠スカサハから授かった魔槍ゲイ・ボルクの本来の使用法で、
渾身の魔力と力を以て投擲される対軍宝具。
因果を歪ませる呪いにより必中し、その破壊力により一撃で一軍を壊滅させる。
もう1つは「刺し穿つ死棘の槍」。
クー・フーリンが独自に編み出した刺突による対人宝具。
因果を歪ませる呪いを最大限に利用し、真名開放と同時に
「槍が心臓に命中した」という結果を作ってから、「槍を放つ」という原因を作る文字通りの必殺技。

無銘・斧剣
第五次聖杯戦争におけるバーサーカー、ヘラクレスが使用した岩の剣。
宝具でも何でもないのだが、その圧倒的な大きさと重さ、硬さで敵を粉砕する。
それ以外の特性は存在しないが、ギリシャ神話最強の英雄の経験が滲みついている武器である。

今日はここまで

1週間どころか8日ですね、本当にすみませんでした
少しでもペースを上げる為に、今後は質問に気づき次第、答えが出次第、回答させてもらいます
正直、頭の中に答えがあるままだと、考えるのに邪魔になるので。

ところで、IZABELに触れてあげてくれません?
折角使い魔以外の攻撃方法考えたのに、これじゃあかわいそうだよ!

ちなみに>>73の心配はないかと
ほむらの頭の中はまどかでいっぱいなので、憧れこそすれ、惚れることはないでしょう
また、士郎は士郎で好きなヤツという名の席はセイバーで固定されたままでしょうし

先ほど触れましたが、フルンディングについて解説
フルンディングとは、勇者ベオウルフが巨人退治の為に借り受けた名剣です
曰く、その刀身は血を吸う度に堅固となり、それを使って失敗する事はなかったと
彼はその剣を持って巨人と戦いましたが、歯が立たなかったというか、刃が立たなかったというか
戦闘の途中、ベオウルフは洞窟内で見つけたヨートゥンの剣で巨人の首を切り落とした
すると、血に触れた剣は解けてしまい、最後には柄だけとなってしまった

端折っているので微妙には違いますが、大体こんな感じ
本当に強いのかなあ、フルンディング?

うわsage忘れた…申し訳ない…

最新話来てたー!
マミさん戦列離脱かよ……
士郎はさっさと彼女を攻略してくるべき
次回も楽しみにしているぜ

士郎は相当魔翌力使うはずの宝具投影から真名開放をやってるけど原作からどの位時間が経ってるんだろ
そして魔法少女としてのほむらは型月世界の第二魔法と第三魔法に類する技術使ってる事になるのかな

>フルンディング
それなんだけど、テュルフング(ティルヴィング)と混同してるんじゃないかって気がする。
ちなににテュルフングは、スウァフルラーメという王がドワーフに作らせた剣で
こっちは狙った物は外さない、しかし3度の悪の願いと引き換えに身の破滅をもたらすって呪いの剣

たぶんこっちのことだと思う。すごく語呂似てるから間違われやすいとは思う。

ベオウルフって確か飛竜か何かを退治した時にも、ネイリングっていう秘蔵の名剣を潰してるんですよね。
剣がたいしたことないんじゃなくて、べオウルフに名剣をダメにする属性があるんじゃないでしょうか?

あげたかったのは未来で・・・

喧嘩したり歯医者行ったりで、気がつけば週が変わってますね
お待たせしてすみません

>>127
一度や二度は気にしない気にしない

>>134
剣の丘から引っ張り出すだけなので、投影自体は本編のときからやれば出来ます
また真名開放は宝具の魔力に殆ど頼る形なので、100%の威力は出せてないかと
年齢は20台半ばかなー、と考えております

>>135
一応フルンディングにも、それを使って失敗することはない、という性質がありますので、間違いとも言い切れないかと

>>137
そうだったら嫌な英雄ですね
我様のイライラが凄いことに

>>142
ないてるーよるだいたままーなげきをさけんでー

ワルプルギスの夜まであと15日


太陽が昇りきり、今日の授業も半分が終わった。
後ろを振り返り、教室を見渡してみる。
昨日の戦いが原因か、まどかにもさやかにも、活気が見られない。

「…………」

声がかけられない。
これは自分で決めた事だ。
まどかを守る為なら、どんな手だって使う。
仮令その結果で、まどかに嫌われようとも……。
そう―――、誓った筈。
ええ、覚悟は出来ている。

「なんか……、違う国に来ちゃったみたいだね」

2人の後をつけて屋上に上がると、、深刻な雰囲気で話していた。
大方、魔法少女に関する事でしょうけど、今の2人の考えは把握しておきたい。
校内で使うのも気が引けるけど、時間を止めてる間に死角に入っておきましょう。

「魔女の事、マミさんの事、あたしたちは知ってて、他のみんなは何も知らない。
それってもう、違う世界で違う物を見て暮らしているようなもんじゃない」

その通り。
貴女たちと他の人との違いは、知っているかどうか。
今はまだ、ね。

「まどかはさ、今でもまだ、魔法少女になりたいって思ってる?」

そう、違いはたったそれだけ。
今ならまだ、見てきた事を忘れれば。

「ずるいって解ってるの。今更虫が良すぎだよね。
でも……、無理……」

知らないふりをしてしまえば、元の世界(日常)へと還れる。

「マミさんの怪我、本当に死ぬ直前まで行っちゃった事。
今思い出しただけで息が出来なくなっちゃうの。
怖いよ……嫌だよぅ……」

それでいい。
それでいいのよ。
まどかは何も悪くない。
戦いの中で死を見て、それでも魔法少女になろうなんて人は、何処か壊れてる。
私も……そうだけど……。

「お別れだね。僕はまた、僕との契約を必要としている子を探しに行かないと」

その様子を眺めていたインキュベーターが別れを告げる。
けど、まだ油断は出来ない。
まどかに危機が迫れば、アレはいくらでも現れる。
でも、私にだって契約を防ぐ為の切り札(カード)はある。
今度こそ。
今度こそ―――!

「解った。今から向かう」

昇った太陽がだいぶ傾いてきた頃、授業が終わった、とほむらから電話が入った。
晩飯の仕込みは万全。
仕事用の一張羅には身を包んだ。
その他装備も完璧。
後はほむらとの約束通り、鹿目まどかの護衛を果たすだけ。
そのスタート地点となる場所へ向かった……のだが。

「――――――なんだって中学校がこんなにでかいんだ?」

馬鹿に大きな校舎を誇る見滝原中学校から数百m。
下校する生徒たちを一望できるビルの屋上。
そこから俺の護るべき少女を捜す。

「―――同調、開始(トレース、オン)」

視力を強化し、視界に映る人々の特徴の1つ1つを分類わけする。
その中から、目的の少女に該当する特徴をピックアップしていく。
桃色の髪。
短めのツインテール。
低めの身長。
赤いリボン。

「―――見つけた!」

青い髪の少女に手を振り、鹿目まどかが校門を出て行く。
昨日の出来事が原因なのか、可愛らしい顔に元気があるようには見えない。

「よし、行くか―――」

鹿目を追跡する。
とはい言っても、まだ人の多い時刻なので、誰にも見つからないルートを通る必要がある。
その為に選んだ道は、

「くぉ―――」

だん、と重い着地音。
どうという事はない。
人の居ない所以上に人に見つからない場所なんてない。
脚に強化をかけ、ビルとビルの間を跳び移っていく。

「あれ?」

西日が眩しくなってきた頃、目当ての少女は高層マンションへと入っていった。

「おかしいな?」

ほむらから聞いていた話と違う。
鹿目まどかの家は一軒家の筈だ。
そもそも位置が全く違う。
寄り道でもしなければ、彼女がこんな所に来る筈はない。

「こうなったら駄目元だ」

マンションの裏側へ回り、窓を見て回る。
中に入った以上は何処かの部屋に行くのが当然だ。

「ああ、あそこか」

遠くから覗き見るのだから、カーテンが閉まっていたらどうしようもない。
が、その心配は杞憂に終わった。
開けっ放しのカーテンの間から、鹿目を発見した。

「――――」

彼女はただ震えていた。
静かに涙を流していた。
例えるなら、その様子は懺悔をする罪人。
その年齢に相応しくない行動に1つの推測が生まれる。

「もしかして―――、あの部屋は」

巴マミの部屋なのか。
あの年頃の少女の事だ、魔法少女という存在に憧れたのだろう。

「―――かつて、俺が切嗣に憧れたみたいに」

ほむらの話によれば、巴マミは長年独りで魔女退治をしていたらしい。
その姿を見て、支えたいと思い、自分も共に戦うと決めていたのかもしれない。

「戦うのが怖くなった、か」

仕方ないだろう。
最初に死を受け入れた魔術師(俺)でさえ、無意味に死ぬのは嫌なんだ。
ましてや、今まで普通に生きてきた少女にどうしてそれが出来ようか。
彼女に罪はない。
もしあると言うならば、つい先日まで知らなかった俺にだって罪がある。
それでも己を責めるように涙し続ける。
要するに、彼女は―――。

「優しすぎるのか。
人の悲しみに共感して助けたいと思い、それが出来ない事に責められる」

俺が言えた事じゃないかもしれないけど、全く損な性格だ。
だからこそ、ほむらがあんなに気にしているのかもしれないが。

「―――おっと」

思案に耽っていたら、鹿目が部屋を出ていった。
人の通りも少なくなってきたし、これからは直接歩いた方がよさそうだな。
散々跳び移ってきた屋上も、今日はこれでさよならだ。


「―――くっ、ふぅ……、はぁ」

階段を駆け降り、ビルの外へ出る。
荒れた呼吸を整え、マンションの入り口の方を見る。

「ん―――あいつは」

鹿目と話している見慣れてきた黒い髪。
……居たのか、ほむら。
俺に見張らせた張本人なんだから、鹿目まどかを監視する意味がない事は1番よく判ってる筈だ。
それでもここに来たという事は、やはり警告の為か。
まあなんにせよ、俺は俺の役割の為に、2人の後を追うしかない。

「――――」

「――――」

当然と言うか、何と言うか、深刻な雰囲気だ。
ほむらも友達の前でくらい、明るく振る舞えってんだ。
ただでさえ弱ってんだろうし、元気付けるとかあるだろう。

「…………」

鹿目の足が止まった。
野暮だとは思うけど、聞こえる所まで寄ってみるか。

「……わたしは覚えてる」

聞こえてきたのは悲痛で、しかしながら強い意志に満ちた声。

「これから何があってもマミさんが戦ってる事、忘れない。絶対に!」

「そう……。そう言ってもらえるだけ、巴マミは幸せよ。
……羨ましい程だわ」

命を賭して、戦い続けるような世界。
女の子に限った話じゃない。
そんな世界に身を置かなければならないヤツは、少ないに越した事はない。

「ほむらちゃんだって、ほむらちゃんの事だって、わたしは忘れないもん!
昨日助けに来てくれた事、絶対に忘れたりしないもん!」

強い意志に満ちた言葉は先程の懺悔の反動か。
何にせよ、あいつの想いは届いてる事は届いてるようだ。
……よかったな、ほむら。

「……ほむらちゃん?」

「貴女は優しすぎる」

なっ―――。

「忘れないで。その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せる事もあるのよ」

ほむらが去る。
昨日言った通り、病院に向かうのだろう。
しかし……。

「あぁ……」

なんだってそんな言い方するんだ。
あの馬鹿―――!

まどかと別れ、病院に来た。
衛宮さんがついているのだから、多少目を離しても問題はない。
私がここに来た目的は至って単純。
純粋な気持ちのお見舞いだ。
尤も、巴さんにしてみれば、冷やかしか嘲笑いに来たのかと思うかもしれないけど。

「面会中はこのマスクをしてください」

よく解らないけど、マスクを渡される。
私が入院していた頃は、そんな事はなかったのだけど。
……両親以外の人が来る事もなかったのだけど。
まあ、しろと言われたのに逆らうつもりはない。

「ここ、ね」

プレートに書かれた名前を確認して、一息。
こんこん。
ドアを叩く。

「どうぞ」

中から巴さんの声がした。
白いドアを開け、中に入る。

「あら、何の用?」

目に入ったのは、パジャマ姿で髪を下ろした見た事のない美人。
その人は私の顔を見るなり、警戒を示した。
仕方がないとは言え、少し傷つく。

「案外元気そうね、巴マミ」

「私の惨めな姿を笑いに来たのかしら?」

と、自身を嘲笑う巴さん。
いたい。
いたい痛い心がイタイ。

「―――そんなつもりは、ないわ。
ただ貴女の様子を見に来ただけ」

それだけ。
今まで何度も見捨ててきたのに、虫がいいと思う。
だけど、本当にそれだけ出来てよかった。

「それだけ元気があるなら問題ないわね。お邪魔したわ」

「あ―――」

無事は確認出来た。
もう用はないし、話をする資格もない。
おとなしく踵を返し、ドアに手をかける。

「ま、待って!」

そんな私を、

「お願い。もう少しここに居て……」

巴さんは引き留めた。

「――――」

彼女の元へ寄る。
凛とした普段の姿と打って変わって、心なしか震えてるようだった。

「怖いの、戦うのが」

語り始める。
私は黙って聴くだけ。

「昨日の戦いで味わった、目の前にまで迫ってきた死がね。堪らなく怖くて、恐ろしくて」

事故による瀕死からの生還。
確かそれが巴さんの願いだった筈。
その分、死ぬ事への恐怖心は人以上に大きいのかもしれない。

「貴女は私を心配して忠告してくれたのに、それを無視して」

その結果がこれよ、と再び自嘲した。

「昨日私を助けてくれた人……。
彼も貴女が呼んでくれたのよね?」

その姿に声が出せなくなり、やむを得ず首を縦に振る事で肯定する。

「……やっぱりね。
その人に伝えといてくれる?」

ありがとう、と。
その言葉が1番嬉しい人のようだし、きっと喜ぶわ。

「今更何をって思うかもしれないけど、この街を護ってくれないかしら」

臆病でずるい私の代わりに、なんて。
あまりそんな事、言わないでほしい。
臆病でも勇敢で、ずるくても優しくて、寂しがり屋だけど格好良くて―――。
私の知ってる巴さんは。

「解ったわ」

私の返事を聞き、巴さんは微かに笑って、

「ありがとう、暁美さん」

涙を溜めながら、そう言ってくれた。
悪く、ないものね。
こういうのも。

「あっ」

そういえば、もうそろそろ魔女が現れる時間ね。
巴さんは何かを察したのか、先程とは全く異なる凛々しい表情で私を見ていた。

「行ってちょうだい。
結局貴女の目的は判らなかったけど、貴女ならきっと出来るわ」

かつて共に戦った先輩の顔で言う。
今度こそ病室を出て行く私に巴さんは、

「行ってらっしゃい。魔法少女、暁美ほむら」

力強い後押しをしてくれた。

―――すっかり日が暮れた。
だというのに、俺は未だ家に帰らない鹿目を追っていた。
俺も昔そうだったとは言え、あまり感心した事ではない。

「仁美ちゃーん。今日はお稽古事……」

鹿目が1人の少女へ寄っていく。
名前を呼ぶ声に親しみを感じられるのだから、恐らく友人なのだろう。

「仁美ちゃん?ね、仁美ちゃんってば」

――――?
何か様子が変だ。
2人の後を追っていこう。
今の時間なら、ただの仕事帰りにでも見えるだろう。
…………たぶん。

「―――なんだ?何かおかしい」

何がおかしいって、妙に多くの人が集まってきた事だ。
その全てが生気を感じられない目をしているのだから、おかしいで済む話じゃない。
だが、都合はいい。
人の流れを後ろから追っても、目立つ事はない。

「ここは―――?」

小さな工場に着いた。
いや、廃工場と呼ぶべきか、そんな雰囲気がそこには漂っていた。
迂闊な行動は出来ない。
今しばらくは待機しよう。

「しかし、なぁ。これがほむらの言ってた魔女の影響なのか?」

答えてくれる人は居ない。
あくまでも、守るべき一般人が相手なのだ。
確証もなく実力行使には出る訳にはいかない。

「全く、もどかしい話だ」

なんて言ってしまったり。
しかし、それは少し気が抜けてきた頃だった。

「ダメ……それはダメっ!!」

工場内から聞こえた鹿目の叫び声。
ただ事ではない事だけはよく解った。
やはり魔女―――か。

「くっ、なんで鍵がっ」

ぶち破る時間さえ惜しい。
ましてわざわざ鍵を開ける暇なんてない。
少しでも速く鹿目の元へ行けるルート。

「アレだ!」

工場2階の窓。
あそこからなら―――!

「―――同調、開始」

脚の筋肉と、身を包むスーツに強化をかける。
跳び込む先はあそこだ。

「行くぞ―――」

跳ぶ。
顔を腕で守り、窓へと突っ込む―――、

「ええい!」

「な―――」

前にガラスが割れ、バケツいっぱいの粘性の高い液体に襲われた。

「きゃあっ」

工場内に突入成功。
強化のおかげで傷はない。
その替わり、全身がべたべたではあるが。

「―――って、それどころじゃねえだろ!」

幸い、鹿目は目の前だ。

「安心しろ。俺はおまえの味方だ」

彼女に呼びかける。
まずはゾンビのように迫り来る人々から守り抜く―――!

「―――投影、開始」

殺さずに戦える、身近な武器を。
イメージした通りの竹刀を握る。
何故か虎のストラップが付いてるけど、今は気にしてる余裕はない。

「せぃ―――」
大きく振り回し、牽制する。
しかし彼らは止まらない。
どうやら加減している余裕はないようだ。

「でやっ」

今度はぶつける気で振り回した。
実際当たりはしたが、怯む様子もない。
鹿目を庇いつつ、後退していく。

「いい加減にしやがれ、このヤロォ!」

先頭の男に当身を食らわせ、続いて中段を薙ぎ払った。

「こ、こっちです!」

鹿目が呼んだ。
その誘導に従い、奥の扉に入る。

「これでも食らってろ!」

とどめに竹刀を投げつけ、扉の鍵を閉めた。

「ったく。どうなってんだ一体」

酷い有様の上着を脱ぎ捨てる。
替わりに、用意しておいた切り札の赤い衣。
世界を侵蝕する魔女が相手なら、きっと役に―――。

「あっ……嫌だっ、助けてぇぇ!!」

俺に投げつけられた悲鳴。
振り向くと、鹿目が平面の人形に纏わり付かれていた。
そして鹿目自身までが平面となり、消えてなくなる―――!

「くそっ。待ちやがれっ」

消えた鹿目を追い、そこへ跳び込んだ。

―――そこは青かった。
三次元が(立体)が二次元(平面)となり、二次元が三次元となる異空間。
目の間に広がる水のような世界。
その透明感にはある種の美しさを感じられる。

「―――投影、開始」

両手に2本ずつ、計2本の赤い柄の投擲剣。
聖書を精製して作るという、教会の代行者の扱う黒鍵。
それらを次々と、鹿目に取り付く使い魔に投げつける。
一撃、二撃、三撃、四撃。
動きにくい世界だが、どうにか彼女へと泳ぐ。

「大丈夫か」

「あっ、これ」

「やめろ!何も考えるな。何も想うな」

纏ったばかりの赤い外套を押し付ける。

「それ被って丸まってろ!」

小柄な身体を赤原礼装が包み込む。
それを確認し、戦闘に備える。

「―――■■■■」

奇声を発する黒い翼の生えた古臭いパソコン。
周囲に広がる大量のテレビ。

「ぐ……、これ、は……」

映し出されるは始まりの炎。
水を求め、生に縋る人々。
かつての俺、■■士郎の全てを焼き尽くした地獄の業火。

「■■■■」

使い魔を従えパソコンが近づいてきた。
追撃のつもりかは知らないが、こちらとしても好都合ではある。
湧き上がる不快感を振り払うように、そいつに拳を叩きつける。

「ふざけろォ!」

パソコンが吹き飛び、使い魔もそれを追った。
間合いの開いたこの隙に鹿目に叫ぶ。

「絶対にそれから出るなよ!おまえは必ず守るから、俺に任せてろ!」

テレビの映像もあの魔女の能力と見るべきだろう。
だとすれば、あいつは人の記憶を読み取り、心に刻まれたトラウマを見せつける事が出来るらしい。
こんなヤツ、まだ幼い少女に近寄らせる訳にはいかない。

「―――投影、開始」

投影する武器は弓……としたいが、鹿目を守りきる事が優先だ。
使い慣れ、使い勝手もいい干将・莫耶を執る。

「行くぞ!」

パソコンから湧き出る使い魔を斬り掃う。
一体一体は一撃で倒せる雑魚なのだから、難しい相手ではない。
しかし数が多過ぎる。
重力の概念のない世界では、脚を使う必要のある者は絶対的に不利だ。
攻撃には体重が乗らず、それ以前に移動さえ思い通りには出来ない。
そんな空間で全方位からの襲撃だ。
当然、迎える結果はジリ貧である。

「これでも食らってろ!」

それを回避する為の手段は、こちらも手数を増やす事だ。
連続投影した干将・莫耶を次々と投擲する。
大きな弧を描いて舞うそれは、俺たちを隔離する防壁となった。

「よしっ」

安全圏を構築出来た。
今なら親玉を狙う事が可能だ。
次の一手は点と点を結ぶ飛び道具。

「I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)」

投影したのは、弓と捻れた剣。
矢の替わりに剣を番え、弓を引く。
詰め込まれた魔力を解き放つように、

「螺旋(カラドボル)―――」

「でりゃあぁっ!」

離れ損ねる。
代わりに描かれたのは青い軌跡。
それはパソコンの元まで届き、地へと叩き落した。

「さやかちゃん!?」

鹿目が頭を出す。
そうか。
アレは昨日の端っ娘(はしっこ)その2か。

「これで、とどめだぁ!」

荒削りどころの話じゃない。
一切の洗練もされていない力任せの攻撃。
それに速度を加えて放たれた一撃は、魔女と思しきパソコンを微塵に砕いた。

「なんでさ……」

出鱈目過ぎる。
この巫山戯た身体能力が魔法少女か。

「あ……」

結界が消える。
自身の特性のせいか、この瞬間は多少の名残惜しさを感じてしまう。

「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったねぇ」

「さやかちゃん……、その格好……」

「んーまあ何、心境の変化って言うのかな?
マミさんの代わりにあたしがこの街を守るんだー、みたいな」

―――信じられない。
戦うという事が何を意味するのか。
この少女は知らない筈がない。

「ふざけるな!なんだってそんな軽い気持ちで戦いを選ぶんだ!」

工場に響いてしまった怒鳴り声。
それを聞いた青い魔法少女は怪訝な顔をした。

「そんな事言われる筋合いはないんですけど!というか、そもそも誰!?」

「さ、さやかちゃん、そんな事言っちゃダメっ。
ほら、よく見て。昨日マミさんを助けてくれた人だよ」

鹿目が仲裁に入る。

「そ、それに、さっきもわたしを助けてくれたんだよ」

よほど信頼してるのか、その言葉は俺に向けられた敵意を消し去った。
……いや、消えた訳ではないようだ。

「ふん、遅かったじゃない。転校生」

後からやってきたほむらに標的が変わっていた。

「――――」

ほむらが苦い顔をする。
しかし、それも一瞬。
すぐに表情を消し、工場を去っていく。

「あ、おい。待てって」

その背中を追いかけようと体が動く。
が、すぐに大切な物を思い出した。

「これ、返してもらうぞ」

鹿目が被ってる赤原礼装をひったくった。
他にも何か忘れる気がするけど、まあ思い出せないなら大した物じゃないのだろう。

「おまえたちも早く帰るんだぞ」

それだけ言い残して、俺もここを去った。


帰宅後、衛宮さんが仕上げた料理を食べる。
脂少なめ野菜主体な食事は私としては好ましい。

「ごちそうさま」

「はい、お粗末さま」

衛宮さんの片付けを手伝い、再びテーブルに着く。

「さんきゅ。助かった」

「当然の事をしたまでよ」

この程度の事でお礼を言ってくる。
食事を作ってもらってるのは私なのに。
この人はどこまで主夫気質なのか。

「で、話があるんだろ。俺は何をすればいいんだ?」

そう言って、持ってきたお茶を一口。
こちらを見る顔は、真剣を通り越して仏頂面の領域だ。

「美樹さやかについて、ね」

彼女が契約してしまった事は遺憾ね。
しかし、なってしまったからには仕方がない。
それに合わせて行動を考えるしかない。

「彼女のサポートをしてほしい。彼女が死ぬ事は、鹿目まどかに悪影響を与えるわ」

「その方針には賛成だ。正直、あの戦闘スタイルはあんまり過ぎる。
昔の俺を見てるみたいで、その、少し怖い」

彼も駆け出しの頃は危なっかしい人だったのかしら。
少し見てみたくもあるけど、それは置いておきましょう。

「美樹さやかは私に敵意を向けるので、私はあまり近づけない。
貴方は大丈夫だと思うけど、念の為私と協力関係にある事は伏せておいて」

了解、との返事。
これで彼女との関係が上手くいけばいいのだけど。
あと、他にはこれね。

「それと、巴マミが戦線を離脱した事で、この街に他の魔法少女が現れるかもしれないわ」

よく警戒しておいて、と付け加える。
統計上、さやかが魔法少女になると、彼女の前に佐倉杏子が現れる可能性が高い。
無駄な争いを防ぐ為にも、衛宮さんは重要になってくる。

「そういえば、その巴ってヤツはどうだったんだ?」

衛宮さんが尋ねた。
目先の事に囚われかけて、忘れるところだった。

「彼女なら無事よ。ただ休養をとっているだけ」

もしかしたら、半永久的な休養となるけれど、わざわざ言う必要はないわね。
後は、巴さんの言伝を衛宮さんに伝えないと。

「貴方に、助けてくれてありがとう、と言ってたわ」

目の前の仏頂面が、少し微笑んだ。

「ああ、それならよかった」

ありがとうとか笑顔が最高の報酬って人、本当にいるものなのね。
私なんかより、巴さんの方がと組むべきよね、きっと。

Interlude


風が轟音を唸らせる。
見滝原の街を一望出来る建物の鉄骨の上。
本来人が居る筈のないそこに、赤い髪の少女が居た。

「マミのヤツがくたばったって聞いたからさぁ、わざわざ出向いてやったっていうのに」

「別に死んではいないよ」

傍らには魔法の使者、それとも甘い誘惑を持ちかける悪魔と言うべき生き物か。
白い獣の身体は、隣の少女とのコントラストで光の少ない闇によく映えている。

「そういう事じゃない!ちょっと話が違うんじゃない?」

「悪いけど、この土地にはもう代わり魔法少女がいるんだ。
ついさっき契約したばかりだけどね」

「何ソレ?超ムカつく」

少女は苛立つように……、いや、実際かなり苛ついているのだろう。
それを押さえつける為に、手にしたクレープを貪る。
が、ふと何か思いついたのか、その手が止まった。

「でもさあ。こんな絶好の縄張り、みすみすルーキーのヒヨッ子にくれてやるってのも癪だよねぇ」

「どうするつもりだい?杏子」

「決まってんじゃん。要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?」

杏子と呼ばれた少女の顔には、獰猛な肉食獣と同じ物が浮かんでいた。
狩るべき獲物を見つけた捕食者のそれが。

「……その子」


Interlude out


ステータス・武器情報が更新されました

Status

美樹さやか
属性:秩序・中庸
スキル
剣術:剣を用いた戦闘技術。運動能力だけで扱っている為、技能は駆け出しの剣道家と同レベル。
足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。

Weapon

虎竹刀
かつて冬木の虎と呼ばれ、その地方の剣道界を様々な意味で騒がせた剣道家の愛剣。
性能自体は通常の竹刀と全く同じなのだが、虎のストラップが付いているという特徴を持つ。
この竹刀の使い手は第四次聖杯戦争の際、親友の実家の酒屋から極上樽ワインが盗難された事を機に、
猟奇殺人鬼や都市ゲリラなどが跋扈しまくる夜の冬木を虎竹刀片手に颯爽と駆け抜けつつ、
下着泥棒を捕まえたり迷子の子犬を保護したりと八面六臂の大活躍を演じたとか。

黒鍵
聖堂教会の代行者が扱う投擲剣。
特徴的な長い刀身は聖書のページを精製して作られている。
その為、柄だけを大量に持ち運び、刃はその場で作るという運用も可能。
なお、刃渡りと比べると柄は非常に短いので、近接戦闘にはあまり向いていない。

カラドボルグ
アイルランドの英雄、フェルグスが所持していたとされる魔剣。
螺旋を描く刀身は射出するには適した構造ではあるが、
矢の替わりに使用するにはやはり太く短いという難点を持つ。
現時点での衛宮士郎は、弓でこの剣を相手の側へ放ち、
宝具の魔力を爆発させる壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)に巻き込む事で活用している。

軍刀
魔法少女・美樹さやかが使用する片刃の剣。
細身だが丈夫で、ナックルガードまで備えている為、扱い易さは非常によい。
そのナックルガードのせいで投擲にはあまり向かないが、
一度慣れてしまえば、まっすぐな刀身は標的を貫くのに適している。
しかし、あくまでもその程度の性能しか持たないので、使い方の工夫が使用者には求められる

今回はここまでです。

>>131
構想の1番最初に考えていたのが前回の部分。
突如現れた長身イケメンが華麗に……ではなかったですが自分を助けたら、マミさん惚れちゃうんじゃないって思いまして
その後どうにかしてマミさんが士郎に惚れないかを考えたら、ほとぼりが冷めるまで顔を合わせない、という妙な案しか浮かばなかったのです。
まあようするに、士郎はマミさんを攻略しないし、マミさんの出番はかなり少ないし、って事です
マミさんファンの皆さん、一緒に泣きましょうか


どうでもいいですけど、歯の治療の際、麻酔をかけますよね
アレで感覚がなくなった状態が雁夜おじさんの感覚なのかなー、なんて考えてたり
まあ、余計なこと考えても痛いのは痛かったです、はい


士郎が攻略はしないけどマミさんは士郎に惚れるってことでおk?

攻略しないの!?
しないの!?
イリアも藤姉も攻略できなかったのにマミさんまで…
あの乳っ子にはエロがない…とでもいうのか

>>170
本当に長い間顔を合わせないことになるので、惚れる前に冷めるんじゃないかと思います

>>171
藤ねえルートはちゃんとあるよ、みんなの心の中に!
イリヤルートは20年後にリメイクFateで実現するんじゃないかな、聖杯使えば

士郎×マミに何も感じない
見えるのはそう、マミさんちで執事やってる士郎くらいかな

ほむらに「後より出でて先に断つもの」を仕掛けるとどうなるのか
時間停止と時間逆行
どういう結果になるのかを考えてたら、不眠症になりつつあります

では始めます

ワルプルギスの夜まであと14日


―――のんびり過ごしていても、時間とは案外速く過ぎる物だ。
3日連続で戦闘に巻き込まれたのだから、今日は息抜きに充てていた。
未知の敵との戦いは、肉体的より精神的に疲れるのだ。
そうしているうちにやってきた、ほむらからの連絡。
今日の活動はここから始まる。

「さーて」

未だ青空の広がる放課後の時刻。
昨日と全く同じビルの上。
視力を強化しての人探し。
ここまでは同じ。

「美樹さんはどこですかな、と」

違うのはその対象。
今回は新米魔法少女・美樹さやかのサポートが目的だ。
尤もほむらが言うには、美樹と鹿目は殆ど行動を共にするような親友同士らしい。
結局、状況は昨日とあまり変わらない。

「親友、か……」

懐かしい響きだ。
学生時代、俺にも2人居たっけ。
1人はあの巫山戯た戦いで死んじまったけど。

「元気にしてるかな、一成」

柄にもなく、物思いに耽ってしまった。
集中しろ、集中。

「よし、見つけた」

校門から一緒に出て行く2人組。
方向は違うが、昨日と同様に追いかけよう。

―――しかし、探偵の真似事は眼鏡の黒い人の方が向いてる気がする。
誰の事かなんて知らないけど。

「……まだ、魔女退治には行かないみたいだな」

風力発電機のプロペラが立ち並ぶ川岸。
美樹と鹿目は川原の堤防でくつろいでいる。

「出来れば、早く移動してほしいんだけど」

彼女たちを監視しようにも近場にビルがない為、通行人Aになりきる必要があるのがつらい。
誰かに見つかって通報された日には、面倒この上ない。
やってる事自体はストーカーと寸分違わぬ行為だ。
逮捕されるようなヘマこそしないが、この街で動きにくくなる事だけは避けなければ。

「さてと、じゃあ私はそろそろ行かないと」

「ん?何か用事があるの?」

「まあ、ちょっとね」

美樹が立ち上がり、鹿目と別れる。
鹿目の様子が見れないのは不安だが、どうせ何処かに居るであろうほむらに任せよう。

「そっちは頼んだぞ、ほむら」

念じるように呟いた後、俺は美樹を追った。

「……話って何?」

まどかに呼ばれて、私は今ファストフード店に居た。
何も買わずに居座るのも気が引けたので、コーヒーだけ私の手元にはある。
向かい側に座るまどかは少し間目を泳がせ、そして私に視線を合わせてきた。

「あのね、さやかちゃんの事、なんだけど」

「…………」

大体予想はついてはいたけど、やはり親友の事を案じていたらしい。
ここまでまどかに心配してもらえるのを考えると、正直妬ましいわね。

「あ、あの子はね、思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったり」

親友としての評価でさえこれだ。
障害にこそなれ、手駒にはしにくい。
けど、もう少しオブラートに包んで言ってあげてもいいのに。

「でもね、すっごくいい子なの。
優しくて勇気があって、誰かのためと思ったらがんばり過ぎちゃって」

「魔法少女としては、致命的ね」

ここまで行動が極端な人間だと、外からは手を出しにくい。
うまく誘導出来ればいいのでしょうけど、最悪の場合、一緒に谷底に巻き込まる。

「度を越した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。
そして、どんな献身にも見返りなんてない」

私を助けてくれる彼だってきっと同じ。
その献身には裏切りでしか返す事は出来ない。

「それをわきまえていなければ、魔法少女は務まらない」

「そんな言い方やめてよっ!」

コーヒーを飲もうとした手が止まった。
割り切ってるつもりだったけれど、まどかの非難はなかなかつらいわね。

「……美樹さやかの事が心配なのね」

「そう、さやかちゃん、自分では平気だって言ってるけど、
でも、もしマミさんと同じような事になった時、誰も助けてくれなかったら……」

起こるかもしれない未来に怯え、目の前の小さな身体が更に縮む。
死にはしなかったものの、巴さんはまどかにトラウマを遺したらしい。

「私じゃもう、さやかちゃんの力にはなってあげられないから……。
だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。
さやかちゃんと仲良くしてあげて。マミさんの時みたいに喧嘩しないで。
魔女をやっつける時も、みんなで協力して戦えば、ずっと安全な筈だよね」

…………。

「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束もしたくない。
だから、美樹さやかのことは諦めて」

「え?」

「あの子は契約すべきじゃなかった。確かに私のミスよ。
貴女だけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった。
でも、責任を認めた上で言わせて貰うわ。今となっては、どうやっても償いきれないミスなの」

「どうしてなの……?」

どうして?
そんなの、知ってしまえば簡単な話ね。

「死んでしまった人が還って来ないのと同じ事。
一度魔法少女になってしまったら、もう救われる望みなんてない。
あの契約は、たった一つの希望と引き換えに、全てを諦めるって事だから」

美樹さやかはもう二度と人間に戻る事は出来ない。
自分を変えない限り、上条恭介とはどうにもならない。
そして最期は、きっと魔女へと身を堕とす。

「だから、ほむらちゃんも諦めちゃってるの?自分の事も、他の子の事も全部」

「ええ、罪滅ぼしなんて言い訳はしないわ。
私はどんな罪を背負おうと私の戦いを続けなきゃならない」

貴女を救う為なら、ね。
どんな手だって使ってみせるし、誰だって見捨ててみせる。

「時間を無駄にさせたわね。ごめんなさい」

席を立ってまどかに背を向ける。
私ではどうする事も出来ない。
さやかをどうにかしたいのなら、せいぜい衛宮さんに期待する事ね。

―――結局、美樹は病院に行った後、しばらくして自宅へ帰った。
その間魔女と戦う事も、魔女が現れる事もなかった。
魔女と言うだけあって、俺たちのような夜に生きるヤツなのか。
そもそも何故魔女なんて存在があるのか。
答えの出せる筈のない疑問に頭を悩ませるうちに、辺りは夕焼けに染まっていった。

じっと美樹のマンションの入り口を眺め続けるコト数時間。
鹿目がそこに現れた。

「……友達だもんな。やっぱり心配だよな」

そういうヤツ、俺は好きだ。
ほむらも、鹿目も。

「まどか?」

美樹がマンションの扉の奥から出てくると、そこに居た親友の元へと歩み寄っていった。
それに鹿目も気づき、同様に歩み寄る。

「さやかちゃん、これから、その……」

「そ、悪い魔女を探してパトロール。これも正義の味方の勤めだからね」

美樹が意気込む。
新人として張り切っている、というところか。

「一人で……平気なの?」

「平気平気。マミさんだってそうしてきたんだし。後輩として、それぐらいはね」

「……あのね、私、何もできないし、足手まといにしかならないってわかってるんだけど。
でも、邪魔にならないところまででいいの。行けるところまで一緒に連れてってもらえたらって」

「俺はあんまり賛成しないな。その考え自体は好きだけど」

植え込みの中から出て行き、少女たちの会話へと割って入る。
声に反応して、互いに向け合っていた2人の意識が俺に注がれた。

「あなたは、昨日の……」

「何の用ですか」

流石に警戒はされてるか。
突然現れた素性の判らない男だもんな、俺。

「別に難しい話じゃない。美樹さやか、おまえのカバーをしに来ただけだ。
女の子があんな化け物と戦うなんて、黙って見てられないからな」

「手伝って、くれるんですか……?」

「…………」

多少信じ過ぎじゃないかと思ってしまうが、どうやら鹿目は信じてくれたらしい。
対照的に美樹の警戒は未だ解けておらず、鹿目を隠すように前に出ている。

「転校生とつるんでるみたいだけど目的は何!?グリーフシード目当て!?」

「転校生ってほむらの事か?
あいつには家事をするって条件で居候させてもらってるだけだ。
それにグリーフシードなんて物、俺には必要ない」

ちゃんとメシ食って寝てれば十分だからな、と説明をする。
にしても、散々な嫌われようである。
一体何したんだか。

「さやかちゃん、信じようよ。この人、悪い人じゃないと思うし」

「まどかがそう言うなら……」

どうやら同行が許されたらしい。
何はともあれ、これで一件落ちゃ―――。

「ところで、まだあなたの名前を教えてもらってないなって」

「あ―――」

ほむらに名前を教えてもらってたせいか、完全に失念していた。
そうだよな、まずは信頼への第一歩だ。

「俺は魔術師の衛宮士郎だ。よろしく頼む」

「ま、まじゅつし……?」
「ま、まじゅつし……?」

2人に口を揃えて絶句された。
魔術なんてオカルトじみたお話を素直に受け入れるには、この子たちは少し歳を重ね過ぎている。
ずっと幼い時にそれを知った俺とは訳が違うのだろう。
だけど、魔法少女なんて人種に驚かれるのは、いくらなんでも心外だ。

「まあ、質問なら途中で答えるからさ、行くならさっさと行くぞ」

2人と共に歩き出す。
なかなかどうして、奇妙なパーティではあるが、なんとかなるだろう。
たぶん、きっと。

「そ、それで衛宮さん、魔術師って言ってましたけど!」

「あ、ああ」

鹿目が若干興奮気味に尋ねた。
もしかして興味津々なのか?
女の子の期待に応えられるような事出来ないぞ、俺!?

「どんな事が出来るんですか?
やっぱり空を飛んだり、手から火を出し―――」

「俺は見た事のある物、主に武器の複製が出来るんだ。
他には物の構造の把握とか、世界の異常の探知とか得意だ」

あ、表情が固まった。
うん、これは完璧に夢とか幻想とか浪漫とかぶち壊したらしい。

「それ、だけ……?」

「……面目ない」

「…………」

き、気まずい。
でも仕方ないだろ。
出来ない物は出来ないんだから。
準備に時間のかかる儀式をちゃんとやれば、他に出来る事もあるけどさ。

「じゃ、じゃあ、試しに何か作ってくださいよ。
あたし、剣が武器だから、かっこいい剣が見てみたいなー!」

「そ、そうだな。百聞は一見にしかず、だ」

見ていられなくなったのか、空気に耐えられなくなったのか。
俺と鹿目の間に居た美樹からフォローが入った。
この機会を逃す訳にはいかない。
女の子でも喜びそうな剣だ。
俺の記憶の中でも、とびきり綺麗な剣を―――。

「―――投影、開始」

「わぁーっ」
「おおーっ」

右手に握るは岩より抜かれし王の証。
ブリテンに伝わる選定の剣、カリバーン。
2人の反応からすると、どうやら満足してもらえたらしい。

「きれいだなあ」

「あたしもこんな剣だったら良かったなー」

「そうはいくか。これは国の為に一生を捧げた王様の剣だ。
本来なら俺には見る事さえ適わないような逸品だからな」

へー、と感嘆の声が上がる。
さて、見せびらかすのも程々にして、そろそろ本題に入らないとな。

「ところで、今日来た理由だけど、率直に言えば、俺、美樹に戦ってほしくない」

「そんな訳にはいきませんって。
あたしはマミさんみたいな正義の味方になるんですからっ」

“喜べ少年。君の願いはようやく叶う”

かつて言われた、最高に気に食わないヤツの言葉が頭に響いた。
くそっ、黙ってろ。
あんたの言葉はこの子には要らない―――!

「だと思った。でも、誰も救えないまま死ぬのは嫌だろ?」

「まあ、そうですけど……」

「だからさ、死なない為の戦い方を知ってほしい。
それくらいだったら、俺でも教えられるから」

これが俺にとっての最大限の譲歩。
かつてセイバーにつけてもらった稽古と方針は違うが、コンセプトは同じだ。
まずは知ってほしい。
死なない戦いさえ覚えてくれれば、後は経験が成長させてくれるはずだ。

「うーん」

美樹が腕を組み、首を傾げる。
鹿目に視線を向け、何かを相談するかのような様子。
それは10秒にも満たない僅かな時間。
美樹はよしと頷き、再び口を開く。

「じゃあ、いっちょお願いしちゃいましょうかねー、師匠!」

「さやかちゃんをお願いします、師匠!」

ったく、調子が狂うな。
警戒されたり、興味持たれたり、慕われたり。
それでも、悪い気はしないけど。
むしろ、2人の笑顔は見てて嬉しい。
これを守る為にも、俺もいっちょやってやりますか。

「では、始めるその前にっと、その肩の白いの、なんだ?」

死角となっている美樹の右肩。
そこで見え隠れしている謎の白い物体を指差す。

「キュゥべえが見えるんですか!?」

「在る物が見えないなんて訳ないだろ」

妙な事を言うなあ。
冗談を言うような子には見えないんだけどな、鹿目は。

「こんばんわ、僕はキュゥベえ。
本当なら僕の姿は才能のある第二次性徴期の少女にしか見えない筈なんだけど、
君は一体何者だい?」

……ほむらの言ってたアレか。
こいつについては少しずつ調べていくとするか。

その後、美樹に手短に講義をした。
相手の動きをしっかり見る事。
攻撃は刀身で受け、外側へ流すように避ける事。
相手の作った隙を見逃さない事。
しかし決して深追いしない事。
言葉にすれば簡単だが、生き残るには重要な基本事項。
いつか見た赤い背中を真似た、俺の戦闘スタイルの根底だ。

「しばらくは俺も同行させてもらうから、慎重になり過ぎても大丈夫だ。
だから、無茶だけは絶対するなよ?」

「サー!イエス、サー!」

師匠じゃなかったのか?

「あははは……」

話をしているうちに、目的地へと辿り着いた。
あの独特の苦い感覚。
それがこの先の路地裏から感じる。

「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔の物だね」

白いのが説明する。
なるほど、使い魔と言うだけあって、単独で行動する事もあるのか。
それに魔女が居なくとも、不完全ながら結界を展開出来ると。
何はともあれいい機会だ。

「美樹、さっき言った事を実践してみろ。
俺は弓でカバーするから」

「まっかせてください!」

青く輝くソウルジェムをかざし、美樹の姿が変わる。
基調が青の服装に白いマントを翻し、両手で握る軍刀は上段で構えられた。

「さあって、行っくぞぉ!」

ルーズリーフを貼り付けただけのような結界の中に2体の使い魔。
その姿は子供の落書きのような乗り物だ。
ぶーん、とその創造主が遊んでいるかのような声を出し、結界内を飛び回る。

「でえーい!」

無警戒の1体に不意打ちの一撃を決める。
防御を気にせずに叩き込まれた一振りは、使い魔1体を倒すには十分だった。

「よーし、次ぃー!」

2体目は同じようにはいかない。
既に敵を察知していた為、先制は向こうだ。
姿の通りの、スピードの乗った突進攻撃。

「よっ、とっと」

両手で剣を握ってたせいか、うまく受け流せずにバランスを崩したようだ。
尤も、そのおかげで使い魔にもダメージが入り、突然の追撃は免れた訳だが。

「次が来るぞ!脚を使っていけ!」

ターンしてからの二度目の突進が迫る。
それを回り込むように―――。

「おいさーっ」

「よし、いいぞ!」

「今だよ、さやか」

隙だらけの使い魔へと美樹が駆ける。
その両手に握った剣を大きく頭上へ振り被り、

「くらえーっ」

間合いに入ると同時に叩きつけた。

「!?」

キン、と甲高い金属音が響いた。
使い魔は未だ健在。
攻撃を放った筈の美樹はまたも体勢を崩している。
そして、彼女に足元には紅い槍の穂先が突き刺さっていた。

「ちょっとちょっと。何やってんのさ、アンタたち」

こつこつとヒールを地に叩きながら、少女が現れる。
長い髪を一つに束ね、紅いドレスのような衣装に身を包み、片手にたい焼きを持っている。
その姿を見れば解る。
コイツは魔法少女だ。
恐らく―――、

「見てわかんないの?ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ。
グリーフシードを持ってるわけないじゃん」

昨日ほむらが言っていた類の。

「あっ、逃げちゃう!」

鹿目が叫んだ。
多勢に無勢、それに手負いという状況。
知能があるとは思えないが、生存本能が撤退を判断したのだろう。

「俺が行く!」

美樹は魔法少女に槍を突きつけられて動けない。
もとより、取り逃がしの処理は俺の役割だ。
彼女の前に美樹を取り残すのは不安だが、俺は俺の仕事を果たす―――!

「逃がすかっ」

脚力を強化。
使い魔が逃げた結界の果てまで走る。
いや、果ては来ない。
この結界は主と共に移動し続ける物らしい。

「―――投影、開始」

弓矢を手に執る。
狙う必要なんてない。
構えた時点で、的は疾うに射抜いているのだから。

「次だっ!」

結界が消失する。
使い魔を仕留めたなら、次の問題はあの魔法少女だ。
即座に振り返り、美樹の元へ急ぐ。

「まさかとは思うけど。やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かます為に、
アイツと契約したわけじゃないよね、アンタ?」

――――!
少女の背後から紅い檻、恐らくこれも結界なのだろう。
それが美樹を囲むように構築されようとしている。
完成されたら、中にはきっと入れない―――。

「く、そっ」

弓を投げつけ境界にぶつけた。
それは結界と地面の間に挟まり、檻が閉じられるのを免れた。
半ば投げ槍ではあったものの、結界を押し留める為のつっかえ棒にはなってくれたらしい。

「ん?」

「だったら、なんだって言うのよ!」

いや、安心するには早すぎた。
美樹のヤツ、完全に挑発に乗ってしまってる。

「待っ―――」

ガキンッ。
再び響いた金属音。
制止も間に合わず美樹が振り下ろした一撃は、少女の槍に弾かれていた。
……当然だ。
昨日初めて剣を持ったヤツが槍使いに勝てる筈がない。

「ちょっとさ……」

「―――させるか!」

「やめてくれない?」

美樹に向けられた槍の円運動。
そいつを―――、

「―――っぐ」

美樹を突き飛ばすように庇った。

「師匠っ!」
「衛宮さん!?」

どうやら左腕を裂かれたらしい。
部位は前腕、骨や腱は無事だが、肉を軽く持ってかれた。
すぐに治るとはいえ、弓は使えそうにない。
それでも―――腹を裂かれ、何もしないまま気を失ったあの時よりは上出来だ。

「ああ?一般人が何してくれちゃってんの?」

「師匠、その腕……」

「大、丈夫だ。気に、すんな」

少女が槍を肩に担ぎ、苛立ちながらこちらを見ている。
傷口を触れてみた。
…………問題ない。
いつもと同じように塞がってる。

「借りるぞ」

思わず落としてしまったのか、美樹の剣を拾う。
立ち上がり、睨みつけるは紅き魔法少女―――!

「おい、てめえ。コイツの理想を嗤うってのか?」

「当ったり前じゃん。人助けとか正義の味方なんてばかばかしい」

どこか、平然すぎるくらいに少女は言った。
ならば目の前にいるソイツは、この俺にとっても敵だ。

「解った。なら、美樹に手は出させない。
おまえの相手は……、この俺だ!」

「はんっ、つけあがんなよっ!」

俺のダッシュに合わせ、槍が振るわれる。
紅い軌跡は大きな弧を描いて、頭部に襲い掛かる。

「効くかっ」

その初撃を弾く。
問題はない、十分視えている。
サーベルと言えど、剣は剣だ。
これなら負ける事だけはない。

「ちっ」

剣戟が響き始める。
高い金属音が歌うように、奏でるように。
叩き合うつどに十三度。
路地裏にその余韻を残しつつ、少女が間合いを開ける。

「へぇ、やるじゃん。一般人かと思って加減してたけど、そこのトーシロより全然上だ。
ここからは本気で往かせてもらうけど、死んでも―――」

少女が再び槍を構える。
本番が始まるのは、これからか。

「文句言うなよなっ」

最初と同じように槍が振るわれる。
大きく弧を描く攻撃なら、捌く事など簡単―――、

「がっ―――!?」

な筈だった。
少女の槍は柄がいくつもに分かれ、軌跡が変わる。
捌いた筈の攻撃は、俺の握る剣を中心に回り込み、背後から襲い掛かってきた。

「くっ」

負ける訳にはいかない。
正義を信じるヤツが居る。
そいつの理想を守る為にも、この程度で負けてられない―――!

「効かねえよ、間抜けぇ!」

変則的な軌道の槍を見極める。
経験によって会得した心眼の前に、こんな攻撃取るに足らない。
一撃につき二度、その槍に剣をぶつけていけていけばいい。

「どこまで保つかなぁ、ほらぁ?」

攻撃が加速する。
右から、左から、上から、そして背後から。
埒が明かない剣戟。

「どうして?ねえ、どうして?
魔女じゃないのに、どうして味方同士で戦わなきゃならないの?」

外野が何か言ってる。
それが耳に入る事は今はない。
考えるべきは、この少女を止める為の作戦のみ。

「ああ!」

悲鳴のような声が聞こえた。
右手にあった筈の剣は弾き飛ばされている。

「終わりだよ!」

少女が跳び上がり、とどめの一撃を狙う。
それは上空からまっすぐに俺を貫く、必殺の一撃なのだろう。
だけど、計算通りだ。

「たわけ、終わるのはおまえだ」

カリバーン、黒鍵、カラドボルグ、物干し竿、美樹の軍刀。
5本の刀剣を想い描く。
それらが隊列を為すように実体化する。

「―――投影、完了(トレース、オフ)。一斉掃射(バレットオープン)!」

号令と共に剣を放つ。

「わたし……!」

中る事はない。
当てはしない。
剣は槍を弾き、少女を拘束するだけだ。

「それには及ばないわ」

カチリ。
歯車が回るような音を感じた。
次の瞬間、剣は虚空を貫き、壁に刺さった。
対して少女は、誰も居ない場所に着地していた。
一直線上に居た筈の俺たちが、一瞬で軸をずらされてしまった。
そんな事出来るヤツ、1人しか居ない。

「またおまえかよ。何しに来たぁっ!」

美樹が新たに剣を取り出す。
それをほむらに向けて、振りかざした。

「やめろ、美樹ィ!」

今度鳴り響いたのは鈍い金属音。
振り下ろされた剣は俺の左腕に納まっている。

「し、師匠……?」

「おまえがなんでほむらを嫌ってるのかは知らない。
だけど、むやみに剣を人に向けちゃいけない」

美樹が心配するように剣を下ろした。
ほむらも突然庇った俺に驚きの表情を見せていたが、
大丈夫と声をかけたら紅い魔法少女へ向かっていった。
うん、何も問題はない。
さっき受けた槍のおかげで、俺の傷は剣で塞がっていたのだから。

「佐倉杏子、今日のところは引いてくれないかしら?」

ほむらが言った。
やたら色々知ってるとは思ってたけど、あの少女の名前も知っているらしい。

「アンタが噂のイレギュラーってヤツか……。
訳の分からなねえ男も居るし、顔を拝んだだけでもよしとするか」

じゃあな、と言い残して紅い少女は去っていった。
それを見届けると、ほむらも歩き出す。
ああ、その前にひとつだけ、伝えておかなければ―――。

「ちょっと待て、ほむら」

「……何かしら?」

「晩飯は冷蔵庫の中の豆腐ハンバーグだ。スープとサラダも用意してある。
ハンバーグは火を通せば完成だから、先に食べていてくれ」

「…………」
「…………」
「…………」

場違いな発言すぎたのか、周囲がなんとも言いがたい沈黙に包まれた。
俺にとっては永遠にも感じられた静寂の後、何事もなかったかのようにほむらは再び歩き出した。
……必要な連絡をしただけなのに、なんだってこんな恥をかかなくちゃならないのさ?

―――女の子には優しくしろ。
それは親父が俺によく教えてくれた事だ。
もしかしたら、魔術の事以上に。
尤もその教えがなくとも、夜に女の子を1人で帰らせる訳にはいかない。
まあ、そうだな。
ほむらは別だ。
出鱈目な能力を有し、無茶苦茶な量の武器を持ち歩くヤツだ。
暴漢程度、どうという事はないだろう。
何よりも、あいつは人と居る事を好まないように感じてしまう。
俺との会話も妙に事務的な感じがするし。
そういう訳なので、俺は今、美樹と鹿目の2人を送っていた。

「どうして、同じ魔女と戦う人同士でケンカしなきゃならないんだろう……」

鹿目がぽつりと呟いた。
聞き逃してしまいそうなその声は、要するに俺への抗議だ。

「まどかにはアレがケンカに見えたっての!?
武器と武器での殺し合いだよ、アレ!?」

「別にケンカも殺し合いもしてない。
向こうがどうだったかは知らないけど、俺は攻撃を受けないようにしていただけだぞ?」

一応の弁解。
納得してもらえるとは思わないが、俺の考えだけは伝えておきたい。

「正義の味方になりたい。そう思うヤツが襲われたんだ。
だから俺はあの場をやり過ごす事を考えた。
……俺もまた、同じ志を持つばかの1人だからな」

「さっすが師匠!カッコいい事、言うっすね!」

そういうつもりではなかったのだが、まあよしとしよう。
あと、美樹。
少しは声を落とせ。
近所の迷惑になるし、何よりこの状況だ。
最悪、通報される。

「おっと、すみませんすみません」

こつん、と自分の頭を叩くお調子者。
空気をぶち壊すと言うか、ムードメーカーと言うか。
ほむらの側に置いておきたいタイプだ。

「美樹に後輩になってほしいなんて思わない。この道の険しさはよく知ってるからさ。
でも、同じ道を歩むヤツが居るってんなら、俺はそいつが死なないようには教える」

それが俺の意思だ。
ほむらを手伝い、美樹をサポートする。
誰も死なせたくないし、誰も悲しませたくない。
俺にはそれ以外の道なんてないのだから。

「よし、美樹はここだな」

美樹に色々経験やらなにやら訊かれるうちに、彼女のマンションに着いた。

「最後に宿題だ。正義の味方は最大のエゴイスト。
その意味をよく考えてから、この道を進むか決めるんだ」

じゃあな、と口にし、鹿目と歩き始める。
美樹が居なくなったからか、会話もなく静かな帰路だ。
気まずさこそないのだが、少しむず痒くなる空気。
それがしばらく続き、鹿目のうちの前に着く。

「あの、わたしは臆病だから戦えないけど、代わりにさやかちゃんの事、よろしくお願いします!」

突然そう言って、鹿目は自宅の中へと駆けていった。
それを見届けると、俺は独り街に取り残される。

「ああ……、任せろ」

誰も居ない街に、誰へともなく呟いた。
応える人間も居ない。
虚空へと消えていったそれはきっと、自分への覚悟だったのだろう。

夜風が気持ちよかったせいか、のんびり歩きすぎてしまった。
時計は既に8時を回っている。

「悪い、ほむら。遅くなった」

うちに入りながら、家主に声をかけた。
……が、返事はない。

「――――――む?」

何か香ばしすぎる匂い。
部屋の隅には丸く膨らんだ布団。
テーブルの上には、歳相応の可愛らしい文字でごめんなさいと書かれたメモがある。
大体合点はついてはいた。
テーブルの向こう側にあったのは、ラップがされた焦げたハンバーグだった。

「……ったく、全部終わったら、特訓させてやろうか、コンチクショウ」

その為にも、ワルプルギスの夜とやらを倒さないとな。


ステータス・武器情報が更新されました

Status

衛宮士郎
属性:中立・善
スキル
魔術:魔術を習得している。が、使えるのは投影、強化と一部の儀式魔術のみ。
弓術:弓を用いた戦闘技術。人間として身に付け得る極限の実力。
剣術:剣を用いた戦闘技術。非常に高い実力で、特に双剣に関しては極限の実力。
槍術:槍を用いた戦闘技術。人並み以上には扱うが、専門家には遠く及ばない。
心眼(真):経験に裏打ちされた戦闘論理。僅かでもあるならば、その勝機を見出す事が出来る。
千里眼:鷹の目。高い動体視力を持ち、遠距離の標的も捕捉可能。
調理:家庭料理から菓子作り、はては宮廷料理まで。サバイバル料理にも対応。
執事:家事全般の手際のよさと緻密さ。ランクで言えばA+相当。

美樹さやか
属性:秩序・中庸
スキル
剣術:剣を用いた戦闘技術。師を得て指導を受けた為、防御に関しては上達している。
足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。
勇猛:怖いもの知らず。精神干渉への耐性を持つが、空回りする事も。

佐倉杏子
属性:混沌・中庸
スキル
槍術:槍を用いた戦闘技術。獲物の特性と相まって、実力は常人の域を大きく逸脱している。
結界構築:外と内を隔離する檻を作成する。物理的な衝撃をある程度防ぐ事が出来る。

Weapon

カリバーン
イングランドの騎士王、アーサー王の象徴たる聖剣。
魔術師マーリンの導きにより、選定の岩から引き抜かれた王の象徴である。
アーサー王が騎士道に反する戦いをした時に折れたという、失われた宝具。
王としての権力を示す為に美しい装飾が施されているが、
その代償として、武器としての精度はエクスカリバーには及ばない。

多節槍
魔法少女・佐倉杏子が使用する長槍。
槍頭が大きすぎる為突きや投擲に向かないが、
斬る、薙ぐ、掃う、と近接武器としては十分な性能を持つ。
柄は多数の節で分かれており、それぞれが鎖で繋がれて多節棍のようになっている。
また、使用者の意思により長さを変えられる為、伸縮自在で変幻自在を実現している。
その分扱いには非常に高度な技術を要するが、使いこなせれば向かう所敵なし。

物干し竿
第五次聖杯戦争におけるアサシン、佐々木小次郎が使用した長刀。
物干し竿はあくまで名称にすぎず、刀の正式な銘は不明。
五尺余に及ぶ刃渡りは槍に近い間合いを得られるが、刀としては合戦で使いにくいので論外である。
この刀は宝具ではないが、剣豪・佐々木小次郎の剣技が滲みついている。
ただし、魔法の域に達してしまった“秘剣”だけは、衛宮士郎に理解は出来ない為再現は不可能。

恥じ入るほむら可愛すぎワロリエンヌ
設定厨としてはステータスやスキルに痛いルビやランクが欲しい気もする

逆に型月キャラは魔女図鑑方式の紹介で

乙。雰囲気出てるねー。
ただカリバーンやカラドボルグはやりすぎじゃない? と思った。剣弾なら無名の剣でも十分だろうし。

ゼルレッチで平行世界のまどかたちも救いに行こうぜ

乙です。
自分だけかもしれないけど、士郎に若干の違和感が・・・
この士郎は二十代半ばでいろいろ経験してるんだし、もうちょっと落ち着きがあってもいいような気がする。

>>228
でも士郎だぜ?

アーチャーだって死後の経験でああなったみたいだしきっと士郎は死ぬまで落ち着きないと思うよ

>>1さん乙。
面白いです。

クロス作品で完結したのって、ホント少ないので頑張って下さい。

松中の満塁ホームランのせいで興奮して眠れそうもありません
その後クロスSS紹介スレを覗いたら、わたくしめのスレがあげられててさらに興奮してしまいました
前回終了時に挨拶が出来ませんでしたので、この機会に返事だけさせていただきます

>>222
1.草案ではランクも考えていたのですが、英霊たちと比べるとオールEになりかねませんし、調子に乗ってインフレする恐れもありましたので断念しました
その代わり、文面で強弱関係は判るようにはしてあるので、それで勘弁してください
2.原作には宝具以外に妙な読み方がなかったので、そのままにする事にしました
3.ぶっちゃけちゃんと中二病に罹ってなかったので、その辺りのセンスが皆無なのです

>>223
何故か士郎が魔女化したときの設定は考えてありましたので、ホークスの日本シリーズ進出が決まる頃には要望に応えられるかと

>>226
作戦は服を打ち抜いて壁に拘束するつもりでしたので全く以てその通りなんですが、投影の性質上想像する必要があります
その際、無銘(名)の剣は想像しにくいでしょうので、このラインナップとなりました
あと、武器リストの説明考えるのもそれなりに時間かかってますので、ちょっと手抜きしました
ごめんなさい

>>227
第二魔法を使えるのゼルレッチしか居ないのですが、あの爺さんがそんな殊勝な真似をするとも思えませんので……

>>228
一応本編より物分りはよくなってるつもりですけどね

>>229>>230
ひでえ
でも、あえて弁護する気もしません

>>231
そもそも、こんなエンドで納得いくかコンチクショウ!こうなったらこの手で終わりを捻じ曲げてやる!親父の敵とるついでに頑張れ士郎!
って感じで、完全に自己満足の為にやっておりますので、死なない限りは完結させます
脳内に花畑があるくらいのハッピーエンド大好き人間なので、まどかの犠牲とほむらの努力が無駄になったのは堪え難かったんです

松中の満塁ホームランのせいで興奮して眠れそうもありません
その後クロスSS紹介スレを覗いたら、わたくしめのスレがあげられててさらに興奮してしまいました
前回終了時に挨拶が出来ませんでしたので、この機会に返事だけさせていただきます

>>222
1.草案ではランクも考えていたのですが、英霊たちと比べるとオールEになりかねませんし、調子に乗ってインフレする恐れもありましたので断念しました
その代わり、文面で強弱関係は判るようにはしてあるので、それで勘弁してください
2.原作には宝具以外に妙な読み方がなかったので、そのままにする事にしました
3.ぶっちゃけちゃんと中二病に罹ってなかったので、その辺りのセンスが皆無なのです

>>223
何故か士郎が魔女化したときの設定は考えてありましたので、ホークスの日本シリーズ進出が決まる頃には要望に応えられるかと

>>226
作戦は服を打ち抜いて壁に拘束するつもりでしたので全く以てその通りなんですが、投影の性質上想像する必要があります
その際、無銘(名)の剣は想像しにくいでしょうので、このラインナップとなりました
あと、武器リストの説明考えるのもそれなりに時間かかってますので、ちょっと手抜きしました
ごめんなさい

>>227
第二魔法を使えるのゼルレッチしか居ないのですが、あの爺さんがそんな殊勝な真似をするとも思えませんので……

>>228
一応本編より物分りはよくなってるつもりですけどね

>>229>>230
ひでえ
でも、あえて弁護する気もしません

>>231
そもそも、こんなエンドで納得いくかコンチクショウ!こうなったらこの手で終わりを捻じ曲げてやる!親父の敵とるついでに頑張れ士郎!
って感じで、完全に自己満足の為にやっておりますので、死なない限りは完結させます
脳内に花畑があるくらいのハッピーエンド大好き人間なので、まどかの犠牲とほむらの努力が無駄になったのは堪え難かったんです

何故か二重投稿……

クロスSS紹介スレにあった先達、
魔法少女 えみやマギカ
Fate stay Magica
の中身が知りたいのですが、今読んでしまうと影響を受けてしまいそうなので、どなたか時間ができた方、もしくは既読の方にあらすじとか感想とか教えていただければ嬉しいです

ここが良い、ここが悪いなどの指摘も待ってます
まだまだ発展途上の文章ですが、皆さん今後ともこのSSにお付き合いしていただければ幸いです

他にもこんなが話あるけど
サギタリウス・マギカ
第5次アーチャーがマギカ世界に召喚される話
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=25912&n=0&count=1

>>243
>>241です、文章を読める人にネタバレもどうかと思いますので、あんま詳しくは書きたくないですが
魔法少女 えみやマギカ
は、まだ途中ですしどう転ぶか解んないですね、干将莫耶を使う辺りを考慮するとオリキャラって断言したのは尚早だったかもですね
Fate stay Magica
後半でまどかチートって思う方も居るかもしれませんが、バランス的には崩壊してないlvかなと、宝具はあんま好きじゃないかな、魔法少女を出したっかったんだろけど
>>245
ありますね、悪くないと思います

昨日投下しようとしましたが、料理で疲れてしまい寝落ち
マミさんとかヒロさんとか士郎みたいな人が居たらいいのになあ

>>245
ありがとうございます
いつか読みます
いつかは今ではありませんけどね

>>246
なるほど、面白そうですね
いつか(ry

ところで、まどかの該当クラスはアーチャーよりセイヴァーだと思うんですよ
チートキャラにしても叩かれなさそうなクラスですしね
それで面白いかは置いとくとして

では、始めていきます

ワルプルギスの夜まであと13日


日曜日―――。
どれは世間一般では休日とされる日である。
根無し草のような生活の長い俺には関係がないものの、
学生にとっては貴重な安息日となっている。
ほむらにとってもそれは例外ではなかったらしく、今日の予定はお出かけだそうだ。
しかしどこへ行くのかは知らないけど、レーションを昼飯にするなんて認める訳にはいかない。
時間も材料もあまりなかったが、そんな訳でサンドイッチを持って行かせる事にしたのだ。

そうしてほむらを見送り、掃除洗濯と一通りこなした頃には日も最高地点にまで昇っていた。
昼飯に冷蔵庫の中の片づけをして、本日の行動開始。

「帰りに買い物、ああ折角だから何か甘い物も買っておくか。
ほむらも女の子なんだから、そういうの好きだろうし」

そう自分に記憶させてから家を出る。
今日の目的は昨日の使い魔の親玉探しと、会えれば美樹の稽古というところか。

「美樹にも学生らしい日曜日を過ごしてくれれば、それが1番なんだけどな」

こればかりは当人次第なので、俺ではどうしようもないのだが。
まあ、考えても仕方のない事を考える必要もあるまい。
俺がやるべき事をやっていくだけだ。
とりあえず手がかりもない事だし、使い魔の居た所から出発するとしよう。

今回の世界でのイレギュラー、衛宮士郎。
自らを魔術師と名乗る彼の能力は、かつて見た武器を生み出す事だった。
聞いた話によると、投影と呼ばれる魔術だそうね。
この力があれば、もう武器の調達なんてしなくていいものだと思ったわ。
しかし、それはぬか喜びだった。
彼が言うには、

“俺の魔術は基本的に剣とかの近接武器にしか対応してないんだ。
 他の物は出来ない事はないけど、機械で作られた量産品なんかは苦手でさ。
 中身のないガラクタを作るか、部品を1個ずつ投影して組み立てるかになっちまう”

だとか。
しかも弾丸は別に用意しないといけないらしい。

結局、武器を調達してくるはめになったこの休日。
今はその帰りで、ゲームセンターに向かっているところだ。
目的はひとつ。
昨日見滝原に現れた佐倉杏子との交渉。
ワルプルギスの夜の為の戦力は多いに越した事はないのだから。


「……あいかわらずうるさいわね、ここは」

自動ドアが開くと、独特の喧騒に身を包まれた。
あんまり長く居ると倒れてしまいそうだし、すぐに杏子を捜しましょう。
彼女はダンスゲームを好み、統計的にもダンスゲームをやっている事が多かったわね。
協力を求める度に来ていたのだから、ここの構造は把握しきっている。
一直線にダンスゲームの筐体の所へ行くと、やはり彼女はそこに居た。

「…………」

普段の粗雑な態度とは全く異なる、華麗なステップと舞い踊る紅いポニーテール。
元々体が弱かった私にとっては、その躍動感溢れる姿は羨ましくも思ってしまう。

「よう、今度は何さ」

ゲームをやりながら話しかけてきた。
いつも思うけど、器用さだけは誰にも負けないわね、この子。

「この街を、貴女に預けたい」

「ここは確かマミの縄張りだったと思うけど?」

「巴マミの許可は得ているわ。彼女が復帰しない限り、ここは私のテリトリーね」

病院でのやり取り。
街を護るという条件付きだけど、彼女は確かに言った。

「ふーん。どういう風の吹き回しよ?」

「魔法少女には、貴女みたいな子が相応しいわ。美樹さやかでは務まらない」

「ふん、元よりそのつもりだけどさ。そのさやかって奴、どうする?
ほっときゃまた突っかかってくるよ」

「なるべく穏便に済ませたい。貴女は手を出さないで。私が対処する」

私が、と言うより、衛宮さんが、だけどね。
昨日見た感じでは、割と良好な関係になれてるようだったし。

「……二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」

「何故分かる?」

「それは秘密。ともかく、そいつさえ倒せたら、私はこの街を出て行く。
後は貴女の好きにすればいい」

「ふうん……ワルプルギスの夜ね。
確かに一人じゃ手強いが、二人がかりなら勝てるかもな」

正直、2人では勝てる気はしない。
でも、3人目が居る。
3人でうまくやれれば、勝ち目はゼロではなくなるだろう。

そう考えていると、ゲームが終わったらしい。
画面には、PERFECTの文字。
杏子が振り返ると、ポケットの中を探ってお菓子の箱を取り出した。

「食うかい?」

食べ物を渡してきたという事は、私と手を結んでくれるという事ね。
これ以上の話はここでは難しいし、うちに連れていきましょう。
衛宮さんはさやかと居るだろうし、ケンカにはならない筈だ。

「お返しにサンドイッチでもどうかしら?」

とりあえず、彼女の信頼の証に応えるとしましょう。

「さて、と。昨日の場所はあそこか」

表通りを曲がり、建物と建物の間に入る。
そこは妙にアートな雨樋が印象的な、光の少ない路地裏。
昨日の戦闘の跡が残るそこに、見知った先客が居た。

「ダメだ。時間が経ち過ぎている。
昨夜の使い魔を追う手がかりは無さそうだ」

白いナマモノが話している。
どうやら彼女らも、俺と同じ目的でここに来たらしい。

「よっ。美樹たちも来てたのか」

「ちわっす、師匠!」

「こんにちは、衛宮さん」

2人に声をかけると、手を振りながら挨拶が返ってきた。
しかしこの2人を見ていると、なんか学生時代を思い出すな。
活発な短髪の子とほんわか系の子。
知的でクールな軍師系メガネっ子が居れば、いいトリオになりそうなものだ。

「師匠も魔女を探しに?」

「ああ。昨日の使い魔の痕跡から親玉の元へ行けないかと思ったけど……」

美樹の質問に答えながら歩み寄っていく。
目的その2は達成されそうだが、その1の方は叶わなさそうだ。

「この辺りじゃ、もう手がかりがないって、キュゥべえが……」

「……そうみたいだな」

世界に対してのあの違和感も、もはやここでは感じられない。
後は足を使っていくしかないようだ。
しかし、ほむらに訊いてなかった疑問が湧いた。

「あのさ、魔法少女ってのは、どうやって魔女を探してるんだ?
そいつは判ってるようだけど、いつも一緒に居るって訳にもいかないだろ?」

「そいつじゃなくって、キュゥべえです!」

白いのに指を差したら、鹿目に注意された。
まあ、そんな事はどうでもいいんだ。

「キュゥべえも教えてくれますけど、普段はこのソウルジェムの反応を追っていくんです」

「へえ、便利な礼装だな。俺は魔力の探知は得意じゃなくってさ。
それに魔女は魔術のそれとは性質が違うみたいなんだ」

正直お手上げだ、とジェスチャーを交えながら愚痴ってみる。
実際魔女から感じる魔力は、
魔術師の体内に流れる小源(オド)とも、大気中に漂う大源(マナ)とも違う。
それを大源から判別出来れば、魔女を追う事も可能なのだろう。
が、…………いかんせんまだ解析が出来ていない。

「?じゃあ、一昨日はどうやってわたしの所に?」

「そいつは簡単だ。明らかに様子のおかしい人が集まってたら嫌でも判るよ」

あ、そっか、と間の抜けた反応をする鹿目。
年齢と見た目相応の小動物っぽさが、滲み出てるような挙動だ。

「最悪、結界さえ開いていれば、判るんだけどな」

「それは判るんですか?」

「ああ。俺は世界の違和感に対しては妙に敏感なんだ。
魔術でも理屈でもない、ただの勘としか言いようがない事だけど」

結界なんて物を展開して、世界に違和感が生じない筈はない。
内側と外側で全く違う世界が作られるのだから、そいつは当然の話だ。

「その話はいいとして、この後はどうするんだ?
昨日の今日だし、魔女を探しても無駄だと思うけど」

魔女だって本能のみで行動する訳ではなかろう。
いや、そうだとしても、生存本能が行動を抑える筈だ。

「そうですか。今日はもう帰る?」

「でもまだ時間があるのに、予定がなんにもないけど?」

少女たちが相談する。
ふむ。
それだったら、俺の予定その2を実行しよう。

「予定がないなら、俺に付き合ってくれないか?
美樹に稽古つけておきたいし、教えてもらいたい事もある」

「昨日の続きですね。まだまだ強くなりたいし、あたしは付き合います!」

「さやかちゃんがそうならわたしも残るけど、わたしたちが教えられる事なんてないですよ?」

「いや、おまえたちじゃないと教えられない事だ。
この辺りで1番品揃えのいいスーパーを訊きたかっただけだからさ」

「そのくらいでしたらいくらでも」

「さんきゅ。助かる」

鹿目に軽く礼を言い、美樹の方へ向き直る。

「じゃあ、まずは稽古だな。
ここじゃ狭いし、誰かが来たときが面倒だから移動しよう」

「だったら、このさやかちゃんにお任せを!」

自分の住む街だから色々と穴場を知っているのだろう。
美樹が先導するのを見て、鹿目と共についていった。

「―――ここなんかどうですか?」

「いいな。広いし邪魔も入らない。それに水分補給が簡単だ」

美樹に案内されやってきたのは、取り壊しが行われてないのが不思議な廃ビル。
フロアに余計な物はないうえに、外へ出れば自販機が目と鼻の先にある。

「で、今日は何を教えてくれるんですか?」

「美樹、昨日2本目の剣を使ってただろ?
だったら身を護る為にはより都合のいい戦法、二刀流を教えようと思う」

「二刀流かあ。こう、宮本武蔵みたいで強そうな感じ?」

「ちょっと違うけどな。
あと、宮本武蔵より佐々木小次郎の方がたたぶん強いぞ?」

あのセイバーが苦戦したくらいの技量に、秘剣・燕返しなんて切り札まである。
あんなのに勝てたなんて、嘘くさくてたまらない話である。

「折角だから鹿目も聞いててくれ。万が一という事もあるし」

「は、はい!」

万が一は起きない方がいいけど、俺も美樹もほむらも、鹿目と24時間一緒に居るなんて出来ない。
その時に知ってると知らないでは大違いだ。
仮令それが無駄になろうとも、な。

「基本は1本の時と同じだ。相手の動きをよく見て、剣で受けていく。
2本ある分、相手の数が増えても対応させる事は可能だ」

「でも、片手じゃあんまり強く握れないんじゃ……?」

「まあ、そうだ。でも鹿目は生き延びる事だけ考えればいい。
元々倒せる筈もないんだから、誰かが助けてくれるまでの時間稼ぎをするんだ」

それは俺がセイバーに教えてもらったのと同じ事だな。
死なない事だけが目的の戦い方だ。

「逆に美樹はそれだけじゃダメだ。一撃が軽くなる分、手数を増やすんだ。
それと並行して片手での扱いを練習していけば、一撃もまた重くなる筈だ」

「はいっ」

元気のいい返事を聞いて、うむと頷く。
やる気はあるようだし、カタチだけなら今日中で作れるかもしれない。

「―――投影、開始」

作ったのは2組の竹刀。
長いのが2本、短いのが2本。
本来は長短一対だけど、実用も兼ねて長い方を美樹に、短い方を鹿目に渡す。

「なんですか、これ?」

「二刀流用の竹刀だ。右手に大刀、左手に小刀と持つのが普通だけど、
振れなくちゃお話にならないから、鹿目は両方とも短い方だ」

そもそも、マインゴーシュはもっと短い物だしな。
受け流す分には何も問題はないだろう。

「美樹は自分の武器でも同じ事が出来ないといけないから長いヤツだ。
じゃあ、とりあえずは俺の真似をしてくれ」

「はいっ!」
「はいっ!」

元気のいい返事に満足だ。
自分用にも長い竹刀を2本投影し、構えを取る。

「構えはいつだって中腰だ。そうじゃないと急な動きが取れない。
竹刀は軽くクロスさせて、体の中心だけは絶対に見せないように」

そうして、稽古が始まった。

―――だいぶ日が傾いてきた。

構えを教えた後、両手を独立して動かす練習として素振りをした。
それに慣れてきたら、俺が美樹に攻守の練習を、美樹は鹿目に防御の練習をさせた。
全力でやった訳ではないが、2人ともある程度なら身を護れるようになってきたようだ。
ここまで出来れば、鹿目は十分。
美樹も実戦を重ねていけば、実用可能な域に達するだろう。

「よし、ここまでにしよう」

「ふいー、疲れたあっ」

「はあ、はあ―――は。さやかちゃん、よく体力が、保つね。……はあ」

「いやいや、鹿目も十分よくやったよ。
振り回せる棒さえ用意できれば、使い魔程度に殺される事はない筈だ」

「そ、そうですか?」

心なしか少し誇らしげになったな。
その自信が慢心になりさえしなければ、鹿目は安心だ。

「あたしはどうですか?」

「美樹は鹿目以上によくやってるけど、目的が違うからな。
守りはいい感じだけど、攻めはまだまだこれからだ」

「くぅっ、まだまだかー。先は長いよ」

悔しみつつも、こちらは楽しそうだ。
自分の教えが役に立ってるなら、それは嬉しい事だ。

「もう少し休憩したら、スーパーへ案内してくれ。
頑張ったご褒美に、何か奢ってやるぞ」

「よっしゃあ!」

「ごちそうさまです!」

……現金なヤツらだ。

「そういう訳で、今現在話しておける事はこんなものね」

佐倉杏子をうちに連れ込んで、ワルプルギスの夜に関して話した。
終始お菓子を食べ続けていたけれど、一応理解はしているようね。

「この街をテリトリーにする為の条件、忘れないで」

「チッ。マミのヤツ、面倒なモン置いていきやがって」

悪態をつきつつも従う態度を見せるのは、巴マミを敵にしたくないと思ってるからか。
この様子なら、ワルプルギスの夜の後もうまくやっていきそ―――。

「ただいまー」

「!?」

玄関から衛宮さんの声が聞こえた。
外を見れば、いつの間にか日も沈みそうだった。
これはまずい―――!

「あっ、アンタは昨日の!」

「ん?なんだ、おまえが居たのか」

杏子が突っかかったのに対し、大荷物の衛宮さんはかなり落ち着いている。
これは少し予想外ね。

「昨日戦った相手がうちに居るのに、ずいぶん冷静ね?」

「確かに昨日は敵と呼んだ。
でも、誰にも危害を加えないってんなら、敵と戦う必要なんてないだろ?」

「余裕かましやがって。アンタ、超ウゼェ」

「好きに言ってろ。
それに居候の身なんだから、家主が誰を連れてきたって文句なんかつけられるか」

敵を見たら突っ込んでいく人かと思ってたけど、案外寛容なのね。
これなら彼女との協力もうまくいくでしょう。

「話は終わりだよな?アタシは帰らせてもらうよ!」

「あ、ちょっと待て!」

「今度は何さ!?」

「時間も時間だし、折角だからうちでメシ食べていけ。
作ってる間、お茶請けの羊羹買ってきたから、それを食べてもらってもいい」

「………………………………っく」

落ちたようね。
敵意より食欲が上回る辺り、杏子らしいというか。
今後の交渉にも、衛宮さんの料理は有利に働くかもしれない。

「ほむら、今日は食欲あるよな?今日は少し豪華にいかせてもらうぞ」

食べる人が増えたせいか、その声はいつもより活き活きとしていた。
せいぜい楽しみにしてなさい、佐倉杏子。
彼の料理を甘く見ると、ほっぺた落ちるわよ。


ステータス・武器情報が更新されました

Status

美樹さやか
属性:秩序・中庸
スキル
剣術:剣を用いた戦闘技術。二刀流の基本を会得し、防御だけは得意と言えるレベル。
足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。
勇猛:怖いもの知らず。精神干渉への耐性を持つが、空回りする事も。

佐倉杏子
属性:混沌・中庸
スキル
槍術:槍を用いた戦闘技術。獲物の特性と相まって、実力は常人の域を大きく逸脱している。
結界構築:外と内を隔離する檻を作成する。物理的な衝撃をある程度防ぐ事が出来る。
暴食:人並み外れた食欲。食べ物に関する誘惑に弱い。

竹刀(二刀流)
二刀流用の大小一組の竹刀。
大刀は三尺七寸以下、小刀は二尺以下と、一刀流より短いのが特徴。
戦前、二刀流が悪用され、防御一辺倒の姑息な戦法で引き分けに持ち込む人間が多かった為、
二刀流が禁止されるようになり、今でも高校生以下の剣道界では事実上禁止されている。
士郎がまどかに教えた小刀(脇差)2本を用いた二刀流には、二刀小太刀術という名前がある。
が、そんな複雑な代物ではなく、単純に振り回しやすさを重視して教えただけのようだ。

今回はこれで終了です


悩みに悩んで作ったカレンダーに則って話が進むので、事件がない日は凄い平和です
ですので前回投下直後は、

「中身いつもより少ないし、2日一気に進められるかなー」

と思ってたんですが、今回分が完成した昨日には、

「中身が少ないんじゃなくて、中身埋める為の材料がないだけじゃん」

と考えが変わるくらい、難産でした
草案を作る事を諦め、目を瞑りながら未来に向けて放った矢が、見事に的中しただけとも言いますけどね
もっとカレンダーと草案をきちんと作っておきましょうか

>>ネコアルクVSうめてんてー
何それ見たい


あぁ続きが読みたいのに中日には勝ってもらいたい……どうすればいいんだ……orz

龍も鷹も地元で連敗してアウェーで連勝とかワケがわからないよ

>>286
>それは置いといて、人間、2回目だからこそ脆いものです
と言うことはこのマミさん魔法少女になってからシャルロッテ戦まで一度も死に掛けた事がないと言うことか?
ちなみに魔法少女の初陣死亡率7割らしい、それを考えるとすごいことだな
まあメインの5人が例外なだけかもしれないけど

>>290
揚げ足取り楽しいか?
マミさんは一人で戦ってた時は死にかけても耐えられたらんだろうよ。
でも一人じゃなくなったから、仲間ができて人間強度が下がったから心が折れたんだろ。
誰かが言ってた「希望が大きければ、絶望もそれに比例して大きくなる」って。

マジレス恥ずかちぃぃぃ///

>>288
ネコアルク「そこのピンク、アタシと契約してネコミミになれ」
まどか「……え?」

こういうことかww

マミさんは才能あるしソウルジェムが自分の魂だと知らないことから死に瀕するほどの重傷はなかったのかも知れないな

山田の予想を遥かに超えた好投で、リーチがかかりました
摂津の中継ぎ復帰は予想はしていましたが、まさか中1日で投げるだなんて
あとは粘ったりバスターしたりと細川が大活躍でしたね
バスターのいやらしさは、もはや萌えを感じるぐらいに好きです

>>288
さすがに負けたとしても、続きは書きますって
こちらもやりたくてやってるだけですので

>>289
両チームともホームでの勝率は七割オーバー
水増しして三割で負けるとしても、0.243%の偶然という計算に……

>>290
>>291>>293みたいな感じということで
個人的にはマミさんは油断とかなければ、規格外の連中意外には負けないと信じてます
我様が慢心さえしなければ最強である、みたいな信仰に近い何かです

>>291
「恐怖という物には鮮度があります」とも言ってますよね
一瞬持ち上がったからこその落差と言いますか、スカイフォークと言いますか

ネコアルクVSうめてんてーは、行き詰った時にでも書いてみます
いつ出来上がるのか、何が出来上がるのか、皆目見当がつきませんけれど

ところで、浮かんでしまったどうしようもないネタをひとつ


馬原「中日打線を抑えるなんて、僕1人で十分だ」

鹿目「何でだろ、私、馬原さんのこと信じたいのに、嘘つきだなんて思いたくないのに……
  全然大丈夫だって気持ちになれない。馬原さんの言ってることが本当だって思えない」

馬原「繰り返す。僕は何度でも繰り返す……」

9|10|R
0|1|2
0|0|1


こんなことにならないでほしい
でも、胴上げ投手は馬原がいい
フォークさえ、フォークさえ万全なら……!

明日は和田→森福→摂津→ファルケンボーグ→馬原のリレーが見れればいいなあ
MVPは小久保に1票

あえて言わせてもらおう
>>1マダーと!!

PC使えないなら紙のノートに書いておけばいいじゃない

規制されてて書けない・・・とか?

ゼルダの伝説スカイウォードソードが発売されましたね
今はまだ出来ませんが、いつかやれるときが楽しみです
あと、勇者ほむらが妖精マミィと共に往く時を超えた戦い、なんて考えたり

>>322
ごめんなさーい

>>323
一応携帯で下書きをしてますが、いざパソコンに向かうと結構文章量が増えたりしてます
ですので、紙に書き直すというのはいいアイディアかもしれませんね
難点は私の字が汚いことですね

>>324
そんなことはありません、大丈夫です


では、投下していきます

ワルプルギスの夜まであと12日


「ん…………」

いい匂いがする。
衛宮さんが朝ご飯を作ってるらしい。
部屋に漂う味噌の香りが食欲をそそる。

「おはよう、ほむら」

「ん、おはよ、ございます」

ダメね。
なんか頭がはっきりしない。
顔を洗ってきましょうか。

「……ふう」

冷たい水が眠気を振り払う。
今日は月曜日。
また1週間、学校に行かなければならない。
まどかと接触以外の目的なんて、もはやないようなものではあるけど。

「よし、朝飯出来たぞ」

衛宮さんの声がした。
とりあえず今のところは、すぐに着替える事が先決ね。

「遅くなったわ」

「ああ、気にするな。さあ、食べようか」

軽くやり取りをしてテーブルに着く。
向かい側の衛宮さんに目配せして、両手を合わせた。

「いただきます」
「いただきます」

今日の朝ご飯はほうれん草入りの卵焼きにきんぴら、玉ねぎとオクラのお味噌汁。
今日も朝から、よく作ってくれるわね。

「毎日毎食食事を作ってくれるけど、本当に料理が好きなのね?」

「別に習慣になってるだけで、そこまで好きって訳じゃないぞ。
そりゃあ、作った飯を美味そうに食べてくれるのは嬉しいけどさ」

それは料理好きと言うわよね、普通。
まあ余計な茶々を入れて、作ってくれなくなると困るので言わないけど。

「それでも、昨日の子はよく食べていったな。
今日の弁当は昨日の残り物にしようと思ってたのに、綺麗に全部食べちまったんだから」

3人分としてもやや多かった昨日の晩ご飯のうち、およそ半分を佐倉杏子は食べてしまった。

「と言うか、流石に料理している数十分の間に羊羹がなくなるとは思わなかったよ」

彼女は直前には棒羊羹1本、300gも食べきったいた。
そこに食べていい物があれば、際限なく食べていく。
なのに太る気配は一切ないのだから、不思議な体質ね。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さま」

朝ご飯を食べ終わって、登校の準備をする。
その準備が終わる頃には衛宮さんの作業も終わり、弁当を渡してきた。
1週間前ではありえなかった事。
しかし日常の一部となりつつあるやり取りをして、玄関へと向かう。

「行ってくるわ。後の事は任せるわ」

「ああ、任された。心配は要らないから、学業に専念してくれ」

そんな挨拶をして、玄関を出た。
着実と近づくあの夜を気にする様子もなく、朝日は今日も暖かく街を照らしていた。

ほむらを送り出して、家事を片付ける。
それが終わった後、俺も街へと繰り出した。
活動を再開するであろう一昨日の使い魔の親玉を、犠牲者を出す前に討たなければならない。
その為、当てもなく街中を歩き回る。
途中で持参した弁当を食べ、更に歩き回る。
しらみつぶしに歩き続け、うちを出てから6時間程。

「―――ん?ようやく捕まえたか」

あの使い魔と同じ、いや、それより強い違和感。
間違いない。
目的の魔女が近く居る。

「こっち、だな」

己が感覚に従い、魔女の居城を探す。
だんだんと近づく。
ゆっくりと近寄る。
……そして、そこへ辿り着いた。

「うわ、ひでえ……」

3階建ての小さなオフィスビル。
その2階にあるフロアのほぼ全域を占める部屋の中。
ここに居る全ての人が魔女に魅入られたらしい。
30人ぐらいだろうか、従業員と思われる人々が何かを探すようにぐるぐると徘徊している。

「ここで間違いはないな」

そう呟いた声に反応したのか。
正気を失った目が食屍鬼(グール)か何かのように迫る。
が、グールとは違い、ヒトである彼らを殺す訳にはいかない。

「仕方ない。1人ずつ落としていくか」

そう。
酷く不気味ではあるが、彼らは所詮ヒトなのだ。
襲いかかってはくるが、噛み付かれるような事はない。
しばらく大動脈を圧迫すれば、意識を失う。
その間は殴られっぱなしではあるけど、まあデスクワーカーたちが相手だ。
……あまり痛くない。

「よし、終わり」

ちょっと気の毒だとは思ったけど、全員に眠ってもらった。
やり残しがないかの確認で辺りを見回すと、ふと壁掛け時計が目に入った。

「そろそろ学校が終わるな」

折角だから美樹に経験を積ませたい。
積ませたいのだが、如何せん連絡手段がない。

「さて、どうしたものか……」

これ以上誰かを巻き込む訳にもいかないから、あまりここからは離れられない。
携帯電話を持ってないからと言って、美樹の番号を訊くのを怠ったのは失策だったな。

「ふむ……思いつく方法はひとつだけ、かな」

自分でも無茶苦茶だとは思うけれど、それ以外に手段はない。
とりあえず紙とペンを拝借しますか。

あれから3日。
たったそれだけしか経ってないのに、色々な出来事が起きた。
いや、この1ヶ月を戦場としている身としては、3日間は大きなものである。
また、その間病院から出られなかった人にとっても、十分長い時間でしょう。

「巴マミさんのお見舞いに来たのですが」

今日もさやかは衛宮さんの元へ行くつもりらしい。
まどかもそれについて行くようなので、今日のところは契約の心配はなくなる。
そして校門を出た後しばらくして、2人はどこかへ走っていった。

「はい、係りの者が案内しますので、もうしばらくお待ちください」

そうして時間が出来た私は、巴さんに会いに来たのだ。
この3日間で起きた出来事の報告の為だ。
仮に彼女が再起した時、少しでも現状を把握している方がいいでしょうしね。

「こちらです」

病院のスタッフに案内され、前回と同じようにマスクを渡される。
それをつけた後、巴さん……巴マミの病室のドアをこんこんと叩いた。

「どうぞ」

聞こえてきた声に従い、その中へと入る。

「あら、また来てくれたのね?」

「ええ、貴女に伝えておきたい事があったから」

それと差し入れよ、とグリーフシードをひとつ渡す。
思ってたより巴マミは敵意を持ってない。
どうやら前回のお見舞いのおかげで、私への印象は多少よくなっていたらしいわね。

「まず、美樹さやかが魔法少女になったわ」

「昨日、美樹さん本人から聞いたわ。
なんでも、凄いお師匠様が居るそうじゃない」

その方に嫉妬しちゃうわ、だなんて悪戯っぽく笑う。
少しずつ元気になってきたようで安心したわ。

「それは多分、例の彼の事よ」

「へえ、あの人かぁ……」

実際、衛宮さんの凄さは一緒に暮らす私が1番よく知らされている。
戦闘もさる事ながら、家事の面でも。
でも、それを語る為にここに来たのではないし、そんな事をしていては日が暮れてしまう。
次の話題へと移りましょう。

「あとは、佐倉杏子がこの街に現れた」

「……佐倉さん、が……」

全容までは知らないけど、巴マミと佐倉杏子の間にはケンカ別れした過去があるらしい。
その相手が現れたとなると、その心情も穏やかではないでしょうね。

「心配は無用よ。彼女とは話をつけたわ。
少なくともこの街で活動する間は、貴女の望み通り使い魔とも戦うでしょうね」

「そう……」

ワルプルギスの夜を迎える為の戦力にするなら、2人の間の確執はないに越した事はない。
でも、その為に私に出来る事はせいぜいこの程度。
後は本人同士の問題なのだから、部外者が口を挟める余地なんてない。

「ねえ、暁美さん。貴女は何が目的なの?
グリーフシード目当てかと最初は思ってたけど、そうではないみたいだし」

「……病人には関係のない事よ。
どうしても知りたかったら、せいぜい早く治す事ね」

それだけ言って、病室を後にした。
一緒に戦ってくれるなら頼もしいけど、
あの時みたいに壊れてしまいそうな巴さんにこれ以上の重荷を背負わせたくない。
今は、今戦える人の事だけを考えておこう……。

「師匠ぉーっ?居ますかーっ?」

結界の入り口を見つけ、そこに座り込み続けて数十分。
静かだったこのビルに、久々の音が響いた。

「ああ、居るぞ。ちょっと待ってろ」

大声で返事をして、階段を下りていく。
1階の出入り口には少女が2人。
その姿を見つけると同時に、その元へと駆け寄っていった。

「本当に師匠だったんですね、あの矢」

「いきなり目の前に飛んできたから、ちょっと怖かったなって」

「悪い悪い。他に方法が思いつかなかったんだ」

とりあえず2人に謝罪。
結局、俺が使った連絡手段は矢文だった。
最寄のビルの屋上から、1kmちょっと離れた所で見つけた彼女たちの足元へ矢を放つ。
その矢に結びつけた手紙を読ませる事で、こちらの意思を相手に伝える。
自分で言うのもアレだが、時代錯誤も甚だしい話である。

「で、ここに魔女が居るんですよね?」

「その通りだ。案内するからついて来てくれ」

再び階段を上り、廊下を歩く。
トイレと給湯室の前を過ぎ、大部屋へと入った。
当然そこには多くの人が倒れていて、後ろから鹿目の短い悲鳴が聞こえてきた。

「そんな……こんなのって…………」

「心配するな。俺が気絶させておいただけだ」

よかったあ、と鹿目の安堵の声を聞き、部屋の奥へと進む。
扉と反対側の壁際に強烈な異常を感じる空間がそこにあった。
いざ、と思ったが、その中に入る前にひとつだけ確認しておかないとな。

「鹿目、ここについて来たという事は、ちゃんと身を護る方法を考えてるよな?」

ちょっと見せてくれ、と言うと、鹿目は持っていたカバンから2本の麺棒を取り出した。
長さは申し分ないが、強度が少し心許ない。
その不安を補う為に一旦それを受け取り、魔術回路を起動させる。

「―――同調、開始」

麺棒の基本骨子と構成材質を解明。
基本骨子を変更し、構成材質を補強。
隙間を埋めるように魔力を注ぎ込み―――!

「……失敗した。別の物を用意するから、ちょっと待っててくれ」

何の変化もしていない麺棒を返した。
未だに他人の物は強化の成功率が悪い。
愛着とでも言えばいいか、その持ち主の情念に阻まれているような感じだ。

「よし、こいつを使ってくれ」

ごく普通の警防を2本投影し、鹿目に渡す。
これで準備は完了だ。

「じゃあ、張り切っていきましょー!」

美樹の号令と共に結界へ乗り込んでいった。

―――クレヨン、色鉛筆、カラーペン。
それらで描かれたような落書きの空間。
使い魔はたくさん居るが、気ままに飛び回ってるだけで攻撃の意思はないらしい。

「あいつらは放っとこう。相手にするだけ無駄になりそうだ」

魔女を倒せば、どうせ一緒に消えていく連中だ。
余計な体力を消費する必要なんてどこにもない。

「魔女の反応は……こっち!」

美樹の身を包む衣装が変わると、魔女が居るという方向へ走り出した。
それを追い、残された俺たちも走る。

「ところで、師匠。そのかっこいい格好はなんですか?」

美樹がこちらに顔を向けて質問をしてきた。
走ると言っても、鹿目がついてこれる程度の速さだ。
襲撃もないのだから、話をする余裕はいくらでもある。

「おまえの格好と同じようなもんだ。
これから戦うと判ってるなら、相応の準備をするのが当然だろ」

まあ、外に居る人たちを相手にした時に、
上に着ていたシャツが破られたから着替えた、というのもあるが。
あえて言う必要もないだろう。

「そう考えるとなんだかヒーローみたいですね、あたしたち」

「さやかちゃんはヒロインじゃないの?」

英雄(ヒーロー)、か。
確かにこの格好はいつか見た赤い英雄の姿を模した物だ。
いけ好かないヤツだったけど、あいつの言葉はいつだって俺には重要な意味を持っていた。
それを忘れない為に真似をした事の全てが、何故か自分の一部だったかのようにしっくりときた。
だけど、ひとつだけ絶対に違う事がある。

「別に俺はヒーローじゃないし、ヒーローになる気もない。
人を救えればいいだけの俺には、英雄ってのは荷が勝ってるよ」

そうとだけ言って、走るのに専念する。
それがしばらく経って、美樹の足が止まる。

「ここに魔女が居るね」

どうやらここが結界の最深部らしい。
相変わらず落書きのような物で溢れていて、使い魔は飛び回っているだけだが。
そして、もうひとつ変わらない事があった。

「……どこに魔女が居るって?」

「あ、あれ?おっかしいなー、確かにここの筈なんだけど」

魔女の姿がどこにも見えない。
本当にここに居るのか判別できない身としては、美樹の言う事を信じるしかない。
が、やはりそこに居ないと疑いたくもなってしまう。

「どういう事なんだろう?」

「使い魔と同じ姿をしている、とかか?」

「あたしに恐れをなして逃げたとか」

「逃げてたら結界は消えてるだろ」

考えてみても解らない。
それでも、ここに居る以上は放置して帰る訳にもいかない。
どうしたものか……。

「あ、あのっ」

「どうしたの、まどか?」

どうやら鹿目に意見が浮かんだらしい。
藁にも縋らなければならない状況だ、どんな意見だって大切だ。

「もしかして隠れてる、とかじゃない?」

「隠れてたら何も出来ないじゃん」

「そうじゃなくって、ここってなんだか小さい頃の遊び場って感じじゃない?」

ふむ、確かに使い魔は遊んでるように飛び回ってる。

「だからね、ここの魔女はかくれんぼしてるんじゃないかなって」

「……誰も探してないみたいだけど?」

そういえば、魔女に操られていた人たちは何か探してるようだったな。
案外、的を得ているのかもしれないし、他に意見もないんだ。
その仮説を信じてみよう。

「あっ、あそこ!」

「任せて!」

鹿目が指差した方へ美樹が駆ける。
そしてそのまま、俺が視認するよりも疾く、両手に握った剣を叩きつける。

「おりゃああっ!」

まさに全身全霊。
そんな勢いでの一撃は物陰に隠れられる程度の大きさの魔女を倒すには十分だったようだ。

「よしっ」

美樹の動きが停止してから数秒。
魔女の結界は消滅し、元のビルへと戻ってきた。

「よくやったな。なかなか二刀流も板に付いてきたじゃないか」

「それほどでもありますかな?
でも、さやかちゃんの成長はまだまだ止まらないのだー」

「あははは」

若干調子に乗り気味ではあるが、向上心があるのはいい傾向だ。
初弟子の成長は、今後の楽しみのひとつだな。
さて、ここにずっと居る訳にもいかないし、居る意味もない。

「じゃあ、ずらかるぞ。救急車を呼んだら解散しよう」

「はい!」
「はい!」

「ただいま」

玄関から声がした。
ちょっとだけすると、現れたのはなにやら嬉しそうな顔の衛宮さん。
普段、家事をしてる時以外は仏頂面の印象がおおい彼がこんな表情をしているのは珍しい。

「楽しそうね」

「まあな。弟子の成長は嬉しいもんだ。
あの調子なら、あと10日もすれば一人前と言って差し支えないぐらいにはなる」

そう言って荷物を置いて、キッチンへと向かう衛宮さん。
もしかするとさやかはワルプルギスの夜への戦力と数える事が出来るのかもしれない。
実力についてはどんどん付けていっているようだし、
上条恭介との事を解決できれば、もう急に魔女となるような問題もないでしょう。
杏子との仲は不安ではあるけれど、街を護るという目的の為なら協力はする筈ね。
杏子の対処は……食べ物で釣れば、一時協力ぐらいしてくれるかしら?

「これも全部、衛宮さんのおかげね」

キッチンには聞こえないように、ぼそりと呟いた。
しかしそれにしても―――、

「ほむらー、豚と魚、どっちがいいかー?」

今日もご飯はおいしそうね。
彼のおかげで、私の世界も変わった気がする。
全てが終わったその時は、色々利用した事を謝って、そしてお礼を言いましょうか。


武器情報が更新されました

Weapon

警棒
全世界の警察官や警備員に使われる、拳銃と並んでオーソドックスな武器。
特に日本では拳銃の使用をなかなか出来ない為、主装備と言ってもいいくらいである。
かつては木製が一般的だったが、現在では様々な種類の材質があり、
衛宮士郎が投影した物は軽くて丈夫な強化プラスチック製である。

インビジブル・エア
第五次聖杯戦争におけるセイバー、アルトリアが使用した鞘。
本来は魔術である物が、鞘という形で宝具にまで昇華した物である。
幾重にも空気を重ねる事で屈折率を変化させ、これに覆われた物を透明化する。
相手に武器の間合いが見えないという効果の他に、斬撃の威力を上げる効果もある。
また、纏わせた風を解放する事によって、一度限りの飛び道具として使用する事も可能。
アルトリアはその有名すぎる剣を見られる事で、真名を知られる事を防ぐ目的として使用していた。

訂正を1箇所お願いします
>>329大動脈→頚動脈
徹夜してたせいか知りませんが、大動脈を圧迫すれば普通死にますね
失礼しました


今回はここまでです

前回の投下が9日ですので、半月ぶりということになってしまいました
大変申し訳ありませんでした


ところで、この前描いた絵に色をつけてみました
http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper26810.jpg
作業を中断するたびに勝手にグラデーションがかかるせいで、塗りつぶしが出来なくて骨が折れました
ペイントってめんどくさい
色鉛筆でも買ってみましょうかねえ
あと、これのせいで遅れたなんて事はありませんので
睡眠時間は削りましたが、それは絶対ありませんので

まぁ最終的には釣り竿投影してひゃっはーするくらいだしその辺は曖昧なんじゃない

まあ武具から経験読み取るという身体能力的に無理そうなのでもやっちゃうからな
アーチャーの腕ありきのナインライブズ

物干し竿投影したら燕返しできるんかな?

実体のない効果だけの宝具であるローアイアスも投影出来なくなるの?
そこらへんは区切りが難しいし作者の判断でいいんじゃね

この話はもう止めよう。
そんな事よりも杏子ちゃんの可愛さを語れ!

>>376
性格ブス

>>377
高校生になったらビッチになりそうな性格

ここは非公式だから問題ない。
そんな心配をするよりさやかちゃんへの愛を語っとけ。

てっきり美味しんぼかの山岡士郎かと

そう言われて見直したら
戦闘より料理の話のほうにウェイトおいてるような気がしてきた

fateルート後ってことは固有結界は使えないけどアヴァロンの投影は出来るのかね?
他でエミヤがアヴァロンでソウルジェムを浄化しているのを見たが、士郎じゃ無理か

アヴァロン投影は魔翌力消費がすごすぎるんで普段の士郎じゃ無理
魔法少女全員で魔翌力補給してあげればいいじゃない♪
たっぷり魔翌力補給してもらってアヴァロン投影
魔翌力補給したせいで穢れたソウルジェム浄化
へとへとになった士郎に魔法少女達が魔翌力補(ry

以下、繰り返しすれば

奇妙なくらいに伸びてますね
私も結構楽しんでますので、雑談や議論は別に構いません
ただし、ケンカにならない範囲に収めてください
自分の意見が絶対に正しいんだって人は、情報源の提示が出来ればみんな納得いくでしょう

>>風王結界
これは、アーサー王付きの魔術師(ほぼ100%マーリンでしょうが)の魔術が、聖剣を隠す鞘としてアルトリアの宝具となった物です
ですので、鞘という概念を得ている為、士郎が投影する事が可能、という理論です
もちろん使ったら面白いなってだけの妄想ですし、公式による発表はありません
が、仮に発表があったとしたら、Noという答えになる気はします

>>355
それはなかった事にしたいとかいう話を聞いた気がします
まあ、部品を一つ一つ投影して組み立てれば(ry

>>361
アーチャーの腕は関係ないですね
Fateルートのバーサーカー戦でも衛宮士郎では不可能な事をやってますし

>>364
私としては、実体が存在すると思います
伝説通りの、7枚の皮を貼り付けた青銅の盾、という通常の姿があるんじゃないかと

>>373
ご飯作ってあげたくなるところ

>>377>>379
殺っちゃえ、バーサーカー!

>>392
二次創作と言えど、私も原作厨みたいな所があるので、公式は蔑ろには出来ないですね
私はマミさん派です

>>398
そのネタ、2回目ですよ

>>400
クッキングバトルの人みたいな描写がしたいなーと思ったけど、そもそもあまり料理が好きじゃないのに気がつきました
それでも、そう感じてくれたのなら嬉しいような、悲しいような

>>401
全て遠き理想郷をアーチャーが投影しない理由として、投影できないという説があります
ある時点でイメージが消えたという2つの説ですね
それはセイバーとの契約が切れた時と大聖杯が解体された時です
このSSでは後者の設定を採用していますので、一応士郎は投影が出来ます
ですけど、全て遠き理想郷でソウルジェムの浄化が出来るというのがいまいちよく解りません
あれの基本効果を大雑把に言えば、所有者の傷を癒し、呪いを跳ね返す事なので
あと>>253の通り、魔女及び魔法少女の魔力とマナやオドは別物なんで互換性はありません
というか、永久機関なんて無理に決まってるじゃないか


ところで、鷹な話題を2つ

能ある鷹は爪を隠す、とは言いますが、爪を隠した結果失敗するなんてばかばかしいですよね
なめたメンバーでかかった挙句、負けてんじゃねえよ、ホークス!つーか、秋山!

先週のFate/Zeroでのアイリの針金の鷹って、マミさんも真似出来そうですよね
機会さえあれば、やらせてみましょうか

タイガ
 よい子のみんな、元気ー? 第1回タイガー道場の時間だよ。

イリヤ
 わたしたちの出番は本来ない予定だったんだけど、とある条件に引っかかっちゃったので、
めでたく出番がやってきたのでした!

タイガ
 ふむ。それで弟子1号! そのとある条件とは何なのだ!?

イリヤ
 いたって簡単よ。それは『キャラアンチ発言』。
 >>377とか>>379の発言が引っかかったわ。

タイガ
 うわー、女の子に酷いコト言うわねー。
 現代の若者のモラルがこんな低いなんて、お姉ちゃん信じられない!

イリヤ
 まったくよ。レディーに対して言う事じゃないわ。

タイガ
 反省しなさい、反省!
 で、このさやかちゃんっていうのは誰なのかな?

イリヤ
 それについては専門家をお呼びしているわ。
 ネコ二十七キャットの1匹、引きこもる猫のネコカオスさんです!

ネコアルク・カオス
 ご紹介に預かった、ネコアルク・カオスにゃ。
 で、さやかちゃんとは今年の春にやっていたアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の
主人公『鹿目まどか』の親友である『美樹さやか』の事にゃね。

タイガ
 ふむふむ。親友ポジションという事は、柳洞君みたいな子なのかな?

ネコアルク・カオス
 入院している幼馴染の少年の元へしょっちゅうお見舞いに行く一途な娘にゃね。
 彼女は魔法少女となる際の願いで、彼の怪我を治す事を祈ったのよ。

タイガ
 なんて、なんていい子なの! お姉ちゃん、思わず感動!
 当然、さやかちゃんは幸せになれたのよね?

イリヤ
 ちょっと待って、タイガ。脚本家の名前をよく読みなさい。

ネコアルク・カオス
 その通り。このアニメは、かの悪名高きプラモデル屋の作品なのにゃ。
 一般人として魔法少女の世界に踏み込んでしまった彼女は、悲惨な最期を遂げてしまう。

タイガ
 ジーザス! 神は死んだか!?
 こんないい子が幸せになれないなんて、彼奴は悪魔か!?

イリヤ
 タイガ、今放送しているFate/Zeroの原作者にむかってそういうコト言うのはどうかと思うわ。
 それに、我らが菌糸類の友人でもあるそうよ。
 ヘタに刺激して、わたしたちのルートの制作予定を消されたら……。

ネコアルク・カオス
 そんにゃの、最初からにゃい。

タイガ
 やかましい!
 とにかく、士郎! 絶対にさやかちゃんを救ってあげること!
 そうしないとお姉ちゃん、絶対許さないんだからね!

イリヤ
 そんな訳で第1回はここまで。
 師しょー、おしおきはどうします?

タイガ
 初犯なので、竹刀で1発ずつで許してあげます。
 次やったら、こんなんじゃ許さないわよ?
 じゃあ、バイバーイ。

ネコアルク・カオス
 バイビー。

乙ー
チャタリングだね
MSやロジのなら保証期間内ならサポートに連絡すれば結構簡単に交換してもらえる

お疲れ様・・・・ってあれ?ほむらちゃんのサービスシーンが、ない?


ソウルジェムは第三魔法扱いかー
というより第三魔法の方が魔法じゃなくなるのかね
そもそもまどマギの設定から言うと人類発祥以前から技術が確立されているわけだから
第三が魔法扱いされてたのが間違いということになるのか?
いずれにしてもアインツベルンにNDKしてえw

でもよく考えたらほむほむだって第二魔法使ってるし、解釈次第で魔法が全滅しそうだw
すりあわせ的には宇宙文明はノーカンとしとくのが無難なのかな。

劣化するんであれば、未完成の魔法じゃね?
青崎産人形に近い気がする

乙、サービスシーンカットは後にマミさんの着替えあたりで手を打とう

当代の人間が技術や魔術で再現できない神秘を魔法と呼ぶらしいから地球外文明の産物はノーカンだろう
それに後天的で魔術師のいう魔翌力を使わない能力なら型月的には異能や超能力にカテゴライズされるんでない?


まどマギのSGは第三魔法の一部とは言えるかもしれないけど……。
魔女化っていう代償があるから不老不死としては欠陥品だな。

>もし美樹に何も見返りがないのなら、あいつはそのうち壊れてしまうかもしれない
士郎は人間的に壊れているから正義の味方をやっていられるんだよな(作者曰く必死で人間のフリをしているロボット)
人格破綻者じゃないと正義の味方が務まらないのは何の皮肉だろう。

>魔女を産まない為、いつかの巴さんのように魔法少女の皆殺しを図るかもしれない
もしも士郎じゃなくて切嗣だったら、まどかが世界を滅ぼす魔女になるとわかったら
織莉子の時の様にまどかが抹殺されるな。

凛ルート後の士郎かアーチャーなら救えそうな気がするけど、このアーチャーなりかけの士郎じゃ
無理っぽい気がする

それでもBGM:エミヤならなんとかしてくれるさ

サービスシーンぇ……

よし、マミの着替え中に部屋に入っちゃうハプニングで手を打とう

第三魔法は魂を燃料にしてエントロピーをこえる永久機関だとHFで凛がいってたからな。

凛は倫敦にいるらしいとして桜やイリヤは?
イリヤは寝たきりで冬木の衛宮邸で士郎の帰りを今も待っているって感じかな
第三魔法ネタでアインツベルン絡みなら出番ありかも?

>>459
おい読み飛ばしてんじゃねぇぞ。
タイガー道場で大河お姉さんと一緒に元気にしてたろうが!

>427
ぜひ生き抜いてください

抜け殻と聞くとHFであのENDは何とも言えない気持ちになったな

>>1のサービスカットを要求する!

文法や言葉遣いの確認の為、久々にFateをプレイしました
Fateルートが終わったところで、初回プレイ時よりも号泣してしまいました
とりあえず、分かると判ると解るの使い分けは、特に考えてないと思ってよさそうです

>>447
助言、感謝します
次の機会の参考にさせてもらいます

>>448>>451>>456
巴さんの着替えシーンでしたら落書きしてます

>>449
基本的に魔法はどれもこれもエントロピーを遥かに凌駕してるんで大丈夫かと
無の否定とかどうやったら出来るのさ

>>450>>452
第三魔法の一部を使用する技術と考えてますので、完璧な物ではありませんね

>>453
切嗣でなくとも、正義の味方として70億人と1人のどちらが重いかなんて、考えるまでもない事です

>>454
アーチャーなら大体なんでも出来る
凛が魔法少女になれば、それ以上になんでも出来る

>>455
綺礼戦やアーチャー戦が印象的なので、同族嫌悪の殺し愛専用曲とも言えます

>>457
等価交換もへったくれもないんだから、凄い事ですよね

>>459
桜はお爺様が呆けちゃったので、遠坂家に戻って管理者の仕事をやってると思います
イリヤはよくて藤村家で寝たきりで、最悪死亡済みかと……

>>460
アレは並行世界から呼ばれたイリヤと、従者のサーヴァント・タイガらしいです
花札道中記の設定ですけどね

>>461
どういう事かと5分ほど考えた結果、自分の誤字だとようやく理解した
そうか、私はタイガー道場を考えないと死ぬ体質だったのか

>>462
ノーマルエンドの初めてのお料理教室のエピソードは好きです

>>463
お断りします


それでは始めます

ワルプルギスの夜まであと10日


聞き飽きた今日の授業も半分が終わり、昼休みの時間となった。
今日もまた、家から持ってきたお弁当が昼食だ。
これを作ってくれた衛宮さんは、

“あって困る事もなし、今日はグリーフシードの調達をしてくる”

とか言って、私が家を出るよりも早く出発していった。
私には自分で使うには十分なストックがあるので、きっとさやかの事を考えてなのでしょう。
一方で、その彼女は、

「さやかさん、どうしたんでしょうか……」

「うん……」

昼になっても学校に来る事はなかった。
結局明かされる事になってしまった真実は、一晩で受け入れられる衝撃ではなかったと言う事ね。
このまま魔女になられてもまどかが悲しんでしまうし、どうにか立ち直らせないと。
しかし、せめて家から出られるようにはなってくれない分にはどうしようもない。
家に閉じ籠って誰とも接触しないままでは、事は時間の問題となる。
いずれにせよ、そこに私の役割なんてないでしょうね。
力になれる人はさやかと親しい人間、まどかか巴さんか衛宮さんか。
私に出来る事を強いて言うなら、何もかもが駄目だった時に引導を渡すくらい、かしら。

「――――」

かつては友人であった事もあった相手だが、そんな彼女に出来る事がせいぜいこの程度。
でも、それでいいのよ。
私の目的はまどかを救う事。
それさえ出来るのならば、私は何だって犠牲にするのだから―――。

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ、むけつにしてばんじゃく)」

両手の剣を左右から同時に投げる。
狙いは眼前に佇む鎧。
弧を描く2つの刃は、敵上で交差するように飛翔する。
強固な鎧その物である彼女であろうと、宝具の一刀を左右同時から見舞われては無傷では済まない。

「■■■■―――!」

この内側へ逃げ込むように魔女は前進した。
彼女の前に居るのは得物を放り投げた、丸腰の敵。
これを勝機と見たのか、俺に向かって突進する。
それを、

「―――心技、泰山ニ至リ(ちから、やまをぬき)」

再度投影した干将・莫耶で受け止めた。
断続的な金属音を鳴らしながら、2つの体は拮抗する。
質量で言えば、この鎧の魔女の方が圧倒的だ。
力比べになれば、俺に勝てる道理なんてない。
それなればこそ、事前に打った布石がモノを言う。

「―――心技、黄河ヲ渡ル(つるぎ、みずをわかつ)」

魔女の背後から、回避された双剣が突き刺さる。
干将・莫耶は夫婦剣。
その性質は磁石のように互いを引き寄せる。
つまり―――この手にあるもう一組の干将・莫耶の元へその剣は戻ってくる―――!

「食らえっ!」

怯んだ魔女へと踏み込み、両手の剣を叩き込んだ。
そのまま股下を抜け、剣に渾身の魔力を注ぐ。
―――唯名 別天ニ納メ(せいめい、りきゅうにとどき)。

「とどめだっ!」

振り返り、両手の剣を今度はまっすぐに投げつける。
―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら、ともにてんをいだかず)……!

「■■■■■■――――――!!!」

4つの剣による三連撃により、中身のない鎧の戦士は崩れ落ちた。
動かなくなったソイツはやがて消滅し、その後を追うように結界も崩壊する。
そして、そこに遺されたのは、

「よし、3つ目だ」

禍々しい黒に染まったグリーフシードのみだった。

―――見滝原だけでなく近隣の街をも駆け回った結果、何体かの魔女と戦えた。
その報酬として、俺の手元には3つのグリーフシード。

「結構足を使ったとはいえ、今日はラッキーだったな。
これだけあれば、美樹もしばらくは安心だろ」

魔力もかなり消費し、時間もいい頃合いだ。
それにこれ以上現れるとも思えないし、今日はここまでにしよう。
授業終了まではかなりあるから、帰りにスーパーに寄っていけば丁度いい時間になる筈だ。

「そうと決まれば、まずは見滝原に戻る事だな。
えっと……」

頭の中にこの近辺の地図を展開する。
今日の移動ルートから現在地を割り出し、辺りを見回した。
東に向かって伸び行く影と現在時刻から、大体の方角を求める事は出来る。

「あっちの林の方か」

交通機関を使う気もないので、行く先が道でなかろうと問題はない。
むしろ、それで魔女と遭遇するのなら儲けもんだ。

「―――まあ、そんなうまい話になる訳ないよな」

林の中を進めども、魔女はおろか使い魔の気配さえ感じない。
人が居ないような場所なんだから、魑魅魍魎の類は好む筈なんだけど……、
どうやら魔女にはそういう性質はないらしい。

「おっ」

林を抜け、広い空間に出た。
急に辺りが明るくなった為、手で光を遮るようにして辺りを見回す。
周辺確認をするには仕方がなかったのだが、
その結果、見なければよかった物が目に入ってしまった。

「教、会……?」

それは確かに教会なのだが、あまりにもボロボロだ。
今では使われていないようで、手入れのされてない白い建物は廃墟も同然だ。

「こんな所に教会があったなんてな」

しかし、教会にはいい思い出がない。
悪魔のようなエセ神父。
胴体に穴を開けた赤い穂先。
生命力を吸い出され続け、生きた亡骸にされたあの災害の孤児(兄弟)たち。

「くっ―――」

ぞっとする。
でも、忘れる訳にはいかない。
切り捨てた彼らを酬いる事が出来るのは、この世に俺以外には居ない。
ならばこそ俺に出来る事は、彼らに顔向け出来るように胸を張って進む事のみだ。

「どうやら人が居る訳でもなし、触らぬ神に祟りなし、だ」

何故か。
本当に何故か。
後ろ髪を引かれるような感じがした。
でも、こんな所でもあんな事が起こっている、なんて筈はないのだ。
そう信じ込ませ、教会に背を向ける。

「――――」

最後に少しだけ教会に目をやり、その場から立ち去った。

Interlude


「なんで、そんな話をあたしに……?」

林の中の教会。
床は抜け、椅子は砕け、ステンドグラスからは外が見える。
佐倉杏子がたった今語ったような、かつての賑わいはもはやそこには残っていない。
今となってはたまに帰ってくる彼女の他に人が寄り付く事などなく、
現在ここでその話を聞いていた美樹さやかは久方ぶりの来訪者であった。

「奇跡ってのはタダじゃないんだ。
希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。
そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

さやかに迫る。
自身のつらい過去という、十分すぎる根拠。
それを武器にして、杏子は己の信条―――或いは心情か―――を論ずる。

「アンタも開き直って好き勝手にやればいい。自業自得の人生をさ」

幾多の罪を重ね、人のルールから外れて生きる少女。
おまえもそうなれ、と。
彼女はさやかを同じ道に引きずり込もうとする。

「それって変じゃない?
あんたは自分の事だけ考えて生きてる筈なのに、私の心配なんかしてくれるワケ?」

「……アンタもアタシと同じ間違いから始まった。
これ以上後悔するような生き方を続けるべきじゃない。
アンタはもう対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。
だからさ……これからは釣り銭を取り戻す事を考えなよ」

だが、そこには微塵の悪意もない。
ただ同類(さやか)の事を想っての勧告。

「あんたみたいに?」

「そうさ。アタシはそれを弁えてるが、アンタは今も間違い続けてる。
見てられないんだよ、そいつが」

あんな思いをするのはするのはもうごめんだ。
誰かがそんな思いをするのなら、その前に楽な生き方をさせたい。
今の杏子にあるのはそれだけだ。

「……あんたの事、色々と誤解してた。その事はごめん、謝るよ」

何度か敵対はしたが、その根元にあった物を教えられては、もはや敵意を抱く事など出来ない。
抱く事は出来ないのだが、それでもさやかは初めの願いの否定だけは出来ない。

「でもね、私は人の為に祈った事を後悔してない。
そのキモチを嘘にしない為に、後悔だけはしないって決めたの。これからも」

「なんでアンタ……」

さやかが杏子に背を向ける。
教会の破られた扉に向かって歩いていき、その直前で立ち止まった。
そのまま顔だけで杏子へ振り返り、

「それに、あたしには師匠―――衛宮さんがついている。
正義の味方が間違ってる訳でも、なれないモノという訳でもないと教えてくれた。
だったら、あたしに後悔なんて、あるわけない」

そうとだけ告げて、教会を去っていった。


Interlude out

「ごちそうさま」
「ごちそうさま」

夕食が終わった。
お皿の上にはもう料理がないというのに、部屋には未だに香辛料の匂いが漂っている。
今日まで衛宮さんが一切作る事のなかった中華料理の匂いだ。
しかし、それは辛すぎるなんて事はなく、私でも食べやすい丁度いい味。
曰く、

“辛ければ旨い、だなんて発想は間違ってる。
 辛さは味の一つでしかなく、数多くの要素の調和こそがメシの旨さだ”

なんだとか。
そして、デザートに杏仁豆腐まで用意されていた。
しかも自家製の。
帰宅直後から手間をかけて作られたらしいそれは、市販品と比べるなんて能わず、
昔家族と行った高級中華店に迫ろうかという美味しさだった。
……正義の味方なんか辞めて、料理の鉄人になればいいのに。

「ほら。これ飲んだら、いつも通り始めよう」

衛宮さんが淹れてくれたお茶をずずっ、と一口。
何から何まで、家事に関わればとんでもないハイスペックを誇るわね、この人。

「始めるわ―――と言っても、美樹さやか以外に話すべき事なんてないでしょうけど」

「ああ、そうだな。
とりあえず、学校での様子はどうだったか?」

「彼女は学校に来なかったわ」

日中を振り返る。
結局、放課後になっても美樹さやかの顔を見る事はなかった。
それ故か、鹿目まどかにも元気がない1日だった。
その雰囲気に巻き込まれて、事情を知らない志筑仁美も心配げな表情が多かったわね。

「……そうか。
俺も魔女を追ってたけど、美樹とは会わなかった」

まあ、そうでしょうね。
昨日の今日で魔女狩りに精を出す、なんて出来るとは思えないもの。
そうなると、考えられるのは……

「美樹さやかは自宅に籠っていた。或いは当てもなく放浪していたかもしれないけど」

といった所ね。
学校をサボって入院患者(巴マミ)の元に行くのは難しい筈だから。

「むぅ……。心配だけど、考えても判る訳もない、か」

「そうね。過ぎた事の考察より、これからの対策の方が有意義でしょうし」

美樹さやかをうまい具合に絶望を回避させる方法。
いえ、絶望の原因を取り除く方法かしら。
1番の懸念要素は、やはり上条恭介ね。
願いの内容も十中八九彼に関わる事。
その存在は美樹さやかの中では、とても大きなモノだとは知っている。
とは言っても、恋愛なんて経験はないし……。

「……貴方は恋愛の経験はあるのかしら?」

「と、突然なんなのさ?」

「なんでもないわ。気にしないで」

こんな遊びのなさそうな人に訊いても意味はないわね。
そんな相手が居たら、そもそも正義の味方だなんて言って、1人で居る訳がない。
この方針は手が出せそうもないし、諦めましょう。

「お願いがあるわ。極力美樹さやかの近くに居て、彼女の支えとなってほしい」

「頼まれなくともそのつもりだ。
師匠と呼んでくれるヤツを放っておくなんて、俺にはとても出来ない」

無茶をさせない為の指導者。
悩みの相談に乗れる年長者。
この2つの役割を衛宮さんにはやってもらおう。

「明日からは、早くから出かけるのは控えて。
学校に美樹さやかが来てるか。それを連絡するから、その後から行動を始めて」

「解ってる。
俺だってどこぞを歩き回ってる間に死なれるのは困るし」

遠い昔の失敗の記憶。
美樹さやかの魔女化がきっかけとなったチームの崩壊。
あんなのはもうたくさん。
二度と、繰り返したくなんてない。

今回はここまで

おりこ☆マギカから鎧の魔女・バージニアさんに出張してもらいました
ただの鶴翼三連の的になってますが

ところで、ギルガメッシュが使った、空間ごと固まらせる氷の剣の名前に心当たりのある方がございましたら、教えてください
常時発動型なら真名解放する必要もないので、使いやすそうですし


残り物のシチュー(金曜)にマカロニを入れた物(日曜)をレンジで温めて出したのが火曜日のコト
それをおいしそうと、父が評した時の衝撃
心の中で、私がキャメロット(実家)を去る時は、
「父は食事の味がわからない」
と言い残そうかと思いました、まる

タイガ
 要望に応えて第2回! タイガー道場の時間だよー。

イリヤ
 正確には投下予定から半日遅れた事と、その割には文章量が少ない事への謝罪ね。

タイガ
 ほんっと、短いよねー。
 容量で言うと10KB足らず?

イリヤ
 これでも水増しした結果なんだけどね。
 最初は戦闘シーンも教会のシーンもなかったんだもの。

タイガ
 おおうっ。魅せ場もシリアスもなしとは、とんでもない地味回になるところだった!
 他にやってる事と言えば、いつも通り料理しているくらいよね。

イリヤ
 ええ、そうね。
 ところでタイガ。シロウって中華料理作れたっけ?

タイガ
 偏見のせいであまり作ってくれなかったけど、遠坂さんの料理を食べたら宗旨替えせざるを得なかったようね。
 ロンドン留学中に遠坂さんに教えてもらってたみたい。

イリヤ
 ロンドンって言えば、バトラーなんてやってたから家事スキルもパワーアップしてるわね。
 元々の日本茶に加えて、紅茶は葉っぱから、珈琲は豆から淹れられるようになったそうよ。

タイガ
 うーん、流石士郎。お姉ちゃんの教育の賜物ねー。

イリヤ
 ええ、いい反面教師が居てくれたおかげね。

タイガ
 むう。言うようになったな、このロリブルマ。
 まあ、それは置いといて一つ訊いていいかな、イリヤちゃん?

イリヤ
 何かしらタイガ。

タイガ
 士郎って一体何の勉強しにロンドン行ったの?

イリヤ
 そんな事も知らなかったの?
 わたしのお城で仕える為の武者修行に行ってたのよ。

タイガ
 な、なななななな、なんとーーー!?
 どういうコトよ、士郎の独り占めは許さないんだからね!
 美味しいご飯が食べられなくなっちゃうじゃない!

イリヤ
 冗談よ。
 もしそうだったら、リンまで雇わないといけなくなるじゃない。

タイガ
 ていっ!

イリヤ
 いたっ!?
 うう、酷いじゃないですか、師しょー。

タイガ
 黙らっしゃい!
 言っていい冗談と悪い冗談とあるでしょう。

イリヤ
 別に今のくらいいいんじゃ……。

タイガ
 いけません。
 料理上手な人はみんなの共有財産。それを守れない者には死、あるのみ。

イリヤ
 はぁーい……。

タイガ
 そんな訳で第2回はこの辺りで。

イリヤ
 次回はなんと、ゲスト2名に来ていただく予定です!
 でー、次回はいつになるのかなー?

タイガ
 知らぬ。
 別に考えても答えなんて出ないんだし?

イリヤ
 それもそうね。

タイガ
 んじゃあ、みんな。バイバーイ。

イリヤ
 ばいばーい。

タイガ
 ……ふう、終わった終わった。
 この後江戸前屋で大判焼き食べに行かない?

イリヤ
 ストップストップ!
 まだカメラ回ってるっす、師しょーっ!

>>492
そんなことより本編はよ
じらされ過ぎで俺の精神がエントロピー凌駕する

久しぶりに良作にあって歓喜

スレチなのは重々承知だが
俺にオススメの fateSS を教えて欲しい

>>492
間違ってるみたいですよ。
キャラクターマテリアルという本の干将莫耶オーバーエッジのページで
HFルートの黒セイバー対士郎の戦いで使われた鶴翼三連をアーチャーが行うとき、連続投影のラスト、『三度目』の投影の際、強化によって形態が変わる
と説明されています。同じ文章中に鶴翼三連は三つの×の重ね当てであるとも。

対であることが前提の夫婦剣での三連だし、原作者サイドは三組六本を想定しているみたいです。

以前原作厨で、公式は蔑ろには出来ないというような発言をされていたようなので一応お知らせしておきます。

運命を貫く漆黒の螺旋
エミヤが大聖杯でなんやかんやあって アンリ・マユ(+α)と融合し、
第8番目のサーヴァントとして第4次聖杯戦争に介入していく
ほとんどのキャラが救われる

鶴翼三連はUCやってるとわかりやすいんだが
鶴翼二連で干将莫耶投擲→弱ボタンで新しい干将莫耶投影→
投擲した干将莫耶が戻ってきて前後から攻撃って技だから
鶴翼二連は二組4本の技なんだよで、
三連が最後に新たに投影したオーバーエッジでトドメさすから三組6本の技なんだ

あえて言わせてもらおう!
>>1マダーと!!

たわけ、ageるな!

カーテンを開けると、そこは雪国だった
降りましたね、雪
私はイリヤと同じで、寒いのは嫌いですが雪は好きな人です
別に髪が白いわけじゃありませんけど


>>493
その精神で貴方も何か書いて(描いて)みては?
ある創作物から受けたインスピレーションで新たな創作物を作り、それがまた別の人にインスピレーションを与える永久機関
これこそが第三魔法ヘヴンズ・フィールの正体なのだ!

>>494
良作と言って頂けるのは嬉しいですが、他にも良作はありますよ

>>495-502>>506
こちらをどうぞ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/995/1276926915

>>504
確かにそうありますね
でも、1回攻撃する度に一応宝具である干将・莫耶が壊れる前提なのも不自然な話でして
後、私は最初の投擲も3つの×の1つだと解釈した為、そちらの方では問題はないと思います

>>507
鶴翼二連は1組だけですよ
追加入力で引き戻しで、それが当たるか消えるまでは隙が出来る技の筈です

>>508
楽しみにしてくれるのは嬉しいですが、もう少し落ち着きましょう

>>509
「ギルガメッシュ、パソコンに向かって何を騒いでいるのだ。
 まあ、それはともかく、今日の食事は泰山の麻婆豆腐で構わないな?」


それでは9日目の始まりです

ワルプルギスの夜まであと9日


今日も美樹さやかは学校に来ないのか。
そのような不安を抱いたりもしたものの、どうやら杞憂に終わってくれたらしい。
いつも通りの仲の良い3人で彼女は登校してきた。
普段と変わらないように振舞ってはいても、それが空元気である事は一目で判る。
それでも立ち直る為の足がかりを得たから、こうして学校に来たという事だ。
とりあえず、家で居ても立ってもいられないであろう衛宮さんにその事を伝えると、

“そうか、そいつは良かった……!”

なんて言って、自分の事のように喜んでいた。

「……いえ、弟子の事は自分の事より大事なのかしらね」

師匠って人種はホントお人好しよね。
そんなんだから弟子が出来るのでしょうけど。

「後は、このまま何も問題が起こらなければ……」

足掻いても魔法少女である事実は変わらない。
ならば、美樹さやかも近いうちにそれを受け入れるだろう。
そして、再び戦う事も。
その為の補助に衛宮さんが居る。
しかも正義感は強い彼女だ。
ワルプルギスの夜の事を知れば、師匠と共に戦う事を望むでしょう。
そうなれば、

「私。佐倉杏子。美樹さやか。戦線復帰が出来れば巴マミ。
 そして―――衛宮士郎」

5人。
今現在、過去最多の5人でワルプルギスの夜を迎えられる可能性があるのだ。
それだけの人数が揃うのも初めてなのに、未だ最大火力を見せないの衛宮さんの魔術がある。
これだったら、きっとまどかを救える。
その為にも、私は出来る事をやっていこう。
だから―――もう少し待っててね、まどか……!

ほむらによると、美樹は今日はちゃんと学校に行ったらしい。
その報告があったのが昼前の事だ。
えも言われぬ落ち着かなさから、それでようやく解放され街に出た。
昨日張り切りすぎたせいか、繁華街とその周辺には使い魔1匹見当たらない。
うちを出たのも遅かったので、それでもう日が傾いてしまった。
これだけにかまけている訳にはいかないのだ。
用事もあるのだし美樹の家に向かうと、

「衛宮さん……」

都合よく美樹と会う事が出来た。
制服にカバンを持った姿を見る分には、確かに学校に行った帰りのようだ。

「よっ、元気―――ではないか、やっぱり」

立ち直ったと考えるには難しい感じだが、それでも普通の生活を再開したのはいい事だ。
ああ、それでいい。
俺が定期的にグリーフシードを供給さえすれば、あいつはまだ普通の女の子として生活できる。

「渡したい物がある。グリーフシード3つだ」

昨日の成果を美樹に渡す。
これだけあれば、しばらくは普通の生活は問題ない筈だ。

「俺はこの後、街外れの方を見ていくけど―――」

「ねえ、師匠」

黙りこくっていた美樹が突然口を開いた。
いつもの明るさはないが、その代わりに真剣さが表れてる表情。
不意を衝かれて少し戸惑ったが、すぐに視線を合わせ、続きを話すように促す。

「師匠はさ、なんで正義の味方をやってるの?」

「こいつはまた唐突だな」

俺が正義の味方を目指す理由、か。
自分の最初の記憶に刷り込まれた景色から始まる事だな

「―――俺が7歳の頃、俺の住んでた街で大火事が起きたんだ」

「え……」

火事なんて規模ではない、人の手で引き起こされた災害。
赤い世界。
助けを求める声。
ただ、ひたすら苦しかった。

「俺はご近所さんも、友人も、家族さえも見捨てて逃げてさ。
 それでも倒れて、もう楽になろうって思った時に助けてくれたヤツが居たんだ」

死にかけの俺を見つけて、抱き上げて、本当に嬉しそうだった男。
あまりにも嬉しそうなもんだから、救われたのは俺じゃなくてそいつなのかと思ったくらいだ。
尤も、それは事実だったようだが。

「結局、俺はその地区でただ1人の生存者となった。
 その事を知って思ったんだ。
 生き残ったからには、見捨てた人たちに胸を張れる生き方をしなくちゃってさ」

「…………」

「それから俺は、その助けてくれたヤツに引き取られ、衛宮の姓と魔術という力をもらった。
 ―――5年後、そいつは死ぬ直前に言ったんだ。
 “僕はね、正義の味方になりたかったんだ”、と」

未だに忘れない、恐らく今後も忘れる事のない思い出。
夜空を見上げながらの、俺と切嗣の穏やかな刹那。

「当然、俺は怒ったよ。そいつは俺にとっての正義の味方そのモノだったんだから。
 でも、その夢を持ち続けられなくなったんだと」

解っていたつもりだった駆け出しの頃だったけど、今なら本当によく解る。
つらくてつらくて堪らなかったからこそ、非情な魔術師であろうとしたんだな。

「その時に誓ったんだ。俺が代わりに正義の味方になるって。
 親父はそれを聴いて、安らかに逝ったよ。
 これが俺が正義の味方を目指した最初の理由だ」

安心した、と。
一言だけ呟いた言葉を思い出しながら語った。

「……やっぱり師匠は、衛宮さんは正義の味方なんだね。
 パパの夢を引き継いで、今までずっと、人の為に生きてきたんだ」

俺に向けられてる感情は羨望か。
美樹が口にした言葉からはそんな事が読み取れた。
でも、俺はそんな誉められた人間でもない。

「別に俺は人の為に生きてきた訳じゃないぞ」

「えっ―――?」

「前にも言っただろ。正義の味方は最大のエゴイストだって。
 そいつが選んだ人間だけが救われて、選ばれなかった人間は救われないんだ」

5日前の問いかけの答。
切嗣がよく言っていた言葉だ。

「俺だって、人を傷つけるヤツらを何人も殺した。
 悪人だからって人間は人間だ。命の重さは全く平等なんだ。
 そら、人の為に生きていたら、こんな事は出来るワケないだろ」

「―――っ。そ、それでもっ、衛宮さんは人を助けようとしてるからだし!」

美樹が必死に反論する。
たかだか俺の事で、なんだってそんなむきになるのだろうか。

「俺が人を助けるのも、つまるところ自分の為だよ。
 俺は人が喜んでくれるのが1番嬉しいから、正義の味方なんてやってるんだ」

「――――!」

目を見開いて絶句する美樹。
数十秒ほどの沈黙が流れる。
それっきり何も言わずに、美樹はマンションの中へ駆け込んでいった。

「なんだってんだ、一体?」

独り取り残され、茫然とする。
しかし、そんなままでいる訳にもいかない。

「……帰るか」

一旦うちへ帰ろう。
ほむらもすぐに帰ってくるだろうし、晩飯を食べてから再出発だ。

Interlude


夜が更けた。
大抵の人は既に帰宅してしまい、静寂なマンションの入り口。
そこに居るのはただ独り。
鹿目まどかが親友の事を案じていた。
その沈鬱とした表情は、子供のようなその身体には酷く不釣合いだ。

「まどか……」

待ち人、来たり。
美樹さやかがマンションから出てきた。
彼女から発せられた声にまどかは反応し、さやかの元へ寄っていく。

「ついてって、いいかな?」

まどかが優しい声で尋ねる。
つい数時間前、友人と師によって味わった衝撃に、思考を支配されているさやか。
どうにもしようがない時にかけられた声は暗闇に射した一筋の光だ。

「さやかちゃんに独りぼっちになってほしくないの。だから……」

まどかの言葉ははっきりしない。
それでも己を心配する親友の言葉だ。
自分の為に必死な様子を見て、さやかの目からは涙が溢れ出した。

「あんた、なんで……なんでそんなに、優しいかなぁ……。
 あたしには、そんな価値なんてないのに……」

「そんな―――」

そんな事はない。
まどかはそう続けたかったのだろう。
しかし、憧れてもいたさやかがとめどなくなく姿を前に、言葉を失ってしまったのだ。

「あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった」

「…………」

「あの時仁美を助けなければって……ほんの一瞬だけ、思っちゃった。
 衛宮さんはあんなに人の為に頑張ってるのにね」

夕焼けの中で語られた理想の実態と、それでもただ人を助けようとする男。
さやかに感じられたのは、今まで目指していたモノの醜悪さ。
そして、真に目指すべきモノまでの圧倒的な距離感だ。

「こんなんじゃ本当の正義の味方になんてなれないよ。
 マミさんにも、顔向けできない……」

自己嫌悪に陥ってしまう。
そんなさやかを見ていられなくなったのか、まどかは黙って彼女を抱きしめた。

「仁美に、恭介を取られちゃうよ……。
 でも、あたし、何も出来ない……」

まどかの腕の中で、なおもさやかは泣きじゃくる。
自分の中の大部分を占めていた人を喪失しようとしているのだ。
それなのに打てる手が存在しないのだから、これはもう死刑宣告に他ならない。
刻一刻と迫る執行への恐怖に、どうして耐えられようか。

だってあたし、もう死んでるんだもん。ゾンビなんだもん……。
 こんな身体で、抱きしめてなんて言えない……キスしてなんて、言えない…………」

「――――っ」

さやかの深刻さに、まどかもつられて涙を流す。
それでも、かけるべき言葉は見つからず、小さな腕で抱きしめる以外に出来る事はなかった。


Interlude out

ほむらが帰ってこなかった為、料理だけして食べる事はなかった。
とりあえず皿に盛り付けてラップをし、昼間は見て回れなかった街外れの方にまでやってきた。
手がかりもないので、虱潰しに探し回る。
そして、ようやく見つけた結界は、白と黒の影絵の世界。
空にそびえる太陽のような物だけが唯一の色である。
用意された舞台は一本道のみ。
主の前に立ち塞がるのは、

「ヒュドラ……?」

かの大英雄、ヘラクレスが退治した怪物のような、数多くの首を持った使い魔が1匹。
仮にこの使い魔がヒュドラを模した物ならば、こいつは少し面倒な事になる。
何せ1つ首を飛ばせば、そこからまた首が生えてくる化け物だ。
普段のような正攻法では骨が折れる。

「さて、どうしたものか」

首はやたら多いが、手足がないのは好都合だと言えよう。
今にも飛び掛ってきそうな雰囲気でも、首が届かない場所は安全圏だ。
まずはここで、作戦を考える事から―――。

「師匠」

大事な大事な一番弟子。
その一方で、ここでは最も会いたくないヤツの声が聞こえた。
振り返れば、魔法少女姿の美樹とそれについて来た制服姿の鹿目。

「来たのか、美樹」

出来ればしばらくは戦わせたくなかったが、それが本人の意思ならば仕方がない。
ここに来てしまった以上、俺はこいつのカバーに全力をかけるだけだ。

「あの使い魔、たぶんかなり手ごわいぞ」

使い魔に指を差す。
それを美樹が見ると、安全圏から少し前へと出ていった。

「く―――!」

獲物と見たのか、敵と見なしたのか。
使い魔が美樹に襲い掛かる。

「ていっ、たあっ、はっ」

やはり予想通りだったか。
何本かの首を切れば、また何本かの首が生える。

「はあ、はあ―――く」

迫り来る首を1本1本切っていき、やがて肩で息をするようになる美樹。
仕方なしと後退して、安全圏まで戻ってきた。

「だから言っただろ。作戦を考えるからちょっと待―――」

「うああああぁぁぁぁぁ!!!」

「おい! 馬鹿、待て!」

人の話を聞こうともせずに強行突破を試みた美樹。
その軌跡は魔女に向けて一直線。
脇目も振らず、放たれた矢――或いは投槍か――のように突き進む彼女に使い魔が再び襲い掛かる。

「ふっ、はあっ」

両手に握った剣を駆使して、首を刈っていく。
激しさを増した美樹の攻撃を超えて、使い魔の首が増殖していく。
外敵の排除の為とは言え、酷い数の暴力だ。

「く―――っ」

力を溜め込んでの跳躍。
普通ならば、そもそも選択肢に存在すらしない筈の、三次元的な動きで首の林から回避した。
しかし、中空に浮き上がった美樹に追っ手が迫る。

「させるかっ」

弓矢を投影し、美樹の援護をする。
十分な時間の会なんて存在しない速射だが、首の1本を打ち落とすには十分な威力だ。
美樹に迫った端から射落としていく。

「ふ――――――うああああぁぁぁぁ!!!」

虚空に展開した魔法陣を足場にし、美樹が魔女へと突っ込んだ。
それはまさに鉄砲玉。
速さこそ素晴らしい物だが、一切の回避も想定していない闇雲な突撃。
そんなのなんだから当然、

「さやかちゃん!」

―――鹿目の悲鳴のような声がした。
樹が魔女の背中から飛び出し、難なく美樹の突撃を受け止める。
そしてそれは、美樹を受け止めたまま大木へと成長し、その姿を飲み込んでしまう。

「う、うおおおおっっっ!!」

形振りなんて構ってられない。
遮二無二魔女へと駆け寄り、

「―――投影、開始!」

いつかの森での戦いで巨人の腕を切り落としたのと同じように黄金の剣(カリバーン)を投影。
それを大木の中頃に叩きつけた。
切り落とされた大木は、何者かによって更に細切れにされ、美樹が解放される。
そのまま落下する美樹を拾い上げ、間合いを取る人物。

「まったく、見てらんねぇっつうの。
 いいからもうすっこんでなよ。手本を見せてやるからさ」

美樹を救出したソイツ、佐倉杏子が槍を構える。
これには全く同意見だ。
初めて見た時よりも無茶苦茶な戦い方をする今の美樹に、戦わせる訳になんていかない。

「……邪魔しないで。一人でやれるわ」

それは、天真爛漫だった彼女が発したとは思えない、低く陰りのある声。
美樹はクラウチングスタートの姿勢をとり、魔力を込めていく。
そして一瞬の後、爆ぜるように飛び出された。

「く―――! 待て、止まれ!」

閃光のように突き進む美樹の前に立ち塞がる。
このまま突撃されたら結構な重傷を負いそうだが、そんなの構ってる余裕はない。
両手を広げ、全身で足止めを試みる。
だというのに、

「―――っ。やめろ、馬鹿!」

目の前で美樹は飛び上がり、俺に接触は許されなかった。
宙に浮いた美樹は慣性に従って魔女へと飛び込み、一刀にしてその首を切り落とす。
が……魔女は絶命には至らず、2本の触手で叩き伏せられた。

「さやかちゃん!」
「美樹!」

悲痛な叫び。
異形と化して蠢く魔女。
倒れ伏す魔法少女の姿。
それに駆け寄ろうとすると、

「―――く、くふふふ、ふふ、ははは」

「アンタ、まさか……」

狂気に満ちた笑い声を上げて、美樹が立ち上がった。
対峙する魔女は、その使い魔の首のように無数の触手を生み出している。
そして、それは美樹の身体を突き上げた。

「な―――!」

2本の剣を操り、触手を切り捨てながら落下する美樹。
全ての追撃を退け魔女に着地すると、技術も何もない力任せの剣戟が始まった。
ギンッ、ギンッ、と鈍い音を響かせ、ただひたすらに剣を振るう。

「あははは、ホぉントだぁ。
 その気になれば痛みなんて……くふ、あはは。完全に消しちゃえるんだ」

なおも笑いながら、必死に足掻く魔女を美樹は斬りつける。
あまりにも凄惨な姿。
とても見ていられない戦いなのだが、その狂気に足が竦み動けない。

「やめて……もう…………やめて……」

悲しみに満ちた鹿目の呟き。
ほんの小さな声なのに、1人を除いたこの場の全員が聞いて取れた。
しかし、それを聞いてほしい肝心のヤツは、

「でえっ、ぜっ、ふっ、あふっ、あはは!」

何も耳に届かず、目の前の魔女以外の何も目に入らず。
魔女の抵抗をも気に留めず、青い衣装を鮮血に染めながら剣を振るう。

「あ、あ―――」

声さえも満足に出せない。
この空間に響く音はただ2つのみ。
未だ鳴り止まない剣戟と、極限を超えてしまった人間の笑い声。

「あはははは! ははは、あはははは、はははははは!」

別にこんな風になった人間を見た事がない、という訳じゃない。
世界を、しかも不幸に溢れた土地ばかりを歩いてきたのだから、何人もこういうヤツは居た。
だが、その中に見知ったヤツは今までは居なかった。

「――――!」

3つ目の音が響き始めた。
結界がガラスのように割れ、地響きを立てながら崩壊していく。
揺れる世界の中、もはや原形を全く残さない魔女を見て、美樹がようやく剣を振るのをやめる。

「はん、やり方さえ分かっちゃえば簡単なもんだね。
 ―――これなら負ける気がしないわ」

美樹の体に刻まれていた深い傷が、見る見るうちに治癒されていく。
そのありえない速さは、どんな魔術師にだって再現は不可能だ。
そう、例えるならば、俺のかつての半身(エクスカリバーの鞘)に匹敵しようかという治癒速度。
これが、他者の為に願ったという美樹さやかの固有の魔法か。

「巫山戯やがって……!」

―――結界が完全に消滅した。
人気も物音もない深夜の倉庫街。
ここに居るのは魔法少女たちと俺だけだ。

「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」

美樹がたった今手に入れたばかりのグリーフシードを佐倉杏子に投げ渡した。
命を削りながら手に入れた報酬を、こうもあっさりと。

「あんたに借りは作らないから。これでチャラ。いいわね」

敵視する少女に向かって、そうとだけ告げた。
この期に及んでまで、こいつは貸し借りなんてくだらないコト考えてやがるのか。
今1番大事なのは、自分の体なのに。

「さ、帰ろう。まどか」

「さやかちゃん……」

歩き出した途端、美樹の体がふらりとよろける。
当然だ。
あんな傷を負ってたんだ。
傷だけ回復しても、体が言う事を聞く筈がない。

「あ、ゴメン……ちょっと疲れちゃった」

「当たり前だ、馬鹿」

美樹に向かって歩いていく。
虚勢を張る気力もない弱々しい姿。
あまりにも見ていられなかったせいか、全身にかかった金縛りがようやく解けた感じだ。

「ほら、肩に掴まるなり、背中に乗るなり、楽にしてろ」

少し腰を落とした姿勢で美樹に言う。
ふらつく美樹は俺の腕に掴まると、体の力を抜いて体重をかけてきた。
一昨日よりも更に儚く感じる重み(軽さ)。
次にこの重さを感じる事はない。
何故だかそんな予感がしてしまった。

「行こ、2人とも」

元気だとは決して言えない号令。
歩き出した美樹に寄り添いながら、スローペースで俺と鹿目も歩き出した。

夜の街に雨が降り出す。
急な出来事だったので、近くのバス停に俺たちは避難した。
運行はとうに終了している為、ここで雨宿りしていても迷惑になる事はないだろう。
だから気楽に雨が弱まるまで待とうとしたのだが―――どうやら失策だったらしい。

「さやかちゃん……あんな戦い方、ないよ……」

だんまりな美樹の様子に見かねて、話を切り出した鹿目。
治癒能力に任せたノーガード戦法。
あのあんまりな戦闘を思い出したのか、鹿目は涙を流し始めた。
師匠として、アレには俺もケチの1つでもつけないといけない。

「そうだな。痛くない、なんて問題じゃない。
 あんなの続けてたら、本当に死んじまうぞ」

あの鞘が体内にあった時の俺でさえ、やらなかったんだ。
魔力は自前の美樹なのだから、いつ治癒が出来なくなるか。
その瞬間が来る事を考えると、ぞっとする。

「ああでもしなきゃ、どっちみち死んじゃうよ。
 ……あたし才能ないからさ」

「あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしても、さやかちゃんの為にならないよ……」

鹿目の案じる気持ちが責め具となって放たれる。
それが癇に障ったのか、美樹の苛立ちが目に見えて強くなった。

「……あたしの為って、何よ?」

親友に向けるべき物とは程遠い、暗い感情を押し殺した声。
そう問いながら、鹿目に青いソウルジェムを突きつける。

「こんな姿にされた後で、何があたしの為になるって言うの?」

己の魂(ホンタイ)の在り様を呪う美樹。
なんだって揃いも揃って自分を貶めるのか。
魔法少女なんて、人外と言うには生温いような存在だってのに。

「今のあたしはね、魔女を殺す―――ただそれだけしか意味のない石ころなのよ。
 死んだ体を動かして生きてるふりをしてるだけ。
 そんなあたしの為に、誰が? 何をしてくれるっていうの?
 ……考えるだけ無意味じゃない」

―――っ。
頭に血が上ってきた。
このままだと何を言ってしまうか判らないが、それでも我慢ならない。

「被害妄想もいい加減にしろ! おまえはちゃんと生きてるだろ。
 自分の意思で決断して、自分の力で行動してるんだ。おまえは死体でも化け物でもなんでもない。
 だから鹿目だっておまえの事を心配してるんだぞ!」

「心配してなんになるってのよ。
 だったら、まどかが戦ってよ!」

「っ…………」

魔法少女でない事に負い目があったのか。
美樹の暴言に鹿目が凍りついた。

「キュゥべえから聞いたわよ、まどか。あんた、誰よりも才能あるんでしょ?
 あたしみたいな苦労しなくても、簡単に魔女をやっつけられるんでしょ!?」

「わたしは―――」

「そういう問題じゃないだろ! 才能がどうしたってんだ。
 じゃあおまえは才能があったから正義の味方を目指したのかよ!?
 おまえが人を助けたいから目指したんじゃなかったのかよ!!」

諍いは収めどころを失った。
だが、この馬鹿弟子相手に引く訳にはいかない。
火に油を注ぐ結果になるのが解ってるのに、止められない。

「そうよ! あたしのは所詮義務感。師匠みたいに自分の意志なんかじゃない。
 あたしより才能があるのに何もしない人のせいで、あたしはこんな目に遭ってるのよ!」

「だったらやめちまえ、バカヤロウ!」

売り言葉に買い言葉の応酬。
もはやお互いに自分の考えなど関係なしに言葉が飛び出してる気がする。
気がするのだが、ここで冷静になれるくらいなら、はなっからキレてなんかいない。

「ええ、やめてやるわよ!」

「おう、やめろやめろ」

言葉での殴り合いが終わると、美樹が雨の中へ走り出した。
それを追いかけようと、鹿目も立ち上がるが、

「ついて来ないで!」

という拒絶の言葉に怯んでいた。
その間に美樹は走り去って、バス停には俺と鹿目だけが取り残される。

「さやかちゃん……」

「放っとけ。しばらく1人で頭を冷やせばいいさ。
 おまえも真に受けて契約なんかするんじゃないぞ」

「…………」

鹿目が黙り込む。
こいつはまた自分を責めるのか。

「言っとくけど、俺は謝らないからな。今回は絶対にあいつが間違ってる。
 鹿目は心配はしても、責任を感じる必要なんかないからな」

そう、あんなのが間違ってない筈がない。
あれなら戦わない方がずっとマシだ。
だと言うのに、鹿目を傷つけて。
今度あったら、絶対に鹿目に言った事を謝らせてやるんだから……!


ステータスが更新されました

Status

美樹さやか
属性:秩序・中庸
スキル
剣術:剣を用いた戦闘技術。二刀でのノーガード戦法により、与ダメージ・被ダメージ共に上昇。
治癒:高精度・高速度の治癒能力。自他問わず使用が可能。
足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。
勇猛:怖いもの知らず。精神干渉への耐性を持つが、空回りする事も。

今回はここまでです
ほむらがぬか喜びしたり、さやかが士郎との違いに愕然としたり、大変な1日でした

ところで、残念なお知らせがあります
元々お世辞にも速いとは言い難い物でしたが、しばらく投下ペースが落ちます
具体的には1ヶ月に1回か、多くて2回
それが3月半ばまでですかね
まあ、大事な用事がある、という訳ですので、どうかご理解の方を頂ければ

そういう事なので、せめてものお詫びとして今回の投下分のクオリティは出来るだけ上げようと思ってたら、投下が遅くなる有様
自分が納得いくまで書き直しを重ねたら、当初とはかなり違う雰囲気になりました
さやかと士郎に関しては、夕方のシーンを深夜にやって、それで静かに愕然としてもらう筈だったのです
ですが出来上がってみると、真夜中だというのに酷い大喧嘩
士郎の短気設定が活きたので、結果オーライという事にしましょうか

どうでもいい話ですが、Bigining Storyは便利ですね
原作と同じ部分の会話や状況がすぐに調べられる辞書みたいな感じです
惜しむらくは、もう少し早く出てほしかった事ですかね
原作をなぞる部分はもうほとんど終わっちゃいましたので


とってもどうでもいい話です
TYPE-MOON×RPGを聞いた時は驚きました
逆転裁判×レイトン教授はもっとビックリしました
昨日のポケモン×信長の野望は言葉を失いました
コラボの必要性のない作品に、よりによって戦国シミュレーションって……

リン(生首)
 よもや、わたしの後にもこの姿になるヤツがいるとはな。

マミ(生首)
 なりたくてなってるんじゃないんですけど、これも何かのご縁ですね。
 色々設定的にも似通ったところがありますし。

リン
 ふむ、天才肌、努力家、才色兼備、憧れの的、上辺だけの友人関係、両親死別、紅茶好き。
 髪の色は違うが、髪質は近い感じで、他にもありそうだ。

マミ
 でしょ、でしょ?
 ですから折角の機会なので、仲良くしたいんです。
 私、慕ってくれる後輩は居ても、甘えられるような先輩がほしくて……。

リン
 そうか、そうだったのか。
 寂しかっただろう、つらかっただろう。

マミ
 うん……。

リン
 だが断る。

マミ
 なんで!?

リン
 貴様には憎たらしい胸がある。
 理由はそれで十分だ。

マミ
 あのー、今の私たち、胸どころか手も足もないんだけど……。

リン
 む、そうだったな。
 前言撤回だ。カモン、後輩!

マミ
 せんぱーい!

イリヤ
 麗しき先輩後輩関係の誕生の瞬間!
 いいものっすね、師しょー。

タイガ
 い、いや。ななななななにアレ?
 生首2つが勝手に動いて寄り添ってるんだけど。
 わたし、こういうホラー染みたのダメなのよぉ。

リン
 なんだ、居たのか、ブルマ。

イリヤ
 ちーっす、リン先輩。
 それに、後輩?

マミ
 貴女も仲良くしてくれるんですか?
 やったあ、一気に2人も先輩が出来るなんて!

タイガ
 ああ、もう無理。
 虎は死んだ、がくり。

イリヤ
 うーん。首だけのままだとちょっと話難いわね。

リン(つくり)
 そうだな。この体がないと、タバコもおちおち吸えない。

マミ(へちょ)
 体が軽い! こんな幸せな気持ち初めて!

タイガ
 う、うう。そんな訳で今回のゲストは、おなじみの遠坂さんと期待の新星のマミちゃんです。
 後は任せた、弟子1号。

イリヤ
 押忍。先輩は割とよく居るので置いとくっす。
 資料によると、フルネームは巴マミ。
 数多くのライバルと後輩たちを蹴落として、アニメ最萌トーナメント2011の覇者となった猛者っす。

マミ
 運がよかっただけですって。
 それに、海外のトーナメントではリン先輩も優勝経験があるじゃない。

リン
 ベータ版、だったがな

イリヤ
 リボンを変化させて戦う先輩魔法少女。
 自分以外のメインキャラは全員教え子なんて、恐ろしいお話ね。
 しかも、1人を除いた3人が決勝トーナメント出場者。

マミ
 あの子達が凄いだけよ。
 女神様になっちゃうような子も居たくらいだし。

リン
 まあ、教え子全員に追い抜かれるという怪挙をなすようなへたれも居るしな。
 それと比べれば、選手としても指導者としても優秀なおまえは凄いものだ。

イリヤ
 そういう先輩は1人しかいない弟子を守れなかったんだけどね。

リン
 あれは不幸な事件だった。
 ただ願うは、そいつの無事と幸せのみよ。

マミ
 大変だったんですね……。

リン
 それはみんな同じだろう。
 みな、何かしらの苦労はある。

イリヤ
 そうね。そこで倒れてるタイガですら、弟分が行方不明なんだもの。

リン
 おまえは義弟が失踪しているな。
 それに寿命も長くない。

イリヤ
 あ、そっちはあまり気にしてないっす。
 わたしは短いなりに幸せな日常を過ごせたから。
 つーか、もしかしたらもう死んでんじゃね、わたし。

リン
 ……強くなったな、ブルマ。

イリヤ
 もう、湿っぽい話はおしまい!
 折角だから、出会えた記念にアーネンエルベでお話しよう。

リン
 いい考えだ。こんな道場に居るよりはずっといい。
 紅茶も美味いしな。

マミ
 そうなんですか!?
 私、紅茶大好きだから楽しみです。

イリヤ
 それじゃあ、レッツゴー!










タイガ
 ―――あれ? 誰も居ない。
 特に何かやった記憶もないけど、まあいっか。
 今回のタイガー道場はここまで。
 みんないつも来てくれてありがとね。ばいばーい。

本当に今更だけど本編だけでよくね?

>>1が全レスする必要もタイガー道場もステータス情報もいらなくねぇ?

飯の描写もいる?

最近安価&コンマスレばかり人気でこういう普通のSSが過疎ってるよなぁ

普通に合いの手は嬉しいと思うけどな

このスレは面白いから全裸で待ってる

スレミスった上ageちまったスマン

>>607
今まで言いにくかったけど同意するわ。全レスする時間を作品書く時間にあててほしい。

作者が住人のアホな言い争いに愛想尽かして出て行ったに100ペリカ

手の小さい人間には、十六茶は太くて持ちにくい
もう買いません

>>607
全レス紛い→気分
タイガー道場→場のつなぎや時間稼ぎ
ステータス→原作再現

>>609
半分はFateなので、食事は欠かせません

>>621
でも、コンマスレは勢いが速すぎて追いつけません

>>624
服を着てください
せめて腰蓑を巻いてください

>>626
スレ違いではなく、板違いだったようですね

>>627
投下開始前の5分で何かが変わると思ってるのでしたら、買いかぶりすぎです
その時間で次々と書けていたら、夢(のまた夢)の毎日投下が実現しているはずなので

>>633
残念、ボッシュートです


では、投下開始します
11日目~決裂した関係

ワルプルギスの夜まであと7日


「―――あのさぁ、キュゥべえがそんな嘘吐いて、一体なんの得があるワケ?」

これは……知ってる。
かつて私が経験した事だ。

「どっちにしろ、あたし、この子とチーム組むのは反対だわ」

さやかと杏子が凄く仲が悪くって。

「テメエ一体なんなんだ!? さやかに何をしやがった!?」

ようやく打ち解けたところで、さやかが魔女になって。

「酷いよ……こんなの、あんまりだよ……」

バラバラなチームを心を擦り減らしてまとめてきた巴さんの心が壊れて。

「ソウルジェムが魔女を産むなら……みんな死ぬしかないじゃない! 貴女も、私もっ!」

みんなと一緒に心中を計って。

「嫌だ……もう、嫌だよ、こんなの……」

結局私とまどか以外、みんな死んじゃって。

「わたしたちも、もう、おしまいだね……」

ワルプルギスの夜を撃退したのに力尽きちゃって。

「わたしに出来なくて、ほむらちゃんに出来る事、お願いしたいから……」

まどかが私に望みを託した。

「キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを……助けてあげて、くれないかな?」

そして最期に―――。

「ほむらちゃん……やっと、名前で呼んでくれたね。
 ……嬉しい、な」

「………………最悪の目覚めね」

さやかが魔法少女になってからというもの、あの時の事を意識しすぎていたのかしら。
夢を見る事も殆どなくなったのに、せっかく見た夢がよりにもよって、ね。

「でも、あの時とは違う」

まどかはまだ契約してない。
巴さんはもう前線から離れた。
そして、私と一緒に戦ってくれる人が―――。

「あれ、居ない……?」

そういえば、いつもの朝とも違う。
いつもなら衛宮さんがキッチンからおはようって言ってくれる。
それが今日はご飯が置いてあるだけで、他には何もない。

「ん?」

よーく耳をすましてみる。

―――かちりかちりすぅかちりかちりかちりすぅかちり。

時計の音に紛れて押し入れから寝息が聞こえる。

「そっか、夜遅くまで頑張ってくれてたんだね」

9時過ぎに出かけてから、どれだけ探し回ってたのやら。
尤も、結果を出さない限り、その過程における苦労なんて口にする事はないのだろうけど。

「それでも、ちゃんと私のご飯を作ってくれてるんだから、この人は……」

本当にありがたい事。
でも、その優しさに甘えてるばかりではいかない。

「顔を洗って、着替えないと」

私は衛宮さんと違って、今日も学校がある。
その為の仕度もしないといけない。

「っと、その前に」

押し入れに向き合う。
相手は目を覚ましてはいないけれど、もはや習慣なのだ。

「おはよう、衛宮さん」

朝の挨拶だけして、仕度に取りかかる。
かつてまどかに言われたような、かっこいい暁美ほむらの仮面で素顔を隠した。

「ほむらちゃん」

1時間目が終わった途端、まどかが私の元に来た。
当然、その目的は私ではない事は判ってる。

「話は聞いてるわ。
 ここではまずいから、場所を移しましょう」

まどかを連れて屋上に出る。
……本当なら、こんな用事でここに来たくはない。
最後にみんなでお弁当を食べたのはいつだっただろうか。

「それで、さやかちゃんは?」

「残念ながら、見つからなかったようね」

首を横に振りながら答える。
まどかの表情から、ほんの微かな期待が消えた。

「これは昨日の報告書よ」

衛宮さんがテーブルに置いておいたプリンター用紙。
手書きで昨夜の捜索ルートが細かく書き連ねてあり、当人の努力だけは窺える。
しかしまどかが欲しいのは過程ではなく結果であり、成果である。
まどかは興味なさげにちらりと見て、くしゃくしゃに丸めてポケットにしまってしまった。

「ありがと、ほむらちゃん。衛宮さんによろしくね」

そう言って屋上を去ったのだけど……目が全く笑ってない。
これは早目に片を付けないとヤバイわね。
あの手を試してみましょうか。

「私も戻らないと」

屋上を後にする。
ドアを閉めると、きんこんかんこんと予鈴が聞こえた。

見滝原中学校は土曜日も授業がある。
とは言え、流石にまる1日授業がある訳でもなく、今日は午前放課となっている。
はっきり言って、学校ではまどか以外に用事もないので、まっすぐ家に帰ることにした。

「ただい、ま―――?」

我が家のドアを開け、中を覗くと、お鍋をコンロにかけながらスクワットをしてる衛宮さん(へんなひと)。

「ん? おかえり、ほむら」

額から汗を流し、薄手のシャツを肌に貼り付けながら、挨拶を返してきた。
男の人の身体を殆ど見た事のない私にとって、少し恥ずかしい光景―――いや、少しじゃないわね。
だって透けてるんだもの。
これでは上半身は裸みたいなもんじゃない!

「あの、お鍋、私が見てるから、シャワー浴びてきたら?」

「なんでさ? と言うかほむら、料理出来ないんだろ?」

視線をそらしながら言っても、何も解ってくれない衛宮さん。
視界の中に少しだけ映る顔は、本当に不思議そうな表情をしている。
曲がりなりにも異性を相手にこんなのを見せる方が不思議よ。

「どうした? なんか変だぞ、おまえ」

「ひゃっ」

ち、近づいてきた!
ぱっつんぱっつんの胸筋が!
ぴっちぴちの腹筋が!
男臭い汗が!

「い、いいから、お願いだからシャワー浴びてきて!」

なんなんだ一体、と呟きながら、しぶしぶとに入る衛宮さん。
結局最後まで理解はしてくれなかった。

「ふぅ…………。
 なんとなく感じてはいたけど、あの人、やっぱり朴念仁よね」

人の為に動いてはいるものの、人の気持ちは考えないし。
基本的には仏頂面だし。
そのくせして自分はスイッチが入ると感情的になったりして―――。

「え?」

突如耳に入った、ぶしゃあ、という音。
その音源に目をやる。

「きゃ、きゃぁっ! お鍋がぁーっ!」

ふ、吹きこぼれてる!
えーと、こういう時は、こういう時は……そうだ!

「え、えい!」

かちり、とコンロのツマミを回す。
火を止めれば、温度は下がる。
つまり、吹きこぼれない!

「えっと、この次は……」

お味噌を入れればいい筈ね。
冷蔵庫の中からお味噌を取り出して、

「このくらいかな?」

おたま一杯分をお鍋に投入。
よーく溶かしたら完成!

「後はこの粉の塊だけど……無理ね。
 衛宮さんが出てくるのを待ちましょう」

料理が苦手なのはよく解ってる。
君子危うきに近よらず。
お味噌汁だけでも作れたのだから十分よね。

―――というのが30分前の出来事。
味が凄く濃く、妙に固い人参やキャベツの入ったコンソメ味噌スープを頑張って飲んで、
吐き出しそうな気分でお昼ご飯のお片付け。
それが終わると、深刻な顔をした衛宮さんが私の前に居た。

「……あのさ、女の子は拳銃を握る訓練よりも、包丁を握る練習をした方がいいと思うんだが」

呆れ果て、怒る気力さえもないと言うかのような声。

「それは貴方の好みかしら?」

「たわけ、世の男たちの一般論だ」

「…………ごめんなさい」

ようするに女の子らしくない、と。
今まで料理をする余裕がなかったとは言え、ここまで言われると流石に傷つく。
身体も女らしくならないし、いっそ性転換でもしてやろうかしら。
でも目の前の男の人は料理上手いしなぁ。

「まったく……ワルプルギスの夜を倒したら、料理の特訓だからな」

結局こうなるのね。
仕方ない、この場は頷いといて、話を逸らすとしましょう。

「その為にも、まずは美樹さやかよ。
 早いうちにケリをつけないと、ワルプルギスの夜との戦いに響くわ」

「む、そうだな。
 手かがりがないのがつらいが、どうにか探さなくちゃな」

使える手がかりは昨日使ってしまったのでしょうね。
このまま彼を放っておくと、虱潰しに探し始めそうだ。

「一度限りの手になると思うけど、私に考えがあるわ」

「本当か!?」

ずい、と意識と上体をこちらに傾ける衛宮さん。

「使い魔を利用するのよ。
 現在この街で活動している魔法少女は私と美樹さやか、佐倉杏子の3人」

巴さんは戦線から離脱している。
この事がこの作戦の肝になる。

「このうち、佐倉杏子は今はまだ使い魔狩りをしようとしてない。
 そして私、暁美ほむらは貴方、衛宮士郎と協力関係にある」

「……なるほどな。
 つまり使い魔が出現すれば、そこに美樹も現れるという事か」

「ええ、その通り」

魔女なら佐倉杏子も追いかけるけど、使い魔は放置する主義だ。
それを利用して使い魔を張っておけば、いずれ美樹さやかが現れるという寸法だ。

「でもどうすればいい? 俺には使い魔を探すのもちと骨なんだが」

「さっき言ったでしょ。
 暁美ほむらは衛宮士郎と協力関係にある。
 明日は日曜だし、とことん付き合うわ」

学校がなければ、衛宮さんも反対のしようがない。
それでも反対する理由を探してるのか、むむむ、と唸る。
その結果、

「…………よろしく頼む」

私の同行を認めざるを得ず、頭を下げた。
これで方針は決まり。
作戦が失敗すると、もう他に手段もない。
どうにか今日、美樹さやかを保護しよう。

Interlude


西日の差し込む部屋。
そこにはマスクをした2人の少女が居た。
1人はこの部屋の主、巴マミ。
もう1人はマミのかつての弟子、佐倉杏子。
一度は決別した彼女たちだが、ある目的の為に再び手を取り合っていた。

「それじゃ掃除も終わったし、確認するぞ」

「ええ、お願い」

三角形のガラステーブルの長辺に座り、向かい合う。
未だ舞っている埃とマミの精神安定の為に、マスクはしたままではあるが。

「まず、アタシたちが手を組んだ理由から。
 このままじゃいつ死んでもおかしくないさやかをカバーする為に、アタシたちはまた手を組んだ」

杏子が切り出す。
その目的とは美樹さやか。
過去の経験(トラウマ)から利己主義を信条としている杏子だが、本質はなかなか変えられない。

「美樹さんは防御を捨てた特攻をしてたのよね?
 確か、いいお師匠さんがついてると聞いてたんだけど?」

「ああ、確かに居るね。
 剣1本でアタシと互角にやり合えるうえに、妙な力まで持ってやがるヤツが」

かつて命を救われた時に、マミは朱い閃光を目にしていた。
その威力もさる事ながら、自身の知る限りでは最高の槍使いがそのように評価したのだ。
ただただ驚くしかない。

「……佐倉さんと互角なんて、相当の腕前ね。
 でも、そんな彼が美樹さんがやってたという戦い方なんて教えるとは思えないわ」

「実際、さやかが特攻を始めた時は動揺してたよ。
 アイツにとっても予想外だったんだろ」

とある要因から始まったさやかの暴走。
この場に居る2人にも、さやかについていた衛宮士郎にも、その正体は判らない。
しかし、判らない以上は考えるのも無駄なのだから、その対策へと話は移る。

「それで、そんな美樹さんを直接サポートするのが私の役目、と」

「ああ、マミとならアイツもチームを組むのは拒んだりしないだろ。
 いざとなったら鈍っちまったとか言えば、向こうからよってくるよ」

魔法少女としてもそれ以外でも、マミはさやかの憧れの先輩だ。
人の為に力を使うと決めたさやかに、そんな先輩の頼みを断る道理はない。

「んで、アタシはマミの手が届かない範囲での活動だ」

「つまり、カバーのカバーね」

「差し当たっては、協力者かな。ほむらとは手を組んでいるから、さやかの師匠。
 確か、えっと…………えー、えー……エミヤ!」

うろ覚えの名前を部屋に響かせた。
それで満足しかけた杏子の言葉をマミが繋ぐ。

「そのエミヤさんと交渉をするという訳ね」

「ま、さやかの為、と言えばふたつ返事で頷くでしょ。
 お師匠サマ、なんだから」

前日、さやかの事を持ち出した途端に立ち上がったマミをにやにやと見ながら言う杏子。
その冷やかしに、むしろ喜ぶようにマミは微笑んだ。

「な、なんだよ?」

「いえ、また貴女と戦える日がくるなんて思ってもみなかったから……」

不意に面と向かって告げられた好意に、杏子の顔が赤く染まる。
悔しいのか、それを見られないようにマスクで隠し、強がりを言い放つ。

「ふ、ふん。別にアタシは馴れ合いに来たんじゃないんだからな!」

―――日は更に傾き、街もまた赤く染まる。
衛宮士郎と暁美ほむらの強制送還作戦。
佐倉杏子と巴マミの保護及び補助作戦。
美樹さやかをめぐる2つの異なる作戦が、この街に展開されようとしていた。


Interlude out

―――夜が更ける。
手元のソウルジェムには弱めの反応。
間違いなく、使い魔のものだ。その発信源はこのビルの中。
近くにはビルに囲まれた遊歩道。
そこに脇道はなく、奥では衛宮さんが待機している。

「ふぅ―――」

私の役割は美樹さやかの確保。
それが出来なけば、衛宮さんの方への誘導。
前者はともかく、後者は確実に成せるわね。

「――――!」

反応が消えた。
つまり、誰かが使い魔を倒したという事。

「作戦、開始―――」

現場へ急行する。
目に入ったのは、息を荒げうずくまる青い髪の少女。
使い魔を相手にしただけなのに、酷い消耗のしようだ。

「……本当に現れるなんてね。
 貴女、自分の状況が解ってるの?」

「……うるさい。あんたには関係ない…………」

「もうソウルジェムも限界の筈よ。今すぐ浄化しないと致命的な事になる」

言われなくとも、とばかりにグリーフシードを取り出す美樹さやか。
しかし、完全に回復させようとしないあたり、よほど残りに余裕がないらしいわね。

「あげるわ」

本来こんな事をする義理なんてないけど、勝手に魔女になられても迷惑な話ね。
どうせ衛宮さんがやるか私がやるか程度の違いなのだし。

「……今度は、何を企んでるのさ?」

「別に。私と一緒に来てほしいだけよ」

「ふーん。
 じゃあ、いらない。あんたとつるむ気はないから」

そう言って、グリーフシードを蹴り返す。
こんこん、と跳ねて綺麗に私の足下に止まった。

「……そんなに私が厭かしら?」

「あんたたちとは違う魔法少女になる……あたしは、そう決めたんだ……」

突き返された魔女の卵を回収しながら、独りよがりな誓いを聞く。

「誰かを見捨てるのも、利用するのも……そんな事をするヤツらとつるむのも厭だ……。
 見返りなんてみんなが笑ってるだけで十分。
 あたしだけは絶対に、自分の為に魔法を使ったりしない」

「貴女の目指してる師匠は、私とつるんでる訳だけど?」

「衛宮さんは人が好いからね、あんたみたいなヤツにだって手を差し延べてくれる。
 でも、あたしはそうじゃない。
 あたしはあたしのエゴで、みんなの笑顔の為に悪いヤツらは全部やっつける」

…………告白する勇気もないクセに、どの口がほざいてるんだか。
衛宮さんみたいな極端な生き方、貴女に出来る訳ないじゃない。

「そんな頭の固い事言ってると死ぬわよ、貴女」

「あたしが死ぬとしたら、それは魔女を殺せなくなった時だけだよ。
 それってつまり、用済みって事じゃん?
 なら、いいんだよ。
 魔女に勝てないあたしなんて、この世界にはいらないよ」

「…………っ」

あまりにも自分をないがしろにしすぎてる。
心配してる人の気持ちを考えてみなさいよ……!

「……ふざけないで。みんな、貴女の事を心配してるのよ?」

「みんな? まどかと衛宮さんの間違いじゃないの?」

「なん、ですって……?」

「なんでかなぁ……。
 ただなんとなく、分かっちゃうんだよね、あんたが嘘吐きだってコト」

――――は?

「あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を喋ってる。
 今だってそうさ。あたしの為とか言いながら、本当は全然別のこと考えてるでしょ?
 ごまかしきれるもんじゃないよ、そういうの」

…………そっか。
過去に仲が良かった時もあったから、出来れば助けたいとは思ってた。
でも、確かに彼女の言う通り。
まどかを救うついでに、余裕があったら。
私の美樹さやかへの想いはその程度だったわね。

「……そうやって、貴女はますますまどかを苦しめるのね」

なら―――もう楽になっちゃっても、いいわよね。

「まどかは……関係ないでしょ」

「いいえ。何もかもあの子の為よ」

魔法を使う準備。
見滝原中の制服から、魔法少女の衣装へ。

「貴女って、鋭いわ。
 ……ええ、図星よ。私は貴女を助けたいわけじゃない。
 貴女が破滅していく姿をまどかに見せたくないだけ……」

盾の中から拳銃を取り出し、構える。

「どうせ貴女を捕まえるのが目的でしかないのだし、
 手足の1本や2本、使い物にならなくなってたって構わないわよね」

「…………っ」

美樹さやかが逃げ出す。
柵を乗り越え、ビルの下へ。
その背中を追い、私も跳ぶ―――。

「くっ……」

視界を覆う白いマント。
落下中に魔法少女へ姿を変えて、それを切り離したのね。
誰のせいか、無駄に戦いがうまくなってるわ。

「逃がさない!」

マントを剥ぎ取り、弾丸を放つ。
ガオーンガオーンと銃口が吠え、美樹さやかを誘導する。

「はっ」

着地から一転し、癇癪玉をバラまく。
終業し人気のないビル街に反響する派手な音。

「あ、あんた何考えてんのよ!」

「止めてほしかったら投降しなさい。
 街の為に自分を犠牲にするのも、正義の味方らしくていいと思うわよ?」

「うっさい! 黙れ!」

わめき散らす騒音少女に射撃。
当たるか当たらないかの所に撃ったが、全弾回避される。
だけど、誘導は更に進めた。
作戦成功まで、あと少し。

「――――!」

美樹さやかの前方。
立ち並ぶビルの間にやや広めの空間。

―――あそこだ。
あそこに押し込めば、とりあえず目標は達成する。

「そこっ!」

スモークグレネードを投擲。
弧を描く軌道は美樹さやかを僅かに追い抜き、遊歩道の前に落ちた。

「きゃっ」

破裂するスモークグレネード。
狙い通りの位置で足止めに成功。

「げほっ、がほっ、ごほっ―――がっ!?」

煙でせき込む美樹さやかを遊歩道へと蹴り込む。
そしてそのまま、入り口を塞ぐように拳銃を突き付けた。

「これで詰みね。
 この先は別れ道なんてない1本道が続くわ。貴女には逃げる事も隠れる事も出来ない」

「く―――」

―――ダンダンダーン。
背後の煙の向こうから、突如鳴り響いた3発の銃声。

「な―――?」

気づいた瞬間にはもう遅かった。
動きを封じられる私の身体。
拘束するこのリボンは……!

「何故……なんで貴女がここに…………」

「久しぶりね、暁美さん」

「巴、マミ……!」

居ない筈の人間。
計画を狂わせるイレギュラー。

「今のうちよ! 逃げて、美樹さん!」

「は……はい!」

遊歩道に消えていく青い背中。
それを見届けながら、巴マミに問う。

「……なんのつもりかしら?」

「貴女こそなんのつもり? いじめっこの立ち場にでもなりたかったの?」

この人は……また、こういう事をっ……。

「これが……1番あの子の為になるのよ……」

「私にはとてもそうは見えないわね」

「好きに言ってなさい。どのみち、私の役割は終わったもの」

「仲間が居るって訳ね」

背後から聞こえる声は興味なさそげね。
でも、そんなの演技に決まってる。

「ええ、その通り。残念だけど、私を捕まえてても無駄よ」

「残念なのはお互い様。
 私にも仲間が居てね、美樹さんを守る為に動いてるの」

「――――!?」

「それに、貴女には色々と聞きたい事があったのよね」

うそ……他に魔法少女が……?
いや、違う。
もっと単純に。
巴マミと組み得る魔法少女は……。

「まさか、さく―――」

「答えなさい!」

「あ゛あ゛ア゛ああぁァぁ――――――!!!!??」

「貴女に関する事、全てをね」

「はっ、はあはあ―――は」

背の低いビルの上から美樹を見つける。
呼吸を乱しながら遊歩道を逃げる様子から、ほむらの作戦は成功したと見えた。

「―――投影、開始」

大量のバーサーカーの剣を投影、射出。
入口も出口もない閉鎖空間を生み出し、美樹をそこに閉じ込める。

「随分と頑張ってるじゃないか。
 正義の味方は辞めるんじゃなかったのか?」

「師匠……」

ビルから跳び降り、美樹と相対する。
これはこいつを止める初めての機会。
確実な遭遇という意味では恐らく最後の機会。

「だが、鬼ごっこはここまでだ。おまえには家に帰ってもらう」

絶対にこの機会を逃す訳にはいかない―――!

「ほっといてよ! これはあたしの問題で師匠は関係ないでしょ!?」

「目の前にいつ死んでもおかしくないヤツが居る。そいつが死んで悲しむヤツが居る。
 ―――だったら、俺に関係ないなんてコトはない!」

俺の目の前では誰も死なせない、悲しませない。
それが出来てこそ、正義の味方ってもんだろう。

「それでも……それでもあたしは帰らない。あたしは魔女と戦う」

頑なに拒む美樹。
どうやら状況が判ってないらしい。

「……はぁ。おまえに選択権があるとでも思ってるのか?」

「え―――?」

「そうだな、だったら選択肢をくれてやる。
 おとなしく家に帰るか、それとも」

両手を構える。
今のこの状況に相応しい武器を想像する。

「―――投影、開始」

手の中に現れたのはハルペー。
ペルセウスがメドゥーサの退治に使ったという首刈りの剣。
それでつけられた傷は、自然の理にかなう治癒以外のいかなる奇跡でも回復する事は出来ないという。

「その両足を置いていくか、だ」

「――――!」

治癒に特化した能力を持つ美樹の足止めには、最も適した武器。
切り落とした足は二度と回復はしなくなるが、このまま死なれるよりはずっとマシだ。

「う、嘘でしょ? 冗談だよね、師匠……?」

「早く決めろ。言っとくけど、本気だからな」

「あ、う…………あ」

じりじりと間合いを詰める。
それに合わせて美樹も後ずさりしていき、

「逃が―――」

「いや、いやあああぁぁぁぁ!!」

「すかってんだ、このヤロウ―――!」

背を向けるのと同時にハルペーを振り抜く―――。

「―――ぐっ」

地面に突き刺さった紅い穂先。
振り抜かれる筈の剣は弾かれ、俺の体ごと後方へ跳ねた。

「早く逃げろ!」

「あ、あぁ……」

剣の壁を跳び越える紅い槍使い、佐倉杏子。
失敗の出来ないこんな時に邪魔しやがるか!

「こいつはアンタの弟子なんじゃないのかよ!?」

ふん、師弟……か。
戦わせるつもりなどないのだから、もはや剣の師匠である必要もなかったな。

「そんなの破門だ。こいつに戦いは向いてない」

「え―――そんな…………」

美樹が走り出す。
今度は上に向かって。
楽譜のような魔法陣を展開し、道を強引に作りゆく。

「そこをどけ、槍使い!」

「どかない。
 どうしても行きたいんなら、力ずくで行ってみな」

「チィッ」

振りかざす第一撃。
鈍く響いた金属音。
どうあっても通す気はないらしい。

「折角の機会だ、アンタとは一度白黒つけとこうか!」

「くっ」

ビルとビルの間で繰り広げられる剣戟。
対するは槍の得手。
ハルペーの間合いは長いといっても、槍には遠く及ばない。

「そらそらそらァッ!」

「ふ、がッ、ハァッ!」

それに加え、鎌のような奇怪な形状。
俺にはこの剣を使いこなす為の経験が足りない。
となれば、このままやり合うのは不利だ。

「投影―――」

「させっか!」

武器の持ち替えを許さぬ連撃。
捌く事で精一杯の圧倒的劣勢。
俺に出来るのは後退する事のみ。

「どうした、その逃げ腰は!」

―――否、後退を余儀なくされているだけだ。
このままではやられる―――!

「それ、もう逃げ場はないよ!」

「――――!」

路地裏も同然と言えど、昼間には大勢が用いる遊歩道の筈。
そこに本来、行き止まりなんて物はない。
ならば、後ろにあるのは―――。

「くらえ!」

全身全霊のスイング。
予備動作の大きな攻撃は通常は当たる事はない。
それは実力のある相手ならばなおさらだ。

「当たら、なっ!?」

だがしかし、そこに例外がある。
力まかせの攻撃。
鎌状の武器。
そして、あらかじめ設置されていた斧剣。
これらの要素(ファクター)が絡み合い、放たれるは岩の弾丸。

「く、くそっ」

バックステップの途中から、無理矢理それを受け止める佐倉杏子。
だが、バーサーカー専用の武器の質量は伊達じゃない。
槍は弾かれ体勢は大きく崩れる。

「もいっちょくらいやがれ!」

手首を返し、そのまま逆方向へのスイング。
放たれる追撃の弾丸。

「がっ」

防ぎにいった槍は右腕を巻き込み後方へ跳ねる。
敵は攻撃も防御も出来ない絶好のチャンス。
距離は5メートル強。
それを1歩で詰め寄り、懐へ入る。

「もらった―――!」

「があアァァァッッ!!」

―――がらん、と重い音が遊歩道に響いた。
槍をかろうじて握っていた手は力なく開かれ、その動力源となる右腕には魔剣の刃が突き刺さっている。

決着はついた。
少女の言った白は俺で、黒は彼女。
しかし、

「……ふん、俺の負けか。
 美樹を捕らえる為の虎の子の策だったんだがな……」

試合に勝って勝負に負けた、という事なんだろう。
折角追いつめた美樹も、もはやどこにも居ない。
ほむらもなかなか現れないし、迎えに行くとしよう。

「―――投影、解除(ブレイド、オフ)」

全投影品を処分して、この場から立ち去る。
その途中、地面を叩く音が聞こえてきた
徒らに傷を悪化されても面倒だし、忠告だけはしておくか。

「安静にしている事をすすめる。
 魔力を通しても無駄だとはいえ、1週間もすれば動かせるだろうよ」

「くそっ、くそっ……!」

「―――まずいわね」

「ああ、まずいな」

あの後、容赦のない拷問き耐え切れず、私は意識を放棄した。
そうして、ぐるぐる巻きの状態で衛宮さんに発見され、うちまで連れて帰ってもらっていた。
目が覚めると、本当にほっとした顔をした衛宮さんが居て、
お礼を言った後、報告会となったのだ。

「まさか、巴マミと佐倉杏子が組んでいたなんて……」

失敗の原因は至って簡単。
作戦の前提が崩れていただけ。
入院していた筈の巴マミがまさか復帰していたなんて……。

「というか、佐倉杏子はなんなんだ!?
 ちょっと前まで美樹を排除するように動いてたじゃないか!」

「それを言ったら巴マミもよ!
 いつの間に退院してたのよ!?
 そもそも精神病って、あんなすぐに治るワケ!?」

わーわーぎゃーぎゃー。
落胆が怒りに変わって、とにかく怒鳴らないとやってられない。
それを5分くらい続けた後、

「はあ…………何やってんだろ、俺たち?」

「さあ…………?」

どうしようもない虚しさに包まれた。

それから更に5分が経過した。

「嘆いてても仕方なし、今後の事でも考えるか」

衛宮さんが話を切り出す。

「……今日ので向こうの2人は私たちを敵と見なしたでしょうね」

「つまり、これといった策もないのに、敵対者は居る、と」

「はあ…………」
「はあ…………」

恐ろしくどうしようもない状況。
しかし、考えても妙案が浮かぶ程の複雑な話でないのだから質が悪い。

「メシに、するか……」

「そうね、そうしましょう……」

―――結局、今日は何もかもがうまく行かなかった。
真夜中の捜索も実を結ぶ事はなく、薄明の空に別れを告げて、眠りにつく事になった。


ステータス・武器情報が更新されました

Status

美樹さやか
属性:秩序・中庸
スキル
剣術:剣を用いた戦闘技術。二刀でのノーガード戦法により、与ダメージ・被ダメージ共に上昇。
治癒:高精度・高速度の治癒能力。自他問わず使用が可能。
足場作成:魔力を用いて空中に足場を作る事が出来る。これにより三次元的な動きが可能。
勇猛:怖いもの知らず。精神干渉への耐性を持つが、空回りする事も。
直感:勘によって論理を数段階飛躍させる。思いつき得ない答えを出せるが、早合点となる事も。

巴マミ
属性:秩序・善
スキル
拘束:リボンを用いた束縛術。刃物があれば脱出は可能。
銃術:銃を用いた戦闘技術。弾丸を狙い通りに当てる事が出来る。
トラウマ:事故に遭った経験による自家用車と死に対する恐怖。
     再び死を体験した事により、一時的に恐怖心が増大している。


Weapon

ハルペー
ギリシャ神話に名高い英雄、ペルセウスがメドゥーサ退治の際に使用した鎌のような形状の剣。
ハルペー自体はそう優れた剣ではないが、最大の特質として“屈折延命”と呼ばれる能力を持つ。
これは不死系の特殊能力を無効化する神性スキルで、
ハルペーにより付けられた傷は自然の理にかなう方法以外では決してしないとされる。
なお、衛宮士郎の知るハルペーは英雄王の宝物庫由来の物である。
持ち主はいても使い手がいない為、使用者自身の実力を以て扱う事しか出来ない。

今回はここまでです
いつも読んでいただき、ありがとうございます

誰が主役で誰が悪役だか判らないことになってますが、まあいつもの事でしょう
さり気に主要人物は全員出てたり、容量が過去最大だったりもします

次回はもうちょっと速く投下できるよう頑張りたいです
ちょうど嫌な知らせも届いたところで時間が作れそうなので
まあ、チョコ作って時間を潰す可能性もありますが

乙 面白かった


久々にクリームシチュー作るかな

全身ライン状の赤いアザが走るほむほむとか股熱

乙。恭さや展開クルー?

さやかの救われるSSが少ないだけに救われて欲しいお・・・

すみません、もうちょっと待ってください
あと少しで次回分、更にもう少しで次々回分が完成しますので
チョコ作りの際に描いた絵で、もうちょっとだけ時間稼ぎさせてください
http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper35046.jpg

もうちょいうまく描ければいいのに……
あと杏子とマミさんの髪型が難しい

待ってる

ところでほむほむの目が死んでるように見えたのは俺だけか?

顔のパースがおかしい

柴原の引退セレモニーは、まさに笑いあり涙ありってイベントでしたね
井口がホークスナインに混じるというサプライズもありましたし
でもショートに鳥越コーチをするなら、ライトかセンターで秋山監督もやればよかったのに

>>688
冬はクリームシチューがいいですよね
夏はカレーがいいですが

>>691
擦り傷切り傷痣包帯っていいですよね
カレンがその体で教えてくれました

>>692
来ればいいですよね、ホント

>>693
私もそう思いますよ、まったく

>>698
ハイライトまでチョコで描き込むのは無理かなー、という判断で目に死んでもらいましたが、それ以前の所で力尽きただけだったとさ、まる

>>699
なんかうまくいかないんですよ
本でも買って、ちゃんと基礎を勉強すべきなのかなあ?

それでは投下します
13日目~絶望(理想)の果て

ワルプルギスの夜まであと5日


「ん―――」

目が覚める。
辺りを見回すと状況は一昨日の朝と一緒。
用意された朝ご飯。押し入れの奥から聞こえる寝息。
そして報告書という名のプリンタ用紙。

「――――!」

そこに書かれた言葉に見逃せない物があった。
さやかの痕跡の発見。

「やはり、見滝原を出てたのね……」

面倒は面倒だけど、そう断定されれば見滝原で探す必要がなくなるだけ楽にはなる。

「いや……そうじゃない」

現在さやかは、衛宮さんを避けるように行動している筈。
次に見つかった時、助けが来る保証なんてないのだから。
故に彼が住居としている私の家がある見滝原を出ていくのは道理と言える。
でも、衛宮さんが隣街に拠点を作った事を、もしさやかが知っていたら……。
道理は覆り、話は180度逆転する。
そうなると彼女にとっての安全圏はこの街だ。

「……結局、状況は同じなのかしらね」

ならばあちらは衛宮さんに任せて、私は見滝原に専念しよう。

「さて、学校の仕度をして、ご飯にしましょう」

―――昼休みの屋上。
まどかに呼び出され、私はそこに居た。
今のまどかの関心なんてひとつだけしかない。
美樹さやかの行方。
その報告の為に呼ばれた訳なのだけど。

「――――」

「…………」

なんというか、まどかの目が怖い。
空気も重い……。

「えっと、土曜の晩に美樹さやかと接触は出来たわ。
 でも、あと少しのところで佐倉杏子の妨害に遭って、取り逃がしてしまったの」

「言い訳はいらないよ、ほむらちゃん。
 それで?」

「…………」

前言撤回。
何から何まで怖い。
人間、フラストレーションが溜まるとここまで迫力があるものなのかしら。
それとも、普段おとなしい人ほど怒ると怖いの法則か。

「日曜日は本人を見つける事は出来なかったけど、夜中に衛宮さんが彼女の痕跡を発見したそうよ。
 場所は隣街のコンサートホール」

「コンサートホール……あそこだね」

美樹さやかの影響か、まどかもホールについては見当があるようね。
尤も、そんなあちこちにあるような物でもないし、
一度でも行ってるならその存在を忘れたりしないでしょうけど。

「はい。昨晩の衛宮さんの報告書よ。
 詳しい事はここに書いてあるわ」

四つ折りにされたプリンタ用紙をまどかに渡す。
それを受け取るとまどかはじっくりと読み込む。
何か自分なりに情報を解析しているかのような仕草。
終わり次第、いつでも飛び出してしまいそうな雰囲気がそこにはあった。

……いい加減彼女を連れ戻せないと、ふたつの意味で時間切れになる。
ひとつはまどかの我慢の限界がくるまでの時間。
もうひとつは美樹さやかのが限界を迎えるまでの時間。
そのどちらが切れてもろくな事にならない。
今日のうちに達成出来るといいのだけど……。

隣街から更に隣。
際限なく広がる捜索範囲。
それらを駆け巡るうちに日は沈み、夜も更けていた。
一旦拠点として構えたコンサートホールに戻り、時計を確認する。
短針の現在地は10と11の間。
だいぶ時間にばらつきのある我が家の晩飯ではあるが、流石に遅すぎである。

「……まずったな。ほむら、ちゃんとメシ食べたんだろうか?」

ご飯はセットしておいたし、残り物もある。
飢える事はないだろうけど、相手がほむらなのだ。
俺が来るまでの食生活を考えると、なかなか安心出来たものではない。

「まあ、今の俺が言っていい事じゃない気もするケド」

そう呟き、バッグからほむらの出鱈目な食生活の象徴を取り出した。
晩飯は帰ってからちゃんと食べるとして、もうしばらく頑張る為のエネルギー補給だ。

「食事に時間をかけられない戦場においてはこれ以上の物はないんだろうけど」

問題は致命的に旨くない。
マズいとまでは言わないが、決して旨くはない。
折角そこに豊富な食材があるのだ。
そんな状況でこんなのばっか食べるのは、絶対に損をしている。

「さて、と」

時計は11時を指した。
腹も少しは膨れた。
ゆっくりしてる程の余裕はない。

「行くか」

再び歩き始める。
もういい時間になったので、人なんて全くと言っていいくらいに居ない。
同時に視界に入るのも、多くて2人というとこだ。
神経を尖らす必要などなく、むしろ人と顔を合わせる為に足を動かす方に専念する。

「ん―――?」

目に入る桃色の髪。
ここに居てはならないヤツが、その公園には居た。

「―――投影、開始」

ベンチに座る少女。
その傍らには白き契約者。
何やら話をしているようだが、そんなの俺には関係ない……!

「ハッ―――!」

黒鍵の投擲。
鈍く銀色に輝くその刃はまっすぐと闇を切り裂き。

「きゃっ」

少女の目の前に突き刺さった。

「約束が違うんじゃないか、鹿目?」

ベンチへと歩いていく。
鹿目とインキュベーターの会話は中断され、互いに向けていた意識は俺に注がれた。

「……約束が違うのは衛宮さんもです。
 さやかちゃんが居なくなって、もう4日も経ってます」

「…………」

返せる言葉がない。
美樹を連れ戻す約束で鹿目にはおとなしくさせてたのだ。
現に美樹を連れ戻せてない以上、その約束になんの強制力もない。
だが。

「おまえが美樹を心配するように、おまえの家族も今頃おまえを心配してるんじゃないのか?」

「…………」

だが、これだけは確かな事の筈だ。
年頃の娘が夜中に居なくなったのだ。
これを心配しなかったら親じゃない。

「それとも、おまえの親はおまえの事なんかこれっぽちも大切に思ってないヤツらだとでも?」

「……そんな事、ない」

挑発に対し、弱々しくも反論する鹿目。
基本的に心優しい子なんだ。
この方向で攻めるのが最も有効なのだろう。

「なら、おまえは家族の気持ちも考えない親不幸者なのか」

「うぅ……」

そんな事ない、と再び言いたいのだろう。
でも現実としてそういう事をやってしまってるのだから、鹿目も反論が出来ない。

「いいか、おまえがこんな事するだけで、ご両親は凄く心配するんだ。
 まして、魔法少女になるなんて論外だ」

「…………」

鹿目が俯く。
とりあえずは説得は出来そうか。

「それなら誰にも心配されないように契約すればいいじゃないか」

「あんま巫山戯た事ぬかしてると剥製にするぞ、テメエ!」

訳が解らないよ、だなんて言って立ち去る悪魔。
いちいちカンに触るヤロウだ。

「ったく……。
 なあ、鹿目。俺は美樹にも鹿目にも幸せでいてほしい。
 当然、ほむらにも」

「うん……」

「だから、十分に幸せなヤツにわざわざ不幸にならないでほしい。
 ……頼む」

「はい……」

渋々といった感じだけど、了承してくれたようだ。
あとはもう一度、彼女の期待に応えられるように尽くすとしよう。

「……ありがとう。
 ほら、帰るぞ、かな―――!?」

突如発生した魔力の奔流。
魔力の感知が苦手な俺でさえはっきり感じ取れる程の強さ。
その発生地は見滝原の方。
そして、発生源は―――。

「美、樹…………?」

「! さやかちゃんに何が!?」

何があったか、だと……?
そんなの、俺の方が訊きたい。
美樹が絶対に持ち得ない筈の大きさだが、紛れもなく美樹の魔力だ。
その矛盾の正体に皆目見当がつかない。
ただ確かなのは、美樹の身に何かがあったという事。
ならば、俺のすべき事は―――!

「行くぞ、鹿目! 美樹の、元へ……!」

Interlude


深夜の駅。
オートメーション化が進んだそこは、売店さえ閉まれば完全な無人の世界だ。

「―――間もなく、3番ホームに電車が参ります」

誰に聞かれる事もないアナウンス。
その数十秒後、本日最後の電車が着いた。
時間帯のせいもあり、乗客は殆ど居ない。
故に、下車したのがただ1人の少女だけであっても、何もおかしくはない。
そこにおかしい事があるとすれば、少女が“少女である事”その事ぐらいだ。

少女の名は美樹さやか。
街さえ寝静まった時間に現れた彼女だが、断じて非行少女などではない。

ただ、彼女は逃げていただけなのだ。
それは親友から。
それは憧れる師匠から。
それは受け入れたくない現実から。

ただ、彼女は戦っていただけなのだ。
それは敵と。
それは醜い感情を持ってしまった自分自身と。
それは決して逃れる事の出来ぬ現実と。

その果てにさやかの心は屈し、立ち上がる力さえも失ってホームのベンチに座り込んだ。

「……やっと見つけた」

佐倉杏子がそこに現れた。
いつも何かを口にしている彼女が、珍しく何も食べていない。

「……今までどこ行ってたのよ」

少し遅れて現れる巴マミ。
ほっ、と安堵の溜息をこぼし、さやかの隣に腰掛ける。

「ごめん、2人とも。手間かけさせちゃって」

さやかが謝る。
それは素直すぎるくらいに淡々としていて、彼女の持ち味の快活さはない。

「どうしちゃったの? 貴女らしくないわよ?」

「うん、なんかさ、あたしが何なのか分からなくなっちゃって」

虚ろな目をしたさやか。
そこにはもはや何も映っておらず、杏子とマミの不安が煽られる。

「正義の味方になろうとしたけど、何が大切で、何を守りたかったのか……。
 もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃった……」

「おい……!」

「美樹さん、それ……」

握りしめていた手を開くさやか。
その中には微かな輝きさえも失った、真っ黒に染まったソウルジェムがあった。

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって……いつだったか、あんたが言ってたよね……。
 今ならそれ、よく解るよ」

禍々しさを帯びたソウルジェムを見つめながら、さやかは語る。

「確かにあたしは、何人か救いもしたけどさ。
 だけど、心のどこかで見返りを求めてた自分に嫌気がさしてって、
1番守りたかった友達さえ傷つけて……」

「さやか、アンタまさか―――」

「分不相応の奇蹟を願った分、それだけの絶望を撒き散らす……。
 あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね」

「ダメ、美樹さん―――!」

どんなに声を掛けても、誰の声もさやかには届かない。
ただ、これから自身に起こる事を悟って、静かに涙をこぼした。

「あたしって、ほんとバカ……」

ソウルジェムがひび割れ、グリーフシードと化す。
続けざまに孵化して、強大な魔力の奔流が発生した。

「ぐぅっ―――」

「きゃっ―――」

2人の少女の体が吹き飛ばされる。
手を伸ばしかろうじてそれを止めた杏子。
対して、不意の出来事にそのまま吹き飛ばされたマミ
マミの体は柱に打ちつけられ、更に魔力に流されていく。

「さやかぁぁッ!!」

力なく地に転がるさやかの体へ杏子が叫ぶ。
だが、そこまでだった。
片手の握力を失っている杏子に、大きすぎる魔力に堪えきれる筈もなく。

「がああぁぁぁぁ――――――」

体を支えていた手は離れ、マミと同じ運命を辿っていった。
そして、後に残ったのはたた一つ。

「■■■■■■■■■」

人魚の姿をした、双剣の騎士だけだった。


Interlude out

「――――!」

今のは美樹さやかの魔力……。
彼女の魔力がこんなに強く放たれるなんてあり得ない。
でも、それが起こったという事は……!

「行かなきゃ……!」

時間を止めながら、出来る限り速く駆ける。
目指す場所は魔力の発生地である駅。

「はっ、はっ、は―――はぁ、はっ」

交互に切り替わる生きた世界と死んだ世界。
死んだ世界で動けるのは私ひとり。
故に私の走行速度は体感時間よりずっと速く―――。

「はぁ、は、はっ、はぁ―――あと、もう、ちょっと」

駅の前までやってきた。
このままラストスパート。
中に入り、改札を飛び越え、階段を駆け登る。
ホームに入り、そのまま結界に飛び込む。

「! 佐倉杏子! 巴マミ!」

敵対勢力である2人が倒れていた。
大方さっきの魔力で吹き飛ばされた、というところね。
しかし。

「やっかいな事になったわね……」

気を失った人ふたりを庇いながら戦うなんて、私には不可能。
いえ恐らく、衛宮さんにだって難しいでしょう。
とりあえず今は撤退ね。

「これでも食らいなさい!」

「■■■■■■■■■――――」

美樹さやかだったモノに爆弾を投げつける。
怯んでいる隙に2人を回収して―――。

「重っ……」

意識のない人を運ぶのは大変だというけど、それが2人。
1人なら抱きかかえる事が出来ても、2人だと両脇に抱える事しか出来ない。
しかも、佐倉杏子の方は私より背が高いし髪も長い。

「ぐっ、ふぅ―――はぁ……」

止まった時間の中、線路の上を走る。
その速度は徒歩に毛が生えた程度。
魔法少女だと言っても、元々体力のない私に、自分の体重の倍の荷物は、きつ、い。
でも、時間を止めてられるうちに、どうにか、脱出しな、きゃ……。

「はぁ……くぅ、ふぅ、は―――ひぃ、ふ…………。
 や、やっと、結界を」

抜けられた……。
あと少し、安全なとこまで―――。

「……………………ふぅ」

ようやく肩の荷が降りた。
物理的な意味で。

「おい、ほむら! 何があった!?」

一難去って、また一難。
衛宮さんがまどかをおぶって、やってきた。
まどかはともかく、衛宮さんにはごまかしたい。
魔法少女が魔女になるなんて知られたら―――。

「あ、痛ぅ……」

一難去る前にまた一難。
佐倉杏子が目を覚ましてしまった。

「おい、さっきのは!? さやかはどうなった!?」

そのまま胸倉を掴まれ、問い詰められる。

「ほむら!」
「ほむらちゃん!」
「ほむら!」

逃げ道はなし。
もう、隠し通す事は、出来ない―――。

「……彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を産んで消滅したわ」

まどかが凍りつく。
杏子の手から力が失われる。
衛宮さんが目を剥き、絶句する。

「……嘘、だよね?」

「事実よ。それがソウルジェムの最後の秘密」

疲労でやや濁ったソウルジェムを見せながら、説明を続ける。

「この宝石が濁りきって黒く染まる時、私たちはグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる……。
 それが魔法少女になった者の逃れられない運命」

「嘘よ……嘘よね? ねぇ?」

愕然とするまどかと杏子。
そして、衛宮さんは。

「ほむらぁ!」

「がはっ」

杏子に代わって胸倉を掴んできて、そのまま持ち上げてきた。
見上げるその瞳には怒りの炎が見えた。
衛宮さんにとっては裏切られたも同然だから、自業自得ではある。
ただ。

「ほむら、おまえっ……どうして、嘘を吐いた?
 どうして、黙っていた……!?」

「ぐっ、かは―――」

苛立ちながら問われても、息をするのが精一杯で、声が出せない。

「ちっ。鹿目、悪いけど今日は1人で帰ってくれ。
 俺はこいつに、訊かなくちゃならない事がある」

持ち上げられたまま、連れていかれる。
普段のフェミニストのような衛宮さんとは全く違う。
目的の為に人を殺せる。
そんな人の顔をしていた。

「くっ―――げほっ、けほっ」

家に帰ってきて、ようやく解放された。
しかし目の前には未だ、鬼のような形相をした正義の味方(衛宮さん)が居る。

「さあ、答えてもらおうか」

「…………貴方に、知られたくなかったから」

話してしまおう。
理屈さえ通ってれば、解ってはくれる人の筈……。

「正義の味方なんてやってる貴方にとって、魔女は倒すべきモノ。
 なら、その卵である魔法少女だって同じ事でしょう?」

「むぅ……色々言いたいけど、否定はしない」

眉間にしわを寄せ、難しい顔をする衛宮さん。

「それが怖かった……。
 貴方に殺されるだけならまだしも、ワルプルギスの夜が来る前に戦えなくなるのが……」

「…………」

そうなると、どうやってもまどかが救えなくなるから……。

「……頭に血が上ってたとはいえ、乱暴して悪かった。
 ほむらなりに考えがあっての判断だったんだな」

ぺこりと頭を下げた衛宮さん。
怖かった……この世で2番目くらいに。
もう、この人を怒らせたくない……。

「さて、メシ―――の前にいくつか確認させてくれ」

「え、ええ……どうぞ」

私に手を差し延べながら尋ねる。
情報状況の整理をするつもりなのでしょう。

「魔法少女とは、インキュベーターとの契約で生まれる存在」

「そうね、全くその通りよ」

「契約と同時にその魂は物質化され、ソウルジェムとなる」

確認する内容は至って簡単な事。
こんな事に、衛宮さんにとって意味はあるのかしら?

「そして、魔女とはソウルジェムが変質して生まれた存在」

「ええ、その認識で間違いないわ」

そう答えると、衛宮さんは黙りこんだ。
目を閉じ、腕を組み、深く思案するような仕草。
それがしばらく続いた。

「……よし、メシにしよう」

…………。
いったい、何を考えこんでたのよ……。

「その事だけど、もう日付けも変わってしまったし、今晩はもういいわ」

「ふむ、消化の問題もあるしな。
 でも空腹もよくないし、晩飯はバナナというコトで」

そう言ってバナナを渡してくると、衛宮さんはおにぎりを作り始めた。
明日の朝ご飯ね、きっと。
あれを食べた後、衛宮さんはさやかとケリをつけに行くのでしょう……。

「―――っしょ」

寝床の押し入れから抜け出した。
辺りはまっくら。
ほむらはすうすうと、年相応のかわいらしい寝息をたてている。
闇に浮き上がる時計の文字板は、2時半を示していた。

「よし、始めるか」

手始めに冷蔵庫の食材を引っぱり出す。
本来ならやりたくない事だが、片っ端から調理していき、作り置きを大量に用意する。
1人で食べ切るには速くて4日というところか。
それだけあれば、食の細いほむらならしばらくは飢えはしないだろう。

「次は準備だな」

脱衣所に入って部屋着を脱ぎ捨てた。
代わりに用意した服は戦闘用の正装(ユニフォーム)。
黒いズボンを履き、ベルトを巻く事で下半身と密着させる。
上半身には防弾ベスト。
胴体を守る物理的な防御兵装。
そして最後に、この衛宮士郎が持つ最高の逸品、赤原礼装を纏う。
鏡に写る我が姿は、いつか見た赤い弓兵と瓜二つ。
気に入らないヤツだったが、あいつの真似事だけは本当にうまく出来た。
癪な話だが、あいつ以上に俺の手本となるヤツは居ないのだろう。

「バッグの中身は…………メシだけでいいか」

やる事だけは決まっているのだから、余計な物は必要ない。
バッグに入っていた物を全部取り出して、軍用糧食を詰め込む。
長丁場になりそうだし、こういう時ぐらいはこんな物が役に立つってもんだ。

「じゃあ、いってきます、ほむら」

いつものスニーカーではなく戦闘用のブーツを履き、別れを告げた。
次に帰ってくるのはいつになるか。
いや、そもそも帰ってこれるのか。
それは判らないが、とにかく行くとしよう。

「俺の、責務を果たしに……」

住宅街に存在する日本建築。
それは一般的な木造住宅でもなければ、衛宮の屋敷のような武家屋敷でもない。
つまるところ、豪邸、というヤツである。
周囲には普通の一軒家やマンションしかない事を考えると、近辺では1番のお家柄と言っていいのだろう。
で、俺がこんな家を訪ねるのも、ひとえに果たせる約束から果たしにきた、というだけの話である。

「―――同調、開始」

ただ、時間も時間であるうえに、無関係の人間に知られる訳にもいかないのだ。
故に、魔術を駆使してでも、コソ泥の真似事をしなければならない。

「―――解錠、完了」

侵入開始。
この家の見取図なんて物は持ってないが、そんな物は必要ない。
外観から想定した枠の中を、実際に歩く事で埋めていく。

リビング、ダイニング、キッチン、トイレに風呂場……。

間取りの把握が完了。
あとは脳内に描いた見取図の中から、この家の1人息子、上条恭介の部屋を推定し…………特定した。

「――――」

そろりと扉を開く。
机があり、やたら大きなオーディオ機器があり、通学鞄がある。
シングル……いや、セミダブルってヤツか。
ベッドには膨らみも見えた。
間違いない。
ここが俺の目的地だ。
そうと決まれば躊躇は要らない。

「……よし」

部屋の中へ忍び込み、ベッドの前に立つ。
布団を捲ると整った顔立ちの少年。

「おい、起きろっ、おい、おい」

頬を叩きながら、声をかけるが返事がない。

「起ーきーろー」

頬を両手で引っ張る。
聞こえるのは寝息だけ。

「―――Anfang(セット)」

右手を構える。
狙いは額。
中指を親指に掛け、弓の弦のように引き絞る。

「―――Läßt(レスト)!」

「痛っ!?」

額を抑えながら飛び起きる上条少年。
うむ、会心の一撃である。

「ようやく起きたか、寝ぼすけ」

「恭介です……って、衛宮さん!?
 なんなんですか、その格好? それにどうやってここに……?」

私服で会った前回と違い、今は戦闘に備えた服装だ。
そういうのに縁がなかった上条が不思議に思うのも当然だろう。

「話は後だ。今から美樹の元へ行く。
 これを逃せば、おまえに彼女と会う機会は永遠に失われる」

ついて来るか、と問う。
返答はもとより決まっていた。

「じゃあ、おまえが着替えたら、すぐに出るぞ」

「まず始めに上条。君は魔術や魔法という物は知ってるかな?」

美樹が魔女になった時に放ったという魔力。
あれだけ強烈な物ならば、得意も苦手も関係なしに解析は出来てしまうものだ。
その残滓を空気中から識別し、美樹を追いかける。
しかし、今の俺には一般人の道連れが居る。
何の知識もなくては連れていく意味がない。
故に、道中で色々と教える必要があった。

「? ファンタジーでよくある不思議な能力ですよね?」

「まあ、その認識でいいな」

実態は幻想(ファンタジー)というより怪異(オカルト)に近いが、不思議な能力という点に違いはない。

「これから臨むのはそういう世界だ」

「…………はい?」

突然こんなコト言われても、信じられないのは当然……というか、信じられるヤツの方がヤバイか。

「手始めに自己紹介といこう。俺は魔術師、衛宮士郎。
 おまえの部屋まで侵入してこれたのは、俺の魔術のおかげって訳だ」

「え……? 魔術師? でもだって、さやかに剣を教えてたって」

「魔術師が剣を教えちゃ悪いかよ?
 今の時代、プロレスマニアの魔術師だっているぞ?」

ロンドンでの俺の雇い主とか。
特例中の特例だろうけど。

「それで、その魔術師の衛宮さんとさやかに、どういう関係が……?」

ふむ。
関係がないといえば関係はないな。
俺が一方的に首を突っ込んだだけだし。

「その前におまえにある事実を知ってもらおう。
 この街……いや、この街に来るまで知らなかっただけで、本当は世界中にか。
 魔法少女と呼ばれる者たちが居る」

「そんな、馬鹿な……」

確かに俺もそう思ったな。
魔術師という身分を棚に上げて。

「彼女たちは魔女と呼ばれる怪物と戦う運命を背負わされる対価に、
願いをひとつ叶えてもらえるそうだ」

「まさか……」

流石に話の流れで判るよな。

「そのまさかだ。
 美樹さやかは上条恭介の左手の治癒を対価に魔法少女となった。
 俺が彼女に剣を教えるようになったのは、彼女が安全に戦う為、という訳だ」

「…………」

言葉を失い、左手を呆然と見つめる上条。
あり得ないと言いたくとも、あり得ない事が起こってしまったソレがある。

「だが、魔法少女には知らされざる秘密があった。
 彼女たちは魔女と戦う度、いや、呼吸ひとつする度に魂を汚染されていく」

「それが、さやかが居なくなった原因……?」

「90パーセントはそうだろうな」

落ちついてればなかなか聡明じゃないか。
興奮する気力もないだけにも見えるが。

「よし、ここだな」

結界を発見。
独特の違和感と美樹の魔力の両方を感じる。
美樹の結界である事は間違いないようだ。

「っと、忘れるとこだった。
 君は俺の都合で招かせてもらったゲストだ。故に君の安全の保障は俺の義務となる」

「はあ」

「その為に俺の外套を着ていてもらう」

赤原礼装を脱ぎ、上条に着させる。
見滝原中学の男子制服の上に着るとややシュールだが、贅沢は言ってられない。
こうしないと、物理以外の要素から護る事が出来ないのだから。

「じゃあ行くぞ」

上条の手をとり、結界の中へ入る。

―――そこは薄暗い通路だった。
両側の壁にはポスターが貼られているが、何と書かれているのかは読めない。

「い、いったい何が……?」

「ここは魔女の結界。この中に魔女は潜んでいる」

信じがたい非日常に踏み入れ、今まで話した事が証明された。
未だ戸惑う上条の手を引き、奥へ進む。

「さて、さっきの話の続きをしよう」

無音の空間に声と通路を隔てる扉を開く音が響く。
上条は黙ったままだ。

「魔法少女は常に魂を汚染される。
 だが、魂にも許容の限界がある。
 その限界を超えて魂が汚染されたらどうなるか?」

さらに扉を開く。
微かに音が聞こえてきた。

「酷い話だが、そうなると魔法少女は死に、その魂は魔女となるそうだ」

「それって……」

最後の扉を開き、広い空間に出た。
つい最近見たようなカタチの部屋。
たくさんの座席に囲まれた中央。
そこに佇む者を見据えて結論を告げる。

「あれが……あいつが美樹だ。
 ただひとつの願いの為に戦い、そして力尽きた……美樹さやかの成れの果てだ」

鎧に身を包んだ人魚の騎士。
両手には剣。
役割は厳かなる劇場の主にして指揮者。

「さや、か……」

その従者たちは彼女の私設弦楽団。
かつての幼馴染の呟きは、彼らのヴァイオリンの音色の中にかき消されていった。

今回はここまでです
行き詰まってたので次回分と並行して書いてまして、それで遅くなってしまいました
まあ、その次回分を書いてたらテンションが上がりすぎて、士郎がアンリ化したりしてて書き直す事になったりしましたが

ところで、前々から変換機能が死んでると思ってた我が家のパソコンなんですが、最近何故か「けん」で「剣」と変換できなくなってしまいました
他にも「しろう」は確実に「知ろう」と変換したり、どうにかしてほしい有様です

あと、マミさんアイドルデビューおめでとう
発売が楽しみでたまりません


やっぱりさやか魔女化は避けられなかったか
士郎もだけど目を覚ましたマミさんが心配だ

俺も変換機能が死んで「えヴぁんげりおん」が「えヴぁん下痢音」になった事があったよ

士郎ってわざわざ一般人を非日常に放り込むほど非常識じゃないと思っていたんだが
あとでどういうケアをするんだろうか

確かに言われてみればシロウは、どういう目的であれ一般人をこういう物騒な場に引きずり込むのは病的なくらい避けるような気もするな

とはいえここのシロウは英霊エミヤ(正義のためなら犠牲は厭わない)に片足つっこんでる状態だし
さやかが叶えた望みが上条のためだということを踏まえて、もはや無関係の一般人とは言えないという判断をしてもおかしくはないんじゃないかな

士郎が好きすぎて生きてるのがつらい

>>730
よく見たら>>1だった・・・オープン戦の事かな?

最近思うんですよ
川崎の体の中には、前回のWBCでイチローが決勝打を打った時のバットの欠片が埋め込まれていて、イチローが近くにいるとステータスが上昇されるんじゃないかって
そのくらいあってもおかしくないような活躍をしてますよ

>>719
士郎は心配しなくてもぼろ雑巾になるだけなので、マミさんの心配をしてください

>>722
後半が酷すぎますね

>>725>>726
さやかと恭介の2人を自分と藤ねえに重ねて見ている為、何も知らないうちに離れ離れになるのはつらい事だと考えてます


>>731
型月板の士郎スレに行くなり、その愛をSSにしてみるなりしてみてはどうでしょうか?
後者なら同志として応援させてもらいます

>>732
その通りです
他人を引き合いに出してまで球団批判をしまくった上でのFA移籍をしたのに、古巣での登板に拍手で迎えられた杉内
しかし去年彼が投げてる時はなかなか点を取ってくれなかった打線が、ホームラン2本を含む7得点の大爆発
そのあまりの悲惨さに思わず同情したくなってしまいましたとさ

それでは投下します
14日目~破戒すべき契約

ワルプルギスの夜まであと4日

Interlude

薄明りの巴マミの部屋。
ベッドの側には現在居候の佐倉杏子が腰を下ろしている。
彼女の視線の先には、昨晩から気絶したままのマミが居た。

「…………」

押し黙ったまま考えを巡らす杏子。
内容は魔女になった美樹さやかについて。
そして、その事実をマミにどう説明するかについてだ。

「ん、う……」

「! マミ……」

目を覚ますマミ。
上体を起こし、痛みの残る後頭部をさする。

「大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫。それより美樹さんは?」

「っ―――」

言葉に詰まる杏子。
当然だ。
マミをベッドに運んでからずっと頭を抱えてたのに、今とるべき答えが未だに見つからないのだから。

「さ、さやかは……」

ぎりぎりまで粘り続ける。
嘘を吐こうとも考えたが、辻褄の合わない嘘をマミが信じる筈がない。
結局、杏子に出来るのはただの一つだけだった。

「さやかは、魔女になった……」

「な―――」

目を見開き混乱するマミ。
じわりと目尻に涙が浮かんでいく。

「う……嘘、でしょ……?
 ねえ、佐倉さん。嘘って言っ―――」

「マミ!」

杏子がマミを押し倒し、そのまま圧しかかった。
両手両足を抑え込んだ体勢。
突然の出来事にマミの思考が中断される。

「なあ、マミ。アタシでさえ、元同類を殺してたってのはショックだったんだ。
 魔法少女であるに誇りを持っていたアンタには受け入れ難いのもわかる」

組み敷いたマミを見つめながら、杏子がゆっくりと語りかける。
マミへの同情が許される唯一の存在。
それが杏子の強み。

「でもさ、やっちまった事に囚われてちゃ何も出来やしない」

「佐倉さん……」

変えられない過去から目を背け、変えられる未来へ逃避する。
それをするのは心の弱い事かもしれない。
だがしかし、決して間違いではない。

「それに……アタシは諦めたくない。
 もしかしたら魔女(さやか)を元に戻せるかもしれないじゃん?」

前に進む事。
未来の可能性に賭ける事。

「まあ見ててよ、マミ。アンタの希望を、必ず連れて帰ってくるからさ」

ただ一人の憧れる者の為に、杏子はそれを選ぶ。
マミが“正義の魔法少女”を歩み続ける為に。

Interlude out

1時間目の授業中。
退屈さと心配から、ちらりと後ろを見る。
ここ最近は美樹さやかが欠席していたけど、現在の空席は3つ。
いつも通りの美樹さやか。
そもそも存在してない人間が来る訳がないのだけど。

そして鹿目まどか。
昨晩遅くまで出歩いてたのだから寝坊の可能性も考えたけど、
あそこのお父さんの事を考えるとこの時間まで寝てるなんてあり得ない。

最後に、何故か上条恭介。
彼については本当に判らない。

「――――」

何にせよ、まどかが居ないのなら学校に居る必要もない。
それにあの魔女(美樹さやか)の元へ向かってる恐れもある。
ならば―――。

「すみません。気分が優れませんので、保健室へ……」

挙手をして立ち上がり、先生に声をかける。

「んー、このクラスの保健委員は誰かね?」

「鹿目さんは今日お休みでーす」

煩わしいやりとりをしている時間も惜しい。
さっさとここから抜け出してしまおう。

「んん、では学級委員が連れ添いに―――」

先生の指示を聞かずに教室を出る。
手遅れになる前に、必ずまどかを見つけ出さないと―――!

―――ここに来てから、どれほどの時間が経ったのだろう。
ずっと薄暗いままで体内時計も麻痺してきた。
暇を持て余し、時間感覚も狂ってきた。
そんな時に、呆然と演奏を聴き続いてた上条が口を開いた。

「さやかは、これからどうなっちゃうんだろう……?」

独り言のような問い。
答えを求めてるつもりではないのだろうが、それでも応えてないとやってられない。

「魔女は人に危害を及ぼす存在だ。
 故に狩られる対象となる」

「どうして……さやかが、こんな目に……」

そう。
魔女は俺が正義の味方を志す以上、倒さなければならない相手だ。
それなのに俺がこうして傍観しているのは、俺のエゴの為。
俺の罪で魔女となった美樹に、少しでも長く生きていてほしいからだ。
だが同時に、美樹には誰も殺させたくもない。
故に俺は、ここに誰かが来る事を待っている。
誰かが来るのを待ちながらも、誰も来ない事を願っている。

「さやかは、もう元には戻れないのかな?
 もう……さやかと一緒にCDを聴いたり出来ないのかな……?」

静かに涙を流す上条。
思い返す幼なじみとの記憶は、さぞ美しい物なのだろう。

「元に戻す為の方法に、心当たりは…………ない訳では、ない」

「――――!」

魔法少女は契約によって生まれた、第三魔法の体現者。
しかしそれは完全なものとはとても言えないうえに割と数が多い為、神秘としては弱い部類だろう。

「でも、確証がない。
 もしかすると元に戻せるかもしれないけど、もしかするとそのまま殺してしまうかもしれない」

これまでに試す機会がなかったのだ。
どうにもその事が行動を躊躇させる。

「頼む。俺の覚悟が出来るまで待ってくれ。
 そして……美樹が死ぬかもしれないという事を……覚悟していてくれ…………」

「さやか…………う、くっ」

相変わらず使い魔による演奏がされている。
音楽に興味のない俺には、それがよく解らない。
が、上条にとっては美樹との最後の思い出になるのだろうか。

「……そろそろメシにしよう。腹減っただろ?」

バッグから軍用糧食をふたつ取り出し、上条にひとつ渡す。

「悪いな、こんな物しか用意してなくて」

「いえ、ありがとうございます」

栄養とカロリーを摂るだけの味気ない食事。
尤も、今なら何を口にしたって味はよく判るまい。

「…………」

「…………」

もぐもぐ。
もぐもぐ。
…………。

「ごちそうさま」

口先だけの挨拶。
それを最後に再び暇になる。

「――――!」

と、思っていたかった。

「とうとう、来ちまった、か……」

様子の変わる騎士。
ここに至るまでの扉が開かれる。
そして数秒後、2人の少女が現れた。
鹿目と……また佐倉杏子だ。

「衛宮さん……それに、上条君……!?」

目を見開く鹿目。
俺が居た事は予想がついていたのだろうが、上条は完全に予想外だったらしい。

「さやかをどうするつもりだ!?」

そして、挨拶代わりに噛みついてくる佐倉杏子。

「なに、目的はだいたい同じだろう。
 俺はずっと、美樹を想って行動してきたのだから」

……そう、それだけは変わらない。
あいつが俺を“師匠”と初めて呼んでくれた時から。

「想ってるヤツに武器を向けたのかよ、テメェは?」

「それが最善だと考えたからな」

俺と彼女では物の考え方が違う。
納得してもらおうとしたら、それこそ日が暮れるだろう。

「さて、美樹もずっと待っていてくれる訳ではあるまい。
 おまえたちが何を考えてここに来たのか。
 そいつを聞かせてくれ」

少女たちに問う。
己が作戦に自信が持てない以上、縋れるモノには何だって縋ってやる。

「さやかちゃんを元に戻したい」

「その為にまどかを連れてきたんだ。
 親友の声なら、もしかしたらアイツにも届くかもしれない」

「ふむ…………」

年相応というか、何というか。
無謀な気がするが、これが2人の出した答えなのだろう。

「衛宮さん……これで、さやかが助けられると、思います?」

「……正直、難しいと思う。
 けど、条件付きなら手伝うのも悪くない」

呼びかけるだけならば、美樹に危害は与えない。
俺の手段を用いる前に試すだけならアリだろう。

「上条はどうだ?」

「僕は、何がなんだか未だよく判りません……。
 でも、さやかが元に戻るなら……」

鹿目も上条も意志は固い。
大切な人を想う、そんな直視しづらい目をされたらとても断れない。

「…………決まりだ。乗ってやるよ」

「あ、ありが―――」

「ただし! 誰も犠牲にならない事が条件だ。
 誰かが危なくなれば、俺の思うままにやらせてもらうぞ」

それだけが条件。
汚れなき少女が罪を背負う前に終わらせる。

「なら、アタシがこの2人に結界を張ってれば文句ないよね?」

「おまえが無事、ならな」

言ってろ、と吐き捨て、佐倉杏子が結界を張る。
鹿目と上条を囲う紅い鎖。
それが完成すると、鹿目が大きく息を吸った。

「さやかちゃーーん!!」

こだまする鹿目の声。
そのように設計されたこの結界は、大声をあげればよく響く。

「さやかぁーー!!」

上条が続く。
演奏を邪魔された事が頭きたのか、警戒状態だった騎士が攻撃態勢へ移った。

「来たぞ、構えな」

「わかってる」

騎士の剣の一振り。
それが合図だったのか、幾つもの車輪が出現した。
迫りくるそれらを見つめながら、専用の呪文を唱える。

「I am the bone of my sword.(我が骨子は護り屠る)」

投影するのは守護の剣。
聖人ゲオルギウスが愛用した、その銘は―――。

「力屠る祝福の剣(アスカロン)」

最強の剣は数あれど、こと守りにおいてこの剣に勝る物はなし。

今の俺の役割に、これほど適合する物もあるまい。

「でぃやぁ!」

「たあっ」

振るわれる剣と槍。
車輪を弾き、背後に控える者たちを護る。

「さやかちゃん聞こえる!? わたしだよ、まどかだよ!?」

そして、その者たちも護られるだけではなく。

「僕だ、さやか! 恭介だ!」

その大切な人の為に全身全霊で叫ぶ。

「聞いてよ、さやかちゃん!」

増加する車輪。
だが、アスカロンの前にそんな物は通じはしない。

「さやか! お願いだ、話を聞いてくれ!」

まるで意思を持つかのように、最適な動きで剣と車輪がぶつかり合う。

「元に、元の優しくてかっこいいさやかちゃんに戻ってよ!」

隣の佐倉杏子も槍を振り回す。

「僕はまださやかに何も恩を返せてないじゃないか!」

いつも程の鋭さはないが、確かに騎士の攻撃を捌いていく。

「またさやかちゃんと一緒に遊びたいよ!
 さやかちゃんといろんな事をしたい!」

しかし、車輪は尽きない。

「これからも僕の演奏を聴いてくれるんだろ!?」

次から次へと、無尽蔵に現れては捌かれる。

「大人になっても、ずっとわたしの親友でいてくれるんでしょ!?」

万全ならば大した事のない攻撃。

「そんなのよりずっといい演奏をするから、帰ってきてくれよ!」

されど、そこに万全でないヤツが居た。

「さやかちゃん、ねえ!?」

目に見えて鈍っていく槍。
傷口が開いたのか、右腕が鮮血に染まりゆく。

「さやか!」

弾いてた筈の車輪を、受け流すので精一杯になっていき。

「だあぁ!」

そして―――。

「ガッ―――」

「杏子ちゃん!?」

ついに受け流す事も出来なくなり、槍の方が弾かれた。

「はっ、まだまだ……!」

こいつはこの期に及んで痩せ我慢するか。
片手で槍を扱うなんて、最初から無理に決まってたのに。

「もう無理よ、佐倉杏子」

「ほむら!?」

ほむらが突然現れ、佐倉杏子を止めた。
驚きは一瞬。
すぐにほむらの言葉を繋ぐ。

「ほむらの言う通りだ。これ以上は足手纏いだ」

「っ、くそっ。誰のせいだと思ってやがる」

槍を落とし、傷口を抑えながら俺を睨む。

「ああ、俺のせいだ。
 おまえが万全じゃないのも、美樹がああなっちまったのも」

鹿目と上条の声が止んだせいか、攻撃を止めて静かに佇む美樹の姿を見つめる。
冷めたい甲冑の中の素顔は、やはり彼女のままなのだろうか。

「だから俺が責任をとる。
 美樹には誰も殺させない。
 あいつの理想は、あいつ自身にだろうと踏みにじらせはしない!」

「…………」

己が意志を宣言すると、結界内が沈黙に包まれた。
そして剣を投げる。
放物線を描き、ほむらの前に突き刺さるアスカロン。

「ほむら……ここは、頼んだ」

経験を読み取り、担い手のように使いこなしてこそ投影宝具は真価を発揮する。
だがこの剣ならば、守るという行為に応えてくれる。
少なくとも鹿目が居る以上、ほむらにだって使う事は出来る筈だ。

「貴方は、どうするつもり……?」

まるで俺を案ずるかのような声。
巫山戯るな。
おまえが心配するべきなのは、俺なんかじゃないだろ。

「美樹とケリをつける。
 その結末は、あいつの死か、俺の敗北か、はたまたハッピーエンドか。
 どれになるかは判らんがな」

前進して、美樹と向かい合う。

「ふぅ…………」

息を吐く。
それはほんの僅かな刹那。
それでも、俺にとってはとてつもなく長い時間に感じられた。
脳裏を駆け巡る美樹の色々な顔。
これも一種の走馬灯、なのだろう。

「I am the bone of my sword.(我が骨子は背き破る)」

詠唱が重く響いた。
想像するのは歪んだ短剣。
この悪夢の結末を捻曲げ得る、究極の宝具。

「―――投影、重層(トレース、フラクタル)」

その設計図を展開させたまま、いつでも魔術回路に通せるよう待機させる。
雌雄を決する、その時まで。

「―――投影、開始!」

美樹の軍刀を両手に投影。
切り札以外に使うのはこれだけでいい。
これ以上にあいつと戦うのに相応しい武器なんて存在しないのだから―――!

「往くぞ、美樹ィ!」

疾走する。
目標は結界の中心、そこに佇む美樹の元。

「■■■■■■■■■!」

だが、簡単にそれを許す程、美樹も甘くはない。
号令と共に放たれるは彼女の副兵装たる車輪。
迫る一投目を回避し、続く二投目に二刀を叩きつけ―――。

「くっ」

車輪を砕くと同時に剣が霧散した。
質量差の問題か、投影精度の問題か。
しかしそれは問題にはならない。

「投影(トレース)―――!」

ならば、アレを上回る数と速さを……!

「■■■■■■■■■!」

美樹がさらなる車輪を放つ。
一つ一つは遅くとも、列を成し襲い掛かるその様子は、さながら重装歩兵部隊(ファランクス)の如し。

「一斉掃射!」

対抗して放つは剣の弾幕。
その数を以って攻撃を止め、その速さを以って防御を貫く。
後に残されるのは鉄と粉塵だけで、進行を妨げる物なんて何もない。
だが、受け手に回っていては、いずれそれも阻止されてしまう。

「今度は俺の番だ!」

右手の剣を投擲。
それに続いて左手の剣を投擲―――すると同時に右手に剣を握る。
左右交互に連ねる24の剣。
それを。

「■■■■■■■■■――――!」

両手に構えた剣を振り回し、最小限の動作で1本1本と弾き飛ばされた。
その剣技は断じて理性を失った狂戦士(バーサーカー)のソレではない。
卓越した技能を持った剣士(セイバー)の物だ。

「は―――はは、ははははは。
 よくやってくれるじゃないか。いったいどうしたんだ、美樹?
 いつの間にそんな芸当が出来るようになった?」

笑みがこぼれる。
感情が昂ぶる。
だが、それも当然だ。
あんなに危なっかしかったヤツが、こんなにも素晴らしい双剣使いになっていたのだから。
これで歓喜に震えないと言ったら嘘だ。

「もう一度だ。もう一度、ソレを見せてみやがれ―――!」

先程よりやや少ない18本。
だがしかし、全く同時かつ上下前後左右ばらばらに放つのだ。
全ての剣を捌ききるには、先程以上の技を披露しなければならない。

「■■■■■■■■■」

咆哮と共に剣を構える美樹。
6本を右の剣で、7本を左の剣で叩き落とし、4本を車輪で迎撃。
そして残る1本を―――。

「ほぅ……」

首を傾げて回避された。
その光景に思わず感嘆の声が漏れる。
評価をするのなら99点の出来だ。

―――でも、生憎満点をやる訳にはいかない。
その1点分の隙で、あいつとの距離を詰めるには十分過ぎだ―――!

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「うおおおぉぉぉぉ―――!!!」

剣と剣がぶつかり合う。
お互い純正な物とは言い難いが、剣士同士の決闘なのだ。
ならば至近距離での一騎打ちになってこそ、本番と言うべきだろう。

「■■■■■■■■■――――!」

「っ――――!」

振り下ろされる一斬。
受け止めた二刀は砕かれ、破片が頬を裂く。

「……まだだ。まだ足りてない」

投影精度を上げろ。
武器の本質を理解しろ。
同じ美樹さやかの武器なのだ。
本来なら、こちらだけが一方的に砕けるなんて筈はない。

「投影!
 投影―――!!
 投影――――――!!!」

複製しろ。
模倣しろ。
担い手さえも凌駕し尽くし、その真価を引き出せ―――!

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「おおおおおぉぉぉぉぉぉ――――!!」

右の剣を振り抜く美樹。
2本の刀身が無数に分離し、その剣を絡め取る。
その様子はまさしく獲物を捕らえた蛇。
美樹の軍刀に秘められた最高の力。

「―――同調、開始!」

肉体を限界まで強化。
筋が引きちぎれようとも、骨が砕け散ろうとも、何がどうなろうと構わない。

「こ、んのおおおぉぉ―――!」

「■■■■■■■■■■■■■■■」

持てる力の全てを以って剣を引き合う。
先に果てるのは、俺か美樹か。

「ヤロォォォォ!!」

否。
その支点とされた美樹の剣だった。

「■■■■■■■■■―――!」

刃のなくなった右に代わり、左の剣が迫る。

「効かん!」

横っ飛びで回避。
更にそれを右手の剣で絡め取る。

「■■■■■■■■■」

「うおっ!?」

そうはいくかとばかりに、美樹が剣を振り上げた。
剣を砕くどころか、俺の身体が宙に浮き上げられる。
だが、それこそが決着への合図だ。

「――――――是(セット)」

剣を捨てる。
支えてくれる物を失った身体が、ふわりと放物線を描く。
その到達点は鎧の冑。
そこへ―――。

「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)―――!」

切り札たる短剣を突き立て―――。

「がっ」

刃が、通らない―――。
飾りかと思ったが、なかなかどうして頑丈じゃないかっ……。

「■■■■■■■■■■■■■■■」
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

巨大な手に捕まる。
このまま握り潰そうって、魂胆か……!

「あ、ああ―――あああぁぁあぁぁぁ!!」

骨が軋む。
肉が潰れる。

「衛宮さん!」

強化した身体が、かろうじてそれを押し止める。

「さやかちゃん、駄目ぇーーー!」

逃れる手段を模索。
該当するのは一つ。
体の限界を迎える前に、無理矢理限界を呼び込む。
それ以外にはない。
躊躇する余裕もない。
イメージしろ。
ショートした回路に火花が飛び散る光景を。

「体は、剣で出来て、いる……!」

「■■■■■■■■■――――!?」

美樹の手を内側より突き破る剣。
その数は俺には判らない。
だが暴走した魔術回路が魔術特性のままに剣を生み出し、体内から貫いたという事だけは確かだ。

「ごふっ」

地に落ちる。
息を吐くと共に血が流れる。
頭がとてもイタイ。
背中が火を点けられたようにアツイ。
無茶をしすぎたのだろう。
視界がにじみ、世界が歪む。
それでも、美樹が剣を振り上げた事は見えた。

「―――同調(トレース)!」

軍刀に強化を試みる。
今の魔術回路では細かい事は出来ない。
それでも、ありったけの魔力を流し込むくらいならば可能だ。
一瞬の後に剣が霧散しようとも、その一瞬で戦いは終わるのだから。

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「美ぃぃ樹いいぃぃぃぃ―――!!!」

衝突する2本の剣。
勝ったのは俺だ。
俺の一刀が美樹の一刀を破り、そのまま兜を打ち砕いた。
中身はどろどろとした、黒い液状の素顔。
ぐらりと力を失った美樹の身体が倒れ込む。
その、前に―――。

「いい加減に、帰ってきやがれええぇぇぇぇぇ!!」

剥き出しの頭部へと跳び、涙する美樹に短剣を突き刺した。
その瞬間。
俺の中に何かが流れ込むと共に、視界は暗転し、意識が遮絶された―――。

―――壮絶な戦いが終わった。
そこに勝者は居ない。
美樹さやかだった魔女は消滅し、衛宮さんはハリネズミのような姿で倒れ伏せている。

「結局、ダメだったのね……」

結界が消える。
後に残されたのは6人の人間のみ。

…………6人?

「さやか!」

「さやかちゃん!」

衛宮さんから少し離れた所に美樹さやかの遺体。
魔女になった時に取り込まれていたのだろう。
それに向かってまどかと上条恭介が駆け寄る。

「さやか! さやか!」

いくら呼びかけようと返事はない。
当然ね。
もうとっくに、彼女は死んでるのだか―――。

「よ、良かった……」

「い、生きてる……。さやかちゃん、ちゃんと息してる……!」

「な―――!?」

2人の表情が喜びに染まる。
どういう訳か、さやかは蘇生していた。
信じられないけど、衛宮さんは魔法少女の運命さえも捻曲げたのだ。
でも、その当人は……。

「ひっでえな……」

そう、その一言に尽きる。
虫の息で留まってるのが不思議な程の酷い傷。
この傷と引替えに、さやかを救ってくれたのね。

「……鹿目まどか、上条恭介。その子は任せるわ」

どういう訳だか解らないけど、ソウルジェムがないのに生きてるのは、つまりそういう事なのだろう。
後は病院に任せておけばいい。
だけどもう1人の方は、とても病院になんて連れていけるよえな状態じゃない。

「……佐倉杏子。嫌でしょうけど、恥を忍んでお願いするわ。
 衛宮さんを、私のうちまで運ぶのを手伝ってくれないかしら……?」

「……ったく、そんな泣きながら言われたら、断れる訳ないじゃんか」

「え…………?」

言われて目元に手をやると、確かに濡れていた。
外では、みんなの前では、感情を押し殺してきた筈なのに、おかしいわね。
拭いても拭いても、涙が止まらない……。

「ほら、アタシは左肩を持つから、アンタは右肩」

「ええ……」

杏子に促されるまま、衛宮さんの腕を取る。
最後にちらりとさやかを見て、杏子と一緒にゆっくりと歩み始めた。

「何……これ…………」

杏子が応援に呼んだ巴さんの第一声。
ビニルシートが敷かれた六畳間。
そこに倒れてる生きたオブジェ(衛宮さん)を見れば、誰だって同じ反応をするに決まっていた。

「ほむらの相棒だよ。
 コイツの手当てを手伝ってくれ」

杏子が説明する。
しかし、巴さんはまだ納得がいかないらしい。

「……一体、何が起きたらこんな事が……」

「さあね。突然こうなったとしかアタシには言えないよ」

そう言って、肩を竦める杏子。
だけど、私はその原因が判る。
多分、衛宮さんが自分でやった事なのでしょう。
これが投影という魔術なのか、それとも他の物なのかまでは判らないけれど。

「ともかく、さやかをどうやって人間に戻したのか知ってんのはコイツだけだ。
 気に食わないヤツだけど、ちゃんと目ぇ覚ましてくれないと」

そう、ね。
私たちにとってそれ以上に重要な事なんてある筈がない。

「だからさ、アンタも元気だしてくれよ、ほむら」

「…………元々、こんなもんよ……」

とにかく、衛宮さんを治療しましょう。
息のある今なら、助けられるのだから……。


ステータス・武器情報が更新されました

Status

美樹さやか
属性:―・―
スキル
――――――

Weapon

アスカロン
キリスト教の守護聖人、ゲオルギウスが愛用した剣。
あらゆる害意と悪意から持ち主を遠ざける無敵の剣。
ただし、敵を倒すという意味での無敵ではなく、いかなる敵からも護るという意味での無敵であり、
ヨーロッパ各地を渡り歩いた守護聖人に相応しい剣と言える。
また、ゲオルギウスがこの剣を扱う時は、竜殺しの効果を発揮する。
現在はゲオルギウス所縁の教会に安置されている現存する宝具であり、
衛宮士郎はその教会に侵入した際に発見し、記憶したようだ。

軍刀
魔法少女・美樹さやかが使用する片刃の剣。
細身だが丈夫で、ナックルガードまで備えている為、扱い易さは非常によい。
そのナックルガードのせいで投擲にはあまり向かないが、
一度慣れてしまえば、まっすぐな刀身は標的を貫くのに適している。
また、刀身を無数に分離させる事が可能で、中距離まで対応する性能が秘められている。

大剣

魔女と化した美樹さやかが使用する巨大な片刃の剣。
外見、大きさ、性能とどれひとつとして元の軍刀との共通点はないが、
その在り方は完全に一致する“全く異なる同一存在”である。

ルールブレイカー
第五次聖杯戦争におけるキャスターが使用した短剣。
刀身は雷のように折れ曲がっているので切る事は出来ず、
また刺しても包丁程度の殺傷能力しか持たない為、武器としての実用性は皆無。
しかし、その本質はあらゆる魔術を初期化する特性を持った裏切りと否定の剣である。
対象に突き刺せば、完成した魔術を破戒し、交わされた契約を破棄し、
魔力によって生み出された生命を“作られる前”の状態に戻すという究極の対魔術兵装。
深い魔術知識と裏切りの逸話が具現化した宝具である事から、
この宝具の所有者の真名はコルキスの魔女、メディアと推測できる。

今回はここまでです

戦闘シーンのBGMはアニメの群雄疾走のイメージで書こうとしましたが、結局エミヤな感じに仕上がりました
あと、さらさらと適当に>>744での士郎の状態を描いたもみたり
http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper0527.jpg
シャーペンって、スキャナで取り込むとかなり薄くなるんですね……

ところで、ひとつだけ言っておきます
このスレでのゲームのネタばれは禁止です


願い叶え放題じゃね、と思ったけどそう簡単に成功するかわからんか

さやかちゃんの精神状態が心配だ

>>754
ああ、確かに

ん、待てよ?
契約、願いを叶えて貰う

魔翌力限界まで魔女狩り

魔女化する前に不思議剣でブスリ

再契約、願いを(ry
これでお手軽聖杯の出来上がり
…駄目?ww

苦もなく魂を物質化できるような技術だぞ?
有史以前から人類に干渉して歴史に幾度も転機をもたらしてきたくらいだし
ルルブレで太刀打ちできるとは思えないんだが……

実は、メディアさんが一国の王女レベルの因果を使って、魔女から元に戻す願いで契約した魔法おば……少女になっていたんだ
とかなら可能性はあるかもしれないが、今度はメディアさんの伝説は一体何だったのかってことになるなww

あるよ
終盤にキャスターが衛宮邸に攻めてきてギル様が初登場するシーン

久々にきたらやっと禁書スレ減ったな
こういう作品増えてほしいわ

そういや鎧にルルブレ弾かれてたけど、普通にキャスターはセイバーの鎧にぶっ刺していなかったか?

セイバーの鎧はセイバーの魔翌力で編まれた物だけど、魔女は物質として存在するんじゃない?

俺がっ!俺たちがっ!!ギャラドスだっ!!!

シオミーベイベー
いえ、なんでもありません
ところで新垣渚って名前、アイドルとかモデルとかでいそうですよね
しれっとHKT48に混ざっててもおかしくない響きです


色々レスを頂いていますが、ハッピーエンドに持ち込む為の私なりの解釈としてご理解してもらえると嬉しいです
それか、このくらいのご都合主義がないと虚淵のバッドエンドに対抗する事が出来ない、そんな私の力不足を恨んでください
それでも、こんなに私のSSを熱心に読んでくれる人が居る事が判ったので、どのレスも本当にありがたい物です

>>751>>756
永久機関なんか出来るわけないでしょうに

>>759
メディアさんの因果量=一国の王女という身分+神様の悪戯+人々による信仰
割と大きいと思います

>>778
あのシーンでさっくりと士郎の背骨を断ち切っていて、サーヴァントとはいえ結構力あるんだなーとか思いました
でもよくよく考えると、原典では実の弟を八つ裂きにしてましたね

>>779
割合が減っただけのような気もしますけどね
まあなくなったらなくなったで寂しくなるので、程々にあるのがいいです

>>781
>>782の考えでした
むしろセイバーの鎧の方が正体がわかりません
宝具などの武装は自由に出したり消したり出来るはずなのに、なんであれだけ魔力でいちいち編む必要があるのか……?

>>805
なんと、ここはいかりのみずうみだったのですか
それはそうと、コイキングをなめちゃいけません
タマゴ技がないから厳選をとっつきやすくて、しかもなかなかに強いのでそれが楽しさに変わります
要するに、コイキングは廃人ロードへ人々を誘う悪魔の魚なのだ


それでは投下します
15日目~残る傷痕

ワルプルギスの夜まであと3日


夜が明ける。
結局、3人での必死の治療は徹夜の作業となった。
衛宮さんの背中から無理矢理剣を引き抜き、魔法で止血するだけの簡単の処置。
それくらいの事しか出来なかったのだけど。

「じゃあ、アタシたちは帰るとするよ」

杏子とマミが立ち上がった。
恩も礼儀もあるので、見送りに向かう。

「お大事にね?」

「ええ、感謝するわ」

2人の姿がドアの向こうに消えた。
アパートの狭い一室に残るのは私と衛宮さんだけ。
元々静かだった部屋が、更に静かになる。

「――――」

朝ご飯を食べながら、布団の上で眠る衛宮さんを眺める。
まるでこのまま目を覚ます事がないかのように、その表情は静かで穏やかなもの。
普段はご飯を食べてる時でさえ仏頂面なのに、今だけは子供のような顔をしていた。
それこそ正義の味方という夢を持つのもおかしくないような、無垢で青臭い少年の顔。
かつてそういう人間だったのだと伺わせるこの顔を見れば、
さやかに入れ込んでたのにも納得がいく。

「ほんと、まっすぐなところだけはそっくり」

一方体の方は、顔とは対称的に大人のそれだ。
脂肪の“し”の字も見当たらないような、鍛え抜かれた肉体。
無数の裂傷にいくつかの銃弾の痕。
まともな生き方をしていれば、一つたりとも負う筈のない物。

でも、それよりも不気味な物がある。
背骨の辺りを中心として全身に点在する、肌の浅黒い部分。
痣ではない。
火傷でもない。
まして日焼けでもない。
病気か呪いか。
何かに蝕まれてるかのように見える歪つなシミ。

そして何よりも白い包帯の下に隠れた傷口だ。

「体は剣で出来ている、か……」

体から剣が生える直前に、衛宮さんが発した言葉。
その言葉の通り、衛宮さんの体は剣で出来ていた。
治癒の為に剣を抜いても、次の瞬間には体内で肉と肉が剣で縫い合わせられていて、
巴さんの魔法さえも効かなかったのだ。

「どんな神経してるのかしらね」

自己再生と言っても、やり方が乱暴にも程がある。
魔術なんて全く知らない二人は腰を抜かしてしまい、魔女だ化け物だの大騒ぎ。
いや、実のところ私もパニックになりかけたのだけど。
それでも、剣に特化した魔術師だと聞いていただけマシだったのだ。
……尤も、ここまで酷いレベルだとは思わなかったわ。

「ねえ、衛宮さん」

名前を呼んでも返事はない。
意識がないのだから当然よね。

「………………」

本当に静かね。
衛宮さんの呼吸も安定してるし、もう私に出来る事なんて何もない。
あとは目覚めるのを待つだけ。
せめてそれまではゆっくりと休んでいて。

「さて、私は病院に行きましょうか」

受付は既に始まってる時刻。
衛宮さんが起きた時に、ちゃんとさやかについて報告しなくちゃいけない。
その為にも、彼女のお見舞いに行こう。
願わくば、いい報告が出来る事を。

Interlude


がちゃり。
物音一つないマンションの一室に、扉の開く音が鳴った。
巴マミと佐倉杏子の帰宅だ。

「あー、ハラ減ったぁ。何か作ってくれよ、マミ」

リビングに入るか早いかソファに倒れ込み、空腹を訴えた杏子。
それを聞いたマミはげんなりとした表情を見せる。

「……よく食欲があるわね、貴女……」

マミの反応も当然だ。
つい先程まで彼女たちは、衛宮士郎の手当てをしていたのだから。
体から生えた剣と流れ出る血液。
それを治療しようとすれば、ピンク色の肉とその奥の無限の刃が顔を見せる。
日常では決して出会えない怪我と怪奇現象は、食欲を減退させるには十分すぎた。

「そりゃあアタシだってちょっとはキツかったけどさ、もう半日も何も食ってないんだよ。
 いい加減限界が来そうだ」

「はあ……」

深い溜息をつくマミ。
杏子の食べる事への執念はよく知ってた筈だったが、その度合いはマミの物差しを超えていた。

「はいはい、解ったわ。
 フレンチトーストでいい?」

「おう!」

呆れ気味にマミはキッチンに行き、材料を揃え始めた。
四枚スライスの食パン。
卵に牛乳にバター。
それにメープルシロップ。

「ささっとやっつけちゃいましょっか」

慣れた手つきで卵を割り、箸で手早く溶いていく。
そこに牛乳とメープルシロップを少量注げば、過程の半分は終わったようなものだ。
ボウルからトレイに移して、食パンを一枚ずつ浸していった。

「ここから一気にいくわよ」

フライパンにバターを熱したら、いよいよ最終段階。
卵に浸した食パンをフライパンに乗せ、キツネ色になるまで焼き上げる。
キッチンを支配するのは甘さと香ばしさを兼ね備えた匂い。
それを合図にマミは盛りつけに入った。
一枚を自分用に、残る三枚を杏子に。
仕上げにとコーンフレークを添え、メープルシロップをかける。

「出来たわよー」

声をかけながら、マミが大小二枚の皿を運ぶ。
リビングのテーブルにはまだかまだかとうずうずしてる杏子。
その目の前に大きい方の皿が置かれた。

「いただきます!」

マミがナイフとフォークを用意するのも待たず、手が伸ばされる。
それに気づこうともそこまで。
制止する隙を与える事もなく、杏子の口にフレンチトーストが収められた。

「―――んまい!」

「……出来ればもうちょっとお行儀よく食べてほしいわ」

文句を言いながらも、表情は嬉しそうなマミ。
もぐもぐと頬張る杏子をにこやかに見つめる。

「んぐ、むぐ、もぐ」

あまりにおいしそうに食事をする杏子に影響されて、マミの食欲も回復していく。
ゆっくりとフレンチトーストに口をつけ、少しずつ口に含む。
マミも杏子も、今この時は幸福だった。
二人が抱える問題も、過ぎ去った過去も、これから迎える未来も。
全てを意識の内から追い出し、食事という時間を共有していた。

だがしかし。

「やあ、マミ、杏子」

それに水を差す白い悪魔が居た。

「キュゥべえ、テメェ!
 よくもアタシたちの前に顔を出せたな!」

ソウルジェムから槍を現出させ、それを突きつける杏子。
穂先の先にはインキュベーター。
いつも通りの無表情のまま、微塵たりとも表情に変化がない。

「魔法少女が魔女になるって、なんで言わなかったんだ!?
 アタシたちを騙してたのか!?」

「騙してなんかないさ。聞かれなかったから答えなかっただけじゃないか」

「っ―――」

淡々とした声が発する屁理屈が杏子の苛立ちを増大させる。
そのまま槍を突き刺してしまいたい衝動。それに堪えつつ、睨み合いを続ける。

「それに言ったところで君たちは僕と契約するのは変わらないだろう?」

「そんなワケ―――」

ないと断言しようにも、杏子に否定は出来ない。
父の教えをちゃんと聞いてほしい。
当時の彼女の心にあったのはそれだけだったのだから。
そして。

「……そうね、その通りよ。あの時契約しなかったら、私は死んでたんだもの。
 仮令裏切られたんだとしても、貴方が私の命の恩人なのだけは確かだわ」

「マミ……」

契約するかしないかがそのまま生きるか死ぬかに直結していたマミに、
選択権なんて物は最初から存在しなかった。
契約自体に後悔はない。
後悔があるとすれば、自分のみが生き残った事。
大切な家族を助けられなかった事だけなのだ。

「それはともかく、杏子。
 さやかを気にかけてる間に、君は何か重要な事を忘れていないかい?」

「っ…………ワルプルギスの、夜……!」

「――――!?」

苦虫を噛み潰したような表情で呟く杏子。

―――ワルプルギスの夜。
過去に幾度となく出現し、数多くの魔法少女を葬ってきた最強の魔女。

「ど……どういう事、キュゥべえ……?」

「近いうちに彼女が出現するという事だよ。
 暁美ほむらはかなり前からこの事を知っていたようだけど、僕の方でもようやくその予兆を確認できたんだ」

事務的にインキュベーターは報告する。
それが意味する事を理解しながら、それがどうという事ではないかのように。

「それは……いつ、なの……?」

「三日後だね」

覚悟を決めるには短すぎる猶予。
そこに更に不安を煽る。

「非常に強力な魔女だ。まともに戦っても、命を落とすだけだね。
 僕としては今のうちに逃げるのをお勧めするよ」

そう忠告をして、インキュベーターは立ち去っていく。
遺していった物は決して小さくはない。
二人の少女の心に、確かな不安が植えつけられたのだから。

「チッ」

「…………」

マミが現在最も恐れる物。
それは自身に降りかかる“死”である。
そして彼女の知る伝承の通りならば、ワルプルギスの夜は紛れもなく“死”その物だった。

「…………ねえ、佐倉さん」

その考えは、体を生かすかわりに心を殺す諸刃の剣。
魔女から人を助けるという、唯一のよりどころを捨てる行為。

「逃げましょう? 私と、一緒に……」

敵(死)からの逃亡。
これから失われるであろう多くの命を見捨て、自身の生に固執する。
魔法少女と言えど、マミは人間だ。
その考えを持つ事は極めて当然である。
だが、杏子はそれを認めなかった。

「やだね。ほむらとの約束なんだ。
 アタシはワルプルギスの夜と戦う。
 逃げるならマミ、アンタ一人で勝手にしな」

マミを突き放す杏子。
冷たい口調ではあるが、彼女は確信していた。
今は臆病風に吹かれているだけで、その時が来れば共に戦ってくれる筈。
彼女の理想たる魔法少女は絶対に逃げ出したりしないのだ、と。
そう信じていた。

「そう、よね……」

ワルプルギスの夜と戦う。
そう言いきったかつての弟子を誇らしく思いつつも、自身の弱さを恥じるマミ。
しかし、記憶に刻まれた恐怖は如何んともし難い物だった。

「……お皿、洗ってくるわ……」

それから逃避するかのように、マミはキッチンへ向かった。
リビングには杏子が独り。
窓の外に広がる青い空を見上げて、ぼそりと呟いた。

「あと……三日、か……」


Interlude out

病院に着いた。
平日の昼頃と言っても、これほど大きな総合病院なのだ。
入院患者も居れば市外からのやって来たような人も居て、それなりに盛況はしている。
当然、中には私のようにお見舞いに来た人も居るのでしょう。

「―――さて、と」

何はともあれ、まずは受付に行かないと。
さやかの病室が分からないと、お見舞いのしようもないのだから。

「あ……ほむらちゃん……」

受付の近くにまどかが居た。
いえ、まどかだけじゃない。
上条君や、どこかさやかの面影がある大人の男女―――彼女のご両親と思われる方たちも居た。

「……どうしてこんな所に? 美樹さやかはどうしたの?」

暗い雰囲気に押され、声を殺して問う。
まどかは悲しいような、それでいて困ったような表情をしている。

「……さっき、さやかちゃんが目を覚ましたんだけどね、ちょっと……様子がおかしくて……。
 それで、今はお医者さんの診察が終わるのを待ってるの……」

「…………」

……そういう事、ね。
一時的にとはいえ魔女になったのだ。
精神状態に悪影響が出ていてもおかしくはない。
問題はその病状。
どれくらい重いのか。
それは治るのか。

「美樹さんのご家族の方ですね?」

看護婦さんがやって来ると、そのままさやかの両親を連れていった。
まどかと上条君もその後をついて行くので、私も同行させてもらった―――のだけど。

「すみません。ご家族の方以外は……」

こんな感じに三人共々追い出されてしまった。

「…………」
「…………」

ああ、沈黙が、空気が重い……。
押し黙ったままうんともすんとも言わない。
それほどまでにさやかが心配なのだろう。
私としては元の人間に戻れたというだけで、どんなデメリットだって安いものだと思う。
しかしこの二人にとっては、そんな事は知った事ではない。
私で例えるならば、まどかを廃人にされるような話。
当然、納得なんて出来る筈がない。

―――三十分程の時間が経過した。
診察室から出てきたさやかの両親は難しい表情をしている。

「おじさん! おばさん!
 …………さやかは?」

上条君が二人に駆け寄る。
まどかもそれに続き、親友の容態を案じていた。

「重い心の病気、らしい……。診察するのも大変だったぐらいの……」

「これといった病名も判らないみたいで、例えると色々な病気が併発してるような状態なんだそうで……」

つらそうな声色で己が娘の病状を語る。
直視するのも嫌な現実でしょうけど、それを受け入れる為にも、
また娘を心配してくれる友人たちの為にも、そして病に苦しむ愛する娘の為にも、
二人ははっきりと言葉に表した。

「治療にはかなりの時間がかかるらしく、少なくとも症状がはっきりするまでは入院しないといけないそうだ」

「そんな……」

覚悟しようとはしたのでしょうけども、受け入れたくない現実に衝撃を受けるまどか。
上条君に至っては俯いたままぴくりとも動かない。
自分もつらい筈なのに、そんな二人を気遣うさやかのお母さん。

「さやかを見つけてくれてありがとね。
 恭介君、まどかちゃん……と、えっと……」

「ほむらちゃんです。
 この子もさやかちゃんを探すのを手伝ってくれたんです」

私の事を紹介するまどか。
それを聞くと、さやかのお母さんが寄ってきた。

「さやかの為にありがとう、ほむらちゃん」

「い、いえ、私はちっとも役に立てなかったですし……」

謙遜でもなんでもなく、実際そうだった。
それに、お礼を受けるべきなのは私じゃない。
私よりもずっと必死になってくれた人が居る。

「近日中に必ずお礼に伺いますので―――」

「あ、いや、お構いなく……。
 私の事より、さやかさんを気にかけてあげてください」

さやかのお父さんの申し出を断る。
うん、これでいい。
多分、衛宮さんだったらこう言う筈だから。

「そうですか……。
 でしたら、いつか元気になったさやかと一緒に伺います」

「それなら大丈夫です。その時が少しでも早く来ればいいですね」

恐らく果たされる事のない約束を結ぶ。
その一方で、さやかのお母さんはまどかたちに向かっていた。

「恭介君とまどかちゃんも、あんまり気にしないでね。
 あなたたちの生活もあるんだし、さやかの事はわたしたちに任せてくれればいいから」

「そんな―――」

「そんな訳にはいきません!」

白い廊下に大声が響いた。
突然の出来事に、誰もがその声の主に注目する。

「さやかはいつも自分の時間を割いてお見舞いに来てくれた。
 いつだって僕を励ましてくれた。
 それなのに僕は何かしてあげるどころか、さやかを傷つけてしまった……」

目に涙を溜めながら、悔やむように話す上条君。
その弱々しくも迫力のある言葉に、辺りは沈黙に包まれる。

「今回の事だって、元は僕のせいだ……。
 あの時、あんな事言わなければ……!」

「上条君……」

上条君が左手を見つめる。

きっと、衛宮さんに真実を教えられたのね。

「さやかに治してもらったこの手の分も、僕はさやかの為に生きます。
 いつか、前みたいにさやかが笑えるように」

「わたしも……わたしも、さやかちゃんに助けてもらった分を返したい」

…………。
これからさやかはつらい闘病生活になる。
でも、両親と想い人と親友に囲まれて生きていける。
ゴールまで時間はかかるかもしれないけど、過去に見てきた彼女と比べれば最高のハッピーエンド。

多分、もう会う事もないでしょう。
でも今だけは祈りたい。
かつての友達の、幸せを―――。

「待って!」

帰ろうとしたところを呼び止められた。
振り返ると、そこにはまどかと上条君。

「ありがとう、ほむらちゃん」

「……私は何もしてないわ。やってくれたのは全て衛宮さん」

私がそう言うと、まどかは静かに首を振った。

「それでも、ほむらちゃんも頑張ってくれた。
 なのにわたしはいらいらしてほむらちゃんにつらく当たっちゃって……」

「貴女は何も悪くないわ。
 どうせ衛宮さんにうるさく言われてたのでしょう?
 だったら、すぐに結果を出せなかったこちらに非はあるわ」

相変わらず自分を責めるような気質のまどか。
そんな彼女をよそに、上条君が私に質問をしてくる。

「それで、その衛宮さんの容態の方は?」

「心配無用よ。
 処置は終わって、今は回復の為に眠ってるわ」

「本当なの……?」

「ええ。今朝だって私は彼の料理を食べてきたわ。
 それが意味する事は……判るでしょう?」

真っ赤な嘘とまでは言わないけど、決して真実でもない。
そんな言葉でも―――いや、そんな言葉だからこそ、詳細を知らない二人に安堵させられた。

「あとは私たちの問題。
 貴女たちは彼女の心配をしてあげなさい」

最後にそう言って、今度こそ立ち去る。

―――じゃあね、さやか。
   ばいばい―――。

あの後、アメリカ軍基地まで行ってきた。
衛宮さんは絶対にいい顔をしないでしょうけど、ワルプルギスの夜との戦いには強い武器が必要になる。
自分で作り出せる武器が盾しかない私にとって、頼れるのは既存の現代兵器のみ。
そしてそれらを国内で最も保有する組織が、日本駐在のアメリカ軍なのだ。

…………自衛隊というのもあるけど、最大火力のイージス艦を盗む訳にはいかないし、
やっぱり使い勝手のいい兵器はこちらに頼るのが適当でしょうね。

そういう訳で、出来得る限りの兵器を盗んできたのだ。
成果は上々。
C4爆弾に携行ロケット弾。
地対空ミサイルも用意できたし、機動力として戦闘ヘリコプターも使わせてもらう事にした。
あと、役に立つか判らないけどバイクを一台。
これらに加え、今までに用意してきた兵器。
協力者(衛宮さん)が居た為、使用量は以前より減らせた。
そのおかげで、兵力だけは過去の数々の挑戦の中でもトップクラスとなっていた。
一方で戦力は散々たる有様。
協定を結んだけど、その後敵対してしまった杏子。
魔女の正体を知ったせいで、今や地雷と化した巴さん。
満身創痍の衛宮さん。
最悪、独りきりでの戦いになる。

「ただいま」

帰宅を告げる挨拶。
返事はない。
未だ目を覚まさぬ衛宮さん。
正義の味方が眠り姫になっていてどうするんだか。

「ご飯は……これにしよう」

鯖の煮付けと肉じゃがと味噌汁。
あとは冷凍したおにぎり。
それぞれ一人分ずつ温めて、テーブルに並べる。

「いただきます」

出来たてと比べると遠く及ばないけど、それでもおいしい今日の晩ご飯。
ただ、作ってくれた人をおいて一人で食べるのは、なんとも落ち着かない。
こういう事態を想定して作ったのだろうから本人は気にしないのでしょうけど、
作ってもらう立場にとっては複雑な気分だわ。

……まあ、いくら気にしても衛宮さんが目を覚ます訳でもないし、
ありがたくいただくのがいいわね。

「…………」

もぐもぐ。

はむはむ。

ほむほむ。

――――。

「ごちそうさま」

…………。
なんかちょっと虚しい。
挨拶って、返してくれる人が居るから習慣化してたんだなぁ……。

「片付け―――は明日の朝でいっか」

食器を水に浸し、そのまま置いておく。
衛宮さんの料理は和食が殆どだから、それさえしておけば染みとなる事もない。

「ふわ……それにしても……なんだか、疲れちゃったな……」

そういえば、この二日間はずっと休んでなかったっけ。
ハミガキだけしちゃって、今日はもう寝ましょうか。

「―――あれ? お布団がない……」

押し入れにあるのは衛宮さんの使ってる毛布のみ。
普段私が使ってるお布団がどこにもない。

「ああ―――お布団なら、ここにあったっけ」

眠り続ける衛宮さんの下。
そこにある白い物体。
考えるのも面倒になってきたし、もうどうでもいいや。

「おやすみなさい……」

まどろみながら、お布団の中に潜り込む。
衛宮さんの隣はほんのりと鉄の香りがした。

Interlude


夜が更ける。
時間は等しく流れ、巴マミの家もまた静かな夜を送っていた。

「すぅ……すぅ…………」

佐倉杏子はすでに眠っている。
昨晩から戦闘などの活動をし続けていたのだ。
如何に魔法少女と言えども、流石に体力が限界だったのだろう。
その深い眠りからは、簡単には抜け出す事は出来ない。

「――――」

杏子が起きてない事を確認し、マミがリビングに戻っていく。
蛍光灯の点いていない薄明かりの部屋。
誰も居ない虚空に向かってマミは口を開く。

「居るんでしょう、キュゥべえ?」

「何か用かい?」

いずこからか現れるインキュベーター。
僅かな光の中で輝く赤い瞳は酷く不気味な物だ。

「ねえ、教えて……?
 私たちじゃ本当にワルプルギスの夜には勝てないの……?」

怯えるような、縋るような声。
運命の分岐点。
今まさに、マミはそこに立たされていた。

「そうだね。君たちは優秀な魔法少女だけど、それでも三人では勝ち目が薄い。
 彼女はそれほどまでに強力な魔女だ」

機械的に告げられる現実。
だがそれでも、マミは勝機を求める。

「それなら、四人だったら……?」

「衛宮士郎の事を言ってるのかい?
 彼の戦いは見させてもらったけど、あれでは駄目だね」

きっぱりと断言するインキュベーター。

「うそ……あの人が居ても……?」

「マミ。魔法少女でもない人間が、あの怪我を数日で治せるとでも思ってたのかい?」

「あっ……」

魔術師見習い修了レベルの衛宮士郎ではあるが、その特性(異常性)の為に回復力は優れていた。
しかし、その事実をマミは知らない。

「手の内を明かそうとしない暁美ほむらと同様に、
彼がどれほどの力を隠し持っているのかは判らない。
 だけど、使えない力なんて物はない事と同じだ。
 残念だろうけど、彼を戦力として頼るのは諦めるべきだね」

執拗に強調するインキュベーター。
戦える者は三人しか居ない。
三人ではワルプルギスの夜には勝てない。
敗北すれば命を落とす。
それらの事をマミに刷り込ませる。

「…………」

「どうやらお別れのようだね」

マミが静かに歩き出した。
向かう先は外に繋がる玄関。
着の身着のままにドアノブに手をかける。

「…………。ごめんなさい、佐倉さん……」

最後にぼそりと呟き、マミの姿が消えた。


Interlude out

今回はここまでです
全くデメリットがないなんて事、ある訳がないじゃないか

そんな訳で>>755は大当たりです
全然めでたくないけど、おめでとうございます


ところで、今後の投下予定に関してなのですが、来週中に私が行方不明になります
まずはそれまでに1回投下を目指します
そして、ゴールデンウィーク中に1回帰還します
そこで出来得る限りの投下を行いたいです

それ以降は残念ながら、いつ投下が出来るかわかりません
恐らく2ヶ月は経過してしまうと思いますので、一旦このスレを落とさせて頂きます
これまで読んできてくれた方々を裏切る事になってしまい、申し訳ないと思います

再開予定は遅ければ来年の3月となってしまいます
非常に長い間お待たせする事になってしまいますが、それまでに書き溜めと今までの分の誤字や表現の修正をして、速いテンポでの再開を目指していきたいです


納得のいかないという方は、次のレスに白字で事情説明をします

えへへ。浪人、しちゃった


原因はアレですね
BSが繋がる喜びで野球中継を見てばかりいた事とか、他の人のSS読んでばかりだったとか、Fate原作をやりなおしてたり、同人誌漁ってたりで、受験をナメまくってたせいですね
平たく言えば自業自得


とりあえず予備校に行く為にテレビもパソコンもない寮に閉じ込められてきますので、安定した投下が不可能となります
息抜きで書き溜めはしていきますので、もし完成しましたら友人に頼るなり、一旦帰宅した際に徹夜してでも投下するなりしようと思います
多大なご迷惑をおかけします
本当にごめんなさい
あたしって、ほんとバカ……


それにしても、これから1年もホークス戦が見れないとか、魔法使いの夜とかFate/EXTRA CCCとかポケモンBW2がプレイ出来ないとか、これから生まれるであろう名作SSが読めないとか、Fate/Zero後期とかひだまりスケッチ4期とかニコニコで配信されるカクレンジャーやビーストウォーズネオが見れないなんて……

帰りのバスまで、残り2時間半
著しいクオリティ低下が見られますが、贅沢言ってられる時間もないのでこのままいきます
とりあえずは2日分、完成できれば最終日までのながら投下ですが、お付き合いください

では、始めましょう
16日目~理想のカタチ

ワルプルギスの夜まであと2日


気がつくとコンサートホールに居た。
両親に挟まれてよく解らないまま、おとなしく座っている。

…………両親?
俺の親は切嗣しか居ない筈だ。
実の両親なんて人たちは、もう何も思い出せない。
じゃあ、この人たちは誰なんだ?

「ねえ―――」

「しぃー。始まるわよ」

お母さん(ママ)がそう言ったから、俺(あたし)は黙って前を向いた。
薄暗いホールの中で、ただ一つ明るい場所。
そこに同い年くらいの男の子が出てくる。
小さいながらも燕尾服を着こなす彼は、ぺこりと一礼してその得物(ヴァイオリン)を構える。
そして。

「――――」

言葉を失う。
一瞬にして彼の演奏に引きずり込まれたのだ。
それほどまでに、その男の子の演奏は素晴らしかった。

―――いや、これ以上の演奏を俺は知っている。
でも―――俺(あたし)の幼心には、
これをあの男の子が弾いてるという事実が、とてつもなく衝撃的だった。

―――場面が切り替わる。
あの男の子が俺(あたし)の前に居た。
近くから聞こえる大人の人たちの声。
きっとお互いの親が知り合いなのだろう。
でもその話の内容は耳に届かず、俺(あたし)の意識は目の前の彼から離れなかった。
今までに感じた事のない感情に捕われて、離す事が出来なかったのだ。
いや、これも違う。
何故なら、俺は知っている筈なのだから。
そう、この感情は―――あの、冬の土蔵で感じた、あいつに出会った時の感情。
自分の中の一番大切な席に、誰かが座った瞬間のキモチ。
つまり、俺(あたし)はこの男の子に一目惚れした、という事だ。


「恭介!」

日々、月々、年々。
流れる時間の中で、男の子(恭介)を想う気持ちは大きくなっていった。
いつしか、この感情が恋と呼ばれる物だと解った。
それからはひたすら夢中だった。
彼(あいつ)と一緒に過ごすのがとても嬉しくて、
彼(あいつ)とお喋りするのが凄く楽しくて、
彼(あいつ)の演奏を聴いてるのが何よりも幸せで。
そんな平凡な日常がいつまでも続いてほしいと、お星様に願ったりもした。

ある日の事。

「恭介遅ーい!」

「さやかが速すぎるんだって!
 ちょっとぐらい待ってくれよ」

「もー、そんなのんびりしてると、あっと言う間におじいちゃんになっちゃうよ!」

上条(恭介)と二人で遊びに行っていた。
思春期の少年と少女が二人きりという状況はどう考えてもデートだったが、
恐ろしい事に俺(あたし)も彼(あいつ)もそのようには考えなかったらしい。
むしろこれをデートと言うのなら、毎日がデートという事になる。
そのくらいに彼(あいつ)と居る事が日常の一部となっていたのだ。

「ほーら、早く早く!」

―――だが、そんな日常が壊れてしまう出来事が起きてしまった。

「だから待ってくれって!」

信号は青。
迫りくる暴走車。渡りきった横断歩道には、まだ上条(恭介)が残っていた。

「! 恭介、危ない―――!」

声を張り上げ、今来た道を駆け戻る。

「え―――?」

時間が停滞する。
体感では無限とも感じた刹那。
それなのに、俺(あたし)のこの手は彼(あいつ)に届く事はなく―――。

「い…………いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その瞬間、俺(あたし)は我を失った。

「恭介! 恭介っ、恭介ぇ!」

鮮血の中、まっしろになった頭で泣いて、叫んで、喚いて。
その後の事はよく覚えていない。
覚えてるのは目を背けられなかった事実だけ。
命には関わらなかったものの、上条(恭介)が入院したという事。
事故の時の怪我で上条(恭介)の左手は動かなくなったという事。
その手が治るかどうかは判らないという事。
もしかすると、もう二度と上条(恭介)のヴァイオリンは聴けないかもしれないという事。

それからしばらくの間、俺(あたし)は部屋に閉じ籠った。

「なんで?
 なんで恭介がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」

彼に襲いかかった運命を呪った。

「なんであの時事故なんか起こしたのよ?」

信号を無視した運転手を恨んだ。

「なんで……あの時事故に遭ったのがあたしじゃなかったの……?」

彼の身代わりにもなれない自分を憎んだ。

「なんで……ひぐっ……なんでなのよぉ……」

ひたすらに枕を涙で濡らした。
後から思えばママにもパパにも、そして鹿目(まどか)にも迷惑をかけたんだな。

「いや……恭介はあたしよりずっとつらいんだ……。
 そうだよ、あたしが落ち込んでれ場合じゃない……」

我ながら単純だと思う。
落ち込むきっかけが上条(恭介)なら、立ち直るきっかけも上条(恭介)だなんてね。
でも。

「ありがとう、さやか」

俺(あたし)が上条(恭介)を少しでも元気づけられるのなら、どこまでも頑張れた。
お仕事で忙しい上条(恭介)の両親の分もお見舞いに行った。
あちこちでCDを探しては、お見舞いに持っていった。
全ては上条(恭介)の為。
あいつがリハビリを頑張って、いつかまたヴァイオリンを弾けるようになるのを夢見て。

そんなある時。

「僕と契約して魔法少女になってよ」

魔法少女というモノに出会った。
なんでも、それになる代わりに願いを一つだけ叶えてくれるのだそうだ。
―――願いを、一つ。
俺(あたし)はそのリスクもよく考えずに、その甘い響きと魔法少女に憧れた。

……俺としては、どこぞの神父のような胡散臭い存在が厭で厭で堪らなかったのだが。


転機は意外と早く来てしまった。
上条(恭介)に手が治らない事が宣告されたのだ。
きっとあいつにとっては、死刑を告げられたも同然だったのだと思う。

「もう動かないんだよ! 奇蹟か魔法でもない限り!」

それで自棄になる恭介が見ていられなくて。

「奇蹟も、魔法も、あるんだよ」

後先考えずに、俺(あたし)はインキュベーター(キュゥべえ)と契約した。
いや、少なくともこの時は考えてたつもりだったのだ。
これでいい。
これに間違いはない。
これなら後悔なんてしない。
そう、思っていたのに。


怪我で入院したマミさんの代わりに、俺(あたし)は街を守る正義の味方を目指した。
何考えてるかわからないけど、なんだか気に入らないほむら(転校生)みたいなヤツにこの街を任せたくなかったのだ。

魔法少女になって二日目。
家を出ようとしたあの時、俺(あたし)は一人の正義の味方と出会った。
それまでその人は転校生とつるんでるみたいで、俺(あたし)にとっては敵だと思ってた。
でも、それは間違いだった。

「俺は魔術師の衛宮士郎だ。よろしく頼む」

白髪混じりなのに子供みたいな顔をした不思議な人。
弓を執り、剣を振るう。
マミさんとは違って優雅さのカケラもないその背中を、俺(あたし)は師匠と呼び親しんだ。

―――何かがおかしい。
鏡でもないのに、俺の前に俺が居る。
イミテーションでもなんでもない、紛れもない俺自身が。
同一人物は二人以上存在しない。
そんな当たり前の矛盾。
これを説明する為の答えは一つだけあった。

……きっと、俺はこの物語の主人公ではないのだ。
俺は俺であり、俺(あたし)の前に居る俺以外の何者でもない。

ただ、視点がズレてるんだ。
俺の視点ではなく、俺(あたし)の視点に。

ならば、やる事は決まっている。
混在した意識を閉じ、傍観者に徹する。
あたしの物語に、俺の心を傾けてみよう。


―――師匠との出会いの直後、あたしは宿敵とも出会った。

「まさかとは思うけど、やれ人助けだの正義だの。
 その手のおチャラケた冗談かます為に……アイツと契約した訳じゃないよね?」

他の人なんか知らない。
魔法少女の力は自分の為に使う。
そんな、師匠やマミさんとは対極に位置するヤツと。
そいつが気に入らなくて、絶対に認められなくて。


それから数日後、とんでもない事が発覚した。
キュゥべえが黙っていた魔法少女の秘密の一つ、“ソウルジェムの正体”。

あたしの魂はもはやこの体の中にはなくて、こんな小さな石ころになっていた。
あたしの体はもはや生き物のそれじゃなくて、ソウルジェムで動かしてるだけの死体だった。
あたしは……もはや、人間なんかじゃなかった……。
もう……恭介と一緒に居られるような存在じゃないんだ……。


へこんでたあたしを慰めたのは、皮肉な事に宿敵の佐倉杏子だった。
マミさんは会えるような状況じゃなかったし、まどかはそもそも魔法少女じゃなかった。
師匠に至っては心配こそしてても、この身体の事を悪いものだとは思ってない感じだった。
そんなワケで、今のあたしに一番近い存在はそいつだった訳だ。
そいつが言うには、
対価としては高すぎるものを払ったんだから、自分の好きなように生きるべきなんだとか。
ついでに、そいつが自分の為に魔法を使うようになるだけの過去(ワケ)があるのだとも解った。

―――それでも、あたしは自分勝手に生きるのは間違いだと思った。
恭介の為に願ったのは間違いなんかじゃないと信じてた。
だからあたしはそいつの事をつっぱねて。

「正義の味方が間違ってる訳でも、なれないモノという訳でもないと教えてくれた」

自分はそいつとは違うトコロを目指そうとした。
そう、決めたのに……。

「わたくし、上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」

翌日、あたしに生まれたのは後悔の念。
助けた筈の人を、見殺しにすればよかったという邪念。
しかも、よりにもよって親友に対してだ。
それらを振り払う為、師匠に聞いてみた。

「師匠はさ、なんで正義の味方をやってるの?」

この人だったらあたしを罰してくれる。
この人だったらあたしを導いてくれる。

そう信じていた。

「―――俺が七歳の頃、俺の住んでた街で大火事が起きたんだ」

予想を凌駕する悲惨な過去。
そこから立ち上がる強さ。

「その時に誓ったんだ。
 俺が代わりに正義の味方になるって」

恩人の遺志を引き継ぐという美しさ。
あたしにない物を持った素晴らしい人。
そんな人が目指すんだから、やはり正義の味方は素晴らしいものなんだと。
憧れながらも再確認していた。

でも師匠―――衛宮さんが、その理想を打ち砕いた。

「前にも言っただろ。正義の味方は最大のエゴイストだって。
 そいつが選んだ人間だけが救われて、選ばれなかった人間は救われないんだ」

正義の味方による、正義の味方の否定。
誰かを助ける為に誰かを助けないという命の取捨。
それが正義の味方だと言った。
そして、とどめの一言があたしを貫く。

「俺が人を助けるのも、つまるところ自分の為だよ。
 俺は人が喜んでくれるのが一番嬉しいから、正義の味方なんてやってるんだ」

ショックだった。
人を助ける正義の味方が凄いんじゃなくて、人が助かる事を喜ぶ師匠が凄いんだ。
親友が助かったというのにそれを喜べないあたしには、目指したモノはあまりにも遠すぎた。
結局救われるどころか、あたしの醜さが浮き掘りにされただけだったのだ。

何も欲しがっちゃいけない。
何も求めちゃいけない。
醜い自分を覆い隠すように、あたしは剣を振るった。

自分が傷ついても問題ない。
それで誰かが助かるんだから。
そう言い聞かせながら、あたしは剣を振るった。

でも……ダメだった。
戦えば戦うほどあたしの弱さを痛感して、戦えば戦うほど自分が醜さを実感した。

それでもあたしは美しく在りたくて、その道をがむしゃらに走り続けたのに、
その過程にあったのは喜びでも満足感でもない。

地べたをはいつくばる度に、マミさんの華やかさを憧れた。
傷を負っていく度に、まどかが持つ才能を羨んだ。
戦いを一つ終える度に、師匠の強さを妬んだ。
ビルの陰で身を休める度に、思い通りにいかない世の中を恨んだ。

その果てはまだまだ遠くて。
一瞬見えたと思ったゴールは偽物で。
志半ばで力尽きてしまって。
最後にはあたし自身を呪ってしまった。
そうして全てを諦めた時、あたしは何もかも悟った。
魔法少女の末路と、あたしには何を為す事も出来ないという現実を。

「あたしって、ほんとバカ……」

そのまま、溜め込んだ感情が溢れ出していった。

―――あ……これ、は……

恋慕嫉妬羨望破壊愛情欲望幻想魔法。

―――ぐっ、つ……や、めろ……

不平ガずるい世界ハ酷い才能ガ羨ましい成功ガ妬ましいあたしハ醜い何モかも死ね現実ガ悲しい心ガ苦しい存在ガ汚らわしい同情ガウザい喪失ガ怖いあいつガ愛しい運命ガ憎い全てガ欲しい殺せ壊せあらゆるモノを奪いトれ―――!

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

「ひゃっ、な、なに!?」

跳ね上がる布団。
それとともに、脇腹の辺りに感じた熱源が離れていった。

「はあ、はあ……」

今見てたのは夢―――じゃないな。
あの瞬間に流れ込んできた美樹の記憶。
一人の心では抱えきれなかった負の感情。

「そうか―――そういう事、だったんだな……」

たかが左手ひとつに命を懸けるなんて莫迦げてると思ってた。

だが、美樹にとってそれは何よりも大切なモノ。
愛したヤツに幸せになってほしい。
かつて俺も経験した、何物にも替えられない願い。
その結晶こそが、魔法少女としての美樹さやかだったのだ。

「目が、覚めたのね……」

僅かにだが喜びの色が見える声音。
覗き込む顔は安堵の表情を見せていた。

「悪いな。とんだ大寝坊だ」

「…………全くね。料理もしないで寝込むなんて、貴方らしくもない」

己への皮肉を込めた言葉に、皮肉の込められた軽口が返ってくる。
これだけ言える元気があれば、ほむらの心配は無用か。
ちゃんとメシを食べてるようで安心した。

「美樹はどうなった?」

問題はこっち。
契約破りの短剣を突き刺してからの出来事だ。
美樹の感情が流れてくるぐらいなのだから、何かが起きた事だけは確かな筈。
その結果として残ったモノを問う。

「生きてるわ。
 魔法少女でもなく魔女でもない、ただの一人の人間として、ね」

「――――!」

ほむらは確かに言った。
美樹さやかは人間に戻った、と。
流石は契約破りの宝具、という事か。
こんな武器を手に入れられたのだから、あの時刺された痛みにも感謝しなければなるまい。

「あいつは……今どうしてる?」

「…………入院してるわ。
 彼女の両親と鹿目まどか、上条恭介が看病についてね」

「…………そうか」

多少の後遺症がある、という事か。

でも、あいつならきっと社会復帰が出来るに違いない。
それに上条と鹿目がついてるのなら俺も安心してられる。
大切な人たちに囲まれながら、元通りの日常を過ごせる筈なのだから。

「もう、俺が会う事もないな。
 あいつは平和な世界で幸せにならなくちゃ駄目だ。
 その世界に、俺は居てはならない」

それを壊したりなんてしてはいけない。

「あんなに入れ込んでたのに、随分さっぱりしてるのね。
 未練はないのかしら?」

「ない」

即答する。
躊躇う必要はない。
あいつが幸せになれるなら、俺は喜んで姿を消そう。

「さて、いつまでも寝てられ―――」

「? どうしたの?」

不思議そうな表情で俺を見つめるほむら。
肩から流れてきた綺麗な黒髪が頬にこそばゆい。

「……すまん、体が動かない。まだ回復が出来てなかったみたいだ」

魔術回路にかなりの無茶をさせたしな。
正常に戻るのに時間がかかったのだろう。

「大丈夫なの……?」

「ああ、大丈夫。
 半日だ。それまでには治すから」

ゆっくりしてる程の余裕もないが、回復力には自信がある。
ちゃんとまともに魔力を通せば―――。

「あ」
「あ」

腹の虫が暴れ出したか。
そういやまともなメシを食べたのは、だいぶ前の話だったな。

「ご飯、あっためてくるわ」

そう言って、ほむらがキッチンに向かっていった。

冷蔵庫の開く音。
皿を取り出す音。
レンジが絶え間なく働く音。

……やばい、凄い落ち着かない。

「だが、悪い気はしないな」

「何が悪くないのかしら?」

がちゃりとお盆が置かれた。
自画自賛となってしまうが、旨そうな匂いが辺りを漂う。

「よい……しょっ」

「お、おい、何を?」

ほむらによって、布団ごと上体が起こされる。
見続けてきた天井が視界から消えて、代わりに目に入ったのは普段の寝所(押し入れ)。

「で、これをこっちに……」

俺を背中で支えながら、がたりごとりと作業するほむら。
布団越しに感じる感触が、軟らかいものから硬い物に変わる。

「こうしないとご飯食べれないでしょ?」

「……驚いた。看護か介護の心得があったのか」

「まあ……色々あってね」

意外な特技だ。
家事がアレなのにこのスキルは、不自然を通り越して奇妙だけど。

「ほら、口を開けて」

「え?」

ずいと迫りくるほむら。
右手には箸を、左手には皿を。
これって、つまり……?

「ちょ、ちょちょちょ待て、ほむら!なんでさ!?なんでそうなむぐ―――!?」

「怪我人は黙ってなさい」

口の中に突っ込まれる煮物。
ちょっと熱いけど、火傷する程じゃない。
やや薄い味なのは、味が濃いのを好まないほむらの為に調整した証だ。

「体が動かないのなら、こうしないとご飯は食べれないじゃない。
 それに貴方は私たちと違って、ちゃんと食事をしないといけないんでしょう?」

次から次へとほむらが俺に食事をさせる。
その間ずっと小言を言い連ねるのは、これまでに言ってきた事の意趣返しなのだろうか。

「だいたい、貴方はもう少し体を大事にするべきなのよ。
 見てる側にとっては、美樹さやかと同じくらい怖いわ」

まあ、食べさせてもらってる手前、何も言い返せない。
悔しかったらさっさと回復しろ、という事か。

「解った解った、もうヤケだ。冷蔵庫にあるだけ頼む。
 栄養がなけりゃ、魔力も回復しない」

「あれ全部って……食べすぎよ、絶対!」

「たわけ、まる二日は軍用糧食しか口に出来なかったんだぞ?胃の中からっぽだってんだ」

久しぶりの騒がしい食卓。
昔を思い出す落ち着きのなさだ。
……こういうのも悪くはないな。

「次を持ってきたわ」

……恥ずかしいけど。

Interlude

「んんーっ―――もう昼か……」

佐倉杏子が目を覚ます。
傍らに置いてある目覚まし時計は、とうに朝が終わっている事を示していた。

「珍しいな、マミがこんな時間まで寝かしてくれるなんて」

そう言ってベッドから抜け出す杏子。
椅子にかけられていたパーカーを引ったくり、リビングに繋がる扉を開ける。

「マミー、今日のメシはー?」

返事はない。
秒針が時を刻む音がするだけで、リビングは酷く静かなものだ。
いや、リビングだけではない。
キッチンも風呂場もトイレも、どこもかしこもが静寂に包まれていた。

「あれ……? ま、マミ…………?」

いくら捜せども見つからないマミ。
どくんどくん、と杏子の心臓が唸りをあげる。

「そ、そうだ。学校だ。学校行ったんだな、きっと」

日付は平日、木曜日。
学生ならば学校に行ってるのが当然だ。
だが、マミは怪我をしてからの二週間は登校していない。
その事は知っている筈だった。

「ワルプルギスの夜が近いってのに、緊急の用がなくなったらすぐに学校に行くなんてな!
 これだから優等生は!」

心に芽生えた不安の種。
それを直視せぬように、杏子は自身へと言い聞かせる。
マミは、理想の魔法少女は逃げたりなんかしないのだ、と。

「それにしても、学校行くんならメシ置いといてくれればいいのにさ!
 しっかりしてるようで、こういうとこ抜けてるんだから、マミは!」

誰も居ない独りきりの部屋。
微かにひび割れて脆くなった心を抱えて、杏子は静かな午後を過ごす。

Interlude out

―――日が暮れてきた。
普段なら晩飯の支度を始める頃合いだが、生憎今日はそうもいかない。
食材は三日前に調理しきった。
作った料理はつい先程食べきった。
ほむらのアレは俺のバッグと一緒に置き去りにされた。
要するに、今うちには食べ物が全くないのだ。

そういう訳で、買い物に行こうとしたのだが。

“なんで貴方は休む事が出来ないのよ!? もう時間がないんだから、回復に専念してよ!”

なんて言って怒られた。
仕方ないのでほむらにお使いを頼んでから二時間弱。

「―――遅いな。
 やっぱりほむらに任せたのは間違いだったか……?」

おとなしく布団に寝転がりながら、暇を持て余していた。
完全に日が沈むまでに帰ってくればいいんだけど……まあ、期待はしないでおこう。

「おや、暁美ほむらは留守なのかい」

「……………………何の用だ?」

どこから侵入してきたのか知らんが、インキュベーターが部屋に居た。
あの夜と全く同じ無表情は、不気味以外の何物でもない。

「今日は君と話をしに来たのさ、衛宮士郎」

「……聞くだけ聞いてやる」

暇は暇だった訳だし、こんなのに不覚をとるほど落ちぶれてもない。
それに未だ正体の知れぬ怪生物の情報は、いくらあろうとも問題はない筈だ。

「魔女になった美樹さやかとの戦いは見事な物だったよ。
 数多くの武器を操る姿はとても人間とは思えなかったね」

「御託はいいから、本題に入ってくれ」

「やれやれ、せっかちだね、君は」

…………俺、こいつのコト嫌いだ。
恐らく、どこぞの神父よりも。

「結論から言うと、僕と手を組まないかい?」

「断る」

何を寝ぼけた事を言ってやがるか。
どう考えても俺とこいつは敵同士だろうに。

「……理由くらい聞いてから判断を下すべきだろう?」

「…………」

「話を続けよう。僕
 たちは熱的死に向かう宇宙を延命させるのが目的なんだ」

「熱的死……?」

「木を育てる為のエネルギーと木を燃やした時に発生するエネルギーは釣り合わない。
 そういった事の積み重ねで、宇宙全体のエネルギー量は常に減り続けている、という事さ」

予想外にスケールの大きな話に面食らってしまった。
どうやら、好きだ嫌いだの私情で判断すべきではなさそうだ。

「ふむ……続けてみろ」

「いずれ来る滅びの回避の為には、失われる分のエネルギーを他から調達する必要がある。
 僕たちの星では、そのエネルギー源となる物を探求、研究してきたんだ」

さりげなく地球外生命体だとか言いやがるか。

「その過程で発見したのが“感情”と呼ばれる物だった。
 生命活動の中でなんのエネルギーも使わずに発生しながら、その生物の行動を左右するという要因。
 僕たちはこれをエネルギーとして利用する為のシステムを開発したんだ」

「待った。感情を“発見”って、どういう事だ?」

感情なんてあらかじめ備わってるモノだ。
発見するようなモノでは断じて在り得ない。

「僕らには感情という物がなかったのさ。
 でも、いくつかの星の知的生命体はそれを持っていた。
 それだけの事さ」

こうして説明する間だって、顔色ひとつ変えない。
まさしく血も涙もないヤツなのか。

「この星に棲息する知的生命体、ヒトと呼ばれる種族もまた感情を持っていた。
 とりわけ思春期の少女たちはその変化が激しく、
希望が絶望に変わる時に莫大なエネルギーを回収する事が出来ると判明したんだ」

「で、その為の回収システムが魔法少女という訳か。
 おおかた魔女は魔法少女から希望を搾り取った残りカスとでも言うのだろう?」

「その通りだよ。話が早くて助かるよ」

巫山戯たモノだとは思ってたが、まさかここまでとはな。

「んで、なんだってアンタが俺と手を組む必要があるんだ?」

問題はそこだ。
宇宙規模の活動をするこいつらが、俺と手を組もうとするのは何故か。

「理由は二つだね。
 まずは君の武器を作り出す能力について研究したい」

「……武器なら魔法少女にだって作れる筈だが?」

ほむらは違うようだが、美樹の剣や佐倉杏子の槍は自分の魔力で作った物だ。

「彼女たちに作れるのは彼女たちの魔法少女としての武器だけだ。
 対して君は、槍、弓、剣と様々な武器を作り出している」

「その程度の事が出来るヤツなんざごまんと居るよ」

剣と弓と槍を見た事のある投影使いになら、なんの苦もなく出来る筈だ。

「問題はその武器だ。
 君の持つエネルギーを遥かに超えた量のエネルギーを内包している物が多くあるんだ」

「…………」

宝具とは英雄の武器に人々の信仰が集まった貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)。
俺の魔力量を凌駕してるのも必定だ。
だが。

「解ってるとは思うけれど、これはエネルギー保存則に反した現象だ」

「いいや、きっちりきっかり等価交換だ」

俺の投影は無い物を有る所から持ってきてるだけだ。
故に消費する魔力量は決して多くはない。

「そんな訳ないじゃないか。
 いったいどんな計算の仕方をしてるんだい?」

「自然法則を破るなんて大それた事、俺なんかには出来んよ。
 案外、寿命とか預金残高とか、どっかの誰かの堪忍袋の緒の強度とかがなくなってるのかもしれんぞ?」

誰の事、とは言わないが。

「……一旦この話は終わりにしよう。
 次に美樹さやかを人間に戻したナイフだ」

キャスターの宝具、契約破りの短剣の事だろう。
数ある宝具の中でも、これ以上に効果が強力で特殊な物はそうそうない。

「本来不可逆である流れを無理矢理逆流させたそのナイフは、
 僕たちにとって非常に高い有用性がある」

「……少女たちの再利用でもしようってつもりか?」

「それに加えて、これだけの力を秘めた物が敵対者の手にあると、
今後に支障がないとは言いきれない」

「だからそれを自分たちの管理下に置こう、と言う訳か」

敵の弱体化と味方の強化の一挙両得。
実に理にかなった行動だ。

「なるほど、アンタたちが俺と手を組むだけの価値は確かにあるのだろう。
 じゃあ―――」

逆に俺がこいつらと手を組む利点は何なのか。
そう尋ねようとした時だった。

「ただい―――!」

開く扉。
発せられた声。
部屋に満ちる殺気。

「何の用……!?」

次の瞬間には、銃を構えるほむらの姿があった。

「君には何も用なんかないさ、暁美ほむら。
 今日は衛宮士郎に用があってきてるんだ」

「そういう事だ。銃とそのバッグの中身を片付けててくれ」

「でも―――」

「大丈夫だ、ほむら」

一時凌ぎでもいいから、ほむらをなだめないといけない。
さもなくば話も出来ないだろう。

「こいつと話終わったら、すぐにメシの支度にかかるから」

「…………」

……よし。
とりあえずは黙らせる事が出来たな。

「さて、続きだ。
 俺がアンタたちと手を組む価値は何なのか。俺の住む世界は等価交換が原則でね。
 それを答えてもらわない事には、首を縦に振る訳にもいかない」

別段、無償奉仕が趣味という訳でもなし、“俺の物差し”で、俺
が報酬と思える物を用意してもらわなければ。
尤も感情も持たぬヤツらに、それを出来る筈がないが。

「それなら考えてあるよ」

「な、に……?」

断じて、そんな事は有り得ないのだ。
人は利用するものだという致命的な考え。
それを補って俺を納得させるなんてコト、無理に決まってる。

「僕たちの行動原理。それ自体が君の報酬になり得る筈だ」

「?」

「! ダメっ、それ以上そいつの話を聞いちゃ!」

ほむらは何かを察したらしく、インキュベーターに掴みかかろうとする。
だが招かれざる客とは言え、今は話を聞いておきたい。
とりわけ相手の考えを理解できてないのならなおさらだ。
故に。

「ストップだ、ほむら。客人に手荒な事をするものじゃないな」

伸ばされたほむらの手を掴み取った。

「こいつは客なんかじゃないわよ」

「俺はこいつの話を聞きたい。
 たとえその正体が悪徳セールスマンだとしてもな」

「でも―――」

口に手を向けてほむらの言葉を遮ると、納得いかないという態度が示された。
それを気に留めず、話を続けるよう促す。

「なんでも、君は正義の味方を目指してるそうじゃないか」

「……それがどうした?」

「さっきも言ったように、僕たちは宇宙の寿命の延長の為に活動している。
 この世に宇宙以上に重要なものはないだろう。
 宇宙が滅べば、全てが巻き添えだからね」

ある空間の死とは、そこに内包される物全ての死と同義である。
空間という概念で宇宙より大きな存在などないのだから、
全体主義としてはその意見は真理なのだろう。

「言わば僕たちは、この宇宙での正義だ。
 正義の味方を志す君が、僕たちに従わない道理なんてないだろう?」

「…………」

妙に自信を持って話す怪生物。
伏し目で悔しそうに歯を噛みしめるほむら。
それを見ながら、俺の意見を述べる。

「……確かに、宇宙の為に活動するアンタたちは紛れもない正義だろう。
 そして、僅かばかりの犠牲でその途方もない存在が救えるのなら、それは正しい事なんだと思う」

それできっと、多くの存在が生き延びられる。
それが間違いだというのは、些か無理があるお話だ。

「だがな、それでも俺はアンタたちを認めない。
 犠牲なんてない。泣いてる人も居ない。
 誰もが悲しまない、そんな世界を望む」

「そんな事は不可能だ。何かを犠牲にしなければ、何を得る事も出来ない」

「そいつは百も承知だ。
 俺だって少数の悪を廃除して、多くの人々の幸せを手に入れてきた。
 一握りの人を切り捨てて、前に進んできた」

幸福を求めて道を誤っただけの者も居た。
善く生きてきたのに、運に見放された者も居た。
助けを求めながら息絶えた者も居た。
そんな数多の亡骸の上を俺は歩いてきた。

「だけど―――いや、だからこそ。
 過去に置き去りにしたたくさんのモノの為にも、俺は俺を曲げる事だけは出来ない―――!」

―――衛宮士郎はこのように生き、そして死んだ、と。
もしも親父やセイバーに会う事になっても、胸を張ってそう言えなければならない。
その為の唯一絶対の条件。
それを捨てる事は出来ない。

「……交渉は決裂したようだね」

「そのかわり、宣戦布告はなされたがな」

もはや話をする必要はない。
そう判断したのか、部屋の外へと向かっていく我が宿敵。

「つくづく惜しいお話だよ。
 君は因果の量だけは、英雄のそれに匹敵するものだったからね」

最後にこぼした言葉。
それに対して俺は。

「はっ、笑わせる。
 俺なんぞを英雄と比べてるようでは、さっきまでの話の真偽も疑わしいものだ」

全力での嘲笑を返してやった。

―――これはきっと五分にも満たない短時間。
それなのに緊張と不安に襲われ、一時間にも半日にも思われた。
その結末に彼が放った答え。
正義に反する正義の味方。
明らかに矛盾した存在だけど、これが衛宮さんの在り方。

……いえ、矛盾なんてしてない。
全ての人を救おうとする事が間違ってる筈がない。
間違ってる筈がないのだけど、何かしこりのような物が残った。

でも、そんなのは些細な事だ。
衛宮さんは私と共に戦ってくれる。
それだけは確かなのだから。

「―――待たせたな、ほむら。聞いての通りだ。俺はヤツらと戦う。
 その為にも、もうしばらくの間おまえの戦いに付き合わせてくれ」

「……ええ、もちろん。期待してるわ」

改めて手をとり合う。
だけど、始まりの夜とは違う。
確固たる信頼がそこにはある。
共に戦う仲間として。

「さあ、メシにしよう。ずっと寝てたからな、リハビリがてら、ちょっと付き合ってくれ」

Interlude

「―――ったく、マミのヤツ、こんな時間までどこほっつき歩いてやがんだ?」

深夜の巴マミの部屋。
家主は不在。
否、そんな人物は存在しない。
家主だった者は既に家を捨てたのだから。
だがしかし、杏子はそれを受け入れなかった。
受け入れられなかったのだ。

「久々に学校行ったから友達がうるさいんだろうけど、日付が変わるまでには帰ってこいって」

夜遊びどころか、放課後の付き合いでさえマミは殆どしてこなかった。
当然、その事は杏子も知っていた。
それでも。

「ああ、そうか! さやかのヤツのお見舞いに行ったんだな!」

世間の常識に疎い杏子でも、こんな時間の訪問は迷惑だと判る。
まして自分より人の社会で生きられるマミが、そのような事をする筈がないのも解る。
それでも。

「ひょっとして連絡がない事を心配して来た親戚連中に捕まったのか!
 今頃説教くらって泣きべそかいてんだろうな!」

そのような殊勝な行動をとる親戚であれば、元よりマミは孤独に枕を濡らしたりはしない。
誰よりもマミの孤独を知ってる杏子ならば、判らない筈がない。
それでも。

「……なんでもいいから早く帰ってきてよ……。ハラ減って死にそうだ……」

それでも、杏子はあり得ない筈の可能性に縋りついた。
そうでもしなければ、現実に目を向けてしまうから。
そうでもしなければ理想を見失ってしまうから。

「ねえ、マミさん……お願い、帰ってきてよ……」

膝を抱えてうずくまり、杏子は呟く。
だが、どんなに願おうとも、どんなに祈ろうとも、それをマミに伝えてくれる者は居ない。
と、そこに。

「――――!」

がたり、という物音。
杏子の胸の内に希望が生まれた。
立ち上がり玄関へ向かって駆け出すと。

「マミ―――」

「わりと元気そうだね、杏子」

全ての元凶たる白い悪魔、インキュベーターが居た。

「なんの、用だよ……」

落胆と失望を隠しながら杏子は問うた。
その様子を静かに眺めるインキュベーター。

「マミは―――」

「黙れ!! これ以上口を開いたら、テメェを……殺す」

―――経験が警戒を呼び起こす。
紅い槍がインキュベーターに突きつけられた。

「…………マミはもう―――」

「うるさい! 黙れぇぇ!!」

―――知識が警報を発する。
槍の穂先がインキュベーターの首を斬り落とした。

「はあ、はあ、はあ……」

―――コイツの話を聞いてはいけない。
聞けば絶望してしまう。  になってしまう、と。

「やれやれ、本当に殺してくるとはね」

「な―――!」

杏子の表情が驚愕に染まる。
殺した筈の相手の声が耳に入ったのだからそれも無理はない。

「な、なんで……?」

声の元には白い肉片。
その隣では、インキュベーターがぴんぴんとしている。

「まさか君は、僕が一体しか存在しないとでも思ってたのかい?」

驚いたままの杏子に、インキュベーターは語りかける。

「だとしたら、浅はかだと言わざるを得ないね」

「え―――?」

今度は杏子の背後から声が発せられた。
振り返る。
彼女の見開かれた瞳に写っていたのは白い小動物。

「魔法少女は世界中に居るんだ」

「当然、僕たちも」

「世界中に存在する」

右から、左から。
マミの部屋に集結する大量のインキュベーター。

「あ……ああ……」

「この街にだって」

「何体もの個体が」

「配置されている」

無限とも思わせる数に囲まれ、金縛りにかかる杏子の体。
それを気に留める事もなく、言葉は続けられた。

「近隣から」

「集めれば」

「その数は」

「百にも」

「届くだろう」

ざわりざわり。
継いで繋がれる合唱。

ふと、それが止んだ。

「さて、話を戻そうか」

「――――!」

身の危険を察知して、杏子が槍を構え直す。
そして、そのままそれを振り回す。

「君がいくら待とうとも、マミが帰ってくる事はない」

「や、止めろ!」

二の句を継げぬよう槍で口を塞ぐ。
続いて槍を薙ぎ払う。
「マミはもう―――」

「この街には―――」

「居ないの―――」

「だから―――」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」

鬼神が如き槍捌きで、白き肉塊を量産していく。
表情もまた鬼そのものであったが、燃えるような瞳には涙が浮かんでいた。

「君たちに言わせれば―――」

「敵前逃亡―――」

「臆病風に吹かれた―――」

「我が身可愛さで―――」

「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!」

だがしかし、無数に存在する口を全て塞ぐのは不可能な話。
せめて耳に届かないようにと杏子は叫ぶ。

「嘘じゃない

「マミは街の人たちの事より、自分の命を選んだ」

「マミは君と共に戦う事より、自分が生き延びる事を選んだ」

「嘘だぁッ!
 マミが逃げるワケない! マミがそんな事するハズない!」

理想を守る為―――或いは自身を守る為か。
杏子は声を張り上げ否定する。

「……杏子。
 君はマミの事を聖人や君子と勘違いしてないかい?」

「え――――?」

旋風のように振り回されていた槍がぴたりと止まる。
溜められた涙が見開かれた瞳から溢れゆく。

「同年代よりは少し大人びてるけど、マミも君と同じ少女でしかないんだ」

「それどころかマミは魔法少女である事に強い使命感を抱くあまり、
クラスメートとの付き合いを犠牲にしてきた」

「その結果、マミは独りぼっちだった」

「誰も居ないこの家で寂しさに啜り泣いてたのも一度や二度じゃない」

金属のように冷たい声。
磨き上げた爪となる言葉。
それらが杏子の心に食い込む。

「それを知ってながら黙って見てたのかよ!?」

「僕たちは人間じゃない」

「彼女の心を埋めるには力不足な存在だ」

「だけど、一人だけ居たんじゃないかな?」

「マミの事をよく知っていて」

「マミの孤独感を和らげられた筈の人物が」

「――――!」

杏子に突き刺さったのは何よりも鋭い棘。
確実に、より確実に悪魔たちは彼女を追い詰めていく。

「そうだよね、杏子」

「マミの弟子だった君は、マミと共にいられる唯一の存在だった筈だろう?」

「それなのに君はマミの元から去っていった」

「マミを深く傷つけてね」

がたり、とフローリングの床に槍が弾んだ。

「以降のマミは本当につらそうだったよ」

「でも君は彼女の下に戻ろうともせず」

「挙げ句の果てに、自分の理想を押しつけた」

「あ―――あ……」

膝から崩れ落ち、頭を抱えてうなだれる。

「理想なんてモノはそれぞれ異なる物だ」

「それを無償で、見返りも用意せずに背負わせる」

「些か横暴すぎるとは思うね」

「ぐ―――ひ、ぐっ……」

滴り落ちた大粒の涙。

「それで自分の支えとして利用してきたのに」

「その理想に背ける事を許さない」

「ず……う、ぐじ……」

理解してしまった。
彼女の理想を裏切ったのは誰か。
彼女の理想を壊したのは誰か。

「それでもマミは、君と居る事だけを求めたのに」

「そんな事さえも君は叶えてあげなかった」

「ひっ、ぐず…………ごめ……なざい……」

嗚咽から漏れ出たのは懺悔の言葉。
だが、それを聞き届ける者は居ない。
ここに居るのは無数の悪魔だけなのだ。

「君が自分勝手に生きるのも自由だけど」

「それに付き合わされたマミは本当にかわいそうだね」

「ひっ、く……ごべん、なざい……マミざん……」

謝罪は虚空に消える。
もはや彼女が何を想おうと、それが届く事はない。

「どうだい、杏子?」

「君の理想(マミ)を壊したのは誰だい?」

「君の理想(マミ)を裏切ったのは誰だい?」

「ねえ、杏子?」

「答えてごらんよ」

解っていても答えられない問い。
それが耳を駆け抜けた瞬間。

「ああああああああああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!!!」

異空間に絶叫がこだました。

Interlude out

1回目はここまで
見直しが完了しだい、次の投下に入ります

2回目の投下です
17日目~残された疑問

ワルプルギスの夜まであと1日


「―――始めましょう」

朝食後、私たちはテーブルに着いていた。
今日やる事は全て、ただひとつの目的の為となっている。
その第一段階はここで行う事だ。

「前にも言ったけど、ワルプルギスの夜は超大型の魔女よ。
 これまでに幾度となく出現して、数多くの魔法少女が命を散らしてきたという」

「そんなのが、明日この街に現れるのか……」

神妙な顔つきをしている衛宮さん。

「まずはこれを見てちょうだい」

資料その一をテーブルに広げる。
その大きさは一番手にして最大。
大きすぎてテーブルに収まりきらない程だ。

「……この近辺の地図か」

「ええ、そうよ。
 今回のワルプルギスの夜は、この見滝原を舞台とするわ」

見滝原の全体とその周辺が描かれた地図。
平面からでも見て取れる程の巨大な施設がある。
経済の中心となってるビルが立ち並んでいる。
そして、無限とも思える民家が存在している。

「次にこれを見て。
 ワルプルギスの夜は過去に尋常でない被害をもたらしてきたと判るわ」

資料その二を提示。
ワルプルギスの夜に関する伝承とその被害の記録を見せる。

「人口が少なく文明のレベルが低かった昔でさえ、これほど大きな数字を残してきた。
 現代の人が密集した都市で好き勝手やらせたら、どうなる事かしらね」

「…………たくさんの人が死ぬ。
 助けを求めようと、誰も助けには来ない。誰かを助けようとすれば、誰かの代わりに命を落とす。
 泣いて、喚いて、嘆いて、この世の物とは思えぬ地獄が生まれる」

眉間にしわを寄せ、苦々しい口調で衛宮さんが答える。
いやにリアルな言いよう。
まるで、かつてその現場に居合わせたかのような口ぶりね。

「そう、この街の全てを守りきる事は不可能だわ。だったら、無理に守ろうとする必要もない。
 どんなに大きな被害だって、一箇所に留められれば復興にさして時間はかからない」

「少数を犠牲にして多数を救う、と。
 あまり好きな考えじゃないが、この際建物ぐらいにけちけちしてられないか」

まあ、そうよね。
それを好んでるような人じゃないのは昨日判明した。
もしそうなのだったら、インキュベーターと手を組んでいた筈なのだから。

「その為にあらかじめいくつかのポイントを確保しておくわ。
 そこにワルプルギスの夜を呼び込んで、戦場とする」

「まるでゲリラ戦だな。ついでに焦土作戦でも採ってみるか?」

「もともとそのつもりよ。
 一区画全域に爆弾を設置。ワルプルギスの夜が接近し次第、爆破させていくわ」

あの暴風はビルをも武器とする。
それを封じる為にも、この作戦は都合がいい。

「つまり、今日やる事はその準備という訳か」

こういう所では本当に察しがいい人ね。
戦友として付き合うのなら、この人以上に優れた人もそうは居ないでしょう。

「だが、場所はどうする? 何か心当たりでもあるのか?」

「それなら任せてちょうだい」

赤のサインペンを構える。
それを地図上に落として、大きな丸を一つ描く。

「ワルプルギスの夜の出現ポイントはだいたいこの範囲内になるわ。ここに加えて」

今度は青のサインペンで、小さめの丸をいくつか描き加える。

「補助としてこの辺りの霊脈を抑えておこうとおも―――」

「ちょっ、ちょっと待て! この街の霊脈なんか抑えてどうする!?」

慌てた様子の衛宮さん。
何かヘンなコトでも言ったかしら?

「はっきり言って、この街は霊地としては三流だ。
 霊脈なんか抑えてもゼロか一かの違いにしかならない。
 そんなのに縛られるよりは、もっと自由に行動できるのがいい」

…………まあ、専門家の言う事は素直に聞いておこう。
戦闘においても“魔”というモノにおいても、衛宮さんの経験は私より豊富なのだから。

「じゃあ、こうしましょう」

地図上に細長く緑のサインペンで囲む。

「攻撃のしやすさと敵の攻撃手段を奪う事を考えて、川の方に誘導をする」

ビルを爆破するといっても、残った瓦礫でさえも彼女の武器にされる。
攻撃は最強の防御だなんて言うけれど、それは相手に防戦を強いるだけの火力がある事が前提。
怯む事を知らないワルプルギスの夜と戦うならば、やはり武器を奪う以上の防御は有り得ない。

でも、これには一つ問題がある。

「これは同時に、私たちとワルプルギスの夜との距離が離れる作戦よ。
 つまり剣士―――剣が武器である貴方には攻撃がしづらいという事でもあるわ」

佐倉杏子との最初の戦いで衛宮さんは剣を飛ばしていた。
原理は不明だけど、あれの射程次第では苦戦を強いられるかもしれない。

「ちょっと待った。ほむら、おまえは一つ勘違いをしている」

「え―――?」

「おまえの言った通り、俺の武器は剣だ。
 だからと言って俺は剣士だというワケじゃない」

ひらひらと、私に右手を振りながら語る衛宮さん。
どういう事なんだろう。
剣を使うから“剣士”というんじゃないのかしら?

「ほむらには見せた事がなかったかもしれないが、俺の本業は“弓兵”だ」

「………………はい?」

「いや、だから、俺は剣士(セイバー)じゃなくって、弓兵(アーチャー)なんだよ」

剣を使うのに弓兵……?
どう考えても矛盾している話ね。

「……説明をお願いできるかしら?」

「説明も何も、投影した剣を弓に番えて射つんだが」

……確かに“剣を使う弓兵”ではある。
けど、いったいどこの世界にそんな珍奇な戦法を用いる人がいるんだか。

「それって、効果あるのかしら?」

「ああ。軽くやっても射程でそこらの狙撃銃に負ける事はないな。
 威力に関しても、投影元のオリジナルが桁外れなんだ。
 心配は何も要らない」

……改めて認識した。
この人は何もかもがデタラメだ。
能力も、攻撃手段も、威力も。

「―――決まりね。爆弾は出現ポイントから川へ誘導するように仕掛ける。
 それに加えて、川辺に閉じ込めるように設置する」

「承知した」

よし、と衛宮さんが立ち上がった。

善は急げ、という事かしらね。
やろうとしてる事が犯罪なのは……まあ、今更よね。

「早速始めるとしよう。爆弾の貯蔵は十分だよな?」

「問題ないわ」

衛宮さんに続いて立ち上がる。
歩みの先は玄関のドア。
決戦の為の第一歩。
最後の一日の猶予期間(モラトリアム)。
やれるだけ、やっていこう―――!

爆弾の設置完了後、ほむらに案内をされていた。
連れてこられたのは、美樹の初陣を彷彿させるような廃工場。
正直、ほむらの意図が掴めない。

「こんなとこに連れてきてどうしようってのさ?」

「見ればわかるわ」

そう言って、工場の扉を開けるほむら。
彼女に促されるままに中に入っていく。

「こいつは……!」

「これが今回の戦いでの主力よ」

名前は知らないが、そこにあるのはヘリコプターだ。
戦闘用の設計らしく、マシンガンやミサイルが積んである。

…………どうやって搬入したのやら。
いや、察しはつくけどさ。

「戦闘機の最高速度は素晴らしいものだけど、ビルの多い見滝原では十分に活かす事は出来ない。
 それよりも小回りの利くヘリの方が機動力としては優れてるわ」

「それだけじゃない。こいつなら俺でも操縦できる。
 つまり、操縦役と攻撃役が入れ代われる戦車(チャリオット)のようなもんだ」

しかもそれぞれが全く異なる武器を扱うワケだから、交代にもメリットが生まれる。
攻撃に幅が出来るってもんだ。

「? 戦車(タンク)の操縦と攻撃は一人でも出来るわよ?」

「まさか。そんな事やれる訳ないだろ。
 かの英雄クー・フーリンにだって、ちゃんと御者がついてたんだぞ?」

そういやあいつがライダーで召喚されると、戦車とセットでついてくるのだろうか。
ペガサスがついてくるぐらいなんだから、人間の一人や二人なら不思議でもなんでもないが。

「…………誰、それ?」

「知らないのか? ケルト神話一の大英雄だが」

「なんで神話の世界に戦車があるのよ」

「そりゃあるだろ。飛び道具と機動力を兼ね備えた兵器はどこの世界でも有用だからな」

「神話で、戦車(タンク)が?」

「ああ。神話で、戦車(チャリオット)が」

いまいち納得のいかないって感じの表情のほむら。
でも事実は事実なんだから仕方がない。
まあ、それは置いといて。

「ところで、あそこできのこかたけのこかの如く並び連なってるのはなんだ?」

金属の光沢と重量感を持つ筒の集団。
正体に見当はつくけど、いったいどこから拾ってきたのやら。

「所謂ロケット弾よ。そこにあるのはまだ点検していないから、念の為触らないで」

……そこ、という事は、他の所にまだまだあるという事か。
これを一人で使おうってんだから、デタラメな話としか言いようがない。
世の軍事関係者が聞いたら卒倒するだけで済むのやら。

「あと一つ、貴方に見せたい物があったわ」

「まだあるのか。最後はなんだ?」

「外にあるわ。ついて来て」

先導するほむらに続いて扉を抜ける。
外壁に沿って裏手に回ると、鉛色のカバーに覆われた物体。
高さはほむらの腰より少し高い程度だが、全体では彼女を遥かに上回る大きさ。

「これよ」

そう言うとともに、カバーが取り払われる。
後にそこに残っていた物は。

「へえ……いいバイクだな」

頭に超が付きそうな大型二輪。
丁寧に手入れされてはいるものの、あまり使い込まれてはいない。

……使い勝手が悪すぎて出番がなかったんだろうな。

「男の人って、やっぱりこういうの好きなのかしら?」

「いや、これは俺個人の好みだな。昔よくいじらせてもらってたんだ」

藤村の爺さん……元気にしてるんだろうか……。

―――いや、元気だな。
どうせ今も柳洞寺の住職の張り合ってるに違いない。

「じゃあ遠慮なく使わせてもらうが、工具とか持ってないか?
 弓を引きやすいように改造しておきたい」

「ええ、中にあるわよ。ついでにヘリの整備もしてしまいましょう」

ほむらの提案に頷いた。
工場は裏口のない不便な作り。
表に戻る為、バイクを押し進む。

その時―――。

「魔女か―――!?」

「こんな時に……!」

世界は異界に覆われた。

「ほむら、武器は大丈夫か?」

「数だけはね。でも、出来れば明日に温存したいわ」

やはりな。
ほむらの武器は使い捨てだ。
明日に懸けるほむらには、今日使える武器などないのだろう。

「わかった。ここは俺に任せろ。ほむらはカバーを頼む」

ほむらを背後に回し、戦闘体勢に入る。

構えこそ徒手空拳だが、いくつかの武器のイメージは用意済み。
魔女の姿を視認次第、魔術回路に流し込む―――!

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「来たわ―――!」

咆哮と共に聞こえてきたのは蹄を鳴らす音。
漂ってくるのは鼻に付く黒煙。
それらは徐々に大きくなり、濃くなっていく。

そして。

「■■■■■■■■■■■■■■■――――!」

現れた魔女は騎乗兵(ライダー)。
手に持つ得物は槍。

「投影、――――!?」

「■■■■■■■■■―――!!」

「どういう事……?」

対峙する事もなく走り去っていく魔女。
ほむらが困惑するのも解る話だ。

だが―――問題はそれではない。

「ほむら! キーを寄越せ!」

「追うつもり?」

「当然だ。早く!」

ほむらからキーを受け取り、バイクに跨がる。
急げ。
結界が消えてからでは手遅れだ。

「きゃっ」

アクセルを全開。
エンジンに鞭打つ。
絶対に逃がすワケにはいかない。
何がなんでもあいつにルールブレイカーを突き刺す―――!

「■■■■■■■■■■■■■■■」

スタートダッシュの甲斐あってか、魔女の姿を再び捕捉した。
手にする槍をもう一度解析する。

「っ―――!」

やはり、そうだ。
俺はあの槍を見た事がある。
その形状は違えども、幾度と打ち合った紅き槍。

「いったい、何故……?」

何故彼女は絶望したのか。
仲間は居た。
目的は果たした。
それにあの性格だ。
絶望とは無縁のようだったのに。

「くそっ、待ちやがれ!」

減速の必要はない。
最高速度のまま追走する。
少なくとも並走しなければ、短剣では届かないのだから。

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「うおっ?」

巨大な槍が突然振るわれた。
何を目的としてるのかは判らないが、どうやら邪魔者と見なれたらしい。

「―――投影、開始」

左に干将を握る。
ハンドルから手を放せないのがハンデになるが、やらない訳にはいかない。

「■■■■■■■■■」

「っく―――」

再び迫る槍を受け流す。
バイクが大きく揺れ、崩れたバランスに手をこまねく。

「なあっ!?」

二度三度と追撃が襲う。

―――元より衛宮士郎には天性の才能などない。
   今持ってる物は全て鍛錬の産物だ。
   故に、俺に経験不足という事はあってはならないのだ。
   仮にそれに直面する事があれば―――

「がぁっ!」

猛攻の前に干将が弾き飛ばされた。
イカレたバランスの上で投影を行う程の経験はない。
徒手空拳のまま次(最後)の一撃を迎える。

「く―――くっそオオオォォォォォ!」

―――其れ即ち、俺の……敗北だ―――

間一髪回避した槍。
それは俺の跨がる銀色のボディを両断した。

「ごっ―――ぐぅ、がっ―――」

投げ出された体が地面を転がる。
だが、それもここまで。
短い間の愛車からの僅かばかりの遺産が、摩擦によって奪い去られてしまった。

「くそっ、くそっ……ちっくしょぉぉっっっ!」

静止した肉体は結界から追い出され、魔女(佐倉杏子)の姿はもはやどこにもなかった。

「……何か、言う事はあるかしら?」

帰宅した衛宮さんは擦り傷に塗れてた。
再三確認するけど、明日は決戦、ワルプルギスの夜なのだ。
ここでまた戦線離脱をされては困るのは言うまでもない。

「すまん。魔女を取り逃がした」

「……………………」

そういう事じゃない。
なんかもう、この人は心配するだけ無駄なんじゃないのかしら?

「まあ、重傷は負ってないのならいいわ。
 明日さえ戦えれば、今日のところは許してあげる」

「そりゃ助かる。
 ところで、その明日の準備はどうしたんだ?」

「全部やったわ。ヘリの場所も移しておいたわ」

万全とは言えないけど準備は完了。
あとは明日を迎えるだけ。
明日に全てを出し切るだけ。

「そっか、さんきゅ」

そうとだけ言って、衛宮さんはキッチンに向かう。

―――決戦前夜。
   いつも通りに夜は更けていった。

2回目終了
残る最終日が完成したら、投下を再開します
ちなみに現在、バスの出発まで2時間を切ったところです

もう間に合いませんね、これ
今日のところは諦めます
でも、あと1日で区切りがいいところになりますので、どうしてもここでやめるのはなんか嫌です
そういう訳であと1回分の投下をそのうちしてから、このスレは落としたいと思います
ネットカフェに行った事はないですけど、まあ何とかなるでしょう

では、来週になるか再来週になるかわかりませんが、もう少しだけお付き合い願います

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