絹旗「ナイトロジェン!」黒夜「シスタァァァズ!!」一方「……その2だァ」(535)

絹旗と黒夜の窒素姉妹+保護者一方通行のグダグダとしたお話。
……だった筈なんだけど、何だかよくわかんない方向に話が転がっている。マジ困った。
つーかスレタイ使えねぇな、どうしよう!

前スレ
絹旗「ナイトロジェン!」黒夜「シスタァァァズ!!」一方「……」


【登場人物】

○絹旗最愛
割とアホな子。窒素姉妹のどっちかっていうと姉的立場。
『暗闇の五月計画』が中止された後、一方通行に引き取られ、黒夜と一緒に暫くニート状態だったが、
最近霧ヶ丘女学院中等部に通いだした。
一応主人公の片割れなんだけど、黒夜に比べて明らかに陰が薄い。
2スレ目で巻き返しなるか。

○黒夜海鳥
割とダメな子。ヘタレ。窒素姉妹のどっちかっていうと妹的立場。
絹機と一緒に霧ヶ丘女学院中等部に通いだしたが、初日の自己紹介で類まれなるダメっぷりを発揮し、
クラスメイトから恐ろしい不良娘だと誤解される。ぼっち状態。
主人公に加え、最近では囚われのヒロイン役もこなし、絹機に大きく水をあけている。
ちなみにサイボーグ化はしていない。

○一方通行
窒素姉妹の保護者。長点上機学園高等部一年。
一応メインの一人なんだけど、能力がチート過ぎてすごく話に絡ませづらい。
リア充。爆発すればいい。


■霧ヶ丘サイド

○麦野沈利
霧ヶ丘女学院高等部三年。言わずと知れたレベル5第四位。
霧ヶ丘のツートップ。なんだけど、おっかないので結標しか友達がいなかった。
けど最近黒夜と拳で語り合い、何だかんだで友だちになった。
黒夜と同じくかなりダメな子。というかむしろ上位互換。
研究協力依頼が途絶えたせいで、ローンの支払に苦しんでいる。

○結標淡希
霧ヶ丘女学院高等部二年。霧ヶ丘のツートップ。麦野と違い友達もいるし人望もあるっぽい。
SS内でも頼れる先輩系巨乳女子高生の地位を着々と固めており、ショタコンっぷりは今のところなりを潜めている。
けど将来の夢は小学校の先生。

○灰谷真友
霧ヶ丘女学院中等部一年。黒夜のクラスメイトにして唯一の友達。オリキャラ。
実は『暗闇の五月計画』の被験者仲間。
現在は木山春生の所属する研究施設にお世話になっている。
すっごいはしるよ!

○木山晴生
黒夜のクラスの担任。
教師と研究者を兼任しているらしい。


■長点上機サイド

○御坂美琴
長点上機学園中等部二年。一方通行の後輩。
一方通行とは小学校の頃からの付き合い。一方通行の能力の活用法及び対処法を日夜研究し、遊んでいる。
あと何かっていうと一方通行に奢らせようとしている。ただし布束には頭が上がらない。
一方通行と布束の前では「~~ッス」と下っ端口調だが、それ以外の時は実は原作とほぼ同じ口調だったりする。

○布束砥信
長点上機学園高等部三年。一方通行と美琴の先輩。
美琴は愚か、第二位の垣根帝督すらもシャイニングウィザード一発で沈める猛者(ただし不意打ち)。
学園内では一方通行、御坂美琴、布束砥信の三人で良く行動しており、『あのグループ』と呼称され生徒たちに畏怖されている。

○垣根帝督
長点上機学園高等部二年。
高等部の生徒会長らしい。正気とは思えない。
俺の未元物(ry


■常盤台サイド

○白井黒子
原作同様、常盤台中学の一年にして風紀委員。
ただし美琴とは面識がないため、百合に目覚めてはいない。綺麗な黒子。
寮の同室の先輩が悩みの種。必殺技は『ダブル乳首卍捻り』。

○食蜂操祈
常盤台中学三年、レベル5第五位の心理掌握。
女王などと呼ばれているが、その実態は半引きこもりの隠れオタク。同室の黒子がいっつも苦労している。
中二の頃調子にのって派閥を作り、今では常盤台最大の派閥にまで成長したが、
管理が死ぬほど面倒なので作ったことを心底後悔している。
ジャージが正装。脱ぐと女子力53万。ただし乳首が弱点。


■スキルアウトグループ

○フレンダ・セイヴェルン
スキルアウトグループに所属している無能力者。
下っ端達からは、姉さんだの姉御だのと呼ばれて慕われている。


○フレメア・セイヴェルン
スキルアウトグループのお姫様。囚われ的な意味で。


○駒場利徳
スキルアウトグループのリーダー。
セイヴェルン姉妹に対して、姉妹丼フラグを立てている。頭破裂しろ。


○浜面仕上
あっしー


○半蔵
にんじゃー


○スキルアウトA
スキルアウトグループの下っ端。
フレメアの世話とかよくやってたらしい。なのに、姉妹丼フラグの代わりに死亡フラグが立った。


■無能力者刈りの集団

○少年A
レベル3相当の念動力能力者。
凄まじいまでの小物臭を放つ逸材。
上条さんと双璧をなすフラグメイカー(死亡フラグの方)。


○少年B
レベル3相当の空力使い。
風使いのとしての能力はなかなかのものだが、河原で読書とかしてても文学少女とフラグを立てることはない。
「今日は……風が騒がしいな……」
一方さんのおかげで頭がパーン。


○少年C
空間移動の大能力者。
結標に近いレベルのテレポーターで、自分の周囲数メートルごと球形に抉り取って移動できる。


○少年D
あっしーその二。
購入してまだ数ヶ月の新車を一方さんにボロボロにされた。
多分保険も降りない。割と可哀想な人。


○海原
無能力者刈りの仲間に加わっていた。
皮を被った包茎なのかどうなのかはまだ定かではない。



■その他のキャラ
んっと、えっとえっと……もう疲れた! 前スレ読め!
キャラ無駄に出し過ぎなんだよバーカバーカ!!

え~という訳で大変お待たせいたしました。
窒素姉妹スレ、2スレ目です。

登場人物の紹介書いてるだけでえらい疲れたので、
ちょっと便所行って一息ついてから本編の投下開始させてください。

多分十分後ぐらい。

そいでは本編投下行きまーす…


【スキルアウトアジト】


――ガチャ!

スキルアウトB「駒場さん、大変っすよ!!」

駒場「ああ……」

スキルアウトB「んな落ち着いてる場合じゃないですって!!
     何かメールが来てフレメアちゃんを攫ったって!!」

駒場「だから分かっている……。俺にもメールが来た……」

スキルアウトC「こっちにも来てたし。多分、うちのグループのほぼ全員に送られてんじゃねーかな……」

スキルアウトB「なら、尚更落ち着いてる場合じゃねえじゃん!?
     駒場さん、早く助けに行かねぇと――」

駒場「一方通行だ……」

スキルアウトB「は?」

駒場「フレメアを抱えていいる男だ……。レベル5第一位『一方通行』……名前ぐらいは聞いたことあるだろう……?」


スキルアウトB「なっ!? 何でんな大物がいきなり出てくんのよ!?」

スキルアウトC「俺らだってわけ分かんねーよ」

駒場「俺が知っている限りでは、無能力者刈りなどと言う下らんことに手を出すタイプでは無かったはずだがな……」

スキルアウトC「けど事実お嬢を攫ってる」

駒場「ああ……」

スキルアウトB「ど、どうすんスか……?」

駒場「兎に角、迂闊に手を出せる相手ではない……。何か手は考えるが……。
   くれぐれも、早まって先走らないように皆に伝えておいてくれ……」

スキルアウトB「わ、わかりました……あ、けど!」

駒場「なんだ……?」

スキルアウトB「フレンダの姉さん、しばらく前に出かけたっきりまだ帰ってきてないっす……」

スキルアウトC「げッ」

駒場「それは……少し不味いな……」



【大通り】


――ヒュンッ

絹旗「灰谷さん」

灰谷「おわ!? び、ビックリしたぁ……あれそっちの人、確か昨日の……?」キョトン

白井「白井黒子ですの」

灰谷「あ、どうも……灰谷真友です……」

絹旗「ここから、一方通行は超居なくなったんですか?」

灰谷「いや、一方通行さんについては分からんのやけど……。ほら、あそこの道路窪んどるやん?
   多分、あそこで誘拐犯がテレポートしたんやと思うんよ」

絹旗「なるほど……」

白井「話は移動しながらにしましょう。このままここに居ては、アンチスキルの方々も来てしまいますわ」スタスタ…

絹旗「ああ、そう言えば超そうでした」スタスタ…

灰谷「え? え? どゆこと……?」スタスタ…



絹旗「事件はアンチスキルに任せて私達は大人しくしていろ、と超訳の分からんことを言われたので。逃げ出してきたんです」

灰谷「ええ!?」

絹旗「まったく、超ふざけるなってんですよ」プンスカ

灰谷「まぁ、気持ちは分かるけど……えっと、白井さんやっけ? ジャッジメントなんやろ、私らに協力してもかまんの?」

白井「私もアンチスキルに任せてジャッジメントは帰れ、と言われていますので。此処から先はプライベートですの」オホホホホ

灰谷「ああ、そうなん……(この人も、結構無茶な人やなぁ……)」


――prrrr…


白井「っと、失礼。電話ですの……」ピッ

初春『もしもし、白井さん? 監視カメラに写っていた映像、見つけましたよ。
   なんだかちょっと面倒なことになってるみたいですねー……』

白井「どういう事ですの?」


初春『取り敢えず動画データを送るので、実際に見て確認してみてください』

白井「私の携帯、動画再生とかそういった機能には少し弱いのですけど……」

初春『……デザイン重視のミーハーな感性で携帯を選ぶからいけないんですよ……』

白井「い、良いではありませんの! せっかく科学技術の進んだ学園都市に居るんですのよ!?
   ちょっとくらいSF的気分を味わったって……」

初春『それで今困ってるじゃないですか』

白井「う……」

絹旗「それなら私の携帯に超送ってください」ズズイッ

初春『あ、一緒に居る方ですか? そうですね、それが良さそうです。アドレスを教えてもらえますかー?』

絹旗「はい。え~っと……xxxxxxx@xxx.xx.xx……」

初春『はいはいっと…………今送りましたー』


――prrrr…


絹旗「来ました」

灰谷「どないなん?」

絹旗「超待ってください。流石にデータの受信には時間が…………あ、映った」

灰谷「…………」ジー

絹旗「…………」ジー

白井「…………これは……別の女の子を助けているようですわね……」ジー

初春『ですねー。多分、最初に攫われていた女の子でしょう』

絹旗「なるほど……一方通行をどうにか出来る人間なんて居るわけないとは思ってましたが……。こう言うことですか。
   第一位のくせに、超間抜けです……」

灰谷「いや、これは仕方ないんちゃうかなぁ……」

初春『元々はこの子を攫うのが目的だったんでしょうから、相手としても苦肉の策でしょう。
   やっぱり相手にテレポーターが居るって言うのは面倒ですね。白井さんが敵だと考えれば、ものすごく実感できますが。
   とても嫌です。すごいウンザリします』


白井「初春、貴方後で覚えておきなさいな……。しかし、自分の周りごとテレポートするとなると、私以上の能力者ですの。
   書庫のデータから特定はできませんの?」

初春『自分から離れた物体をテレポート出来る能力者なら、一人該当者がいました。
   座標移動の結標淡希って人ですけど……』

絹旗「その人なら超知り合いなので除外してください」

白井「もしかして先ほどの?」

絹旗「一緒にいたお下げの先輩が超そうです」

初春『その他には……そこまでの力を持った能力者は居ませんね。
   テレポーターは数が少ないので、見落としもないはずです……』

白井「書庫に登録されていない、もしくは登録されている情報が間違っている、ということですの?」

初春『う~ん……書庫のデータを改竄するなんて、そうそう出来るような事じゃないんですけど……』

灰谷「その辺りのことは、今考えても仕方ないんと違う?」

白井「まぁそうですけど……」

絹旗「それより、一方通行が電話に出てますね」


初春『おそらく誘拐犯からのものだと思います。
   その後、誰とも連絡を取ることなく北へ移動しています』

白井「つまりこれは……」

絹旗「黒夜を人質に取った誘拐犯の要求に超従った、ということですか……」

初春『予想される誘拐犯の要求は、大きく分けて二つです。
   知り合いやアンチスキルと言った相手との接触禁止。それと、助けた女の子を連れていっていることから――』

白井「指定場所での人質交換、といったところでしょうか」

灰谷「なるほど……面倒やなぁ……」

絹旗「こちらから一方通行に接触する事も超できませんね」

白井「となると私達がやることは一つですわね」

灰谷「多分、どこかで一方通行さんを監視しとる仲間がおるやろうし……」

絹旗「そいつ伝いに誘拐犯の居場所を特定して、横合いから超ぶん殴る!!」


【とある廃ビル】


少年A「オラ、入ってろ」ゲシッ

黒夜「ぐっ……!」ドサッ

――バタンッ


少年A「チッ……糞生意気なガキだ……」

海原「なにやら妙な事になっているようですね」

少年A「海原。……別にたいした事じゃねぇよ。無能力者刈り自体は、上手く行きゃあ予定よりも楽に済むさ」

海原「そうですか? それなら構いませんが」

少年A「それより誰か見張りつけといてくれ。あのガキ、能力者だ」

海原「それなら自分がやっておきましょう。手も空いてますし、ね」


      ▽


黒夜「……クソ、が……(まだ身体痺れてやがる……)」

??「ッ……」ゴソ…

黒夜「……?(誰か他にも入んのか?)」

??「うぅ……う……」

黒夜(うわひっで……顔ボコボコじゃんこいつ……)

??「フレメア、ちゃん……か? ゴメンなぁ……ちっと……しくじって……」

黒夜「はぁ?」

スキルアウトA「……あ、あれ違う? 何か愛らしさ九割減……?」

黒夜「ぶん殴るぞテメェ!?」

2スレ目投下一発目はここまでで。
今スレでも、お付き合いいただければ幸いです。

それではまたー

                          刀、           , ヘ
                  /´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
              ,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
               /: : : : : : : : : : : : : :`.ヽl____: : : : : : : : : : : : : : : : : : /
     ,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/

    /: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : :    :\: : : : :: : : :ヽ  \   /: : : :/
    ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i  / /: : : : :/
     /: :     ∧: \: : : : : : : : : : ヽ: :\: : : 〃}/  /: : : : :/         、
.    /: : /  . : : :! ヽ: : l\_\/: : : : :\: ヽ彡: : |  /: : : : :/            |\
   /: : ィ: : : : :.i: : |   \!___/ ヽ:: : : : : : :\|:.:.:.:/:!  ,': : : : /              |: : \
   / / !: : : : :.ト‐|-    ヽ    \: : : : : l::::__:' :/  i: : : : :{              |: : : :.ヽ
   l/   |: : :!: : .l: :|            \: : : l´r. Y   {: : : : :丶_______.ノ: : : : : :}
      l: : :l: : :ト、|         、___,ィ ヽ: :| ゝ ノ    '.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
      |: : :ト、: |: :ヽ ___,彡     ´ ̄´   ヽl-‐'     \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
        !: :从ヽ!ヽ.ハ=≠' , ///// ///u /           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      V  ヽ|    }///  r‐'⌒ヽ  イ〉、
              ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、       こ、これは>>1乙じゃなくて
                  ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ     ポニーテールなんだから

              r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\   変な勘違いしないでよね!
               /: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\

ごめん、最近仕事忙しくてまったくSS書く余裕ないです。
多分少なくとも、あと二週間ぐらいはとても投下できないと思うので、
暫くこのスレの存在は忘れてください……。

じゃあ、仕事、戻る、うへへへ、へ……

ごめんね。今週ぐらいからなんとか余裕ができそうな感じ。

やったねたえちゃん! SSが書けるよ!!

うはっ、イラスト支援とか初めてもらった!
黒夜の制服姿、想像以上に心踊るわぁ。
ごめんね黒夜、救出どころか今回は出番さえないよっ。

という訳で、本当におまたせ致しました。
見直した後に投下開始します。


これより投下。


一方(実際問題として……どうしたもンかな、こりゃァ……。
   こう言う状況じゃ、俺の能力なンざ糞の役にもたちゃしねェ。
   学園都市第一位だ? 笑っちまうな……)スタスタスタ…

フレメア「……」スヤスヤ…

一方(そもそもこのガキはなンだ? 何で能力者に狙われてる?
   その辺りが分かれば、まだ策の立てようも有るンだがなァ……)


――チュインッ


一方「あァ?(今反射したか? 狙撃?)」



【とある建物の屋上】


――スバァンッ!

半蔵「うおぉお!?」

浜面「ちょおまっ、何ライフル壊してんだよ!?」

半蔵「知るかよ、わけ分かんねえ!! 兎に角いっぺん逃げたほうがいい、浜面車出してくれ!!」

浜面「お、おう」


――prrrr…

フレンダ『もしもし?』

半蔵「フレンダ、狙撃失敗だ! 俺達は一旦この場を離れる!」

フレンダ『はぁ!? 外したって訳!?』

半蔵「いいや、命中した瞬間にこっちのライフルが破壊された。
   意味分かんねぇだろうが、相手が高位能力者なのは間違いねえ」

フレンダ『……了解。結局、楽な相手じゃ無いって訳ね』

半蔵「ああ、気をつけろ。俺達も直ぐに合流する」


      ▽


一方「狙撃……狙撃、ねェ。仮にも俺の能力知ってる連中が取る手段じゃねェ――な!」

――ドゴオ!!

??「ッ!!?」


 すれ違い様に、抱えている少女の体をひったくろうとしたスクーターを蹴飛ばし、一方通行は悠々と首を巡らせた。
 何処から湧いてでたのか。数人の少年少女たちが、いつの間にか一方通行を囲むように道を塞いでいた。
 その手には、例外なく銃器が握られている。


一方(能力者じゃねェな。こいつら、スキルアウトか?)


 そこで、ポケットの携帯が振動した。
 向けられる銃口にも頓着もせず、携帯を開く。

 『そいつらに人質を渡すな。事情を話すことも許さない』

 簡潔に、それだけの内容のメールが送られてきていた。



一方(なるほど、そういう事か。無能力者刈りの話は聞いたことがあったが……マジで下らねェな……)

スキルアウトD「大人しくその子を渡せ」


 予想通りの要求を告げてきた少年に、一方通行は心底面倒くさそうに溜息をつく。
 その反応に、周りのスキルアウト達が殺気立つのが伺えた。


一方「やめとけよ。親切心で言っといてやるがな、撃たねェ方が良い。怪我したくはねェだろ」

スキルアウトE「舐めやがって……! いくら能力者だって、この人数相手に無事でいられるわけねえだろ!!」


 一方通行としては本心からの言葉であったのだが、スキルアウト達はそうと受け取らなかったらしい。
 まぁ当然の反応だろう。
 こんな口調と言い方では、好意的に受け取れという方が無理な話だ。
 一方通行としても自覚はあるのか、自嘲気味な舌打ちをして表情を歪めた。

 いっそ能力を使って一気に振り切るか?
 いや、派手な行動を起こしてアンチスキルにでも見つかれば、それこそ面倒だ。
 それどころか『アンチスキルと接触した』と見なされて、ペナルティを受ける可能性させある。


一方「事情があってガキは渡せねェ。その事情を話すことも出来ねェ。じゃあな」

スキルアウトD「それで通ると思ってんのか?」

一方「生憎引き返すことは出来なくても、通る分には問題ねェな」


 宣言通り少年たちの横を通り過ぎようとする一方通行に、少年が手を伸ばす。
 当然のことながらその手は一方通行の能力に反射され、少年は目を丸く見開いた。


スキルアウトD「何しやがった!?」


 スキルアウトたちの指先が、引き金にかかる。


一方「よせ」


 制止の声は、銃声に掻き消された。


 少女を抱えているためだろう、その多くは一方通行の足を狙って放たれたが、
どこを狙われようとも彼にとっては幾許かの違いもない。

 演算に手間を加えて反射角をずらされた銃弾は、スキルアウト達の肌を浅く抉って通りすぎて言った。

 幾つもの呻きと悲鳴が重なる。
 これで戦意を失ってくれればそれでいいと、一方通行は考えていた。
 事実、たまに喧嘩を吹っかけてくるバカどもも、この程度の痛手を負えばスゴスゴと引き下がって行った。

 しかし、彼は一つ失念をしていた。
 スキルアウト達にとってこれは喧嘩などではなく、仲間を救うための戦いなのだということを。

 スキルアウト達が銃を捨て、ナイフや特殊警棒を取り出したのを見て自身の下策を悟る。
 半端な手心など加えず、容赦なく銃弾を当てるべきだったのだ。


      ▽


フレンダ(なん、なのよ……あの化物は……)


 人気のない廃屋の窓から戦いを眺めながら、フレンダは愕然と身を震わせていた。

 戦いは、余りにも一方的なものだった。いや、一方“的”と言う言い方にすら語弊がある。
 相手の能力者は何もしていない。
 戦っているのは、仲間たちだけだ。
 一方だけが攻撃を仕掛け、一方だけが勝手に自滅している。
 ただ一方向から、一方向へ。戦いが交わることはない。

 言うなればそう――『一方通行』に。

 不意に浮かんだその言葉に、フレンダは表情を強ばらせた。
 もしこの思いつきが正しいのだとしたら、あの男は高位能力者どころの話ではない。


フレンダ(迂闊に手を出していい相手じゃない!!) 


 自分の浅慮さを呪いながら、フレンダは携帯を取り出した。



 眺めていた戦いはすでに終わり、能力者は立ち去ろうとしているが、
彼ら以外にも幾つかグループを分けて仲間たちを周りに待機させている。
 彼らが手を出そうとする前に止めなければならない。しかし――


フレンダ「……何で誰も電話に出ない訳!?」


 ヒステリックに叫び、頭を掻きむしる。
 いくら電話をかけ直しても、呼び出し音が鳴り響くばかりで一向に繋がらなかった。
 そうして何人の携帯に電話し続けただろう。ようやく、一人の携帯につながった。


フレンダ「もしもし!? 良かった無事――」

??『どぉもー、無能力者刈りでぇーす』


 携帯を取り落としそうになった。


??「餌に釣られた脳無しさんはこちらですかー?」


 続く言葉は、背後から肉声で届いた。
 振り返るよりも先に、咄嗟に横に飛ぶ。
 寸前まで居た場所を炎の帯が通り過ぎ、肌の産毛がチリチリと焦がされるのを感じた。


少年E「お、反応いー。ひょっとして、能無し連中の中でも上の立場か?」

フレンダ「こんのッ――舐めんじゃないわよ!!」


 距離をとって壁沿いに移動しながら、懐から拳銃を取り出す。
 見たところレベル3相当の発火能力者か。どうとでもなる相手だとフレンダは判断した。

 能力者という連中は、その多くが自分の力を過大評価する傾向がある。
 しかし実際のところ、見た目の派手さや恐怖感に惑わされたりさえしなければ、
銃器以上の殺傷力を持った能力者など、そうそう居はしないのだ。

 余裕かまして奇襲前に声を掛けた自分の馬鹿さ加減を呪うといい。
 心中で嘲笑いながら銃口を向けたところで、突如として横の壁が崩れた。


フレンダ「な!?」


 壁を突き破って現れたのは、酷く細身の少年――のように見えた。
 一体どういった現象か、体の輪郭がブレるようにぼやけており、良く判別がつかない。
 おまけに、不愉快な耳鳴りが酷く鼓膜を苛んでいた。

 動揺しつつも咄嗟に引き金を引く。しかし銃弾は、少年の表面に小さく火花を散らしただけで逸れた。
 驚愕に言葉が詰まる。
 少年が接近してくる。その指先が軽く触れただけで、電流に撃たれたようなしびれを手に残して拳銃が弾かれた。


フレンダ(コイツ、まさか体の周囲を振動させて――!?)


 少年の手が顔面に迫る。逃げられない。そう覚悟した瞬間――


――ドゴォオ!!


 今度は天井が崩れた。


 瓦礫が少年の上に降り注ぐも、銃弾と同じように少年を覆う振動にはじかれる。
 しかしそれを追うようにして降ってきた降ってきた人影の、


絹旗「超――窒素パァァアアンチ!!」


 笑えるくらい小さな拳が、少年の体を弾き飛ばした。
 ゴム鞠のように床を跳ね、窓際の壁にぶつかってようやく止まる。当然のごとく、少年が起き上がってくる気配はなかった。


少年E「な、何なんだテメェえ!?」


 狼狽えた声をあげながら、残った少年が手に炎を生み出す。
 しかしそれが放たれるより先に、突拍子もなく背後に出現した少女がその足を払った。

 情けなく床に転がった少年の体を縫いつけるように、無数の杭が服に突き立つ。


白井「そこまで。ジャッジメント――じゃなかった。え~今は普通の女子中学生なわけですが、
   まぁ兎に角大人しくしてくださいまし。妙なことをすれば、今度は体内に直接杭を打ち込みますわよ?」

少年E「ぐっ……クソッタレ……」


 抵抗は無駄だと悟ったのだろう。そのまま少年は押し黙った。


 瞬く間の出来事に、フレンダはただ呆然と立ち尽くす。
 一体、この少女たちは何者だ?
 どうやら助けられたらしいが、彼女たちとは知り合った覚えも――うん?
 いや、こっちの天井から降ってきた少女はどこかで見覚えが……


絹旗「ふぅ、取り敢えず誘拐犯の仲間は超確保できましたね。
   で? そこの襲われてたっぽい貴方は一体……ってあれ?」

フレンダ「あ」


 思い出した。


絹旗「あー! 昨日の轢き逃げ犯!!」

白井「え、この方が?」

フレンダ「いや、轢いたのはあくまで浜面で私は関係ない!!
     って言うか、結局どういう状況なのよこれ……」


 理解の追いつかない展開に頭痛を覚えながら、フレンダは力を無くして座り込んだ。


本日はここまでです。

久しぶりの執筆でどうにも感覚がつかめなかったのですが、
なんとか投下できました……。

流石に次はここまで間が開くことはないと思います。
多分……。


もうちょいしたら投下します。


一方「……胸糞悪ィ」ボソッ

スキルアウトD「ッ……ぁ、ぅ……」

一方「……ここまで最低な気分は久々だな……三年ぶりか?
   破裂寸前だァ、クソッタレ……」スタスタスタスタ…

スキルアウトE「く、そ……ばけ……ものが……」

一方「丸くなったろ? その程度で収まるよォに我慢してンだからよォ……」


【廃屋内】


フレンダ「なに? 結局のところ実際に人質にとられてんのは、フレメアじゃなくてアンタの妹なわけ?」

絹旗「妹というか、妹的立場というか、まぁ考え無しの超ヘタレです」

灰谷「そこまで言わへんでも……」

フレンダ「いや、結局そいつがもっと上手くやってればこんなめんどい事にはなんなかったんでしょ?
     まったく、ヘタレなんて浜面だけで勘弁して欲し――」

絹旗「そもそも……」ガシッ

フレンダ「――ってあら?」

絹旗「アンタらスキルアウトが下らない抗争なんぞしてるのが超原因でしょうがぁあああああ!!!」キャメルクラッチー!!

フレンダ「ぎゃぁあああああギブギブギブゥゥゥ!!! 腰が!! 下半身が千切れるぅぅうううう!!!」

白井「その辺にしてくださいな。話が進みませんわ。
   それで結局、貴方方は無能力者刈り首謀者の居場所や誘拐犯のことなどは知らないと?」


少年E「なんべんも言ってんじゃん? 俺らは掲示板の情報見て集まってきただけ。
    『掃除』に参加してる奴の半分以上がそうなんだって。暇つぶしさ」

フレンダ「なにが掃除よ! スキルアウトとは関係ない一般人まで襲っといて!!」

少年E「知らねーよ、元々中島に誘われただけだし!!
    少なくとも俺が参加したのは、全部スキルアウトが相手だったっての!」


人間バイブレーター「…………(気絶中)」←中島


白井「どちらにしろ、非常に悪質な犯罪ですわ」フミッ!

少年E「ぐぇッ! くっそ、こんな中坊のガキに……あ、でも何かちょっと目覚めそう……」

灰谷「うわぁ……」

絹旗「超ヒキますね……」

少年E「あ、女子中学生が蔑んだ目で……悔しい、でも……!」ビクンビクンッ


白井「…………お望みなら、鉄杭もつけますわよ?」

少年E「いや、それは流石に」

白井「ハァ、もういいですわ……。初春、その掲示板とやらは、そちらで確認できまして?」

初春『はい、教えられたIDとパスで入れました。
   学園都市お掃除ボランティア板という、何ともなタイトルです……』

白井「……反吐が出ますわね」

初春『内容は、その人が言った通りのものですね。
   場所と日時を書いたスレッドを立てて募集を募り、参加者がレスをする。
   その場所のスレも立ってますね。後は最新のもので、第○学区北工場跡のお掃除……』

フレンダ「何ですって!?」

白井「知ってる場所ですの?」

フレンダ「ギリッ)……アタシ達がアジトにしてる場所よ」ピッ、ピピ…


――prrrr……prrrr……ガチャ


フレンダ「もしもし!? 駒――」

『お掛けになった電話番号は、現在電波の届かな……』

フレンダ「ッ――殺してやる!」チャキッ

少年E「ちょ――!?」

灰谷「わー!? ストップすとぉぉぉっぷ!」

絹旗「とぉう、超カニ挟み!」

フレンダ「バタッ)ぎゃんっ! ちょ、放しなさいよ!!」

白井「気持わかりますが、落ち着いてくださいまし。
   これ以上手を出すのならば、私もジャッジメントとして対応せざるを得ませんわ」

フレンダ「くっ……!」

白井「それに、こんな下っ端をどうこうしたところで意味がありませんわ。
   やるなら根元です。初春、その掲示板の管理者の情報などはわかりまして?」


初春『今アクセスログを辿っているところです。
   多分スレ立てした人間が、黒幕か、それに近い人間でしょうし、
   最新のアクセスログを調べれば、現在位置を特定できると思いますよー』

白井「と言う事ですの」

フレンダ「……分かったわよ。けど、私も連れてってもらうからね?」

絹旗「えー? ひき逃げ犯と一緒に行動するとか、超嫌なんですが」

灰谷「まぁまぁ……」

フレンダ「多分、仲間のスキルアウトも何人か捕まってる。
     結局私が居たほうが、話が早いと思うけど?」

白井「……そうですわね、良いでしょう(ATM強奪の件は、終わってからじっくり取り調べしましょうか)」

フレンダ「ま、よろしくって訳よ(フレメア達助けたら速攻でずらかろう)」



絹旗「いつの間にか主導権が超奪われてます……」

灰谷「まぁ、本職さんやから……」


       ▽


灰谷「それで、これからどないするん?」

白井「初春の情報待ちですが……。一先ずは、この場所をアンチスキルに通報しておきましょうか」

少年E「あ、やっぱ見逃してくれないのね……」

絹旗「超当然です」

フレンダ「ちょっとちょっと! そんな事されたら、結局私等の仲間も捕まっちゃうじゃない!!」

白井「人命優先ですわ。この様子では負傷者も大勢いるのでしょう?
   それとも貴方、これだけの人数を病院へ運べる当てがありますの?」

フレンダ「うっ、それは……無いけど……」

灰谷「あ、待って。下、誰か来た……」

絹旗「誰か?」


――ブロロロロロロ……ガチャ、ガチャ

<オ、コイツラカ?
<ケッコウオオイナ、ゼンブツメコメルカ?
<ハコベルブンダケデイイダロ。ヒトジチダシ、テキトウナニンズウガソロッテリャ、ソレデイイサ


白井「無能力者刈りの仲間、のようですわね……」

フレンダ「アイツら、よくもヌケヌケと……」

絹旗「どうします? 希望としては超ぶっ飛ばしたいですけど」

白井「いえ、流石に人数が多いですわ。おそらく、全員がそれなりの能力者でしょうし。
   ああ、助けを呼ぶなどと馬鹿な考えは、持たないほうが身のためですわよ?」

少年E「しねーよ……。アイツらが来る前に俺ボコボコにされんじゃん……」

フレンダ「結局、見てるしか無いって訳ね……」ギリッ


灰谷「というか、あの車を追いかければ、アジトまで辿りつけるんと違う?」

白井「追い掛ける方法がありませんわ。
   私一人ならまだしも、この人数を連れて連続テレポートなど、私の能力では不可能です……」

灰谷「ああ、そっか……」

フレンダ「くっ……浜面がいれば話は早いのに……」


浜面「え、呼んだ?」


四人娘「へ?」クル

半蔵「お、無事だったかフレンダ。あん? なんか見慣れない顔が……」

浜面「あれ? そっちの子どこかで――」

絹旗「ここで会ったが超一日目ェェええええ!!!」ドバキィイ!!!

浜面「ぶげろぉぉおおお!!?」

半蔵「はまづらぁあああああ!!?」


フレンダ「ちょっと、アンタら無事だったならなんで連絡しなかったのよ!」

半蔵「え? いや、電撃使いに襲われて携帯がお釈迦に――て言うか誰だよこの子ら!?
   浜面死んでね? 首の角度とかあり得なくね?」

絹旗「ふんっ。正直この程度では超物足りませんが、今はこれで勘弁してあげましょう。
   床に這いつくばって五体投地で感謝することです」

浜面「」ピクピク…ピクピク…

半蔵「浜面! おい浜面しっかりしろ!」

白井「生きてますの? それ……」

フレンダ「ダイジョブでしょ、しぶとさだけなら駒場並だし。
     ほら浜面さっさと起きて車用意して来なさい! 結局アンタはそれ以外脳がないんだから」ゲシゲシッ

半蔵「おいやめろよお前! 浜面のライフはもうゼロだよ!!」


フレンダ「さっさと起きなきゃ、アンタのバニーガールコレクションをDドライブごと全消去するわよ」


浜面「それだけは勘弁して! 携帯の秘蔵データも全部飛んじゃったのに!!」ガバッ


灰谷「うわぁ……」

白井「…………(豚を見る目)」

絹旗「……超キモ」ボソッ

浜面「はっ、俺は一体なにを……。あれ、何で女子中学生っぽい女の子たちに、蔑みの目で見られてんの俺?」

半蔵「浜面ェ……」

少年E(悔しいッ……なんか嫉妬しちゃう……!)ビクンビクンッ

本日はここまでです。

相変わらず投下ペース遅めですんませんー……。

                 /:/ : : : :/: : :/: :|: : : : : : |: : : : ヾ: : : : :彡
              /:イ : /: : :/:.: : :|: :.:|: : : : : : |: : : :|: : : : : :l : :ト、
           // ,:..:.l : : :l: : : :ィ_,,斗:..: : : |‐ト、_:.:|: :.:|:.: : |:.:.:ト、\

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               /ヽ γ⌒V )i γ         ノγ⌒ヾ  ̄:ヽ
               .′ .::{ ⌒Yノ_,人___人人,人Y⌒ }く   }
            /|  γ''`ー彡'′             `=ミー'  ) :
              /: | :/ く_) イ┌┬─‐┐  ┌┬──┐し (_〉 ヽ:|、
         . :/: :〉 {     i 弋弋 ::::: ノ   ゝ弋 ::::::::ノ i     )|: \
         /.:/:.:.〈 :λ   :|   ̄ ̄   &   ̄ ̄   :|    〈ノ}: : : )、
.        /.:/: : ::::}  乂  乂      ┃’       ノ     j〈: : :(  \、
         ′: : :::::::|   し   ` ー──‐/)──‐一 ´   _,ノ j: : : \  ヾ、
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        { `¨⌒}
          ..>'⌒'〈
        {__,,ノ´ 、}
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           { リ'^i
           、{_,ノ
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           |ミ    _    =ミ: :从:| :i: : : :
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           |  r    ミ.トrり }}i|从 : : : :
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           ト .`’       / /|: : : : : :
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       , /   _}├‐…=≦{:! : |: :|: |: : : : : :|
     { {'⌒¨´ ̄`'く_/ 从: :|: :|: |: : : i: : :

       `て¨i≧r‐ } _/ }iW|: :∧: |: : : |ト、
      、_{'⌒¨´ ̄`ヾ     ∨八{ }:i|: : : || .
      `下≧zr‐ }}    \__ノ リ }: :リ  }
         (⌒“ ̄`Y”,    ⌒て¨}ノイ .ノ'
       、(⌒¨⌒'〈、‘,      '.
          `で下.,__}} ‘.       }、
          {」 ,リ      .≠⌒i
             i | √}     |_/    }
             i 「 }八   ´}      ノ



なんか日常パートと黒夜を書きたい欲求がマッハでヤバかったので
番外編を投下するよ!!!


それは、絹機と黒夜の二人が学校に通い出すよりも、少しだけ前のお話……。



――YOU WIN!

黒夜「しゃあ! 14連勝ー!!」


 学園都市のどこにでもあるゲームセンターの一角で。
 乱入者をほぼパーフェクトで撃退し、黒夜は小さくガッツポーズした。
 筐体の向こう側で、小さく毒づき去って行く少年の背中をニヤニヤと見送る。

 黒夜海鳥は重度のゲーマーである。一日の大半の時間を、ゲームに費やして過ごしているかなりダメな類いの人間だ。
 まぁ一方通行に保護されてからこちら、ずっと学校にも通わずに過ごしていたため、仕方のない部分もあったかもしれない。
 一人で時間を潰せる趣味として選んだものが、黒夜のゲームであり、絹旗のB級映画鑑賞であった。

 そして今日も今日とて、黒夜はゲームセンターで時間を潰していた。
 対戦格闘ゲームというのは、一定のレベルを超えた上級者にとっては随分とリーズナブルな遊びだ。
 今も乱入者相手に連勝を重ね、たったワンコインでかなり長時間遊んでいる。

 とは言え、そろそろ潮時ではあろうか。さすがに勝ちが続き過ぎたため、周りのゲーマー達も挑んでくることなく、
遠巻きにプレイを眺めているだけになっていた。


黒夜(つーか、どいつもこいつも大した奴いねぇな。この辺じゃもう私敵無しじゃね?)


 CPUの相手を片手間にこなしながら、ニヤニヤとそんな事を考える。
 次はもっと街中のゲーセンまで足を伸ばしてみても良いかもしれない。
 こんな寂れたゲーセンよりは、歯ごたえのある相手に出会えるだろう。

 そう思っていた矢先――


――チャリン


 新たな乱入者が現れた。

 この状況でまだ挑んでくる奴がいるとは。どこの命知らずか知らないが、まぁ、いっちょう揉んでやろうじゃないか。
 完全に天狗になった上から目線で、画面に集中する。

 相手はなるほど、それなりにこのゲームをやり込んでいるようではあった。
 コンボは確実に繋げてくるし、反応もいい。しかし、


黒夜(攻めのパターンが少ねーんだよ!)


 誘いの大パンチに飛び込んできたところを、キャンセル技で撃墜。
 そのまま画面端まで追い詰め、一気に畳み掛ける。

 結局、体力ゲージを半分以上残して1ラウンド目を先取した。


黒夜「クヒヒ、らっくしょー」


 筐体の向こうにいる相手に聴かせるように呟く。

 その言葉が――対戦相手である“長点上記”の制服を着た“短髪の女子中学生”の神経に、カチンと触れた。


??(こんのガキッ……上等じゃないの……)


 パリリと。少女の指先から小さな放電が走る。

 そんな事に気づくわけもなく、黒夜は2ラウンド目に意気揚々と挑んだ。
 しかし、


黒夜(なんだ? さっきまでと動きが……攻撃が尽くガードされてる!?
   はぁ!? 小足拾われた!? ウ○ハラじゃねんだぞ、何っだその超反応!?)

――ズガ、バシ、ドガガガ、ズギャァアアン!!

――YOU LOSE! PERFECT!!


黒夜「なんっだそりゃぁあああ!?」


 まるで機械でも相手にしているような相手の反応速度と正確さに、黒夜は唯の一発も攻撃を当てられず逆転負けした。




??「ハンッ、雑魚ね……」フフン

黒夜「クッ……この、舐めんなボケー!!」


――チャリーン!

 先程のお返しか、挑発するような相手の言葉に、反射的にコインを投入する。


黒夜「この! こなくそ!!」

??「ふふーん♪」

――YOU LOSE! PERFECT!!



――チャリーン!

黒夜「クソッタレ! 何で一発もあたんねーんだよ!!」

??「あーもーワンパ過ぎ。欠伸が出るわー」

――YOU LOSE! PERFECT!!



――チャリーン!

黒夜「ぐっ……うう……うぐぐぐぐッ……(涙目)」

??「ちょろっとー? いい加減諦めたらー? 何返やっても無駄なんだからさー」

――YOU LOSE! PERFECT!!



――YOU LOSE……YOU LOSE……YOU LOSE……

………………………………

………………

……


黒夜「どちくしょぉぉおおおおおおお! 覚えてろよー!!!」


 結局二十を超える連敗の末、財布の中身をスッカラカンにして黒夜は逃げ帰った。


      ▽



 余りにも一方的な敗戦から半月余り。

 貰ったばかりのお小遣いを財布に詰め込み、黒夜は再びあのゲームセンターにやって来た。

 あの日以来ずっと、黒夜は家で同じゲームをやり込み続けていた。
 コンボのパターンと正確さを磨き、相手が使っていたキャラの研究を重ね、徹底的に対策を練り上げた。
 半月前と比べ、自分は比べものにならない程レベルアップしたという自覚がある。


黒夜(今なら、アイツにだって勝てる……!!)


 確信を胸に、黒夜は自動ドアをくぐった。
 ゆっくりと回りを見渡しながら店内を歩く。

 果たして、目的の筐体には、ゲームセンターには少々似付かわしくない女子中学生が座っていた。
 一瞬「この間のやつか?」と期待したが、直ぐに首を振る。ちらりと横顔を見ただけであったが、確かあの女は短髪であったはずだ。
 座っているのは、“常盤台中学”の制服を着た、長髪の少女だった。


黒夜(ま、適当に遊んでりゃそのうち来るか……?)



 まずは腕試しとばかりに、筐体に座ってコインを投入する。愛用のキャラを選択。
 コンシューマーでCPU戦は腐るほどにやってきたが、アーケードでの対戦は久方ぶりだ。
 勘が鈍っていないか少しだけ心配だったのだが――

――YOU WIN!
 
 ほぼ圧勝に近い形で1ラウンドを取った。


黒夜(ま、こんなもんか)


 実際に対戦をして改めて確認する。自分は確実に強くなっている。
 相手の腕は決して悪くない。半月前の自分であれば、この相手にもそれなりに手こずっていた筈だ。


黒夜(しゃ! この調子で連勝記録更新するぜー!)


 意気揚々と腕を捲る黒夜の反対側で、


??「むぅー……」


 対戦相手の少女は唇を尖らせて唸っていた。




??(この子つよぉーい。ちょぉっと勝てそうに無いかしらぁ……。
   でも負けるのは悔しいしぃ……)


 キラーンと。その瞳が、視えるはずのない黒夜の顔を、筐体越しに確かに見据える。


??(やっちゃおっかなぁー?)


 異変は、第二ラウンドが始まって直ぐに気づいた。


黒夜(なん、だ? こいつ、何か……)


 攻撃を繰り出す――よりも一瞬早く、相手の攻撃が被せるようにヒットする。
 一旦距離をとろうと下がれば、それを見越していたように相手のキャラがピッタリとくっついてくる。
 兎に角仕切り直そうと繰り出したゲージ消費技は、弱パンチであっさりと潰された。


黒夜(攻撃が、出だしで尽く潰される!? なんでこんな! まるでこっちの考えが全部読めるみたいな――!!)


――ドカッ、バキッ、ベシベシベシッ、ドカァァァン!!

――YOU LOSE! PERFECT!!


黒夜「なんっだそりゃぁあああ!?」


 半月前の出来事をなぞるような逆転負けに、黒夜は半月前とまったく同じ叫びを上げて頭を抱えた。



??「ぷぷっ、よわぁーい」

黒夜「ぐっ、がっ、ぐぅっ……も、もう一回だぁああ!!」


 その後の展開は、もはや語るまでもないだろう。

 半月前に倍する連敗を重ねた末、月の初めにして黒夜はお小遣いの全てを失った。




黒夜「……うっく……ヒック……えっく……」グシグシ…


 マジ泣きしながら帰った。


      ▽



――翌日。

 二人の女子中学生がゲームセンターに訪れていた。

 一人は、長点上機学園の制服に身を包んだ、短髪の少女。
 もう一人は、常盤台中学の制服に身を包んだ、長髪の少女。

 二人はお互いを意識することもなく適当に店内を回り、程なくほぼ同じタイミングで、同じゲームの筐体に座った。

 初めは、ごく普通の対戦だった。
 客観的に見て、二人の力量はほぼ互角。一進一退、手に汗握る攻防の末、短髪の少女が勝利を収めた。


短髪(うっし! 今日は調子いいわー)

長髪(むぅー、後もうちょっとだったのにぃ……)


 負けた少女が唇を尖らせながら、百円玉をもう一枚取り出す。


長髪(またやっちゃおっかなぁ?)


 キラーンと、少女の目が輝く。

 それが――悪夢の一日として、後々までこのゲームセンターで語られることになる、嵐の幕開けだった。




短髪(あら、連戦? ま、いっけどねー。今日調子いいし…………って、あれ? くっ、この……)


――ズシュッ、ドカ、ビシッ!


長髪(ふふ~ん♪)

短髪(さっきと同じ相手よね? 何で急に……ああもう!)ガチャガチャガチャ!

長髪(むだむだむだむだぁ~♪)ガチャガチャガチャ!


――ズガッ、ドガガガガガ、ズバシッ!!


短髪(クッ、このままじゃ負ける……ッ。こうなったら……!)パリッ

長髪(らっくしょ~……って、あらぁ?)


――ガキィンッ! キィンキンッ、ズバシ、ズガァァアンン!!


長髪(な、何でぇ!? 動き読んでるはずなのに操作が追いつかな――)ガチャガチャガチャ!



短髪(フレーム単位で操ってやれば、どんだけ読みが鋭かろうがくぐり抜けられる!!)パリパリパリッ

長髪「――ってちょっと貴方ぁ!! チートしてんじゃないわよぉー!!」

短髪「は、はぁ!? な、なに言い出すのよ急に……」

長髪「トボケんじゃないわよぉ! 全部読めてんだから! 貴方今、電子操作で直接ゲーム操ってたでしょぉー!!

短髪「な、何でバレッ――ん? 全部読めてる?」

長髪「あ、まず……」

短髪「はッ! さてはあんたテレパスね!? あたしの思考呼んでキャラ操作してたでしょ!!」

長髪「うぐっ――そ、そうよ悪い!? 貴方だって電子操作しようとしてたんだからお互い様でしょぉー!!」

短髪「ええそうねー、お互い能力使うなら公平よねー。
   もっともー? 思考読んでから操作するんじゃどうしてもタイムラグが出来るしー?
   思考からタイムラグ無しのダイレクトで操作できるあたしの敵じゃないけどねー」パリパリパリパリパリッ

長髪「う……うううううううぅー……!!」ガチャガチャガチャ!


――ドカバシッ、ガキィンキィン、ビシビシズビジッ!


長髪「こ、こうなったらぁ……私に負けなさい!!」キュインッ

短髪「痛ッ――!?」バチィイ!!



長髪「あれぇ? 操れない?」

短髪「ッ……ち、ちょっとあんた何したのよ!?」

長髪「うーん、なんか電磁フィールドみたいなのに防がれた? ばりやー?
   でも妨害にはなるみたいねぇー? えいっ、えいっ」


――バチッ、バチチィイ!!


短髪「あだっ!! だっ! ちょッ、あんたいいかげんにしなさいよ!?」

長髪「隙あり!!」ガチャガチャガチャ!

短髪「あっ、この――ざけんなぁあ!!」ビュンッ


――ズビシィイ!!


長髪「あいたぁあ!? な、なにこれ、ゲームのコイン?」

短髪「そらそらそらそらぁあ!!」

長髪「ちょ、貴方周りに落ちてるコインを――いだっ、いだだだだ!!」ビシビシビシビシッ!!



店員「お、お客様!? 店内で能力の使用は――」

長髪「ちょっと貴方! そこのバカ女止めなさい!!」キュインッ

店員「――イエス ユア ハイネス。オキャクサマ、チョットコチラヘ」ガシッ

短髪「はぁ!? 何よちょ、放しなさいよ!!」

店員「ゴタイテン、ナガイマス」

長髪「ふふ~ん、とっどめぇー♪」

短髪「こ、がっ、うっがぁぁぁあああああ!!!!」バリバリバリバリィィィイイ!!

店員「ギャァァァァァアー」


      ▽




一方(コンビニ弁当なンざ、久しぶりだなァ……)


 二人分の弁当と大量の缶コーヒーが入ったコンビニ袋を下げ、一方通行は気だるげな足取りで帰路を歩いていた。

 いつもであれば家にいるニートもどき二人が家事やら何やらをこなすのだが、
今日は絹旗が朝から映画を見に出ており、黒夜に至っては昨日泣きながら帰ってきたきり部屋から出てこようともしない。
 
 誰も食事を用意しない日は外食が多いのだが、黒夜が家から出ようとしないためそれも無理。
 そのため、今日はコンビニ弁当と相成ったわけである。


一方(つゥかゲームでボロ負けして引きこもるとか、アイツどンだけ打たれ弱ェンだよ。
   いや、小遣い無くしたことが堪えてンのか? どっちにしろ自業自得だが……)


 同情する気もないが、それほど酷い負け方をしたのだろうか?
 あの重度のゲーマーが、そこまでボロボロにされるなど、確かに珍しい話ではあるが。

 ああそうそう、たしかそこのゲーセンにいつも通っていた筈――


――バリバリバリバリィィィイイ!!

<ギャァァァァァアー
<ノ、ノウリョクシャダー!!!
<ヒィィイ、オタスケー!!


 突如響た轟音と悲鳴に、一方通行は目を見開いた。




一方「あァ? 何の騒ぎだ一体……」


 怪訝な顔で店内を覗き、一方通行は更に目を丸くした。
 店内の有様は、相当どころではない荒事の経験を持つ一方通行の目から見ても、それ程に酷いものだった。


長髪「ちょっと、店員に能力使うなんて何考えてんのよぉー!? 犯罪よ犯罪ー!!」ガチャガチャガチャ!

短髪「うっさい、けしかけたのはアンタでしょうが!!
   つーかアンタの喋り、微妙にセンパイに似ててムカつくのよ!! キモッ、まじキモッ!!」バリバリバリバリ!!

長髪「はぁー!? 先輩なんて知らないわよ誰よそれ!!
   自分が負けそうだからって全然関係ない話持ちだしてバッカじゃないの、バッカじゃないのぉ!?」ガチャガチャガチャ!

短髪「正攻法で負けたからって先に能力使ってきたのはアンタでしょうがぁああ!!!」バリバリバリバリ!!

長髪「うるさぁい!! しねー! しねぇー!! 氏ねじゃなくて死ねぇー!!」ガチャガチャガチャ!

短髪「お前が死ねぇぇぇえええ!!!」バリバリバリバリ!!


 荒れ狂う電流、ショートして煙を上げるゲーム機。
 逃げ惑う人々と、何故か虚ろな目をして短髪の少女に向かっていく数人の人間。
 それは戦場もかくやという、阿鼻叫喚の光景であった。

 しかも当事者の一人がよく見知った人間だった。
 というかアイツ今、間接的に自分のことをキモイと言わなかったか?




 深い、本当に深い溜息を一つ。
 ついでに納得もする。アイツが引きこもった原因は、多分こいつらか。
 
 そして、トンッと足裏で地面を叩いた瞬間、少女達が座っていた椅子がズルッと後ろに滑り、
二人は筐体に顔面を打ち付けて仲良く昏倒した。


 水を打ったような静寂が訪れる。

 もはや店内に視線を向けることもなく、一方通行は歩きながら携帯を取り出した。


一方「もしもし、アンチスキルですかァ? あのォ、能力者が二人ゲーセンで暴れててェ。あハイ、場所はァ……」


 後輩に対する慈悲を一切捨ててアンチスキルに連絡しながら、「ちっとは慰めてやっても良いかもなァ……」と一方通行は考えていた。


      ▽




――コンコン

一方「入るぞォ」


 返事を待つこともなく、一方通行が部屋に入ってくる。


一方「おら、弁当買ってきたぞ」

黒夜「……要らない。後で食べる」

一方「そォかよ」


 目も向けずに返された素っ気無い返答も気にすること無く、一方通行はズカズカと黒夜に近づいてくる。
 それを無視して、黒夜はFPSゲームを黙々と続けていた。
 
 ポチッ、と一方通行の手でゲームの電源が切られる。
 流石にそこまでは無視できず、黒夜は彼を睨み返した。


黒夜「……何すんだよ」

一方「ゲーム買ってきたからちょっとやらせろ」

黒夜「ハァ?」


 訳が分からず、怪訝な顔を返す。
 今まで一方通行が自分でゲームを買ってきたことなど皆無だった筈だが。




黒夜「テメェがゲーム買うとか、何の冗談だ?」

一方「店頭デモが結構面白そォだったンだよ。いいからちょっとオマエ、対戦の相手しろ」


 一方通行が袋からゲームのパッケージを取り出す。
 それは、先日黒夜がボロ負けしたゲームの、コンシューマ版最新作だった。


黒夜「……トーシロが私に勝てると思ってんの?」

一方「アホか、ゲームだろォがなンだろォが、俺がオマエごときに負けるか。
   万一オマエが勝ち越せたら、千円くれってやるよ」

黒夜「……ケッ」


 悪態をつきつつも、黒夜は拒否しなかった。
 そのまま絹旗が帰ってくるまで二人はずっとゲームを続けた。

 黒夜の顔に、小憎たらしい笑顔がちょっとだけ戻った。



おしまい!

久々に日常(?)パートがかけて俺スッキリ。

あ、ちなみに格ゲーとかあんま詳しくないので、
その辺の細かい描写とか突っ込まないでもらえると助かります。

          ∠ニ、ヽ
         ___)ノ
       /: : : : : : `ー.、                                  _,. -―‐- 、

      ノ://: / /: : :ヽ: :ヽ                               /  ,.  \  \
  -=≦: /://、_レイ:/|: : ∧: :}                               { / >―-ヽ  ヽ
   ___ノ: :V: !: N__j/ j/!/_ V八                                 <j 《       ヽ  ハ
  ´ ̄フ: :{ !∧ | ´ ` 、 ´ `{┌ヽ                            / ∧7T ‐ァ 、__》_  i
   -イ: : ノ>V (⌒ヽ  人}、〃`_                           / レヘト芯レヘ斗<  <  |
    -=≦_,.イ} ≧=-'⌒ヽ=-{{〃⌒ヽ                     /∧_j\!ゞ'  弋り八「 ̄ ,ノ!
     〉 r'´_〉 / /、ー-、  r ヽ、\                         } ,j_ぅ}:::::ヽ' ___,. イ∧   ト、
  ___/ 冫  } { ト、 \  \U-、_〉〉′                    _/_/_/:::::::::::::::::::::::::::::/ ヽ\   \
. /    ヽ_// ヽ ! \ \  } 八´                     _{>::::::::::::::::::::|::/:::::::::〈{  | ヽ\    \
|     /  |   :ト、_,ヘ_ト、_メ、  ! \                    _,.≧:::::::::::::::::::j∧::「ヽ!::\__j :!  :}     \
|   ∠  レク  j_∧_j乂}トrゥ从ト、「 `                         />∧/jハ「レ'|7、::::::Y^V≧┤ ハ   __ヽ
八___/从ト〈〈} 八个‐″ ,ノ 、イ人! ヽ                      //j爪{厂,  {厂j/!:::::ミ、ノ< 〉   }___/   \
   \ _j∧_,厶イ人    _,  人   }                 //:〈 iニ八      j∧:::ハ「三V   /  ∧ ̄ ̄ヽ
    ≫=ヽ冫  }> 、 _´,.イ     ∧                / ∧ V三ニ ヽ ‐- ,. イ/Vニ /三ヽ  ∧_/ | i
   〃 /ヽ'   /ハ厂/   _,. <! ∧                   | :| ヽ∧三三三》´  く三三/三三ハ'  |   :! !
   {{ / | : \∧  \_,. イ  ∧ | : : |               | :|  |ヽ三三ニ《_ヽ /ヽ三/三三三:!  :ト、 :| |\
    冫 | : : : \\    ヽ{  !  :|\/!               \!  |三三三 ∧_{ }__,/ニ/∧三三ニ|  ∧\ | |\\_,
   /!  ! : : : : : >〉   八  |__ノ   |                ヽ. !三三三ニ 》 V /三=∧三ニ/、 :/ ト、j乂   ̄´
  /: {___ヽ__/V-'  __ /: :} ̄「: : \/!                      |三三ニO〃==V三三ニ!ヽ.∧ V   ! ヽ__ハ
  〈: : __/  ゝ--(_,ノ : /: : :ト、 : : : ∧        ,.≦≧=-、_     !三三三/ー――ヘ三三 !三三!、______} }>‐、
. /三ニヽ     ∧___/: : :∧ヽ : : ∧ |       〃三三ヽ三≧---|三三O《、_____|三 ∧三 ∧ \____,jノ-- 、 〉

/三三三\   /{ ヽ: : : : : : : : : :〉 \/  ハ         V三三三\三三ニ!三三ニ∧     /|三 | ∧ニ|三三三三三三ハ{ノ/
|三三三三 \{  \ \ ----/、    /: : }       V三三三三三ミ、:!三三三 |   / :!三 |三ヽ:!三三三三三三ニ}/
V三三三 ヽ三ヽ   !\__\/{: : : \_ /: :/〉        |三三三三三三∧三三三|  〈_ /三/三三|三三三三三三 /
. ヽ三三三=!三 |   |: : : // ヽ : : : / ̄ /-、        \三三三三ニ/三i三三三!    /ニ∧三/三三三三三三/
  |三三三=!三八  \/ : {   \_/ /三三\        \_三三三三:|三三三!    《ニ/三/三三三三三 >'´
  ヽ三三三}三三\__{: : :ヽ    /∠三三三三> 、       〉三三三ニ≧=ミ、》≦ニ≧V三三三三三三三/
  | \三 /ニV_三三三{\: : :\__/三三三三三}三三> 、     \三三三三三三《、r--、ニ》三三三三三三/
  |三≧≦三} `ー- ノニ/`ー―〈三三ニ=― /三三三ニヽ     \三三三三三 》 /三三三三三三三/
  |三三三三ハ    r1´三三/ | 「三三ニ /三三三/三}        |三三三三ニ/ {三三三三三三ニ/
  /三三三ニ/ニ》    冫ニ /三ニレィ´三三〈三三三/ニ/      |三三三ニ/ /∧三三三三三_/




すいません、突然ですが第二部最終回です。



■窒素マスター 絹黒!!
 ~希望を胸に すべてを終わらせる時…!~


少年A「さぁ来い一方通行!! 実は俺は一発殴られただけで死ぬぞ!!」スギャーン!!

一方「少年A!!」

少年A「更に言えば人質は貴様の妹達に全員救出され、少年CとDは俺を見捨ててバックれた!!
   後は俺を倒すだけだな、クックックッ!!」

一方「くかきくけこかくけこきかー!!!」ズドーン!!

少年A「ぐはぁあああああ!!!」


無能力者刈りA「うおー何事だー!?」

無能力者刈りB「掲示板のスレッドを見て集まってきたら、第一位が暴れてるぞー!?」

無能力者狩りC「罠だったんだー!!」


初春「私が一分でやりました」


一方「圧縮圧縮ゥゥゥううううう!!」ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

無能力者狩りD「もう駄目だー!!」

無能力者狩りE「誰か助けてくれー!!」



垣根「そこまでだ!!」

婚后「トンデモ人間ロケット砲!!」バシュウ!!

上条「うぎゃぁああああああああああ!!?」キュピーン!!

一方「何!? 俺の圧縮プラズマが消されただァ!?」

土御門「代償に上やんが星になったぜよ……」

垣根「心配すんな、婚后も馬鹿じゃねぇ。ちゃんと貯水池とかに落下するよう計算して飛ばしてる」

婚后「え?」

土御門「『え?』って言ったにゃ!! 今絶対『え?』って言ったにゃー!!」





一方「オマエ等、いったい何もンだ……」

垣根「俺たちか? 俺達はそう……対高位能力者特別更生権取得生徒会連合――通称『スクール』だ!!」ババーン!!

一方「スクールだとォ?」

垣根「元々はレベル5他、問題児揃いの高位能力者を抱えた生徒会同士が、
   不祥事の抑止を目的とした情報交換をするための同盟だったんだがな。
   理事会との交渉の末、この度目出度く直接執行権を得た」

白井「何ですって!?」ガビーン!!

一方「……おい、オマエどっから現れた」

白井「テレポーターですので。それより貴方!!
   スクールだかなんだか知りませんが、それはジャッジメントやアンチスキルの仕事ですの!!」

垣根「うるせえ、所詮ジャッジメントは校内の治安維持が役目で校外は管轄外!
   外で暴れる曲者揃いの高位能力者相手にゃ対処できねえだろうが!!
   とはいえアンチスキルじゃ対応が遅え!! 何か問題が起こってから腰を上げるなんざ、馬鹿の極みだ!!」

白井「ぐぅう!?」

海原「あ、因みに私もスクールの一員ですんで」

一方「…………誰?」

白井「ああ!? 貴方は人質救出のための協力をしてくださった海原さん!!」

垣根「へっ。見ての通りだ。こっちは学校内の情報を常に収集、交換しあい、不穏な動きに対して予め対策を打てるんだよ!!
   職権が上のアンチスキルに頭抑えられてるジャッジメントが、こんな積極的に対応出来るか?
   教師という本来の役職が枷になってるアンチスキルが、ここまで柔軟に動けるか?
   出来やしねえよなぁあ!! はぁーっはっはっはっはっはっは!!!」

白井「くぅッ、なんて事ですの……!! このままではジャッジメントの権威が失墜してしまいますの!!」

一方「……何だこの怒涛の説明口調……」



垣根「と、いう訳で……全員お縄に付けや社会の屑共ぉぉおおおお!!
   今までテメェらの問題処理に追い回されて来た生徒会役員の恨みを、思い知りやがれぇえええええ!!!」バサァア!!

無能力者狩り達『ぎゃぁああああああこいつも化け物だぁあああああ!!!』

インデックス「全員の顔記憶済みだから、逃げても無駄なんだよ!」

滝壺「AIM拡散力場の情報も同じく……。
   ここに来てない人でも、今日の一連の抗争に参加した人はすべて記録済み……」ブイッ

鉄網「捕まえた人の情報を読んで、更に芋づる式、芋づる式……」ブイブイッ




一方「…………何だったンだ、一体」

フレンダ「フレメアー!!」

フレメア「おねえちゃーん!!」

――ダキッ!!

一方(あ、このガキ居たの忘れてた……)


駒場「皆、無事だったようだな……」

浜面「駒場リーダー!」

半蔵「生きてたのか!!」

駒場「ふ……胸ポケットに入れていたフレメアの写真が無ければ、即死だった……」

浜面「いや、写真で何をどう防いだんだよ!?」

駒場「フレメアの生写真は、常に五十枚程持ち歩いている……」

フレンダ「ジャッジメントさん、こっちです」

白井「はいはい、逮捕逮捕……」ガチャッ

駒場「な!? 俺が何をしたという……!!」

白井「いや、貴方この間ATM強奪しましたわよね?」

駒場「あ……」


フレンダ「駒場を囮にして全員撤退!!」

フレメア「にゃー!」

駒場「き、貴様!?」

浜面「わりぃ駒場リーダー!」

半蔵「後で助けにくっから!」

白井「お待ちなさい、絶対に逃がしませんわよー!!」ヒュンッ!




一方「………………帰るか」



 こうして学園都市の平和は守られ、窒素姉妹の活躍シーンは削られた。

 しかし新たに現れた治安維持組織『スクール』の存在に、白井黒子を初めとしたジャッジメント達はどう立ち向かうのか。
 そして自分達とはぜんぜん関係ないところで揺れ動く物語に、窒素姉妹はどう出番を勝ち取るのか。

 がんばれ絹旗。負けるな黒夜。主役は多分、君達だ。
 




【とあるファミレス】


絹旗「――って、ちょお待てやぁあああああ!!!」

フレメア「にゃ!?」

黒夜「……絹旗ちゃん、なにいきなり叫んでんの?」

結標「今のは『ちょっと待て』と言うセリフを関西弁っぽく叫んだのかしら?
   それともいつも通り『超待て』って言ったのかしら?」

絹旗「そんな事は超どうでもいいんです!!
   それより何ですかこれ! この打ち切り漫画的超展開は!! 私の活躍シーンはどこですか!!」

麦野「打ち切り漫画? 何言ってんのこの子、頭でも打った?」

灰谷「活躍なら、人質救出の時にいっぱいしとったやん。白井さんと一緒に」

絹旗「ええそうですよ、超しましたよ活躍!! 最愛ちゃんマジ無双!!
   なのに何でそのシーンが一つも語られずに省かれてんだって話ですよ!!」

麦野「アンタの活躍話なら、アタシ等散々聞かされたじゃない」

絹旗「そういう話じゃねぇえええ!! 読者に語られなきゃ意味がねぇええええ!!
   と言うか上の打ち切り話にしても、あれだけ伏線キャラを無理矢理出しておきながら
   何で私が出てないんですか!? いくらでも出せる余地あったでしょう!?
   超納得行かね――」


――バチィッ!!

絹旗「うッ」バタッ


ウエイトレス「お客様。店内ではお静かにお願いします」バチバチバチ

黒夜「あ、すいません……(何でウエイトレスが……)」

結標「以後気をつけます……(スタンロッド持ってんだろう……)」


フレメア「お姉ちゃん、モミアゲのお姉ちゃん」クイクイッ

黒夜「これはモミアゲじゃねえ。そして引っ張んなッ」

フレメア「あたし大体パフェが食べたい感じ」

黒夜「別に良いけど、お前金持ってんの?」

麦野「いいじゃん、結標がまた奢ってくれるわよ」

黒夜「マジでか。じゃあジャンボパフェ二つ」

結標「ちょっ――!?」

ウエイトレス「かしこまりました。若さに溺れて三年後に死ね」ペコリ

灰谷(また凄い捨て台詞が……)

結標「うう、また余計な出費が……」



麦野「ところで今更だけど、何でそのちっこいの連れて来てんの?」

黒夜「別にあたしが連れてきたんじゃねーし。そこで偶然会っただけで……」

灰谷「何や黒ちゃん、懐かれたみたいです」

フレメア「大体、マブダチ」グッ

麦野「マブダチ……」

結標「良かったわね、お友達が増えて……」

黒夜「誰がマブダチだッ。おい、やめろそんな憐れむ様な目で見るな!
   特にむぎのん、そっちだって友達居ねえだろ!!」

麦野「あ゛ぁ!? 誰がだテメェ、アタシが校内で一声掛けりゃ何人跪くと思ってんだ!!」

黒夜「それは友達じゃねぇええええ!!」


――バチバチバチィッ!!

麦野「うっ」バタッ

黒夜「あっ」ドサッ


ウエイトレス「お待たせしました。ジャンボパフェ二つです」

結標「あ、すいません。そこ置いといてください」

フレメア「わーい」

――コトッ、コトッ

ウエイトレス「それでは。ごゆっくりどうぞ」スタスタスタ…


フレメア「はむ、はぐはぐ」

絹旗「……」

黒夜「……」

麦野「……」

結標「…………平和ねぇ」

灰谷「そですね……」



―― 第二部 完 ――


本当に…すいませんでした……。
でもモチベ的にもうこれ以上なんか二部続けるの無理っていうか……。
どうにもこうにも続きが書けなかったので……。

次回より日常に戻ります……。

■ウチのていとくんの奇跡

◯好き勝手にスクールライフを満喫 ←ナンパしてたのはココ
       ↓
◯なんとなくモテそうという理由でうっかり生徒会長になる
       ↓
◯問題児達の事後処理に奔走させられる
       ↓
◯死ね、クズ共マジ死ね。むしろ俺が殺す
       ↓
◯生徒会にそんな権限はない?
 俺の生徒会に常識は通用しねえ!!
       ↓
◯『スクール』立ち上げ ←今ココ


要するに、『スクール』はていとくんの憂さ晴らしのために出来た組織ですッ。

あと、今日明日ぐらいには続き投下できそうな感じ。

奇跡じゃねえ、軌跡だよバッカ


サッカーも終わった所で、投下します。


【これまでのあらすじ】

 実は窒素姉妹が学校に通い出してから、まだ三日くらいしか経ってない。



【長点上機/一方通行特別教室】


美琴「最近先輩に女の影が見えるッス」


 一方通行ただ一人のために用意された学園内の教室で。
 勝手に持ち込んでいるポットのお湯をカップ麺に注ぎながら、御坂美琴は唐突に切り出した。


布束「……それで?」


 対する布束の返答は、酷く淡白なものだった。
 チーンと、これまた無許可で持ち込まれている電子レンジが音を立てる。
 中から程良く温まった弁当を取り出し、布束はフカフカ絨毯の上に腰を下ろした。
 ちなみに絨毯の真ん中にデンッ、と鎮座しているテーブルはコタツである。
 今は夏なので、布団は取っ払われて教室の隅に丸められているが。


美琴「それで? じゃないっスよ。先輩に女っすよ女。マジ有り得ないッス」


 そのコタツの対面に同じく腰を下ろしながら美琴が続けた。
 自分のカップ麺と、一緒にお湯を入れた布束のカップスープをコタツの上に置き、傍らにあったリモコンに手を伸ばす。
 42インチ液晶テレビを電源オン。
 適当にチャンネルを回してみるが特に目ぼしい番組もなかったので、いつも通りグラサン親父が司会の長寿番組に合わせた。
 正直特に面白いと感じるものでもないのだが、まぁ習慣というやつである。


布束「そう? however ウチの女生徒にも、割と人気あると思うけど」

美琴「それは動物園の珍獣に対する人気と同じ類のもんじゃないッスか」

布束「もの凄い事言うわね貴方……」

美琴「事実じゃないっすか。遠目から眺めてキャーキャー騒いでるだけで、絶対に近づこうとはしないっすもん」

布束「……そうね。well 事実だわ」


 カップ麺の蓋を剥がしながら、何処か不機嫌そうに語る後輩の様子に、布束は僅かに苦笑を漏らした。


 意図せず生まれた沈黙を遮って、部屋に隅に置かれているPCからメールの着信音が響く。
 恐らくまた、論文の電子データが一方通行に送られてきたのだろう。僅かなタイムラグを置いて、プリンターが自動で論文の印刷を始める。
 
 この教室に、教師が訪れることはない。
 この学校に在籍する教師の誰にも、或いは学園都市に在住する教師の誰にも、この部屋の主に対して教鞭を振るえる者はいないからだ。
 代わりに送られてくるのは、世界中の名立たる学者達が書きしめた、最新の論文の数々。
 彼はその論文をただ一人この部屋で読み、理解する。世界の仕組みに対する理解を深める。
 深めれば深めた分だけ、彼の能力は肥大していく。
 世界を意のままに操るかのような彼の力が、一歩一歩完璧に近づいていく。
 彼に課せられた学業は、ただそれだけだ。

 彼は普通ではない。
 美琴と布束、一般の基準から見れば十二分に天才と呼べる彼女たちと比べてさえ、比較にならないほど突出している。
 だから、彼が普通の扱いを受けることはありえない。

 この教室にしたってそうだ。
 通常の半分ほどの広さの教室には、彼が勝手に持ち込んだ(一部は美琴と布束のものだが)雑多な物で溢れているが、
誰からも文句を言われることはない。



 VIP待遇? いいや、それこそ美琴の言う通り珍獣、それも絶滅寸前の特別天然記念物に対するものと同じだ。
 壊すことを恐れ、不用意に触れず、近づかず、しかし決して檻から逃さぬように見張っている。

 当の本人はもはや慣れてしまい気にも止めていないのだろうが、彼と本当に親しい人間にとって、
こんな扱われ方は見ていて決して愉快なものではなかった。


布束「それで…… nevertheless その女の影は、周りの有象無象とは違うと?」

美琴「だって、携帯にメールしてきたッスもん。先輩がその辺の女の子とメアド交換とか、マジあり得ねー!」

布束「……本人に直接聞いてみれば?」


 そう言って、布束は傍らのソファーで絶賛爆睡中である一方通行を指さした。
 いつもの如く、音を反射しているのだろう。これだけ騒いでいても一向に起きる気配がない。



美琴「聞いたッスけど、『うるせェ、知らン。寝る』って言ったきり相手にしてくんなかったッス」

布束「そう。then ……」


 するりと。布束の手が、一方通行の腰に伸びた。
 細く色い指先がズボンのポケットに怪しく滑りこみ――衣擦れの音もなく携帯電話をつまみ出す。


布束「こっちの当事者に聞いてみましょう」

美琴「さすが布束先輩っス。マジパネェー」


 ひゃっほーいと美琴はコタツに身を乗り出した。


      ▽



布束「so 名前はわかるの?」

美琴「本名は分かんないですけど、先輩、第四位とか呼んでたッス」

布束「第四位……レベル5の? いつの間に知り合ったのやら……。
   however 名前ぐらいは聞いたこと有るわね。確か……麦野沈利、とか言ったかしら」

美琴「女ですよね? 顔は知らないんスか?」

布束「写真でなら見たわ。美人だったわよ。well, 性格は悪そうだったけど」ピッピッ

美琴「ほほぉう……」

布束「Oh dear, 分かっては居たけど……アドレスの登録数、少ないわね……」

美琴「先輩……」ホロリ

布束「む……む……って、普通にそのまま『第四位』で登録してるわね。
   どうする? メールでカマでも掛けてみましょうか」


美琴「あ、私に考えがあるっス」

布束「……どんな?」

美琴「こないだちょっと一発芸の練習してて会得したんすけど……。
   え~っと、こう声帯を微電流で刺激して、調整して……」

布束(一発芸……この子、どんどん下っ端根性が染み付いてきてるわね……)←何かにつけてムチャ振りしてる人

美琴「んん! あ、あ、あー……あァー。うン。どォっすかァ、この声ェ。先輩のに似てますゥ?」

布束「…………indeed 気持ち悪いほどにソックリね」

美琴「これならァ、直接電話してもいけると思うンスよォ。
   その方がァ、相手の反応とかも分かると思いますしィ」

布束「……Great. いいわ、やりなさい」

美琴「りょォかいッス。じゃァ、事前に会話の内容を決め――」

布束「あ、ノープランでよろしく」←サングラス装着

美琴「え゛?」


      ▽



――prrrrr……prrrrr……ガチャ


麦野『もしもし?』

美琴「よォ。俺だ……」

麦野『何よ急に?』

美琴「いや……今何してンのかと思ってなァ」

麦野『ハァ? 学校にいるに決まってんでしょ』

美琴「あァ、そ、そォか。そりゃァそォだな……(っべー、マジっべー。何話せばいいのかマジ分かんねー……)」

麦野『で? 一体何よ。アンタが電話掛けてくるぐらいだから、何かあんでしょ?』

美琴「え? いや別に……その、アレだ…………オマエの声が聞きたくなってなァ」


<ガンッ!!


美琴「……なンの音だ?」


麦野『な、なんでもないわ……。ていうか、え? 何それ、ギャグで言ってんの?』

美琴「いや、えっと、あァー……」


美琴(こ、ここからどうすりゃいいっすか布束先輩!?)

布P(任せなさい……)カキカキカキ……ドンッ


カンペ[ところでオマエ、バスト幾つあんの?]


美琴「ところでオマエ、バスト幾つあンの?」

麦野『ハァァア!?』


美琴(ちょッ――勢いで言っちゃいましたけど、いきなり何聞かせてんスか!?)

布P(because だってコイツわりと巨乳好きだから)

美琴(え? ま、マジで……?)

一方「……」スヤスヤスヤ…


麦野『なっ、い、いきなり何言い出してんだテメェ!?』

美琴「(ええい、もうどーにでもなーれ!)わりィ、実はオマエの胸が頭から離れなくてなァ。夜も寝らンねェンだ……」

麦野『な、な……あ、アタシの、胸がって……い、いきなりそんな事、言われても……その……』


美琴(あれ、そんな引いてる様子もない? これってマジで脈あり……?)


美琴「すまねェ第四位。いや、沈利!」

麦野『し、しず!?』

美琴「オマエが戸惑うのも分かる! けど俺は、沈利の――」


布P「……」ドンッ

カンペ[そこでボケてッ]



美琴「沈利のパイの実ハチミツたっぷりさっくさくゥー!!」ズビシィ!!



麦野『………………』

布P「……ッ……ッッ…………!!」ピクピクプルプル

美琴「………………(なに言ってんだ私)」


麦野『……よぉく分かったわ、私をからかってた訳ね。その包茎の皮焼き切られてえか第一位』

美琴「い、いや違ェンだ!!(何この人超怖い……)」

麦野『何が違うってんだ、アァ!? 序列上だからって調子のってんじゃねぇぞ!』

美琴「アレだ! アレだから仕方ねェンだ! 童貞だから! 俺童貞だから!!」

麦野『んなこと聞いちゃいねぇえええ!! つーかなんの関係があんだよ!?』

美琴「童貞だからちょっと先走っちまったンだよ!!」

麦野『それで上手い事言ってるつもりかオイ!!』


布P「……」トンッ

カンペ[10ポイント!]


美琴「ポイントは取れた」

麦野『なんの話だ!』


布P「……」トンッ

カンペ[厨二っぽい返しで]


美琴「ガイアの意志が、俺に即興芸人(インスタントワード)の宿命を果たせと囁いてンだ」

麦野『が、がい? がいあ? いんすたんとわーど……?』

美琴「それは自我を極限まで追い込む悪魔の試練(ディシプリン)。
   一度しくじればコキュートスの永久凍土が、この身ならず俺の心(アストラル)まで凍てつかせる」

一方「ほォ、そいつは難儀だなァ」


美琴「ふ、運命(ディスティニー)ってなァ、何時だって非情なもンだ。
   テスタメントの魔女に刻印を受けた俺であれば尚のこと。
   しかしその絶望こそが、俺に秘められし黒翼を羽化させるための生贄(サクリファイス)と――ってあれ?」

一方「話はそれで終わりか?」

美琴「…………あ、そろそろ授業始まる!」ダッ!!

――ガシッ

一方「逃がすかボケ」

美琴「違うんス!! 違うんスよ、これはプロデューサーが――って居ねぇ!?」


カンペ[ガスの元栓を閉めたかどうか気になったので帰ります]


美琴「布束先輩ぃぃぃぃいい!!?」

一方「取り敢えず携帯返せ」

美琴「あっ」


一方「よォ、第四位か?」

麦野『……どういう事なわけ?』

一方「ウチの馬鹿後輩の馬鹿な悪戯だ。馬鹿には後で詫び入れさせるから、一先ず切るぞ」

麦野『あっそう。もう何でもいいわ。じゃあね』ブツッ


一方「さてと……」

美琴「…………て、テヘ?」

一方「今のでムカつきが5割増しだわ」ビキビキ

美琴「ヒィィィィイイすいませんんん!!!」


      ▽


 後日、『御坂美琴の細かすぎて伝わらないモノマネ二十連発』と題されたムービーメールが麦野の携帯に届いた。
 ついでに「リクエスト可」と書かれていたので、取り敢えず思いつく限りのリクエストを送信しておいた。

 その日から、第三位と四位の実質的な序列が逆転したことは、言うまでもない。


おしまい。

美琴のキャラが汚れてるのは、布束さんのプロデュースのおかげです。
全て布束さんの責任なので、クレームはそちらにお願い致します。


すんません、えらい間が空いてしまいましたが、
今日、投下できると思います……。

久方ぶりの投下、行きます。


【とある店内】


 不可思議な光景だった。

 そこは、ある種のアンダーグラウンドに位置する店であった。
 非合法という訳ではない。しかし、一般人はまず寄り付かない、己の欲望を満たすべく訪れる店。
 ある種の信仰と崇拝に心を浸した者たちが、現実と乖離した理想郷への鍵を求めてやって来る、そんな場所だ。

 そこへ、一人の少女が足を踏み入れた。
 この場所には余りにも似付かわしくない、お嬢様然とした制服に身を包んだ少女。
 本来ならば入店することさえ敵わない少女の姿をしかし、客も、店員も、誰も気に止める様子はなかった。
 声をかけるどころか、眼を向けることさえしない。まるで、彼女の存在そのものに気付いていないかのようだ。

 そんな中、少女は慣れた様子で悠々と店内を進み、スッとカウンターに一つの紙切れを差し出した。

食蜂「すいませぇん、これ予約してたんですけどぉ」キュインッ

店員「ッ――……ハイ、ショウヨウ オマチクダサイ(レイプ目)」

 その紙には、『PCゲーム 聖チョモランマ学園 ~こんな可愛い人がお姉様なわけがない~』と書かれていた。


      ▽


 購入したゲーム及び予約特典の収められたビニール袋を胸に抱き、食蜂操祈は上機嫌で早足気味に歩いていた。
 金曜日の午前中と言う時間帯でありながら、彼女が一路目指すのは寮の自室だ。学校は当然のごとくサボリである。
 今日購入したゲームのジャンル上、流石にルームメイトである後輩が居る場ではプレイし辛いため、取り敢えず彼女が学校に行っている真昼間の間にひたすら堪能する心づもりだ。
 その後は後輩が帰ってくると同時に食事と仮眠を取り、邪魔者が寝静まった夜中に起きてまたプレイ、というのがこの種のゲームが発売される月末あたりの、彼女のライフスタイルであった。

 引き篭もり? フヒヒ、サーセンwww
 その類まれなる美貌ですらカバーしきれないニタニタ笑いを浮かべながら、食蜂が口の中で小さく呟く。
 女王と呼んで彼女を慕う者達にはとても見せられないキモヲタっぷりであったが、まぁ誰にも見られていないので無問題である。
 住人の大半が学生という学園都市の性質上、平日のこの時間帯は驚くほど人通りが少ない。学生寮が集まるこの辺りとなれば尚更のことであり、それ故彼女はまったくの無警戒で小道の角を曲がった。

 その先に――白一色の少年が居た。


――ハンシャッ♪


食蜂「ごッ、がぁぁぁあああぁぁああああああ!!?」


 気が付けば、食蜂はちょっと正気を疑うような叫び声を上げながら、数メートルの距離をノーバウンドで吹っ飛んでいた。



 激痛――とすら認識できない、体をバラバラに砕かれたような衝撃が骨髄の奥まで響き渡り、乱反射を繰り返す。
 意識は酷い明滅を繰り返し、三半規管の狂いとあいまって自分が今何処を向いているのか、どんな状態なのかさえ理解出来ない。
 背中にまた衝撃。地面かと思ったが違った。ぶつかったのは通りの向かいの壁だ。そのまま今度こそ地面に肩口から落下し、そこに至ってようやく痛みを認識する。
 地獄であった。足の先から頭のてっぺんまで、絶えずハンマーで殴りつけられているような激痛が走り続け、食蜂はギィギィと声なき声で喉を震わせて地面をのたうち回る。
 動けば動くだけアスファルトの地面がその柔肌に擦過傷を刻みつけてくるが、それはむしろ救いの手であった。この痛みを、苦しみを、僅かであろうとも紛らわせてくれる優しい母の抱擁だ。


少年「あ……わ、わりィ……大丈夫か?」


――ママ、ママどうしたの、ちょっと見ない間に随分と痩せたのね。なんだか肌が岩みたいにゴツゴツしてるぅー……。

 痛みのあまりそんな幻覚に浸りながら、涙と鼻水でグチョグチョにまみれた半笑いをフヒフヒ浮かべていた食蜂の耳に、少年の声が遠く届いた。


少年「やっべェ……これまさか脳がやられてねェか? カエル医者ンとこ持って行きゃ、どうにかなるか……?
   お、おい、取り敢えず痛みだけでも取り除いてやるから、ジッとしてろ……」



 地面に這いつくばったまま無意識にズリズリと地面を頬ずりしていた食蜂の額に、少年の手が添えられる。
 途端、嘘のように痛みが引いていった。
 徐々に覚醒していく意識。先程までとの余りの落差に、ひょっとして自分は夢を見ていたのではないかと疑ったが、地面に這い蹲る自分の姿と、バツが悪そうにこちらを見下ろす白い少年の様子から、

どうやら現実の出来事であったらしい。

 それに痛みこそ無いが、全身が痺れたように小さく震えていて、上手く動かない。


少年「意識はあるな? オイこれ何本か言って見ろ」


 立てた指をこちらに向けてユラユラと揺らす少年に向け、三本……、と小さく呟く。
 すると少年は、なンだ正気じゃねェか、と悪びれる様子もなく吐き捨てた。

 何だじゃねぇよテメェ人を豪快に轢いておいてふざけんなクソモヤシ、と叫びかけてふと気付く。
 眼の前には少年が一人佇んでいるだけで、クルマやバイクはおろか、自転車の類も傍らにはない。
 先ほどの衝撃は、ともすれば大型トラックにでも跳ね飛ばされたかと疑うほどの衝撃だったのだが、これはどういう事か。
 少年は特別ガタイがいいという訳でもない――と言うよりかなりヒョロッちぃ。意識せずに「モヤシ」と言う単語が口から紡がれるほど痩せっぽちだ。その身だけで、あれ程人を弾き飛ばせるとは到底思え

ない。



少年「あァー、まァなンだ……悪かったな。医者に行くようなら、連れてくが……」

食蜂「いえ……まずはアンチスキルに連絡――」


 言い終わるより先に、少年がガシっとその肩を掴んだ。


少年「バッカオマエ、まず心配すべきは自分の体だろォが。
   安心しろ、オレの息のかかった――じゃねェ、知り合いの腕のいい医者紹介してやるから。
   治療費も勿論オレ持ちだァ。しばらく通院が必要かも知ンねェから多めに払わねェとな、いくら欲しいンだ?
   百か? 二百か?」


 この野郎、揉み消そうとしてやがる。真摯に謝罪の心を示せば、こちらもある程度譲歩するものを。
 そっちがそういう気なら上等である。金は勿論貰うが、それに加え社会的立場も今後の人生も、何もかもを絞りとってやろう。
 そう決意しかけた所で、ふと食蜂は気づいた。
 駄目だ、これからアンチスキルを呼んでなんのかんのとしていては、せっかく購入したゲームをプレイする時間がなくなってしまうではないか!

 将来の幸福よりも、発売日のゲームプレイ。ヲタなら当然の選択である。
 まぁこのクソ野郎への仕返しは、公の力に頼らず後々個人的に行えば済む話であろう。
 と言うか、ゲーム何処行った? 胸に抱いていたはずだが、まさか先ほどの衝撃でパッケージが凹んだりはしていないだろうな。


少年「あン? 何を探して……あァ、これか?」


 キョロキョロと辺りを見回す食蜂に、少年も気づいたのだろう。
 呟きと共にその足元に落ちていた袋を見つけ、手を伸ばした。
 待て――と止める間もなかった。持ち上げられた袋の口から、ゲームのパッケージがコロンと地面に転がる。


少年「あ……?」


 モロであった。
 『聖チョモランマ学園 ~こんな可愛い人がお姉様なわけがない~』とデカデカ書かれたタイトルと共に、清楚なカトリック系の制服を肌蹴させ、小さなビーチクをチョコンとおっ立たせて抱き合っう二人の

少女のパッケージイラストが、誰憚る事無くお天道様の光のもとに晒されていた。


少年「え? あれ、え? なンで、これ……あれ?」


 次の瞬間、食蜂はその身を猟犬のごとく疾駆させてパッケージかき抱き、叫んでいた。


食蜂「全て忘れてここから立ち去れぇぇえええ!!!」キュインッ


――ハンシャッ♪



【常盤台中学女子寮】


 気が付くと、食蜂操祈は一人ポツンと寮の自室に佇んでいた。


食蜂「はれ?」


 ハテ、自分はいつの間に帰宅したのだろうか。
 確か今日は学校をサボって開店と同時に予約していたPCゲームを購入して、それから……駄目だ、その先が思い出せない。
 まさか夢でも見ていたのかと思ったが、購入したゲームはちゃんと手に持っていた。

 となると、購入した後の帰り道で何かあった? この頭の中に痼を残すような違和感は……
 ん? と言うか何か全身に鈍い痛みが……あれ、何でか知んないけど身体中が擦り傷だらけ……?


食蜂「いだっ、いだだだだだぁー! なんか来た! 一気に痛みが来たぁー!!」


 悶えるように床を這いずりながら、食蜂はどうにかこうにか部屋に備え付けの救急箱に手を伸ばした。
 元々はルームメイトの後輩が用意しているものだが、黙って使ったってバレやしないだろう。
 後輩の物は先輩の物、先輩の物は先輩の物、である。




食蜂「あぁー、もうなんなのよこれぇ……」


 ヒンヒンと涙目で鼻を啜りながら、擦り傷にまみれた手足にチョンチョンとマキロンを塗っていく。
 しかし、これはいよいよ持って怪しくなっていた。記憶をなくしていつの間にか部屋に戻っていたと思ったら、身体中が傷だらけになっていたのだ。明らかに普通ではない。


食蜂「ん~……まさかぁ……記憶を弄られた?」


 学園都市最高の精神系能力者である自分に対し記憶操作を行うなど、にわかには信じられない事ではあるが、それ以外に思いつく事はない。
 まさか、自分に夢遊病の気がある訳はないだろうし……多分、うん。きっと……無い、筈……。

 まぁ何にせよ、調べてみれば分かることである。
 他人であれ、自分であれ、自分に掌握できない心理など有りはしないのだから。……こないだゲーセンで会った短髪は、まぁ例外だ。
 まぁしかしあのクソ女も機を見ていずれは……と邪悪な笑みを浮かべながら、食蜂は遥か彼方の深海へダイブするような心持ちで、自らの心理にアクセスした。


      ▽



――数分後。


食蜂「ぬわああああああああああああぁー!!!」


 全てを思い出した食蜂は、まるで息子を人質に取られた髭オヤジのような悲鳴を上げてベッドの上を転がっていた。

 知られた。知られてしまった。これまで最大限の注意を払い、ひた隠しにしてきた自らのウィークポイント。
 ルームメイトの後輩にしか知られていないオタク趣味――否、その後輩にさえバラしていない、ある特定ジャンルのゲームの購入を、何処の馬とも知れぬ男に知られてしまった!!

 不味い、何が不味いって今回のゲームのパッケージだ。
 お嬢様然とした制服に身を包んだ二人がレズっ気たっぷりに抱き合っているこのイラスト!
 それを事実、男子禁制のお嬢様学校に通っている自分が購入しているなど、まるで本当にソッチの気がある人間のようではないか! この事実が常盤台の生徒たちに知られようものなら、自らの権威

の失墜はもとより、校内に本当にいるその趣味の人間がガチでアタックを仕掛けてくるに決まっている!!

 違うんだよ、違うんだってこのゲームは! ほらこの子達胸がない上に、スカートから覗くショーツの部分が少しモッコリしてるでしょ?
 これ実は主人公からヒロインまで、全員が女装した男の娘で――ってその趣味も知られたらやべぇよ!!
 て言うかジャンル云々以前にこの種のゲーム――ああもうメンドクセぇそうだよエロゲーだよエロゲー! エロゲーを購入してる女子中学生という時点で弁解の余地なしだよ!



 もしこの噂が学園都市内に広まろうものなら、もはや自分の力で改竄することも不可能だ。とても一人では手が回らないし、それほどの大規模な改竄を行えば、確実にアンチスキルが動く。
 となれば残る手立ては一つ。噂が広がる前に、根元を絶つより他はない。


食蜂「あ、の……男ッ……生かして、おくわけ、には……いかない……!!」


 携帯に手を伸ばす。
 自身の総力。彼女が築き上げた、常盤台中学最大派閥の力を持って、まずはあの白い少年の素性を掴むために。

 この日、何気ないごく普通の昼下がりに。
 学園都市230万人の頂点、レベル5第五位と第一位の抗争は、人知れず静かに(そして一方的に)幕を上げた。


以上です。

いやなんというか、一ヶ月も開いてしまいまして……
しかもまた主役二人が出ていないというね……
まぁその、ホントはね、絹旗のね、話を書こうと最初は思っていたんですけどね…
アレですよ、全然話のね、ネタが思い浮かばなくてですねー……
うん、主役、何ですけどね…主役のはず……そのつもりで始めたのは間違いない……

えっとまぁ……とにかくまた次回!!

まさかの中一日投下、行きます。

まぁ短いんですけどね…。


【長点上機/一方通行特別教室】


――ガチャッ

美琴「あ、先輩ちゃーッス。今登校ッスか?」

一方「気が乗らなかったンでな。喫茶店でコーヒー飲ンでた」

美琴「わーさすがのフリーダム」

一方「つーかオマエ毎回ココでメシ食ってンな。友達居ねェのか?」

美琴「え? まっさかー、そんな先輩じゃないんスからぁああだだだだだだだ、いだい! マジいだい、頭が割れるぅぅうー!!」

一方「そォかそォか、そンなに小顔整形がご希望か。オマエも色気づきやがったなァ」ギチギチギチギチ…

美琴「ず、図星、の……くせ、に……グフッ……」ガックシッ

一方「うるせェ」



美琴「ううー……頭がクラクラする……。あれ、そういや先輩手ぶらッスね。昼食も外で食べてきたんスか?」

一方「あァ? ……チッ、そういや忘れてたな。あンな事あったから……」

美琴「あんなこと……? あ、もう時間いっかな」ペリペリ

一方「まァいい、確か買い溜めしといたカップ麺が……あン? ねェなどこ行った? オイ、ここに置いといた俺の……」

美琴「ふえ?」ズルズルズルズル…

一方「…………」


――ガシッ


美琴「うぎゅッ」



一方「オイ、それオレが買っといたヤツだろォが。何勝手に食ってやがる……」ギチギチギチギチギチ…

美琴「うぐぐぐ……ぜ、ゼンバイのモノは、わだじのモノ……わだじの、モノは……わだじ……の……」ガクッ

一方「クソッタレ……あァもういいメンドクセェ。寝るから起こすな」ドサッ

美琴「ううう……はいッス……。あ、ところで先輩、あんなコトって何なんスか?」

一方「寝るっつってンだろォが!?」

美琴「気ーにーなーるーじゃないッスかー!」バンバンバン

一方(コイツ、最近ウザさに拍車がかかってやがる……)

美琴「あれっスか、ひょっとして人でも襲ってきたんスか? 通り魔?」

一方「…………」

美琴(あれ、なんでそこで黙るんだろう……?)ズルズルズル…



一方「別に、何でもねェよ……。ただちょっと変な奴に会っただけだ……」

美琴「なるほど、その変人を出会い頭にぶっ飛ばしたんッスね!」

一方「…………」

美琴(だから……なんでそこで黙るの……?)ズゾゾゾゾー…

一方「とにかく……それだけだ……」

美琴「はぁ……」



【翌日/常盤台中学女子寮】


 女子寮の自室でノートPCを睨みながら、食蜂はうーうーと頭を抱えて唸っていた。

 ディスプレイには、件の少年の写真と簡単なプロフィールが表示されていた。
 その所在を調べるまでもなく、派閥に所属する女生徒の一人が普通に知っていたのだ。と言うかすこぶる有名人だった。


食蜂「なんでよりによって第一位なのよぅ……」


 ちょっと泣きそうだった。
 レベル5第一位、一方通行。この世界に存在するあらゆるベクトルを操作し、あらゆる攻撃を反射する、最強の超能力者。
 自分の力とて例外でないのは、昨日の一件で図らずも確認済みだ。最初は別の精神系能力者から記憶改竄を受けたのかと思っていたが、要するに自分が仕掛けた改竄をそのまま跳ね返されたのだ

ろう。
 出会い頭に跳ね飛ばされたのも、おそらく反射の力。
 つまり第一位は、常日頃から四六時中反射の絶対防御に身を包んで生活をしているわけである。アハハ、これなんて無理ゲ?



食蜂「反射ってことは、体にかかる全てのベクトルを無意識下で演算してるってことでしょ? どんなチートよそれぇ……。
   かかるベクトルを極端に複雑化して、演算能力をフリーズ……無理よねぇ。
   無意識下の演算ってことは、使っている力は、多分アイツ本来の能力の一割にも満たないはずだしぃ……。
   他に反射を突破する方法は……ハッ!? そうよ、反射ってことはアイツの体に触れる直前に拳を寸止めして引き戻せば、
   そのベクトルが逆向きに反射されてダメージを――ってそんなトンデモ理論が通用するかっ。馬鹿なの? 死ぬの?」


 と言うか、仮にそれが出来たとしても、自分の細腕に男一人を倒すだけの力など有りはしないだろう。
 いやでも、あのヒョロさならもしかしたら……あ、そうだ股間狙えばいけるんじゃね?
 素手だと失敗した時怪我しそうだから、しなりのある棒状のもので、こうペシーンと……。

 と、股間に寸止め打ちプランを真剣に検討しだした食蜂の後ろで、ガチャリと扉が開いた。


白井「ただいまですの……」



食蜂「あれぇ、黒子もう帰ってきたの? 最近なぁんか早くない? ジャッジメントはぁ?」
 
白井「うっ……。ジャッジメントはその……ちょっと今謹慎中、でして……」

食蜂「きんしん? まぁ何でもいいけど、暇ならどっか遊びにでも行きなさいよぉ。友達居ないの?」

白井「ちゃんと居ますわよ! ただそんな気分にならないだけで……。先輩こそ、毎度ジャージでごろごろして!
   また学校サボりましたわね!?」

食蜂「うるさいわねぇー。こっちはこっちで忙しいのよぉー」


 自分の社会的立場が今、未曽有の危機に晒されているのだ。学校になどに行っている暇はない。
 まぁそんなの無くてもサボってはいるが。


白井「忙しいって、どうせネットかゲームでしょうに……。ってあら、第一位様ではありませんの」


 食蜂の背後からPCを覗いた黒子が、ポツリと言葉を漏らした。




食蜂「なんだ。黒子も知ってるの」

白井「ええまぁ。この間、この方の妹さんと偶然知り合いまして」


 ほうほう妹と……なんだって?

 振り向いた食蜂が、ガシリと後輩の肩を掴んだ。


食蜂「このモヤシ、妹居るの……?」

白井「は? ええまぁお二人……血の繋がりはないようですけど……」

食蜂「義理の妹。それはつまり実妹よりも貴重で大切な性的存在ということね?」

白井「いえ、その認識はおかしいですの」

食蜂「そしてその義妹と貴方は友達であると?」

白井「友達、と言っていいのかどうかわかりませんが、アドレスの交換などは、一応……」


 見つけた、第一位の反射の穴。
 戸惑う後輩の視線を他所に、食蜂操祈は、ニンマリと笑みを浮かべていた。
 


以上です。


また間が開いてしまいすいません。

あんまりお待たせしてしまうのも何なので、
短いですがキリのいいとこまで投下します。


―― 一体なにを企んでいますの……?

――別になんにも企んでないわよぅ。友達を紹介してって言ってるだけでしょぉ?

――……まぁいいですけど。
  能力を使ったり、不審な行動を起こせば、直ちにジャッジメント詰所まで連行しまのでご注意くださいまし。

――どんだけ信用無いのよあたし……。

――ちなみに最近は私、記憶の改竄、洗脳の痕跡がないかどうか、定期的にチェックを受けるようにしておりますので。

――え゛、マジ?


――マジですの。何ですの、その当てが外れたとでもいいたげな顔は?
  あ、“チェックを受け無いように”私を洗脳しても無駄ですの。
  定期チェックは私の意志に関わらず、強制的に受けさせるように契約しておりますので。
  契約を解除できるのは、チェックを受けて問題がないと判断された直後のみですの。(ニコニコ)

――や、やぁねぇ……可愛い後輩に対して改竄なんて、そんな事……

――初回チェックの結果、お教え致しましょうか?
  裁判を行えば確実に勝利できると確信しているのですけど。

――すいません、もう二度としません……



【とあるファミレス】


絹旗「むぅ……全然欲しい素材がでない……」ピコピコ

黒夜「皆そんなもんだって」ピコピコ

白井「あ、あら、絹旗さんと黒夜さんではありませんのー。奇遇ですわねー……」ギコチナイエガオ

絹旗「おや?」

黒夜「あれ、白井ちゃんじゃん」

絹旗「超珍しいですね、この辺常盤台からは割りと遠かったはずですけど」

白井「え、ええ。たまたまこの近くに用がありまして……」

食蜂「……」ジー




絹旗「……えっと、そちらの方は、超どなたですか……?(なんか超ガン見してる……)」

黒夜(う~ん、なんかどっかで見たことあるような……気のせいか?)

白井「あ、こちらは私の先輩で……って、食蜂先輩? どうしたんですの?」

食蜂「…………それ……モンハン? 二人で狩りしてるの?」ジー…

絹旗「え? ええ、まぁ……」

黒夜「そうだけど……」

食蜂「へー……」ジー…

絹旗「えーと……」

黒夜「……持ってんなら、一緒にやる……?」

食蜂「いいの!?」パァアアッ!!

黒夜(うわ……)

絹旗(超満面の笑みが……)

白井(そういえば、先輩が誰かとゲームして遊んでるとことか、全く見たことありませんでしたわね……)


      ▽


絹旗「ぬおー! 何ですかこいつ超つえぇー!」ピコピコ

黒夜「操祈ちゃん閃光玉閃光玉!」ピコピコ

食蜂「ホイきたぁー!」ピコピコ


白井(なんかすんげぇ打ち解けてますわね……)ポツーン…


白井「(ずっと三人でゲームやり続けてますし……)せ、先輩? そのゲームそんなに面白いんですの?」

食蜂「ええ!? なによ黒子気が散るから後にして! っと、おっしゃとぉどめぇー!」

黒夜「ナァイス操祈ちゃん!」

絹旗「キタ! レア素材超来ました!」

三人「「「いぇーい!」」」ハイタッチ

白井(……寂しい)イジイジ…



【大通り】


 結局あの後、三人は黒髪パッツンのウェイトレスにスタンロッドを食らうまで店で騒ぎ続けた。


食蜂「またねぇー!」ノシ

黒夜「またー」ノシ

絹旗「超メールください」ノシ


 メルアドを交換し別れた二人に、ブンブカと上機嫌で手を振る食蜂を見ながら、黒子は内心で反省の念を抱いていた。

 思えば、この傍若無人な先輩が、同年代の友人とここまではしゃぐ姿を見たことがあったであろうか。
 有るわけがない。常盤台中学は学園都市でも類を見ない、他とは一線を画するお嬢様学校だ。
 彼女が好きな、ゲームやアニメ等を嗜む生徒など居はしないし、仮に居たとしても周りに吹聴するようなこともないだろう。そう、食蜂と同じよ

うに。

 だからこそ、唯一秘密を知る自分に対してアニメ洗脳を施したり、他校の生徒にその相手を求めたのだろう。

 そう、彼女はただ純粋に――


白井「先輩、本当にただ友達が欲しいだけでしたのね……」

食蜂「え? …………ハッ!」


 純粋に忘れていた本来の目的を、食蜂は思い出した。


以上です。
いや、マジ短すぎですね、すいません。
続きもできるだけ早く……。

実は先日、総合の34冊目に、バードウェイと一方さんのSSを投下させてもらってるので、
お暇ならばそちらも宜しくお願い致します。

え? 本編ほっぽっといて何書いてんだって?
いやだって、水物のネタだったんだもの!
……うん、ごめんなさい。

やー、どうもどうも。
あけましておめでと御座います。
何時まで続けられるのかわかりませんが、本年もどうぞ宜しくお願い致します。

という訳でおまたせしました、新年一発目の投下、行きます。


【休日/大通り】


 翌日、食蜂は昨日二人と別れた近辺をウロウロしながら、携帯電話を睨みつけていた。

 画面には、昨日交換した黒夜海鳥のアドレスが表示されている。
 絹旗でも別に良かったのだが、どちらかと言えば『扱いやすそう』だと感じたのが黒夜の方だった。

 昨日はつい本来の目的を忘れてしまったが、結果的にはメアドを交換できた時点で御の字だ。
 元よりあの場で行動を起こすつもりもなかったのだ。
 後は、なにか理由をつけてメールで合う約束を取り付け、ちょちょいと操ってしまえばいい。のだが……


食蜂「うぅー……」


 そのメールを送ることが出来ず、食蜂は呻いていた。



 別にそれほど非道なことをするつもりはない。
 一方通行の反射は何物も通さぬ絶対防御ではあるが、扱いを誤れば身内さえ傷つけかねない危険なものだ。その点は、先日身を持って体験している。
 つまり黒夜を操って一方通行に接触させれば、第一位は咄嗟に反射を切らざるをえない。
 その一瞬に改竄を行えば、自分の能力も通用する筈、というのが食蜂の考えだった。

 実にシンプルで簡単な作戦だ。タイミングさえ見誤らなければ、誰も傷つけることはない。自分の憂いもなくなる。
 なのに――気が進まない。能力を使用することに戸惑いを感じている。こんな経験は初めてだった。


黒夜「あれ、操祈ちゃんじゃん」

食蜂「ふえひ!?」


 不意に背後からかけられた声に、食蜂は携帯を取り落としかけた。
 振り返れば、何の因果か当の黒夜がゲームショップの袋を片手に佇んでいる。



黒夜「何やってんの、こんなとこで」

食蜂「え? いや別に、ちょっとブラブラらしてただけでぇー……。そ、そっちは?」

黒夜「んー、ゲーム買ってきただけ。ウイイレの新作。あ、暇ならウチ来ねえ? 対戦相手欲しいし」

食蜂「え、いいの!? い――」


 行く、と言いかけて食蜂は口をつぐんだ。
 危ない、また目的を忘れかけていた。


食蜂「いや……急に言っても迷惑じゃなぁい? ほら、お兄さん居るんでしょぉ……?」

黒夜「あれ、あのもやしのこと話したっけ?」

食蜂「え? あ、黒子に聞いたからぁ……」

黒夜「ああそっか。まぁ、アイツなら今日研究所に用があるっつって出かけてるし、気にしねえでいいよ。
   絹旗ちゃんも、映画見に行ってていねえけど」

食蜂「あ、そぉなんだぁ……」



 思考を巡らす。疑いようもなくコレはチャンスだ。
 黒夜を操り、自宅でアイツを待ち伏せできる千載一遇のチャンス。

 後は――自分の覚悟次第。


食蜂「うん、なら……お邪魔しよっかなぁ……」


 そして、食蜂は答えた。
 ターゲットが向こうから近づいてきてくれたのだ、何を躊躇うことがあるだろう。
 黒子にだって、今までさんざん能力を使ってきたというのに。


黒夜「んじゃ、ついてきてよ」

食蜂「家どの辺?」

黒夜「すぐ近くのマンション」


 見知らぬ他人なら散々操ってきた。。
 黒子に対してだって、都合の悪い記憶の改竄を行ったことは一度や二度ではない。

 しかし、黒子を能力で操って“利用”しようとした事は一度もない、と言うことを食蜂は自分でも気づいていなかった。



【一方通行宅】


食蜂「お邪魔しまぁす」

黒夜「ソファーにでも座っててよ。飲みもんだしてくっから。
   つっても水か午後ティーか缶コーヒーしかねぇけど。どれがいい?」

食蜂「んー、じゃあ午後ティー」

黒夜「ういー」


 ソファーに座りながら、食蜂は目ざとく室内を確認する。
 どうという事はない普通の部屋だが、意外なことに綺麗に片付いている。別室からも確かに人の気配は伺えない。
 第一位を迎え入れる準備は、じっくりと行えそう――


一方「ったく、無駄足踏ませやがって……」ガチャッ

食蜂「そぉぉぉおおい!!!」


 食蜂は床に転がっていたビニール袋に頭から滑り込んだ。



黒夜「あれ、テメェ実験の協力はどうしたんだよ」

一方「あァ、芳川のいつもの発作で延期だ。
   昨日から連絡つかねェっつって、木山が涙目で途方にくれてやがった。
   アイツまた目の隈濃くなンな。明日見ものだぞ」

黒夜「先生ェ……気の毒すぎて笑えねぇよ……。つーかそれでイイのかよ、あのニート研究員」

一方「能力があって結果さえ出してりゃ、大抵の事は許されンだよ。
   それより……なンだ? アレ……」

黒夜「え?」

食蜂「…………」

黒夜「……操祈ちゃん、何やってんの?」

食蜂「いや、その…………し、宗教上の……理由でぇ……」


 ビニール袋を頭に被ったまま、食蜂はどうにかそれだけ搾り出した。




黒夜(……イスラム?)ヒソヒソ

一方(いや、イスラム系は顔と手以外の肌を見せちゃいけねェンだろ……。
   顔見せちゃいけねェなンてのは聞いたこともねェぞ……)ヒソヒソ

黒夜(つーか、さっきまで普通に外歩いてたんだけど……)ヒソヒソ


 当然、それで誤魔化せるわけもなかったが。
 

食蜂「あ、えっとぉ……お手洗い、お借りしま――」


――ガンッ、と。向こう脛がテーブルにぶつかった。

 ぎゃあと自らのイメージにあるまじき悲鳴を上げながら床を転がる。
 仰向けにひっくり返った視線の先に、コチラを見下ろす真っ白い顔が見えた。つまり、被っていたビニール袋が外れていた。

 唯一色を持つ赤い瞳が見開かれる。心を読まなくても、理解できた。
 第一位は、確実に彼女の顔を覚えている。


食蜂「う……あ……」 


 ふいっと、第一位は顔を逸らして黒夜を見やった。




一方「……オマエの友達か?」

黒夜「え? ああ……一応……」


 一応、と付け加えられたことに、場違いなショックを感じた。
 まぁこんな奇行を起こしたのだから、仕方ないことではあるのだけれど。


一方「菓子は?」

黒夜「え?」

一方「客来てンだから菓子ぐらい出せよ」

黒夜「つっても何もなかったし」


 黒夜の言葉に第一位は小さく舌打ちすると、財布から有ろうことか一万円のピン札を取り出し、彼女に差し出した。


一方「これで買ってこい。近くのコンビニならすぐだろ」

黒夜「マジで!?」


 一方通行の言葉に、獲物を狩る獣さながらの勢いで伸ばされた手はしかし、万札に触れる寸前でピタリと止まった。
 猟犬から一転、お預けを食らったチワワのような眼差しで手をワキワキさせ、


黒夜「これは……アレか。小遣いの前借りってことになんのか?」



一方「この状況でンなケチくせェ事言うかよ。まァアレだ……」


 そこで、第一位は小馬鹿にするような笑を浮かべた。


一方「オマエが家に友達連れてきたのなンざ初めてだしなァ」

黒夜「うるせェテメェにだきゃ言われたくねェよ死ねバーカバーカ!!」


 万札を引ったくりながらそう吐き捨て、黒夜は部屋から駈け出していった。


黒夜「そんじゃ操祈ちゃん、ちょっと買ってくっからー」

一方「オイ、釣りは返せよ?」


 玄関の閉まる音が、返事替わりに響く。
 打って変わった静けさの中、食蜂は気不味さを誤魔化すように身を起こした。

 視線の先で一方通行が面倒くさそうに頭を掻きながら、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。


一方「普通なら十分もかからねェが……。
   アイツ多分コンビニで万札使いきろうとするから、まァ二十分ぐらいは帰ってこねェだろ」


 その呟きの意味を理解する。
 要するに彼は、体よく妹分を追い払った訳だ。



食蜂「……妹の友人と二人きりになって、何するつもりかしらぁ」

一方「この再会を偶然と思うつもりはねェよ。
   まァその……なンだ。……別に言いふらすつもりはねェぞ?」

食蜂「そんな言葉で安心できるわけ無いでしょぉお!?」

一方「他にどうしろってンだ……」


 心底ウンザリした表情で、一方通行は溜め息を漏らした。


食蜂「当たり前でしょぉ……。あんな事実が、もし学園都市中に知れ渡ったらと思ったら……」

一方「別に、そういったもンには誰でも興味あるもンだろ……」

食蜂「じゃあアンタは、私があんなモノ抱えてたと知って、どう思ったのよぉ……」

一方「ドン引きした」

食蜂「言葉を選べや!!」


 手近なクッションを投げつけてやったら、案の定反射された。
 確認のための行動だったが、やはり自宅内でも反射を切ってはいないらしい。思わず小さな舌打ちが漏れる。




一方「オマエの前で反射を切ることは有り得ねェよ。精神支配系の能力は厄介だからなァ」


 ヒクリと、食蜂は自分の頬が引き攣るのを自覚した。


食蜂「……調べたわけ?」

一方「いや、調べるまでもねェだろ。あンな奇行――あァ、さっきのじゃねェ、こないだぶつかった後の事だ。
   あの時の妙な様子を見りゃァ、察しぐらいは付く」

食蜂「うぐぐ……」


 状況は、加速度的に悪化している。
 自分の能力、そして第一位を付け狙っていることが相手にバレたのだ。
 この状況であの二人に妙なことが起これば、まっ先に自分が疑われ報復を受ける。
 自分の能力は、自分が表に出ないからこそ無類の力を発揮する能力だというのに。

 残された手段は? 二人を操って人質に使う? 馬鹿馬鹿しいにもほどがある考えだ。
 世界を相手取って戦える力を持った相手に、そんなモノが何の役に立つというのだろう。

 人質を取るということは、相手に青天井のポーカー勝負を仕掛けるようなものだ。
 コチラの持ち金はもちろん人質。相手の持ち金は、自分が持ち得る、あるいは借りえる力の全て。
 しかして一方通行の持つ力は、それこそ本当に、青天井そのもの。余りにも分が悪すぎる。



一方「まァ平行線ってのは予想してたがな。となりゃァ、解法は一つっきゃねェ」

食蜂「……どうするっていう訳?」

一方「俺がベクトル操作で脳内の電気信号いじくって、“オマエの記憶”を消す」

食蜂「…………は?」


 訳が分からず目を点にしていた食蜂に構わず、一方通行は腰を上げた。


一方「元より俺に喋るつもりはねェンだ。オマエの“秘密を知られた”って記憶を消しゃァ、全て解決だろォが。
   安心しろ。“実際に試したことはねェ”が、“多分”大丈夫だろ」

食蜂「そ、それのどこに安心できる要素が有るってのよぉぉぉお!!?」


 慌てて立ち上がり逃げ出そうとしたが、瞬きの間に、一方通行はリビング出口の前に陣取っていた。
 他に出口は――ベランダ? 無理だ、ここは確か五階だったはず。飛び降りられる筈もない。

 途方に暮れる内にも、一方通行はゆっくりと距離を詰めて来ている。



食蜂「こ、来ないで……」


 後ろに下がった瞬間、さっき投げたクッションがズルリと足の下で滑った。
 強かに尻を打ち付け、小さく悲鳴を上げる。痛がっている暇などなかったというのに。
 後悔は余りにも遅すぎた。

 倒れた彼女に覆い被さるような格好で、一方通行がガシリと頭を掴む。


食蜂「ヒッ――」

一方「大丈夫だ、痛くはしねェよ。優しくしてやっから、天井のシミでも数えてろ」

食蜂「やっ……いやぁぁあああああ!!」


――バサバサ!!


 不意に背後から届いた物音に、二人は揃って振り返った。

 一体何時からそこに居たのか。映画のパンフレットを取り落とした絹旗が、リビングの前で目を丸くしていた。
 視線の先にあるのは言うまでもない。スカートを乱れさせて悲鳴を上げる食蜂に、無理矢理覆い被さっている一方通行の姿。


絹旗「――あ……あああ一方通行が遂に超過ちをォォォおおおおお!!!?」



一方「ばっ、違う、待ッ――」

食蜂「“待ってくれるかしらぁ”、絹旗さん」


 錯乱故か、家から飛び出そうとしていた絹旗の足がピタリと止まる。
 先ほどとは打って変わって、苦みばしった表情で一方通行がコチラを睨みつけてきた。


一方「オマエ……能力を使いやがったな」

食蜂「別に絹旗さんに危害を加えるつもりはないはよぉ? お友達だもの。
   けど、このまま能力を解いたら、困るのは貴方じゃないかしらぁ?」


 絹旗をこちらに呼び寄せ、立ち上がる。一方通行は動かない。その様子に自然、嗜虐的な笑みがこぼれた。
 形勢逆転――とまでは行かないが、どうにか対抗できる状況にはなった。


食蜂「さて、どうしようかしらぁ。
   場合によっては、さっきの記憶を改竄してあげてもいいのだけど」

一方「代わりに俺の反射を解けってか?
   ふざけてろよ、こっちゃオマエと違って完全な誤解なンだ。いくらでも解決する方法なンざある」

食蜂「けどその場合、私の事情とかも説明しないといけないわよねぇ。
   困ったわぁ、能力を解くわけには行かなくなっちゃった」



一方「……何考えてやがる」


 一方通行の表情に、焦りよりも訝しみの色が濃くなる。
 どう考えても、状況はまだ自分に不利なままだ。

 しかし、余裕の笑みを崩す気にはならない。切り札はまだ残されている。
 

食蜂「となれば、解法は一つしか無いわよねぇ」

一方「あァ?」


 『そういったもンには誰でも興味ある』

 一方通行はたしかにそう言ったのだ。





食蜂「絹旗さん、お兄さんのエロ本の隠し場所とか知ってるぅ?」

絹旗「そこの部屋のクローゼットの中、一番上の棚に置かれた箱に、超貯めこんでますよ」





一方「ンな――!?」

食蜂「しゃあ、ビンゴォォォォオオオオオ!!!
   絹旗さん、そのモヤシ足止めしといてぇ!!」

絹旗「超了解です」




 部屋に飛び込み、クローゼットに駆け寄る。
 絹旗に第一位を抑えて置けるとは思えないが、奴も妹に対してそう乱暴は出来まい。十秒でも時間を稼げればそれでいい。


一方「離せこのバカ! つゥかなンでお前が知ってやがる!?」


 愚か者め、『誰でも興味がある』と言ったのは貴様だというのに。
 思春期に入って興味を持ち始めた妹が先ず目をつけるとしたら、兄のソレ以外にはあるまい!
 隠し場所に、もっと気を使うべきだったのだ。身内を信頼しすぎた事こそが第一位の敗因!!


食蜂「あった!」


 クローゼットの棚の上に、確かに黒塗りの木箱が置かれていた。

 背伸びして箱を掴み、床に下ろす。
 箱の蓋を開けるのと、一方通行が部屋に飛び込んでくるのとはほぼ同時であった。


食蜂「ほうほう、これが第一位のコレクションな訳ねぇ……」

一方通行「クソッタレェ……」


 ガックリと膝をつく第一位を他所に、木箱の中に重ねられた本を物色する。
 その多くは、アイドル写真集のソレだった。ソレ意外には、コンビニで売られているような軽めの雑誌が幾つか。



 正直な感想を言えば、これだけ? という印象だった。
 たしかにまぁ、巨乳アイドルのソレはソレは素晴らしいオッパイが並んではいるが……。
 やりたい盛りの高校生が持つコレクションとしては、いささか健全過ぎやしないだろうか?


一方「おい、もうイイだろ……。これでお互いが秘密を握ったンだ……。
   オマエの秘密が漏れるこたァ、もうねェよ……」


 その一方通行の声音に、食蜂はピンと来た。
 一方通行の声には、どこか安堵の響きが混じっている。能力柄、そういった人間の機微に食蜂は敏感なのだ。
 もしや本当のコレクションは別の場所に? しかし、絹旗にバラされた時の一方通行の焦りは本物だった。

 と、言うことは――


――ガコッ


食蜂「あ、これ二重底だ」

一方「オイィィィイイイイ!!?」 


 『巨乳巫女緊縛調教』というDVDのパッケージが目に飛び込んできた。
 その他にも計四枚、全て巨乳のコスチューム物AVが、木箱の底に収まっている。

 ソレらを手に取り、食蜂は蔑みの目を一方通行に向けた。




食蜂「貴方これ……」

一方「……うるせェ、悪ィか。
   誰だって興味あるもンだろォが。少なくともオマエに文句言われる筋合いは――」

食蜂「巨乳の巫女なんて邪道でしょぉぉおおおお!!!」


 食蜂はマジギレした。


一方「食い付くのはソコかよ!!?」

食蜂「うるさい黙れこのクズ野郎! しかも何よこの女優、茶髪じゃないのよ!
   ああ、分かってないわぁ、アンタは何も分かってない!! 巫女さんを舐めきっている!!
   アンタみたいな物を分かってないゆとりが、日本の素晴らしき文化を駄目にすんのよ!
   いい? 巫女さんっていうのはね――」


 その後、食蜂は巫女の本来あるべき姿(貧乳の黒髪ロング、理想を言えば前髪パッツン)を一方通行にひたすら語り続け、
 黒夜が帰ってきた後は普通にゲームして遊んで夕飯までご馳走になった。

 (一方通行以外は)とても楽し気な一時であった。


 そして帰り際、


食蜂「今度巫女モノのエロゲ持ってくるから、アンタソレやって勉強しなさいよぉ」

一方「二度と来ンな!!」


 今までずっと秘密してきた趣味を語れる相手ができた事に、少女はとても晴れ晴れとした顔をしていた。



【超どうでもいいオマケ】


ウェイトレス「む!」キュピーン

ウェイトレスB「うん? ヒーやんどうかした?」

ウェイトレス「いえ……。今何か。自分の出番が来たような気が」

ウェイトレスB「出番?」

ウェイトレス「まぁいいわ。……ところで。何度も言っているけどヒーやんと呼ぶのはやめて。
    私の名前はひm――」

ウェイトレスC「すいませんレジお願いしまーす!」

ウェイトレスB「あ、はーい!」


 ウェイトレスの言葉を最後まで聞くことなく、ウェイトレスBはトテトテと駆けていった。



みさきち編終了。

オチがちょっとグダグダな感じですが、まぁいいや……。

さて次はどうしたものか。
頑張ってネタ考えます。それでは。

確かなんか、三ヶ月ルールとかあったような気がするので、生存報告だけ……。

その、なんですか。仕事がですね。
もうね、うん、もう一杯一杯でですね……

ゴールデンウィーク過ぎた辺りからは余裕ができると思うんですが……
それまではもう…うん、あれだ…むりぽ……

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