一夏「なんでお前が?」(1000)

インフィニット・ストラトスの原作再構成SSです。

以下、注意事項
・原作では登場しないISなどが登場します。
・若干キャラが崩れているかもしれません。
・アニメは視聴しましたが原作は見ている途中なのでおかしいところがあるかもしれません。
・スレを立てるのが初めてなのでいたらないところがあるかもしれません。
・SSを書くのは初心者なのでおかしな点があるかもしれません。

以上の点を踏まえてお楽しみいただければと思います。
至らない点も多々あると思いますがよろしくお願いします。

今日は高校の入学式。新しい世界の幕開け、その初日。それ自体はいい。むしろ喜ぶべきところだ。
だがしかし、問題点はとにかくクラスに俺を含め男子が二人という点だ。

(これは、想像以上にキツイ・・・)

入学前は友人どもに自慢しまくってはいたが実際こういう環境に放り込まれるとあまり浮かれて入られない。
なにせクラスメイトの半数以上(一人を除きみんな女子)が好奇の視線を投げかけてくるのだ、動物園の珍獣にでもなった気分である。

俺はクラスの中唯一の味方である中学時代からの友人にアイコンタクトで助けを求めるがどうも彼は自身の出番の後に一悶着あったためかこちらのサインに気づかないようだ。

・・・しょうがない、もう腹を決めよう。たかが自己紹介だ、自然体でいけばどうにかなるはずだ。
自然体、自然体。


すぅ、と一呼吸置き俺はクラスメイトの方を向く。
「五反田弾です。よろしくお願いします」
高校生の、新しい世界の第一歩を踏み出した。

「・・・・・・で?」
そしてその第一歩で躓いてしまったのかもしれない。

教壇には副担任の山田先生(可愛い)と中学時代からの悪友、織斑一夏の姉にして担任。織斑千冬さん(恐ろしい)が立っている。
さきほど言葉を発したのはもちろん千冬さんのほうだ、あの山田先生(可愛い)の可愛い外見からあんな刃物のような鋭さと冷たさを纏った言葉が出てくるものか。

「な、なんでしょうか?千、織斑先生」
「先ほどの織斑の自己紹介の際に私がなにをしたか覚えているな。それを覚えていながら同じようなことを繰り返すというなら、覚悟は出来ているな?」
自然体でいたゆえか、友人と名前以外全く同じ自己紹介をしてしまったようだ。友よ今日ほどお前と気が合うことを憎んだことはないぞ。
千冬さんはいつの間にか俺の前に近寄り軽くこぶしを振り上げている。ゆっくりに見えるのは「死の直前には・・・」云々ではないことを祈る。
友人こと、織斑一夏にアイコンタクトで助けを求めるが一夏はなにを思ったか親指をぐっと、突き上げてサムズアップをしていやがった。

そういえば一夏の時には俺があいつのアイコンタクトを気づかぬふりをして無視していたっけ。
今なら一夏の心が手に取るようにわかる。奴は『ざまあみろ』と思っているのだろう。

俺は最後にアイコンタクトで一夏に伝えた。
『脳細胞って頭叩かれると五千個くらい死ぬらしいぜ』

時は少々過ぎて一時間目の終わり。
この学校、IS学園はコマ限界ギリギリまでIS関連の授業が詰め込まれているため入学式のその日から授業があるのだ。
そして五反田弾は机に突っ伏していた、一時間目のIS基礎理論の授業だが、正直ついていけなかった。他の生徒たちは教師の話を聞き、時折うなづいたり教師に質問したりしていたが・・・

俺、というか俺たち。隣で机に突っ伏してる一夏も同じような状況らしい。
「一夏、生きてるかぁ?」

「脳細胞が一万と五千個死んだが、なんとかな」

「俺は五千しか死んでないぜ、勝ったな」

「・・・お前五十歩百歩って言葉知ってるか?」

「あぁ、それがどうした」

「五十歩百歩って言っても俺が五十歩のほうだからな」

「・・・・・・」
どうやら友人は頭をやられたようだ、物理的に。

俺達がそうやって馬鹿丸出しな会話をしていると一夏の背後に一人の女生徒が近づいてきていた。後ろを取られてる一夏はまだ気づいていないようだ。

「・・・ちょっといいか」

「え?」
教室内が少しざわめく、さきほどからこちらに話しかけようか、話かけまいか。と葛藤し膠着した状況から一人が何の前触れもなしにこちらに話しかけてきたからだろうか。
均衡が崩れてざわつきは少しずつ大きくなっているようにも見えるが。

「弾、ちょっと廊下に出てくる」
俺が回りに気をやっている間に女生徒と一夏の間で話がまとまっていたらしい。どうやらこの女生徒は一夏一人に用事があるらしい。

「おぅ、わかった」
一夏にこういう風に女生徒が話しかけてくることは多い、それはそれは多い。一夏は女生徒に好かれる、まぁモテるからだ。
しかしさっきの女生徒はどうにもそういった手合いとは違ったように思えた、なにかこう・・・

思考を巡らせようとしていると周りの雰囲気が少し妙なことに気づく。捕食者が獲物を狙うような感じの。
弾は気づくべきだった。今まで一夏と弾が二人でいたことによりただ男子に話しかけに行くよりハードルが少し上がっていたことに。
その障害が取り払われた今、均衡が崩れた今。弾はライオンの群れの中においていかれたガゼルも同然。

弾は休み時間終わりまで女生徒からの質問攻めにおわれるはめとなった。


休み時間の終わりに、さきほどの女生徒と一夏が教室に帰ってきた。弾は一人だけ逃げた(弾目線では)一夏に対して恨み言の一つでも言ってやろうかと思ったが。
「二万個に増えたよ」
という言葉と頭のたんこぶ、少し前に教室に入ってきた千冬さん。この三つの要素でなにがあったのかを察すると弾は静かに親指を上げた。

二時間目が終わり休み時間、先ほどよりはまだ慣れたのか俺と一夏は机には突っ伏してはいない。内容を理解できたのかと言えばそうではない、分からないことに慣れたのだ。
「なぁ弾、そういえばコレは最初に聞いておくべきだったんだが」

「なんだよ、聞きたいことって」
正直俺には一夏がなにを聞きたいかは分かっている、と言うより千冬さんが出てきていなければもっと早くにこの話はできていたはずだ、あれには俺もびっくりしたし。


「どうしてお前がここにいるんだ、俺は偶然ISを動かせたからここに来たが・・・お前もまさか?」

「いやぁ女子もみんな同じ事聞いてきたよ、一夏のことは事前に知っていてみたいだが俺のことは誰も知らないからな」
一時間目の女生徒たちからの質問攻めの半数以上がこのことに関して、残りは俺と一夏の関係についてだった。

「・・・・・・」
一夏が無言で先を急かす。
こちらも分かった分かったという表情を作りもったいぶりながら、

「ちょっとよろしくて?」
高貴なオーラを振りまく金髪美少女に、俺の言葉はさえぎられた。

俺たち二人はいきなり現れて結構重要な話の途中に強引に割り込んできた少女に顔を向ける。

第一印象はいいとこのお嬢様、少し観察してみると『いかにも』な感じの今時の少女だと思う。
ISの登場から10年。ISの圧倒的な兵器としての性能、そして女性にしか扱えないという特性は世の中の風潮を女尊男卑が当たり前という風に変えてしまった。
目の前の少女からはなんというか、こう・・・
『私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるでしょう?ほら靴をおなめなさい!おーほっほっほ!』
みたいな感じがプンプンする。俺の妹も今時な感じではあるが、あれはいいのだ。可愛いから

「訊いてます?お返事は?」

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」
一夏が答えると、その女生徒は大げさに声をあげた。
「まぁ!なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるんではないかしら?」

ブフゥッッーーーー!!!!
俺はイメージとの一致率の高さに思わず吹いてしまった。虹がかかるほどの細かい霧を吹いてしまった。だってあれは反則だよ!!
「なっなんですのこの方は!!話しかけただけでいきなり吹き出して腹を抱え込むなど!失礼極まりませんわ!」

「お、おい弾?どうしたんだよ、いきなり」
一夏と女生徒が話しかけてくるがちょっと今は応対できそうもない。笑いがぶり返さないようにするので必死だ。
「こ、このセシリア・オルコットに対して。イギリスの代表候補生にして入試主席のわたくしに対してこのような・・・謝罪を要求しますわ!」

ダメ!無理!このお嬢(仮)が黙ってくれなきゃ復活できそうにねえ!!なんで説明口調なんだよ畜生!!
そうして俺は二度目の虹をかける。俺がもしISに名前をつけるとしたら「レインボーメーカー」で決定だな。

少し時間を置いてようやく俺の容態は落ち着きお嬢(セシリア)と話せるまでに回復した。
「悪いな、ちょっと昨日見た漫画の内容を思い出してな」
かなり苦しい言い訳だがしないよりはましだろう。
「思い出し笑いでもタイミングが悪すぎますわ、わたくしが笑われたのかと思いましたわ」

マジかよ!信じるの!?ちょろいよこの人!逆に心配になってきたわ。
「で、その・・・代表なんとか生のセシリアが何の用なんだ?」
一夏が休み時間の残りを気にしながらセシリアに話しかける、一夏としては俺がIS学園にいることの理由を早く知りたいのだろう。
早めに話を切り上げたいのだ。
「あ、あなた、本気でおっしゃってますの?」

セシリアは信じられないものを見たような顔で言う。
それもそうだ、俺もこの学園に来る前の必読の資料やらマニュアルやらで詳しいことは知ったがそれ以前からも一応知識の端にはあったことだ。
なんでも国家IS操縦者のその候補生として選出されるエリートのことらしい。つまりこのお嬢はイギリスの一番になれるかもしれないとお国から選ばれた一人ってことだ。
そりゃあ偉いだろうな、凄いだろうな。けれどそれがこんな態度していい理由にはならねえだろうけど。

「代表候補生を知りませんの?」

「そうそう、代表候補生だ。知らないぜ、一体何なんだ?代表候補生って?」
セシリアは一夏の言葉に人差し指をこめかみにあてて頭が痛そうにしながらぶつぶつ言い出した。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・・・」

「いやいや、知らないのこいつだけだから。他の学生の中では常識ですよー」

「これだからこんな辺境の土地はいやだったんですわ、今年に限って男性が二人も入学してきてそれもいやでしたのにその二人のうち一人は代表候補生も知らない無知な猿。
もう一人はわたくしを見ていきなり笑う失礼な猿。もういやですわ、故郷に帰りたい・・・・・・」

聞いてねえし、人には話を聞けといいながら自分は人の話を聞かないらしい。

「そもそもわたくしのような選ばれた人間と同じクラスになれること自体が幸運なことなのに、そのことすら理解できていないなんて。わたくしは入試主席で、代表候補生で、
入試で唯一教官を倒したこのエリート中のエリートのわたくしに対してこのような・・・」
なおも一人でブツブツと呟き続けるセシリアの言葉の中の『入試で唯一教官を倒した』のくだりで一夏が反応した。

「え?入試ってあのIS動かして戦うってやつ?」

「・・・それ以外に入試などありませんわ」
ようやくセシリアがこちら側の言葉に反応した。


「あれ?俺も倒したぞ、教官」
またもセシリアは反応を示さなくなった。というより固まっているのだろう。
「・・・・・・は、はい?」

たっぷり時間をかけながらゆっくりと言葉をつむぐセシリア。かなりマヌケな表情をしてるが先ほどまでの表情よりは可愛げがあるな。
「わたくしだけと聞きましたが?」

「女子だけではって話じゃないのか?」

「つ、つまりわたくしだけではないと?」

「いや、知らないけど」
なんかまた雲行きが怪しくなってきたな。だんだんセシリアの表情が先ほどのような、いやもっと険しいものになっていってる気が。
「あなた!あなたも教官を倒したって言うの!?」

「うん、まぁ。たぶん」

「たぶん!?たぶんってどういう意味かしら!?」

「えーと、落ち着けって。な?」

「こ、これが落ち着いていられ・・・」

キーンコーンカーンコーン
話しに割って入ったのは三時間目の始業のチャイムだった。
今の俺たちには福音にも聞こえる。

「・・・っっっ!!またあと出来ますわ!!逃げないことね!よくって!?」
よくない、と言おうとしたが一夏が先にうなづいてしまったためセシリアは自分の席に戻るため歩いていってしまった。機を逃した。



三時間目は授業の前に、再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者、まぁつまりクラス代表を決めることとなった。
教壇の上で説明していた千冬さんの話を聞く限り大分面倒な立場らしい。まぁ自分がならないように祈っておくか。

「はいっ!織斑君がいいと思います!」

「弾よ、俺以外にもこのクラスに織斑っていたんだな。なんだか運命感じね?」

「お前、実は馬鹿だろ」
駄目だ、もう細胞を二万個も破壊されたせいで一夏はもう駄目だ。しかしこんなのでも友人なのである、俺がこいつを支えてやらねば。

「私は五反田君がいいと思いまーす!」

「一夏、五反田って意外とありふれた苗字だったんだな、ここにもいるとは」

「お前、実は馬鹿だろ」
しまった、俺とこいつは五十歩百歩かもしれない、しかしたとえそうだとしても俺が五十歩のほうな。

冗談はさておき現状はかなりヤバイ。俺と一夏以外のクラスメイトはそろいもそろって俺たちに代表をやらせたいらしい。
推薦なんかありなのか?とも思ったが千冬さんが。
「他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」と言っているのでありなのだろう。神は死んだ。

このままでは俺か一夏が代表になっちまう、誰でもいいから助けてくれえぇぇぇ!
その時甲高い声が教室に響く。しかしこの声は。

「待ってください!納得いきませんわ!」
やっぱりさっきのセシリア・オルなんとかだ。さっきあれだけ声を聞けば分かるようになるもんだ。

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような
屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」

あぁ、なんというかセシリアに押し付ければ俺も一夏もクラス代表なんて面倒くさいことから開放される。だがしかし。

「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!私はこのような島国まで
IS技術の修練に来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

俺も、たぶん一夏も少しイライラしてきたようだ。

「大体、文化としても後進的なこの国で暮らすこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で・・・」

カチンッ!

「「イギリスだってたいしたお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」」
俺と一夏は同じタイミングで一言一句違わずハモって口を滑らした。もっとも俺は口を滑らせる機会を伺っていたわけだが。

「なっっっ?!あ、あなたわたくしの祖国を侮辱する気ですの!!」
先に侮辱したのはどっちだよ、と言ってやりたいがそこまで言ってしまえばこちらが悪者だ。

「け、決闘ですわっ!!」
顔を真っ赤にして怒りながら、セシリアは強く叩く。
「おう。いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」

「後腐れもなくていいな。俺も賛成だ」
一夏のすぐあとに俺も追随して、決闘に応じる意思を表明する。

「言っておきますけど、わざと負けたりなどしたらわたくしの小間使い。いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「まぁ、なんにせよこのイギリス代表候補生のわたくしセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
流れとはいえ代表候補生と戦うことになるとはな。まぁ勝てるとは思ってないが。
なにせ相手は代表候補生、エリートである。対してこっちはISが動かせるがISに関してまったくの初心者が一人。
『ISがまったく動かせない』やつが一人である。どう考えたって勝ち目などない。

「ハンデはどのくらいつける?」
そう、ハンデがなければまともに勝負にもならないのだ。一夏もそのくらいは理解しているようである。
ケンカを買って相手にハンデを求めるなんて無様だけど、仕方がない。仕方がないのだ。

「あら、早速お願いかしら」

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
・・・は?
こいつはなにを言ってるんだ?相手につけてもらうのではなくて俺らにハンデ?
クラスの連中も一夏が言った言葉に耳を疑っていた。しかしそれも一瞬でクラスからはドッと爆笑が巻き起こった。

「お、織斑君それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑君は、たしかにISが使えるかも知れないけど。それは言いすぎだよ」

そうだ、みんなの反応が正しい。俺だって当事者じゃなきゃ笑い飛ばしてるところだ。

「・・・じゃあハンデはいい」
ここで、やっぱりハンデつけてください。なんてお願いしたらまたクラスの爆笑を巻き起こしかねないしな。

「えぇ、そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデをつけなくていいのか迷うところですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて日本の男子はジョークセンスがあるのね」
先ほどまで顔を真っ赤にしていたセシリアも今や嘲笑をその顔に浮かべていた。

「ねー、織斑君、五反田君。今からでもセシリアに言って、ハンデつけてもらったら?」
俺の後ろの席の女生徒が気さくに話しかけてきたが、その表情は苦笑いと失笑の混じったもので俺も、たぶん一夏もカチンときた。

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」

「えー、それは代表候補生をなめすぎだよ。それとも知らないの?」
当たり。一夏は代表候補生がなにか全く知らない。俺も知識で知ってるだけで実物は見たことないけど。

「さて、話はまとまったな。それでは試合は一週間後の月曜。放課後の第三アリーナで行う。三名ともそれぞれ準備をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って千冬さんが締める。
不安要素が多すぎるがもはやあとに引けない。代表候補生とハンデなしのガチバトルをしなくちゃならないらしい。
憂鬱な気分を引きずりながら俺は教科書を取り出した。

「い、意味が分からん・・・なんでこんなにややこしいんだ・・・」
現在は放課後、教室で俺の隣にいる一夏は授業の難しさについて嘆いていた。

「まぁ俺も似たようなもんだよ。専門用語のオンパレード、しかも周りのやつはみんな分かってるみたいだから授業はスラスラ進んじまうし」

そして周りの状況も状況である。
周りの女生徒たちはこちらをチラチラ見たりコソコソと話し合ったりしている。自意識過剰かもしれないがおそらく俺たち二人についてだろう。
昼休みに学食に行ったときなんて特にやばかった。

俺と一夏で連れ立って行ったので話しかけてくる女生徒はいなかったものの、ゾロゾロと全員後ろをついてくるのだ。
学食でもモーゼの海割り状態で、俺らは学校に迷い込んだ犬状態だった。
あの近づいていっていいのか、いけないのかわからない微妙な均衡状態。自然に出来るエアースポット。
つーかみんなひそひそ話し合ってるけど、仲いいよね。初日から友達がいっぱいいて羨ましいよ。俺らに対する目線はやっぱり学校に迷い込んだ犬か珍獣あたりだ。

「ああ、織斑君。まだ教室にいたんですね。良かったです」

「はい?」
一夏が呼ばれて顔を上げる。俺もそのほうを見ると副担任の山田先生が書類片手に立っていた。

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って一夏に部屋の鍵と、部屋番号の書かれた紙を渡す。

ちなみにこの学園は全寮制なのだが俺と一夏は初の男子生徒なので部屋が決まるまで一週間くらいは自宅から通うように言われていたはずなのだが。

「俺の部屋、決まってないんじゃないですか?というか弾のほうは部屋決まってないんですか?」

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的に部屋割りを無理矢理変更したらしいです。五反田君には悪いですがもう少しの間自宅から通ってもらうことになります」

山田先生の言う事情とは一夏の特別性のことだ、世界で唯一ISを扱える男。最初はマスコミや日本政府、各国大使。
果ては遺伝子工学研究所の人間がやってきて『ぜひとも生体を調べさせてほしい』と言ってきたりもしたらしい。
そんなわけで学園の監視の届かないところには極力置いておきたくはないのだろう。一夏に何かあっては世界的な損失だからだ。

俺は今自宅の自室に帰ってきていた、山田先生の話が終わった折をみて一夏とは別れ帰宅した。
ベッドの上に寝そべりながら今日のことを思い返す。
女子に囲まれての学園生活は思いのほかやりづらかった、想像してたのとは大違いだ。
特にあのセシリア・オルコット。人の話は聞かないし、自分の話だけ押し通そうとする。
顔はいいんだがなぁ・・・

顔で思い出したがそういえば一時間目の休み時間、一夏に話しかけたあの女生徒はなんだったのだろう。
結局授業が始まったりセシリアが出てきたりでうやむやになってしまっていたが。

一夏に聞けば分かるか、と思い立ち携帯電話を取り出したところでその携帯電話からメロディ音が流れ出した。
うわさをすれば何とやら、丁度一夏からメールが来ていた。
なになに『最近の女子高生は殺人未遂現場をみて"いい感じ"と言うらしいぞ』

「・・・・・・・・・」
俺は寮内で友人が幼馴染に殺されかかっているなど知る由もなく、その文章にただただ首を傾げるだけだった。


結局あの女生徒のことは聞きそびれたまま、一日目が終わった。

一旦ここで一区切り
一日かけた書き溜めがほんの数分で貼り付けれてしまうなんて諸行無常もいいとこだわ。

感想とか改善してほしい点とか上げてもらえれば出来る限りがんばります。
それではまた。

投稿再開しますです。

二日目の二時間目、その休み時間。俺と一夏は女生徒からの質問攻めにあっていた。
昨日のように二人で固まっていても、全く物怖じせずに突っ込んでくる。畜生、昨日の今日で男子に慣れるの早いなぁおい!
こういう女の子に囲まれるのに憧れてたけどコレはやりすぎだ。だってこの子たち勢いありすぎて怖いんだもん。
ていうか人垣の向こう側に整理券配ってる奴までいるぞ、しかも有料で。人で商売するんじゃねえよ!

そうやって質問をさばいていっていると後ろから、スパァンっ千冬さんが一夏の頭を出席簿で殴ったような音が聞こえてきた。

「休み時間は終わりだ、散れ」
千冬さんの一言で今までざわついていた教室が一気に静かになり女生徒たちも席にすばやく戻っていった。
しかし千冬さんいつの間に一夏の背後に来ていたんだ。気配一切なかったんですけど。

「ところで織斑、お前のISだが準備に時間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから少し待て、学園で専用機を用意するそうだ」

「???」

一夏はなにがなにやらわからないと言った表情だが俺や周りのクラスメイトにはその意味が分かる。
一年生のそれもIS初心者に専用機が与えられるのは前代未聞のはずだ。ISは全世界に467機しか存在しない。
それはISの発明者、篠ノ之束博士がISの中心たるコアを467個し作り出さず、コアを作れるのは世界で唯一篠ノ之博士だけなのだ。

つまりその限りあるISの中から個人専用に割り当てられるのは極一部の限られた人間だけだと言うこと。
そりゃあもうすごいことなのだ、あのセシリアから話しかけられるよりもずっと光栄なことなのだ。

しかし一夏はそんなこと一切わかっていないので千冬さんに教科書の、さっき俺が説明した部分の音読をさせられていた。
でも篠ノ之って篠ノ之博士以外にも聞いた覚えがあるぞ、それもつい最近。なんだったかな?

「あの、先生。篠ノ之さんってもしかして篠ノ之博士の、その・・・関係者なのでしょうか?」
クラスの視線が一つの方向に向いたので俺もその方向を見ると、昨日一夏に話しかけてきた謎の女生徒の方をみているらしい。
そうだ、思い出した。自己紹介であの子は『篠ノ之箒』と名乗っていた。どうりで聞いた覚えがあるはずだ、昨日のことではないか。

「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」
千冬さんの肯定の言葉にクラスメイトたちは授業中だというのに篠ノ之の席の周りに押し寄せていく。

「ねぇねぇ!篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの?」

「篠ノ之さんももしかして天才だったりするの!?今度ISの操縦法教えてよ!」

まるで休み時間中の俺と一夏のようだ、質問攻めにあっている。外から見ていてもあの勢いにはついていけそうにないな。
というか篠ノ之さんって一夏と何か関係あるのか?昨日唯一、一夏とサシで話した人物だし。


「あの人は関係ない!」

突然の大声に俺は思考を中断する。なにかあったのかと篠ノ之さんの席の周りの様子を伺うが周りのクラスメイトたちも何が起こったのかわかっていないようだ。

「・・・大声を出してすまない。だが、私はあの人ではない。教えられることも何もない」

そこまで大きな声で言ったわけではなかっただろうが、教室中静まり返っているこの状況ではとてもよく聞こえた。
篠ノ之さんは拒絶する意思を示すように窓の外を向き黙ってしまった。教室中がなんともいえない空気で満たされていたが、

「さぁ授業を始めるぞ、席に着け。山田先生、号令」
千冬さんの一言で皆、席に戻っていった。

「安心しましたわ。まさか訓練機で勝負しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間になった瞬間に後ろから声を掛けられた。もちろんセシリアだ
こんなテンプレなお嬢言葉を使うのは彼女くらいのものだろう。しかし彼女はあれか、他に話す人がいないのか?
俺らの事嫌ってるはずなのに結構な頻度で話しかけてきてるんですけど。朝に教室入ったら一回絡まれて、一時間目の休み時間もそう。
さっきは人が周りにいたからだろうか?もしかしたら自分の席で寝たふりをしてたのかもしれない。もしかしてボッチ?今度からはもう少し優しくしてあげよう。

「あなた今ものすごく失礼なことを思い浮かべていませんでしたか?」

「いや、今後の対応について考えてただけだよ。今まで悪かったなぁ、と思ってさ」

「?・・・まぁいいですわ。」
小さく咳払いをしてセシリアは続けた。
「一応勝負は最初から見えていますけど、さすがにフェアではありませんものね、専用機でもなければ。それで?あなたのほうはどうですの」

「あぁ、俺のほうは気にするな。一応専用機ならある。」
ただ『あれ』をISと呼んでいいのなら、だけどな。

セシリアは俺の回答に満足げにしている。自分の勝利を全く疑ってないんだろうな、確かに勝てるきはしない。
けれどここまでコケにされると少し意地を張りたくなってしまうな。

「えーっとなんで専用機がないとフェアじゃないんだ?」

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなた方に教えて差し上げましょう。このセシリア・オルコットはイギリスの代表候補生、つまり現時点で専用機を持っていますの」

「へー」

「馬鹿にしてますの?」
一夏にそんな気はないと思うがな。というかあなた『方』って、俺まで知らないってことにされてるじゃねえかよ。

「いや、すげーなと思っただけだけど?どうすげーのかは分からないけど」

「それを一般に馬鹿にしてると言うのでしょう!?」
バン!と一夏の机を叩くセシリア。あ、一夏のノートが落ちた。

またセシリアは咳払いをして話を進める。
「さっき授業でも言っていたでしょう?ISは世界で467機しか存在しない。つまり専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

「そ、そうなのか」

「そうですわ」

「人類って今六十億越えてたのか・・・」

「そこは重要ではないでしょう!!」

バンッッ!!っと先ほどよりも強く一夏の机を叩くセシリア。あ、ノートと教科書落ちた。

「あなた、本当にばかにしていますの!?」

「いやそんなことはない」
嘘だな、明らかに棒読みじゃねえか。

「だったらなぜ棒読みなのかしら・・・・・・?」
ほらちょろいさんにもばれた。

「なんでだろうな、弾」

「俺に振るなよ、俺に」

「なんでだろうな、箒」
そっちに振っちゃ駄目だろう。つーか篠ノ之さんのこと下の名前で呼び捨てですか?どんな関係だよお前ら。ちょろいさんの話より興味深いわ。

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」

「妹と言うだけだ」
篠ノ之さんは射殺すような視線をセシリアに向けながら言う。俺の方は向いていないはずなのにこっちまでゾクゾクするような鋭い目だ。
そこらへんのゴロツキよりもよっぽど怖いわ。あのセシリアもさすがに怯んでるし。

「ままま、まぁ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわ、わたくし、セシリャ・オルコットであると言うことをお忘れなく」

「大丈夫か?声震えてるぞ、しかも自分の名前噛んでるし」

「お黙りなさいっっっ!!」
セシリアは顔赤くして自分の席に戻っていった。かわいそうというか残念というか、今度からはもう少し優しくしてやろう。

かなり短いですがまた一旦区切ります。
次は篠ノ之さん登場の巻です。

ちなみにこのSSは原作が手元にあるとちょっと読みやすくなると思います。
私も原作本片手に作業してるのでそちらの影響を多分に受けております。

今日最後の更新を始めます。ちなみにこのスレは不定期更新です。
基本的には週1のペースを予定してます。
では参ります。

今日最後の更新を始めます。ちなみにこのスレは不定期更新です。
基本的には週1のペースを予定してます。
では参ります。

本日最後の更新を始めます。ちなみに不定期更新になると思います。
週一回は更新すると思いますが。
それでは行きます

「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」

「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。

「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」

「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」

「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」

「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」

「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。

「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」

「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」

「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」

「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」

「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。

「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」

「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」

「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」

「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」

「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。

「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」

「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」

「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」

おっと凄い連投をしてしまった。気を取り直して。

そう言って、一夏は席を立つ。そのまま篠ノ之さんの方に歩いていき、篠ノ之さんに話しかけている。
え、まじで?確かに下の名前で呼んでたが、あの篠ノ之束博士の妹さんが例のファースト幼馴染かよ。

そのファースト幼馴染と一夏だが、なにやらもめているみたいだ。昼休みだからか周りが少し騒がしくて聞き取りづらいが、行く行かないでもめてるようだ。
そのうち一夏は篠ノ之さんの手をとって半ば無理矢理引っ張って連れて行こうとしだした。
大丈夫なのか?俺は篠ノ之さんの事あまり知らないが、イメージ的にそんなことしてたら。

と、その時だ。
一夏の体が宙を舞った。よく見えなかったが篠ノ之さんに投げられたのであろう。

周りの生徒たちはいきなり人が投げられた光景にびっくりしてるようだ、皆目を見開いて篠ノ之さんのほうを見ていた。
俺としては友人があんな目にあわせられて、何か言ってやりたい反面、一夏が無理に誘ったことも原因なのではないかと動けなくなっていた。
だが一夏は起き上がって何事もなかったように篠ノ之さんに話しかけている。なんか「腕上げたな」だとか言っているのが聞こえてきた。
幼馴染っていうのはこんなバイオレンスな間柄なのか?いや違うと思う。幼馴染いないけどこれは違う気がする。

そして一夏がもう一度篠ノ之さんの手をとる。クラス中が息を呑む、正直俺を含め皆、一夏が投げられる未来しか見えていなかった。
しかし現実は違った、一夏がなにか言うと篠ノ之さんはばつの悪そうな表情になり一夏に引っ張られるままにこちらに歩いてきた。

「遅くなったな、行こうぜ。弾、箒」
時々この友人がすごい奴に見えてしょうがない。まぁ世界唯一のIS操縦者って時点で凄いんだけどね。



そして俺たちはほぼ無言のまま学食に到着。だって篠ノ之さんは喋らないし、なんか俺も雰囲気的に喋れなかったし。一夏の言葉に俺と篠ノ之さんが反応してたくらいだ。

「箒、何でもいいよな。何でも食うよな、お前」

「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある。」

「ふーん。あ、日替わり二枚買ったからコレでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ」

「話を聞いてるのか、お前は!」

「聞いてねえよ。俺がさっきまでどんだけ穏和に接してやったと思ってるんだ馬鹿。台無しにしやがって。お前、友達できなかったらどうすんだよ。高校生活暗いとつまんないだろ」

「わ、私は別に、頼んだ覚えはない!」

「俺も頼まれた覚えねえよ。あ、おばちゃん、日替わり二つで。弾、お前のは?」

「俺も一緒だよ、おばちゃん日替わりやっぱ三つね。食券ってここでいいの?」

なんというか、篠ノ之さんが一夏と話してるのを聞いていると大分印象が変わってきたな。
ただただとっつきにくい人かと思っていたけど表面のとっつきにくさを越えればコミュニュケーションをとることもできるようだ。
まぁその表面を越えるのがおっかなくて、なかなかできそうにねえけど。

「いいか?頼まれたって俺はこんなこと普通しないぞ。箒だからしてるんだぞ」

「な、なんだそれは・・・」

ん?雲行きが怪しくなって来たぞ。これはまさか・・・

「なんだもなにもあるか。おばさんたちには世話になったし、幼馴染で同門なんだ。これくらいのお節介やかせろ」

「・・・・・・」
篠ノ之さんは一夏の返答にムスッっとした表情で目線を天上のほうに逃がしている。

はい、確定しました。中学時代から幾度も見てきたが、本当に分かりやすいな。
この篠ノ之箒って子は、一夏に一定以上の好意を抱いている。まぁありていに言えば惚れてるってことだ。
周りが気づかないとでも思ってるんだろうか?気づかないのは目の前の朴念仁のみだよ。

ふと中学時代に転校していってしまった友人のことを思い出す。あいつも大概分かりやすかったが、なんで一夏に惚れるやつ惚れるやつ全員分かりやすいんだろう?

「そ・・・その、ありが」
「はいよ、日替わり三つお待ち!」

「ありがとうおばちゃん。おお、うまそうだ」

「うまそう、じゃなくてうまいんだよ!」

そういって恰幅のいいおばちゃんはニカッと笑った。良い人そうなんだけどタイミング悪いよ。
いや、そういえば一夏に惚れてる奴はデレに入る瞬間に何か邪魔されるよな。なんだろ、一夏に惚れると呪いか何かでもかかるのか?

俺たちはなんとか三人で座れる席を確保することに成功、ようやく落ち着いて話すことが出来る環境になった。
一夏が最初に言ったとおり飯を食う前に、篠ノ之さんを紹介してもらうことになった。まぁクラスメイトだから知ってるんだけど細かいことは気にしない。

「知ってると思うけど改めて紹介するよ、こっちは篠ノ之箒。俺の幼馴染なんだ、剣道やってるんだけどそれが強くてさ。去年剣道の全国大会で優勝したぐらいの腕前なんだぜ。
ちょっと堅いところもあるけど仲良くしてやってくれ」

「えっと、篠ノ之さん。俺、五反田弾って言います。一夏とは中学の入学式からの仲で、まぁ友人というより腐れ縁みたいなもんで。とにかくこれから三年間よろしく」

「・・・・・・」

・・・変じゃなかったよな、俺。なんかやらかしちまったか?

「箒」
一夏が諌める(いさめる)ように篠ノ之さんの名前を呼ぶ。

「・・・こちらこそ、よろしく頼む」

どうやら俺には過失がなかったようだ。俺はほっと胸をなでおろした。

自己紹介も滞りなく終わり俺たちは三人で昼食を食べ始めた。なんとか篠ノ之さんにも認めてもらえたらしく、話しかけたら答えてもらえる程度にはなれた。
最初はおっかなかったが一夏が言ったように堅いだけなのかも知れない。少し堅すぎるかもしれないが。

しばらく他愛もない話をしながら箸を進めていると、そういえば、と一夏が切り出した。

「箒、俺にISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週何も出来ずに負けそうだ」

「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」

一夏に言ってるんだろうけど俺も乗ってしまった人の一人なので胸が痛くなる。

「それをなんとかっ、頼む!」

一夏が箸を持ったまま手を合わせる。お行儀が悪いぞ、友よ。

「・・・・・・」

篠ノ之さんは黙々とほうれん草のおひたしを食べている。出た、篠ノ之さんの必殺『一夏無視』教室から今までにも何度かこんな場面があったし結構な頻度で一夏は篠ノ之さんに無視されている、哀れなやつめ。

「なぁ、箒」

「・・・・・・」

このままでは埒が明かないな。多分篠ノ之さんは一夏に頼ってもらえたことは嬉しいが素直になれないのだろう。と仮定。
助け舟を出してやるか。ついさっきだが『よろしく』と言われたんだ。もうクラスメイトじゃなくて友達だ。
もしくは親友に恋する美少女A。まぁどっちにしろ助けてあげたくなる役柄だしな。

「一夏、なんだったら俺が教えてやろうか?」

「え?弾、お前人に教えられるのか?」

「!!」

食いついたみたいだな、よもや俺がISを教えられるとは考えていなかったようだ。さらに畳み掛けるとしますか。

「ちょっと特殊な事情があってな、動かすことだけは入学式前に一ヶ月くらい教わってるんだよ。座学はさっぱりだがな」

「おお!それは頼もしいな。じゃあ、弾に教えて―――」

「ちょっと待て!!」

案の定、耐え切れなくなって篠ノ之さんが声を上げた。こんな展開は予想外だったのだろう。

「わ、私が一夏に教える!だからお前が教える必要はない!」

「箒!?」

「あぁ、いいぜ。俺より篠ノ之さんのほうが教えるのうまそうだし」

「「はっ!?」」
一夏と篠ノ之さんが見事にハモった。いやぁやっぱり幼馴染だね。息ぴったり。
しかしこの二人誘導しやすいな、一夏は馬鹿だし、篠ノ之さんは一夏をだしにすれば扱いやすそうだし。

「いやさ、俺って人に教えるの苦手っつーかさ。実は篠ノ之さんが名乗り出てくれればなって考えてたんだよ。というわけでさ篠ノ之さん、一夏のこと頼んじゃってもいいかな?」

「・・・まぁ、五反田がそこまで言うなら、その、なんだ、引き受けてやってもいいぞ。一夏のことは私に任せろ、これから一週間みっちり鍛えてやるからな」

自分でこうなるように仕向けてうまくいった手前あれだが、篠ノ之さん大丈夫かな。ちょろいさんと同じような匂いがプンプンする。性格でずいぶん損してる点も似すぎだろ。

「えっと、つまり俺は箒にISのことを教えてもらえるってことでいいのか?」

「そうだ。だがまずは今日の放課後に剣道場に来い。腕がなまってないか見てやる」

「いや、俺はISのことを―――」

「見てやる」

「・・・はい」

少しの不安はあるがこれで一夏のほうは安心だな。問題は俺のほうだ、確かに一ヶ月前くらいから『動き』だけに関しては結構経験を重ねている。
しかし戦いについては全くの素人。剣道をやっていた一夏のほうが心得があるだろう。しかもこの学園で唯一の人脈である一夏と篠ノ之さんを組ませてしまった以上入り込むことが出来ない。
ここで『やっぱ俺もISのこと教えて~エヘッ☆』なんていったら篠ノ之さんから人をも殺せるくらいのあの視線を向けられかねん。いったいどうすれば・・・

待てよ・・・人をも殺せる位の視線・・・!!
いや、まだいたぞ、この学園で頼れる人が。正直篠ノ之さんの百倍はおっかないが、そんなことはいってられない。
さっそく放課後あたりにでも頼みに行ってみるか。

午後の授業も何事もなく終了し、現在は放課後。一夏と篠ノ之さんは剣道場の方へ行ってしまった。
俺もそろそろ行動を開始しなくてはならない、幸い探し人は教室にまだ残っている。
俺はその人物に後ろから声をかけた。

「織斑先生、俺にISを教えてもらえませんか」

今日はここまでです。次回からVSセシリアに入ります。
そして五反田弾が学園にいる理由。ISが使えない弾がどうやって戦うかという疑問も解決すると思います。

今日は投稿しようと思います。ではいきます

そして翌週の月曜日。セシリアとの決戦の日。
俺と一夏、そして篠ノ之さんの三人で第三アリーナのAピットに立っていた。
三人とも無言だ。緊張しているのも理由の一つだが、一夏と篠ノ之さんの間に流れる微妙な空気が一番の原因だ。

「――――なぁ、箒」

「なんだ、一夏」

「気のせいかもしれないんだが」

「そうか、気のせいだろう」

「ISのことを教えてくれる話はどうなった?」

「・・・・・・・・」

「 目 を そ ら す な 」

篠ノ之さんが目をそらす理由はなんとなく分かっている。一夏から聞いた話によると篠ノ之さんはこの一週間、一夏に剣道の稽古ばかりつけていたらしい。

「し、仕方ないだろう。お前のISもなかったのだから」

「なくても基礎的なところとか、知識とか教えられることあっただろう!」

「・・・・・・・・・」

「 目 を そ ら す な っ 」

そう、一夏のISは今もまだ届いていない。なにやらごたごたがあったらしいのだが詳しいことは俺は知らない。

「「「・・・・・・・・・」」」

三人そろって沈黙してしまう。

「お、織斑君、五反田君、篠ノ之さん!」

沈黙を破ったのは我らが副担任の山田先生だった。けっこう走ってきたらしく息は上がり、メガネがすこしずれている。

「山田先生落ち着いて、まずは深呼吸しましょう。はい吸って」

「は、はい。す~~~~~」

「はい、そこで止めて」

一夏がおそらくふざけて言った言葉だったが山田先生は素直に息を止めた。山田先生の顔がみるみる赤くなっていく。

「・・・・・・・・・」

山田先生を観察している一夏。その後ろには拳を振り上げる千冬さん。俺と篠ノ之さんはそれを傍観していた。

「・・・・・・ぶはぁっ!!いつまで止めてればいいんですか!?」

「すみません、やめさせるタイミングを見失ってました」

拳は振り下ろされ一夏の頭から重い音が響く。

「目上の者には敬意を払え、馬鹿者」

いや、千冬さん。もうちょい早く止められましたよね。と突っ込もうと思ったが俺も叩かれそうなのでやめた。

「山田先生、織斑には伝えたのか?」

「あっ!そうでした。織斑君のISなんですが・・・」

「届いたんですか!?」

「いえ、もう少し遅れるそうです」

「えっ!?じゃあ俺はどうすれば―――」

「そこで五反田、お前の試合から始めることになった。準備しろ」

ピットの奥、搬入口の扉が開く。その中に一塊の鋼があった。いや、鋼に見えたがそれには足があり、胴があり、腕がある。
それはISとも見ることが出来た。しかしそれはISではない。それは―――


俺たちの前に現れた『鋼』
ISにしては腕も足も短く太い。背面にはスラスターがなく変わりに大きなバックパックのようなものがついている。
あまりにも飾り気の無い、鉄の塊のようにも見えるその機械は、鈍く重い光沢を放っていた。拳銃や刀が持つような、武器の輝きだ。

「これが、弾のIS・・・」

こぼしたように呟いた一夏の言葉に、千冬さんが反応する。

「なにを言っている織斑。コレはISではないぞ」

そのとおり、これは厳密に言うとISではない。男でISを動かせるのは世界で織斑一夏ただ一人だ。
俺が動かせるコレはISではない。

「で、では五反田が乗るこれは何なんですか?」

「そうか、お前たちには教えていなかったな。これはISに乗れないもののために開発されたISと同様の機能を持つ―――」

千冬さんは少し言葉を区切り、続けた。

「Imitation Infinite Stratos 、だ」

IIS(擬似IS)、それがISを使えない俺が、この学園にいられる理由だ。

「「IIS・・・?」」

「そうだ、聞いたことは無いだろうが十年前から開発は続けられていたんだ。そして今年ようやく実用段階までこぎつけたんだが、その報道も、とある男のせいで表には出なかった」

「ある男って。もしかして俺のことか?俺がISを使えるってことが報道されたから」

「当たりだよ、一夏。設計者や開発者の中にはお前を恨んでる人すらいたくらいだぜ」

まじかよ、と一夏が渋い顔をする。

「しかしなぜIISの操縦者に五反田が選ばれたのですか?そんなすごい物ならば五反田にもなにか特別なものが?」

違うぜ篠ノ之さん、俺に特別なことなんてなにもないさ。つまりは―――

「逆だよ、篠ノ之さん。なにも特別なところが無いから俺が選ばれたのさ」

「? どういうことだ」

「そのことについては私から説明します。五反田君は準備のほうをそろそろお願いします」

おっと、そういえば時間がないんだった。喋っていたら忘れかけていた。
俺はIISの背中側の装甲に座り込むように身を預ける。前面の装甲が閉じ、腕と足も装甲に通すと軽く抑えられる感覚が伝わってくる。

「「IIS・・・?」」

「そうだ、聞いたことは無いだろうが十年前から開発は続けられていたんだ。そして今年ようやく実用段階までこぎつけたんだが、その報道も、とある男のせいで表には出なかった」

「ある男って。もしかして俺のことか?俺がISを使えるってことが報道されたから」

「当たりだよ、一夏。設計者や開発者の中にはお前を恨んでる人すらいたくらいだぜ」

まじかよ、と一夏が渋い顔をする。

「しかしなぜIISの操縦者に五反田が選ばれたのですか?そんなすごい物ならば五反田にもなにか特別なものが?」

違うぜ篠ノ之さん、俺に特別なことなんてなにもないさ。つまりは―――

「逆だよ、篠ノ之さん。なにも特別なところが無いから俺が選ばれたのさ」

「? どういうことだ」

「そのことについては私から説明します。五反田君は準備のほうをそろそろお願いします」

おっと、そういえば時間がないんだった。喋っていたら忘れかけていた。
俺はIISの背中側の装甲に座り込むように身を預ける。前面の装甲が閉じ、腕と足も装甲に通すと軽く抑えられる感覚が伝わってくる。

「IISは元々ISに乗れない男性が乗れるISをコンセプトに開発されました。ですから操縦者は他の要素で選ぶ事になったんです」

「他の要素、ですか?」

「操縦者が学園を辞めてしまえば操縦者が変わり、それによって今まで取ってきたデータに誤差がでてきてしまうリスクがありますから。学園に残ってくれやすい人を選ぶ必要があったわけです。
そして今年は運よく織斑君が入学してきてくれましたから、自然と織斑君の友人の中から選出されたわけです。友人がいたほうが学園生活も過ごしやすいですしね。」

「まぁ他にも、たった二人の男子のために特別な制服をサイズ別に取り揃えるのが面倒だ。との意見により背格好が似たような五反田が選ばれたわけだ」

「はぁ、なるほど」

「つまり俺のための専用機が用意されたわけじゃなくて、IISのために俺が用意されたんだよ」

先生たちと篠ノ之さんの会話に装着の終わった俺が話に割り込む。

「準備は出来たようだな」

「はい、織斑先生。いつでもいけます」

「では私と山田先生は管制室に行く。ゲートが開いたら試合開始だ、いいな」

そう言うと千冬さんは山田先生を連れてピットから出て行った。残されたのは俺と一夏と篠ノ之さんの三人のみだ。

「ところで弾。なんで今までIISとかのこと教えてくれなかったんだ?」

「そのことか・・・」

俺は頬をかきながら苦笑いを浮かべる。正直一夏と篠ノ之さんには何度か教えようとしたのだ。
しかし教えようとするその度に―――

「セシリアが話に割り込んできてさ、教えようとしてもあいつが話の主導権握って離さないもんだから・・・」

「「あぁ、なるほど・・・」」

一夏と篠ノ之さんは表情やらセリフやら見事にハモって納得していた。
なんつーか最初の三日間くらいはがんばって伝えようとしてたんだけど、四日目くらいになるともう諦めちまって・・・
本当あの人他に話す人いないのかよ、他の女生徒なんかは初日からもうグループ的なの出来てたっぽいぞ。
やっぱりボッチなのだろうか?あの性格だし、十分ありえる話である。今度昼飯にでも誘ってあげようか・・・

そんなことを思案してると前方のゲートが少しずつ開き始めた、試合開始時間が迫ってきているようだ。

「なぁ、弾」

「なんだよ一夏」

「勝ってこいよ」

「・・・・・・」

いきなりの励ましの言葉に若干戸惑ってしまう。いつも馬鹿のことを言い合ってる友人からこんな言葉を掛けられるとどう返していいか困る。

「ほら、箒もなんかないのか?」

「わ、わたしにふるのか!?」

いきなり話を振られて篠ノ之さんもかなり慌てている、こういう風に慌てている篠ノ之さんは珍しい。

「そうだな・・・五反田。自分の持てる力を全て出し切れ、それで勝てるとは限らんが勝負に挑むときはそうしないと勝てる試合でも勝てん・・・以上だ」

篠ノ之さんらしいというか、励ましというよりは説教に近い。しかしこの一週間接しているとただ不器用なだけで彼女なりに励ましてくれてるんだろう。

「ありがとう、二人とも。全力でやって、勝ってきてやる」

なんだか照れくさいな、こんなの。なんか、キャラじゃないっつーか・・・

「一夏」

「なんだ?」

「俺さ、お前の気持ちちょっと分かるんだわ」

「?」

「俺も千冬さんに教えてもらったことと言えば、俺がどれだけグラウンド走り続けられるかってことだけだったし。
俺もお前もほとんどぶっつけ本番で代表候補生とガチバトルなんてついてないよな」

二人に言った感謝の言葉がむず痒すぎて茶化して誤魔化した。ちょっと篠ノ之さんには失礼だったかもしれないけど許してくれると信じよう。
これ以上言葉を交わせないようにIISを操る。訓練した通り体を前へ傾けると体が少し浮き上がって滑るよう前へ進む。

ゲートの下をくぐる頃には十分な加速を終えており、弾の体はゲートから打ち出されるように空へと飛び上がった。
入学の一ヶ月前から基本的な操縦訓練を受けていたおかげか動きに淀みが無い。そのまま高度を上げて先に待つ決闘の相手の前まで一直線に向かう。

「あら、逃げずに来ましたのね」

セシリア・オルコットはいつも話しかけるような調子で弾に声を投げかける。しかし彼女の身に纏っている雰囲気は、いつものそれとは明らかに違った。
いや、雰囲気だけではなく実際彼女の身に纏っているものも違っていた。

セシリア・オルコット専用機『ブルー・ティアーズ』
鮮やかな青いカラーリングが施された中距離射撃型のIS。特に目を引くのはセシリアが手に持つ2m超のレーザーライフル。
身の丈よりも大きなその武器は、一撃で試合の結果を決めてしまえるのではないかと疑ってしまうほどの迫力がある。

「最後のチャンスをあげますわ」

「チャンスって?」

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今日ここで謝るというなら許してあげないこともなくってよ」

「そりゃ、ありがたい話だな。けど断らせてもらおうかな」

「そう、残念ですわ。それなら―――」

弾は言われたのだ、勝ってこいと、全力を出して来いと。今あの二人もこちらを見ているだろう。
見ているのだ、友人が

「あいつらの言葉に少しでも報いなきゃならねえ、時代遅れかも知れねえけどこう言わせてもらう!!」


「お別れですわね!」

「ここでやらなきゃ、男が廃るんだよ!!」

叫ぶと同時にセシリアのライフルから閃光がほとばしる。
五反田弾、セシリア・オルコットの決闘が今、幕を開けた。

今回はここまで。次からは本格的に戦闘シーン。
視点が今まで弾の視点だけだったけれど視点が変わったりし始めます。
それではこれにて

VSセシリア編
投下開始します。

初撃はセシリアの放ったライフルの一撃、弾は左腕で防ぎ何とか直撃は避けたものの、その衝撃で一気に距離を離される。

(大見得切っておいてなんだが、もう白旗振りたくなってきやがった・・・!!)

弾が弱気になる原因は何も攻撃を受けた事に関してびびっている訳ではない。

(防御したのにシールドエネルギー半分持っていかれるとは、説明受けてたけど装甲薄過ぎるぞ)

実際はセシリアの大口径のレーザーライフルの威力もあるのだが、それを差し引いてもIISの装甲は薄い。
元々IISはISを目指して作られたもの。オリジナルをそう簡単に超えられるわけは無い。

「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

第二撃が迫る、その後ろに第三撃、四、五。数え切れない弾丸の雨が降りそそぐ。中距離射撃型のISに今の距離は分が悪すぎる。
かと言ってこの弾丸全てをかいくぐって近づくのは不可能と言えるだろう。

つまり活路は後方。弾は全力で後方に飛び退る、足の底面に設置されたブースターを全開にして一気に加速する。
細かく機体を振り、出来る限り被弾しないように全力で避け、避けられそうも無いものは左腕でガードする。

シールドエネルギーをさらに削られたものの、なんとか距離を置くことに成功する。
しかしISとの戦闘ははじめてである弾が代表候補生であるセシリアの初撃、それに次ぐ弾丸の雨をたとえ被弾しながらも撃墜されなかったのには理由がある。

IISはISと比べスペックが劣るわけではない。元々IISはISを動かす中心であるコアが女性でしか動かせないというデメリットを回避するためコアを使用していない。
コアの機能を別の機材などで補うことでIISは動いている。それゆえにISでは武装や装甲、出力にまわす部分を、コアの機能を補うために割いている。

つまりIISはISに比べ、割り振れるステータスが絶望的に少ないと言うだけで、うまく割り振ればそのデメリットもある程度緩和できる。

話が長くなったが弾の乗るIISはその他のステータスをほぼ機動力に割り振っている。そのため装甲は薄い、出来る限り機体を軽くするために。
そして幸運にもその機動力が、セシリアの弾丸に撃墜されず今も戦闘を続けられている理由なのである。

しかしそれでも状況は絶望的である。弾が初撃から体勢を立て直すまでの間にシールドエネルギーを半分強、失ってしまっている。
このまま逃げ続けても弾に勝機はない。攻勢に転じるしか、道は残されていない。

セシリア・オルコットは自身の攻撃をかろうじて捌いた弾に多少感心しながらも自分の勝利を確信していた。
想定していたよりも弾のISの機動力が高かったのには驚いた、初撃だけではなく、あの弾丸の嵐を撃墜されずに距離を置けたことには驚いた。
だがセシリアの攻撃は確かに弾のシールドエネルギーを削り、弾はセシリアに攻撃をしかけることすら出来ていない。

(それにわたくしはまだ使っていない武器もありますわ。例え彼が突っ込んでこようが、逃げることに専念しようが結果は同じ。このセシリア・オルコットの勝利は揺るぎませんの)

現在二人の距離はおよそ100mほど。弾はアリーナの端、地上付近で停止している。
対してセシリアは初撃を放った中央上空から一歩も動かず、しかし銃口は弾のほうに向け、いつでも攻撃を開始できる構えを取っていた。

攻撃をしかけるどころか、武器すら手にとっていない弾の出方を窺っているのだろう。

お互い動かず、出方を窺いあい、いくらかの時間が流れた。

先に動いたのは弾のほうからだった。ゆっくりと右腕をあげる、武器を呼び出す際に発せられる光が、弾の右腕を包む。
粒子化されていた武器が本来の形を取り戻しだす。

右の手首あたりから直接生えた円錐状のシルエット。光が収まり、アリーナ中の視線がそれに集中する。
弾の右腕に現れたそれは、武器ではなかった。

ここで少し時間はさかのぼり管制室に場面が移す。

「五反田君、大丈夫なんでしょうか?」

「奴もあれで一月ほどIISには触れている。動かす分には支障は無いだろう」

「ですがこれから始まるのは・・・いくら織斑先生に一週間指導を受けたといっても――――」

「指導したといってもグラウンドを延々走らせただけだ、戦闘に関することは一切教えていない」

「え!?そうだったんですか。私はてっきり一週間で代表候補生も相手取れるようになる地獄の秘密訓練かなにかかと・・・」

「漫画の読みすぎだ。一週間で素人にできることといえばそれくらいしかない、付け焼刃の訓練など何の役にもたたん。まぁ、私のやったことも焼け石に水、万に一つも奴に勝ち目は無い」

「・・・・・・・・・」

「しかし、奴の機体が過ごしてきた10年が、その無理を押し開く可能性はあるかもしれない」

10年? と真耶は聞き返さずにはいられなかった。IISはつい先日、実用段階にまでこぎつけた代物だ。
確かに10年前から研究、開発は続けられてきたが、弾が今使っている機体だって一月前ほどに組まれた新品である。

「不可思議そうな顔をしているな、まぁ無理も無い。いささか精神論すぎた発言だった。忘れてくれ」

「い、いえ!・・・できれば、詳しく聞かせてください。その、10年って」

「・・・・・・これは、人から聞いた話なのだが―――」

少し間を置いて千冬は語り始める。

「IISは始め、ISを使えない男性でもISを使うために、コアを使用せずにISと同等の機能を持つ機体を作ろうと、研究・開発が行われていた」

「行われて『いた』?」

真耶の疑問に小さくうなずくだけで答える千冬。

「研究を続けていく中、ISを使えるのが女性だけという事実が世のパワーバランスを変え始めた頃。研究者たちはどうしようもない悔しさや怒りを覚えたそうだ。
女に負けるのは男のプライドが、とかいうやつだ。当時でさえ廃れかけていた言葉が、世の中が変わっていっていたその時代にまた心に入り込んできた。女を虐げたいわけではない、
憎んでいるわけでもない。ただ、何も出来ないまま男が弱いと決め付けられるのがいやだった」

一旦語るのをやめ、画面を見る千冬。つられて真耶も画面に目を移す。今アリーナでは試合が始まっているにもかかわらず、空中でセシリアと弾が何かを話している。
目線は離さずに千冬は続ける。

「研究者たちは研究・開発を続けようやく実用段階までこぎつけた。そして今、機会が訪れた」

「決闘・・・オルコットさんと五反田君の」

「そしてあいつは最後にこう言った。『IISは弱い男が、女に堂々と喧嘩売るために作られたんだ』と、子供がヒーローを語るように、嬉しそうに言っていた」

「その話を織斑先生にしたのって、五反田君ですか?」

「教師が生徒に感化されるなど、私もまだまだ未熟だ」

「そんなこと―――」

真耶が喋ろうとしたその時、銃声が鳴り響いた。試合が動き始めたのだ。
画面上で距離を離された弾が体勢を立て直しきれてない間に弾丸がとどめをさすべく迫り、それをかろうじて避けながら後方へ下がっている。

(機体に込められた10年分の想い、反抗することも出来ずに抑圧された想い。それは・・・)

真耶はどうしてもそれを表現できなかった。あやふやなイメージのままでしか理解できなかった。

(五反田君や織斑君ならわかるのかな?だとしたら少し、うらやましいかもしれません)

場面は再びセシリアと弾の決闘の場に移る。
光が収まり観衆の目に映ったそれは武器ではなかった。それは工作機械だった。



男の浪漫『ドリル』


弾の右手のドリルが、自身の存在を誇示すべく、唸りを上げた。

今日はここまで、ちょっと短かったでしょうか?
もっと書き溜めてから量多めで投下したほうが良いでしょうか?

千冬姉と山田先生キャラ違ってないか少し心配、あと今回説明やら長文が多すぎたような。
ちょっと心配事多い不安定なSSになってきましたがどうか暖かい目で見ていただければ幸いです。

P.S
感想や乙のレス凄く嬉しかったです、励みになります!

それではこれにて

今日の投下開始です。今日はセシリア戦終了まで行きます。

会場中が静まり返っていた。皆、弾の右腕から視線を離せずいた。ISが発表されて10年間、誰もドリルがISの武器として使用されたことなんて見たことがなかった。
それもそうだ、ありえない。ISにドリルなんてありえない。

クスクス、と小さな笑い声が最初だった。少しずつ周りに広がる笑い声。アリーナ中、セシリアでさえ照準をはずし笑っていた。

それもそうだ、ありえない。ISにドリルなんて、格好悪すぎる。

「あなた、もっとマシな武器はありませんでしたの?まさかその武器で、中距離射撃型のブルー・ティアーズに挑もうなんて思っていませんわよね?」

「あいにく、これしか持ってないんだ」

「あら、同情しますわ」

「なら何かしてくれるのか?」

「そうですわね・・・なら―――」

口に手を当て思案するそぶりを見せるセシリア。しかし弾にはその後の言葉が容易に想像できた。
なぜなら弾の視界の隅で警告文がずっと出ている。『敵IS、射撃体勢。エネルギー装填』

「早々に引導を引き渡してあげますわ!!」

初撃の時のように、セシリアのライフルから閃光が放たれる。

せまりくる弾丸を弾は真っ向からドリルで受け止める。
弾丸はドリルにぶつかり軌道を大きくはずされ、次いで来た弾丸を弾は大きく飛び上がり避ける。

(もう何もくらうわけにはいかない、けど逃げ続けるわけにもいかない。なら・・・腹くくるしかない)

弾は意を決し三発目の弾丸を交わすと同時に前へ出る。しかし四発目、五発目、と避ける毎に思うように前へ進めなくなる。

(距離が近いからか?発射から着弾までが短い、避けるだけで手一杯だ。近づけねえ!!)

先ほどまでは距離を十分にとっていたが今の弾とセシリアの距離はセシリアの得意とする距離。そうやすやすとは近づけない。

「さぁ!フィナーレへ向けて、最後の役者を紹介しますわ!」

高らかに宣言すると同時に、セシリアは左手を大きく振り上げる。
そこに一瞬の隙間、弾は迷わず突っ込む。たとえ罠だとしてもここで踏み込まなければこの距離は越えられない、そんな予感が弾の頭をよぎったのだ。

「人が喋っている時に割り込もうとするなんて、無粋な方ですのね!やっておしまいなさい『ブルー・ティアーズ』!!」

(何をやろうとしてるか知らないが、至近距離まで詰められれば射撃武器は腐る。次のチャンスがあるかも分からないんだ、やってみせる!)

二人の距離が詰まる。セシリアの得意な距離から、弾の得意とする距離へ、。ドリルの届く距離へあと少し、弾が腕を伸ばす。

しかしドリルはセシリアに触れる事は無かった。その前に弾の体に衝撃、セシリアの弾丸が行く手を阻む。

(被弾した・・・!?でも衝撃は真横から、どうやって―――)

「チェックメイト。ですわね」

一瞬セシリアから離れた意識、あまりに近い距離、突きつけられる銃口、言葉の、意味。
弾の頭の中に大量の情報が一気に流れ込む。状況についていけていない。
それでも引き金は容赦なく引かれる。幕を下ろすため、弾の頭部に向けて。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(なにが、どうなったんだ?俺は、負けたのかよ・・・目を開かなきゃ、状況を・・・)

銃口を向けられて、その後のことがあやふやだった。頭に強い衝撃を感じたような覚えもあったが、よく思い出せない。
まぶたを開くと太陽の光が目に差し込んでくる。IISが自動的にまぶしさを軽減させる、どうやらまだ、試合は終了していないようだった。
セシリアがこちらにライフルの銃口を向けているから。


銃口が―――

(・・・・・・っっっ!!やっばいじゃねえか!!)

がむしゃらにブースターを動かしその場から慌てて離れる、一瞬後に今まで弾がいた場所にライフルの弾丸が突き刺さる。

(状況確認・・・シールドエネルギーは四分の一と少し、損傷は左腕が・・・コレはガードしたせいだ。攻撃は続いて―――

視界の隅に警告文、急いで進路を変更し回避を試みる。耳の後ろでいやな音が聞こえたが、回避は成功。

―――いるよな、当たり前だ。じゃあさっきまでのことを順を追って思い出せ。謎の衝撃、なんでまだ試合が続いているかを)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺は銃口を突きつけられて、無防備な状態で打たれたはずだ。けれどドリルがまるで意思を持ったように動き、俺の目の前をさえぎり弾丸と俺の頭の間に割ってはいった。
しかし衝撃は防げず、自分の腕で頭を強打、そのまま意識を・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(それで今に至る、だけどその前。真横からの被弾、あれの正体は何だ?)

セシリアの放つ弾丸をかろうじて避けながら、弾は思考を巡らす。再度の均衡状態、しかしアドバンテージがあるのはセシリアのほうだ。
ありえない方向からの攻撃、今だ弾は正体を掴めていない。次にあれを出されて足を止められでもしたら、もう攻撃を受け止められる自信はない。

(今は距離とって様子見にまわったほうがいいか、せめてあの攻撃の正体の糸口が掴めてから)

少しずつ弾はセシリアから距離を離す、直線距離でおおよそ50m、その位置でせまりくる弾丸を避け、時に払ってやりすごす。

「しつこい方ですわね、女性に嫌われますわよ」

「あぁそうだな、早速おまえに嫌われてるしな!」

「ですからその顔を見るのも、もうおしまいにさせていただきます!」

そう言って右手を高く振り上げる、セシリア
先ほどと同じ動作に、弾は体を一瞬強張らせるが今度の攻撃はその正体を隠さず、弾に襲い来る。

セシリアのISの後ろにあるフィン状のパーツが機体から離れブースターを噴きながらそれぞれが弾の周りを取り囲むように飛び出す。

「さぁ今度こそ終幕!優美に舞いわたくしに勝利を、ブルー・ティアーズ!!」

(これが真横からの衝撃の正体、自立、もしくは遠隔操作のビット。あの時これが見えなかったのは・・・)

「最初のはあげた右手の反対、左側のビットを見えにくい角度で・・・まさか接近させたのはわざとかよ!」

「その通り、あなたはわたくしに夢中でまんまと気づきませんでしたわね」

「誤解されるような言い方するんじゃねえよ!馬鹿!!」

「よそ見してる間に後ろいただきますわ!」

「なっっっ!?」

とっさに後ろを振り返るが、そこには何もなく。視界の右隅に動くものを認識した時にはもう弾丸は届いていた。
簡単な挑発に乗っだ結果はビットの攻撃一発の被弾。シールドエネルギーは一割を切った。

(しまった!)

「ここまで耐えたのは褒めてあげますわ、けれどあとはブルー・ティアーズに任せていれば、ウフフ」

セシリアはライフルを下ろし、右手を口元に当てて笑っている。もう勝負はついたと思っているのだろう。
いや、勝負はもうついている。弾の動きにも大分疲れが出てきているし、機動力が優れているといっても四方向からの攻撃をたった一割のシールドエネルギーで守りながら近づくことは難しい。
なんの技能もない素人としては弾は善戦したほうだろう、アリーナ中のクラスメイトや観客も、ドリルの件はあったが弾のことをただ珍しい男子としてではなく認め始めている。
ここで負けても誰も責めるものはいないだろう。

しかし弾の勝利を諦められないものもいた。

織斑一夏も、まだ諦めていない。親友は諦めていないと信じている。だから彼も諦めない。

篠ノ之箒も、出来て間もない友人、知らないことのほうが多いその友人が頑張り続けている。だから彼女も諦めない。

そして弾本人も、もちろん諦めていない。諦めきれない。

(まだ俺は何もできてない、このドリルはまだ届いていない。十年間の思いをまだ晴らせていない!一夏と篠ノ之さんの期待にも全然答えれてねえ。
あの二人も今きっと見てる。なんにもできないままはいやなんだ!このドリルを、届かせるんだ!絶対!!)

弾は強く望んだ、この状況を打破する力を。セシリアを倒せる力を、自分に、この機体に。
しかしそんな都合のいいことは起きるはずがない。弾は避け続けるしかない、残り少ない体力を振り絞り、チャンスを待つ。

(千冬さんにしごかれてなかったら、ここまで持たなかったな・・・けど、もう限界かも知れねえ)

だんだん回避が危うくなってきた、終焉は近い。最初から最後までセシリアの手のひらの上で踊っていただけだ。
近づけたのもセシリアの策略、それ以外は逃げ回っていただけ。チャンスは最後まで訪れなかった。
視界の隅では警告文が際限なく現れては消える。

(頼む!何でもいいんだ、偶然でもまぐれでも、何でも!これで終わったらIIS作ってくれた人にも、友達にも顔向けできいないんだ!!頼むっっ!!)

『右後方よ『左『上方から狙』』『単一『後方『左前方『ています』』狙われ』』』

警告文が表示され消える前にまた表示されるので重なりあいもはや何が書いてあるのかが分からない。
情報についていけなくなる直前、警告文の中に違和感のある一文を発見し一番上に持ってくる。

『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』

始めに弾が抱いた感想は、この機体に名前があったことへの驚き。今までIISと呼んでいたこれの名前。ようやく自分のものになったような不思議な感覚。

(どう使うのか、なぜだか分かる。というより今この状況で発動したんならそういう能力じゃなきゃ困る!!)

弾が警告文に気づき認識している間にも攻撃は続いている。頭の中で情報を処理している間にも弾丸は迫っている。
一瞬の思考、しかしその一瞬で避けるのには致命的な遅れになっていた。

そして、弾のIIS。玉鋼が―――

(消えた・・・一体どこに!?)

セシリアはこの試合で初めて焦っていた。今まで自分の思惑通り進んできていた試合がいきなり自分の思惑から外れた。
確かに自分の弾丸はあのISを捉えていたはず。なのに弾丸は空をきり、五反田弾を見失った。
慌ててセシリアは自身の視野と機械で補助された分の視野も活用し弾の居場所を探す、見逃しやすい後方を探るとなぜかこちらに背中を向けた弾を発見する。
同じタイミングで振り返る二人。セシリアは驚いた表情を、なぜか弾も同じような表情をしていた。

「ど、どうやって避けましたの!?完璧に当たるタイミングでしたわよ!」

「どうやって、って・・・走って?」

「ふさけていますの!?」

「よそ見してると後ろいただくぞ」

「えっ!?」

今度はセシリアにも見えた、弾が何をしたのか、どうやって避けたのか。
確かに弾は走っていた。しかし注意していても目で追うだけで精一杯な速度で。

少し遅れて小さな破裂するような音が聞こえる、弾の体が音速を超えた時の音だ。

セシリアが振り返ると言葉通り後ろに弾の姿を見つけるが弾とセシリアの距離は相当離れている。

(なにがしたいんですの?攻撃もせずに・・・遊ばれている?けれどあの表情は・・・)

不可解に思ったのは弾の表情、自分で動いたはずなのにあきらかに困惑している。

「もしかして、自分でも思い通りに動けませんの?」

「・・・・・・・・・」

(絶対図星ですわ!!表情わかりやすっ!ちょろい、この人ちょろいですわ!)

非常に失礼なことを思われているが弾はそれどころではない。窮地を脱し、逆転の鍵を手に入れたがどうも扱いきれていない。しかも

(この脚部充填エネルギーって何回移動できるかって事か、最初は両足、後ろに回るのに左右一回ずつ。そんでもって一回分につき24秒の充填時間が必要、片足ごとに充填ってのは助かるな。
でも充填を待つ余裕は俺にはない、なら残り両足六回ずつで決めるしかない!)

加減の出来ない超加速、残りわずかなシールドエネルギー、離れた距離。
どうすれば一番いいのか決まっている。そしてそれを実行するための覚悟、それはもう持っている。

ドリルを引き、腰の辺りで力を溜める弾。そのままの体勢でじわりじわりと距離を詰めていく。
迎え撃つセシリア。ブルー・ティアーズを自身の周囲に展開させ、ライフルの銃口は一切ぶれず弾に狙いを定めていた。

いつの間にかアリーナから音が消えていた。
ドリルの唸りとブルー・ティアーズがときおり位置を微調整するときのブースターの音しか聞こえない。

(わたくしのシールドエネルギーはまだ削られていない、けれどあのドリルから、一撃でも喰らえば終わりそうな威圧感を、確かに感じる・・・そして、あの人の。『瞳』)

一度も見たことのないような瞳だった。窮地に立たされながらも、けっして諦めない瞳。
強い思いを込めた、鋭い視線。

(わたくしはこんな瞳をもった男性に、出会ったことがない・・・)

弾が近づくのをやめる、恐らく射程距離。あの加速力があればこその距離、セシリアのもっとも得意とする距離でもあるその領域に弾は立つ。

(勝利なんて二の次、あの人と、五反田弾と全力でぶつかり合いたい。その先に、わたくしの見たことのないものがきっとある!)

「行くぞ、セシリア」

「いつでもどうぞ、あなたを迎え撃つ準備は出来てますの」

(彼に引っ張られるような感覚、わたくしも出し惜しみ無しで。全力で!!)

セシリアと弾、二人の最後の攻防に始まりの合図は存在しなかった。
しかし二人は同時に動き出す。

弾が両足のエネルギーを二度放出、爆発的な加速力を持ってセシリアに迫る。
だが同時にセシリアは真正面に隠し玉のミサイルを置くように放つ。自分と弾の間に割り込ませ弾が突っ込み自爆するように仕向けたのだ。

弾が突っ込んでくることはセシリアも予想していた、制御し切れていないあの加速能力で短い射程のドリルを当てるには突貫しかないと踏んだ。
そして弾はそれを隠すことなく愚直にも宣言して突っ込んできた、いつものセシリアなら笑うところだろうがそうはならなかった。
セシリアはこの短時間で変わったのだ、時間にして数分にも満たない戦闘で。
変えたのは目の前の男だ。

その男、五反田弾はそのままセシリアの目の前を通り過ぎる。ミサイルは被弾せずに。

「お前なら読んで合わせてくると思ったぜ!」

弾は読んでいたのだ、セシリアが自分がまっすぐ突っ込んでくると読んでいると。
対戦相手の腕前を認め、信頼した、その結果が無防備な背中。

両足のエネルギーを停止のために二度、加速のために二度。水泳のターンのように身をひねりながら残りの全てのエネルギーを使う。
正真正銘最後のチャンス。

(絶対外さない、死んでも外さない!!)

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

雄叫びをあげて突っ込む、まっすぐ、今度こそ一直線にセシリアへ!

弾は驚異的な加速の中で玉鋼のサポートを受け周りを視認する。セシリアはこちらに振り向こうとしている最中、しかし間に合うはずがない。

(銃口を向けて、狙いを定めて撃つ。この速度なら狙いを定める前に到達できる!!)

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

叫び声が響き渡る、しかしそれは弾のものではない。
セシリアが、あのセシリア・オルコットが恥も外聞も関係ないと言わんばかりの叫び声をあげてこちらに銃口を向けようとする。
いや、銃口を向ける。ではない、握り方がめちゃくちゃだ、だとするならば。

(ライフルで直接殴る気か!!?)

自分という殻を破り去り、高貴な雰囲気もかなぐり捨ててまで勝利を目指す。全ては―――

(この人の全力に答えるため、わたくしはわたくしをやめますわ!!)

「らあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「あああああああああああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!」

絶叫、せまる武器と武器。交錯、打撃音。そして

『試合終了。勝者―――』

試合終了のアナウンス。

今回はここまで、試合は終わりです。
ちょっとやりたい放題やりすぎたでしょうか。ちょっぴり不安
区切りが悪かったので投下しませんでしたが少しだけ書き溜めもありますし三日以内にこれる可能性が高いです。
しかし私は確立論を神様程度にしか信じてないのでもっとかかる可能性も否めません。
すいません、脱線しました。

ドリルが思いのほか好評だったので嬉しかったです。
それではこれにて

投稿を始めます。思いのほか区切りのいいところまで書けたので。
しかし書き溜めがたまらない。あったと思ったら次の日には消えているとは。
諸行無常を感じます。でも私は負けない。脱線しましたがいきます。

『勝者、セシリア・オルコット』

「・・・わたくしの、勝利?」

「人の頭を銃身でぶん殴っておいてそれはないぜ」

耳元で弾の声が聞こえる、セシリアの打撃を受けたが速度は殺せずそのままセシリアに叩きつけられたのだ。
しかも頭の横をドリルが通過したため丁度抱き合うような姿勢になっている。恐らく衝撃のほとんどはセシリアの自前のエアバッグで吸収されたのではないだろうか。

「い、いつまでこの体勢でいるつもりですの!離れなさい!!」

「はいはい、分かってるよ」

セシリアが顔を真っ赤にして訴えるとすんなりと従う弾、もしこれが他の女子であればもう少し堪能したであろうが弾はセシリアの残念な中身を知っているので反応が若干薄いのだ。

「・・・ところで、なぜあのようなことを?」

「ありゃ事故だよ、もうエネルギー残量なくて止まれなかったんだ、すまねえ、悪かった、許せ」

「そのことではありません!なぜ・・・なぜあの時ドリルをそらしたのですか!わたくしは全力を尽くしたというのに、それなのにあなたは!」

「あぁ~、やっぱ気づいたか。そりゃそうだよな、お前は代表候補生だし・・・」

バツが悪そうに頭を掻くがそのうち観念したように打ち明けた、試合の最後の瞬間のことを。

「最後に俺が狙ったのはお前の頭だった、これは覚えてるな?」

「えぇ、ですけどそれがなにか関係がありますの?」

「うちの爺ちゃんがよ、『どんなことがあっても女の顔だけは殴っちゃならねえ』って言ってたのつい思い出して・・・それでさ、なんつうか殴れなくなったというか・・・」

「・・・・・・・・・」

セシリアは少し頬を赤く染め、ムスッとした顔で目線を弾からそらした。
ここ数日のセシリアの言動を見てきた弾からすれば、プライドを傷つけられたと感じ怒っていると思っているだろう。
今までのセシリアならそうだ、数十分前のセシリアならば。
しかし今のセシリアは違う。

セシリア・オルコットは変わったのだ、五反田弾のおかげで。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なんなんですか、あの加速。瞬時加速(イグニッション・ブースト)?それにしては速すぎます。織斑先生?」

「五反田のIISの奥の手、単一仕様能力だ。ブースターの前面に特殊な技術で空気を固め足場を作り、そこに高圧縮されたエネルギーを叩きつけて爆発的な加速を得る。
瞬間速度、連発性能ともに瞬時加速を上回る優れものだ」

「ほわぁ、凄いんですね。IISって、単一仕様能力まで再現してるなんて」

真耶は感心した表情でモニターを見ているが千冬は、他人には分からない程度だが、困惑した表情でモニターを見つめていた。

(しかしそれは実現できたらの話だ。まだIISは単一仕様能力を発動できる状態ではないと開発者は言っていたはず。なのに・・・なぜ?)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺は玉鋼を操作しAピットに戻ってきていた、一夏と篠ノ之さんも出迎えに来てくれている。

「・・・すまねえ、負けちまった」

「そんな顔すんなよ、お前の試合凄かったぜ。よくやったと思うよ」

「・・・・・・・・・」

「「・・・・・・・・・」」

「そ、そんな顔で見るな!私も、よくやったと思っている。初陣にしては上出来だろう」

俺と一夏の無言の圧力に耐えかねたのか篠ノ之さんも答えてくれる。
その仕草に俺たちはにやけた表情で顔を見合わせた。

「何をにやけているんだ、お前たちは」

そのセリフは篠ノ之さんからではなくピットの入り口から現れた千冬さんの言葉だ。

「織斑、お前のISが届いたぞ。もう搬入口に運び込んである、時間も押していることだ、すぐに準備をしろ。出来次第はじめる」

「ちょっと待ってくれよ、弾から初期化(フォーマット)とか最適化(フィッティング)がどうとか聞いたけどそれはいいのかよ!?」

「そんなもの戦闘中になんとかしてみせろ」

「で、でも・・・そうだ、セシリアだって疲れてるんじゃないか?連戦だしさ、休憩時間とかは?」

「先ほどの戦闘ではセシリアはほとんど動いていない。それに、もとより連戦の予定だったからな、エネルギーの補充も終了しているらしい。
なぜかは知らんが、当のセシリアもやる気十分らしいしな」

「う、うぐぐぐぐ」

一夏が追い込まれている。しかし友よ、俺にはこの状況をどうすることも出来ない、諦めろ。

(まぁ何も出来ないというわけでもないよな・・・)

ピットの奥が、玉鋼が出てきた時のようにゆっくりと開きだす。しかしその奥の機体は玉鋼とは全く違う印象を俺たちに与えた。
真っ白な、無骨な鋼の色をした玉鋼とは真逆な、美しい白。

「これが・・・」

「はい!織斑君の専用IS『白式』です!」

「あれ?山田先生いたんですか?」

「ず、ずっといました!」

千冬さんの後ろでずっと喋らずいたからか、山田先生がいたことに全然気づかなかった。いやまじで、冗談抜きで。

山田先生に気をとられている間に一夏がもう白式のそばに寄っていた。手を触れたまま白式をじっと見つめている。

(俺もはじめて玉鋼を見た時はこんなだったかな・・・いや、もっとはしゃいでたか)

「織斑、五反田がIISを装着するのを見ていたな。だいたいあれと装着の仕方はかわらん、細かい違いはこちらから指示する。さぁ乗れ」

「・・・わかったよ、千冬姉」

「織斑先生だ、馬鹿者」

一夏は先ほどまでとは打って変わって、落ち着いた表情をしていた。変な言い方だが悟りを開いたような・・・何かに気づいたような表情。

(千冬さんも時間がないからか言葉で咎めるだけで今回は殴らなかったな)

しばらくすると一夏は装着を終えてこちらによってきた。千冬さんと山田先生も再び管制室に戻っていってまた三人だけとなる。

「一夏、俺の敵、とってきてくれよ」

「おぅ、まかせとけ!」

拳を軽く打ち合わせる。俺たちにはこれで十分だ。

「・・・・・・・・・」

後は篠ノ之さん、なのだが。どうしたものか、助け舟を出したほうが―――

「箒」

「な、なんだ?」

「行ってくる」

「・・・・・・あぁ、勝っ『織斑!何をしている、ゲートはもう開いているぞ!すぐに出ろ!』

(―――何やってんのおおおおお千冬さんっっっ!!!)

「ほ、箒、今なんて?」

「なんでもない!早く行け!」

「で、でも『何をぐずぐずしてる!時間が押しているんだ、さっさと行け!』

どうせ試合にどれくらいかかるかわからないんだから数秒くらい待ってくれてもよかったじゃないか。せっかく篠ノ之さんも一夏に何か言えたのに・・・
篠ノ之さんの性格じゃ、もう何があっても励ましの言葉なんて言えないぞ。

「ほら、行けと言われているだろう。さっさと行け!」

一夏は何かまだ言いたそうではあったが、ゆっくりと、こちらを何度か振り返りながら、ゲートから飛び立っていった。
篠ノ之さんは、いつものムスッとしたような表情で見送っていたがその姿はどこか悲しげに見えた。

「篠ノ之さん、よかったのか?」

「何がだ?」

冷たい返事、久しぶりにみた鋭い目。俺はそれ以上なにも言えなかった。それにもう一夏は行ってしまった、言葉はもう届かない。

モニターには先ほどの俺とセシリアのように空中で対峙する一夏の姿が映っている。何を言ってるかまでは分からないが二言、三言、言葉を交わした後に少し下がって攻防を開始した。
まずはセシリアのライフル。この攻撃を一夏はかわすが際どかった、やはりまだ慣れていないのだろうか、それとも初期化と最適化が済んでないせいだろうか。
どちらも、という可能性もある。

(ハンデはなしでやるはずが、まじで一夏がハンデつきでやることになるとはな・・・ついてなさすぎるぞ一夏)

一夏は次々襲って来る弾丸をなんとか凌いでいる格好だ。恐らくシールドエネルギーも少しずつ持っていかれている。

(まだ、セシリアはブルー・ティアーズも出してないんだぞ!それに篠ノ之さんも・・・)

モニターから少し視線をずらして篠ノ之さんのほうを見やるが、表面上ではいつもの表情と変わりない、だが一夏が危うくなるたび手がピクリと反応している。
付き合いの浅い俺でも動揺しているのが丸分かりなほど、動揺しているんだ。

画面上の一夏はそのことには勿論気づかず、武器の呼び出しをおこなっていた。現れたのは大きな刀。
弾は先ほどの戦闘でセシリアと同じ近接武器で挑んだから分かるが相手までの距離が異常に遠く感じられる。

篠ノ之さんもさっきの俺の試合のことを思い出したのか表情にわずかだが苦い表情が浮かんでいる。

(信じて、待つしかないのか・・・信じるしか、待つしか)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(試合が始まって・・・もう30分近く。途中でブルー・ティアーズが出てきてさらに劣勢。おまけに一夏はセシリアに攻撃を当てられていない、状況は最悪)

「・・・・・・・・・」

篠ノ之さんも黙ったままではあるが、いつの間にか手が胸の前に来て祈るような形になっていた。無意識なのだろうか、ぎゅっと握ったその手は力を入れているせいか指先が赤くなっている。
俺には声をかけることも出来ない、かけるにしてもどうかけたらいいか・・・

『五反田、聞こえているか?そこにいるんだろう、五反田、返事をしろ』

その時だ、後ろに置いていた玉鋼から千冬さんの声が聞こえてきた。

「っっ千冬さん!ど、どうして!?」

慌てて玉鋼に駆け寄り声にこたえてみる、正直これで向こうに聞こえているのかはわからないがそこまで頭は回っていない。

『あぁ、やはりそこにいたか。さっき言い忘れていたがIISを待機状態にするか脇に寄せておけ。それだけだ、ではな』

用件だけ伝えると千冬さんの声は聞こえなくなった。なにを言っても反応がない。

「そうか、通信か。そうだよな、IISにもISと同じ通信機器積んでてもおかしい話じゃねえし、管制室からこっちに通信飛ばすことも―――」

(なぜ今まで気づかなかったのか!自分の頭の悪さに嫌気がさす、この手があったじゃないか!!)

「篠ノ之さん!一夏に、一夏と話せるかもしれない!!」

モニターに釘付けだった篠ノ之さんも、俺のこの言葉にポニーテールをなびかせるほど勢いよく振り向いた。
その顔はすこしだけ、見間違いかもしれないけど、笑っていたようにも見えた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏はセシリアの攻撃をなんとか凌いでいた。スペック的に弾の玉鋼よりも機動力は優れているはずだが不慣れなこと、初期化と最適化が終わっていないことが響いているのか、
少しずつシールドエネルギーを削られていく。

(見事に弾と同じような状況だ、けどまた弾みたいに隠された力が都合よく発揮されるのを期待するのはいくらなんでも楽観しすぎだろうな)

ゆえに待つのは初期化と最適化の完了。弾が言うにはこの白式はまだ自分の物にはなっていないらしい、それが今の状況を打破できる材料になるかは分からない。

(でも賭けにでるチャンスもそこしかない・・・シールドエネルギー残量は十分とはいえないがやるしかない。あとは待つんだ、チャンスを―――

『一夏ぁ!!聞こえるか一夏!!忙しいと思うけど応答してくれぇ!!』

突然の弾の声に虚を突かれバランスを崩してしまった、危うくブルー・ティアーズの弾丸がクリーンヒットしそうになったが寸でのところで身をひねりかわす。

「おまっっ、馬鹿!!殺す気かこの野郎!!」

『はははっ!避けられたからいいじゃねえか!特に用はねえよ、俺はな!!』

「ならいきなり―――『篠ノ之さんに代わるぞ』―――っっはぁ!?」

『一夏!一夏だな!!一夏ぁ!!聞いているか一夏!!!』

耳元に聞いた事のないようなないような箒の叫び声が聞こえる。
聞こえてるよ、お前は電話を初めて使う日本人か!!

「聞いてる、聞いてます、聞いてますよ!なんだよ箒、いきなり!」

『えっ!?あ・・・なんだ、その・・・』『考えてなかったのかよ!まぁ勢いで繋いだ俺も俺だけどさ!』

なんだ、友人二人は俺の邪魔をするために通信なんかを使ったのか?俺が何をしたって言うんだよ!畜生

『・・・ば・れ・・・』

その時向こうから箒の声が小さく、しかし確実に聞こえた。正直このまま聞こえなかったふりをして戦闘に集中することも出来た。けれど俺はどうしてもその言葉が聞きたかった。
本能的な選択、直感、運命を感じた。色んな言い方があるがこの状況で言い方を迷っている場合ではない。聞かなければと思ったのだ。

「箒!今なんて!?声小さくて聞こえない!!」

『がん・・・れ・・・・』

「いつも俺に怒鳴ってるように言ってくれよ!それくらいじゃなきゃ聞こえない!!」



『がんばれ・・・がんばれぇ!!!!!!一夏ぁああ!!!!!!!!!!!!』

「おう!がんばる!!」

二人のやり取りに呼応するように目の前のに一つウィンドウが展開される。そこに書かれた文字はもちろん。

『初期化と最適化が終了しました。確認ボタンを押してください』

迷いなく確認ボタンを押し込む。同時に世界が、瞬く間に変わる。

白式が光に包まれる。違う、白式が光の粒子になり形を変える。
ISから流れてくる情報が今までとは比較にならないほどクリアに、自身の感覚と変わりないようにも思える。

変化が落ち着き、白式の光が段々と淡く・・・
正真正銘、織斑一夏の専用機『白式』がその姿を現した。

投下終了
一夏対セシリア編に突入、ですが次の投下でセシリア編は終了できるかと。
あとこれは今これを書いていて気づいたのですが一夏視点の時にちょっと一人称やらなにやらが変になってしまいました。以降こういうミスには気をつけたいです。

それではこれにて

これにてと言いながら言い忘れたことを追記
今までのレスに対して色々返答のようなものを

ロケットパンチと自爆装置は自分としても浪漫武器です!斧は考え付きませんでしたがちょっとどこかで組み込めそうかなぁと思っていたりなかったり。
あとこのSSは男分の足りないISに男を足して熱血要素をそそぐことを指針としております。NTRのような要素は入らないかと思いますのでご安心を。

いざいざ投稿開始いたしますます

「ま、まさか・・・・・・一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

セシリアが唖然とした表情で叫ぶ。

「いつ終わるのかって思っていたけどな。勝利の女神が持ってきてくれたみたいだ、逆転のチャンスを!!」

こちらも叫びあげる。今が反撃の時、そして決着を―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『いつ終わるのかって思っていたけどな。勝利の女神が持ってきてくれたみたいだ、逆転のチャンスを!!』

あの~一夏さん、まだ通信繋がってるんですけど・・・篠ノ之さん顔真っ赤になっちゃてるよ、湯気噴出しそうだわ。
フリーズしている篠ノ之さんを放っておいて俺はモニターの方に視線を戻す。

最初に見た時よりも洗練されたフォルム。特に目を引くのは手にした武器、太刀のような刀身に刻み込まれた溝から光が漏れ出ている。
資料でしか見たことがないが千冬さんの使っていた『雪片』に若干似たような雰囲気を感じる。
一夏の姉であり、世界最強を誇った千冬さんの武器、その面影を映したようなその武器を一夏が持っている。

(なんていうか、一夏が持っていることが当たり前のような感覚。あれ以上に一夏に似合う武器などないかのような、そんな感覚)

うまく言えない、まとまらない。だがこれだけは確かだ。

(あの武器があれば、今このときに限り一夏は無敵だ!そんな気がどっかからするんだよな!)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(一次移行・・・初期設定だけの機体でここまで凌ぎきった。今まで押していたのはわたくし、でも凌ぎきられチャンスを与えてしまったのもわたくし)

いきなりの事態に驚いたがセシリアは落ち着きを取り戻していた。先ほどの弾との試合で変わった彼女は静かに闘志を燃やす。弾についで新たな好敵手の出現かもしれないのだ。

(彼は十中八九攻めて来る、けれどわたくしの全身全霊で出迎えてあげますわ。それがわたくしなりの礼儀、あの人に変えられた、新しいわたくしの!!)

両者ともに準備はもう出来ていた、セシリアはライフルの照準を一夏にぴったりと合わせているし、一夏も低く、力を溜めて、構える。
しばらくの間、いや長く感じただけで少しの間だったかもしれない。にらみ合いが続いた。

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

依然として二人は動かない。セシリアも邪魔をせずただ静かに聞いていた。

「俺も、俺の家族を守る。他にも守りたいものはたくさんあるんだ、けどまずは・・・千冬姉の名前と、友達との約束。ここら辺から守らせてもらう!!」

「あなたが、何を言っているのかわたくしには理解できません。ですが・・・その目は、理解できますわ。来なさい、限界を超えてでもあなたに勝ちますわ!!」

言葉通り、一夏が動く。言葉通りセシリアが勝つのか、今はまだわからない。しかしその答えが出るのは、もうすぐ。

飛び出した一夏に襲い掛かったのは周りに展開していたブルー・ティアーズ。せまり来る弾丸を一夏は難なくかわす、今までのような危うさはなく進路上にあった二機のブルー・ティアーズを叩き斬る。

(やはり初速、反応速度ともに段違いですわ。しかし勝負はこれから)

直線的ではなく弧を描きながら迫る一夏、対するセシリアも過去と現在のデータの誤差を修正しながら軌道を予測しミサイルを放つ。
しかしそれも一夏は難なく切伏せる、が。

背中に衝撃、もろに一発喰らう。シールドエネルギーが減り、速度がガクリと落ちる。

(ミサイルはデコイ、本命は残ったブルー・ティアーズか!!背後からもう一発来る、避けるには時間がない、受けるにしてもエネルギーがない、なら!!)

強引に身をひねり刀身に弾丸を当て、力任せにはじく。しかし体勢を崩された状態で身をひねったからか完璧に動きが止まった。
もう一度仕掛けるために加速を開始しようと動き出すが―――

『一夏ぁ!!』

切り忘れていた通信の向こう側から箒の叫び声が聞こえた。
名前を呼ばれただけだったが、どうしてか身体の向きを変えて刀を振っていた。

目の前で切り裂かれる光の弾丸、間違いなくセシリアの撃ち出した弾丸だ。

(さっきのブルー・ティアーズも本命じゃなかった、止まった俺が動き出す時を狙っていたのか!?)

振りぬいたままの勢いで一直線にセシリアに向かう。ミサイルを撃ちつくし、残る武装はブルー・ティアーズとライフル。
警戒すべきは正面のライフル、ブルー・ティアーズとの距離は大分開いている。

二人の距離はグングン縮まっていく、だがまだセシリアは撃たない、撃ってこない。

(先に仕掛けるか!?仕掛けないか!?どうするんだ、もうぶつかっちまうぞ!)

一夏が迷っている間に届くか届かないかの距離までに近づいていた、もはや迷っている暇すらない。

(振りぬく!!)

しかし一夏が動作に入る前にセシリアが先に動いた。後ろではなく前に、一夏のほうへ身体をぶつけるように前へ出る。

「なっ!?」

振りかぶる前の体勢でセシリアの身体と衝突する。恐らく最初からこれが狙いだったのだろう、絶妙なタイミングで割り込まれた。

(でもここからどうするんだ!?どっちも攻撃できないぞ!)

至近距離でセシリアと顔を見合わせるが彼女の表情は余裕の表情を浮かべ、この後の策があることを物語っている。

「正直、先ほどのライフルの弾を切り裂いたのには驚きましたが・・・次は当てさせていただきますわ」

恐らくもう一分と待たずに勝負を決するであろう状況で、セシリアは静かに、ゆったりと一夏に語りかける。
そしてその言葉を終えると同時にセシリアが一夏を力の限りに突き飛ばし、自身は後ろに飛びながらライフルを構える。
この距離である。外すわけがない、避けられるわけもない。

だがセシリアは知らなかった、織斑一夏がこの一週間何の稽古をやり続けていたのかを。
このつばぜり合いからの攻防をその稽古の間に何度も経験していたことを。

セシリアは勝利への確信を持って引き金を引く。しかし銃口から飛び出した弾丸は一夏に当たることはなかった。

セシリアが信じられない、といったような表情を浮かべて固まっている。
ほぼゼロ距離からの射撃、それを一夏は手にした刀で切り裂いていた。

会場中がセシリアと同じような状況だ、皆何が起こったか見ていたが理解が追いついていない。
動いているのは三人だけだった、一夏、管制室の千冬。

そして―――


「やれっ!!一夏ぁ!!!」

一夏は右手に握る刀、『雪片弐型』を強く握りこみ上段に構える。
一歩、大きく踏み込み。振りぬく!

雪片弐型の刃がセシリアの肩口から腰にかけてを切り裂く。



『試合終了。勝者―――織斑一夏』

決着を告げるアナウンスが会場に響いた。

今日はここまで。週末あたりにはエピローグにいけそうです。

エピローグ投下を始めます

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま、箒、弾」

「「・・・・・・・・・」」

白式を操りAピットに戻ってきた俺に箒も弾も黙って迎えた、というか反応がない。なんだ、俺何かしたかな?

「な、なぁ弾「やったぜこの野郎!!あの状況からまじで勝ちやがった!!」うおっ!!?」

こ、こいついきなり飛びついてきやがった!?さっきまでの癖で斬りそうになったじゃねえか。危ないやつだ。

「おい!篠ノ之さん、こいつやったんだぜ!なんか言ってやってくれよ!!」

弾がウザイくらいにテンションをあげている、なんでお前がそこまでテンション上がっているんだよ。

「そうだな、私からは・・・何もない、言うことは何もない」

「・・・そっか、けど俺からは言いたいことがあるんだ。試合の最中、箒が励ましてくれたよな。あれがなかったら俺は負けてた。最後のあれだって箒に剣道の稽古つけてもらってなかったら倒されてたのは
俺だったし。本当に俺が勝てたのは箒のおかげだ、ありがとう」

「・・・・・・・・・・・・」

箒は何も言わない、いつものようにムスッとした顔でこちらも見ないがそれでいい。これでいい、そんな気がする。

「あのー、一夏さん?俺のことすっかり忘れてませんか?」

「あぁ、弾いたのか?すっかり忘れてたよ」

「てっめえ!わざとだろ絶対!!」

「そんなわけないじゃないか」

「じゃあなんで棒読みなんだよ!」

なんでだろう?

「なんでだろうな、箒」

「私に聞くな」

そう言った箒の口元が、少し笑っていたのを俺は見逃さなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「織斑、五反田。ISは待機状態にしたな、二人は着替えてそのまま解散とする。部屋に帰ったらよく休むように、疲れを明日に持ち込まれても面倒だからな」

一夏が帰ってきてしばらくすると千冬さんが今度は一人でやってきた、山田先生はセシリアの方にでも行ってるのかも知れない。
そして俺と一夏のIS(俺のはIISだけど)は今アクセサリー程度の大きさになって身につけている。
一夏の白式はガントレット、俺の玉鋼は『腕時計型無線操縦機型』になって・・・・・・・

わかるだろう?あのジャイアントロボとかの操縦機みたいなってこと。っていうか玉鋼自体もどことなくレトロなロボットものみたいな雰囲気プンプンさせてるもんなぁ・・・開発者たちの悪ノリじゃないことを祈る。

「あぁ、それと五反田、お前に一つ聞きたいことがあるんだが」

「えっ?何すか、俺何かしましたっけ?」

突然のことに焦る俺、思わず舎弟口調になってしまった。いや、いつもこんな感じか、特に千冬さんあたりには。

「試合中に織斑に通信を繋いだだろう」

「うげ!?なんでばれてるんですか?」

(なぜだ、あの場にいたのは俺と篠ノ之さんだけのはず、どうやって知ったんだ?)

千冬さんはやれやれといったようすで

「一対一のプライベートチャンネルでなく、一対多のオープンチャンネルで垂れ流しにしていれば聞こえるのも当然だろう」

ピキッ、と空気の凍る音が聞こえたような気がした。つまりなんだ?俺らの会話は管制室の千冬さんとかにも聞かれてたと・・・

「なんで教えてくれないんですか!?」

「返答できるのを織斑だけにしたのはお前だろう、それにアリーナにいた生徒たちはスピーカーはあってもマイクはないからな、返しようがあるまい」

「えっ?千冬さんのとこだけじゃ・・・」

「対象は範囲1kmと設定されていたぞ、まさか操作ミスであのようなことになったのか?」

「・・・・・・・・・」

「五反田は後で職員室に来い、このことについて詳しく聞かせてもらおう。ではまたあとでな」

話を終えると千冬さんはスタスタとピットから出て行ってしまう。後に残されたのは俺と一夏と―――

「五反田、ちょっといいか?」

ゴゴゴという効果音が凄く似合いそうな阿修羅のごとき篠ノ之さんだけになった。

「ちょ、待ってよ篠ノ之さん。とりあえずその、し、竹刀をしまおう、っつーかどっから出したんだよそれぇあだぁっ!!!」

竹刀独特の小気味のいい音がピットのうちにこだました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

セシリア・オルコットはISを片付けシャワールームで汗を流していた、ISでの戦闘も体力を消耗する、試合の中であまり動かなかったセシリアでも汗をかいていた。

(今日の試合―――)

シャワーを頭から浴びながら思慮にふける。
自身に向けられたあの瞳のこと。たった数秒見つめただけで全てを変えられてしまった。
熱くて、鋭くて、泥臭くて、強い瞳。今まであんな瞳見たことがなかった、誰もあんな瞳をしていなかった。
だからだろうか―――

(あの人の瞳の、その向こうを見たくなってしまった、彼の世界に引き込まれてしまった・・・)

頬が紅潮し、鼓動が早くなる。あの瞳を思い出すとどうしようもなく巻き起こる感情の奔流。
熱く、甘く、切なく、嬉しい。この感情も知らない、けれど知りたい、もっと知りたい。
まだまだ知らないことだらけだ、あの人のことも。だから知りたい、もっと知りたい。

「五反田、弾・・・」

呟くと頬がさらに熱くなる。
コックを捻り少しシャワーの温度を下げた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あの試合の翌日の朝。

「では、一年一組の代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいい感じですね」

すっかり忘れていた、そうだあの試合はクラス代表を決める戦いだったんだ。熱くなってて本来の目的を忘れていたぜ。
俺の隣の一夏も忘れていたようで唖然とした表情をしていた、あんだけ頑張って、勝って、そのご褒美がこれとは割に合わなさ過ぎる。合掌

「先生、質問です」

「はい、織斑君」

「なんで俺がクラス代表なんでしょうか?」

「五反田君に勝ったオルコットさんに勝ったからです」

ですよねー、等式でいくと俺とセシリアより一夏が強い、つまりクラス代表。そりゃそうだよ。

「あのー、辞退ってできますか?」

一夏の辞退宣言に反応したのは山田先生ではなかった。

「辞退ですって!?あなたはわたくしと弾さんを押しのけクラス代表になったのですからそんな情けないことは許しませんわよ!まったく、それでもわたくしの好敵手なのですか?」

よく響く声でセシリアが割り込むのだが、いつの間に一夏がライバルになったんだよ・・・

「あ、もちろん弾さんもわたくしの好敵手ですわよ、ご心配なく」

俺もいつの間にかライバルにされてしまったらしい。あとご心配なくってなんだ、お前はどんだけ自分に自信満々なんだよ。
なんか試合の最中はもう少し落ち着いていたような気がするが、気のせいのようだ。

「それに、一夏さんには勝利の女神もついていますし、これでクラス対抗戦は一組が勝ったも同然ですわ」

「なっ!!?ぱぁ!??」

まさかここであの話題が出るとは夢にも思っていなかったであろう篠ノ之さんが女の子とは思えない声を上げたが無理もないだろう。
しかしセシリアの発言のせいでクラスメイトたちが昨日の件を話し始め教室がざわつき始める。

「昨日すごかったよねー」「本当、あんなこと言われてみたいな~」「やっぱ二人の関係ってさぁ」「見てるこっちも恥ずかしかったよね」
「もうアタシ思い出すだけでご飯三杯はいけるもん」「全米が泣いた」「織斑君の女神発言のCD一枚300円だよ~」

おい、最後のやつ商売するなよ。ていうか買うやついるのか?

「・・・・・・・・・」

ほら篠ノ之さんも赤くなってうつむいて―――

木刀を手に持って・・・

「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」

一夏も気づいたのか俺と同時に声を張り上げる。
SHRはこんな感じでグダグダに終わり、我がクラスの代表は一夏で決まりになった。

これでセシリア編本格的に終了。
次からは鈴編へ、そのために原作読んできます。一応三巻まで読んでこようかと思います。
なのでちょっと遅くなるかも、ならないかも。
ちなみにヒロインは最初鈴の予定だったけどこっちのほうがしっくりくるのでセシリアになりました。
けっして私がセシリア好きだからではありません。いややっぱセシリア好きなんですけどね。
それではこれにて

三巻まで読もうと思ったけど二巻読み終わったらやる気が出たので投下します。

「では、これよりISの基本的な飛行操縦の実践をしてもらう。織斑、五反田、オルコット。ためしに飛んで見せろ」

四月も下旬、ようやく授業やら学園の生活やらに慣れてきた俺たちは、いつものように千冬さんのスパルタ授業を受けていた。

「早くしろ、熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないぞ」

急かされた俺たちは待機状態になっている、それぞれの専用機に意識を集中させる。

「来いっ!玉鋼!!」

腕時計型操縦機を模した玉鋼に腹のそこからの大声で呼びかける。瞬時に腕から光の粒子が溢れて身体の周囲を覆い形を成していく。
光が落ち着いてきて、現れたのはもはや見慣れた我が専用機、IIS『玉鋼』
レトロジカルな曲線が今日もにくいぜ。

「そのいちいち叫ばなきゃ展開できないのどうにかならないのか?」

「声紋認証が搭載されてるらしくてな、しかも外してくれと頼んでも外してくれねえし」

「無駄な話をしていないで早く飛べ。時間は限られているのだからな」

もう一夏もセシリアも展開し終えており準備は出来ているようだ。
俺とセシリアが勢いよく空に飛び出すが、一夏が少し遅れている。スペック上だと俺とセシリアよりも一夏の方が速いはずなのだがまだ操縦に慣れていないのだろう。

「一夏さん、所詮イメージはイメージ。自分にあった方法を模索するほうが建設的でしてよ」

隣のセシリアが遅れてくる一夏に通信でアドバイスを出していた、こういうところを見ると代表候補生だなぁ、と感じざるをえない。
いつもは残念なイメージが強すぎて忘れがちだが・・・

「弾さん、今何か失礼なことを考えてなかったですか?」

ぎ、ぎくぅっ!!なぜばれたんだ、そんなに顔に出てたか?畜生、考え読まれて怒られるのは一夏の役目であって俺の役目じゃねえのによ。

「織斑、五反田、オルコット。急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。」

通信から千冬さんの鬼のような要求、どんだけ精密に動かさなきゃならないんだよ。

「了解です。弾さん、一夏さん、お先に」

さすがは代表候補生、顔色変えずに要求に応じる。まぁ俺も負けてられないよな、男として。
俺はセシリアを追うような形で急降下を開始する。玉鋼の動作試験などで急降下、完全停止は結構な数をこなしているためそれなりに自信があった。
数秒で地表付近まで接近し、セシリアと並ぶように完全停止を試みる。

「オルコットは九センチ、五反田は二十三センチか。五反田は練習不足だ、これくらい難なくこなして見せるようになれ」

「うぐぐ、はい」

自信があった分だけショックは大きい。もう少し練習時間を増やすべきか、と肩を落としながら考えていると隣のセシリアが耳元に近づきなにやら話しかけてくる。

「弾さん、よろしければ放課後にでもわたくしが指導してさしあげてもよろしくてよ。その際はふたりきりで―――」

しかしセシリアの言葉は「で」の発音と同時に大砲が打ち込まれたかのような爆音でさえぎられた。
慌ててセシリアとともに音の方を振り向くが、なんてことはない。
一夏が完全停止に失敗してグラウンドにクレーターを作っていただけだった。

「大丈夫かよ、一夏のやつ」

「・・・もう少しで誘えましたのに。一夏さんはタイミングが悪いですわね・・・」

「ん、何か言ったか?」

「い、いえ!何も」

セシリアが慌てたように胸の前で両手をパタパタ振る。
さっきの言葉は本当になんと言ってたのか聞き取れなかったが、その前に言っていた言葉が気にかかった。

(ふたりきりって・・・なんかそういう方向に期待しちまいそうなワードだが、そっち方面は一夏の役目だ。俺の役目じゃない、はずだ。そういうことにしておこう)

先日のクラス代表決定戦の後あたりからセシリアはずっとこの調子だ。正直に言うと変なのだ。
今まで散々コケにしてた俺と一夏への態度が急に軟化し、篠ノ之さんとも仲がよくなっているそうだ。
いや、篠ノ之さんに限らずクラスメイトとも親しげに会話しているのをよく見るようになった。

(しかしだ、自意識過剰かもしれんが俺に対して気がありそうな態度を示すのが一番の問題なんだ!俺も男だ、そういう風な態度をされて悪い気はしないが相手がセシリアだ。
俺にそんな気を起こす要素が一つもない、美少女でお嬢様で代表候補生。絶対思い違いだ、そうでなければありえん)

「五反田、武装を展開してみろ」

「え!?は、はい!」

考え事をしている最中にいきなり千冬さんの声が割って入ったので、俺は慌ててしまいうまく武装を展開できない。
イメージがまとまらず、右腕の周りを光の粒子が飛び回っているだけだ。

「遅い、遅すぎる。コンマ五秒で展開できるようになれ、何度も繰り返し練習しておくように」

「はい・・・」

本当にセシリアに練習を見てもらうことになりそうだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「というわけでっ!織斑君クラス代表決定おめでとう~!!」

その声に従うようにあちこちから、おめでとうの声が上がる。何人かはクラッカーも鳴らしている。
現在は寮の食堂、一組メンバーで一夏のクラス代表決定おめでとうパーティーを開いていた。
まぁ主賓である一夏の顔はこころなし暗かったが。まだ代表になったことに不満があるのだろう、しかし不満があったところで決定は覆らない、諦めろ一夏。

「いや~、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」

「ほんとほんと」

「らっきーだったよね、同じクラスになれて」

「ほんとほんと」

ちなみに相槌打ってるのは記憶が正しければ二組の子のはずだ。というか食堂にいる人物の総数とうちのクラスの総数が明らかに前者が多い。
一夏目当てで来た子たちが大半だろうが正直こういう催しは人数が多いに越したことはない、みんなで騒いだほうが楽しいからな。
しかしそれを良しとしない人物が目の前にいた。

「人気者だな、一夏」

一夏の隣で不機嫌モードMAXの篠ノ之さん。

「・・・そう思うか?」

「ふん」

そしてその機微に気づかない鈍感オブ鈍感feat唐変木、我らが織斑一夏。
隣にいる俺の身にもなってみろ、篠ノ之さんの不機嫌モードって結構、いやかなりおっかねえんだからな!どうしてこれで気づかないんだこの馬鹿は。

「はいは~い、新聞部で~す。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~」

突然の来訪者になぜか周りのみんなから歓声が上がる。こいつら騒げればなんでもいいのか!

「あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部の副部長やってま~す。はいこれ名刺」

渡された名刺を律儀に受け取る一夏。名刺をよく見ているがあの顔はなにかしょうもないことを考えてる顔だな。
画数多くて書くの大変そうだな、とか?

「ではまず織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!!」

「えーと・・・・・・まぁ、なんというか、がんばります」

「えー、もっといいコメント頂戴よ。俺に触れると火傷するぜ、とか!」

そんな発言するような奴なら俺は一夏との関係を考えなくてはいけなくなるぞ、あまりにダサすぎる。

「自分、不器用ですから」

はい、考えないといけないようです。いくらなんでもその回答はないわー。

「・・・まぁ適当に捏造しておくね~」

うわ、さらっとひどいこと言ったよこの人。こういうところにもメディアのモラル低下の波が・・・いや詳しいこと知らないけどね。

「あぁ、セシリアちゃんもコメント頂戴」

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが仕方ないですわね」

嘘つけええぇ!!お前こういうのが誰よりも好きじゃねえかよ!!

「コホン、ではまず―――「あぁ、やっぱいいや、長くなりそうだし写真頂戴」―――さ、最後まで聞きなさい!」

「どうせ捏造するからいいじゃ~ん。よし、じゃあ織斑君に惚れたからってことにしておこう」

「な、なななっ!ちがっ、わたくしはだ―――」

(「だ」で止まるな、こっちを見るな、顔を赤くそめるなあ!!勘違いするだろうが!!ありえないから、ありえないからな、俺!!)

黛先輩はセシリアの視線を追ってこちらの方を向き、なにやら思いついたように、にやぁっと悪い笑みを浮かべた。
いやな予感がしてその場を離れようとするが、妖怪じみた速度で近づいてきた先輩に袖をつかまれてしまった。

「そういえばこっちにも話題の新入生いたじゃない、君もおいで、写真撮ってあげるから」

撮ってあげるではなくて、撮らせろじゃないのだろうか?首を縦に振らない限り離してくれそうにないじゃないか。

「はーい、じゃあセシリアちゃんを男の子が挟む感じで並んで。そうそう、そんな感じで」

「あの、撮った写真は当然いただけますわよね」

「そりゃもちろん」

「で、でしたら今すぐ着替えて―――」

「時間かかるからダメダメ、さぁ撮るよ~。35×51÷24は?」

「え?えっと・・・・・・2?」

「ぶー、74.375でした~」

パシャッ、とシャッターの切られる音がした。というか一夏もマジメに答えんでいいだろうに。

「つーか、なんで全員入ってるんだ?」

一組のメンバーがいつ来たのか、俺たちの後ろに勢ぞろいしていた。半分以上は一夏狙い、あとは騒ぎたいだけだろう。

「いいじゃんいいじゃん、思い出づくりだよ!」

「というかセシリアにだけいい思いさせたくないだけだったり」

なんというか女子のこのパワフルさはどこから来るのやら。
この後もパーティーは続き、解散になったのは夜の十時を過ぎた頃だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「織斑君、五反田君、転校生のうわさ聞いた?」

朝、席につくなり近くの席の子が話しかけてきた。セシリアや篠ノ之さんと比べれば喋る機会は少ないが俺たちもそれなりに女子とも自然に会話できるようになっていた。
やはり環境が環境なだけあって、慣れないと学園生活において重大な支障をきたす羽目になるからな。

「転校生?今の時期に?」

「たしかIS学園って転入の条件厳しかったよな、国の推薦もいるし。っつーことは」

「わたくしと同じ代表候補生というわけですわね」

「あ、セシリアちゃんおはよう。そうなんだよ、中国の代表候補生らしいよ」

ほんとこいつは会話に割り込んでくる技術も代表候補生クラスだな。絶妙なタイミングでピンポイントに自分に関係のある話題にいつのまにか割り込んでくるし。

「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどのことではあるまい」

いつの間にか篠ノ之さんまで会話に混ざりこんでいた。女子ってほんとう会話に混ざるの得意な。

「そう分かっていても騒いでしまうのは人間の、というより学生の性みたいなものじゃありません?」

「そういうものか?」

「そうだよ、ただでさえ閉鎖的な環境なんだから新しいことが起こるってなると浮かれちゃうもんだよ」

ふむ、と篠ノ之さんが感心顔でうなずいているのを満足したような表情で見つめる一夏。
四月の初めの頃は篠ノ之さんが怖かったのか、皆話しかけたりなどしなかったが今では大分クラスになじんでいると思う。
そのことが嬉しいのだろう、正直俺にも喜ばしいことだ。

「でもあんまり転入生に気をとられすぎても駄目だよね、来月にはクラス対抗戦もあることだし」

「それもそうですわね。一夏さん、わたくしと弾さんも訓練に付き合いますからクラス対抗戦、必ず勝ってくださいましね」

「ちょっと待て、さも当然のように人を勝手にメンバーに数えるなよ」

「五反田君、織斑君の練習付き合ってあげないの?薄情だなぁ」

「いや、付き合わないとは言ってないぞ、ただ勝手に決められたのがいやなだけで―――」

「ウフフフ」

「おいセシリア、何笑ってるんだよ。俺変なこと言ったか?」

なんかクラスメイトもセシリアもほほえましいものを見たような顔をしてこちらを見ている。まさか先ほどの発言をツンデレ発言と捉えたのか。
やめてくれ、俺はノンケだ、フラグならもっとまともなフラグを要求する。

「だ、だがセシリア、一夏の稽古なら私がつけているのだぞ。別に助力など必要ないだろう」

篠ノ之さんはそう言うが十中八九、一夏とふたりきりになる口実なのだろう。でも今回はそういってられない事情が女性陣にもあるそうで・・・

「一夏さんと二人きりになりたい気持ちは分からなくもありませんが、クラス対抗戦が終わるまでの辛抱ですわ」

「私たちの学食デザート半年フリーパスのためにもね!」

そうなのだ、クラス対抗戦の優勝クラスにはデザートのフリーパスが出る。なんでもクラス対抗戦は現時点での実力指標を作ることが目的なのだそうだが、クラス単位での交流や団結も目的の一つなのだそうだ。
だからこそのフリーパス、女子は皆甘い物好き。そして共通の目標を持つことでの団結、交流。いいことじゃないか。
ただ物で釣ってそれを成すという発想はどうかと思うが、これでうまくいっているのならそれはそれでいいかとも思う。

「しかし今のところ専用機を持っているのは一組と四組だけという話だ、それならば皆の手をわずらわせずとも―――」

「その情報、古いよ」

篠ノ之さんの声をさえぎったもう一つの声。俺と一夏は顔を見合わせた、知り合いに、あまりにも似た声だったからだ。

「二組もクラス代表が専用機持ちになったの。そう簡単には優勝できないから」

腕を組み、片膝をたてて扉にもたれかかっているのはまぎれもなく―――

「鈴・・・・・・?おまえ、鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

俺と一夏の中学時代の友達、いや親友といってもいいだろう、凰鈴音こと鈴だった。中学の三年になる前に引っ越して以来あっていないが元気そうでなによりだ。
しかし・・・

「鈴、それ格好つけてるつもりか?すげえ似合ってないぞ」

「うっさいわね!あたしは今一夏に話してるの、大体弾はいつも人の話の腰を・・・・・・な、なんであんたがここにいるのよ!!?」

「まぁ話すと長くなるんだがな、それより鈴」

「なによ?」

「後ろ」

振り向くが速いか振り下ろすが速いか、勿論振り下ろされた出席簿の方が速かった。
忠告してやるのが少し遅かったようだ。鈴の後ろには我らが鬼教官こと千冬さんが立っていた。

「もうSHRの時間だ。教室にもどれ」

「ち、千冬さん・・・・・・」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして道をふさぐな、邪魔だ」

「す、すみません」

さっきまでの強気な態度はどこへやら、鈴は千冬さんに本気でびびっていた。まぁ俺もあの状況なら同じような感じになっていただろう。

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

「さっさと戻れ」

「はいっ!」

なんか懐かしいのやら情けないのやら微妙な気分にさせられた。授業に影響なければいいんだが。

「ていうかあいつIS操縦者だったのか。初めて知った、弾は知ってたのか?」

「いや、知らなかったよ。お前より付き合い短いのに知るわけないだろ」

久しぶりに見た懐かしい友人の姿と新たな顔の二つに若干困惑しながら俺たちは顔を見合わせるが。

「だ、弾さん!?あの子とはどういう関係で?」

「・・・一夏、今のは誰だ?知り合いか?ずいぶん親しそうだったな?」

そのほかにもクラスメイトからの質問の嵐に晒される。だが千冬さんがもう来ている教室でこんなことをしていては―――

「席に着け、馬鹿ども。先ほどの転校生のようになりたいのか」

ピシャッ、と千冬さんが言い放つと教室が嘘のように静かになり、みな席にすばやく着席していく。
そりゃあ千冬さんの一撃なんてくらいたくないだろう。誰だってそうだ、俺だってそうだ。

今日は鈴ちゃん登場まで。区切りがいいのでここまででしたが書き溜めはあるので次の投下は少し早そうです。
うまくいけば明日、明後日くらいにはいけるかな?
それではこれにて

投稿開始しますよー

そんなこんなで昼休み、俺と一夏、セシリア、篠ノ之さんのいつもの面子と何人かのクラスメイトで食堂に向かっていた。
食堂にぞろぞろと入り、各々食券を買ってカウンターに持っていこうとするがカウンターの前に誰かがいて邪魔になっている。
この状況だと一人しか候補はいないわけだが、予想通りその人物は鈴だった。

「待ってたわよ!一夏」

あれ、俺は?久しぶりに会った友人にひどくないか。

「まあ、とりあえずそこどいてくれよ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

「わ、わかってるわよ!大体あんたを待ってたんでしょうが!なんで早く来ないのよ!」

なんというめちゃくちゃな理論だ、何時集合とかも一切決めてなかったじゃねえか。
俺たちは鈴の話を半分聞き流しながら、食券をおばちゃんに渡してそれぞれ注文した品を受け取り席を探す。

「あちらのテーブルが空いてますわよ。ちょうどみんなで座れそうですわ」

鈴を含めた全員で、セシリアの指したテーブルに移動して各々好きな席に着く。
鈴を中心にして左に俺、セシリア。右に一夏と篠ノ之さん。周りをクラスメイトの皆が囲んでいる。

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

「質問ばっかしないでよ。あんたらこそなにIS使ってんのよ。ニュースで見た時はびっくりしたわよ。しかも転入してきたらきたで弾までいるし」

約一年ぶりの再会とあって俺たちは質問を投げかけあっていた、会わずにいた間、相手がどうしていたのか知りたがるのが友人というものだろう。
会話の内容は途切れない、お互い知りたいことが多すぎだ。

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「そうですわ。お知り合いのようですが、ずいぶん仲がよさそうですし」

篠ノ之さんとセシリアが痺れをきらしたように話しに入ってくるのを皮切りに、周りのクラスメイトたちも口々に疑問や質問を口にする。
どうやら鈴との会話に夢中になりすぎていたようだ、俺は一夏の方に目配せし説明を促した。

「名前は知ってるだろうから省くけど、鈴は俺の幼馴染なんだよ。弾とは俺と同じで中学からの付き合いだけど、一緒にいた頃はよく三人で遊んでたんだ」

「幼馴染・・・?」

そう怪訝な声で聞き返したのは篠ノ之さんだった。

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのは小四の終わりだよな?鈴が転校してきたのが小五の頭なんだよ。で、中二の終わりに国に帰ったから会うのは一年ぶりくらいかな」

それで、と鈴の方へ向き直り

「こっちが箒、ほら前に話したろ?小学校からの幼馴染で、俺の通っていた剣道場の娘」

「ふぅん、そうなんだ」

鈴は篠ノ之さんのほうをじろじろ見ているのだが、その視線に含まれたものを感じる。あぁやっぱりか・・・

「はじめまして、これからよろしくね」

「あぁ、こちらこそ」

俺には見える。二人の間に火花が散っているのを、それも尋常じゃない量が。
どちらも俺の友人であるから二人には仲良くなってもらいたいのだが・・・無理なのか?

「ンンンッッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ、中国代表候補生の凰鈴音さん?」

「・・・・・・・・・誰?」

「なっ!?わ、わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「な、な、なっっっ・・・!?」

セシリアの顔が真っ赤になる、侮辱されたと思ったのだろうか。しかし鈴はただ正直に思ったことを言っただけなのだろう、こいつはそういうやつなのだ。
自尊心の高いセシリアのことだろうからここで鈴に言い返してひと悶着起きるのだろうと予想したが―――

「・・・・・・・・・」

言葉に詰まったのだと思っていたセシリアが、いつの間にか落ち着いていた。
セシリアを知っている俺たちからすればここでこういう反応をするなんて夢にも思っておらず、皆あっけにとられていた。

「・・・まぁ、わたくしもまだまだ勉強中の身ですし、知らないのも無理はありませんわね。改めまして、セシリア・オルコットと申しますわ。これからよろしく、鈴音さん」

「こっちこそ、よろしく。鈴でいいわよ」

そう言ってセシリアが出した手を握る鈴、握手だということをすぐ理解できないほど驚いてるようだ、俺は。

「ところで皆様は何に驚いてるんですの?ご飯も冷めてしまいますわよ」

「セシリア、お前変わった?」

別に俺はおかしなことは言っていないが、セシリアはクスクスと笑っておかしそうに言う。

「変わってませんわ、変えられたんです」

そのままセシリアは詳しいことは言わずにフォークでスパゲッティを食べ始めた。
俺は首を捻り、まだみんな固まったままだったが、横の鈴はなにか分かったような顔をして

「あんたさ、見ないうちに一夏がうつったんじゃない?」

「なんだそりゃ、もうちょい具体的に言ってくれないとわかんねえよ」

「はぁ、セシリアもこれじゃ苦労するなぁ」

訳が分からん。俺は理解するのを諦めて日替わり定食の鰆の身をほぐし始めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

鈴が転校してきたその日の放課後。いつもの第三アリーナに俺とセシリアはやってきていた。
結局篠ノ之さんもクラス全体の圧力には耐えられず、俺たちも一夏のコーチをすることになったのだ。

「来たか、二人とも。早速だがはじめよう、アリーナの使用時間もあることだしな」

先に来ていた一夏と篠ノ之さん。どちらもISを装着していた。一夏のISはもちろん白式、篠ノ之さんは訓練機である『打鉄』(うちがね)を装着していた。

『打鉄』 純国産第二世代の量産型IS。バランスの取れた機体性能を誇り、実体シールドも採用している防御型のISである。
デザインは武者鎧を連想させるシルエットで、武装に日本刀のようなブレードまである。篠ノ之さんの雰囲気にぴったりのISだ。

(篠ノ之さんって、江戸時代から来ましたって言っても通用しそうだからなぁ)

「それではまず基本動作からその応用までをどこまで出来るかやってみませんか?ウォーミングアップにも丁度いいと思いますの」

「なるほど、確かに一夏はこの前の急降下と完全停止も失敗していたからな。ならば私もその意見には賛成だ」

「んじゃどの動作からやる?」

(俺がコーチといっても、代表候補生と一夏をよく知ってる篠ノ之さんがいれば大丈夫だろ。俺は武器呼び出しの練習でもしときますかね・・・)

その数分後、俺の目論みはあっさり外れることになる。モノローグなんてフラグ建ての道具にしかならないことを思い知らされたよ、主に悪いほうの。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だから!がーっと行って、グワッッ!!と曲がってだなぁ!!―――」

「そうではありませんわ!!加速は背中を手のひらで押されるイメージで、旋回は弧の内側の足に重りを引っ掛けるイメージで―――」

(だ、だめだこりゃ・・・篠ノ之さんは擬音すぎてミスターになってるし、セシリアは難解すぎる)

一夏が指示された動作をするたびに、篠ノ之さんとセシリアからの激を飛ばされる。正直俺にも二人の指導を理解できない。

(うーん、一夏にそういうアドバイスするよりは・・・)

「すまん、セシリア。一夏に見本みせてやってくれないか?」

「え?まぁ、かまいませんわ」

セシリアが前に出て『無反動旋回』とやらを見せてくれる。
やはり代表候補生というべきか傍目に見ても難しそうな操縦技術をあっさりこなしてしまう。

「一夏、あれ何かに似てると思わないか?」

「え?いや俺もあんな技術は見たことないぞ、今日が初めてだ」

「IS/VS」

「・・・あっ!!」

俺の言いたいことが一夏にも理解できたようだ。ちなみに『IS/VS』(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)とは発売月だけで100万本のセールスを記録した、超名作ゲーム。
第二回『モンド・グロッソ』のデータをもとにしたISの各国代表を操り、対戦するというゲーム。

余談ではあるがこのゲーム、開発した日本の会社に各国から苦情が届いたことがある。内容は『わが国の代表はこんなに弱くない』とのこと。
困ったソフト会社は苦情が出た国の代表が最強キャラに設定された『お国別バージョン』を発売した。これがまた売れたわけだがまた問題が起こった。
世界大会でどの国のバージョンを使うか、である。結局世界大会は中止になったという逸話だけが残った。

とまあ余談が長くなったが何を言いたいかというと―――

「ネパール代表!↓↓+AorBorC!!」

「「???」」

女性陣には何を言っているか分からないだろうが、ずっとやりこんできたゲームの話題を振られて反応しない男はいない。

「これで・・・!!どうだぁ!!」

先ほどセシリアが描いた軌道を辿るように一夏の白式が空をかける。やっぱりわかりやすい物のほうが動きをイメージしやすいようだ。

「「・・・・・・・・・」」

あれ?女性陣の反応がなぜか芳しくないぞ。普通ここは褒められるところじゃねえ?俺と一夏が。

「なぜ私があんなに教えていたのにできなくて、五反田の一言であっさり・・・」

「わたくしに手本を見せるように言っておいて、やったらやったでスルーですの?」

「えっと~、一夏も無反動旋回が出来たことだし、次の動きの練習でもしようぜ。そうだ、そうしよう!なにやるよ!!」

俺は慌てて話題変換を試みるが方向を間違えた。次に行こうといえば間違いなく次に来る言葉は・・・

「そうだな、準備運動も十分だろうしな。模擬戦でもやろうか、なぁセシリア」

「ええ、そうしましょう。組み合わせはわたくしと箒さん、それでよろしいですね、弾さん、一夏さん?」

「い、いやここはもうすこし話し合ったほうが―――」

「答えは聞いておりませんわ!!」

言葉を言い終えるよりもはやくセシリアは武器を呼び出し、ビームライフル『スターライトMkⅢ』を構え放つ。
完全に不意を突かれ、もろにセシリアの弾丸をくらってしまった。
一夏のほうも篠ノ之さんに切りかかれているのが視界の端の方にうつっている。なんとか防いでるようだがこちらにいるセシリアの銃口が一夏の方へ向けられる。

(あぁ、どこで何を間違えた・・・あれ?どこも俺ら悪くなくね?)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

模擬戦の結果は散々だった。開始十分もしないうちに俺は撃墜され、一夏も健闘むなしく撃墜された。

「お前、セシリアと試合した時はもっと強くなかったか?あの高速移動も使わなかったし」

「使えなかったんだよ、そう簡単に使えるもんじゃねえんだ、あれ以来一回も発動できてねえし。しかも篠ノ之さんは近接戦闘うまいし、セシリアにはもともと勝てねえよ」

単一仕様能力は練習のたびに使おうとしてもなぜかうまくいかない、まぁいつでもどこでも発動できるような代物なら奥の手にはなりえないしな。
少しずつでいいから使えるように練習していこう。

「そろそろアリーナの使用時間が終了してしまうな、今日はこのくらいにして片付けに入るとしよう」

暴れてすっかり機嫌が治まったのか、篠ノ之さんとセシリアもいつもの調子に戻っていた。
一時はどうなることかと思ったが・・・いや、ボコボコにされたんですけどね。

「そうですわね。ですけどわたくしは少し残って弾さんに操縦技術を教えないといけませんの、先に行っていてもらえるかしら?」

「そうか、では先に行かせてもらうとしよう。行くぞ、一夏」

そう言って篠ノ之さんは、近くにいた一夏を半ば引きずるようにしてピッチへ向かっていった。
行動が早いのは感情が高ぶっている証拠か。二人になれるのが嬉しいのだろう。

「・・・お節介、でしたでしょうか?」

「いや。でもセシリアが応援するのは篠ノ之さんの方か」

「そうでもありませんわ、基本は中立でいたいと思っていますの。でも今回はちょっと」

「ちょっと、なんだよ?」

「鈴さんより少しだけひいきしたくなりましたの」

「もしかして・・・昼間の?」

そう聞くとセシリアは少し恥ずかしそうに頬へ手をやって―――

「あんなことで心を乱すなんて、大人気ないですけど。いいですわよね?だってわたくしはまだまだ子供ですもの」

くすくすと笑う。

風が吹きなびく髪と、夕日のせいか紅潮して見える頬、照れたような笑み。
完全な不意打ちだった。

(くそ、やっぱこんなカワイイ子が俺に気なんてあるわけねえよ)

心臓は早鐘をうち、俺の頬も赤くなっているような気がして、恥ずかしくて顔をそらした。

「どうかなさいました?」

「ど、どうもねえよ。俺、先に行くわ。逆のピット使えば問題ないだろう」

「あ、ちょっと。わたくしも行きますわ」

(セシリアは俺のクラスメイトで、友達で、ちょっと残念な子。これでいいんだ!そういう認識でいいんだ!)

もとよりこんな浮ついた話は一夏の担当だ、俺の担当ではない。その、はずだ。

投下終了。次は短めで鈴戦直前のシーンをやろうと予定しています。

余談なのですが、カップリング関係で一巻以降かなりいじくっております。
というのも昼寝中に見た夢の展開が妙に良くてそれをそのまま採用したのです。

あと虚さんの件は絶対組み込もうと思います。おいしいネタですし。

それではこれにて失礼します。

短いですが区切りのいいところまで投下
あと二回か三回くらいで原作一巻、アニメ四話相当まで終わる予定です。

戦いが始まって数十秒も経たずして、一夏は地面に叩きつけられていた。
致命打ではないが、かなりいいものをもらってしまっている。
その一夏を叩き付けた武器だが、今鈴が手にしている青龍刀の柄と柄を合わせたような武器ではない。
肩についている、トゲ付の非固定浮遊装甲が開き、内部が光ったと思ったら一夏は吹き飛ばされていた。

「なんだあれは・・・?」

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成。余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾として撃ちだす、ブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ」

篠ノ之さんはセシリアの解説を半分も聞けてなかっただろう、いつもの凛とした雰囲気はどこかに消え、ただ一夏の身を案じうろたえた表情を晒しだしていた。

「・・・・・・一夏」

「大丈夫ですわ、きっと」

「えっ?」

「だってわたくしのブルー・ティアーズが捌ききれて、同じ第三世代兵器の衝撃砲は捌けない道理もありませんわ。というよりむしろ捌ききれなければわたくしのブルー・ティアーズの面目丸つぶれですもの」

「セシリア・・・・・・」

「おまえ後半の方が本音なんじゃないか?」

「あら、失礼なことをおっしゃりますのね」

ふふふ、と笑いながら冗談めかして言うセシリア。篠ノ之さんも少し気がまぎれたのか小さく笑う。
フォローだったのか、俺が言ったようにプライドからの発言だったのかはセシリアにしか分からないが、前者だということにしておいてやろう。

再び一夏と鈴に視線を戻す。
衝撃砲をくらったが、今だ戦いは序盤、なにが起きるかは分からない。
一夏が大番狂わせを起こすことだってありえる。

(勝利への鍵は二つ、俺たちで一夏に教え込んだイグニッション・ブースト。それと雪片弐型の特殊能力)

瞬時加速(イグニッション・ブースト)はスラスターからエネルギーを放出し、そのエネルギーを取り込み、圧縮して再度放出。それによる慣性エネルギーを利用し加速力を得る技術だ。
それを奇襲に利用すれば一太刀浴びせることが出来る、そこでさらに雪片弐型の、白式の能力があればその一撃で終わらせることも可能。
雪片弐型は本来他の武器のために処理をするスペースを全て使うほどの武器である。その攻撃力は全IS中トップといっても過言ではないらしい。
さらに白式の単一使用能力で自身のシールドエネルギーを使う代わりに一切のバリアを切り裂く能力を雪片弐型は有している。
つまり圧倒的な攻撃力で相手の生身に切りかかるのと一緒、ISの基本能力である絶対防御が発動し装着者は無事だろうがシールドエネルギーを激しく消費する。

(雪片弐型の攻撃力からすれば一撃必殺になりうる、教えてくれた千冬さんもモンドグロッソで優勝できたのはこれのおかげと言っていたほどだ。十分な勝機といえる)

一夏と鈴が向かい合う。お互い構えをとり―――

鈴の衝撃砲を一夏がかわしたのを皮切りに再び戦闘が再開される。
衝撃砲はかなり印象的だがもともと鈴の専用IS『甲龍』(シェンロン)は一夏と同じ近接戦闘型の機体。
鈴は衝撃砲で牽制しながら、両刃青龍刀で切りかかる。一夏も負けじと衝撃砲を避けて青龍刀をいなす。
この攻防の中で一夏が求めるものは奇襲を仕掛けるタイミング、いくらダメージを相手に負わせていても一撃必殺を持つ一夏にはあまり意味がない。
ゆえに無理な攻撃はおこなわずに、そして思惑を読まれぬように仕掛けていく。

(いくら無理に攻め込んでないといっても、少しずつは衝撃砲や青龍刀の斬撃をもらっている。さすが代表候補生、逃げに徹することもままならないか)

そんなふうに俺が弱気になりそうになったその時―――

「あっ!!?」

誰かの驚いた声がどこかから聞こえた。
鈴が、一夏に背を向けている。一夏が隙を捉えたのだ。
雪片弐型を構え、急激に加速する。

「いっけえ!!一夏ぁ!!」

俺はこう叫んだはずだがその声は他のものの耳には入っていなかったんじゃないだろうか。
なぜなら、アリーナの中央に謎の物体が落下し、大きな衝撃と爆発音を轟かせたからだ。

周りがざわめきはじめる、もちろん俺たちもだ。
なにしろアリーナの遮断シールドをぶち破り侵入してくるものなどが『いいもの』であるはずがない。

『試合は中止です、みなさんはアリーナから退避してください。繰り返します―――』

スピーカーから山田先生の声。周りの人間もアナウンスに従い観客席から出て行き始める。
しかし俺たちはまだ動けないでいる、まだ一夏も鈴も遮断シールドの内側にいるのだ。

「あいつら何してるんだよ、はやくピットに戻ればいいじゃんか」

「戻れない。という可能性もありますわ」

「戻れない?なんでだよ」

「あの物体がもし敵意をもった何かであるならば、不用意に後ろを見せられませんわ。」

「・・・・・・・・・一夏」

篠ノ之さんが心配そうに呟く。その視線の先の一夏はセシリアの言うとおり、敵を警戒するように隣に浮かぶ鈴と土煙の中心を注視していた。
セシリアの推測が当たっているなら最悪だが、今の俺たちに出来ることは何もない。一夏たちは普通では破ることの出来ない遮断シールドの内側にいるのだから。

「箒さん、弾さん。お気持ちは分かりますがわたくしたちには・・・」

セシリアは何もできないことが悔しいのか、声色が苦々しい。もちろん俺と篠ノ之さんもだ。
俺たちは何度も振り返りながら出口を目指す、一夏と鈴は依然晴れない土煙の中心をにらんでいる。
このまま何もないうちに、教師達が事態を収拾してくれたらとも思った。

だがその思いは土煙を抉るように放たれたレーザーによって砕かれた。

「・・・・なっ!?」

一夏は突如放たれたレーザーを間一髪のところで鈴を抱きかかえ避けることに成功していた。
ちなみにさっきの声は篠ノ之さん。一夏が鈴を抱きかかえたことに声を上げたのではないと信じておこう。
しかし事態はそんなことをいっている場合ではない。


先ほどのレーザーで土煙が吹き飛ばされ、落下してきた物体の正体が露になる。
全体のカラーリングは黒、イメージとしてはダイバーのような感じで全身のあらゆるところにレーザーの発射口が設置されている。
身の丈は二メートルを越していて腕が足の先ほどまであるのが印象的だがそれよりも目を引くのが―――

「全身装甲(フルスキン)のIS?」

全身を覆う装甲である。
ISは見た目の装甲にさほど意味はない。防御はシールドエネルギーで行われるからだ、つまりあのISは全身を装甲で覆う必要のある特別性があるということかもしれない。

「もう我慢なりませんわ!わたくしも出ます、ピットまで行きますわよ!」

「おい!セシリア待て!先走っては・・・五反田、セシリアを追うぞ!」

「あ、あぁ」

セシリアも何も出来ないさっきまでの現状に痺れを切らしていたのだろう。言うやいなやピットのほうに近い出口へ走っていきそのまま消えてしまった。
篠ノ之さんもセシリアを追うように走っていき、俺もそれに続く。しかし最後に俺は一夏と鈴の方を振り返った、振り返ってしまった。

そして思いついてしまった。俺ならここからでも一夏と鈴のところにたどり着ける、と。

「五反田!どうした、はやく行くぞ!」

俺の右腕には何がある。玉鋼の右腕には何がある。

「篠ノ之さん、セシリアを追ってくれ。俺は先に行かせてもらう。」

ドリルとは何のためにあるのだ。

「出ろぉ!!玉鋼ッッッ!!!」

以上です。
鈴ですが今後出番が少なくなるような気がしてなりません。
原作は二巻まで読みましたが・・・
このSSでは重要な立ち回りを任せようと思ってはいるのですが原作に沿っているのでなんともいえません。
ちなみにゴーレムはアニメのほうの形をイメージしております。

それではこれにて

非常にやらかしたので一つ弁解。
アリーナの遮断シールドですが、アニメであると物理的なシャッターが下りていますが原作のほうではシャッターが下りた的な表現がなかったので(思い違いかも)そのまま見えている感じで話を進めました。
違和感があった人は脳内補完でどうにかしていただけるとありがたいです。
それでは

山田先生の話は最後まで聞こえなかった。敵ISの突進をかわすことに集中していたからだ。

「ふん、向こうはやる気みたいね」

『みたいだな』

「・・・・・・弾?」

弾の声が通信の向こうから聞こえてくる。そしてその直後、地面から玉鋼がドリルで土をぶち抜きそのままの勢いで上昇、俺たちの横に並ぶ。

「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、混ぜろよ」

「はぁ、あんたも一夏に負けず劣らず馬鹿よね。わざわざ危険なところに突っ込んでくるなんて」

「おい鈴、そんな言い方だと俺が厄介ごとに喜んで首突っ込む馬鹿みたいじゃないか」

「そう言ったつもりだけどね」

「手厳しいな」

「違いない」

敵を前にしても俺たちは軽口を叩きあい、笑いあう。俺と鈴と弾、まるで中学の頃のようだ。

(なんていうか、すげー頼もしい。負ける気がしない・・・!)

「一夏、撃ってきそうだぞ」

「じゃあレーザーを撃ってきたら散開、その後は衝撃砲で援護するから二人が突っ込む。いいわね?」

そう言った鈴の言葉には返事をするヒマはなかった、その前に敵がレーザーを放ったから。
しかし返事をする必要もなかっただろう、俺たちにはそんなものがなくとも伝わるものがある。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「もしもし!?織斑君、凰さん!聞いてますか!?」

何度呼びかけても一夏と鈴からの反応はなかった。敵との戦闘に集中しているのか、もしくは意図的に答えないのか。
しかもあとから加わった弾に至っては『観客席の床をぶち抜きアリーナに出る』という荒業までして危険な場所に飛び出していった。
たしかに壁や遮断シールドと違い普通の建造物と同程度の強度しかないが、わざわざ壊してまで危険な場所に飛び出すなど誰も考えていなかったのだ。

「本人達がやるといってるのだから、やらせてみてもいいだろう」

「お、お、織斑先生!何を呑気なこと言ってるんですか!」

「落ち着け、コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

「・・・あの、先生。それ塩ですけど・・・」

「・・・・・・・・・」

ぴたりとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、白い粒子を容器に戻す。

「なぜ塩があるんだ・・・」

「さ、さぁ?でも、あの、大きく『塩』って書いてありますけど」

「・・・・・・・・・」

「あっ!やっぱり弟さんが心配なんですね!?だからそんなミスを―――」

「・・・・・・・・・」

嫌な沈黙が、管制室に流れる。なにか嫌なことが起こる予感がして真耶は話題をそらそうと試みる。

「あ、あのですね―――」

「山田先生、コーヒーをどうぞ」

「へ?あの、それって塩の入ったやつじゃ・・・」

「どうぞ」

ずずいっと強引に押し付けられるコーヒー(微塩)を断れずに受け取る真耶(押しに弱い)

「い、いただきます・・・」

「熱いので一気に飲むといい」

悪魔がいた。

「あの、先生。わたくしはなぜここにつれてこられたのですか?」

「おまえはピットから織斑たちに合流して加勢しようとしていたようだが、それは許可できんな」

「なぜですの!?わたくしのブルー・ティアーズならもう準備はできてますのに!」

「言わなければわからんのか、この馬鹿者が。お前のISは一対多向き、逆のこの状況では足手まといになりかねん」

「ですが・・・」

「では聞くが、連携訓練は行ったのか?その時のお前の役割は?ビットの運用はどのように?味方の構成は?敵はどのレベルを想定している?連続稼動時間を―――」

「そんなことわかっています!けれど友人達が戦っているのに指をくわえて見ているなんて。わたくしは・・・」

「その心意気は認めるが、それだけで突っ走るのは愚かだぞ。わかっていながらとは余計にたちが悪い、今後気をつけろ」

自分でも考えなしの行動だったと思ってはいたが、他人から指摘されるとどれだけ馬鹿なことをしようとしていたか分かってしまう。
弾と出会い、少しは落ち着いてきたが相変わらずプライドの高いセシリアである。少し惨めな気分になり、それを紛らわせようと周りに視線を向ける。

(あら、箒さんは?ピットに向かっていた時は後ろからついてきていたはずですのに・・・)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「く・・・!!」

一夏の斬撃が空を切る。これで四度目、四度のチャンスを逃してしまった。しかしそれは俺も同じ、ドリルは何も貫かず空転を続ける。

「あんたら!なにやってんのよ!ちゃんと狙いなさいよ馬鹿ども!!」

「「狙ってるっつーの!!」」

俺も一夏も敵ISの規格外の性能に手を焼いていた。普通のISならば当たる間合いでもあれは避けてくる。
スラスターの出力が尋常ではないほど高く、しかも鈴が衝撃砲で注意をひきつけても一夏と俺の攻撃には回避を最優先にしてうまく立ち回られている。

「二人とも!離脱、早くッ!!」

「お、おう!」

敵は攻撃の回避をした後いつも反撃に転じてくる。
しかしその方法が異常だ。でたらめに長い腕をコマのように振り回しながら接近してくる。しかもその時レーザーで射撃まで行ってくるのだから手に負えない。

「あぁっ!!もう、めんどくさいわねコイツ!」

鈴が焦れたように衝撃砲を展開、砲撃を行う。
衝撃砲の砲弾は敵の腕に叩き落されるがその隙をついて俺たちは離脱。さきほどからずっとこのパターンだ。

「で、どうすんの?このままやってても埒があかないわよ!?」

「逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?」

「なっ!?あたしはこれでも代表候補生よ!逃げるわけないでしょ!!」

「そうか、じゃあ、お前の背中くらい守ってやるよ」

「え?あ、うん・・・ありがと―――」

「敵の前でいちゃつくなアホが」

「痛っ!!」

目の前で赤くなって被弾しそうになっている鈴(アホ)の頭をどつき、レーザーの射線から外した。
次いでレーザーが雨のように襲い掛かるのを再度散開しかわす。

「なぁ、あいつの動きって何かに似てないか?」

「何かってなんだよ?」

「いや、なにかというより・・・・機械じみてないか?動きが」

「ISは機械よ」

「そうじゃなくてさ、あれって本当に人が乗ってるのか?」

「は?人が乗らなきゃISは動かな―――」

鈴が一度言葉をとめる。

「―――そういえばアイツってあたしたちが話してるときはあんまり攻撃してこないわよね。まるで興味があるみたいに聞いてるような・・・」

たしかに今までの戦闘を思い返してみるとそうだ、俺が合流した時もいつ撃ってきてもおかしくはなかったのに撃ってきたのは大分後だ。

「ううん、でもありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」

確かに鈴の言うことはもっともだ、ISはそういうものだ。女性が乗らなければ動かない、女性にしか動かせない兵器。
しかし目の前にはそのありえないをこなしている男がいる。ならばあれが無人機でもなんらおかしくなく思えてくる。

「なるほどな、で?無人機だったらどうなんだ?」

「だ、弾?何言ってんの、ありえないわよそんなの」

「男がIS動かす時代だぜ、ありえる話だと俺は思うけどな」

「で、一夏。どうなんだよ」

「あぁ、人が乗っていないなら容赦なく全力で攻撃しても大丈夫だ」

自信に満ちた表情で言い放つが正直不安要素が多い。

「なにか策ありって表情だが、当てられんのかよ?」

「次は当てる」

「言い切ったわね。じゃああたしはありえないと思うけど、あれが無人機と仮定して攻めていきましょう」

鈴が不敵にもにやりと笑う。中学時代に良く見ていた表情だ。
詳しく言えば『下手こいたら駅前のクレープを奢れ』という表情だ。
懐かしさを覚えるとともに昔に感じた頼もしさも感じる。

「なに笑ってるのよ弾、こんなときに」

「悪いな、鈴のその顔もひさしぶりでさ。で、俺らはどうすればいい?」

「弾は俺の後に続いて攻撃をしかけてくれ、鈴は俺の合図で衝撃砲をアイツに撃ってくれ。最大威力で」

「?いいけど、当たらないわよ?」

「いいんだ、当たらなくても」

「じゃあ、行きますか―――」

俺と一夏が突撃姿勢に入ろうとした瞬間、ピットのほうから声が聞こえた。センサーが捉えて増幅したその声は―――

「一夏ぁっ!!」

「し、篠ノ之さん!?」

「な、何してるんだ、お前・・・」

「男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!」

「・・・箒」

ピットの先のほうで一夏に声援を送る篠ノ之さん、だけど生身でここに来るなんていくらなんでも危険すぎる。

「・・・・・・・・・」

現に今、敵は篠ノ之さんの方へゆっくりと振り向いた、生身の相手にどう反応するのかは分からないが、最悪の事態になってからでは遅い。

「一夏っ!」

「分かってる!鈴、やれ!!」

「う、うん!」

衝撃砲を構え狙いを定める鈴、しかしその射線上に一夏が割って入った。

「ちょっと馬鹿!なにやってんのよ!どきなさい!!」

「いいから撃て!」

鈴は戸惑っていた、けれど俺にはわかった。一夏の考えが、一夏の言っていた策が。
玉鋼を操り、白式のスラスターに着地する。

「弾!」

「おうよ!!受け取れ!!」

一夏の狙っているのはイグニッション・ブースト、だが普通のイグニッション・ブーストじゃない。
イグニッション・ブーストは内のエネルギーを外に出し再度取り込み圧縮、そのエネルギーを使い加速する。
それならば―――

『外から得たエネルギー』でも加速に利用することが可能ということだ。

目の前にウィンドウが現れる、今まで練習でいくらやっても出なかったがここぞという時に間に合ってくれた。

『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』

俺は惜しみもなくありったけのエネルギーを一夏のスラスターに叩き込む。白式のスラスター翼がきしんだような音を立てて光を放つ。

「行けっっ!!一夏ぁ!!!」

爆発的というよりもっと荒々しく、白式が加速する。IISのセンサーでさえ追うのがやっとなほどに。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

一瞬で敵まで到達しそのままの勢いで右腕を切り裂く。しかし敵は右腕を切られたことに反応を見せずに一夏に反撃を仕掛ける。
左の裏拳が決まる。敵の作ったクレーターの壁面に叩きつけられた一夏、さらにそのまま追撃として左のレーザーを撃つ気らしい。

「「「一夏!!」」」

俺と鈴と篠ノ之さんの声が重なる。

俺たちの叫び声に構いもせずにレーザーは放たれた。標的を正確に捉え撃ち抜く。
ただし撃ち抜かれたのは一夏ではなく敵のほうだった。

「今のレーザーは、もしかして―――」

「ギリギリのところでしたわね、一夏さん。皆さんも、わたくしがいないとやっぱりダメですわね」

ピットにいる篠ノ之さんの後方、こちらからは影で見えにくい位置にセシリアはいた。敵に悟られない位置から必殺の一撃を寸分違わず敵の中心に決めてきた。
さすが代表候補生、と言ったところか。

「わたくしがたまたま箒さんを探しにピットまで来ていなければ、どうなっていたことやら。でも本当に箒さんは勝利を呼び寄せる力でもあるんでしょうか?箒さんがここに来なければあぶなかったですわよ、ほんとうに」

「ははは、なんたって篠ノ之さんは『勝利の女神』だからな」

「弾!おまえなぁ、そのことほじくり返すなって言っただろ!」

「・・・・・・・・・」

セシリアの言葉に冗談を加えて返す。篠ノ之さんは顔を赤くしてこちらを睨んでくるし、一夏も言葉の割りに顔は笑っている。
全員無事に戦いを終えられたことに感慨を覚える。

(良かった。本当に、良かった・・・)

「そうですわ、弾さん。先生からの伝言ですけれど―――」

俺たちは全員が安堵し、もう全てが終わったと思っていた。いうなれば油断していたのだ。
気づいたのは鈴だった。

「一夏!まだあいつ動いてるっ!!!」

俺達が慌てて敵ISのほうに振り向くと、左腕だけを動かし強引に一夏を狙っていた。
一夏は零落白夜のせいでもはやシールドエネルギーが尽きていてもおかしくないほど消耗しているはず。

(その状態でくらったら!)

「避けろぉ!一夏ぁ!!」

しかし一夏はためらう素振りもなく、敵に斬りかかる。
閃光が迸り、轟音がアリーナに響く。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


試合後の医務室、私は一夏の見舞いに来ていた。
目の前には全身に軽い打撲を負った馬鹿が一人。

「あの~、箒さん?」

「・・・馬鹿者が」

そして私を守るためにこんな傷を負ったものにこんなことを言う私も大概馬鹿だ。

「なぜあの時、奴に斬りかかった!なぜ避けなかった!そもそもお前が戦う必要などなかった!先生方に任せておけばよかったのだ!それなのに、それなのにお前は・・・!!」

それでも言葉が出てしまう。本当は他に言いたいことがいっぱいあるのに、私の口から出るのは叱責の言葉ばかりだ。

「箒・・・もしかして、心配してくれてるのか?」

「・・・・・・!!」

なぜこの馬鹿はいつも鈍いくせに、こんな時にだけ鋭いのだ。私が言いたくても言えなかった言葉をこうも容易く心のおくから引き出せるのだ。

「おい、箒?泣いて―――」

「うるさい!心配して何が悪い!!お前が危険な目にあっていたのだ、心配するに決まっている!!それなのに、それなのにお前は・・・お前は・・・」

そこからは言葉にならなかった、ぼろぼろと両目から涙が溢れ、嗚咽でうまく話せなかった。
私はひどい女だ、守られて、心配されて、それで一言の感謝も述べられない。

「ゴメンな、箒。いつも心配かけて、ほんとゴメン」

頭の上に感触。やさしく暖かく、強い手のひらの感触。
一夏は痛むであろう体を動かして私の頭を撫でる。まるで子供をあやすように。
子ども扱いなど嫌なはずなのに、ひどく心地いい。

(違う、謝るのは私のほうだ・・・違うんだ、一夏)

一夏はその後も私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。
心が落ち着き、涙も出なくなり、嗚咽が止まる頃にゆっくりと一夏の手が頭を離れる。

「一夏・・・その、ありがとう。私を助けてくれて、頭を撫でてくれて」

いつもと違い、自然と言葉が出てくる。泣いてすっきりしたせいだろうか?

「・・・・・・・・・」

「なんだ、その顔は?どうかしたか?」

「いや、箒が『ありがとう』なんて言うの久しぶりに聞いたからさ。ちょっと驚いて」

「・・・そうだな、私も素直に言えて驚いているよ」

一夏と再開してから、いやその前から私は一夏に感謝の言葉を口にしたことがあまりなかった。
つまらない意地をはったり、プライドや、気恥ずかしさが邪魔をしていた。

「それでは、私は先に部屋に戻らせてもらおうか」

「あぁ、見舞いに来てくれてありがとうな」

私は席を立ち扉に向かうが一つ言い忘れていたことがあったのを思い出した。

「そうだ一夏」

「ん?」

「戦っているお前の姿、格好よかったぞ」

一夏の反応を見ずに扉を開ける。
たまには心のままに言葉を口にするのも悪くないのかもしれないな。

一巻の時点で人物の内面がかなり変化していますね。
まぁIFものなので気にしない、むしろこのSSのテーマに近いかな。

セシリアが箒のことを名前で呼んだり、箒が大分素直だったりしますね。

ちなみに投下開始と投下終わりをageることにしました。
それではこれにて

番外編の投下を開始しますよ

番外編の投下を開始しますよ

エラーで書きこめてないと思ったらこれだよ。
家の中に入ってきたトンボを逃がしていたらこんな時間に
投下開始します。

番外編『一夏快復記念』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうしてこうなった。俺の頭の中で何度もその言葉が反芻される。

(どうしてこうなった!どうしてこうなった!どうしてこうなった!どうしてこうなったぁあああ!!)

「あっ!んっ、だめぇ!!弾さん許して・・・ハァ・・・くださ、い・・・」

ちょっと待ってほしい、今俺の前で嬌声をあげて息も絶え絶えになっているのは紛れもなくセシリアだし、名前を呼ばれたのはこの俺、五反田弾だ。
しかしここで誤解しないでほしいのは、俺がセシリアに指一本触れていないし、いやらしいことなど一切していないということだ。

「ハァ・・・ハァ・・・どうして、こんなことなさるの、ですか?」

「いや・・・どうしてって言われても。セシリアがやりたいって言ったんじゃねえか」

「ですが・・・こんなに、激しいものとは・・・ハァ・・・知りませんでしたもの」

(いやいやいやいや!!!激しくないですからね!なんにも激しいこともやらしいこともしていませんよ!!)

だって俺たちがやっていることは―――

『IS/VS』(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)
世界中でモンスターヒットを叩き出した、大人気『格闘ゲーム』である。
ISの世界大会、モンドグロッソのデータをもとにした各国の代表ISを操って戦う。
いかがわしい要素や、あんな息が乱れて大変エロイ状態になる要素もないはずのゲームなのだ。

(一度最初から思い返そう、今日一夏の快復記念にみんなで遊ぶことになって―――)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「外はあいにくの雨、今日出かけるのは無理そうですわね」

「でもせっかくみんな集まってるんだし、誰かの部屋で遊ばない?」

昨日、一夏の怪我が完治したので医務室で言っていたとおり皆で遊びに行こうと思っていたのだが外は雨がかなり強く降っている。

「じゃあ一夏の部屋行こうぜ。置いてるものが少ないし」

「では各自遊べるものをもって一夏の部屋に集合だな」

「あっ、飲み物とかも持ってきてくれると助かる。今何もないんだ」

どうやら先日、一夏と篠ノ之さんは同室ではなくなったらしく今一夏は二人部屋を一人で使っている状態にある。
なのでほかの面子よりも部屋を自由に使えるので、遊ぶなら一夏の部屋に集まるのがこの頃の俺達の常になっていた。
ちなみに俺は寮の空いていた物置を改装してほかの部屋と同じくらいの設備にしてもらってそこで暮らしている。
ただ元物置なので一人分のスペースしか確保できなかったので、自動的に一人部屋だ。

「それでは一旦、解散ですわね」

セシリアの一言で俺たちは各々の部屋に帰り、思い思いのものを一夏の部屋に持ち寄った。

俺の部屋は寮の端のほうにあるので案の定、一夏の部屋に着いたのは俺が最後だった。

「おっそーい!弾、あんた罰ゲームね」

「何ぃ!?聞いてないぞそんなルール!」

「だってあんたが来てない間にみんなで決めたんだし、知ってたら怖いわよ」

「俺はお前らのほうが怖いわ!何そのいじめ!みんな俺のことキライなの!?」

ちょっと涙出そうになった。俺の部屋が一番遠いのわかってるだろう、ここにいるメンバー。

「まぁ冗談はさておき、弾は何持ってきたんだ?」

「俺の部屋も食い物とかはなかったからな、ゲームを持ってきた。ソフトはそこまでないけどな。みんなは?」

「わたくしは飲み物などを持ってきましたわ。あいにく遊べるようなものは持っていませんでしたので」

セシリアは飲み物か、少しだけどお菓子も用意しているようだ。けど包装とかが異様に豪華なんだけど・・・
値段は聞かないでおこう。

「私は花札、トランプ、UNO。あとは同室のものが菓子の類と、う”、う”ぁんがーど?というものを貸してもらった」

篠ノ之さんはカードゲーム類か。最後のはたしかにカードゲームだが同室の子はどういった意図でそれを篠ノ之さんに渡したのか・・・
ここにいるやつであれ知ってるやついるのか?

「あたしは麻雀のみ!」

「だけかよ!」

「弾もゲームだけでしょうが!」

「そうでした、すいません」

俺はゲームを机の隅の方へ置き、ベッドの空いているスペースに腰をかけた。
皆も適当にバラけて座っている。

「で、まずは何やるよ?」

「最初はトランプとかでいいんじゃないか?みんなわかる遊び方多いし」

「人数も多いことだし、大富豪あたりが妥当なんじゃない?」

「いいけど。名前的にセシリアが強そうなゲームだよな、大富豪って」

「ふふふ、実力でも大富豪になってみせますわ」

「では、配るぞ」

持主である篠ノ之さんがみんなにカードを配り、スペードの3を持っていたセシリアからゲームが開始された。
俺の手札にはジョーカーや2はないものの、ほかの手札は優秀で大富豪は無理でもうまくやれば富豪になれるかもしれないくらいの手札だった。
そして結果なのだが。



「わ、わたくしが・・・大貧民・・・・・・」

もちろんセシリアが最下位だった。
そりゃゲームの始まる前にでっかい敗北フラグを造作もなく建ててたからな。
しかも勝負に出るときは決まって声高に宣言するもんだから、皆そこを潰しにかかる。
途中から皆でセシリアをいじめているような錯覚に陥ったが、最後まで手は抜かなかった。
俺を含めてひどい連中だと思う。

「篠ノ之さんが一番大富豪率高かったよな、強すぎだろう」

「いつもの固っくるしい表情のままだもんね、読めないわそりゃ」

鈴はなんだかんだ言いながら富豪の位置にちゃっかりつくことが多く、大半は俺と一夏で平民と貧民の位置を争っていた感じだ。
大富豪もそれなりに楽しんだので次に何をやるか、という話題でだべっているとゲームソフトをあさっていた一夏が。

「おっ!『IS/VS』じゃん!弾、ちょっとやってもいいか!?」

「でもそれ二人用だろ?三人が暇になるじゃねえか」

俺はそのことも踏まえて部屋に置いてきたと思っていたのだが、どういうわけか持ってきたソフトの中に紛れ込んでいたようだ。

「別にいいんじゃない?ISのゲームなんだからここにいる面子で興味がないやつなんていないでしょ」

「ISのテレビゲーム?わたくしもそれなら少しばかり興味がありますわね。説明書きではモンドグロッソの出場者を操れるのでしょう?」

「私は別に見るだけでも構わないぞ。人が遊んでいるのを見るのもそれなりに楽しいからな」

鈴はともかく、セシリアと篠ノ之さんも興味を示したことは意外だった。セシリアに至ってはパッケージを開けて説明書を読んでいるほどだ。

「う~ん、それなら・・・やるか?」

みんながいいならば俺も嫌がる理由もないのでさっさと準備に取り掛かる。
一夏と鈴も手伝ってくれたおかげか五分もしないうちに、準備は終わった。

「じゃあ一夏!久しぶりに相手しなさいよ!」

「いいぜ、鈴がいない間も弾と特訓を重ねた、新しい俺を見せてやる」

「負け抜けルールな、勝ったやつは連戦」

「あっ!いきなりイタリア使うとか卑怯よ!」

「はっはっはっ、真剣勝負に何を言うか!ってそんなこと言いながらイタリア殺しのスペイン選ぶなよ!」

「真剣勝負なんでしょ、先に選んだあんたが悪い」

この後の勝負の結果はもちろん言うまでもない。

「ふっふーん。一夏もまだまだね」

「ち、ちくしょう・・・」

「前座は下がってな、真打ち登場だ」

「何が真打ちよ、モブキャラ顔してるくせに!」

「・・・久々にキレちまったよ。ちょっと本気を出させてもらうぜ」

鈴は言ってはならないことを言ってしまったようだな、たとえるなら鈴に『貧乳』と言うようなものだ。
口にしたが最後のアンタッチャブルワード。俺はゲームを入れてきていたカバンから秘密兵器を取り出す。

「なっ!それはアケコン!?」

「俺と一夏はアケコンの方がやりやすいからな、持ってきておいてよかったぜ」

「・・・弾、なぜ最初から出しておいてくれなかったんだ」

「くっ!でも本来の実力を発揮できたところで、あたしとの力量の差が埋まるわけではないわ!」

「おい」

「くっくっく、あの頃の俺とは違うのだよ!!」

「おい」

今、俺と鈴の決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。

「おい」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ううう、まさか弾に負けるなんて・・・」

「俺も日々進化しているのだ、男子三日会わざれば刮目して見よ」

本気で悔しがっている鈴を前にして、気分はいいもののかなりの接戦だった。
かなり特訓したのに実力的にいえば五分五分くらいだろう。鈴も中国で練習を重ねていたのかもしれないな。

「おい」

「次はわたくしの番ですわね!」

「え?」

先程から一言もじゃべらずに黙々と説明書を読んでいたセシリアが、いきなり声を上げた。
ずいぶん熱心に読んでいるな、とは思っていたがまさかやるつもりだとは思っていなかった。

「セシリアって格ゲーの経験あんの?」

「いえ、これが初めてですわ」

「よくそれであたしらとやろうって気になったわね・・・弾、やってやりなさいよ」

「えっと・・・いいのか?」

「現実を見せといた方がいいでしょ。それで折れなかったら『布教』して仲間にしちゃえばいいんだし」

「もちろんわたくしはイギリス代表を選択しますわ!」

セシリアは鈴からコントローラーを受け取ると明らかにゲーム慣れしていないであろう、おぼつかない手つきでキャラくターを選択していた。
しかもセシリアの選択したメイルシュトロームはこのゲームで弱キャラとして有名である。
使いづらく、使いこなしたところで大して強いわけではないという不遇のキャラなのだ。

「んじゃ俺はアメリカでも使うかな・・・」

「俺もそろそろ泣くぞ」

勝負の結果は予想通り、セシリアを俺がフルボッコにして試合終了した。
初心者相手に大人げないとは思うが、この程度のことは乗り越えなければ格ゲーをやってもうまくなれないだろう。
しかしプライドの高いセシリアのことだ、どうせ―――

「も、もう一度ですわ!再戦を申し込みます!このわたくしがなにもできずに負けるなんて・・・くやしいですもの!!」

「まぁセシリアだからこうなるだろうとは思ったんだけどね」

「わかってて俺にやらせたのかよ」

「弾もそれがわかってて手を抜かなかったんでしょ?」

「それもそうだけどよ」

「もう一回!早く早く!わたくしの準備はもう終わってますわよ!」

それにしてもセシリアがこんなに熱くなっているのを見るのは久しぶりなような気がする。
確かにプライドは高いままだがもう少し落ち着いてきていたと思っていたんだが。

「それでは行きますわよ!次こそは勝ちますわ!」

「セシリア、試合前にアドバイスしておくけど最初はAとかBで牽制してガードすることを重視しなさい。それができるようになれば少しはマシに戦えるわよ」

「コンボの方は教えなくてもいいのか?」

「今教えても無駄でしょ、基本操作になれるのが先よ」

「それもそうだな」

それから何度か鈴と交代でセシリアと対戦していたがやはり、というべきか上達速度は目を見張るものがある。
もともと頭もいいので俺と鈴の教えることをすぐに吸収し、応用までしてくる始末だ。
これは追いつかれるのはそんなに先のことではないのかもしれない。
しかしそんなセシリアでも何度教えてもうまくできないこともあった。それは―――

「あぁもう!コントローラーを振り回さない!危ないでしょうがっ!!」

「ちょっと待て!それ以上体を傾けたら倒れるぞ!」

「そんなこと・・・ハァ・・・言われましても。ハァ・・・痛いっ!・・・無意識にやってしまうんですもの」

レースゲームとかで体を傾けたり、ダメージを受けたら反射的に声をあげてしまう人がいるが、セシリアはもろにそれだった。
コントローラーを振り回し、ダメージを受けたら声を上げ、集中しすぎて体が倒れそうになる。
幸いコントローラーはワイヤレスなのでコードが絡まる心配はないが、声を出しながらぶんぶんと腕を振っているからか息が上がってきている。

(そして一番つらいのはセシリアのキャラがジャンプするときとしゃがむ時)

「ええい!!」

画面上でセシリアのキャラが鈴のキャラの下段突進をジャンプでかわし、反撃を試みる。
俺はその先を見ることなく、セシリアの方に首だけを高速で向けた。

(・・・やはり揺れている。確かに揺れている。揺れている・・・)

コントローラーを上に振り上げるのでその際に揺れるのだ、『何が?』なんて聞くなよ。
野暮になる。

その後も俺がセシリアに教えたり、鈴が教えてる間に揺れているのを観察したりしていたが、いよいよセシリアも疲れてきたのでそろそろやめようかと考え始めた時に、それは起こった。

「り、鈴さ、んハァ・・・ひゃうん!!」

明らかに格ゲーをしていて出るような声ではない声がセシリアの口から漏れだした。

「ちょっと!セシリアなんて声出してんのよ!」

「えっ?」

これも自覚なしであんな声を出しているようだ。しかもだんだん『ああいう声』を出す比率が高くなっている。
疲れてくるとこうなるのか?いや、ISの練習中はこんなことなかったし・・・

「あっ!んんっ!!ハァ・・・ハァ・・・また、負けてしまいましたわ」

「セシリア、今日はここまでよ。これ以上やると色々危ないわ」

「わたくし・・・ハァ、ハァ・・・まだできますわよ」

「駄目よ、これ以上はいけないわ」

「ですが・・・」

セシリアは負けたままでは食い下がれないのか、まだやめたくないようだ。
しかしこのままでは色々とやばいので(セシリアの体調的な意味です、他意はありません)もうゲームはやめさせなければならない。

「セシリア」

「なん・・・ですの?」

「偉い人は言いました。『ゲームは一日、一時間』って、だから今日はもうやめておこうぜ、ゲームなんてまたできるしさ」

「そんなハァ・・・ハァ・・・言葉が・・・でしたら、わたくしはその言葉に従いましょう」

「そうか、なら―――」

「そう、ですわね・・・ハァ・・・あと一回、くらいならできる・・・ハァ・・・計算になりますわ」

「・・・・・・・・・」

なんてこった、もう一時間過ぎてると思ったら、そこまではしていなかったようだ。

「・・・しかたないな、一回だけだぞ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


そして今に至る。

「弾」

「なんだよ、鈴」

セシリアの声に苦戦しながらも(精神的に)なんとか勝利を収めた俺は、ベッドの端のほうで座ってぐったりとしていた。
鈴は同性だからか元気だったが、当のセシリアは疲れたのかベッドに倒れこんでぐったりとしている。

「なんであんた前かがみなわけ?」

「・・・・・・・・・男だからだ」

「くたばれ」

「はい、誠に申し訳ありません」

正直、殴られても文句の言えない状況だが鈴のやつは優しいので辛辣な言葉だけで済ませてくれた。友情って素晴らしい!

「そういえば一夏は何してんの?姿が見えないんだけど」

「一夏なら外でいじけているぞ」

「あっ、箒!もしかしてあんた一夏と二人っきりになるために・・・」

「お前たちが無視してたからだろうが、私はそれを慰めていただけだ」

「それならあたしも外に行こうっと」

言うが早いか、鈴は素早く立ち上がりドアを開けて外に飛び出して行った。
しかし一夏を無視した?そんなことはした覚えがないんだが・・・

「それでは私も一夏のところに戻るとしよう。このジュースはもらっていくぞ」

「うん、それはかまわないけど。俺も行こうか?」

「別に来るのはかまわんが・・・いや、お前はここに残れ、セシリアが一人になるだろう」

「そうだな、セシリアも今は疲れてるみたいだし。誰か残った方がいいよな」

「それでは頼んだぞ、では行ってくる」

篠ノ之さんもジュースの缶を三つもって扉から出て行った。
あとで一夏に何があったか詳しく聞かないとな。俺たちが無視してたなんて何かの間違いに決まっているからな。

「・・・弾さん」

「お、なんだセシリア、だいぶ息が落ち着いてきたじゃないか」


先程まで息も荒く、顔も赤かったセシリアだが今は少し頬に赤みが差しているくらいでいつもとほとんど変わらないくらいに戻っていた。

「ええ、おかげさまで。ところで皆さんは?」

「聞いてなかったっけ、一夏のところ。なんだかいじけてるんだってよ」

「弾さんは行きませんの?」

「セシリアを一人にするわけにはいかないからな、俺は残ったんだ」

というより篠ノ之さんに言われて残ったんだけどね。

「紳士ですのね」

「お褒めにあずかり光栄です、お嬢様」

「ふふふ、全然似合ってませんわよ」

「そりゃそうだ、イケメンじゃねえとこんなキザなセリフにあわねえよ」

「え、あの・・・違いますわ。だ、だ、弾さんはカッコイイですもの!ただ優男のような言動が似合わないと思っただけで・・・」

セシリアはしどろもどろになりながらも俺をフォローしてくれる、冗談のつもりだったんだけどな。

「はいはい、気を遣ってくれてありがとな」

「ううう・・・違いますのに」

「その調子じゃ、本当に大丈夫そうだな。一夏のところにでも行くか?二人も行ってるし」

「え?あ・・・あの、もう少しゆっくりしていきませんか?その、二人きりでお話などしたり」

もう大丈夫だと思っていたけど、まだ本調子ではなかったのかな、と思った。
セシリアの様子がいつも通りならそう思えただろうけど―――

(また、『二人きり』か・・・それに、さっきより顔が赤くなってる)

セシリアが返事を求めるように向けてくる視線も、何か意味があるのではないかと勘ぐってしまう。

(深い意味はない。俺とセシリアはただの友達。なにもやましいことはない、はずだ)

「そうか、セシリアもまだ本調子じゃないんだよな。なら少し休んでいこうか」

「はい。日本では言いだしっぺの法則、というものがあると聞きましたわ。ならわたくしから話題を提供させていただきます」

だから、だからこんなに嬉しそうに話をするのは、友達だからだ。篠ノ之さんや、鈴や、クラスメイトや―――

(一夏にだって・・・・・・・・・)

胸の奥の方、現実にはないはずの痛みが、俺を苛む。だがそんなものは幻想だ、本当にはないものなのだ、この痛みと同じように。

「弾さん?聞いてらっしゃるの?」

「聞いてるにきまってるだろ?転校生の話だよな、可愛い子だといいけど」

「残念でしたわね、その転校生の方は―――」

以上番外編その1でした。少し休憩を入れて八時くらいまでにその2を投下します。
それでは一旦これにて

それでは番外編その2を投下します。
こっちは2レス程度の小ネタですが。

番外編2『篠ノ之さんのわけ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


朝の教室、いつものメンバーで教室に来てるのは俺と篠ノ之さんだけなので二人でだべりながら他のやつらがくるのを待つことに。

「そういえば五反田、前々から気になっていたことがあるんだが」

「なに?俺にこたえられること?」

「むしろお前にしか答えられん。なぜ私だけは名字で呼ぶんだ?他はたいてい名前で呼ぶだろう?」

「・・・・・・・・・」

「どうした?」

「ほら、篠ノ之さんも俺のこと名字で呼んでるじゃん。だから―――」

「弾、ならばこれからはこっちで呼んでやろう。では改めて答えてもらおう」

「・・・・・・・・・」

「どうした?」

い、言えるわけがない。最初にあったころの怖いイメージがどうしても払しょくできずに名前で呼べないなどと、言えるわけがない。

「ご・・・」

「ご?」

「語呂がいいからです」

「・・・・・・・・・」

「そうか、では私も五反田に戻そう。実は弾と呼ぶのは私も違和感があったんだ」

「それがいいよ、うん、無理をするのはよくないよ」

「そうだな、ところで五反田」

「なんだい篠ノ之さん」

「なんで棒読みなんだ?」

「・・・・・・なんでだろうな、一夏」

「一夏はまだ来ていないぞ」

やっぱり篠ノ之さんは少し怖いよ。

以上で投下終了
次からはシャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの登場からの予定です。

それではこれにて

区切りのいいところまでかけたので投下しますよ。
どこで一回区切るか迷って、もう少しで昼飯のシーンまで書くところでした。

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

教壇に山田先生を従えた千冬さんが、こちらを見下ろしながら挨拶を投げかけてくるがその威圧感から、挨拶を強要されているようにも感じる。

「今日は、このクラスに転校生が来ている。詳しくは山田先生から聞け。では山田先生、SHRを」

「はい、えーっとですね、それではさっそく紹介しちゃいましょうか。お二人とも、入ってきてくださーい」

「失礼します」

「・・・・・・」

俺はセシリアからの前情報があったからさほど驚きはしなかった。
しかしクラスのほとんどがその光景に唖然としていた。
なぜなら転校生の片方は、ISを操縦できないはずの『男』だったからだ。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いとは思いますが、みなさんよろしくお願いします」

転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて、一礼する。

「お、男・・・?」

誰かがつぶやく。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を―――」

人懐っこそうな顔。礼儀正しい振る舞いと中性的な整った顔立ち。髪は濃い金色、首の後ろで丁寧に束ねている。服で隠れていてもわかるほどほっそりとした体躯。
印象は『貴公子』といった感じで、特に嫌みのない笑顔がまぶしい。

「きゃ・・・・・・」

「はい?」

「きゃああああああああああああああーーーーーーーッ!!」

轟音がクラス中に響き渡る。先程まで固まっていたクラスメイト達がいっせいに歓声をあげたものだから、声が重なってすごい大音量だ。

「三人目の男子!しかもうちのクラス!!」

「美形!しかも守ってあげたくなる系の!」

「イケメン二人目キターーーーー!!五反田帰れっ!!」

「地球に生まれてよかった~~~!!」

「さっき帰れって言ったやつ誰だ!張り倒すぞコラ!!」

なんかどさくさにまぎれて罵詈雑言を吐きかけられたが、それはさておきアイドル並みの人気だなこれは。
俺や一夏の時でさえ休み時間は質問攻めで、もみくちゃにされたのだからデュノアに至ってはそれ以上になるかもしれないな。
がんばれ、デュノア。

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~」

そういえば今日来た転校生は二人だった、今までの歓声の爆音やら罵詈雑言で忘れかけてたけど。
視線をデュノアの右にたたずむ転校生に向ける。

「・・・・・・・・・」

デュノアとは対ともとれる、冷たい、無機質な冷たさを全身から発している。
白に近い銀色で、伸ばしたというより『伸びた』と表現したほうが似合う腰まである髪。
左目は黒の眼帯で覆われ、開かれた右目は赤い。しかしその赤からは温度がまったく感じられない。
印象は「軍人」身長は男としては小柄なデュノアと比べても小さいが、あまりにも鋭く硬い雰囲気から一回り大きく錯覚してしまうほどだ。

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

(教官?)

命じらて、千冬さんに敬礼しながら返事を返す転校生の姿はまさしく『軍人』のそれだった。
対する千冬さんは少し顔をしかめて迷惑そうな表情だ。

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、おまえもここでは一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

そう答える転校生は両手を伸ばして体の真横に付け、踵はきっちり合わせ背筋を伸ばしている。
とにかく高校生にふさわしくない、軍隊じみたどうさだった。
そしてその転校生から『教官』と呼ばれる千冬さん。

(一体どんな関係なんだ?千冬さんがIS学園で教師をやってたのも驚きだったけど、まだ何かあるのか、千冬さんの過去に)

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「・・・・・・・・・」

え、それだけ?という感じの雰囲気が教室中に蔓延する。皆、次の言葉を待っているようだ。

「い、以上・・・ですか?」

「以上だ」

空気にいたたまれなくなった山田先生が、できるかぎりの笑顔で転校生に訊くが帰ってきたのは無愛想な即答。
うわぁ山田先生泣きそうな顔になってるよ・・・

「・・・貴様が―――」

山田先生の横で表情らしい表情を浮かべていなかったラウラが、眉をゆがめてこちらの方を睨んできた。
いや、目線は俺の少し横を向いている。となりの席の一夏も転校生の視線に気づいたかどうかは分からないが、ラウラの方を向いている。
教壇から降りて、つかつかと迷いなく一夏の前に近づくラウラ。そして―――

「う?」

平手打ち。
一夏の頬を何の前触れもなく、はたいた。
クラス中が何が起こったのか把握できていない、篠ノ之さんでさえポカンとした表情を浮かべていた。

「いきなり何しやがる!」

「フン・・・」

一夏の言葉には耳も貸さずそのまま奥の空いている席に座ってしまうラウラ。
また一夏のいつものあれか?とも思ったがどうも今回は違うようだ、明らかに温度が違う。
あれは本気で嫌悪を表して殴ったのだと、遅れて理解する。

「あー・・・ゴホンゴホン、ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でISの模擬戦闘を行う。解散!」

ぱんぱん、と手を叩いて千冬さんが行動を促すが、俺の中では未だに疑問が渦を巻いていた。
クラスメイトの数人も、腑に落ちない表情を浮かべているものもいる。

「おい、織斑、五反田。デュノアの面倒を見てやれ、同じ男子だろう」

「君が織斑君・・・と五反田君だよね。はじめまして僕は―――」

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ、女子が着替え始めるから。弾、なにぼやっとしてるんだよ。行くぞ」

「っ!お、あぁそうだな」

一夏の言葉でようやく我に返る、クラスメイトは俺たち以外が女なので俺たちはアリーナの更衣室を使わなければならないのだ。

「とりあえず男子は空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたび移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん」

「トイレか?」

「ちっ違うよ!」

「それは何より」

俺たちは階段を下って一階へ。普段であればもう少しゆっくりと行くのだが今はそうはいかない。
なぜなら―――

「ああっ!転校生発見!!」

「織斑君たちと一緒!」

HRも終わった今、俺たちが入学当初受けた洗礼が待っているからだ。
質問攻めにあえば即タイムオーバー確定。なんとしても避けなければならない。
遅刻などしてみろ、千冬さんに何をされるかわかったもんじゃない。俺たちはまだ死にたくはない。

「いたっ!こっちよ!」

「皆のもの!出会えい出会えい!!」

IS学園はいつから武者屋敷になったんだ、向こうの方からホラ貝の音が聞こえるんだけど気のせいだよな。

「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

「しかも瞳はエメラルド!」

「日本に生まれてよかった~~!!お母さんありがとう!今年の母の日は河原の花以外のものを送るね!」

最後のやつひでえ!!今年以外ももっとマシなものを贈ってやれよ。

「な、なに?みんななんで騒いでいるの?」

「そりゃ男子が俺たちだけだからだろう」

「・・・?」

一夏の説明でもデュノアはピンとこなかったらしい。

「いや、普通に珍しいだろ。世界でISを動かせる男は俺たち二人しかいないんだし」

「あっ!―――ああ、うん、そうだね」

「いやいやいや、それ以外にもお前らが追われる理由はあるんですけどね」

「「?」」

駄目だ、デュノアも一夏と同じく鈍いようだ。この先デュノアに惚れたやつは苦労するんだろうな。
だが今はそんなことを考えている場合じゃないだろう、今も集まってきている群衆を避けて第二アリーナまで行かなければ。



「よっしゃー到着!」

「けっこう時間かかったな、早く着替えようぜ」

急げばなんとか間に合うくらいの時間帯だったので、俺は上着のボタンをはずしベンチに投げる。
そのままシャツも脱ごうと手をかけた時にデュノアに声をかけられた。

「あっ!それってIISだよね。世界で初めてコアを使わずにISの機能を再現したっていう」

「ん、そうだぜ。なんか初めてコイツに対して反応したやつを見たな、詳しいのか?」

「うん、少しね。ちょっとよく見せてもらってもいいかな?」

「いいぜ、と言いたいところだが今は急がないとな。千冬さんの授業に遅れたら何されるかわかったもんじゃねえからな」

言いながらシャツを脱ぎすてるようにベンチに投げる。

「わぁっ!」

「んん!?」

いきなりデュノアが素っ頓狂な声を上げた。

「荷物でも忘れたのか?ってなんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ」

「う、うん。き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて・・・ね?」

一夏が後ろからパンツ一丁で話に入ってくるが、それよりもデュノアの反応だ。
まるで乙女みたいな、というかデュノアは女装したらそのまま女といっても通じるほど中性的な美形なので、こちらも対応に困る。

「・・・向こうむいてようか、一夏」

「ああ、そうしようか・・・」

何とも言えない気まずさに包まれて、俺たちは静かに後ろを向いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」

着替えも終わり、第二グラウンドに向かう道中を話しながら俺たちは移動していた。

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

「デュノア?デュノアってどこかで聞いたような・・・」

「聞いたも何も、デュノアの名字だろ」

「そう、僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関連の企業だと思う」

「へえ!じゃあシャルルって社長の息子なのか、通りでなあ」

「うん?通りでって?」

「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち!って感じするじゃん。納得したわ」

「いいところ・・・ね」

俺も一夏と同じような印象を抱いていた、いいところのお坊ちゃん、とは言い過ぎだがそれに近い印象だった。
けれどさっきのデュノアの反応は朝のような爽やかで、人懐っこい雰囲気などまるでなくて。
暗く、影のある、何かを悲観するような・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「遅い!」

第二グラウンドに到着したとき、そこには鬼が立っていた。
というか千冬さんなんだけどさ。

「くだらんこと考えている暇があったらとっとと並べ」

いつもの出席簿の鋭い打撃が振り下ろされる、が叩かれたのは一夏だった。
いい音をたてた頭を抱えている一夏を、横目で見ながらほっと安堵する。危ねえ、一夏がアホで助かった。

「何をぼさっとしている、早く行かんか」

もう一発繰り出された打撃は的確に俺の頭をとらえた。
一夏に気を取られて止まっていた事が仇となったか・・・
俺も大概アホかもしれん。

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

俺と一夏たちが一組の列に並ぶと、何の因果か隣はセシリアだった。

「スーツを着るだけでどうしてこんなに時間がかかるのかしら?」

「男の子は支度に時間がかかるんだよ」

「嘘おっしゃい。いつも間に合うくせに」

「な、なんだよ妙に引っかかる言い方だな」

今日のセシリアの言葉には端々に棘があるぞ。綺麗なバラには棘があるというのを実践しているらしい。
前にそんなことを言っていた覚えがある。その時は鈴に『うわ、そんなこと言って恥ずかしくない?』って言われて怒っていたような。
それはともかくなんか怒らせるようなことしたっけ?

「何か、気づくことはありませんの?」

「・・・・・・・・・」

やばい、女子がこういう発言をするときは男が気付きそうもないような変化をほめてもらいたいパターンだ。
女子が一夏にアプローチするたびに使っていた手なので俺はすぐさま理解する。
というか、一夏に対して世の男子でも反応しづらい手を使うのはまちがいじゃないでしょうか?当人は気がつかないのかね。

「えっと・・・髪型かえた?」

「・・・・・・・・・」

どうやら違ったみたいだ、おそらく次に間違えば本格的にへそを曲げてしまうだろう。
そうなるとそこはセシリア、他の女子の当社比1.5倍はめんどくさいことになる。
セシリアの変わってるところ、変わってるところ・・・・・・・・!

「もしかして、ISスーツ新調したのか?」

「・・・・・・・・・!!」

セシリアの表情が一変して、花が開いたような喜びの表情に変わる。
正直どこが変わったのかほとんどわからなかった。なんとなくラインの青が濃かったり、首周りのデザインが少し違ったような気がしただけだったんだけど。

「そ、そうなんです!!実習が始まるこの日に合わせて特注で―――」

「あっ!馬鹿、今は―――」

気づいてもらえたのがそこまで嬉しかったのか、セシリアは授業中にも関わらず休み時間に話している時と変わらないトーンで、つまり周りによく響くあの声で自分のスーツの講釈を始めた。
もちろん、そんなことをすればどうなるかなど、ここにいるすべての人が知っているだろう。

「うるさいぞ、馬鹿ども」

そう、我らが鬼教官、千冬さんによる出席簿アタックが待っている。
今日も今日とて青空の下に俺たちの脳細胞が五千個も死滅していく。

以上で投下終了です。

余談ですが250から255の方々の意見はすべて果たせる展開になるとは思いますが、『どういう形』で果たすかはだいぶ予想などから外れる形になるかと思いますがご容赦下さればと思います。

あとここからはシャルル編ですのでラウラは出番が少なくなりますこともご容赦を。
それではこれにて

前回はエラーのせいで上がらなかったですね。そういう時はあげたほうがいいですかね?
では投下開始です。

「では、本日から格闘および射撃を含む実践訓練を開始する」

「はい!」

さすがに二クラス合同の授業ということもあって、返事の声もいつもの二倍だ。

「怒られてやんの」

「うっせえ二組、頭に響くんだよ」

ちょうど後ろにいたらしい鈴が千冬さんに叩かれたことを茶化してきた。
鈴も千冬さんの出席簿アタックの威力を知ってるんだからもう少し労わってくれてもいいところだろう。
友達甲斐のないやつである。

「申し訳ありません、わたくしのせいで・・・」

「今は授業中だからな、少し声のトーンは抑えてくれ。・・・それと―――」

この先の言葉は言うか迷った、俺らしくないというか、一夏やデュノアが言うと格好がつくんだけど。

「前のよりも、そっちのほうが似合ってる」

言ってしまった。言ってしまったがこれは恥ずかしい、キザにも程があるだろ。
けれどこういう状況ではこうやって褒めるのが定石だから仕方ない、定石だからだぞ。だから仕方ないのだ。

「・・・・・・・・・ありがとうございます」

先程まで下を向いて申し訳なさそうにしていたセシリアだが、今は恥ずかしそうに下を向いている。
うぐぐ、ちょっと可愛いじゃないか。

「おい、あんたらいちゃついてんじゃないわよ」

「い、いちゃついてなんてねえよ」

決していちゃついてなんてねえよ。

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力あふれる十代女子もいることだしな。―――鳳!―――オルコット!」

「な、なんであたしもなんですか!」

いや、お前もそれなりにうるさかったし妥当なところじゃないか?まぁ千冬さんに指名されたのが運のつきと思って諦めろ。

「専用機持ちはすぐに始められるからな。いいから前に出ろ」

「専用機持ちなら一夏や弾だって・・・」

鈴はぶつくさ言いながら前に出ていく、セシリアもついて前に出ていくが二人ともやる気をそがれ気味だ。

「お前ら、少しはやる気を出せ―――あいつらにいいところを見せられるぞ?」

ん?千冬さんが二人に小声で何か伝えたみたいだが。こっちまではよく聞こえなくて何を言ったのか・・・

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!!」

「まぁ実力の違いを見せるいい機会よね、専用機持ちの!」

いきなりやる気ゲージがMAXまで跳ね上がる二人、千冬さん何を言ったんだよ。

「一夏、千冬さんが何言ったか聞こえたか?」

「いや、俺も聞こえなかった。けど勝ったら飯おごってもらえるとか、デザートおごってもらえ―――」

結局わからずじまいか、一夏の後半の意見は十中八九はずれてるので無視することとする。

「それで、対戦相手はどちらに?わたくしとしましては鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふふん、こっちの台詞。返り討ちよ」

「あわてるな馬鹿ども。対戦相手は―――」

そこまで言うと千冬さんの目線が空に向けられる。
それに伴い、聞き覚えのある風切り音が遠くから近付いてくる。

「あああああああああーっ!ど、どいてください~っ!!」

まさかとは思ったが空の彼方からこちらに高速で近づいてくる物体―――ISか?―――俺は近くのデュノアの手を取りその場を飛び退く。
一夏もその場所にいたが、デュノアより一歩離れた場所にいたため引っ張ってはこれなかった。
俺とデュノアが地面に転がりこんだ瞬間に轟音がグラウンドに響く。

「い、一夏ぁ!!」

轟音が収まり、一夏がいた数十メートル先の方で土煙が上がる中、誰よりも早く篠ノ之さんの声が聞こえた。
俺はデュノアを抱え込むように飛んでいたため、デュノアは土で汚れているものの怪我はないようだ。

「悪いな、デュノア。とっさのことだったから」

「あ、うん・・・ありがとう」

デュノアの上からどいて立ち上がり、玉鋼を起動させる。
鈴もセシリアも一夏が心配なのだろう、ISを起動させていた。
だんだんと土煙がはれていく中に、見覚えのある白い装甲がちらりと見えた。
ISを起動できていたなら怪我の心配はなさそうだ、周りのみんなもそう思い安堵したその時。

「おーい一夏ぁ、無事なら無事で早く出てこ―――」

土煙が完全に晴れて、一夏の状況が明らかになる。
突っ込んできたのはやはりISだった、声の感じから予想できたいたとおり山田先生が乗っている。
そこまではいいのだ、そこまでは・・・

「鈴、セシリア、援護を頼む」

「任せなさい、息の根止めてやるわ」

「これは一夏さんが全面的に悪いですわね。協力しますわ」

一夏は山田先生にぶつかってその際に密着したまま吹き飛ばされたのだろう、そして止まった際に山田先生の上に乗ってしまい・・・

―――山田先生のけしからん乳房を鷲掴みするに至ったのだろう―――


『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』

いつもの通知メッセージが視界の隅に現れる。

「狙い撃ちますわ!!」

「死ねえええええええ!!!!」

「俺のドリルは一夏を突くドリルだぁああ!!!」

セシリアのライフル『スターライトmk.Ⅲ』から放たれた弾丸を皮切りに、鈴の青龍刀を柄の部分で連結した『双天牙月』の投擲攻撃。
そして俺の単一仕様能力での突貫。

「うおわっ!!」

初めに到達したセシリアの弾丸は上体を大きくのけぞらせて避けることに成功した一夏、しかしその状態からでは俺の突貫は避けれまい!

「はっ!」

短い火薬の炸裂音が三発、間を置かずに膝の装甲に三度の衝撃。
障害物に足を取られたような形になり、バランスを崩して前方に回転しながら吹き飛ばされる。
なんとか空中で体勢を立て直したころには、鈴の『双天牙月』も撃ち落とされ、俺と鈴の攻撃をさばいた張本人がクラウス社製アサルトライフル『レッドバレット』を肩の装甲に預けて、メガネを直していた。

「や、山田先生?」

俺を含め、すべてのクラスメイトが唖然とした表情を浮かべていた。

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。あのくらいの射撃は造作もない」

「む、昔のことですよ、それに代表候補生止まりでしたし・・・」

それでもあの技術はすごすぎだろう。直線的とはいえ瞬時加速を超える速度を誇る『弾』を発動中、しかも前傾姿勢で殆ど見えていない膝の装甲に的確に三発。
鈴の『双天牙月』も撃ち落としたのは山田先生だろう、一夏とは離れた位置に落ちていたのがいい証拠だ。

「さて馬鹿者ども、いつまで呆けている。さっさと始めるぞ」

「え?あの・・・二対一で?」

「いや、さすがにそれは・・・」

「安心しろ。今のお前たちではすぐ負ける」

確信を秘めた声色で言う千冬さんにプライドを刺激されたのか、二人はその瞳に闘志をたぎらせる。

「では、はじめ!」

千冬さんの号令とともに、セシリア、鈴が上昇。それから一歩遅れて山田先生が後を追うように上昇を開始する。

空に上がった山田先生にセシリアがライフルで先制攻撃を仕掛けるが、難なくかわされる。
鈴もセシリアの援護を受けて切りかかるが近づく前に牽制で足止めを食らっている。

「さて、今の間に・・・そうだな、ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ」

「あっ、はい」

空中で戦うセシリアたちを見ながらしっかりした声で説明を始めた。

「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です。第二世代最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性で―――」

デュノアの口から難しい単語がすらすらと出てくる。しかしわかりづらいわけではなく、補足なども交えているためかわかりやすい。
ISに少し詳しいとは言っていたが、ここまで自然に解説できるとなると相当なものだと思う。

「あぁ、一旦そこまででいい。終わるぞ・・・」

デュノアの解説の途中で千冬さんが制止をかける。
解説の方に気を取られがちだったが、空中での戦闘に再度、意識を向ける。

「あっ・・・」

山田先生の射撃をセシリアが必死に避けているがその先には鈴。
上手いこと誘導されたセシリアが鈴と衝突、そのすきにグレネードを投擲。
爆発で巻き起こった煙の中から二つの影が地面に落下した。

「く、ううう・・・まさかこのわたくしが」

「あ、あんたねえ・・・何面白いように回避先読まれてんのよ・・・」

「そ、それを言われると言い返す言葉もないですわ・・・」

かく言う鈴も衝撃砲をばかすか撃っては外してたけどな・・・
だがあの二人があぁも手玉に取られるなんて、やはり山田先生はすごい。認識を改めなければならないかもな。

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力が理解できただろう。以降は敬意を持って接するように」

ぱんぱんと、手を叩いて千冬さんが皆の意識を切り替える。

「専用機持ちは織斑、オルコット、鳳、五反田、ボーデヴィッヒ、デュノアだな。では十人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること、いいな。では、分かれろ」

予想はしていた、こうなることを。
一夏とデュノアの周りに群がる女子生徒。俺の周りにはクラスメイトが三人いるだけだ。

「織斑君、一緒にがんばろう!」

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

「ね、ね、私もいいよね。グループに入れて~」

今なら血の涙が流せそうだ・・・

「ご、五反田君、私たちは五反田君の味方だよ!」

「人数じゃないって、少数精鋭でがんばろ」

「五反田君の魅力が伝わってないだけだって、大丈夫だよ!」

クラスメイトの必死の慰めが余計に心をむなしくする。
頬を熱い何かが伝ったような気がしたが気のせいだろう。

「馬鹿者どもが・・・出席番号順に一人ずつ各グループには入れ!順番はさっき言った通り。今度もたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百週させるからな!」

千冬さんの鶴の一声で、わらわら群がっていた女子たちが一斉に散る。
再度グループに並びなおすまでに2分とかからなかった。

「やったぁ!織斑君と同じ班っ、名字のおかげね!」

「うー、セシリアかぁ・・・さっきぼろ負けしてたしなぁ」

「鳳さん、よろしくね。後で織斑君の話聞かせてよっ」

「デュノア君、わからないことがあったら何でも聞いてね!ちなみにわたしはフリーだよ!」

「・・・・・・・・・・・・」

最後のはボーデヴィッヒの班だ、まったく会話がない・・・
まぁ朝の一件があった後だし、ボーデヴィッヒ自身も話す気なさそうだし。

そして俺の班は―――

「うおおおおお!なぜ私をこんな名前にしたのですか母よ、末代まで恨みますぞおおお!!」

うん、そうなると自分自身を恨むことになるんだけどね。というかお前はもう少し母を敬え、具体的にいえば母の日はもう少しまともなものを贈れ。

「じゃあ千冬さ、織斑先生の言ったとおりISの装着、起動、歩行の三つの動作をやっていこう、出席番号若い順で」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よっと」

俺は今日つかった訓練機を専用のカートに乗せて格納庫の方向へ引っ張っていく、午前の授業終了の前に午後の準備として使った訓練機の片づけをやっているわけだ。
重いことは重いのだが日常的に千冬さんに考えてもらった訓練メニューをこなしているからか、そこまで苦にはならない。
セシリアと戦う直前から今までだからざっと二カ月ほど。それなりに体力と筋力が付いてきたのかもしれないな。さすが千冬さん半端ねえっす。

「五反田君・・・重くないの?」

「ん~・・・思ったほどは重くないな」

「うっわ、五反田ってよく見ると筋肉すごくない?」

「えっ、ひゃっ!ほんとだ~、ちょっとこれはやばいよ」

「そこまで引かれるとへこむんですけど・・・」

普通ここは見直すとかそういうプラスのイベントが起こるところじゃないですかね?
なぜ努力してたら引かれなくてはならんのだ・・・

「ちょっと触らせてよ、というか触るよ」

「俺の意思は無視ですか・・・」

「うっひゃあ、これは―――」

「どう?どうなのよ?」

「キモい」

午前だけで俺のハートがぼどぼどになってるんですけど・・・
午後はどうなるんだ、俺こいつらに退学まで追いやられるんじゃないか?

「あ、いや違う違う!いい意味で!いい意味でキモいんだって!」

「それフォローになってないからな!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「では午前の授業はここまで。午後は今日つかった訓練機の整備を行うので各人格納庫へ班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機、両方を見るように。では解散」

千冬さんは連絡事項だけ伝えると、山田先生を引き連れてさっさと引き揚げてしまった。

「あー・・・あんなに重いとは」

「はっはっは、軟弱軟弱」

「いつからお前は筋肉キャラになってたんだよ」

「鍛えてますから」

ちなみに一夏の班はなぜか時間ぎりぎりまでかかったせいか、ISを格納庫に戻して帰ってくるまで全力疾走だった。

「シャルルなんて皆に運んでもらってたしな、俺たち非モテ男子とは格が違った」

「一夏、殴っていいか?」

「な、なんでだよ」

こいつは本当にいいやつだが、時に殺意がわくことが多々ある。
いつか俺が犯罪を犯すことがあるとしたらこいつを殺す時だな。

「まぁいいや、シャルル、着替えに行こうぜ。俺達またアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」

「え、ええと・・・僕は機体の微調整とかあるから先に行ってて、時間かかるかもしれないから待ってなくていいからね」

「ん?別に待ってても平気だぞ?待つのには慣れて―――」

「い、いいからいいから!僕が平気じゃないから!ね?先に教室に戻っててね?」

「お、おうわかった」

なんか妙な気迫に押されて一夏はついついうなづいてしまった。
まぁ本人がこう言っているので俺たちも更衣室に向かうことにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・・・・どういうことだ」

「ん?なにが?」

昼休みの屋上、いつものメンバーにデュノアを足して弁当を囲んでいた。
ちなみにIS学園の屋上は整備されていて、花壇や丸テーブルにベンチがあったりして昼休みには人でにぎわう人気スポットなのだ。
まぁ今はデュノア目当てで食堂に皆向かっているからか俺たちだけである。誰も俺達が誘ったとは思っていなかったんだろう。

「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

「そうではなくてだな」

あとさっきから喋っているのは一夏と篠ノ之さん。
おそらく篠ノ之さんが一夏をお昼に誘ったのだがその意味を一夏が『みんなで』お昼を食べると解釈したのだろう。
もちろん篠ノ之さんの意図は『二人きり』だと思う。

「せっかくの昼飯だし、大勢で食べたほうがうまいだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」

「そ、それはそうだが」

ほらね。

「はい、一夏あんたの分」

鈴がタッパーを一夏に投げて渡す。

「おお、酢豚だ!」

「そ、今朝作ったのよ。あんた前に食べたいって言ってたでしょ?」

「あれ?俺には?」

「あんたにはセシリアのがあるじゃない」

「そうでした、っと今日は何作ってきたんだ、セシリア」

もう、皆で食べるときの常識になってきたのだが、セシリアにとある事情で弁当をときどき作ってもらっているのだ。
ただ一夏のようにうらやましいイベントでは決してない。
一夏が弁当を作ってもらうのは例えるとフラグにつながるイベントだとすると、俺のはギャグイベントだ。
主人公の親友キャラがひどい目にあうとかいうパターンの。

「し、師匠、今日はサンドイッチを作ってきました。どうぞ・・・」

「師匠?」

デュノアが不思議そうに首をかしげる。

「いろいろ事情があるんだよ、どこから語るべきか。そうだな、まずは最初にセシリアの料理を俺たちが食った時のこと―――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「今日はわたくしサンドイッチを作ってきましたの、皆さんもお一つどうですか?」

あの日も確かサンドイッチだった。
バスケットの中に綺麗に並べられたサンドイッチ。
見た目は完璧の一言だった。

「おお、うまそうじゃないか。本当にもらっていいのか?」

「ええ、そのつもりで多めに作ってまいりましたから。もらってもらわないと食べきれませんわ」

小さく笑いながらバスケットを差し出してくるセシリア、その顔から自信があるのだと読み取れた。

「じゃあ俺ももらっていいか?」

「ええ、もちろん」

「私もいただこう」

「じゃああたしも!」

みんなバスケットの中から一つずつサンドイッチを取っていく。確か俺がとったのはタマゴサンドだった。

「いただきまーす」

誰が言ったのかは覚えていない、ただそれを合図にセシリアを除く四人が一斉にセシリアのサンドイッチを口に入れた。
その構図はあれだ、漫画で見開き前の『あぁ、次のページでオチがくるなぁ』と予感させる。まさにあれだった。

「「「「・・・・・・・!!!」」」」

全員が苦悶の表情を浮かべていただろう。
だろう、というのは他を気にする余裕が一切俺に残されていなかったからだ。
とにかく辛かった、タマゴサンドであるはずなのにマスタードやねりからしのような辛さが口いっぱいに広がり、タマゴの黄身特有のもっちゃり感が具をなかなか飲み込ませてくれない。

「・・・・・・ッッッ!!」

必死で手を伸ばし、茶を飲もうとするが上手くつかめない。
涙で視界がかすんでいたのだ。

「弾さん、これを!」

その時セシリアが気を利かして自分のお茶を俺に手渡してくれた。
他のやつも地獄絵図なこの状況で、よく冷静に対処してくれたものだ。

「・・・・・・ぷはぁっ!」

ちなみにタマゴサンドほどではなかったが茶もかなりまずかった。
なにか底の方にどろっとしたものがあってそれの放つ酸味が、茶の苦みと合わさってひどい味わいだったのを覚えている。

「セ、セシリア・・・このタマゴサンドは、どうやって・・・」

息も絶え絶えになりながら問うた俺に、セシリアは事もなげにこう言ったっけ・・・

「えっと、普通ですわよ。卵、マヨネーズ・・・それと黄色が薄かったのでマスタードと隠し味にねりからしを加えて和風に仕上げましたわ」

それは、普通とは言わないよ・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「というわけで、五反田食堂の長男である俺がまともに食えるものを作れるように指導をしているのだ」

「な、なるほど・・・だから五反田君が師匠って呼ばれてたんだね」

「そ、そんなにひどく言わなくても・・・」

「あの時自分で食べてどうだった?」

「医務室に運ばれましたわ・・・」

あの時は本当にひどかった、セシリアと篠ノ之さんは医務室に運ばれ、俺と一夏と鈴は一日ずっと体調がすこぶる悪かった。

「まぁ今では原因を排除したおかげでまともな料理ができるようになったんだがな」

「原因?原因なんてあったの?」

「本の通りに作ってたこと」

「?」

「言葉が足りませんわ。本の写真と同じ外見に仕上げるために調味料を選ばず投入したことがすべての原因でしたの。今考えると恥ずかしいミスですわ」

その原因が取り除かれてからもセシリアは俺に料理を教わっている。
なんでも料理に目覚めたらしく、色々な料理ができるようになりたいと言って、鈴にも時々中華料理を習っているそうだ。

「そういえば僕が同席して本当によかったのかな?」

「デュノアって結構遠慮しいだよな。俺たちのほうから誘ったんだから、逆に余計なことだったか心配なぐらいだって」

「そうそう、数少ない男子として仲良くしようぜ。色々不便があるだろうが、まあ協力してやっていこう。わからないことがあったら何でも聞いてくれ。―――IS以外で」

「あはは、ありがとう。織斑君も五反田君も優しいね」

ふわっとした無防備な笑みを、デュノアは浮かべる。同じ男でもドキリとしてしまうほど綺麗な笑みだった。
これは女生徒がちやほやしてしまうのもわかる、男性的、女性的な面を兼ねそろえた美しさだ。

「それにしてもシャルルさ、苗字で呼ぶのって堅苦しくないか?」

「え?」

「俺のことなんか一夏でいいぞ、みんなだって名前で呼べばいいのに」

「で、でもいいのかな?僕は今日転校してきたばかりだし・・・」

む、一夏がそんなこと言うとデュノアって呼んでる俺も堅苦しいってことじゃないか。
そんなことを思っていると横から肘で小突かれた、隣のセシリアの方へ向くが何も言わず視線だけを送ってくる。
少しの間見つめあうと顔を赤くして目をそらされた、何がしたいんだ?

「ちょっと、弾!」

セシリアの隣の鈴が小声で、しかしイラついたような声色で何かを伝えようとしている。

「何だよ、何が言いたいんだ?」

「名前、な・ま・え!」

こちらも小声で返すとようやく分かりやすい答えをもらえた。
けど俺も同じようなことしようとしてたんだがな・・・余計な手間だったかもしれん。

「シャルル」

「は、はい」

「シャルルって遠慮しいだよな。転校したばっかりなんて関係ねえよ。少なくともここにいる全員はお前と仲良くなりたいと思ってるんだぜ」

「ご、五反田君・・・」

「弾でいいよ、シャルル」

さっきのような綺麗な笑顔ではなかった。
少し涙を目のふちに溜めて、くしゃくしゃっと子供のような笑みを顔いっぱいにシャルルは浮かべていた。

「一夏。弾。鈴。箒。セシリア」

えへへ、と少しはにかんでからシャルルは続けた。

「今日だけで友達が五人もできちゃった」

「そんくらいのことでな~に泣いてんだか、男の癖に情けないわよ」

「ふふふ、そうだね。鈴」

本当に嬉しそうにシャルルは笑う。
さっきみたいな整った笑顔もいいけど、こっちの笑顔のほうが俺は好きだな。
友人の笑顔を見ながら、バスケットからサンドイッチを一つ摘む。

「うん、うまくできたじゃねえか」

「そうですわね、うまくいきましたわね」

「それってサンドイッチについて?それともこの状況について?」

「さぁ、どっちでしょう。どちらも、かもしれませんわね」

本日はこれまで。
なんか長かった気がする。もう少し細かくいったほうがいいのだろうか?

ちょっと場面変化を使いすぎたかも、あとシャルルのキャラがうまくつかめてない?
まぁベストを尽くすことだけを考えます。

それではこれにて

ところでいつになったら俺の蘭は出るのだろうか

なんか二巻編に入ってから10kbくらいずつ投下してる気が・・・
区切りいいとこまでが長いでござる。

でははじめますよ~

そういえば先ほどから一人喋っていない人が一人いるよな・・・
ちらっとその人のほうを覗いてみるが弁当の包みすら開けていない。

「篠ノ之さーん?」

「・・・・・・・・・」

反応がない、ただの篠ノ之のようだ。

「そうだよ、箒。いい加減俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが・・・」

「・・・・・・・・・」

ぎぎぎ、という音が聞こえそうなほど固い動作で弁当箱を手渡す篠ノ之さん。
屍というよりキラーマシンだな。

「じゃあ、さっそく・・・おお!」

ふたを開けた一夏から歓声が上がる。それほどいい出来なのだろうか。
覗き込んでみるとおかずは鮭の塩焼き、鶏肉のから揚げ、こんにゃくとごぼうの唐辛子炒め、ほうれん草のゴマ和え、とバランスの取れた献立の数々がそこにあった。

「これはすごいな!どれも手が込んでそうだ」

「つ、ついでだついで。あくまで私が食べるために時間をかけたまでだ」

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

「ふ、ふん・・・・・・」

なんでもないように装おうとしているが、嬉しいと思っているのが隠しきれていない。
そんな篠ノ之さんも一夏に渡した分とは別に自分用の弁当箱を開いている。

「あれ?箒、あんたのほうだけから揚げがないわね」

「!こ、これは、だな。ええと・・・」

鈴が言う通り篠ノ之さんのおかずが一夏より一品少ない。
そこを突っ込まれた篠ノ之さんは目に見えて慌てていた。ダイエットかな?

「・・・うまくできたのがそれだけだから仕方ないだろう・・・」

「え?」

え?今なんて言ったんだ。一夏と同じく俺にも篠ノ之さんの言葉は聞こえなかった。
ただ女性陣は納得したような顔をしているので、彼女らには聞こえていたんだろう。
ちなみにシャルルは首をかしげているので聞こえていたのか、意味が分からなかったのかは定かではない。

「わ、私はダイエット中なのだ!だから、一品減らしたのだ。文句あるか?」

「文句はないが・・・別に太ってないだろう」

「そうだよな、ぜんぜ―――」

「あー、男ってなんでダイエット=太ってるの構図なのかしらね」

「まったくですわ。デリカシーに欠けますわね」

あっぶねえー。一言早く言ってれば攻められてたのは俺だった。
今度からこの話題には気をつけるようにしよう。

「いやでも実際ダイエットなんか必要ないように見え―――」

「ど、どこを見ている、どこを!」

「どこって・・・体だろ」

セクハラ発言にしか聞こえないぞ。
まぁ一夏のことだからそういう意味はまったくないんだろうけど・・・もう少し言葉選びを気をつけてほしいところだ。

「なに堂々と女子の胸を見てんのよ。あ・ん・た・は!」

「ぐおおあっっ!」

なにをされたのかは分からないが、鈴に何か攻撃されたのは分かった。
女って怖いな。

「一夏さんには紳士として不足しているものが多いようですわね」

そして女って怖いなパートツー。

「「「一夏!」」」

「な、なんだよ!三人そろって!」

「お前またくだらないこと考えてたろ。『仏のセシリアは三度も待ってはくれない、英国出身なのに仏とはこれいかに』とか」

「な、なぜそれを!?」

顔に書いてあるんだよ、顔に。分かりやすいやつめ。
俺でさえ分かるんだから、鈴と篠ノ之さんなら手に取るように分かるんだろうな。

「あはは、本当に仲がいいんだね」

「わたくしも時々妬けてしまうことがあるほどですもの」

「じゃあ仲間はずれにするのもあれだし、みんな仲良く飯でも食うか。話すだけで箸が全然進んでないし、昼休みは有限だ」

そういいながらサンドイッチを一つ口に運ぶ。
うん、少しマヨネーズが多いけどおいしいな、このタマゴサンド。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ぬああああ、終わったあああああああ」

午後の授業も滞りなく終わり、俺は大きく伸びをする。
恐らく専用機持ちで一番疲れたのは俺だろうな。なにしろIISはISとほぼ同じ機能で操縦法も変わらないが、構造はコアを使ってない部分をはじめ違う部分が多い。
そのため訓練機の整備を指導するのに大分手間取った。ちょっとした理由で入学一ヶ月前からこの手の機械に対してカンのようなものが出来てきていたので何とかなったが―――

「お疲れ様、弾」

「大分大変そうだったなぁ」

更衣室への道すがら、一夏とシャルルに話しかけられた。

「二人こそずいぶん大変そうだったじゃねえか」

二人とも女子に、知っててもおかしくないところまで詳しく聞かれていたからな。

「そうだなぁ、自分の不勉強さが身に染みたぜ」

「そっちじゃねえよ」

「え?」

そうじゃないよ馬鹿。勉強してない意味でも、鈍感的な意味でも。

「そうだ、弾。今日の夕食またみんなでとらない?」

「今日か?・・・あー、俺用事あるから帰るの遅くなるんだ。それからでいいなら」

「用事?」

「あれ、それって今日だったか?」

「一夏は何か知ってるの?」

一夏は俺の『用事』について思い至ったのか納得した様子だったが、シャルルは首を傾げている。
仲間内にはその『用事』のことを話しているんだがシャルルはいかんせん今日転校してきたばかりだ、知らなくても無理はない。

「あぁ、弾の乗ってる玉鋼がIISっていうのは知ってるだろ?」

「うん、それはもちろん知ってるけど・・・」

「IISは確かに実用段階にまではこぎつけたけれど、まだ十分じゃないんだ。そんでデータ取りやら雑用やらで弾が時々呼ばれるんだ」

「というわけで8時くらいにはなるかな。どうせなら俺抜きでもいいんだぜ」

さっき言っていた、『ちょっとした理由』がこれだ。ISの素人であるからこそIISの操縦者に選ばれたわけだが、IISの整備は日常的に行わなければならない。
ゆえに整備できるだけの技術と知識は入学前に習得する必要があった。
そして入学後もIISの機能向上等等のテストや、IIS特有の機構も学ぶ必要があり今も開発者のところに通っているのだ。

(でもこの頃は体のいい雑用として呼ばれているような・・・まぁISとかの勉強になってはいるんだけどさ)

「えっと・・・弾って遠慮しいだよね?」

「え?」

「待つよ、僕たち待ってるから。だって友達でしょ?」

「あ、お・・・うん」

シャルルの横の一夏がいじわるそうにクスクス笑う。

「これはシャルルの勝ちだな。弾、はやく帰ってこいよ」

「ああもう!さっさと終わらせて帰ってくるからちゃんと待ってろよ!」

ちくしょう、俺はいい友達を持ったみたいだな。まったく、やりにくいったらありゃしないぜ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

僕はひどい人間です。
本当は友達なんて持ってはいけない人間なんです。

僕は皆を騙しています。
皆とお昼を食べたり、夕食を共にする約束をしたり、普通の学生のするようなことをする資格なんてないんです。

弾と一夏が友達になれるきっかけを作ってくれて嬉しかったよ。

弾も、一夏も、鈴も、箒も、セシリアも友達になってくれて嬉しかったよ。

けれど本当の僕を知ったらみんな友達じゃいられなくなるよ。
きっと僕のことが嫌いになる。
きっと僕のことを軽蔑する。

こんな僕だけど、みんなに本当のことが知れるまでは、友達でいてもいいよね。
こんな僕だけど、その時までは夢を見てもいいよね。

その時がきたらどんなに嫌ってくれてもいいから、軽蔑してくれてもいいから。
だから、その時までは、その時まではこの夢のような時間を―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ええとね、一夏がセシリアや鈴に勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

「そ、そうなのか?一応分かってるつもりだったんだが・・・」

今日はシャルルが転校してきて五日目、土曜日の午後。
IS学園では土曜日の午前まで授業があるが、午後からはアリーナが全開放となるので、アリーナではいつもより練習している人が多い。

「「・・・・・・・・・」」

「なんだか腑に落ちませんわ」

そして俺の横にいるムスッっとした鈴と篠ノ之さんとセシリア。
全員一夏のコーチをしていた面々なのだが・・・

「・・・なるほど」

向こうの方で一夏がシャルルに講義を受けながら、何度もうなづいている。
正直一夏の気持ちもわかる。遠くから聞いている分でもシャルルの教え方はうまい。
対照的にここの三人は―――

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかっ!という感じだ』

『なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。・・・はぁ?なんでわからないのよ馬鹿』

『防御の時は右半身を斜め上方五度に傾けて、回避のときは後方二十度反転ですわ』

こんな感じでとにかく分かりにくい。かく言う俺も―――

『フランス代表の波動拳コマンド弱パンチの技みたいな感じ』である。

「お~い弾!お前も射撃武器使ってみるか~!」

向こう側でシャルルに射撃武器を使わせてもらっていた一夏がこちらに手を振りながら呼びかけてきていた。
近接ブレードの『雪片弐型』しか使ったことがなかったからちょっとテンションが上がっているみたいだ。

「悪いな一夏!俺には使えないんだ!」

「いや、武器の拡張領域がなくても使えるんだってさ!」

一夏の言い分も分かる。一度セシリアにも同じことを言われたことがあるのだ。『スターライトmk.Ⅲ』を使ってみるか?と。
ISの武器は拡張領域がなくても他のISの武器を持ち主に認証してもらえば使うことが可能なのだ。
けれどその時判明した玉鋼の欠点があるのだ。

「そりゃ知ってるけど!この手を見たらわかるだろ!?持てないんだ!」

「?」

「あっ!」

一夏はまだ分からないみたいだがシャルルには伝わったみたいだ。
そう、玉鋼の手は大きいのだ。指が大きくグリップは握れないわ、引き金はひけないわ。普通のISの武器は扱えないのだ。

「まぁそういうことだから!一夏はシャルルに射撃武器を教えてもらえ!」

「お、おう!わかった!」

再度手を振って一夏はシャルルの方に向き直って射撃の訓練に戻っていった。
今思うと大声で叫びあわなくても通信を使えばよかったんじゃないか?

「弾さん、一夏さんはシャルルさんが見ているようですし。その、わ、わたくしと二人で訓練しませんか?」

「ん、そうするか?確かにこのままいてもヒマだしな」

「「・・・・・・」」

横ではムスッとしたままの篠ノ之さんと鈴だけを残す形になるが、今声をかけるのもおっかないのでこのままにしておこう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺とセシリアがウォーミングアップ程度に加速、停止、応用のターンなどこなした頃。
アリーナの雰囲気が若干騒がしくなっていることに気づいた。
みんな何かに注目しているようだ。

「なんだ?」

「!あれですわ、転校生のドイツ代表候補生。第三世代型の専用機持ち、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

セシリアが指差した方向に視線を向ける。
IISのハイパーセンサーによって、離れた位置にいるボーデヴィッヒの顔の細部まで確認できる。
注目すべきは目線。ボーデヴィッヒの投げかける視線の先を追う。

「やっぱりか・・・」

「え?・・・一夏さん!?」

視線の先にいた人物は予想していた通り、一夏だった。
セシリアも俺の呟きから同じように視線を追ったようだ、同じように一夏に注目している。

「おい」

IISの開放回線(オープン・チャネル)で突然ボーデヴィッヒの声が聞こえてきた。
俺たちに対しての言葉ではない、一夏に対して向けられた言葉だろう。

「・・・なんだよ」

「貴様も専用気持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

「いやだ、理由がねえよ」

「貴様になくとも私にはある」

戦う理由、ね。
一夏がボーデヴィッヒに殴られたあの日、大方の事情は一夏から聞いた。
なんでも千冬さんは第二回のモンドグロッソ決勝戦の後にドイツで軍のIS部隊の教官をしていたらしいのだ。
その時の教え子がラウラ・ボーデヴィッヒ、転校生というわけだ。

「貴様がいなければ教官が大会ニ連覇の偉業を成しえただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

そしてそのドイツに渡る前のモンドグロッソ決勝戦、千冬さんは棄権で不戦敗という形で優勝を逃した。
一夏はその理由について詳しくは話してくれなかったが、自分のせいだ、と語っていた。

「また今度な」

「ふん。ならば―――戦わざるを得ない状況にしてやる!」

ボーデヴィッヒが言葉を放つと同時にISの左肩に装備された大型実弾砲が火を噴く。

「!」

突然の射撃に一夏の反応が鈍い。
そのままであれば直撃を食らっていただろう、しかしその弾丸は一夏には届かなかった。

「・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

「貴様・・・!」

ボーデヴィッヒの視線の先には、射線上に割り込んで左腕に展開した物理シールドで実弾をはじき、それと同時にアサルトライフルを構えているシャルルの姿があった。

「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

「今だに量産化の目処のたたないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうけどね」

二人の視線がかち合い、そのままにらみ合いを続ける。

「すごいですわね、シャルルさん。あの一瞬で二つの武器を展開、照準までを行うなんて・・・」

確かにすごい。本来一、二秒はかかる武器の量子構成をあの短時間に二つ。それも片方は照準をあわせながら、というのは鈴やセシリアのような代表候補生でも出来る奴はほとんどいないんじゃないだろうか。

「でも今はそれどころじゃないだろ。俺らも助太刀に―――」

『そこの生徒!なにをやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

行こうとしたらスピーカーからの声に出鼻をくじかれた。
騒ぎを聞きつけた担当の教師だろうか。

「・・・ふん、今日は引こう」

横槍を二度も入れられて興がそがれたのか、ボーデヴィッヒはあっさりと戦闘態勢を解除しアリーナゲートへ去っていく。
なんとか大事にならないですんだわけだから、これでよかったのだろう。

「弾さん、もう四時過ぎですし練習もこれで終わりですわね。皆さんのところに合流いたしましょうか?」

「あぁ、アリーナの開放時間って四時までだったっけ?そうだな、行くか」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日はここまで。

近々このSS最大の原作からの変更点がありますので今日辺りから警告だけしておきますね。
まぁこのSS自体IF物なので変更した点で反感をかったりする可能性は最初から覚悟していますがね。

あと>>294さんの発言でようやく思い出しました。
最初の方でセシリアを見た弾の想像の中でしか出てきてなかった・・・
本当はちょくちょく回想で出すつもりだったのに・・・

二巻編の終わりの番外編は蘭を出させていただこうと思います。

シャルがガチ男という妄想をしてみた

今区切りのいいところまで書き終わったのですが今日は遅いのでまた明日に。
恐らく18時ごろにこられるかと。
あと20kbほどあるのでご注意を

それでは明日

ちょっと18時すぎましたがはじめますよ。

「あれ?シャルルはまたいないのか?」

「ああ、また機体の整備してから着替えるって言ってたぞ」

俺と一夏は更衣室に向かう際に会ったのだがその時にはシャルルの姿はもうなかった。
転校してきてからシャルルと俺たちは着替えの時に同席したことが少ない。
着替えのたびに用事があるのか、それとも用事を作っているのかいつもいない。

「シャルルも恥ずかしいくらいならそう言えばいいのにな」

「あいつは遠慮しいだからな」

そういう俺たちはいつもどおり駄弁りながら二人で着替えていた。

「はー、風呂入りてえ・・・」

ぼそりと一夏が愚痴のように呟くが、その言葉はしっかり俺の耳に届いていた。
正直言うと俺もそのことについては思うことがあったのだ。

「せめて週一でもいいから男子の使用時間を作ってほしいよな。もう三人もいるんだぜ」

「やっぱりお前もそう思うか・・・肩までしっかり浸かって」

「のぼせる寸前までぐったりのんびりして」

「風呂上がって、腰にはタオルだけ巻く」

「右手にはビン牛乳、左手は腰に。そして―――」

「「右斜め四十五度に傾けて一気飲み!!」」

さすが親友、わかってやがる。
俺たちは熱くほとばしるパッションを右手に込めてハイタッチ。
更衣室の中に乾いた音が響く。

「よし、着替え終わり」

「今度休みに温泉でも行くか?」

「金がないから銭湯でもいいか?」

「そういえば俺も金なかったわ」

ただ広い風呂に入りたいだけだったし別に銭湯でも構わないのだ。

「あのー、織斑君たちまだいますかー?」

「はい?俺と弾、五反田がいますよー」

更衣室のドアの外側から山田先生の声が聞こえる。

「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」

「ああいえ、大丈夫ですよ。着替えは済んでます」

「そうですかー、それじゃあ失礼しますねー!」

ドアの圧縮空気が抜ける音と共に山田先生が更衣室に入室してくる。

「デュノア君はいないんですね、今日は一緒に訓練を行っていると聞いていましたが」

「シャルルならまだアリーナにいますよ。今ならピットまで戻ってきてるかもしれないですけど。呼んできましょうか?」

「ああ、いえそこまで大事な話ではないんですよ。お二人から伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯別ではなくて、日別、ということになりまして、週に二日ほど設けることになりました」

「本当ですか!?」

「はい、それと今日はボイラーの点検があったので本来生徒は使えない日なのですがもう点検自体は終わっているんです。ですから今日は特別に男子生徒のために解放してくれるそうですよ」

それは大事なことだ、そりゃあもう大事なことですけど今はもっと大事なことがある。
さっきの山田先生の言葉で感激したのか、テンションの上がった一夏が山田先生の手を握っているのだ。

「嬉しいです。助かります。ありがとうございます、山田先生!」

「い、いえ、仕事ですから・・・」

「いやいやいや、山田先生のおかげですよ。本当にありがとうございます!」

「そ、そうですか?そういわれると照れちゃいますね。あははは・・・」

畜生この野郎・・・・俺なんて女の子の手を握ったのなんて母さんと蘭くらい―――
いや、セシリアの料理教えてた時に何度か手が触れたことは・・・ノーカウントかな、ノーカウントですよね、握ってはいないし。
やっぱり一夏がにくい、畜生、畜生、畜生。

「・・・・・・一夏、何してるの?」

「おわっ!シャルル!?」

音もなく現れるなよ、びっくりするじゃないか。
俺が音に気づかなかっただけかもしれないけど。

「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何をしてるの?」

「あ、いや、なんでもない」

なんでもないことはないだろうがよ。
一夏は山田先生の手を慌てたように離し、山田先生は恥ずかしげに背中を向けた。

「喜べシャルル、今月下旬から大浴場が使える上に、今日は俺達が使っていいらしい」

「そう」

なんだかシャルルの反応はいまいち薄いな。
やっぱり文化圏が違うからかな?風呂に浸かるのはあんまり好きじゃないのかもしれない。

「ああ、それと織斑君には別件で職員室に来てもらってもいいですか?白式に関するもので書いてほしい書類があるんです。ちょっと枚数が多いですけど」

「わかりました―――二人とも、風呂行くんなら先に行っておいていいぞ。今日だけなら逃すのも惜しいだろ?」

「うん。わかった」

「先に行っとくけどお前も逃すなよ。牛乳は冷やしておくからな」

「頼んだぜ。じゃあ山田先生、行きましょうか」

山田先生が一夏に促され更衣室から出て行き、それについて一夏もドアをくぐっていった。
残されたのは着替えていないシャルルと俺の二人のみとなった。

「俺らはどうする?一緒に大浴場に行くか?」

「ううん、弾は先に行ってきなよ。僕も着替え終わったら行くからさ」

「そっか?じゃあ一番風呂はいただかせてもらおうかな」

正直シャルルがこう返してくるのは予想済みだった、そして一夏がいない今、俺が大浴場一番風呂の権利を我が手に。
大きい浴場+一番風呂+牛乳=最高の方程式が完成してしまう。

「それじゃお先に~」

はやる気持ちを抑えきれず早足で出口に向かう。
まぁシャルルも着替えとか見られるのいやらしいから丁度いいや。
いつもなら考えないような友達甲斐のない思考をしているのも全て最高の方程式の魔力のせいに違いない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おおおおお、広ええええ」

大浴場で一人呟いた言葉も、他に音を発するものがなければかなり響く。
俺の声がエコーで帰ってくる。

「やっぱり一番風呂っていいわぁ」

しみじみと独り言を呟きながら、まずは身体を洗おうと洗面器を取って蛇口の方へ近づいたのだがなにか違和感がある。
何か足りないような・・・

「あっ」

シャンプーやら石鹸やらを脱衣所に忘れてきたようだ。
やっぱり久しぶりにこういうところに来ると忘れやすいんだろう。
ひたひたと脱衣所まで歩いていき、さっと扉を開ける。そこで脱衣所に誰かの気配があることにようやく気づいた。

「あぁ、シャルル早かった―――」

「!・・・だ、弾」

そこにいたのはシャルルだった、別に変なところはどこにもない。
終わったらすぐに来るといっていたし、どこにもおかしいところはない。

その手に握られたモバイルPCとPCに接続されたコード以外は。

「弾、こ、これはね・・・あの―――」

シャルルの手の中のコードは俺の待機状態のIISに繋ごうとしているようだった。
しかしそのコードは今そのIISには繋げないんだ。なぜなら―――

「シャルル、俺の玉鋼は待機状態じゃデータ収集用のコードを繋ぐ端子がないんだ。展開状態じゃないとデータ取りできない、だから俺がよく呼ばれるんだ」

「・・・・・・・ッッッ!!!」

シャルルの顔が真っ青を通り越して真っ白になる。
今シャルルの持っているコードはIISの開発者の人達もよく使っていた、そのコード自体にISの情報をデコードしてPCに出力する機能があり、使い勝手がいい。
よくISの企業なんかでも使われているらしい、という話もそのコードの説明を受けた時に聞いていた。

「俺がIISの研究・開発の雑用もやってるって、シャルルも知ってるだろ?だからそのコードが何なのかも知ってるんだ・・・シャルル、どうして―――」

シャルルは俺の言葉を聞き終える前に駆け出した、持っていたPCも投げ出して、外へ。

「シャルル!!待てよ・・・待ってくれ!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シャルルは俺の玉鋼の情報を隠れて抜き出そうとしていた、これがどれほどの事態なのかは誰だってわかる。
IISは男でも使えるISと同じ機能を持った兵器、という極めて異質ながら最先端の技術が詰め込まれている。
盗んでどこかへ持ち込めばかなりの金になる可能性がある。

(でもそれをシャルルが?あいつにかぎってそんなことをやるなんてありえないだろ?)

出会って数日しか経っていない、けれどそれでもあいつは俺の、俺たちの友達なのだ。
それなりに分かっているつもりだ。
分かっているつもり、それが気のせいだったら?悪い考えが頭をよぎる。

(でも今はそんなこと考えてる場合じゃない!)

考えている間に待機状態の玉鋼を腕につけ終わり、すぐさま叫ぶ。

「出ろぉ!!玉鋼っ!!」

光が身体を包み、玉鋼が構成されるまで二秒もかからない。
そしてそのまま玉鋼から降りる。
さきほどまでタオル一枚だけだったが今はISスーツを着た姿に変わっている。

(IISにもISと同じ、展開時にISスーツを展開できる機能がついてて良かった。さすがに着替えてたら見失っちまう)

ISスーツに着替え裸足のままで駆け出す、なりふり構ってる余裕はこれ以上ない。
扉を出てすぐに右に曲がり全力で走る。
前方に小さくシャルルが見えるが思ったよりも速い。

(けど俺も伊達に千冬さんに鍛えられてないっつーの!これなら追いつける!!)

「シャルル!待ってくれ、話聞いてくれ!!」

長く直線の続く廊下をシャルルを追いかけて走るがもうすぐシャルルは曲がり角に差し掛かる。
今見失うのはやばい、そんな気がする。もう二度と今までのようには戻れなくなるような予感。
俺は一層、脚に力を込めて地面を蹴る。

「シャルル!待てよ!なんで待ってくれないんだよ!!」

「・・・・・・・・・」

何度も呼びかけるが何も答えずにシャルルはひたすら走る。
そして角を曲がってしまった、この先で見失えば・・・

「シャルル!!」

「うひゃっ!?」

角を曲がった瞬間誰かにぶつかった、直撃ではなかったが結構な速度でぶつかってしまった。

「す、すまん、大丈夫か!?」

「あんたねぇ、ちゃんと前見て走りなさいよ。シャルルともさっきぶつかりそうになったし」

「り、鈴!?」

ぶつかってしまった女子生徒はなんと鈴だった。
さすが代表候補生というべきかうまく勢いを殺してくれたみたいでこけてさえいなかった。

「あんた何かシャルルを怒らせるような―――」

「鈴!シャルルはどっち行った!?」

「え、そこの角を左に曲がったわよ・・・」

「サンキュ!!」

悪いが今は鈴にかまっている時間はない。
シャルルを追わなければ。

「弾!シャルルになにしたの!?」

「俺は何もしてねえよ!けどシャルルがとにかく大変なんだ!!」

鈴はまだ言葉を続けようとしていたようだが俺が角を曲がったせいでそこで会話は途切れた。

「シャルル!!待ってくれって、言ってるじゃねえかよおお!!!」

段々と距離は近づいてきているものの、もうすぐ曲がり角の多いエリアに入ってしまう。
見失う前になんとしても追いつかなければと、最後のスパートをかける。
シャルルが角を右に曲がる。その先の直線で追いついてみせる。

「うわぁっ!!」

しかし俺が角を曲がる前に角の向こうからシャルルの短い悲鳴が聞こえた。
その直後に何かがぶつかった音がしたため誰かとぶつかったのかもしれない。
これは好機だ、こっちは最高速度で向こうは止まっている。
確実に追いつく。

「シャルル!!」

角を曲がり見えた人影に向かって叫ぶ。
しかしその人影は一人ではなく二人が重なっていて、どちらも見覚えのある人物だった。

「よう弾。なんかシャルルが凄い形相で走ってきたんだけど何か知ってるのか?」

「い、一夏ぁ?」

「・・・・・・・・・」

シャルルは一夏にぶつかった体勢のまま何も言わず、沈痛な面持ちで視線を下に向けていた。
もう逃げるのは諦めてくれたようだ。

「ようやく話が出来るな、シャルル」

「弾、何があったんだよ?お前もシャルルもいつもどおりじゃないし・・・」

「俺も何がおきたのか全部は知らない。一つ確かなのはシャルルが玉鋼からデータを引き出そうとしていたこと。それだけだ」

「!!」

さすがの一夏もことの重大さは理解したようだ。
今まで困惑気味だった表情がマジメな表情に切り替わる。
それと同時にシャルルの表情も先ほどより悲痛なものに変わる。

「シャルル、俺もなんでお前があんなことしようとしてたのか分からない。混乱してるんだ、どうしてお前があんなことを・・・」

「・・・・・・・・・」

「頼むよ、シャルル。本当のことを言ってくれ、でないと俺らもお前を信用できねえよ」

「・・・どうせ一緒だよ・・・」

「え?今なんて言った?」

とても小さな声だったのでなんと言ったのか全く聞き取れなかった。
一夏もなんと言ったのか分からなかったようで俺と目が合っても肩をすくめるだけだった。

「デュノア社の・・・父の命令だよ。白式か、IISのデータを奪って来いって・・・」

「は?父親に、ってなんで親が子供にんなこと・・・それに命令ってなんだよそれ」

「僕はね、弾、一夏。愛人の子なんだよ」

俺も一夏も言葉を失ってしまった。俺たちも子供とはいえ『愛人の子』というのがどういう意味かわからないほど子供ではない。

「引き取られたのが二年前、母さんが亡くなった時にね。引き取られることになって色々検査していく過程で偶然僕がISを動かせることが判明したんだ」

シャルルはいつの間にかいつものような柔らかな笑みを浮かべ顔を上げながら喋っていた。
こともなげに自分の暗い部分を語っていくシャルルに俺は戦慄や疑念ではなく心配が頭をよぎった。

「最初は良かったよ、父も僕を広告塔に迎えて大々的に宣伝に起用しようと考えていたみたいだし。待遇もそれなりに良かった、経歴を隠して本当の息子にしようともしてたらしい。けれどそのあと僕の身体に欠陥が見つかったんだ」

「欠陥・・・?」

思わず口からこぼれたその言葉は俺から出たのか、一夏から出たのかも分からないほど小さな音だったがシャルルには聞こえていたようだ。
小さくうなずき、話を続けていく。いつもの柔らかな笑みで。

「僕はね、『遺伝子だけ女』らしいんだって。恐らくISを動かせるのもここが関係してるらしいけど詳しいことは知らない、関係もないし省くよ。父はそんな欠陥をもった人間を自分の息子だとは知られたくなかったらしくて、家に半分監禁されてISのテストパイロットをやらされていたんだ」

ぎりり、と歯を食いしばる音が聞こえた。隣の一夏だ、怒りをその身の表に現し隠そうともしていないようだった。
かく言う俺も拳から血が出んばかりの勢いで握りこんでいた。隠そうとしても隠し切れないほどの怒りが身に宿っていた。二人ともだ。

「そのテストパイロットをする日だけは外に出られたんだ、唯一の楽しみはその時一杯だけ振舞われるココアだったな。おいしいんだよ、そのココア」

俺たち二人のことはお構い無しに、なにがおかしいのか分からないがシャルルはクスクスと笑う。

「それでね、そのうち会社が経営危機に陥ったんだ」

「なんでだよ、デュノア社は世界第三位のシェアを誇ってるんだろ?」

「それでも会社の主力商品のラファール=リヴァイヴは結局、第二世代型なんだよ。ISの開発にはそれはもうたくさんのお金が必要なんだ、普通は国の援助がなくちゃやっていけない」

長い話になるのか、シャルルは一旦区切り一息ついて続ける。

「そしてその国からの援助が打ち切られそうになっているんだ。理由は第三世代型の開発が遅れているから、次のトライアルで選ばれなかったら援助全面カット、そしてIS開発許可の剥奪っていうことになったんだ」

「だからIISや白式のデータを盗ってこいって言われたわけか・・・」

「うん。だけどもうばれちゃったから、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社はまぁ、つぶれるか他の会社の参加に入るか・・・まぁ今までのようにはいかないだろうけどね。僕には関係ないけど」

「それでいいのかよ・・・」

「いいも何も、未遂とはいえIISのデータを盗み出そうとしてたんだよ?IS学園だって、フランス政府だって僕をフランスへ帰そうとするはずだよ」

諦めたようにシャルルは笑う、力のないからっぽの笑みで。

「聞き方を変えるぞシャルル・・・お前は、それでもいいのかよ」

「え?」

「お前はどう思ってるんだ?フランスに帰りたいのかよ?どうなんだ、シャルル」

一夏の言葉で今まで笑顔のままだったシャルルの表情が困惑した表情に変わる。

「何言ってるの一夏・・・僕は君たちを騙してたんだよ?情報を盗むために近づいて―――」

「嘘つけ、お前がそんな悪い奴なわけないだろ」

「・・・ッッッ!?」

当たり前のことのように一夏はさらりと言ってのける。

「い、一夏に僕の何が分かるんだよ!!会って数日しか経ってないのに、僕がそんな奴じゃない!?なんだよそれ!」

初めてシャルルが怒鳴る声を聞いた、こんな表情も初めてだった。
確かに俺らはシャルルのことをまだ知らないことの方が多い、けれど―――

「お前はそんな奴じゃねえよ、初めて会った日の昼休み・・・あの時笑った顔が演技じゃねえって、一夏でも分かるくらいだ」

「・・・・・・・・・」

あの時、いつも見せる綺麗な笑顔じゃなくて、顔をくしゃくしゃに歪めて無邪気な輝きに包まれていた笑顔。
あれを見た時に俺たちは友達になれたって感じたんだ。一夏だって、皆だってそうだと思う。

「・・・二人はさ、なんて言ってほしいの?ここに残りたい、フランスなんかには帰りたくない。そういってほしいの?けど無理だよ、僕はIISのデータを盗もうとしたんだ。この事実は消えない」

「そっか、じゃあその事実が消えればいいんだな」

「はは、そんなことが出来ればいいのにね・・・・・・弾?」

俺の言葉を本気にしていなかったのかシャルルは軽く笑っていたが、拳を固めて近づく俺になにか不穏なものを感じたらしい。
いつもの端正な顔がややゆがんでいる。

「お、おい弾!何を―――」

結局シャルルがやったことは未遂だ、こんな時は昔から詫びいれればなかったことになっちまうのさ。
そして古今東西、男の侘びの入れ方と言えば。

「シャルル、歯ぁ食いしばれぇえあ!!!」

「へっ?」

俺の拳がシャルルの顔面に綺麗に突き刺さる。
不意を打たれたシャルルは後ろに吹っ飛び、もんどりうって倒れた。

「ば、馬鹿野郎!!おまえなにシャルル殴ってるんだよ!!」

「いや~シャルルにもイライラしてたんだよな。不幸だったのは分かったけど幸せになれる道があるのになんでそっちに進もうとしないのかね?」

「お前単純に殴りたかっただけじゃないよな?」

「そんな馬鹿な」

そんな馬鹿なことがあるものか、俺はネガティブになっていた友人を一喝する意味も込めてフルスイングしただけだ。
俺たちが言い合っている間にシャルルがもぞもぞと起き上がろうとしていた。
手をかして起き上がらせる、顔に思いっきり入ったが鼻血なども出てないし怪我もしていないようだ。頑丈なやつめ。

「やっぱり、怒ってるんだよね。まぁこうなるとは―――」

「何言ってるんだよ、さっきの全部チャラだよ。もう全然怒ってないぜ」

シャルルは先ほどのフルスイングを別の意味で捉えていたようだったので、サムズアップと笑顔で誤解を解こうと試みる。

「・・・・・・え?」

「いやだからもう怒ってないって。盗もうとしたこととかも全部チャラだって」

「いや、だって―――」

「わかんない奴だなもう!この件はもう終わり!そんでお前はどうしたいんだって話だよ!!」

俺の言ってることって分かりにくいかな?確かに理屈とかそんなもの投げ捨てた説得方法だったけどさ。
シャルルは最初困惑した表情のまま固まっていたが、だんだんと顔が緩んできて。

「・・・ふふ、ははは、あっははははは!何それ全然意味が分からない、バッカじゃないの!」

「シャ、シャルル?」

しまった、ころんだ時に頭の打ち所が悪かったのか?

「むしろお前の頭が心配だけどな・・・」

「あ?なんだよ一夏、それどういう―――」

失敬な奴だ、俺は真剣にシャルルを説得しようとだな・・・

「はぁ・・・もう真面目に悩んでた僕が馬鹿みたいじゃないか。というか今考えてみると一番馬鹿なのは僕なんだけどさ」

ひとしきり笑って落ち着いたシャルルが、どこか吹っ切れたようなすがすがしい顔で喋りだした。

「弾、一夏、ちょっと僕の話きいてもらってもいいかな?」

「ああ、いいぞ」

「うん」

「それじゃあ・・・僕はね、最初みんなに友達だって言われて、弾のいっていた通り心のそこから嬉しいと思っていたんだ。父からの命令なんて忘れてこのまま学園生活が送れれば、なんて考えてた」

その時のことを思い出してか小さい笑みが口の端にこぼれ出ている。
シャルルはそのまま続けた。

「けれど今日の大浴場の件でチャンスが来てしまった。一夏は職員室、弾は浴場の中、IISは脱衣かごの中・・・僕は父の命令に従った。なぜだか分かる?」

「いや、わからん」

「僕には居場所がないと思っていたんだ、父のところ以外に。今思えば馬鹿だよね、きっと監禁生活が長すぎて感覚がおかしくなってたのかも」

口元には笑みを残したまま言葉をつむぐ。
だけど目には今まで見たことないほど真剣な思いを宿しているように俺には見えた。

「僕の居場所はここだ。みんなのいるところが僕の居場所なんだ。僕はフランスになんか帰りたくない、みんなとずっと一緒にいたいよ」

「・・・やっとその言葉を言ってくれたか」

「ごめん、僕が馬鹿だったよ。だから力を貸してほしい、そこにいる鈴や箒やセシリアにも」

え?

「あら、いつからばれてたの?」

「鈴さんが近づきすぎたのでは?」

「いや、セシリアも相当前に出ていたぞ」

ぞろぞろと角から出てくるいつもの面々。
おい、いつからそこにいやがった。

「ついさっき、弾に殴られてから周りが見え出したからかな。角から鈴のツインテールが見えたんだ。でもいつからいたの?」

「最初から、ていうか弾のこと追ってきてる間にみんな呼んでおいたのよ。シャルルが大変だって弾が言ってたし」

「あ、そんなこと言ってたな確かに」

なんというか、さっきまでかなり暗い雰囲気があったはずなのだがいつもの面子がそろっただけで空気が一変した。
休み時間に普通に話しているような、なんでもない時間を過ごしているような。

「でもシャルルがここにいたいって言ってても国から呼ばれたらどうするのよ、そもそもIISの開発者とかにも何か言わなきゃいけないんじゃないの?」

「いや、IISの件は俺から話せば何とかなると思う、いい人たちだから分かってくれるはずだ」

「では問題はフランス、と言うわけか・・・私たちだけでは力不足ではないか?千冬さんたちなら事情を話せば」

話題は真剣なものだが先ほどまでの悲痛なものは誰の中にもない、どうにかしてシャルルをこの学園にいさせるために皆で意見を出し合う。

「さすがに廊下で結論の出る話でもないですし、誰かの部屋に場所を移しますか?」

「そうだな、事情によってはマジで千冬さんに助けを求めることも・・・」

「な、なぁ」

「ん?どうした一夏」

「みんなが意見を出し合ってるなか水を差すようだが・・・あるぞ、シャルルを国に帰さない方法」

「「「「「・・・・・・・・・はぁ!?」」」」」

シャルルを含め全員が思わず叫んでしまった。

「えっとな、特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中ありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。だそうだ」

え、なんだこのご都合展開、あっという間に見つかってしまったぞシャルルが帰らなくてもいい方法。

「つまり三年間は時間があることだし、その間になんとかする方法を見つければ・・・いいんじゃないかな?」

「というより一夏よく覚えていられたね、特記事項って五十五個もあるのに」

「・・・勤勉なんだよ、俺は。それにさ、言っただろシャルル」

「え?」

「IS以外のことなら何でも聞いてくれって、な?」

シャルルは最初、一夏の言葉に困惑した表情を浮かべていた。
だが始めて会ったあの日、あの昼休みに聞いた言葉だと気づくとやがて笑顔に変わり。

「そうだったね、ふふ」

あの昼休みと同じような、無邪気に輝くあの笑みを浮かべた。

今日はここまで
シャルルは男の子でした。まさか>>315さんに当てられるとは・・・
夢でこのSSの先を見た時にシャルルが男だったんですよ、それが妙にしっくり来て。

これからはこのSSでは男の子のシャルルをよろしくお願いします。
それではこれにて

えー、シャルルのことで色々疑問がありそうなのでそこの解消にやってまいりました。
シャルルの言う『障害』は自分が調べたところによると、男性のみに表れるもので、ほとんどの人が自覚しないまま一生を過ごすほどの軽微な障害らしく、このSSのシャルルも普通の男性と変わりないと認識していただければと思います。

お騒がせしました、それではこれにて

唐突に投下を開始しますよ~
ISという漫画の存在は知っていましたがドラマ化しているとは

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「どりゃあああああああ」

「なんつー声出してんだ、なんつー声を」

「うひゃあああああああ」

「ほら!シャルルが真似しちまったじゃねえか」

シャルルの一件が終わった後、俺たちは揃って大浴場にやってきていた。
今まで一緒に着替えるのを嫌がっていたシャルルもなんでもなかったように一緒に入ってきた。
その理由を聞いてみたんだが曰く―――

『コンプレックスだよ。二人と僕の体が違ったりしたら、あの時の僕だと立ち直れなかったからね』

だとか。
今はもういいのか?と聞こうとしたが聞かなくてもわかることだったのでやめた。

「いやぁ、こんな広いお風呂に入るのなんて僕初めてだよ。気持ちいいものだね」

「ふふふ、甘いぞシャルル。まだこの後にはメインディッシュが残っているのだからな」

「きっちり冷やしておいたか?」

「ぬかりはない」

勿論牛乳は三本とも脱衣所の冷蔵庫に入れてある。
なんで脱衣所に冷蔵庫があるのか、と最初思ったんだがどうやら千冬さんが常用しているらしい。
さすが千冬さん、わかってらっしゃる。

「じゃあそろそろ百数えて上がるとするか」

「おおお日本式」

「ちゃんと肩まで浸かれよ、少しでも肩が出たら数えなおしだからな」

「い、意外と厳しいんだね、日本って」

「弾の言うことは信じないでいいぞ~」

一夏は俺の言ったことを冗談と捉えたようだが爺ちゃんからはそう教わったんだがな。
五反田家流はマイナールールだったようだ。

「五十五~、五十六~、五十七~」

「シャルル、今何時?」

「え?時計ここにあったかな・・・あった!もうすぐ九時だね」

「じゃあカウント再開」

「え!?あれ、今いくつだったっけ?」

イッツ古典落語。古きよき引っ掛け、時そば。

「今六十九だ、七十、七十一」

「七十二~、七十三~」

「ちっ、やっぱり一夏は数えてたか」

「昔同じ手で誤魔化されて二人してのぼせたことあっただろ。俺は忘れてないぞ」

あの時はひどかった、銭湯に行って時そばに引っかかった一夏を笑っていた俺だったが最後には俺ものぼせてしまって。
爺ちゃんにサルベージされなきゃ大変なことになってたぞあれは。

「九十九~、ひゃく!よし上がろう!!」

「よっしゃ、じゃあ腰にタオルを巻いて~」

三人でいっせいに湯船から上がり頭に載せてたタオルを腰に巻く。
洗面具を途中で回収し脱衣所まで足並みをそろえて踏み入れる。

「ほれシャルル、一夏、牛乳だ」

「ぼ、僕にうまくできるかな・・・」

「肩の力を抜け、強張ってたら出来るもんも出来なくなるぜ」

一夏、決めているところ悪いが、タオル一丁で牛乳飲むだけなのにそれはダサいぞ。

「じゃあ右手に牛乳、左手は腰に~」

「う、うん!」

「右斜め上四十五度に傾けて!!」

ぐいっと一気飲み。
さすが一夏だ、ごくごくと喉を鳴らす様が板についてやがる。
シャルルは慣れないビンの牛乳を必死に煽っている。
だが光るものを感じる、なかなかいい風呂リストになるかもしれないな。
風呂リストってなんだよ。

「ぷっはぁああ!やっぱこれだよなぁ」

「完ッッ璧だ・・・最高だ・・・」

「んぐ・・・んぐ・・・ぷはっ!」

軽く拭いた髪の毛の先から水滴が垂れる、滴る水滴さえも絵になる男だ。
ビン牛乳のCMがあったらシャルルが起用されるに違いない。
いやそんなCMないけどさ。

「なんだろう、普通に飲む牛乳よりおいしいような気がする・・・」

「だろ?やっぱり牛乳は風呂上りが一番うまいんだよな」

「でも油断するな、あんまり余韻に浸ってると湯冷めして風邪ひいちまうからな」

おっとっと、それもそうだ。
俺たちはそそくさと服に着替えた。

「さって、あとは鍵を山田先生に、だっけ?」

「そうだよ、職員室で待ってるって」

「それじゃさくっと行ってきますか」

俺たちは三人で連れ立って大浴場を後にする。窓が少し開いているのか夜風が入ってきて体を撫でるのが心地いい。

「今度はさ、あそこにあったマッサージ機も使ってみたいね」

「つーか、あれ千冬姉しか使ってないんじゃないか?冷蔵庫といい、マッサージ機といい、千冬姉の影が見え隠れしているような・・・」

「いやいや、もしかしたら他の先生とかも使ってるかもしれないじゃん。気のせいだって」

「そうだぞ、私以外にも脱衣所のあの設備を使用するものも少なくはない。信用がないのだな、私は」

「げえっ、関羽!?」

いや千冬さんだから、そう心の中で突っ込みを入れた。口には出せないよ、だって今一夏が頭叩かれてる最中だし。

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

千冬さんなら時代と場所を間違えなければなれたと思うけどな。

「む、デュノアも一緒か。ちょうどいい、お前とは話さなければと思っていたからな」

「はい、僕も話をしなければと思っていました」

「そうか・・・私も先ほど山田先生から事情を聞いたばかりだ、しかしその表情から察するに全て真実ということか」

シャルルの顔を見て納得したように小さくうなずく。
山田先生がなぜ知っているのか、ということについてはシャルルとぶつかった時に一夏がいた場所が関係している。
一夏はあの時、職員室から書類を書き終えて出てきたところだったのだ。つまりあの時俺たちは職員室のかなり近くで騒ぎを起こしていたわけで。
その時職員室にいた山田先生と他何人かの先生方には、あの時の事の顛末は知られていたのだ。

「デュノア」

「はい」

「特記事項にもあるとおり在学中はフランスも手出しは出来ん。しかしその後のこともある、独力で解決できないのであれば教員を頼れ。いいな」

「え?・・・は、はい」

千冬さんの言葉にシャルルがそれまでの真剣な表情から一変して、驚きの表情を浮かべた。
いや、一夏と俺も同様だ。千冬さんがこんなことを言うなんて想像の斜め上を行っている。

「なにを呆けた顔をしている。けじめはつけたのだろう?ならば後は担任として生徒に助言するのは普通のことだろう」

確かにそれは普通ですけど、なんか千冬さんが優しいセリフを言うと違和感が―――

「なんだ五反田、叩かれたそうな顔をしているな。ならば叩いてやろう」

頭のてっぺんに尋常じゃない衝撃。音なんて聞こえないほど痛い。
あんまり失礼なこと考えるものじゃないな。千冬さんといい、鈴や篠ノ之さんといい、俺と一夏の周りの女は察しが良すぎる。

「話は以上だ。山田先生が待っているのだろう、早く行くといい」

言うだけ言うと千冬さんはきびすを返し、廊下の角に消えてしまった。

「行っちまったよ・・・」

「もしかして織斑先生、あれだけ言うためにここで待ってたのかな?」

「いやさすがにそれは・・・でも通りすがったわけじゃなさそうだったしな。そうなのか?」

なんだかんだいってあの人も一夏の姉だもんな、お人好しでおせっかいなところもたしかにあるけどさ。

「ま、一件落着ということでいいじゃないか。世の中はいい人だらけ、万事ハッピーエンドだ」

一夏の言うことももっともだ。終わりよければそれでよし。
シャルルの周りはいい奴ばっかで、悲劇なんて一つもない。
なんでもないことに疑問を持てるような平和な毎日が続く。
それでいいのだ。

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月曜の朝、俺とセシリアと篠ノ之さんは一組に遊びに来た鈴と雑談をして時間を潰していた。
潰していたのだが・・・

「噂なんだけどね、月末の学年別トーナメントに優勝したら織斑君と『交際』できるんだってー!」

「そ、それ本当!?嘘じゃないでしょうね!!」

「あらあらまぁまぁ」

「なんじゃそりゃ・・・」

クラスメイトたちの妙な噂話に鈴が食いつき、それに引っ張られるように俺とセシリアがその話の輪に入り。

「・・・・・・・・・」

なぜか篠ノ之さんが硬直している。

「・・・・・・篠ノ之さん」

「・・・・・・なんだ五反田」

「俺も一夏とそれなりの付き合いだ。こういうパターンの出来事に何度も出くわしてきた」

「・・・・・・・・・」

「ドンマイ」

篠ノ之さんは無言で窓のほうを向いた。きっと篠ノ之さんは勇気を出して一夏にアタックを仕掛けただけなのだろう。
しかしなぜ一夏に惚れてる女子はやることなすことうまくいかないんだろう。呪いでもかかるのか?一夏に惚れると。

「「「きゃあああああああ!!?」」」

なんだ?
いきなり女子の方から悲鳴が。

「何の話してたんだ?俺の名前が出てたみたいだけど」

「う、うんそうだっけ?」

「やはははは織斑君の気のせいだよ!お、お、折り井村君!折り井村君の話してたんだよ。近所に住んでた井村君を折ったもので・・・・・・」

一夏がいつの間にかシャルルと教室にやってきていた。
というか折り井村君ってなんだよ、ごまかし下手にもほどがあるだろう。

「そうか、俺の勘違いか。けど井村君にはもう少し優しくしたほうがいいんじゃないか?」

「じゃああたし自分のクラスに帰るから!」

「わわわわたしも自分の席に帰るね!」

「?」

我が友人ながらあの言い訳で誤魔化されるとは、いささか心配になってきた。

「本当に一夏ってすごいよね。なんで女の子のことに限ってあんなに鈍くなれるんだろう」

「わたくしも時々わざとやっているんじゃないかと疑ってしまうこともありますわ」

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「はー、この距離だけはどうにもならないな」

一夏のぼやきを聞きながら、俺とシャルル、一夏は三人で教室まで向かっていた。
校内で男子の使えるトイレは三箇所しかないので、休み時間に利用するとなったら走らなければ間に合わない。
しかし無情かな。先日『廊下を走るな』と一夏と一緒にいた時に叱られた。どうしろっちゅーねん。

「なぜこんなところで教師など!」

「やれやれ・・・・・・」

突然の大声に無意識に足を止めてしまう。
あの声は千冬さんと・・・ボーデヴィッヒか?

「何度も言わせるな。私には私の使命がある。それだけだ」

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

声が聞こえたのは俺たちの先にある角の向こうからだ。
二人と顔を見合わせて無言で視線を交わす。シャルルも一夏も同じことを考えていたようでそのまま静かに角の付近まで近づく。

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力を半分も生かされません」

「ほう」

角からこっそりと覗き見ると声の主はやはり千冬さんとボーデヴィッヒだった。
しかしあのボーデヴィッヒが声を荒げているとは。冷えた鉄でできたような人間だと思っていたのだが、一夏と千冬さんに関することは別のようだ。
まぁ熱くなるベクトルが正反対だが。

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

「なぜだ?」

「意識が甘く、危機感に欠け、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなど―――」

「そこまでにしておけよ、小娘」

「ッッ・・・・・・!」

自分に向けられたわけでもないのに、千冬さんの鋭く威圧感のある声に体がびくりと震える。

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳程度でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は―――」

ボーデヴィッヒの声が震えている。
そりゃあの声を直に向けられたのだ、怖くて震えるだろうな。
けれど本当にそれだけか?いや、ちがうだろうな。

(ボーデヴィッヒは明らかに千冬さんに執着してる、いや依存か?とにかく一夏に対する攻撃性もそこから来ているんだろう)

前にアリーナでいきなり一夏を攻撃した時も、会話の最中そんな空気を漂わせていた。

(そんな千冬さんにあんな風に言われたら、あのボーデヴィッヒでもああなるわな)

今のボーデヴィッヒは親に叱られて呆然とする子供のようにも見えた。
むしろそんな子供のような気質がボーデヴィッヒの本質なのかもしれないな。

「さて、授業が始まる。さっさと教室にもどれよ」

「・・・・・・・・・」

ぱっと声色を戻した千冬さんに促されてボーデヴィッヒは黙したまま早足で去っていった。

「そこの男子、盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」

「な、なんでそうなるんだよ!千冬ね―――」

「わっ!馬鹿ッ!!」

俺のほうが前にいるのにお前が押してきたら―――
そこまで思考したら意識が飛ぶんじゃないかというくらいの衝撃が俺の頭を襲った。

「学校では織斑先生と・・・なんだ五反田だったか、間違えた。では改めて」

改めて出席簿で一夏の頭をぶん殴る千冬さん。
ちょっとひどくない?確かに盗み聞きしたけど意識飛びかけたよ。

「は、はい。織斑先生・・・・・・」

「そら走れ劣等性ども。このままでは月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。勤勉さを忘れるな」

「わかってるって・・・」

「そうか。ならいい」

そういって口元にちいさく笑みを作る千冬さん。
どうやら今は友達の姉の千冬さんのようだった。

「じゃあ僕たちは教室に戻ります」

「おう、急げよ。―――ああ、それとお前たち」

「はい?」

「廊下は走るな。・・・・・・とは言わん。ばれないように走れ」

「了解」

くるりと俺たちに背を向ける千冬さん。どうやら見逃してくれるらしい。
俺たちはそのまま教室までの道のりをばれないようにダッシュした。

以上で今回の投下は終了です。
一番遅くても一週間に一回は来れるようにしますので
それではこれにて

なんか一日で投下分溜まってしまった。
では投下しますよ~

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「「あ」」

時は放課後、場所は場所は第三アリーナ、声を上げた人物は鈴とセシリア。

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ」

二人の間に火花が散る。
普段は友人として比較的仲のいい二人ではあるが今回は事情が違った。
以前、真耶にあっさりあしらわれたあの件である。

「あの時はどっちが上かどうか結局決めらんなかったからね、丁度いい機会だしこの際はっきりさせない?」

「そうですわね、どちらが強いか。この場ではっきりさせましょうか」

両者ともにメインウェポンを呼び出し構える。

「では―――」

―――と。いきなり声を遮って超音速の弾丸が飛来する。

「「!?」」

鈴とセシリアは緊急回避を行い、弾丸を避けると飛んできた方向に視線を向ける。
そこにあったのはいつか見た漆黒のIS。
『シュバルツェア・レーゲン』搭乗者は―――

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

「どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

そういいながら鈴は『双天牙月』を肩に預け衝撃砲をいつでも撃てる状態に移す。

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。・・・・・・ふん、データで見た時のほうがまだ強そうではあったな」

いきなりの挑発的な物言いに、鈴とセシリアの両方の口元を引きつらせる。

「何?やるの?わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってるの?」

「見ただけで正確に強さを測れるなんていい目をお持ちですのね。それとも両目を開いていないからよく見えていないだけなのかしら?」

ラウラの全てを見下すような目つきに並々ならぬ不快感を抱いた二人は、それでもどうにか怒りの捌け口を言葉に見出そうとする。
が、それはおおよそ無駄な労力であった。

「はつ・・・・・・。ふたりがかりで量産機に負ける程度の力量しかもたぬものが専用機持ちとはな。よっぽど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけがとりえの国はな」

鈴とセシリアは武装の最終安全装置をはずす。
鈴はもとより気の長いほうではないし、セシリアは国のことを悪く言われるのが沸点の低いポイントのひとつだ。
怒らないわけがなかった。

「ああ、ああ、ああ、もうわかったわよ!スクラップがお望みなわけね。セシリアどっちが先にやるかじゃんけんね」

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが―――」

「はっ!二人がかりできたらどうだ?一足す一は所詮二にしかならん。下らん種馬どもにうつつを抜かすメスに、この私が負けるものか」

明らかな挑発、しかし頭に血が上っている二人にはそれで十分だった。

「今なんて言った?あたしには『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど」

「場にいない人間まで侮辱するとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。そのような軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

得物を握り締める力を一層強くする二人。対してラウラはそれを冷ややかな視線で流すと、両手をわずかに広げて自分側に向けて振る。

「さっさと来い」

「「上等!!」」

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「ずいぶん時間くっちまった。もうみんなアリーナで練習してる頃かな」

俺は授業が終わってから開発者の人達に呼び出されて、整備室まで行ってきていた。
とはいってもあまり長くはかからない用事だったので帰るその足でアリーナで月末トーナメントに向けて練習でもしようかと向かっているのだ。
恐らくいつもの面子も同じような理由で集まっているに違いない。

「ん?」

小走りでアリーナのピットを目指していた俺だったが、近づくにつれて廊下が騒がしくなっていくのに気づいた。
聞こえてくる声の端々から俺の向かっている第三アリーナでなにか起こっているようだ。

(どうしよう、ピットに行く前に観客席で状況だけ見ていくか?緊急事態でも玉鋼ならまた穴あけてアリーナの内側に出れるし)

思い立ったが早いか手近の観客席へのゲートに駆け込む。
アリーナの内側、特殊なエネルギーシールドで囲われている側でちょうど爆煙が上がったところだった。

「模擬戦・・・?いやそれなら騒ぎにならないか」

あたりの状況を確認するために周りを見渡すと、煙の上がっているのは地上だけでなく空中でも煙が上がっていた。

(実弾兵器の打ち合いか・・・いや、地面の方は違う。誰かが倒れてる?・・・鈴とセシリア!?)

先に地上の土煙が晴れ、中から見知った顔が現れた。
二人ともかなりダメージを負っている、ということはあの二人をここまでにできる人物が対戦相手なのか。
やがて空中に漂っていた煙も晴れ始める。その中から現れたのも見知った顔だった。

(ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!!しかも損傷は少ない。あの二人相手にかよ!?)

空中で腕を組み、余裕を表現していたボーデヴィッヒが突然消える。
いや、ISの補助を受けていない状態で瞬時加速を使われたからだ。すぐに地上で衝撃。
鈴とセシリアが吹き飛ばされ、そこにボーデヴィッヒのISから放たれたワイヤーのようなものが追撃を仕掛ける。

「セシリア!!」

無意識に叫び声が上がる。
ワイヤーは鈴とセシリアを正確に絡めとりボーデヴィッヒのもとへ二人を引きずる。

「鈴!セシリア!!」

足元へ来た鈴を蹴り上げ、セシリアを引っ張り上げて拳を振るう。
逃げられない二人にボーデヴィッヒは容赦なく足を、拳を叩き込む。
ISアーマーが砕け、もはやシールドエネルギーなど言っていられる領域を軽く超える。

「やめろ・・・やめろよこの野郎!!」

アリーナの内側にはシールドがあり声が届かないと分かっていながらも声を張り上げる。
向こう側ではセシリアを持ち上げたボーデヴィッヒの顔を見る。否、睨む。
ISの補助がない今細かい表情など見えるはずもなかった、しかし俺には見えた。
奴が愉悦に顔をゆがめるの瞬間が―――

「出ろ!玉鋼えぇぇっ!!!」

頭の中の何かが吹き飛ぶ。頭どころか体中に血が上る。
溢れる怒りに呼応するようにドリルがうなりを上げ、単一仕様能力が瞬時に発動し、俺は地面に潜り込む。


地中でエネルギーを開放し無理矢理掘り進め、瞬時に内側に飛び出す。
そして今度こそ声の届く範囲、通信なんて使わず腹のそこから叫びをあげた。

「その手を離せこのクソ野郎がぁ!!」

左手の拳を固く握り、エネルギーを開放。瞬時加速を上回るその速度でボーデヴィッヒに肉薄する。
しかしその拳が届くことはなかった。

「なっ!?」

「ふん、誰かと思えばガラクタ使いか。そんなものでは一生やっても届かんぞ」

玉鋼の拳はボーデヴィッヒの目の前で完全に停止していた。
手や武装を使ったわけではなく、空中のなにもないところで止まっていた。
しかしこの現象は知っている。これは―――

「AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)!?」

「ほう、知っているのか。しかし知っていたところでお前はここで終わりだ」

セシリアを持っていない側の腕装甲からブレードが展開される。
確かに、このまま動けないままではなぶり殺しだ。なにか、なにか抗う術はないのか。

「おおおおお!!」

目の前のボーデヴィッヒが突然、後方へ飛び退る。
次の瞬間、ボーデヴィッヒのいた空間に高速で白式が突っ込んできた。
先ほどの叫び声も一夏だ、いいタイミングでカットに来てくれた。
ボーデヴィッヒが掴んでいたセシリアも、一夏が突っ込んできた時に離されて、なんとか落ちる前にキャッチすることに成功した。

「セシリア!セシリア!」

「・・・弾さん・・・わた、くし・・・」

俺の呼びかけにセシリアが腕の中で反応を示す。
そのことが嬉しくて抱きかかえている腕に力がこもる。

「よかった・・・無事で・・・」

「あ、あの・・・弾さん。恥ずかしい、ですわ・・・」

「なぁにいちゃついてんのよ、この状況を考えなさいよ」

「弾、今回は俺も鈴に賛成だ。まず俺に言うことあるだろ?」

「まずは鈴、いちゃついてなんかないだろう?一夏、もう少し早く来てくれ。あやうく死ぬトコだったじゃないか」

鈴も一夏もおおげさに首を振る。なんだそりゃ、まるで俺が変なこと言ったみたいじゃないか。
変なことじゃなくて冗談のつもりだったんだけどな。
ともかくセシリアも鈴も命は無事だった、本当によかった。しかしこれで終わりじゃない。

「貴様・・・・・・ッッ!!」

憎悪を隠そうともせずに一夏に視線を向けるボーデヴィッヒ。
こいつをどうにかしなければならないのだ。セシリアと鈴を圧倒したあのボーデヴィッヒを。

「おい一夏、あいつ怒ってるぜ。どうするよ?」

「だ、弾?どうするって―――」

「こっちもまだ怒ってるんだぜ。あいつ自分だけが怒ってると思ってやがる、笑っちまうよな?」

そして俺の中のこの感情もまだ終わらせようとは思っていない。
どんな事情があるにせよ、あいつはやりすぎた。

「セシリア、ちょっと降ろすぞ」

「え、あ・・・はい」

細心の注意を払い、そっと地面にセシリアを降ろす。

「一夏、俺にやらせろ。いいな」

「おい、弾、お前は少し落ち着け。らしくないぞ」

「言ってるヒマはないから却下だ」

ボーデヴィッヒが身をかがめこちらに突進するような構えをとっている。
いや、もう数瞬で突っ込んでくるだろう。
こちらもエネルギーの状況を確認し、進路を確保する。

「ぶっ潰す」

俺の一言が合図になったわけではないが、ボーデヴィッヒが一気に加速する。
俺も一歩遅れて加速を開始しようとしたその瞬間。
玉鋼のセンサーは俺とボーデヴィッヒの間に割り込むものを認識した。

「なっ!?」

金属同士の激しくぶつかり合う音が聞こえる。
もちろん俺とボーデヴィッヒではない。

「・・・・・・やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

「千冬姉!!?」

一夏の驚く声が聞こえるが、俺も、おそらくこの場にいる全員が驚いていただろう。
千冬さんがいつもと変わらぬスーツ姿で、ISの補助無しにIS用の近接ブレードを軽々と扱い、ボーデヴィッヒの突進をとめていたのだ。
本当にあの人は人間なのかと時々疑ってしまうことがあるが、あながち間違ってないかもしれない。

「模擬戦をやるのはかまわん。―――が、アリーナまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「教官がそうおっしゃるなら」

素直にうなづいてボーデヴィッヒはISの装着状態を解除する。ISが光の粒子へと変換されはじけて消える。
その態度の変化にイラつきはするが、相手がISの装備を解除している以上手出しはできない。

「織斑、五反田、お前たちもそれでいいな?」

「あ、ああ」

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」

「は、はい!」

「・・・・・・・・・」

「どうした五反田。なにか不満があるなら言ってみろ」

「・・・いえ、ありません」

不満ならある。なんでセシリアたちをこんなにしたのにボーデヴィッヒはお咎め無しなんだよ、と言いたい。
だが千冬さんだって考えなしにそんなことを言う人ではないはずだ、ここは引くしかない。

「では、学年別トーナメントまでの一切の私闘を禁止する。解散!」

千冬さんの声がアリーナの中に響く。
ここは引くしかない。だからこそこの続きは、トーナメントで。

それではこれより投下開始です。
ちょっと長いかもですよ

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「AIC?」

「そうAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。慣性停止能力って言ってISのPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の応用技術って考えてくれればいい」

あの後二人のクラスメイトに謝りに行ったところ、『試合だからこれくらい覚悟してるよ』とあっさり許しをもらった。
こちらはかなり身構えていたばかりに、肩透かしというかなんというか。
本当に俺は周りに恵まれていると思う、友達はいい奴ばかりだし、クラスメイトもいい奴だったしな。

「それが先日ラウラ・ボーデヴィッヒが五反田のドリルを止めた技の正体なのか」

そして今は生徒が観覧できるように設置された大型モニターの前で、篠ノ之さんとセシリア、鈴の四人で固まって見ていた。
アリーナの観客席は来賓で埋まっているうえに、わずかに解放された生徒用のスペースもすでにいっぱいだ。
一回戦に出場していた俺と篠ノ之さんが入れるわけもなく、外に設置されたこの場所に皆で集まったわけである。

「ええ、PICはわたくしたちのISの浮遊、加速、停止を司っていますが、AICは自身以外の物質でも停止させることのできる第三世代兵器。でも弾さんが知っていたなんて意外ですわ」

「玉鋼の単一仕様能力にも同じ技術が使われてるからな。まぁ技術のレベルは段違いで向こうに軍配が上がってるけど」

「ん?・・・どこに使われてるのよ。止める技術があの高速移動に」

「足場の形成。空気を固めてるんだよ、機械的に処理されてるからボーデヴィッヒのようには使えねえけどな」

細かいメカニズムまでは分からないけど、玉鋼の単一仕様能力は普通の瞬時加速よりも高い圧縮率でエネルギーを圧縮し、そのエネルギーをストックして加速力、連射性を高めているらしい。
そして解放されたエネルギーを少しでも逃がさないために、AICで足場を形成するのだそうだ。
以上、開発者から説明されたことをうろ覚えで説明してみました。

「へぇ~、あんたのIISって案外すごい技術積んでるのね。単一仕様能力以外量産機に毛が生えたくらいのスペックなのに」

「むしろすごい技術使いまくらないとまともに動かないんだよな。だからあれ作るのにIS十何機分もコストかかってるんだってよ」

「なっ!?では模擬戦式の練習でよく装甲が壊れているがいいのか?そんなにコストがかかるならあまりやるべきでは・・・」

「いや、開発者のおやっさんたちも『IISの境遇上、国の援助はがっつり受けられるから金の心配はせずにどんどん壊してデータ取ってこい』って言ってたしな。いいんじゃないか?」

「そのお金って元をたどれば税金とかでしょ、その発言はちょっとやばいんじゃない?」

「あ・・・・・・」

そういえばそうだよな。今更になって気付いたわ。

「この顔はまったく気づいてなかった顔ですわね」

「面目ない・・・」

今回の俺の暴走のことだったり、さっきの発言だったり俺は少し考えなしに突っ走る傾向でもあるのかな?
すこし気を付けておこう。

「それにしても、弾のアホ面が元に戻ってよかったわぁ。絡みづらいったらなかったもん」

「んなっ!」

「そうですわね、話しかけてもまったく面白みがないんですもの」

「うぐぐぐぐ」

何も言い返すことができない。
ボーデヴィッヒの事件があってから一夏やみんなにあっても、避けるかいつも通りに振舞おうとするかで思い返すとひどいものだった。

「す、すまんかった」

「はいはい、一夏とシャルルにも言っとくのよ」

「わかりました」

当分みんなには頭が上がりそうにないな、こりゃ。

「おい、もうすぐ試合が始まるみたいだぞ」

「やっとですの?ずいぶん時間がかかったみたいですけど」

「急なタッグ形式のトーナメントのせいでシステムがスムーズに機能しないらしいな」

「大丈夫なのかよ」

「大丈夫だから始められるんでしょ」

まぁそれもそうか。

画面上ではちょうど一夏とシャルルがピットから出てきたところだった。
対戦相手であるボーデヴィッヒとラファール・リヴァイブを纏った見知らぬ女生徒はもう準備を終えて空に上がっている。
試合開始までもう一分を切っている。
ついに始まる、因縁の相手と友人たちとの戦いが。

「大丈夫なのかよ」

悔しいがボーデヴィッヒの実力はAICを含めて一年最強。
なにせセシリアと鈴の二人を同時に相手して圧倒したのは紛れもない事実。
あいつらを信じていないわけではないが、心配する気持ちが口をついて出てくる。

「大丈夫ですわよ。ですから信じて待ちましょう」

「というかもうそれくらいしかできないでしょうが」

「そうなんだけどさ―――」

そこまで言ったところで画面に変化があった。
試合が始まったのか、一夏とボーデヴィッヒがお互いに向かい突進。速度から見てどちらも瞬時加速を使用したようだ。
だが二人がぶつかる瞬間に一夏が不自然に停止する。やはり使ってきたか―――

「AIC!さっそく使ってきたわね。で、弾は何言おうとしてたわけ?」

「いや、なんでもない。試合は始まっちまったしあとはもう信じるしかないよな」

この期に及んでぐちぐちと考えていたことは、試合が始まったというの理由にして無理やり押しつぶした。
もう俺らしくないのはこれっきり。これからはいつもの俺になる。
あいつらの勝利を信じて、声を張り上げる。

「一夏ぁ!シャルルー!ボーデヴィッヒなんかに負けんじゃねえぞぉ!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


開始直後の先制攻撃はあっさり読まれ、AICの網に全身をからめ捕られてしまった。
目の前のラウラは笑う。

「開始直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

「・・・そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

ああ、分かりたくないが、想像はつく。
重い金属を動かす音がラウラの後ろから響く。
案の定右肩のリボルバー式のレールカノンの実弾装填音だ。白式のハイパーセンサーからも警告が発せられている。

『敵ISの大型レールカノンの安全装置解除を確認。初弾装填―――警告!ロックオンを確認―――警告!』

慌てるなよ。何も一対一ってわけじゃないんだ。―――な?

「させないよ」

シャルルが俺の頭上を乗り越えて現れる。同時に六十一口径のアサルトライフル『ガルム』の爆破(バースト)弾の射撃を浴びせた。

「ちっ・・・!」

レールカノンの砲身にシャルルの放った弾丸を喰らい、俺へ向けて放たれた砲弾は空を切る。
さらに畳み掛けるシャルルの追撃にラウラは急後退をして間合いをとる。

「逃がさない!」

シャルルは即座に銃身を正面に突き出し、突撃体勢に移行。空いた左手にアサルトライフルを呼び出す。
光の粒子が手の中に集まり、一秒とかからずに銃を形成する。
これこそがシャルルの得意とする技能『高速切替』(ラピッドスイッチ)事前呼び出しを必要としない、戦闘と平行して行えるリアルタイムの武装呼び出し。
それはシャルルの器用さと瞬時の判断力があってこそ光る。

「あたしだって、いるんだから!」

ラウラへの追撃を遮るようにラファール・リヴァイブが割り込みをかけてくる。
トーナメント表の名前を見る限りでは三組の女子らしい。
その女子生徒は体を張り、弾幕を受けながらシャルルに迫る。

「俺だっているんだぜ!」

ラウラから距離が離れてAICから開放された俺はシャルルの背中に向かって瞬時加速。ぶつかる寸前にシャルルが宙返りをして俺と場所を入れ替わる。
このコンビネーションはこれまでの特訓の成果だ。タッグマッチが決まってから、毎日アリーナの使用制限時間ぎりぎりまで練習した甲斐がある。
俺の放った斬撃はラファール・リヴァイブのシールドに受けられ、雪片弐型との間に火花が散る。

「うぐっ!うぐぐぐぐ」

そのまま押しあいに発展するがそこは腕力の差がある。
スラスターの推進力を一気に増やして駄目押しをかける。

「よいしょお!!」

力任せに相手のシールドを薙いでガードをこじ開け―――

「シャルル!!」

「うん!」

刹那のタイミングに俺の背中に控えていたシャルルが両脇から手を伸ばす。
その手には面制圧力に特化した六十二口径ショットガン『レイン・オブ・サタディ』が握られている。
この至近距離でガードのないこの状況、致命的なこの状況。相手の顔がさぁ、と青ざめるがもう遅い。

「!?」

ショットガンの発砲音が響いた時には目の前のラファール・リヴァイブが消えていた。
当然弾丸は空を切る。なんだ!?なにが起きたんだ―――

「邪魔だ」

入れ替わりにラウラが急接近をかけてくる。そのラウラの装備しているワイヤーブレードの先端がラファール・リヴァイブの足を絡めとっていてそのままアリーナの端まで投げ飛ばす。
どうやらさっきの緊急回避はこのワイヤーの牽引によるものらしい。

「痛ああっ!」

しかし味方を助けたとは程遠いラウラの行動は本当に邪魔だったからどかしたというだけだったようだ。
床に叩きつけられた女生徒も悲痛な声を上げる。
しかし当の本人はそんなもの聞こえないとばかりにすでに俺たちへの攻撃に移っている。
プラズマブレードを両手に展開し左右から連続で切りかかってくる。
突き、撫で、払い。様々な斬り方を織り交ぜ、正確無比に繰り出される攻撃に俺は押され始める。

「数の差で私が有利だな」

「たかが二倍じゃねえか!」

そうは言ってみたものの、このラウラ・ボーデヴィッヒの実力は確かに化け物じみてる。今現在こうして俺と接近戦をこなしながらワイヤーブレードを駆使しシャルルを牽制、距離を取らせている。

『シャルル、大丈夫か?』

『僕の心配より自分の心配してよね!すぐにサポートに入るよ!』

『いや、このままでいい。例の作戦で行こう』

『・・・。うん、わかった。気をつけてね』

プライベート・チャネルで短く会話を交わし、俺たちはあらかじめきめていた作戦へと移る。
それは『ラウラ以外から先に倒そう作戦』だ、この作戦を立てた理由は単純。
ラウラは一対多の戦闘に特化している。つまりは『自分側が複数の状態での戦闘を想定していない』ということだ。
ラウラの性格、そして戦闘適正からしてタッグパートナーを助けないだろう。
そこでまずはパートナーを撃破。その後二人でラウラに対応する。
しかし先述したとおりラウラは一対多で戦えるだけの能力を持っている、しかしそこが罠だ。

ラウラのISが搭載している装備も把握できている。ならばそこから展開される戦術もある程度予測がたつ。
そうすると、相手が得意な状況である場合でもそれを逆手にとる戦法が出現する。
将棋でも強すぎる戦法が生まれるたびに、その戦法を駆逐するための戦法が出現するかのように。

「まずは先に君を落とさせてもらうよ!」

「そう簡単にはっ!」

ラウラの射程距離圏内から離れたシャルルはすぐさまラファール・リヴァイブへと間合いを詰める。
真っ直ぐではなく、急激な弧を描くような軌道にラファール・リヴァイブを纏った女生徒は慌てて銃を呼び出そうとする。
光の粒子が手の中に集まろうとしたその瞬間、シャルルは急停止から方向転換、相手に向かって最短距離で向かうような軌道に切り替える。

「えっ!?」

呼び出しが終わった時にはもう間合いは近接戦闘のそれに入っていた。
そしていつの間にかシャルルの片手には近接戦闘用ブレードの『ブレッドスライサー』が握られている。

「せいやっ!」

不意を突いた一太刀。クリーンヒット、とはいかず呼び出しが終わったアサルトライフルを盾代わりに相手は何とかやり過ごす。
銃が役に立たない距離を相手は後退という手段で解決しようと、後ろに跳び退る。
だが相手は忘れている、先ほどまでシャルルが両手で持っていた武器を、片手はブレードに持ち替えたがもう片方の手にはまだそれが残っていることを。
空気が炸裂するような音が響く。それはシャルルの持つ『レイン・オン・サタディ』の炸薬が破裂し、小さな鉄鋼弾が相手に向かい放たれた音だ。
さらにブレードを瞬時に引っ込め片手でアサルトライフルを扱い、追撃を仕掛ける。

「このっ!こっちだって」

相手の女生徒も負けじとアサルトライフルで応戦しようと照準を合わせようとするが、またもやシャルルはうまいタイミングで接近戦の間合いに詰めている。
勿論その手には近接ブレード、しかも今回は二刀持ちだ。

「な、なんでよ!なんでそっちばっかり―――」

女生徒の悲痛な声はシャルルの斬撃にかき消された。
なぜ?それの答えはシャルルの術中にはまっているからだろう。
シャルルの最大の特徴、それは『器用さ』だ。射撃、格闘、操縦技能のどれも突出しているわけではない。しかしそのどの分野でも人並み以上でこなせる平均的な能力の高さ。
そこに加えてあの『高速切替』、斬りあいの最中の銃撃。銃撃に移る瞬間を狙っての突撃と斬撃。
間合いを離しても、詰めても相手のやりにくい状況に持っていき戦いのリズムをコントロールする。
この戦法をシャルルは『砂漠の逃げ水(デザート・ミラージュ)』と呼ぶらしい。
曰く『求める程に遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む』・・・俺が説明するとキザっぽいけどシャルルが説明してた時は様になってたんだよな。

「先に片方だけを潰す作戦か。無意味だな」

ラウラははなからチームメイトを数に入れてないんだろう。けれど俺たちにとっては意味がある。
とにかく、俺の役目はシャルルがラファール・リヴァイブを撃破するまでの間、ラウラの猛攻を耐え凌ぐことだ。
両手のレーザーブレードとワイヤーブレードの波状攻撃。これらを捌ききるのは容易いことではない。けれど、少しでも油断すればつい距離をとってしまいそうになるのを必死にこらえ、俺は接近戦を維持し続けた。

「貴様の武器はブレードのみ。近接戦でなければダメージを与えられないからな」

それもある。だがそれ以上に、離れれば大型レールカノンの絶好の的だ。しかもワイヤーブレードもある、一度距離をとられるとそれを取り戻すのにまた時間とエネルギーを奪われる。

(とにかく、意地でも喰らいつく!)

俺は『雪片弐型』を右手に任せて、左手でレーザーブレードを払う。両足は姿勢制御とワイヤーブレードを蹴るのにフル稼働だ。
複雑な軌道で襲い来るその刃の側面のみを叩いて落とす。もし刃の部分に蹴りをいれてしまおうものなら俺のつま先部分の装甲がザックリ持っていかれる。
意識を集中しなければ一瞬で終わる、そういう状況なのだ。

「うおおおおおおおっ!!」

装甲と装甲のぶつかり合う音、刃と装甲のぶつかり合う音。それが一瞬の間に連続して鳴り響く。
ゼロ距離での高速戦闘。いつかは途切れてしまうであろう集中力を、シャルルを信じて繋ぎとめる

「・・・・・・そろそろ終わらせるか」

ラウラがレーザーブレードを解除する。―――まずい!
そう思った瞬間には遅かった。体が凍りついたように動かなくなる。
ラウラは両手を交差して突き出し、その手のひらを俺に向けている。

(くそっ!AICか!)

「では、消えろ」

六つのワイヤーブレードがいっせいに俺へ向けて射出される。

「ぐおおおおおおお!!」

なすすべもなく俺はワイヤーブレードに全身を切り刻まれる。ISの装甲を三分の一持っていかれ、シールドエネルギーも一気に半分近く失われた。
さらにラウラの攻撃はそれだけでは終わらず、俺の右手をワイヤーブレード二本がかりで拘束し、ねじ切るように回転を加えながら、床へと俺を叩きつけた。

「がはっ!」

相殺し切れなかった衝撃が背中を突きぬけ、呼吸が一瞬詰まる。
―――すぐに体勢を立て直さなければ!
そう思った俺が目にしたのは、ラウラのレールカノンが照準を合わせ終えたところだった。

「とどめだ」

発射された砲弾がやけにゆっくり見える。砲口から瞬間的にあふれ出た炎を纏い、そしてそれを突き破りながら進んでくる砲弾。
しかもそれは対ISアーマー用特殊鉄鋼弾だ。当たり所が悪ければ一発で勝負がつく代物。それが今まさに俺目指して突き進んでくる。

(回避は間に合わない!それなら・・・斬る!)

やれるかどうかではないのだ、やらなければ負ける。俺は右腕を振り上げ―――

「!?」

がくん、と右腕が何かに引っ張られるように動きが止まる。

(さっきのワイヤーがまだ残っていたのか!)

一本だけだったが、それが白式の篭手に絡み付いていてすぐにとれそうもない。―――ああ、ちくしょう!

「お待たせ!」

重苦しい金属のかち合う音を響かせ、シャルルの盾が鉄鋼弾をはじく。そしてすぐさまワイヤーを切断、俺の腕を引いてその場を離脱する。

「シャルル・・・助かったぜ。ありがとよ」

「どういたしまして」

「で、首尾はどうだ?」

「上々だよ」

そういって視線をすっと外すシャルルに従って俺も視線を追ってみると、アリーナの隅でラファール・リヴァイブを纏った女子生徒がシールドエネルギーが尽きて膝をついている。

「さすがだな」

「その言葉は試合で勝ってから、ね?」

両手に持っていたアサルトライフルを捨てて、シャルルは新たに武器を呼び出す。次の瞬間には両手にショットガンとマシンガンが握られていた。

「さ、ここからが本番だよ」

「ああ、見せてやるとしようぜ、俺たちのコンビネーションを」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふあー凄いですねぇ。二週間ちょっとの訓練であそこまで連携が取れるなんて」

教師だけが入ることの許される観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら真耶は感心したようにつぶやく。

「やっぱり織斑君は凄いですね。才能ありますよ」

「ふん。あれはデュノアが合わせているから成り立つんだ。あいつ自身はたいして連携の役に立っていない」

相変わらず身内には辛口評価しかしない千冬に、真耶はやや苦笑い気味に言う。

「そうだとしても、他人がそこまで合わせてくれる織斑君自身が凄いじゃないですか。魅力のない人間には、誰も力を貸してくれないものですよ」

「まぁ・・・・・・そうかもしれんな」

ぶすっとした感じで告げる千冬だったが、最近真耶はそれが照れ隠しなのだと分かってきたので別段気にしない。
むしろ『やっぱり弟さん想いだなぁ』としみじみ思う。

「それにしても学年別トーナメントの急な仕様変更は、やっぱり先月の事件のせいですか?」

真耶の頭の中に黒いダイバースーツのようなISの姿が一瞬よぎる。
クラス対抗戦に突如として乱入してきたあの謎のISの姿が。
あの時、一夏の一撃で完全に沈黙したあのISは学園側で回収され、解析を受けた。だがそのことで驚くべきことが分かった。
ISは女性が乗らないと動かない。これはISの大前提であるのだがあのISには『誰も乗っていなかった』のだ。
さらにその無人のISに搭載されていたコア、これは世界で全て登録されているはずのコア全てと一致しなかった。
現在の技術では出来るはずのない『無人IS』、そして『あるはずのないコア』。
この二つが今回の学年別トーナメントを仕様変更した理由であると真耶は考えていた。

「詳しくは聞いていないが、おそらくはそうだろう。より実戦的な戦闘経験をつませる目的でツーマンセルになったんだろうな」

「でも一年生は入学してまだ三ヶ月ですよ?戦争が起こるわけでもないのに、今の状況で実戦的な戦闘訓練は必要ない気がしますが・・・」

真耶の言うことはもっともだ。けれどその疑問を投げかけてくるのが分かっていたで、千冬の表情は変らない。

「そこで先月の事件が出てくるのさ。特に今年の新入生には第三世代型兵器のテストモデルが多い。そこで謎の敵対者が現れたら何を心配すべきだ?」

「―――あっ!つまり自衛のため、ですね」

「そうだ、操縦者は勿論、第三世代型兵器を搭載したISも守らなければならない。しかし教師の数が有限である以上、それらは原則自分で守るしかない。そのための実戦的な戦闘経験なのさ」

「ははぁ、なるほどなるほど」

真耶は疑問が氷解したとばかりにうなずく。

「しかし織斑君もすごいですがデュノア君もすごいですね。相手は専用機でないとはいえノーダメージで撃破するなんて」

「確かにデュノアも強いかもしれないがあれは相手の機体が悪かった。奴の専用機はラファール・リヴァイブのフルカスタム機、元になった機体のスペックからなにからは頭に入っているだろうから対策を立てるのは簡単だっただろうしな」

「それでも十分すごいですよ!」

「まあな、知識があったからとはいえあそこまで活用して相手を翻弄し続けた駆け引きの技能は認めるところではある」

以前から相手の機微に敏く、人を思いやったり、戦闘ではその逆に相手の心理を読み利用することには長けていたが、ここまでではなかった。
一番変化があったのはやはり弾のIISを巡る一件があったあの時期だろうか。
その境遇ゆえに周りをよく観察することで身についた技能、それが弾をはじめ一夏、箒、セシリア、鈴を中心にして信頼できる人間関係を得て自己が安定し、その技能を意識して使うようになってきた。
友人たちを大切に思い、その心の機微を逃さないためだったのだろうが、それはシャルルの技能を成長させた。
今のシャルルは強い、一夏や弾にも負けないほど心が強く。

「でもその二人を相手に・・・ボーデヴィッヒさんもやっぱり強いですね」

「ふん・・・」

しみじみという真耶の目にはモニターの中で、二対一の状況で互角に渡り合うラウラの姿が映っていた。
それに対して千冬は心底つまらなそうに声を漏らす。

「変わらない。強さを攻撃力と同一だと思っている。だがそれでは―――」

一夏には勝てないだろう。
しかしその言葉は決して口にしない。言ったが最後、真耶にどんな顔をされるか分かったものではない。

「あ!織斑君零落白夜を出しましたね!一気に勝負をかけるつもりでしょうか」

「さて、そう上手くいくかな」

「またまた、そんな気にしていないような態度をしなくても―――」

「山田先生、久しぶりに武術組み手でもしようか。せっかくだ、十本ほど」


「いっ、いえいえっ!私はそのっ、ええとっ、生徒たちの訓練機を見ないといけませんから!」

慌てて首を振り、手を振りと大忙しの真耶に千冬は低い声で畳み掛ける。

「私は身内ネタでいじられるのが嫌いだ。そろそろ覚えるように」

「は、はい・・・。すいません・・・・・・」

真耶はみていて可哀想なほどにしぼんでしまう。それがあまりにも可哀想だったのか、千冬はぽん、と頭を撫でた。

「さて、試合の続きだ。どう転ぶか見ものだぞ」

「は、はいっ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これで決めるっ!」

零落白夜を発動させた俺は、ラウラへと一直線に向かう。

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが・・・・・・それなら当たらなければいい」

ラウラのAICの拘束攻撃が連続で襲い掛かる。右手、左手、そして視線。そこから放たれる目に見えない攻撃を急停止、転身、急加速で何とかかわす。

「ちょろちょろと目障りな・・・!」

立て続けの攻撃にワイヤーブレードも加わり、その攻勢は熾烈を極める。しかしこっちは何も一人で戦っているわけではないのだ。

「一夏!前方二時の方向に突破!」

「わかった!」

射撃武器でラウラを牽制しながら、俺への防御も抜かりがない。つくづくシャルルと組んでいて良かったと思う。もし敵だったら十分持つかどうか怪しい。
ワイヤーブレードを潜り抜け、俺はラウラを射程圏内に収める。

「無駄だ。貴様の攻撃は読めている」

「普通に切りかかれば、な。―――それなら!」

俺は足元に向けていた切っ先を起こし体の前にひきつける。

「!?」

斬撃が読まれるなら、突撃で攻める。読みやすさは変わらないにしても単純に腕の軌道は捉えにくいはずだ。
線より点のほうが、捕まえるには圧倒的に難しい。

「無駄なことを!」

ガチリと全身の動きが凍りつく。AICの網が俺の体を完全に固定した。

「腕にこだわる必要はない。ようはお前の動きを止められれば―――」

「・・・ああ、なんだ忘れてるのか?それとも知らないのか?俺たちは―――二人組みなんだぜ」

「!?」

慌ててラウラが視線を動かすが、もう遅い。ゼロ距離まで接近したシャルルがすばやく両手に持ったショットガンの六連射を叩き込む。
次の瞬間、ラウラの大口径レールカノンは轟音ともに爆散した。

「くっ!」

やはり、予想通りだ。ラウラのAICには致命的な弱点がある。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持できない』ことだ。現に俺への拘束は解除されていた。

「一夏!」

「おう!」

再度『雪片弐型』を構え直す。―――今度こそ避けさせない!

「・・・・・・・!!」

絶対必殺を確信した一撃だった。だった、のだが―――

「なっ!?」

雪片弐型から迸っていた零落白夜のエネルギー刃が突然小さくしぼみ、消えてしまった。これは、まさか―――

「ここにきてエネルギー切れかよ!」

「残念だったな」

ラウラの声が近い。視線を雪片弐型からラウラに戻すと、懐に飛び込んでくるのが見えた。その両手にはレーザーブレードが展開されている。

「限界までシールドエネルギーを消費してはもう戦えまい!あと一撃でもはいれば私の勝ちだ!」

ラウラの言う通りだ。おそらくもう一撃でも入ればシールドエネルギーも尽きてしまうだろう。俺は必死で左右から襲い来る凶刃を弾き続ける。

「やらせない!」

「邪魔だ!」

ラウラは俺への攻撃の手を休めずに、援護に入ろうとしたシャルルをワイヤーブレードを射出し迎撃する。
そのどちらもが精度の高さとスピードを伴った攻撃で、改めて相手の技量の高さを思い知らされることになった。

「うあっ!」

「シャルル!くっ―――」

「次は貴様だ!堕ちろ!」

被弾したシャルルに気をとられた一瞬の隙。それを逃さず、ラウラの攻撃は俺の機体を正確に捉える。

「ぐあっ・・・!」

熱い熱源のような感触、電撃が走ったかのような痺れ。それらはなによりも、ダメージを受けたことを雄弁に語っていた。
俺の体から―――白式から力が抜け、地に落ちる。

「は、はは・・・私の勝ちだ!」

高らかに勝利宣言をするラウラに高速接近する影が突撃する。それは―――

「まだ僕がいるよ!」

一瞬で超高速状態へと移ったシャルルだった。

「い、瞬時加速だと・・・!?」

初めてラウラの表情が狼狽を見せる。事前の情報ではシャルルが瞬時加速を使えるとは書いてなかったのだろう。
驚きもする。―――俺だって知らなかったのだから。

「まさか、この戦いで覚えたというのか!?」

シャルルの器用さ、というのはもはや特徴の域を大きく外れている。これはまるっきり一つの技能だ。

「だが私の停止結界の前では、無力だ!!」

そういってラウラがこの試合の中、幾度も見せたAICの発動体勢をとる。
その瞬間、動きが止まったのは―――ラウラのほうだった。

「!?」

いきなりあらぬ方向からの発砲音と衝撃。ラウラは視線を巡らせ俺と目が合った。
真下から、シャルルの捨てたアサルトライフルを構える俺と。
俺の構えているアサルトライフル。これは訓練の時に俺に撃たせるためにシャルルが使用許可をおろしたあの銃だ。
それが残弾ありの状態で捨てられた時に、そして銃が捨てられたこの場所に来たラウラに向けて突撃を促した時に、俺はシャルルの二段構えの作戦に気づいたのだ。
後は信じただけだ。自分と、シャルルを。

―――とはいえ運が良かったとも言える。ラウラの一撃をギリギリでこらえられたのはひとえに白式のがんばりだ。
当分、この相棒には頭が上がらない。

「これならAICは使えないだろ!」

「こ、のっ・・・死に損ないがぁ!!」

そう吼えるラウラだったが冷静さは失っていない。命中精度の低い俺より急速接近するシャルルに狙いを定めたようだ。
もう一度AICの発動体勢に移る。

「もう遅いよ!」

「それがどうした!第二世代型の攻撃力では、このシュヴァルツェア・レーゲンを堕とすことなど―――」

そこまで言ってハッ、と気づく。
単純な攻撃力ならば第二世代型兵器最強と謳われた装備があることに。
そしてそれはシャルルの専用機に装備されている。今まで幾度となくラウラの弾丸を弾いた盾の中に『隠されている』。

「この距離なら、外さない」

盾の装備がはじけ飛び中から杭とリボルバーを融合させたような武器が露出する。
六十九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』通称・・・

「盾殺し(シールド・ピアース)・・・!!」

ラウラの顔面から一気に汗が吹き出す。今までの冷静な表情などかなぐり捨てた必死の表情に変わる。

「「おおおおおおおっ!!」」

二人の声が重なる。シャルルは『灰色の鱗殻』を装備した左側の拳をきつく握り締め、叩く込むように突き出す。
それは俺の行ったような点の突撃。
さらに今は瞬時加速によって接近しているため全身停止はこの間合いでは間に合わない。
ピンポイントでパイルバンカーをとめなければ、直撃だ。

「!!!」

ラウラがハイパーセンサーで引き伸ばされ、それでも一瞬しか感じられないほど短い間に狙いを定め集中する―――
だがはずれた。

「・・・!」

一瞬、ほんの一瞬だけシャルルが顔をしかめる。勝ちを確信したこの状況ではあまりにも似合わない表情にひっかかりを覚えるがそれは一瞬のうちに起きたこと。時間に流され消える。
そして響く死を告げるかのような重苦しく、はじけるような甲高い音。パイルバンカーがラウラに直撃した音だ。

「ぐううっ・・・・・・!」

ISのシールドエネルギーを集中して絶対防御が発動する。それほどの威力の一撃、それにふさわしいほどシールドエネルギーが失われる。
しかも相殺し切れなかった衝撃が背中を突きぬけ、ラウラの顔が苦悶の表情に歪む。
さらにこれで終わりではないのだ。『灰色の燐鋼』はリボルバー機構ですぐさま次弾の炸薬を装填できる。
つまり、連射が可能なのだ。
炸薬が破裂する音が続けざまに三度響き渡る。
ラウラの体が大きく傾く。その機体にも紫電が走り、ISも強制解除の兆候を見せ始める。

―――だが次の瞬間、異変が始まった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今回はここまで。
途中まで一番上までこのスレが上がらない時はかなり焦りました。
ところで以前より投下する日時を聞かれることがありますが、決まった場合には書き込むようにしたほうがいいでしょうか?

さて次はVS VTシステムですよ。今週か来週か再来週には二巻編終了ですよ。
そして番外編には蘭ちゃんが登場するんですよ。
語尾の『ですよ』が気に入ったんですよ。
それではこれにて

ではこれより投下開始しますよ。
VSラウラ、VTシステム編終了まででございます。
それではいきます

(こんな・・・こんなところで負けるのか、私は・・・・・・・)

確かに相手の力量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかし、それでも―――。

(私は負けない!負けるわけにはいかない・・・・・・!)

ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前、識別上の記号。
一番最初につけられた記号は―――遺伝子強化試験体C-0037
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

(暗い暗い闇の中に私はいた―――)

ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。
私は優秀だった、性能面において、最高レベルを記録し続けた。
それがある時、世界最強の兵器『IS』が現れたことで世界が一変した。
その適正向上のための処置『ヴォーダン・オージュ』によって異変が生まれたのだ。

『ヴォーダン・オージュ』―――擬似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達速度の爆発的な向上と、超高速戦闘下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す。
そしてその処置を施した目のことも『越界の瞳(ヴォーダン・オージュ)』と呼ぶ。
危険性はまったくない。理論の上では不適合も起きない―――はず、だった。
しかしこの処置によって私の左目は金色へと変質し、常に稼動状態のままカットできない制御不能へと陥った。

この『事故』により私は部隊の中でもIS訓練において遅れをとることになる。
そしていつしか部隊トップの座から転落した私を待っていたのは、部隊員からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印だった。
世界は一変した。―――私は闇から深い闇へと、止まることなく転げ落ちていった。
そんな私が始めて目にした光。それが教官との・・・織斑千冬との出会いだった。

「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

その言葉に偽りはなかった。特別私だけに訓練を課したわけではなかったが、あの人の教えを実行するだけで、私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に君臨した。
しかし、安堵はなかった。自分を疎んでいた部隊員ももう気にならなくなっていた。
それよりもずっと、強烈に、深く、あの人に―――憧れた。

ああ、あの人のようになりたい。凛々しく、自分を信じ堂々としたあのような人に。
そう思ってからの私は、教官が帰国するまで半年間に時間を見つけては話しにいった。
いや、話など出来なくても良かった。ただそばにいるだけで、その姿を見つめるだけで、私は体の深い場所からふつふつと力がわいてくるのが感じられた。
それは『勇気』という感情に近いらしい。
そんな力があったからだろうか。私はある日訊いてみた。

「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」

その時―――ああ、その時だ。鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。
私は、その表情になぜだか心がちくりとしたのを覚えている。

「私には弟がいる」

「弟・・・ですか」

「アイツを見ていると、わかるときがある。強さというのがどういうものなのか、その先に何があるのかをな」

「・・・・・・よくわかりません」

「今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい。・・・ああだが一つ忠告しておくぞ。あいつに―――」

優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情、それは―――

(それは、違う。私が憧れるあなたはではない。あなたは強く、凛々しく、堂々としているのがあなたなのに)

そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認められない。認めるわけにはいかない。
だから―――

(敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で完膚なきまでに叩き伏せると!)

ならば―――こんなところで負けるわけにはいかない。あれは、あの男はまだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなければならない。そうだ、そのためには―――

(力が、欲しい)

ドクン・・・と、私の奥底でなにかで何かがうごめく。
そしてそいつは言った。

『―――願うか・・・?汝、自らの変革を願うか・・・?より強い力を望むか・・・?』

言うまでもない、力があるなら、それを得られるなら、私など―――空っぽの私など、何から何までくれてやる!
だから、力を・・・・・・比類なき最強を、唯一無二の絶対を―――私によこせ!


Damage Level …D.
Mind Condition …Uplift.
Certification …Clear.


<<Valkyrie Trace System>> …boot.


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ああああああああっっ!!」

突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と同時にシュヴァルツェア・レーゲンから電流が迸り、近くにいたシャルルの体が吹き飛ばされた。

「ぐっ!一体何が・・・―――!?」

「なっ!?」

俺もシャルルも目を疑った。その視線の先ではラウラが・・・ラウラのISが変形していた。
いや、変形などという生易しいものではない。装甲を司っていた線はことごとく溶け落ち、どろどろになってラウラの全身を包んでいった。
元の機体の色だった黒よりも不細工で濁った黒色が、闇のような黒色がラウラを飲み込んでいった。

「なんだよ、あれは・・・」

ISが形状を変化させるのは、『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』の二つだけだ。
初期操縦者適応は俺の白式がセシリアとの初戦で起きた形態の変化のこと。形態移行は・・・勉強不足のためあんまりわからない。
だが目の前のそれは絶対にその二つとは違うと断言できる。
目の前で形を変え続けるシュヴァルツェア・レーゲンだったものは、粘土のように形を変え、表面を流動させながら生物の心臓のように脈打っている。
地面からほんの少し浮いたまま、形を変え続けていた『それ』は段々と下へ降りてきた。そして地面に接地した瞬間から、おぼろげに人の形をかたどっていた『それ』は急速に輪郭を明確にしていく。

全身の形成を終了した『それ』は、俺のよく知る物をその手に握っていた。
『それ』は少女の形を模していた、ISを纏った少女の形だ。
大きさは俺たちより一回り大きく、肌と装甲の部分は同じようなのっぺりとした質感で明確な境目はない。
装甲のような部分は腕、胸部、脚部にそれぞれありどちらかといえば旧世代のISに近い印象を受ける。
武器と呼べるものはたった一つ。右手に握られた近接ブレード、その形に見覚えがあった。
一瞬『雪片弐型』かとも思った、だがそうではない。もう少し前だ、もっと昔に見たものだ。

(そうだ、あれは・・・・・・『雪片』、千冬姉の使っていた刀)

それが本物の『雪片』でないのは分かっていた、けれどあまりに似ていたのだ。いや、似ているなどというレベルではない。まるで複写(トレース)だ。
俺は自分が何を考えて、何を感じているのかもわからないうちに手の中にある『雪片弐型』を握り締め、中段に構えていた。

「―――っ!」

その刹那、漆黒のISが目と鼻の先まで飛び込んできた。居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺の一閃。
それは紛れもなく千冬姉の太刀筋だった。

「ぐうっっ!!」

構えた雪片弐型が弾かれる。そして敵はそのまま上段の構えへと移る。これは―――

(まずい!!!)

縦一直線、落とすように振り下ろされる鋭い斬撃が襲いかかる。刀で受けることは出来ない。
緩やかに見えるのは必死の状況だからだろう。今のシールドエネルギーではこの斬撃を受ければどうなるのかわかったものじゃない。
白式に緊急回避の命令を送る。だがここから間に合うかはわからない、ほとんど神頼みのような操縦。

「ぬおあっ!!」

俺の体に大きな衝撃が襲い掛かる。

しかしその衝撃は敵の斬撃が引き起こしたものではなかった。

「一夏!大丈夫!?」

後ろから左腕を腰に回し俺を斬撃から引き離すように引っ張るシャルルだった。
その右手には弾き飛ばされた『雪片弐型』もしっかり回収している。

「ありがとなシャルル・・・」

「一夏は下がってて、白式はエネルギーも底を尽きかけなんでしょ?・・・あとは僕がやる。ううん、僕にやらせ―――」

「いや、あいつは俺がやる。シャルルの方こそ下がってろ、手出しはしなくていい」

「え?」

あの剣技は俺が千冬姉に習った最初の『真剣』の技だった。初めて見た時のことを今でも正確に覚えている。

『いいか、一夏。刀は振るうものだ。振られるようでは、剣術とは言わない』

ずしりとした鋼鉄のそれは、初めて手にした俺を試すかのように容赦のない重さを持っていた。
手にしているだけでも汗がにじみ、構えようにもその重量ゆえに刃が持ち上がらない。

『重いだろう。それが人の命を絶つ武器の、その重さだ』

冷たく、鈍色に煌く、その刀。
人を切るために生まれ、作られ、鍛えられた、その存在。

『この重さを振るうこと。それがどういう意味を持つのか、考えろ。それが強さということだ』

そう言った千冬姉の表情は厳しく、けれどもどこか優しげな眼差しをしていた。
何か眩しげなものを見るように、いつもと違う表情だった。

だから俺は、少しでもそんな千冬姉の力になりたくて、そのための強さを追い求めた。
そう、ずっと、あの日から、俺は―――

「離してくれよシャルル、俺はあいつを倒さなきゃならないんだ。雪片を拾ってくれてありがとな」

「ちょ、ちょっと!待ってよ一夏、どうしちゃったの!?少し落ち着いて」

「俺は落ち着いてるよ!早く雪片を渡してくれ、シャルル!」

「全然落ち着いてないじゃないか!一回僕の話を聞いてよ!」

「あいつは俺が倒さなくちゃならないんだ!あいつだけは許せないんだよ!邪魔をするんならシャルルを倒してでも―――」

「ああもう!!落ち着けっていってるだ、ろっ!!」

怒気をはらんだシャルルらしくない一言と共に放たれたのは、頭突きだった。
頭に響く重苦しい痛みと、あまりにもシャルルのイメージから離れた言動に、限界まで達していた怒りの頂点が折られた。

「どう、落ち着いた?」

「お、おう・・・痛ってえええ」

「こうでもしないと話し聞いてくれないと思ったからね。雪片で叩かれるよりはましでしょ?で、どうしちゃったの一夏、らしくないよ?」

「あいつ・・・あれは千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを・・・・・・くそっ!」

黒いISはアリーナの中央から微動だにしない。どうやら敵性を感じるか攻撃をしかけなければ反応しない自動プログラムのようなものなのだろう。
俺たちが口論していても攻撃してくる気配がない。

「一夏って実は織斑先生のこと結構好きだよね。あんなに叩かれてるのに・・・もしかしてシスコン?」

「茶化すなよ。それに、あんなわけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらなきゃ気がすまねえ」

力は、強さは、攻撃力じゃない。そんなもの強さとはいわない。ただの暴力だ。

「とにかく俺はあいつをぶん殴る。そのためにはアイツを正気に戻してからだ」

「うん、理由はわかったよ。けど今の一夏に何が出来るの?シールドエネルギーもほぼ空に近いこの状況で」

「ぐっ・・・・・・・」

たしかにシャルルの言うとおりだ。あの黒いISだってそうエネルギーが残っているわけではないだろうが一撃を入れられなければどうしようもない。

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!―――』

「ほら、一夏がやらなくてもいずれこの状況も収拾がつくと思うよ。それでもやるの?」

「・・・ああ、やるぜ。俺が『やらなきゃいけない』わけじゃない。けど俺が『やりたいこと』なんだよ。大体、ここで引いたらそれはもう俺じゃねえ。織斑一夏じゃない」

「そんなこといってもエネルギーないくせに」

「うぐっ」

痛いところ突いてくるぜ、シャルルのやつ。確かに今の状況じゃ一発でも貰えばIS強制解除だってありえるほどのエネルギー残量だ、今こうして起動していることさえ奇跡のようなものなんだ。

「でも、ないなら持ってくればいい、違う?」

「え?」

「普通のISなら無理だけど、僕のISならコア・バイパスを使ってエネルギーを移せると思うんだ」

「本当か!?だったら頼む!早速やってくれ!」

「だが断る」

「はぁっ!!?」

希望を持たせておいて最後の最後にぶち折りやがった。このシャルルのにっこり笑顔からとんでもない言葉が飛び出してくるなんて夢にも思わなかったぜ。
シャルルに対するイメージが試合中の短時間でコロコロと変わっていく、何を考えてるんだよシャルル。

「一夏の心も、理由も、全部聞いたよ。いつもの僕なら止めない、むしろ協力を惜しまないよ」

「だったらなんで・・・」

「僕もあの黒いISを倒さなきゃ、ううん『倒したいんだ』。ボーデヴィッヒさんは今泣いてると思うんだ。迷子になって、周りには頼るものもなくて、ひとりぼっちで・・・」

その時のシャルルの表情は悲しく、それでいて懐かしむような淡い表情をその顔に浮かべていた。
俺はふと『あの時』のシャルルを思い出す、会って間もない頃の苦しんでいたシャルルを。
たぶんそれはシャルル自身が『あの時』の自分を今のラウラに重ね合わせていたからじゃないかと思う。俺の勝手な推測だけど。

「シャルル・・・・・・」

「僕は助けたいんだ、ラウラを。だからそのために一夏に協力できない、だってこれは僕が一人で『やりたいこと』だから」

そう言ったシャルルの顔にさっきまでの表情は残っていない、強い眼差しが俺に向けられている。
決意を秘めた、覚悟を決めたものの目だ。俺の気持ちを知っても、それでも自分の気持ちを突き通す覚悟を持った目だ。

「・・・あの時から大分変わったな」

「えっ、一夏いまなんて?」

「そこまで言って、負けたら男じゃねえぞ」

「い、一夏・・・それじゃあ」

「だから負けたら女子の制服で残りの学園生活を送ってもらおうか」

「うえっ!?・・・いいよ、負けないもん!」

少しからかってやると先ほどの顔からまた一転し、頬を膨らませて拗ねたように言う。
しかしその言葉にはしっかりとした意思が込められていた。

「それじゃ、行ってくるよ一夏」

「おいシャルル、『雪片弐型』はどうするんだ?まさか持っていくわけじゃないだろう」

「その・・・できれば借りていきたいんだ。駄目かな?」

「え、でもな・・・・・・なにか狙いでもあるのか?」

シャルルが無駄に使い慣れてない武器をここで使うとも思えない。
そう思って聞いたのだがシャルルは首を横に振るう。

「違うんだ。一夏の剣で戦いたいだけ、少しでも一夏の気持ちを持っていけたらって・・・」

「シャルル・・・」

何か言葉にしようとするが漠然とした感情だけが頭の中にあってうまくまとまらない。
漏れ出したように名前を呼んだが後が続かない。

「行ってこい」

だから一言、友達の背中を押す言葉だけをつけた。

「うん」

シャルルも短く答えると俺に背を向け黒いISに向かい『雪片弐型』を構える。
それに反応するように、今まで棒立ちだった黒いISも剣を構える。
おそらく決着がつくのは一瞬。そしてその一瞬が訪れるのは―――

「ふっ!」

シャルルが息を短く吐く音が聞こえた、そしてそれが合図になったかのように黒いISが踏み込んでくる。
それに数コンマ秒遅れてシャルルが飛ぶ。
射程距離は相手の方が若干長い、体格のぶんだけ一回り。しかしその差がここにきて大きい。
ただでさえ相手は千冬姉のデータを使っている。そいつに向かって近接ブレードの『雪片弐型』で勝負を挑むなんてもとより分が悪いのに。
シャルルは自分のペースに巻き込んで相手を翻弄する戦術を得意としている。だが逆に相手のペースに足を踏み入れるのは悪手、全てにおいて人並み以上にこなすが突出したものがひとつもないシャルルの弱点。

(この不利をどう覆す、シャルル!!)

お互いが距離を詰めあい、シャルルが黒いISの間合いに入る。
しっかりとした踏み込みから、黒いISの鋭く、残酷な斬撃がシャルルに襲い掛かる。
ガードか、避けるか。だがこの距離でお互い踏み込みあっているこの状況ではガードしか選択肢がない。
だが―――

(シャルルのやつ、上段に構えて・・・あれじゃあ間にあわねえ!)

次の瞬間、シャルルの胴に黒いISの刃が―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

目の前に、ラウラを包む黒いISの剣が迫ってきている。
だけど僕は上段の構えを解かない、この状況じゃ避けられないし、たとえ受けても斬りあいで勝てる見込みはない。
ならば奇策をもってくるしか一太刀浴びせることすら不可能。

(たぶん、痛いんだろうな・・・)

胴に敵の凶刃が触れるか触れないか、その刹那。

『瞬時加速』発動!

体を強引に押し込み、インパクトをずらす。やはりラウラの戦闘経験は反映されていない、瞬時加速を見切れなかったのがその証拠だ。
けどインパクトをずらしたといっても衝撃はそうはいかない。瞬時加速を使ったことで衝撃は増加し、胸部のと胴部の装甲は軒並みひしゃげ、僕のあばら骨と共に嫌な音を立てる。
この試合で一度もまともにシールドエネルギーを削られていなかったからこそできた、無謀、無策の無理矢理な特攻。

(痛い・・・・・・・・・痛い!痛い!!痛いっ!痛いっ!!!痛いっっ!!!)

しかしシールドエネルギーを一気に消費して絶対防御を発動させ、装甲を犠牲にしてもこの痛み。たぶんあばら骨何本かは折れているだろう。
それでも相手は中途半端なところで刃を止められ正面を晒している。さらに言えばこちらのほうがリーチが体一回り分だけ短い。
だが、だからこそこの至近距離でも振り切れる。

(痛いっ!!けど助けるんだ!ラウラを、あの頃の僕に手を差し伸べてくれた皆みたいに、次は僕がぁ!!!!!)

両手で振り上げた『雪片弐型』、その柄を強く握る。そして―――

「セイッヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

僕が今まであげたことのないほどの叫びと共に、振り切る。

「ぎ、ぎ・・・・ガ・・・・・・・・・」

黒いISに紫電が走り、真っ二つに割れる。そしてその中からはラウラが姿を見せた。
しかしラウラは意識がはっきりしないのか、ふらりとこちら側に倒れこむ。慌ててラウラを受け止めようと抱きとめるように体を寄せたその時、ラウラと一瞬だけど目が合った。
眼帯がはずれ、あらわになった金色の瞳と。
その目は今にも泣きそうな、いつものラウラからは想像もつかないほど弱った目だった。僕が心のどこかで感じていたラウラの弱い部分がそのまんま現れたような、そんな目だった。

「もう、大丈夫。僕がいるよ、皆だっているんだから、大丈夫だよ」

倒れ掛かるラウラを抱きとめながら僕はそう呟いた。果たしてそれはラウラに届いていたのかは分からない、けど届いていなくてもいい。
何度だって言うから、ラウラに届くまで、何度だって。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「一つ忠告しておくぞ。あいつに会うことがあれば、心を強く持て。あれは未熟者の癖にどうしてか妙に女を刺激するのだ。油断していると、惚れてしまうぞ?」

そんな風に言う教官はひどく嬉しそうで、どこか気恥ずかしそうで、なんだか見ているこっちがモヤモヤとした。
だが、今なら分かる。あれはちょっとしたヤキモチだったのだ。それでつい、あんなことを訊いてしまったのだ。

「教官も惚れているのですか?」

「姉が弟に惚れるか、馬鹿め」

ニヤリとした顔で言われ、私はますます落ち着かなくなる。教官にこんな顔をさせるその男が―――羨ましい。
そして、出会って、戦って・・・今だに分からない。
あの男はなんなのだ、たいして戦闘が強いわけではない、なのに私を『あの男』と共に敗北に追いやったり。
聞けば模擬戦では『中国』と『イギリス』に負けたり勝ったりを繰り返しているとも聞く。
強いのか・・・弱いのか・・・わからん、教官にあそこまで言わせた男だが本当にそれほどの男なのか?

『それって単純に戦うのが、ってことでしょ?違う場所から眺めてみると、あそこまで強い人ってそういないと思うけどなぁ』

どういう・・・意味だ?

『僕もさ、まだあんまり分かってないんだ。だから分かる範囲しか答えられないけど、『  』は心が強いんだよ、それも複雑なんだけど。なんというか自分が『どうしたい』かをちゃんとわかってる、そんな強さかな』

それが強さ。教官の言う強さなのか?

『うーん、そうとは言い切れないかな。強さの一つの形だとは思うんだけど、けど自分のいく道も知らない人じゃ強さ以前に試合会場にたどり着けないじゃない?つまりそういうこと』

・・・最後のほうの説明は分かりにくいな。どういうことだ?

『ごめんね、偉そうに言ってるけど僕もまだ自分が『どうしたい』かがあいまいな人だから。そうだなぁ・・・』

その男は頭を捻り、何かを考えてるようだった。

『ごめん、やっぱりうまく説明できないみたいだ』

そうか・・・・・・・

『でもさ、だからこそ探してみようよ。僕らわからないもの同士でさ』

え?

『君がわからないものも、君がほしいものも、一緒に探してあげるよ。まぁほんとうは僕が一緒に『探したい』だけなんだけどさ』

わたしの、ほしいもの、わからないもの・・・

『ラウラ』

優しい声でその男はささやく。

『君はどうしたい?君はなんだってしていいんだ、なんだってできるんだ。僕の手をとらない選択肢だってある、また一夏に試合を挑んだっていい』

そこで一度言葉を区切る。そして再び優しげな声で続ける。

『けど僕にも『やりたい』がある。たとえラウラがどんな選択肢を選んでもラウラの力になりたい、って決めたから。それだけは覚えておいてほしい』

なぜお前はそこまで私に構うのだ・・・私は、私は―――

『僕がそうしたいからに決まってるよ。さぁ、君は何がしたいの?ラウラ』



今までこんな男がいただろうか、私にこんな優しい声をかけるものがいただろうか。
いつも周りを拒絶していた私に、そんなものはいなかった。



「私は・・・私はお前が知りたい。あの男のことも、教官のことだって・・・知らないものばかりのこの世界を知りたい。だから、一緒に探してくれるか?シャルル・デュノア」

『ふふ、いいよ。ラウラがそういうなら、いっぱい色んなことを知ろう。きっと楽しいことや、うれしいことばっかりだからさ』



私の言葉にシャルルは笑みを浮かべた。やわらかく、暖かい木漏れ日のような笑顔。
ああ、私はこんな笑顔も知らなかった。確かに、知らないことを知るというのは、嬉しいものなのだな。
早鐘をうつ私の心臓が言っている。今私を包んでいるこの感情は、まだ私の知らなかったこの感情は―――

今日はここまで
来週には波乱の三巻編に突入ですよ。
そのまえに今週の日曜までには番外編まで終わらせたいものです。

それではこれにて

なんか友人とアイドルマスターの話でたぎっていたら二巻編終了まで出来たので今日の夕方六時から投下しますよ。

それでは二巻編終了まで、行きます。

「う、ぁ・・・・・・・・」

ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。

「気がついたか」

その声に聞き覚えがある、聞き覚えがある―――どころではない。どこで聞こうと一番に判断できる、自らが敬愛してやまない教官、こと織斑千冬だ。

「私・・・は・・・?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう、無理するな」

千冬はそれとなくはぐらかしたつもりだったが、そこはさすがにかつての教え子。簡単に誘導されてはくれなかった。

「何が・・・起きたのですか?」

無理をして上半身を起こしたラウラは、全身に走る痛みに顔を歪ませる。けれどその瞳だけはまっすぐ千冬に向けられていた。治療のために眼帯が外されている左目は、右目と全く違う金色をしている。そのオッドアイが、ただ真っ直ぐ問いかける。

「ふぅ・・・・・・一応、重要案件であるうえに機密事項なのだがな」

しかしそう言って引き下がる相手ではないことも分かっている。千冬はここだけの話であることを沈黙で伝えると、ゆっくり言葉をつむいだ。

「VTシステムは知ってるな?」

「はい・・・正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは・・・・・・」

「そう、IS条約でどの国家、企業、組織においても研究・開発・使用が禁じられている。それがお前のISにつまれていた」

「・・・・・・・・・・・・・」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍へ問い合わせている。近く、強制捜査が入るだろう」

千冬の言葉を聴きながら、、ラウラはシーツをぎゅっ、と握り締めた。その視線はいつの間にかうつむき、眼科の虚空をさまよっていた。

「私が・・・・・・望んだからですね」

あなたに、なることを。
その言葉を、口にはしなかったが千冬には伝わった。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

いきなり名前を呼ばれ、ラウラは驚きもあわせて顔を上げる。

「お前は誰だ?」

「わ、私は・・・私・・・は・・・」

その言葉の続きが出てこない。自分がラウラであると、どうしても今の状態では言えなかった。

「誰でもないのなら丁度いい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。なに、時間は山のようにあるぞ。何せお前はこの三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。まぁ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」

「あ・・・・・・」

千冬の言葉が以外だった。まさか、自分を励ましてくれるとは思ってもみなかったラウラは、何を言うべきか分からない。わからないまま、ただ口をぽかんと開けていた。
そんなラウラに、千冬は席を立ってベッドから離れる。もう言うべきことは言ったのだろう。教師の仕事に戻るようだった。

「ああ、それから」

そしてドアに手をかけたところで、振り向くことなく再度再度言葉を投げかけた。

「お前は私にはなれないぞ。アイツの姉はこう見えて心労が絶えないのさ」

きっと、にやりと笑っていったのだろう。それがどうしてかラウラには分かった。
そして千冬が部屋を去ってから数分経って、、急に可笑しくなった。

「ふふ・・・はははっ」

ああ、なんてずるい人なのだろう。言いたいことだけ言ってほったらかしだ。
結局わたしは目指すものにはなれぬと言われ、道しるべを失ってこれからどこへ向かえばいいのかわからなくなってしまった。

(だが、今はそれでいいと思う。自分で考え、自分で行動する・・・私は自由だ、これから何をしよう。動けるようになったらまず―――)

笑いが漏れるたびに全身が引きつるように痛かったが、それさえも嬉しく感じていた。
空っぽだと・・・目の前には何もないと思っていた。けれど今は何もないことが嬉しく思う。
ラウラの行く先には広大な世界が広がっている、どれだけ走っても尽きることのない無限の可能性が。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あー、なんかすっげー久しぶりに喋った気がするわ。一週間半ぶりくらいに声を発した気がするわ」

「・・・何を言ってますの、弾さん」

「レス数的に言えば30レスくらい?」

「弾さん、メタ発言はこのSS自体に似合っていませんわよ」

ボーデヴィッヒとのごたごたがあってしばらくいつものメンバーと飯を食ったりするのを避けていたりしたが、今日は久しぶりにセシリアと朝食を一緒にとっていた。

「まぁ冗談はさておいて」

「あやうくこのSSのスタンスが崩れるところでしたわ」

「セシリアが和食って珍しいよな、いつも洋食なのに」

「郷に入っては郷に従え、と日本のことわざでも言いますし、お箸の使い方の練習も兼ねて味にも慣れ親しんでおこうと思いましたの」

「ふぅん、そりゃいい心がけだ。なら俺はイギリスの料理でも・・・やっぱやめとこ」

「弾さん、今失礼なことを考えませんでした?」

なんだと、モノローグでも語らなかったイギリス料理に対するネガティブなイメージを読み取った、だと・・・

「弾さんも、一夏さんほどではないですけど顔にでやすい体質だと自覚したほうがいいですわよ」

「そうかぁ・・・・・・」

俺の顔が(´・ω・`)←こんな感じになる。結構ショック。

「ほら、早く食べないと置いていきますわよ」

「うひぃ、まじかよ。とかいっていつも待ってくれる心優しいセシリアなのでした、と」

「えっ!そ、それは・・・・・・その、あのですね」

ちょっとショックなこと言われた仕返しに軽口で応戦すると、顔を真っ赤にするほど反応を示した。
う、畜生・・・かわいいじゃねえか。不意を撃たれた俺のハートがきゅんきゅん胸きゅんだぜ」

「おい鈴、勝手に人のモノローグを捏造するな」

「あっはははは、案外当たってたりしない?」

「あ、当たってねえよ!!」

「鈴さん、今からだとご飯をゆっくり食べる時間はないんじゃありません?」

「そうよ、私弾で遊んでる場合じゃなかったんだ。何時間とらせてくれてんのよアンタ!」

「俺のせいっ!?」

ひどい責任転嫁を見た。というか俺もこんなことやっている場合じゃねえんだよ。
今日に限って遅く起きてしまって・・・いや、本当にたまたまなんだよ。いつも朝は軽くトレーニングして飯食って教室に行くからそれなりに余裕をもって起きてるし。

「ていうか別に大丈夫じゃない?確かにギリギリだけど少しくらい遅れても―――」

「鈴さん、わたくし達のクラスの担任が誰だか忘れましたの?」

「・・・ゴメン、なんかあたしのクラスのものさしでもの言っちゃって」

先ほどまでの勢いはどこへやら、鈴は少し憐れみを込めた目線を俺たちに向ける。
そう、我らが鬼教官こと千冬さんのクラスでは遅刻することは死を意味する!

「まぁあたしは二組だからさ、二人はあたしを気にせず先に行きな。死なれると夢見も悪いし」

「ええ、そうさせてもらいますわ」

「よっし、ごちそうさまでした。んじゃお先に」

二人が話している間にささっと掻きこみ、きちんと手を合わせ、食器をまとめて席を立つ。
最後に鈴のほうへ振り返ると、ひらひらとこちらのほうへ手を振っていたのでこっちも一応振りかえしておいた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


教室につくとやはり他の生徒はみんな席についていた。本当に俺とセシリアが最後のようだった。
いや、ひとつだけ空白があった、あれは・・・ボーデヴィッヒの席か。
たしかボーデヴィッヒはトーナメントの日に怪我をしたとか聞いたような、あとシャルルは肋骨を骨折したとか、ひびが入ってるとかも人から聞いた。
一応シャルルは普段と変わらないように見えるが、あとで事の真偽を確かめなければいけないな。

「五反田君、オルコットさん、早く席についてください。ホームルームはじめますよ」

背後から山田先生の声、少し立ち止まっている間にもうそんな時間か。
けどここで千冬さんだったら確実に死んでたな、よかった山田先生で。

「ありがとうございます山田先生」

「え?は、はぁ、これはご丁寧に?」

なにがなにやら分からない、といった表情で山田先生はそのまま教壇へと向かっていった。
その間に俺とセシリアもお互いの席に着く。

「それではホームルームをはじめますがその前に、転校生を紹介しようと思います。あ、でも転校生というかすでに紹介は済んでるんですが再度紹介といいますか、ええと―――とにかく入ってきてください」

あ、説明するのが苦しくなったから強引にいった。

「失礼します」

ん、この声は―――

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

ボーデヴィッヒが転校してきた時の焼きまわしを見ているようだった。無表情で冷たい声、そこからなにもつながれない言葉。
一体なんのためにこんなことを、山田先生の考えか千冬さんの考えかは分からないが無意味じゃ―――

「私は、私はここにいる生徒全員に戦闘で勝てる自信がある、いやこれは確信だ。徒手格闘においても、他全ての戦闘技術で負ける気がしない」

(はぁ?いきなり何を言い出すんだこいつは。前より悪くなってないか?)

口を開かないかと思えば突然クラスメイト全員を敵に回すような発言、正直頭がついていかない。
だがボーデヴィッヒの言葉はまだ続きがあることを、さまようような視線と開いたり閉じたりを繰り返す口が物語っている。
一応最後まで聞くことにしようと思った。気のせいかもしれないがボーデヴィッヒの言葉から前のような悪意が感じられなかったから。

「私は軍にずっといた、そこであらゆる戦闘の知識を学んだ。・・・・・・だがそれだけだ、それだけしか学ばなかった。他のことは全く知らない、そしてそれでいいと私は思っていた」

そこでボーデヴィッヒは言葉を切り、視線をまた泳がせた。いや、今度はその視線の先の何かをしっかりと捉えるように動かした。
言葉の次はまだでない、静寂がクラス中にひろがる。誰も言葉を発しない、あのボーデヴィッヒが何かを伝えようとしている。
この状況の異様さがそうさせていた。

「だが私は、ある男に変えられたのだ。それでいいと思えなくなってしまった。今は知りたい、様々なことを、もちろんお前たちのこともだ」

クラスの中の空気が段々と暖かいものへと変わっていくのが肌で感じられた。

「そしてそのためにも、私は謝罪せねばならん相手がいる。この場を借りて謝罪したい。イギリス代表候補生のセシ、セシ・・・・・・セシ」

そしていきなりほのぼのとした方向へ。
セシリアの名前を言いたいのだがどうしても出てこないのだろう。珍しく焦った表情で必死に「セシ・・・セシ・・・」と言い続けている。

「セシリア・オルコット」

ぼそり、と最前列の俺がこっそりと呟く。
ボーデヴィッヒもそれに気づいたのか目線だけこちらにやり、ほんの少しだけ頭を下げた。感謝の意をしめしたのだろう。
あんなに憎んでいたボーデヴィッヒなのになぜ俺は助け舟など出したのだろう・・・

「セシリア・オルコット。先日の模擬戦では少しやりすぎた、すまない」

そう言って深く頭を下げたボーデヴィッヒを見て、俺は気づく。
そうだ、あの日のボーデヴィッヒではないからだ。あのボーデヴィッヒじゃないからこそ、俺は助ける気になったんだろう。
そして謝罪をうけた当のセシリアの表情は、俺の場所からは窺えない。ラウラが頭を下げたまま、時間がすぎる。

「ラウラさん」

ボーデヴィッヒが頭を下げて、少し間をおいてセシリアは声を上げた。

「頭を上げてください。確かにわたくしはあなたに模擬戦で必要以上に攻撃を受けて、ISがひどい状態になったのは事実です。ですがあなたは謝ってくれました、それなのにあなたを許さないのはわたくしのプライドに反しますわ」

言葉をつむぐセシリアの声は優しい、その表情を見ずに想像がつくほどに優しかった。

「だから私はあなたを許します」

「・・・ありがとう。セシリア・オルコット」

礼を言うのに慣れていないのか、ゆっくりかみ締めるように言葉を吐き出す。
そのラウラの口元には笑みが浮かんでいる、安堵の笑みだ。

「それじゃあボーデヴィッヒさん、自己紹介のほうはこれで?」

「いや、あと少し。自己紹介では好きなものや嫌いなものの話題は必須と聞いている、せめて最後にそれだけでも言わせてもらう」

「あっ、そうですか。すいません、先走ってしまって」

話に一区切りが着いたところで山田先生が締めに入ろうとしたが、ボーデヴィッヒはまだ言い足りないようでもう少しボーデヴィッヒの話は続くようだ。
しかしクラスメイトたちはボーデヴィッヒを受け入れようというムードが広がっているため、誰も反対するものはいない。
あれだけのことをされたセシリアが許したのだ。自分達が許さない、というのはないだろう。そんな空気なのだ。

「嫌いなもの、というのはまだない。もしかしたらあるかもしれないが今は心当たりがない。好きなものは、教官・・・もとい織斑先生、それと―――」

千冬さんに憧れているものはこのクラスを含め多数いるため、何人かは共感を表すように声が上がる。
少しずつクラス中に活気が戻ってくる、人の話し声で教室がざわつく。その話し声の内容は全てボーデヴィッヒについてだ。
そしてそのボーデヴィッヒはというと、なぜか教壇から降りて教室の後ろ側に向けて歩き出していた。
気をそらした間に、何があったんだ。というかどこに向かってるんだ?

「シャルル・デュノア」

「?な、なにかな、ボーデヴィッヒさん」

シャルルの席までたどり着くと、席に座っているシャルルを若干見下ろしながらその名を呼ぶ。
当のシャルルは何がなんだかわからないといった様子で、ボーデヴィッヒと顔を見合わせていた。

「私の好きなものは―――」

言うと同時にボーデヴィッヒはシャルルの襟元を掴みあげ、強引に手元へ引き寄せた。
当然シャルルの顔はボーデヴィッヒの顔に近づきそのまま・・・

「っっっっっ!!」

「・・・・・・・・・んぅ、はぁっ」

唇と唇が密着する。それはいわゆるキスというやつで。

「「「「「キャアアアアアアアアアアア――――――――!!!」」」」」

女子絶叫、驚いている奴やら、興奮してる奴やら、悲しんでいる奴やらとにかくクラスメイトの半分以上が叫んでいた。
ちなみに半分以下の連中は俺を含めてあっけにとられて、口をあけたまま言葉が出ない。

「わ、私はお前が好きだ、シャルル・デュノア。だからお前を私の嫁にする!異論は認めん!決定事項だ!」

「えっ!?お嫁さん??僕って女の子だったの???」

いや、おまえは男で合ってるよ。まごうことなく男だ、だから―――

「爆破しなければならないようだな。そうだよな、弾」

ゆらりと隣の席で盟友が立ち上がる。その手には『雪片弐型』が握られ手甲部分の装甲が部分展開されている。
そういう俺の右手にもドリルが展開されており、いつでも掘る準備が整っている。

「もてない男に幸福を、リア充には死を。抜け駆けはゆるさん・・・!!」

正直隣の一夏はもてないわけでは全くない。だが今この瞬間だけはあいつもこっち側の人間であるということを本能が告げていた。

「い、一夏!弾!どうなってるのこれ!?って、どうして二人は殺意むき出しで武装を展開してるのぉ!!!?」

「あはははははは、シャルルゥ、今幸せかい?」

「ちょっ!弾、ドリルが冗談じゃないくらいの回転数で廻ってるんだけど!一夏のほうも零落白夜を発動させてどうする気なの!?」

「せめて苦しまないように、一撃で葬り去ってやるからな。楽しかったぜ、お前と過ごした日々・・・」

一夏が顔に笑みを貼り付けて、優しい声色で語りかけるがその目は殺人鬼とかのそれだ。もうイッちゃってる。
ちなみに俺もそんな感じだと思う。

「ボーデヴィッヒさん!さっきのには深いわけがあるんだよね!そうしないといけなかった訳とかが!!できれば二人にそれを説明してほしいんだけどぉっ!!」

「ボーデヴィッヒさんなどと他人行儀に呼ぶな。夫婦なのだから名前で呼べ」

「ボーデヴィッヒさんんんんんんんっっっ!!!!!!???」

俺のドリルがうなりをあげてシャルルの席を粉砕し、一夏の刀が床を叩き割る。
シャルルは悲鳴を上げながらもボーデヴィッヒを抱いて、ISを起動し窓を突き破り逃走を図っている。
横で一夏が「器用なやつめ」と悪態をつく。その顔は悪鬼羅刹の如くだった。
ちなみに俺も同じ顔をしていると思う。
その悪鬼羅刹二匹はISを起動し、空に逃げたかつての友を追い立てる。
その後、上空を飛んでいた俺たち二人に千冬さんの出席簿投げが直撃し、俺たちの意識を刈り取るまで、シャルルと俺たちの鬼ごっこは続いたのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ああ、ひどい目にあった・・・」

「いえ、私が見ていた限りですとひどい目にあったのはシャルルさんであって、弾さんと一夏さんは自業自得だった気がするのですが」

「・・・・・・・・・我を忘れてました」

現在は放課後、晩飯を食おうと食堂まで来るとたまたまセシリアと会ったので朝食同様二人で食べることになったのだ。

「でも、ラウラさん良かったですわね。鈴さんも快く許してくれましたし」

「まぁ鈴も謝られてまで意地張って許さない、って言えるほどねちっこい性格してないしな。逆に潔すぎるし」

あのあとボーデヴィッヒは、昼休みにシャルルと共に鈴のところに行って謝ってきたんだそうだ。
結果は言わずもがな、ということで。

「何はともあれ一件落着だな。シャルルとボーデヴィッヒが転校してきてからのゴタゴタも」

「お疲れ様でした。とでも言っておきますわね」

「俺はたいしたことやってねえよ。今回は一夏や皆、それにシャルルの功績だ。俺なんて勝手にキレて、とちってただけだもんな」

「そのことについては箒さんにちゃんと謝って済んだことなのでしょう?なにも蒸し返さなくても」

そうは言っても、俺はあの出来事を意識してしまう訳があるんだよ。と言いたくなるがそれはセシリアにだけは言えない。
なので俺はセシリアの言葉を目の前の白飯ごと飲み込んだ。

「そういえばもう少しすれば臨海学校がありますわね。海、楽しみですわ」

「ん、そんな季節なんだな。ついこの間までは春だったのにもう夏かよ」

「あら、なんだか嫌そうな顔ですわね。嫌いなんですの?海」

「いや、そういう訳じゃねえよ。夏のジメッとした暑さは苦手だけどさ、海は好きだぜ。それにみんな水着だろ?セシリアの水着にも期待してる」

「ま、まぁ・・・それは、ちょっとハレンチすぎますわよ。発言が・・・」

少しからかい気味に言ってみると、朝のようにセシリアはまた顔を真っ赤に染めた。

顔を赤く染めて、うつむき気味に視線をそらすセシリアはかわいいと思う。
いつものセシリアも美少女の部類に、それもトップクラスに入るだろう。けどこうしてからかわれたりして恥ずかしがっている表情が一番だと俺は思う。
自分でこんなことを考えていて、また鈴が勝手にモノローグを書き換えているのではないかと疑ってしまうがそんなことは現実ではありえない。
これは紛れもなく俺の思考だ。俺が自分でセシリアのことがかわいいと、魅力的だと感じている。

「弾さん?わたくしの顔になにかついてますか?」

「いや、ちょっとセシリアの顔が赤くなってるのがおもしろくてよ」

「も、もう。からかわれるのはまだ慣れませんわね」

セシリアはそういうとそっぽを向いたまま、自分の夕食を口に運んでいく。今度は拗ねてしまったようだ。
そんな風に拗ねてしまっても、どんな風にしていてもセシリアのことが可愛く思えてしまうのは大分重症かもしれない。
この症状の名前は勿論分かっている。この感情の名前も勿論分かっている。

「ごめんって、機嫌直してくれよ。俺のおかずもわけてやるからさ」

「そんなことでわたくしは釣れるほど安くはありませんわよ。と、言いたいですがそのハンバーグをいただきましょうか。それで許してあげますわ」

「ひぃ、ずいぶんな代償だ」

「そうとわかれば、不用意にわたくしをからかわないことですわね」

セシリアが悪戯っぽい表情で笑う。それだけで鼓動が高鳴り、それが気づかれないように必死で平静を装う。
思えばボーデヴィッヒがセシリアと鈴を痛めつけていたとき、どちらも大切な人には変わりないはずなのに俺はセシリアを優先していた。
セシリアを真っ先に心配し、セシリアが無事だと分かった時には泣きそうになるほど安心した。
ボーデヴィッヒを憎み、我を忘れたことも、セシリアがあんなに傷つけられたことが原因だ。
もちろん、鈴は大切な親友だ。そのことに変わりはない。だからこそ不可解なこの心情、考えてみれば出る答えは一つだけだった。

『わ、私はお前が好きだ、シャルル・デュノア。だからお前を私の嫁にする!異論は認めん!決定事項だ!』

ボーデヴィッヒがシャルルに向かって言った言葉が一言一句違わず頭の中をリフレインする。

『私はお前が好きだ、シャルル・デュノア』

そうだ、そうなのだ。俺は、五反田弾は―――

「セシリア」

「なんですか、弾さん?」

「・・・いや、やっぱなんでもない」

「ちょっ、なんですの、人を呼んでおいてそれはないんじゃありません?」

セシリア・オルコットのことが好きなんだ。

今日はここまで。
次からは番外編ですよ。三つほどあります。
そして弾はセシリアのことを意識しだしたり、ラウラはシャルルにべったりだったり。
そんな感じに果たしてなるのでしょうか!?

次は木曜深夜くらいを予定しています。
それではこれにて

番外編を十時より投下開始します。

後じぶんは鈴のことがセシリアの次に好きです。

番外編3『ラウラと一夏』



「なあラウラ」

「どうした、織斑一夏」

「そのメモ帳と鉛筆はなんだ?」

朝、教室に来るとひどく妙な状況にめぐり合ってしまった。
一夏の机の前に、篠ノ之さんがいるのはまあいつも通りだ。
そしてその二人を観察するようにボーデヴィッヒが篠ノ之さんの隣に立っている。

「おいーっす。どういう状況だよこれ」

「む、おはよう。ごた・・・ごだ・・・・・・ダダンダ・ダン」

「なんだその間違え方!わざとか!?」

「すまない、噛んだだけだ」

「いいや、わざとだね」

「すまない、かみまみた」

「こいつっ!わざとじゃない!?」

あ、このネタ通じるんだ。

「なにをやっているんだ五反田」

「おう弾、おはよう。で、ラウラさっきの話の続きなんだけど」

「これのことだな・・・織斑一夏、私が貴様のことを憎んでいたことは知っているな」

「う、まぁあんなことされればそりゃあ」

あんなこと、とはいきなりビンタされたり、謂れのないことで喧嘩を売られたりetc
一夏はそのことを思い出したのか苦い顔をしている。

「だがな、私は何も知らずに憎んでいた。それではいけないと私は気づいたのだ」

「ラウラ・・・」

ボーデヴィッヒは空いているほうの手をぎゅっと握り締め、語気を強めてその決意を表す。
一夏もそんなボーデヴィッヒを見て感銘を受けたのかその顔から苦い表情が消えていく。
そんな二人を見ていると俺も微笑ましくなって、口元が緩む。いい光景だ、あのボーデヴィッヒがこんなことを言うようになるなんてな。
しかし篠ノ之さんだけはこの状況でまだ釈然としないように眉を寄せている。何か腑に落ちないことでもあるのか?

「それでラウラ、お前がメモ帳とペンを持っている理由は結局なんなのだ?」

あ、そういえばその理由については全然分かってないじゃないか。
ラウラもはぐらかしていたわけではないようで、すっかり忘れていた、と言わんばかりに拳をメモ帳の上にポン、と置く。

「つまり私は織斑一夏を調べ、最終的に憎むべき相手か、そうではないかを判断しようと思ったのだ」

「あ、俺許されたわけじゃないんですね」

意図したわけではないだろうが一夏は上げて、落とされたような形になり、すこしショックを受けた模様。なんか可哀想だな。

「当たり前だろう、貴様は私の敬愛する教官にあんな顔をさせる唯一の存在だ。もしシャルルにも手を出していたら私は貴様を殺していただろう」

「俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせておりませんがぁ!!」

「ん、あんな顔?千冬さんが一夏に対してか?」

「そうだ、確か私の知る語彙であの顔を表すなら・・・・・・女の顔?たしかこの国の言葉で表すならばこれで合っているはずだが―――篠ノ之箒、どうしたんだ真剣など構えて?」

俺の横で鬼が一人生まれてしまった。そういえば女の人が憎しみで鬼になってしまう話も結構あるのでこれはこれで正しいのか、鬼のなり方については。
つーかどっから出したんだよ、その真剣。

「一夏ぁ、お前という奴はさんざん世の女性に手を出しておきながらそれに飽き足らず、ついには実の姉に手を出すとは・・・・・・貴様はここで成敗するっ!」

「ちょ、待て!箒、誤解だっ!誤解というか絶対そんなことあるわけないの分かってるだろう!!待って、振り上げるなっ!!そこから振り下ろすなよ、絶対振り下ろすなよっ!!ぎゃあああああああああ!!!!!」

確実に一夏の頭をかち割るために放たれた一刀を、一夏は火事場のバカ力か見事その両の手のひらで受け止めて見せた。
いわゆる真剣白羽取りである。

「その程度で防いだつもりか!?せいっ!!」

「ふぐっ!」

一夏が両手を上に掲げノーガードなのを利用し、篠ノ之さんの前蹴りが一夏の腹に突き刺さる。
クリーンヒットしたその強烈な一撃に、一夏は斜め後ろの机に激突。しかしそれで距離が取れたことを利用し逃走を開始。
先ほどのダメージを感じさせないほどの走りを見せる。まさに必死である、止まれば必ず死ぬ状況だ。

「ひいいいいいいいいいいっっ!!!」

「待てぇ!おとなしく斬られろ!」

高校一年生が繰り広げる会話じゃねえ。
そして数秒としないうちに二人は教室から消える。後に残されたのは俺とボーデヴィッヒ、それと篠ノ之さんのけっこう本気の殺気に当てられて怯えるクラスメイト達だけだった。

「むう、織斑一夏が行ってしまったな。それにしても篠ノ之箒はなにをあんなに怒っていたのだ?」

「お前はあれを見てよく平静を、いやお前ならあんなの日常茶飯事だったのか」

「?」

「まぁいいや、一夏のことが知りたいのなら俺も知ってることは教えてやるよ。どうせホームルームまでヒマだし」

「それは本当か。助かるぞ、ダダンダ・ダン」

「やっぱりわざとじゃねえかよ!!」

番外編4『男の子/女の子』



時間は放課後、場所は学生寮の織斑一夏とシャルル・デュノアの部屋の前。
その扉の前には一人分の人影が、なにやらうずくまるように身を寄せていた。
彼女の名前はセシリア・オルコット。一夏とシャルルのクラスメイトで彼と親しい友人である彼女が部屋の前にいることはなにも不自然ではない。
だがその部屋の前で動かずに、じっとしているのは不自然だ。
そしてそこに彼女も、部屋の主の一夏とシャルルもよく知る人物が近づいてきた。

「あれ?セシリアじゃない、なにやってんの?こんなところで、一夏かシャルルに用なの?」

「しっ、しぃ~~~!静かにしてくださいまし!!」

「いや、あんたのほうがうるさいし」

織斑一夏のセカンド幼馴染こと、凰鈴音である。
彼女は一夏たちを、あわよくば一夏と二人きりで夕食をとろうと、下心を秘めながら食事に誘うため部屋の前までやってきた次第である。
その鈴からセシリアを見るとまるっきり不審である。もしかしたら彼女が思いを寄せる五反田弾から、織斑一夏に乗り換えたのか?という思いが一瞬頭をよぎるが。

(まぁその可能性はないわね。ちょろそうに見えてこの子結構芯はしっかりしてるし)

しかしその可能性が違うとなるとなぜ一夏とシャルルの部屋の前に?しかも扉に身を寄せて・・・

「まさか、盗み聞き?」

「・・・・・・・・・」

「沈黙は肯定とみなす」

「うぐう」

セシリアはがくっと肩を落とし、悲痛なうめき声を上げる。
プライドの高い彼女のことだ、そんな自分が盗み聞きなどをしていたと他の奴に知られたくなかったのだろう。

「別に責めてるわけじゃないのよ、おもしろそうだから混ぜなさい」

そして鈴の性格はそんなことを責めるような性格じゃない。むしろ責められるような性格ではない、むしろ彼女が積極的にそういうことに首を突っ込む性分だからである。

『で?シャルルはどんな女の子が好みなんだよ?早く吐いて楽になっちまえよ』

『俺たちこの学園で三人だけの男子なんだからこんな話題も俺たちだけしかできないしさ、ここは素直になろうぜシャルル』

中から聞こえるのは弾と一夏の声だった。どうやら男子特有の下世話な雑談を繰り広げようと、シャルルを巻き込んで一夏の部屋に集まったのだろう。

「セシリア、今の状況は?」

「シャルルさんがまだ抵抗を続けているようですわ。お二人はシャルルさんが喋るなら自分たちも喋るから、と言っていましたわ」

「なるほど、まだ核心には触れてないわけね。ならまずはこっちの録音班を呼ぶしかないわね」

「録音班?」

言うが早いか鈴は器用にISの機能だけ呼び出し、バーチャルコンソールを操りはじめた。

「鈴さん、一体なにを―――」

「シャルルの女の好みが聞けると聞いて」

「ひひゃあ!」

そしてコンソールを操り始めて数秒と経たずに、音もなくセシリアの隣にラウラ・ボーデヴィッヒが姿を現した。
しかもその小脇にはものものしい機械が抱えられている。

「ちょっと、セシリア声でかい。ラウラ、準備は出来てる?」

「愚問だ、その気になれば嫁やあの二人の衣擦れの音まで解析できるぞ」

「上等。さっそくとりかかってちょうだい」

「任務了解」

ラウラは小脇に抱えていた機械からコードを伸ばしたり、他の機材につなげたりをめまぐるしい速度でこなしてゆく。

「あの、鈴さんこれはいったい・・・」

「盗聴」

「そんな堂々と犯罪行為だと言い切らないでください」

「でもあんただって弾の好み聞きたくない?」

「・・・・・・・・・・・」

「沈黙は肯定とみなす」

「鈴音、準備が整ったぞ。これより録音を開始する」

「OK」

「もう死なばもろともですわ」

もうセシリアもなかばやけである。ここまで来れば立派な共犯、今この現場が教員に目撃されれば言い訳することはかなわず自分も共犯者として扱われるだろう。
ただ思いを寄せるものの好みがこっそり聞きたかった乙女心がどこをどう間違ってこんなことになってしまったのか。

『でもさ、僕も恥ずかしいし二人のほうから先に言ってよ。僕だけ言って二人が言わないとも限らないし』

『だがその逆もありえる、俺達が言ってシャルルが言わないとかさ』

『うっ、確かにそうだけど・・・だったら恨みっこなしでジャンケンで順番決めない?これなら僕も納得・・・できるかなあ」

『よっしゃジャンケンな!言質とったかんな!なぁ一夏!』

『おう!しっかり聞いたぜシャルルの言葉!』

中では男子高校生特有の馬鹿のようなやり取りが続いている。若干一夏もシャルルもテンションが高くなっているようだ。弾は・・・いつもどおり。

『いっくぞお・・・・・・ジャンケンホイッ!!だああああああ負けたああ!!!』

『ははははははバッカだな弾!さぁシャルル、最終決戦だ!』

『ううう、負けても勝っても結局は言うことに。僕に得がないよう・・・』

『ジャ~ンケン、ほいっ!アイコでショッ!ショッ!』

『ショッ!ッッッ!!ああああああ負けだあぁ』

どうやら中では熱戦の末に弾→シャルル→一夏の順番に決まったらしい。それにしてもたかがジャンケンで勝ち負けに一喜一憂するさまはかなりこっけいだ。
外にいる三人も若干あきれ返っている。

「なんといいますか、殿方というのは往々にして愚かですわね」

「まぁ許してやんなさいよ。男子高校生なんてどの世界にいってもこんな感じよ。あのシャルルでさえ負けたことにガチで悔しがってたでしょ、これが現実よ」

「嫁の負けたときの声は意外と低いのだな。メモしておこう」

「あんたは歪みないわよね、まったく」

「もういやこの学園、ですわ」

『じゃあジャンケンで負けたし、俺の番からか―――』

「っっ!!!!」

中の人物にも、外の人物にもあきれ返っていたセシリアだが弾の声が聞こえるや否や扉に張り付いた。
その速さといったら瞬時加速を使ったISにも引け劣らなかった。

「いや、やっぱりあんたも大概だと思うけどね」

「あ、いえこれは・・・」

思わず顔を真っ赤に染めるセシリア、恋は盲目とはよく言ったものである。

『あれだな、スタイル良いに越したことはねえよな』

『ほう、つまり胸は大きいほうが良いと』

『いや、胸がどうって訳じゃねえけどさ、バランス取れてるとそんなに個々の大きさって気にならなくね?』

「あんた結構スタイルいいわよね。よかったじゃんセシリア」

「り、鈴さん!?」

「ほう、セシリアはダダンダ・ダンのことが・・・メモを取っておこう」

「ああもうなにから突っ込めば良いやら、わけがわかりませんわ」

扉の中の会話も十分セシリアを揺さぶる内容だが、隣にいる二人も違う意味でセシリアを揺さぶる。
もうなにもかも放棄して中の会話だけに耳をすませていたいと思うセシリアであった。

『ところでシャルル、ISスーツについてどう思う?』

『え、どう思うって。便利だよね、汗かいてもべたつかないし動きやすいし。あ、でも着替えるのに時間が―――』

『バッカヤローーーー!!!』

『い、一夏!?どうしたのいきなり叫んで?』

『お前、弾がどういう意味で聞いたのか全然わかってねえよ。この場でそんな良い子ちゃんの答えを期待してる奴がいると思ってんのか?本気でそんなこと思ってるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!』

(なんだか一夏さんのキャラがいきなり崩壊いたしましたわ。でもISスーツの話題で他に何が?)

もう声に出すのは面倒なので一人頭の中で思考を巡らすセシリア、そして部屋の中では男子高校生空間のせいで人格が崩れ始める一夏。カオスである。

『いいか、シャルル。ISスーツなんてほとんど水着と変わらないほどの露出度なんだぞ、そこに何かないのか?』

『・・・・・・・・ないことはないよ』

『おおおおおおお!!シャルルさんマジっすか!?おっしゃああ!あのシャルルさんも俺たちと同じ男子高校生だったぜ!見たかこの野郎!』

『で!?で!?どう思うんだよ!!』

「あいつらどんだけテンション上がってるのよ。これ隣の部屋にも聞こえてるんじゃない?」

「録音の必要はなかったかもしれんな」

「殿方ってほんとバカ」

外と中、男と女のテンションの差がもう決定的なまでに広がっている。しかし中の男子たちもよもや自分たちの会話が盗み聞きどころか録音までされているとは夢にも思っていないだろう。
その可能性が頭にあればここまでバカ騒ぎはしていなかったはずだ。そしてそのバカ騒ぎっぷりはさらにエスカレートする。

『ISスーツってさ、体の凹凸とかはっきりでるよね?だからさ・・・その・・・おへそとか・・・・・・結構ぐっと来るんだよね』

『『・・・・・・・・・・・・』』

『・・・どうして二人とも涙流してるの?』

『いや、ついにシャルルとも親友になれたと思うと嬉しくてな。やっぱり男の友情はこんな話でもしなきゃ完璧には深まらねえよ』

『ああ、一夏の言うとおりだ。シャルル、これから俺たちは心の友だ。改めてよろしくな』

『ふ、二人とも・・・・・・』

扉の中ではバカ騒ぎを通り越してカオスも通り越して、変な空間が展開している。
中の面子は良い話をしているつもりだろうが後で録音された内容を聞けば目を覚ますだろう。そしてそののち悶絶するだろう、黒歴史ものの暴走である。
そして外の面子はといえば。

「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

ドン引きしていた。

「そうか、男の友情というのは猥談の一つでもこなさなければ本当の友情とはいえないのだな。メモを取って―――」

「それはとらんでいい」

一人を除きドン引きしていた。
もちろん外の状況を知らない三人の会話はまだ続いている。正直もうやめてほしい気はするが。

「なんかこれ以上聞いてたら何かが駄目になる気がするわ。あたし一抜けっと」

「わたくしもここまでのようですわ。それにわたくしは当初の目的は果たせましたし」

「で、ラウラはどうすんの?」

「私は最後まで粘るつもりだ、最後まで何が起こるかわからんからな」

「それじゃあね。どうするセシリア、一緒にご飯食べに行く?」

「ええ、そういたしましょう。それではラウラさんおやすみなさい」

男子の悪乗り、しかも思い人のそれを聞いていると自分の中が何かが崩れそうになるのか、鈴とセシリアはもう十分といった様子で立ち上がる。
ラウラはといえば扉に張り付いたまま離れていく二人に無言で手を振っていた。

番外編5『五反田、実家に帰る』



事の始まりは、俺が休みの日を利用して実家に帰ることを一夏に話したことが発端になる。

「だったら俺も弾の家に行ってもいいか?ひさしぶりに厳さんの作った料理も食ってみたいし」

ちなみに厳さんは俺のじいちゃん、八十を過ぎてなおうちがやってる五反田食堂の現役大将だ。
そしてこの会話を聞いていたセシリアがこちらに寄ってきて。

「わたくしもご一緒してもよろしいかしら。弾さんには料理を教えてもらったりお世話になってますし」

さらにここでシャルルがこの話に乗ってきた。

「おもしろそうだし僕も一緒に行っていいかな?」

シャルルが来たということはラウラも。

「嫁が行くというなら私も行くぞ」

んで隣のクラスからわざわざ鈴まで。

「あたしも弾の家には帰国してから一回も行ってないし、ちょっと行ってみたいんだけど」

最後には篠ノ之さんも。

「私だけ仲間はずれ、ということはないだろうな?」

合計7人の大所帯に、というか俺の部屋にはいるかな?などと思案していたのが懐かしい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうしてこうなった」

現在俺の家の前。面子は俺とセシリアのふたりだけ。

「どうしてこうなった、と言われましても。鈴さんは急用ができキャンセル、一夏さんは白式に関しての書類がいくつか発生していつ来れるかわからず、箒さんは一夏さんに付き添い、シャルルさんはトーナメントの時壊れた胸部装甲スペアの受領立会い、ラウラさんはその付き添い、でしたわね」

「そうだよなぁ・・・ま、いないのは理由があるから仕方がないよな。行くか?」

「ええ、そうしましょう」

古風な開けるとがらがらと鳴る戸を横に押しやり、俺たちは五反田食堂の入り口をくぐる。

「いらっしゃーい!ってお兄か・・・おかえり」

今日は店をやってる日なので、普通に客として最初出迎えられてしまう。

「ただいま、けど今日は俺ひとりじゃねえぞ。セシリア、こいつは蘭、俺の妹だ」

「お邪魔します、わたくし弾さんと同じクラスでお世話になっております。セシリア・オルコットと申しますわ」

「・・・・・・・・・」

なんとなく予想はしていたが妹の蘭はセシリアの放つお嬢様オーラに当てられて、口をあけたまま立ち尽くしていた。
自分の家ながら確かにセシリアの存在が不釣合いだとは思うよ、この場所は。さらにいえば俺の隣にいるのも結構つりあいの取れていない感が半端ない。

「お、お兄に金髪お嬢様系美人の彼女が・・・そんな馬鹿な、これは夢に違いない。そうよ五反田蘭、一夏さんならまだしもお兄に―――」

あまりにもありえない状況に脳がオーバーヒートしたのか、訳の分からないことを口走っている。
だが自分でも分かっているとはいえやっぱり俺とセシリアがそういう関係であることがありえないことだと言われるとなんかショックだよな。
もう少しがんばろうかな、顔はともかく勉強とかISの操縦とかは練習とかでどうにかなるしな。

「わわわわたくしが弾さんの彼女・・・・・・はふぅっ」

「だあああ!大丈夫かセシリア!おい蘭、お前が変なこと言うからセシリアが倒れたじゃねえか!!」

こっちもこっちでなんかオーバーヒートしてるし、しかもどさくさに抱きとめちまったよ!
ああああ柔らけええええ!!!俺もオーバーヒートしちまうじゃねえかよっ!!

「こぉら弾!!てめえいくら別嬪さんだからって、やっていいことと悪いことがあるんだぞテメエ!!」

「いや誘拐とかじゃないから!クラスメイト!友達!セシリア・オルコットだよ爺ちゃん!!」

しかも俺達が騒いでるのを聞きつけたのか奥のほうから爺ちゃん、こと五反田食堂の主、五反田厳が奥から顔を出してとんでもないこと言いやがった。
すこしは孫のことを信用してもらいたいぜ全く。

「はっ!私は今まで何を・・・ああ!お兄なにオルコットさんを無理矢理抱きしめてるのよ!この変態!さっさと放しなさい!!」

「うわあ、全面的に俺のせいかよ。しかも無理矢理抱きしめたことにされてるし」

「問答無用!」

蘭は俺の腕の中からするりとセシリアを奪い取ると、その肩を軽くゆすって呼びかける。

「オルコットさん、大丈夫ですか?オルコットさん」

「はっ!わたくしは今まで一体何を」

「すみません。私がついていながらお兄がオルコットさんにハレンチなことを」

「えっ!?わたくし弾さんに何かされたんですか!?」

「蘭お前、言葉のチョイス悪いわぁ!!しかも全面的に濡れ衣!俺ただセシリアのこと抱きとめただけだからね!!」

「抱きとめ・・・抱きとめ・・・抱きしめ・・・」

しまったああ!!俺のほうこそ言葉のチョイスミスッ!!余計なこと言っちまったああ!!
セシリアの奴また顔真っ赤にしてオーバーヒート寸前だし、やばいってこれ!

「あらあら、これは一体どういう状況かしら。とりあえず弾、おかえりなさい」

ここで満を持して救世主登場、五反田食堂の看板娘(自称)、五反田蓮。
実年齢は  歳、ただ本人曰く『二十八歳から年をとってないの~』という言葉のとおり息子の俺から見ても若々しい。

「それで、そっちのお嬢さんはどちらさまかしら?弾のお友達?」

「そうそれ!やっと普通の反応してくれた!ほら、セシリア、ぼーっとしてないで。こっちは俺の母さん」

「あ、わたくしセシリア・オルコットと申します。弾さんには・・・・・・お母様?弾さん、お母様はいったいおいくつなのですか?」

うん、うちの母さんとはじめて会った人は大概その反応するんだよな。まあわからんでもない。

「うちの母さんは  歳だ」

「え?よく聞き取れなかったのですが」

「  歳だ」

「え?」

「諦めろ」

「はい」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日はたまたまいない親父以外の面子と挨拶を済ませたセシリアを当初の予定通り、俺の部屋に通すことになったのだがそこで一つの問題が発生した。
それは今日、本来はいたはずの人物がことごとくいなくなったことに起因する。

(俺の部屋に二人っきりってまずくないか?)

他のみんなもいたのなら俺の部屋にセシリアを通すなんて、至って普通のことだ。友達を部屋に入れるくらいなら。
だが二人っきり、曲がりなりにも想いを寄せる女の子と二人っきり。かなりまずい、なにがまずいって俺の心臓が潰れることは必須。
心拍数上がりすぎて寿命が縮む。

「弾さん、どうかしましたか?先ほどから扉の前で立ち止まって」

セシリアは何事もないかのような顔で、こちらを不思議そうに見ている。

(うぐぐぐぐ、俺だけが意識しすぎなのか・・・)

「あれ、お兄まだ部屋入ってなかったの?お茶とお菓子持ってきたんだけど」

俺が一人悶々と考えていると後ろから声を掛けられた。案の定、蘭だったわけだがその時俺の頭の中に秘策がひらめく。

「お、おう、今入るところだから。蘭もそれ持って入ってきてくれ」

蘭の手の上にあるお盆をとって部屋に入れば蘭はここでお役御免、食堂の手伝いに戻るか、自分の部屋に行くかの二択だ。
ならば多少わざとらしくとも蘭には部屋にいてもらわねばならん。
部屋に入るとセシリアに座布団を手渡して空いているところに座るように促す。今使われてはいないものの、そこまでホコリっぽくもないし寮に入る前に掃除もしたので汚くもない。
セシリアの方は問題なし、ここで問題は蘭なのだがその蘭はお盆をセシリアの前においてそそくさと部屋を出ようとしている。
ここはちょっと待ってもらわなければならん。俺の心臓のためにも。

「ちょ、ちょっと待て蘭」

「どうしたのお兄?」

「ちょっとセシリアと話していかないか?貴重なIS学園の話とか」

「いや、お兄からも聞けるし」

「じゃあ・・・そうだ、セシリアは一夏の友達でもあるし一夏の話も―――」

「っ!・・・ってそれもお兄から聞けるじゃん」

最後に残されていた俺の切り札もあっさりかわされてしまった。そりゃそうだ、一夏は俺たちの共通の友達だし、俺と一夏はセシリアより一緒に過ごしてるし。
そして万策尽きた俺は―――

「まぁいいからこの部屋に居ろ!いいな!じゃあ俺は自分の分のお茶とってくるから!」

いつもならこんな語気強く蘭に言い出せないんだけど今は緊急事態だ、後で何をされても今さえ切り抜ければどうということはない。
俺は反論されるよりも早く部屋を飛び出し、台所のある一階に繋がる階段を駆け下りた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・・・・・・・っふう」

セシリアは弾が部屋から出て行くのと同時に息を吐き出す。安堵の息だ。
弾と蘭の会話はセシリアには聞こえていなかったのでなぜ弾が出て行ったのかはわかってはいなかったが、これはセシリアには助かる出来事だった。
好きな人の家にいきなりお邪魔することになり、しかも結果的に二人きり。
さらに追い討ちをかけるように様々なことがあり、ついには弾の部屋へ通されることになった。
ただでさえキャパシティーを超えるほど気恥ずかしい思いに満たされていたのに、これ以上弾と一緒にいたらどうなっていたのか分かったものではない。
さっきも部屋の前ではセシリアは自分を落ち着けるのに必死で、どんな顔になっていたか想像したくもないと思っている。

(学園でも二人になることはよくありましたが、想い人の家というシュチュエーションだけでこうも変わるものなのですね)

しかし弾は出て行ったものの、蘭は部屋に残りベッドに腰掛けてセシリアのほうを見つめている。
セシリアとしてはその視線の意味が理解できないし、どう話しかけたらいいものか迷っていた。
同年代の女の子とはいえ、初対面であまり蘭についての情報も持ち合わせていない。ならば共通の話題、つまり弾のことなら話せるのではないか?とセシリアがこれからの方針を固めかけたその時―――

「オルコットさんってお兄のどこが良くて付き合ってるんですか?」

「はいぃっ!!?」

いきなりの衝撃発言に声が裏返る。

「あ、やっぱり。いやぁおかしいと思ったんですよ、お兄がいきなり女の人を家に連れてくるなんて。で、いつ頃から?告白はどっちから?」

「あの・・・ちが・・・」

どうやら蘭はセシリアの反応が図星だったと勘違いしたようだ、まぁあながち間違いではないのだが二人はそこまで至っているわけではない。

「ち、違いますわ!わたくしと弾さんはクラスメイトで友人ではありますが、こ、こ、こいびとではありませんわ」

「あれ?本当に違うんですか?」

「そうです」

セシリアが必死に弁解したところ、やけにあっさりと納得したように引き下がる蘭。
あっさりしすぎにも感じたがそれでも誤解が解けたことに胸を撫で下ろすセシリア。
目の前に用意された自分用のお茶にもようやく口をつける。元々熱く淹れられていたのか、少し時間がたった今は温度も人肌程度で丁度良かった。

「じゃあどこら辺が好きなんですか?お兄のこと好きなんですよね?」

「ぶふっ!!」

思わず口の中のお茶を噴出してしまう。霧のように細かく噴出されたお茶の中に虹が見えた気がした。

「な、なんのことでしょうか?わたくしは別にそんな―――」

「私も女ですからわかりますよ、というかそういうこと抜きでオルコットさんがお兄のこと好きなの丸わかりですよ」

「・・・・・・・・・マジですの?」

「マジです。というかあれで気づかないの一夏さんくらいじゃないですかね」

「ということは弾さんにも・・・あわあわわわわわ」

セシリアは顔を真っ赤にして頬を両手で押さえながら、身をくねらせていた。
その仕草は少々子供っぽいが、セシリアがやると愛らしく見えるから不思議だ。
蘭も同性ながらそのセシリアの仕草に少し見とれてしまうが、今は話の続きである。兄の弾がいつ戻ってくるとも分からない。

「落ち着いてください。お兄なら大丈夫ですよ、ばれてても大丈夫なんです」

「どういうことですの?」

「いいですか、お兄は一夏さんと中学三年間過ごしたんです。隣にあんな人がずっといたんですよ」

「あんな、とは?」

「えっとですね・・・つまり・・・すごく女性に、もてる人ってことです・・・・・・」

あんまり言葉に出して言いたくない言葉だが説明するにはしょうがない。
密かに想いを寄せる相手にはライバルが多いことを改めて自覚してしまった蘭だが必死に説明を続ける。

「だからか分からないですけど、お兄は自分に対しての好意を信じられないみたいなんです。自分を好きになるくらいなら一夏さんのほうを好きになるだろう、って具合に」

「それは難儀ですわね」

「なのでセシリアさんがお兄のこと好きだってばれても、お兄は思い過ごしだって思い込むわけです。だから大丈夫なんです」

「でも・・・そうなるといくら弾さんにアプローチしても無駄ということかしら、そうなるとわたくしどうすれば」

「・・・・・・・・・やっぱりオルコットさん、お兄のこと好きなんじゃないですか」

「はっ!ゆ、誘導尋問ですわね!?」

「いや、最初は普通に話してたらオルコットさんが勝手に」

むしろ動揺をしていた時点でアウトだったというのは黙っておこうと思う蘭であった。

「じゃあ最初の質問に答えてくださいよ、お兄のどこがいいと思ったのか」

「ううう・・・もう、隠しても無駄のようですわね。分かりました、お話します」

セシリアは肩を落とし観念したように話し出す。それを蘭は興味津々といった様子で体を乗り出し気味に聞く。
やはり女性の共通の話題というのは恋バナが一番なのだろうか。
弾が階段を昇ってくる音が聞こえるまでこの話は続いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


五反田食堂の入り口で弾とセシリアを見送っていた蘭が、入り口をくぐり食堂の中に戻ってくるとそこで待っていたのは母の蓮だった。
どうせなら二人を見送ってあげたらよかったのに、とも思ったがあのお兄なのでいいかなと考えるのはやめた。

「ずいぶん仲良くなったのね、あのセシリアって子と」

「え、そうかな?」

「だって弾とのこと、ずいぶんとアドバイスしていたじゃない?」

「き、聞いてたの!?」

「聞こえただけです」

そう言って口に手を当てて軽やかに笑う蓮。その仕草は年齢から想像もつかないほど可愛らしかったが、その言葉には年齢を重ねたからこそ出る深みがあった。
つまり母にとっては娘のことなどお見通しということなのだ。そしてその言葉に含まれる意味を蘭は娘としてきっちり汲み取り、汲み取ったがゆえに諦めたように口を開く。

「・・・・・・だってさ、せっかくお兄のこと好きになってくれた人が出来たんだもの」

「あらあら、なんだかんだ言っていても弾のことが好きなのね蘭は」

「うう、そこだけはノーコメントで」

「家族だものね」

コメントしなかった部分を読んで返してくる母に、やっぱりこの人には敵わない、と頬を一掻き。
ニコニコと笑いながら見透かすような視線を送る母を振り切り調理場の中に入っていく。
別に逃げたわけではなく、店の手伝いの途中に見送りをしていたのでまだやることは残っているのだ。

「お爺ちゃんゴメン、すぐお皿とか洗っちゃうから」

「別に急ぐこたぁねえよ。客が来てるわけでもないんだ」

「それでもやっちゃうよ。・・・そういえばお兄がお茶取りに下りたんだけど妙に遅かったの、何か知ってる?」

「・・・いや、知らん」

「そっかぁ」

会話はそれきりにして蘭は洗面台に浸かった皿を一枚手に取った。
仕事をしてる最中にむやみに喋るとおたまが飛んでくるからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なぁセシリア、蘭とすごい仲よさそうだったけど俺のいない間に何があったんだ?」

今は帰り道、二人で並んで歩いている。今日一日一緒にいたおかげか二人きりで歩いていても以前と同じように応対できている。凄い進歩だな俺。

「ふふふ、それは秘密ですわ。それにいない間といえば弾さんもずいぶんと帰ってくるのが遅かったですわよね。お茶を取ってきていただけだったんでしょう?」

「うーん、そうなんだけどさ・・・それは秘密っていうことで」

「あら、それは聞けませんわね」

隣で可笑しそうに微笑むセシリア、その笑顔を見て今日はセシリアと一緒に家に行けて良かったと思う。
何があったかは分からないが蘭と仲良くなれたみたいだし、鈴とはあんまり仲良くないからな、蘭の奴。まぁ理由はお互い一夏が好きなもの同士だからか。
単純ながら複雑な問題だぜ。

「なあセシリア、今日楽しかったか?みんな来れなかったしさ、ちょっと不安だったんだ」

「わたくしの顔を見て分かりませんか?」

「ごめん、聞くまでもなかったな」

「まぁ確かに来れなかったみなさんともまた一緒に来たいですけど―――」

そう言いながらセシリアは駆け足で俺の前を何歩か先に行く。跳ねるように、軽やかに、その長い金色の髪を揺らしながら。
そして振り返り、笑う。笑って、言う。

「今度も同じように、それと今日とは別の場所も見てみたいですわ。弾さんの育った場所を」

その眩しいような笑顔とともに放たれた言葉は、直接言ったわけではないが、『二人で』という意味にも取れる。
ちょっと深読みがすぎるか?

「セシリア」

「はい?」

俺は少し早足でセシリアの隣に並びなおす。

「あんま先行かないでくれ」

セシリアの言葉の答えをはぐらかして、歩き出す。
少し遅れて歩き出したセシリアの表情は見えないが何も言ってこない。

誤魔化せたのか?とも思うが、はぐらかされて不機嫌になったともとれる。
やはりさきほどの話を誤魔化さずに返事をするか、このまま無言を貫くか頭の中で悩んでいると、今日爺ちゃんに言われた言葉がふと頭をよぎる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あれは部屋を飛び出て下に下りた時のこと、母さんが爺ちゃんが呼んでいるとのことで食堂のほうの調理場まで行ってきたのだ。
セシリアにも蘭にも話してないが部屋に戻るのが遅れたのはこれが原因。

「爺ちゃん、何か用?」

「来たか・・・」

爺ちゃんはぼそり、と呟くようにそれだけ言うとお客さんに出す料理を作る手を動かし始めた。
仕事の邪魔をするのもあれなので黙って調理場の隅で立っていると三分としないうちに完成して、母さんの手で運ばれていった。

「弾、お前あの子に惚れてるだろ?」

「っ!?・・・・・・ああ、そうだよ」

調理を終えて手ぬぐいで額の汗をぬぐいながら、さらりととんでもないことを言う爺ちゃん。
思わず言葉に詰まるが、爺ちゃんには嘘なんて通用しないだろうし、俺はあっさりと認めた。でもそんなにわかりやすかったか?

「なかなか大した嬢ちゃんだ、芯の強そうな目をしてやがる。逃すなよ」

「ああ、他の奴に渡す気はない」

爺ちゃんの目を真っ直ぐに見て宣言する。正直自分でもこんな程まで思っていたのか、と驚いてはいたが流れで言ったわけじゃない。
れっきとした俺の意思から出た言葉だ。喉が振るえ、空気に伝わり、鼓膜に届く。意味を自分で再確認することで思いが強固になるのを感じる。

「はっ・・・見ない間にお前もいい目をするようになったじゃねえか」

「え、そうかな?」

爺ちゃんに褒められるなんていつ以来だろう。予想外の出来事に少し頬が緩む。

「泣かしたらぶっ殺すからな」

「それって向こう側の人が言う台詞じゃないの?」

「アホ、好いた女泣かすような奴は死んで当然だろうが」

「あ、はい」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今、セシリアは泣いていない。爺ちゃんの言ってたことは破ってない。
でもそれでいいのかよ、好きな女の子不機嫌にさせてもいいのかよ。しかも理由が情けない。
自分の勘違いだったら恥ずかしいから、んなの俺の都合だ。
勘違いだったら勘違いだったで、滑稽な俺を笑ってもらえばいいんだ。

「セシリア」

「は、はい!」

突然声をかけたからかセシリアは心なしか慌てたような声色だった。
俺はそれには構わず続ける。

「もう臨海学校も近いからさ、その準備とかもあるしすぐには無理だ」

「・・・はい」

「でも終わってからだったらさ、時間もあるし夏休みを使って行くのもありかもな」

「!!・・・はい」

俺も多少ぼやかして言った、それでもセシリアの顔には明るい色が浮かんでいる。
勿論セシリアがどういう意味で取ったかはわからない。
でも、ようはセシリアの望む形に俺があわせればセシリアの顔は曇らないってこと。
たとえ俺の方に気持ちが向いていないとしても、そんなことは気にしない。
それは俺の都合だから。俺はセシリアが笑っていればそれでいい。それでいいと、思った。

というわけで番外編でした。蘭ちゃんもう少し出したほうが良かっただろうか・・・
まぁ出番を本編に増やせばいいだけですよね。

ラウラと一夏の番外編ではこのSSでのラウラの変化をちょこっと書いてます。
知識欲が多い子になってメモをよくとる子になっています。
あとうちのSSでは箒ちゃんのバイオレンス性が少なかったのでそこも足しておきました。やっぱりバイオレンスじゃなきゃ箒ちゃんじゃないですよね。

あとついにスレの半分をすぎました。ここまで来れたのも反応や感想をくれる皆様のおかげです。
自分の性格上、反応がないとすぐに飽きていたでしょう。これからも暖かい目で見ていただけると幸いです。
もっと言いたいことはあるのですが長くなるのでここで筆を置きます。
それではこれにて

それでは久しぶりの投下をはじめたいと思います。
今日はショッピングモール編の終了まで、次からは臨海学校に入りますよ。
それではいきます

「なぁ鈴、林間学校に私服はいらないだろう・・・」

「なに言ってるのよ、あんたバカでしょ。そんなんだからあんたは一夏なのよ」

「意味が分からん・・・」

弾とセシリアを追っていたはずの俺と鈴は、面子に箒を加えてなぜか女性用の服が並ぶエリアに訪れていた。
最初の目的からも、その後に控えていた臨海学校の準備という目的からも完璧に外れている。

「なぁ一夏、お前たちは何のためにここに来ていたんだ?私はてっきり臨海学校の準備かなにかかと・・・・・・もしくはデ、デートでもしているのかと・・・」

「え?最後のほう聞き取れなかったんだけど。ま、前者の方であってるけどな。臨海学校で必要なものの買出し・・・のはずだったんだけど」

「ねぇねぇ一夏!この服とかどう、似合ってる?似合ってる?」

「まぁこのざまだよ」

俺と箒の会話をまったく意に介しないように(というか聞いてない)、鈴は服を体にあててこちらに向かって問いかける。
どうしてこうなったかほんの少し前の自分たちの行動を思い返す。
たしか弾とセシリアを見失った俺と鈴が箒と偶然出会った。
そして鈴は箒に説明することもないまま、『あっちに行ったんじゃないかしら』などと言って俺たちをひっぱりいつの間にか今いるあたりに。
正直このまま引っ張りまわされ、最後には高価なものを奢らされてしまうんじゃないかと疑ってしまうほど強引な手口だった。
隣の箒なんてめったに浮かべない苦笑いを顔に浮かべている。かと言ってここで鈴に逆らうとまた厄介なことになりそうだと俺の経験が告げているから厄介極まりない。
誰か助けてくれないだろうか。

「ちょっと一夏聞いてるの?おーい、一夏?」

「ああ、悪い悪い。でも服のことなんて俺全然分からないぞ、どうせだったら同性の箒のほうが―――」

「ふん!」

「せいっ!」

「いってええっ!!なんで二人して脛を蹴るんだよ!俺が何したって言うんだよ!」

どちらかといえばファインプレーだったと思うぞ、俺よりも箒のほうがいい感想を出してくれるだろうという俺の気配りだったのに。

「お前は本当に乙女心というものに疎いやつだな」

「ほんとほんと、箒の言うとおりだわ」

「ええーー・・・」

乙女心って難しい。

「あれ、鈴さん・・・それに一夏さんまで。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

と、俺が乙女心の難解さと脛の痛みに悩まされているところに知った声が後ろから掛けられた。
その声は女性のものであるのに、妙に自分の親友であるあの男を連想させる声色で、つまりはまぁ―――

「蘭、蘭こそこんなところで会うなんて奇遇だな」

五反田弾の妹、五反田蘭だった。
心なしか『奇遇』という響きが箒の時よりも自然に聞こえたのは俺の気のせいだろう。

「お久しぶりですね、鈴さんなんていつ以来でしたっけ?」

「鈴が向こうに行ったのが中学三年のころだから一年位か?確か向こうに行く直前に弾の家で遊んでたときに蘭もいただろ?」

「あ、あぁそうね。たぶんそれくらいじゃないかしら・・・・・・で、蘭はどうしてこんなところにいるのかしら?ちなみに私たちはIS学園の臨海学校の準備で買い物に来てるんだけどね」

なんというか鈴の言葉は歯切れが悪い。
まぁそれも仕方のないことなのかもしれない、なにせ鈴と蘭はどうも馬が合わないらしく中学の頃から顔をあわせるたびにギクシャクとした空気をかもし出していたものだ。
一体どうして二人がこうも仲がよくできないか、理由がさっぱり皆目検討がつかない。
同じ年代の、しかも同性の蘭よりも、俺や弾とのほうが仲が良かったくらいだ。俺からしたら二人にも仲良くしてほしいものなんだが・・・困ったもんだよ。

「一夏、あんた今すんごい失礼なこと考えてない?」

「あ、私もそれ感じました。一夏さんの顔がそんな風に見えたんですけど」

「む、失敬な。今は結構真面目に人のことを考えてただけだぞ」

そのくせ二人して俺を糾弾するときはかなり息が合っていたんだよな。今の二人の視線で思い出した。

「あっ、そういえばセシリアさんは一緒じゃないんですか?あとお兄も」

蘭、そこは兄貴のほうを先に言ってやれよ。・・・あれ?

「蘭ってセシリアの事知ってるのか?」

「ええ、この前お兄と一緒に家にこられた時に親しくなって」

「そうだったのか。でも残念だな、二人ともこのショッピングモールにいると思うんだけど、どこにいるかまではわからないんだ」

「そうですか・・・・・・」

セシリアがここにはいないとわかって、気を落としたように表情のかげる蘭。
けれど一度会っただけで案外仲良くなったんだなあ、と蘭の気の落ちようから蘭がセシリアに対してどれだけ親しみを持っているか窺える。

「あ、でもそれじゃ一夏さんたちとご一緒してもいいですか?久しぶりにお会いした―――」

「ちょっと待った」

蘭の言葉を突然、鈴が遮る。

「なんですか鈴さん?」

「あのね蘭、あたし達『IS学園の』臨海学校の準備のために買い物に来てるのよ」

やけに『IS学園の』を強調した鈴の言葉。やけにひっかかる言い方だが、何を言いたいんだ鈴は。

「それがなんです?」

蘭もまったく同じ意見のようだ。

「ほら!蘭はIS学園の生徒じゃないんだからさ、準備とかに付き合っててもつまらないと思うし!」

いや、さっきからどう考えても臨海学校とは関係ないものを見ていた気がするんだけど。

「いや、さっきから鈴さん普通の服見てたじゃないですか。それって臨海学校の準備なんですか?」

「っぐぅ!!」

蘭も全く同じ意見のようだ。

「鈴、何がいやなのか分からないけどさ、蘭も一緒でいいじゃねえか。どうせなら人数多いほうが買い物とかも楽しいだろうし」

「ほら、一夏さんもこう言ってますし。あっ、それに一緒にいる友人の方、ですよね?あなたもいいですよね?」

「私か?私は一向に構わんが―――」

「ちょっとターイムッ!!蘭こっち来なさい!話があるわ!」

「えっ!ちょっとっ!鈴さん、放し―――」

「あんたら二人はそこで待ってなさいよ!すぐに戻ってくるからね!!」

「ちょっとおおぉぉぉぉぉぉ!!」ハナシテエェェ

蘭の叫びがドップラー効果を起こすほどの速さで鈴が蘭を連れて消えてしまった。
そうなると残された俺と箒はどうすればいいのか、鈴はここにいるようにと言っていたが。

「どうしよう、鈴が戻ってくるまでどれくらいかかるかわからないし。何もしないで手持ち無沙汰になるのも嫌だよな、箒」

「そうだが。さっきのは誰だ?二人の知り合い、いや四人の知り合いか?」

「そうだよ、セシリアと知り合いなのは知らなかったけど。弾の妹の蘭だよ、そういえば箒を紹介するの忘れてたな、懐かしすぎてついつい話がはずんじまった」

「まぁいいじゃないか。鈴が戻ってきた時に改めて紹介してくれればいいだろう」

「じゃあ当面の問題はこれから何するかってことだな」

「? 別にここで待っていればいいだろう。鈴もすぐに戻ると言っていたではないか」

「あのなぁ・・・周りを見てみろよ」

「変なことを言う奴だな・・・・・・・別にただの服飾売り場だが」

ほ、本気で言っているのか、箒のやつ。今俺達の周りでは遠巻きではあるが視線に囲まれてる。
さっき鈴がとっぴな行動をしたせいか俺たちまで注目を集めているのだ。

(それに気づかないとは・・・意外と箒って鈍感?)

「一夏、今お前に一番言われたくないことを言われたような感覚に陥ったのだが気のせいか?」

「・・・ははは、何を言っているんだ。そんなの気のせいに決まってるだろう」

「そうか」

(あっぶねえええええ。今ので変なこと言ってたら確実に竹刀が飛んでたな。なんとか回避できたみたいだ)

というか何で俺が箒のこと鈍感かな?って思ったらひどい目にあわなくちゃいけないんだ。
俺が鈍感って言いたいのか?いやいやいや、むしろ箒たちが鋭すぎるだけだ、そうにちがいない。

「で、ここで待つだけなのが不満ならばそうだな・・・・・・服でも見るか?」

「そうだな、むしろそれ以外に選択肢がないか。あんまり離れなかったら鈴もすぐに見つけられるだろうし、このへんで見てみるか?」

「ああ、じゃあ最初はどこの店にする?」

「最初はって俺に聞かれても困るぞ」

「なぜだ?」

やっぱり少し鈍感なのかもしれないな、箒は。

「あのな箒、ここらへんは女物の服しか置いてないんだから、俺に聞かれても困るって。俺に出来るのはせいぜい荷物持ちか異性代表の意見役くらいだ」

「うっ・・・そうだな、すまないうっかりしていた。しかし私もそういう服関係の話題には疎いほうだ、こんなところだと、どこに入ればいいのか。一夏、お前の意見を聞きたい」

「いや、だから俺に聞かれても―――」

「異性代表の意見役ならできるんだろう?さぁ、さっそくその役目を頼もうじゃないか」

しまった、さっきの発言は迂闊だったようだ。見事に揚げ足を取られ、絡めとられてしまった。
けれど幼馴染とはいえ、こういうことで異性に頼られるのは初めてのことだし(たぶん)、やってやろうじゃないか。
それに男が言ったことに二言はない。

「じゃあそうだな・・・・・・あの服を置いてる店なんてどうだ?」

「ん、どこだ・・・あ、あああ、あんな服私に似合うはずないだろう!!ああいうのはもっとセシリアや布仏のような者達が着てこそ似合う服だ!私のようなガタイでは似合うはずがないだろう!」

いきなり顔を真っ赤にして興奮したような口調で声を荒げる箒。
バカ!鈴とかのことがあって目を引いてるっていうのにこれ以上注目を集めるなよ、下手したら誤解されて俺が箒に何かしてる不審者だとか思われたりするかもしれない。
とにかく箒を落ち着かせなければ!

「ちょっと落ち着け!箒、お前ならあの服似合うって、スタイルいいし、身長も見た印象よりもけっこう低いし、なにより可愛いしさ!あの服だって意外と着てみれば―――」

あれ、俺今なに言ってるんだ・・・・・・・・・箒のこと可愛いって、べた褒めしてた。

「のわあああああぁぁっ!!!箒っ!今のなし、今のは聞かなかったことにしてくれぇ!!」

今度は俺が箒に変わって顔を真っ赤にして周りなどには目もくれず声を張り上げていた。
正直今は周りのことよりも目の前にいる箒のことが重要だ、優先順位が上だ。

「えっ?私が・・・一夏が私のことを・・・かわ、いい?」

先ほどよりもさらに顔を赤くした箒が目の前にいた。俺の言った言葉に唖然とした様子で、その内容の一部を反芻していた。
なぜだかその姿を見て俺の胸は鼓動を早めるが理由は定かではない。恐らくこの後にひどいことをされないか心配しているのだろう。
いや、違うだろう、なんかいつもと違うぞこれは。
心の奥で誰かがそういった気がしたが、それはスルーしておいた。

「え、えっと・・・箒が、いやなら違う店にでもするか。あっちの方のはどうだ?あっちなら―――」

「いや、あの店に行こう」

「え?」

「い、一夏の意見を尊重しよう。あの店の服が似合うと一夏が思ったのなら、あの店でいい」

「あ・・・うん」

箒はこちらに向けていた体を俺が最初に指差した店の方に向けて歩き出した。
それに追いつくために俺も後を追うがその時にふと箒の首元に視線がいった。箒の首元は見間違いかもしれないけどほのかに赤く染まっていた。
その姿に一瞬足が止まりそうになったが、俺は首をぶんぶんと振って視線を外し箒を追った。
さっきから俺はどうかしてるぞ。

「い、い、一夏どうだ、この服は似合うだろうか?」

いつの間にか箒が一着のワンピースを手に取り、体に当ててこちらを向いていた。
淡いグリーンのシンプルなデザインで、胸元にわずかにフリルがあしらわれたそのワンピースは箒にとても似合ってるように見えた。

「似合ってるんじゃないか、な。うん、似合ってるよ」

なぜか言葉が途中でつっかかってしまったので言い直した。

「そうか・・・そうか・・・・・・」

「うん・・・・・・」

「「・・・・・・・・・」」

そしてどうしてかはわからないが黙りこんでしまう俺と箒。
気まずい沈黙ではない、と思う。
箒が俺の言葉に、いつものように憤慨して怒ってくる前のあの静けさとは違う、なにかこう、気恥ずかしくなるような類の静けさだ。

「今日はどういったものをお探しですか?」

その沈黙を破ったのは俺でも箒でもなく、店の店員さんだった。
渡りに船、といった具合に丁度いいタイミングで話に入ってきてくれた。

「ああ、特にこれをってものはないんですけど。彼女に似合うものを探してる感じですかね」

「ふむ、彼女に似合いそうなものですか。・・・彼氏さんはどういった系統のが好みなんですか?かわいいとか綺麗めとか」

「そういう意味の彼女ではないですって。箒とはただの幼馴染で―――」

「またまたぁ、どうせそんなこと言ってても実は付き合ってるんでしょ?でしょ?お姉さんにはわかっちゃいますよ、お客さんリア充くさいですもん」

この店員話を聞かない上に若干腹が立つ。
ほのかな怒りは隠したまま俺は弁解を続ける。

「いや、ほんとに違うんですよ。ほら、箒も何か言ってやってくれ」

「わわわ私と一夏がつつっつちゅき合ってるるるる」

駄目だ、使い物にならなくなってる。箒はこういう話題は苦手なのかもしれないな、こんなに取り乱すなんて。

「もう、そんな否定しなくていいじゃないですか。もう私チョイスで選んじゃいますからね、ちょっと彼女さんお借りしますね。あ、あと彼氏さんはその間になにかプレゼントの一つでも買っておくこと、いいですね」

強引で人の話聞かなくて最後のほうは俺にしか聞こえないくらいの小声で商品の購入を強要したひどい店員は、放心状態の箒を連れて試着室のあるほうに先ほどの鈴と同じくらいのスピードで去っていった。
そして残された俺なのだが。

「女物の服屋で野郎一人って・・・なんか気まずい」

しかしさっきあの店員が言っていた言葉に、一つ心当たりがあった。

(確か箒の誕生日ってもうすぐだったよな)

箒の誕生日は七月七日、臨海学校の最中のはずだ。

「何かプレゼントを一つ、ね」

ほんの少しの気まぐれ、店員に言われた一言でその場に留まり、あたりを見回した。
そしてふと視界に入った『それ』に目がとまった。
あまり高価ではなくて、それでいて日常で使えて、何より箒によく似合いそうだと思った『それ』を俺は迷うことなく手に取った。

「リボンか。これ、いいかもしれないな」

何気なく選んだ店でひどい店員にあたったものだが、そのおかげで箒にいいものをプレゼントできそうだ。
俺はリボンを手に取ったままレジのほうに進んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お客様~、お待たせしました彼女さんのドレスアップ、完了いたしましたよ~」

「いやだから・・・もういいや、反論するだけ無駄な気がする」

もうこの店員には何も期待などするまい。
それにしても―――

「肝心の箒が見当たらないんだけど」

「え?彼女さんならここに・・・あっ、駄目ですよそんなところに隠れてちゃ。せっかく可愛い彼女さんがさらに可愛くなられたんですから、彼氏さんに見せないと損ですってば、絶対」

どうやら箒はすぐそばのマネキンの並ぶ場所に隠れているようだ。店員が声をかけた方にあるマネキンの影から箒のポニーテールの先が見え隠れしている。

「やっぱり私にはこれは似合わないっ!頼む後生だ、勘弁してくれ!一夏に見せるのだけはやめてくれっ!」

「何言ってるんですか!絶対かわいいですって!恥ずかしがる理由なんてこれっぽっちもないですよ!!」

店員と箒の間でなにやら口論が繰り広げられている、というか店員のほうは箒の腕を掴んでこちらに引っ張り出そうとさえしている。
さすがに箒も店員を投げ飛ばすわけにもいかないので、単純なひっぱり合いの勝負に持ち込まれている。
そしてその勝負の結果は、箒の根負けといった形で終わった。あの強引な店員の執拗な説得に箒も折れたらしい。

「わ、わかった!私も覚悟を決める、だからもう引っ張るのはやめてくれ!」

「もう、最初からそうやって素直に従ってくれればよかったのに」

しかしこの店員、接客業として大丈夫なのだろうか?

しぶしぶ、といった形でマネキン達の影から現れた箒。顔を真っ赤に染めて下を向いて視線をそらしている。
だが一番注目すべきなのはそこではない。箒の今の服装だ。
店の雰囲気的に可愛い系の服装で来ると思っていた。この店に置いてある物は最初に箒がいっていた通り、可愛い系のものが主体でおいてある店だったからだ。
だが最初の印象は箒自身の持つ鋭いイメージだった。それはやはり真っ白なシャツに短めの黒いネクタイ、その上に羽織ったジーンズ素材のベストがその雰囲気を演出しているのだろう。
しかし箒の下半身を覆う黒い柔らかな質感のスカートと真っ白のニーソックスがその鋭さの角を削っていた。
スカートとニーソックスにはあまり目立ち過ぎない程度に、かと言って目に入らないわけではない絶妙な存在感でフリルがあしらわれていて生地とあわせて柔らかな印象をこちらに与えていた。
正直に言えば可愛い、その一言に尽きた。なぜ箒があんなにも出渋っていたのか意味が分からない。

「どうですか?やっぱり可愛いですよね?ね?」

俺が今まで見たこともないほどのドヤ顔で、店員がこちらを覗き込むように問うてくる。
はっきり言って強引だし、接客業としてどうかと思うし、ドヤ顔はウザイけど―――

「すごい可愛いですよ、何より箒にすごい似合ってるし」

「にしししし、そうでしょ?でしょ?」

にーっと口を横に広げて笑みを作る店員。
悔しいけど本当に箒に似合ってて、なおかつ可愛く仕上がってる。この店員の手腕は認めざるを得ない。

「ほら、彼氏さんも可愛いって言ってくれたじゃないですか。見せて間違いじゃなかったでしょ?でしょ?」

「うう・・・あぁ、そ、そうだな」

「それに彼氏さん、あの反応は素でしたよ完璧に。もう本音で彼女さんのこと可愛いって褒めてたんですよ」

「っっ!!!あ、あぅう」

店員が箒の耳元でなにやら囁くと箒はその顔をさらに赤く染め、頬に手を当てて肩を縮めた。まるで恥ずかしさを体全体で表現するみたいに。

「ちょっとあんた今箒に何いったんだよ!なんか変なことでも―――」

「いや違うんだ一夏。違うから、大丈夫だから、気にするな。ところでだが・・・ほ、本当に似合っているか?この服装はかわ、か、可愛いか?」

あの箒がこんな風になるなんて何を言われたのかと、心配になって声を荒げたがその声は箒本人に遮られた。
しかもその箒が心配ない、と言っているんだから心配することはないんだろう。

「そ、そうか?まぁ箒がそう言うなら・・・で服のことだよな、あぁ似合ってるぞ。なんていうかすっげー可愛い」

「ふふ、そうか・・・そうか・・・」

箒はかみ締めるように何度も『そうか』と呟いていた。箒のやつ、そんなに、そんなに

「そんなにいい服が見つかったのが嬉しいんだな。なんだよ、服のこととか疎いとか言いながら実は興味しんし―――」

「「え?」」

俺の言葉になぜか箒と店員の二人が驚いたように声を上げた。
なんだ?俺なにか変なこと言ったか?

「あっはははは、やだなぁ彼氏さんったらジョークがうまいんだから」

「え?俺別にジョークなんて言ってませんよ」

「・・・・・・・・・ねぇ彼女さん、この人マジで言ってるの?」

「はい、恐らく本気でそう思っているみたいです」

? 何を二人で話し合っているんだ?なぜかさきほどまで笑顔だった店員は神妙な顔つきになり、箒も顔の赤みがとれていつもの顔に戻っている。というか二人とも神妙な顔つきになってる。
こそこそと俺の方までは聞こえないくらいのボリュームでしばらく話し合っていたと思ったらほどなく二人の話し合いは終わったららしく、店員さんが今度は俺の方にやってきて箒のほうには聞かれない様にかボリュームを絞った声で話しかけてきた。

「君さ、ないわぁ~」

「へ?」

「あの子ってマジで彼女とかじゃないの?」

「え・・・はい、ただの幼馴染です」

質問の意図が読めない。いや、箒のことで少し誤りがあるな、箒は幼馴染で今は同級生だった。
そのことを訂正しようとして口を開きかけると向こうの方がわずかに早く口を開いた。

「君って女の子にもてないでしょ?でしょ?」

「えっと・・・そうですね、そういう話には本当に縁がないですね」

自分のこれまでを振り返り質問に答えを出す。これまでの人生の中で、そんな浮いた話は一つとしてなかったはずだ。
むしろ弾と一緒に抜け駆けした友人達を制裁してた立場だ。時々冤罪で俺も制裁されてたけど。

俺が出した返事が不服なのか店員さんはさっきまでの雰囲気とはかけ離れて難しい表情だ。
やがてそんな店員さんが再び口を開いた。一切ふざけた感じのしない、真剣な声で言葉をつむぎだす。

「目の前にある幸せに気づかず不幸だって嘆いてる奴ほどいらつくものはないね」

「え?」

「君はあの女の子のこと、大切に思ってる?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いきなりなにを―――」

「いいから答えなさい」

俺の言葉を割って出されたその声には、どこか千冬姉の出すような有無を言わさない迫力を含んでいるような錯覚に陥った。
店員さんの目も、鋭く、的確に俺の目を射抜いていた。

「大切、ですよ。もちろん。幼馴染だし、友達だし」

「あの子、間違いなく君のこと好きだよ」

「はぁっ!?」

「別に信じなくてもいいよ、ていうか君は信じないでしょうね。ただ、このままはっきりしないままだといつかあの子はどこか遠くに行っちゃうよ」

「なんですかそれ・・・いきなり訳わかんないですよ」

突然、異世界に迷い込んでしまったような感覚を覚える。
ここは服屋で、目の前にいるのはここの店員さん。年なんて十も離れていないはずなのに、なのにまるで何十、何百と年を重ねた人間離れした何かのように見える。
千冬姉や束さんと話しているときにも、同じような感覚に陥った時が何度かあったがその時と一緒だ。
懐かしさと違和感が俺の身に襲い掛かる、そしてそれに伴う戸惑いなどお構いなしに目の前の人物は喋る。

「君は男の子でしょ、だったら決めなきゃいけない時が来る。男の子の役目なんて決断が八割、あとはおまけみたいなものよ」

「決めるって・・・そんなのいつ、っていうか箒が俺のこと好きだなんて―――」

「はぁ~い!このお話終了!!彼女さん、悪いね彼氏さん借りちゃって、ただ少し彼にお話したいことがあってね、けど別に誘惑したわけじゃないからね!」

「ちょ、ちょっと話はまだ―――」

「んじゃ私はお役ゴメンでおさらば!レジはあっちだから彼氏さん会計よろしく!」

目の前の人はいきなりただの店員に戻ると話をその接客と同じように強引に畳んで店の奥のほうにさっそうと消えた。
天災のように現れて、天才のようなコーディネートを見せて、また天災に戻って去っていってしまった。
箒の服がいつもの制服だったなら、ちょっと濃い目の白昼夢だと思い込めたかもしれないが、隣で俺と同じように唖然としている箒の服装はあの店員の選んだ服のままだ。

「一夏、さっきは何を話していたんだ?」

「・・・それが俺にも何がなんだか」

「?」

「とりあえずその服の会計を済ませようぜ」

「あっ、わかった、そうしよう」

箒もいきなり色々なこと(主にあの店員関連)が起こって少し混乱していたのか、自分が未清算の服を着ていることに思い至っていなかったようで、慌てたように試着室の方へ向かっていった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


箒の服の会計を済ませて、俺達二人は鈴と蘭と別れた場所まで戻ってきていた。
店を出てふと時間を確認すると、思ったよりも時間が経過していたことに気づいて慌てて戻ってきたのだ。
しかし当の鈴も蘭も見当たらない。まだ二人でいるのかとも思ったがさすがに遅すぎるので心配になって今箒が携帯に連絡をいれているところである。

「ん、わかった。それではそう一夏に伝えておく。あぁ、心配するな、何もなかった。・・・はははそうだな、一夏だからな・・・うん、ではな」

「鈴、なんだって?」

「あぁ、もうすぐそちらに向かうから、と言っていた。しかし妙に歯切れが悪く詳しい状況はこちらに来てから説明すると言っていたぞ」

「そうか・・・・・・で、電話の最後のほうで俺のだからなんだとか言ってなかったか?」

「それは気にしないほうがしあわ―――おぉ噂をすれば、だな。鈴達がやってきたぞ」

「おい、箒、誤魔化すなよ。なんで笑った後に『一夏だからな』なんだよ!すっげー気になるんだけど!」

「む、なにやら鈴たちの後ろに見知った顔が見える気がするんだが」

「ちょっと話聞いてくれよ!」

結局俺の疑問は解消されず、鈴たちと合流するはめになった。どういう話題で俺の名前が使われてたんだ・・・気になる。

「よぅ、一夏。篠ノ之さんも」

「お二人とも会うなんて奇遇ですわね。鈴さんだけでなく蘭さんと会えただけでも驚いていましたのに」

そしてその鈴の後ろにいる見知った顔というのはセシリアと弾のことだったようだ。

「本当ですよねぇ。まさかセシリアさんが通りがかるなんて」

「ねぇ蘭さん、俺は?俺にはなんにもコメント無しですか?」

当たり前のようにスルーされる弾。
いつもなら何も思わないけど今だけは同情するぞ弾、俺もスルーされる痛みが分かるからな。今だけは。

「というわけで、弾とセシリアもあたしたちと一緒に周ることになったわ、蘭もこの際だからもう一緒に連れて行くことになったわ」

「よろしくお願いしますね、一夏さん」

「ああ、と言ってもただショッピングモールの中をうろつくぐらいだけど」

「そういえば蘭さんに箒さんのことは紹介したんですの?いきさつを聞くとそんな間もなく蘭さんは鈴さんに拉致監禁されたと聞きましたが」

「人聞き悪いこと言わないでよね、監禁なんてしてないっての」

拉致をした自覚はあるんですね。

「じゃあどうせだし、どっかで休憩しながらでいいんじゃね?そろそろ昼飯の時間だろ?」

「あ、お兄いたんだ」

「ずっといた!」

なんかすんごい不憫になってきたんだが・・・蘭も少しは兄貴を認めてあげてくれ、存在的な意味で。

「でも悪くない提案かもしれないですね。幸いここショッピングモールですからレストランからファーストフードのお店まで幅広くありますし」

「ら、蘭~」

「べ、別にお兄がしょげてるから賛成したわけじゃないんだから。ただ純粋に意見として見たら、良いと思っただけで」

「ぷくく、ツンデレ乙」

「うふふ、微笑ましいですわね」

「五反田もいい妹を持ったものだな」

「なっ!?なんですかみなさん!その生暖かい目は!私ほんとうにお兄なんてどうでもよくて!」

なんだ、蘭のやつも別に弾のに厳しく当たってると思っていたけど、そんなこともなかったんだな。
久しぶりに会ってから、弾の扱いがひどいままだったから兄妹仲悪くなってたのかと心配していたけど全然そんなことはなかったんだな。

「本当、弾と蘭って仲がいいよな。羨ましいくらいに」

「ちょっと、一夏さんまでそんなこと言って~」

蘭は少し頬に赤みが差していて、否定の言葉が恥ずかしがってる気持ちからくる照れ隠しなのだと推測がつく。
なんというか微笑ましい限りである。

「おおおお、蘭、今俺は猛烈に感動してるぞ。年に一度あればいいほうの蘭のデレが見れるなんて・・・さぁお兄ちゃんの胸に飛び込んできなさい!」

「お兄・・・お兄!」

感極まったのか、久しぶりに優しくされて調子に乗ったのかは定かではないが弾は大仰なセリフとともに両手を大きく広げた。
ここで蘭にまた手厳しい突っ込みでも入れられて、いつもの調子に戻るんだろうと予想していた俺の考えと現実は大きく違って、何を思ったか蘭は三流ホームドラマのように弾の元に駆け寄ったのだ。
しかし俺の予想が外れたのはそこまでで―――

「調子にのんな!!」

「ぐっへぁ!!」

駆け寄った勢いを利用した蘭の見事なドロップキックが弾に決まった。
蘭の奴、見ない間にノリツッコミを覚えていたようだ。

本日の投下終了
およそ一ヶ月ぶりということもあって量はそれなりに確保できました、なんというか多いですね。
そして妙にキャラの濃いモブキャラが出てきたり、意味深なこと言ったりしてますが、
それはまぁ伏線だということで一つ穏便に。なんの伏線かは明言しませんが。

それにしても一夏君のキャラ崩れ甚だしいですね、原作の彼なら赤面など一切しないような場面でも赤面してます。
そこはスレの初めでキャラ崩壊注意と言っていたのでそこに含まれるということに。

最後に一ヶ月も間が空いてしまったのに待っていてくれると言ってくれた皆さんに多大な感謝を。
そういってもらえるおかげで私も筆を進めることが出来ます。ありがとうございます。
それではこれにて

それでは投下をはじめたいと思います。
なんかすごい皆さん踊ってらっしゃいますね。
私もそんな皆さんを見て小躍りしたいような気分になります。
それではいきます

「へぇ、けっこういい部屋じゃねえか」

部屋の床に荷物を降ろすと、俺は周りを見回しそう呟く。
外側の窓からは海が一望できるし、床は一面畳で、真ん中に置かれた机の上に湯のみや茶筒とも備え付けられているも嬉しい。

「本当はゆっくりしたいところだけど、一夏は鈴と待ち合わせてるしさっさと海行く準備して行くか」

「あ、そのことだけどさ」

「ん?どうしたシャルル?」

「一夏ならもう行っちゃったよ、何でも水着は下に着てきたから大丈夫だって」

「あいつは小学生か!どんだけ楽しみにしてたんだよ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺とシャルルが準備を整えて別館へと足を運ぶ途中、セシリアと合流した。
どうもセシリアは準備に色々手間取っていたようだ、まぁそりゃあ―――

「そんなでっかいパラソルやらマットやら持っていこうとすりゃ、遅くなるのもうなずけるわ」

「これもそれも必要なものなんですもの、女性は強力な紫外線から肌を守らなくてはいけないのですわよ!なのにその言い草はひどいですわ!」

「はいはい」

そう言いながら俺は手を―――と、今は動かせないんだった。

「言い草はひどいけどそんなセシリアの荷物ほとんど持ってあげてるんだから弾は優しいよね」

「うっせ、ニヤニヤしてるんじゃねえよ。お前だってそのほとんどの残りの分持ってやってるくせに」

「あはは、だって僕はフランス出身の紳士ですから」

そうやって笑うシャルルは紳士と言うよりは王子さまと言った感じだった。
畜生、冗談を言う様もイケメンとかずるすぎだろ。その顔面のイケメン成分少し分けやがれ。

「あら、あそこにいるのは一夏さんに箒さんではありませんか?」

「え?」

俺は横のシャルルに向けていた顔を前へと向ける。
別館に繋がる通路の途中で、一夏と篠ノ之さんが何か話している。
こちらとは少し距離が空いてるからか何を話しているかまではわからない。

「おお、ほんとだ。二人してあんなとこで何してるんだか。おーい一夏ー!」

「気づいてないみたいだね。しかも箒は先にいっちゃった」

「とりあえず一夏さんに何をしていたか聞いてみましょうか」

「そうだな」

どのみち一夏のいる場所を通るわけだし、無視できないよな。
俺達はぞろぞろと連れ立って一夏のいるあたりまで向かった。
結構近くまでよってきたのだが一夏のやつは何かに気を取られたようにこちらには気づいてないようだ。
とうとう一夏の後ろまでやってきてしまったわけだが、一夏は渡り廊下のようになっているあたりから庭のほうに降りて何かしている。
一夏の姿勢は、どこか昔見たような懐かしい感じで・・・そう、芋を引っこ抜こうとするそれに似ていた。
しかしここからでは一夏の体が邪魔で何を引き抜こうとしてるのかは分からない。
とりあえず声でも掛けてみるか。

「おーい、一夏ー」

「ぬわぁっ!!?」

そして丁度声をかけた瞬間に、一夏が素っ頓狂な声を上げて後ろに倒れこんできた。
俺がいきなり後ろから話しかけて驚いたのか、引き抜こうとしたものが思いのほか軽かったからなのかは定かではないがとにかく一夏の目はまん丸に見開かれている。

「大丈夫ですの?一夏さん」

「お、セシリアか?いや今このウサミミを―――あ」

倒れていた一夏の目が何かを捉えたように動いた後、急にそれから逸らすように顔ごとよそを向いた。
さっき一夏が向いていた方向を辿っていくと、たどり着いたのが―――セシリアのスカート(中)

「!? い、一夏さんっ!?」

セシリアも一夏の視線の動きに気づいたのか、スカートを慌てて抑える。

「おい一夏」

俺は内側からあふれ出る感情を押さえ込み、極めて平静を装った声色で一夏に話しかける。

「はい、なんでしょうか?」

「今セシリアのスカートの中見た?」

「ちょっと弾さん!?」

横でセシリアが顔を真っ赤に染めて抗議の声を上げるが今は構う余裕がない。

「み、見てないぞ!俺は断じて見ていない!」

「じゃあ聞き方を変えるぞ―――何色だった?」

「レースの付いた白でした」

「よし殺そう」

もはやこの感情をとどめておく必要はない。
俺は般若か阿修羅あたりと間違われそうな人相で拳を固く握った。

「ちょっと待ってよ弾!そんな顔するのはやめて!拳も下ろして!」

「どけシャルル!!そいつ殺せない!!」

「このアホはレース付きであるかないかくらいが分かるまでじっくりとセシリアのパンツを見たんだぞ!生かしておけん!!」

「言葉に出さないでください!改めて言われると余計恥ずかしいですわ!!」

「ちょっと弾!いくらセシリアのパンツ見られたからってそんな取り乱さないでよ!!」

「シャルルさんまで!?」

「お、落ち着けよ弾!!パンツのぞかれたセシリアが怒るなら分かるけどなんでお前が怒るんだよ!!」

「なんですの!これは新手のいじめなのかしら!?」

もう俺達はパンツ!パンツ!と連呼しながら不毛な争いを続けていたのだがその言い争いにも終わりが来る。
俺が一夏をぶん殴るとかそういう終わり方ではなく、もっとグダグダな終わり方である。
俗に言う水を差される。第三者の介入でこの言い争いは幕を落とすことになった。

「だいたいこのバカは昔っから―――」

そう俺が声にだそうとしたその時、ISの模擬戦などで聞き覚えのある大質量の物体が地面に着弾した音で他全ての音がかき消された。

「に―――にんじん?」

誰がそういったのかはわからなかったが確かにそれはにんじんの形をしていた。
しかしリアルな造詣ではなく、小さい女の子が絵に描いたようなデフォルメされたような形をまんま三次元に持ち込んだようになっている。
その場にいる全員が予想外の展開に固まっている中、そのにんじんの真ん中あたりから亀裂が入り、やがてきれいに真っ二つになったその中から笑い声とともに、奇妙奇天烈な服装に身を包んだ人物が現れた。

「あっはっはっ!!ひっかかったね!いっくん!!」

中から現れた女性は目の下にでっかい隈を作っていて、青と白の童話に出てきそうなワンピースを身に纏い、童話に出てきそうもないほどデカイ胸を揺らしながら一夏に話しかけていた。

「やー、前はほら、ミサイルで飛んでたら危うくどこかの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ。ぶいぶい」

そして一夏がなぜか手に持っていたウサミミをひったくりそのまま頭に装着。変人度がさらに増した。

「お、お久しぶりです。束さん」

「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな?さっきまで一緒だったよね?トイレ?」

「えーと・・・・・・」

ウサミミ被った変人さんはマシンガントークで一夏に詰めよる。
一夏も一夏でなにやら返答に困っているようで、何かを言おうか言わないでおくか悩んでいるように見える。

「まぁ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ。じゃあねいっくん。また後でね!」

そうして変人さんはその容姿から想像も出来ないほどの速さで別館の方へと走っていってしまった。
ちなみにその手には頭につけていたウサミミが握られていて、変人さんの行く先を示しているっぽかった。
もしかするとあれが『箒ちゃん探知機』なのかもしれない。また変人度が上がった。

「なぁ一夏、あの人っていったいなんなんだ?一夏のこと知ってるみたいだったし、箒ちゃんって篠ノ之さんのことだろ?」

「束さん、箒の姉さんだよ」

「え、ええええ!?あの方があの篠ノ之博士ですか!?現在行方不明で各国が探し続けているっていうあの!?」

「そう、その篠ノ之束さん」

「うわぁ、僕今凄い人の目の前にいたんだ・・・」

シャルルが感嘆の声をあげるが俺はそれよりも、そんな著名な人があんなふざけた格好でおかしなテンションだったことのほうがよっぽど気になるよ。

「さ、束さんもどっか行っちまったし、俺たちも海に行くとするか」

「そだな」

「弾さん、弾さん」

「ん、どうしたセシリア?」

「あの、ですね、海に着いたらその―――」

改めて別館のほうへと歩き出そうとした俺達だったが、セシリアに袖をつままれて呼び止められたので少し足を止めた。
セシリアは何か言いたそうにしているが、その先の言葉が出ないようで俺は先を促すようなことはせずに待つことにした。

「・・・・・・サンオイルを、わたくしにサンオイルを塗ってくださいませんか?」

「は?すまん、ちょっと耳の調子がおかしいみたいだ。もう一回言ってくれないか?」

どうもセシリアがサンオイルを俺に塗ってほしいみたいなことを言ったような気がしたんだが・・・バスでの長旅は意外と疲れが溜まるものなのかな?

「わたくしにサンオイルを塗ってほしいんですの。弾さんに」

「駄目です」

耳の調子じゃなくておかしいのはセシリアだったらしい。ひょっとしてさっきの篠ノ之博士の変人が少し伝染したとか。

「な、なんでですの!別にいいではありませんか。弾さんのけちんぼ!」

「そんなこといっても駄目なもんは駄目に決まってんだろ!大体そういうのは俺じゃなくてもっと他のやつに言えばいいだろう!?」

「! ・・・・・・弾さんは本当にそれで言いとおっしゃるんですね?」

「あぁ、俺じゃなけりゃ誰でもいいよ。というかそんなこと俺に頼むなよ」

何を当たり前のことを言ってるんだか、そんなことは他の女子連中に頼めよ。
男子高校生に向かって女子の背中にサンオイルを塗れ、だなんて誘ってると思われてもおかしかないぞ、ったく。

「一夏さん、後でわたくしにサンオイルを塗ってくれませんか?」

「おいセシリア!」

「ん、それくらいのことなら別にいいぞ」

「一夏!ちょっとお前は黙ってろ!」

「え?」

「一夏、少しは空気読もうよ」

「えぇ~?」

「いいかセシリア!俺は確かに他のやつって言ったが女子の誰かっていう意味だよ!なんでよりにもよって一夏に頼むんだよ!」

「別にかまわないじゃないですか!弾さんには関係ないでしょう!」

「んなっ!?」

確かに俺はセシリアにとってただの友達だ。そんな俺がセシリアの行動に指図する権利はないだろう。
けれど片思い中の女の子がいきなりサンオイルを塗ってくれだなんて言われて『はい塗ります』とか言う奴はすごいナンパな奴か、一夏みたいな唐変木だ。
だからといってセシリアが俺以外の男に体を触らせるなんて考えるだけでも恐ろしい、それだけは絶対に嫌だ。
前にセシリアと実家に行った、その日の帰りの時のことを思い出す。
あの時俺は、セシリアさえよければそれでいいと思った、セシリアが笑顔でいれるなら俺なんてどうでもいいとか思った、けれどやっぱりいやなもんはいやだ!
特に一夏は嫌だ、絶対に嫌だ!あんな女たらしの唐変木にセシリアを任せるなんて出来るわけがあるか!

「では一夏さん、準備をして海に行った後、頼みますわ」

「お、おう。でも弾のほうはいいのか?なんか俺に塗らせるの嫌みたいだけど」

「別にかまいませんわ。さぁ行きましょ―――」

「ちょっと待てよ!!」

「・・・・・・まだ何か?」

セシリアの反応はやや棘がある。こんなセシリアは久しぶりだ。
まるで初めて会ったときのようだ。いや、あの時よりも冷たいかな。

「やっぱり一夏にそんなことさせるなんて許せねえ。もちろんシャルルにもだ」

「弾さんに口出しされるいわれはありませんわ。誰に頼もうと私の勝手では?」

「それもそうだな」

「では―――」

「それでも嫌なモンは嫌なんだよ!!」

「っ!!?」

セシリアの顔に驚愕の色が広がる。
しかしそれでも俺は止まらない。

「俺はお前が他の男に触られるとかそういうのがどうしようもなく嫌なんだ。だからやめてほしい。自分勝手な言い分だけどさ」

「弾、さん・・・・・・」

告白同然の台詞だった。だけどそれくらい嫌だったんだ、セシリアに誰か他の男が触れるのが。
沈黙が場を支配する。俺やセシリア、それに当てられてか一夏やシャルルも黙りこくっている。
しかしその沈黙もそう長くは続かなかった。セシリアが何度か視線を泳がせた後に、ポツリと呟きのように言葉を発したからである。

「そこまで言うのであれば・・・・・・他の誰かに頼んでみますわ。男性陣以外の方に―――では、わたくしは先に別館のほうに行かせていただきますわ」

最後のほうは早口になっていたが、セシリアはどうも俺の頼みを聞き届けてくれたようだ。
そのままセシリアは言葉通り別館のほうへ足早に向かっていき、あっという間に見えなくなってしまった。
しかし残された俺は安堵よりも別の感情のほうが勝っていた。

「うあああぁぁぁ、さっきの言い方はまずかったぁぁぁ」

「あれじゃ告白してるようなものだもんね。ほんとよく弾はあんなこと躊躇なくいえたものだね」

セシリアが見えなくなった瞬間に頭を抱えその場にうずくまる俺に、頭上からシャルルが無情な言葉を投げかける。
ちなみにセシリアの荷物はちゃんと横に置いてからうずくまった。

「うっせーんだよ、しょうがねえだろ。この女たらしの唐変木からセシリアを守るためにはなりふりかまってられなかったんだよ」

「弾もそれなりに唐変木だとは思うんだけどねぇ」

「どういう意味だよ」

「あんなこと『友達』に言われて素直に言うこと聞くのって、どうしてだと思う?」

「・・・・・・さぁな、俺はセシリアじゃねえからわかんねえよ」

「ふぅん。意外だな、弾って案外素直じゃないところもあるんだ。もっと直線的な人なのかと思ってたけど」

「どういう意味だよシャル―――」

「なあ、俺はいつまで黙っておけばいいんだ?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

空気が固まった。

「よし、海行くか。海」

「そうだね、早く行かなくちゃ時間がもったいないもんね」

「え、ちょっとおい!無視とかはやめろよ!」

「うっせえバーカ!もうちょい空気読みやがれ!真面目な空気全部ぶち壊しにしやがって!」

「ええええ!?」

一夏が非難がましい声を上げるが無視して先に進む。
しかし今回の一夏には少し感謝しないといけないかもしれないな。
あのまま放っておかれたら話がどんどん変な方向に向かっていっていただろうし。
けれど、シャルルの言っていた言葉の意味。ただの『友達』にあんな言葉をかけられたセシリアの反応。

(この二つが示す意味はセシリアが俺を・・・・・・でもそんなことあるのか?よりにもよって俺なんかに、あのセシリアが)

いくら考えても答えはでない。しかし考えずにはいられない。
俺は悶々と頭の中で問答を繰り返しながら、別館へと足を進めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

別館の更衣室の中。人よりも遅くたどり着いてしまった私は誰もいない更衣室でもたもたと水着に着替えている。
青を基調としたビキニタイプのものに腰周りをパレオで覆うようになっている。今はそのパレオの端を結んでいるところだ。
きつくもなく、それでいてゆるくもない丁度いい程度に締めた結び目を確認して、私は一人ため息をつく。

(先ほどは本当に驚きましたわ、弾さんがあんなことを言ってくるだなんて)

私に対して、『他の男に触れさせたくない』だなんて。
最初はいつもそっけない態度をとる弾さんに対してのアプローチのつもりだった。
弾さんの妹の蘭さんに今までのことを相談したら、もう少し押しの強いアプローチをしてみたらどうか、といった言葉をいただいたので実践してみたのだけど。

(それにしても弾さん以外と言われて、わたくしも勘違いして『他の殿方』にやってもらうように言われたと思い込んでしまうなんて。でもそのおかげで・・・)

これは弾さんもわたくしに対して好意を抱いてると思ってよいのかしら?
もし明確な好意とまで行かなくても、わたくしのことを意識はしているのは確かですわね。
それは凄く嬉しいことですわ、とても嬉しいことです。けれど―――

「これから弾さんにどんな顔で話しかければいいのかわかりませんわ~~!!」

顔を挟み込むようにしてぶんぶんと頭を振る。髪を振り乱れていたりするがそんなものはお構いなしだ。
自分でも顔を真っ赤にしているのがはっきりと分かる。けれども止められない、気恥ずかしかったり嬉しかったり色んな感情が織り交ざって溢れ出してどうしようもない。
ひとしきり悶えた後、冷静になった私が別の要因で悶えたのはもう少し後のこと―――

今日はここまでです。
今回はセシリアいっぱい出ましたね、というか彼女しか出てない。
箒さんは勿論出ていません、ちょっと視界に入っただけ。
次は出てくるんでしょうか?アニメを見た人ならお分かりでしょう、はい。

次も未定ですが一週間前後でこようとは思います。
それではこれにて

二週間ほどぶりですね。
ちょっと遅くなってしまいましたが投下分書きあがりましたので投下していきますね。
それではいきます。


「えっ!?箒が溺れたっ!?」

報せを聞いた時、本当に心臓が止まるかと思った。
それは隣にいた弾も同じだったようで―――

「それどこだよ!?」

「いや、あの・・・・・・」

「いいから早く教えろ!!」

「む、向こうのほうです」

「よっしゃ向こうのほうだな!!」

あっという間に走り出していってしまった。
もう大分遠くまで行ってしまっている。

「あの、それで織斑君と凰さんが助けて医務室に運んで行ったって言おうと思ったんだけど・・・・・・」

「あはは、まぁそれだけ箒のことが心配だったってことじゃないかな?それで箒は無事なの?」

「あ、うん。意識ははっきりしてるって」

「そっか、よかった」

相槌を返しながら僕は一息ついた。
横の弾が慌てていたから逆に冷静でいられたけど僕も内心すごく焦っていたのだ。
報せに来てくれた女生徒はこれからまた友達の所に戻るそうで、一言お礼を言って別れた。
僕らと箒が仲がいいのを知っていただけなのに報せに来てくれるなんて律儀な人だな。

「それにしても・・・・・・」

弾がどこかに行ってしまったせいでセシリアの持ち物の番をする人がいなくなってしまった。
なし崩し的に僕がやることになるだろう。

「まぁセシリアが来るまでの我慢というところか」


それにしてもセシリアは遅いな。
もしかして、もうこの海岸には来ていてこの場所がわからないだけとか?
だとすれば探しに行きたいけど僕が離れると荷物の番をしてくれる人がいなくなるし、かといって待つだけというのも・・・・・・

(ここはやっぱり待つしかないのかな。誰か知ってる人が通りかかったらそれとなく頼んでみるのもいいかもしれないし)

一人で考え事をしながらぼんやりと目の前の海を眺める。
IS学園の一年生だけということもあり女の子ばかりだ。
皆、色もデザインも多種多様な水着で泳いだり、ビーチバレーをしたり、波打ち際で波と戯れたりしている。
そんな女子生徒たちを眺めていても、頭の隅っこのほうで探している影があった。
おそらく、泳いではいない。たぶんビーチバレーや、波と戯れたりもしていない。砂でお城を作ったりなんかもしていないはずのその影を。

(ショッピングモールで僕が言った言葉、そしてさっきの廊下で言った言葉。まったく、どの口が言うんだよ・・・・・・・)

『あんなこと『友達』に言われて素直に言うこと聞くのって、どうしてだと思う?』

僕は廊下で弾にそう言った。でもショッピングモールで僕は弾になんて言ったんだ?

『まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない』

明らかな矛盾。
僕はラウラに対して今までどうやって接してきたんだ?ラウラは僕に対してどう接してきた?
答えは出ているのにどうしても前に進めなかった。言葉はのど元から先には出てこなかった。

(いつからなのかは全然わからない。どうしてなのかも全然わからない。けれど僕は彼女が、ラウラのことが・・・・・・・)

僕は彼女の影を探してしまう。
今もどこかでカメラを片手にちょこちょことかわいらしい小動物のように人の間を歩き回っているだろう彼女を。

(けれど、わかっていたとしても、僕は彼女になにかしてあげられるんだろうか?本当に彼女の前で、この気持ちをさらけ出せるのだろうか?)

それはわからない。
その時だ、思考の渦に巻き込まれていた僕に誰かの声が呼んだ。


「お~い、シャルルん」

この声はのほほんさ、布仏さん。
そう思って振りかえると―――

「き、きつね!?」

「あっはっは~、シャルルんやっぱり驚いたぁ。どう、この水着?」

「こ、個性的だと思うよ」

僕は苦笑い気味に答える。
きつねの水着(というか着ぐるみ?)の横にいるのは同じクラスの櫛灘(くしなだ)さんだ。
その櫛灘さんと目が合うと彼女も僕と同じように苦笑いを浮かべた。
やはりビーチでキツネと一緒というのはなんだかシュールな光景だしね。

「ねぇねぇシャルルんは遊ばないの?せっかくの自由時間なのに~」

「あぁ、ちょっとセシリアの荷物の番をすることになっちゃってさ。ここから離れることができないんだ」

「えぇ~、せっかく一緒に遊ぼうと思ったのに~」

しゅん、と肩を落とすのほほんさ、のほほんさん。
ちょっと悪いことをした気分になってしまうな、こんなに落ち込まれると。

「ごめんね。それでセシリアを見なかった?」

「えっと、セッシー?見てないな~。二人は見た?」

のほほんさんは二人に問いかけてみるがどちらも首を横に振った。
まだ海岸に来てないんだろうか?でも僕らと一緒くらいのタイミングで更衣室に入ったのだからいくらなんでも来ていないというのは考えにくい。
でもここにいる人は知らないのだから考えても仕方ないか、それよりも今は―――

「ところでのほほんさ、布仏さん。そのキツネの水着?の子は誰なの?」


僕がそう言った瞬間キツネの着ぐるみがビクン、と肩を大きく震わした。
最初に見たときから気になっていたけどこの人物は誰なんだろう?僕の知ってる人なのかな?

「え~、シャルルんわからないの~?これラウr「布仏ッ!」 んぐっ!?」

のほほんさんが何かをしゃべろうとしたその時、隣の着ぐるみの人物がその口を無理やりふさいだ。
あの着ぐるみ姿よくもあそこまで素早く動けるものだ。
だけど着目すべき点はほかのところにあった。

「その声・・・・・・・ラウラ?」

「・・・・・・・・・・・違う」

「やっぱりラウラじゃないか。どうしたの、そんな着ぐるみ姿で」

「着ぐるみじゃないよ~、水着だよ~」

「あっごめん。で、ラウラどうしてそんな恰好を?」

のほほんさんの非難の声をかわし、僕はラウラ?に詰め寄る。

「・・・・・・・しいのだ」

「え?何、聞こえない」

「・・・・・・・・・・」

また黙り込んでしまった。
仕方なく僕はラウラ?の両隣の二人に事情を聴くことにした。

「櫛灘さん、どうしてラウラはこんな恰好を?」

「あぁ、えっとそれはねボーデヴィッヒさんデュノア君の前に出るのが恥ずかし「こ、こらぁ!」むぎゅっ!」

あ、ラウラの裏返った声なんて初めて聴いたなぁ。

「あの、のほほんさん。ラウラはどうしてこんな恰好を?」



「なんか水着姿をシャルルんに見られるのいやなん「布仏ぇ!」んむぐっ!」

「水着が似合ってなかったらデュノア君にどう思われるか不安だったんだよね。せっかくかわいい水着着てるのにもったいないよ」

「く、櫛灘ぁ!!貴様、それは言わないと―――」

さすがのラウラも二人同時には抑えられなかったみたいで、ついには櫛灘さんの口からラウラの真意が暴露された。
でもラウラ、そんなに恥ずかしがらなくても・・・・・・

「ラウラ、僕は別にどんな水着でも笑ったりしないからさ。その着ぐるみから出てきたらどう?」

「だから着ぐるみじゃなくて「はいはい本音は少し黙っておこうね」

「・・・・・・・・・」

ラウラはまだ黙り込んだままだ。
かといってこのキツネ姿のまま放っておくわけにもいかないし、できれば出てきてもらってほしいんだけど。

「ラウラ」

フードを深くかぶっているラウラに、今一度呼びかけてみる。
だがやはり答えは返ってこない。
困り果てた僕はラウラの両隣にたたずむ二人に視線で助けを求めた。

「う~ん、デュノア君のこと、見つけて本音とここに来る途中にボーデヴィッヒさんに会ってさ。そんで誘ったら一緒に来るって言ったんだけど」

「途中でいきなりわたしから水着を取っちゃったの~。恥ずかしいからって」

あぁ、このキツネの着ぐるみはのほほんさんのものだったのか。確かにラウラの私物、というのは考えがたかったけどさ。

「なんかラウラんってこの水着頑張って自分で選んだんだって、今まで水着なんて選んだことなかったけど必死に選んだらしいんだよ」

「けどどうしてもデュノア君には見せたくないらしいね。あの大胆なボーデヴィッヒさんにもこんな一面があるなんて意外だわ」


あの大胆な、という言葉で先日の教室でのことを思い出して顔を赤らめるが櫛灘さんは僕の気も知らずに話を先に進めていく。

「でもさボーデヴィッヒさんもここで恥ずかしがってちゃほかの女の子にデュノア君を取られちゃうかもしれないよ~。たとえばわ・た・し・とか?」

「なぁっ!?櫛灘、貴様っ!」

明らかに冗談めかして言った言葉だが、ラウラは敏感に反応して焦ったように櫛灘さんにくってかかる。

「だってデュノア君かっこいいもんねぇ。ほかのクラスの子たちも結構噂してるんだよ、知らなかったの、ボーデヴィッヒさん?」

「あう、あう」

「確かにシャルルんっておりむ~とかだっだんとかと違ったタイプでイケてるメンズさんだもんね~。お姉ちゃんのクラスでもシャルルんは大人気って聞くよ~」

「えっ、うぁあ」

二人の言動にあからさまに動揺しだすラウラ。
キツネの頭がふらふらと左右に揺れ始めた。

「ボーデヴィッヒさんの水着で今のうちにしっかり彼のハートを掴んでないと、意外な人に奪われちゃったりして」

最後に意地の悪い表情で櫛灘さんがラウラに耳打ちをする。(僕にもしっかりと聞こえるくらいの声で)
それが最後の一押しとなったのだろう、ラウラは一息にフードの部分を脱ぎ去る。

「あぁもうわかった!脱げばいいんだろうこのキツネを!だが決して笑うなよ、いいな!!」

「似合ってるから心配しなくてもいいのに」

ラウラはキツネの着ぐるみの背中のファスナーを器用におろすと、遂に着ぐるみをすべて脱ぎ去った。
そしてすべてあらわになったラウラの姿は―――

「ど、どうだ?嫁よ、私の水着姿は変じゃないか?」

「・・・・・・・・・」

可愛い。
そんな凡庸な言葉しか頭の中に浮かばない。
ラウラの水着は黒のビキニタイプで、レースがふんだんにあしらわれていて一見するとセクシーな印象を受けるのだが、身長が低く幼めに見える彼女の外見のせいかギャップにより余計に可愛く見える。
髪型もいつもの伸びたままおろしているそれではなく、左右で縛ってアップテールにしてあっていつもと違う感じもまたいい。
けれど一番彼女が可愛いと思えたのは別の部分だ。

(いつもあんなに堂々としているラウラがこんな表情をするなんて・・・・・・・)


いつも口を若干への字にまげて、無表情気味の彼女が顔を赤らめて恥ずかしがっている。
水着を着るのは初めてだと言っていたし、こういう場で人から見られることに慣れていないのもあるだろう。
胸の前で手を組んだりほどいたりを繰り返したり、落ち着きなくそわそわしている。
そんな日常との差異に僕はどうしようもなく、彼女に見惚れていた。

「やはり・・・変か?」

「えっ!? あ、いや違うんだこれは―――」

ラウラの声で現実に引き戻された僕は、先ほどまで考えていたことが口をついて出そうになったがそれをとっさで抑え込むことには成功した。
しかし逆に問われたことには何も言い返せなくなってしまった、言葉にならない音しか口からは出てこず時間だけが過ぎる。

「・・・・・・・・・・・」

「えっと、だから・・・・・・・」

ラウラの顔がだんだんと曇り始める。
紅潮していた頬から色がだんだん失せていき、目じりは濡れはじめ、胸の前にあった手は所在なさげに下されていく。
だめだ、何か言わないと。けれど何を?正直に今感じたことを言うの?

『ただの『友達』にさっき考えてたみたいなことを言うの?でもそれって本当に友達同士で交わされるべき会話なのかな?』

頭の中で僕の声で誰かがささやく。
そうだよ、こんなことを思ってしまう僕はラウラとはどういう関係なんだ?
どういう関係になりたい?どういうことをしてあげたい?

『今頭の中にあるその考えって結果的に、君が彼女に対してどういう想いを向けているってことになるんだろうね?クラスメイト?友達?それとも―――』

また、声がささやく。
うるさい、今は目の前のラウラの顔を曇らせないことが大切なんだ。

『でもそうやって思うことも、彼女に特別な感情を抱いてるってことにならないかな?』

そうかもしれない。けれどほかの誰かが同じ状況になっていても僕は同じように思っていたはずだ。

『弾にはあんなことを言っておいて、自分も人のこと言えないじゃないか。君は―――』


「シャルル・・・・・・似合わないなら、似合わないと言ってくれ」

「ッ!?ラウラ、違うんだ。そうじゃなくて―――」

「私は、まだ皆の写真を撮っていない。だからもう、行く・・・・・・」

僕の釈然としない態度にしびれを切らしたのかラウラはさっ、と後ろを振り返りそのまま走り去ってしまった。
僕の弁解の言葉は途中で途切れた。けれど、結局その先の言葉を僕は言えたのだろうか。
ラウラの後ろ姿を見て、僕はどうしても動き出すことができなかった。

「ラウラ・・・・・・」

口からこぼれたつぶやきは、意味もなく夏の日差しに焼かれて消えた。

「シャルルん」

そんなことはなかった。

「デュノア君!何してるの、追いかけないとっ!」

僕のつぶやきをしっかり聞いていたのほほんさんと櫛灘さん。
二人は若干むすっとした顔で、僕を叱るように言葉を投げかけてくる。

「ラウラん、あれじゃきっと悲しくなってるよ。はやく行ってあげなきゃ」

「まさかこんなことになるとは思わなかったけどさ、きっとここはデュノア君がいってあげなきゃダメなんだよ。ここで放っておいたら、あとでひどいことになるって!」

「で、でも・・・・・・僕ラウラになんて言ったら」

自分の中で渦巻く、ラウラへの思いと、その感情への戸惑いや恐れ。
今勝っているのは明らかに後者だ。
こんな状態で行っても、もっとひどい状況になるだけじゃ・・・・・・

「シャルルん」

「布仏、さん」

「まずは謝るのが大事だよ~、ラウラんさっきすっごく悲しそうな顔してたもん。それもシャルルんのせいで~」


「う、まぁそうだけど」

「だからまずは謝って、ラウラんが聞いてきたことに答えてあげて」

「でも、だけどさ―――」

「でももだけどもありません。それに大丈夫、好きな子からの正直な言葉はどんな言葉だって嬉しいよ~」

「のほほんさん・・・・・・・」

そう言うとのほほんさんは僕の眉間あたりを人差し指でいきなり突いてきた。

「あいてっ」

いきなりのことに反応できず僕はのほほんさんに小突かれてしまう。

「眉間にしわ寄せすぎだよ~。もっと肩の力を抜いて考えてみようよ、そうしたほうが絶対うまくいくから~」

のほほんさんはいつものように気の抜けた笑顔で僕を見つめてくる。
櫛灘さんもその隣でうんうん、と何度かうなづくように首を上下に振っている。
二人のその仕草に、今まで肩に乗っていた何かがぽとりと地面に落ちた気がした。

「肩の力を抜いて、か・・・・・・・うん」

僕は二人から視線を外して、ラウラの走って行った方向を向いた。
もうラウラは見えなくなっていたけど、それでもラウラが向かっていったであろう方向を。

「ありがとう、二人とも。行ってくるよ、僕」

「うん、ラウラんによろしく~」

「よかったらまたあとで遊ぼうね、ボーデヴィッヒさんも一緒に」

「わかった、絶対連れてくるよ!」

僕は砂を蹴って走り出す。
今まで心の中にあった不安や恐れ、そういったものは消えてはいないけどそれでも以前よりはもっと小さくなっていた。
今なら、少しは素直になれるかもしれない。
だから待ってて、ラウラ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「いやぁ、ボーデヴィッヒさんとデュノア君をいちゃつかせてからかおうと思ったらひどい藪蛇に会っちゃったね」

「人の恋路を邪魔する奴は~っていうのだね~」

「えぇ~、どっちかというと応援したかっただけなのにぃ」

「あはははは」

セシリアの荷物を残して去られた本音と櫛灘は、しょうがなく二人でセシリアの荷物の番をすることにした。
二人も最初から砂浜で遊んだりして少し疲れていたので休むついでにちょうど良かったということもあるが。

「本当、二人とも完璧に両思いなのに一向にくっつかないもんね。なんでかと思ったら意外にもデュノア君が奥手だったとは」

「あれって奥手っていうのかな~」

「じゃあなんだろう?ヘタレ?」

「ひどい言われようだねぇ、シャルルんも」

二人はお互いの顔を見合わせて笑いあった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



今日のところは以上です。
二週間あったのである程度の量はたまったと思います。
もしかしたらシャルル、ラウラ編はすぐに出来上がる可能性もありますので、次来るのは早くなるかも。

ちなみに私もIS打ち切りのニュースは人から聞いたことなので公式発表があったかは知りません。
けれどいろいろなところから聞きますし、かなり濃厚かと。

一夏に対して鈴と箒の2ヒロイン制にしたのは自分がハーレム物が苦手なのが要因の中の一つなのですが、いい受け取られ方をしたようでよかったです。

それではこれにて

えぇ~、予定通り投下していこうかと思います。
ただそんなに量がないためあしからず。
それでは投下していきます。



僕の探し求める人は、人気のない岸壁の上に一人立っていた。
一目見てわかるほど落ち込んでいるその後ろ姿に胸が痛むが、その後ろ姿に声をかける。

「ラウラ」

「・・・・・・嫁か」

海の方向を向いて、こちらには顔を見せずにラウラが答える。

「みんなの写真を撮るんじゃないの?ここには人はいないよ」

「・・・・・・そうだな」

素っ気のない返事。
けれど僕は話しかけることをやめない。

「探すのに少し手間がかかっちゃったよ。まさかこんなところまで来てるとは思わなかったし」

「じゃあどうやってここがわかったのだ?」

「ISをちょっと使っちゃった」

実際、どこにも見当たらなかったからISで補強された視力を使ってようやく見つけられたのだ。
ばれないように注意して使ったものの、織斑先生あたりだとばれてもおかしくはないから内心はちょっと後が怖い。

「それで、何の用なのだ?まさか、わざわざ私の醜態を笑いに来たのか?」

「違うよ」

「じゃあなんだ?別に私に言うことなどなにもないのだろう?」

「そんなことないよ」

ラウラにそう返しながら若干の違和感を覚える。
なんだかラウラにしてはずいぶん棘のある言い方だ。
いつものラウラならもっとストレートに、『似合わないのなら、そう言えばいいではないか』とか言ってきそうなものなのに。
あてつけのような言葉回しだ。もしかしてラウラ―――

「ひょっとしてラウラ、すねてるの?」

「そ、そんなことあるわけないだろうっ!!」

思い切りよくこちらを振り返りながら、ラウラは叫ぶ。
やっと見ることのできたラウラの顔はわずかに目じりを赤くした、泣いた後のようになっていた。
胸の奥がチクリと痛みを訴える。

「ラウラ、ごめん。僕―――」

言葉とともにラウラに近づく。
だけどラウラは僕のほうににらむような目線を向けて。

「ち、近づくんじゃない!今更なんなのだ、貴様は!」

「え・・・・・・・」

拒絶の言葉よりも僕には『貴様』と呼ばれたことのほうが心に刺さった。
今まで『嫁』だとか『シャルル』と呼ばれていたから、最初に会った時のように敵意を向けられているんじゃないかと思ってしまう。
僕はそのせいで足を止めてしまう。
言葉も失い、次に来るであろうラウラの言葉に耳を澄ませながらもその言葉を恐れる。











「あの水着を選ぶのに、私がどれだけ頑張ったと思っているのだ!!」










しかし飛んできた言葉は拍子抜けするほど、平和な言葉だった。

「はい?」

「私はドイツにある本隊にまで協力を仰いで、そのうえで厳選に厳選を重ね、さらには教官の手まで借りて選んだのだぞ!!あんなに肌を露出させた格好を恥を忍んでまで見せたのだぞ!!」

ぽかん、と間抜け面を浮かべた僕を気にしない様子でラウラは怒涛の勢いで言葉を吐き出していく。

「貴様に褒めてもらうためだけに!惚れてもらうためだけにあんな恰好をしたのだぞ!クラスメイトに髪も結ってもらうように頼んだりもしたのだぞ!頑張ったんだぞ!」

どかどかと乱暴な調子で飛んでくる言葉はすべて僕のためだと言っている。
僕に認めてもらうために、でも、でも―――


「なんで僕ために?」

「貴様に惚れているからに決まっているだろう!!」

口をついて出た疑問に、力強くラウラは返してくれる。
純粋で、まっすぐなその言葉に僕の頬は熱を帯びる。

「貴様に惚れているから!貴様に振り向いてほしいのだ!」

ラウラの言葉はまだ続く、そして彼女から一言、一言届くたびにどんどん熱くなっていく。

「ショッピングモールで聞いたぞ、お前の言葉を!あの時、お前は私への気持ちは『わからない』と言っていたな!だが私は好きなんだ、はっきりとわかっている!」

『まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない』
あの時の弾との会話―――

「聞いてたんだ、ラウラもあの時あそこにいたんだね」

「そうだ、聞いていた!だからこそ私はお前を振り向かせるために頑張ろうと思ったのだ!私にはほかにどうすればいいかなどわからなかったから!!」

どんどん、とラウラの声が僕の心臓を叩いて鼓動を高める。
あぁ、僕はなんで悩んでいたんだろう。

『もっと肩の力抜いて考えてみようよ』

のほほんさんの言葉がふいに脳裏によぎる。
確かにそうだったのかもしれない。
最初から気負わずに、まっすぐに物事を考えていれば簡単だったのかもしれないな。
止まっていた足を僕は再び前に運ぶ。

「ねぇ、ラウラ。僕の話、聞いてくれる?」

「・・・・・・なんだ?」

機関銃のように言葉を吐き出していたせいか、ラウラは肩で息をしている。
そんなラウラに僕は真正面から向かい合い、言葉を紡ぐ。







「ラウラ、すっごく可愛いよ」





「ひぅっ!?」

ラウラの顔が真っ赤に染まりあがる。
たぶん僕の顔も同じように真っ赤になっているんだろうな。
けれど僕はやめない。

「さっきは言いそびれてたけど、その水着も大人っぽくてラウラの印象と対照的で魅力的だし、髪型もいつもと違うのがすごくいいと思うよ」

「あぅ・・・・・・」

ラウラは僕の顔を見れなくなったのか、視線を足元に向けてうつむいてしまう。
だけど僕はラウラの顔から目線を離さない。

「ラウラ、僕のほうを見て。僕の目を見てほしい」

「ちょ、ちょっと待て。そんなことを言われてまともに見れるわけがないだろう」

先ほどまでの勢いは全くなく、おろおろとうろたえるラウラ。
さらに僕は言葉を投げかける。

「僕もそうだったんだよ。ラウラに好きだって言われて、あんなにまっすぐな言葉をもらって、まともにラウラのことが見えなかった」

そうだよ、僕はラウラのことも、ラウラの気持ちにもまともに向き合えてなかった。
純粋で、一途なラウラの心を受け止めることができていなかった。
でも今なら大丈夫だ。覚悟は決まった。

「だけど今ならラウラのことまっすぐに見られるよ。だから、こっちを向いてラウラ」

「・・・・・・うん」

ゆっくりと顔を上げたラウラの頬は、見たこともないほど赤く染まっていた。
僕の頬も、感じたこともないほど熱を発している。

「僕は君のことが好きだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。君を僕の嫁にする、異論はあるかな?」

ラウラの頬に手をあてて、少しだけ顔を上に向けるよう導く。


「そんなもの、あるものか・・・・・・・」

「うん、知ってる」

そう言って僕はラウラの小さな唇に自分の唇を重ねた。
あの時と感触は同じはずなのに、ただ僕らの気持ちがほんの少し変わっただけなのに。
最初のキスとは全く違うキスに思えた。





以上で今回の投下終了です。
今回の分は書いてて赤面しっぱなしでした。ある意味今までで一番辛かったかもです。
次回の投下はできれば一週間以内には投下しようと思っています。一日、二日前には予告すると思います。

それとレスで人間味がある、とかラウラが可愛いとか言ってもらえて嬉しいです。
出来る限り、可愛く、かっこよく、彼らの色々な顔を見せられるようにこれからも精進していきます。
それではこれにて

予告どおり、投下いたします。
遅れて申し訳ありませんでした。
それではいきます

夕食を終えて部屋へ帰った私は、風呂に入ろうと支度を急いでいた。
というのも私と同様に、同室の者もこの時間IS学園が大浴場を貸しきっているため今のうちに入ろうとしていたため結局皆で連れ立って行くことにした。
そして私は部屋の者のよりも若干遅れて部屋に戻ったため、支度を急いでいる次第だ。

「私を置いて行ってもいいのだぞ、すぐに後から行く」

「そんな薄情なことできないよ、それにお風呂行く準備なんてそうかからないでしょ」

「そうですよ。篠ノ之さん話す機会もあまりなかったですし、これを機会に交流も深めたいもの」

「す、すまんな」

部屋の割り振りを見たときは普段あまり話さないクラスメイトと一緒だったから少し不安だったが、接してみると案外優しい者達で安心した。
こういう人付き合いは不得手な私だから、あちらから誘ってくれたのも嬉しい。

(おっと、考えてばかりではなく手を動かさなければな)

それから数分も経たない頃だろうか、荷物をまとめて支度が整った頃だ。
私達の部屋に来訪者が現れた。

「邪魔をするぞ」

最近聞きなれてきたその声は、障子を開けると同時に発された。
その声の主は銀色の髪を昼間とは違い、いつものように真っ直ぐに下ろしている。
浴衣に身を包み込んだ少女は、声から想像したとおりラウラ・ボーデヴィッヒだった。

「箒、ちょっといいか?」

ラウラの目的は私だったらしく、私を見つけるとすぐに手をこまねく動作と共に呼び出してきた。

「すまない、用があるならば後でいいか?これから部屋の者と風呂に行くことになっているんだ。それとも急ぎの用か?」

「あ、いや。少しお前や鈴たちに話したいことがあってな。他の二人も風呂に行くと言っていたし、後でもかまわない」

「話したいこと?」

少々ラウラの顔が強張ったような気がするが、気のせいだろうか?
ラウラの顔を見直してみるが今はそんなことは全くない。


「まぁ後でいいというならお言葉に甘えさせてもらおう。ではいつにするんだ?」

「うむ、九時半ごろに私の部屋に来てもらうよう二人には言ってあるからそれくらいの時間に来てもらいたい。構わないか?」

「あぁ、わかった。では九時半にお前の部屋に行くことにしよう」

「時間をとらせて悪かったな。ではまた」

ラウラは用件を終えると素早く、なおかつあまり音を立てずに障子を閉めて出て行った。
やはり部屋を出て行くラウラはいつものラウラと変わったところがあるようには見えなかったな。
先ほどのあれは私の見間違いだったのだろう。

「時間をとらせて悪かったな。それでは行くとしようか」

「ボーデヴィッヒさんもお風呂に誘わなくてよかったの? たしか仲良かったでしょう」

「いつも食事やら風呂やらはよく時間があって一緒になることは多いんだ。だから別に今日一緒じゃなくてもいいだろう」

「そうなんだ。でも本当仲いいよね、織斑君達や二組の凰さんとかと」

「なんというか、入学してから奴らとは色々あったからな。否応無しに関わりが増えただけだ」

しかし一夏を始め、五反田やセシリア、鈴にシャルル、ラウラとは色々あったから、だけではすまないほど一緒にいる気がする。
元々一夏のそばには五反田がいるし、その隣にはセシリア。鈴も一夏のそばにいつの間にかいるし。シャルルと一緒にラウラも一夏の近くに来ていることが多い。
そして私も、目が勝手に一夏を探し隣にいようとしている。
こうして考えると一夏が中心になっているのだな、私達は。
奴がいなければ五反田がIISのテストパイロットに選ばれることはなかった。
あの二人がいないとなるとセシリアとも親しくはなれなかったし、一夏がいなければ鈴は学園に来る事もなかったやもしれん。
シャルルやラウラも同様だ。

(こうやって、幸せな学園生活を送れるのも一夏がいてくれたからなのかな? ふふ、こんなふうに考えるなんて私も存外あいつらのことが好きなのかもしれないな)


「うふふふ、篠ノ之さんにやけてる。織斑君のこと考えてるんでしょ?」

「んなっ!?」

「あ、真っ赤になった。図星なのかな」

「そそそそそんなわけあるか!」

「思い出すなぁ、織斑君の『勝利の女神』発言」

「忘れてしまえそんなもの!!早く行くぞ、大浴場を貸しきっている時間にも制限はあるんだからな」

「はぁ~い」

しぶしぶ、といった様子で皆部屋から出始める。
まったくあの時のことはいつまで言われ続けるんだ……

「いやぁ~意外と篠ノ之さんも可愛いところあるもんだね」

「そうだね、話せてよかったね」

後ろでひそひそと喋っているようだがこちらにもしっかりと聞こえている。
なんだかんだで私に好意をもっての言動なのでさすがにこれ以上怒るわけにもいかないし。
私はため息を一つだけ静かにつくと、聞こえなかったかのように何食わぬ顔で障子を開けた。

(しかしラウラがわざわざ人を呼んでまでする話とは何だ?)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

女性の風呂は長いとよく言われるが、私や周りの人間は女性としては比較的短いほうらしい。
今日同室の者から指摘を受けてようやく気がついた。
私の周りで長々と風呂に入っているのはセシリアくらいだ。
余談だがセシリアは私が大浴場についた時にはもういたし、私達が出る時もまだ湯に浸かっていた。ふやけるぞ。
まぁそんなセシリアの話はさておき、私は髪を乾かしながら約束の時間になるまで過ごした後、部屋の者に断って部屋を出た。
ラウラの部屋の前に訪れた時には大体言われたとおり九時半頃になっていたと思う。


「ラウラ、私だ。入っても構わないか?」

「箒か、入ってくれ」

目の前の障子の向こうに対してノックの代わりに声をかける。
ラウラの声が返ってきたので私は障子を開けて部屋に入る。
まず目に入ってきたのは鈴の姿だった。こちらに背を向けるように座っているが首だけをこっち側に捻っていたので目が合った。
鈴以外にラウラしかおらず、ラウラの同室の者も、セシリアも見当たらなかった。

「同室の者はいないのか? それとも出払ってもらったのか?」

「後者だ。今から話す話は隠すつもりはないが無闇に大勢に話すつもりもないからな」

「そうか」

机を囲んで置かれている四つの座布団のうちの空いている一つに腰を落とす。
部屋に訪れたラウラの様子から大体予想はついていたがやはりそういった類の話か。
だがラウラが話そうとしている話の内容は今だに予想がつかない。
あのラウラがこうして人を集めてまで話そうとすることだ、相当なことなのだろう。
悪い内容でなければいいが。

「で、後はセシリアが集まったら全員ね。でも大丈夫かしら、あの子お風呂長いし」

苦い顔で鈴がそうもらす。
それに対してセシリアには悪いが私も同感だった。
同室の者に言ったとおり私達は時折一緒に風呂に行ったりすることも少なくはないのだが、セシリアに付き合って湯船に浸かっていると確実にのぼせてしまうだろう。
それにセシリアは風呂から上がってからも長い、私や鈴、それにラウラも髪が長いから乾かしたりなんだりとやっていると長くなるのだがセシリアはさらに長い。
私や鈴たちが無頓着なのだろうか、とも思ったが私達は私達なりに気を遣っているし周りの者に聞いてみてもセシリアが長いという言葉が帰ってくる。
別にそれが悪いというわけではないので、どうこうと本人に対して言うのはお門違いだと思うし言ったことは一度もないのだが(鈴はよくセシリアによく言っているが)

「ま、セシリアもいくらそういうことに時間がかかるって言っても、約束の時間に遅れてくるなんてことはないわよね」

「うむ」

鈴のこの言葉に対しても同感だ。
そうやって時間をかけたりする奴ではあるが、何が重要か分かっている奴だしな。
セシリアはしっかりした人間だ。
普段からプライドの高い一面を見せるが、彼女は自分自身もそう振舞うに足る人物であるように努力できる人物だ。

(だがまぁ、本当のセシリアの性格と彼女の理想は少し違う方向性にあると思うがな。しかし、そこに生まれる差異が時々女の私ですらずるいと思えるほどの魅力にもなるが……)

「ところでラウラ、ちょっと喉渇いちゃったんだけど、何か飲み物はない?」

「茶をいれる道具ならばあるが……私はどうすればこれで茶ができるかわからないのだ。すまない」

「ふぅん。じゃあ勝手にいれさせてもらおうかしら。あ、それともあんたがいれてみる? 教えてあげるから」

「いいのか? それならば是非とも教えてもらいたい」

「おっけ、じゃあこっちの急須に――」

頭の中であれこれ考えていると、いつの間にか隣では鈴がラウラにお茶の淹れかたを一から教えていた。
意外と世話を焼くのが好きな鈴と、好奇心旺盛でなんでも知りたがるラウラは思いのほか相性がいいようだ。
私が横で何も言わず考え事に没頭していてもコロコロと話題を転がしている。
手持ち無沙汰になってしまった、どうしよう。
横であれこれとやっているし、なにか話題を振るにしても私の思考回路はこういうときに気の利いた話題などを搾り出すのに向いていないのか一つも働かない。
しょうがない、と諦めて机の上のお茶請けの入った容器に手を伸ばす。
いくらか種類があるようだがあまり大きいのは今の気分ではない。
おかきをニ、三手にとってそのうち一つは口の中に放り込む。


(む、予想以上にいける……案外いいものを置いているようだ)

ぽりぽり、と軽い音を立てて口の中のおかきを咀嚼する。
少し小さめのサイズだったからかあっという間に飲み込むまでにいたってしまった。

「箒ってせんべいとかは好きじゃないの?」

丁度二つ目を口に放り込もうとした所で鈴から唐突に声を掛けられ動きが止まった。
口を開いた間抜けな面だったと思う。
私は何事もなかったかのように、かつ速やかにいつもの表情に戻り鈴に相対す。

「別に嫌いなわけではない。ただの気分だ」

「一回せんべいに手を伸ばしてから引っ込めたから嫌いなのかなぁ、って思ったけど違うんだ。それとお茶、入ったからあんたの分」

「あ、すまない」

鈴の手の中にあった湯のみを受け取り、一口含む。
程よい苦味が口の中に広がり、今まであったお茶請けの塩気を喉の奥に流し込む。
うん、うまい。渋みも少なく、きちんと淹れてある。

「箒、どうだ?」

私が茶を飲むのを横でじっと見ていた、ラウラは私が飲み込むのを見て即座に聞いてきた。
顔だけ見るといつもと変わらないようにも見えるが、すぐに聞いてきたところを見ると若干不安に思っているのだろう。

「うまいよ、初めて淹れたとは思えないぞ」

「そうか」

そうか、そうか、と何度も反芻するかのように呟くラウラ。
やはりいつものように無表情だったがいくらか嬉しそうに見える。
付き合いもそれほど長いとは言えないが、それなりに分かるようになってきたな。

「ちょっと、私にはないの? 教えたの私なんだけど」

「ああ、はいはい。お前は教えるのがうまいな」

「なんで私に対しては投げやりなのよ」

不満そうに言う鈴に対しては笑って返す。
笑って誤魔化すな、と反論してくるのは無視しておこう。


「ラウラさん、いますかしら。セシリアですわ」

おっと待ち人がようやく来たようだ。
時間を見てみると九時半を少しまわった程度だ、案外私が早く来ていたのかもしれないな。

「あぁ、入ってきてくれてかまわない」

ラウラが声を返すと障子が開き、見慣れた姿が入ってくる。
セシリアの金色の髪は湯上りだからか、いつもよりしっとりとしている。
私や鈴とは違ったツヤがある、あれでは時間がかかるのもうなづける気がしないでもない。

「あら、もう皆さん揃ってますのね。私が最後とは」

セシリアはそういって最後に残っていた座布団の上に腰を下ろした。

「うむ、では話を始めようと思う。が、その前に――」

ラウラが遂に話を始めるかと思われたが何かがあるようだ。
セシリアが来たことだしてっきりこのまま本題に入るのかと思っていたのだが、一体何が?

「このお茶を飲んでみてくれ」

す、とセシリアの目の前に先ほどラウラの淹れたあのお茶が差し出される。

「え、これを飲めばいいんですの?」

「あぁ」

セシリアも私達と同じように思っていたのか多少戸惑っているようだったがどうみてもただのお茶だ。
いぶかしげな表情をしたものの湯飲みを手に持って一口こくり、と飲み込む。
その間中ラウラはセシリアの顔を覗き込むように見ている。

「どうだ」

「え、どうだ、とは?」

あぁ、今のラウラのこの表情、いつものような無表情に見えるけれどコレは違う。
これはあれだ、俗っぽい言葉は得意ではないからすぐに思い出せないが、よく一夏が下らんことを考えてる時にする表情で……

(あ、そうだ。『ドヤ顔』というやつだ)


「味だ、このお茶の味はどうだと聞いているんだ」

「え、味ですか? そうですわね……」

ラウラはドヤ顔でセシリアに迫っている。
察するに先ほどの私からの評価を受けて浮かれているのだろう。
ラウラにしては珍しい。何か良いことでもあったのか?

「うむ、どうなのだ」

当のラウラは鼻を鳴らしながら――本当に鳴らしていたわけではない、鳴らしていたら相当驚く――セシリアにさらに迫っていた。
ここまで高揚したラウラは見たことがないな、少しあれな言い方だが……調子に乗っているといってもいいかもしれない。
だがセシリアの顔、あの顔はどう見ても――

「えと、なんと言いますか私は日本のお茶と言うのはどうも馴染みが薄いもので。勉強はしているのですが……」

「……」

あ、あの顔は分かるぞ。悲しいというか、落胆した顔だ。

「そうか、では本題に入ろう。皆も揃ったことだしな」

「あの、それでも私的にはおいしかったなぁ~、と思ってるのですが……」

「フォローなどいらない。いらないぞ」

誤魔化すように本題に入ろうとするラウラにフォローを入れるセシリアだったがラウラはそれも拒んで強引に進める。
褒められたのがそこまで嬉しかったのか?

「んんっ、お前達に集まってもらったのは他でもない、お前達に聞いて欲しい事があったからだ」

区切りをつけるように咳払いを一つして、ラウラは口火を切った。
先ほどまでのような雰囲気からやや緊張感のある空気に変わる。
ラウラの表情から今度は何も窺えない。
というよりも今は見たとおりの無表情のまま語っているのだろう。

「私はあまり回りくどい言い方は得意ではないし、この話にはそういったものも必要ないと思うから単刀直入に言う」

一呼吸、一拍だけ間をおく。
そしてラウラはいつもの通り、淡々とした口調で次の言葉を紡いだ。

「シャルルと正式に付き合うことになった」


一瞬、ラウラが何を言っているのかわからなかった。
ラウラがシャルルに対して好意を持っていることは公言していたし、身近にいる私達としてもその言葉が嘘偽りのないものだと分かっていた。
だからこそラウラが言った言葉に対して、今更何を言っているのだ、と思った。
しかしきちんとラウラの言葉を理解すると、私が勘違いしていただけだと気付く。
シャルルに対する好意を示した言葉ではなく、シャルルとラウラ、相互の好意を認め合ったという意味の言葉だということに。

「えぇっ!?」

あまりにも衝撃的な言葉に思わず私は素っ頓狂な声をあげてしまう。

「ど、どっちから!? どっちから告白したの!」

「教室であんなことまでされておいてうやむやのままにしていたシャルルさんを相手に、どんな魔法を使ったんですの!?」

「おいセシリア、ちょっと失礼じゃないか?」

セシリアと鈴はぐいぐいとラウラに問い詰めている。
気持ちは分かるが少し抑えたほうがいいんじゃないか?

「告白、か。シャルルからとも言えるし、私からとも言えるな」

「結局どっちなのよ、分かりにくいわね」

「今日だけで言えばシャルルからだが、セシリアの言ったとおり私は以前教室で思いの丈をシャルルに打ち明けている。それならば私から、という言い方も間違いではないだろう」

「つまり、あの時の返事を今日もらったって感じかしら。案外シャルルも甲斐性あったのね」

「あの日からずっと返事をしないままでしたものね。私もそこは意外でしたわ」

シャルルは、思いのほかそういう方面で信用がなかったのだな。
まぁ鈴やセシリアの言うとおり、私もシャルルがそこまで積極性を持っていたとは思っていなかった口だが。

「でさ、ラウラ。この話知ってるのって私らだけ?」

「ん、いや。同じクラスの布仏と櫛灘も知っている。あの二人は少し関係があってな、伝えておいた」

「それを除くとあたしらだけ?」

「まぁ、そうだな。あとはシャルルが織斑一夏と五反田に伝えると言っていた」

「ふぅん、まぁそれなら大丈夫か」

鈴が一人何かに納得するように頷く仕草をとる。


「何が大丈夫なんだ?」

思わず聞いてみる。

「ん、まぁシャルルとラウラなら反感買ったりすることはないと思うけど、あたしが知らないだけでそういう馬鹿が出ないとも限らないしさ。一応の確認よ」

「そういう馬鹿? そういう馬鹿とはどういうことだ鈴。祝福こそすれ反感を買うような話でもないだろう」

「あ~、一組にはそういう子は確かにいないでしょうね。よく行ったりするけどみんないい子そうな顔してるわ。でもね、この世にはそんな子ばっかじゃないのよ。それくらいわかるでしょ?」

「っ!!」

鈴の言葉に返す言葉を失う。
私だって聖人君子じゃない。そういう輩がこの世にいない、なんてことがないことを知ってるし、私だって嫉妬に身を焦がされた経験がないわけではない。
だがラウラがシャルルのことを好きでいる気持ちを近くで見てきた身としては、そんなことがあるのが許容できないし、単純に祝福したいという感情が心の中を占めている。

「箒、私もあんたみたいに率直に祝福したいわよ。それでも一夏たちがいない、そういう場所ではあの三人に対して皆がどういう風にあいつらや特に仲良くやってる私達への評価や感情が見えやすいわ」

現実問題、この学校のたった三人の男子。注目をされないほうがおかしい。
その三人を見方によっては独占している私達、中には良く思っていないものもいるだろう。
知らないわけはないし、理解してないわけではなかったが、いつの間にか見えなくなっていた。
周りにはいい者たちだけだった。時にはからかってきたりもするがそれも心地よかった。
運が良かっただけだ。そういう者たちに囲まれていて、そういう者たちがいなくなってしまったように思っていたんだ。

「いい、ラウラ。あんまりシャルルとの仲を周りに見せ付けるような行為は控えなさい。少しずつシャルルはあんたと一緒なのが自然っていう風に持っていくの、まぁ今もそんな感じだけどさ。用心にこしたことはないわ、周りとわざわざ衝突するような真似することはないの」

鈴の言っていることは理解できる。
実際鈴の言うとおりにするのが正しいのだろう。

(だが――)

「私は、やはり納得いかない」

言葉が口から零れた。
理性で制御できない部分が心の端から溢れる。

「納得いかない、って。そりゃあ私達は応援する立場だったもんね。でもあんただってあいつが……あんたの好きな奴が他の子にとられちゃったら平気でいられる?」

「それは……私は……」

鈴からの手痛い返し。
恐らく私は、平気でいられないと思う。
言葉に聞いただけで、想像してしまっただけで、身を引き裂かれそうになる。


「私だって無理、絶対頭にくるわ。普通じゃいられなくなるわ。きっと」

それでも。

「綺麗なものだけでこの世界はできていないもの。甘かったり、辛かったり、すっぱかったり、色々ある中にちょっぴり毒が混じってる。それくらいのバランスで――」

それでもだ。

「それでも私は、納得したい」

「はぁ?」

「いつか、もしも一夏が私ではない誰かを選んだとしても、私はそれを祝福したい」

鈴の言葉を真っ向から受けて尚、私は言葉を前に突き進める。

「勿論今ラウラを祝福するような純粋な気持ちではないだろう。けれど私は祝福したい。そしてそうできるように、後悔のないよう日々を歩みたい。いや、歩んでみせる」

感情的な言葉だ。
一つも論理的ではない。
未熟者め。
自分の中の理性的な部分が私を嘲笑う。
けれど私はまだまだ子供で、理知よりも感情から生まれた何かを優先してしまう。

「なによそれ。青臭いってーの通り越して意味不明だわ」

鈴から帰ってきた言葉、やはり鈴もそう思うのだろう。
私だって自分でもそう思――

「けどまぁあんたらしいわ。頑固で不器用で、理想論者でしかもそれを実行しようと突っ走っちゃう」

はぁ、とため息をついて呆れたように鈴が言う。
くすくすと言う笑い声、向かいのセシリアからだ。

「箒さん、熱くなりすぎて論点がずれてますわよ。それに鈴さんも悪役が似合ってないですわ」

「はいはい、そんなこと重々承知してますよ~だ」

え? どういうことだ?
鈴が悪役、とは……


「ああもう、箒もラウラも分かってない顔ね。あんたらってば私がこういうこと言わないと現実的な問題を無視しちゃうでしょ、だからわざわざこんな場所でああいう話題を出したのよ」

「鈴さんったら話の入り方が雑すぎて不自然でしたわよ。憎まれ役を買って出るのならもう少しうまくやってくれませんと」

「じゃああんたがやんなさいよ。あたしだってラウラがシャルルと付き合いだしたの素直にお祝いしたかったんだから」

「私のキャラじゃありませんもの~。そんな役は優雅じゃありませんわ」

先ほどからの緊迫したような、重苦しい空気はどこかに吹き飛んでいってしまって、いつの間にか普段のような和気藹々とした雰囲気になってしまっている。
つまりあれか? さっきまでのあの問答は結局鈴の思惑通りに進んでいて、私はそれに勝手に熱くなって、それで……
あぁ、頬が熱くなってきた。なんと私は愚かしいのだ、なんと私は滑稽なまねを。

「とまあ湿ったドロドロな話はこれにて終了。ラウラもそういう輩もいるってことを覚えておいてくれればそれでいいから」

「ああ、了解した。とは言え私も妬み嫉みを受けてこなかったわけでもないからな、初めからわかっているさ」

「それなら安心。あ、でもねシャルルはどっからどう見ても奥手な手合いだから、チャンスがあったらガンガン攻めていくのよ。いつまで経っても進展なし、みたいなことになるからね」

「そうですわよ、シャルルさんは所謂草食系男子という奴ですからね。こちらから歩み寄ってあげなければ」

やはりシャルルは信用がないのだな。
心の中で苦笑いが漏れる。
だが、なんというかこれでこの件は一件落着、ということか。
最初は何の話かと思っていたが、喜ばしい話題だったし、途中暗い方向へ逸れるかと思ったがそれは……私の勘違いでした、と。
まぁなんやかんやとあったが、一つ忘れていることがあったな。

「ラウラ」

「なんだ箒」

「おめでとう、心の底から祝福するよ」

いざ、口にすると少々照れるな。
人へ、特にこんな色恋沙汰で友人を祝福するような機会はこれまでなかったからな。
もっとなにか気の利いた言い回しでもあったらいいと思ったのだが、私にはコレが精一杯だ。
ラウラは、いつもの無表情が崩れて、口元をむず痒そうにしきりに動かしている。
頬はほのかに紅潮して、嬉しそうにしているのが百人が見て百人がわかるほど顔に出ている。
今日のラウラは今まで見せなかった面を良く見せてくれる。それもシャルルのおかげなのだろうか。
そういえばお茶の件で妙に高揚していたのもそのことがきっかけなのかもしれないな。

「そういえば肝心なことを忘れてたわね。ラウラ、私からもおめでとう。せっかくくっついたんだから離さない様にしなさいよね」

「私からも、ラウラさんおめでとうございます。これからお二人に幸多からんことをお祈りしていますわ」

ラウラの顔も、二人の言葉に遂に表面上でもいつもの表情を保てなくなり、はにかむような笑顔が花開いた。
部屋中に空気を伝播して嬉しさが伝わるように、皆、意識せずに笑顔になってしまう。


「あ~、でもまさかこんな早くにくっついちゃうなんてね。予想はできたにはできたけど、案外長引くかもなぁって思い始めてたからなぁ」

「そうだな。いつかは付き合うだろうとは思っていたが、まさかそれが今とはな」

「でさでさ、結構気になってるんだけど聞いていいかな? なんでそんなことになったのか! 言い出したのはシャルルなんでしょ、あいつがまさかね~」

「別に経緯を話すのは構わないぞ、そうだな、どこから話すべきか……」

「あっ、そういえば今日の夕食の時のことを聞くのを忘れてましたわ! 一体どういうわけであのようなことに?」

「ん、それはあれのことか? 私が箸の扱いに慣れてないからシャルルに頼んで――」

「ちょっと待った! 今はあたしの聞いてる用件が先よ! 順番順番」

「ふふふ、全く、騒がしくしていたら千冬さんが来るぞ」

ああ、本当に嬉しそうにするのだな。
ラウラも、私達も。

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ひどい目にあった夕食もあの後は何事もなく進み、朝ぶりに自室へと帰ってきていた。
弾とシャルルは先に戻ってきていたのか机を挟んで座りながら駄弁っていたようだ。
俺が部屋のふすまを開けると二人は揃ってこちらに視線を向けた。

「一夏おかえり」

「よう、お茶いるか?さっき淹れたばっかりだからぬるくはねえぞ」

「あぁ貰うよ、せっかくだし」

部屋に備え付けてあった座椅子の空いている一つに腰を下ろし、弾が注いでくれたお茶に手をつける。
ん、さすがいい旅館なだけあってお茶もいいものを置いているようだ。
いつも自分が部屋で飲んでいるお茶も悪いものではないはずなんだけど、比べてみるとやはりこちらのほうが数段上のお茶を使っているんだろう。

「茶を飲んで何そんな難しい顔をしてるんだお前は」

弾にそう指摘されて自分が渋い顔をしていたことにきづいた。お茶だけに。

「それ、面白くないよ」

そして的確に心を読んでくるシャルル、そんなに俺の考えって読まれやすいのか?

「なんつーか、俺は一人で何か考えることもできないのかよ。こんなに読まれやすいなんてさ」

「普通にしてれば別にわからないんだけど、こう、今一夏はくだらないこと考えてるなっていう時はとっても分かりやすいんだよね」

「それもそうだな。むしろいつもの一夏は何考えてるのかわからないほうだしな。直進的だと思ったらいきなり突拍子もないことしたりすることもあるし」

「そうかな?別に俺は普通だと思うんだけど」

自分からしたら分からないことも、人から見るとそう見えることもあるんだな。
俺はまた手に持っていた湯のみに入っているお茶を一口すすった。
しかし本当にいいお茶だな、お茶請けが欲しくなる。
机の上のお茶請けを容れておく容器に手を出し、その中をあさる。



「お、せんべいかと思ったらおかきか。まぁこっちの方が一口で食べれてお茶請けとしては好きだけど」

「せんべいもあるぜ、あと歌舞伎揚げもある」

「へぇ、案外色々入ってるんだな」

そう言いながら容れ物の中を覗き込むと確かにせんべいや歌舞伎揚げ、先ほど手に取ったおかきなんかも入っている。
種類は多いがそれほど数が少ないということもない、かといって容器が大きいわけでもなくお茶請け自体が普通よりも小さめになっている。
たぶん一口で食べられたほうがこういう干菓子なんかではカスがこぼれにくくなるからだろう、こういうちょっとしたことにも力を入れているとは、やはりこの旅館はできる。
そんなことを考えつつ俺は手元のおかきを口の中に放り込んだ。

「なぁ、風呂の順番はどうする? 大浴場までとはいかなくても備え付けの風呂もなかなかの設備だし。あ、牛乳あるか? 瓶のやつ」

「瓶の牛乳ならもちろん冷やしてあるぜ、夕食の帰りに売店よって買ってきた。……でもなちょっとその前にシャルルから話があるみたいなんだ」

「シャルルから?」

俺はシャルルに視線を向ける。
シャルルは俺の視線に気付くと、照れくさそうな笑みを浮かべて首を縦に振る。

「俺が部屋帰ってきたらシャルルが俺と一夏に話があるって、んで三人揃ってから話したいことがあるってよ」

「そうなんだ、結構大事な話。あ、でも別に暗い話ではないよ! 暗い話ではないけど、その、茶化さないで聞いて欲しいんだ。二人には」

恥ずかしげにな表情を浮かべてはいるけれど、シャルルは真剣にその話とやらを聞いて欲しいようだ。
どんな話なのかは全然わからないけれど、シャルルにそう言われたらそうしてあげようと思う。
大事な友人が大事な話だと言ってきたのだ、聞いてやろうじゃないか。

「じゃあいいかな、二人とも」

「おう、いいぜ」

シャルルの問いに、弾は言葉で返し、俺は無言でうなづくことで返答した。
俺達の了承を待って、シャルルは話し始めた。


「えっと、まずどこから話すかちょっと迷っちゃうんだけど、そうだなぁ……二人はラウラが僕に対して、その、あぁ、好意を抱いてることは知ってるよね」

「そりゃあ、あんだけのこと朝っぱらからやられちゃあ分からないほうがおかしいっての」

「茶化さないでって言ったよね」

「あ、悪い悪い」

じと、っとした目で睨みつけられ弾もそうそうに謝る。
弾が再び口を閉ざしたのを見て、シャルルは続ける。

「そして、今日のお昼前。ラウラに、ラウラに僕のほうから告白して交際することになりました」

続けたと思ったらすぐさま結論に至っていた。
それにしてもラウラと付き合うことになったのか。

(へぇ~。)

………………え?

「「ええぇぇえぇぇぇぇええぇぇぇっっ!!??」」

大絶叫。
喉がどこかに行ってしまいそうなくらい声を張り上げる。
それほど驚いた。
昔の漫画だったら目玉と歯が前に飛び出したりしてたけど、今の俺達もそんな風になってそうなくらい驚いた。

「お、驚きすぎだよ」

「いやっ! 驚くよ、いきなりすぎるだろう」

「そうかなぁ?」

「だってお前、衆人環視の教室であんな風にラウラに言い寄られてまで付き合わなかった奴が!」

「いきなりあっさり付き合いますって!」

「二人とも息ぴったり」

苦笑いを浮かべるシャルル。
でも俺も弾も本当にシャルルとラウラがこんなに早く付き合いだすなんて予想していなかったんだよ。
おそらく箒たちも同じ意見だとおもう。たぶん。



「でも二人に打ち明けて、また前みたいに追いかけられるのかと思ったけどそれは杞憂だったみたいだね」

「つーかそんなことよりも驚きが勝っちまって、それどころじゃなかったわ」

「俺もだよ。こんなに叫んで千冬姉が来たらどうしようか」

「うわっ、それは考えてなかったな。まじ怖ええ」

言いながら大げさな動作で自分の体を抱くような仕草をとる弾。
そんな風にふざけてるとマジで千冬姉が来そうで怖い。
けれどさっき千冬姉と言ったことで少し思い出したことがある。

「そういえばさシャルル、夕飯の時に千冬姉がシャルルがどうの、って言ってたけどシャルル何かしたのか?」

「え、織斑先生が?」

ふと思い出したことを口に出しただけだったのだが妙にシャルルの反応が気になった。
千冬姉の話をした途端バツの悪そうな表情に変わった。
さっきまでは気恥ずかしいような、はにかんだような表情だったのに。

「本当に何かあったのか?」

「いや~、えっと、そのぉ」

追求してみるとシャルルの表情はどんどん曇りだす。
これは絶対何かしたのだな。
俺はシャルルの隣にすすっと移動すると肩にてを回し逃げられないようにする。

「ほらほら、観念して早く吐いたほうがいいんじゃないか? シャルルたちがいた場所で飯食ってた生徒に聞けば一発で何やってたかばれるんだからさぁ」

「う、うぐぐ……」

俺はできる限り悪い表情を作ってシャルルに迫る。
シャルルも乗ってきているのか素なのかは分からないが、迷っている顔だ。

「おいおい、何やったんだよシャルル。ほれ、言ってみ言ってみ」

「だ、弾まで~」

やはりここは中学時代からの親友は分かってらっしゃる。
俺が抑えている逆側からプレッシャーを掛け始めた。

「ほれほれ~」

「吐いちまえよ~」


俺達の息の合ったプレスに耐え切れなくなったのか。
それとも単にむさい男二人に両側から密着されるのが嫌だったのか。(後者が濃厚)
シャルルはとうとう夕食の時に何があったかを語り始めた。

「ラウラがお箸使ってるの、二人とも見たことある?」

「は?」

「いや、俺はないな。大体スプーンフォークを使ってるし、それが?」

「今日の夕食、全員分同じメニューだったよね。全部和食で統一されてた」

テーブル席のほうは実際に見ていないけど、そうだったんだろう。
でもそれがどういうことに繋がるんだ?

「僕はお箸が使えたけど、ラウラはお箸が使えなかった。それでラウラが僕に頼ってきたんだよ『食べさせてくれないか?』って」

「あぁ~、なるほど。分かったわどういうことなのか」

え? 弾は分かったのか?

「その時僕がお箸の使い方を教えるだけだったら良かったんだけど……ぼ、僕も少し浮かれててね。うっかり了承してしまって」

恥ずかしげに頬をそめるシャルル。

「それで、その光景を見た何人かが『自分にも食べさせて!』って言ってきてちょっと騒々しくしちゃって」

「千冬姉に見つかったと……」

「あはは、まだ少し痛みが残ってるかな」

そう言いながら頭をさするシャルル。
でもあれだな、なんというかそういうエピソードって――

「さっすがシャルル、やっぱりモテル男は違いますな~」

「一夏が言うのもあれだけど、俺なんかが同じ状況に陥っても誰も寄ってこねえぞ~」

もてない男の苦しみを喰らえ!
両側からぐりぐりとシャルルの頭に拳を押し付ける。


「あぁ~、絶対一夏には言われたくない。一夏には言われたくない~」

「訳の分からないことを言うな、この彼女持ちめ! 非人類め!」

シャルルがよくわからないことを言っているので頭から頬に拳を動かしてぐりぐりする。
シャルルの整った顔がおもしろいように変形していく。

「こんなことになるから言いたくなかったのに~」

「どうせばれるっつーの。でもなんていうかさ、こんなふざけてことばっか言ってるけどよ」

ちらりと弾が俺に視線を向けた。
なんとなく、その意味は理解している。
俺達が言っていないこと、言わなければならないこと、それを言うタイミングなのだと目で語っている。
だから――

「「シャルル、おめでとう!」」

大事な友人の、祝福すべき喜ばしい出来事。
少々茶化しすぎたかとも思うけど、ちゃんと言えてよかったと思う。

「やっぱりお前とラウラはお似合いだと思うぜ、しっかり手を掴んでやって離すんじゃねーぞ」

「いきなりで驚いたけど、やっぱり良かったと思う。改めておめでとう、シャルル」

今の今まで茶化したりなんだりしていて、いきなり手のひらを返したように真面目になった俺達に面食らったようにしていたシャルル。
だけど、そんな顔はすぐになりを潜めて――

「ありがとう! 一夏、弾!」

満面の笑みを、俺達に向けてくれた。


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はい、今日はここまでです。
この次の投下が終われば福音戦に入ります。
ですが少し長くなるかもという懸念事項が一つありますので、一週間か二週間かかりそうです。
でもこれからは一週間ごとに生存報告くらいは残していこうかと思います。
何もなしに待たすのも悪いと思いますし。

今回の投下分ではけっこう自分の未熟な部分とかが前面に出ていると思います、書いていてかなり実感しました。
まだ人の心情や、それに対して人がどう思うかとかの想像力が足りないようです。
うまく表せてないような気がします。
まぁそういう部分もこれからがんばって表せるようにしたいと思いますけど。
他にもこういう部分が変だったとか、不自然だったとか意見があったりすると嬉しいです。
それでは長くなりましたがこれにて。

お待たせしました。本当ギリギリ週末です。
今回から特にIF要素が強まります、そこに対する反応にはドキドキですが、この話的にはこの方向がベストだと信じているのでこう進みます。
では福音戦前まで、投下していきます。

臨海学校二日目、天気は昨日に引き続き快晴。
海は日差しを受けて輝き、俺達の瞳をちくちくと刺激する。
これで今日も自由行動なら言うことはないのだが生憎今日はISの各種武装の試験運用データ取りに全てあてられる。
特に専用機持ちの俺達はやることが多い。

「ようやく全員集まったか――おい、遅刻者」

「はいっ!」

「は、はい」

遅刻者というのはラウラとシャルルのことだ。
この二人が遅刻なんて普段だったらありえないと思うところだけど、昨日のこともあるしな。
何があってもおかしくはないだろう。

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて、説明してもらおうか。まずはボーデヴィッヒ、お前からだ」

「は、はい。ISのコアは相互情報交換のための通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間の中での相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャネル、プライベート・チャネルによる操縦者会話など、通信に使われています。
 それ以外にも『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収していることが近年の研究で明らかになりました。これは製作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として、
 無制限展開を許可しているため現在も進化の途中であり、全容はつかめていないとのことです」

「よろしい、ではシャルル」

「はいっ!」

ラウラから視線を外した千冬さんは次の獲物に狙いを定めた。
その鋭い視線にシャルルは怯えた様子でありながらも出来る限り大きな声で答えている。

「返事だけはいいな。ではコアの無いIISはISとどうやって通信に互換性を持たせている?」

「え? それは……わかりません」

「正直だな。だがそれで正解だ、私も知らん」

だったらなんで問題として出したんですか。
シャルルも怯えた表情から困惑顔に早変わり。

「さて、今日は各班ごとに割り振られたISの装備試験を行ってもらうのだが、その前に今回、この装備試験に参加する外部の人間が一人いるので紹介しておこうと思う」

外部の人間? IS学園の行事って基本外部の人間が関わってくることなんてないはずなのに。

「立花博士、どうぞこちらへ」

千冬さんが声をかけると、俺達生徒が並んでいる列の後ろ側から白衣を羽織った男がゆっくりと前へ歩いてきた。
年齢は三十代後半、髪をオールバックにまとめたその男は、博士と呼ばれていたがどちらかと言えば街でバイク屋などを営んでそうないかつい顔つきだった。
千冬さんの隣に立ったその男は力強い視線で俺達の顔をざっと見回し、満足げににやりと笑った。

「立花藤吉(たちばな とうきち)だ。IISの主な設計、開発を担当してる。今回はIISの装備試験のために招かれた、まぁ、よろしく頼む」

簡単な自己紹介を終えた男は、一歩後ろに下がってポケットの中からタバコを取り出し火をつけようとしたが山田先生が横からたしなめた為、しぶしぶといった様子でタバコをしまった。
そこで男と俺の目が合った、男は先ほどと同じようににやりと笑ったが、今度は幾分か意地の悪そうな色が見える。
そして男は俺に目を合わせたまま、声を出さず口だけを動かした。

『ひ・さ・し・ぶ・り・だ・な』と。

聞いてないぜ、立花さん。

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俺と立花さんが初めて出会ったのは俺がIS学園に入学する一月前のことだった。
政府から玉鋼の、この頃は名前を知らなかったが、テストパイロットに選出されたという旨の封筒が届き、俺は立花さんの研究施設まで足を運んだ。
正直このときの俺の心境は、もしかしたらなにか騙されているんじゃないか? 一夏がISを動かせると世界中で話題になっていたし、それにかこつけた詐欺とかじゃないか? そんなことが頭を巡っていた。
もちろん両親と一緒に国に問い合わせて、真偽は確かめてあるのだがどうしても疑ってしまうのは俺が小心者だからか、もしくは……
まぁそれはともかく、俺の目の前にはテレビドラマなんかでよくあるような研究所らしい研究所が明確な存在感をもって建っていた。

「い、行くか」

自身を鼓舞するために出した一言だったが、その声は明らかに気後れしているのが自分でもはっきりわかってしまうほど弱弱しい響きだった。
研究所に足を踏み入れる前から出鼻をくじかれた形になってしまったが、入らないわけにもいかないので無理矢理に足を動かす俺。
思い返してみるとこの頃の俺って情けないやつだなぁ。

「ようこそ。五反田弾君ですね、早速だけど担当者がここにはいないんだ。案内するからついてきてくれるかい?」

「あ、は、はい」

最初に研究所を訪れて会ったのは立花さんの部下の男の人だった。
眼鏡かけてていかにも学者っぽい格好してたし、神経質そうな顔立ちで、気が引けていた俺の心はさらに縮こまってしまっていた。
戦々恐々といった調子で前の男の人の背中を追いかけていくだけで、周りに気をつかう余裕もなかった。
そのまま何度か角を曲がり、エレベーターで地下に降りて、目的の部屋につくまで俺達の間には全く会話がなかった。
ちなみに、この人に後から聞いた話だがこの時の俺は予想以上に萎縮していたものだから笑いをこらえるので必死だったらしい。
そこまで滑稽だったんだな、俺。

「主任、件のテストパイロットの五反田君がおいでですよ。入りますね」

部下の男の人がノックの代わりに声をかけてドアノブを捻って中に入った。
それに続いて俺も中に入る。
中に入った俺の目に飛び込んできたのは無骨な鋼の塊。
後に俺が搭乗することになるIIS、玉鋼の姿だった。
全体的なフォルムは流線型であるのにどこか無骨な印象を与えるデザイン。
蛍光灯の明かりを反射し、鈍く光る装甲。
ところどころむき出しになった駆動部分からは油の臭いがした。
見とれていた、初めて間近で見たISだからだろうか? いや違う。
このIISだったからだ、この玉鋼だったからだ。
玉鋼のバックボーンや、製作に携わった人間の思いを知った今だから分かる。この時の俺が見とれたのは目に見える部分もそうだが、そういった目に見えない部分を知らず知らずのうちに感じ取っていたからじゃないだろうか?

俺がそうやって見とれていたからだろう、部屋の中のもう一人の人物に気付かなかったのは。

「おい、そこのガキ」

荒い呼び方、粗暴そうな声色、たった一言の言葉だけだったがこの場所に似つかわしくない人物からの言葉だという予測が俺の中で瞬時にたった。
声がしたほうに振り向くと案の定、柄の悪そうな顔つきの男が椅子にふんぞり返るようにして座っていた。
白衣を羽織っているもののその白衣は油やら何やらで随分汚れていたし、何より下に着込んでいるものがつなぎだった。
自動車の修理工が白衣を羽織って雰囲気だしているだけ、みたいなのがこの人の、立花さんに対する俺の第一印象だった。

「おい、聞いてんのか? お前が政府の選んだテストパイロットか。軟派そうな顔つきだな」

「なっ、なんなんだよアンタは! いきなり人に向かってそれはないだろ!」

俺はまさかIISを開発した人がこんな街の工場のおっさんみたいな人とは思っていなかったし、学者然としたさっきの人よりも普段から接しているタイプの人間だったからか少しだけいつもの調子を取り戻していた。

「はっ、口だけは一丁前にききやがるじゃねえか。だが一応俺はココで一番偉い人間なんだぜ? 口の聞き方には気をつけるんだな、女子どもとの学校生活がしたいんならな」

「ぐぅ……」

ここでようやく俺はこの人がIISの開発責任者で、本当にこの研究所で一番えらい人なんだと気付いた。
案内してくれた人は『主任』、と声をかけてこの部屋に入ってきたし、この部屋には俺を含めても三人しか人間はいなかった。
しかもこの時の俺の下心を的確についてくる発言で、図星をつかれたことも相まって俺は言葉につかえて何も言えないでいた。

「じゃあ今日は軽く、コイツをテストルームで動かしてみるか。おい、そいつにISスーツに着替えさせてきてくれ」

「わかりました。では弾くん、更衣室に案内するからついてきてくれ」

「あ、はい」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


研究所のロッカーで、用意されていたISスーツに身を包んだ俺は、また案内されるままにテストルームまでやってきていた。
少しばかり場の空気に慣れてきていたから、最初のように萎縮した感じではなくなっていたと思う。

「おう、来たか。じゃあ早速はじめるとするか」

先に来ていた立花さんと玉鋼。
俺が着替える短時間にココまで運んでいたのにこの時は驚いてたけど、さっきまでいた整備室とテストルームは繋がっていてISとかをスムーズに運ぶことができるんだそうだ。
そしてそのテストルームは地下にあるにしては広く、天井も高かった。学校の体育館よりも少し大きい感じで、バスケットコートが二つ入るくらいだろうか。

「おいガキ、こいつの装着の仕方教えてやるからさっさとこっち来い」

「わかりました」

「んだよ、いきなり随分良い子になっちまったなぁ」

「一応、目上の人間にああいう態度はいけないっていうのは分かってるつもりなんで。これ、どうやって登ればいいんすか? 普通に足の出っ張ってるところに足かけて登れば?」

「あぁそうだ。んでその背もたれみたいになってるところに寄っかかって……そう、あとは足と手を入れろ。そこからはこっちでやる」

立花さんの言うことを聞きながら、一つ一つ手順をこなしていく。
ISの授業で、クラスメイトに教えながらやっていてもすぐに終わった作業だったけど、この時の俺は本当に何もかも初めてでとにかく遅かった。
立花さんはそんな俺に対して何も文句も言わず、ただ俺に合わせて指示をくれた。
この時は気付かなかったけど、立花さんはいつもこうだ。
効率とかよりも、足並みとか、そういう数字に出ない場所を重要視する。研究職らしくないけど、立花さんらしいところだ。

「んじゃ本格的に装着して、動かすところまで行くぞ。動くなよ」

そう言うと玉鋼にケーブルを指して、手に持った携帯端末のようなもので何か操作を送ると手足の装甲部分が固定されるような感覚と、胸部前面の装甲が展開される。
しばらくその携帯端末のような機械でなにやら操作をしていたが、そのうちケーブルを抜いて携帯端末をポケットにしまうと俺に向き直った。

「よし、これでお前の思うようにそいつは動くはずだ。まずは直立してみろ」

「う、うっす」

俺が立ち上がろうとすると、玉鋼は音もなく立ち上がる。
こんなでかいものが本当に自分の体を動かすように動くものだから、正直に驚いた。驚くと同時にワクワクした。
次を求めて立花さんに視線を向けると、やれやれといった様子で立花さんはまた携帯端末で操作をした。

「次は歩いたり、まぁできるなら走ってみろ。今他のテストのために準備が進んでるところだから、それまでに慣れればいい」

「はい!」

おそるおそる、右足を前に出す。
やはり玉鋼は自分の足を動かすのと同じように動く。
足の底で地面を踏みしめ、一歩分だけ前に進む。
いつもの俺よりも、幅の広い一歩。
ただ、それだけでも俺の心は浮き足立つ。
普段の生活でも当たり前の歩く、走る。
それが出来ているだけなのに、俺は夢中になってテストルームの中を走り回っていた。

「おい、ガキ」

「……なんですか?」

玉鋼に夢中になってしばらく経ってから、立花さんが不意に話しかけてきた。
ぶっきらぼうな口調はそのまんまなのに、妙にしんみりした声色だったのを覚えている。
歩きながら、それでも立花さんの声を聞き逃さないように耳にしっかり意識を向ける。

「……お前、なんでこいつに乗ろうと思った?」

俺が言葉を返してから、また少し間をおいて立花さんが切り出した。
歩くスピードが少し落ちる。

「えっと、まぁ色々っすよ。国の推薦みたいなもんだから学園に通えれば学費とかも国負担らしいですし、家族もそれ抜きでも又とない機会だからって背中押されるっつーか押し込まれて」

「ふぅーん」

「聞いてきた割に随分な返事ですね!」

なんか真剣な話でも始まるのかと思っていたのに、と肩透かしを食らった気分になり、また歩くスピードが早くなる。

「本当にそれだけなのかよ?」

がくん、と機体が大きく揺れて止まる。
声は静かに、それでいて染み入るように俺の耳に入ってきた。
確かな重さを感じた。

「それだけって、まぁ細かい理由は他にも色々ありますよ。IISに乗れば面白そうだとも思ったし……」

「……」

「それに……それに、あんたも言ってたじゃないか。学園に通えれば、周り全員女子っていう夢見たいな毎日なんだぜ! だから、俺はここに――」

「お前さんは、何を隠してんだよ」

「っ!?」

図星を、突かれた。
嘘というのは、嘘以外の言葉は全て真実であるのが理想だそうだ。
だからこそ、ここで俺はあること、思いつくことを喋った、早くこの会話を終わらせようとした。
本当の目的、俺がここに来ようと思い至った最大の理由。

「お、俺は……その」

言えないようなことではない。
けれど言いたくない。
恥ずかしくて言えない、こんな――前時代的なこと。

「仲のいい、友達がいるんだ。親友って、言ってもいいと思う」

けれど、俺の口は動いていた。
誰かに、言いたかったのかもしれない。
爺ちゃんはおろか、家族にも、友人にも言えないような話。

「そいつとは入学式に知り合って、すげー馬が合ってさ。馬鹿ばっかりやってた、いつも一緒にいて、あ、でもそこにもう一人いたんだけどさ。三人でつるんで、遊んで、だべって」

口が勝手に動くのを止められなかった。
自分勝手な独白だ、だけど立花さんは黙って聞いていた。

「けど、一緒にいて少しするとさ、そいつと俺は馬が合って、スゲー仲が良かったけど全然違うんだよ」

あいつの背中が、あの頃俺が何度も夢の中で見たあいつの背中がその時の俺の目には映っていた。

「あいつは、例えるなら漫画の中の主人公でさ。平然と正しいほうに進むんだ、悩むような素振りも見せず。かっこいいんだよ、あいつ。そりゃあ惚れる奴が大勢いるのも分かる、慕う奴が大勢いるのも分かる」

夢の中で、俺はいつも背中を追っていた。
現実では横に並んでるくせに、いつも俺はあいつを追っていた。

「けどよ……けどさぁ……」

声が震えて、水滴が玉鋼の鏡のような装甲に弾けて落ちる。

「俺を横に並ばせろよ! 俺はお前の何なんだよ! 親友じゃねえのかよ! 一人で先へ先へ行って、一人で傷背負って、一人で解決しやがって!!」

己の不甲斐なさに、よく打ちのめされていたあの頃。
あいつの隣に並ぼうと必死だった。

「なのに、まただっ! ISを操れる唯一の男、あいつはまた先に行っちまった!! 俺を置いて……」

そんな時だ。
俺の所に、この話が舞い込んできたのは。
これだ、と思った。

「今度こそ、あいつの隣に並んでやる! あいつにおいてけぼりくらって、のうのうと親友気取ってるような日常にはうんざりなんだよ!!」

一人で勝手に泣いて、吼えて、無様な醜態をさらした。
立花さんは、こんな俺を見て笑っていた。
何がそんなにおかしいのか、何がそんなに面白いのか、何がそんなに嬉しいのか。
大層『満足』そうに笑っていた。

「おいガキ、随分と古臭い考え方だな。そりゃあ昔々に廃れた考え方だぜ。今の時代に、そんなものの考え方の男なんて捜してもそういない。みぃんな女の言いなりだ」

「だからどうしたんだよ。悪いけど、俺はあんたの作ったコレを、そういうダサい理由で使いたいって思ってるんだぜ。降ろすかよ?」

子供の自己満足のために、あなたが十年かけて作り上げた研究品を俺にください。そう言っているようなものだったから、当然俺は降ろされると思っていた。
けれど予想を裏切り、立花さんは話を続ける。
随分と気分が高揚しているのか大きく手を振り広げ、演説でも始めるのではないかという雰囲気さえある。

「今の時代、そういう男の意地やらダチのために、なぁんて言う奴は絶滅危惧種だし、思ってる奴の数だってぐんぐん減ってる。だが俺はそういう奴を探してたのさ」

俺の足元まで大またで歩み寄ると、意地の悪そうな笑みでこう言った。

「合格だよ、五反田弾。これからお前は正式にIISのテストパイロットだ」

「ん? ……ええっ!?」

「はっはっは、いい反応だ。最高のアホ面だぜ。さぁ、早速次の段階に行こうじゃねえか」

ポケットから携帯端末をコードごと取り出すと素早く玉鋼に接続し、なにやら操作を始めた。
その操作もわずか数瞬で終了してまたポケットにその端末をしまいこむ。

「よし、準備できたぞぉ!! 隔壁開けぇっ!!」

俺が呆気にとられている間に立花さんは全く待ってくれず、てきぱきと指示を飛ばし(いつの間にか部下の人が部屋の中にいたし)あっという間に周りが騒がしくなる。

「よし、これから空を飛ぶ練習だ。一回死ぬ気で飛んでこい、やばかったら俺達がカバーしてやる!」

「え? ……ええっ!!?」

途端に現実に戻され、さらに混沌に落とされた。
最初っから今と変わらず人使いが雑なんだよこの人。
優しいんだか、厳しいんだか。

「いいか、メインの推進器は足についてる。現段階だとIISで非固定浮遊部位(アンチロックユニット)まで再現するのは非効率だからな、PICはちゃんとついてるし、姿勢制御系のスラスターも万全のはずだから安心しろ」

地下から外に繋がっていたのか部屋の端の方の天井がうなりをあげて開いていく。
外の晴れ渡った空から陽光がガンガン降り注いできている。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! いきなり飛ぶって操作方法も分からないのに――」

「バーカかお前は、さっきまで足動かしてたら動いたろ? ようはそれと一緒さ。高くジャンプするつもりでいけ、空を飛び跳ねる要領だ。ほら、外では計測のために機材やら出してるし、万が一のために交通規制もだしてるんだから早く行きやがれ!」

「いや! 俺の心配は!? 他の人心配するのもいいけど俺の心配もしてくれませんかねぇ!!」

「本当にうるせえなお前は。こうなったら最終手段だ」

「は?」

そう言って立花さんがポケットから取り出したのは古い漫画で出てきそうなデザインのスイッチだった。
箱に赤い押し込む部分、そしてアンテナをつけたようなおざなりなデザインのあれだ。
それを、躊躇なく立花さんは押し込んだ! いや、押し込みやがった!
そしてその瞬間。

「へ――――――――――っ?」

ズオン、かもしくはズドンという音が後ろの方から聞こえたと思ったら景色が急速に歪んだ。
横の壁が後ろの方に吹っ飛ぶ、というか俺が、俺が吹っ飛んでいた。

「うおわああああああああああっあああああぁぁぁ!!!!!」

ハイパーセンサーのおかげで壁に正面衝突する前に状況を把握。
泣きたい思いを押し込めて絶叫で我慢。
さっき言われたことを頭の中で反復。

『空を飛び跳ねる――』

右足に力を込める。
溜めて――蹴る!!

まだ開ききっていない隔壁を抜け空へと飛び出す。
風を切る音が耳元を撫でて、地下のこもった空気を纏っていた体が、春の空気にぶち当たる。
加減の分からない加速で、とにかく落ちないように意識して足を踏み出す。右! 左!

「っぐぅ!」

肺から変な音が漏れる。
息を大きく吸い込む、IISもISと同じで宇宙空間でも活動できるように作られている。
前面から思いっきり風が当たってても呼吸するのに支障は無い。

(もっと、高く、高く!)

本能が空を求め、ぐんぐん高度を上げる。
雲に何度もぶち当たっても、加速をやめずに上を目指す。
何の障害物にも当たらないところまで行くと、ようやく加速を緩める。
天上を黒が染めて、藍が滲みだし、空の端を青が広がる。
雲が大分したのほうに浮かんでいるのが見える。

「すっげえなぁ。こんなところまであっという間だ」

ポツリと独り言を呟く。
こんな景色を見ておいて言うことがこんなものとは我ながら薄っぺらい人間だと思うよ。

「なぁ一夏、俺はこんなところまで来たぜ。お前も来た事が無いような、遥か空高くに」

こんなに空高くにきても風は流れる。
髪の毛が少し目にかかってムズ痒い。
学校に入る前に一度切ったほうがいいかもしれないな。
一夏は、どんな顔をするだろうなぁ。

「へっ、今から楽しみだなぁ。あいつめちゃくちゃ驚くだろうなぁ」

どんな風にこのテストパイロットの件を明かすかな。
いきなり電話で伝えるか? いや、もっといい方法がありそうだ。
入学式の日にこっそりついていくとか? いや、途中でばれるのが関の山だ。
じゃあ――

「あいつに知られないように入学して、学校で何気なく、いつもどおりに声をかける」

口元に浮かんだ笑みは、俺の人生の中でもっとも悪趣味な笑いだっただろう。
けれどこのときの俺の気分はもっとも晴れ渡っていただろう。

「へへっ、まずは一歩。お前に近づいてやったぜ、一夏」

誰もいない、空高くで、誇らしげに笑ってやった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その後、一ヶ月立花さんのところでみっちりIISの勉強と練習して、その中で立花さんの話とか聞いたり研究所の人とも仲良くなっていったんだよな。
なんというか懐かしいこと思い出したな。あのころの俺は切羽詰っていたというかなんというか、まぁあんな奴が近くにいれば誰でもこうなるよな。

「弾さん、弾さん」

「お、なんだよセシリア。無駄口叩いてると怒られるぜ?」

「話を聞いていなくても怒られますわよ。さっきから心ここにあらずというような感じでしたから」

「わりい、サンキューな」

「いいえ」

ちょっと昔を思い出してボケてたみたいだけどそんなに長いことは経ってないみたいだ。
立花さんはタバコ吸えなくてソワソワしてるし、山田先生はまたタバコを取り出さないか目を光らせている。
変わったことといえば千冬さんの前に篠ノ之さんが行ってることくらいか?
何を呼び出されたんだろ? そういえばシャルルとボーデヴィッヒは列に戻されたんだろうか、前にはいないみたいだけど。

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」

なんか、すげえ向こうから砂埃巻き上げてこっちに向かってくる人影があるんですけど!?
つーかあれ人!? ギャグ漫画の中じゃないとあんなに砂埃巻き起こらないぜ!!
ぼんやりとした思考の中から無理矢理に俺を引っ張り出したその人は、全く減速する素振りを見せずに千冬さんに突っ込んでいく。

「……束」

ぼそり、と千冬さんが何かを呟いたように見えた。
なんと言ったかまではここからでは聞こえなかったけど。
千冬さんのことを『ちーちゃん』と馴れ馴れしく呼ぶその人物は、関係者以外立ち入り禁止であるはずのこの装備試験の場に堂々と割り込んできた。

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―― へぶぅっ!」

千冬さんは流石と言うかなんと言うか、走りこみ、そのままの勢いで飛び掛ってきた謎の女性を片手で頭を鷲づかみにして捕らえた。
あれ、なんていうかメシメシと人体から聞こえてはいけない音が聞こえてきてるような、つーか指が顔面にめり込んでますよ!

「うるさいぞ、束」

束、とそう言った。
確かに千冬さんは掴んだ女の人に向かって束、って……
周りも千冬さんの口から出た名前に反応して、ざわめきが広がる。

「ぐぬぬぬぬ…… 相変わらず容赦ないアイアンクローだね」

しかもその人物は千冬さんの、ああまでがっちり捕らえていたはずのアイアンクローをぐりゅりと抜け出し、軽やかに地面に着地をとる。
現実離れした服装と、只者ではないその雰囲気。
そしてその名前は――

「篠ノ之、束博士……?」

誰かがそう呟いた。
渦中の人物は千冬さんの前にいた篠ノ之さんに目をつけた。

「やぁ!」

「……どうも」

「えへへ、こうやって会うのは何年ぶりかな? 大きくなったねぇ箒ちゃん。特におっぱいが」

鈍い音が鳴る。

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ……。しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」

篠ノ之さんとコミカルなやり取りを交わす篠ノ之博士だが、周りの皆の視線は困惑であったり、畏怖であったりと本人たちの雰囲気とは魔逆の様相を呈していた。
しかしこんなひどくボケたやり取りを交わす人が、あのたった一人でISを完成させた稀代の天才、篠ノ之束博士なのか。
会話内容だけを聞いていれば、軽いノリではあるが人のよさそうな人物に見える。
なのになんだろう、薄ら寒い。あの人を見ていても積極的に関わりたくない。
明らかに負のイメージしか沸いてこない、なんでだ?

「え、えっと、この合宿では関係者以外は――」

「んん? 珍妙奇天烈なこと言うね? ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にはいないよ」

「えっ、あっ、はい。そう、ですね……」

山田先生が突然現れた篠ノ之博士に注意を促そうとしたが、篠ノ之博士の有無を言わせない態度と語調に何も言えずに後ろに下がる。
さっきまで篠ノ之さんと喋っていた人物とは同一人物とは思えないような、態度の変容。
やっぱり、普通じゃないってことか……

「おい、束。自己紹介位しろ、うちの生徒が困ってる」

「え~、めんどくさいなぁ。はーい、私が天才の束さんだよ~! はい、終わり。これでいい?」

事態を飲み込めてなかった生徒も、分かっていても信じられなかった生徒も、皆篠ノ之博士の言葉で全てを理解し、場が騒然となる。
ざわつく場を制するために、千冬さんが声を上げる。

「というわけだ、自己紹介もすんだしさっさと準備を進めろ。時間は限られているからな、こいつなんぞにかまっている暇はないぞ」

「こいつとはひどいなぁ~。ラブリィ束さんと呼んでいいよ」

「うるさい、黙れ」

なんだか親しげに会話を交わす千冬さんと篠ノ之博士、そこにおずおずと割って入ったのは山田先生だった。

「えっと、あのこういった場合どうすれば……」

「さっきも言ったようにこいつには構わなくていい。山田先生は各班のサポートをお願いします」

「わ、わかりました」

「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんははげしくじぇらしい。このおっぱい魔神め、たぶらかしたな!」

言うや否や篠ノ之博士は山田先生に飛び掛る。ひどい言いがかりだ。
しかし暴力的な行為に及ぶことはなく、篠ノ之博士の手は山田先生の二つの豊満なふくらみを鷲づかみにしている。

「ひゃああっ!? な、なん、何なんですかぁっ!?」

「ええい、よいではないかよいではないか!」

よく分からないノリで山田先生の豊満なそれが揉みしだかれている。
いつも思っていたけど、山田先生のあれって大きいよなぁ。篠ノ之博士も言ってるわりにはでかいほうだ。
というか、あのあたりのでかさのレベルが妙に高いぞ。山田先生、千冬さんに篠ノ之博士と篠ノ之さん。
なんと言うか、ちょっと眼福かも。

「弾さん」

隣のセシリアから鋭い視線を貰う。
殺気めいた黒い雰囲気を纏った、ヤバ気な視線を。

「やめろ馬鹿。大体胸ならお前も十分にあるだろう」

「えへへ、ちーちゃんのえっち」

「死ね」

セシリアからの視線を逃れるように、気を取り直して篠ノ之博士のほうを見やると丁度千冬さんにいい蹴りを貰って砂浜に頭から突っ込んでいくところだった。
なんつーか、本当に読めない人だな。侮りがたいと思っていたらこうもすっとぼけて……一体どういう人間なんだ。

倒れている篠ノ之博士に、篠ノ之さんが歩み寄る。
助け起こすのかと思いきや、何かを囁いている。
うまく聞き取れなかったが、それを聞いて篠ノ之博士が飛び起きて、高々と空を指差す。

「うっふっふっふ、それについてはもう準備オッケー! さぁ大空をご覧あれ!」

その言葉に釣られ、篠ノ之さんも俺達も、空を見上げる。
だが、俺達は空を見上げるのが遅すぎた。
何かが視界に入ったと思ったときにはそれは砂浜に、轟音を立てて突き刺さっていた。
随分と荒々しい登場の仕方をしたその物体は、金属質で太陽の光を反射している。

「なんだありゃあ?」

「篠ノ之博士が呼んだんですの? ……あ、あれ!」

セシリアの声で謎の物体に目を向けると、こちら側の壁が倒れて中が露出する形になる。
そしてその中にあったものは――

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃんの専用機、その名も『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんの自信作だよー!」

真紅の装甲、それがコンテナ内部のアームにより外へ出され、太陽の光に晒されて輝きを放つ。
どことなく、白式を思わせるようなフォルム。だがこちらのほうが凛として、すらりと伸びている印象がある。
篠ノ之さんの専用機、なるほど篠ノ之さんに似合いそうなISだ。

「さあ! 箒ちゃん、フィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐ終わるよん♪」

「……それでは、頼みます」

「堅いよ~、実の姉妹なんだからもっとキャッチーな呼び方で――」

「はやくはじめましょう」

「う~ん、まぁそうだね。はじめようか」

どこから取り出したのか、リモコンのボタンを押す篠ノ之博士。
すると赤椿の装甲が開き、膝を落として篠ノ之さんが乗りやすいように姿勢をとる。

「箒ちゃんのデータは先行してある程度入れてあるから、それを最新のデータに更新するだけだよ。それピ☆ポ☆パ☆」

気の抜けるような掛け声と共にバーチャルコンソールを操る篠ノ之博士。
だがその操作速度はふざけた掛け声とは一切同期しておらず、尋常ではない速度で腕が動いている。
やはりあの天才、篠ノ之束だ。世界に並ぶものがいないと言われるだけはある。

「近接戦闘を基礎に、万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あと自動支援装備もつけておいたからね! お姉ちゃんが!」

「……それは、どうも」

それにしてもなんだか篠ノ之さんの態度がちょっとつっけどんだな。
実の姉妹のはずなのにどうしても距離を感じる。仲が悪いのか?

「箒ちゃんまた剣道の腕上がった? 筋肉のつき方でなんとなくわかっちゃうよ~。お姉ちゃん鼻が高いな」

「……」

「えへへ、無視されちゃった。―― はい、フィッティング終了~。超速いね、さすが私」

たった数分、篠ノ之さんとニ、三言の会話のうちに終わらせてしまった。
最初からデータをある程度入れておいたからなのか、機体のデザインが大きく変わったようには見えない。
分かる所としてはサイズが今の篠ノ之さんに合わせて若干変化したくらいだろう。
近接戦闘基盤の万能機、と言っていたが今現れている装備は近接用ブレードが腰の左右に一本ずつ。
シャルルの機体のように拡張領域が多めに割り振られて、そこから状況によって武装の切り替えを?
だが篠ノ之博士がそんな一般的な思想で機体を製作するか?
自動支援装備もあると言っていた、ならばブルーティアーズのように装甲部分が武装に変化するようになっているのだろうか?

(とか色々考えたって推測の域を出ないよな。でも一つ気になる点があるとするなら……最初に見た印象で白式に似ているとなにげなく思ったけど――)

まるで最初から、二つを並べることを前提としたかのような対称性。
気のせい、と言われればそうとも思える。
だけど俺にはどうしてもそう見えてしまう。
どうして、何故なんだろう?

「あの機体、篠ノ之さんの専用機になるの? ……身内ってだけで」

「そうだよねぇ、なんかずるいよね」

ふと、作業をしている女子のグループのほうからそんな声が聞こえた。
ここまで、というより考え事をしていた俺にさえ聞こえたのだからそれなりの声の大きさだったんだろう。
確かにそれだけで専用機もらえるっていうのは、友人としての贔屓目がなければ自分もそう感じていたかもしれないな。
だけどわざわざ口に出して言うことあるかよ。俺は少し顔をしかめる。

「あっはっは、歴史の勉強が足りないねぇ。有史以来、人類が平等であったことなんて一度もないよ」

そして言った女子達にこう返した篠ノ之博士に、さらに顔が歪む。
なんて性格の悪い返し方だ、やっぱりこの人の本性はこっちだろ、絶対。
言われた女子たちはさすがに何も言い返せず、ばつの悪い顔をしながら作業に戻った。
そりゃああんな毒々しくて、返しに困るような暴論のような正論をぶつけられて反論しようなんて普通は思わないよな。

「うっわぁ~、今時の娘はえげつないねぇ。おじさんの憧れてた大和撫子なんていうのはもうこの世には存在しないのかよ」

普通は思わないだろうけど、このおっさんは堂々と、反論……というかいちゃもんをつけていく。
まっすぐ篠ノ之博士を見つめながら、ずんずんと歩みを進めていく。
途中タバコを取り出しかけて、はっとして戻す。格好つかないな、この人。

立花さんは篠ノ之博士の目の前に立つと、幾分か背の低い彼女を見下ろすように見やる。
睨むわけでもなく、かといって友好的でもなく、ただ、見やる。
それに対して、篠ノ之博士は紅椿のパーソナライズを続けながら立花さんを一瞥する。
敵意を含んでいるように見えたが、山田先生やさっきの生徒にもそういう視線を向けてたし親しい相手以外にはこうなんだろうか?

「天才ちゃんはえらいもんを作るな。やっぱりISの生みの親は違うってことか? 俺も一つご教授願いたいもんだ」

「君じゃ無理だ」

「うはっ、ばっさり斬られちまったよ。でも俺も男だからな、諦めるわけにはいかない……嬢ちゃんなら分かるんじゃねえか?」

「…………」

残念ながら、篠ノ之博士相手に会話のキャッチボールは一往復が限度だったらしい。
いや、キャッチボールもできていなかったな。お互い自分の言いたいことを言っただけのようだ。
まるでドッジボール。
その後は篠ノ之博士は作業をしながら篠ノ之さんとかと会話に戻ったし、立花さんも肩をすくめてこちらに戻ってきた。

「何やってんですか」

「IS研究者同士の意見交換」

「できてねえじゃないすか。会話にすらなってないし」

得られた言葉なんて『君じゃ無理だ』の一言じゃないか。
しかし立花さんはなぜか満足げな表情で。

「いや、十分すぎる情報を得られたさ。お前はもう少し空白を読めるようにならないとモテないぜ」

空白? さっきの二人の会話……ドッヂボールの中の空白?
それってどういう意味になるんだ? さっぱりわからん。

「駄目だ、やっぱりわからないですよ」

「そんな簡単にわかるもんかよ。今はそういうことだってことだけ知っておけ」

「……二人は知り合いだったとか?」

「残念はずれ、初対面同士だよ」

ますます訳が分からない。
初めて会った人間が、あれほど少ない言葉で何かを理解できるのものか?
俺の頭の中に混乱が降ってくる。
そしてその混乱は解けぬまま、事態は次の場面へ移ってゆく。

「立花藤吉博士、少々お聞きしたいことがあるのですが、お時間はよろしいですか?」

聞きなれたセシリアの声が後ろから投げかけられる。

「セシリア?」

「なんだ、弾の知り合いか? それにしてはえらい別嬪さんだな」

「それにしては、ってどういう意味っすか」

「そのままの意味さ。で、そのセシリアちゃんは何を聞きたいんだ? 幸い玉鋼は装備試験じゃやることなんて一つもないからな、時間はたくさんある」

しかも何にも無いのかよ……まぁ玉鋼は今もギリギリで動いてるんだから、装備増やせないのも仕方ないけどさ。

「それでは、単刀直入に申しますが――なぜ玉鋼は第二次移行(セカンドシフト)をしなくても単一仕様能力が使えますの?」

「そりゃあそういう機体だからだろ? 一夏の白式だって、元々第一形態から使えるように作られたって言ってたし」

他のISでは第二次移行後でしか使えないはずの単一仕様能力。
それは経験を積んだり、ISとの相性を合わせていくことでISが進化を起こし、その副産物として単一仕様能力が生まれるというのが通説。
けれど誰もが第二次移行できるわけでもないし、できても単一仕様能力を使えるわけじゃない。
だからこそ、ラウラ、セシリア、鈴のように第三世代の機体には最初から使える特殊な装備を搭載されている。
誰にでも使えない最強兵器より、誰にでも使える優秀な兵器を、ということだ。

「そういうこと。白式や玉鋼とかの日本が作りたがってた機体はそういうやつなんだよ」

「では、なぜ私たちのような第三世代装備が開発されたのでしょう? そういう機体が作れるのなら作ればいいのに」

あ、そう言われれば確かに。
ラウラやセシリアの第三世代装備なんかはかなりの熟練や適正なんかが必要なんだし、別に単一仕様能力を第一形態からつけたほうが。

「こいつや織斑弟の機体一つにかかるコスト、知ってるか? 要するに、これから量産するのにコスト度外視の機体を作るのはどうかねぇって話だ」

なるほど、コストの問題なのか。

「玉鋼は試験機ではないのですか? それとも、これから量産することがないとでも?」

「そりゃ揚げ足取りだ。ISと違ってIISは出来たて、コストは自然とかかっちまうもんさ。つーかよ、セシリアちゃんはそんな言いがかりつけるために来たわけじゃないだろ? もっと言いたいこと素直に言っていいんだぜ」

え? 何、結局どういうことなんだ?

「……お見通し、というわけですわね。分かりました、私の中の疑問。それをそのまま語らせていただきます」

「え? ちょっと待ってくれよ。さっきまでの会話は?」

「やっぱり気付いてなかったのかよ。お前はやっぱりアホだなぁ、セシリアちゃんは俺を試したってわけさ。俺が疑問に答えられるかどうかにな」

「先ほどまでの会話はほとんどが口からでまかせ。立花博士が私の知りたいことを知っているかどうかを探るために、適当に言葉を選んだだけですわ」

「まじかよ、俺普通に納得したりしちまったよ」

なんか俺の頭が良くないことを証明したみたいで恥ずかしい。
しかもセシリアの前で……

「うふふ、弾さんにはそういう面では期待していませんから」

うぐっ、やっぱり俺ってセシリアから比べたらそんなもんだよなぁ。
なんか落ち込むわ……

「……他に魅力的なところがいっぱいありますし」

「え、なんか言ったかセシリア?」

「な、何もっ!」

あぁ~俺に言えないほどのことなのか。
もっと勉強とかもがんばらないと、セシリアに釣りあうような男になれないのかなぁ……

「ふんっ!!」

「痛ってえ!!」

い、いきなりケツに鈍い痛みが。
立花さんにローキックを喰らったようだ。

「何するんだよ!!」

「うっせバーカ!!このリア充め!!死ね!!……んで、セシリアちゃんは本当は何が聞きたかったんだ?」

「流そうとするな!!」

「はい、これは一夏さんや弾さんに会った当初からだんだん――」

「セシリアも無視するなよ!!」

俺の叫びは無いものとされ、セシリアの言葉は続く。
畜生、泣きっ面に蜂とはこのことだよ。

「そうです、だんだんおかしいというか、違和感が募ってきていました。さっきの会話のように理由はつけられるのですが、単一仕様能力についてどうしてもおかしいと思ってしまうんですの」

「おかしい、つーと?」

「発動条件です、単一仕様能力の発動条件は①第二次移行②機体と操縦者の最高相性、とありますが本当にそうなのか? ということですわ」

「……そこになんかおかしい所あるか?」

「形態移行(フォームシフト)は通常、機体の経験値や稼働時間の蓄積で大きく機体の外観、性能が変化する現象ですわね。そして今まで単一仕様能力を発動できた機体は全て第二次移行後の機体でしたわ」

「当たり前だろ? そりゃ単一仕様能力の使用条件が第二次移行を終えていることだから――」

いや、セシリアはそこに疑問を持っているんだ。
だったらさっきの言葉の中にセシリアの考えていることが隠されている?
どこに……

『玉鋼、白式』『第三世代機体』『単一使用能力』『条件』

これだけじゃない、考えろ。
セシリアは、条件のうち第二次移行後ということに注目してるはずだ。
なら――

「俺の機体や一夏の機体は、『第一形態から単一仕様能力が使えるようになっている』っていうのがポイントか?」

「お、分かったのか? このセシリアちゃんが言いたいことがよ」

「いや、ここがポイントなのは分かるんだけど後はどこがどうなってるのか。もう少しで言いたいことがわかりそうなんだけどさ。ごめん、セシリア。先に進めてくれ」

「わかりました。では再開しますが、本当に弾さんは近いところまで来ていましたよ。私が言いたいのは、第二次移行というのは単一仕様能力を使えるように進化することじゃないのか? ということですの」

「!!」

セシリアの言葉で、詰まっているところが一気に解けた。
なるほど、そういうことか。

「つまり俺らの機体は、単一使用能力を最初から使えるように作られてたってことか!」

「お前、さっき言ったのとほとんど変わんねーじゃねえか」

「でもしっかりわかってらっしゃいますわね」

ま、まぁさっきのことがあって必死で考えながら聞いてたからな。
少し照れるぜ。

急いでいるので予告も何もなしに投下しちゃいます。
それではいきます

「では、現状を説明する」

旅館の一室を貸しきって、俺達いつもの面子が集められ、円状に広がって座らされた。
部屋の中央には立体投影型のディスプレイが鎮座していて、映像を写すために部屋の中は薄暗い。
千冬さんが立ったまま説明を始める。

「およそ二時間前、ハワイ沖で試験稼動中だったアメリカ、イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。管理空域より離脱したとの連絡があった」

は? 軍用ISの暴走に管理空域からの離脱?
悪い話だと予想していたが思っていた以上にハードな話らしい。
その話と、今俺達が集められた状況。他の生徒は自室待機であることも含めると……

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから五十キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして約四十分後。学園上層部からの通達により、この事態は我々が対処することになった」

俺の悪い予感を裏切らず、千冬さんは次の言葉を続けた。

「教員は学園の訓練機を使い、空域及び現場海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

ハードどころではない、難易度で言えばベリーハード、いやルナティックか?
軍用ISの相手をするなんて、正直冗談じゃないと思ってしまう。
学生にできるのかよ、そんなこと。

(でも……)

周りを見回せば全員真剣な面持ちだ、やるしかないんだろうな。
腹括るしかなさそうだ。
あ、でも一夏だけ焦ってるように見えるな。

「それでは作戦会議を始める。意見のあるものは挙手するように」

「はい」

早速セシリアが手を挙げる。

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった、ただしこれは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。もし情報が漏洩した場合諸君らには査問委員会による裁判を受けてもらうと共に、最低二年間の監視下に置かれる」

「了解しました」

部屋の中央のディスプレイに福音の詳細なデータが表示されていく。
研究所の手伝いなんかでこういうのを読み取るのは慣れていたおかげで、情報はわりとすんなり入ってくる。
ただ隣の一夏はどうにもまだ事態が飲み込めてないみたいだ、目がディスプレイを追えていない。

「おい、一夏しっかりしろ。今しっかりしておかねえと後でやばくなっても知らないぞ」

「お、おう」


ようやくしっかりした一夏も加え、千冬さんや山田先生教師陣、俺達専用機持ちで意見を出し合う。

「広域の殲滅を目的とした特殊射撃型。私のISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。攻撃と機動に関してはこっち側の機体のスペックをほぼ凌駕してるのが厄介ね」

「この特殊武装は厄介そうだね。ちょうど本国からリヴァイブ用防御パッケージが送られてきてるんだけど、それでも連続しての防御は難しそうだよ」

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん。偵察は行えないのですか?」

「ちょっと待ってくれ、外観データから察するに全身装甲(フルスキン)タイプだって分かるけど、これってPICによるパワーアシストのほかに外骨格によるパワーアシストもあるって考えられないか?」

「根拠は何だ? このスペックデータからはそこまで読み取れないとは思うが」

「あぁ、根拠としては薄いんだけどこの――」

「ちょちょっと待ってくれよ弾!」

と一夏に途中で言葉を遮られた。

「どうしたよ、一夏。話してる最中だぜ」

「さっき言ってたパワーアシストの種類のこと少し詳しく。話についていけない」

「織斑、正直なのはここではいいことだが、もっと勉強をしておけ」

「はい……」

確かにここでは分かっていないことよりも、分かっていないまま進めることがまずい。
一夏だって俺らだってまだ学生だし、分からないこともある。
ちなみにパワーアシストの話題は実技で少し触れた程度だから分からなくても無理はない。
俺は学園に来る前にこういう部分は勉強してるし、代表候補生は言わずもがな。篠ノ之さんは勤勉だからかな。

「じゃあ軽く分かるように説明するけど、PICのパワーアシストについての原理はわかるな?」

「おう、PICの重力制御でかかる重さや遠心力とかを相殺してるんだろ?」

「よし、ならさっき言った外骨格のパワーアシストは要するに装甲とかに筋肉と同じような作用をさせるって寸法さ」

「なるほど、PICは自分に不利な力を相殺したりするけど、外骨格は単純に力を足すわけか」

「その通り。でも一夏って以外と感覚的だよな」

「そういうお前は意外と論理的だよな。中学の頃なんか俺と一緒に馬鹿してたくせに」

そう言われればそうだけど……
まぁ立花さんに会ってからそういう話を聞く機会が増えたし、活用する機会も増えたしな。


「五反田、それでさっき言いそびれたことは何だ?」

「おう悪い。俺が思うに、敵に近づかれた時に使える武装が極端に少ないってことだ。近づかれた時にとれる行動があまりにも少ないと俺は感じた、だから近距離でも打開できる手段としてあるんじゃないかって」

「でもこれの機動性と機体制御能力なら近づかれないように立ち回ることが可能なんじゃない?」

「もしもを想定していないとは考えられない。もしも近づかれたら何も出来ない、って機体は作らないんじゃねえかな」

「あ~、そう言われればそう思えなくも……でもやっぱり根拠として薄いわよ。全身装甲と武装に近距離装備がないだけでは確定とは言えないわ」

「待って、でも弾の言ってることもあながち間違いじゃないかも。たしかに近距離でできることが武装だけ見ると逃げだけしかない。だったら何か近距離で使える装備か機能が存在すると考えるのはおかしくない」

「確かに嫁の言うとおりだな。お世辞にも装甲が堅いと言えない、砲撃ならともかく近距離型ISの近距離装備を叩き込まれれば致命傷といかなくとも重傷だ。一番起こってほしくない事態に対して、何の対策も打っていない兵器などないはずだ」

「となると、このデータの中にその対策とやらがあってもおかしくはない。そういうことだなラウラ」

篠ノ之さんの言葉でこの議題は締められた。
そしてすぐさま次の議題へ。

「先ほど偵察は行えるか? と聞いたな。しかし偵察は無理だ、この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高時速は二千四百五十キロを超えるという、接触は一度が限界だろうな」

「一回きりのチャンス……ならば一撃必殺の攻撃力を持つ近接機を当てるのが一番ですわね。長期戦は期待できませんし、となると――」

千冬さんの解説を受けてのセシリアの言葉に、皆が一斉に一夏のほうを向く。

「え……?」

一夏の素っ頓狂な声。

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「そうだね、それが最善策だと思うよ」

「そうですわね、となると問題となるのは――」

「待ってくれ! なんで俺で確定なんだよ! 弾や鈴だっているだろ!?」

まぁ確かにその通りなんだけど、これも理由があるわけで。

「あたしの武装は一撃必殺って訳じゃないし。さっきもラウラが言ってたでしょ、近接機の攻撃を受ければ重傷って。逆に捉えれば普通の一撃じゃ落とせないってことよ」

「じゃ、じゃあ弾は!?」

「俺の武器のドリルは一瞬ではダメージを持っていけないからな。ぶつけ続けてダメージを稼ぐような武器だ。その点お前の白式は一発で落とせるだろ?」

「うぐぅ……」


一夏自身の意思を無視して進む話に、当事者である一夏はごねる。
まぁ俺も進んで行きたいとは思わないけどな。
しかし、一夏以外に適任と言える奴はいない。

「織斑、これは訓練でなく実戦だ。もし覚悟がないのであれば、無理強いはしない」

トドメとばかりに千冬さんから追い込みを掛けられる。
一夏の弱点である千冬さんに実質『逃げてもいいぞ』と言われた一夏は、今度こそぐぅの音もでなくなる。
けれどそれで踏ん切りがついたのか、一度だけ大きく息を吸い込み、吐く。
顔つきが変わる、覚悟を決めた顔に。

「……やります。俺が、やってみせます」

千冬さんが軽くを顎を下げ頷く。
気のせいかもだけど少し満足そうだ。

「それでは作戦の具体的内容に入る。攻撃役の織斑を福音に接触するまでは温存しておきたい。そのために接触地点まで織斑を運ぶ運搬役が必要になる、この中で一番速いのは誰だ?」

「やっぱり弾の玉鋼でしょうね。次点でセシリアのBT(ブルー・ティアーズ)あたりじゃないかと」

「いや、五反田の機体は安定した速度が望めないだろう。それにポイント到達後に最低限援護に回れるほうが好ましい」

シャルルの言うとおり、俺の玉鋼は速度だけならどの専用機にも負けない性能を誇っている。
ただそれは単一仕様能力の発動下でさらに、直線の場合だ。
旋回性能は皆無だし、単一仕様能力を使っていない時は訓練機に毛が生えた程度の速度しかない。
さらに武器はドリルしかないし、こういう近接機と組む作戦には向いていない機体ではある。

「あの、織斑先生。私のBTがちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていまして、それを適用すれば弾さんには及ばないまでも十分な速度が得られるかと」

パッケージ、ISの換装装備のことか。
確か単純な武装とかじゃなく、追加アーマー、増設スラスターといった機体の性能に直結するような装備が一セットになっていて、それを量子変換(インストール)しISに組み込む。
そうすることでIS起動時に追加された装備を装着した状態で出撃できるというわけだ。
さらに専用機には『オートクチュール』と呼ばれる、機能特化専用パッケージが存在していて、通常のパッケージより大幅に性能が変化するらしい。
専用機は一騎当千のエースみたいなものだから、その専用武装ともなればやはり効果が高いってことか。よく知らないけど。
だって俺の玉鋼にはオートクチュールどころかパッケージすら存在しないし。

「なるほど、オルコットならば援護、支援にもなれているだろうし適役か……オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「二十時間です」

「よし、ならば――」

千冬さんの言葉はそれ以上続かなかった。
遮るものがあったからだ。

「待った待ったー! その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

闖入者は天井から現れた。
このふざけた口調、つい先ほど海岸線に現れた篠ノ之博士その人であった。
篠ノ之博士はディスプレイが投影されている部屋の中央、その直上の天井の板を外してそこから顔を出していた。


「山田先生、室外への強制退去を」

「あ、はいっ。あの篠ノ之博士、とりあえず降りてきてくださいー」

「とぅっ!!」

頭だけ出してるその体勢からそのまま落ちるように抜け出ると、空中で身を捻らせて地面に足から着地する。
猫みたいな身のこなしだ、あの服やら胸やらでよく引っかからず見事に着地するもんだ。
しかも立体ディスプレイのおかげで翻るスカートの中身もよく見えなかった。これも予想してたのかも――

「ふんっ!!」

「ぐっっっん!!?」

なぜか横のセシリアからわき腹に鋭い貫き手をもらった。
な、なぜだ!!?
セシリアを見やっても再度「ふん」というのみである。
何で怒ってるんだよ、そう問い詰めようと思っても、今声を荒げれば千冬さんあたりに制裁されるから出来ないし……
俺はしかたなく泣き寝入りを決め込む、ち、畜生。

「ちーちゃんちーちゃん! もっといい作戦が私の頭の中にプリンティングなう!!」

「……出て行け」

千冬さんも眉根をゆがめて厄介そうに呟く。
山田先生は千冬さんに言われたとおり篠ノ之博士を外に連れ出そうと努力してるようだが、ひらりひらりとかわされている。
一応山田先生も代表候補生だったこともあるのに、その山田先生をああも簡単にかわすのってすごいんだよなぁ。

(なんか実感薄いけど……山田先生って普段の行動を見てると本当ただのドジだもん)

「聞いて聞いて! ここは断・然・紅椿の出番なんだよ!!」

「なに?」

「紅椿のスペックデータを見てよ! パッケージが無くても超高速機動が行えるんだよ!」

篠ノ之博士の言葉の後に、千冬さんの周りに数枚のディスプレイが現れる。

「紅椿の展開装甲を調整して、ちょちょいのちょいっと。ほら、これでスピードはばっちり!」

展開装甲? 聞きなれない単語が篠ノ之博士の口から聞き取れた。
紅椿の新機能か? 武装の類ではなさそうだけど。
思案するが自分の知識の中には該当するものも、そこから連想することも不可能だった。
気付くと部屋の真ん中のディスプレイも福音のデータではなく、紅椿のデータを表示している。
いつの間にか篠ノ之博士がハッキングしていたらしい。


「説明しましょうそうしましょ~。展開装甲って言うのはねこの天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」

まったく調子を変えずにふざけたように言ってみせるが、その言葉の中にはこの場を凍りつかせるに十分な爆弾が積まれていた。

(第四世代……だと……!?)

「はいはいここで心優しい束さんの解説だよ~、分かってなさそうないっくんのためにね。どう、嬉しい?」

本人は相も変わらずどんどんと話を進めていく。
俺達は本当に眼中に入っていないように。

「まず、第一世代というのが『ISの完成』を目標とした機体だね。次に『後付武装による多様化』、これが第二世代。それで第三世代が『イメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』、空間圧作用兵器、BT兵器、AICとまぁ色々あるよね」

自身の友人達の持つISに搭載された兵装が頭の中に浮かんでは消える。
それぞれの国の最先端の技術をつぎ込まれたあの機体たちが。

「そして第四世代、『パッケージの換装を必要としない万能機』。世界の凡人さんたちが思い描く理想の形、机上の空論。はい、いっくんは理解できた? 先生は優秀な子が大好きです」

「は、はぁ……え、いや、え!?」

一夏も困惑気味だがやはり気付いてるようだ。

「ふざけていますわ……」

隣のセシリアが消え入るような声で呟く。
俺も全く同じ気分だよ。
世界中で競い合うように開発の進むISの、それも最新鋭機が今現在ようやく第三世代機の作製に入ったばかりだ。
なのにその世界中の科学者、研究者をあざ笑うかのように第四世代機を一つ仕上げちまうなんて。
なんの冗談かって思っちまうけど――

(この天才博士ならやっちまいそうな気もするよ。たった一人でISの基礎理論から設計、作製。実動機第一号まで仕立てちまうこの篠ノ之束なら)

「ちなみに展開装甲は『雪片弐型』にも使われてるよ~、私が試しに突っ込んでみた~」

「「「えっ!?」」」

ごめん、さすがにここまでは予想外。
俺どころかここにいたほとんどの奴は声に出して驚いていた。
まさかまさかだよ、今まで戦ってきた武装が実は最先端技術でしたって。
けど白式の零落白夜が発動した時に起こる、雪片弐型のあの刀が開くモーションが展開装甲? どういう効果があるんだ?

「それでうまくいったみたいだから、紅椿の装甲は展開装甲にしてありまーす。さらにシステム最大稼動時のスペックデータは脅威の倍プッシュ、どーだまいったかぁ」

目の前に投影されたディスプレイに表示されている数値が増え、平均稼動時と最大稼動時のスペックを比べることが出来るようになる。
本当にこの目の前の人は冗談めかしてとんでもないことをさらっと言い放つ。
単純な倍とかではないが、感覚的に見てもこれほどのスペックがあれば、倍とのたまっても許されそうだ。

「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切替が可能。これぞ第四世代の目標である即時万能対応機。世界中に先駆けて私が作っちゃったー。ぶいぶい」


何度目かは分からないが、周りの空気が固まる。
この人の話を聞いてたら驚きすぎて、驚くことに飽きてしまいそうだ。
実際この人を始めて見てから今まで、何度驚いたことか。もう驚くことに食傷気味だ。

「はにゃ? あれ? どしたの皆、お通夜みたいな顔して。誰か死んだ? 変なの」

「今全世界の科学者全員の面子が死にましたね、確実に」

俺が精一杯の皮肉で返すが、何も聞こえてないかのように流される。
まぁ、今まで見てきたあの人の反応を見てたら予想は出来たけど。

「束、言ったはずだぞ。やり過ぎるな、と」

「そうだっけ? ついやりすぎちゃったよ。えへへへへ」

童子のように可笑しそうに笑うが、ぶっちゃけイメージは魔王だ。
しかしそんな人になれつつある自分が恐ろしい。
これも日々キャラの強い面々に囲まれているおかげだろう。
人種とキャラのるつぼである学園に感謝。

「まー、これも紅椿の性能を全部引き出せたらの話だけどね。けれど、これくらいの作戦をこなすくらい夕飯前さ」

夕飯前とはまぁ微妙な表現だ。
軽いのか、それとも難儀なのか。

「それにしてもあれだね~。海で暴走だなんて十年前の『白騎士事件』を思い出すよねー、ちーちゃ~ん」

言われた千冬さんは一瞬身を堅くした。しかし本当に一瞬で、すぐに篠ノ之博士を睨むように視線を向ける。
そんな視線もどこ吹く風で、篠ノ之博士は笑っていた。


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『白騎士事件』
この事件、日本人のみならず、恐らく全世界の人類が知っている出来事だろう。
なにせ、ISが世界に認められた要因となった事件で、その内容もかなりぶっ飛んでいる。
事件の起こる少し前、学会にISが発表されたらしいが、『現行の兵器をすべて凌駕する』と豪語する篠ノ之博士の言葉はまったくもって信じられていなかったらしい。
しかしその世界中が博士の言葉を信じざるを得ない状況に陥った。
それが白騎士事件。
全世界の物理的に発射可能なミサイル、計二千三百四十一発。それがすべて日本にむけて発射されたのだ。
別に篠ノ之博士の言葉を世界が信じて、早めに潰しておこうとか考えたわけじゃない。
別にどっかの秘密結社が世界侵略を始めたというわけでもない。
ただ単に、ミサイルが発射できる施設がすべてハッキングされ乗っ取られたというだけだった。
高度なセキュリティだとか、スタンドアローンだとかも関係なく、日本を狙えるミサイルはほぼ全て乗っ取られた。
その時は国中がパニックになったものだ。家でも、爺ちゃんは腰をすえてたが親父や蘭、さらにはいつも落ち着いてるお袋まで慌てふためいてたのは、子供心に大層怯えたもんだ。


とまぁ、日本中がそんな調子で、もう駄目だ、日本は終わりだ、と思ったその時『白騎士(そいつ)』は現れた。
白くカラーリングされた金属質のボディー、ところどころ肌の見える部分から女性だと判断できたが、その顔は旧式の頭全体を覆うタイプのハイパーセンサーにより窺えなかった。
どこの漫画から出てきたんだ、と思うほどその存在は現実離れしていた。
テレビ屋なんかは日本の危機に陥っても存外逞しく、その白騎士の中継が行われていたのだが、まず第一に空中で難なく静止していることにまず衝撃を覚えた。
飛行機みたいに推進剤を使っているようには見えないし、それはそれは不可思議なものに見えた。
不可思議といえば、あのテレビの撮影班はどうやって白騎士のいる場所が分かったのだろう、それも不思議ではある。
余談だったな、ともかくその彼女は迫り来るミサイルに対して逃げるでもなく、防ぐでもなく、攻撃を開始した。
衝撃的だった、あんなにも人間が早く飛べるなんて、あんな大きなものを虚空から召喚するなんて。
彼女は一振りの剣でミサイルを切り落とし、当時試作段階であった荷電粒子砲を呼び出しては飛来するミサイルに打ち込んだ。
ほぼ半数のミサイルを撃墜した時、世界は彼女にキバを剥いた。
それはそうだ、今まで鼻で笑っていた新兵器は開発者の言うとおりの性能があった。
そしてその性能が確かであれば、世界のパワーバランスは大きく崩れる。
焦っていたのだろう、恐怖したのだろう、冷静な判断など出来なかったのだろう。
大きな力を持った国がいくつも、当時持ちうる戦力を可能な限り彼女のいる戦場に差し向けた。
一対多、この言葉で説明するのが適切ではあるのだが同時に不足である。
それほど多くの戦闘機、巡洋艦、果ては試作段階である最新鋭兵器までが駆りだされた。
しかし彼女は負けなかった。それどころか彼らを圧倒してしまった。
だがそれも当たり前といえば当たり前だ。
人間一人分の小さな機体が、音速下で戦闘機以上の旋回性能、加速性能を有し、最高速は同等か頭一つ分抜かされているか程度の差しかなく、破壊力は圧倒的に現行兵器を上回っていた。
極めつけはエネルギーフィールド、当たっても傷一つ負わせられない。その白銀の機体はすべての兵器を沈黙させるまで、その輝きを失うことはなかった。
死傷者、重傷者、双方共になし。
圧倒的に勝ったものは勿論、圧倒され負けた者にも傷ついたものが無かったというのはつまり、『敵う者なし、すなわち無敵』ということのなによりの証拠だ。
篠ノ之博士の言葉を証明した彼女は、夕日を背に受けながら、俺達の目の前から姿を消した。
TVの画面、その場で見ていた野次馬、TVクルー、敵、そして彼らのレーダーなどなどすべてから。
目視でも、レーダー、センサーの類でも捉えられなかったそうだ、一体どうやって消えたのか? 今ではISの単一仕様能力ではないか、というのが通説であるが、真偽の程は定かではない。
果たして、ISに完敗を喫した世界は篠ノ之博士を認めざるを得ず、そしてISも世界は認めざるを得なかった。
世界の対応は早かった。条約の締結、法律などの整備、何もかにもが急ピッチで行われた。
そして、今の世界が出来上がった。男から女にパワーバランスの傾いたこの世界が、僅かな期間で。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「しかし、それにしても白騎士って誰だったんだろうねー。ねぇち~ちゃん」

「知らん」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる篠ノ之博士。
それはまさしく黒幕にふさわしい笑い方だ。
世界中がうすうす感づいている、この騒ぎの原因を作ったのは他でもない篠ノ之博士ではないか、と。
だってそうだろう、全世界の軍事施設から兵器まで片端からハッキングするなんて、世界中で篠ノ之博士くらいしか出来る人間が思い当たらない。
そして白騎士の方も恐らく――

「私の予想はね~、バスト八十八センチの――」

ズバン、と鋭くも重量感のある音を響かせるこの人物、織斑千冬その人ではないか? と疑われている。
心底痛そうに頭を抱えている天才博士が千冬さんと親しいと言うのは噂されていたし、あんな動きのできる人物ならモンドグロッソで優勝することなど容易いだろう、という推測がなされている。
もちろん篠ノ之博士にそれを聞けた人はいないし、千冬さんにも、だ。
そしてそれを追求できていない理由は、単純にかなわないからだろう。
誰も世界一の頭脳と世界一のIS操縦者に対して藪をつつこうなんていう気にはならないんだろう。
蛇どころか、悪魔が出てきてもまだ安堵の息が出るほどのハードモード加減だからな。

「話を戻すぞ。束、紅椿の調整にはどれくらい時間がかかる?」

「七分あれば余裕かな。そりゃあもう完璧に仕上げられるよ」

軽く答える篠ノ之博士。

「そうか、では織斑を運ぶ役目は篠ノ之、お前に託そう」

「はい!」

先ほどのスペックデータが決め手になったんだろう、指名された篠ノ之さんは僅かに緊張の色が混じった声色で返事をした。

「教官、セシリアの高機動パッケージがあるのであればそれは作戦には加えないのですか?」

「そう焦るな、忘れているわけではない。それでオルコット、そのパッケージは量子変換(インストール)できているのか?」

「あ……まだ、できていませんわ」

ラウラの言葉で思い出したがそうだ、セシリアの高機動パッケージの話が最初に持ち上がっていたんだった。
しかし千冬さんの言葉に、セシリアは申し訳なさそうに返す。


「そうか、作戦開始はおおよそ三十分後を予定しているが……間に合いそうか?」

「えぇ~、そんな金髪いらないよ。いっくんとほうきちゃんの二人でいいじゃ~ん」

「うるさい黙れ」

「すみません、急いでも五、いえ四十分はかかるかと」

篠ノ之博士の茶々を無視して話を進めるが、どうもセシリアの作戦参加は無理そうだ。
あ、でも――

「俺達で量子変換手伝えませんかね? 作戦不参加組で手伝えば作戦開始に間に合うんじゃ?」

「お前は量子変換をなんだと思っているんだ? 機械的な作業であれば手伝うことも可能かもしれんが、電子的な作業が大半になる。手伝うといってもできることなど高が知れているし、時間の短縮も狙えんだろう」

「う、はい……」

「あはは、弾って本当に知ってることと知らないことの差が激しいよね」

シャルルが笑いながらそう言う。
そりゃIISで関係することなんかは実体験と立花さんやらから教わった知識で詳しいといえば詳しいけど、それ以外は本当に授業くらいでやったことしか知らないからな。

「では決定だな。作戦実行班は織斑、篠ノ之。目標の追跡、及び撃墜を目的とする。作戦開始は今から三十分後、各員――」

千冬さんが作戦の統括をしようとしかけたその時、またもやその言葉は遮られた。

「待った待った、ちょっとその話待っ――」

先ほどは天井から、しかし今度は真下から聞こえた。
俺が座り込んでいる畳を見やると、なにかおかしい。
畳ではなくて、俺自身が、なんか傾いて――

「たぁあ!!」

「どぅおわぁ!!」

俺の乗っている畳が持ち上がり、転がり落ちるように倒れこむ。
幸い、畳が柔らかくてあんまり痛くは無かったけど。

「た、立花博士!?」

「……なぜこうも乱入して来るんだ、お前達は」

「そうだよねぇ、本当常識がなってないよね~」

千冬さんの呆れたような言葉に、『お前達』の片割れは他人事のように呑気な発言をしていた。


「あ、あの弾さん……」

ん、セシリアの声? でもどこからだ、妙に近くから聞こえたんだが。

「その、どいてもらえると助かるのですが」

どく? どこから? そういえば畳にしては妙に柔らかかったというか、天地がひっくり返って自分の場所をうまく把握できていなかったがよくよく考えてみればここはさっきまでセシリアが座っていた場所ではないか?
床に面した背中というか、首から頭に面しての接地している部分が柔らかすぎるというか。
冷静になった頭で判断すると、セシリアのいた場所と俺の今の場所の関係、明らかに俺の背中側から聞こえるセシリアの声。
最後の駄目押しというか、頭の後ろから俺のものでない鼓動が聞こえるのだけど――

「す、すんませんっしたぁ!!」

勢い良く起き上がり、その反動ですぐさま土下座に移行。
起き上がったときに若干頭がセシリアのふくよかな部分に沈み込んだのが、思いのほか心地よかったという感動は墓場まで持っていこう。

「いえ、そんなに謝らなくてもいいですわ。事故ですし、事故ですもの」

「すまん、本当にすまん。マジごめんなさい!」

「ちくしょう、おっぱい枕とか死ねよ。マジ死ねよ、ていうか死んでください」

「弾の奴、俺のことラッキースケベとか言ってるけど、弾も大概だよな……」

あぁ、確かにそうですよ。いつも一夏にラッキースケベとか羨ま死ねとか散々言ってるけど、この頃確かにこんなの増えてきてる気がする。
とは言っても周りにあんまりよくない印象を与えてしまうし、そういう側面ではうれしくなかったりする。

「あー、あまり無駄な時間を使うな。作戦開始まで三十分しかないんだからな。立花博士もふざけていないで用件があるなら手短にお願いします、もちろん用件そのものがふざけていれば容赦しませんのでそのつもりで」

千冬さんのイライラを帯びた声に俺達は黙り、