上条「俺達は!」上条・一方「「負けない!!」」(1000)

このスレは、上条当麻と一方通行が
もしも一巻の時点で親友だったら、というIF設定のSSの続きです。

前スレ
上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1294925094/)

現在、三巻進行中。

一応>>1の予定上は二十二巻までやる。

最後に、新スレでもよろしくお願いします!

どうも、皆様。
長らくお待たせしました。
久しぶりに投下します。
それでは、どうぞ。






「あ……れ……?」

とっさに目を閉じたインデックスは不思議に思う。

いつまで経っても体に痛みや衝撃が来ないのだ。

(もしかして、私死んじゃったの?)

突然死ぬ時は痛みも無いと言う。

しかし、それは違った。

「……ふぅ。危機一髪だったな」

彼女は自分の前に誰か立っている事に気付く。

その声は、先程の青年の声だ。

インデックスはうっすらと目を開けてみる。

すると、目の前に信じられない光景が広がっていた。

何と、誰かが車を受け止めていたのだ。

その誰かは車から手を離すと、何でもなさそうに振り向く。

――おそらく先程の声の主であろうその人物は青年ではなく、少年だった。

年齢はインデックスの家主やその親友ぐらいで、
何というか、見た感じは噂に聞く日本のホストみたいだった。


他の者達に緊張が伝わった。

慌てて門をくぐり抜けた彼らは、辺りの柱の物陰に隠れた。

セキュリティが無いはずなのに、
どこかに狙撃手がいる――そう確信した彼らはその人物を探そうとする。

しかし、次の瞬間。

青白い光線が彼らを通過し、消し去った。





「……っと。こいつで終わり?つっまんなーいにゃーん」

研究所の屋根で、女――麦野沈利がぼやくと、

「何言ってんだ、今のは前哨戦だよ」

スナイパーライフルを構えた男――木原数多が言った。

「結局、私が仕掛けた爆弾の出番はまだあるかもしれないって訳よ」

「ま、超油断は出来ないって事ですね」

フレンダと絹旗最愛は言いながら、自分の調子を確認している。

「きはら、弾込めたよ」

滝壺理后はそう言って、別のスナイパーライフルを木原に手渡す。


「……チッ!」

木原は地面に降り立った衝撃に舌打ちをする。

と、同時――――

先程まで木原達がいた場所を何かが切り裂いた。

あまりの早さに、目で見れなかったのだ。

「……よぉ。さっき人の頭撃ったヤツは誰だ?」

笑みを含んだ声が、前から聞こえる。

そっちを見ると、先程の少年が立っていた。

「テメェ……ナニモンだ」

木原が無視して聞くと、少年はどうでもよさそうに答えた。

「『スクール』って組織のリーダーだよ。
……そっちの女が『アイテム』のリーダーの麦野沈利か?」

そう言われ、麦野は、

「……だから何だっての?」

と若干イラついた声で返した。

「何、第一位様ってのはたいした人脈持ってやがるなって話だ」

少年は気楽な調子で答えた。

と、次の瞬間。

青白い光線が彼の体を包む。

麦野の能力、『原子崩し(メルトダウナー)』だ。

これで少年は跡形も無く消え去ってしまう――はずだった。


「ふん、なるほどね。これが第四位の能力か」

余裕のある表情で、少年はそこに立っていた。

「確かに中々の出力だ。第四位なだけはある」

だが、と少年は区切る。

「俺の能力の敵ではねえな」

直後、彼の背中から何かが出現した。

六本にも及ぶ真っ白なそれは、まるで神話の天使のような羽だった。

「言い忘れたが、俺の名前は垣根帝督」

少年はどこまでも余裕のある調子で喋る。

不意打ちを食らっても、問題など無いと言わんばかりに。

まるで自分の勝利は最初から揺らがないと宣告するように。

「学園都市に七人しかいない、超能力者の第二位さ」

少年――垣根帝督は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

少しは暇が潰せそうだ、といった風に。

「今の内に言っておくがな――――」

垣根はゆっくりと口を開く。

一言一言を、木原達に刻み付けるように。





「――――俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえ」





今、木原達の前に『圧倒的な力の差』が物質となって現れた。


今回は以上です。
後、三回で三巻も終わります。
それでは、皆様。またいつか。

冷蔵庫登場記念乙!
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   とニ二ゝソノ ̄ ̄ ̄''''   .|    `ヾニァ'     .||      ̄ ̄'''ヽ(、,二つ
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             ム: : : :Tニて:´: : 〔_

             三迅 : : マニニ}: : : :マニニ__   .;:;:;.
           三王存 : : : 迂迅、:、:、マ≡ニ=         凹_i_i_凹
          =三王企zzzz生 企企企三二     ,、,、    ┌ヘ_}┐ )))

>>65>>66まで進化したんだ
そしてコレはたった1スレで出来たんだから怖い
詳細知りたい人は
一方通行「イヤだ」で調べると幸せになれる

>>68
つい今しがたまで見てたわww
あっちとこっちのレベル5の落差激しいわww

>>70
パート2もみてねっ!

どうも、皆様。
何やらいらぬ心配をさせてしまったようですが、
決して自分は震災に巻き込まれた訳ではございませんのでご安心を。
来なかったのは、至極どうでもいい個人的な事情があったからです。
とにかく、今から久しぶりに投下します。






「…………何だよ、これ」

常盤台中学の学生寮の一室で、上条は震えた声で呟いた。

時間はすでに夜の十九時ぐらいだった。

その手には、とある『実験』のレポートがある。

その中身は、信じられないモノだった。

上条は昨日の親友の様子を思い出す。

彼は嬉しそうにしていた。

もしかして、『大事な用事』とは――――?

(違う、そんなのありえない)

すぐにその可能性を否定した。

(だって……アイツは……アイツは良いヤツじゃないか)

そうだ、そうなのだ。

上条は、彼に出会ってからの数週間の事を思う。

一方通行は何も分からない自分を助けてくれた。

姫神の時だって、一緒に助けた。

それに――――インデックスも一緒に助けてくれた、らしい。

そんな彼が、こんな事をする訳がない。

…………ない、はずだ。

実を言うと上条には、正確な判断が出来ない。

何故ならば、彼は『記憶喪失』だからだ。


(…………よしっ!)

決意した上条は通話ボタンを押した。

数回のコール音が、とてももどかしい。

(遅いな……)

何度かのコール音がするが、一向に繋がる気配がしない。

(頼むから出てくれよ……!!)

上条の不安は徐々に大きくなる。

(……一方通行!!)

そして――――

ガチャ、と音がする。

「あ――一方通『ただいまお客様がおかけになった番号は……』行?」

出たのは、一方通行ではなかった。

「………………」

上条は無言でケータイをしまう。

(……どうする……?)

彼を探すにも、どこにいるかなど分かる訳がない。

(そうだ、御坂に……)

このレポートは彼女の部屋から出てきたのだ。

もっと言えば、この『実験』とやらには彼女の体細胞クローンが必要とされている。

つまり、彼女の協力なしでは不可能なのだ。

となれば、美琴に聞けばすぐに分かる。

これはたちの悪い冗談なのか――本当の事なのか。

もちろん、上条は嘘である事を望む。

……たとえほんの少し、裁縫針の穴ぐらいの可能性だとしても。


(………………?)

中に入ろうとして、留まった。

……中から、猫の鳴き声がする。

この寮はペット禁止になっている。

そういうルールに、同居人は細かい。

となると、誰かが部屋に侵入している事になる。

誰だろう、と思いつつ、彼女は部屋にそっと入る。

中に入ると、誰か――高校生ぐらいの少年の背中が見えた。

その人物は美琴には見覚えのある、ツンツン頭をしている。

瞬間、美琴はそいつが誰だか分かった。

そいつには会いたかったが、会いたくなかった。

矛盾しているのは分かる。

でも、そんな事を思った。

「――アンタ、そこで何してるの?」

声を掛けると、そいつはビクリと肩を震わせた。

まるで友達の秘密を偶然知ったのが見つかったような、そんな感じだった。

そいつはゆっくりと振り向く。





美琴の予想通り、そいつは『あの馬鹿』だった。







「あ…………」

美琴を見て、上条は何か言おうとした。

しかし、何の言葉も浮かばない。

彼女に聞きたい事がたくさんあるのに、何も言えない。

美琴はこちらを――正確には上条の手の中のレポートを見ている。

その表情は、固まっていた。

だが、すぐに彼女は表情を変える。

美琴の顔には、何かを諦めたような笑みが浮かんでいた。

「……アンタ、見ちゃったんだ」

ポツリ、と小さいがはっきりとした呟きが上条の耳に届く。

「……まったく、何でこんなトコに居るワケ?
私と勝負する気にでもなった?……だとしたら、タイミングは最悪ね」

彼女は続けてそう言った。

「……これはどういう事だよ」

上条はようやく喉に詰まった言葉を発せられた。

「どう、って?」

美琴は相変わらず笑みを浮かべたままだ。

「どうもこうもないでしょ?
アンタ、それが何かの冗談とでも思うの?」


上条の胸に、ずっしりとした重い衝撃が走った。

つまり、これは本当の事だったのだ。

「……ここじゃなんだから、場所を変えましょ」

付いて来て、と告げて美琴は部屋を出た。

上条は慌てて黒猫を抱えて、後に付いて行く。





「……この辺でいいでしょ」

寮を出て十分ほど歩いた先には、広々とした空き地があった。

そこで二人は対峙するように向き合う。

「なぁ、御坂」

上条は美琴より先に口を開いた。

「……何よ?」

「お前は……その……」

美琴にただ一つの事を聞くだけなのに、口が上手く動かない。

そう、たった一つ――この『実験』を、お前は笑って眺めるような人間なのか、と。

「……言っとくけど、私はこんな『実験』に進んで協力なんてしないわよ」

上条が言いたい事が分かったらしく、美琴はそう言った。


「だったらどうして……」

「どうして、ね――――」

美琴は、また笑った。

「――――一つ、昔話してあげよっか?」

そう言って、ゆっくりと美琴は口を開く。

「昔々、ある街に一人の小さな女の子がいました。
その女の子は電撃使い(エレクトロマスター)として、毎日毎日能力を磨いていました」

美琴は歌うように言葉を続ける。

「ある日、女の子を研究者達が訪れました。
その女の子に、ある事に使うための物――DNAマップの提供を求めるためです」

美琴はさらに笑って続けた。

「『どうしてそんな物を?』――女の子の質問に、彼らはこう答えました。
『――――それはね、筋ジストロフィーと呼ばれる
病気を治すのに、君のDNAがもしかしたら役に立つかもしれないからなんだよ』――と」

筋ジストロフィー――確かそれは、不治の病の一種で、
自分で思ったように筋肉が動かせなくなっていく恐ろしい病だったはずだ。

上条の頭の中の『知識』からは、そんな情報が流れてきた。







「……………………え?」

美琴は思わずポカンとしてしまった。

……目の前の少年は、今何と言った?

「……一方通行は、アイツは俺の友達なんだ」

アイツがそんな事するなんて、俺には信じられない。

そんな少年の言葉を、美琴は最後まで聞いていなかった。

(とも、だち?トモダチ?)

友達――互いに心を許し合って、対等に交わっている人。
    また、一緒に遊んだり喋ったりする親しい人の事。

以上、大辞泉より抜粋。

「何よ……それ?」

美琴は震えた声で上条に聞いた。

「馬鹿言わないでよ!!」

自然と、彼女は叫んでいた。

「……アイツは、あの男は確かにあの子を…………ッ!!」

そこまで言いかけて、美琴は口をつぐんだ。

あの時の状況を思い返してみる。

よくよく考えると、美琴は爆発音を聞いただけで、一方通行自身が手をかけた瞬間は見ていない。

いや、だとしても一方通行は確かに死体の近くにいた。


(……そうか、アイツは電気を操る能力者だったな……)

おそらくは、それの応用で磁力を操ったのだろう。

上条がまだ生きているのも、奇跡でも何でもなく、彼女のおかげかもしれない。

(クソッ!これじゃ、追い掛けようにも追い掛けられねーな……)

上条は、美琴が最後に残した一言を思い出す。

『――――最期に、アンタの顔が見れてよかった』

まるで、もう上条には会えないような言い方だった。

もっと言えば、遺言のような――そんな言い回しだった。

(一体アイツは何するつもりなんだ……?)

言われた時に何だか嫌な予感がして、
上条はとっさに美琴を引き止めようとしたのだが、それは出来なかった。

(とにかく、アイツを探そう)

そう考えて、彼は薄っぺらいカバンから地図を引っ張り出す。

御坂妹が落とした『実験』の予定地が書かれた物だ。

先程、美琴は『実験』を止めると言っていた。

もしも、本当に『実験』が今行われているとしたら、美琴は実験場に向かっているかもしれない。


特に確証なんてモノはない。

しかし、手掛かりはこれしかないのだ。

それに、今日『実験』が行われる予定に
なっている場所に美琴が居なかったとしても、
そこには一方通行がいる可能性だってある。

(………………)

上条は地図をカバンに納めて、実験場への最短ルートへと駆け出す。



――はずだった。



「…………ん?」

突如ケータイの着信音が流れて、上条は立ち止まった。

こんな時に誰だろう、と上条は思案してみる。

深く深く考え、やがて一人の人物の顔が浮かんだ。

居候の、真っ白白すけなシスターである。

(…………インデックスの事、みっちり忘れてたーっ!!)

もしかしたら、お腹を空かせて大変ご立腹かもしれない。

とりあえず小萌先生のトコに行ってもらおう、と考えながら上条はケータイを引っ張り出す。

さっさとしなきゃ、と思いながらケータイを開いた瞬間、上条の動きが止まった。

液晶画面に表示された名前を見て、彼は目を見開いた。





そこには、『一方通行』という四文字が表示されていた。


今回は以上。
後、二回で三巻編は終わります。
今月中に三巻終わらせたいなぁ……。
それでは皆様、またいつか。

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    r、       |/   !         ヽ,     || \  \      ,、
     ) `ー''"´ ̄ ̄   / |    `ヽ.___´,      j.| ミ \   ̄` ー‐'´ (_
  とニ二ゝソ____/ 彡..|       `ニ´      i|  ミ |\____(、,二つ
             |  彡...|´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄`i| ミ |
             \彡 |               .|| ミ/
                       |〕 俺の人生は      ||
                  |     終わらねぇ  .||
                  |___________j|

どうも、皆様。
今から投下開始します。

(…………)

一方通行はゆっくりと立ち上がって、部屋を出た。

やっぱりじっとするのは性に合わないらしい。

ズカズカと彼は研究室まで歩き、ドアを開けた。

「オイ、やっぱ俺も…………」

途中で言葉がピタリと止まった。

何故なら――――

「……親父はどこ行った?」

手伝いを申し立ててやろうとした相手、木原数多がいないからだ。





「……なるほどね……」

一方通行は納得したように呟いた。

研究者達に聞いたところ、木原は『アイテム』の連中と妹達の護衛に向かったらしい。

「ま、そういう事だ」

「木原さんと『アイテム』……想像すると、すごいチームだな」

「恐ろしさなら、世界一なんじゃない?」

「……まァ、確かにあのメンバーを敵に回したくはねェな」

自然と、木原と『アイテム』の面々の顔が脳裏に浮かんだ。


木原は昔、暗部の組織である『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』で隊長を勤めていたらしい。

暗部の組織(しかも統括理事会直属の組織だ)で隊長を勤めたのだから、
木原本人も、それなりどころかかなりの実力者なのだろう。

そこに『アイテム』という強大な戦力が加わる。

…………心配なんて要らないだろう。

何だか嫌な予感がしたが、一方通行はそう自分に言い聞かせて不安を押し殺す。

「とにかく、そんな訳で木原さんは今いないが……どうかしたのか?」

研究者に尋ねられ、

「おォ、眠れそォにもねェから手伝いに来たンだがな」

そう答えて、一方通行は木原の机を見る。

色んなモノ(重要そうな資料、漫画雑誌や宝くじなど)が乱雑に置いてある。

その中を漁ってみると、『実験』についてまとめられたレポートがあった。

「とりあえず、『実験』の資料を全部貸してくれねェか」







「どうやら超逃げ切れたみたいですね……」

「結局、時間稼ぎにしかならないって訳よ」

「いんや。時間稼ぎでもじゅーぶんよ、フレンダ」

「むぎの、きはら。血が出てる、止血しなきゃ」

「っと、すまねぇ」

爆発地点から少し離れた建物の陰に、木原と『アイテム』の四人は隠れた。

先程、フレンダの爆弾による不意打ちで一度撤退したのだ。

「……第二位、垣根帝督……。
まさか、ここまでの実力とはな」

「正直、あんなの超反則です」

絹旗が小さく呟く。

「フレンダの爆弾に私の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』、
最終的には麦野の『原子崩し』まで防ぎきってみせるなんて……」

超ありえません、と絹旗はぼやいた。

「きはら、何か良い策はないの?」

滝壺が止血しながら木原に聞く。

木原は、学園都市第一位の一方通行を開発した研究者だ。

それはつまり、この街の中でも相当の頭脳を誇る事になる。







「んー。どこかねー」

翼をたなびかせ、垣根は空を飛んでいた。

低空飛行で辺り一帯の捜索を始めたのだが、木原達はなかなか見つからない。

(……ま、本命っつーか『依頼』の内容はアイツら殺す事じゃねぇけど)

そう、垣根の目標はあくまでも妹達という軍用クローンである。

木原達など放っておいて、そちらに向かう方が普通だろう。

だが、

(天下の第二位が、格下にあっさり逃げられるってのは屈辱だよなぁ?)

そんな訳で、垣根は敢えて木原達を探している。

ただ、己の『プライド』のために。

とりあえず今度は向こうかね、と思いつつ垣根は方向転換しようとした。

そこへ――

「……こんばんは、死ね!!」

という叫びが聞こえたと思った途端、垣根に向かって光が飛んできた。

「よっと」

慌てる事なく、彼は翼でそれを受け止める。

「いやはや、わざわざそっちから来てくれるとはな」

垣根は真っ直ぐに光の来た方向を見る。

その視線の先には、絹旗、フレンダ、そして――麦野がいた。


「よー。テメェら五人いたはずだけど、後二人はどうした?」

「……ハッ、テメェみたいなヤツとやり合うには足手まといだから置いてきただけよ」

あっそ、と垣根はどうでもよさそうに言う。

「どうせ三人でやっても勝てっこねーんだから、
五人掛かりで捨て身の攻撃した方が良いと思うがね」

「……超上等です。その自信、打ち砕いてやりますよ」

「やれるんなら、な!」

六つの翼が別れ、三人へと襲い掛かる。

麦野は『原子崩し』で機動力を上げて横に大きく跳び、それを避けてみせた。

フレンダは爆弾を目の前で爆発させ、爆風で吹き飛ぶ事で避けた。

しかし、絹旗だけは回避に間に合わない。

「……くっ!」

とっさに自分の能力である『窒素装甲』を使って、
両手に窒素の壁を作り上げて受け止めようとした。

だが。

「ぐうっ!?あ、がぁぁぁああ!!」

一対の翼は、その壁ごと無理矢理絹旗を吹き飛ばす。

勢いよく飛んだ彼女は建物の一つに衝突し、大きな穴を壁に空けた。


「――まずは一人」

垣根はつまらなそうにカウントする。

「絹旗ぁ!」

そして、今度は叫びを上げた少女――フレンダを見た。

「――二人」

言うと同時、六つの翼全てがそちらへと殺到する。

一瞬、注意が絹旗に飛んでしまったために、フレンダは反応出来なかった。

その目は恐怖に染まっていた。

しかし――

横から誰かが飛んできて、彼女を引っ張っていく。

「へ?」

間抜けな声を上げ、その人物と共に五メートル離れた地点に倒れ込む。

瞬間、先程までフレンダが立っていた場所に翼が叩き付けられた。

ズゥゥゥゥン……!!という衝撃が辺りに響く。

フレンダはただ呆然とそれを眺めていた。

「………………ッ!!大丈夫、フレンダ!?」

「あ――む、麦野」

フレンダは、自分を引っ張った人物――麦野を見て、正気に返った。


「ふーん。そんなヤツ庇う意味あんのか?」

上から響いた声に、慌てて二人は立ち上がる。

声のした方を見れば垣根が、絹旗が吹き飛ばされた方向とは反対にある、
五階建ての建物――検体調整器保管所とか入口に書いてある――の屋上から見下ろしていた。

「……どういう意味よ」

麦野が聞くと、

「いやさ、そいつだけ妙に足手まといじゃねーか。
戦ってる最中によそ見してさ。わざわざ助ける必要あんのか?」

垣根が言い終えると同時に、麦野が『原子崩し』を放つ。

これまでで一番大きな一撃だった。

「オイオイ、そんなに怒るか普通?
人がせっかくアドバイスしてんのにさー」

あっさりとそれを防いだ垣根は、未だに余裕のある表情をしている。

「ご忠告どうも。でも生憎だけど、ここは私の組織だ。
仲間を決めるのも、使えるかどうか判断するのも、全て私が決める」

そう言って、麦野は手をかざす。

「つーわけで――くたばれ、クソ野郎!!」

瞬間、どこまでも青白い光が伸びた。

「……ひっでぇな」

垣根は呆れたように呟く。

そして彼は笑うと、

「…………すっげぇムカついたわ」

冷酷な声で告げ、翼を全て真下に叩き付ける。

それらは光線を弾き、真っ直ぐに麦野へと向かう。

そうして、二人まとめて捻り潰される。



――そのはずだった。



「………………がっ!?」

胸に鋭い衝撃が走った、と感じた途端に垣根は後ろに大きく吹き飛んだ。


『ちょっと待った』

そこまで説明を受けたフレンダが疑問を口にした。

『アイツ、さっき私の不意打ちに対応してたじゃん』

それに最初のそっちの狙撃にだって、と付け加える。

そう、垣根は不意打ちにだって対応していた。

仮に隙を生み出せても、瞬時に翼を引き戻して防御するのではないか?

そう、『アイテム』の誰もが思った。

『あー、それなんだがな』

木原はあっさりと告げた。

『かなりの遠距離からなら、ヤツは気付かねぇと思う』

『どうして?』

滝壺が首を傾げると、

『こいつは仮説なんだが……ヤツはおそらく、能力をレーダーみたいに使ってるんだと思う』

例えば、『超電磁砲』と呼ばれる、発電系では最高峰の能力者がいる。

彼女は確か特殊な電磁波を放つ事で、ソナーのように障害物の位置を特定する事が出来たはずだ。

それと似たようなモンじゃねぇか、と木原は告げた。

『もしヤツが広範囲にそんなモノが使えるなら、とっくの昔に俺達の所に来るはずだろ?』

そこまで言うと、木原は一呼吸して、

『まぁ、あくまで仮説だ。
もしかしたら、全然見当違いなのかもしれねぇ』

どっちかっつーとそっちの可能性が高いがな、と木原は付け加えた。

『で、どうする?やっぱ止めとくか?』

四人は顔を見合わせる。

もう、答えは決まっていた。







「……そもそもよォ、俺がこうしてシナリオの裏を
全部知っちまえば『実験』は成り立たねェンじゃねェか?」

たくさんのレポートを眺めながら、一方通行はうんざりしたように言った。

彼は今、『実験』に関するレポートを全て読み切ったところだった。

一番基本的な、『実験』の概要が記してあるレポート読んでみると、
割り当てられた二万通りの戦闘を、
シナリオ通りに片付ける事によって伸びる能力の、その成長方向を操る事で、
一方通行を超能力者から絶対能力者(レベル6)へと進化させる、とある。

つまり、彼が『実験』の事を完璧に知れば、そもそも『実験』は成り立たなくなるのだ。

しかし――

「あー、その可能性も考えたんだがな……」

「あの統括理事会の事だ。
そうなったら多分、お前の脳からその記憶をまるごと消すと思うんだよな……」


学園都市には、学習装置(テスタメント)と呼ばれる機械がある。

脳の電気信号を直接操る事で『洗脳』する機械だ。

そういう技術がたくさんある学園都市には、
人の『記憶』を操る機械だってある、との事だった。

「……チッ」

一方通行は舌打ちして、もう一度レポートを漁る。

どれを読んでも、非の打ち所のない。

『樹形図の設計者』の演算は、完璧そのものだった。

どうすりゃイイ……?と呆然と考えていると、一つのレポートが目に留まった。

それには、そもそも何故『実験』を行うのかが書かれていた。

『現在、学園都市にいる七人の超能力者の内、
まだ見ぬ絶対能力へ到達可能とされているのは、
「学園都市最強」の第一位、一方通行である。
統括理事会からのオーダーより、私はその方法を調べ上げ…………』

そこまで読んで、一方通行はさっさと別のレポートを読もうとして――ふと、その手を止めた。


一方通行はもう一度さっきのレポートを引っ張り出し、読み返す。

(……待て。今俺は何に引っ掛かった?)

とにかく最初からレポートを読み返す。

「……………………ッ!!」

そして、気付いた。

この『実験』を止めるための方法に。

ガタ、と彼は椅子から慌てて立ち上がる。

「どうかしたのか?」

驚いて尋ねてきた研究者を見て、

「イイ方法が思い付いた」

そう言って、一方通行は周りの研究者達に告げた。

逆転の方法を。





「そんなの無理だ!」

「そうよ、そんな条件を満たせる人間がいる訳ないじゃない!」

それを聞き終えた途端、研究者達は皆口々に否定した。

当然だ、とは思う。

常識的に考えたら、ありえない話だろう。

しかし、

「……ま、任せろよ」

そう言って、一方通行はさっさと部屋を出た。

そのまま、ケータイを置いてきた部屋へと入る。

ケータイの充電はとっくに終わっていた。

手に取り、電話帳からある番号を選択して通話ボタンを押そうとして、指が止まる。

(………………)

一方通行は迷った。

本当に良いのか?

こんな事に、アイツを巻き込んでしまっても良いのか?

そう考えた彼の脳裏に、昨日の死体が思い浮かんだ。

(……もォ決めたじゃねェか)

何を犠牲に払っても、必ず妹達を助けると。

ならば、迷ってはならない。

一方通行はゆっくりと通話ボタンを親指の腹で押した。


今回は以上!
次回で三巻編終了予定です!
それでは皆様、またいつか。

やぁ、皆様。お久しぶりでございます。
まずはご報告。ごめんなさい、三巻編の最後の書き溜めが消えちゃいました。
で、ちょっと現実逃避してました。
とりあえず、少ないですが書き直せた分だけ投下します。






『こちら絹旗。超特に異常無しです、どうぞ』

「……そりゃ良かったわね、どうぞ」

ある研究所の敷地内にて、麦野は退屈そうにトランシーバーに向かって声を出す。

あの後、予想通り敵の増援もなくなったので木原は帰ってしまった。

麦野達も帰ろうかと思ったが、一応朝まで残る事になった。

で、手分けして警備に当たっている訳だが。

「……暇すぎるわ」

正直言って、徹夜するのは辛かった。

あれだけ能力をバシバシ使ったせいもあって、酷く睡魔が押し寄せている。

(…………ダメよ、麦野沈利。寝たら死ぬわよ)

麦野は慌てて首を振る。

(垣根が一人、垣根が二人、垣根が三人、垣根が……やべ、殺意が湧いてきた)

とりあえず頭の中で百人の垣根に『原子崩し』を放つ。

「……はぁー」

ため息が小さな唇から零れ出た。

「……ねぇー。暇なんだけどー、どうぞ」

適当にトランシーバーで連絡を取る。

が。

「あれ? ちょっと絹旗ー、フレンダー? 聞いてんだろー?」

再度呼び掛けるが、一切返事が無い。







「……どうして……」

暗い倉庫の中で、御坂美琴は一人呟いた。

その目は、驚きに揺れていた。

「――どうして誰も居ないのよ!?」

そう、倉庫には美琴以外には誰一人して居なかったのだ。

そんな事、ありえる訳がなかった。

もう一度、記憶を揺り起こす。

確かに時間も合っているし、場所も間違えていないはずだ。

あと数分で、悪魔のような『実験』が始まるはずなのに――被験者ですら居なかった。

(…………一体、何がどうなってるの……?)

まるで自分だけ蚊帳の外のようだ。

『実験』の一番深い部分に関わっているというのに、だ。

訳も分からず、美琴はただ呆然とそこに突っ立ていた。


――明日は晴れだろうか。

月明かりの下、少年はぼんやりとそんな事を思いながら夜空を眺めていた。

街のネオンからそれなりに離れているためか、美しく輝く星がよく見えた。

昔から星は好きだった。

いつかこの手に全て納めたい、などと幼い頃には思ったものだった。

ここは、とある学区にある操車場だ。

昨日はここで、残虐かつ非人道的な『実験』が行われた。

その『実験』の被験者である少年―― 一方通行は思う。

全てをここで終わらせる――いや、終わらせてみせる、と。

それこそ、全てを失ってもだ。

自分には、そうしなければならない義務がある。

いや。そうでなかったとしても、そうするだろう。

そんな事を深く考えていると。



「……よう」



背後から、聞き覚えのある声がした。

それは、彼の『親友』のものだった。


「…………来たか」

一方通行はそっと振り返った。

走って来たのだろうか、目の前の少年は随分と疲れた様子だった。

「……悪かったな、こンな所に呼んで」

「……」

上条は黙っていた。

何も言わずに、ただ一方通行を見ていた。

その事をおかしく思いつつも、一方通行は重々しく口を開く。

「……オマエを呼ンだのには、訳があって「前置きなんか要らねぇ」

一方通行の言葉を遮り、上条はカバンから紙束を取り出して、こちらに投げた。

それを見て、一方通行は驚いた。

何故ならそれは、『実験』に関して記述されたレポートだったからだ。

「……全部、御坂から聞いたよ。『実験』の事も、昨日の事だって」

だからさ、と上条はまっすぐに一方通行の目を見る。

「何があったか教えてくれよ、一方通行。お前がこんな事を進んでする訳がない」

「………………」

一方通行は、じっと上条を見る。

そして、彼は目を伏せた。

「……俺は…………を、……ったンだよ」

「……え?」

小さく小さく、彼は何かを呟いた。

上条に聞き取れないほどにだ。

その様子を確認して、一方通行はもう一度言った。





「――――俺は、オマエらを守りたかったンだ」


「………………それは、どういう意味だ?」

上条が聞くと、一方通行はゆっくりと語りだす。

「オマエがどォして『記憶』を無くしたか……言ったよな?」

「あぁ……インデックスを庇ったんだよな?」

「………………そォだ」

一方通行は瞼を閉じた。

あの日の事は、今でも鮮明に覚えている。

きっと自分は、一生忘れられないだろう。

「オマエは、自分かあのガキのどちらを助けるかで――あのガキを選ンだ。そして、『記憶』を失った」

でもよ、と一方通行は区切る。

「ホントにどちらかしか助からなかったのか? ……そォ、今でも思うンだよ」

あの時の事を思い浮かべてみる。

上条当麻とインデックスに降り注いだ無数の羽。

一方通行が必死に風を操っても、あれらは何の影響も受けなかった。

あの無数の羽は、既存の物理現象の影響など一切受け付けない『魔術(異能)』だった。

だから、『科学』の結晶である一方通行にはあれらに干渉するのは不可能である。


なるほど、確かにその通りだ。

普通に考えれば、誰でも分かる話だろう。

しかし、それは本当だろうか?

もっとよく、あの日の事を考えてみるべきだ。

一方通行には、神裂火織の『魔術』が操れたではないか。

確かに、『魔力』という要素を解析しなければ操れないが、
彼はその『最強』の能力によって、全くの未知ですら支配してみせたではないか。

『最強』だから、そうする事が出来た。



――――ならば、『無敵』だったら?



もしも一方通行が『最強』などではなく、唯一無二の『無敵』だったら?

あの日、一方通行は『上条当麻』を助ける事が出来たかもしれない。

もちろん、『無敵』になったところで時は戻る訳では無い。

その力で上条当麻の記憶が戻る訳でも無いだろう。

だから、自己満足。

この先、同じような事が起きないようにするために。

目の前で、大切な人達を失わないように。

少しでも――――本当にわずかでも良いから――――力が、欲しかった。

大事な人達を守れる力が。


「――これが、俺が『無敵』を求めた理由だ」

上条は、ただ黙って聞いていた。

何も言わず、何の感情も顔に浮かべずに――ただただ、聞いていた。

「そして昨日、俺は『実験』の話を聞いてこの場所に来た。
…………一体何をするのかも全く知らねェのに、
馬鹿面下げて、ホイホイと来ちまったンだ。
……自分がしたかった事と、おもいっきり正反対の事をさせられるハメになるって言うのによ」

一方通行は力無く笑った。

「……ホント、馬鹿だよなァ。
戻れるモンなら、戻って全部止めてェよ」

一方通行は、まっすぐに上条を見た。

「……オマエに、頼みがある。
妹達を、アイツらを助けるのを手伝ってくれ。
こンな事に何の関係もねェオマエに頼むなンて、
ふざけた話だって事は分かってる。
でも、頼む! 俺は、俺はアイツらに生きて欲しいンだ!!」

一方通行は深く深く、頭を下げた。

今この場に彼を知る者がいれば、ひっくり返っている事だろう。

言い過ぎかもしれないが、それぐらいの事だった。


「……お前、今関係ないって言ったよな?」

上条はゆっくりと、確認するように尋ねた。

そして――



「――この、大馬鹿野郎!!」



大きな叫び声が、辺りの暗闇に響く。

「何が関係ないだよ! 何が守りたいだよ!!
何でもかんでも一人で背負った気になりやがって!!」

上条は一気にまくし立てた。

徐々に語気が強くなっていっている。

「辛いなら辛いって言えよ! 困ってたならすぐに言ってくれよ!!
確かにお前からすりゃ、俺なんてただの無能力者の、頼りない奴かもしれねぇよ!!」

だけどな! と上条は区切る。





「――――俺はお前の『友達』だろうが!!」





「――――ッ!!」

思わず、息を呑んだ。

「お前が俺を助けてくれたように、俺だってお前の力になりてぇんだよ!」

だから、と上条はじっと強く一方通行を見た。

「手伝わせろよ。関係ねぇとか言わないで、『友達』としてさ」

「……………………」

一方通行は、何も言えなくなってしまった。

彼は何かを考え、そして――



「……ありがとよ、『親友』」



小さな声で、礼を言った。


つー訳で今回は以上!
遅れといてこの短さはないですね、すみませんでした。
とりあえず、次でちゃんと三巻終わらします。
今度は早く来れると思います。
それでは、またいつか。


以下、どうでもいい報告。
今から電磁通行でスレ立ててきます。
昨日、一昨日と総合に暇つぶしに投下してたんで、見た人もいるかもしれません。
よければ、見てやってくださいね。
こっちのスレ優先で書きますが。

皆様、どうもお久しぶり。
まだ、終わらない三巻編。
とりあえず、最終回前編をどうぞ。

「それで――俺はどうすりゃ良いんだ?」

暗闇の中でも目立つ、真っ白な少年に上条は質問する。

具体的に、自分に何が出来るのか。

自分は無能力者(レベル0)の、一方通行よりも無力な存在だ。

闇の世界に詳しい訳でもない、そんな自分に一体何が出来るのか。

その一点がとにかく気になっていたのだ。

「あァ……。いや、そォ難しい話じゃねェ。
オマエにとっちゃ日常茶飯事な事をしてもらうだけだからよ」

一方通行は軽く答えた。

「……日常茶飯事?」

はて? と上条は不思議がる。

まだ数週間分程度しかない『記憶』を揺り起こす。

思い浮かんだのは、不幸や補習などだけだ。

(…………いや、ないない)

そんな事、この局面で役立つ訳がない。

じゃあ何だ? と必死に考えていると。

「……何、話は至ってシンプルだ」

上条の思考を見透かしたように、一方通行は小さく笑った。





「――――俺と、ケンカしろ」







「………………………………え?」

思わぬ言葉に、間抜けな声を出してしまった。

「……だから、ケンカだよ、ケンカ」

呆然としている上条に、一方通行はもう一度告げた。

「ケンカって……あのケンカ、だよな?」

「他に何がある」

上条の確認に対して、彼は何の迷いもなしに即答した。

「…………何で「そォなるンだ、だろ?」

上条が言い切る前に、予想でもしたかのように、一方通行はタイミング良く先を言った。

「まァ、理由を言わなきゃ分かンねェよな」

そう言って、一方通行は真上を見上げた。

「……『樹形図の設計者』、は知ってるよな?」

「……あぁ。この『実験』の予測演算をしたスパコン――いや、今は人工衛星だったか」

「……そォだ。そいつがそもそも『実験』が成功するなンて言わなきゃ、こうはなってなかった」

一方通行は、残念そうに呟いた。

「……で、その元凶がどうかしたのか?」

上条が聞くと、

「今からほンの一ヶ月前ぐれェに撃ち落とされたンだよ、それ」

とてもあっさりと、軽い口調で告げられた。


「撃ち落とされた、って……」

思わず、驚いた。

何せ、この街の最高峰の技術をもってして作られた機械が、破壊されたと言うのだ。

それも、宇宙を漂っている、だ。

それなりに驚かずにはいられなかった。

「ま、ンなこたァどォでもイイ。
……とにかく、どっかの誰かさンのおかげで、活路が見出だせたンだ」

本当にどうでもよさそうに、一方通行は言った。

「……『実験』は、『樹形図の設計者』の予測演算によって成功すると言われた。
……じゃあ、もしもその演算に一つでも欠点があったら? 何か一つ、致命的なミスがあったらどうなる?」

上条は一方通行の質問の意味をじっくりと考えて、

「……『実験』は、失敗するかもしれない……?」

ゆっくりと、考えを確認するように呟く。

複雑な方程式などを解く時を思い浮かべれば良い。

たった一つでも計算を間違えれば、答えは違ったモノになる。

それと似たような事だろう。

そうなれば、『実験』をしたい人間は、どうせざるを得ない?

(……ミスを直すために、『実験』を中止するしかない!!)

だから『樹形図の設計者』が壊れて活路が見出だせたのか、と上条は納得した。

『樹形図の設計者』はその演算能力に任せて、とてつもない量の複雑な計算を行う。

人間だけの手でミスを直すには、かなりの時間を要する。


「……どういう事か、分かったか?」

上条の顔色から推測したのか、一方通行が尋ねてきた。

「……まぁ、大体。つまり、俺がお前とケンカするのがミスに繋がるんだな?」

何故そうなるかは分からないが、とにかくそういう事なのだろう。

「……あァ、そうだ」

事実、一方通行は肯定した。

「簡単に説明するとよ、俺とオマエがケンカして、俺が負けりゃイインだ」

「……お前が負ける?」

その言葉の意味を、上条はよく考えてみる。

一方通行は『学園都市最強』だ。

それが、『学園都市最弱』の自分に負ける。

つまり、

「お前が、実は『最強』じゃないって証明するって事か?」

そう言ってから、上条はさらに考える。

仮にそうなったら、一体何が欠陥になるのか。

(――――あ、そうか)

とても簡単に納得した。

考えてみれば、単純な話だった。

この『実験』は、一方通行が『最強』だからこそ行われるのだ。

七人の超能力者の中でも、唯一の可能性を秘めた者。

では、そうではなかったら?

一番底辺の、本当に何の能力もない無能力者に負けたら?

それはつまり、『実験』の大前提が崩れさる事になる。


(なるほどな……)

だから、上条を呼んだのだ。

わずかながらに、何かの能力を使う事も出来ない。

一番簡単な、スプーン曲げですら出来ない。

そんな人間は、この街の学生では上条当麻しかいない。

「……さて、分かったならなによりだ。
……早速、始めちまっても構わねェか?」

そう言って、一方通行は上条を見た。

「……あぁ、こっちはいつでも構わねぇよ」

上条は右手を握り、一方通行を見る。

「言っとくが……手加減なンざしねェぞ。
本気でオマエを倒しにいって負けねェと意味がねェからな」

油断していたから負けてしまったのでは、などと言われる可能性もある、との事だ。

「ハッ、上等だ」

不敵に笑って、上条は身構える。







「行くぞ『最強』!!」

「来やがれ『最弱』!!」







今、確かに戦いの火蓋が切って落とされた。







操車場のレールの上にて、最強と最弱は睨み合う。

互いの距離はたったの五メートルだ。

上条なら、二秒もあれば距離を詰めて、殴り掛かる事が出来るだろう。

「――――お、おおおぉぉぉっっっっ!!」

叫ぶと同時、上条が駆け出す。

その勢いのまま拳を握り締め、突き出す。

が。

一方通行は冷静に地面を踏むと、
その『衝撃』のベクトルを操り、砂利を上条に向けて放ち迎撃する。

このままでは、上条は勢いよく吹き飛ぶだろう。

「……くっ!!」

しかし、上条はそれを予想していたようにピタリと拳を止め、横に軽く跳ぶ。

わずかに砂利が頬を掠め傷を作るが、どうにか避けられた。

上条はさらに接近しようとしたが、その前に一方通行が脚力のベクトルを操って後方へと跳んだ。





この勝負、はっきり言ってどちらにも勝機があった。

二人は互いに相手の手の内を知っている。

上条は、一方通行がどのように能力を使うのか、大体は見知っていたし、
一方通行は、上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の
弱点――異能の力を打ち消せても、それによって生まれた二次的事象は打ち消せない――を知っていた。

そんな訳で、二人は互いの弱点を攻めて戦う。

上条は接近戦を、一方通行は遠距離戦を。

正反対の戦法で、二人は激突していた。







「――――ッ!!」

一方通行が放った、小さな風の散弾をギリギリで回避して、上条は突っ込む。

今度は目の前で、砂利を巻き込んだ複数の竜巻が起こる。

それらの微かな隙間をくぐり抜けて、上条は走る。

そうして射程範囲に入った一方通行に拳を叩き付けようとするが、すぐに彼は後ろに下がる。

先程から、ずっとこの繰り返しだった。

このままでは埒が明かない。

いや。それどころか、どんどん上条が劣勢になっていく。

上条の体力が限界に近付きつつあるのだ。

上条と一方通行では、運動の量が違う。

一方通行はその能力によって、最低限の力で動いている。

対する上条は、一方通行の猛攻を必死にかわしながら、全力で走っている。

体力は上条の方があるのだが、その消費も上条が上なのだ。


確かに上条には、『幻想殺し』がある。

一方通行の絶対的な『反射』を破る、奇跡の右手が。

しかしそれも、相手に接近しなければ何の意味も無い。

(…………クソッ、どうにかしねぇと……!!)

とにかく、一発でも殴れれば上条に勝機が見える。

一方通行は打たれ弱い。

たったの一撃だけで、簡単に怯む。

そうなれば、一気に攻めるのもたやすい。

ただ、

(……どうしろってんだよ!?)

その方法が思い付かない。

一方通行には何千通りの攻撃手段があるが、上条には右手一本しかないのだ。

そんな状況では、どうにもなる訳が無い。

(と、うぉっ、おおぉっ!?)

そう考えている内に、大量のレールが頭上から降り注いだ。

今日はどうやら、鉄関係の物体がよく降る日らしい。

直撃は避けられたが、レールが落ちた際に巻き起こった突風に吹き飛ばされた。

「ぐっ、あ、は……ッ!?」

辺りに積み上げられていた、物資の入ったコンテナに勢いよく衝突した。


(……う、ぁ)

意識を朦朧とさせながらも、上条は必死に立ち上がる。

と、そこへ――――

(……っ、おいおい嘘だろ?)

真上から、コンテナの山が落ちてくる。

どうやら、先程叩き付けられた際に、衝撃で崩れてしまったようだ。

「――――あぁあああっ!!」

力の限り叫び、彼は走る。

一方通行のいる位置とは正反対の、最初に会話した所へ。

辺り一帯に、轟音が炸裂する。

「…………く、ぉ」

上条はまたも強風に吹き飛ばされるが、どうにか生き延びる事が出来た。

何と言うか、珍しく幸運だ。

しかしながら上条には、今そんな事を考える余裕が無い。

(……何か考えねぇと)

コンテナのおかげで、一方通行の猛攻から一時は逃れられた。

ちょうど二人に割って入るように落ちたので、分断されたのだ。

となれば、今が唯一逆転の手立てを考えるチャンスだ。

そう思っていると、

「けほっ、こほっ……?」

辺りに何か、細かな粒が舞っているのに気付いた。

(これって……小麦粉、か?)

おそらくは、目の前にあるコンテナの中身だろう。

(……この状況なら、闇討ち出来るかもな)

もう少しすれば、この辺りは全て白い粉まみれだろう。

そうなれば、当然視界が悪くなる。

(……いや、それだけじゃダメだ)

上条の頭には、ある一つの予感があった。

(となると、だ)

上条は歩き出す。

その眼には、何の迷いも諦めも無い。







「――――しっ!!」

一方通行が痛みに怯んでいる間に、上条はさらに距離を詰めた。

「くっ――」

一方通行は慌てて、最強の能力によって後方に下がろうとした。

しかし、

バギン! という音と共に、一方通行は変わってしまった。

『学園都市最強』から、『学園都市最弱』へと。

一方通行が下がる前に、上条が右手の爪で一方通行に触れたのだ。

その結果、一方通行はほんの一メートルほどしか、上条と距離を開けられなかった。

「――――がっ!!」

驚く間も無く、一方通行はもう一度殴られた。

それだけで、一方通行はフラフラになってしまう。

「…………ゥ、く」

一方通行は必死に朦朧とした意識を覚醒させようとする。

そこへ、



左肩を、突如掴まれた。



そうしてがっしりと固定された一方通行の顔面に、上条の『左手』が決まる。

それだけでは終わらず、二度三度と拳は一方通行に沈み、最後に頭突きをもらった。


「――が、ふ」

頭突きを食らい、肩を固定する『右手』が離され、能力が戻る。

一方通行はよろよろと膝を突く。

ここで気絶しても、何もおかしくはない。

なのに、それでも、一方通行は立ち上がろうとしていた。

必死に、右拳を握り締める。

「…………」

上条も、同じように右拳を握る。

そして――――



「歯を食いしばれよ、最強(最弱)」



上条は、堂々と宣言する。

そうしてから、拳を振り上げた。









「――俺の最弱(最強)は、ちっとばっか響くぞ」







二人は、同時に拳を相手に叩き付ける。

あらゆるベクトルを操る『必殺』の拳が上条に、
強い意志の篭った一撃が、一方通行の顔面に吸い込まれるように決まった。

(――――あ)

ぼんやりと、一方通行は何かを思った。

今度こそ彼はそのまま吹き飛び、先程破壊したコンテナに衝突する。

衝突した時の衝撃を『反射』出来ず、一方通行は大ダメージを受けた。

ズルズルとコンテナに背を預け、彼は目の前を見つめる。

そこには、一方通行と同様に、コンテナに背を預けて座る『親友』がいた。

だが一方通行と違い、彼はゆっくりと――静かに体を動かしていた。



彼は、立ち上がった。



(……はは…………)

一方通行は朧げなはずの意識で、明確に思う。

(……オマエ、スゲェよ)

やはり、自分の考えに間違いなどなかった。

彼を、信頼して良かった。

「――オマエが、『友達』で良かった」

最後の思考だけ、口から出てしまった。

これで良い。

そう思いながら、一方通行は意識を深い闇へと投げ出した。

何故だか、とても温かいモノを感じながら。


「…………」

壁に掛けてある時計を見る。

もう、午前十時を軽く過ぎたところだった。

とりあえずベッドから出るか、と考えた彼は立ち上がろうとした。

すると、

「おはよう、一方通行」

またドアが開き、見覚えのある顔が出て来た。

「……芳川、か」

その人物――芳川桔梗はゆっくりと近付いて来て、先程冥土帰しが座っていた椅子に着いた。

「目覚めたと聞いたものだから、木原の代わりに色々と報告しようと思ってね」

「……っ!そうだ、妹達(シスターズ)……アイツらはどうなった!?」

「まぁ、落ち着きなさいな」

落ち着いた様子で芳川はなだめると、

「まず、『実験』だけど……君と君のお友達の行動によって中止になったわ」

そう言うと芳川は書類を差し出した。

統括理事会の正式なモノらしいそれに目を通すと、確かにそんな事が書いてある。


「……で、あくまで『中止』だから妹達の廃棄処分もなし。まぁ、上手くは行ったわよ」

ただし、と芳川は付け加える。

「『実験』の研究権は理事会が持っていったわ。
もしかしたら、別の研究所がまた再開のために無駄なハッスルをするかもしれない」

ま、万に一つも無いでしょうけど、とさらに加えた。

「……妹達自体は、どォなる?」

残り一つの心配事を消化しようと、一方通行は口を開く。

「……そっちは問題無しよ。主に、冥土帰しのおかげでね」

芳川は昨日、冥土帰しの元を訪れていた。

冥土帰しに、学園都市外部の信頼出来る機関を紹介してもらうためだったらしい。

彼は、学園都市の中でも古参の人間らしく、世界中に個人的なネットワークを形成している、との事だ。

「とにかくそんな訳で、今は研究所の皆でそれら一つ一つに連絡を取ってるわ。
じきに、妹達の体を『調整』してくれて、預かってくれる場所も決まるでしょう」

つまり、それは、

「……良かった」

一方通行は、嬉しそうに小さく呟く。

「……ふふ、それじゃあね一方通行。私も手伝わなくちゃいけないから」

微笑みながら芳川は立ち上がると、部屋を出ていく。







「……」

一方通行は無言でベッドに寝転がった。

何だか安心した途端に、眠くなってきた。

そこへ――――

「―― 一方ちゃん!」

妙に甘ったるい女の子の声がした。

見れば、入口のドアが開いていて、誰かがいた。

その人物は、

「……ンだよ、チビ教師か」

一方通行と上条のクラスの担任、月詠小萌先生がいた。

「ンだよ、ではないのですよー!! まったく、心配したんですよ!?」

何やらお怒りの様子で、彼女は近付いてきた。





「……それで? どうしてまた、上条ちゃんと魂のぶつけ合いなんかしたんですか?」

夏休みなんだから、もっと学生らしい青春の仕方をしろ、だとか説教を食らった一方通行は、解答に困る。

目を軽く逸らして、じっと見つめる視線を頑張って回避する。


今回は以上です。
次回、次回こそ三巻編終了です。
それじゃ、またいつか。

追いついたとか言ったら「どうでもいいわそんな事」って言われるかもしれんが追いついた。
いやあ 上条「いくぞ、親友!」一方「おォ!!」 から見て、やっと来たけど面白いね。
それにしても腹パンワロタwwwwww

どうもお久しぶりです。
三巻編最終回。早速投下していきます。

「昨日は助かった。アイツらを守ってくれて」

昨夜、彼女達は妹達の護衛をしてくれたらしい。

それこそ、統括理事会の息の根がかかった連中から命懸けで。

一方通行としては、彼女達には感謝の気持ちで一杯だった。

「何言ってんだか。私達は統括理事会に従うのが面倒だっただけよ」

そっけない態度で、麦野は返す。

「…………そォか、ありがとよ」

一方通行が笑うと、

「あ、あの一方通行が超笑顔です……ッ!!」

「こ、これはなかなかビックリする訳よ」

「あくせられーた、笑顔似合ってるよ」

「……っつーか、礼なんて言われる覚えは無いってば」

四者四様のリアクションに、一方通行はさらに笑った。


「じゃな、第四位。仲間と一緒に華々しく散らせてやる」

垣根が六つの羽の内、四つを展開させる。

そうして、それらを勢いよく振りかぶった。

麦野はギュッと目を閉じる。

これから来るであろう痛みを予想して、彼女は『原子崩し』を撃つ準備をする。

この男に殺されるぐらいなら、自殺を選んだ方がマシだと思ったのだ。

(……ゴメン、一方通行)

脳裏に浮かんだ『友達』に謝った。

それが、麦野沈利の最期の言葉になる。



――はずだった。



「……え……?」

突如、闇夜に似つかわしくない明るい音が響いた。

何事か、と麦野はそっと目を開く。

すると、垣根が面倒そうに何か――おそらくはケータイだ――を取り出しているのが見えた。

「……何だよ、もうちょいで終わるトコなのに」

彼はケータイを操作して、誰かととても余裕のある様子で話していた。

それがまた屈辱的だったが、麦野には何も出来なかった。







(…………)

思い返すだけで、怒りが沸き上がる。

あの時、自分のプライドは見事にボロボロにされた気がした。

(……もっと強くなってやる)

あの男を、殺してやりたい。

(『スクール』の垣根帝督……この屈辱は忘れねぇぞ)

確かな決意を、心に強く刻み付ける。

とそこへ、クラクションを鳴らしながら青のワゴン車がやって来た。

おそらくは、下部組織の迎えだろう。

「……さ、行きましょうか」

そう言って、絹旗から車に乗り込む。

麦野はそれをぼんやりと見ていた。

「……むぎの、来たよ?」

車に乗らない彼女に、滝壺が後ろから声を掛ける。

「……へ? あぁ、ゴメンゴメン」

謝りながら、麦野は車に乗り込んだ。

「………………むぎの?」

そんな彼女の背中を、滝壺は不安げに見つめていた。







「……ふわァァあああ」

一方通行は大きく伸びをした。

麦野達が出ていって、かれこれ数十分は経った。

もうそろそろ、昼食を取る平均的な時間――正午だった。

(……上条ントコ行くか)

礼を言うついでに昼食にでも誘うか、などと考えながら、一方通行は起き上がる。

そこへ――――

「あン?」

コン、コン、と控え目なノックの音がドアの向こうからした。

「……はい? 開いてますよォ」

誰だ? と疑問に思いながらも、ドアの向こうの人物に声を掛ける。

ガチャリ、とゆっくりとドアが開かれる。

「……ッ!! オマエは……」

そこにいた人物に、思わず目を見開く。

名門常盤台中学の制服に身を包んだ彼女の名は、御坂美琴。

通称、『超電磁砲(レールガン)』。

妹達を生み出すのに必要なDNAの提供主である、超能力者の第三位だ。


「…………」

「…………」

嫌な沈黙が場を支配している。

一方通行も御坂も、ただ黙って立っていた。

突然の訪問者にどう対処すれば良いのか、一方通行には分からない。

何か言わなくては。しかし何を?

――どうしてここに来たのか。

――そもそも何故ここに自分が居るのを知っているのか。

様々な疑問が、浮かび上がっては消えていく。

そして――――

「……あ、あの」

御坂がこちらをじっと見て、小さく口を動かそうとしていた。

一方通行は、内心身構える。

自分は彼女にあまり良い感情を持たれていない、と思う。

普通に考えたら分かる話だ。

何せ、ほんの二日前に彼女の目の前で、彼女と同じ顔をした人間を――殺してしまったのだ。

おまけにあの様子から考えるに、彼女は『実験』の全容を知っていたのだろう。

それであの場にいたという事はつまり、彼女は『実験』を止めるつもりだったのだ。

そんな彼女からすれば、自分は憎むべき悪魔のような存在に違いない。

ある程度覚悟を決めて、一方通行は彼女の言葉を待った。

やがて御坂は、何かを決意したような表情をすると、



「――――ごめんなさい!!」



思いきり、頭を下げた。







「……全部、芳川って人から聞いたわ。
あなたが騙されてたって事とか……あの子達を守るために戦ってくれたって事も……」

目の前の少女は、本当に申し訳なさそうに謝ってきた。

「……なのに、私は勝手に一人で勘違いしちゃって……。私、あなたに酷い事しちゃったわ」

ポツポツと言葉を紡ぐ彼女に、一方通行は何も言わない。

黙って、御坂を見た。

彼女が本気で謝っている事は見ていて分かる。

一方通行は瞳を閉じた。

思い浮かんだのは数日前の、ある公園での出来事だった。

そこにあった確かな『日常』。一方通行も御坂もいた、平凡な日々。

(…………)

彼は何かを考え、

「……頭、上げてくれ」

ポツリ、と呟くように告げた。

「…………オマエは何も悪かねェよ。
オマエがどォしてDNAを提供したかなンて俺は知らねェ。
……だけどよ、少なくともオマエが『実験』に協力したくて提供した訳じゃねェ事は分かる」

だからよ、と一方通行は未だに頭を上げようとしない御坂を見る。

「……謝らねェでくれよ。俺はオマエにそうして欲しかったからアイツらを守ろォとしたンじゃねェ。
……オマエやアイツらに、もっと普通の――ホントに、くだらねェって笑い飛ばせるぐらいの――『日常』を過ごして欲しいンだ」







「…………」

一方通行は椅子に座り込んでいた。

御坂は、もうここにはいない。

(……守った、ねェ)

ぼんやりと、彼は壁を見つめる。

どこまでも真っ白な部屋で、少年は思う。

(…………この大嘘つき)

確かに自分は、妹達を二万人は守ったかもしれない。

だが、それは二万一人ではないのだ。

一人だけ、一方通行が殺してしまったのだから。

理由はどうあれ、そのたった一人を死なせてしまったのは、心の弱い自分だ。

そう思うと、胸が締め付けられるような苦しい痛みが走る。

……おそらくこの痛みは、自分が一生背負わなくてはならないモノだろう。

(……今さら何だよ)

この痛みだって、背負いきってみせると決めたではないか。

まったく情けねェな、と思っていると。

「……何をそんなにぼーっとしているのでしょうか、とミサカはボケた老人のような一方通行に声を掛けます」

突然の声に、一方通行は驚いた。

誰かが背後に立っていた。

一方通行は振り向いて、誰なのか確認する。

「――――」

その姿に、一方通行は見覚えがあった。

御坂美琴と同じ背格好と顔立ち。

唯一違うのは、おでこに引っ掛けた軍用ゴーグルぐらいだ。

『彼女』の呼び名を、一方通行は知っていた。

――妹達。御坂美琴の軍用クローンだ。


一方通行は、彼女をじっと見つめる。

対する彼女は、一礼してから一方通行に視線を合わせた。

「……昨日はどうも一方通行、とミサカは挨拶します。
ミサカの検体番号(シリアルナンバー)は07777号です、とミサカはあなたが覚えてくれているか確認します」

「……あァ、ファミレスに居た奴だろ」

第一位などと呼ばれているだけあって、一方通行は記憶力も良かった。

「ええ、その通りです、とミサカは簡単に肯定します」

彼女は相変わらずの無表情で答えて、一方通行をまっすぐに見る。

「……何しに来た」

とりあえず尋ねると、彼女はスカートのポケットに手をやる。

「調整が始まる前にお返ししなければ
と思いまして、とミサカはなかなか出てこないブツに若干苛立ちます。えいっ、そりゃ」

そうして御坂妹(面倒だからこの呼びで固定)は何やら取り出すと、手を差し出した。

そこには、昨日渡したクレジットカードがあった。


「……ったく、ンなモンあとで良かったっての」

言いながら一方通行はそれを受け取り、財布にしまっておく。

よくよく考えてみれば、彼女も『調整』のためにどこか外国に行くのだろうか。

「……っつーか、オマエってドコの国に行くンだ?」

聞いてみると、

「ミサカは学園都市に残って『調整』を受けます、とミサカは報告します」

何でも、彼女と他数人ほどはこの病院で『調整』を受けるらしい。

冥土帰しがせっかく乗り掛かった船だからと、引き受けてくれたそうだ。

「……ところで」

御坂妹は一方通行を見据える。

「……何だ?」

とりあえず無難に聞いてみると、

「他のミサカ達があなたに聞きたい事があるとの事です、とミサカはメッセンジャーとして仕事します」

「…………聞きたい事、か?」

ええ、と彼女は頷くと、こう告げた。

「――何故ミサカ達を『実験』から開放したのでしょうか? とミサカは他のミサカからの疑問をぶつけます」







「……疑問、ねェ……」

一方通行が数秒ほど黙ってようやく口にしたのは、それだけだった。

「はい、とミサカは肯定しつつ答えを待ちます」

「…………どォしてそンな事を聞く?」

答える前に聞いてみると、

「ミサカ達は『実験』のために生まれましたが、それが中止になってしまい、
己の存在理由が無くなってしまったと、一部のミサカ達が戸惑っているのです、とミサカは報告します」

「…………そォかい」

一方通行は少し口を閉じてから、御坂妹を見返す。

「……昨日言ったかもしれねェがな、オマエは世界にたった一人しかいねェ。
分かるか? 替えなンざ利かねェンだよ。だから、存在理由はちゃンとある。
オマエが死ンで、悲しむ奴がいねェなンて思うな。――少なくともここに一人、居るンだからな」

そう伝えといてくれ、とだけ言った。

「……分かりました、とミサカはネットワークで他の個体に送信します」

妹達は互いの脳波をリンクさせる事で、
独自の情報ネットワークを形成している、と昨日天井のレポートで見た覚えがある。

どうやらそれを使って、早速伝えてくれたらしい。


「――送信完了です……どうやら同じ事を少し前にご友人がおっしゃられたようですが、とミサカは事務的に報告します」

「あン?」

友人? と一方通行は考えて――

「……上条、か?」

「はい、そうです。何でも10032号が上条当麻に同様の質問をしたところ、
怒った彼にげんこつを頂きながら言われたそうです、とミサカは補足します」

アイツらしいな、と内心思う。

「……それでは、ミサカはそろそろ『調整』がありますので、とミサカは――」

御坂妹は部屋を出ようとして、ピタリとドアに向かう足取りを止める。

どうしたのだろうかと思っていると、彼女は振り返った。

「……一方通行。ミサカの『調整』が一通り済んで、外出許可を冥土帰しから得られたら――」

「……得られたら?」



「――――ミサカと一緒に、今度こそ食事していただけませんか? とミサカはお願いします」



それを聞いて一方通行は、

「そンなの、いくらでも付き合ってやる。
ずっと覚えててやるから――どンなに時間が掛かっても、ちゃンと治せよ」

彼女の目を見て、しっかりと告げた。

「はい。……『約束』ですよ、とミサカは立ち去ります」

そう言って、御坂妹は消えた。

「何だよ、アイツ――――」

一方通行は、一人笑う。

「――――あンな顔も出来ンじゃねェかよ」

最後の最後に、御坂妹はかすかにだが、笑っていた。


そんな訳で三巻編でした!長かった! そして疲れた!
シリアスな空気って難しいと思い知らされました。
正直言ってシリアスなバトルより、もっと青春なバトルが書きたいです。
……早く大覇星祭にならねーかな。
それでは次回は、3.5巻編、久々の日常編です!

どうも、皆様。
久しぶりに投下開始。
今回は3.5巻編です。

「……だぁー。つーかーれーたー」

「よ、ようやく涼しいところに来れたんだよ……」

「……ったく。こォいう日だけ仕事してンじゃねェよ、クソ太陽がァ」

まだまだ日差しが厳しい、ある夏の日。

学園都市の第七学区にある、とあるファミレスにて。

冷房でむしろ凍えるほどに冷えた店内の席(壁側にソファーが設置されているタイプ)で、
汗だくになった二人の少年と少女が、ぐったりとテーブルに突っ伏している。

少年の内、一人の名は上条当麻。

ごく平凡(ただし少しだけ不幸だ)な男子高校生である。

少女の名はインデックス。

とりあえず、イギリス清教でシスターさんをしている。

そして、もう一人の少年の名は一方通行(アクセラレータ)。

学園都市最強(ただし今は元が付く)の超能力者(レベル5)だ。





今日、三人は『セブンスミスト』まで、ちょっとしたお買い物に行く予定だった。

何を買いに行くのかと言えば、銀髪真っ白シスターさんこと、インデックスの水着である。

今から二、三日後に、上条とインデックスは学園都市の『外』の海に行く予定なのだ。

どうして『外』に行くのかと言うと、これにはそれはそれは深い訳があった。


ちなみに、先程もそんな連中に出くわして、彼らはたっぷり小一時間ほどは追いかけ回された。

普通ならばここで、相手がどれほどの数だろうと一方通行が返り討ちにするのでは、と考えるところだろう。

別に一方通行は、あの科学的には『最強』の能力を失った訳ではないのだから。

事実、彼自身もそうするつもりだった。





時は、少し前に戻る。

『ひゃはははっ!! 今日は運が良いなァ、オイ!!』

一方通行はけだるそうに目の前を見た。

そこには、さっきから馬鹿笑いをしているアホが何人かいる。

『セブンスミスト』に向かっていた一方通行達だったのだが、
運が悪い事に自分達を狙う連中に出くわしてしまったのだ。

『へへへ……。テメェにゃ仲間が世話になった事があってよ……』

『その礼も出来て、「最強」にもなれると来た。こりゃ運が良すぎるぜ』

やれやれ、と思う。

こういった奴らに会うのは、久しぶりだった。

『……すぐに黙らしてやるよ雑魚共が』

軽い運動だ、と一方通行はさっさと片を付けようと前に出る。

だが、

『…………うおっ!?』

急に、一方通行は逆方向に引きずられた。

さっきからこの様子を黙って見ていた上条が、
いきなり一方通行を『右手』で引っ張り、
インデックスを引き連れて後ろに向かって走り出したのだ。

『な、オイ、離せこの馬鹿!』

『良いから行くぞ! 必殺、真夏の青春☆マラソン大作戦!』

いや、離せよ三下ァァァァあああっ!! という一方通行の叫びが辺りに響く。

まるで、陸上競技のスタートの合図のように。


「……さ、メシにするとしますかね」

店内に視線を戻すと、上条とインデックス、彼女の懐で惰眠をむさぼっていた
三毛猫のスフィンクスが起きて、一緒にメニューを見ていた。

「とうまとうま、私はこれが良いな」

インデックスはメニューを指差す。

そこには、『夏限定! ゴージャスジャンボ定食!』と書いてあり、どう見ても大人数向けの料理の写真が載っている。

良く見れば、お値段も大人数(ファミリー)向けだ。

「……よーし、それじゃこのご飯(小)にしようか」

とうまーっ!? と抗議するインデックスに、上条はお得意のお説教をかます。

猫は猫で、『なぁ、お魚ないのかよー!』と元気よく猫パンチをメニューにしている。

元気なヤツらだ、と呆れながらも一方通行は適当に注文しようとして――――

「あれ、アンタ……」

聞き慣れた、声がした。

ん? と上条とインデックスが声のした方を見る。

インデックスは、あ! と声を上げると、親しげにそこにいた人物に声をかける。



「――――みこと!」



そこにいたのは、上条や一方通行にとって、とても縁のある少女――御坂美琴だった。


「……ンなこたァねェよ。なァ?」

「…………うん、そうよ?」

そう言った二人だったが、やっぱりどこかぎこちない。

まるで、左右で大きさが全く違う箸を使うように、しっくりとこないのだ。

今なら誰にでも簡単に見破れるかもしれない、と思う。

しかし、

「………………うん。そうみたい」

インデックスはそれだけ言うと、上条とメニューをまた見始めた。

(……ありがとよ)

一方通行は、この少女の優しさに感謝する事にした。


「いやー、偶然ってすごいんですね」

「まさかお姉様のお知り合いでしたとは……」

うんうん、と勝手に話を終了させている少女達に、一方通行は若干苛立った。

「いや、だから何なンだよ」

もう一度尋ねると、初春は笑って、

「いえいえ、すぐに一方通行さんにも分かると思いますよ」

とだけ、言った。

何なンだ……? と不思議に思う一方通行だったが、その疑問は本当にすぐさま解決する事となった。







数分ほど経って、インデックスは完全に白井や初春と打ち解けていた。

「にしても、シスターさんなんて初めて見ましたけど……何だか上流階級な雰囲気がしますねー」

「そうかな? これはあくまでも主の加護を視覚化したものだし、
そういうのだったら、城住まいのメイドとかの方がそれっぽいんじゃないかな」

と、一緒に巨大パフェを突っつきながら、初春とインデックスは上流階級談議をしている。

また、別の方を見れば、

「……まったく、やっぱりあの方がお姉様の話に出てくる殿方だったんですのね」

「い、いや、だから黒子。アイツは別に……」

とか、よくは聞こえないが何か話をしている御坂と白井がいる。

「……なぁ、俺達浮いてねーか?」

運ばれた料理を食べ終わり、上条は一方通行に声を掛ける。

「……別に。しょうがねェだろ」

そう言って、一方通行はコーヒーをすする。

三毛猫の方は満腹になったらしく、ソファーの上でおやすみモードに入っていた。


「あ、一方通行さん。連絡先交換しときましょう」

忘れてた忘れてた、と佐天はケータイを取り出した。

「おォ、分かった」

赤外線を使って、二人はお互いのケータイに連絡先を登録する。

「じゃ、細かい日時とかは後でメールしますね」

「佐天さーん、行きますよー!」

「分かってるよ、初春! それじゃ一方通行さんに上条さんにインデックスさん! さようならー!」
ぴゅー、という擬音が似合いそうな速さで、佐天は店を出ていった。

「……へっ」

一方通行は何となく、小さく笑う。

と、不意に視線を感じた。

視線の元を辿ると、上条とインデックスが何やらニヤニヤと笑っていた。

ついでに言えば、三毛猫が『アンタもスミに置けねぇな、旦那』と一方通行を見上げていた。

「何だよ、オマエら。そンなに笑って、何かあったのか?」

「いーや。『あーくん』はモテモテだな、って話だ」

ピクリ、と一方通行の肩が震える。

「そうだね。どこかの誰かさんと違って、フラフラしそうにないだけ、『あーくん』の方がマシかも」

え? それ誰? といった表情で、上条はむすっとしている銀髪シスターを見る。

「…………よし、オマエら。歯を食いしばれ」

その後、彼らがギャーギャー騒ぎまくったのは言うまでもない。







「佐天さん、随分と機嫌が良いですね」

隣で鼻歌を歌っている親友に、初春は声を掛ける。

目の前では、

『だーかーらー! アイツはそんなんじゃないっつーの!』

『あー、お姉様ーっ!』

などと、相変わらず楽しくビリビリやってる人達がいたりする。

「んふふー。まぁねー」

本当にこれ以上嬉しそうな笑顔はないんじゃないか、といった感じに彼女は笑っている。

「今日はスカートめくりも無しみたいで私も嬉しいです」

ホッと慎ましい胸を、彼女は撫で下ろす。

初春は、親友のそういった行為にわりと本気で困っていた。

「んー? 何だ、期待してたのかね? じゃあ期待に答えなきゃねー」

悪意のない(いや、実際はちょっぴりあるけど)笑みを浮かべて、佐天は初春に迫る。

「へ? い、いえけっこ……ひゃああああっ!?」

バッサァァァァアアッ!! と、布が風になびく音が今日も通りに響く。


はい、っつー訳で3.5巻編でした!
ここで皆様にご連絡。
おまけ程度にしか考えていないカップリング要素ですが……
こちらとしては、二つのルートを考えております。
①佐天通行ルート
(一応正規。かつ一方通行に優しい展開)
②座標通行ルート
(①が終わって、余裕があったらやります。こっちは逆に一方通行をイジメ倒すぐらいの展開にしようと考え中)
とは言っても、まだまだ分岐点ですら来ていないのでお気になさらず。
とりあえず、またいつか。
それでは、長文で失礼致します。

どうも、皆様。
久しぶりに投下開始。
今回からは四巻編です。

土御門舞夏。

土御門元春の義妹であり、メイドさん見習いをしている少女だ。

時々兄の土御門元春に会いに来るので、一方通行も何度となく会った事はある。

彼女はたまに、シチューだとかパスタだとかを余らせておすそ分けに来てくれる。

そんな彼女の顔を、一方通行は忘れる訳もない。

そして一方通行の知る土御門舞夏は、あんな顔立ちはしていない。

確かに彼女も整った顔立ちはしているが、それは東洋人のものだ。

(……まさか、な)

一方通行はすぐさま部屋に戻る。

部屋に入れば、スフィンクスが『おぉ旦那。戻ったかい』と食い終わった缶の処理を求めてきた。

一方通行はさっさと缶を処理すると、

「スフィンクス、ちょっと空中散歩してくる」

とだけ言って、『え? あ、あれ? 旦那ー!?』と鳴く三毛猫の声を背に、外へともう一度出る。

彼は廊下の手摺りの上に立ち、文字通り飛んでいった。


『御使堕し』――その作用は、天使を人間の世界に引きずり落とす、らしい。

天使、と言われても一方通行にはその凄さが分からない。

そもそも存在が信じられないのだが、まぁ『居る』と思わなくては話が進みそうにもないし黙っておく。

とにかく、人間よりも格上の超絶的存在だと思えば良いらしい。

件の魔術では、その格を強制的に変動させたらしい。

その結果として、上の位――天使とかいう、凄まじい力の持ち主の一席と、
下の位――人間側の誰かの持つ一席が入れ替わってしまった、という話だった。

『……まぁ、それで構いませんが』

そう言った神裂は、どこか不服そうだった。

もしかしたら、自分の『魔術(世界)』の言葉を
こっちの『科学(世界)』の言葉で表したのが少しだけ気に入らなかったのかもしれない。


『とにかく』

神裂は気を取り直すように告げた。

『……どうにもそれを行使した術者が上条当麻の近くにいるようでして「そいつの近くに来た、と」

なるほど、と一方通行は納得する。

神裂の話を聞いて、だいたいの疑問は払拭出来た。

それならば、自分がこうして違和感を感じられる理由も分かる。

一方通行は『魔術』を成り立たせる特異な物理公式を知っている。

おそらくは術が発動した時に、無意識にそれを使って中途半端に『反射』したのだろう。

その事を伝えると、

『……どうにか術の威力を半減させたとしても、それでも入れ替わった人々からはそう見えるでしょうね』

一部の魔術師は魔術で自分を守ったらしいが、それでも入れ替わっては見えてしまうらしい。

おそらくそこは同じだろう、と神裂は言った。

いわく、上条のように完全に術から逃れたのは術者だけ、らしい。


(……ン?)

はて、と一方通行は考える。

そういえば、

「……なァ」

『何か?』

「……この『御使堕し』ってなァ、強制的に姿を入れ替えさせるンだよな」

『副作用ですがね』

当然、といった調子で神裂は答えた。

そうか、じゃあよ、と一方通行は前置きすると、

「それってよ……性別もなのか?」

『は?』

神裂はあの容姿には似合わなさそうな、間抜けな声を上げた。

「性別だけ変わるってのはあンのか、って聞いてンだよ」

一方通行はそう言って、先程のキャーリサ(たぶん中身は土御門舞夏)との会話を思い出す。

彼女からすれば、自分は入れ替わって見えるはずだ。

なのに、舞夏は確かに自分を識別した。

ただ、声が高いとか言っていただけだ。

まさかとは思うが、自分は今、性別が入れ替わって見えるのかもしれない。


そんな訳で四巻編『御使堕し』です。
今回はシリアスはあんまなしな感じです。
というか、この先話の都合上シリアスなしの巻とか出てくる事もあります。
その時は平凡に生きる一方通行の姿に和める話を頑張って書きますので、どうぞよろしく。
それでは、またいつか。

どうも皆様。
久しぶりに投下開始します。

と、そこへ――――





「あ、一方通行さーんっ!!」





少女――佐天涙子は、待ち合わせ相手の少年が来るのを見つけた。

その少年―― 一方通行はこっちを見ると、ちょっぴり急ぎ足で来てくれた。

「よォ、待たせちまったか?」

「いえいえ、そんなには待ってないですよ」

申し訳なさげな少年の様子を嬉しく思いながら、佐天は明るい調子で返した。

「……そうか。じゃ、早速始めるとするか」

場所を変えるぞ、と一方通行は木陰にあるベンチまで歩き出す。

これ以上話していてはせっかくの時間が無駄になってしまうと言わんばかりの歩調で。

佐天も、若干ワクワクしながら彼の後から遅れて付いて行く。


教室への移動も終わり、第一位による特別授業がいよいよ始まった。

「さて、と。何からやるか……」

先生側―― 一方通行はほんの数秒だけ思考する。

生徒側――佐天涙子は、そんな先生をじっと見ていた。

(……ったく、どォして知ってるヤツに入れ替わっちまうかね)

様々な事を同時に考えながら、一方通行はチラリと生徒を見る。

どうでもいい話だが、現在一方通行からすると、佐天涙子はある人物に入れ替わって見える。

それも、知らない誰かとではなく、完璧な知り合いとだった。

その名は『黄泉川愛穂』。

一方通行の高校で体育教師をしている女性だ。

一方通行にとって、黄泉川はそれなりに付き合いのある知り合いだ。

彼女は、これまた彼の古い知り合いの芳川桔梗の友達で、何度か学校外で会った事もある。

普段は緑色のジャージを着ている黄泉川なのだが、
現在は佐天が中身のために、簡単には拝めないであろう恰好をしている。

ただ、あくまで中身は十代の少女なのだ。

はっきり言って二十代の黄泉川の身体には似合わない。

というか、色んな部分がほぼ丸出しに近くて、まるで痴女のようだ。


「……よし、ンじゃまずは基本から行くとするか」

さっさと頭を切り替えて、一方通行は佐天を見る。

直視してしまうと色々な部分が見えてしまうが、気にしないでおく。

「……基本、ですか?」

「おォ。何でもそォだがな、基本(当たり前)が押さえられなきゃ応用になンざ進めねェよ」

当然といった調子で、積み重ねずに一気に頂点に達した天才(少年)は答える。

「……超能力を成り立たせる上で一番大事にされてるのは
『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』、ってなァさンざン言われてるだろォからまァ良しとする」

『自分だけの現実』とは、簡単に言えば超能力の土台となる物だ。

魔術で例えるなら、ステイルのルーンのような物だろうか。


「じゃ、始めるが……その前に質問するから答えろ。
オマエは、どォすれば『自分だけの現実』を強化出来ると思う?」

「…………………え、っと。やっぱり、投薬しまくったりとか、電極刺したりとか…………?」

突然の質問に困ったらしく、佐天の口調は随分としどろもどろだった。

そんな彼女の答えに、一方通行は軽く首を横に振る。

「間違っちゃいねェがな。オマエが今からする事はもっとシンプルだ」

「……というと?」

「イメージ力の強化だ」

一方通行はそう言うと、具体的に説明しだした。

「能力を強くするには、これだけの事が出来るっつーイメージをさらに強くしなきゃならねェ。
レベルってなァ、要するに思い込む力の度合いを表してるモンだと思えばイイ。
オマエ、自分が軽く指振っただけであそこの自販機からたくさン缶ジュースを引っ張り出せると思うか?」

そう言って、一方通行は先程の待ち合わせ場所の自販機を指差す。

「えっと、確かにあの自販機はちょっと強く蹴れば中身出しますけど……いくらなんでもここからじゃ無理ですよ」

佐天は、それが当たり前のように答えた。


「……ま、『外』の人間も含めて普通はそう言うよな」

一方通行はつまらなそうに呟くと、指を軽く振った。

瞬間。

辺りから――正確には自販機から――ゴン! ガン! と冷えた金属にお湯をかけて、凹んだ時のような音がした。

そして、

ガラガラガラ――!! と自販機から溢れるほどに缶ジュースが出てきた。

唖然とした様子で、佐天はその光景を見ていた。

「……あァー、しまったな。出し過ぎしちまった」

一方通行はそんな彼女を放っておいて自販機の元に向かう。

たっぷりと転がってしまった缶を、彼は全て手元に引き寄せ(これも少し指を振っただけで引っ張ってみせた)、
それらを適当に置いてから財布を取り出して一万円札を自販機に突っ込んだ。

そのままたくさんの缶を両手に何本も積み上げて(何故か缶はバランスを崩して落ちたりしない)、
ゆったりとした足取りで何事も無かったかのようにベンチに戻ってきた。


「こンな風が起こせる、の『こンな』の部分が今のオマエに足りてねェモノだ」

一方通行は缶を積み終えると、

「だから、今からそれをオマエに叩き込む」

振り向いて、互いに向き合う形になった。

「は、はぁ……。どうすれば良いんですか?」

「まずは普通に能力を使ってくれ」

言われて、佐天は手を前にかざして能力を使い始めた。

ほんの少しの風が、彼女の正面の一方通行に当たる。

「……よし、そのままの状態を保てよ。
次は俺がこれより少し強い風をオマエに当てるから、
オマエはその風を強くイメージしながら能力を使ってみろ」

一方通行はそう告げると、何かのメーターと風車が繋がっている機械を取り出した。

「それ、何ですか?」

「風速計だ。知り合いの研究者から借りてきた」

適当に答えて、一方通行は風速計をベンチに置く。

「今度は俺じゃなくてこっちの風車に風を当ててろ」

「は、はい」

言われた通りに、彼女は風車に手をかざす。

メーターを見れば、やはり風速はかなり弱かった。


はい、少ないですが今回は以上です。
それでは皆様。またいつか。

すんません、誤爆した。

このスレは見捨てられたのか…?

……どうも、皆様。
大変お待たせしました。
今から投下開始します。

「そォだなァ…………」

一方通行は少し考え込む。

缶ジュースはまだまだたっぷりとある。

佐天にいくらかは渡したが、一人ではまだ厳しいだろう。

だからといって、捨てるのもあまり好ましくない。

うーン、と一方通行は悩む。

佐天も、うーん、と一緒に唸る。

(木原達にでも……いや、今忙しいから会えないかもしれねェか)

これは一体どうしたものか、と少年は悩み――――

「…………ン?」

ふと、気付く。

ベンチから離れた、自販機の近く。

そこの草むらでガサガサと動きがある事に。

「………………」

一方通行は無言で能力を使う。

ちょっとした微風を草むらに向かって当てて、その流れを観測する。

すると、ちょうど人間サイズの障害物が三つほど草むらにある事を把握する。


「どうかしました?」

「ン。ちょっとな」

何も知らない佐天に一方通行は適当に答えつつ、豆粒程度の大きさの小石を拾う。

そして――――

「――――そら、よォ!」

軽く、放り投げた。

僅かにベクトルを操られたそれは、綺麗な放物線を描き、草むらに入る。

途端、

「あたーーーっ!?」

随分とコミカルな雰囲気の女性の声が公園に響く。

「…………へ?」

佐天は目を丸くして、そちらを見る。

一方通行は若干呆れた様子で草むらを睨むと、

「……オラ、とっとと出てこい」

「え? え?」

未だ状況が理解出来ないらしい。

佐天は草むらと一方通行を交互に見る。

そして――――

「えっと……いつから分かってました?」

ゆったりとした動きで、三人の人間が出てきた。

当然のように、一方通行が知っている人物は一人も――いや、一人いた。

が、残り二人は誰か知らない。

服装で大体の中身の予想がついてはいるが。

「う、初春!? 何で白井さんや御坂さんまで!?」

隣で素っ頓狂な声を上げる佐天に、三人は気まずそうに適当に笑う。

そう。そこにいたのは、佐天の友人である初春飾利、白井黒子、御坂美琴だった。









「………………それで? 何でここにいるのかなー、初春。
今日は風紀委員(ジャッジメント)で超絶的に忙しいんじゃなかったー?」

佐天はにこやかに笑って三人に質問する。

言葉上は穏やかだが、その声は何故か少し震えている。

「……いやー、つい佐天さんが気になっちゃって」

あはは、と頭に花を載せたセーラー服の外国人女性が笑う。

中身は『初春飾利』であろうその女性に、一方通行は見覚えがある。

(……今日はイギリス関連ばっかだ)

朝に見た英国の第二王女、キャーリサ(中身『土御門舞夏』)。

その妹である第三王女、ヴィリアン。

それが、現在の『初春飾利』の姿である。

「……パトロール中に無理矢理連れられてきましたの」

常盤台中学の制服に風紀委員の腕章をしている女性が、頭を撫でながら言う。

たぶん、こっちは白井黒子だ。

こちらも外国人だが、一方通行には特に見覚えはない。

一応、その女性の外見的特徴を上げるとすれば、
まるで雪のように白く、そしてみずみずしい肌をしているところだろうか。

そこから考えるに、あまり日が射さないロシア辺りの出身なのかもしれない。

まるで、童話に出てくるヒロインを絵に描いたような風貌だ。


「あー、私は黒子達に付いてきて……」

問題はこいつだ、と一方通行は彼女を見る。

御坂美琴。

数日前に、ちょっとしたいざこざがあった少女。

現在、『御使堕し』によって例外なく姿が入れ替わっているはずなのだが……。

(何で入れ替わってねェンだ?)

何故か、彼女は何も変わらずにそこに立っていた。

訳が分からない。

まさか、彼女が術者とやらである訳ではないし。

そもそも、超能力者には魔術が使えないとかインデックスに聞いた事がある。

じゃあ、一体――――?

と、そこまで考えて気付いた。

(………………あァ、そォだよなァ)

思い浮かんだのは一つの可能性。

確率としては、かなりの奇跡に分類されそうだ。

(同じツラが二万ぐれェもいりゃあ、一人ぐらいは被るよなァ)

そう、御坂美琴はちゃんと入れ替わっている。

自分の軍用クローンとして生み出された二万人の人間――――妹達と。

ありえなくはない事だろう。

世界人口と妹達の人数を考えれば、相当の低確率だが。

いやどンだけの偶然だよ、と一人でツッコミを入れておく。


「…………ま、何でもイイけどよ」

適当に思考を切り替えて、一方通行は缶タワーを指差す。

「これ、適当に持ってってくれ。俺一人じゃどォにもなりそうになくてな」

「あぁ、それじゃ」

「……いただきます」

「そ、それじゃいくつか……」

三人はそれぞれ何本か缶を選んで取っていく。

初春は『いちごおでん』とかいう奴のほか、見たかぎり危なそうな物を。

白井は比較的普通の物(紅茶とかコーヒーだ)を。

御坂は、『あっ、これは…………』とか呟きながら、同じ種類の缶を何本も取った。

何かと思えば、いつぞやスフィンクスと名付けられた猫を軽く酔わせたジュースだった。

そンな大事そうに持つかねェ……と思いながらも、一方通行は閉口しておく。

よほど猫が好きなんだろうな、と簡単に推測出来たからだ。

「……いつから、見てたの?」

おほん、と随分とわざとらしい咳をして、佐天は奇っ怪なジュースを飲む花頭を見た。

「実質的にはほんのちょっとだけですよ。だいたい三十分前くらいです」

うまー、と缶から口を離す少女に、

「まったく……もう少しでお姉様と間接キッス出来たというのに…………」

ツインテールお嬢様が何やら恨めしげにぶつぶつ文句を言っている。

「……ホント、こう言っちゃなんだけど助かったわ」

かなり引き気味に安堵する御坂を見て、オマエの日常ってとンでもねェな、と言おうとして止める。

これで結構楽しんでるに違いない。


「んな…………っ!? な、何言って」

いきなりの言葉に、佐天は慌ててある方向に視線を移す。

視界の先には、三人の人間がいる。

その内の一人である白髪の少年を注視する。

少年は、奇妙そうに二人の人物を見ていた。

ただしそれは佐天達ではなく、それはそれは変わった、名門中学のお嬢様達だった。

……よかった。何も聞かれてない。

佐天はホッと胸を撫で下ろす。

初春はそんな彼女の様子を知ってか知らずか、

「やだなー。分かってますよー?
例の件で一方通行さんに一目惚「うーいーはーる」いひゃひゃひゃっ!?
ひょ、ひょっとちゅねりゃにゃいでくだしゃいよ! ひょっぺたみょげみゃしゅってば!!」

ギュー、と佐天はよく伸びる親友の頬でたっぷりと遊び始めた。

その顔にはステキな笑顔が張り付いているが、目はさっぱり笑っていない。


はい、以上です。
>>506
どれだけ間が開こうと完結まで終わらせません。見捨ててたまるかよ状態です。
それでは、またいつか。

どうも、お久しぶりです。
では、早速投下開始。








「……じゃあな、俺はこっちだ」

「ご機嫌よう、一方通行さん」

「さようならー」

「じゃね、アイツらによろしく言っといて」

「今日はどうもありがとうございました! またお願いしますねー!!」

そう言って、夕暮れの街に消えていく佐天達の背中を、一方通行は最後まで見届けた。

あの後、完全下校時刻となり、奇妙な集団は一度解散する事となったのだ。

そんな訳で、残念ながら帰り道が一人だけ違った一方通行は、さっさと寮に向かい始める。

(……疲れた)

ゆっくりとした歩調で、一方通行はけだるそうに歩道を進む。

周りには、自分と同じように寮へと急ぐ学生(だ思われる)がいた。

入れ替わった連中に普段通りに振る舞うのは、想像以上に気力を使う事となった。

相手は入れ替わりに気付いていないために普段通りに振る舞うのだが、
気付いている側としては、初見では普段通りの対応を見せるという訳にもいかない。

状況を理解し、相手に変人呼ばわりされそうな対応をしないようにするには、頭をかなり使う。


とっとと帰って休もう、と少年は急ぎ足で進もうと――――





「おー、一方。奇遇やね」





と、いきなり誰かが横合いから飛び出してきて、一方通行の足は自然と止まる。

このうさん臭い口調には、一人しか覚えがない。

ゆっくりと、とてつもなく面倒そうに一方通行はそいつを見ると、

「……今日は厄日か」

ポツリ、と呟いた。

「何や、冷たいなー。むしろ幸運やって」

そいつ――中身『青髪ピアス』は、手をひらひらと振りながら笑う。

すげェなコイツ、と一方通行は久しぶりの友人を見た瞬間、率直に思った。

全然違う人物に入れ替わっているというのに、いつも通りの怪しさが目に見えるぐらいに感じられる。

そう、超絶真面目な『吹寄制理』に入れ替わっているというのに。

もはや、一つの才能だと断言しても良い。












(……まだほンの少し前の話じゃねェか)

気付けば、写真立てを手に取り、じっと四角い枠の中を眺めていた。

養父であろう誰か――何かどこと無く養父に雰囲気が似ている老人だ――と、その人物に肩を抱かれている自分。

記念写真としては残念な出来だ、と思う。

引き寄せられた際に、驚いて木原に注目してしまったために、自分の顔が写らなかったのだ。

しかもよく見れば、友人(馬鹿)どもが写真の端に写り込んでいる(ピースとかしてるから確信犯なのは間違いない)。

くっだらねェ、と一方通行は写真立てを元の場所に戻す。

写真が飾ってあるのは、ただ単に現像した時に養父が勝手にそうしたからだ。

それを動かすのが面倒だっただけだ、と思う。


「……くっだらねェ」

もう一度だけ、言った。

何だか色々と馬鹿馬鹿しくなってきた彼は、地図をくしゃくしゃに丸めてごみ箱に捨てようと――――

(……待てよ)

ふと、箱の中に紙を投げようとした手が止まる。

彼は写真にもう一度目をやった。

(今、何を思い出しかけた?)

一方通行はまじまじと写真と地図を見る。

何か、以前にもこのような事があったような――――?

(そォだ、確かあれは中二の時――――)

一方通行はゆっくりと記憶の糸を辿る。

じっくりと、慎重に記憶を再生する。

どれほど考えていたか分からない。

一分、十分、あるいは一時間か?

とにかく立ち尽くしたまま、記憶を呼び覚まし続け――――

そして、思い出した。

たった一つだけ、退屈しのぎが上手く行きそうな可能性を。

(……手札は揃ってる。あとは――――)

「準備するか」

愉快そうに笑い、地図を手に動き出す。

そこにいたのは、『第一位』だとか『最強』だとか、そんな特別な人間ではなく、
初めての『外出』に今から心を弾ませている、どこにでもいる年頃の少年だった――――


はい、以上です。
そんな訳で次回は『外出』編となります。
それでは、またいつか。

【審議中】
    ∧,,∧  ∧,,∧
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U (  ´・) (・`  ) と ノ

 u-u (l    ) (   ノu-u
     `u-u'. `u-u'

【審議拡大中】
       ∧,,∧  ∧,,∧         ∧,,∧  ∧,,∧
    ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧  ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
   ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
   | U (  ´・) (・`  ) と ノ | U (  ´・) (・`  ) と ノ

    u-u (l     ∧,,∧  ∧,,∧ u-u (l    ) (∧,,∧   /⌒ヽ
        `u-∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧`u-∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
         ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )

         | U (  ´・) (・`  ) と ノ| U (  ´・) (・`  ) と ノ

          u-u (l    ) (   ノu-u  u-u (l    ) (   ノu-u
              `u-u'. `u-u'         `u-u'. `u-u'

どうも、一ヶ月ぶりですね。
久しぶりに投下します。

(あー、働いたー)

机の上にあったコーヒーを啜る。

口一杯に広がる苦味を堪能しながら、木原はぼんやりと物思いに耽る。





『オイ、木原くン』

『だからー、その呼び方やめろって。どうせなら、父さんとかにしろよ』

『馬鹿か。オマエなンざ「くン」で充分だ』

『このガキ……。またぶん殴ってやろうか?』

『はン。あンなモンに頼らなきゃガキ一人殴れねェ奴に、間違えても父さンなンて言わねェよ』

『あ、オマエ今「父さん」って言った』

『それカウントしてンじゃねェ! ぶっ飛ばすぞ!!』

『おぉ? ヤルかァ?』

『……貴方達、外で騒いできなさいな』





(うわ、俺ってばガキっぽかったなー)

今もそう大して変わらないのだが、本人は特に気が付かない。

背もたれに体重を預け、重みに椅子が軋む音を聞きながら、上を見上げた。

誰も居ない部屋の中、煙草の煙を吐き出すように息を吐く。

最近、息子に構う時間がなかったかもしれない。

それで少しばかり拗ねている、という可能性は考えられなくはなかった。

んー、面倒だなー、と大きく伸びをした。

(……ま、どんな理由でもする事は変わんねぇけど)

木原数多は、自分本位の身勝手な男だ。

彼が行動する理由は、いつでも単純で馬鹿馬鹿しい。

面白い、という考えだけが彼を動かす。









同じく、とある研究所。

そこの、『所長室』と呼ばれる部屋にて。

ある少年が、仮眠用に使われているベッドで寝転がっていた。

彼は今、とてもとても不機嫌だった。

例えるならば、破裂する寸前の風船のような。

ちょっと突けば、すぐにでも爆発しそうな状態だった。

「よ! 何だよ、一方通行くーん? メシだっつーのに」

そんな少年に、声を掛ける影が一つ。

誰か、など少年には確認する必要も無い。

「…………別に。ちょっと腹減ってねェだけだ」

少年―― 一方通行は背を向けて、適当に養父に答える。

どうせ芳川桔梗辺りに言われて来たのだろう。

真面目に応対する気になれなかった。


は? と答えなくても良いのに、つい目を開けてしまった。

見上げてみると、合点が行きました、というような顔で木原が笑っていた。

ひらひらと、一枚の用紙をこちらに見せながら。

それは、その辺にあるコピー用紙とは違い、随分と上等そうな紙質で、一番上には『外出許可証』と書いてある。

ついでに言えば、紙の下には自分と木原の名前が書いてあり、
その上に重ねるように『不可』という赤い文字が、判を押したようにあった。

「……………………悪い、かよ」

枕に顔を埋めながら、呟く。

木原の言う通り、少年は拗ねていた。

原因は単純だ。

夏休みに入る数日前の事。

今年の夏に一度実家に帰る、という友人に、『どうせならお前も来ないか』と誘われた。

一度たりとも『外』に出た事の無い一方通行にとって、それは嬉しい申し出だった。

もちろん、一方通行の答えはYESの一言。

その後、木原や友人の両親からも了承してもらい、後は街に届けを出すだけとなった。


――――そこで、問題は発生した。

外出許可が取れなかったのだ。

何故許可してもらえないのか、という質問に対する答えは簡素だった。

――学園都市第一位は、我々の技術の結晶とも言える。

そんな存在を『外』に出して、万が一の事があっては困る。

学園都市の上層部は、そう結論を下した。

そして、夏休みになり。

結局、友人だけが『外』に出てしまった。

そこまで思い出して、一方通行は顔を上げて枕にあごを乗せる。

まともな人生になりつつある、と思っていた。

自分の意思で生きていける、と。

しかしながら、そんな事は無い。

結局、第一位という肩書きがある以上は、ある程度この街に自由を奪われるのだ。

「……ま、しょうがねーさ」

そう言うと、木原は自分の机の前にある椅子に腰掛けた。


「俺はある筋の野郎から仕事を受けた。どんな仕事かっつーのはまぁ置いとく。
とにかく、その仕事が厄介極まりなくてよー? 俺は急遽『外』に出る事になっちまった」

そこで木原は懐かしそうに目を細め、

「ただし、通用門からは出るなっつーお触れ書き付きでな?」

それを聞いて、一方通行は眉をひそめる。

まだ話の途中のようだが、迷わず横槍を入れる。

「ンなの無理に「決まってる、か?」

木原はあらかじめ予想していたのか、一方通行の言葉を遮るように言った。

「いくつか抜け道があんだよ、この街には。裏のとても深い場所にな」

つまらなそうに、木原は告げる。

「今言ったヤツを使えば、誰も街から出る人間には気付かないかもな」

その仕事の後、新しい道が出来て使われなくなったらしいし、と木原は付け加える。

「……」

一方通行は何も言わず、木原の言葉を頭の中で整理する。

もしも、もしもの話だ。

その、抜け道とやらが今も使えるとしたら。

街をこっそりと出られるのなら、一方通行にはまだチャンスがあるという事になる。

希望は、潰えていないのかもしれない。


そう思っていると、

「ま、直接場所は教えないけど」

養父の声が聞こえ、一方通行はそちらに意識をやる。

「何でだよ」

言うだけ言っておいて、どういうつもりだ。

思わず尋ねると、木原はピースするかのように指を二本立てる。

「一つ、その方が俺的におもしれー。二つ、これは一応超能力者脱走の手助けになる」

……一つ目の理由はともかく、二つ目については納得出来た。

そう、一方通行は第一位の能力者だ。

ともすれば、この街にとって重要な存在になるのは当然である。

そんな人間を、ちゃんと本人に戻ってくる意思があるとはいえ、街から出してしまうのは問題行為になる。

つまり、木原数多が具体的に場所を教える訳にはいかない。

話せば、下手をすると『反逆者』扱いされて始末される可能性だってある。

木原は当然、一方通行だってそんな事は望んでいない。

あくまで間接的に、ほぼ冗談ぐらいになるレベルでしか教えられないのだ。

仕方ない、と一方通行は自分を納得させる。

「……ちゃンと今も使えるのか、そこ」

とりあえず、聞いても問題無い事だけは知っておくべきだ。


「いやー、その仕事以来結構使ってんだよそこ」

「そォなのか?」

にゃははは、と笑う木原を気味悪く思いながら、一方通行は目を丸くした。

「『外』にはこの街には無いモンがたくさんあるかんなー。例えばキャバクラとか」

「きゃばくら?」

何だそれ? と首を傾げる一般的な世間を知らない少年。

「あっといけね。ガキにはまだ早いな」

何となく気に入らない言い方だが、確かに知らない方が良さそうだ、と直感的に思う。

ごほん、と木原はわざとらしすぎる咳ばらいをすると、

「……ま、探せるなら探してみ? どーせ無理だろうけど」

ニヤリ、と口元を歪ませて少年を見る。

対する少年は、睨み付けるぐらいの目で養父を見る。

「上等だ、一日で見つけてやる」

「はっはっは。威勢の良い小僧だ」

そら立てよ、と言われて一方通行は渋々とベッドから離れる。

木原はうんうんと頷き、

「じゃ、まずはメシにするか」

笑って、告げた。


何も物が無い空間を少し進むと、軽い広間のような場所に出た。

ここまで来て、おかしいと思った。

一階に階段やエレベーターが無いのだ。

上の層に進むための、道が無い。

入口からここまで一本道だったし、この先に道がある訳でもない。

だからと言って、場所が間違えている訳でもない。

ヒントに該当する場所は、第二十二学区ではここ以外には考えられなかった。

となると――――

「なるほどな」

適当に呟いて、彼は近くの壁を叩き始めた。

コンコン、と軽くノックするように叩き、部屋を一周するように歩く。

ここまで来て、帰るというのは嫌だった。

どうせなら、考えられる可能性を全て潰した方が良い。

そして、

(当たり、か?)

三十分ほどして、手足が止まる。

目の前には、見た目は他とまったく変わらないただの壁がある。


一見すると、だ。

(……よっ)

一方通行はしばし考え、手で壁を軽く押した。

瞬間、強烈な音が閉めきられた部屋に響く。

ザザザ……ッ!! と壁が地面を擦る音を出しながら、開いた。

階層の一番端に存在するこのビルの奥にある壁は、本来ならば土と街の外壁を仕切るはずだ。

しかし。

そこには、通路があった。

壁は、これのためのカモフラージュらしい。

一方通行は通路の先へと歩きだす。

そこは薄暗かったが、足元に申し訳程度には照明があった。

木原の話からもう二年は経つのだが、まだ利用する事は出来るのかもしれない。

時に上や下、あるいは右や左に進み、一方通行は先を急ぐ。

思ったよりも、道は長い。


以上で、今回は終了です。
皆様、だいぶお待たせして申し訳ありません。
宣言はしませんが、次は一週間以内には来れるようにします。
それでは、またいつか。

どうも皆様。
今日も投下開始。

「はは、まぁ連日の猛暑じゃ仕方ないさ。……っと、一方通行君」

ちょっとちょっと、と上条刀夜に二階へと手招きされる。

何だろう? と思いながらも、とりあえず靴を脱ぎ、スポーツバッグを担いで二階へと上がる。

上条刀夜は、そのまま一方通行を上がってすぐの部屋の前に連れてくると、

「(……あの子、誰だか君は知らないかい?)」

あの子? と少し首を傾げる。

この場合、子と表現される人物はさっき会った乙姫とかいう少女と――――

「(……いや、さっぱり)」

誰の事か分かり、一方通行は首を横に振る。

本当のところ、かなり深い部分まで知っているが、話す訳にはいかない。

事情を細かく話せば、友人との『約束』が破られる事になってしまう。

そもそも、『魔術』が何だのと話しても信じてもらえるとは思えないが。


と、今回は以上です。
では、宣言じゃないですが、一週間以内に来れるようにします。
それでは、またいつか。

お久しぶりです。だいぶ遅れました。
これより、投下します。

お久しぶりです。だいぶ遅れました。
これより、投下します。








「オマエが、魔術師……?」

一方通行の口から、間抜けな声が出た。

顔も随分と間抜けな事になってるかもしれない。

それぐらい、今目の前にいる少年の言葉はショックだった。

対してその少年――土御門元春は、イタズラがバレて怒られたイタズラ小僧みたいに頭を掻きながら、

「まぁ、そーいう事ですたい」

それは、あまりにもあっさりとした調子だった。

本当は冗談か何かじゃないか、と思わせるほどに。

一方通行は土御門を真剣な目で見る。

視線を動かす事が出来なかった。

すると、そんな一方通行に呆れたように、土御門は肩を竦ませて軽く笑みを浮かべると、

「おいおい、そんな驚く事じゃないだろ? 考えてもみろよ、一方。
この世界に存在する二つの勢力――科学サイドと魔術サイド、確かに、両者は互いの存在は認め合っているさ」

土御門は気軽な調子で、いつものように口を動かす。

それが土御門に抱いていたイメージを壊していきそうで、一方通行は恐ろしく思えた。

「――ただし、それは表面上の話だ」

土御門はさらに続ける。

「実際のところは、神様の教えを否定するような科学サイドを、魔術サイドは快く思っちゃいない。逆もまただ」

水と油みたいな物なんだよ、と付け加える。

異能を扱うという点や裏で外道な真似をしている事は同じでも、必ず交わらないのだと言った。


「裏側じゃ、いつも腹の探り合い。上手く潰して世界の利権を奪い取るのに必死なのさ」

少し間を置き、くだらなそうに土御門は続ける。

「当然、その一環として諜報員なんてモノを紛れ込ませる事だってある」

そうして彼は自分の顔を指差すと、

「……で、その探り合いの道具として土御門さんみたいなのが働いてるって訳」

分かってくれたかにゃー? と土御門は首を傾げて一方通行を見返す。

一方通行は腕を組み、今の話を纏める。

つまり、魔術サイドの道具として、土御門は学園都市に居る。

役は諜報員――ようするにスパイだ。

僅かな間を置き、いや、と彼は首を横に振った。

何ともまた驚かされる話だが、今の話には一つ気になる点があった。

「まさか、舞夏もそォなのか……?」

そう、土御門舞夏である。

今聞いた事が全て事実だとしたら、舞夏は?

彼女も、また魔術師だったというのだろうか。

しかし、質問に対して土御門は首を横に何度も振ると、

「人の妹の事名前で呼ぶの止めろ、って言いたいがまぁ良い。
……舞夏は、違うぜい。アイツは、科学も魔術も関係ない、一般人さ」


「……」

何か言おうとして、一方通行は黙って下を向いた。

彼の脳裏を、普段から見てきた土御門の姿が過ぎる。

土御門は義妹にいつもいつもべったりしていて、何かと一方通行や上条に相談してきたり、
痴話喧嘩(というよりも、舞夏による一方的な暴力)の仲裁を求めてきた事もあった。

クラスにいる時は、上条と青髪ピアスと一緒に馬鹿ばかりやっていたおかげで、
クラスの三バカ(デルタフォース)なんて呼ばれて、学校の皆と楽しくやっていた。

………………やはり、信じられない。

義妹好きのメイド好きでどうしようもない土御門が、そんな暗い世界で生きているなんて。

と、そこへ――

「土御門、一方通行。そろそろ本題に入っても?」

すみませんがその事よりも優先せねばなりません、と神裂に話し掛けられ、思考が強制的に中断される。

土御門はへらへらと笑うと、

「おー、構わないぜい」

「……あァ」

一方通行も不本意ながらそう言った。

魔術師の言葉には、確かに一理あった。

土御門の事はいくらでも聞く機会はある。

少なくとも、事件よりは余裕があるだろう。

この件については、後にすべきだ。


では、と神裂は軽く前置きすると、

「来なくても良い、と告げたはずですが……何故この場に?」

その一言で、一方通行に全員が注目する。

三つの視線を感じながら、彼はゆっくりと口を開いた。

当然ここに来る以上、聞かれるとは思っていた。

なので、一応の建前ぐらいは考えてある。

「最初は来ないつもりだった。
ただ、近くでこンな危なそォな事件が起きたら、誰だって不安だろォが。
役には立たねェかもしれねェが、だからって足手まといにはならねェようにする」

……と、まぁこれが考えていた建前。

建前と言っても、結構真剣に考えていた。

遠くで事態を理解していない魔術師よりは、近くで事態を理解している超能力者だ。

どうだ……? と一方通行は三人の様子を窺う。

上条は『まー、良いんじゃねぇか?』と言って気軽そうに笑った。

まぁ、彼にはこの理屈が通る事は分かっていたし良い。

さて、残る二人はどうだろうか。

土御門は『しょうがねーにゃー』とでも言いたそうにこっちを見ていた。

どうやら、土御門も問題無しのようだ。


残るは神裂。

この中では一番お堅いであろう彼女は、目を細めていた。

……通らないか? と一瞬体を強張らせたが、すぐにそれも解除された。

彼女のその行為は、怒っているというよりは呆れている、といった意味合いが強そうだった。

やがて、彼女は深いため息を吐くと、

「まぁ、来てしまった以上は仕方ありませんね」

「だにゃー。どうせ言っても聞いちゃくれねぇだろうし」

神裂と土御門は目を合わせるて、頷く。

「手伝うのは構いませんが、貴方はあくまでも一般人。常に戦いからは下がっていただきます」

俺より弱いくせに、と口から出そうになったが押し止めた。

魔術に関して、自分に口が出せるような事は無い。

「……ま、それでイイ。で、犯人の手掛かりとかは見つかってンのか?」

昨日の時点ではまだ何も見つかっていないらしいが、捜査に何か進展はあったのだろうか。


質問に対して上条が頭を掻くと、

「目星っつーか、ほぼ分かってるっつーか」

チラリと上条は神裂を見る。

視線を受けて、神裂は淡々とした調子で口を動かす。

「火野神作、という人物に覚えはありますか?」

火野……? と一方通行は僅かの間、記憶と言葉を照らし合わせて、

「おォ、昨日ニュースで見た。脱走中の連続殺人鬼だったか」

火野神作。

二十八人もの人を無差別に殺してきた男で、死刑を言い渡されている脱獄犯だ。

……という話を昨日のニュースでやっていた。

それを聞いて、土御門はしきりに頷く。

「そーそー。そんで今回の事件の『容疑者』でもある」

一方通行は土御門の言葉を受けて、

「……その火野っつーのは何か、魔術サイドでも有名人とかなのか?」

容疑者、と呼ばれる所以として考えられる可能性を一つ出してみる。

というか、そうでもないとこんな大事は起こせないだろう。


「いや?」

「まったくの無名ですが」

が、プロ二人は簡単に否定した。

あン? と一方通行は思わず面食らう。

違うのならば、何故『容疑者』なのだろうか。

それを聞くと、予想外の返答が来た。

「……昨日の話です。細かい説明は省きますが、その火野神作がこの場所に現れて……」

「下の階に居た俺が襲われたんだ」

「………………訳が分からねェが、とりあえず言おうか。良く生きてたな、オマエ」

脱獄中の男が来た事にも驚きだが、そんなのに襲われた上条にはもっと驚きだ。

確かに、上条には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』などという異能専門の強力な武器がある。

しかし、あくまでそれは異能専門。

上条自体に、殺人鬼と戦える力があるとは到底思えない。

……いや、上条なら限界の一つや二つぐらい超えてしまいそうだが。


「いんや、カミやんは特に何もしてない」

と、『上条人間卒業説』に土御門が異論を唱えた。

じゃ、オマエらが? と尋ねると、神裂が首を横に振る。

「ロシア成教、という組織からの魔術師が割り込んで助けてくれたのです」

ロシア成教、という言葉には少しだけ聞き覚えがあった。

まだ記憶喪失の原因を知らなかった時のインデックスに、上条と事情を聞いた時に出てきた言葉だったと思う。

魔術サイドの巨大組織の一つだったか。

「そいつが見当たらねェが」

一方通行は部屋のドアを見る。

少なくとも、この部屋に来るまでの道にはいなかったはずだ。

すると、

「今はちょっと出てるんだぜい」

と、土御門に気にするなとでも言うように告げられた。

言われてみると、確かに大事なのは、何故火野が容疑者にされているのか、という点だ。

知りもしない魔術師の事など、今はどうでもいいだろう。

そう結論を出し、一方通行は納得することにした。


「ふーン。それで、続きはあるのか?」

あまり気のない返しをして、続きを促す。

もちろん、と神裂が答え、

「実は、偶然一般人が居合わせて火野を見たのですが……」

「そいつから見て、火野神作は入れ替わって見えなかったんだ」

「……なるほどな」

今回の『魔術』は、ある程度効果から逃れた人間から、逃れていない人間を見ると入れ替わって見えてしまう。

逃れていない人間から逃れた人間を見ると、そちらが入れ替わって見える。

なので、火野を火野だと上条達が認識して、なおかつその一般人までもが同じように認識した、
という事はつまり、火野神作は事件の『犯人』の条件を満たしている事になる。

となると、火野神作が容疑者にされるのもおかしくはない。

神裂は一方通行の顔色から、理解したと判断したのか、更に語り出した。

「話によると、火野は撃退した際に『エンゼルさま』と何度も言っていたそうです」

「『エンゼルさま』?」

簡単に言っちゃうと『お告げ』だにゃー、と土御門が教えてくれた。

何でも、超常的な物からの意思を様々な形で受け取る、という伝承に基づくタイプの、立派な『魔術』らしい。


「仮に『エンゼルさま』とやらが火野を動かして二十八人の『儀式殺人』をさせたなら、そいつは何の儀式かって話だにゃー」

つまり、火野神作は『エンゼルさま』――天使からの声とやらを聞き、
今回の魔術のための用意として殺人をした、という話になるのだ。

「だがまぁ、火野が『御使堕し』を引き起こしたとしたら目的が掴めないんだぜい」

「? 天使とやらが命令したンだろ?」

「んー、説明が面倒ですたい」

一方通行の質問に対し、土御門はサングラスをくい、と上げると、大儀そうに答えた。

いわく、天使というのは異能の力――魔力よりも上の『天使の力(テレズマ)』というらしい――の塊のようなモノで、
何の心も持たない、ただただ神様に使われるだけの存在なのだ、とのことだった。

天使と言われると、ラッパなんかを吹いて飛んでいるイメージしか
なかった一方通行にとって、土御門の説明はだいぶ違和感があった。

だがまぁ、正直な話、宗教について一方通行はそう詳しくないし、専門家が言うのだからそういうことなのだろう。

「そういった事情は、本人から聞けばよろしいかと」

神裂の一言に、一方通行の意識が戻る。

そうだった、今は火野の話だ。


「だな。で、その火野がドコにいるのか分かってンのか?」

思考を入れ替え、一方通行は肝心の事を尋ねる。

「まぁ、まだ不明だぜい。ついでに言えば向こうの戦力もな」

「堕ちた『天使』を火野が手に入れているか、ですね。あと、仲間などの有無も」

土御門の返答に神裂が付け加えて説明してくれた。

これだけの規模の事件を水面下で行ったのだ。

神裂達プロでも見逃すような、とんでもないバックアップがある可能性も考えられる。

しかし、それに対し土御門は難色を示した。

「火野が『エンゼルさま』の指示で襲撃したなら、一人で来るのはおかしい。
たぶん、そっちの線は薄い。……と言っても、何か別行動でもしてる可能性もあるけど。
『天使』の方は……昨日の時点じゃ使ってこなかったが、その辺は一応色んな可能性全部を考えておいた方が良いな」

それだけ言うと、土御門はけだるそうに窓の外を見て、

「ま、何はともあれ、まずは火野を見つけないと話が始まらないぜよ」

「ですね。さて、問題はどのように探すか、ですが」

「こォいう時のための、これだろ」

一方通行はちゃぶ台にあったリモコンを掴み、奥にあった古い型のテレビに向ける。

そうして電源ボタンを押すと、ちょうどニュースがやっていた。

どうやら、火野神作の特集か何からしい。

評論家らしい男が物知り顔で、火野は多重人格で医師から診断書を書かれていた、とかいう話をしている。


少しはあてになるかと思い、四人で画面をしばらく見ていたが、肝心の火野の情報はないようだ。

火野の精神の話という、どうでもいい知識が流れていくだけだ。

消すか、と一方通行は三人の了承を取るべく、目で語り掛ける。

これなら、自分達で探しに行った方が良さそうだ。

上条も土御門も神裂も、『そうしよう』と頷いた。

(がむしゃらに探すにしても、骨が折れそォだな)

いや、そちらの方が自分の能力を発揮出来るか。

そんな事を考えながら、一方通行は電源ボタンに指を乗せ――――

『えー、火野神作脱獄事件の続報が入りました!』

ピタリ、と一方通行の指と部屋にいた全員の動きが止まる。

「……ナイスタイミング、ですね」

ほぼ膝立ちの状態に近かった神裂が、言いながら座り直す。

まったくだ、と一方通行も口には出さないが思った。

とんでもなく幸運な人間でもこの場にいたのかもしれない。

……少なくとも、上条以外で。


しばらくして、何やら慌ただしかった様子のスタジオの画面が切り替わる。

それは数分程度のニュースでよく見る、
後ろでスタッフが忙しそうに動いている前で、
アナウンサーが原稿を読むタイプのものだった。

アナウンサー役のチビ教師が原稿らしい物を持って座っている。

何とも言えない光景だな、と感想を呟く。

足は地に付いていないし、椅子の高さが足りていないのか、
机から目から上だけがぴょこんと出ていて、あまり緊迫した空気がしなかった。

『現在火野は神奈川県内の民家に立て篭っていて、機動隊が包囲しているとの事です! 現場の釘宮さーん』

テレビから届いた声はちょっとだけ上擦っていたが、やはり全く緊張が伝わってこない。

「ふーむ。困った事になったぜい。火野を警察に引き取られたら、『御使堕し』の解除も何もない。やー、困った困った」

さっぱり困っていなさそうに言って、土御門は顎の辺りをさすった。

確かに、警察に火野が捕まれば、表的に自分達が出ていく訳にはいかないだろう。

それでは事件解決が不可能になってしまう。


「人質はいないようですが……現場を探した方が良さそうでしょうか」

「神奈川県内ってだけじゃ、捜索範囲が広すぎンだろ」

映し出されたのは、上空から見た一軒の家だった。

その周りにはこれといって目立つ物は無く、ただ似たような家があるだけだった。

たったこれだけの情報で、特に土地勘もない自分達が正確な場所を見つけられるとは思えない。

「どォすンだ? 見つけるにも、これじゃ……」

「分かっています。何か手段を考えなくてはいけませんね」

「つってもにゃー。探査系の術を使おうにも、火野本人にゆかりのある品がある訳じゃないし」

ならば、こういうのはどうでしょうか。

いやいや、それだと……。

と、魔術師二人は何やら一方通行には理解し得ない言葉で話し合い始めた。

完全に自分と上条は置いていかれている。


(……ま、そりゃそォだよな)

もとより、上条と自分は専門が違うのだ。

こうして『魔術』の存在を知るだけでも、充分異例だろう。

と、思っていると。

「うーん……?」

ふと、後ろの布団の方から声がした。

体をそちらに向けて座り直すと、上条が何やら唸ってテレビを睨んでいた。

まるで、何かを思い出そうとしているように見える。

「どォした?」

とりあえず声を掛けたが、あー、とかえーっと、とか気のない返事が返ってくるだけだった。

何だ……? と一方通行は奇妙そうに親友を見る。

後ろでは、魔術師達があーでもないこーでもないと議論を続けている。

どうやら、自分は前にも後ろにも置いていかれているようだ。

そう考えてから、僅か数秒後。

「…………あ!」

突如、上条がポンと手を叩いた。

どこの喜劇役者だオマエは、というツッコミを入れたい気持ちを一方通行は抑える。

上条は振り向くと、一方通行の背後で変わらず議論しているプロ二人に、あのう、と控え目に声を掛けた。

「どーした?」

「いかがしましたか?」

二人は言葉の応酬を止めて、同時に彼を向く。

一方通行も同じようにした。

三つの視線を受けて、ツンツン頭の少年はそっと口を開いた。

「……これって、もしかしなくても俺の家みてーなんだけど」









「ほら、これが細かい場所」

そう言って、上条は手に持ったケータイを土御門に渡す。

先程の爆弾発言で火野の居場所が分かり、土御門が細かい位置を教えるように頼んだのだ。

本当は上条も実家の場所は知らないはずなのだが、
手書きでは分かりにくいから、とケータイのGPS機能で上手くごまかしたようだ。

「なるほどなるほど。完璧に理解したぜい」

うんうん、と頷き、土御門はケータイを返した。

そのタイミングで、一方通行はもう一度確認した。

「本当にイイのかよ、手伝わなくて」

そう。プロ二人は火野の居場所が判明した途端、後は自分達だけで良い、と告げたのだ。

だからこうして、わざわざ上条に細かい位置を尋ねた訳である。


「そもそも、貴方達は科学サイドの人間です。正反対の『魔術』に関わるのがおかしいんですよ」

と、神裂が淡々と正論を唱える。

そうして、もう話す事はないと言わんばかりに立ち上がった。

事務的なヤツ、と思ったが、言われてしまえばその通りだ。

自分も上条も、あくまでも立ち位置は科学サイドにある。

プロの魔術師二人からすれば、残念だがいい足手まといなのだろう。

なので一方通行も、でも、だとか食い下がるつもりはない。

しかし――――

「なァ、一つ聞きたいンだが」

まだ、解決されていない謎があった。

「……何か?」

呼び止める声に、魔術師は背を向けたまま、応えた。

彼女はもう、部屋の入口のドアノブに手を掛けていた。

上条と土御門は、黙って事の成り行きを見守っている。

一方通行は続ける。

「……『御使堕し』で完全に入れ替わっていないのは上条と犯人だけ、なンだよな?」

「そうですが……何か?」

今更何を、といった調子で神裂は答えた。

もっと言えば、言いたい事があるなら早くしろ、と急かしているようにも聞こえた。


分かっている、と一方通行は返す代わりに、躊躇いがちに口を開いた。

「上条刀夜、なンだがな」

「…………父さん?」

突拍子のない単語だと思ったのか、突然身内の人間が出てきて驚いたか、とにかく、上条は呆然と呟いた。

一方通行は、そんな親友を横目で一瞬だけ見て、ゆっくりと続けた。

「入れ替わって、ねェンだよ」

「……………………あ、れ?」

「な……それは本当ですか!?」

言葉に、上条は理解が追い付かないのか、目を見開いている。

神裂は、思わぬ情報に驚いた様子で振り向いた。

どうやら神裂は入れ替わった世界でしか、上条刀夜を見ていなかったらしい。

となると、気付ける訳もない。

一方通行はそんな彼らを見据えて、

「だから聞いてンだよ」

上条刀夜――彼は入れ替わっていない。

間違いないと思う。

二、三回しか会ったことはないが、友達の親の顔を一方通行は忘れていない。


だが、そうなると上条刀夜も『容疑者』という事になる。

火野神作と上条刀夜に接点があるとも思えないし、おかしな話になってしまう。

それで、これはどォいう事なンだ? と一方通行は付け加える。

すると、

「……確かに、上条刀夜も上条当麻の近くにいた」

さほど驚いた様子でもなかった土御門が、冷静に答えた。

「考えられなくはない、かもな」

五%ぐらいで、とも彼は言った。

どこまでも、冷めた調子で。

内心、一方通行は戸惑いを感じていた。

ここにいるのは、ただの魔術師だという事に。

と、そこへ――――

「そんな訳……そんな訳ないだろ!」

ようやく思考が戻ったのか、上条が慌てたように土御門に食ってかかる。

その必死さは、何となく一方通行にも理解出来た。

当然だろう。

自分の肉親が、こんな訳の分からない事件の『容疑者』にされてしまったら。


土御門はサングラスの奥の瞳をギラリと輝かせ、あくまでも淡々とした口調で返す。

「しかし、現にカミやんからも入れ替わって見えないんだろう。オレ達は生憎と分からないが」

「それは……」

土御門の言葉に、上条は何も言い返さず、ただ俯いた。

「考えられる可能性は全部潰す必要がある」

どんなにありえなさそうなモノでもな、と土御門は立ち上がり、上から言葉を投げ掛けた。

一方通行は情報を整理しながら、ただこの場を静観していた。

そして、

「……だったら」

ゆっくりと、上条が土御門を見上げながら立った。

その目には、確かな光が宿っている。

「だったら、俺に聞かせてくれ。その間に、土御門達が火野の方に行けば良い」

どうせ低い可能性なんだろ? と上条はまっすぐに土御門を睨む。

身内の事は身内で片付ける。

それが、上条当麻という人間だった。


「馬鹿か、オマエは」

そんな上条の言葉に、一方通行は呆れたように告げる。

冷たい言葉を。

「オマエ一人で行ったって、誰が信用するンだよ」

そう、何も知らない人間からすれば、上条が父親を庇う可能性を考えるだろう。

例えば、件のロシア成教の魔術師だ。

「そんな、俺はただ……!!」

一方通行の言いたい事が分かったのか、上条はこちらを向く。

すぐにでも異論を唱えようと、彼は口を開き、

「だから」

その前に、一方通行は先手を打つ。

上条が何か言う前に、自分の意思を告げた。

「俺も付き合ってやる」

短い台詞だった。

単純明快な分かりやすい意思を伝えるそれで、長い沈黙が流れる。

「……一方通行、お前」

「どォせする事がねェンだ。だったらまァ、ちょっとは働かせてもらおうじゃねェか」

第三者として、な。

呟き、彼は魔術師二人を見る。

第三者として、一方通行が上条刀夜の尋問に付き合えば、理屈としてはちゃんと通るはずだ。


プロ二人の内一人――土御門はそんな彼らを品定めするように眺め、微かに笑った。

「ま、たかだか五%の可能性。全員で行く必要は無いか」

そう呟き、土御門は右手の人差し指を自分の目の前で立てると、

「こうしよう。カミやんと一方で刀夜の尋問、オレとねーちん、それにもう一人が火野の方」

それで良いな、と土御門は全員に確認した。

「……そちらの方が効率的、でしょうか」

構いません、と神裂は短く答える。

彼女としては、火野の方が怪しいと睨んでいるのだ。

上条刀夜の容疑は、ほぼないものと考えているのだろう。

そう思いながら、一方通行は上条に視線を移す。

上条も一方通行を見る。

二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。









さて、互いに何か分かったら連絡するように約束し、一方通行達は行動開始しようとしていたのだが……。

「じゃ、土御門さんは失礼するぜい」

「……何でそっちからなンだ?」

土御門だけ、何故か窓から外に出ようとしていた。

正面から出れば良いものを、と思う。

質問に、土御門は窓枠から離れてニヤリと笑った。

「いやー、実は今オレ外見『一一一(ひとついはじめ)』なもんだからにゃー? 目立つと困るんですたい」

そう言った土御門の態度は、言葉とは裏腹に楽しんでいるように見えた。

一一一、というのは確か、現在スキャンダル中の人気アイドルだったか。

知り合いがファンだった気がする。

人気アイドル(スキャンダル中)が窓から落ちてくる様は中々笑えそうだな、と感想を抱いた。


と、そこへ。

「そういやお前は誰と入れ替わって見えるんだ?」

上条が、実に厄介な事を聞いてきた。

場を少しは和ませようとした発言なのだろうが、大きく逆効果だ。

思わず、一方通行は閉口した。

そのまま、数秒黙り込む。

ついでに、部屋にいた他の三人も。

あ、あれ? 俺地雷踏んだ? と上条が少し慌て始めた頃に、彼はようやく答えた。

「……女だよ」

「へ? おんな? ……って、女の子?」

しつこく確認するな、と言いたいところだが、まぁ仕方ない。

誰だって予想外な事を言われたら、こうなる。

「他の連中とは別のやり方で逃れたせいだと思うがな。……チッ、何が悲しくてンな事にならなきゃならねェンだ」

おかげで大変だ、と一方通行はぼやく。

少年としては、実は私女の子ですの、とか衝撃の告白で通したくはなかったので、色々と頑張ってきたのだ。

例えば、声。

女性になっているので、入れ替わった人間には若干声が高く聞こえるらしい。

だから、そういう人間にはわざわざトーンを低くして話している。

これはだいぶ喉が疲れる。


胸については……まぁ、慎ましいモノだったようで、ごまかしは効いているのだが。

よく考えたら、海に来たものの、一方通行は泳げない気がする。

何せ、大勢の人間からすれば自分は女性だ。

水着は男物しかない。

どう考えても、駄目だ。

あれ、じゃあ俺は何のために来たンだ? と一方通行は今更な事を考え始める。

と、そんな少年に陽気な調子の声が一つ。

「まーまー、ねーちんよりはマシだぜい。鈴科百合子ちゃん?」

声の発信源――物凄く意地の悪い笑顔の土御門元春に、一方通行の眉がピクリと反応する。

今、とても忌ま忌ましい名前が聞こえた。

「鈴科百合子……?」

とんと覚えがない名前に、上条が首を傾げた。

実際は彼も聞いた事のある名前だが、色々あってその『記憶』がないのだ。

よって。

「にゃー、カミやん忘れたのか? ほら、青髪ピアスがさー」

「黙れシスコン軍曹」

「な、キサマ、その呼び方はヤメロ!」

思い出話をしようとする土御門を、一方通行は上手に引き止めた。

覚えていないのだから、わざわざ思い出させる必要などないのだ。

ちなみに鈴科百合子というのは、一方通行の本名……とかではなく、青髪ピアスが作り上げた妄想の産物である。












数カ月前、とある高校にて。

それは、午前の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った直後の出来事。

「おー、描けた」

授業終了の礼が終わって、学級委員の青髪ピアスは、立ったまま大きく伸びをした。

目の前の机には、一冊のノートがある。

何も表に書かれていないそれは、授業用に使われるモノとは別に見えた。

そんな大男に近付く影が一つ。

「何がだ?」

「あー、カミやんそれ聞いてまう? 聞いてまう?」

影――上条当麻の方を向きながら、青髪ピアスはニヤニヤと笑って座る。

いつもより変な友人に、上条は若干引き気味になる。

「な、何だよ」

「ふふふ……」

上条が畏怖の念を抱いているのに気付いていないのか、青髪ピアスは変わらず笑顔でいた。


すると、そこへ。

「にゃー、どうしたんだぜい?」

「何やってンだ?」

さらに二つの影――土御門元春と一方通行がやってきた。

青髪ピアスは彼らを視界に捉えると、

「おっと、土御門はんに一方も。ええタイミングやね」

「……?」

何言ってんだ、こいつ? と三人は同時に思い――

「ふっふっふ……。じゃ、じゃーんっ!!」

次の瞬間、驚愕した。

青髪ピアスが、机に置いたノートを思いきり広げたせいで。

「こ、これは……」

「ほう……」

「…………な」

目の前のノートに、三人はそれぞれ全く違うリアクションをした。

ノートに書かれていた――いや、描かれていたのは―― 一つのイラストだった。

どこかのアルビノ少年にそっくりな、美少女と言って問題ない、セーラー服の少女。

そしてその下には、『一方通行=女の子=鈴科百合子?』と訳の分からない式と、いっちょ前にサインが書いてあった。


「どー、我ながらこれ傑作や思うねんけど」

いやに厚い胸板を突き出して、青髪ピアスは誇らしげにする。

それから、何か意見ある? と三人にニコニコ笑い掛けた。

「にゃー、これにメイド服着せてやってくれるとさらに良いと思うぜい」

「はー、さすが土御門はん。それ採用」

メイド服っと、と青髪ピアスはノートを机に置き、適当な字でメモ――

「……オイ」

頭上から、低く唸るような声がした。

普通の人間ならそれだけで気絶してしまいそうなほどのそれに、
青髪ピアスは気分が高揚していたのか、変わらず笑顔のまま顔を上げ、

「お、何や一方。あまりの出来の良さに感動「ンな訳あるかァ!! すぐ消せ、削除しろ!」

あっ、と言う間もなく。

机に置かれたノートが一方通行に奪い取られる。

少年は、そのままイラストのあるページだけ破り取って、ノートを机に放る。

そして――――

ビリビリビリビリーッ!! と小気味良い音を出して、イラストが縦に割れた。

と、認識した瞬間には細切れになっていた。


「……な、何するんやーっ!? ボクの百合子ちゃんがー!」

見事な細切れになった鈴科百合子を呆然と眺めてから、勢いよく青髪ピアスは立ち上がった。

悲痛な声で叫んだ彼の顔はちょっぴり半泣きで、正直かなり怖い。

とりあえず、一方通行はそう思った。

「そンなヤツはいねェよ! 少なくとも今消した!!」

「おのれ、一方ーっ! 午前の授業の時間全部使った結晶やったのに!!」

「いや、そんな事に授業の時間無駄にすんなよ!?」

と、そこで炸裂する上条のツッコミ。

「小萌先生の授業以外は重要やないわボケェ!」

「な、ボケとは何だこのロリコン野郎!」

「ロリコ……ロリだけちゃうわ!」

売り言葉に買い言葉で、四人(主に土御門を除く三人)は周りの目を一切気にせず、激しい口論を開始した。

――その後、結構な乱闘の末、小萌先生に四人全員さんざん叱られたのはまた別の話。












馬鹿馬鹿しい記憶に、一方通行は内心大きなため息を吐く。

青髪ピアスが悪いヤツじゃないのは知っているが、あの性格は少しぐらい改善すべきだと思う。

「……いい加減にしてください」

と、この中で唯一の女性である、神裂(良識派)の諌めるような声に、意識が戻る。

そうだった、このような事をしている場合じゃない。

神裂のおかげで周りの空気がまたさっきのような緊張感に包まれようと――

「はっはっは、まぁそんなお堅い事言うなよー。ステイル」

――訂正、戻らなかった。

軽い調子の土御門の一言で、何か別の意味で緊迫した空気が部屋に漂い始める。


蛇に睨まれた蛙のように、上条の動きが止まった。

一方通行も、何だか動けなくなってしまった。

土御門は、変わらずヘラヘラしている。

そして――

「土御門。中々良い覚悟ですね」

と、そんな一本調子の声を発したのは、神裂だった。

そちらを見ると、彼女は俯きながら、ゆらりと立ち上がっていた。

何が起きているかはさっぱりだが、とても危ない雰囲気がするのは分かった。

主に神裂の持つ刀から。

そんな、今にも刀を抜きそうな神裂の視線の先にいる、土御門の取った行動は。

「ふふん。三十六計逃げるに如かず、だぜいっ!!」

とても、無駄のない行動だった。

彼は瞬時に窓枠に足を掛け、二階から消えた。

「――逃がしませんっ!」

しかし、神裂も速かった。

彼女も、迷わずに窓から飛び降りたのだ。

窓から流れた潮風が、カーテンをゆらゆらと宙に漂わせる。

魔術師二人がいなくなって、上条と一方通行はぽつんと取り残されてしまった。

二人の間に僅かな沈黙が流れる。

「……行くか」

「……あァ」

眠ってしまった三毛猫を置いて、二人は普通に入口から部屋を出た。

ちなみに、これは上条に後で教えてもらった事だが。

神裂は、現在魔術師『ステイル=マグヌス』に見えるとの事だった。









場所は変わり、民宿『わだつみ』の近くにある浜辺にて。

「……ふぅ」

白いビーチパラソルの下、上条刀夜は大きく伸びをした。

先程まで遊んでいたのだが、いかんせん煙草や酒のおかげで体力がない。

早々にバテてしまった。

刀夜は何となく、周辺を見回す。

クラゲの被害か、周りには全くといっていいほどに客がいなかった。

貸し切りみたいなモノだ、と思う。

遠くの波打ち際からは、妻や姪、それに息子が連れてきた少女の、楽しそうな声が届いてきた。

そちらを見れば、やはり楽しそうに遊んでいる妻達がいる。

刀夜はそれをほほえましく思いながら、残念にも思った。

ここにいない、息子の事を考えてしまったのだ。

せっかく海に来たというのに、夏バテで遊べないなんて。

これも、『不幸』なのだろうか。


上条刀夜は水平線を睨んだ。

息子は、生まれた時から『不幸』な人間だった。

最初は、そんな事もあるだろうと、一切気にしていなかった。

しかし、ある時からその事を、上条刀夜は恨めしいと感じ始める。





発端は実に馬鹿馬鹿しい事だった。

幼稚園の頃、上条当麻はその体質故に『疫病神』と呼ばれていた。

周りの子供から、だけではない。

大人達まで、そう呼んだのだ。

直接的な原因もなく、ただ人よりも運が悪いだけで。

石を投げられ、罵倒され、嘲笑われた。

そこまでなら、まだ刀夜は怒りを抑えられた。

怒ったって、息子の立場がますます悪くなるだけだ。

だから、必死に庇い続けた。

投げ付けられる石から、一方的な罵りから、痛みから。


――しかし、限界はすぐにやってきた。

事件が、起きたのだ。

今もなお、細かい事を覚えている。

ある日の事だ。

借金を抱えた男に、息子が追い掛けられて包丁で刺されてしまった。

ただ、『不幸』にも。

しかも、事件はそこで終わりじゃなかった。

その話を聞きつけたテレビ局の人間が、くだらない霊能番組の視聴率のために息子を晒し者にしたのだ。

おかげで、息子に対する世間の態度はますます酷くなった。

もはや、庇いきれないほどに。

そして、刀夜は一つの決断を下した。

学園都市――『幸運』だとか『運命』などといった、オカルトを信じない科学の街。

そこに息子を預けた。

家族一緒にいられなくても、結果的に我が子を守れるならば。

刀夜に迷いはなかった。

あのままでは息子は殺されてしまうと、そう思えたから。





だが――

(……結局、意味はなかったか)

上条刀夜は、ビーチパラソルによって日の当たらない、薄暗い砂に視線を落とす。

息子が頭部に大怪我を負った、という連絡が学園都市から来たのは、一ヶ月ほど前の事だった。












「――この階だね」

学園都市の第七学区にある、大きな病院のある病棟。

そこに、上条夫妻はやってきていた。

本来、学園都市に児童の保護者が来れるのは、
毎年行われる『大覇星祭』と『一端覧祭』、それに『入学式』などの特殊な行事の時だけである。

今回、彼らが来たのには大きな訳があった。

一人息子が大怪我を負ったという連絡が届いたのだ。

これは一大事だと、普段使わない有給休暇を取り、上条刀夜は妻と共に街に入った訳である。


「当麻さん、大丈夫かしら」

長い廊下を歩きながら、隣で妻が頬に手を当てて呟く。

話では、一時は怪我のショックで混乱状態に陥っていたが、今は落ち着いているという事だった。

どちらにせよ、刀夜としても心配だった。

一瞬、ある言葉が脳裏を過ぎったが、すぐに刀夜はそれを振り払う。

馬鹿馬鹿しい、この科学の街でそんなオカルトは出てこない。

そう考えて歩くうちに、病室が近付いてきていた。

と、そこで。

「……あら?」

妻が不思議そうに首を傾げた。

「どうした、母さん?」

「あぁ、いえ。刀夜さん、随分と楽しそうな声が聞こえませんか?」

言われて、刀夜は耳を澄ませてみる。

確かに、何か、前方から声が聞こえた。

あの辺りには、息子以外入院していないと聞いているが。


上条夫妻はまた歩きだす。

少しずつ、声がクリアになっていく。

『だから、落ち着いて食えってインデックス。リンゴならまだあるんだから』

『う……わ、分かってるけど、つい慌てちゃうんだよ』

『あァあァ、ほら、口の周り食べカス付いてンじゃねェか、ったく』

『あ、ご、ごめんねあくせられーた』

『そォ思うならゆっくり食え』

『あー、悪いな、なんつーかさ』

『気にすンなよ。……っつーかイイのか? これオマエの見舞品に俺達が買ってきたのに』

『良いんだよ。どうせなら、美味そうに食うヤツに食ってもらった方がリンゴ冥利に尽きるってもんだ』

『そォいうモンかね……』

『そういうモンだよ』

と、そこで息子の病室に着いた。


刀夜はゆっくりとドアをノックしてみる。

途端、声がピタリと止み、病室の気配が変わった。

何か、緊張したモノに。

『……は、はい? どちら様でしょ?』

ややあって、中から息子の声がした。

「私だ、当麻。入るぞ?」

『あ、あーうん! ど、どうぞ!』

慌てたような声が返ってきて、刀夜はそっとドアノブを回して部屋に入る。

久しぶりに見る息子は、相変わらずのツンツン頭だった。

彼はどこか曖昧な笑みを浮かべると、

「ひ、久しぶり」

とだけ言った。

ベッドの周りには椅子が二つあって、楊枝に刺されたリンゴが、
机代わりにベッドに設置されたボードの上に置いてあったが、誰もいない。

窓が大きく開け放されていたが、まさかそこから誰かが飛んでいった訳ではないだろう。

刀夜は眉をひそめると、

「お前一人か? 廊下から声が聞こえたが」

言いながら、椅子に妻と座る。


すると、息子は慌てふためいた様子で、

「へ? あ、あー、あれだよあれあれ。上の階だよたぶん。ほら、何かいつも大声で騒いでんだよ」

「屋上でか?」

刀夜は息子を不思議そうに見た。

何だか大きな違和感があった。

どこか、よそよそしい雰囲気がしたのだ。

混乱している、という訳じゃなさそうだった。

もっと根本的な部分に違和感があった。

「――ちょっと混乱が抜けてないンですよ」

と、後ろから声がした。

振り向くと、そこには息子の友人が立っていた。

確か、名前は――――

「一方通行君」

「どうも」

名を呼ばれ、少年は簡単に挨拶すると、夫妻を手招きする。

チラリと息子を見て、刀夜は椅子から立つ。

妻を残し、部屋から出た。









「何があったのか、君は知っているのかい?」

病室から出て少し歩き、エレベーター近くの休憩所のソファに座るやいなや、刀夜はまずそう言った。

まるで全てを知るかのように現れた少年は、躊躇いがちに首を振る。

「誰も、何があったかは分からないです」

発見された時には既に倒れていたのだ、と説明してくれた。

それから缶コーヒーを一口飲み、本人も何が起きたかは覚えていないそうだとも言った。

「……そうか」

それだけ言って、父親は肩を落とす。

命に別状はないとは言われたが、それでも悲しかった。

誰かに襲われたか、はたまた事故か。

何にせよ、息子はまた『不幸』にも酷い目に遭ったのだから。












その後、学園都市を出てから毎日、上条刀夜は考えた。

どうすれば、息子に『幸せ』を与えられるのか、と。

どうすれば、息子に『普通』の人生を送らせてやれるのか、と。

学園都市に、科学に任せても、息子の『不幸』はどうにもならない事が分かってしまった。

もはや、何か別の道を見つけるしかない。

そうして――





――――上条刀夜は、オカルトに出会った。





「……」

刀夜は、そっと傍らにあるトートバッグの中を見た。

ビーチボールなどを持ってくるために使ったそれの中には、
変哲な人形――イタリアで、ある親切な人々からもらったオカルトの物品の一つだ。

馬鹿馬鹿しいと、分かっている。

こんな、どうしようもない事をしても、意味がない事は。

しかし、それでも。

上条刀夜という、一人の父親は縋りたかった。

息子を救うかもしれない、ある可能性に。

そのためには、何を犠牲にしても構わないと考えていた。

「………………」

男は、また地平線に視線を移す。





――――『絶望』からの救いは、まだ遠い。












さて。時が進み、民宿の玄関前。

そこで、二階から降りてきた上条と一方通行を待っていたのは――

「問一、この人物は誰か?」

またまた変な恰好の魔術師だった。

ノコギリやハンマーを携えているそいつは、まだ小さな少女だったが、神裂のように大胆な露出をしている。

そんな彼女に、先に下に来ていた土御門が簡潔に紹介する。

「何の関係もない一般人。ちょいと協力してもらったりするけど」

「こちら、ミーシャ=クロイツェフです」

例のロシア成教です、と神裂に言われ、一方通行はとりあえず手を差し出す。

「……一方通行だ」

「……」

小柄な少女はコクリと小さく頷き、差し出された手を握り返す。

とても小さな手だった。

本当に、殺人犯を撃退したのかと思わせるほどに。


そうして握手が終わると、神裂が小さく咳ばらいをした。

「さて、クロイツェフ。例の火野ですが、細かい居場所が判明しました。よろしければ、同行を願いたいのですが」

手を離し、自分への声にミーシャは振り向くと、

「問一、情報の信憑性は確かか?」

それは、一方通行の知る年頃の少女らしさのない、無感情な声だった。

「もちろん。説明は道中でさせてもらうにゃー」

「……解一、ならば同行する」

土御門は軽く頷き、

「んじゃ、タクシーを近くに待たしてあるから、そっちに」

コクン、とミーシャは頷き返して黙々と歩きだす。

土御門と神裂はチラリとこっちに目をやると、

「じゃな、カミやん、一方」

「それでは」

そうして、魔術師三人はぞろぞろと戦場へと向かう。

「気をつけてな。あ、あと家壊すなよな!」

彼らの背中を、一方通行達は最後まで見送った。

「……さて」

上条が呟き、こちらを向く。

ゆったりとした調子で、彼は確認した。

「父さん、浜辺だよな」

「……だろォな」

答えると、上条は父親がいるであろう方へ首を動かす。

今彼はどんな表情なのか、一方通行には分からない。

「さっさと行って、無実を証明してやろう」

若干ながら急ぎ足で、上条は海へと進んだ。

「……あァ」

力ある声に、一方通行も強い口調で返し、遅れて歩き始めた。

事件解決のため、能力者と魔術師は、それぞれの道を進み出した。


以上で、今回は終了します。
とりあえず、生存報告はちゃんとさせていただきます。
だいぶ遅れてすみませんでした。それでは、またいつか。

せ、生存報告……。
だいぶお久しぶりです。
電磁さんを落としてしまいました。
そしてこっちもまったく来れませんでした。
今日も投下出来ません故、今週のどこかで再開いたします。
待たせてすみません。

……お久しぶりです。
本当にお久しぶりです。
正直に言いましょう、全く書けていません。
この数カ月、頭の中だけで物語は進んでいました。
とりあえず、少しだけ書けた分を投下いたします。
どうぞ。








「……どう、思う?」

「……そォだな」

恐る恐る、といった感じの上条の言葉に、一方通行は腕を組む。

二人は今、海の家の、上条が休んでいた部屋に居た。

一度戻って考えを纏めよう、という話になったのだ。

瞳を閉じて、一方通行は深く思考を開始する。

周りからの音が消えていき、暗闇だけが一方通行を取り巻く。

そして、闇の中に文字が様々な列をなして浮かんだ。

(……今回の『魔術』の効果。それを使ったヤツ、つまり『犯人』に出る特徴。そして、さっきのおじさンの反応)

一方通行は、先程の尋問の結果、それに事件の概要を照らし合わせた『結論』を告げる。

「シロ、じゃねェか?」

それはとてもシンプルで、ほぼ当然の答えだった。

『御使堕し』を使った人間は、どんな状況にある人間から見ても入れ替わっていない。

そういう観点からすれば、上条刀夜は『犯人』になる。

しかし、仮に彼が犯人だとするとおかしな点がある。

まず第一に、二人が初めに上条刀夜にした質問――『「御使堕し」を知っているか』に対する答えだ。

彼は間髪入れずに、『それは何だ』と言った。

ここで、上条刀夜が『犯人』だとすると彼は『魔術師』という事になる、という事を確認しておく。


そういう、『仮定』の話をさらに進める。

その事に気付いた魔術師は誰もいない。

『犯人』を捕らえる側が、その『犯人』が分からないのだ。

こうなると、刀夜は安心するだろう。

まぁ、上条当麻の近くに魔術師が来ていることを知っていなければ、だが。

とにかく、様々な仮定の下で話を進める。

さて、自分が容疑者にされないと十割確信している『犯人』がここにいる。

そいつに対して、いきなり『お前は「犯人」か』というような質問をしたらどう反応するだろうか。

表面上は、『知らない』と答えるかもしれない。

だが、それでもどこかしら怪しい挙動を取るはずだ。

本当に小さなモノでも。

しかし、上条刀夜はそういった『怪しさ』を一切出さなかった。

全く分からない、と素の反応で質問に答えたのだ。

これがおかしな点の一つ。

次に、というか最後に。

そもそも、上条刀夜には『インデックス』が自分の妻に見えている。

妻はどこにいる、という一方通行の質問に対して、彼はあっさりと浜辺にいたインデックスを指差したのだ。

誰か別の人間に対してではない。

その時、外見『青髪ピアス』のインデックスと
外見『御坂美琴』の上条の従姉妹は、海の家に飲み物を取りに行っていたのだ。

浜辺にいたのは、外見『インデックス』の上条詩菜だけだ。

つまり、上条刀夜は術の影響を確かに受けていることになる。

これらのことから、一方通行は上条刀夜の無実を確信した。

ただ、状況証拠しかないのだから確実性はない。

なので、最終的に刀夜の事を判断する神裂達に任せようと思う。


期限一日前とか見苦しい……完結出来ないならもう依頼出しとけよ。

これにて投下終了します。
待たせるだけ待たせてこれだけですみません。
>>785さんがおっしゃる通りです。
悪あがきのような真似をして申し訳ないです。
しかし、それでも自分はこれを完結させたいんです。
再構成、というよりも原作そのままのような駄作ですが、読んでくださる方がいらっしゃるならば、ありがとうございます。
そして、すみません。一年前のように、せめて三日に一回は来れるように努力します。
それでは。

生存報告。
すみませんがまだ投下は出来そうにないです。
期待しないでお待ちください。

お久しぶりです。
復活しました。
少ないけど書いてきます。

そこで、土御門は改めて神裂を見る。

真剣な面持ちの魔術師もまた、土御門に向き直る。

彼は青いサングラスを直すと、



「恩返しの仕方は決まったか?」



ただ一言、真剣な口調で告げた。

瞬間、神裂は無表情で土御門を一瞥して、青空へと向き直る。

無表情ではあるが、彼女の独特な緊張感のある雰囲気は失せて、やれやれとでも言いたげなモノに変化していた。

「……言っておきますが、メイドはしませんよ」

呆れたように神裂はため息を吐く。

土御門の言う恩返し、というのはある少女を救った二人の少年達に対するお礼のことだ。

色々なごたごたの末、神裂ともう一人(おそらくこちらの方にはそんな考えは無いが)はまだ礼の一つも伝えていなかった。

その分も含めて、と何故か関係ない土御門が提案したのが『メイドモードでご奉仕作戦だにゃー!』、だった訳である。

……もちろん、彼女は全力で拒否したが。

「えー。一方の反応とかきっと見物だと思うんだがにゃー」

つまんねーのー、と土御門が先程の真面目な表情はどこへやら、緩みきった顔で呟く。












「――さて、報告は以上だ」

八月十九日、学園都市第七学区の『窓のないビル』。

土御門元春はそこに来ていた。

学園都市での、ちょっとした仕事の報告のためである。

普段とは違う淡々とした事務的な調子で話す彼の姿は、彼を知る者が見れば違和感を持つことだろう。

もっとも、土御門にはそんな姿を見せるつもりはそうそうないが。

『ふむ、ご苦労だったな』

あまり気の入っていない労いの言葉に、土御門は前を見る。

そこには、仕事の依頼主――学園都市統括理事長であるアレイスターが居た。

ただの『人間』は、魔術師の客として来ようと仕事の話をしに来ようと、いつも変わらずビーカーの中だ。

最初は内心奇しく思っていたが、学園都市に転居して数年で、その奇妙な光景に土御門もだいぶ慣れた。

土御門は青のサングラスを適当に掛け直すと、背を向けて歩きだす。

正直な話、この場所には用が無い限りは一マイルだって近寄りたくない。

仕事が終わった以上、さっさと『案内人』に連れていって欲しいところだ。

ちなみに『案内人』というのは、このビルに入るための空間移動能力者の事だ。

『窓のないビル』には入口が無い。

なので、そういった能力を使う人間が代わりに使われているのだ。

まぁどうでもいい事だ、と土御門はそれを思考から削除する。


とにかく、帰ってゆっくり義妹の料理に舌鼓でも打つとしよう。

たまにはあの友人達に少しぐらい分けてやろうか。

もちろん、拝み倒させてから。

そんな『日常』に思いを馳せながら、土御門はいつになく現れるのが遅い『案内人』を待つ。

――――だが、

『あぁ、待ちたまえ』

そういった期待は、一度止められてしまうこととなった。

心の中で舌打ちしながら、土御門は振り返る。

「……何だ? 仕事の依頼か?」

『いや? そういう事ではない』

何故か笑みを浮かべながら、アレイスターは告げる。

その笑顔にうすら寒い何かを抱きながら、土御門はアレイスターの言葉を待つ。

刺すような視線に、アレイスターは表情を崩さずに言葉を紡ぐ。

まるで十八番の歌をたくさんのファンの前で歌う歌手のように、楽しそうだった。

何なんだ、と土御門は身構え――

『今日は泊まっていきたまえ』

肩の力が、抜けた。

「……そいつは何かの冗談か? 言っておくが、オレはこれでも大忙しだ。貴様の冗談にまでは付き合わんぞ」

実のところ、土御門はイギリス清教だけでなく、学園都市やその他多くの組織でスパイ稼業をしている。

所謂、多角スパイという訳だ。

この後も、夕食を取ってから別口の仕事がある。

アレイスターの話し相手をやっている暇など、こちらにはない。


『まぁそう言うな。それに、これも遊びではなく立派な仕事さ』

言葉と同時、土御門の目の前に文字が浮かぶ。

ホログラムでも使っているんだろう、と自らを納得させ、彼は目を細めながら文字の列を目で軽く追う。

「これは?」

まだ一文も読めていないが、見たところ何かの資料のようだ。

『「絶対能力者計画(レベル6シフト)」』

「…………何だと?」

『君の友人が今夜行う「実験」の資料さ』

「………………」

友人、と言われて思い浮かんだ人物に嫌な予感がした。

素早く、黙々と土御門は文字を追っていく。

そして、

「っ!? アレイスター、貴様……ッ!」

『ふふふ。そう睨むな土御門』

「ふざけるな! 貴様今すぐここから出せ!! 何ならその機械を破壊しても構わないんだぞ」

叫びながら、土御門はアレイスターの生命維持装置らしき物体に
近付き、彼の入っているビーカーに繋がるチューブに手を掛ける。


『それはそれは。お好きにどうぞ』

「………………」

余裕のある調子で返すアレイスターを睨みつつ、土御門はそっと手を離す。

おそらく、いや、何となく分かってはいたが、このビーカーに繋がっているチューブなどは全てダミーなのだろう。

自らの弱点を敢えて晒す理由など無いのだ。

『ま、もう遅いさ。「被験者」はもう「実験場」に到着したようだからね』

余裕のある声と共に、土御門の目の前のモニターが切り替わる。

どこかの操車場で、何も知らないであろう友人が、まさに最悪の一日の始まりに足を突っ込もうとしているところに。









『やぁ、垣根帝督』

『あん? どちら様だ?』

『君が今一番話したがっている人間さ』

『ほー、そりゃまたありがたやありがたや。……で? 何の用だ、統括理事長さんよ』

『手短に言う。作戦は中止だ、撤退したまえ』

『――はぁ!? んだそりゃ!!』

『ふむ。伝わらなかったかね? 撤退したまえ、と言ったんだ』

『いやいや待て待て! マジかよ、おい!』

『私はいたって真剣だ。撤退したまえ』

『……あーそうかよ。分かった、分かったよ!』

チッ、とあからさまな舌打ちと共に通信が切れた。

「……これが狙いか?」

土御門はそう言って、二つのモニターに目をやる。

一方に映っているのは、今まさに六つの翼をたなびかせて、ある研究所の敷地を飛び去る超能力者の第二位。

もう一方には、まるでテレビ中継のように土御門の友人二人が映っていた。

その内の一人である『最強』は気絶しているようだ。

先程まで、彼らは文字通り『激闘』を繰り広げていた。

その様を、土御門はさんざん見せられていた。

それを共に見届けた逆さまの黒幕(アレイスター)は小さな笑みを作る。

『全てはプラン通りさ』









神奈川県のとある浜辺――

「そら、よぉ!」

「ハッ、そンなアタック決まるかっつーのォ!」

「ぬおぉぉおお!?」





――この瞬間、最も熱い戦いがそこで繰り広げられていた。





観光客がさっぱりいない浜辺で、少年、上条当麻はうなだれていた。

空も海も清々しいほどに青く、足の裏の砂浜からはかなりの熱と、柔らかな感触を得ていた。

周りにいる人が、両親と居候、それに謎の妹キャラ(一応従姉妹)しかいない事を除けば、
誰でも暗い気分なんて宇宙の彼方にだって吹き飛ばせそうな状況だ。


しかしながら、上条はそんな気持ちにはなれなかった。

原因は単純明快だ。

ゆっくりと、彼はツンツン頭を上げた。

そこには、ニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべた親友(原因)が立っている。

両親が持ってきたらしい、ビーチバレーに使うボールを手に持って。

小一時間ほど前、せっかくだから一対一でビーチバレーのような事をしよう、という話になった。

結果については、言わずもがなだ。

いつぞやに不良と楽しく街中を駆け回った時よりも疲れたように、上条は口を開く。

「……なー、能力使いまくるのって卑怯じゃねぇか?」

「ほー。『お前貧弱だし能力使うぐらい上条さんは構いませんよ、はっはっはーのはー』……って言ったのはオマエだろ」

どうしてかは分からないが、神裂のように淡々とした調子で一方通行は返す。

あー、そんな事言ったけー、と上条は軽い気持ちで口にするんじゃなかったと後悔してみる。

一応、確認のために聞いておく。

「………………もしかしなくても『貧弱』って言ったの、結構怒ってる?」

「さ、俺のサーブからもう一戦やろォぜ」

「やっぱ怒ってんだろ!?」

思わず頭を抱える上条だったが、全て遅かった。

彼に足りないモノ、それは速さだったのかもしれない。


以上で打ち止め。
余裕も出来たので、これからはペースを上げようかと思います。
来れなかった分、二、三スレ埋まるぐらい書き溜めたかったな……。
とにかく、また会いましょう。
PS、最近になって腹パンの意味を知りました。

どうも、また続きを投げていくます。








「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」

民宿『わだつみ』の一階。

そこの食堂で、一方通行達は夕食を食べ終えていた。

ちなみに魔術師達はいない。

彼らとは、『準備が終わるまでは自由にしてろ』と言われ、一度別れた。

「とうまー、トランプやろ、トランプ」

食器を下げたインデックスが上条に微笑む。

「あー、いや、俺先に風呂入ってくるから」

悪いな、と上条はいつものように笑う。

いい加減、変化には慣れたらしい。

「……そう」

少しだけ残念そうにしていたが、インデックスは引き下がった。

仕方ない、と一応納得はしたのだろう。

「おにーちゃんは放っといて、私とやろっか?」

「うん、リベンジするかも!」

そうして、代わりに上条の従姉妹と遊ぶことにしたようだ。

二人はさっさと二階に消えてしまった。


「水面に対象の夢を映して、こちら側が相手の記憶から適当にワード検索して引っ掛かった記憶を夢に見させるって寸法だ」

まぁ言うなればネットの検索エンジンだな、と土御門は付け加えた。

なるほど、と一方通行は『御使堕し』というワードでネット検索するような絵を想像する。

科学と魔術、どちらにも関わる土御門の例えは中々に分かりやすい。

ついでに、だからこんな真夜中を選んだのか、とも納得した。

「……そんなの上手くいくのか?」

先程からずっと黙っていた上条が口を開く。

その声は迷いはあったが、芯のあるモノだった。

「上手くいかなきゃ刀夜の無実は確定するぜい」

それだけ言って口角を上げて、土御門は神裂を見た。

視線を受けて、彼女は頷く。

「……では、始めましょう」

神裂の言葉と同時、水面が月光を受けて揺れる。

闇と小さな光のみを写していたそこに、ゆっくりと何かが写ろうとして――












「……もう、良いだろ」

光が消えて暗くなった桶を見つめて、上条が疲れたように呟く。

「……すみません」

神裂が、一言謝る。

その一言だけが、余計に彼女の謝罪の意思を感じさせた。

土御門は無言で桶から目を離した。

上条が首を横に振る。

「良いから、もう止めようぜ。俺だって、こんなの覚えてなかったし」

それは、事実。

彼には、こんな『他人』の記憶などない。

きっと、見せられたところで無意味なモノに違いない。

それよりは、いつまでも刀夜に辛い夢を味あわせない方が良いということなのだろう。

自分もそうしたい、と思いながら、一方通行は確認のためにもう一度桶を見る。

水鏡には何も映って――

「……!」

そこで、一方通行は気付く。

まだ、映像が終わっていないことに。

そして、それが新たな事実を示すことに。

「? どうした、一方通行」

そんな彼の様子にただならぬモノを感じたのか、土御門が尋ねてくる。

「……見ろ」

答える代わりに首を動かし、全員の視線を水面に促す。

途端、水は揺れ、色を増して光る。


あはは、>>1がまた遅くなってから帰ってくると思った?
これまで絶望的に遅かったもんね。でも大丈夫! 最後には希望が勝つんだからさ!
……まぁ何が言いたいのかっていうと、これぐらいのペースで復活するんですって話です。
それと一つ言い忘れてましたけど、一話限定の使い捨てオリキャラみたいのは結構この先出ます。
苦手な人はごめんなさい。自分の力じゃ既存キャラのみとか書けそうになくて。
長くなりましたが、それでは。

どうも、ちょっと遅れました。
今から始めようと思います。

上条の呼吸が瞬間的に止まる。

それは、彼にとって意外すぎて。

何よりも、訳の分からない言葉だった。

「何、言ってんだよ」

ようやく口に出来たのは、それだけだった。

理解出来なかった。

自分を『治す』という事の意味が。

いや、一つだけ心当たりならあった。

だが、それは。

(……まさ、か)

上条の視界が動揺に揺れる。

知られてしまったのか、『記憶喪失』が。

知られてしまったのか、自分が赤の他人だという事を。

知られて、しまったのか?

必死にその恐怖を表には出さないようにする。

どちらかと言うと、あまりにも驚いて出せなかっただけだが。

しかし、刀夜の言いたい事は違ったという事を、すぐに上条は知る。

疲れ切った様子で、刀夜が続けたからだ。


「俺が少しでも、誰かの『不幸』を引き受けたかったからだ! 力になりたかったからだ!」

そう、上条が巻き込まれようとしたから。

ある少女は、自らの能力に向き合う事を決意した。

勝手に生み出されたある少女達は、自らの生を肯定し始めた。

その少女達と瓜二つのある少女は、過去への罪悪感から救われた。

――大事な友達を助けることが出来た。

そして、そして。

『上条当麻』は、自分の意思である少女を助ける代わりに全てを失った。

いや、そうじゃない。

そうやって、今度は自分に意志を託してくれた。

だから、上条は。

「……心配かけたのは謝るよ。ホントにごめん。でも、これだけは言わせてくれ」

頭を下げて、謝る。

心配してくれる人間の想いを考えていなかったことを。

そして、伝える。

その想いに応えるために。

一番その人が聞きたかったであろう、その言葉を。

「俺は『幸せ』だ。この場所にいられて、この時を生きてて」

一度区切り、はっきりと聞こえるように心から叫んだ。


「……!」

その言葉に、刀夜は息を呑んだようだ。

それを見逃さず、上条は自らの願いを声にする。

「俺から『不幸』を取らないでくれ。これがあるから、俺は俺でいられるんだ」

これまでもこれからも、上条はこの『不幸』と共に生きていく決意をとうにしていた。

だから、頼む。

だから、願う。

アンタまでこんな事に首を突っ込まないでくれ、と。

母親といちゃつきっぱなしの、どこか頼りない『いつも』の父親であってくれ、と。

ツ、と上条の頬を何か熱いモノが伝っていることに、ふと、気付いた。

それを流したのは、誰だったのだろう。

『彼』の心の残滓が、上条にそうさせたのかもしれない。

そこまで考えてから、彼はさっとそれを拭い去った。

「……当麻。一つ、教えてくれるか」

数秒ほど黙って、刀夜は真っ直ぐに上条をその目で捉える。

その瞳は揺れていて、不安定だった。

「お前は、本当に……『幸せ』、なのか……?」

確かめるような言葉に対して、上条は最良の行動で答えた。

つまり、自信に満ちた表情で頷き返してやることを。

「当たり前だ。俺には、最高の友達がいる。そして――」

一瞬、親友に目配せした。

彼は僅かに笑って、上条に応えてくれた。

それから上条は前へと視線を向かせる。

その先にいる、『上条当麻』の支えに。

「――俺を心配してくれた両親がいる」

目の前の心配性を安堵させるように、笑って言ってやった。

そこには、偽証も打算もない。

心の底から出てきた想いだけを伝えた。


「……大丈夫だ、内臓とか骨に異常は無ェ。ただ、傷口と出血が多すぎるだけだ」

能力で調べるだけ調べたのか、それだけ告げると、一方通行は片手を離さないようにしてから、上条に刀夜を預ける。

右手で刀夜の身体に触れないように、上条は注意深く彼を支える。

それから、一方通行は刀夜のシャツを破いて傷口をさらけ出させた。

胸から腹まで、無数の刺し傷が確認出来た。

「こいつを使え! 止血くらいは出来る」

どこから取り出したのか、土御門が包帯を一方通行に手渡す。

それを受け取って、彼は能力で布を綺麗に必要な長さに切り取り、刀夜の身体に巻いていく。

「……チッ、止血が出来ても血が出過ぎてる。すぐに病院に連れてかねェとダメだ」

そう言うと、一方通行は強い視線を上条の後ろに送る。

それにつられて、上条もそちらを見る。

そこには、表情の変わらない魔術師ともう一つの影があった。

「……クロイツェフ」

『それ』を視認した、神裂の声が聞こえる。

そこにいたのは、ロシアから来たというただの魔術師の少女だった。

彼女は無言でこちらを向いている。

すぐ近くにいる、『犯人』を見ずに。

「まさか、貴方が……ッ!」

神裂の言葉に答えるように、ロシアの魔術師から水晶のような透明な翼が広がる。

それが、全てだった。

彼女――いや、あれこそが。

今回の話の中心、『天使』なのだと。


「相手をよく見なさい! 真っ向勝負なんて考えて! 刀夜氏の想いを無駄にする気ですか!」

彼女は怒っていた。

勝手な行動をする彼らを、その行動原理を知っているからこそ、余計に怒っていた。

それは当然の怒りだろう、と上条はすぐに神裂を肯定した。

彼女はよく知っている、と一方通行に聞いていた。

失う苦しみを、見過ごしてしまう苦しみを。

「だけど……ッ」

引き下がれない、と言わんばかりに上条が顔を上げる。

その目は、彼がどれほど必死になっているかを伝えている。

それを知った上で、神裂は続ける。

「分が悪いとか、そういった言葉で括れる相手じゃありません」

だから無理をしないでください、と諭すように告げる。

慈愛の目で、彼女は父親のために逸る少年を納得させようとした。

上条にはそんな目を、そんな感情を押し退けられない。

「………………悪、かった」

俯いて、一言搾り出した。

自らを恥じる気持ちと共に。


一旦区切っておきます。
次スレ立ててきますのでお待ちあれ。

立ちました。
こちらへどうぞ。

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