ほむら「魔法少女の日常」(830)

なんやかんやであれこれあってワルプルギスの夜を倒した私達。

マミは生き残り、さやかは魔法少女になりはしたがどろどろ人魚になる事も無く生き残り、杏子も勢いで心中する事無く、みんなが無事に生き残った。

まどかもなんとか魔法少女にならずに済み、時々インキュベーターからのキャッチセールスみたいな勧誘は続いているけど、その気はすっかり失せている。

マミも、魔法少女が魔女になる事実は何とか乗り越えた。

まだ、その事実に時々怯えることがあるけど、それでもみんなで無理心中しようなんて考えることは無くなっている。

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そろそろ豆腐メンタルからところてんメンタルくらいには格上げね。

さやかも、あのバイオリン馬鹿とわかめの事はまだ完全にわだかまりが取れたわけではないけど、それなりに心情を整理できたらしい。

二人の仲をからかっては後で落ち込む、のサイクルを繰り返しつつ、少しずつ本当に吹っ切れ始めているらしい。

放っておけばいいのに、どうしてわざわざからかって自滅を繰り返すのかしら。

杏子は、マミに言われてしぶしぶ復学の準備を始めている。

お膳立てはマミが用意してくれている。ほんと、世話好きね。

でも、とてもいい事だわ。

年齢が上がったら、知恵だけでは生きていけない。知識はどうしても必要だから。



…魔法少女が、いずれ魔女になる。

その事実は決して変わらない。

でも、今はその事実を、そのシステムを、許せはしないけど、仕方ないと思う。

だって、私は、そのシステムのお陰でこうして今、みんなと一緒に居られるのだから。

インキュベーターは許さないけど。



とりあえず、最大の脅威は去り、全員死亡のリスクがある程の危険は去った。

そして、みんなはそれなりに絆を深め、時々口げんか程度はしながらも仲良くなれている。

みんなは、ワルプルギスの夜の戦いの後、より強くなった。

心も、力も。

でも。

私は…。

弱くなった。

元々私には、魔法少女としての才能は、テストで言えば赤点ギリギリの水準の能力しかない。

今でも、思うことがある。

でも、まどかを守る。

それだけは何も変わらない。

私は魔女に向かって走った。

人にあらざる者の脚力は並では無い。

私は五十メートル以上あった距離を数秒で駆け、襲い来るミラーボールを盾で弾きながら、地面を蹴って飛び上がる。

七メートル近い体躯の魔女の眼前まで跳び上がり、そして魔女のブラウン管みたいな顔面に踵を叩き込んだ。

その瞬間、私のスカートの真下からフラッシュがものすごい連射で光る。

何を撮られたのかと考えると、ものすごく不快になった。

「ピンぼけなしなら一万っ!」

だから何を言っているのまどかっ! 本当に口づけない?!

戸惑いをかかとに押し込み、反動で宙に飛んだ。

下では魔女が頭を押さえてうごめいている。

まったく、今時なら液晶にでもすればいいのに。

ほどよい大きさで当てやすいけど。

実物を見た事は無いけど、テレビが出始めの頃にあった木製のテレビみたいな顔。

丁寧にアンテナまで生えているその枠は、中央から折れている。

画面にもひびが入ったけど、あれは魔女の頭。本物のブラウン管な訳も無い。

次の瞬間には木枠もブラウン管も元通りになり、そして私に向けてミイラみたいな細い腕を振り回してきた。

その数六本。

ブラウン管がもう二つあったらアシュラマンね。

骨が入っていないみたいに鞭のようにしなう腕が、私を上下左右から襲う。

早い。

けど、単純な動き。

少しだけ早く来た一本の腕に足を載せて蹴り、遅れてきた腕を交わす。

そのまま一気に懐へ飛び込み、目障りだった三つの一眼レフカメラの一つを蹴り壊した。

金属音と共にフレームが破壊され、中から真っ黒に感光したフィルムが飛び出す。

フィルムカメラなんて随分玄人気取りね。

とりあえず、これで不快な写真が減るわ。

どう? 悔しいかしら?

「ギャ「ウェヒーっ!」」

「……」

魔女の悲鳴が、それを上回る絶望の叫び声に掻き消された気がする。

でも、私の耳には何にも聞こえなかったわ。

ええ。

何にも。

私は気の迷いを、まどかを疑った自分への怒りを足に込め、もう一つの一眼レフを蹴り壊した。

また、フィルムが宙を舞う。

「ギ「ウェヒーーーーーーーーっ!」」

まどかお願い黙って! 私のパンツなんていくらでも見せてあげるから!

「……」

次の瞬間、まどかがきちんと正座して、天使のような微笑みで私を見ていた。

ものすごい期待を込めた瞳で。

数日後。

「ウェヒー!」

「だ、だめぇっ! まどか! 許してぇっ!」

「駄目だよ-。これは必要なコトなんだかられろれろれくちゅくちゅ」

「あひいぃぃっ!」

「ほむらちゃんのここ、こーんなになっちゃったぁ。つまみつまみれろれろー」

「あぐううぅぅっ…………あっ…」

「ウェヒヒヒ。今まで我慢してきた分を取り戻さないとね!」

「が、我慢…してた…の? あれで?」

「うん。本気の10%くらいかな」

「あれで?!」

「ウェヒヒヒ」

ああ、その無垢な笑みで頷く貴女が愛おしいけど…怖い。リアルで。

「と言う訳であみあみあみー」

「ひぎいいいいいっ! もっ…もう…駄目…まど…あ……あんっ!」

「ぷふぅー。ごちそうさま」

「まろかぁ…しゅきぃ…」

「ウェヒヒ。私もだよ。むちゅー」

「ぷあ…あん…。はぁん…。あ…ん…」

「むむむ! 今のほむらちゃんの表情でムック…じゃなくてまどかは劣情をもよおしましたぞ」

「え」

「と言う訳で、第四ラウンド! レディー、ゴーっ!」

「まっ! まどかあああっ!」

「だいじょうれるれるぶだいれるれるじょうれるれるぶだいれるれるれるれるれるれるじょうぶれるれるれるれるれるれる」

「まど…か……あ…ぁあ…ぁあぁ…ぁぁ…」

「れろれろれろれろれろれろれろれろむちゅむちゅむちゅだいじょうぶむちゅむちゅむちゅはみはみはみはみはみはみはみ」

「………………………………あん」

「ティヒヒ。これでソウルジェムは重曹で磨いたのよりぴっかぴかだね!」

「……」ビクビク

翌日。

「…で、結局何がどうなっているの?」

マミの部屋。

みんなが机を大きく囲んで座り、その中で私だけが、まどかにしだれかかりながら、肩で大きく息をしていた。

「大丈夫? ほむらちゃん。お疲れ様」ナデナデ

「…なん…とか…」ハーハーゼイゼイゼイ

あの日、私に何が起きたのかが自分なりに理解出来、その事をみんなに話すため、マミの部屋でお茶会をしようと言う事になったその日。

その道すがら、魔女の気配を感じた私はまず魔女退治をしてからここに来た。

時間停止を使うと、やっぱり前よりも疲れる。停止出来る時間は前より少ないし。

時間停止。

そう、私は時間停止をまた使えるようになっていた。

あの時、『まどか』が私を助けてくれた。

そう思ったあの瞬間、時が止まった。

三十路の魔女を倒した後、簡単にはできなかったので気のせいだったのかとも思ったけど、その夜のまどかがベッドに入った途端あまりにも禍々しいオーラを放って私ににじり寄って来たので、思わず本気で警戒したら、その時、時が止まった。

今はまだ、昔よりだいぶ少ない時間だし、当然巻き戻しは出来ない。

でも、私はこれでまた生きられる、と安堵した。

これで、みんなに必要以上に迷惑をかけずに済む、とも。

そして何より、みんなと一緒に居られるんだ、と。

もっとも、時を止めるとものすごく疲れる、と言うかソウルジェムが穢れやすくなったから、昔ほど実用的では無いけど。

それにあの後、時を止めたんだけど、結局それで疲れ果てて動けなくなった私はその後まどかに何も逆らえず、つま先から頭のてっぺんから…その……あそ…と、とにかく…全部…食べられてしまった訳で…。

でも、そのおかげで…その、時を止めて穢れていた私のソウルジェムが…その、まどかの…アレが、アレする度に…じわじわと回復したのを…確認できた。

回復方法は出来るだけやんわりとぼかしつつ、なんとか説明を終えた私を見て、みんなは口々に感嘆の声を上げていた。

さやかは、武器の新調に時間停止なんてずるい、とふくれている。

ほむらまで飛び道具なんてあたし不利じゃん、とか言って。

何を言っているの。この力は、争うためじゃない。守るためにあるのよ。

この弓は、ね。

マミも、その事実に仰天しながらも、いざと言うときはまた守ってね、と微笑む。

こういう事をさらりと言えるあたり、マミは心も強くなっているんだと実感できる。

勿論よ。そして、私こそ、貴女に、先輩に、時々は頼らせてもらいます。

杏子はマイペースでロッキーをぽりぽりと頬張っている。

あたし達の負担が減るならいいじゃん、とこの子らしい飄々とした態度で。

でも。それでも、困ったときはソウルジェム貸してやるよ。なんて言う辺りが杏子らしいわ。

マミの横でお菓子を食べていたキュウべぇも、珍しく余計な事を言わずに感心していた。

人間は不思議を超えて不可解だ、なんてね。

そして、それに対してまどかが言ってくれた。

「ウェヒヒ。これがキュウべぇが無駄だ、理解出来ないって思っている、愛の力なんだよ」

…そうね。これは…愛、なのよね。

きっと…。

しだれ掛かった私にまどかが視線を向ける度、お腹の奥がきゅん、となる。

これは…愛なのね。

「…まどかぁ…なんだか…眠いの」

「はい、ほむらちゃん、膝枕」

「ありがとう…」

みんなの前だというのに、私は臆面もなくまどかの膝枕でそのまままぶたを閉じた。

あ…気持ちいい。すぐにでも…眠れそう。

「ウェヒヒ。ほむらちゃんお疲れさま」

「ええと…、それで暁美さんの話だと、つまり…その、鹿目さんが暁美さんに…その、い、色々すると、グリーフシードが無くてもソウルジェムが浄化できちゃうようになった、でいいの?」

「はい。だからあの時、私がほむらちゃんを応援していたから、いつの間にかソウルジェムの穢れが無くなっていたらしいです」

「…改めてすげえなソウルジェム。つうかお前が。…いろんな意味で」

「それだけじゃ無いんだよ。なんだかね、よく分からないけど逆も出来るの」

「逆ぅ?」

「うん、さやかちゃん、ソウルジェム見せて」

「え?」

「見せて」

「あ、いや…その…」

「み、せ、て?」

「こ、こう…でしょうか?」

「……」ジロー

SG「」ジワジワ

「やめてえええっ! その視線やめてえええええっ」

「まろかー、ほむあー、おあおー」

「おはよう、たっくん」

「おはよう、タツヤくん」

半ば定位置となっている席にほむらが座り、改めて両親の顔を見る。

…やっぱり隈が。

それでいてその顔には慈愛と言っても良さそうな微笑み。

何か全てを悟った。そんな悟りの境地を思わせる微笑みだった。

「ほむぅ…」

ほむらは証拠こそ無いが確信を強め、顔をそっと赤らめる。

「うぇひー?」

「ほむ、ほむぅ」

「うぇひひ」

「あー、そこのお二人さん、仲が良いのはいいけど、せめて日本語を話すように」

当日の昼前。

「まどか」

「なぁに」

庭で水まきの手伝いをしていたまどかにほむらが語りかける。

「…あのね、私…今日は、午後になったら…おいとましようと思うの」

「え? どうして? 週末はずっとって…」

「もちろん! 一緒に居たくない、なんて事は絶対に無いわ! ただ、その、ご両親に…申し訳なくて…。きっと、お二人とも気付いて…いる、し」

「えっ?」

まどかがうそ、と目を丸める。

手に持っていたホースが不安定な軌道を描いて宙を舞い、二人にさぁっと水しぶきが掛かる。

「…やっぱり、本気で…気付いて、なかった?」

「全然!」

「…あ、そ、そう。私、てっきり…。そう、そういうプレイじゃ無かったのね」

ほむらが胸をなで下ろす。

「そうだよぉ! ギリギリ気付くか気付かれないかの綱渡りが楽しいんだもん! 気付かれる事前提じゃ駄目だよぉ! あーん、もうちょっと声を抑えればよかったのかなぁ」

「…ああ、ばれる事自体は問題じゃないのね」

「ウェヒ。てことは、さやかちゃんやマミさんのお家での逢瀬もばれていたのかな? もしかして」

「…一応、そっちもばれないようにと思ってはいたねの」

「ウェヒー。失敗失敗」

まどかはテヘペロ、と舌を出して笑う。

可愛い微笑みだが、しかし底知れぬ何かを感じる。

ほむらはしかし、『ああもうまどかったらどうしてそんなに可愛いの、裏表の無いその純粋な行動はやっぱり貴女が天使だからなのね!』と全てを肯定してあっさりいつも通りに戻った。

まどか。私…少しは貴女に相応しい子に近づけているかしら。

ほむらはまどかを見てそっと呟く。

「…でね、さっきの話の続きだけど…それならね、やっぱり…私…帰ろうと…。ほら、家族の団らんも…」

「ほむらちゃん」

「きゃ」

いつの間にか目の前に来ていたまどかがほむらを抱きしめる。

「ま、まどか! ここ庭よ! 誰かが…!」

「ほむらちゃん、最近疲れている」

「…まどか」

「あれ、大変なんでしょ?」

「……。ええ」

「ほむらちゃんの『戦い』は…まだ、終わってないんだよね?」

「…そうね。私の中では…まだ、終わってないわ」

「みんなが生きていても」

「そう、みんなが生きていても…。だからこそ。生き残ってくれたからこそ…私の『戦い』は、まだ、終わっていない。終わらせられない」

「また、行くの?」

「ええ。遠くでないと…」

「そう言えば、キュウべぇは何にも言わないの? ちょっかいとか出してこない?」

「出させないわ。それに、癪だけど、これはあいつにとっても興味の対象みたい」

「じゃ、大丈夫かな?」

その後、みんながほむらの部屋に集う。

「…さて、隠す気は無いけど、色々あるからどこから話そうかしら」

口を開いたほむらをみて、皆の顔が真面目になる。

「…あのね、私はね、前にも言ったけど、何度も一定の期間を繰り返して来たの」

ほむらの言葉に三人が頷く。

「私達は、インキュベーターの構築したシステムに囚われたまま。脱却できた訳じゃない。魔法少女が魔女になる現実は、何一つ変わっていない」

「…ええ」

「それはもう、今は承知の上だろ?」

「そうね。でも、これから魔法少女になる子も現れる。何よりこの事実を知っているのはほんの一握り」

「…だよなぁ」

「私ね、こう見えて諦めが悪いの」

(…あんだけ時間逆行してんだから知ってるっていったら…)

(きっと傷つくから言わないでおきましょう)

(だな)

「…今、何か不本意な空気を感じたのだけど?」

「気にすんな! で?」

「…でね、その中で考えた事があるの。…魔女になったら、もう、どうしても意思の疎通は出来ないの? って」

「…それは…私も、事実を知ったときは考えたわ」

「て言うか、事実を知った魔法少女は必ず一回は考えるんじゃねぇか?」

「…あたしも考えた事あるよ。うん。…でも、駄目だって、思った。何より、あたしが…駄目だったんでしょ?」

「そうね。それが当然。でもね、でも、それでも私は考え続けたの。その中でも、何か特例はないの? 何かないの? また、あの時みたいに仲良くなれないのって…」

「ほむら、あんた、やっぱり優しいんだな。裏切られたり憎まれたりした事もあったのに、それでも、なんて…」

「これもぶっちゃけると、いつの時間軸でもさやかが一番魔女になりやすいから考えるようになったの」

「重ね重ねほんとうにごめんなさいいいっ!」

「いいのよ。それも含めてもう貴女なんだって思えるようになってきたから」

ほむらがさやかの頭をよしよし、と撫でる。

「ふわぁ、このなでなでが最近くせになりつつありゅう…」

「…それで、魔女になったとしても、何とか戦わずに済む方法をって?」

マミが問いかけ、ほむらは頷いた。

「…でも、これは本当に自分勝手な思いよ。結局、せめて身近な人だけでもっていう、それだけの話。他の時間軸で何度やっても駄目だった。何度やっても」

ほむらが唇を噛む。

「でも、今回は違った。みんな生き残って…。こんな事始めてだった。だから、希望が大きかった。でも…その分不安も大きかったの」

「望みが叶ったのに、尚も不安に駆られるなんて、ほむらってほんと苦労性だよな」

「…でも、杏子には何度もその苦悩から助けられた事もあるのよ」

ほむらが微笑む。

「んなの、あたしの知らないあたしだろ」

「あら、今の杏子にだってそうよ? 救われたわ、本当に」

「…からかうなよ」

悪戯っぽく笑うほむらをみて、杏子は思わず顔を背けた。

「でも、今回の私は恵まれていた。ぶっちゃけ、最初にもらうモンスターボールにミュウツーとパルキアとゼクロムが入っていて全部ゲットできたような状態でしょ、今」

「あながち言い過ぎじゃないのが怖いわ」

「だから、なら、と思って今の状態に甘えるだけ甘えて、やれるだけの事をやってみたの」

「…それが、今回の事?」

「ええ」

「ほむら。…つまり、出来たんだな?」

「暁美さんが、今盾に入れているのは…やっぱり本当の魔女なのね」

「…話してくれよ。全部」

「あ、そうだ。ほむら、この前、マクドの看板の上に立っていたときも…やっぱり、そうだったの?」

「ああ…。さやかには見られていたんだったわね」

「あの時は、何していたの?」

「…笑わない? と言うか、変だって思わない?」

「笑わないよ。知りたいんだよ」

「…散歩」

「はい?」

「犬みたいな子が居るの。で、時々外に出ないと、退屈で鳴いちゃうの。それで、盾からちょっとだけ出して、散歩してたのよ」

「ああー…。それであの時、ちょっとだけ魔女の気配が…。犬?」

「犬、と言うより馬だけど」

「…もしかして、さっき居た馬に乗っていたみたいな魔女か?」

「そう、落ち着きのない子なのよ」

ほむらが杏子を見てくすりと笑う。

「なんであたしを見る?」

「さぁ? それより、これ…。分かるわよね?」

ほむらが盾からグリーフシードを一つ取りだし、みんなの前に置いた。

「勿論。グリーフシードよね? …ん? これって…」

「そう。そしてこれが…私が考えを本気で実行しようと考えるようになった切っ掛け」

「…これ…まさか…」

「…マミ。これは、ワルプルギスの夜のグリーフシードよ」

「ええっ!?」

「えっ?! あ、ほんとだ! この模様って! ちょっと! これ、まだあったの!?」

「おいおい! お前、せっかくあの時代表してって事で譲ってやったグリーフシード、ずっととっておいたのかよ?」

「ええ。これは紛れもなく、あの時みんなが私に譲ってくれたものよ。私は、このグリーフシードをあの後どうしても使う気になれなくって…。そんな時、思ったの」

「じゃあ、さっきのはやっぱり本当に…」

ほむらがグリーフシードを手に持ち、優しく、そっと撫でる。

「ええ。見て」

ほむらがグリーフシードにそっと念を込める。グリーフシードは小さく光り、そして、その頂上から幻灯のようにふわりと、小さなちいさなワルプルギスの夜が現れた。

「…うわぁ」

「さ、さっきよりもっと、ち、ちっちゃいけど…やっぱり、ワルプルギスの夜…よね?」

「ああ、ちげぇねぇぜ…!」

ワルプルギスの夜は、RPGの弾頭くらいの大きさで実体化し、周囲をみて少し驚いたように身を縮めた。

「大丈夫よ。みんな怖くないわ」

ほむらがそっと頭を撫でると、ワルプルギスの夜は安心したのか、机の上をふわふわと浮きながら踊り始めた。時折、逆立ちを織り交ぜながら。

「…飼い慣らしてんな。ほむら」

「ち、ちょっとだけ…可愛い…か、な?」

「魔女が…よりによって超弩級の魔女が…こんなになっちゃうなんて…」

「害…無いの?」

「ええ。魔女が元は魔法少女であり、更に元は人間であるのだから、意思疎通が完全に断ち切られているとは思えなかった。ただ、その手段が問題だった。どうすればわかり合えるのって。ね、プルプル」

ワルプルギスの夜、プルプルはほむらの差しだした指に頬摺りして上機嫌に見える。

「恥ずかしい話だけど、ワルプルギスを倒して、だからこそ絶望していた私に…いつだったか、グリーフシードのままのワルプルギスが話しかけてきた事があった」

「えっ?!」

さやかが目を丸くする。

「言葉は分からなかった。でも…気持ちは、感情は、伝わって来た気がした。痛いほどに。そして、ふと気が付いたら、私はプルプルをグリーフシードから…。きっと、あの時の私は、心が魔女に近かったからかも知れない」

「…で、ど、どうなったの?」

「その先の事は、良く覚えていないの。ただ、気が付いたら満身創痍で夕焼けの海岸に横たわっていて、手にはグリーフシードを握り締めていた。心が、とても晴れ晴れしていたのを覚えている」

「こんな時どんな顔をすればいいのか分からないわ」

「笑えばいいと思うぜ」

「そして、言葉は分からなくても、意思は通じるようになった。それからよ。他のグリーフシードでもそれが出来るようになったのは。こんな風に、魔女と戦わずに通じ合えるようになったのは。私は、魔法少女であり魔女になっていたのかもしれない」

「…あの、ほむら、魔女は、その、今の状態の魔女は…何か問題は無いの?」

「最初にそれを心配したけど、特に無いみたい。一緒に戦ってくれすらするし、グリーフシードが自分の魔翌力消費で黒ずむけど、ソウルジェムの力を吸わせると回復するの」

「逆かよ。ってか、お前自分のソウルジェム大丈夫か? 今ここに六人も居るんだぜ?」

「…私は、大丈夫だから」

「ああ、ほむらはそうだったな」

ピンクの悪魔を思いだし、三人が頷き合う。

「マミ、さやか、杏子。私のしている事は…今はただの偶然から生まれた自己満足。でも、これが、将来的には魔女は只倒すだけの存在じゃなくなればいい、その切っ掛けになればと思っているの」

「魔女に使い魔ならぬ、魔法少女に魔女のパートナーってか」

杏子が、考えが追いつかないぜ、と溜息をつく。

「そして、他の時間軸で手にれて、でも使う事が出来なかった、思い入れの強いグリーフシードでも、試したの。何度もね。そして…成功した」

ほむらが三人の魔女を出現させる。

「オクタヴィア、オフィーリア、キャンディロロ。みんな、大切な…友達よ」

ほむらが三人を抱き寄せ、愛おしそうに呟いた。

(…なにかしら)

(よく分からないけど…)

(あたし達がむず痒いのは何でだ?)

「成る程ぉ」

さやかがオタをつついて感慨深げに呟く。

「あた! こら! 変な車輪出してつつくな!」

「ふふ。その子はかんしゃく持ちな所があるから気をつけて」

「でも、なんだかこいつらを見てあたしも安心したぜ」

「ん? 何が? 杏子」

「あたしらだって、いつかはおっ死ぬか魔女になる。でも、その時が来ても、こいつらみたいになれたとしたら…まぁ、その可能性があるのなら、いいじゃんって思ってさ」

「そうね。佐倉さんの言うとおりだわ。その時が来ても…絶望のままでは、終わらないって思えれば、希望が…失われなければ」

「マミさん…うん、そうですよね。ほむら、ありがとう。あたし、本当はずっと魔女になる事、怖くて仕方なかった。でも…今は、まぁ確率的にあの子たちみたいになるのは難しいとは言っても、ゼロじゃないって思えるから…怖さは、全然減ったよ」

「…その笑顔がみられれば、そう思ってもらえれば、私はそれで満足よ」

「魔女化は宿命だもんね。ほむら、もしもの時は、よろしく」

「暁美さん、私もね」

「あたしもだぜ、ほむら!」

「ふふ。任せて。勿論、まずは魔女化しないようにね。三人一度にはモンスターボールには入れられないわ」

みんなが笑った。心から。



少しの間の談笑の後、みなが帰る。

魔女達を前にほむらは、ほう、と一安心の溜息をついた。

「…まどか、ありがとう」

「ウェヒー」

その声と共に、盾の中からクリームヒルトが現れ、そしてピンクの煙と共にまどかの姿になった。

「ほむらちゃん、みんなが納得してくれて、良かったね」

まどかがほむらをそっと抱きしめる。

「うん…まどかのお陰だわ」

「ううん。ほむらちゃんの頑張りの結果だよ」

「そんな事、ない。だって、本当は、最初に孵化させてしまったワルプルギスを大人しくしたのは貴女だもの」

「ウェヒ。ほむらちゃんがピーンチっ! って直感が走って、慌てて気配のする方向に走っていったら、ほむらちゃんとプルプルががっぷりよつで踏ん張りながら何か叫んでいたからびっくりしちゃった」

「…人に見られなくて本当に良かったわ。夕日の海岸で魔女と大相撲している姿なんて…」

「で、その直後、プルプルがほむらちゃんに足払いから馬乗りになって…」

「え、ええ」

「ほむらちゃんに乗っていいのは私だけなのに。だから、なんかぷつんってなって」

「え、ええ…」

「で、私がやめてーって叫んだら、プルプル、気持ちが通じて、大人しくなってくれたんだよね?」

「…そ、そうね」

(…本当は、まどかがゴルアアアアッ! って叫びながら、何か真っ赤なアーマーを両腕に纏ってラリアットしてマウントからボコ殴りで轟沈させたんだけど)

「ん?」

「ナンデモナイワ」

「ウェヒ」

「でも…あの後、私、本気で自分の頭がおかしくなったのかと思った。まどかがクリームヒルトの姿になってワルプルギスを正座させて説教していたんだから」

「ほむらちゃん、人はね、どんな聖人だって心に悪魔を宿しているんだよ。私、ほむらちゃんに危害を加える人がいるなら、いつだって魔女になるよ?」

「…それを実戦できたのは世界で貴女一人でしょうね。でも、おかげで、みんなが魔女になる事は怖いだけじゃない、絶望だけじゃないって、思ってくれた。まどか、ありがとう…」

「私はほむらちゃんの喜ぶ事が出来ればいいんだよ。お礼なんていいの」

「でも…。それでも、まどか、ありがとう」

(そして、もう一人の『まどか』も…)

「ねぇ、ほむらちゃん」

「何?」

「お礼を言ってくれるよりも…もう、みんなにあげるグリーフシードは、『ホムリリー』ちゃんを増やして作るのはやめてほしいな」

「…でも、私に出来るのは…」

「いつかの時間軸で、何かぶれがあって、ほむらちゃんが居るのに、魔女化したほむらちゃんに出合った事があって、その時のグリーフシードを持っていたんだよね」

「思うと、この為に『私』と『私』が出合ったんだって思えて…。こんな私でも、みんなの為にって…」

「そんな事無い! お願い。もう、ホムリリーちゃんを休ませてあげて。グリーフシードのためだけに、魔女にさせて、使い魔を生み出させて、そして、魔女にして、グリーフシードを、なんて…。使い魔が魔女になるまでのエネルギーも、ほむらちゃんの身を切ってなんて、そんなのおかしいよ!」

「でも…」

「きっとね、ホムリリーちゃんは、そうすれば安心して『誰か』の所に行けるよ?」

「…まどか、あなた…?」

「ウェヒ?」

まどかが無垢な笑みで微笑む。その笑顔で、私の中の最後の棘が抜けた気がした。

「…そうね、『私』も、ちょっと辛かっただろうし…」

ほむらは、盾からグリーフシードを一つ取り出す。

いつかの時間軸で手に入れてしまった、自分自身のグリーフシード。

その自分と今の自分は違うけれども、悩み、苦しんでいた自分とは変わりない。

ほむらは、ごめんなさい、ありがとう、とグリーフシードを握り締めた。

「『ほむら』。もう、大丈夫だから…」

「ほむらちゃん。ほむらちゃんの行動こそ、究極の自己犠牲愛だよ。私なんかよりも、ね」

「まどかぁ…」

「それに、キュウべぇも慌てているんでしょ? 一番の稼ぎ口だった筈の私が魔法少女飛ばして魔女化してるって分かって」

「そうね。こんな事がこの先もあるとしたら、エネルギーを搾取する事が出来なくなりかねないって、感情が無いのに慌ててたわ」

「『べべべべつに驚かないねん。かかか感情ないけどっ!』ってね」

「魔法少女のシステムはあいつらからもたらされるもの。でも、そのシステムもいつかは、きっと私達の手で変えられる筈…」

「そうだよ、ほむらちゃん! なんなら私がキュウべぇの星に行ってきてヤキ入れてくるから!」

「そ、それには及ばないわ」

「えー」

(…今のまどかならやれるかも)

「まどか、私はね、今が一番幸せなの。これからも色々あると思うけど、まどかが一緒に居てくれるから、絶対に乗り越えられると思う」

「私もだよ、ほむらちゃん。何より、今の私を受け入れられるのはほむらちゃんだけだもんね。これはもう半身どころか、一心同体だよね」

「ええ」

「あ、それとね」

「ん?」

「ほむらちゃんの幸せは、今が一番じゃ無いよ? これからもっともっと幸せな事、あるよ。だから、今が最高なんて思っちゃダメ。私達、まだ中学生なんだから。ね?」

「まどか…。ええ、そうね、本当に、その通りだわ」

ほむらとまどかが笑う。

「…それじゃあ、そろそろこの子達を鍛え始めないとね。魔法少女のパートナーとしてやっていけるように。パワーはあるけど、戦い方はめちゃくちゃだから

「ウェヒ。私も出動する?」

「あ、貴女はもう充分強いから…」

「じゃあ、いつも通り、後で穢れを癒やしてあげるね♪」ジュルリ

「…うん」///

魔女の事は、まだまだ分からない事だらけ。

これからも色々困難はあると思う。

でも、もう魔女は倒すだけの存在じゃない。

これが切っ掛けとなり、将来、魔法少女のシステムに変化が起きてくれれば…。

それを信じて、私は今日も戦う。

今の私に、怖いものは何も無いのだから。

「ただいま、まど…」

「ウェヒーっ! お疲れ様&蝕の時間だよほむらちゃあああああんんんっ!」

…訂正。

一つだけ、怖いと言えば怖いものが、あるかもしれない。

「ほむううううううぅっ」///

これも、魔法少女の日常。


おわり

本当におしまい。
ここはすぐには落ちないと知って、ほんのおまけのつもりで
書いたんだけど、ちょっと長かったね&めちゃくちゃ。

見てくれた人ありがと。

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