友「約束……だよ?」 (19)

【第01話】ファーストキスはなんの味?


それは、照りつける太陽がまぶしい、ある夏の日の出来事だった。
窓の外に目をうつすと、グラウンドには人影がひとつも見えない。
恐らく、もうすでに授業が始まっているんだろう。

男「…………」

3限目の体育のあと、おれたちはある事情により保健室にいた。
そして、パイプいすの上に腰を下ろしたおれは、ベッドに横になっている男友達の顔をのぞきこんでいた。

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友「はあ、はあ、はあ……!」

その色白できれいな顔は、今ではすっかり見る影もない。
大粒の汗がとどまることなく噴き出しており、そのせいで額には前髪がぺったりと張り付いている。
頬っぺたは、ゆでだこのように真っ赤になっている。
口から漏れる息もどこか苦しそうだ。
間違いなく熱中症の前触れだった。

男「おっと、いまはのんびりしてる場合じゃなかったな」

とりあえず目の前のこいつをなんとかしてやらないと。

われにかえったおれは、床に置いてあるペットボトルを急いで手に取った。
それは、友をここまで担いでくる途中で、ひそかに買っておいたものだった。
キャップをゆるめ、飲み口を友の口元に持っていく。
そこから、少しずつミネラルウォーターを流し込んでやった。

友「――んんっ!?」

その瞬間、友は思いっきり眉をしかめ、気の毒なほどに悲痛な声をあげた。

友「ん、ぷあ、はあっ……!」

口内にいきなり異物が入ってきたから、びっくりしたのかもしれない。
駄々をこねる子どものように、友は大きく首を振りまわした。
すると、同時に、唇から飲み口が離れた。

男「あ、オイ!こらっ!」

ムダな抵抗すんじゃねえっ!
おまえのためにやってるんだろうが!

だが、そう言いかけたときにはもう遅かった。
気を抜いていたせいで、おれはペットボトルを握っていた手を思わず緩めてしまった。

手から離れたペットボトルの落ちた先、それは友のお腹の上だった。
こぼれた水は友の体操服の上に広がり、みるみるうちに大きなシミを作っていく。
やがて、服の下から白い肌とともに、ガムテープの影がうっすらと浮かびあがってきた。

――ん、ちょっとまて。
ガムテープ、だと……?

男「……いや、そんなはずはないだろ」

ありえない。こんなの見間違いに決まってる。

そう思ったおれは、目をこすったあとにもう一度確認してみた。
だが、ガムテープにしか見えなかった。
それは、まぎれもなくガムテープだった。

男「…………」

友の体操服の裾をめくりあげて、今度はまじまじと観察してみる。
ちょうど胸の位置のところが、下着の上からガムテープでぐるぐる巻きにされている。
しかも、簡単にほどけてしまうことがないように、それはきつめに何重にも巻いてあった。

男「こいつ、変わった趣味してんなあ……」

それとも、最近はこういうのがトレンドなのか?
でも、それにしちゃあダサいというか、貧乏臭すぎるというか……
流石『天才』と呼ばれるだけのことはある。
ファッションのセンスも常人とは大きくかけ離れているらしい。
おれは半ば感心して、半ば呆れていた。

男「まあ……いっか」

あんまり気にしないことにしよう。
それに、いまはそれよりも先に、優先すべきことがある。
おれは急いで友の顔に目を向けた。

友「ん、はあ、はあ、はあ……っ!」

友は辛そうに顔をゆがめている。
呼吸も相変わらず乱れている。
こうなってくると、一刻も早くなんとかしてやりたい。

次に、自分の手の中のペットボトルに目を向けてみる。
中身の水は三分の一の量に減っていた。
これはまあ、途中で足りなくなったら、ひとっ走りで買いに行けばいいか。

そうやって一通りの確認を終えると、おれはすぐにいすから立ち上がった。
それから、備え付けの冷蔵庫から氷を何個か取り出し、適当な袋に一杯になるまで詰めたあと、それを友の首筋に当ててやった。

友「――~~~~っ!?」

予想していたとおりだった。
そのひんやりとした感触に反応して、さっきと同様に、友は体をビクッと震わせた。
おれはすかさず、暴れ出そうとする友を、上から覆いかぶさるようにして押さえつけた。

男「この、おとなしくしやがれっ!こいつ!」

だが、思っていたよりも手こずった。
それは、想像していたよりもずっと、骨の折れる作業だった。
……ってか、こいつ、体の線は細いくせにどこにそんな腕力があるんだよっ!

友「――ひぁ、ん……あっ」

男「……女みたいな声だすんじゃねえッ!!」

変な色気があるから、やってるこっちとしてはちょっと複雑なんだよっ!
……そのせいで、一瞬、胸が高鳴っちまったじゃねえかっ!
こうして、おれのプライドはズタズタに引き裂かれた。

男「ぜえ、ぜえ……っ!」

て、手間かけさせやがって……!

しばらくして、友はやっとおとなしくなったので、おれはゆっくりと身を引いた。

男「く、クソ暑い……っ!」

これじゃ、おれのほうが先に熱中症でぶっ倒れるっての!

おれは額から流れる汗を一気にぬぐって、友の顔を思いっきりにらみつけた。
おれの胸の内側では、マグマのようなものがぐつぐつと煮立っていた。
つまり、怒りのボルテージが最高潮に達していたのだ。

友「……ん」

男「…………」

しかしよく見ると、友の額からは汗がだいぶ引いている。
あれだけ悪かった顔色も、いまでは若干、和らいでいるようにも見えた。

男「……ったく、しょうがねえなあ」

こんな平和そうな顔されたら、怒ろうにも怒れないじゃねえか……
いまのおれの心中では、怒りの感情よりも安心感の方が優勢だった。

男「まあ、とりあえずはこれで一安心ってとこだな」

友のおだやかな寝顔を見届けたおれは、そっと胸をなでおろした。
だが、これですべてが終わったわけじゃない。
もしものときのために、常に万全の状態を保っておく必要がある。

すると、心のうちに、あるひとつの葛藤がわきあがってきた。
それは、おれが次にとるべき行動についてのことだった。

男「さて……」

友の顔とペットボトルを交互に見比べてみる。
それをもう一度繰り返す。

男「すうーーーーっ……」

次に、大きく息を吸い込み、肺に空気を蓄える。

男「……っはああああああああ」

それから、ゆっくりと吐き出し、十分な時間を置いてから、友の顔に視線を戻した。

友「んぅ……」

ぽってりとした、淡い桃色のきれいな唇。
水に濡れて、しっとりと湿っている。
その官能的な光景は、おれの欲望の疼きをさらに強めた。
小さい頃、隣近所に住んでいた美人なお姉さんのことを、今頃になってなぜか思い出した。

男「――って、なに変なこと考えてんだ、おれわっ!!こ、こいつは男、なんだぞっ!!」

心にわいた変な考えを振り払うように、首を横に何度も振った。
だが、それは逆効果に終わった。

やばい、ますます緊張してきた……!
顔が熱くなってるのが、自分でもわかるぐらいだった。
肩にも余計な力が入っていることに気づいた。

男「べ、べつに、やましいことするわけじゃないから……なっ!?」

こうなったら、もう開き直るしかない。
たかが口移しごとき、どうってこともない。
というか、これはただの人命救助だからなっ!?

男「……よ、よし」

やってやる!
おれはやってやるぞっ!
恐れるものはなにもない!

男「よおおおおしっ!!」

ペットボトルをつぶれるぐらいに強く握りしめ、おれは覚悟を決めた。
震える手でキャップをゆっくりと回し、口に水を含んだ。
それから、友の両肩をぐっとつかんで、ゆっくりと顔を近づけて行く。

友「んっ……」

ちょっと汗が混じった、友の体のふんわりとした匂いがおれの鼻をくすぐった。
それは、桃の甘い香りだった。

こうなってくると無意識に、いろんなところが気になってしまう。
長く整ったまつ毛。まっすぐに筋の通った鼻。きめが細かく、雪のように白い肌。
おれの知り合いの中では、友が一番の美形だった。

友「……ふ、ぁ」

男「!?」

ふと、あったかくてやわらかい吐息が、おれの首筋をなでた。
気がつけば、鼻先が触れあいそうな距離だった。
心臓がバクバクとうるさいぐらいに脈打っている。
やがて、この状況に耐えられなくなったおれは慌てて目を閉じた。

男「…………」

友「…………」

ゆったりとした時間が流れている。
外の喧騒にまぎれて、保健室の中は水を打ったように静まり返っていた。
まるで二人だけの世界にでもいるような感じだった。

友「――ん、むぅ……」

そして、おれたちは唇を重ねた。
あったかくて、やわらかい……
だけど、それ以外のことはなにもわからなかった。

――いまのおれはキスをしているんだ。
そんなことを考えただけで、頭の中がパンクしそうになった。

すみません、書き溜め途中なんでもうちょっと時間かかります
ゆっくりペースですが、絶対に完結させるつもりです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月10日 (月) 19:14:10   ID: BBuLoeeG

これあれだな
何年か後に黒歴史になってるやつだね
痛い

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