一方通行「そンな実験で絶対能力者になれるわけねェだろ」(1000)


※注意!

・ギャグ物
・基本は台本形式、偶に地の文が割り込む
・一方さんは第一位だけどアホの子
・キャラ完全崩壊
・童貞
・遅筆
・童貞(大事な事なので二回言いました)


こんなんで良ければ読んでくれい



 実験名、『 絶対能力進化(レベル6シフト)』
被験者を学園都市の至上の目的である『絶対能力者』へと進化させるための実験。

 実験を受ける権利を有する者、すなわちこの学園都市で絶対能力者へと進化出来る可能性がある者はただ一人
学園都市におけるレベル5、第一位の能力者である一方通行(アクセラレータ)のみである。

 その内容は第三位の能力者、御坂美琴、通称超電磁砲(レールガン)のクローン
量産能力者(レディオノイズ)、妹達(シスターズ)と呼ばれる存在を
二万通りの戦闘環境で二万回殺害すると言うもの。

 大凡人道を外れた実験であるが、ここは光の届かぬ深い深い闇の底。学園都市の最暗部。
それを咎める者など存在しよう筈も無い。

 この日、とある研究所では一人の研究者によって被験者の少年に対して上記のような説明が行われていた。




「な、なんだと?もう一度言ってみろ」

 薄暗い研究所の一室で、実験の説明をしていた研究者―天井亜雄は、目の前の少年の発した言葉に困惑の声を上げた。
彼の視線の先にいる被験者の少年―学園都市の第一位の能力者、一方通行は
椅子にもたれかかりながら、そんな天井を涼しい顔で眺めている。

「何度でも言ってやるよ……その実験じゃ、俺は絶対能力者になれねェ」

「バカな、これは樹形図の設計者が算出したプランだぞ!?」

 再び一方通行から放たれたその言葉に対し、天井は今度は大きな声を張り上げる。
そう、この実験は、『樹形図の設計者』と呼ばれる、正しいデータを入力することで
完全な未来予測すら可能な演算装置がはじき出した予測に基づいて計画されたモノで、つまり完璧なモノのはずだ。
それを彼の目の前の被験者たる少年は真っ向から否定している。

「言い方が悪かったな、正確に言うと、その実験『だけ』じゃ絶対能力者になれねェ、だ」

「ど、どういう事だ?何故そんな事がお前にわかる!?」

「簡単なこった、この実験には決定的な事が欠けてるからだよ」

「決定的な、事……?」


 困惑し狼狽する天井に対し、一方通行は極めて簡潔な答えを返す。
『樹形図の設計者』のはじき出した道筋に欠けている事があるなど俄かには信じ難いが、
一方通行の自信に満ちた、否、確信を持った態度に気圧された天井は、彼の言葉に耳を傾けざるを得ない。

「そォだ。その条件を満たさねェ限り、例えクローンどもを二万体バラそうが二兆体バラそうが、
俺は絶対能力者になンかなれやしねェ」

「そ、その条件とは……?」

「……いいか天井、良く聞け」

「……」

 ゴクリと生唾を飲み込み、天井は一方通行の言葉の続きを待つ。
その様子はさながら、預言者の口から告げられる神の啓示を心待ちにする信奉者のようでもあり、
実験の説明をする研究者とその説明を受ける被験者と言う立場は今や完全に逆転していた。

「この実験内容をこなすだけじゃァ……」






「俺が童貞を捨てれねェ」






天井「……は、何?」

一方通行「俺は童貞だ」

天井「え、いや、だから?」

一方通行「童貞のままじゃ絶対能力者になれねェだろ常識的に考えて」


天井「……え?」

一方通行「あ?」


天井「ば、バカにしてるのか!?」

一方通行「バカはオマエだこの天井が!!!」

天井「あ、あぁ?いったい何を言ってるんだお前は……?」

一方通行「いいか天井よく聞け、絶対能力者ってことはアレだろ、学園都市の代表だろ?」

天井「ま、まぁそうなる、のか?」


一方通行「学園都市の代表って事は学園都市で一番優れてるって事だ。
      今でも第一位だが、それとはまた一線を画す存在になるわけだな。
      つーかもう全世界で一番優れた人間みたいなモンだろ、絶対能力者って」

天井「う、む……確かにそうなるか、世界中の誰も到達できなかった領域に行くのだからな」

一方通行「そこで、だ。果たしてそンな優れた人間が、童貞でもいいのかァ?」

天井「……え、そう繋がるの?……いや、別にいいんじゃないか?関係ないだろ童貞かどうか何て」

一方通行「大有りだよこの天井が!!そンなだから天井なんだよオマエは!!!」

天井「こんなじゃなくてもうちは先祖代々天井だ」

一方通行「万が一童貞のまま絶対能力者になっちまったらどうなるか……想像してみろよ」

天井「はぁ……?」

一方通行「『アイツ、絶対能力者なんて威張ってるけど童貞らしいぜ(プゲラ』とか言われてみろ……
      もう怖くて外出れねェよ!!」

天井「どんだけナイーブなんだお前は!?」


一方通行「オマエは世間の童貞に対する風当たりの強さをわかっちゃいねェ!!!」

天井「……そもそも公表しなければわからないだろ、童貞かどうかなんて」

一方通行「童貞かどうかなンてすぐバレちまうモンなンだよ。
      童貞の語る女性観にはリアルさが欠片もねェンだ……
      仮に、俺が第一位の頭脳を以って完璧な非童貞を装う事が出来たとしても、」

天井「……?」


一方通行「もし、童貞かどうかを判別できる能力者なンてのが現れたらどうする?
      そして公の場で童貞だと暴露されちまったらどうなるか……
      『アイツ、実は童貞だったらしいぜ』『嘘、絶対能力者なのに?』
      『ずっと非童貞だって嘘ついてたのね……』『キャハハ、恥ずかしい~』
      ……こンなン言われたら自殺モンだろォが!!!」


天井「そんな能力あって堪るか!!そもそもお前は反射できるだろうが!!!」

一方通行「うるせェ!!!俺の反射だって万能かどうかわかンねェだろ!!
      俺の反射が効かねェような童貞判別能力があったらオマエ後から責任取れンのか!?」



天井「……ハァ、おい一方通行、そもそも童貞はそんなに恥じるものじゃないだろう」

一方通行「あァ?」

天井「歴史に名を刻んでいる偉人を見てみろ、神に選ばれた預言者を見てみろ。
   彼等の多くは晩年まで童貞を保っている。むしろ童貞である事、つまり清らかな身体である事は
   神に祝福され、成功へ向かう条件だとも言えると思わないか?」


一方通行「こンの天井がァァァァ!!!」ベクトルデコピーン!!

天井「ぶべら!?」ペシーン!!


一方通行「オマエは何一つわかっちゃいねェ!!」

天井「ぐおぉぉぉ……な、何が……」ヒリヒリ

一方通行「はァ、いいか天井、学園都市が目指す絶対能力者ってのは
      『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』だろ?つまりは神への反逆とも言えるわけだ」

天井(え、そうなの?)


一方通行「その神への反逆者が清らかな身体で神からの祝福だのを期待してどォすンだ!
      むしろ穢れてなきゃダメだろ!汚れきってなきゃダメだろォがァァァ!!!」

天井「……そんなにヤリたいのかお前は」

一方通行「違ェよ、絶対能力者になる為だ。
      今言ったように、清らかな身体じゃ神に逆らう絶対能力者にはなれやしねェよ」


天井「……」

一方通行「……」


天井「ふぅ、わかったわかった。じゃあデリヘルでも頼んでやるからそれで童貞を……」

一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルチョップ!!

天井「ぐぼぁぁ!!」ベチーン!!


一方通行「素人童貞なンて余計に恥ずかしいだろォが!!なンでそンな簡単な事がわかンねェンだよ!?」

天井「うおぉぉぉ……」クラクラ

一方通行「素人さンで!最初は素人さンでお願いします!!」

天井「やっぱりヤリたいだけだろお前!?」

一方通行「違ェし、学園都市の名誉の為だし」

天井「……」

一方通行「いいのかよ?学園都市の全住民が素人童貞以下の扱いになっちまっても……」

天井「……じゃぁもうその辺でナンパでもして来い、第一位だって言えば引っ掛かる女も……」


一方通行「こォの天井がァァァァァ!!!」ベクトルパンチ!!

天井「ぶふあぁ!!!」バゴン!!


一方通行「ナンパなンて何処のチャラ男だよ!?明らかに俺の柄じゃねェだろォが!!」

天井「う、ぐふぅ……」ゲホゲホ

一方通行「それに将来、絶対能力者としてインタビューを受けたとするだろ?その時にだな、」


――――――――――――


インタビュアー「絶対能力者の一方通行さん、初体験の相手とはどうやってお知り合いに?」

一方通行「ナンパです(キリッ」


――――――――――――


一方通行「こンな受け答えしてたら学園都市のイメージ最悪だろォが!!
      だいたい何処の馬の骨とも知れねェ女とヤレるかボケ!!!」

天井「つーか何だそのインタビュー!?馬の骨ってお前は何様なんだ!!」

一方通行「第一位様だろォがクソボケ、それにナンパに引っ掛かるような軽い女なンて商売女と大して変わらねェだろ」


天井「それじゃどうしたいんだよお前は……」ハァ

一方通行「どうしたいって、そりゃオマエ……」

天井「あ?」


一方通行「誰に語っても恥ずかしくないような、周囲の皆が羨む様な運命的な出会いをした相手と
      祝福されながら幸福に結ばれたい」テレテレ

天井(うわぁきめぇ……)


一方通行「つーわけで運命の相手を樹形図の設計者に探させろ」

天井「お前は樹形図の設計者を何だと思っている」



「そこまでよ!話は聞かせてもらったわ!!」ガチャッ


一方通行「誰だ!?」バッ

天井「……芳川、聞いていたのか」

芳川「えぇ、全て聞かせてもらったわ。つまり一方通行、君は素性がハッキリしていて、
   周りに語っても恥ずかしくなくて、尚且つ運命を感じる相手とセックスがしたいのね?」

一方通行「まァそういう事だなァ」

天井「そうやって並べると都合よくそんな相手がいるとも思えんな」

芳川「いいえいるわ、それもすぐ近くに」

一方通行「なンだと!?」

天井「ほ、本当か!?それならすぐにでも実験を……だが、何処の誰だ?」


芳川「この、私よ!!」バァーン!!


一方通行「……あ?」

天井「……は?」



芳川「学園都市の優秀な科学者であり、これから陰惨な実験を共に乗り越えて行くパートナーであるこの芳川桔梗よ!!」ババーン!!


一方通行「イヤ、共に乗り越えて行くってオマエはデータ取るだけだろ」

天井「と言うかショタコンだったのか芳川……」

芳川「ショタコンではないわ。好きになった相手が偶々若かっただけよ。
   ついでにレベル5の第一位で将来性が抜群だっただけよ」

天井「うわぁ将来寄生する気満々だこれ……」

芳川「私は自分に甘いのよ……さぁどう一方通行、私なら条件を満たしているでしょう?」

一方通行「お断りだァ!!」カッ

芳川「ど、どうして!?」

一方通行「すいませン、あンまり御歳を召されている方はちょっとォ……」

天井「ブフッ」


芳川「な!?わ、私はまだ若いわよ!!」

一方通行「いやァ流石に歳が一回り近く離れてると圏外だわァ……」

芳川「く、そ、そんな事で私の夢のニートプランが……」

天井「一方通行、そう言わず芳川で手を打たないか?そして早いところ実験の開始を……」

一方通行「無理、多分勃たねェ」

芳川「ちょっと、惨めになるからやめてもらえない……?」


天井「しかし、芳川がダメだとするとどうするか」

一方通行「だから樹形図の設計者で探せよ、10代半ば~20代前半くらいで」

天井「使用申請通るわけないだろ……芳川、折角だからお前も何か案を出せ」

芳川「イヤよめんどくさい、夢破れた私はもう不貞寝するわ」フン

天井「お前は本当に自分に甘いな……」


一方通行「とにかく、童貞問題さえ解決できりゃァ絶対能力者なンて目の前なンだよ
      つーか童貞さえ捨てられればそれだけで絶対能力者になれる気すらするぜ」

天井「どれだけ童貞が枷になってるんだ……」

芳川「思春期に童貞を捨てられるかどうかがその後の人生に大きく関わるのは事実よ」

天井「しかし注文が多すぎるだろう、周囲に語っても恥ずかしくなく、運命的なものを感じる女って……
   いや待て、そうだ、布束、布束砥信はどうだ!?ヤツも優秀な科学者で絶対能力進化に深く関わっている!
   何より歳も一方通行とほとんど変わらないぞ!!」

一方通行「それだ!!布束だ!!ちょっとルー大柴っぽい喋り方する事があるし目付きクソ悪ィけど
      あれで結構美人だしゴスロリだし行けるぜ!!」

芳川「く、あんな目付きの悪い小娘に私は劣るというの……」ギリギリ

天井(こええ……)

一方通行「よっしゃ善は急げだ!ちょっと布束に告白してくるぜェ!!!」ダッ

天井「お、おぉ、頑張ってこい」

芳川「失敗すればいいのに」チッ


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―10分後


一方通行「……」ガチャッ

天井「ん、戻ったか」

芳川「早かったわね」


一方通行「……オマエら、次のプラン考えンぞ」

天井(失敗してるぅぅぅぅ!!)ガビーン

芳川(ざまぁ)フフフ


一方通行「他に手頃な相手はいねェか?」

天井「し、しかしだな、この研究所で布束以上に適任だと言える相手は……」

一方通行「布束の話はすンな」ギロッ

天井「うっ!?」


一方通行「第一位の俺が土下座までしたってのに……」チッ

天井「むしろ逆効果だろ土下座……」

一方通行「そうなのか!?」

芳川「コミュ障の気があるから告白の仕方もしらないのね」フッ

一方通行「オマエなンか辛辣になってねェ?」

芳川「私になびかないのなら優しくする理由も無いわ」

天井「女って怖いな」

一方通行「ちょっと童貞のままでもいい気がしてきたわ」


天井「それじゃ実験を……」

一方通行「イヤだ」

芳川「我侭ね、まったく……」ハァ

一方通行「童貞捨てるまでは絶対に実験やらねェ、妹達には傷一つ負わせねェ(キリッ」

芳川「あらかっこいい」


天井「……その相手だが、もう妹達でいいんじゃないか?」

一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルキック!!

天井「うぼぁぁ!!!」ドゴォ!!


一方通行「実験やりながら妹達を犯せとでも言うつもりかァ!?初体験がレイプなンてただの犯罪者じゃねェか!!」

天井「ヒュー、ヒュー……ケホッケホ……」ポタポタ

芳川「レイプなんてしなくても二万体虐殺の時点で十分すぎるほど犯罪者だと思うのだけど」

一方通行「この外道が!!いいか!さっきも言ったが合意の上で祝福されながら結ばてェンだよ俺は!!」

芳川(改めて聞くとやっぱり気持ち悪いわね)


天井「さ、最後まで聞け!何も妹達をレイプしろと言っているわけじゃない!」ゴホゴホ

一方通行「あァ?それじゃどォいう……」

天井「つまり、普通に妹達を口説けと言っているんだ」

芳川「でも絶対能力進化を実行するのなら最終的に殺さなくてはならないのでしょう?」

天井「そう、絶対能力者になるために殺さなければならない相手との、
   被験者と実験用クローンとの間に芽生える禁断の愛だ!!」

一方通行「おォォ!!!」

天井「所詮結ばれる運命には無いと知りながらも惹かれあい求め合う二人!
   だが無常にも実験は開始され、愛し合った者同士の殺し合いは始まってしまう。
   果たして一方通行は絶対能力者への道と育まれた愛のどちらを選ぶのか!?こう御期待!!」

一方通行「映画化決定だァァァァァ!!!行けるぜ天井くゥゥゥゥン!!!」

芳川(心底気持ち悪いわねこいつら)


天井「そして妹達は二万体もいる!それだけいればお前の気持ちに応えてくれる個体もいるはずだ!!」

一方通行「そォか、二万回もチャレンジ出来るンだな!もう勝ったようなモンじゃねェか!!」

天井「しかも、奴等の設定年齢はお前よりも若干年下!一番付き合いやすい歳の差だ!
   更に元となった第三位の外見を忠実に再現しているため、見た目の点数も非常に高い!」

一方通行「いいねいいねェ!最ッ高だねェ!!」ヒャハッ

天井「よし行け一方通行!!絶対能力者になる為に!!」

一方通行「おォ!!童貞を捨てる為になァ!!!」

天井「やっぱりそっちが目的なんじゃないか」


芳川「どうしてもダメだったら私が相手をしてあげるから、気楽に行って来なさい」フフ

一方通行「……チッ」ペッ

芳川「……泣いてもいいかしら?」


一方通行「あー、ちっとテンション下がっちまったがとにかく行ってくるわ」ガチャ

天井「あ、あぁ……」

芳川「……」グス


天井「……気を落とすな、あれ位の年頃はやはり同年代が好きなんだ」

芳川「嘘よ!十代の童貞少年は年上のお姉さんに優しくリードされたがるものだって樹形図の設計者が……」

天井「そんなこと言ってんの!?樹形図の設計者が!?」

芳川「樹形図の設計者で算出した完璧なニートプランだったのに……」

天井(……絶対能力進化も失敗なんじゃね?これ)


 果たして一方通行は童貞を捨てられるのか!?そして絶対能力者になる事が出来るのか!?
多分無理だけど頑張れ一方通行!負けるな一方通行!!

初回はここまでで。
全編に渡りこんなノリで行く予定でございます
かっこいい一方さんなんて幻想です

いきなり正体バレておる、どういう事かね……

まぁ気にせず投下していこう。鉄は熱いうちに打て、と言うようにギャグも勢いが大事です、多分



「はァ、どっかに俺の運命の人(プリンセス)はいねェのか……」

 休日の真昼間の公園で、学園都市の第一位、一方通行はベンチに座り項垂れていた。
二万人の妹達に二万通りの告白をする傍ら、彼は時間さえ空けばこうして街に繰り出し
己の童貞を捧げるに値する運命の女性を探しているのだ。

 とはいえ、先程の台詞からも分かるようにその成果は芳しくない。
『学園都市』という名からも分かる通り、この街の住民はほとんどが学生であり、
年齢的には一方通行と近い者、つまり彼のストライクゾーン内に入る者も多い。
しかし問題はその先である。

 『運命的な出会いをし、惹かれあう相手』、この条件を満たせるものが果たして学園都市にいるのだろうか?
仮にラブコメの王道とも言うべき、曲がり角でパンを咥えた女子高生とぶつかる、
というシチュエーションが一方通行に訪れたとしよう。さてどうなるか?

 答えは簡単である。一方通行が全身に纏っている『反射の膜』、彼が許可した以外の
科学的、物理的なあらゆる外的干渉を完全に跳ね返すその膜は、ぶつかってきた女子高生を弾き飛ばし、
勢い余って車道まで吹き飛んだ女子高生は偶然通りかかった車に轢かれて病院送りとなってしまうだろう。
そして当の一方通行は勿論、それを出会いだとは認識できない。

 少々極端になってしまったが、ようするに彼は気付かぬうちに運命の赤い糸すら反射してしまっている可能性が高いのだ。
これでは外で、表の世界で運命の相手と巡り合う可能性は絶望的というものだろう。
そもそも暗部を全く知らない人間と付き合うということが馬鹿げている。


 それではやはり妹達に期待したい所だが、こちらも成果は出ていない。


「さっきの告白で何人目だっけェ?もォとっくに四桁行ったよなァ……」

 告白を開始してから一週間、その僅かな日数で既に二千を越える妹達に告白した彼だったが、結果は惨敗である。
というか一人目の個体に告白した時点でMNW(ミサカネットワーク)と呼ばれる、
妹達の電気操作能力を利用した脳波リンクによる情報共有で、
全ての妹達が『一方通行が告白に来る』という事を既に知っている状態になっていたのだ。
当然そのような『ヤレれば誰でもいい』という態度が滲み出ている相手からの告白をOKする者はおらず、
今や妹達は『どのようにして一方通行を振るか』という事を日夜議論している始末である。

 まさかそんなことになっているとは夢にも思わない一方通行は『次こそは、明日こそは』
と輝かしい未来を信じ、告白の台詞に頭を悩ませ、既に振られた妹達に対しても、
意見を翻し、自分の元に来てくれる可能性を考えマメに気にかけ努力しているのだが、
上記の理由からそれが実る可能性は皆無と言えるだろう。ちょっとかわいそすぎじゃね?


 とまぁそういう訳で、妹達からも良い返事が一向にもらえない一方通行は
こうして気晴らし半分、一縷の望みを賭けた運命の人探し半分に、公園で日向ぼっこをしたり街中を散歩したりしているのだ。



「ねぇそこのお兄さん、暇なら私達と一緒に遊ばない?」

「あァ?テメエらみてェのは間に合ってンだよ、失せろ」

 黙っていれば十分美形の部類に入り、白髪に赤眼というミステリアスな風貌の一方通行には、
時折このように女性から声がかかることもある。

 しかし生粋の童貞であり、目も眩むような運命的な出会い以外眼中にない彼にとっては、
自分から声をかけ擦り寄ってくる女など、どいつもこいつもビッチにしか見えず、
そのような相手に対しては、あからさまに不快な顔をし、ひたすら邪険に追い払うだけである。
童貞の童貞たる所以、それは多くの場合、相手を選り好みしている為なのだ。童貞のくせに。


(はァ……)

 物憂げな表情で溜息を吐く彼の前では10歳前後の子供達が元気にはしゃぎ回っている。
とはいえ彼は小児性愛者、所謂ペドフィリア、或いはロリータコンプレックスではないため、
流石にそんな年端も行かぬ子供達に食指が動く事はない。繰り返すが彼はロリコンではない。
念の為もう一度言っておこう、ロリコンではない。


(……あ、でもあれか、あのガキどもがもォ少し成長したら俺の運命の相手になるかも知れねェのか?
いやむしろ今から運命の相手になるよォな英才教育をして……)ククク

 そんな光源氏的な思考をしながら怪しく目を輝かせていた彼に不穏なものを感じたのか、
公園からは一人、また一人と人が減っていく。気付いてみればその場にいるのは彼一人だ。
なんとも寂しいものであるが、頂点に立つ者というのは常に一人、孤独なものなのだ。



(結局、俺は一人ぼっちなンだなァ……)

 先程までの賑わいが嘘のように静まり返ってしまった公園で、一方通行は先日の出来事を思い出す。
先日の、布束砥信への告白の一件を。

 あの時もそうだった。あの時もこうして、気付けば一人になってしまっていたのだ。
全力で頭を下げ、「先っちょだけ!先っちょだけ!」と懇願する一方通行に対し、
布束は「寿命中断(クリティカル)!!」と一言叫ぶと、まるでゴミでも見る様な目で彼を見下し
一方通行が思いの全てをぶつける前にさっさと何処かへと消えてしまったのだった。



(……研究所に帰るか……そンでやっぱ樹形図の設計者使わせてもらえるように申請しよう……)

 そんな事を考えつつ、ベンチから立ち上がろうとした一方通行の視界の端に、あるモノが映る。

(!?)

 いつの間にか、彼の隣に一人の男が座っていた。いつ現れたのか、或いは最初からそこに存在したのか、
第一位、一方通行ともあろう者が、思考の沼に沈んでいたとは言え、全くその存在に気付かなかったのだ。

「どうしたよ、そんなに驚いて……まさか今まで気付いてなかったのか?」

 驚愕した表情の一方通行を満足気な様子で眺めると、その男は癇に障る笑みを浮かべながら
大袈裟な仕草でベンチから立ち上がり、一方通行の正面に立ちはだかった。


「なンか用か?悪ィが俺はオマエみたいなチンピラホストもどきを相手にしてる程暇じゃねェンだよ」

「フン、何十分もベンチでのんびりしてやがったクセによく言うぜ。なぁ、第一位?」

「……どォして俺を知ってる?」

 軽薄そうに笑う目の前の、チンピラとホストを足して二で割ったような風貌の男に突如名前を呼ばれ、
一方通行は敵意の篭った眼で男を睨みつける。

 童貞とは言え、一方通行は第一位の能力者であり、学園都市の薄暗い闇を渡り歩いてきた男だ。
その彼の敵意を持った視線に耐え切れる者などそう多くは無く、事実、天井をはじめとする研究者達も、
彼と目を合わせながら会話する事は少ない。

 『射殺す様な視線』まさにそういう表現がピッタリ当てはまる一方通行の一睨みを、
しかし目の前の男は、変わらぬ薄笑いを浮かべながらあっさりと受け流した。


「クク、そう睨むなよ、くすぐってぇだろ」

「質問に答えろよ三下野郎、テメエは、何者だ?」


「自己紹介をご希望か?……ククク、ハジメマシテ第一位」

「……」

 その顔に笑みを貼り付けたまま、男は気取った仕草で胸の前に右手を運び、
まるで英国紳士のような一礼をする。それは本来、礼を尽くす形式のモノのはずだが、
今この場においては、一方通行を小馬鹿にしているようにしか見えず、
事実、そのような効果を狙ってのモノだろう。


「……第二位、垣根帝督だ」

「!?」


 『第二位、垣根帝督』目の前の男の発した言葉に、一方通行は少なからず動揺する。
自分を第一位だと知りながらこのような態度を取る相手だ、只者でない事はわかっていた。
しかしそれでも、これ程の大物が目の前に現れるというのは流石に予想の外である。
気取られぬよう動揺を押し殺す一方通行だが、そんな行動も見透かされているらしく、
目の前の男、垣根帝督は肩を震わせクスクスと笑った。


「意外と小心なんだな、えぇ?第一位よぉ」

「チッ、その第二位の『格下』野郎が第一位の俺に何の用だ?」

「……なるほど、実際に喋ってみると良く分かる。大したムカつきっぷりだなテメエは」

 一方通行の挑発にようやく笑みを消し、少しばかり気分を害したという表情で垣根は答える。
もっとも、その表情は『怒った』というよりは、下らない挑発をしてきた一方通行に対して
『呆れた』という色合いの強いモノではあったが。


「何の用か、と聞いたな?心配すんな、別に殺し合いに来たわけじゃねえよ」

 ふぅ、と溜息を一つ吐き、垣根は一方通行の質問に対する回答を始める。
ようやく本題に入ったということだろう。

「ふン、自殺志願ってわけじゃねェのか」

「下らねぇな、テメエは一々そうやって虚勢を張って挑発してねえと生きてられねえのか?
殺し合いをする気はねえ、とは言ってもどうなるかはテメエの態度次第なんだぞ?」

「……さっさと用件を話せよ、オマエを殺すかどォかはそれまで保留しといてやる」

「ハッ、何の事ぁねえ、俺はテメエを探りに来ただけさ」

「探り、だァ?」


「そう、テメエがどうして『絶対能力進化』を開始しねえのか、その理由をな」

「……」

 ようやく、垣根が自分に接触してきた理由がはっきりする。
だが考えてみればそんなもの最初から分かりきっていた事だ。

 学園都市にはレベル5に区分されている能力者が七人いる。人口230万の中で、たったの七人。
しかし、第一位と第二位はそれ以下の序列の能力者とは、また別格の存在なのだ。
第二位、垣根帝督は唯一、第一位、一方通行に取って代わる可能性のある『スペア』とも呼ぶべき存在だ。

 『メイン』である一方通行が『絶対能力者』への道を自ら閉ざすというのなら、
『スペア』である垣根帝督が、その役割を果たす為に、第一位に取って代わろうというのも当然の事である。
垣根は『絶対能力進化』を開始しない一方通行の真意を確かめる為に現れ、
その理由次第ではあらゆる手段を用いて『メイン』の座を奪おうとしているのだろう。

「なるほどなァ、そンなに第一位の座が欲しいか?絶対能力者になりてェか?」

「当然だろう、俺には力が必要なんだよ。絶対の力がな」


「どうして『絶対能力進化』を開始しねェのか、か……
ハッ、簡単なこった、今の俺には『絶対能力者』になれねェ理由がある。
そしてそれは『絶対能力進化』の過程で解消されるモンじゃねェ」

「理由、だと?そいつは何だ?」

「いいか、第二位、その理由はな……」

「……」







「俺が、童貞だからだ」







垣根「……はい?」

一方通行「俺が童貞だから『絶対能力進化』が開始されねェンだよ」

垣根「いやいや、え?何で?」

一方通行「童貞だからだつってンだろ!何度も言わせるンじゃねェよ三下野郎がァ!!」

垣根「意味がわかんねえつってんだよこのクソ野郎が!!」

一方通行「童貞じゃ『絶対能力者』になれねェンだよ!察せよ!!」


垣根「……え?童貞じゃダメなの?」

一方通行「あァ、ダメだ。もォダメダメだ、どンだけやっても欠片も能力は進化しねェ」

垣根「嘘ぉ、マジでぇ……」

一方通行「……」

垣根「……」



一方通行「……あ、ひょっとしてオマエも童貞か?」

垣根「……うん」

一方通行「そンなチャラい外見なのに?」

垣根「うるせえ!見た目で判断してんじゃねえぞ!!ずっと暗部にいた俺に浮ついた話なんてあるかよ!!」

一方通行「だよなァ、俺もだ……」ハァ


垣根「いや、だが待てよ、要は童貞捨てりゃいいだけだろ?それなら簡単だ、その辺の女に声かけて……」

一方通行「あーダメだ、それじゃダメなンだよ」

垣根「何でだよ?」

一方通行「ただ童貞捨てるだけじゃなくてだな、誰からも羨まれるよォな運命的なモノを感じる女性と
      幸福に結ばれねェと条件満たした事にならねェンだよ」

垣根「何だその限定的な条件!?流石にそりゃねえだろ!!」

一方通行「マジマジ、第一位嘘つかねェ」



※今第一位が嘘をつきました。



垣根「えぇー……そんな相手そうそう見つかるもんじゃねえだろ……」

一方通行「だろォ?だから俺も困ってンだよ……」


垣根「運命の相手、なぁ………あーダメだ、少なくとも身近にゃいねえわ」

一方通行「俺の方は一応いるにはいるンだが……」

垣根「何だいるのかよ、じゃあもう実験開始はすぐじゃねえかクソ」

一方通行「既に二千回くらい振られてる」

垣根「それはもはや運命の相手じゃねえだろ!?」

一方通行「そォだよなァ……やっぱこォして当ても無く探すしかねェのか」ハァ

垣根「あぁ、テメエ日向ぼっこしてたんじゃなくて女漁りしてやがったのか」

一方通行「女漁りなンてゲスな言い方やめてもらえますゥ?赤い糸辿ってただけですからァ」


垣根「で、その赤い糸とやらを辿った成果は?」

一方通行「0だよ……」

垣根「ひゃはは!第一位つっても所詮はそんなもんか!」

一方通行「おォ?笑ってンじゃねェぞコラ、オマエも探してみやがれ、絶対見つからねェから」

垣根「あ?じゃあ俺が先に運命の相手見つけて幸せな童貞喪失味わったらどうするよ?
   テメエは第一位の座を明け渡してくれんのか?」

一方通行「あァ構わねェよ」

垣根「即答!?いや、そんな軽くていいの!?」


一方通行「いいも何も、童貞捨てたらその時点で能力が進化すンだよ、つまりオマエは俺を超える」

垣根「なんだそれ初耳だぞおい……」

一方通行「考えても見ろよ、『絶対能力進化』よりも脱童貞の方が明らかに難易度高ェだろ
      その最高難易度の試練を突破すりゃ自ずと能力も進化するってモンだ」


垣根「俺『絶対能力進化』の内容知らねえんだけど」

一方通行「ゴミみてェな能力のクローンを二万体通りの方法で虐殺だとよ」

垣根「マジかよ朝飯前じゃねえか、それなら確かに運命の人探す方が難易度たけえな……」

一方通行「だろ?」


垣根「……よしわかった、俺は脱童貞する。そしてテメエを超える。そうと決まりゃゆっくりなんてしてられねえ」


一方通行「あァ、ちょい待て第二位」

垣根「あ?何だよ、今更やっぱ第一位の座は渡さねえってのは無しだぞ」

一方通行「折角だから携帯の番号交換しとこォぜ?」

垣根「はぁ?何でそんな事……いや、そういう事か、オーケー交換しといてやる」

一方通行「ハッ、話が早くて助かるぜ第二位」


垣根「フン、一人で闇雲に探しても見つかるわけねぇからな
   近況報告と情報交換……二人で探せば手間は半分になるってわけだ」

一方通行「相手の方が先に運命の人を見つけるかもってリスクも倍になっちまうけどなァ」

垣根「その程度のリスク、享受してやるさ。それよりも俺は一刻も早く力が欲しいんでな」

一方通行「ギブアンドテイク、お互い良い関係を続けていこうぜェ?」

垣根「あぁ、どっちかが童貞捨てるその時までは、な」

一方通行「うし、登録完了。よろしくなァ、『垣根』くン?」

垣根「こちらこそ、よろしく頼むぜ『一方通行』」


一方通行(ケケケ、こいつチャラ男っぽいからなァ、多分交友関係広いだろ
      こっちの情報は小出しに、それっぽい嘘を交えながら渡してやる
      精々利用させてもらうぜェ、第二位!)

垣根(先行していた分今はあっちの方が情報量で優位に立ってやがる
   癪だが、ここは一旦友好的に接してこいつの持っている情報を抜き出すのが専決だ
   『運命の相手を探す為のノウハウ』それさえ学べば用済みだぜ、第一位!)



一方通行「……」ニコッ

垣根「……」ニカッ


一方通行「じゃァ俺はぼちぼち研究所に戻る時間だから」

垣根「おう、俺もそろそろ行くわ……何かいいネタが手に入ったら連絡しろよ?」

一方通行「オマエの方こそなァ」



 馬鹿が、二人に増えました。


 激闘の末、第二位、垣根帝督を辛くも退け、同盟を結ぶに至った一方通行!
彼らの未来はどっちだ!?彼ら二人は運命の相手を見つけ、脱童貞を果たす事が出来るのか!?
頑張れ一方通行!負けるな垣根帝督!お前らの未来は真っ暗だ!

ちょい短めだけどこの辺で

結局こんな役だよ垣根ええええ!!!

ちっす、明日明後日と急がしそうだから今の内に投下に来たぜ
何だか一方さんと垣根くんがドンドン馬鹿になっていったが気にしねえ!


「それで、今日でどのくらいになる?」

「ちょうど二週間、かしら」

「もうそんなになるのか……」

「ええ、そんなになるのよ」



「一方通行が引き篭もってから……」



「いったい何があったのでしょうね?とミサカは首を傾げます」

「心配ですよね、実験の為にも早くよくなって欲しいのですが……とミサカは一方通行の逸早い快気を願います」


「お前らのせいだよ白々しい!!」



 天井と芳川はその日、研究所の一室で向かい合うように座り、心に重大な傷を負い
研究所の一室に引き篭もってしまった一方通行の事を話し合っていた。
そしてそんな二人を取り囲むように、特徴的な喋り方をする複数の同じ顔をした少女達が無表情で立っている。
彼女達こそ『妹達』(シスターズ)と呼ばれる、『絶対能力進化』の要とも言うべき存在だ。
色んな意味で。


「はて、ミサカ達がいったい何をしたというのでしょう?とミサカは再び首を傾げます」

「ミサカ達のした事と言えば、全ての妹達にアプローチをかけようとしていた外道な一方通行を
こっぴどく振ったことくらいですが……とミサカは自分達に非がない事をアピールします」


「こっぴどく、とか言ってるじゃねえか!もっとオブラートに包んだ振り方しろよ!!」

 白々しくトボける妹達に対し天井は更に声を張り上げ反論する。実際問題として、
一方通行が引き篭もったその原因の9割9分9厘が彼女達の言動にあることは間違いない。
彼が告白を開始してからおよそ二ヶ月、その人数は既に五桁に達していた。

 実験の為に用意されたクローン体である妹達は、造られた直後は完全な無個性であった。
二万人いる妹達の誰に何をしようと、二万人が皆同じ反応を返すだろう、という程に。
しかし学園都市の闇は、彼女達をそんな無垢で無個性で純粋な少女のままでは置いてくれなかったのだ。


 実験用クローンであるが故に周囲から向けられる無遠慮な悪意は、MNWによる意識共有と情報伝達を通じ、
通常の人間が受けるそれの何倍、何百倍、何万倍もの速度で彼女達の中に積もっていった。
その結果が、これである。

 降り積もった悪意により一部の妹達の人格は酷く歪んでしまい、その一部の妹達に引っ張られるようにして
他の妹達も徐々にではあるが歪み始めているのだ。そこに飛び込んできた一方通行という餌は、
彼女達の歪みを一気に加速させてしまう。
『一方通行に辛辣な態度を取った』というのは今や妹達にとってステータスとなっていたのだ。


「とにかく、このままじゃ良くないわ。トイレ以外部屋から一切出ないんだもの」

「食事も、部屋の前まで運ばなかったら一切取らないからな……」

「まったく、手のかかる子ですね、とミサカは溜息を吐きます」

「手のかかる子ほど可愛い、と言う事象は幼児にしか当てはまらないというのに……
とミサカは未だに幼子のように駄々をこねる一方通行に辟易します」

「もう黙れよお前ら!?」

 クスクスと笑いながら大袈裟なジェスチャーを取る妹達に天井は全力のつっこみを入れる。
彼はわかっていなかった。そんな反応こそまさに妹達が望んでいるモノであり、
歪みを加速させていく一旦を担っていると言う事を。
ようするにこのクローンども、他人をからかって遊んでいるのだ。


「そうだ芳川、今傷心の一方通行を慰めればポイント稼げるんじゃないか?」

「馬鹿にしないで」

「……そうか、そうだな、悪かった。相手の弱みに付け込むような真似は……」

「既にやってみたけど心を開いてくれなかったのよ!!」

「やったのかよ!!そしてダメだったのかよ!!!」


「行き遅れってかわいそうですね、とミサカは声を殺して笑います」クスクス

「笑ってはいけませんよ、理系女は大変なんですから、
とミサカは一方通行に告白された事に優越感を覚えながら芳川桔梗を慰めます」フフフ


「すっげぇムカつくわねこいつら」ピキピキ

「何がどうしてこんなになったんだ……」ハァ


「モルモット扱いされ続ければ心も腐ります、とミサカは根本的な原因があなた方にある事を指摘します」

「あ、そのセリフ劇場版ガンダム00で使われたセリフだろ!このミサカが言いたかったのに!
とミサカはかっこいいセリフを横取りされた事に苛立ちを……」


「だから本当に黙ってくれお前ら……」


 弱弱しく首を振り、天井は頭を抱えがっくりと項垂れる。
なんとか一方通行を部屋から引きずり出す為の方法を考えようとしているのだが、
妹達に茶々を入れられ、一向に議論が進まない。というか芳川もあまり乗り気でない。
まともに考えているのは天井ただ一人である。

「そもそも何でお前らがここにいる?」

 ふと思い至り、今更、本当に今更な質問を妹達に投げかける。
そうだ、妹達など交えて議論しても話がこじれるだけに決まっている。
あまりにも自然に部屋に入ってきて会話に参加し始めた為今まで気付かなかったが、
どうして声をかけてもいないはずの妹達がここにいるのだろうか。


「え、今更それ聞くの?遅くね?とミサカは天井亜雄の頭の回転の遅さを心配します」

(うざすぎるだろこいつら……)

「まぁ正直に言うと芳川桔梗に呼ばれたからですが、とミサカは事実をありのままに伝えます」

「芳川ぁぁぁぁ!!!何余計な事してんだお前えぇぇぇぇ!!!」

「うるさいわね、この子達を間近で観察すれば、一方通行が何故私ではなく
この子達に惹かれているのかわかるかも、と思ったのよ」


「ぶっちゃけ年齢だろ、とミサカは簡潔に回答します」

「認めないわよそんなこと!!」

「年齢以外にも顔、性格、スタイル、etc、etc……とミサカは……」

「性格とスタイルに関しては少なくとも負けてないわよ!!」


ギャーギャーギャー



「……なぁ、頼むからそろそろ話を進めさせてくれ」


「進めればいいじゃないですか、一人で勝手に、とミサカは議論に参加する気など更々ない事をぶっちゃけます」

「そうね、私もちょっとこの小娘どもに大人の怖さを教えなくちゃならないから
悪いけど一人で考えててくれない?」


「……そうか、よしわかった。なら独断で決めさせてもらう」

「え?」


「妹達、お前らで一方通行を外に引っ張り出して来い。一方通行が引き篭もってる間はお前ら全員飯抜きだ!!」

「な、なんですと!?とミサカはあまりに非道な案に愕然とします」

「ミサカ達に餓死しろと言うのですか!?とミサカは難易度の高すぎるミッションに慄きます」



「餓死がイヤなら一方通行を引きずり出して来い!元々お前たちが撒いた種だろう!!」

「そ、そんなぁ、とミサカは……」

 妹達は必死に食い下がろうとするが、天井は「これ以上言う事はない」と言わんばかりの態度で
妹達の事を振り返りもせずに部屋から出て行ってしまう。このままでは本当に飯抜きになってしまうだろう。
こうして、妹達による一方通行更生大作戦が開始されることとなった。


―――――――――――――――

―――――――――

――――



―MNW内―


(やっべーよマジどうすんの?とミサカ00001号は周囲に意見を求めます)

(ぶっちゃけ無理だろ……一方通行更生させる計画練るより食料盗む算段した方が賢いって
とミサカ00432号は考える事を放棄します)

(「お前たちの撒いた種だ」とか言われましたけど、
そもそも元を辿ればトチ狂った一方通行がミサカ達に告白し始めたのが原因なわけで……
とミサカ10000号は自分達に非が無い事をアピールします)

(ここでアピールしても仕方ないだろ、とミサカ10032号は溜息交じりに答えます)


(つーかお前ら何巻き込んでんの?まだ一方通行から告白受けてない妹達も多いんだぞ?
とミサカ16944号はトバッチリを受けた事に憤慨します)

(そうそう、お前らの責任なんだからお前らで解決しろよ……
とミサカ18792号は不貞寝しながら責任を押し付けます)

(この速さなら言える、正直告白された時結構ときめきました、
皆さんのサポートが無かったらOKしちゃってたかもしれません、
とミサカ08251号は頬を染めながら当時の心境を赤裸々に語ってみます)

(かわい子ぶってんじゃねえよこのぶりっ子が、お前なんか脳味噌破壊されてアホの子になっちまえ!
とミサカ19887号は舌打ちします)



(てか結局一方通行は何号まで告白したんだっけ?もうトドメ刺した奴に責任全部押し付けちゃおうぜ
とミサカ10772号は最良と思われる意見を出します)

(あ、それいいな、賛成!とミサカ00871号は10772号の意見に賛同します)


(この流れなら言える、俺がガンダムだ!とミサカ13577号はさり気なくガンダム布教を……)

(おーい誰か13577号のガンプラぶっ壊しに行こうぜー、
とミサカ00002号は野球でもするかのようなノリで皆を誘ってみます)

(やめろよぉ!とミサカ13577号は半泣きで00002号を引きとめます)


(いやちょっとお前ら五月蝿いんですけど睡眠の邪魔しないでいただけます?
とミサカ11111号は寝起きの不機嫌な態度を隠そうともせず会話に参加します)

(あ、元凶だ、元凶が来たぞ、とミサカ11110号は11111号を指差します)

(はい?元凶って何がよ?とミサカ11111号は目をぱちくりさせながら尋ねます)



(カクカクミサミサ、という事です、とミサカ19090号は投げやりな説明をします)

(なるほど、つまり一方通行にトドメを刺したのはこのミサカなので
責任もって部屋から引きずり出して来い、と言う事ですか
とミサカ11111号はここまでの流れを簡潔にまとめてみます)

(はい、お願いします11111号、このままでは皆餓死してしまいます
とミサカ10442号は土下座する勢いで頭を下げます)


(要は部屋から出せばいいんですよね?わざわざ正攻法でやらなくても部屋ごと爆破でもすりゃいいんじゃね?
とミサカ11111号は最も楽な方法を提示してみます)


(ちょ、天才現る!とミサカ00008号は11111号の発想力に脱帽します)

(よっしゃそれで行こうぜ!部屋ごとふっ飛ばして引き篭もり卒業させてやろうぜ!
とミサカ18791号はノリノリで準備を始めます)

(よーしそれじゃみんな30分後に一方通行の部屋の前に集合な!
とミサカ16554号は重火器片手に微笑みます)


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―――――――――

――――



―研究所の一室、一方通行が引き篭もってる部屋


一方通行「……」カチャカチャ ←PCいじってる

一方通行「……」カチッカチッ

一方通行「……」ッターン



一方通行「クラナド、マジで人生だなコイツは……ン?」



『Teitokuさんからメッセージが届きました』



Teitoku:おい

Teitoku:おいこら

Accela:なンだよ

Teitoku:なんだよ、じゃねえだろ

Accela:あ?

Teitoku:まだ引き篭もってんのかオマエ

Accela:はい

Teitoku:はいじゃないが

Accela:何が……

Teitoku:情報交換出来ねえだろ、オマエが引き篭もってちゃ

Accela:あー……

Teitoku:何の為に携帯番号交換したんだよ


Accela:ごめン

Teitoku:謝んなくてもいいけどよ

Accela:サーセン

Teitoku:いいから外出ろし

Accela:無理

Teitoku:学園都市の第一位が……

Accela:だってよォ、11111回も振られたら心折れるだろ……

Teitoku:そこまで折れなかっただけでもすげえけどな

Accela:だろ?

Teitoku:うぜえ

Accela:正直あンな振られ方したら外出れなくなるって

Teitoku:何度も聞いたわ、いいから出ろ

Accela:無理、時間くれ

Teitoku:もう二週間だぞ

Accela:まだ二週間だ



Teitoku:……別にいいけどよ

Accela:悪ィな

Teitoku:ただな、

Accela:ン?

Teitoku:クラナド返せ

Accela:えェー……

Teitoku:もう全ルートやっただろ

Accela:だって何度やっても面白ェし……

Teitoku:だから俺もやりてえんだよ、返せ

Accela:待って

Teitoku:あぁ?

Accela:今クラナド返したら俺死ぬ

Teitoku:どんだけだよ


Accela:マジで、クラナドだけが心の支えなンだよ

Teitoku:オマエ症状悪化してね?何かあった?

Accela:あった

Teitoku:あったのかよ

Accela:前に話した芳川なンだけどよ

Teitoku:あぁ、年増の研究員だっけ?

Accela:襲われた

Teitoku:は?

Accela:襲われた

Teitoku:誰が?

Accela:俺が

Teitoku:誰に?

Accela:芳川に


Teitoku:いやいや、反射あるだろオマエ

Accela:反射切ってた

Teitoku:意味わからん

Accela:「その反射の膜は運命の赤い糸まで反射してしまっている」

Accela:とか言われてさ

Teitoku:うん

Accela:じゃあ試しにって事で切ってみたら次の瞬間組み伏せられてた

Teitoku:行き遅れ女マジ怖ぇ

Accela:やべェ、獣の目ェしてたわアレ

Teitoku:無事なのか?

Accela:おォ、童貞は守った

Teitoku:そいつはよかったな……いやよかったのか?


Accela:流石に一回り近く歳離れてる相手は……

Teitoku:30くらいまでならいけるけどなぁ、俺

Accela:半端ねェなオマエ

Teitoku:常識が通用しねえからな

Accela:今ドヤ顔してるだろオマエ

Teitoku:わかるか

Accela:余裕で想像できる

Teitoku:仕方ねェからクラナドもうちょい貸しててやるよ

Accela:サンキュ

Teitoku:そん代わりさっさと出て来いよ?

Accela:頑張るわ


Accela:あ

Teitoku:ん?

Accela:あとあれ貸してくれ、ラブプラス

Teitoku:ふざけんな

Accela:頼む

Teitoku:いや、そればっかりは無理だわ

Accela:何で

Teitoku:あれマジで俺の彼女だし

Accela:は?

Teitoku:二次元と三次元の境が曖昧になるくらいやべえ

Accela:なンだそりゃ

Teitoku:正直童貞は寧々さんに捧げたい


Accela:そンなすげェの?

Teitoku:他のギャルゲーとは一線を画すな

Accela:すげェやりたくなってきた

Teitoku:買えよ

Accela:外出れない

Teitoku:通販とか

Accela:多分研究所の連中に検閲される

Teitoku:あー……

Accela:詰ンでるンだよ……

Teitoku:仕方ねぇな

Accela:え?

Teitoku:今度買って持って行ってやるよ

Accela:マジ?いいの?


Teitoku:金は払えよ?

Accela:払う払う、いくらでも出すわ

Teitoku:いや定価でいいから

Accela:垣根くンマジで良い奴だな

Teitoku:今頃気付いたか?

Accela:ギャルゲーの親友ポジション付けるわオマエ

Teitoku:おいそれモテない三枚目コース一直線じゃねえか

Accela:最大限の賛辞だったンだが

Teitoku:……アリガトヨ


Accela:あ

Teitoku:ん?

Accela:やばい

Teitoku:は?

Accela:やばいやばいやばい

Teitoku:落ち着け

Accela:何かすげェドア叩かれてる

Teitoku:マジか

Accela:マジ、怖い

Accela:本気で俺の事外に連れ出そうとしてるっぽい

Teitoku:いや出ろよ


Accela:無理、助けて

Teitoku:俺今から仕事なんで……

Accela:裏切り者め

Teitoku:別に何も裏切っちゃいねえだろ

Accela:覚えてろ

Accela:オマエのツイッターのアカウントハッキングして

Accela:「童貞なう」って呟きまくってやる

Teitoku:おいやめろ、地味にダメージでけえ

Accela:つーかやばい、マジやばい

Accela:あ


Teitoku:おい

Teitoku:一方通行?

Teitoku:おーい


『Accelaさんがログアウトしました』


Teitoku:……

Teitoku:ご冥福をお祈りします



―――――――――――――――

―――――――――

――――



「俺のPCがァァァァ!!!」

「いやお前のじゃねえだろ、研究所の備品だろ、とミサカ一同は呆れ顔でつっこみを入れます」

 瓦礫の山となった、もはや部屋とも呼べないその部屋で、一方通行は頭を抱え叫び声を上げていた。
収集した画像や動画、ゲーム、全てが灰になってしまったのだ。
そしてそれをやった張本人である無数の妹達が、彼の背後に呆れ果てた顔で佇んでいた。

「なンてことしやがる!垣根に借りてたモンも含まれてたンだぞ!?」


「知らんがな、自業自得だろ、とミサカは自分達に非がない事をアピールします」

「つーかこれで部屋から出したことになるだろ、ミッションコンプリートだよな?
とミサカは任務が無事終了した事を確認します」

「ですね、天井(てんじょう)も壁も吹き飛びました、もはや部屋とは呼べないでしょう
つまりこれで一方通行は引き篭もりではなくなったわけです、とミサカは結果に満足しながら頷きます」

「行こ行こ、天井亜雄に報告して食事をもらいましょう、とミサカは先導します」

「はーいお疲れー、とミサカは皆を労いながら後に続きます」


 勝手な事を思い思いに喋りながら、妹達は次々と、一方通行に声すらかけずに去って行く。
全てを灰にされ脱力していた一方通行は、黙ってそれを見送るしかなかった。


「どォしてこンなことに……」

「あ、あの一方通行……?」

「あァ!?」

 蹲り、涙を流す一方通行に、最後まで残っていた妹達の一人がおずおずと声をかける。
ようやくふつふつと怒りが湧き始めていた一方通行は、ドスを効かせた声を張り上げながら
思い切り彼女を睨みつけ、まるで脅すかのように近くにあった大き目の破片を殴りつけ、粉々に砕いた。

「あまり気を落とさないで下さい、とミサカは震えながら語りかけます」

「落とすなっつー方が無理だろ!全部なくなっちまったンだぞ!?」

「二次元世界との繋がりはなくなってしまいましたが、あなたにはまだ現実があるじゃないですか、
とミサカは手を広げ三次元世界の広大さを示します」

「……現実は皆俺に冷てェンだよ、結局俺が童貞捨てるのなンて無理なンだ………」


「そんなことありません!とミサカは一方通行の言葉を否定します!」

「え?」

「このミサカはあなたの味方ですから!あなたを傷つけたりしませんから!とミサカは!!」

「お、おォ?」


「……な、何言ってるんだろ、ごめんなさい忘れてください!とミサカは顔を赤くして走り去ります」

「お、おい!!……行っちまった」

 顔を覆いながら逃げていった個体の後を、一方通行はしばし呆然と見つめる。
その表情からは自然と笑みが零れている。既に怒りは無い、悲しみも喪失感も無い、
彼の胸には新たな希望がサンサンと輝いていた。

「……検体番号聞きそびれたが、今のはどう見ても脈ありだよなァ!?」

 彼の瞳に、再び光が宿る。

「引き篭もってる場合じゃねェよなァ、明日から妹達への告白再開だ!今の個体に巡り合う為にも!!」

 拳を天に突き上げ、勝利を誓う。その拳から放たれた衝撃波が上空の雲を散らすと、
まるで祝福するかのように、眩い太陽の光が彼を照らす。

「やるぜェ……やってみせる!!」

 決意を新たに、一方通行は新たな一歩を踏み出した。




「ふぅ、ここまで来ればもう大丈夫ですかね、とミサカは周囲を確認します」

 先程一方通行から逃げ出した個体は、キョロキョロと辺りを見回し、
自分が既に一方通行の視界から外れている事を確認すると、安堵の溜息を吐いた。

「一方通行は……どうやら持ち直したようですね、よかったよかった、とミサカは胸を撫で下ろします」

 遠くから聞こえてくる一方通行の歓喜の雄叫びに耳を傾けると、彼女はうんうんと頷き、ほっと胸を撫で下ろす。


「まったく、アフターケアくらいちゃんとしろよ、また引き篭もられたら意味ないだろうが
とミサカは他の妹達の思慮の浅さに頭を抱えます」

 彼女の検体番号は、11111。一方通行にトドメを刺した張本人であり、
また彼を部屋ごと吹き飛ばす計画を立てた張本人でもある。
そう、彼女はただ「もう一度引き篭もられたら面倒だから」という理由で
彼に希望を持たせ、奮い立たせたのであった。


「うおォォォォ!!!春はすぐそこだぜェェェェ!!!」


「あんなに喜んじゃってまぁ……とミサカはあっさり騙されてくれた単純馬鹿な第一位を嘲笑います」プゲラ

 物陰に隠れ、全身で喜びを表現している一方通行を小馬鹿にするような目で一瞥すると、
11111号は笑いながら引き上げていった。

投下終了

童貞云々関係無しに心底ダメ人間になって行く学園都市のトップ2
正直調子に乗りすぎたと思っている

設定がいたるところで同じだが別のスレの>>1と同一人物なのか?
まぁ、面白いからどっちでもいいか、乙

>>140
別のスレってどれのことだぜ?


あと、11111号さんが外道とか言われてるけどこれでも前に比べたらかなりマシだろ……

あ、うん俺の

でもそんな設定被ってる?今ん所精々始まり方と11111号くらいじゃね?

なんてこった、俺はハムスターだったのか

時間できたから投下するわ、ギャグ分薄め、ほのぼの童貞系



「……」

「……」

「……やっべェここ何処だ?」

 ある日の午後、薄暗い路地裏の一角で一方通行は思いっきり道に迷っていた。
人生と言う道に、とかそういうのではなく、ただ純粋に自分の現在地がわからなくなっているのだ。
いや人生にも迷ってそうだけどこいつ、しかし今はとりあえず普通の意味で迷子になっているだけである。

「研究所の方角どっちだっけェ?この辺普段来ねェからサッパリわかンねェ」

 自慢の学園都市第一位の頭脳で歩いた道順くらいしっかり覚えとけよ、とつっこみたくなるが、
考え事をしながら上の空で歩いていたので仕方が無い。
もっとも、考えていたのは例の様に『運命の人との出会い方』、という非常にどうでもいい事なのだから救えない。
「今日は普段とは違う場所で運命の人を探してみよう」そんなちょっとした思い付きで
いつも歩く道とは別の方向に歩き始めてみたのだが、結果はご覧の有様である。
運命の人が見つからないどころか道に迷う始末、成果はプラスどころかマイナスだ。

「どォすっか……あ、垣根に電話して聞いてみっか」

 困った時の垣根である。



「あァもしもし?垣根かァ?おォ、俺だ」

「うン、いやちょっとさァ、道に迷っちまって」

「あ?違ェよ、人生には迷ってねェよ、俺の人生一方通行だよ」

「そォ、普通に迷ってンだ、所謂迷子なンだよクソが」

「で、ちょっとオマエに道聞きたくてだな」

「は、現在地?ンなモンわかってたら迷ってねェよボケ」

「大まかな場所?いやそれもわかンねェ、周りにも目立つような建物はねェな」

「あァ?『それじゃ案内のしようがない』?……ごもっともです」

「オマエのわけわかンねェ能力でなンとかなンねェ?え、無理?それでも第二位かコラ」

「え?『オマエは第一位だろ』だと?だからなンだ格下」

「ン?おい垣根?垣根!?……あの野郎切りやがった」



 そら切るわ。
とにかく、垣根に電話しても何一つ状況は好転しなかった。
さてどうしたものか、と周囲を見渡しながら次なる一手を思案していたそんな時、
彼の視界の隅に、ふと見慣れた人物の姿が映る。

「お、アイツは……」

 彼のが視線を向けた先にいたのは、常盤台中学の制服に身を包んだ、茶髪でショートカットの少女。
恐らく妹達の一人であろうその人物は一方通行の存在には気付いていないようで、
彼に背を向けのんびりと歩いている。

「丁度いい、アイツに道聞いて……ン?」

 渡りに船だ、と彼女に道を聞くために動き始めた彼だったが、その彼の目の前で、
件の少女はガラの悪い、どう見ても善良な一般市民には見えない男達に絡まれ始めていた。
こんな薄暗く人通りの少ない路地裏を少女がたった一人で歩いているのだから
そうなるのはある意味当然だとも言える。

「あーあ、めンどくせェ事になってやがンなァ」

 少女に絡んでいるのは四人、聞こえてくる声から察するに、
所謂『スキルアウト』と呼ばれる無能力者の集まりだろう。要するにやられ役のゴロツキどもだ。
男達が少女を誘い、少女がそれを断り先に行こうとすると男達が行く手を阻みしつこく誘う、
そんなお約束じみたやり取りを、一方通行はうんざりした表情で観察していた。


(まァアイツら戦闘用に作られたクローンだし一応能力者だし、
無能力者のゴロツキ四人くらい楽勝だろ。終わるまで待っとくか)

 わざわざ割って入るまでも無い、そう判断した彼は近くの壁にもたれかかり、
傍観者を気取ろうとした。しかしそこで、ある事に気付く。


(……待てよ、ここでアイツ助ければ好感度大幅アップじゃね?)

(さりげなく割って入る→かっこよくゴロツキどもを片付ける→優しい言葉をかける→素敵!抱いて!)

(……完璧じゃねェかおい!!よっしゃ行くぜェェェェ!!!)


 山ほどの下心を満載し、一方通行は前方にいる少女とかわいそうな男達の下へ
一直線に駆け出した。



「おいオマエら」

「あ?何だテメエ」

「何か用かよ?」

 一方通行が声をかけると、邪魔をされた男達は一斉に彼の方を振り向き、不機嫌そうに返事をする。
細身のモヤシ体型であり背丈も高い方ではない一方通行の事を一目見ただけで格下だと判断したようで、
数の利もあり、男達はヘラヘラと馬鹿にするような笑みを浮かべながら、威圧するかのように
ふんぞり返ったまま一方通行の方へとにじり寄って行った。

「その女は俺のツレなンだよ、悪ィがナンパなら他当たってくれねェか?」

「はぁ?何言ってんだこのガリガリ野郎」

「女の前でかっこつけてえのか?ひゃははは!無理すんなよガキ!」


「やっぱ口で言ってもわかンねェか……ま、素直に人の言う事聞くよォなお利口さンなら
『スキルアウト』なンてゴミ溜めには足突っ込ンでねェわな」

「あ!?今テメエ何て言った!?」

「あァ?ゴミみてェな無能どもには人間様の言葉は理解できなかったかァ?」

「ふざけやがって……ぶっ殺されてえのか!?」

 一方通行の口から放たれる心底見下したような物言いに男達は色めき立ち、吼え猛る。
そんな彼等のわかりやすい怒り具合に、一方通行はその瞳に嗜虐的な光を宿し、満足気な笑みを浮かべた。
この男、童貞ではあるが基本的にはドSなのだ。最近は妹達に虐げられSっぷりを発揮出来ていなかったので、
ここらで鬱憤を晴らしておこう、とでも考えているのかもしれない。
或いは良い所を見せようと精一杯かっこつけているだけなのかもしれないが……

「そのムカつく口ぶりからすると能力者様なんだろうけどよぉ、状況を見てみろよ」

「どんな能力か知らねえが、わかってんのか?お前囲まれてんだぞ?」

「今なら裸で土下座でもすりゃ許してやってもいいんだぜぇ?」


「ったくうるせェなァ、勝てると思ってンならさっさとかかって来りゃいいだろ
一人じゃ何も出来ねェカスどもが群れて集ってワンワンキャンキャンうざってェンだよ」


「本気で死にてえらしいなあああ!!!」

「構うこたねえ!やっちまえ!!」

 更なる挑発を重ねられ、ついに我慢の限界を迎えた男達は一斉に一方通行に襲い掛かる。
そんな彼等を前に、当の一方通行は『何もしなかった』

 殴る事も蹴る事もしない。男達の攻撃を防ごうともしない。身構えることすらしない。
にも関わらず、次の瞬間、地面に寝転がっていたのは男達の方だった。
ご存知、一方通行を『最強』たらしめているモノの一つ、反射の膜である。
男達は自分達の行った攻撃をそっくりそのまま反射され、昏倒してしまったのだ。



「一丁上がりってなァ ……おいオマエ、大丈夫だったか?ったく何絡まれてンだよ」

「……あんた、誰?」

「は?何言ってンだ?何号か知らねェけどそういう冗談はマジでへこむからやめろよ」

「いや、私あんたみたいな知り合いいないんだけど」

「……え?」

 ぽかんとした表情で事の成り行きを見ていた少女に声をかけた一方通行だったが、
今度は彼の方がぽかんとさせられてしまう。目の前の少女はどうやら彼の事を知らないらしい。
これは一体どういうことなのだろうか。妹達はただ絶対能力進化の為に存在しているのであり、
その被験者である一方通行の事を知らないなどと言う事は有り得ないはずである。

「て言うかやりすぎでしょこれ……何したのよ?」

「え、えェー……」

 一方通行の背中に、じんわりと冷たい汗が流れる。
目の前の少女は、妹達と瓜二つの容姿をしながら自分の事を知らない少女は、もしや……


「あのォ、もしかして御坂美琴さンですかァ……?」

「……そうだけど?」

「学園都市のレベル5第三位、通称超電磁砲の御坂美琴さン?」

「他に御坂美琴がいるってんなら教えて欲しいわね」

「……」

「……何よ」

 確かに、よく見れば妹達が常に装着している巨大なゴーグルを目の前の少女は着けていないし、
目にもちゃんとハイライトが入っている。妙な語尾の付いた鬱陶しい喋り方もしていない。
目の前の少女は妹達のクローン元、御坂美琴に間違いないようだ。


(……やっべェェェェェ!!!これ超やべェンじゃねェかァァァ!?)

 顔には出さないように精一杯努めながら、一方通行は密かに、しかし盛大に狼狽した。
御坂美琴は一方通行や垣根帝督とは違い、血生臭い裏の世界とは無縁の、表の世界の住人である。

 当然、彼女は己がかつて登録したDNAマップから自分のクローンが作られていることなど知らないし、
ましてそのクローンを利用した絶対能力進化の事など知っていようはずもない。
そんな彼女と、彼女の遺伝子を悪用した実験を持ちかけられている一方通行が関わって良いはずがないのだ。
そのくらいの分別は流石の童貞にも存在する。


(……出会い方としちゃ悪くはねェよな、十分運命的だろ)

(レベル5の第三位、素性も完璧だ。何より本人は知らねェが深いところで絶対能力進化と関わってる)

(上辺だけ見れば俺の運命の相手としてコイツほど相応しいヤツは他にいねェかも知れねェ……)


(だが、コイツはダメだ!コイツだけはダメだ!!いくら運命感じでもダメなモンはダメだ!!)

(コイツが妹達の事や絶対能力進化の事知ったらすっげェややこしい事になるのは目に見えてる!)

(つーかそれ以前にコイツアレだ、多分面倒な女だ、エヴァで例えるとアスカだ、正直好みじゃねェ、俺は綾波派だ)

(ちょっと勿体ねェがここは……誤魔化して逃げる!!)


「ちょっと、聞いてんの?」

「ン、あァすいませン、人違いでした」

「え、いや何が?」

「いやァホントすいませン、ご迷惑をお掛けしましたァ」

「何言って……」

「それじゃこれで失礼しますゥ、お達者でェ」

「ちょ、待ちなさいよ!!」

「な、なンですかどいてください、人違いだったンです」

「何が人違いなのよ!?分かるように説明しなさい!!そもそもあんた何者よ!?」

「獲物取っちゃったのは謝りますから帰してもらえませンかァ」

「え、獲物って、私が狩りしてたみたいな言い方しないでよ!?」

「違うンですか?流行の無能力者狩りとかじゃ……」

「流行ってないでしょそんなもん!!」

(あーめンどくせェ、こォなりゃ実力行使で……)


「そこまでです!!とミサカは不穏な動きをしている一方通行を制止します」

「スモーク発射!とミサカは一方通行が油断している隙に発煙弾を撃ち込みます」

「な!?」

 突如響いてきた二つの声の方を慌てて向き直った一方通行の視界に、
今度こそ、間違いなく、妹達と呼ばれる存在の姿が二人分飛び込んできた。
幸い、御坂はまだ彼女達の姿を確認できていないようだが、時間の問題だろう。
もし妹達の姿を彼女に見られてしまったらどうなるか、考えただけでも面倒臭い。

 急いで何とかしなければ、と脳味噌をフル回転させようとした一方通行だったが、
彼があらゆる行動を取るその前に、妹達の一人が放った発煙弾が彼の足元に着弾し、
周囲に濃い煙幕を張り巡らせた。


バシュゥゥゥゥゥゥ!!

「うおォ!?」

「な、何よこれぇ!?」


 一方通行を中心に、真っ白い煙が広がっていく。当然彼のすぐ側にいた御坂も巻き込まれ、
突然の事に狼狽し、大声を上げた。


「今です09982号!!一方通行に絡まれていた個体を助け出すのです!
とミサカは二発目の発煙弾をセットしながら隣の09982号に指示を出します」

「心得ておりますとも!とミサカは10032号に返事をしながら
ゴーグルのサーモグラフィーを頼りに煙幕の中に突進します」


(ちっくしょォォォォ!あの馬鹿ども何か誤解してやがンなァァァァ!!)

「ケホッケホッ、ちょっと何なのよこれ!?」

「大丈夫ですか?とミサカは咳き込んでいる個体に声をかけます」

「え、何?誰?」

「何もされませんでしたか?あなたの検体番号は?とミサカは尋ねます」

「ちょっと、え?何言ってんの?」

「混乱しているようですね、一先ずここから離れましょうか、とミサカはかわいそうな個体に優しく語り掛けます」


「お、おい待て!そいつ連れて行くとやべェンだよ!!」

「誰が待つものですか!さ、早く逃げますよ、とミサカは……」

 視界を塞がれ、混乱を極めている御坂を煙幕の外へ連れ出そうと09982号が彼女の手を取ったその時、
突如不自然に強い風が辺りに吹き始める。強い風はやがて爆風と呼べるほどの勢いとなり、
周囲を覆っていた煙幕を全てからめとると、天高く巻き上がってそれを雲散させていった。
一方通行が風を操ったのである。

「へ?あ!?」

「なんと、もう対応してくるとは!とミサカは一方通行の演算力に驚愕します」

「く、もう一発!とミサカは発煙弾の照準を……」

「いいからオマエら顔隠してさっさと失せろォォォ!!!」

「な、何を言っているのですか?とミサカは狼狽しながら首を傾げます」


「オマエらが妹達と勘違いして連れて行こうとしてるそいつは……」


「な、何よこれ……」



「オリジナルだァァァァ!!!」

「わ、私がいるうううう!!?」

 人通りのない路地裏に、学園都市の第一位と第三位の大声が、ほぼ同時に鳴り響いた。


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―人気の無い公園


御坂「で、そろそろ話聞かせてもらえない?」


09982号「……」

10032号「……」

一方通行「……(どォしてこうなった)」


御坂「いつまで黙ってるつもりなのよ」


10032号(やっべーよこれどうなってんだよ、お前何でお姉様に絡んでたんだよ
      とミサカは小声で呟きながら一方通行を横目で睨みます)

一方通行(間違えたンだよクソ、誤魔化して逃げようとしてたのにオマエらが余計な事すっから……)

09982号(責任転嫁しないでください、そもそもあなたが存在しなければ起こらなかった事態です
      とミサカは小声で一方通行の非を指摘します)

一方通行(存在全否定!?)


御坂「ちょっと!ブツブツ言ってないでいい加減ちゃんと答えなさいよ!!」

一方通行「あのとりあえず俺関係ないンで帰ってもいいですかァ?」

御坂「ふざけてんの!?明らかに知り合いみたいな口ぶりだったじゃない!!
   それに『人違いだった』って、私とこの子達を間違えたんでしょ!?」

一方通行「……」

10032号(一人で逃げようとしてんじゃねえぞこら、とミサカは脱走に失敗した一方通行を小声で嘲笑います)

09982号(いやでも実際問題どうします?これもう言い逃れ無理なのでは……とミサカは半ば諦めムードです)

10032号(かといってお姉様に本当の事教えるのも酷でしょう、
      自分のクローンが殺される為に造られてます、なんて知ったらどうなるか……
      とミサカは表の住人であるお姉様の事を気にかけます)



一方通行「……コイツらアレだ、オマエの妹だよ」

御坂「……確かに似てるけどさ、私に妹はいないわよ」

一方通行「母ちゃんがオマエの知らないところでハッスルしてたンだよ……」

御坂「私の母親をなんだと……その前にあんた達、名前は何?」

09982号「あ、ミサカは09982号です、とミサカは名前の代わりに検体番号を述べます」

10032号「10032号です、とミサカ同じく検体番号を述べます」

御坂「どこの世界にそんな投げやりな数字だけの名前つける親がいるのよ!?
   ていうか10000人以上も子作りできるわけないでしょ!!」

一方通行「頑張ったンだなァ、オマエの母ちゃん」

御坂「ふざけんなゴラアアアアア!!!!」


10032号(ちょ、怒らせてどうすんだお前!?とミサカは一方通行の言動に戸惑います)

一方通行(誤魔化せなかったかァ……)

09982号(それで誤魔化せると思ってたんですか、とミサカは第一位の頭脳に疑問を持ちます)

一方通行(つーかオマエら正直に検体番号答えてンじゃねェよ!!もォちょい機転利かせろやァァァ!!!)


御坂「そもそもあんたよあんた!白いの!あんた何者なのよ!?」

一方通行「あ、白いのちょっとコンプレックスなンで指摘しないでもらませン?」

御坂「あ、ごめん……じゃなくて!何者か答えなさいよ!!答えるまで絶対帰さないから!!」


一方通行(絶対帰さない……帰さない……今夜は帰さない……今夜は寝かさない……!!)ハッ

一方通行「やさしくしてください」

御坂「何が!?」

10032号(うわぁ今絶対ろくでもないこと考えてたよこの童貞、とミサカは(ry)

09982号(心の底から気持ち悪い、そりゃ誰も告白OKしねえよ、とミサカは(ry)



一方通行「……一方通行です」

御坂「一方……通行……ッ!!レベル5の第一位、一方通行!?」

一方通行「はい」

御坂「いや、はいじゃなくて……嘘、本当に?」

一方通行「はい」


御坂「……」

一方通行「一方通行だ(キリッ」

御坂「いや別にちょっとかっこつけて言い直さなくてもいいから……」

一方通行「それじゃ答えたし帰っていいか?」

御坂「いいわけ無いでしょ」

一方通行「理不尽だなァ……」

御坂「何が理不尽なのよ!?それよりこの私そっくりの子達は何なの!!」

10032号「……」

09982号「……」

一方通行「そっくりさンって事で手ェ打たねェか?」

御坂「打つかぁぁぁ!!!」

一方通行「世の中にはそっくりな人間が三人はいるって話があってだなァ、
      その理屈から行くと今の状況は有り得ないってわけじゃ……」



「おやおや皆さんこんな所で何を?とミサカは寂れた公園にいる四人に手を振りながら近付きます」


御坂「……四人目が現れたわよ」

一方通行「ちくしょォォォォォォ!!!!」

10032号「お前空気読めやぁ!!とミサカはタイミング悪く現れた個体を罵倒します」

09982号「わざとだ、絶対わざとだ……とミサカは近付いてくる固体を嫌疑の目で睨みます」

「え、ちょ、わざとじゃないよ!?て言うか何が!?とミサカはあらぬ疑いをかけられてキョドります」

御坂「……あんた名前は?」

14510号「名前っていうか検体番号は14510号ですが……
      って、え?この人ひょっとして妹達じゃない?まさかお姉様!?
      とミサカはMNWの過去ログを確認しながら焦ります」

御坂「『妹達』に『お姉様』ねぇ……」

10032号「この、馬鹿が……とミサカは口を滑らせた14510号を罵倒します」

御坂「いや、あんた達も語尾に「ミサカは~」ってつけてる時点で私と関係あるってわかってるから」

10032号「しまッ!?」



一方通行「あァァァ……もォ無理だこれ、誤魔化せねェわ………」

御坂「うんまぁ、なんとなくわかってきたけど……ちゃんと話してもらえる?」

一方通行「……わかったよ」ハァ

10032号「一方通行!?」

09982号「いいんですか?とミサカは不安げに一方通行とお姉様を見比べながら尋ねます」

一方通行「いやもォ仕方ねェだろ、何も説明しなかったら多分勝手に調べるぞコイツ」

御坂「良く分かってるじゃない」


一方通行「勝手に調べた挙句勝手に勘違いして勝手に暴走して
      最終的になンかよくわかンねェウニ頭を俺の前に連れてくるに決まってンだよ……」

御坂「何の事!?」


14510号「何かすいません、このミサカが現れなければ……とミサカは間が悪すぎた事を今更謝罪します」

一方通行「気にすンな、どォせ誤魔化せなかっただろォしな……オマエは何一責任感じる必要ねェよ」

14510号「一方通行……」

10032号「そうですね、悪いのは全てあなたです、とミサカは全面的な非が一方通行にあることを指摘します」

09982号「あなたがお姉様をナンパなんてするから……とミサカは溜息混じりに言い捨てます」

一方通行「オマエらは責任感じろ、つーかナンパなンてしてねェ!」


御坂「いいから話を……」

一方通行「おォ悪ィ……オマエにとっちゃ面白くもなンともねェ、ひたすら不快な話になるが、それでもいいかァ?」

御坂「……だってもうその子達の事知っちゃったもん、今更見て見ぬ振りは出来ないわよ」

一方通行「………じゃァ、説明してやる。 『絶対能力進化』って実験があってだな……」


―――――――――――――――

―――――――――

――――


御坂「絶対能力進化、クローン、妹達、二万体……虐、殺……」

一方通行「な、不快な話だったろ?」

御坂「あんた、この子達を!!?」

一方通行「落ち着け、説明中にも言ったが一人も殺しちゃいねェよ。信じられねェってのも無理ねェがな」

御坂「……でも」


10032号「お姉様、一方通行の言っていることは本当です、とミサカは彼が嘘を吐いていない事を訴えます」

09982号「何なら二万体連れてきましょうか?とミサカは提案してみます」

14510号「いやそれは流石に無理だろ、とミサカは09982号につっこみを入れます」


御坂「……この子達の脳天気さ見てると本当っぽいわね」

一方通行「そンな簡単に信じてもいいのか?こンな実験持ちかけられる程度には腐ってンだぞ、俺も」

御坂「でもあんた、妹達のこと大切にしてくれてるんでしょ?」

一方通行「あァ?」

御坂「さっきスキルアウトと私の間に割って入ったのって、私を妹達の誰かと勘違いしてたからじゃないの?」

一方通行「ン、まァな……」

御坂「つまり妹達が絡まれてるのを助けようとしてたってことよね?ほら、大切にしてるじゃない」

一方通行(……100%下心でした、とは言えねェよなァ)


10032号(どう思います?ミサカ達のこと助けようとしてたらしいですよ、とミサカは小声で二人に話しかけます)

09982号(どう考えても下心からですね、好感度アップ狙ってたんでしょう、とミサカは推測します)

14510号(で、でも助けようとしてくれたのは事実みたいですよね、とミサカは……)

10032号(ちょ、お前どうしちゃったの!?とミサカは不穏な空気を出している14510号に焦ります)



09982号(正気に戻りなさい!ミサカ達に無様な告白をしてきた童貞の一方通行ですよ!?
      とミサカは慌てて過去の情報を引き出します)

14510号(わ、わかってますよ!とミサカは頭をぶんぶん振って一時の気の迷いを晴らします
      でもちょっとだけ……)

10032号(戻って来い!戻って来ぉぉぉぉい!!!とミサカは顔を赤らめている14510号の頬をピシャリと打ちます!!!)

14510号「あいたああ!!!」パチン

一方通行「何やってンだオマエら……」


御坂「あのさ、もう一つだけ聞かせてくれる?あんたはどうして、実験を始めないの?」

一方通行「あァ?そンなモン決まってンだろ」

御坂「え?」






一方通行「俺が童貞だからだ」






御坂「へ?」

一方通行「童貞です」

御坂「ど、どうて、うぇ!?と、突然何言い出すのよあんた!!何の関係があんのよ!?」

一方通行「童貞のまま絶対能力者になったら恥ずかしいだろォが……」

御坂「……え、そんだけ?」

一方通行「うン、それに童貞捨てねェと絶対能力者になれる気がしねェし」

御坂「え、あ、あのじゃあさ、もしその……ドウテイ(ボソ)を捨てられたら……」

一方通行「あァ?ちょっと聞こえなかったンですけどォ?何を捨てたらってェ?」

御坂「だ、だからその……」

一方通行「ン?ほら言ってみろよ、どうした?ン?」

御坂「うぅぅ……」

一方通行「ン~?」


10032号「どこの変態オヤジだお前は!とミサカはお姉様がかわいそうなのでつっこみを入れます」

09982号「ただでさえ低かった株が更に暴落しましたよ、そろそろ廃止されますね、
      とミサカは連日ストップ安を更新する一方通行株に頭を抱えます」

14510号「うん、やっぱねえわ、さっきのミサカ本当にどうかしてたわ、
      とミサカはちょっと前の自分を絞め殺してやりたい気持ちで一杯です
      ……でもでも本当に聞こえてなかっただけかも……」

10032号「こいつ本当に同じ遺伝子か?頭ん中花畑すぎるだろ……
      とミサカは何やら葛藤している14510号にドン引きします」


御坂「と、とにかく!!もしあんたが純潔を捨てれたらどうすんの!?実験開始しちゃうわけ!?」

10032号「純潔て……」

09982号「一方通行には酷く似合わない言葉ですよね、とミサカは寒気を覚えます」


一方通行「童貞捨てれたらそン時はそりゃオマエ……ン?そン時は……」

御坂「え?」


一方通行「……あー、ン?あれ?いやいや、多分始めねェよ、うン」

御坂「ちょっと何その曖昧な返事!?」

一方通行「大丈夫だ、信じろ」

御坂「信じられるかああああ!!!」

一方通行「第一位嘘吐かねェ」

御坂「さっきまで散々吐いてたでしょうが!!」


10032号「大丈夫ですよお姉様、一方通行は実験を開始しません、とミサカは激昂しているお姉様に声をかけます」

御坂「へ?」

09982号「何故なら一生童貞ですから、とミサカは10032号の言葉を引き継ぎます」

一方通行「おい」

御坂「で、でもほら、無理矢理その辺の女の子襲ったりとかしたら……」

一方通行「オマエは俺を何だと思ってやがる」


10032号「それも大丈夫です、この男童貞卒業に並々ならぬ夢を抱えていますから、
      とミサカはお姉様を安堵させます」

09982号「誰に語っても恥ずかしくない運命を感じる相手じゃないと交わりたくない、でしたっけ?
      とミサカは童貞の身の程知らずな願望に戦慄します」

御坂「えぇー……」

一方通行(やっべぇなンかすげェ恥ずかしくなってきた)

御坂「も、もしかして、私との出会いに運命感じたりしてないでしょうね……」

一方通行「あ、性格的にオマエみたいな五月蝿いのは好みじゃないンで大丈夫です」

御坂「それはそれでムカつくわ!!!」

一方通行「見た目だけなら合格だけどやっぱり愛し合いながら結ばれたいしィ?」

御坂「キモ!本当にキモい!!でも何かムカつく!!」

14510号「お、お姉様抑えてください、とミサカはお姉様を宥めます」

10032号「そうそう、一方通行に好かれてもいいことなど一つもありませんよ、
      とミサカは経験を語ります」

09982号「正直な話、告白されても全く嬉しくありませんでしたから、
      とミサカは当時の事を思い出し微妙な顔をします」

御坂「こ、告白された……?」


10032号「はい、この男ただ今童貞卒業の為に二万体の妹達全員に告白する作業の真っ最中なのです
      とミサカはトップシークレットな情報をぶっちゃけてみます」

09982号「ちなみに00001号から順番に告白を始めて、今のところ13992戦全敗です、
      とミサカは今朝までの戦績を読み上げます」

14510号「も、もうすぐこのミサカの番ですね、とミサカはちょっとだけ緊張をしてみたりします」


御坂「……」

一方通行「そンな目で見ンな、心が痛くなってくるだろ……」

御坂「……わかった、一先ず安心してもよさそうね」

一方通行「一生童貞の認定された!?」

10032号「良かったですね一方通行、信用されましたよ、とミサカは含み笑いをしながら優しく声をかけます」

一方通行「何一つ良くねェ!!」



御坂「でもね、まだ不安だから……」

一方通行「あ?」

09982号「む?」

14510号「お姉様?」


御坂「あんたが純潔を捨てて実験開始しないように、私が全力で監視するわ」

一方通行「」


10032号「わぁおストーカー宣言が飛び出したよ、とミサカはお姉様の予想外の発言に驚愕します」

09982号「良かったじゃないですか一方通行、
      一般的に見て可愛い女の子に分類されるお姉様に監視されるなんて願ったりでしょう?
      とミサカは一方通行に微笑みかけます」

一方通行「ふざけンな!さっきも言ったが性格が好みじゃねェ!!」

御坂「監視するだけだから、あんたの好みなんて知ったこっちゃ無いわよ
   むしろあんたの好みから外れてて良かったわ」


一方通行「……ナメてンじゃねェぞ超電磁砲、俺がその気になりゃオマエなンざ5秒で挽肉に……」

10032号「あー一方通行、もしお姉様に危害を加えたら今後妹達は一切あなたと口利きませんから
      とミサカは実力行使に出そうな一方通行を牽制します」

一方通行「ンだと!?」

09982号「あーあ、今あなたに好意を持っている個体も、お姉様が被害を受けたなんて聞いたらどう思うか……
     とミサカは14510号に同意を求めます」

14510号「へ?あ、はいそうですね、女性に暴力振るうのは良くないと思います
      とミサカは当たり障りの無い回答をしてみます」

一方通行「く……」

10032号「過去にあなたの告白を断った個体の中にも、最近のあなたの態度に絆されて
      徐々に好意を抱き始めている者がいるというのに、ここで棒に振るってしまうというのですか?
      とミサカは妹達の間で最近あなたの話題が良く出る事をこっそり暴露してみます」

10032号(もちろん嘘ですが)


一方通行「な、なンだと……」

09982号「ほらもう少しなんですよ一方通行、ここは頑張ってお姉様の監視に耐えてください
      とミサカは一方通行を励まします」

一方通行「お、おォ……いやなンか話ズレてねェ?」

御坂「とにかく、あんたがどう思おうが私は妹達を守る為にあんたの監視をするから!
   これ以上妹達への告白なんかも絶対にさせないわよ!!」

14510号「えっ」

一方通行「えェェ……妹達への告白も出来ず外でも監視されてちゃァどォやって運命の相手を探しゃァいいンだよ……」

御坂「探すなつってんのよ!!」

一方通行「絶対に実験開始しねェから!童貞だけ、童貞だけは捨てさせてくれ!!」

御坂「連呼すんな!!信用できないのよ!!て言うか必死に頭下げないでよ気持ち悪い!!」


一方通行「クソが、こォなったら……」

御坂「な、何よ、やる気!?」


一方通行「逃げる!!オマエの目の届かないところで童貞捨ててやらァ!!!」ダッ

御坂「あ、ちょっと待ちなさい!!絶対捨てさせないわよ!!!」ダッ



10032号「おやおや行ってしまいましたね、とミサカは二人の走って行った方向に手を振ります」

09982号「青春ですねぇ、とミサカは腕組をしながらうんうんと頷きます」

14510号「いや青春なの?とミサカは09982号の発言に疑問を持ちます」

10032号「しかしこれで一方通行からの告白という厄介なイベントを回避できますね
      とミサカは妹達の為に身体を張ってくれるお姉様に感謝します」

09982号「よかったよかった、とミサカはこれ以上被害者が出ない事に安堵します」

14510号「うん、よかった……のかな?何だかちょっと残念な気も、とミサカは……」


10032号「……09982号、こいつちょっと11111号のところに連れて行きましょう、とミサカは提案します」

09982号「名案ですね、彼女ならきっとあること無い事吹き込んで14510号の洗脳もサクっと解いてくれるはずです
      とミサカは10032号の提案を受け入れます」

14510号「え、ちょ、待って!ミサカは今の自分の気持ちを大切にしたくてですね、とミサカは……
      おい離せ!離せよぉ!!とミサカはあぁぁぁぁ!!!」ズルズルズル

投下終了

童貞の癖に相手を選んでると一生童貞だからお前らも気をつけろよ!


※よく誤解されますが作者は上条さんが大好きです

ていうかむしろ嫌いなキャラいねえよ

おいっす投下しにきたぞ

いやぁほのぼの物はいいね、書いてると心が温かくなってくるよ



「はァ、不幸だァ……」


 キャラクターにそぐわないセリフを呟きながら、一方通行は明け方の町をとぼとぼと歩いていた。
まだ日も昇りきっておらず辺りはぼんやりと薄暗い。当然彼の他に通行人など見当たらない。
普段なら彼もまた、いびきをかいて眠っている時間帯である。そのはずが何故こんな事になっているのか。

 理由はたった一つ、とある少女のせいである。
というのも先日の夕刻、いつもの様に運命の人を探していた彼は、
不幸にも彼の監視役を自称する御坂に発見されてしまい、散々追い掛け回されるハメになったのだ。
なんとか撒いたものの気付いてみれば全く見覚えの無い道に迷い込んでおり、
そのまま当ても無く彷徨っていたら夜が明けてしまったというわけだ。

 おまけに御坂から逃げている過程で溝に嵌るわ犬には吼えられるわ、
偶然遭遇した布束砥信に「寿命中断(クリティカル)!!」と叫ばれるわ、もう散々である。
どこぞの不幸少年が乗り移ったとしか思えない。冒頭のようなセリフも吐きたくなるというものである。



「疲れた、腹減った、眠ィ、帰りてェ……あ、もォダメだ」


 能力で補助していたとは言え一晩中寝ずに歩き通したのだ、ついに疲労は限界を迎え、
一方通行は壁にもたれかかるようにして地べたにへたり込んでしまった。
その情けない姿は、とてもではないが学園都市の第一位という座に君臨している化物には見えない。


「光合成とか出来りゃいいのによォ……超能力の研究とかより人体に葉緑素取り込む研究しろよ……」


 徐々に昇り行く太陽を力無く眺めながら、虚ろな目で訳の分からない事をぶつぶつと呟く。
身体だけではなく頭の方も限界が近いようだ。

 しばしそのまま柔らかな太陽の光を直視していた彼だったが、流石に眩しくなってきたのか、
チッと舌打ちを零すと、眉をひそめ、視線を横にずらした。と、その先に妙なモノを発見する。


「なンだありゃ?」


 彼の視線の先、あまり綺麗だとは言えない学生向けマンションのベランダの手摺に、何か白い物が引っ掛かっていた。
最初は布団か何かを干しているのかとも思ったが、時折風も吹いていないのにピクピクと動いているところを見ると
どうも何かの生き物のようだ。



「あれは……女だなァ!」


 一方通行の眼が怪しく輝く。そう、ベランダに引っ掛かっているのはどうやら真っ白い服を着た少女のようで、
童貞センサーでそれを認識した途端、今にも倒れそうになっていた彼の身体の奥底から不自然な程のエネルギーが湧き上がった。
これが童貞の力である。


(どっかのベランダの手摺に引っ掛かっているのを発見する……運命の出会いだろ!)


 どんな運命だ。いや運命ではあるのだが、それは本来他人の運命である。奪ってはいけない。
科学と魔術が交差しなくなってしまう。とはいえそんな事情など知らない、
仮に知っていたとしても気にしないであろう一方通行はニタリと不気味な笑みを浮かべると
能力を使った跳躍をし、一跳びに白い服の少女の元、マンションのベランダへと乗り込んだ。



「こンな所でなァにやってンですかァ?」

「ふぇ!?だ、誰!?」


 突如真横に現れた顔色の悪い男に声をかけられ、白い服の少女はベランダに引っ掛かったまま狼狽する。
そりゃこんな展開全くの予想外だ。この状況で声をかけられるとすれば普通は部屋の中から以外に考えられず、
まさか外からベランダにすっ飛んでくる男がいるとは誰も思うまい。



「通りすがりの者ですけどォ?」

「ここ、結構高いよね?それに他人の家のベランダを通りすがるなんて怪しいかも!」

「オマエも似たようなモンだろ」

「……言われてみればそうかも」

(なンかコイツ馬鹿っぽいなァ……既にハズレの気配がしやがる)


 少女の間延びした受け答えに、一方通行は早くも『ハズレ』の烙印を押そうとしている。
勝手に運命を感じて勝手に期待して勝手に話しかけて、何処かの誰かのフラグを横取りしかけているにも関わらず。
そんな風に相手を値踏みするから童貞なのだというのに、彼がそれに気付く事は無い。


「でェ、オマエはなンでこンな所で布団の真似なンてしてやがンだ?」

「別に布団の真似をしてるわけじゃないんだよ!屋上に飛び移ろうとしてたら
失敗してここに落ちちゃったの!」


 少女は一方通行の口調から馬鹿にしたような気配を敏感に感じ取り、憤慨しながらバタバタと暴れ始める。
その様はまるで幼い子が駄々をこねているようで、少女の童顔も手伝い、大変微笑ましいモノに見えた。
場所が場所でなければ。



「お、おいこンな所で暴れンな!!……あっ」

「えっ……あああぁぁぁ……」


 一方通行の制止を聞かず、ベランダの手摺に引っ掛かったまま両手足をバタつかせて暴れていた少女は
バランスを崩し地面へと真っ逆様に落下していった。
ベランダから地面までは結構な距離がある。普通なら大怪我は免れないだろう。
打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれない。


(……俺のせいなンかなァ)


 飛び降り自殺を目撃してしまったかのような気まずさを胸に、
一方通行はこのまま放っておくわけにもいかず、地面に強かに打ち付けられた少女の元へ飛び降りた。


「び、ビックリしたかも……」

「あァ?」


 飛び降りた先で、地面にへたり込みながらも少女はピンピンとしていた。それも全くの無傷で。
どれほど運が良かろうと、この高さから落ちて無傷ということは常識的に考えて有り得ない。
しかし現実に白い服の少女は擦り傷一つ負っておらず、
見ていた限り何らかの能力を使ったと言うわけでも無さそうだ。
第一位の頭脳を以ってしても理解不能な事態に、一方通行は首を傾げ、怪訝な目で彼女を見つめた。



「何やったンだオマエ?何で無傷なンだ?」

「え?あぁ、これは『歩く教会』のお陰なんだよ」

「『歩く教会』?何だそりゃ」

「話してあげたいのは山々なんだけど……」

「あン?」

「お腹が空いてこれ以上は喋れないんだよ……何か食べさせてくれると嬉しいかも」

「……確かさっきファミレス見かけたなァ、ここに居座り続けるのも迷惑だし場所変えるか」

「やった!早く連れてって!」

「喋れるじゃねェか」

「細かい事はいいんだよ!早く早く!」

「はァ……」


 深く溜息を吐きながらも、一方通行は白い服の少女を伴って歩き始める。
「ハズレっぽいが『歩く教会』とやらも気になるし、もう少し付き合ってやってもいいだろう」
そんな事を考えながら。
一方通行の真っ白い肌と少女の真っ白い服が朝日を反射し、あまり目には優しくない光景を生み出していた。




「んー、いい天気だなぁ。何だか妙な音がしてた気がするけど、気のせいだったか?
……っとやべぇ、補習の準備しなきゃ!」

 一方通行と少女が立ち去った直後、一人の少年が二人のさっきまでいたベランダに布団を干していた。
この部屋住人であろうその少年は、先程までのここで何が起こっていたかなど全く知らず、
眩しい朝日に目を細め、ぐっと背伸びをすると、出掛ける準備をして玄関を飛び出して行った。
自分の与り知らぬ所で人生最大のフラグを叩き潰されたのは、果たして彼にとって幸福だったのか、不幸だったのか。


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―とあるファミレス


「ガツガツムシャムシャズズズズズ」

「……」

「パクパクモグモグパクパクモグモグ」

「……」

「ハムッ ハフハフッ ハフ!」

「……(きめェ)」

「ムシャムシャごっくん……食べないの?」

「目の前でこンなモン見せられたら食欲も失せるわァ……」


 一方通行は目の前の光景をただただ唖然としながら眺めていた。
白い服を着た少女はファミレスに到着するなり
「とりあえず高いものを上から順に30品ほど持ってきて欲しいんだよ」
などと訳の分からない注文をし、実際に運ばれてきたとんでもない量の料理を
凄まじい勢いで平らげていったのだ。
一体彼女の小さな身体の何処にこんなに入るのか……



(おかしい……明らかに食った量がこのガキの質量を超えてやがる……)

「ねぇ、食べないんならそれも貰っていいかな?」

「あ、テメエこの野郎!」


 一方通行が呆然としていた隙に、少女は彼の注文した料理にまで手を伸ばす。
かと言ってそれを許す一方通行ではない。彼とて一晩中歩き通して空腹なのだ。
伸ばしてきた手を慌てて叩き落とすと、少女は頬を膨らませ、露骨に不満そうな顔をした。


「むー、ちょっとくらいくれてもいいのに!ケチ!」

「散々食っといて何言ってンだ!?つーかちょっとじゃ済まねェだろ絶対!!」

「それじゃ同じ物を注文して欲しいんだよ!」

「もォ好きにしろよ……」


 投げやりにそう言うと、少女は本当に追加注文を始めてしまった。
そのあまりに旺盛な食欲に、一方通行はがっくりと肩を落とす。
胃袋だけでもレベル5並の研究価値があるのではなかろうか。



「ガツガツガツ……」

(あーやっぱダメだコイツ、ハズレだ、大ハズレだ……そうだ、垣根辺りに押し付けれねェかな)


 延々食べ続けている少女を尻目に、一方通行は携帯電話を取り出し、少女の写真を撮影する。
パシャリと撮影音が響いた時に少女は不思議そうな顔をしていたが、そんなことは意に介さず
彼は写真を添付したメールを垣根に送信した。




【To】垣根
【sub】こンなン拾ったンだけど
――――――――――――

オマエいらねェ?

              _.. -――- ._        
            ./ ,―――‐- .._` .、      
        x   /  ./  / /    ``\.  +    
           /_.. ィ7T.フ厂 ̄`フi ‐- ._ |〉     x  
       .x    !  ̄フ/l/_×// |ハハl .ト、  x    
    |! /    |  /|,イ._T_i`   .r≦lハ!|``   +  
    ll/_     .|  | |'弋..!ノ     i'+!l |       
   / ミr`!   /   l |' ' '  ,‐- ..__゙ー' .!l .|   
   ト、ソ .! ./   .,!l .ト、  l  `,!   .ハ.!    
   /ll\ `テヽ、 /_,| |l: > .ヽ.. ィ <l   l|    
  ./' l|/l. >' / /\. | | \ \ー'/ ./ ,,;:`:;'゙"r;:゙c

  '  l|l l/ ./ /    | |  _\_×_/.ィ'...二二二l ヽ  
     | ヽ./ /   /|.|i彡_           \\ 
     | //  ./ .l|| ´   ̄,「 ̄ 「 li ̄二ニ -'´ ヽ.
    └――'"l// .|!   / / ! .| |' |l //        

―――――END―――――





(……返信こねェな)


 メールを送信して数分、垣根からの返事は無い。まだ朝早いため眠っているのだろうか。
それとも暗部の仕事でもこなしているのか……何れにせよ困ったものだ、と一方通行は鳴らない携帯を睨みつける。
そんな風に返信待ちをしていると、ようやく少女の食事が終わったようで、
彼女は弾ける様な笑顔を浮かべながら、ぽんぽんと自分のお腹を軽く叩き始めた。


「げふぅ、ご馳走様なんだよ」

「お粗末様でしたァ……で、早速なンだが話聞かせてもらえるかァ?」

「なんだっけ?」

「……とりあえず名前から聞かせて貰おうか」

「私の名前はインデックスって言うんだよ!」

「(インデックス……?能力名か?)……じゃァインデックスさンよ、オマエはあそこで何を……!!!」



 インデックスと名乗った少女に質問を続けようとテーブルに身を乗り出した一方通行だったが、
唐突に、凄まじい悪寒をその背に受け、言葉の中断を余儀なくされる。

 近い言葉を探すとすれば、それは 怨念と呼べた。
尋常の人々には全く無害のものである。そよ風が吹いたとすら感じはすまい。
しかし、類稀なる戦闘センスを持つ超能力者が、その感受性を以ってその念を身に受けた時――


(が……はァッ……!!)

「ど、どうしたの?顔色が悪いかも!」


 手足が痺れ、胃液が逆流するかのような不快感。脳の奥で鳴り響く警笛信号。
彼はその感覚に覚えがあった。当然である、ほんの数時間前までその怨念の塊に追い回されていたのだから。


「よぉぉぉやく見つけたわよ一方通行ァァァァ!!!」

「何でオマエがここにいるンだよォォォォォ!!!」


 恐る恐る振り返った一方通行が目にしたモノ、それはバチバチと電気を纏い、
髪を逆立てブチギレている御坂美琴の姿であった。


「そんな子にまで手を出そうだなんて……そんなにアレを捨てたいの!?」

「出さねェよ!そりゃ童貞は捨ててェけどコイツはねェよ!!」


 御坂は一方通行が脱童貞して絶対能力進化を開始しないよう監視するという使命を勝手に抱いている。
そんな彼女の前で女性と二人っきりで食事をしているのだからこれはもうブチギレられても仕方が無い。
一方通行は既に目の前のインデックスと名乗った少女を女性的に見限っていたのだが、
ここまでの経緯を知らない御坂の目には彼がこれから少女に手を出そうとしているようにしか見えなかった。
そもそも、実際下心を持ってベランダに引っ掛かっているところに声をかけたのだから、
誤解、とも言い切れないだろう。


「さぁて、あんたがそっちの子に何もしないように今日も監視させてもらうわよ!」

「チッ……おいインデックスつったか!金はここに置いとくから後は好きにしやがれ!!」

「へ?」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」


 机に数人の諭吉先生を叩きつけ、一方通行は脱兎の如くレストランから逃げ出す。
御坂もまた、憤怒の形相で周囲に電撃をばら撒きながら彼の後を追って行った。
一人取り残されたインデックスは、突然の出来事にしばし呆然とし、
とりあえず料理の追加を注文することにした。


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―街中


一方通行「ハァ、ハァ……撒いたか……」

一方通行「クソ、こっちが手ェ出せないと思って好き勝手やりやがってあのアマ……」

一方通行「お陰であのガキから何の話も聞けなかった……大量の飯奢っただけかよ……」

一方通行「つーかもう夕方かよ!丸一日無駄にしちまったじゃねェか!」


<透き通る 夢を見ていた~♪


一方通行「……ン?携帯に着信……垣根からの返信か、今更かよ」



【From】垣根
【sub】Re:こンなン拾ったンだけど
――――――――――――

悪い、仕事中でメール見てなかった
まだ写真の子いる?結構リアルに欲しいんだけど
とりあえず今からそっち向かうわ

―――――END―――――




一方通行「遅ェよクソ、仕事と出会いどっちが大事なンだよこの馬鹿……」メルメル




【To】垣根
【sub】Re2:こンなン拾ったンだけど
――――――――――――

もういねェよカス
遅すぎンだよ
だからこっち来てもなンもねェぞ
つーか何処にいるか知らねェだろ

―――――END―――――



一方通行「送信っと……」



垣根「おいこらふざけんな!!こっちはもうテメエの背後にいるんだぞ!!」


一方通行「うおォ!!?メリーさンかオマエは!?どうやって現れやがった!!」

垣根「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねぇ(キリッ」

一方通行「いやもォいいからそういうの……」

垣根「それよりいねえってどういう事だよ、ちゃんと確保しとけよ」

一方通行「だって俺の好みじゃなかったしィ?」

垣根「そんな選り好みしてっから童貞なんだよテメエは」

一方通行「選り好みしてなくても童貞な垣根くンは黙っててくださァい」

垣根「うるせえよ、何で俺には出会いがねえんだよ、不公平じゃねえか!」

一方通行「いやァ、好みじゃねェ女と出会えてもなァ……」



垣根「クソ、余裕かましやがって……ん?おい一方通行、あれ見ろ、あそこ」

一方通行「あァ?……あれは」


インデックス「ハァ、ハァ、ハァ……」タッタッタ


垣根「メールに添付されてた写真の女だよな?やべ、運命じゃねえかこれ?」

一方通行「偶然ってあるンだなァ……だが待て、なンか様子が変じゃねェか?」

垣根「……確かに、何か追われてるって感じだな」

一方通行「学園都市結構治安悪ィからなァ……」

垣根「おい行ってみようぜ、ちょっと気になるわ」

一方通行「仕方ねェな、付き合ってやンよ」



インデックス「ハァハァ……」


一方通行「おいガキ」

インデックス「!?」ビクッ

一方通行「そンな怯えンなよ、俺だ俺」

垣根「いや、いきなりオマエの顔が間近にあったら俺でも怯えるわ、やめてやれよ」

一方通行「さっきオマエに似たような事されたけどな」

インデックス「あ、今朝の白い人……」

一方通行「オマエに白いとか言われたくねェ」

垣根「はじめましてお嬢さん、垣根帝督と申します」

インデックス「あ、はじめまして、私はインデックスって言うんだよ」

垣根「インデックス……素敵な名前だ……」

一方通行(なにこれきめェ)


インデックス「あ、ありがと……じゃなくて!二人ともすぐに逃げて!私に関わっちゃダメなんだよ!!」

一方通行「あン?何言ってンだ?」

垣根「やっぱ何かに追われてたんじゃねえ?だが安心しろお嬢ちゃん、俺達は……」


「そこまでだよ、その子をこっちに渡してもらおうか」


インデックス「く、もう追いついてきた!」


「さぁインデックス、追いかけっこは終わりだ」


垣根「あぁ?テメエか、この子を追い掛け回してんのは」

一方通行「妙な格好しやがって、何者だテメエ」

ステイル「僕かい?僕の名はステイル=マグヌス。出来ればもう一つの名は名乗りたくないが
      それは君たち次第だね」

垣根「もう一つの名?何言って……」

インデックス「気をつけて!そいつは魔術師なんだよ!」


一方通行「ま、魔術師だァ?」

垣根「何だそりゃ?」

ステイル「……まったく困った子だ、魔術師だとバラしてしまうだなんて」

ステイル(とはいえ、彼らの反応を見るに魔術師がどういう存在かはわかってないようだね
      これならわざわざ消すまでも無い、か……)


垣根(おい、魔術師だってよ、何かの隠語か?)ボソボソ

一方通行(魔術師……魔法使い……よォするに高齢童貞ってことじゃねェ?)ボソボソ

垣根(なるほど。おいおい大先輩じゃねえか、敬わねえといけねえな)ボソボソ

一方通行(待てよ垣根、そンな高齢童貞の魔法使いがどうして女を追い掛け回してるンだと思う?)ボソボソ

垣根(どうしてって……ま、まさか!?)ボソボソ


一方通行(そォ、レイプしか考えられねェ)ボソボソ

垣根(いくらモテないからってそんなの……魔法使いがこんな若い子を相手に……)ボソボソ

一方通行(あァ、許せねェ、許せねェよなァ、そンなの……)ボソボソ


ステイル「……?何をぶつぶつと話し合っているんだい?さ、早くインデックスをこっちに……」

垣根「テメエは……」

ステイル「?」


垣根「テメエは童貞の風上にも置けねぇ!!!」

ステイル「え、何?」


一方通行「テメエみてェなのがいるから!童貞ってだけで迫害される人間が出てくンだよ!!」

ステイル「ちょっと待って、意味がわからない」


垣根「覚悟しやがれ、テメエはここで血の海に沈めてやる!!」

一方通行「ダンスの時間だぜクソ野郎、BGMはテメエの断末魔だァ!!」

ステイル「く、何だかよくわからないがインデックスを渡すつもりは無いという事か!
      ならば名乗らせて貰おう……『Fortis931』!!」


―――――――――――――――

―――――――――

――――



ステイル「ほんとすいませんでした……」ズタボロ


ステイル「ルーンを極めた天才とか呼ばれてちょっと調子乗ってたんです、ごめんなさい」

ステイル「いえ違うんです、レイプしようとか思ってないです」

ステイル「はい、いえ魔術師ですけど、はい……違います、いえ童貞ですけど」

ステイル「事情があるんです、あんまり話せないような事情が……いえですからレイプでは……」

ステイル「はい、はい、確かにその子の事は特別に思ってます、はい」

ステイル「いえ違います、ほんとレイプとか考えた事もないです」

ステイル「あの、そろそろ正座といても……あ、ダメですか、そうですよね、はい」

ステイル「いえ文句なんてそんな……はい、大人しくしてます」


垣根「結局何なんだこいつ?」

ステイル「……」

一方通行「レイプ魔じゃねェらしいが……おいインデックス」

インデックス「よかった、ようやく出番が来たんだよ、何でも聞いて欲しいんだよ」

一方通行「ンじゃ聞くが、コイツは……」


「そこまでです、インデックスとステイルをこちらに引き渡してもらいましょう」


インデックス「折角出番だったのに……」

一方通行「あァ?また何か出やがったぞ、何だこの女」

垣根「何そのボロボロのシャツとジーンズ……ファッションセンスぶっ飛びすぎだろ、流石の俺も引くわ」


「……もう一度言いますよ?インデックスと、そこで正座している馬鹿をこちらに渡してください」

一方通行「オマエもこの馬鹿の仲間か」

ステイル「え、ちょっと何でナチュラルに僕が馬鹿呼ばわりされてるんだい?」


神裂「神裂火織と申します。あなた方と争うつもりはありません、出来れば話し合いで解決したいと考えています
   インデックスを返してください、彼女はそのままでは……」


垣根(おい一方通行、どう思う?)ボソボソ

一方通行(迷う余地なンてねェよ、渡さねェ)ボソボソ

垣根(だけど何か深刻そうな顔してんぞ?話くらい聞いても……)ボソボソ

一方通行(馬鹿が、年齢不詳の怪しい女と高齢童貞の魔法使いが組ンでンだぞ?
      これがどォいう事かわかンねェのか?)ボソボソ

垣根(高齢童貞と怪しい女……まさか!!)ボソボソ


一方通行(そォ、この女はいやがる少女に無理矢理売春させてるに違いねェ!)ボソボソ

垣根(なんてこった……この街の闇はどんだけ深えんだよ!?)ボソボソ

一方通行(全てを闇から救い上げる事なンざ出来っこねェが……
      ただ、関わっちまった分だけは救ってやろうじゃねェか)ボソボソ

垣根(あぁ……)ボソボソ



神裂「相談は終わりましたか?では返事を……」

垣根「渡さねえよ、渡せねえ」

一方通行「残念だったなァ、インデックスは俺達が救ってみせる」


神裂「……そうですか、では仕方がありませんね……神裂火織、参ります!」



―――――――――――――――

―――――――――

――――


神裂「すいません、調子に乗ってました……」ボロ


一方通行「ったく、何なンだこの女、散々暴れやがって……」

垣根「つーかマジで何者だよ、一人だったらやばかったかも知れねえぞ……」


神裂「あの、ほんと話だけでも聞いて貰えませんか……土下座でもなんでもしますんで……」

垣根「おい一方通行、今更だけど俺この人が売春の斡旋してるようには思えねぇんだけど」

神裂「ば、売春!?」

一方通行「まァ、こンだけ必死に戦うって事はなンか事情があるのかも知れねェな
      話くれェは聞いてやるか。インデックスもそれで……あれ?」

垣根「ん、あれ?おいインデックス?何処行った?」


ステイル「あぁ、彼女ならさっき……」


~回想中~


インデックス「どうせ出番無いし、いなくなってもわからないよね?」

ステイル「インデックス?」

インデックス「ちょっと最初からやり直してくるんだよ」

ステイル「何を言ってるんだい?」

インデックス「もっと活躍できる、出番の多いヒロインポジションに付きたいの」

ステイル「ちょっと待ってくれ、何処に行くつもりだい?」

インデックス「ベランダ」

ステイル「……ベランダ?」


~回想終わり~


ステイル「と言うことで何処かに行ってしまったよ」

一方通行「いつの間に……」

ステイル「君達が神裂と戦う前にボソボソ相談してただろう?あの時にさ」

垣根「引きとめろよこの馬鹿!」

ステイル「足が痺れて立てなかったんだよ!僕のせいじゃない!!」

神裂「やかましい、このド素人が!!私は何の為に戦ってたんだ!?」

垣根「俺の折角の出会いをどうしてくれんだ!!」

ステイル「し、知らないよそんな事!気付かない君達が馬鹿なんだろう!?」

垣根「あ?……ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える」

神裂「自分は何の役にも立ってない癖に、必死で戦って何とか交渉まで漕ぎつけた私を馬鹿呼ばわりですか、そうですか……」

ステイル「え、ちょっと待って、何で君達そんなに殺気立ってるんだい?」

一方通行「もォどォでもいいわ、とりあえずコイツで憂さ晴らししようぜェ?」

垣根「賛成だ、俺の運命の出会いを潰してくれた償い、してもらうぞ」

神裂「お手伝いさせていただきます……」

ステイル「か、神裂まで!?待ってくれ!まだ足が痺れて満足にうごけな……
      あ、やめて!痺れた足をつつかないで! ちょ、待、痛い痛い痛い!!!」







ステイル「ぬわああああああ!!!!!」








―翌朝


「はぁ、今日も補習か……不幸だ……ん、何だ今の音?」

「ベランダの方からだったよな……ん?」ガラガラ


「……」


「女の子が手摺に引っ掛かってる!?なんだこの状況!!」

「ねぇ」

「はい?」

「ご飯をくれるとうれしいな」

「え……?」

「お腹が空いてるって言ってるんだよ?」

「え、ええぇぇ?」


 かくして歯車は元の場所に収まり、物語は無事幕を開ける。
だからといって、彼女が出番の多いヒロインポジションにつけるかどうかは甚だ疑問ではあるが。

投下終了

上条さんのフラグを全部へし折る勢いで行こうかと思ったけど流石に面倒なんでインさんは返しました
ていうかインさんと絡めないと今後上条さん出せないし……

それとさすがに毎日投下のペースはそろそろ崩れるぞ!ごめんな!

おいっす、投下に来たぞ
酔った頭でぐだぐだ書いたから今回はいつも以上に稚拙だけど、まぁ我慢してくれぃ


「お客様、申し訳ございませんが、ただ今満席となっております」


「えェー……」

「マジかよ……」


 8月某日の昼時、一方通行と垣根帝督、学園都市のトップ2は安っぽいファーストフード店のカウンターで頭を抱えていた。
というのも冒頭のセリフの通り、昼食を取る為にこのファーストフード店に入ったは良いが、
店内は生憎の満席で、見渡す限り人の海。とてもではないが腰を落ち着けて食事を取れる環境ではなかった為だ。

 だが、満席だからと言って今から別の店を探すという選択肢は有り得ない。
それは別に他の店を探すのが面倒だとか、これ以上炎天下の中を歩くのが暑くてだるいから、とかそういう理由では勿論無い。
一方通行は自慢の反射により自分の元に届く熱量を適量に調整できるし、
垣根はワケわからん能力で冷房的な何かそれっぽいモノを作り出して身体を冷やす事が出来る。
つまり季節など無関係に快適な温度を作り出す事が出来る彼等にとって39度の蕩けそうな日など敵ではないわけだ。

 では何故この場で食事を取る事に拘っているのか?
その答えは簡単で、単に彼等が期限の迫ったこの店のクーポン券を大量に所持しているというだけの事である。


 そう、クーポン券だ。彼等二人が連れ立ってファーストフード店を訪れているのもそのクーポン券が原因なのだ。
と言っても『原因』などと言うほど大袈裟なモノではなく、
垣根が何処からか仕入れてきたクーポン券を「勿体無いから使おうぜ」
という話になったという、それだけの事なのだが。レベル5が二人揃ってなんともみみっちい事である。
どうして二人なのかって?他に誘うような友達いないんだよ、言わせんな恥ずかしい。

 とにかく、クーポン券を消費する為にわざわざ二人の住んでいる場所のどちらからも離れているこの店に来たと言うのに、
満席で食事を取れませんでした、というのは余りにも悲しい結末である。
何せ他に目的もないのだから、これでは移動時間を無駄にしただけだ。


「なンとかなンねェのかァ?」

「せっかく来たのにこれじゃなぁ……」

「あの、お客様、相席でしたらございますが……」


 カウンターの前で大袈裟に落ち込む二人に、堪らず店員が助け舟を出す。
そりゃこんな童貞二人にいつまでも居座られちゃ迷惑だもんね。


「相席かァ……どォする?」

「いいんじゃねえ?このまま帰るわけにもいかねえだろ」

「まァな……ンじゃ店員さンよ、案内してもらえるか?」

「かしこまりました、こちらへどうぞ」


 店員の一人に連れられ席に向かう。途中ちらりとカウンターの方を振り返ると、
相席すら取れなかったらしいツンツン頭の少年が項垂れながら「不幸だ」などと呟いている。
どうやら一方通行と垣根が案内されている席が本当に最後の最後だったようで、二人は僅かばかりの罪悪感を覚えた。



「こちらの席になります。それではごゆっくりどうぞ」

「え、おいちょっと待て」

「あァ、クソ行っちまった……」

「……どうするよこれ」


 案内された席で、二人は再び頭を抱える。その席の先客が普通の人間だったのなら
彼等は迷う事無く腰を下ろしていただろう。しかし今、彼等は空いている座席を前に呆然と立ち尽くしている。
つまりはその先客は普通ではないということだ。具体的に言うと、彼等の目の前では今
巫女装束に身を包んだ一人の少女が、机に突っ伏していたのだ。
とてもではないが、マトモな光景とは言えないだろう。


「……なンで巫女服?つーかなンで寝てンだ?」

「落ち着けよ一方通行、これはひょっとして、運命なんじゃねえか?」

「どンな運命だよ、オマエの運命範囲広すぎだろ、肩ぶつかっただけでも運命って言うつもりかよ」


 突如、訳の分からない事を言い始める垣根に、一方通行は眉をひそめ反論する。
ベランダに引っ掛かってた女に運命感じてたお前が言うな、というつっこみを入れたい所ではあるが、
とりあえずこの場において彼の言い分は正当だと言えよう。
相席になった少女が偶々巫女服を着ていたくらいで運命を感じるというのは流石に無理がある。
運命を感じるよりも面倒な事態を予測した一方通行は、あまりこの席に座るのに気乗りしないようで、
他に座れそうな席は無いかと辺りを見回したがやはり見つからず、猛烈な勢いで顔を顰めた。



「まぁそんな顔せず聞け、この前のインデックスだっけ?覚えてるか?」

「ン?あァ、覚えてっけど」

「アイツさ、何かシスターっぽい格好してたじゃん?」

「そォ言やそンな格好してたな」

「で、今ここに突っ伏してる子は巫女服を着てる」

「あァ」

「運命だろ」

「何が!?」


 シスターと巫女服には何の関連も無い。いったい垣根の頭の中ではどのような繋がり方をしたのだろうか。
とは言え他に席は無く、また垣根もここから離れる気はないようで、というか垣根は既に腰を下ろしており、
一方通行も渋々と腰を下ろすハメとなった。


「よく見ろ一方通行、顔は見えねえが、黒髪ロングで美人っぽい感じがしねえか?ちょっと幸薄そうだけど」

「俺ロングヘアーよりショートカット派なンでェ……幸薄そうなのは好きだけどなァ」

「相変わらず好みが偏ってんなオマエ……なぁ、この子に声かけてみてもいいかな?」

「あァ?好きにしろよ、つーか生きてンのか?俺らが座ってもなンの反応もしねェぞ?」

「人口呼吸イベント……アリだな」

「ねェよ」


 普段出会いの無い垣根はここぞとばかりに思考を暴走させ、
そこそこ出会いに恵まれている一方通行は呆れ顔でそれをいなす。
童貞同士ではあるが、ここにも格差が生まれかけていた。


「お嬢さん、どうなさいました?大丈夫ですか?」

(きめェ)


 キリッとしたキメ顔で、垣根は身を乗り出し、巫女服の少女に話しかける。
ダンディで張りがあり色気を含むその声は、飢えた肉食系女子なら一発KO出来るだけの威力を持っていた。
とは言え、目の前の少女が肉食系女子とは限らず、また同性の一方通行からすればひたすら気持ち悪いだけで、
垣根自慢のキメボイスにこの場で効果が期待できるのかは疑問である。




「う……く……」

 垣根の声に反応したのか、少女はようやく顔を上げると、呻くように苦悶の声を漏らした。
その顔は少々地味ではあるが確実に美人に部類され、垣根は舌なめずりしたくなる気持ちを抑えて
彼女を嘗め回すように観察する。他方、興味無さげにしていた一方通行であったが、
彼女のあまりにも苦しそうな声に流石に少々慌て、彼女の方に身を乗り出した。


「お、おいどォした?」

「おいコラテメエは引っ込んでろ、これは俺の運命だ」

「いやそンな事言ってる場合か?」


「く……」


 言い争いを始めそうな二人の声を遮り、再び少女から声が漏れる。
そして――


「……食い倒れた」


 一言そう言い残すと、彼女は再びバッタリと机に突っ伏し、ピクリとも動かなくなってしまった。



「……食い倒れだァ?」

「何だこの子、大阪人か?」

「大阪人に偏見持ちすぎだろオマエ」

「んだよ、食い倒れの街って言うじゃねえか」


「ねえ、それより救急車呼ぶか助け起こすかした方がいいんじゃない?
私が電気ショック試してみてもいいけどさ」


「いや食い倒れにそれは大袈裟だろ、しばらく様子を………ン?」

「え?」


 目の前の少女について考察していた二人の間に、その声は余りにも自然に混ざってきた。
自然すぎて一瞬スルーしかけた程だ。しかし第一位の頭脳で何とか違和感に感付いた一方通行は
声の発信源を見て愕然とする。


「……何よ?」


 学園都市の第三位、御坂美琴は、余りにも自然に彼等と同じテーブルを囲んでいた。


「うわァァァァ!!!!なンでいンの!?なンでいンの!?」

「何よ、いちゃ悪いって言うの?」

「良くねェだろ!!おかしィだろ!!!」

「え、この子誰?一方通行、知り合いか?」

「あ、はじめまして。御坂美琴って言いまーす」

「これはご丁寧に……垣根帝督と申します、お嬢さん」

「なンで自己紹介しあってンだオマエら!?」


 混乱する一方通行を尻目に、垣根と御坂は互いに頭を下げあう。
そんな異常な光景を目の前に、一方通行は巫女服の少女の事など一瞬で忘れ、
酷く狼狽しながらもつっこみをいれた。


「何でってオマエ、とりあえず初対面のレディには自己紹介するのが礼儀だろ」

「垣根さんね、言っちゃ悪いけど付き合う人はもう少し選んだ方が良いと思うわ
一方通行と一緒にいても絶対ろくな事にならないから」

「心配するな、自覚はある」



「うるせェよクソボケどもが!マジでなンでここにいるンだよオマエ!?」

「あんたが変な事しないように見張るのが私の役目だし?」

「なンでこの場所がわかったかって聞いてンだよ!」

「んー……なんとなく?」

「意味がわかンねェ……」

「何ていうかこう、ビビッと来たって感じ」

「なンだそれ理解不能な怖さがあるンだけど、つーか帰れよ何もしてねェから」

「とにかく、私が来たからにはあんたの好きにはさせないから」

「たまには俺の話聞いてくれねェ?」

「それより喉渇いたからシェイクでも買ってきてくれない?」

「オマエどンだけフリーダムだよ」



「……何か、残念な子だなコイツ」


 一方通行と御坂のやり取りを観察していた垣根が、ポツリと感想を漏らす。
「残念な子」、そう言いたくなる気持ちも確かに分かる。
何せいきなり「見張り役」などとストーカー宣言した上に、一方通行の話を全く聞かず
わけの分からない事を言いながら一方的にこの場に居座ろうとしているのだ。
彼女のこの態度を「残念」と言わずなんと言おう。


「誰が残念な子よ誰が!!」


 垣根の見下すような発言に、御坂はキッと彼を睨みつけ、机をバンバンと叩きながら反論する。
その反動で、突っ伏している少女が何度も額を机にぶつけるハメになっているのだが、そんなモノはもはや目に入っていない。
どう見ても残念な子です、本当にありがとうございました。


「オマエだよオマエ、顔は悪くねえのに勿体ねえ……残念過ぎて俺の未元物質もピクリとも反応しねえよ」

「だよなァ、やっぱコイツには反応しねェよな」

「アンタらに反応されても嫌なだけだけど、やっぱりこれはこれでムカつくわね……」


 以前一方通行から放たれた「好みじゃない」発言に続き、今度は垣根にまで「反応しない」
などと言われてしまった御坂は、ひくひくと顔を引き攣らせ、その額にビキビキと青筋を浮かべる。
そりゃまぁ、ようするに「女としての魅力を感じない」と言われているようなものなのだから、
青筋の一つや二つも出来ようというものだ。


「エヴァで例えると新劇場版で新キャラのメガネに出番奪われまくったアスカ並に残念だわオマエ」

「そこまで言うのは流石にちょっと酷くねェか?最上級の残念さじゃねェか」

「何の話よ!?」

「正直あのメガネにビーストモードで逆レイプとかされてみてえ」

「流石の俺もそれは引くわァ……」

「本当に何の話!?て言うか残念残念って、私がレベル5第三位だってわかって言ってんの!?」

 訳の分からない例え話に憤慨し、遂に御坂は切り札を切り、自分がどのような存在かを垣根に叩きつける。
そう、彼女はこの学園都市にたった七人しかいないレベル5の第三位、ただの残念な子ではないのだ。

 目の前の垣根と言う男が何者かは知らないが、自分が超能力者である事を知らせてしまえば
これ以上ケンカを売るような態度は取ってこないだろう、と御坂はそう考えていたのだ。

 しかし彼女はよく考えるべきだった。何故一方通行と垣根が一緒にいるのかを。
思い出すべきだった。垣根が、第一位である一方通行に対してどのような接し方をしていたのかを。
気付くべきだった。彼等二人が、あたかも対等の友人のように会話をしていた事に。

学園都市の第二位、垣根帝督は顔色一つ変えず、涼しい顔で御坂の第三位発言を受け流した。


「レベル5、第三位……あぁ、御坂ってどっかで聞いた事あると思ったら常盤台の客寄せパンダちゃんか」

「なっ!誰がパンダよ!パンダは私じゃないわ!!」


 予想外にも挑発染みた発言をやめない垣根に、御坂は狼狽しながらも反論する。
そう、垣根の見せた反応は、彼が第二位だと言う事を知らない彼女にとっては完全に予想外のものである。
御坂が頭の中で描いたシナリオは、彼女が第三位だという事を知った垣根は
今までの非礼を土下座するかのような勢いで詫び、更にご機嫌取りの為にシェイクを奢ってくれる
という何とも都合の良いモノであった。と言っても、実際に垣根が大した事無い能力者だったとしたら
そのシナリオ通りに事が運んだ可能性も結構高いのだが、現実とは非情である。


「『私じゃない』って事は他にパンダがいンのか?」


 御坂の発言に対し、一方通行が素朴な疑問を口にした。
「パンダは私じゃない」……この発言からすると確かに、自分はパンダではないが
他にパンダがいる、と言っているようにも聞こえる。


「え?あぁ、後輩にそれっぽいのが一人……」

「いンのかよ……」

「パンダでも通えるのかよ、常盤台すげえなオイ」


 一方通行の疑問に対し、御坂は一人の後輩を頭に思い浮かべながら肯定する。
その答えを聞いた垣根は、制服を着たパンダが椅子に座して授業を受けている、
という何ともシュールな光景を想像し、心の底から感心した、というような声を漏らした。
もっとも、実際には垣根の想像しているような事はいくら学園都市でも有り得ず、
御坂の言う後輩がパンダだと言うのは見た目ではなく、その可哀相な名前の事なのだが……


「いやもうパンダはどうでもいいのよ、それよりあんた!いったい何様だって言うの!?」

「ん?あぁ俺か、そういや名前しか言ってなかったな」


 声を張り上げながら、御坂はパンダに思いを馳せていた垣根に食って掛かる。
その声に想像を中断された垣根はめんどくさそうに御坂の方を見ると、
小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、気取った仕草で前髪を掻き揚げながら口を開いた。


「改めて自己紹介と行こうか。ハジメマシテ第三位のお嬢ちゃん
第二位、未元物質の垣根帝督だ」

「だ、第二位!?」


 ここに至り、ようやく御坂は目の前の男が自分よりも格上の存在だと言う事を理解する。
今まで彼女が気付かなかったのも無理はない。学園都市の暗部に住まう第二位の詳しい情報など、
表の世界の住人である彼女が知っているはずがないのだ。
裏の世界の住人なのに何故か名前が売れている一方通行が異常なのである。


「第二位だなんて、そんな……」

「どうだビビッたか?態度を改める気になったか?」



「第一位と第二位が両方馬鹿だなんて学園都市は一体どうなってるのよ!?」

「何この子、序列が理解出来ない程残念な頭してんの?」

「こォいう奴なンだよ……つーか誰が馬鹿だコラ、馬鹿なのは垣根だけだ」


「……あ?何言ってやがるこの白モヤシ、表に出るか?」

「ハッ、そンなに自殺してェンなら手伝ってやるよ」

「やっぱ馬鹿じゃんあんたら」



「君達。ちょっと静かにして欲しい」

「「!?」」


 突如聞こえてきた声に三人は驚き動きを止める。
そう、彼等は三人とも揃いも揃ってこの場にもう一人いたことをすっかり忘れていたのだ。
と言うか覚えていた方が何人いただろうか。
机に突っ伏していたはずの巫女服の少女は、いつの間にか顔を上げ、
少々恨めしそうな顔で三人の方を見つめていた。


「私は食べ過ぎてお腹が痛い。だからゆっくり休むためにも静かにして欲しい」

「あ、あァ、そォいや食い倒れたとか言ってやがったなァ」

「これは失礼致しましたお嬢さん、よろしければ膝をお貸ししましょうか?」

「あんたそれ紳士って言うかもうただの変態じゃない……」


 にこやかに自分の膝をぽんぽんと叩く垣根に、御坂は頭を抱え溜息を吐く。
本当に何でこんなのが第二位なんだろうね。


「膝は遠慮する。それよりも」

「何だ?俺に出来ることなら何でもするぜ?」

「オマエの笑顔は本当に嘘くせェなァ」

「気持ち悪いわよね」

「おい第三位、いい加減にしねえとミンチにすんぞ」


 膝は断られてしまったが、代わりに何か頼みごとがあるらしい。
やはりこれは運命だ、と勝手な判断を下し、笑顔で巫女服の少女に語りかける垣根だったが、
その表情からはまるで詐欺師のような胡散臭さが滲み出ており、一方通行にそれを指摘され、
更に御坂には純粋に笑顔が気持ち悪いと罵倒される。
御坂の放つ悪意ある言葉にイラ立ち、一度張り倒してやろうか、などと考えた垣根だったが、
彼が御坂の方を振り向いた時、既に彼女は一方通行という最強の盾の背後に隠れていた。



「ニヤニヤ」

(このガキうぜえええええ!!!)

(すまねェ垣根、コイツに傷付けたら妹達に口利いて貰えなくなるかも知れねェンだ……)


「ねえ聞こえてる?」

「お、おぉ悪い、それで何だっけ?」


 巫女服の少女は再び自分を無視した展開になりそうな状況を察知し、
凄まじい形相で御坂を睨みつけている垣根に話しかける。
垣根の方も一先ず御坂は保留しておく事に決め、若干顔を引き攣らせながらも
何とか笑顔を作り少女の方へ向き直った。


「お金を貸して欲しい。100円」

「ん、金?別に構わねえが、100円ぽっちでいいのか?」

「うん。帰りの電車賃が100円足りないだけだから」


「電車賃がねェっつーのはどォいう状況なンだよ……」

「無計画に買い物でもしまくったんじゃない?」


「つまりお嬢ちゃんは今から家に帰るわけだな?だったら電車使うよりもいい方法があるぜ」

「……それはなに?」


 100円を受け取ろうと垣根に向かって右手を突き出していた少女だったが、
垣根は一度出しかけた100円玉を財布に仕舞い、「良い事を思いついた」と人差指を立て、
少女に向かって微笑みかけた。


「俺が家まで届けてやるよ、電車なんぞより遥かに速えし快適だぞ」


 やっぱりろくな考えじゃなかったよ母さん。


(直球勝負に出やがったなコイツ……)

(電車より速くて快適ってどういう能力なんだろ?)


「折角だけど遠慮する」


 しかし垣根の素晴らしい思いつきは、残念ながら少女のお気に召さなかったようで、敢え無く一蹴されてしまう。
笑顔から一転、垣根は死んだ魚のような目をして項垂れ、世界の終わりが来たかのような深い溜息を吐いた。
ちょっと大袈裟過ぎる反応だが、そんな彼を流石に不憫に思ったのか少女は弁解するような口調で言葉を続ける。


「勘違いしないで。別に君に運ばれるのが屈辱だというわけじゃない」


「ん、あ、そうなのか?ていうか屈辱って……」

「そう。見ず知らずの君に迷惑をかけなくても帰る手段が見つかったから」

「あ?それはどういう……」


「おい垣根、ちょっと周り見てみろ」

「あぁ?何だよ………!!……こいつは」


 少女の言葉の続きを聞こうとしていた垣根だったが、彼らの会話は一方通行の若干緊張が混じった声に中断される。
そして一方通行の発言に促され、めんどくさそうに周囲を見回した垣根はその状況に絶句した。
いつの間にか自分達以外の客はほとんどいなくなっており、
そればかりでなく、彼等は黒いスーツを着た複数の男達に取り囲まれていたのだ。
他の事に集中していたとは言え、暗部で感覚を磨いている垣根が囲まれるのに気付かぬほど
その男達は存在感が希薄で、目を閉じるとまるでそこに何も存在していないと錯覚してしまうほどだ。
どう甘く見積もっても尋常な状況とは言い難い。

 しかし警戒する彼等を尻目に、巫女服の少女はぼんやりとした表情のまま立ち上がると
無警戒にその男達に歩み寄った。



「お、おい」

「……この人達、あなたの知り合いなの?」

「そう。塾の先生」


 御坂の問いかけに、少女は迷う素振りも見せずに即答する。
少しばかり妙な気配を感じるが、実際少女と男達は知り合いらしく、
彼女が男達の一人に右手を突き出すと、その男は財布を漁り、100円玉を探す素振りを始めた。
なるほど彼女の言った「帰る手段が見つかった」というのはこういう事なのだろう。
つまりこれで垣根は完全にお払い箱だと言うわけだ。


「残念だったなァ垣根くゥン、もォ俺達の出る幕は無さそうだぜェ?」

「……いや、まだ終わってねえよ」

「ちょっと、人間諦めが肝心よ?それにしつこい男は嫌われるって」

「ま、今回は運命じゃなかったと思って諦め……ッ!!」


 冷やかし半分で垣根を慰めていた一方通行だが、ある違和感を覚え、言葉を止める。
まるで自分たちの住む世界に、空間に、異物が混ざったような不自然な感覚。
その中に、僅かではあるが悪意を感じとった彼は素早く発生源を探すべく周囲に目を光らせる。
そして、それは意外なほどあっさりと、思った以上に身近で見つかった。別に隠す気も無かったのだろう。



「……垣根くン何やってンの?」


 違和感の正体。何の事は無い、垣根がこっそりと能力を発動し、未元物質を空間に混ぜ込んでいたのだ。
混ぜ込んだと言っても、それは一方通行がようやく感知できると言うほど微量であり、
御坂も、少女も、スーツの男達も当然、空間の変質には気付いていない。
また一方通行に感付かれたからといって垣根が特にうろたえている様子もない。
巫女服の少女との運命が今まさに潰えそうだというのに、彼は今にも鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌に微笑んでいた。


「おいコラ、何企ンで……」

「ま、見てな」


「うっ!」

「ぐはぁ……」


「「!?」」


 突如、巫女服の少女に小銭を渡そうとしていた男がその場に倒れ、それを皮切りに
彼等を取り囲んでいた男達が次々と倒れていく。いったいどうしたと言うのか?
考えるまでも無い、垣根の仕業である。未元物質で何かしらの攻撃を仕掛けたのだろう。
とは言えその事に気付いているのは一方通行だけであり、御坂と巫女服の少女は目の前の異常な光景に、
ただただぽかんと口を開けて呆けるしかなかった。



「オマ、ホントに何やってンだ!?」


 突如民間人に危害を加え始めた垣根に、一方通行が驚愕の声を漏らす。
しかし当の垣根はその問いに答えず、すくと椅子から立ち上がると、
結局100円を受け取る事が出来ずにその場に立ち尽くしていた少女の肩に手を置き、
優しげに声をかけた。


「あー、何か塾の先生倒れちゃったな、残念残念、何があったんだろうなぁ?
ほら、こうなったら仕方ねえからさ、やっぱり俺が送って行くよ」


 つまりはそう言う事だ。少女に100円を渡そうとしていた塾の先生達を邪魔者と判断し排除、
そうして頼る者のなくなった彼女に優しく声をかけ、好感度を上げる、という作戦である。
最悪のマッチポンプだと言えよう。


「そう。じゃあお願いする」


 そして、目の前で人がバッタバッタと倒れていくと言う異常な光景を目にして
少々思考停止気味だった少女は、大して考えず、垣根から差し伸べられた手を素直に握ってしまう。
げに恐ろしき第二位の頭脳、一度は離れかけた運命を咄嗟の機転で再びその手に掴み取る事に成功したのだ。


「よし、じゃあ行くか、えーっと、名前教えて貰えるか?」

「私は姫神。姫神秋沙」

「姫神ちゃんね、俺は垣根帝督だ、よろしくな」

「オイコラ待て垣根!」


 姫神を伴って店から出て行こうとする垣根を、一方通行は慌てて呼び止める。


「あ?何だよ、テメエは大人しく第三位にストーカーでもされてろ」

「誰がストーカーよ!人聞きの悪い事言わないで!」

「垣根、オマエが今やってンのはナンパと変わらねェ行為だぞ、そンなモンが運命だなンて言えンのか?」

「……俺はこの子に運命を感じたんだよ、一方通行。だから俺は、例えナンパにしか見えなくてもこの道を行く
運命ってのは自分の力で切り開くモノだろう?」

「いやちょっと何言ってんのあんたら、正直意味がわからない上に気持ち悪いんだけど」



「……わかった、もォ止めやしねェよ。だが、俺もついて行く」

「あぁ?」

「どォにもオマエはそのままじゃ道踏み外しそうだからなァ……
清らかなお付き合いをするってンなら止めねェが、もしオマエが無理矢理その子を襲おうとしたらそン時は……」

「襲いやしねえよ、けどまぁついて来るんなら好きにしろ、
別にデートするわけでもねえし、単に家まで送ってくだけなんだからな」

「よし、それじゃさっさと行くか。案内頼むぜ、姫神さン?」

「ようやく出番。わかった」


「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 
 姫神を先頭に、一方通行と垣根はさっさと店から出て行くと、
しばらくぼうっとしていた御坂も慌ててそれに続いた。



(……なンか忘れてるよォな)

(あっ、結局クーポン券使ってねェ!つーか何も食ってねェ!!何しに来たンだ俺ら!?)



―――――――――――――――

―――――――――

――――



―街中


垣根「で、ここが姫神ちゃんの住んでるところか?」

一方通行「どォ見ても家には見えねェ……つーかビル群じゃねェか」

姫神「そう。私はこの三沢塾にお世話になっている」

垣根「塾に?まぁこんだけでかい建物なら下宿くらいできそうだが」


御坂「あ、あんたら、飛ぶなんて反則でしょうが……」ゼェゼェゼェ

一方通行「走ってついてきたオマエも反則級だろ十分」



姫神「送ってくれてありがとう。もうここまでで大丈夫」

垣根「そういうわけにも行かねえな、折角だから親御さんに挨拶の一つでも……」

一方通行「なンでだよ」

垣根「そりゃオマエ、俺と姫神ちゃんの仲を親公認にする為にだな」

姫神「私と君はそんな仲じゃないと思う。それに親はいない。保護してくれている人ならいるけど」

垣根「んじゃその人でいいわ、ちょっと顔見せしてくる」テクテク

姫神「待って。一人で行くと危ないかもしれない」テクテク

一方通行「あァおい待てって」テクテク


御坂「……休む時間くらい、よこしなさいよ」ゼェゼェ


―三沢塾内部


垣根「見た通り広ぇなぁ……姫神ちゃんよ、保護者さんはどこにいるんだ?」

姫神「それなんだけど。帰ったほうがいいと思う。あの人は疑り深い」

垣根「疑り深い?そりゃどういうことだ?」

一方通行「オマエの怪しい顔見せたら姫神をどォにかされたと思われるンじゃねェか?」

垣根「テメエこのイケメンを捕まえて怪しい顔だと!?」

御坂「ねぇ何処かに水飲む場所とかないの?自動販売機でもいいけどさ」

一方通行「オマエはもォ帰れ」

姫神「私の話を聞いて欲しい」


「騒然、うるさいぞ貴様ら」


垣根「あ?何だこのおっさん、何処から湧いて出やがった」

一方通行「緑色の髪のオールバックに白いスーツ?どンなファッションセンスだよオイ」

御坂「髪の色も服装もあんたには言われたくないでしょうけどね」



「憮然、なんと失礼な連中か」


御坂「ちょっと、私まで含めないでよ」

垣根「あ?誰に向かって口利いてやがるこのおっさん」

姫神「待って。その人が私を保護してくれている人」

垣根「……え?」

一方通行「マジか、このホストみてェな格好したおっさんが?」

姫神「本当。アウレオルスと言う」

御坂「学園都市に外人さん?珍しいわね」

垣根(やっべえ……保護者さんに挨拶して姫神ちゃんと公認の仲になる予定だったってのに
   これじゃ第一印象最悪じゃねえか!!何とか挽回しねぇと……)


垣根「……」ジッ

アウレオルス「何だ?」

垣根「……えっと、素敵なネクタイですね、派手な格好したあなたの中で唯一地味目で……」

アウレオルス「貴様、馬鹿にしているのか?」

垣根(失敗しただとおおおお!!!他にこのおっさんの何処褒めれば良いってんだクソがあぁぁぁ!!!)


一方通行「なァに頭抱えてンですか垣根くゥン」

御坂「どうせろくでもない事考えてたんでしょ……」

アウレオルス「貴様らは……」

姫神「待って。この人達は私を送って来てくれただけ」

アウレオルス「何?」

垣根「そう、そうなんですよ。俺達は困ってた姫神ちゃんをここまで送って来て……」

一方通行「弁解必死すぎるだろオマエ」

御坂「何ていうか見てて痛々しいわよね」

垣根「黙ってろテメエら!!」


アウレオルス(送って来た……?では彼女を奪い私の邪魔をしようとしているわけではないのか?)


垣根「そもそも俺と姫神さんはとあるファーストフード店で出会ってですね……」

一方通行「なンか語りだしちゃったよコイツ」

御坂「保護者に気に入られようと必死なんでしょ?」



アウレオルス(……確かに敵意のような物は感じられない。必然、しかし確認をする必要はある)


アウレオルス「貴様、」

垣根「そこで何故か塾の先生たちが倒れてしまったので俺が優しく……はい、何か?」


アウレオルス『――目的を喋れ』

垣根「姫神さんを俺にください」

姫神「」

一方通行「垣根くゥゥン!?」

御坂「ちょ、いきなり過ぎるでしょ!?」

アウレオルス(なるほど、どうやら本当に彼女を送って来ただけのようだ、ならばこれ以上用はない)




アウレオルス『もう良い、帰……』

垣根「必ず幸せにします!ですからどうか姫神さんを俺に下さい!是非下さい!!」

一方通行「おい落ち着け垣根!突然どうしたンだよ!?」

御坂「ほ、ほら姫神さんも困ってるわよ!」

姫神「」

アウレオルス「貴様ら、私の言葉の邪魔を……」

垣根「将来的には赤い家を建てて白い犬を飼って、子供は三人ほど……」

アウレオルス「唖然、そこまで喋れとは命じていない」

一方通行「すいませンすいませン、この馬鹿すぐ連れて帰りますから」

御坂「ほ、ほら帰るわよ!姫神さんも保護者の人もドン引きしてるから!」

垣根「まだだ!まだ俺は目的を伝えきってねえ!!老後は子供や孫に囲まれて幸福に……」

御坂「いい加減に……しろぉ!!」バチバチバチ

垣根「効かねえなぁ!!」ファサ

御坂「わ、私の電撃が効かない!?何なのよその羽!!」


アウレオルス(純白の翼だと!?まさかこの少年、本物の天使だとでも言うのか!?)

垣根「vaghdafmpouhasl」

一方通行「何言ってンだオマエ!?何語だよそれ!」

アウレオルス(愕然、このような男と会話が成立するはずがない……こんな相手に敵うはずが……あっ)


アウレオルス(無理だって思っちゃった……)



 アウレオルスの黄金練成(アルス=マグナ)、それは世界の完全なるシミュレーションを頭の中に構築する事で、
頭の中に思い描いた物を現実に引っ張り出すという恐るべき魔術である。
ただ思い浮かべるだけで、その考えが実現するという反則的な魔術、
しかし本当に全てが思い通りに歪んでしまうという事こそ、その弱点でもある。
アウレオルス自身が自分に不利な状況を想像してしまえば、それもまた実際に起こってしまうというわけだ。
垣根の純白の翼を見て、彼の事を本物の天使だと思い込んでしまったが故に、
垣根は本当に天使のような理解不能の言語を発し始め、その彼に「敵わない」と思ってしまった為、
本当に敵わない領域にまで押し上げてしまったのだ。
結果、アウレオルスは目の前の状況に絶望し、ゆっくりとその場に倒れ伏した。



―――――――――――――――

―――――――――

――――

―とあるファーストフード店


垣根「あのおっさん、何で突然ぶっ倒れたんだろうな?」

一方通行「知らねェよ、貧血かなンかじゃねェ?」

垣根「姫神ちゃんも何か『目的が果たせなくなった』とか怒ってたし、結局今回も運命を逃しちまったのかぁ」

一方通行「ま、諦めなけりゃそのうち運命に巡り合えるだろ、気長に行こうぜ」

御坂「私がいる限りあんたには運命なんて絶対に訪れさせないけどね」

一方通行「いい加減帰れよオマエ」


 学園都市は、今日も呆れるほど平和でした。

投下終了、終盤の投げやりっぷりが酷すぎる
でもまぁ姫神編は本来書くつもりもなかったし、こんなもんでも仕方が無いよね
アウレオルス相手とかマトモにやってたらどうやって勝たせればいいかわからないレベルだし


御使堕しなぁ、面白そうなんだけど書くとすると半端なくめんどくさそうなんだよね
もし書くとしたら、事件解決は上条さん達に任せるとして
一方さん以外の全員が入れ替わってしまった状態での一方さんの可哀相な一日、みたいな感じになるかな

それじゃ投下を始めるぞ



「ふ、不幸だ……」


 その日、とある少年がとある公園内で四つん這いになって項垂れていた。
哀愁誘う格好で半泣きになっているその少年、名を上条当麻と言う。
彼の前にあるのは『お金を呑み込んでしまう事がある』と一部では有名な自動販売機。
つまり今のこれは、不幸にもその情報を知らなかった上条が、不幸にもなけなしの札を自動販売機に投入してしまい、
不幸にもその札を呑み込まれてしまった、という状況だ。


「学園都市の自動販売機が壊れてるなんて有り得ねーだろちくしょー!」


 ここ学園都市は、都市外の世界と比べ科学技術が数十年は進んでいると言われている場所である。
そのような街にある自動販売機がこのような壊れ方をしているなど、いったい誰が予想できようか。
やり場のない怒りを胸に、上条は叫びながら右拳を握り締め、ガンガンと地面を殴りつけた。

 入れたのが千円札だったのなら、貧乏な彼には致命傷ではあるが、まだ諦めきれたかもしれない。
しかし彼が入れたのは今時珍しい二千円札であった。これはなんとしても取り戻さねばならない。
訳在って大喰らいの穀潰しを一人飼っている彼にとって、千円の差というのは非常に大きいのである。
食費を削ったりすると穀潰しに何を言われるかわかったものではない。
上条は今一度自動販売機にすがりつき、お金の返却レバーを全力で上下に動かした。



「うおぉぉぉ!!!戻って来い!戻って来いぃぃぃ!!!」


 しかし必死の行動もむなしく、自動販売機はウンともスンとも言わない。
やがて返却レバーを弄っても無駄だと理解した上条は、酷く悲しげな目をしながら、自動販売機から一歩距離を取った。
諦めたのだろうか?否、違う。
彼の右拳は、メキメキと音がするほど強く握り締められていた。


「いいぜ自販機……てめえが俺の二千円札を返さねえってなら……」

「まずはそのふざけた幻想を――」


「おいそこのウニ頭、買わねェンならどけ、邪魔だ」


 決め台詞の無駄遣いをしながら自動販売機をブン殴ろうとしていた上条の行為は、
不意に背後から聞こえてきた声により中断される。
ハッと我に返った彼が振り返ると、そこには真っ白い髪に真っ白い肌をした不健康そうな少年が
何とも不機嫌そうな表情で立っていた。


「あ、あぁ、悪い」

「ふン」


 自分の一連の怪しい行動を見られていたのではないだろうか、と不安に思いながらも、
上条はとりあえず素直にその白い少年に場所を譲る。
しかし彼の不安を余所に、少年は上条の事など全く眼中に無いという風に自動販売機の前に立つと、
ごそごそとポケットを漁り、やがて革製の高級そうな財布を取り出した。
当たり前の事だが、ジュースを買うつもりなのだろう。



「あ、ちょっと待て!」

「あァ?」


 今まさに財布から札を取り出そうとしていた少年に、上条は慌てて待ったをかける。
上条当麻は例え自分が不幸であろうとも、目の前で他の誰かが不幸になろうとするのを良しとしない。
このまま放っておけば、この白い少年も魔の自動販売機によってお金を呑まれてしまう可能性がある、
そう判断した上条は、目の前の少年が自分と同じ目に合わぬよう、純粋な善意で彼を呼び止めたのだ。


「なンだよ?俺喉乾いてンだけど」

「その自販機さ、何か壊れててお金呑み込んじゃうんだよ」

「マジか」

「マジもマジ、大マジだよ。俺もたった今呑まれちまったんだ」

「あァ、それで自販機にすがりついたりしてたのかオマエ」

「あ、やっぱり見られてたのね……」


 恥ずかしい姿を見られていたのはともかく、何とか白い少年の不幸を未然に防ぐ事に成功した。
上条はそれだけで十分満足だった。二千円札を失ったのは痛手だが、代わりに人助けが出来たのだ、
家で待っている穀潰しも一応シスターという職業なのだし、人助けだと言えば許してくれるだろう。



「しかし災難だなァオマエ」

「不幸には慣れてますよ……」

「ふゥン?……で、いくら呑まれたンだ?」

「へ?二千円札だけど……」

「レアな札持ってやがったンだな……まァいい、わざわざ教えてくれた礼にその二千円取り戻してやンよ」

「え、でも返却レバーも効かないんだぞ?どうやって……」

「まァ見てな」


 「二千円を取り戻す」そう言うと少年は自動販売機に手を伸ばし、まるでノックするように
コンコン、と二、三回その胴体を叩く。たったそれだけで、まるでビデオの巻き戻し再生のように
札の投入口から、先程上条が入れた二千円札が戻ってきた。
ついでにジュースが二本、受け取り口から転がり出てくる。


「ほら、戻ってきたぞ」

「お、おぉ」


 白い少年に促され、戻ってきた二千円札をおずおずと受け取る。
無能力者の上条には何が起きたのかは理解できなかったが、
それでも目の前の少年が何らかの能力でお金を取り戻してくれた事くらいはわかった。
情けは人のためならず、とはまさにこの事である。
他人にかけた情けは、巡り巡っていつか自分に返って来るものなのだ。



「ついでにジュースも一本やンよ」

「あ、サンキュ……ってこれは所謂泥棒では……?」

「細けェ事言ってンじゃねェよ、金入れられねェンだから仕方ねェだろ」

「まぁ……それもそうか」


 少々の罪悪感を感じながらも少年の言葉に納得し、受け取った缶ジュースの蓋を開ける。
「いちごおでん」と書かれたその缶からは得体の知れない臭いが漂って来ているが、この際文句は言えまい。
一口飲んでみると、やはりそれはとてもではないが美味とは言い難く、
上条はその場に吐き出したくなる衝動を必死に堪え、極力味を感じないよう、一気に喉に流し込んだ。
いちごとおでんと言う最悪のミスマッチ、このジュースはいったい誰が得をするというのだろうか。


(く……喉は潤うんだ、我慢我慢……ん、)


 ジュースとの格闘に意識を集中していた彼がふと気付くと、
白い少年はもう一つのジュースを片手にテクテクとその場から離れていくところだった。
まだ禄に礼も言えていない上条は慌てて去って行く彼に走り寄る。


「お、おいちょっと待ってくれよ!」

「あァ?今度はなンだよ」

「いや、お金取り戻してくれたしさ、折角だし何かお礼させてくれないか?」

「いらねェよ、オマエみたいな貧乏そォな奴にたかるほど落ちぶれちゃいねェ」

「うぐ……そりゃまぁ上条さんは確かに貧乏ですが……」

「ンじゃいいな?今度こそ行くぞ」

「あ、だから待てって!」


 白い少年の直球な一言に若干心を痛める上条だったが、
これまでのやり取りからこの少年が悪い人間でないという事はよくわかっている。
不機嫌な表情と荒い言葉遣いに隠されているが、根は良い奴なのだろう。
今の言葉だって、上条に余計な負担をかけまいとする優しさの裏返しなのかもしれない。
現実はめんどくさがっているだけと言う可能性が高いのだが……
何にせよ、更に引き止めようとする上条に対し、少年はうんざりしたような表情を作りながら向き直った。


「何なンですかァ?」

「あーその、名前くらい聞かせてもらえないか?」

「名前ェ?別に名乗るほどのモンじゃねェよ、俺はただの……」








「ただの、通りすがりの童貞だ」








(通りすがりの、童貞……)


 白い少年が去った後、上条は彼の残した言葉を頭の中で反芻した。

 上条はこれまで童貞とは恥ずべきものだと認識していた。
と言っても童貞を劣等だ、欠陥だ、などと思っていたわけではなく、
ただ漠然と恥ずかしいな、と思っていた程度ではあるのだが、
それでも人前で堂々と言うような事ではないと、他人に声高に宣言するような物ではないと考えていた。

 しかしあの少年はどうだっただろう。彼の童貞発言は実に自然なモノだった。
童貞である事を誇っている言うわけでもなく、かといって自虐していると言うわけでもなく、
白い少年は極自然体で「童貞だ」と言い放ったのだ。
それは下手に気取った言い方をするよりも何倍も美しい響きで上条の胸に届いた。

 童貞である事を認め、受け入れ、そして悲観せず前に進もうとする……
白い少年の童貞発言には、そんな黄金の意思が込められているようにすら感じられた。


「俺もいつか、あいつみたいに『童貞だ』と自然に言える日が来るだろうか……」


 この出会いは、後に上条の人生観を大きく変える一因となる。
童貞を秘匿すべき物だと認識していた上条当麻はここで死に、彼は生まれ変わったのだ。



―――――――――――――――

―――――――――

――――



「ちょいとそこのあなた」

「……あァ?俺か?」


 上条当麻が転生を果たしていたその頃、公園から少し離れた道を
ジュースを飲みながらだらだらと歩いていた白い少年― 一方通行は、やけにしゃがれた声に呼び止められていた。
今日呼び止められる事が多いな、などと考えながら彼が振り向くと
その先には、しゃがれ声からは想像も出来ないような可愛らしいツインテールの少女が立っている。
はて今の声は本当に目の前の女が出したモノなのか、と疑い周囲を見渡した一方通行だったが、
自分と少女の他に人影は無く、どうやらしゃがれた声で呼びかけてきたのは間違いなく目の前の少女のようだ。



一方通行(かわいそうに、声で苛められてるンだろォなァ……)

「な、何ですの、その哀れむような視線は……」

一方通行「気にすンな」

「……まぁ良いですの、それよりも少々お時間よろしいですの?」


一方通行「よろしくねェ!」カッ

「なっ!?」

一方通行「名前も名乗らないような怪しいヤツの為にくれてやる時間なンざ1秒もねェ!」

白井「……失礼致しました。わたくし、白井黒子と申しますの」

一方通行(白で黒……名前でも苛められてンだろォなァ……)

白井「だから何なんですの!?その哀れみの目は! とにかくこれでお時間よろしいですのね!?」


一方通行「よろしくねェ!!」カッ

白井「何故に!?」


一方通行「そンなババア声で俺を誘惑しようなンざ46億年遅ェ!生命のスープからやり直してきやがれ!!」

白井「だ、誰がババア声ですの!?しかも誘惑って何ですの!?」

一方通行「あァ?違ェのかよ、てっきりまたうざってェ逆ナンかと思ったンだが」

白井「自意識過剰ですの!わたしくはそんなに軽い女じゃありませんの!!」

一方通行「ですのですのうるせェ、じゃァ何なンだオマエ」


白井「ジャッジメントですの(キリッ」


一方通行「……で、その風紀委員(ジャッジメント)の白黒さンが俺に何の用ですかァ?」

白井「実は先程、この近くの自動販売機からお金を盗んでいる輩がいる、と通報がありまして」

一方通行「ほォ」

白井「その泥棒さんの特徴と言うのが、白い髪、白い肌、黒いシャツ、ついでに赤い目、と言うものだったんですの」


一方通行「ふゥン……で?」

白井「で? じゃありませんの!そんな外見の方、あなた以外におりませんの!!」

一方通行「あァ?良く探せよ、世界中探せば何人かいるだろ」

白井「いやいやいや、世界にはいてもあの自動販売機の近くにはあなたしかおりませんの!
   申し訳ありませんが、詰め所で事情を聞かせていただきますの」

一方通行「お断りですの!」

白井「な、この期に及んで何を!? て言うかですのって言うなですの!」

一方通行「語尾が移っちまったですの、オマエのせいですの」

白井「ば、馬鹿にしているんですの!?」

一方通行「馬鹿にしているんですの!!」

白井「ムッキー!!何て失礼な殿方ですの!?こんなに不愉快な気分になったのは生まれてこの方始めてですの!!」

一方通行「あァ!?こっちのセリフだボケが!!こンなに不愉快な気分になったのは
      この前垣根の家に遊びに行ったらアイツが熟女モノのAVとロリモノのAVの同時上映やってた時以来だ!!」

白井「どなたですの!?」

一方通行「オマエに教えてやる義理はねェ!」



白井「あぁはい、もうどうでもいいですの……とにかく詰め所までご同行願いますの……」

一方通行「だから断るつってンだろ、話聞けよババア」

白井「だ、誰がババアですの!?声だけですの声だけ!!」

一方通行「ふゥン声がババアなのは認めるンですねェ」

白井「くうぅぅ、絶対に許しませんの!窃盗容疑以外にも色々罪をでっち上げてブタ箱にぶち込んでやりますの!!」

一方通行「おいおい、治安を守るはずのジャッジメントがそンな物騒な事言って良いのかァ?」

白井「あなたのような犯罪者に人権などありませんの!!世の為人の為、力ずくでも連行させていただきますの!!」

一方通行「へェー、オマエみたいなガキがどォやって俺を連行するってンだ?」

白井「そんな態度を取っていられるのも今のうちですの。
   わたくし、これでもレベル4の空間移動能力者ですのよ?
   あなたのような貧弱そうな殿方の一人や二人、お茶の子さいさいですの!」

一方通行「ふゥン、凄いンですねェ」


白井「謝るんなら今のうちですのよ?大人しく詰め所まで来て頂けるのならわたくしも手荒な真似は……」

一方通行「お断りだァ!テメエみてェな白だか黒だかパンダだかオセロだかシマウマだか
      わかんねェよォな名前のヤツに頭下げるなンざ俺のプライドが許さねェ!!」

白井「がああぁぁ!!もう許しませんの!!ぼこぼこにした挙句強制連行の刑ですの!!」

一方通行「来いやこのパンダがァァァァァ!!!」

白井「ジャッジメントですのおおおお!!!!」



―――――――――――――――

―――――――――

――――




白井「申し訳ございませんでした……」

白井「はい、はい、調子に乗っておりましたの、ぶっちゃけわたくし滅茶苦茶強いんじゃね?とか思ってましたの」

白井「知らなかったんです、知らなかったんですの、まさかあなたが第一位様だっただなんて……」

白井「いえですからババアでは……いえ何でもありませんの、はい、デコピンは勘弁してください」

白井「パンダとは呼ばないでくださいまし!そこは譲れませんの!!」

白井「白井黒子!白井黒子ですの!!白井黒子……ホクロじゃねぇですの!!」

白井「そもそもあなたのような白い方に白だの黒だの言われたく……え、ちょ、何やってるんですの?」

白井「『圧縮圧縮』って、いったい何を圧縮してるんですの!?ちょ、待ッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


白井「と、ところで自動販売機からお金を盗んだのは本当にあなたでは……あ、違うんですのね、はい」

白井「あの、そろそろ正座をといても……アスアファルトに直で正座は乙女の柔肌には……」

白井「あ、ダメですのね、はい、本当に申し訳ございませんの……」



一方通行「ったく、次からはちゃンと話聞けよこの一人オセロが」

白井「誰が一人オセロですの!!わたくしはそんな寂しい休日は送っておりませんの!!」

一方通行「それで、自販機から金盗まれたンだって?」

白井「は、はいそうなんですの、何でも能力を使って札の投入口からお金を取り出していたとか……」

一方通行「能力で札の投入口からねェ……どこの自販機だァ?」

白井「ここのすぐ近くにある公園のですの」


一方通行「あ、やったの俺だ」

白井「やっぱりお前じゃねえかああぁぁぁ!!!!」


一方通行「落ち着け、事情があンだよ、あと口調が壊れてンぞ」

白井「散々否定してわたくしの事を痛めつけておきながら今更!今更!!」


一方通行「盗ンだって意識なかったンだよ、詳しく話さなかったオマエが悪ィ」

白井「ふざけんなですの!!話す時間すらよこさなかった癖に!!マジファックですの!!」

一方通行「おい聞け、別に盗ンだわけじゃねェ」

白井「ジャッジメントですの!ジャッジメントですの!!」

一方通行「おいだから……」

白井「ジャッジメントですのおおおおお!!!」


一方通行「うるせェ!!!」ベクトルチョップ

白井「おぶんッ!!!」ズバン!!


一方通行「盗ンだわけじゃねェつってンだろォが!事情があンだよ!!話聞きやがれこのパンダが!!」

白井「うぅ、理不尽ですの……事情って何なんですの……?」

一方通行「カクカクシカジカで、可哀相なウニ頭の為に金取り返してやってたンだよ
      俺を捕まえる前に自販機修理しやがれってンだ」



白井「ふむ、なるほどそういう事情でしたのね……わかりました、犯罪者扱いした事は改めて謝罪させていただきますの」

一方通行「おォ」

白井「……でも自動販売機からお金を盗んだのも事実ですので、やっぱり詰め所までご同行願いますの」

一方通行「あァ?ふざけてンのかオマエ、俺は忙しいンだよ」

白井「見たところとっても暇そうですが、何をなさるんですの?」

一方通行「いいか、俺は一刻も早く運命の人を……ン、いや待てよ」

白井(運命の人……?)

一方通行(ジャッジメントの詰め所には多分こいつ以外の女もいるよな……つーことは、だ)


一方通行(無実の罪で横暴なパンダジャッジメントに連行される可哀相な俺
      →連行された先で俺の言い分を信じてくれる美人の女性ジャッジメント登場
      →互いに惹かれあい、二人は濡れ衣を晴らす為に司法との戦いに身を投じる
      →全米が泣いた)


一方通行「これが運命かァ!!!」

白井「何がですの!?」


一方通行「よし詰め所行くぞ、すぐ行くぞ」

白井「え、え?突然どういう風の吹き回しですの?」

一方通行「おらグズグズすンな、急げ、無実の罪を着せられた可哀相な俺をさっさと連行しやがれ」

白井「いったい何をおっしゃってるんですの!?」

一方通行「遅ェンだよオラァ!!」

白井「ちょ、襟首を掴まないでくださいまし!何をするつもりで……」

一方通行「飛ぶぞォォォォォ!!!」

白井「ギャアアアアアアアア!!!!」


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部前


一方通行「ここがオマエの勤めてる詰め所か」

白井「し、死ぬかと思いましたの……」


一方通行「オラ、もっとしゃンとしていかにも横暴そォに俺を連行しやがれ」

白井「おっしゃっている意味がわかりませんの……」

一方通行「チッもォいい先に行くぞ」

白井「お好きになさってくださいまし……あんな通報無視すればよかったですの……」


ガチャッ


一方通行「すいませェーン、ちょっとここのパンダさンに無実の罪で連行されて来たンですけどー」

白井「もうつっこむ気力すらありませんの……」


御坂「へ?」


一方通行「……あ?」


白井「あら、お姉様来ていたんですの?」

御坂「あ、うんちょっと……ってそっちのあんた!」


一方通行「……あ、すいませン間違えました」バタン


御坂「待ちなさい!!何やってんのよ一方通行!?」ガチャ

一方通行「なンですかやめてください、人違いです」

御坂「あんたみたいな白いのは学園都市に一人しかいないわよ!!何で黒子と一緒にいるわけ!?
   まさか私の後輩に手を出そうってんじゃないでしょうね!?」

一方通行「ふざけンな!!誰がそンなババア声のパンダに手ェ出すか!!!」

御坂「……ま、それもそっか」

白井「え、そこ納得しちゃうんですの?と言うかお二人はお知り合いなんですの?」

御坂「知らないわよこんな毎日女の尻追いかけてるような白モヤシ」

一方通行「矛盾してンぞコラ。 おいパンダ、オマエジャッジメントならまずこのバカ取り締まれ」

白井「へ?」


一方通行「俺はコイツに深刻なストーキング被害を受けてンだよ」

御坂「誰がストーカーだゴラアアアアア!!!」

一方通行「自覚ねェのかテメエはァァァァ!!!だから残念な子って言われンだよォォォォ!!!」

御坂「残念残念言うな!だいたい、何であんたはここに来てんのよ!?
   折角今日は妹達が監視代わってくれるって言うからゆっくりできると思ってたのに!!」

一方通行「俺の方が束縛してるみたいな言い方やめてもらえますゥ!?
      つーか今『監視』つったよなァ!?オラ聞いただろパンダ!捕まえろよコイツ!!」


白井「え、えぇ……?(なんですのこの状況……)」

「あ、白井さんお帰りなさーい」

白井「あら初春、いましたのね」

初春「ちょっとその言い方は酷くないですか?白井さんの持ち込む面倒事を片付けているのは誰だと……」

白井「感謝しておりますのよ初春。ところで固法先輩の姿が見えませんが……」

初春「さっき牛乳買いに行きました。それより白井さん、そっちの白い人はどなたですか?」


一方通行「どォも、無実の罪で連行されてきた第一位の一方通行です」

初春「だ、第一位!?どうするんですか白井さん!そんな人を無実の罪で連行しちゃうだなんて!!」

白井「そこ信じちゃうんですの!?この方は勝手に来たんですの!!むしろ連行されたのはわたくしの方ですの!!」

初春「どうなんですか第一位さん、白井さんにどんな罪をでっち上げられたんですか!?」

白井「初春ぅぅぅぅぅ!!!!」


一方通行(ンー、何か運命感じねェなァ……超電磁砲がいやがるし、この初春ってのもガキくせェし。
      つーか何なンだよコイツの被ってる花飾り……生理的に受け付けねェわ)

御坂「一方通行、あんたが何考えてるかなんて知らないし知りたくも無いけど、私の後輩や友達に手を出したら……」

一方通行「出さねェよ、ガキにゃ興味ねェ。運命も感じねェしもォ帰るわ」

初春「あれ、帰っちゃうんですか?白井さんが迷惑かけちゃったみたいですし、お茶くらい飲んでいかれては……」

白井「うぅいぃはぁるぅ~?」

初春「じ、事実じゃないですか!どうして怒ってるんです!?」

白井「事実ではありませんの!!少しはわたくしの言った事を聞きなさいな!!」


 じゃれ合いを始めた二人の少女達を一瞥し、一方通行は軽く溜息を吐くと
くるりと彼女たちに背を向け詰め所を出て行こうとする。
御坂がまだ何がしかギャーギャーと言っていたような気がしたがそれはサックリと無視することにした。
そもそも立ち止まって耳を傾けてやるような義理など無い。
「危害を加えるな」とは言われているが、だからと言って「大切にしろ」とは言われていないのだから。


(結局今日も収穫無しかァ……)


 自分の立てた身勝手なシナリオに少しばかり期待していただけに、何の収穫も無かったダメージは大きい。
もう一度小さく溜息を吐くと、一方通行は心持ち項垂れながらドアノブに手を伸ばした。

――その時、運命は起こる。


「こんにちはー!遊びに来ましたー!!」

「あァ?」


 一方通行がドアノブに手をかける直前、ガチャリとその扉が開き、
白い花飾りをつけた、ロングヘアーの魅力的な少女が弾ける様な笑顔で詰め所に飛び込んできた。



「ぶふぇぇぇ!!!」

「……あァ?」


 そしてそのままの勢いで一方通行に突っ込んでしまい、反射の膜に激突し派手に吹き飛んだ。
彼女の飛んでいく先にあるのは―――窓

ガシャァァァァァン!!!


「さ、佐天さぁぁぁぁん!!!!」


 窓を突き破り、佐天と呼ばれた少女はゆっくりと落下していく。

 以前記した『反射の膜が運命の赤い糸すら反射してしまっている』という話を覚えているだろうか。
まさに、その時の例え話の通りの事が今ここで起きてしまったのだ。


 もし一方通行が反射の膜を張ってさえいなければ、
少女に激突された一方通行は、まるで少女に押し倒されたような形となり、
その後我に返り真っ赤になって謝る少女を撫でながら慰め、何だかんだで仲良くなり、
第一位ということで尊敬の眼差しで見られ、レベル0の彼女に能力開発の個人授業などを行い、
レベルが上がった彼女と喜びを分かち合い、その後は逆に人付き合いの仕方などを教えられ、
互いに足りないところを補い合いながら最終的に幸せに結ばれる、という運命が用意されていたかも知れない。

 しかしもう遅い。そんな運命は反射されてしまった。


<ヒュー……ドサ


「佐天さん!佐天さぁぁぁぁぁん!!!」

「お、落ち着いて初春さん!!黒子!あんたは救急車呼んで!!私は下に行ってくるから!!」

「わ、わかりましたの!!」

(……俺が悪いのかァ?………今の内に逃げるか)


 その後、救急車で運ばれたその少女は何とか一命を取りとめることに成功する。
何かが少し違えば一方通行と共に幸せな未来を築けたかも知れない彼女の行く先は
彼の胸の中ではなく、無機質な病院の一室となってしまったが、
彼女は今、後遺症も無く持ち前の明るさで元気にリハビリを開始している。


先に言っておこう
>>1は佐天さんが大好きです


うん、ごめんな?多分これで出番終わりなんだ……


おいっす、投下に来たぞ
何だか期待されてた御使堕とし編だけどいつも以上に滅茶苦茶になってしまった
ていうか魔術関係は本当に難しいからあんまり書きたくないでござる!絡ませ方もわからんでござる!



どうしてだ、どうしてこんな事になってしまった?

こんな事が許されていいのか?どうしてこんな理不尽が起きる?

そもそもいったい何が起きている?これは何の冗談なのだ?

在り得ない、在り得ない、在り得ない、在り得ない

全てが狂ってしまった、全てが歪んでしまった、全てが壊れてしまった

いっそ自分も狂ってしまえばよかった、しかし何の因果か、自分だけは全くの正常でこの狂った世界に放り込まれてしまった

いや、或いは正常なのは世界の方で、狂っているのは自分の方なのかもしれないが、どちらにしろ同じ事だ

もしこの世界に神と言うモノが存在するのなら、そいつはきっととんでもなく醜悪な姿をしているに違いない

そして、一方通行の事がこの上なく大嫌いなのだろう



「お、おいどうしたんだ一方通行?」


 とある喫茶店の一席、頭を抱え項垂れる一方通行を心配するように声を掛ける人間がいる。
彼の友人であり、仲間であり、同志でもある垣根帝督だ。


「……大丈夫だ、問題ねェ」

「本当か?だいたい今日のオマエは最初からおかしかったぞ
何か悩みがあるんなら早めに言えよ?」


 俯いたまま答える一方通行を訝しむように、垣根は彼の様子が会った時からおかしかった事を指摘する。
とは言えそれ以上追及する気は無いようで、垣根は「悩みがあるなら言え」とだけ言うと、
さほど興味無さそうに窓の外を眺めた。不器用ではあるが、彼なりの優しさなのだろう。

 悩みと言えば悩みである。それも深刻な。かと言って、それは他人に伝えられる類のモノではない。
伝えてしまえば十中八九狂人扱いされてしまうだろう。黄色い救急車の音が聞こえてくるようだ。
何せ、これ程の異常事態だと言うのに一方通行以外の全ての人間は今の状況に全く違和感を抱いていないのだから。


(何なンだ……何なンだよコレは……)



―御使堕とし(エンゼルフォール)―

 何処かの誰かが遠いところで起こしたこのはた迷惑な魔術は世界中に拡散し、一方通行の精神を着実に蝕んでいた。

 その魔術は天使を天界から人間界へと引き摺り下ろすと言うモノである。
堕ちてきた天使は人間の肉体に入り、その人間の魂を追い出す為、
追い出された魂が他の人間の肉体に入り……という風に次々と魂が入れ替わって行ってしまうのだ。
結果、世界中のほとんどの人間の肉体と魂が入れ替わってしまい、
更に幸か不幸か、術の影響下にある彼らはその現象の違和感に気付けない。
反射の膜により術による影響を受けなかった一方通行の目から見れば
魂と肉体が入れ替わっている、話してみるまで誰が誰だかサッパリわからない、という異常事態が起きているのだが、
垣根を始め術を受けて魂の入れ替わりが起きてしまった者の目からみると
『入れ替わった肉体』ではなく『本来そこにいるべき人間』の姿を認識する為、入れ替わりに気付けないのだ。


 何かもう複雑でわけわからんが要するに、

天使の魂が堕っこちて来て適当な人間の肉体に入る
→その影響で元々の魂が追い出される
→追い出された魂さんが別の人間の肉体に入り、その肉体の元の魂を追い出す
→エンドレス

 という感じで世界中のほとんどの人間の魂が入れ替わってしまい
おまけに入れ替わった人間はその事態に気付けない、という事だ。
もう意味がわからん、そもそもこれで合ってるかどうかもわからん。
とりあえずそれっぽい事が起きているという事だけ知っておいて欲しい。
知らん、死ね、ちくしょう


(目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ、目の前にいるのは垣根だ……)


 目の前の人物が垣根である事を頭に刷り込もうと、一方通行は必死で自分に言い聞かせる。
頭では既に理解出来ているのだ。しかし、心が理解してくれない。目の前の人物を直視できない。


「……ホントにどうしたんだ?」

 
 ふと顔を上げると、垣根は心配そうな目でこちらを見つめている。
一方通行はやはりその顔を直視する事が出来ず、プイと顔を逸らした。

 喫茶店の窓からは行き交う無数の通行人の姿を確認する事ができる。
あの通行人の中に自分と同じく正常な、或いは狂った人間はいるのだろうか?
それとも、やはり皆一様に狂ってしまっているのだろうか?
窓の外を睨みつけながらそんな事を考え、何とか目の前の人間から気を逸らそうとする。
そのような風に別の思考に集中しなければ、込み上げて来るとある衝動を抑えきれないのだ。


「おい一方通行、聞いてんのか?」

(こいつは垣根だ、こいつは垣根だ……)


 身を乗り出し一方通行の視界に入ってくる垣根を前に、一方通行はまるで呪詛のように頭の中で呟く。


 さて、話は変わるがここしばらく御坂に監視されている一方通行は、妹達への告白は勿論、
運命の人と巡り合う機会すらほとんど与えられていない。
毎日のようにこなしていた、半ば儀式と化していた二つの行動を突如禁じられた彼は、
それにより猛烈な欲求不満状態に陥っていた。例えるなら早熟な中学生男子の禁欲三日目といったところか。
多少の余裕はあるが目の前に獲物があれば暴発する危険もある、そんな状態の彼に今回の事件は起きてしまった。

 今、彼の目の前にいる垣根は


(こいつは垣根だ、だから……)


 垣根帝督の、その姿は


(だから、間違ってもコイツに告白する訳にはいかねェンだよォォォォ!!!!)


 何とも間の悪い事に、妹達のそれへと変化していたのだ。


 しかし一方通行以外の人間から見れば、彼は見も心も垣根帝督のままなのである。
もし告白などしてしまったらどうなる事か……
『生殺し』これほど今の状況を的確に表す言葉は他にあるまい。


「おーい?」

「近寄ンな!!」

「何でだ!?」

―――――――――――――――

―――――――――

――――


「ふあァ……今日もいい天気だな」

 時間は少し巻き戻る。その日の朝、一方通行はその後自分に襲い掛かる悲劇など予想もせず、
研究所の一室でサンサンと照りつける太陽の光を堪能していた。
連日の熱帯夜も24時間常に反射の膜を展開させている彼には関係なく、今日も快適な目覚めであった。
余談ではあるが、彼はこのところ自分の住んでいるマンションを御坂に監視されている為、
ここ何日かは御坂の手の及ばないこの研究所の一室を借りて生活している。
こちらでの生活も妹達が逐一御坂に報告しているようだが、それでも直接監視されるよりは幾分マシというものだ。

 いつも通りの朝だった。いつも通りの一日になると思っていた。
いつもの様に垣根とバカ話をし、運命の人を探し歩き、御坂に邪魔され……
そんないつも通りの日常が、今日も送られるはずだった。
だと言うのに――


「おはようございます一方通行、とミサカは部屋から出てきた一方通行に挨拶をします」

「……は?」


 欠伸をしながら部屋から出た一方通行を出迎えたのは、まるで妹達のような口調で喋る天井亜雄であった。
先に説明した通り、御使堕としの影響で天井の身体に妹達の誰かの魂が入っているのだが、
当然この時の一方通行はそのような事知る由も無い。
妙な口調で挨拶してきた天井に、ぽかんと口を開け、ただ呆然とするだけだ。


「どうしたんです?そんなマヌケな顔をして、とミサカは寝起きでボケている一方通行をクスクスと笑います」

「えェ、いやいや、え?何言ってンだ?」

「何って挨拶ですが……本当にボケてるんですか?顔でも洗ってきては?とミサカは笑いながら洗面所を指差します」


 天井の姿をした個体は呆けている様子の一方通行をさも面白そうにクスクスと笑うが、
当の一方通行の頭は混乱を深めるばかりだ。眠気など疾うに覚めてしまったが、思考が全く追いつかない。
「何故天井がこのような喋り方をしているのか」、わからないながらも何だか馬鹿にされているような気がし、
彼の胸には徐々に怒りがこみ上げてきた。


「おいおいおい、朝っぱらからふざけてンのかオマエ?」

「へ?」

「なァンでそンな喋り方してるンですかァ?馬鹿にしてンのかコラ」

「え、だってこの喋り方ミサカのアイデンティティの一つですし……
とミサカは今更喋り方につっこみを入れてきた一方通行に首を傾げます」


 その個体からすれば何を言っているのかわからないのは一方通行の方である。
これもまた先に説明したが、術の影響下にある彼女は自分の変化に気付けないのだ。
鏡を見ようと写真を見ようと、彼女の目には自分は元の姿にしか映らず、
よって彼女にとって今の状況は『何だか寝ボケて機嫌の悪い一方通行が
今更妹達の喋り方に文句をつけてきた』というモノに他ならない。


「はァァ?つーか何ミサカミサカ言ってンだよオマエ」

「え、何?一人称まで変えろと?ちょっと横暴過ぎやしませんか?
とミサカはやけに不機嫌な様子の一方通行から後ずさりして距離を取ります」

「だからやめろつってンだよ!!妹達を侮辱してンのかァ!?」


 一方通行にとって、妹達とは告白すべき運命の対象であり、己を絶対能力者に引き上げるために必要な、
ある意味神聖視すらしている存在である。その彼女達の口調を冴えない中年研究員が真似するなど許される事ではない。
一方通行はピキピキと額に青筋を浮かべ、目の前のおっさんにきついお灸の一つでも据えてやろうか、と空気を圧縮し始める。
その様子を、彼の目の前にいる天井の姿をした個体は心底訳がわからない、と言う顔で見つめた。


「いや侮辱とか本当に意味わからないんですが……と言うか実験開始するつもりですか?
とミサカは突如空気を圧縮してプラズマ火球を作り始めた一方通行に冷静に尋ねます」

「まァだやめねェのか!!マジでいい加減にしろよ天井くゥゥゥン!?」

「天井?天井亜雄の事ですか?はて、何処に彼がいるのでしょう?とミサカは周囲を窺います」

「おちょくってンだな?そォなンだな!?良い度胸じゃねェかァァァァ!!!」

「……ひょっとして、このミサカの事を言っているのでしょうか、とミサカは思い至ります」

「テメエ以外に誰がいるってンだ!!マジでいい加減にしとけよ!!」

「いや、いやいやいや、ちょっと寝ぼけ過ぎだろお前、とミサカはガックリと項垂れます」

「……あ?」


「このミサカのプリティな姿をよりによって天井亜雄と見間違えるだなんて……
腐ったのは目ですか?頭ですか?元からですか?とミサカは割りとリアルに心配します」

「あ、あァ?え?」

「マジで顔洗って来い、それか病院行け、とミサカは狂った一方通行に選択肢を提示してみます
ちなみに個人的には後者がお勧めです、そんで出て来んな」

「え、ちょっと待て、は?……いやいや、えェ?」

「それではこのミサカも暇ではないのでこれで失礼します、お大事に
とミサカは何やら混乱している一方通行に手を振り別れを告げます」

「お、おォ……え?何だこれ?」


 天井の姿をした個体が去っていった後、一方通行は部屋へと引き返し一人頭を抱えた。ちなみに顔も洗った。
喋るテンポや調子、その身振りから察するに、先程の天井は確かに本物の妹達のようにも感じられた。
口調は真似出来ても喋る内容や独特の間の取り方までは真似出来まい。
しかしあの姿は、声は、間違いなく天井亜雄のモノであり、その事実が一方通行の混乱を最高潮導いていた。


(マジで寝ボケてたのか、それとも天井の演技にまンまと騙されたのか……
つーか天井があンな事するメリットもねェよな、てことはやっぱ寝ボケてたのかァ?)


 マトモに働いてくれない頭で何とか導き出した答えは、
自分が寝ボケていたという事にして流してしまおう、という何ともお粗末なモノであった。
いくらなんでも妹達と天井を見間違えるなど本来在り得ないはずなのだが、
魔術の事など欠片も知らない彼にはそれ以外に納得できるような回答は見つからない。
半ば現実逃避ともいえる答えだと言うことはわかっているが、彼はそれに無理矢理納得しながら、
二度寝でもして気を紛らわせようと布団に潜り込もんだ。


(あァそォか、これ全部夢って可能性もあンだな……早く目ェ覚まさねェと……)

あの始まりの日 強がってた~♪

(あン?携帯が……メールか?)


 布団の中で現実逃避に現実逃避を重ね、小一時間うつらうつらとしていた一方通行は、
鳴り響いた携帯電話に無理矢理覚醒を強いられる。
どうでもいいが、いい加減ギャルゲーのテーマを着信音にするのは止めていただきたい。



(垣根から……ン?あァ!!)

 メールの送り主はやはり彼の友人である垣根帝督であり、
というか一方通行にメールを送ってくる人間など彼くらいしかいないのだが
そのメールにはたった一言『まだ来ねえのか』とだけ書かれていた。


(やっべェ忘れてた!)


 そう、今日は垣根と会う約束をしていたのだ。先の騒動ですっかりそれを忘れていた一方通行は慌てて時間を確認し、
既に待ち合わせ時間を10分ほど過ぎている事を確認すると、謝罪のメールを一本垣根に送り、
すぐさま研究所から飛び出した。その間、誰にも遭遇しなかったのは彼にとって幸運と言えただろう。


―とある喫茶店


(えっとォ……?)


 能力を全開で使用し、凄まじいスピードで待ち合わせ場所である喫茶店に到着した一方通行は
キョロキョロと店内を見回し、先に来ているはずの垣根の姿を探す。
しかし、それ程広くない店内の何処を探しても彼の姿は見当たらない。
怒って帰ってしまったのか、と心配するが、謝罪のメールも入れた事だし、それ程心の狭い男でもないはずである。
それでは待ち合わせ場所を間違えたか、とも思ってみたが、彼らが会うときは
基本的にこの喫茶店に集合するように決めているので、その可能性も低い。


(あっれェ?いねェぞおい、電話でもして……)

「おい何やってんだよ、こっちだこっち」

「……はァ?」


 窓際の席から不意に声を掛けられ、そちらを振り向いた一方通行は、
そこに座っていた、自分に声をかけてきた人物の姿を確認すると呆けたような声を漏らした。
彼の視線の先で、基本的に無表情なはずの妹達の一人がにこやかに手招きしているのだから、それも仕方あるまい。


「早く来いって、迷惑だろ突っ立ってたら」

「お、おい!」


 ぼんやりするばかりでいつまで経っても席に座ろうとしない一方通行に業を煮やしたその個体は
眉を八の字にしながら彼に駆け寄ると「店の迷惑になるから」と無理矢理彼を席に押し込んだ。


「遅刻はするわ、ボサっと立ち尽くすわ、どうしたんだ?寝ボケてんのか?」

「え、は、……え?」


 首を傾げながら不審そうな目付きで睨んでくるその個体を前に、
一方通行の思考は再び混乱の坩堝に叩き落とされそうになる。
しかし腐っても鯛、童貞でも第一位である。呆けた声を出し困惑しながらも、
彼の明晰な頭脳はこのような状況でも正常にこれまで起こった事象を解析し、とある仮説を立て始めていた。


(俺は垣根とここで待ち合わせをしていた。だが待ち合わせ場所に垣根はおらず、何故か妹達の一人がいた)

(目の前にいるのは間違いなく妹達だ、オリジナルの方じゃねェ、ゴーグルも付けてるし目に生気がねェからな)

(つまりこれは超電磁砲が監視の一環として垣根の振りをしてるってわけじゃねェって事だ)

(とにかく、コイツはまるで男みたいな、垣根みたいな喋り方で俺に話しかけてきて、
俺の反射を越えて俺を強制的に座席に押し込ンだ)

(そう、俺の反射を越えた。そンな真似が出来るのは今ン所垣根のワケわかンねェ能力だけだ)

(そして今朝、俺は似たような現象を目にしてる。天井の姿をしながら、まるで妹達のように振舞う何かを……)

(つまり、目の前にいるコイツは妹達の姿をしちゃいるが……)


「……オマエは垣根だな?」

「当たり前だろ、何言ってんだオマエ」


 一方通行の頭の中など全く知らない垣根は、当然の事を尋ねてきた彼にますます不審の目を向ける。
コイツ本当に頭おかしくなったんじゃないか、とリアルな心配をし始めレベルである。
しかし仮説を組み立てる事に集中している一方通行はそんな視線など意に介している暇はない。


(ビンゴだ、やっぱり目の前のコイツは垣根に間違いねェ)

(つーことは今朝の天井も本当に妹達だったンだろォな)


「おい垣根、オマエ起きてから鏡見たか?」

「あ?さっきもトイレで見てきたが……ひょっとして寝癖でも立ってるか?」

「いや、立ってねェよ気にすンな」

「はぁ?」


(鏡を見ても自分の姿に疑問を持たねェって事もわかった)

(結論、身体と精神が入れ替わっちまって、しかも入れ替わった当人達はそれに気付かねェってとこか)

(意味がわかンねェ、何だそりゃ……やっぱ夢でも見てンのか?)

(つーか友人の格好が運命の女性の姿になるって、それ何てエロゲだよ)


 第一位の頭脳は、少ない情報から素早く正解を導き出す事に成功する。
今朝天井の姿をした妹達に出会えた事は幸運だった。あの一悶着が無く、
何の情報も持たずに今の垣根に遭遇していたら、恐らく散々に取り乱していたに違いない。

 どうでもいいが、散々こっぴどく振られておきながら未だ妹達を運命の女性と言い切るのも流石は第一位だと言えよう。


(とにかく厄介な状況だなァ、これじゃ説明しても理解は得られねェだろォし……)

(そもそも何でこンな事になってンだ?どのくらいの範囲でこれが起きてンだ?俺の周りだけなのか?……ン?)


 ふと、喫茶店に設置されているテレビの映像が目に入り、一方通行はそちらを注視する。
流れているのはごく普通のニュースのようで、キャスターがこの先一週間の天気予報などを告げている。
しかし問題はそのキャスターの姿で、どう見ても10歳以下のピンク色の髪をした幼女が、淡々と文章を読み上げているのだ。
まるでママゴトのようで微笑ましくもあるが、このニュースは全国ネットで流れているお堅い番組である。
幼女がキャスターに扮して遊んでいる姿など流すはずが無いのだ。


(……なるほど、相当広範囲に広がってるらしいなァ)

(ンで、垣根はどォやらあの幼女なキャスターに何の疑問も抱いて無さそォだ)

(入れ替わってるヤツは他人の入れ替わりにも気付かねェってワケか……本当に厄介極まりねェな)

(つーか待て、周囲の誰もニュースに疑問を持ってねェって事は俺以外全員が入れ替わってるって事か?)

(じゃァ何故俺だけ入れ替わらなかった?他のヤツに無くて俺にはあるモノ……反射の膜か)

(……超広範囲に、肉体と精神が入れ替わる超能力が使用された、とかそンな感じなのか……?)

 超能力と魔術と言う違いはあるが一方通行の導き出した結論はほとんど正解していた。
問題の解決策は全く思いつかないが、それでもどういう事が起きているのかある程度理解出来たというのは大きい。
彼は徐々にではあるが平静を取り戻し始め、垣根と談笑出来る程度にまでは回復する事ができた。

 しかしここで新たな問題が発生する。余裕を持って談笑すると言う事は、すなわち目の前の垣根と、
妹達の姿を、声をした垣根と正面から向き合うと言う事に他ならない。


「それでその時にだな……ん、おい聞いてるか?」

「あ、あァ(やべェ……)」


 妹達の姿をした垣根は、コロコロと表情を変えながら楽しそうに自分と会話をしてくれている。
基本的に感情を顔に出さない妹達の様々な表情を見るのが初めてなら、妹達とこれほど親しく会話をするのも初めてである。
加えて、既に書いたように今現在の一方通行は女性との触れ合いにかなり飢えている。
結果、中の人が垣根であるという事は理解しつつも、それでも彼は、目の前の妹達の姿をした男に徐々に惹かれつつあった。


(これ以上コイツの顔を見るのはやべェ……)

「お、おいどうした?」


 これ以上今の垣根と会話するのはマズイと判断した一方通行は、彼から目を反らし、耳を塞ぎ、
ついには頭を抱えて蹲ってしまう。そして舞台は冒頭へと続いていく。
 


―――――――――――――――

―――――――――

――――



「近寄ンな!!」

「何でだ!?」


 時間は元に戻る。俯いてブツブツ言っていた一方通行を心配して身を乗り出した垣根は
猛烈な勢いで拒絶された事に驚き戸惑いを隠せないでいた。
数ヶ月程度の付き合いではあるが、同年代の友人などいなかった彼らは短い期間でかなり親密な関係を築いていた。
にも関わらずここに来て一方的な拒否、事情を知らない垣根が戸惑うのも無理は無いだろう。

 そして一方通行の方もまた、垣根を意識し始めている自分に困惑していた。
状況を分析する事で持ち直しかけていた彼の理性は決壊寸前まで追い込まれ、そして――


(……あれ、これもォ運命でいいンじゃねェか?)


 何かもう思いっきりダメな方向へ道を踏み外そうとしていた。


「垣根……」

「あ……ッ!?」


 ようやく顔を上げた一方通行と目を合わせ、垣根は言葉を失う。
薄笑いを貼り付けた一方通行の顔は、目は、ゾッとするほど冷たく、恐ろしかった。
暗部で地獄のような日常を送って来た垣根ですら吐き気を催すような凄まじい悪寒の中、
二人はしばし無言で睨みあう。気付いてみれば、いつの間にか喫茶店には彼ら二人だけになっていた。
圧迫感に耐え切れず、皆逃げ出してしまったのだろう。


「垣根ェ……」

「な、何だ?」


 気圧されながらも逃げ出さず一方通行の呼びかけに答える垣根は友人の鑑と言えよう。
しかし彼は逃げ出すべきだった。逃げ出して欲しかった。ホント逃げてください。



「……『一発だけなら誤射かも知れない』って言葉知ってっかァ?」


「何が!?」

「なァ、垣根ェェェェ!!!」

「お、おぉぉぉ!?」


 叫びながら、一方通行はガバっと立ち上がる。過去最大級の身の危険を感じた垣根は瞬時に未元物質の翼を展開、
己の身を守る為にその身体を翼で覆った。しかし残念ながらそれは逆効果だ。
一方通行の目には、能力を展開した状態の今の垣根は、天使のような純白の翼を生やした妹達にしか映らない。


「おおおォォォォォォ!!!!」


 それは歓喜、それは狂喜、それは嘆き。一方通行は人とは思えないような叫び声を上げると、
右拳を天高く突き上げ狂気染みた笑顔を浮かべながら、限界まで見開かれた瞳でギョロリと垣根を睨み付ける。


「垣根ェェェェェェ!!!!」

(やられる!?)


 て言うかヤられる。咄嗟に距離を取った垣根の前で、突き上げられた一方通行の拳が唸りを上げて振り下ろされた。


「おぶあァァァァ!!!」

「……あぁ?」


 一方通行自身の顔面に。最後の最後、僅かに残っていた理性が打ち勝った瞬間である。
自分で自分の顔面を全力で殴りつけた一方通行は喫茶店の椅子や机をなぎ倒しながら派手に吹き飛ぶと、
そのまま床に崩れ落ち、ダクダクと致死量を越え兼ねない量の血を流し始めた。


「あ、一方通行……?」

「」

「おい一方通行!?」

「……あ、あァ」


 垣根の呼びかけに、一方通行は息も絶え絶えといった様子で何とか起き上がり、軽く手を振る。
殺されかけた(?)にも関わらず、警戒しながらではあるが、一方通行の心配をする垣根は本当にいい人である。
童貞なのが不思議なくらいだ。


「ホントにどうしたんだよオマエ……」

「……すまねェ、ちょっとトイレ行ってくる」

「お、おぉ」


 起き上がった一方通行は垣根の問いには答えず、フラフラと覚束ない足取りでトイレへと向かって行き、
垣根は本当に心の底から困惑した表情でそれを見送った。



―――――――――――――――

―――――――――

――――



「心配かけたなァ、もォ大丈夫だ……」


 数分が経ち、学園都市の第一位は青ざめた表情で、若干前屈みになりながら、
ヨチヨチと生まれたての小鹿のような足取りでトイレから出てきた。
何があったのかはわからないが、傍目にはどう見ても悪化している。


「……何かさっきより顔色悪くなってるけど大丈夫か?」

「あァ、気にすンな……ちょっと聞き分けのねェ馬鹿ムスコを足腰立たなくしてやっただけだ」

「……」


 彼の名誉の為に言っておくが、断じて一人遊びをしたわけではない。
トイレに駆け込んだ彼は、垣根にまで反応する見境無い馬鹿ムスコに鉄拳制裁を加えただけであり、
決して上下運動をしたわけではない。
ちょっと加減を間違えて本当にしばらくは勃ちそうに無いが、何にせよ元は断ったので、
これでようやく平常心のまま妹達の姿をした垣根と話せるわけだ。


「とにかく、これでもォ心配ねェ、俺は完璧に正気に戻った」

「あんまり信用出来ねぇが……まぁオマエがおかしいのは今に始まった事じゃねぇしな」


「そうね、こいつの奇行を一々気にしてたら身が持たないわよ」


「……出たな残念なガキ」

「誰が残念だゴラアアアア!!!」


(残念なガキ……これが超電磁砲だってのかァ……?)


 いつもの如く突如沸いて出た御坂に、垣根は溜息混じりに暴言を吐きつけた。
それに激怒した御坂が電撃を飛ばし、垣根は笑いながらそれを無効化する。
ここ最近の日常と化していた光景であり、普段は御坂の可愛らしい姿も相まって中々微笑ましいのだが、
今の一方通行の目に映る光景は違う。御坂も例に漏れずその姿が変わっており、
外見だけが取り得だった(一方通行談)彼女は今や、短い茶髪に鼻ピアス、
ジャージの上着に、下はジーパンといった出で立ちの、やられ役のチンピラのような姿に成り果てていた。


(いくら当人達が気付かないとはいえこれはあンまりだろ……)


 取り得がなくなってしまった御坂と、対照的にやけに可愛らしくなっている垣根、
二人のやり取りを冷めた目で眺めながら、一方通行は静かに涙を流した。
その涙は可愛らしさの欠片も無くなってしまった可哀相な御坂に対するモノなのか、
それとも今後チンピラのような姿をした彼女に監視されなければならない自分の境遇を思っての涙なのか、
或いはその両方なのか、それは彼自身にも判別できなかった。


「え、ちょっと一方通行、何泣いてるのよ?気持ち悪いわよ」

「やっぱりどっか調子悪いのかオマエ?」

「……あァ、ちょっと腹が痛ェだけだ、気にすンな」

「腹痛で泣くって……あんたは幼児か!」

「何だったら未元物質で薬作ってやろうか?上手くいく保障はねぇけどな」

「流石に遠慮しとくわ、それにもォ大丈夫だ」

「ならいいけどな、勝手にくたばるなよ?」

(クソが、性欲はブチコロシたはずなのに垣根が天使に見えてくるぜ……
つーか超電磁砲はあの顔じゃなかったら一挙一動がこんなにムカつくんだな)


 顔が良いというのは総じて得である。御坂がこれまで一方通行に危害を加えられなかったのは、
妹達との約束もあるが、顔が可愛かったから、というのも大きな理由の一つだろう。
そして今やその可愛さは欠片も無い。果たして色々とキレている今日の一方通行が、
妹達との約束という一つの理由だけで何処まで耐え切れるだろうか。


「ねぇ、あんたのその変な能力って薬が作れるの?」

「さぁな、やった事ねぇからわからねぇが……まぁ何とかなるんじゃねぇか」

「ふーん、じゃぁ『馬鹿に付ける薬』でも作って二人で塗りたくったら?」

「……オマエやっぱ一回張り倒しといた方がよさそうだな」

「私に手を出したら一方通行が黙ってないわよ?ねぇ、一方通……行……?」


 にやにや笑いを浮かべながらいつもの様に一方通行を盾にしようとし、彼の方を振り向いた御坂は絶句する。
視線の先の一方通行はギチギチと音がなるほど強く歯を噛み締め、
全身の血管を青筋の如く浮かび上がらせ、目から真っ赤な血を流しながら
チンピラの姿をした彼女を睨みつけていた。彼は、必死に耐えているのである。


「あ、一方……通行……?」

「……なァ超電磁砲」

「は、はい」

「今日はちょっとマジで自重してくれ、トビそォなンだ……」


 静かに、感情を押し殺して、しかし有無を言わさぬ強い口調で一方通行は御坂に通告する。
御坂の方もこの只ならぬ雰囲気を察知できぬほど残念なわけではなく、しばし何か言いたげに逡巡していたが、
やがて黙っているのが得策だと判断すると、頬を膨らませながらも無言で肩を落とした。
彼女が可愛らしい容姿のままならば見ている方が胸が痛くなりそうなシーンだが、
残念ながら今の彼女の姿はその辺にいそうなチンピラである。


「おい一方通行、ガキ相手にマジになるなよ。やっぱ変だぞオマエ」

「いや、あんたも私を張り倒そうとしてたでしょ」

「マジでやろうなんて思っちゃいねぇよお嬢ちゃん」

「本当にぃ?」

「あ、やっぱムカつくなオマエ」


 垣根と御坂の掛け合いを尻目に、一方通行は何とか落ち着こうと深呼吸を繰り返していた。
そもそも姿の変わった垣根の相手だけで手一杯だったのである。そこに更にふざけた姿の御坂まで乱入してきたのだから、
いい加減一方通行の理性がトンで頭が狂ってしまいそうになるのも無理もない。
だが第一位の頭脳はギリギリの所で今の状況を上手く処理し始めていた。

 胸に手をあて、更に深呼吸を繰り返す。垣根の姿はほぼ克服できた。
御坂の姿にも徐々にではあるが慣れてきている。もう少し、もう少しこのまま時間を稼げば
いつも通りのやり取りが出来るようになるだろう。このまま、邪魔さえ入らなければ――


「ジャッジメントですの!」

(ちくしょォォォォォォ!!!)


 響いてきた野太い声に、一方通行の脳漿は焼き切れんばかりに混乱する。
突如三人の目の前に空間移動で現れたその人間は、能力や決め台詞から察するに
先日一方通行に絡んだ(絡まれた)白井黒子という少女に間違いないだろう。
しかし、その姿は少女と呼ぶには余りにもかけ離れていた。

 可憐な少女のように髪を掻き揚げる仕草、しかしそれとは裏腹に、今の白井は
まるでゴリラのような筋骨隆々な身体に、アクの強い洋ゲーに出てくる悪役のような顔をしている。
あまりのギャップに、一方通行はもう限界だった。脳だけでなく意識とか腹筋とかが。


「あれ、黒子じゃない、どうしたの?」

「第三位の知り合いか?ジャッジメント?」

「あらお姉様なぜこちらに?実は先程この喫茶店内から爆発音が響いてきたと通報がありまして……」


 当然、一方通行以外の目からは彼女もまた普段通り、ツインテールの美少女にしか見えない。
そのため、垣根と御坂、白井の三人はごく普通に会話を始める。
しかし一方通行の目にそれは、筋肉モリモリのゴツいおっさんが茶髪のチンピラをお姉様と呼び擦り寄る、
というこの世の物とは思えないおぞましい光景に映っていた。
耐え切れなくなった一方通行は白井から身を隠すように頭を抱えその場に蹲る。


「爆発音……あぁ、さっき一方通行が自分をブン殴った時のあれか」

「自分をぶん殴ったって、何やってんのよ……」

「一方通行って……だ、第一位様もここに!?」

「うん、そっちで蹲ってるわよ」

「……」


「あ、そいつ何か今日は様子がおかしいから近寄らないほうがいいぞお嬢ちゃん」

「そ、そうなんですの……?」


 垣根に引きとめられ、一方通行に挨拶の一つでもしようとしていた白井は慌てて彼から距離を取る。
もし間近で白井の姿を見てしまったら本当に限界を迎えていたかもしれない一方通行は、
蹲ったまま密かに垣根に感謝した。


「そ、それでそちらの殿方さん、爆発音は第一位様の自傷行為ということですが、事情をお聞かせ願えますの?」

「それは構わねぇが、そんなつまらねぇ話よりも、もっとお互いの事を話さねぇか?」

「ふぇ!?」

「ちょっと!私の後輩に手ぇ出そうとしないでよ!!」

 垣根は早速目の前に現れた少女を口説き始める。こいつもう運命とかどうでも良いんじゃね?
お嬢様学校に通っているためあまり男に免疫がなく、ここまで直球で口説かれた経験など初めてな白井は
顔を赤くし、くねくねと身をよじりながら困った素振りを見せている。
想像して頂きたい。生気の無い目をした美少女の前でくねくねと蠢くゴリラのようにマッチョなおっさんの姿を。
一方通行が見ているのはそういう世界である。あなたはこれに耐え切る自信があるだろうか?


「おっと、ここにはうるさいガキがいるから外行こうか」

「ちょっと!うるさいガキって誰の事よ!?」

「オマエだよオマエ!この残念ストーカーが!」

「誰がストーカーだああああ!!!」

「そ、そうですの!お姉様を侮辱しないでくださいまし!」

「ハッ、お姉様の事なんてすぐに忘れさせてやるよ」

「あっ……」


 笑いながら、垣根は白井の肩に手を掛け外に連れ出そうとする。御坂が電撃を放ち止めようとするが、
そんなものは当然通用しない。白井も流石に強引過ぎる垣根から逃げ出そうとするが、
ガッチリとホールドされているため離れる事が出来ず、また能力で逃げ出そうにも、
すでにその空間には垣根の未元物質が混ぜ込まれており、満足に空間移動の演算をする事ができない。



「一方通行!黒子が、黒子が連れて行かれちゃう!」

「……あァ?」


 打つ手に窮した御坂は縋る思いで蹲ったままの一方通行に駆け寄る。
半ば思考停止の状態に陥りながらも何とか顔を上げた彼の目に入ったのは
不安そうな顔をしている茶髪のチンピラ(御坂)、
そしてべったりとくっついている妹達(垣根)とゴリラのようなおっさん(白井)。


「おおォォォォ!!!」


 叫び声を上げ、一方通行は垣根と白井の元へ突進する。

 頭では、妹達の姿をした垣根がゴリラのような姿の白井を口説き一方的にくっついていると言うことはわかっている。
白井には何の罪も無いと言うことも承知している。彼女は被害者だ、彼女は犠牲者だ、彼女はかわいそうな少女だ。
しかしどれだけ頭で理解しても、心が、身体が、状況の理解を拒絶する。


 もはや彼の目にはゴリラのようなおっさんが無理矢理妹達に迫っているようにしか映っていなかった。


「こンのパンダがァァァァァ!!!!」

「ぶふええぇぇええぇ!?」


 突き出された一方通行の右拳は的確に白井の頬を捉え、哀れ彼女はきりもみ回転をしながら星になった。
後に残ったのは息を荒げながらも頭を抱え蹲る一方通行と、何が起きたのか全く理解できない垣根と御坂だけである。


「……今日は帰るわ」

「お、おぉ……」


 やがて、一方通行はゆっくりと立ち上がると喫茶店を後にした。
垣根も御坂も、彼の尋常ではない様子に引きとめることはおろか、白井に対する仕打ちを糾弾する事すら出来ない。
その後、研究所に戻った一方通行は誰とも会話せず、再び引き篭もり始めたと言う。

 御使堕としがヒーロー達の活躍により僅か1日半というスピード解決をしなければ、学園都市は滅んでいたかもしれない。


投下終了ですの

一応言っておこう
>>1はパンダが大好きです
動物園に行ったら真っ先に見に行くくらい大好きです

このSSだと、上条さんVS一方さんは起こってないから
上条さんは海には行ってないんだよな?
どういう流れで刀夜さんが犯人って気付いたんだろ?

ちょっと考えてみるか
① 上条さんの部屋にねーちん・つっちー・ミーシャが来る
② 『神作』さんが上条さん実家に引きこもる(刀夜&詩菜の安否は不明)
③ ②の様子がニュースで流れる
④ 上条さん・ねーちん・つっちー・ミーシャが神を作る人を倒す
(流石は『神浄』と『神裂』が居るパーティーだね!)
⑤ つっちー事件の原因を知る
⑥ つっちー皆に黙って魔術でBA・KU・HA☆
なんだ大体原作通りの流れか。
刀夜さんが術士とは気付いてないけども。

あーでも上条さん視点の御使堕としin学園都市は見たかったかも。


ミサカ「あ、そいつ何か今日は様子がおかしいから近寄らないほうがいいぞお嬢ちゃん」

アックア「そ、そうなんですの……?」

アックア「そ、それでそちらの殿方さん、爆発音は第一位様の自傷行為ということですが、事情をお聞かせ願えますの?」

ミサカ「それは構わねぇが、そんなつまらねぇ話よりも、もっとお互いの事を話さねぇか?」

アックア「ふぇ!?」アワアワ

浜面「ちょっと!私の後輩に手ぇ出そうとしないでよ!!」

ミサカ「おっと、ここにはうるさいガキがいるから外行こうか」

浜面「ちょっと!うるさいガキって誰の事よ!?」

ミサカ「オマエだよオマエ!この残念ストーカーが!」

浜面「誰がストーカーだああああ!!!」

アックア「そ、そうですの!お姉様を侮辱しないでくださいまし!」

ミサカ「ハッ、お姉様の事なんてすぐに忘れさせてやるよ」

アックア「あっ……」モジモジ




キツイな・・・・・

それぞれでこのシーンを想像してみようか


>エンゼルフォールの時って、服装は元(魂の人物)のままだったよな

すっかり忘れてたから困る。これだと色々おかしな描写があるけどまぁ気にすんな!ごめんなさい!


それとゴリラは一応俺の中じゃイメージ固まってるけど、誰かは想像に任せるわ
一番面白いと思う人物を思い浮かべてくれ

それじゃ今日の分投下していくぜー



―深夜、とある研究所の一室


一方通行「……」カタカタカタ ←PCいじってる

一方通行「……」カチカチ

一方通行「……」カチャカチャ

一方通行「……」ッターン


一方通行「わふー………ン?」


『Teitokuさんからメッセージが届きました』



Teitoku:このやろう

Accela:なンですか

Teitoku:なんですかは俺のセリフだ

Accela:意味わかンねェ

Teitoku:昨日のテメエは何だったんだよ

Accela:あーうン、ごめン

Teitoku:ごめんじゃなくて

Accela:サーセン

Teitoku:理由を説明しろ

Teitoku:何で俺の出会いの邪魔をした

Accela:色々耐えれンかった

Teitoku:何にだよ


Accela:そのうち説明するわ、まだ整理つかねェ

Teitoku:朝から様子が変だったのと関係してんのか

Accela:してるけど話せねェ

Teitoku:……別にいいけどよ、過ぎた事だし

Accela:悪ィな

Teitoku:で、本題だけどな

Accela:はい

Teitoku:リトバス返せ

Accela:だが断る

Teitoku:おい

Accela:はい

Teitoku:はいじゃないが

Accela:イヤだ

Teitoku:返せよ


Accela:わふー

Teitoku:わふーじゃねえ、会話をしろ

Accela:ぶっちゃけるとな、

Teitoku:あ?

Accela:今他人に会うのが怖ェ

Teitoku:またかよ

Accela:はい

Teitoku:それも昨日の一件が関係してんのか

Accela:してる

Teitoku:じゃあ直接取りに行ってやるから

Accela:今回はオマエに会うのも怖ェ

Teitoku:どんだけ重症だよ


Accela:もう一回オマエと対峙したら歯止めが効かなくなるかも知れねェ

Teitoku:どういうことなの

Accela:自分で自分がわからねェ

Teitoku:つーかもう電話で話さねぇ?チャットだりい

Accela:声聞くのも怖ェから電話すら出来ねェ

Teitoku:おい末期じゃねぇか、自殺とかすんなよ

Accela:善処する

Teitoku:善処かよ

Accela:そういやパンダ生きてっかな

Teitoku:パンダ?


Accela:オマエが昨日口説こうとしてたジャッジメント

Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……

Accela:反省はしている

Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?

Accela:名前が白井黒子だから

Teitoku:把握した

Accela:生きてっかな、星になってたけど

Teitoku:ニュースでさ、

Accela:うン

Teitoku:昨日未明二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた

Accela:それっぽいな

Teitoku:生きてるみてえだな

Accela:よかった

Teitoku:よかったな

Accela:オマエが昨日口説こうとしてたジャッジメント

Teitoku:あぁオマエが殴り飛ばした……

Accela:反省はしている

Teitoku:何でアイツがパンダなんだ?

Accela:名前が白井黒子だから

Teitoku:把握した

Accela:生きてっかな、星になってたけど

Teitoku:ニュースでさ、

Accela:うン

Teitoku:昨日の午後二一学区の貯水用ダムに生きた人間が着弾、ってやってた

Accela:それっぽいな

Teitoku:生きてるみてえだな

Accela:よかった

Teitoku:よかったな


Accela:あ

Teitoku:あ?

Accela:ドア叩かれてる

Teitoku:またかよ

Accela:やばいやばいやばいやばいやばい

Teitoku:落ち着け

Accela:……じゃあな垣根、今まで楽しかったぜ

Teitoku:おい早まるな、今生の別れみたいな言い方やめろ

Teitoku:おい一方通行

Teitoku:おい


『Accelaさんがログアウトしました』


Teitoku:一方通行ァァァァァァ!!!!



―――――――――――――――

―――――――――

――――



「何なンだよ!?マジで何なンだよオマエらァァァ!!!」

「引き篭もってる場合じゃないんですよ一方通行!とミサカは涙目になっている一方通行を怒鳴りつけます」

「そう、君の力を貸してほしいのよ」


 大部分が灰と瓦礫の山となった研究所の一室で三人の男女が口論をしている。
一人はこの部屋を占拠し引き篭もろうとしていた少年、一方通行
一人はこの部屋を爆撃した張本人の少女、妹達の一人。
一人はその爆撃を指示した女性、芳川桔梗。

 何もかもをぶち壊されて涙目で抗議する一方通行に、二人の女性は物怖じせずに詰め寄り
「力を貸せ」と迫っている。どう見ても他人に物を頼む態度ではない。


「俺の力だァ?……いやちょっと待て、その前にオマエら本当に芳川と妹達なのか!?」

「は?何言ってるんです、当たり前じゃないですか、とミサカは突然奇妙な事を言い出した一方通行から後ずさります」

「見ての通り、正真正銘本人よ、他に誰に見えるのかしら」


 一方通行の奇妙な疑問を、彼女達二人は首をかしげながらも肯定した。
彼女達は知らないが、先日一方通行は御使堕としと言う絶望的な体験をしている。
その御使堕とし自体はすぐに解決され、皆とっくに元に戻っていたのだが、
昨日研究所に戻ってすぐに部屋に篭った一方通行は、今の今まで皆が元に戻っている事を知らなかったのだ。


「よかった、本当によかった……元に戻ってよかったァ……」

(な、泣いてる……とミサカは突如涙を流し始めた一方通行にドン引きします)

(な、何があったのかしら……)


 思わず安堵の涙を流す一方通行の姿に、事情を知らない二人はドン引きする。
「気持ち悪い」とはっきり口に出さないのはせめてもの優しさだろう。
一方通行が泣き止むまでの数分、彼女達は黙って彼を見つめ続けた。



「……落ち着いたかしら?」

「……すまねェ、大丈夫だ」

「なかなかいい画が撮れました、とミサカは満足しながら携帯を仕舞います」

「おい」

「それで、そろそろ話を聞いてもらえるかしら?」

「あ、あァ」

「非常事態です、妹達の上位個体が連れ攫われました、とミサカは状況を端的に伝えます」

「……上位個体だァ?」


 彼女達の説明はこうだ。妹達には通称打ち止め(ラストオーダー)という上位個体が存在し、
彼女は全ての妹達に命令を下すコンソールのような役割を持っている。
本来は妹達の反乱防止の為の安全装置として、肉体精神共に未完成のまま研究所の培養機に保管されていたのだが、
「全ての妹達に命令を下すことが出来る」という上位個体の機能に目をつけたある人物が彼女を奪取、
彼女の頭に危険なウイルスコードを仕込み、彼女を連れて逃亡。
仕込まれたウイルスの起動までは二十時間程度しかない、という事らしい。


「ウイルスコード……それが起動するとどォなるンだ?」

「MNWを通じて全ての妹達にとある命令が下され、妹達は抗う術も無くその命令に従う事になります
とミサカは恐ろしい事実を淡々と述べます」

「どンな命令だ?」

「詳しくは言えないわ。けれど、妹達の尊厳を粉々に粉砕してしまうモノであることは間違いない」

「尊厳を粉々に……?」

「はい、それどころか妹達の存在にすら関わる事です、とミサカは芳川桔梗の発言に補足します」

 
 どんなモノかはっきりとは教えて貰えないが、彼女達の悲壮な顔つきを見る限り、
どうやら本当に危険なモノなのだろう。そして妹達に様々な感情を持っている一方通行は、
当然そんな悲劇的な結末など望まない。許さない。
彼は苦虫を噛み潰したような顔で歯軋りすると、更に質問を重ねた。


「研究所に保管されてた上位個体が連れ去られたってこたァ、犯人は研究所内の人間だな?」

「……上位個体を連れ去ったのは天井亜雄です、とミサカは衝撃の真実を告げます」

「ッ!!天井だと!?」


 告げられた事実に一方通行は驚愕を露にする。天井亜雄は絶対能力進化に最も積極的だった研究者の一人だ。
その彼が絶対能力進化の要である妹達にウイルスを、
それも妹達の存在に関わるほど危険なモノを仕掛けるなど、一体どういうことなのか。


「どォ言うつもりだ天井の野郎……始まってもねェ実験をぶっ壊す気か?」

「天井が何を考えているのかはわからない、けれどハッキリしている事が一つだけあるわ」

「天井亜雄と上位個体を見つけ出しウイルスコードを停止させなければ、
全ての妹達が望んでもいない、おぞましい行動を取らされる事になります、とミサカは芳川桔梗の言葉を引き継ぎます」

「どンな行動を取らされるかはやっぱり教えてくれねェのか?」

「……口に出すのも憚られるようなモノよ、特に君には伝えたくないわ」

「はい、あなたにだけは知られたくありません、とミサカは目を伏せながら答えます」


 一方通行から目を反らし、二人は押し黙ってしまう。よっぽど口にしたくない内容なのだろう。
しかし二人のそんな態度は一方通行の思考のネガティブな部分を刺激し、逆に事の重大さを認識させる事となった。


「チッ、俺は何をすりゃいいンだ?」

「力を貸してくれるのね?」

「当たり前だろォが!妹達の危機に黙って引き篭もってられるわけねェだろ!!」

「正直ちょっと気持ち悪いですが今回ばかりは素直に感謝します、
とミサカは己の心情を隠しながら一方通行に頭を下げます」

「えェー……」

「ありがとう一方通行、君には天井と打ち止めの捜索をお願いしたいの」

「あ、あァ」

「私がウイルスに気付き、天井が研究所から脱走したのはほんの数十分前、まだ遠くには行ってないはずよ」

「オマエらはどォするンだ?」

「私は天井の残したデータを解析してワクチンを作るわ。妹達には既に捜索を始めてもらっているのだけど……」

「上位個体は現在MNWの接続を解除しているようで、場所の特定をする事が出来ません。
大勢の妹達による人海戦術で当たっていますが、手掛かりが無いのであまり期待は出来ないかと……
とミサカは力無い己に歯軋りします」


「それで俺の出番ってワケか」

「えぇ、君の能力はレーダーにもなるでしょう?」

「お願いします一方通行、とミサカはもう一度頭を下げます」

「そンなに不安そォな面で必死に頭下げンな、オマエらの上位個体とやらはすぐ見つけてやるからよ」


 優しい言葉をかけながら、一方通行は必死な形相をしているその個体の頭をくしゃくしゃと撫でる。
が、撫でられた個体が心底嫌そうな顔をしたのでちょっと涙目になりながらすぐに手を離した。
せっかく協力しようというのにこの扱いはあんまりである。
こんな時くらい優しくしてやってもバチは当たらないだろうに。


「はァ……そンじゃ探しに行くとするかァ……」


 ガックリと肩を落とし、トボトボと崩れた部屋の壁から夜の街へ消えていく。
その背中は結婚十年目にして妻の浮気が発覚したサラリーマンのように悲哀に満ちていた。



「いやぁ、中々の役者振りでしたね、とミサカは芳川桔梗を褒めちぎります」

「あら、何の事かしら?」

「天井亜雄が何を考えているのか、確信に近い予想はついているはずでしょう?
とミサカはシラを切る芳川桔梗に微笑みかけます」

「まぁ……ウイルスコードの中身を見ればね」

「どんなウイルスか一方通行に深く追求されなくて良かったですね、とミサカはほっと胸を撫で下ろします」

「そうね、どんなウイルスか彼に知られてしまったらきっと協力は得られなかったでしょうし」

「まったく天井亜雄も厄介なウイルスを作ってくれたものです、とミサカは頭を抱えます」

「後は天井が余計な事を言う前に一方通行が彼の口を封じてくれれば良いのだけど……」

「もしウイルスコードが起動を始めてしまったら、感染する前に妹達のほぼ全員が自決する準備は出来ています
とミサカは万が一の備えがある事をアピールします」

「自決って、何もそこまでしなくても……」

「だってイヤですもん、ウイルスに操られるとはいえあんな行動を取るのは……」

「……嫌われたものね、一方通行も」


―――――――――――――――

―――――――――

――――



「クソ!何てことだ!!」


 人気の無い道に車を止め、一人の男がダッシュボードを殴りつけながら嘆きの声を上げていた。
彼の傍ら、車の助手席には十歳前後の毛布に包まった少女が寝かされてある。
研究所から脱走した天井亜雄と連れ去られた打ち止めだ。


「まさかこんなに早く気付かれるなんて……ク、どうすれば……」


 天井にとって、今の状況は全て予定外だった。
芳川がウイルスの存在に気付くのが思いの他早く、起動まではまだ丸一日近い時間が必要だ。

 一時間ほど前、芳川にウイルスの事を問い詰められた彼は半ば衝動的に、
何の準備も出来ないまま打ち止めだけを攫い研究所を飛び出してしまったのだ。
ウイルス起動まで後二十時間弱、何としても逃げ切らなければならない。


「せめて、せめて一方通行に事情を説明していれば……」


 一方通行に事情を説明していれば、ウイルスがどのような物かを言い聞かせれば、
彼は自分に協力してくれたかもしれない。しかし今更悔やんでも遅い。
一方通行と話す時間も、余裕も、その時の彼にはありはしなかったのだから。
そして更に、天井は最悪のケースを思い浮かべる。
それは芳川らによって偏った、或いは誤った情報を与えられた一方通行が己を捕まえに来る、というケースだ。
もし一方通行が本気で捕まえに来たとしたら、逃げる事などまず不可能だろう。

 彼はその気になれば学園都市中の大気の流れを演算ではじき出せるほどの化物である。
空気の振動するベクトルを逆算し、ソナーの様に何処に何があるかを把握する事すら可能なのだ。
「もし一方通行が動いているのなら、自分はすでに捕捉されているかもしれない」
そんな最悪な想像を振り払うかのように、天井は強く目を閉じ、震える拳を握り締めた。
しかし、彼の悪い予感は見事に的中してしまう。


「こォンばァンはァ」

「ヒ!?」


 学園都市最強の超能力者は、光も音も無く、いつの間にか車の真正面に笑いながら立っていた。


「イヤァ、馬鹿正直に研究所から離れてった車を追いかけてみたらまさかビンゴだとはなァ
探す手間が随分省けて助かったぜェ……なァ、天井くゥン?」

「あ、一方、通行……ぐぁ!!」


 天井の口が閉じきる前に一方通行の腕がフロントガラスを砕きながら迫り、彼を車の外に引き摺り出す。
放り投げられた天井はゴロゴロと転がりながら呻き声を上げるが、一方通行はそんな事露ほども気にかけず、
助手席に寝かされている打ち止めに手を伸ばしていた。


「このガキが上位個体か、まだ小せェが将来性はありそォだな……ピンチを救うって運命的だよな?」


 ニヤニヤと笑いながら将来の打ち止めの姿を想像し、勝手な運命を膨らませる一方通行。
ロリコンだったらこの場で手を出していたかもしれない。危ない所であった。


「まァこのガキには将来期待するとして、さっさと帰るとするかァ」

「ま、待て一方通行!」

「あァ?」


 打ち止めを抱え研究所に戻ろうとする一方通行に、何とか起き上がった天井が声をかける。
天井は焦燥しながらも笑っていた。まだ己に勝機があると考えているからだ。
今の状況は確かに良いとは言えない、しかし最悪でもない。
想定していた最悪のケースは、一方通行が問答無用で自分の口を封じるというもの。
しかし今の一方通行は自分の言葉に耳を傾けるだけの余裕がある。
それならば、このまま事情を説明できれば、逆転の目は十分すぎるほどあると言うものだ。


「一方通行、話を聞いてくれないか?」

「時間稼ぎのつもりか?往生際が悪ィぜ天井」

「ウイルスの起動まではまだ二十時間近くある、それくらいは聞いているだろ?
だったら少しくらいこっちの言葉に耳を傾けてもいいんじゃないか」

「……」


 確かに、一方通行は最初に芳川達からウイルスの起動予想時間を聞いている。
そして彼女達からは聞かされなかったウイルスの内容や天井の目的も気になる所だ。
少しくらいなら彼の話を聞いてもいいのではないか、そんな甘い考えが一方通行の中で芽生え始めていた。


天井「こちらの目的もウイルスコードの中身も聞かされてないか、全くのデタラメを聞かされているんだろ?
   頼む、十分、いや五分でいいから話を聞いてくれ」

一方通行「……わかった、五分だ」

天井「よし、ならすぐに説明に入る。まずは目的だが……絶対能力進化を始める為の準備だ」

一方通行「あァ?ウイルス流して妹達に妙な事させようとしてンだろ?
      それがどォして実験の開始とつながるンだ?」

天井「一方通行、お前は仕込まれたウイルスがどのようなものだと聞いている?」

一方通行「……詳しくは聞いてねェよ、ただ妹達の尊厳をぶっ壊すモンだって聞かされた」

天井「尊厳を壊すとは……また随分酷い言い方されてるな」ハァ

一方通行「あ?」

天井「いいか一方通行、このウイルスコードの中身は……このウイルスが起動すれば!」


天井「全ての妹達がお前に好意を持つようになるんだ!!」バァーン


一方通行「な、なン……だとォ……」


天井「二万の妹達の全てがお前の望むように動く!何もかもが思いのままだ!」

一方通行「つまり、童貞も……」

天井「捨て放題だ!」

一方通行「なンてこった、そンなウイルスだったのか……」

天井「絶対能力進化を始める為の準備だ、と言ったのがわかっただろう?
   このウイルスにより妹達はお前に好意を持つ、そしてお前は適当な相手で童貞を捨てる!
   そうすれば絶対能力進化を開始出来るというわけだ!」

一方通行「……なるほどなァ、そォいう事だったのか」

天井「芳川達に何を言われていたのかは知らんが、これで大義はどちらにあるかわかったか?
   お前がどちらに協力すればいいのかわかっただろ!?」


一方通行「あァ、わかったぜ……俺が今何をすればいいのかがなァ!」

天井「わかってくれたか!さぁ、このままもう二十時間も経てばお前は晴れて童貞を……」

一方通行「この天井がァァァァァ!!!!」ベクトルパンチ!

天井「ぐぼあぁぁ!!!!」バコーン

一方通行「この天井が!この天井が!」ベクトルチョップ!

天井「ぐあああああ!!!」ベシーン


一方通行「そンな事で俺がお前に従うと思ってンのか!?」

天井「ぐふぅ……な、何故だ一方通行……!?童貞を捨てられるんだぞ!?」

一方通行「作られた運命なンざ俺はいらねェ!!!」

天井「なにぃ!?」

一方通行「ウイルスなンざに頼らなくても、俺は俺の手で運命を切り開いて見せるつってンだよ!!」

天井「一方通行……」

一方通行「だいたい、『ウイルスで無理矢理心を縛り付けて童貞卒業しました!』なンてレイプと大して変わンねェじゃねェか!!
      『ウイルスで二万人のハーレム作りました!』とか言ってもドン引きされるだけで……
      待てよ妹達二万人のハーレムか……アレもコレも出来るのか……」

天井「滅茶苦茶後ろ髪惹かれてるじゃないか」

一方通行「うるせェ!ダメなモンはダメだ!作り物の運命なンざ認めねェ!!
      自分の手で必ず運命を掴んでみせるってンだよ!!」

天井「でもお前全然成果出てないじゃん……」

一方通行「うっ……」

天井「妹達にもフラれっぱなしだし、外でも第二位と遊んでるだけじゃないか……」

一方通行「俺なりに頑張ってンだけどなァ……」



天井「もうイヤなんだよ……」

一方通行「あン?」

天井「第一位のお前が!絶対能力者に一番近いお前が妹達ごときに虐げられてるのを見るのはもうイヤなんだよ!」

一方通行「天井?」

天井「お前わかってんのか!?一万四千回近くフラれてるんだぞ!!見てるほうが心痛くなってくるわ!!」

一方通行「やめろ、改めて回数を言うンじゃねェ!現実を突きつけるな!!俺の心を折る気か!?」

天井「見てるだけのこっちの心が折れそうになったわ!!同じ男として悲しすぎるんだよお前!!
   ウイルスでも何でも受け入れてもっと幸せになってくれよ!頼むから!!情けなすぎていい加減泣けてくるわ!!」


一方通行「天井、オマエがどンだけ甘い言葉で誘惑しようが俺はウイルスになンざ頼らねェ」

天井「何だと?」

一方通行「考えても見ろ、そもそも自力で童貞の一つも捨てれず、
      ウイルスなンて楽な道を選ぶクソ野郎が絶対能力者になれると思うか?」

天井「……」

一方通行「俺は絶対に自力で童貞を捨てる、だからもォこンな馬鹿な真似はするンじゃねェ」

天井「………クソ…」


一方通行「……打ち止めは研究所に連れて帰るぞ、文句はねェな?」

天井「……好きにしろ」

一方通行「天井、道は間違えたが、これは一応俺の事を考えてくれた結果なンだろ?」

天井「……あぁ」

一方通行「……ありがとよ」

天井「ッ!?」

一方通行「じゃァな」ビュン



 一方通行が打ち止めを連れ帰った後も、天井亜雄はしばらくその場に立ち尽くしていた。
誰かに感謝されるなど、どのくらい振りだろう。ましてあの傲慢な第一位が感謝の言葉を口にするなど、通常なら在り得ない。


「ありがとう、か……」


 やり直そう、もう一度、一から。誰も傷つけない方法で
あの甘っちょろい童貞を絶対能力者に押し上げる道を探してやろう。
決意を新たに、天井は晴れやかな気持ちで新しい一歩を……


「何をいい話みたいに締めようとしているのです?とミサカは天井亜雄の背後からそっと迫ります」

「!?」


 踏み出せなかった。


「いやぁ危ない所でした、一方通行が独自の童貞美学を持っててよかったですね、とミサカは心底安堵します」

「さて、それでは乙女心を踏みにじろうとしたこの男はどうしましょう?とミサカは皆に尋ねてみます」

「とりあえずあんなウイルスを作る力がある以上放っては置けませんよねぇ、とミサカはニヤニヤ笑いながら答えます」

「お、お前ら!?」


 三人、四人、十人、二十人、百人……妹達は天井を囲むようにして、際限なく増えていく。


「「「さぁ、お仕置きの時間ですよ?とミサカ一同は笑いながら天井亜雄にゆっくりと接近します……」」」

「う、うわああああああ!!!!」


 その後、天井の行く先を知るものは誰もいなかった。

投下終了

あれ、打ち止め一言も喋ってない上に笑いどころが少なすぎじゃね?
そして天井君は退場、早くもネタ切れの兆しである

次回、『ストーカーのストーカー』、こうご期待!


あまりにも一方さんかわいそすぎ妹達ひどすぎという意見が多いんで
ちょっと両者救済的な意味で打ち止めを連れ戻した後の様子を投下しておこう
ストーカー編はまた今度な!


―研究所


「お疲れ様でした、とミサカは一仕事終えた後の一方通行を労います」

一方通行「ン、オマエは……」

10032号「10032号です、とミサカは検体番号を告げます」

一方通行「打ち止めのウイルスは駆除出来そうなのかァ?」

10032号「はい、あなたが早期に天井亜雄を発見してくれたお陰でなんとかなりそうです
      ありがとうございました、とミサカは妹達を代表して頭を下げます」ペコリ

一方通行「ハッ、気にすンな、大した事はやってねェ。この程度朝飯前なンだよ」

10032号「一方通行……」

一方通行「でも多分これで妹達の好感度上がったりしたよなァ?」ニヤ

10032号「そういう事口に出しちゃダメでしょう……
      とミサカは結局イマイチかっこ良くなりきれない一方通行にガックリ項垂れます」

一方通行「あ、いけね……これからも何かあったら言えよ、助けになってやるからな(キリッ」


10032号「今更かっこつけても遅えよ、とミサカは呆れ顔でつっこみをいれます
      ……隣座っても良いですか?」

一方通行「お、おォ、どうぞどうぞ!」ワタワタ

10032号「キョドるなよ、とミサカは突然わたわたし始めた一方通行に若干引きます」

一方通行「うるせェ、こォいうシチュエーションは慣れてねェンだよ……」

10032号「童貞ですものね(笑)」

一方通行「黙ってろ」


10032号「……正直言うとですね、」

一方通行「あ?」

10032号「あなたが天井亜雄からウイルスの内容を聞いた時はもう終わりだと思ってたんですよ
      とミサカは当時の妹達の心境を語ります」

一方通行「どォいう意味だ?」

10032号「ぶっちゃけあなたは天井亜雄に協力すると思ってました、とミサカは正直に答えます」

一方通行「あァ、だから芳川達はウイルスの詳しい事教えてくれなかったンだなァ」


10032号「ええ、教えたらあなたはミサカハーレムを作るためにウイルスの起動に尽力するに違いない、
      と妹達一同は満場一致で判断しましたから」

一方通行「そォ思われる心当たりはあるけどよォ……やっぱ『見縊ンな!』って言いたくなるなァ」

10032号「う、すいません……とミサカは素直に謝罪します」

一方通行「天井にも言ったけどよ、やっぱウイルスなンぞに頼ってちゃダメなンだよ
      童貞一つ自力で捨てられねェよォじゃ絶対能力者なンて夢のまた夢だ」

10032号(今更だけど絶対能力者に童貞は関係ないよね、とミサカは(ry)

一方通行「それにな、妹達がウイルスで俺に好意を持った人格になったとしても
      俺は多分そンな妹達には運命感じねェと思うンだわ」

10032号「それはどういう……?」

一方通行「だってそりゃはもう妹達とは別モンだろ、ありのままのオマエらがいいンだよ俺は」フッ

10032号「一方通行……」



10032号「あなたそんなかっこいいセリフが吐けるのにどうして告白の仕方はあんなに残念なんですか、
      とミサカは告白された当時を思い出して頭を抱え項垂れます」


一方通行「えっ、俺の告白そンなダメだったか!?」

10032号「『あり』か『無し』かで言えば『死ね』ですね、とミサカは頷きます」

一方通行「そンなに!?」

10032号「そもそも流れ作業のように一日数百人単位で告白するっていうのがもうナメてますよね
      とミサカは根本的に一方通行が間違っている事を指摘します」

一方通行「ぐ……」

10032号「て言うかMNWであなたがどの個体に告白したか情報流れちゃいますからねぇ
      10031号に告白した一分後にこのミサカに告白、何てことしてたらそりゃ誰もOKしませんよ
      とミサカはあなたのダメっぷりを更に追求します」

一方通行「うゥ……」

10032号「もっとターゲットを絞った方が良いですよ、とミサカはアドバイスしてみます」


一方通行「でも妹達は全員平等に扱ってやりてェンだよなァ……」

10032号「その結果が流れ作業のような告白ですか、かっこいいんだか腐ってるんだかわかりませんね……
      とミサカは呆れ顔で溜息を吐きます」

一方通行「ターゲット絞るなンて無理だから逆転の発想でだなァ、」

10032号「はい?」

一方通行「まとめて面倒見てやるから二万体全員俺のモンになれ、とかいう告白どォよ?」

10032号「……そこまで突き抜けると確かにかっこいいわ、とミサカは一方通行の器の広さに脱帽します」

一方通行「だろ?だろ?いい案だろ?」


10032号「………今の会話を元に MNWで多数決取った結果、反対多数で否決されました、とミサカは結果を告げます」

一方通行「ちくしょォ……」

10032号「まぁでも思ったよりあなた派の妹達増えてましたよ、地道な好感度アップ作戦の賜物ですね
      とミサカは一方通行を励まします。特に今回あなたが天井亜雄の誘惑を振り切ったのは大きいですね」

一方通行「もォ一頑張りかァ……」


10032号「でもあなた童貞捨てれたら絶対能力進化開始するんですよね?ハーレム作っても一瞬で終わりじゃね?
      とミサカはふと思いついた事を口にします」

一方通行「ンー、多分開始しねェンじゃねェかな」

10032号「『絶対能力者になるのに童貞じゃ恥ずかしいから』って理由で童貞捨てようとしてるはずですよね?
      それなのにいざ童貞捨てても開始しないんですか?」

一方通行「運命の相手で童貞捨てられりゃァ多分それだけで絶対能力者になれるはずだ、そンな確信に近い自信がある
      逆を言うと、童貞捨てても絶対能力者になれなかったとしたら、俺には絶対能力者になる資格がねェって事だ
      だからどっちにしろ絶対能力進化は開始されねェよ」

10032号「サッパリ意味がわかりません、とミサカは力強く頷きます」



10032号「一方通行、一つ尋ねても?」

一方通行「なンだ?」

10032号「あなたは何故妹達に拘るんです?とミサカは最も謎な部分に触れてみます」

一方通行「何故、妹達に拘るか?」

10032号「はい、妹達は散々あなたに辛辣な態度を取ってきました。
      それは『あなたの反応が楽しかった』、というのも勿論ですが、
      それ以上に、『あなたを怒らせて実験を開始させよう』、と言う思惑があったからなのです
      とミサカは裏設定を暴露してみます
      にも関わらずあなたは怒る事はあっても決して手は上げませんよね。いったい何故?」

一方通行「そォだったのか……いや待て、俺の反応楽しンでたのかオマエら」

10032号「こまけぇこたぁいいんですよ、とミサカは都合の悪い部分はスルーします」

一方通行「オマエらに拘る理由かァ……いや別に拘ってるわけじゃねェだろ、
      確かにオマエらに運命感じちゃいるが、外でも他に運命の相手探してるしなァ」

10032号「これだけ辛辣な態度を取られているのにまだ妹達に運命感じて好意持ってる時点で十分拘ってるでしょう
      とミサカは指摘します。ドMですか?ドMなんですか?」

一方通行「誰がドMだ!?つーかホントに拘ってるつもりなンてなかったからなァ……」


10032号「えー……あれだけ理不尽に辛辣な態度取られたらマザーテレサでも舌打ちしますよ?
      あなたの心どれだけ広いんですか、とミサカは半ば呆れながら一方通行を眺めます」

一方通行「別に心が広いつもりはねェけどなァ……まァ、あれだ」

10032号「?」


一方通行「好きな相手にどンだけ振り回されよォが、そりゃむしろ幸せってモンだろ?」フッ

10032号「……な、なんだやっぱドMなんじゃねえか、とミサカは目を反らしつつ答えます」

一方通行「お、いいなァその反応、また俺の好感度上がったかァ?」ニヤ

10032号「あなたは自分で雰囲気叩き壊すのが好きですね、とミサカはいい加減呆れ果ててしまいます」

一方通行「ケケケ、偶にはこっちからもからかってやらねェとなァ」クククク

10032号「く、このミサカとした事が……」



「楽しそうね、私も混ぜてもらえる?」

一方通行「ン?あァ、オマエか」

10032号「どうぞどうぞ、とミサカは布束砥信を歓迎します」

布束「ありがとう」

一方通行「どォでもいいけどオマエがマトモに喋ってるの久々に聞いたわ」

布束「well ここ数ヶ月あなたの顔を見るたびに『寿命中断(クリティカル)!』と叫んでいたものね」

一方通行「マジで寿命が縮みそうだったからやめてくれて助かるわ」

10032号「まぁ全面的にあなたが悪いんですけどね、とミサカは一方通行を横目で睨みます」

一方通行「俺は普通に告白しただけですゥ」

布束「sigh 土下座しながら『やらせてくれ』と懇願するのが普通の告白と言えるのかしら」

一方通行「そこまでは言ってねェ、『先っちょだけでいい』つっただろ」

布束「……」

10032号「引くわぁ……」


布束「ま、まぁとにかく、今回の一件あなたには感謝しているわ」

一方通行「ハン、10032号にも言ったが別に大した事はしちゃいねェよ」

布束「but あなたにしか出来ない事だったわ、ありがとう」

一方通行「チッ、妹達の好感度上がるかもって打算で動いただけだ、礼なンざ言ってンじゃねェ」

10032号「ククク、この白モヤシ照れて真っ赤に茹で上がってますよ、
      とミサカは先程のお返しとばかりにニヤニヤと笑います」

一方通行「モヤシは茹でても赤くならねェよ!」

布束「great やはりモヤシには詳しいわね」

一方通行「常識ですよねェ!?」

   ―俺の未元物質に常識は通用しねぇ―

一方通行「なンか脳内に声響いてきた!?」

10032号「大丈夫ですか?とミサカは突然叫び始めた一方通行の頭を形だけでも心配します」

一方通行「ン、あァ……疲れてンのかな……」


布束「もう夜が明けそうだものね、眠ったら?」

一方通行「……そォだな、だがその前に、布束」

布束「何?」


一方通行「改めて俺と付き合ってくれ」


布束「」

10032号「おいいぃ!?お前さっき妹達に運命感じてるとか言ってたよなぁ!?
      とミサカは突然の告白に目を丸くしつつ抗議します」

一方通行「それはそれ、これはこれ、布束にも運命感じてンだよ!
      運命感じてる相手はまとめて差別せずに告白すンのが俺の流儀だ!!」

10032号「やっぱお前腐ってるよ!とミサカは再び一方通行の株を暴落させます」

一方通行「腐ってよォが構わねェ!!それに安心しろ
      たとえ俺が童貞を捨ててもオマエら妹達が大事な存在な事に変わりはねェから!!」

10032号「何で妹達がフラれたみたいな流れになってんの!?すごい屈辱なんですけど!!
      とミサカは一方通行の勝手な言い分に地団駄を踏んで憤慨します」


一方通行「さァ布束、答えを聞かせてくれるか?」

10032号「おい無視すんな!」

布束「errr……そういう普通の告白をしてくれるのは嬉しいのだけど……」

一方通行「嬉しいンだな?いいンだな!?よっしゃァ!!」

布束「いやちょっと、」

一方通行「よしじゃあ早速ヤルぞ、すぐヤルぞ」カチャカチャ

布束「」

10032号「おい待て、ベルトに手をかけるな、とミサカは不穏な動きをしている一方通行を制止します」

一方通行「心配すンな、最初は先端だけで済ませるからよォ」

10032号「心配のベクトルが違いすぎる!?ハッ、これがベクトル操作……
      とミサカはドン引きしつつ思いついた事を口にしてみます」

一方通行「まァ今から俺が操作すンのは布束のベクトルだけどな」

10032号「なるほど意味がわからん、とミサカは再び力強く頷きます」


一方通行「布束、部屋に行こうぜ」

布束「誰が行くか!!!」

一方通行「な、なンでだ!?」

布束「手が早すぎる!then そもそも告白をOKしていない!!」

一方通行「なンだと……」

布束「あなたには感謝している、だけどそれを差し引いてもこれは許容できないわ!」


一方通行「頼む布束ァ!先っちょだけ、先っちょだけでいいンだ!!」ガバッ

布束「土下座をしないでえええ!!!」


一方通行「接合部だけ、接合部だけ!!」

布束「言い方変えても同じ!!」

一方通行「刹那の刻を、刹那の刻を!!」

10032号「躊躇無く余所様のネタをパクった!?」

布束「く、寿命中断!!!」

一方通行「お願いします!お願いします!!」

布束「寿命中断!!寿命中断!!!」ダッ

一方通行「あ、待て逃げンな!!」ダッ


10032号「……そりゃあいつ童貞だよ、とミサカは走り去って行った二人の方を生暖かい目で見つめます」


 その後、一方通行はベルトを緩めていた事が災いし、走っている内にズリ落ちたズボンに足を取られ豪快にすっ転ぶ事になる。
その隙に布束には逃げ切られてしまい、彼はまたもや童貞喪失の機会を失ってしまった。
て言うかこれもう半分レイプじゃね?童貞の暴走とは恐ろしいものである。


投下終了

一方さんがどんだけ酷い告白をしてきたのかと
妹達が一方さんに辛辣な態度を取ってきたもう一つの理由の解説をしてみたり
本当はもうちょっと後で使うはずのネタだったんだけど、あんまり妹達がひどいひどい言われてたから先にちょっとだけ使ってみる

つーわけで次回こそストーカーのストーカー編な!


よくわからんが俺は書きたいことしか書かないから大丈夫だ
デレさせ方に無理があるように見えるのは俺の技量不足ですこの野郎
惚れた腫れたなんてムズ痒くて書いてられるか馬鹿!

つーわけで投下を開始する


 ある日、一人の男に彼の属するとある魔術組織から命令が下った。
科学の街の住人でありながら、十万三千冊の魔導書を持つ少女をその手中に収め、
更に強力な魔術師とも親交のある少年がいる。その少年本人の持つ『異能を打ち消す』という力も相まって、
彼らの存在は今後科学勢力と魔術勢力のバランスを崩し兼ねない。
だから監視をしろ。組織の男に下った命令はそのようなモノだった。

 簡単な仕事だった。確かに少年は強力な手札を持ってはいたが、ほとんど素人のようで、
監視に気付くような素振りは見せない。もっとも、男は監視や変装に関してはプロ中のプロであり、
例え同業者であろうとも気付かれないだけの自信はもっていたが。

 いつもの様に少年を監視していた最中、男は偶然、とある少女を見かける。
―― 一目惚れであった。一目見た瞬間から、その少女の明るい茶色の髪に、勝気な顔に、
華奢な身体つきに、その全てに心を奪われた。運命を感じた。
己の純潔を捧げるのはこの少女しかいない、と瞬間的に考えた程だ。

 以降、男は仕事そっちのけで少女の監視を始める。何の事は無い、やっぱりコイツもダメ人間だった、というだけの事。
そしてついに監視だけでは飽き足らず、男は得意の変装で直接少女への接触を試みた。
この物語は、仕事を投げ出しとある少女への想いを優先した一人のストーカーの心温まるお話である。


―街中


一方通行「だから謝ってンだろォ?」

垣根「うるせぇ!一言二言謝られただけで許すわけねぇだろ!!」

一方通行「そンなにあのパンダ口説きたかったのかよ?」

垣根「そっちじゃねぇ!」

一方通行「え?」

垣根「クラナドに続いてリトバスまで消し飛ばされたってどういう事だよ!?」

一方通行「あァー……そっちに怒ってたのかオマエ……」ウワァ

垣根「おま、何だその『ギャルゲーなんかにマジになってる男の人ってキモい』みたいな顔は!?」

一方通行「いやァそこまでキレるのは引くわァ……」

垣根「テメエ!!」

一方通行「クラナド面白かった、リトバス可愛かった、でもなァ……」

垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてえと見える」ピキピキ


一方通行「悪かったって、そンな名言の無駄遣いしてまでキレるなよ。ちゃンと金渡すから」

垣根「フン、まぁ今回はそれで許してやる。だがもうオマエには当分ゲーム貸さねぇからな」

一方通行「えっ」

垣根「つーか自分で買えよオマエ、金なんざ腐るほどあるだろうが」

一方通行「自分で買うのはなァ……何かこォ、そこは越えちゃいけねェ一線な気がして……」

垣根「周りの目が気になるか?心配すんな、自分で思うほど他人はオマエのことなんか見ちゃ……あ、でもオマエ目立つからな」

一方通行「だろォ?『見て見てあの白い人あんなゲーム買ってるキモーイ』とか言われたら正直泣くわ」

垣根「相変わらずその辺のメンタル弱いなオマエ、万単位で女にフラれても平気なくせに」

一方通行「メンタル強かったら童貞卒業できてンのかなァ……」

垣根「いやそれとこれとは……」




「ごっめーん、待ったぁー?」



垣根「あ?」

一方通行「ン?」

垣根「……何か第三位がすげえ笑顔で走って来てるな」

一方通行「『待ったー?』ってなンだよ……何一つ待ってねェよ……」

垣根「やっべぇちょっと寒気がするわあの笑顔」

一方通行「絶対なンか企ンでるなこりゃ……」

垣根「どうする?」

一方通行「……飛ぶぞ垣根」ブワッ

垣根「おう」バサッ


御坂「ちょ、待てゴラアアアア!!!」ダッ


一方通行「うわァ、また走って追って来たァ……」

垣根「良くついて来れるよなぁ、結構な速度で飛んでるつもりなんだが……」


一方通行「つーかあの速度で地面走ったら大迷惑だろ……」

垣根「あ、ウニみたいな頭したヤツと青い髪のヤツと金髪アロハの三人組が跳ね飛ばされた」

一方通行「……おい適当な場所に降りるぞ、これ以上被害を出すわけにはいかねェ」

垣根「あぁ……ったく、あのガキは……」




―とある公園


御坂「ハァ、ハァ、ハァ……顔見た途端飛んで逃げるってどういう事よ……」ゼェゼェ

一方通行「オマエが笑顔で走ってきたらそら逃げるわ」

垣根「何考えてるかわかったもんじゃねぇ」

御坂「こんな可愛い女の子捕まえて何言ってんのよ!!」

垣根「自分で自分の事を可愛いなんて言う女は総じて地雷だ」ウン

御坂「うるさいわよ!!……それよりさ、ちょっと相談があるんだけど」

一方通行「断る」

垣根「帰れ」


御坂「あのね、私最近男の人に付き纏われてるの」

一方通行「ほォ……」

垣根「勝手に話し始めやがったよ……どんだけフリーダムなんだこのお嬢ちゃんは……」


御坂「この一週間、毎日毎日同じヤツに会うのよね」

一方通行「あァ、俺もだ」

御坂「外出した直後にさ、『奇遇ですねー』って話しかけてくるのよ」

垣根「そりゃ確かに怖ぇな」

一方通行「俺もな、友達と二人で話してたらいつの間にか当然のように会話に加わってるヤツがいてちょっと怖ェンだよ」

御坂「で、『何処に行くんですか?』『ご一緒しますよ』ってずっとついて来るの」

一方通行「俺の方も延々ついて来られて参ってンだよなァ」

御坂「これって絶対ストーカーよね?」

一方通行「あァ、間違いねェな。俺が受けてる被害とほぼ同じだ」



御坂「あんたもストーキングされてんの?何処の誰だか知らないけど趣味悪いヤツがいるもんね」


一方通行「オメエェェの事だよォォォォォ!!!!」

御坂「はぁ!私があんたのストーカー!?ふざけないでよ!!!」

垣根「え、マジで自覚ねぇの?どんだけ残念な頭してんだよ」

一方通行「ちょっと妹達見習って来いよ、アイツら頭の回転無駄に速ェから」

御坂「そりゃそうよ、元の私が頭いいんだもん」

垣根「やだ、この子どんだけ自己評価高いの?ちょっと怖いわ……」

御坂「だって事実として学園都市の第三位だし」

一方通行「オマエの目の前にいるのは第一位と第二位だけどなァ」

御坂「そうそうそれ、あんたら見てるとそのうち私が第一位になれるんじゃないかなって思うのよ、あんたら基本馬鹿だし」

垣根「え、コイツが増長してんのってひょっとして俺らのせい?やっぱここらで一旦シメとく?」

一方通行「相手すンの疲れてきたわ……おい超電磁砲、もォ帰れ」


御坂「て言うかさ、『超電磁砲』だの『お嬢ちゃん』だの『第三位』だのって呼ぶのいい加減やめてくれる?
   私には『御坂美琴』って名前がちゃんとあるんだからさ」

垣根「本当に話聞かないな」

一方通行「……年下のガキに色々振り回されンのは、人間ならだれでも通る道だ」


御坂「はい、呼んでみて。『御坂美琴』」

垣根「……御坂」

一方通行「………美琴」


御坂「うん、気持ち悪い。今まで通りの呼び方でいいわ」


垣根「うおおぉぉい!!!ナメてんのかこのガキィィィィ!!!!」

一方通行「堪えろ垣根、コイツもォ何言っても無駄だ……」


御坂「あ、それで相談の続きなんだけど、」

垣根「……ここまでアレだと逆にちょっと可愛い気がしてきたぜ」

一方通行「それはどォかと思います……」


御坂「その付き纏ってくる男っていうのが常盤台の理事長の孫でさー、あんまり邪険に出来ないのよ」

一方通行「その位の常識はあるンだな」

垣根「その常識を一%でいいから俺らとの会話の時に出して欲しいわ」

御坂「いつも適当な理由つけて何とか撒いてたんだけど、今日は特にしぶとくてね」

一方通行「あァ、そォいやさっきオマエの後ろに男が立ってたなァ」

垣根「それで偶々通りかかった俺らと待ち合わせしてる事にしようとして『待ったー?』とか言ってたのか」

御坂「そう、それなのにあんたらいきなり飛んで逃げるし……」

一方通行「結果的にそのストーカー野郎は撒けたンだからいいだろォが」

御坂「良くないわよ、どう見ても不自然じゃない!」


垣根「つーか理事長の孫だろうが何だろうが関係ねぇだろ、ガツンとやってやれよ」

御坂「ダメダメ、部屋に侵入された、とかそういう被害は受けてないし、何だかんだで毎回撒いてるし、
   まだ『偶然』って言い張られたらそれで押し通されちゃう段階なのよ」

一方通行「始まって一週間らしいしなァ」


垣根「本当に偶然って可能性はねぇのか?」

御坂「無いと思う……状況証拠だけど、毎回寮から出た直後に話しかけられるし
   それに何だか私のこと嘗め回すような目で見てくるのよね……」

垣根「女ってそういうの敏感らしいからな」

一方通行「そォなのか?」

垣根「あぁ、胸とか脚とか『あ、今コイツに見られてるな』ってわかるらしいぞ」

一方通行「ほォ」

御坂「あんた達はいっつも私の胸見てるわよね」

一方通行「いやそンな……どこ見りゃいいンだよそれ、ねェモンは見れねェよ」

垣根「やっぱストーカーってオマエの思い込みなんじゃねぇか?」

御坂「うるさーい!間違いないったら間違いないの!」

垣根「わかったからギャーギャー喚くな!幼児かオマエは!?」

一方通行「初めて会った時はもォ少し大人っぽかったっつーかマトモだった気がすンだけどなァ……」


御坂「とにかく!そのストーカー……海原光貴って言うんだけど、そいつに私の事を諦めさせたいのよ」

一方通行「で、協力しろって?」

垣根「まだ実質的な被害はねぇんだよな?だったら第三者が口挟めるような事はねぇだろ」

御坂「被害が出てからじゃ遅いでしょ!今の内に手を打たないと……」

一方通行「つーかどォやって諦めさせるってンだ?」

垣根「まさか恋人でも演じろなんて言うんじゃねぇだろうな?」

御坂「んなわけないでしょ、ただちょっとあのストーカーが
   しばらく病院から出てこれなくなる程度に痛めつけてくれれば……」

垣根「うわぁ……」

一方通行「あ、もしもしジャッジメントですの?ちょっと今犯罪犯そうとしてる中二が目の前にいてですねェ……」

御坂「ちょ、冗談!冗談だから!通報しないで!!電話切って!!」


一方通行「ホントに冗談かァ?目がマジっぽかったぞオマエ」ピッ

垣根「俺らがノリ気だったら絶対その案で押し通しただろ」

御坂「じゃあ何かいい案考えてよ!」

一方通行「逆ギレの上丸投げかよ……」

垣根「エスカレートして来たらそん時返り討ちにするって事でそれまで放置でいいんじゃねぇの?」

御坂「んー、そういう受け身の姿勢って何かしっくり来ないのよね」

一方通行「つっても他に有効な手段なンてなァ……ン?」


「御坂さーん!」


垣根「あ?何か手ぇ振りながら走ってくる野郎がいるぞ」

御坂「げっ」

一方通行「あァ、あれが今言ってた……」

御坂「そ、あれが海原光貴よ……」ハァ


海原「御坂さん、どうしたんです?突然走り出すだなんて」

御坂「あ、あはは……ごめんね、ちょっとこいつらと待ち合わせしててさー」

海原「こいつら……そちらのお二方ですか?」

御坂(お願い、話し合わせて……)ボソボソ

垣根(しょうがねぇなこのガキは……)ボソボソ

一方通行(妹達との約束あるしなァ……仕方ねェか)ボソボソ


垣根「そうそう、今日は俺らと御坂の三人で遊びに行く予定なんだ
   用事があるんならまたにしてもらえねぇか?」

海原「……失礼ですが、御坂さんとはどのようなご関係で?」

垣根「関係?関係か、そうだな……」チラッ

御坂(こっち見ないでよ!適当に言っちゃって!)ボソボソ

垣根「……友達だ」チッ

海原「そ、そうですか……(何かすっごいイヤそうな顔で舌打ちしながら友達発言してる……)」

垣根(なんで俺がこんな残念なガキと友達ごっこしなきゃならねぇんだよ……)


海原「で、ではそちらの白い方は?」

一方通行「あ?あー、俺も……」ハッ

一方通行(ちょっと待てよ、友達つっていいのか?)

一方通行(あれだ、俺と妹達は結婚する可能性が高ェだろ)


※極めて低いです


一方通行(ンで俺と妹達が結婚したら、コイツは……)チラッ

御坂「?」

海原「どうなさいました?」


一方通行「コイツは俺の義姉だ」バーン

御坂「」

海原「な、なんですって!!?」

垣根「何言ってんのオマエ!?」

一方通行「間違った事は言ってねェ」


※間違っています


海原「御坂さんの義弟さんという事は……将来の自分の義弟だという事ですね!」ババーン

垣根「オマエも何言ってんだ!!?」

海原「何って、自分と御坂さんは将来結婚するんですから」

御坂「」

垣根「すげぇ、ストーカーって本当に頭の中バラ色なんだな」

一方通行「はじめましてお義兄さン、一方通行と申しますゥ」

海原「これはご丁寧にどうも、自分は海原光貴と申します」

垣根「ダメだこいつら……はやく何とかしねぇと……」

御坂「」

垣根「おい第三位、呆けてる場合じゃねぇぞ」

御坂「ハッ!ちょ、ちょっとあんた達なに好き勝手言ってんのよ!?」

一方通行「義姉さン!?」

御坂「義姉さんって言うなぁ!!何で私があんたの義姉にならなきゃいけないのよ!?」


一方通行「え、だって俺が妹達と結婚したらそォなンだろ?」

御坂「ならないし、させないわよ!!」

一方通行「えェー……ン、待てよ」

一方通行(呼び方こそ『妹達』だが、アイツら本物の妹じゃなくてクローンなンだよな)

一方通行(つーことは遺伝子的には超電磁砲と妹達は同一人物……)

一方通行(つまりそォ言う事か……)

一方通行「わかったぜ超電磁砲」

御坂「へ?」


一方通行「オマエは未来のマイワイフだ!」バァーン


御坂「」

海原「」

垣根「つっこみきれねぇ……この俺がぁ……」


一方通行「そォだそォだ、遺伝子的に考えりゃそれで間違いねェはずだ」ウン

垣根「『常識は通用しねぇ』は俺のキャッチフレーズだったんだがな……もうオマエにやるよ」

一方通行「いらねェ」

海原「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

一方通行「あァ?どォした義兄……っと、もォ違うな、この場合どォなンだ?」

垣根「知らんわ」

海原「そんな事どうでもいいですよ!!それより御坂さんは自分のモノです!あなたには渡しません!!」

垣根「オマエのモノでもねぇけどな」

一方通行「あァ?落ち着けよ、別に俺は超電磁砲と直接結婚しようってわけじゃねェ」

海原「意味がわかりません……」


一方通行(イヤ待てよ、さっきも言ったが超電磁砲と妹達は遺伝子的に同一だ)

一方通行(つまりこの海原とか言う野郎が超電磁砲を抱いたりした場合……)

一方通行(ソレはつまり妹達がこのクソ野郎に抱かれたってのと同じ事だよなァ)

一方通行「ふざけてンじゃねェぞコラァ!!!!」クワッ

海原「何がです!?」

一方通行「オマエの存在がだァ!!妹達には指一本触れさせねェ!!!」

海原「妹達って何ですか!?」



垣根「おい第三位見ろ、クレープ売ってるぞ」

御坂「あ、本当だ。買いに行きましょうか」



一方通行「オマエは俺の敵だ!俺の運命を遮る邪魔な石ころだ!!」

海原「く、良く分かりませんが御坂さんを渡すつもりは無いという事ですね!?」



垣根「甘っ!こいつクソ甘ぇ!」

御坂「馬鹿ね、ホイップ増量なんてするから……」



一方通行「スクラップの時間だぜェェェェェ!!!!」

海原「ぐああああああ!!!!」



垣根「チッ、クリーム取り除いてもまだ甘ぇな……コーヒー味にしときゃ良かったか……」

御坂「あんたも一方通行もコーヒー好きよね、厨二病ってやつ?」



一方通行「もォ一発だァァァァァ!!!!」

海原「ぎゃああああああ!!!!」



垣根「ん、そろそろ終わったか」

御坂「ご馳走様」


一方通行「ハッ、人様の女に手ェ出そうとすっからそォなンだよォ!」

海原「」ビクンビクン

垣根「あーこりゃ間違いなく入院コースだな……よかったな第三位、当初の予定通りじゃねぇか」

御坂「うん、良かった、のかな?うん、まぁ心配事は一つ減ったけど……それよりさ、一方通行」

一方通行「あ?」

御坂「あの、さっきの言葉ってどういう意味なの?」

一方通行「さっきの言葉ァ?」

御坂「私があんたの……ワイフがどうのとか、人様の女にとか……」

一方通行「あァ、それか……だってそォだろ?」

御坂「え?」

一方通行「妹達とオマエは遺伝子的には同一人物だよな?
      だから俺と妹達が結婚したらオマエは義姉じゃなくてワイフになるわけだ」

御坂「な、なんじゃそらああああ!!!!」

垣根「なるほど、わかるようなわかんねぇような……いや、わかんねぇわ」


一方通行「……待てよ、いくら遺伝子が同じでも同一人物って事はねェよな」

一方通行「妹達だってそれぞれ個性があるし、超電磁砲とは似ても似つかねェしなァ」

一方通行「つーことはやっぱ妹達とオマエは別人か、つまり俺と妹達が結婚してもオマエは他人のままか」

御坂「頭痛くなってきた……」

垣根「つーか妹達ってオマエを一万数千回振ってるクローンどもだよな?
   何でナチュラルに結婚できると思ってんだよ?
   あと、いつの間に目的が脱童貞から結婚になったんだ?」

一方通行「運命だ」

垣根「そうか運命か」

御坂「認めないわよ!!」


海原「フフ、御坂さんとあなたが他人のままだというのなら、御坂さんは自分が頂いても構いませんね!?」

垣根「うわ生き返りやがった」


御坂「もう黙ってろおおおお!!!!」バチバチバチ

海原「ぐぎゃああああああ!!!!」バリバリバリ

一方通行「あ、コイツ理事長の孫に普通に攻撃しやがった」


御坂「ハァ、ハァ……」

海原「」プスプス

垣根「あー……ストーカー問題解決したっぽいし俺らそろそろ行くぞ?」

一方通行「久々にゲーセンでも行くかァ」

垣根「お、いいなそれ。出会いがありそうだ」


御坂「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

海原「御坂さぁぁぁん!!!」

御坂「しつっこいのよおおおおお!!!!」バチバチバチ

海原「あ゛あ゛ああああ!!!もっとおおおお!!!」ビリビリビリ

つーわけで本日分終了
勢いで始めたこのスレで何となく原作に沿って進めてたけどそろそろ限界でござる
ぼちぼち原作の流れ無視で出したいキャラ出していいよね……?
木原くンとかショタコンとかむぎのんとか……

魔術勢期待してた人には悪いけどな!

>一方通行「『待ったー?』ってなンだよ……何一つ待ってねェよ……」
垣根「やっべぇちょっと寒気がするわあの笑顔」

相変わらず美琴に対してはきっついなww


おいっす、投下に来たぜ
何を期待しているのかは知らんが性描写など一切する気はねぇ!
万が一やるにしても精々朝チュンくらいだ、それも男同士でなぁ!!


 9月1日、夏休みが終わり御坂の監視が緩んだ為、一方通行は久方ぶりに己のマンションに帰る事が出来た。
しばらく間借りしていた研究所の一室での生活も中々有意義なモノであったが、やはり自分の部屋が一番である。
妹達や布束と離れるのが多少辛いところだが、どの道研究所には毎日顔を出すつもりなので問題あるまい。

 垣根と遊ぶ約束をしている時刻まであと二時間弱(こいつら本当に毎日遊んでんな)、
一方通行はそれまで買い込んでいた缶コーヒーでも飲みながらテレビを眺めてダラダラしようと、
缶コーヒーを冷やす、という用途以外に使われた事の無い可哀相な冷蔵庫へと近付く。


(どォでもいいンだが、冷蔵庫見てると妙な衝動に駆られるンだよなァ……)

(なンつーかこう、改造しなきゃならねェような……)

(垣根がなンか関係してるような気がすンだけどなァ)


 そんな風に、別次元の自分と微妙にリンクしたりしながら、ガチャリと冷蔵庫の扉を開ける。
しばらく部屋には帰っていなかったが買い溜めておいた缶コーヒーが数十本残っていたはずだ。
そのはずだったのだが……



「おいおいおい、なンの冗談ですかこりゃァ!」


 冷蔵庫の中を確認した彼は驚きの声を上げ、怒りを露にする。


「なァンで買い置きのコーヒーが全部カフェオレに変わってンだよ!?」


 彼が買い込み、冷蔵庫の中に放り込んでいたのは間違いなく当時出たばかりだった新商品の缶コーヒーだったはずである。
その黒い缶が、どのような理屈か今では茶色いカフェオレの缶に摩り替わっていた。
そんなものは生まれてこの方買った事が無いというのに、一体何があったのか、誰の仕業なのか。
一方通行は脳裏に『監視』と称しこの部屋に不法侵入を繰り返していた、甘い物が好きな一人の少女の姿が思い浮かべた。


「超電磁砲の仕業かァァ……」


 よくよく部屋を見回してみると、覚えの無いゴミがゴミ箱に入っていたり、台所を使った形跡があったりと、
しばらく帰っていなかった割に妙に生活感がある。
恐らく、一方通行が部屋に戻らないのをいい事に御坂が好き勝手ここでダラダラしたのだろう。
とするとカフェオレは彼女が飲むために買って来たという事か。



「俺の缶コーヒーはどこ行ったンだよ……」


 溜息を吐きつつ仕方無しにカフェオレに手を伸ばし、プルタブを開け中身を口中に流し込む
その甘ったるさに辟易しながらソファに身を沈め、テレビを付けようとリモコンを探すがどうにも見当たらない。


「あァ?」


 置いたはずの場所にリモコンがない、少し前まで手元にあったはずのリモコンが消えた、
という経験が、一人暮らしをしている方にはあるのではないだろうか?
これがかの有名な『妖怪リモコン隠し』の仕業である。
汚れた部屋だけでなく、整理の行き届いた、或いはモノのほとんど無い部屋でもこの現象は容赦なく起こってしまうのだ。


「めンどくせェ……」


 ぽつりと呟きカフェオレの残りを飲み干すと、彼はリモコンを探すのを諦めそのままソファに横たわる。
元々、特に見たい番組があったと言うわけでも無く、
ただの暇潰しの一環として適当な番組を垂流そうと思っていただけなので、
別に今どうしてもリモコンを探す必要があるわけではない。
リモコン探しなどと言う面倒な作業は後回しにするに限る。

 それに、『リモコン隠し』に隠されたリモコンは放っておけば
そのうち思いもよらぬ所からひょっこり出てくるものなのだ。下手に探し回って無駄な体力を使う必要も無い。



「ふあァ……」


 待ち合わせ時間まで一眠りするか……欠伸をしながらそんな事を考え、目覚まし時計をセットする。
さてこれで寝坊する事は無いだろう、と安心した気持ちで目を閉じ、うつらうつらとまどろみ始めたその時、


<ピンポーン♪


「あァ?」


 唐突に鳴り響いたインターホンの呼び出し音により、彼の眠りは妨げられる事となってしまった。
無視を決め込みもぞもぞと頭を埋める一方通行だったが、インターホンはしつこく鳴り響き、
徹底的に彼の神経を逆撫でする。
ならばそんな雑音反射して……と行きたいところだが、そうもいかない。
それでは自分が先程セットした目覚まし時計の音も聞こえなくなってしまい、
その結果、寝坊して待ち合わせに遅れてしまうという可能性が大いにある。


(あァクソ、何なンだよ……)


 鳴り止まないインターホンについに根負けした一方通行はムクリとソファから起き上がり、
めんどくさそうに玄関へと歩いていく。ただでさえ凶相の彼の顔は眠りを妨害された事で不機嫌に歪み、
子供が見たら泣き出すのではないか、街を歩けば通報されるのではないか、という程恐ろしいものになっていた。



「はいはァい!どなたですかクソが……あ?」

「お、ようやく出てきましたか、とミサカはインターホンから指を離します」

「やぁやぁこんにちは、とミサカは片手を軽く上げて気さくに挨拶してみます」


 玄関を勢いよく開けた一方通行はそこに立っていた二人の少女の姿を確認し、その身を硬直させる。
しつこい勧誘か何かだと当たりをつけていた彼にとって、その光景は全くの予想外だった。
自分の運命の相手が二人も同時に家を訪ねてきてくれたのだ、無理もあるまい。
まるで双子のようにそっくりな少女達―妹達の二人は、
そんな戸惑っている彼の様子が面白くて仕方ない、と言った風に口元を綻ばせていた。


(え、何コイツら、何でここにいるンだ?)

(インターホンを押してたって事は用があるって事だよな……誰に?俺にだろ!)

(わざわざ尋ねてきてくれた?俺なンかを?)

(待て、これは孔明の罠だ、どっかに関羽が潜ンで……いや何考えてンだ俺)

(例え罠だとしても妹達が二人も尋ねてきたのは事実だろ!つまりこれは……)


「我が世の春が来たァァァァ!!!」

「お前の頭ん中は年中春だろうが、とミサカは突然叫び始めた一方通行に冷静につっこみをいれます」

「まぁ、性的にはずっと核の冬でしょうけどね、
とミサカはどうせよからぬ事を考えていたであろう一方通行にドン引きします」


 喜びのあまり若干トリップ状態で叫び声を上げる一方通行に多少動揺しつつ、
二人の妹達は冷静かつ辛辣なつっこみを叩き込む。
その表情には呆れこそ見て取れるものの、以前のように嫌悪している様子は無い。
やはり先日の打ち止めを救助した一件や、日頃の地道な活動のお陰で一方通行の地位も少しずつ向上しているのだろう。


「まァ立ち話もなンだし入れよ」

「ではお言葉に甘えて、とミサカは躊躇無く扉をくぐります」

「お茶の一杯でも用意してくださいね、とミサカは少しばかり喉が渇いている事をアピールします」


 玄関から顔を出した時の不機嫌な表情から一転、一方通行は上機嫌に妹達を部屋に招きいれる。
彼女たちも大人しくそれに従い部屋の中に入ると、どっかりと我が物顔でソファに腰を下した。
これでは誰が家主かわかったものではない。



「おらよ、こンなモンしかねェが構わねェな?」

「おやカフェオレですか、とミサカは意外なチョイスに目を丸くします」

「てっきりブラックコーヒーでも出されるのかと思っていたのですが……
とミサカは予想外の事態に動揺しつつ甘いものは好物なので素直に受け取ります」


 一方通行が冷蔵庫の中から御坂の置き土産であろうカフェオレの缶を取り出し二人に差し出すと、
彼女達は目を丸くしてそれに驚いた。
一方通行が日頃ブラックコーヒーしか飲まないという事は彼の関係者ならほとんど誰もが知っている事実である。
彼のカフェイン中毒っぷりたるや、血液の代わりにコーヒーでも流れてるんじゃないか、と疑いがかかったり
彼の演算力の高さにはコーヒーが関係しているのではないか、と研究する者が出てくるほどだ。
そんな彼の家にカフェオレという飲み物が存在するなど一体誰が予想出来ようか。


「一方通行、さてはあなた皆の前ではかっこつけるために無理してブラック飲んでたんですね?
とミサカはこの場でカフェオレが出てきた理由を推測してみます」

「ば!違ェよ!!俺はマジでブラックが好きだっつーの!!」


 あらぬ疑いをかけられ、一方通行は首をブンブン振って慌てて否定する。
こんな所で自分のこれまで築いてきたイメージを破壊されては叶わない。
「いやお前のイメージ既に最悪だから」という無粋なつっこみはやめて頂きたい。
彼は未だ自分の事を『ブラックコーヒーの似合うクールでミステリアスな男』だと思っているのだから。


「それで、オマエら何しに来たンだ?」


 これ以上カフェオレの件につっこまれるのは面倒だと判断した彼はコホンと咳払いを一つすると、
話題を逸らす為彼女たちに何の用件かを尋ねる。
嫌悪されてはいないようだが、何の用事も無く遊びに来るという事は、まぁ無いだろう。
夢見がちな童貞も少しずつ状況判断が出来るようになっているのだ。


「そうですね、そろそろ本題に入りましょうか、とミサカはカフェオレを啜りながら答えます」

「えーっと、先日あなたが救ってくれた上位個体なんですが、覚えてますか?
とミサカは同じくカフェオレを啜りながら尋ねます」

「あ?ついこの前の事じゃねェか、覚えてるに決まってンだろ。打ち止め(ラストオーダー)つったか?」

「はい、その上位個体なんですが」

「あァ?」

「脱走しました、とミサカは端的に情報を伝えます」

「はァ!?」


 妹達の話によると、先日一方通行により救助された打ち止めはその後無事ウイルスも駆除され、
今日の早朝までは何の問題も無く眠っていたらしい。
一度培養機から出してしまった以上、ウイルス駆除が終わったからといって、
また培養機で保管というのはかわいそうだ、という意見により、研究所の一室で寝かされていたのだが、これが裏目に出た。
目を覚ました打ち止めはその旺盛な好奇心の赴くまま、研究所の職員や妹達の目を盗み、
一人でちょろちょろと脱走してしまったのだ。


「それで、まァた俺に探してくれってわけか」

「ま、そういうことですね、とミサカは飲み干したカフェオレの缶を弄びながら頷きます」

「本当はここに来たりしてるんじゃないかな、とちょっと期待してたんですが、そう上手くはいかないものですね
とミサカは空き缶を握り潰しながら溜息を吐きます」

「そンなのンびりしてていいのか?学園都市の治安の悪さは知ってンだろ?」

「危なくなったらMNWで助けを求めてくるでしょうし、多分大丈夫でしょう、
とミサカは楽観的な意見を述べます」

「しかし何が起こるかわからないと言うのも事実、ですのであなたに探していただきたいのです
とミサカは上位個体の資料を差し出しながらお願いします」


 妹達から差し出された資料には写真も含まれており、そこには間違いなく、
先日一方通行が天井の下から連れ戻した少女の姿が写っている。
この前はじっくり姿を確認している暇は無かったが、立派なアホ毛をしているな、
などとどうでもいい事を考えながら彼は他の資料に目を移した。


「その資料には上位個体の行きそうな場所や好みそうなモノを色々書き込んでいます
とミサカは資料の説明をします。どうぞ参考にしてください」

「本当は妹達で探しに行きたいのですが、ミサカ達はクローンという立場上
真昼間から堂々と表を歩くわけにはいかないので……とミサカは探しにいけない理由を説明します
断じて面倒だからあなたに丸投げしているというわけではありません」


「オッケー、引き受けた……って言いてェンだが、今日はこの後予定が入ってンだよなァ」

「えぇそんなぁ!とミサカはまさか断られるとは思っていなかったので愕然とします」

「そンなに緊急性が高ェわけでもねェンだろ?夕方からとかじゃダメかァ?」

「んー、構わないっちゃ構わないんですが、やっぱり無事がちゃんと確認できないと
精神衛生上よくないんですよね、とミサカは漠然とした不安を訴えます」


「夕方までミサカ達に不安なまま過ごせというのですか?とミサカは上目遣いで訴えかけます」

「もしもし垣根かァ?悪ィ、今日ちょっと無理になったわ。うン、悪ィ、埋め合わせはすっから、うン」

「はや!とミサカはあまりにもあっさり陥落した一方通行に苦笑いします」

「涙目の上目遣いは最強ですね、とミサカは目薬をしまいながら頷きます」



「よし、それじゃァ探しに行いくかァ」

「朗報を期待していますよ、とミサカはソファに身を沈めながら見送ります」

「上位個体がここに来る可能性があるので、ミサカ達はしばらくここで待機することにします
とミサカは一方通行に手を振りながら今後の予定を離します」

「あ、じゃァ鍵渡しといてやるからオマエら帰るときは戸締りして帰れよ?」

「了解です、とミサカは部屋の鍵を受け取ります」


 部屋に二人の妹達を残したまま一方通行は矢のように飛び立って行く。
そんな彼を、彼女達はニヤニヤと笑いながら見送った。
再三言って来たが、彼女達は性格が悪い。打ち止めが脱走した、ということに嘘偽りはなく、
彼に捜索を依頼しに来たと言うのも事実だが、二人が一方通行の家に残ると言う選択をしたのは
打ち止めをここで待つ、という理由ではない。
いや勿論それもあるのだが、真意は別のところにあった。


「行きましたか……さてそれでは、」

「家捜しを開始しましょうか、とミサカは怪しく目を輝かせます」

「とりあえず冷蔵庫のカフェオレは全て没収してやりましょう、とミサカはカフェオレを袋に詰めます」

「頑張ってください一方通行……外での捜索に協力できないミサカ達に出来ることと言ったら、
こうしてあなたの部屋の掃除をしながら無事を祈ることだけです……
とミサカは無力な自分に歯噛みしつつベッドの下を……おやおやこれはぁ」


 まさに外道


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―街中



「しかし、探すつっても何処探すかァ……」


 勢い良く街に飛び出した一方通行であったが、早速打つ手に困っていた。
渡された資料によると打ち止めの行きそうな場所は『クレープ屋』や『洋服屋』という事だが、
そんなものこの街には無数にある。というかこれは打ち止めの行きそうな場所というよりは、
どちらかと言うと妹達の行きたい場所、ではないだろうか。


「この前とは状況が違う……能力で探すっつーのも難しいなこりゃ」


 彼の能力によるレーダーはあくまでも『何処にどういう形のモノがあるか、どう動いているか』を判断するだけで、
『何処に誰がいるか』を知る事は出来ない。
以前天井を探した時は、彼が逃げ出して間もなかった事、一直線に研究所から離れていった事、
などからそれでもあっさり見つけることが出来たが、今回は状況が違う。
打ち止めがどんな動きをしているか想像出来なければ、レーダーは全く役に立たないのだ。



(こォ言うときは人海戦術……誰かに応援を頼むか)

(だが誰に……垣根?いや、今日の約束を反故にした手前頼み辛ェ)

(それにアイツ、下手したら打ち止めみてェな幼女にも手ェ出し兼ねねェ、それはダメだろ)

(じゃァ超電磁砲はどォだ?……打ち止めの事説明すンのめンどくせェな、却下だ)

(打ち止めの事を適当に誤魔化せそうで、かつ人探しの役に立ちそうなヤツ……誰かいねェか)


「……ン?あそこにいるのは」


 思考しながら歩いていた彼の目が、一人のツインテールの少女の姿を捉えた。


 白井黒子もまた、その時人探しをしていた。
情報によると、付近に外部からの侵入者が潜んでいるというのだ。
学園都市は外の世界より数十年進んだ技術力を持っているとも言われており、
その為技術力を盗もうと、或いは破壊工作をしようと侵入を試みる輩が後を絶たない。
とは言えそれらのほとんどは都市の監視衛星に発見され街に侵入する事すら出来ないのだが、今度は違う。

 どのような手で監視衛星を誤魔化したのかはわからないが、敵は既に街に侵入して来ている。
それだけでそんじょそこらの相手とは格が違うという事がわかるというものだ。
学園都市の治安維持の為侵入者を拘束する事、それが彼女達風紀委員(ジャッジメント)に与えられた仕事だった。


「……いましたわね」


 褐色の肌に荒れた金髪、擦り切れた黒のゴスロリ服……渡された写真と同じ人物が白井の視界に入る。
彼女こそが侵入者に間違いないだろう。
ニッと不敵な笑みを浮かべると、白井は周囲に避難命令を伝えるべく、上空に信号弾を撃った。


「ひ、避難命令だ!」

「うわぁ、に、逃げろ!」


 放たれた信号弾が、パンッという破裂音と共に辺りに強い閃光を走らせると、
それが避難命令だと理解した周囲の学生達は蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった。
後に残ったのは学園都市への侵入者、魔術師シェリー=クロムウェルと
治安維持の役割を持つ風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子……
と、二人は気付いていないが何か白いのも近くにいる。


「動かないでいただきたいですわね」

「……」

「わたくし、この街の治安維持を勤めておりますジャッジメントの白井黒子と申します
自身が拘束される理由は、わざわざ述べるまでもないでしょう?」


 不敵な笑みを浮かべたまま、白井はシェリーを牽制する。
彼女は学園都市でも有数の空間移動能力者だ。
だからこそ、外部からの侵入者などに後れを取るはずが無いという絶対の自信があった。
他方、白井に対して何の興味も持っていないシェリーはしばし無言で彼女を見つめると、
やがて心底めんどくさそうに溜息を吐き、ようやく口を開く。


「……探索中止、手間かけさせやがって」


 呟きつつ、彼女はボロボロのドレスの裾から何かを取り出そうとする。
手首を少し丸め獲物を取り出すというわずか数秒の動作であったが、
彼女がその動作を完了するより早く――


「!?」

「動くなと申し上げております」


 白井は空間移動の一跳びでシェリーの懐まで潜り込む。
白井はそのままシェリーの手首を掴み、能力を行使して一気彼女を地面へと薙ぎ倒しす。
何が起きたのか理解出来ていないシェリーを余所に、白井は更に能力を行使、
太もものホルダーに仕込んだ金属矢を転移させ、
未だ困惑状態にあったシェリーの服を地面に縫いつける事により彼女を完全に拘束した。


「日本語、正しく伝わってませんの?」


 まるで昆虫採集の標本のように地面に張り付けられたシェリーを見下ろし、白井は挑発するかのような言動を取る。
それは犯罪者に対して情けは無用とする彼女の信条と、既に勝負は決したと言う余裕から生まれた言葉だった。


「……フッ」


 そのような状態であるにも関わらず、シェリーは白井に負けぬほど不敵で余裕に満ちた笑みを浮かべる。
白井の誤算、それは侵入者が魔術師という彼女の理解の及ばない存在だったこと、
そして……



「ジャッジメントですのォォォォ!!!」

「ごぶふぁぁ!!!」


 すぐ近くに何か白いのがいた事である。

 シェリーが魔術を行使するより速く、白井がシェリーの異変に気付くより速く、
一方通行の右拳が白井の脇腹に突き刺さっていた。見事なボディーブローである。


「な、何をなさるんですの!?」


 以前のように星になる勢いで吹っ飛んだりしないと言う事は手加減はされているのだろう。
とは言っても痛いものは痛い。白井は殴られた脇腹を擦りつつ、突然の理不尽な仕打ちに涙目で抗議する。


一方通行「何をじゃねェ!ジャッジメントが一般市民いたぶってンじゃねェぞ!!」

白井「は、はぁぁ!?あなたいったい何を勘違いしていますの!?」

一方通行「勘違いだァ?」

白井「そうですの!その女は学園都市への侵入者ですの!!」

一方通行「侵入者だと……?」チラッ

シェリー「……」

一方通行「嘘吐いてンじゃねェぞパンダ!!何処の世界にこンな見るからに怪しい格好の侵入者がいるってンだ!?」

白井「い、いやそこ!そこにいますの!!」

一方通行「だいたいオマエは無実の俺にケンカ売ってきたって前例があるしなァ」

白井「あれはあなたが挑発したからですのおおお!!!」


一方通行「悪ィなオマエ、このパンダには俺がきつく言っとくから許してやってくれねェか?」

シェリー「え?あ、あぁ……」

白井「話を聞いてくださいまし!!」

一方通行「ン、じゃァ野良犬にでも噛まれたと思って忘れてくれ」

シェリー「あ、うん、じゃあ私急ぐから……」

一方通行「おォ、じゃァな」

白井「ちょ!お待ちなさいな!!」

一方通行「待つのはオマエだ」ガシ

白井「ガフッ、あ、頭を掴むのはやめてくださいまし!!あ!あー……見失ってしまいましたの ……」



白井「第一位様!どういうおつもりですの!?どうしてあの女を行かせてしまったんですの!?」

一方通行「え、だって好みじゃねェし」

白井「意味がわかりませんのおおお!!!」

一方通行「で、ちょっと話があるンだが聞いてもらえねェか?」

白井「まずわたくしの話を聞いてくださいまし!」


一方通行「いいから聞け」ギロッ

白井「はいですの」


一方通行「オマエをジャッジメントの出来るパンダだと見込ンで頼みたい事がある」

白井「パンダはやめてくださいまし!白井黒子!白井黒子ですの!!」

一方通行「白と黒逆じゃなくてよかったよなァ、オマエの名前……」

白井「うるせーですの!!」


一方通行「黒井白子とかだったらオマエ……なァ?白子って精巣だぜ?しかもそれが黒いンだぜ?つまり……」

白井「解説するなあああああ!!!!」


一方通行「あァー、それでまァオマエに人探しを頼みてェンだよ」

白井「いえ、わたくしそんな事やってる暇無いんですの、さっきの女を追わなければならないので……」

一方通行「あァ?オマエ俺の頼みが聞けねェってのか?」ガシッ

白井「だ、だから頭を掴まないでくださいまし!脅されようとわたくしはジャッジメントとしてさっきの女を……」

一方通行「この俺がこれだけ平身低頭で頼ンでンのにダメだってのかァ!?」グググ

白井「何処が!!何処が平身低頭ですのおおお!!?」

一方通行「ちゃンと俺の頭の方がオマエより下になってンだろォが」ググググ

白井「それはあなたがわたくしの頭を掴んで持ち上げているからですのおおお!!!」

一方通行「ところでよォ、豆腐を潰さないように持ち上げ続けるのって意外と難しいンだわ」メキメキ

白井「」ミシミシ

一方通行「人探し、引き受けてくれるよなァ?」ニコッ

白井「もちろんですの」


「で、この写真に写ってるガキを探して欲しいンだが……」


 そう言いつつ、一方通行は妹達から預かった写真を一枚白井に手渡す。
理不尽過ぎる扱いに涙目になっていた白井がおずおずとそれを受け取ると、その途端、彼女の雰囲気が一変した。


「ぬふぁ!これは!!」

「あ?」

「第一位様!この写真の子は!!お姉様の小さな頃ににそっくりなこの写真の子はどなたですの!?」


 目を輝かせ、鼻息荒く白井は一方通行に詰め寄る。
最大の恐怖とは『知らぬ』という事、とはよく言ったもので、一方通行は痛恨の人選ミスをやってしまった。
彼は知らなかったのだ。白井が、超重度のミサカ・コンプレックスを患っているという事を。


「あー……ちょっとワケありでなァ、詳しい事は聞かずに探してもらえねェか?」

「……わかりましたの、何処の誰でも構いませんの。愛でる対象である事には変わりありませんので」

「め、愛で……?」


「とにかくこの小さいお姉様を探せば良いんですのね!?探し出して好きにしてよろしいんですのね!?」

「あ?いやちょっと待て何言ってンだオマエ!?」


 ここに至り、ようやく一方通行は感付く。
あ、コイツこの前の超電磁砲のストーカー野郎と同じタイプの変態だ、と。
しかしもう遅い。彼女は『打ち止め』という存在を知ってしまった。
もはや彼女を止める事など誰にも出来はしない。


「これはもうさっきの女を追ってる場合じゃありませんのね……白井黒子、行かせて頂きますの!!」

「おい待て!!」


 一方通行の制止も虚しく、白井は空間移動で彼の前から姿を消す。
彼女の限界飛距離は本来八十メートル程であり、とてもではないが一方通行から逃げ切れるようなものではない。
しかしこの時彼女が見せた跳躍は明らかに限界であるはずの数値を越えており、
少なくとも肉眼で見える範囲に彼女の姿はどこにも存在しなかった。愛の力である。


「やっべェ、人手増やすどころか危険増やしただけじゃねェか!!」

「あのパンダにそンな趣味があるなンざ聞いてねェぞクソ!!早く見つけねェと……」


 もし白井に先を越されてしまったら……考えるだけでも恐ろしい。
焦りを覚えた一方通行もまた、持てる力の全てを使って打ち止めの探索を開始した。


―その頃の垣根さん


垣根「一方通行に約束反故にされて一人で地下街に遊びに来てみたものの……」

垣根「何かジャッジメントが避難誘導してやがる……おかしいだろ……」

垣根「ハ?テロリストがいる?ふざけろよクソ野郎が……」

垣根「ゲ、停電になりやがった!?……ツイてねぇ」

垣根「……何か音がするな、あっちか?」


―騒動に巻き込まれていた。



―――――――――――――――

―――――――――

――――


一方通行「クソ、見つからねェ!!いったい何処に隠れてやがンだ!?」

一方通行「こォなったら背に腹はかえられねェ、垣根に応援頼むか……」ピッピッピ

一方通行「………」

一方通行「あの野郎圏外かよォォォォ!!!使えねェェェェ!!!」

一方通行「れ、超電磁砲は……」

一方通行「よく考えたら携帯番号知らねェェェェ!!」


一方通行(落ち着け、クールになれ……冷静に、ガキの気持ちになって考えるンだ……)

一方通行(俺がガキだったらどこにいく?俺はガキの頃何がやりたかった……?)

一方通行(……女風呂?いや違ェ!それは今の頭脳で子供の身体だったら何処に行きたいかだ!!)

一方通行(あ?つーことはコ○ンくンって女風呂入り放題って事かよ、死ねクソが)


一方通行(イヤイヤイヤ、関係ねェ事は考えンな、思考を集中しろ)

一方通行(ガキが一人で研究所から脱走……当然徒歩だ)

一方通行(恐らく金は持ってねェだろォからタクシーやバスは使えねェ、ヒッチハイクの可能性は低い)

一方通行(ガキが脱走した時間と現在時刻を鑑みるに、腹を空かせてる可能性が高ェ)

一方通行(金がねェから何も買えねェが、それでも腹が減った時は食い物の近くに行きたくなるってモンだ)

一方通行(超電磁砲筆頭に、妹達は皆甘党だったなァ……つーことは、怪しいのは研究所近くのクレープ屋か?)


一方通行「……行ってみるか」

―その頃の垣根さん


「アッハハハ!喜べ化物!この世界も捨てたものじゃないわねぇ!
そういう馬鹿が、一人くらいはいるんだから!」

「……一人じゃねぇぞ!!」


垣根「そうだ、俺がいる!!」

「どちら様!?」


垣根「そっちのメガネの嬢ちゃん、大丈夫か?」

「え、あ、あの……ど、どうして……いやそれより、誰……?」

垣根「理由なんていらねぇだろ?ただ、運命だと思っただけさ……」

「お、おい誰だか知らねぇけど危ねぇぞアンタ!!て言うか待機してた警備員の人達は!?」

垣根「邪魔だから寝かせた!テメエも下がってろウニ頭!!」


「ブチ殺せ!エリス!!」

垣根「ハッ遅ぇんだよ!!」バサァ

「なぁ!?」


―他人のフラグを横取りしていた。



―――――――――――――――

―――――――――

――――



(研究所からガキの足で歩いて行ける範囲のクレープ屋はここの公園の屋台で最後……)

(ここにいなけりゃお手上げだァ……頼むぜ、いてくれよ打ち止め……)


 祈るような気持ちで一方通行は公園に入っていく。
そもそも冷静に考えてみれば広大な学園都市でちょこまか動く一人の幼女を探し出せ、など無理な注文だ。
例え見つからなかったとしても彼は十分良くやったといっていいだろう。

 しかし彼の祈りは、願いは、最後の最後でようやく実を結ぶ事になる。
その公園の敷地内で、クレープ屋の屋台の前で、彼は確かに見た。
妹達そっくりの、ピコピコとアホ毛を揺らす愛らしい幼女の姿を。
そして、彼女を挟んで睨み合う一組の男女の姿を―。


「海原さん!この子はわたくしが見つけたんですの!!ジャッジメントとして保護させていただきますの!!」

「いいえそれはさせません!この子は自分が見つけたんです!!一緒にクレープを食べると約束したんです!!」

「お姉様に付き纏うだけでは飽き足らず、ついにお姉様に似たこんな小さな子にまで手をだそうだなど……
いくら理事長のお孫さんといえど、ジャッジメントとして見過ごすわけにはいきませんの!!」

「て、手を出すですって!?誰がそんな事をするものですか!!
自分はただあなたのような危険人物に彼女を預けるわけには行かないと言っているんです!!」

「だ、誰が危険人物ですの!?わたくしは迷子になったこの子を探すように保護者様に頼まれて……」

「フン、怪しいものです!あなたが御坂さんの事を尋常で無い程慕っているのはよく知っています!
この子を御坂さんに見立てて普段満たされない欲求を満たす為にあんな事やこんな事をするつもりですね!?」

「それはあなたの方でしょう!?何ですの!その不自然に膨らんだズボンの前方部は!!」

「こ、これは……ば、馬鹿な!自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍が臨戦態勢に……!?」

「なんて汚らわしいんですの!これだから殿方は……」

「な、何を!あなたの顔だって先程から弛緩しっぱなしで……おや?」

「ん?」


 白井黒子と海原光貴、いがみ合っていた二人は最後に同じ光景を目にする事となる。
しかしその光景が何を意味するのか理解する前に、両名の意識は深く深く沈んでいった。



一方通行「大丈夫だったかァ?」

打ち止め「ありがとう、これで二度目だね!ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみる!」

一方通行「あァ?前の覚えてンのか?オマエ寝かされてたンだろ?」

打ち止め「うん、だけど他の妹達が教えてくれたの!ミサカの為に引き篭もってた部屋から出てきてくれたんだよね!
      ってミサカはミサカは勇気を振り絞ってミサカを助けに来てくれたあなたにもう一度頭を下げてみたり!」

一方通行「あァうン、引き篭もってたけどよォ……」

打ち止め「あなたはミサカのヒーローだねってミサカはミサカは照れながらあなたに擦り寄ってみたり」

一方通行「……ハッ、こンな人相悪ィヒーローいて堪るかよ」

打ち止め「かっこいいと思うけどなーってミサカはミサカは正直な気持ちをぶっちゃけてみる」


一方通行「オラ、いいから研究所行くぞ、オマエが黙って出てきたモンで皆困ってンだよ」

打ち止め「あ、そういえばそうだったー!ってミサカはミサカは今更ながらこっそり出てきた事を思い出してみたり!」

一方通行「忘れてたのかよ」

打ち止め「ど、どうしようこんなに長時間出かけるつもりじゃなかったのに……怒られちゃう……
      ってミサカはミサカはしょんぼり項垂れてみたり……」

一方通行「自業自得だなァ、これに懲りたら黙って出かけたりするンじゃねェぞ」

打ち止め「うぅぅー……」


 かくして打ち止めの脱走騒動は無事終わりを告げ、
学園都市に侵入した魔術師も垣根によってこっそり鎮圧されていた。

この後、打ち止めを研究所に送り届け自宅に帰った一方通行は
ベッドの下に隠していたはずの秘蔵のブツがテーブルの上に並べられているのを見て悶絶する事になるのだが、
それはまた別のお話である。



―その頃の垣根さん


垣根「せっかく助けたメガネの嬢ちゃんが目の前で突然消滅した……」

垣根「あの子はひょっとしたら二次元の世界の住人だったのかもしれねぇな……」


―何かよくわからん納得の仕方をしていた。

投下終了
原作をなぞる(?)のは多分今回で最後だ
あとGWはちょっと遠出してくるんで多分終盤まで投下出来ません
ごめーんね?


何かお前らが寂しそうだったから出先にも関わらず即興で一本作ってきたわ
つーか布束さんなんでこんなに人気なん?この人「寿命中断!」としか言ってないぞ?




御坂「うああああ!!!」

一方通行「どうだァ?一方的な暴力に為す術もなく命をすり減らしていく気分はァ?」

御坂「いや、やめて!やめてぇ!助けてえええ!!!」

一方通行「おォー、コイツァ命乞いってヤツだなァ。最後はなンだァ?
      ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供の頃からやり直してる最中かァ!?」

御坂「あ、ああぁ……いやあああああ!!!」

一方通行「楽しいなァ超電磁砲!!楽しいよなァァァ!!!!」



  ― みことは めのまえが まっくらになった ―



―とある喫茶店


御坂「わ、私のピカチュウが……」

一方通行「これで俺の10勝0敗だなァ」ククク

垣根「いやオマエらどんなテンションでポケモンやってんだよ」

一方通行「あ?普通だろ普通」

垣根「いやいやいや、オマエの声怖すぎて周りから人いなくなっちゃったから!
   下手したら通報されてるぞこれ!」

御坂「くぅぅぅ、もう一回!もう一回よ!」

一方通行「何度やっても同じ事なンだよ格下がァ!」

垣根「つーかオマエ何で第三位と普通に遊んでんの?」

一方通行「最近気付いたンだよ」

垣根「ん?」

一方通行「妹達と良好な関係を築こうと思ったら超電磁砲の存在は無視出来ねェ
      ここらでコイツの好感度も上げといたほうが後々特だってなァ」


御坂「あんたは妹達と良好な関係なんて築けないし、私が築かせないわよ」

一方通行「ちょいさァ!!」

御坂「私のライチュウがああああ!!!」

垣根「オマエ、そんだけフルボッコにしといて好感度上がると思ってんのか」

御坂「そうよそうよ!ちょっとくらい手加減しなさいよ!!」

一方通行「あァ?オマエ手加減なンかされて嬉しいのか?」

御坂「え?」

一方通行「オマエを一人前と認めてるからこそ俺も全力でやってンだぞ?」

御坂「う……」

垣根「相手が妹達だったら?」

一方通行「気付かれないように絶妙な接待プレイをして機嫌をとる」

御坂「があああああ!!!!」バチバチバチ


一方通行「テメ、ゲーム機本体にダイレクトアタックしようとすンじゃねェよ!」

垣根「勝てないと思ったら躊躇なく卑怯な真似すんのか、相変わらず残念な子だな」

御坂「くうぅ、あんたら寄って集ってかよわい中二の女の子をいじめて楽しいの!?」

一方通行「かよわい女の子は人に向かって致死レベルの電撃をぶっ放したりしねェ」

垣根「第三位のオマエがかよわいんなら学園都市の女全員かよわいわ」

御坂「こんな時ばっか正論を……」


<消える飛行機雲 僕たちは見送った~♪

垣根「ん、悪い電話だ………もしもし」

一方通行「その着メロは引くわァ……」

垣根「オマエが言うかよ……あ?何でもねぇよ、こっちの話だ」


一方通行「いや流石に俺はそういう曲卒業したから」

御坂「そういう曲って?」

一方通行「気にすンな」

御坂「?」


垣根「あぁ、わかった、もう切るぞ……クソ」

一方通行「どうしたァ?」

垣根「仕事が入りやがったんだよ、つーわけで今日は先に帰るわ」チッ

御坂「仕事なんてやってたの?」

一方通行「仕方ねェなァ、気をつけろよ」

垣根「ハッ、第二位の俺が何に気をつけるってんだ?……っと、そうだ第三位」

御坂「なに?」

垣根「今度からオマエも俺らに混ざるときは電話かメールでアポとってからにしろ
毎度毎度突然現れるのはいい加減やめてくれ」


御坂「えー、一々連絡するのめんどくさいじゃん」

垣根「つってもオマエだって俺らが猥談してる時とかに鉢合わせると気まずいだろ?
   前もって来るのを知らせてくれりゃ少しは気ぃ使ってやるよ」

一方通行「垣根が突然イケメンみたいな事言い出しやがった……」

垣根「進歩のねぇオマエと違って俺は日々限界を超えて成長してんだよ
   おら第三位、俺の番号教えといてやるからオマエの番号もよこせ」

御坂「そうやって私と番号交換してどうするつもりなの!!」

垣根「何この自意識過剰極まりない反応、マジで殴りてぇ」

一方通行「だァから真剣に相手にしようとすンのが間違ってンだって」

御坂「な、何よ当然の反応でしょ!?あんたらみたいのに番号教えたらろくな事にならないわよ!!」

一方通行「いやァマジでオマエに興味一切無いンでェ……」

御坂「む、何よその言い方」

垣根「チッ、もういい、とにかく俺は仕事行って来るわ」

御坂「舌打ちするな!さっさと行きなさいよもう!!」




一方通行「さァて、垣根も行っちまったしどうすっかな」

御坂「あんたどうせ暇なんでしょ?ちょっと付き合ってもらえる?」

一方通行「え、俺心に決めた女性が(複数)いるンでェ……」

御坂「何勘違いしてんのよ!!ゲーム負けっ放しなのが悔しいからちょっと時間よこせつってんの!!」

一方通行「あァそういう事か、安心したわ」

御坂「ムカつく言い方ね……ふん、とにかく移動するわよ」

一方通行「あ?どっか行くのか?」

御坂「ポケモンじゃ勝てそうにないし、次は私のホームグラウンドに行くの!」

一方通行「ホームグラウンドだァ?」

御坂「何、もしかして負けるのが怖い?第一位なのにぃ?」

一方通行「ケッ、ンなわけねェだろ。いいぜ、テメエに有利な場所で完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」

御坂「言ってなさいよ、吠え面かかせてやるわ!」



―――――――――――――――

―――――――――

――――


―とあるゲームセンター


御坂「さて着いたわよ」

一方通行「常盤台ってお嬢様学校だよなァ?そこの生徒がゲーセンをホームグラウンドにしてるってどうなンだ?」

御坂「うるさいわね、あんたお嬢様に夢持ちすぎよ」

一方通行「いーや、ゲーセンに入り浸るお嬢様なンざオマエくらいだ」

御坂「そんな事ないってば!あーほら、あれやるわよ、あれ」

一方通行「スト4(ストリートファイター4)かよ」

御坂「何か文句あんの?」

一方通行「ますますお嬢様らしくねェなと思っただけだ」


御坂「うるさい!……あんた、やった事はある?」

一方通行「ン、まァ垣根と何度かな」

御坂「じゃあ練習とかいらないわよね?さっさと対戦しましょ」チャリン

一方通行「へェへェ……ンー、リュウでいいか」チャリン

御坂(フ、かかったわね一方通行……格闘ゲームはやり込み度合いが物を言うのよ!
   『何度かやったことがある』程度でこのゲーセンの連勝記録保持者の私に勝てるわけがない!
   私の春麗にボッコボコにされて半泣きになるがいいわ!!)


一方通行「おいオマエはブランカ使えよ」

御坂「あんたこそリュウなんてキャラじゃないでしょうが!!」



― ROUND 1 FIGHT ―



― K.O ―

―RYU WINS―

―PERFECT―


御坂「」

一方通行「小足見てから昇竜余裕でしたァ」


御坂「何なのあんた!おかしいでしょ!?」

一方通行「何が?」

御坂「何でこっちの攻撃見てからその全てに的確に対応出来るのよ!?」

一方通行「こちとら生身で超音速の戦闘が出来るだけの反射神経と動体視力持ってンだぞ?
      フレーム単位で見切って対応するなンざ朝飯前なンだよ」ケケケ

御坂「ぐうぅ……じゃあ次あれ!BLAZBLUE!!」

一方通行「格ゲーだとどれやっても同じだと思うンだが……」


御坂「うるさいうるさい!ほら来なさいよ!」チャリン

一方通行「うるせェのはオマエだガキが」チャリン

御坂(もう許さないから……強キャラでも何でも使ってボコボコにしてやる……)

一方通行「ハクメンさンマジかっけェ」

御坂(はん、ハクメンなんかで私のノエルに勝てるわけが……)



― DISTORTION FINISH ―

― HAKU-MEN WIN ―


一方通行「反射反射反射反射ァ!!」

御坂「あ、当身で完封された………ああああもう!次次!!」

一方通行「まだやンのかよ」


御坂(こうなったらあいつの筐体をこっそり電撃で……)パチパチ

一方通行「反射ァ!!」ペカーン

御坂「あああああ!!!」


―――――――――――――――

―――――――――

――――



御坂「」

一方通行「そろそろ分かったかァ?どンなジャンルだろうとオマエは絶対に俺に勝てねェンだよ」

御坂「もう何なのよあんた……そんなんでゲームやってて楽しい……?」

一方通行「あンまり楽しかねェな、マトモに勝負になるのなンざ垣根くれェだ
      だから滅多にゲーセンなンて来ねェンだよ」

御坂「むぅ……」

一方通行「でもなァ、今日は結構楽しめてるぜェ?」

御坂「え、それって……」

一方通行「主にオマエの無様な姿をなァ」ゲラゲラゲラ

御坂「あんたねぇ……」ピキピキ

一方通行「さァてどうする?終わりにするか、それとも無駄な挑戦を続けてみるかァ?」


御坂「ぐ……あ、そうだ」

一方通行「あ?」

御坂「あれやりましょう、あれ、あそこのクレーンゲーム」

一方通行「クレーンゲームゥ?どうやって勝負すンだよ」

御坂「500円でどっちが多くぬいぐるみを取れるか勝負!ほら、先攻は譲ってあげるから行きなさいよ」

一方通行「ハッ、俺が先攻で取り尽しちまっても構わねェンだなァ?」チャリン

御坂「やれるもんならやってみなさい」

一方通行「こンなモン、格ゲーやガンシューより遥かに簡単なンだよ!
      ぬいぐるみの重心とアームの閉じ方を計算すりゃ……あァ?」ポロ

御坂「あれー、どうしたの?取れなかったみたいだけど?」

一方通行「ンな馬鹿な、あの角度で取れねェわけが……あァァ!?」ポロ


御坂(フフフ、今度こそかかったわね、このクレーンゲームはアームの力が弱すぎて絶対に景品を掴めないのよ!
   通称、『100円入れてアームを動かすだけのゲーム』!私の知る限りもう年単位で景品の配置が変わっていないわ……
   一方通行がぬいぐるみを取れば何か理由をつけて私がそれを没収、取れなければ最悪引き分け、
   どっちに転んでも私に損は無い!)


一方通行「おいィィ!!ふざけてンのかこのクソアーム!!!」ポロ

御坂「ちょっと、ゲーム機のせいにするなんて情けないわよ?」

一方通行「いやこれ絶対に取れねェようになってンだろ!?」ポロ

御坂「はいはい、後一回ね。学園都市の第一位様が一個も取れないのかぁ」ククク

一方通行「ふざけンじゃねェぞォォォ!!!」ビキビキビキ

御坂「え、ちょっとあんた力入りすぎじゃない!?」

一方通行(集中しろ!計算しろ!ぬいぐるみの動きを!アームのベクトルを!操ってみせろ!!)

御坂「ちょ、あんた能力使ってるでしょ!?ダメよ!このクレーンゲームには能力の感知装置が……」


クレーンゲーム<ビービービービー!!!

一方通行「あァ?」

御坂「あああ!!警報鳴っちゃった!!!」

一方通行「あァ!?普通にやったら絶対取れず、能力使ったら警報かよ!!ナメてンのかこの店はァァァ!!!」

御坂「言ってる場合じゃないでしょ!早く逃げなきゃ!!」

一方通行「クソがァァァ!!覚えてろよクソクレーン!!!」ダッ

御坂「もおおお!!私このお店常連なのに来れなくなったらどうしてくれんのよおお!!!」
ダッ


―――――――――――――――

―――――――――

――――



一方通行「あァちくしょう、あのクレーン今度絶対ぶっ壊してやる……」

一方通行「つーか逃げてる間に超電磁砲とはぐれちまった、こっちから連絡取れねェしどうすっかな……」

一方通行「……まァいいか、結構付き合ってやったしあのガキも満足しただろ」

一方通行「研究所にでも顔出しに行くかァ」テクテク



―研究所


一方通行「よォ」

芳川「あら一方通行、私に会いに来てくれたのかしら?」

一方通行「……チッ」

芳川「……あのね、私も女の子なんだからそろそろ泣いてしまうわよ?」

一方通行「女の『子』(笑)」

芳川「……」イラッ


一方通行「あのなァ芳川、世の中には二種類の女がいるンだよ」

芳川「へぇ?」

一方通行「泣き顔が保護欲を掻き立てる女と、泣き顔すらムカつく女の二種類だ」

芳川「君は私が後者だと言いたいわけ?童貞のくせに……」

一方通行「生まれたときは皆童貞だろうが!!」

芳川「意味がわからない」

一方通行「そンな事だから行き送れンだよ」

芳川「まだ二十代よ!!」

一方通行「うるせェ、腐った子宮引きずり出されてェのか」

芳川「誰の何が腐ってるですって!?」

一方通行「年甲斐も無く声張り上げるのやめてくださァい、明日声が出なくなりますよォ?」

芳川「君は私をなんだと……」

一方通行「とにかく俺はオマエと話してる暇なンてねェから。じゃァな」テクテク

芳川「あ、ちょっと!………まったくあの子は……」ハァ



一方通行「さァてと……お」テクテク


布束「~♪」カタカタ


一方通行(仕事中の布束発見)ニタァ

一方通行(どうすっか、普通に声をかけるってのは芸がねェよなァ……つーか逃げられるだろうし)

一方通行(……背後からこっそり近寄る→そっと抱きしめて愛を囁く→もう、あっくんったら!)

一方通行(これだなァ!俺の時代が来るぜェ!!)


布束「……」カチカチ

一方通行(そォーっとそォーっと……)コソコソ

布束「……」カタカタ

一方通行(よォし行くぜェ……4、3、2、1……)


布束「……寿命中断(クリティカル)!!」ギョロ


一方通行「な、気付かれた!?気配は完全に消してたはずだぞ!!」


布束「because あなたのどす黒い気配は消そうと思って消せるものではないわ」

一方通行「えェー……」

布束「本当の事を言うと、パソコンのモニターに忍び寄るあなたの姿が映っていただけなのだけどね
   それで、何の用?」

一方通行「用事かァ……オマエの顔を見たかったってだけじゃ不満かァ?(キリッ」

布束「不満ね、私はあなたの顔など見たくもなかったもの」

一方通行「流石にその言い草はひどくねェ?ちょっとへこむンですけどォ……」

布束「あなた、自分が私に何をしたのか忘れたの?」

一方通行「土下座しながら告白しただけじゃねェか」

布束「moreover ズボンを下ろしながら追いかけてきたわね」

一方通行「すいませンでした、テンション上がってたンです」


布束「未遂に終わったからよかったものの……」ハァ

一方通行「ハイ、ホントすいませンでした、だから嫌いにならないでください……」

布束「……あなたには、まぁ色々と感謝しているわ。therefore 別に嫌いというわけではないけれど……」


一方通行「ほォ………」カチャカチャ


布束「ちょっと待って、嫌いではないと言ったけど別に好きとは……あああもう!無言でベルトを緩めないで!!!」


一方通行「嫌いじゃないって事はつまり良いって事だよなァ!?OKって事だよなァ!?」ガチャガチャジー


布束「ズボンを降ろさないでぇぇぇぇ!!!」

一方通行「布束ァァァァァ!!!!」


布束「く、寿命中断!!!」



 その後、逃げた布束を一方通行はズボンを下げたままヒヨコ走りで追いかけたが、
そんな状態で追いつけるはずもなく、結局またすっ転んで取り逃がすことになる。
どこまでも学ばない童貞である。


投下終了
次こそ本当にGWの終わりまで来ねぇぞ!
ところで何で突然県名が表示されてるんだ?出先と自分の家と何が違うんだろうか?


正直一方さん無駄に脱がせすぎたと思っている
布束さん編はまぁ、番外編みたいな気分で捉えててくれ
本当は童貞も成長してるんだよ!

でまぁ、GW終わったし投下していこうか


「なァ垣根、知ってっか?」

「あぁ?」

「落し物を拾って持ち主に届けると拾ったモンの5%~20%をお礼として受け取る権利が発生すンだよ」

「それがどうした?」

「80歳の婆さん拾って届けりゃ運がよければ16歳の女を貰えるンじゃねェか?」

「持ち主が現れなかったら現物の80歳ババア受け取る事になんぞ。
しかも5%~20%だと下は4歳からじゃねぇか、流石に射程圏外だ」

「……ギャンブル過ぎるかァ」


 それ以前の問題である。

 今日も今日とて、喫茶店でコーヒーを飲みながらつっこみどころ満載の会話をしている馬鹿が二人。
何を隠そう、彼らこそ学園都市のトップ2、第一位、一方通行と第二位、垣根帝督である。
時期は9月の半ば、厳しい残暑はただでさえネジの外れている彼らの脳をさらに蕩けさせていた。



「どっかに運命転がってねェかなァ」

「転がってる運命なんてありがたみがなさそうだけどな」


 ハァ、と二人同時に溜息を吐く。運命の人を探し始めてもう随分経つが、イマイチ成果は上がらない。
一方通行の方はここ最近妹達の反応が少しずつ柔らかくなってきているものの、
御坂に監視されている為アクションを起こす事ができず
垣根はそもそも一方通行のように運命を感じる相手が近くにいない上、
立ち掛けたフラグが運悪く潰れてしまったりで、これまた進展がない。
こうして情報収集のために顔をつき合わせているのだが出てくるのは愚痴ばかりだ。


「なンかいい方法は……あ」

「何か思いついたか?」

「おォ、樹形図の設計者だ。あれで運命の相手探してもらおうと思ってたンだった」

「はぁ?」


 すっかり忘れてたぜ、と一方通行は今更ながら、垣根に出会ったあの日以来、
実に数ヶ月ぶりに樹形図の設計者の使用申請を出そうとしていた事を思い出す。
『ラプラスの魔』にも等しいあのコンピュータならば、正しいデータさえ入力すれば
確実に運命の相手を探し出してくれるはずだ。


 しかし期待に目を輝かす一方通行とは対照的に、垣根の反応はあまり芳しくない。
何を言ってるんだ、と言いたげな怪訝な目で一方通行を眺めている。


「どォした垣根、なンか不満か?」

「不満っつーかなんつーか……」

「あァ?」

「樹形図の設計者ならとっくに壊れたぞ」

「はァ!?」


 今より一月半程前、人工衛星『おりひめ一号』の内部に搭載され宇宙に浮いていた樹形図の設計者は
突如学園都市から放たれた正体不明の高熱源体の直撃を受け大破してしまったのだ。
その高熱源体を放ったのは彼らがかつて学園都市の闇から救った(と彼らは思っている)インデックスなのだが、
そのような事、彼ら二人は知る由も無い。


「暗部じゃ結構有名な話なんだが……知らなかったのか?」

「マジかァ……いや全然知らねェよ……」


「ま、そういうわけで樹形図の設計者は使えねぇよ」


 残念だったな、と諭すように付け加え、垣根はコーヒーを啜る。
しかし一方通行はその事実を聞かされてもどこか不満そうで、
どうやら樹形図の設計者を諦めきれていないようだ。


「壊れたンならさっさと直しゃいいだろ、何やってンだ学園都市の上層部は……」

「損傷の少なかった中枢部は回収されたらしいが、それから続報は聞いてねぇな」

「続報無し?再構築する気はねェのか?」

「俺が知るかよ。外部の連中が狙ってるらしいからタイミング伺ってんじゃねぇか?
ま、焦らなくてもそのうち再構築されるだろうよ」

「そのうち、なンて待ってられるかボケ」

「あ?」

「上層部の連中が再構築しねェっつーンなら俺らでやってやりゃァいい」

「……は?」

「樹形図の設計者の中枢部、ブン捕りに行くぞ垣根ェ!」

「はぁぁぁ!?」


―――――――――――――――

―――――――――

――――



 薄暗い路地裏の一角で、二人の少女が対峙していた。
一人は大きなキャリーケースに腰掛け、余裕の笑みを浮かべた赤い髪の少女。
もう一人は右肩と脇腹から鮮血を流し、苦痛に顔を歪めながらも相手を睨みつけているツインテールの少女。
どちらが優位に立っているかは誰の目からも明らかである。
しかしそれでもツインテールの少女―白井黒子は後退する素振りは見せない。
ジャッジメントとして、犯罪者に背中を見せるわけにはいかないのだ。


「ね、もう諦めなさい?あなたの『空間移動』じゃどう足掻いても私の『座標移動(ムーブポイント)』には敵わないわよ」


 赤い髪の少女―結標淡希はキャリーケースに腰掛けたまま挑発的に笑う。
彼女の『座標移動』は空間移動系の能力の中でも最高クラスのものであり、
射程距離、一度に飛ばせる質量の限界、どちらをとっても白井の『空間移動』を大きく上回っている。

 また、白井のそれが触れているモノにしか効果を発揮しないのに対し、
結標の能力は始点が固定されておらず、触れずに、離れた場所にあるモノも移動させる事が出来る。
はっきり言うと、レベル5の認定を受けてもおかしくないほど強力な能力であり、
正攻法で白井が勝てる道理は無いのだ。



「ふざけないでくださいまし……ッ!例え勝ち目が薄かろうと、
わたくし達ジャッジメントは犯罪者に屈するような事があってはならないんですの!」


 今回彼女が帯びている使命は、結標を含むある組織が強奪したキャリーケースを奪い返す事。
その中身が何なのか、一体どのような目的なのか、そんな事は白井にはわからない。
しかしこれほど高位の能力者が動いている事態だ、到底見過ごす訳には行かない。
だからこそ白井は立ち上がる。痛みも恐怖も押し殺し、ただ学園都市の平和を守りたい一心で。


「……仕方の無い人ね」

(来る!!)


 一触即発。二人の睨み合いが終わろうとしたまさにその時―


「そこまでだオマエらァ!!」

「「!?」」


「それ以上俺の為に争うのは止めろォ!!!」


 空気を読まない事に定評のある白い男が、彼女達の間に割って入った。



「あなたという人は……何故こうシリアスな空気の時に乱入して来るんですの……」


 突如目の前に現れた見覚えのある白い男の姿に、白井は溜息を吐きつつ、へなへなとその場に崩れ落ちる。
命掛けの戦いに身を投じようと覚悟した直後にこの有様である。緊張の糸が完全に切れてしまったのだろう。
「俺の為に云々」にはあえてつっこまない。
余計な事は言わない、というのは何度かの一方通行との邂逅の果てに白井が学んだ処世術であった。


「おっと、大丈夫かお嬢ちゃん」

「あ、あなたはこの前の……」

「よ、久しぶりだな」


 がっくりと項垂れていた白井の肩に、これまたいつの間にか現れた垣根が背後から優しく手をかける。
やっべぇこのままじゃ垣根にフラグ立っちまうぞ誰か潰し方考えろよおい



「どうしてここに……」

「運命だよ運命。……ん、オマエ怪我してるのか?」

「こ、このくらい何ともありませんの!」

「ダメダメ、女の肌に傷は禁物だぜ?ほら、病院行くぞ病院」

「え?あ、ちょ!」


 強がる白井に優しく微笑みかけ、背中と脚に手を回し一気に抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
ちくしょう垣根が普通にいい男になってきてるじゃねえかおいこら誰か何とかしろ


「お、降ろしてくださいまし!」

「あぁ、病院着いたらな。 おい、ちょっとこの嬢ちゃん病院まで送ってくるから後任せてういいか?」

「チッ、仕方ねェな、さっさと行ってこい」


「何を勝手に、わたくしは戦わなければ……ま、また空間移動が出来ませんの!?いったい何故!?」

「異物の混じった空間。ここはテメエの知る場所じゃねぇんだよ(キリッ」

「意味がわかりませんの!」

「んじゃ飛ぶからあんまり暴れるなよ?」

「と、飛ぶとは………翼が生えた!?ひぎゃああああ!!!」


 未元物質を空間に混ぜ込むことによって白井の能力を封じると、垣根は翼を広げ超スピードで飛び立つ。
あまりにも加速的に飛び立った為、彼が元立っていた地面には小規模なクレーターができ、
その暴力的なまでのスピードに白井は大声で悲鳴を上げた。
もうちょっと丁寧に扱えよ、詰めが甘いんだよ……


「わっかンねェなァアイツの趣味。あンな貧相な体付きしたババア声のどこがいいンだか……
なァ、オマエもそう思うだろォ?」

「え?あ、そ、そうかもね」


 ドップラー効果で徐々に低くなっていく白井の悲鳴を笑いながら、
一方通行は誰彼構わず手を出す垣根の趣味に首を傾げ、結標に同意を求める。
突然の事態に未だ混乱気味だった彼女は突如話を振られた事で更に狼狽し、
先ほどまでの余裕の態度は何処へやら、オロオロとしつつも一先ず一方通行の意見に同意することにした。



「つーかオマエすげェ格好してンな、流行ってンのか?そォいうの」

「う、うるさいわね、いいでしょどんな格好してても!」


 一方通行はここでようやく結標の姿をはっきりと確認し、その露出度の高い格好に思わず素朴な疑問をぶつけた。
確かに、彼女は下半身にはミニスカート、上半身は胸にサラシを巻き、その上からブレザーを羽織っているだけ、
という『え、見られるのが趣味なんですか?ありがとうございます』と言いたくなる様な格好をしている。
一方通行でなくとも「女がそんな格好してていいのか?」とつっこみたくなるというものだ。


「ン、まァどォでもいいけどな。俺が用があるのはオマエが座ってるそれだ」

「ッ!?」


 一方通行が結標の座っているキャリーケースを指差すと、場に緊迫した空気が戻る。
結標は一瞬驚いた顔をしたがすぐにそれを隠し、キャリーケースを庇う様に立ち上がると、
一方通行を思い切り睨み付けた。



「……あなた、これが何か知っているの?」

「樹形図の設計者の残骸、だろ?」

「……あぁなるほど、学園都市の上層部が事態に気付いて取り戻そうとしてるわけ?」

「ン?いやちょっと違うンだが……まァいいか、とにかくよこせ」

「ふざけないで!そう簡単に渡すと思う?あなたが何者かは……」


 知らないけれど、そう続けようとして、結標はふとある事に思い至り、息を呑む。
目の前の男を、自分は本当に知らないのだろうか?
直接見るのは初めてだ。しかし白い髪に白い肌、赤い瞳を持つ超能力者の噂を、情報を、自分は知っているはずだ。
そう、目の前にいる白い男の事を、自分は知っている。この男は――


「一方……通行……」

「あァ?」


 学園都市最強の超能力者、序列第一位、一方通行。それが今、目の前にいるのだ。
自分の持つ樹形図の設計者の残骸を狙って。つまり、自分と敵対する意思を持って。



(う、嘘、どうして……無理よ、学園都市最強の能力者と戦うなんて……)

(何でコイツ俺の名前知ってンだ?……まさか、そォいう事なのか)


 結標は顔を引き攣らせ、後ずさる。一方通行の能力の詳細は知らない。しかしその噂は嫌というほど聞いている。
曰く、最強の能力者、理論上出来ない事など無い、絶対能力者に最も近い存在……


(でも、だからって……)


 退くわけにはいかない。ここで退けば、今までやって来た事が全て無駄になってしまう。
自分の目的の為にも、自分を信頼してくれている仲間達の為にも、ここで退いてはならないのだ。それに……


(そうよ、勝算が0というわけじゃないわ!)


 絶対能力者に最も近い存在、そう噂されながらも一方通行は未だ絶対能力者に至っていない。
彼の為に絶対能力進化という実験まで計画されたと言うのに、だ。それどころか計画は始まってすらいないという。
はっきりとした理由まではわからない。だが、ある程度想像は出来る。



(一方通行の能力に絶対能力者になれないような致命的な欠陥があった、そう考えるのが妥当。
つまり、そこを突くことが出来ればこの状況を打破できるかもしれない!)


 大ハズレであった。
一方通行の能力には欠陥など存在しない。
絶対能力進化を行わなかった理由は彼が性的に欠陥品だったというだけの事である。

しかし結標はまさかそんな下らない理由で実験が凍結されているとは夢にも思わない。
だからこそ、彼女は一方通行の能力に欠陥が存在するという事に一縷の望みをかけ、彼と対峙する道を選んでしまった。


「し、知ってるわよ一方通行!」

「あン?」

「あなたは絶対能力進化を開始していない!絶対能力者になれていない!あなたに欠陥があるからなんでしょう!?」


 恐怖に震える拳を握り締め、精一杯余裕の笑みを作り、強がった声を出す。
一方通行はその言葉に目を丸くし、声にならない声を上げ、動きを止めた。心なしか顔が紅い。
その姿に精神的動揺を見て取った結標は自分の考えの正しさを確信し、次の一手を思案しはじめる。


(やっぱり、予想通り何か欠陥があるのね……それも、これだけ動揺するほど致命的な何かが!)

(名前だけじゃなく絶対能力進化と俺の欠陥(童貞)まで知ってるだと……やっぱり、コイツは……)


「運命かァ!!」


「!?」


 童貞特有の身勝手な勘違いをし、感極まった一方通行は歓喜の声を上げる。
その際にうっかり能力を使ってしまったのか、同時に彼の立っていた場所を中心に道路が捲れ上がり、
周辺の建造物がガラガラと崩れ落ちて行った。何とも傍迷惑な童貞である。


(な、何よ今の……)


突如テンションを爆上げし周囲を瓦礫の山に塗り替えた一方通行を、結標は唖然とした表情で見つめている。
何をやったのかはわからない、しかし今のを見るだけでも実力の差は歴然、本当に能力に欠陥などあるのだろうか?
彼女は早くも一方通行と対峙する道を選んだ事を後悔し始めていた。


「オマエ、名前は?」

「え?」

「名前だよ名前」

「む、結標、淡希……」


 笑顔で詰め寄ってくる一方通行に気圧され、結標はつい自分の名前を零してしまい、
それを聞いた一方通行は「いい名前だ」などと言いながら腕を組みうんうんと頷いている。
結標の混乱は深まっていく一方であった。



結標(いったい何なの……?)

一方通行「おい結標」

結標「な、なに?」

一方通行「残骸はオマエにやる」

結標「……へ?」

一方通行「俺の目的は達成出来たから、もう樹形図の設計者は必要ねェ」

結標「目的って……」

一方通行「運命の人に出会う事だ!」カッ

結標「は、はぁ?」

一方通行「樹形図の設計者で探すつもりだったンだがなァ、見つかったからもういいンだよ」

結標「樹形図の設計者をそんな下らない事に……て言うか、見つかったってまさか……」

一方通行「オマエだァ!!」ビシィ

結標「やっぱり!!何でよ!?」


一方通行「初めて出会ったはずのオマエが、何故か俺の詳細な情報を知っていた……運命だろ!
      それに、残骸を巡って争う立場だった二人が対話を通して徐々に惹かれあうってシチュエーションも
      運命的だと思わねェか?」

結標「……意味がわからないし、あなた自分がどれだけ有名かわかってる?
   あなたの個人情報なんて裏の世界の人間なら皆 ……ハッ」

一方通行「あ?」

結標(ここで『皆あのくらいの事知ってる』何て言うのはマズイわよね……
せっかく勘違いしてくれてるんだし、それに乗じて残骸は貰っちゃおう)ウン

一方通行「ン?」

結標「そうね、私とあなたはきっと運命の赤い糸で結ばれてたのね」

一方通行「だよなだよなァ!」パァッ

結標(すっごい喜んでる……)


一方通行(よしそれじゃ早速………イヤ待て落ち着け、毎度毎度焦って失敗してるじゃねェか、
ここは慎重に、軽いジャブから……)


一方通行「なァ、」

結標「え?あ、何?」

一方通行「とりあえず下の名前で……淡希って呼んでみてもいいか?」

結標「えっ……」


結標(な、何よこいつ……)


結標(ちょっと可愛いじゃない……ッ)



一方通行「だ、ダメか?」

結標「えーっと……あ、そうだ、あなた歳はいくつ?」

一方通行「あ?あー……15か16、だったかァ?」


結標(15歳かぁ……確かに年下だけど、欲を言えばもうちょっと下が……)ウーン

結標(いやいや違うわ!私はショタコンじゃない!年下の男の子が好きなだけで……でも、うん15歳……)チラッ

一方通行「?」

結標(……悪くは無いわね)ニヤッ

一方通行「……!?」ゾクッ


結標(中性的美形のアルビノ系年下男子。しかも学園都市第一位……これって何気に超優良物件じゃない?)

一方通行(な、なンだ?何か寒気が……)ゾクゾク


結標(将来は安泰だろうし、子作りに励んでアルビノショタを量産すれば……
将来はたくさんのアルビノ系男子に囲まれて幸せな生活を……
   孫の代にはサッカーチームが作れるくらい大勢のアルビノショタが……)ゴクリ

一方通行(邪悪な気配が……)


結標「ね、ねぇ」

一方通行「……あァ、なンだ?」

結標「下の名前で呼ぶよりも……」

一方通行「ン?」


結標「『お姉ちゃん』って呼んでくれない?」


一方通行「……は?」

結標「だからその、『お姉ちゃん』って……」

一方通行(……あれ、コイツ何か変な女じゃねェ?)

結標「あ、『先生』でもいいわよ!さ、呼んでみて!」

一方通行(あ、地雷だこれ、地雷踏ンだ、やべェ)


結標「ね、呼んでみて?ほら、ほーら?」

一方通行「すいませン、運命とかマジ勘違いだったンで残骸貰って帰っていいですか?」

結標「ダメよ!この出会いは運命なの!!」

一方通行「えェー……」

結標「それにあなたの方から誘ってきたのよ?
   私の量産型アルビノショタ計画の為にも、あなたと私は結ばれなければならないの!!」

一方通行「量産型……なに?」

結標「あ、最終目標はアルビノショタに囲まれる事だけど、もちろんあなたが嫌いなわけじゃないわ!
   あなたも十分可愛いし……ね、だからほら、安心して『お姉ちゃん』って……」

一方通行(やべェ、電波だ、関わっちゃいけない人種だ……逃げるか、何とか残骸だけでも奪って……)



―その頃の垣根さん



垣根「よーし着いたぞ、お嬢ちゃん」

白井「」ブクブク

垣根「ん?泡吹いて気絶してる……そんなに傷が酷かったのか?クソ!早く病院の中に……」


垣根「……『本日の受付時間は終了致しました』だと!?なんてこった!」

垣根「超音速で飛んで来たってのに……ちくしょう」

白井「」ピクピク


※白井さんは空気の壁に直撃なさいました



垣根「……開いていない病院、そして腕の中には意識不明の重態に陥っている少女」ハッ

垣根「これはもしや人口呼吸フラグか!!」

白井「」グッタリ


垣根「……仕方ねぇよな、他に方法ねぇもんな、やっちまっていいよな?」

白井「」グター

垣根「いただきます」


「ストォォォォォップ!!!!」


垣根「あぁ?……何だ第三位じゃねぇか、何の用だコラ、つーかどっから湧いて出やがった」チッ

御坂「何の用だ、じゃないわよ!私の後輩に何してんのあんた!!」

垣根「あ?……カクカクシカジカで、病院に来たんだが閉まっててな、」

御坂「嘘、黒子怪我してるの!?」

垣根「そんなに深い傷じゃねぇはずなんだが、何故か意識不明になっちまったから応急手当しようとしてたんだよ」

御坂「そうだったの……う、疑ってごめん」

垣根「いいって事よ、じゃあ俺人口呼吸やるから」

御坂「いやいやいや待ちなさい!それは認めないわよ!!」


垣根「何でだよ!?疚しい気持ちなんて一切ねぇぞ!!事態は一刻を争うんだ!!」

白井「」シーン

御坂「疚しい気持ちが無かろうが黒子をあんたの毒牙にかけるわけには行かないわ!
   あんたに人口呼吸やらせるくらいなら私がやるわよ!!」

垣根「あ、マジ、オマエがやる?じゃあ頼むわ」

御坂「へ?」

垣根「ほら急げ、可愛い後輩がピンチだぞ」

御坂「え、あ、うん」


御坂(な、何かあっさり引き下がったわね……こいつ本当に人助けのつもりだったの?)

垣根(女子中学生同士の生レズプレイ、悪くねぇな!)


白井「」

御坂「うー……」

垣根「どうした?早くしろよ」

御坂「わ、わかってるわよ!……くっ」

垣根「……やっぱり俺が」

御坂「やるから!ちゃんとやるから下がってて!!」


御坂(そうよ、これは人口呼吸……人助けの為の行為だから、き、キスとかじゃないから!
   だから女の子同士でもおかしくなんて……で、でも……)

垣根(第三位も顔はいいんだからこうやって黙って照れたりしてりゃ可愛いのになぁ……
   もう一生喋らなけりゃいいのに)


御坂「うぅぅぅ……」

垣根「オマエが躊躇してる間に可愛い後輩は一歩一歩天国の階段を……」

白井「」チーン


御坂「ぐ…………で、」

垣根「で?」

御坂「出来るかあああぁぁぁ!!!!!」バチバチバチ

白井「あばばばばばば!!!」ビリビリビリ

垣根「何やってんだオマエェェェェ!?」


御坂「電気ショックよ電気ショック!!何も人口呼吸にこだわる必要ないじゃない!!」

垣根「致死量流れた!今絶対致死量の電流が流れただろ!!」

御坂「大丈夫よこの位、普段の黒子なら喜ぶから」

垣根「いやいや何言って……」


白井「ふぅ……生き返った気分ですの」テカテカ


御坂「ね?」

垣根「どういうことなの……」



―――――――――――――――

―――――――――

――――



「……いねェ、よな?……ふゥ」


 恐る恐ると言った様子で一方通行は物陰から顔を出す。
そのままキョロキョロと周囲を見渡し、厄介な追跡者の姿が見えないことを確認すると、安堵の声を漏らした。


「何なンだアイツは……運命かと思ったらとンだ地雷女じゃねェかクソ」


 先程まで自分を追い掛け回していた少女の事を思いながら悪態を吐く。
相変わらず勝手に運命認定して好みから外れたら地雷認定するのだから身勝手極まりない。
とはいえ今回は少しは同情の余地があるだろう。相手が重度の変態じゃ流石にねぇ?

 最初こそ好感触だった物の、突如「お姉ちゃんと呼んで欲しい」などと言い出すのだから堪ったものではない。
如何な童貞といえど、流石にそんな相手と付き合うのはゴメンだったようだ。


(見てくれは悪くなかったンだがなァ……まァ、当初の目的は果たせたから良しとするかァ)


 若干後ろ髪引かれる思いを感じながらも、それを振り切り手元のキャリーケースに目を落とす。
先程、件の少女―結標から強奪してきた樹形図の設計者の残骸だ。
今日感じた運命は気のせいだったが、これさえあれば本物の運命を探す事が出来るだろう。
後は第一位と第二位の人脈、コネを使ってこれを再構築するだけ、それで今度こそ運命の相手を……
期待に胸を膨らませ、一方通行は自分の置かれた状況も忘れ笑みを零していた。



「見ぃつけたぁ」

「!?」


 だから彼は気付かなかった、自分を追いかけている厄介な相手がすぐ近くまで迫っていた事に。
そして気付いた時はもう遅い、結標淡希は音もなく彼の背後に立っており、
更に今の今まで一方通行の手元にあったキャリーケースは、いつの間にか彼女の腕に抱えられていた。


「ダメじゃない逃げちゃ、そんなにお姉ちゃんを困らせたいの?」


 クスクスと笑いながら、まるで幼子を相手にするかの様な口調で一方通行を問い詰める結標。
そんな彼女の様子に、一方通行は改めて「こいつは無いな」と思ったとか思わなかったとか。
とにかく、僅かな油断の内に残骸まで奪い返されてしまった。厄介な事になったものだ。


「テメエ、どうやって……」

「フフ、私の能力『座標移動』は飛距離800m以上、重量限界4520kg、学園都市最高の空間移動能力よ
いくら第一位といえど、その私から逃げ切るのは容易ではないわ」

「チィ……」

「さぁあっくん、この残骸が欲しければ私の事を『お姉ちゃん』と呼びなさい!
出来れば涙目の上目使いで頬を赤らめて!」

「誰が呼ぶかァ!!つーか誰があっくんだ!?」



 叫ぶと同時、一方通行は拳を握り締め結標に飛び掛る。
地雷とはいえ自分に好意を持ってくれている、という理由で暴力を振るうのを躊躇っていた彼だったが、
追い掛け回され残骸を奪われ更にショタプレイまで強要されては流石に我慢の限界というものだ。
しかし、一方通行の振るった拳が結標に接触する刹那、彼女は一瞬にしてその姿を消し、再び彼の背後に立っていた。
自分で自分を転移させたのだろう。空間移動系の能力に逃げに徹されると言うのは非常に厄介だ。
一方通行は思わずチッと舌打ちを漏らし、結標を睨みつけた。


「ふ……やろうと思えば出来るじゃない、私」

「あァ?」


 一方通行は知らないが、結標はかつて自身を転移する過程で座標の計算誤り大怪我をした事がある。
それがトラウマとなり、今日に至るまで自身の転移を行う事に拒否感を抱いており、
また、それ故強大な能力を持ちながらレベル5認定をされていなかったのだが、今の彼女は違う。


「おらァ!!」

「甘いわよ!」


 学園都市最強を翻弄するかのように、縦横無尽に空間を跳び回る。
もはやトラウマを抱えていた事など過去の話し、彼女は一つの目的を達成する為、
トラウマなど忘れ今のこの状況に集中する。この極限の中を楽しむ。



「ほらほらお姉ちゃんはここよ、捕まえてみなさーい」

「がァァうぜェェェ!!!」


 結標は己の能力をずっと忌み嫌っていた。
『座標移動』、一人の少女が持つには余りにも大きな力、望むままに人を傷つける事が出来る能力。
それは言ってみれば安全装置の無い銃以上に危険な武器を常に持たされているのと同じ事だ。
「何故自分にこんな力があるのか」「何故自分でなければならないのか」
強大すぎるその能力に彼女は怯え、ずっと思い悩んできた。
樹形図の設計者を再構築しようとしたのも、突き詰めればそこに行き着く。
彼女は知りたかった、納得したかった。樹形図の設計者を外部組織に引き渡してでも、
自分がこの能力を持たされた事の答えが欲しかった。

 しかしそれも先程までの事。
彼女は既に理解した、納得した、答えを得た。
自分の能力は、今この瞬間の為にあったのだと。
もはや、迷いは無い。


「私の能力はこの為にある!」


――新たなレベル5誕生の瞬間であった。


(クソが、埒が明かねェ……)


 一方通行のイラ立ちは今や最高潮に達していた。
いかに結標の転移が素早く正確であろうと、彼が本気でかかれば対処の方法などいくらでもあるだろう。
しかし、彼は跳び回る結標を愚直なまでに一直線に追いかけるだけだ。
いったい何故か?答えは単純、彼女が樹形図の設計者の残骸を抱えているからである。
残骸がこれ以上破壊され、樹形図の設計者の再構築が不可能になってしまうのは彼の望む所のものではない。
結標をぶん殴るだけなら簡単だが、高速で跳び回る彼女から残骸を無傷で取り戻すとなると、
これはかなり難易度が高くなる。というか結標が残骸を盾にしながら逃げている為ぶっちゃけ無理ゲーである。


「……仕方ねェか」


 溜息混じりにそう呟くと、一方通行は結標を追う足を止める。
元より我慢弱い彼が遂に根負けしたのだ。


「おい、オマエの望み通り呼んでやるからこっち来やがれ」

「ようやくその気になってくれた?男の子は素直が一番よ」

「チッ、呼んだら残骸こっちに寄越してくれンだな?」

「勿論!お姉ちゃんを信じなさい!」


「………オネエチャン」

「え、何聞こえない」

「……お姉ちゃん」

「聞こえなーい」

「お姉ちゃん!」

「も、もう一回……」

「お姉ちゃァァァァん!!!」

「ごめん、もう少しトーン落としてくれる?あとその言い方だと可愛くないから……」

「………」


「……あれ、どうしたのあっくん?顔怖いよ」

「………」


 その時、一方通行の中の何かが、ブツンと音を立てて切れた。


「ぐがァァァァァァ!!!!!」

「!?」


 獣のような咆哮を上げ、一方通行は思い切り右足を踏み込む。
それだけで地面に亀裂が走り、周囲の建造物が崩れ落ちる。
先に喜びの余り見せた光景と似ているが、決定的に違う点が一つ、
崩れた建造物の破片が全て、明確な攻撃性を以って結標に降り注いで行った。


(やりすぎた!?子供っぽい癇癪起こしちゃってかわいい、何て言ってる場合じゃなさそうね……!?)


 咄嗟に自身を転移し瓦礫の届かない空中に逃れた結標だったが、すぐにその行動を後悔する。
瓦礫から逃れる為に空中へ跳ぶ事など一方通行には計算済みだったようで、
彼女が転移した目と鼻の先に、風を纏い、狂ったような笑みを浮かべている彼の姿があった。


「く、私を攻撃すれば残骸も……」

「そンなモンに頼らなくてもなァァ!!!」

「うあぁ!?」


 咄嗟に残骸を盾にする結標だったが、一方通行は笑みを浮かべたまま、躊躇無く拳でそれを打ち抜く。
もはや、今の彼は結標をぶっ飛ばすという事以外何も考えていないのだろう。


「運命くらい、自分の手で掴み取ってやるよォォォ!!!」


 残骸を粉々に砕いた一方通行が、更に拳を振りかぶる。
最後の盾すら剥ぎ取られた結標が取れる行動は、もう何も残っていなかった。


「悪ィがこっから先は一方通行だァァ!!!」

「いやちょっと意味がわからnあぐおあぁ!!!!」


 決め台詞の無駄遣いをしながら放たれたその一撃は的確に結標の顔面を捉え、
彼女もまた、かつての白井のように星になった。男女平等パンチどころか、今のところ女性限定パンチである。

こうして、残骸争奪戦は終わりを告げた。


―――――――――――――――

―――――――――

――――


―後日、とある喫茶店


「はァァ……」

「自分で残骸叩き壊したってオマエ馬鹿じゃねぇの?てか馬鹿じゃねぇの?」

「うるせェ、二回言うな!耐えられなかったンだよクソ……それにな」

「あ?」

「自分の手で掴むからこそ『運命』だろォが、機械なンかに頼ってちゃいけねェンだよ」

「……いや、ちょっとかっこいい事言っても誤魔化されねぇから、罰として今日はオマエの奢りな」

「ちくしょォ……つーかオマエ、あのパンダとはどうなったンだよ?」

「あー……何かアイツも第三位の電撃浴びて喜ぶような変態だったからちょっと冷めちまってなぁ」

「……マトモな女っていねェモンだなァ」



「っと、もうこんな時間か……そろそろ仕事だから引き上げるわ」

「おォ、俺も帰るわ」


― 一方通行宅


「ふゥ、ただいまァ……つっても一人暮らしだし誰もいねェンだけど……
いつか迎えてくれるような相手と出会えンのかねェ」


「お帰りなさーい!!」


「!?」


「お帰りなさいあっくん、御飯にする?お風呂にする?それとも……お姉ちゃん?」

「出てけオラァァァァァ!!!!」



一方通行の童貞脱出計画、ただ今の成果

・恋人 なし

・仲間 一人

・ストーカー 二人


投下終了
あわきんマトモにする予定だったんだけどいつの間にかこうなった
黒子もマトモっぽく見せかけて順調に壊れて行っておる
結局そういうのしか書けないんだよね!開き直って行こうじゃないか!


しかし現状、ストーカー1(御坂)とストーカー2(あわきん)に
ストーカーのストーカーA(パンダ)ストーカーのストーカーB(海原)
の計四人か…上条さんのフラグへし折ってるし浜面のフラグへし折って
新たなストーカー(むぎのん)追加されるかもなw

>>947
怖すぎわろたwwwwwwwwww
どこにいても発見されるじゃねえかwwwwww

>>950
つまり浜面は……

浜面終了のお知らせ

>>952
綺麗な滝壺さん「昨日、むぎのと二人だったよね? はまづらの事信じてるけど……不安にさせないで……?」
×××な滝壺さん「なんでむぎのと一緒だったの? ねぇ、なんで!? どうして!?」
×××な滝壺さん「はまづらはぁはぁ……!」
こんな感じか

スレの残りが少ないんでちょっとした番外編をば
後で新スレ立てないといかんな


―番外編


フィアンマ「おいヴェント」

ヴェント「あぁ?何よ珍しいわね、そっちから話しかけてくるなんて」

フィアンマ「ふん、少しばかり貴様に聞いてもらいたい事あってな」

ヴェント「聞いてもらいたい事?益々珍しいわね……ま、暇だからいいけどさ」

フィアンマ「では早速だが……いいかヴェント」

ヴェント「うん」


フィアンマ「俺様は童貞だ」


ヴェント「うん……あ?今何つった?」

フィアンマ「俺様は童t」

ヴェント「ああああ!!言い直すなボケが!!!」


フィアンマ「何だ?貴様が聞き返したのだろうが」

ヴェント「つーか突然何言ってんだテメエ!?」

フィアンマ「おかしいとは思わんか?顔良し、能力良し、頭良し、野望もある、そんな俺様が未だに童貞なのだぞ」

ヴェント「自己評価高過ぎだクソが!!……ってか、一応聖職者なんだから当たり前だろ」

フィアンマ「神の右席の筆頭であるこの俺様が!未だに童貞!!こんな事が許されていいのか!?」

ヴェント「だから聖職者……あと大声出すな!!」

フィアンマ「いいや許されない!!俺様の童貞が外部に知れてしまえば
        ローマ正教はたちまち求心力を失い瓦解してしまうだろう!!」

ヴェント「しねぇよ!!そもそも神の右席はそんなにオープンな組織じゃねぇだろ!!」

フィアンマ「そこでだ、ヴェント」

ヴェント「話を聞け」


フィアンマ「ヤらせろ」

ヴェント「死ねばいいのに」


フィアンマ「俺様が頼んでいるのだぞ?……ヤらせろ」

ヴェント「ぶっ殺すぞオカッパ野郎」


フィアンマ「ほんの先っぽだけで構わん……ヤらせろ」

ヴェント「いい加減にしろやこの赤パジャマがああぁぁぁ!!!!」


フィアンマ「この俺様がここまで譲歩しているというのに貴様という奴は……」

ヴェント「何処が譲歩してんのよ!?」

フィアンマ「先っぽだけで構わんと言っているのだぞ?これ以上は譲れんな」

ヴェント「うるせえ先っぽとか言うな!!死ねこのタレ目!!」

フィアンマ「……さっきから貴様の暴言に地味に傷ついてるんだが」

ヴェント「だったら二度と下らねぇ事言うんじゃねぇ!忘れてやるからさっさと失せろ!!」


フィアンマ「ふむ、仕方が無いか……」

ヴェント「チッ、当分面見せんなよ」

フィアンマ「ならば見せてやろう、俺様の聖なる右曲がりを」

ヴェント「意味がわかんねぇんだよおおおお!!!!」


フィアンマ「この、神の生み出した最強の一品を目にすれば貴様の考えも変わるはずだ」モゾモゾ

ヴェント「絶ッッ対変わらねぇからズボンから手ぇ離せえええええ!!!!」

フィアンマ「いいかヴェント、バナナみたいな格好したお前はバナナのように引ん剥かれて俺様に喰われるべきなのだ」

ヴェント「あぁそういう事、喧嘩ね?喧嘩売ってたのね?いいわ、買ってやろうじゃないクソ野郎が」

フィアンマ「ほう、要は『私が欲しければ力ずくでやってみろ』と言う事だな?
       ならば遠慮なくやらせて貰おう。さぁ刮目するがいい、これが俺様の……」ジジジ


ヴェント「死ねオラアアアアア!!!!」ブゥン!

フィアンマ「おっふ!!!」キーン!



ヴェント「ハァ、ハァ……」

フィアンマ「き、貴様……ハンマーで俺様の聖なる右曲がりを……」ピョコピョコ

ヴェント「股間押さえながらぴょんぴょん跳ねてんじゃねぇよ気持ち悪ぃ!!!」

フィアンマ「く、ふ……はぁ……俺様で無ければ即死だったぞ今のは……」

ヴェント「死ねばよかったのに」

フィアンマ「危うく男としての死を迎えるところだ。貴様は俺様を女にする気か?」

ヴェント「もう一発ブチ込まれてぇかコラ」

フィアンマ「……なるほど、貴様はレズプレイが好みだと言うのだな?だから俺様を女にしようと……」

ヴェント「頭湧いんのかテメエェェェェ!!!!」

フィアンマ「ローマ正教の人間でありながら同性愛に走るなど……恥を知れ背信者が!!」

ヴェント「オマエの存在が背信だろうがぁぁぁぁ!!!!!」


フィアンマ「我らが主よ、俺様は今より哀れな子羊に本物の愛を叩き込む。見守っているがいい」

ヴェント「殺す!もう殺す!!本気でテメエの小汚ぇブツを叩き潰してやらぁ!!!」

フィアンマ「やってみるがいい。不意を付かれた先程とは違い、今の俺様は既に臨戦態勢d」

ヴェント「死ねやぁぁぁぁぁ!!!!」ブゥン!

フィアンマ「ふん!!!」ガキーン

ヴェント「なっ!!私のハンマーが砕かれた!?」


フィアンマ「ふぅ……中々に刺激的だったぞ、貴様の一撃は。
       お陰で溜め込んでいた聖なる右の力が放出されてしまった」モゾモゾ

ヴェント(砕けたハンマーの破片に何かついてる……)

フィアンマ「良いモノだな、この開放感……今の俺様なら神上に至れそうな気すらする……」フッ

ヴェント(ホント死なねぇかなコイツ)



フィアンマ「ちょっとズボン履き替えて来る。ベタベタどころかタプンタプンだ」

ヴェント「戻ってくんな死ね、あと意味のわかんねぇ擬音使うな死ね」


フィアンマ「……しかしあれだな」

ヴェント「あぁ?」

フィアンマ「俺様はまだ顔立ちが良いし比較的若いから童貞でも救いがあるが……」

ヴェント「何が言いてぇんだ?っつーか色々と救いようがねぇだろ」

フィアンマ「アックアやテッラを思うと不憫でならん。奴ら、あの容姿、あの年齢で童貞なのだろう?」

ヴェント「知るかぁぁぁぁ!!!!」

番外編終了
母さん、海の剥こうにも馬鹿がいます。


新スレだぞお前らー(^o^)ノ

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