上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」(1000)

王道上琴もの。
人によって不快に感じる表現あり。ただしグロ描写は無し。
目標としては、究極の上琴SSを目指してみたいがどうなるかは分からんです。

「急げ! こっちだ!!」

「上に行くにつれ魔術の臭いがするんだよ!」

「何としてでも早く敵を仕留めないと、取り返しがつかないようなことになりそうな気がするよ!」

「もっと早くに発見出来れば良かったのですが、今更悔やんでも仕方がありませんね!」

「そうだよ。今はただ敵を止めることに集中するんだよ!」

美琴「じゃ、みんなまたねー」

佐天「明日の放課後『学舎の園』の前で待ってますねー」

初春「今からとても楽しみにしてます!!」

美琴「ふふ。ええ私も楽しみにしてるわ」

黒子「さ、お姉さま、今日は明日に備えて早く帰りましょう」

美琴「あ、ごめん。ちょっとこの後用事があってさ……」

「ここだ!!」

ドバン!!

「いたぞあいつだ! 僕らは『必要悪の教会(ネセサリウス)』だ! 抵抗は止めて大人しく……何だ?」

「待って、様子がおかしいんだよ!」

「ええ。この方……もしや」

ズルッ……ドサッ

「なっ!?」

「し、死んでる……」

「ハァ…やれやれだにゃー。せっかくここまで急いで来たってのに……」

「どうやら見た限り自殺したようだね。ったく、本当に人騒がせだよ」

「みんなまだだよ」

「え?」

「この人、死ぬ前に魔術を発動してる」

「何!?」

御坂妹「今日はとても楽しかったです。ありがとうございます、とミサカはお姉さまに礼を述べます」

打ち止め「本当ありがとねお姉さま。いっぱい可愛い服買えちゃったーってミサカはミサカは全身で喜びを表現してみたり!」

美琴「いいのいいの。たまには姉妹水入らずで会うのも悪くないでしょ?」

打ち止め「うん! 出来ればまた一緒に遊んで欲しいんだけど……ってミサカはミサカは上目遣い」

美琴「ええ、いいわよ。いつでも連絡寄越しなさい」ナデナデ

打ち止め「ありがとー!」

御坂妹「ミサカもまた、お姉さまとお会いしても宜しいでしょうか、とミサカは期待を込めて問い掛けます」

美琴「もっちろん!」

御坂妹「ありがとうございます。では上位個体、そろそろ帰りましょうか」

打ち止め「そうだねー」

美琴「じゃ、またね。打ち止め、一方通行に宜しくね」

打ち止め「うん♪」

御坂妹「ではお姉さま、ミサカたちはこれで失礼します」

打ち止め「バイバイー」

美琴「はーい。2人とも体調管理に気を付けてねー」

「じゃ、じゃあ……この魔術の解除方法は無いって言うのかい?」

「うん。術者が死んじゃったし、魔法陣も術者が死ぬと自動で消滅する仕組みだったみたい」

「ということは学園都市から彼を呼び寄せても、魔術の効果が消えることはないということですか」

「そうだと思うんだよ……」

「参ったにゃー。それで、肝心の魔術の中身は何なんだぜい?」

「最悪なんだよ。魔術の中でも“最凶”なんだよ」

「“最強”? おいおい冗談やめてくれよ。もしかして世界が破滅するとか、人が大量に死ぬとかそんなんじゃないだろうね?」

「そんな世界的規模じゃないんだよ。せいぜい人間1人が対象なんじゃないかな?」

「それは……だいぶ安心しました。ならば早くその対象の人物を探しましょう」

「違う。全然安心じゃないよ。世界が滅ぶこともないし、誰かが死ぬわけでもないけど、この魔術は対象の人間にとって、とてもとても厄介なんだよ。それこそ  死  に  た  く  な  る  ぐ  ら  い  に  ………」

「「「ゴクリ」」」

「で、その魔術の中身は一体?」

「うん、それはね……」

美琴「ふぅー。今日も一杯遊んだなあ」

美琴「あ、佐天さんと初春さんからメール来てる」

美琴「佐天さんは……『明日楽しみにしてます! 特大パフェ一緒に食べましょうね♪』」

美琴「初春さんは……『今日は1日ありがとうございました。また明日も宜しくお願いします(*^-^*)』か」

美琴「ふふ。まさか1年前はこんな私にここまで親しい友達が出来るなんて思ってなかったな。これが青春っていうのかな。何だか毎日がとても楽しいわ」

美琴「ん? 何だろ。妹からもきてるじゃない。なになに……『本日はお姉さまとご一緒出来てとても嬉しかったです。もし宜しければまた誘って頂けないでしょうか、とミサカは照れながらボタンを押します』」

美琴「あの子も随分個性がついてきたわね。とても良いことだわ。このまま普通の女の子として育ってくれたらとても嬉しいんだけど……って何だか本当の姉みたいね私って」

プルルルルルル

美琴「む、電話? 打ち止め?」

美琴「はいもしもし。打ち止め? どうしたの? あーうん、今日のこと? 何よ改まっちゃって。いいのいいの、妹と遊ぶのは姉の役目でしょう? え? あ、そうね。フフ……」

「そ、そんな魔術が実在するだなんて……」

「確かに、“最強”ではなく“最凶”だにゃー」

「うん。だから一刻も早く対象の人物を探して保護しないと大変なことに……」

「待って下さい」

「「「???」」」

「ここに資料があります。恐らく、この術者のものでしょう。文章から見るに、その対象の人物というのはこの写真の少女ではないでしょうか?」

「「!!??」」

「どれどれ。……ん? どうした2人とも? もしかしてこの子と知り合いとか言うんじゃないだろうね?」

「確かに……この少女は学園都市の学生らしいですが……。と言うか、また学園都市を狙った魔術ですか。辟易しますね」

「この子知ってる……」

「「え!?」」

「この子、とうまの知り合いなんだよ!!」

「何っ!?」

「ほ、本当ですかそれは!?」

「うん……」

「「………っ」」

「(これは……大変なことになった………まずい……まずいぜよカミやん……)」









――――――――――――――――――06:00・学園都市――――――――――――――――――








ちょっと忙しいから今はここまで。
じゃ、また。

みんなありがとう。
ちょっと暇出来たから今から投下してみる。

―――06:00―――

常盤台中学学生寮――。

ピピピピピピピピ

朝日がカーテンの隙間から部屋に差し込む頃、208号室に設置されていたアラームが定刻通り鳴り出した。

美琴「う……うーん……」モゾモゾ

常盤台中学のエースにして、学園都市第3位の実力を誇るレベル5の超能力者・御坂美琴――通称『超電磁砲(レールガン)』は突如鳴り響いたアラーム音を鬱陶しそうに耳にし、布団の中でモゾモゾと動いた。


ピピピピピピピピピピピピ


美琴「あと10分……」


ピピピピピピピピピピピピピピピピ


美琴「…………………」


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


美琴「はぁ……」

1度、溜息を吐くと美琴は布団をめくり上体を起こした。

美琴「ん?」

と、何かに気付いた美琴が寝ぼけ眼で横を見た。

美琴「……………え?」

そこに彼女のルームメイト――白井黒子が立っていた。

何  故  か  、  包  丁  を  手  に  し  て  ――。

美琴「!!!!!?????」


ドスゥゥゥッ!!!!!!!!


包丁が布団の上に突き刺さる。

美琴「!!!!!!」

美琴は間一髪それを避けた。

美琴「黒子!!?? わっ」

ガタガタガーン!!

あまりの出来事に驚いた美琴は布団と一緒に床に落ちてしまう。

美琴「いたた……。………!!!???」


ドスゥゥッ!!!!!!!!


再び、黒子が美琴めがけて包丁を振り下ろしてきた。

美琴「く、黒子!!?? な、何やってんのあんた!!??」

床に刺さった包丁の柄を握りながら、黒子は腰を折った姿勢のまま美琴に視線を向けた。

美琴「じょ、冗談もいい加減にしなさいよ!!!! さすがに今日のイタズラは度が過ぎるわよ!!??」

黒子「………冗談?」ボソッ

美琴「!!??」

黒子「………イタズラ?」ボソッ

包丁を抜き、黒子はユラリと立ち上がる。

黒子「笑わせないで下さいまし。これが冗談にお見えになりますか? お姉さま?」

美琴「な、何を……」

黒子「いえ、  御  坂  美  琴  さん?」

美琴「えっ!?」

黒子「チッ……やはり慣れない凶器は使うものではありませんわね」

そう言うと黒子は包丁をベッドの上に放り投げ、太ももに巻いていた革ベルトの金属矢に手を伸ばした。

黒子「テレポートで殺したほうが早いですわね」

美琴「!!!!!!!!!!」ゾクゥッ!!




バン!!!!!!



208号室のドアを開け、美琴が部屋の外に飛び出してきた。
室内では、全身に青白い電気を纏った黒子が床の上で痙攣していた。

美琴「わっ!!」

勢いよくドアを開けてしまったため、美琴はそのまま廊下に向かって転がってしまった。

美琴「な……何なの一体!? 黒子に何があったの!?」

「御坂……」

美琴「!!!!!!」

頭の上から声を掛けられ、肩をビクつかせた美琴は咄嗟に振り返った。

寮監「寮内での能力の使用は禁ずる、と言ったはずだがなあ?」

そこには、常盤台中学学生寮の管理人、寮監が眼鏡を光らせて立っていた。

美琴「ち、違うんです! それより聞いて下さい!! 黒子が急におかしく……えっ!!??」

美琴の言葉を聞き終えるよりも早く、寮監は素早い動きで床に四つん這いになっていた美琴を持ち上げ、そのまま後ろから彼女の首に腕を回した。

美琴「うっ……!!」

寮監「おかしいのは貴様だろ御坂?」ググ

美琴「かはっ……や……やめて……寮監……」

美琴の首を絞める寮監の腕に力が篭る。

寮監「貴様がそんなことを言える身分か?」

美琴「がっ……首が……息が出来………」

寮監「寮監として、私が引導を渡してやろう」

美琴「くっ……」



ドスッ!!


寮監「うぐっ!?」

寮監が呻き声を上げた。美琴が肘鉄を彼女の腹に食らわしたのだ。
美琴の首に回されていた腕の力が緩んだ。

美琴「ごめんなさい寮監!」

その隙をつき美琴は寮監から離れた。それと同時、腹を押さえた寮監が床に崩れ落ちた。

美琴「ホントごめんなさい!!」

美琴は謝りつつ、その場から逃げるように立ち去った。

美琴「何で!? 黒子も寮監も一体どうしちゃったの!!??」

美琴は全速力で長い廊下を駆け抜ける。向かうは、寮の出入り口。
だが………

美琴「!!!!????」

女子生徒A「御坂美琴、止まりなさい!!」

女子生徒B「止まらなければ、容赦しません!!」

突然、美琴の行く手に2人の寮生が立ちはだかった。

美琴「な……何で……何であの子たちまで私に敵意を向けるの??」

その2人は、日頃から美琴を慕っていた1年生だった。困惑した表情を浮かべ美琴はそのまま走り続ける。

女子生徒A「止まれ、と言っているでしょう!?」

女子生徒B「仕方がありませんわね!!」

2人の寮生が攻撃の構えに入った。
素通りは出来ない。恐らく彼女たちの能力値は最低でもレベル3。美琴は何らかの防御を取る必要がある。
だが、出来ることならば美琴は能力を使いたくなかった。

美琴「お願いどいて!!!」

女子生徒A「黙りなさい!!!」

女子生徒B「これで終わりですわ!!!」

美琴「…………っ」

2人の寮生が美琴に両手をかざした瞬間だった。


バチバチバチッ!!!!


彼女たちの間を美琴が通り過ぎると同時、青白い閃光が空気を切り裂いた。
そして、2人の寮生は気絶するようにクタッと崩れ落ちた。

美琴「ごめん……ごめんなさい……っ!!」

顔に苦渋の色を浮かべて美琴は寮の外へ飛び出す。
その時だった。




キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!!!!!!




美琴「!!!!!?????」




ドォォン!!!!!!




けたたましい音が耳を貫いたかと思うと、次の瞬間、美琴は横から突進してきた大型トラックに跳ね飛ばされていた。

運転手「はっ! やってやったぜ!! あの御坂美琴を殺してやった!! これで俺も英雄だ!!」

運転手が窓からどや顔を覗かせる。

運転手「何!?」

美琴「…………っ」

しかし、運転手の期待とは裏腹に美琴は生きていた。全身から電気を発しながら、トラックのバンパーにしがみついて。

運転手「こいつ!!!」

美琴「くっ」

バンパーから飛び降り、そのまま地面を何度か回転すると、美琴はすぐに立ち上がった。
左腕を右手で押さえ、息を切らしながら彼女はトラックの運転手をフロントガラス越しに見た。

運転手「チッ……!! もう1回死ねや!!!」

ブロロロロロロロロッ!!!!

運転手が再びアクセルを踏んだ。しかし、美琴は咄嗟に歩道に逃げ込んでいた。

「いたぞ!! あそこだ!!!」

「見ろ!! 超電磁砲だ!!」

「あの野郎、まだ生きてやがったか!!」

「俺が殺してやる!!」

「いえ、私がやるわ!!」

通りを走り抜ける美琴を見、1人、また1人と彼女を追う追跡者の数が増えていく。

美琴「やだ……来ないで!! 来ないでよぅ!!」

パジャマ姿のまま、美琴は必死に逃げる。

「待てやおらあああああ!!!」

「逃げてんじゃねぇ!!!!」

「覚悟しなさい御坂美琴!!!」

美琴「何なのもう!? 一体何が起こってるの!? 私が何をしたって言うの!? ……もう追ってこないで!!!」

イギリス・某所――。

インデックス「やっぱり手掛かりらしきものは無いんだよ……」

神裂「術者が死んで魔法陣も消えれば無理も無いですね」

イギリスの小さな田舎街にあるアパートの一室。
そこに、インデックスを始めとするイギリス清教会『必要悪の教会(ネセサリウス)』の精鋭メンバーたちがいた。

インデックス「今すぐにでも学園都市に戻りたいんだよ」

ステイル「それはダメだ。君には当分の間ここにいてもらわなきゃならない。それに……この魔術の対象の人物が君の知り合いで心配なのは分かる。だが、僕にしても君にしても、彼女を助けるために今学園都市に単身で乗り込むのは自殺行為だ。この魔術のせいでね……」

ステイルは忌々しそうにタバコの煙を吐いた。

インデックス「………………」

神裂「今は……学園都市にいる“彼”に頼るしかないでしょう。それでどうなのです土御門?」

土御門「……ダメだな。何度やっても繋がらない」

神裂に問い掛けられ、部屋の隅で携帯電話を耳にしていた土御門は溜息を吐いた。

土御門「電源を切っているか、電波が届かない場所にいるか……何度かけても反応は同じだ」

神裂「そうですか……」

ステイル「チッ……あいつめ。こんな大変な時に。……まあいい……」

多少苛ついたような顔をすると、ステイルは立ち上がった。
部屋が狭く天井も低いため、彼は自らの巨体を持て余しているようだった。

ステイル「どの道今は様子を見るしかない。いいねインデックス?」

インデックス「………分かったんだよ」

それだけ答えると、インデックスは窓から眼下ののどかな景色を窺った。

インデックス「(無事でいて……短髪……)」

学園都市――。

午前8時。
通りに通学中の生徒がパラパラと増え始める頃、美琴は路地裏の一角にいた。

美琴「……路地裏に逃げ込んでからもう1時間は経ったかな……?」

彼女はキャラクター柄のパジャマのまま、足には靴下すら履かず建物の壁に背中を預けるようにして蹲っていた。

美琴「……何人電撃で倒したんだろ? 誰も死んでないよね……?」

ボソボソと美琴は暗い口調で独り言を呟く。

美琴「……何の罪も無い人たちを電撃で倒しちゃった……。敵でもない人たちを……。だって……みんな恐い形相で追いかけてくるんだもん……」

ふと、足の裏を見てみる。裸足のまま走ったせいか、右足の裏から僅かだが出血していた。

美琴「………グス………もう……何が起こってるの……」

体育座りをしていた美琴は更に縮こまるように両足の間に頭をうずめた。

美琴「私が何をしたって言うの……?」

表通りから学校に向かう学生たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

美琴「…………………」

「キャー! モウ! ナニスルンデスカ!」

美琴「…………………」

「イヤァー、コレヲシナイト、イチニチガ、ハジマラナクテサ」

美琴「…………………」

「モウ、ヤメテクダサイヨ、サテンサン!」

美琴「………!」ピク

「マァマァ、オチツイテヨ、ウイハル!」

美琴「!?」ガバッ

「モウ、サテンサンッタラ…」

美琴「…………ういはる? …………さてん?」

何かに驚いたように、美琴は顔を上げた。

美琴「確かに今『ういはる』と『さてん』って……」

彼女は表通りから聞こえる会話に注意深く耳を傾けた。

「デ、キョウノウイハルノ、パンツハ、シマシマカァ」

「ダカラ、イワナイデクダサイ、サテンサン!!」

美琴「やっぱり!!」

勢いよく美琴は立ち上がる。

美琴「間違いない。それにあの声……どう聞いたって」


ダッ


希望の色を顔に浮かべ、美琴は表通りに向かって走っていた。

美琴「初春さん!! 佐天さん!!」

路地裏から出ると同時、彼女は叫んでいた。

初春「…………………」

佐天「…………………」

そこには、確かにいた。美琴の親友の初春と佐天が。仲良く一緒に歩きながら。
通学途中だからか彼女たちはセーラー服を着用し、学生鞄を手にしていた。

美琴「やっぱり! ねぇ初春さん!! 佐天さん!!」

初春「…………………」

佐天「…………………」

笑顔を浮かべ美琴は2人に話しかける。対して初春と佐天はそんな彼女を見てポカーンと口を大きく開けていた。
が、しばらくして、その表情に大きな変化が訪れた。







初春「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」






美琴「え!?」ビクッ

初春「きゃあああああああああ!!!!! 佐天さん!!!」

突如叫び声を上げた初春は、鬼を見たように慄き、咄嗟に佐天の後ろに隠れた。

佐天「“御坂美琴”!!!!」

佐天もまた、信じられない、というような表情を浮かべた。

美琴「えっ!? 何どうしたの!?」

初春「や……やだ……どうしてこんな所に“御坂美琴”が……」

美琴「“みさかみこと”?」

佐天「こ、来ないで!! き、来たら殴るよ!!」

美琴「佐天さん……? 初春さん……?」

2人は、まるで凶悪な殺人犯に会ったように睨んできた。

美琴「………………っ」

美琴はそんな彼女たちの顔を見てポカーンとする。
地獄はまだ、始まったばかりだった。

取りあえずここまで。
続きは夜にでも。

こんばんは
今から続き投下してく

佐天「こ、来ないで!! き、来たら殴るよ!!」

震える初春と、彼女を庇うように学生鞄を正面に構える佐天。2人とも明らかに、親友と会う時の態度ではなかった。

美琴「な……何言ってるの? わ、私よ! 御坂美琴!」

敵意を見せる2人に対し、美琴はうろたえながらも笑顔で近付こうとする。

佐天「い、いくらレベル5だからって……舐めないでよ……っ」

美琴「佐天さん? ちょっと待って。何を怯えてるの? ねぇ、冗談やめてよ……」

佐天「来るな!!」

美琴「!!!」ビクッ

更に近付こうとしていた美琴を威嚇するように佐天は怒鳴った。

初春「もしもし? あ、アンチスキルですか? い、今御坂美琴に襲われそうになってて……」

美琴「!?」

ふと見ると、佐天の後ろで初春が携帯電話を片手にどこかと話していた。
彼女の怪物を見るような目が美琴に向けられる。

美琴「じょ、冗談やめてよ……何かのドッキリ? ……わ、私たち親友じゃない?」

佐天「お前なんか、親友じゃない!!」

美琴「!!!!!!!」

佐天「お前と親友だったなんて……あたしの人生の汚点だ」

迷いも無く、佐天はそう言い切った。

美琴「………佐天さん……」

呆然と美琴は2人を見る。
彼女たちの美琴に対する反応は明らかに親友に向けるものではなく、どちらかと言えばスキルアウト……否、スキルアウトならまだマシ、という感じだった。

「おいどうした!?」

と、そこへ誰かが声を上げ近付いてきた。見てみると、大学生風の学生3人だった。

佐天「助けて下さい!! 御坂美琴です!! 御坂美琴に襲われてるんです!!!」

「御坂美琴だと!!??」

「本当だ!! 見ろ!! あれ、御坂美琴だ!!!」

「この野郎!! 子供たちに手を出そうなんてどんだけ卑劣なやつなんだ!!!」

口々にそう叫び、大学生たちは憤怒のような形相で走ってきた。

美琴「!!!」

美琴は佐天と初春に振り返った。

美琴「何で!?」

佐天「消えろ!!!」

美琴「!!??」



佐天「2度とあたしたちの前に姿を現すな!!! 次見かけたら、あたしが殺してやる!!」



まるで美琴を親の仇のように啖呵を切る佐天。彼女の背後に目を向けると、相変わらず怯えたような、それでいてどこか恨みが篭ったような目で初春が見つめていた。

美琴「佐天さん……初春さん……」

「捕まえろ!!!」

美琴「!!!!」

大学生の声が間近に聞こえた。再びそちらに顔を向けると、大学生の1人がパイプのようなものを持って接近してくるのが見えた。


ダッ


美琴「………っ」

思わず、美琴は走り出していた。

「あ、待てコラ!! 逃げるんじゃねぇ!!!」

「追え!! 追え!! みなさん!! あそこに御坂美琴がいます!!! 協力して下さい!!!」

背後に追っ手の足音が増えるのを感じながら、美琴は全速力で走った。

「君たち、大丈夫だった?」

佐天「あ、あたしは大丈夫です……」

初春「恐かったぁー」

佐天「まさかこんな所で御坂美琴に会うなんて思ってなかったよ……」

初春「でも殺されなくて良かったです」

そんな会話が聞こえた。

美琴「…………………」

美琴は唇を噛み締めながら走る。
今自分の身に何が起こっているのか、何が原因でこうなったのか、まるっきり検討もつかなかった。だが、これだけは分かった。もう彼女はかつての親友だった黒子や佐天、初春と一緒に楽しく過ごせないことが。

美琴「ううう……ヒグッ…グスッ…」

涙が風に流されていくのが感じられた。

午後・とある高校――。

上条「はぁ~~」

椅子の背もたれに全体重を預けるように、その高校生――上条当麻は深く溜息を吐いた。

上条「やれやれ……」

上条は今、自分が置かれている状況に辟易するようにやる気のない目を天井に向けた。

青髪ピアス「何やカミやん。あからさまに溜息なんか吐いて。退屈そうやなぁ」

上条「ああ?」

と、そんな上条をどこか楽しげに語りかけてくる隣の席の男が1人。友人の青髪ピアスだった。

上条「いやだって、当たり前だろ? せっかくの休み時間に補習なんて……」

青髪ピアス「そうかぁ? 僕は楽しいけどなあ。こんな密室に近い状況で小萌先生との個人レッスン♪ ああ『個人レッスン』……なんて甘美な響きやろー」

上条「お前のその性格見習いたいぜ」

彼らは今、補習中だった。
日頃の成績の悪さがたたって、担任教師より空き教室を使って補習をするよう言い渡されていたのだ。

上条「朝も補習、昼も補習、放課後も補習。勘弁してくれよマジで」

至極ダルそうに上条は言う。今も窓の外から校庭で昼休みを満喫する生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

青髪ピアス「カミやんはネガティブすぎるで。もっと前向きに考えなぁ。1日に3回も小萌先生と個人レッスンとか恵まれてんねんで。まあ贅沢言うなら、約1名ちょいと邪魔な人がおるけどなー」

上条「何気に俺を邪魔者扱いしてんじゃねぇ! 大体お前はわざと成績悪くしてるだろ。俺だって補習したくてしてるんじゃねぇよ。こっちだって色々と事情があるんだよ!」

青髪ピアス「まぁまぁそう怒らんといてぇなー。僕は常に新たな刺激を求めてるんや。そのためにはどんな状況にでも顔を突っ込む図太さが必要なんや」

上条「お前の事情なんて知らねーよ! 大体何だ刺激って。こっちは刺激だらけの毎日に辟易してるところなんです!」

青髪ピアス「ん? それを僕に説明させんの? ええで、今日は特別や」

上条「って聞いてねーし!」

青髪ピアス「例えばな……こうやって普通に補習受けてる最中に、どこか他所の学校の女の子が教室に乱入してきて僕に駆け寄ってきてこう言うんや……『私追われてるの! 助けて!』」

上条のことなど知った風でないように青髪ピアスはどや顔で語り始めた。

上条「…………………」

青髪ピアス「で、その直後、黒服の集団が教室に入ってきて女の子を連れて行こうとすんねん。けどそこで僕が勇敢に立ち上がって黒服の集団とカミやんをボコボコにして一緒に教室から逃げ出すんや」

上条「ちょっと待て! 何か無関係な俺ボコられてるんですけど!」

青髪ピアス「2人はもう、家にも学校にも戻れない追われの身。そうやって僕と女の子は決死の逃避行を繰り返して、いつの間にか2人の間には強くて太い愛の絆が生まれてんねん。ああ、何てロマンスやろー」

キラキラと不思議空間を身の回りに作りながら、青髪ピアスは自分の世界に浸る。

上条「妄想でそこまで語れるなんてある意味羨ましいぜ」

青髪ピアス「けっ。万年フラグばかり立ててるカミやんには僕の気持ちなんて一切分かるはずないんや!」

上条「フラグって俺がいつどこで立ててんだよ……」

青髪ピアス「あー! もう! それがカミやんのいかんところや! まったく、自覚無いのが一番腹立つでー!」

下らないことを真面目に語る青髪ピアスに対し、上条はどこかつまらなさそうだった。

青髪ピアス「なあカミやん。平均的な1日のスケジュールを思い出してみ? で、1人1人、どんな女の子に会ってるんか数えてみるんや」

上条「いや、女の子って言われても……」

青髪ピアス「いいからする!」

上条「………ハァ…ったく」

上条「そうだなー。朝起きたらインデックスに『食事まだー』と頭を噛まれ……」

青髪ピアス「何で朝起きていきなり女の子やねん!」

上条「いや…その……これは……」

青髪ピアス「まあええわ。続けや」

上条「寮から出る時に、土御門の妹の舞花に寝癖を馬鹿にされて……」

青髪ピアス「土御門の妹かい! 今度チクっといたろ」

上条「………登校中に、常盤台中学のジャッジメント、白井に何故か罵られ……」

青髪ピアス「常盤台のお嬢さまやと!? 贅沢すぎんで!」

上条「学校に着いたら姫神に『おはよう』って声掛けられて……」

青髪ピアス「ウソやん! 僕1度も声掛けられたことないで!?」

上条「吹寄に『今日も冴えない顔してるわね』って馬鹿にされて……」

青髪ピアス「あいつはどうでもええわ」

上条「ホームルームで小萌先生に補習を言い渡されて……」

青髪ピアス「ムー! それがいっちゃんムカつく! ムキー!!」

上条「………帰り際に姫神に『また明日ね』って声掛けられて……」

青髪ピアス「1日に2回もか! 僕なんて1日に0回や!」

上条「そんなとこかな。で、これのどこがフラグ立ってるんだ?」

青髪ピアス「立ってるやんけ! 合計5人は立ってるやんけ!」

上条の1日の戦歴報告を聞き終え、何故か青髪ピアスは激昂する。

上条「あ」

と、そこで上条は何かを思い出したように声を上げた。

青髪ピアス「何や!? まさかまだあるとか言わないやろうな!?」

上条「もう1人いたな。よく放課後、公園とかで会うんだけど」

青髪ピアス「誰や!?」

上条「御坂だよ」

青髪ピアス「え?」

上条「御坂美琴」

青髪ピアス「………何やて?」

その名を聞いた途端、青髪ピアスの顔が明らかに曇った。

上条「いや、だから御坂美琴だよ。知ってるだろ。常盤台中学2年の、学園都市第3位のレベル5、御坂美琴お嬢さま」

上条は一瞬、青髪ピアスの顔に違和感を覚えたが、彼が御坂美琴のことを知らないのかと思い、詳しく説明してみることにした。

青髪ピアス「………みさか………みこと………」

上条「?」



ガシィッ!!!



上条「!!!???」



青髪ピアス「御坂美琴やとぉ!!!???」



突然、青髪ピアスが上条の両肩を掴み揺さぶってきた。

上条「な、何だよ急に!!??」

青髪ピアス「カミやん、ホントに御坂美琴に会ったんか!!??」

それまでの雰囲気とはまるで違い、青髪ピアスは必死の形相で上条を揺さぶる。

上条「1週間に3、4回は会ってるけど、一体それがどうしたってんだよ!? 必死すぎだろお前!!」

青髪ピアス「何てことや……」

ピタと青髪ピアスが動きを止め、上条から手を離した。

上条「?」

青髪ピアス「カミやん!!」

と、そこで青髪ピアスは上条に真剣な表情を見せた。

上条「な、何だよ?」

青髪ピアス「あいつはあかん……。いくらカミやんでも御坂美琴にだけは会ったらあかん!!!」

上条「は、はぁ?? 何言ってんだお前?」

青髪ピアス「あいつは危険や……あいつは……」

何か、怯えたような、それでいて恨みが篭ったような声で青髪ピアスは言葉を紡ぐ。

上条「いや確かにあいつレベル5の超能力者だけど、俺にはこの右手があるし……」

青髪ピアス「違うんや!!!」

上条「!!!」

青髪ピアス「ああ……何でカミやん今まで言ってくれんかってん!? カミやんがこんな目に遭ってたっていうのに……僕は友達失格やぁ……」

青髪ピアスは本当に悩んでいるように頭を抱え込む。

上条「??????」

青髪ピアス「カミやん」

そこで再び青髪ピアスは真剣な表情を上条に据えた。

青髪ピアス「これは友達である僕からの忠告や。これから御坂美琴には絶対に会ったらいかん!!!!」

上条「はぁ!!??」

青髪ピアス「あいつは危険でこの世の人間とも思えない外道や。カミやんの安全を考えるとこれからは……」

と、そこまで聞いていた上条がいきなり立ち上がり怒鳴り声を上げた。

上条「ふ、ふざけんなよお前!! お前、何の恨みがあってあいつをそんな悪いように言うんだよ!!??」

青髪ピアス「カミやん、どうしたんや? 何でそんな御坂美琴を庇うようなこと言うん?」

本当に心配するように青髪ピアスは訊ねてくる。

上条「お、お前こそ、あいつのこと知らないくせに、一体何でそんな罵倒できるんだよ!?」

青髪ピアス「まさかカミやん、御坂美琴に騙されてるんとちゃうやろな? あいつは悪女や。いや、悪女どころやない。世界史上最悪の人間……」

上条「ふ、ふざけ……」

小萌「はいはいそこまでー」

上条が切れ掛かった直前、横合いから子供のような声で制止の合図が入った。

上条「こ、小萌先生……」

小萌「まったく……。仲良く2人で補習をやってると思って見に来たらこれは一体どういうことですか? いくら先生でも怒っちゃいますよ」

上条と青髪ピアスの担任、小萌だった。

青髪ピアス「先生! 聞いてぇな! カミやんったらな……」

上条「先生!! 青ピったら酷いんですよ!!」

小萌「酷い?」

ジロリと小萌は青髪ピアスを横目で見た。

小萌「まさか上条ちゃんが傷つくようなこと言ったのですか?」

青髪ピアス「ちゃうちゃう! ちゃうて! ただ僕はカミやんのためにと」

上条「何が俺のためだ! お前、あろうことか俺の知り合い馬鹿にして……」

小萌「まあまあそれは聞き捨てならないですね?」

青髪ピアス「だって、相手はあの御坂美琴やで? あんな外道女に何言っても構わんやろ?」

小萌「え?」

上条「こいつ…また……」

小萌「御坂……美琴?」

その名前を聞いた途端、小萌が眉をひそめた。

上条「そうなんです! あろうことか青ピのやつ、常盤台のレベル5の……」



小萌「どういうことですか上条ちゃん!!!!!」



上条「!!!!」ビクッ

突如、小萌が鬼のような形相で上条を怒鳴った。

小萌「今の話聞いた限り、上条ちゃんは御坂美琴のこと庇ったようですが……」

上条「え? え??」

青髪ピアス「そうやねん、先生。カミやんのやつ、毎日のように御坂美琴と会ってるって言うから、これ以上近付かないように忠告してやったのに、何でか突然キレて御坂美琴のこと庇いだしてん」

小萌「なっ!? 上条ちゃん! 先生は上条ちゃんを、御坂美琴を庇うような人間に育てた覚えはありません!!!」

腰に手を当て小萌は言う。彼女の表情を見るに、本気で怒っているようだった。

上条「……先生? 何言って……」

小萌「御坂美琴と言えば、世界最低最悪の人間……いえ、人間とも思えないような女じゃないですか!!」

上条「は……ぁ……?」

小萌「なのに上条ちゃんはそんな御坂美琴と毎日のように会って……なおかつ庇うだなんて……先生は……先生は……悲しいです……」

顔を両手で覆う小萌。

青髪ピアス「先生、大丈夫かぁ?」

心配そうに彼女の顔を覗き込む青髪ピアス。

小萌「でも……でも……先生は……上条ちゃんが無事で安心でした……」



上条「(……何だ……これ?)」



その状況は、理解不能以外に形容し難かった。
確かに、御坂美琴は出会い頭に電撃を浴びせてくるような女の子だ。だがそれも、上条の右手の力の存在を知っているからこそ敢えてやっていること。それ以外で、彼女が無実の人を、一般人を襲うことなんて絶対に有り得ない。自分の妹達が殺されるのを止めるために、命を投げ出してでも助けようとする女の子なのだ。
なのに、何故、青髪ピアスと小萌は、まるで親の仇のように彼女を罵るのか。彼らは上条以上に美琴のことは知らないはずなのに。何を根拠にそこまで言えるのか。上条には全くもって理解出来なかった。

上条「…………………」

青髪ピアス「ほらカミやん、先生に謝りや」

上条「え?」

小萌「謝らなくてもいいです……。ただ、先生と誓って下さい。これ以上、御坂美琴には絶対に会わないと……」

潤んだ目で小萌は上条を見据えた。

上条「(何だこれ? 何で? あいつが2人に悪いことでもしたのか?)」

青髪ピアス「大体カミやんもカミやんやで。何で世間であんなにも嫌われてる御坂美琴を庇うんや?」

上条「は? 世間?」

青髪ピアス「カミやん、知らんなら覚えときや。御坂美琴ほど、外道で畜生以下の人間はおらん。あいつは危険や。危険なんや。まったく、あんなクソヤロウ、はよう死ねばええのに。僕が学園都市第1位の超能力者だったら、御坂美琴なんて進んで殺してその後、鬱憤晴らすようにその憎い身体を好き勝手してやるのに。はぁ~、どっかの誰かさんが、僕の望んでることしてくれんかなぁ? あ、そうやカミやんの右手はどうや? カミやん、何でも右手で能力打ち消せるんやろ? だったら、今度奴をおびき出して隙をついて」




ドガッ!!!!!!




青髪ピアス「!!!!!?????」

小萌「キャーーーーーー!!!!!」

ガタガタと青髪ピアスが床に崩れ落ちる。

上条「ふざけんなよてめぇ……」

青髪ピアス「な、何をするんやカミやん!!??」

左頬を押さえ、青髪ピアスが上条を見上げる。
上条は右拳を握り、本気で切れた表情で青髪ピアスを睨んでいた。

上条「何の恨みがあんのか知らねぇが、御坂のことそれ以上貶してみろ。絶対に許さねぇ!!!」

青髪ピアス「きょ、今日のカミやんおかしいで!! 何で御坂美琴を庇うんや!!!」

上条「おかしいのはお前だろ!! 本人の前じゃなくてもいい。今ここで、さっき言ったこと全て撤回しろ!!!」

青髪ピアス「なぁっ!?」

上条「出来なきゃ絶交だ!!! レベル5と言えど、1人の女の子をそこまで罵る奴と友達でなんかいられるか!!!!」

青髪ピアス「か、カミやん……」

怯えるような顔を向ける青髪ピアスに対し、上条は今にも頭から湯気が出そうなほど怒っていた。

小萌「もう止めてください上条ちゃん!!」

上条「!!」

青髪ピアス「先生!!」

と、青髪ピアスを庇うように小萌が前に躍り出た。

小萌「今日ここであったことは特別に見逃してあげます。補習ももう終わりです。だから今すぐに帰宅して1日頭を冷やしてください!!」

上条「せ、先生! 俺はただ、御坂のことを馬鹿にされたから……」

小萌「帰りなさい!!!」

まるで悪いのは上条の方だと言うように、小萌は叱っていた。

青髪ピアス「…………………」

小萌「……………………」

上条「………っ」
上条「分かりました」

名残り惜しそうにそれだけ言い放ち、学生鞄を手に取ると上条は教室から出て行った。
僅かにだが、教室内の青髪ピアスと小萌の会話が聞こえてきた。

小萌「大丈夫ですか? 保健室行きますか?」

青髪ピアス「いや、僕は大丈夫や。でも驚いたわ。あのカミやんが御坂美琴を庇うなんて……」

小萌「確かに、それはとても信じられません。もしかしたら御坂美琴に洗脳されてるのかもしれません……」

青髪ピアス「カミやん、むっちゃ心配やわー」

上条「…………………」

何かおかしなことが起こっている。上条が分かったのはそれだけだった。
そしてこの時、上条はまだ、今御坂の身に何が起きているのか、知る由もなかった。

今日はここまで。
次は明日ぐらいに。

上条「世界を敵に回してもお前を守る!!」

美琴「何この人、かっこい(ry」

では今日の投下分
続きいきまーす

その頃――。

第7学区のとある路地裏。
相変わらず素足とパジャマ姿のまま、美琴は表通りを覗くようにして立っていた。

美琴「………お腹すいたな……。朝から走りっぱなしで何も食べてないんだもん……」

彼女の視線の先にはコンビニが1軒あった。

美琴「でも、財布も持ってないし……。それにまた表へ出たら、追いかけられちゃう。もう一般人に電撃なんて浴びせたくないのに……」

彼女は午前にあったことを思い出す。何故か、みんな美琴の顔を見ると、慄き、怯え、怒り、震え、敵意を見せてくるのだ。そして、少しでも自分の能力に自信のある者はすぐに追いかけてこようとする。美琴はそんな彼らを振り切るために、微かながら電撃を使っていた。

美琴「もうやだよ……。私が何したって言うの……?」

美琴は頭を抱え込む。
彼女は今、果てしない孤独感と恐怖感に苛まれていた。

美琴「グスッ……黒子も、佐天さんも、初春さんも、みんな何故か私を怖い目で見るし……」

美琴は地面に蹲り嗚咽を漏らした。

美琴「誰か……助けて……」

上条「はぁ~、何か気分悪いぜ」

まだ正午から1時間ほどしか経っていない頃、上条はいつもより早く家路に着いていた。

上条「しっかし、何で青ピと小萌先生は御坂のことあんなに嫌ってるんだ?」

本来ならまだ授業中の時間だからか、通りにいる人の数は少ない。いるとすれば、学校をサボっている学生ぐらいのものだった。

上条「あー明日どうしようかな? 青ピと顔を合わせるの気まずいしな。怒りに任せて絶交宣言もしちゃったし……。いや、あれはあいつが悪いんだ。大して知りもしないくせに御坂のこと貶すから……」

ふと、上条の脳裏に美琴の顔が蘇った。
記憶の中でも彼女は、明るく、元気に、歳相応の笑顔を浮かべていた。

上条「あいつが、世界最悪の人間なわけないだろうが……」




「何が世界最悪の人間なんですか?」




上条「え?」

突如、声を掛けられ上条は辺りを見回した。すると、ある1点で1人のさわやかそうな少年と目が合った。

上条「あ、お前は……」





海原「お久しぶりです上条さん」





上条「海原!? 何でこの時間帯にここに!?」
上条「いや、違うな。アステカの魔術師の方か……」

海原「フフ」

不気味でいてどこか他人を惹きつける笑顔を見せる海原。
その正体は、かつて上条と対決したアステカの魔術師・エツァリだった。

上条「相変わらずその顔のままか。で、お前一体何やってんだこんな所で?」

海原「さぁ。それを貴方に答える必要があるでしょうか」

上条「つーか、普段からどこで何をやってんだ? アステカには帰らないのかよ?」

海原「そこらへんはあまり深く聞かない方がいいですよ」

ニヤリと海原は上条を見据える。

上条「ま、プライベートのことまで深く突っ込むつもりはないけどさ」

海原「浮かない顔をしていたので声を掛けてみましたが、相変わらずのようですね。では、僕も忙しいのでこれで失礼します」

上条「いや、浮かない顔してるのは色々と……ってちょっと待て」

踵を返した海原を呼び止めるように、上条は彼の肩を後ろから掴んだ。

海原「はい? 何でしょう?」

上条「お前に聞きたいことがある」

海原「?」

上条「いいか?」

海原「構いませんが……中には答えられないこともありますよ?」

上条「いや、ある人物についてのことだけど……お前、まだあいつのこと好きなのか?」

海原「あいつ? ……とは?」

キョトンとした表情を浮かべる海原。

上条「いや、自分で言ってたじゃねぇか。御坂のこと好きだって」




海原「ああ、御坂美琴ですか」




上条「!!!???」

つまらなさそうに海原は答えた。

海原「あれは過去のことですよ。と言うか、今更ながら後悔しています。何故僕が、あんな  人  間  の  風  上  に  も  置  け  な  い  女  を好きになっていたのか」

上条「な、何言ってんだ!? お前、あんなにあいつのこと……」

彼女の話をすることすら億劫であるように言った海原に、上条は驚きの表情を浮かべて詰め寄った。

海原「だからあれは過去のことですって。正直、あの女の名前や顔を思い出すだけで反吐が出るんですよ」

上条「はぁ!? だって、お前俺に約束取り付かせたよな? 『御坂と御坂の世界を守る』って」

海原「ああ、そのこと」

上条「!」

馬鹿にするように海原は答えた。

海原「そんなこと、もうどうでもいいですよ。今言ったでしょう。僕はもうあの女の顔や名前も思い出したくないんです」

上条「なっ……」

海原「つまらない話をさせないでください。これ以上、無駄な話をする必要も無いと思うので僕は帰らせて頂きますね」

それだけ残し適当に手を振ると、海原は歩き始めた。

上条「待てよ!」

海原「ああ、あと1つ」

1度立ち止まり振り返ったかと思うと、海原は最後に一言だけ付け足した。

海原「僕はもうあの  最  っ  低  な  女  に興味無いんで正式に譲ってあげますよ。まあ1度戦った仲として忠告しておきますが、なるべくあの女とは会わないほうがいいと思いますよ?」

上条「…………何だよそれ……」

海原「ではまた」

呆然とする上条を尻目に、海原は足早に去っていった。

第7学区・公園――。

人も大していない、小さな公園。そこに、美琴はいた。

美琴「……………誰もいないかな?」

街中の路地裏を行ったり来たりしている内に、美琴はその公園に辿り着いたのだったが、相変わらず人前に出られなかったためか、彼女は物陰に隠れながら園内を移動していた。

美琴「………走り疲れちゃった。でも、これからどうしよう……」

ふと、視界の端に自動販売機が目に入った。

美琴「喉も渇いたけど、財布持ってないし……。だけど、このままだと喉がカラカラで死んじゃう……」

ゴクリ、と喉が鳴った。

美琴「(電撃を自販機に流せば、何本かは缶ジュースが出てくるかも……)」

もちろんそれは無銭飲食にあたる。

美琴「だけど……」

恐らく、また誰かに見つかれば追われることになる。美琴はレベル5の超能力者だったため、能力を使えば追っ手を簡単に退けることも出来た。だが、一般人に向けてはなるべく能力を使いたくなかったのだ。

美琴「………………」

意を決し、辺りを1度見回すと彼女はソロソロと物陰から出、自動販売機に向かった。

美琴「誰もいないわよね?」

自動販売機の前に来ると、美琴はもう1度辺りを見回した。
人はいない。警備ロボットもいない。大丈夫そうだった。

美琴「ごめんなさい」

ビリビリッ

自動販売機に手を触れ、美琴は電撃を流した。

ガコン!

と、小気味良い音が聞こえると、受け取り口に3本ほど缶ジュースが勢い良く落ちてきた。
美琴はすぐさまそれを拾い上げる。

美琴「缶コーヒーに、お茶に、オレンジジュースか……。この後どうなるか分からないし、一応全部持っとこうかな?」

缶の中身を確かめ、美琴がその場を離れようとした時だった。



「何やってるのお姉ちゃん?」



美琴「!!!!!!!」ビクゥッ

突如、後ろから声を掛けられた。
咄嗟に振り返る美琴。
そこには、男の子3人、女の子1人の計4人の子供たちが不思議そうな顔をして美琴を見上げていた。

美琴「あ……えっと……その……」

突然の出来事に上手く対処出来ず、美琴はあたふたする。

美琴「そ、そうだ、ジュースいる? お姉ちゃん3本持ってるから、どれかあげるよ?」

中腰になり、缶ジュースを差し出した美琴だったが、それがアダとなった。





女の子「きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」





美琴「え?」

何の前触れも無く、女の子が叫んでいた。

美琴「な、なに!?」

女の子「この人……御坂美琴だ!!!!」

美琴「!!!!!!」

女の子「先生が言ってた……あの……きょうあくな人間の御坂美琴だって……」

怯えながら女の子が美琴の顔を見た。

男の子1「ええっ!?」

男の子2「あ、本当だ! こいつ御坂美琴だ!!!」

女の子の言葉を聞き、2人の男の子が驚きの声を上げる。

美琴「なっ…ちょ、ちょっと待って……」

男の子2「近寄るんじゃねぇ!」

男の子1「悪い奴は俺が倒してやる!!」

ランドセルからリコーダーを取り出し、2人の男の子が女の子を庇うように前に躍り出た。

美琴「ね、ねえ聞いて? お姉ちゃん、ちょっとジュース飲みたかっただけなの」

男の子1「しね!! 悪のじょうおう御坂美琴め!!」

男の子2「ころしてやるぅ!!」

美琴「きゃっ!!」

同時に、2人の男の子がリコーダーで美琴を殴ってきた。

美琴「ちょっ……」

男の子1「くらえ!! くらえ!!」

男の子2「街のへいわをみだす悪は俺がゆるさん!!」

頭を庇う美琴を、2人の男の子はボカボカと容赦なく殴る。
小学生用のリコーダーとは言え、殴られれば地味に痛かった。

美琴「痛い!! やめて!! お願い!!」

男の子1「しね!! しね!!」

男の子2「正義のてっつい受けてみろ!!」

美琴「や、やめて……お願いだからっ……!!」

女の子「誰かああああああああああ!!!!!! 来てええええええええ!!!!!! 御坂美琴に襲われてるの!!!!!!」

美琴「!!!???」

片目を開けた美琴の目に、必死に叫ぶ女の子の姿が映った。

女の子「誰かあああああああああああああああ!!!!!!!!」

美琴「(まずい)」

次いで美琴は自分を殴る2人の男の子を見た。彼らは、本当に悪の組織の首魁を前にしたような顔をしている。一瞬、美琴は電撃で彼らを止めようと思ったが………

美琴「(それだけはダメ!)」

一度伸ばしかけた手を引っ込めた。

美琴「(子供にはそんなこと出来ない!!)」

女の子「誰かああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

美琴が悩んでいる間にも、女の子は人を呼ぼうと叫んでいる。

美琴「ごめん!!」

何とか2人の男の子を振り払い、立ち上がると美琴は急いで逃げ出した。

男の子1「あ、待て!!」

男の子2「逃げるな!! 戦え!!」

女の子「誰かああああああああああああああ!!!!!」

リコーダーを振り回し、男の子たちが追いかけてくる。

美琴「…………っ」

だが、彼らの速度では追いつけそうになかった。

ガラン ガラン

美琴の手から緑茶とオレンジジュースが落ちたが、彼女は気にせずに走り続けた。

美琴「(もう……嫌………)」

振り返りもせず、彼女はただ人前から隠れられる場所を探し走った。

夕方・上条宅――。

上条「ただいまー」

扉を開け、上条が部屋に入ってきた。

上条「って、インデックスとスフィンクスは今、いないんだっけか」

靴を適当に脱ぎ、学生鞄をベッドの上に放ると、彼は冷蔵庫の扉を開けた。

上条「麦茶麦茶、っと……」

冷蔵庫から麦茶を取り出し、足で扉を閉めると、上条は居間に座りテレビを点けてみた。

上条「はぁ……今日は何かみんな変だったなあ」

コップに入れた麦茶をあおる上条。

上条「ムカつくことばっかで、久しぶりにゲーセン行っちまった……ったく、貴重な金なのに……」
上条「ま、今はインデックスとスフィンクスがいないからいいけどさ……」

昼に海原と分かれてからというもの、上条は溜まった鬱憤を晴らすために今までゲームセンターに入り浸り遊んでいたのだった。

上条「つか何でみんなしていきなり御坂を嫌いになってるのか訳分からん。ドッキリか? ……いや、御坂本人ならともかく俺をそんなことで騙して何のメリットがあるのやら……」

テレビ画面を見つめたまま、上条は今日1日あったことを思い出してみる。

上条「このこと…御坂には黙っててあげたほうがいいかもな……」

そう結論付け、飲み干した麦茶を机の上に置いた時だった。





Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





突如、電話が鳴った。

上条「ああ? 電話ぁ? 何か出るの面倒くさいな……」

よっこらしょ、と年寄りくさい言葉を呟きながら上条は立ち上がる。

上条「せめて携帯にしてくれよ……って、今携帯は修理に出してるんだった」

ガチャッ

上条「はいもしもし上条ですけど」

『カミやんか!!??』

上条「え? そうだけど、お宅誰?」

土御門『俺だ!! 土御門だ!!!』

上条「ああ何だ土御門か。確か今、イギリスに行ってるんだっけか?」

電話の相手が誰だか分かった途端、上条はのん気な声で答えていた。
対して、土御門はどこか慌てているようだった。

土御門『ずっと携帯に連絡してたんだぞ!! 何故出なかった!?』

上条「え? ああ、だって携帯は不幸にも踏んづけて壊れたから修理に出してる最中で……」

土御門『あーもう、そんなことはどうでもいいんだ!!』

上条「そんなことって……。あ、そういやインデックスもそっちにいるんだよな? 元気してるか?」

土御門『こっちのこと気にしてる場合か!!』

上条「はぁ?」

やけに怒り気味の土御門の様子に、上条は少し苛立った声を上げた。
インデックスのことを聞いてるだけなのに。何で土御門はこんなに怒ってるのだろうか。

上条「一体どうしたんだよお前?」

土御門『カミやん、よく聞け』

上条「?」



土御門『カミやんは常盤台中学の『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴と仲が良かったよな?』



上条「!!!!!!」

土御門『どうだ?』

上条「…………………」

その名前を聞き、上条は眉をひそめた。
と言うのも、今日1日で、青髪ピアス、小萌、海原の3人から美琴に対する罵詈雑言を聞いていたのだ。彼らが何故美琴を悪く言ったのかはさっぱり分からなかったが、いずれにせよこれ以上、知り合いから彼女の悪口を聞きたくはなかった。
だから上条は、土御門も美琴を悪く言うのではと身構えたのだが……

土御門『今、彼女が大変なことになってるんだ!!』

上条「え!?」

土御門『早く彼女を助けないと、取り返しのつかないことになるぞ!!』

帰ってきたのは予想外の言葉だった。
上条は今日あったことを思い出す。

上条「そ、その話、詳しく聞かせてくれ!」

受話器を強く耳に押し付けるように、上条は訊ねていた。

夜――。

美琴「………もう、夜か…」

街から少し離れた場所にある小さな川の土手。美琴は今、その草村の中に姿を隠していた。
長い草が生えた斜面に埋もれるように、彼女は仰向けに転がっている。空には星が見え始めた。

美琴「………12時間以上、ずっと逃げ回ってた……。こんなに走ったのって、あいつを追っかけてた時以来か……」

ゆっくりと独り言を紡ぐ美琴。
彼女の顔は疲れ切っており、ほとんど生気が感じられないほどだった。

美琴「今は、夕食の時間ね。今頃黒子は寮の食堂で夕飯食べてるんだろうな……。私も昨日は黒子と一緒にご飯食べてたのに……」

と、そこで美琴は言葉を切った。

美琴「…………………」

何気なく見つめた視線の先に、群青色の空と白く光る星が見える。すぐ近くからは川のせせらぎが聞こえてきた。

美琴「………うっ」

急に、美琴の顔が歪んだ。

美琴「………グスッ」
美琴「………………ヒグッ……」
美琴「エグッ………グズッ………」

次いで、口から嗚咽が漏れ出した。

美琴「ううう」

溢れ出す涙。

美琴「うぁぁぁ……」

彼女は両手で目を覆う。

美琴「………何で……こんなことに……グズッ……ヒッグ……」

美琴は何とか泣き止もうとするが、今日1日のことを思い出すと余計に涙が出てくるのだった。

美琴「………昨日までは……普通に暮らしてたのに………私が……何をしたって……言うの? …グスッ」

頭を抱え、身体を丸めるように美琴は泣き続ける。

美琴「……何で……こんなことになったのよ!!!!!」

ぶつけどころのない悲しみを発散するように彼女は叫ぶ。

美琴「……………ヒグッ…グスッ」

しばらくすると、再びその場には美琴の嗚咽だけが響いていた。

美琴「これは何かの悪い夢なのよ……。そうよ、きっとそう……」

額に腕を乗せて彼女は呟く。

美琴「今日は早いけど、寝よう……。きっと明日には、何事も無かったように全てが元通りになってるはず……」

そう言って美琴は無理矢理に目を閉じた。しかしそれでも、涙だけは流れ続けていた。

その頃――。

上条「ハァ……ゼェ……ハッ……ゼッ」

上条は、夜の街を駆け抜けていた。

上条「チクショウ!!」

通行人が道を塞ぐたび、上条は彼らの間を無理矢理割るように通り抜けた。
もう、どれだけの距離を、どれだけの時間を走ったのかは分からなかった。今、自分がどの学区にいるのか。それすらも意識の外にして彼は絶え間なく足を動かし続けていた。

上条「ハァ……ハァ…」

上条は風車のポールに片手をつき、うなだれるように一息つく。

上条「どうして……こんなことに……」

上条は思い出す。土御門から電話を受けた時のことを。そして彼から聞かされた衝撃の事実を。



3時間ほど前――。





土御門『もう時間も無いから単刀直入に言う。超電磁砲こと御坂美琴が危ない」





上条「!!!!!!!!」

魔術の事件の際に見せる時以上に、土御門は真剣な声で言った。

上条「ど、どういう……。まさか今日俺が学校であったことと関係があるのか?」

上条にとってすぐ思いつけることと言えば、昼のことだった。

土御門『何かあったのか?』

上条「今日の昼休み、学校で青ピと補習受けてた時なんだ。何気ない会話をしている途中、急に青ピの奴が俺に『超電磁砲とこれ以上会わないほうがいい』って言ったんだ」

土御門『……やっぱりか』

上条『やっぱりって!?』

上条「あ、ああ……それで、俺がその理由を訊ねたら、あいつ、ボロクソに御坂のこと罵ったから……俺ぶち切れて……」

土御門『………………』

上条「そこに小萌先生が来て、俺と青ピの喧嘩の仲裁を始めたんだけど、事情を話したら小萌先生まで御坂のこと罵り始めて、挙句には青ピと同じく『御坂美琴とは会うな。今まで御坂と会ってた俺が無事で安心した』とか言い出して……。で、俺は訳も分からないまま混乱してたら青ピの奴がまた御坂を酷く言ったから………」

そこで上条は続きを言うのを躊躇うように声が小さくなった。

上条「………だから、青ピ殴って絶交宣言して帰ってきちまった………」

そこまで言って上条は黙った。

上条「……………………」

土御門『…………どうやら悪い予感が的中したようだな』

上条「え?」

土御門『やはり魔術は既に発動していたか』

上条「……………魔術?」

聞き慣れた単語が受話器の向こうから聞こえてきた。

上条「ちょっと待て、魔術だと!!??」

土御門『………そうだ。御坂美琴。彼女はその標的にされた』

上条「なっ………」

脳天を叩かれたような衝撃が走った。土御門の言葉に、上条は一瞬、手から受話器を滑り落としそうになった。

上条「どういうことだそれは!!!!」

何も考えることなく、上条は怒鳴っていた。

土御門『落ち着けカミやん。今から何があったか全て話す』

上条「ふざけるなよ!!! 何で御坂が魔術の標的にされなきゃいけないんだよ!!??」

まるで土御門が当の犯人であるように上条は声を荒らげる。

土御門『冷静になれカミやん。感情的になれば、助けられるものも助けられなくなるぞ』

上条「………っ」

土御門『だが、その前に1つだけ聞いておくことがある』

上条「? な、何だよ?」

さっさと先を話さない土御門に、上条は多少もどかしさを覚えた。

土御門『御坂美琴がとある魔術の標的にされてるのは事実だ。その上で聞く』

上条「あ、ああ……」

土御門『もし彼女を助ける気なら、カミやんは学園都市230万全ての学生を敵に回すことになる』

上条「…………え?」

一瞬、何を言われたのかさっぱり分からなかった。

土御門『それでもカミやんは、御坂美琴を助けるつもりか?』

上条「…………………」

だが、これだけは分かった。土御門は上条をよく知る人物として、1人の人間として上条に質問しているのが。

土御門『全ての能力者、風紀委員(ジャッジメント)、警備員(アンチスキル)。それら全てから追われる羽目になる』

上条「……………、」

土御門『もう1回訊ねるぞ。学園都市という1つの巨大な街を敵に回すリスクを背負っても、カミやんは御坂美琴を助けるつもりか?』

今までに無い口調で土御門は上条に質す。それはまるで、人生を左右する選択を迫るように。

上条「…………………」

土御門『…………………』

2人の間に沈黙が流れる。
土御門は敢えて何も言わず上条の返答を待っている。土御門はもう分かっていた。上条がどのような返答をするのかを。だからこそ彼は、答えを促すような野暮な真似はしなかった。

土御門『(カミやん……)』

そして、数秒後、1つの溜めを置き………





上条「当然だ!!!!!!」





上条はきっぱりと断言していた。

今日はこれで終わり。
次は多分明日。

多分
学園都市の人達や美琴に直接的に魔術がかけられてるんじゃなくて
学園都市全体に魔術がかけられてるから、上やんが触れても解除できないと考えれば良いんじゃないかな?

例えば 劣化版エンゼルフォールみたいな魔術って考えればいいわけよ。
学園都市(もしくは美琴の名を知る人達)に限定して、美琴(個人)に対しての、他人が感じる印象や思考を変える。
 そう考えれば…魔術を地球全体にかけ、全ての人間が入れ替わったり、天使を呼ぶ?訳じゃないから
 高度な魔術だけど、エンゼルフォールよりは 難しい魔術じゃないし、右手も意味が無いってなると思う。

蓮舫「10万3000冊は多すぎますよね?」

インデックス「たくさん覚えているんだよ!」

蓮舫「多ければいいというわけじゃないでしょう。中には不要な魔道書もあるはずです」

インデックス「そ、そんなことはないんだよ?」

蓮舫「100冊ほどにまとめることは可能ですよね?」

インデックス「無理だよ! 一冊一冊が、とても貴重で価値がある……」

蓮舫「その価値とは何を基準に算出されたものでしょう?」

インデックス「はるかな昔から伝えられてきた魔術の歴史が証明してるよ!」

蓮舫「現代の魔術学からの視点から見れば不必要な記述も多いはずですね」

インデックス「不必要……んー、アレの223ページから228ページは確かに余分かも」

蓮舫「そもそも貴方が全てを記憶しているのならば、もう1冊でいいんじゃないでしょうか」

インデックス「あっ」

>>109
↑やっぱり コレでしょ!
ダメ?(´;ω;`)

予想外に盛り上がってるけど…ごめん、あまり魔術の方については設定深く考えてない。
あくまで上琴SSを目指した話だから…。多分これからも矛盾出ると思う。申し訳ないけど。

あと>>93の一番下、二行ほど削っちゃってました。
二行追加して以下のように脳内補完しといて下さい。



土御門『……やっぱりか』

上条『やっぱりって!?』

ある程度何らかの予想をつけていたのか、土御門は辟易するように呟いた。

土御門「いやまあ続けてくれ」

土御門から、美琴の身に何が起こっているのか事情を聞いてから3時間。
上条は今、一刻でも早く彼女を助けるため街を奔走していた。

上条「御坂………」

初めは、常盤台中学学生寮に電話をかけてみた。だが『御坂と話したい』と頼んだが、『今忙しいので』と言われ電話を切られた。
次いで、家から出、実際に常盤台中学学生寮に向かってみたが、今度は門前払いされたのだった。
インターフォンに出たのは美琴のルームメイトの白井黒子だ。上条が『御坂に会いたい』と言うと、黒子はただ一言『生憎私の部屋は1人しかいないので』と返された。
その後も10分ほど押し問答を続けていたが、これ以上怪しまれるわけにもいかず上条はしぶしぶ寮を後にした。

上条「あの様子だと、御坂は寮にはいない……。恐らく、異変を感じ取って逃げ出したんだ」
上条「だが、問題はいつ逃げ出したかだ。それによってあいつがどこの距離まで行ったのか大体掴めると思ったが。……土御門によれば魔術は既に朝に発動されていた。なら、朝方に逃げたと考えるのが有力か」

上条は頭を抱え込む。

上条「……だったらあいつは今どこにいるんだ? 携帯にも出ない、ということはどこかで携帯を落としたのか。それとも逃げ出すのに必死で携帯を持っていけなかったのか……。もしそうなら財布を持ってない可能性も高いな」

上条は腕時計を見る。

上条「もう、夕食時だ。まさかあいつ、この12時間何も食べてないんじゃ……」

美琴のことを考えるたびに、不安要素が次々と湧き出してくる。

上条「あいつ、無事かな……」

ふと、美琴の顔を思い出す。

上条「レベル5だからよっぽどのことが無い限り大丈夫だと思うけど……だからこそ心配なんだ」

確かに、上条の言う通り、美琴は学園都市第3位を誇るレベル5の超能力者だ。純粋な力では彼女に勝てる人間などこの学園都市に数えるほどもいない。だからこそ上条は、ある懸念を1つ抱えていた。

上条「考えても埒があかねぇ……あいつが行きそうな所、もっと探してみよう!」

上条は再び夜の街に向けて走っていった。

イギリス・某所――。

ステイル「どうしたんだい土御門?」

ステイルが階段を降りてきた。彼は建物の出口の方に視線を向ける。そこでは、土御門が壁にもたれかかれながら外の田園風景を眺めていた。

土御門「あの2人は?」

ステイル「インデックスは、必死になって魔術の痕跡や何か重要な手掛かりが無いか探してるよ。半日ぶっ続けでね……」

土御門「そうか」

ステイルは階段に座り込む。

ステイル「神裂もそれを手伝っている。2人とも、ちっとも休憩しようとしない」

土御門「だが、俺たちがここで出来ることは限られている」

ステイル「確かに」

ステイルはタバコを指に挟み、紫煙を吐き出す。

ステイル「僕たちが学園都市に向かえばちょっとは状況がマシになるかもしれないが、必要悪の教会も今は色んな事件を抱えて人手不足。わざわざ日本へ行ける余裕はまるでない」

土御門「だからこそ俺たちはここでカミやんのサポートに徹するしかない」

ステイル「だが、あの上条当麻とはいえ、学園都市を敵に回してどこまで頑張れるか。保護対象の女の子はなかなか強いらしいけど」

土御門「………うむ」

ステイル「可哀想だとは思うけどね。魔術を解除出来ない以上、その女の子と上条当麻に出来ることは限られてくる。僕たちはそれを知りつつもここで田舎の長閑な風景を楽しみながら、彼らの無事を祈っているしかない。何とももどかしいね」

本当に辟易するようにステイルは言った。
土御門は空を仰ぐ。遠く、離れた地にいる親友の顔を思い浮かべた。

土御門「カミやん、無事でいてくれ……」

朝になり、美琴は目を覚ました。

美琴「……常盤台の寮じゃ……ない」

辺りは、郊外の川の近くにある土手で、彼女はその草村に隠れるように身体を横たえていた。

美琴「……やっぱり、夢じゃないんだ……」

東から登る太陽の光に目を細め、美琴は上体を起こした。

美琴「もう、1日経っちゃったんだ……」

キョロキョロと周囲を見回す。人影は1つも無いようだった。

美琴「今何時だろ? 7時くらい?」


グー


と、急にお腹から音が鳴った。

美琴「……お腹すいた。昨日から口にしたのって、缶コーヒー1本と公園にある飲料水、あとは川の水だけ……」

美琴はお腹に手を当てる。

美琴「もう1日まともなもの食べてないや」

次いで、街の方を見てみた。

美琴「街に戻ったら何か食べ物にありつけるかも。でも……」

彼女は昨日1日で起こったことを順に思い出す。

美琴「…………………もう1回。あともう1回街に戻って様子を確かめてみよう」

そう言って美琴は立ち上がった。
しかし、彼女はすぐに動きを止めた。

美琴「………でも、また昨日と同じだったらどうしよう……」

昨日のことを考えると、どうしても躊躇してしまうのだった。

美琴「…………………」

だが、空腹感には勝てなかった。

再び、美琴は街中まで戻ってきていた。

美琴「…………通学時間か」

昨日と同じように美琴は路地裏から表通りを窺う。そこには、制服を着た学生たちがたくさん歩いている姿があった。

美琴「何とかして、表に出たいな……。あと、ご飯も欲しい……。でも、財布無いし……、みんなの前に出たらまた怖がられちゃう」

1歩、足を踏み出すだけなのに、今の彼女にはそれすらも出来なかった。

美琴「………私、ずっとこのまんまなのかな?」

俯き、足元を見る美琴。

「そういや聞いた? 御坂美琴のこと」

美琴「!!!!」ビクッ

その時、表通りから美琴の名前を呼ぶ声が聞こえた。

美琴「(な、何!?)」

なるべく壁際にくっつき、美琴は表通りから聞こえてくる会話に耳を傾けた。

「あ、聞いた聞いたー」

美琴「……………、」

どうやら通学途中の学生が何か世間話をしているようだった。

「確か、学園都市中に指名手配されたんだよねー?」

美琴「え………」

「アンチスキルが捜査範囲、どんどん広げてってるらしいよ」

美琴「…………な、な…?」

美琴は言葉にもなっていない声を絞り出す。

「アンチスキルも動くの遅いよね。もっと早く指名手配してくれればよかったのに」

美琴「………ど、どういうこと……?」

頭の中が真っ白に染まっていく。
彼女は、今聞いた言葉の意味を理解することも出来ず、ただうろたえていた。

「でもこれで安心ね。御坂美琴が捕まれば、私たちも安心して学生生活送れるしさ」

美琴「……………っ」

カタカタと身体が震える。
この時ほど、彼女は今耳にした言葉が嘘であってほしいと願ったことはなかった。
無理も無い。彼女はいつの間にか学園都市から追われる身になっていたのだから。

美琴「そ…そんな………」

身体の震えが更に増し、美琴は目に涙を浮かべる。しかし、それとは裏腹に、彼女の顔はどこか笑っていた。まるで、壊れかけた人形のように。

美琴「う……嘘よ……。わ、私が……指名手配? ははは……あ、有り得ない………」

「あ、アンチスキルの車だ!」

美琴「!!!!!!」

表通りから学生が叫ぶ声が聞こえた。思わずそちらに視線を向けると、アンチスキルの自動車が通り過ぎていくのが目に入った。

『こちらは、アンチスキル第73活動支部です。この付近は、昨日、学園都市全域で指名手配中の御坂美琴が出没した地域です。学生は道草せずに速やかに登校しましょう。また、通学時と下校時には1人にならずなるべく友達と一緒に帰宅しましょう。なお、この付近で怪しい者を見かけた方は、至急、最寄りのアンチスキル支部へ連絡を………』

アンチスキルの車がスピーカーで警告を流しながら表通りを過ぎていく。

美琴「違う……これは夢よ……あはは……」

『指名手配犯、レベル5の超能力者・御坂美琴の逮捕にご協力ください』

美琴「夢………よ…………」

スピーカーから漏れる声が、徐々にゆっくりと機械のような野太い声となって美琴の耳に侵入してくる。

『指名手配………御坂美琴………極悪犯………逮捕……』




美琴「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




気付くと、美琴は頭を抱えて走り出していた。

美琴「やだ!! やだ!!! いやだ!!!! 私は何もしてない!!!! 夢よ!!!! これは夢なんだ!!!!!」

なりふりかまわず、彼女はただひたすら走る。

美琴「そう……夢なのよ……」

「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!」

美琴「え?」

間近で誰かの叫び声を聞き、美琴はそちらを振り返った。
どうやら路地裏を走っているうちに、いつの間にか表通りに抜け出てたらしい。彼女の顔を見た学生たちが慄き、あるいは悲鳴を上げ、場は一気にパニック状態となった。

「うわああ、御坂美琴だ!!!」

「で、出た! あいつがそうだ!!」

「だ、誰かあああああ!!!!」

「お、俺が殺してやる!!」

まるで怪物を見たように学生たちは叫び、恐怖する。
周囲から次々と発せられる声に反応するように、美琴は様々な方向に顔を振り向けた。

「み、見て! テレビと一緒の顔よ!!」

美琴「!?」

無意識にそちらに視線を向けると、歩道の隅で1人の学生がすぐ側の家電製品店のショーウインドウを指差していた。そしてそこに設置された数台のテレビ画面には、どれも同じく『学園都市全域で指名手配中』という見出しと共に、美琴の顔写真が映っていた。

美琴「!!!!!!!」

と、騒然となっている道路に大きな影が出現した。
美琴が頭上を仰ぐと、そこには飛行船が青い空を優雅に進んでおり、その横腹に設置された巨大スクリーンには、今目にしたテレビ画面と同じく、美琴の顔写真がでかでかと映っていた。

「こっちです、こっち!!」

美琴「!?」

我に返り、美琴は声がしたほうを向く。見ると、2人の女子学生が黒い装甲服を纏った大人を2人連れて走ってくるのが分かった。間違いない。アンチスキルだ。

警備員A「止まれ!! 手を挙げろ!! おとなしく投降しろ!!!」

2人の警備員が、抱えていたアサルトライフルを美琴に向ける。それを見た学生たちが流れ弾に当たってはかなわないと、一斉に退避していく。

警備員B「本部、本部! 18番通りで逃走中の御坂美琴を発見。明らかに人手が足りない。至急、応援を求む!」

銃を向けながら、1人の警備員が肩越しに取り付けられた無線を使って交信を始めた。

「おい、見ろよあれ。本物の御坂美琴だ」

「こえー顔してるぜ」

何人かの学生は興味本位からか、それとも自分も機会があれば攻撃に加わろうとしていたのか、物陰からその様子を眺めていた。

警備員A「手を挙げろ!! 挙げろと言ってるんだ!!」

警備員B「本部!! 至急至急!!」

そんな中、美琴は呆然と道の中央に立ち尽くしていた。

美琴「……………………」

まるで彼女が立っている空間だけごっそりと切り抜かれたように静寂が漂っていた。
美琴は、今自分の身に起きていることに現実感を覚えられなかった。今彼女が置かれている状況はまさに、犯罪者のそれと同じなのだ。

美琴「……………………」

しかし、1つだけ違うことがある。それは、美琴自身に犯罪を犯したという自覚がないということ。実際、こんな国際指名手配犯なみの扱いを受けるほどの犯罪を犯した記憶なんて彼女には一切無い。

「にしても、ようやく捕まるのか。これは貴重な場面だぜ」

どこからともなく、学生たちの声が聞こえてきた。

「写メ撮ってネットにあげてやろ」

「もしアンチスキルが撃ち殺したら衝撃的場面としてアクセス数稼げるぜ」

「でもあいつレベル5だぜ? やっぱりアンチスキル2人だけじゃ危なくね?」

「いざとなったら俺たちも加勢するか?」

「つかあいつ、捕まったらどうなんの?」

「さぁ? 良くて終身刑、悪くて死刑じゃね? あ、でも何だかんだ言ってレベル5だからな」

「噂では高位能力者は利用価値があるから簡単には死なせてもらえないらしいぜ?」

「ああ知ってる。何でも無理矢理生き長らえさせられるんだよな」

「じゃああいつも同じだな。きっと脳みそ改造されて変なパーツ身体に足されて死ねなくても死ねないまま利用され続けるんだろうな」

「ふん、いいざまだな」

悪意、あるいは憎しみが込められた複数の声が美琴の耳を貫く。
そこでようやく彼女は気付く。この現状が、嘘偽りない、現実だということが。

美琴「わたs……」





パァァァン!!!!!!!!!





その時、銃声が鳴り響いた。

「!!!!!!!!!」

辺りが騒然とし、物陰に隠れていた学生たちは、肩をビクつかせたり、咄嗟に耳を塞いだり、悲鳴を上げたりと、各々違った反応を見せた。

「あ、見ろ!!」

「御坂美琴が倒れてるわ!!」

「アンチスキルが発砲したんだ!!」

野次馬たちの声が次々と上がる。
見ると、アンチスキルが抱えていたアサルトライフルの銃口から硝煙が上がっており、そして銃弾を真っ正面から受けたらしい美琴は、道のど真ん中で仰向けに倒れていた。

「やった!」

「し、死んだのか?」

「クソー、決定的瞬間撮り損ねた!」

警備員A「やった……のか?」

警備員B「…………ゴクリ」

2人の警備員が顔を見合わせる。

警備員A「まあいい。とにかく危険要素を排除するのが第一だ。行くぞ」

警備員B「ああ」

2人は互いに距離を開け、倒れた美琴に向かってゆっくりと歩き出した。

「おい、撮ってるか? ちゃんとお前も動画撮ってるか?」

「もちろん撮ってるぜ、うへへ」

「キャーこわーい」

好き好きに会話する学生たちの声を無視し、警備員たちは銃口を向けながら美琴に近付く。

「もし死んでなかったら?」

「どうせ虫の息さ。そしたら今度こそ撃ちまくって本当に殺しちまえばいいんだ」

「そうよ。あんなやつ、どうなっても知ったことじゃないわ」

「俺が警備員なら無理矢理ヤっちまうかもな!」

「ないわー。いくら何でもあの女だけはないわー」

美琴と警備員の距離、2m。

警備員A「………………」

警備員B「………………」

どこに銃弾が当たったのかは分からなかったが、美琴が目を閉じ倒れていたのは確かだった。
2人はそれを見て、ホッと息をついた。

警備員A「よし、第一目標の排除完了」

警備員B「あとは本部の到着を待つだけだな」

2人の警備員が警戒を解く。
そして、彼らが美琴から視線を外したその時だった。




パリッ




「あ……」

「あれ? 何か今、光ったっぽくね?」

「だよね?」



パリパリッ!!!!



「あっ!!!」

警備員AB「!!!!????」

学生たちの声に気付き、警備員が振り返る。




美琴「……………………」




見ると、倒れた美琴の全身から青白い光が纏わりつくように発光していた。

警備員A「なにっ!?」

咄嗟に、警備員たちが銃口を向けようとした。しかし………


バチバチバチバチバチッ!!!!!!!!


警備員A「ぐああああ!!!!」

一瞬にして大きくなった光が1人の警備員の身体を直撃し、彼は意識を失ってその場に倒れ込んだ。
そして、それと同時に美琴がユラリと起き上がった。


バチバチバチッ!!!!!!


道路を、建物を、いくつもの光の筋が四方八方に駆け巡っていく。
学生たちが持っていた携帯電話が、小さな爆発を起こして粉々になった。

「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

それを合図にするかのように、野次馬見物していた学生たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
警備員の1人が倒され、レベル5の実力を見せ付けられれば当然の反応と言えた。

警備員B「ひっ……」

光が周囲をほとばしる中、仲間を倒された警備員は腰をつき、目の前の美琴を怯えるような顔で見上げた。

警備員B「た、助けてくれ! お、お願いだ!!」

美琴「…………………」

警備員B「お、俺にはまだ5歳の娘がいるんだ!!」

まるでテロリストに人質に取られたように警備員は命乞いをする。彼にしてみれば、美琴は残虐非道なテロリストと同じだった。

警備員B「?」

が、攻撃はこない。それを不審に思った警備員が美琴の顔を見つめた。

警備員B「え?」

泣いていた。美琴が、その双眸から涙を流し、泣いていたのだ。

警備員B「泣いてる?」

警備員にしてみればおかしな光景だった。血も涙もないと思っていた犯罪者がさめざめと悲しそうに泣いていたのだから。

美琴「………っ」

次の瞬間、美琴は背中を向け走り出していた。

警備員B「あ!」

美琴「…………………」

再び、路地裏に戻った美琴はなるべく人が多い所から離れるため全速力で走った。
途中、サイレンが聞こえたり、野良犬に吼えられ追いかけられもしたが、そんなことはもうどうでもよかった。

美琴「………グスッ……ヒグッ……」

今はただ、1人になりたかった。

終わり。
また明日。

ごめん忙しくて来れなかった。
取り敢えず美琴にはどん底のどん底まで絶望を味わってもらおうと思います。
その代わり上条さんはかっこよく登場させたいなとは思ってるけどどうなることやら。
今から少しだけ投下します。

イギリス・某所――。

コンコン、と音がした。
土御門がそちらに顔を向けると、外から大柄の男が窓ガラスを叩くのが見えた。ステイルだった。

土御門「どうした?」

窓を開け、土御門は車内からステイルに訊ねる。

土御門「何か、新しい手掛かりでも見つかったか?」

ステイル「いや、何も。彼女たちもようやく今休憩を入れたところだよ」

高い背を屈めるように、ステイルは土御門に話しかける。

土御門「そうか。まあ、無理をされても困るからな」

ステイル「魔術の発動を受けた対象は、インデックスの知り合いだからね。2人とも、一刻でも早く助けてやりたいんだよ」

土御門「それはこっちも同じだ」

ステイルはそう言った土御門の顔と、彼の膝の上にあるノートパソコンの画面を見、1つ訊ねた。

ステイル「で、何か“そっち側”での有力情報は手に入ったのかい?」

そう聞かれ、土御門はノートパソコンの画面に顔を戻す。

土御門「いや……。検索してみたが、何もそれらしきものは見当たらない。恐らく、学園都市外部には情報封鎖してやがるんだ」

ステイル「……そうか。となると、ますます状況は困難になってくるね」

土御門「まあな」

ステイル「でも、その少女は学園都市でも第3位の実力を誇る能力者なんだろう? なら、あまり心配いらないと思うけどね」

土御門「確かに純粋な力では彼女に勝てる奴なんてそうそういないさ。だが、問題は能力じゃない。彼女自身のことだ」

ステイルは眉をひそめ、口元からタバコを離すと眉をひそめた。

ステイル「と、言うと?」

土御門「彼女は、人を殺したことがない」

ステイル「…………ふむ」

土御門「他のレベル5と違って、学園都市の暗部に関わってもいないし、闇の世界とは縁遠い場所にいる。そして彼女は何より、人として間違ってることは許せないタイプだ」

ステイル「要するに、正義感が強い、と言いたいんだね?」

土御門「そういうことだ。だから、彼女は無実な人間を傷つけることができない。相手が無実であればあるほど、能力を振るえずに、1人の女の子になっていく」

ステイル「………なるほど」

そこでステイルは少し間を置いた。
もし、魔術の発動を受けた対象の人物が、学園都市の暗部に深く浸っており、尚且つ人殺しも厭わない人物だったらそう難しい話でもなかっただろう。だが、土御門の説明通りなら、状況は大きく違ってくる。

ステイル「上手く、逃げられるといいけど………」

土御門「逃げるならまだしも、その前に“壊れなきゃいいけどな”」

ステイル「? どういう意味だい?」

土御門「自分から退路を断つこともあるってことだ」

ステイル「!」

土御門「分からないか? あの子はまだ14歳だぞ。レベル5の超能力者と言えど、まだ精神は子供だ。完全に成長しきってない」

ステイル「…………………」

ステイルの顔が曇る。
だが、土御門は気にせず話を続ける。

土御門「彼女は、お前やインデックスのように世界を知らないし、お前らほど死ぬ思いをしてきたわけでもない。まだ、普通の女子中学生の範囲内にいる。……なら、考えてみろ。そんな普通の女子中学生が、突然、自分が住んでた街の全ての住人に嫌われ、恐怖され、蔑まれ、憎まれ、あるいは殺されそうになるなんてふざけた状況に放り込まれたら……耐えられると思うか?」

ステイル「…………………」

土御門「恐らく彼女は、学園都市の全ての学生から逃げてるから目立った所にも行けないはず。だったら恐らく口座も利用出来ないだろうな。もちろん学園都市には親も住んでいないし、何より連絡手段すら取れない状況に陥ってる可能性が高い」

土御門はサングラスの奥にある2つの瞳を鋭く光らせる。

土御門「そんな彼女は今、どんな精神状態にあるだろうな?」

ステイル「…………最悪だね」

ステイルは、それだけしか言えなかった。

土御門「いくら気の強い彼女でも、友達に裏切られ、学生たちに追われ、アンチスキルなどに殺されそうになったらどこまで耐えられるか……。だから、自暴自棄になって自分で退路を断たなきゃいいんだがな」

ステイル「……………………」

ステイルは、土御門の話を聞き終えると同時、黙ったまま建物の中に入っていった。恐らく、インデックスと神裂の手伝いをするために戻ったのだろう。
そんな彼の大きな背中を見、次いで空を見上げ、土御門は1つだけ溜息を吐いた。

夕方。
路地裏の奥の物陰に彼女はいた。

美琴「…………………」

そっと、表通りに続く路地裏の細道を窺ってみる。
細道を挟む2つの壁のうち、一方に取り付けられたドアが開き、そこから建物の住人らしき男が1人出てきた。姿格好からして、料理屋の店員らしい。となれば、恐らく彼が出てきた建物は何らかの飲食店であることは予想がついた。

美琴「…………………」

物陰に隠れた美琴に気付くことなく、店員はゴミ袋をゴミ箱の中に入れる。近付いてきた野良猫を適当に追っ払うと、彼は再びドアを開けて建物の中へ姿を消していった。

美琴「………っ」

それを確認したと同時、美琴は物陰から飛び出し、すぐさまたった今店員がゴミ袋をしまったゴミ箱に近付いた。
蓋を開け、彼女はゴミ箱からゴミ袋を取り出すと、縛られた袋の口を開けた。

美琴「…………食べ物……」

適当に中を覗いてみる。すると、まだ開かれていない1つの小さな袋が目に入った。
手に取ってみると、冷凍食品のから揚げだった。

美琴「……から揚げだ……から揚げ……」

急いで袋をひきちぎると、中には何個かのしなびたから揚げが入っていた。
美琴は辺りをキョロキョロと見回す。誰もいないのを確認すると、おもむろにから揚げを1つかじってみた。

美琴「モグ……ムシャムシャ」

冷凍食品なのに、冷凍庫では保存もされていなかったのか、から揚げは固くも冷たくもなかった。だが、代わりに味が無い上にどこか変な臭いもした。恐らく、消費期限がとっくに切れていたのだろう。が、今の美琴にはそんなことはどうでもよかった。

美琴「モグ……ムシャ」

辺りをキョロキョロと見回し、から揚げを貪る美琴。その姿は、とうていお嬢さまのものとは呼べなかった。
1つ目を食べ終え、美琴は急いで袋の中に手を伸ばし2つ目のから揚げを掴んだ。それを口に運ぼうとした時だった。

美琴「………………」

何故か、寸前で両手が止まった。
そして、彼女の目元から涙が溢れてきた。

美琴「……あれ? おかしいな? はは、また涙が……」

から揚げを食べてる最中思った。こんな所で、こんな格好で、自分は何をしているのか、と。
2日前までは、確かに彼女は学園都市でも5本の指に入る、屈指の名門校「常盤台中学」の生徒だった。しかも、全校生徒からは「御坂さま」と呼び慕われ、「常盤台のエース」と称されたほどだったのだ。
だが、昨日を境に世界は一転した。信じていた友人たちに裏切られ、知らない学生たちに憎まれ、子供たちに怖がられ、アンチスキルに殺されそうになって、学園都市全域で指名手配されて……。

美琴「……何で私、泣いてんだろ? ……何で……何で……」

こんな薄汚く、ゴミ箱を漁り、消費期限切れの冷凍食品を貪る、ホームレスのような人間のどこがお嬢さまなんだろうか。どこが学園都市最高の『電撃使い』なんだろうか。どこが、学園都市第3位のレベル5なんだろうか。
そう思うと、自然と涙が込み上げてくるのだった。




ガサゴソ



美琴「!」

すぐ側で音が聞こえ、そちらに顔を向けてみた。
痩せて汚れた野良猫が1匹、美琴が開けたゴミ袋の中を漁っていた。さっき、店員に追い払われた野良猫だった。

美琴「…………………」

しばらくして、野良猫はほとんど骨状態になっていた魚の尻尾を咥えると、ヨロヨロと歩きながら表通りに消えていった。
呆然とその様子を見つめていた美琴だったが、手にしたから揚げを袋に戻すと、それをごみ箱の中に放った。そして、ゆっくりと立ち上がり歩き始めた。

美琴「あそこに行こう……」

ボソッと誰かが呟いた。
それが自分の声であることも気付かずに、美琴は路地裏の細道を汚れた素足で歩いていく。



「ちょっと君?」



と、その時だった。誰かが美琴の肩に手を置いた。

美琴「え?」


「こんなところでこんな格好で女の子が何してんのさ? 大丈夫?」


振り返ると、そこには大学生ぐらいの私服を着たロン毛の男が立っていた。

美琴「………誰?」

男「何かパジャマ姿だし、汚れてるし、もしかして家出してきたとか?」

美琴「?」

そこで美琴は違和感を覚えた。

美琴「…………あれ?」

男「ん?」

美琴「……あんた、私を見てどうも思わないの?」

男「何のこと?」

美琴「……そっか、あんたみたいな人間もいるのね、一応は………」

男「…………………」

元気なく話す美琴を見て大学生風の男が黙る。何か考えているようだった。

男「何があったか知らないけどさ………」

美琴「…………?」

男「ちょっとその姿は酷いな。ここからすぐ近くに俺の家があるから、ちょっと休憩していきなよ。何があったか事情も聞くし、お腹空いてるならご馳走も食べさせてあげるからさ」

美琴「…………………」

優しい笑顔を浮かべてロン毛の男はそう提案した。
美琴は生気を無くした目でその顔を凝視した。今の彼女には、男の申し出を断る気も起きなかった。

そろそろ最初の山場なので、次回はいつもより多い投下になると思う。
出来たら今日の夜か深夜までには来れるかな?
というわけで今はここまでです。

遅くになってしまった。
何か垣根の名前が挙がってますが、期待した人ごめん。
じゃあいつもよりちょっと長いけど投下始めます。

午後も9時を回った頃、美琴は少し豪華なマンションの一室にいた。
床はフローリングで、部屋の造りは学生の身分にしては贅沢なものだった。彼女は今、そのリビングルームのソファに腰掛けていた。

美琴「…………………」

呆然と、美琴は目の前の机を見る。そこには、部屋の主人が用意した食事が並べられていた。
冷蔵庫にあったものを使えるだけ使ったのか、料理は選り取り見取りだった。だが、美琴はまだ1つも手につけていなかった。

男「どうしたの? 食べなよ。何があったかは落ち着いてから話してくれていいけどさ。その前に力つけないと。見た限り、何日も食べ物を口にしてないんだろ?」

美琴はゆっくりと振り返る。
壁に腕をつき、こちらを見ている大学生の姿がそこにあった。

美琴「…………………」

路地裏をトボトボと歩いていた時、美琴はその大学生に声を掛けられた。何故か彼は、美琴を見ても殺意も敵意も抱かずに、あまつさえ彼女の姿を見て心配する素振りを見せた。
見たところ、優しそうな雰囲気を持った大学生は、ボロボロの美琴を見て放っておけなかったのか自分の部屋に招き入れたのだった。

美琴「………ごめん……なさい……」

男「なに、謝ることはないよ」

美琴「………いえ、せっかく……ご飯用意……してくれたのに……」

ゆっくりと、途切れ途切れに美琴は言葉を紡ぐ。

男「まあ、無理はしちゃいけないからさ今は」

美琴「………ねぇ」

男「何?」

美琴「………ここには、1人で住んで……るの?」

男「うん。だから安心して」

ニコッと男は屈託の無い笑みを見せる。

美琴「…………そう」

男「とにかくここにいる限りは安心だから、リラックスしてくれ」

微笑み、それだけ言うと、男はリビングルームを離れていった。
美琴は顔を戻し、再び目の前に並べられた食事を見る。

美琴「(……ここにいる限りは安心……か……)」

大学生の言葉を聞いて少し胸を撫で下ろす美琴。



グー


と、その時美琴のお腹から音が鳴った。

美琴「ふふ……2日間まるまる、何も……食べてなかった……から」

独り言を呟くと、彼女は机の端に置かれたフォークを見つめた。

美琴「……じゃあ、いただきます………」

フォークを手にした美琴は、それを皿の上に盛られたミートボールに突き刺した。

美琴「…………おいしそう」

見るだけで、涎が溢れてきそうだった。
ゴクリ、と喉を鳴らした美琴はそれをゆっくりと口に持っていった。




美琴「?」




と、その時だった。

美琴「…………何だろ?」

突然、何か不審を感じた彼女は、ミートボールが刺さったフォークをそっと皿の上に置き、後ろを振り返った。

美琴「……………………」

耳を澄ます美琴。

美琴「……………話し声?」

誰かが話しているのか、どこからかささくような声が聞こえてきた。
だが、声は1つしか聞こえない。どうやら話しているのは1人だけのようだった。

美琴「………あの人の声?」

よくよく聞いてみると、この部屋の主の大学生の声だった。
ここには美琴と大学生以外誰もいないはず。なら、誰と話しているのか。

美琴「…………………」

ソファから立ち上がると、美琴はその声が発する方に向かって静かに歩いていった。
まさか独り言でも呟いているのか。不思議に思った彼女は眉をひそめながらも、歩みを進める。それにつれ、大学生の声が大きくなる。

「……から……いる……だよ……俺の………に」

美琴「?」

フローリングの廊下を進む美琴。

「………マジで……嘘じゃ……まだ……アンチ……呼ぶなよ………」

美琴「(何だろ?)」

「いいから……仲間も……来いよ……」

あと1歩、足を踏み出せば鮮明に聞こえてきそうだった。
その瞬間だった。





「だからっ!! うちに御坂美琴がいるんだって!!!」





美琴「!!!!!!!!!!」

大学生の、嬉しそうに何かを訴える大きな声が突如響いた。

「ああ、だから言ってるだろ? あの指名手配中の御坂美琴が俺の家にいんの!」

美琴「!!!???」

「だからさ、アンチスキル呼ぶ前にお前もダチ連れて来いって言ってんの!」

美琴「………っ」

顔が一瞬で強張った。

美琴「………………」

足を踏み出したい衝動を抑え、美琴は身体を震わせながら、大学生の愉快な声に更に注意深く耳を傾ける。

「マジで信じろって! 今俺ん家で飯食ってんだよ!! え? いやいやそれがな、たまたま街の路地裏歩いていたら目にしてさ。何か逃げてるようだったから、これは絶好の機会かもと思って俺の部屋に誘ってやったんだよ! もちろん『俺だけは君の味方だよ』って演技してさ! まあ我ながら臭い台詞だと思ったけど? ぎゃはは」

美琴「…………………」

「所詮はガキだよなあ? コロコロと騙されやがってさ! だから今すぐ来いよ。心配すんな。あいつが今食ってる飯には強力な痺れ薬入れてるからよ!」

美琴「!!!!!!!!」

「ああ、あとちょっとしたらすぐ動けなくなるはずだぜ。だから、そこを俺とお前とお前のダチでいいことしちゃうわけよー。どうせ相手はあの御坂美琴だし、罪悪感なんて微塵も起こらないだろ? バレたところで、所詮は御坂美琴だ。アンチスキルだって見逃してくれるって! 何なら今すぐ写メでも送ってやろうか? だったら信じるだろ? ほら、早く来いよ。早くしないと先に俺が始めちゃうぜ? 俺のテクはパネェからな! きっとあの御坂美琴も腰振りながら昇天するぜ!! 『私の学園都市にあなたのレールガンをぶちこんでええええええ!!!!!!』ってな!!!」

「いいんだよあんなクソ便器女。どう扱おうが誰も咎めはしないって!」

大学生の男はニヤニヤと笑いながら、携帯電話の向こうの相手を必死に誘おうとしている。

「なんならずっと俺の部屋に監禁して愛玩奴隷………に………」

だが、彼のその不愉快な笑顔も長くは続かなかった。

美琴「…………………」

僅かに開いたドアの隙間から、俯いた美琴がその暗い顔を覗かせていたからだ。

男「あ……あ……」

急に会話を中断したことに不審を覚えた受話器の向こうの相手が、電話越しに何やら喚いているが、もう、大学生の意識はそっちに向いていなかった。

美琴「………あんた……」

ドアの隙間が開いていく。それにつれ、大学生の男の顔が蒼ざめていく。

美琴「………信じてたのに……」

顔だけ俯かせながら、美琴はボソボソと呟く。

「あ……ひ……」

美琴「………結局……私には……味方なんて……誰1人いない………」

「た、助けてくれっ!」

美琴「………この街に……私の居場所はもう……どこにも無い………」

「頼む! あ、謝るから! 土下座するから!!」

自分の世界に入っている美琴に対し、大学生の男の方は命の危険を感じ取っているのか、必死に懇願する。

美琴「………黒子も……佐天さんも……初春さんも……みんな………」

男「お、お助けを! 命だけはお助けを!!」

美琴「230万……全ての住人が……私を……殺そうと……している………」

生気の無い目で呟く美琴のその姿はまるで壊れた人形のようだった。

美琴「もう……頼れる人間は……誰1人………」




美琴「いない」キッ




男「ひっ!!」

美琴が大学生の男の顔に焦点を合わせた。

男「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

大学生の男は叫んでいた。すぐにでも浴びせられるだろう怒りの電撃を予測して、咄嗟に頭を庇っていた。

男「ああああああああ………」

しかし………

男「あ?」

攻撃がこないことに違和感を覚え、大学生の男が恐る恐る目を開けてみた。

男「あ、あれ?」

そこに、御坂美琴の姿はなかった。

男「た……助かった?」

しばらくの間、大学生の男はその場で腰を抜かしていた。ズボンの股間部分に大きな染みを作りながら。

美琴「ハァ……ハァ……ゼェ……」

夜の街を、美琴は走っていた。

美琴「ハァ……グスッ……ゼェ……」

涙が風に乗って後ろに流れていくのが感じられたが、もうそんなことは気にも留めていなかった。
今、彼女はただ、自分が向かうべき場所に向かって走るだけだった。

美琴「……………………」

顔を伏せながら、なるべく人目につかない通りを疾走し、美琴はただ走る。
何分経ったのか、あるいは何時間経ったのか、彼女はいつの間にか灯りが乏しい鉄橋の上に来ていた。

美琴「ハァ……ゼェ……」

徐々に走るスピードを下げ、やがて鉄橋の真ん中辺りで立ち止まると、彼女は橋の下の風景を眺めた。

美琴「ここでいっか……」

1つ、それだけ呟いた。

美琴「(どうせ、私には行く場所は無い……。きっと、学園都市を出たって、世界中の人が私を憎んでるはず……)」

自分を嘲笑するように美琴は笑みを浮かべる。

美琴「(……始めから……私みたいな人間が……幸せになろうとすることが……間違ってたんだ……)」

頭上を仰ぎ見る。そこには、暗くて、不気味な空が広がっているだけだった。




美琴「さよなら、学園都市」




数秒後、彼女がいたのは川の中だった。
いつ飛び込んだのか、それすら理解する間も無く、彼女は一瞬で鉄橋の上から川の中に飛び降りていた。

美琴「(苦しい……)」

濁った川の水が、美琴の目から、鼻から、口から、一気に体内へ流れ込んでくる。やがてそれは彼女の息を圧していき、端正で綺麗なその顔に苦痛の皺を刻ませた。

美琴「(苦しい……苦しいよ……)」

だが、もう彼女は抵抗しようとしなかった。抵抗する気力すら残っていなかった。
ただ、濁った空間の中、頭の中をこの2日間の光景が逆再生されるように蘇っていった。

美琴「(これで……いい……これで……誰も……余計な憎しみを……抱かずに済む……)」

が、彼女のそんな健気な想いは最後に頭の中に浮かんだ2人の人物によって無情にも掻き消されることになった。



   ―――美琴―――



   ―――美琴ちゃん!―――



美琴「(お父さん! お母さん!)」

父と母の笑顔が脳内を過ぎった。





ザバアアッ!!!!!!




川の中央から水しぶきが上がった。

美琴「ゲホッ! ガハッ!」

中から出てきたのは、美琴だった。

美琴「ゲホッゲホッ!! ………ハァ…ハァ……」

口から水を吐き、彼女は息を整えると川岸を眺めた。ここから川岸まで、大分ある。

美琴「……ハァ……ハッ……」

川の水を掻き分け、美琴は川岸に向かってゆっくりと泳ぎ始めた。

美琴「ハァ……ハァ…ゼェ」

ようやく川岸に辿り着くと、美琴は四つん這いになりながら息を切らした。
水を含んだパジャマが疲労した身体を冷やし、体温を奪っていく。

美琴「…………………」

顔から滴り落ちた水滴が地面に小さな水溜りを作っていくのを美琴は無言で見つめていた。

「おい、大丈夫か!」

「しっかりしろ!」

「女の子が川から出てきたぞ!」

美琴「!!!!????」

唐突に、頭の上に3つの声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、高校生くらいの少年が3人走ってくるのが見えた。

美琴「あ……う……」

彼らを視界に捉えた美琴は立ち上がろうとするが、泳ぎ疲れたせいで上手く身体が動かない。
そうこうしているうちに、少年たちは美琴の下まで駆け寄ってきた。

「おい、何があったんだよ?」

「しっかりしろよ!」

咄嗟に顔を伏せる美琴。

「何であんな所にいたんだ!?」

心配した少年たちが口々に叫ぶ。

美琴「わた……わたしは……大丈夫だから……」

「いやいやどう見たって大丈夫じゃねぇだろ!」

美琴「お、お願いだから……放っておいて!」

少年たちは顔を見合わせる。

「どうするこの子?」

「いや、放っておけるわけないだろ」

「なぁ君、顔上げなよ。それとも顔に怪我してんの?」

と、そこでいつまで経っても顔を上げようとしない美琴を不審に思った1人が美琴に近付いた。
少年が接近した気配を察し、美琴は思わず、と言うように顔を上げてしまった。

「!」

美琴「!?」

少年と顔が合う。後ろに立っていた2人の少年も美琴の顔を見た。

美琴「あ……………」

沈黙が流れる。

美琴「…………………」

「…………………」

「…………………」

「…………………」





「こいつ、御坂美琴だ!!!!!!」




美琴「!!!!!!!!」

瞬間、それまで心配の色を浮かべていた表情が嘘だったかのように、少年たちの顔が豹変した。

「ホントだ……っ!! この野郎、俺たちを騙してやがったのか!!!」

美琴「ち、違う!! 私はただ!!」

「うるせぇ!!!」

ドカッ!!!

美琴「きゃっ!!」

1人の少年の蹴りが美琴の腹に突き刺さった。

「やっちまえ!!!」

「おう!!」

「こいつは今弱ってる!! 叩くなら今の内だ!!!」


ドカッ!!! ガッ!!! ゴッ!!! ズガッ!!!


少年たちの容赦ない蹴りが美琴の身体を貫く。
それでも、美琴は能力を使うだけの体力が残っていなかったのか、そもそも能力を使いたくなかったのか、抵抗する素振りは見せなかった。彼女は今、頭を庇い身体を丸めることしかしなかった。

「やろう!!」

「死ね!!」

「人類の敵め!!」

美琴「や…やめっ……やめてっ!! いたいっ……!! おねが……うっ! や、やめてぇっ!!」

「こいつ、抵抗しないぜ?」

「へっへ、ならいい機会だ」

「おう、ヤっちまおうぜ!!」

美琴「!!!!!!!!」

そう言ったと同時、1人の少年が美琴のパジャマの端を掴んだ。

美琴「……っ」

「あ!!」

ビリィッ

「待て!!」

「逃げやがった!!」

少年たちの一瞬の隙をついて、美琴は走り出していた。
パジャマの左肩口の部分が破り取られたが、気にしている暇は無い。

「御坂美琴がいるぞおおおおおおおおおお!!!!!!!」

美琴「!!!???」

後ろから大きな声が聞こえた。思わず振り返る美琴。
どうやら少年たちが美琴の存在を周囲に知らせようとしているようだった。

美琴「………っ」

美琴は土手を駆け上る。

美琴「!!!!!!」

しかし、そこには憤怒のような形相を浮かべて美琴を睨む学生たちの姿がたくさんあった。
みんな、今にも美琴に襲いかかろうとしている。

美琴「や、やぁ!!」

道を塞がれた美琴は土手をまた駆け下りた。

「待てえええええええ!!!!!!」

下りたと同時、先程の3人の少年たちが走ってくるのが見えた。

美琴「こ、来ないで!!!」

美琴は全速力で走る。ただ、逃げるために。
だが、彼女が走れば走るほど、逃げれば逃げるほど、騒動を聞きつけた追っ手が1人、また1人と増えていくのだった。

美琴「ハァ……ハッ……ゼッ…ハァ…」

夜の街を美琴は駆け抜ける。
その時だった。


ドオオオン!!!!


美琴「か……はっ!!」

大きな衝撃を背中に感じたと思った瞬間、美琴はその場に崩れ落ちていた。

「やったぜ!! 当ててやった!!」

振り返ると、追いかけてくる集団の1人が歓声を上げているのが目に入った。
恐らく何らかの能力を美琴に向かって使ったのだろう。

美琴「くっ!!」

ダッ!

「あっ!! 逃げてんじゃねえ!!」

しかし、美琴は怯まず立ち上がり、再び逃げ始めた。

「無駄よ!!」

美琴「!!!!」

そんな彼女の前に、1人の少女が現れた。何も無いところに突然姿を現したということは、恐らく少女は空間移動系の能力者なのだろう。

「死になさい!!」

美琴「………っ」

一瞬、美琴は躊躇いの表情を見せたが、少女が手を伸ばしてくるのを見ると軽く電撃を放った。

バチバチッ!!!

「きゃっ!!」

空間移動能力者の少女は電撃を受け、その場に倒れた。

美琴「………………」

その隙をつき、美琴は路地裏に逃げ込む。
これなら、追っ手は1人ずつしか追いかけてこれない。先頭の人間が無能力者か低能力者なら大した攻撃を直接背中から浴びる危険もなかった。

美琴「!!!!!!!」

だが、彼女の策は何の意味も成さなかった。
少しスペースがある、路地裏の丁字路状になっている場所で、彼女は3方向から挟み撃ちにされてしまったのた。

美琴「…………そんな……」

壁を前にして、美琴は絶望を浮かべた表情で振り向き直った。
正面には20人も近い学生たちが所狭しと集まっており、左を向けば奥の道から次々と学生が増えていっているのが見えた。右の道は僅かに道幅も広く、学生の数も少なかったが、そう簡単に突破出来るとも思えなかった。

「おい!!!」

美琴「!!」ビクッ

1人の学生が声を上げた。
それを皮切りに、学生たちが次々と美琴を蔑む、あるいは憎しみを込めた言葉を投げかけ始めた。

「お前も終わりだな?」

「そうだそうだ、ここで一巻の終わりだ」

「ざまぁみろよ」

素足は真っ黒で所々傷が見られ、肩口が破り取られた薄汚れたパジャマを着、自慢のシャンパンゴールドの髪も川の水によってビショビショになっていた美琴。そんな醜い姿格好になっていた彼女を見、ある者は愉快そうな顔をし、ある者は怒りを浮かべた顔をし、ある者は当然だと言いたいように、ある者は汚物を見下すような顔をしていた。

美琴「…………っ」ゾクッ

そんな彼らの鬼と化した表情を見て、美琴は本能的な恐怖を覚える。

美琴「………ね、ねぇ待って! は、話し合おうよ! な、何かの誤解だよ!」

たまらず、美琴は彼らに訴えかけていた。だが………

「おい、あんなこと言ってるぜ?」

「はぁ? 犯罪者が何言ってんの?」

「お前に与えられた選択は死のみ!」

「へぇー…人間とは思えない奴も、立派に命乞いだけはするんだー」

暴徒と化した彼らに説得は無駄だった。

腕を胸に添え、美琴は涙目で壁に背中をつける。

「なぁお前ら? こいつの判決は何がいいと思う?」

「死刑に決まってるだろ」

「当たり前だ。死ねよ」

「目障りだし、鬱陶しいし、死ぬ以外に道は無いだろ」

「そうだ、死ね!」

「そうだそうだ!!」

「死ね!!」

「「死ね!!」」

「「「死ーね!!」」」

「「「「死ーね!! 死ーね!!」」」」

「「「「「死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!!」」」」」

「「「「「「死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!!」」」」」」

1人が唱えると、全員もそれに倣うように叫び始めた。
狭い路地裏は、美琴に対する「死ね」コールの合唱で埋まっていった。

「「「「「「「死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!!」」」」」」」

美琴「……………………」

美琴は胸中に思う。これが、自分の結末だったのか、と。

美琴「(……そうだよね……10031人もの妹を見殺しにした私に……幸せになる権利なんて無い……そして自分で死ぬことも出来なかった私に……自分の顛末を選ぶ権利も無い………)」

「「「「「「「死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!! 死ーね!!!」」」」」」」

狂気に包まれた合唱を周囲180度から受け、美琴はもう完全に弱気になっていた。もう、能力を使うなどということすらしたくなかった。ただ今は、目前に迫った暴力・蹂躙・死をひたすら待つだけだった。

美琴「(………ごめんね、お父さん……お母さん………)」

学生たちの合唱が止んだ。
彼らは、ある者は能力発動の準備をし、ある者は手にした凶器を美琴に向けた。もう彼らを、止めることは誰にも出来なかった。

美琴「(でも……やっぱり……こんな結末なんて嫌だよ………)」

思わず、涙が零れ落ちた。

美琴「(誰か……)」

目を閉じても、涙は容赦なく流れ出た。

美琴「(誰か………)」

学生たちが一斉に美琴に向かって攻撃をしようとする。

美琴「(誰か…………)」

そんな状況を前に、最期に彼女は一言だけ、儚い願いを口にした。

美琴「助けて…………」






「御坂ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」






美琴「!!!!!!??????」

突如、その場には似合わない大声が響いた。

「な、何だ!?」

「何今の?」

「何か後ろから聞こえたような……」

寸前で攻撃を止め、たった今聞こえた声に不審を覚えた学生たちが集団の後方を振り返った。

美琴「???」

美琴もそちらに注意を向けた。だが、集団が邪魔なため後ろの方で何が起こっているのかは分からなかった。

「ぐはっ!!」

「ぐおっ!!」

「てめ……何し…ぐおっ!!」

美琴「!!??」

突然、集団の後方から、何かを殴る音と呻き声が次々と聞こえてきた。

「な、何だよ? 後ろに誰かいるのか?」

「まさかアンチスキル?」

「いや、でも俺たちはただ御坂美琴を殺そうとしてただけで……」

学生たちの動揺の声が上がる。そうこうしている間にも………

ドカッ!!

「ぎゃあ!!」

バキッ!!

「ぐえっ!!」

ズガッ!!

「ぐおっ!!」

殴打音と呻き声は続く。そればかりか、集団の人数が後ろから徐々に減っている気がする。

「……………っ」

間違いない。誰かが、学生たちを軒並み倒してこちらに近付いてきている。

美琴「一体……何が……?」

美琴がそこまで口に出した瞬間だった。



「助けに来たぞ!!! 御坂あああ!!!!!!」



再び、それでいて今度はさっきよりも大きく鮮明な声が聞こえた。

美琴「ま……さか……」

美琴は目を丸くする。
今の声は………。

「助けにき……ぐおっ!!」

美琴「!?」

声の主が呻き声を上げた。

「い、痛てぇだろうが!!」

だが、声の主は平気そうだった。

「御坂!!!!」

三度、名前を呼ばれた。

美琴「!!!!」


「助けに来たぞ!!!!!!」


声の主は、明らかに美琴に向けてそう言った。

美琴「あああ………」

信じられない、と言うように美琴は大きく口を開ける。
そうこうしている内に、学生たちの集団は半分にまで減っていた。

「俺が来たからには……ぐおっ! ……くっ……お、俺が来たからには……もう安心だ!!!」

声の主は、美琴に辿り着くためにたった1人で大勢の敵を相手に戦っている。

美琴「嘘よ………」

ドカッ!!

「ぐぎゃあ!!」

美琴「何で………」

バキッ!!

「きゃっ!!」

美琴「何であんたはいつも………」

ズガッ!!

「ぐおっ!!」

美琴「たまには……自分の身を心配したら……どうなの?」

殴られた学生たちがその場に崩れ落ち、集団はもう集団と呼べない状態にあった。
そして、学生たちの数が減っていくたび、美琴と声の主の距離は近付くのであった。

美琴「だからあんたは……不幸なのよ………」

ドカァン!!!

「ぐわああああああああ!!!!!」

最後の1人も倒れ落ち、遂にその男は美琴の目の前に現れた。
己を省みず。ただ美琴を助けるためだけに。





美琴「バカぁ………」





上条「助けに来たぜ、御坂」





笑みを見せ、その少年――上条当麻は言った。

はい、今日はこれで終わりです。
続きは今日か明日にでも。
ではまた。

えー>>1です。こんばんは。
美琴が逃亡中、上条さんのことを思い浮かべなかったのは上条さんが
登場した時の驚き度とカタルシスをなるべく効果的にしようと思っての
ことだったけど…んーどうやらちょっと失敗したかも。
じゃあ今日の分投下します。






   ―――「助けて」―――





その悲痛な言葉に答えるように、少年は少女の前に現れた。
たった1人で。自らの身も省みず。
かつて、少女が妹たちを助けるため死を覚悟した時のように。
少年はヒーローのように颯爽と現れた。





上条「助けに来たぜ、御坂」





少年――上条当麻は笑顔でそう言った。





美琴「とうまぁ………」





目に涙を溜め、少女――御坂美琴は自分を助けに来た少年の顔を見つめ返した。

上条「お前が無事で良かった……」

上条は、美琴を見て本当に安心するようにそう言った。

美琴「………グスッ」

美琴は泣きべそをかきながらも、笑顔を上条に見せる。彼女にとって人生の中で、この時ほど嬉し涙を流したことはなかった。

「おい、お前、なにもんだ?」

美琴「!!」

と、そんな少年と少女の再会の雰囲気をぶち壊すように、後ろから遠慮を知らない声が掛けられた。

上条「…………………」

「そいつを庇うとか、正気なのか?」

美琴を追ってきた学生たちの1人だった。上条が何人かの学生を殴り倒したとはいえ、その場にはまだ10人以上の学生たちが残っていたのだ。

「何とか言えよ!!」

じりじりと、学生たちが詰め寄る。

上条「………っせぇよ」

「ああ!?」

僅かに振り向き、上条は言った。

上条「お前ら、こんな大勢で1人の女の子追い掛け回して殺そうとして……恥ずかしくないのかよ?」

美琴「………と、当麻……」

上条「最低だな」

「!!!!!!!!」ブチッ

上条の言葉に、正面の中央に立っていた学生がぶち切れた。

「いいぜ!! なら今すぐ2人仲良く死ね!!! 俺はレベル4の発火能力者(パイロキネシスト)なんだよ!!!! 燃え尽きちまえ!!!!!」



ゴオオオオオオオオオッ!!!!!!!!



美琴「!!!!!!!!」

ただでさえ暗い深夜の路地裏が一瞬、昼間になったかのようにオレンジ色に照らされた。

「汚物は消毒だー、ってな!!! ぎゃっはっはっは!!!!」



ボオオオオオオオオ!!!!!!



莫大な量の炎の直撃を受けた2人は一瞬で消し炭になった
………はずだった。

「なにぃっ!?」

上条「…………………」

だが、2人は無事だった。
そこには、美琴を庇うようにして、上条が右手を前に突き出し立っている姿があったのだ。

「ば、バカな……何で!?」

ザワザワと、学生たちの間に動揺が走る。

上条「…………」チラッ
上条「……こっちだ!!」


ガシッ!!


美琴「え!?」

美琴の右手を掴むと、上条は右サイドの細道に向かって走り出していた。

「あっ!!!」

一瞬の隙をつき、上条は美琴を連れて逃げ出す。

「ま、待て!!!」

後ろで2人を呼び止める声が響く。

上条「どけ!! お前ら!!!」

上条は、行く手の道に待ち伏せる学生たちに向かって叫ぶ。

上条「邪魔だ!!!」

「ひっ!!」

「きゃあ!!」

威嚇するように上条は右手を振り上げる。つい今しがた、レベル4の大能力者の攻撃を消滅させた彼の姿を見ていたためか、学生たちは上条に怯えるように進路を開けた。

上条「怪我したくなかったら、素直に通せ!!!」

啖呵を切り、上条は美琴の手を引いて路地裏を駆け抜ける。

美琴「…………………」

そんな上条の背中を、美琴は呆然としたまま見つめていた。
そうこうしている間に、2人は無事、その場から逃げ出すことに成功した。

上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

美琴「………ね、ねぇ……」

逃げ出した路地裏からどれくらい走っただろうか。

上条「ゼェ……ハッ……」

美琴「ねぇってば!」

後ろを振り返った美琴は、自分の手を引いて走る上条に向かって叫んでいた。

美琴「ちょっと!!」

上条「何だ? 何か言ったか?」

美琴の呼びかけにようやく上条が気付いた。

美琴「と、止まってよ!!」

上条「え? どうして?」

美琴「追っ手はもういないわよ!」

上条「マ、マジで?」

一度振り返り、誰も追いかけてきていないのを確認すると、上条はやがてゆっくりと立ち止まった。

上条「ハァ……よく走ったー」

両膝に手をつき、中腰の姿勢で上条は息を切らす。

美琴「……あんた…マラソン選手じゃないんだから……」

上条「いや……ハァ……自分でも……ゼェ……そう……ハァ……思う……ゼェ……マジで」

美琴「……まったく……」

上条「……っと、そうじゃなかった。ここはどこだ?」

体勢を起こし、上条は辺りを見回す。

美琴「分からないわ。ただ、街から少し離れてるわね。倉庫がたくさんあるけど……」

周囲に目を向けてみると、大小様々な倉庫が暗闇の中並んでいた。

上条「良かった」

美琴「まあ人がいなさそうなのは良いけど」

上条「ちげぇよ」

美琴「え?」

上条は美琴の方を向いた。

上条「お前が無事で良かったって言ったんだ」

美琴「!!!」

真顔で上条はそう言った。

上条「今まで大変だったろ?」

美琴「………うん」

思わず美琴は目を逸らす。

美琴「…………………」

確かに、彼女はこの2日間のことを冷静に思い返してみると、今にも心が壊れてしまいそうなぐらいだった。

上条「色々あったろ……」

上条は美琴の姿を見やる。
靴も靴下も履いていないためか、彼女の素足は汚れており、足の甲の部分だけでもいくつかの擦り傷などが見てとれた。
着ているものも薄汚れたキャラクターもののパジャマだけで、おまけに左肩部分が破けて肌が露出していた。

上条「…………………」

その視線に気付いたのか、美琴は咄嗟に左肩を右手で覆った。

美琴「…………っ」

心なしか、顔を背けた彼女の表情は何かを耐えているようだった。
気の強い彼女のことである。あまり弱気な自分の姿を見られたくなかったのかもしれない。

上条「………………」

上条はそんな彼女に慰めの言葉でも掛けようとしたが、直前に遮られた。

美琴「…………何しに来たの?」

上条「え?」

美琴「…………こんな所まで何しに来たのか、って聞いてるの」

視線を合わせようとしないが、美琴の声はどこか怒っている。

上条「……言ったろ? お前を助けにきたんだ、って」

美琴「………確かに、さっき助けてくれたことはとても感謝してる。でも………」

上条「?」

美琴「………どうせあんたも私を殺そうとしてるんでしょ?」

ギロリ、と美琴は鋭くさせた視線だけ上条に寄越した。

上条「!」

美琴「別に隠さなくてもいいわよ? 今更そんなことで驚かないから」

上条「おい待て、お前何言って……」

美琴「別に、殺るならさっさと殺っちゃえばいいじゃない。どうせあんたには能力なんて効かないんだし。そもそも私、抵抗する気なんてないし」

上条「御坂……」

突き放すように言う美琴。彼女の声は僅かに震えていた。
彼女にどんなことがあったのか、上条には詳しくは分からない。だが、かなり精神的にもハードな2日間であったことは今の彼女の様子を見るに、大体予測がついた。

美琴「それとも……こんな人気の無い所まで連れてきたんだから、エッチなことでも考えてるのかしら?」

上条「おい、ちょっと待てお前」

美琴「別にやりたいようにやれば? 煮るなり焼くなりどうぞ。どうせ私は自分でも死ねない人間なんだから、誰か他の人が殺してくれるなら丁度いいわ。あんたに引導渡してもらえるなら本望よ」

自棄になっているのか、美琴はトゲトゲとした口調で言う。

上条「待て。何勘違いしてんだよ? 何度も言うけど、俺はお前を助けにきたんだ。殺しにきたわけじゃない」

美琴「どうだか? 隙を見て殺そうとしてるんでしょ? だったら早くやりなさいよ、イライラすんわね」

上条「お前………」

美琴「………っ」

同情するような上条の目を見て、美琴は視線を逸らす。

上条「御坂………」

そんな美琴に、思わず上条は手を伸ばそうとした。



美琴「触らないでよ!!!」



上条「!!!!!」

しかし、美琴はそんな上条の手を振り払った。

美琴「黒子も……佐天さんも……初春さんも……みんな、私を見て怯えて、慄いて、憎んで、恐怖して、悲鳴を上げて、敵意向けて、殺そうとしてきて……。他の学生たちも私の顔を見るなり同じような反応して……アンチスキルには攻撃されて、学園都市全域で指名手配されて………」

上条「…………………」

美琴「私には何の身に覚えも無いのに、みんな私を犯罪者を見るような目で見てきて……。子供は私を怖がって、男たちは私を殺すか、レイプすることしか考えてなかった……っ! みんな……みんな私を汚物みたいに扱って……」

目に涙を溜め、美琴は話を続ける。それを上条はただ黙って聞いている。

美琴「だから……おかしいのよ!! みんな私を殺そうとしてるのに……誰1人、私を助けようとした人間なんていなかったのに……何で! 何であんたはいつも通りの反応してるのよ!!!」

上条「!」

美琴が上条の胸板を叩いた。

美琴「………そんな状況で、あんた1人が、何でもなさそうにしてるなんて、おかしいに決まってるじゃない!!」

胸板を叩きながら、美琴は涙目で上条の顔を見上げる。

上条「…………………」

美琴「……もうやめてよ……偽善の優しさをかけるのは……」

両手で顔を覆うようにして、美琴は嗚咽を始めた。

美琴「………もう……誰も……信じられない……信じたくでも……自分さえ……」

それ以上何も発することなく、美琴はただ泣いていた。

上条「…………………」

美琴「……グスッ……ヒグッ………」

上条「……俺は………」

そんな彼女を見て、1つタメを置くと、上条はゆっくりと口を開いた。

上条「お前がこの2日間……どんな目に遭ったのか知らない……」

美琴「……ヒグッ……グスッ……グスッ」

上条「今のお前の気持ちも、きっと俺には計り知れないものだと思う……」

美琴「……グスッ……ヒグッ……グスン」

上条「誰も信じられなくなるのも、仕方ないんだと思う……」

美琴「………グスッ……クスングスン」




上条「だけど俺には“この右手”がある」




美琴「!!!!」

美琴は咄嗟に顔を上げた。

上条「……この右手……『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は、異能の力ならどんなものでも打ち消す。それは、俺自身が置かれている状況でも関係ない」

美琴「………………」

美琴は涙を流しながら、上条の顔を見つめる。

上条「例えば、今みたいに御坂の身に突然理解不能なことが起こっても、だ」

美琴「!!」
美琴「………じゃ、じゃあ……これは……何かの超能力の仕業なの?」

上条「いや、超能力じゃない」

美琴「?」

上条の言葉に美琴は首を少し傾げる。

上条「だが、超能力と同じく、異能の力が原因であるのは確かなんだ」

美琴「…………異能の力?」

美琴は不思議そうな顔をする。

上条「ああ。俺も、その異能の力に通じているプロたちが知らせてくれたから、お前に今何が起こっているのか気付くことが出来た」

美琴「………………」

上条「彼らが言うには、その異能の力がこのおかしな状況を作り出しているらしいんだ。だけど、原因がその異能の力だったこそ、俺はこの右手のお陰で他の連中みたいにならなくて済んだんだ」

美琴「………じゃあ、あんたは……その右手があったから、他の人たちとは違って……いつも通り私に接触出来てるってこと?」

上条「そうだ」

きっぱりと上条は言った。

美琴「………そんな………」

信じられない、というように美琴は呟く。

上条「………俺も、詳しいことは分からないし、正直この状況に戸惑ってる。だけど御坂、この右手のおかげで普段通りでいられるのは確かなんだ」

美琴「………………」

上条「他に助っ人はいないし、俺もお前を放っておけない。だから御坂、信じてくれ」

美琴「…………………」

上条「俺だけは、絶対にお前を裏切らない。約束だ。だから、俺を信じてほしい」

美琴に視線を合わせ、上条は迷い無く言う。

美琴「…………………」

呆然と上条の顔を見返す美琴。

上条「…………………」

美琴「……………バカよ……」

ボソッ、と美琴は一言発した。

美琴「……………あんた……大バカよ……」

上条「……………………」

美琴「私なんて……放っておけば……こんな変なことに巻き込まれなくて済むのに……」

上条「……………………」

美琴「………自分から……首を突っ込んでくるんだもん………ホント……大バカよ」

上条「バカでも結構だ。俺は、それでもお前を見捨てたくなかったから……」

美琴「………っ」

刹那、美琴の顔が歪んだ。そして、次の瞬間には、彼女は上条に抱きつくようにして大泣きしていた。



美琴「わああああああああああん!!!!!! バカ!! バカ!! バカ当麻あああああ!!!!!!」



キョトンとしていた上条も、自分の胸の中で泣く美琴を見て、一瞬淡い笑みを浮かべると、彼女を抱き締めつつその頭を撫でてやった。
その後もしばらく、美琴は上条の胸の中で優しく抱かれながら泣き続けていた。

取り敢えず今日はここまで。
書き溜めは…まだ多分大丈夫そうだけど、次
今日か明日には来れます。
ではまた。

>>378
そのスレkwwsk

>>378
やめろくださいお願いします・・・

>>379>>380
上条「不幸だ………」


俺のトラウマ
美琴「た、たまには紐パンでも履いてみようかしら」
に続くところ的なことを書いている周辺コワイ





    

                _∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
     デケデケ      |                         |

        ドコドコ   < >>1まだーーーーーーーー!!? >
   ☆      ドムドム |_ _  _ _ _ _ _ _ _ _|
        ☆   ダダダダ! ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
  ドシャーン!  ヽ         オラオラッ!!    ♪
         =≡= ∧_∧     ☆

      ♪   / 〃(・∀・ #)    / シャンシャン
    ♪   〆  ┌\と\と.ヾ∈≡∋ゞ
         ||  γ ⌒ヽヽコ ノ  ||
         || ΣΣ  .|:::|∪〓  ||   ♪
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\
         ドチドチ!

スコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココ
スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココバシッスコバドト _∧_∧_∧_∧_∧_∧_

スコココバシッスコバドドト从 `ヾ/゛/'  "\' /".    |                    |
スコココバシッスコハ≡≪≡ゞシ彡 ∧_∧ 〃ミ≡从≡=< >>1まだーーー!!!!!  >
スットコドッコイスコココ'=巛≡从ミ.(・∀・# )彡/ノ≡》〉≡.|_ _  _ _ _ _ ___|
ドッコイショドスドスドス=!|l|》リnl⌒!I⌒I⌒I⌒Iツ从=≡|l≫,゙   ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
スコココバシッスコバドト《l|!|!l!'~'⌒^⌒(⌒)⌒^~~~ヾ!|l!|l;"スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ

スコココバシッスコバドドl|l|(( (〇) ))(( (〇) ))|l|》;スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドド`へヾ―-―    ―-― .へヾスコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ

1日あけてごめん。
>>1です。戻りました。
取り敢えず早速投下いきます。

上条「取り敢えず今夜はここで過ごそう」

美琴「………うん」

泣き疲れた美琴の背中を優しく押し、中に誘導する上条。

美琴「…………………」

美琴が泣き止んでからしばらくして、上条たちは、長い間人が使った形跡の無い、手近の倉庫の中に潜り込んだ。
中を見回してみると、小さな一軒屋ぐらいの広さがあり、2人は奥にあった木材の側に座り込むことにした。

上条「………現在時刻は夜の0時近くか。よし……」

腕時計を確認すると、上条は立ち上がった。

美琴「?」

上条「ちょっとここで待ってろ。街まで行ってご飯とか絆創膏とか買ってきてやる。この時間ならコンビニもまだやってるだろうし……」

美琴にそう告げると、上条はその場を立ち去ろうとした。


ハシッ


上条「!」

と、入口に向かおうとした上条だったが、突然少し後ろに引っ張られる感覚があった。

上条「…………どうした?」

振り返ると、美琴が泣きそうな顔で上条の左腕の裾を掴んでいた。





美琴「…………行かないで」





小さな声で、美琴は言った。

上条「…………御坂」





美琴「…………私を……1人にしないで……」





上条「…………でも、お前この2日間ろくに何も食ってないんだろ? 足も怪我してるし……」

が、美琴は更に裾を強く掴んで上条を見つめた。

美琴「…………お願い」

上条「…………………」

美琴「…………………」

美琴は強く懇願する。その姿はまるで、レベル5の超能力者とは思えないほど、そして歳相応の女の子の顔だった。
無理も無かった。ようやく自分の味方である上条が現れたのだ。もしまた、何らかの不測の事態が起こって上条と離れ離れになることを考えると、美琴は彼を止めずにはいられなかった。

上条「………………」フッ



パサッ



美琴「え?」

突然、美琴の背中を、優しくて温かい感触が包んだ。気付くと、彼女の背中には上条が着ていた上着が掛けられていた。

上条「それ着てな。パジャマのままだと寒いだろうし」

美琴「これ……あんたの上着……」

上条「ああ。それ、実は父さんのお下がりでさ。何でも外国で買ってきたもんで、これ着てるだけで不幸が逃げるんだと」

美琴「…………へぇ…」

上条「ま、実際はそんな効果あるのかどうか胡散臭いし、譲ってもらってからも別に不幸じゃなくなったわけでもないけど、父さんからもらった時は嬉しくてさ。だからお気に入りでよく着用してたんだ」

美琴「………そうなんだ」

上条「だからさ、それ、俺にとったら宝物みたいなもんだから。そう簡単に手放したくないんだ。だから、ちょっと俺が街に行ってる間、預かっといてくれよ」

美琴「…………………」

美琴は上条の顔を見つめる。上条はそんな彼女にウインクを返してみた。

上条「な?」

実際は、上条は記憶喪失なため、その上着を父親から譲り受けた時の記憶はない。今の話は全て、記憶喪失後に会った父から口頭で聞かされた話であった。だが、その話を聞いた時、上条が嬉しく思ったのは事実であるし、またそれがお気に入りの上着であることは嘘ではなかった。

美琴「……………ふふ」

上条「?」

美琴「……………あんたにもそういうエピソードあるんだ」

口元に手を添え、美琴は笑みを零した。

上条「当ったり前だろ?」

美琴「………分かった。ちゃんと大人しくここで待ってる」

美琴は上条を見上げる。

美琴「その代わり、出来るだけ早く戻ってくるのよ?」

上条「へいへい、分かりましたよ美琴お嬢さま」

美琴「へいじゃなくてはい」

上条「はいはい」

美琴「もーう」

上条「………フッ」

美琴「………クスッ」

2人は、笑みを浮かべ合った。

上条「じゃ、行ってくるから。待っててくれ」

美琴「はーい」

それだけ言い、上条は倉庫を出て行った。

美琴「………………」

扉が閉められるまで、上条の姿を目で追っていた美琴。彼が出て行ったのを確認すると、背中に掛けられた上着を深く背負い直し、その温もりに身を浸らせた。

美琴「………暖かい……」

久しぶりに感じた人の熱はとても心地良かった。

1時間もしないうちに、上条は戻ってきていた。両手にコンビニの袋を提げながら。

上条「ほら、買ってきたぞ色々と。ご飯は何を食べる?」

床に腰掛けると、上条はコンビニ袋の口を広げた。

上条「取り敢えずこの弁当は温かいうちに食え」

上条は、温められたばかりのコンビニ弁当とペットボトルの緑茶を美琴に渡す。他にも袋の中にはパンやお菓子などがあったが、上条自身は小さなおにぎりを選ぶことにした。

美琴「…………ありがとう」

礼を言うと、空腹感に勝てなかったのか、美琴は早速コンビニ弁当を食べ始めた。

上条「飯食ったら怪我してるとこ、消毒して絆創膏貼ってやる。だけど今はゆっくり食べな」

美琴「…………うん」

お嬢さまらしい作法で食べてはいるが、よっぽどお腹が空いていたのか、どこかがっついている感があった。上条はそんな彼女を見て口元を緩めると、自身もおにぎりをモグモグと食べ始めた。

上条「さっきさ、コンビニ行った時、近くに洋服店見かけたんだ」

美琴「うん?」

上条「今はもう閉まってたけど、明日、朝になったら行って服買ってきてやるよ。さすがにパジャマだけでは動けないだろ?」

美琴「……お金はどうするの?」

上条「街でお前を探してる間に口座から下ろせるだけ下ろしておいた。つっても、元々預けてた金額も大したもんじゃないから、あまり期待は出来ないけどよ」

美琴「………そっか、ありがとう」

2人は今、小さな蝋燭の灯りを頼りにお互いの顔を視認している。蝋燭は上条が倉庫で見つけたものを、美琴が火花を散らして火をつけたものだった。
小さな灯りだったが、今の美琴には、上条の顔を見れるだけで十分ありがたかったし、そして何よりとても安心だった。

上条「とにかく今は食え」

美琴「うん……」

2人の顔を、蝋燭の淡い灯りがユラユラと照らしていた。

その頃・イギリス――。

片田舎にある、とある死んだ魔術師が住んでいたアジト。
そこで、インデックスたち『必要悪の教会(ネセサリウス)』のメンバーは今も捜査を続けていた。

インデックス「やっぱり、魔術を消す方法は無いんだよ……」

暗い顔で、インデックスがそう言った。そんな彼女を見て、共に捜査していたステイルたちは無言になった。
彼らは今、アジトの前に止めてあった、死んだ魔術師の車の前に集合していた。

神裂「どうやら、そっちの方面については諦めたほうが得策のようですね……」

顔を曇らせ神裂が言う。

ステイル「元々僕らは、国内の多くの魔術結社が不穏な動きを察知して地域毎に手分けして捜査することになったんだ。結局、僕たちのグループは小物を掴まされた形になったが……」

神裂「その小物というのが厄介でしたね」

ステイル「ああ。どちらにしろ、死んだ魔術師についてはまだ調べる必要がある。国内の大手の魔術結社と繋がってる可能性も無いとも言えないからね。ま、ここまで捜査して有力な手掛かりが見つかっていない以上、その線は低いとは思うが」

神裂「とにかく、あの魔術師が何故、件の少女を狙ったのか。その理由だけでも知っておかないと、気が気でなりません」

神裂の言葉に頷くと、ステイルは車体に背中を預けている土御門の方を向いた。

ステイル「で、あいつはどうだ?」

土御門「どうと言われてもな。ここ数時間、まるっきり連絡が無い」

土御門は肩をすくめる。

土御門「そもそもカミやんは今、携帯電話を修理に出してるんだ。だから迅速に連絡を取れる手段が無い。一応こちらの連絡先を何個か教えておいたが、公衆電話ぐらいでしか連絡を取れない現状だと、リアルタイムの情報を得られないことになるな」

ステイル「チッ、煩わしい」

神裂「ともかく、彼と繋がりがない以上、今我々に出来ることは限られてきます」

ステイル「ああ、どうやってあいつとその少女を助け出すか、だね」

煙草の煙を吐きつつ、ステイルは確認する。

神裂「この魔術はその性質から『世界最凶』と称されるものです。世界を滅ぼすようなものでなくても、困ってる誰かがいる以上、放ってはおけません」

インデックス「うん、その通りなんだよ……」

相変わらずインデックスは暗い顔で言った。
その場にいる4人の間に、軽い絶望感が漂っているのは気のせいではなかった。

土御門「(………カミやん、もう頼れるのはカミやんしかいないぜよ……)」

上条「単刀直入に言う。御坂、今お前の身に起こっているそれは、とある『魔術』が引き起こしてるんだ」

美琴「……まじゅつ?」

学園都市。取り敢えずの食事と傷の応急処置を終えて、上条は美琴に現在起こっていることについて話すことにした。
上条が口に出した「魔術」という単語。美琴はその言葉にキョトンとする。

上条「………あまり驚かないんだな」

美琴の反応を見て上条は少し不思議そうな顔をした。

美琴「………うん、何だろ? さっき既にあんたから、これは超能力とはまた違った異能の力が原因って聞かされてたから……。それに私実はさ、ロシアに行った時、それっぽいの見てるんだ」

上条「そうだったのか……」

美琴「そりゃ『魔術』だなんていきなり言われても何のことかサッパリ分からないし、そんな知識も無いけど……現状が現状だから。信じるしかないじゃない?」

上条「………………」

平静を装っているが、美琴の表情はどこか辛そうだった。自分には理解不能な現象が自らの身に降りかかっていると聞かされれば、当然のことと言えた。

美琴「……それで、その『魔術』とやらはいつ効果が消えるの?」

上条「…………っ」

多少期待を込めた表情で美琴は訊ねる。上条はそんな彼女の顔を見て思わず目を逸らしてしまう。

美琴「? どうしたの?」

だが、このまま黙っているわけにはいかなかった。

上条「ごめん御坂……」

美琴「え?」

上条「効果は消えない」

美琴「……………え」

1度、躊躇いを見せたが上条は言い切った。

上条「もう、元の状況には戻らない。ずっと、お前はこのままなんだ……っ」

美琴「……………………」

上条の言葉を耳にし、美琴は1秒前の表情のまま、口を閉じた。

上条「……………………」

身体をワナワナと震わせる上条。美琴はそんな彼から視線を外し、静かに呟いた。

美琴「…………そっか」

上条「………?」

美琴「はは、そうなんだ……」

だが、彼女は大してショックを受けたような感じではなかった。ただし、あくまで表面上はだが。

美琴「へー………」

上条は素っ気無い反応を見せた美琴に顔を向ける。横顔になった彼女の瞳が、僅かにだが潤んでいた。

上条「…………っ」

瞬間、上条は叫んでいた。




上条「ごめん!!」




美琴「え?」

上条「ごめん御坂!!」

美琴「? ……どうしてあんたが謝るの?」

頭を下げる上条を見て美琴は不思議がる。

上条「だってっ……! 俺、何も出来なかったから……」

美琴「ちょっと待って……。別にあんたのせいじゃないんでしょ?」

上条「そうだけど……でも俺、御坂が逃げ回ってる間、御坂に何が起こっているのか気付くことも出来ずにいた……。インデックスや土御門が教えてくれたから気付けたけど……あいつらから電話がなかったら、御坂のこと知らないままだった……」

美琴「……そんなの…あんたに関係ないじゃない……」

上条「この右手があるのに……お前を元の状態に戻すことも出来ない……。何が『幻想殺し(イマジンブレイカー)』だよって思うんだ」

悔しそうに上条は言う。

美琴「やめてよ……」

上条「お前1人助けられないなら、いっそのことこんな右手いらないって……」




美琴「やめて!!!」




上条「!!!!」

上条が顔を上げる。

美琴「やめてよ……。あんたのせいじゃない……」

上条「でも……」

美琴「違う! あんたのせいじゃない。むしろ、私あんたに感謝してる」

上条「御坂……」

美琴「お願い。自分を責めるのはやめて」

美琴は上条を見つめる。

上条「…………分かった。ごめん取り乱して。悪かった……」

美琴「いいの。だから、私に何が起こったのか。それだけ教えてほしい」

蝋燭の寂しげな灯りを間にして、2人は面しあう。

上条「後悔……しないか?」

美琴「……本当は……怖いけど……」

上条「そっか」

美琴「…………うん」

複雑な表情を浮かべた美琴を見、上条は1拍置くと続きを話し始めた。

終わり。
今日は夜にでも来れるかも。
じゃあまた。

>>1です。こんばんはー。今から投下いきます。
ぶっちゃけ魔術については簡単に
考えたものなので矛盾についてはご勘弁を。

美琴の身に今降りかかっている凶事とその発端である、とある魔術。それを説明すべく、上条は続きを話し始めた。

上条「俺も詳しいことは分からないし、イギリスでいち早くお前に発動された魔術の存在に気付いた奴らも大したことは分かっていない。だが、これだけは確かだ。お前を対象に発動された魔術。その名前は……」

美琴「………………」




上条「『  孤  絶  術  式  』」




美琴「こぜつ……じゅつしき?」

美琴は眉をひそめる。初めて聞いた言葉だったが、耳にする限りあまり良い印象は受けなかった。

上条「インデックスって知ってるだろ?」

美琴「ああ……シスターのあの子」

上条「実はあいつも魔術のエキスパートでさ、古今東西様々な魔術の知識があいつの頭の中に入ってる」

美琴「そうだったんだ……。すごいね。全然知らなかった……」

普通ならその衝撃の事実に驚いてもいいはずだが、状況が状況だけに美琴はそうはならなかった。

上条「まあ、インデックスのことはまた別の機会に話すけど、とにかくそのインデックスが言うには、今お前を対象に発動されている魔術の名は『孤絶術式』であることは間違いないらしい」

美琴「…………『孤絶術式』ね」

美琴は自分で確かめるようにその名を反芻する。

上条「肝心なその中身だが……インデックスが言うには、この魔術は、任意の人物を1人だけ、まるで別世界に迷い込んだように今までの人間関係を全て破壊してしまうんだ」

美琴「…………………」

上条「家族、友人といった間柄をな。そして『弧絶術式』の発動を受けた対象の人物は、周りの人間からまるで史上最悪の残虐非道な犯罪を犯した凶悪犯のように見られてしまうというわけだ」

美琴「………へぇ」

美琴は上条の説明に対して、さっきからあまり大した反応を見せていない。だがそれは、負けず嫌いな彼女なりの現状に対する小さな抵抗だったのかもしれない。普通だったら誰であれ、上条の話を聞けば、泣き出すだけでは済まないはずである。

上条「インデックスたちがイギリスで調査した結果、その発動範囲はこの学園都市全域であることが分かった」

美琴「……この学園都市全域……」

上条「ああ。単刀直入に言う。御坂……現在、この学園都市にお前の味方は誰一人いない」

美琴「…………、」

上条「俺を除いてな」

美琴「…………………」

上条「お前は……この学園都市にいる限り、幸せにはなれない。たとえレベル5の超能力者だったとしても、ここにいる以上お前に待ち受けているのは、“最悪な結末”だけだ」

はっきりと、上条は言った。

美琴「…………………」

美琴はただ、顔を背けて無表情で黙っているだけだった。
そんな彼女の様子に、一瞬目を伏せた上条は声を掛けようとする。

上条「みさ……」

美琴「あのさ!」

上条「!」

が、その前に遮られてしまった。

上条「な、何だ?」

美琴「うん、あんたの説明のお陰で私に何が起こってるのか大体理解した。でー……その魔術とやらは解決する方法とか無いの?」

明るく努めて美琴は訊ねる。まるで自分はほとんどショックなど受けていないと言いたげに。
本音なら、上条はもうこれ以上、彼女が絶望を味わうような事実は教えたくなかった。だが、隠したところで逆に彼女を苦しめることになるかもしれない。よって、上条は知っている限りのことは全て教えようと判断した。

上条「………魔術にも色々あってな。絶対に解く方法が無いってわけでもない」

美琴「そ、そうなんだ」

僅かに美琴の顔に期待の色が浮かんだ。

上条「だけど今回だけは無理なんだ」

美琴「…………え?」

一瞬、美琴の顔が曇った。

上条「この『弧絶術式』は数ある魔術の中でもかなり特殊なものでな……解除方法が無いんだよ」

美琴「……………え」

上条「『弧絶術式』は術者が自らの身体に術式を描き、自らの体内にあるエネルギーを使って精製される。聞いた限りだと、何のことはない普通の魔術に見えるけど……実は、長い歴史の中でこの魔術を使う人間はほとんどいなかったんだよ」

美琴「………何で?」

呆然とした表情のまま、美琴は無意識に訊ねる。

上条「この魔術の発動条件には、術者本人の『死』が必要不可欠だからだ」

美琴「?」

そう言われても美琴には何が何だか分からない。

上条「つまり、自らの身体に術式を描いて莫大なエネルギーを体内から直接得るため、術者本人はその発動時における桁外れのパワーで死んじまうんだよ」

美琴「………………」

上条「発動された以上、術者本人が死んじまうんだから、術者が魔術を止めることは当然出来ない。そんなリスクがあるのに、発動される魔術の効果は、人間1人殺すことも不可能。せいぜい対象の人物の人間関係を『最悪』という形で破壊させるだけ。……まあそれでも、その人物にとったら冗談で済まないんだがな……。そんな性質からか、この『弧絶術式』は別名として『自殺術式』とも呼ばれてるんだ」

静かに、上条は説明し終えた。

美琴「…………………」

美琴は何も返さない。ただ、無言でいるだけだ。
上条は彼女の顔を直視出来なかったため俯いていたが、その沈黙は彼にとって耐え切れられるものではなかった。

上条「……………っ」

美琴「……で、でもさ」

と、そこで美琴は再び上条に訊ねてきた。

上条「……ん?」

美琴「ほ、ほら、あんたにはそれがあるじゃない」

美琴が指差した先には、上条の右手があった。

美琴「その……あんたの右手は異能の力なら何でも打ち消しちゃうんでしょ? 現に、あんただけ私を見ても普段通りでいられるんだし」

上条「…………ああ」

美琴「………だったら…あんたがイギリス…だっけ? そこまで行って術者の死体に描かれてる術式に触れればいいんじゃない?」

魔術のことは知らないとはいえ、美琴は飲み込みが早かった。それか、上条の説明の節々から、少しでも解決策を見つけようとしていたのかもしれない。

美琴「……いえ、そんなことしなくても、時間掛かってでも学園都市の住人の頭とか身体とか触ってったら、何となるんじゃない?」



上条「無理だ」



美琴「!!!!!!」

少しきつい言い方になると思ったが、美琴の目を見据えて上条は断言した。

美琴「…………っ」

上条「『弧絶術式』は大元を何とかしない限り解くことは出来ない。大元、ってのはつまり術者本人か術式のこと」

美琴「だ、だからさ、その死んだ術者の身体に描かれた術式にあんたが右手で触れれば……」

上条「術式は消えてる」

美琴「え?」

上条「術者が死んだと同時、術式は消滅してるんだ……」

どこか辛そうな表情を見せ上条は言う。

上条「『弧絶術式』は発動と共に術者が死んで術式が消える。発動されれば永遠にその効果は消えない。だから術者はもう、ただの死体になってるだけで、仮に俺がイギリスまで行ってその死体に右手で触れたところで何も変わらない。……そう……変わらないんだよ………」

ググッと握った右拳を震わせる上条。
自分の無力さを噛み締めているのか、彼はどこか悔しそうだった。

美琴「…………………」

美琴は悟る。今、目の前にいる少年は、本当に自分を助けようとしていたことを。そしてそのためなら、何でもする覚悟であったろうことも。
だが、彼の自慢の右手でも、今美琴を苦しめている原因を取り除くことは出来なかった。それが、強い信念を持つ彼にとってどれだけ耐えられないことか。美琴には痛すぎるほど分かっていた。

上条「ごめん……御坂……」

美琴「…………………」

それでも彼は嫌になって諦めたりもせず、自らの身を危険に晒してでもここまで来てくれた。ただ、美琴を助けるために。それだけのために。学園都市という巨大な街を敵に回してでも。

上条「ごめんな……」

そう呟く上条の右手はまだ震えていた。
そんな彼を見ると、美琴はこれ以上、彼の口から謝罪の言葉なんて聞きたくなかった。言わせたくなかった。

美琴「…………………」スッ…

上条「!」

だから美琴は、そんな上条の右手にそっと自分の左手を置いた。
同時、彼の右手の震えが止まった。

上条「御坂………」

上条が顔を上げる。そこには、蝋燭の淡い灯りで照らされた美琴の優しい顔があった。

美琴「ありがとう……」

上条「………え?」

美琴「私、とても嬉しいの。あんたがそこまでして助けにきてくれたことが……」

上条「でも俺は……」

美琴は首を横に振る。

美琴「十分だから。ここまで助けにきてくれたことだけで十分だから……。だから、もう自分を責めないで……お願い……」

本当ならとても泣きたいはずなのに、それどころか美琴はただ、微笑み、上条の怒りを、悔しさを癒そうとしている。

上条「………御坂………」

美琴「ありがとう、当麻」

ニコッと美琴は微笑む。

上条「………………」

その微笑みを見て上条は思う。もう自分を責めるのはやめようと。そして彼女を助けるために全力を注ごうと。

美琴「………でもね」

上条「………ん?」

と、そんな上条に美琴は頼んでいた。

美琴「1つだけ、お願いがあるの……」

暗く、がらんどうな倉庫を、1つの小さな蝋燭の火が寂しげに照らす。
そんな中、上条は蝋燭が揺れる様をずっと眺めていた。自分の左肩に、美琴の頭を乗せながら。

上条「…………………」

上条は横目で美琴を見る。彼女は今、静かな寝息を立てて心地良さそうに眠っていた。

上条「(御坂………)」

上条から全ての事情を聞き終え、美琴が彼に求めた願いはたった1つ。今日は離れずに、一緒に眠ってほしいということだった。
何故そんなことを頼んできたのか。美琴は理由を述べなかったし、上条もまた聞こうとしなかった。上条はただ、「分かった」と言って彼女の願いを聞き入れてあげた。

美琴「スー……スー……」

歳相応の寝顔を浮かべながら、美琴は上条に身体を預け寝息を立てている。
この2日間、ろくに寝ていなかったのかもしれない。上条の肩という絶対安全・絶対安心な枕を見つけて、彼女はすやすやと熟睡していた。

上条「…………………」

そんな彼女を見て上条は思う。自分はもう、戻れないところまで来てしまったのだと。
彼女を助けようと決心した限り、上条は学園都市を敵に回すことになる。そしてもう彼女を1人ぼっちにすることも出来ない。否、初めから見捨てる気など更々無かったが、どの道この状況は上条にとっても軽いものではなかった。何せ、今まで住んできた学園都市と決別しなければならないのだから。

上条「(覚悟、決める時だな)」

もう、寮には戻れない。学校にも戻れない。美琴と共に逃げる以上、親友や教師たちとも二度と会えないだろう。記憶を1度失っているとはいえ、今まで築いてきたものを捨てるのは上条にとっても勇気のいることだったが、美琴のことを思うと、それも1つの選択と言えた。

上条「(この先どうなるかは正直分からない。だが……)」

上条は美琴の寝顔を見る。

上条「(安心しろ御坂。俺が側についている以上、絶対にお前を死なせない)」

彼は、固く決心する。

美琴「……ん……当麻……」

上条「!」

寝言だった。

美琴「あり……がと……う……」

上条「……………………」

上条は改めて心に誓う。彼女を絶対に死なせはしないと。命に代えてでも、彼女を絶対に守ってみせると。

今日はこれで終わり。
最近投下が少なくて進むの遅くてごめん。
取り敢えずまだまだストックは残ってるけど、猛烈に
書き溜めしてるとこです。
ではまた明日。

スコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココ
スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココバシッスコバドト _∧_∧_∧_∧_∧_∧_

スコココバシッスコバドドト从 `ヾ/゛/'  "\' /".    |                    |
スコココバシッスコハ≡≪≡ゞシ彡 ∧_∧ 〃ミ≡从≡=< >>1まだーーー!!!!!  >
スットコドッコイスコココ'=巛≡从ミ.(・∀・# )彡/ノ≡》〉≡.|_ _  _ _ _ _ ___|
ドッコイショドスドスドス=!|l|》リnl⌒!I⌒I⌒I⌒Iツ从=≡|l≫,゙   ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
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>>1です。
ごめんね、昨日来れなくてごめんね。
これからイチャイチャシーンも出てくるし、ラブコメの王道パターンもたくさん
用意してるから許してね(´・ω・`)

そういうことで今日、いつもより多いですが投下始めます。

翌朝――。

朝日が街を照らし始めた頃、上条と美琴の2人は目を覚まし、いつもより早い朝食を摂っていた。
朝食、と言っても昨晩コンビニで買ってきたパンと紙パックのジュースだったが。

美琴「ごちそうさま」

上条「おう」

美琴「だいぶ、元気も回復したわ。ご飯と睡眠のお陰かな?」

確かに、美琴の声は昨日よりどこか、はつらつとしていた。ご飯と睡眠のお陰、と言うよりもやはり上条の存在が大きかったのかもしれない。

上条「さて……と」

立ち上がる上条。そして彼は美琴の顔を見てとんでもないことを彼女に聞いた。





上条「御坂、お前のスリーサイズ教えろよ」キリッ





美琴「………………………」

上条「………………………」

美琴「………………………」

上条「………………………」

美琴「…………………え?」

この間、10秒――。


上条「いや、だからさお前のスリーサイズ教えt」


美琴「って何平然な顔して聞いてんじゃこの変態があああああああああ!!!!!!」ドゴッ!!

上条「ぶふぉっ!!!」

顔を真っ赤に彩り、美琴の怒りの鉄拳が上条の顔面に決まった。

上条「な、何するんですか御坂さん!?」

美琴「そ、それはこっちの台詞よ!! 何の脈絡もなく黒子みたいなこと言って……お、驚いたじゃない……//////」

上条「ち、違う違う!! 変な意味で言ったんじゃない!!」

美琴「どう聞いても変な意味にしか取れないんですけど?」ジロリ

上条「いや、だからさ服だよ服」

そう言って指差す上条につられ美琴が自分の身体を見る。

美琴「あ……」

上条「街中移動するならパジャマじゃ目立つだろ? だからほら、昨日俺がコンビニ行く途中で見かけたカジュアルショップで服買ってきてやるから、サイズ教えろって言ったの」

美琴「そ、そっか。確かにパジャマのままだとヤバイよね」

上条「ああ。だろ?」

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「ってそれ差し引いても、どっちみちあんたの台詞は変態と変わらないんですけど!!」

上条「わ、分かった! 悪かった! 謝る。ごめん! ただそのままの格好でまずいのは確かだ。だから俺が代わりに服買ってくるから、サイズとか教えてくれ」

美琴「(にしてもいきなりスリーサイズはおかしいでしょうに。ま、こいつは天然なんだろうけど……)」

心の中で愚痴る美琴。

上条「どっち道ここから出るにはパジャマのままじゃきついからな」

美琴「…………………」

上条「?」

と、そこで美琴の顔が僅かに曇った気がした。

美琴「……あんた、1人で行くの?」

上条「え? そうだけど」




美琴「私も行く」




上条「は?」

美琴「私も一緒に行く」

上条から顔を背け、目を伏せながら美琴はそう言った。

上条「ちょっと待て、俺の話聞いてたか?」

美琴「やだ……」

上条「え?」

美琴「また私を1人にしようとしてる……」

上条「御坂………」

拗ねるように美琴は言う。その表情は暗い。

美琴「…………………」

まるで親に怒られた子供のような態度を見せる美琴。

上条「(こいつ………)」

美琴「………………ごめん」

上条「え?」

が、そんな自分の態度がさすがに大人気ないと思ったのか美琴は謝ってきた。

美琴「ごめん……あんたは……私を助けてくれるって言ったのに。そんなあんたを私が信じないのはダメだよね……」

上条「………………」

美琴は気まずそうに話す。

美琴「…………、」

上条「いや」

美琴「え?」

上条に顔を戻す美琴。

上条「今の状況なら仕方ない。気にすんな」

美琴「…………でも……」

上条「だけどさすがにその姿じゃ外には出られない。だから、昨夜みたいにすぐ帰ってくるから。ここで待っててくれないか?」

美琴「………うん……分かった」

上条「………………」

その後、上条は美琴から服のサイズを一通り聞き終えると街へ出ることにした。一応、女の子として男に教えるには恥ずかしいサイズも伝えた美琴だったが、相手が上条だったので特に抵抗は無かった。取り敢えず上条はこの世で唯一、美琴のスリーサイズを知った男ということになる。そして………

美琴「なるべく早く戻ってきてね」

上条「分かってる」

美琴「絶対だよ?」

上条「ああ」

名残惜しそうに見送る美琴に手を振り、上条は倉庫を出て行く。美琴の姿を最後まで視界に捉え、上条は扉を閉めた。

上条「…………………」

そのまま彼は歩き始める。

上条「(御坂のやつ……妙に寂しがりになってやがる。いや、どっちかと言うと子供っぽくなってるような……)」

上を仰ぐと、真っ青な空に白い雲が広がっていた。

上条「(無理も無いか。あんなことがあったら……)」

1つ溜息を吐き、上条は街へ向かって歩き始めた。

昨晩よりかは遅くなったが、上条は言った通り美琴の元へ帰ってきた。

美琴「遅い」

上条「だからごめんって……」

美琴「すぐ帰るって言った」

頬を膨らませる美琴。どうやら上条の帰りが思ってたよりも遅かったため、怒っているようだった。

美琴「すぐ帰るって言ったのに………」

上条「(御坂……)」

美琴「………もういいわ。で、服買ってきてくれたの?」

少し言いすぎたと思ったのか、美琴は気まずそうな顔を一瞬すると、横目で訊ねてきていた。

上条「ええそりゃもう。美琴お嬢さまのために、この上条当麻、洋服一式取り揃えてきましたよ」

美琴「よろしい」

上条「冗談言ってる場合か。ほれ、言った通りのサイズのもん、買ってきた。着てみろ」

美琴「あ、うん」

美琴は上条から服が入った袋を受け取り、その中を覗く。

美琴「…………あんたのことだから、変なセンスの服選んでないか心配ね」

上条「馬鹿言え。わざわざ店員さんにアドバイスしてもらったんだぞ。『女の子の服買いにきましたー』とか言うだけで恥ずかしかったんだからな」

美琴「ふふ、ざまあみろー」

上条「はいはい、ほらいいからまずは着てみろよそれ」

美琴「そうね。まずは着てからよね」

上条「ああ」

美琴「…………………」

上条「…………………」

美琴「…………………」

上条「…………………」

美琴「……………え?」

上条「……………え?」

美琴「?」

上条「?」

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「って人の着替え覗く気かあんたはーーーーーー!!!!!」ビリビリッ

上条「ぎゃああああそういう間でしたかごめんなさい御坂さああああああん!!!!」

しばらくして。

上条「何で俺が隠れるほうなんだよ」

上条は倉庫の端の、美琴の姿が見えない所で体育座りをしながら彼女が着替え終えるのを待っていた。

美琴「ちゃんとそこにいるんでしょうねー?」

美琴の声が聞こえてくる。

上条「はいはいちゃんといますいますってば。ってかもうそろそろいいかー?」

美琴「ちょっ……ま、待ってまだ来ないで……//////」

上条「フー……やれやれ」

美琴「あ、も……もういいかな?」

許可の返事が出た。まったくこれだから最近の女の子は、と呟きながら上条は立ち上がり美琴の所まで戻っていった。
そして………




美琴「ど、どうかな?//////」




上条「…………っ」

絶句だった――。
上条が美琴の所まで戻ると、彼女は両手を広げるようにして着替えた姿を見せてきた。
服のプロの店員が選んだためか、それとも普段から彼女の私服姿を見ていなかったためか、その姿は上条に衝撃を与えた。

上条「(不意打ちだろ………)」

そもそも店員のアドバイスを受けながら、その服を選んだのには理由があった。

美琴「でも、何だかロシアに行った時の服みたい」

そう、それは上条がかつてロシアで美琴に会った時に見た姿格好とよく似ていたのだ。ただ、ロシアの時ほど厚着ではなかったが。

上条「(ロシアで見た時、印象に残ってたから、うろ覚えの記憶で選んでみたけど……正直破壊力ありすぎだろ………)」

美琴「ね、ねえ? どうなの?」

ヒラリと舞うように一回転してみせる美琴。フリルのスカートがふわっと揺れる。

上条「!!!!!!!!」



美琴「似合ってる……かな?//////」



上条にどう思われているのかよっぽど気になるのか、美琴は恥ずかしそうに頬を染めながら上目遣いで訊ねてくる。さすがに鈍感の上条でもこれは効いたようだった。

上条「(あ……あれ? み、御坂ってこんな可愛かったんだ……。そ、そうだよな……何だかんだ言って、お、女の子だもんな……//////)」

美琴「ね……ねぇってばー」

上条「あ……う……その……」

しどろもどろして、キョどる上条。

美琴「?」

上条「……………か」

美琴「え?」




上条「可愛いんだな、結構……//////」




美琴「!!!!!」ボンッ

と音を立て美琴の顔がりんごのように赤くなった。

美琴「ちょっ……な……あ……う………」

熱くなった自分の顔を持て余し、キョロキョロと四方に視線を向ける美琴。

美琴「……も……もーーーーーう!!!!」

頭に被っていたファーの帽子で顔を隠し、彼女はブンブンと首を振る。

美琴「もーーーーーーーーーーーーーう!!!!!!/////////////」

牛のように叫んだ彼女はやがて顔を見せると、上条に叫んでいた。

美琴「バ、バカぁ!!!!////// は、恥ずかしいこと言ってんじゃないわよ!!!//////」

上条「ご、ごめん! ……マジで」

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「…………////////」

上条「…………////////」

美琴「////////////////」

上条「////////////////」

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「……………そろそろ行こっか」ボソッ

上条「……………そ、そうだな」ボソッ

2人はまだ、若かった。

ガラガラガラ、と重量のある音を響かせ、上条は倉庫の扉を開ける。東から降り注いだ太陽の光が倉庫の入口付近を照らした。

上条「なるべくどこのルートを通るかは考えるけど、お前は追われの身だ。帽子を深く被ってマフラーも口が覆うように巻いとけ」

朝日に目を細めつつ、倉庫の外をキョロキョロと窺いながら上条は後ろにいる美琴に言う。

美琴「……う……うん」

上条「誰もいないな。よし、行くぞ」

倉庫から足を踏み出す上条。しかし、彼は何かに気付き倉庫の中を振り返った。

上条「………どうした?」

胸に腕を添え、少し俯き加減の美琴。倉庫の内部入口付近には、朝日が少し注ぎ込んでいたが、彼女はまだその先の暗い陰の中に佇んでいた。

上条「早く行かないと」

促す上条。と、そこで彼は美琴の異変に気付いた。

上条「(震えてる……)」

よく見ると、美琴は僅かにだが身体をブルブルと震わせていた。更に彼女の顔に注意を向けると、どこか不安そうにしているのがよく分かった。

上条「(怖いのか……)」

考えてみれば当然だった。美琴は昨日までの2日間、訳も分からないまま学園都市の学生たちに追われ、殺されそうになっていたのだから。
ようやく唯一の味方である上条に出会え、安心したところだったのだ。また街へ出るのに抵抗を感じるのも無理は無いはずだった。

上条「御坂、行こう……」

美琴「う……うん………」

言われ、美琴は1歩踏み出そうとするが、すぐに足を引っ込めてしまう。

上条「…………………」

間違いない。彼女は相当弱っている。肉体的と言うよりは、どちらかと言うと精神的に。
歳相応の怯えた表情を見せる彼女は、上条にとっては新鮮な姿に映ったが、代わりに以前目にしていた学園都市第3位の超能力者としての面影はほとんど消えていた。

美琴「…………………」

上条は美琴をそんな風にした学園都市の学生たちに一瞬、怒りを覚えた。だが、彼らを憎んだところで仕方がない。彼らにとって美琴は史上最悪の犯罪者であって、ただ自分の正義感に従って行動しているだけだ。無論、それで美琴をよってたかって嬲り殺して良い理由にはならないが。
だが、彼らだって知らず知らずのうちに、とある魔術師の魔術に掛けられていた言わば被害者でもある。真に憎むべき敵は他にいたが、どちらにしろ、その敵が既に死んでいる限り、これ以上深く考えても意味は無かった。

上条「御坂………」

美琴「!」

なら、今自分に出来るのは1つだけ。そう考えた上条は、美琴に優しく声を掛け、手を差し出していた。

美琴「…………………」

美琴は上条の顔と差し出された右手を交互に見る。
上条の右手……『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という、異能の力ならば何でも打ち消してしまう不思議な右手。そして、この理解不能の状況下、唯一彼に正気を保たせ、美琴を救ってくれた右手。

上条「大丈夫だ」

大きく頷き、美琴の目を見据えながら彼はそう言う。絶対的な安心感と信頼感を見せながら。

上条「俺がついてる」

美琴「……………、」

笑みを見せる上条。普通の人間ならば、こんな状況絶対関わりたくないはずなのに。見て見ぬ振りをするのが一番賢い判断なのに。それなのに、彼は嫌がることもせず、美琴の元へ駆けつけた。己の身も省みず。ただ、美琴を助けるためだけに。

美琴「…………当麻……」

その名を口にする。それと同時、目の前の少年に対する何物にも変えられない期待感が膨れていくのが感じられた。
彼なら大丈夫。彼なら絶対に自分を見放したりしない。絶対に守ってくれると。彼になら自分の身を任せてもいいだろうと。






上条「二人で一緒に逃げよう」






迷いも無く、上条は恐怖で包まれた美琴の身体を癒すように言った。
対して、それに答えるように美琴は1つ返事をした。






美琴「……………うん」






美琴の足が、朝日照らす地面に踏み出された。
2人の手が、固く、強く、握られた。
今、少年と少女は果てしない逃避行を始める――。

今日はここで終わり。
今回は少しイチャイチャ描写入れてみましたが、まだ序の口のつもりです。
明日は来れるかどうか分かりません。それでは本日はここで。
ではまた。

くそぅ…(;ω;)
涙目でニヤニヤしてる俺orz
>>1 超乙だじぇい

一方さんがいたら危機感なくなっちゃうのがな
美琴がいれば充電の問題も解決できるし

>>511
>美琴がいれば充電の問題も解決できるし
天才か…(°д°;)↑今まで禁書を読んでて気がつかなかったよorz

「上条さん&美琴&一方さん」強いな…

>>1です。みんなありがとう。
遅くなってごめん。
では早速投下いきます。

イギリス・某所――。

ステイル「むしゃっ……モグモグ」

土御門「2人とも、少しは食べないと力が入らんぜよー」

ステイルと土御門が間食のサンドイッチをムシャムシャと頬張りながら、向かいに座る2人に言う。

インデックス「…………………」

神裂「………あまり、食べる気にならないんですよ」

美琴に『弧絶術式』を掛けた末に死んだ魔術師が住んでいたアパート。今、4人はその一室で一時の休憩をとっていた。

ステイル「ま、人が死んだ場所でご飯を食べるのも気が引けるのも分かるけどね……モグモグ」

インデックス「…………………」

神裂「……どちらにしろ、今は食べる気がしないだけです。まるきっり解決策が見つからない……」

ステイル「……あいつは……彼女をちゃんと保護したのかな?」

サンドイッチを眺めながら、ステイルが呟いた。

土御門「……取り敢えずカミやんには、出来るだけ連絡寄越すよう言っているが……カミやんは携帯を修理に出してるし、超電磁砲も携帯を持っていない可能性が高い。電話することすら難しいだろうな」

神裂「それどころか、彼がまだ少女を保護していない可能性も有り得ます」

ステイル「少女は学園都市第3位の実力者。心配するようなことはないだろうが、所詮はまだ14歳の子供だ」

土御門「ま、カミやんのことだから意地でも超電磁砲を探し出してるだろうが……学園都市の住人は230万人。2人だだけでどこまで逃げれるか……」

土御門の言葉を機に、3人は一斉に無言になった。

インデックス「…………だよ」

土御門ステイル神裂「?」

と、そこで今までずっと黙っていたインデックスが久しぶりに口を開いた。

インデックス「…………とても厳しい……状況なんだよ」

俯き、暗い顔を見せインデックスはそう語る。

インデックス「……『孤絶術式』は術者が自らの命を代償にして発動する絶対に解除不能な最凶魔術。被害を受けるのはせいぜい1人だけど、その人間は死にたくなるほどの絶望を味わうことになる。元は、暴君な王様や私利私欲のために人々を虐げる貴族たちに対抗するために作られた古式魔術。近代では……戦争相手の指導者を狙うために発掘され現代用に改造された中興魔術なんだよ……」

土御門ステイル神裂「…………………」

インデックス「…………その性質上、実際に発動させた術者は両手で数えるもいないけど、発動を受けた対象の人間は、実際に殺されているか、または社会的に抹殺されてるんだよ」

インデックス「………私のせいなんだよ……」

と、その時だった。一瞬、インデックスの表情が歪んだと思ったら、数秒後には彼女の両目から涙が零れ落ちていた。

インデックス「………私の……せいなんだよ……」

土御門ステイル神裂「!」

インデックス「………この町に入ってから……『孤絶術式』の臭いは微妙に感じ取ってたのに……もしもっと早く……その正体にはっきりと……気付いてたら……ううっ……間に合ったかも……しれないのに……」

遂にインデックスの涙腺が崩壊したようだった。彼女は子供のようにワンワンと泣き始めた。

インデックス「………うああああ……私が……私がもっど……もっど早ぐに……」

ステイル「……な、何を言っているんだいインデックス? き、君のせいじゃないよ!」

泣き始めたインデックスにオロオロとし、ステイルは必死に慰める。

神裂「その通りですよインデックス。貴女が泣く必要も責を負う必要もありません。真に悪いのは、魔術師なんですから」

インデックス「……でも……私には……短髪の『孤絶術式』を解く……知識も無い……10万3000冊の…魔導書が頭の中に……入ってるくせに……」

ステイル「い、インデックス!」

インデックス「うるさいんだよ! 悪いのは私なんだよ! 慰めなんていらないんだよ!」

泣きながらインデックスはそこら辺に落ちてあった、クシャクシャに丸められた紙をステイルに向かって投げ始めた。

ステイル「わっ……ちょっ……インデ……やめ……いたっ!」

土御門「……やれやれ」

そんな中、土御門は溜息を吐く。

神裂「如何ともしがたいですね」

土御門「全くだな。動けない、ってのが一番もどかしい」

神裂「どうしますか?」

土御門「元に戻すことは不可能。だが……」

神裂「………………」

土御門「最悪の結末を回避する手助けなら、俺たちにも出来る」

言って、土御門はステイルを泣きながらポカポカ叩いているインデックスに顔を向けた。

土御門「やるしかないだろ」

学園都市――。

黄泉川「何か有力な情報は見つかったか?」

警備員「いえ、残念ながら……」

黄泉川「分かったじゃん」

報告してきた部下の警備員にそう告げ、黄泉川は正面に立っていた学生たちに顔を戻した。

黄泉川「どう思う?」

今、黄泉川たちがいるのは某学区にある郊外だ。昨夜、美琴が街中で暴れているとの通報を受け、事態を重く見たアンチスキルは、隷下の部隊に捜査範囲を広げるよう厳命。目撃談から、黄泉川の部隊はこの学区の街の外れにまで捜査の手を広げていた。本当は、管轄区域を越えていたが、黄泉川は特に気にする素振りも見せなかった。

黄泉川「私としては、この辺りに“奴”の臭いを感じるじゃん」

周囲に、アンチスキルの隊員や車両が展開される中、黄泉川は車体に背中を預け目の前の学生たちにそう言う。

黄泉川「奴が簡単に諦めるとは思えない。恐らくまだ遠くにも行ってないはずじゃん」

腕組をしながら推測を述べ、黄泉川は学生たちの意見を聞いてみることにした。

黄泉川「お前らは奴と親しかった身。御坂美琴はどこへ行ったと思う?  白  井  」





黒子「私も大体同じ意見ですわ」





訊ねられ、黒子は真剣な顔で答えた。

黒子「いくら学園都市第3位の超能力者とはいえ、所詮は私たちと同じでまだ子供。出来ることは限られてきます。貴女がたもそう思うでしょう?」

黒子が視線を向けた先……2人の少女が同時に頷く。



初春「私もそう思います。更に、御坂美琴は財布も携帯電話も持っていないはず。交通手段を使えるとは到底思えないです」


佐天「あたしは2人みたいにプロじゃないし、一般人だから犯罪者の行動心理とかはよく分からないけど、あたしも御坂美琴がそう遠くまで行ってるとは思えないです」



黒子の側にいた初春と佐天が自分なりに立ててみた推測を口にしてみる。

黄泉川「お前らは奴と親しかったからな」

黒子「冗談でもお止めになって下さいまし。あの御坂美琴と親しかったなどと、私たちにとったら消しても消せない過去なのです。この先一生、その過去を背負っていかなければならないと考えると、ゾッとしますの……」

黒子と佐天と初春が一斉に黙り込む。

黄泉川「まあ気に病むことはないじゃん。誰にだって消したい過去・記憶はある。私は別にお前らが御坂美琴と親しかったって言われても特に何も思わないしな。だが、お前ら自身がそのことに対して何か後ろめたい物があると言うのなら、それはお前らが自分で解決すべきじゃん。だからここに来たんだろ?」

黒子「ま、否定はいたしませんわ。ところで……」

不意に、黒子がジャッジメントらしい鋭い視線を見せた。

黒子「昨晩の御坂美琴について、不可解な点があるらしいですが?」

初春「ああ、何でも学生たちが御坂美琴を追い詰めたのに、逃げられたって件ですか?」

佐天「確かあと一歩で仕留められるところだったんですよね?」

3人の質問に、黄泉川は頷く。

黄泉川「なんでも……目撃談では、突然現れた1人の男が奴を連れて逃げ出したとか……」

黒子「…………………」

黄泉川「…………………」

黄泉川と黒子の視線が交わる。

黄泉川「どうやらお前は何か心当たりがありそうだな」

初春「えっ? そうなんですか?」

佐天「その男が誰か知ってるんですか白井さん?」

横目で初春と佐天を見ると、黒子は静かに呟いた。

黒子「ま、心当たりが無いと言えば嘘になりますわね……」

佐天「でも、あんな犯罪者を助けるなんて……どういう神経してるんでしょう」

初春「仲間でもいたんでしょうか」

黒子はその男の顔を思い浮かべる。

黒子「(まあ、現状ではまだ何とも言えませんが……)」

その時だった。

警備員「黄泉川隊長!」

突然、横合いから1人の警備員が割り込んできた。

黄泉川「どうした?」

警備員「近くにあった倉庫で不審なものを見つけました」

黄泉川黒子佐天初春「!」

驚き、黒子たち3人が顔を見合わせる。
真剣な表情を浮かべ、黄泉川が言った。

黄泉川「よし、そこまで案内するじゃん」

その頃――。

外に出てから1時間と少しが経過した。今、上条と美琴の2人は、学園都市の境界近くまで歩いてきていた。

上条「俺たちがいた場所が幸いしたな。こんな早く『外』との境界まで辿り着くとは」

上条は後ろを歩く美琴に声を掛ける。
帽子を目深に被り、マフラーで口元を覆った美琴はそう言われ、視線の先に聳える学園都市と『外』の境界の象徴である大きな壁に目を向けた。

美琴「でも、どうやって突破するの?」

上条「うっ…それは考えてなかったな」

美琴「もう……」

上条「ならいっそのこと、出入り口を警備してるアンチスキルを全員吹っ飛ばすってのはどうだ?」

美琴「私の電撃で? まさか殺すの?」

上条「いや、そんなことする必要は無い。ただ、痺れさせてしまえばいい。まあバレるのは必至だが、『外』に逃げ出しちまえばこっちのもんだ。あいつらも『外』までは追ってこないだろう」

美琴「でも……そんな上手くいくかな?」

美琴が不安を口にする。
その時だった。

上条「っと、待て。こっちだ」ギュッ

美琴「え? あ……」

突然、上条が慌てるように美琴の手を握り近くにあった公園の茂みまで連れていった。

美琴「ど、どうしたのよ急に?」

上条「検問所だよ」

美琴「え?」

上条が指差した先……距離にして100mから150mぐらいはあるだろうか。そこに、アンチスキルの検問所が見えた。

美琴「何だか、警備が厳重じゃない?」

見てすぐ美琴が思ったことを口にした。

上条「ああ。『外』との境界とは言え、あれじゃあまるで暴動に備えてるみたいだ」

確かに、検問所は物々しい雰囲気にあった。
警備員は全員完全武装で、三重のバリケードが張られ、検問体制が敷かれている。周りには装甲車が数台目を光らせ、不審者がいればすぐにでも対処出来るようになっていた。『外』に出て行く自動車も、1台1台念入りに調べているのか、検問所付近は軽い渋滞状態が起こっていた。今も、苛立ったドライバーたちの罵り声が聞こえてくる。

上条「何でこんな厳重に……」

美琴「もしかしたら、私を逃がさないためかも……」

上条「え?」

上条が横を向く。美琴が俯き加減で喋り始めた。

美琴「きっと、私が学園都市から逃げ出さないようにするためだわ。私はレベル5の超能力者だし、あれぐらいの対策とっても不思議じゃない……」

上条「で、でも、あれぐらいならまだ、お前が超電磁砲でもぶっ飛ばせば、壁を破壊するぐらいは……」

美琴「ダメよ。あれを見て」

上条「ん?」

美琴「あれが何だか分かる?」

目を凝らすと、お互い50mぐらいの距離を開けて停められていたアンチスキルの装甲車の側に、大きなトラック型の車がそれぞれ1台ずつ停まっていた。見た限り、アンチスキルの黒い装甲車とはまた違うようである。

上条「何だよあれ」

美琴「最新式のキャパシティダウンよ」

上条「きゃぱしてぃだうん?」

上条は聞き慣れない言葉を耳にし、眉をひそめる。

美琴「つい最近配備された、能力者用の対抗装置よ」

上条「どういうことだ?」

美琴「一種の音波を使って、能力者の演算を乱して能力をまともに使えないようにするのよ」

上条「!」

美琴の説明に、上条が驚きの表情を浮かべる。

美琴「能力者が『外』に脱走しないように作られたものよ。もし、検問所の付近で能力者が能力を使おうとしても、その兆候をあの車に搭載されたレーダーが探知して、即座に能力使用を遮断する音波を流す代物。おまけに最新式で以前のバージョンより改善されてるから、たとえレベル5クラスの能力でも簡単に止められてしまうわね」

上条「じゃ、じゃあ……お前が能力を使おうとしても……」

美琴「ええ、無駄でしょうね。それどころか取り押さえられちゃうかも……」

上条「そんな……」

上条は呆然と、キャパシティダウンを積んだ車両を見つめる。
しかし、彼は何かを思いついたようで再び美琴に顔を戻した。

上条「待て。何も検問所にこだわる必要は無いんじゃないか? つまりだ、検問所が無い場所まで歩いていってそこの壁を破壊すれば……」

しかし、美琴は首を横に振る。

美琴「あのキャパシティダウンを搭載した車はね、何も検問所だけにあるんじゃないの」

上条「え……」

美琴「検問所が無い場所も含めて、学園都市を円状に囲む壁の東西南北を均等に分けられた8ヶ所に2台ずつ……合計16台が設置されてるの……。もちろん、完全武装したアンチスキルの警備の下でね」

上条「ど、どうして?」

美琴「あの車はね、互いにリアルタイムで独特の電気信号を発し合いながら、足りない部分を埋めてるの。つまりね、あのキャパシティダウンを搭載した車は1台あたり、半径何kmにも及ぶセンサーみたいなのを備えてるの。そしてそのセンサーは、学園都市を円状に囲む壁に沿って設置されてる」

上条「じゃあ……」

美琴「例え検問所が無い場所を突破しようとしても無理よ。そこには、キャパシティダウンを搭載した車と車の間で交わされてるレーダーが作動してるんだから。例え車が無くても能力を使えば、すぐにそのレーダーに引っ掛かって、使用不能にされるわ」

上条「何てことだよ」

美琴から説明され、上条は絶望したように頭を抱える。美琴の方はただ黙っているだけだった。

上条「それじゃあ逃げれないじゃねぇか!」

美琴「ご、ごめん……」

苛立ちを見せた上条がつい怒鳴ってしまったため、美琴は申し訳無さそうな顔で謝った。

上条「あ、いや……別にお前を叱ったわけじゃない……」

美琴「…………………」

上条「…………………」

気まずい空気が流れる。
だが、すぐに上条が口を開いた。

上条「だーもう! ここで待ってても埒があかねぇ。何かそのキャパシティダウンを突破する方法とか無いのか?」

美琴「今は試験的に配備されてるだけだけど、多分無いと思う……」

上条「じゃあ一体どうしたら」

美琴「あ、待って」

上条「?」

そこで、何かに気付いたのか美琴が顔を上げた。

上条「何だ?」

美琴「あのキャパシティダウンを搭載した車は開発されたものから、順にああやって配備されてるの」

上条「? それで?」

美琴「でも、あの車はどれも配備されてから間もない。……確か、まだ完成されてない車両があったはず」

美琴は明るい顔でそう言うが、上条にはいまいちその真意が掴めない。

上条「どういうことだ?」

美琴「つまりはまだ、全ての車両が配備されてないってことよ」

上条「……えーっと」

美琴「さっき言ったでしょ? あの車は、学園都市を囲む壁を東西南北8ヶ所に均等に分けられて2台ずつ配備されてるって。でもそれはあくまで予定であって、まだ今は配備自体は完全に終了していない」

上条「あ、ああ……。………ん? それって……」

ようやく上条も美琴が言いたいことに気付いたようだった。

美琴「ええ!」

上条「キャパシティダウンがまだ配備されてない場所がまだどっかにあるってことか!」

美琴「そういうことよ!」

美琴が笑顔で言う。なるほど確かに、キャパシティダウンを搭載した車がまだ配備し切っていないなら、どこかにその影響を受けない『穴』があるということだ。

上条「でも、その場所は一体どこに?」

美琴「3日前に見たニュースだと、北、北東、北西、東、西、南東、南西部分はもう配備が終了されてるって話だった」

上条「北に、北東、北西、東、西、南東、南西……か。となると残りは……」

美琴「南になるわね」

上条「南だと?」

それを聞き、上条は昨晩コンビニで買いポケットにしまっていた地図を取り出した。学園都市全域を詳細に書いた地図だった。広げたそれを、2人は覗き込む。

上条「ちょっと待てお前……俺たちが今いる場所は……ここだぞ」

上条は地図の一点を指差す。

上条「で、恐らくそのキャパシティダウンの影響を受けない『穴』の部分はこの辺り」

言いながら、彼は地図の下の方を指で囲む。

上条「唯一の突破口はこの南の部分。だが俺たちは今、北にいる。真反対じゃねぇか」

美琴「うん……そうなるかな」

上条「………っ」

地図を、次いで正面の検問所を順に見る上条。

上条「その南にキャパシティダウンを搭載した車が配備されるのはいつだ?」

美琴「分からない。でも、今はまだ配備されてないと思う……」

上条「…………………」

上条は地図を眺めながら考えを巡らす。
学園都市の総面積は、東京の3分の1を占めるほどだ。端から端までならおよそ数十㎞はあるだろう。無理をすれば、1日か2日で辿り着けるだろうが、それはあくまで直線的な距離で考えた場合だ。実際の道程は学区や街などの複雑な地形で変わってくるはず。おまけに追われの身であることを考えると、普通の道を避けて通らなければならなくなることも無きにしもあらずだ。

上条「……………」ジッ

美琴「?」

上条は美琴の顔を見る。
恐らく、辛い道中になるだろう。自分1人だけで彼女を無事、学園都市の『外』まで逃がすことが出来るのか。何しろ学園都市230万全ての住民が彼女を憎み、殺意を抱いている。そんな状況で彼女と2人で追っ手から逃げ切るなど至難の業に近い。敵地からひたすら逃亡を図るといった映画があった気がするが、現実はフィクションのように都合良くはいかない。そう考えた上条は、一瞬、顔に陰りを灯した。

美琴「どうしたの?」

上条「………いや、大丈夫だ。……取り敢えずこの街を出るのが先だ。街を出た後は、どこか人目のつかないルートから南に向かうしかない」

地図をポケットにしまい立ち上がると、上条は検問所とは逆の方向を見つめた。

上条「御坂、行こう」

美琴「………うん」

差し出された手を掴み、美琴も立ち上がった。

美琴「………………」

上条「心配するな。2人でなら、きっと辿り着けるさ」

不安そうな顔の美琴を、上条は元気付ける。

美琴「………うん」

美琴は僅かにだが、笑顔を浮かべた。

上条「(とは口で言ってみたものの、正直確証は無いんだよな……)」

これからどんなことが待ち受けているのか。それを考えると、気が遠くなるのだった。

黄泉川「これは……」

郊外にあるとある倉庫。その中に、黄泉川をはじめとするアンチスキルが大勢集まっていた。彼女たちは、倉庫の奥に捨てられてあった、ある物を凝視する。

黄泉川「どうじゃん? 見覚えがあるじゃん?」

黒子「…………………」

黄泉川が隣に立っていた黒子にそう聞くと、彼女は腰を屈め捨てられてあったそれを手に取った。

黒子「ええ。間違いなく。御坂美琴の寝巻きですわね」

振り向き、黒子は答えた。彼女の両手の中には、キャラクターものの柄が描かれたパジャマが握られていた。

黄泉川「本当か?」

黒子「私は彼奴のルームメイトだったのですわよ? 毎晩見ていたのだから確かなはず。この柄、このサイズ、間違いなく御坂美琴のもの……」

そう言って黒子は、側に捨てられていたパジャマのズボンを横目で窺った。

黒子「どうやら逃げるのに目立つので捨てたようですわね」

黄泉川も黒子の側に座り込み、彼女からパジャマを受け取るとそれを観察するように凝視した。

黄泉川「だが、奴に予備の服を手に入れる暇があったと思うか?」

黒子「財布も持っていませんし、口座も使えませんからそれは難しいでしょうね。仮説としては、倉庫の中にあった作業員のツナギでも見つけた、というのも有りでしょうけど、彼奴のような子供がそんな大人の服を着れるとも思いませんし。それだと逆に目立ってしまいます。……そうですわね………」

顎に手を添え、黒子は少し思案する。しばらくして、彼女は頭の中で導き出した推測を口にした。

黒子「……ある程度の金を所持していた誰かが、パジャマのまま外に出られない御坂美琴の代わりに街で新しい服を買ってきた、という説はどうでしょう?」

黄泉川「………例の目撃談に出た協力者の男のことか」

黒子「…………………」

2人は視線を交わす。と、その時だった。周辺の捜査に出ていた警備員の1人が報告のために戻ってきた。

警備員「黄泉川隊長! ここより近い場所にあったゴミ箱の中に、空のコンビニ弁当と2人分のペットボトルが捨てられているのを見つけました!」

黄泉川黒子「………!!」

黄泉川と黒子は顔を見合わせる。

黄泉川「なるほど。これはますます仮説の信憑性が高まってきたじゃん。……よし、早速そのゴミを証拠物件として押収。唾液を採取し、DNA鑑定に回せ」

立ち上がった黄泉川は不適な笑みを見せる。

黄泉川「あの御坂美琴を抱き込んだ物好きな男。その化けの皮、徹底的に剥いでやろうじゃん……っ!!」

終わりです。
今日も来れるかどうかはまだ分かりません。
ではまた次の機会に。

>>1です。
昨日と言うか今日は深夜に来てすんませんでした。
ではまた今から投下していきます。

それから数時間後。
上条と美琴は、街の中にある大き目の公園にいた。区民の憩いの場になっているためか、公園内は綺麗に整備されていて、アスレチックなど子供たちの遊び場もたくさん提供されていた。今も、平日の午後だと言うのに、公園には学生だけでなく、親子連れ、カップルなど多くの人々が訪れていた。

上条「あまり移動出来てないな」

上条はベンチの上で地図を広げ嘆いた。
彼の背後には大きな噴水があり、その周囲に沿って設置されたベンチには、公園を訪れた人々が腰掛け、会話に花を咲かせている。

上条「思ったより警邏の警備員が多すぎる。本当にテロか暴動に備えているみたいだ」

美琴「………………」

上条「怪しまれて声を掛けられたらそれで終わり。奴らの目をいちいち盗んで移動していたら、いつまで経っても目的地に着けない……」

初っ端から上手く事が進まないため苛立っているのか、上条は地図を見ながら愚痴っている。隣では、美琴が何も喋らずに、視線だけを公園の景色に向けていた。

上条「落ち着いたらインデックスや土御門たちと連絡を取りたいけど、このご時世、公衆電話なんて滅多に見かけないからな……。何でこう上手くいかないんだよ」

美琴「あ、あの……本当にごめんね!」

上条「え?」

美琴「……その……こんなことに付き合わせちゃって」

横で聞いていた美琴が不意に口を開いた。上条は地図を下ろし、彼女を見る。

美琴「……だって……私と一緒にいなかったら、こんな面倒なことに巻き込まれなかったから……」

上条「やめろよ。俺はそんなこと思ってない。俺は自らの意志でここにいるんだから。自分を責めるのはよせ」

言って、上条は再び地図に目をやる。

美琴「だ、だよね……。ごめん、変なこと言っちゃって。ほら、私こういうこと慣れてないから……」

上条「………………」

美琴「慣れてないから、どうすればいいのかよく分かんなくて……」

明るく努めているようだが、彼女は俯いており、声も元気が無かった。

上条「誰だって慣れるわけねぇよこんな状況」

美琴「…………そ、そうよね。慣れるわけないわよね。って私さっきから言ってることバラバラだ、はは」

上条「…………………」

美琴「…………………」

2人は同時に黙り込む。
美琴の隣のベンチで世間話をしていた主婦たちが子供と帰るべく、席を立つ。より一層上条と美琴は静かで気まずい雰囲気に包まれた。
新たにやって来た、女子学生2人が隣のベンチに座っても、彼らはまだ無言のままでいた。
が、その時だった。





「にしても白井さん、学校まで休んでアンチスキルに協力して大丈夫でしょうか?」


「さあどうだろ? あたしたちは今日だけだったけどさ」





上条美琴「!!!!!!!!」

今、隣のベンチに座った2人の女子学生からそんな会話が聞こえ、上条と美琴は思わずそちらに顔を向けた。

初春「白井さん、倒れなきゃいいですけど」

佐天「ま、あの人のことだから大丈夫でしょ」

美琴「(佐天さん! 初春さん!)」

咄嗟に美琴は顔を戻し、帽子を目深に被った。

初春「多分白井さん、御坂美琴のことで相当責任感を負っているんだと思います」

美琴「!!」

初春「一番近くにいたのが白井さんですから。きっと御坂美琴を止められなかった自分に無力感を感じているんだと思います。だから、学校休んでまで黄泉川先生たちに協力してるんじゃないでしょうか」

美琴「……………、」

膝に伸ばした美琴の腕が震える。上条は地図をなるべく顔に近付けながら、美琴の頭越しに見える隣のベンチの佐天と初春の方を横目で窺っている。

上条「………………」

佐天「にしてもなかなか捕まらないね、御坂美琴」

初春「憎まれっ子世に憚るとはこういうことですね」

上条は音を立てないよう静かに地図を畳む。そして一瞬横の美琴に目をやると、今度は正面を向いた。

上条「(……さて、どうするか。ここで不用意に逃げようとしたら、勘付かれる可能性があるな……)」

美琴「………………」ブルブル

上条「………………」

と、その時だった。

「ママー!! 見てー!!」

上条美琴「!!!???」

佐天初春「!」

上条から見て右隣のベンチ。1人の子供がベンチに座っていた母親らしき人物に叫んでいた。

上条「(まずいっ)」

突如子供が大声を上げたためか、佐天と初春がこちらに振り向こうとする。そしてそのまま振り向けば、彼女たちの視線の先には当然美琴がいるわけで、気付かれるのは必至だった。

美琴「…………っ」

上条「(クソッ!)」

この間、1秒――。
そして、佐天と初春がこちらを振り向く。





ガバッ!!!!





美琴「!!!!!!!!!!」

佐天初春「「………………え」」

「ほらママー!! 昆虫キングのゴールドカード拾ったー!!」

上条「…………………」

美琴「わっ…ちょ……え……あ……や……/////////」

「まあ汚い! すぐに捨ててらっしゃい!!」

佐天初春「………………わぁ…」

佐天と初春が同時に目を丸くしたのには訳があった。と言うのも、彼女たちの視線の先……つまり、右隣のベンチに座っていた若い男と女がこんな真っ昼間から大胆にも抱き合っていたからだ。

美琴「なっ……あんた……ちょ……////////」

明らかに動揺する美琴に、上条は彼女の耳元で「静かに」と呟く。

佐天「すっご……」

初春「ぬふぇぬふぇ」

上条が咄嗟に考えた策は、美琴を抱き締めることだった。そうすることによって、佐天と初春には彼女の背中しか見えない。これなら、気付かれる可能性も低いと判断し、彼は賭けに出たのだった。

美琴「(あわわわわわわわわわわわわ//////////)」

上条「(ごめん御坂)」

上条はこのままやり過ごそうとするが、今時の女子中学生2人は滅多に見れないものを間近で見ているためか、なかなか視線を外そうとしてくれない。寧ろ、じっくりと観察しているようだった。

上条「(チッ……面倒くせぇな)」

上条が佐天と初春に顔を向ける。

佐天初春「!」

上条「おら、何見てんだよ!! 見せもんじゃねぇぞ!!!」

佐天初春「「あ、ご、ごめんなさい!!」」

怒鳴られ、2人は慌てて顔を戻した。
しかし………

佐天初春「………………」

それでも興味が尽かないのか、彼女たちはちゃっかりと横目でまだ見てきた。

上条「(あああああああ面倒くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)」
上条「おい御坂、ここから去るぞ。なるべく彼女たちに顔を見せないように立て」ボソボソ

美琴「え?////// あ、わ、分かった……」

上条が美琴の耳元で小声で呟く。そして、2人は同時に立ち上がった。

佐天初春「あ」

上条「ここにいてもゆっくり出来ないからあっち行って続きしようぜ、マイハニーちゃん♪」

佐天と初春に背中を見せながら、美琴は黙ったまま頷く。

上条「こっちだ」ボソッ

そのまま上条は美琴の肩に腕を回し、2人は身体をくっつけながら歩き始めた。

佐天初春「………………」

上条「(頼む……。気付いてくれるな……。ここで気付かれたら一巻の終わりだ……)」ドキドキドキドキ

美琴「……………////////」ドキドキドキドキ

背後に2人分の視線を感じながら、上条は冷や汗を流す。

佐天初春「……………………」

重い足取りでようやく上条と美琴はその場から離れることに成功した。佐天と初春は、ずっと2人の背中をまじまじと見つめていた。

美琴「バカぁ!!!///////」



パァン!!!



上条「ぷおっ!!」

上条の右頬に美琴の渾身の平手が食らわされた。

美琴「きゅ、急に何してんのよあんたは!!!////// お、驚かせないでよ!!!//////」

上条「い、いやごめんって。あの時はあれしか策が思いつかなかったんだ」

顔を真っ赤にして怒る美琴に、頬を撫でながら言い訳をする上条。彼らは今、公園の出口近くのトイレの裏にいた。

美琴「そ、それにしたって……も、もっとマシな策があ…あったでしょ!!!//////」

上条「無事気付かれずに済んだんだからそれでいいじゃねぇか」

美琴「そ、そうだけど……へ、変なこと考えてないでしょうねあんた!?//////」

上条「はあ!? ん、んな訳ねーだろ!!」

美琴「ホントに?」ジロリ

上条「うっ……(いやでも確かに女の子なんて抱き締めたの初めてだし……何か全体的に柔らかい感触だったなぁ……。良い匂いもしたし)」

美琴「……っ」ギロリ!!

上条「ひっ」

美琴「変態」

上条「………………」タラー

美琴「ふん」

上条「で、でも万事OKだったじゃねぇか。あそこで気付かれたらヤバかった」

美琴「………ま、そうだけど……」

美琴の顔が曇る。
彼女にとってもあそこで佐天と初春に会うのは想定外だったようで、改めて現実を思い知らされた形になってしまった。

上条「あの2人、お前の友達なのか?」

美琴「………友達  だ  っ  た  の  。佐天さんと初春さんって言う子」

上条「そうか……」

美琴「どうせ、もういいわよ。前みたいに一緒に遊べるわけじゃなし……」

上条「御坂……(また強がって……)」

美琴「終わったことはどうでもいいわ。それで、これからどうするの?」

上条「行くしかないだろ」

美琴「………そうね」

2人は公園の出口を見る。
ゴールはまだ、遠かった――。

アンチスキル・黄泉川部隊本部――。

黒子「DNA鑑定は出ましたの?」

黄泉川「いや、まだじゃん」

トレーラー型の装甲車の中に設けられた臨時の司令部。そこに、黄泉川や複数の警備員たちがいた。そんな中、1人学生の身分である黒子は、デスクで出されたお茶を飲みながら黄泉川に訊ねた。

黒子「一刻でも早く御坂美琴を見つけないと気が済みませんの。出来うるなら科学部隊の方に伝えてくれません? 早くしてくれ、と」

黄泉川「そう焦るな。焦ったら捕まえられる犯人も逃してしまう」

黒子「でも……っ!」

黄泉川「本来ならこれは我々アンチスキルの仕事じゃん。お前は“奴”に詳しいから学生顧問として協力してもらってる。何か不満でもあるじゃん?」

黒子は苦虫を噛み潰したような顔をする。

黄泉川「奴を捕まえるのは私に任せろ。何があっても、アンチスキルの誇りにかけて御坂美琴を捕まえる。お前はとにかく冷静になるじゃん」

黒子「………………」ブツブツブツブツ…

そうアドバイスした黄泉川だったが、黒子は俯いてブツブツと唱えていて聞いていなかった。

黄泉川「………………」

そんな黒子を横目で窺い、黄泉川は手元にあった資料を眺めた。そこには、美琴の写真と共に『殺害優先』という文字が添えられていた。

黄泉川「(ふん、御坂美琴……今まで幾人もの極悪犯罪者を捕まえてきた私の手から逃れられるとでも思っているのか? ならお前に、現実を知らしめてやるじゃん)」

黄泉川は、この状況を面白がるように笑みを浮かべた。

学生たちが下校のためにパラパラと街に現れ始める頃、上条と美琴は今までいた学区の端の方まで来ていた。

上条「このまま街を抜けて郊外を突っ切って、次の学区に行こう」

上条は後ろを振り返り言う。

上条「ん? あれ? 御坂?」

背後にいたはずの美琴がいない。

上条「おい、御坂!?」

上条は、焦るように辺りを見回す。

上条「あ、あんな所に……」

すぐに美琴は見つかったが、彼女は上条から後方10m辺りをトボトボと歩いていた。
急いで上条は美琴の元に駆け寄る。

上条「何やってんだよお前。見失ったら大変だろうが」

美琴「………………」

が、彼女は顔を上げようとしない。

上条「とにかく、このまま街を抜けて郊外を突っ切ろう。夜までには次の学区に行けるだろう」

そう言って上条が前に向き直した時だった。

美琴「………やだ」

上条「は?」

上条は思わず振り返る。

美琴「………………やだ」

美琴が呟く。

美琴「………やだ」

上条「お前何言って……」

美琴「疲れた」

上条「え?」

美琴「疲れたの! もう歩けないの!」

上条「な……ぁ!?」

美琴「もうクタクタ……。朝からずっと歩きっぱなしなんだもん……」

まるで親に拗ねる子供のように美琴は愚痴を吐く。

上条「それは、仕方ないだろ?」

美琴「仕方なくない!! あっちの道に行ったらアンチスキルがいるから遠回り。こっちの道へ行ってもアンチスキルがいるから遠回り。そんなんばっかりで全然進めてないし、もう疲れたの!!」

上条「お前、自分の置かれている状況ぐらい分かるだろ? 俺たちは一刻でも早く先に行かなきゃならねぇんだ」

美琴「やだ! 休みたい!!」

上条「おい、わがまま言ってんじゃねぇよ!!」

美琴「………!」

上条「!」

少し苛立ちを覚えた上条が怒鳴ってしまったためか、美琴は驚くように彼の顔を凝視した。

美琴「………」ウルッ

美琴の目が涙目になる。

上条「………いや、だから……とにかく今は急がなきゃならないんだよ。そこだけは分かってくれよ……」

美琴「………ごめんなさい」

上条「………………」

元気を無くした美琴が謝る。そんな彼女を上条は気まずそうに片目で窺う。

美琴「…………でも、もう歩けないのは本当なの。足が……棒みたいになっちゃって………」

上条「(参ったな)」

上条は地図を広げる。

上条「………あ」

美琴「?」

上条「こっから先、500mぐらい行ったところにモーテルがある。そこで、休んでくか?」

美琴「……! うん!!」パァァ

美琴の顔が明るくなった。

上条「(やれやれ……)」

美琴「さ、早く行こうよ!!」

上条の裾をグイグイ引っ張る美琴。

上条「あ、ああ………」

そんな彼女を見て上条は胸中で溜息を吐く。

上条「(御坂の奴、まるで幼児退行してるみたいだな……。まあ色々あったから仕方ねぇけど。先が思いやられるな……)」

それからしばらくして、2人は郊外のモーテルに辿り着いた。

今日はここまでです。
多分明日も来れるかな?
では本日はこれで。

>>1です。
今日も今から投下していきます。

学区と学区の僅かな距離の間にある郊外の道。そこに、モーテルはあった。
『モーテル』と言っても、日本では馴染みのないものだったが、ここ学園都市では、アメリカ式のモーテルをモデルに実際に設計されたモーテルがいくつもあった。

主人「………いらっしゃい」

中に入ると同時、正面に見える受付にいた中年の男が上条とその後ろにいる美琴をジロジロと見てきた。恐らくはモーテルの主人だろう。日本人とはいえ、どこかアメリカの映画に出てきそうなその主人の雰囲気もモーテルらしいと言えばらしかった。ただ、カウンターの端に飾ってあった高級そうなフィギュアが気にはなったが。

上条「すいません……ちょっと休憩がてら一部屋借りたいんですけど。いや、小さな部屋でいいんで」

主人「…………君たち学生?」

上条「え?」

主人は上条を、次いで美琴を見る。美琴の方は上条に隠れるようにして、更に帽子も目深に被っていたため、主人にはその顔は見えなかったが。

上条「…………そうですけど……」

主人「どういう関係?」

上条「………えーっと……」

まさかそんなことまで訊ねられるとは思わなかったのか、上条はしどろもどろしてしまう。

上条「(まずいな……何か怪しまれてる? ……不幸な上条さん的な展開だと、この後バレたりしちまうんだよなあ……。でも気のせいかもしれないし、ここで引き返しても逆に怪しまれそうだし……)」

主人「どうした?」

上条「その……兄妹です!」

美琴「……………………」

主人「そうか」

上条「え?」

主人「いやね、こっちは学生と言うよりかは、主に教師とか研究者とか相手に商売やってるんで。最終下校時刻も近いのに学生……しかも男女のペアを泊めるとなると、色々学校側がうるさいんだよ。倫理的な問題でね」

そう言って主人はカウンターの中をゴソゴソと探る。

上条「………はぁ」

主人「でもま、兄妹なら別にいっか」

美琴「……………………」

主人「あ、ここに名前書いて」

主人はカウンターの上の紙をトントンと指で叩く。見ると、今までに宿泊したらしい人たちの名前がずらっと並んであった。

主人「あと一応、身分証も」

上条「………お、俺の分だけで構いませんよね?」

恐る恐る上条は訊ねる。

主人「ああ」

上条「(良かった……)」

言われた通り、上条は紙に名前を書き、学生証を見せた。

主人「じゃ、これ鍵ね」

主人は手にしていたルームキーを、上条に渡す。

上条「ありがとうございます」

上条と美琴は、部屋を見つけると早速中に入った。

上条「ふう、受付のおっさんにバレないかと冷や冷やしたぜ。いつもの俺なら不幸だから速攻バレてただろうけど、今日はついてたな」

上条はカーテンが掛けられた部屋の奥の窓から外を見た。たまに、車が通り過ぎていく音が聞こえる。

美琴「………ねぇ?」

上条「ん?」

振り返ると、帽子を脱いだ美琴がそこにいた。

美琴「1つ聞きたいんだけど、さっき何で私たちのこと『兄妹』って言ったの?」

上条「え? 何でって……」

何故か美琴は不服そうな顔をしている。

上条「それが一番普通っぽくねぇか?」

美琴「…………………」

上条「それとも何だよ? どんな間柄だったら良かったんだよ?」

美琴「え!? あ……その……それは……」ボソボソ

上条「何だよ?」

美琴「こ……こここ……こいb」

上条「夫婦か?」

美琴「!!!!!!!!!!」
美琴「ななななななななな何でふふふふふふ夫婦なのよ!!!!//////////」

上条「違うのか?」

美琴「こここここんな歳の夫婦なんているわけないでしょうがバカぁぁ////////!!!!」


ドゴン!!!!


上条「ぶえっ!?」

美琴の渾身のボディブローが上条の腹に決まる。

上条「おまっ! い、今のは効いたぞ!」

美琴「あ、あんたがデリカシーないからでしょ!!////////」

上条「?」

美琴「うううう//////……もういい!! 私シャワー入るから!!」

顔を赤くさせ美琴は言った。

上条「あ? ああ」

スタスタと、美琴はシャワールームに向かう。

美琴「覗かないでよね!?」

上条「べ、別に覗かねぇよお前の裸なんて!」

美琴「死ね!!」

それだけ残し、美琴はバタンとシャワールームのドアを閉めた。

上条「何だよあいつ……よく分かんねぇなあ」

首を傾げる上条。

上条「あ! そうだった!」

と、何かを思い出し、上条は部屋を出て行った。

イギリス・某所――。

土御門「とにかく、今後はそういう方向性で掛け合ってみるしか……」

美琴に『弧絶術式』を発動した末死んだ魔術師のアジト。そのアパートの前で、インデックスたち『必要悪の教会(ネセサリウス)』のメンバーは何かを真剣に話し合っていた。

Prrrrrrr.....

土御門「っと、失礼。電話だぜい」
土御門「はいもしもし、こちら土御門」



上条『土御門か? 俺だ! 上条だ!!』



土御門「カミやんか!?」

インデックスステイル神裂「!!??」

土御門「無事か? 今どこにいる? 超電磁砲はどうした?」

受話器の向こうの上条に問い掛ける土御門。インデックスたちが土御門の周りに集まる。

上条『取り敢えずは俺も御坂も無事だ。一緒にいるよ』

その言葉を聞き、インデックスたちが安堵の息を吐く。

ステイル「ったく、心配掛けさせやがって」

神裂「彼ならやってくれると思ってましたよ」

インデックス「とうま……短髪……良かった……」

一方、学園都市。

上条「今、学園都市のモーテルから掛けてる」

土御門『誰か側にいるか?』

ゆっくり振り返る上条。少し離れた場所で、受付の主人が来客に応対しているが見えた。

上条「いや……それは大丈夫」

上条は今、モーテルのエントランスの端に設置されている公衆電話で土御門たちに電話を掛けている。

土御門『だが、今も学園都市内にいるのは確かなんだな?』

上条「そうだ。まだ、学園都市から逃げ出すのには時間が掛かりそうだ」

土御門『やっぱりか……』

上条「土御門、何とかして助けてくれないか? 俺はともかく、御坂が色々心配なんだ」

土御門『こっちも出来ることはやってるんだがな……』

上条「……『弧絶術式』について、新しいことは何か分かったか?」

土御門『ダメだな。せめて死んだ魔術師が何故、超電磁砲を狙ったのか……。それが分かれば、何か有力な手掛かりを掴めそうな気もするんだが……』

上条「……クソッ! 魔術師の野郎め!! 生きてたらぶん殴ってやったのに!!」

土御門『落ち着けカミやん。前も言ったろ? 冷静にならなければ助けられるものも助けられなくなるって』

上条「…………っ」

土御門『こっちも電話で上の連中に頼んでみたんだがな。学園都市に戻りたい、って。だが、人手不足を理由に断られた。もしくは学園都市と厄介になることは嫌だったのかもな。だから今、直接話しにいこうと思ってたんだが……どうなるかな』

上条「……何で……こうなるんだよ!!」

上条は拳を握り、ワナワナと震わせる。

土御門『………とにかく、カミやんは出来るなら頻繁に連絡を寄越してくれ。特に、学園都市から『外』に脱出する時にはな。俺たちも、何とかそっちに行けるようしてみるから』

上条「…………分かった」

公衆電話にうなだれるようにして、上条は小さく答えた。


『とうま!!!』


上条「!!!!」

突然、受話器の向こうから土御門とは違った幼い少女の声が聞こえてきた。

上条「インデックスか!?」

インデックス『そうなんだよ!』

上条「みんなと上手くやってるか?」

上条は、電話に出たインデックスに訊ねる。

インデックス『私のことはいいんだよ! 短髪は……短髪は無事なの?』

だが、彼女は自分のことよりも、余程心配だったのか美琴について逆に聞いてきた。

上条「何とかな。随分参ってるようだけど……」

インデックス『ごめんなんだよ……。私がもっと早くに『弧絶術式』に気付いていれば……』

受話器越しでも分かるほど、インデックスの声は落ち込んでいた。

上条「はぁ!? 何言ってんだよ!? お前のせいなんかじゃねぇからな!! 悪いのは死んだ魔術師だ。お前が責めを負う謂れはねぇ!!」

インデックス『でも……』

上条「俺もそうだが、御坂もお前には感謝してる。お前がいなかったら俺は御坂のことに気付いていなかったし、御坂もやばいことになってたかもしれないんだ。だからインデックス、お前のせいじゃない」

インデックス『うん……』

上条「よし」

インデックス『とうま……私、絶対短髪を助け出す方法見つけるから。だから……とうまも短髪のこと、守ってあげてね……』

上条「任せとけ」

笑顔で頷きながら、上条は自信たっぷりと答える。

インデックス『短髪には……今、とうましか頼れる相手はいないんだから』

上条「ちゃんと分かってる。心配すんな」

2人の会話はそれで終わった。

土御門『カミやん』

上条「土御門か」

土御門『そういうわけだ。こっちも出来るだけ頑張ってみるから、カミやんも頑張ってくれ』

上条「ああ」

土御門『では、また連絡してくれ』

上条「分かった」

電話を切る上条。彼はしばらく、公衆電話に腕を掛けうなだれるようにして微動だにしなくなった。
何か考え事をしているようだった。

上条「…………戻るか」

顔を上げ、振り返る。と、そこで受付の主人と目が合った。

上条「…………………」

すぐに目を逸らす主人。上条はそんな主人を横目に、無言でカウンターを通り過ぎていき、部屋に戻った。

上条「これからどうするか……」ガチャッ

美琴「あ」

上条「ん?」

美琴「……………………」

上条「……………………」

上条が部屋のドアを開けた瞬間、2人は言葉を失くしそこで固まった。

上条「あ……いや……その……これは……//////」

美琴「……………………」

額に青筋を立て拳を握る美琴。無理も無い。何故なら今彼女は、バスタオル1枚だけを持って身体を僅かに隠していた状態だったのだから。



美琴「この……変態!!!!!!!!」



バチバチバチッ!!!!!!



上条「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!」



モーテル中の電気が、一瞬だけ停電した。

美琴「まったく、信じらんない。人の風呂上りの姿見るとか」

上条「いや、無茶言うなよ! こっちだってあのタイミングで鉢合わせるとは思わなかったんだ!」

美琴「どうだか? 本当は狙ってたんじゃない?」

タオルで頭を拭きながら、美琴は尖った口調で言う。もちろん今彼女はちゃんと服を着ていたが、上条に対する怒りはまだ収まっていなかった。

上条「んんなわけあるか! 大体お前も無用心だろ!! 同じ部屋に泊まってんのに!!」

ベッドに腰掛け必死の言い訳を試みる上条。

美琴「だって部屋にあんたの気配が無かったんだもん」

タオルを椅子の上に掛ける美琴。彼女は上条と向かい合うようにしてもう1つのベッドに腰掛ける。




上条「つーか、俺がお前の裸姿覗くわけないじゃん。まだ中学生だってのに」




美琴「!!!!」

上条「それにいくら上条さんでも、女の子の裸見ていちいち興奮するほど節操無い男じゃないし」

美琴「……………………」

上条「だから別にこれからも今みたいなことあってもお前は気にする必要ないぞ……ってどうした?」

気付くと、美琴が黙ったまま俯いていた。

上条「ん? 俺もしかして何か悪いことでも言ったか? いや、さっきの鉢合わせについては悪いと思ってるけど……」

美琴「………っ」

本当に、上条には悪気が無かった。寧ろ、一連の言葉はどちらかというと美琴を気遣うために言ったことだったが、彼女は上条の予想とは裏腹に、何か傷ついたような、ショックを受けたようなそんな感じだった。

上条「御坂?」

上条が美琴の顔を覗き込む。

美琴「あ、あんたは……!」

上条「いっ!?」バッ

急に美琴が顔を上げた。何故か、目を潤ませながら。

美琴「あ……あんたは……」

上条「???」

美琴「その………」

一度、顔を逸らす美琴。だが、何か意を決するように彼女は再び顔を上げ上条を見つめた。




美琴「私の裸なんて見ても、やっぱり何とも思わないの?」




上条「!!!!!!!!!!!」

美琴「…………、」

目を潤ませ、上目遣いでそう訊ねてきた美琴。風呂上りで肌は上気しており、赤みを帯びているその姿は、元の肌が白く綺麗なためか、中学生とは言え妙に色っぽさを醸し出している。おまけに彼女の自慢のシャンパンゴールドの髪は少し濡れており、どこからか甘い香りも漂ってくる。

上条「(こ……これは……何か色々とまずい……)」

そんな彼女の艶かしい身体が、距離にして50cmの範囲内にあれば、さすがの上条も正常な対応が出来なかった。

美琴「………当麻」

上条「(うお! ちょっ、待って……これはヤバイ。ヤバ過ぎる……)」

しどろもどろし、思わず視線をあちこちにやる上条。

美琴「ねぇ………」

相変わらず彼女は、上目遣いで上条に答えを求めてくる。どうやら彼女にとってはちゃんと答えてほしい真剣な問題のようだった。

上条「(えー……ど、どうすんの俺!?)」

美琴「答えてよ……」

上条「…………っ」

美琴は上条を見つめてくる。間違いなく彼女は、1人の女性として質問している。

上条「(ここで逃げたら、男がすたるぞ上条当麻)」

胸中にそう呟く上条。そして彼は何かを決心するように、1度息を吐くと、美琴の顔を見据えた。

上条「み、御坂……」

美琴「な、何?」

上条「………………」

この時、美琴の姿を見て上条は改めて思う。こいつも女の子なんだな、と。いつもは追いかけたり追いかけ回されたり、電撃浴びたり浴びせられたりと、よく分からない間柄でそんなことを意識することもなかったが、こうやってきちんと面し合って見るとちゃんと分かる。間違いなく、彼女は1人の女の子なんだと。
正直、彼女とこんな展開になるとは夢にも思ってみなかったが、目の前の彼女が、1人の女の子として答えを求めてきている以上、上条も1人の男として、真面目に応じてやらなければならなかった。

上条「いや……その……さすがにさっきのは……俺も……デリカシーが……なかったかな……」

美琴「う……うん……」

上条美琴「「…………………」」

上条「だから……」

美琴「!」ビク

上条「あー……だからね……その……何だ……改めて考え直してみると、だ……」

美琴「うん……」

上条「さっき……お前のバスタオル1枚の姿見て……」

美琴「うん//////////」

上条「あ、こいつこんな綺麗な身体してるんだな、って思ったのは事実……だ」

美琴「ホ、ホントに?」

上条「ああ……」

上条は美琴に視線を合わせきっぱりと答える。

美琴「…………………」

上条「…………………」

2人ともそれ以上、出てくる言葉がなかったのか、自然と、見つめ合う形のまま動かなくなった。

美琴「……………………」

上条「……………………」

部屋が静寂に包まれる。今、確かに上条と美琴は1人の男と1人の女として面し合っている。
そして、一瞬、彼らの間に大人の空気が流れた時だった。




ガシャアアアアアアン!!!!!!!!




上条美琴「!!!!!!!!!!」

部屋の外から物音が聞こえた。

上条「何だ!? 敵襲か!?」

美琴「えっ!?」

ベッドの上で固まっていた2人が同時に立ち上がる。

上条「何があった!?」

急いでドアを開ける上条。

上条「!!!???」

そこで上条が見た物とは………


主人「ああああああ何てことだあああ!!!!!!」


上条「ど、どうしたんですか!?」

客「いやね、何か主人、カウンターでホラー映画見てたらしくて、急に僕が入ってきたもんだから、驚いて『愛しのカナミンフィギュア高級クリスタルガラス製』を落として割ってしまったらしいんだよ」

カウンターの前にいた教師らしい男が苦笑いを浮かべて説明する。上条が視線を下に向けると、受付の主人が床に落ちて割れて、無残な形になったフィギュアの残骸を見て泣いていた。

主人「よ、嫁さんと娘に逃げられて落ち込んでた時に俺を励ましてくれた『愛しのカナミンフィギュア高級クリスタルガラス製』が粉々になってしまったあああああああああ!!!!!! 俺とカナミンの愛も粉々になってしまったあああああああ!!!!!!」

頭を抱え、床の上で男泣きをする主人。その光景は余りにもシュールだった。

客「だからいつも注意してたじゃない。割れやすいものはカウンターの上に置いちゃダメだよ、って」

上条「…………………」

上条は呆れたと言うよりも呆然としていた。

主人「カナミンんんんんんんんんん!!!!!!」

客「まあまあご主人」

主人「俺がホラー映画見てる時にお前が急に現れるからだーーーーーー!!!!!!」

客「えーーーーーー!?」

上条「アホらし………」

溜息を吐き、首を振ると上条は部屋に戻っていった。

美琴「な、何だったの?」

部屋に戻ると、美琴が心配そうに訊ねてきた。

上条「何でもねーよ。主人が愛用のフィギュアが割れたんだと」

美琴「何それ」

上条「さあ?」

美琴「………あ」

上条「ん?」

美琴「………………」

上条「………………」

美琴「………そ、そのさっきは変なこと聞いてごめん////////」

上条「………い、いや別に……。と、とにかく俺も答えたからな////////」

美琴「………わ、分かった。さ、さーてと、そろそろ寝ようかな」

上条「えぇっ!!!???」

美琴「えぇっ!!!???」

上条「あ、ああ。寝るのか、そうか寝るんだよな。つ、疲れてるもんな。ど、どうぞご、ごゆっくり」

美琴「う、うん。ちょ、ちょっと仮眠取るだけだから……。お、起きたらご飯でも食べよ?」

上条「そ、そうだな……」

上条美琴「「……………………」」

美琴「お、お休み!!」

上条「おおおおう。お休み!!」

光の速さでベッドに潜り込む美琴。上条の方はキョどりながら、室内に設置されていたテレビを点け番組を見始めた。
2人はまだ、色んな意味でウブだった。

はい、今日はここで終わりです。
ではまた多分明日?
じゃあ本日はこれで。

>>1です。
書き溜めも大分溜まってきました。
取り敢えず今日もたんたんと投下していきます。

夜9時頃・黄泉川部隊司令部――。

上条と美琴がモーテルで休みを入れてから数時間後。街中を移動していたアンチスキルの装甲車の車内では、黄泉川たちが今もせわしなく動いていた。

黒子「わざわざまた来て頂いて申し訳ありませんわね」

佐天「いえいえー大丈夫ですよー」

初春「私もジャッジメントですからね!」

黒子「どうもアンチスキルの方々が、貴女がたの証言も欲しいと言うので」

黒子が横に立っていた黄泉川を一瞥する。

黄泉川「ん? ああ、情報は多いほうがいいじゃん? こんな夜中に呼び出したのはすまないが」

佐天「気にしてないから平気ですよ全然」

初春「右に同じく」

黄泉川「ま、しばらくはくつろいでいてくれ」

黒子「………………」

そう言うと黄泉川は運転席の方へ向かっていった。

黒子「ハァ……。私としては今すぐにでも捜査に向かいたいのですけれど」

黒子がコーヒーを嗜みながら溜息を吐く。

初春「でも焦っててもダメですよ? 現場で発見された証拠物件……DNA鑑定はまだ出ていないんでしょう?」

黒子「ええ……。ですのでもどかしいな、と」

佐天「そう言えば、御坂美琴って、誰かに逃亡を協力してもらってるって話本当ですか?」

黒子「……そうですわね。目撃談もありますし、その可能性が高いですわ」

1拍間を置き、黒子は静かに答えた。

初春「何でも相手は高校生の男らしいとか」

佐天「へーあんな女でもそんな相手がいるんだー」

初春「白井さん、その男に心当たりあります?」

黒子「…………まあ、あると言えばありますが、確証は無いので」

佐天「でも男と逃げてるってことは、カップルに化けてる可能性もありますね」

初春「あ!」

黒子佐天「?」

何かを思い出したように初春が声を上げた。

初春「カップルと言えば佐天さん、今日の昼すごいもの見ちゃいましたよねー」

佐天「あ、ああ! あれか! 見た見た!」

黒子「すごいもの?」

佐天「そうなんです! ほら、朝白井さんやアンチスキルの人たちと現場近くに行ったじゃないですか。その後、あたしたち今日は学校休んできたし、暇だったから滅多に行けない店とか回ってたんです。で、昼頃、どっかの大きな公園で休憩でしてたんですけどー。何と! あたしたちの隣のベンチのカップルが!! 昼間だと言うのに大胆にも白昼堂々、こうやって抱き合ってたんですよー!!」

と言いつつ佐天はその光景を再現しようと初春に抱きついてみる。

初春「ひゃわっ! 佐天さん!?」

佐天「ねーすごかったよねー初春?」

初春「確かに、普段見られないものを見ちゃった気分です。でも私たちがジッと見てたら、男の人に『見るな』って怒られちゃいましたけどね」

佐天「よく言うよねー。自分たちでやってるくせに。あの後逃げるようにそそくさと行っちゃったけど、女の人はどんなんだったのかなー? ずっと背中しか見えなかったから顔、確認できなかったよ」

黒子「…………!」ピク

初春「男の人は結構イケメンでしたね。ツンツン頭の髪の毛が残念でしたけど」

黒子「!!!!!!」ガタッ

佐天初春「!?」

突然、黒子が立ち上がった。

黒子「初春」

初春「はい?」

黒子「その殿方、本当に髪が尖っていたのですか?」

初春「そ、そうですけど」

佐天「?」

急に真剣な表情を浮かべ訊ねてくる黒子に、2人は不思議そうに顔を見合わせる。

黒子「その殿方が抱き締めていたという女性……歳はどれぐらいに見えましたか?」

初春「え? 急にそんなこと言われても……」

佐天「あー背中しか見えなかったけど、何となくあたしたちぐらいかなーとは思ったっけな」

黒子「髪は?」

初春佐天「え?」

黒子「女性の髪の色は?」

初春「えっと確か……」

佐天「帽子で隠れてたけど、茶髪っぽかったかな?」

初春「そ、そうです!」

2人は互いの記憶を補うように確認し合う。

黒子「…………もしや」

佐天「?」

初春「あ、何なら男の人の似顔絵描いてみましょうか? 特徴ない顔でしたけど、髪型が強烈すぎて印象に残ってますから」

そう言いながら学生鞄からノートと筆箱を取り出すと、初春は白いページにその男の似顔絵を描き始めた。それを立ったまま眺める黒子。

佐天「おー画伯」

初春「はい、こんな感じです。簡単に描いちゃいましたけど」

1分もしないうちに初春は描き上げた。お世辞にも上手いとは言えない、子供が描いたような絵だったが、特徴は捉えていた。

黒子「!!!!!!!!」バッ

初春「あっ……」

黒子「やはり……」

初春から紙をひったくり、まじまじと見つめる黒子。

佐天「にしても初春さ、この画力なら教育番組の子供と一緒に歌えるお姉さんになれるんじゃない?」

初春「それって褒めてます?」

黒子「……どうやら私の予想は外れていなかったようですわね」

佐天初春「え?」

紙を握りつぶし、不適な笑みを浮かべる黒子。

佐天初春「?」

黄泉川「佐天、初春」

佐天初春「は、はい?」

と、そこへ黄泉川が1枚の紙を持って近付いてきた。

黄泉川「DNA鑑定が出て…たった今、御坂美琴と一緒にいると思われる男の資料写真が送られてきたじゃん。お前らが昼に公園で見たカップルの男ってのは……こいつじゃなかったか?」

黄泉川が紙を広げてみせた。

佐天初春「!!!!!!!!!!」

そこに映っていたのは、ツンツン頭の髪型をした1人の高校生だった。

某学区・郊外のモーテル――。

上条「………………」

そのモーテルに入ってから、大分時間が経っていた。上条は今、ベッドの上に腰掛け、引っ張ってきた机の上に地図を広げ、印をつけるなど、脱出のために必要な情報を整理していた。

上条「………………」

と、そんな上条の側で、規則正しくリズムを刻む、心地良さそうな寝息が1つ。
上条はそちらを見る。

美琴「……スー……スー……」

美琴が隣のベッドで、天使のような寝顔を浮かべて眠っていた。
彼女を見て上条は口元を緩める。

上条「本当に……寝る時は気持ち良さそうに寝るんだな……」

美琴「……ムニャ……」

上条「………」フッ

だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。一箇所にずっと留まっていたら危なかった。

上条「おい、御坂」

上条は美琴を揺する。

美琴「う……ん……」

上条「起きろ。そろそろ飯食って出て行かないと」

美琴「……まだ……寝る……」

上条「ダメだ。なるべく移動しないと。もう十分眠ったろ?」

モゾモゾと美琴が布団の中で動く。しばらくすると彼女は、ゆっくりと目を開け寝ぼけ眼で上条を見てきた。

美琴「……今……何時?」

上条「夜の……11時前だな」

美琴「……そんなに……寝てたんだ」

上条「ああ。まるで眠り姫みたいにな」

美琴「もしかして……ずっと側にいてくれたの……?」

布団の端を両手で持ちながら、美琴は口元から上の部分だけ顔を外に出して上条に訊ねる。

上条「当たり前だろ? 約束したじゃねぇか」

美琴「……そっか………」

上条「お陰でお前の間抜けな寝顔を見れたけどな」

美琴「……何よそれ……人の寝顔勝手に見るとか……有り得ない……」

寝起きだからか、おっとりとしたような口調で愚痴る美琴。

上条「お前が無防備な姿見せるのが悪いんだろ? 嫌だったら、あっちに顔向けて眠るぐらいの努力はしろ」

美琴「………いじわる………」

上条「はいはい、上条さんは意地悪ですよー。ってそれはいいから、そろそろ起きてくれないでしょうかねお嬢さま?」

美琴「……そうね。身体、動かさなきゃ……」

ゆっくりと布団をめくり、美琴は上体を起こす。

上条「じゃあこのモーテルにあった売店で飯買ってきてやるから、ここにいろ。飯食ったら、出るからな?」

美琴「……分かった」

立ち上がり、上条は部屋を出て行った。

数分後、2人は部屋の真ん中のテーブルに腰掛け、上条が売店で買ってきたオリジナル弁当を食べていた。

上条「ちょっとは疲れ、取れたか?」

美琴「そうね。それで、これからどんなルートで行くの?」

上条「お前が寝てる間に、色々と経路を考えてみた。取り敢えずはまず、次の学区まで歩く。この時間帯なら、アンチスキルも郊外まで巡回範囲を広げてないだろうからな」

美琴「分かった」

上条「まあ順調に行けば3日以内には南に着くだろう。そのためには適度な休息も必要だけどな。後は、アンチスキルの警邏にどうやったら引っ掛からないようにするか、だが……」

美琴「…………何かごめんね」

上条「え?」

箸を休め、上条は美琴を見る。

美琴「本当はそういうの、私が考えないといけないのに。あんたに任せっきりで……」

上条「そんなもん関係ねーよ。俺が好きでやってんだから」

美琴「でも、会ってからずっとあんたに頼ってばかりだし……。何か情けないな、学園都市第3位のくせして……」

上条「それは違ーよ。こんな異常な状況下でレベル5もレベル0も関係あるか。自分を卑下するのはやめろ」

美琴「……フフ」

上条「?」

美琴「バカね私って。あんたに説教されてばっかりで。はーもう、自分でも嫌になっちゃうくらい弱気になってるわね私」

皮肉げに美琴は笑ってみせる。

上条「いいんだよ、弱気になっても。人間、強がってるだけじゃ息苦しくてやってけねぇよ。だからお前も、遠慮なく俺に頼ってくれていいんだから」

美琴「……フフ。ホント、あんたって面白いわよね」

上条「はあ?」

美琴「なんでもなーい」

おかしそうに笑い、美琴は続きを食べ始めた。

主人「今度はなるべく昼に来いよー」

受付の主人の声を背後に聞き、上条と美琴はモーテルを出て行く。
外は、真っ暗だった。

美琴「どう行くの?」

上条「取り敢えずはこの道路に沿って歩く。途中、道路から外れることになるけどそれは仕方ない。まともな交通手段が無い以上、地道に歩いてくしかないしな」

美琴「分かった」

2人は、静かな夜道を歩く。

美琴「………………」

上条「………………」

空には星が瞬き、優しい風が肌に当たった。
美琴は背中で手を組みながら、空を見上げ上条の後ろを歩いていた。

美琴「何だかこうしてると、私たちが追われてるってのも嘘みたいに思えちゃうわね」

上条「ああ」

美琴「ほら、星が綺麗だよ?」

上条「ああ」

美琴「……何その反応。素っ気無いわね」

頬を膨らませる美琴。時折、道路を通り過ぎる車のヘッドライトが2人の背中を照らす。

美琴「あんたにはロマンってものがないの? せっかくこんな可愛い女の子と2人だけで夜道歩いてるんだから、エスコートぐらいしたらどう?」

上条「ああ」

美琴「…………」イラッ

上条「………………」

美琴「な、な、何なら手ぐらい……つ、つ、繋いでもいいけど?////////」

上条「ああ」

美琴「ってちょっとは何か反応せぇやこっちが恥ずかしくなるだろうがあああ!!!!!!」バチバチッ!!

上条「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」

暗い道に、青白い光が瞬いた。

上条「な、何なの御坂さん!? 急に後ろから電撃とか上条さん死んじゃうよ!?」

美琴「あんたがまともな反応寄越さないからでしょ!!」

上条「色々と考えてたんだよ!! 仕方ねぇだろ!?」

美琴「もう!! ロマンチックの欠片も無い奴め……」グヌヌ

上条「あれ?」

と、上条が何かに気付き、その場を離れた。

美琴「うーーーーー……ムカつく。わざとやってんのかしら?」イライラ

上条「あ、これは……」

美琴「大体、普通の男なら、こんな誰もいない所で女の子と2人きりになったら、耐え切れず押し倒しちゃうぐらいするんじゃないの? なのに何であいつは……って私は何言ってんのよバカぁーーーーーー///////////////」ボンッ

上条「おい御坂、乗るか?」

美琴「へ!? の、乗る!? の、乗るって……や、やっぱりそういう展開に//////// ……ど、どうしよう……そ、そんなのまだ心の準備が……//////////」カァ~

上条「何言ってんのお前?」

美琴「ふみぇっ!?」

いつの間にか、上条の顔が側まで来ていたせいか、美琴は変な声を上げてしまった。

上条「これ、乗るかって聞いてんだけど」

美琴「え……」

よく見ると、上条は1台のオートバイをどこからか引っ張ってきていた。

美琴「な、何それ? バイク?」

上条「ああ。そこに落ちてた」

美琴「落ちてた……って」

上条「幸運にもヘルメットが2人分あったし、鍵も何故か近くに放り捨てられてたから」

美琴「いや待って。あんたって免許もってんの!?」

上条「いや?」

美琴「は?」

上条「そんな金あるわけないのに、免許なんか取ってる余裕あるわけないだろ」

美琴「いやいやいや。当麻さん当麻さん、もしかしてこれはトンチですか?」

上条「何だよ? 何か納得いかないことでも?」

美琴「あのねー。免許も取ってないのにバイクを運転出来るわけないじゃない?」

腰に手を当て、呆れたように美琴は至極当たり前のことを指摘する。

上条「知ってるけど?」

美琴「はぁ?」

上条「まあ聞けよ。確かに免許は取ったことないけど……実はこの間、イギリスに行った時に、知り合いの魔術師の女の子に教えてもらったんだよ。今後もしかしたら役に立つかもしれない、ってな」

美琴「女の子?」ピク

上条「手取り足取り教えてもらったからさ、何とか運転するぐらいなら出来る。まあ、まだ心許ない面もあるけど」

美琴「手取り足取りって……」



―――美琴の妄想―――

上条「うお! あ…あのI和さん? そこはハンドルじゃないと思うのですが?」

I和「ハ…ハンドルですよ? わ、私が貴方のハンドルを今から操作してみますから」

上条「ちょ……やめ…あ……か、上条さんの排気口からオイルが漏れるううううううううう!!!!!!!!」

I和「えへへへ……たくさんオイル、漏れちゃいましたね……。じゃあ今度は私のタイヤで貴方のハンドルを磨いてみますね? その後は……貴方のハンドルを……私の鍵穴に……差し込んで下さい」

上条「何かもう言ってることメチャクチャだけど、気持ちいいいいい!!!!!! このまま100kmオーバーいっちゃうううううううう!!!!!!!!」

―――美琴の妄想終わり―――

美琴「ななななななななななな//////////」

上条「お前……絶対何か違うこと考えてるだろ?」

上条はそう言いつつ、オートバイを道路にまで引っ張っていくとシートに跨った。

上条「だからさ、乗れよ御坂」

美琴「ふぇ!? え? あ……ってちょっと待ってよ。本当に運転出来るの?」

上条「た、多分……無免許だけど……」

美琴「つか2人乗りの練習もしたわけ?」

上条からヘルメットを受け取りながら、美琴は心配そうな顔で訊ねる。

上条「ま、まあ……一応したから大丈夫だろ」

美琴「物凄く不安なんですけど……」

しかし、上条はもうヘルメットを被っている。

上条「ぶっちゃけ付け焼刃なのは分かってるけどさ? 一刻でも早く南に向かうなら、足が速いバイクに乗った方がいい」

ヘルメットのバイザー越しに、上条は美琴を見る。

美琴「………お願いだから事故らないでよね?」

少し考え込んだが、美琴は渋々承諾することにした。

美琴「……こ、ここに乗ればいいんだよね?」

上条「ああ」

恐る恐る、美琴はバイクの後部シートに跨る。

上条「もうそろそろいいか?」

美琴「あ、待って……。今ヘルメット被ってる……。…っと、よしいいわ。にしてもこのメット、ブカブカなんだけど……」

上条「仕方ない。捨てられてたものなんだから」

美琴「はい、OKよ」

上条「いや、お前、掴まってないと落ちるぞ?」

美琴「え?」

振り向き、上条は自分の胸を叩いてみせる。

上条「俺の身体、掴まってないと落ちるぞ、って言ってんの」

美琴「えええええええっ!!!??? ちょ、な……何よそれ!!?? ま、まるで抱きついてるみたいじゃない!!??////// そ、そそそんな恥ずかしい真似しないといけないの!!!???////////」

上条「おおおお俺だって恥ずかしいっつーの!////// でもどこも掴まってなかったら落ちちまうだろうが!!」

美琴「むぅー……わ、分かったわよ!////// す、すればいいんでしょすれば!!////////」ダキッ!!!

上条「ふぉう!?」

美琴「な、何よ!?//////」

上条「そ、それはさすがに抱きつきすぎ!! そ、そこまでひっつかなくていいから!!//////(って言うか、や…柔らかいものが……何か柔らかいものが背中に当たってるんすけどーーーーーー!!!!!!////////)」

美琴「もう!! 難しいわね!!」

上条「そ、それぐらいでいい。それぐらいで(あ、相変わらず柔らかい感触があるけど俺はこんな状態で無事運転出来るんだろうか上条さんマジ不安)」

美琴「で、ま、まだ出発しないの?」

上条「お、おお。頼むから振り落とされんなよ?」

ようやく2人とも落ち着いたのか、上条はエンジンを吹かした。

上条「行くぞー」

美琴「オッケー」

静かな夜に、エンジンの音が鳴り響く。
1台のオートバイは、暗闇にテールランプの跡を残しつつ、若い2人を乗せて走り出していた。

>>1です。
はい今日は以上です。
ではまた明日。

すんません皆さん。ありがとございます。
ちょっと気にしてたんで一応言っときました。スレ汚し失礼。
じゃあ今日もいつも通り今から投下します。

その頃――。


ガシャン


という音を立て、黄泉川は電話を切った。

黄泉川「………………」

黒子「如何でしたか?」

側に立っていた黒子が訊ねてくる。

黄泉川「ダメじゃん。まだ現段階では、上条当麻の指名手配にまでは漕ぎ着けられないらしい」

黒子「そんなっ!」

黄泉川「それが本部の答えじゃん。奴らは前例の無い特例措置を嫌う。あくまで事務的に手続きを済ますことが、自分たちの保身に繋がると考えてるじゃん」

黒子「………っ」

黄泉川の話を聞き、黒子は苦虫を潰した顔をする。

黄泉川「おまけに本部への召集命令を受けた」

黒子「えっ!?」

黄泉川「今から本部へ帰る。白井、お前も学生顧問として連れて行くじゃん。ただ、我々もこんな所まで来て部隊を展開したんだ。わざわざ大所帯で帰る必要はあるまい。よって私とお前、後何人かの部下と共に列車で本部へ向かうことにするじゃん」

黒子「待って下さいまし! 私はここで御坂美琴の手掛かりを追う役目が……」

黄泉川「ダメじゃん。本部がお前も連れてくるよう言ってるじゃん。ここでわがままを言っていたらこれ以上無茶も出来なくなるぞ?」

黒子「………チッ」

黄泉川「………………」

初春「あ…あの……」

黄泉川「ん?」

と、黒子と黄泉川の会話を黙って聞いていた初春と佐天が近付いてきた。

初春「わ、私たちはどうすればいいんでしょう?」

佐天「ここにいた方がいいのかな?」

黄泉川「いや、お前らは明日早いだろう? 近くのビジネスホテルを手配するから、お前らはそこで寝るといいじゃん。明日の朝、私の部下にお前らを寮まで送っていかせるから、安心するじゃん」

初春佐天「「分かりました」」

黒子「…………………」

黄泉川「そういうことじゃん白井」

不服そうに黙っていた黒子の肩を、黄泉川が軽く叩く。

黄泉川「用意しろ。今から列車で本部まで行くじゃん」

黒子「………………」ブツブツブツ…

準備を始めたのはいいものの、黒子はまた独り言を呟いていた。

ゴオオオオオという音と共に、強い風が服をバタバタと揺らす。
バイザー越しに見える道路が、電灯が、対向車線の車があっという間に過ぎていく。

上条「御坂」

美琴「うん?」

もう深夜の時間帯に達した頃、上条と美琴を乗せたバイクは、高速道路を走っていた。

美琴「なーにー?」

騒音の中、少し大きな声を上げ、上条に聞こえるように美琴は訊き返す。

上条「眠くないか?」

美琴「大丈夫よ」

上条「そうか。それより見えてるか? 街の風景」

美琴「え? うん」

美琴は顔を横に向け、高速道路の向こうに見える街を眺める。様々な電気やネオンの色が深夜の暗闇に浮かぶ光景はとても幻想的で美しかった。

美琴「綺麗………」

思わず目を細め、美琴はその光景に魅入る。

上条「科学科学してるけど、学園都市の夜景も捨てたもんじゃないな」

美琴「そうね……」

上条の背中越しに伝わる彼の声が美琴の安心感を増す。その温もりに浸かるように、美琴は少し身体を上条に近付け、彼の背中に頭をコツンと置いた。

上条「アジフライチンアジフライアジフライ……あぁアジアジフライ陶人チンアジアジフライ陶人アジフライ刺身お刺身ドボドボアジ食むむ・・・食むむ・・・京極アジ食え食え陶人ゴク・・・急ドボドボドボ?」

動揺お刺身ドボドボアジ食むむ・・・食むむ・・・上条ドボアジフライ声フライ食え食え陶人チン振動お刺身お刺身食え食え食え食えアジフライ刺身ゴク・・・アジフライ刺身ドボドボドボ彼ドボアジフライ背中フライ食むむ・・・食むむ・・・食え食え食え食え食むむ・・・食むむ・・・聞フライアジフライむむ・・・アジむむ・・・フライお刺身食え食え食え食えアジフライ刺身あぁ

美琴「何アジむむ・・・陶人岡星アジフライドボ食むむ・・・食むむ・・・ードボドボ」

上条「アジフライ刺身アジフライチンアジフライ刺身アジフライアジフライ刺身フライ食むむ・・・食むむ・・・……」

美琴「(背中……大フライドボドボドボドボドボ食むむ・・・食むむ・・・あぁアジフライ父お刺身京極岡星ドボドボアジ食むむ・・・食むむ・・・ドボドボ……)」

お刺身お刺身陶人っアジアジフライ上条ドボアジフライ身体ドボドボドボ自分ドボアジフライ腕ドドドド回お刺身ドボドボアジむむ・・・ドボドボアジ食むむ・・・食むむ・・・アジ食むむ・・・食むむ・・・岡星むむ・・・フライ食むむ・・・食むむ・・・チン美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・山岡お刺身アジアジフライチンアジフライ刺身アジフライアジフライ刺身思っアジ食むむ・・・食むむ・・・あぁ

美琴「(何アジ食え食え陶人フライ食むむ・・・食むむ・・・心地良ドボドボお刺身ドボドボ……フライアジフライドボドボアジアジフライ刺身ドボアジフライ背中チンフライアジフライ京極ドボ食むむ・・・食むむ・・・ドボドボドボアジ食むむ・・・食むむ・・・フライお刺身岡星食むむ・・・食むむ・・・お刺身ドボドボフライ食むむ・・・食むむ・・・っアジ食むむ・・・食むむ・・・京極アジ食え食え陶人)」

笑岡星ドボドボドドドド零お刺身お刺身美琴あぁ
確フライ食むむ・・・食むむ・・・ドボドボドボチン上条ドボアジフライ背中山岡食むむ・・・食むむ・・・大フライドボドボフライお刺身アジむむ・・・アジ食むむ・・・食むむ・・・フライお刺身岡星食むむ・・・食むむ・・・お刺身ドボドボフライ食むむ・・・食むむ・・・っアジ食むむ・・・食むむ・・・あぁアジむむ・・・陶人岡星アジフライドボ食むむ・・・食むむ・・・フライむむ・・・食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・ばチン今岡星食むむ・・・食むむ・・・アジむむ・・・陶人数々ドボアジフライ修羅場ドドドド潜っアジむむ・・・フライアジフライ食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・ドボ食むむ・・・食むむ・・・ドボドボアジ食え食え陶人食え食え食え食えアジフライアジフライ刺身あぁアジフライ刺身アジフライ京極ドボ食むむ・・・食むむ・・・背中ドドドド持アジアジフライ刺身彼フライ食え食え陶人チン今チン自身ドドドド投フライむむ・・・陶人打っアジむむ・・・アジむむ・・・陶人岡星アジフライチン自分ドボアジフライフライアジフライアジアジフライドドドド守食え食え食え食えアジフライアジフライ刺身アジアジフライお刺身ドボドボアジむむ・・・フライお刺身食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・食え食え食え食えアジフライ刺身あぁアジフライ刺身アジフライアジフライ刺身思アジフライ刺身アジアジフライチン美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・嬉お刺身ドボドボお刺身ドボアジフライ余食え食え食え食えドボドボ笑岡星ドボドボドドドド零お刺身お刺身お刺身陶人ドボドボドボ山岡食むむ・・・食むむ・・・ドボドボ食え食え食え食え食むむ・・・食むむ・・・食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・ドボ食むむ・・・食むむ・・・フライ食むむ・・・食むむ・・・っアジ食むむ・・・食むむ・・・あぁ

美琴「………………」

『万年フラグ男』アジアジフライ呼ば食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・食え食え食え食えアジフライ刺身上条フライ食え食え陶人チン多フライお刺身ドボアジフライ女ドボアジフライ子アジアジフライフラグドドドド立アジむむ・・・チン彼女アジ食むむ・・・食むむ・・・アジドボドボドボドボドボ好フライ食むむ・・・食むむ・・・食え食え食え食え岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・アジむむ・・・ドボドボ食え食え食え食えアジフライ刺身ドボアジフライ山岡食むむ・・・食むむ・・・美琴岡星アジフライ知っアジむむ・・・ドボドボ食え食え食え食えアジフライ刺身あぁアジフライ刺身アジフライアジフライ刺身ドボドボアジフライ刺身甲斐性無お刺身ドボドボドボアジフライ部分山岡食むむ・・・食むむ・・・チン直お刺身ドボドボアジむむ・・・山岡アジフライお刺身ドボドボフライ食むむ・・・食むむ・・・っアジ食むむ・・・食むむ・・・フライ食え食え陶人チン逆ドボドボドボ今チン美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・アジフライ刺身アジフライ京極ドボ食むむ・・・食むむ・・・上条ドドドド独食え食え食え食えドボドボ占岡星むむ・・・お刺身ドボドボアジむむ・・・ドボドボ食え食え食え食えアジフライ刺身アジアジフライ思アジフライ刺身アジアジフライチン何アジ食え食え陶人フライ食むむ・・・食むむ・・・嬉お刺身ドボドボフライお刺身ドボ食むむ・・・食むむ・・・っアジむむ・・・お刺身ドボドボ岡星食むむ・・・食むむ・・・ドボドボチンアジアジフライ刺身ドボドボ彼ドボアジフライ身体ドボドボドボ回お刺身お刺身腕ドボドボドボ力ドドドド込岡星むむ・・・アジ食むむ・・・食むむ・・・あぁ

上条「……………チン」

背中越お刺身ドボドボドボドボドボ上条フライ食え食え陶人動揺お刺身ドボドボアジむむ・・・ドボドボ食え食え食え食えアジフライ刺身ドボアジフライフライ食え食え陶人ゴク・・・フライお刺身分フライ食むむ・・・食むむ・・・食え食え食え食えアジフライ刺身あぁ美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・アジフライ刺身アジフライ京極ドボ食むむ・・・食むむ・・・彼ドボアジフライ様子ドドドドアジフライフライ食むむ・・・食むむ・・・お刺身ドボドボフライお刺身思ドボドボアジアジフライ刺身アジアジフライ刺身夜景ドドドド眺岡星むむ・・・食え食え食え食えアジフライ刺身あぁ

美琴「(他ドボアジフライ女ドボアジフライ子アジ食むむ・・・食むむ・・・アジドボドボドボドボドボ山岡食むむ・・・食むむ・・・悪ドボドボフライむむ・・・アジアジフライ陶人……今山岡食むむ・・・食むむ・・・……フライアジフライ京極ドボ食むむ・・・食むむ・・・状況ドボドボドボドボ食むむ・・・食むむ・・・っアジ食むむ・・・食むむ・・・今アジ食え食え陶人フライむむ・・・山岡食むむ・・・食むむ・・・……フライアジフライドボドボアジアジフライ刺身ドボドボドボ甘むむ・・・アジドボドボゴク・・・食え食え中川っアジむむ・・・岡星アジフライドボドボドボドボゴク・・・ドボ岡星アジフライ刺身岡星アジフライ刺身・・・?)」

1人チン美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・胸中ドボドボドボ呟フライお刺身あぁ

美琴「(神様アジフライ願ドボドボ……あぁ岡星アジフライアジフライ刺身少お刺身ドボドボチン彼アジアジフライ……一緒ドボドボドボドボドボお刺身お刺身むむ・・・アジむむ・・・……アジフライ刺身アジフライお刺身ドボドボアジむむ・・・チン例むむ・・・私フライ食え食え陶人死ドボアジフライ刺身ゴク・・・アジフライ刺身ドボ食むむ・・・食むむ・・・フライアジフライアジアジフライフライ食え食え陶人食え食えっアジむむ・・・岡星アジフライ……彼アジ食え食え陶人フライむむ・・・山岡食むむ・・・食むむ・・・……助フライむむ・・・アジむむ・・・食え食えフライむむ・・・陶人アジむむ・・・……)」

目ドドドド閉お刺身ドボドボ陶人チン美琴山岡食むむ・・・食むむ・・・上条ドボアジフライ背中ドボアジフライ温岡星アジフライ食え食え食え食えドボドボドボドボドボ身ドドドド浸食え食え食え食え食むむ・・・食むむ・・・お刺身むむ・・・アジ食むむ・・・食むむ・・・あぁ

書き込めるかな?
つか何が起こったのやら。続けるかしばらく様子見るかどうするかな。

ゴオオオオオという音と共に、強い風が服をバタバタと揺らす。
バイザー越しに見える道路が、電灯が、対向車線の車があっという間に過ぎていく。

上条「御坂」

美琴「うん?」

もう深夜の時間帯に達した頃、上条と美琴を乗せたバイクは、高速道路を走っていた。

美琴「なーにー?」

騒音の中、少し大きな声を上げ、上条に聞こえるように美琴は訊き返す。

上条「眠くないか?」

美琴「大丈夫よ」

上条「そうか。それより見えてるか? 街の風景」

美琴「え? うん」

美琴は顔を横に向け、高速道路の向こうに見える街を眺める。様々な電気やネオンの色が深夜の暗闇に浮かぶ光景はとても幻想的で美しかった。

美琴「綺麗………」

思わず目を細め、美琴はその光景に魅入る。

上条「科学科学してるけど、学園都市の夜景も捨てたもんじゃないな」

美琴「そうね……」

上条の背中越しに伝わる彼の声が美琴の安心感を増す。その温もりに浸かるように、美琴は少し身体を上条に近付け、彼の背中に頭をコツンと置いた。

上条「お、おお……。ど、どうしたんだよ急に?」

動揺した上条の声が、振動するように彼の背中から聞こえてくる。

美琴「何でもなーい」

上条「そ、そうか……」

美琴「(背中……大きいな。お父さんみたい……)」

ずっと上条の身体に自分の腕を回していたためか、美琴はふと、そう思った。

美琴「(何だか心地良いし……こいつの背中、こんなにたくましかったんだ)」

笑みを零す美琴。
確かに、上条の背中は大きくてたくましかった。でもなければ、今まで数々の修羅場を潜ってこれないだろう。そんな背中を持つ彼が、今、自身を投げ打ってでも自分のことを守ろうとしてくれる。そう思うと、美琴は嬉しさの余り笑みを零さずにはいられなかった。

美琴「………………」

『万年フラグ男』と呼ばれる上条が、多くの女の子とフラグを立て、彼女たちに好かれている事実は美琴も知っている。そういう甲斐性無しの部分は、直してほしかったが、逆に今、美琴はそんな上条を独り占めしていると思うと、何だか嬉しくなってしまい、つい彼の身体に回す腕に力を込めた。

上条「……………、」

背中越しに上条が動揺しているのがよく分かる。美琴はそんな彼の様子をおかしく思いつつ夜景を眺める。

美琴「(他の女の子たちには悪いけど……今は……こんな状況になった今だけは……こいつに甘えちゃってもいいよね?)」

1人、美琴は胸中に呟く。

美琴「(神様お願い……。もう少し、彼と……一緒にいさせて……そして、例え私が死ぬようなことがあっても……彼だけは……助けてあげて………)」

目を閉じ、美琴は上条の背中の温もりに身を浸らせた。

それから数十分後。

上条「おっと……。おい、御坂」

美琴「? どうしたの?」

上条が前方に何かを見つけ、美琴に話しかけてきた。

上条「サービスエリアだ。しばらく休んでいかないか?」

美琴「え? でも……」

確かに、上条の背中から前を覗いてみると、数百m先に1つのサービスエリアが見えた。

上条「疲れてるだろ? お腹も減ってないか?」

美琴「いいの?」

上条「もちろん。その代わりお前にはまた顔を隠してもらうことになるけど……」

美琴「分かった。じゃあ休んでいきましょう」

上条「おう決まりだな」

上条と美琴を乗せたバイクは車線を変更し、サービスエリアに入っていく。
速度を減らすと、やがてバイクは駐車場で止まった。

上条「だいぶ走ったな」

美琴「そうね」

2人はバイクから降り、ヘルメットを取る。正面には、深夜だと言うのに灯りが眩しい賑やかなサービスエリアがあった。

上条「顔、隠してろ」

美琴「あ、うん……」

上条は美琴の帽子とマフラーを彼女の顔を覆うように被せ直してやる。

上条「行こう」ギュ

美琴「うん……」

美琴の手を握り、上条はサービスエリアの店内に入っていった。

店内は、学校の食堂の2倍以上の広さがあり、深夜だと言うのに利用客も多かった。
初め、店に入った2人は一部の人間にジロジロ見られた。が、それは別に美琴の正体がバレたわけだからではなかった。この時間帯に、明らかに高校生ぐらいの少年が1人の少女を連れてサービスエリアにいるのが珍しかったからだ。

上条「こっちだ」

上条は美琴を連れ、店内の端の方にある、窓ガラス側に向かい合うようにして設置された細長いテーブルに向かう。背もたれもない回転式の椅子だったが、美琴の顔をなるべく見られないようにするにはその席が1番最適だった。

上条「ここで待ってろ」

美琴「え? どこ行くの?」

上条「安心しろ。食券買いにいくだけだ。カウンターで飯もらってくるから、その間ここで大人しく待ってろ」

美琴「わ、私も行く……」

上条「いや駄目だ。あまり目立った行動は控えた方がいい。ただでさえお前は追われの身なんだから。……な?」

そう言って上条は美琴の頭をポン、と軽く叩いてやる。

美琴「……分かった」

不服そうだったが、美琴は承知したようだった。
返事を聞き、上条は食券を買うべく、食券機に並んでいた客の列に加わった。

美琴「………………」

美琴は窓ガラス越しに、外の風景を見る。と言っても、外は真っ暗で、駐車場の向こうに高速道路が見えるだけの殺風景だったが。

美琴「確かにお腹空いたかも……」

そう呟き、美琴はしばらくの間、窓ガラスを見つめていた。
が、彼女はこの時気付いていなかった。彼女を密かに見つめる3つ分の視線があったことに。

一方、食券機で2人分の食券を買った上条は、今度はおぼんを持ってカウンターの列に並んでいた。
今もカウンターの向こうには、食欲を掻き立てられるようないくつかの湯気が立ち、おまけにそこから美味しそうな匂いが漂ってきて空腹感を刺激する。が、そんな時だった。近くに座っていたトラックドライバーたちの会話が聞こえてきた。

「おい俺さ、さっき市道213号線走ってた時のことなんだけどよ」

上条「!」

「後ろにアンチスキルの装甲車数台つかれてマジビビったぜ」

上条「…………(市道213号線……)」

「おいおいお前、何の犯罪犯したんだよ?w」

「違うっつーの! あれはただ偶然俺の車の後ろについただけだよ。その後、道路別れる所であいつら逆の方向行ったし」

「へぇーそれいつ頃だ?」

「0時前かな? ほら、あの街を出た郊外の何もない場所だよ」

「ああ、あそこか」

上条「(0時前の市道213号線……しかも郊外だと?)」

と言えば、上条と美琴がバイクを見つける前に歩いていた郊外の道路だ。しかも時刻もドライバーが言った時刻に近い。

「ったく、ビビらせやがってよ。あんな大所帯で何移動してんだよ」

「ぎゃはは。お前、捕まっといたほうがよかったんじゃねーの?www」

「はあ!? マジ死ねお前」

上条「(……あのドライバーの話が本当なら……俺たちヤバかったかもしれない)」

上条が冷や汗を流すのも無理は無かった。ドライバーの言ってることが本当なら、アンチスキルの車両群は、0時前市道213号線を走っていたことになる。市道213号線は、上条と美琴がモーテルを出てからしばらく歩いていた道だ。おまけにその時間帯も丁度0時前になる。だが、彼らはアンチスキルの車両を見ていないし、ドライバーが乗っていたと思われるトラックも見ていない。それは何故か。考えられる説は1つ。彼らがアンチスキルの車両に遭遇する前にバイクで一足早くその道路を抜け、高速道路に入っていたからだ。

上条「(あの時バイクを見つけていなかったら……もし道路を徒歩で歩いていたら……俺たちは後からやって来たアンチスキルに発見されてたところだ……)」ゾッ

つまり上条と美琴は奇跡的な確率でアンチスキルの目から逃れたことになる。

上条「(はは……。今回ばかりは……不幸じゃなかったぜ……)」

上条は思わず不気味な笑みを零してしまった。

美琴「?」

窓ガラスから外を眺めていた美琴は、テーブルの上につくられた人影に気付き、頭を上げた。もちろん、顔は隠していたが。

「ねー嬢ちゃん、こんな所で何してんの?」

「今は君みたいな子が来るような時間じゃないよ」

「どうせなら俺たちと一緒に食事でもしない?」

若い男たちだった。体育会系の若い男たちが3人、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべてそこに立っていた。

美琴「!!」

上条ではないと気付いた美琴は思わず顔を背け、俯く。

「な? いいじゃん? 家出か何か知らないけどさ、1人じゃ寂しいだろ?」

1人の若い男が美琴の隣の席に座る。

美琴「ほ……放っておいてよ!」

顔をなるべく見せないようにし、美琴は男たちを追い払おうとする。

「いいねー。気が強い子は好きだぜ」ガッ

美琴「!!!」

隣に座った男が美琴の腕を掴んできた。

「お兄さんたちと遊ぼうよ」デヘヘ

美琴「この……ロリコンっ!!」

「ええ、ええ! お兄さんたちはロリコンだよ~ん♪」

美琴「………っ」

思わず、美琴はその瞬間、電撃を発しようとした。
しかし、出来なかった。

美琴「(ここで能力なんか使ったら、私が御坂美琴だってバレちゃう……)」

「いいじゃ~ん。俺たちと一緒にチョメチョメしようぜチョメチョメ」

「「「ぎゃはははははははははははは!!!」」」

美琴「くっ……」




上条「おいお前ら、何の用だよ?」




美琴「!」

「あ?」

と、そこに掛けられる声が1つ。

上条「何か用でもあるのか? って聞いてんだけど」

上条だった。上条がうどんを乗せたおぼんを持ってそこに立っていた。

美琴「当麻!」

上条「………………」

テーブルの上におぼんを置く上条。自然と、男の腕が美琴から離れた。そのまま上条はジロリと横目で3人の男たちを見る。

美琴「…………、」

美琴は助けを求めるようにして、上条の背中に隠れ彼の服をギュッと掴む。




上条「俺の彼女に何手を出そうとしてんだよ?」




美琴「!!」

「ああ? 何だ男持ちかよ!」

『彼女』という言葉を聞いた途端、男たちが不機嫌になった。

「チッ、もう行こうぜ」

「ああ、長居したってつまんねぇし。さっさと出るか」

「ふん、お前ら死ね!!」

捨て台詞を吐きながら、3人の若い男たちはその場から離れ、やがて店を出て行った。

上条「…………ったく。馬鹿たちが」

溜息を吐き、上条は席に座る。

上条「ほら、うどんで良かったか?」

美琴「あ、うん……。助けてくれてありがとね……」

上条「ああ。つかバレてないよな?」

美琴「それは大丈夫……」

上条「そうか」

上条は水を仰ぎ、箸を割る。

上条「お腹空いてるだろ? さあ食べな」

美琴「あ、あのさ……」

上条「うん?」

上条がうどんを口に入れようとした時だった。

美琴「今さっき……私のこと『彼女』って……」

ボソボソと恥ずかしそうに美琴が言う。

上条「おお。そう言わないとあいつら引き下がらないだろ」

美琴「…………あ、そ、そっか。そうだよね……はは………」

上条「…………………」

美琴「あ、じゃあ……いただきます」

上条「それに……」

美琴「?」



上条「俺も『妹』とかよりかは『彼女』の方が良かったし……」



美琴「え?」

美琴は咄嗟に上条の方を見る。

上条「さーて……いただくとしますか」

だが、上条はもうこの話題は終わり、と言いたげにうどんを食べ始めていた。

美琴「…………………」

呆然としながらも、美琴も彼に倣いすぐに食べ始めた。

ということで以上です。
途中文字化けした時はビビって荒らしかと思ったけど
運営のテストだったようですね。安心しました。
ではまた今日か明日にでも。

もう寝る 寝ないでまってたのに!

まあ、この手のスレは全部美琴の自演だからな 今はリアルでいちゃついてんだよきっと

>>1です。遅くなってごめん。
いつもより少ないけど今から投下します。

サービスエリアに入ってから1時間近くが経った。
上条と美琴の2人は、食べ終えたうどんの皿をテーブルの端に置いたまま、窓ガラス越しに見える外の景色を眺めていた。

美琴「もう夜の3時近くだね」

上条「ん? おお……」

上条は手の上に顎を乗せながら、ボーッと外を見ている。

美琴「………………」

上条「………………」

美琴「あ、雨……」

上条「え?」

気付くと、目の前のガラスにパラパラと水滴のようなものが次々と現れ始めた。店内にいた利用客たちがそれに気付きざわめき始める。

美琴「バイク……濡れちゃわないかな?」

上条「ああ、そっか。すまん、ちょっと見てくるわ」

美琴「え?」

上条「大丈夫だって」ポンポン

美琴「ふみゅ…」

立ち上がり、上条は美琴の頭を軽く叩く。叩かれ、片目で上条を見上げる美琴。

上条「いい加減不安がるのはよせ。俺はお前を置いてどこにも行かねぇよ」

美琴「うん………」

そう言い、上条は笑顔を残すと店を出て行った。

上条「バイク、バイクっと……」

雨はまだ小降りの状態だった。上条は頭に掛かる雨粒を大して気にすることなく、バイクの所まで近付いていった。

上条「!!!!!!!!!!」

が、彼の足が寸前で止まった。



上条「アンチ……スキル………」



数m先。上条と美琴が乗ってきたバイクの側に、2人の警備員らしき男が立っていた。彼らは、バイクを念入りに調べており、時々無線に報告を入れている。

上条「(どうしてこんな所にアンチスキルが……。まさかバレたのか!!??)」

が、辺りを見回してみても他に警備員の姿は見えない。と言うよりも、その2人の警備員はパトロール中という雰囲気であったのは確かだが、別段、何らかの重要捜査に加わっている様子はなかった。

警備員「こちら……。……サービスエリアにて……盗難被害を受けた……発見……」

僅かにだが、無線に報告する警備員の声が聞こえた。

上条「(盗難被害……。まさかあのバイク、捨てられてたんじゃなくて、あそこに置いてあったのか……っ!?)」

警備員「犯人は……店内にいると思われ……」

と、そこで警備員と目が合った。

上条「(まずい)」

思わず上条は目を逸らし、回れ右をする。
何となく背後からジロリと見られている視線を感じたが、彼はなるべく怪しまれないように早歩きで店内に戻っていった。

  ┃   ┏━┃  ((;;;;゜;;:::::(;;:  ∧__,∧ '';:;;;):;:)):).) .     ┃┃
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  ┛       ┛   ("((;:;;;(;::  (⌒) |. .どどどどど・・・  ┛┛
                     三 `J

美琴「………………」

上条「御坂!」ガッ

美琴「えっ!?」ビクッ

急に背後から上条が現れたせいか、美琴は肩を震わせた。

上条「ここを出るぞ」

美琴「え? ど、どうして?」

上条の言葉に、美琴はキョトンとする。

上条「外に警備員がいた。どうやら俺たちが乗ってきたバイク、盗難届け出されてたみたいだ。すぐに逃げないと奴らに見つかっちまう」

美琴「そんな……でもここ高速道路だよ?」

上条「いいから行くぞ」

上条は美琴の手を引っ張り立ち上がる。そのまま彼らは、バイクがある方とは逆の出口に向かい店の外に出ていった。

美琴「うわ……ちょっと雨脚が強くなってない?」

上条「仕方がない。こっちだ」

2人はなるべく電灯の光に当たらぬよう、暗くなった場所を歩く。
ふと美琴が後ろを振り返ってみると、1人の警備員が店内に入っていくのが見えた。

美琴「どこ行くのよ!?」

サービスエリアから出てすぐ、彼らは高速道路の端に沿って走り始めた。次第に雨の勢いが強くなっていくのが分かる。

上条「………………」

しばらくすると、2人は大きなトンネルの入口に辿り着いた。

ちなみに>>1はこのスレで終わらせるつもりか?まあ収まりきらんと思うけど

美琴「うわ……服がビチョビチョ……もう……」

文句を言いたげな美琴を尻目に、上条は地図を広げる。オレンジ色の電灯によって照らされた地図は少し見にくかったが、贅沢を言える状況ではなかった。

上条「今はこの辺りか……。バイクのお陰でもう半分近くまで来れたな。後はここからどう動くかだが……」

美琴「………バイクはもう使えないの?」

上条「ああ」

美琴「………また歩くの?」

上条「仕方ないだろ?」

美琴「………ねぇ」

上条「ちょっと静かにしてろ」

美琴「………………」

頬を膨らませ、不服そうな顔をする美琴。だが、今は上条も必死だったのだ。

上条「今はここだから………お! これはいいかもしれないな」

美琴「?」

上条「よし、行くぞ」

美琴「あ」

再び、美琴の手を引っ張り上条は歩き始める。

美琴「どうするの?」

上条「まずはこのトンネルを出る。どこかに非常口があるはずだ。そっから避難坑を伝って外に出る」

美琴「その先に何かあるの?」

上条「電車だよ」

美琴「え?」

上条「学園都市を縦断する電車がある。それに忍び込む」

美琴「えええええ!?」

事もなげに言い切った上条に、美琴は驚きの声を上げた。

上条「いいから。行くぞ」

それから10分後――。

上条「ハァ……ゼェ……ハァ」

美琴「ま……待って……ちょっと休憩しようよ……」

トンネルを休むことなく走っていた上条と美琴。彼らの息はかなり上がっていた。

上条「休憩したいのは山々だが、いつまでもこのトンネル内にいたら通りかかった車に怪しまれて通報されかねない。だから………っと」

美琴「?」

上条「見つけたぞ御坂! 非常口だ」

美琴「え……」

確かに、上条が指差した先……5mほど向こうにそれらしきものがあった。

上条「行こう!」

美琴「あ、待って!」

2人は急いでそこまで駆け寄る。そこには、『非常口』と書かれた鉄製の扉が1つ設置されていた。

上条「『非常口』……ここだ。ここから避難坑に通じてるはず。後はそこを通って外に出れば、線路の近くだ」

美琴「………………」ゴクリ

上条「行こう」

美琴「分かったわ」

2人は顔を見合わせ頷く。

その頃――。

黄泉川「深夜も既に4時前じゃん。こんな時間に運行している列車があると重宝するな、白井?」

8両編成の深夜特急。その最後尾の車両で、黄泉川はそう言った。

黒子「こんなことしてる場合じゃないですのに……」

黄泉川の言葉を受けて愚痴る黒子。
今、彼女たちがいるのはVIP専用のために作られた特別車両だった。内装としては、座席が向かい合うようにして設置され、窓ガラスには豪華なカーテンが掛かっている。今は、その車内を黒子と黄泉川が占用しており、他にいたのも立哨に立つ警備員4人だけだった。

黄泉川「勢いだけで全てが解決するとも言えないじゃん?」

拳で頬を支え、黄泉川は黒子にアドバイスする。

黒子「御坂美琴は私がこの手で始末しますの。そうでなければ意味がありませんの……」ブツブツブツ

再び呟き始める黒子。

黄泉川「ふん……」

もはや何を言っても無駄だと思ったのか、黄泉川は背後のカーテンを少し開け、外を窺った。

まさかwwwwww

美琴「はぁ!? 電車に乗る方法を考えてない!!??」

深夜の林に、美琴の間の抜けた声が響き渡った。

上条「おまっ……静かにしろよ」

美琴「あ、ごめん……。いやでも何それ? どういう意味?」

上条は困ったように頬を掻く。2人は今、暗く浅い、とある林の中にいた。
トンネルで非常口を見つけた2人は、そこから避難坑を数十分歩き、何とか外にまで辿り着いていたのだ。そして、2人はそのまま目的の線路に向かうべく、今、林を横断していたのだが……ここで問題が浮上した。

上条「いや……確かにここの深夜の路線は、1時間ぐらい置きに急行列車が通るのは知ってたんだけど……停まる駅が近くに無いんだよなぁ……ははは」

美琴「いや、笑い事じゃないでしょ」

2人の視線の先には、木や草が生い茂るその場の雰囲気には似合わない近代的な線路が1つ設置されているのが見える。彼らは5分前からそこで電車が来るのを待っていたのだが、今更になって上条が不安要素を口にし始めた。

美琴「じゃあどうするの? ここを通り過ぎる列車を見てるだけなの?」

上条「いやまあ……最悪、線路に沿って歩くっていう手もあるけど……」

美琴「………………」ハァー

呆れたように美琴は溜息を吐く。

美琴「あのね……あんた、自分で南に向かう列車に乗る、って言っておいてこれはないんじゃないの? どうするのよ本当……」

上条「…………むー」

上条は腕組をし考え込む。
と、その時だった。




プァァァァァァァァン!!!!!!



どこからか汽笛のような音が聞こえ、直後、暗闇の向こうに人工的な強い光が瞬いた。
間違いない。この線路を通り過ぎる予定の列車が現れたのだ。

美琴「ちょ、ちょっと来ちゃったじゃない!!?? 次は1時間後なんでしょ!!?? ど、どうするの!!??」

上条「あーもう……タイミングの悪い……」

頭を掻き毟る上条。
だが、そうこうしている間にも列車は徐々に近付いてきている。

美琴「ね、ねぇ……」

上条「そうだ!」

美琴「え!?」

顔を上げ美琴を見る上条。そして彼はとんでもないことを言い出した。




上条「飛び移るぞ!!!!」




美琴「は……あ!?」

美琴は思わず間の抜けた声を上げていた。

ごめん少ないけど今日は終わりです。
明日は多分来れると思う。
ではこれで。

おまえはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

                              .      _、、┌──────────────────────────┐
            .'´  `ヽ             ..   _ゞ´   ヾ,         保護          /yニニニヘ、         │
           | トレノノノ゙i.}←─────────→,Z ,w'レviゞ ─────────────→/厶イNハjハ         │
      後輩   州(l ゚ -゚从      好意        'ヘ(l ゚ -゚ノ゙                       ,′l│l  l j.l|         │
     ┌───⊂[iヘV+}]つ            .   ⊂[ ^Y^,}⊃        寄生 .  .        |_Nド-Rイリ|        .│
      │   .   く/_l_|──────┐        〈_人,}←────────────┬─└rj厶イハム「        │

     │      〈_,八_〉        ..│    .     |__|_|\                  │    j///__}}\        │
     │       美琴\       .│        .上条  \            . .   │    インデックス         .│
     │       ↑  ..\ 友    .│ クローン    ↑  ..\宿敵          .嫉│      .↑保↑        │
   :  .↓_      ..│    .\ 人  └──────┐│好意 .\      .      .妬│      .│護│        │
  __ '´   `ヽ_  愛 ...│      _,,,,\       _、。,..,    _↓│_     .\            │_    . │欲│ ,、__   _,  │
 rl><}.レノノハ))〉}───┘.   /´ ,.  `ヽ  ,*淼※※'。.   '´i【三三】     , '´, ヘゝヽ  .    /´/'ヽ/'ヽ──┘  └ {[,.-≫t《,{  .│
 )イ八(l ゚ ー゚ノィ{         { !l」.ノハ))☆. j,.゚i'|_l」」|_i}゚ .  |r《レノノノ゙i.} .    イ ィノリノWリ.     | i |``"゙|.|        jノ/´ j `ゝ│
,( (.⊂{{iヘV!}!⊃)、        | j∩^ヮノ∩ 'ヘ(l|////,)   州(l.・-・从     ゙'!i|.`-´ノ'.      川(l|゚ ー゚ノl|       ノ| { .イ从((ヘ }│
     く/_l,|←─────→ ノ,〈ノ∀7ノ  tー{ つつ ..  ⊂[iヘV+}]つ..   ⊂[iミ:ミ]つ     /´ く_V,>マう━'~   . ノ/ヘ(l|.゚ ー゚ノリ.│
.      し'ノ\   友人     く/_|」.    ヾ./_|_}  .    く/_l_|         }ミ:ヨ  .     /  |l::l|.|      仆.⊂fy,,,),,)つ│
    黒子 .\            |_ノノ ばっ し'J   .   〈_,八_〉  .    ./_/|_|      ,/   ,|l::l| |      .  乂=〈‐rュ|=.│
     ↑   .\ 先輩&    佐天&初春 ↑   ┌→御坂妹 ...     セロリ    └~''(^)'L^)'┘     ..     ,!,,,ヒ;|  │
   ライバル   \ 後輩      (親友) .│   │シ            .↑       ↑ステイル          神裂  │
     _↓      ..\    __     .    .│   │ス  (⌒        .│       ?   ┌─────師  弟──┤
   '´//ヾ/`i  .    . '´ ,.   ヽ   ..先輩&│   │タ   ' ⌒`ヽ       │    /⌒ ↓  /⌒)      .  .:'´:::::::`ヽ..│
  iNli.「``"i !       i i lリノノヽiリ    後輩. .│  .││ イ i.レノノ゙i}←───┘    ゙ーヘ _ノ⌒`ヾ~´. 師 弟  .  |::::::l_|」」」l| 級
  | (li」゚ ー゚「!7z.     | (l |(゚)ー゚ノ←─────┘   │ズ ソj(l^ヮ^ハ   同居         j  /ノハヽi} ←───→.  |::;f||´-`ノ| 友
  ノリ .く})V)!i//     ど}}〉卯) '          .   └→ c'ノー'iっ        .     〈,_〈l| ゚ヮ゚ノリ〉         |::/||`†'ヘ|| ┘

. `' -ソ/_jゝ´        / ##!          ..        ゙rュュ'            小 ([,_`o'^o_])      ..姫.  |;{_/゙芥ヽ〉
     し'ノ 婚后 ..     `し'フ 固法              打ち止め        .   .萌   {,._,._,_,.|       神.    〈__|」|_,〉

>>1です。
こんばんはー。
今日も今から投下していきます。

黄泉川「………………」

黒子「………………」ブツブツブツ

一方、とある深夜特急の最後尾車両。
席に座る黄泉川は静かに腕組をして目を閉じ、向かいに座る黒子は相変わらず何事か呟いていた。車両の両端に2人ずつ立つ立哨の警備員は、任務中らしく微動だにしない。

黒子「絶対に……黒子が……この手で……ぶち殺して……」ブツブツブツ…

黄泉川「…………………」

黒子の呟きがボソボソと聞こえていたとは言え、車内は比較的静かだった。

美琴「あんた正気!? 飛び移るですって!? 特急列車が時速何kmで走ってるか分かってるの!?」

上条「だから今言った方法なら大丈夫だ」

列車がすぐ側まで近付いているのに、議論を繰り広げる2人。

上条「俺がお前に掴まって、一緒に列車に向かって飛ぶ。普通なら跳ね飛ばされるが、強力な磁力を発するお前なら可能だ。もちろん右手はお前の身体に触れないように気を付ける」

美琴「でも……そんな……」

上条「やるしかないんだ。ここで列車を素通りしても1時間の無駄なロスを作るだけだ。なんなら列車に乗っちまったほうが、より早く逃げれる可能性が大きくなるだろ」

美琴は困惑の表情を浮かべ、上条の顔を、次いで向かいくる列車を見る。

上条「御坂! 一刻の判断の遅れが大事に及ぶんだ!!」

美琴「むううううう………あああもう!! 分かったわよ!! やるわよ!!! ったく、何であんたはいつも無茶なことばかり考えるのよ!!??」

迷いに迷ったが、美琴は判断を下した。
2人は後ろを振り返る。列車はすぐそこまで迫っていた。

静寂が支配する車内。

黄泉川「………………」

黒子「………………」ブツブツブツ…



そして、轟音を響かせ遂にその姿を現す列車。

上条「………………」

美琴「…………ちゃんと掴まっててよね」

上条「ああ、もちろんだ」ギュッ

美琴「…………むう//////」

上条「御坂」

美琴「分かった。行くわよ……」

上条「おう」

美琴「1……」

上条「…………」ゴクリ

美琴「2………」

上条「………………」

美琴「3」
美琴「今よ!!!!!!」






黄泉川「!!!!!!!!!!」





深夜特急の最後尾車両。

黄泉川「……………………」

黄泉川は突如、目を見開いた。

黄泉川「………」バッ

何を発せず、そのまま彼女は立ち上がり向かいの席に座る黒子の元へ向かう。

黒子「?」

不思議そうな顔をする黒子をよそに、黄泉川は座席に片膝をつけカーテンを思いっきり開ける。

警備員A「黄泉川隊長?」

警備員B「どうなされましたか?」

彼女の行動に疑問を浮かべた警備員たちが訊ねてくる。

黄泉川「……………音が聞こえたじゃん」

黄泉川は外を窺いながらそう答えた。

黒子「音?」

黄泉川「聞こえなかったか? 天井からじゃん。後、僅かにこっちの方で青い光が見えたような気がしたが………」

黒子「私には何も聞こえませんでしたし、光とやらも見えませんでしたが……気のせいでは?」

黄泉川「……………………」

怪訝な顔をする黒子と警備員たち。黄泉川は黙ったまま窓の外を眺めていた。

上条「せ、成功したな……!」

美琴「無茶し過ぎよ」

まさか、自分たちの足元の板を一枚挟んだ先に黄泉川たちがいるとも露知らず、上条と美琴は突風吹き荒ぶ列車の天井部分にいた。
彼らは、接近してきた列車に向かって一緒に飛び、美琴の磁力によって壁の一部分を中継地点にして、無事、列車の天井部分に着地したのだった。

美琴「私の能力の微調整がちょっとでも狂ったらあんた、許容量以上の電撃を浴びて飛んでる間に気絶するか、または電気の力が足りなさ過ぎて列車に跳ね飛ばされてたわよ」

上条「でも上手くいったからいいじゃねぇか。俺はお前なら出来る、って信じてたし」ポン

上条は美琴の頭を軽く叩く。

美琴「うううう……」

美琴は何も言い返せなくなってしまった。

上条「さて、いつまでもここにいたら危険だな。早く車内に入ろう。一般車両はここから2両先だ」

美琴「………つーかあんた、やたらこの列車に詳しくない?」

上条「ん? ああ、この辺りは以前、インデックスと遊びにきたことがあったからな。その時、ガイドブックで見たんだよ」

美琴「ふーん………」

何か言いたそうな顔をする美琴。もちろんそんな彼女の様子に上条が気付くはずもない。

上条「ほら、まずは向こうの車両、次に2つ先の車両だ。早く飛び移るぞ」ガシッ

美琴「ひゃぁ…ん」

上条「おまっ////// へ、変な声出してんじゃねぇよ!!//////」

美琴「あんたがいきなり私の身体掴むからでしょ!!!!//////」

上条「しゃ、しゃーねーだろ!! またさっきの要領で着地してくれないと、俺落ちるかもしれねぇし!!」

美琴「あーもう分かった分かってるわよ!! ほら行くわよ!!!」


バッ!!!


上条「ちょっ……いきなりかよ!!」

上条の言など知ったことではないと言うように、美琴は彼の身体を掴んだまま前の車両の天井に向かって飛び、軽やかに着地した。

美琴「嫌なら自分で飛べば? 下手して落ちて車輪に巻き込まれてミンチになっても知らないけど」

上条「ぐぬぬ」

文句が言えない上条だった。

美琴「ほら、急ぐわよ。ちゃっちゃとする!」

上条「ま、待ってくれ」

そして年下の女の子にリードされる上条だった。

美琴「さ、向こうのが一般車両ね。もう1回飛ぶんでしょ?」

上条「お、おお」ガシッ

美琴「ひ…ゃあ」

上条「だだだだだから変な声出してんじゃねぇよ!!!//////」

美琴「わ、脇腹は弱いのよ!!////// ……って変なこと言わせてんじゃないわよバカ!!!!////////」バチバチッ

上条「ちょっ! タンマタンマ!! この状況で電撃はやめて!!」

美琴「もう次不意打ちで触ったら落とすわよ!!!!」

上条「洒落になってないっすよ御坂さうわあああああああ!!!!!」


バッ!!!


上条の言葉が言い終わるより先に、再び美琴は彼の身体を掴みながら前方の車両に向かって飛び、着地する。

上条「心の……準備ぐらい……させろよ……」ゼェハァ

美琴「じゃ、ここに梯子ついてるし降りよっか」

上条「って聞いてないし」

やれやれ、と溜息を吐き、上条は美琴と同じく、車両と車両を繋ぐ連結部分を覗き込む。どうやらこの列車の連結部分は外に剥き出しになっているらしく、普通の電車よりかは車両と車両の間の幅が広かった。
よく見てみると、確かにそこには下に降り立つための梯子が壁についていた。

警備員A「隊長!」

黄泉川「おう、どうだったじゃん? 前の車両は」

扉を開け、前の車両に行っていた1人の警備員が戻ってきた。

警備員A「7両目も特に変わったことはありませんでした」

黄泉川「そうか……」

黒子「………………」

先ほど、天井から不審な音を聞き、窓の外に青白い光を目撃したという黄泉川。黒子や他の警備員たちは何も聞いておらず何も見ていなかったが、長年の経験と勘から何かを察した黄泉川は、念のため前の車両の7両目に部下の1人を様子を見にいかせていたのだ。

黒子「やはり気のせいでは?」

黄泉川「うーむ……」

警備員A「あ、そう言えば」

黄泉川黒子「?」

警備員A「起きていた客の中の1人が言っていたのですが……『天井をイタチかネズミでも走っているのか眠れない』と………」

黄泉川「!!!!!!」

それを聞き、黄泉川の顔が変わった。

黒子「どうかしましたか先生?」

黄泉川が立ち上がる。

黄泉川「やはり私が感じ取った臭いは気のせいではなかったじゃん」

黒子「は?」

黄泉川「ネズミだよ」

黒子「ネズミ?」

黄泉川「車内を這い回ってるネズミを捕まえに行くじゃん」

そう言って黄泉川は口元を歪めた。

ガラッと音を立て、6両目の後部扉が開いた。

上条「………………」

上条と美琴だった。2人は、たった今天井から梯子を伝って車両と車両の連結部分まで降りてきたのだ。

上条「行こう」

美琴「うん」

上条は美琴の手を引いて車内を歩く。
6両目の座席はどれもボックスシートで、全座席のうち半分ほどが埋まっていたが、起きていた客は数えるほどもいなかった。ただ、こんな時間帯に若い男女2人というのは少しばかり目立つのか、何人かの客は、上条と美琴が通り過ぎる度にジロリと怪しげな視線を寄越してきた。

上条「ここでいいか」

2人並んで座れる座席は車両の先頭にしかなかったので、上条と美琴はそこに座ることにした。

上条「ほら、奥に座りな」

上条は美琴を促す。頷くと、美琴は窓側の席に着いた。

上条「よっこいしょ」

席に着くやいなや、上条は溜息を吐く。

上条「久しぶりにくつろげるな」

美琴「………うん」

上条「この列車に乗ってれば、すぐにでも目的地の南には着く」

そう言いながら上条は肩をコキコキと鳴らす。

美琴「………あのさ」

と、不意に、美琴が何か言いたそうな顔で語りかけてきた。

上条「ん? どうした?」

美琴「その……ごめんね。私なんかに付き合わせちゃって……」

どうやら何か謝ろうとしているようだった。

上条「またかよ。何度も言ってるじゃねぇか。これは俺が自分で判断を下してやったことだって。嫌々でやってるわけじゃねぇ」

美琴「あ、違うの……そうじゃなくて。その……私を助けてくれたことは感謝してるし、あんたの厚意も真っ正面から受け取るつもり。でも……何ていうか……」

上条「?」

美琴「あんたは私が嫌じゃないのかな、って」

上条「はあ?」

顔を背け、美琴は申し訳なさそうにそう訊ねる。

美琴「だって……ほら、私なんてあんたに助けてもらってる、ってのに……何か文句ばかりだし、ちょっとしたことで電撃浴びせちゃうし……怒ってばっかりだし……」

上条「御坂?」

美琴「だからさ……助けてる相手にそんな反応されるのは嫌なんじゃないかな……って。あんたもそう思わない? ……って言ってる側から『あんた』呼ばわりだし……はは、ごめんね……、」

どうも彼女は自分の上条に対する態度について謝っているようだった。と言うのも、美琴は今、上条に助けてもらっている身にある。であるのに、彼に対してことあるごとに楯突いてしまう自分の態度はどうなのか。彼女はそれを聞いているのであった。

上条「………………」

美琴「どうせなら……もっと、可愛くて素直でおしとやかな女の子の方がいいよね……。私なんて、可愛くもないし素直じゃないし、おとしやかでもないし………」

女の子としての性格の問題だろうか。上条はふと、そう思ったが、何にせよそうやって自分を貶めるようなことは美琴には言ってほしくなかった。

上条「バーカ。そんなもん関係あるか」

美琴「え?」

美琴が顔を上げる。

上条「俺に接する態度とか、女の子としてどうだとか、そんな問題じゃねーよ」

美琴「………………」

上条「俺はお前を助けたかったから助けただけ。何でそこに態度とか性格とか関係してくるんだよ」

美琴「………じゃ、じゃあ私と一緒にいて嫌になったりしてない?」

本当に心配するように美琴はそう訊ねてくる。

上条「何で嫌になったりするんだよ。んなわけあるか」

美琴「そ、そっか……(良かった……)」

安心する美琴。
しかし………

美琴「(でも……こいつは『助けたかったから助けた』って言うけど……今回はたまたま私だっただけ。きっとこいつのことだから……誰か私とは違う女の子が同じ目に遭っても、同じように助けてるはず………)」

再び、美琴の顔が暗くなる。

美琴「(そ、そうだよね……分け隔てなく誰でも助けるのがこいつの……良い所なんだから……。そ、そうよ……今回はたまたま私だっただけ……。そう、それだけ………)」

美琴は俯き、無言になる。

上条「と言うか、寧ろお前と2人きりになれて嬉しい、って言うか……」

美琴「……………え?」

咄嗟に美琴は上条の顔を見る。しかし彼は、「あー眠い」とか言いながら顔を背け向こう側の座席を眺めている。それが、今自分で言った言葉に対する恥ずかしさによるものだったのかどうかは分からなかったが、確かに美琴は今聞いた。上条の言葉を。「2人きりになれて嬉しい」という言葉を。

美琴「……………………」

無意識に言ったことなのか。何か意図があって言ったのか。上条の性格を考えると、前者の可能性が高かったが、もうそんなことはどうでもよかった。

美琴「………あのね」

上条「ん?」

ボソリと呟く美琴。上条が振り返る。

美琴「………当麻」

上条「!」ドキッ

上目遣いで美琴は上条を見つめてくる。彼女は一瞬、恥ずかしそうに目を逸らしたが再び上条に視線を据えた。

美琴「…………私ね」

上条「お、おお……」

美琴「……………実はあんたのことが」





「アンチスキルだって!!!!????」





上条美琴「!!!!!!!!!!」

と、そんな時、後ろの座席の方からそんな声が聞こえてきた。

「ああ、何でも後ろの車両にいるらしい」

上条「何だと?」

咄嗟に上条はシート越しに後ろを見る。

「何でこの列車にアンチスキルが乗ってんだ?」

「さあ? 何か知らないけど、今後ろの車両で1人1人乗客を調べているらしい」

美琴「………アンチスキル?」

上条「バカな……何でこんな普通の列車にアンチスキルなんか乗っているんだ!?」

正面に振り向き直すと、上条は驚きの声を上げた。

美琴「ど、どうするの?」

上条「逃げるしかない」

上条はすぐ右斜め前にあった連結部分に通じる扉を見つめる。そこから前部車両へ向かえば………。
と、思うがそれでもアンチスキルから完全に逃れることにはならない。飛び降りようと思っても列車はスピードを減らすこともないし、駅に停まることもない。要するに列車から逃げ出す術が無いのだ。

上条「考えても意味がないか。おい御坂」

美琴「え?」

上条「前の車両に行くぞ」

が、その時だった。

ガラララ……、と言う音と共に、車両の後ろに取り付けられた扉が開く音が聞こえた。





黄泉川「アンチスキルじゃん!!! 夜分失礼するが、今から1人1人乗客を調べさせてもらうじゃん!!!!」





上条美琴「!!!!!!!!」

2人のよく知った顔、アンチスキルの黄泉川が、3人の警備員を引き連れてそこに立っていた。

美琴「黄泉川先生!!??」

上条「駄目だ!! 顔を隠せ!!」

咄嗟に上条は美琴の頭を抑える。

黄泉川「身分証明証と切符を見せてもらうじゃん。悪いが、両方持ってない者は後部車両で我々の事情聴取を受けてもらうじゃん」

ドヨッと車内がざわつく。

美琴「ど、どうしよう!?」

上条「何でアンチスキルがこんな所に………」

苦虫を噛み潰すような顔をする上条。彼は斜め前にある扉を見やる。

上条「(いっそのこと御坂を連れて前部車両に逃げるか……? いや、だがそんなことしたら間違いなく気付かれる……。でもどっちしろ、ここにいたって………)」

黄泉川「じゃあまずはそこの会社員風の人。身分証明証と切符を見せるじゃん」

そうこうしている間に、黄泉川たちアンチスキルによる検分が始まった。

上条「(クッソー……どうする? どうする?)」

美琴「…………、」

2人は今、絶体絶命の状況下に陥っていた。

というわけで今日は以上です。
ではまた今日か明日にでも。

ま、またか…また生殺しかorz
でも >>1 超乙かれさまでした。

なんでもかんでも
厨二病に、認定したがる人って
けっこういるよな?

「厨二病厨」もしくは「厨二認定厨」
っ感じだなww

>>863
高二病

・定義
中二病を過剰に意識し、ひたすら嫌悪することを揶揄した呼称。

・症状
いわゆる大衆向けの商品・作品を嫌うようになる
何事にも冷めた見方をする
体育会系思考を押しつける
新しい物事を否定するようになる
善行をするのは偽善と嫌う
過剰な中二病認定


何が言いたいかというとつまらんやつ

スターバってます

>>866
ありがとうm(_ _)m勉強になったさ
>>878
ちょっww「スターバックス」って普通に読んでしまったじゃないかww
完全に>>878の術中にハマったorzクソッ

あ ごめん 黙ります…(沈)

>>1です。
今日も今から投下していきます。

その頃、最後尾車両では。

黒子「………………」

静かになった車内。その中で、黒子は足を組みジッとして席に座っていた。

黒子「………」チラッ

入口の方には、警備員が1人だけ。黄泉川と残り3人の警備員は、乗客を調べ上げるとかで、今この車両からは出払っていた。

黒子「(勝手に独断でこんなことして……。本部でお叱りを受けても知りませんわよ)」

そう胸中に呟く黒子だったが、彼女は少し不満だった。と言うのも、彼女は黄泉川に「これはアンチスキルの仕事でお前が出張る必要はない。ここで留守番しとくじゃん」と厳命されたからだった。

黒子「(私の手を借りたほうが、はかどるでしょうに。合理的ではありませんわね)」

組んだ腕の上で、トントンと規則的に指を叩く黒子。どうにも、彼女はアンチスキルの捜査に加わって以来、黄泉川に子供扱いされてるのが不満だった。

黒子「(御坂美琴……彼奴を捕まえ仕留めるのは私の使命。なのに、能力も持たないアンチスキルの方々の言うことを聞いていたらそれも叶いませんの。黄泉川先生はきっと子供の私に手柄を横取りされるのが嫌で邪魔者扱いしているのですわ)」ブツブツブツ……

警備員「………………」

黒子「?」

と、立哨に立っていた警備員の顔が気まずそうになっているのが目に入った。

黒子「(おっと、いけないですわ)」

どうやら気付かないうちにまたブツブツと独り言を呟いていたらしい。

黒子「(ふん、まあそんなことはどうでもいいですの。私は御坂美琴をこの手で始末出来ればそれで十分なのですから……ふふふふ)」

黒子は邪悪な笑みを浮かべていた。




黄泉川「じゃ、次。身分証明証と切符見せるじゃん」



上条「!!!!!!!!!!」ビクウッ



黄泉川の声が聞こえた。
上条は僅かに振り向く。2列後ろの座席の側に、黄泉川と3人の警備員が立っているのが見えた。

上条「(クソッ)」

顔を戻す上条。冷や汗が滝のように背中を流れ落ちていった。

上条「………………」

黄泉川たちはすぐそこまで迫っている。

美琴「…………っ」

横を見ると、美琴も汗を流しながら下を向いていた。
もう、猶予は無い。

上条「………………」



黄泉川「じゃあ次。身分証明証と切符」



上条「!!!!!!!!!!」



遂に、黄泉川たちが真後ろの座席まで来た。

黄泉川「ん?」

と、そこで黄泉川の動きが不自然に止まった気配が感じられた。

上条「………………」ゴクリ

背中から冷たい視線が刺されるような、そんな感覚が上条の身体を貫く。それはまるで、獲物を見つけた猛獣が品定めをするような、凍てついた敵意を含んだ視線だった。

黄泉川「…………ほぉ」

上条美琴「!!!!!!」ビクウッ

黄泉川「………これは驚いた」

上条「………っ」

限界だった。




ダッ!!!!!!




美琴「あ!」

上条は美琴の手を引っ張り、座席から飛び出していた。



ガラララッ!!!!



息をもつかせぬ速さで上条は連結部分に通じる扉を開ける。





黄泉川「やっぱりいやがったじゃん!!!!」





笑みを浮かべ、黄泉川は咄嗟に右太腿に巻いていたレッグホルスターから拳銃(ハンドガン)を取り出した。

上条「こっちだ!!」

そうこうしている間に、上条は美琴を連れて前の車両にまで逃げていた。



パン!!! パン!!パァン!!!



上条「!!!!!!!!」

後ろから発砲音が鳴り響く。

上条「ぐっ!?」

と、シュッと何かの擦過音が耳の側で聞こえたかと思うと、上条は自分の右肩が一瞬熱くなるのを感じた。
右肩を見る。僅かにだが服が破れ、露出した肌から血が出ているのが確認出来た。

上条「(かすった……)」

ゾワリと、寒気が背中を伝った。


黄泉川「これで終わりじゃん!!」

乗客たちが悲鳴を上げる中、黄泉川は連結部分の向こう、前部車両を走る美琴の背中に照準を合わせた。



パァン!! パァン!!! パァァン!!!!!!



そして、美琴の身体を貫くべく黄泉川の拳銃から3発の9mm弾が連続で射出された。

黄泉川「!!!???」

が、しかし。
上条が勢い良く開けたことによる反動のためか、銃弾は自動で閉まった扉のガラスにビシッという音を立て突き刺さった。

黄泉川「クソ!! 追うじゃん!! 付いて来い!!!」

後ろの3人の警備員にそう告げ、黄泉川は今閉まったばかりの扉を開け、前部車両に乗り込む。
が、しかし、その頃にはもう上条と美琴は次の車両にまで逃げ込んでいた。





黒子「!!!???」




発砲音と乗客の悲鳴。
それは一番後ろの車両にいた黒子の耳の下にも届いた。

黒子「銃声!!??」

何かが起こった。ジャッジメントで得た直感から、黒子は瞬時に座席を飛び上がり、前の車両に気を取られていた警備員を跳ね除け、次の車両に通じる扉を開け放っていた。

警備員「あ、こら!!」

警備員の声など意識の外に、黒子は既に前の車両を駆け抜けていた。

黄泉川「ここじゃん!!」

最後の扉を開け、黄泉川は遂に上条と美琴がいると思われる車両に辿り着いた。
だが、その車両だけは作りが違っていたのか、扉はスライド式ではなく開き戸式だった。

黄泉川「開かない!? 鍵が掛かってるのか!?」

ガチャガチャと黄泉川はドアノブを回す。

警備員「ここは一般車両ではありません。貴重な物資を運ぶ時に使われるものです。普段なら中は人が入るスペースはありませんが、深夜の今なら……」

後ろの警備員がそう説明する。

黄泉川「チッ……」

黄泉川は恨めしそうにその車両を見る。

黄泉川「だが分かってるのか御坂美琴!? お前らはもう袋のネズミじゃん!!!!」

車両の外から黄泉川が叫ぶのが聞こえる。

美琴「ど、どうしよう……」

何もない車両の中、美琴はそう呟いた。上条は窓を開け、暗闇に染まった外をキョロキョロと窺っている。

美琴「ねぇ……肩、大丈夫なの?」

上条の肩に滲んだ血を見て美琴は訊ねた。

上条「これぐらいはかすり傷だから大丈夫だ。ちょっとジンジンするけどな」



ドンドンドン!!!!



黄泉川『諦めてここで投降するじゃん!!! これ以上逃げても無駄だぞ!!!』

美琴「!!!」

黄泉川が壁を叩きながら、叫んでくる。

黄泉川『上条当麻!!! その女を助けて何の得になるじゃん!!??』

美琴「気付かれてる!?」

上条「………………」

黄泉川『いい加減にするじゃん!! この扉ぶち破るぞ!!!!』

美琴「と、当麻ぁ……」

美琴が助けの視線を求めてくる。

上条「ん? あれは……」

と、そこで何かを見つけたのか上条は窓ガラスから顔を引っ込めた。

上条「御坂、逃げる手段が見つかったぞ」

美琴「ええっ!?」

そう言って上条は車両の側壁に取り付けられた開き戸式のドアを開け放った。

上条「見てみろ」

急いで美琴は上条の元へ駆け寄り、列車から落ちないよう気を付けながら外を窺った。

上条「進行方向だ。鉄橋が見えるだろ?」

美琴は目を細めてみる。確かに、列車のライトが照らす先に大きな鉄橋が見てとれた。どうやら山と山を繋ぐものらしい。





上条「あそこから下の川に飛び込む」





美琴「え…………?」

美琴は思わず上条の顔を見る。

美琴「今なんて言った?」

上条「あの鉄橋から川に飛び込むって言ったんだ」

平然と、上条は真剣な顔でそう言った。

美琴「……いやいやいやちょっと待って。あんた正気? 川に飛び込むですって!?」

上条「そうだ」

どうやら上条は至って本気らしい。

美琴「バカ言わないでよ!! こっから川まで何mあると思ってんの!? って言うか、川の深度が浅かったらどうすんの!? 2人一緒に死ぬことになるわよ!?」

美琴は上条の突飛の発想に対して、至極当たり前の疑問を呈する。

上条「あの川には以前、インデックスと遊びに行ったことがある。さっき話したろ? ガイドブックにこの列車のこと載ってたって。あの川のこともそこに書かれてたんだよ。この辺りでは有名らしいからな。それに現地のガイドの人にも言われたし『鉄橋の真下は5m以上の深さがあるから近付いちゃ駄目だよ』ってな」

美琴「だからって……!」

上条「じゃあここで一緒にアンチスキルに捕まるか? どうせ本部に無線連絡されてるから、黄泉川先生たちを電撃で倒したとしてもすぐに援軍が向かいに来るぞ」

美琴「………っ」

美琴は反論の言葉を失くす。

上条「なら、逃げる手はあそこしかないだろ」

美琴は、上条が指差した先……近付きつつある鉄橋とその下を流れる川を見つめる。

美琴「………もし、死んだらどうすんのよ?」

覚悟は決まったようだったが、美琴は最後に訊ねてきた。

上条「死んだらそれまでだ。2人仲良く天国に行こう」

美琴「………………ばか」

事も無げに笑ってそう言った上条に、美琴はそれだけ呟いた。
2人は開かれた扉から眼下を見る。列車は既に鉄橋に差し掛かっていた。

黄泉川「チッ……埒があかないじゃん!」

警備員「どうします隊長?」

上条と美琴が中にいる車両の扉の前で、黄泉川は忌々しげに言った。

黄泉川「………………」

しばらく黄泉川は考え込んでいたが、すぐに顔を上げ即答した。

黄泉川「突入する」


パァン!! パァン!! パァン!!!


言うやいなや、黄泉川は扉に取り付けられていたドアノブに向かって発砲した。

黄泉川「最初からこうすればよかったじゃん。行くぞ!!!」

黄泉川を含めた、拳銃を持った4人の警備員が中に突入する。

黄泉川「大人しく手を挙げ………何っ!?」

が、そこで黄泉川と3人の警備員は目を丸くした。

上条「行くぞ」

美琴「うん」

車両の側壁に取り付けられた扉。上条と美琴がそこから飛び降りる瞬間を目撃すれば当然だった。

黄泉川「バカなっ……!」

すぐに扉まで駆け寄り眼下を覗く黄泉川。





上条美琴「―――――――――――」





暗闇の空を、上条と美琴の2人は舞い降りた。共に、お互いの手を強く握って。


黄泉川「―――――――」


黒子「―――――――」


まるで世界から音が消えたような気がした――。







上条美琴「―――――――――――」







数秒後、暗闇に消えていった2人は水飛沫を立てて深夜の川底に吸い込まれていった。





黄泉川「…………………」




唖然と、黄泉川はその光景を見つめていた。
しかし………




パァン!!! パパァン!!! パン!!!! パァン!!!! パパパァン!!!!!!




急に世界に音が戻った――。
車内を振り返る黄泉川。見ると、部下の3人の警備員たちが窓ガラスから拳銃を突き出し川に向かって発砲していた。
黄泉川は再び川の方に顔を向ける。

ゴボボボ、と泡立つ音が聞こえる。
辺りは真っ暗で、何も見えなくて、まるで何も無い空間に放り投げだされたような感覚だった。
目に、耳に、鼻に、口に、容赦なく冷たい液体が流れ込んでくる。それは、2日前、自殺するために街中の鉄橋から川に飛び込んだ時と同じ感覚で……。
だけど、今は違っていた。今は、すぐ側に温もりを感じた。そして、右手を通じて力強い、絶対に自分を守ってくれるのだという安心感が伝わってきた。





美琴「!!!!!!!!!!」





水中で、美琴は目を見開く。目の前で、自分の手を引っ張って懸命に泳ぐ上条の姿が見えた。
今、上条と美琴の2人は川の中にいた。深く、暗い、深夜の川の中に。

上条「………………」

美琴「………………」

シュッ! シュッ! と2人の周りを、泡の筋を引いて何か小さな物体が幾つも通り過ぎていく。水中で抵抗を受け速度が遅くなった銃弾だった。
何とかこの状況を脱しようとするが、2人は今、息をするだけで精一杯だった。




パァン!!! パァン!!!! パァァァン!!!!



鳴り止まない銃声。鉄橋の上を走る列車の車内にいた黄泉川は、すぐ横で川に向かって発砲する部下たちを見る。
と、そんな彼女の視線の先……部下の警備員たちの身体の更に向こうに、よく見知った顔があるのが分かった。
1つ後ろの車両の窓から、眼下の川を忌々しげに見つめるその少女の顔は………




黄泉川「白井!!!???」




そう叫んだ瞬間、黒子は窓から消えていた。まるで、瞬間移動でもしたかのように。

黄泉川「まさか!!??」

黄泉川は咄嗟に顔を戻した。






ザッパァァァァァァァァン!!!!!!!!





という音と共に、水飛沫が盛大に上がった。

上条美琴「!!!!????」

川から顔を出していた上条と美琴が後ろを振り返る。

上条「お前は……!?」





黒子「ようやく見つけましたわ、御坂美琴!!!!!!!!」





美琴「黒子!!!???」

列車から、黒子が空間移動(テレポート)を使って2人の眼前に現れていた。

黄泉川「撃ち方やめ!! 撃ち方やめ!!!」

車内にいた黄泉川は部下たちに叫ぶ。

黄泉川「撃つな!! やめろ!!! 白井が下にいる!!!」

それを聞き、「ええっ!?」という声を同時に上げ、警備員たちが慌てて発砲を止めた。

黄泉川「あのバカ……っ! 待ってろ、って言ったのに!!」

黄泉川は大きく舌打ちし、川を眺めた。
列車は既に鉄橋から抜け出るところだった。

上条と美琴の前に現れた人物、それはかつての美琴のルームメイトにして後輩、白井黒子だった。

黒子「お久しぶりですわねぇ、 お  姉  さ  ま  ?  」

美琴「黒子……っ」

ニヤリ、と黒子は川の水で濡れた髪を額にくっつけながら不気味な笑みを見せる。

黒子「私、とってもとってもとーーーーーーっても、お姉さまにお会いしたかったんですのよ?」

美琴「………あんた何でここに!?」

上条「………………」

黒子「何で? 決まってるではありませんの」

歪んでいた口元を更に歪め、黒子は言う。




黒子「貴女をこの手で殺すためですわよ、お姉さま!!!!!!」




美琴「!!!!!!!!」

その瞬間、フッと黒子が2人の前から消えた。

美琴「……………っ(黒子はどこに!?)」

1秒後、彼女は現れた。2人の背後から。空中で。美琴の頭を思いっきり蹴り飛ばせる角度で。



黒子「さよぉならぁお姉さまぁ」ニヤリ



美琴「!!!!!!!!!」

黒子の容赦ない蹴りが美琴の後頭部を狙う。
が、しかし………

黒子「!!!!????」

上条「……………」

それを許す間も与えず、振り返った上条が水中から思いっきり飛び上がってきた。

黒子「なっ!?」

黒子の頬を、上条の右拳が狙う。




ドゴォッ!!!!!!




黒子「きゃん!!!!」

容赦なく、上条は全力で黒子を殴り飛ばした。

美琴「黒子!!!!」

唐突に殴られ、思わぬ形で体勢を崩されたためか、黒子は反撃を試みることも出来ず、ザバァンと音を立て水中に倒れ込んでいった。

美琴「黒子ぉっ!!」

心配するような美琴が思わず黒子の元に向かおうとする。

上条「駄目だ御坂!! 来い!!」

咄嗟に上条は美琴の身体を掴まえ、彼女を黒子から引き離す。

美琴「でも……黒子が!! 黒子が!!」

上条「忘れたのか!? あの白井はもう以前の白井じゃない!! お前を殺そうとしてるんだ!!!」

美琴「!!!!!!」

上条は美琴の身体を引っ張りながら岸に向かって泳ぐ。

美琴「でも……あのままじゃ黒子が溺れ死んじゃうよ!!」

上条「あいつなら大丈夫だ。そう簡単には死なない」

美琴「だけど!」

上条「いい加減にしろ御坂!! 向こうはお前を殺しに来たんだ!! こっちが投降出来ない以上、これから相手を殺すことだって出てくるんだぞ!! いつまでも甘えてんじゃねぇ!!」

美琴「!!!!!!!!」

上条「まだ分からないのかよ!? それだけの覚悟を持たないと、生き延びることなんて出来ないんだよ!!!!」

美琴「…………っ」

上条の顔を、次いで黒子が倒れた場所を見る美琴。

上条「なるべく殺したくないんなら、逃げるのが一番だ」

美琴「………………、」

上条が美琴を岸へ連れて行く。美琴は名残惜しそうに何度も後ろを振り返っていた。

場面が飛び飛びになってレス多くなってごめん。
今日は以上です。
続きはまた明日ぐらいにでも。
ではこれで。

>>1です。こんばんは。
そろそろ次の山場です(因みに最初の山場は上条さんが美琴を助けにきたところです)。
では今から投下していきます。

その頃。上条と美琴が逃げ出した列車では、黄泉川たち5人の警備員が最後尾車両に集まっていた。
当然のことながら、既に鉄橋は通り過ぎている。

警備員「どうします隊長?」

黄泉川「………………」

口をへの字に結び、黄泉川は座席に座ったまま何も喋ろうとしない。4人の警備員たちが反応に困り、顔を見合わせる。

黄泉川「………………」ザッ

警備員「!!!」

と、急に黄泉川が立ち上がった。

黄泉川「不本意だが、我々は当初の予定通り本部に向かうじゃん。御坂美琴は別働隊が既に動いているからそっちに任せよう………」

表情を変えず黄泉川は言う。

警備員「……奴らを追ったジャッジメントの白井はどうしますか?」

黄泉川「回収部隊を向かわせる。どうせあいつなら死んでることはないだろうしな。だが、帰ってきたら説教じゃん」

背後にあった窓に近付く黄泉川。カーテンを開け、外の景色を望む。

黄泉川「まだ夜明け前か……。……お?」

黄泉川の眼前にあった窓ガラス。そこに、幾つかの水滴がポツポツと現れ始めた。

黄泉川「雨じゃん」

瞬く間に水滴はガラス一面を覆い、やがて窓を叩きつけるほどの威力になった。
それを横目で見ながら黄泉川は顔を戻し、胸中に呟いた。

黄泉川「(これだけの大雨の中、山に入れば即お陀仏。この手で奴を始末出来なかったのが唯一の名残じゃん)」




グジャッ



耳障りの悪い音を響かせ、2人分の足が地面を踏み込む。

上条「ハァ……ゼェ……」

美琴「……ゼェ……ハァ……」

何とか黒子や黄泉川の手から逃れた上条と美琴。彼らは今、大雨によって滑りやすくなった山の斜面を登っていた。

美琴「きゃっ!」ズルッ

バシャッ!

上条「御坂!?」

振り返る上条。美琴がぬかるみに足を取られ転んでいた。

上条「大丈夫か!?」

美琴「だ……大丈夫」

何とか立ち上がる美琴。可愛らしい服も泥だらけになっていた。

上条「気を付けろ」

言って上条は辺りを見回す。小さな山とは言え、深夜のためか数m先は真っ暗で何も見えない状態だった。おまけに空からは雨が大量に降り注ぎ、そのせいか斜面も滑りやすくなっている。鉄砲水の恐れもあるため、2人はなるべく急いで川から離れていたが、悪天候に見舞われた山の危険はそれだけでは済まなかった。

上条「何とかしてまずは、まともな道を見つけないと……。ほら」ギュッ

美琴「あ……」

上条「ちゃんと俺の手握ってろ? 迷わないようにな」

美琴「………うん」

2人は固く手を握り、歩みを進める。

それからどれほど歩いたのか。上条と美琴は、ただ手を握り、ひらすら道なき道を登ったり降りたりしていた。

美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「一向に空が明るくならない。おまけに雨脚もさっきより強くなってるみたいだ」

美琴「ハァ……ゼェ……ハァ…」

と、その時だった。

上条「!!!!!!!!!」

突如、上空の一点がピカッと光った。

上条「隠れろ!!」

咄嗟に上条は美琴の身体を引っ張り、木の陰まで連れて行く。

美琴「ど……どうしたの? ……ハァ……ハァ……」

上条「アンチスキルだよ」

顔を上げると、木々の間に地上にサーチライトを向けて飛行しているヘリコプターの姿があった。
黒色のボディとその装甲に描かれたマークを見るに、アンチスキルのものであることは容易に想像がついた。

上条「俺たちを探してるんだ……」

美琴「ハァ……ハァ……」

降り注がれるサーチライトが、まるで獲物を探すように地面の一部をなぞり照らしていく。その光は、上条と美琴が隠れていた場所より数m先を蠢いた後、すぐに遠くまで行ってしまった。

上条「……行ったか。よし……先を急ごう」

美琴「ハァ……ハァ……うん」

美琴の手を握りながら、上条は彼女をゆっくりと立ち上がらせる。
それからも2人は、出口の無い迷路をさ迷うに山を歩き続けた。

上条「尾根が……見つかればいいんだけど……」

方位磁石もない状況下、上条たちは道なき道を歩いている。一応、山を下るようにしていた彼らだったが、いつの間にか逆に登っていることもあり、ほとんど迷っていると言ってもよかった。
そもそも2人はまだ、ただの高校生と中学生であって、登山家でもクライマーでもない全くのど素人。死んでないのが奇跡だった。

上条「はは……鉄砲水を恐れて……川から離れたのが……間違いだったかな?」

美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「でも…あのままあそこに残ってたら……捜索部隊に見つかってたし……」

美琴「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「何だって……こんな目に……。あ、いや、お前を責めてるんじゃないぞ御坂?」

美琴「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」

ボーッとした表情のまま上条の言葉を聞き入れる美琴。

上条「全ては……とある魔術師のせいなんだ……」

彼は先程から何やら話しかけてきている。

美琴「ハァハァハァ……ん……ハァハァハァ……」

上条「そう……全ては変な魔術のせいで……」

妙に上条の言葉がエコーがかって聞こえた。

上条「だから、お前の責任じゃない……」

美琴「…………ハァ…ハァ」



グラリ、



と視界が揺れた気がした。
そして、次の瞬間。

上条「何だ!?」

上条は突然声を上げる。と言うのも、急に腕が後ろに引っ張られる感覚があったのだ。
咄嗟に振り返る上条。



ズルッ



上条「!!!???」

刹那、美琴の身体がまるで地中に吸い込まれたように上条の視界から下方へと消えていった。

上条「御坂!?」

上条が見た光景。それは、足を滑らせた美琴が、20mはあるだろう崖下に今にも落ちそうになっている姿だった。

上条「御坂あああああああああ!!!!!!!!!!」




ガシィィッ!!!!



と、上条は咄嗟に美琴の腕を両手で掴んだ。

上条「ぐ……おおおおおおおおおおおお……」

思いっきり地に足つけ、彼は落ちそうになる美琴の腕を引っ張り上げようとする。

美琴「ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「お、落ちるんじゃ……ねぇ……ぞ……」グググッ

が、何故か美琴の全身からは力が抜けており、そのせいか軽いはずの彼女の身体はまるで鉛のように重くなっていた。

上条「……御坂……自力で……登れないかっ……!?」

顔を苦痛で歪ませながら、上条は崖にぶら下がってる状態の美琴に質す。

美琴「ハァ……ハァ……」

だが、彼女は自力で登ろうとするどころか、返事さえも返してこなかった。

上条「絶対に……お前を落としは……しないっ……くっ……」

ズルッ

上条「ぐおっ……」

足が滑りそうになる。地面は大雨でぬかるんでいるせいか、普通に立っているだけでも精一杯だった。

上条「こんな所で……」

ズルッ

また、足が滑りそうになった。

上条「お前を……死なして……」

ズルッ…… ズルッ……

上条「なるもの……かぁっ……!」

ズルッ…

嫌な音を立てながら両足が崖淵に近付く。その度に美琴の身体が、暗い崖の底に吸い込まれていきそうになる。
だが、上条を苦しめるのは何もぬかるんだ地面だけではなかった。

上条「手……手が……」

この大雨である。美琴の腕と、その腕を握る上条の手の間に雨粒が潜り込んでいき、徐々に滑りやすくなっているのだ。しかも、今の美琴は全身から力が抜け落ちているため、極端にその身体は重くなっている。まさに、踏んだり蹴ったりの状態だった。

上条「!!!!????」

が、ここで更に災難が訪れる。

上条「あれは………」

上条が視線を向けた先……木々の間に、黒い装甲に包まれた飛行物体が見えた。その飛行物体は胴体から地上へ向けて光を発し、こちらに近付いている。

上条「ヘリが……戻ってきた!!??」

確認作業のためか、上条と美琴を探索しているアンチスキルのヘリコプターがもう1度、こちらに戻ってきたのだ。

上条「不幸にも……程があるだろがあああああああああ!!!! ……くっ!」

滑る足。滑る手。重い美琴の身体。接近するアンチスキルのヘリ。状況は完全に詰んでいると言ってもおかしくはなかった。

上条「み……さ……か……あ……あ……あ……」グググググッ





美琴「はな………して………」





上条「!?」

と、その時だった。足元から、掻き消えそうな小さな声が聞こえた。

美琴「……はな……して……ハァ……ハァ……」

美琴だった。今までずっと黙っていた美琴が、搾り出すように言葉を発している。

上条「御坂!!??」

美琴「……今すぐ……離して………ハァ……ハァ……」

そう、美琴は言ってきた。

上条「なっ!? ……バ、バカ言ってんじゃねぇ!! 誰が離すか!!! …ぐおっ…」

だが、上条は美琴の言葉とは裏腹に、諦める意志は無い。既に限界を迎えているはずなのにだ。

美琴「……元々は……あんたは……関係……無かった……。ハァ……ハァ……巻き込まれる……必要は……無かった……」

上条「ぐっ……くおおおお……」

美琴「……なのにあんたは……ハァハァ……私を助けてくれて………ここまで一緒に……ついて来てくれて……ハァ…ハァ……もう……十分……十分だから……ハァ……ハァ」

上条「何を……言ってやがる……」

美琴「………私が死ねば……全て……終わる……ハァ……ハァ……黒子も……私を追いかける……必要も無くなる……し……佐天さんや……初春さんも……ハァハァ……私に怯える……必要も……無い……。学園都市が……平和に……なる……ハァハァ……」

上条「ふざけんな!! こっちは……そんなんで死なれちゃ……困るんだよ……っ」

ズズッ… ズズッ! ズズズッ!!

上条「…………っ」グググググッ

美琴「……あんたが……ここで死ぬ謂れは……ない………」

崖淵と上条の足の距離20cm。そして正面上空には接近しつつあるサーチライトの光。
だが、そんな状況でも上条は諦めない。

美琴「……お願い……離して……ハァ……ハァ……。あんたが……死ぬなんて……嫌……ハァ……ハァ……」

上条「お前を死なすぐらいなら……俺も死んだほうがマシだ……」

美琴「………ハァ……ハァ……」

上条「絶対に落とさない!! 絶対に死なせはしない!!!」グググググッ

ズッ……

上条「くっ………神様……俺は今まで不幸だった……そのせいで……何度も死にそうになった……」

美琴「ハァ……ハァ……」

上条「だけど……俺の大切な人まで……死なすのは……余りにも……理不尽だろうがああああ!!!!」

ズズッ………

上条「……お願いだ神様……こいつを……御坂を……死なせないでくれ……っ! ……頼むから……御坂を無事……学園都市から逃がすまでは……一緒に……いさせてくれっ……!」

美琴「ハァ……ハァ……」

上条「その代わり……ぐおっ……その代わり……」

ズズッ… ズズッ……

上条「その後は……俺の一生分の幸せ全部くれてやる!!!!!! 一生分の不幸を与えてくれてもいいから……っ!!!!!! 御坂を……死なせないでくれえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

美琴「………………」ニコッ

上条「!!!???」

その時、美琴が顔を上げて、そして笑みを見せた。

上条「御坂………」

美琴「……ありがとう当麻……」

上条「!!!!!!!!」

美琴「………助けにきてくれた時……嬉しかったよ……」

そう言って、美琴は最後の力を振り絞るように上条の手を振り払った。

上条「美琴…………」

美琴の身体が、崖下に吸い込まれていく。
上条は、彼女の姿が徐々に暗闇に消えていく姿を見ているしかなかった。

が………





上条「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」





ガッシィィィッ!!!!!!!!





それを許さぬように、もう1度、上条は一瞬離れかけた美琴の手を強く握り、掴んだ。

美琴「!!!!!!!!!!」

上条「死なせて……たまるかああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

手に力を込める上条。
自分の足と崖淵との距離が僅か残り数cmでも、すぐそこまでヘリコプターのサーチライトが迫っていようとも、上条は最後まで諦めなかった。
そして………




ドサアッ!!!!!!




遂に上条は美琴の身体を引っ張り上げ、そして、その勢いのまま彼女の背中を覆うように地面に倒れ伏せた。
その直後、今まで上条が立っていた場所の上を、ヘリコプターのサーチライトが通過していった。

上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

美琴「………ハァ……ハァ……」

自分が生きている感覚を噛み締めるように、深く息をする2人。

上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

美琴「………ハァ……ハァ……」

しばらくの間、彼らは一言も発せずにいた。
やがて………

美琴「………どんだけ……大バカなのよ……あんた……」

背後から守られるように、上条の胸の中にいた美琴はそう呟いた。

美琴「………バカ過ぎて……呆れ返るわ……ハァ…ハァ……」

彼女は笑っていた。

上条「………ここで……死なれたら……俺の信頼性に関わるんでな……?」

上条も笑った。

上条「………つーか……俺を見捨てて……1人ぼっちに……する気……かよ?」

美琴「………あんたには……他にも……女の子がたくさん……いるでしょ? …ハァ…ハァ……」

上条「お前はこの世に一人しかいない」

美琴「………ふふ……」

上条「………ははは……」

2人は、ついさっきまでのことが嘘かのように笑い合う。
無理も無い。この『幻想殺し』を持つ少年・上条当麻は1度死んだはずの美琴を、天国に逝く寸前に無理矢理生き返らせたようなものなのだから。

美琴「………ホント……あんたって……」

美琴が笑いながら呟く。

美琴「………大バ………」



ドサッ…



上条「?」

が、彼女の言葉は最後まで続かなかった。

上条「御坂?」

彼女は上条の胸の中、急に意識を途絶したように黙り込んだ。

上条「おい、御坂!」

上条は美琴を揺する。最悪な予感が彼の脳裏を過ぎる。

上条「御坂!! おい! どうした!?」

咄嗟に彼女の身体を仰向けに返す上条。

上条「!!!!!!!!」

美琴「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

美琴は無事だった。但し、顔を真っ赤にさせ苦しそうに息をしていたが。

上条「まさか……」

美琴の額に手を当ててみる。

上条「すごい熱だ……」

発熱していた。それも、すごい高熱だった。

上条「だから崖から落ちそうになったのか……。クソッ! もっと早くに気付いていれば……」

サービスエリアから逃げる時に大雨に降られ、飛び乗った列車の上で強風を浴び、冬の川に飛び込み、山に入ってからまた大雨を浴び続けていれば無理も無い話だった。

上条「どうしよう……」

上条は美琴の顔を見る。

美琴「ハァ…ハァ…ハァ……ハァ……」

彼女はとても苦しそうに息をしていた。

上条「取り敢えず、どっかで休まないと」

美琴の身体を起こし、自分の背中におぶる上条。

上条「よしっ……」

行く当ては無い。こんな山道でくつろげる場所も無い。だが、今は進むしかなかった。

上条「待ってろ御坂。すぐに休ませてやる」

背中に背負った美琴の苦しそうな息を耳元で聞きつつ、上条は険しい山道を歩き始めた。

次スレはまだ大丈夫かな?
取り敢えず今はここまでだけど、もしかしたら後でもう一度投下しにくるかも。
じゃあ今はこれで。

この ドキドキハラハラ感を
なんとかしてくれ…(-д-;)
上条△よ…こりゃ惚れ直すわ///

いま 俺の両足が…コーラを溢(こぼ)して
ベッタベタに濡れてるんだが…orz

美琴を泣くまでいじめたいお(´・ω・`)
泣き顔をじっくり眺めてから、更にそこを追い詰めたいお(´・ω・`)
美琴を泣くまで虐めたいお(´・ω・`)
いたぶりたいお(´・ω・`)

>>1です。遅くなりました。
次スレ立てときました↓

ということで今から投下していきますが、1スレ目は
思ってたところで丁度終われそうで良かったです。

その頃・某学区某病院では――。

黒子「………………」

黄泉川「………………」

深夜の人気の無いロビー。そこに、黒子と黄泉川がいた。

黄泉川「随分無茶をしたな?」

椅子に腰掛け、俯き黙ったままの黒子。そんな彼女を黄泉川は腕組をして見下ろす。

黄泉川「ま、お前が死ぬことはないとは分かっていたが、お陰で御坂美琴を追跡するための捜索ヘリを1機、お前の回収に回さなければならなかったじゃん」

黄泉川のトゲトゲした言葉を、黒子はムスッとした顔で聞いている。

黄泉川「本部に向かう予定も遅延になったじゃん。分かってるか? お前の勝手な行動で、全ての計画にズレが生じていってるのが」

黒子「………………」

黄泉川「お前の症状に何の異常も無かったのは良かったが、失った時間は大きいぞ? 感情に囚われたままでヘマをするところを見ると、お前もまだまだ子供じゃん」

黒子「………っ」ギロリ

顔を上げ、黒子は黄泉川を睨む。

黄泉川「ふん。そういう反応してるからまだ子供なんじゃん。本部の連中に感謝するんだな。最後にもう1度、慈悲でチャンスを与えてもらったことを」

そう言って黄泉川は踵を返し、ロビーから離れていった。

警備員「どうでしたか白井は?」

黄泉川「あまり良くないじゃん」

廊下にいた部下の警備員が黄泉川に訊ねてきた。

警備員「やはり、川に浸かったことで体力が低下しているとか?」

黄泉川「いや、そういうことじゃなくてな……」

ポリポリと頭を掻き、黄泉川はロビーに視線を向ける。暗い空間にポツンと黒子の背中が見えた。

警備員「白井は捜査から外した方がいいのでは?」

黄泉川「こればかりは上の指示だからな。どうにも出来ん。ま、よく知った仲と言うことで私の部隊に同行を命じられたが、一応優秀なのは確かじゃん。ジャッジメントの中でも生え抜きの前線要員なんだから。ただ、まだ精神的に頼りない面があるじゃん」

警備員「………大丈夫ですか?」

黄泉川「ま、大丈夫だろう。あいつも今回のことでちょっとは懲りたはずじゃん」

言って、黄泉川と警備員はその場から去っていった。
一方、1人ロビーに残された黒子は………。





黒子「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」ブツブツブツ…





雨が降り注ぎ、寒風吹き荒ぶ深い山の奥。いまだ街に下りるためのまともなルートも見つかっていない状況下、上条と美琴は、背の高い木の根元にいた。

上条「………………」

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ」

持っていた1枚の地図を、雨を防ぐために一緒に頭に被り、上条が着ていた上着を寒さを凌ぐために一緒に背負う2人。彼らは今、寄り添うようにして地面に座っていた。

上条「さ……寒い………」

歯がガチガチと音を立てながら鳴る。上条は自分の肩に頭を乗せている美琴を見るが、彼女は上条ほど寒そうにしていない。恐らく高熱のせいだろう。

上条「(こ……このままじゃ……2人ともやばい……。いや、どっちかと言うと俺より先に御坂が……)」

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」

苦しそうに息をする美琴。
と、そんな時、上条の視界に小さくて白い物体が舞い降りるのが見えた。思わず顔を上げる上条。

上条「………雪? 雪だと!?」

いつの間にか雨が止み、パラパラと雪が降ってきていた。それも、かなりの数のがだ。

上条「クッソー……泣きっ面に蜂だ。……な、何とかしないと………」

上条は美琴の身体を更に自分に引き寄せる。

上条「チ……チクショウ……何で御坂が……こんな目に遭わないと……」

上条は2日前、美琴を追っていた学生たちのことを思い出す。彼らは今、上条たちがどこにいるのかも知らずに、恐らくは温かい部屋で布団にくるまって湯気が立つコーヒーでも飲んでいるのだろう。そんな彼らと今自分の側で苦しんでいる美琴。その2つの状況の差を考えると、上条は腹の底から沸々と怒りが湧き上がるのを感じた。

上条「………………」

しかし、だ。美琴の顔を見て上条は思う。結局の所、彼らだって『弧絶術式』の被害者でもある。それだけで美琴に行った行為を許すことは出来なかったが、どちらにしろこんな所で怒ったって意味は無かった。

美琴「………ふふ」

上条「!」

美琴「………寒い……ね」

不意に、美琴が口を開いた。

上条「ごめんな……。今、歩いたところで危ないだけだから……」

美琴「………大…丈夫………」

と、言うものの彼女の顔は汗だらけだし、身体も震えている。

美琴「………どうする……? 明日のニュースで………『山奥で若い男女の遺体発見』………『女の身元は御坂美琴と判明』……なんて流れたら……」

上条「……やめろよ。そんなこと、言うもんじゃない……」

美琴「………フフ…でも……このままじゃ……2人とも……死んじゃうかも……しれないよ?」

上条「だからやめろって。そんな後ろ向きの発言……」

美琴「………私はもう……ここでもいいかな?」

上条「やめろよ」

美琴「だって……どう考えたって……助からないじゃ……ない?」

上条「………………」

美琴「きっと……数時間後には……あんたも……私も……息をしてない……」

上条「っ ………。。。」

その言葉に何か言いかけた上条だったが、寸前で口を閉じてしまった。

上条「……………………」

美琴「もう……分かってる……ことでしょ……? なら……そろそろ……終わりにしても……いいんじゃない?」

上条「…………………………」

美琴「………そうしようよ……どうせ……山を抜けれたって……また……追いかけられる……だけなんだ……から」

雪の勢いは衰えることなく、風は依然吹き荒ぶ。

美琴「………一緒に……楽になろうよ……2人…でさ………私……当麻となら………ここで全部……終わりにして……いい……」

上条「………………………………」

上条は呆然として視線だけを正面に据える。
確かに、もうどう見たってこの状況は絶体絶命だ。希望なんて1つも有りはしない。なら、このまま苦しい思いをして彼女に偽善の励ましや慰めをしてあげるよりは、もう全てを終わらせてもいいのではないだろうか。自分もどうせただでは済まないことは分かっている。今まで不幸だらけの人生を送ってきたのだから、これからだって同じだろう。でなければ、今ここでこんなことにはなっていないはずなのだ。
だったら、彼女と一緒にここで幕を閉じるのも1つの選択なのかもしれない。

上条「……………………」

それに、彼女と一緒に死ねるのなら、それも悪くなかった。

美琴「……………ね?」

これが、彼女なりの最良の策だったのだろう。答えを求めてくる美琴を見て、上条は少し考え込んで呟いていた。






上条「……………そうだな」






美琴「………決まり……ね」






美琴が再び上条の肩に頭を寄せてくる。

上条美琴「「…………………………」」

2人は静かに身を寄せ合う。ただ、いずれそう遠くないうちに訪れるその瞬間を、そしてその瞬間の先にある永遠の暇を待つために。
そして2人は、ゆっくりと目を閉じた――。

以上です!
ではこれで!

ぶーんぶんしゃかぶぶんぶんぶん

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